ナルトのチャクラとスタミナが十尾以上だったら (雲らり)
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カカシ先生強すぎだってばよ

伝説の三忍や四代目火影等、数々の下忍を輩出した名演習場とも言える聖地、第三演習場。

 

ここで死んだ目をしながらクナイで黄色い物体を作業的に切り刻んでいく忍びが一人、上忍カカシ。

 

カカシがクナイを一振りする度に黄色い物体は煙を立てて簡単に消滅する、しかし黄色い物体が尽きる事は無い、何故なら消えた傍からそれを上回るスピードで次々と補充されていくからだ。

 

(こういう試験じゃないんだけどなぁ……)

 

「「「「「おらおらおら! さっさと鈴を渡すってばよ!!」」」」」

 

地面以外の空を含む全ての方角から津波の如く押し寄せる黄色い物体の正体、それはナルトだ。

 

◇ ◆ ◇

 

午前試験終了を知らせるベルが鳴り、全てのナルトが消え、揉みくちゃにされたカカシが姿を現す。

 

「はぁ……はぁ……」

 

(や、やっと昼か……)

 

疲れ果てているカカシの元にナルト、サスケ、サクラの下忍3人が姿を現す。

 

「くっそぉー! カカシ先生強すぎだってばよ!」

 

悔しそうに地団駄を踏むナルトにサスケが近づき声を掛ける。

 

「だがカカシは疲労困憊している、あと一息だ……午後からは三人で鈴を奪うぞ」

 

(あの超連続攻撃から鈴を守り切ったのか……俺一人で鈴を奪うのは無理だったな……)

 

サスケの言葉に頷き、サクラが続ける。

 

「あんたにしては良くやったわナルト、サスケ君の言う通り午後からは三人でやるわよ」

 

(あんなゴリ押しでも無理な試験はいくら何でもあり得ない……つまり本命は別にある……!)

 

「お、おう……?」

 

カカシと違い、午前は碌に動いていない二人が元気そうにナルトに激励を飛ばし、ナルトが困惑気味にそれを受け取る。

 

「……お前ら三人、全員合格だ!」

 

その様子を見ていたカカシが深く頷き、三人に試験合格を伝える。

 

「……え?……え!?」

 

ますます困惑するナルトにサクラが続ける。

 

「やっぱり……この試験の真の目的は……チームワークですか?」

 

「あぁ、流石座学主席なだけはある、分析力は随一だなサクラ」

 

その言葉にナルトが首を傾げて疑問を口にする。

 

「チームワーク……俺ってば一人で突っ込んだだけだってばよ?」

 

「ナルトはカカシの足止めを行い俺とサクラに作戦を立てる時間を与えた……認めたくはないが足手まといではなかった」

 

「お、おう、なんか照れるってばよ……」

 

2人から認められ、照れるナルトに、バツが悪そうにそっぽを向くサスケ。

 

「あぁそうだナルト、お前あんなに影分身を出して何ともないのか……?」

 

すっかりくたびれたカカシがピンピンしているナルトに向かって純粋な疑問を投げかける。

 

「ぜーんぜん! ちっとも疲れてないってばよ」

 

「「「……」」」

 

屈伸して体力をアピールするナルトに思わず絶句するナルト以外のカカシ班。

 

(なんてチャクラとスタミナだ……俺の何千倍とかそんなレベルじゃない……これが九尾の力なのか……!?)

 

(体術も忍術も頭脳も落ちこぼれ、だがこのチャクラ量は何だ!? なぜ俺はアカデミーの時に気付かなかった!?)

 

(そうよ、さらっと流していたけど影分身ってチャクラを等分割するヤバイ術の筈……こいつどんな体してるのよ!?)

 

「まぁチャクラがあって困る事は無い、それよりいよいよ明日からカカシ班として任務開始だ」

 

「よっしゃあ! テンション上がってきたってばよ!!」




ゴリ押しが通用するせいで原作より更に頭ナルトになってるナルト君


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肉水遁の術だってばよ

下忍成りたての新米に回ってくる任務は迷子ペットの捜索や農業の手伝い等、誰にでも出来る雑用がメインだ。

 

そこに忍者の卓越した技術が生かされる事は殆ど無い、故に例年であれば同期の全ての班が同じようなペースで依頼を消化し、同じようなペースで忍者らしい内容のCランク任務請負いに昇格する。

 

「今回の任務は猫の捕獲か……猫は素早い……厄介だな……」

 

「それに里の中から一匹の猫を見つけるなんて……」

 

「なら影分身で里中を埋め尽くすってばよ!!」

 

「まぁ、これぐらいは良いか……」

 

◇ ◆ ◇

 

「今回の任務はジャガイモの収穫か……ジャガイモは土に隠れて見えない……厄介だな……」

 

「この畑、滅茶苦茶広いじゃない、こんなの日が暮れるわよ!?」

 

「心配要らないってばよサクラちゃん、多重影分身の術!」

 

「「「十万人でやればすぐ終わるってばよ!!!」」」

 

「そんなに要らないでしょ……」

 

◇ ◆ ◇

 

「今回の任務は隣町までのおつかいか……俺は隣町に行ったことが無い……厄介だな……」

 

「それに特定の店で買ってこいなんて……」

 

「地図を貰ったからそれ見ながら行くってばよ」

 

「そこは普通なのね……」

 

◇ ◆ ◇

 

火影室、木の葉の忍びは一部例外を除き、任務を受ける時はこの部屋に赴き火影の指示を仰ぐのがルールだ、勿論カカシ班も例外ではない。

 

「なぁなぁ三代目のじいちゃん! 俺たち猫探しとか芋の収穫とかしょうもない任務をもう百回はやったってばよ!」

 

「そろそろAランクとかSランクのすっげー任務やりたいんだけど!」

 

恐れ多くも座り込み三代目火影相手に吠えるナルト、しかし木の葉の里に不敬罪は存在しないのか周りの大人達は特に慌てる事も無く、優し気な目で成り行きを見守っていた。

 

「うぅむ、そうじゃのぉ……」

 

唸りながら思案する三代目、というのもナルトが吠えたのはこれが一度目ではなく、既に三十回は同じようなやり取りを任務請負い前に繰り返している。

 

周りの大人は優しいのではなく、根負けしてしまっただけなのだ。

 

「まぁ不安は残るが、任務達成回数だけなら文句は無いしのぅ……良し! カカシ班にCランク任務を命じる!」

 

「流石じいちゃんは話が分かるってばよ! それで!? それで!? どんな任務なんだってばよ!?」

 

「ある人物の護衛じゃ……お入りください」

 

火影の合図で扉を開けて出てきたのは、頭のねじり鉢巻きがチャーミングなおじいさんだった。

 

「……なんだぁ、どいつもこいつも頼りないガキじゃねぇか、特にそこの座り込んでいるアホ面」

 

酒瓶を片手に座り込んでいるナルトに顎を向ける依頼人。

 

「な、何だとぉ!? 人を見かけで判断するんじゃねぇ!」

 

「少なくとも大人はこんなところで座り込まないだろ、ウスラトンカチ」

 

(見た目も頭もウスラトンカチの癖に中身はイタチやカカシを軽く超えるチャクラタンクだから質が悪いんだよ……)

 

「みっともないわよ、ほら、立ちなさい!」

 

「ごほんっ! 依頼内容は依頼主のタズナさんを波の国まで護衛し、そのまま橋の完成まで護衛する事じゃ」

 

一向に話が進まないナルト達のやり取りを遮って三代目火影が依頼内容の説明を行う。

 

三代目の咳払いによって大人しくなったナルト達は速やかに退室し、各々準備を整えた後木の葉の門の前に集合した。

 

◇ ◆ ◇

 

「カカシ先生! カカシ先生! 波の国までの道全部に影分身を敷き詰めて良いってばよ?」

 

「だーめ、通行の迷惑だし目立つでしょ、お前黄色いし」

 

「どっちかっていうとオレンジじゃない?」

 

「超どうでも良いから早く出発したいんじゃが」

 

「避けられる戦闘は避けるのが忍の鉄則だ、ナルトの影分身は四体が丁度良い、目立ち過ぎず八方向をカバー出来る」

 

「な、成程、分かったってばよ」

 

「なんであんたの術なのにサスケ君の方が使いこなしているのよ……」

 

◇ ◆ ◇

 

「ナルトって影分身の術をどこで覚えたの?」

 

「火影のじいちゃんからパクった巻物に書いてあったってばよ……あ、そういえばこれ言っちゃいけないやつだった」

 

「ちょ、聞いた私が言うのも何だけどしっかりしなさいよ!?」

 

「……どうやって火影から盗んだ、幾らジジイでも火影は火影だ、それこそ上忍でも難しいと思うが……」

 

「おいろけの術で気絶してる間に……あ、これも言っちゃいけないやつだった」

 

「ちょっと!? あんたそれでも忍なの!?」

 

「下らない術と思っていたがそんなポテンシャルがあったとは……研究する価値があるか……?」

 

「サスケ君は早まらないで……思いついたんだけど、あんたの影分身とその術組み合わせたら火影様死んじゃうんじゃない?」

 

「それで死んだら俺どんな顔して良いか分からないってばよ……」

 

道は続く……。

 

◇ ◆ ◇

 

「で、こいつ等は何なんだってばよ?」

 

ナルトが指を指す先にはカカシによって縛られた忍が2人。

 

「霧隠れの中忍ってとこだな……それよりナルト、お手柄だったが増え過ぎた影分身は消してくれ目立ちすぎる」

 

「あ、消すの忘れてたってばよ」

 

ナルトの解除で道や森に隙間無く山積みにされた影分身が煙を立てて姿を消す。

 

話の経緯は簡単だ、霧隠れの刺客にカカシが襲われ、それを見たナルトがとっさに大量のチャクラで多重影分身を発動し、その肉圧で霧二人が圧し潰された。

 

霧二人はカカシの次にナルトに襲い掛かろうとしたのが悪かった、たまたまナルトの反射的な影分身発動に巻き込まれてしまったのだ。

 

結果は変わらないだろうが、次のターゲットをサスケにしていればここまで酷い負け方はしなかっただろう……。

 

「ここまで来ると、もはや水遁だな……」

 

「影分身ってああいう使い方も出来るのね……」

 

呆れたようにサスケとサクラが呟く。

 

「水遁か……むふふ、今日から俺は水遁のうずまきナルトだってばよ!」

 

「どこが水遁よ!? 水要素どこにも無いじゃない!? 遁じゃないけど仮に付けるとしても肉遁よ!?」

 

「なんかそれだとチョウジっぽくてオリジナリティーに欠けるってばよ……なんかパクリっぽい」

 

「じゃあ間を取って肉水遁だな」

 

「何言ってるのサスケ君!?」

 

「よしっ! 今日から俺は肉水遁のうずまきナルトだってばよ!」

 

「気に入るの!?」

 

任務は続く……。




にくすいとん


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戦わずして勝つのが真の忍だってばよ

木の葉の里に忍犬を使って捕縛した霧忍の護送依頼を出したカカシは振り返り、ナルトに顔を向ける。

 

「どのみち刺客が迫っているなら話は別だ……ナルト!」

 

「おう! 多重影分身で波の国までの道のりを全部埋め尽くすってばよ!」

 

「違うっ! お前にやって貰いたいのは索敵だ、影分身は消滅時に術者に情報が還元される、それを利用して刺客の居場所を割り出し知らせろ!」

 

「お……おう?」

 

首を傾げるナルトにサスケが補足を加える。

 

「つまり、怪しい奴を見かけたら戦わずに直ぐに分身を解けって事だ」

 

「わ、分かったってばよ……多重影分身の術!!」

 

数百万体の影分身が四方八方に散らばり、森や道を瞬く間に黄色に染め上げる。

 

「ナルト、情報が入ったら直ぐにカカシ先生に知らせるのよ、わかった?」

 

「なんて数の影分身だ……そのチャクラ、ナルト以外のやつが持っていたら世界が滅んでいたな……」

 

「うしししし、そう褒めるなってばよサスケ!」

 

「褒めてねぇよ……」

 

「人の話聞きなさいよ!」

 

(これ程の規模の影分身を展開して息一つ切らさないとはな……これが九尾の力か……ミナト先生はこんなやつと戦っていたんだな……)

 

◇ ◆ ◇

 

ナルト達とほぼ同時刻、別の場所で地形の変容に立ち尽くす者が二人いた。

 

「なんだこれは……幻術……ではないな……」

 

「はい、恐ろしい事に全て実体の影分身みたいですね……」

 

タズナを暗殺する為にナルト達を襲撃する予定だった鬼人再不斬と氷遁の血継限界白は森を蹂躙している黄色に心底困惑していた。

 

「見た目は只のガキだが、この化け物じみたチャクラ量……こんな奴を相手にするのはあまりにも危険すぎる……」

 

「……」

 

「……降りるか」

 

「はい……」

 

(鬼人再不斬の名折れだな……だがこんなところで玉砕する訳には行かねぇからな……)

 

(ガトーさんには悪い事をしましたね……)

 

霧隠れの術と瞬身の術、更には変化の術まで駆使して再不斬と白は慎重に戦場を離脱した。

 

◇ ◆ ◇

 

「結局、特に襲われる事も無く、無事に波の国にたどり着いたってばよ」

 

「どういう事だ、移動中は絶好の機会の筈……刺客は何を考えてやがる……?」

 

「正面から戦っても勝てないと思って寝込みを襲うつもりなのかも……!」

 

「その可能性は十分に考えられる、寝る時は俺一人、お前ら三人の二交代制で寝るぞ」

 

「カカシ先生! カカシ先生! 影分身で家をすっぽり埋めれば寝る時も安全だってばよ」

 

「……土遁で下から侵入したり、時空間忍術で侵入してくる可能性もあるからな」

 

「すっげぇ……忍者ってどこにでも湧くんだな……」

 

「お前にだけは言われたくないと思うぞ……」

 

◇ ◆ ◇

 

タズナの家から少し離れた森の中、昼食を食べ終えたカカシ班が集合していた。

 

「ま……刺客が来るのをじっと待つのも退屈だから俺がお前らに修行を付けてやる」

 

「おう! すっげー術、一つよろしく頼むってばよ!」

 

「お前に下手な術教えるとうっかりで里を消し炭にしそうだから教えてあげない」

 

「マジでやりかねないから笑えねぇな……」

 

「またまたー、カカシ先生もサスケも冗談が上手いってばよ」

 

「……ま、それはともかくとして今回教えるのはチャクラコントロールについてだ」

 

(あの莫大な力、ちゃんと制御して貰わないと本当に里が危ないからな……)

 

「カカシ先生ー、チャクラコントロールってなんだってばよ?」

 

「あー……無駄無くチャクラを練り上げ効率的な術の運用を可能にする……」

 

「こうりつてき? じゅつのうんよう??」

 

首を傾げ、今一つ理解出来ていないナルトを見てカカシは―――

 

「……まぁ、あれだ……強くなる為の必須事項って事だ」

 

「なるほど!」

 

(説明を諦めたわね……)

 

(それで納得するなよウスラトンカチが……)

 

―――説明を諦めた。

 

◇ ◆ ◇

 

カカシはナルト達に修行として手を使わない木登りを命じた。

 

足の裏から微弱なチャクラを放出し、それを利用して木の幹に張り付く、その一連の流れがそのままチャクラコントロールの修行になるのだ。

 

「くっそぉ、何度やっても木がバラバラになるってばよ……!」

 

「逆にどうやればチャクラを放出するだけで木をバラバラに出来るのか知りたいぜ」

 

「あぁん? 嫌味かサスケ……!」

 

「いや、純粋に知りたい、攻撃に使えるしな」

 

「んなもん適当に足の裏からチャクラ放出するだけだってばよ」

 

「適当にやるから駄目なのよ! 出来る限り絞って放出するのよ」

 

「んーっと、こう?」

 

ナルトが足を付けた幹が派手な音を立てて吹き飛ぶ。

 

「駄目だなこりゃ……仕方ない……土遁・土流壁の術」

 

カカシの術で土で出来た垂直な壁が作り出される。

 

「おおー! カカシ先生ってば土遁使えたんだ!」

 

「この壁には俺のチャクラを練り込んである、早々壊れやしないよ」

 

「よっしゃあ! サンキューカカシ先生!!」

 

ナルトが足を付けた壁が派手な音を立てて吹き飛ぶ。

 

「……カカシ先生ェ……カカシ先生?」

 

「……今のは軽いウォーミングアップだ……行くぞ、土遁・土流壁の術!!!!」

 

今度は犬の彫刻が施された巨大で重厚な壁が生み出される。

 

「はぁ、はぁ……げほっ、ごほっ……」

 

「先生……なんかごめんってばよ……」

 

◇ ◆ ◇

 

波の国で建設中の大橋の前にカカシ班は集合していた。

 

「んー、木登りも水面歩行も終わったし、次は……」

 

「カカシ先生! カカシ先生! 壁作る忍術教えてくれってばよ!」

 

「土流壁は数日で出来るものじゃないからやっても無駄だ」

 

「んな事やってみなきゃわかんねーってばよ!」

 

「落ち着けナルト……性質変化の修行は数日で完成するものじゃない、実際に俺の火遁もかなり時間が掛かった」

 

「へぇー……サスケでも無理なのか……」

 

「じゃあ結局何するの?」

 

「ま、無難に体術の組手でもしますか!」

 

「よっし、影分身の―――」

 

「体術の組手って言ってるだろウスラトンカチが……忍術は禁止だ」

 

◇ ◆ ◇

 

結局、待てども待てども刺客はやって来ず、ついに大橋が完成した。

 

「あーあー! 何がBランク以上の任務だってばよ……結局着いてからも変な奴らをカカシ先生が捕まえただけじゃねぇか……」

 

「結局俺は一度も戦っていない、不完全燃焼だな……」

 

修行途中、二人の侍と複数のチンピラがタズナの家に奇襲を掛けてきたが、影分身の見張りにあっさり見つかり、駆け付けたカカシによってすぐさま捕縛されたのだ。

 

サスケとサクラは現場に居合わせず、ナルトは報告最優先の言いつけを忠実に守った為、下忍三人は波の国に着いてから結局一度も戦闘をしていない。

 

「まぁまぁ二人とも、無事に任務終了できて良かったじゃない」

 

不貞腐れるナルトとサスケをサクラが宥める中、カカシが割って入りナルト達に話しかける。

 

「いやー、その件なんだけど、橋が完成したから波の国と木の葉が交易を結ぶらしいのよ」

 

「まぁ順当な流れだな、それがどうした?」

 

「ガトーコーポレーションがこの橋を壊そうと画策してるみたいでな、木の葉としてそれは困るから潰してこいってさ、依頼主は火影様」

 

「で、でもガトーって凄く大きな裏組織でしょ!? 私達だけで倒すなんて……」

 

「いや、今のガトーは忍者を抱えていない、少し前まで強い忍が護衛に就いていたがつい最近離反したらしい」

 

「なるほどな、新しく厄介な忍者を抱え込まれる前にさっさと叩けって事か」

 

「そういう事、話が早くて助かるよ」

 

「結局チンピラ相手かってばよ……」

 

「Cランク任務なんだからそれで良いのよ……」

 

◇ ◆ ◇

 

ガトーのアジト周辺、岩陰に隠れたカカシ班は作戦を再確認していた。

 

「作戦を確認する、まずは俺とサスケとサクラの3人で突入だ」

 

「すぐさまナルトは影分身で逃げ道を塞いでくれ、念のために本体のナルトに影分身の俺が一人付く」

 

「ガトーは殺さずに捕縛、他の連中は好きにして構わない、以上だ……質問は無いな……?」

 

カカシの言葉に三人は頷き、カカシの合図を待つ。

 

「よし……散っ!」

 

◇ ◆ ◇

 

戦闘は直ぐに終了した、忍者が居ないのだから当たり前と言えば当たり前だが、それ以上にアジト周辺をびっしりと包囲するナルトの影分身に心を折られすぐさま降伏してきた事が大きかった。

 

かくして波の国を長年苦しめてきたガトーは滅び、カカシ班の任務は全て終了した。




波の国編終了


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ハーレムの術だってばよ

波の国の任務以外にも幾つかの簡単な任務を無事に達成し、ある程度の実績を積み終えたある日。

 

ナルト達はカカシに呼び出され、里内の適当な場所に待機していた。

 

「おっせーってばよカカシ先生!」

 

「やぁごめんごめん、今日はちょっと道に迷ってね……」

 

「忍者が自分の里で迷ってどーすんだってばよ!」

 

「で、本題に入るけどお前ら中忍試験って知ってる?」

 

「無視すんなコラァ!!」

 

◇ ◆ ◇

 

忍者の階級は大きく分けて三段階、下忍、中忍、上忍とあり、下忍から中忍へと昇格する為には試験を受けなければならない、それが中忍試験と言う訳だ。

 

この試験の受験資格は担当上忍からの推薦だが、受けるか受けないかは任意であり、下忍本人の意思で拒絶する事も出来る。

 

と言うのも中忍試験は危険性が高く、命を落とす者や大怪我をする者もいるからだ。

 

故に確実な自信が無ければ受験を避けるのも忍者としての良い判断と言えるだろう。

 

しかし……。

 

「受験会場はここかぁ……結構人数多いわね……」

 

「ふっ、誰が相手だろうと負けるつもりは無い……!」

 

「おうっ! 全員ボコボコにしてやるってばよ!!」

 

「そもそも対戦形式なの?」

 

「……知らないってばよ」

 

「……まぁ、いかなる試験形式でも負けるつもりは無い」

 

今まで一度も挫折を味わった事の無いカカシ班は当然の様に中忍試験に顔を出した。

 

◇ ◆ ◇

 

アカデミーの同期と再会したり、試験にやたらと詳しい薬師カブトと知り合ったり、音忍達や木の葉の先輩と喧嘩する等色々あったが、無事にナルト達は第一次試験をパスし、第二次試験へと進んで行った。

 

第二次試験は事前に配布された天の巻物、地の巻物、この二つを巨大なサバイバル演習場、別名死の森で奪い合う、必然的に半数が脱落する過酷な試験だった。

 

「俺達は天の巻物か……つまり地の巻物を誰かから奪い、中央の塔にたどり着けば良い」

 

「ペアの巻物を誰が持っているか分からないところもこの試験の難易度を上げている重要な要素ね……」

 

「あぁ……厄介だな……」

 

「多重影分身で森を埋め尽くして全員から巻物を奪うから何も心配要らねーってばよ!」

 

「アホかウスラトンカチ、それだと目立ちすぎるだろ」

 

「変化すれば良いんじゃない? 変化を見抜く事は出来ても、それがナルトだと看破出来る下忍なんて殆ど居ないだろうし」

 

「んーと、誰にしようかな……」

 

「なら、火影を倒した実績を持つおいろけの術が最適だ」

 

「ん……えっ!? サスケ君本気で言ってるの!?」

 

「ああ、上手く行けば敵が油断してくれるかもしれないしな」

 

淀みなく真顔で返事をするサスケに若干引きながらサクラは渋々首を縦に振る。

 

「……まぁ、サスケ君がそう言うなら……」

 

「ナルト、頼んだぞ」

 

「一度に出し過ぎると変化する前にナルトの姿を見られてしまうから小刻みに分身しなさいよ」

 

「よしっ、分かったってばよ、多重影分身の術! 更に変化っ!」

 

十人程度に分身したナルトがナルコに変化し、死の森中に散らばる。

 

「最低な光景ね……でも十人は少なすぎるんじゃない?」

 

「影分身も多重影分身の術を使えるから心配要らねーってばよ」

 

「つくづく便利な術だな……」

 

ナルトの言葉通り、5分程して死の森各地で膨れ上がったナルコ達によって殆ど全ての受験生や猛獣が圧し潰され、巻物は影分身のナルトによって回収された。

 

死の森に潜入していた伝説の三忍の一人大蛇丸や側近の薬師カブト、砂の人柱力我愛羅や下忍トップの実力を持つガイ班等、巻物を守り切った者も居たが、無限に押し寄せるナルコが邪魔で中央の塔にたどり着く事もペアの巻物を揃える事も出来ず、結局カカシ班以外の全員が二次試験を突破する事が出来なかった。

 

◇ ◆ ◇

 

二次試験最終日、ナルト達は中央の塔付近で待機していた。

 

当初ナルト達は最短で試験を突破するつもりだったが「どうせ三次試験もあるだろうし今の内に受験者の数を減らした方が良いんじゃない?」というサクラの提案に乗り、期限ギリギリまで中央の塔付近で粘ったのだ。

 

「随分あっさりと行ったな、もっと苦戦するものだと思っていたが……」

 

「最後まで影分身で倒せなかった奴らも結構居たってばよ」

 

「五日間巻物を守り切ったのか……カカシより強いんじゃないのか? 戦わずに埋めるのが正解だったな」

 

「本当に酷い光景だったわ……でも無事に試験突破出来て良かった……ありがとナルト」

 

「サクラちゃんの作戦も見事だったってばよ!」

 

「じゃあ巻物を開けるぞ」

 

ずらりと並んだ巻物の中から天と地の二つを開き、地面に放り投げる。

 

巻物から白煙が上がり、中から現れたのはナルト達の担当上忍カカシだった。

 

「あ、カカシ先生!」

 

「なるほど……巻物の中は口寄せの術式が書かれていたのか」

 

「……お前ら……言いたい事は色々あるが……とりあえず二次試験突破おめでとう」

 

呆れながら拍手でナルト達を称えるカカシ。

 

「おうっ! 楽勝だったってばよ!」

 

「で……お前らにはこのまま本選に進むか、棄権するかの選択権が与えられる訳だが……」

 

「勿論、本選に進むってばよ!」

 

「ん、了解……本来なら火影様が直々に本選の説明をしてくれるんだが……火影様は今……その、ちょっと大変でな……」

 

視線をナルトに軽く向けるカカシ、それだけでサスケとサクラには意味が伝わり、二人は何とも言えない顔になる。

 

「本当に火影に効くんだな……」

 

「男って幾つに成っても最低ね……」

 

「何の話だってばよ?」




イルカ先生もちょっと体調が悪いみたいだってばよ。


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念願の新しい先生を手に入れたってばよ

中忍試験本選、それは各国の大名や要人を招いて盛大に開かれる公開試合である。

 

形式はトーナメントバトルだが、優勝者が必ず中忍に昇格する訳ではない。

 

「本選で行う試合は自分が如何に中忍に相応しいかをアピールする場だと思ってくれて構わない、つまり一度も勝てなくても中忍昇格は可能だ」

 

「目指すは頂点! 優勝! 優勝しか無いってばよ!!!」

 

「勝ち残るのは俺だ、俺は誰にも負けるつもりは無い……!」

 

「ねぇお前ら人の話聞いてる?」

 

意気込むナルトとサスケの隣でサクラは青い顔をしていた。

 

「か、カカシ先生……!」

 

「まぁ……さっきも言ったけど勝つ必要は無い、だから三人全員が中忍に上がるかもしれないし、逆に下忍のままかもしれない……」

 

「本選まで後一ヶ月ある……どう行動すれば自分をアピール出来るかよく考えておけ」

 

◇ ◆ ◇

 

本選までの一ヶ月、カカシ班は任務から解放され、各自自由行動となる。

 

サスケは打倒ナルトを目標にカカシに弟子入りし、サクラもそれに便乗する形でカカシの元で修行に励んだ。

 

それを後から聞かされたナルトは大いに焦り、自分だけの師匠を見つける為に里中を駆け回っていた。

 

「つー訳でじいちゃん! 修行つけてくれってばよ!」

 

「そんな暇は無いっ!!」

 

カカシに弟子入りを断られた後で良く考え、どうせ弟子入りするなら最強の忍が良い、そう結論付けたナルトは三代目火影の元を訪れ修行を懇願した。

 

「じゃあさ、じゃあさ! 誰か修行つけてくれそうなすっげー忍者を紹介してくれってばよ!」

 

「お主が二次試験を無茶な方法で突破したせいで木の葉の忍は皆、後処理に奔走されておる!!」

 

「うぅ……じゃ、じゃあ俺が昔に盗んだ禁術の巻物! あれもう一回見せて欲しいってばよ!」

 

「禁術は禁止されておるから禁術なんじゃ! そう簡単に使い倒すものではない!」

 

「ちぇ、爺ちゃんのドケチ……」

 

「そもそも火影のワシが誰かに一方的に加担する事は許されておらん! ワシに出来る事は皆の成長を見守る事だけじゃ!!」

 

「くっ……もう良いってばよ!!」

 

踵を返し部屋が出ていくナルトを確認し、三代目火影はほっとしたように全身の力を抜く。

 

「ふぅ……なんてチャクラじゃ……生きた心地がせんかったわい……」

 

「ナルトの力、ますます強力になって来ましたね……」

 

ナルトが退室したタイミングを見計らってナルトの担当上忍カカシが姿を現す。

 

「……ナルトの事はわしも信頼したい、しかし現実として忍術をまともに身に着けたナルトが暴走した時、奴を止められる存在が何処にいるのか……」

 

火影の迷いを含んだ叫びに、カカシが一瞬躊躇い、縋る様に細い声をあげる。

 

「……火影様でも不可能……ですか?」

 

「……」

 

火影はゴミ箱を指さし、カカシに中を覗くように促す。

 

「こ、これは火影様の水晶玉!?」

 

「上忍が術や忍具を用いて遠眼鏡を破るならまだ理解出来る……しかしナルトは……」

 

「……」

 

「すまん、ミナトよ……」

 

◇ ◆ ◇

 

「カカシ先生もじいちゃんも意外と冷たいってばよ……」

 

弟子入りを断られ、落ち込みながら演習場で手裏剣術の修行をするナルト。

 

不安を払拭する様に一心不乱に手裏剣を投げるナルトに背後から影が忍び寄る。

 

「随分と探したわようずまきナルト君……ちょっと……良いかしら?」

 

「ん? 誰だってばよ?」

 

ナルトは振り返り、後ろに立っていた見慣れない顔の女に首を傾げる。

 

「中忍試験であなたの分身に随分お世話になったのに、つれないわねぇ……」

 

「ん、んー……あ! その顔は確か滅茶苦茶強かった風遁の女!」

 

「あなた、師匠を探しているんでしょ……? 私が修行を付けてあげるわ……」

 

「え……そりゃあありがてーけど、姉ちゃんは誰なんだってばよ?」

 

「私の名は大蛇丸、木の葉隠れ伝説の三忍の一人って言えば分かるかしら?」

 

「でんせつのさんにん……?」

 

「……聞いた事ないかしら……じゃあ猿飛先生の弟子と言えば分かるでしょう?」

 

「さるとび……誰だってばよ?」

 

「自分の里のトップの名前ぐらいちゃんと覚えておきなさい! ……三代目火影の事よ」

 

「あぁじいちゃんの……あれ、でも死の森に居たって事は姉ちゃん草隠れの下忍なんじゃ……?」

 

「極秘の目的があったから身分を偽ってあの場に居ただけよ……あなたに邪魔されてしまったけど」

 

「そ、それは悪かったってばよ……」

 

「それはもう済んだ事だから良いのよ……それより力が欲しいのでしょう? 私の元に来なさい、力なんて幾らでも授けてあげるわ……」

 

「おお! ……でも何でわざわざ他人の俺にそんな事してくれるんだってばよ?」

 

「他人だなんて冷たいわ、影分身相手だけどお互いに拳を交えた仲じゃない……その時にあなたの才能に惚れたのよ」

 

「お、おお!? やっぱ俺ってば才能ある!?」

 

「勿論よ……そうね、私の見立てだけどあなたは木の葉で一番大成する忍、私はそう確信しているわ」

 

「お、おおぅ……俺ってばそんな事言われたの初めてだってばよ……」

 

「あら、あなたの周りの人間は随分と見る目が無いわね」

 

「そう! そう! そうだってばよ! やっぱ遅刻ばっかする奴は目も濁ってるんだってばよ!」

 

「えぇ、濁ってる濁ってる……それで、いい加減、私の元に来てくれる気になったわよね?」

 

「おうっ!! これからよろしく頼むってばよ大蛇丸先生!!」

 

「えぇ、こちらこそ……ナルト君……」

 

ナルトが差し出した手を大蛇丸が握り返した。




大蛇丸「私の事は他人に話しちゃダメよ」
ナルト「なんで?」
大蛇丸「こっそり修行して強くなる方がカッコいいでしょう?」
ナルト「なるほど!」


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どの先生も約束は守らないってばよ

木の葉から少し離れた野原でナルトは大蛇丸の話を聞いていた。

 

「ナルト君……まずは影分身以外のあなたの術を全て見せて貰おうかしら」

 

「押忍っ! じゃあ……はいコレ」

 

大蛇丸の言葉にナルトは頷き、ポーチから縄を取り出して手渡す。

 

「……? これで私は何をすれば良いのかしら?」

 

「縄抜けの術をやるから縛って欲しいってばよ」

 

「あぁなるほど……全てと言ってもアカデミーで覚えた術は見せてくれなくて良いのよ」

 

「何でアカデミーが出て来るんだってばよ?」

 

「何でって……縄抜けの術はアカデミーで習う術でしょう?」

 

「縄抜けの術は中忍試験の時にサクラちゃんから教えて貰った俺の最新忍術だってばよ?」

 

「……」

 

大蛇丸は思わず額に手を当て、苦しそうに唸った。

 

◇ ◆ ◇

 

一時間程似たようなやり取りを繰り返し、ようやくナルトの現状を把握した大蛇丸はこう結論付けた。

 

「つまり、ナルト君は影分身の術しか使えないって事ね?」

 

「多重影分身も使えるってばよ」

 

「……そうね、それで同じ班のサスケ君に勝つために新術が欲しい……そうよね?」

 

「初めからずっとそう言ってるってばよ」

 

「……そうだったわね」

 

「しっかりしてくれってばよ……」

 

(この子に術……ね、どうしようかしら?)

 

◇ ◆ ◇

 

修行の方針を決める為に一日欲しいと言う大蛇丸の要求を渋々飲み込んだナルトは一旦木の葉に戻り、夕食を食べる為に一楽ラーメン店に立ち寄った。

 

「おっほぉー! 旨そうだってばよ!」

 

大好物の一楽ラーメンに目を輝かせるナルト、そんなナルトを見て店主のテウチは煮卵をナルトのラーメンに追加で盛り付ける。

 

「ん?」

 

「二次試験合格おめでとうナルト、煮卵はサービスだ」

 

「おおっ! ありがとうおっちゃん! やっぱ俺の事分かってくれるのはおっちゃんとイルカ先生と大蛇丸先生だけだってばよ……」

 

「大蛇丸先生?」

 

「新しい俺の先生だってばよ、今修行見て貰ってんの」

 

「カカシさんはどうしたんだ?」

 

「カカシ先生はエコヒイキばっかで全然術教えてくれないってばよ……」

 

「ふぅん……まぁ、そう落ち込むなよナルト、ちゃんと面倒見てくれる新しい先生が出来たんだろ?」

 

「おうっ! 見た目ちょっと変だけど、俺の為に一日掛けて修行の計画考えてくれるやる気満々の先生だってばよ!」

 

「ナルトが世話になってる礼に一杯御馳走してやるから明日店連れて来いよ」

 

「さっすがおっちゃん、太っ腹だってばよ!」

 

「いや、ナルトは自腹だぞ」

 

「そりゃねーってばよ、おっちゃん……」

 

◇ ◆ ◇

 

翌日、昨日と同じ野原に来たナルトと大蛇丸は軽い準備体操を済ませ、今後の方針について話し合った。

 

「まず始めに、ナルト君に呪印を施すわ」

 

「じゅいん……?」

 

「まぁ、強くなる為のおまじないみたいなものよ……首筋を大きく開きなさい」

 

「うーん……俺ってばあんまそういうの信じてないんだけど……」

 

文句を垂れながらも言われるままに服をずらし、首筋を大きく開けるナルト。

 

大蛇丸は口角を上げ、ナルトの首筋に噛み付いた。

 

「ちょ、な、何するんだってばよ!? 痛っ!」

 

ハンカチで大蛇丸の唾液をふき取りながら、自分の首筋に三つ巴の呪印が浮かび上がるのを不思議そうに見つめるナルト。

 

「くっくっ、無事に適合したみたいね……さぁナルト君! チャクラを練って見なさい……!」

 

「ちょっとオシャレだけど、こんなのに何の意味があるんだってばよ……」

 

今一つ大蛇丸の行動に意義が見出せず、文句を言いながらチャクラを練るナルト。

 

「……どうして呪印が廻らないの?」

 

「おまじないはもう良いから早く修行! 修行してくれってばよ!!」

 

「え、ええそうね……えっと、どうするのだったかしら?」

 

「俺がそれを聞いてるんだってばよ……」

 

あまりにも予想外の出来事に混乱し、言葉に詰まる大蛇丸。

 

そんな彼に向けるナルトの視線の温度は当初より若干冷えたものになっていた。

 

◇ ◆ ◇

 

混乱から立ち直った大蛇丸が紙や道具を駆使して理解しやすいようにナルトに説明する。

 

「つまり、あなたの弱点は本体の防御力が弱すぎる事よ」

 

「つまり……どういう事だってばよ?」

 

「……攻撃力が無くても死なないけど、防御力が足りないと直ぐに死ぬでしょう?」

 

「確かにそうだってばよ」

 

「つまり、今のナルトの課題は防御忍術を身に着ける事よ」

 

「防御……カカシ先生の壁とか?」

 

「そんなつまらない術じゃないわ……今から教えるのは私の知る限り最強の防御忍術……火影でさえも簡単には突破出来ないものよ」

 

「お、押忍……!」

 

「大丈夫、この術の会得に頭は使わなくて良いわ……印は一つだからあなたにも覚えられる筈よ」

 

◇ ◆ ◇

 

大蛇丸が追加で提案したのは影分身を利用した経験値倍増の修行法だった。

 

「えーっと、つまり、影分身を使うと経験値が倍増……? ん? んんん……??」

 

大蛇丸の説明を今一つ理解出来ないナルトが首を傾げていると、ナルトの肩に手を置いた大蛇丸がこう告げる。

 

「あなたは何も考えずに多重影分身をしながら修行をすれば良いのよ……大丈夫、頭を使う必要はないわ……」

 

「お、押忍っ!」

 

野原を地平線まで黄色で埋め尽くしたナルトは早速チャクラを練り上げ、新術の修行に入る。

 

(チャクラ量が多すぎて呪印で縛れないのは予想外だったけど、所詮は十二歳の子供……)

 

「術を会得したらご褒美にお昼ご飯奢ってあげる……励みなさい」

 

「大蛇丸先生は太っ腹だってばよ!」

 

(体は無理でも、心に入り込むなら容易い……)

 

(ふふふ……もうすぐ、もうすぐ"アレ"が私の手に……!!)

 

「くっくっくっ……!」

 

(良い先生なんだけど……時々キモイのが玉に傷だってばよ……)

 

◇ ◆ ◇

 

昼頃、ナルトにせがまれて一楽ラーメンにやってきたナルトと大蛇丸はのれんをくぐる。

 

(正直、転生で体が変わっているとはいえ、あまり里に降りたくはないのだけど……)

 

(この程度のリスクでナルト君を懐柔出来るなら安いものね)

 

「おっちゃん! 昨日言ってた……あ、カカシ先生!」

 

「ん?」

 

「!」

 

(あれは写輪眼のカカシ!? 何も対策していない今、流石に写輪眼持ちと顔を合わせるのは不味い……!)

 

「ナルト君、悪いけど緊急の用事が入ったから帰るわ!」

 

大蛇丸はすぐさま瞬身の術を発動し、全力でラーメン屋から逃げ去った。

 

「え? ちょ……え?」

 

「今の瞬身を使った忍者、相当の手練れだな……」

 

「あんなに完成度の高い瞬身、初めて見た……」

 

「あ、サスケとサクラちゃんも来てたのかってばよ」

 

「……ナルト、今のは誰だ?」

 

カカシが殺気を含んだ目でナルトに迫る。

 

「え、えっと……」

 

困惑しながら席に着くナルトにテウチが話しかける。

 

「おぉ、いらっしゃい、ナルト一人か? 何だ、新しい先生は都合付かなかったのか……」

 

「先生……! テウチさん、今の話詳しく教えてください!」

 

「えっ、い、いや別にナルトはあんたの悪口なんて言ってないぞ!?」

 

「ちょ、おっちゃん!?」

 

(カカシの陰口叩いてるのか……まぁ、気持ちは分かる……)

 

(ナルト……カカシ先生の事、ラーメン屋で愚痴ってるのね……)

 

「そっちじゃなくて、新しい先生の事です! いや、そっちも気になりますけど!」

 

「い、いや昨日ナルトが新しい先生が出来たーって喜んでいて、ナルトが世話になった礼に、新しい先生に一杯御馳走してやろうと……というか本人が後ろに居ますけど……」

 

「……ナルト」

 

「カカシ先生、今更大蛇丸先生に嫉妬なんて見苦しいってばよ……!」

 

「なっ、大蛇丸だと……!?」

 

カカシは数秒考え込み、顔を上げてサスケに声を掛ける。

 

「……サスケ」

 

「なんだ、カカシ?」

 

「会計は頼んだ」

 

「は?」

 

カカシは瞬身の術を使い、目にも留まらぬ速さでラーメン屋から逃亡した。

 

「……はぁ!?」

 

「やっぱカカシ先生は頼りにならないってばよ」

 

「……奢るって言ってくれたのに……カカシ先生……」

 

「……」

 

ポケットを二、三度さすり、心なしか顔色が悪くなったサスケがギギギとサクラの方へ振り返り。

 

「悪いサク……いや、ナルト……」

 

「ん?」

 

「その……か、会計は頼んだ」

 

「え?」

 

サスケは全速力でラーメン屋から立ち去った。

 

「え……え!? あのサスケが食い逃げ!? カカシ先生じゃなくて、あのサスケが……!?」

 

「う、嘘でしょサスケ君!?」

 

「まったく、どいつもこいつもラーメンに殆ど口付けずに残して行きやがって……」

 

ラーメンを下げようとするテウチにナルトがストップをかける。

 

「あ、サクラちゃん、おっちゃん、それ貰っても良いかってばよ?」

 

「おう、ゴミが減るなら大歓迎だ」

 

「サスケ君の食べかけ……あ、いや! べ、別に食べかけなんて要らないわよ!?」

 

「らっきー! へへっ、ただラーメンだってばよ……!」

 

「ラーメンぐらいで大げさねぇ……」

 

ナルトは勢い良くラーメンをかき込み、スープを飲み干す。

 

「ふぅー……あぁ、食った食ったぁ……いつもの二倍は意外とキツイってばよ……」

 

「もっとよく噛んで食べなさいよ、私なんてまだ半分も食べてないのよ?」

 

「まぁまぁ……」

 

ナルトは会計を済ませようとポーチに手を入れ、何かを思い出したかのようにぴたりと固まる。

 

「なぁ、サクラちゃん……」

 

珍しく神妙な顔でサクラを見つめるナルト。

 

「な、何よ、急に改まった顔して……」

 

「俺ってば今日は大蛇丸先生に奢って貰う約束で一楽に来たんだってばよ……」

 

「……え?」

 

「あ、あんたまさか……」

 

「……サクラちゃん、会計は任せたってばよ!」

 

「ちょっ、あんた待ちなさ」

 

思わず立ち上がり、ナルトを追いかけようとするサクラの腕をテウチが掴む。

 

「お会計」

 

「……ツケでお願いします」




サクラ「男なんてどいつもこいつも……しゃんなろーーーっ!!!!」


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特別な幻術空間での修行だってばよ

ナルトがラーメンを食べ終わった頃とほぼ同刻、大蛇丸と側近の薬師カブトは隠れ家のアジトで今後の方針を練っていた。

 

「だから辞めとけって言ったんですよ、僕は……」

 

「まだよ……! あと一日、あと一日でもナルト君を自由に操れれば全てを手に入れる事が出来るのよ……!!」

 

「と言っても、どうせ今頃木の葉の忍達がある事ない事ナルト君に吹き込んでいますよ……」

 

「……今からナルト君の家に行って最後の説得を試みるわ……カブト、あなたは……」

 

「この蛇のマークが一つ消えたら逆口寄せで大蛇丸様を口寄せ、二つ消えたら解邪法印で大蛇丸様を復活させる……ちゃんとやりますよ」

 

「……頼んだわよ」

 

大蛇丸は死の覚悟を決め、ナルトの元へと足を運んだ。

 

◇ ◆ ◇

 

日がすっかり沈んだ夜、ナルトが自宅で修行の疲れを癒していると、普段は鳴らない来客のベルが鳴り響いた。

 

「ん?」

 

まさか怒ったサクラちゃんが自宅に殴り込みに来たのだろうかと、戦々恐々としながらドアを少し開けると、見慣れた桜色の髪が見え、ナルトは慌ててドアを閉じた。

 

「さ、さささ、サクラちゃん!? お金はちゃんと返すから許して欲しいってばよ!!?」

 

「私よ、ナルト君……安心してドアを開けて頂戴……」

 

ドアの向こうから大蛇丸の声が聞こえ、安心したナルトはドアを開けて変化した大蛇丸を自宅に招き入れる。

 

「なんでサクラちゃんに変化してるんだってばよ……」

 

「ふふふっ、ちょっと驚いたかしら?」

 

「心臓が止まるかと思ったってばよ……」

 

(ナルト君のこの反応……木の葉はまだナルト君に私の事を話していないのかしら……?)

 

大蛇丸は心の中でほくそ笑み、ナルトに続ける。

 

「ナルト君、お昼ご飯の時はごめんなさい、どうしても抜けなきゃいけなかったのよ……」

 

「任務ならしょうがないってばよ……」

 

「……埋め合わせとしてはアレだけど、今からナルト君と特別な修行をしようと思ってね……」

 

「特別……?」

 

少し間を置き、大蛇丸が続ける。

 

「ナルト君、手裏剣を一度も投げた事のない忍者と百回投げた忍者、どっちが強いと思う?」

 

「なんだってばよいきなり……そりゃあ百回投げた忍者の方が強いってばよ」

 

「そうよね、誰でもそう答えるわ」

 

「んー……?」

 

「じゃあ人を一度も殺した事のない忍者と百人殺した忍者、どっちが強いと思う?」

 

「……百回の方だってばよ」

 

「そう、それだけでは決まらないけど……殺人経験の有る無しはいざという時の勝敗に大きく関わってくるわ」

 

「もしかして今からやる特別な修行って……」

 

「焦らないで……とは言っても殺人なんてそう簡単に出来るものじゃないでしょう?」

 

「当たり前だってばよ」

 

「そう、普通は百人の殺人を経験する事は困難、だから……」

 

「幻術空間内で殺人を経験するのよ」

 

◇ ◆ ◇

 

大蛇丸はナルトを連れて蛇の中に入り、土遁で作られた大洞窟の周辺に移動した。

 

「目標は洞窟中の人間全て……勿論全員幻術で出来た人間だから何しても良いわよ」

 

「本当にここは何もない砂漠なのかってばよ……どう見ても木とか草とか本物にしか見えないってばよ……」

 

「えぇ、私の幻術は特別製だから五感全てを騙す事が出来るのよ……幻術の人間と会話する事すら出来るわ……意味は無いけどね」

 

「へー……」

 

「さ、おしゃべりはここまでにして修行するわよ……ナルト君はまず、逃げられない様に結界をお願い」

 

「おうっ!」

 

「「「「結界・四赤陽陣の術!」」」」

 

洞窟を囲むように配置されたナルトから分厚く赤い半透明の結界が生み出される。

 

「ふふっ、呪印の仙術チャクラを混ぜ込んだ時空間忍術すら遮断する超高濃度の最強結界……上々ね……」

 

大蛇丸は舌なめずりをしながら次の指示を出す。

 

「結界内のナルト君は洞窟に影分身を四方向から絶え間なく送り込みなさい……接敵し次第、全身に仕込んだ特性起爆札で自爆するのよ」

 

「結界外のナルト君は四赤陽陣係のナルト君に背を向けてもう一枚結界を張って頂戴」

 

「ん? なんで?」

 

「結界係の背中ががら空きだからよ……自分の周りにも変形して結界を張れると一枚で済むのだけど、時間が無かったから応急処置よ」

 

「じゃあ今度結界の変形も練習しておくってばよ」

 

◇ ◆ ◇

 

その後、大蛇丸の指示で各地を転々としながら同時並行で同じ修行を繰り返し、ナルト達が木の葉に帰ったのは朝日が出る頃だった。

 

「お疲れ様ナルト君、良い修行になったでしょう?」

 

「ふああ、流石に徹夜で修行するのは眠いってばよ……それにいくら幻術人間でも化け物とか、人でなしとか言わせるのはやめて欲しいってばよ……」

 

「ごめんなさい、この術はまだ未完成なのよ」

 

「ふーん……ま! でも、珍しい術を使う忍者が結構いて中々面白かったってばよ!」

 

「ふふふ……それと、これから私は輪廻眼と写輪眼、その他諸々の研究で向こう百年ぐらいは忙しくなるからもう会えなくなるわ」

 

「え!?」

 

「ラーメンはごめんなさい、でもナルト君なら大丈夫、中忍試験程度なら楽々突破出来る筈よ」

 

「俺ってば正直、まだサスケに勝てるか不安だってばよ……」

 

「自信を持ちなさい、あなたは火影になるんでしょう?」

 

「で、でも……」

 

「安心しなさい、今回倒した連中はサスケ君よりも遥かに強かったわ、それを打ち破ったのだからサスケ君ぐらいなら訳ないわ」

 

「えー……本当にそんなに強かったかってばよ?」

 

「……もう少し分析力を身に着けた方が良いかもね」




暁終了
大蛇丸退場


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サクラちゃん強すぎだってばよ……

大蛇丸が側近のカブト等、主要メンバーを連れて大陸を立ち去り、忍界から大蛇丸一派が完全に消え、頭を失った音隠れと砂隠れの里は混乱の渦中に陥った。

 

音隠れは忍の離散が相次ぎ事実上の壊滅、残留した僅かな忍と大名達も木の葉隠れの庇護下に入り、火影主導の下、五年を目安に木の葉と同化が行われる予定となった。

 

砂隠れは四代目風影が死体となって発見された旨を木の葉に報告し、警戒の為に砂隠れと木の葉隠れの軍事同盟が強化され、両里厳戒態勢の元で中忍試験本選は行われた。

 

「30……40……流石に今年は暗部の数が多いな」

 

「大蛇丸の侵入も確認されたからな……だからといって唯一の担当上忍である俺まで警戒任務に充てるのはやめて欲しかったが……」

 

そう愚痴りながらカカシは大好きなエロ本も読まずに真面目に辺りを警戒する。

 

「二次試験でカカシの班に全員やられたからね……上忍衆全員で火影様にカカシを警戒任務に加えるように上奏したのよ」

 

「あのねぇ……文句なら俺じゃなくてナルトに言ってやってくんない? 誰が担当上忍でもあいつは同じ事してたと思うよ?」

 

「ま、何にしてもナルトには早く中忍になって貰わないとな……来年また同じ事されたら堪らんし」

 

「ナルトの初戦は……春野サクラか……座学は優れているが実戦は平均以下だったと記憶しているが……」

 

「あんなの誰が相手でもどうしようもないだろ……上忍でも勝てないぞ」

 

「うーむ……」

 

◇ ◆ ◇

 

「し、勝者、春野サクラ!」

 

ナルト対サクラの試合は一瞬で終わった、試合開始と同時にサクラが一瞬で間合いを詰め、ナルトの喉元にクナイを突きつけて終了した。

 

「は、はぁぁ!? 何やってんだウスラトンカチ!?」

 

「な、何が起きたんだってばよ……!?」

 

狼狽するナルトに向かって、チャクラ回復用の兵糧丸を食べながらサクラは得意気に解説を始める。

 

「ナルト、あんたの弱点は術を発動するスピードと反射行動のとろくささ、それからチャクラを練る時に目を閉じる癖よ」

 

「……なるほど、考えたなサクラ」

 

サスケは納得した様に頷き、対するナルトはまだ納得が行かない顔で文句を垂れる。

 

「俺ってば、せっかくすっげー新術まで覚えて来たってのに……」

 

そこにカカシが割って入り、ナルトに更にかみ砕いた説明を行う。

 

「サクラはこの一ヶ月、ずっと直線移動の瞬身に限定して修行をしていたんだよ、自分がナルトに勝てる唯一の道は何もさせずに瞬殺する事だ……って自分で分析してな」

 

「俺ってばサスケの事しか考えてなかったってばよ……」

 

「ちょっ、カカシ先生っ!? 私まだサスケ君と戦ってないのに手の内晒さないでよ!?」

 

「あ……ごめんサスケ……聞かなかった事にしてくれる?」

 

「……アホが」




上忍A「いやぁぁぁぁ、ナルトの下忍残留が確定したぁぁぁ!!!」
上忍B「来年も埋められるぅぅぅぅぅ!!!」
上忍C「うーむ、唯一の勝ち筋は速攻か……」
上忍D「いやぁ、なんかー……ごめんね?」


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俺だけ下忍だってばよ……

サクラはカカシに勝手に手の内を晒すなと怒りはしたが、元々サクラはサスケに勝つつもりはなかった。

 

サクラよりサスケの方が十倍は強いと誰もが思っていたし、サクラもそう考えていたからだ。

 

(形振り構わなければ勝てるかもしれないけど……そんなの試合の後に絶対嫌われるし……)

 

かと言って、即降参してもサスケの見せ場が無くなりそれはそれで嫌われるだろうから、サクラは適当に瞬身とトラップを使いながら徹底的に逃げ続けた。

 

試合から十分程経過し、サクラの忍具が底を尽きたタイミングであっさりと降参し、サスケ対サクラの試合はサスケの勝利で終わった。

 

「はぁ……はぁ……し、死ぬかと思った……」

 

「一応勝ったが……やるせねぇな……」

 

「いやぁ……君達、八百長疑われても文句言えない試合だったねぇ……」

 

結局、ナルトも含めて誰一人として血を流さずに中忍試験本選は終了した。

 

閉会の挨拶等諸々の儀式が終わり、すっかり寂しくなった観客席の上で大好きな読書に戻ったカカシはナルト達三人に声を掛ける。

 

「いやぁ、お疲れ様三人とも、結果は後日発表だが……ま、サスケとサクラは合格だろう」

 

「……俺はサクラに傷一つ負わせられなかったがそれで良いのか……?」

 

躊躇いながらサスケはカカシに確認を取る。

 

「相性だよ相性、サクラはお前の行動パターンや戦術戦法を知り尽くしていたからな」

 

「……千鳥はバレていなかった筈だ」

 

不服そうにカカシに反論するサスケ。

 

「たしかに千鳥は初見だが、どんな術も当て方動き方の源流は術者の思考パターンに依存する、恐ろしい事にサスケの思考回路を知り尽くしていたサクラはサスケの動きを完全に予想して対応した、それだけだよ……」

 

カカシがそこまで言うと絶句したサスケが目を見開いてサクラに顔を向ける。

 

「え……いやいや、そんな凄い事してないわよ私!?」

 

「無意識って訳か……くそっ……」

 

「サクラちゃんって実はすっげぇ頭良いんだな……」

 

「実はってどういう意味よ!? 今までバカだと思っていたって訳!?」

 

「い、いやいやいやサクラちゃん! これはちょっとした誤解で……」

 

(ま、大げさに言ったが、サクラはサスケの事が好きだからな……四六時中サスケを観察して妄想を繰り返していたみたいだし……)

 

(火影でも真似出来ない方法で積み上げた想像を絶する対サスケ専用の経験値がサクラをここまで昇華させたのだろうけど……)

 

(ま、おっさんの口でこんな事言えないよねぇ……)

 

悔しそうに唇を噛むサスケを宥めながらカカシは続ける。

 

「相性が悪かっただけで、サスケは二つの性質変化に高度なうちは流手裏剣術と体術、更には写輪眼まで見せた……ま、サスケの中忍昇格はほぼ確定だな、おめでとう」

 

カカシが適当に拍手しながらサスケを称える。

 

「おめでとうサスケ君! ……カカシ先生、私は?」

 

「対ナルト戦の下準備、サスケ相手の生存能力……ま、格上相手にここまで死なずに立ち回れてる時点で十分中忍レベルでしょ」

 

「やったっ! ……でも何か私の寸評雑じゃない?」

 

「いやぁ、サクラなら俺が言わなくても自分で分析出来るかなって……」

 

「ちっくしょぉ……! 俺だけ下忍のままかよ……」

 

「まぁ、ナルトはもう少し頭を鍛えないとね……後で俺と一緒にお勉強する?」

 

「どうせ勉強教えてもらうならサクラちゃんが良いってばよ……」

 

「お断りよ、今日はもうシャワー浴びて直ぐ寝るわ……疲れた……」

 

「え、打ち上げのラーメン行かないのサクラちゃん!?」

 

「勘弁してよ……それに兵糧丸の食べ過ぎでお腹パンパンだし……」

 

ナルト達のやり取りを後目にサスケがカカシに近づく。

 

「カカシ……サク……対トラップと瞬身使い相手の戦いについて教えてくれ……」

 

「あぁ、だいぶ振り回されたもんね……」

 

「……」

 

「そんなの影分身を突っ込めば良いだけだってばよ」

 

「それが出来るのはお前だけだっ!」

 

「んー……?」

 

「はいはいお前ら落ち着け落ち着け、お祝いにラーメン奢ってあげるから続きの話は一楽でな」

 

「……いや、カカシとラーメン屋はもう行かない」

 

「流石の俺もそこまでバカじゃないってばよ……」

 

サスケに会計を押し付けた事をすっかり忘れているカカシは首を傾げながら、会場を去る三人の背をぼうっと眺めた。

 

「あれー……?」




中忍試験編終了

サクラちゃん相手に火遁と千鳥使うサスケ君さぁ……。


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そんな事よりラーメンだってばよ

トラブルが懸念されていた中忍試験が無事に幕を閉じ、ほっと一息付く火影の元に、自来也が訪れた。

 

自来也とは木の葉伝説の三忍の一人であり、抜け忍大蛇丸や犯罪組織暁等、危険組織の監視を行っている人物でもある。

 

「Sランク犯罪組織暁が一夜にして完全消滅し、大蛇丸が外海に逃亡……か」

 

火影が自来也から手渡された資料に目を通し、深く唸る。

 

「あぁ、木の葉にとっては良い知らせだが、これは明らかにおかしい……恐らくワシでも調べきれない何かが動いている」

 

「ふむ……」

 

「木の葉は何か情報を掴んでいないのか?」

 

「四代目風影殿が暗殺され、音隠の影殿が行方不明……後はナルトに大蛇丸が接触したぐらいじゃな」

 

「前二つはワシも知っているが……そうか、ナルトに大蛇丸が……狙いは九尾か!」

 

「あぁ、じゃが結局九尾は奪われず、お主の情報が確かなら大蛇丸は外海へ逃げた……」

 

「……大蛇丸がターゲットからそう簡単に手を引くとは考えにくい、恐らく見えない何か……仮に黒幕と呼ぶが、黒幕とターゲットが被ったのかもしれないな」

 

「なるほどの……大蛇丸は黒幕と敵対する事を恐れ、尻尾を巻いて逃げ出したという事か」

 

「……とにかく木の葉も今は守りを固める時期だ、綱手を呼び戻しワシも含めて木の葉に三忍が戻った事を各国にアピールするべきだ」

 

「うむ、早速綱手の捜索隊を出し、更に各国各里に同様の警告文を送ろう」

 

「暁、大蛇丸、共に人柱力をターゲットにしていた……恐らくは黒幕も同様だ」

 

「狙いはナルトか……」

 

「ナルトにはワシが付くから心配はいらん」

 

「大蛇丸でさえ大人しく手を引く程の奴相手に守り切れるのか?」

 

「フカサク様に話を付ける……ナルトは妙木山に連れて行く、あそこならば人間は入れまい……万が一侵入されても仙蛙が無数にいる……」

 

「木の葉にいるよりは安全……という訳か……はぁ……無念じゃ……」

 

項垂れる三代目に自来也は畳み掛ける。

 

「更に隔離ついでにナルトに修行を積ませる、ナルト自身を強くさせ、黒幕に抵抗出来る戦力を作るのだ」

 

「……ナルトが狙われている以上、四の五の言っている状況ではないか……よし、ナルトの無期限外出を許可する!」

 

「ただし名目上は木の葉からの任務……未開の地への調査の為の外出とする」

 

「よし、直ぐにでもナルトに話を付けるとするか!」

 

火影に背を向ける自来也に三代目は声を掛ける。

 

「自来也、帰還の際にはお主に中身はどうあれ体裁を整えた報告書を提出してもらうからな」

 

「げっ! ……分かった、それっぽいものを用意しておく……」

 

事態は当人達の思いもよらない場所で斜め上の方向へ進んで行く……。

 

◇ ◆ ◇

 

後日、無事に中忍となったサスケとサクラを祝う為、カカシ班はカカシ以外の全員で一楽ラーメンに来ていた。

 

「簡単な対処法は常に護衛の影分身を付け、本体は死角に隠れる事ね、これだけでも奇襲される可能性はぐっと減るはずよ」

 

「ふんふん、成程……常に護衛の影分身を……」

 

サクラの講釈を熱心にメモ取るナルトと、興味なさ気な雰囲気で聞き耳を立てるサスケ。

 

「へい、日替わりラーメン三丁お待ち!」

 

「おほおおお、うまそー!!」

 

「今更だけど、何で私達のお祝いなのにナルトに合わせたお店チョイスなのかしら……?」

 

「……外食店に詳しいのはナルトぐらいだからな……俺は自炊派だ」

 

メモを放り出し、夢中でラーメンを啜るナルトを尻目に自分もラーメンに箸を付けようとして何かに気付き、動きを停止するサスケ。

 

「お前さんら、隣……良いかのう?」

 

ナルトの隣に体積がナルトの三倍はありそうな巨漢自来也が一言断り着席する。

 

「良いけど、もうちょっと向こう行って欲しいってばよ……」

 

「ははは、すまんすまん……それよりお前さんら、木の葉の額当てをしとるという事は忍者か?」

 

イタズラ心から軽く殺気を放ち、ナルト達に問いかける自来也。

 

「そういうアンタも忍だろ、ナルト程ではないがかなりのチャクラを感じる……気を付けろナルト! サクラ! 恐らくこいつはカカシ以上だ!!」

 

「気を付けて二人共! こいつ、見た事ない額当てをしてるわっ!」

 

初めて向けられる強い殺気に驚き席を飛び退き、警戒するサスケとサクラ、気にせずにラーメンを食べ続けるナルト。

 

「うーむ、良い反応だ木の葉の将来は安泰じゃのう……だが、お前さんは何故動じずに飯を食っておるのだ?」

 

「ラーメンより大事なものなんてないってばよ」

 

「はっはっは、こりゃ大物だな! お前さんっ!」

 

ナルトの背中をバシバシ叩きながら、ナルトを大物認定する自来也だが、別にナルトが大物という訳ではない。

 

暁全員から特濃の殺気を浴びていたナルトはこの程度の殺気は最早認識すら出来ず、そんなことよりラーメンで頭がいっぱいなだけだった。

 

「ワシの名は自来也! 木の葉隠れ伝説の三忍の一人にして妙木山の蝦蟇仙人、更には超人気小説イチャイチャシリーズの原作者でもある!!」

 

一楽の室内で蛙を口寄せし、大見得を切る自来也。

 

「……何にせよ、木の葉の忍なんだな? なら、その油文字の額当ては何だ? 木の葉の忍なら木の葉の額当てをするのがルールだろうが」

 

「これは妙木山の仙人の証だ、勿論火影の許可も貰っているぞ」

 

「仙人……?」

 

「おう、あまり人に見せるものじゃないが坊主には特別に見せてやろう!」

 

「こうやって自然エネルギーを集めて仙術チャクラを練るとだな……う、うおおおお!!!!??」

 

仙人モードに変身した自来也が悲鳴を上げながら腰を抜かして後ずさりする。

 

「おま、おまままま、お前!!! なんちゅうチャクラをしとるんじゃお前は、本当に人間か!? 妖怪、いや神様か何かじゃないのかのう!!?」

 

「いきなりなんだってばよこのおっさん……」

 

「はぁ……うるさい……」

 

(後付けでチャクラ感知力を上げる忍術……?)




マッチポンプの術だってばよ


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サスケだけズルいってばよ

地面に座り込んだままの自来也はしばらく考え込んだのち、ナルト達に仙人化と自身の目的について説明を行う。

 

ナルトが狙われているという重要な部分を伏せ、火影直筆の外出許可書を見せながらナルトを連れ去ろうとする自来也にサスケが待ったをかける。

 

「俺も連れて行け、俺には力が必要だ……ナルト以上にな」

 

サスケは自身の一族が兄に皆殺しにされた事、自分はその兄に復讐する為に力が必要である事を話した。

 

自来也はまた暫く考え込んだのち、サスケの誘いを受け入れた。

 

(サスケはまだ知らんが暁と共にイタチも死んだ、復讐は土台無理な話だが……)

 

(だからこそサスケは最後のうちは一族となった、カカシを除けば最後の写輪眼)

 

(写輪眼を育てるのは初めてだが……なに、輪廻眼よりはマシな筈……)

 

(まぁどのみち、世話するのはワシじゃなくてフカサク様じゃけどな!)

 

◇ ◆ ◇

 

仙蛙の秘境妙木山。

 

ナルト達の目的地であり、人間の足では到達不可能とされる山。

 

ここで二匹の仙蛙が唸り声を上げながらチャクラを練り上げていた。

 

「三度目の正直、いくぞ父ちゃん!」

 

「あいよ母ちゃん!」

 

「「逆口寄せの術!!!」」

 

壮絶なチャクラを練り上げて発動されたそれは白煙を上げるだけで何も呼び寄せることなく失敗に終わった。

 

「はぁ、はぁ……む、無理じゃ自来也ちゃん、ここまで強大な存在を口寄せするのはワシらじゃとても……」

 

「ぜぇ、ぜぇ……お前の新しい弟子っちゅーのは一体どんな化け物なんじゃ!」

 

彼らの名はフカサクとシマ、ここ妙木山の頭とその妻であり、妙木山で最高峰の仙蛙でもある。

 

「うぅむ、まさかこうなるとは……」

 

当初、自来也はナルト達を逆口寄せで妙木山まで運ぶ予定であった。

 

しかし、何度やっても逆口寄せは失敗し自来也達は頭を抱えた。

 

「しょうがない、ワシはナルトと共に徒歩で妙木山を目指す、サスケはフカサク様に従い修行を付けて貰え」

 

自来也はサスケに指示を出し、木の葉へ消えた。

 

自来也を見送ったサスケは倒れ込むフカサクを見下ろしながら声をかける。

 

「修行を頼む」

 

「ちょ、ちょっと休憩させてくれ……」

 

「……あぁ」

 

◇ ◆ ◇

 

「という訳だからワシらは歩きだ、一ヵ月はかかるから覚悟しておけよ」

 

「えーー!!! サスケだけずるいってばよ!!!」

 

木の葉の門の前で文句を垂れるナルト。

 

「ずるいのはどっちじゃ!! いいから行くぞ、道中に修行を付けてやる」

 

「それってどんな修行?」

 

「なんにしてもお前はチャクラコントロールから始めんとな」

 

自来也が指示した修行は水風船の水をチャクラだけでかき回し破裂させる螺旋丸習得の第一段階と呼ばれる修行だった。

 

「これの延長に螺旋丸と呼ばれる超高等忍術がある、そこまでいかんでもこの修行自身がチャクラコントロールの良い修行になる」

 

一石二鳥じゃろ? にかっと笑う自来也にナルトは元気良く答えた。




このナルトに螺旋丸は不要


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