ありふれた錬成師と治癒師と剣士で世界最強 (nonohoho)
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第一章 ありふれた学園生活編
第一話 プロローグ前編


ありふれた職業で世界最強の二次作品で、初投稿です。
今まで読む側でしたが二次作品を書くのが面白そうなので挑戦してみました。

現在のオリジナル設定は
ハジメヒロインは白崎香織と八重樫雫と園部優花
オリ主のヒロインはユエ、シア、ティオ
畑山愛子、リリィ、レミア、(ミュウ)は未定です。

基本的な話の流れは原作通りですが人間関係、主要人物の性格や関係は独自解釈です。

この物語に出てくる人物は全て18歳以上で、様々な役割についております。



 

物語は何の変哲もない月曜日の朝からはじまる…

 

蝉の声が響く中一人の少年が公園の木陰にあるベンチに座っていた。

 

週明けの気怠さからか、軽くアクビをしながら公園を眺めている。

 

優しく穏和な印象を受ける少年の名は南雲ハジメ。高校3年生だ。

見た目は平凡ではあるが、身嗜みは清潔感がありきちんとしている。

168㎝59kgとやや痩せ形ながらスタイルもよい。

見る人によってはハンサムに見えなくもない

 

時間は7時00、学校に行くにはまだ早い時間だが少年はソワソワしながら誰かを待っているようだ。

 

「おはよう、南雲君!」

 

ハジメを見つけた少女が嬉しそうな表情で小走りに近づいてくる。 

 

「お、おはよう、白崎さん」

 

少し顔を赤らめながら少女を見て返事を返すハジメ。

 

少女の名は白崎香織。ハジメと同じ高校に通うクラスメイトだ。

 

ハジメの通う学校の2大女神の一人で、男女問わず絶大な人気を誇る途轍もない美少女だ。

腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳は優しげだ。

スッと通った鼻梁に小ぶりな鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。

 

木漏れ日の中に佇む姿は天使そのもの、ハジメは思わず魅入ってしまう。

 

その時、散歩をする老夫婦がハジメと香織に笑顔で話かけてきた。

 

「おはよう。素敵なカップルさん」

 

「「 !!!! 」」

 

一瞬にしてゆでダコのように真っ赤になるハジメと香織。

慌てて否定しようとするが…

 

「「 おはようございます。ま、まだ違います!! 」」

 

慌てながらもしっかり挨拶を返す二人。その上息がピッタリあう二人に老婦人は優しく微笑ながら追撃の一言を言った。

 

「あら、じゃあこれからなるのね?」

「え…っと…南雲くんが良ければいつでも…」

「え…っと…白崎さんが良ければいつでも…」

 

自爆も息ピッタリの二人に老婦人は可愛い孫をからかうような口調で

 

「とてもお似合いだったのでついからかってしまって…ごめんなさい」

と微笑みながら去って行った。

 

顔を真っ赤にしたハジメと香織はお互いチラチラ見ながら

 

「あ、あははは…白崎さん、そ、そろそろ学校行こっか…」 

ハジメは照れを誤魔化しながら立ち上がった。

 

「う、うん、そ、そうだね!あっ!これっ、お昼に食べて」

香織はカバンから可愛らしい弁当箱を取り出してハジメに手渡した。

 

「いつも有り難う…その…物すごく嬉しい…」

例えとても可愛いらしい弁当箱でも…受け取る以外に選択肢などない!

 

「ハジメ君!誕生日…おめでとう…いよいよ今日だね…」

「…うん、今日で18歳…白崎さん…お待たせしました…は、変かな?」

「うん…やっと…明日から私は…南雲香織だよ」

「今日は…学校終わったら家で…」

「はい…ハジメ君…」

 

二人は微笑みながら散歩コースを経て学校に向かう…

が、ハジメは動こうとしない。

 

「南雲君?学校行こ?」

香織は首を傾げながらハジメ見ると…

 

ハジメは少し俯きながら意を決したように香織の手を握る。

 

「!!!!」

香織は驚いたように口を開けてハジメを見つめた。

 

「あの…今日は手を繋いでいかない?」

弱気でヘタレなハジメの勇気をフル動員した言葉に香織は…

 

「うん!!」

とても嬉しそうな、そしてとびっきりの笑顔で頷いた。

今朝のハジメはちょっとだけ勇敢だった…

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ハジメと香織、二人の出会いはちょうど4年前、まだ中学2年生の頃だった。

 

香織の母親である白崎薫子は料理教室を開くほどの腕前。

白崎家の食卓は毎日手の込んだ料理が並ぶが消費する食材の量も多く、足りない食材の買い出しに香織はよく駆り出されていた。

 

スーパーの出口付近で、買った物の最終チェックをする香織。

「頼まれた物はこれで全部…だね お母さん、買いすぎなんじゃないかな?かな?」

今日買った食材は家族三人で食べるには多い気もするが明日の料理教室で使う食材も含まれているのだろう。

 

荷物の重さと気温高めの外気に香織は一瞬躊躇うが、気合を入れて外に出た時の事だった。 

 

左の駐車場の方が騒がしかったので目を向けると大柄な不良っぽい男の人が、お婆さんと泣いている小さい子供を相手に揉めている様子。

どうやら子供が持っていたアイスクリームで不良っぽい人のズボンを汚してしまったようだ

 

お婆さんは一生懸命男の人に謝っているが男の人は態度を軟化する様子はない。

さらにはお婆さんの財布を奪おうとする始末。

慌てた香織はどうしたらいいかわからずにオロオロとする。

 

周りを見渡し助けを求めようとしたが通る人は皆見ないように通りすぎていく…

 

(な、何とかしないと…えっと…そうだ!雫ちゃんに聞いてみよう!)

この場にいない親友に頼ろうと携帯電話を取り出そうとする香織。

 

その時…

 

「何だお前は!」

不良が怒鳴る声を聞き目を向けると、少年が不良に向かっていく姿が見えた。

香織の少年を見た感想は、華奢でどう見ても強そうに見えない。

どうなるのかとハラハラしながら見ていたら…

 

「ひらに、ひらに御容赦をー」

と言いながら突然少年が不良の前で土下座をしたのだった!

 

「?!えっ?!」

呆気にとられた香織…見て見ぬふりをしていた人達も同じような表情をしていた。

 

突然の事に不良も呆気にとられたようだった。

が、すぐに少年にむかって暴言を吐いたり蹴ったり唾を吐いたりし始めてた。

それでも土下座をやめない少年を見て流石に気不味くなったのか…文句を言いながら不良は去っていった。

 

土下座を解いた少年が泣き止まない子供をあやしている。

お婆さんが「ありがとうございます」と少年に言うと

「御礼をいわれるほどの事じゃないので…それじゃあ失礼します」

と言って走り去って行った…

 

香織が我に帰ったとき、少年は既に走り去った後だったが香織の中に強烈な印象を残していた。

 

華奢で弱そうな少年が勇気を振り絞ったその姿は香織の中で最高にカッコ良く写ったのだった。

土下座ではあったが…

 

「凄い人だったなぁ……」

香織は胸が熱くなるのを自覚して、また少年の名前を聞けなかった事を残念に思いながら家に向かって歩き始めた。

 

南雲ハジメと白崎香織の出会いは、(ハジメの方は出会った事自体知らなかったが)香織に強烈な印象をあたえる出会いとなったのであった…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「雫ちゃん、それでね!その土下座をした人なんだけど…」

「…香織、凄い土下座をする人の話はいいとしてそろそろ…」

「違うよ〜雫ちゃん、土下座をする凄い人だってば!」

(どこが違うの?…)

と心の中でツッコミを入れている少女の名は八重樫雫

白崎香織の親友だ。

雫は実家が剣道の道場を開いている影響で子供の頃から剣道を習っている。

全国大会でも負け知らずの美少女剣士として雑誌の取材を受けるくらいの美少女だ。

切長の目ではあるが柔らかさを感じるため冷たいというよりカッコ良い印象を与える。

167㎝と女子中学生にしては高い身長と引き締まった身体、凛とした雰囲気は侍を連想させる。

トレードマークでもあるポニーテールは寝る前だったこともあり、今はほどいている。

その雫が辟易した様子で、今日、いや既に昨日か…の夕方に不良に絡まれて困っていたお婆さんと子供を、土下座をして救ったという凄い少年の話を延々と聞かされていた。

 

(確か夜10時ぐらいに電話がかかってきたのよね…もう2時だけど…)

香織が興奮した様子で電話をかけてきた時、雫は親友に好きな人が出来たのかとホッコリしていたのだが延々と同じ話を繰り返され続け、既に心が死にかけていた…

 

(しかも土下座する姿勢が美しかったとか一体なんなのっ?)

一瞬親友を適切な病院に連れていくべきか本気で悩んだりしたが…

 

「お婆さんと小さい子供を救った素敵な人の話は感動したわ、次は夜中の2時まで惚気話を聞かされてる私を気遣って頂戴?」

「えっ?もうそんな時間?雫ちゃん、ごめんね〜、あっ明日の終業式終わったら続きをきいてくれる?」

「えっ…?う、うん…いいけど…」

(多分時間にして10分ぐらいの出来事なのよね?4時間も何故語れるのっ?しかも明日も続くの?)

若干引き気味に答えつつ心の中でツッコミを入れる雫。

 

「遅くまでごめんね、おやすみ!雫ちゃん、また明日〜♪」

「お、おやすみ、香織……明日じゃなくてもう今日よ…」

的確なツッコミを入れた後、雫は終業式の後を思い溜息をつくのであった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「…それで香織、何故スーパーに来たの?」

雫は昨日…いや10時間前に香織とした約束を果たすため一緒に帰ろうとしたのだが…

香織の「ちょっと寄り道しよっ!」と言われて何故かスーパーに来ている。

 

「んとね、雫ちゃん、そこの駐車場で土下座してる彼にあったんだよ!」

「あ…はい…そういう事ね…」

(昨日出会った場所を私に教えたかったのね… )

 

雫が納得しようとした時、

 

「それでね!雫ちゃんと一緒に現場検証しようかと思ったの!」

「…えっ…?検証…?」

香織の発想の飛躍について行けず素で聞き返す雫。

 

「多分彼は栄西中学で私達と同じ学年のはず…このスーパーを使うって事はこの辺りに住んでいるとおもうの!ここに居ればまた会えるかも!」

「ちょっと待って、香織。何故学校名がわかるの?それに何故同じ学年だとわかるの?」

…昨日ちょっとあっただけの少年の学校名と学年を探りあてた親友に若干引きながら尋ねる雫…

 

「んっ…とね〜、このスーパーから半径3キロ以内にある中学校でブレザー着てるのは栄西中学と北信中学だけだったの!それに彼の持っていたカバンの縁に赤い色が付いてた。カバンの縁に色があるのは栄西中学だけで赤は今年の二年生だから私達と同じ学年だとわかったんだよ!」 

 

嬉しそうに報告する香織に対し

 

「………………そ、そうなんだぁ…」

親友の怖い面をみたような気がしてドン引きする雫。

 

(この後香織とじっくりと話す必要があるわね。暴走状態の香織を放って置いたら…ストーカーになりかねないわ…帰ったら即、即よ!)

 

雫が遠い目をしながら密かに決意を固めていると、香織の弾むような声が聞こえたので慌てて香織の方をみると…

 

「あっ!雫ちゃん!いた、いたっ!あそこの人!」

「え?……あの人……?」

 (香織の言った通り見た目は平凡、華奢で強そうには見えないわね…)

雫が心の中で印象を整理していると香織が突撃していってしまった。

 

「ちょ、ちょっと香織!待ちなさい!」

雫は慌て追いかけるも既に香織は少年と接触してしまっている。

 

「あ、あの、すみません、昨日そこで土下座してた人ですよね!良かったら少しお話ししませんか?」

嬉しそうな表情で尋ねる香織さん。

 

「……えっ?…えっと…君は??確かに土下座しましたけど??」

びっくりして混乱した様子の少年。

 

(うん。普通引くわよね。慌てるわよね。……はぁ〜何とかするか…)

「香織、落ち着いて…はじめまして、私は八重樫雫、この娘は白崎香織っていうの。突然だけどあなたとお話したくて話しかけちゃったんだけど…時間空いていたらそこでお話ししませんか?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

南雲ハジメは足取り重くスーパーに向かう。

(はぁ〜昨日は恥ずかしかったなぁ〜土下座の現場を通るのは辛い…)

 

昨日買い物しようと近所のスーパーに来たら、不良とお婆さんが揉めている姿を目撃してしまった。

 

見て見ぬふりをしたかったが、子供は泣いてるしお婆さんから財布を奪おうとしてたので流石に見過ごせなくなり、ビビリまくりながら近づく。

 

ハジメには勝算があった。

土下座をするのは恥ずかしいがされる方もかなり恥ずかしい。

多少殴られるかもしれないが、いたたまれなくなるはずだ。

そう考え不良に近づき…

 

「ひらに、ひらにご容赦をー!」

と躊躇いなく土下座をしたのであった。

 

ツバを吐かれたり軽く蹴られたりしたがすぐに不良は呆れて離れて行った。

 

お婆さんに御礼を言われたが立ち去りたい一心ですぐにその場から移動した。黒歴史ものの出来事は速やかに忘れよう…

 

…と、思っていたのに次の日、物凄い美少女二人に黒歴史を掘り返されてしまった。

 

…が、不思議な事に二人から蔑む様子はみられない。

それどころか少し話がしたいと言われ喫茶店に誘われた…

 

目の前に座る美少女二人に(レベル高すぎだろ!)と心の中で叫ぶハジメ。

白崎香織という美少女は、優しげな大きめな目、薄い桜色の唇、小ぶりな鼻、腰まである長く艶やかな髪…有り体に言えばハジメの理想の女性そのものだった。

 

八重樫雫という美少女はポニーテールがとてもよく似合っている。全体的にかっこよく特に切長の目は冷たさを感じず柔らかい印象をハジメに与えた。

 

「えっ…と、はじめまして、僕は南雲ハジメです。栄西中学の二年生です。」

緊張をほぐすべくまずは自己紹介をしようとハジメから話しかけてみた。

 

するとポニーテールの美少女…確か八重樫雫さん…の表情が引きつったように見えた。何か不快感を与えてしまったのだろうか?

 

「私は白崎香織です!南雲君、よろしくねっ!」

「私は八重樫雫、香織の友人よ、よろしくね!」

 

お互いの自己紹介が終わり、ハジメは最初の疑問を尋ねてみた。

 

「えっと…ところでどうして僕と話をしようと思ったの?」

 

香織からの返答はハジメの想像をはるかに超えるものだった…

 

「それはね…南雲君がカッコ良かったからどうしてもお話ししたかったの!」

「え…?か、カッコ良かった…?」

自分の耳を疑ったが香織の様子をみると、からかってる様子はない。

しかし…自分のどこがかっこいいのだろうか…?

容姿は平凡、ついでに不良の前での土下座…

 

混乱するハジメに香織は説明をはじめた…

 

「私は昨日の南雲くんを見て凄く強くて優しい人だって思ったの。強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。私のクラスにいる天之河光輝くんって人は強くて、よくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるけど…でも、弱くても立ち向かえる人や他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。……実際、あの時、私は怖くて……自分はオロオロするだけで…強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった…それに怖がって泣いてた子供を慰めてあげる事も出来なかった…」

 

不良の前で土下座するという黒歴史がまさかの高評価に驚くハジメ。

 

「本当は昨日お話ししたかったんだけど、南雲君すぐに立ち去っちゃったら…でもどうしてもまた会いたくて…このスーパーに来ればまた会えるかなって思ってて…だからあえて本当に嬉しい!」

 

香織の言葉と嬉しそうな表情にハジメの顔はゆでダコのようになっていた。

 

「あ、あの…白崎さん、ありがとう…」

ハジメは香織に感謝したくなり言葉を続けた。

「正直…土下座した自分が情けなくて…黒歴史ものなのに白崎さんにそういう風に言って貰えて…僕も本当に嬉しい…」

 

「情けなくなんかないよ!南雲君はとっても優しくて強い人だよ!…その…できれば南雲君の事をもっと知りたい…かなっ…かなっ!」

「……!!!!」

香織の押しに真っ赤になりながらタジタジとなるハジメ君であった…

 

 

(空気…私は空気よ…それにしても…香織の押しが凄いわ…)

ハジメと香織のやりとりを観察しながら呟く雫さん。心はすでに死んでいる…

雫のハジメに対する印象は、見た目は平凡だけど清潔な印象を与える、穏やかで優しい性格…どことなく雰囲気が香織に似てなくもない…というもので雫から見ても好印象だった。 

 

男子に対して少し苦手意識がある香織が積極的に話している。

その光景は雫が初めてみるものだった。

 

南雲君は香織の怒涛のような質問に律儀に答えている。

それによると南雲君はお父さんがゲーム会社の社長、お母さんが少女マンガの作家さんで、ご両親が忙しい時は南雲君も仕事を手伝っているらしい。

 

南雲君自身の趣味は漫画、ライトノベル、ゲーム、映画鑑賞など中学校の男の子らしい趣味のようだ。それに対する香織の質問が…

 

「良かったら南雲君の好きな作品とかゲームを教えて!」

 

(香織の押しが止まらない…とは言えもう2時間近く経つわね…そろそろお開きにしないと…南雲君に少し疲れが見えてきたし…)

 

「香織…今日はこのぐらいにしたら?もう2時間も立ってるわよ?南雲君にもこの後予定があるかもしれないし…」

「えっ…もうそんなに経つの…?」

 

シュンと落ち込む香織。

そんな香織に雫は素晴らしい提案をする。

 

「良かったら南雲君、香織と連絡先を交換したら?」

 

雫の提案に二人とも真っ赤になりながらも

「な、南雲君が良かったら…お願いします」

「し、白崎さんが良かったら…お願いします」

息ピッタリのハジメと香織であった…

 

「良かったら白崎さんの趣味とか好きな事教えてほしいな…僕の好きな話題だけでなく、白崎さんの好きな話題でもお話ししてみたいし…」

ハジメのトドメの一撃が香織を襲う…香織さん、これ以上ないくらい赤くなっている…

 

(…完全に落ちたわね香織…見事な一撃よ、南雲君…それにしても…)

「…ブラックコーヒーが飲みたいわ…それもかなり苦いヤツを…」

二人の作る桃色空間に僅かに胸の痛みを感じつつ砂糖を吐きそうになる雫

 

自分の感情に疑問を感じつつ喫茶店を後にした雫は、香織と一緒に白崎家に

向かう。

(今夜も長話を聞く羽目になりそうね…)

雫は心の中で溜息をつくのであった…

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 




 初投稿という事で拙い文章ではありますが何とか第一話を書き終えました。

 第二話がいつ書き終わるかわかりませんが気長に書こうと思います。

 ありふれの原作を読んでて、もしベヒモスとの戦いで奈落に落とされたのが

 ハジメ君だけじゃなかったら…という妄想から二次作品として書いてみよう

 と思いました。

 奈落に一緒に落とすのは白崎香織に決めていたのでトータスに来る前までに

 恋人を通り越してプロポーズ寸前までにしておくつもりで第一話を書いてみ
 
 だけど…不必要に文章が多くなってしまった気もします。香織とハジメが一

 緒に落ちる作品はいくつかあったので雫も一緒に落とす事にしました。

 よって無理矢理ハジメ君に好感を持つようにしてみたけど…上手くいったか

 わからないwww

 この作品のハジメ君のヒロインは白崎香織と八重樫雫と園部優花の三名。

 ユエ、シア、ティオはオリジナル主人公。
 
 愛子、リリィ、レミアは未定です。

 次回はハジメと香織が高校に入るきっかけと早朝デートするまでに至った経

 緯と天ノ河光輝君を独自解釈した話と、天ノ河と園部が対立するというオリ

 ジナル展開を入れたいと思います。

 工事完了!


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第二話 プロローグ中編

第二話です。

作者的には早くトータスに飛ばしたいのですがオリジナルの展開を見据えて今

のうちに伏線を貼っているつもりです。展開遅めですみません。

今回は…

雫さんがちょっとだけキャラ崩壊します。

天ノ河君の独自解釈が含まれます。

優花さんが天之河君を嫌いになります。ついでに檜山もでてきます。

こんな感じ。


「可愛いにゃ〜♪癒されるにゃ〜♪もふもふにゃ〜♪」

自分の部屋で猫のヌイグルミを抱きしめて悶えてるのは八重樫雫である。

 

八重樫雫を知る者が見たらまずオデコに手を当てて熱を測るだろ…

次にどれほど心労が重なったのかと心配するであろう…

それぐらいデレていた。

 

ハジメから手渡された猫のヌイグルミのプレゼント、実は雫の人生で初めて男の子からもらったプレゼントでもある。

何故ハジメからプレゼントされたかというと…

 

現在ハジメと香織は順調に交際を深めていた。

平日はお互いの学校で起きた事などをラインなどで話し、

土曜日はハジメの趣味に付き合って漫画やゲームを一緒にし、日曜日は香織の趣味であるガーデニングや古寺巡り等をして楽しんでいる。

 

二人の交際が順調になるまで雫が色々手助けしたり、楽しかったデートの報告を聞かされたりと…雫はリア充となった香織の相手をし続けたせいか、少しヤサグレていた。

 

「はいはい…独り身の私に対する当て付けなのかしら?バカップルさん?」

ジト目で香織を見ながらおっしゃる雫さん。

 

香織がハジメと美味しい店を見つけたから今度一緒に行こ!と雫に話したらイジケたようだった…

 

慌てた香織はハジメと相談し、「雫ちゃんにはいつもお世話になっているから何かプレゼントを送ろう!」と言う話しになり香織と一緒に可愛らしい猫のヌイグルミを選び雫にプレゼントすることになったのだ。

もちろんハジメは香織にも同じヌイグルミをプレゼントしている。

 

ハジメからプレゼントを受け取った時、雫はなぜか胸が高鳴り、顔も若干赤くなってしまった。

何せ人生初の男の子からのプレゼントである。

それも自分には無縁だと思っていた普通の女の子用のプレゼントである。

(な、何で緊張なんかしてるの?私!香織の彼氏にドキドキするなんて…明鏡止水よ!友達から普通にプレゼントされて嬉しいだけっ!うんっ!それ以外無い、ないったら無い!で、でも南雲君って…包み込むような優しさがあるのよね…私も香織と一緒に守ってもら…って何考えてるの私ーー!明鏡止水よ諸行無常よ!)

テンパって支離滅裂な事を考えてしまう雫であった。

 

雫の部屋に今までヌイグルミなど無かったのだが、このプレゼントがきっかけとなり部屋を埋め尽くす勢いで増殖したのはまた別の話である…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

現在中学3年生になったハジメと香織は進路をどうするかで話しをしていた。

場所はハジメと香織が初めて話しをした喫茶店だ。

 

「南雲君は…高校はどこに行くかもう決めた…かな?」

 

少し緊張気味に聞く香織に対してハジメは…

 

「まだ決めてないけど…できれば白崎さんと同じ高校がいいな〜」

 

と何気なく答えてしまった。

そして自分の発言の内容に気づき真っ赤になるハジメ君。

 

「!!!!う、うん、私も…南雲君と同じ高校に行きたい…」

これまた真っ赤になって答える香織さん。

 

貴方達、もう恋人同士でいいんじゃない?と雫がいたらツッコミ入れられるくらい仲がいい二人ではあるがまだ告白には至っていない。

 

実は二人とも何度か告白しようとしたのだが…

 バレンタインにハジメに告白しようとした香織だったが

(え、えっと…私達、知り合ってからまだ7ヵ月だよね…ちょっと早いかなっ?かなっ?そ、そうだ!夏祭りの時に告白しよっ!しよっ!)

などとヘタレな思考により先延ばしを決めた香織さん。

 

 一方のハジメもホワイトデーのお返しに告白しようとしたのだが

(ぼ、僕達、出会ってからまだ8ヵ月だよね…ちょっと早いかな?早いな!うん!…そ、そうだ!夏祭りの時に告白しよう!)

 

お互い似たような事を考え、似たように先送りし続けた結果どうなったかというと…二人は高校2年のバレンタインの時に告白する方向で一致していた。

香織の好きな映画のシーンで高校2年のバレンタインの時に告白したカップルは必ず結ばれるという設定があり、それにあやかるつもりのようだ。

 

喫茶店に雫が入ってきた。すぐにハジメと香織を見つけ近づいてくる。

「遅れてごめんなさい。香織…っとその顔をみると思いが通じたようね!」

「も、もう〜雫ちゃんたら…え、えっと…とりあえず南雲君と同じ高校に通いたいなぁ〜って」

「や、八重樫さん、こんにちは!え、えっと…とりあえず白崎さんと同じ高校に通いたいなぁ〜なんて…」

 

「……ブラックコーヒー下さい…それもとびきり苦いやつを…」

ジト目で二人を見る雫であった…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

三人で進路の事を話し合った結果

「じゃあ私達三人、同じ高校を受験することでいいわね。…でもそうなると問題は光輝ね…」

 雫は溜息をつきながら問題児の名をあげた…

 

「白崎さんと八重樫さんの話にたまに出てくる天之河光輝君の事?」

「う、うん…私と雫ちゃんの幼なじみなんだけど…ちょっと…苦手で…」

 

(白崎さんの今の苦手って話し方…それってほぼ嫌いというレベルだよね…?)

 

香織は誰かに対して「嫌い」という言葉は使わない。

そのかわり「苦手」という表現を使う。

ハジメは香織が苦手と言う表現を使った時の発音の強弱や僅かな間で、どれくらい苦手にしてるのかほぼ正確に判るようになっていた。

 

香織と雫は顔を見合わせて頷きあった後に天之河光輝という人物について話し初めた。

 

「光輝は私の家の道場に通う門下生の一人で私が小学3年生の時に門下生として入門してきたの。はじめて見た時はどこの国の王子様よ!っていうぐらいかっこ良かったわ。見た目だけはね…」

 

雫が言う天之河光輝という人物は小学生の時から正義感と優しさに溢れ、勉強もスポーツも何でもこなせる光輝は女の子達の注目の的だったらしい。

 

(何、その完璧超人は…悪いとこないじゃん!…でも二人の様子からみるとあまり評価しているようには見えない…)ハジメは不思議に思いつつも二人の話しの続きを聞くのであった…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

 

八重樫鷲三殿

 

[天之河光輝という人間についての報告書]

 

ご依頼の調査の件ですが八重樫流のありふれた剣術とそれに付随する体術と僅かばかりの権力を活用して調べあげました。

 

ケース1 被害者 八重樫雫

 

光輝が八重樫道場に入門した時、道場の御令嬢である雫嬢と同い年という事もあり、一緒に練習させるように手配された。学校でも同じクラスに編入されたようで仲良くなるだろうと思われた。

しかし光輝と一緒に通う雫嬢に周りの女子達が嫉妬を起こし、結果、雫嬢はクラスの女子全員からイジメを受ける結果に。

当時の雫嬢は光輝を信頼していたようで、すぐに相談した模様。

その相談を受けた光輝は直ぐにイジメを行っていた女子達全員を集めて注意した。

イジメを受けてた雫嬢をすぐに助けようとした点は評価に値する。

だが光輝の行動の結果、女子達は光輝に隠れて嫌がらせをする様になった。 

再び光輝に相談する雫嬢でしたが今回は雫嬢を諭すという行動をとった。

光輝曰く、

「彼女達にはちゃんと注意をしてもうやらないと約束してくれた。雫の感じているのは多分勘違いだ。彼女達は彼女達なりに雫の事を考えて行動してるだけだ。だから今後は雫が仲良くするよう努力すべきだ。」

と、雫嬢に言い話しを全く聞かなかった。

 

悪化するイジメに度々助けを求める雫嬢を

「気のせいだよ雫。それより来週の剣道大会頑張ろう!」

などと言って取り合わない…

雫嬢は諦めたようで、光輝に頼るのをやめたようだ。

雫嬢は光輝と登校するのを辞めたようだが.光輝の方は何故一緒に登校しなくなったか理解できてないらしい…

 

ケース2 被害者 上里隼人、水上彩子

 

光輝が5年生の頃のクラスメイト。

光輝より足が早く100m走で光輝に勝った少年だが、それ以降光輝に事あるごとに文句を言われるようになった。

国語の試験で65点だった上里隼人を光輝は

「上里は走る事しかしないからそんな点数を取るんだ。僕なら走る事も勉強も努力を怠らない。君は反省して努力すべきだ」

などという意味不明な理屈でいいがかりをつけはじめた。

 

見かねた雫嬢と香織嬢が光輝を止めようとしたが

「二人は優しいね。でもこれは上里の為に言っているんだ。だから黙っててくれ。それに二人の優しさは僕だけに向けるべきだよ。」

などと言っている…

その後テストが返却される度に似たような理屈を上里隼人にぶつけるようになった。

クラスの女生徒達は雫嬢と香織嬢、上里隼人の幼なじみの水上彩子以外、光輝の味方だった。男子生徒も喧嘩が強く他のクラスとの揉め事を引き受けてくれる光輝の味方で、上里隼人は次第に孤立していった。

 

そもそも平均52点の試験で65点とれば努力不足などと非難されるいわれはないのだが…

 

極め付けは運動会のクラス対抗リレーでアンカーを務めた時だった。光輝のバトンパスが悪かったため、次走者の女生徒…水上彩子…さんがバトンを落としてしまい順位を最下位にまで下げてしまった。

上里隼人は、アンカーで頑張り最終的には二位にまで順位を押し上げたが、またも光輝がイチャモンをつけはじめた。

 

「何で水上さんが頑張ったのに君は一位にできなかったんだ?君にはアンカーの責任を感じないのか?僕なら真っ先にみんなに謝る。上里は責任感がないのか?」

 

自分がバトンを落としたのに何故上里君を責めるのか?意味がわからず混乱した水上彩子は泣きながら

「天之河君のバトンを受け取れなくて落としてしまったの。私がわるいんだよ。上里君、ごめんなさい」

と言って光輝を止めようとしたが(雫嬢と香織嬢はむしろ光輝が悪いと言って彩子を慰めたが)

「上里!君は水上さんに謝らせておいて恥ずかしくはないのか?」

とくってかかったのだった。

 

明らかに光輝の言動の方がおかしいのにクラス中の子が支持してしまったのだ。

雫嬢と香織嬢と水上彩子の三人は上里隼人をかばったが数の暴力で無視されてしまった。

この結果に上里隼人はショックを受けただけでなく、更にクラスの中で孤立し、不登校になり学校を転校する事になった。

上里隼人と仲の良かった水上彩子もまた不登校になり上里隼人と同様転校する事になった。

 

光輝は、泣いている水上さんを思いやり、無責任な上里を叱ったという意味不明な称賛をクラスメイト達から受ける事になった。

称賛の発生源は坂上龍太郎という少年だった。

何故そんな事実を無視した称賛をしたのか…答えは単純だった。

坂上龍太郎はただの馬鹿だった。

光輝のやる事は全て正しいと信じていて、現状を把握もしないで光輝に追従しただけだが、その結果は二人の生徒の不登校につながり最後は転校という酷すぎる結果をもたらしてしまった。

そして、いつの間にか光輝は優しく正義感の強い男という評判が立つようになった…

 

ケース3 被害者 石神雄二、園部優花

 

ケース3と同じような事例が光輝が中学2年から3年の夏休みまでの間、把握しているだけで37件発生している。この二人の被害が突出していたので代表例として報告します。

 

光輝が中学2年生の時、クラスメイトに檜山大介という生徒がいた。

檜山は光輝に、隣町の那倉中学の石神という生徒に暴行を受けた挙句脅されているので助けてほしいと頼んだのだ。

早速光輝は那倉中に乗り込み石神に檜山を暴行したり脅したりするのは辞めるよう話しかけた。

石神は理解できないという態度をとり暴行の事実も脅しの事実も認めなかった。

それもその筈、石神は暴行も脅しもしてないのだから…

 

しかし、光輝と坂上龍太郎は怒りに燃え石神を殴り飛ばして謝罪を強要したのだった。

 

「あなた達!何をやっているの?!」

光輝と龍太郎に詰め寄る女生徒がいた。

「石神!大丈夫か?」「石神君!大丈夫?」

更に後ろから4人の生徒が駆けつける。三人の男子と二人の女生の5人組は怒った様子で光輝と龍太郎に詰め寄る。

「奈々直ぐに救急車と警察呼んで!」最初に駆けつけた女生徒が怒りに任せて怒鳴った。

すると光輝は

「それは石神に悪い結果をだすよ。コイツがうちの生徒を暴行して脅したから辞めるように言いにきただけだ。認めないコイツが…」

「だからなんなの?今貴方が石神に暴行したのは事実よ。後は警察の人に判断してもらいなさい!」

「な、何を言っているんだ。君は石神の友達だろ?彼が捕まってもいいのかい?」

「今現在暴行してる貴方が捕まる心配をしなさい!イチイチ貴方の言い訳なんか聞く必要なんかないわ!」

明らかに慌て始めた光輝と龍太郎。

いくら言い分が立派でも暴力を振るっていいはずがない。立派な傷害罪だ。

石神は凄い量の鼻血を出している。光輝と言い争っていた女生徒-園部優花-は

石神の反応が鈍く尚且つ出血していたため園部優花は慌て始めた。

 

言い負かされて苦い顔をした光輝はしかし、とんでもない事を口にした。 

 

「石神が素直に謝罪していればこんな事にならなかった。彼の自業自得だ。君もそんな暴力を振るったり脅迫するような男には近づかない方がいい。これは君の為を思っての忠告だよ?僕たちは帰るが…」

「だから今現在暴行して脅迫してるのはあなた達でしょ?都合のいい言い訳して逃げる気?この卑怯者!貴方にどんな理由があろうとも暴力振るって怪我させた時点で傷害罪よ?気持ち悪い笑顔なんかやめなさい!」

 

園部優花は見た目イケメンの天之河に一切コビなど見せなかった。

むしろ暴力を振るっておいて気持ち悪い笑顔を見せる光輝を気○いだと思った。

 

光輝は今まで自分が何か言えば必ず女生徒達は支持してくれると思っていた。

雫と香織は違うクラスになったとは言え、自分に従う筈だとも思っている。

光輝の勘違いも甚だしい。もし雫がこの光景を見ていたら激怒するのに…

 

ところが園部優花はそんな様子はない。後ろにいる3人、一人は先生と救急車と警察を呼びに行っている、も媚びる様子はない。

 

園部優花の実家は洋食屋だ。当然変なクレーマーもいる。店の中で暴れる人も見てきた。だからこの手の暴力を振るう男には毅然とした態度が一番必要なのだと知っていたのだ。

 

しかし天之河光輝は

「石神は本当に悪い奴だ。君たちを洗脳して騙しているなんて…気は乗らないが石神に騙された自分自身を反省してくれ!」

と言って優花達に殴りかかってきたのだ。

 

宮崎奈々が先生を連れて戻って来た時に見た光景は石神だけでなく園部優花、菅原妙子、玉井淳史、相川昇の5人が倒れてる姿であった。

 

その後警察と救急車が来て那倉中は大騒ぎとなったのだ。幸い5人は軽症で済んだ。

警察の調べで檜山大介の嘘がバレたのだ。

檜山は警察、教師、両親からこっぴどく怒られたのだった。

実際には檜山が優花に手を出そうとしたら石神に邪魔され、それを逆恨みして光輝を騙したというのが事件の真相だった。

だが光輝に関しては傷害罪だ。光輝の両親や、剣道会の重鎮達が5人に謝り続けどうにか示談が成立して事は収まったが5人の心に深い傷を負った事には変わりない。そして光輝と龍太郎は最後まで彼等に謝らなかったのだ…

 

石神雄二はその後地方へ転校した。

園部優花は石神と仲が良かったのだが付き合う前に自然消滅してしまったようだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「…………………ふぅ」

報告書を読んだ八重樫雫の祖父である八重樫鷲三と雫の父である虎一は深い溜息をついた。

八重樫流の門下生は身内扱いで決して見捨てない。これが不文律なのだが…

 

光輝の起こす騒動はもはや事件レベルだ。

剣道会のスーパースター扱いされてるので光輝の所業は今のところ何とか揉み消されてはいるががこのまま行けば必ず犯罪者になる。

事あるごとに光輝を叱り注意し続けた鷲三と虎一だが…

 

入門時に光輝の性格に違和感を覚えた鷲三は密かに調査を命じたのだった。

そして次々に上がって来る報告書を見て唖然としてしまった。

才能溢れた光輝に期待していただけに辛抱強く指導して性格を矯正しようとしてきた。だが光輝は人の忠告を聞きはしない。

 

鷲三はやりすぎではないかと自覚しながらも警戒を解かなかった。

 

雫と香織をまるで自分の物のように扱う光輝をみて、普通なら子供の独占欲だと思うのだが光輝には何か不気味な影を感じたのだ。

 

案の定、友達でもない光輝に独占欲を向けられた香織は怯えてしまった。

喧嘩や争いが嫌いな香織に、生意気な奴をどうやって倒したのか自慢げに語ったり倒した写真を見せたりされたので、香織は光輝が怖くて学校内で雫から離れられなくなってしまったのだ。

香織は光輝と龍太郎が起こす騒動にも怯えていた。

それにつれ、光輝の周りには不良っぽい人物が増えてきたのだ。

 

実際、光輝の周りにいた不良達が香織をレイプしようとしていたのだ。

護衛につけていた門下生達により未遂に終わったが、光輝を呼び出して事実を告げた所、光輝は何と不良を庇った。

光輝曰く、何かの間違いだ、彼等は僕の言うことを良く聞く仲間だ。香織を襲うはずがない!と、鷲三に逆にくってかかってきたのだ。

 

鷲三と虎一は雫の親友である白崎香織の両親とともに光輝の危険性を共有し、八重樫の門下生が交代して密かに雫と香織に護衛をつける事にしていたのだ。

更に中学校に直訴し同じクラスにしないよう手を回したのだった。

 

鷲三が光輝の破門を躊躇っていたのは光輝を野放しにしたらどれだけの迷惑を人にかけるかわからなかったからだ。

 

だが可愛い孫やその親友の安全を脅かし続ける光輝を二人の近くに置くわけにもいかない。

 

 

鷲三にとって雫は眼に入れても痛くないぐらい可愛がっている孫だ。

そしてその親友である香織も同じぐらい可愛いがっている。

 

鷲三は今でも可愛いらしい挑戦者の姿を思い出した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

雫が小学5年生になった時、初めてできた女の子の友達が道場破りのようなセリフを言いながら入って来た時の事を…

 

「たのもー」

その声に道場にいた全員が入り口を振り返った。

そこには何とも可愛いらしい挑戦者がいた。

トコトコと鷲三の前までやってきて

「雫ちゃんのお爺ちゃんですね!私は雫ちゃんの友達で白崎香織です。はじめましてです!」

可愛らしい挑戦者は、(しかししっかり自己紹介と挨拶してきた)ほっぺを膨らませながら続けた。

「雫ちゃんはとっても可愛いのです。髪を伸ばしたらアイドルです。だから髪を伸ばすべきです!」

ビシッとポーズを決めながら指を突きつける。

「ちょ、ちょっと香織!」

慌てながら雫が可愛いらしい挑戦者を宥めてる。

 

「わっはっはっはっ」

鷲三は大笑いをして可愛いらしい挑戦者に降伏する事にした。

その場に居合わせた門下生も可愛いらしい挑戦者に降参したようだ。

雫に好きな髪型にするように鷲三は笑いながら告げたのだった。

 

以来、香織は門下生でもないのに八重樫の身内扱いになった。

 

その後鷲三と虎一は、雫と香織の護衛を頼めないかと門下生に聞いたところ結果は全員志願してきたのだ…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「虎一!」

「はい!」

「光輝は破門とする!」

 

八重樫流で初の破門者が才能溢れた剣道会のスーパースター天之河光輝であった事に剣道会は衝撃を受けた。

が、一般の人達にはよく分からない出来事として扱われたのだった。

かっこいい天之河を叩く人はまだいなかったのだ…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「那倉中学の暴力事件って天之河君がやったの??」

 

香織と雫の話を聞いて驚いたハジメは雫から事件の詳細を聞いて背筋が寒くなる感覚がした。

 

「そうよ。だから私も香織も光輝とは違う学校に行きたいのよ…」

「うん…中学2年のクラス替えの時、光輝君とは違うクラスになりますようにって本気で神社にお参りしたぐらいだし…」

 

「僕がこんな事言っていいのかわからないけど…僕も天之河君とは違う学校に行きたい…」

ハジメの言葉に頷く二人。

「多分光輝は剣道部のない南陽高校には行かない筈だからそこにしましょう」

「うん!」

「そうだね!」

 

こうしてハジメ、香織、雫の三人は南陽高校に進学する事に決めたのだった…

だが…雫は知らなかった。

ソウルシスターズなる雫を義姉と慕う集団がいる事を…

そしてそのリーダーが天之河光輝の妹、天之河美月である事を…

 

「お姉様が兄さんと違う学校に…?」

ハジメ達のいる席の後ろ側に美月がいたのだ。

光輝と雫が結婚すれば真の義妹になれる。

「許せない。兄さんのお嫁さんはお姉様よ。他の学校にいって他の男になびいてしまったら…」

美月の野望がハジメ達の進路に影を落とす事になるとはこの時、誰も知り得なかったのだ…

 

 

 

 

 

 




今回もほぼオリジナルにしてしまった…

話の中にキャラクターがちゃんと入り込めたかな…

優花は原作であまり出なかったせいか未だに口調や性格が把握できないwww

ところで、光輝の自己解釈長っ!上手くまとめられなかった気もする。

わかりづらかったという声が有れば次回もう少しまとめたいと思います。

今回はハジメと香織と雫が同じ高校に通おうね!というだけの話に光輝の過去

を書いたら8000文字超えてしまった…

もう少し綺麗に纏められたらなぁと思う今日このごろ

自分の書きたい事を少ない文章で表現できるよう頑張ります。

次回の更新も未定ですが、今後ともよろしくお願いします。

この話は変更なし!


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第三話 プロローグ後編

たった二話しか書いてないのに意外と多くの方々に読んでもらえました。✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。

みなさん、ありがとうございます。

誤字訂正もいつもありがとうございます。

今回は高校入学編です。

気がついたら三話連続でほぼオリジナルか…早くトータスに飛ばしたい…

前編中編にでてきたキャラクター達がまるで運命に誘われたがごとく集う。

そんな感じです。

そして園部優花の口調と性格は違和感ないのか…作者の模索は続く…





雲ひとつない青空が広がっている。

 

今日は南陽高校の合格発表日。

 

南雲ハジメは白崎香織と八重樫雫の三人で合格発表を見にきていた。

 

「南雲君!結果はどうだった?」

「八重樫さん、無事合格できてホッとしたよ!」

ハジメは嬉しそうに答えた。

 

そんなハジメを香織もまた嬉しそうに見つめながら喜んだ。

「うん!良かった〜三人無事合格できたね!このままお昼にする?」

「そうね…近くに美味しい洋食屋があるみたいだからそこにしましょう」

雫の提案にハジメと香織が賛成して洋食屋に向かう。

 

三人とも学力は合格ラインを楽にクリアしてたが、やはり合格が決まると肩の荷が降りるようだった。

自然と笑みが浮かぶ中、雫の先導で洋食屋ウィステリアに向かう。

店の外観はログハウス風で植栽も丁寧に管理されている。

店は一度に30人ぐらい入りそうな広さだ。

 

カランカラン〜

扉を開け店に入ると元気の良い声が聞こえてきた。

 

「いらっしゃいませ!空いてる席にどうぞ!」

 

店内を見渡すとどうやら今日一番のお客らしく店内はガランとしていた。

 

「メニューが決まりましたらお呼び下さい。」

水とメニュー表を持ってきてくれたウェイトレスは、ハジメ達と同い年ぐらいの娘だった。

 

お祝いも兼ねてるのでデザートは必須だ。

メニュー表を見るとデザートはジンジャエール付き特製デザートしかない。

 

「特製デザートは来てからのお楽しみですよ!」

ウェイトレスさんは茶目っ気たっぷりに答えてくれた。

見た目は栗毛に切長の目をしており少し勝ち気な印象を与える。

 

香織と雫を見慣れているせいかハジメは特に何も感じなかったが充分美人だ。

仕事振りを見てると手際が良く真面目な性格のようで好感が持てる。

 

「オススメのメニューはどれですか?」

ハジメが聞くとウェイトレスはいたずらっぽくウィンクしながら

「全部よ!…な〜んてねっ、今日のランチのオススメは海老のマカロニグラタンね!新鮮な海老が入荷したから期待していいわよ!」

 

「せっかくだから私はマカロニグラタンと紅茶をお願いします。」

「私も雫ちゃんと同じのがいいかな。ハジメ君もマカロニグラタンにする?」

「うん!せっかくだから食べてみたい。飲み物は…やっぱり紅茶がいいのかな?」

 

「無難なところでお茶か紅茶…コーヒーも合うという人もいるよ!」

優花の説明に興味を持ったハジメはコーヒーにチャレンジしてみる事にした。

 

「じゃあ僕は飲み物をコーヒーで!」

「かしこまりました。海老のマカロニグラタン3つ紅茶2つコーヒー1つでよろしいでしょうか?」

「後この特製デザート3つお願いします」

「はい。かしこまりました!」

 

笑顔で厨房に向かうウェイトレスさんから香織の方に視線を向けたハジメ。

 

「白崎さん、特製デザートって何だろ?」

「えへへ、来てからのお楽しみだねっ!」

「香織ったら…でも良さそうな店だから期待しましょう」

微笑みながら話す雫を見てハジメは最初に会った時の事を思い出す。

正直な事を言うとハジメは最初は雫をちょっと冷たそうな人だと思っていた。

今は随分と柔らかい微笑みが増えてきたように感じていた。

 

「ただいまー。あら?お客様いらっしゃいませ!」

30代後半の女性が入ってきた。

「お母さん、お帰り〜注文はもう受けたよ」

「ありがとう、優花。ごめんねー、せっかく南陽高校受かったのに店番頼んじゃって…」

「いいっていいって、ウェイトレス好きだし。」

 

どうやら母娘らしい。

香織は会話の中に自分達と同じ高校に受かった事を聞き提案した。

「南雲君、雫ちゃん、あの娘私達と同じ高校に受かったみたいだよ?」

「そうみたいね。乾杯だけでも一緒にしないか聞いてみる?」

「「賛成!」」

 

三人を代表してハジメが母娘に話しかける。

「すみません。今話を聞いてたんですけど、僕達も南陽高校に受かったんです。良かったら合格祝いの乾杯だけでも一緒にしませんか?」

 

「あら?お邪魔ではないなら混ぜて貰ったら?優花」

「へー、貴方達とひょっとしたら同級生になるのかー。それじゃあ一緒に合格祝いしましょ!」

 

園部優花は私服に着替えてハジメ達の席にやってきた。

「私は園部優花よ。那倉中学に通ってるの、宜しくね!」

「僕は南雲ハジメ、栄西中学出身だよ。園部さん、宜しくね!」

「私は白崎香織、枝比戸中学出身、園部さん、宜しくね!」

「私は八重樫雫、同じく枝比戸中学出身よ。宜しくね!園部さん」

 

お互い自己紹介したがハジメと香織がキレイにハモった事に若干引く優花。

が、それよりも気になる事があった。

 

「……枝比戸中学?…天之河って奴がいる中学?」

「…そうよ。園部さん、那倉中学っていったら光輝が酷い迷惑をかけたのよね…同じ中学に通っている者としてお詫びするわ…ごめんなさい。」

 

暗い表情をする優花を見て察した雫が謝罪する。

 

「八重樫さんが謝る必要はないわ…悪いのは天之河と檜山だし…他の人は関係ないと分かっていてもまだ警戒しちゃうんだ…。っと…ごめんね、合格祝いなのに…とりあえず乾杯しよ!」

 

優花の母親、園部優里が4人分の飲み物を持ってきてくれた。

「はい、皆さんどうぞ。これはお母さんからのお祝いよ!」

 

洋食屋ウィステリア名物のレモンスカッシュだった。

1日10杯限定のスペシャルドリンクを南雲達3人と園部優花が受け取り乾杯する。

「南陽高校、合格おめでとう〜乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 

結局優花も食事を一緒にとりながら会話を楽しむ事になった。

その後、せっかく知り合ったのだからと場所を優花の部屋にうつし色々話し合いをすることに…。

 

香織と雫が光輝から離れたくてわざわざ剣道部のない南陽高校を受けた事、香織とハジメがほぼ恋人状態である事を優花は知ることになった。

 

ハジメ達も優花が光輝の被害者である事を知り、皆んなでもう一度お詫びをするのだった。

ハジメ達は全く関係なかったのだが…何となく一緒に謝るべきだと感じていた。

 

「今日は楽しかった。それじゃあ、また学校で会いましょ!」

夕方まで話こんでしまった4人は、高校の入学式の時にまたウィステリアで食事をする約束をしてわかれる事になった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ハジメは香織と雫を家に送った後画材屋に寄り、母親から頼まれていた備品を買いこんだ後、自宅に帰り両親に合格の報告をした。

洋食屋ウィステリアの娘の園部優花も同じ高校に受かったので4人で話こんでいたら帰りが遅くなった…と話すと

 

「ハジメ!リアルハーレム構築中だな!」

とんでもないセリフを吐いたのは父親の南雲愁だ。

その表情は喜びに満ちている。

 

「香織ちゃんを筆頭に雫ちゃんと…新たに優花ちゃん、確実にフラグが立ってるわね。」

笑顔でサムズアップするのは母、南雲菫である。

 

「「よっ、特級フラグ建築士〜♪」」

見事なハモリを見せて謎のポーズを取る二人。

 

軽くイラッときたハジメは一応否定する。

「そんなんじゃないってば。それに白崎さんだけだよ!」

 

夫婦の笑顔が無性にイラっとくるハジメだったが…

 

「ふふふ。なるほど…香織ちゃん一択ね?」

夫婦の罠にハマり白状してしまったハジメ。妙にニヤニヤしているのが気になる

 

「高校入ったら香織ちゃん、毎日お弁当作ってくれるみたいよ〜♪」

「ハジメ。父さんはいくらでもお前に援助してやる。ただ子供を作るのは高校卒業してからだ。18歳までは結婚できないんだぞ?未婚で学校行きながらの子育ては香織ちゃんに負担がかかるからな?」

 

「嬉しいけど余計なお世話だよ?ちゃんと結婚するから!高校卒業してから作るから!」

 

「「むふふふ…香織ちゃん♪言質とったよ〜♪」」

笑顔でハイタッチした愁と菫は、後の扉を開けて、ハジメに向けてサムズアップしてきた。

 

イラッと来る仕草ではあったが、それ以上に気になる発言が…

「…香織ちゃん…?」

ハジメが呟いた時、それに答える声がした。

 

「…はい……」

扉の奥に何故か香織がいた。顔は真っ赤だ。見事なまでに真っ赤だ。

 

「「……………………」」

 

(これは罠だ!狡猾な孔明の罠だ!父さん達は孔明だったんだ!)

混乱中のハジメは脈絡のない理論を展開していた…

 

香織を見ると、モジモジしながら口元はムニムニしている。 

 

「「それじゃあ、後は若い人同士で〜♪お年寄りは退散するぞ〜♪」」

愁と菫はスキップしながら職場に向かって行った。

 

仕事の締め切りが近いのに息子をからかう為の労力は惜しまないようだった…

 

(こ、この状態でまさかの放置??)

ハジメは心の中で絶叫する。

 

香織の方はモジモジしっぱなしだ。

 

「え…っと、白崎さん、どうして家に…?」

とりあえず沈黙状態を打破すべく話題を振ってみた。

その疑問はもっともだ。何せさっき香織を家まで送って行ったのだから…

 

「う、うん。私のお母さんがね、合格祝いで作ったケーキを持って行きなさいって…そしたら菫さんがハジメ君の本心を暴いてあげるから隠れてなさいって…」

 

「……………母さん…」

菫の企みを何と表現すべきだろうか…?と考えようとした時、香織の言葉が全て吹き飛ばしたのだった。

 

「南雲…君、…私は…オッケーです…」

頭が真っ白な香織は即答する。

 

「……う、うん…ぼ、僕もオッケーです…」

頭が真っ白なハジメも即答する。

 

しばらく二人は変なテンションで全く噛み合わない会話を続けていたのだが…

夕飯の時間が近くなってきたのでハジメは香織を再び家まで送る事にしたのだ。

 

そして香織の家の近くまで来た時、香織が何かいいたそうにしてたので聞いてみたら…

「あ、あのねっ、もう答えは知ってるけど…プロポーズは…高校3年生の…南雲君の誕生日にして貰えないかな?かな?」

 

どうやら香織はハジメの誕生日に婚姻届を出したいらしい…

 

何となくだが菫と愁の策略が加わっているような気もしないでもないハジメだったが、香織のちょっと不安そうな表情を見たら答えなければならない。

ハジメは決断した。

そもそも白崎香織の事が大好きなのだから迷う必要もない。

ハジメは普段は弱気だが、ここぞという時には勇敢になれるのだ。

 

「うん。必ず、必ずプロポーズするよ!だから安心して!」

 

こうしてハジメと香織は高校3年のハジメの誕生日にプロポーズする事になった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

天之河光輝は悩んでいた。

 

妹の美月から聞いた情報が光輝を悩ませていた。

美月は雫と香織が南陽高校に行くと断言していた。 

 

自分は城陽高校に行くと、二人に告げた。

二人は返事を返さなかったが必ず来る筈だと光輝は確信している。

では何故妹はそんな事を言ってきたのだろうか?

 

中学2年の時、別々のクラスになってから雫と香織にはほとんど会ってすらいない。

光輝は常に学校中の女の子に囲まれていた。

その為中々逢いに行けなかったのも事実だ。

そこで光輝は雫と香織はヤキモチを焼いているのだと考えた。

 

その為、わざわざ自分の進学する学校を教えておいたのだ。

二人は光輝にとって特別だから教えるんだよ?とダメ押しもしておいた。

 

二人なら分かってくれる筈だ。

自分がいかに他人の為に行動してるかを。

石神の件は自分を騙したのは檜山なんだから悪いのは当然檜山だ。

石神も疑われるような行動をしてたからあんな密告をされる羽目になったのだ。

非難される要素などどこにもない。

大人達の騒ぎなど理解できない。

現にクラスメイト達は檜山の卑怯さのみを問題にしている。

 

八重樫道場は古臭い因習に囚われた道場だ。

破門になっても大した事は無かった。

ただ雫は実家に遠慮して自分には会い辛いだろう…

 

中学2年になってから香織は特に美しくなった。

雫も香織に負けないぐらい美しくなった。

高校に入ったらもう少し二人をかまってやらないと…

自分の両隣に立つのがふさわしいのは香織と雫なのだから…

 

どちらを恋人にするかは二人と相談すべきだろう。

 

光輝は首を振って考えるのをやめた。

問題は龍太郎が城陽高校に入れるかどうかだけだが、空手部の推薦枠で入れるハズだ。

何も問題はない。

妹の話は何かの間違いだろう……

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

檜山大介、斎藤良樹、近藤礼一、中野信治は高校進学を諦めざるを得ない状況に追い込まれていた。

 

天之河光輝を使って自分達の気に食わなかった奴等を襲撃させていた事がバレてしまったからだ。

 

しかも彼等の呼び名が小悪党で定着してしまった

 

それからは毎日のように下校途中に報復を受けていた。

もし光輝と違う高校に行ってしまったら学校内でもどんな報復が待っているかわかったものではないからだ。

 

自分達の自業自得とはいえ檜山達は園部優花を逆恨みしていた。

素直に光輝にやられていればいいものを警察なんかに通報しやがって…と。

 

檜山達は土工の道を選ぶしか残されていなかった…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

そして4月に入り入学式を迎えて光輝はやっと気づいた。

 

雫と香織がいないことに…

 

 

檜山達は親方に怒鳴られまくりながら社会人としての一歩を歩み始めてた。 

 

 

 

ハジメは香織と雫と優花の4人で入学式に向かっていた。

 

途中優花の友達4人と合流した。

 

彼等は入学式の後、優花の家の洋食屋ウィステリアで親交を深め、穏やかな高校生活をスタートしたのであった。

 

ハジメと香織、雫、優花、優花の友達4人は全員同じクラスになっていた。

南陽高校はクラス替えがないから卒業まで同じクラスだ。

 

ハジメと香織は大喜びしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっとこさ次回トータスに飛びます。

ふはははは、まさかの光輝、龍太郎が別学校〜
檜山は中卒労働者〜東京都の最低賃金スタートから這い上がれ〜
でも大丈夫。ちゃんと一緒にトータスに飛びますのでご安心を

ちなみに光輝が雫と香織の間でこんな会話がなされていました。

光輝「雫、香織、俺は城陽高校に行く。これを話すのは雫と香織だけだ。ニ人は特別だからな!」
雫「……あっそう。頑張ってね」(私達は南陽高校に進学するけどね)
香織「うん、頑張ってね」(私と雫ちゃんは南陽高校受験がんばるよ!)

光輝は一緒に行こうとは言ってないので普通に応援されただけでした。 
なのにトータスで会うハジメ君に八つ当たりするのでしょう。
光輝のご都合主義はしょっぱなから全開です。

原作と違いハジメ君は虐められる事もなく香織と一緒に高校生活を満喫します。ハジメ君は光輝と檜山がいなければ基本虐められるタイプではないので…

それでは次回、学校が違うのにどうやってトータスに行くのか…
乞うご期待。

工事完了!


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第二章 ありふれた異世界転移編
第四話 ありふれた日常の終わり


さて、やっとこさ異世界にいきます。

若干予定が変わってしまった点もありますが、ほぼ予定通りに異世界へ…

ハジメ君と光輝、檜山は初対面となります。

果たしてファーストコンタクトはどうなるのか…

今回はそんな話です。


南陽高校入学後のハジメと香織はクラスメイトの八重樫雫、園部優花を筆頭に宮崎奈々、菅原妙子、玉井淳史、相川昇、永山重吾、野村健太郎、遠藤浩介、辻綾子、吉野真央などの友人達に囲まれて騒しくも楽しい学校生活を送っていた。

 

クラスメイトの中には清水幸利、篠原カズトと言う二大オタクと言われているコンビもいたがイジメや差別みたいなものは無かった。

 

クラス全体で和気藹々とした印象がある

 

香織と雫は南陽高校二大女神と崇められるほどに成長していた。

 

その香織と仲の良いハジメは学校一のバカップルと呼ばれる事に。 

香織のお気に入りの公園で毎日早朝デートするようになっていたハジメと香織を見た奈々、妙子、綾子、真央の4人によって命名されてしまった。

 

雫は義妹集団-ソウルシスダーズ-からお姉様と崇め奉られていた。

その存在を知った時、雫は壮絶に引き、

 

「光輝から離れられたと思ったら…義妹集団?なんなの?私、普通の女の子なのよ…」

 

涙目で落ち込む雫をハジメと香織と優花の三人で全力で慰めたのも記憶に新しい…

その際ハジメが「八重樫さんは普通に可愛い女の子だと思うよ!」

と言ったために雫は顔を赤くして動揺し、それを見た香織と優花が「「へー」」と言ってじっと雫を見つめた為に雫は更に動揺すると言うハプニングもあったが…

 

優花は優花で友人の宮崎奈々と菅原妙子から酷い評価をもらっていた。

 

「優花は二枚の一万円札に挟まれた五千円札ね。白崎さんと八重樫さんがいなかったら間違いなく学校一の美人だったのに」

「五千円札…って…」

 

涙目で落ち込む優花をハジメと香織と雫の三人で全力で慰めたのもつい最近だ…

その際ハジメが「二大女神じゃなくて三大女神だよ。園部さん美人だし」

と言った為に優花は顔を赤くして動揺し、それを見た香織と雫が「「へー」」と言って優花を見つめた為に優花は更に動揺すると言うハプニングもあったが…

 

なんだかんだで雫と優花のフラグはしっかりたてているハジメだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

そして高校3年になりハジメと香織は早朝デートの真最中。

付き合いはじめて4年目にして初めて手を繋いでデートをしていたのだった。

 

「な、なんだか照れるねっ!南雲君…」

「………………」

「?どうしたの?南雲君?」

ハジメの様子がいつもと違ったので香織が聞くと…

 

「今気付いたんだけど…僕、まだ白崎さんに告白して…なかったよね…?」

「ふぇっ??」

 

動揺した香織の返事が微妙なものになった。

 

「今日…その…プロポーズするつもりだったから…その…肝心な事が抜け落ちてたような…」

 

香織も同じく気付いた。

学校卒業後結婚する気でいた香織は、確かにハジメの両親にからかわれ、恋人になる前に、いきなりプロポーズの話になっていた事に気づいた。

 

「そ、そう言えば…そうだよ…ね?何かもう…夫婦になるんだなぁ…ってなってて…肝心な事が抜け落ちてた…よね?」

 

二人とも間の抜けた表情で見つめあって…

 

「「ぷっふふふ…」」

 

可笑しくなって笑ったのであった。

しばらく笑った後、ハジメが香織に向き合って真剣な目をして香織を見つめた。

香織の心臓は口から飛び出そうなくらいにドキドキしていて…

 

「白崎香織さん、僕はあなたが好きです。」

「は、はい」

「僕の恋人になって下さい。」

「よ、喜んで…私を南雲ハジメ君の恋人にしてください…」

 

ハジメは香織をそっと抱き寄せた。

 

(う〜ハジメ君、普段は私とおんなじ感じなのに…肝心な時はいつも落ち着いてて…かっこよすぎだよ〜…キ、キスだよね、次はきっとキスだよね…)

 

目を瞑りハジメに甘えながら律儀に手順を確認する香織。

 

目を閉じてその時を待っていると… 優しく唇が触れ合った…

 

「んっ…!」

 

二人とも離れられなくなりしばらくキスしていたが、舌と舌が触れ合った瞬間香織の身体に電気が流れたような感覚が走り…身体の力が抜けてハジメにもたれかかる。

 

「香織さん、だ、大丈夫?」

「…あっ…う、うん、大丈夫…」

 

香織はキスも嬉しかったが、"香織さん"と呼んでくれた事も嬉しかった。

 

「え…えっと…ハジメ君…もう少しこのまま…でいいかな?かな?」

 

ハジメに抱きしめられたまま甘える香織にハジメは返事の代わりに…

 

「んっ………」

 

またキスをした。

今度は舌を絡めるような濃厚なキスをしばらく続けるのであった。

香織は幸せで蕩けそうな表情だった…

 

キスの後、少し休んでから二人は思った。

ファーストキスの事は皆んなに黙っていようと…

 

「ふふっ、今日恋人になって、家帰ったらプロポーズかぁ〜♪」

「そうだね!今から緊張してきたかな…」

 

今度は香織からキスしてきて…

「頑張ってね?ハジメ君!」

「香織さん、じゃ、じゃあ学校行こうか?」

「う、うん!雫ちゃん達待たせちゃうから急ごう!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「…それで香織、南雲君と何かあったの?」

 

ウィステリアの前で雫と優花と合流してから10秒で勘付かれてしまった。

 

(…こ、孔明?雫ちゃんは孔明なの…?で、でもここは落ち着いて…)

 

「な、何って、何ですの?わ、私は普通に登校しただけなのですよ?」

「「…………」」

「し、雫ちゃん?ゆ、優花ちゃん…?な、何かな?かな?」

「香織…香織のリップバーム、ハジメ君の口についてるわよ?」

「え?う、嘘っ?は、ハジメ君、く、唇ふくからちょっとじっとしてて…」

「か、香織さん?」

 

香織がハジメの唇を優しくハンカチで拭いているとボーッとして目が潤んできた。

 

ハジメの唇を見ていた香織はさっきのキスの感触が蘇ってきてしまったようだ。

 

「「うぉっほん!」」

 

雫と優花のわざとらしい咳で我に返った香織。

 

「「香織〜おめでとう♪」」

 

顔は笑顔だが不思議と迫力がある雫と優花の祝福に香織は

 

「えっ…と…?あ、ありがとう…?」

「「香織〜♪私たち親友だよね〜♪後で聞きたい事があるのよ〜♪」」

 

蛇に睨まれた香織…もといカエル状態に…

ハジメは香織に助け舟を出すことにした。

(既にバレている…無駄に隠すのは…僕と香織さんにはできない…)

 

「八重樫さん、園部さん、実は僕達、晴れて恋人同士になりまして…」

「「はいぃ…??」」

 

理解できないと言うニュアンスで雫と優花は言った。

((前からバカップルでしょ??))二人の考えは一致していた。

 

ハジメはこれまでの経緯を説明する羽目に…

〜〜〜〜〜.〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「え〜と、つまり告白して恋人になる前にプロポーズして婚約者になっていたと」

 

状況をまとめる雫に、ウンウンと答えるハジメと香織。

 

「告白を忘れていた事を思い出してさっき告白して恋人になったと…」 

 

ウンウンと頷くハジメと香織。

 

「高校合格の後にしたのは告白じゃなくてプロポーズだったのね?」

 

ウンウンと頷くハジメと香織。

 

「雫…えー…要するにバカップルが大バカップルに進化したって事?」

「そう…ね…優花、ウィステリアに戻ってブラックコーヒー飲まない?」

「賛成だけど遅刻するわ…学校へ行きましょう…」

 

砂糖をたっぷり吐いた二人はジト目をしてハジメと香織をみた。

雫と優花はその後ちょっぴり不機嫌となったのであった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「みなさ〜ん、午後の授業は最近発掘された珍しい遺跡を見に行きます。見学後現地解散するので帰る準備をしてから校庭に集合してください。集合時間は12時50分です。遅れずに集合してください。」

 

昼休み前に社会科の先生である畑山愛子がハジメ達のクラスに来て告げて行った。

 

ハジメと香織と雫はいつものように優花達とお昼ご飯を食べていた。

普段はハジメと香織のバカップル具合をからかっているのだが、今日は珍しく天之河の話題だった。

「俺と淳史の友達が城陽高校行ってるんだけど天之河が生徒会長に立候補して落ちたらしいぜ?」

「へーあの無駄にキラキラしてカリスマだけはある天之河がねー」

「何でも北村蒼華っていう娘が当選したって教えてくれた。」

 

話を聞いていた雫が不安そうに昇に確認をとってみた。

 

「ねえ、相川君、その北村蒼華って娘は無事なの?」

「え?何で?」

「光輝は自分に勝った相手を徹底的に攻撃する傾向があるのよ…」

「「「「「はい?」」」」」

 

優花達は全員理解してない様子なので雫が小学校時代、光輝が起こしたイジメを説明した。

 

「マジか…ヤバすぎだろ天之河…」

 

かつて光輝の被害にあった昇だが話を聞いただけで背筋が冷たくなった…

 

「上里隼人君と水上彩子さんは結局転校する羽目になったのよ。私と香織が"間違っているのは光輝だ"といくら言っても笑いながら聞き流されたわ…」

「信じられない話でも天之河ならやりかねないと思えるわね…」

 

優花は雫が北村蒼華を心配する理由が理解できた。

 

「ねえ昇、一応北村蒼華さんに注意するように話しておいたら?」

「そうだな…後で話しておくよ…」

 

「あっ!そろそろ時間だよ!校庭行く準備をしよ?」

 

ハジメの提案に皆、頷いて自分の席に戻り帰る準備をした。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ハジメ君、わざわざ遺跡を見に行くなんて珍しいよね?」

「うん…確か場所は八重樫さんの家の近くじゃなかった?」

「ええ、1ヵ月前まですごい騒ぎだったわよ?マスコミが来たりして世紀の大発見だ!とか言ってたわね。私は見た事ないけど…」

「「へ〜」」

 

工事現場を囲むフェンスに遺跡見学と書いてある看板が貼ってあった。

看板のある入り口からはいるとまだ工事中の現場に、一部ビニールシートに囲まれた部分があった。

どうやらそこから入るようだ。

 

「みなさん、こっちに並んで下さい。ここから入りますよ〜」

 

社会科教諭の畑山愛子が皆んなを集めている。

彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。

 

 〝愛ちゃん〟と愛称で呼ばれ親しまれているのだが、本人はそう呼ばれると直ぐに怒る。なんでも威厳ある教師を目指しているのだとか。

 

ハジメ達の南陽高校は一クラス24名と少なめだ。それが5クラスある。

他のクラスは先週見に来たのでハジメ達のクラスが最後の見学だ。

 

「まだ他の学校の生徒がいますから静かに入りますよ!」

 

鉄パイプを組み合わせた階段が下に続いている。

 

「今日は私たちが最後の見学者ですからゆっくりみましょう♪」

 

すると現場監督らしき人が愛子先生に話しかけてきた。

「すみません、ガイドの方が今休憩に入りましたから20分ほど待っていてください。下の石室は広いから全員楽に入れますよ!」

 

「わかりました。下で待っています。みなさん、とりあえず下におりましょう。」

 

石室に入ると言い争っている男女と、それを宥めてる女子2人男子1人がいた。

石室の端には作業員らしき4人が掃除をしている。

石室の広さは半径15m、高さ2.5mと言っていたからかなりの広さだ。

 

ハジメ達のクラス全員が石室に入り、言い争っている男女の方に注目する。

 

「「げぇ、天之河…」」

嫌そうに呟いたのは永山と優花であった。

 

ハジメと香織と雫が一斉に光輝の方に注目する。

二人とも深い溜息をついていた。

 

ハジメは香織達から聞いていた天之河光輝を初めて見た。

(確かに見た目はアイドルみたいだ…表情みると攻撃的な性格で間違いないようだ)

そう思ったハジメは会話の内容を注意深く聞き始めた。

 

「天之河君?いい加減にしてくれない?何故イチイチ貴方が仕切るの?」

「蒼華。君は何故反抗的なんだい?俺の言う通りにしていればもう終わっているはずだ。君をカバーしているのに何が気に食わないんだ?」

「私が生徒会長だからよ。私たちだけ説明聞きそびれたのはイチイチ貴方がグズるからでしょ?カバーじゃなくて邪魔なだけ。私に生徒会長選に負けたからと言って足を引っ張るのはやめてくれない?…顔以外取り柄がないの?後、人の名前を呼び捨てにするな!」

 

「ちょ、ちょっと二人とも落ちついて!」

「鈴の言う通りだよ〜静かに待とうよ。」

「もういーじゃねーか。聞いた事にして帰ろうぜ?」

 

「龍太郎、そうはいかない。ガイドさんの話を聞くのに班ごとに聞くのが一番いい。何故それがわからない?」

「見学者はほかにたくさんいたのよ?私達だけ個別に8回も一人しかいないガイドさんに説明させる気?」

「40人で聞いたら後の人が聞こえないじゃないか!」

「石室だからよく響くわよ。」

 

光輝の側にいる二人の少女は何とかなだめようとしているが光輝が引かないため収まる気配がない。ついでに言えば蒼華という女生徒の言う方が正しい気がする…

 

(うわー面倒な人だー あっ!八重樫さん、しかめっ面してるよ…)

そしてハジメは香織の手を握り、小声で話しかけた。

(あの人が天之河君?)

(う、うん。すごいでしょ?できればもう会いたくはなかったんだ…)

(天之河君は意地でも自分の非は認めないみたいだね…収拾つくのかな…?)

(そうだよねー天之河君は絶対引かないから…)

 

ハジメの見たところ光輝が謝れば争う必要もなく仲良く待っていられるような気もする…もっともそれが出来ないから揉めているんだろうけど…

 

ちなみに香織は光輝の名前を出す時、光輝君から天之河君に変わっている。恋人であるハジメ以外を名前で呼ばない事にしたらしい。

 

「貴方達、ここは公共の場ですよ?ガイドさんはもうすぐ来るみたいだから静かに待ちなさい。」

 

愛子先生が天之河光輝と北村蒼華に注意をする。

 

「お騒がせしてすみません。」

 

北村蒼華は素直に詫びてきたが、天之河光輝はちょっと違う。

 

「君は小学生か?黙っているんだ。今は大事な話をしているんだよ?」

 

絶句する愛子先生…そして南陽高校の生徒達から不穏な空気が漂いはじめた。

南陽高校の生徒にとって愛ちゃん先生は大切な存在なのだ!

 

「?!!!天之河君、腐ってるのは脳みそと性格と都合のいい耳だけだと思っていたけど目まで腐ってるの?どう見ても引率の先生でしょ?謝りなさい!」

空気を読んだ北村蒼華は間髪入れずに話に割り込み仲裁する。

 

思わず吹き出す雫と優花達と、永山達。

 

天之河光輝は表情を歪めて蒼華に抗議しようと歩き始めた時に異変が起きた。

 

突然光輝の足元に光り輝く魔法陣のようなものが浮かび上がったのだ。

 

その光はどんどん明るさをまし、部屋中に広がっていく。

 

呆気にとられていた愛子先生が我に帰り「みんな、上に逃げてーー!」

 

と叫ぶのと同時に魔法陣から今まで以上に強烈な光が爆発的に広がり…

 

光がおさまった時、石室にいた全ての人間が消えていた。

 

ありふれた日常の終わりであった…

 

 

 

 

 

 




やれやれ、やっとトータスに行った…

人間は

石室の角で掃除をしていた作業員 4名
檜山、近藤、中野、斎藤

城陽高校 5名
天之河光輝、坂上龍太郎、谷口鈴、中村恵理、北村蒼華

南陽高校 18名(トイレやらで6名は上にいたため、トータス行きを免れた。)
南雲ハジメ、白崎香織、八重樫雫、園部優花、宮崎奈々、菅原妙子、玉井淳史、相川昇、永山重吾、野村健太郎、遠藤浩介、辻綾子、吉野真央、清水幸利、篠原カズト、太田玲二、河原隆次、佐久間健一
引率 畑山愛子

わははは〜 檜山達はセリフすらなかった…存在すら気付かれずにトータス行き〜
ハジメと天之河君の掛け合いを、やろうかと思ったけど引率の先生がいる中では流石にできまい…
トータスで嫌でも絡むからね〜今はいっか…

オリジナルキャラは何名か作りました。この中の一人がオリジナル主人公です。クラスメイトAとかだとかわいそうなので全員分つけました

北村蒼華はまともな人物です。モデルは銀河英○伝説のジェシ○エドワーズ。
とても口の立つ女性です。彼女の役割は香織、雫のいない光輝パーティーでホーリーロードとして回復、盾役を務めてもらいます。オリジナルヒロインにするかは未定。光輝の理解者になる事はありません。

原作の学校生活→異世界転移という話は変えていませんが内容は全く別物になってしまった感がある…。

さて次はトータス編スタート✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。
更新遅めですが次回も頑張ります。

工事完了!若干違和感かんじるかもしれませんがご了承下さい。


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第五話 ありふれた異世界の説明

トータスにやってきました〜

今回から前書きにキャラ紹介などをしたいと思います。

キャラクターファイル001

名前  南雲ハジメ
性別  男
年齢  18歳
身長  168cm
体重  59kg
誕生日 7月12日
学校  南陽高校
解説  二人の主人公の内の一人。
原作主人公。
恋人は白崎香織、(八重樫雫、園部優花) 注 現時点で
今作ではアニメや漫画、ゲーム好きではあるがオタク呼ばわりはされていない。
性格は温厚で冷静、普段は弱気だがいざという時の度胸の良さなどがある。
喧嘩は弱い。
理数系と美術、音楽が得意と言う設定。
父親のゲーム会社を手伝っていて即戦力扱いされている事を鑑みました。
シンセサイザーを使って音をつくっていたためピアノが得意になったと言う設定もあります。
また母親の仕事を手伝っている関係上、ファションセンスや色彩感覚、美術系が得意と言う設定も追加。
プロローグでは描かなかったが香織の父親である白崎智一とも中が良い。
ハジメのCG技術の高さを生かして建築予想図を作成してもらったりしている。
香織と薫子の趣味のガーデニングを手伝ったりもしていたので香織の母親とも良好な関係を築いている。
南雲家と白崎家は家族ぐるみのお付き合いをしていて、ハジメと香織は両方の両親公認のカップルなのである。
ハジメの将来に関しては、ハジメの会社を立ち上げて智一と愁が必要な仕事を回すという案があるので将来設計もしっかりしている。
高校三年生の7月12日、ハジメの誕生日にプロポーズする筈が異世界に飛ばされてしまう。



目をギュッと閉じ、とっさに香織を庇うように抱きしめていたハジメは、ざわざわと騒ぐ無数の気配を感じてゆっくりと目を開いた。

香織もハジメに抱きつきながらゆっくりと目を開く。

そして、二人ともお互いの無事を確認した後、ハジメは背中の感触を感じで振り返った。

雫と優花がハジメの後ろから制服を掴んでいた。

振り向いた際、雫と優花と目が合い、二人は慌てて手を離したが、それでもハジメの後ろに隠れたまま周囲をみわたした。

 

まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。

縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。

どことなく天之河光輝に似ている…

背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。

ハジメと香織と雫と優花はなぜか薄ら寒さを感じて無意識に目を逸らした。

 

ハジメのイメージとしてローマの大聖堂のドームの中心のような豪華絢爛な装飾と絵が散りばめられている

 

 ハジメ達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。

周囲より位置が高い。

 

周りにはハジメと同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達や光輝達城陽高校の5人、建設作業員4人がいた。

 

どうやら、あの時、石室にいた人間は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。

 

周りを見渡すと、この広間にいるのはハジメ達だけではなかった。

少なくとも三十人近い人々が、ハジメ達の乗っている台座の前にいたのだ。

まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好で。

 

 統一された彼らの衣装は白い法衣に金色の刺繍そして黄金の錫杖をその脇に置いていた。

その内の一人、法衣集団の中でも特に豪奢で煌きらびやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。

 

(南米辺りにいるド派手な鳥みたいだ)

ハジメの感想はかなり辛辣なものだった。

 

老人と表現するには纏う覇気が強すぎる。

顔に刻まれた皺しわや老熟した目がなければ五十代と言っても通るかもしれない。

 

そんな彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音でハジメ達に話しかけた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

イシュタルの挨拶の後、ちょっとしたハプニングがあった。移動を促された時に光輝と永山、野村、遠藤、優花達と揉めた。

その最中に檜山達小悪党組が南陽高校の太田、河原、佐久間の三人に見つかり一触即発の場面になった。

 

そして…

 

「雫!香織!久しぶりだ。美月の言った通り南陽高校にいたのか!詳しい話は後でするとして、こんなところに来て不安だろうが俺がいる限り大丈夫だ!やはり二人を守るのは俺しかいない!」

と満面の笑みを浮かべて近づいてきて、表情が凍りつく。

 

香織がハジメの左側に立ち、手を繋いでいたからだ。そして雫はハジメの右側に立ち呆れたような視線を光輝に向けていた。

 

「君は何なんだ?人の幼なじみと勝手に手を繋ぐなんて…俺が許さないよ?香織、雫、早くそんな男から離れるんだ!こんな状況で君たちを守れる訳ないだろう?明らかに貧弱で…」

 

バシンッ!バシンッ!怒りに燃えた表情で香織と雫が光輝の頬に平手打ちをする。

 

「天之河君?私の恋人に何をいってるの?私はハジメ君のものだよ?何故天之河君の許可がいるの?」

「暴力を無意味に振るって破門された男が誰を守るっていうの?南雲君は私の大切な友人よ?私達の側から離れるのは光輝でしょ?」

 

雫はともかく香織が怒った姿を初めてみた光輝はたじろいた。

そこに永山、優花の二人が光輝に口撃をしかけた。

 

「人に詫びも入れられない暴力男が誰を守れるっていうんだ?二人を傷つけるの間違いだろ?」

「天之河の側にいるだけで胃に穴が空くわ…単に不幸になるだけじゃない」

 

何となく蚊帳の外に置かれている感がするハジメだ。

天之河の非難は子供レベルなので特に何とも思わなかったが香織と雫が怒り、永山と優花まで参戦してしまった為、流石に収拾がつかないと考え…

 

「天之河君だっけ?僕は南雲ハジメ。白崎香織さんの恋人だよ。そして八重樫雫さんの友人だよ。」

 

悠然と光輝に告げるハジメに香織、雫、永山、優花が驚いたようにハジメをみる。

 

香織はとても嬉しそうだ。

雫は若干不満そうだが…

そして優花は、「私は?」と呟いていたがハジメには聞こえてなかったようだ。

 

「な、…き、君は誰に断って香織を恋人だといいはる?幼なじみの俺が許さないぞ?」

 

「香織さん本人と香織さんの両親に了承してもらっているよ?。天之河君の許可はいらないよね?天之河君と一度でも同じクラスになった人はみんな君の許可を得ないと恋愛しちゃいけないの?」

 

あくまで冷静にハジメは光輝に話す。

光輝の顔がさらに引きつっていく。

 

パチパチパチパチ

拍手したのは北村蒼華だった。

 

「南雲ハジメ君、私は城陽高校の生徒会長の北村蒼華よ。天之河君の妄言に対して謝るわ。天之河君は現実と自分の妄想との区別ができない残念な男なの。気にしないで香織さんっだったかしら?と仲良くしてください。」

 

光輝の表情がさらに険悪になり蒼華に食ってかかろうとした時、城陽高校の女性徒、谷口鈴と中村恵理が光輝を宥めはじめた。

 

「天之河君、あんまり揉めないで…」

「恵理の言う通りだよー。こんな時まで周りにくってかからないでよー」

 

「今一番に優先しなければいけない事は、僕達の周りにいる人達に状況を説明してもらうべきだと思う。その後お互いの自己紹介でもしよう?」

 

ハジメの提案は全員納得した…いや、一人光輝だけは不満そうだが…

 

ゴタゴタがありはしたが司祭の先導にしたがい貴賓室に案内されたのだ。

 

全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。そう、生メイドである! 正真正銘、男子の夢を具現化したような美女・美少女メイドである!

 

ハジメの両隣には香織と雫が座った。

美しいメイドがハジメにも給仕したがハジメはたいして反応しなかった。

香織と雫の方から何となくだが膨大なプレッシャーを感じたからでは決してない。

 

全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

要約するとこうだ。

 

まず、この世界はトータスと呼ばれている。そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。

 

人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。

 

この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。

 

魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。

 

それが、魔人族による魔物の使役だ。

 

魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。

 

今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。使役できても、せいぜい一、二匹程度だという。その常識が覆されたのである。

 

これの意味するところは、人間族側の〝数〟というアドバンテージが崩れたということ。つまり、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。

 

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。

 

イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。

 

ハジメが、〝神の意思〟を疑いなく、それどころか嬉々として従うのであろうこの世界の歪さに言い知れぬ危機感を覚えていると、突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。

 

愛子先生だ。

先程の自分の教え子達と光輝のやりとりは、雫から事情を聞いていた為に抑えることができなかったが…

今回は…

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだ。「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる愛子先生を眺めていた生徒達だったが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

愛子先生が叫ぶ。

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

 

愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

パニックになる生徒達。

 

ただ、香織と雫はさほど取り乱してはいない様子だ。

 

「香織さん、大丈夫?」

ハジメが聞くと

「ハジメ君と一緒ならどこでも大丈夫だよ?」

と言う返事が返ってきてハジメは真っ赤になった。

 

「八重樫さん、大丈夫?」

ハジメは雫の様子も気になり聞くと

「南雲君がいるから平気よ?信頼してるわよ!」

 

香織と雫の返事はハジメにとっては嬉しすぎる返事なのだが今は他の事を考えなければならない。

ハジメは先ずは正確な現状把握をすべきだと考えてイシュタルの話を分析し始めた。

 

香織と雫はハジメが何か考え始めた事を察し、後でハジメが知りたい情報をすぐに提供できるように周囲の人達の話に集中する事にした。

 

誰もが狼狽える中、イシュタルは特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた。

 

未だパニックが収まらない中、光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。その視線に優越感を覚えた光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

雫と香織を見て、得意げに宣言する光輝だったが…二人ともハジメの方しか見ていなかった。

 

彼のカリスマは南陽高校の生徒たちには通じなかった。

蒼華と南陽高校の生徒たちは冷ややかに天之河を見ていた。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「お、俺たちも参戦するぜ!天之河を騙した事は詫びる。本当にすまない事をした。過去を償うチャンスを与えてくれ!」

 

龍太郎と檜山、近藤、中野、斎藤の5人が光輝を支持した。

 

「檜山、お前は過去に俺を騙した罪がある。だが反省して俺たちに力を貸す事でその罪を償うべきだ。これからは心を入れ替えて行動するんだ」

 

(へへへ、天之河はやっぱりチョロイ。こんな野郎に従うのはシャクだが天之河の下にいれば大抵許されるからな…)

檜山は自分達の身を守ろうとして天之河の下につく事を決めたが、予想外の事が起こってしまった。

 

天之河が周り中から孤立していたのだ。

 

天之河が許したら周りも皆んな同調するのを中学生時代散々見てきた檜山にとってこれは計算違いもいい所だった。

 

檜山と光輝のやりとりを聞いていた南陽高校の生徒全員と蒼華が光輝や檜山達に怒気をみなぎらせていた。

 

「おい、檜山…お前がまず真っ先に詫びるのは俺たちに対してじゃないのか?」

「私達の中学に突然襲撃かけてきた奴が何が世界平和よ?御調子者の大根役者が主人公を気取るな!」

「天之河君、貴方は永久に私達を帰らせないつもり?小さな街を正義の名の下に下らない小悪党の言葉を信じて、無実の人間を殴って回った貴方が世界の救済?疫病神の化身でしょ?」

永山、優花、蒼華が立て続けに光輝や檜山に怒声をあびせる。

 

イシュタルは困惑した表情を浮かべていた。

エヒト様の神託によると勇者とその仲間達をこの世界に呼び出す…と。

しかし勇者と目される青年に賛同するものは少ない。

 

ここは一旦ハインリヒ王国に連れて行き、適切な対応を取るべきだ。

必要なのは勇者だ。

天之河という扱いやすい勇者と頭の悪そうな手下5人を懐柔するにはまず美女をあてがい国賓待遇で迎えてやればエヒト様のいい駒になる…

他の者達は大した影響力もなさそうな者ばかり…一応エヒト様が召喚された者共ゆえ、客人待遇で迎えるとしよう…こちらはお飾りとして適当に歓待すれば良いだろう。

 

イシュタルはそう結論づけて一旦ハインリヒ王国に移動する事にした。

 

ただイシュタルは一つだけ見落としていた事がある。

目を閉じて思考中の青年の頭脳を…

 

 

 




ようやく本編に入りました。

二次作品どころか小説っぽいものを書く事自体初めての私ですが、書くに当たって色々気付いた事がありました。 
光輝を書くに当たって気付いたのは、普段の光輝の性格がほとんど分からない…誰にでも優しく、困っている人を見捨てない…
原作読んでて、一体どこにそんな美点があるんだ?と思いました。

性格が全く掴めなかった為に原作光輝の性格を切り取って、今まで読んだ小説から近い人物をピックアップして、補完してみました。

自分に都合良く解釈する、ハジメへのイジメを黙認する、自分が中心でなければ気がすまない、実行プランを一言も言わないで大言壮語する(トータスに住む人類救済)、自分に協力しないものに食ってかかる、戦争にクラスメイトを参加させておいて闘う覚悟がない、助けてくれたハジメに食ってかかる、
ロクなものがない…

そこで日常生活の光輝を補う為にとある人物を参考にしました。

銀河英○伝説の帝国貴族です。上記の光輝の行動にかなり合致してたので参考にして書いたら…やりすぎたかな〜と思いながらも意外にも違和感なかった…
彼らの行動は仲間内では称賛されている事も、外からみたら理不尽、横暴以外の何者でもなかった所も似てます。

トータスに渡った光輝の勢いが削がれているのは周りに追従者がいない為です。
理不尽な言動がまかり通ってたのは追従者ばかりだったから、と仮定して書いてみました。

今回の光輝も酷いかな?

光輝の成長は最後の方と決めていますから、これからも元気に暴走してもらいます。

工事完了!


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第六話 ありふれた晩餐会

趣味丸出しの二次作品を250人以上の方に読んで貰えるとは…
みなさん、ありがとうございます✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。

ふふふ…今回も大半がオリジナルになってしまった。

キャラクターファイル002

名前  南雲香織(旧姓 白崎香織)
性別  女
身長  163cm
体重  49kg
年齢  18歳
誕生日 7月7日
学校  南陽高校
解説  本作のメインヒロイン
トータスにてステータスプレートに記載された名前は何故か南雲香織。
ハジメの恋人にして婚約者。
趣味は神社仏閣巡りとガーデニング。
性格のベースは原作に沿っている数少ない人物。
ただし、不憫属性やストーカーや監禁だのといった要素は排除してある。
南陽高校では八重樫雫と共に二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍とてつもない美少女だ。
腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。
スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。
スタイル抜群でもある。
優しく穏やかで誠実な人柄の為、クラスの女子から悩み事の相談される事が多い。
多少の嫌な事も微笑みを絶やさず誠実に対応してくれる人物だが、天乃河光輝を苦手にしていてハジメと雫には会いたくない人だと本音を漏らしたりもしている。
軽い男性恐怖症だがハジメは別。
照れたり甘えたり拗ねたりヤキモチ焼いたりと生き生きとした表情を見せる。
毎日ハジメの為にお弁当を作ったりするなどハジメにとにかく尽くす女性。
香織の料理の腕はプロ級ではあるが母親の影響か、厳選された食材を丁寧に調理するタイプで時間と食費が半端ではないという欠点もある。
高校三年生の7月12日、ハジメの誕生日にプロポーズされる予定が異世界に飛ばされてしまう。



イシュタルは未だ混乱中の召喚者達に休憩してもらう事にした。

ある程度落ち着いたらハインリヒ王国に移動してもらうつもりだ。

 

ハジメはイシュタルの話から現在、自分達が置かれている状況をある程度理解した。 

尤もハジメは全てを理解したなどと自惚れるつもりはないが…

 

まず、エヒトと呼ばれる創世神が上位世界にいる僕達を強制的に召喚した。

関係性は不透明だが転移する瞬間、天乃河光輝を中心に魔法陣が展開されたように見えたので、転移のメインは天乃河光輝だろう…と

エヒトの肖像画と天乃河光輝が似ていたような気がする。

次に召喚された理由が魔人族の強大化に対抗する為、つまり戦わせようという事。

何故、イシュタルの言葉が理解できるのか…

現在の位置は世界最大の宗教団体の総本山にいる。

 

今の所命の危険はないだろう。

ハインリヒ王国で面倒を見ると言っているが…

魔人族と戦って貰うから面倒みるよ!という裏の声が聞こえる…

ここで要請を蹴ったら露頭に迷う羽目になりかねない。

エヒトが創世神なら僕達を呼ぶ必要ないのじゃないだろうか…?

異世界から30人近くも召喚できる力があれば…魔人族なんかどうとでもなるのでは?

又は強大な力のある神獣でも作れば万事解決では?

そもそも誰が魔人族を作ったんだろう?

創世神というくらいだから自分で作ったのでは?

では何の為に…?

戦わせる…為に…?

 

色んな疑問を頭に浮かべ整理するハジメに誰かが近寄ってくる気配を感じ目をあけると…

 

「ねぇ、南雲ハジメ君。今何を考えているのか分からないけど、その考えをここで披露するの?」

北村蒼華がハジメの近くに寄って来て話しかけて来たので、

 

「今の所は何も…逃げたくても行き場がないし…」

「そうね、逃げたとしてもこの人数を養うのも大変よね…」

雫も同意する。

 

「私も同感よ。今は大人しく従うつもり?」

「うん。できれば少しでも良い条件を交渉で引き出したい。」

 

蒼華が微笑みを浮かべて

「貴方とは話が合いそうね、なるべく話を合わせるようにするわ。だから交渉お願いできるかしら?」

「……う、う〜ん…自信はないけど何とかやってみるよ。」

「えっと…北村蒼華さんだよね?蒼華さんが交渉しないの?」

香織がちょっとムッとした表情で蒼華に聞く。

ハジメと距離が近いのが気に食わないらしい…

 

「多分、北村さんが交渉すると天乃河君が横槍をいれるから…だよね?」

「正解よ、南雲ハジメ君!ねぇ、今度一緒に色々と打ち合わせしない?もちろん、二人きりで…」

挑発的な目で香織と雫を見た蒼華がハジメに顔を近づけた瞬間、ハジメの周囲の温度が一気に下がった…ような気がした。

 

「ハジメ君は私の恋人だよ?二人きりはダメだよ?だから私もついていくからね?」

「私がいれば南雲君の負担を減らせると思うわ!だから私もついていくわよ?」

「な、長い話合いなら私もついていくわ!私は料理得意だから簡単なお菓子とかも出せるから私も参加するよ?」

香織と雫に加えて何故か優花も近くに来ていて、参加すると言い出した。

 

「へー南雲ハジメ君、君凄いね…二股どころか三股?だったらついでに私も加えて四股でもいいんじゃない?」

 

「「「絶対だめ!」」」

 

「僕の恋人は香織さんだってば!」

「はいはい、からかうのはこのぐらいにして、打ち合わせだけは後でしましょう?もちろん彼女達も加えてね?」

そう言って悪戯っぽくウィンクした後、蒼華は自分の席に戻っていった。

 

ハジメの北村蒼華の印象はズバリ、キャリアウーマンタイプの美少女だ。

身長は香織と同じくらいで…体型はスレンダータイプだ。

知的な目だが冷たい印象はなく、イタズラっぽい表情を浮かべているせいか愛嬌を感じさせる。

髪型は低めの位置で結んだお団子ヘアだ。 

 

ハジメは愛子先生の様子をチラッと見る。

やっぱりというか、混乱している。

社会科見学の引率として来ただけなのに、異世界に飛ばされて教え子18人、他校の生徒5人、若い…建設作業員4人の実質保護者になったようなものだ。

 

クラスメイト達を見渡すと3つのグループに分かれて話し合っていた。

永山、野村、吉野、辻、……遠藤というグループ

太田、河原、佐久間、清水、篠原というグループ

園部、宮崎、菅原、相川、玉井 というグループ、優花はハジメの所に来ていたが…

 

いずれも過去に天乃河の被害を受けた者達だ。

 

ハジメは香織と雫と優花にこれから話す内容を説明した。

 

「私はハジメ君の考えでいいと思うよ?私は天乃河君達の様子を観察してるね!」

「そうね…私達には少し考える時間も必要だわ。私は先生に伝えた後イシュタルを観察しているわ…」

「私も異論はないよ…永山君と太田君にコッソリと伝えておくよ…」

 

香織と雫と優花はハジメの行動を了承して、自分達の役割を確認しあった。

香織がハジメの太ももあたりをサワサワと触っている姿を見た雫と優花は、やや不機嫌かつジト目をしながらの了承であったが…

 

(さて…始めるか…)

ハジメは気合を入れて、話始めた。

「イシュタルさん、僕は南雲ハジメといいます。いくつか提案があるんですが聞いていただけませんか?」

 

ハジメの言葉にイシュタルは鷹揚に頷きながら答える。

「はい。何なりと御提案下さい。」

 

「まず、現在僕達は何が起きてるのかまだ良く飲み込めていません。そもそも、僕達は全員が仲間ではありません。そちらのテーブルにいる人達の事を僕達は良く知りません。先ずはこちらのグループとそちらの二つのグループ別々に話し合いをしたいと思います。なので落ち着ける部屋を3つ貸していただけないでしょうか?」

 

「それは構いませんが…ここは聖教教会の総本部ですので…宜しければこれから案内しようと思っていたハインリヒ王国で部屋を確保してもらいますので、そこで相談されてみてはいかがでしょうか?」

 

「はい、ありがとうございます。もう一つ提案したいのですが…私達は戦争や戦いなど体験した事がありません。いわば文官を養成する場所にいた人間が力を得たからと言って急激に戦えるようになるとはおもえません。そこで戦争に参加する人間を志願制にしていただけませんか?戦争に参加しない者も、例えば冒険者…のような身分を保障してもらい住む場所を提供していただけませんか?」

 

「志願制ですか…?ふむ…」

考えこむイシュタルに蒼華がハジメに続く。

 

「私達は確かに創世神エヒト様に召喚されたかもしれませんが、志願してきた訳ではありません。戦争に参加しない者は後方支援に振り分けます。」

 

イシュタルはマジマジとハジメと蒼華をみた。

ハジメ達の提案はイシュタルにとっても悪くない話だ。

勇者の仲間が勇者と反目していては体裁がわるい。

勇者に従う5人はすでに参戦の意思を示しているが他は誰も参戦しようとはしていない。

志願したものなら反目してても協力するだろう…

勇者以外は正直価値は無いも同然という本音もある。

 

「確かに…文官に前線で戦え!というのは厳しいですな。後方支援という形で協力していただけるのなら、こちらからお願いするべきでしょう。わかりました。そのように手配いたしましょう。それでは先ずハインリヒ王国に移動しましょう。」

 

「最後に私達の代表はこちらの畑山愛子先生でお願いします。私達の中で唯一の大人ですので…聖教教会や、王国からの要請は愛子先生を通してお願いします。」

 

「なるほど…あなた方の世界は年長者を尊重する世界のようですな。とても好ましい。それにあなた方は神の使徒。戦争に参加しなくても丁重におもてなしいたしますゆえ、ご安心を」

 

香織と雫と優花は必死で無表情を装っていたが…内心驚愕していた。

 

ハジメが狙っていたのはイシュタルに志願制を認めさせること。

戦争に参加しない者の生活の保障。

私達の代表を愛子先生にする事で貴族達などの横槍を防ぐ事。

 

ハジメが狙っていた条件はほぼ全て通ったことになる。

 

「な、何で私が??」

混乱している愛子先生はとりあえず置いておこう…

 

光輝が大人しいと思ったら蒼華、鈴、恵理、遠藤浩介が抑えこんでいた。

浩介…いつの間に…?

 

イシュタル曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にてすでに、受け入れ態勢が整っているらしい。

 

ハジメの要望は全て了承され、すでに準備が終わった旨が報告されてきた。

王国は聖教教会と密接な関係があるらしい。

 

「それではハイリヒ王国にいきましょう。勇者様、使徒の皆様、私の後についてきてください。」

イシュタルは先頭に立ち、聖教教会の正面門に向かう。

 

聖教教会は【神山】の頂上にあり、正面門は凱旋門もかくやという荘厳な門があり、門の外側には太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色にハジメ達は魅了されたのだった。

 

どこか自慢気なイシュタルに促されて先へ進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。大聖堂で見たのと同じ素材で出来た美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。

ハジメと香織と雫と優花は寄り添うように台座の中心側にたった。

光輝がハジメを睨みつけているがとりあえず無視する。

 

イシュタルが何やら唱えだした。

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――〝天道〟」

 

その途端、足元の魔法陣が燦然と輝き出した。そして、まるでロープウェイのように滑らかに台座が動き出し、地上へ向けて斜めに下っていく。

 

全員、初めて見る〝魔法〟にキャッキャッと騒ぎ出す。

雲海を抜けて地上が見えてきた時、香織がハジメに話しかけてきた。

 

「…ハジメ君、凄い景色だね…」

「…地球で言えば、エベレストの山頂から麓までロープウェイで降りる感覚かな…?」

「そうね…綺麗な景色だわ…」

「平和そうに見えるけど…本当に戦争が起きるのかしら…」

 

眼下には大きな町、否、国が見える。

山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下。

整然と並ぶ街並み。

この台座の向かう先は城の右後方にある立派な塔の最上階のようだ。

トータスで最も格式の高い国ハイリヒ王国の全貌が見えた時、生徒たちから歓声が上がったのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

王宮に着くと、ハジメ達は真っ直ぐに玉座の間に案内された。

 

教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。

道中、騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けて来る。

ハジメ達が何者か、ある程度知っているようだ。

 

美しい意匠の凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。

 

イシュタルは、それが当然というように悠々と扉を通る。

光輝等一部の者を除いて生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。

 

扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢ごうしゃな椅子――玉座があった。

 

玉座の前で覇気と威厳を纏った初老の男が立ち上がって・・・・・・待っている。

 

その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。

更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。

 

玉座の手前に着くと、イシュタルはハジメ達をそこに止め置き、自分は国王の隣へと進んだ。

 

そこで、おもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。どうやら、教皇の方が立場は上のようだ。これで、国を動かすのが〝神〟であることが確定だな、とハジメは内心で溜息を吐く。

茶番劇の可能性がでてきてしまった…

 

そこからはただの自己紹介だ。

国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。

金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。

 

後は、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。

ちなみに、途中、美少年の目が香織に吸い寄せられるようにチラチラ見ていたことから香織の魅力は異世界でも通用するようである。

 

その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。

見た目は地球の洋食とほとんど変わらなかった。

たまにピンク色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきたりしたが非常に美味だった。

 

ハジメと香織は仲睦まじく食事をしていると雫と優花と蒼華がやってきた。

「ご苦労様、南雲ハジメ君。おかげで少しは良い条件になったわね。」

「蒼華さん、ありがとう。おかげで要求が全部通ったよ。」

二人はお互い微笑んで…

「ハジメ君?」「南雲君?」「南雲?」

「!!!!!」

ハジメは香織と雫と優花に睨まれる事に…

その後ヤキモチ焼いた香織がハジメにべったりくっついて離れなくなってしまった…

 

王宮では、ハジメ達の衣食住が保障されている旨と訓練における教官達の紹介もなされた。

教官達は現役の騎士団や宮廷魔法師から選ばれたようだ。 

また戦争に参加しない者も後方支援隊として認める旨も伝えられた。

いずれ来る戦争に備え親睦を深めておけということだろう。

明日の予定も伝えられた。

午前中に騎士団長のメルドからステータスプレートの説明があり、その後各グループに分かれて相談し、夕方前にはメルドと個人面談する事になった。

 

晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。

香織と待ち合わせした後、香織はハジメの部屋に一緒に入った。

「ハジメ君…疲れているのにゴメンね…」

「ううん、僕も香織さんと一緒にいたかったから…」

「「………」」

しばらく無言になる二人だが…ベッドの前に立ち抱きしめながら…

「あ、あのね…今日は色んな事がありすぎて…朝ファーストキスしてから異世界に飛ばされるなんて…劇的すぎるよね?」

「…うん。今日は香織さんと家に帰ってから…プロポーズして、キスの続きをしたいなー…なんて…思ってたのに…」

「えへへ…私も…そうしたいかな…って思ってたよ?」

「香織さん…」

「…はい…」

「僕と…結婚してください。」

「……わ、私でよければ…喜んで…」

「…よくわからない世界に来ちゃったけど…必ず一緒に帰ろう」

「…はい…」

ハジメと香織は目を閉じて…

「……んっ…」

 

二人はベッドに入り…

 

ハジメと香織は結ばれたのであった。

 




あっ…ステータスプレートまで話が進まなかった…

さてハジメと香織が結ばれました。
ハジメハーレムの偉大なる一歩が踏み出された訳ですが…
蒼華さん、どうしよ…オリ主がでてきたらアンケートでも取るかな…

部屋割りですが
光輝、龍太郎、檜山、近藤、中野、斎藤、愛子は国賓用の上級部屋、
他は下級貴族が使う部屋に割り振られています。

今回は愛ちゃん先生を転移者のリーダーに据える事を主眼にしました。
それと志願制。
ハジメは戦争参加が避けられない以上せめてもの抵抗で志願制を導入してもらいました。
戦争に参加しない人も後ろめたく無いように手を打つ事に成功しました。
ハジメの真の狙いは時間を稼ぎつつ、正確な情報を集める事です。

さて次回はステータスプレート編です。
原作でハジメは無能ぶりを数値にされるという悲惨な目に遭いましたが果たしてこの作品では…?

それでは次回も頑張って更新します(*`・ω・)ゞ

工事完了!


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第七話 ありふれたステータスプレート

なんてこった…原作だとここまでたった3話ではないか…

キャラクターファイル003

名前  南雲雫(旧姓 八重樫雫)*現時点では八重樫雫
性別  女
身長  172cm
体重  56kg
年齢  18歳
誕生日 6月3日
学校  南陽高校
解説  本作のメインヒロインの一人
香織の親友。
実家は八重樫道場という実戦を重視した剣術道場。
ポニーテールが似合う美少女。
凛とした姿勢はまさに武家の娘。
剣士としての腕は剣道大会女性部門で小学校2年から高校2年まで無敗を誇る天才剣士。
天乃河光輝の幼なじみではあるがあまりに身勝手なご都合主義に愛想を尽かし、別の高校に進む。
文武両道だが可愛い物好きな一面を隠している。
自分より他人の事を優先してしまう傾向があり、それが雫自身を苦しめている。
香織の恋人である南雲ハジメと仲が良い。
南雲ハジメはそんな雫にさりげなく手を差し伸べたり、普通の女の子として扱ってくれるので、実はかなり無自覚のうちに惚れている。
トータスに来てから深まる二人の仲を見て、やきもちを焼いたりと普通の女の子らしい感情を見せている。
とある事件でハジメと香織の三人で落ちた場所で運命が激変する。
料理の腕は香織同様プロ級だが、こちらも母親の影響か素材を厳選し素材の味を徹底的に活かす精進料理であり、香織同様時間と材料費が膨大になる…。




柔らかな光がカーテンの隙間から差し込む

 

「……う…ん…」

 

香織は力強く包まれるような感覚を感じながらゆっくりと目を開ける。

目の前に……ハジメの寝顔があった。

「…ふぇっ…?」

間抜けな声をあげかけた香織は、少し惚けた後ようやく昨日の事を思い出したのであった。

(…え、えーと…昨日はハジメ君の初めてを…って何上手い事言ってるの?私?)

香織とハジメは初体験を済ませた後、ハジメに抱きつきイチャイチャしながら…寝たようだった。

 

香織は出血もほとんど無く…下腹部は若干違和感があるぐらいで…ちょっと痛みがある程度で済んだようだ。

 

当然ハジメも香織も裸だ。

 

香織はハジメの腕枕で寝ていたとやっと理解したのだ。

 

(…私、ハジメ君と…)

ちょっと前の香織なら真っ赤になってうろたえたのだろうが…

今は幸せそうな、優しい微笑みが自然と浮かぶ…

こうして抱きしめられているだけで香織の中にあった異世界への不安は消えてしまっていた…

 

(ハジメ君の寝顔…可愛い〜な〜♪)

目の前にあるハジメの寝顔をうっとりと見ていた香織は…

(…んーもう…新妻だし…目覚めのキスぐらいは大丈夫だよね?ね?)

「…んっ…」

香織はハジメの首に抱きついて自分の胸をハジメの胸に押しつけてキスをした…

 

「…?…?」

ハジメは唇に柔らかい感触、胸に二つのとても柔らかで弾力のある感触を感じて静かに目を開けると…

香織の顔が目の前に…どうやら抱き付かれてキスをしているようだ。

(な、何て愛おしい顔なんだろ…)

一瞬で意識が覚醒したハジメはたまらなくなり、香織を強く抱きしめ一旦唇を離した。

 

「おはよう〜♪あ・な・た♡」

「お、おはよう、香織…さん」

香織の笑顔が眩しい…香織は天使なのか?…などと考えているとハジメの一部が急激に元気になっていく。

 

ハジメ君は健全な男の子だから仕方ない。仕方ないったらないのだ。

 

「…あっ…もぅ〜ハジメ君ったら…」

真っ赤になった香織が抱きついてくる。

気づかれてしまったようだ…

 

「え〜これはですね…香織さんが素敵すぎるといいますか…何といいますか…」

「……うん…」

 

「「…………」」

(…香織さんと朝から…したいかも…)

 

ハジメは時計もどきの水時計をみた。

まだ朝ごはんまで2時間ある…

 

「…ハジメ君…ご飯まで2時間あるよ…?」

「…うっ…香織さん、あの…心読めるの…?」

「…ぷっ…アハハハ…図星かな?ハジメ君?」

「…図星…です…。」

香織の表情が優しく、うっとりとした表情にかわり…

「香織さん…愛してます…」

「ハジメ君…愛してる…」

 

…そして部屋には香織の艶かしい声とベッドの軋む音が響くのであった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ハジメと香織は朝食を食べた後雫と優花に捕まり、昨日起きた事を洗いざらい話す羽目になった。

雫と優花は今日の話し合いの内容をどうするか聞きに来ただけだったのだが、香織が幸せいっぱいの表情でハジメをジーッと見てた為にバレてしまったようだ…

 

「おめでとう〜香織、南雲君?」

雫は笑顔で祝福してくれているのだが…空間が軋むほどの圧迫感を感じるのはなぜだろうか…?

「へー香織が大人にねー、おめでとう〜香織、南雲…」

優花に若干違和感を感じるが祝福してくれた….がこちらもまた空間が軋むほどの圧迫感があるのは何故だろうか?

 

気の弱い者なら意識を失い、向き合う事すら許されないほどの圧迫感を前にハジメと香織は

「「あ、ありが…と…う」」

必死に返事を返す。

 

「私も異世界にきた不安でいっぱいだったのよ?そんな時にそんな事してたなんて…でも不思議ね、身体中から湧き上がる力で不安が消えたわ…」

迫力のある笑顔を浮かべた雫の発言の後、圧迫感は更に増し近くにあった花瓶が砕け散った。

「「…ひっ!!」」

 

「あれ?香織、南雲?まだ不安があるの〜♪私も雫と一緒で不安なんてかき消えたわよ…?」

こちらも迫力ある笑顔を浮かべた優花の発言の後、圧迫感は更に増し近くの石壁に突然亀裂が入った。

「「…ひぃ〜…」」

 

「あら?どうしたのかしら香織?南雲君?早く集合場所にいきましょ?」

「そうよ。遅れちゃうわよ?」

「「うふふふふ…」」

 

「「は、はい、ただいま参ります…」」

雫と優花の迫力にガクブルしながらついて行く二人であった…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「俺はメルド=ロギンス、ハインリヒ王国騎士団の騎士団長だ。今日から勇者様御一行の指南役に就任した。…これから戦友になるのだから堅っ苦しい口調は辞めて気軽に接して欲しい。周りにいる騎士達はお前たちのサポート役だがお互い気軽に接するように!」 

 

ハジメ達もその方が気楽で良かった。遥年上の人達から慇懃な態度を取られると居心地が悪くてしょうがないのだ。

 

メルドは龍太郎と同じくらいの身長だ。

歴戦の勇士を思わせる風貌に日焼けした顔に豪快な性格なようで、その場にいるだけで安心感を感じさせる。

 

「私は畑山愛子です。この子達の保護者です。」

「…え?…ほ、保護者ですな!教会の方から話は聞いています。貴女が勇者様御一行のリーダーとして、我々は周知してますので何かありましたら遠慮なく聞いてください。」

「…私はこれでも25歳ですよ?騎士団長さん自ら時間をとられて大丈夫なのですか?」

メルドが一瞬子供扱いしようとしたのでちゃんと釘をさす愛子先生。

 

「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」

と豪快に笑っている。もっとも、副長さんは大丈夫ではないかもしれないが……

 

メルドは周囲の騎士達に例の物を配るようにと指示した。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?お前達からの要望でそれぞれのグループで話し合いをしたいという事は聞いていたが、この世界にきた以上最初にこれを渡して説明してからの方がいいと判断した。」

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

 

 アーティファクトという聞き慣れない単語に光輝が質問をする。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

 なるほど、と頷き生徒達は、顔を顰ながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。ハジメと香織と雫と優花も同じように血を擦りつけ表を見る。

 

 すると……

 

===============================

南雲ハジメ 18歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・減速門・最適化・言語理解・「 」の加護

===============================

 

===============================

南雲香織 18歳 女 レベル:1

天職:治癒師

筋力: 5

体力: 5

耐性: 5

敏捷:20

魔力:80

魔耐:80

技能:回復魔法・光魔法適性・高速魔力回復・言語理解・「 」の加護

===============================

 

===============================

八重樫雫 18歳 女 レベル:1

天職:剣士

筋力:15

体力:15

耐性: 5

敏捷:90

魔力:50

魔耐:50

技能:剣術・縮地・先読・気配感知・隠業・言語理解・「 」の加護

===============================

 

===============================

園部優花 18歳 女 レベル:1

天職:投擲師

筋力:40

体力:40

耐性:30

敏捷:30

魔力:50

魔耐:50

技能:投擲・短剣術・暗視・先読・気配感知・言語理解・「 」の加護

===============================

 

まるでゲームのキャラにでもなったようだと感じながらハジメと香織と雫と優花はお互いのプレートを見せあった。

 

「「…南雲香織…?」」「…………」「………」

ハジメと香織はお互いの顔を見合わせて呟いた。

香織が妙に嬉しそうな顔している。

雫と優花は不機嫌そうだ…。

 

メルド団長からステータスの説明がなされた。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

 どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。

 

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

ハジメは自分と香織のステータスを見る。確かに天職欄に〝錬成師〟〝治癒師〟とある。どうやらハジメは〝錬成〟香織は〝回復魔法〟というものに才能があるようだ。

 

「何か僕、一般人ぽくない…?」

「私は僧侶って言うのかな?」

「私と香織は耐久が低すぎね…」

「何で私に短剣術あるの…?包丁とかなら使えるけど…」

 

メルド団長の次の言葉を聞いたハジメは自分の感想が正しかった事を知る。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

この世界のレベル1の平均は10らしい。ハジメのステータスは見事に10が綺麗に並んでいる。 

 

落ち込むハジメに香織が励ます。

「…ハジメ君は、バランスが取れてるんだよ!」

「香織…ポジティブすぎよ…」

香織の慰めに雫が突っ込む。

 

メルド団長の呼び掛けに、早速、光輝がステータスの報告をしに前へ出た。そのステータスは……

 

============================

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

==============================

 

まさにチートの権化だった。

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

「いや~、あはは……」

 

団長の称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみに団長のレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。しかし、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。成長率次第では、あっさり追い抜きそうだ。

 

ちなみに、技能=才能である以上、先天的なものなので増えたりはしないらしい。

唯一の例外が〝派生技能〟だ。

 

これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる〝壁を越える〟に至った者が取得する後天的技能である。

簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。

 

光輝だけが特別かと思ったら他の連中も、光輝に及ばないながら十分チートだった。

それにどいつもこいつも戦闘系天職ばかりなのだが……

 

ハジメは自分のステータス欄にある〝錬成師〟を見つめる。響きから言ってどう頭を捻っても戦闘職のイメージが湧かない。

技能も4つだけ。 

しかも一つは異世界人にデフォの技能〝言語理解〟つまり実質3つ。

そのうちの減速門と最適化は意味不明なので結局は1つしかない。

 

ハジメも何だかんだ言っても男の子。

香織や雫、優花達をかっこよく守りたいと密かに考えていたのだが、現実はこの中でダントツの最下位らしい…むしろ守られる側のようだ…

 

だんだん乾いた笑みが零れ始めるハジメ。 

報告の順番が回ってきたのでメルド団長にプレートを見せた。

 

今まで、規格外のステータスばかり確認してきたメルド団長の表情はホクホクしている。 

多くの強力無比な戦友の誕生に喜んでいるのだろう。

 

その団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。

そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

ガックリと落ち込むハジメ。

 

歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。

 

愛子先生はハジメに近づき、向き直ると励すように肩を叩いた。

 

「南雲君、気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君は一人じゃありませんからね!」

 

そう言って「ほらっ」と愛子先生はハジメに自分のステータスを見せた。

 

=============================

畑山愛子 25歳 女 レベル:1

天職:作農師

筋力:5

体力:10

耐性:10

敏捷:5

魔力:100

魔耐:10

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

===============================

 

ハジメは死んだ魚のような目をして遠くを見だした。

 

「あれっ、どうしたんですか! 南雲君!」とハジメをガクガク揺さぶる愛子先生。

 

確かに全体のステータスは低いし、非戦系天職だろうことは一目でわかるのだが……魔力だけなら勇者に匹敵しており、技能数なら超えている。

糧食問題は戦争には付きものだ。

ハジメのようにいくらでも優秀な代わりのいる職業ではないのだ。

つまり、愛子先生も十二分にチートだった。

 

ちょっと、一人じゃないかもと期待したハジメのダメージは深い。

 

「あらあら、愛ちゃんったら止め刺しちゃったわね……」

「は、ハジメ君! 大丈夫!?」

「お、おい?ハジメ、しっかりしろ!カッコいい武器とか防具つくれるんだからロマンあるじゃん」

「そ、そうだよ、鉄砲部隊でも作ろうぜ!」

反応がなくなったハジメを見て雫が苦笑いし、香織が心配そうに言う。

永山達や、太田達も近づいてきてハジメを励ましていたがトドメを刺した愛子先生にジト目をする。

愛子先生は「あれぇ~?」と首を傾げている。

相変わらず一生懸命だが空回る愛子先生にほっこりするクラスメイト達。

 

「それじゃあ各グループに分かれて話し合ってくれ!15時ぐらいから一人づつ面談をしたい」

 

メルド団長の言葉とともに愛子先生率いる南陽高校グループと光輝率いる城陽高校グループ、檜山率いる社会人グループに分かれて話し合いを開始した。

 

 

 

 




え、えーと…分類R15で…大丈夫だよね?よね?みたいな冒頭でした。

レベル1のデータがわからなかったのでハジメと光輝と愛子先生以外は適当です。

香織さんの姓が南雲になってたのは狙ってました。
普通は教会に結婚の申請をして夫婦になるのですが(独自設定)ステータスプレート作る前にお互い夫婦だと認識してたので白崎姓から南雲姓にかわりました。
後二人ほど南雲姓に変わるでしょう。


さて、ここで私がこの二次作品を書くにあたって色々な構想を練っていましたが、その中で捨て難かった話を今回紹介したいと思います。

奈落に落ちるのが光輝と龍太郎というバージョン。

光輝を失った地上組はハインリヒ王国から追い出されてしまいます。

ハジメの錬成と香織の回復魔法で生活費を稼ぎつつ人脈と名声を高めていきます。

ハジメと香織が結婚し二人をリーダーにした自由民主騎士団を設立し魔人族との戦いに身を投じていく…

一方奈落の底では二人の少年の甘くて切ない、そしておぞましい薔薇の世界が…

なんて話(=゚ω゚)ノ
書くのが違う意味で辛くなりそうなので却下しましたが、いずれパロディとして書くかもしれません。

土日だった為連続で投稿できましたが、次話はまた遅めになると思います。

工事完了!



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第八話 ありふれた会議

トータスに来たのにほぼオリジナル…今作品、ハジメは仲間に恵まれています。

キャラクターファイル004

名前  南雲優花(旧姓 園部優花)*現時点では園部優花
性別  女
身長  168cm
体重  54kg
年齢  18歳
誕生日 5月25日
学校  南陽高校
解説  ハジメのメインヒロインの一人
両親は洋食屋ウィステリアを経営しており優花は調理やウェイトレス等手伝いをしている親孝行な少女。
二枚の一万円札(香織、雫)に挟まれた五千円札呼ばわりされるがスレンダーな美少女で二人がいなかったら間違いなく南陽高校一の美少女だ。
目つきが鋭い印象を与える為不良娘みたいに思われがちだが家の手伝いをする普通の女の子である。
趣味はダーツ。
ハジメ達とは違う中学だったのだが高校の合格発表の日に一緒にお祝いしてから仲良くなった。
香織と雫とは親友の間柄に。
料理の腕前も確かでその場にある材料で美味しく調理出来る。
香織と雫も料理はプロ級だが時間と食費が桁違いという欠点もあるため優花がハジメハーレムの料理人となる。




南陽高校控室

 

「皆さん、これからミーティングを開きます。まずは南雲君から現在の状況を説明してください。」

愛子先生がハジメに現在の状況を説明してもらうつもりのようだ。

 

「は、はい。まず昨日の社会科見学の最中に突然眩い光に包まれ、トータスという世界に転移?してきました。僕達を転移させたのはこの世界の創世神エヒトという神様らしいです。ここまでで何か補足とか疑問がありますか?」

 

全員首を横に振る。

 

ハジメは一呼吸し話の続きをする。

 

「僕達を召喚した理由が力を増した魔人族という勢力に対抗する為…はっきり言えば魔人族を滅ぼしてくれ、という所だと思います。」

 

一同不安そうな顔をする。

 

「この世界は…まだはっきりしていないけど、聖教教会が絶大な権力を持っているようで、人族の国や町で暮らすには聖教教会の影響力は無視できないと思います。現に今いるハイリヒ王国はかなりの影響を受けてる筈です。」

 

ハジメは香織から受け取った飲み物を飲み話を再開する。

 

「僕達はいくつか選択肢を持っています。一番目に聖教教会の要請通り魔人族との戦争に参加する。二番目に後方支援隊に入り一番目の人達のサポートをする。三番目は逃げ出して日本に帰る手段を探す…」

 

「ハジメ、三番目は論外なんだろ?聖教教会がある限り…」

永山重吾がハジメに質問する。

 

ハジメは頷く。

「実際には一番帰れる確率が高いんだけど…あくまで僕の提案なんだけど、僕達が最優先しなければならないのは日本に帰る手段なんだ。」

 

「南雲っち?魔人族を倒すことじゃないの?」

宮崎奈々が聞くと

 

「魔人族を倒し、世界を平和にしたらエヒト神が日本に戻してくれるかも知れない…これはイシュタルさんの推測であって誰も日本に戻す何て言ってないんだ…」

 

「「「…あっ……」」」

全員ハッとしてハジメの話を理解した。

 

香織と雫と優花と愛子先生はミーティングの前に既にハジメから聞いていたので驚きはしなかったが、やはりハジメの能力は高い事を再認識していた。

 

ハジメは清水と篠原の三人でオタク知識を出し合い帰還方法を考えてみたが解決策は出なかった…

 

「ハジメ、大体理解したけど…これからどうしたらいい?」

太田玲二と相川昇が聞くと

 

「魔人族を倒すのにどれぐらい時間がかかるか全くわからないし、倒したとして、帰してくれなかったらそこから帰還手段を探す…となると…一体いつ帰れるのか見当もつかない…理想は戦争前に帰る手段を確保する事。戦争が始まったら調査も何も出来ないと思うから…」

 

ハジメは難しい顔をして続ける。

 

「まずは訓練に参加し力をつける。後方支援隊と戦闘組に分かれ後方支援隊が帰還手段を探す…そんなとこかな…?」

 

「「「「……なるほど……」」」」

永山、野村、太田、清水が同意した。

 

愛子は未だに困惑していた。今この場にいる事自体が信じられないのだ。

しかし愛子は生徒を守るためには何でもするつもりだ…

 

社会科教諭でクラスの担任ではない愛子ではあるがハジメの事は教員の中でも話題になっていたのだ。

理数系が尋常じゃないレベルだとか、クラスメイトの白崎香織とバカップルだとか…数ある話題の中で気になっていたのがイザという時、誰にも真似できない能力を発揮する、という話だ。

今もクラスの頭脳として活躍している姿を見ると、その話も頷ける。

 

「という事は俺は戦闘組だな。能力的に見ても適任だろう。」

永山が言う。

 

「重吾と俺と浩介と吉野と辻でバランスが良いパーティーになると思う。」

野村が言うと遠藤を除くメンバー全員が同意する。

 

「俺も戦闘組だな。隆次と健一と幸利とカズトでこっちもバランスが取れる。」

太田が言うとこちらも言われたメンバー全員が同意する。

 

「私達も戦闘組ね。奈々と妙子と昇と淳史…5人パーティーが3つね!」

優花達も同意する。

 

「ハジメと白崎と八重樫は間違っても前線にでるなよ?かすっただけであの世行きだぞ?」

太田と永山が心配気味に言う。

 

「うん。僕、完全に一般人だからね…先生と僕と香織さんと八重樫さんは後方支援隊だね…八重樫さんは先生の副官みたいな役割がベストかも…」

「そうね…私と香織の耐久5だから一般人以下だし…先生の副官になるわ!」

「うん…私はハジメ君と一緒に後ろで待機して回復に専念するよ!」

 

「俺たちの武器防具整備してくれるだけでもありがたいし、後ろに回復役いるなら安心だ。腕あげたらハジメの武器で戦うから早く一流の鍛冶屋になれよ?」

若干プレッシャーをかけながらハジメをはげます永山。

 

永山は坂上龍太郎と同じぐらいの身長で柔道部に所属している。

龍太郎と違い思慮深く仲間思いの為このクラスの実質のリーダーだ。

 

「一度みんなのステータスプレートを確認しあった方がいいかもな…」

清水幸利の言葉にみんな同意する。

 

「…え?」

ハジメ的になるべくスルーしてほしい話題が出てしまった…

 

「ハジメ?どうした?」

野村健太郎が聞く

 

「…い、いや、なんでもない。」

ハジメはどうやって逃げるか真剣に考えはじめていたら、全員ステータスプレートを見せ合い始めてしまった。

 

「…白崎さん、貴女いつから南雲になったの…?」

香織と同じ治癒師の辻彩子の言葉に全員が香織のステータスプレートを覗きこみ…

 

「……ハジメ、たっぷり話があるのだが身に覚えはいっぱいあるよな?」

永山に捕まってしまった。

ステータス的にも柔道技的にもハジメに逃れる術はない…

 

「…………」「…………」

「浩介が戻ってくるまで、第一回、南雲ハジメと南雲香織の事情聴取を行う!異議あるものは?」

「「「ありませーーん」」」

尋問役は雫がおこない、一切の容赦がなかった…

こうしてハジメと香織は皆の前で自供をするのであった…

 

南陽高校のミーティングはとても賑やかであった。

 

しかし…

 

このミーティングに遠藤は参加していない。

 

彼はハジメの提案を受けて永山、太田、園部の了解を得て小悪党組の偵察に行っていたのだった…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

城陽高校控室

 

「それじゃあ、始めましょうか?」

蒼華の号令で城陽高校組のミーティングが開始された。

 

「ミーティングって今更何をミーティングするんだ?」

険しい表情で聞いたのは天乃河光輝だ。

 

「これからどうするか…でしょ?」

「俺は魔人族を倒してこの世界を救う!みんなの力を合わせれば出来る事なのに何故蒼華は俺に協力しない?」

「みんなの力を合わせても出来ないからよ。天乃河君がいるだけで世界は不穏になるわ…小学生の勇者が出来る事は街の周りの怪物退治ぐらいよ。それに人の名前を呼ぶのはいい加減やめなさい。天乃河君と親しくするつもりも無いのよ?」

 

「なっ!?」

天乃河がムキになって反論しようとした時、谷口鈴が蒼華に話を振った。

「ねえ、蒼ちゃん、何で南陽高校の…ナグモ君だっけ?志願制にしたの?」 

 

「鈴、単純な話よ。戦争に全員強制参加させる気?私達、志願してこの世界を救いに来た訳じゃないわよ?誰かさんみたいな人達は、参加しない人を確実に見下すだろうから、後方支援隊に組み込めば誹謗中傷から守れるって訳」

 

「ほぇ〜考えてるんだね〜」

「…うん、あの短時間で良く考えついたと思う。」

「そうね!南陽高校に話しのわかる人がいて正直助かったわ。尤もステータスが低すぎて、まさか自分が後方支援隊に組み込まれるとは思ってなかったんでしょうが…」

蒼華はハジメが自分のステータスプレート見た時の反応を思い出し、苦笑いを浮かべながら恵理の質問に答える。

 

「大体あの南雲とかいう奴は香織と雫を侍らせておいて自分は安全な場所に引っ込むつもりじゃないのか?香織と雫は騙されてるんだ!香織と雫は、俺の側にいるべきなんだ!」

「その香織さんと雫さんを侍らせた挙句前線に突っ込もうとしてる天乃河君より10000倍マシよ。本当に二人を守りたいなら城にいてくれた方が遥かに安全でしょ?それに南雲君の恋人は香織さんなんだから諦めなさい。醜い嫉妬はウンザリするからやめて頂戴。」

 

「なあ、そんな事より北村と谷口と中村は参戦するのか?」

光輝と蒼華の言い争いにウンザリした様子の龍太郎が三人に聞いた。

 

「……私は参加するわよ?目的もあるし」

蒼華の天職は聖騎士。

本音は後方支援隊に入りたいが光輝に次ぐステータスでは参加しない訳にはいかない…

(南雲君が勇者だったら私は彼の補佐のみに徹して…香織さんは強力すぎるので愛人枠でも狙ったのに…)

蒼華は天乃河より南雲ハジメの方を信用していた。

何より蒼華の好みが知的な男性。

ハジメがイシュタルと交渉して満足する条件を引き出した手腕に惚れ込んでいた。

 

「うーん…鈴も参加…かな?」

「…うーん…僕も参加…かな?」

谷口鈴と中村恵理の二人は乗り気でない様子だか参加を表明する。

 

女子高生が異世界にいきなり飛ばされて、喜んで戦争に参加する訳がないから当たり前の反応だ。

 

だが鈴は結界師として最高レベルの力を誇る為、参加しない訳にはいかない事情がある。

恵理も降霊術師として最高レベルの力を持っている為、鈴と同じく参加しない訳にはいかない。

 

光輝は積極性にかける3人に少し苛立ったが、何だかんだ言って参加する為キラキラした笑顔で三人に

「三人とも心配するな!魔人族との戦いに不安だろうが俺がいる。俺が三人を守るから安心してくれ!」

白い歯を見せて、無駄にキラキラした笑顔で三人に宣言する。

光輝の中身を知らなければ惚れてしまう笑顔だが、蒼華、鈴、恵理は不安でいっぱいだった。

 

人族の事も魔人族の事も何にも知らないのに自信満々な光輝…

(南雲君、犠牲者が出る前に早く日本に帰る手段を見つけてね…)

祈るような気持ちでハジメを思う蒼華であった…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

小悪党控室

 

「檜山…どうするよ……」

小悪党組の中で比較的まともな近藤が尋ねた。

 

「天乃河にくっついてりゃ取り敢えず大丈夫だろ?そんな事よりチャンスだぜ?白崎と八重樫頂こうぜ?ここなら八重樫の護衛がない。」

「あの二人の処女は誰が貰う?ジャンケンで一番が白崎、二番が八重樫、三番が園部、4番が北村って奴にしねえか?」

檜山の発言の後を受けて近藤が答える。

 

本当に小悪党組はただのクズだ。

 

「南雲って奴はフクロにしねぇか?一番弱そうだし」

中野の発言に

「賛成ー。後は清水ってのと篠原って奴だな!パシリは必要だし。」

斎藤が答える。

 

「園部は牝犬にしようぜ?アイツが警察にチクリやがったから、俺らこんな目にあったんだし。」

檜山の発言は酷い逆恨みである。

 

「「「賛成ー」」」

近藤、斎藤、中野が応える。

 

彼等の中では世界の平和も関係ない。

常に自分さえ良ければの精神なのである。

 

彼等は常に自分達が攻撃できると思っている。

そして彼等は知らなかった。

自分達が恨まれ復讐される側だという事を…

 

そして彼等の話を聞いている者がいた事を…

(……ハジメ。お前の読み通りだ…!)

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「部屋が3つに分かれているから小悪党組は本音で語る。こっちには遠藤君がいるから、今小悪党組の様子を探れば簡単に本心がわかるよ」

ハジメの発言に永山、太田、園部が成る程と同意した。

「天乃河の様子は見なくていいのか?」

永山はもう一つの懸念材料の勇者の動向も気にしたが…

「多分、北村さんが教えてくれるから大丈夫。」

 

ミーティング前にハジメが言った言葉だが、皆んな絶句していた。

小悪党組は悪巧みしてるつもりだが全て筒抜け状態になっていた。

 

ハジメは香織と八重樫さんと園部さんが襲われると聞いてすぐに手を打つ事にした。本音は暗殺ぐらいしたいが勇者の従者を暗殺する訳には流石にいかない…

 

「愛子先生、メルド団長に相談してもらえませんか?これから戦争が始まるのに、いつ後ろから襲われるか分からないような人達と一緒にいる事は出来ません!と。」

 

「南雲さんや、八重樫さん、園部さんを守るためですから…でもメルド団長さんも手は打てないのではないですか?」

 

「訓練場所を変えてもらう、宿泊施設を変えてもらう、この二点。こちらの対応は一人で行動しない。特に香織さんと八重樫さんと園部さんは単独行動は控えて…」

「……わかりました。やってみましょう。みなさん、単独行動は控えて下さい!」

「「「「「「はーい」」」」」」

全員元気良く返事をして休憩に入った。

 

「僕は北村さんに警告をしておきます。香織さん、八重樫さん、一緒に来てくれないかな?」

「はい!ハジメ君!」 

「ええ、いいわよ!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「……成る程…小悪党組ね…」

北村蒼華から殺気が立ち込める。

 

「とにかく気をつけて。小悪党組は、まともな才能はないけどセコイ事にかけては一流だからタチ悪いんだ。」

ハジメの口調に若干トゲが混じっているのを蒼華は気づいた。やはり恋人を襲おうとしてる奴に怒りを覚えているようだ…

 

「光輝の中学時代の暴力事件の大半が小悪党組の仕業なの。アイツらだけなら問題ないんだけどね…光輝は自分に縋ってくる人間には甘いから檜山達、小悪党組の言う事を無条件で信じてしまうのよ」

雫の言葉に蒼華は

 

「天之河はただのかまってちゃんと言うのよ。わかったわ、十分注意する。…それにしても市内の中学校で乱発していた暴力事件の主犯が天乃河と小悪党組か…違和感全くないわね…」

 

「北村さん、こちらのグループで決まった事を一応教えておくわ。光輝と小悪党組に対する対応も含まれているから一緒に話すわ。」

雫が説明をかってでる。

 

「成る程ね…5人1組のパーティー3組が参戦。南雲君と白崎さんと八重樫さんは後方支援隊ね。私から見ても妥当だわ。南雲君と白崎さんと八重樫さんの三人で帰還の手段を探すのね?」

 

「うん。見つかるかどうかは分からないけど手掛かりぐらいは探りたいなー」

ハジメは困ったように話した。

 

「犠牲者が出る前に帰りたいものね…そうだ!こちらのチームで決まった事を教えとくわ。」

 

「何となくだけど私と香織を光輝のパーティーに加えようとしてるのかしら?俺が守る!とか言って。」

 

「ぷっ…ほぼ正解よ!私と鈴と恵理と貴女達は守るそうよ?」

蒼華は吹き出しながらミーティングの様子を教えた。

 

「魔人族を倒す、という事だけなら力勝負なんだろうけど…それすら正確な情報何にもないのに…」

ハジメの溜息は深刻だ。

 

4人はいい知れぬ不安を感じながらもメルドとの個人面談に向かう。

 

夕飯後、それぞれの役割分担が決まる。

 

次話に続く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第七話の冒頭てハジメと香織の朝イチャ書いたら18R調の作品を希望される方がチラホラ…

な、ものですから時間があったら「外伝 夜の王城に実る愛」
を書いてみます。
ハジメと香織の初体験を描いた作品になる予定。
普通の二次作すら初めてなのに18R何て書けるんだろうか?と言う疑問は置いといて、チャレンジしてみます。
上手く出来たら、ハジメハーレムのメンバーが増える度に作りたいと思います。
出来そうになったらまた通知しますのでしばらくお待ちください。(=゚ω゚)ノ

工事完了!


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第九話 ありふれた編成

ハジメは高校三年生の18歳。こんな感じに変更いたしました。

何故か?それはサイドストーリーの為なのだ。(_・ω・)_バァ〜ン

名前  永山重吾
性別  男
身長  195cm
体重  92kg
年齢  17歳
誕生日 9月10日
学校  南陽高校
解説  ハジメのクラスメイト
柔道部に所属している。
体格は坂上龍太郎と同じだが思慮深く仲間思いの為、クラスのリーダー格だ。
吉野真央とは恋人関係。
過去に天之河に無実な仲間を殴られたので恨みに思っている。
野村、遠藤、吉野、辻は小学校からの同級生で仲がよい。

名前  吉野真央
性別  女
身長  162cm
体重  55kg
年齢  17歳
誕生日 8月30日
学校  南陽高校
解説  ハジメのクラスメイト
永山重吾の恋人。筋肉フェチで永山に惚れてるのか、永山の筋肉に惚れてるのかイマイチ微妙なところ。
お笑いが好きで微妙な冗談が好み。
永山、野村、遠藤、辻とは小学校時代からの友人。



豪華な夕ご飯の後、メルドは全員を集めて発表した。

 

まずは前線で戦うメンバーの発表だ。

 

「天乃河、坂上、北村、谷口、中村の5人は勇者パーティー…メイン戦力だ!」

「…はい!」

天乃河は自分がメイン戦力だと言われて自尊心が満たされていた。

….が、香織と雫が自分につけられていない事に納得いかないようだ。

 

「次に永山、野村、遠藤、吉野、辻の5人は第二戦力として」

「はい!」

永山が静かに了解する。

 

「次に太田、河原、佐久間、清水、篠原の5人は第三戦力として」

「ウィッス」

太田も気合入れて了解する。

 

「次に園部、宮崎、菅原、相川、玉井の5人は第四戦力として」

「…わかりました。」

優花は少し不満そうに言った。

本音はハジメと組みたかったのは内緒にしている。

 

「次に檜山、近藤、中野、斎藤の4人は第五戦力として」

「へーい」

不満顔で檜山が言う。

自分達がこの中で一番低い順位というのが気に入らないようだ。

 

「最後に君達のリーダー、畑山愛子率いる後方支援隊だ。南雲ハジメ、南雲香織、八重樫雫がその補佐を行って欲しい。」

「わかりました!」

 

「?メルドさん?は?南雲香織?…どういう事だ?白崎香織のはずだろ?何でそんなステータス最低の無能な奴の姓に?南雲ハジメ!貴様香織に何した?」

光輝がハジメに険悪な視線を向けて今にも殴りかかろうと身構えた。

 

「…えーと、昨日の夜に香織さんにプロポーズして了解もらったから、正式に僕の奥さんだよ?香織さんの両親と僕の両親公認だよ?正々堂々と告白した僕に失礼すぎないかい?それと天乃河光輝君。僕の奥さんを呼び捨てにするのは辞めて貰えないかい?」

 

香織と雫、南陽高校の仲間達が光輝に対して敵意剥き出しの表情になった為、ハジメはハッキリと白黒つける事にした。が…事態はさらに悪化する。

 

「ハジメ君♡」

香織の顔が一瞬で幸せいっぱいの表情を浮かべ、ハジメに抱きつきキスをする。

 

南陽高校の仲間達は生暖かい目で二人を祝福する…

若干二名ほど物凄い威圧感を放っているが…

 

光輝の顔が醜く歪む…

光輝は今までに経験した事のない感情が渦巻いていた。

何故香織と雫と蒼華は自分に惚れないのかサッパリわからないのだ。

光輝は何もしなくても女の子から常に誘われてきた。

自分がちょっとでも声をかけてあげたらすぐに惚れる筈なのに…

しかも自分より遥かに劣るはずの南雲ハジメとかいう無能と自分のパートナーである筈の香織と恋人どころか結婚?

ありえない…

………………

………

「そうか!香織は…南雲ハジメに洗脳されているんだ!

小賢しい話ばかりしてるから怪しいと思ったんだ。 

…すると南陽高校の連中が俺に否定的なのも説明がつく。

全ては南雲ハジメが裏で手を引いていたのか!

俺が生徒会長に落選したのも南雲ハジメのせいか?

卑劣で恐ろしい奴だ!

やはり今南雲ハジメを倒して香織を救うのは俺しかいない。

いや、まてよ、南雲ハジメは香織を洗脳して自分の盾にしようとしてるのか…

そう言えば香織と奴が一緒にいると雫の機嫌が悪いように見えた…

なるほど、雫は香織が洗脳されている事が分かっていて奴を許せないんだ!

…待っていろ、香織、雫!俺がお前たちを救う!」

 

一気にまくしたて光輝をその場に居合わせた人全員が唖然として聞いていた…

檜山達ですら…ドン引きしていた…香織はハジメの右腕にしがみついて不安そうに震えている…雫もハジメの左腕にしがみつき光輝を睨む。

それを見た光輝の表情はさらにゆがみ、今にもハジメに襲いかかろうとする。

 

一言で言えば香織と雫をとられて嫉妬した挙句、今まで自分が持っていた不満をハジメに全て押しつけているだけなのだが…

そもそも光輝は香織と雫に告白した事も無ければデートした事もない。

遊んだ事はあるが、雫と香織が遊んでいた所に割り込んだだけ。

何故自分の彼女扱いしているのかハタから見たら意味不明だが…

 

蒼華は光輝を心療内科に叩き込んでおけば良かった…と真面目に考えていた。

 

一度ハジメが悪いと決めたら全てハジメのせいにする。

それが天乃河光輝の悪癖である。

香織が近寄りたくないと言うのも無理はない。

 

メルドは光輝の悪癖を見て唖然としてしまった。

個人面談した時に…確かナンヨウコウコウメンバー全員、光輝、檜山達と組みたくないと言っていた理由が分かった気がした。

(……パーティーを畑山愛子の言う通りに編成して良かった…)

 

そもそも、南雲香織と八重樫雫は耐久力が無い上に重武装できない職業だ。

光輝は2人を自分のパーティーに加えて欲しいと言っていたが…

勇者パーティーは最大の敵とぶつかる確率が非常に高い。

掠っただけで死んでしまうぐらいだ。

北村蒼華、谷口鈴、中村恵理は耐久が70を超えているので問題ないから加えたのだ。

 

しかしこの光輝の暴走を許したら仲間内で殺し合いが始まりかねない。

メルドは人は男女間のモツレでいくらでも人殺しになれる事を知っていた。

メルドの本来の役割は勇者の育成だ。

彼女達を同じ空間に居させるのは光輝にとってマイナスにしかならないと判断した。

 

「光輝!話はまだ終わってないぞ?それにステータスプレートの名前が変わるというならエヒト神も認めている事だ。強要や洗脳では姓は変わらない!そもそもお前たちの中で一番ステータスの低い南雲ハジメが洗脳だの支配だのできる訳がないだろう!」

「だ、だけどメルドさん!俺には納得できない!」

 

「私達は光輝の事が嫌いで南雲君の事が好きなだけ。南陽高校のみんなが光輝を嫌っているのは中学生時代の光輝の暴力事件が原因でしょう?他校の生徒会長選挙なんかどうやって干渉するの?全て自業自得でしょう?」

 

雫は無意識にハジメに好きだといってしまった。

香織は納得した顔で驚いてはいなかった。

(そっか…雫ちゃんもハジメ君の事が…私、雫ちゃんも大好きだし…雫ちゃんと一緒なら…二人でハジメ君に…)

香織の大好きな友人も香織と同じ人を愛している。

いつか雫に好きな人ができて疎遠になるのは寂しいと思っていた香織は、二人でハジメを愛してもいいかも、と…でも正妻の座は譲らないけどねっ!と心の中で付け加えていた。

 

ちなみにハジメは聞き逃していた…

 

「光輝!ハッキリ言って見苦しいぞ?俺の目から見ても南雲ハジメと香織はいい夫婦になれそうだ。この話はこれで終わりだ!」

 

光輝の歪んだ表情を見てメルドは話を断ち切った。

 

「光輝率いる勇者パーティーと檜山率いる第五パーティーはこのまま王城で訓練を続けて貰う。他はホルアドで訓練をして欲しい。ホルアドという町はオルクスの大迷宮で有名な所だが冒険者の訓練施設がある。多種多様な天職が多いナンヨウコウコウメンバーは冒険者組合の訓練施設の方が良いだろう。勿論、気の荒い冒険者達と一緒ではなく特別訓練施設があるから安心してくれ。クゼリー!ニート!」

 

「「はっ!」」

二人の女性騎士がメルドの声に応じて前に進みでる。

 

「この二人は騎士団の中でも俺に次ぐ実力の持ち主だ。ナンヨウコウコウメンバーの教官はこの二人に務めてもらう。」

 

女性騎士の一人が前に進み出て自己紹介をする。

「これより皆様の教官を務めさせていただきます、クゼリーと申します。皆様の教官ではありますが、何か困り事があれば遠慮なく相談に来て下さい。」

クゼリーは一礼して後ろにさがる。

 

もう一人の女性騎士が前に進み出て自己紹介をする。

「クゼリー隊長の副官をしておりますニートと申します。皆様の訓練及び生活面でのサポートを担当させていただきます。」

 

2人の女性騎士の印象は一言で言えば真面目だ。

ハジメの両親がいたら「クッ…殺せ」という台詞を言わせたいタイプ。

 

クゼリーは真面目ではあるが女性らしい細やかな心遣いができる人物としてメルドからも信頼されている。

メルドはハジメ達の事はクゼリーに預けて、自分は勇者の育成に尽力を尽くさねばならなかった。

 

かかっているのは人間世界の滅亡だ。

メルドの見た所、光輝は本気で世界を救う気はないと見ていた。

正確に言えば世界を救う事がどれだけの大事業か理解してない。

召喚された日、神山にいたニートから聞いた話では香織と雫を見ながら世界を救うと言っていたことからも、二人の気を引きたくて大言壮語をしたのだろう…

その程度の覚悟しかない者をどうやって救世主に育て上げればいいのか…メルドには見当もつかなかった。

 

「明日の朝、皆に装備品を支給する。午後はこの世界の情勢と言った座学だ。勇者パーティーと檜山パーティーは明後日より訓練開始。他の者はホルアドに向けて出発。移動中も簡単な座学は行う。明日からの予定は以上だ。勇者パーティーと檜山パーティーはこの後国王陛下主催の晩餐会に参加してほしい。他の者は自由時間とする。以上解散!」

メルドは自分の弱気を叱咤するように威厳あふれる声で宣言した。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

編成会議の後解散した雫は自分の部屋に戻ってきていた。

「雫ちゃん!」

「香織?どうしたの…?南雲君の部屋行かなくてもいいの?」

「えへへ…ちょっと雫ちゃんの部屋に来たかったんだ〜♪」

「ふふっ、また惚気話かしら?」

「ううん、雫ちゃんにね、言わなくちゃいけない事があるんだ」

「な、何かしら?」

「雫ちゃんはね〜もっと我儘になるべきだよ?」

「え?」

「雫ちゃんのわがままなら私は受け入れるよ?」

「…香織…何の話?わかりやすく話して?」

「雫ちゃんが自覚しないと意味ないの!でも覚えていて…私が愛してるのはハジメ君。そして雫ちゃんも大好きなの!だからわがままになっていいんだよ?」

 

ハジメの事になるといささか残念な香織ではあるが、本来の香織の優しい笑顔はまさに天使とよぶのにふさわしい。

幼なじみの親友でありながら思わず見惚れてしまう雫であった。

そして香織が言った意味も何となくだがわかったような気がした…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ハジメ君、ただいま〜♪」

「おかえりなさい、香織さん。八重樫さんとはゆっくり話せた?」

「うんっ!」

ハジメにただいまのキスをした香織はパジャマに着替えてハジメの隣に座る。

 

「ふぅ〜上手くいったね…」

ハジメが入れてくれたお茶を飲みながら二人はくつろいでいる。

ハジメと香織が夫婦と認定されて以降二人は同じ部屋で過ごしている。

 

「…うん…それにしても天乃河君は…香織さんに聞いた話から覚悟はしていたけど…実際に見ると予想以上に酷い思い込みだね…」

「…うーん…小学校の時と変わらない…かな?結局二人も転校したんだから…」

「…香織さんが無事で本当に良かった…」

ホッとしたように言うハジメに香織はホッコリする。

「えへへ…ハジメ君のおかげだよ♡中学二年の時にハジメ君と出会えたから私は幸せになれたんだよ」

「……………っ香織さん!」

「あんっ…」

ハジメはたまらなくなって香織を抱きしめた。

「クスッ…ハジメ君…」

二人はベッドに倒れ込んで…

濃厚なキスをするのであった。

……………………

………………

…………

「えへへ…ハジメ君…もうちょっとこのままで…」

裸でハジメに抱きついて甘える香織の頭を優しく撫でながら

 

「香織さん…とっても気持ち良かった…」

「…うん、私も…気持ち良すぎて…ハジメ君…私の事、香織って呼んで?天乃河君に呼ばれるのは嫌だけど、ハジメ君には呼んで欲しいな…」

 

「え、えーと………香織………」

「はい、ハジメ君…あっ…も、もぅ〜ハジメ君ったら…」

またまた元気になるハジメ君。

「ハジメ君、私、幸せだよ…いっぱい愛して…」

「香織、僕も幸せだよ…これからもずっと…愛してる」

 

…二人は夜中まで求め合い…また抱き合ったまま朝を迎えるのであった。

 

次話に続く…

 

 

 




ハジメはたまらなくなって香織を抱きしめた。
「クスッ…ハジメ君…」
二人はベッドに倒れ込んで…
パチッ
「あん、ハジメ君…そこはダメ…」
パチッ
「香織さんの弱点は…エイッ」
パチッ
「んっもぅ〜そこはずるいよ〜…エイッ」
パチッ
「か、香織さん?そ、そこは…」
パチッ
「えへへ…ハジメ君…降参かな?かな?」
パチッ
そして二人は…
濃厚なオセロ勝負をするのであった…
なんつって(=゚ω゚)ノ

どこかで聞いたような超展開が一瞬頭に浮かんでしまった今日このごろ。

それはさておき…
ふははは…訓練施設が王都だけにあるわけでは無い!
と言う訳で別の場所で修行パートに突入〜
檜山君、残念、襲いたかったら徒歩で4日の旅だ。
王都でたっぷりしごかれるがよい…
北村蒼華のステータスは光輝に次ぐだけあり小悪党組が死力を尽くしても勝ち目はありません。蒼華には手出しできないでしょう。

今回台詞が無かったけど愛子先生が頑張ってメルド団長を説得したからなしえた措置です。ほとんどハジメがたてた計画ではありますが、実行するのもかなり大変でした。メルドも最後まで迷っていましたが光輝の暴走をみて愛子先生の案を採用する事にしました。

今回の話のMVPは間違いなく愛子先生なのです。




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第十話 ありふれた修行前編

私の趣味100%のこの作品…何と400人以上の方にお気に入りして貰えました✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。
これからも趣味100%で突っ走りますので今後とも宜しくお願いします。

名前  野村健太郎
性別  男
身長  174cm
体重  67kg
年齢  17歳
誕生日 11月1日
学校  南陽高校
解説  ハジメのクラスメイト
恋人は辻彩子。
ハジメのクラスメイトの中でハジメ×香織以外の唯一の経験者
永山、遠藤、吉野、辻は小学校時代からの友人。
努力家だが人にはその姿を見せる事はしない。
楽観主義。
遠藤がいない事に気づく数少ない人物。

名前  辻彩子
性別  女
身長  155cm
体重  45kg
年齢  18歳
誕生日 4月12日
学校  南陽高校
解説  ハジメのクラスメイト
野村健太郎の恋人。
奥手で引っ込み思案だが芯は強い。
楽観主義の野村とは相性がよい。
ハジメのクラスメイトの中でハジメ×香織以外に唯一の経験者
遠藤がいない事どころか、名前まで忘れる人。
永山、野村、遠藤、吉野とは小学校時代からの友人。



ガタンガタン…ゴトゴト……

 

王国所有の高速馬車に揺られる事3日。

南陽高校グループは目的地であるホルアドの町に向かっている。

予定では今日中に着く筈だ。

 

クゼリーはハジメ達との3日間の旅の中で何回も驚愕していた。

 

「大体ですがスキルの説明がわかりましたか?」

「はい!」

クゼリーは道中の時間を利用して座学を開いていた。

スキルに関するものと、魔法に関するもの。

 

スキルに関する座学を終えたクゼリーは少し休憩をいれる事にし、御者に休憩馬所に適した場所があったら2時間停止して休憩するように命じた。

 

「技能が派生した!思った通りだ!」

「ハジメ君、凄い!」

 

「……はい?」

馬車を停止して休憩に入って僅か10分。

クゼリーには信じ難い話が聞こえて来た。

 

「ハ、ハジメ様…今なんと…?」

ニートが恐る恐るハジメに聞く…

ハジメに近づきすぎた為香織がちょっと不機嫌になるが…

 

「ええ、錬成の技能が三つ派生した…よね?」

と言ってステータスプレート差し出して来たので見ると…

 

===============================

南雲ハジメ 18歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:25

体力:25

耐性:25

敏捷:25

魔力:25

魔耐:25

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+鉱物系探知][+精密錬成]・減速門・最適化・言語理解・「 」の加護

===============================

 

「ま、まじかー」

「ハジメすげーじゃん!」

永山、太田達も集まってハジメのステータスプレートをみる。

 

確かに派生技能らしきものが三つ増えていた。

それだけで無く能力値もオール10からオール25になっていた…

 

「技能が一つ派生した瞬間に全能力が+5されたみたい。」

ハジメがサラッと言ったが…

 

鉱物系鑑定と精密錬成を持っているのはハインリヒ王国の宮廷錬成師長のウェルペ様だけ…

鉱物系探知は王国直轄の鉱山長しか持っていない…

それをスキル座学終了たった10分足らずで得てしまった…

 

「「…………………う、うそ……」」

呆然とするクゼリーとニート。

 

「ハジメ、どうやったんだ?」

永山がハジメに聞いた。

 

「僕のスキルに最適化ってあるでしょ?ひょっとしたら無駄を省いて最適化するって事かと思ったんだ。だからスキル使用の際の無駄を省いて行けばすぐに技能が派生するかな?と思ったんだ。もらった鉄板を錬成した後最適化して次にそこの岩を錬成したら鉱物系鑑定が派生したんだ。それで鉱物系鑑定をそこら辺で試しながら最適化してたら鉱物系探知が派生した。後、錬成する時ネジの形を思い浮かべながら錬成してたら精密錬成が派生した。」

 

「すげー!って事はスキル派生し放題じゃん!」

「俺達にもかけてくれよ!」

河原と佐久間が期待に満ちた声で聞いて来た。

 

「もちろん皆んなに………あれ?……自分以外にどうやってかけるんだろう…?」

河原と佐久間がずっこけた…

 

「は、ハジメ様、ステータスプレートのスキル最適化を触ってみてください。」

クゼリーはスキルの解説を見る方法を教えてくれた。

 

「スキルの説明の一番上に(個)(他個)(他複)(道)というような区分がありますね?ハジメ様の最適化は(個)となってますので自分自身にしか使用できないスキル、という事です。」

 

「他の表記はどういう意味なんですか?」

雫の問いに

 

「(他個)というのは自分以外の他人に一人かける事です。攻撃スキルの剣術がその代表です。(他複)というのは自分以外の複数に…(道)は道具に使う…他にも細かいものがたくさんありますがそれは休憩後の座学で話します。」

クゼリーは動揺を隠しながら答えた。

 

「…手っ取り早く全員強化出来るかと思ったのに…」

ガッカリするハジメに

 

「何言ってるんだよ?あっという間に最高ランクの鍛治師になれるじゃんか!ロマン武器大量生産してくれよ!」

「…コホン、物騒な話はそこまでにして私は刀が欲しいわ…王国から支給されたシャムシールだと八重樫流が使い辛いの」

興奮した清水を宥めつつ雫が刀の製作をハジメに頼んだ。

 

「勿論!最初に作るのは八重樫さんの刀でいいかな?時間どれだけかかるかわからないけど…」

「そうだな。八重樫が一番必要としてるだろうしな。後は訓練中に改良して欲しくなったらハジメに頼む、といったところか…」

永山が皆んなの意見を取りまとめた。

 

(南雲君が初めて作る作品が私の…)

雫は何故か幸せな気分になるのだった。

 

そんな雫を香織がじっと見ている。

その表情は優しさが溢れていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ホルアドに着いたらまず、自分達の泊まる建物を掃除や整備をして3日目が終わった。

ハイリヒ王国から譲渡された建物は3階建てで1階はクゼリーたち護衛隊の騎士20名が寝泊りする部屋と会議室兼食堂がある。

2階は永山、太田パーティーの個室と食堂兼ミーティング部屋と風呂がある。

3階は愛子先生、ハジメ、香織、雫、園部パーティーの個室とハジメの工房がある。

建物の左隣は冒険者ギルドの本部、右隣はホルアド駐屯軍の本部だ。

裏庭もあり1000㎡ぐらいあるので訓練に最適な環境だ。

 

次の日の午前中に全員で冒険者ギルドに冒険者登録とチーム名を登録した。

永山パーティーはチーム名  [鉄壁]

太田パーティーはチーム名  [疾風]

園部パーティーはチーム名  [狙撃]

ハジメ、香織、雫はチーム名 [探索]

 

登録後は各自、必要な物の買い出しをし午後から本格的な訓練が始まった。

 

まず各自の適性を調べる事から始まったのだが…ハジメには魔法の適性がないらしい。

 

魔法適性がないとはどういうことか。

この世界における魔法の概念を少し説明しよう。

 

トータスにおける魔法は、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するというプロセスを経る。

魔力を直接操作することはできず、どのような効果の魔法を使うかによって正しく魔法陣を構築しなければならない。

 

そして、詠唱の長さに比例して流し込める魔力は多くなり、魔力量に比例して威力や効果も上がっていく。

また、効果の複雑さや規模に比例して魔法陣に書き込む式も多くなる。

それは必然的に魔法陣自体も大きくなるということに繋がる。

 

例えば、RPG等で定番の〝火球〟を直進で放つだけでも、一般に直径十センチほどの魔法陣が必要になる。

基本は、属性・威力・射程・範囲・魔力吸収(体内から魔力を吸い取る)の5つの式が必要で、後は誘導性や持続時間等付加要素が付く度に式を加えていき魔法陣が大きくなるということだ。

これを基本5式と呼ぶ。

 

しかし、この原則にも例外がある。

それが適性だ。

 

適性とは、言ってみれば体質によりどれくらい式を省略できるかという問題である。

例えば、火属性の適性があれば、式に属性を書き込む必要はなく、その分式を小さくできると言った具合だ。

 

この省略はイメージによって補完される。

式を書き込む必要がない代わりに、詠唱時に火をイメージすることで魔法に火属性が付加されるのである。

 

大抵の人間はなんらかの適性を持っているため、上記の直径十センチ以下が平均であるのだが、ハジメの場合、全く適性がないことから、基本五式に加え速度や弾道・拡散率・収束率等事細かに式を書かなければならなかった。

 

そのため、〝火球〟一発放つのに直径二メートル近い魔法陣を必要としてしまい、実戦では全く使える代物ではなかったのだ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「はぁ〜」

ハジメは溜息つきながら中庭をトボトボと歩いていた。

(能力値は一般人並、魔法は使えない…やはり後方で大人しくしているべきかなー)

 

錬成で頑張るか!と気持ちを立て直して自分の工房に向かっていると2階の食堂からとても良い匂いがした。

良い匂いに誘われてつい食堂に来てしまったがそこには料理をしてる優花がいた。

 

「園部さん、料理作ってるの?」

「!な、南雲かぁ〜脅かさないでよ!そうよ、皆んな疲れて戻って来ると思うから簡単なオヤツを用意しようかと思ってね!…よ、良かったら味見でもどう?」

「いいの?少しもらってもいい?」

「うん!ちょっと待っててね!」

 

優花は手際よく子皿にお菓子を並べる。

見た目だけでもヨダレが出そうだ。

 

「はい!お待たせ〜」

笑顔で優花が皿を渡してくれた。

「!う、美味い!このお菓子、とっても美味しいよ!」

感激したハジメが優花のお菓子を褒めると

 

優花がそっぽを向きながら

「あ、ありがと…、その…南雲…少し元気でた?」

「…え?」

「…何だか中庭歩いている姿元気なかったように見えたから…」

 

ハジメは優花のさりげない優しさに感謝しながら

「ありがとう!元気でたよ。魔法適性なくてちょっと落ち込んでたんだ。」

「ぷっ…単純だね!南雲には誰も真似できない錬成があるんだから、シャキッとして!」

「ありがとう、園部さん。早速錬成の腕上げてくるよ!」

 

優花はエプロンの裾を持って何だかモジモジしている…

 

ちょっと気不味くなったハジメは優花に話しかけるが、しかしそれは特級フラグ建築士の所業だった…

 

「園部さんのエプロン姿って、とっても似合うと思う。素敵な若奥様って感じかな?」

「…………………ッ!!?」

優花の顔は赤いエプロンと同色になるぐらい真っ赤になった。

 

「ば、馬鹿な事言ってないで…は、早く錬成の練習してきなさいよ!皆んなの武器を作ってくれるんでしょ?」

 

赤い顔をして口元がムニムニしながらハジメを3階に追いやる優花。

ハジメに顔を見られる訳にはいかない為少々強引に追いやってしまった…

 

「………ふぅ〜〜」

ペタリと床に座り込む優花…

(特級フラグ建築士め〜おっきなフラグ建てていくなー…)

 

真っ赤な顔してニマニマした表情をしながらジト目でハジメの居る工房の方を見る優花であった…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

雫は夕食後、風呂上がりの身体をベッドに横たえている時に

コンコン

扉をノックする音がしたので

「は〜い、誰かしら?」

「八重樫さん、ハジメだけどちょっといいかな?」

「えっ…な、南雲君?な、何かしら?ちょっと待ってて…」

雫は大慌てで身支度する。

ハジメを待たせる訳にはいかない為最速記録更新の身支度だ。

 

「お待たせ!南雲君、良かったら中で話しましょ?」

「用事自体はすぐ済むけど…お言葉に甘えて…お邪魔します。」

 

ハジメは雫の部屋に入った。

雫の部屋はまだついたばかりのせいか殺風景だ。

だが…ポニーテールをといた風呂上りの雫は、桁違いの美少女の香織を見慣れているハジメですら見惚れてしまうほど可愛らしく、雫が居るだけで部屋が華やかに見えた。

 

「休んでる所ゴメンね、八重樫さんの使いやすいようにしたいからちょっとだけ付き合って」

「つ、付き合うってか、か、香織はどうするの?」

 

大慌てで少し残念な雫さんになってる気もするがハジメは落ち着いて話をすすめる。

 

「えっと…刀の重さとバランスを八重樫さん用に調整したいから少し付き合って貰いたいんだけど…」

「え、ええ、そうよね!そうだと思ったわ、それ以外ないものね!」

「八重樫さん、少し熱っぽいけど…大丈夫?香織呼んでこようか?今お風呂だけど戻ってきたら来るように言っておくよ?」

「だ、大丈夫よ!健康よ?今から素振り1000回は出来るわよ?」

「だ、大丈夫ならいいんだけど…はいっ、これ!」

ハジメが雫に手渡したのは刃の付いていない刀の形をした模造刀だった。

「凄い…もう形が出来たの…?」

「形だけだけどね、持って振った感触教えて欲しいんだ」

「わかったわ!」

 

雫は八重樫流の素振りの型をハジメの前で見せる。

そして雫の姿に気付いてしまった…

(な、何かシャツの下が透けてみえますよ?裸より何かエッチなような…何か揺れてますよ…それに…)

「…綺麗だ…」

ハジメは思わず正直な感想を呟いたが、雫の耳にしっかりと届いてしまった。

真っ赤になり突然太刀筋が乱れた雫をハジメは心配したが

 

「だ、大丈夫だから、この刀、もう少し先端の方を軽くできないかしら?後刀の持ち手を細くしてもらえると振りやすいかしら…」

ハジメはいくつか細かい微調整を繰り返しながら

 

「この感覚…凄い…まるで手の延長のような錯覚よ…」

雫が感動気味に感想を述べると

 

「この重さのバランスで刀を作るよ!ありがとう、八重樫さん。」

何故か真っ赤な顔でハジメが刀を受け取ると雫にバスタオルをかけてあげた。

 

「えっ?南雲君?どうしたの?」

意味がわからないようなので早々に退散するハジメ。しかしハジメは特級フラグ建築士だ。雫に留めを刺さない訳がない。

 

「で、出来たら知らせるから待っててね。…それに八重樫さんとっても魅力的だと思うから後で慌てないでね」

と言ってハジメは工房に向かっていった。

 

雫は意味がよくわからなかったがハジメの言葉にニマニマしてると鏡に写った自分の姿をみて真っ赤になる。 

薄手の白いTシャツは着ている

シャツの下は…ノーブラだった…

なんか見えたりしている…

こんな姿でハジメの前で素振りを…

「…………に、にゃにゃぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!?!」

 

しばらく雫は部屋から出れなくなったという…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ふぅ〜」

ハジメの部屋は香織と共用で普通の部屋の12部屋分の広さがある。

寝室エリアとハジメの錬成研究エリア、皆んなと雑談するための雑談エリア、風呂、トイレ、小さな台所もある。

 

「お疲れ様、ハジメ君!」

風呂上りのネグリジェ姿の香織は物凄く色っぽい。

お茶を入れて持ってきてくれたようだ。

 

「ありがとう、香織。ふぅ〜八重樫さんの刀、何とか作れそうだよ。」

「むぅ〜雫ちゃんと何かあったの?」

……香織は心が読めるのだろうか?たまにそう思える時がある。

「うん。実は…」

ハジメは先程の出来事を話すと…

「むぅ〜〜」

唇を尖らせてむくれた香織はネグリジェを脱ぎ始める。

「あ、あの…香織…?」

「ハジメ君…私も雫ちゃんも泣かしちゃダメだよ?」

抱きついてくる香織が色っぽすぎる…

「えいっ」

かぷっとハジメの耳たぶを甘噛みする香織。

「今日はたっぷり甘えちゃうよ?」

二人は笑い合った後…

熱い夜を迎えるのだった…

 

===============================

南雲ハジメ 18歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:35

体力:35

耐性:35

敏捷:35

魔力:35

魔耐:35

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+鉱物系探知][+精密錬成][+圧縮錬成][+貯蔵庫]・減速門・最適化・言語理解・「 」の加護

===============================

 

 

 

 

 

 

 




おや、ハジメのスキルに貯蔵庫が…
これはいわゆるアイテムボックスです。
貯蔵量は100m×100m×100mの容積内に収まる量なら収納出来ます。
生物は収納不可。
貯蔵庫内は状態が変化しない為氷とかも溶けずに運べます。
まぁ便利な事(=゚ω゚)

園部優花の性格参考キャラが今更ながら決まりました。
ドラゴ○ボールのビー○ルさんに決定〜

何となくハジメ君、悟飯っぽいとこもあるし上手く行くかな…
違和感あったら感想欄まで…お願いします。
自分で書いてると違和感わからないもので…

ちなみに性格参考キャラは他にもいます。
永山→ジャン=ロベール=ラップ
太田→ダスティ=アッテンボロー
河原→イワン=コーネフ
佐久間→オリビエ=ポプラン
北村蒼華→ジェシカ=エドワーズ
天乃河→帝国貴族 フレーゲル男爵ほか
南雲ハジメ→基本原作通り 時々ヤン=ウェンリー
未だ名前も公表していないオリ主→転スラのベニマル
銀英伝知らないとさっぱりわからないと思いますがこんな感じです。


さて、ハジメのスキル最適化について補足いたします。

作中のハジメはスキルの意味を思いっきり勘違いしています。
多分パソコンの最適化をイメージしてるのでしょうが真の意味はそんなレベルのモノではありません。
減速門、最適化この二つはトータス由来のスキルではありません。
この二つのスキルと「 」の加護の意味が正しく理解できれば今の段階でエヒトを瞬殺できます。
最もハジメ達が気付くのは無理でしょうが…
何せイージーモードですからぶっ飛びスキルを持たせてみました(=゚ω゚)ノ


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第十一話 ありふれた修行後編

十一話もあると小説っぽくみえますな〜(ノ≧∀)ノ

名前  遠藤浩介
性別  男
身長  168cm
体重  62kg
年齢  18歳
誕生日 6月1日
学校  南陽高校
解説  ハジメのクラスメイト
ご存知みんなの深淵卿。
ほぼ原作のままの設定。
違いは奈落に落ちる前からハジメの片腕になっている事ぐらい。
ハジメは遠藤をほぼ100%認証できる為遠藤からは心の友と呼ばれている。
将来的にはハウリア族のラナを娶りハウリア族の族長となる。



ハジメ達がホルアドに来てから4日が過ぎた。トータスに来てから10日たった事になる。

 

光輝達と合流し、オルクスの迷宮に修業に行く日取りが十日後に決まった。 

 

ハジメ達は光輝達が来るまでに少しでも強くなる為修業に励んでいた。

 

ちなみに、後方支援のハジメの1日のスケジュールはこんな感じだ。

 

 6:00 起床 香織と朝チュン 朝風呂イチャイチャ

 8:00 朝食 クラスメイト達とミーティング

 9:00 座学 体術(槍術、剣術、格闘術)(香織と雫と優花と合同)

12:00 昼食 香織と昼チュン

13:30 錬成、治癒合同修業 (香織と合同)

17:00 クラスメイト達の装備品調整の打ち合わせ(香織と雫がサポート)

18:30 夕食 クラスメイト達とミーティング

19:30 メンテナンス、および装備作成(手伝いは香織と雫と優花)

22:30 香織と夜のお勤め、お風呂イチャイチャ

24:00 就寝(香織と)

 

後方支援と訓練の二足の草鞋は大変な様子。

剣術などの訓練は必要ないかと思われたが、ハジメに最適化スキルがあったので槍術、剣術、格闘術の能力が飛躍的に上昇した。

スキルこそないが既に入門して、半年ぐらいの強さを得ていた。

香織がちょくちょく癒しながら(むしろ疲労増大?)とは言え中々ハードだ。

何となく24時間、香織が一緒にいるような気もするが気のせいだろう。

 

そんな中、手の開いた時間にハジメ達はスキルの研究をしていた。

 

「そもそも剣術スキルってどこまで適用されるのかな?」

 

今日はメンテナンスが早く終わったためクラスメイト全員がハジメと香織の部屋で優花が作ってくれた夜食を食べながら話し合っていた。

ハジメの何気ない一言であったが雫は興味を持ったようだ。

 

「どういう意味なの?南雲君?」

ちょっとスケちゃった事件を乗り越えた雫がハジメに聞いた。

 

「うん、剣スキルを使えば剣は強化できるよね?刃がついてるものなら全部強化できるのかな?」

 

「うーん…わからないわ…考えた事も無かった…」

「そうだよな、何も考えずに使っていたけどどうなんだろ?」

雫と永山が首をひねる。

 

「せっかく皆んな揃っているから試してみない?」

「ハジメ、わかるとどんなメリットがあるんだ?」

清水が聞くと、皆んなも知りたがっていたみたいでハジメに説明を求めた。

 

「スキルの持つ正確な定義が知りたいんだ。剣を失った時に近くにあるもので、どこまで代用が効くのか…例えば…木製の剣、包丁、ナイフ、紙とか…」

 

雫は確かにその通りだと思い早速試してみるが

「…木製の剣までね…剣術スキルの効果があるのは…」

 

「…八重樫さん、目隠しした状態だとどうかな?小刀ベースにした新作なんだけど…」

「…いいけど…発動したわ。目隠しする意味あるのかしら?」

目隠しを取った時、雫は驚愕した。

何故なら、雫が持っていたのはさっき剣術スキルが発動しなかった包丁なのだから…

 

「え…?一体どういう事…?」

「あくまで仮説なんだけど、八重樫さんが剣だと認識した物に発動するスキルっというのが本来の意味だと思う…だから極論なんだけどその辺の棒を剣だと認識してふれば剣術スキルが発動するかもしれない…」

 

その後色んなもので試してみたが

「……………発動したわ…」

雫はゴボウモドキの野菜で鉄板を切ってのけた…

 

その姿を見て永山達は笑いを堪えていたが雫にジト目を向けられ真面目な表情に戻る。

 

「確定かな?手に持って剣と認識した物全てに有効みたい。一番威力あるのは日本刀で間違いない。より強力な認識が鍵かな…」

 

「成る程…剣と言われて素直に思い浮かべられる物と無理矢理思い込んでいる物では威力に差がでるのね?」

 

「うん。スキルを鍛える前に自分のスキルの正しい定義を知っておいた方がいいと思う。永山君はモーニングスターの先を拳と思って殴れば重格闘スキルが発動するかもしれない…」

 

「やってみるか!皆んなも少し考えてみよう!」

永山の一声で皆、自分のスキルを考え直し始めた。

 

「八重樫さん、対象はどうなのかな?例えば切るつもりのない物も発動するの?」

「わからないわ…早速試してみるわ!」

 

「園部さんもダーツの的に当てる気で投げる時と適当に投げる時の命中率を確かめてみて?」

「わかったわ!やってみる!あと短剣術は雫と同じだった。違いは間合いの差だけみたい」

 

結局雫の方は切るつもりのない物は切れ味が下がり、スキルの効果はなかったと言う結論に達した。

優花の命中率は適当に投げた時は40%弱だったのに対して本気で狙ったら100%だった。こちらも適当に投げた時はスキルは発動しなかった。

 

ハジメはクラスメイト達と色々工夫しながらスキルの理解を深めていった。

 

「ところでハジメの意味不明スキルはどうなった?定石ではチートスキルっぽいんだけど?」 

清水の異世界転生もののライトノベルを読み漁った知識は侮れないものがある。

 

「僕のスキル、最適化と減速門ってさっぱりわからないんだ。説明文にも[最適化する][減速する]しか書いてないから…最適化は無駄を省いて洗練化するって解釈。減速門には裏表があって表から飛んで来たものを減速、逆に投げると加速する…って解釈してるんだ…でも何か違うような気もする。」

 

「ハジメ君、何か違和感あるの?」

「うーん…違和感あるんだけど…さっぱりわからない…」

香織が心配そうにハジメに聞いてきた。

ハジメも答えようがなくて言葉につまる。

 

「そういえばハジメのスキルは何か使い道できたか?」

太田がハジメのスキルに興味を持ったようで軽い質問をしてきた。

 

「うーん…自分を中心にした球体を作り減速面を外側に加速面を内側にすれば敵の攻撃は全て遅くなり自分の飛び道具による攻撃は全て加速する…これを減速加速結界と呼んでるんだけど…」

「……何か凄いスキルじゃない?でも何で飛び道具による攻撃なの?」

優花が不思議そうに聞いてきた。

 

「うん…僕が斬りかかると武器を手前に引く時に減速されてしまうんだ…加速の衝撃も半端なくて肩が脱臼してしまうし…」

「脱臼って…なら石でも投げるの?」

雫が聞くとハジメは

「錬成で小さな石の玉を作って打ち出す訓練をしているんだ。パチンコみたいな物でもいいかな…作れるなら銃が一番あってるかも!でも石の玉が一番無難かな?素材はそこら中にあるから…」

 

「ハジメ君の今の命中率は60〜70%ぐらいだよね?最適化でどんどん精度上がってるし…」

香織が補足すると、「流石南雲夫人、旦那さんの事だからよくわかる」と言うからかいが発生するのはご愛嬌だ。

香織がハジメの後ろに隠れて抱きつくのもご愛嬌だ。

 

全員の訓練プランと装備の更新の方針が決まったので全員、部屋に戻っていった。

 

「ふふふっ、ハジメ君お疲れ様!」

香織が胸を押しつけながら背中に抱きついてきた。

「お風呂にする?それとも…私?」

 

ハジメは背中にあたる柔らかい感触にデレデレしながら

「両方!お風呂に入りながら香織と…」

「……はい♡」

幸せそうな笑顔を浮かべながら頷く香織。

 

ハジメと香織の夜のお勤めが始まる…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

そして南陽高校のグループは修業→ミーティング→改良→修業の繰り返しでかなり高い練度の訓練を行うことができた。

 

トータスに来てから19日目…

…明日は光輝達がホルアドにやってくる。

光輝達がホルアドに来たら休みどころか疲れ果てるのは目に見えているので今日一日は休みを取る事になった。

光輝達は明日の朝には到着してその日はゆっくり休み、明後日の朝からオルクスの大迷宮に挑む事になる。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

一方ハイリヒ王国王城では…

光輝達がトータスに来てから16日目の夜、明日の朝にはオルクスの大迷宮で修業するためにホルアドの町に出発する事になった。

 

光輝達がトータスに来てから16日目の夜にメルド団長は皆を集めて野太い声で皆につげた。

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ!ホルアド組と合流しての訓練だ。お前達の成長を見せてやれ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

坂上龍太郎はメルドの話終わると早々に自室に戻り…

「…ふんっ…」

ピタッ

「ホッ!」

ピタッ

「はっ!」

 

自室で鏡の前で素っ裸でポージングを決めている坂上龍太郎がいた…。

「今日の俺はキレてるぜ!」

白い歯を光らせながら自分の筋肉にうっとり見惚れなが笑みを浮かべている。

 

坂上龍太郎は光輝の幼なじみだ。短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、百九十センチメートルの身長に熊の如き大柄な体格、見た目に反さず細かいことは気にしない脳筋タイプである。

 

ハジメ達がホルアドに向かった後、彼等は王国最強騎士に鍛えられていた。

光輝はメルド団長直々にしごかれている。

光輝は武力に関しては天才的な才能がある為メキメキと腕が上がっている。

龍太郎は徒手空拳の師がいない為自己鍛錬に励んでいる。

蒼華は神官騎士に鍛えられていた。

鈴と恵理は宮廷魔術師に直々に、檜山達は新兵訓練官に鍛えられていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

光輝がハジメに意味不明な暴走をした時、龍太郎は親友の暴走を不思議そうに見ていた。

香織と雫は対して仲が良くない幼なじみなのに、何故固執してるのかがわからなかったのだ。

確かに二人はこのトータスでもトップレベルの美少女だが…彼女達は光輝を嫌っているのは龍太郎ですら分かる。

 

そう考えた龍太郎は光輝に聞いてみたのだ。

すると…

「香織と雫は確かに俺の横に立つと様になるが勇者にふさわしい気品がない。そうなると勇者の横に並び立つ美少女はリリアーナ王女がふさわしい」

と光輝は龍太郎に言った。

 

龍太郎は違和感を感じたが、信頼する親友の言葉を疑うつもりもなく修業に没頭することにした。

光輝のおこぼれに与っている龍太郎としては光輝の悪い面が見えにくいのだろう。

光輝と龍太郎は修行が終わると貴族主催のパーティーに誘われ、美少女達と仲良く談笑する日々を送っていた。

香織と雫がハジメにくっついていた事に切れていた割に貴族の令嬢と遊ぶ事に余念のない光輝であった。

 

ちなみに檜山達小悪党組は一度もパーティーに呼ばれる事は無かった。

彼等は勇者の従者程度にしか思われて無かったようだ…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ちなみホルアドで南陽高校グループと合流した時の彼等のステータスは…

 

==================================

天之河光輝 17歳 男 レベル:10

天職:勇者

筋力:200

体力:200

耐性:200

敏捷:200

魔力:200

魔耐:200

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

==================================

 

==================================

北村蒼華 18歳 女 レベル:10

天職:聖騎士

筋力:160

体力:160

耐性:150

敏捷:180

魔力:220

魔耐:220

技能:光魔法適性・回復魔法適性・全属性耐性・複合魔法・剣術・城塞・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・言語理解・「 」の加護

==================================

 

女遊びに余念のない光輝ではあるが成長は流石の一言である。

 

北村蒼華も光輝に次ぐ成長を見せている。

蒼華とハジメと香織と雫はメルド団長に相談し、修業中、できれば貴族のパーティーに光輝を参加させてやって欲しいと頼んでいたのである。

そのおかげか光輝は蒼華に絡むことも無く平穏に修業に専念することができた。

(天乃河の顔を見ないですむだけでも世界は十分平和よ)

そう思う蒼華であった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

===============================

南雲ハジメ 18歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:80

体力:80

耐性:80

敏捷:80

魔力:80

魔耐:80

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+精密錬成][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+鉱物系融合][+鉱物系分離][+鉱物系分解][+貯蔵庫][+貯蔵庫内複製][+貯蔵庫容量増加][+震動波砕][+震動波砕道具付与]・減速門・最適化・言語理解・「 」の加護

===============================

 

===============================

南雲香織 18歳 女 レベル:10

天職:治癒師

筋力: 35

体力: 35

耐性: 35

敏捷: 50

魔力:170

魔耐:170

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇]・光魔法適性・高速魔力回復・言語理解・「 」の加護

===============================

 

===============================

八重樫雫 18歳 女 レベル:10

天職:剣士

筋力: 55

体力: 55

耐性: 30

敏捷:145

魔力: 95

魔耐: 95

技能:剣術[+抜刀速度上昇]・縮地・先読・気配感知・隠業・言語理解・「 」の加護

===============================

 

===============================

園部優花 18歳 女 レベル:10

天職:投擲師

筋力: 95

体力: 95

耐性: 95

敏捷: 85

魔力: 95

魔耐: 95

技能:投擲[+命中率上昇]・短剣術・暗視・先読・気配感知・言語理解・「 」の加護

===============================

 




さて、ハジメ君の派生スキルがヤバイ事になっています。

派生スキルが一個発生する事に全ステータス+5になりますが、これだけ派生しても光輝のトータスに来た時のステータスに及ばないのだから…光輝がいかに恵まれていたか…。

光輝の貴族の令嬢遊びを考えたのはメルドの部下アランです。
アランもまた光輝の悪癖を見て、自分が主役にならないと周りに当たり散らす性格を何とか抑えようとします。

それが貴族のパーティー参加です。
令嬢も神が召喚した勇者に興味を持って接しますが…中身を知るにつれ離れていきます。
ちなみに光輝、龍太郎、檜山、近藤、斎藤、中野はDTです。

光輝に本格的に惚れる人は中村恵里だけなのでしょう…


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第十二話 ありふれた休日

トータスの子作り事情

トータスでは女性が妊娠するかどうか選択肢が頭の中に浮かび選択する事ができます。

香織の頭に選択肢が浮かびます。
妊娠しますか?
妊娠しませんか?
好きな方を選べます。
よってハジメ君と1日三回以上やっても大丈夫です。
ハジメと香織は日本に帰ってから本格的に子供を作ると決めてますから。

………無理のない完璧な説明…だよね?うん!大丈夫!♪~( ̄ε ̄;)
では北村蒼華さんのキャラ紹介〜♪

名前  南雲蒼華(旧姓 北村蒼華)*現時点では北村蒼華
性別  女
身長  162cm
体重  44kg
年齢  18歳
誕生日 4月13日
学校  城陽高校
解説  城陽高校生徒会長
天乃河光輝をやぶり生徒会長になった才女であり城陽高校一の美少女だ。
天乃河を論破するほどの気の強さと弁舌を持つ。
身長は香織と同じくらいで…体型はスレンダータイプだ。
知的な目だが冷たい印象はなく、イタズラっぽい表情を浮かべているせいか愛嬌を感じさせる。
髪型は低めの位置で結んだお団子ヘアだ。
彼女の印象はズバリ、キャリアウーマンだ。
好みの男性は知的なタイプ
天乃河は生理的に嫌っている。(当たり前か…)
トータスで会ったハジメに興味を持ち虎視眈々と狙っている。
実家は江戸時代から続く老舗の呉服屋。





今日は休日だ。

 

明日には光輝達が来る。

絶対疲れるから光輝が来る前に休みを取ろうと決まった。

 

「う〜ん……町をゆっくり歩くのって久しぶりだよね?」

「うん。ホルアドについた日に必要な物を買い出しに行ったきりだよ」

「明日は天乃河君が来るから今日一日ゆっくり羽を伸ばさないとね!」

 

ハジメと香織は一日中布団の中で過ごすか迷ったが雫と優花に誘われて町にくりだしたのであった。

 

ハジメ達は【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に来ていた。

 

明後日にはこのオルクス大迷宮に挑む事になっている。

クゼリー隊長が大迷宮の入り口には露店とかも沢山あるから行って見るといい、と紹介されたので来て見たのだった

 

ハジメとしては薄暗い陰気な入口を想像していたのだが、まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。

制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

 

なんでも、ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。

戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろう。 

 

入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。まるでお祭り騒ぎだ。

 

浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があるようで人も自然と集まる。

馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。

入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。

 

「凄い人の数だわ。香織、迷子にならないでね?」

「雫ちゃん、酷いよ〜、ハジメ君がいるから大丈夫!」

「気持ちいいくらいの他人任せね…あれ?美味しそう…ホットドッグみたいね?」

 

買い食いを楽しみながら出店を見て回るハジメ達。

改めてハイリヒ王国と日本の文化の違いに興味深々だ。

 

ハジメは日頃の感謝をこめて、香織と雫と優花に可愛らしいブローチを買ってプレゼントした。

雫と優花は物凄く喜んだのだった。

香織は…「ありがとう…ハジメ君…今夜はいっぱいしようね!」

 

ふと香織は自分達を見ているフード付きマントを羽織った三人の子供達を見つけた。

「ねぇ、ハジメ君。あそこにいる子供達、こっちをジッと見てるよ?」

「香織を狙っている…わけではないか…良かった…ん?様子が変だね?」

「もぅ〜♡ハジメ君ったら…あっ…そうじゃなくて、う、うん、何だかお腹空いているみたい?」

「ハイハイ、桃色空間をこんな所で作らないでくれるかしら?」

「あれ?ねぇ香織…あの子達、何か病気っぽくない?顔が青白いよ?」

優花が子供達を心配そうに観察していた。

 

「えっ?…本当だ!ちょっと行ってみる」

「僕達も行くよ!手伝いくらいは出来ると思う。」

「あ…うん!ハジメ君ありがとう!」

嬉しそうにハジメと一緒に子供達の元に走りだす。

 

泣きそうな子供達三人が体育座りをしながらハジメ達を見ていた。

「どうしたのかな?僕、どこか身体痛いの?」

香織が早速子供達に話しかける。

それと同時に子供達の様子を一人一人観察する。

(香織、容態はどう?)

(ハジメ君…うーん…多分だけど…栄養失調かな?)

日本にいた頃、栄養失調の人など見た事ない香織は自信なさげに症状を推測しハジメに耳打ちした。

 

子供達はいまにも泣きそうな…すがり付くような視線を向けて…

「…たすけて…」

 

「「「「!!?!」」」」

ハジメは驚くと同時に即座に慌てる香織達に指示をだした。

 

「すぐに僕達の拠点に連れて行く。僕と雫と優花の三人で子供を運ぶ。香織は移動中子供達の容態を見てて。雫、悪いけど先導して!拠点についたら雫は愛子先生に、僕はクゼリーさんに報告。優花は食事の準備を、胃に優しく消化に良いものをお願い!急ごう!香織、栄養失調っぽいけど一応伝染病も警戒して!」

 

「はい!ハジメ君」

「は、はい!南雲…君、私が先導するわ!」

「あっ…は、はい!南雲…君たち、もうちょっと我慢してね?すぐ助けるよ!」

緊急事態っぽいので急いで指示をだしたが…ハジメは雫と優花を呼び捨てにしてしまった…

二人のようすをチラッと確認すると二人とも嫌な顔はしていない…何か喜んでいるような気もする。

 

ニマニマする表情を押さえながら、雫と優花は心の中で叫んでいた。

((この特級フラグ建築士めー急に格好良くなるなー))

 

一度冷静になれば雫の頭脳は頼りになる。

ハジメが何も言わなくても最短だが回り道をして、後をつけてくる者がいないか確認をした。

拠点に着いた時雫は周りを一瞬見渡し、

「南雲君、尾行はない…と思うわ…一応遠藤君を探して警戒を頼みましょう!」

「わかった!遠藤君には僕が頼んでおく。八重樫さん、ありがとう!」

「むぅ…雫でいいのに…」

雫はちょっと拗ねたように呟くがハジメは聞こえないフリをした…

 

「園部さん、二階の空き部屋に寝かせたら食事の準備を、後、辻さんがいたら香織の手伝いに来てもらえないか聞いてみて!」

「わかった!」

優花は了解したが、「…優花って呼んでよ…」と呟いていたのをハジメは聞こえないフリをした…

 

ハジメは二人の呼び方については取り敢えず置いておいて、クゼリー隊長に報告に行こうとしてると野村と辻が部屋から出てきて

「ハジメ、何の騒ぎだ?」

「お楽しみのところ悪いんだけど…辻さん、香織と栄養失調っぽい子供三人を保護したんだけど空き部屋にいる香織を手伝って貰えないかな?」

「う、うん空き部屋にいるのね?わかったわ。」

「お楽しみって何でわかったんだよ?」

「勘。僕と香織も夕方から…っとそれより遠藤君見なかった?」

「チッ、ハジメと同類か…でもお前達程盛ってないぞ!浩介なら太田達と買い食いに出かけたぞ?」

「野村君、遠藤君が戻ってきたらこの建物の周囲の警戒を頼んで貰いたいんだけど見かけたら伝えて貰える?」

「そんぐらいならいいぞ、てか俺も何か手伝うか?」

「念のため警戒してくれると助かる。保護した子供達が犯罪者から逃げてきた可能性があるから…」

「成る程、それで浩介か…わかった、俺も入り口付近を見張っておく。」

「ありがとう!僕はクゼリーさんに報告してくる。」

 

ハジメはクゼリー隊長に状況を説明して、対応を委ねた。

「おそらくは孤児院の子供達ですね…。ニート!孤児院に行き行方不明になった子がいないか聞いてみてくれ。それとキーマ!迷宮入り口に行きこの一週間、洞窟に入った者のリストをもらって来てくれ。」

「孤児院は資金が不足しているんですか?それと親子連れの冒険者が子供を置いて迷宮に挑戦する事なんてあるんですか?」

 

その答えが孤児院だった。

子連れの冒険者が子供を置いて迷宮に入り帰って来なかった子達の保護施設なのだと…

クゼリーは孤児院は商業組合と冒険者ギルドとホルアド駐屯軍の3つが資金を出し合って運営されており資金不足にはなりにくい筈だと教えてくれた。

 

「僕は香織の様子を見て来ます。」

ハジメは2階に上がり香織の元に向かう。

 

コンコン

「ハジメ君?空いてるよ!」

ハジメが室内に入ると3人の女の子がベッドで寝ていた。

香織と辻さんが回復魔法をかけたようで顔色が良くなっていた。

 

 

「香織、様子はどう?」

「ハジメ君…極度の疲労と栄養不足だったみたい。疲労の方は魔法で回復するけど栄養不足は…優香ちゃんにお粥にキッシュ(ジャガイモに似た食感の栄養満点の食材)を混ぜて貰えないか聞いて来てくれる?」

「わかった。今言ってくる。」

 

コンコン

「南雲さん、辻さん、入りますよ?」

「愛子先生、どうぞ!」

 

愛子先生と雫が部屋に入ってきた。

「南雲さん、南雲君、保護したのはその娘達ですか?」

「はい…先生、極度の疲労と栄養不足だったみたいで…詳しい事は香織と辻さんに聞いて下さい。僕は園部さんに食材の追加をお願いしてきます。あとクゼリーさんには報告済みです。孤児院の子供達かも知れないのでニートさんに孤児院に問い合わせに行って貰いました。」

 

「わかりました。その娘達の目が覚め次第お話しを聞きましょう。」

 

「八重樫さん、遠藤君は太田君達と食べ歩きに出たみたい。野村君にも遠藤君を見つけたら拠点の周囲の警戒を頼むように言っておいた。」

「わかったわ、南雲君、まだ警戒は解かないのね?」

「うん、確定するまでは万が一に備えないと…」

「そうね、油断は禁物よね。私は香織達と一緒にいて警戒しておくわ」

 

「園部さん、食事の準備はどう?」

「ん?南雲?もうちょっと待ってて。もうすぐあったまるから。」

「香織からキッシュを混ぜられないか聞いてきてくれと頼まれたんだけど…できる?」

「それなら簡単だよ。すぐやるね!」

「ありがとう、何か手伝う事ある?」

「このぐらいの量なら大丈夫よ?南雲もやる事あるでしょう?」

「うん、そろそろ孤児院に向かったニート副長と迷宮入り口に向かったキーマさんが戻って来ると思うから一階で待機してる。」

 

一階に降りたハジメと孤児院と迷宮入り口から戻って来たニート副長とキーマが鉢合わせになった。

 

孤児院の方はいなくなった子供は居ないとの事。

ただ子供を預けて迷宮に挑戦して戻って来なかった人はたった一組、ホセとリザの夫婦だそうで、三人の子供は冒険者ギルドの一時預かり施設に預けていったらしい。

 

「…キーマ。一応預かり施設に確認に行って来てくれ。」

「はっ!」

クゼリーは疲れたような表情でキーマに命じ、ハジメにあの娘達は孤児院に預けることになるだろうと告げた。

 

「あの場所で、両親をずっと待っていたのかな…?」

ハジメが呟くとクゼリーが報告書を見ながら答えてくれた。

 

「ホセ夫妻が子供達を預けて迷宮入りしたのが6日前、冒険者ギルドの一時預かり施設の預かり期間が3日までだから…少なくとも3日間はハジメ様達が見つけた場所にいたのでしょう…」

 

クゼリーは真面目でやや融通が利かないが、優しく親切で気配りできる女性なので南陽高校グループの面々から慕われるようになっていた。

 

クゼリーの方も異世界から来た価値観の違うハジメ達との交流で日本の価値観に感銘を受け、今ではかなり好感を抱いてるようだ。

 

「一度食堂に集まって中間報告した方が良いかな…。皆んなも何もわからないままだと不安だろうから。最終的な判断はキーマさんの調査待ちですけど。」

「そうですね、私も同席しましょう。様々な手続きも手配できますので。」

「ありがとう、クゼリーさん」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

外に遊びに行っていた連中も全員帰ってきたので二階の食堂でクゼリーより中間報告が皆に伝えられた。

 

「そういう事情だったのですか…」

愛子先生は悲しそうに呟いた。

 

「…この子達、ずーっとお父さんとお母さんを待っていたんだ…」

香織もショックを受けたようだ。

 

(香織ならこの子達が安全に暮らせると納得するまで面倒をみるだろうな…僕も同じ思いだし…そうなると孤児院かここだけど…)

「香織…」「ハジメ君…」

お互い同時に声をかけて、お互い同じ思いを持っている事を悟った。

「やっぱり孤児院かな…」

「うん、まだキーマさんの報告待ちだけど孤児院が一番安全だと思う。」

 

「それにしても…子供を残して命をかけて迷宮に挑むかしら…?」

雫はやや納得し難い表情を浮かべ、疑問を口にした。

 

「冒険者と私達騎士団の価値観が違うのでハッキリとは言えませんが…明日死ぬか知れない冒険者にとって愛する人との子供をどんな形でも未来に残したいと思っていたのかも知れません…」

クゼリーは少し考えた後続きを話しはじめた。

「私達の世界では、まず家を守る事が優先で必要とあれば子供を捨てる事すらあります。子供を成人するまで責任を持って育てる、という日本の価値観は私の憧れなのです。」

 

クゼリーの話は香織、雫、優花、綾子、奈々、妙子、真央にとって深く考えさせられる内容だった。

 

特に香織と綾子はこのトータスではいつでも子供を産める状態なので、子供を産み育てる事に真剣に考えさせられていた。

もし今子供を作ったとして…これから始まる戦争に巻き込んでしまうのではないか…

日本に帰った時戸籍など取得して、安心して子育て出来るのだろうか…

 

色々議論しているうちにキーマが戻ってきて、3日前に一時預かり施設を子供達三人が逃げ出してしまった事が確認された。 

 

未だに寝ている子供達を孤児院の人達に預けて一件落着…とはいかなかった。

 

その答えがわかるのはまだ先の事になる。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「子供達は孤児院で保護して下さるそうです。とりあえず安心ですね?」

愛子先生は少し引っかかるものを感じながら皆んなに告げた。

 

「そうですね。ご両親が亡くなっていたのは残念でしたけど、一応の決着はつきました…」

答える雫もどこか納得していない様子。

愛子と雫が何か引っかかるものを感じた理由はハジメが考えこんでいるからだ。

 

クゼリーもハジメの洞察力には信頼を置いている。

「ハジメ様?何か引っかかる事でもあるのですか?」

「クゼリーさん、冒険者ホセさんとリザさんの情報ってわかりますか?」

「今手元に情報はありませんが冒険者組合に聞けばわかると思います。」

「南雲君、どうしてその情報が欲しいの?」

「…明後日大迷宮に挑むでしょ?ひょっとしたら遭難してる二人を助ける事も出来るかも知れないし…」

 

雫はハジメが色々な思考の末に発言している事を知っている。

当然、今の発言以外にハジメの真意がある事も…

ハジメの洞察力や思考能力に雫は絶大な信頼を寄せていたのでハジメの真意を聞く事によって最適なサポートをするつもりでいた。

雫はハジメへの恋心を自覚するようになってから、香織とは違ったサポートを行いハジメの力になりたいと願うようになっていた。

(正妻は香織だけど…でも南雲…ハジメさんを想うぐらいは許してね…け、結婚はしなくてもハジメさんの子供は…欲しいな…)

雫はそんな事を思っていたりする。

雫の心の中でハジメさん呼びになってるのは雫の可愛いらしいところだろう。

 

「清水君、あの三人の子供達、支配とか洗脳とかされてる可能性ありそうかな?」

「えっ?」

全員がハジメに注目する。

「香織が治療中に気づいたんだけど、三人がそれぞれ似てなかった…だよね?」

「えっ…うん、姉妹の割に似てないかなー何て思ったけど…」

「それを聞いてちょっと引っかかっていたんだ…スパイ小説の鉄板でスパイが偽装身分として偽りの家族を仕立て潜入するっていう…でも大迷宮には犯罪者でもない限り入れる訳だから…わざわざ偽装家族なんか作る必要もないし…」

 

「南雲君、仮にスパイだとしてどうして偽装家族なんか作るの?」

「多分理由があるとしたらこの町に侵入する事が最大の目的…な筈。仮にスパイが誰かを断定するなら妻のリザさん…かな?(仮)旦那さんと子供達を洗脳または支配したと考える方が自然…だと思う。」

 

「…ハジメ様、何故リザがスパイだと断定できるのですか?」

クゼリーはハジメの頭脳が良すぎて結論に至る過程を説明し忘れる癖がある事に気づいていたので説明を求めた。

 

「この町に入る時や冒険者ギルドに登録する際身分を厳重に調べられるのは旦那さんの方で奥さんの方は余り調べられない。まして子供がいるなら家族と思われ、チェックも弛む…っと…あくまで仮定だよ?本当にそうかどうかは調べないと分からないよ?」

 

「ニート!すぐに冒険者ギルドに行き5人の様子をわかれば聞いてきて!キーマは門番の所に行き5人家族の冒険者を覚えているか確認とってきて。また町に入る際の入場チェックの様子も調べてきて!」

「「はっ!」」

クゼリーは思い過ごしだと思いながらもハジメへの信頼の方が勝りニートとキーマに調査を命じた。

 

この決断が後にホルアドの町を救う事になるが、まだこの時それを知る者は誰もいない…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ふぅ〜休日なのにドタバタしちゃったね…」

「そうだねー。でも…子供は大切に育てたいと思ったよ…」

 

子供を保護した一件が一応の解決に至り、ハジメと香織は一緒にお風呂に入りながらイチャイチャしていた。

 

「うん…ハジメ君の子供は欲しいけど…やっぱり日本で産んで育てたいかな…」

「戦争に巻き込まれかけている今、安全な場所は多分どこにも無いだろうし…」

「一つだけあるよ?」

「え?何処?」

勝ち誇ったように香織はいいハジメに抱きつく。

「ここ♡」

 

ハジメと香織の休日の夜のお勤めはとても濃厚になるのだった…

 

 

 

 

 




辻さん「ねえ、南雲さん、どうして扉をノックされただけで南雲君が来たってわかったの?」
香織「そんなの簡単だよ?廊下を歩く足音でハジメ君だってわかったんだ〜」
辻さん「え"…?」
香織「愛があれば簡単だよね〜♪」
辻さん(え?愛ってそんなにハードル高いの…?私…まだ野村君への愛が足りないのかな…)
野村との愛を深める為、静かに闘志を燃やす辻さんだった…

辻さん、香織さんは特殊です。決して真似しないように…


さて、題名は休日なのに皆んな良く働いてくれた。(=゚ω゚)ノ

全然ありふれていない休日でした…

多分バレてるとは思いますが伏線話です。(*ΦωΦ*)




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第十三話 ありふれた大迷宮

大迷宮は果たしてありふれているのだろうか…?

問題ない。トータスには7つもある。

名前  玉井淳史
性別  男
身長  175cm
体重  72kg
年齢  18歳
誕生日 7月9日
学校  南陽高校
解説  ハジメのクラスメイト
宮崎奈々の恋人。
園部優花、宮崎奈々、菅原妙子、相川昇とは小学校時代からの友人。
天乃河の暴力にやられた一人。
原因を作った檜山と天乃河を恨んでいた。
ハジメとはケモ耳に関して熱く語り合う仲。
香織と色々しているハジメを教祖と仰ぎ相川昇と共に夜の秘奥義を教わろうとしている。

名前  宮崎奈々
性別  女
身長  160cm
体重  47kg
年齢  17歳
誕生日 10月10日
学校  南陽高校
解説  ハジメのクラスメイト
玉井淳史の恋人。
園部優花、菅原妙子、玉井淳史、相川昇とは小学校時代からの友人。
天乃河の暴力事件の時、先生を呼びに行っていて難を逃れる。
が、親友の優花、妙子に暴力を振るった天乃河と檜山を恨んでいる。
ケモ耳マニアの玉井の為に猫耳をつけたりと、結構ラブラブな感じである。
次に初体験するのは玉井、宮崎ペアだと仲間内で囁かれている。


昨日天乃河達と合流したハジメ達は今朝【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。

メルド団長が野太い声で大迷宮に挑む際の注意点を話していた。

 

「今日の訓練の目的は地下20階に行き地下21階への階段を見つけたところで終了、地上へと帰還する。お前達の実力なら魔物に関しては大丈夫だろう。一番気をつけなければならないのはトラップだ。トラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できる。ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。気をつけるポイントは指定された場所に行かない事。それと迷宮内での私語の禁止。これは俺の指示や警告が聞こえなくなる事を防ぐ為だ。なるべく静かに行動する様に!」

「はい!」

「それと重要事項が一つ。檜山、近藤、斎藤、中野の4名は犯罪行為を繰り返した為昨日処罰が決定した。最大の罪は貴族の老婦人を蹴飛ばして怪我をさせた上金品を奪った罪だ。本来なら斬首に相当するが勇者の従者という身分を鑑みて、鉱山送りになった。死ぬまでか、又はエヒト様がお前達を故郷に送還するまで強制労働だ。」

 

驚く勇者パーティーの面々。

南陽高校のメンバーは特に何の反応もない。

 

「それでは出発する。ハジメ、香織、雫の三名は前線に出ないように!」

 

メルドは先頭に立ち迷宮へと入って行く。

 

メルドは昨日ハジメ達と合流した後の驚きを思い返していた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜

 

「派生技能が14? 南雲ハジメがか?」

メルドの驚愕をクゼリーは面白そうに見ていた。

何故ならクゼリー自身驚愕したのだから…

「はい。戦闘に適したスキルこそありませんが組み合わせる事によって恐ろしい程の強さを発揮します。また、ホルアド組は全員派生技能が一つはありますので、ホルアドでの修業は大成功と言えます。」

 

メルドは信じられなかった。

人類最強格と言われている自分ですら4個しか発生していないのに…

「南雲ハジメはどこにいる?直接見てみたい。」

「今なら訓練所にいると思いますが…」

「よし!案内してくれ!」

 

メルドとクゼリーが訓練所に行く途中檜山達の声が聞こえてきた。

 

「お前が南雲ハジメか?噂じゃ一般人と同然の無能野郎だってな?」

「君たちは誰だい?」

「ちっ、俺は檜山だ。てめぇは今日から俺のパシリだ!」

「檜山、コイツザコいクセに不満そうだぜ?」

「ちょっと俺らで鍛えてやるか!」

檜山、中野、近藤の三人が嘲笑っていた。

 

「…アイツら…」

メルドは頭を抱えた。

訓練の間も一般兵を暴行したり周りに迷惑かけまくっていた檜山達だが…

既に各方面から処罰を求める陳述がメルドに届いていたのだ。

生産職に力を誇示する馬鹿にどう処分をつけるか迷っているとハジメの声が聞こえてきた。

 

「遠慮するよ。何で僕より弱い君達のパシリをしなければならないの?」

「あん、てめぇは何を言ってるのかわかっているのか?雑魚錬成師」

「生意気だぞ?お前の白崎や八重樫、オマケに園部も俺ら4人で回して可愛がってやるよ!ははは…」

「園部は牝犬だ!ははははは…は?」

「生意気なのは君達の方だろ?四人がかりでなければ錬成師に喧嘩も売れない雑魚がいきがるな!!」

 

ハジメの怒号に檜山達がびびった瞬間、斎藤が数メートル後方に吹き飛ばされた。

そしてまるでマシンガンの掃射のような攻撃が斎藤に降り注ぐ。

 

檜山、近藤、中野は一歩も動けなかった。

そしてどうしていいのかわからずに途方にくれてしまった。

 

一番弱くて言う事を聞きそうな奴を選んだのに怯えてくれないのだ。

 

ハジメは激怒していた。

香織と雫と優花を回す発言はハジメの逆鱗に触れるものだった。

穏やかな一面は一切なくなり尋常ではない殺気を纏いはじめた。

 

何も出来ず佇んでいる檜山達にハジメは一切の手加減をしなかった。

 

次に吹き飛ばされたのは中野だった。

斎藤と同様にマシンガンの掃射のような攻撃をくらい泣き叫びながら命乞いをするも気絶するまで容赦なく打ち込んだのだ。

 

「……〜〜〜」

檜山は完全にびびってしまっていた。

何せ一人で喧嘩した事がないのだ。

いつも気弱な奴を選んで脅してるだけの惨めな男だった。

抵抗されたら四人がかりでフクロにして言う事を聞かせていたのだったのだが…

 

ハジメは槍を構える近藤を睨みつけた。

 

「………〜〜〜〜」

真っ青な顔して震える近藤。

恐怖で震えているのだった。

 

そして近藤も斎藤、中野同様にマシンガンの掃射のような攻撃を受け、泣きながら命乞いをするも気絶するまで容赦なく攻撃した。

 

メルドは影から見ていて驚愕を隠せなかった。

ハジメの攻撃がメルドにも理解出来なかったのだ。

そして何よりハジメの激怒だ。

「ハジメ様は優しい性格なので相手を傷つけるような攻撃はしません。ですが香織様や、ハジメ様の友達を狙ったら豹変します。」

「今みたいにか?」

「はい。」

 

「おいおい、ハジメ?俺達の分も残しておいてくれよ」

永山パーティーが檜山の右横からでてきた。

「全くだぜ、せめてその腰抜け野郎は俺達に殴らせてくれ」

太田パーティーも檜山の背後からでてきた。

「お前らだけがコイツの被害者じゃないぜ?俺たちにもやらせてくれ」

園部パーティーの相川も檜山の左横からでてきた。

 

香織と雫と優花もハジメの後ろから現れ、ハジメを落ち着かせるように抱きしめた。

「ハジメ君、大丈夫だよ?ハジメ君の側にずっといるから安心して」

「私も南雲君の側にいるから…だから落ち着いて」

「南雲の側にいれば…守ってくれるよね?だから落ち着いて…」

三人の顔は真っ赤になっていた。

ハジメの激怒が自分達に乱暴を働くと言った瞬間に起こったからだ。

嬉しくてしょうがないのだ。

 

そして香織と雫と優花は気付いていた。

激怒したハジメではあるが、攻撃は減速加速結界内より震動波砕を小石にかけ、打ち込んだだけ。

近藤、斎藤、中野は気絶しただけで怪我すらしていない事を。

 

「ひっ……〜〜」

檜山は完全に包囲されていた。

それも自分を憎悪する連中に…

 

「そこまでだ。」

メルドはそろそろ仲裁に入るべきだと感じていた。

「メ、メルド団長〜き、聞いてください、コイツら集団で俺らに暴行を…」

檜山はチャンスだとばかりにメルドに泣きつく。

これでこの場を逃れられると…

 

しかし…

「檜山、近藤、斎藤、中野。お前達を捕縛する。罪状は今更いい訳するなよ?

南雲ハジメへの集団暴行、および南雲香織、八重樫雫、園部優花への暴行予告だ。クゼリー、コイツらを牢に入れておけ!」

 

「はっ!」

 

「ま、待ってください、まだ何もしていな…」

「軍隊はな、命をかけて敵と戦うのだ。敵と戦う筈の仲間に襲われるなんて知ったら誰も戦場に立たん。お前達の行動は王城にいる頃から問題だらけだ。片腕を切り落とし鉱山で死ぬまで強制労働だ!」

 

こうして檜山、近藤、中野、斎藤の4人は片腕を切り落とされた挙句、鉱山に送られ強制労働に就く事になった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

その日の夜、ハジメは永山達に叱られていた。

本来なら、檜山がハジメに絡んできたら全員で包囲する予定だったのだが、突然ハジメが激怒して三人を叩きのめしてしまったからだ。

「俺たちも一発ぶん殴りたかった…」

永山にジト目を向けられたハジメは、香織が惚れ込んだ土下座で謝るのだった…

(まぁ南雲さんに乱暴働くと言われたら怒るわな…)

永山達は納得はしていたのでハジメにロケットパンチの製造という密約を結ぶ事でお開きになった。

永山も太田もロマンを愛する男だった…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

メルドはハジメの攻撃力に驚いていたが実はハジメの攻撃は相手を気絶させる事が精一杯だったのだ。

 

つまり檜山達がびびってしまったから恐ろしい攻撃に見えただけであって実際は気絶が精一杯の貧弱な攻撃だったのである。

 

メルドは頭を振り迷宮内に入っていく。

 

迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁だった。

 

縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

 

と、その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

 

正面に立つ光輝達――特に前衛である蒼華の頬が引き攣っている。やはり、気持ち悪いらしい。

 

間合いに入ったラットマンを光輝、蒼華、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、メガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

 

光輝は純白に輝くバスタードソードを視認も難しい程の速度で振るって数体をまとめて葬っている。

 

彼の持つその剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、お約束に漏れず名称は〝聖剣〟である。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というには実に嫌らしい性能を誇っている。

 

龍太郎は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

 

蒼華は、聖騎士らしくレイピアと盾のスタイルで盾で敵の攻撃を受け流し、その隙にレイピアで敵を切り裂く。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどである。

 

ハジメ達が光輝達の戦いぶりを見学していると、詠唱が響き渡った。

 

「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」

 

 二人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

 

気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

メルド団長の言葉に鈴と恵里の魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調よく階層を下げて行った。

 

そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。

 

現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

 

ハジメ達は戦闘経験こそ少ないものの、全員がチート持ちなので割かしあっさりと降りることができた。

 

もっとも、迷宮で一番恐いのはトラップである。場合によっては致死性のトラップも数多くあるのだ。

 

従って、ハジメ達が素早く階層を下げられたのは、ひとえに騎士団員達の誘導があったからだと言える。メルド団長からも、トラップの確認をしていない場所へは絶対に勝手に行ってはいけないと強く言われているのだ。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

メルド団長のかけ声がよく響く。

 

永山パーティー、太田パーティー、園部パーティーも順調に訓練をこなしていく。

 

しかし一番目を引いたのはハジメと香織、雫の三人の後方支援組だ。

 

ハジメが震動波砕付きの小石を連射し、弱った敵を雫の剣で倒す。

複数の敵には香織の魔法で足止めしハジメの援護射撃、雫が仕留めるスタイルは洗練されていた。

何よりもハジメの錬成が信じられないほど効果的に働いていた。

 

素早い敵にはハジメが錬成で地面をデコボコにし動きを封じたり、大きめな敵にはハジメは足元を柔らかくして地面に沈み込ませて動きを封じる。

 

騎士団員達が感心したようにハジメ達を見ている事には気がついていない。

 

実を言うと、王都から光輝達と同行した騎士団員達はハジメ達には全く期待していなかった。

 

騎士団員達としては、ハジメ達が碌に使えもしない剣で戦うと思っていた。ところが実際は、錬成を利用して確実に動きを封じてから、雫が止めを刺すという騎士団員達も見たことがない戦法で確実に倒していくのだ。

錬成師は鍛冶職とイコールに考えられている。

故に、錬成師が実戦で錬成を利用することなどあり得なかった。

 

小休止に入り、ハジメの横に座りながら香織は微笑んでいた。

 

「香織、なに南雲君と見つめ合っているのよ? 迷宮の中でラブコメなんて随分と余裕じゃない?」

 

からかうような口調に思わず顔を赤らめる香織

 

「もう、雫ちゃん!私はただ、ハジメ君の側にいたいだけだよ!」

「それがラブコメしてるって事でしょ?」

と、雫は追撃した。

 

そんな様子を横目に見ていたハジメは、ふと視線を感じて思わず背筋を伸ばす。

ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線だ。

今までも教室などで感じていた類の視線だが、それとは比べ物にならないくらい深く重い。

その視線は今が初めてというわけではなかった。

今日の朝から度々感じていたものだ。

視線の主を探そうと視線を巡らせると途端に霧散する。

朝から何度もそれを繰り返しており、ハジメはいい加減うんざりしていた。

 

(天乃河光輝か…)

 

深々と溜息を吐くハジメ。

香織もこの視線に気付いたようだ。

「もう天乃河君とは来たくないね…」

「本当ね。これで皆んなを率いるつもりだなんて…」

ハジメと香織と雫は溜息をついた。

 

休憩が終わり一行は二十階層を探索する。

 

迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。

 

現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もないはずだった。

 

二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。

この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

 

そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだ。

神代の転移魔法の様な便利なものは現代にはないので、また地道に帰らなければならない。

一行は、若干、弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

 

すると、先頭を行く光輝達やメルド団長が立ち止まった。

訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。

どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メルド団長の忠告が飛ぶ。

 

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。

そして胸を叩きドラミングを始めた。

どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

メルド団長の声が響く。

光輝達が相手をするようだ。

飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。

光輝と蒼華が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

 

龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

直後、

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。

ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。

魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

 

まんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。

 

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ鈴と恵里の後衛組に向かって投げつけた。

見事な砲丸投げのフォームで! 咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が二人へと迫る。

 

鈴と恵里が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。

避けるスペースが心もとないからだ。

 

しかし、発動しようとした瞬間、鈴と恵里は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 

なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。

空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて二人へと迫る。

その姿は、さながらル○ンダイブだ。

しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。

恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

 

が、ロックマウントは突然吹き飛ばされた。

そしてマシンガンのような掃射がロックマウントに浴びせられた。

 

蒼華が後ろを振り返るとハジメがロックマウントに何か銃撃のような掃射を浴びせていた。

 

「南雲君、やるじゃない。ピストルでも作ったのかしら?」

 

蒼華が銃撃らしき掃射を受け硬直したロックマウントを切り捨てる。

 

「ありがとう、南雲君!」蒼華と恵里がお礼をいう。

 

そんな様子を見てキレる若者が一人。

正義感と思い込みの塊、我らが勇者天乃河光輝である。

 

「貴様……よくも鈴と恵里を……許さない!」

 

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。

彼女達を怯えさせるなんて!

と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする光輝。

それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。

逃げ場などない。

曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。

「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで蒼華達へ振り返った光輝。

蒼華達を怯えさせた魔物は自分が倒した。

もう大丈夫だ!と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

 

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。

「ハジメ、ロックマウントとミストルシーバーを貯蔵庫にしまってくれ!後で魔石の取り出しと錬成素材になるからな!」 

メルド団長の声に

「わかりました」

ハジメはロックマウントとミストルシーバーを貯蔵庫にしまった。

 

その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。

まるでインディコライトが内包された水晶のようである。

香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。

特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。

求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……」

 

香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。

そして、ハジメに視線を向け手を繋いだ。

 

「材料はグランツ鉱石にしようか?」

ハジメは香織に囁いた。

「…えへへ…で、でもハジメ君が作ってくれる物なら何でも…」

 

雫は(…ハジメさんから…指輪か…私にも貰えないかな…)

うっとりと妄想する雫。

 

「団長!罠の反応です。」

「そうか、お前達、よじ登ろうとするなよ?」

「はい!」

 

だがメルド団長はカメレオントルーバという魔物の存在を見落としていた。

 

カメレオントルーバは地球でいうところのカメレオンだ。

周囲に擬態する能力はロックマウントを遥かに上回る能力をもつ。

 

突然優花の近くに姿を現したカメレオントルーバが優花に襲いかかったのだ。

「きゃあーーーー!」

 

優花の悲鳴は、しかしすぐ後に聞こえた銃撃のような音に優花はすぐに冷静さを取り戻した。

「ハジメ!」

優花は泣きそうな、しかし嬉しそうな表情で呟く…

 

ハジメの震動波砕付き小石の連射で吹き飛ばされたカメレオントルーバは光輝の近くに吹き飛ばされた。

「ぐるぁぁぁぁぁーー」

 

光輝を無視するかのような魔物の態度に光輝はドス黒い感情に支配されていた。

何故あんな貧弱な攻撃に香織と雫が目を輝かせるのか?

 

自分の力を見せつけ、本来自分に向けられる筈の称賛を取り戻すのだ!と

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

 

「あっ、馬鹿者!さっきの忠告をもう忘れたのか!!」

 

光輝の攻撃によりカメレオントルーバは吹き飛ばされた…

罠のグランツ鉱石に向かって…

 

メルドは青ざめて退避を叫ぶ。

「しまった!全員退避ーーー!」

 

ハジメが咄嗟にカメレオントルーバの死体を貯蔵庫にしまったが間に合わなかった。

吹き飛ばされたカメレオントルーバがグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。

グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。

 

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。

まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

ハジメは香織と雫を抱きしめて転移先に何が起きようとも備える覚悟を決めていた。

 

 




檜山達の罪状は王城で新兵暴行、恐喝、巫女暴行を行なっており各方面から処罰を求める陳述がメルドに大量に届いていたのでした。
恐喝した中に貴族の老婦人がいて本来なら斬首モノなのですが神の従者という身分鑑みて片腕を切り落とし強制労働という罰に落ちつきました。
檜山達に力をつけさせてしまったら処罰も処分も出来なくなるという危機感からの処遇で、迅速すぎる処罰になるのは仕方なかったと言えます。
光輝はその頃、ホルアドの市長に招かれたパーティーで主役となっていました。

ハジメの震動波砕付き小石を連射する技は片手に小石を20個づつ持ち親指でハジキ飛ばす技。減速加速結界内から撃てば威力も跳ねあがる。
今のハジメの必殺技です。
他にないし…
命中率は最適化を繰り返したおかげで100%になっています。
射程距離はおよそ200メートル。
小石はBB弾程度の大きさで震動波砕を付与した状態で貯蔵庫に沢山入ってます。


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第十四話 ありふれたベヒモス

罠にハマりベヒモスとの強制戦闘…うん、日常的にありふれてるよね!

…な訳ないか…♪~( ̄ε ̄;)ちょっと無理ある題名です。

名前  相川昇
性別  男
身長  173cm
体重  71kg
年齢  17歳
誕生日 11月5日
学校  南陽高校
解説  ハジメのクラスメイト
菅原妙子の恋人
園部優花、玉井淳史、宮崎奈々、菅原妙子とは小学校時代からの友人。
玉井と共にハジメを夜の破壊神と呼び崇め奉っている。
巨乳マニアであるが妙子の前では決して口にしない。
それは命に関わるからだ。

名前  菅原妙子
性別  女
身長  158cm
体重  46kg
年齢  18歳
誕生日 5月17日
学校  南陽高校
解説  ハジメのクラスメイト
相川昇の恋人。
園部優花、宮崎奈々、玉井淳史、相川昇とは小学校時代からの友人だ。
恋人の相川の巨乳マニアはバレている。
今は野放しにして置いて、ボロを出した時にキツイ一撃を喰らわせる予定だ。
ハジメのクラスのカップルの中で一番スリリングなカップルと呼ばれている。



魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 

部屋の中に光が満ち、ハジメ達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

ハジメ達は空気が変わったのを感じた。 

次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

ハジメは香織と雫の下敷きになりながらも周囲を見渡す。

クラスメイトのほとんどは尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

どうやら、先の魔法陣は転移させるものだったらしい。

現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。

 

ハジメ達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。

ざっと百メートルはありそうだ。

天井も高く二十メートルはあるだろう。

橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。

まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

 

橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。

ハジメ達はその巨大な橋の中間にいた。

橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

雷の如く轟いた号令に、永山、太田、優花が立ち直り撤退を開始しようとした。

 

しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。

更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

――まさか……ベヒモス……なのか……

 

小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。

空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。

その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。

 

しかし、数百体のガイコツ戦士より、反対の通路側の方がヤバイとハジメは感じ、即座に最善と思える撤退を指示した。

 

「永山君、太田君のパーティーで骸骨の正面に立ち前線を作って!優花達はその後方から援護射撃。香織は回復専念。雫は危機に陥った所へのピンポイント援護。僕は錬成を使って骸骨達を奈落に落とす。落ち着いて確実に進もう。」

 

「!わ、わかった。健太郎、浩介行くぞ!真央と綾子は援護してくれ!」

永山が即座に反応して前線を作る。

「!おう!隆次、健一、幸利、カズト、俺たちも行くぞ!」

一瞬遅れて太田も反応して前線を作る。

「私達は攻撃を開始するわ、奈々、妙子、相川、玉井、行くわよ!」

優花も立ち直り攻撃を開始する。

 

橋の真ん中で骸骨に囲まれて引く事もできない状況で後の怪物に襲われたら全滅しかない。

ハジメが恐れた乱戦は何とか避けられた。

 

メルドは一瞬にして戦列を組なおし撤退戦を指揮するハジメに驚愕していた。

ハジメの状況判断力と指揮能力はメルドにとって嬉しい誤算だ。

 

「アラン!ハジメの指揮下に入り生徒達をサポートして階段前までの通路を確保しろ!」

「はっ!」

 

「俺はベヒモスを抑える。なるべく迅速にたのむぞ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!奴を食い止めるぞ!」

 

 

ハジメ達の背後に出現した十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が威容を放っていた。

 

もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。

ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付くが……

 

メルド団長が呟いた〝ベヒモス〟という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

「光輝、お前達も早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あれはベヒモスだ。今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる光輝。

 

どうにか撤退させようと、再度メルドが光輝に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。

このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

 

そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

 

二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。

一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。

純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ!

 

衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。

橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。

撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 

トラウムソルジャーは三十八階層に現れる魔物だ。

今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。

前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配。

だが永山パーティー、太田パーティー、園部パーティーは即座に態勢を立て直した。

「後方はメルド団長がおさえてくれている。僕達のやるべきことは階段にたどり着き団長の撤退を援護する事。大丈夫。落ち着いて目の前の敵を倒して前進する事だけに集中して!今の余力なら充分逃げきれる!」

ハジメの落ち着いた声を聞くと皆不思議と恐怖感が薄れていく。

 

「俺も前線に出る。ハジメ!指揮を頼む。」

アランがハジメの横をぬけ前線に斬り込んでいった。

 

だが倒したと思ったトラウムソルジャー一体が突然起き上がり近くにいた優花に剣を振りかぶり斬り下ろそうとしていた。

 

「あ」

 

そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

 

ハジメ…助けて…―優花がそう感じた次の瞬間、トラウムソルジャーはハジメのキーゼルシーセンによる掃射で橋の下に吹き飛ばされていった

 

(ハジメが…ヒーローのタイミングで助けに来てくれた…)

優花は今の危機的状況を忘れて駆け寄ってくるハジメを見つめた…

 

「優花!大丈夫?怪我は?」

ハジメは優花の手をとり、立たせながら聞いた。

まだ呆然と見つめてくる優花の腰に手を回し、優しく抱き寄せ頭を撫でる…

「まだ怖い状況だけど確実に階段に近づいている。もうちょっと頑張れるかな?」

優花の目を見つめながらハジメは優しくささやく。

「は、はい…ハジメ…まだ怖いけど…頑張れ…ます……」

うっとりしながら優花は答える。

優花の恐怖や不安が一瞬にして晴れていく…

「もう大丈夫!ハジメ、私のこと、見守っててね!」

元気を取り戻した優花が戦列に復帰する。

 

ハジメは永山の後ろに移動し錬成を開始する。

橋の中央が盛り上がっていき両端までの坂が出来上がっていた。

トラウムソルジャーの体勢を崩し左右の橋の端から落下していく。

瞬く間に地面は元どおりになり20mほどだが無人になる。

「前進!この分だと余裕を持って逃げきれる。みんな慌てずに先に進もう!」

「「「「「おう!!!」」」」

 

雫は太田パーティーと永山パーティーのピンポイント援護に徹していた。

休む暇もないが皆の士気は高い。

 

ハジメの充分逃げきれる、落ち着いて行こうの声が雫の耳に届く。

雫はおかしくなって微笑んだ。

まだ階段まで20m近くある。

後ろにはベヒモスが、恐怖を撒き散らしている。

それなのに…

「全く怖く感じないわ…ありがとう…ハジメさん…」

普段は心の中で呼んでいる言葉を口にする雫。

顔がみるみる赤くなるが、不思議と力が湧いてくる。

雫の剣技はさらに冴え渡るのだった。

 

香織も雫と同様、フル稼働状態だった。

それでも香織に一切の不安も恐怖も焦りも無かった。

ハジメがそばにいるのなら、香織に怖い物などない。

大の苦手なお化け屋敷もハジメがそばにいるなら入れたくらいだ。

「香織、後10mだ!もう少し頑張ろう!」

「はい、ハジメ君!」

笑顔でハジメに答える。

「チュッ」

ハジメが香織の頬にキスをした。

そして前線組の支援に向かっていった。

香織は決意した。

今日の夜は奈々ちゃんに聞いた…お口でハジメ君を癒そうと…

ハジメ君の為ならなんだって出来る!謎の決意を固めた香織だが…

香織はハジメを寝かさないつもりなのだろうか…?

それはともかく、香織の回復は尋常じゃないくらい冴え渡るのであった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ハジメ達がトラウムソルジャーに対して奮戦している中、ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。

 

障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。

障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。

既にメルド団長も障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。

 

「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」

「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。

それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。

 

しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の光輝達には難しい注文だ。

 

その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、光輝は〝置いていく〟ということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。

 

まだ、若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっているようである。

戦闘素人の光輝達に自信を持たせようと、まずは褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。

 

「天之河君、団長さんの言う通りにして!駄々こねてないでいい加減撤退しなさい!」

 

蒼華は状況がわかっているようで光輝を諌めようとしたが

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

「龍太郎……ありがとな」

 

しかし、龍太郎の言葉に更にやる気を見せる光輝。

それに蒼華は舌打ちする。

 

「駄々こねるガキの友達はゴリラ以下の知能しか持たない脳筋か!」

「蒼ちゃん……」

 

苛立つ蒼華に心配そうな鈴。

 

その時、ハジメの声が蒼華達に届いた。

「団長!階段までの通路を確保しました。撤退して下さい。魔法部隊で援護します!」

 

「南雲くん!?助かるわ!」

蒼華は撤退の可能性を作ったハジメに感謝し、後ろを振り返ってみた。

階段までの敵は倒されていて今なら安全に撤退出来る。

 

「よくやったハジメ!よし、お前たち、撤退戦に移るぞ!光輝!わがまま言わずに撤退しろ!お前たちが居ては逃げきれない。」

 

「っ〜メルド団長!俺はまだ…」

「下がれぇーー!」

 

まだ戦える! そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。

 

舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。

 

そこには、倒れ伏し呻き声を上げる団長と騎士が三人。

衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。

光輝達も倒れていたがすぐに起き上がる。

メルド団長達の背後にいたことと、ハジメの石壁が功を奏したようだ。

 

「ぐっ……龍太郎、蒼華、恵里、鈴、時間を稼げるか?」

 

光輝が問う。

それに苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る龍太郎。

団長たちが倒れている以上自分がなんとかする他ない。

 

「やるしかねぇだろ!」

「……疫病神め!」

 

龍太郎がベヒモスに突貫する。

蒼華がメルド団長達を治療、鈴が光輝、メルド団長、騎士三名を聖絶で守る、

恵里が攻撃魔法を撃つ。

 

光輝は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。

 

「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――〝神威〟!」

 

詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。

 

先の天翔閃と同系統だが威力が段違いだ。

橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。

 

龍太郎は、詠唱の終わりと同時に既に離脱している。

ギリギリだったようでボロボロだ。

この短い時間だけで相当ダメージを受けたようだ。

 

放たれた光属性の砲撃は、轟音と共にベヒモスに直撃した。

光が辺りを満たし白く塗りつぶす。

激震する橋に大きく亀裂が入っていく。

 

「これなら……はぁはぁ」

「はぁはぁ、流石にやったよな?」

「だといいけど……」

 

龍太郎が光輝の傍に戻ってくる。

光輝は莫大な魔力を使用したようで肩で息をしている。

 

先ほどの攻撃は文字通り、光輝の切り札だ。

残存魔力のほとんどが持っていかれた。

背後では、治療が終わったのか、メルド団長が起き上がろうとしている。

 

そんな中、徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われる。

 

その先には……

 

無傷のベヒモスがいた。

 

低い唸り声を上げ、光輝を射殺さんばかりに睨んでいる。

と、思ったら、直後、スッと頭を掲げた。

頭の角がキィーーーという甲高い音を立てながら赤熱化していく。

そして、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎった。

 

「ボケッとするな! 逃げろ!」

 

メルド団長の叫びに、ようやく無傷というショックから正気に戻った光輝達が身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始める。

そして、光輝達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。

 

光輝達は、咄嗟に横っ飛びで回避するも、着弾時の衝撃波をモロに浴びて吹き飛ぶ。

ゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、満身創痍の状態だった。

 

どうにか動けるようになったメルド団長が駆け寄ってくる。

他の騎士団員は、まだ蒼華による治療の最中だ。

ベヒモスはめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っている。

 

「お前等、動けるか!」

 

メルド団長が叫ぶように尋ねるも返事は呻き声だ。

先ほどの団長達と同じく衝撃波で体が麻痺しているのだろう。

内臓へのダメージも相当のようだ。

 

「今だ!撃てーーー」

永山が叫ぶと同時に園部パーティーからの遠距離攻撃がベヒモスに撃ち込まれる。

 

「よし!ずらかるぞ!」

太田、河原、佐久間が騎士三名を連れて後退する。

蒼華も団長と共に撤退を開始。

光輝と龍太郎を永山と野村が回収。

 

「ハジメの奴、随分こき使ってくれる!」

太田の愚痴だがなんだか楽しそうだ。

 

階段まで必死に走るがベヒモスも当然無傷で追ってくる。

再び頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎっていた。

 

メルド達の手前で再び跳躍の姿勢を取った時ハジメの号令が響いた。

「優花!今だ!」

「はい!」

優花の投げた槍はハジメの減速加速結界を通過した瞬間、爆発的な速度を得てベヒモスに突き刺ささる。

震動波砕付与の槍、[ロンギ○スの槍]がベヒモスに突き刺さると同時に凄まじい音を響かせた。

 

ベヒモスは跳躍の姿勢のまま横向きに倒れてしまった。

 

「早く撤退を、時間稼ぎにしかならない!」

ハジメの声にメルド達は我に返り再び走りだした。

 

充分逃げきれる!皆んなが確信をし…そして僅かに油断してしまった。

 

野村の元に清水が近づき龍太郎を二人がかりで運び、永山の元に篠原が近づき光輝を二人がかりで運んで撤退をしようとした時、事件はおきた。

 

光輝が呻き声を上げた瞬間

「俺はまだ戦える!」そう叫んで永山と篠原を振り解いた…筋力ステータス200で加減せずに振り抜いてしまい

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー」

篠原が橋の端近くまで振り飛ばされ、そのまま落下してしまったのだ!

 

「…えっ?」

ハジメは思わず呆然としてしまった…

それは周りにいたクラスメイト達も同じだった…

 

「――〝天翔閃〟!」

光輝が叫び再びベヒモスに天翔閃放つがやはりダメージを与えた様子はない。

それどころか目を回して倒れていたベヒモスを起こしてしまう結果になってしまった。

 

「この疫病神!もう起きるな!」

激怒した蒼華が本気で光輝を攻撃して気絶させた。

 

「カズトーーーーーーーーー!」

我に返った清水が慌てて叫ぶが返ってきたのは…

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

怒りに燃えるベヒモスの咆哮だった。

 

「全員撤退ーーーー!!階段を駆け上がれー!」

メルドは光輝を担ぎ階段を駆け上っていった。

ホルアド組は今の光輝を助けはしないと判断したからだ。

 

永山と太田が殺気を込めて光輝を睨みつけるが今は階段を駆け上がる事が先決だった。ハジメと香織と雫が殿になり階段を駆け上がる。

 

回復の使いすぎで体力の限界に来た香織をハジメと雫で支えて登る…

が、ベヒモスの怒りの突進が階段を破壊してしまったのだ。

ハジメ達の目の前が瓦礫で埋まる。後ろを振り返ると階段が崩壊していて降りる事も出来ない。

 

進退極まってしまったがハジメは壁の脇にある紋様に注目した。

 

ハジメの魔法陣の知識によればおそらく転移系だと思われる。

 

足下の階段もいつ崩れるかわからない今ハジメは決断した。

 

「香織、雫、地獄行きかもしれない転移陣がある。一緒に来てくれ!」

「「はい!」」

 

魔法陣が輝きハジメ達を包む。

そして訪れる浮遊感。

周りの景色が薄れていく中ベヒモスの角がハジメ達のいた足下に突きささるのがうっすらと見えた…。




と、言うわけで奈落に転移しまったハジメ、香織、雫の三人に、光輝によって落とされたオリジナル主人公 篠原カズト君。
カズト君の出番はもうちょい先かな?ハジメ、香織、雫と合流してから活躍しますので…
この件でホルアド組と光輝は決裂します。
どうなるかは次話をお楽しみに

キーゼルシーセン…ハジメが考えた小石を連発する技。技の開発より名前を考える方が時間かかったのはハジメの心に僅かに残っていた厨二魂の残滓だろうか…?


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第十五話 ありふれた内紛

現代日本でも何かあったら責任の押しつけ合いがはじまります。

そして内紛により矢面に立たされる人物は大体真面目な人物です。

天之河光輝が素直に反省して謝罪すれば、また違った未来が待っていたのかも知れません。

リーダーになりたがったりする割に他人に対する配慮も責任感もない。

原作の天之河光輝はまさに典型的な例でした。

「皆んなと力を合わせて世界を救う!」
綺麗な言葉ですが、世界を救うまでみんなを返さないと言っているのと同義です。
何年かかるかわからない、そのための計画も持たない。
10年以上かかるとしたらクラスメイト全員の人生を奪う行為です。

力があるのに世界を救わないのか?とも光輝は言っていましたが世界を平和にしたり救う能力は政治力です。 
飛行船を作ったりミサイルをぶっ放す力と世界平和は何の関係もありません。

世界中の指導者を軍事力で脅し自分の意見を押し付ける事はできますが世界を救うという意味とはかけ離れています。

神を倒す、とも光輝はいいましたが、異世界から転移して半年ぐらいで神を倒せるようになると考えているとこもどうかしてます。

俺より強いのに…と事あるごとに言ってますがハジメの能力で出来る事は魔人族を倒す事ぐらい。
魔人族も救うと言った光輝の発言からハジメが光輝を手伝える事は何もないという事です。

単に構って欲しくて発言しただけなら、それこそキャバクラにでも行けばいいだけです。あの場面、クラスメイト全員の人生を、考えて欲しかった。

原作との最大の違いは光輝の支持者が龍太郎と(こっそりとですが)恵里のみ。
鈴は恵里を応援はしてるものの光輝とは距離をおきたいと思っています。
蒼華はハジメの4番目の妻ですから論外。

これは原作のハジメの立場とほぼ同じ状況です。
ハジメとの違いは圧倒的なステータスと便利で有用な大量のスキル、世界最高レベルの装備。
ハジメは一般人のステータスでベヒモスを足止めして、檜山の裏切りがなければ全員無事に撤退する事ができました。
ステータスとスキルから考えたら驚異的な戦果です。
ではそれが光輝なら…?
私の考えでは、原作でもしハジメがいなかったら彼等は全滅していました。
この作品では色々考えた末に光輝をA級戦犯クラスにしました。

さて光輝はこの後どう行動するのでしょうか?





上階への階段は長かった。

 

先が暗闇で見えない程ずっと上方へ続いており、感覚では既に三十階以上、上っているはずだ。

魔法による身体強化をしていても、そろそろ疲労を感じる頃である。

先の戦いでのダメージもある。

薄暗く長い階段はそれだけで気が滅入るものだ。

 

そろそろ小休止を挟むべきかとメルド団長が考え始めたとき、ついに上方に魔法陣が描かれた大きな壁が現れた。

 

クラスメイト達の顔に生気が戻り始める。

メルド団長は扉に駆け寄り詳しく調べ始めた。

フェアスコープを使うのも忘れない。

 

その結果、どうやらトラップの可能性はなさそうであることがわかった。

魔法陣に刻まれた式は、目の前の壁を動かすためのもののようだ。

 

メルド団長は魔法陣に刻まれた式通りに一言の詠唱をして魔力を流し込む。

すると、まるで忍者屋敷の隠し扉のように扉がクルリと回転し奥の部屋へと道を開いた。

 

扉を潜ると、そこは元の二十階層の部屋だった。

 

「ここは元の20階層?」

「戻れたのか!」

「ふぅ何とか戻れたか…」

 

クラスメイト達が次々と安堵の吐息を漏らす。

 

しかし、ここはまだ迷宮の中。

 

低レベルとは言え、いつどこから魔物が現れるかわからない。

 

完全に緊張の糸が切れてしまう前に、迷宮からの脱出を果たさなければならない。

 

メルド団長はハジメ達が崩れ落ちる階段に巻き込まれてしまったのを知っていた。

たが今ここで揉める訳にはいかず一気に地上まで行くべきと判断した。

 

「お前達! 座り込むな! ここで気が抜けたら帰れなくなるぞ! 魔物との戦闘はなるべく避けて最短距離で脱出する! ほら、もう少しだ、踏ん張れ!」

 

「安心するのは太陽を拝んでからにしよう!」

永山が皆んなを鼓舞する。

 

「んだな。どれ、もうちょっと頑張るか!」

太田が同意し吉野や辻と言った体力が尽きた仲間に手を貸す。

 

今は篠原の無念を無理矢理押さえ込み地上に出る事を優先した永山だったが疲労の極にありいつもの視野の広さや、気配りが疎かになってしまった。

ハジメ達がいない事に気づかずに…

永山は後に後悔に苛まれる事になる。

 

道中の敵を、騎士団員達が中心となって最小限だけ倒しながら一気に地上へ向けて突き進んだ。

 

そして遂に、一階の正面門となんだか懐かしい気さえする受付が見えた。

 

今度こそ本当に安堵の表情で外に出て行く生徒達。

 

一様に生き残ったことを喜び合っているようだ。

 

「あれ?ハジメは?」

優花がハジメを探して、声をかける。

 

「え?香織と雫もいないよ?」

真央と綾子も三人を探すが見当たらない。

 

「お前たちに言っておかなければならない事がある。」

メルドが重々しく語り始める。

 

「南雲ハジメ、南雲香織、八重樫雫は…撤退の際、崩落した階段に巻き込まれて…最後に俺が確認したのはハジメ達がいた場所をベヒモスの角が貫いた場面だった…」

 

「え?…じゃあ…ハジメは?香織は?雫は?まさか置いて…きたの?どうなのよ!!」

優花が絶叫する。

 

「お前ら、へばってるかも知れないがもう一度行くぞ!ハジメ達を救出するんだ!」

永山が優花の肩を叩き迷宮に再び入ろうとする。

 

「待て!!そんな状態で潜っても全滅するだけだ。今は休め!俺は騎士団の残りを率いて救出に向かう。」

 

南陽高校のメンバーが納得する筈もなかったが、全員疲労しきっていた…。

 

次から次へと湧いて出たトラウムソルジャーの群れを突破して力付きかけていた。

 

「そもそも、そこのバカ勇者が倒れてるベヒモスに無駄な攻撃を仕掛けたからだろうが!」

「この疫病神が!お前なんかと組めるか!」

「篠原殺した殺人鬼め!」

 

光輝に対する憎悪が膨れ上がっていく南陽高校のメンバーにメルドは

 

「責めるなら、こんな馬鹿勇者に縋らねばならない我々を責めてくれ…今はお前たちの休養が最優先だ。これ以上の犠牲は出せん…」

 

悲痛な表情で詫びるメルドに南陽高校のメンバーもそれ以上の追求は出来ず…

 

「これからの協力は考えさせてもらいます。」

永山が珍しく声を荒げて自分達の拠点に向かう。

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………」

優花の悲痛な叫び声が迷宮の入り口に響いていた…

 

そんな優花達を横目に気にしつつ、受付に報告に行くメルド団長。

 

二十階層で発見した新たなトラップは危険すぎる。

石橋が崩れてしまったので罠として未だ機能するかはわからないが報告は必要だ。

 

そして、南雲ハジメ、南雲香織、八重樫雫、篠原カズトの死亡報告もしなければならない。

 

憂鬱な気持ちを顔に出さないように苦労しながら、それでも溜息を吐かずにはいられないメルド団長だった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜

 

自分達の拠点に戻った南陽高校のメンバーは何かする元気もなく自分の部屋に入った。

 

幾人かの生徒は生徒同士で話し合ったりしているようだが、ほとんどの生徒は真っ直ぐベッドにダイブし、そのまま深い眠りに落ちた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ここは?」

ホルアドの町の高級宿の一室で光輝は目を覚ました。

 

「ホルアドの宿だよ、光輝君。」

答えたのは中村恵里だった。

 

「あれから一体…?恵里、ベヒモスはどうなった?」

「わからないよ…逃げるのに精一杯だったから…」

 

「そうか…そうだ!蒼華に一言言わないと…何故味方の俺を攻撃したんだ?

ハッキリしなければ仲間として認められない!」

「やめて!光輝君。光輝君があの時気絶しなかったらどうしてたの?」

 

「ベヒモスを倒してたさ!皆んなの力を合わせれば出来たはず。敗戦の元凶は力を貸さない南陽高校の連中だ!まてよ?南雲ハジメが全て裏で手配してたのか?卑劣な奴だ。香織と雫があんな奴に騙されてると思うと…」

「もうやめて!!!」

「恵理…?」

「光輝君の神威で無傷だったんだよ?そもそもレベル差がありすぎたんだよ…

それなのに光輝君が撤退もしないで戦うから…犠牲者まで出たんだから少しは反省して?」

「犠牲者?誰が?」

「南雲ハジメ、南雲香織、八重樫雫、篠原カズトの4人よ…」

「恵里…?香織と雫が死んだだって?そんな訳あるか!」

「その前に篠原カズト君を殺したのは光輝君だよ?彼にせめて謝罪ぐらいして…お願い…光輝君…」

「どうして俺が篠原カズト?を殺すんだ?」

「気絶して倒れた光輝君を抱えて永山君と一緒に階段付近まで連れてきてくれたんだよ…?突然光輝君が目を覚まして彼等を振り解いた時、篠原君を橋から投げ落としたのは光輝君だよ…」

 

「そ、それは…」

「それなのに感謝も謝る事もしないの…?」

恵里は悲しそうに光輝に尋ねた…

 

「知らなかった事だし、そもそもそんなレベルの人間を大迷宮に連れてくる事自体異常だ。南陽高校はやはりどこかおかしい!」

 

恵里は泣きたくなった。

何を言っても自分に都合のいい方向にしか話をもっていかない…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

恵里は高校1年の時、イジメと母親からの虐待を苦に自殺しようとしていた。

それを救ってくれたのが光輝だった。

「俺が君を守ってあげるからもう安心して!」

 

このセリフに恵里はどれだけ感謝した事か…

どれだけ想いを募らせたか…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

だから何とか光輝の御都合主義を改善できないかと苦心してきた。

しかし今も光輝は自分のやった事を反省もしていない…

 

高校1年の時、光輝は皆んなのヒーローだった…

高校2年の時、光輝は学年のヒーローだった…

高校3年の時、光輝は自分のクラスメイト以外に見放されていた…

 

生徒会長選挙で…20対340と歴史的大差で光輝が敗れたのも光輝の性格に起因する。

 

恵里は自分は最後まで光輝についていく覚悟があるが、光輝は南雲香織や、八重樫雫やリリアーナ王女にばかり固執している…。

 

ハッキリ言って三人は光輝を嫌っている。

恵里や鈴、それに龍太郎ですら気付いている。

しかも香織と雫は南雲ハジメにべた惚れ中だ。

 

白崎香織にいたっては南雲ハジメと婚約して、南雲香織になっている。

 

それなのに、光輝は彼女達を自分のモノだと思い込んでいる。

 

恵里は光輝に抱きついた。

自分でも何故抱きついたのか、よくわからない。

 

多分…あまりにも滑稽で哀れな光輝を…それでも支えてあげたい気持ちがそうさせたのだろう…

 

光輝は驚いた様子だったが直ぐに抱き返し…

二人は初体験を終えたのだった。

…………………

………………

……………

…………

 

 

「恵里、ありがとう。」

「え?」

「俺は間違っていた。」

「!光輝君!!わかってくれたのね!」

「ああ!香織と雫が死ぬ筈はない。今頃南雲ハジメの無能さに愛想が尽きて俺の助けを待っているだろう!二人を救い、一緒に世界を救うんだ!こうしちゃいられない。龍太郎と特訓してくる!恵里、ありがとう!」

「……えっ…光輝…君……?」

 

部屋を出て行く光輝を恵里は呆然と見送るが…

「あ…あはは……ははは………は…」

恵里は突然わらいだした

「うぇぇーーん…あはは…は…」

恵里は自分が泣いているのか笑っているのか全くわからなくなっていた…

「ふふっ…グスッ…あはは…」

恵里は感情がこわれてしまったかのように全ての感情を制御できなくなっていた…

……………………

…………………

………………

……………

…………

………

「ふぅー」

ようやく高まっていた感情が治るのを感じた。

 

「そっか…僕は…光輝君のことが大好きなんだ…」

自分が壊れてしまった気がするが、それでも揺るがぬ想いが存在する。

 

「光輝君…僕は…必ず君を手に入れるよ……!」

 

幽鬼のようなゾッとするような笑顔で決意をする恵里だった…。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「…グスッ…ヒック…………」

優花はトラウムソルジャーとの戦いで疲れ果てていてベッドから動けずにいた。

急かされるまま地上まで強行したせいで迷宮の入り口にたどり着いた時、優花は歩く事すら困難になっていた…

 

だがそこで、ハジメ達をベヒモスの階層に置き去りにしてしまった事実を知り、普段の優花の姿からは想像も出来ないほど取り乱し、気を失ってしまったのだった。

 

優花にとって天之河は疫病神だった。

中学時代、仲の良かった石神を勘違いで暴行され、今度はハジメと香織と雫の三人を光輝の意味不明な行動によって失う羽目になった…

 

当時、石神を慰めようとした優花だったが拒絶されてしまい、そのまま転校してしまった為、初恋にまではいたらなかった。

とは言えその後優花は落ち込んだままだったが、高校の合格発表日に知り合ったハジメ、香織、雫の三人が、一緒に合格祝いをしないかと誘ってくれたおかげで優花の心にあったモヤモヤが晴れていくのを感じていた。

 

奈々と妙子にはバレていたみたいだが、優花はハジメに恋心を持っていた。

香織とハジメはラブラブだった為、思いを隠していたが、トータスに来てからは、優花は常にハジメを意識するようになっていた。

 

大迷宮で二度もハジメに助けられてからは、もう気持ちを隠せなくなってしまった。

その矢先に…ハジメを失ってしまった…。

香織と雫も高校から知り合ったのだが、今では奈々と妙子と同じくらい大切な親友だ。

 

「ハジメ…香織…雫…篠原……」

大切な人と大切な友人と大切なクラスメイトを思い…優花は泣き続けていた…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「クゼリー、ニート、キーマ、あいつらの事は頼んだぞ。」

「メルド団長…本気ですか…?」

「ああ…今回の件、愛子の教え子達はもう光輝には協力はしないだろう。それに簡単な演習で4人もの使徒達を失ったんだ。誰かが責任を取らなくてはならない」

「責任を取るとしたら勇者ではないのですか?団長の命令を何度も無視した挙句、篠原を橋から投げ落とし、撤退のチャンスまで消した男ですよ?何であんな奴の為に団長が…」

「アラン…そんな奴でも今回の演習で俺に並ぶ強さを得ている。現状では光輝に未来を託すしかないのだ…」  

 

クゼリー、ニート、キーマ、アランの4人は悔しそうに俯いた。

 

ホルアドで一晩休息した後メルドは光輝、蒼華、龍太郎、恵里、鈴を連れて王都に戻っていた。

 

永山達と揉める事が目に見えていたので王都に強制的に帰還させたのだ

 

メルドが今回の演習で4人の命が失われたのは自分の采配ミスだと報告し、今王国上層部でイシュタルをまじえて会議が紛糾していた。

 

メルドは身辺を整理して会議の結果を待っている。

 

「では行け!頼んだぞ」

「はっ…」

 

4人はメルドの最後の指令を実行するため、退出していった。

 

「坊主が生きていればな…」

メルドは懐かしそうにハジメの姿を思い出す。

 

(あいつならハイリヒ王国軍の将軍を任せても大丈夫だっただろう…惜しい事をした…)

………………

……………

…………

………

……

 

「メルド=ロギンスの処分を言い渡す。現時刻を持って騎士団長の任を解く。同時に本日をもってハイリヒ王国軍、及び市民権の剥奪。1週間以内に国外へ退去するように。以上だ!」

 

国王の宣言に王の間は静まり返るが、メルドは国王に頭を垂れ、踵を返し王の間から退出する。

 

(首を差し出すつもりだったのに…拍子抜けしたな…)

メルドは支給された装備と自宅を返上し、身軽な旅装に着替えていた。

 

そのまま冒険者登録をして王都を後にした。

 

(不思議と悲壮感はないな…)

見上げた空は青く地平線はどこまでも続く。

メルドは心が沸き立つような興奮に身を委ねていた。

(大地はこんなにも広い、空はこんなにも青く高い…今日からこの世界が俺の家だ!)

 

全ての重荷が降りたメルドは、とりあえずフューレンを足がかりに活動しようと心に決めた。

 

メルドは足取りも軽くフューレンを目指して歩きだすのであった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

畑山愛子は4人の教え子を失った事実を知り、卒倒して一日寝込んでしまった。

何故自分は教え子を、演習なんかに参加させてしまったのか…

断るべきだった。

悔やんでも悔やみきれない想いに苛まれていた。

 

メルドの部下のアランが自分を訪ねてきて、ハジメ達の最後の様子を聞き、目の前が暗くなってしまった。

 

天之河光輝を教え子達は全員嫌っていた。

それでも仲違いはやめるように説得したのは自分だった。

その結果、篠原カズトは天之河に橋の下に落とされ、目を回した敵に意味のない攻撃を仕掛けて正気に戻させた挙句、ハジメと香織と雫が巻き込まれて亡くなってしまった…

 

天之河光輝は危険だ。

今回4人も死なせて置いて謝りもしないどころか、実力の無いものが無謀な挑戦をしたからだ、といって謝りもしなかったのだ。

 

教え子達が全員激怒し、一触即発な状態になったが、愛子は「実力が無いと言うのならこの先貴方に協力はしません。無謀な挑戦なのでしょう?」

と光輝の口を塞ぎ、ハイリヒ王国の庇護から抜ける決意をした。

 

クゼリーと相談して湖畔の町ウルに拠点を移す事にした。

愛子のスキルでこの近辺の生産力を増す。

生徒達はウルの後方にある山脈からやってくる魔物を退治してもらう。

この地は魔物が頻繁に襲ってくるので領主のなり手が見つからない。

愛子に領主になってもらい後方の食料補給基地にしてもらう。

 

ハイリヒ王国側にも愛子側にも顔が立つこの方針が採用され愛子達は拠点をウルの町に移す事になった。

守備隊長としてクゼリー、副長としてニートとキーマとアランが加わり騎士団から10名が選ばれて愛子達と行動を共にする事になった。

 

「永山君、気をつけて…無茶はいけませんよ?」

愛子はホルアドに残る永山の無事を祈る。

「頼んだよ…ハジメと香織と雫と篠原を…」

優花は悔しそうに永山に呟く。

本音は自分も残ってハジメ達を探しに行きたかったからだ。

 

「任せておけ!必ず見つけて戻ってくる。一緒に行けなくて残念だろうが園部がいないとウルの町でみんな餓死しちまうからな。」

「…うん。皆んなに料理を覚えて貰ったら私も行くからね?」

 

「太田、山脈から来る魔物も強いらしい。油断するなよ?」

「健太郎、わかってるよ。注意深く行動する。お前達も充分気を付けろよ?」

 

永山パーティーはハジメ達を探すため、ホルアドに残り大迷宮に挑む事に…

「誰かが残ってハジメ達を探しに行かないと…」

永山の言葉を皆が尊重した。

 

ウルまでは2日の旅だ。

定期的に連絡する約束を交わし、愛子率いる[愛ちゃん護衛隊]はウルの町に出発した。

 

「クゼリー!」

「ノルン様、ギルドマスター、どうしたの?」

「お前に依頼されていたホセとリザの夫婦だが…」

「! ハジメ様が気にしていた件ですね?」

「どうやら本気でキナ臭いぞ?子供達が高度な魔法で操られていた。」

「!!何ですって?」

「睡眠の魔法をかけた後催眠のスキルで操っていたらしい。」

 

「ホセとリザは?」

 

「ホセは砂漠出身で身元もわかっているがリザは出身地も偽りで身元不明だ」

「子供達はいずれもフューレンの人身販売組織が関与しているようだ…」

 

クゼリーはハジメの能力を更に一段引き上げる事にした。

 

「我々は引き続きホセ、リザの二人を洗ってみる。」

「クゼリー、何かあったら駆けつけてくれ」

 

「わかりました。お二方もお気をつけて…」

「クゼリーもな、ウルの町は魔物が頻繁に襲撃するらしいからな」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

こうして使徒4人が亡くなった事件の騒動は収束した。

ハイリヒ王国は新たな騎士団長にヴァイス侯爵が就任。

光輝は勇者パーティーのトップとして改めて就任し彼のサポートとして騎士団から20名が配下につけられた。

 

愛子は湖畔の町ウルの領主として着任し、教え子とクゼリー、ニート、キーマ、アランの補佐を受け農地改革に乗り出す。

 

永山パーティーはホルアドに残り大迷宮に挑み続ける。

 

地上では新たな体制が整った頃、ハジメ達の方は…

 

次話に続く。

 

 

 

 

 




光輝君も初体験でした(=゚ω゚)ノ
貴族の娘と遊んではいたけど、致してはいません。
貴族の娘と致したら結婚する事になるから…

この作品の恵里さんは原作と違い、真っ当に光輝に惚れています。
光輝の悪辣な面を見ても揺るがぬ想いを持って…
少しでも光輝がより良い環境になるように忠告したりしてます。
光輝の無邪気な悪意で壊れかけてますが…

恵里にとってささやかだけど恵里が最も望んでいたハッピーエンドを用意してます。
死ぬ事はありませんのでご安心下さい。


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第三章 奈落の底編
第十六話 ありふれた奈落の入り口


奈落の入り口なら家から徒歩3分だよ!うん!ありふれてるね!

…な訳ないか…♪~( ̄ε ̄;)

題名にありふれたを付けたくて…

多少無理があっても押し通す(_・ω・)_バァ〜ン

名前  篠原カズト
性別  男
身長  168cm
体重  80kg
年齢  18歳
誕生日 6月4日
学校  南陽高校
解説 オリ主人公
ハジメのクラスメイト。
見た目からしてオタクっぽい。
清水とハジメの三人でロマン武器の構想を練っていた。
引っ込み思案だったがハジメと香織と雫の悪魔のような所業により荒ぶる戦士へと変貌を遂げる。
トータスで最大の劇的ビ○ォアアフター。
天職 火剣士
悪魔のような所業を受けながらも何だかんだでハジメとは仲が良い。


ザァーと水の流れる音がする。

 

ハジメ、香織、雫は静かに目をあけて周囲を見渡す。

 

周りは薄暗いが緑光石の発光のおかげで何も見えないほどではない。

 

ハジメ達は幅5m程の川の真ん中に出現したようだ。

 

気がつけば腰の辺りまで水に浸かっていた。

 

川の流れは緩やかだが地下水という低温の水に浸かっていた為に、すっかり体が冷えてしまっている。

 

「香織、八重樫さん、水から上がろう。香織、つかまって…」

「うん、寒い…」

「えぇ、急ぎましょう…」

 

水から上がったハジメ達は壁の窪みを利用し錬成で広めのスペースを作った。

 

入り口を狭めて安全を確保した後、ハジメは錬成で火を起こす魔法陣を刻んでいく。

 

「香織、お願い。」

「うん、"ー火種"」

魔法陣の中心に香織の作ったサッカーボール並の火玉で暖を取っていると、香織が服を脱ぎ始めた。

 

「ちょ、ちょっと香織、貴女何をしてるの???」

 

慌てた雫が香織を止めようとすると、

 

「雫ちゃんも濡れた服着たままだと風邪引いちゃうよ?私の身体ならハジメ君毎日見てるから平気だよね?」

 

サラッと凄い事を言う香織…

 

「ふぇっ?えっ?えぇ?」

雫は真っ赤な顔してうろたえている。

 

「あ、あの八重樫さん、僕は後ろ向いてるから大丈夫だよ?」

ハジメがフォローいれるも真っ赤な顔した雫は頷けない。

…………

………

……

 

「……むぅ…」

香織の後ろに隠れるように座る雫。

 

当然三人とも裸だ。

 

服が乾くまでの辛抱だ。

 

「それにしても…ここは何処だろう?」

「うん…65階層なのかな…?」

「う、うん…ど、何処にいるかわからないけど…服を早く着たいわ…」

 

恥ずかしそうにモジモジする雫。

南陽高校女子力No.1の座は伊達じゃない。

 

「下着はもう乾いたみたいだ。」

「えっ…うん、すぐ着ましょう!ねっ!香織!」

「クスッ雫ちゃん可愛い♡」

 

雫さん、今立ち上がると…

 

「あっ…」「あっ…」

 

ハジメ君にバッチリ裸を見られるのであった…

…………

………

……

 

「僕達にはあんまり時間はない。まず第一にここが何処かわからない。第二に食料。20階層まで行って帰る工程だったから保存食もない。幸いな事に飲み水はそこの川の水を浄化すればひとまず確保できる。」

「そうだね…食料は深刻だよね…」

「ええ…そうね…人の裸見た後スルーする様に深刻な話をするのね…」

 

雫は真っ赤になりながらちょっと拗ねる。

 

「…えっと…その話は…後ほど…今は生き残る方法をですね…」

「雫ちゃん、綺麗だから大丈夫だよ!」

「…むぅ…」

「…貯蔵庫にあるのは錬成用の鉱石と岩塩があるか…迷宮で倒した魔物の死体だし…香織の作った料理…入れておけば良かった…」

「ハジメ君!岩塩は…あっ、洞窟で採取したんだっけ…水と塩があれば最悪一週間は持つ…かな?」

「お腹空いたら…マトモに動けるかわからないけど生命は繋げる筈…」

 

「何となくだけど、この洞窟…嫌な予感がするわ…ベヒモスみたいな気配が感じられるわ…」

「うん…上手く言えないけど変な圧迫感あるよね…」

「なるべく静かに行動して出口を見つけよう…」

「そうね、南雲君、私の武器はすぐ作れるかしら?」

「うん…貯蔵庫の中に製作中の刀はあるよ!」

 

ハジメは製作中の刀を雫に渡す。

 

「重さのバランスは調整済み…いくつか魔法陣を刻みたかったんだけど…今はこれで我慢して…」

「凄い…持った感覚…ありがとう、南雲君、私の身体の一部として使うね!」

雫は嬉しそうに微笑んだ。

 

香織は魔力回復に努めていた。

「香織、魔力はどう?」

「う〜ん…今半分くらいかな…ちょっと心許ないけど…」

「周囲の探索ぐらいなら出来るかな…?」

「食料でも、確保したいわね…」

「そうだね…動けるうちに少しでも探索して上に行く道を見つけよ?」

 

出発前にハジメは香織を抱きしめる。

「香織…必ず生きて帰ろう…」

「はい…ハジメ君…必ず生きて…」

 

「はいはい…桃色空間をこんなとこ…きゃっ」

そしてハジメは雫も抱きよせた。

「八重樫さん、必ず生きて帰ろう…」

「えっ?あっ…は、はい…ハジメさん…生きて帰る…」

 

「僕は香織と八重樫さんを守る…香織は僕と八重樫さんを、八重樫さんは僕と香織を…お互い守りあえば…きっと何とかなる」

 

ハジメは二人を抱きしめながら決意を述べる。

 

「うん、私はハジメ君と雫ちゃんを守るよ!」

「…う、うん…私も南雲君と香織を守る…」

「「「行こう!」」」

 

ハジメ達は慎重に慎重を重ねて奥へと続く巨大な通路に歩を進めた。

 

低層の四角い通路ではなく岩や壁があちこちからせり出し通路自体も複雑にうねっている。

 

二十階層の最後の部屋のようだ。

 

ただし、大きさは比較にならない。

複雑で障害物だらけでも通路の幅は優に二十メートルはある。

狭い所でも十メートルはあるのだから相当な大きさだ。

 

歩き難くはあるが、隠れる場所も豊富にあり、ハジメ達は物陰から物陰に隠れながら進んでいった。

 

そうやってどれくらい歩いただろうか。

 

ハジメ達がそろそろ疲れを感じ始めた頃、遂に初めての分かれ道にたどり着いた。

巨大な四辻である。

 

ハジメ達は岩の陰に隠れながら、どの道に進むべきか相談しようとした時、雫の視界の端で何かが動いた気がして慌てて岩陰に身を潜めるようジェスチャーで告げる。

 

そっと顔だけ出して様子を窺うと、ハジメのいる通路から直進方向の道に白い毛玉がピョンピョンと跳ねているのがわかった。

長い耳もある。

見た目はまんまウサギだった。

 

ただし、大きさが中型犬くらいあり、後ろ足がやたらと大きく発達している。そして何より赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、ドクンドクンと心臓のように脈打っていた。

物凄く不気味である。

 

明らかにヤバそうな魔物なので、直進は避けて右か左の道に進もうと決める。ウサギの位置からして右の通路に入るほうが見つかりにくそうだ。

 

ハジメ達は息を潜めてタイミングを見計らう。

そして、ウサギが後ろを向き地面に鼻を付けてフンフンと嗅ぎ出したところで、今だ! と飛び出そうとした。

 

その瞬間、ウサギがピクッと反応したかと思うとスッと背筋を伸ばし立ち上がった。

警戒するように耳が忙しなくあちこちに向いている。

 

(やばい!み、見つかった?)

(だ、大丈夫だよね?)

(し、静かに…こちらに気付いた感じじゃないわ…)

 

岩陰に張り付くように身を潜めながらバクバクと脈打つ心臓を必死に抑える。あの鋭敏そうな耳に自分の鼓動が聞かれそうな気がして、ハジメ達は冷や汗を流す。

 

だが、ウサギが警戒したのは別の理由だったようだ。

 

「グルゥア!!」

 

獣の唸り声と共に、これまた白い毛並みの狼のような魔物がウサギ目掛けて岩陰から飛び出したのだ。

 

その白い狼は大型犬くらいの大きさで尻尾が二本あり、ウサギと同じように赤黒い線が体に走って脈打っている。

 

どこから現れたのか一体目が飛びかかった瞬間、別の岩陰から更に二体の二尾狼が飛び出す。

 

再び岩陰から顔を覗かせその様子を観察する

どう見ても、狼がウサギを捕食する瞬間だ。

 

ハジメ達は、このドサクサに紛れて移動しようかと腰を浮かせた。

 

だがしかし……

 

「キュウ!」

 

可愛らしい鳴き声を洩らしたかと思った直後、ウサギがその場で飛び上がり、空中でくるりと一回転して、その太く長いウサギ足で一体目の二尾狼に回し蹴りを炸裂させた。

 

ドパンッ!

 

およそ蹴りが出せるとは思えない音を発生させてウサギの足が二尾狼の頭部にクリーンヒットする。

 

ゴギャ!という鳴ってはいけない音を響かせながら狼の首があらぬ方向に捻じ曲がってしまった。

 

ハジメ達は硬直する。

 

そうこうしている間にも、ウサギは回し蹴りの遠心力を利用して更にくるりと空中で回転すると、逆さまの状態で空中を踏みしめて着地寸前で縦に回転。

強烈なかかと落としを着地点にいた二尾狼に炸裂させた。

 

ベギャ!断末魔すら上げられずに頭部を粉砕される狼二匹目。

 

その頃には更に二体の二尾狼が現れて、着地した瞬間のウサギに飛びかかった。

 

今度こそウサギの負けかと思われた瞬間、なんとウサギはウサミミで逆立ちしブレイクダンスのように足を広げたまま高速で回転をした。

 

飛びかかっていた二尾狼二匹が竜巻のような回転蹴りに弾き飛ばされ壁に叩きつけられる。

グシャという音と共に血が壁に飛び散り、ズルズルと滑り落ち動かなくなった。

 

最後の一匹が、グルルと唸りながらその尻尾を逆立てる。

すると、その尻尾がバチバチと放電を始めた。どうやら二尾狼の固有魔法のようだ。

 

「グルゥア!!」

 

咆哮と共に電撃がウサギ目掛けて乱れ飛ぶ。

 

しかし、高速で迫る雷撃をウサギは華麗なステップで右に左にとかわしていく。

そして電撃が途切れた瞬間、一気に踏み込み二尾狼の顎にサマーソルトキックを叩き込んだ。

 

二尾狼は、仰け反りながら吹き飛び、グシャと音を立てて地面に叩きつけられた。

二尾狼の首は、やはり折れてしまっているようだ。

 

蹴りウサギは、「キュ!」と、勝利の雄叫び? を上げ、耳をファサと前足で払った。

 

乾いた笑みを浮かべながら未だ硬直が解けないハジメ達。

ヤバイなんてものじゃない。

ハジメ達が散々苦労したトラウムソルジャーがまるでオモチャに見える。

もしかしたら単純で単調な攻撃しかしてこなかったベヒモスよりも、余程強いかもしれない。

 

ハジメは、「撤退するなら今だ…」と囁き香織と雫に下がるように伝える。

 

それが間違いだった。

 

カラン

 

その音は洞窟内にやたらと大きく響いた。

 

下がった拍子に足元の小石を蹴ってしまったのだ。

 

ハジメ達の額から冷や汗が噴き出る。

 

蹴りウサギは、ばっちりハジメ達を見ていた。

 

「やるしかない!多分こっちに真っ正面からくる。減速門展開!キーゼルシーセン準備、香織、雫!

「任せて!ハジメ君。」

「任せて、南雲君!」

 

やがて、首だけで振り返っていた蹴りウサギは体ごとハジメの方を向き、足をたわめグッと力を溜める。

 

(来る!)ハジメが本能と共に悟った瞬間、蹴りウサギの足元が爆発した。

後ろに残像を引き連れながら、途轍もない速度で突撃してくる。

 

が、ハジメの減速加速結界に突入してしまい蹴りウサギの動きがスローモーションのようになる。

 

ドドドドッ!

ハジメのキーゼルシーセンが蹴りウサギを直撃、吹き飛ばす。

吹き飛んだ場所に雫の剣が振り下ろされる。

完璧なコンボだ…が…

キィーン

蹴りウサギの皮膚を切り裂く事が出来ず弾き返されてしまった。

 

蹴りウサギは余裕の態度でゆらりと立ち上がり、再度、地面を爆発させながらハジメに突撃する。

 

またも減速加速結界に突っ込んで来た蹴りウサギはスローモーションになる。

 

ハジメは一計を案じた。

 

蹴りウサギの進行方向の壁に、錬成で槍のように鋭い突起を4本作り、加速面を蹴りウサギの前に多数展開して、離れた場所に移動した。

 

ドガァァァァァァァァァァン……

 

桁外れの加速で蹴りウサギは、壁に激突し、壁の突起に串刺しになっていた。

 

ハジメは二尾狼4体の死体と、蹴りウサギの死体を、貯蔵庫にしまった。

臭いで新たな敵の出現を、防ぐためだ。

 

「ハジメ君!やったね!」

「良く咄嗟に考えついたわね…やっぱり貴方は凄いわ…」

香織と雫の賞賛に、ちょっと浮かれたハジメは、致命的なミスを犯してしまった。

 

戦闘直後に油断するというミスを…

 

香織の後ろに忍び寄ってきた魔物は巨体だった。

二メートルはあるだろう巨躯に白い毛皮。

例に漏れず赤黒い線が幾本も体を走っている。

その姿は、たとえるなら熊だった。

ただし、足元まで伸びた太く長い腕に、三十センチはありそうな鋭い爪が三本生えているが。

その爪熊が、突然、香織と雫の背後にあらわたのだ!

 

辺りを静寂が包む。ハジメは元より香織と雫も恐怖で身動き一つ出来なかった…

 

「……グルルル」

 

と、この状況に飽きたとでも言うように、突然、爪熊が低く唸り出した。

 

「香織ーーーー!!」

 

爪熊が香織に向かい、その長い腕を使って鋭い爪を振るったからだ。

ハジメは香織と爪熊の間に咄嗟に割り込み…

 

「えっ……?」

香織の目に入ったのは、ハジメの左腕が回転しながら空を舞っていた光景だ…

 

「あっあ…きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」

 

香織が悲鳴をあげても、爪熊は悠然とハジメの左腕を咀嚼し始めたのだ。

 

「香織、雫逃げるぞ!錬成!錬成!」

ハジメは右手で香織を錬成で開けた穴に押し込み、続いて雫を押し込む

 

「えっ嘘…な、南雲君…嘘っ」

だが爪熊は今度は雫に狙いを定め…

「あっ…怖いよ…助けて…」

震えながら泣きはじめた雫に爪熊は噛みつく…が

その瞬間にハジメの右足が割り込んだ。

 

バキッィィィ…

 

ハジメの右足が噛み切られ血が吹き出る…

 

「雫、穴に引っ張ってくれ!」

「は、はいっ!嘘っ南雲君、南雲君…」.

 

「錬成!錬成!錬成!…」

ハジメは香織と雫に引っ張ってもらいながら錬成で穴を掘り続け、足元の穴を狭めてから仰向けになった。

 

唸り声が聞こえたが、穴を広げようともがいていた爪熊は諦めたようで、追ってくるようすはなかった。

 

「ハジメ君!ハジメ君…嘘っ嘘っ…」

「香織、回復よ、回復を早く!お願い!」

 

香織の必死の回復魔法で血は止まったが流した血の量が多すぎた…

ハジメの身体が冷たくなっていく…

 

香織と雫はハジメがもう助からないと悟ってしまった…

 

「嘘っハジメ君…そんな…死なないで…私を置いて行かないで…お願い…」

「南雲君…ごめんなさい、剣士なのに…怖くて何も出来なくて…ごめんなさい…」

 

「香織…怪我は無かった…?」

「うん、ハジメ君が守ってくれたから…」

香織は号泣しながらハジメにすがりつく…

「香織…ごめんね…一緒に日本に帰って…結婚したかったけど…」

「もう私は、ハジメ君の奥さんだよ…ハジメ君のモノだよ…」

香織は必死でハジメに抱きつき、身体をあっためようとする。

1秒でも長く、愛する人に生きて欲しいと、抱きつく。

 

「ごめんね…八重樫さん…、こんなとこに閉じ込めちゃって…もっと安全な場所に逃してあげたかった…」

「そんな事ないよ…南雲君…南雲君のおかげで食べられずに済んだんだから…

ごめんなさい…ごめんなさい…」

「最後かもしれないから…香織と雫に伝えたい…んだ……僕は…香織を愛してる。そして…雫も僕は好きなんだ。ごめん、二股みたいな事言って…」

「私も…雫ちゃんと優花ちゃんなら一緒でもいいよ…三人でハジメ君を幸せにするんだから…だから死なないで…お願い…」

「ハジメさん…香織…私も…私もハジメさんが好き…大好き…お願い…私達を置いて行かないで…なんでもするから…お願い…」

香織と雫は冷たくなるハジメの身体にしがみつき、必死に温めようとした。

「ありがとう…香織…雫…側にいてくれて…ありがとう…いっぱい幸せにしてくれて…」

ハジメは意識が遠のいていく。

ハジメは身体の感覚が、なくなってきたが、二人の温もりだけは今も感じている。

 

このままハジメと一緒に三人で死のう…

二人は共に死ぬ覚悟を決めた。

香織と雫はハジメにキスをしながら意識を手放したのだった…

 

 

 

 

 

 




ハジメ君の能力で蹴りウサギ倒しちゃいました(=゚ω゚)

爪熊にはさすがに攻撃通じませんが、ハジメが油断していなければ、充分逃げきれていました。

ハジメが雫に詫びていたのは、逃げれたのに油断して、不意を突かれた事に対する詫びです。

しかし、既に二尾狼と蹴りウサギの肉はゲットしています。
何てイージーモードだ…
そう言えばオルクスで三種類の魔物の死体も貯蔵庫に入れっぱなしだったっけ…

おや?カズト君は何処に(・ω・。)キョロキョロ(。・ω・)

カズト君はもっと下の方に行ってしまったのです。

今作のオリ主人公…ドラマとかで通行人Aが突然主役になるようなかんじですな(=゚ω゚)ノ

ハジメの方も主人公だから問題なし✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。


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第十七話 ありふれた絶望への抵抗。

生きている限り絶望とは無縁ではいられません。

絶望に抵抗し、問題点を見つけ解決、次にまた別の問題を見つけ解決…

一つ一つ問題を解決する度にハジメ達の中にあった絶望、恐怖、不安は無くなっていきます。

ハジメは香織と雫との絆を深め、自信を取り戻していきます。

そして…ハジメ達は「 」の加護の存在に気づきます。

今回はそんな感じ(=゚ω゚)ノ


ぴちょん……ぴちょん……

 

水滴が頬に当たり口の中に流れ込む感触に、ハジメは意識が徐々に覚醒していくのを感じた。

両脇には暖かく、とても柔らかい感触がある。

不思議に思いながらも、ゆっくりと目を開く。

 

(……生きてる? ……助かったの?)

 

疑問に思いながらグッと体を起こそうとして低い天井にガツッと額をぶつけた。

 

「あぐっ!?」

 

自分の作った穴は縦幅が八十センチ程度しかなかったことを今更ながらに思い出し、ハジメは、錬成して縦幅を広げるために天井に手を伸ばそうとした。

 

「…えっ…ハジメ…君…?」

突然動きだしたハジメを不安そうにみて…頬に手を添える。

 

「暖かい…ハジメ君…生きてるよね…生きてるんだよね…?」

香織は泣きながら笑顔を浮かべていた。

 

まだ…まだまだハジメと一緒に生きれる喜びに溢れていた。

たまらずハジメにキスをする香織…

 

「…ああ…香織…僕は…どうやら…生きてるみたい…かな?」

 

「…嘘…じゃないよね…嘘だったら嫌いになっちゃうよ…?これからもずっと一緒だよね…!」

 

ガツン

「痛っ!?」

 

何度も確認するがハジメが作った穴は縦幅が80cm程度なのだ。

香織は頭をぶつけてちょっと涙目だ。

 

「う…ん?…どうしたの…香織……えっ…?」

「雫ちゃん、ハジメ君が…ハジメ君が…!!」

「えっ…?ハジメ…さん…?」

 

雫は焦点の合わない目をハジメに向けると…

「ハジメさん?…嘘っ…本当…に生きてる…」

「八重樫…雫さん、多分まだ生きてる…みたい…良くわからないけど…」

雫は溢れ出る涙を止めもせずにハジメに抱きついた。

「ハジメさん、ハジメさん…良かった…良かったよ…」

 

ガツン

「痛っ」

 

何度も何度も確認するがハジメが作った穴は縦幅が80cmなのだ。

雫も頭をぶつけて涙目だ…

 

その時虹色に輝く水滴がハジメの口元に落ち…

 

「え…?魔力や傷が完全に治ってる…?」

「この綺麗な水がハジメ君を助けてくれたの…?」

「多分…害はなさそうだけど…香織、一応魔法で調べられるかな?」

「うん…ちょっと待ってー水質鑑定!」

 

香織は一般魔法の水質鑑定を使った。初級の魔法ながら液体に含まれている成分を調べられる優れものだ。

 

ハジメは香織が水質鑑定をしている間に、錬成で高さ180cm幅300cm奥行き300cmのサイズまで部屋を拡張した。

 

「ハジメ君、これ凄い水だよ…どんな怪我も魔力枯渇も状態異常も回復するみたい…」

「身体に害がないなら、香織と雫さんも、飲んでおいた方がいいね…魔力も体力も必要だ…量が少ないから…錬成で水源を探ってみるか…」

 

ハジメは調べてくれたお礼に、香織の頭を撫でてあげようとして…左腕がなくなっていた事を思い出した…。

「……………」

「…ハジメ君?…」

「そっか…左腕と右足…無くなっちゃったんだっけ…」

「「………ッ…!」」

 

香織と雫が言葉に詰まり…

二人で泣きながらハジメの両脇から抱きつく。

 

「ハジメ君…助けてくれてありがとう…グスっ」

「ハジメさん、守ってくれて…ありがとう…ごめんなさい…」

 

「香織、雫さん、謝るのはもう禁止だよ?…あの状況で香織と雫さんを助ける事ができて、今三人生きてられるんだから大勝利だよ!」

 

「「………!!」」

二人はハジメの身体に顔を埋め…めちゃくちゃに泣いた顔をハジメに見せたくは無かったのだ。

ハジメに見せるべき顔は、とびっきりの笑顔なのだから…

 

「…あっぐっ…くっ…」

突然ハジメが苦しみだした

ハジメは無いはずの左腕と右足に激痛を感じた。

幻肢痛というやつだ。

 

香織は回復魔法をかけたがハジメの痛みは収まる様子もない。

そして不思議な水を飲んでも幻肢痛は収まらなかった…

 

ハジメは痛みを堪えながらも錬成を使い水源を探っていく…

 

岩の間からにじみ出るこの液体を飲むと魔力も回復するようで、いくら錬成しても魔力が尽きない。

ハジメは休まず熱に浮かされたように水源を求めて錬成を繰り返した。

やがて、流れる謎の液体がポタポタからチョロチョロと明らかに量を増やし始めた頃、更に進んだところで、ハジメは遂に水源にたどり着いた。

 

「こ……れは……」

「綺麗…」

「うん…ハジメ君、この石から水がでてくるね…」

 

そこにはバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。

その鉱石は、周りの石壁に同化するように埋まっており下方へ向けて水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。

アクアマリンの青をもっと濃くして発光させた感じが一番しっくりくる表現だろう。

ハジメ達は一瞬、自分達の置かれた現状を忘れて見蕩れてしまった。

 

ハジメ達は知らないが、実はその石は〝神結晶〟と呼ばれる歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物だったりする。

 

神結晶は、大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したものだ。

直径三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。

 

その液体を〝神水〟と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。

 

ハジメはふと思い立ち、錬成でマグカップを作り不思議な水で満たす。

それを貯蔵庫にしまい、貯蔵庫内で3つ複製した後取り出した。

 

「香織、貯蔵庫内で複製したものも同じ効果あるかな?」

「わかった!調べてみる!ー水質鑑定」

………………

……………

…………

………

「ハジメ君の貯蔵庫、性能良すぎだよね…全く同じ効果があるよ…」

「成る程…香織、雫さん、今度は必要最小量を、調べてみようか?」

「「必要最小量?」」

「このサイズを持ち歩くのは大変でしょ?イザという時のために香織と雫さんも携帯してた方がいい」

 

ハジメは鉱物鑑定で、そこら中の鉱石を鑑定して、貯蔵庫に放り込む。

そして片っ端から武器を錬成して、魔力を枯渇状態にする。

 

「大さじ何杯飲めば魔力が完全回復するか、確認するから見てて?」

「うん!」

「成る程…」

 

「魔力の回復に対して傷の治りも見てみよう。」

そう言ってハジメは自分の左腕の残った部分の先端をスライスする様に切ったのだ…

 

「「!!ハジメ君(さん)!!!」」

 

血が吹き出したが、不思議な水を大さじで飲みながら必要最小量を量る。

 

幻肢痛と本物の痛みが重なり、ハジメは実感の伴った痛みにホッとしていた…

 

二つの最大値をとった結果、魔力回復薬のビンの大きさがあれば充分な事がわかり、再び増産した。

 

貯蔵庫内では劣化などの変化が起きないため、保存には最適だった。

 

香織と雫が静かすぎるのでハジメは二人を見ると、涙ぐみながらハジメにしがみついた。

 

「バカバカバカ〜ハジメ君はもう傷ついちゃダメなんだから……!!」

「ハジメさんはもう、傷ついちゃダメなんだから…お願い…」

 

血を流すハジメを見て、二人は目の前で手足を失ったハジメの姿を思い出し、泣き出してしまった…

 

香織と雫はいきなり服を脱ぎ始めて、ハジメに裸体を晒したのであった。

 

「…えっ?あ、あの…二人とも…どうしたの…?」

ハジメが慌てた様子で二人に聞くと…

 

「ハジメ君は、これからいい思いしか、しちゃダメだよ?私も雫ちゃんもいっぱい頑張るから…」

 

香織が真剣な目をしてハジメの服を脱がし始める。

 

「私も香織と一緒にハジメさんのモノにして…私もハジメさんにいい思いをいっぱいして貰いたいの…」

 

「ハジメ君は私と雫ちゃんに生命をくれた…これからは私と雫ちゃんがハジメ君を生命と幸せをいっぱいあげるんだから…」

 

香織と雫は悲しそうにハジメの失った腕と足をみる…

 

「……正妻は香織が一番ふさわしいと思うわ…私はハジメさんと香織のそばにいられるだけでも幸せよ♡」

 

「えへへ、ありがとう、雫ちゃん。正妻の座は私だもん♡」

 

二人はハジメに優しく微笑みながらハジメに近寄り…

 

香織はハジメの失った左腕の先端を舐め始め、雫はハジメの失った右足の先端を舐め始めた…

 

ハジメは目の前の光景に目を疑っていた。

 

南陽高校の二大女神が裸で、自分の傷跡をなめている…

ハジメの理性はあっさりと吹き飛んだ…

 

そして…香織だけでなく雫もハジメの妻となったのであった…

……………

…………

………

……

絶え間ない空腹感、自分達の置かれた絶望的な状況…それらから逃れるかのように…三人は交じり合っていた。

 

時間の感覚が麻痺していた三人。〜実際には2日間〜

 

休む事なく交じり合い、今は香織といたしている最中だった…

 

その時、何気なく…ほんの思いつきでハジメは最適化のスキルを、香織に使ってみた所…何と香織に最適化がかかったのである。

 

「…あっ…ハジメ…君…今のは…?」

香織も自分の身体に起きた変化に気付いたようだ…

 

「最適化が…香織にかかった…」

「……えっ?…最適化ってハジメ君にしか…あっ…はぁ……効果なかったんじゃなかったっけ?」

 

香織は雫と交代してハジメの背中に抱きつき、柔らかいモノを押し付ける…

 

「ひょっとして、雫にも、かけられるかも…」

 

「…あっ…ん…は、ハジメさん…私にも…最適化…かけられるの?」

 

ハジメは雫と一つになった時、雫にも最適化がかけられる事を知った…

 

「ハジメさん…これが最適化の効果…なの…?…っん…だ、ダメ…は、ハジメさん、最後まで…して…」

……………

…………

………

……

「ここに落ちてから…どれくらい経ったのか、もう分からないけど希望が出てきたかな?」

「…うん!空腹感は慣れないけど…ハジメ君、最適化の能力は、今私達に使えるの?」

「…無理みたい…その…ピーしている時限定みたいで…」

「…そ、そうにゃの…?ハジメさん…」

 

雫がさっきまでの痴態を思い出しちょっと口調がおかしくなってるが…それはスルーだ。

 

「か、香織…ちょっと、試したい事があるんだけど…」

そう言ってハジメは右手で香織を抱き寄せ、香織と再びピーする…

「んっ…な、何かな…あっ…んっ…」

ハジメは回復魔法を、香織のスキルを使って試してみると…

 

「「「使えるんだ……」」」

 

魔法適性のないハジメが香織並みの威力の回復魔法を使えてしまった…

三人ともトータスのスキルシステムそのものに若干呆れたような口調で言った。

試したい事は終わったが、香織は、最後までしなければならない!と言って最後までするのであった…

 

「という事は私の剣術もハジメさんと繋がっていれば、ハジメさんは使えるようになるのね…」

「…敵の前でピーするの…?」

ハジメの問いに答えられる者はいなかった…

 

ハジメ達は絶望の中に希望を見出していた。

 

最適化を香織と雫にかける事ができるようになり、二人のパワーアップが飛躍的なものになる事。

不思議な水を神水と呼び、その神水をいくらでも増産できる事。

貴重な鉱石を手に入れ、装備を一新出来る事。

風呂とトイレはハジメが錬成で作れるようになっている。

風呂の水が神水なのは置いておくとして…

 

そして絶望的な状況を整理する。

食料。

遥かに格上の敵。

ハジメ、香織、雫の精神状態、正気を保ち続けられるかどうか。

現在地も不明な迷宮。

 

この中で遥かに格上の敵は、ハジメの錬成と香織と雫のパワーアップで、解決出来る可能性がある。

 

格上の敵が倒せれば、探索も容易になり現在地も確認できる…

 

「最大にして克服の見通しが立たないのは、やはり食料だね…」

「うん…神水で死なないとは言え、この空腹感はおかしくなっちゃうよ…」

「そうね…トイレとお風呂はハジメさんの錬成で、解決したけど…」

 

三人は食料に関して何とか工夫出来ないか知恵を出し合ったが…やはり解決策は見出せなかった…

 

「一つだけ…解決策というか、道があるというか…方法があるけど…」

「ハジメさんが言い辛いって事は最悪の手段って事?」

「うん…倒して保管してある魔物の肉を食べる…最悪、神水があるから死なないとは思う…」

「うっ…ん、食べたくはないけど…この空腹感は神水でも解決できないもんね…」

「そうね…食料さえ何とかなれば、後は解決できなくはないわね…不本意だけど…」

 

「うん…ねえ、ハジメ君…魔物のお肉を食べる前に…お願いがあるんだけど…」

「ん?香織のお願いなら何でも聞くよ?」

「あのね…私の全て…ハジメ君に貰って欲しいんだ…全部ハジメ君のモノにして…」

「……?香織の…?貴女…身も心もハジメさんのものじゃない?」

「えっと…口と前はもうハジメ君のモノだけど…後ろはまだかな…」

「!香織…私もお願いしたいわ…」

 

「えっ…な、何で…?」

ハジメはその発想は誰の発想だろうか…と悩む。

 

「あのね…また死ぬかもしれない…でしょ?だからハジメ君と思い残すことが無いようにと思って…」

「うん…私も…全部ハジメさんのモノになりたい…」

 

二人はこれ以上、ハジメに傷ついたり苦しんだりして欲しくはなかった…が結局のところ、食料問題だけは、どうする事もできない…

ならば…香織と雫は身も心も全てハジメのモノにして欲しいと願ったのだった…

 

閉鎖された空間に三人絡み合い続けたせいで、色々なハードルが下がっていたのも事実だ。

しかし三人は、最後の思い出になるかも知れないと…今までで一番激しく、そして深く愛しあったのだった…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

魔物の肉を食べる決断をくだしてから、まる一日愛しあっていたが、流石に空腹感には勝てず、食べる事にした…

 

ハジメは解体用の部屋を用意して魔物を貯蔵庫から取り出す。

調理は香織と雫だ。

ハジメは手伝おうにも片手片足では、それも難しく二人にやってもらう事にした。

 

オルクスの大迷宮で得たのは4種類、エレメンタルバット8匹、ロックマウント、ミストルシーバー、カメレオントルーバ、謎の階層で得た二尾狼5匹と蹴りウサギ…全部で6種類だ。

雫の提案で全種類食べ比べて、少しでもマシな味の魔物を量産しようと言う事になった。

貯蔵庫の複製機能は、魔物の死体を複製する事は出来なかったが、ステーキ状に切り分けたら何故か複製ができた。

 

「それじゃあ、エレメンタルバット各種、ロックマウント、ミストルシーバー、カメレオントルーバ、二尾狼、蹴りウサギの順で食べよう…必ず一口食べたら神水を飲む事も忘れずにね?」

「「はい!」」

 

香織だけ後から食べるという案もあったが、生きる時も死ぬ時も一緒じゃなきゃ嫌だ…と言って譲らず、三人同時に食べる事にしたのだった。

 

「コウモリは…味が全く…モグモグ…しないね…」

「うん…味のない…ハムハム…鶏肉…かな?」

「不味くもないけど…ハムハム…美味しくもないわ…」

神水を飲み物代わりにしながら次から次へと三人は食べていく。

三人は極度の空腹からか、あっという間に全種類完食し、ようやくお腹が膨れた頃、異変が起こり始めた。

 

「あ? ――ッ!? アガァ!!!」

「え?な、何…?きゃっ、キャーー!!」

「うっ…ハッ…な、何…これ……」

 

突如全身を激しい痛みが襲った。

まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。

その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。

 

「ぐぅあああっ。な、何がっ――ぐぅううっ!か、香織、雫…し、神水を飲め!」

「きゃぁぁぁぁ、か、身体が、う、うん、は、ハジメ君〜あぁぁぁ!」

「は、はい、ハジメ…さん…ぐっっっうぅぅぅ…!」

 

耐え難い痛み。自分を侵食していく何か。

ハジメ達は地面をのたうち回る。

それでも香織と雫は必死にハジメの側にいく。

幻肢痛など吹き飛ぶような遥かに激しい痛みだ。

ハジメ達はあらかじめ用意してたマグカップに入った神水を飲む。

すると痛みが引いていくが、しばらくすると再び激痛が襲う。

 

「ひぃぐがぁぁ!! なんで……なおらなぁ、あがぁぁ!」

「くぅぅぅぅ!ま、また痛みが…?どうして…あぁぁぁ!」

「ハジメさん…香織…うぁぁぁぁぁぁ!」

 

ハジメ達の体が痛みに合わせて脈動を始めた。

ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。

至る所からミシッ、メキッという音さえ聞こえてきた。

しかし次の瞬間には、体内の神水が効果をあらわし体の異常を修復していく。修復が終わると再び激痛、そして修復。

神水の効果で気絶もできない。

絶大な治癒能力がアダとなった形だ。

 

ハジメ達は絶叫を上げ地面をのたうち回り、頭を何度も壁に打ち付けながら終わりの見えない地獄を味わい続けた。

 

ハジメの右目は岩の突起にあたり潰れてしまったが、そんな痛みなど気にならない程の痛みが全身を駆け巡る…

 

それでもハジメ、香織、雫は諦めなかった。

必ず生き延びて…少しでも長く三人で生きる為に…ハジメ達は必死に抵抗し、耐えた。

すると、三人の体に変化が現れ始めた。

 

まず髪から色が抜け落ちてゆく。

許容量を超えた痛みのせいか、それとも別の原因か、日本人特有の黒髪がどんどん白くなってゆく。

 

ハジメの変化が一番顕著だった。

筋肉や骨格が徐々に太くなり、体の内側に薄らと赤黒い線が幾本か浮き出始める。

そして何より、失ったはずの左手と、右足と右目が再生され始めたのだった。

 

香織と雫は今までも十分魅力的な体型だったが、出るところは出て、引き締まる所は引き締まる、更に魅力的な身体に変化していた。

 

魔物の肉は人間にとって猛毒だ。

魔石という特殊な体内器官を持ち、魔力を直接体に巡らせ驚異的な身体能力を発揮する魔物。

体内を巡り変質した魔力は肉や骨にも浸透して頑丈にする。

 

この変質した魔力が人間にとって致命的なのだ。

人間の体内を侵食し、内側から細胞を破壊していくのである。

 

ハジメ達も、魔物の肉を喰っただけなら、体が崩壊して死ぬだけだっただろう。

 

しかし、それを許さない秘薬があった。

神水だ。

壊れた端からすぐに修復していく。

その結果、肉体が凄まじい速度で強靭になっていく。

壊して、治して、壊して、治す。

ハジメは男性らしく、香織と雫はより女性らしく変化していく。

その様は、あたかも転生のよう。

脆弱な人の身を捨て化生へと生まれ変わる生誕の儀式。

ハジメ達の絶叫は産声だ。

 

三人の痛みが収まりつつある中、突如頭の中に声のようなモノが響いた。

 

「〜\〜¥%○<%$€*〆^°¥+〜*」

 

何と発音してるかも分からない声の様なモノは最後に

 

「$〆€ησ」加護$%

 

僅かに加護と言う言葉だけが理解できた。

 

そして…

 

三人の頭髪はシルバーブロンドに染まっており、体には赤黒い線が数本ほど走っている。

まるで蹴りウサギや二尾狼、そして爪熊のようである。

 

ハジメ達が僅かに身動きをして、閉じられていた目がうっすらと開けられる。

 

ハジメは、自分の身体に左腕と右足の感覚がある事に気付いた。

右目の視界も戻っていたが…目を凝らしたりすると色が変わったり波のようなモノが見えたりした。

 

ハジメ達は自分が生きていること、きちんと自分の意思で手が動くことを確かめるとゆっくり起き上がった。

 

「……香織…雫…大丈夫か…?」

「う、うん…ハジメ君、大丈夫、生きてるよ…」

「ええ、ハジメさん、私も何とか大丈夫…そう」

 

ようやく目の焦点があい、お互いの姿を確認した瞬間

 

「「「う、うそーーー」」」

 

お互いの変わり果てた姿に驚愕した。

 

「か、香織と…雫…だよね…なんだか…身体のラインが更に魅力的になったような…」

褒められた二人は嬉しそうに照れていた。

しかし隠そうとはせずに、もっと見て欲しそうにしている…

 

「ハジメ君も物凄く逞しくなったみたい…」

「うん…ハジメさん…もますます素敵に…」

 

三人とも、この3日間一度も服を着ていないので裸だ。

 

なので変化がとてもよくわかる。

 

お互いの変化に驚いたが、三人が三人とも、ますます魅力的になった姿にお互い見惚れていた。

 

香織と雫はハジメの失われた筈の腕と足をみて驚喜したようで、すぐに抱きついてきた。

 

三人とも飢餓感がなくなり、久しぶりになんの苦痛も感じない。

 

それどころか妙に体が軽く、力が全身に漲っている気がする。

 

ハジメ達はお互いの無事を喜び暫くの間、抱き合いながら、笑い合っていた…

 

落ちついてからお互いの変化を確認すると、ハジメは腕や腹を見ると明らかに筋肉が発達している。

身長も伸びていた。

以前のハジメの身長は165cmだったのだが、現在は188cmになっていた。

 

香織は雫と同じくらいの身長になっていた。

雫は身長に変化は見られなかったが、二人に共通していたのは女性らしさの超強化だった。

胸の膨らみは香織と雫はCカップだったが今ではDカップにアップしていた。

腰のくびれのラインは更に魅力的になっていた。

 

「僕達の体どうなったんだろう…?なんか妙な感覚があるし……」

「うん…変な感覚だけど妙に力が湧いてくるような…」

「!ステータスプレート見てみたらどうかしら?」

「すっかり忘れていた…早速見てみよう!」

 

すっかり存在を忘れていたステータスプレートを探してポケットを探る。

服はきちんと畳まれていた。

香織の奥様レベルは高い…

 

「何か久しぶりに服を見たね…」

「そ、そうね…ここにいる限り必要ないけど…ねっ!ハジメさん…」

そう言いながら幸せそうにハジメを見る二人。

 

ハジメは、今香織と雫を抱いたら軽く2、3日抱き続ける自信があったので、必死に堪えてステータスプレートを見る。

 

体の異常について何か分かるかもしれない。

 

===============================

南雲ハジメ 18歳 男 レベル:10

天職:錬成師    職業:冒険者 青

筋力:400

体力:400

耐性:400

敏捷:400

魔力:400

魔耐:400

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+精密錬成][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+複製錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物系融合][+鉱物系分離][+鉱物系分解][+貯蔵庫][+貯蔵庫内複製][+貯蔵庫容量増加][+震動波砕][+震動波砕道具付与][+震動波砕効果範囲拡大]・魔力操作・胃酸強化・魔力視・気配感知・魔力感知・威圧・纏雷・纏氷・纏光・纏闇・纏風・纏火・纏水・纏地・気配遮断・再生[+超速再生]・天歩[+空力][+縮地]・高速魔力回復・眷族通話(香織、雫)・減速加速門・最適化・言語理解・「 」の加護

===============================

 

===============================

南雲香織 18歳 女 レベル:15

天職:治癒師    職業:冒険者 青

筋力:300

体力:300

耐性:300

敏捷:300

魔力:500

魔耐:500

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇] ][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇]・光魔法適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇]・魔力操作・胃酸強化・魔力視・気配感知・魔力感知・威圧・纏氷・纏雷・纏光・纏闇・纏風・纏火・纏水・纏地・気配遮断・再生・天歩[+空力][+縮地]・高速魔力回復・眷族通話(ハジメ、雫)・言語理解・「 」の加護

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南雲雫 18歳 女 レベル:15

天職:剣士    職業:冒険者 青

筋力: 420

体力: 420

耐性: 300

敏捷: 500

魔力: 400

魔耐: 400

技能:剣術[+抜刀速度上昇][+斬撃威力上昇][+斬撃速度上昇][+命中精度上昇][+弱点看破]・先読・気配感知・隠業・魔力操作・胃酸強化・魔力視・魔力感知・威圧・纏雷・纏氷・纏光・纏闇・纏風・纏火・纏水・纏地・気配遮断・再生・天歩[+空力][+縮地]・高速魔力回復・眷族通話(ハジメ、香織)・言語理解・「 」の加護

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===============================

 

「「「……何これ…?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 




魔物の試食会ご苦労様でした(=゚ω゚)ノ

エレメンタルバット

同じ種族でありながら個体ごとに8種類の中から一つの属性を持っています。
これから得たのが…
纏氷、纏雷、纏光、纏闇、纏地、纏水、纏火、纏風です。

ハジメの最適化によって簡単に派生技能がつくのでハジメ達は属性攻撃に対してほぼ無敵になります。

ロックマウントは、
威圧

ミストルシーバーは
再生、高速魔力回復

カメレオントルーバは
魔力視、気配感知、気配遮断、魔力感知

二尾狼は
纏雷、眷族通話

蹴りウサギは
天歩
です。
纏雷は重複したので、統合されました。
重複したスキルは統合されます。


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第十八話 ありふれた反撃

おぉ…もう18話まできた…お気に入りも700人近くまで…
趣味100%のこの作品を、これからも頑張って更新しますので応援よろしくお願いします。✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。

前回、魔物を食べる事によって得たスキルはかなりの数です。

ハジメ達はまずスキルの確認から始めます。

さらに香織と雫はスキルを使いこなす訓練を

ハジメは装備の作成、更新を行っています。

目標は爪熊。

そして…


「「「なにこれ?」」」

 

魔物の肉を食べたら何故か技能が大量に増えていた。

 

増えたスキルを見ると、何となく食べた魔物のスキルっぽいかな?と推測したハジメ達は、まず増えたスキルの確認を行なっていた。

 

一番気になったスキルは3つ

 

「私は…魔力操作と「 」の加護と胃酸強化が気になるかな?」

「そうね…他は食べた魔物の特性を取り込んだみたいだけど…」

「じゃあ、まずは魔力操作からいこうか」

 

文字通りなら魔力が操作できるということだろうか。

 

「さっきから感じている奇妙な感覚は魔力なのかな?」

 

と推測し、集中し〝魔力操作〟とやらを試みる。

ハジメが集中し始めると、赤黒い線が再び薄らと浮かび上がった。

そして体全体に感じる感覚を右手に集束するイメージを思い描く。

すると、ゆっくりとぎこちないながらも奇妙な感覚、もとい魔力が移動を始めた。

 

「おっ、おっ、おぉ~?」

 

集まってきた魔力がなんとそのまま右手にはめている手袋に描かれた錬成の魔法陣に宿り始めた。

驚きながら錬成を試してみるハジメ。

するとあっさり地面が盛り上がった。

 

「凄い…詠唱無しで…魔力の直接操作はできないのが原則。例外は魔物。……魔物の肉を食べたせいで、特性を手に入れたのかな?」

「香織、私達も試してみましょう!」

…………

………

……

「凄い…詠唱無しで魔法も発動した…」

「私も魔法陣無しで刀の付与機能が操作できた…」

 

大正解。

ハジメ達は確かに魔物の特性を取得していたのだ。

 

「纏雷も試してみるか…これは多分電気…かな?あれか?二尾狼が使っていた…使用説明書が欲しいとこだけど…」

「ふふっ本当にそうね!ステータスプレートに書いて欲しいわ…」

「魔物は詠唱とか魔法陣に式書き込んだりしないから…イメージかな?ハジメ君の錬成みたいに」

 

「う~ん」と唸りながら、香織の言う通り、錬成するときはイメージが大事だということを思い出す。

 

ハジメはバチバチと弾ける静電気をイメージする。

すると右手の指先から紅い電気がバチッと弾けた。

 

「おお~、できた………なるほど、魔物の固有魔法はイメージが大事ってことだね!」

「「…綺麗…」」

 

香織と雫が紅い光を纏っているハジメを見て、ウットリとした表情で見つめる。

 

その後、香織と雫も纏雷を使い、バチバチと放電を繰り返し、練習する。

香織の纏う電気は黄金色で女神のように美しかった。

雫の纏う電気は、淡い紫色で、美しい藤の花を連想させた。

しかし、三人とも、二尾狼のように飛ばすことはできなかった。

おそらく纏雷とあるように、体の周囲に纏まとうか伝わらせる程度にしかできないのだろう。

電流量や電圧量の調整は要練習だ。

 

「胃酸強化は…魔物肉を食べても苦痛が軽減するのかな…?」

 

「するのかな…?と言うよりそうであって欲しいわ…」

ゲンナリした表情を浮かべて雫が答える。

 

「うん…生きていく為だからって…食べるたびに激痛に襲われるのは…」

香織も雫と同意見のようだ。

 

しかし、迷宮に食物があるとは思えない。

飢餓感を取るか苦痛を取るか。

その究極の選択を、もしかしたらこの技能が解決してくれるのではとハジメ達は期待する。

 

「嫌な実験だけど確認しない訳にはいかない…よね」

と、ハジメが言い神水入りのマグカップを複製して並べる。

 

ハジメが一人で食べてみようとしたら、香織と雫が反対した。

また、苦しむかもしれない。だったら三人一緒じゃなきゃダメ!と言われてしまい三人で食べる事に…

 

ストックのある、二尾狼から肉を剥ぎ取り纏雷で焼いていく。

覚悟を決めて食べるとは言え…女子高生が狼の生肉を食べるのは酷だ…

 

それに飢餓感が癒された後で、わざわざ生食いする必要もない。

 

調理をかってでた香織が涙目を浮かべながら、強烈な悪臭に耐えてこんがりと焼く。

 

そして三人、意を決して喰らいついた。

 

十秒……

 

一分……

 

十分……

 

何事も起こらない。

 

香織が次々と肉を焼いていき再び喰ってみる。

しかし、特に痛みは襲って来なかった。

胃酸強化の御蔭か、それとも耐性ができたのか。

 

わからないがハジメ達は喜んだ。

これで食事の度に、地獄を味わわなくて済む。

 

久しぶりにお腹一杯になった三人は「 」の加護について考えていたが…

 

かろうじてわかった事は、魔物を食べた時の苦痛が和らいでいく時、三人とも頭に声のようなモノが響き、「加護」と言う言葉だけが理解できた。

 

「 」の加護の謎は置いておくとして、あの爪熊に勝てる可能性ができたのだ。三人はしばらく新たな力の習熟に励むことにしたのである。

 

その前に貯蔵庫にある全ての魔物を解体して、ステーキ状に切り分ける。

肉を石製の腐敗防止と消臭の効果を付与した保管容器に入れ、ハジメの貯蔵庫に入れておく。皮や牙など錬成素材になりそうなモノも、分類して袋に分けて貯蔵庫に入れておく。

 

ハジメ達はスキルを一つ一つ使い、その特徴を話し合いながら理解していった。

一通りスキルを理解した後、ハジメは香織と雫と交わり、最適化を自分も含めて三人に使った。

 

派生スキルのオンパレードになったのは言うまでもない…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ハジメ達は一日を三分割し戦闘技術の特訓、天職スキルの特訓、獲得スキルの特訓を行なっていた。

 

ハジメは香織と雫の三人で剣術、格闘術、槍術、ガン=カタを特訓していた。

スキルは無くとも鍛えて熟練する事はできる。

ハジメと香織は接近戦の技術と遠距離攻撃が必須だった。

戦闘全てを雫だけに負担かけさせる訳にはいかなかったからだ。

特訓後最適化

 ↓

この合間に食事

最適化

 ↓

香織は回復魔法の特訓

雫は剣術、

ハジメは装備作成

特訓後最適化

 ↓

この合間に食事

最適化

 ↓

スキルの習熟

特訓後最適化

 ↓

この合間に食事

最適化

 ↓

最初に戻る。

 

こんなサイクルで特訓する事4日

 

ハジメの錬成能力は桁違いに上達していた。

 

香織と雫はハジメと同じ武器を使いたいと言いハジメと同じガン=カタスタイルでいくようだ。

雫は日本刀も作ってもらい、状況によって使い分けるつもりだ。

 

ハジメはホルアドにいた頃から銃自体は完成していたのだが、それに見合う素材が見当たらずに開発を中止していた。

ハジメが作ったこの洞穴の周囲で見つけた鉱石で開発が可能になったのだ。

 

全長は約三十五センチ、この辺りでは最高の硬度を持つタウル鉱石を使った六連の回転式弾倉。長方形型のバレル。弾丸もタウル鉱石製で、中には粉末状の燃焼石を圧縮して入れてある。

すなわち、大型のリボルバー式拳銃二丁と、全長28cmとサイズを小さめにした中型のリボルバー式拳銃を四丁作成した。

タウル鉱石を圧縮し重さのバランスを雫専用にした日本刀"藤"も作成した。

 

ハジメは二丁の大型のリボルバー式拳銃で戦うガン=カタスタイル

香織は二丁の中型リボルバー式拳銃で戦う同じくガン=カタスタイル

雫も香織と同じタイプの銃で戦うガン=カタスタイルと八重樫流剣術を使い分けするスタイルで戦う事に決め、連携攻撃の特訓を開始した。

 

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緑光石

魔力を吸収する性質を持った鉱石。魔力を溜め込むと淡い緑色の光を放つ。

また魔力を溜め込んだ状態で割ると、溜めていた分の光を一瞬で放出する。

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燃焼石

可燃性の鉱石。点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第に小さくなり、やがて燃え尽きる。密閉した場所で大量の燃焼石を一度に燃やすと爆発する可能性があり、その威力は量と圧縮率次第で上位の火属性魔法に匹敵する。

==================================

 

==================================

タウル鉱石

黒色で硬い鉱石。硬度8(10段階評価で10が一番硬い)。衝撃や熱に強いが、冷気には弱い。冷やすことで脆くなる。熱を加えると再び結合する。

==================================

 

ドドドドンッ!

 

キューーー

 

蹴りウサギの悲鳴が響いた。

香織の銃が蹴りウサギを仕留めたのだ。

 

ハジメの銃はドンナーとシュラークと名付けた。

三人の持つ銃の中で最大火力と射程距離をかね備えている、

 

全員の銃身には加速門が仕込まれており加速段階が1〜5まで切り替える事ができる。1では通常の銃と同じ威力大体マッハ1、2ではマッハ5、3ではマッハ9、4ではマッハ13、5ではマッハ17で撃ち出せる。

 

香織の銃は、リヒトゥとヴンシュと名付けた。

光と願望を意味する言葉だ

香織の銃には光属性付与と魔法陣が刻んであり、魔法の発動体も兼ねている。

ハジメの銃より若干威力が落ちるが香織はこのサイズが一番扱いやすいようだ。

 

雫の銃はグラジオラスとサンビタリアと名付けた。

「ひたむきな愛」と「私を見つめて」を意味する花言葉からとった。

雫の銃にはグラジオラスには雷属性付与と、サンビタリアには火属性付与が刻んである。

 

ハジメ達が奈落に転移してきて丁度8日目、現在この洞窟を探索しながら戦闘経験を積んでいた。

 

蹴りウサギ、二尾狼は既にハジメ達の敵ではなかった。

 

天歩の派生スキルのおかげで移動が高速になり、既に洞窟の構造を把握するに至っていた。

 

眷族通話のおかげで高速移動中も意思疎通に不便しない。

 

ハジメ達の目的は地上への出口と爪熊へのリベンジだ。

 

既に地下へ降りる階段らしき物は見つけていた。

 

もし、地上への出口が無ければ下に行くしかない…

 

だが爪熊だけは自分達の手で倒さなければならなかった。

 

ハジメと香織と雫の決意は固かった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

香織はハジメと出会った時の事がダブって見えていた。

 

あの時、私は不良に絡まれるお年寄りと子供を助ける事もできずに、うろたえる事しかできなかった。

そんな時、不良に土下座までして助けたハジメ君の強さに惹かれた。

ハジメ君と知り合い、共に過ごすうちに、あの頃より私の心は強くなったと思っていた。

今ならハジメ君と一緒に土下座してでもお婆さんと子供を助ける事ができるかも…と思っていた。

しかしとんだ思い上がりだった。

あの頃と同じで私は恐怖の前に何もできなかった。

あの頃と同じように、ハジメ君は我が身をかえりみずに私と雫ちゃんを助けてくれた。

そしてハジメ君を失う恐怖を知った。

死ぬまで側にいてお互いを幸せにするはずなのに…

あの時の恐怖は不良の恐怖、光輝の恐怖、爪熊の恐怖など比較にならない。 

 

嫌だ。

私は何も変わっていない。

私はあの頃の弱いまま…

ハジメ君の力にも支えにもなれない自分なんて嫌だ。

このままではハジメ君のパートナーとして胸を張れない。

 

香織から雑念が消えていく。

 

弱い自分を受け入れて、少しでも強くなろうと願う。

私は弱い…でも少しでもハジメ君に近づけるよう…少しでも優しさと強さを

 

「私の望みは…ハジメ君の側で、パートナーとして胸を張ってお互いを幸せにしながら一生共に歩む事…」

 

香織の目に強い光が宿る。

それは何者にも揺るがされる事のない…極限の意思だった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

雫は自分の不甲斐なさに腹を立てていた。

 

目の前に迫る爪熊に震えて何も出来なかった事を

強敵を前に生きる為に立ち向かい、行動したハジメを誇りに思う反面、泣いて助けを求めた自分の不甲斐なさが雫の心を打ちのめす。

私を守ってくれたハジメさんを…正直に言えば愛している。

 

私を女の子として扱ってくれたハジメさん。

可愛らしい猫のヌイグルミをプレゼントしてくれたハジメさん。

恐怖で震えていた私を脚を犠牲にまでして助けてくれたハジメさん。

いつの間にか香織と同様、ハジメさん以外の男に興味などなくなっていた。

だが…私を助ける為にハジメさんが死にかけた事は…絶望と恐怖だった。

 

ハジメさんを失う恐怖は爪熊の恐怖など比較にならない。

私には八重樫流の剣術があるのに…大切な人を守る事もできないの…?

強い敵がでたら全部ハジメさん任せで…私は泣いて震えてるの…?

 

雫は弱い自分を自覚していた。

剣を振るうことはできるが命を奪う行為に、やはり震えがくる…。

でもハジメさんを失うぐらいなら、私は戦う…

しかし自分の弱さでは戦っていれば、心が折れてしまう…という不安が顔をだす。

 

不意に私は、オルクスの迷宮で初めて敵の命を奪って震える私にハジメさんは「まだ進める…かな?」と優しく聞いてくれた事を思い出した。

その瞬間私は不安も恐怖も………無くなったではないか!

そうだ!私は一人で生きていくのではない!

ハジメさんと共に戦い、生き延びるのだ!

 

雫から雑念が消えていく。

 

戦いは怖い…でもハジメさんと一緒なら不安も恐怖も乗り越えられる。

 

「私の望みは、ハジメさんの側でパートナーとして胸を張ってお互い支えあいながら生きていく事」

 

雫の目に強い光が宿る。

それは何者にも揺るがされる事のない…極限の意思だった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

香織と雫の思いは一緒だった。

爪熊を倒さなければ、心の弱さをそのままにしてしまう。

この先強敵がでたら、また自分達は何も出来ずに、ハジメが身を削って助けてくれる姿を眺めるだけの足手まといになってしまうかもしれない…

今回は神水という奇跡が私達を生かしてくれたが次もそうだとは限らない…

 

二人はハジメと共に戦い、共に生きたいと願っていた。

だから絶望と、恐怖を自分達に与えた爪熊を倒して克服しなければならなかった。

 

「「だから必ず爪熊は私達が倒す!!」」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ハジメの方も爪熊に対して身体の一部を食われてしまう恐怖に打ち勝つ必要があった。

蹴りウサギを倒した後、油断してしまった自分の情けなさに怒りがこみ上げる。

戦闘終了直後、血の匂いがする戦場にさらなる捕食者が来るのは当たり前だ。

こんな閉鎖された空間で僅かな血の匂いは捕食者を呼び寄せるだけだという事を僕は理解していた筈だ。

 

それなのに油断して愛する香織と雫を危険に晒してしまった。

許せるはずがない。

僕の目の前で腕と足を食べた爪熊の恐怖に震えたままではいられない。

この先どんな強敵がいるかもわからない。

だから…この先、僅かな油断も見せない、恐怖も乗り越えなければならない。

 

その為にも爪熊の恐怖を今克服しなければならない。

ハジメの心が静かに澄んでいく。

 

雑念、恐怖全てが消えていく…

「僕の望みは…香織と雫を愛し、一緒に生きて故郷に帰る事。」

 

ハジメの目に強い光が宿る。

 

それは何者にも揺るがされる事のない…極限の意思だった

 

「だから必ず爪熊は僕いや、俺が倒す!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ハジメ達は洞窟内をひたすら爪熊をさがしまわっていた。

 

そしてついにその時がきた。

 

爪熊は現在食事中のようだ。

蹴りウサギと思しき魔物を咀嚼している。

その姿を確認するとハジメ達はニヤリと不敵に笑い、悠然と歩き出した。

 

爪熊はこの階層における最強種だ。

主と言ってもいい。

二尾狼と蹴りウサギは数多く生息するも爪熊だけはこの一頭しかいない。

故に、爪熊はこの階層では最強であり無敵。

 

それを理解している他の魔物は爪熊と遭遇しないよう細心の注意を払うし、遭遇したら一目散に逃走を選ぶ。

抵抗すらしない。

まして、自ら向かって行くなどあり得ないことだ。

 

しかし、現在、そのあり得ないことが目の前で起こっていた。

 

「久しぶりだな爪熊。随分探したぞ?俺の腕は美味かったか?」

「食事中みたいだけど遠慮はしないよ?」

「もう逃さないわよ?覚悟しなさい。」

 

爪熊はその鋭い眼光を細める。

目の前の生き物達はなんだ?

なぜ、己を前にして背を見せない?

なぜ恐怖に身を竦ませ、その瞳に絶望を映さないのだ? 

 

かつて遭遇したことのない事態に、流石の爪熊も若干困惑する。

 

「リベンジマッチだ。まずは挨拶からだ。香織、雫!」

「うん!」

「ええ!」

 そう言って、ハジメ達はそれぞれの銃を抜き銃口を真っ直ぐに爪熊へ向けた。

 

ハジメは構えながら眷族通話で香織と雫に問う。

「怖いか?」

答えは否だ。

「ハジメ君が傷ついたりいなくなっちゃう事に比べたら全然怖くないよ!」

「そうよ!ハジメさん、私も香織も貴方と共に戦い生きたいの。護衛対象って思わないで…貴方のパートナーと思って!」

 

三人は絶望に目の前が暗くなることも、恐怖に腰を抜かしガタガタ震えることもない。

 

あるのはただ、三人でどんな苦難にも恐怖にも立ち向かう強固な意思だけだ。

三人の目には緊張もない…静かな目を爪熊に向け宣戦布告する。

「おまえを倒す!」「「あなたを倒す!」」

 

その宣言と同時にハジメはドンナー、シュラークを、香織はリヒトゥとヴンシュを発砲する。ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!と炸裂音を響かせながらマッハ9の超速でタウル鉱石の弾丸が爪熊に迫る。

 

「グゥウ!?」

 

爪熊は咄嗟に崩れ落ちるように地面に身を投げ出し回避した。

 

弾丸を視認して避けたのではなく、発砲よりほんの僅かに回避行動の方が早かったことから、おそらくハジメの殺気に反応した結果だろう。

流石は階層最強の主である。

二メートル以上ある巨躯に似合わない反応速度だ。

 

だが、完全に避け切れたわけではなく肩の一部が抉れて白い毛皮を鮮血で汚している。

そこに雫の愛刀藤が振り下ろされる。

 

雫の刀は蹴りウサギに切り掛かった際に折れてしまったが、新しくハジメに作ってもらった藤は前回とは比べ物にならない程の切れ味を見せた。

 

「ガァアア!!」

爪熊の左腕が宙に舞う。

雫は爪熊がハジメにした事をそっくりやり返してやるつもりで剣を振るった。

 

咆哮を上げながら物凄い速度で距離をとりハジメ達の方へ振り返る。

二メートルの巨躯と広げた太く長い豪腕が片腕をうしなっても尚脅威だと認識する。

 

「ハハ!そうだ!俺達は敵だ!ただ狩られるだけの獲物じゃない!」

 

 

爪熊から凄まじいプレッシャーを掛けられながら、なお、ハジメ達は平静を崩さない。

 

ここがターニングポイントだ。

 

ハジメの左腕を喰らい、恐怖と絶望を突きつけた魔物を打ち破る。

これから前へ進むために必要な儀式。

それができなければ、きっと己の心は妥協することを認めてしまう。

ハジメ、香織、雫はそう確信していた。

 

突進してくる爪熊に、再度、ドンナーを発砲する。

超速の弾丸が爪熊の眉間めがけて飛び込むが、なんと爪熊は突進しながら側宙をして回避した。

 

自分の間合いに入った爪熊は突進力そのままに爪腕を振るう。

固有魔法が発動しているのか三本の爪が僅かに歪で見える。

 

ハジメの脳裏に、かつてその爪をかわしたにもかかわらず両断された蹴りウサギの姿が過った。

ハジメはギリギリで避けるのではなく全力でバックステップする。

 

刹那、一瞬前までハジメがいた場所を豪風と共に爪が通り過ぎ、触れてもいないのに地面に三本の爪痕が深々と刻まれた。

 

「成る程、これがお前の固有魔法か!」

 

爪熊が獲物を逃がしたことに苛立つように咆哮を上げる。

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

咆哮を上げた瞬間、香織と雫が発砲する。

 

ギリギリでかわした爪熊だが、爪熊の足元にカランと何かが転がる音がした。

釣られて爪熊が足元に視線を向けると直径五センチ位の深緑色をしたボール状の物体が転がっている。

爪熊がそのことを認識した瞬間、その物体がカッと強烈な光を放った。

 

ハジメが作った閃光手榴弾である。

 

原理は単純だ。

緑光石に魔力を限界ギリギリまで流し込み、光が漏れないように表面を薄くコーティングする。

更に中心部に燃焼石を砕いた燃焼粉を圧縮して仕込み、その中心部から導火線のように燃焼粉を表面まで繋げる。

 

後は纏雷で表に出ている燃焼粉に着火すれば圧縮してない部分がゆっくり燃え上がり、中心部に到達すると爆発。

臨界まで光を溜め込んだ緑光石が砕けて強烈な光を発するというわけだ。

ちなみに、発火から爆発までは三秒に調整してある。

苦労した分、自慢の逸品だ。

 

当然、そんな兵器など知らない爪熊はモロにその閃光を見てしまい一時的に視力を失った。

片腕をめちゃくちゃに振り回しながら、咆哮を上げもがく。

何も見えないという異常事態にパニックになっているようだ。

 

その隙を逃すハジメ達ではない。

再び銃を構えてすかさず発砲する。

加速スイッチを最速の5にした絶大な威力の弾丸が暴れまわる爪熊の右肩と右足に命中し、根元から吹き飛ばした。

 

「グルゥアアアアア!!!」

 

その生涯でただの一度も感じたことのない激烈な痛みに凄まじい悲鳴を上げる爪熊。

その肩からはおびただしい量の血が噴水のように噴き出している。

吹き飛ばされた右腕と右足がくるくると空中を躍り、やがて力尽きたようにドサッと地面に落ちた。

 

「こりゃあ偶然にしてはでき過ぎだな」

 

ハジメの前にあるのは爪熊の左腕と右足だった。右肩は雫の方に転がっていた。

 

故に、かつて奪われ喰われたハジメと同じ左腕と右足を奪うことになったのは全くの偶然だった。

 

ハジメは、痛みと未だ回復しきっていない視界に暴れまわる爪熊へ再度発砲する。

 

爪熊は混乱しながらも野生の勘で殺気に反応し横っ飛びに回避した。

 

ハジメ達は、縮地で爪熊の左腕、右肩、右足を回収した。

こちらを強烈な怒りを宿した眼で睨む爪熊に見せつけるかのように左腕を持ち上げ掲げた。

 

そして、ハジメはおもむろに噛み付いた。

魔物を喰らうようになってから、やたらと強くなった顎の力で肉を引き千切り咀嚼する。

かつて爪熊がそうしたように目の前で己の腕が喰われるという悪夢を再現する。

 

「あぐ、むぐ、それにしてもマズイ肉だ。……なのにどうして他の肉より美味く感じるんだろうな?」

 

そんなことを言いながら、こちらを警戒しつつ蹲る爪熊を睥睨するハジメ。

 

爪熊は動かない。

その瞳には恐怖の色はないが、それでも己の肉体の一部が喰われているという状況と両腕と右足を失った事、回復しきっていない視力に不用意には動けないようだ。

 

それをいいことに、ハジメは食事を続ける。

すると、やがて異変が訪れた。

初めて魔物の肉を喰らった時のように、激しい痛みと脈動が始まったのだ。

 

「ッ!?」

 

急いで神水を服用するハジメ。

あの時ほど激烈な痛みではないが、立っていられず片膝を突き激しい痛みに顔を歪める。

「ハジメ君!?」「ハジメさん!?」

香織と雫が不安そうに駆け寄るがすぐに原因を察した。

 

どうやら、爪熊が二尾狼や蹴りウサギとは別格であるために取り込む力が大きく痛みが発生したらしい。

 

だが、そんな事情があろうとも爪熊には関係なかった。両腕と右足を失った爪熊はもはや死を待つだけのエサに成り下がっていた。

 

香織と雫が地面に手をあて、そして雷を纏う。

最大出力で放たれた香織と雫の纏雷は地面の爪熊の血を伝い、爪熊を容赦なく襲った。

 

自らの流した血溜りの中にいる爪熊を強烈な電流と電圧が瞬時にその肉体を蹂躙する。

神経という神経を侵し、肉を焼く。

最大威力と言っても、ハジメ達が取得した固有魔法は本家には及ばない。

 

「ルグゥウウウ」

 

低い唸り声を上げながら自らの血溜りの中で倒れ伏す爪熊だが、未だ鋭く殺意に満ちていてハジメ達を睨んでいる。

 

ハジメと香織と雫は、真っ直ぐその瞳を睨み返し、ゆっくり立ち上がった。そして、銃を構えながら爪熊に近づき、爪熊の頭部に銃口を押し当てた。

 

「さようならだ…」

「強かったよ…」

「私達の勝ちね…」

 

その言葉と共に引き金を引く。

撃ち出された弾丸は主の意志を忠実に実行し、爪熊の頭部を粉砕した。

 

迷宮内に銃声が木霊する。

 

爪熊は最期までハジメから眼を逸らさなかった。

ハジメ達もまた眼を逸らさなかった。

 

想像していたような爽快感はない。

だが、虚しさもまたなかった。

ただ、やるべきことをやった。

生きるために、この領域で生存の権利を獲得するために。

 

ハジメは香織と雫を抱き寄せた。

そしてハジメ達はスッと目を閉じると、改めて己の心と向き合う。

そして、この先もこうやって三人で生きると決意する。

戦いは好きじゃない。

苦痛は避けたい。

腹いっぱい飯を食いたい。

そして……生きたい。

理不尽を粉砕し、敵対する者には容赦なく、全ては生き残るために。

 

そうやって生きて……

 

そして……

 

故郷に帰りたい。

 

そう、心の深奥が訴える。

 

「そうだ……帰りたいんだ……俺は。香織と雫を連れて…地上で待っているクラスの仲間達と共に…帰りたいんだ…故郷に帰って香織と雫をお嫁さんに貰うんだ……」

「うん、私もハジメ君と雫ちゃんと…クラスのみんなと…日本に帰りたい…日本でハジメ君と雫ちゃんの三人で幸せに暮らしたい…」

「ええ、帰らなきゃ、クラスのみんなと…私の家族と香織の家族を説得して…三人で仲良く暮らしましょう」

 

「「「三人で生き抜く!そして必ず…故郷に帰る!」」」

 

 

 




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南雲ハジメ 18歳 男 レベル:20
天職:錬成師    職業:冒険者 青
筋力:600
体力:600
耐性:600
敏捷:600
魔力:600
魔耐:600
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+精密錬成][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+複製錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物系融合][+鉱物系分離][+鉱物系分解][+貯蔵庫][+貯蔵庫内複製][+貯蔵庫容量増加][+震動波砕][+震動波砕道具付与][+震動波砕効果範囲拡大]・魔力操作・胃酸強化・魔力視・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・威圧・纏雷[+雷耐性]・纏氷[+氷耐性]・纏光[+光耐性]・纏闇[+闇耐性]・纏風[+風耐性]・纏火[+火耐性]・纏水[+水耐性]・纏地[+地耐性]・気配遮断・再生[+超速再生]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地]・高速魔力回復・眷族通話(香織、雫)・飛爪・減速加速門・最適化・言語理解・「 」の加護
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南雲香織 18歳 女 レベル:20
天職:治癒師    職業:冒険者 青
筋力:450
体力:450
耐性:450
敏捷:450
魔力:900
魔耐:900
技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇] ][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇]・光魔法適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇]・魔力操作・胃酸強化・魔力視・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・威圧・纏雷[+雷耐性]・纏氷[+氷耐性]・纏光[+光耐性]・纏闇[+闇耐性]・纏風[+風耐性]・纏火[+火耐性]・纏水[+水耐性]・纏地[+地耐性]・気配遮断・再生・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地]・高速魔力回復・眷族通話(ハジメ、雫)・飛爪・言語理解・「 」の加護
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南雲雫 18歳 女 レベル:20
天職:剣士    職業:冒険者 青
筋力: 650
体力: 650
耐性: 500
敏捷: 700
魔力: 600
魔耐: 600
技能:剣術[+抜刀速度上昇][+斬撃威力上昇][+斬撃速度上昇][+命中精度上昇][+弱点看破][+衝撃波追加]・先読・気配感知[+特定感知]・隠業・魔力操作・胃酸強化・魔力視・魔力感知[+特定感知]・威圧・纏雷[+雷耐性]・纏氷[+氷耐性]・纏光[+光耐性]・纏闇[+闇耐性]・纏風[+風耐性]・纏火[+火耐性]・纏水[+水耐性]・纏地[+地耐性]・気配遮断・再生・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地]・高速魔力回復・眷族通話(ハジメ、香織)・飛爪・言語理解・「 」の加護
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第十九話 ありふれた生存者

謎の洞窟を進むハジメ達。

そこにいたのは予想もしていなかった、クラスメイトの変わり果てた姿。

その名は篠原カズト…

一体彼はどんな運命を辿るのか…?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
本編に入る前に軽い説明を。

この時期、ハジメ、香織、雫の感覚はちょっとアレな感じになっていました。

痛みや恐怖に慣れた三人は、魔物を食べた時に感じる苦痛を、より強くなれるチャンスと考えてラッキーと思うようになっていました。

篠原カズト君が苦痛で苦しんでいる時、ハジメ達は激しい苦痛だからとてつもなく強化されてると思い、「ラッキーだね!カズト君!」と思ってます。
\_(・ω・`)ココ重要!


「見つからないね…」

「そうね…見落としは無いと思うけど…」

 

爪熊を殺した次の日、ハジメ達は上階へと続く道を探し続けていた。

 

既にこの階層の探索は終えている。

 

階下への道なら既に発見している。

ここが迷宮で階層状になっているのなら上階への道も必ずあるはずなのだが、どうしても見つからないのだ。

 

なお、錬成で直接上階への道を作ればいいじゃないというダンジョンのなんたるかを軽く無視する方法は既に試した後だ。

 

結果、上だろうと下だろうと、一定の範囲を進むと何故か壁が錬成に反応しなくなるということが分かった。

その階層内ならいくらでも錬成できるのだが、上下に関してはなんらかのプロテクトでも掛かっているのかもしれない。

 

そういうわけで、地道に上階への道を探しているのだが、見つからなければ決断する必要がありそうだ。この大迷宮の更に深部へ潜ることを。

 

「……行き止まりね…これで分岐点は全て調べたけど…一体どうなってるのかしら…」

「一つ分かった事はこの洞窟は誰かが作ったって事ぐらいかな…?」

「だよね…わざわざプロテクトかかってるみたいだし…」

 

はぁ~と深い溜息を吐きながら結局見つからなかった上階への道を諦めるハジメ達。

そして、4日前に発見した階下への階段がある部屋へと赴く。

 

その階段はなんとも雑な作りだった。

 

階段というより凸凹した坂道と言った方が正しいかもしれない。

そしてその先は、緑光石がないのか真っ暗な闇に閉ざされ、不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

「覚悟を決めて行きますか…」

 

ハジメは香織と雫を抱き寄せて

 

「俺は香織と雫を守る。」

「私はハジメ君と雫ちゃんを守る。」

「私はハジメさんと香織を守る。」

 

三人は頷いてから、地下に降りる。

 

その階層はとにかく暗かった。

 

地下迷宮である以上それが当たり前なのだが、今まで潜ったことのある階層は全て緑光石が存在し、薄暗くとも先を視認できないほどではなかった。

 

だが、どうやらこの階層には緑鉱石が無いようだ。

ハジメは眷族通話で香織と雫に話しかける。

 

(暗闇で狩をする時…有効な方法は、熱感知、音、そして僅かな光…)

松明を用意したハジメに

 

(松明に火をつけて置いておけば敵が自分からやって来る…って事?)

雫が、ハジメの考えを悟って香織を連れて岩陰に隠れる。

そのまま銃を抜き射撃体勢をとる。

 

(火をつけるよ!)

ハジメは指先に纏火を発動させ、松明に火をつけて通路の真ん中に設置してから隠れる。

 

しばらく待っていると、通路の奥で何かがキラリと光った気がして、ハジメ達は警戒を最大限に引き上げた。

 

壁に微かな音を感じて、注意を向けると、そこには体長二メートル程の灰色のトカゲが壁に張り付いており、金色の瞳で松明に近づいていく。

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

ハジメ達はすかさず発砲した。

 

バジリスクは声を発する間も無く頭部を吹き飛ばされ、絶命する。

弾丸は、そのまま貫通し奥の壁に深々と穴を空けた。

 

ハジメは周囲を警戒しつつ、バジリスクの死体を貯蔵庫にしまい、再び岩陰に隠れた。

 

その後6時間ほどで更に二種類の魔物をしとめた。

まずは魔物を食べ、この階層の攻略を楽にしようと考えた。

 

ハジメは壁に手を当てて、穴を掘り拠点を作ることにした。

 

いつものように、食事の準備をする香織。

ハジメが手伝おうとするが、「料理は奥さんの仕事だよ!」と押しきられ、出来終わるまで待つ事に…

 

「さて、じゃあ、早速いただきますか」

「「「いただきます!」」」

 

本日のメニューは、バジリスクの丸焼きと、羽を散弾銃のように飛ばしてくるフクロウの丸焼きと、六本足の猫の丸焼きである。調味料はない。

 

むぐむぐと喰っていると次第に体に痛みが走り始めた。

つまり、体が強化されているということだ。

だとすると、ここの魔物は爪熊と同等以上の強さを持っているのだろう。

しかし松明に近寄った瞬間、狙撃して、仕留めているのでハジメ達には強さの実感が湧かなかった。

 

「結構強い痛みがあるわね?」

バジリスクを食べた後、雫が感想を述べる。

 

「うん!かなりステータス上がりそうでラッキーだよね!」

少しずれた感想を香織が言うが、ハジメと雫も同じ事を考えていたので誰も突っ込まない…

 

ハジメ達は神水を飲みながら痛みを無視して喰い続ける。

幻肢痛から始まり飢餓、肉体の変質と苦痛続きだったハジメ達はすっかり痛みに強くなっていた。

 

「むぐ、ふぅー、ごちそうさまでした。香織、ありがとう!」

ハジメのお礼に嬉しくなった香織はハジメの横に座り甘える。

「ステータスはどう変わったか確認しましょう?」

雫もハジメの横に座り甘えながらステータスプレートをだす。

ハジメ達に新しく加わった技能は、夜目、石化耐性、無音の三種類だった。

 

予想通りステータスも大幅に上昇していた。

夜目の効果か、よくよく見ると、確かに先程より遥かに周りが見える。

 

奈落の魔物にしてはショボイ気もするが、この階層においてはとんでもないアドバンテージだ。

 

石化耐性は文字通りの技能だろう。

石化の邪眼を密かに期待してたハジメはがっかりするがすぐに気を取り直し

 

「最適化しようか?」

「「は、はい…♡」」

 

2時間かけて最適化を施した後、ハジメ達は階層の探索に移る。

 

夜目と気配遮断、無音の三種類の技能のおかげで探索が容易になった為、ハジメはいくつかの新しい鉱石を見つける事ができた。

 

下に降りる階段を見つけたので再び錬成で拠点を作り消耗品をあえて錬成しはじめた。

貯蔵庫内で複製すればすぐに終わるのだが錬成の熟練度を上げる為、わざわざ弾丸を一発一発作っている。

 

弾丸は一発作るのにも途轍もなく集中力を使うのだ。

何せ、超精密品である。

銃に刻まれたライフリングが無意味にならないようにサイズを完璧に合わせる必要がある。

炸薬の圧縮量もミスは許されない。

最初は一発作るのに三十分近く掛かったのだが、今は2分ぐらいしかかからない。

もっとも、手間がかかる分威力は文句なしであるし、錬成の熟練度がメキメキと上昇していくのでなんの不満もない。

 

実際、今のハジメの錬成技術は王国直属の鍛治職人を遥かに上回る実力だ。

 

ハジメは黙々と錬成を、香織は回復魔法を、雫は剣術を鍛錬した。

 

まだ、一階層しか降りていないのだ。

 

この奈落がどこまで続いているのか見当もつかない。

 

錬成と鍛錬を終えたら最適化し、直ぐに探索に乗り出すつもりだ。

 

最適化が終わり、階段を降り始める。

 

次の階層は、地面がどこもかしこもタールのように粘着く泥沼のような場所だった。

足を取られるので凄まじく動きにくい。

 

ハジメ達は顔をしかめながら、せり出た岩を足場にしたり空力を使ったりしつつ探索を開始する。

 

周囲の鉱物を鉱物系感知の技能で調べながら進んでいると、途中興味深い鉱石を発見した。

 

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フラム鉱石

艶のある黒い鉱石。熱を加えると融解しタール状になる。融解温度は摂氏50度ほどで、タール状のときに摂氏100度で発火する。その熱は摂氏3000度に達する。燃焼時間はタール量による。

===================================

 

「……うそん」

「?どうしたの?ハジメ君?」

 

ハジメは引き攣った笑みを浮かべゆっくり香織と雫に振り返る。

ハジメからフラム鉱石の説明を聞いた香織と雫は顔を引きつらせる…

 

「か、火気厳禁なのね…」

 

発火温度が百度ならそう簡単に発火するとは思わないが、仮に発火した場合、連鎖反応でこの階層全体が摂氏三千度の高熱に包まれることになる。

流石に、神水をストックしていても生き残る自信はない。

 

「使用可能な武器は雫の刀だけか…纏風、風爪、纏氷だけで何とか切り抜けよう。……」

「「はい!」」

 

ハジメが作った銃は強力な武器だ。

加速モードを切っていても燃焼石による炸薬だけで十二分の威力を発揮する。

弾丸の速度はマッハ1。

壁に当たった時の火花で着火しないとも限らない。

 

ハジメ達は探索を開始する。

 

しばらく進むと三叉路に出た。

近くの壁にチェックを入れセオリー通りに左の通路から探索しようと足を踏み出した、その瞬間、

 

ガチンッ!

 

「ッ!?」

「何なの?」

 

鋭い歯が無数に並んだ巨大な顎門を開いて、サメのような魔物がタールの中から飛び出してきた。

 

ハジメの頭部を狙った顎門は歯と歯を打ち鳴らしながら閉じられる。

 

天歩と縮地を利用してかわしたもののハジメは戦慄した。

 

即座に眷族通話で二人に警告を発する。

 

(気配感知に反応しない、おそらく気配遮断。しかも複数。)

(不意打ちに注意ね、こちらも気配遮断、無音ね!)

(香織、次に奴が現れたら…)

(捉え損じた魔物対策に、回復力を最小にした周天ね!)

(流石俺の奥さん、頼むよ!)

(うん!任せて!)

(減速加速結界展開!気配遮断を解く、いくよ!)

((はい!))

 

ハジメは気配遮断を解き地面に着地した時、足を滑らせて体勢を崩す。

その隙をサメは見逃さない。

死角となる背後から一気に飛びかかる。

 

「単純で助かる!」

「ー周天!」

 

ハジメは、崩したと思われたバランスを即行で立て直すと、減速門に入り、動きがスローモーションになったサメに風爪で切り裂く。

 

ハジメの正面から襲ってきたサメは雫が切り落とす。

 

一匹逃したが香織の周天がかかっている為、位置はバレバレだ。

 

再びハジメは風爪を放ち仕留める。

 

爪熊のように三本も出たりはしないが、その鋭利さはその辺の名刀を遥かに凌ぐ。

近接では実に頼りになる固有魔法だ。

 

「気配を感じなかった理由は気配遮断だとは思うけど、確かめさせてもらうぞ?」

 

ハジメはそう言って錬成で隠れ家を作成する。

 

いつものように香織が調理していた時、実は三種類の魔物だった事が判明した。

サメとカジキとエイのような魔物で、得たスキルが遊泳、病気耐性、呪耐性だった。

 

タールサメの階層を突破したハジメ達だが、その後も理不尽としか言いようがない強力な魔物と何度も死闘を演じてきた。

 

最初の階層から10階層目は迷宮全体が薄い毒霧で覆われた階層だった。

毒の痰を吐き出す二メートルのカエル(虹色だった)や、麻痺の鱗粉を撒き散らす蛾(見た目モ○ラだった)や、蜘蛛(見た目巨大タランチュラ)に襲われた。

 

その姿を見た時の香織と雫は完全に固まっていた。

 

常に神水を服用してその恩恵に預からなければ、ただ探索しているだけで死んでいたはずだ。

 

虹色ガエルの毒をくらったときは直接神経を侵され、一番最初に魔物の肉を喰った時に近い激痛をハジメ達にもたらした。

 

奥歯に仕込んだ神水がなければ死んでいただろう。

 

ちなみに、奥歯に仕込んだのは噛み砕ける程度に薄くした石で出来た小さな容器だ。

緊急用に仕込んでおいたのが幸いした。

 

当然、三体とも食べた。

蛾を食べるのは流石に抵抗があったが、自身を強化するためだと割り切り意を決して喰った。

 

香織と雫は引きつっていたが、ハジメが口移しで食べさせてあげたら、二人ともハマってしまったらしい。

これから先の食事はハジメが口移しで食べさせてやる事が決まった。

 

ちなみに蛾は、カエルよりちょっと美味しく、なんとなく悔しい思いをするハジメ達であった。

 

蜘蛛は全く味がしなかった…

 

毒耐性と麻痺耐性、糸作成の3つの技能を得たハジメ達は再び階層を探索するのだが…

 

毒の霧に包まれた階層の奥には地底湖のようなモノがあった。

 

そこでハジメは信じられない気配を感じた。

 

眷族通話に切り替えて香織と雫に今の気配を伝える。

 

(香織、雫、この気配感じたか?)

(う、うん…これって人間だよね…?)

(反応が希薄ね…死にかけてるのかしら…?)

(ハジメ君、どうしよう…)

 

(警戒しながら行ってみよう…雫、後方の警戒を頼む。香織は真ん中、回復魔法の準備を!)

((はい!))

 

湖の中央にある島に人間の反応があったのだ。

 

空力で近づいて行くと、見慣れた装備に身を包んだ体育座りをしている男がいた。

 

(アイツの装備…香織、雫、見覚えないか?)

(うん…ひょっとして…篠原君?)

(私も香織と同意見だけど…確か篠原君は天之河に橋から落とされたのよね…)

(そういえば…あれからどれくらいたったのかな?日付の感覚全くないけど…)

 

「カズトか?ハジメだ!おい!しっかりしろ!」

ハジメはカズトの頬を叩きながら声をかける。

 

「う、ううう…」

「しっかりしろ!まずこれを飲め!」

ハジメはカズトに神水を渡した。

 

ゴクゴクゴク…

カズトは神水を飲み干すと、突然モヤがかかっていた頭の中が突然クリアになる。

 

「うう、は、ハジメ…?な、なんか随分…雰囲気が変わったような…?」

「篠原君、大丈夫?南雲香織よ!」

「篠原君、生命に別状はないわね…私はちょっと外見変わったけど南雲雫よ!」

 

「……はっ?うっ、ぐぅぅぅーうわぁぁぁぁぁぁん!」

 

カズトはハジメにしがみつき泣き始めた…

 

ハジメがカズトの様子を見るとガリガリに痩せていた。

そしてカズトの周りにはお菓子の包紙がかなり捨てられていた。

 

ハジメに香織の眷族通話が届く。

(無駄に動かず、少しずつお菓子を食べていたみたい…生命に別状はないよ!でも相当お腹空いてるみたいだね…)

(俺たちの持ってる食料といっても魔物肉だしな…とりあえず聞いてみるか…)

 

カズトが落ち着くのを待ってから、ハジメは食料の説明を始める…

 

飢餓感は神水では解決しないし…

 

「カズト、一応食料はある…魔物の肉だ。本来魔物の肉を食べれば即死だが、今カズトに飲ませた神水を飲みながら食べれば、生き残れる。」

 

「ほ、本当…なの…か…?」

 

「あぁ、今目の前にいる俺達がその証拠だ…ただ、初めて食べる場合は相当な苦痛を伴う。」

 

「…ひっ…」

引きっつった表情で怯えるが選択肢は他にない…

 

「魔物の肉を食べれば魔物の技能を得る事ができる…さらに胃酸強化という技能があれば、これから先、魔物の肉を食べても苦しまずにすむ。…どうする?といっても選択肢は他にないが…」

 

「た、食べる!食べるから早く…食べたい…!」

 

カズトの返事を聞き、香織が早速魔物肉を調理する。

 

(私達が食べた順番が一番かな?)

(一応私達が生きてるし…一番安全じゃないかしら…)

(全種類残ってる訳じゃないけど…まずはロックマウント、二尾狼、蹴りウサギ、爪熊、バジリスク、フクロウ、ネコ、サメ、カジキ、エイ、蛾、カエル、蜘蛛だな…)

(他は味がなくて食べちゃったもんね…こんな事なら全種類取っておけば良かったね…)

 

「いいか、必ず神水を飲んでから食べる、食べ終わった後に飲む、これは必ず守ってくれ、洒落抜きで死ぬからな…」

「わ、わかった…早速食べる…モグモグ…」

 

香織が出した順番に食べて行くカズト。

ロックマウント、二尾狼、蹴りウサギを食べた時点で激痛がはしったようだ。

 

「ギャァァァァァーーな、何だよ…これはぁぁぁ…!!」

「相当な苦痛を伴うよ…耐え切ればこの苦痛はもう回避できる。」

 

「あ? ――ッ!? アガァ!!!」

 

カズトの全身を激しい痛みが襲う。

まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。

その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。

 

「ぐぅあああっ。な、何がっ――ぐぅううっ!」

 

「はい、ハジメ君、あーん♡」

「ありがとう、香織…チュッ」

 

カズトを襲う耐え難い痛み。

自分を侵食していく何か。

カズトは地面をのたうち回る。

 

「香織ばかり…ずるい!ハジメさん、あーん♡」

「ありがとう、雫…チュッ」

 

カズトは震える手でハジメが用意した神水を飲み干す。

直ちに神水が効果を発揮し痛みが引いていくが、しばらくすると再び激痛が襲う。

 

「ひぃぐがぁぁ!! なんで……なおらなぁ、あがぁぁ!」

 

「ハジメ君…次は私に食べさせて…♡」

「香織…あーん…チュッ」

「あん♡」

 

カズトの体が痛みに合わせて脈動を始めた。

ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。

至る所からミシッ、メキッという音さえ聞こえてきた。

 

「ハジメさん、香織だけじゃなく私も…欲しい…♡」

「雫は甘えん坊だね、はい、あーん…チュッ」

「は、ハジメさん♡」

 

しかし次の瞬間には、体内の神水が効果をあらわし体の異常を修復していく。修復が終わると再び激痛。

そして修復。

 

「ハジメ君…今度は私が食べさせてあげる…♡」

「香織…魅力的だよ…チュッ」

「んっ♡」

 

神水の効果で気絶もできない。

絶大な治癒能力がアダとなった形だ。

 

カズトは絶叫を上げ地面をのたうち回り、頭を何度も壁に打ち付けながら終わりの見えない地獄を味わい続けた。

いっそ殺してくれと誰ともなしに願ったが当然叶えられるわけもなくひたすら耐えるしかない。

 

すると、カズトの体に変化が現れ始めた。

 

まず髪から色が変化してゆく。

許容量を超えた痛みのせいか、それとも別の原因か、日本人特有の黒髪がどんどん赤くなってゆく。

 

「香織…今度は私の番よ…ハジメさん…召し上がれ♡」

「雫…魅力的だよ…チュッ」

「んっ♡」

 

「……………怒」

 

次いで、筋肉や骨格が徐々に太くなり、体の内側に薄らと赤黒い線が幾本か浮き出始める

壊れた端からすぐに修復していく。その結果、肉体が凄まじい速度で強靭になっていく。

壊して、治して、壊して、治す。

 

「ハジメ君…もっと触って…」

「ハジメさん、もっと触って…」

「香織、雫、おいで…」

 

「………怒怒怒怒怒怒怒!」

 

カズトは内気な少年だった。

自分の本当の気持ちや感想を他人に話す事が出来なかった。

中学ではいじめられ続けていたが高校に入って状況が変わった。

 

高校では清水幸利やハジメ、太田、河原、佐久間と言った友人が出来たのだ。

虐められる事はなくなり、安心して学校生活を送れるようになっていた…

 

それでもまだ、自分の本心や意志を他人に話す事は出来なかった…

 

しかし…ついに彼は自分の殻を突き破る事になる…

 

脆弱な肉体も強靭な身体に作り変えられ、今、閉じこもっていた自分の殻を突き破る…

 

「 てめぇら、いい加減にしろ!!!!  」

 

篠原カズト…彼は身も心も進化したのであった。

 




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南雲ハジメ 18歳 男 レベル:30
天職:錬成師    職業:冒険者 青
筋力:1300
体力:1300
耐性:1300
敏捷:1300
魔力:1300
魔耐:1300
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+精密錬成][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+複製錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物系融合][+鉱物系分離][+鉱物系分解][+貯蔵庫][+貯蔵庫内複製][+貯蔵庫容量増加][+震動波砕][+震動波砕道具付与][+震動波砕効果範囲拡大][+詳細設計]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・魔力視・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・威圧・纏雷[+雷耐性][+威力調整]・纏氷[+氷耐性][+威力調整]・纏光[+光耐性][+威力調整]・纏闇[+闇耐性][+威力調整]・纏風[+風耐性][+威力調整]・纏火[+火耐性][+威力調整]・纏水[+水耐性][+威力調整]・纏地[+地耐性][+威力調整]・気配遮断[+無音][+無臭]・再生[+超速再生]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚]・高速魔力回復・眷族通話(香織、雫)・飛爪・夜目・石化耐性・毒耐性・麻痺耐性・病気耐性・呪耐性・糸作成・遊泳・減速加速門・最適化・言語理解・「 」の加護
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南雲香織 18歳 女 レベル:30
天職:治癒師    職業:冒険者 青
筋力:1000
体力:1000
耐性:1000
敏捷:1000
魔力:1800
魔耐:1800
技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動] ・光魔法適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・魔力視・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・威圧・纏雷[+雷耐性][+威力調整]・纏氷[+氷耐性][+威力調整]・纏光[+光耐性][+威力調整]・纏闇[+闇耐性][+威力調整]・纏風[+風耐性][+威力調整]・纏火[+火耐性][+威力調整]・纏水[+水耐性][+威力調整]・纏地[+地耐性][+威力調整]・気配遮断[+無音][+無臭]・再生・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚]・高速魔力回復・眷族通話(ハジメ、雫)・飛爪・夜目・石化耐性・毒耐性・麻痺耐性・病気耐性・呪耐性・糸作成・遊泳・言語理解・「 」の加護
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南雲雫 18歳 女 レベル:30
天職:剣士    職業:冒険者 青
筋力: 1250
体力: 1250
耐性: 1000
敏捷: 1800
魔力: 1200
魔耐: 1200
技能:剣術[+抜刀速度上昇][+斬撃威力上昇][+斬撃速度上昇][+命中精度上昇][+弱点看破][+衝撃波追加]・先読・気配感知[+特定感知]・隠業・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・魔力視・魔力感知[+特定感知]・威圧・纏雷[+雷耐性][+威力調整]・纏氷[+氷耐性][+威力調整]・纏光[+光耐性][+威力調整]・纏闇[+闇耐性][+威力調整]・纏風[+風耐性][+威力調整]・纏火[+火耐性][+威力調整]・纏水[+水耐性][+威力調整]・纏地[+地耐性][+威力調整]・気配遮断[+無音][+無臭]・再生・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚]・高速魔力回復・眷族通話(ハジメ、香織)・飛爪・夜目・石化耐性・毒耐性・麻痺耐性・病気耐性・呪耐性・糸作成・遊泳・言語理解・「 」の加護
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篠原カズト 18歳 男 レベル:15
天職:火剣士
筋力:220
体力:220
耐性:200
敏捷:220
魔力:300
魔耐:300
技能:剣術[+斬撃速度上昇]・纏火[+火耐性]・火魔法適性・結界魔法適性・魔力操作・威圧・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・複合魔法・高速魔力回復・胃酸強化・言語理解・「 」の加護
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第二十話 ありふれた試練

第十九話で皆様の心に、強烈な印象を刻んだ篠原カズト君。

ハジメと並ぶ主人公です。

1話から19話まで出番なしと言う前代未聞のオリジナル主人公を皆さん、応援よろしくお願いします。

なんと!デイリーランキング23位に入っててビックリ!
これからも頑張って更新しますので応援よろしくお願いします。




「てめぇら!いい加減にしやがれ!!!」

地底湖にカズトの叫び声が、鳴り響く…

 

「「「!!!誰なの???」」」

思わず目を疑うハジメ達。

 

ホルアドの拠点にいた時は、彼は小太りな男だった。

この奈落の地底湖で再会した時は、痩せてガリガリだった。

 

そして今ハジメ達の目の前にいるのは…

 

身長195cm体重90kgの筋肉隆々とした偉丈夫だった…

ハジメ達との最大の違いは髪の色が燃えるような赤だったのだ。

 

「篠原君、どうやら無事乗り越えられたみたいだね、ステータスプレートを確認してみて!」

香織が一応確認してみる。

 

「えっ…ああ…南雲さん、てかっ、お、俺の身体….一体どうなったんだ…?」

ハジメは岩を鏡面加工して即席の鏡をつくる

 

「だ、誰だこれは!!?」

「カズトだ。」

 

ハジメの冷静なツッコミに少し悲しそうな表情を浮かべたカズトは、気を取り直して、自分のステータスプレートを見る。

 

「この纏雷、天歩、威圧、魔力操作、胃酸強化って…?」

 

「魔物の肉を食べると身体が変質して、魔物のスキルを身につけられるんだ。魔力操作と胃酸強化があるだろ?胃酸強化は魔物を食べても苦痛は無くなる。魔力操作は文字通り…」

ハジメは詠唱無しで錬成をする。

岩が即座に隆起する。

 

「あ、あぁ…これ、マジか…?」

カズトも魔力操作を使ってみて驚いている。

簡単に火魔法が発動する。

 

「残りの魔物の肉も食べておいた方がいいぞ?技能がつくし、ステータスも上がる。生き延びる可能性が跳ね上がるぞ!食べて痛みがある時はそれだけ変化が大きい証拠。つまりパワーアップも相当なモノになる。だから必ず神水を飲みながら食べてくれ。」

 

カズトは時間をかけて全て食べ終わった後、

「痛みがあった後は驚くほどステータスが上がるな…」

 

強くなればなるほど痛みを感じる事が無くなる事を理解したカズトだったが…

「カズト、俺達も御飯にする。しばらくホラ穴に入っていてくれ。」

「ん?何でだ?」

ハジメは最適化の効力を香織達にも使える事を話した…

 

「へー一つになれば最適化かけられるんだー…食事と戦闘の後最適化かけるんだーへーそうなんだー魂にガンガン来る痛みはこの先もずっと続くんだーって言うか八重樫さんまで南雲に?リアルハーレムかよ!!」

 

ジト目でハジメ達を見るカズトに、ハジメ達はサッと視線を逸らす…

 

それからカズトはハジメが作ったホラ穴にはいり鍛錬をした。

ハジメ達は別のホラ穴に入って最適化をしている…

 

「とりあえず、隣のホラ穴の事は考えるのをやめよう…今は鍛錬だ…ハジメが言うには集中してスキルの持つ力を正確にイメージしたら派生スキルが生まれやすくなるって言ってたな…集中か…」

カズトは集中し炎と雷の融合するイメージを思い描く…

 

だが…

「あ……ジメ………くまで…とど…て…す…い……ぁぁぁ…ん」

 

ピキッ

「……スーハースーハー…集中、集中、何も聞こえない…集中…怒」

うっすらと聞こえるからこそ腹が立つのかも知れない…

 

「今は強くなる事優先だ!集中…集中…戦闘は常に冷静に…スーハー」

 

「あんっ…やっ…わた……ばん……はや…ちょ…だ…ハジ…さん…いし…る」

 

ピキッピキッ!

「集中さと…冷静さ…何て…できるわけねーだろ!!!怒怒怒怒!!」

 

カズトの怒りは力任せの荒々しい剣術を開花させた…

炎も雷も容赦なく吹き荒れる…

 

「オラオラオラオラーーー!破壊粉砕燃焼消滅ーーー!!!」

……カズトの苦難は後40階層続く……

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

カズトを加えたハジメ達は探索の速度が飛躍的に上がっていた。

 

カズトは戦闘特化の天職の持ち主だけあって戦闘能力ではハジメ達を凌ぐ勢いを見せている。

 

ハジメと香織と雫は個々の実力も高いが連携攻撃のレベルが一心同体というレベルになっていた。

 

しかし、それでも理不尽極まりない敵が次々と現れハジメ達を苦しめていた。

 

地下迷宮なのに密林のような階層に出たこともあった。

物凄く蒸し暑く鬱蒼としていて今までで一番不快な場所だった。

この階層の魔物は巨大なムカデと樹だ。

 

密林を歩いていると、突然、巨大なムカデが木の上から降ってきたときは、流石のハジメ達も全身に鳥肌が立った。

 

「「嫌ぁぁぁぁーー!!」」

 

香織と雫はショックで戦闘不能になりかけてしまった。

余りにも気持ち悪かったのである。

 

しかも、このムカデ、体の節ごとに分離して襲ってきたのだ。

一匹いれば三十匹はいると思えという黒い台所のGのような魔物だ。

 

ハジメと香織と雫は銃を連射して撃退しようとしたが如何せん数が多かった。直ぐにリロードに手間取り、纏雷、纏風で切り裂く方法に切り替えた。

最後はカズトの纏雷炎で全滅させた。

 

そして…強くなる為にGモドキを食べる訳だが…涙目で香織と雫が、抱かれながらの口移しをせがんで来たので食事の時間が多少伸びる事に…

 

別のホラ穴に押し込まれるカズトも何故か涙目だった…

 

樹の魔物はRPGで言うところのトレントに酷似していた。

木の根を地中に潜らせ突いてきたり、ツルを鞭のようにしならせて襲ってきたり。

 

しかし、このトレントモドキの最大の特徴はそんな些細な攻撃ではない。

この魔物、ピンチになると頭部を振り赤い果物を投げつけてくるのだ。

これには全く攻撃力はなく、ハジメ達は試しに食べてみたのだが、直後、数十分以上硬直した。

毒の類ではない。

めちゃくちゃ美味かったのだ。

甘く瑞々しいその赤い果物は、例えるならスイカだった。

リンゴではない。

 

この階層が不快な環境であることなど頭から吹き飛んだ。

むしろ迷宮攻略すら一時的に頭から吹き飛んだ。

実に、何十日ぶりかの新鮮な肉以外の食い物である。

ハジメ達の眼は完全に狩人のそれとなり、トレントモドキを狩り尽くす勢いで襲いかかった。

 

「「美味しい…美味しいよー…ぐすん…」」

泣きながら食べる香織と雫。

二人とも女子高生だ。

 

生きる為に魔物を食べているが、Gに酷似したムカデの後だけに嬉しさは倍増中らしい。

 

味のない魔物より、不味くても味がある魔物の方がいい…などと言う現状は、やはり辛かったようだ。

 

ようやく満足して迷宮攻略を再開した時には、既にトレントモドキはほぼ全滅していた。

 

そんな感じで階層を突き進み、気がつけば五十層。

未だ終わりが見える気配はない。

ハジメ達が奈落の迷宮に転移してから20日目だ。

 

ハジメ達は、この五十層で作った拠点にて、鍛錬や、装備の更新を行なっていた。

というのも、階下への階段は既に発見しているのだが、この五十層には明らかに異質な場所があったのだ。

 

それは、なんとも不気味な空間だった。

 

脇道の突き当りにある空けた場所には高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。

 

「ハジメさん、この雰囲気…不味そうね…」

 

雫はハジメの表情をチラッとみる。

いつものように自然な表情…しかし決意をした時の雰囲気だった。

 

(ハジメさんに焦った表情はないわ…でも油断はしていない…どちらかというと…決意の現れ…)

雫はハジメがこの部屋を避ける気はない事を、察した。

 

「ハジメ君、雫ちゃん、今までにない雰囲気だね…でも…」

 

ハジメと香織は頷き合う。

 

「やっと出てきた変化だ。やはりここは人又はそれ以上の存在の手が加わってることの証拠だ…」

「そうね…調べない訳にはいかないわ…」

「ハジメ。一気に行くか?」

 

ハジメは少し考えた後

「脇道の入り口付近に拠点を作って、装備の見直しと今まで得たスキル、技の確認をしよう。今の俺達で嫌な雰囲気という事は相当なモノがある、という事だから…準備はしっかりしよう!」

 

ハジメは期待と嫌な予感を両方同時に感じていた。

あの扉を開けば確実になんらかの厄災と相対することになる。

だが、しかし、同時に終わりの見えない迷宮攻略に新たな風が吹くような気もしていた。

 

カズト君はいつもの自家発電室。

ハジメ達も自分達の洞穴に入る。

 

「さながらパンドラの箱ね。……どんな希望が入っているのかしら?」

「災厄はそこそこであって欲しいね…」

 

自分達の今持てる武技と武器、そして技能。

それらを一つ一つ確認し、最適化も含めてコンディションを万全に整えていく。

ハジメ達の洞穴でハジメと香織と雫はいつもの儀式をする。

 

そして、三人は抱きしめ合いながら覚悟をきめる。

覚悟などとうに決めてはいる。しかし、重ねることは無駄ではないはずだ。

ハジメと香織と雫は、己の内へと潜り願いを口に出して宣誓する。

 

「俺の願いは…香織と雫と一緒に日本に帰る事…」

「私の願いは…ハジメ君の妻として、側にずっといる事…」

「私の願いも…ハジメさんの…側にいる事…」

「雫も俺の妻だ…香織と一緒に…これからも側にいてくれ…」

「!!!は、はい…ハジメさん…私の願いもハジメさんの妻として側にいる事です…」

 

三人は抱きしめ合いながら

「「「何があっても三人で、必ず生き抜こう!」」」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「カズト、そろそろ行くぞ!」

 

「おおう…この地獄はいつまで続くんだ…」

ゲッソリとした表情でカズトは呟く…

 

扉の部屋にやってきたハジメ達は油断なく歩みを進める。

特に何事もなく扉の前にまでやって来た。

近くで見れば益々、見事な装飾が施されているとわかる。

そして、中央に二つの窪みのある魔法陣が描かれているのがわかった。

 

「?わからない…結構勉強したつもりだが……こんな式見たことないな…?」

「ハジメ君でもわからないの…?」

 

ハジメはホルアドにいた頃、自らの能力の低さを補うために座学にも力を入れていた。

香織も手伝ってくれたおかげでかなりの知識を手に入れたつもりだった…

 

もちろん、全ての学習を終えたわけではないが、それでも、魔法陣の式を全く読み取れないというのは些かおかしい。

 

「相当、古いってことね?」

 

雫もハジメの努力は知っているのですぐに理解した。

 

ハジメは推測しながら扉を調べるが特に何かがわかるということもなかった。いかにも曰ありげなので、トラップを警戒して調べてみたのだが、どうやら今のハジメ程度の知識では解読できるものではなさそうだ。

 

「仕方ない、いつも通り錬成で行く!香織、雫、カズト!周囲の警戒を頼む!」

「「はい、あなた!」」

「……あいよ…」

 

カズトのテンションが何故か下がっているが気にせずハジメは錬成をする。

 

ハジメは右手を扉に触れさせ錬成を開始した。

 

しかし、その途端、

 

バチィイ!

 

「うわっ!?」

「何?」

「ハジメ君!ー周天!聖絶!」

扉から赤い放電が走りハジメの手を弾き飛ばした。

ハジメの手からは煙が吹き上がったが、香織が即座に癒してくれた。

さらに結界も張ってくれた。

雫も銃を構えて周囲を警戒する。

 

直後に異変が起きた。

 

――オォォオオオオオオ!!

 

突然、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡ったのだ。

 

ハジメ達はバックステップで扉から距離をとり、腰を落として手をホルスターのすぐ横に触れさせいつでも抜き撃ち出来るようにスタンバイする。

 

雄叫びが響く中、遂に声の正体が動き出した。

 

「まぁ、ベタと言えばベタだな」

カズトがテンプレの敵に呟く。

 

苦笑いしながら呟くカズトの前で、扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。

いつの間にか壁と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色している。

 

一つ目巨人の容貌はまるっきりファンタジー常連のサイクロプスだ。

手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。

未だ埋まっている半身を強引に抜き出し無粋な侵入者を排除しようとハジメの方に視線を向けた。

 

その瞬間、

 

ドパンッ!

 

香織が凄まじい発砲音と共に最大加速されたタウル鉱石の弾丸が右のサイクロプスのたった一つの目に突き刺さり、そのまま脳をグチャグチャにかき混ぜた挙句、後頭部を爆ぜさせて貫通し、後ろの壁を粉砕した。

 

左のサイクロプスがキョトンとした様子で隣のサイクロプスを見るが…

 

ザン!!

 

左のサイクロプスは首を切り落とされた後、返す刀で縦方向に真っ二つにされてしまった。

巨体が倒れた衝撃が部屋全体を揺るがし、埃がもうもうと舞う。

 

「悪いが、空気を読んで待っていてやれるほど出来た敵役じゃあないんだ」

カズトが見下ろしながらアホな敵をこき下ろす。

 

いろんな意味で酷い攻撃だった。

ハジメ達の経験してきた修羅場を考えれば当然の行いなのだろうが、あまりに……特に香織に狙撃された、サイクロプス(右)が哀れだった。

 

おそらく、この扉を守るガーディアンとして封印か何かされていたのだろう。こんな奈落の底の更に底のような場所に訪れる者など皆無と言っていいはずだ。

 

ようやく来た役目を果たすとき。

もしかしたら彼(?)の胸中は歓喜で満たされていたのかもしれない。

満を持しての登場だったのに相手を見るまでもなく大事な一つ目ごと頭を吹き飛ばされる。

これを哀れと言わずしてなんと言うのか。

サイクロプス(左)は呆気に取られる時間があるだけマシだったが、即座に背後に回り込んだカズトによって、首を切り落とされた挙句縦方向に真っ二つにされてしまった…

 

「聖絶は必要なかったかな?」

「いや、油断大敵だ、ありがとう香織!」

「えへへっ、どういたしまして、あ・な・た♡」

 

「おーい…ハジメ…そろそろ現実に戻ってこーい…」

「おっと…これはアレだな…魔物の魔石をここにハメるのかな?」

「スルー力高すぎだろうが…まぁベタな展開だな…」

「カズト、そっちのサイクロプスを頼む!」

「おぅ!」

 

そして、ハジメとカズトは風爪でサイクロプスを切り裂き体内から魔石を取り出した。

血濡れを気にするでもなく二つの拳大の魔石を扉まで持って行き、それを窪みに合わせてみる。

 

ピッタリとはまり込んだ。

直後、魔石から赤黒い魔力光が迸り魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。

そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まった。

同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、久しく見なかった程の明かりに満たされる。

 

「ビンゴ!」

「さて…この扉の向こうには何があるのか…」

「俺とカズトが先に入る。香織と雫は二列目で!」

「「はい!あなた♡」」

「…………早く地上に戻りたい…」

 

カズトの嘆きはスルーして、ハジメは少し目を瞬かせ、警戒しながら、そっと扉を開いた。

 

扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっているようだ。

ハジメの夜目と手前の部屋の明りに照らされて少しずつ全容がわかってくる。

 

中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。

そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。

 

その立方体を注視していたハジメとカズトは、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。

 

近くで確認しようと扉を大きく開け固定しようとする。

いざと言う時、ホラー映画のように、入った途端バタンと閉められたら困るからだ。

 

しかし、ハジメとカズトが扉を開けっ放しで固定する前に、それは動いた。

 

「……だれ?」

 

かすれた、弱々しい女の子の声だ。ビクリッとしてハジメは慌てて部屋の中央を凝視する。

すると、先程の〝生えている何か〟がユラユラと動き出した。

差し込んだ光がその正体を暴く。

 

「人……なのか?」

 

〝生えていた何か〟は人だった。

 

上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。

そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗のぞいている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。

随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

流石に予想外だったカズトは硬直し、紅の瞳の女の子もカズトをジッと見つめていた。

やがて、カズトはゆっくり深呼吸し決然とした表情で告げた。

 

「すみません。間違えました」

 




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南雲ハジメ 18歳 男 レベル:50
天職:錬成師    職業:冒険者 青
筋力:1900
体力:1900
耐性:1900
敏捷:1900
魔力:1900
魔耐:1900
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+精密錬成][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+複製錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物系融合][+鉱物系分離][+鉱物系分解][+貯蔵庫][+貯蔵庫内複製][+貯蔵庫容量増加][+震動波砕][+震動波砕道具付与][+震動波砕効果範囲拡大][+詳細設計]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・魔力視・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・威圧・纏雷[+雷耐性][+威力調整]・纏氷[+氷耐性][+威力調整]・纏光[+光耐性][+威力調整]・纏闇[+闇耐性][+威力調整]・纏風[+風耐性][+威力調整]・纏火[+火耐性][+威力調整]・纏水[+水耐性][+威力調整]・纏地[+地耐性][+威力調整]・気配遮断[+無音][+無臭]・再生[+超速再生]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚]・高速魔力回復・眷族通話(香織、雫)・飛爪[+三爪][+五爪][+飛爪]・夜目・石化耐性・毒耐性・麻痺耐性・病気耐性・呪耐性・糸作成・遊泳・減速加速門・最適化・言語理解・「 」の加護
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南雲香織 18歳 女 レベル:50
天職:治癒師    職業:冒険者 青
筋力:1600
体力:1600
耐性:1600
敏捷:1600
魔力:2400
魔耐:2400
技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動] ・光魔法適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・魔力視・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・威圧・纏雷[+雷耐性][+威力調整]・纏氷[+氷耐性][+威力調整]・纏光[+光耐性][+威力調整]・纏闇[+闇耐性][+威力調整]・纏風[+風耐性][+威力調整]・纏火[+火耐性][+威力調整]・纏水[+水耐性][+威力調整]・纏地[+地耐性][+威力調整]・気配遮断[+無音][+無臭]・再生・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚]・高速魔力回復・眷族通話(ハジメ、雫)・飛爪[+三爪][+五爪][+飛爪]・夜目・石化耐性・毒耐性・麻痺耐性・病気耐性・呪耐性・糸作成・遊泳・言語理解・「 」の加護
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南雲雫 18歳 女 レベル:50
天職:剣士    職業:冒険者 青
筋力: 1900
体力: 1900
耐性: 1600
敏捷: 2400
魔力: 1800
魔耐: 1800
技能:剣術[+抜刀速度上昇][+斬撃威力上昇][+斬撃速度上昇][+命中精度上昇][+弱点看破][+衝撃波追加]・先読・気配感知[+特定感知]・隠業・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・魔力視・魔力感知[+特定感知]・威圧・纏雷[+雷耐性][+威力調整]・纏氷[+氷耐性][+威力調整]・纏光[+光耐性][+威力調整]・纏闇[+闇耐性][+威力調整]・纏風[+風耐性][+威力調整]・纏火[+火耐性][+威力調整]・纏水[+水耐性][+威力調整]・纏地[+地耐性][+威力調整]・気配遮断[+無音][+無臭]・再生・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚]・高速魔力回復・眷族通話(ハジメ、香織)・飛爪[+三爪][+五爪][+飛爪]・夜目・石化耐性・毒耐性・麻痺耐性・病気耐性・呪耐性・糸作成・遊泳・言語理解・「 」の加護
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篠原カズト 18歳 男 レベル:50
天職:火剣士
筋力:1900
体力:1900
耐性:1800
敏捷:2000
魔力:1900
魔耐:1900
技能:剣術[+斬撃速度上昇][+斬撃威力上昇][+命中率上昇]・纏火[+火耐性][+威力調整]・火魔法適性[+発動速度上昇]・結界魔法適性・魔力操作・威圧・纏雷[+雷耐性][+威力調整]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地]・風爪・夜目・石化耐性・麻痺耐性・毒耐性・病気耐性・呪耐性・複合魔法・高速魔力回復・胃酸強化・言語理解・「 」の加護
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第二十一話 ありふれた吸血姫

原作ヒロインのユエさんがいよいよ登場!

しかし…やっぱり扉は閉めようとするのね….

今作の香織とユエは別々の男を好きになっているため、喧嘩はしません。

元々の相性は良いようなので、二人は微妙にズレた友人になります。


日本で部屋に入った時見知らぬ女の子が裸でいたら、やっぱり「すみません、間違えました!」と言って部屋を去るでしょう。
迂闊に手を出したら抹殺されるかもしれません。社会的に…

では、トータスではどうでしょうか?



「すみません、間違えました」

 

そう言ってそっと扉を閉めようとするカズト君。

 

ハジメは部屋から感じる僅かな殺意に警戒していた。

最初は目の前の少女から発せられているのかと思ったが、どうやら違うようだ。

…では、この殺意の出所は…?

ハジメが周囲を油断なく探っている間に…

 

カズトと少女の話が進んでしまう。

 

金髪紅眼の女の子が慌てたように助けを求める。

もっとも、その声はもう何年も出していなかったように掠て呟きのようだったが……

 

ただ、必死さは伝わった。

 

「ま、待って!……お願い!……助けて……」

「嫌です」

 

そう言って、やはり扉を閉めようとするカズト君。

鬼である。

 

「ど、どうして……なんでもする……だから……」

 

女の子は必死だ。

首から上しか動かないが、それでも必死に顔を上げ懇願する。

 

しかし、カズトは鬱陶しそうに言い返した。

 

「あのな、こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されているような奴を解放するわけないだろう? 絶対ヤバイって。見たところ封印以外何もないみたいだし……脱出には役立ちそうもない。という訳で……」

 

香織と雫はどうしたものかと、顔を見合わせた。

 

二人の本音はもう少し話ぐらい聞いてもいいんじゃないかなーと思っていたがカズトの意見が正論な為反対出来ずにいた。

自然、二人の視線はハジメに向かうが、ハジメ何かに警戒をしていた。

 

香織は眷族通話でハジメに話しかける。

(ハジメ君、どうしたの?)

(…この僅かな殺意…あの娘からではない…でも何処から殺意がでてるかわからないんだ…)

(えっ……ッ…ハジメさん、この殺意…)

 

香織と雫も出所がわからない殺意に気づき、警戒する。ただ…

(ハジメ君…それも大変だけど…あの娘の話も聞いてあげたいんだ…)

(え?…)

 

すげなくカズトに断られた女の子だが、もう泣きそうな表情で必死に声を張り上げる。

 

「ちがう!ケホッ……私、悪くない!……待って!私……裏切られただけ!」

 

知らんとばかりに扉を閉めていき、もうわずかで完全に閉じるという時、ハジメがカズトを止めた。

 

「話ぐらい聞いてみよう。この迷宮について何か知っているかも知れない。」

「やばくね?」

「最大級の警戒はするさ…それにこの迷宮から外に出る方法があるかも知れない…。」

「うーん…それもそうか…」

 

カズトは頭をカリカリと掻きながら、女の子に歩み寄る。

もちろん油断はしない。

 

「裏切られたと言ったな? だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」

 

カズトが戻って来たことに半ば呆然としている女の子。

 

ジッと、豊かだが薄汚れた金髪の間から除く紅眼でハジメを見つめる。

何も答えない女の子にカズトがイラつき「おい。聞いてるのか? 話さないなら帰るぞ」と言って踵を返しそうになる。

それに、ハッと我を取り戻し、女の子は慌てて封印された理由を語り始めた。

 

「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

枯れた喉で必死にポツリポツリと語る女の子。

話を聞きながらハジメ達は呻いた。

なんとまぁ波乱万丈な境遇か。

荒っぽいカズトにかわり、ハジメは尋ねた。

 

「君はどっかの国の王族だったのか?」

「……(コクコク)」

「殺せないって、どういう事?」

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「……ひょっとして無限再生か………すごい力ってそれか?」

「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

 

ハジメと香織と雫は「なるほどな~」と納得した。

 

ハジメ達も魔物を喰ってから、魔力操作が使えるようになった。

身体強化に関しては詠唱も魔法陣も必要ない。

他の錬成などに関しても詠唱は不要だ。

香織やカズトは詠唱無しで回復魔法や火魔法を連発出来るようになっている。

この女の子は魔法に関しては香織やカズトと同様、いやそれ以上の力を持っている可能性がある…

 

何せ、周りがチンタラと詠唱やら魔法陣やら準備している間にバカスカ魔法を撃てるのだから、正直、勝負にならない。

しかも、不死身。

おそらく絶対的なものではないだろうが、それでも勇者すら凌駕しそうなチートである。

 

ハジメの場合、魔法適性がゼロなので魔力を直接操れても巨大な魔法陣は当然必要となり、碌に魔法が使えないことに変わりはない。

 

「……たすけて……」

 

腕を組んで女の子をジッと眺めていたカズトに、ポツリと女の子が懇願する。

 

「……」

「ハジメ君、篠原君、助けてあげよう…?」

「そうね…助けても大丈夫という根拠は…女の勘としか言えないけど…私も香織と同意見よ?」

 

香織と雫が女の子の境遇を見かねての意見だがハジメも同意見だった。

 

「カズト、この迷宮自体、嫌な予感の塊なんだ。今更だろ…それに今の俺達なら最悪逃げ切る事もできるはずだ…」

 

カズトはジッと女の子を見た。

女の子もジッとカズトを見つめる。

 

ハジメは女の子を捉えている装置の解析に集中している。

「多分だけど…錬成で何とかなる筈だ…」

 

ハジメは女の子を捕える立方体に手を置いた。

 

「あっ」

 

女の子がその意味に気がついたのか大きく目を見開く。

ハジメはそれを無視して錬成を始めた。

「香織、雫サポート頼む。カズトは周囲の警戒を!」

「「はい!ハジメ君(さん)」」

「おう、この微妙な殺意だな?」

「ああ、未だに出所がわからない…」

 

ハジメの真紅の魔力が放電するように迸る。

 

しかし、イメージ通り変形するはずの立方体は、まるでハジメの魔力に抵抗するように錬成を弾いた。

迷宮の上下の岩盤のようだ。

だが、全く通じないわけではないらしい。

少しずつ少しずつ侵食するようにハジメの魔力が立方体に迫っていく。

 

「何て、抵抗が強いんだ!……だけど、今の俺なら!」

 

ハジメは更に魔力をつぎ込む。

詠唱していたのなら六節は唱える必要がある魔力量だ。

そこまでやってようやく魔力が立方体に浸透し始める。

既に、周りはハジメの魔力光により真紅色に煌々と輝き、部屋全体が染められているようだった。

 

ハジメは更に魔力を上乗せする。七節分……八節分……。

女の子を封じる周りの石が徐々に震え出す。

 

「まだまだぁ!」

「ハジメ君、私の魔力も使って!」

美しい黄金色の香織の魔力とハジメの真紅の魔力が混ざり合い神秘的な光の渦を作り出す。

 

「……綺麗…」

女の子はハジメと香織が魔力を直接操っていることに気づいた。

そして二人の調和した魔力のあまりの美しさに、呆然としながら見惚れている。

 

ハジメは気合を入れながら魔力を九節分つぎ込む。

属性魔法なら既に上位呪文級、いや、それではお釣りが来るかもしれない魔力量だ。

どんどん輝きを増す真紅と黄金の光の調和に、女の子は目を見開き、この光景を一瞬も見逃さないとでも言うようにジッと見つめ続けた。

 

ハジメと香織は初めて使う大規模な魔力に脂汗を流し始めた。

少しでも制御を誤れば暴走してしまいそうだ。

だが、これだけやっても未だ立方体は変形しない。

 

「ハジメさん、香織、私の魔力も使って!」

二人の様子から雫も魔力をハジメに注ぎ込む。

雫の薄い紫色の魔力が二人の魔力に調和した瞬間、まるで超新星の放つ光のように神々しいものに変わった。

 

ハジメは魔力を全放出してやった。

 

ハジメや、香織、雫はこの迷宮で価値観がかなり変わっていた。

しかしホルアドで三人の子供を救っていた頃の優しさは失われてはいない。

カズトへの悪魔の様な所業は置いておいて…

 

この見ず知らずの女の子為に全力を尽くすのも悪くはない…三人の想いが一つになった時、カズトのオレンジ色の魔力がハジメ達に加わる。

 

「まぁ手伝いだ…」

 

光の光量は最大に達し、直後、女の子の周りの立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、少しずつ彼女の枷を解いていく。

 

それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太ももと彼女を包んでいた立方体が流れ出す。

一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。

そのまま、体の全てが解き放たれ、女の子は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。

どうやら立ち上がる力がないらしい。

 

ハジメと、香織、雫も座り込んだ。カズトも女の子の前に座る。

肩でゼハーゼハーと息をし、すっからかんになった魔力のせいで激しい倦怠感に襲われる。

香織と雫はハジメの両隣のいつもの定位置に座り、ハジメにしな垂れかかる…

 

カズトは荒い息を吐き震える手で神水を出そうとして、その手を女の子がギュッと握った。

弱々しい、力のない手だ。

小さくて、ふるふると震えている。

 

カズトが横目に様子を見ると女の子が真っ直ぐにカズトを見つめている。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。

 

そして、震える声で小さく、しかしはっきりと女の子は告げる。

 

「……ありがとう」

 

その言葉を贈られた時の心情をどう表現すればいいのか、カズトには分からなかった

ただ、表現し難い安らぎや暖かさを感じたのは確かだ。

 

繋がった手はギュッと握られたままだ。いったいどれだけの間、ここにいたのだろうか。

少なくともハジメの知識にある吸血鬼族は数百年前に滅んだはずだ。

この世界の歴史を学んでいる時にそう記載されていたと記憶している。

 

話している間も彼女の表情は動かなかった。

それはつまり、声の出し方、表情の出し方を忘れるほど長い間、たった一人、この暗闇で孤独な時間を過ごしたということだ。

 

しかも、話しぶりからして信頼していた相手に裏切られて。

よく発狂しなかったものである。

もしかすると先ほど言っていた自動再生的な力のせいかもしれない。だとすれば、それは逆に拷問だっただろう。

狂うことすら許されなかったということなのだから。

 

ハジメと香織と雫は神水を飲みながらカズトと女の子を優しい目で見守っている。

「カズトが神水を飲めるのはもう少し後だな」

とハジメが言うと

「うん、そんな感じだね♡」

香織がハジメにキスしながら甘える。

「香織ったら…ハジメさん…私も…」

雫も精一杯甘えてくる。

二人を抱き寄せたままカズトと女の子の様子を見るハジメ。

(そういえば、あの殺意は何処に行った…?)

ふと疑問を思い出し、周囲の警戒を開始する。

 

「……名前、なに?」

 

女の子が囁くような声でカズトに尋ねる。

そういえばお互い名乗っていなかったと苦笑いを深めながらカズトは答え、女の子にも聞き返した。

 

「カズトだ。篠原カズト、あっちでイチャイチャしてるのは南雲ハジメ、南雲香織、南雲雫だ。お前は?」

 

女の子は「カズト、ハジメ、香織、雫」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。

そして、問われた名前を答えようとして、思い直したようにカズトにお願いをした。

 

「……名前、付けて」

「は? 付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」

 

長い間幽閉されていたのならあり得ると聞いてみるカズトだったが、女の子はふるふると首を振る。

 

「もう、前の名前はいらない。……カズトの付けた名前がいい」

「……はぁ、そうは言ってもなぁ」

 

女の子は期待するような目でカズトを見ている。

カズトはカリカリと頬を掻くと、少し考える素振りを見せて、仕方ないというように彼女の新しい名前を告げた。

 

「〝ユエ〟なんてどうだ? ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるが……」

「ユエ? ……ユエ……ユエ……」

「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で〝月〟を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……どうだ?」

 

思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、女の子がパチパチと瞬きする。

そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

「ユエか…カズト、確か中国語で月って意味だっけ?よろしくな、ユエ、俺は南雲ハジメだ」

「よろしくね、ユエ、私は南雲香織、ハジメ君の妻です。」

香織が優しく微笑む。

「ユエ、よろしくね、私は南雲雫、香織と同じでハジメさんのつ…妻です…」

雫は恥ずかしながら自己紹介する。凛とした雰囲気なのに初々しく照れてる姿がまた可愛い。

 

「ハジメ、香織、雫…ありがとう…」

今まで長い時間、一人で幽閉されていたユエにとって、突然できた大切な人と三人の友人に嬉しさを隠せないようだ。

 

「香織」

「うん、ハジメ君!」

「?」

 

香織はユエに自分の持っていた予備の外套を着せてあげようとユエに近寄る。

 

「ユエ、後で服を仕立てるから、ちょっとの間我慢してね?いつまでも裸だと…私と雫ちゃんもハジメ君と三人きりだったら服着ないけど、皆んなといる時は服を着た方がいいもんね!」

「……」

 

ハジメは香織のとんでもない発言を聞き…

(香織…かわいい…雫の照れてる姿も可愛い…いかん、我慢我慢…今抱いたら半日コースだ…)

何て事を考えていた。

 

眷族通話を切ってなかった為香織と雫に全て筒抜けになっている為…

 

((あ・な・た!今日は物凄く頑張るから期待してね!))

香織と雫は熱くウットリとした視線をハジメに送る。

今日も元気に神水に頼ろう…ハジメはそう誓った。

 

香織から差し出された服を反射的に受け取りながら自分を見下ろすユエ。

確かに、すっぽんぽんだった。

大事な所とか丸見えである。

ユエは一瞬で真っ赤になると香織の外套をギュッと抱き寄せ上目遣いでポツリと呟いた。

 

「カズトのエッチ」

「……」

 

何を言っても墓穴を掘りそうなのでノーコメントで通すカズト。

ユエはいそいそと外套を羽織る。

ユエの身長は百四十センチ位しかないのでぶかぶかだ。

一生懸命裾を折っている姿が微笑ましい。

 

ハジメは、その間にカズトに神水を渡し、神水を飲んでカズトも回復する。

 

その瞬間、ハジメの気配感知が突然とんでもない魔物の気配を直ぐ傍に存在することに気がついたのだ。

 

場所はちょうど……真上!

 

「後の柱に退避!敵!直上!」

ハジメが鋭い声で警告を発し、香織と雫をかかえて、後の柱まで退避する。

カズトもユエを抱き上げると同時に全力の爆縮地で退避する。

 

ハジメが警告を上げたのと同時に、ソレが天井より降ってきた。

 

一瞬で、移動したハジメ達が振り返ると、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながらソレが姿を現した。

 

その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。

そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。

 

一番分かりやすいたとえをするならサソリだろう。

二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。

明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。

ハジメは即座に戦闘態勢をとる。香織と雫もハジメと同様に戦闘態勢をとる。

 

部屋に入った直後は感じた殺意はコイツだった。

ハジメの気配感知ですら場所を察知出来なかったが、今は気配感知でしっかり捉えている。

 

ということは、少なくともこのサソリモドキは、ユエの封印を解いた後に出てきたということだ。

つまり、ユエを逃がさないための最後の仕掛けなのだろう。

 

「上等だ、この虫けら!丸焼きにして食ってやる!」

「カズト!全力でいくぞ!香織はユエの護衛と回復専念。雫は俺とカズトの援護を!」

「任せて、ハジメ君!」

「増援にも気をつけるわ、ハジメさん、気をつけて!」

 

ユエを見捨てればハジメ達は逃げられる可能性があると知っていても、ハジメ達全員、見捨てる選択肢は無かった。

ユエは全ての運命をハジメ達に託している…

 

「これだけ関わって、見捨てたりすればカッコ悪いよな?」

「速攻で扉閉めようとした奴のセリフとは思えないが…同感だ!」

ハジメとカズトは軽口を叩きながらサソリモドキに殺気を放つ。

 

二人から膨大な殺気を受けた、サソリモドキが二本の尻尾の先端から毒針を射出する。

 

「「上等だ。……殺れるもんならやってみろ」」

カズトは炎を纏い毒針を焼き尽くす。

ハジメは減速加速結界を張り余裕で毒針を撃ち抜く。

 

香織はユエを連れて柱の陰隠れると神水を渡しユエに飲ませた。

 

「うむっ!?」

 

試験管型の容器から神水がユエの体内に流れ込む。

ユエは異物を口に突っ込まれて涙目になっているが、衰え切った体に活力が戻ってくる感覚に驚いたように目を見開いた。

 

「……これは…?」

「この神水のおかげで私達は一人も欠けることなくここまで辿り着けたの。効果はユエが今実感したよね!」

「…うん…凄い…」

 

「…ごめんなさい…香織…」

「ん?どうしたの?ユエ?」

「…あなたの大切な人とカズトを危険にさら…」

 

ペチーン!

香織がユエにデコピンをする。

 

*注…香織は軽くやったつもりだがステータスの筋力は1000を超えている事を忘れてはならない…

 

「それ以上言っちゃダメだよ、ユエ。ユエは閉じ込められてだだけなんだから…それと ごめんなさい じゃないでしょ?ありがとうって言わないと!」

 

香織が可愛らしくウィンクしてユエを抱きしめる。

 

信じられない威力のデコピンを食らって涙目のユエだが、流石に空気は読んでいる。

香織に悪気は無いのは理解しているし、香織の言葉が300年近くの孤独を慰めてくれたからだ。

ついでに感動的な言葉だし…

 

「……っ……ぐすん…ありがとう…香織…ありがとう…カズト…ありがとう…ハジメ…ありがとう…雫…」

 

そしてハジメとカズトはサソリモドキと戦闘を始める…

 

 

 

 




アンケートの仕方がやっと分かった✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。
と言う訳で初のアンケート。

みなさんご協力お願いします(=゚ω゚)ノ


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第二十二話 ありふれた愛の戦士

今回は愛の戦士爆誕!……しかし私は深刻な疑問を持つ事に…

愛の戦士って…活動内容は何するの…?

それはさておき、戦闘シーンは書くのが大変…(ーー;)

ピッ
ハジメ達はサソリモドキと遭遇した。
ピッ
ハジメ達はサソリモドキを倒した!
ハジメはレベルが上がった。
香織はレベルが上がった。
雫はレベルが上がった。
カズトはレベルが上がった。
ユエもついでにレベルが上がった。

「ハジメ…強敵だったな」
「ああ、外骨格の硬さにはまいったが錬成が効いて助かったな。」

何てたった9行の戦闘シーンはダメだろうか(=゚ω゚)? 
レベルが上がった…この一言に激戦の全ての思いや描写が込められています…

………………流石に雰囲気はでないな…

てな訳で…駄文だと思いますが、頑張って書きました(=゚ω゚)




サソリモドキの尻尾の針から噴射された紫色の液体は、かなりの速度で飛来した。

ハジメはすかさず飛び退いてかわす。

着弾した紫の液体はジュワーという音を立てて瞬く間に床を溶かしていった。溶解液のようだ。

 

ハジメはそれを横目に確認しつつ、ドンナーとシュラークを抜き様に発砲する。

 

ドパンッ!ドパンッ!

 

最大威力の弾丸がサソリモドキの頭部に炸裂する。

 

キィーッンキィーッン!

 

だがサソリモドキはハジメの銃撃を防いでしまった。

 

「外骨格は相当硬い!カズト、熱による攻撃を!タゲは俺が取る!」

 

ハジメはサソリモドキの正面に周り銃撃を加える。

 

ドパンッ!ドパンッ!

 

サソリモドキがハジメをターゲットにして攻撃を仕掛けた時、サソリモドキの右脇の死角からカズトが纏火全開で威力を上乗せした火魔法ー火炎柱を放つ。

 

「サソリの直火焼きだ!たっぷり味わいな!」

炎に包まれたカズトは不敵に笑う。

カズトの最大火力はハジメ達の中で最強レベルだ。

 

ゴウッ!!

 

桁外れの熱量がサソリモドキを襲い悲鳴(?)をあげながら距離をとる。

「キシャァァァァ?」

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

外骨格が熱で白く変色している部分を狙ってハジメと雫の最大速度の銃撃を加える。

 

バキッ!バキッ!バキッ!バキッ!

 

金属音を響かせ、右側の足4本の根本を打ち抜き…4本の足が宙に舞う。

「キィェェェェェェェェェェェ!!」

 

香織はユエの側から魔法で援護をする。

「ー周天ー聖絶ー爆光鎖!」

「ーッ!」

 

無詠唱で3連続で魔法を放つ香織や、見たこともない武器で、閃光のような攻撃を放つハジメと雫、そして桁外れの威力の火魔法を無詠唱で使うカズト…全員、魔法陣や詠唱を使用していない。

 

やはり、カズト達が自分と同じく、魔力を直接操作する術を持っているということを、ユエは確信する。

自分と〝同じ〟、そして、何故かこの奈落にいる。

ユエはそんな場合ではないとわかっていながらサソリモドキよりもカズト達を意識せずにはいられなかった。

特に自分を遥かに上回る炎を纏うカズトに…

 

ハジメはサソリモドキの外骨格に疑問を、感じていた。

感触が金属みたい…ではなく本当に金属なのでは?と…

今の戦い方でも倒せるが時間がかかる。

サソリモドキの攻撃力が高い為、長時間の戦闘ではラッキーヒットで大ダメージを受ける可能性もある…

短期決戦で決着つけたいが…

 

ハジメが戦闘プランを練っていると、香織の爆光鎖がサソリモドキの尻尾と4本のハサミに巻きつき、動きを封じる。そして自分達に周天、聖絶がかかる。

 

(流石、香織…まてよ?ひょっとして…錬成が通じるか?)

 

「錬成を試す、香織、サソリの動きを止めておいてくれ!雫、カズト!錬成で外骨格を剥がしたら総攻撃を!」

 

「?…了解!」

「?…わかったわ!ハジメさん、気をつけて!」

「ハジメ君任せて!」

 

ハジメは爆縮地でサソリモドキの背中に移動すると錬成を試す。

「最大範囲の錬成だ!!」

 

するとサソリモドキの背中の外骨格が変形していき…

 

背中の外骨格を全て剥ぎ取り、地面に外骨格が落下する。

ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーン!

 

「いまだ!!!」

「ー炎槍!」

「八重樫流、一閃!」

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

 

カズトの炎の槍がサソリモドキを貫き、雫の剣が外骨格に守られていた柔らかい肉を切り裂く。

ハジメと香織の銃撃が続き、雫が置き土産にハジメ特製の手榴弾を傷口に埋め込み離脱する。

 

「グゥギィヤァァァアアア!?」

 

サソリモドキが絶叫(?)を上げる。

 

ズドォーーーン!

止めの手榴弾が爆破した後、サソリモドキは骸と化す。

 

ハジメはサソリモドキを貯蔵庫にしまい、死んでいる事を確認する。

 

「ハジメ、中々の強敵だったな…」

「ああ、錬成が効いたから短時間で倒せたけど…どう見ても作られた魔物だよな…?身体が鉱物で、出来てるって…ありなのか?」

 

「ハジメ君(さん)、篠原君、お疲れ様。」

香織と雫が笑顔で迎えてくれた。

ハジメは二人を抱き寄せキスをする。

 

「この桃色地獄はいつまで…」

ゲッソリとして蹲るカズト…

そんなカズトの前に座るユエ。

「……カズト、ありがとう…」

カズトの頬を両手でさわり…キスをするユエ。

 

「えっ?えっ!えっ?えーーっと…ゆ、ユエさんや…い、一体何を…」

「…クスッ、カズト…可愛い…♡」

 

ユエは優しくカズトに微笑むとハジメ達に向かい

 

「…ハジメ、香織、雫…助けてくれて…ありがとう…」

 

「どういたしまして、ユエ!」

「身体は大丈夫なの?ユエ?」

「御礼をするのは後回しだ。カズト、一旦この部屋を出よう。他にもいるかもしれない。」

 

何年も閉じ込められていた場所など見たくもないだろうと、ハジメなりの気遣いだった。

消耗品の補充、サイクロプス、サソリモドキを食べる為、しばらく身動きが取れないことを考えても、精神衛生上、封印の部屋はさっさと出た方がいいだろう。

 

そんな訳で、現在ハジメ達は、消耗品を補充しながらお互いのことを話し合っていた。

香織と雫は調理中だ。

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

「……マナー違反」

 

ユエが非難を込めたジト目でカズトを見る。

女性に年齢の話はどの世界でもタブーらしい。

 

ハジメの記憶では、三百年前の大規模な戦争のおり吸血鬼族は滅んだとされていたはずだ。

実際、ユエも長年、物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚はほとんどないそうだが、それくらい経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。

二十歳の時、封印されたというから三百歳ちょいということだ。

 

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするの?」

香織と雫がサソリモドキとサイクロプスの肉を持ってやって来た。

 

「……私が特別。〝再生〟で歳もとらない……」

 

聞けば十二歳の時、

魔力の直接操作や〝自動再生〟の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。

普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。

 

「自動再生って私達の派生技能にもあるよね…」

「それだと…香織と雫はこの先ずっと美しいままだな!」

「ハジメ君もずっと素敵なまま…♡」

「ずっとハジメさんに…愛して貰える♡」

 

「はい!そこ!話が脱線してるぞ!桃色結界はずせ!」

 

ちなみに、人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族によるらしい。

エルフの中には何百年も生きている者がいるとか。

 

ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたそうだ。

 

上級魔法をほぼノータイムで撃てるのだ。

しかも、ほぼ不死身の肉体。

行き着く先は〝神〟か〝化け物〟か、ということだろう。

ユエは後者だったということだ。

 

欲に目が眩んだ叔父が、ユエを化け物として周囲に浸透させ、大義名分のもと殺そうとしたが〝自動再生〟により殺しきれず、やむを得ずあの地下に封印したのだという。

 

ユエ自身、当時は突然の裏切りにショックを受けて、碌に反撃もせず混乱したままなんらかの封印術を掛けられ、気がつけば、あの封印部屋にいたらしい。

 

その為、あのサソリモドキや封印の方法、どうやって奈落に連れられたのか分からないそうだ。

もしかしたら帰る方法が!と期待したハジメ達はガックリと項垂れた。

 

ユエの力についても話を聞いた。

それによると、ユエは全属性に適性があるらしい。

本当に「なんだ、そのチートは……」と呆れるハジメ達だったが、ユエ曰く、接近戦は苦手らしく、一人だと身体強化で逃げ回りながら魔法を連射するくらいが関の山なのだそうだ。

もっとも、その魔法が強力無比なのだから大したハンデになっていないのだが。

 

ちなみに、無詠唱で魔法を発動できるそうだが、癖で魔法名だけは呟いてしまうらしい。

魔法を補完するイメージを明確にするためになんらかの言動を加える者は少なくないので、この辺はユエも例に漏れないようだ。

 

〝自動再生〟については、一種の固有魔法に分類できるらしく、魔力が残存している間は、一瞬で塵にでもされない限り死なないそうだ。

逆に言えば、魔力が枯渇した状態で受けた傷は治らないということ。

つまり、あの時、長年の封印で魔力が枯渇していたユエは、サソリモドキの攻撃を受けていればあっさり死んでいたということだ。

 

「それで……肝心の話だが、ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」

「……わからない。でも……」

 

ユエにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。

 

「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「反逆者?」

 

聞き慣れない上に、なんとも不穏な響きに思わずユエに視線を転じるカズト。

ユエもカズトに合わせて視線を上げると、コクリと頷き続きを話し出した。

 

「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属のこと。……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

 

ユエは言葉の少ない無表情娘なので、説明には時間がかかる。

カズトはハジメの様子を見る。

 

ハジメの方は、まだまだ消耗品の補充に時間がかかるし、サソリモドキとの戦いで攻撃力不足や、攻撃のバリエーションが少ない事を痛感したことから新兵器の開発に乗り出しているため、作業しながらじっくり聞く構えだ。

香織はユエの服を仕立てている。雫は肉を纏火でゆっくり焼いてる。

 

ユエ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。

しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。

 

その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。

 

「……そこなら、地上への道があるかも……」

「なるほど。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないってことか」

 

見えてきた可能性に、頬が緩むハジメ達。

再び、視線を手元に戻し作業に戻る。

 

「ハジメ君、篠原君、一旦食事にしようか?」

「そうだな…錬成!」

 

ハジメが錬成すると二つの個室が壁の中に形成される。

一つはハジメ達の…部屋で、もう一つは自家発電室と呼ばれているカズト君の個室だ。

 

「ユエは食事どうしようかしら…魔物肉食べる…の?」

香織と雫もどうしようかと迷っている。

 

「…私は食事はいらない…」

「それは吸血鬼だから血さえ有ればいいのか?」

「…うん…カズトの血…極上のシチューのような香り…」

「「「…………」」」

 

「お、おい、ユエ、俺の血何て魔物の血ミックスだから不味いぞ!きっと」

「…熟成の香り…ペロリ…」

 

「じゃ、じゃあお邪魔みたいなので、俺たちは食事してるな…!」

「う、うん、篠原君、ファイトだよ!」

「そ、そうよ、篠原君!頑張って!」

 

「何だよ!その無駄に高い連携力は!って、おい!ハジメ!部屋に入るな!」

 

バタンッ!

扉は閉められてしまった…もう立ち入る事はできない…

 

ツンツン

振り返るとユエがカズトの足を突っついている。

「…入ろ…?」

「って入るのかよ?」

口には出さずコクコクと頷くユエ。

だぶだぶの外套を着て、袖先からちょこんと小さな指を覗かせ膝を抱える姿はなんとも愛嬌があり、その途轍もなく整った容姿も相まって思わず抱き締めたくなる可愛らしさだ。

(だが、三百歳。流石異世界だぜ。ロリババアが実在するとは……)

 

変心してもオタク知識は健在のカズト。

思わずそんなことを思い浮かべてしまい、ユエがすかさず反応する。

 

「……カズト、変なこと考えた?」

「いや、なにも?」

 

とぼけて返すカズトだが、ユエの、というより女の勘の鋭さに内心冷や汗をかく。

ハジメが用意した自家発電室に…何故部屋の中央にベッドモドキがある?…入ると、ユエが質問してきた。

 

 

「……カズト、どうしてここにいる?」

 

当然の疑問だろう。

ここは奈落の底。

正真正銘の魔境だ。

魔物以外の生き物がいていい場所ではない。

 

ユエには他にも沢山聞きたいことがあった。

なぜ、魔力を直接操れるのか。

なぜ、固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか。

なぜ、魔物の肉を食って平気なのか。

そもそもカズトは人間なのか。

 

ポツリポツリと、しかし途切れることなく続く質問に律儀に答えていくカズト。

 

カズト自身もハジメ達以外との会話に飢えていたのかもしれない。

香織達が用意してくれた肉を食べながら、面倒そうな素振りも見せず話に付き合っている。

カズトがなんだかんだでユエには甘いというのもあるだろう。

 

カズトは、ハジメ達や仲間と共にこの世界に召喚されたことから始まり、ベヒモスとの戦いで天之河光輝によって奈落に落とされた事、ハジメ達も奈落の別の場所に転移してた事、見つけ出してくれたハジメ達が魔物肉を喰わしてくれて変化したことなどツラツラと話していると、いつの間にかユエの方からグスッと鼻を啜るような音が聞こえ出した。

 

「なんだ?」と再び視線を上げてユエを見ると、ハラハラと涙をこぼしている。ギョッとして、カズトは思わず手を伸ばし、流れ落ちるユエの涙を拭きながら尋ねた。

 

「いきなりどうした?」

「……ぐす……カズト……つらい……私もつらい……」

 

どうやら、カズトのために泣いているらしい。

カズトは少し驚くと、表情を苦笑いに変えてユエの頭を撫でる。

 

「気にするなよ。もう天之河のことは割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。そんなことより、生き残る術を磨くこと、故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」

 

 スンスンと鼻を鳴らしながら、撫でられるのが気持ちいいのか猫のように目を細めていたユエが、故郷に帰るというカズトの言葉にピクリと反応する。

 

「……帰るの?」

「うん? 元の世界にか? そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。……色々変わっちまったけど……故郷に……家に帰りたい……」

「……そう」

 

ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

 

「……私にはもう、帰る場所……ない……」

「……」

 

そんなユエの様子に彼女の頭を撫でていた手を引っ込めると、カズトは、カリカリと自分の頭を掻いた。

 

別に、カズトは鈍感というわけではない。

なので、ユエが自分に新たな居場所を見ているということも薄々察していた。新しい名前を求めたのもそういうことだろう。

だからこそ、カズトが元の世界に戻るということは、再び居場所を失うということだとユエは悲しんでいるのだろう。

 

「あ~、なんならユエも来るか?」

「え?」

 

カズトの言葉に驚愕をあらわにして目を見開くユエ。

涙で潤んだ紅い瞳にマジマジと見つめられ、なんとなく落ち着かない気持ちになったカズトは、若干、早口になりながら告げる。

 

「いや、だからさ、俺の故郷にだよ。まぁ、普通の人間しかいない世界だし、戸籍やらなんやら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど……今や俺も似たようなもんだしな。どうとでもなると思うし……あくまでユエが望むなら、だけど?」

 

しばらく呆然としていたユエだが、理解が追いついたのか、おずおずと「いいの?」と遠慮がちに尋ねる。

しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。

 

キラキラと輝くユエの瞳に、苦笑いしながらカズトは頷く。

すると、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。

思わず、見蕩れてしまうカズト。

呆けた自分に気がついて慌てて首を振った。

 

なんとなくユエを見ていられなくて、カズトは食事に集中することにした。

ユエも興味津々で覗き込んでいる。

但し、先程より近い距離で、ほとんど密着しながら……

 

カズトは気にしてはいけないと自分に言い聞かせるが…

フニフニ…

腕に柔らかい感触が当たる…

 

「ユエさんや…当たっているのですが…」

「…当てているのよ」

 

その時二人の耳に何やら聴こえてきた。

「は、ハジメ君す、すご…たくま…いよ…あぁ……おく…で」

 

「…………………」

「…………………カズト…これ、毎日…?」

「…毎食だ…1日4回は…」

「…カズト…可哀想…ぐすん…うぇぇぇん…」

 

ユエは今滝のような涙を流す。

 

「いや、その同情も色々突き刺さるんですが…」

「…カズト…大丈夫…これからは私がいる…」

 

パサリ…

 

「あ、あの…ユエさんや、何故外套をとるのですか…?

妖艶に微笑むユエさん。

「……ペロリ…」

「…えっと…全部見えてるのですが…」

「…むしろ見て!」

「…な、何故そのネタを…?ま、まさか…日本人か?」

「…生まれも育ちもこの世界よ…まずは頂きます…カプッ…」

「…お、おい、血を吸うな!俺を吸血鬼にする気か?」

「?…ぷはぁ…極上の味…ペロリ…」

 

恍惚の表情を浮かべるユエさん。そして…

 

「あ、あの…ユエさんや…何故上に跨る…?」

「大丈夫…すぐ終わるから…壁の窪みを数えてるうちに終わる…♡」

「ちょ、ちょっと…って、あーーーーーー!」

 

カズト君はDTを卒業したのであった。

…………

………

……

 

「篠原君達大丈夫かな?」

「まぁ上手くいくだろう。いい雰囲気だったし…」

「そうね、それじゃあ出ましょうか!」

 

バタン!

 

カズトが既にいた。

何やら雰囲気が違う…

 

「カズト、早いな、準備大丈夫か?」

 

「当然だよ!ハジメ君!爽やかな朝だ。やぁ君たち、風も気持ちいいね!」

 

キラキラと輝くカズトがそこにいた。

 

「「「誰だよ???」」」

 

愛の戦士カズトがここに誕生したのであった…

 




==================================
シュタル鉱石
魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石
==================================
今回の目玉鉱石はこちら。サソリモドキの外骨格です。

さてカズト君がさらに進化しました。

小太りのオタク→痩せ細ってガリガリに→荒ぶる巨漢戦士に→愛の戦士に

物凄い変化ですねー(=゚ω゚)

家族は絶対に気づかないでしょう。

さて、カズト君はヒュドラ戦で真の戦士に目覚めます。

周りの状況に振り回され続けていたカズト君はそこで人としても成長します。

ユエさんの存在は彼らに明るさと余裕をもたらします。

次回はアルラウネもどきをドパンする話ですが、さてこのメンバーだとどうなるか…乞うご期待(=゚ω゚)


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第二十三話 ありふれた騒動

アンケートの結果愛子先生はカズト君のハーレム入り決定!

皆様ご協力ありがとうございます。✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。

それに伴い谷口鈴さんをとある人物のパートナーに変更します(=゚ω゚)ノ

資格試験が重なり更新遅くなりましたが、ようやく終わりました。

少しペースが戻ります(=゚ω゚)ノ




ハジメと香織と雫が転移した階層より数えて、現在暫定60階層。

 

「地獄闇炎雷!」

カズトの新技が放たれる。

最大直径200mの半球状の結界に敵を閉じこめ、その内部に上級火魔法-炎嵐に纏雷と纏闇を上乗せした火と雷と闇の複合属性攻撃だ。

纏火の効果で火魔法の威力も跳ね上がっている為,火耐性のない敵は一瞬にして消炭になる…

対個人は避けられてしまう可能性もあるが、面攻撃に関しては一軍を一瞬で焼き払う事ができる。

一方、対個人戦では纏火、纏雷、纏闇のスキル三種同時展開による剣術…

個人戦、殲滅戦どちらもこなせる戦術級の剣士に成長していた。

 

ユエの知識面のサポートとハジメの錬成のサポートで完成したスタイルだ…

 

50体以上の魔物に襲われたのだが、一瞬にして消炭になってしまった。

 

「カズトの火力はチート級だな…敵が哀れになる…」

「…うむ、カズトはワシが育てた…」

「ユエ…貴女絶対日本人よね?」

「うん、私もそう思うよ…違和感ないもん。」

 

カズトの火力に半ば呆れたように感心するハジメ達。

 

「大分使いこなせてきた気がする。さっさと下降りる階段見つけようぜ!」

 

カズトは愛の戦士になりたての頃は変なテンションになっていたが、今は大分落ち着いたようだ。

 

「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」

 

「おっと、またお客さんだ。地獄闇炎雷!」

 

ゴウッ!

 

結界内に包まれた敵が一瞬にして消炭…原型すら留めていないが…になる。

 

「それにしても変な魔物ね?何でこんなに襲い掛かってくるのかしら…この階層は食料もあるみたいなのに…」

「ハジメ君、雫ちゃん、魔物の頭に花が咲いてるのは何でかな…?」

 

「ティラノサウルス型、ラプトル型…二種類とも階層のボスにしては弱すぎるな…花か…」

 

ハジメはこの階層の魔物に違和感を感じていた。

不意に右脇の茂みに違和感を感じたハジメと香織と雫は銃を放つ。

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

ハジメと香織と雫が擬態していたティラノサウルス型とラプトル型二体を仕留める。

 

「ハジメ君?花だけ撃ったの…?」

「一応どうなるか試してみたんだけど…」

「……ハジメ、香織…敵の様子が変…」

 

ハジメは一匹だけラプトルもどきの花を撃ち抜いた。

 

花を撃ち抜かれたラプトルは一瞬ビクンと痙攣したかと思うと、着地を失敗してもんどり打ちながら地面を転がり、樹にぶつかって動きを止めた。

 

シーンと静寂が辺りを包む。

 

「……死んだ?」

「いや、生きてるっぽいけど……」

 

ハジメの見立て通り、ピクピクと痙攣した後、ラプトルはムクッと起き上がり辺りを見渡し始めた。

そして、地面に落ちているチューリップを見つけるとノッシノッシと歩み寄り親の敵と言わんばかりに踏みつけ始めた。

 

「……花は自分の体の一部ではない…のか?誰かにつけられたのか…?」

「……ハジメ君、誰かにイタズラでもされたのかな?かな?」

「香織…イタズラって……誰かにつけられて…そして操られていたってとこかしら?」

 

ハジメと香織と雫は推理する。

ラプトルの様子を油断なく観察する。

 

ラプトルは一通り踏みつけて満足したのか、如何にも「ふぅ~、いい仕事したぜ!」と言わんばかりに天を仰ぎ「キュルルル~!」と鳴き声を上げた。

そして、ふと気がついたようにハジメ達の方へ顔を向けビクッとする。

 

「今気がついたのかよ。どんだけ夢中だったんだよ」

「……やっぱりイジメ?」

カズトがツッコミ、ユエが同情したような眼差しでラプトルを見る。

 

ラプトルは暫く硬直したものの、直ぐに姿勢を低くし牙をむき出しにして唸り一気に飛びかかってきた。

 

カズトはラプトルに〝炎槍〟を放った。

 

跳躍の勢いそのままにズザーと滑っていく絶命したラプトル。

カズトもユエも何とも言えない顔でラプトルの死体を見やった。

 

「ホント、一体なんなんだ?」

「……イジメられて、魔法で貫かれて……哀れ」

「いや、イジメから離れろよ。絶対違うから」

カズトは訳がわからなかったのでハジメの方をみる。

 

ハジメは周囲の警戒をしていたが、敵が包囲するような形で迫っている事を察知していた。

 

「包囲網がかなり狭まってきている。移動しつつ親玉を探そう!」

「「はい!」」

 

移動をはじめて程なくして、直径五メートルはありそうな太い樹が無数に伸びている場所に出た。

隣り合う樹の太い枝同士が絡み合っており、まるで空中回廊のようだ。

 

ハジメ、香織、雫、カズトは〝空力〟で、ユエは風系統の魔法で頭上の太い枝に飛び移る。

 

「カズト!頼む!」

「任せろ!殲滅してや……えっ…?」

 

カズトはそこで頭上から集まってきた魔物達を〝地獄闇炎雷〟で殲滅するつもりなのだ。

眼下に次々とラプトルが現れ始めた。

しかし、ハジメ達は全員硬直する。

隣では魔法を放つため手を突き出した状態でユエも固まっていた。

 

なぜなら……

 

「なんでどいつもこいつも花つけてんだよ!」

「……ん、お花畑」

 

カズトの言う通り、現れた十体以上のラプトルは全て頭に花をつけていた。

それも色とりどりの花を。

 

思わずツッコミを入れてしまったカズトの声に反応して、ラプトル達が一斉にカズト達の方を見た。

そして、襲いかかろうと跳躍の姿勢を見せるが…

 

「〝炎雷〟」「〝緋槍〟」

 

カズトとユエが容赦なく魔法を唱える。

結局十秒もかからず殲滅に成功した。

 

一方、ハジメの表情は冴えない。

香織がそれに気がつき首を傾げながら尋ねた。

 

「……ハジメ君?」

「……香織、おかしくないか?」

「?」

「ちょっと弱すぎる。雫の言うように何者かに操られている可能性が高い。花が無くなってから襲ってきたラプトルもどきの方が強かった。」

 

ハジメの言葉にハッとなる香織と雫。

 

確かに、ラプトルも先のティラノも、動きは単純そのもので特殊な攻撃もなく簡単に殲滅できてしまった。

それどころか殺気はあれどもどこか機械的で不自然な動きだった。

花が取れたラプトルが怒りをあらわにして花を踏みつけていた光景を見た後なので尚更、花をつけたラプトル達に違和感を覚えてしまう。

 

「この階層のボスは花をつけた相手を支配できるみたいだ。奇襲で花をつけられないように慎重に進もう。」

 

ハジメが全員にそう言った時〝気配感知〟が再び魔物の接近を捉えた。

全方位からおびただしい数の魔物が集まってくる。

ハジメの感知範囲は半径二百メートルといったところだが、その範囲内において既に捉えきれない程の魔物が一直線に向かってきていた。

 

「また百、いや二百以上の魔物が急速接近中だ。誰かが指示してるみたいに全方位から囲むように集まってきやがる。上空から俯瞰してる可能性も高い」

「…ハジメ君、逃げる?」

「……いや、この密度だと既に逃げ道がない。一番高い樹の天辺から殲滅するのがベターだろ。カズト、ユエ頼む」

「ん……特大のいく」

「おう、かましてやるぜ!」

「敵を十分引きつけてから頼む。」

 

ハジメ達は高速で移動しながら周囲で一番高い樹を見つける。

そして、その枝に飛び乗り、眼下の足がかりになりそうな太い枝を砕いて魔物が登って来にくいようにした。

 

ハジメ達は武器や呪文を準備しながら静かにその時を待つ。

ユエがそっとカズトの服を掴む。

 

そして第一陣が登場した。

ラプトルだけでなくティラノもいる。

ティラノは樹に体当たりを始め、ラプトルは器用にカギ爪を使ってヒョイヒョイと樹を登ってくる。

 

ハジメ、香織、雫は一斉に引き金を引いた。

発砲音と共に閃光が幾筋も降り注ぎカギ爪で樹にしがみついていたラプトルを一体も残さず撃ち抜く。

 

撃ち尽くした銃からシリンダーを露出させると、くるりと手元で一回転させ排莢し、左脇に挟んで装填する。

この間3秒。

ハジメ達は弾の装填速度を上げる訓練の結果、3秒で再装填を行えるようになっていた。

 

その間隙を埋めるように発砲直前に落としておいた〝焼夷手榴弾〟が爆発。

辺りに炎を撒き散らす。

そして、再度ドンナーを連射する。

それだけで既に50体は屠ったハジメ達だが、満足感はない。

 

既に眼下には100体を超えるラプトルと10体のティラノがひしめき合い、ハジメ達のいる大木をへし折ろうと、あるいは登って襲おうと群がっているからだ。

 

「ハジメ、そろそろか?」

「まだだ……もうちょい」

 

カズトの呼び掛けにラプトルを撃ち落としながら答えるハジメ。

カズトはハジメを信じてひたすら魔力の集束に意識を集中させる。

 

そして遂に、眼下の魔物が総勢100体を超え、今では多すぎて判別しづらいが、事前の〝気配感知〟で捉えた魔物の数に達したと思われたところで、ハジメは、カズトとユエに合図を送った。

 

「カズト、ユエ!」

「任せろ!〝地獄闇炎雷〟」

「んっ!〝炎獄〟!」

 

カズトとユエが魔法のトリガーを引いた瞬間、ハジメ達のいる樹を中心に眼下が一気に閃光に染まる。

カズトの張った結界内にカズトとユエの炎系上位魔法が吹き荒れる。

 

魔物は一瞬の抵抗も許されずに、その炎の中で消滅していった。

結界範囲は指定座標を中心に100メートル四方。

ハジメ達のいる半径3メートル以内を除いてのまさに〝殲滅魔法〟というに相応しい威力である。

 

「ゼーゼー…ふぅ…」「はぁ……はぁ……」

「お疲れさん。流石はカズトとユエだ」

 

周囲一帯、まさに黒一色…炭化した地獄と化した光景を見て混じりけのない称賛をカズトとユエに贈るハジメ。

ユエは上級魔法を連続で使った影響で魔力が一気に消費されてしまい肩で息をしている。

おそらく酷い倦怠感に襲われていることだろう。

 

「いい加減、本体を見つけないとキリがないわ」

「だな。あの花を取り付けているヤツを殺らない限り、俺達はこの階層の魔物全てを相手にすることになってしまう」

 

ハジメと雫が現状を確認する。

 

ハジメ達は物量で押しつぶされる前に、おそらく魔物達を操っているのであろう魔物の本体を探すことにした。

でなければ、とても階下探しなどしていられない。

 

座り込んでいるユエに吸血させている暇はないので、カズトはユエに神水を渡そうとする。

しかし、ユエはそれを拒んだ。

訝しそうなカズトにユエが両手を伸ばして言う。

 

「カズト……だっこ……」

「お前はいくつだよ! ってまさか吸血しながら行く気か!?」

 

カズトの推測に「正解!」というようにコクンと頷くユエ。

確かに、神水ではユエの魔力回復が遅いし、不測の事態に備えて回復はさせておきたい。

しかし、自分が必死に駆けずり回っている時にチューチューされるという構図に若干抵抗を感じるカズト。

背に腹は替えられないと分かってはいるが……

 

結局了承してユエをだっこ……は邪魔になるので、おんぶして、カズトは本体探しに飛び出していった。

 

「ハジメ君…私も抱っこ…」

「香織…ずるい…私も抱っこ…」

「……順番でいいか?」

 

ハジメは堂々と香織をお姫様抱っこして移動する。

この辺の照れは既にハジメは無くなっていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「よし、いい感じに付いてきている!」

「…ハジメ、戦わないの…?」

「そうだ。ユエ、香織、敵の反応を見ていてくれ!親玉は過剰な反応をした方向にいる筈だ!」

「任せて!ハジメ君!」

「…ん、わかった…カズト…ファイト〜」

「香織、そろそろ交代してよ!私だってハジメさんに抱かれたい…」

 

ハジメ達は現在、二百近い魔物に追われていた。

草むらが鬱陶しいのと、吸血は済んでいるのにユエはカズトの背中から降りようとしない。

香織もお姫様抱っこされたままで雫が膨れている…

 

後ろからは魔物が、

 

ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

 

と、地響きを立てながら迫っている。

背の高い草むらに隠れながらラプトルが併走し四方八方から飛びかかってくる。

それを迎撃しつつ、探索の結果一番怪しいと考えられた場所に向かいひたすら駆けるハジメ達。

ユエも魔法を撃ち込み致命的な包囲をさせまいとする。

 

カプッ、チュー

 

ハジメ達が睨んだのは樹海を抜けた先、今通っている草むらの向こう側にみえる迷宮の壁、その中央付近にある縦割れの洞窟らしき場所だ。

 

なぜ、その場所に目星をつけたのかというと、襲い来る魔物の動きに一定の習性があったからだ。

ハジメ達が迎撃しながら進んでいると、ある方向に逃走しようとした時だけやたら動きが激しくなるのだ。

まるで、その方向には行かせまいとするかのように。

このまま当てもなく探し続けても魔物が増え続けるだけなのでイチかバチかその方向に突貫してみることにしたというわけである。

 

どうやら、草むらに隠れながらというのは既に失敗しているので、ハジメ達は〝空力〟で跳躍し、〝縮地〟で更に加速する。

 

カプッ、チュー

 

「ユエさん!? さっきからちょくちょく吸うの止めてくれませんかね!?」

「……不可抗力」

「嘘だ! ほとんど消耗してないだろ!」

「……ヤツの花が……私にも……くっ」

「何わざとらしく呻いてんだよ。ヤツのせいにするなバカヤロー。ていうか余裕だな、おい」

 

こんな状況にもかかわらず、カズトの血に夢中のユエ。

元王族なだけあって肝の据わりかたは半端ではないらしい。

そんな風に戯れながらもきっちり迎撃し、ハジメ達は二百体以上の魔物を引き連れたまま縦割れに飛び込んだ。

 

縦割れの洞窟は大の大人が二人並べば窮屈さを感じる狭さだ。

ティラノは当然通れず、ラプトルでも一体ずつしか侵入できない。

何とかハジメ達を引き裂こうと侵入してきたラプトルの一体がカギ爪を伸ばすが、その前に雫の銃が火を噴き吹き飛ばした。

そして、すかさず錬成し割れ目を塞ぐ。

 

「ふぅ~、取り敢えず大丈夫だろう」

「ハジメ君、お疲れさま」

「香織、そう思うなら、そろそろ降りなさい?」

「…仕方ないよね…ハジメ君、後でいっぱい愛してね?」

「ダメよ、香織。貴女、ずっと抱っこして貰ってたんだから…私からよね?ハジメさん♡」

こんな時もしっかりイチャつくハジメ達であった。

 

「ユエさんや、そろそろ降りてもらえませんかね?」

「…ぬぅ…仕方なし…では降りる前の一口…」

カプッ、チュー

「おい!」

 

カズトの言葉に渋々、ほんと~に渋々といった様子でカズトの背から降りるユエ。

余程、カズトの背中は居心地がいいらしい。

こっちもしっかりイチャついていた…

 

「さて、あいつらやたら必死だったからな、ここでビンゴだろ。油断するなよ?」

「「「「了解!」」」」

 

錬成で入口を閉じたため薄暗い洞窟を5人は慎重に進む。

 

しばらく道なりに進んでいると、やがて大きな広間に出た。

広間の奥には更に縦割れの道が続いている。

もしかすると階下への階段かもしれない。

ハジメ、香織、雫は辺りを探る。

三人の〝気配感知〟には何も反応はないがなんとなく嫌な予感がするので警戒は怠らない。

気配感知を誤魔化す魔物など、この迷宮にはわんさかいるのだ。

 

ハジメ達が部屋の中央までやってきたとき、それは起きた。

 

全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできたのだ。

ハジメ達は一瞬で背中合わせになり、飛来する緑の球を迎撃する。

 

しかし、その数は優に百を超え、尚、激しく撃ち込まれるのでハジメは錬成で石壁を作り出し防ぐことに決めた。

石壁に阻まれ貫くこともできずに潰れていく緑の球。

大した威力もなさそうである。

ユエの方も問題なく、速度と手数に優れる風系の魔法で迎撃している。

 

「おそらく本体の攻撃だ。ユエ、どこにいるかわかるか?」

「……」

「ユエ?」

 

ユエに本体の位置を把握できるか聞いてみるハジメ。

ユエは〝気配感知〟など索敵系の技能は持っていないが、吸血鬼の鋭い五感はハジメ達とは異なる観点で有用な索敵となることがあるのだ。

 

しかし、ハジメの質問にユエは答えない。

訝しみ、カズトはユエの名を呼んだが、その返答は……

 

「……にげて……みんな!」

 

いつの間にかユエの手がハジメに向いていた。

ユエの手に風が集束する。

本能が激しく警鐘を鳴らし、ハジメ達は、その場を全力で飛び退いた。

刹那、ハジメ達のいた場所を強力な風の刃が通り過ぎ、背後の石壁を綺麗に両断する。

 

「「「「ユエ!?」」」」

 

まさかの攻撃にハジメ達は驚愕の声を上げるが、ユエの頭の上にあるものを見て事態を理解する。

そう、ユエの頭の上にも花が咲いていたのだ。

それも、ユエに合わせたのか? と疑いたくなるぐらいよく似合う真っ赤な薔薇が。

 

「くそっ、さっきの緑玉か!?」

 

ハジメは自身の迂闊さに自分を殴りたくなる衝動をこらえ、ユエの風の刃を回避し続ける。

 

「カズト…みんな…うぅ……」

 

ユエが無表情を崩し悲痛な表情をする。

ラプトルの花を撃ったとき、ラプトルは花を憎々しげに踏みつけていた。

あれはつまり、花をつけられ操られている時も意識はあるということだろう。体の自由だけを奪われるようだ。

 

だが、それなら解放の仕方も既に知っている。

ハジメと香織と雫はユエの花に照準し引き金を引こうとした。

 

しかし、操っている者もハジメ達が花を撃ち落としたことやハジメ達の飛び道具を知っているようで、そう簡単にはいかなかった。

 

ユエを操り、花を庇うような動きをし出したのだ。

上下の運動を多用しており、外せばユエの顔面を吹き飛ばしてしまうだろう。ならばと、接近し切り落とそうとすると、突然ユエが片方の手を自分の頭に当てるという行動に出た。

 

「……やってくれるじゃねぇか……」

 

つまり、ハジメ達が接近すればユエ自身を自らの魔法の的にすると警告しているのだろう。

 

ユエは確かに不死身に近い。

しかし、上級以上の魔法を使い一瞬で塵にされてなお〝再生〟できるかと言われれば否定せざるを得ない。

そして、ユエは、最上級ですらノータイムで放てるのだ。

特攻など分の悪そうな賭けは避けたいところだ。

 

ハジメ達の逡巡を察したのか、それは奥の縦割れの暗がりから現れた。

 

アルラウネやドリアード等という人間の女と植物が融合したような魔物がRPGにはよく出てくる。

ハジメ達の前に現れた魔物は正しくそれだった。

もっとも、神話では美しい女性の姿で敵対しなかったり大切にすれば幸運をもたらすなどという伝承もあるが、目の前のエセアルラウネにはそんな印象皆無である。

 

確かに、見た目は人間の女なのだが、内面の醜さが溢れているかのように醜悪な顔をしており、無数のツルが触手のようにウネウネとうねっていて実に気味が悪い。

その口元は何が楽しいのかニタニタと笑っている。

 

ハジメと雫はすかさずエセアルラウネに銃口を向けた。

しかし、ハジメ達が発砲する前にユエが射線に入って妨害する。

 

「ハジメ……ごめんなさい……」

 

悔しそうな表情で歯を食いしばっているユエ。

自分が足手まといになっていることが耐え難いのだろう。

今も必死に抵抗しているはずだ。

口は動くようで、謝罪しながらも引き結ばれた口元からは血が滴り落ちている。鋭い犬歯が唇を傷つけているのだ。

悔しいためか、呪縛を解くためか、あるいはその両方か。

 

ユエを盾にしながらエセアルラウネは緑の球をハジメ達に打ち込む。

 

ハジメは、それをドンナーで打ち払った。

球が潰れ、目に見えないがおそらく花を咲かせる胞子が飛び散っているのだろう。

 

しかし、ユエのようにハジメ達の頭に花が咲く気配はない。

ニタニタ笑いを止め怪訝そうな表情になるエセアルラウネ。

ハジメ達には胞子が効かないようだ。

 

(たぶん、耐性系の技能のおかげだろうな)

 

ハジメの推測通り、エセアルラウネの胞子は一種の神経毒である。

そのため、〝毒耐性〟によりハジメ達には効果がないのだ。

つまり、ハジメ達が助かっているのは全くの偶然で、ユエを油断したとは責められない。

ユエが悲痛を感じる必要はないのだ。

 

エセアルラウネはハジメ達に胞子が効かないと悟ったのか不機嫌そうにユエに命じて魔法を発動させる。

また、風の刃だ。

もしかすると、ラプトル達の動きが単純だったことも考えると操る対象の実力を十全には発揮できないのかもしれない。

 

(不幸中の幸いだな)

 

風の刃を回避しようとすると、これみよがしにユエの頭に手をやるのでその場に留まり、サイクロプスより奪った固有魔法〝金剛〟により耐える。

 

この技能は魔力を体表に覆うように展開し固めることで、文字通り金剛の如き防御力を発揮するという何とも頼もしい技能である。

まだまだ未熟なため、おそらくサイクロプスの十分の一程度の防御力だが、風の刃も鋭さはあっても威力はないので凌げている。

 

(一応、速攻で片付く方法もあるんだが……後が怖いしな……焼夷手榴弾でも投げ込むか?)

 

ハジメ達がこの状況をどう打開すべきか思案していると、ユエが悲痛な叫びを上げる。

 

「カズト、みんな!……私はいいから……攻撃して!」

 

何やら覚悟を決めた様子でハジメ達に撃てと叫ぶユエ。

ハジメ達の足手まといになるどころか、攻撃してしまうぐらいなら自分ごと撃って欲しい、そんな意志を込めた紅い瞳が真っ直ぐハジメ達を見つめる。

 

そんなこと出来るはずないだろう!

必ず助けてみせる!

普通はこんな熱いセリフが飛び出て、ヒロインと絆を確かめ合うシーンだ。

一昔前のカズトならそうしただろう。

だがしかし、そんな期待を裏切るのが現在のカズトクオリティー。

 

「え、いいのか? 助かるわ」

「ユエ、貴女早まらな…えっ?」

「ユエ、俺に作戦があ…えっ?」

「ユエ、心配しないで!必ず助け…えっ?」

 

ズバッ!!

 

広間に斬撃が響き渡る。

 

ユエの言葉を聞いた瞬間、何の躊躇いもなく縮地でエセアルラウネの背後に回り横一閃に切り裂くカズト。

 

ユエを励まそうとしたハジメ、香織、雫は固まっている…

 

広間を冷たい空気が満たし静寂が支配する。

そんな中、くるくると宙を舞っていたバラの花がパサリと地面に落ちた。

ユエの頭に咲いていた花も一緒に切り裂いたのであった…

 

ユエが目をパチクリとする。

ハジメ、香織、雫もパチクリとする。

 

ユエがそっと両手で頭の上を確認するとそこに花はなく、代わりに縮れたり千切れている自身の金髪があった。

エセアルラウネは真っ二つにされながらも事態を把握したのか、どこか非難するような目でカズトを睨む。

 

「いや、お前がそんな目をするなよ」

 

斬ッ!!

 

ツッコミを入れつつカズトが止めをさす。

エセアルラウネの上半身を縦に真っ二つに切り裂く。

そのまま、グラリと傾くと手足をビクンビクンと痙攣させながら地面に倒れ伏した。

 

「で、ユエ、無事か? 違和感とかないか?」

 

気軽な感じでユエの安否を確認するカズト。

だが、ユエは未だに頭をさすりながらジトっとした目でカズトを睨む。

 

「……斬った」

「あ? そりゃあ攻撃していいって言うから」

「……躊躇わなかった……」

「そりゃあ、最終的には斬る気だったし。縮地で背後に回り込む自信はあったんだけどな、流石に問答無用で斬ったらユエがヘソ曲げそうだし、今後のためにならんだろうと配慮したんだぞ?」

「……ちょっと頭皮、削れた……かも……」

「まぁ、それくらいすぐ再生するだろ? 問題なし」

「うぅ~……」

 

ユエは「確かにその通りなんだけど!」と言いたげな顔でカズトのお腹をポカポカと殴る。

 

確かに、攻撃してと言ったのは自分であり、足手まといになるぐらいならと覚悟を決めたのも事実だ。だが、ユエとて女。

多少の夢は見る。

せめてちょっとくらい躊躇って欲しかったのだ。

いくらなんでも、あの反応は軽すぎると不満全開で八つ当たりする。

 

カズトとしては、操られた状態では上級魔法を使用される恐れが低いとわかった時点でユエに対する心配はほとんどしていなかった。

ユエの不死性を超える攻撃などそうそうないからだ。

 

しかし、躊躇い無く斬っててギクシャクするのも嫌だったので戦闘中に躊躇うという最大の禁忌まで犯して堪えたのに、いったい何がそんなに不満なのかと首を傾げる。

そんなカズトの様子にますますヘソを曲げ、ユエはプイッとそっぽを向いてしまった。

 

カズトは内心溜息を吐きながら、どうやって機嫌を直すか思案し始める。

それは、エセアルラウネの攻略より遥かに難しそうだった。

 

ハジメ達はこの階層の魔物を食べる為洞穴を二つ作ったが、カズトのいる洞穴からはずっとカズトの悲鳴が聞こえていた…

 

ハジメ達の洞穴からは、雫の喘ぎ声が聞こえていた…

香織はずっと抱っこされてたからお預けになっていた…

 




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南雲ハジメ 18歳 男 レベル:76
天職:錬成師    職業:冒険者 青
筋力:2460
体力:2460
耐性:2460
敏捷:2460
魔力:2460
魔耐:2460
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+精密錬成][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物系融合][+鉱物系分離][+鉱物系分解][+貯蔵庫][+貯蔵庫内複製][+貯蔵庫容量増加][+震動波砕][+震動波砕道具付与][+震動波砕効果範囲拡大][+詳細設計]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・魔力視・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・威圧[+威圧対象選択][+威圧増幅]・纏雷[+雷耐性][+威力調整][+放出]・纏氷[+氷耐性][+威力調整][+放出]・纏光[+光耐性][+威力調整][+放出]・纏闇[+闇耐性][+威力調整][+放出]・纏風[+風耐性][+威力調整][+放出]・纏火[+火耐性][+威力調整][+放出]・纏水[+水耐性][+威力調整][+放出]・纏地[+地耐性][+威力調整][+放出]・気配遮断[+無音][+無臭]・再生[+超速再生][+自動再生]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚][+瞬光]・高速魔力回復・眷族通話(香織、雫)・飛爪[+三爪][+五爪][+飛爪]・夜目・石化耐性・毒耐性・麻痺耐性・病気耐性・呪耐性・恐怖耐性・金剛・糸作成[+粘糸][+鋼糸]・遊泳[+潜水][+水中呼吸][+水圧軽減]・減速加速門・最適化・言語理解・「 」の加護
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南雲香織 18歳 女 レベル:76
天職:治癒師    職業:冒険者 青
筋力 : 2200
体力:2200
耐性:2200
敏捷:2200
魔力:3000
魔耐:3000
技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動] ・光魔法適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・魔力視・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・威圧[+威圧対象選択][+威圧増幅]・纏雷[+雷耐性][+威力調整][+放出]・纏氷[+氷耐性][+威力調整][+放出]・纏光[+光耐性][+威力調整][+放出]・纏闇[+闇耐性][+威力調整][+放出]・纏風[+風耐性][+威力調整][+放出]・纏火[+火耐性][+威力調整][+放出]・纏水[+水耐性][+威力調整][+放出]・纏地[+地耐性][+威力調整][+放出]・気配遮断[+無音][+無臭]・再生[+超速再生][+自動再生]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚][+瞬光]・高速魔力回復・眷族通話(ハジメ、雫)・飛爪[+三爪][+五爪][+飛爪]・夜目・石化耐性・毒耐性・麻痺耐性・病気耐性・呪耐性・恐怖耐性・金剛・糸作成[+粘糸][+鋼糸]・遊泳[+潜水][+水中呼吸][+水圧軽減]・言語理解・接着・「 」の加護
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南雲雫 18歳 女 レベル:76
天職:剣士    職業:冒険者 青
筋力: 2500
体力: 2500
耐性: 2200
敏捷: 3000
魔力: 2500
魔耐: 2500
技能:剣術[+抜刀速度上昇][+斬撃威力上昇][+斬撃速度上昇][+命中精度上昇][+弱点看破][+衝撃波追加][+空波斬][+白拍子]・先読・気配感知[+特定感知]・隠業・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・魔力視・魔力感知[+特定感知]・威圧[+威圧対象選択][+威圧増幅]・纏雷[+雷耐性][+威力調整][+放出]・纏氷[+氷耐性][+威力調整][+放出]・纏光[+光耐性][+威力調整][+放出]・纏闇[+闇耐性][+威力調整][+放出]・纏風[+風耐性][+威力調整][+放出]・纏火[+火耐性][+威力調整][+放出]・纏水[+水耐性][+威力調整][+放出]・纏地[+地耐性][+威力調整][+放出]・気配遮断[+無音][+無臭]・再生[+超速再生][+自動再生]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚][+瞬光]・高速魔力回復・眷族通話(香織、ハジメ)・風爪[+三爪][+五爪][+飛爪]・夜目・石化耐性・毒耐性・麻痺耐性・病気耐性・呪耐性・恐怖耐性・金剛・糸作成[+粘糸][+鋼糸]・遊泳[+潜水][+水中呼吸][+水圧軽減]・言語理解・分解・「 」の加護
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篠原カズト 18歳 男 レベル:76
天職:火剣士     職業:冒険者 青
筋力:2600
体力:2600
耐性:2400
敏捷:2700
魔力:2500
魔耐:2500
技能:剣術[+斬撃速度上昇][+斬撃威力上昇][+命中率上昇][+武器強化][+空波斬]・纏火[+火耐性][+威力調整]・火魔法適性[+発動速度上昇]・結界魔法適性[+発動速度上昇]・魔力操作・威圧・纏雷[+雷耐性][+威力調整]・纏闇[+闇耐性][+威力調整]天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚]・風爪[+三爪]・夜目・石化耐性・麻痺耐性・毒耐性・病気耐性・呪耐性・複合魔法・金剛・高速魔力回復・胃酸強化・言語理解・「 」の加護
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ユエ 323歳 女 レベル:70
天職:大魔導師   職業:   
筋力: 200
体力: 400
耐性 : 100
敏捷: 200
魔力:9000
魔耐:9000
技能:自動再生[+痛覚操作][+再生操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収][+身体強化]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+血盟契約]・高速魔力回復・
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第二十四話 ありふれた覚醒

さて、いよいよ100階層目。

原作ではハジメとユエのみでしたが、今作ではハジメ、香織、雫、カズトの4人とユエがいます。

しかもハジメ、香織、雫は属性耐性フルコンプです。

充実した戦力にハジメの指揮能力が頭抜けた状態で、果たしてヒュドラは意地を見せる事ができるか…?

今回はこんな感じです。(=゚ω゚)


エセアルラウネを問答無用に斬り殺し、ユエが機嫌を損ねた日から随分経った。

あの後、気絶するまで血を吸われたカズト。

更にカズトは限界を超えて何かを搾り取られていた…

神水が大活躍した事は間違いない…

その甲斐あってか何とかユエの機嫌を直すことに成功し、再び迷宮攻略に勤しんでいた。

 

そして遂に、次の階層でハジメと香織、雫が最初にいた階層から百階目になるところまで来た。

その一歩手前の階層でハジメ達は装備の確認と補充にあたっていた。

香織と雫は飽きもせずにハジメの作業を手伝いながらイチャついている。

 

一方カズトはユエ相手に魔法と剣術の組み合わせを模索していた。

ユエは全力で鍛錬するカズトを見るのが好きなようだ。

今もカズトが様々な剣術とスキルの組み合わせを試している姿を見て安らいだ表情を浮かべていた。

 

ユエは、香織と雫に影響を受けたのかどうか分からないが、休憩のたびにやりまくっていた為、露骨に甘えてくるようにもなった。

 

ハジメ達と分かれて休憩する時は横になれば添い寝の如く腕に抱きつくし、座っていれば背中から抱きつく。

吸血させるときは正面から抱き合う形になるのだが、終わった後も中々離れようとせずに恋人の営みに移行する。

 

カズトは、ハジメ達のイチャイチャを見せつけられていた過去は既に忘れていた。

今ではハジメ達のイチャイチャ振りが理解できるからである。

 

それはさておき…

 

「ハジメ君、銃弾は十分あるよ。神水は奥歯に仕込んだモノも含めて5本づつ渡したよ!」

「ハジメさん、ライフルの命中率も上がったわ!こちらの準備も完了よ!」

「ハジメ、俺の〝魔剣 閻魔〟も馴染んだぜ。準備完了だ!」

「…みんな慎重…?カズト…どうして?」

「うん? ああ、次で百階だからな。もしかしたら何かあるかもしれないと思ってな。一般に認識されている上の迷宮も百階だと言われていたから……まぁ念のためだ」

 

ハジメが最初にいた階層から八十階を超えた時点で、ここが地上で認識されている通常の【オルクス大迷宮】である可能性は消えた。

奈落に落ちた時の感覚と、各階層を踏破してきた感覚からいえば、通常の迷宮の遥かに地下であるのは確実だ。

 

肉体も精神も、スキルも魔法も相当磨きをかけたという自負がハジメ達にはあり、簡単にやられはしないだろう。

しかし、そのような実力とは関係なくあっさり致命傷を与えてくるのが迷宮の怖いところである。

故に、出来る時に出来る限りの準備をしておく。

 

しばらくして、全ての準備を終えたハジメ達は、階下へと続く階段へと向かった。

 

その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。

碁盤目上にならぶ柱の一本一本が直径五メートルはあり、荘厳さを感じさせる空間だった。

 

ハジメ達が、しばしその光景に見惚れつつ足を踏み入れる。

すると、全ての柱が淡く輝き始めた。

ハッと我を取り戻し警戒するハジメ達。

柱はハジメ達を起点に奥の方へ順次輝いていく。

 

ハジメ達はしばらく警戒していたが特に何も起こらないので先へ進むことにした。

感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。

二百メートルも進んだ頃、前方に巨大な扉を見つけた。

全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。

特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「……これはまた凄いな。もしかして……」

「ここが反逆者の住処?」

 

いかにもラスボスの部屋といった感じだ。

実際、感知系技能には反応がなくともハジメ達の本能が警鐘を鳴らしていた。この先はマズイと。

それは、感知系の技能を持たないユエも感じているのか、うっすらと額に汗をかいている。

 

「どうやら、ようやくゴールにたどり着いたってことかな?」

「…うん。ハジメ君…長かったね…」

「そうね…物凄い経験だったわ…ここまで来たら絶対に生き延びるわよ!」

 

「俺は香織と雫を守る。カズトとユエも…」

「私はハジメ君と雫ちゃんを守る。篠原君とユエも…」

「私はハジメさんと香織を守る。篠原君とユエも」

 

ハジメ、香織、雫は見つめ合いながら決意を固める。

本能的な恐怖すら不思議と薄れていくのが感じられた。

たとえ何が待ち受けていようと乗り越えていける。

 

「……私達は…オマケ…?でも、私もカズトを守る…そして皆んなを守る…」

「ユエ、そこはスルーだ。俺もユエを守る。そして皆んなも守る!」

 

カズトとユエも覚悟を決めた表情で扉を睨みつける。

 

そして、二人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 

その瞬間、扉とハジメ達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

 

ハジメは、その魔法陣に見覚えがあった。

忘れようもない、あの日自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。

だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

「おいおい、なんだこの大きさは?……マジでラスボス…かよ」

「……大丈夫……私達、負けない……」

 

カズトが流石に引きつった笑みを浮かべるが、ユエは決然とした表情を崩さずカズトの腕をギュッと掴んだ。

 

ハジメはその時、今更ながらではあるが、カズトとユエの欠点を見抜いてしまった。

そう…カズトとユエには恐怖耐性がないことを…

 

しかし、この魔法陣から出てくる化物を倒さないと先へは進めないらしい。

 

魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。

咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにするハジメ達。

光が収まった時、そこに現れたのは……

 

体長三十メートル、8つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。

例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

何故か右前足に足輪のような物がはめられている。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

不思議な音色の絶叫をあげながら8対の眼光がハジメ達を射貫く。

身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気がハジメ達に叩きつけられた。

 

同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。

それはもう炎の壁というに相応しい規模である。

 

ハジメ達は左とカズト達は右と同時にその場を左右に飛び退き反撃を開始する。

ハジメと香織と雫の銃が火を吹き電磁加速された弾丸が超速で赤頭、黄頭、緑頭をそれぞれ狙い撃つ。

弾丸は狙い違わずそれぞれの頭を吹き飛ばした。

 

まずは3つとハジメ達が内心ガッツポーズを決めた時、白い文様の入った頭が「クルゥアン!」と叫び、吹き飛んだ赤頭、黄頭、緑頭を白い光が包み込んだ。

すると、まるで逆再生でもしているかのように赤頭が元に戻った。

白頭は回復魔法を使えるらしい。

 

ハジメ達に少し遅れてユエの氷弾が黒の文様がある頭を吹き飛ばしたが、同じように白頭の叫びと共に回復してしまった。

 

ハジメは舌打ちをしつつ〝眷族通話〟で香織と雫に伝える。

 

〝香織、雫 あの白頭を狙うぞ! キリがない!〟

〝わかったわ!〟

〝ハジメ君、爆光鎖で前の6本首は止めるよ!〟

 

青い文様の頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出し、それを回避しながらハジメ達が白頭を狙う。

 

ドパンッ!ドパンッ!

 

「〝爆光鎖〟!」

 

閃光が白頭に迫る。

しかし、直撃かと思われた瞬間、黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。

そして淡く黄色に輝きハジメと雫のレールガンを受け止めてしまった。

衝撃と爆炎の後には無傷の黄頭が平然とそこにいてハジメ達を睥睨している。

 

「ちっ! 盾役か。攻撃に盾に回復にと実にバランスのいいことだな!」

 

ハジメは頭上に向かって〝焼夷手榴弾〟を投げる。

同時にドンナーの最大出力で白頭に連射した。

ユエも合わせて〝緋槍〟を連発する。

ユエの〝蒼天〟なら黄頭を抜いて白頭に届くかもしれないが、最上級を使うと一発でユエは行動不能になる。

吸血させれば直ぐに回復するが、その隙を他の頭が許してくれるとは思えなかった。

せめて半数は減らさないと最上級は使えない。

 

黄頭は、ハジメとユエの攻撃を尽く受け止める。

だが、流石に今度は無傷とはいかなかったのかあちこち傷ついていた。

 

「クルゥアン!」

 

すかさず白頭が黄頭を回復させる。

全くもって優秀な回復役である。

しかし、その直後、白頭の頭上で〝焼夷手榴弾〟が破裂した。

摂氏三千度の燃え盛るタールが撒き散らされる。

白頭にも降り注ぎ、その苦痛に悲鳴を上げながら悶えている。

 

このチャンス逃すか! とハジメが〝念話〟で合図を雫に送り、同時攻撃を仕掛けようとする。

 

が、その前に絶叫が響いた。カズトとユエの声で。

 

「やめろぉおおお!!!」

「いやぁああああ!!!」

 

「!? カズト、ユエ!チッ…今は白頭殲滅!雫!」

「てやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

雫渾身の斬撃が決まる!…と思われた時、白頭が雫の方を向き閃光のようなブレスを吐く

ゴォォォォォォォォォォォォォ!

 

咄嗟に雫を香織の方に投げ飛ばし閃光のブレスの直撃を受けるハジメ。

(っおおおおおおおおお!最適化!最適化!最適化!)

 

ありえないダメージを食らったハジメが最適化を自身に連発する。

すると身を焼く程の連続ダメージが薄れていった。

毒耐性のあるハジメに毒の症状が現れたがすぐに浄化される。

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!?ハジメ君?大丈夫?平気?」

「ハ、ハジメさん!!?」

香織と雫が駆け寄ってくるがハジメは香織と雫を抱えてカズト達の元に向かう。

 

「香織、大丈夫だ。それよりカズト達を!」

神水を飲み回復したハジメが香織にカズトとユエをゆだねる。

 

「う、うん!任せてハジメ君!」

「香織!頼んだわよ!ハジメさん、私はどうしたらいいの?」

「決まっている!白頭を倒す。邪魔する黄頭をまず倒さなければならないがそれにはカズトとユエの殲滅火力が必要だ!二人が元に戻るまで敵の注意を引きつける!」

「わかったわ!」

ハジメと雫がヒュドラに突感する。

 

一方未だ絶叫を上げるカズトとユエに、歯噛みしながら一体何がと考える香織。

そして、そういえば黒い文様の頭が未だ何もしていないことを思い出す。

 

(違う、もう既に何かしているの?)

「ハジメ君!黒頭を狙って!」

 

香織の声を聞いたハジメは〝縮地〟と〝空力〟で必死に攻撃をかわしながら黒頭に向かってドンナーを発砲した。

 

射撃音と共に、カズトとユエをジッと見ていた黒頭が吹き飛ぶ。

同時に、カズトとユエがくたりと倒れ込んだ。

その顔は遠目に青ざめているのがわかる。

そのカズトとユエを喰らおうというのか青頭が大口を開けながら長い首を伸ばしカズトとユエに迫っていく。

 

ハジメは香織の方を見る。

香織に紫頭が襲いかかるが〝縮地〟でかわし反撃しているので、カズトとユエを守る為に行動する。

 

「させるかぁああ!!」

 

ハジメはダメージ覚悟で炎弾と風刃の嵐を〝縮地〟で突っ込んで行く。

致命傷になりそうな攻撃だけドンナーの銃身と〝風爪〟で切り裂き、ギリギリのタイミングでカズト、ユエと青頭の間に入ることに成功した。

しかし、迎撃の暇はなく、ハジメは咄嗟に〝金剛〟を発動する。

〝金剛〟は移動しながらは使えない。

そのため、どっしりとユエの前に立ち塞がる。

そのタイミングを見計らったように8本首全てからブレスが吐かれてしまう。

 

「「「「「「「「クルルルッ!」」」」」」」」

「ぐぅう!最適化!最適化!最適化!」

 

属性耐性を持っているハジメの防御を、何故か軽く突破してくるブレスに、ハジメが必死に最適化を連発しながら耐えていると、たちどころにダメージが減っていく。

「聖絶!周天!超回復!再生!」

 

香織が防御、回復魔法を連発してくれたおかげでハジメはカズトとユエを何とか守りきれた。

 

ユエは呆然としながら自分の前に立つハジメを見つめる。

ハジメの背中は何と力強く頼もしい背中なのだろうと…

香織と雫があれほど尽くすのも頷ける。

 

ユエはカズトの方をみる。

カズトは怯えて動けなくなっていた…

 

ユエはカズトが精神的に未熟な事を知っていた。

それでも必死に訓練をし、戦う姿にユエは惚れていたのだ。

ユエは震えているカズトをそっと抱きしめて

 

「カズト…怖い?私も怖い…でも目を開けて前を見て…」

 

ドパンッ!ドパンッ!

「爆光鎖!」

ドパンッ!

 

頭を上げ、前を見たカズトの目に入ってきたのは必死に戦うハジメ達の姿だ。

 

雫の銃弾が黒頭と青頭の頭部を吹き飛ばす。

力を失った青頭を雫は〝豪脚〟で蹴り飛ばす。

その隙にハジメは〝閃光手榴弾〟と〝音響手榴弾〟をヒュドラに向かって投げつけた。

 

ハジメ、香織、雫は見事な連携を見せながらヒュドラを連携と作戦で押していた。

しかし、ここぞと言う時に白頭に回復されてしまい均衡を崩す事が出来ずにいる。

ハジメ、香織、雫の最大の弱点、広範囲を殲滅する火力が不足していたからである。

 

「カズト…ハジメの姿を見て…ハジメの背中を見ていると安心するでしょ?…あれが誰かを守る為の強さ…」

「うっ…グスッ…守る為の強さ…」

「んっ…その強さはカズトも持っている…まだ未熟なだけ…だからカズト…私を見ていて…」

 

ユエの全身から膨大な魔力が溢れ出す。

立ち上がりヒュドラに向き合う姿は、バンパイア一族の女王の姿にふさわしい威厳ある姿だ。

 

「守る為に戦う姿を…その背中を…今は…私がカズトを守る…でもいつか…私や皆んなを守ってね…」

慈愛に満ちたユエの笑顔がカズトの心に刻まれる…

 

「〝緋槍〟〝氷柱〟」

 

ユエが緑頭と青頭を吹き飛ばす。

 

「ユエ?貴女大丈夫なの?」

香織がユエに〝聖絶〟をかける。

 

「…ん!平気…香織、遅れてごめんなさい…」

「恐怖耐性無いんだから気にしないで、ユエ。頑張ろ!」

「…ありがとう…香織…」

 

ドパンッ!ドパンッ!

雫は銃撃しながら白頭を斬るタイミングを測っていた。

ユエが復帰してくれたおかげで攻撃してくる頭の数が減り、雫に余裕が生まれる。

 

「ユエが戻ったから何とかなりそうね…?」

「ああ。火力不足かも知れないが…焼夷手榴弾を全部使えば何とかなる!」

 

ハジメは一瞬で作戦を組み立て、指示をだす。

 

「香織!爆光鎖で前6本を頼む!その後黒頭を撃ってくれ!」

「ハジメ君!任せて!」

 

「雫!俺とユエで黄頭を何とかする。一瞬の隙をついて白頭を斬ってくれ!黄頭が健在だった時は注意を引きつけてくれ!」

「ハジメさん!任せて!」

 

「ユエ!〝蒼天〟を頼む!撃った後はカズトの所へ!」

「…んっ!!」

 

「俺の銃撃を合図に行動開始!」

 

ドパンッ!ドパンッ!

ハジメの銃撃の後〝爆光鎖!〟〝蒼天!〟

香織とユエの魔法が続き…

 

「てやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

雫の一撃がついに白頭の首を半ばまで切断する。

 

すかさずハジメの焼夷手榴弾が黄頭と白頭の間に投げ込まれる。

 

ドゴォォォォォォォォォーン!!!

 

白頭が吹き飛び戦いが終わる…訳では無かった…

 

「やった!ハジメ君!倒したね!」

「香織…フラグっぽいぞ…」

香織がハジメが指差す方向を見ると…

 

ヒュドラの右前足だけに付いていた足輪が光り砕けたかと思ったら、瞬くまにヒュドラが再生されてしまった。

 

「……冗談だろ?復活アイテム付きかよ…」

ハジメは愚痴ったが一瞬で立て直し香織達に檄を飛ばす。

 

「ヒュドラに復活アイテムはもうない!今度こそ倒して先に進むぞ!!」

呆然としていた香織、雫、ユエはハジメの檄に気を取り直して

「ハジメ君、作戦はさっきと同じ?」

「そうだ!ユエの〝蒼天〟のかわりに俺の焼夷手榴弾で行う!行くぞ!」

 

ハジメは焼夷手榴弾でユエの〝蒼天〟の変わりになるか不安だったが最早手持ちはない。

ブレスの直撃はハジメに相当のダメージを蓄積させていた。

次の攻撃に全火力を投入する。

これがダメなら一旦引く。

 

そう決めたハジメの背後で爆破的な魔力の膨張を感じた。

そして桁違いの火柱が巻き起こる…

ハジメ達だけではなくヒュドラすら注目する火柱の中心にいたのが…

 

「…カズト…?…な、何…この魔力は…?」

魔力チートのユエが桁違いの火柱の魔力に驚愕している。

 

俯いたカズトが手をヒュドラに向け呟く…

〝地獄闇炎雷〟

 

ゴウッ!

 

一瞬にして前衛の頭6本が消え去る。

 

「…冗談でしょ…?今までの苦労は一体…」

雫が落ち込むが今はヒュドラ殲滅が最優先だ。

 

「今だ!雫!白頭を!」

「はい!」

「ユエ!ありったけの魔法を黄頭に!」

「…んっ!!」

「カズト!俺と特攻だ!黄頭を抜けたら白頭に総攻撃だ!」

「ハジメ!俺は情けないだろ?涙も鼻水も止まらねえよ…」

 

「何言っている?カズト、最高にかっこいいぞ!ヤツを殺して生き残る。そして、地上に出て故郷に帰るんだ。……皆んな一緒にな」

 

ハジメの檄に全員ハジメを見て…、すぐにヒュドラに向き合う。

もう、誰もヒュドラに対して恐怖心を抱いてはいない。

カズトの目にも力が戻っていた。

ハジメは最後の攻撃をかける合図をする。

「行くぞ!」

 

「んっ!」

先手はユエだ。

黄頭に遠慮なく魔法を連発する。

「〝緋槍〟! 〝砲皇〟! 〝凍雨〟!」

 

矢継ぎ早に引かれた魔法のトリガー。

有り得ない速度で魔法が構築され、炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴った竜巻と鋭い針のような氷の雨が一斉にヒュドラを襲う。

 

黄頭が一瞬にしてぼろぼろになってしまい、慌てた白頭が回復をかけた瞬間…

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

ハジメと香織が白頭に向けて銃撃する。

 

回復した黄頭が慌てて白頭の盾になろうとした時、反対方向から雫とカズトが容赦なく切り込む。

 

「〝空波斬〟」「〝極炎斬!」

雫とカズトが白頭を切り裂く。

 

「クルゥアァァァァァァァァン!!!」

 

白頭の断末魔の絶叫が響く。

 

黄頭が慌てた様子を見たハジメがすかさず追撃にはいる。

 

瀕死の黄頭の周りにハジメの焼夷手榴弾がまかれる。

 

「終わりだ。」

ハジメの言葉が終わると同時に

 

ドゴォォォォォォォォォォォーン!!

 

黄頭が吹き飛び、ヒュドラの身体が力なく倒れ込む。

 

 

「流石に……もうムリ……」

ヒュドラ達の攻撃をまともに受けていたハジメが倒れ込む。

 

「「ハジメ君(さん)?!」」

 

慌てた香織と雫がハジメのもとへたどり着き手厚い看護を始める。

 

それを見守るカズトとユエは、ハジメがゆっくり休めないと確信していた…




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南雲ハジメ 18歳 男 レベル:85
天職:錬成師    職業:冒険者 青
筋力:2660
体力:2660
耐性:2660
敏捷:2660
魔力:2660
魔耐:2660
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+精密錬成][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物系融合][+鉱物系分離][+鉱物系分解][+貯蔵庫][+貯蔵庫内複製][+貯蔵庫容量増加][+震動波砕][+震動波砕道具付与][+震動波砕効果範囲拡大][+詳細設計]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・魔力視・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・音響感知[+特定感知]・威圧[+威圧対象選択][+威圧増幅]・纏全(光闇雷氷地水火風極光極闇極雷極氷極地極水極火極風)[+全属性耐性][+全属性強化][+全属性威力調整][+全属性放射][+全属性複数融合発動]・気配遮断[+無音][+無臭][+幻踏]・再生[+超速再生][+自動再生]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚][+瞬光]・高速魔力回復・眷族通話(香織、雫)・風爪[+三爪][+五爪][+飛爪]・夜目・全状態異常耐性(石化 呪い 麻痺 即死 破壊 恐怖 狂乱 病気 毒 魅了 支配)・金剛[+城塞]・糸作成[+粘糸][+鋼糸]・遊泳[+潜水][+水中呼吸][+水圧軽減]・減速加速門・最適化・言語理解・「 」の加護
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南雲香織 18歳 女 レベル:85
天職:治癒師    職業:冒険者 青
筋力 : 2400
体力:2400
耐性:2400
敏捷:2400
魔力:3200
魔耐:3200
技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動] ・光魔法適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・魔力視・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・威圧[+威圧対象選択][+威圧増幅]・纏雷[+雷耐性][+威力調整][+放出]・纏氷[+氷耐性][+威力調整][+放出]・纏光[+光耐性][+威力調整][+放出]・纏闇[+闇耐性][+威力調整][+放出]・纏風[+風耐性][+威力調整][+放出]・纏火[+火耐性][+威力調整][+放出]・纏水[+水耐性][+威力調整][+放出]・纏地[+地耐性][+威力調整][+放出]・気配遮断[+無音][+無臭]・再生[+超速再生][+自動再生]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚][+瞬光]・高速魔力回復・眷族通話(ハジメ、雫)・風爪[+三爪][+五爪][+飛爪]・夜目・石化耐性・毒耐性・麻痺耐性・病気耐性・呪耐性・恐怖耐性・金剛・糸作成[+粘糸][+鋼糸]・遊泳[+潜水][+水中呼吸][+水圧軽減]・言語理解・接着・「 」の加護
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南雲雫 18歳 女 レベル:85
天職:剣士    職業:冒険者 青
筋力: 2700
体力: 2700
耐性: 2400
敏捷: 3200
魔力: 2700
魔耐: 2700
技能:剣術[+抜刀速度上昇][+斬撃威力上昇][+斬撃速度上昇][+命中精度上昇][+弱点看破][+衝撃波追加][+空波斬][+白拍子]・先読・気配感知[+特定感知]・隠業・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・魔力視・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・威圧[+威圧対象選択][+威圧増幅]・纏雷[+雷耐性][+威力調整][+放出]・纏氷[+氷耐性][+威力調整][+放出]・纏光[+光耐性][+威力調整][+放出]・纏闇[+闇耐性][+威力調整][+放出]・纏風[+風耐性][+威力調整][+放出]・纏火[+火耐性][+威力調整][+放出]・纏水[+水耐性][+威力調整][+放出]・纏地[+地耐性][+威力調整][+放出]・気配遮断[+無音][+無臭]・再生[+超速再生][+自動再生]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚][+瞬光]・高速魔力回復・眷族通話(香織、ハジメ)・風爪[+三爪][+五爪][+飛爪]・夜目・石化耐性・毒耐性・麻痺耐性・病気耐性・呪耐性・恐怖耐性・金剛・糸作成[+粘糸][+鋼糸]・遊泳[+潜水][+水中呼吸][+水圧軽減]・言語理解・分解・「 」の加護
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篠原カズト 18歳 男 レベル:85
天職:火剣士     職業:冒険者 青
筋力:2800
体力:2800
耐性:2600
敏捷:2900
魔力:2700
魔耐:2700
技能:剣術[+斬撃速度上昇][+斬撃威力上昇][+命中率上昇][+武器強化][+空波斬]・纏火[+火耐性][+威力調整]・纏極炎[+極炎耐性]・火魔法適性[+発動速度上昇]・結界魔法適性[+発動速度上昇]・魔力操作・威圧・纏雷[+雷耐性][+威力調整]・纏闇[+闇耐性][+威力調整]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚]・風爪[+三爪]・夜目・石化耐性・麻痺耐性・毒耐性・病気耐性・呪耐性・複合魔法・金剛・高速魔力回復・胃酸強化・言語理解・「 」の加護
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ユエ 323歳 女 レベル:80
天職:大魔導師   職業:   
筋力: 220
体力: 450
耐性 : 150
敏捷: 220
魔力:9200
魔耐:9200
技能:自動再生[+痛覚操作][+再生操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収][+身体強化]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+血盟契約]・高速魔力回復
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第二十五話 ありふれた隠れ家

「 」の加護
これはスキルではありません。
ハジメ達のいた世界の神々の加護です。
神々の使う言葉はあまりにも膨大な情報量があり人間には聞き取る事も表記する事もできません。
それゆえ「 」の加護と表記されています。

ハジメ達が下位世界の神気取りのエヒトに拐われた時、咄嗟に神々は魂の強さ順に加護を与えました。
魂が弱いと神の加護を受け止める事が出来ないからです。
結果神の加護を得たのはハジメ、カズト、香織、雫、優花、蒼華の6人だけでした。

魂に馴染むまで時間がかかりましたが、加護を受けている今、エヒトや天使モドキはハジメ達にかすり傷すら与える事が出来なくなっています。
ハジメ達は気付いてませんが…

ハジメに与えられた減速門と最適化は神々の権能を“「 」の加護〟から一部与えられたモノです。

本来の減速門の意味は時空間操作。
ところがハジメの理解は減速したり加速したりする結界と認識してますので、スキルの名前もハジメの理解に沿ったモノになっています。
わかりやすく説明するとパソコンの中に大量のソフトが入っているのにエクセルしか使っていなくて、このパソコンで出来る事はエクセルだけと思っている状態です。

当然、時空間操作の権能を超える事はできません。

最適化は本来は周りのあらゆる存在や法則に合わせて自分を最適化する…
です。
つまりブラックホールの中心にいても何不自由なく日常生活が送れます。
マグマの中で温泉気分を味わえます。
初級の技は無駄が多いし正確さがありません。最適化すると無駄を省き正確さがまします。
スキルが派生しまくってたのは、この最適化の恩恵のほんの一部です。

ちなみに…ハジメ君は香織と雫に繋がった状態で最適化してますが体の相性も最適化されてたりします。

物語の中では次話で意外な人物からハジメ達に少しだけ明かされます。

何故ハジメ達にこの加護が与えられたか…それはミレディのところで明らかになります。


ハジメは、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。

随分と懐かしい感触だ。

これは、そうベッドの感触である。

頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じ、ハジメのまどろむ意識は混乱する。

 

(何だ? ここは迷宮のはずじゃ……何でベッドに……)

 

まだ覚醒しきらない意識のまま手探りをしようとする。

しかし、両手はその意思に反して動かない。

というか、ベッドとは違う柔らかな感触に包まれて動かせないのだ。

手の平も温かで柔らかな何かに挟まれているようだ。

 

(何だこれ?)

 

ボーとしながら、ハジメは手をムニムニと動かす。

手を挟み込んでいる弾力があるスベスベの何かはハジメの手の動きに合わせてぷにぷにとした感触を伝えてくる。

右手は香織の太ももかな?左手は雫だな……多分…

 

「……ぁん……」

「…あっ…ん…」

(!?)

 

何やら聞き覚えのありすぎる、艶かしい喘ぎ声が聞こえた。

その瞬間、まどろんでいたハジメの意識は一気に覚醒する。

 

ゆっくり目を開けたハジメは、自分が本当にベッドで寝ていることに気がついた。

純白のシーツに豪奢な天蓋付きの高級感溢れるベッドである。

場所は、吹き抜けのテラスのような場所で一段高い石畳の上にいるようだ。

爽やかな風が天蓋とハジメの頬を撫でる。

周りは太い柱と薄いカーテンに囲まれている。

建物が併設されたパルテノン神殿の中央にベッドがあるといえばイメージできるだろうか? 空間全体が久しく見なかった暖かな光で満たされている。

 

さっきまで暗い迷宮の中で死闘を演じていたはずなのに、とハジメは混乱する。

 

(どこだ、ここは……まさかあの世とか言うんじゃないだろうな……)

 

どこか荘厳さすら感じさせる場所に、ハジメの脳裏に不吉な考えが過ぎるが、その考えは隣から聞こえた艶かしい声に中断された。

 

「……んぁ……ハジメ君……ぁう……」

「…ハジメ…さん…ぁん……」

「!?」

 

ハジメは慌てて横を見ると一糸纏わない香織と雫がハジメの両手に抱きつきながら眠っていた。

そして、今更ながらに気がつくがハジメ自身も素っ裸だった。

 

「なんだ、いつも通りの朝か…ん?雫とベッドは初めてか……ってそうじゃない!」

 

考えてみれば雫とは迷宮でワイルドにやりまくっていた為、ベッドの上で甘えるような姿は中々新鮮な光景だった。

 

「香織、雫、起きてくれ。」

「んぅ~……」

 

声をかけるが愚図るようにイヤイヤをしながら丸くなる香織と雫。

ついでにハジメの両手は香織と雫の太ももに挟まれており、丸くなったことで危険な場所に接近しつつある。

 

「朝チュンコース間違いないけど…流石に今は自制すべきか…?」

 

阿呆な事を考えながら、ハジメは何とか両手を抜こうと動かすが、その度に……

 

「……あんっ…ハジメ…君の…エッチ♡……」

「……はぁっ…ん…ハジメ…さん…そこは…」

と実に艶かしく喘ぐ香織と雫。

 

ハジメの理性が吹き飛びかけるが、ギリギリのところで堪える。

 

一応状況確認はしなければならないが…

 

香織と雫の顔には涙の跡があったのを見つけたハジメは、二人の気持ちを優先する事にした。

状況は飲み込めないが、二人が危険地帯で裸になって寝るはずは無い……

多分……

きっと…

 

ハジメは大人しく天井を見ながら、二人が起きるのを待つ事にした。

 

「…そういえばカズトとユエは無事なのか…?」

 

ここにいないカズトとユエに気づき二人の気配を探る。

少し離れた場所をゆっくり移動していた。

動きから推測すると、どうやら周辺の探索をしているようだ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

もみもみ…

「…あんっ…」

「…ふぁ…あ」

 

二人が中々起きない為、暇を持て余したハジメはとりあえず揉む事にした。

何度揉んでも病みつきになるぐらい、二人の身体は弾力さと柔らかさがある。

 

二人の可愛らしい声を聞きながらハジメはこれまでの行程を思い返す。

「生きているのが不思議なぐらい、過酷な迷宮だったな…最も一階ごとに三種類の魔物しか出ない時点で修業の意味合いが強かったんだろうけど…」

 

「…ハジメ…君?」

「…ハジメ…さん?」

 

「香織、雫、目が覚めたか?」

「ハジメ君!」

「ハジメさん!」

「?!」

 

目を覚ました香織と雫は茫洋とした目でハジメを見ると、次の瞬間にはカッと目を見開きハジメに飛びついた。

もちろん素っ裸で。

必死に理性を保つハジメ。

 

香織と雫がハジメの首筋に顔を埋めながら、ぐすっと鼻を鳴らしている事に気づき二人に謝る。

 

「ご、ごめん、随分心配かけたみたいで…」

「心配したんだよ……ハジメ君…」

「全然目を覚まさないんだから…」

 

しがみついたまま離れそうになかったし、倒れた後面倒を見てくれたのは香織と雫なので気が済むまでこうしていようと、ハジメは優しく二人の頭を撫で続けた。

 

それからしばらくして、ようやく二人が落ち着いたので、ハジメは事情を尋ねた。

ちなみに、二人はハジメに抱きついたままだ。

 

「それで、あれから何があったの?ここはどこなんだ?」

「うん。あの後ね…」

 

香織曰く、あの後、ぶっ倒れたハジメの傍で二人が寄り添っていると、突然、扉が独りでに開いたのだそうだ。

すわっ新手か! と警戒したもののいつまでたっても特になにもなく、消耗が少なかったカズトとユエが確認しに扉の奥へ入った。

 

ハジメの受けたダメージが不明の為、香織は治療のしようがなかった。

外傷、状態異常もないのに意識不明だったからだ。

ハジメという司令官不在の状態で、新手でも現れたら一巻の終わりだ。

そのため、確かめずにはいられなかったのだ。

 

そして、踏み込んだ扉の奥は、

 

「反逆者の住処だったの。」

 

中は広大な空間に住み心地の良さそうな住居があったというのだ。

カズトとユエは、危険がないことを確認して、ベッドルームを確認したユエは、ハジメ達を連れてきてベッドに寝かせ看病していたのだという。

ハジメがいない為、神水の補充が出来なくて焦った香織と雫だが、自分達の分も予備の分も含めて全てハジメに飲ませ続けた。

 

「……そうだったのか…助かったよ!ありがとう、香織、雫」

「「うん♡」」

 

ハジメが感謝の言葉を伝えると、香織と雫は心底嬉しそうに瞳を輝かせる。

 

「ところで……何故、俺は裸なの?」

 

ハジメが気になっていたことを聞く。

 

「…えーと…汚れてたし、血だらけだったから…その…綺麗にしたの♡」

「そ、そうよ…傷が化膿しないように…ねっ!丁寧に…舐めたの♡」

 

香織と雫はハジメの質問に、恥ずかしがりながらも笑みを浮かべ、ペロリと舌を出した。

何となくブルリと体が震えたハジメ。

 

「そ、そうか…ところで…何か久しぶりだから…いいかな…?」

「…ハジメ君ったら…ふふ♡……」

「…え、ええ…あ、あのハジメさん…私はベッドでは初めてだから…優しくしてね♡」

「香織、雫、まずは神水飲むか…っていうかもう始まってるし…」

「「2日ぶりだから…いっぱい愛してね!ハジメ君(さん)」」

 

こうして4時間ほど過ぎたあたりで、カズトとユエがやってきた。

 

「…目が覚めたか?ハジメ。盛ってないでそろそろ探索しないか…?」

遠慮がちに物陰から話しかけてきたカズトに

 

「心配かけたみたいで悪かった。ちょっと準備してから行こうか!」

 

香織と雫が非常に満足そうな顔で甘えているが、反逆者の住処を探索することにした。

ユエが先に探索した館から見つけてきたらしい上質な服を持ってくる。

男物の服だ。

反逆者は男だったのだろう。

それを着込むとハジメは体の調子を確かめ、問題ないと判断し装備も整える。一応、何かしらの仕掛けがあるかもしれないので念のためだ。

 

後ろで同じく着込んでいた香織と雫も準備が完了したようなので振り返るハジメ。

 

……香織と雫とユエの三人は何故か下着とカッターシャツ一枚だった。

 

「香織、雫……狙ってるのか?」

「ち、違うよ!…サイズ合わないだけだからね!」

「ハジメさん、その…ヒュドラとの戦いで服がぼろぼろになっちゃったから…」

 

香織と雫が慌てたように言った。

 

カズトは見ないように先頭を歩かされてる…

その隣はユエだ。

 

ベッドルームから出たハジメは、周囲の光景に圧倒され呆然とした。

 

まず、目に入ったのは太陽だ。

もちろんここは地下迷宮であり本物ではない。

頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。

僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じないため、思わず〝太陽〟と称したのである。

 

「ハジメ君、夜になると月みたいになるんだよ!」

「マジか……」

 

次に、注目するのは耳に心地良い水の音。

扉の奥のこの部屋はちょっとした球場くらいの大きさがあるのだが、その部屋の奥の壁は一面が滝になっていた。

天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。

滝の傍特有のマイナスイオン溢れる清涼な風が心地いい。

よく見れば魚も泳いでいるようだ。

もしかすると地上の川から魚も一緒に流れ込んでいるのかもしれない。

 

川から少し離れたところには大きな畑もあるようである。

今は何も植えられていないようだが……その周囲に広がっているのは、もしかしなくても家畜小屋である。

動物の気配はしないのだが、水、魚、肉、野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。

緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。

 

ハジメは川や畑とは逆方向、ベッドルームに隣接した建築物の方へ歩を勧めた。

建築したというより岩壁をそのまま加工して住居にした感じだ。

 

「ハジメ。少し調べたけど、開かない部屋も多かったんだ。お前が目覚めるまで迂闊な事するのはやめてた。」

「そうか……みんな、油断せずに行くぞ!」

「了解!」

 

石造りの住居は全体的に白く石灰のような手触りだ。

全体的に清潔感があり、エントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。

薄暗いところに長くいたハジメ達には少し眩しいくらいだ。

どうやら三階建てらしく、上まで吹き抜けになっている。

 

取り敢えず一階から見て回る。

暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。

どれも長年放置されていたような気配はない。

人の気配は感じないのだが……言ってみれば旅行から帰った時の家の様と言えばわかるだろうか。

しばらく人が使っていなかったんだなとわかる、あの空気だ。

まるで、人は住んでいないが管理維持だけはしているみたいな……

 

ハジメ達は、より警戒しながら進む。

更に奥へ行くと再び外に出た。

そこには大きな円状の穴があり、その淵にはライオンぽい動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。

彫刻の隣には魔法陣が刻まれている。

試しに魔力を注いでみると、ライオンモドキの口から勢いよく温水が飛び出した。

どこの世界でも水を吐くのはライオンというのがお約束らしい。

 

「まんま、風呂だな。こりゃいいや。香織、雫、後で入ろう!」

「「うん♡」」

 

思わず頬を緩めるハジメと香織と雫。

ハジメが洞穴に作っていた風呂は開放感が無かった。

やはり、広さや開放感があると気分的に違う。

安全確認が終わったら堪能しようと頬を緩めてしまうのは仕方ないことだろう。

 

そんなハジメ達をを見ていたユエが一言、

 

「……カズト…入る? 一緒に……」

「……一人でのんびりさせて?明日から一緒に入ろ?」

「むぅ……ハジメと香織と雫は一緒に入るのに…」

 

素足でパシャパシャと温水を蹴るユエの姿に、一緒に入ったらくつろぎとは無縁になるだろうと断るカズト。

ユエは唇が尖らせて不満顔だ。

 

それから、二階で書斎や工房らしき部屋を発見した。

しかし、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開けることはできなかった。

仕方なく諦め、探索を続ける。

 

5人は三階の奥の部屋に向かった。三階は一部屋しかないようだ。

奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。

いっそ一つの芸術といってもいいほど見事な幾何学模様である。

 

しかし、それよりも注目すべきなのは、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。

人影は骸だった。

既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。

薄汚れた印象はなく、お化け屋敷などにあるそういうオブジェと言われれば納得してしまいそうだ。

 

その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。

その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。

魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。

寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか……

 

「……怪しい……どうする?」

 

全員この骸に疑問を抱いたようだ。

おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようである。

 

「まぁ、地上への道を調べるには、この部屋がカギなんだろうしな。俺の錬成も受け付けない書庫と工房の封印……調べるしかないだろう。香織、雫、一緒に来てくれ。カズトとユエは待っててくれ。何かあったら頼む。」

「もちろんハジメ君と一緒に行くよ!」

「ハジメさんから離れないから…ねっ!」

相変わらず三人はイチャイチャしている。

 

砂糖を吐きそうな表情のカズトとユエは

「さっさと調べろよ…」

「ん……気を付けて」

 

ハジメ、香織、雫の3人は魔法陣へ向けて踏み出した。

そして、ハジメ達が魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 

まぶしさに目を閉じる3人。

直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのことが駆け巡った。

 

やがて光が収まり、目を開けた3人の目の前には、黒衣の青年が立っていた。

 

中央に立つハジメ、香織、雫の眼前に立つ青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ていた。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

話し始めた彼はオスカー・オルクスというらしい。

【オルクス大迷宮】の創造者のようだ。

驚きながら彼の話を聞く。

 

「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

そうして始まったオスカーの話は、ハジメ達が聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なった驚愕すべきものだった。

 

それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。

 

神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。

人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。

争う理由は様々だ。

領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は〝神敵〟だから。

今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。

その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。

 

だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。

それが当時、〝解放者〟と呼ばれた集団である。

 

彼らには共通する繋がりがあった。

それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。

そのためか〝解放者〟のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。

何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。

〝解放者〟のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。

 

彼等は、〝神域〟と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。〝解放者〟のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。

 

しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。

何と、神は人々を巧みに操り、〝解放者〟達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。

その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした〝反逆者〟のレッテルを貼られ〝解放者〟達は討たれていった。

 

最後まで残ったのは中心の七人だけだった。

世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達では神を討つことはできないと判断した。

そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。

試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。

 

長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。

同時に、ハジメ達の脳裏に何かが侵入してくる。

ズキズキと痛むが、それがとある魔法を刷り込んでいたためと理解できたので大人しく耐えた。

 

やがて、痛みも収まり魔法陣の光も収まる。ハジメ、香織、雫はゆっくり息を吐いた。

 

「おい…ハジメ……大丈夫か?」

 

「ああ、平気だ……にしても、何かとんでもない事聞いてしまった…」

「うん…ハジメ君…どうする?」

「聖教会が牛耳ってるこの世界で…やっかいだわ…ハジメさん…」

 

香織と雫がオスカーの話を聞いてどうするのかと尋ねる。

 

「その前にカズトとユエはどう思った?」

 

「は? 別にどうもしないだろ? 元々、勝手に召喚して戦争しろとかいう神なんて迷惑としか思ってないからな。それに尻尾振ってるこの世界の住人がどうなろうと知ったことじゃない…。天乃河レベルの妄想家だらけの世界で、苦労しながら救うとか無理ゲーだから。地上に出て帰る方法探して、故郷に帰ろうぜ?。……ユエは気になるのか?」

 

とはいえ、ユエはこの世界の住人だ。

故に、彼女が放っておけないというのなら、カズトも色々考えなければならない。

オスカーの願いと同じく簡単に切って捨てられるほど、既にカズトにとって、ユエとの繋がりは軽くないのだ。

そう思って尋ねたのだが、ユエは僅かな躊躇ためらいもなくふるふると首を振った。

 

「私の居場所はここ……他は知らない」

 

そう言って、カズトに寄り添いその手を取る。

ギュッと握られた手が本心であることを如実に語る。

ユエは、過去、自分の国のために己の全てを捧げてきた。

それを信頼していた者たちに裏切られ、誰も助けてはくれなかった。

ユエにとって、長い幽閉の中で既にこの世界は牢獄だったのだ

 

その牢獄から救い出してくれたのはカズトやハジメ、香織、雫の4人だ。

だからこそカズトの隣こそがユエの居場所であり、カズトと一緒にハジメ、香織、雫と共に行動したい。

 

「……そうかい」

 

若干、照れくさそうなカズト。

 

「一応俺もカズトと同意見だ。クラスのみんなと日本に戻る為に全力を尽くそう。この世界の人間に関しては助けられる範囲で助けよう。神は…多分色々干渉してくると思う。だから神と戦う準備も密かに進めたい。」

「そうね…準備無しでいきなり神と戦うなんて無茶だもんね。」

 

「?あ~、あと何か新しい魔法……神代魔法っての覚えたみたいだ」

「……ホント?」

 

信じられないといった表情のユエ。

それも仕方ないだろう。

何せ神代魔法とは文字通り神代に使われていた現代では失伝した魔法である。ハジメ達をこの世界に召喚した転移魔法も同じ神代魔法である。

 

「何かこの床の魔法陣が、神代魔法を使えるように頭を弄る? みたいな」

「うん…ハジメ君…大量の情報を無理矢理詰め込まれるみたいな…」

「そうね…他に表現しようがないわ…でもこの魔法、ハジメさんの為にあるみたい…」

 

「……どんな魔法?」

「え~と、生成魔法ってやつだな。魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法だ」

 

ハジメの言葉にポカンと口を開いて驚愕をあらわにするユエ。

 

「……アーティファクト作れる?」

「ああ、そういうことだな」

 

そう、生成魔法は神代においてアーティファクトを作るための魔法だったのだ。

まさに〝錬成師〟のためにある魔法である。

実を言うとオスカーの天職も〝錬成師〟だったりする。

 

「カズトとユエも覚えたらどうだ? 何か、魔法陣に入ると記憶を探られるみたいなんだ。オスカーも試練がどうのって言ってたし、試練を突破したと判断されれば覚えられるんじゃないか?」

「俺、錬成出来ないけど…」

「……うん…錬成使わない……」

 

「まぁ、そうだろうけど……せっかくの神代の魔法だぜ? 覚えておいて損はないんじゃないか?」

 

「そうだな…一応覚えるか…異世界モノのテンプレだと全ての神代魔法覚えると何か起きるしな…」

「……ん……カズトが言うなら」

 

ハジメの勧めに魔法陣の中央に入るカズトとユエ。

魔法陣が輝きカズトとユエの記憶を探る。

そして、試練をクリアしたものと判断されたのか……

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー……」

 

またオスカーが現れた。

何かいろいろ台無しな感じだった。

ハジメ達はペラペラと同じことを話すオスカーを無視して会話を続ける。

 

「どうだ? 修得したか?」

 

「ん……した。でも……アーティファクトは難しい」

「魔法剣士には意味ないな…やっぱり神代魔法も相性とか適性とかあるのかもな」

 

そんなことを話しながらも隣でオスカーは何もない空間に微笑みながら話している。

すごくシュールだった。

後ろの骸が心なしか悲しそうに見えたのは気のせいではないかもしれない。

 

「あ~、取り敢えず、ここはもう俺等のもんだし、あの死体片付けるか」

カズトに慈悲はなかった。

 

「ん……畑の肥料……」

ユエにも慈悲はなかった。

 

「一応墓ぐらい作ろう?神代魔法くれたし…」

「そうだよ!とんでもなく酷い目にあわされたけど…ヒュドラなんか配置する人でなしだけど…」

 

香織の無意識な追撃の言葉に、風もないのにオスカーの骸がカタリと項垂れた。

 

オスカーの骸を弔い、きちんと墓石も立てた。

流石に、肥料扱いは可哀想すぎる。

 

埋葬が終わると、ハジメ達は封印されていた場所へ向かった。

次いでにオスカーが嵌めていたと思われる指輪も頂いておいた。

墓荒らしとか言ってはいけない。

その指輪には十字に円が重った文様が刻まれており、それが書斎や工房にあった封印の文様と同じだったのだ。

 

まずは書斎だ。

 

一番の目的である地上への道を探らなければならない。

ハジメとユエは書棚にかけられた封印を解き、めぼしいものを調べていく。

すると、この住居の施設設計図らしきものを発見した。

通常の青写真ほどしっかりしたものではないが、どこに何を作るのか、どのような構造にするのかということがメモのように綴つづられたものだ。

 

「ビンゴ!みんな。あったぞ、!」

「ハジメ君、やったね!」

 

ハジメから歓喜の声が上がる。

全員、嬉しそうだ。

設計図によれば、どうやら先ほどの三階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。

オルクスの指輪を持っていないと起動しないようだ。

盗ん……貰っておいてよかった。

 

更に設計図を調べていると、どうやら一定期間ごとに清掃をする自律型ゴーレムが工房の小部屋の一つにあったり、天上の球体が太陽光と同じ性質を持ち作物の育成が可能などということもわかった。

人の気配がないのに清潔感があったのは清掃ゴーレムのおかげだったようだ。

 

全員で分かれて資料を調べる事にした。

 

工房には、生前オスカーが作成したアーティファクトや素材類が保管されているらしい。

後で根こそぎ譲ってもらうとして…今は資料探しだ。

 

「ハジメさん…これは日記ね…」

「うん?」

 

ハジメが設計図をチェックしていると他の資料を探っていた雫が一冊の本を持ってきた。

どうやらオスカーの手記のようだ。

かつての仲間、特に中心の七人との何気ない日常について書いたもののようである。

 

その内の一節に、他の六人の迷宮に関することが書かれていた。

 

「……つまり、あれか? 他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入るということか?」

「ハジメ!テンプレきたな!7つ集めたら巨大な龍がでるとか…」

「似たようなモノかもな…カズト、パンティーを頼むなよ?」

「そんなモン願うか!!」

 

手記によれば、オスカーと同様に六人の〝解放者〟達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意をしているようだ。

生憎とどんな魔法かまでは書かれていなかったが……

 

「これなら、帰る方法も見つかりそうね」

「うん!雫ちゃん…日本に戻ってハジメ君と赤ちゃん作ろう♡」

 

雫の言う通り、その可能性は十分にあるだろう。

実際、召喚魔法という世界を越える転移魔法は神代魔法なのだから。

 

「ああ。これで今後の指針ができた。地上に出たら七大迷宮攻略を目指そう」

「「「「おーー!!」」」」

 

明確な指針ができて頬が緩むハジメ。

思わず香織と雫を抱きしめる。

カズトもユエを抱きしめている。

 

それからしばらく探したが、正確な迷宮の場所を示すような資料は発見できなかった。

現在、確認されている【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】、目星をつけられている【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】辺りから調べていくしかないだろう。

 

しばらくして書斎あさりに満足した二人は、工房へと移動した。

 

工房には小部屋が幾つもあり、その全てをオルクスの指輪で開くことができた。

中には、様々な鉱石や見たこともない作業道具、理論書などが所狭しと保管されており、錬成師にとっては楽園かと見紛うほどである。

 

ハジメは、それらを見ながら腕を組み少し思案する。

そんなハジメの様子を見て、香織が首を傾げながら尋ねた。

 

「ハジメ君、どうしたの?」

 

ハジメはしばらく考え込んだ後、みんなに提案した。

 

「う~ん、みんな…。しばらくここに留まらないか? さっさと地上に出たいのは俺も山々なんだが……せっかく学べるものも多いし、ここは拠点としては最高だ。他の迷宮攻略のことを考えても、ここで可能な限り準備しておきたい。どうだ?」

 

香織、雫、カズトはクラスのみんなに会いたいだろう。

ユエは三百年も地下深くに封印されていたのだから一秒でも早く外に出たいだろうと思ったのだが、全員ハジメの提案にキョトンとした後、直ぐに了承した。

不思議に思ったハジメだが……

 

「私の居場所はハジメ君の側だよ?」

「ええ香織、私の居場所もハジメさんの側よ。それにどうせならしっかりと準備した方がいいわ!」

「ハジメ、どうせなら、ここでみっちり修業しようぜ?」

「…カズトがここにいるなら…私もいる。私の居場所はカズトの側…」

 

そういうことらしい。

香織と雫のこの不意打ちはどうにかならんものかと照れくささを誤魔化すハジメ。

 

結局、全員で可能な限りの鍛錬と装備の充実を図ることになった。

 

 

 




桃園の誓い〜オスカーの隠れ家〜

「…良く来てくれた…」
ユエは某ネル○の司令官のような体勢で香織と雫を迎えていた。
どうやって手に入れたかはわからないが、メガネ付きだ。

「どうしたの?ユエ…?」
香織が不思議そうに聞く。
「前から思ってたんだけど、貴女日本から転生したんじゃないの?」
雫がジト目をしながらユエに聞く。

「…あっしは生まれも育ちも…トータスでさ…」
「「………」」
香織と雫はスルーする事にした。

「…香織…雫…日本の事を教えてほしい…」
「いいけど…?篠原君から聞けばいいんじゃないの?」
「…カズトの日本の知識は…何か偏ってる気がするの…」

香織と雫は納得した。
「うん。とても偏ってるよ…」
「でも…ユエなら日本の特定地域にいても違和感全くないわ…」
「…むぅ…褒められた気がしない…」

さっと目をそらす香織と雫。
若干不満そうなユエだが、話を続ける。

「…もし教えてくれたら、私も二人にとっておきの知識を教える…」
「知識?魔法はいつも教わってるし…」

「…王家に伝わる姫専用の性技…吸血鬼一族3000年の歴史あるよ…」
「貴女絶対日本人よね?」
「ユエみたいな人、秋○原にいっぱいいるから心配しないで」

ユエは何も聞こえないアピールをして話を続ける。

「……王族の姫は、殿方を満足させる技を習うの…浮気防止もあるけど何より子孫を残す為なの…殿方がやる気になって貰わないと…いけないから…」

「成る程。王族って大変だね?」
「そうね。でも私達に必要かしら…?いつも気持ちよくておかしくなっちゃいそうなのに…」

「……それは、ハジメも気持ちいいの…?香織と雫だけが、気持ち良かったら…いずれ飽きられる…」
「「!!!!!!」」

香織と雫は思わず考えこんでしまう。

「確かにハジメ君は私達を気持ちよくしてくれる。でも…ハジメ君は気持ちいいのかな…?」

「…だからこそ吸血鬼一族の姫に伝わる奥義を伝授する…この教育映像を見て学べば…ハジメをメロメロにできる…」

「ハジメ君を…」
「メロメロに…?」
香織と雫はお互いの顔を見ながらユエの言葉を検討する。

「…ユエ…私に異存は無いわ…」
「…う、うん。私もハジメ君の為なら…」

そして三人は協力し合う事を誓う。
ここはちょうど桃の木の下だ。

「…南雲香織、南雲雫、ユエ…私達三人、生まれた日は違うけど…義理の姉妹になる事を誓う…そして…死ぬ時は同じ日に死ぬ事を…天地の神に誓う…」
三人は神水を飲み干し…
「「「…変わるまいぞ…」」」

こうしてオルクスの地下迷宮の深淵で三人の義姉妹が誕生した。
長女は精神年齢が高い雫。次女は香織。三女は年齢的にはぶっちぎりだが精神年齢の一番低いユエがなったそうだ…

そしてその日から、ハジメの神水使用量が跳ね上がったという統計結果が残されている…

ちなみに本編とは何の関係もありません。



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第四章 地上での戦い
第二十六話 ありふれた二人


皆さん、お久しぶりです。(∩ω∩〃)
交通事故に巻き込まれ、入院していました。
ようやく活動再開ですが、内容をすっかり忘れてしまっていたりします…
お間抜けな作者ではありますが、これからも応援よろしくお願いします。

さて、前話でオスカーの話が終わった後にハジメ達に地球の神からの干渉が、僅かにありました。
本来ならミレディの会話の途中で起こす予定でしたが、修行前の方が良いと判断し、冒頭部で触れておきます。

今回は干渉編よりスタート(=゚ω゚)ノ



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜地球の神による干渉編〜

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」
 
そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。
同時に、ハジメ達の脳裏に何かが侵入してくる。
ズキズキと痛むが、それがとある魔法を刷り込んでいたためと理解できたので大人しく耐えた。

刷り込みが終わる瞬間、ハジメ達不思議な光につつまれ、二人の人物と遭遇していた。

「?…あれ?篠原君とユエは?」
「不思議な…?光につつまれた空間…かしら?」
「神代魔法を得る修行でも始まるのか?」

クスクス笑う声が聞こえ、振り向くハジメと香織と雫。

いつの間にか二人の美少女がいた。
香織と雫を庇うように前にでたハジメだが…
気配を察知する事すらできなかった目の前の二人の少女に、ハジメは何故か警戒心がわかなかった。
香織と雫も警戒していないようだ…
…香織はハジメに美女が近づくと別の意味の警戒をするが、それも無いようだ。

「貴女達は…誰…?…何処かで会った事あるかしら?」
「雫ちゃんも…そう思うの?……私は南雲香織よ。貴女達は?」

「未来と言います。」
「時です。いずれ宜しくお願いします。」

不思議な言い方ではあるが敵では無いようだ。
ハジメは警戒を解き、二人に話しかけてみる。

「…2人は日本人か?言語が変換されていないみたいだけど…」

ハジメの言葉を聞いた2人はまたクスクス笑いながら親愛の眼差しをハジメ達に向ける。

「はい、私達は日本人です。最も立体映像のような物なので触れる事はできませんが…本来なら父様達が来る筈でしたが「 」様に止められて私達が参りました。」
「本日は「 」の加護についての話です。」

「?「 」の加護の…?」
ハジメ達は顔を見合わせる。

「あら?これってエヒトの加護ではないの?」
雫の問いに

「エヒトはそもそも神ですらありません。」
「これから話す内容は三人の胸の内に留めておいて下さい。」

「「 」の加護は地球に御坐す神々の加護なのです。」
「皆さまがトータスに召喚された時、神々が力のある魂の持ち主に授けた加護…神々の権能の一部を行使できる権限なのです。」

未来と時は代わる代わる説明を続けている。
その内容はハジメ達にとって驚愕する事実が満載であった。

未来と時の話によると、世界には上位世界と下位世界の二つがある事。
上位世界で神々に認められた働きをした人間種を、下位世界の神として送り出し、下位世界で力をつけた後、上位世界にいる神々の眷族となり上位世界に昇神する。
つまり下位世界は上位世界の神を生み出す為の修行場のような物だという事。
トータスの神は既に地球の神として昇神している為不在である。
エヒトは神不在の世界で神を名乗っているだけ、トータスとは別の下位世界からの転移者である事。
転移者とは自らの魔法などで異世界に移る者を指すらしい。
そして下位世界の、神ですらないエヒトが上位世界に干渉し、多数の人間を拉致した事に上位世界の神々は激怒し、咄嗟に魂の強いハジメ達に神の加護を与え下位世界の神として送り出した事が判明した。
下位世界に送り出す時は大体一人だが、神域を支配するエヒトに対する嫌がら…もとい対抗する為、念入りに6人に加護を与えた事等々…

「それって…俺や香織、雫も下位世界の神扱いって事なのか?エヒトを討伐する為の?」
「はい。他にも篠原カズトさん、園部優花さん、北村蒼華さんも含まれるています。」
「じゃあ私達はエヒトより強いって事?」

雫の問いに時の答えは….

「まだ倒せません。「 」の加護を正しく理解し、行使できるようになれば瞬殺出来ますが…「 」の加護の詳しい理解は自分自身で考え、身に付けるしかないのです。」
「時ちゃん、そろそろ時間だよ?」
「未来、あと一つだけ伝えないと…天乃河光輝には最大限の警戒をしてください。彼の歪んだ正義とエヒトが与えた力は、トータスの人々に甚大な被害をもたらしますから…」

ハジメは時と未来の会話を聞いて、どことなく香織と雫のやり取りに似ているな…と感想を抱いた。

「父さ…ハジメ様、香織様、雫様。エヒトは神域に居座り神々の力を疑似的にではありますが、利用しています。油断は禁物です。」
「皆さまの無事と昇神をお待ちしております。」

二人の言葉が終わると共に光に包まれた空間が薄れていく。

「…何だか凄い話だったね…私達、神様なんだ…」
「実感0だけどね…今の話はカズトには伝えないでおこう。」
「理由はわからないけど三人の胸の内に…って言ってたものね」

香織と雫は静かに頷く。

「そうだ!ハジメ君、あの娘達…不思議な感じがしなかった?」
「香織もそう思った?…どことなくだけど…ハジメさんに雰囲気が似ていたかしら?」
「俺は香織と雫の雰囲気に似てる気がしたけど…」
「また会えるような事を言っていたから今は置いておきましょ?ハジメさん、香織、これからどうするか…まずは皆んなで話し合いからね!」

やがて、光も収まり、ハジメ達はゆっくり息を吐いた…




ハジメ達がオスカーの隠れ家についてから2ヶ月が経った。

ハジメ達は大迷宮で得たステータスやスキルを有効に活用する為の研究や特訓を行なっていた。

香織はユエと二人で魔法の特訓を行ない、二人とも魔法のスキルが桁違いに跳ね上がっている。

雫はカズトを相手に剣の特訓を行なっている。

カズトは力任せの暴力的な剣技から、八重樫流を取り入れた剛柔合わせた剣技に進化をとげていた。

ハジメは生成魔法との相性が抜群で高性能な武器、防具、道具などを作りまくっている。

 

さらにハジメの製作した、集中力極限アップの首飾りのおかげで全員のスキルは異常な程に伸びていた。

むしろ進化したという表現が当てはまる程に…

 

そんな5人は拠点をフル活用しながら、傍から見れば思わず〝リア充爆発しろ!!〟と叫びたくなるような日々を送っていた。

 

「ハジメ君、気持ちいい?」

「ん~、気持ちいいぞ~」

「ハジメさん、じゃあ、こっちは?」

「あ~、それもいいな~」

「ふふっ、もっと気持ちよくなって♡」

 

現在、香織と雫はハジメのマッサージ中である。

睡眠前に香織と雫はハジメのマッサージをする様になっていた。

ハジメは、自分のスキルや技を磨く特訓をしながら、全員の装備を製作していた為、かなりの疲労をため込んでいた。

 

眠る前にリラックスして貰おうと香織と雫がやり始めたのだが…ハジメの疲労の原因が二人にあるような気もするが、神水のおかげで問題にはなっていない。

 

そして、カズトとユエもほぼ同じ事をしていた。

露天風呂と寝台が二箇所にあって良かった、とハジメ達はオスカーの墓に感謝を述べに行ったほどだ。

 

この二ヶ月で5人の実力や装備は以前とは比べ物にならないほど充実している。

特にハジメ、香織、雫の三人はスキルが異常進化を遂げていた。

 

==========================

南雲ハジメ 18歳 男 レベル:???

天職:創造師   職業:冒険者 青

筋力:25000

体力:25000

耐性:25000

敏捷:25000

魔力:25000

魔耐:25000

技能:万物創造・万物編集・万物複製・無限収納・時空間操作・森羅万象・神眼[+常時発動型指定条件探査.感知][+魔力視][+未来予測][+暗視][+光量調整][+万里眼][+解析鑑定]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・音響感知[+特定感知]・威圧[+威圧対象選択][+威圧増幅]・纏全(光闇雷氷地水火風極光極闇極雷極氷極地極水極火極風)[+全属性耐性][+全属性強化][+全属性威力調整][+全属性放射][+全属性複数融合発動]・気配遮断[+無音][+無臭][+幻踏]・再生[+超速再生][+自動再生]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚][+瞬光]・高速魔力回復[+高速体力回復]・眷族通話(香織、雫)[+イメージ共有]・風爪[+三爪][+五爪][+飛爪]・全状態異常耐性(石化 呪い 麻痺 即死 破壊 恐怖 狂乱 病気 毒 魅了 支配)・金剛[+城塞]・糸作成[+粘糸][+鋼糸]・遊泳[+潜水][+水中呼吸][+水圧軽減]・限界突破・言語理解・生成魔法・最適化・「 」の加護

==========================

ハジメ達のレベルは100を超えたあたりから表示されなくなっていた。

しかもステータス、スキルの量、質とも人類を軽く超越している。

確かに下級の神と呼ばれてもおかしくはない。

 

問題は近接、遠距離戦闘や殲滅戦に対応する能力が不足している事だ。

ぶっちゃけた話、纏全と風爪ぐらいしか攻撃スキルはないのである。

 

奈落に落ちる前は震動波砕という採掘用のスキルを加速門で強化して撃ち出すスタイルだったが、時空間操作で全て再現できる為か、いつの間にかスキルが消滅していた。

 

戦闘スキルが少ないかわりに生産、探査、調査、研究に関しては飛び抜けた能力を保持している。

その為ハジメの戦闘方法は、強力な兵器を状況に応じて使い分け、無限収納と万物複写による圧倒的な物量戦術で戦うスタイルとなった。

 

特にハジメが万物創造の力を得た時は全員唖然とした。

 

その時のみんなの反応は…

 

「な、なあハジメ!万物創造っつったら何でも作れるんだよな?!」

「多分…どうやって作るのかはまだわからないけど…」

 

カズトの勢いに若干引き気味のハジメだが、次のカズトのセリフに衝撃を受ける。

 

「は、ハジメ様!どうか、どうかポテチとコーラをつくってくだされ!!」

「!!!!!」

 

…カズトの奴…万物創造と聞いて始めに浮かんだのがポテチだと…?

ハジメは心の中で絶句したが香織と雫もノリノリのようだ。

 

「ハジメ君…コンソメ味が食べたいなー♡」

「ハジメさん、私は薄塩味が食べたいわ♡」

「…あ、はい…」

 

香織、雫、カズトの期待に満ちた目を見たら断れる雰囲気では無くなってしまった。

 

万物創造はイメージした物を創造する。

多分…

つまり詳細なイメージがあればあるほど実物に近い物を生み出せる筈。

ハジメは集中力極限アップの首飾りをつけ、ポテチの事のみを考えてみた。

ハジメは深い集中にはいりポテチの事のみを考える。

すると無性にポテチが食べたくなってきた。

 

ポテチ…ポテチ…ポテチ…ポテチ…ポテチ…ポテチ…ポテチ…

……………

…………

ハジメの頭の中はポテチだけになる。

形、味、匂い…ハジメはポテチの事だけをひたすら考える……

 

……あぁ…俺は…ポテチが….どうしようもなく欲しいんだ……

 

ハジメの極限の集中力は極限の意思へと昇華されていく…

 

………万物創造…ポテチ…

 

香織達はハジメの万物創造を見て、その神秘的な光景に目を奪われていた。

ハジメを中心に紅い魔力が広がっていく。

光は益々強くなり紅い光が白色に変化した時、広がっていた魔力がハジメの手に集まっていく。

まるで銀河の中心を見ているかのような神秘的な光景は、やがて段々と光が収まり…

そして…ハジメの手にはポテチがあったのだった。

 

ハジメは創造したポテチを万物複製で増やした後、試食する事に…

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーポテチだ!ポテチだぞー!!」

「うぇ〜ん 雫ちゃん、普通の食べ物だよぉ魔物の肉じゃないよぉ〜」

「香織、やっと…やっと普通の食べ物が…塩がこんなに美味しいなんて…」

「…これがカズト達の世界のお菓子…美味しい…」

 

ハジメもこれだけ感激されると作りがいがでたのか、次々と香織達の要望した物を創造した。

 

そしてその日、ハジメが創造した物は、ポテチ(薄塩味、コンソメ味)、コーラ、モンブラン、ミルフィーユ、イチゴケーキ、サイダー、石鹸、服作成の為の布、スポーツブラ、生理用品を生み出したのだった。

スポーツブラと生理用品は眷族通話から派生したイメージ共有を香織と行った結果、見事に成功した。

特に生理用品を創造した時は、ヒドラを倒した時より香織と雫は喜んでいた。

 

新装備についても少し紹介しておこう。

まず全員共通の装備として指輪型アーティファクトがある。

指輪を媒介としてハジメの無限収納にアクセスできるというものだ。

使用者制限をかけ、万一他者に奪われても使用する事はできない。

これは香織の繋ぐ力との合作だった。

 

座標を持たせた地点同士を繋ぐ力で、イメージとしては無限収納の中に、香織達の専用フォルダーを作り、指輪を通して出し入れを自由にする。

 

物凄く便利なアーティファクトなのだが、ハジメにとっては特に、武装の一つとして非常に役に立っている。

というのも、任意の場所に任意の物を転送してくれるという点でハジメはリロードに使えないかと思案したのだ。

結果は大成功だった。

弾は無限収納内で無限に複製できる。

無限収納から香織の繋ぐ力で直接弾丸を弾倉に転送する事ができる為、残弾♾の銃が完成した。

 

 

次に、ハジメは〝魔力駆動二輪と四輪〟を製造した。

 

これは文字通り、魔力を動力とする二輪と四輪である。

二輪の方はアメリカンタイプ、四輪は軍用車両のハマータイプを意識してデザインした。

車輪には弾力性抜群のタールザメの革を用い、各パーツはタウル鉱石を基礎に、工房に保管されていたアザンチウム鉱石というオスカーの書物曰く、この世界最高硬度の鉱石で表面をコーティングしてある。

おそらくドンナーの最大出力でも貫けないだろう耐久性だ。

エンジンのような複雑な構造のものは一切なく、ハジメ自身の魔力か神結晶の欠片に蓄えられた魔力を直接操作して駆動する。

速度は魔力量に比例する。

 

更に、この二つの魔力駆動車は車底に仕掛けがしてあり、魔力を注いで魔法を起動すると地面を錬成し整地することで、ほとんどの悪路を走破することもできる。

また、どこぞのスパイのように武装が満載されている。

 

ハジメとカズトも男の子。

ミリタリーにはつい熱が入ってしまうのだ。

二人して製作に夢中になり過ぎて香織、雫、ユエが拗ねてしまい、機嫌を直すのに色々と搾り取られることになったが…

 

新兵器について、ヒュドラの極光で破壊された対物ライフル:シュラーゲンも復活した。

アザンチウム鉱石を使い強度を増し、バレルの長さも持ち運びの心配がなくなったので三メートルに改良した。

〝遠見〟の固有魔法を付加させた鉱石を生成し創作したスコープも取り付けられ、最大射程は十キロメートルとなっている。

 

また、ラプトルの大群に追われた際、手数の足りなさに苦戦したことを思い出し、電磁加速式機関砲:メツェライを開発した。

口径三十ミリ、回転式六砲身で毎分一万二千発という化物だ。

ハジメの時空間操作で弾丸を撃ち出している為銃身に熱が発生しない上、弾丸残数♾という鬼畜武器が完成した。

 

さらに、面制圧とハジメの純粋な趣味からロケット&ミサイルランチャー:オルカンも開発した。

長方形の砲身を持ち、後方に十二連式回転弾倉が付いており連射可能。

ロケット弾にも様々な種類がある。

 

あと、ハジメ、香織、雫使用のリボルバー式電磁加速銃:ドンナー、ドンナーライトも開発された。

 

ハジメと香織の基本戦術はドンナーの二丁の電磁加速銃によるガン=カタ(銃による近接格闘術のようなもの)に落ち着いた。

香織と雫はドンナーライトを使用。

 

雫専用のメイン武器は黒刀:夜を開発。

アザンチウムを圧縮錬成した物で魔力を通しやすく纏全と併用すれば全属性を付与する事が可能となった。

空波斬という遠距離攻撃を取得した雫だがハジメとのお揃い武器にこだわりガン=カタスタイルとの併用だ。

 

他にも様々な装備・道具を開発した。

 

またハジメは、神結晶をネックレスやイヤリング、指輪などのアクセサリーに加工した。

そして、それを香織、雫、ユエに贈ったのだ。

香織とユエは強力な魔法を行使できるが、最上級魔法等は魔力消費が激しく、魔力枯渇に追い込まれる事態も想定される。

 

しかし、電池のように外部に魔力をストックしておけば、最上級魔法でも連発出来るし、魔力枯渇で動けなくなるということもなくなる。

 

そう思って、香織とユエに〝魔晶石シリーズ〟と名付けたアクセサリー一式を贈ったのだが、雫が寂しそうに「私の分は……?」と呟いてたのを聞き雫の分も作成した。

 

香織はエメラルドと神結晶を合成したグリーンリーフシリーズ、

雫には紫水晶と神結晶を使用したパープルシリーズを贈った。

ユエには琥珀と神結晶を使用したイエローシリーズをカズトに渡し、ユエに贈った。

 

香織と雫は既にハジメと夫婦関係にあるため、指輪は当然の様に薬指に嵌める。

 

カズトとユエは…

 

「……プロポーズ?」

「なんでやねん」

 

ユエのぶっ飛んだ第一声に思わず関西弁で突っ込むカズト。

 

「それで魔力枯渇を防げるだろ? 今度はきっとユエを守ってくれるだろうと思ってな」

「……やっぱりプロポーズ」

「いや、違ぇから。ハジメからユエにと渡された新装備だから」

「……カズト、照れ屋」

「……最近、お前人の話聞かないよな?」

「……ベッドの上でも照れ屋」

「止めてくれます!? そういうのマジで!」

「カズト……」

「はぁ~、何だよ?」

「ありがとう……大好き」

「……おう」

 

本当にもう爆発しちまえよ! と言われそうな雰囲気を醸し出す二人。

いろんな意味で準備は万端だった。

 

それから十日後、遂にハジメ達は地上へ出る。

 

三階の魔法陣を起動させながら、ハジメは皆に静かな声で告げる。

 

「……俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

「ハジメさん、少しやりすぎよ?」

 

「…兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

「ハジメ君、渡したら世界大戦が起こるよ?」

 

「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」

「ん……」

 

「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

「今更だろ?」

 

皆の言葉に思わず苦笑いするハジメ。

真っ直ぐ自分を見つめてくる香織と雫の髪を優しく撫でる。

幸せそうに目を細める香織と雫に、ハジメは一呼吸を置くと、キラキラと輝く二人の目を見つめ返し、望みと覚悟を言葉にして魂に刻み込む。

 

「俺が香織と雫を、香織と雫が俺を守る。それで俺達は最強だ。エヒトを倒し皆んなと日本に帰ろう」

 

ハジメの言葉を、香織と雫はまるで抱きしめるように、両手を胸の前でギュッと握り締めた。

そして、花が咲くような笑みを浮かべた。

 

カズトとユエも誓いを立てている。

 

「さあ、地上に帰ろう!」

 




ネタばれ(∩ω∩〃)

未来…南雲未来 ハジメと香織の娘
時 …南雲時  ハジメと雫の娘
ハジメ達が日本に帰還して、学校を卒業した後生まれた娘です。
二人は下級とは言え立派な神です(=゚ω゚)ノ

 
==========================
南雲香織 18歳 女 レベル:???
天職:治癒師    職業:冒険者 青
筋力 : 24000
体力:24000
耐性:24000
敏捷:24000
魔力:32000
魔耐:32000
技能:繋ぐ力・回復魔法[+回復魔法の極み] ・光魔法適性[+光魔法の極み]・神眼[+常時発動型指定条件探査.感知][+魔力視][+未来予測][+暗視][+光量調整][+万里眼][+解析鑑定]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・威圧[+威圧対象選択][+威圧増幅] ・纏全(光闇雷氷地水火風極光極闇極雷極氷極地極水極火極風)[+全属性耐性][+全属性強化][+全属性威力調整][+全属性放射][+全属性複数融合発動]・気配遮断[+無音][+無臭]・再生[+超速再生][+自動再生]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚][+瞬光]・高速魔力回復・眷族通話(ハジメ、雫)[+イメージ共有]・風爪[+三爪][+五爪][+飛爪]・全状態異常耐性(石化 呪い 麻痺 即死 破壊 恐怖 狂乱 病気 毒 魅了 支配)・金剛・糸作成[+粘糸][+鋼糸][+絹糸]・遊泳[+潜水][+水中呼吸][+水圧軽減]・言語理解・生成魔法・「 」の加護
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南雲雫 18歳 女 レベル:???
天職:剣士    職業:冒険者 青
筋力: 27000
体力: 27000
耐性: 24000
敏捷: 32000
魔力: 27000
魔耐: 27000
技能:剣術[+抜刀速度上昇][+斬撃威力上昇][+斬撃速度上昇][+命中精度上昇][+弱点看破][+衝撃波追加][+空波斬][+白拍子]・隠業・神眼[+常時発動型指定条件探査.感知][+魔力視][+未来予測][+暗視][+光量調整][+万里眼][+解析鑑定]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・威圧[+威圧対象選択][+威圧増幅] ・纏全(光闇雷氷地水火風極光極闇極雷極氷極地極水極火極風)[+全属性耐性][+全属性強化][+全属性威力調整][+全属性放射][+全属性複数融合発動]・気配遮断[+無音][+無臭]・再生[+超速再生][+自動再生]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚][+瞬光]・高速魔力回復・眷族通話(香織、ハジメ)[+イメージ共有]・風爪[+三爪][+五爪][+飛爪]・全状態異常耐性(石化 呪い 麻痺 即死 破壊 恐怖 狂乱 病気 毒 魅了 支配)・金剛・糸作成[+粘糸][+鋼糸]・遊泳[+潜水][+水中呼吸][+水圧軽減]・言語理解・生成魔法・消去・「 」の加護
==========================

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篠原カズト 18歳 男 レベル:???
天職:火剣士     職業:冒険者 青
筋力:16000
体力:16000
耐性:16000
敏捷:18000
魔力:15000
魔耐:15000
技能:剣術[+斬撃速度上昇][+斬撃威力上昇][+命中率上昇][+武器強化][+空波斬][+鳳凰破]・纏火[+火耐性][+威力調整][+放射]・纏極炎[+極炎耐性][+威力調整][+放射]・火魔法適性[+火魔法の極み]・結界魔法適性[+結界魔法の極み]・魔力操作[+魔力放射]・威圧・纏雷[+雷耐性][+威力調整]・纏闇[+闇耐性][+威力調整]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪[+三爪][+五爪][+飛爪]・夜目・石化耐性・麻痺耐性・毒耐性・病気耐性・呪耐性・複合魔法・金剛・高速魔力回復・胃酸強化・言語理解・生成魔法・「 」の加護
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ユエ 323歳 女 レベル:80
天職:大魔導師   職業:   
筋力: 320
体力: 450
耐性 : 200
敏捷: 400
魔力:12000
魔耐:12000
技能:自動再生[+痛覚操作][+再生操作]・全属性適性[+全属性魔法の極み]・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収][+身体強化]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法
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