狩人さんと首輪付きがオバロ世界で目覚めた (黒雪空)
しおりを挟む

獣狩りの狩人さんが首輪付きの獣を拾う

読みたいのに見つからなかったから、書いて見ました。それだけの勢いなんですごめんなさい…。
書いてる人はリンクスしてた時間が一番長いです。レイヴンだったことはありません。リンクスからレイヴンに成るのってやっぱり大変ですかねー?最近加齢でゲームが出来ない。

ヤーナム凄いですね。最初は怖くて怖くて早く脱出したかったのに、だんだん愛着が湧いて居着きたくなってきますよね。
最近某吸血鬼になって居たらヤーナムに行きたくなりました。


 ふっと視界が開けたと思ったら見知らぬ場所だ。

 そういった事は度々ある事だが、ここは明らかに異様だった。周囲一帯清浄な空気が漂っている。異常である。何処からも血や臓物の脂、獣の饐えた臭い等が漂ってくることが無い。何処だここは。

 しかもオマケに此方をじぃと見つめて来る小さい人間まで居る。ぎゅっと狩人の服の裾を掴んで見上げている。

 

 初めて見る子供だ。10歳を超えているか怪しいサイズ感に、不健康に細い手足。だが肌艶は良く、服も…寝間着なのだろうが質の良い物を着ている。

 白い癖っ毛が猫の耳の様にぴょこりと立っていた。子供特有の黒目勝ちな目も含めて、本当に仔猫の様だった。

 まじまじと見れば確かに、男の子だとわかるが可愛らしい恰好をさせれば女の子とも言い張れるだろう。

 何故か、赤い首を着けて居るのは気に成るが…おしゃれなのだろうか?

 

 良く分からない猫の仔染みた人間が不思議そうに狩人を見上げ続けている。何も言ってはこない。

 

「この辺の子…じゃないよな。何処の子だ?」

 

 狩人はヤーナムの狩人だが、他所からやって来た事もあって、とても善良で普通で良識的な狩人だ。

 人形ちゃんの恰好をした髭面のおっさんや、全裸で駆け回っている露出狂や、何を思ったのか素手で獣を殴り倒す狂人や、なんの理由もなく出会ったら最後、即座に殺し合いを始めるマジキチ、聖杯に潜ったきり出てこない地底人とは違う。ごくごく真っ当な、モツ抜きと血しぶきが大好きなだけの狩人だ。

 だから突然目前に現れた見知らぬ子が居たら心配だってする。周囲に豚が居ないかだって心配する。

 

「……?」

 

 だが当の子供は答えてはくれずに相変らず不思議そうに見つめられる。

 

「名前は?」

 

 こてり。

 猫の耳の様な癖っ毛を揺らして子供は首を傾げる。何故か名乗るのに疑問形だ。

 

「首輪付き…?」

 

 なる程。確かに首輪は着けて居る。だがそれはどう考えても彼個人の名前は無いだろう。

 改めてこの子供以外に人影は無いかと辺りを見渡す。

 何の気配も無い。

 

「えーっと、お母さんは?」

 

「…セレン」

 

「セレンさん?は、どこに居るの?」

 

「カーパルス…」 

 

 聞いた事のない土地だ。

 地図にもない小さな街か、或いは途轍もなく遠い所か。

 

「せ、せれんんんぅうぅ…」

 

 母親らしきものの名前を呼んで、ぐずり出してしまった。

 

 びええ……と泣きだした小さな子供にあわあわと戸惑う。その辺の獣をあしらうのは簡単だが、仔猫の様な男の子はどうしたら良いのかさっぱり分からない。ヤーナムを訪れる以前の記憶も無いので自分が男の子だった頃も分からない。

 三十路間近(仮)で独身(仮)で狩りが大好きな狩人にはその術がない。

 

「ほ、ほーら爆発金槌だよー」

 

 取り合えず持ち物の中で男の子が好きそうなモノを取り出してみる。ゴウンとぶん回し着火して見せる。

 ぱーと顔が明るくなりきらきらとした表情をする。やはり男の子は派手な武器が好きなのだろうか。

 

「ほーらトニトルスだよー」

 

 バリバリと雷を纏わせて見せるが、少年の顔はすん…とばかりに詰まらなそうだ。

 小さなトニトルスはお好みではないらしい。ツボが分らない。狩人はこの物体が結構すきなのだが……どうやら少年の心には響かないらしい。

 

「…ほーらパイルハンマーだよお…」

 

 がしょん、と鳴らすと嬉しそうに手を叩いて燥ぐ。どうやら涙は止まった様だ。

 オーケー。火薬庫がお気に入りなんだな。狩人はこの子猫染みた子供の趣向を少し把握した。

 

 子供にパイルを渡して暫くその辺で遊ばせておく。ごしゃん!がきゅーん!ごしゃん!と溜め攻撃を繰り返している。実に楽しそうだ。

 しかし一体どうしたものか…。

 訳の分らない場所で目覚め…目覚めたのか?まあ、今はいい。目覚めたら子持ちに成っていた。しかも見た目から推測される年齢よりも語彙が少ない。全く会話にならない。当然の様に狩人ではないようだし。

 

「あまり遠くに行くなよー」

 

 思考して居る間にも、仔猫はパイルを振り回し駆け回っている。小さな子供はすばしっこい。声を掛ければ素直にちょこちょこと戻って来た。

 じぃっと何か期待の籠った瞳で見上げてくる。

 

「……ガラシャの拳だよお…」

 

「どーざー!」

 

 なにかとても気に入った様で新しいおもちゃを携え再びぱたぱたと駆け回っている。どごぉ、ばぎぃと破壊音がする。だが取り敢えずは見える位置で遊んで居る様なので、狩人は再び今後どうするべきかと思案を再開した。

 1Mと少し程度の身長で欠食児よろしく細い子供が、パイルハンマーとただの鉄塊もといガラシャの拳を危なげなく振り回して破壊音を響かせている事には特に疑問を抱かなかった。

 

 まずはここが何所なのかを確かめなければいけないだろう。そして灯りだ。

 全く動いては居ないので、何とも言えないが使者たちも見当たらない。遺影も見当たらないのは幸いと言って良いのだろうか?というか、人形ちゃんの前にぽこぽこある遺影は何なんだ。いや、あれはまだ事故死とかだろうが、古工房の人形ちゃんの前の遺影は何なんだ。愛情表現か?怖いわ。

 やはり自分以外の狩人はどっかおかしいに違いない。狩人はそう思い、取り合えず灯りを探そうと歩き始める。人形ちゃんに想いを馳せたら会いたくなってしまった。それにこの辺りに獣の気配は微塵もないく、唐突にモツを引っこ抜きたくなった時に大変困ってしまう。一度狩人の夢へ帰り、人形ちゃんの顔を拝もう。

 使者を可愛いと評する彼女なら、小さい人間も可愛いに入るだろう。きっと。ただの狩人でしかない自分には子守りは難しそうだ。

 狩人でもない仔猫が夢に来れるのかは分からないが。

 

 

 

 

 何処までも汚物の無い光景の中で何方に進めばいいのか迷った末、完全な勘でもって進んだ結果襲撃にでも有ったような村に辿り付いた。

 目覚めた時は赤い夕暮れだったものが既に夜に変わり、星が輝いて居る。一瞬気持ち悪い色の夜空だな、と思ったが此方の方が『普通』だったはずだ。

 

 仔猫は相変らず『どーざー!』という謎の掛け声と共にガラシャの拳を振り回して遊んで居る。凄いスタミナだ。さすが子供。

 

「それにしても誰もいないな」

 

 確かに襲撃があったような有様だが、何もない。死体は埋葬こそされていないが、その死を悼む様に丁寧に並べられ布が掛けられている。

 ちょん、と布の端を摘まんで覗き込んで見るとどれも大きな裂傷や打撲ばかりの死体だ。獣に襲われた様子ではないな。なんだ。人間同士の諍いか。

 こんな風にして有るのだから、生き残りでも居るかと思ったがそれも皆無だ。

 ヤーナムなんて、墓場でもババア共の喧騒で活気があると言うのに、とても静かだ。唸り声一つも無いなんて、何だか寂しくさえ感じる。

 

「ん?どうした?」

 

 先程まで焼け残った家の基礎にガラシャの拳をぶつけて完全に倒壊させる遊びをしていた仔猫にくいくいと服の裾を引かれ、そちらを見る。

 これはなんだとでも言う様に、地面を指さして居る。変なナメクジでもいたのだろうか。

 

「…蹄の跡だな」

 

 文化レベルが低いのか、この村が貧しいだけなのかは判断できないが踏み固められただけの地面が抉れ蹄の跡がくっきりと残っている。

 騎馬だろうか?少なくとも豚の蹄ではない。もう一度、豚ではない。

 ぐっと目を凝らせば、来たもの、戻るもの、出ていくものがある。

 どちらか、まあ、どちらでも辿って行けば人は居そうだ。さて、どちらが良いだろうか。痕跡が多い方を選べば人間が大勢いて、会話をしてくれる人物が居る可能性が高い。それと同時に問答無用で襲い掛かって来るかも知れない人数も増えるが。そして大概の奴は殴ってからでないと会話が出来ないし、殴ってからでも会話に成らなかったり、殴った結果死ぬ。

 

「どっちが…こらこら。うんこは拾うんじゃない」

 

 沢山の馬が居れば、当然馬糞も生成されるだろう。それを拾おうとする仔猫の首根っこを引っ張る。糞団子を所持しようという思考が意味が分からない。うんこだぞ、うんこ。目玉や肉塊や胎児とは違うんだぞ。排泄物だぞ。

 

 さて、それにしても灯りは無いし何もない。勘で進んだ結果人の居たらしき場所に辿り着けた訳なのだからまた勘で良いだろう。

 取り合えず、人の多そうな方を目指そう。

 歩き出せば当然の様に首輪付きの仔猫が付いてきていた。

 

 ヨセフカの診療所で目覚めて以来、明けない獣狩りの夜を走り続けている為眠るという概念が消えかかっている狩人は日が暮れようが松明片手に歩き続ける。不思議な事に小さな子供が当然の様にそれについてくる事に疑問を抱かなかった。

 

 些かの早足で歩き続け、夜が明ける頃にはまた一つの村に辿り着いた。

 朝日が昇るという当たり前の光景に何だか違和感を感じながら白く明ける空を見る頃の事だ。

 人が居ないのは恐らくまだ早朝だからか、もう少し明るく成れば起き出すだろう。しんとした村の外れに見慣れた灯りをようやく見つける事が出来た。

 




首輪付きちゃんは啓蒙0なので、人形に話しかける成人男性を可哀想なモノを見る目で見てます。
それ以前に、人間が知覚できる世界でさ見る事も理解することも考える事もせず絶対的な存在に依存し続けただけの首輪付きちゃんなので…。
この首輪付きちゃん限定の妄想です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

灯りがついた

首輪付きがトニトルスに反応よろしくなかったのは丸くて可愛い見た目だから。


 

「おかえりさない。狩人様」

 

 ただいま!人形ちゃん!!!やった!良かった!!無事に帰って来れた!!

 最早ヤーナムを訪れる以前の記憶の戻らない狩人にとって、帰って来る場所と成った狩人の夢。いつもの通りに『お帰り』を告げてくれる人形の美しい顔に安堵する。

 

「狩人様…そちらは?」

 

 人形ちゃんの視線を追えば、当然の様に仔猫が着いて来ており不思議そうに周囲を見渡して居る。この夢の中に他人が存在する事に僅かに驚く。

 何がそんなに面白いのか大きな月の昇る空をじっと眺めて居る。

 

「迷子だ。たぶん」

 

 振り返って見れば何故か仔猫が酷く可哀想なモノを見る顔をしている。言葉にはしないが『休め…』という視線の色をしている。

 

「人形ちゃんちょっとこの子見てて貰っていい?」

 

 さて、何故あんなところに居たのかさっぱり分からないし夢にまでついて来てしまった子猫の処遇も考えなければいけない。

 きっと初めてヤーナムを駆けずり回って居た時ならば、オドン教会に置いて来たかも知れないが…あそこはのちのち修羅場になる。自分は何もしていないのに、男女の修羅場的な事になる。ただ綺麗なお姉さんから血を貰っただけなのに修羅場になる。ヤンデレって怖いね。まあ、『今』は生きてる奴の方が少なくなっている筈だ。

 

 墓石を確認すると、驚いた事に殆どの灯りが機能していない。ただ一つ狩人の悪夢の墓石から『カルネ村』という場所…恐らく辿り着いたあの村にしか行けない様だ。

 祭壇の方を見れば、儀式は可能な様だ。いまの所聖杯に用は無いが…。

 

 相変らず門は固く閉ざされて居る。ヤーナムへ行く方法がない。

 どうしよう。本格的にモツを抜きたくなった時に困る。最悪一度介錯してもらうしかないのだろうか?その場合仔猫がどうなるのか謎だが。

 使者たちはいつも通り元気で何より。

 

 一通りぐるりと見回って見たが、いつも通りの夢の中。少々問題は有るがあからさまな異常はない。

 戻って見ると、人形ちゃんから微妙に距離を空けちらちらと視線を向けている。仔猫は非常に居心地悪そうにしていた。

 狩人が戻ってきたのを認めるとすさまじい速さでその背後に隠れる。残像が見えそうなほど早かった。

 

「すいません狩人様…嫌われてしまったようです」

 

 人形なので表情は変わらないが少し寂しそうに告げる。大丈夫。きっとこの子猫は人見知りなのだ。一晩共に歩いた狩人にも自身の呼び名と母親の名前と土地の名前と、『ドーザー』という謎の掛け声しか話して居ない。人形ちゃんは悪くない。

 きっととびきりの美人に初心な少年が緊張してしまっただけだ。そう言って人形ちゃんを慰める。

 

 そんな狩人を見つめる首輪付き仔猫の表情が憐憫に満ちている。理由はちょっと分からなかった。

 

 さて、夢に戻れる事は分かったがどうすれば良いのかさっぱり分からない。

 おや?考えて見れば、何も問題はない。何せ、血の医療を求めやって来たら知らないおっさんに輸血され勝手に狩人にされていた。そして良くわからないまま勘で進み、獣や人や他の狩人を殴っていったのだ。何となく襲い掛かって来るモノに銃弾ぶち込んで殴って臓物をひっこ抜いて居たら状況が変わり、また獣や人や狩人や上位者等々が殴りかかって来るので殴り返していたのだ。

 つまりまた、成る様に進んで邪魔するもの全てに鉛弾ぶち込んで腸ぶちまけて殴り殺せばいいのだ。なんだ。いつも通りじゃないか。進む先が初見の土地になっただけだ。

 後はおまけに仔猫が付いてくるだけだが…平気だろう。

 すっかりお気に入りになったパイルハンマーとガラシャの拳をぶん回す姿が随分と様に成っている。様になっているというか、完全に仕上がって居る。

 …誰だ、こんな仕上がりにした奴。

 

 問題は仔猫が寝間着に裸足だという事だろうか。随分と歩き続けたのに、汚れてはいるがその素足に傷一つない。はて?とようやく狩人は首を傾げる。

 これは実は人間では無いのか?怪しいから、攻撃される前に一度溜め攻撃をぶち込んで見ようか。と、普通に善良で平凡な狩人として当然の思考をする。

 

 が、止めた。

 じぃっと見つめて来る首輪の付いた仔猫を見返して居ると『これは宜しくない』という気分になる。くりくりとした黒い瞳が何かろくでもないモノの様な気がしてしまう。自慢では無いが狩人の勘は良く当たる。

 少なくとも、大事な拠点かつ人形ちゃんが居るこの夢でちょっかい掛けるのは止めようと心に決めた。もし殺るなら何もない所にしよう。しかしチュウシャジョウは止めろという天啓を受けた。

 試しに、遊ばせていた狩道具を返すよう促せばしょんぼりとしながらも寄越して来る。今すぐに何か、という事は無さそうだ。突如獣になる可能性もあるが。

 

 確か問題は服装だった。あんな布の寝間着では返り血を一度浴びただけで使い物にならなくなってしまう。しかし残念ながらここには子供が着れそうな物はない。仔猫の母親を探す序に死体か何かからはぎ取れれば良いのだが。

 

 仔猫の母親を探しに行く、という事で進んでみよう。何かデジャヴを感じる。また死んでいるか、既に狂っていて殺しに掛かって来なければいいのだが。パイルを持たせてあの仕上がりの子供の親だ。ガスコイン神父みたいなのかも知れない。その想像は酷く恐ろしい。

 妙な想像は止めて進もう。どうせ何も分らないのだから。

 

 夢に戻れる事を確認できたので『カルネ村』の灯りへ移動する。一応、仔猫が置き去りに成らないように赤い首輪に指先を引掛けて引き寄せた。

 いつもの通りに見送ってくれる人形ちゃんへ手を振れば、仔猫に無言で背中を叩かれた。何なんださっきから。

 

 無事に逸れる事も無く無事に明けた空の下に辿り着く。夢に居る間に時間が過ぎている事は無いのに、日の角度が変わって居る。人間の活動する音がする。

 さて、見知らぬ村を訪れる訳だからと仔猫に黒いフードだけでも被せた。異邦人には殺意特盛で接してくれるに違いない。そうなれば早々に血肉をぶちまける羽目になる。小さいから、これだけでも被って置けば血糊は平気だろう。

 当の小さいのは鬱陶しそうにフードを下げる。ぴこりと白い癖っ毛が跳ねた。

 

「だっ…誰ですか!?」

 

 耗弱な敵でも囲まれたら堪らないと、そっと気配を伺いながら進んでいた筈が若い女の声の驚愕の声であっさり背後を取られたことに気づく。

 妙に清々しく明るいせいか、調子が狂う。考えて見れば全身黒の狩装束では悪目立ちするだろう。

 

「狩人だ」

 

 取り合えず罵倒や殺意ではない誰何を向けられたのでノコギリ鉈を降ろし名乗る。人の事を言えたものでは無いが、個人の名称という物はさっぱり忘れてしまった。狩人は狩人でしかないのだから、そんなものどうでも良いのだ。

 

「セレンのリンクス」

 

 おい待て。『首輪付き』じゃなかったのか。そういう意味を込めて、服の裾を掴む仔猫を咄嗟に見れば例のあの黒い目で、じぃっと目の前の年若い女を見つめる。

 小さな子供の存在に警戒心が僅かにだが緩んだのか、懐いて居る様に見えるお陰か強張った表情が緩む。それでも安心できない。まともそうに見えても、過去に何かやってるから後々何かやる奴なんだ。

 

「リンクス、くん?」

 

 子供の相手に慣れているのか少し腰を屈め狩人の横に居る小さな人物の顔を覗き込む様にする。

 

「これの親を探してるんだが…カーパルス、という場所を知らないか?」

 

「すいません…私は聞いた事ないんですけど…」

 

 一瞬、小さく愛らしい姿に半歩近寄ったが、すぐさま黒ずくめ、顔も目元しか見えず凶悪な凶器をぶら下げた狩人の存在を思い出す。言い淀み、踏み込んだ筈の半歩以上を後退る。

 警戒心を思い出したものの、再び母親を思い出し涙目になり始めた仔猫が気にかかった様で逃げ出す事はしない。

 狩人は狩人で、また泣かれては困ると言った様子でおろおろとその形をなくす。

 

「村の人にも訪ねてみましょうか?」

 

 そうして貰えると非常に助かる。そして子供のあやし方を教えて欲しい。出来れば武器を渡す以外の方法で。

 

 

 

 結構な時間を要し漸く映り出された光景に異物が映る。

 いや、もともと牧歌的な村で虐殺を行う騎士の様な集団、というのも異物では有るがそれらからも浮いた存在。

 全身真っ黒な出で立ちで、村の人間とも騎士とも違う。大きな鉈を振り回し金属製の鎧を叩き割り盛大に血しぶきを上げている。黒い不審な人物は武器を下げた者たちにしか襲い掛かって居ないが、決して村人を守って居る様には見えない。それはきっと本能に従い目の前の得物を襲う獣染みた獰猛な戦い方だからだろうか?

 

 しかし、とモモンガは内心首を傾げる。

 

 どこかで見た様な……。具体的な人物像や何処で見たのかもさっぱりと出てこないが何故か既視感がある。

 何だったか、答えが出そうで出ない。酷くもどかしい感覚がする。

 ああいった方向性でカッ飛んでる知り合いなど居た覚えもないのだが…。

 

 




どこもかしこも獣ばかり。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

結局は獣

狩人さんが前に出ないと死ぬだけ的な事を言ってますが、私はリゲインを頼って突っ込み死にます。プレイスキル高い人の脳吸いたい。
狩人さん自身が自分は普通で善良で良心的な狩人だと思ってるだけです。少なくとも介錯の存在は知ってるよ。

セレンさんって、リンクス育てるのは上手いけど子育ては向かなそうだなって勝手に思ってる。「母様」云々のセリフ最高でしたが、こう、何て言うかセレンさん自身も母親、家族っていうリアルを知らないままに幻想的なおままごとみたいなお母さんをやっていて…全然関係ない事語り始めそうなのでやめときます。なにかってーとスミかーちゃんと首輪付きの信頼ある歪な親子だったらいいな(願望)
全て妄想と願望。


 狩人様の狩手順フローチャート

 

動くものだ!それは正気か?→はい!→オドン教会へ!

         ↓

        いいえ!

         ↓ 

      それは殴ると血が出る?

     ↓         ↓

  赤い血が出る!   白い血が出る!

    ↓          ↓

    つまり殴り続ければ殺せる!

         ↓

     狩る事の出来る相手だ!

 

 

 

 つまるところ、無抵抗の村人を淡々と殺して回る目の前のフルアーマー共は獣に分類される。

 会話無く唐突に襲い掛かって来るものは殴るに限る。

 

 現在唯一灯りの有る『カルネ村』にて、まともな人間であるエンリという若い女が年配の者にカーパルスという場所を知らないかと聞いてくれていた。

 彼女には小さな妹が居る様だ。それで仔猫への対応にも慣れているのか。狩人の外套を掴んでいた仔猫を宥め、手を取り彼の親の所在だと言う地名を聞いて回っていた。

 狩人はヤーナムに比べれば、とても控え目な疎外感を感じていた。

 せめてこの村が漁村よろしく薄暗くじっとりと淀んだ場所だったなら、狩人ももう少し馴染んだかも知れない。

 そんな取り留めも無いことを考えて居た時分に、けたたましい蹄の音を拾った。

 豚ではない。リボンの少女の件もそうだが、ヤーナムに訪れたばかりの頃にあの人食い豚に轢き殺された恨みは忘れない。さて、豚でないなら何だろうか。馬車を引く馬の蹄と違い不揃いで、複数。

 昨晩見た、騎馬らしき物だろうか。

 

 思考の間にも騒々しい音は近づき、その姿を視認する。と、同時に人間の悲鳴が上がる。飛び降りる様に馬から降り立った者が、狩人同様に不審そうにそちらを伺っていた男が剣に一刺しされ血を吹き出し崩れ落ちる。

 

 その瞬間、狩人の脳内に上記のチャートが巡り、結果、よし、殺そう。

 そういう思考に至った。

 早々にぶっ殺すべきだと思い、襲撃者と村人の入り乱れる中へ突っ込んで行く。

 

 冒涜的な殺戮者、貪欲な血狂い共、と呼ぶには余りにも気の足りないフルアーマー共の一人に背後から切りかかる。

 獣の肉を切り裂く鋸の刃は人間が纏って走れる程度の金属など易々と引き裂く。がりり、と鋸刃が厭な音を立てて薄っぺらな防具を千切り取り内側の肉も一緒に抉り。

 振り返る素振りも無く、そのまま前のめりに倒れ込む。

 

 何てことだ!狩人が一撃加えただけで既に活動を止めてしまった!大好きな内臓攻撃を加えるまでも無く!!

 絶命した訳では無い。背後から振るわれたノコギリ鉈に胴の2/3程抉られただけで、断たれた訳でもない。肺や心臓も大した損傷もない。現にがぼがぼと血泡混じりの呻き声を漏らしている。

 まだ命が有るのに既に立ち向かおうと言う意志がない。馬鹿なのか?攻撃を食らってそのままただただ下がるだけ何て、死が近づくだけだ。

 この分では大した遺志も残らない。

 

 血だ!血の遺志を寄越すんだ!!

 

 余りにも狩り甲斐の無い奴らに憤慨しいた狩人に、真横から剣が突き出されるがワンステップで避ける。振り返れば目が合った瞬間に逃げ出してしていく。何のために貴様は武器を持って居るんだ。獣紛いの市民など、農具でだって殺しに向かってくると言うのに。糞かな?

 

 逃げ出す後頭部へ鉈へ変形させた得物を叩き込む。当然の結果の様に、ぎゃぽと、小気味良い音を立てて頭が割れた。

 

 またしても一撃。たった一度殴るだけで倒れる。腸ぶちまける暇もない。やはりこの村は狩人が溶け込める漁村の様にはならないらしい。別に狩人もあの気色の悪い場所が好きな訳ではないのだが。

 

 ふと、狩人は視線を感じた。

 

 誰かが、あるいは何かが見ている。此方を観察して居る。しかしその視線の主が見当たらない。村人は自身が逃げ惑うのに必死で誰も狩人など見ていない。視界内に居る恰好だけは騎士の様な奴らも、早々に捕食者から視線を逸らし自分達の狩れる得物へ向かってしまった。

 その、狩人を見つめる視線には恐れが無い。ただ観察して居るという、無臭の視線。どこぞの上位者の類かと視線を上げてみるが、それらしいモノは認識できない。

 

 ただ、確かにナニカしらと目が合った。確かに視線を交わした。せっかくなので交信して置いた。

 すると横やり宜しく死闘を演じる気も無い癖に向かってきた糞野郎が発生したので駆除に掛かった。そう言えば仔猫が居ない事を思い出す。まあ、あの妙な仕上がりを見せる子供ならこんなやる気のない襲撃者などうとでもできるだろう。丸腰だが。子供はずばしっこい。

 

 ……?そう言えば、何故あの唐突に目覚めた場所にいただけの子供をこんなにも気にして居るのだろう?確かに狩人は、自身を善良で普通で、とても良心的な狩人だと思って居る。訳の分らない場所に子供が一人で居れば助けてやらねばと考えた…はず?

 妙な蟠りを感じたが、狩装束を叩く心地よい血の雨音に意識が向く。

 

 

 

 仔猫の様な小さな人間は、ある程度形の揃った石で作られた花壇の縁に腰を下ろしてじぃっと周囲の様子を伺う。

 先程まで彼の手を引いて居た女の子は、妙にざわつく空気に家の様子を見てくると言って別れてしまった。特にやる事も無いので誰の物とも知れない家の前に座り込んで人間を眺めて居た。

 

 当然の様に首輪付きが探す女性は居ない。

 

 セレンはどこだろう?

 何となく、アルテリア・カーパルスに行かなくちゃと首輪付きの仔猫は思うのだがその根拠はない。それにしてもセレンに会えない。

 腰かけた体制のまま、膝に肘をついて両手の上に顎を乗せて手持無沙汰に周囲の人類のもめ事を眺める。血は汚い。あれが付着した物は医療廃棄物として扱われる。セレンがそう言っていた。転んで擦りむいた膝を消毒液でごしごしと洗われ泣いたのはいつだったか。

 

 所でそのセレンはどこだろう?

 彼女こそが首輪付き仔猫の世界であり、彼女の居ない世界に存在意義などないと思って居る。セレンの並べる依頼を選び、上手にこなして褒めてもらう。選ぶ基準は特にない。遂行できればそれでいい。きっと世界の様々な物は首輪付きにやっつけられて、育て親を喜ばせる為に存在しているのだ。

 

 居ないと言えば、あの頭が可哀想な黒ずくめの変態武器庫男はどこに行ったのだろう?

 等身大のお人形にさも当然の様に話しかけ、会話してる気になって居る。だが浪漫に濡れた素敵な武器とトーラス的フォルムの武器を見せてくれる楽しい変態。変態だがセレンを探そうとしてくれているからいい人だ。

 本当はセレンに知らない奴やBFFのロリコン狸に付いていくなと教わっていたけど、何故かあの男についていかなければ行けない気がしたのだ。

 

 まあ、セレンが居ない事に比べれば変態浪漫武器男が居ないのなんて割とどうでも良いことに違いない。

 そんな事を考える首輪付きの前で、必死に抵抗し鎧姿に掴み掛かる男が刺殺されている。それでも加害者を押し留めようとするように腕を離さない謎のガッツを披露して居る。

 あんな個人単位で殺し合って何が変わるのだろうかと、不思議な気分になる。どうせ人なんて放って置けば死ぬのに。

 

 不思議で無駄な光景をじぃっと興味深そうに眺める彼の前にも鎧姿の人間が佇む。首輪付きにとっては、それが武装だと認識できない。アニメや漫画の中でのみ有効な化石だ。

 見下ろす大きな影を何の感慨もなく見上げて居ると、見下ろす化石を纏った人物は若干気味悪そうに首輪付きを睨む。

 

 剣を振り下ろそうとしたので、花壇を形成する大人の拳より若干大きな石を掴み上げる。足甲に覆われた足の甲へ全力で振り下ろせば、人の形に作られた鉄は押しつぶれぷしゃっと細く血が噴き出た。汚い。

 

「ぅ、うああぁああわあああ!?」

 

 肺活量の有る絶叫は煩い。指先が潰れた位で騒々しいなぁ。アスピナのおともだちが言う通り、手足もAMSで動く義手義足にすれば便利なのだ。と思いながら狼狽える人間の胴へ石を投げつける。仰向けに転げたので、恐らく鳩尾で有ろう辺りを数度石を打ち付ける。まるで機体の構成を弄った直後の様に、手足に違和感が有ったけれど暫く動くうちに良く馴染んでいく気がした。

 本当は、怪しい人に連れて行かれそうに成ったら足の指先を踏んで怯ませてから金的。屈んだ後に首の静脈を手刀で連打しろ。とセレンに教わっていたが、首元は鎧に覆われていたから仕方ない。ごすごすと数度打ち付けてから握ったままの剣をもぎ取り、唯一鎧の中で大きな隙間の空いた目元へ突っ込む。少し角度を付けて、脳をかき混ぜる様に揺する。

 しばらくうるさかったけど、静かになったので手を離し再び花壇に腰かけて膝の上で頬杖をついて人類のちっぽけな喧嘩を観察するのに戻った。

 

 上手にやっつけられたからセレン、褒めに来てくれないかな。首輪付き獣はそんな事を考えながらじぃっと『虐殺』を見ていた。

 

 

 

 目が合った。モモンガは確かにそう感じた。

 どこか既視感のある黒い『狩人』の正体を、記憶の奥から探り出そうとしている僅かな間くるりとその人影がこちらを向き確かに此方を見ていた。

 そうかと思うと突然片腕を上へ、もう片腕を地に平行に。しばしそんなポーズを向けてから、横から襲い掛かる騎士風の者の攻撃を躱し、追撃に駆け出してしまった。相変らず村人を助けようと言うよりも、己の獲物を追う獣の様な行動だ。現に、自身に向かってきた者だけを執拗に追い回して居る。

 

 いやまて、何故いまあの黒ずくめの男を『狩人』と認識したのだろうか?

 その点に思考を絞った結果、もやもやと蟠って居た疑問の答えが見つかる。

 

 数拍、どう行動するかを思案した結果傍に控えたセバスの名を呼び指令を飛ばす。

 

 

 




モモンガさんの描写はしょりまくってるけど、ちゃんと原作(本)位いろいろ考えて、ちゃんとタッチさんの事も思い出してから出ってるよ!!
モモンガさんのオーバー労働を軽減する方向で行けたら良いな(白目)最終的にはアインズ様じゃなくてモモンガ様としてナザリックできゃっきゃうふふしてて欲しいんだよ!!

尚、獣と狩人がうろつく世界の状況は考慮しないものとする。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

くいちがう

隻狼は全く知らないんですが、道順という人がアルフレートくんと並べられて居たので、その人に関してだけは漠然とやべー奴なんだろうな、と思って居ます。

このお話の狩人さんは、本当に狩人さんでしかありません。


 例えば、狩人が獣を狩る事よりも人助けなんて物を優先して行ってみたとする。

 普通で善良で良識的な狩人は、窮地に立つ人間が居たら何とかしたいと思う。見捨てた後の、自分自身を苛む罪悪感が恐ろしいという至極まっとうな人間の思考として当然の想いだ。

 だから助られるものなら助けたいと動いた。が、何故か狩人が事態を好転させようと動く度にその結果ロクでもない事に成っている。不思議な事だ。

 むしろ何も手出ししない方が良いのでは?そう思い、会話の成立するまだまともな者全てを無視して獣を狩り続けた事もあった。結果としては、死ぬときは死ぬし、発狂する時はするのだ。何をしようが無意味。何もしなければただの終わり。やはりヤーナムは呪われているのだ。

 試しに、酷い事が起こる前に皆、殺して周ったこともあった。狂う者は減ったにしても同じ数の死が残ったので変化のない終わりだ。

 

 そういった経緯で、狩人は能動的な人助けは止めた。

 ひたすら獣を狩って、進み続けて、その結果誰かが得をしたならそれはそれで良いか。その程度の思考に留める様にした。

 

 なので、今現在狩人が行っているのも人助けではない。

 もし本当に村人を助けたいのなら、幾ら狩人でももう少し他人を守る立ち回りをした筈だ。だがそれもせず自身に敵対したモノを機械的に追い回し殴り倒し血液をぶちまけて居るのだ。そんな姿に恐慌を起こし、狩人へ敵対する村人が出たらそれも躊躇なく切り裂くだろう。

 幸いな事に、村人は皆自分の命を抱えて逃げるのに必死で周囲の事など気にする余裕もない。その上武器をかざしておきながら、いざ狩人と目が合えば腑抜けて逃げ出す糞どもを追いかけ回し村の外れまで来ていた。

 

 無様にこんな所まで逃げて来た奴を仕留めて、一つ息を吐く。

 周囲にはもう動くモノが居ない様だ。結局一度も臓腑をぶちまける事は叶わなかった。あの音はとても心地いいのに。とても残念だ。発狂して脳が弾けそうになった時も、内臓攻撃の素晴らしい音色でぎりぎり踏みとどまれたりする。

 

 ふと少しばかり離れた所、村の中心部から大きな重量が動く足音を耳にする。二足歩行の様だ。それに合わさって人の叫びと金属がぶつかる音もする。ずしずしと、地面を伝わって身に響く足音。大型の敵だろうか?脳内に某デブが思い浮かぶ。

 狩らなきゃ。

 狩人は何故か焦燥に近い使命感を感じた。

 

 

 やっぱり重装甲って良いよね。と仔猫は一つの心理に頷いた。

 相変らず目の前では虐殺が続いて居るが、例の鎧共は無害な村人にご執心で誰も仔猫に意識を向けてくれなかった。

 きっと、首輪付きにやっつけられてセレンに褒められるネタに成るのが悔しいのだ。だからこうして意地悪して、誰も首輪付きに寄って来ないに違いない。そう確信して、そんな意地悪をする酷いやつらに文句を言いに行こうと立ち上がった所にそれがやって来た。

 

 真っ黒くて大きな姿。勿論、生身の姿からしたらと言うだけで、首輪付きが良く見ていた機体に比べたら小さい。それでも今の首輪付きが並んだら倍ぐらいは有りそうな黒い人型。

 大きな盾に大きな剣、頑丈そうで居て酷く攻撃的なフォルムの黒い全身鎧にボロボロのマント。

 そこだけを見て、子供の感性で言うのなら『かっこいい』。だが減点として顔がコワイ。ホラー映画に出て来そうなゾンビ。さらに付け加えるなら、二本の足なんかよりタンク脚部の方がかっこいい。あと剣や盾より爆破できる物がかっこいい。闖入者をそう評し、やっぱりガチガチの装甲はステキなんだと結論付けた。

 

 その黒い闖入者により鎧姿の人間による村人の虐殺から、鎧姿の奴らを殺戮する光景へと変わって居た。

 人間が死んでるのに差は無いが。

 一か所に村人を追い込んで来た為、鎧の連中も集まって居て大変に作業が捗りそうだ。しかし、文句を言う相手を片っ端からぐしゃりとやっつけられては困ってしまう。セレンに褒めて貰えない。

 そうだ、あの黒いのに文句を言おう。そして足を捥いでタンクにするんだ。

 

「死の騎士よ、そこまでだ」

 

 素敵な工作を思いついて、賑やかな輪の中に入れて貰おうとした首輪付きはその声に足を止めた。そして見上げた。そうしたらヘンなのが浮いて居た。訂正。球体では無く、人型だからちょっと変なのだ。全体的にひらひらして居る格好と、変なお面。真下に行ったらパンツ見えそう。それともう一人、胸の装甲が重量そうな人。正確な所は分らない。鎧はそろそろ見飽きた。

 

 それにしても、あの黒いのは『デスナイト』というらしい。面白味のない名前。そんな事をぼんやりと思った。

 どうやらちょっと変なのは、降伏を呼びかけに来たらしい。意地悪な鎧達はもう4人ぽっちしか残って居なかったけど皆即座に武器を捨てる。それで、そこから撃つんでしょ?そう思ったがそんな事も無く、本当に逃がしてしまう。どうや雇用者への見せしめと警告に使うらしい。面倒だね。

 

「なんだ、終わったのか」

 

 ごちゃごちゃとまどろっこしい会話を眺めて居たら、変態浪漫武器男が戻って来ていた。何も動きの無い広場を見て、どこか詰まらなそうに呟く。

 何処に行っていたのかは知らないが、実に汚い。どんな病原体が含有されて居るか分らない血液でぐっしょりだ。汚染物の塊と言っても過言ではない。きっとこんなに汚したらセレンはとっても怒る。この男は服をぐしゃぐしゃにしておかあさんに怒られたことは無いのだろうか?

 

 すっかり静かになった人間の徒労でしかない騒動にはもう興味はない。不思議な連れとなった男へ疑問の視線を投げかける。だが狩人は仔猫の方など見向きもせず、ちょっと変なのを凝視していた。

 

 

 

 モモンガは思い出した。

 あの『狩人』とはユグドラシル内で、2回だけ共に行動したことがある。すっかりギルドの維持費を稼ぐ為に潜って周回、潜って周回、潜って周回……少々発狂しそうになりながらも、大切なギルドを、皆が帰って来れる場所を守ろうと必死になって居た時だ。

 レベルはそこまで低い訳では無いのに、どうも立ち回りがぎこちないソロプレイヤーが居た。

 

 声を掛けてみれば。普段は別のゲームをやって居るのだがちょっと向こうが『地獄の坩堝で蟲毒壺』に成っているらしく、そこまで対人戦の得意ではない彼はこちらに避難していたらしい。

 そこまではやり込んでいない様で、wikiを見れば晒されているモモンガやアインズ・ウール・ゴウンの事も知らなかった。

 

 一人で周回し続けるのにも色々な限界が来ていたので、何となく彼、『狩人』とゆるい探索をしていた。たった二回巡りあっただけなので、深い会話はしていないし、話の内容は覚えて居ない。大体が、当たり障りのない世間話と先輩プレイヤーで有るモモンガからのアドバイス。そして狩人の『あっち』の愚痴。『こっちは未知の種類が清涼飲料水。あっちの未知は病死体が浮かぶ下水の溝水』などと評して居た。が、それはそれで楽しいらしい。ユグドラシルプレイヤーが、『クソ運営』と叫ぶのと同じ類のものなのだろう。

 

 もし、ホラー…コズミック的で虫とか…まあ、多少のグロが平気ならやってみては?景色がとても良いと勧められた。ただ、こっちとは違い基本無料ではなく買い切りのゲームで、オンラインは…その、あまり優れていないが…と。

 

 その程度の関係だ。

 勧められたゲームも、端からプレイする気はなく社交辞令的にタイトルを検索しただけ。

 

 ファンから『フロム』と略され『変態企業』という誉(?)を与えられた会社の製品『Bloodborne』という、大昔に同社が出した物を移植した死にゲー。

 元々やる気は無かったが、詳細や某掲示板の反応を見て絶対無理だと思った。何故これをDMMOに移植したのだと彼の企業へ問いかけてみたくなった。

 

 確かにユグドラシルの製作元もかなりおかしい。大分狂ってるし、ぶっ飛んでる。糞運営で、限度や妥協を放り投げてており、それにこれだけ入れ込んだ自身も立派な廃人プレイヤーで、一般的にヤバイ人だ。だが件のフロムも別ベクトルにカッ飛んで、どこか彼方へ旅立っていた。そしてそのプレイヤーも基本的に狂っている。

 

 あの『狩人』もごく普通の社会人の様に感じたが、本来はアノ中に紛れて居たのかと思うと、途端にヤバイ奴に思えてしまう。『フロムなら仕方ない』『戦い続ける歓びを』『面妖な変態企業め』『ACシリーズも移植して…新作でもいいから』『フロムは戦闘AIか上位者でも産み出したいの?』『ここたま!』……皆闘争に飢えている様な事しか言わない。確かに視界に入るものは全て殴ろうとしたり、敵の配置や罠や初見殺しや騙して悪いがを警戒しまくる片鱗はあった。

 

 それでもユグドラシルのプレイヤーとしては普通の人であった。

 

 

「知ってる?」

 

 どこに居たのか、ひょこりと仔猫が横に居る。

 恐らくあの珍妙仮面…何故だろう…アリアンナから血を貰った後に視界に入り込んだアデーラの顔を思い出してしまう。そんな珍妙な仮面の人物を指さして仔猫は言うのだ。狩人がじっと見つめて居るのを不思議に思ったのだろう。

 

 だがさて?と狩人自身は首を傾げる。確かにどこかで出会った気がするが、出会った奴など大抵死んでるか殺してるか狂っている。こんな見知らぬ場所で知り合いに会うだろうか?しかもそれは、幻影の様な朧げなものでもない。鐘を鳴らした覚えも、鐘を鳴らす女も見ていない。どこかの狩人では無いだろう。

 

 しばし仔猫がする様にその怪しげな仮面に些か装飾過多なローブを見つめる。

 そして、ああ、と合点がいく。

 

 そうだ、確かあれはあの変わった装束の彼は、『聖杯の中で偶然出会い少しの間行動を共にした者だ』。狩人では無かったが、獣という訳でも無く確りとまともに言葉を交わせた。そして狩人でも無いのに、聖杯の底で蠢く奴らを殺す事が出来る者だ。

 狩人にとっての獣でも、上位者の類でもない上に、悪夢の中で出会った割に彼は親切だった。

 

 すっかり悪夢を巡り続ける内に、繰り返されない小さな記憶は薄れて蕩けて消えていた。仔細は思い出せないにしても、その存在を思い出せた事は幸いかもしれない。

 妙な形で入り込んでしまった聖杯に居た者なら、ここがどういった類の悪夢なのか知って居るかも知れない。

 

 最悪、この悪夢の根源だと言うのならまた一度殺してみるのも手だろう。

 

 




一世紀以上待っても結局アーマードコアの新作は出なかった様ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大きな墓場

首輪付きのテーマを、子供っぽい口調にしつつ狩人さんの主観っぽくした物凄く雑な訳モドキがあります。英語は苦手です。

最初の目的ではモモンガさんの負担を減らしたかった筈なのにこのまま行くと狩人さんと首輪付きが良く考えないまま何かして負荷が増してしまう気がする…。
既に出来てる最後二話分ではハッピーになる筈なんですが…あれ?これハッピーエンド?


 モモンガ改めアインズは頭を抱えたくなった。考えなければいけない事が多すぎる。

 

 村長への質問で此処がどういった世界なのか、曖昧な輪郭を掴もうとした。そうして分かった事にも驚愕し、こんな事なら先程の騎士を一人ぐらい捕えて置けば良かったと後悔する。余りにも情報が少ない。

 

 そして他のプレイヤーの存在の有無。

 先ずはつい先ほど思い出したばかりの『狩人』だ。ユグドラシルで出会った際に、可もなく不可もない言葉を交わした普通の人物。向こうも此方の事を覚えて居れば、何か情報の共有が出来るかもしれない。

 

「あ、ああ…彼は…今朝突然やって来て、連れの小さな子の親を探している様でしたが…」

 

 村長に、黒ずくめの狩人に付いて話を振って見る。すると何とも形容しがたい複雑そうな顔でそう言った。どうやら彼は歓迎されて居ないらしい。

 あの飢えた獣の様に騎士に襲い掛かる姿をどれだけの村人が目撃して居るかは分らないが、何か不気味な物を感じる様だ。

 アインズにしてみれば、『本来フロムの奴』という認識と気づかない内に遊離していく人間的感覚のせいで別段おかしな振る舞いにには見えなかったが、よくよく考えてみれば奇妙と言うよりも悍ましい。

 

 『狩人』は確か人間種…だった筈だ。アインズの様に強制的に精神がフラットになる訳でもあるまいに、いきなりの異常事態の中嬉々として人間を惨殺できるものだろうか?フロムゲーに浸かり過ぎると気が狂うのうのだろうか?

 

 若干失礼な事を考えてみたが、答えはそのどれでも無かった。

 『狩人』はユグドラシルの事を覚えて居なかった。モモンガの事は確りと覚えて居たが、それは『ランダムダンジョンで偶然出会ったナニカ』と認識して居た。

 最初は何か自分の様に事情が有って、こんな状況でもロールして居るのかと思えば違う。探り探り会話を繋げるうちにはっきりと分った。この狩人は『プレイヤー』としての、現実世界での記憶が一切無い。

 

 bloodborneというゲームの内容を知らないアインズにとっては、全く別の世界観から来たNPCの様に感じた。

 確かの二回だけ同行した人物とはまるで別物の様な印象を受けるのに、向こうは此方をしっかり認識している。そして好感度も思いの他良いようだ。

 …そのせいで違和感が加速して居るのだが…。

 

 些か奇妙な部分は有るが、それでも友好関係は築けそうであり、向こうは身軽に動き回れる。いまの所、敵対する理由も無い。どこかで使い道が有るかも知れない。

 プレイヤーという、同じ立場かは怪しいが兎も角もと先程得たばかりの知識を横流ししていく。その間、狩人は何か反応を示す分けでも無く耳を傾けていた。

 

「貴公に会えて良かった。助かったよ」

 

 ユグドラシルで出会ったときは、良くある社会人同士の軽い調子の敬語だった筈だが…。ロールに徹するアインズに合わせてなのか、狩人の口調もどこか異なる。その異なる口調で情報を共有しよう、とも。

 そう自身で言った瞬間、何を思い出したのか目元しか見えない狩人の目が笑みの形に細められた。

 そして連絡手段の代りに、と小さな鐘を差し出される。マジックアイテムらしく、用が有ればソレで呼びつけて貰って構わない。との事だ。

 

 そんなアインズにとっては疑問が増えるばかりの会話をそこそに、狩人はカルネ村には興味ないとばかりに出て行った。

 何故か存在が消滅してしまった胃が痛む気がした。

 

 

 

━わたしは地獄からやって来たんだよ。さあ見つけてみて。食らいついてみなよ!

 

━わたしは一人でだってやってこれた。ほら抵抗しなよ。叩き潰してやるから!

 

━わたしは地獄だって越えて来たんだ。きみを逃す訳ないでしょう?狩り殺してやる!

 

━わたしはまだ一人でだってやれる。さあ、狩の時間だ。

 

 概ねその様な歌詞だ。

 特に会話をしないせいか、仔猫は先程から常に何かしらを歌っている。その殆どがハミングの様なものだが、ほんの少し前から歌詞のあるものを繰り返していたのがそれだ。

 子供の高い声と若干舌足らずな口調で紡がれるには随分と物騒な歌だ。だが悪くない。むしろ良い。狩人はそう思った。語彙の乏しい仔猫にそんな技量があるかは怪しいが何という曲か教わりたい。

 

 しかし墓地には不釣り合い極まりない。

 元々白い寝間着に白い髪、無いよりはマシかと被せた黒いフード姿の小さな影。それが墓石を検分したり無意味にうろうろしている。まるで亡霊だ。

 興味のままにとてとてと墓所の奥へと向かっていく。

 

「うんこは拾ってくるなよー」

 

 そう声を掛ける狩人も墓地をうろうろと彷徨う。

 

 やる事が無いからだ。

 

 教わった通りに休みなく歩き続けた結果、警告されたモンスターに出会う事も無く夜を越えた。何だか避けられている様な気さえした。そして当然の様にまた朝日が昇り早朝にエ・ランテルに辿り着いた。

 やはり仔猫も狩人同様眠る事も、何かを食べる事もしない。それどころか大人の歩調にしかっりとついてくる。なんだ、この生き物。

 狩人は仔猫へ不信感を募らせるが、今すぐに襲い掛かって来る訳でもない。

 

 さて、そんな訳で辿り着いた都市だ。

 先ず隣国に面して居り、人の行き来が多く仔猫の言う『カーパルス』という土地を知って居る者が居るかもしれない。そんな理由で国の中心部では無くこちらにやって来たのだが…。毎年の様に戦争を繰り返している国同士の国境間近では当然、誰でも出入りできる訳でも無い。検問所が有り、通行料も取られる。残念な事に狩人はこの国の通貨を持ち合わせて居ない。その上に、非常に怪しかった。一目見て不審者だった。

 ヤーナムでは決して狩人の服装は浮くことは無かった。何せもっとへんちくりんな恰好の奴が居た。それでも着て居るだけましだ。いっそ何も身に着けない。そういう結論に辿り着いたカリフラワーの変態なども居たのだから。

 

 だがここではダメだった。

 

 顔の殆ど見えない黒づくめの男はアウトだった。しかもやたら軽装の、アリアンナの靴を貸した結果、性別の天秤が一気に少女に傾いた仔猫が一緒だ。

 怪しいにも程がある。

 これで仔猫が最初の様に泣き出しでもしたら、人攫いか何かと疑われたかも知れない。

 幸にも、そんな事は無く終始狩人の影に隠れて大人しくしていた。ぼそりと『更地にする?』と呟いたが聞かなかった事にした。入るなと言われて入り、ガトリング銃で蜂の巣にされた事のある人間はそんな乱暴な事はしない。勿論、如何様にも避けようは有るが、正直面倒くさい。

 

 経験に学んだ上に、普通で善良で良識的な狩人は穏便に済ます。その為にあちこちで拾った硬貨を全て渡した。賄賂だとか、ぼったくりだとかは考えてはいけない。どうせ狩人には要らない物だ。

 目印にしか成らない物だ。

 

 そうして漸く入れた街の、あんまりにも『正常』な光景に狩人は一瞬戸惑った。

 人間が普通に生活しており活気がある…。

 一体何時ぶりかに見る光景に眩暈を起した。そもそも記憶が欠けているのだから、ヤーナムの光景しか思い出せない。初めて見る普通な世界だ。

 跋扈するのは獣ではない。火炎瓶も銃弾も飛び交わない。血飛沫も上がらない。狂人の奇声も届かない。探求への業が成した淀みも無い。不快な上位者共もいな……、よし、居ない!やった!

 一応心配になり辺りを見回したがとりあえずは居ない。

 

 仔猫も珍しそうに周囲を見ている。彼の見て来た世界とも違う様だ。

 

「見覚えは?」

 

 様子を見れば答えは否だろう。一応聞くだけ聞くがやはり首を振る。そしてすぐにじぃっと空を見上げた。

 空に何か見えたのだろうかと、狩人もその視線を追うが何も居ない。ただただ青い空が広がって居る。

 

 そう言えばこの子猫は良く空を見上げるな、と狩人は思った。が、深く考えなかった。宙に気に成る要因でも有るのだろう。

 

 国境間際、有事の際は前線基地となる筈の街の人間は酷く穏やかだった。勿論、ヤーナムを基準にしてだ。

 明らかに胡散臭い狩人と仔猫が話しかけても、怪訝な顔をしながら酷くがさつに受け答えしてくれる。とても親切である。

 その親切な人々に話しかけ、尋ねてみた結果でも仔猫の親が居る土地が何所だか判明しなかった。つまり、人が簡単に行き来できる距離にはないらしい。どうやってここに出て来たんだこの子猫。

 

 やはりこれは既に母親は死んでいるパターンで、探す必要も無いと言うことだろうか?

 仔猫が突然何処かへ飛び出さない様に見て居なければ。

 

 何の手掛かりも無く、狩る獣も居ない。兎も角は仔猫の親探し、と思ったが何か別の厄介事に首を突っ込んでみるべきか。

 

 獣狩りを続ければ何かがどうこうなって居ただけ、一般人な狩人は考えるのが苦手だった。深く考えず、異形の赤子を産み、気が狂い、死んだ娼婦の靴を持ってきちゃう位には考えて居なかった。ついでにその赤子を殺してへその緒を仕舞い込むのも何となくだ。深く考えていない。

 

 あの土地では、何かを深く考える猶予も無く様々なモノが襲い掛かって来た。時間も過ぎはせずに獣狩りの夜まま。

 人形ちゃんとの会話以外に、有意義な時間の使い方、と言うのが思い浮かばなかった。ここには助言者も居ない。

 

 そんな訳で、日暮れ頃からやる事の無い狩人は広大な墓地をうろうろして居た。

 何か良い物…聖杯の儀式に使える材料でも有ればいいのに、と。悍ましい呪詛の籠った血や、病死体から零れ落ちた臓器、或いは真っ赤な子供の成り損ない。そんな『いいもの』など無いだろうかと。

 

 本人にその気は無くとも有体に言ってしまえば墓荒らしである。

 

 別に、ただ暇で墓を漁ってる訳ではない。と狩人は言い訳染みた思考をする。

 すっかり獣狩りの夜に染まってしまい忘れて居た。先立つものは必要なのだ。つまり金が欲しい。通貨としては使えなかったが、貴金属としての価値は確かに有ったあの硬貨。

 朝が来る保障の無い中投げ捨てられて居た金貨に銀貨。ここでは価値が認められるなら丁度いい。道しるべにしか成らないあれらを本来の用途に使おう。

 ヤーナムに戻る事は出来ないから、使者からありったけ買おう。その為には血の遺志だ。残念なことに、村を襲った意志薄弱な奴らの遺志では何の足しにもならない。そもそも何故か、この悪夢で目覚めた際空っぽに成っていた。どいつが持って居るんだ…?お礼参りに行かなけらば…。

 しかし善良な狩人は、物騒な方法を控え、至極普通に考えた。

 

 『そうだ、聖杯潜ろう』と。

 

 灯りもまだ見つけて居ない。あの村だけだ。お手軽に夢に帰ることも出来ないのでせめてもと儀式の素材集め中。好きに遊ばせていた筈の仔猫の声が響く。世間一般的に言う悲鳴。

 

「…仔猫?」

 

 どうしたのだろうか。黒い獣でも居たのだろうか。

 何事かときちんとしまってしたノコギリ鉈を取り出して声のした方へ向かった。

 墓地の随分奥まった所に、ふーっ、とばかりに警戒心露わな野良猫そっくりな首輪付きが居た。何かを酷く警戒した様に、何処から持って来たのか崩れた墓石を頭上に掲げている。明らかに足元の何かを叩き潰す構えだ。虫だろうか?

 

 残念な事に狩人の獲物は居なかった。

 

 ふぅーっ!とお怒りな仔猫はやって来た狩人に気が付くと、足元を指さして一言言い放った。

 

「痴女!」

 

 どうやら変態に絡まれたらしい。

 

 




狩人さん
パッケージの狩人さん。
突然良く分からない状況で獣を狩れと言われて狩りまくって居たら何か事態が転がって居た系、アインズ様にNPCっぽいと思われている狩人さん。エ・ランテルの共同墓地で聖杯儀式しようとする位に何も考えてない。特に考えなくアリアンナさんの靴を剥いでくる人。
しかし自称普通で善良で良識的な狩人。そして多分ごろごろいる変態達に比べれば間違いなく普通の狩人。

首輪付き仔猫

【挿絵表示】
 このお話限りでの首輪付き。30分で描いた手抜き注意。男の子。開かないで脳内補完して頂いても構いません。
まだ仔猫。まだただのリンクス。
セレンに猫っ可愛がりされたらしき、凄まじい依存具合と記憶の錯乱を起してる系首輪付き。セレン以外はどうでも良い。セレンに褒めて貰う為にいろいろなんでもやっつける。
やっつけてるだけ。
色々なモノをじぃっと見ている。答えはまだない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

◇問い◇微睡/おまけで痴女

お気に入りして頂いたり、感想頂いたり、ちょっと考察の様な物頂いたりとても嬉しい限りです。好き勝手書きなぐってるだけなのに本当にありがとうございます。
あと何故か私の汚部屋にオーバーロードの二巻が二冊あるんですけど何なんでしょうね、これ…。
 
感想でも頂いたのですが、ACシリーズは過去に有っただけで現実ではもう存在していません。多分内容的に発売許可が下りなかったんじゃないのでしょうか。特に4とfa辺りが。



 首輪の付いた、小さな仔猫の大好きで、絶対で、世界その物の様な養い親は言いました。

 

 お前が正しいと思う道を選べ、と。

 信じて居るから、お前がどんな答えを出そうとも私は共に歩もう。

 

 彼女はそう言いました。

 

 首輪の付いた小さい仔猫は、養い親こそが世界なので彼女さえ傍に居てくれるのなら何も悩む事も考える事も無いと安心しました。

 そもそも首輪の付いた可愛い仔猫は生まれてからこれまで悩んだことはありません。大好きな養い親の喜ぶことだけをやって来ました。今後も迷う必要はありません。

 仔猫にはそれ以外必要なかったので、何も不思議に思いません。

 

 

 ━ただ殺すことだけを覚えさせたか…。

 

 

 首輪の外れた獣は呆然と立ち尽くします。

 一体何が悪かったのだろうと、途方に暮れて、それでも大好きな養い親に捨てられた事は理解できました。

 

 何がだめだった?どこが違った?何を間違えたの?どこが気に入らなかった?獣がひとりで考えた所で答えは出ませんでした。

 

 

「ああ、狩人様。こちらにいらしゃったのですね」

 

 夢の中を歩き回る人形は大樹に背を預けて眠る狩人を見つけた。大きな白い満月の下、月の光の様な花が咲き乱れる土の上に直接腰かけて眠って居る。

 

 その傍らには使用者の居ない不要の車椅子がぽつりと置き去りにされている。

 

 傍へ寄った人形にも気づかずに、すぅ…と酷く穏やかに狩人は眠り続けている。

 腕と足を組み、固い樹木に背を預けていると言う割には本当に心地よさそうだった。

 

「狩人様。こんな所で眠って居ては冷えてしまいます」

 

 放置された車椅子とはその逆隣りへ、人形は屈み込み声を掛けるが起きる気配はない。

 ただ、人形の静かに澄んだ優し気な声に反応したのか僅かに指先が動く。小さく唸り、足を組み替えてまた、穏やかな寝息が聞こえ始める。

 

「まあ」

 

 まるで遊びたいだけ遊びまわり、そのまま遊び疲れて眠ってしまった幼子の様だった。

 そして夢の中でもまだ遊んで居る様に、微かに爪先が動く。

 

「お可愛らしい」

 

 表情が変わる事は無いが、心底から慈しむ様な声で呟く。関節の稼働を可能にしたが為に人とは異なる様相を呈した指先を伸ばし、未だ眠る狩人の頬をそっと撫d━━…

 

 

 首輪付きの知って居る『お墓』とは随分と感じの違う墓地へやって来て、その辺を漁り出した変な連れ。何だか頭が可哀想な奴な気がする。背骨だか、内臓とかを探しているらしい。何に使うのかは分からないが、そこはかとなく可哀想なので一緒に探してあげる。人間の中身なんてあんまり見た事無いから、どんな形の臓器が欲しいのか、良くわからないけど。何でカビは良くて、うんこは駄目なのだろう。嫌な人の顔面に投げつければ食中毒になるかも知れないのに。

 そんな事を考えながら、うろうろと探し物に付き合ってあげる。セレンを探してくれているから、お返しに。

 それにしても広い墓だ。それだけ墓に入る人間がいっぱい居るんだ。死んだ人間にまで、汚染の無い土地が用意されているのは凄いと思う。

 探し物は何も見つからない。

 

 うろうろと墓場のもっと奥まで進んで行く。

 黒い連れはちっとも不思議がって居なかったけど、目に映るもの全てが変な作り。非武装の車両が掠った位で壊れてしまいそうな建物ばかり。ここもそう。結構大きいけど…なんだろう。公衆トイレかな?

 つい癖で中に誰か居るかな?と確認しようとしても、当然自分の身体だけではレーダーの性能も何もない。自分の目で見るしかない。それでも目はいいけど。

 なんだろーと、呑気に覗き込もうとする首輪付きに声が掛かる。

 

「ねー。おチビちゃん。こんな所で何してるのかなー?」

 

 振り返ればそこには痴女が居た。

 思わず目が点になる。面白い小動物でも見つけたみたいに首輪付きを眺めて居る女は露出狂だった!

 一応、上衣の心算なのかマントは羽織って居る。それでも腕を腰に当てれば正面丸見えだ。フードを被って居るせいで、その手の変出者だと首輪付きは判断する。

 金髪のボブカットも相まって、可愛い系の綺麗な女性だとかは変態行為の下では機能しない。美男美女でも許されない事もある。

 残念ながら、首輪付きにビキニアーマーなどと言う知識は無かった。彼の主観ではてらてら光沢のある素材の下着女。それである。

 

「…わぁああぁあぁああ!?」

 

 変態だぁあ!

 ここ暫くで一番長い発声時間を以てして首輪付きは叫んだ。

 元々人見知り…と言うよりも、雇った僚機ともろくに喋らずセレンに丸投げ。会話をするのはもっぱらセレン。後は殆ど会う事の無い、他所の企業のおともだち、と少し話す程度。すっかり対人弱者になって居た。命のやり取り的なコミュニケーションならもっと上手く取れたのだが…。

 兎も角、あまり人間と接するのが上手くない。その上で過保護な育て親は不審者に容赦は要らないと教えていた。

 突如として現れた痴女い恰好の女に驚き、叫んだ反射のままに人差し指と小指を立てた、珍妙なハンドサインで両目を突く構えで突き出した。手が小さいのでピースでは一度に両目を狙えないのだ。そして身長差故に、ジャンプ込みの加速でもってだ。白い殺人毛玉と化した首輪付きは飛び掛かった。

 

 セレンが言っていた!変質者に声を掛けられたらしっかり対応しろと!

 耳、目、米神、鳩尾。主に人間の急所を狙え。大体穴は急所。おへそは行き止まりで穴では無いが、そこだけ脂肪が薄く直内臓でお腹壊しちゃう。だからおへそはしまって寝ろ。布団を蹴飛ばすな。仕方ない、一緒に寝よう。

 最後は何か違ったがそういう事だ。有澤やトーラス的な意味ではない変態は滅しろ。私のリンクスに手を出す奴を許すな。

 そういう教育方針だ。

 

 突然急所狙いで飛び掛かって来た白毛玉。真後ろから声をかけておきながら、痴女が酷く驚いた顔をする。随分と動体視力が良いのか、素早いのか、思考する前に『変態だ!』という反射で飛び掛かって来る仔猫を叩き落とそうとするが、仔猫はすばしっこいのだ。

 

 機体にもよるが、リンクスは皆時速数百キロから千キロとかいう、冗談みたいな速度で機体を動かす。時速2000キロ越えで動く、頭おかしい濡れティッシュ装甲機体もいる。そんな機体制御のフィードバックを脳味噌で処理して居る連中だ。勿論、手を加えて機能向上を図ったりもするがそれだって体質。ずるではない。大なり小なり皆強化人間。だってその方が傭兵稼業的に便利だもの。首輪付きだってAMSぶち込むついでに出来る限りの事はした。

 

 出来る限りナニカしたのだから、露出狂の痴女が何かしようが首輪付きはちゃんと反応する。目的通り目つぶしを決め、勢いのまま指をつこっむ。猫ふんじゃった的な『にぎゃっ』という声が洩れた。残念ながら指が短いので脳までは届かなかったが、ぷちゅっと眼球を潰せた感覚は有る。爪の先に硝子体が詰まったかもしれない…気持ち悪い。

 

 昨日も思ったけれど手足の反応が機体を組み替えた時の様な、微妙な違和感がまだ微かにある。これは何だろう?と首を傾げながら、黒い連れに借りたフードでささっと指先を拭うう。パジャマはセレンが買ってくれたから汚したくないのだ。

 

 取り合えず、そのまま更に脱ぎだすとか、襲い掛かってくる等の行動を阻止したが仔猫は警戒中だ。

 心なしか頭の癖っ毛がいつもより元気に跳ねている。

 変態を豚箱へ収納してくれそうな人間も居ないので、頭カチ割っておこ。と、その辺の古い墓石を引っこ抜いた所で頭が可哀想な連れがやって来た。一体何を切って居たのか、病原体が凄そうな鋸を携えている。

 

「痴女!」

 

 一応、黒い連れにも警告してやった。

 

 

 なるほど、ヘンタイだ。

 

 様々な狩人に出会う前だったなら、こんなに足を出した卑猥な恰好の女が居る何て…と引いて居ただろう。だが既に手遅れ。女性だって例外なくおかしい奴はおかしい。下着にトップハットと仕込み杖で殴り込んで来るのだ。様式美とは一体…。

 そう。逆説的に考えれば変態的な恰好をしているなら、狩人かも知れない。いや、血の匂いが無いので『狩人』ではないだろう。

 問題は獣かどうかだ。対話も成らず、人間の理性を投げ捨てて居ないか。

 

 …残念な事に、目を覆って罵詈雑言を吐き出してのたうち回って居るので判別不能だ。死体だったら漁って見ようかとも思うが、生きているし自身が襲われた訳でもないのでどうしていいのか困る。ただの卑猥で下品な恰好の女だったら狩る理由もない。

 

「こんのっクソガキッ!」

 

 狩人が獣か変態か見定めようとした僅かな間に、血涙流しながら体勢を立て直そうとして…あえなくすばしっこい仔猫に頭突きを食らっている。自身の得物を引き抜こうとした手も仔猫に掴まれてたせいで避ける術無く真正面からだ。かなりいい音がした。ついでに仔猫が手放した墓石が飛んで行った。

 

 顔だけ見れば猫の様な色気と可愛らしさがある変態だが、品性も糞もなく仔猫とキャットファイトをしている。これは獣では無く猫だ。そう判断した。

 

 狩人はやはり体躯に不釣り合いな出力で変態を抑え込んでいる仔猫に疑問は抱かなかった。

 

 仔猫とじゃれているだけなら害は無いだろうと結論付ける。普通で善良で良心的な故に殺意の低い狩人は再び儀式の材料探しに戻る。

 

 戻ろうとした。

 そこで人の気配を感じ振り返る。ぎゃーぎゃーと声を張り上げる雌猫と、腕の関節を外しに掛かってる仔猫の後ろ。居住用と言うより、霊廟、教会、そんな雰囲気の有る建造物から一人の人物が顔を出した。

 当然の動作でノコギリ鉈を構える。

 

「何の騒ぎだ…」

 

 狩人の感覚で言う、『人間大の使者の様な男』がそこに居た。そいつはどうしてそうなったのか、仔猫に頭を齧られている雌猫を苦々し気に見下ろしていた。それはもう、それこそ本物の使者にも負けない位顔を歪めて。

 

 正直狩人もこれが何の騒ぎか分からなかった。

 

 

 

 

 




狩人さんの『よし殺そう』センサーは大分おおらか()です。でも変なタイミングで入ります。蜘蛛のパッチは殺したら残る物でどんな存在か分るかなーって気軽に殴った。

首輪付きは反射で叩き返してるだけなのでいまの所そんなに殺傷能力無いからただのじゃれる仔猫です。ちょっと力が強めで思い切りが良いだけです。兄弟猫と甘噛みしてどれ位力入れたら『痛い!』って成るのか勉強できなかったひとっりこ猫です。
ノーカウントは何か面白かったから普通にやっつけた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

聖杯儀式

ブラボを1からやり始め、診療所で死ねば早いのをムキに成って殴り倒し、無意味に丸腰でうろつきあれ?何やってんだ私は…と正気に戻った後に何故かヤーナムからデトロイトに行ってました。
直前ヤーナムからデトロイトだと、まともな選択が出来ませんね。落としてきた人間性を拾いにヤーナムに戻ります。次こそは平和なデトロイトを…。


 

 何の騒ぎだと問われても、残念ながら狩人も首を傾げるしかない。

 仔猫の『痴女!』との報告と、ただいまのキャットファイトを見るに、恐らく幼子に手を出した卑猥な格好の成人女性。という現状だろうか……。

 

 ただし今現在は仔猫が一方的に痴女に噛みついて居るだけ、だが。子供の歯は小さな面積に圧がかかって痛そうだ。猫の耳の様な癖毛を鷲掴みにして抵抗しているが、仔猫は剥がれそうにない。この現場では仔猫が被害者では無理がある気がする。

 

「性犯罪者だそうだ。一応」

 

 大きな人間大の使者染みた男は、酷く胡乱な物を見る目で此方を見て居る。

 何かを思考しているのかも知れないが、奥歯を噛みしめる様な酷く悩んでいる表情だ。ますます使者に似てきている。

 

 狩人は男が何かを話すのを待つように、右手の仕掛け武器をがちゃんがちゃんと変形を繰り替えす。ついつい、話が長く成って来ると手癖でやってしまうのだ。

 ちなみにヤーナムの人々は無礼だなどと咎めはしない。

 

 とても親切におおらかな人間ばかりのこの地なら尚更だろう。だから狩人もおおらかに、使者染みた男が何か話すのを大人しく待って居る。

 がしゃん、がしゃん、と手遊びにノコギリ鉈を変形させ続けながら。

 

「……その痴女は一応身内だ」

 

 ごしゃん、がしゃん、という音を数往復繰り返した辺りで大きな使者が『不本意ですが』とでかでかと顔に出して吐き出した。

 ついでに当の痴女からは大変不服そうな、威嚇らしい唸り声が上がった。

 成る程。墓に居た男の身内、という事は墓守か何かだったのだろうか?あるいはヘムウィックの墓女よろしく、無節操に狩人に襲い掛かるタイプなのかもしれない…。いや、一応意思疎通を問題無くこなし、狩人に襲い掛かって来ない男の身内ならば墓守説が有効だ。

 

 一方的にマウント取っている首輪付きの方が害悪説まで出て来た。子供が驚いての咄嗟の反応だったのかも知れないが、ここまで来てしまってはどちらが獣か分からない。

 止めた方が良いのだろう。一応、仔猫は連れ歩いている大人は狩人だ。しっかりと大人らしく責任を取ろう。

 ギリギリで抵抗していた痴女へ、とうとう仔猫が良い音をさせて頭突きを決めた。しかも顎に。勢いのままに石の床に後頭部を殴打し失神した様だ。脳味噌は零れて居ないので大丈夫だろう。

 

「こらこら。程々にしなさい。お前の方が獣染みてるぞ」

 

「けもの」

 

 子供向けに親切に優しく朗らかに、を心がけながら小さいとは言え一応性別男の仔猫を痴女の腹の上から抱え降ろす。

 仔猫当人は獣という言葉が気にかかった様で、もにょもにょと繰り返し続けている。

 

「目玉抉るのはヤハグルの変なカルト連中に任せなさい。えーっと…めっ」

 

 子供を叱った事など無く、信念の不一致の擦り合わせは主に殺し合いで行う狩人は『めっ』と言ってみるので精一杯だったが、仔猫にはそれで通じたらしい。しょんぼりとしょぼくれてしまう。

 そして何故か使者の様な墓守男は『変なカルト連中』に対して咽て咳き込んだ。なんだろう。この辺りにも隠し街的な物が有るのだろうか?人攫いには気を付けよう。やつらは攻撃が地味に痛い。

 

 さて次は雌猫だ。

 正直あまり使い勝手は良く無いが、まさか輸血液をぶち込む訳にも行かない。聖歌の鐘を鳴らす。驚いた事に、仔猫が指を突っ込んだらしき眼球が修復される。性能がおかしな事に成ってる。どうしたんだお前。そのやる気をヤーナムで発揮しろ。

 または、この雌猫の体質なのだろうか。

 

 相変わらず血涙の跡や、鼻血は出して失神したままだが取り敢えず責任は果たした。

 さて、当初の目的の聖杯だ。灯りも無い。一度夢に戻ってしまっては、再びカルネ村から歩いて戻るしかない。多少無理矢理にもでもここで開きたい。墓地だし、いけるだろう。絶対に成そうとする意志さえあればいけるはずだ。気合論だ。

 相変わらず、酷い表情をしている墓守へ向き直す。

 

「少し場所を借りても良いだろうか?なに、墓地を荒らす様な事はない。少し聖杯儀式をさせて貰いたいのだが」

 

 確かにこの墓地は荒らさない。神の墓を暴くだけだ。

 

 だが共同墓地の片隅で妙な儀式をおっぱじめるのは普通ではない。それも、すでに儀式の血を片手に取り出し、断る余地などないとばかりに迫って来る目元しか見えない黒ずくめの男は普通に異常者だ。

 言葉だけでは伺いを立てているが、したいことをしたい様にやるのだという気概しか見えない。

 正気の勘違いする馬鹿共より、狂気に突っ走る阿呆の方が予測不能な分扱い難い。

 

「む。すまない」

 

 そして先ほどは、まるで威嚇の様に血錆びと腐臭、呪怨に濡れた悍ましい凶器をがちゃがちゃと鳴らして居た輩だ。

 それでも狩人はヤーナム的紳士度で言えば大変に善良で良心的で普通なのだ。

 そんな普通な狩人は何かに気づき、人面の様に泡立ち呪詛を吐く儀式の血を目前の墓守に押し付ける。

 使者の様な墓守男と、怨嗟を叫ぶ人面に泡立つ悍ましき血の目と目が合う。まあ、合うだけで別段恋はうまれないが。

 

 恋の芽生えも無いままに見つめ合う二人(?)を他所に、ごそり荷物を漁り小さな鐘、正確に言えば共鳴する小さな鐘を取り出す。

 ……おや? と首を傾げる。確かに、鐘の音が聞こえた気がするのだが。今目の前の小さな鐘は無音だ。気のせいだったのだろうか。

 

 首を傾げながら、鐘を元に戻す。悪い。と軽く謝罪をし儀式の血を受け取る。心なしか怨嗟を叫ぶ血の人面が、離れ難そうに墓守を見詰めて居た気がする。恋が芽生えたのかもしれない。

 

 そんなことより聖杯だ。血晶……、いや違う。落ち着け落ちつくんだ。

 

 善良で普通で良識的な、狩人だ。決して地底人ではない。そう、落ち着け。欲しいのは血晶ではなく、血の遺志であり、使者から買い取れる金貨だ。我を忘れるんじゃない。血晶の事を考えるんじゃない。いいか、ソレを意識した瞬間遠のくのだ。欲を出してはいけない。物欲を出すな。欲望でもって潜れば、それは決して得られなくな……まてまてまて、こんな思考をしてる時点で、まるで血晶が欲しいみたいじゃないか!違うんだ、欲しいのは血の遺志で、あれだ、もし、もし副次的にイイ血晶が落ちたら嬉しい、程度の事なんだ!

 

 狩人は無言のままに思考を巡らせる。荒れ狂う思考のせいか、無駄に儀式素材を周囲にぶちまけ、ついでに取り出した虫を踏みつぶし、無意味な奇怪な動きをしながら己の考えをまとめようと躍起になって居る。

 何とかしないと、そろそろ脳汁吹き出しそうだ。

 

 端の方で痴女の頬をペしぺし叩き、意識確認している仔猫がゴミを見る目で狩人を見ている。使者の様な墓守男も完全に引いている。

 

 しかしそんな外野には気づかず、狩人はある閃きにであう。

 

 そうだ。そもそも遺志が無いのだから道は開けないのでは? 狩人の夢の祭壇でないのだから、尚更。そうだ、そうだ、聖杯文字を使おう。そうしよう! 決して血石が目当てな訳では無いが、致し方ないのだ。異世界の地底人と化した数多の狩人達の 周回(遺志)というか、最早執念により道はある。祭壇が存在しないのを補うために、素材を聖杯にぶち込み、形だけの儀式を行う。

 

 外野が完全に距離を取っているのは気づかない。むしろ意識の無い痴女が盾にされているレベルで警戒している。

 

 呪われたイズの碑、53bqtka4。べ、別に重打の特化血晶が欲しいわけじゃない!断じて違う…!!

  

 

 

 




次回、呪われたイズの碑 狩人と首輪付き獣と、雌猫痴女ことクレマンティーヌ、墓守使者
のカジットを添えて。血晶がでるまで…もとい、血の遺志が溜まるまで帰れない啓蒙上昇強行軍旅。
イズなのは、私がイズの碑好きだから。可愛くないですか?イズ。敵も内装?も可愛いですよね。イズ。

因みに、アインズ様は狩人呼びの鐘が不発でした。MPは有っても啓蒙が無かったので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。