対魔忍独立遊撃隊『ソレスタルビーイング』 (自己満足です)
しおりを挟む

5年前──
第0話「破壊の始まり」


人にして人を越え、魔と闇を狩る裏の存在──彼らを知る者は『対魔忍』と呼んだ。

 

対魔忍は対魔粒子と呼ばれる粒子を体内に保有し、それにより常人では到底及ばない超人たる身体能力を得ている。

 

また対魔粒子は身体能力の拡張だけでなく、それぞれに特殊能力──『忍法』をも授けている。

 

それらにより、対魔忍は魔と対等、或いは優勢に戦うことが出来ている。

 

その対魔忍の中でも、天才的な剣術・体術・スピードの持ち主であり、その圧倒的な力量で魔を葬り去って敵味方に恐れられる対魔忍──井河アサギは、非常に不愉快であった。

 

アサギは若手であるが対魔忍の中でも五指に入る実力者であるものの、戦闘以外は普通の──美貌とスタイルは桁外れだが──の少女といっていい。

 

戦闘任務に明け暮れ戦闘力は磨かれ続けたが、対魔忍の頂点にして宗家『井河』の次期当主として必要な政治的手腕がほとんど無い。

 

アサギは同年代に比べて賢いのだが、まだ18歳。

相手が裏世界を渡ってきた老獪な『老人』たち相手に『口戦』で勝てるほど経験を積んでいないのだ。

 

だからこそ、望まぬ戦いにこうして繰り出されている。

 

 

(・・・・ほんと、悪趣味・・・・)

 

 

アサギは老人たちを軽蔑しながらも、自らの()()を叶えるために行動していた。

 

対魔忍は『魔』と定めた、世に仇なす魔族や悪質な犯罪行為を行う外道以外には力──対魔粒子や忍法──を使用することは基本的に禁止されている。

 

その掟を破る者は『抜け忍』として、粛清部隊に命を狙われることになるのだ。

 

(・・・・それに黙って従うしかない私も、大概だけどね・・・・)

 

 

アサギはほとんど無表情の中で、心では自嘲しながらもまさに『抜け忍』に認定されること間違い無し、という行為を行っている。

 

酒を喰らいながら余興のような感覚で下卑な笑みを浮かべる老人たちが見守る中、()()()()()()()()()()()()()()()()いた。

 

少年はとてつもなく努力したのだろう。

 

同年代の誰よりも太刀筋は鋭く、体術も磨かれ、身体も鍛えられいる。

 

けれども、少年は()()()()()()()使()()()()

 

それは即ち、彼が()()()()()()()()()という事である。

 

驚異的なことであるが、対魔粒子を扱える才能ある同年代の対魔忍候補者たちとの訓練でも遅れをとらずに上位の成績を少年は修めている。

 

改めて言うが、対魔忍としての訓練を受けているが、対魔粒子を使えない少年は、一般人と同じだ。

 

対魔忍として力がほとんど無い同年代ならまだ努力でどうにかできた。

 

けれども、対魔忍として確かな実力を持つアサギには少年は()()()()なり得なかった。

 

天と地ほどの実力差があるため、アサギは一刀の元に少年を戦闘不能にできた。

 

それにも関わらず勝負が長引いているのは、ひとえに彼女が()()()そうしているのだ。

 

これも老人たちの差しがねであり、最低15分は戦いを行うことが条件にあった。

 

 

「ほっほほほ! ほれほれ、童よいつまで遊んどる、ちっとはやる気を出さんかい~。 ()()()()()()しまうぞおぃ~!」

「ぎゃははははは!! もっとやれやれ!!」

「あははははっ!! たったの一太刀浴びせるも出来んとは! これだから『抜け目』はっ!!」

 

 

アサギは少年を戦闘不能に、少年はアサギに一太刀を浴びせれば勝ち、という普通に考えるならば少年が圧倒的に有利な条件も、正しく両者の実力を判断できる者が居れば、あまりにも酷い勝負だ。

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

少年の唯一の味方である()()()()()は、その視線だけで人を殺せそうな壮絶な殺気を隠そうともせず、強く握り締めた拳から血を流しながらアサギや老人たちを睨み付けている。

 

酒の入った老人たちはともかく、正気を保っている取り巻きたちは冷や汗が止まらない。

 

 

(・・・・──、謝りはしないわ)

 

 

アサギは()()()()()()()との絶縁をも覚悟で、この勝負を受け入れてたのだ。

 

たがらこそ彼女の手によって身体中をズタズタに斬り裂かれ、刀を杖にしながら立ち上がるだけで精一杯の死に体の少年にも容赦なく──

 

 

「はっ!!」

 

 

一刀を振るった。

 

 

「・・・・っ・・・・」

 

 

回避動作も無く、横一文字の刃を受けた。

 

今まで以上に鮮血が少年から溢れたが、もはや苦悶の声をあげる力もない。

 

それは誰がみても()()()()()()()()()だ。

 

老人たちが下品な笑い声を上げ、月光に照らされた赤い大地に少年は力無く横たわった。

 

 

 

 

 

 

第0話「破壊の始まり」

 

 

 

 

 

 

 

闇の存在・魑魅魍魎が跋扈する近未来・日本。

 

人魔の闇で古から守られてきた『不干渉』の暗黙のルールは、人が外道に墜ちるようになった時から徐々に崩壊しつつあった。

 

互いに両者が結託した企業や犯罪組織の登場によって時代は混沌と化していった。

 

魔に対抗できる者が現れ、いつしか人々は彼らを──『対魔忍』と呼んだ。

 

 

「魔を伐ち、人を護る・・・・昔はそうだったのだろうね」

 

 

人智を越えた魔に対抗するには、()()()()()がいる。

 

対魔忍は過去に人と交わった強力な吸血鬼の末裔であり、()()()()()()()()からこそ術が使えるのだ。

 

だから術──対魔粒子──を扱える対魔忍は、遺伝学的に見れば()()()()()ではない。

 

ならば対魔忍が人としての証しは何か、魔との違いは何か、と問われて答えるならば『理性』と答えるだろう。

 

人として他者を思いやり、家族や恋人を愛し、友を助ける。

 

人だけが持てるキモチ。

 

 

「強力な力に溺れるだけのモノは・・・・人では無いんだよ」

 

 

アサギと少年の戦いを()()()()()()()()()眼下を見下ろす、人型の外骨格──パワードスーツ──。

 

その外骨格は現存するどの外骨格よりも、より人型に近い細身で洗礼されたフォルムであった。

 

特徴的な額のV型の装飾もさることながら、1番の特徴は背中のコマのような機関から絶えず排出される()()()()だろう。

 

それはまるで光の翼。

 

それらが相まって、初めてその姿を見た者に『神』と思わせても不思議はない神々しさを持っていた。

 

 

「・・・・終わりがあるからこそ始まりがある。 『破壊』からしか生まれないのが『再生』」

 

 

人の目にあたる二つのセンサー兼外部カメラを兼ねた機械の瞳は、血だらけで倒れる少年を捉えている。

 

今、まさに()()()()()

 

『彼』はそれを確信した。

 

搭載された超高性能センサーにより、少年の心音が停止したことを彼は確認したからだ。

 

 

「『キミ』の終わりは無駄にはしないよ」

 

その声からはわずかな後悔が滲んでいた。

 

それを振り払うように彼は静かだが、力強く、遥か地上の少年に届くように()()を介して伝えた。

 

 

(さぁ、覚醒(めざめ)の時だ。 世界は──『君』の()()を必要としている。 )

 

 

 

 

 

 

──君の破壊を必要としている。

 

 

少年の()()()()()声が響いた。

 

その直後、不思議なことに朦朧とした意識が徐々に戻っていき、痛め付けられた身体の節々の痛みもわずかだが薄らいだ。

 

 

(・・・・何故、だ・・・・)

 

 

少年は徐々に戻っていく体調は完全に頭から離れ、自問していた。

 

 

(・・・・何故、俺は・・・・義姉さんは・・・・こんなにも、苦しまなければならない・・・・)

 

 

倒れる前は意識していなかったため聞こえなかった、老人たちやそれに尻尾を降る者たちの嘲り声が重なり聞こえる。

 

それよりも必死に涙をこらえ、怒りに燃える義姉の激情が胸を打つ。

 

少年は()()()()()()

 

理屈じゃない、直接脳へと、魂へと響くものだ。

 

 

──ふんっ、あの『裏切者』の息子に使えるのだ。愚かとしか言えない。

──ふふふふ。 だが、良い顔と身体付きにだ。 あの娘は『遊びがい』が有りそうだ。 アサギが良い塩梅に痛め付けてくれたからのう、治癒遅延薬でも飲ませた『能無し』をエサに、『遊ぶ』としようかのぅ。

──ぐふふふ。 ええのお、若い娘で『遊ぶ』のは、滾るのぉっ。

 

 

普段、クールとか、冷徹だとか言われているが、心に秘めた熱は人一倍である。

 

自身への嘲りや侮蔑では、少年の鋼のような強靭な心をわずか足りとも揺らす叶わないが、こと義姉のことになれば事情は変わる。

 

秘めるが故に、熱く激しく燃え上がる激情は誰にも止められない。

 

 

「──いるっ・・・・」

 

 

少年は立ち上がった。

 

ただ虫の息で立ち上がったのではない。

 

痛々しい傷と、夥しい出血はある。

 

けれども少年は重症を負う前・・・・否、勝負が始まった直後よりも強い光を宿し、立ち上がった。

 

しかも、それだけでない。

 

「なっ!!!?」

「バカなっ!!!?」

「あ、あの身体で、立ち上がれるはずはっ!!!!?」

「な、何が起こっておるっ!!!!」

 

 

騒ぎ立てる老人たちの声などまるで聞こえてないないように、少年は()()()()を上げた。

 

 

「歪んでいる!!!!」

 

 

抽象的過ぎて意味を理解した者はこの場にはいない。

 

けれどもそれに込められた()はこれまでの、数秒前までまるで脅威を感じなかった少年から発せられたとは思えないほどだった。

 

それは老人たちを黙らせ、アサギに『構え』をとらせるほどである。

 

 

(・・・・『覚醒』した、ということかしらね)

 

危機的状況において能力が覚醒することは、対魔忍としては割と良く聞く話で珍しいことではない。

 

血筋で考えるならば、これまで()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 

(どんな忍術かは分からない、ならば──速攻でキメる!!)

 

 

アサギが先手必勝と攻撃に入る瞬間──

 

 

「──っ!?」

 

 

その動作を殺すように、少年の武 器(忍者刀)が投擲された。

その速度と破壊力は先ほどまでとは段違い、否──次元の違うものであった。

 

気を抜けば、その刃はアサギの中心に深々と突き刺さっていただろう。

 

その証拠に投擲された忍者刀は、回避した彼女の背後の木に柄の根本まで埋まっていた。

 

 

(疾い! やはり、彼は──)

 

 

アサギが意識が少年から反れた。

 

それは普段の彼女ならあり得ない油断であるが、()()()()()()()()()()が相手であったためにわずかに生じた。

 

けれども、今の少年にはそれで十分だった。

 

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

疾走して急接近した少年は右腕を振るった。

 

右腕には見馴れない形をした()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を持ち、その刀身は()()()()に輝いている。

 

彼女は愛刀である忍者刀──月下真刀──で受けた。

 

それにより直撃は避けたが、放たれた斬撃は想像以上のパワーがあり、アサギは勢い良く吹き飛ばされた。

 

 

「──がはっ!!!!」

 

 

木に叩きつけられたアサギ。

 

肺から強制的に空気が排出されるほどの衝撃で、それは大木に縦に大きくひび割れを走らせた。

 

さらに少年は追撃に出た。

 

勝負は終わらない。

 

一撃を入れなければならないからだ。

 

少年の武器の刀身がシールド側に()()()()()()と、代わりに()()がむき出しになった。

 

常人なら脅威である銃であるが、対魔粒子による身体能力の拡張により対魔忍には銃は遅すぎるために脅威にならない。

 

何しろ弾丸が発射されても回避でき、さらに防御力も上がっており()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

けれども、アサギは本能的に危機感を覚え、横に跳んだ。

 

武器から放たれた ()()()()が、アサギが叩きつけられた木を直撃──粉砕した。

 

威力、速度ともに現存の銃とは比べ物にならない。

 

最も近いのは、米連が開発中のレールガンだろうか。

 

それでもあれほど小型のものが出せる威力では破格だ。

 

少年は照準を定め、追撃に弾丸を放つ。

 

アサギは術を使わずともスピードは他の対魔忍を上回る。

 

そのため弾丸は当たらない。

 

けれども、彼女の回避コースを読んだ射撃は牽制として十分機能している。

 

この試合において、アサギは術と武器使用制限のハンディキャップを設けてあるため、遠隔攻撃の手段が存在しない。

 

 

(間違いなく、使い馴れてるわね)

 

 

アサギは謎の武器を使う少年を冷静に分析していた。

 

 

(近接と遠距離を使い分ける武器。 厄介極まりないけど、切り替えロスが大きいわね)

 

 

時間にして2秒ほどであるが、超人たちの戦いでは遅い。

 

 

(どっちにしろ接しないといけない。──なら、誘うまでよ)

 

 

アサギは()()()()()()()()との戦いに、自然と口元に笑みを溢していた。

 

罪悪感に心を縛られていた彼女はもうおらず、その動きは加速する。

 

弾丸は精確にアサギを追う。

 

照準してから発砲するまでに無駄はない──それでも当たらない。

 

少年は射撃は無駄と判断し、折り畳んだ刀身を展開する。

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

武器を構えた右腕を突き出し、その剣先を真っ直ぐにアサギに向けた。

 

まるでランスを構えた騎士のように突きの体勢を取る。

 

アサギはそれに応えるように、その場に脚を止めてカウンターに備える。

 

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

 

二人が無言で対峙する。

 

距離にして10m強。

 

あれだけ煩かったギャラリーも二人から放たれる張り詰めた闘気に、自然と黙らされていた。

 

沈黙が場を支配する。

 

1分、5分、10分・・・・実際は数秒しか時間は経っていない。

 

それでも居合わせた者たちは凄まじく長く感じていた。

 

緊張が走る。

 

──次で決まる。

 

誰かの心にそう予感が浮かんだ瞬間、少年は動いた。

 

 

「おおぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

咆哮と同時に駆けた。

 

大地を蹴って爆発的な加速により、瞬時に間合いを零に。

 

空を引き裂く強烈な突きが放たれた。

 

アサギはそれを正面から受ける。

 

驚異的なパワーを秘める一撃に対して、彼女は斬り上げて打点を反らすことにより難なく勢いを殺した。

 

甲高い音が響き、跳ね上げれた少年の武器。

 

 

(とった!)

 

 

彼は()()()()()()()()()()

 

そう思っただろう──少年以外は。

 

 

(なにっ!?)

 

 

アサギは()()()()()()()どころか真っ直ぐに、力強く射ぬいてくる光を宿す瞳を捉えた。

 

それと同時に──悪い予感がした。

 

少年は左手でシールド部から、()()()()()()()()()()()()()()を即座に掴み出す。

 

掴んだ筒の先端からは『光の粒子』が伸びて、瞬時に剣状へと固定された。

 

少年は固定された光の剣を一閃させた。

 

 

「・・・・」

 

 

月下に走った緑の斬撃。

 

続いて舞い上がる鮮血。

 

 

「・・・・」

 

 

時が止まったかのように、二人は動かない。

 

その時、ふいに雲が月を隠し、ばたん、と人が倒れる音がした。

 

どちらが倒れた、とギャラリーが騒ぎだした。

 

それを合図だったかのように、雲が晴れて美しい月光が二人を照らす。

 

 

「「「「・・・・」」」」

 

 

ギャラリーは目を凝らして見た。

 

そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、()()()()()()()()()()()()が存在した。

 

アサギの状況からして少年が一刀を浴びせたことは明白であり少年の勝ちということになるが、同時にアサギの勝利条件である少年を戦闘不能に追い込むということも達成していた。

 

勝負の結果は──少年の勝ちで終わる。

 

引き分けとなればそれは戦った両者はどちらも望んだものを手に入れられず、老人たちの都合の良い展開になる。

 

アサギは老人たちが茶々を入れる前に、あっさりと敗けを認めた。

 

彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、この時に予感があった。

 

少年がこの先、対魔忍、ひいては自らの大きな力となるであろうと。

 

ここで少年が宗主を務める『ふうま』の取潰しを認めさせるのは、大いなる損失であると。

 

アサギもまたこの戦いにおいて、変化が生じていた。

 

自らの『個』としてよりも、『長』としての視点・思考を持つに至っていた。

 

アサギは血に汚れることも厭わず、倒れた少年を抱き抱えた。

 

 

(見事よ、()()()()()くん )

 

 

彼女の口元には、自然と笑みが浮かんでいた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3年前──
第1話「天使の再臨と傷付いた執事 Ⅰフェーズ」


お気に入り登録ありがとうございました 

18件もあるとはビックリでした(笑)

励みに頑張ります!

久しぶりにダブルオーのドラマCDを聞いたら、思わず吹いちゃいました(笑)

いつかあのノリを書きたいですね^_^


ふうま刹那が井河アサギと戦って2年の時が経過した。

 

その間に、刹那を取り巻く環境は大きく変わっていた。

 

アサギに勝利した事によりふうま家の取潰しの話が消え、名実ともに『当主』として認められた。

 

それに合わせて──『アサギに勝利したのだから対魔忍として任務遂行は可能である』、と最年少対魔忍としてわずか12歳にして実践任務に着くことになった。

 

それは老人たちの策略であったが、刹那は拒否することはなかった。

 

それを良いことに老人たちはあわよくば亡き者にしてやろうと、上級対魔忍でも危険な任務に着かせようとしていたが、良識ある1部の大人たちや()()()()()()()となったアサギの猛反発を受けて回避された。

 

危険度は下がった。

 

それでも任務で命の危険があるのは変わらない。

 

刹那は与えられた任務を次々に完了していった。

 

その任務は対象抹殺や情報収集、護衛等の様々。

 

任務において、また個人でも、集団においても刹那の有能さは際立った。

 

刹那より歳上である若手対魔忍たちと比べると、任務達成確率95.89%というのは驚異的な数字である。

皮肉なことに老人たちの策略は刹那を追い詰めるどころの話ではなく、真逆の効果を生み出した。

 

実戦による刹那の急速な成長、底辺だっだ評価が鰻登りする手助けを果たした。

 

まさに策士策に溺れる、である。

 

これは刹那は魔力の亜種である対魔粒子と同じく、魔力の亜種である『GN粒子』を使用できるようになっていたことが大きい。

 

アサギとの戦いの中で、()()()()()()()()()()()()()()()()のだが、()()()使()()()()()()()()()()()()()()

 

そのため未だに刹那を『目抜け』として嘲る者たちもいるが、以前のように彼に堂々と言える者は大人や子供を含めても極一部となり、陰口が主になっていた。

 

表面上ではいくら強がろうとも、今まで刹那を本気で嘲ていた者たちはほとんどが()()を抱いているのだ。

 

今までGN粒子による身体能力拡張が無かったにも関わらず上位に食い込んでいた刹那が、GN粒子を扱えることになったことにより()()()()()()()()にまで成長している。

 

力の差は以前とは比べ物にならない。

 

愚かな彼らでもそれははっきりと理解できており、故に恐怖を抱くのだ。

 

即ち──いつ()()()()()のか、と。

 

深刻に考えるのは今の対魔忍たちの割りと多くは、『力ある者は裏では好き勝手に出来る』という歪んだ考えを持っているためである。

 

それは老人たちの影響が大きく、そう教え込んできたのだ──態度で、時に行動で。

 

また、対魔忍の術で戦闘向きの者が『戦闘特化』する傾向にあるのも老害からである。

 

──選ばれし、優れし者が対魔忍である!! 我らは弱者を庇護しなければならぬ! この選ばれし者だけが使える特別な『力』を持って『悪』を殲滅せよ!!

 

()()()()()()は入学式でそう声高らかに叫んだように、『力』を過信しすぎた『ゴリ押し主義』が横行している。

 

その点、()()()()老人たちから見棄てられていた刹那にそんな考えは無く、直接戦闘だけでなく様々な任務に役立つ用に知識も蓄えていた。

 

何よりも、彼の執事であり、時に師である義姉──『ふうま時子』がオールマイティーな対魔忍であることが彼が『戦闘特化型』の対魔忍にならなかった大きな要因である。

 

 

「・・・・お館様、何をなさっているんですか?」

 

 

昼。

 

ふうまの屋敷。

 

お館様──ふうま刹那──の姿に、仕える執事──ふうま時子──は今日も頭を抱えてきた。

 

時子は真面目な性格である──自分にも厳しく、他人にも厳しい女性である。

 

才能に溢れ、訓練も勉学も優秀で、小中高一貫教育である『五車学園』での学生時代には常に()()であった。

 

ファンクラブも存在していたが、学生時代はその性格故に、異性と付き合ったことも、浮わついた噂さえでなかった。

 

文武両道でさらに飛び抜けた美少女であった時子は、男には近寄りがたい存在で、女には憧れられた『お姉さま』であった。

 

それはともかく──

 

彼女はその性格故に、主である刹那にも嫌われるのを承知で()()()()()()()()()()接している。

 

学業をサボったり、自堕落な生活を送ろうとするものなら()()()()()()()()のは間違いない。

 

けれどもその手の問題で時子が刹那を叱ったことはここ数年はまったくない。

 

彼女が頭を悩ますのは、その()()のことである。

 

「・・・・・・・・」

 

 

刹那は無言。

 

否、()()彼には時子の声は聞こえていない。

 

それを彼女も気がついている。

 

だからこそ、彼女は()()()大きな声を出した。

 

 

「お館様!!」

 

「・・・・ああ、時子か」

 

「ああ、ではありません!! 今日は()()()するように私は言いましたよね!? 」

 

 

「すまない」

 

 

時子の一喝に、刹那は素直に謝った。

 

 

「・・・・どうか、ご自愛して下さい。 任務で負った傷が癒えない状態で、修練に励まれても何の身にも成りませんよ」

 

 

先日、任務を達成して帰って来た刹那。

 

報告書も同日に提出し、今日から学生として五車学園に通う予定だった。

 

しかし任務で受けた傷を心配した時子が、学園に連絡を入れて3日は休みを取るように手配していた。

 

時子は午前中、買い物で屋敷を離れていた。

 

その隙に刹那は休むどころか、鍛練をこなしていたのだ。

 

刹那は基本的に『休む』ことができない少年だ。

 

誰かが見ておかないと、すぐに()()()()()をやる。

 

時子は、まさか()()()()()()()させなければならない事態になるとは思いもしなかった。

 

「・・・・そうだな」

 

 

刹那はアサギとの戦いで始めて使用した武器──ソードとライフル、小型シールドが組み合わされた──GNソードを霧散させた。

 

GNソードは()()()()()()()()()()()されており、剣も、ライフルもGN粒子の密度を変化させることにより、威力を調整できる。

 

さらに二基のGNビームサーベル、GNダガーをシールド内に搭載している。

 

何よりGNソードは、刹那の意思次第で顕現・霧散が可能であるために利便性が非常に高い。

 

便宜的に、刹那は忍術──『武装展開』を使用できることになっている。

(はぁ・・・・)

 

 

時子はもう何度このやり取りをやっただろうと、ため息を着いた。

 

刹那は生来努力家であった。

 

努力により覆せない差があったとき──能力覚醒前──も努力を欠かさなかった。

 

特に戦闘訓練では『命を削る』、までに至ってしまったのはアサギとの戦いの後であった。

 

時子も学生時代から努力家として知られていたが、その彼女をもってしても刹那はやり過ぎていた。

 

 

(・・・・また、見てないところでは無理をするんでしょうね)

 

 

時子はあまり効果がないと知りつつも諫めることは止めない。

 

止めてしまえば刹那はさらに無理をやる。

 

限界点を越えさせない最後の防波堤となっていることを時子は理解していた。

 

 

「やあ、二人とも」

 

 

何となく重い空気を放っていたところに1人の青年が現れた。

 

浅緑の髪と紫の瞳。

 

深い知性を思わせる、どこか人間離れした秀麗な顔立ち。

 

その青年は──

 

 

「リボンズ・アルマーク・・・・」

 

 

刹那の()()と深く関わる者だった。

 

 

 

 

 

第1話「天使の再臨と傷付いた執事 Ⅰフェーズ」

 

 

 

 

 

ふうま刹那とリボンズ・アルマーク。

 

 

二人の真の関係性を知る者は、この()()()にはいない。

 

二人は約20m前後の人型機動兵器──モビルスーツが存在する世界での前世を持つ者同士であり、敵対して幾多の戦いを繰り広げた。

 

刹那とリボンズは最後の一騎討ちの後、刹那が勝利した。

 

リボンズは刹那に敗れた後、人造生命体『イノベイド』であった彼は、肉体は失ったが量子型演算処理システム『ヴェーダ』に人格データは転送された。

 

その際に、()()()()()()()()()()にて対話した二人は紆余曲折の末に、人類の革新を信じ望んだ世紀の天才──イオリア・シュヘンベルグに選ばれた者同士であることを再認識し、()()した。

 

刹那はリボンズが肉体を再び得て、ソレスタルビーイングとして『戦争根絶』のために力を貸して欲しいと願ったが、リボンズは断った。

 

 

──僕が犯した罪を考えれば眠っておいた方がいい。

 

 

彼は刹那や他のガンダムマイスターたち、ソレスタルビーイングに未来を託し、贖罪のためにヴェーダにて眠りに着いた。

 

しかしその眠りは長くは続かず、眠りについた2年後に地球が地球外変異性金属体──『ELS』による脅威が迫って来たことにより、ガンダムマイスターでイノベイドであった『ティエリア・アーデ』の説得で再び肉体を得て、()()()()()()()()()()()()()としてソレスタルビーイングで改良された──『リボーンズガンダム(リヴァーレ)』で出撃した。

 

人類初の純粋種──イノベイターとして覚醒し、ガンダムマイスターで最も高い技量を持っていた刹那と互角に戦いを繰り広げたリボンズの戦いぶりは凄まじかった。

 

ビーム粒子に呑まれて討たれた者、機体ごと侵食・融合された者、疑似GNドライブを暴走させて特攻した者──数多くの犠牲者を出したが、リボンズの獅子奮闘の働きで死者は3割は減った、と後に地球連邦平和維持軍の『戦術予報士の才女』は報告書を上げている。

 

多くのELSを撃破し、同じく刹那に固執して敵対して和解した地球連邦平和維持軍エースにして、精鋭ソルブレイブス隊隊長──グラハム・エーカーと共に、GNドライブを暴走させて刹那の望む『対話』を実現するために、『未来への水先案内』として散った。

 

リボンズはこの戦いで、()()()()()での終わりを迎えた。

 

ELSの特性──侵食・融合──を考え、自らの人格データのヴェーダに送らなかったのだ。

 

霧散していく意識を感じながら量子空間でリボンズは笑っていた。

 

その満ち足りた笑顔は()()()()()()()()ものだった。

 

 

──あとは任せたよ

 

 

リボンズ・アルマークの名は後世に残された。

 

英雄として。

 

人類支配を目論んでいた事実はヴェーダを利用して徹底的に消され、人類のために命を投げうって戦った英雄とすることで人類とイノベイドの早期相互理解の架け橋とすることを、ソレスタルビーイングや地球連邦平和維持軍の代表は決めたのだった。

 

 

「お前とあの男のおかげで、俺や人類はELS(エルス)とわかり合えた。 ──ありがとう」

 

「ふふふ、僕はただ償いをしたに過ぎない。 礼を受ける立場ではないよ」

 

 

ふうま邸の応接間。

 

刹那は珈琲、リボンズは紅茶を飲みながらの会話だ。

 

二人の間には前世ではあり得ない、穏やかな空気が流れていた。

 

 

「さて、僕たちの姿形が前世(むかし)と似ているけど、過去の話はこれぐらいにしよう」

 

 

ちなみに刹那は前世では浅黒い肌だったが、今世では東洋人の父と母であるため肌は褐色であるが、容姿は全世とほとんど変わりない。

 

 

「そうだな。──では本題に入ってくれ」

 

 

リボンズは紅茶をテーブルに置く。

 

 

「君は、ふうま刹那ではなく・・・・()()()()()()()()()として戦う気はあるかい?」

 

 

前世で所属していた『私設武装組織ソレスタルビーイング』でのコードネームを出してきたことから、リボンズの意図を刹那は瞬時に理解した。

 

 

「・・・・」

 

 

ソレスタルビーイングはイオリアが創設した。

 

その目的は──武力介入を発端とすることによって世界の統合を促し、人類の意思を統一させ、争いの火種を抱えたままに外宇宙へ進出することを阻止、いずれ巡り合うであろう()()()()()()に備え、人類を変革させるためであった。

 

前世での刹那は中東のテロ組織に少年兵として育てられて悲惨な経験をし、間接的ではあったがリボンズの搭乗する『Oガンダム』に死にかけていたところを助けられた。

 

祈り続けても何も助けてくれなかった神を呪い、信仰を捨てた刹那を助けたのは『ガンダム』であり、助けられた時の記憶を彼は生涯忘れなかった。

 

それが刹那の行動原理であり、あらゆる困難に打ち勝った強靭な精神を育み、ELSとの対話を実現させた要因だった。

 

 

「・・・・記憶を取り戻し、GN粒子を感じれるようになってから考えていた。 だが──」

 

「前世よりその思いが弱くなってる」

 

「・・・・その通りだ」

 

「それは当然だよ。 武力による戦争根絶──人類の歴史から考えて不可能であり、一般的にはそんな考えはしない。 さらに武力により武力を消すという矛盾を孕んでも戦争根絶をやろうと思えるのは、戦争やテロ等による()()()()()があってこそだ。 君は対魔忍となるべく一般人より厳しく育てられたが、()()()()()()()()ではなかったようだしね」

 

 

刹那の戸惑いを予想していたリボンズ。

 

わずかな沈黙の後、刹那は言った。

 

 

「だが、俺には戦うことしか出来ない。この世界には()()()()()が存在する。 その歪みはただ穏やかに生きようとする者を貪り、身勝手なエゴイズムを剥き出しにする邪道を生きる者を豊かにする。 ──それは許されない」

 

「それは君のエゴではないのかい?」

 

「構わない。 俺は──歪みを破壊する。 人とは違う『力』を持った者の責任だ」

 

『特別な力』を望んでいなかったかもしれない。

 

しかし、その力を放棄しようとは刹那は1度も思わなかった。

 

普通とは()()()()を許容している──ならば自身が歩む道が平坦であるはずがない。

 

 

「そうか。なら、僕もその『破壊』を手伝わせてくれ。 イノベイドではなく、1人の人間──リボンズ・アルマークとして」

「・・・・いいのか?」

 

「ああ、それは僕の()()でもあるからね」

 

 

二人はGN粒子を制御を出来る── 純 粋 種 (イノベイター)である。

 

完全な覚醒には至っていないために、前世より制御できるGN粒子量は減り、『脳量子波』による意志疎通能力を使いこなせてはいない。

 

それでも刹那は()()()に、リボンズの言葉に裏が無いことを理解していた。

 

「わかった」

 

 

リボンズは穏やかに微笑むと、さらに刹那に言った。

 

この世界においてヴェーダはまだ完成度2割程度であるが、現行のあらゆる演算システムを越える性能を持ち、軌道衛星に擬態して存在していること。

 

ヴェーダのおかげで、作戦行動はかなり優位に立てるということ。

 

さらに資金面では、リボンズの使える資金は莫大であるということ。

 

「この際だから語っておくけど、何も僕は理由もなくこの世界で戦いを選んだ訳ではないよ」

 

 

リボンズは自身の過去を語った。

 

リボンズは欧州のとある資産家の家に生まれた。

 

優しい両親や友達に囲まれ、何不自由なく生きてきた。

 

──12歳までは。

 

リボンズは文武両道で飛び級で大学生になっており、実家から離れた大学に通うために下宿先を借りて通っていた。

 

多忙な両親は卒業式には予定が合わせられず、翌日にお祝いのディナーを家族3人で行くことになっていた。

 

同級生や教師たちとの賑やかな卒業式を終え、3時間かけて帰って来た。

 

そこで彼は──()()を見た。

 

帰った実家の門が、()()()()()が無理やり体当たりして壊れた残骸となっていた。

 

いつも迎えてくれる使用人もおらず、()()()()()が庭や屋敷から漂ってくる。

 

まるで壊れた人形のように全身がバラバラにされた父、上半身が無くなっていたが明らかに下半身には凌辱された後の残った母。

屋敷で働いていた使用人たちの亡骸も間ともなモノは無かった。

 

リボンズは自身に起きた悲劇に精神が追い付かず、その場で気絶した。

 

否──現実を受け入れられずに、()()()()()()()()()()は死んだ。

 

そして──()()()()()()()()()()が宿ったのだ。

 

現状を理解したリボンズは犯人たちを特定するための調査と同時に、イノベイターとして覚醒した自身の力を鍛えた。

 

──復讐するために。

 

その犯人はわずか1ヶ月でわかった。

 

父を邪魔に思ったある男が『魔』の犯罪組織と繋がりがあり、そこに依頼してリボンズの家族を奪ったのだ。

 

犯罪組織はリボンズを相手にするには力が足りず、1日とかからずに組織は壊滅した。

 

その際には、依頼した男も合わせて処分した。

復讐を果たしたリボンズは大学院生として学校に通うことはなく、身分を捨てて『世界の歪み』により不幸になった者たちのために戦うことを決意した。

 

ヴェーダの製作と平行して、来るべき時のための人材・資金確保に奔走した。

 

その過程で刹那を見つけ、イノベイターとして覚醒するのを待ったということだった。

 

「1ヶ月前、あの喫茶店で再会したのはやはり偶然ではなかったか」

 

「そうだね。 君を見つけられたのはちょうど2年前だよ」

 

「井河アサギと戦った時だな」

 

「まあね。 正確には戦う前の1週間前だけどね。 もっと早く接触しようとは思っていたけど、君の説得には()()が必要だと思ったのさ。 結果として必要なかったけどね」

 

「準備?」

 

「ふふふ」

 

リボンズは含みを持たせたように笑った。

 

 

「・・・・まさかっ!!」

 

 

刹那はリボンズの言わんとしていることに思い当たった。

 

 

「案内するよ。そう君の、君だけのための──」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話「天使の再臨と傷付いた執事 Ⅱフェーズ」

お久しぶりです!


大小様々な木々が生い茂る五車の山中。

 

対魔忍たちの訓練の場であり、また外敵からの防御ために様々な罠が仕掛けられている。

 

 

「──追えっ!! ()()はそう遠くには行っていないぞ!!」

()()()()には死の鉄槌を!!」

 

 

複雑の対魔忍が、獲物を求めて動き回っていた。

 

 

(裏切り者は、貴様らの方だろうがっ!!)

 

 

対魔忍スーツを着たクールな雰囲気の美女──ふうま天音は、酷く負傷しており、普段の敏捷さは影を潜めている。

 

天音はふうま宗家に近い親戚──分家──の生まれである。

 

高過ぎる戦闘能力は親や周囲から恐れられており、幼いころから戦場に駆り出されて苛烈な幼少期を過ごした。

 

その才能に惚れ込んだ弾正に育てられ、執事として仕えていたが弾正の死後は、彼の意思を継いで五車と敵対行動を取っている。

 

 

「居たぞ!!」

 

「殺せっ!!」

 

「ちっ!」

 

 

追っ手に見付かった天音は、対魔粒子を纏わせたクナイを放つ。

 

それは銃よりも疾い速度で飛翔する。

 

さらに、その狙いは精確で──二人の敵の喉元を喰い破る。

 

 

「「──!!!?」」

 

 

敵は悲鳴を上げる事もなく絶命した。

 

 

「覚悟っ!!」

 

「死ねぇぇぇっ!!」

 

 

左右から二人の襲撃。

 

天音は慌てることなく、対魔粒子を脚に()()()()()纏う。

 

 

「ふうま体術・風鳴り」

 

 

──ふうま体術

 

対魔粒子を効率的に運用し、長期戦を想定した体術である。

 

ふうま一族のほとんどが何らかの『邪眼』を有している。

 

邪眼は強力故に、基本的に対魔粒子が普通の忍術より消費が激しい。

 

対魔粒子の保有量は時間の経過で回復するが、対魔粒子を使う度に体力や精神力が削られる。

 

そのため消耗の激しい邪眼の連続使用は難しく、弱点をカバーするために生まれたのがふうま体術である。

 

──ちなみに、無意識レベルの身体能力拡張程度では、消耗と回復で釣り合うために常時対魔粒子を使っていても何ら問題ない。

 

 

「「・・・・???」」

 

 

天野の鋭い蹴りはまさに鋭利な刃物の如く。

 

── 一閃、二閃。

 

切断面から血が勢い良く、留めなく吹き出して血雨を降らせる。

 

襲撃者は首と胴体を切り離され、痛みを感じる間もなく絶命したのだろう。

 

その証拠に苦痛ではなく、呆けた表情をした生首が転がっていた。

 

 

 

 

 

 

第2話「天使の再臨と傷付いた執事 Ⅱフェーズ」

 

 

 

 

 

 

天音は傷付いた身体にムチを打ちながら、()()()に向かって進む。

 

 

「・・・・はぁっ・・・・はぁっ・・・・」

 

 

その歩みを悟らせないようにカモフラージュして来たため、身体にかかる負荷がさらに増したが、敵を撒くには仕方ないことだ。

 

天音は息を切らしながらも、五車山中にひっそりと建つ別荘が、遠くにだが視認できる位置までたどり着いた。

 

ふうま弾正が作った別荘は、ふうま一族が集い夢を語り合った秘密の集会場でもあった。

 

今は無人となっているが。

 

 

「・・・・弾、正様・・・・」

 

 

『五車の反乱』で、ふうま弾正を筆頭に()()()()()()()()()()()()()()()()が処断されてから──約10年。

 

反乱で生き残ったふうま一族──ふうま抜け忍衆は、様々な理由で米連──正式名称『アメリカ及び太平洋諸国連邦』──に所属していた。

 

弾生の執事であった天音を中心に、()()()()()()()()()()()()()()()は1人、また1人と減り続け、今では天音を含めても5人しかいなかった。

 

理想を棄てて、私利私欲のために米連に完全に鞍替えしたふうま抜け忍衆に、いい加減愛想を尽かせていた天音たち。

 

だが、()()()()をどう歩んでいけば良いかか意見が割れていた。

 

そんな天音たちに、任務中の負傷により戦闘は出来なくなったものの裏から支援している──佐郷鶴を通して『R』と名乗った者から通信が送られて来た。

 

──ふうま当主(刹那)は君たちを必要としている。 彼のもとで対魔忍としての()()を取り戻すために戦いたい者は戻って来るといい。

 

その際に鶴は何故直接刹那が連絡して来なかったのかと、Rに聞いた。

 

──この状況を利用すればふうま当主を討つ事や捕らえることが可能だよ。 僕は君たちを知らない。 彼に危害が加えられるのは望むところではない。 だから、あえて君たちとは無関係の僕が彼の言葉と合わせて、忠告メッセージを送らせてもらおうと思ってね。

 

──彼が無力なお飾りだけの当主ではない、ということは気づいてもらっていると思う。 井河家には10年前に行方不明になった()()()()()()()の居場所を突き止められないにも関わらず、彼は君たちを()()している。 だから、()()()()()を起こさないでもらいたいね。

 

最後に、とRは付け加えた。

 

──彼は共に歩むことを強制している訳ではない。 むしろ戦う意思が無い者は、一般人として生きて欲しいと願っている。 返答は1週間待つよ。

 

Rからのメッセージを受け、天音たちの意思は決まった。

 

5人は刹那と面会したのちふうま一族に復帰するかを決めたい、との旨を翌日にはRに電子メールで伝えた。

 

その翌日にはRからのメッセージは届いた。

 

──ふうま当主は君達の意思を歓迎するとのことだよ。 合流は1ヶ月後の1200に『別荘』で。 これから送る座標には、当日には()()()()を開けておく。 ここから入ってくれ。

 

1ヶ月後、天音たちは指示された座標から五車山中に入った。

 

普段は五車の対魔忍たちが警備についているが、Rの言った通りに遭遇することなく難なく侵入できた。

 

だが、事はそう簡単にはいかなかった。

 

山中には、米連に完全に寝返ったふうま抜け忍衆が待ち構えていたのだ。

 

状況からしてこちらの動きが読まれていたのだろう、と天音は即座に判断した。

 

仮に刹那が天音たちを罠にかけて始末しようとするなら、いくらでもやり方はある。

 

わざわざ五車に誘い込む必要性は無い。

 

目的は変わらないことをそれぞれ確認し、天音たちはそれぞれ散開した。

 

敵の主の狙いは──天音。

 

それに気がついていた天音は、同志たちの生存率を上げるためにあえて敵を引き付ける役を買ってでた。

 

天音は強襲を受けたときに同志を庇った時に負傷していたが、それを隠して行動していた。

 

 

(・・・・もうあの時には戻れない。 否、これからは──)

 

 

天音は感傷に浸りつつも確実に歩みを進めていく。

 

すると、別荘からは見知った気配を感じることができた。

 

 

「天音様!!」

 

 

佐郷鶴が倒れそうな天音に気が付き、駆け寄って肩を貸した。

 

 

「・・・・大丈夫だったか、鶴」

 

「はい。 お父様を含め、柳さん、梨本さん、河原さんは天音様のおかげで軽傷程度で済んでいます。 皆、別荘周りに偵察に出ています。 今の所、敵は付近に居ないようです。 間もなく約束の時刻になります。 部屋で応急処置をしますので、とりあえず中へ」

 

「・・・・そうだな。 頼む」

 

 

二人が玄関に足を踏み入れ用とした時──

 

 

「──っ!!!!!」

 

 

天音は鶴を中に弾き飛ばした。

 

鶴が尻餅を付くのと同時に、天音に無数のクナイと()()()が襲いかかった。

 

そのクナイは炎や、風、冷気を纏ったモノもあった。

 

 

「天音様っ!!?」

 

「問題ない! 中に隠れていろ!!」

 

 

無数のクナイや鉄の槍は天音に刺さる事なく、ピタリと()()()()()()()()()()()した。

 

邪眼──動転輪。

 

邪眼発動中、体に触れるあらゆる物体の運動エネルギーを奪い取って零にする。

 

刃や銃弾が襲ってきても、彼女の肌に触れたとたんに掠り傷一つ与えずに停止してしまう。

 

さらに、その運動エネルギーを身体に蓄積し、自らの力として利用することができる。

 

かなり強力な攻守揃った邪眼であるが、無論無敵とはいかない。

 

吸収できるエネルギー量に限りがあるし、発動中の対魔粒子の消費量も少なく無いのだ。

 

 

「ひょひょひょ。 さすがは弾正の執事ということかのう。 しぶといわい」

 

 

草木の間から杖を付いた小柄な老人が、部下の忍たちを連れて現れた。

 

 

「卍鉄っ!! 腐りきった貴様が弾正様の名を口にするな!!!」

 

 

鉄 華 院 卍 鉄(てっかいんばんてつ)

 

ふうま抜け忍衆の頭目。

 

元二車家──ふうま一族の主要家系──の幹部にして弾正の側近であった邪眼使いの老人である。

 

卍鉄は、視界範囲の金属を自在に変化させる──邪眼『天津麻羅』を持つ。

 

その使い方は、大きく分けて2つ。

 

己の所有する()()()()()を鞭のようにしならせ、或は伸縮自在の槍のようにして使用する。

 

そしてもう1つ。

 

戦場においてクナイやナイフ、刀、槍、防具や通信機器、車両──敵の持つそれら全ての金属が卍鉄の武器となる。

 

敵を倒すはずの武器が変形して自らを襲い、身を守る防具が逆に自らを圧殺する凶器に変わる。

 

卍鉄が、身体に金属を埋め込んだ者──『サイボーグの天敵』と呼ばれる由縁であった。

 

 

「天音よ、お主は若いくせに考えが古い、古いのう。 いつまでも死んだ者に忠義だの、恩だのと。 ──それに、弾正の義理はあの無謀な反乱に加勢したことで果たしとるわい」

 

「加勢っ!? ふざけるな!! 貴様は我が身可愛さに()()()()()()()()()()()()()外道がっ!!!」

 

 

弾正は邪眼使いの肉体を強制的に支配できる邪眼──『傲眼』を持っていた。

 

強力だが、邪眼使い意外には効力を発揮しない忍法である。

 

けれども桁外れの量の対魔粒子を扱えた弾正はふうま体術と我流の剣が合わさって戦闘力は、アサギの父にして当時最強の対魔忍と言われた──『井河豪鬼』と同等と言われていた。

 

そんな弾正や側近の猛者たちが豪鬼たちに()()()()()()()()()()()()()()()は、実に昼夜を問わず10回を越える奇襲を受けたことにより大きく消耗していたことにあった。

 

 

「ひょひょひょひょ♪ よう、気づいたのう。 弾正の邪眼はワシらのような邪眼持ちには人溜まりもないからのう。 井河の者たちとの取引が成立しても、万が一にも逃げ延びられてはたまらん」

 

「・・・・っ!!!!」

 

 

天音は殺気の籠った瞳で睨み付ける。

 

けれども卍鉄の実に愉快そうな、嘲けきった笑みは変わらない。

 

「じゃから念入りに弾正とそれに従う阿呆共は弱ってもらったよなあ。 天音よ、()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃろう♪」

 

 

天音は思い出した。

 

弾正や多くの仲間の最後の時。

 

皆は身体はボロボロだったが、闘志はまったく衰えなかった。

 

──次に杯を交わすのは勝利の祝杯を上げる時だ。

 

弾正の力強い言葉と共に()()()を飲み干し、井河の者たちとの決戦に挑んだ。

 

その最中──敵との交戦時に()()()()()()、左腕が使い物にならなくなるほどの大怪我を受け、井河の者に捕縛されてしまった。

 

そのせいで弾正が討ち取られるのを黙って見ることしか出来ず、盾になって死ぬことも出来なかった。

 

 

「卍鉄ううううぅぅぅぅっっ!!!!!」

 

 

天音は自らの怒りにより冷静さを失った。

 

卍鉄の邪眼ことが、すっぽりと頭から抜け落ちていた。

 

ただ、ただ憎んでも憎みきらない怨敵を殺す事だけに思考が走る。

 

だから──自らの()()()()()()()()()()()()()()を向けた。

 

掌に取り付けられたエネルギー射出孔が輝き、今まで動転輪により溜められてきたエネルギーが強大な対魔粒子ビーム砲となり射出されようとしていた。

 

直撃すれば上級魔族でさえ消し飛ばす威力があり、簡単に自らを消し炭に変える知る攻撃を前に忍たちは焦りが見える。

 

しかし卍鉄は余裕の笑みを消さない。

 

 

「邪眼・動転輪!!」

 

 

天音が術を発動させた。

 

射出孔から周囲を焼き焦がすほどの狂暴な輝きが暴れ出る。

 

その瞬間こそ──卍鉄が()()()()()()だった。

 

 

「邪眼・天津麻羅」

 

 

ニヤリ、と嗤い卍鉄が術を発動させた。

 

 

「ぐああああああああああぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

激しい閃光と衝撃波、さらに爆音が走り、辺り一面に土煙が巻き上がる。

 

土煙が収まり、視界が晴れる。

 

無傷の卍鉄の視界の先には、別荘の壁に叩きつけられて重症を負った天音の姿があった。

 

天音の左腕は木っ端微塵に吹き飛び、サイボーグアームを形成していた金属たちが彼女の身体の隅々に突き刺ささり、命の危機にさらしている。

 

 

「ひょひょひょひょ。 ()()()()()()()()()()()のう。 殺すつもりが手元が狂うてしまったわい」

 

 

卍鉄はわざとらしく肩をすくめた。

 

 

「本来は()()()()()()()()調()()()()()()ものじゃ」

 

 

卍鉄は唐突に、愉快そうに語りだした。

 

 

「対魔忍はサイボーグ手術を施し、さらに対魔粒子で能力拡張した方が戦闘力は高いわい。 じゃが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ために武器の威力上昇程度の無理とは比べ物にならないほどに対魔粒子の消耗が激しいわい。 平均して3分程しか持たんじゃろうな。 それではとても使い物にはならん。 それならば少々戦闘力は落ちようとも、生身で対魔粒子による身体能力拡張の方が戦闘継続時間も断然長く、総合力は比べようもなく高いのう。──これが対魔忍が怪我以外で積極的にサイボーグ手術を行わない理由じゃな」

 

だが──何事もに()()はある。

 

 

「じゃが、お主や佐郷のように金属との相性の良い者も居る。それはワシにとっては非常に喜ばしくないことじゃが」

 

 

邪眼・天津麻羅は現代戦においてかなり使い勝手が良く強力であるものの、干渉系邪眼の弱点とされる()()()()()()()()()()()()を持つ。

 

つまり──接触している状態ならともかく、非接触時には金属に対魔粒子が纏った状態なら金属変化を起こせないのだ。

 

相手が卍鉄の邪眼を知らない状態なら、対魔粒子や魔力による金属防護をしていないのであっという間に瞬殺される。

 

けれども、天音は卍鉄の邪眼は当然知っている。

 

だからこそ左腕に対魔粒子を纏わせることを忘れず、卍鉄に術を使わせる隙を与えなかった。

 

だが──卍鉄は自らの術の対策をされているのは百も承知であるからこそ、部下に攻撃をさせて天音に動転輪によるエネルギーを蓄えさせ、さらに冷静さを忘れさせるように昔話をし、()()()()()()動転輪による対魔粒子ビーム砲を放たさせ、発射する瞬間に射出孔を金属変化させて塞ぎ、彼女の自爆を誘発したのだ。

これは卍鉄も天音の邪眼を理解しているからこそ、最大の弱点──対魔粒子ビーム砲の発射する瞬間に、動転輪の守りが途切れて、対魔粒子がビーム砲に持っていかれてるということ──を利用した戦術であった。

 

「まあ、何にしろお主はワシには及ばんかった、ということじゃよ」

 

卍鉄は天音が辛うじて意識を繋いでいるだけで精一杯であることを看過していた。

 

だから無駄に話をする余裕を見せる。

 

 

「さて、と。 お主には散々ワシの部下が殺られたからのう。 ただ殺しては面白くもないわい」

 

下卑た笑みを浮かべる卍鉄。

 

天音はせめて鶴だけでも逃がす、と考えを巡らせた。

 

彼女の思い付いた方法はただ一つ。

 

先ほどの膨大なエネルギーの爆発を受けても彼女が()()()()()()()理由である──動転輪を使うこと。

 

射出孔が完全に破壊された今、破壊前のような威力は望めない。

 

けれども、エネルギー消費のキャパシティーを超えた最大値のエネルギー量は体内に保有している。

 

両腕が使えないために照準は全く出来ないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──自爆──は可能である。

 

鶴は幸いにして、別荘内に居たために爆風で煽られて気絶しただけのようだ。

 

これならば自爆しても別荘が盾となり鶴を守り、たとえ敵を一掃出来なくても時間稼ぎは可能だろう。

 

(・・・・動転輪の発動で佐郷は異変に気が付いたはずだ。 奴らならば手負いの卍鉄に遅れは取らない・・・・)

 

 

天音は辛うじて動く頭を動かし、小さく首を振った。

 

 

(弾正様・・・・間もなくそちらに私も行きます。 言い付けを果たすことなく朽ちるのをお許し下さい・・・・)

 

 

天音は覚悟を決めた。

 

 

「身体をしっかり治して、今後はワシらのために奴隷として、佐郷の娘と合わせて飼ってやろうかのう。 ひょひょひょひょひょ♪ ──捕まえてこい」

 

 

卍鉄の命令で忍たちが一斉に動いた。

 

 

「・・・・ともに朽ちろ・・・・」

 

 

呟いた天音の瞳から闘志は消えていない。

 

それに不穏な空気を感じた卍鉄は、即座に命令を変更した。

 

 

「殺せ!! 其奴は何か企んでおる!!!」

 

「「「「「──っ!!!!!??」」」」」

 

「今さら遅いっ!! 邪眼・動転──」

 

 

天音が術を発動しようとした瞬間──幾つもの眩い()()()が天音と忍たちの間に降り注いだ。

 

その光は容赦なく地表を食い破り、幾つもの深いクレーターを生み出した。

 

直撃すれば骨も残らない破壊の光に、忍たちはゾッとしている。

 

これが天音の攻撃で無いことは、彼女が驚愕の表情で()()()()()()()()ことで証明されている。

 

天音や卍鉄、忍たちが見上げた空から、緑の光の粒子を放出しながら、()()は天音を守るかのように彼女を背にして舞い降りた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話「天使の再臨と傷付いた執事 Ⅲフェーズ」  

天音たちとの会合の1ヶ月前。

 

刹那は五車学園にあるシュミレータ室に来てきた。

 

予め使用許可は取っているものの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ため、リボンズの協力の元に映像データは書き換えられている。

 

多少のリスクはあるが、人目に付かないことを優先するならば、このシミュレータ室は格好の場所であった。

 

 

『シミュレータを起動するよ。 設定はAランクで行こう』

 

「了解」

 

 

リボンズにそう返すと、

 

「「「目標確認。目標確認」」」

 

 

刹那の目の前には、米連の()()()()()()()となる──『ジン』の実体を伴うホログラムの3機出現した。

 

ジンは人型で、単眼(モノアイ)式の頭部メインカメラを持ち、後頭部のトサカ型通信アンテナやバックパックの羽型スラスターを持つ。

 

高性能バッテリー式駆動を採用し、さらに短時間なら飛行も可能である。

 

機体も高性能ながら、装着者も遺伝子組換え技術により生まれた高い身体能力を持つ兵士──『コーディネーター』に設定されており、並の対魔忍ならば1人で対応するのは難しいだろう。

 

それでも刹那の心は全く動揺は無い。

 

このシミュレータは致死量の傷を負う場合に強制終了となるが、実際に傷を負うし、100%の安全が確保されている訳ではない。

 

現に死亡者も出している。

 

「敵、米連外骨格3機」

 

刹那は改めてジンを見た。

 

彼の知る前世の機体──モビルスーツ──に酷似している。

 

彼が思ったのはただそれだけだ。

性能は知っている。

それでも驚異は感じない。

 

何故ならここには──

 

 

「俺と()()がいる」

 

 

刹那は自らの()()()()()()()()()()()に向けて言った。

 

小さな蒼の宝石が装飾されているシルバーの指輪。

 

先ほどリボンズに渡された、この指輪はただの指輪ではない。

 

この世界より数段上の技術があった前世の科学技術と、前世に無かった技術──魔界技術を融合して造られた物だ。

リボンズには特別な指輪とだけしか説明されていなかったが、受け取った瞬間に刹那は()()()()()

 

それは──刹那の魂に強く訴えてくる。

 

──共に戦いたい、と。

 

刹那はこの指輪の、その()()姿()を誰よりも追い求め、強い想いを抱いている。

 

だから彼はその想いを爆発させたかのように、普段のクールな印象の刹那から想像がまったくつかない──強く、熱い咆哮を上げた。

 

 

「応えてくれ、()()()()!!!」

 

 

刹那の声に応えるかの如く、指輪は彼のGN粒子を受けた宝石が強い光を発した。

 

その光は刹那を包み込む。

 

それも一瞬であり、光は直ぐに収まった。

 

するとそこには刹那の姿は無く、変わりに──人に似て人成らざる機械の戦士──全身装甲型外 骨 格 (パワードスーツ)が存在した。

 

全高2mほどの人間に近い形状。

 

頭部は円く、額にはブーメラン形の飾り、2つの碧眼、青と白のカラーリングのボディ、右腕にはGNソード。

 

最も特徴的なのは背部に装備され、まるで独楽のような丸みを帯びた円錐型の推進機関──『GNドライブ』である。

 

それは──刹那の前世である別世界、西暦2300年代に存在した最強のMS──ガンダムの第三世代機の内の1機である『ガンダムエクシア』であった。

 

外骨格サイズである事を除けば、それはエクシアそのものである。

 

『刹那、装着具合はどうかな』

 

「問題はない」

 

 

刹那がエクシアを装着したのは、今回が初めて。

 

モビルスーツの操縦とはまったく違う、外骨格を装着しての挙動にも刹那は戸惑うことは無い。

 

まるで長年装着していたかのように違和感が無い。

 

外骨格ではGNドライブを思考制御することも、刹那は()()()に理解している。

 

それを分かっているのか、リボンズは特に刹那に説明することは無い。

 

 

『ジンを稼働させるよ。 試運転だ。 先ずは1機ずつ──』

 

「3機同時で構わない」

 

『ふっ、そうだね。 それじゃあ、行くよ』

 

「エクシア、目標を駆逐する」

 

 

 

 

 

第3話「天使の再臨と傷付いた執事 Ⅲフェーズ」

 

 

 

 

 

 

結果、模擬戦は1分と持たずに終了した。

 

近接戦闘を仕掛けた1機と2機目──GNソードにてそれぞれ一刀両断。

 

アサルトライフルで射撃してきた3機目──GNソード・ライフルモードのGN圧縮粒子弾に撃ち貫かれて爆散。

 

ジン3機大破に比べ、エクシアはかすり傷さえ負わない無傷での完全勝利。

 

『もの足りないかもしれないが今日は止めておこう。 長い時間使用していると目を引いてしまうからね』

 

「ああ」

 

刹那はリボンズの提案に従った。

 

刹那がGN粒子の精製を止めると、自然とエクシアの装甲は身体から分離され、指輪の状態に戻った。

 

それから二人はシミュレータ室を出ると、再びふうま邸に戻った。

 

そこには五車学園で教員をしている時子も帰宅していた。

 

刹那の希望もあって時子も同席し、リボンズと3人で応接間にて話をしていた。

 

 

「──つまり、お館様とアルマークさんは()()()()()があり、しかもお二人は仲間として戦っていたんですね」

 

「ああ。 彼のおかげで俺たちは、人類はELSとの対話に成功できた」

 

「前世の僕は誉められたような事をした覚えはないけどね。 罪滅ぼし、が1番しっくり来ると思うけど」

 

 

()()()()()m()()()()()()()()()()()()()()や軌道エレベーター、量子演算型処理システム『ヴェーダ』、私設武装組織『ソレスタルビーイング』、独立治安維持部隊『アロウズ』等が存在する西()()()()()()()()()の話は、さすがの時子も直ぐには信じれなかった。

 

けれども──2年前のアサギとの戦いにおいて、重傷を負ったにも関わらず、逆に動きが増して刹那が一太刀を浴びせたこと。

 

時子が調査しても、一向に素性を確かめられなかったリボンズ・アルマークのこと。

 

対魔粒子ではなく、GN粒子という力を刹那やリボンズが操れること。

 

それらもあるが、時子が2人の話を信じた決定的な要因は──刹那が『ガンダムエクシア』を、リボンズが『(オー)ガンダム』を目の前で装着した姿を見た時だった。

 

優れた戦士である時子は、ガンダムがただの外骨格ではないことを瞬時に見抜いたのだ。

 

 

「お館様はこれからどうされるおつもりですか?」

 

「俺はガンダムと仲間と共に、この世界に争いや悲しみを広げる存在──『歪み』を破壊する。 その歪みに()()()()()()()()いたとしても、だ」

 

それは刹那の父、弾正と同じく、腐敗した政府と深く関わる対魔忍宗家である井河家と対立しても貫く。

 

刹那の瞳に込められた強い意思の光から、言葉にせずとも時子はその信念を感じ取った。

 

時子はわずかな沈黙後、明瞭な口調で言った。

 

 

「わかりました。 私も微力ながらお館様が定められた使命のお手伝いさせてもらいます。 それがきっと()()()()()()としての道でもあると、確信しましたから」

 

 

下手をすれば一族が滅びるかも知れない選択を、時子は驚くほど短時間で決めた。

 

周りから見れば短絡的思考のように見えるかも知れない。

 

けれども──『真の強き信念』を前にした者は、瞬時に選ぶべき答えを得ることができるのだ。

 

それは自身がそれを前にしなければきっと分からない。

 

たとえこの先、何があろうとも、今日、この瞬間に出した答え──道──を後悔することはない、と時子は確信している。

 

 

(・・・・これが王の器、というものでしょうね)

 

 

その器に惚れ込んで多くの部下に慕われた弾正。

 

例え邪眼を持たず、容姿もあまり似ていない親子であるが、確かに今の刹那には弾正の面影を感じることが出来る。

 

「ありがとう」

 

 

これから来るであろう、熾烈な戦いの日々に投じることになる時子に、刹那は礼だけを言った。

 

懺悔は彼女にしない。

 

それは覚悟を決めて、刹那に着いてきてくれる決断をした彼女を侮辱する行為である。

 

 

「さて、と。 刹那の懸念事項は片付いたね。 それじゃあ、君のガンダムについて説明させてもらっていいかな」

 

「頼む」

 

 

リボンズの語った内容はこうだ。

 

1、刹那に送った指輪について。

 

正式名称はGNリング。

 

この世界においての人から生成されるGN粒子は、人のDNAのようにそれぞれ違う粒子活動パターンが存在している。

空間に存在するGN粒子と混ざってしまうと判別不能だが、生成された直後ならば判別可能である。

 

それを利用して、エクシアならば刹那、Oガンダムならばリボンズだけが、リングから外骨格を展開して装着できる。

 

GNリングはあくまでもリング内に収納しているだけであり、損傷してしまうと自動修復されることはなく、メカニックの力を借りる等して修理しなければならない。

 

2、外骨格『ガンダム』について。

 

操縦方法についての変更は言わずもながら。

 

GNブースターやGNドライブの出力制御は体感してもらった通りに思考制御である。

 

本来ならば馴れるのに時間が掛かるところだが、前世の嫌と言うほどのMS戦闘経験により、既に刹那はマスターしている。

3、オリジナルGNドライブ『太陽炉』とGNドライブ((タウ))『疑似太陽炉』について

 

前世との最大の違いは、オリジナルGNドライブ(以下、GNドライブ)は装着者のGN粒子を受けて駆動させるということ。

 

つまり──装着者から多くのGN粒子を供給されなければGNドライブは始動しない、ということである。

 

そのような欠点があるものの、GNドライブが1度始動してしまえば、供給するGN粒子よりGNドライブで生成される量の方が明らかに多い。

 

そしてGNドライブからのフィードバックがあり、装着者が失ったGN粒子は返還させる。

 

無限機関なのは変わらない、ということだ。

 

一方の疑似GNドライブ(以下、GNドライブ(T))は、専用機器によるGN粒子の蓄積をしなければならないために有限の稼働時間だが、増加精製されるGN粒子量及び出力はGNドライブと同じである。

 

また利点として開発コストや製造時間がGNドライブに比べて圧倒的に少なくて済み、始動方式が外部電力によるもののために()()()()()()()()()()()という最大の利点がある。

 

4、トランザムシステム『TRANS-AM』について

 

機体内部に蓄積されていた高濃度圧縮粒子を全面開放することで、機体の防御力と機動力を向上させ、一定時間スペックを3倍以上に上げることができるGNドライブの、ガンダムの切り札。

 

トランザム状態ではGNドライブからの粒子フィードバックが無くなり、()()()()()()()()()使()()()()()()()()()となる。

つまり──トランザム状態を続ければ、装着者のGN粒子が枯渇して意識障害を起こし、失神してしまう。

 

GNリングがGN粒子を感知出来なくなり、ガンダムの装着も解除されてしまうのだ。

 

たとえトランザムを始動、解除を細かく切り替えて運用しても、急激なGN粒子消費は身体への負担は大きい。

 

そのため、使用の見極めは慎重にしなければならない。

 

「──と、いうところかな。 僕からは以上だけど、何か質問はあるかな?」

 

刹那は「特にない」と、時子も「ありません」、とそれぞれ返した。

 

 

「これから先に起こるであろう、()()()()()()に備えるために提案がある。 まずは資金だけど、これはGN粒子による発電事業を主力にして解決しようと思う」

 

リボンズは発電用大型擬似GNドライブと大型GNコンデンサを組合せることによる、GN粒子を瞬時に電力に変換する特殊素材を使った──表向きはただの太陽光発電所──発電施設を建設する予定であると語った。

 

GNコンデンサにGN粒子を予め蓄積しておけば、GN粒子の補給無く1ヶ月は稼働可能な施設である。

 

「さらに反則技だけど、発電事業で得た資金を利用して、ヴェーダを使って株の売買でさらに資金を増やそうと思う。 ──ガンダムの整備費や()()()()()()()()()()の維持にはどうしても資金はいるからね」

 

 

どうかな、とリボンズは刹那を見た。

 

 

「・・・・異論はない。 前とは違い、俺たちには支援者が存在しない。 それに反則ではあるが、邪道ではない、と俺は思う」

 

「私もお館様と同じ意見です」

 

 

リボンズは頷くと、手元に持っていたタブレットパソコンを操作した。

 

どうやら事前に準備していたようであり、早速事業の着手に取りかかったようだ。

 

 

「では、次に最も問題となって来る仲間の問題だ。 決して裏切る事が無く、例え命を掛ける事になっても僕たちの掲げる使()()を達成する強き心を持っている者たちが必要だよ。──僕の方では4人ほど紹介したい」

 

「俺は、今は五車にはいないが──佐郷文庫、ふうま天音の2人だ」

 

 

刹那の発言に、時子は驚いた。

 

しかし何処かで、彼女はそれを予感していたのだろう。

 

反対意見は出さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そして──天音たちとの会合当日。

 

会合の1時間。

 

リボンズ経由で天音たちに接触し、会合までこぎ着けた刹那。

 

本日は土曜日。

 

彼はふうま邸にて時子と共に、()()()()()()()()()()()のための準備を整えていた。

 

そんな折、刹那のスマホにリボンズから連絡があった。

 

ハッキングしている衛星から送られた画像により、天音たちが敵に襲われていることが発覚した、との連絡を受けた。

 

さらに敵は鉄華院卍鉄が率いていることも情報として知り、刹那は天音たちを援護するべく、エクシアを装着して向かった。

 

高速で飛翔するエクシア。

 

その速度は簡単に戦闘機を超えていた。

 

激しい爆発と爆音により、戦闘場所を簡単に見つけた刹那。

 

空から天音の危機を悟った刹那は、GNソードをライフルモードにして天音と敵たちの間に連射した。

 

GN圧縮粒子ビームは、敵の足留めには十分だった。

 

舞い降りたエクシア。

 

刹那は外部スピーカーをONにすると、機械音声に変声された声で発した。

 

 

「ココカラ引ケ。 オマエタチニ勝チ目ハナイ。 ヒケバ後ハ追ワナイ」

 

 

エクシアからの一方的な物言い。

 

何を、と苛立ちを覚えそうではある。

 

対魔忍には外骨格とは言えども敵では無いからだ。

 

しかし目の前の機体から放たれるプレッシャーは、百戦錬磨の卍鉄でさえ呑み込まれるそうになるほどの強烈さである。

 

優れた彫刻のような美しさと、決して触れてはならぬ圧倒的な力を想像させる──それはまるで機械の身体を持つ『神』のようである。

 

 

(・・・・何じゃ、あれは・・・・?)

 

 

卍鉄はわずかな焦りを覚えた。

 

米連は世界で1番外骨格の技術を持っているが、その米連のデータベース上でも目の前の機体は登録されていなかった。

 

何よりも()()()()()()()()()()ことに焦りを覚えている。

 

見るからに金属の塊であり、普通なら中の装着者共々、鉄と肉の塊に瞬時に変えている。

 

それが出来ないという事は、サイボーグの天敵と称される己を知られているというだろう。

 

「鉄華院卍鉄。 オマエノ事ハモウ調ベテイル、モチロン邪眼ノ事モ」

 

「ひょひょひょ。 ワシの邪眼さえ封じれば勝ったと思うとるのか? 若いのう、お主」

 

 

卍鉄は齢100を越えた老人であるが、脳や邪眼、一部の部位を除けばそのほとんどをサイボーグ化している。

 

さらに対魔粒子との相性も良く、機械化された肉体を対魔粒子で拡張することにより、並の対魔忍では到底及ばない身体能力を維持している。

 

長年の戦闘経験と、磨かれたふうま体術、さらに邪眼により自身の杖は変幻自在の武器に変えられる。

 

それらが卍鉄を()()()()()に導き、正体不明の相手に対する危機感を薄れさせてしまった。

 

逃げの一手を打ちつつ、隙があればエクシアを倒してしまおうと思考を巡らせていた。

 

その考えが甘かった。

 

逃げの一手に徹するならばともかく、余計な考えも持った時点で、勝敗は決していた。

 

エクシアがGNソードを真っ直ぐ卍鉄に向け──

 

 

「目標ヲ駆逐スル」

 

 

光になった。

 

 

 

 

 

 

 

突如、目の前に現れた外骨格。

 

それはあまりにも美しく、そして力強い存在だった。

 

それが卍鉄に刃を向け──

 

 

「目標ヲ駆逐スル」

 

そういい放った瞬間、背部の独楽のような機関から放出されていた緑の光が──爆発的に増えた。

 

それと同時に、それはまるで閃光の如くの加速を見せた。

 

卍鉄と交差。

 

そして──

 

「ぎゃあああああああああああっ!!!?」

 

 

卍鉄の無様な声がし、頭から倒れた。

 

それから遅れること数秒──斬り上げられた卍鉄の右腕が地へと落下し、ゴンっと金属が叩きつけられた音が響いた。

 

 

「「「「「・・・・!!!?」」」」」

 

 

部下の抜け忍たちは、そのあまりの疾さに驚きを隠せない。

 

卍鉄を助けに行く者も、逃げようとする者も居ない。

 

ただ、その場で硬直するだけだ。

 

それは剣を卍鉄に突き付けた。

 

「ワ、ワシが悪かった!! もう手を引くわい!! だ、だから命だけは見逃してくれぇぇぇっ!!」

 

恥も外聞も無く、瞳から涙を流して土下座しながら命乞いをする卍鉄。

 

その余りにも情けない姿に、私の怒りは急激に冷めきっていくのがわかった。

 

それは機械故に温度を宿さない碧眼であるが、まるで興味を失ったように、剣を下げた。

 

それは、卍鉄に背を向けて歩き出した。

 

そして剣の射程外に達した時──

 

 

「甘いわ! 小わっぱがぁっ!!」

 

 

ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた卍鉄が、右腕の近くに落下していた杖を変形させて鉄の槍として、それに強襲した。

 

いや──

 

 

「な、何じゃとっ!?」

 

強襲しようとしたが、出来なかった。

 

何故ならば卍鉄の行動を予測していたかのように、卍鉄が杖を変化させた瞬間には、振り向いて剣と一体化している銃の光弾により杖を破壊したからだ。

 

卍鉄はさっと血の気が引いたような顔で、喚き散らした。

 

 

「お、お前たち! 何をボサッとしておる!!! さっさとワシを守──」

 

「もう終わりだ」

 

「ひょっ? 何じゃ、これは・・・・?」

 

 

卍鉄の喚きが中断された。

 

やつの身体の中心から、赤熱化したサイボーグの()がはえたからだ。

 

「貴様はもはや対魔忍ではない」

 

 

冷たく言い放ったのは、同士である佐郷文庫であった。

 

文庫は鶴の父であり、弾正様の腹心だった。

 

反乱の際に瀕死の重傷を負い、脳と瞳、血液以外をサイボーグ化した対魔忍である。

 

今回の会合があるために合流したが、弾正様の亡き後も、ただ1人で戦い続けた。

 

 

「俺たちの敵は腐った政府と、その犬に成り下がった五車の対魔忍だ。これまでの下衆の行い──あの世で償うがいい」

 

「ぐぎゃああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

卍鉄の頭部が文庫の抜き手により貫かれ、断末魔の悲鳴を上げて朽ちた。

 

終わった。

 

安堵のためか急速に疲労と痛みを自覚し、意識が遠くなっていくのを感じる。

 

私は途切れ行く意識の中、残った抜け忍たちがそれぞれ武器を手放し、投降する姿を意識を失う直前に見た。

 

 

 

 

 




色々と独自設定ぶっ込みまくりました。
自分なりに納得しないと、普通に生身より対魔粒子INサイボーグ対魔忍ライブラリーさんが最強なんじゃねえ、とか思ったので(笑)

うーん、魔族の身体の方が頑丈かなぁ~


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1年前──
第4話「チョリースと鋼鉄と、ハムの人 Ⅰフェーズ」


ドラマCD聞いて、もっともやりたかったネタです(笑)

3月18日
タイトル変更


──2年前。

 

怪我により1週間の間、意識を失っていたふうま天音の回復を待って会合を開き、その場で()()()()()()()()()()()()()()()()()が戻って来たい、との意思を確認した。

 

当初の会合に参加する予定であったふうま天音や佐郷文庫、佐郷鶴たちはそのまま刹那の力になることを望み、卍鉄に付いていた者たちの1部は前線から引きたいとの嘆願を受けた。

 

天音たちはともかく、卍鉄に従っていた抜け忍たちが、刹那に投降した理由はあった。

 

卍鉄を本心から慕っていた者たちは米連に残っている若干数だけであり、対魔忍の里に強襲をかけた今回は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を連れてきていたのだ。

 

だからこその投降である。

 

それらの事情を聞いた刹那は、彼らのそれぞれの願いを全て聞き届ける事とした。

 

その決定を知った時子からは、心配のあまりに苦言を呈していた。

 

 

「御館様。 天音たちはともかく、卍鉄についていた者たちを信用し過ぎではありませんか? もし、米連と繋がった者がいれば寝首を掛かれるかも知れません。 そうなっては──」

 

「駆逐するまでだ」

 

 

刹那がまるで感情を見せずに、ピシャリと断言した。

 

それは反論を許さない、という断固とした意思の現れ。

 

時子はそれ以上は無駄と悟り、話を進めた。

 

 

「問題は・・・・校長、にはどう説明しましょうか」

 

 

五車学園校長は最強の対魔忍にして『炎獄の鉄拳』とも呼ばれる井河豪鬼が務めていたが、弾正との戦いで病状に伏せていた。

 

そのため実質校長不在が永らく続いていた。

 

だから井河アサギが20歳になったのを気に、血筋及び実力共に五車学園の校長として相応しいと、対魔忍幹部会議で就任が決定した。

 

それが1ヶ月前のことだった。

 

 

「手は考えてある」

 

 

刹那は2年前、アサギとの戦い後に目を覚まして彼女から謝罪を受けていた。

 

その折に──出来る範囲ならば何でも願いを聞き届けたい、と彼女から言われていた。

 

しかし刹那は互いに譲れない思いのために戦っていただけであり、謝罪の必要はない、と断った。

 

だが、アサギは一向に引かず。

 

どうしたものかと考えた刹那は、『借り』という形で決着させた。

濁して終わらせるつもりだった刹那であるが、思わない形で『借り』が役に立つことになった。

 

結果──

 

アサギは刹那に借りを返し、()()()()()()()()()()()()を経て天音たちは元の鞘に戻った。

 

反逆という大罪に対して、自宅謹慎というあまりにも軽い罰の裏には、2人の間に()()()()()があった。

 

それは1年後に、果たされることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第4話「チョリースと鋼鉄と、ハムの人 Ⅰフェーズ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑橋学園。

 

関東にある男女共立の新設高校。

 

そこに()()()がやって来ることになっていた。

 

 

「ねえ、亮子聞いた?」

 

 

腰まで伸びる髪に涼しげな顔立ち。

 

学園内でもトップ3の美少女と名高く、さらにグラビアアイドルのような曲線美を合わせて持つ少女──『甲河アスカ』が振り向いて友人に話し掛けていた。

 

その際に──制服を押し上げる乳房が揺れた。

 

それは17という年齢相応の瑞々しさと、年齢からは不相応な大きさを備えていた。

 

「聞いたわよ、スカちゃん~。 転校生は確か~・・・・聖栄(セイエイ)セツナくんだよ~」

 

 

ぽやっとした雰囲気の山本亮子が、のんびりとした口調で言った。

 

 

「前々から思ってたけど、その呼び方・・・・何とかならないの?」

 

「いいじゃない、可愛いんだから~。 ──それよりさあ~、スカちゃんってば、あの石山くんとデートなんだって~?」

 

アスカは石山という名を聞いて、先日デートを申し込んで来た同級生の顔を思い出していた。

 

名前は──『石山拓斗』。

 

そこそこ整った顔立ちのチャラい見た目だが、話術が巧みであるために女子の評価は半々に別れる。

 

色恋方面では悪い噂が絶えない男だ。

 

アスカがそんな男の誘いを受けたのは、()()()()()()()適当に応えた結果であった。

 

 

「んー、私としては特にそんなつもりじゃなかったんだよね。 あいつ、()()()()()()()()()の時間が迫っていた時にしつこくって。 追っ払うのに渋々了承したの」

 

 

アスカは亮子に、制服の袖をめくり上げて()()を見せた。

 

彼女は3年前に──()()()()()両上腕の中心から下部、両太股の中心から下部を切断しなければいけなかった。

 

そして大学病院から定期なデータ取りを協力する変わりに、最新式の義手・義足のメンテナンス込みで無料で使用出来ている。

 

容姿もさることながら、彼女の()()()()()は非常に目立つため、同級生だけでなく、上級生、下級生問わずに広く学園に知れ渡っている。

 

 

「なるほど~。 スカちゃんが石上くんみたいな人の誘いを受けたのは意外だったから~、納得だよ~」

 

 

亮子はおっとりしていても、ネジの抜けた弛い思考の持ち主ではない。

 

しっかりと人を見る目はあるからこそ、石上の女癖の悪さも認識している。

 

 

「その話はどうでもいい。 それより──」

 

 

アスカと亮子が雑談を交わしていると、二人の見知らぬ少年が入って来た。

 

「ねぇ、君・・・・転入生?」

 

アスカが聞いた。

そうするとどこか仏頂面に見えた表情は、パッと輝き()()()()()()()()()()()()で応えた。

 

 

()()()()()! 転校生のセツナで~す! よろしチョリース♪♪」

 

「チョリ・・・・ス?」

 

 

思ってもいない返しにアスカはきょとん、とした表情になった。

 

さらに周りのクラスメイトの視線も集めていた。

 

「数十年前に~、ギャルなど若者の間で流行し~、流行語大賞にもノミネートされた言葉だよ~」

 

 

亮子はのほほんと返した。

 

 

「・・・・なんで知ってるのよ?」

 

「さぁ~?」

 

 

二人や周りの人間の反応からセツナはやべぇー、と舌を出した。

 

 

「ちょいちょい~、俺っちをそんなガン見すんなよ♪ そんな注目されると照れちゃうチョリよ! ──それよりも君たち、俺っちのクラスメートになっちゃう~? なっちゃうわけ~?」

 

「よ、よろしく」

 

「よろしく~」

 

 

話し掛けた手前、無視する訳にはいかないアスカはとりあえず愛想笑いで、亮子は笑顔を崩さずに返した。

 

「えっ! やっちまった! これはやっちまった系~? ヤベェ~~♪ 俺っちはヒッソリと~溶け込みたかったなぁ~♪ アッハハハハ♪♪」

 

「・・・・イヤ、無理でしょ・・・・」

 

 

アスカはその意味不明なテンションのセツナに、すかさずツッコミを入れた。

 

 

「っていうかぁ、やっぱし俺っちの涌き出るぅ~、魅力? オーラが~、生まれ付きでディスティニー的に~装備されてるわけだからやっぱし無理チョリかなぁ~?」

 

「・・・・亮子、コイツ殴っていい?」

 

ピキっと、顔に怒りマークを浮かべたアスカ。

 

 

「止めてあげて~。 アスカのパンチはシャレにならないよ~」

 

 

亮子はどうどう、とアスカを抑える。

 

 

「アッハハハハ♪ 言われちゃってるよ、俺ぇ♪ マジ、やっべえチョリ~♪」

 

 

セツナは()()()()()()()()()()()()()()()、ハイテンションで自己紹介をして窓際の最後列の席に座った。

 

(ヴェーダ内にあった内偵調査使用疑似人格タイプRー35。 果たしてこの()()()()・・・・これは任務に向いているのか・・・・? いや、それよりも任務に集中すべきだな)

 

 

聖栄セツナことふうま刹那は、自己暗示を利用して操っている人格タイプRー35を人格表面に出しながら、意識化では本来の人格で思考していた。

 

 

(首尾はどうだい)

 

 

リボンズが脳量子波により刹那と交信してきた。

 

通常ならば視界範囲でしか成り立たない脳量子波による交信だが、脳量子通信を補助する機能もあるGNリングで繋がっている二人は、範囲5㎞以内で交信できる。

 

セーフティハウスとして所有しているマンションの一室に、リボンズは待機していた。

 

 

(・・・・悪い、としかいえない。 だが幸いにも()()()()との接触は何とか出来た)

 

(・・・・まあ、疑似人格Rー35なら当然そうなるね。 ──とにかく、それを押した()()()()()にも考えがあるようだし、何とかやってみてくれ)

 

(了解した・・・・)

 

 

──キ~ン、コ~ン、カ~ン、コ~ン~♪

 

リボンズとの交信が終わったタイミングで、ホームルーム開始の合図のチャイムがなった。

授業では個人タブレットやパソコンを使用したりと最新式のやり方を採っているが、何故かチャイムは古めかしいチャイム音が流されている。

 

── ガラガラガラ! ガシャンッ!!!!

 

 

教室のドアを無駄に力強く開け放ち──

 

 

「諸君! 朝の挨拶、つまり『おはよう』という言葉を慎んで送らせてもらおう!!」

 

 

何だが訳の分からない独特の言い回しで登場してきた教師がいた。

 

癖っけのある金髪に、童顔気味の端正な顔立ちで、スーツを着た彼は青年実業家のような雰囲気だ。

 

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

「既に私は挨拶をした!」

「分かってま~す」

 

 

亮子が馴れた様子で返す。

 

彼女は実はクラス委員長である。

 

 

「むっ!! そこに居る君っ!! そうか、君か!」

 

 

彼の目線はセツナに向いた。

 

 

「君が噂の新着任者か!! ──よくぞ来た! 君の着任をクラス一同、そして担任であるこの私──()()()()()()()()()が歓迎しよう!!」

 

「チョリ~ス」

 

 

セツナは軽く挨拶(?)を交わした。

 

 

 

「ぐっ!? い、今なんとっ・・・・!!」

 

 

グラハムは衝撃を受けたように仰け反った。

 

 

「チョリース♪」

 

 

──チョリース♪ チョリース♪ チョリース♪

──チョリース♪ チョリース♪ チョリース♪

──チョリース♪ チョリース♪ チョリース♪

 

グラハムの脳内に、セツナの『チョリース』がエコーする。

 

 

(ああっ! な、何という心揺さぶる響きだ!!)

 

 

震える声で、グラハムは聞いた。

 

 

「しょ、少年っ!! ──『君の名は』!?」

 

「チョリース!」

 

 

セツナが答えになっていない、答えだったので、変わりに亮子が答えた。

 

 

「聖栄セツナくんで~す」

 

「チョリース♪」

「な、何と魅力的な挨拶だ!!」

 

「・・・・イヤ、ウザいだけですよ。──というか挨拶ですか、それ?」

 

 

アスカがウンザリしたような顔で言った。

 

 

「う、ウザ!? チョリース!!?」

 

 

セツナががっかりしたように、落胆した表情を浮かべていた。

 

 

「そうか、自己紹介がまだだったな! 私の名はグラハム・エーカー! ご覧の通り()()だ!」

 

「教師ですよ~」

 

「チョリース!」

 

グラハムはぐっ、と膝を着いた。

 

 

(ああっ! 奪われたっ! そうだっ! 奪われてしまった!!)

 

 

「聖栄セツナ!! 私はキミという 存 在 (チョリース)に心奪われた男だっ!!」

 

 

グラハムの意味不明発言&テンションは今日に始まったことではない。

 

赴任して来てからわずか1週間。

 

生徒たちは深くツッコまないという、スルースキルを獲得していた。

アスカは諸事情で接した日数が足らず、亮子はクラス委員長として会話に巻き込まれている。

 

他の生徒たちは、獲得した高レベルスルースキルを発揮してまるで空気のように存在を消している。

 

 

「ハム先生~。 その発言は()()()()()って、言ってます~」

 

「・・・・え? 亮子、誰が・・・・?」

 

「カタギリ先生。 メッセージを送ったら返事が来たよ~。── どうやらハム先生の悪い面が出てるみたい~。 ハム先生が暴走してるって、伝えたら自習だって~」

 

 

相変わらず口調とは裏腹に、行動は早い。

 

キーボードの上で動く手は速いし、ブラインドタッチでメッセージを打っていた。

 

 

「・・・・いいの、それで・・・・?」

 

「それがハム先生だよ~」

 

 

その一言納得してしまった。

 

アスカは自分もだいぶこのクラスの、グラハムのノリに馴れてきた事に苦笑してしまった。

 

 

「少年、君の趣味はなんだ? 私はガンダムだ!」

 

「チョリース!?」

 

「ふむ、君はチョリソーが好きか! 益々気に入った!!」

 

「チョリース?」

 

「だが、戦場ではこうはいかんぞ!!」

 

「チョリース!」

 

「後を着けろ! ハワード、ダリル!!」

 

「チョリース♪」

 

 

二人のカオスなやり取りに、完全に見学者のアスカと亮子。

 

 

「・・・・会話が全く噛み合ってないんだけど?」

 

「それがハム先生の真骨頂だよ~」

 

 

 

 

 

 

 

転入後──たった1週間で一躍有名人となった聖栄セツナ。

 

ぶっ飛んだ言動からはまったく想像出来ないが、学業や運動に関して高い能力を示し、再びクラスメイトたちを驚かせたりもした。

さらに彼が、かなりの美形であることにも周りは気が付いた。

 

そのため、()()()()()()()()()()()()()()()とも裏では言われていた。

 

そんなこんなで──2週間が経過していた。

 

 

「苦労してるな、刹那」

 

 

刹那は、セーフティハウスのマンションの一室に来ていた。

そこにはリボンズではなく、欧州系の容姿を持つ20代中盤の青年がいた。

 

名を──ニール・ディランディという。

 

GN粒子を扱える人物で、リボンズがスカウトした人物だ。

 

彼もまた、刹那やリボンズと同じく前世の記憶を持つ。

 

刹那にとって、ニールは()()()()()()()()()に大きな影響を与えた兄のような存在だ。

 

彼は家族と出かけた先でテロに巻き込まれて重症を負った。

 

さらに悪いことに、脳に損傷を受けて植物状態となって脳死判定を受けた。

 

それを受けて家族は、ドナー登録をしていた彼の意思を受けて延命処置をせずに、移植手続きを進めた。

 

彼の入院先では臓器摘出が出来なかったため、臓器摘出が可能な病院に運ばれることになった。

 

だが彼が救急車で搬送される途中に、飲酒運転で暴走する車に衝突されて、追い討ちをかけるように悪いことは連鎖して2台は炎上した上に、車体が爆発してしまった。

 

その結果──救急車及び追突車に乗っていた全員が死亡し、爆発と炎によりそれぞれの死体は1部しか見つかっていない。

 

故に──ニール・ディランディは()()()()()()()()()()()人物となっている。

 

そうした事はテロによりニールの存在を知ったリボンズは極秘裏に接触し、彼がGN粒子に覚醒する手助けをしたことから始まった。

 

GN粒子を制御・生成できるようになったニールはイノベイターに進化した。

 

同時に肉体機能も拡張し、増大した肉体の自己修復能力により脳の損傷が修復され、意識を取り戻した。

 

同時に前世を思い出した。

 

そしてテロの裏に()()()()が関与していることやその恐るべき暗躍をニールは知り、家族や友が生きる世界を守るために──『歪み』を破壊するために刹那の仲間に加わることを承諾した。

 

そこで、同じく前世の記憶を持つ戦術予報士──『スメラギ・李・ノリエガ』に()()()()()を依頼。

 

──シンプルに行きましょう。

 

スメラギの考えたプランの巧妙な所は陳腐なシナリオではあるものの、例えこの件を怪しんで調べて見ても『真実』と『ヴェーダによる巧みな情報操作による嘘』の混合により、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()として説明がついてしまうことだろう。

 

そうして──テロの後の()()()()()()()()()()()()()()()()()()が起こり、ニールは刹那たちと合流した。

 

「・・・・今回のバックアップは、ロックオンか・・・・」

 

酷く疲れた様子の刹那は、ニールをコードネームである『ロックオン』と呼んだ。

 

刹那にとってロックオンとは、ニールと彼の双子の弟──ライル・ディランディの二人を示す。

 

前世ではニールが戦死し、その後に知り合ったライルの方が付き合いでいえばずっと長い。

 

けれども、刹那の中ではロックオン、というコードネームはニールを強く想像するものである。

 

今世で再開した時も、彼の事を『ロックオン・ストラトス』と自然と呼んでいた。

 

 

「ははは。 さすがの刹那も精神的にまいっているな」

 

「・・・・スメラギは・・・・何故、Rー3号を選んだ。 ・・・・Rー1号、Rー2号では何故ダメなんだ・・・・? このミッションは・・・・」

 

「おいおい、お前さんが弱音を吐くとはな。 よっぽどまいってんな・・・・」

 

 

ニールは刹那が静かだが、心にとてつもない熱さと強靭な意思を秘めた少年であることを、そして普段はあまり表情を変えずに感情を読み取りづらいのをよく知っている。

 

それにも関わらず、明らかに疲弊した様子で弱音を吐くなど、前世も含めて見たことがなかった。

 

 

「ミス・スメラギとヴェーダの予報では、1ヶ月以内に()()()()()はずだぜ。 あと2週間だ。 ──()()()()()に備えるのを忘れるなよ、刹那」

 

「・・・・ああ」

 

「それと、今後の指示なんだがな。 ──二人をデートに誘え」

「・・・デート・・・・?」

「くっくくく。 デートだよ、刹那」

 

 

ニールはニヤけ顔で、刹那の目を丸くした顔を見ていた。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話「チョリースと鋼鉄と、ハムの人 Ⅱフェーズ」

今回はイタい話です。

お気に入り登録&感想ありがとうございます!
大変励みになります(^-^)/
これからもマイペース更新で頑張っていきます!
次はとりあえず100を目指して!!

3月18日
タイトル変更


──4年前。

 

甲河アスカ。

 

アスカは10歳の時、SSS級危険度の純粋なる吸血鬼──『エドウィン・ブラック』に一族の者たちの大半を殺された。

 

井河家と並んで、強力な力を持つ五車対魔忍の宗家として知られていた甲河家も宗家はアスカだけが、分家はさして力を持たない者たちだけが生き残っただけであり、甲河家一族は実質消滅した。

 

そしてアスカは井河家で引き取られ、歳が近かったアサギを師匠とも姉とも慕い、成長していった。

 

一族の仇をとるべく必死に鍛練したこと、また努力を最大限に活かせる天賦の才を持ち合わせていたために、アスカは14歳の頃には対魔忍として頭角を表し始めた。

 

同年代には負け知らず、さらにその上の対魔忍たちにも肉薄する実力をつけ、20歳そこそこで『最強の対魔忍』として名を馳せるアサギに優るとも劣らない才覚を持つくノ一であると、将来を渇望されていた。

 

そんな折──アサギとアスカはとある任務中、偶然にもエドウィン・ブラックの痕跡を見つけてしまった。

 

 

「追いますっ!!」

 

「待ちなさいっ! アスカっ!!」

 

 

一族の仇を見つけたアスカはなりふり構わずブラックを追おうとしたが、アサギはそれを制止した。

 

エドウィン・ブラックと過去に交戦したことのあるアサギは、始祖吸血鬼であるブラックの力を十分過ぎるほど心得ていた。

過去に交戦した時は、最強の対魔忍といわれるアサギでさえブラックが()()()を持っていなければ、すでにこの世には存在していないだろう、と彼女は冷静に戦力差を理解していた。

だからこそ、アサギはアスカを止めたのだ。

 

アサギは冷静に、客観的にブラックとの戦力差を教え、準備不足であることを説明した。

 

最初は興奮していたアスカだが、次第に冷静さを取り戻していった。

 

(不承不承ながらも納得してくれたようね・・・・)

 

その認識がアサギの間違いであり、アスカの復讐心は彼女の想像以上であった。

 

無事に任務を終え、アサギが五車に連絡している時、ふとアスカの気配が消えた。

 

アスカはアサギの警戒を緩む瞬間をずっと待っていたのだ。

 

復讐を果たすために。

 

彼女は得意の『風術』により姿を眩ましていた。

こと隠密行動ならば異能力の力もあって、アスカの方が一歩上手であった。

 

アサギを上手く撒いたアスカは、()()()()()()()()()()()()()()()と交戦した。

 

 

(皆の仇っ!! 殺してやるっ!!!)

 

 

アスカはまったく冷静ではなかった。

 

普段の彼女ならばあり得ないゴリ押しの戦術。

 

対魔粒子を抑えることなく全力で使った。

 

 

「風神──」

 

 

クロスした両腕に纏った荒れ狂う異能の風。

 

その風を解き放つため、両腕を前方に突き出した。

 

 

「烈風!!!!」

 

 

両腕から周囲の物を巻き込み、無慈悲に破壊しながら──破壊の暴風が放たれた。

 

これまで多くの敵を屠ってきた大技だ。

 

無数の風刃が巻き込んだ敵を刻み、保有するエネルギーが追い討ちとなって脆くなった所に侵食して破壊する。

 

それをブラックは──

 

 

「ふっ」

 

 

微笑を浮かべるだけで、避けることもなく立ち尽くした。

 

(決まったっ!!!)

 

 

アスカは勝利を確信した。

 

風神烈風に巻き込まれたブラック。

 

立ち込める砂嵐の中、アスカは会心の笑みを浮かべた。

 

「やっ、やった!!! これで皆──」

 

 

しかし──その笑みは一瞬にして凍り付いた。

 

 

「ほう・・・・俺にキズをつけた、か」

 

アスカの攻撃は、ブラックの膨大な魔力により形成され、アサギの攻撃をも易々と塞ぐ『重力障壁』の前に、()()()()()()しか与えられていなかった。

 

ブラックの頬が少し切れて血が滲む程度で、服の端が少し破けた程度であった。

 

 

「くっくくく。 お前は楽しませてくれるか?」

 

 

ブラックが微笑みを浮かべた瞬間──

 

 

「・・・・えっ・・・・?」

 

 

左腕がぼとり、と落ちた。

 

アスカは何をされたかも分からなかった。

 

思わず落ちた左腕を呆然と、見つめてしまった。

 

 

「呆けている暇はないぞ」

 

 

ブラックにいつの間にかに接近され、魔力の籠った蹴りを喰らった。

 

「・・・・がはっ・・・・!?」

 

 

まるでボールのように簡単に吹き飛ばされ、アスカは壁に衝突した。

対魔粒子により、服とは思えない程の防御力を発揮する対魔忍スーツを着ていなければ、とっくに身体はバラバラになっていただろう。

 

軽く蹴られのに、まるで猛スピードのダンプカーに体当たりされたような衝撃。

 

 

「ふむ・・・・中々の『魔』であるな」

 

ブラックはアスカの左腕を拾い上げると、興味深そうにアスカを見た。

 

 

「ああああああああっ!!」

 

 

アスカは残った右腕で忍者刀を持ち、ブラックに斬りかかった。

ズブリ──と肉を引き裂いた感覚が右腕に伝わる。

 

 

「残念ながらそれはお前の腕だ。 ──次は左脚を貰う」

 

 

ブラックはアスカの左腕を盾として、アスカの刀を塞いだ。

 

そして右手に高濃度の魔力を纏わせ、魔力の刀を作り上げて──振り下ろした。

 

 

「あ”っ、う”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!?」

 

 

アスカは喉が潰れんほどの悲鳴を上げて倒れた。

 

先ほど左腕を切断された時には切断された事に気付く余地する無く斬られ、さらに戦意により昂りが最高潮にあってアドレナリンが過剰に分泌されて痛みを感じなかった。

 

だが今回は斬られたことをはっきりと自覚し、かつ最早アドレナリンではカバー出来ないほどのダメージを負ってしまった。

 

 

「感謝しろ。 出血で死んで終わぬように傷口は焼いておいた」

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!?」

 

ブラックの言葉はアスカに伝わることは無い。

 

 

(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!)

 

 

今まで感じた事の無いほどの強烈な痛み。

左腕と左脚を失った痛みに加え、切断面が焼け爛れている。

 

切断箇所から全身に伝わり、一瞬足りとも休むことなく続く激痛。

 

頭を、肩を、腕を、背中を、腰を、脚を──全身を常に刀で刺されているような。

 

狂って仕舞わんばかりの痛みの中でも、対魔粒子により拡張されている肉体が気絶することをアスカに許さない。

 

瞳から流れる涙は止めなく、鼻や口からも液体を垂れ流す。

 

アスカは自らが流した血と液体がぶちまけられた沼を芋虫のように這いずりながら、逃げようとした。

ブラックの圧倒的な力の前に、アスカは()()()()()()()()()となっていた。

 

 

(助けて助けて助けて助けて助けて助けてっ!!!)

 

 

アスカの心は完全に折れた。

 

戦士としても、対魔忍としてのプライドもかなぐり捨て、目の前の()()から逃げることしか考えられない。

 

「・・・・つまらんな・・・・」

 

 

ブラックは這いずるアスカを見下す。

不様な敵に何ら感情の籠らぬ表情で近寄ると、その背中を容赦なく踏みつけた。

 

 

「がはっ!!?」

 

 

まるで何トンもの重りを乗せられたような圧迫感。

 

ほんのわずかも身体は動かせない。

 

 

「・・・・お、おねがい”・・・・じまず・・・・ 」

 

 

重圧の中、辛うじてアスカは口を動かせていた。

 

 

「・・・・な、なんでも、じまず、がら・・・・ご、ごろざない”で・・・・た、だずげて・・・・くだざい”・・・・」

 

 

アスカは涙ながらに懇願した。

 

もはや心が折れて屈服した少女は、憎き仇の慈悲にすがることに微塵も躊躇は無い。

 

涙でぐちゃぐちゃの顔に精一杯の愛想を浮かべ、すがるように残った右腕を必死に動かしてブラックの脚を抱く。

 

 

「・・・・見込み違いか・・・・。 やはりアサギしか居らぬか」

 

 

ブラックは、無造作に魔力刀を纏う右手を動かし──アスカの右腕と右脚を切断した。

 

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!! い”だい”! い”だい”!い”だい”! い”だい”! い”だい”! い”だい”! い”だ──」

 

 

アスカは四肢を奪われても気絶出来ず、襲い掛かる痛みのために絶叫を上げる。

 

涙と血でぐちょぐちょの顔は整っているが故に、余計に不様が目立つ。

 

ブラックはため息をつくと、冷酷に告げた。

 

 

「これ以上喚くなら殺す」

 

 

その絶対零度を思わせる声音に、アスカはビクッと反応した。

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

彼女は唇を噛みきらんばかりにして血を流しながらも、声を抑え込んだ。

 

ブラックから放たれる殺気が、その発言に信憑性を持たせていた。

 

「・・・・望み通り生かしやる。 ──精々、ヤツらにあきられぬようにやれ」

 

ブラックの背後には、見るからに浮浪者と思われる男たちが居た。

 

餓えた獣のように血走った目でアスカを見ていた。

 

性交の経験がないアスカだが、これから自分の身に起こることは想像に難しくなかった。

 

誰とも知れぬ男たちに『初めて』を奪われ、10人以上はいるであろう男たちに次々に凌辱されるのだろう。

 

それでもアスカの心は穏やかだった。

 

 

(良かった・・・・)

 

 

ブラックが消えると、男たちが我先にとアスカに群がってきた。

 

「アハハハハッ。私、生きてる・・・・」

 

 

アスカは()()()()()を浮かべていた。

 

 

 

 

第5話「チョリースと鋼鉄と、ハムの人 Ⅱフェーズ」

 

 

 

 

 

──キ~ン、コ~ン、カ~ン、コ~ン~♪

 

 

 

 

ある日の緑橋学園。

 

本日は、3ヶ月に1度の授業が半日だけの金曜日。

 

明日からは土日が学校は休みのため、多くの生徒たちが友人や恋人たちとそのまま街に繰り出して行く。

 

 

「お疲チョリース! リョウ~コ、ア~スカ!」

 

 

放課後。

 

セツナが何時ものように、ウザい笑顔とテンションで一緒に帰る2人に声をかけた。

 

 

「チョリ~ス。 聖栄くん」

 

「お疲れ様」

 

 

周りから遠ざけられるも、2人は変わらずセツナとのコミュニケーションを拒絶することは無かった。

 

最も()()()()()()()()()()()()()()()であり、アスカは亮子が構っているから仕方なく付き合っているという所だ。

 

 

「二人とも! この後はフリ~タイム?」

 

「これからスカちゃんとスイーツを食べに行くよ~。 駅前に出来たばっかりの話題のお店──『図書館』だね~」

 

「ohッ!? 例のイケてるスーパースイーツ店かい? ヤバッ!! ハッハハハハ! パーフェクトなビューティフルガールズにぴったりチョリねー♪ 俺っちも一緒に行きたいチョリよ~♪」

 

 

セツナの言葉に気を良くしたのか、嬉しそうに亮子が提案した。

 

 

「なら、聖栄くんも行く~?」

 

 

意外と頑固な亮子が誘ったのだ。

 

アスカはここで抵抗しても無駄だとわかっているため、折衷案を出した。

 

 

「オゴリならいいわよ」

 

 

2人からの思わぬ誘いに、セツナは嬉しそうに乗った。

 

 

「マジでぇ!? 俺は不可能を可能にするチョリよ!」

 

 

疑似人格セツナの笑顔の裏で、本人格の刹那は自らの選択を悔いていた。

 

任務で使えるようにリボンズから『ブラックカード』を持っているのもあるし、例え高級レストランに入って2人と自分の分を払えるほどの所持金を刹那は個人でも持っている。

 

金の心配ではない。

 

彼の心配は──

 

(・・・・甘いのは・・・・苦手だ・・・・)

 

 

スイーツとの戦闘であった。

 

 

 

 

 

 

 

そこそこの行列の末、スイーツカフェ『図書館』に入った。

 

そこでアスカと亮子の2人は、極上スイーツバイキングを満喫していた。

 

セツナもニコニコとスイーツを食べている──ように見せ掛けて、実は苦しみの中にあった。

 

背中にはイヤな汗をかき、手が小刻みに震えている。

 

食べた量も2人の10分の1にも満たない。

 

イチゴショートケーキを1個食べるだけで精一杯であった。

 

コーヒーのブラックで何とか胃に流し込んでいたため、コーヒーは既に10杯もおかわりをしていた。

 

 

「甘いの苦手なんじゃないの?」

 

 

アスカはニヤニヤしながら、セツナに問いかけた。

 

彼女は目敏く、セツナの違和感に気が付いたようだ。

 

 

「な、何を言っているチョリスか!? 俺っちはあっま~いのは女の子を口説くのと同じぐらいに、得意チョリよ~!!」

 

「ふふふふ。 なら遠慮せずにそのケーキを食べちゃえばいいじゃない。 バイキングなのにおかわりしないと勿体無いわよ?」

 

 

アスカは意地悪そうに笑うと、自らの取ったチョコレートケーキとチーズケーキ、さらにシュークリームを盛り付けた皿をセツナの前に持ってきた。

 

 

「よ、余裕チョリよ♪♪♪」

 

セツナは()()()()()()()に、内心の刹那は()()()()()()にケーキたちにかぶり付いた。

 

結果──完全にケーキたちに打ちのめ(駆逐)された刹那は、スタッフルームに通されていた。

 

 

「若っ!? 大丈夫ですか!?」

 

執事姿のウェイターが刹那に肩を貸している。

 

それは『図書館』のスタッフの1人であり、2年前から()()()として刹那に仕えている──『ふうま天音』であった。

 

 

「あの甲河の娘っ!! 若に対して何という仕打ちをっ!! こうなったら、私が討ち滅ぼして──」

 

「止めろ、天音」

 

 

天音と同じく2年前から刹那に仕え()()()()()()()()を結成した佐郷文庫改め──『ライブラリー』が天音を諌めた。

 

ライブラリーのサイボーグボディは2年前の米連製ではない。

 

リボンズから提供された技術により造られ、より洗練されたボディとなっている。

 

最大の違いは体内にGNコンデンサを装備し、それによりGN粒子で駆動する腕部兵装『GNブレード』、腰部収納兵装『GNクナイ』を装備したことだろう。

 

 

「止めてくれるなっ! 佐──ふっふふふふ」

 

 

天音は怒りから一転、何故か笑い出した。

 

 

「ふふふ。 その格好、どうにか、ならないのか?」

 

 

某ピンクの悪魔ことカー○ィを縦に長くしたような体格で、体色はオレンジ。

 

コック帽と真ん中にポケットが付いたエプロン。

 

カー○ィに登場するキャラ──コックカ○サキの着ぐるみを、ライブラリーは着けていたのだ。

 

2人はウェイターとコックとして刹那のバックアップ要員として同じ任務についていた。

2人だけでなく、スイーツカフェ『図書館』は全てふうま一族の者たちで固められている。

 

 

「ふむ。 本来の姿では一般人に無用な威圧感を与える。 その点、この着ぐるみは色々と都合がよいのだ。 ──それよりも御館様の介抱を優先した方が良いぞ」

 

 

天音に肩を借りた刹那は、ぐったりとして辛うじて立っている状態だ。

 

 

「はっ!? 若ぁぁぁぁっ!」

 

 

天音は刹那を椅子に座らせると、ミネラルウォーターと整腸剤を渡した。

 

 

「・・・・助かる」

 

 

刹那はそれらを受け取ると、水と薬を一気に飲み干した。

 

刹那は天音に勧められ、スタッフルームの仮眠室で休息を取る。

 

すると──3時間程度で体調は全快した。

 

イノベーターとして覚醒した刹那は毒物系にはかなりの耐性を持つが、彼が個人的に苦手としている『甘味』は純粋種の耐性をも上回ったようだ。

 

むしろ3時間も回復にかかった、というべきだろうか。

 

 

「すっかり顔色は良くなりましたね」

 

 

刹那が目を覚ましたと聞き、スタッフルームに顔を出した天音はほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「安心してばかりはいられないぞ。──御館様、()()()()()より緊急連絡です。()()()()()()()()()()()()()()実行を、とのことです」

 

 

仕事を他のスタッフに任せて、ライブラリーは報告のために刹那の元を訪れていた。

 

 

「了解。 ──直ちに()()()()()()()に回る」

 

 

応えた刹那の瞳には、いつもの強靭な意思の光が宿っていた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話「チョリースと鋼鉄と、ハムの人 Ⅲフェーズ」


3月18日
タイトル変更


セツナと別れたアスカと亮子は、話題の恋愛映画を鑑賞した。

 

上映時間は2時間ほどであり、アスカは思ったより楽しめていなかった。

 

 

「どうだった?」

 

「ん~。 イマイチかな~」

 

「だよね。 ──フツーの恋愛物。特に変わったところ無し」

 

「いい感じのご都合主義だったね~」

 

「・・・・こんな感想しか出てこないなんて、私たちヤバいかもね。 劇場にいた同じ歳の子たちは、感動して泣いていないにしても、大概はうるっときてたみたいだし」

 

「う~ん、いいんじゃない? どうせフィクションだし~」

 

 

亮子は特に考えることなく、サラッと流した。

 

 

(・・・・ほんと、亮子のこういうところは助かる。 やっぱり恋愛物の良さって分からない・・・・)

 

 

エドウィン・ブラックに敗れた戦いの後に、アスカは精神的に壊れていた事があった。

 

四肢をもぎ取られてまるでダルマのような状態で、アサギに発見されるまで丸1日放置された。

 

アスカは全身が()()()()()()()()()()()()まみれの裸の状態で、さらに彼女の()()()()()()()()──というアサギが発見した状況証拠から凌辱されたことは間違いなかった。

 

不幸中の幸いか、ブラックに与えられた肉体的・精神的なダメージが大きすぎて、凌辱の記憶はほとんど無かったが。

 

──そうですか。

 

誰とも知れぬ男たちに処女を奪われ、散々好き放題にされたということを伝えられても入院中のアスカはさして心を動かされなかった。

 

四肢を奪われ、食事や着替えどころか、排泄も入浴も、何も1人で出来なくなった。

 

それを悲しいとも、悔しいとも思えなくなっていた。

 

日々無気力で過ごし、死のうとも、生きようともしない無為に過ぎしていた。

 

そんなある日──

 

──私と来なさい、アスカ。 もう一度戦う力をあげる。

 

『裏切り者』としてアサギに教えられていた、紅蓮の色をした髪を持つ()()()()()()が現れた。

 

その彼女からの差し伸べられた手を、アスカは握ることは出来なかったが、必死に声を張り上げて答えた。

 

──行きますっ! 私に、力を下さいっ!!

 

アスカは迷わず仮面のくノ一に付いた。

仮面のくノ一は、米連の防衛科学研究室(DSO)の日本支部の所長であった。

 

DSOは、現代科学技術と魔界技術を融合した兵器開発を主としている。

 

そこでアスカは──再び戦う力を取り戻した。

 

それが──普段は()()()()()に偽装しているが、DSOの技術の結晶である戦闘用義肢(アンドロイドツール)であった。

 

アスカはアンドロイドツールという強力な武器を手に入れ、さらに元々優れていた対魔粒子の扱いや風神の術、体術にも磨きをかけ、4年間で米連の極秘エージェントとして多くの任務を達成してきた。

 

実績と経験により、アスカは失ったものを徐々に取り戻し、実力も付けた。

 

今ではエドウィン・ブラックへのリベンジさえ、望むようになるほど回復を見せていた。

 

ただその代償に、アスカは()()()()()()()()()()()()を修復できていないことも自覚していた。

 

(普通の学生生活面・・・・そうしていれば、普通に恋できたのかな?)

 

 

アスカは男という存在と恋に落ち、恋人になり、やがて結婚する。

 

そういうビジョンがまるで浮かばない。

 

それは無意識であっても、凌辱のキズが自然と男を遠ざけているために、年頃となっても『初恋』さえも経験していないためであろう。

 

アスカの同年代たちの標準を遥かに越えたスタイルだけでも性欲盛りの男子たちの目を集めるのに、おまけに顔立ちまで整っているために、性的な視線をさらに集める結果となっていた。

そういう相手には──()()を覚えてしまうのだ。

 

普通の女性が男に襲われたりしたならば脅え、嫌悪、憎悪を覚え、酷い者でも殺意を覚える事はあるだろう。

 

しかし実際に何の罪も犯していない男に、()()()()()しようとする者はいない。

 

だが──アスカは違った。

 

アスカは()()()()()()()()ことや、男に対して脅えてはいられないという環境もあり、男に対する感情は殺意という形まで一気に昇華されてしまったのだ。

アンドロイドツールを装着して1年目では、性的な目線を送っただけで半殺しにした男たちの数は軽く二桁に届く。

 

2年目、3年目、4年目と、時を重ねる事に自制は効くようになっていったが、不躾な男には心の中では常に殺意を抱いている。

 

 

(聖栄セツナ・・・・彼は何だか他の男とは違う気がする・・・・)

 

 

言動からはチャラいどころかぶっ飛んだ感じを受ける少年であるが、同じくチャラい男──石上と同じような存在だと思っていた。

 

()()()()()()がやたらと間合いに入らせるため、徐々にだがアスカはセツナを観察し出した。

 

そして──気が付いた。

 

いくら親友とも呼べる亮子が気を許しているとはいえ、殺気さえ抱く男という存在のセツナを受け入れているのか。

 

──瞳の奥の光。 濁ることなく、ひたすら何かを求めているような不思議な光。

そんな瞳を出来るのは、ただ性欲に支配されて愚かな考えしか出来ない者には決してできない。

 

アスカはセツナの秘密が知りたくて、ふと、セツナを目で追っている時があった。

 

 

(どうしてだろう?)

 

 

アスカは胸に覚えた、少しの『違和感』に不思議と温かさを覚えていた。

 

 

 

 

 

 

第6話「チョリースと鋼鉄と、ハムの人 Ⅲフェーズ」

 

 

 

 

 

 

「だ~ん、だだん! だんだん、だ~ん、だだん!!── 武○介入!!!」

 

 

男がメロディーを口ずさんでいた。

 

アスカと亮子がその前を通り過ぎた時──

 

 

「おいおい、美人の姉ちゃんたちよぉ!! 無視してんじゃねぇ、よ!!」

 

「はぁ? 何言ってるのよ」

 

 

アスカは絡んできた男に、言い返した。

 

 

 

 

「俺を誰だと思ってるんだぁ!? 」

 

「あなたは・・・・ナンパ番長ね~」

 

「ナンパ、番長? ・・・・亮子、知ってるの?」

 

「ぜんぜん~、ただのカンだよ~」

 

「鋭過ぎるでしょ!?」

 

「オラァッ! 俺を無視すんなや!! いきなりぶっこまれたオリキャラなんやから、自己紹介ぐらいさせろや!!」

 

 

2人はどうぞ、とナンパ番長の言葉を待った。

 

彼はゴホンっと、一つ間をおいて話だした。

 

 

「ナンパとケンカをするために生き! そして死んでいく! タイタン一本の(おとこ)!! ロリこそ至高!! それが──ナンパ番長だ!!」

 

「・・・・もうツッコミどころが満載過ぎる」

 

「キャラ絞ってこないとすぐにボツになっちゃうよ~」

 

「なるほどなぁ! しかし! 俺は難しいことは考えられないっ!! 何故ならバァカだからだぁっ!!」

 

「それって堂々と言うこと?」

 

「あぁんっ!? 生意気なんだよ、()()()がっ!!」

 

「はあぁぁぁっ!?」

 

 

どうでも良い男のナンパは簡単に無視できる。

 

『ババア』呼ばわりされて看過できるほど、気の強い10代後半の乙女(アスカ)は達観はしていなかった。

 

 

「そういうあんたはただの変態じゃない!」

 

「なぁあにいいぃぃっ!? 変態ではない、変態紳士だぁっ!!」

 

「同じじゃないっ!」

 

「なんだとぉぉっ!? こうなったら貴様らまとめて叩きのめしてやるうぅぅっ!!!」

 

「やれるものならやってみなさい!!」

 

「いや~、巻き込まないで~」

 

 

2人と巻き込まれた1人の間に、緊張感が走る。

 

 

「殺ってやるぜぇっ!! 俺は生きるぜぇっ!! 他人の血肉を喰らってでもなぁっ!!」

 

「もうハレ○ヤ感が半端ない~」

 

 

亮子は割りと余裕な様子。

 

「いっちまえよぉっ!!」

 

 

ナンパ番長が拳を握り締め、アスカに突進しようとする。

 

その時──

 

 

「待ちたまえ!」

 

 

──ガラッ!

 

2階にある喫茶店の窓が開く。

 

──スタッっ!

 

誰かが飛び降りてきた。

 

何者かが2人の間に、華麗な着地を決めたのだった。

 

その人物は──

 

「誰だっ! てめぇはっ!?」

 

「問われたのならば答えよう! 我が名はグラハム・エーカー! この度昇進して上級大尉となった!」

 

 

グラハムは腕組み、ニヤリと笑った。

 

 

「いや、先生ですから~」

 

「ナンパ番長とやら。 この度の行いの一部始終、しかと見させてもらったぞ」

 

「・・・・なら、早く助けに来なさいよ」

 

相変わらず突如として、ラブコメ主人公もビックリの難聴(?)になる男──グラハム。

 

アスカや亮子のツッコミは聞こえていない、ようだ。

 

 

「なんだこのKYで、バァカはっ!! 調子くれてんのかっ!! あぁっっ!!?」

「その通りだ」

 

 

ナンパ番長の言に、意外にもグラハムは肯定する。

 

 

「私はKYだ。 つまり空気が読めず、すこぶる調子にのっている。 なおかつ我慢弱く、人の話を聴こうともしない。 属にいう──嫌われ者だ」

 

 

グラハムは難聴ではなく、ただ聴かないようにしていただけのようだ・・・・。

 

 

「そこまで言わなくても~・・・・」

 

 

さすがに哀れに思ったのか、涼子がフォローを入れた。

 

だが──

 

 

「だが! そんな私でも、吐き気のする悪は分かるっ! そして、それを見て見ぬふりも出来やしない! ──対峙させてもらうぞ! ナンパ番長!!」

 

 

グラハムのテンションはアゲアゲだ。

 

「自分に酔ってるんじゃねぇ! このナル野郎がっ!! 鏡見たことあんのかっ!!」

 

 

ナンパ番長がいい具合に言い返したが──

 

 

「その言葉はそっくりキミに返そう!! その()()では、私を掴まえることはできんよっ!!」

 

 

グラハムの反撃にナンパ番長はぐっ、と黙った。

 

(そう、ナンパ番長はメタボだったのです~。発言はハレ○ヤや感が半端なかったですが、メタボで顔もイケメンには程遠いのでした~。 体型でもイケメン具合でも、ハム先生には100対0ぐらいで負けていますね~ )

 

「聴こえてるぞっ!! 」

 

 

亮子の心の声は、どうやら普通に声に出ていたようだ。

 

 

「バァバアッ、その2っ!! このKYをぶっ潰したら、真っ先に──」

 

「あんた、前を向いた方がいいわよ」

 

「ああんっ!? 」

 

 

亮子に気をとられていたナンパ番長は、アスカの言葉で眼前に迫るグラハムの()()にようやく気が付いた。

 

 

「グラハムチョップッ!!」

 

「ぐあっ!?」

 

 

鋭い手刀が──

 

 

「グラハムパンチッ!!」

 

「おぐっ!?」

 

 

重い拳が──

 

 

「ハムキックッ!!」

 

「うぐっ!?」

 

 

疾い脚が──

 

 

「グラハムチョップッ! チョップッ! チョオオオオップッッ!!」

 

「ぐあああああああああああっ!!!」

 

 

左右の鋭い手刀が()()()()()に炸裂した。

 

 

「なっ、なんだ、この理不尽なっ・・・・強さ、は・・・・」

 

 

ナンパ番長はそう呻くのが精一杯だった。

 

 

──バタンッ!!!!

 

 

防御力だけはやたら高そうなメタボボディが、グラハムの猛攻を受けて重そうな音をたてて地面に沈んだ。

 

コンクリート道路ではあるが、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふっ、これが()()()()()()()()()の実力だよ」

 

 

グラハムがニヤリ、と笑った。

 

 

「・・・・わけ、わか・・・・んねぇ・・・・ぞっ・・・・」

 

 

ナンパ番長は力尽きた。

 

 

「ハム先生~! ありがとうございました~」

 

「今回は助かったわ」

 

 

2人はそれぞれ礼を言う。

 

 

「少し待ちたまえ。 ()()()()()()──せやっ!!」

 

「あふんっ♪」

 

 

さらにチョップを叩き込んだ。

 

ナンパ番長はさらに力尽き、どこか恍惚とした表情で気色悪い声を上げた。

 

 

「ハ、ハム先生~・・・・」

 

「・・・・やり過ぎ」

 

 

グラハムの追撃に、若干引き気味の2人。

 

そこへ──

 

 

「君たち、危ないところだったね」

 

「カタギリ先生」

 

 

長身で、知的な容貌さをさらに引き立てるようにメガネをかけた男──ビリー・カタギリが現れた。

 

 

「偶然、僕たちが通りかかってよかったよ。 ここは自分に酔っているグラハム先生に任せて行こうか。──知り合いだと思われても困るからね」

 

 

ビリーが苦笑した。

 

 

 

「そうですね。行きましょう」

 

 

アスカがそれに笑顔で答えた。

 

 

(スカちゃん?)

 

 

アスカの笑顔とは裏腹に、彼女からいつもと違う()()を亮子は感じていた。

 

3人が去って行っても、グラハムの『トドメ』は終わらない。

 

ナンパ番長を立ち上がらせると──

 

「堪忍袋の尾が切れたっ!」

 

 

容赦のないグラハムパンチッ!

 

 

「あふっ♪」

 

──・・・・・・・・

 

「今の私は! 阿修羅する凌駕する存在だっ!」

 

 

非情なるハムキックッ!

 

 

「アフンッ♪」

 

──・・・・ム・・・・

 

「ハワードとダリルの仇っ!」

 

 

無情なるグラハムエルボーッ!

 

 

「オフッ♪ ザクッ♪」

 

──・・・・ラ・・・・ム

 

「プロフェサーの仇っ!」

 

 

強烈なグラハムチョップッ!

 

 

「おうっ♪」

 

──・・・・ハ・・・・ム

「藤◯さんと、神○さんと、吉○さんの仇っ!!」

 

 

 

しつこいぐらいのグラハムパンチッッ!!

 

 

「オウッ♪ オオッ♪ グフッ♪」

 

──・・・・ラ・・・・ハム

 

「そして、これが私の分だあぁっ!!」

 

 

目覚めるような踏み込みの後、まるで雷のような鋭いアッパーが放たれた。

 

 

「グラハアアアァムッ・スペシャャャャルッ・アッパアアアアアァァッ!!!」

 

「おおおおおおおおおんっ♪♪」

 

 

グラハムの渾身の一撃で、100㎏を軽く越えている巨漢が見事に空を舞った。

 

なんの防御も回避もなく受けた一撃により、ナンパ番長はさすがにノックアウトした。

 

フルボッコにされたナンパ番長だが──

 

──ビクンッ♪ ビクンッ♪

 

ヨダレを垂らし、恍惚の表情を浮かべて気絶していた。

 

彼はきっと、別の世界の扉が開けたことだろう・・・・。

 

 

「身持ちが堅かったな! ガンダム!」

 

「いや、彼はナンパ番長らしいよ」

 

 

グラハムにツッコミを入れたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

「それはともかく、僕が喫茶店で君の代金を払っている間に不味いことなったようだね」

 

「狐に化かされた、ということかな。 いかんせん、()()()()()がキツ過ぎたようだが」

 

「・・・・分かっているなら、止めてくれても良かったんだよ」

 

「彼女には悪いが、少年の疲労がピークに達している。 ──そろそろ、()()()()には退場して頂くとしよう」

 

 

グラハムは先ほどまでとはうって変わって、その瞳には獰猛な光を宿していた。

 

 

「カタギリ。 フラッグの調整を頼む。 ガンダムばかりにいい格好をされては、フラッグファイターの名が泣いてしまう」

 

「了解だよ。 やっぱり設定は──」

 

「最高のスピードと剣を。──無論、パイロットへの負荷は無視してもらって結構」

 

「任せてくれ。 ガンダムではなく、フラッグを選んでくれたグラハム(親友)の期待に応えて見せるよ」

 

 

臨時教師ではなく、技術者としての自信に満ちた笑みをビリーは浮かべた。

 

 

「ならば私は、その想いを超える戦場での働きをご覧に入れよう」

 

 

グラハムは傲ることも、力むことも、謙遜することもなく、自然な調子で言った。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話「チョリースと鋼鉄と、ハムの人 Ⅳフェーズ」

長引きます(笑)
あと2話ほどで過去編は終わらせたいです。

あと評価&お気に入り登録ありがとうございます!
励みになります、これからもゆるりと頑張って行きますのでよろしくお願いします!


 

「でも、意外だよねぇ。 アスカちゃんがねぇ~」

 

 

アスカにとって、目の前の心底腹立たしいチャラ男を再起不能にすることなど造作もない。

 

それでも今の彼女は、拓斗の馴れ馴れしく肩を抱いた手を()()()()()()()()

 

先ほどビリーと別れた2人は、拓斗と拓斗の子分らしい不良たちに囲まれた。

 

拓斗がノマドと繋がりがあることを自慢気に告げ、アスカの正体を周囲にバラすと脅されたためについていくことになった。

 

複数の男たちが周りを囲み、亮子もアスカの後ろから着いてくる形になっていた。

 

 

(・・・・どこから()()()に情報が漏れたの?)

 

 

ノマド──米連を本拠地とする多国籍複合企業体である。

 

『遊牧民』を意味する社名に相応しく多岐に活動する巨大な組織で、豊富な資金力を背景に精密機器、重工業、軍事など様々な事業を行っている。

 

ノマドはあらゆる闇の仕事を行う部門があり、世界各国に進出してはその国の闇社会を掌握している。

 

その総帥こそ表向きは全く別人であるが、真の支配者はエドウィン・ブラックである。

 

 

(・・・・亮子も逃がす気は無いのはただヤリたいだけ?)

 

 

ノマドは五車の対魔忍や日本政府だけでなく、米連とも対立していた。

 

そしてノマドの下部組織は日本にも存在し、大小様々な悪事を働いている。

 

石上拓斗は兄の石上亮司の紹介により、ノマド下部組織とのパイプを持ったこと、ノマドからアスカの正体──米連のエージェント──を知ったこと、さらにノマドからアスカと()()()()()が出来れば、下部組織とはいえ幹部として組織に迎え入れられること等──拓斗が聞いてもいないのにベラベラ勝手に喋っていた。

 

 

(・・・・やっぱり、()()()()()()()()()()()()()ってことが関係してたみたいね)

 

 

五車の対魔忍たちを管轄する組織・内務省公共安全庁調査第三部『セクションスリー』の部長──山本信繁。

 

その1人娘が亮子である。

 

 

「ちょっと、ちょっと? アスカちゃん、酷いんじゃない。 俺の話聞いてる!?」

 

 

話をしても上の空で、無視されていると思って機嫌を悪くした拓斗は、アスカの豊満な片胸を荒々しく掴んだ。

 

「痛いッ! 揉むなら優しくして、ね。 痛いのはイヤだよ」

 

 

アスカの媚びるような視線と、猫なで声に拓斗は瞬時に機嫌が直ったようだ。

 

 

「へへ! 俺のテクで昇天させてあげるよ、アスカちゃん♪」

 

 

拓斗は強くもなく弱くもない絶妙な力強加減で、彼女の胸を揉みしだく。

 

 

「うん。 気持ち良くして」

 

アスカは()()()()()()()()()()()()()で、択斗を見つめた。

 

さらに拓斗の腰に手を回し、自らの身体を密着させた。

 

特に、拓斗に対するセックスアピールの強い豊満な胸を遠慮なく押し付ける。

 

彼女のヤル気に満ちた行動に拓斗もボルテージが上がり、ズボンの中では『息子』が徐々に力を増していく。

 

拓斗の中では、アスカは正体をばらされないように何とか必死に媚を売っている憐れな女、というおめでたいお花畑のような思考であった。

 

 

(よくも私の胸を好き勝手に揉んでっ! 後でその腐った手を斬り落としてやるから、覚えてなさい!)

 

 

アスカは表情とは裏腹に、深層では今にも爆発しそうな火山の如く怒りを溜めていた。

 

拓斗はテクニックはあるのかも知れないが、彼女にとって今与えられる胸への刺激はとても快楽などほど遠い。

 

快楽とはほど遠い不快な刺激だった。

 

そもそも、特に()()()()を同じ人間とは認識していないアスカにとって、拓斗の手はマッサージ機ぐらいの認識だった。

 

感じているフリをしているのは、拓斗に油断させてノマドの情報を引き出すためであり、自身の都合で巻き込んでしまったためにせめてもの償いとして亮子へと興味がいかせないようにするためだった。

 

 

 

 

 

 

 

第7話「チョリースと鋼鉄と、ハムの人 Ⅳフェーズ」

 

 

 

 

 

 

 

一団は路地裏を進むと、急に開けた場所に出た。

 

 

そこは廃墟となった工場があった。

 

 

「来たか、拓斗。 待ちかねたぞ」

 

「兄貴!」

 

 

細身の拓斗とは比べものにならないほど、ガタイの良い大男──石上亮司がいた。

 

全国大会で優勝するほどの空手の腕を持ち、他のスポーツでも高い能力を示す。

 

けれども──素行の悪さの方が目立つという男であった。

 

 

()()()の指示だ。 その女を犯せ」

 

 

亮司は──亮子を指さした。

 

今まで特に表情を変えることない亮子であったが、さすがにその表情にはわずかな怯えが見える。

 

 

「え~! 最初にアスカちゃんを抱きたいんだけどなぁ」

 

「そう焦るな、拓斗。時間はたっぷりある。 さっさと抱いて、甲河を食えばいいのさ」

 

「あははは! そうするよ。 じゃあ、さっさと()()()を呼んでくれよ。 特にアスカちゃんとのカラミは高画質で頼むよ!」

 

「そうだな。 ──()()()()()を呼ぶ。 少し待ってろ」

 

 

亮司がスマホを操作すると、高額そうな大型カメラを持った2人の男が現れた。

 

そして──その後に続いて、大男たちが続いた。

 

 

「・・・・えっ?」

 

 

今まで気丈に振る舞っていた亮子であるが、さすがに大男たちが()()()()を持っていたことに動揺を隠せなかった。

 

尖った耳と牙に、筋肉質の肉体、何よりも緑の皮膚が人では無いと如実に語っている。

 

彼らは魔界の住人であり、ここ数十年でこちらの世界でも裏の世界に住んでいる──『オーク』である。

 

オークは知能は低いが、腕力では軽く人間を凌駕する。

 

緑橋学園の女子生徒たちが首輪をされており、それぞれが首輪を鎖で連結されて、オークが前後左右に付いている。

 

女子生徒たちは40人ほどおり、恐怖や絶望に染まる者たちや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()たちがいた。

 

「よーし、オークどもと女たちも来たことだ。 さっさと、おっ始めるぞ!」

 

「あははは。マジかよ兄貴! オッパイはアスカちゃんとは比べ物にはならないけど、バランスの取れたスレンダー美少女の亮子ちゃんを()()()()()のかよ? もったいね~」

 

「そういうな。 ──さっさとヤらないと俺が喰っちまうぞ?」

 

「いやいや、俺がヤリてぇよ! 昨日は女を抱いてないし、たまってるんだよ!!」

 

「くっくくく。 そんな泣きそうな顔をするな。 あの人には壊しても良い、と言われている。 ()()()()()()どう扱ってもいいぞ」

 

「やったぜ!!」

 

「オーク共も、お前たちも好きにヤレや!! 首輪をしている女たちは何しようが構わねえ! 早いもん勝ちだ!!」

 

 

亮司がスマホを操作すると、ガチャンとそれぞれ女子生徒を繋いでいた鎖が外れた。

 

 

「ひゃはははは!! 捕まったら犯される鬼ごっこの始まりだぁ!!!」

 

 

亮司の言葉に、不良たちが一斉に動いた。

 

 

「うおおおっ!! あの巨乳は俺のだ!」

 

「ヤったる! ロリは俺によこせ!」

 

「何でもいいぜぇ! ヤらせろやぁ!!」

 

「ひゃっはっ!! 女! 女! おんなぁぁぁっ!!」

 

急な事態に反応が遅れた女子生徒たちは、慌てて動き出した。

 

 

「いやあああっ!!」

 

「逃げてっ!」

 

「助けてぇぇぇっ!!」

 

「きゃああああっ!!」

 

 

不良たちから逃げてきた女子生徒たちは、目の前にあるオークの壁で前に進めなくなった。

 

進路を塞がれ、動きが鈍っていた女子生徒たちにオークたちは襲い掛かった。

 

 

「ひいぃぃぃぃっ!!」

 

「イヤアアアアァァッ!!!」

 

 

女子生徒たちは逃げようとするが、見た目とは裏腹に素早い動きのオークに簡単に捕まる。

 

捕まった勝ち気な女子生徒は、乱暴に押し倒された。

 

 

「やめろ! 離しなさいよっ!!」

 

 

女子生徒はのし掛かってきたオークを必死で蹴るが、オークはまったく気にする素振りも無い。

 

制服を乱暴に剥ぎ取っていく。

 

 

「やめてっ! 離してっ!!」

 

 

女子生徒は必死に恐怖を抑えていたが、スポーツで鍛えられた健康的な裸体が剥き出しにされ、とうとう泣き出した。

 

 

「やめてっ!! やめ、や、やめてよっ!!! わたし、はじめては彼に──」

 

「ダマレ」

 

 

オークは女子生徒の口を手で塞ぐ。

 

 

「オンナ、オマエハ、オレ、ノ、モノ。 オマエ、オレ、ガ、ハラマス」

 

 

拙い言葉であるが、それははっきりと女子生徒は理解できてしまった。

 

「スキナダケ、ワメケ。 オマエ、ナク、タノシイ」

 

 

オークは女子生徒の両足を掴み、強引に大きく開かせた。

 

恥部をオークに見られ、女子生徒はパニックに陥った。

 

 

「イヤッ! いやああああああああぁっ!!!! 離してっ!! 離してよっ!!!!」

 

 

オークは下卑た笑みを浮かべ、自身の下半身の『露出させた欲望』を女子生徒に叩き付けようと腰を突き出した。

 

 

「ぎゃあああああっ!?」

 

突如、誰かの苦悶の声が発せられ──

 

 

「お楽しみの最中に、残念ね」

 

 

さらに、そんな言葉が響くと──

 

 

「ア?」

 

 

オークの頭部は、ズルリと身体から落ちた。

 

破裂した水道管の如く、オークの首から血から吹き出した。

 

大柄の体格に見合った量であり、場が凍り付くほどの血の雨を降らせる。

 

「キャアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

オークの一番近くにいた女子生徒は血塗れになっただけでなく、呆けた顔で固まったオークの首が顔の目の前に落ちてきたために驚いて声を張り上げていた。

 

いつの間にか鎖が切れていたため、自らに倒れこんできたオークの肉塊をどけた。

 

 

「ほう」

 

 

オークを殺されても亮司は慌てることもなく、悠然とオークを殺した──()()()を見た。

 

 

「その義肢を使わなくても、軽々とオークと()を殺るとはな」

 

 

右肩から腰にかけて斬り裂かれ、臓物をぶちまけて絶命した拓斗が、アスカの後方に見えた。

 

女子生徒に襲い掛かる事もなく、不良たちは顔を引きつらせてたり、腰を抜かして動きを止めていた。

 

オークたちは()()()()()()()()()()()の出現に、即座に戦闘体勢に入った。

 

 

「くっくくく。 やるじゃねえか」

 

 

一方亮司は、身内を殺されても怒りを露にすることもなく、楽しそうに笑っただけだった。

 

 

「フフフ」

 

 

アスカは妖しく笑う。

 

まるで血に濡れた刀から血を払うように、右足をその場で一閃させた。

 

「私って生まれた時から義肢を付けていたわけではないの」

 

 

甲河アスカのために開発されたアンドロイドツールは、本来なら戦闘用であるが、普通の生活をする時は()()()()()として偽装されており、所長或いはDSOナンバー2にして技術主任──小谷健司──の許可を得なければ戦闘モードを使用できない。

 

それでも対魔粒子による風神の術に加え、今まで築き上げてきた彼女の戦闘技術の前では、何の訓練も受けた事も無くさして運動も真面目に取り組んだことがないただの高校男子(石上拓斗)や、魔族の中では下級に属するオークに遅れをとることなど無い。

 

 

「だろうな。 それは()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

アスカが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を知っているのは、極わずかな人間である。

 

アサギと、所長と、アンドロイドアームの開発主任の小谷、そして──()である。

 

 

(・・・・答えはシンプルだった、てことね)

 

 

亮司の発言にアスカから笑顔が消え、その顔はまるで能面の如く無表情になった。

 

 

()()()はどこ? 大人しく喋るなら楽に殺して上げる」

 

「くっくくく。 これからなぶる女の言うことを聞くと思うのか?」

 

「そうね。 なら、実力行使といくわ」

 

「いいぜぇ! 力で従わせるのは俺好みだ!! ──オーク共!! 相手をしてやれや! 相手は対魔忍だ! 多少の無理でも壊れやしねえ! ヤリたい放題にヤっていいぞ!!」

 

「「「「ウォオオオオオオオオッ!!!」」」」

 

 

オークたちは雄叫びを上げた。

 

先ほどまでの女子学生たちを相手する時のような手加減など一切無い、本気の突進だ。

 

殺気だった肉壁の突進は地響きを引き連れ、アスカに襲い掛かる。

 

その迫力に女子生徒たちは呑まれるも、アスカは動じることなく静かに呟いた。

 

 

「風神・陣刃」

 

 

対魔粒子が『力』として変換される。

 

アスカの両足は魔の風を纏い、右脚を大きく()()()()()

 

「はっ!!」

 

 

ゾクリと悪寒が走り、『死の予感』に襲われ、危機感を募らせた。

 

──手を出してはならない!

 

ここに来て、ようやくオークたちの生存本能が警報を上げた。

 

けれどもそれは──

 

 

「グギャアアアアアァァァアアッ!!!」

 

 

あまりにも遅い。

 

射線上にいたオークたちは、正しく『死』を呼び込む荒れ狂う風の刃に命を狩られた。

 

急所を防具で護ってはいたが、風の刃はそれらの存在をまったく感じさせない。

 

──頭

 

──胸部

 

──腹部

斬り裂かれた部位が空を舞う。

 

屍となったオークたちが倒れる。

 

それから少し遅れ、ボトッ、ボトッ、と肉塊が堕ちてくる。

 

「これじゃあ、準備運動にもならないわよ」

 

アスカはさらりと言った。

 

そして──辺り一面を真っ赤に染める血の豪雨が降る。

 

 

「「「「・・・・」」」」

 

 

そのあまりにも非現実的な光景に、一般人の不良や女子生徒たちは刺激が強すぎて、逆に黙り混んでしまった。

 

その中心にいるアスカだが、彼女はまるで血を浴びていない。

 

彼女を中心に巻き起こる風が防壁となっているからだ。

血を巻き込んで上昇気流になっている赤き風は、彼女の抑制された感情を現すかの如く、吹き荒れる。

 

 

「一撃で10殺とは豪気だな! いい具合に盛り上がってきたなぁ!! これは俺が相手しねぇとなあっ!!!」

 

 

亮司は血の臭いに闘志を掻き立てられたようだ。

 

狂気の笑みを浮かべて、アスカとの間合いを詰める。

 

 

「オラアアアァッ!!」

 

 

吹き荒れる風に怯むことなく、正拳突きを放った。

 

その拳は、さすがは学生チャンピオンと言える素晴らしい威力と疾さを兼ね揃えている。

 

でもそれは──

 

 

「この程度よね」

 

 

一般人ならば、という条件付きである。

 

裏の世界では下の下。

 

アンドロイドツールを使えない状態のアスカは、パワータイプの戦いが出来ない。

 

それでも──

 

「なにっ!?」

アスカは、軽々と亮司の拳を片手で受け止めた。

 

対魔粒子による身体能力の拡張だけでも十分だったが、さらに風の防壁による()()()()()()()をズラしたのだ。

 

「こんなのだったら、目を瞑ってても十分。──次は私の番だよね」

 

アスカは風を纏った右脚で──

 

 

「がっ!?」

 

 

亮司の腹を蹴り抜いた。

 

巨漢の男がまるでサッカーボールのように空を舞い、廃棄工場の壁を貫通していった。

 

はたから見れば、明らかに亮司より華奢なアスカ。

 

いくら手より足の方が威力があるとはいえ、亮司の拳より数倍の破壊力を発揮した蹴りに、周りの者たちは戦慄していた。

 

 

「・・・・あっ! やっば・・・・やっちゃった・・・・」

 

 

アスカは我に返った。

 

無表情だった顔に、焦りの表情が浮かんでいた。

 

 

「手加減が足りなかったかも・・・・」

 

仇の手掛かりに遭遇してアスカは感情的になっていた。

 

亮司から情報を引き出すためにも、最初は手加減して無力化しようと考えていたのだ。

 

だが、襲われている女子生徒たちを、見たら冷静ではいられなかったのだ。

 

(・・・・私って、そんなにお人好しじゃないし、割り切るタイプだと思ってたんだけどな~)

 

 

女子生徒の中にはアスカのクラスメイトも居た。

 

短い期間だが共に過ごした彼女たちに、アスカは自分で思ったよりも大切に思っていたようだ。

 

 

(・・・・あ~あ、今日で青春も終わりだね)

 

 

アスカは苦笑した。

 

対魔忍としての真の力を解放すれば、たとえオークから救ったとしても怖れられることは理解している。

 

人を超えし、超人の力の代償の1つは、たとえ善なる力の行使をしていても、『普通の者』たちは畏れ、共に過ごすことは叶わないことだろう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()にある。

 

それでもアスカは、この選択に後悔はしていなかった。

 

(見過ごしていたらきっと、目覚めが悪かった。──そうだよね、アサギさん・・・・)

 

アスカは遥か高みにいる『最強の対魔忍』に想いを馳せた。

 

 

「・・・・面倒くさいけど、あのバカをたたき起こして色々と聴くとしようかなぁ」

 

 

アスカがよし、と気合いを入れ直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山本亮子は()()()()()を理解している。

 

何故なら彼女は、父親が()()()()()()()()()()に関わっていることを知っているからだ。

 

それは偶然だった。

亮子は4年前のある日、ミニブログ系アプリ『today』で友人が投稿していたアプリ内のアルバムを見ていた。

 

投稿タイトルは私の歴史。

 

モザイク加工もなく個人情報が駄々漏れの写真であったが、公開範囲はフレンド登録された数人だけではあった。

 

それだけに、見ていないとすぐに分かってしまう。

 

後で何を言われるわからないので、面倒と思いつつも『感想』のために一通り見ることにした。

 

何気なく見ていた時──ある写真を見た亮子は思わず目を見張った。

 

その写真は、数年前のとあるイベント会場を写したものであった。

 

白と黒の色の車──パトカーを背にして、当時小学生だった友人とその家族が笑顔で写っていた。

 

警察の広報イベントのようだった。

写真にはパトカーだけでなく、広報に駆り出された多くの警察官が写っていた。

 

亮子が驚いた理由はただ1つ──()()()()()()()()をよく知っているからだ。

 

近所の交番に勤務しているから、というような理由でない。

 

亮子の家に出入りしている──()()()()()の1人であったからだ。

 

しかも1番親しくしている者だったからこそ、身の上のことはある程度知っており、過去に武道を嗜む程度にしていたが会社員として勤めていた、としか聞いていなかったからだ。

 

──ひょっとしたら警察官の時に何か事情があって辞め、人に話したくない過去なのかも知れない。

 

そう考えた亮子は、驚きはしたものの特にそれを追及することはなかった。

 

だがそれから1ヶ月後──亮子は図らずしも、()()にたどり着いてしまった。

 

その日亮子は、リビングにスマホを置いたまま外出してしまった。

 

いつもは父親から防犯を兼ねているので()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ように言われていたのだが、 歩いて5分ほどのコンビニに行って10分ほどで帰って来る予定だったので油断していたのだ。

 

コンビニで飲み物を選んでいると、家事手伝いが亮子の元に()()()を届けに来たのだ。

 

その時──彼女が珍しく焦っているように亮子は感じた。

 

夜に自室でスマホを操作し、todayの閲覧をしているとふと彼女のことが頭に浮かんだからだ。

 

でも結局は気のせいだろうと、思った時に亮子は気が付いた。

 

録音用アプリが起動待機状態になっており、()()()()()()()()()()()()()になっていることに。

 

今日は録音した記憶は無いが、一応録音されたデータが無いか亮子が確認したところ、本日の録音データがあった。

 

亮子は心当たりが無かったので、録音データを再生した。

 

──亮子は家にいるか?

 

亮子の父である山本信繁の声。

 

複数の人間が走り回る音。

 

──いません!

 

普段はクールな家事手伝いの女性が、焦った声を出している。

 

少なくとも、亮子は一度足りとも焦っていたところを見たことは無い。

 

──防犯ベルのGPSはどうか?

 

──申し訳ありません! お嬢様の消息不明になった10分前に不具合が発生しており、居場所を特定出来ません。

 

──侵入形跡はあったのか?

 

──全くありませんでした。 しかしお嬢様の行方が分かりませんので、バックアップチームに援護を要請し、捜索を行います!

 

──・・・・すまんな。 恐らくは娘がスマートフォンを所持するのを忘れただけだと思うが。

 

──いえ、内務省公共安全庁調査第三部(セクションスリー)の山本部長のご息女である事は、残念ですが()()()()()()()()()()()()()()()()()()であるのは間違いありません。 ですから、用心するに越したことはありません。 ──それに、我々()()がついていながらの失態です。 お詫びのしようもありません。 ですが、まずは四の五の言う前にご息女の身柄を確認します。

 

──頼む。

 

二人のやり取りを最後に、音声データは終わっていた。

 

その予想もしない内容に亮子は眠いだけだろうと結論付け、眠った。

 

次の日。

再び音声データを再生すると、その内容は昨日と何ら変わることは無かった。

 

モヤモヤする日々。

 

1ヶ月が経った休みの日に、珍しく信繁がリビングにいた。

 

そして亮子は音声データを父に聞かせて、その内容の意味をストレートに質問した。

 

──そうか、知ってしまったか。

 

信繁は苦しそうにして語った。

 

──秘密にしていたのには理由がある。

 

仕事は国の行く末を左右することもあり守秘義務もあるが、何よりも誘拐されるかも知れない、と思っての日常生活は苦痛を伴うものだ。

 

だから、無用なストレスを感じることなく()()()()()()をさせてやる。

 

それが、自分が仕事で家に中々帰れない上に、母とも死別し、独りっ子で寂しい思いをさせている亮子にできる唯一の親らしいことである、と信繁は考えていたのだ。

 

──すまない、亮子。 お前を危険にさらすことになるかもしれん。

 

亮子の認識では父は警察官である。

 

──お父さんがこの仕事に着いたのってもしかして・・・・お母さんが死んだことと関係あるの?

 

2年前に、亮子の母が──麻薬中毒者に刺されて──死んでから信繁が家にいる時間が短くなっていったのだ。

 

そして徐々に二人の間に溝が空いていき、やがて会話もほとんど無くなった。

 

会話をしたのも実に()()()()()だ。

 

──そうだ。 母さんの死には、強大な犯罪組織が絡んでいた。

その犯罪組織により、私たちのように大切な者を奪われた者たちの数はとてつもなく多い。 しかも、その犯罪組織は()()()()()()()()()()()()()()()()()()ほどの力を持っている。 だからこそ、国はそれに対応できる力を持った者たちの力を借り、対抗するために対応部署を組織した。 私は母さんが死んだ翌週、政府高官からの接触があり、迷うことなくセクションスリーの部長となることを決めた。

 

──・・・・お父さん、辛そうな顔だよ。

 

──私は母さんを殺された復習心から部長になることを決めた。 だが、時だ経つにつれて冷静になれた時・・・・私は亮子の事をまったく省みていないことに、今さら気が付いた。 そして思い出した・・・・母さんの最後の願いは復讐ではなく、お前の幸福だった。 それからは後悔の連続だ。 お前の身の安全を考えるならば即座に組織から抜けるべきだ。 だが・・・・母さんの命を奪う原因を作った犯罪組織だけではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、日本で対応できるのはセクションスリーだけだ。 今私が組織を離れれば、近い将来に理不尽なエゴにより命を奪われ、悲しみに暮れる者たちが大勢生まれる。 だから、私は・・・・

 

──止めないでよ、お父さん。 母さんもきっと分かってくれるよ。 誰かのために必死になれる、そんなお父さんをお母さんは大好きだったんだから。

 

──・・・・亮子。

 

──私は将来、自分の身に何か起きてもお父さんを恨まない。 だから私たち親子みたいに不幸になる人を、1人でも多く救って。

 

──分かった、全力を尽くす。 それが亮子と母さんへのせめてもの罪滅ぼしだ。

 

──無理し過ぎないようにね。

 

──善処する。

 

この出来事は二人にとってのブレイクポイントであった。

 

この件により、二人にあった溝は徐々に埋まり、親子の仲は修復された。

 

 

(あの時、知れてよかった)

 

 

昔を思い出すのはきっと、()()()()()()()()()()()が来てしまったからだと、亮子は工場内を駆けながら思った。

 

 

「待て! 止まれっ!! クソアマ!!」

 

 

必死の形相で拓斗や取り巻きの不良たちが、亮子を追いかけていた。

 

亮子は亮司が電子制御された手錠が外れた瞬間──即座に駆け出した。

 

普段ののんびりした口調や、頭の軽そうな能天気な笑顔を浮かべる女子高生。

 

そこから陸上部をも圧倒する走力や体力を想像できる者は、皆無と言っていいだろう。

 

男子高校生を越える運動能力に加え、緊急事態ですぐに身体を動かせたのには理由がある。

 

あの日から亮子は家に来ていた女性SPを中心に、()()()()()()()()()()()()()()()を行っていたおかげだった。

 

それでも──

 

 

「はあ、はあ、はあっ・・・・ クソッ! ようやく追い詰めた! さっさとヤらせろよ!! お前はアスカちゃんの前菜なんだからよぉ!!」

 

 

工場は広いとはいえ、通路を人数を使って塞がれてしまったら、いかに亮子が素早くても逃げ切れない。

 

一方通行の角部屋に追い込まれてしまった。

彼女の目の前には、拓斗と5人の不良がいる。

 

 

「あの~、さすがに乙女の純潔はそんなに軽い物じゃないよ~」

 

 

亮子は内心の焦りを悟られないように、時間稼ぎをする。

 

拐われた時にスマホは没収されて亮子から10m以上離れたため、身に付けている防犯ベルが緊急事態を報せるためにGPS情報を発信している。

程無く助けが来るはずだ。

 

 

「ウゼえっ! お前らっ! さっさと押さえ付けろ!!」

 

「はいっ!」

 

 

不良たちが亮子に飛び掛かる。

 

ある程度格闘訓練はやったもののそちらの才能はあまり無かったのか、1対1ならば兎も角、亮子は1対複数で圧倒できるレベルには達しなかった。

 

彼女より体格の良い5人相手に勝てる見込みはない。

 

故に、彼女は()()()()()()()()()

 

 

「さようなら~」

 

 

窓を開けた。

 

ここは2階だ。

 

高さにして10mはある。

 

それでも、彼女は迷わず飛び出した。

 

 

「あ・・・・」

 

 

そのあまりの思いっきりの良さに、不良たちは呆然となった。

 

「ちっ! 逃げられた!」

 

 

窓から身を乗り出したものの、亮子のように飛び出す気骨はない拓斗。

 

無事に着地を決め、走り出した亮子を舌打ちして見逃すしかやかった。

 

 

「まっ、兄貴は謝れば許してくれるさ。 それよりも、むしゃくしゃしたなあ。よしゃっ! こうなったら、アスカちゃんを抱いてストレス発散するかあ!」

 

 

それは選択ミスだった──と、拓斗が気が付くことは無かった。

 

彼は自らが死んだ──と、自覚する前に()()へと変わったからだ。

 

それはあらゆる悪行を繰り返して来た男には、痛みさえ感じない一瞬の死は幸せな最後だったであろう。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話「チョリースと鋼鉄と、ハムの人 Ⅴフェーズ」

話が進まない(笑)


それはともかく、皆様お気に入り登録ありがとうございました!
非常に励みになります。
これからも亀更新で頑張って行きます。
コロナ騒ぎで大変ですが、皆様の暇潰しになれればいいなあと思います!


上空30000m。

 

通常、飛行機が航空する10000mより3倍以上の高度で()()()()()()()()()があった。

 

全長150mを越える()()はリニアカタパルトと固定式大型コンテナを備え、輸送機というよりも()()()()と称するのに相応しい存在だ。

 

()()()()()()では他に見ぬ造形であり、また航空機としては破格の火力を有しているのは間違いない。

 

発艦準備を整えつつ、管制官からの指示を待つ。

 

視界には彼──グラハム・エーカーが追い求め、愛し、憎しみを抱き、宿命となった機 体(ガンダム)が目に入った。

 

その体躯は彼の知るそれより遥かに小さく2mほどだ。

 

だがその威容は少しも衰えることは無い。

 

 

「ふっ」

 

グラハムは小さく笑った。

 

 

「これぞ正しく乙女座の私故に、ということか」

 

 

その笑みには、複雑な感情が込められてきた。

 

『グラハム、間もなく()()が完了するよ』

 

 

友──ビリー・カタギリの声が通信機を介して伝わる。

 

ビリーはメカニックでもあるが、人手不足であるためにブリッジ要員でもあった。

 

 

「こちらは子細無い。 私とフラッグは何時でも行ける」

 

『了解だよ。──リニアカタパルト、電位上昇。 出撃スタンバイ』

 

リニアカタパルトに固定されているクルーズ(戦闘機)形態のフラッグは、発艦デッキに上がっていく。

 

 

『フラッグに小型コンテナを固定するよ』

 

 

小型コンテナは、大きさにして10×10㎝ほどしかない。

 

銃どころか、折り畳みナイフ1つ入るのが精一杯の大きさ。

 

しかしその堅牢さは、戦闘艦の主砲を受けても中身に傷一つつけないほどである。

そんな物に入っているのは、それ相応の物である。

 

グラハムの役目は、中身の運搬と()()()()()()()()である。

 

 

『ソウチャクカンリョウ! ソウチャクカンリョウ!』

 

 

マニュピュレーターを装着したサポートメカに乗り込み、球体小型メカ──『ハロ』が取り付け作業を完了したことを報告した。

 

 

『リニアカタパルト、スタンバイ完了。 ──発進タイミングをグラハム・エーカーに譲渡するよ』

 

「了解した! フラッグ! グラハム・エーカー、出るぞ!」

 

グラハムがリニアカタパルトを遠隔操作し、フラッグは射出された。

 

フラッグは一瞬にして──マッハを越えた。

 

フラッグは目標座標に向かって高度を維持しながら飛翔する。

 

その最中──

 

 

「ノリエガ女史の戦術予報通りだな」

 

 

グラハムの目はまるで獰猛な肉食獣の如く荒々しい光を宿しながら、されどその口調は何処までも冷静である。

 

フラッグの(センサー)を通して前方には立体映像として様々な情報が表示され、その中には()も含まれていた。

 

まるでトンボの羽のような翼を6枚持つ単 眼(モノアイ)の外骨格。

 

フラッグ内に納められてデータに、該当するものがあった。

 

米連の A M F (空中機動戦闘機)にカテゴライズされる単独飛行可能の制空戦闘用外骨格──ディンである。

 

ディンの6機編成部隊。

 

重突撃機銃(アサルトライフル)装備が4機、対空散弾銃(ショットガン)装備が2機。

 

米連が運用している最新型である。

 

だが──今回のグラハムの敵は()()()()()

 

「この動き・・・・AI制御か」

 

 

グラハムは機械的挙動で動くディンには、パイロットが乗っていないAI制御であることを看破した。

 

確かにAI制御機は強い。

 

人を越える反射神経。

 

正確無比の射撃。

 

恐怖知らずの格闘。

 

一子乱れぬ連携。

 

 

「精巧に作られた機械に人は破れるだろう! だが!!」

 

──ロックオン警報。

 

構わずフラッグは相対する。

 

──警告無しの発砲。

 

戦闘2機のショットガンに続き、後続4機のアサルトライフルによる弾丸の雨、嵐。

 

その弾幕を持ってしても、フラッグは止めれない。

 

 

「そんな道理!」

 

 

フラッグはパイロット(グラハム)からの要望を受け、エンジンに莫大なエネルギーを要求する。

 

エンジンはそれに応え、背部から強く輝く()()()()()()を吐き出し、フラッグを加速させる。

 

フラッグはかすり傷一つ負うこと無く、弾幕を潜り抜けた。

 

弾丸を凌駕する機体速度。

 

原初の粒子であるGN粒子は自然界の基礎的な力──電磁力、重力等──すべての特性を内包している。

 

そのGN粒子を制御化においてもなお、殺人的なGがパイロットを襲う。

 

 

「私の無理で抉じ開ける!!」

 

──追撃のミサイルの雨。

 

待ってましたとばかりに、6機が胸部に装備されていた6連装ミサイルを一斉発射。

 

回避不能。

 

グラハムは瞬時にそう判断すると、搭載火器──GNビームライフルを放った。

 

3連射された粒子ビームは3発どころか計5発のミサイルを撃ち落とし、オマケとばかりにディンを2機を落とした。

 

ミサイルの雨を、近接感知信管による爆発したミサイルの爆風の嵐を受けてもなお、黒い雷となって風を引き裂いてフラッグは空を舞う。

 

鋭角的な機動による殺人的なGは加速する。

 

それでもグラハムは、内から溢れる喜びに震えていた。

 

 

「流石はカタギリ! 良い仕事をする!」

 

 

グラハムはわずかな飛行で、フラッグの性能が向上していることに気がついた。

 

飛行速度だけでいえばフラッグはガンダムさえも凌駕していると、グラハムは確信した。

 

フラッグは量産を前提にした機体であるため、量産を前提とせずにたった一機で戦況を支配できるように開発されたガンダムとはかかった金額は一桁、二桁違うため、本来ならばフラッグは到底ガンダムに対抗できる機体ではない。

 

それにも関わらずガンダムに総合的には圧倒的に劣るとはいえ、ガンダムに勝る性能面もある。

 

それを可能としたのは、技術者としての優れたビリーの腕と、ピーキーに設定されたフラッグの性能を100%以上発揮させるグラハムの鬼才。

 

そして──

 

 

「この出力! 流石はガンダムの心臓部たる、オリジナルGNドライブ!!」

 

 

リボンズにより提供されたオリジナルGNドライブを得たフラッグ。

 

 

「この私──グラハム・エーカーと! ()()()()()()()()の前には、君たちは雑兵に過ぎぬ!」

 

 

ビリーによるGNドライブ搭載を前提にしたフラッグの改良型──GNフラッグ。

 

前世(MS)では()()()()()()()()()()()()ために粒子兵器が左腕のGNビームサーベル1本だけしか使用できなかったが、 今世 (外骨格)では十分な改良時間が確保された。

 

その結果──粒子兵器であるGNビームライフル、GNバルカン、GNビームサーベル2本を使用できる。

 

 

「時間が惜しい。 幕引きとさせて頂く!」

 

 

フラッグは旋回し、スピードを落としてディンに()()()背後を取らせた。

 

ディンはその行動に対して特にアクションを起こさない。

 

定石通りに背後からフラッグに狙いを定める。

 

ディンたちは照準を完了。

 

AIは状況から命中確率99.87を導きだした。

 

──逃れようもない5機分の弾丸とミサイルの嵐を浴びせる。

フラッグ()は撃破される。

 

AIはそう判断した。

 

躊躇も、遊びも、嘲りも無く──トリガーを引き、ミサイルを発射した。

 

直後──爆風が前方を覆う。

 

AIの未来予測通りに、フラッグ()は落下──

 

 

「「「「・・・・・・・・」」」」

 

 

しなかった。

 

それどころか、目の前に人 型 (スタンド)形態となったフラッグ()が表れた。

 

AIは予想外の結果に、処理が追い付かず一瞬フリーズした。

 

その隙はグラハムには十分過ぎる時間を与えた。

 

 

「あえて言おう! これが──グラハム・スペシャルだ!!」

 

戦闘機形態から人型形態に変形することにより、物理的に抵抗を増やしての急制動及び人型になったことによる攻撃パターンを増加させての奇襲。

 

グラハム・スペシャルは有効な空戦機動(マニューバ)であるが、そもそもフラッグは()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それを()()()()()()()()()()()のは、繊細な機体制御技術と豪胆さを併せ持つグラハムだからこそだ。

 

グラハム・スペシャルは、大きなリスクも背負っている。

 

急制動に伴う殺人的なG、わずかな操作ミスで空中分解や墜落が簡単に起こってしまう──まさに諸刃の剣である。

 

「斬り捨て、ごめえええぇぇぇぇぇん!!」

 

 

フラッグは両手に掴んだGNビームサーベルを振るう。

 

上段斬り──

 

下段斬り──

 

右袈裟懸け──

 

左袈裟懸け──

 

4本の閃光が走り、遅れてほぼ同時に4つの爆発。

 

あっという間にフラッグはディンたちとの間合いを詰め、時間にして1秒と立たずに5機を簡単にバラバラにしたのだ。

 

人型形態であっても、フラッグの最大速力はディンを凌駕している。

 

フラッグは再び戦闘機形態に戻ると、目的地に向けて進路をとった。

 

 

 

 

 

第8話「チョリースと鋼鉄と、ハムの人 Ⅴフェーズ」

 

 

 

 

「マズいわねぇ」

「マズいねぇ~」

 

 

逃げ回っている内にアスカと出会った亮子。

二人は工場内に立て込もっていた。

それというのも──

 

 

「ヒャハハハハハハッッ!!」

 

 

重突撃機銃(アサルトライフル)を両手に持った外骨格が、弾丸をばらまき続けていたからだ。

 

 

(まったく、どうして米連の新型機が出てくるのよっ!?)

 

アスカが亮司を追い詰め、尋問しようと工場内に入った。

 

出迎えたのは激しい銃弾の雨だった。

なんとそこには、ジンの改良型である外骨格──『シグー』とジンが待ち構えていたのだ。

 

シグーからはヤバい感じのハイテンションの声も響き、それは間違いなく亮司のものであった。

 

シグーはジンと比較して細身で華奢な体型だが、各部に追加されたスラスターにより機動性・運動性が大幅に向上しており、高い汎用性を有している。

 

 

(シグー、ジン10機・・・・アンドロイドアームが無くても殺れるけど・・・・)

 

 

相手が理性を持っているならば、まだどうにか穏便に時間稼ぎもできただろう。

 

その隙に亮子を逃がし、敵を無力化する。

 

割と難易度は低い。

 

けれど──

 

 

(亮子を守りながらじゃ・・・・キツい)

 

 

亮子の運動能力の高さはアスカも気が付いたが、咄嗟の隙を付きここまで逃げてこれた判断力は意外に思った。

 

想定外に動けると知った。

 

それでも銃弾や外骨格相手には運動神経が良い、ぐらいでは何の意味も持たない。

 

対魔粒子による身体能力拡張により頑強さが上がっているとはいえ、さすがにアスカでもアサルトライフルの掃射を無効化は出来ない。

 

亮子に至っては、流れ弾のライフル弾を1発でももらえば致命傷だ。

 

シグーたちはアサルトライフルを乱射して、ジワジワと建物を壊しているのを楽しんでおり、下手に出ていけば蜂の巣確定だろう。

 

 

(にしても、弾切れしないってことは・・・・やっぱりライフルには魔術がかかってるわね。 うっすらと魔の気配を感じる)

 

 

アスカの予想は当たっていた。

 

アサルトライフルは生命力を弾丸に変換するおぞましい魔術が組み込まれ、リロードの度に使用者の生命力は削られていく。

 

これが通常状態ならば自身の体調に異状をきたしていることに直ぐに気が付くだろうが、今の装着者たちは()()()()()()()()()により常にハイテンションになっている。

 

このシグー及びジンは米連から奪った機体であり、魔界技術で悪趣味な改造が加えられている。

 

 

「ヒァハハハハハハハッッ!!! 最高だぜえええええぇぇっ!!」

 

「ハッハハハハハハハハ!!!」

 

「やほっおおおおおおおお!!」

 

 

シグーたちは高笑いをしながらさらに建物を弾丸で削っていく。

 

四方八方から上下──1階から2階まで──に、狙いなど無い無茶苦茶な射撃。

 

だからこそ、余計に危険になった。

 

それを窓際から外を覗き込んでいるアスカは、小さく舌打ちした。

 

狂乱の宴が続く中、亮子がポツリと聞いた。

 

 

「ねぇ、スカちゃん。 1つ聞いていい?」

 

 

亮子は猫かぶりの口調ではなく、真剣な口調で聞いた。

 

 

「何? 悪いけど、私が何者か、ってのは無しでお願い」

 

「大丈夫。 ──聞きたいのは、なんでこの状況で誰も来ないのかってこと。 あのロボットが無茶苦茶銃を撃ちまくって凄く五月蝿いよね?」

 

「それは簡単にいえば、結界ってやつよ。たぶん視覚と音響阻害もされていると思うから、いくら派手にやっても外からは分からないわ。 無論、ただの電波は妨害されてるから」

 

「それって・・・・救出は望めないってこと?」

 

 

その事実にさすがに亮子も顔が引きつる。

 

 

「ふふ、大丈夫。 ()()()()()()私の仲間が異常を感知してくれてる」

 

「え? さっきは電波は通じないって言わなかった?」

 

()()の電波、ならね」

 

 

アスカは普段は隠すためにやっている右手の手袋を外した。

 

そこには当然──鋼鉄の義手が存在した。

 

 

「特別製の義手は、色々秘密がたくさんあるの」

 

 

アスカはにっこりと笑った。

 

右手首を360度回すと、カチッという音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「掴んだ!」

 

「場所は?」

 

 

フルフェイスで黒のライダースーツらしき物を纏った男が、ハイスピード、ハイパワーを誇るハイスペックマシン──『スズキ GSXーR1000』を運転し、その後ろにはタブレットを操作するツナギ姿でメガネの男が乗っていた。

 

 

「モニターに送った!」

 

 

左右ハンドルには小型モニターが装備され、それは小さいながらもナビゲーションシステムが付いている。

 

 

「確認した。 ──飛ばすぞ! 強く捕まれ!」

 

「了解だ! ──おっ、おおおおおお!? 速すぎるっ!!!」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話「チョリースと鋼鉄と、ハムの人 Ⅵフェーズ」

久しぶりに投稿です。

あと、多数のお気に入り登録ありがとうございますm(__)m
励みにして、しぶとく続けて行きます!


「・・・・はあっ! ・・・・はあっ!」

 

「・・・・まっ、待って! もうっ・・・・息がっ!!」

 

「走って!! 止まったら、捕まるよ!!」

 

 

女子生徒たちは必死に走っていた。

 

その数──5人。

 

オークたちに追われ、不良たちに追われている。

 

彼女たちは比較的遅くに捕まった緑橋学園の生徒であり、アスカと亮子のクラスメイトであった。

 

不幸中の幸いで、まだ凌辱を受けておらず逃げようとする気力があった。

 

その際に凌辱を受け過ぎて半ば心神喪失の女子グループもおり、それにオークたちが気をとられている隙に、女子たちはそれぞれ拉致されたグループごとで混乱に乗じて逃げた。

 

彼女たちはそこそこ運動は出来たが、亮子よりはかなり劣る。

 

逃げるにしてもギリギリだ。

 

足を引っ張ってしまう子もいる。

 

それでも仲間を見捨てないのは、5人が幼き頃からの友だったからだろう。

 

 

「ここっ! 入って!!」

 

先頭を行く女子が半開きの倉庫を見つけた。

 

5人はそこに雪崩れ込んだ。

 

しっかりと内側からカギを掛け、5人は息を殺して身を寄せ合った。

 

あれだけ激しい運動をして汗をかいたにも関わらず彼女たちの誰もが暑さよりも、遅い来る恐怖のために身体の芯から沸き上がる寒さを感じていた。

 

外からはドタバタと走り回る音や、オークや不良たちの怒号が聞こえてくる。

 

その度に、暗闇の中で彼女たちは身を固くしていた。

 

やがて声が遠くなった。

 

安心してやっと息が整った彼女たちは、息を潜めて話だした。

 

 

「・・・・ど、どうしよう・・・・」

 

「わかんないよぉ・・・・」

 

「スマホも繋がらない・・・・」

 

 

沈黙が支配し、誰1人として具体的な解決法が思い付かない。

 

それは突然だった。

 

扉がミシミシ、と軋み出した。

 

扉はまるで岩に打ち付けられたかのうよな凹凸が出来る。

 

 

「ひっ!?」

 

 

1人の女子が上げた短い悲鳴。

 

慌てて横にいた友人が口を塞いだが──

 

 

「きゃああああっ!!!」

 

 

無意味だった。

 

鉄製のドアが引き剥がされ、そこにはオークが2人いた。

 

オークたちはニタリ、と嗤う。

 

1人は入り口を固め、もう1人が侵入する。

 

 

「いやああああああっ!!」

 

 

女子の1人が恐慌状態となる。

 

それが全体に伝達し、女子たちは抱き合って、ただ怯えて震えるだけだ。

 

 

「グフフフ」

 

 

オークは()()()()()()()()()()()()()だ。

 

それは捕らえた獲物が苦しむ様を楽しむ、残忍な狩人の如く、

 

明らかな慢心さに満ちた行為だ。

 

狩場において、圧倒的な弱肉強食の構図の上ではそれは何の問題も無い。

 

けれど──

 

 

「オマエタチハ──」

 

 

()()において、絶対など無い。

 

オークはそれを自覚していなかった。

 

だからこそ、彼らは簡単に不意を突かれた。

 

 

「ガッ!?」

 

 

背中に生じた強烈な痛みが一瞬で、身体全体に拡がった。

 

それが高電圧から来るものだという事に、オークたちは気が付いたものの、意識を失い倒れた彼らには何の意味もなかった。

 

 

「怪我は無いか?」

 

 

倒れたオークの背後から()()()()()()を構え、黒のライダースーツのような──()()()()()()()()で身も包む人物が見えた。

 

その人物はフルフェイスでスマートな印象を受けるヘルメットを被っており、そのヘルメットは遮光処置が施された特別製のバイザーを装着しているために顔はわからない。

 

背格好からして男なのは間違いなさそうだった。

 

 

「み、みんな、大丈夫です。 怪我をした子はいません」

 

「そうか。脱出経路を確保している。──着いてきてくれ」

 

 

それよりも彼女たちが気になったのは、見えない顔よりもその声。

 

あまりにも()()()()()()()()()()()()()()()ために、最初は気が付かなかった。

 

けれども、落ち着くとそれは聞いたことのある声だった。

 

「聖栄・・・・セツナくん、なの?」

 

「違う」

 

 

その人物はきっぱりと否定した。

 

 

「・・・・俺は──」

 

 

わずかな沈黙の後に、

 

 

()()()()()だ」

 

 

そう答えた。

 

 

 

 

 

 

第9話「チョリースと鋼鉄と、ハムの人 Ⅵフェーズ」

 

 

 

 

 

 

 

 

──くたばれやあああっ!!!

 

──死ねえぇぇぇぇっ!!!

 

 

シグーやジンの銃撃は続いていた。

 

しかしその対象は、廃工場内にいるアスカや亮子では無くなっていた。

 

 

「・・・・どうしたんだろう?」

 

 

アスカと亮子は先ほどまで会話するのも困難な状態だった。

 

けれども、今は亮子の声が簡単に通った。

 

 

「気になるなら外を見てみれば」

 

 

アスカは亮子にそう提案した。

 

 

「大丈夫?」

 

「ええ。彼らは私たちに構っている暇はないもの」

 

 

アスカはフフッ、と面白そうに笑う。

 

亮子は窓から慎重に外を除くと、シグーらは()()()()()()アサルトライフルを連射していた。

 

亮子は空に視線を向けると、100mほど上空に一機の戦闘機のような機体が飛んでいた。

 

機体はビックリするほどの銃弾に晒されている。

 

それでも持ち前のスピードは圧倒的であり、素人目から見ても当たる気配を感じることは無い。

 

ヒラリ、ヒラリと攻撃を巧みに躱し、ビーム兵器で反撃をする。

 

その射撃はシグーたちとは比べ物にならないほどに正確で、発射の度に命中している。

 

 

(日本自衛軍の新型可変外骨格、フラッグ。 まだ数機しかロールアウトされていないはず。 それなのに()()()登場とは、何か裏がありそうね。──それよりもあの機体性能ね。 シグーやジンの機体評価はとても高かったわ。 素人が乗ってもそこそこやれるだけの機体のはず。 それでもかすり傷も負わないなんて、あのフラッグは機体性能だけでなく、パイロットも相当の腕よね、これは・・・・)

 

 

アスカは自身が所属しているDSOとは敵対こそしていないが、協力関係でさえ無い自衛軍の機体が救援として来ることになったのか。

 

それはアスカにも分からないが、この状況に混乱しないのは、先ほど入った通信があったからだ。

 

 

──フラッグがシグーたちを相手にする。 その間にお前さんは友達を連れて、指定ポイントに行け。

 

 

DSOのナンバー2にして、技術主任である()()()()()()()()()からの通信であった。

 

アスカはアンドロイドアームを使用するための補助として脳に装着したマイクロチップを通して、暗号通信で送られた音声及び地図データを確認していた。

 

 

「亮子、今のうちに脱出するわよ」

 

 

網膜に映し出された3D地図。

 

アスカには目標地点までの道筋が見えていた。

 

 

 

 

 

 

イアン・ヴァスティ。

 

前世ではソレスタルビーイングの優れたメカニックとして活躍した。

 

彼無しでは、ガンダムやトレミーがその優れた能力を最後まで発揮することは出来なかっただろう。

 

他人に頼ることを苦手としていた刹那であるが、イアンのメカニックとしての能力はそんな刹那をして、全面的に信頼するものであり、彼が自身以上に大切にしていたガンダムの整備に関して不満を抱いたことはなかったほどであった。

 

イアンもまた、この世界に転生していた。

 

今世でもまた前世の妻──リンダと結婚していた。

 

そして、二人の子であるミレイナも産まれていた。

 

3人は前世を思い出すことも無く、数十年生きていた。

 

しかし数週間前に巻き込まれた()()()()が引き金となった。

 

3人は火傷こそ負わなかったが、有毒ガスを吸ったことにより生死の境をさ迷うものの奇跡的に障害もなく、快方した。

 

幸か不幸か、その際には3人は前世の記憶が甦っていた。

 

イアンはリンダやミレイナと協力し、前世でソレスタルビーイングが使用していた秘匿コードでネット世界を探っていたところ、ヴェーダが3人を捕捉。

 

それにより、刹那は3人の存在を確認した。

 

直ぐ様刹那はイアン、リンダ、ミレイナに接触。

 

イアンたちは刹那に協力を約束し、元々所属していた米連を辞めるために行動を開始していた。

 

その最中、イアンが所属しているDSOのエージェントであるアスカが苦境に立たされた。

 

偶然にも対魔忍として任務中の刹那が、アスカと同じ学園に通っていたこともあり、イアンは刹那に協力を要請。

 

()()()()()()()()()()に、合流した2人は結界に覆われていた廃工場に突入したのだ。

 

それと同時にグラハムが操るGNフラッグが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()派手に侵入して敵の注意を反らした。

 

刹那は捕まっていた女子たちの救出に向かい、イアンは刹那から渡されたハロ2機が操るオートマトンが護衛に付きつつ小型軍用パソコンからアスカのアンドロイドアームの武装解除を行っていた。

 

 

「「イアン、マモル! マモル!」」

 

 

オートマトンは長方形の頭部に砲身が付いており、4脚で歩行する対人兵器である。

 

米連が運用する軍用ドローンよりも汎用性が高く、各種の装備オプションがある。

 

搭載AIにより定められた行動をできるが、ハロが()()することにより各種能力が上がる。

 

ハロ搭乗オートマトン──『ハロマトン』ならば、新米どころか並みの対魔忍相手も勤まる。

 

白ハロ搭乗型オートマント──白ハロマトンは通常の頭部GNマシンガンと、左右マニュピレーターにGNビームソードとGNシールドを装備する接近戦仕様。

 

緑ハロ搭乗型オートマント──緑ハロマトンは通常の頭部GNマシンガンと、左右マニュピレーター及び左右隠しマニュピレーターにGNアサルトライフル及びGNピストルを装備する射撃戦仕様。

 

小型疑似GNドライブを搭載しているが、生物に悪影響を与える毒素は排除されている。

 

2機のハロマトンは、GNドライブによりホバーリングして進む。

 

粒子量が非殺傷レベルに抑えられているGN兵器により、遭遇した敵を次々に鎮圧していく。

 

 

「こりぁ、とんでもないものを開発しよったな」

 

 

イアンはハロマトンの性能に、思わず苦笑していた。

 

余談だが──ハロ及びハロマトンは()()()()()()()()()ものである。

 

以上。

 

 

 

 

 

 

「・・・・出来れば戦いたくなかった」

 

「だけど、俺たちは──」

 

「分かっているよ。僕たちは──戦うしかないんだ」

 

「そうだ。 そのために俺たち──()()()()()()()()は生まれた」

 

「・・・・行こう。 僕たちには他人の血をすすってでも、守らなければならない人たちがいるんだ!」

 

「ああ!」

 

 

 

 

 

 

刹那は女子たちを護りながら迫り来る敵に対処していた。

 

屈強なオークを相手に正面から体術だけで圧倒し、数がけの頼りの不良たちを一撃で気絶させていく。

 

刹那の活躍もあり、必死で逃げ回っていたのがウソのように追っ手を簡単に振り切り、刹那たちは廃工場から離れていた。

 

 

「間もなく迎えが来る」

 

 

刹那の声に、女子たちから安堵の声が上がる。

 

そうすると、余計な思考をする余裕が女子に生まれていた。

 

刹那の表情は彼女たちが知る疑似人格の刹那とは違い、あまり表情を動かさない本来のものであったが、何となく心穏やか印象を受けていた。

 

 

「刹那くん、いままで相当無理をしてた?」

 

「・・・・そうだな。 やはり、自分を偽るのは疲れる」

 

「でも、なんでそうしたの?」

 

「必要だからだ」

 

 

刹那はそれ以上の質問には答えない、とばかりに短く言った。

 

聞いた女子もそれを悟り、余計な事を言わなかった。

 

それから5分と経たずに、黒のセダンが2台到着した。

 

そこからスーツ姿の女性が降りて来た。

 

 

「我々は警察の者です」

 

 

二人の婦警が、警察手帳を掲示しながら女子たちに優しく声をかけた。

 

 

「車に乗って下さい。 貴女たちをご家族の元へと連れていきます」

 

 

女子たちは次々に車に乗り込んだ。

 

そして最後の女子が乗り込んだ。

 

刹那は乗車していない。

 

 

「ありがとう、刹那くん」

 

「気にするな。 俺は任務を果たしたに過ぎない」

 

「うん。 それでも、ありがとう」

 

「そうか。──出して下さい。彼女たちを頼みます」

 

「了解です」

 

 

婦警が応えると、二台の車は出発した。

 

刹那はそれを背に、廃工場の方向に走り出した。

 

GN粒子による強化された刹那の肉体は、軽く車を超えたスピードを出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あっという間に刹那は廃工場に戻ると、そこにはGNフラッグによりスクラップにされたシグーやジンがいくつも転がり、気絶したオークや不良が寝そべっていた。

 

そして彼らに囚われていた女子たちも、力なく座り込んでいた。

 

 

「流石だな」

 

「ふっ、雑兵ばかりだ。 誇る戦果などではない」

 

 

GNフラッグを纏うグラハムと刹那は合流した。

 

刹那とグラハムの関係は前世で敵対するも、時を経て()()から解放されたグラハムは刹那の行う対話のため、文字通りに身命を賭して道を切り開いた。

 

このミッションが始まる前にリボンズが手を回し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ように仕向けた。

 

そして上空に待機している攻撃大型輸送機──『プトレマイオス』にて、指揮を執るのは本名──リーサ・クジョウ、コードネーム──『スメラギ・李・ノリエガ』である。

 

彼女もまた、前世から刹那の仲間である。

 

スメラギは列車脱線する事故に巻き込まれ、1週間も生死の境をさ迷う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()し、その時に前世の記憶が甦った。

 

それは──イノベイターとしての目覚めでもあった。

 

退院した翌日、脳量子波を関知したヴェーダ。

 

それをリボンズから連絡を受けた刹那は、スメラギと接触。

 

スメラギもまた、刹那に協力することを約束した。

 

彼女は刹那と再会して1週間で会社を辞め、刹那の仲間として今世でも()()()()()として激動の第2の人生を始めたのだった。

 

 

「ミス・スメラギの戦術プランでは間もなくセカンドフェーズと、なるが。 ──さてさて、何が出るやら」

 

「──!? 来るぞ!」

 

刹那の急な警告。

 

刹那がその場を離脱すると同時に、フラッグも遅れる事なく反応する。

 

直後──二人がいた場所に()()()()()が降ってきた。

 

イノベイターとして覚醒しつつある()()には、GN粒子散布化における戦場では知覚領域が拡大──脳量子波が生体レーダーのように機能──する。

 

合わせて尋常ならざる反射神経により、必殺のタイミングで放たれた攻撃にも何なく反応したのだ。

 

 

「あれ、は・・・・」

 

「ほう」

 

 

上空からの襲撃者。

 

それらは──外骨格5機。

 

シグーやジンとは違い、一つ目(モノアイ)では無い。

 

それぞれの武器を倒れているシグー、オーク、不良たちに向け──引き金を引いた。

 

 

「──! しまった!!」

 

 

敵意がこちらに向けられていない。

 

そう刹那が感じ時には、ビームの奔流が外骨格のシグーやジンさえも簡単に無に還した。

 

さらにだめ押しとばかりに、ミサイルの雨も降ってきた。

 

大地が黒く、赤く染め上げられる。

 

 

「・・・・お前、たち・・・・」

 

 

刹那はその瞳に()()を宿した。

 

襲撃者は肉片と鉄屑が混ざる黒煙の大地に降り立ち、刹那とグラハムに対峙した。

 

そして刹那は、敵の姿をはっきりと見据えて吼えた。

 

 

「答えろ!! こんな行いをする者たちが、歪みを正す者(ガンダム)なのか!!」

 

 

もちろん5機は答えない。

 

刹那もそれは頭では分かっている。

 

明確な目的を持って殺したのだろう。

 

おそらく──証拠隠滅。

 

分かっている。

 

()()()()()()()()()()()()()()は、彼らは何者かに与えられた任務を遂行したに過ぎない。

 

それでも、そうであっても、魂まで焼き付けられたガンダムに対する特別な思いが刹那に口を開かせる。

 

 

「無抵抗の者たちを一方的に殺すお前たちは、ガンダムでは無い!!」

 

 

犯罪者たちに巻き込まれた女子たちは一般人である。

 

突然降ってきたビームやミサイルに反応出来るはずもなく、1人残らず肉片へと変わってしまった。

 

 

「俺が──」

 

 

刹那の両目の虹彩が黒から、黄金の光に変わる。

 

その瞬間──GNリングが反応し、刹那は一瞬でエクシアを纏った。

 

エクシアはGN粒子をGNドライブから大量に放出し、爆発的な推進力を発生させた。

 

その推進力を持って、敵に突撃する。

 

 

「貴様たちを駆逐する!!」

 

 

 

 




あと、1話から2話で過去編を終えたいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。