とある侍の漂白剤 (カツヲ武士)
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1話 簡単なプロローグ

飛ばされることを前提とした第一話。

まぁプロローグですからね。

オリ設定・オリ展開!
嫌いな人は読み飛ばし!


なんか目が覚めたら転生していた。

 

いや、いきなりこんなことを言われても

良く分からないだろうが、俺もよく分かっていないんだ。

 

本当に目が覚めたと思ったら5歳位の

子供になってたんだよ。

 

夢とか超能力とかそんなチャチなモンじゃねぇ。もっと根源的なナニカの干渉を感じたぜ!

 

そんな感じで、正確には憑依になるのかも

知れないが、とりあえず俺は転生したんだ。

 

それも江戸時代みたいなところに。

 

転生なら未来だろ?!何で過去なんだよ!

そう思ったけど、寝ても覚めても元の

世界に戻ることは無かったので、今では

色々諦める事にしている。

 

 

不幸中の幸いと言うか何と言うか俺が

転生した先はそこそこ裕福な家らしく、

なんときちんとした苗字があったんだよ。

 

その苗字を聞いて俺のテンションが上がったのは仕方のないことだと思う。

 

何せ俺の苗字は、円乗寺。そう龍造寺四天王の

一人として有名なあの円乗寺家だったんだ!

 

現状で裕福な家ってことは沖田畷の戦いは

まだ発生していない!つまりなんとかして

鍋島と繋ぎを付けることが出来れば、俺は

生きて行ける!そう思ったんだ。

 

だけど問題は、今の俺の名前なんだよな。

辰房。円乗寺辰房ってのが俺のフルネームになる。

 

四天王の方の名前は信胤だったハズだから

辰も房もないんだよな。

 

いや、クマーな隆信自身が大内義隆から

名前を貰ったわけだし、元の名前が辰房

の可能性も無いわけでは無い。

 

それに俺は信胤の親とか子供に関しての

知識が無いから、世代が違う可能性もある

と考えれば、特に不自然な点は無いんだ。

 

それに親父は普通に刀を差してるから

廃刀令の前ってことは確かだし・・・

 

と、とりあえず、龍造寺に仕える前だってんなら話は早い!

 

毛利とか島津に降るも良し、中央に

逃げて織田とか徳川に仕えるのも

悪く無いだろう。

 

そしてその為には周囲の情報をしっかり

と集める必要がある。

 

そう考えた俺がまず最初にしたことは

父親がやってる道場で剣術を学ぶことだった。

 

今は小康状態かもしれんが、いつ

世紀末のモヒカンが襲って来るか

分からんのが戦国時代の九州だからな!

 

力こそが正義。力の無い者は奪われる。

そんな時代を生き抜く為には救世主を

待つだけじゃダメなんだ!

 

必要なのは救世主が来るまで持ちこたえる

ことが出来る武力。そして時には敵と手を

結び、悪に染まることを厭わぬ精神力!

 

そして何より重要なのが、主君をとなる

人間を間違えないこと!

 

信長に近付いたら信孝の家臣にされたり

秀吉に近付いたら秀次の家臣にされたり

家康に近付いたら信康の家臣にされたり

 

こんな目に遭わないように、しっかりと

情報収集をするんだ!

 

 

 

 

・・・・・・こうして気付いたら円乗寺辰房となった少年は、この世界を生き抜くことを決意する。

 

彼がこの世界にどのように順応し、

どのような爪痕を残すのか。

 

それを知る者は未だ居ない。

 




誰得、円城寺辰房である!(どぉん)の人。

いや、なんか頭に浮かんだんです。
ネタを誰かに使われる前に使いたかったんです!ってお話。


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2話。プロローグ②

サブタイ通りですね 

オリ設定・オリ展開
嫌いな人は読み飛ばし。


「吾輩は円乗寺辰房。10歳である」

 

などと言って見たものの、とくに誰かが

居る訳でもなく、単純に独り言なんだがな。

 

「む?何だいきなり?」

 

「え?父上?」

 

しかしこう言う時に限って家族が聞き耳を

立ててるのは世の中の道理だなのだろうか。

 

鏡の前でポージングをしているとき然り

髪型を決める為に四苦八苦しているとき然り。

 

いや、なんか心が痛くなるからこの話題は止めにしよう。

 

取り敢えず今は父親からの変なモノを

見るような目をどうにかせねばなるまい。

 

「あぁいえ、10歳を迎えた事が嬉しくてつい」

 

「そうか・・・お前もあの病気に罹る年頃か」

 

誕生日になったので簡単な自己紹介を

したら、父親から胡乱なヤツを見るよう

な目をされたので、釈明しておこうと

思ったら、なんかアレな子供を見るような

目をされた件について。

 

つーか、あの病気って間違いなく中二病だよな!この世界にもあるのかよ!

 

俺は心の中でそう叫び声を上げるが、

父親に変な奴が憑依していると

思われるよりはマシだと思い、ここはぐっとこらえることにした。

 

そう。『この世界』と言ったことで勘の

良い人は気付くだろう。

 

何と俺は異世界に転生していたのだ!

 

いやぁ『円乗寺』とか言うからてっきり

肥前のクマーのところの人かと思って

色々聞いたら、全然違うんだもんよ。

 

おらビックリしただ!

 

そんな吾作ネタはともかくとして、だ。

なんか俺らは死神ってやつらしい。

 

で、父親が持ってる刀は斬魄刀とか

言うらしく、ホロウってのを切ったり

する為のモノらしい。

 

で、ウチはその死神か通う剣術道場の一つだって話だ。

 

なるほどなー。

 

色々理解するのが難しいところも有るが、

異世界転移をしたんだから、俺がコッチの

常識に合わせるのは当然だよな。と一先ず

納得をすることにした。

 

とりあえずここは俺が最初に想像したような

修羅の巷では無かったが、ホロウとか言う

化物が居て、それを殺す為に剣術が必要な

世界であることに違いはない。

 

それにこの尸魂界には、死神の他にも霊力を

持たない住民も居るらしく、それを守るのも

死神の務めらしいんだ。だから結局のところ

俺達は刀を使って民を守る侍と言っても

良いのではないだろうか?

 

そんなことを考えつつ、俺は今日も剣を振るのだ。

 

なんでも死神の戦闘における基礎技術には

斬(剣術)・拳(体術)・走(歩法)・鬼(鬼道)と言われる4つの分野が有るらしい。

 

理想は勿論全てを極めることだが、それは

簡単に出来ることではないので、幼少期に

全般の訓練を行い、適性をチェックする

のが普通らしい。

 

つっても体術や歩法の適性とか言われても

困るし、剣術に関しても死神的には余り

重視されているようには思えないのが現状だ。

 

何故なら上位の死神は斬魄刀の力を

解放させることが出来るからだ。

 

コレを始解と言うらしい。

 

で、この始解を行うと、それまではただの

刀でしかなかった斬魄刀が、その形を変えてしまうらしい。

 

時に槍、時に斧。時には炎と言った固体

ですらないモノに代わってしまうんだとか。

 

そうなると、刀を使うことを基本としている

剣術はまるで役に立たなくなってしまう。

 

だから上位になればなるほど自分の型を

重視するようになる。

 

基礎は重要だけど、自分の斬魄刀の動きに

合わせたワンオフの動きを身に付ける為に

努力をするわけだ。

 

そんな感じなので、ウチの道場に来る連中は

基本的に始解が出来ない連中になるんだけど

それだってキチンと国家試験に合格してる

エリートなんだ。

 

だから始解が出来なくても落ち込むなって

父親に言われてるんだけど・・・

それって遠回しに俺が始解出来ないって言ってませんかねぇ?!

 

ま、まぁとにかく、色んな適性を調べた

ところ、どうやら俺は鬼道に向いているらしい。

 

これは恐らくだけど、数学とか文学とか

色んな知識があることが影響してるんだと思われる。

 

それに前世の事は細かく思い出せないが、

かめは〇波だったり、流〇拳に憧れも

あったのは確かだから、鬼道を学ぶ

モチベーションも高かったのが良い方向

に向かったのだろうと思われる。

 

そんな諸事情もあり、俺は剣術の他に

鬼道を重点的に学ぶことになった。

 

 

 

それと、霊力がある子供は死神の養成学校

に通うことが通例らしく、俺もあと数年

したらその学校に通うことになるらしい。

 

実家が剣術道場なので、ある意味英才教育を

受けているんだが、きっとその学校には

俺の努力なんざ軽く吹っ飛ばすような天才が

居るのだろう。

 

何故って?

いや、普通に考えるんだ。異世界転生には主人公が居るだろ?

 

そしてそれは絶対に俺じゃない。

 

何故って?

いや、普通に考えるんだ。円乗寺辰房が主人公の名前か?

 

この妙に目立ちそうで目立たない名前。誰がどう見てもモブか、踏み台だろ?

 

このことを自覚した俺は、鎧袖一触で

蹴散らされるモブよりは主人公的な

存在の踏み台になって生き延びることを

選択し、その為に必死でトレーニングを

積んでるのだ!

 

後ろ向き?誰だってその他の一人になって

死にたくねぇんだよ!分かるだろ?

 

死なないのが一番だけど、どーせ死ぬ

なら恰好良く死にたいし、名前に見合った

活躍だってしてぇんだよ!

 

そんなこんなだから、油断せずに訓練を続けるんだ。

 

何せ俺が無事に学校に入学できるか

どうかも分からないんだしな。

 

『あれは10年前の事・・・』とか言って

モノローグでウチが崩壊してるとか洒落にもならんぞ!

 

未だにこの世界にどんな死亡フラグが

あるか分からない以上、この円乗寺辰房容赦せんっ!

 

 

 

こうして円乗寺辰房は、日々の訓練をまるで

見えない何かに追い立てられるかのように

必死で行うことになった。

 

そのひたむきな姿は道場を営む父親の胸を打ち、

テンションが上がった父親も息子に対して

容赦ないトレーニングを課していくことになる。

 

それは普通の死神が行うトレーニングを

遥かに凌駕したものであったと言う。

 

 




幼少期。前話から5年飛ばしです。
名前の差別?ははっ。二次小説のチラ裏でそんなことを気にしてはいけないよ。ってお話


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3話。キンクリ!

いつも通り幼少期をキンクリする作者である。

オリ設定・オリ展開。嫌いな人は読み飛ばし!


「円乗寺辰房。15歳です」

 

「そうかい。ご丁寧にどうも。僕は護廷十三隊・八番隊隊長の京楽春水。それでこっちが・・・」

 

「矢胴丸リサや」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

十三で死神を育成するための学校である

真央霊術院に入学して二年。

 

此度俺は目出度く学院を卒業し、就職先の

隊長と副隊長に挨拶をしていた。

 

え?早い?いや、冷静に考えても見ろ。

俺は現役の死神であり、彼らを鍛える

立場でもあった父親から、直接教えを

受けてたんだぞ?

 

現役の死神ですら音を上げるような鍛錬を

して来た俺が学院で何を学べと?

 

あぁいや、死神としての基本だったり

歴史とか技術とかは学んだよ?

 

だけど実技ではどうしても学生レベルを

凌いでいたし、斬魄刀も比較的簡単に

解放することが出来てしまったこともあり、

他の生徒の劣等感を煽ってしまうと判断

された俺はさっさと飛び級で卒業させ

られてしまったのだ。

 

6年必要なところを2年で卒業?!

それなんて主人公?! 

などと思うこと無かれ。

 

世の中には俺と同じように2年で学院を

卒業したヤツが居るのだ。

それも五大貴族が一角、志波家の関係者だってんだから驚きだ。

 

もうソイツが主人公だろ?と思った俺は悪くないはずだ。

 

だから学院に居たときに八番隊の隊長から

直接スカウトされて配属された俺も

決して特別では無いのだ。

 

同じ資質を持つ者同士が争えば、勝敗を

分けるのはきっちり基礎を学んだか

否かなのだから。こうして飛び級を

してしまったことはマイナス要素にしか

ならないんじゃないかって勘ぐっている。

 

しかし、学院を追い出されるように卒業

した以上は働く必要が有るし、京楽隊長は

父親にも根回しをしていて、向こうからは

『しっかり務めを果たせよ!』なんて

言葉を掛けられているので、今更嫌だとは

言えないという事情もあった。

 

そんなこんなで卒業と同時に就職先が

決まったわけなのだが、八番隊における

俺の境遇は少し、いや少し所ではなく

おかしいと思わざるを得ないものであった。

 

「それで、あの隊長?」

 

「うん?どうしたのかな?」

 

「私が6席ってどういうことでしょうか?」

 

おかしくない?俺、学校を卒業したばかりの新人っすよ?

 

「おや?席次が不満なのかい?いやぁ、やる気が有るってのは良いねぇ!」

 

「違います!」

 

わざとか?!と言いたくなるような曲解を

された俺は、思わず声を上げてしまう。

 

「あぁ、アンタの気持ちはわかるで。けどな?

こっちもそん歳で始解を習得した天才を席官に

しないなんてことはできんねや」

 

「はぁ」

 

矢胴丸副隊長がそう言ってくるが、

天才と言われてもなぁ。

 

どう考えても俺個人の才能ではなく、親の

英才教育の賜物としか思えない俺は自身に

過剰な期待を掛けられているように感じてしまうわけでして。

 

「それにアンタは書類仕事も出来そうやしな」

 

「そうそう!書類って大事だよねぇ!」

 

「アンタが言うな!」

 

なんだ?急にドツキ漫才を始めたぞ?

 

「・・・えっと」

 

いきなりの展開にリアクションが取れず

茫然としていたら、矢胴丸副隊長が眼鏡を

かけなおしながら俺に話しかけてくる。

 

「あぁ、すまんな。隊長がこんなんやから

隊員もこんなんが多くてなぁ。どーしても

真面目に書類仕事が出来るのが欲しかったんよ」

 

「はぁ」

 

詳しく話を聞けば、なんでも京楽隊長は仕事が

出来ないわけでは無いが、その性格から結構

仕事を溜め込んでしまう悪癖があるんだとか。

 

隊長がそんな感じなもんだから、部下の中

にもずぼらな奴が多くなってきており、

矢胴丸副隊長としては、綱紀粛正の意味も

込めて、若造の俺を席官に抜擢したとのことだった。

 

確かに書類を提出しても受理されないと言う

環境なら、急いで書類を作るような人間は

減ってしまうのは理解できる。

 

そこで変な癖がついていない俺を働かせる

ことで、他の隊員の尻を叩くつもりだと

言うのも良い。

 

席官の中には始解を修めていない人も居る

みたいなので、純粋な武力も期待できる。

 

こう言った事情から俺が特別扱いされる

ことになったんだとか。

 

・・・ちなみに、俺がもし調子に乗るようだったなら、身の程を教える気満々だったらしい。

 

確かに死神ってのは武力(暴力)を必要と

する職業だし、軍隊みたいなもんでも有る

んだから、それも過剰では無いとは思う。

 

また、出動する際の現場は命懸けの戦場

なのだから、上下関係に厳しいのも納得だ。

 

だけど敢えて言わせてもらおう。

サツバツし過ぎじゃないですかねぇ?!

 

それに、だ。重要な問題が有るぞ。

 

「しかし矢胴丸副隊長」

 

「なんや?」

 

ギラッした目で「口答えする気か?」って

感じの視線を向けて来る副隊長だが、

これは指摘せねばならんだろうと思った

俺は、思ったことを口に出す。

 

「俺がいくら真面目にやっても隊長が書類を

受理しない限り状況は好転しないのでは?」

 

「・・・せやな」

 

「あはは!リサちゃん、一本取られたねぇ!」

 

「アンタが言うな!」

 

頭を抱えた矢胴丸副隊長に京楽隊長が

笑いかけ、またドツキ漫才が始まった。

 

どうやら俺の職場は俺が思った以上に緩くて賑やかな場所らしい。

 

俺は内心でやれやれと呟きながらも

噂に聞く十一番隊のような場所じゃ

なくて良かった・・・と心から安堵したのであった。




どうやら時系列は原作開始前(少なくとも100年以上前)らしい。ってお話。


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4話。筋肉モリモリマッチョマンの三席だ。

サブタイ通り。

オリ設定・オリ展開
嫌いな人は読み飛ばし!


「護廷十三隊八番隊第三席。副官補佐円乗寺辰房である」

 

「あ、あの、私、伊勢七緒と申します!」

 

「ふむ。ご丁寧な挨拶痛み入る」

 

「・・・いや、アンタの方がよっぽど丁寧やけどな」

 

「む?矢胴丸副隊長?」

 

見慣れぬ眼鏡を掛けた少女が隊舎の中を

歩いていたので、声を掛けたら矢胴丸

副隊長に呆れられた件について。

 

いや、あれだぞ?鍛えてたらいつの間にか

席次が三席になってたりするけど、それを

自慢したわけじゃないぞ?

 

この自己紹介はあれなんだ。

 

俺の見た目が2メートルを超える筋肉質な

お兄さんだから、少女が不審者だ!

と思ったりしないように俺の立場を明確にしてるだけなんだ!

 

・・・誰に弁明しているのやら。

 

兎に角、この見慣れぬ少女が迷子では

無いと言うことがわかっただけでも

良かったと思おうじゃないか。

 

しかしそうなるとこの子は誰かって

話になるのだが・・・はっ!まさか。

 

「なんや?何か禄でもないコト考えてないか?」

 

「いえ!私はただ『矢胴丸副隊長にこんな

大きなお子さんが居たんだなぁ』とか、

『お相手はやっぱり京楽隊長なんだろうか?』

と思った程度でしてンガロン!?」

 

「十分禄でもないやろが!」

 

話している最中にハイキックを喰らって

しまったが、どうやらお相手は京楽隊長では

ないらしい。

 

これは確かに失礼なことを言ってしまったと

思った俺は素直に詫びを入れることにした。

 

「失礼を致しました。ではこのお子様の

御父君はどちら様になるのでs」

 

「そもそもウチの子ちゃうわ!この子は京楽隊長の姪っ子!て言うか()()七緒って言っとるやろが!」

 

話している最中に顔を真っ赤にした

矢胴丸副隊長から追撃が入る。

 

うーむ。違うのか。

雰囲気とか似てると思ったんだがなぁ。

 

「あ、あの、私は矢胴丸様には御本を読んでもらってるんです!」

 

本とな?それは良いことだが・・・でも確かこの人が好む本って確か・・・

 

「矢胴丸副隊長」

 

「な、何や?急に真面目な顔して」

 

「こんな幼気(いたいけ)な少女に何を

見せてるんです?いくら同好の士が欲しい

からと言って恥ずかしくないんですか?」

 

いや、死神だから見た目通りの年齢とは

限らんのだが、だからと言って・・・なぁ?

 

「お前が想像するようなモンは見せとらんわ!」

 

「え~ホントでござるかぁ?」

 

「うわ!コイツ、メッチャ腹立つっ!」

 

俺の煽りを受けて、蟀谷に青筋を立てる

矢胴丸副隊長を見れば、京楽隊長が日頃

副隊長を揶揄うのも分かる気がする。

 

なんだかんだで付き合いの良い副隊長

だからこそ、こうして会話を楽しみたく

なるのだろう。

 

とは言え、今日の副隊長には先約が有る

ことだし、ここは俺が身を引こうではないか。

 

「では伊勢殿。私は仕事が有るのでこの辺で

失礼しよう。矢胴丸副隊長を任せたぞ」

 

「え?あ、はい!」

 

「ウチがこの子を預かっとるんや!」

 

「ははっ。面白いコト言いますね?(真顔)」

 

「やかましいわ!」

 

うむ。流石のノリの良さである。関西弁

の平子隊長や猿柿副隊長と仲が良いのも

分かる。

 

願わくばこのお嬢さんも矢胴丸副隊長

のような感じに・・・ならん方が良いな」

 

「声が出とるぞ!」

 

「おぉ、これは失敬」

 

コレ以上揶揄えば本気で斬魄刀を抜いて

来かねない雰囲気を醸し出してきたので、

俺は早々に姿を消すことにした。

 

普段の矢胴丸副隊長なら追って来る

だろうが、今日は伊勢殿が居るから

問題あるまいよ。

 

 

 

――――

 

 

「き、消えた?!」

 

「あぁ、あれが奴の瞬歩や。あの阿呆、ウチの隊長よりも逃げ足が達者やからな」

 

「た、隊長より?」

 

「せやで。アレは肩書詐欺の典型や。七緒もアレの三席って肩書に騙されたらあかんぞ?」

 

あのクソガキめ。アレだけの瞬歩を

使いこなし、白打も鬼道も一流の癖して

まだ三席って何やの。

 

「さっさと副隊長になれ」って言うても

剣術に掛ける時間が無くなるから嫌や言うし。

どんだけ自己鍛錬が好きなんやって話やわ。

 

「さ、詐欺って、」

 

「マジな話やで?世の中には私より若くても私より強い奴が仰山おる。アレもその一人や」

 

噂では霊術院を一年で卒業した子供も

おるらしいしな。

はぁ。若手が育って来とるのはえぇこと

なんやけど、どうも歳を感じていかん。

 

そろそろ結婚とか考えなあかんかなぁ。

 

なんやかんやでアイツも一人身やし?

向こうは私の趣味とかも知ってるし?

特にそれで軽蔑とかもされてないし?

書類仕事も出来て話も合うし?

 

高身長で顔もソコソコよくて、三席って

立場も有るってんで人気はあるんよな。

 

狙い目っちゃー狙い目なんやけど、今更アイツを恋愛対象としてってのもなぁ。

 

けどこのまま独り身で居るのもなんかアレやし。

いい加減に男の一人も知らんと平子あたりから

何を言われるかもわからん。

 

うーむ。とりあえず・・・

 

「やってみるか?」

 

「な、何をする気なんですか?!」

 

む、声に出してもうたか。しかし七緒もいずれは

知ることになるんやし、教えたろかね?

 

「なぁ七緒?」

 

「は、はい?」

 

「あんた、既成事実って知っとる?」

 

「は、はい?」

 

・・・この後、京楽に本気で怒られる矢胴丸の姿があったとかなかったとか。




修行風景?キンクリキンクリ。

おや?副隊長の様子が……ってお話。


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5話 上げて落とす

既成事実とは一体・・・

オリ設定・オリ展開
嫌いな人は読み飛ばし!


「なぁなぁあれかな?矢胴丸辰房よりは円乗寺リサの方がええかな?」

 

「・・・一応私は嫡男ですから、婿入りよりは嫁入りの方が望ましいのは確かです」

 

「そっか~。じゃあウチは円乗寺リサになるのかぁ。それもええなぁ」

 

なんかいきなり矢胴丸副隊長に夜這いされたと思ったら、二人の未来が確定してる件について。

 

いや、夜中に自室に来た矢胴丸副隊長を

あっさりと部屋にいれた俺も悪いのかも

しれないけどなぁ。

 

俺だって男だし?

当然性欲はあるし?

副隊長の女としての覚悟を踏みにじるのも気が引けたし?

 

いや、それは言い訳だな。

 

普通に矢胴丸副隊長が魅力的な女性だったから頂いたのだ!

 

それに眼鏡を掛けた知的で年上な上司だぞ?

そんなん男の憧れじゃないか!

 

それが向こうから来てくれて、更に初めての相手に自分を選んでくれたんだぞ?

 

そりゃ頂くわ!

 

そんなこんなで一晩明かした後の会話が冒頭の会話である。

 

うん。この世界の結婚適齢期とか貞操観念は

よくわからんけど、間違いなく俺より年上

である矢胴丸副隊長が結婚についての焦り

を抱いて居たのだとしても俺は驚かんぞ。

 

それより俺が驚いたのは

 

「辰房ぁ。聞いとる?」

 

「あ、えぇ。聞いてますよ」

 

「ふぅん。まぁええわ。ね?頭撫でて?」

 

そう言って副隊長は俺に抱き着いてくる。

そう、彼女はツンデレさんだったのだ!

 

普段クールな年上のお姉さんのコレはもう

凄まじい破壊力を秘めており、俺も思わず

内心で惚れてまうやろー!と叫ぶレベルだ。

 

ギャップ萌えまで網羅しているとは、流石矢胴丸副隊長・・・侮れん。

 

そんな俺の感情はともかくとして

問題はこれからのことだ。

 

「それで、矢胴丸副隊長」

 

「リサ」

 

「え?」

 

「リサって呼ばなきゃ返事せん」

 

そう言って矢胴丸副隊長は俺の胸に

頭を埋めてくる。

 

なにこの可愛い生き物!

 

あぁいや、違う。今の彼女が求めているのは

そんなんじゃないよな。

 

「えっと、り、リサ?」

 

「何?」

 

名前を呼ぶと今まで見たことも無い

ような笑顔を向けて来る副隊長。いや、リサ。

 

なにこの可愛い生き物?!

 

あぁそうじゃない。そうじゃない。

何時までもこの笑顔を見つめて居たいが、

時間は有限だ。話を進めよう。

 

「まず、こうして二人の時は名前で呼びます。ですが、普段の職務中は副隊長と呼ばせて頂きますよ?」

 

「う~ん。それはしゃ~ないかな?」

 

良し、いくら男女の関係でも職場では

役職で呼ぶもんだからな。

これに納得してもらったのは助かる。

 

では次だ。

 

「副隊・・・リサは祝言を挙げたいのですよね?」

 

「まぁ。そーやね」

 

途中でジロリと睨まれたので、急遽名前

呼びにしたが、なんとかセーフだったようだ。

 

と言うか俺の認識だとこういう場合って

「一回寝た程度で彼氏面しないでよね!」

ってなるのが普通だと思ってたんだが、完全に逆だよな?

 

いや、この世界が見た目通りに

江戸っぽい価値観なのは知ってるぞ?

 

その割に男尊女卑では無いけど。

普通に女の人も帯刀してるけど。

 

それでも文化レベルが江戸なら、男女の

価値観もそれな可能性は有る。

 

そう考えれば、夜這いとは言え関係を持った=結婚となってもおかしなことじゃない。

歳については触れる気は無いが・・・

 

それはともかくとして!

 

「その、出来たら祝言は5年後くらいに出来ませんか?」

 

「・・・なんで?」

 

俺がすぐに祝言を挙げる気が無いことを

知った矢胴丸副隊長の目から光が消えた。

 

このままではヤバイ!そう考えた俺は、

彼女が動く前に、必死で言葉を紡ぐ。

 

「ま、まず、結婚するにはお互いを良く

知る必要が有ると思うんです!」

 

「・・・・・・」

 

む、無言が怖いが、ここは強引にでも行くべきだ!

 

「今までは上司と部下。先輩と後輩の

関係でした。しかしながら、男女の

関係はそれとは別でしょう?」

 

「むぅ。それはそうかもしらんけど・・・」

 

良し!目に光が宿った!ここで追撃をかけるぞ!

 

「それにですよ?すぐに夫婦になるのも良いですが」

 

「・・・良いですが?」

 

「恋人の時間も欲しいじゃないですか」

 

「・・・・・・そやね」

 

俺の歯が浮くようなセリフを聞いて

ボッと音が出るくらい顔を真っ赤にした

矢胴丸副隊長、いや、リサは、一言だけ

呟くと再度俺の胸に顔を埋めてしまう。

 

なにこの可愛い(ry

 

こうして俺とリサは、結婚を前提としたお付き合いをすることになった。

 

京楽隊長や平子隊長らからは冷やかされ、

伊勢七緒からは祝福されたりしたものの

これまで以上に充実した生活を送ることが出来た。

 

~~~~

 

 

そうして4年が経ち、来年に挙げる祝言の

為に式場の手配やら衣装の確認や来賓への

引き出物をどうするか?など、様々な準備を

していたときのことだった。

 

緊急の隊首会が開かれたかと思ったら、

その様子を確認しに行ったリサに特命が下ったと言う。

 

その特命とは、最近世間を揺るがす死神の

消失事件についての調査であった。

 

なんでも此度この調査を行っていた九番隊の

六車隊長らの霊圧が消失した為、平子隊長を

始めとした隊長格が調査に向かう事になったんだとか。

 

本来は第三席に過ぎない俺には知らせて

良い内容では無かったが、リサと俺の

関係を知っている京楽隊長が、内密にと

教えてくれたのだ。

 

俺としては六車隊長が連絡を絶つような

危険な任務にリサを行かせるのは反対で

あったし、内心ではすぐにでも追って

手伝いをしようとさえ思ったのだが、

それは彼女の副隊長としての矜持に

泥を塗る行為だという考えに至り、

大人しく彼女の帰りを待つことにした。

 

帰ってきたら彼女の好きな食べ物でも

用意しよう。そう思って待つことにした。

 

 

 

・・・この決断が間違いだったと知ったのは、数日後のことだった。

 




4年間?砂糖を吐くような甘い生活の描写?
そんなの作者にできるわけないだろ!
Rー18になるわ!

そんなわけでキンクリってお話。


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6話。ことの顛末

オリ設定・オリ展開
嫌いな人は読み飛ばし!


「は?リ・・・矢胴丸副隊長を含めた隊長格全員が死亡?」

 

「・・・あぁそうだ」

 

緊急の隊首会から数日後、業務をしながら

リサの帰還を待つ俺に、京楽隊長が今回の

任務に参加したメンバーの顛末を告げて来た。

 

全員死亡。それは確かに有り得ないことではない。

 

なぜなら俺たちは死神だから。

 

警察官であり軍人でもある俺たちは

常に死と隣り合わせの世界にいる。

 

虚を殺す以上、自身が殺されることもあるだろう。

 

それは席官である俺や副隊長であるリサも同じだ。

 

故に任務で死ぬことが有るということは

理解している。

しかし、いくらなんでもこれはおかしいだろう?

 

「隊長格・・・いえ、違いますね。隊長が、

六車隊長を合わせれば隊長が4人ですよ?

4人の隊長が居て全滅ですか?」

 

「・・・そうなるね」

 

有り得ない。

 

俺が最初に思ったのはそれだった。

 

そもそも『隊長格』と『隊長』の間には

確固たる実力差がある。

故に隊長を殺せるなら副隊長である

リサだって殺せるだろう。それはわかる。

 

しかし、だ。もしそのようなことが

出来る虚が居たならば、今頃瀞霊廷

全域に緊急避難勧告が発せられ、

全ての死神に対して出動命令が出るはずだ。

 

それなのに今の瀞霊廷は、何も異常が

無かったかのように整然としている。

 

もしかして虚を殺ったのか?

それとも隊長が相打ちに持ち込んだ?

そう考えるも、それならそれで

隊長と相打ちになるほど強力な虚の

存在は、貴重な情報として我々に

開示されるはずだと思いなおす。

 

つまり敵は虚ではない?

 

虚ではないのに隊長を4人も殺す存在?

それでいて公式発表しない?

 

そんな存在は・・・

 

「もしかして下手人は、死神・・・なんですか?」

 

それも隊長を殺せるレベルとなると

相手も隊長、もしくは実力を隠している

だけで隊長格の実力を持った存在だ。

 

そして倒された方法は奇襲だろう。

 

正面から戦えば4人の隊長を討ち取る

のは至極困難だし、そもそも隊長達が

命懸けで戦うようなら卍解をしているはず。

 

しかし隊長達が卍解した場合の霊圧は

凄まじいので、どれほど遠くで戦って

いたとしても、全く気付かないなんてことはない。

 

それなのに俺はここ数日でそんな

霊圧を感じてはいない。

 

つまり隊長たちは奇襲により万全の

状態では無いところを打ち取られた

と考えるのが自然だろう。

 

それか、斬魄刀による特殊効果で嵌め殺された、か。

 

虚の在り方と同様に、斬魄刀の能力も

単純な物理系から鬼道系・状態異常系

とその在り方は千変万化と言っても

良いからな。

 

初見の敵がいきなり物理反射してくるパターンだってあると考えれば、これも考慮すべきだろう。

 

しかし、今の俺が気にするところは

それではない。

誰がリサを殺したのかってことだ。

 

「殺気が漏れ出てるよ・・・ふぅ。ホント、怖いねぇ」

 

何を言ってやがる。

 

「部下を殺されても、表面上の冷静さを保てる貴方ほどではありませんよ」

 

「言うねぇ」

 

まだ百年程度しか生きてない若造

の俺では、数百年隊長として君臨する

この人の精神性には遠く及ばない。

 

そう。殺気が出るだけ俺は未熟なんだ。

・・・とは言ってもなぁ!

 

「婚約者を殺されて殺気の一つも出さないほど、俺は大人じゃありませんよ」

 

俺も死神だ。任務中に死ぬ覚悟はある。

しかし仇を討たないとは言ってない!

 

「一応言うけど、もう下手人は捕まってるよ」

 

なんだと?ちっ。つまり俺の手で仇は討てないってことか。いや、待て。

 

「捕まった?殺されたではなく?」

 

隊長4人と副隊長3人を殺した下手人を

捕えただと?どうやって?

いや、流石に無傷ではないだろうから、

重傷を負ったところを援軍か何かが

到着すれば捕らえることも出来る?

 

なんか腑に落ちないところもあるが

まずはその下手人について聞くのが先だ。

 

「では、これから下手人は処刑されるのですか?」

 

そうじゃなかったら俺が殺してやるけどなっ!

 

「そうだね。今は中央四六室が裁判中だ」

 

「裁判?あぁなるほど」

 

動機やら隊長達の殺害方法やら何やらを

軒並み吐かせて、数千年投獄をした後に

殺すつもりか。

 

永劫の苦しみを与えてから殺すと考えれば、

そのほうが俺が何かやるよりも相手を

苦しませることが出来る。

 

クソっ。仇を取ってやりたいが、罪の重さを思い知らせるにはそっちの方が良さそうだな。

 

おそらく隊長も俺がここまで考えると

見越して情報を開示してきたんだろう。

 

だからせめてもう一つ、情報を貰おうじゃないか。

 

「で、その下手人の名前は?」

 

そいつが万が一、億が一でも何らかの

恩赦を勝ち取ってシャバに出てきたら

有無を言わさず殺す。

 

どんな司法取引をしていようと、

どんな技術を隠し持っていようと、だ。

 

「下手人として捕まったのは、十二番隊隊長の浦原喜助だよ」

 

「は?」

 

一二番隊隊長だと?やはり隊長が・・・

いや、待て。確か調査隊には猿柿副隊長も

参加していたはずだろう?

 

まさか自分の隊の副隊長ごと殺したってのか?

 

「君の気持ちは分かる。ただ僕たちは後ろではなく前を向かなきゃいけない」

 

呆然とする俺に、京楽隊長は何も言わず

ただ辞令だけを差し出してきた。

 

【円乗寺辰房を八番隊副隊長に任ずる】

 

俺に、リサの、矢胴丸副隊長の代わりとなって京楽隊長を支えろと言うのか。

 

本当なら拒否したい。

 

婚約者を亡くしたのだ。暫くは心の整理を付ける時間が欲しいと思う。

 

だが、今回の件で死んだのは

リサだけではない。

他の隊の隊長や副隊長も死亡した上に

一般の隊士にだって被害が出ている。

 

その穴を埋める為にも、動ける死神は

全力で動く必要があるだろう。

 

それなのにリサを言い訳にして他人の

足を引っ張ることはできない。

 

「謹んでお受けいたします」

 

「・・・そうかい。これからもよろしく頼むよ」

 

「はっ」

 

こうして俺は婚約者を失い、副隊長になったのだった。

 

 

 




人間味が薄い?だって死神だもの。

基本的に死が近い世界ですし、みんな100年以上生きてますからね。
内心ではどう思っても、その辺のお子様みたいに取り乱したりはしないと思うんです。

そんなこんなで副隊長に昇進。
欝な話はさっさと飛ばしたいですなぁってお話。


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7話。常識は投げ捨てるもの。

またまたキンクリ!

オリ設定・オリ展開。
嫌いな人は読み飛ばしで。


「破道の三十三。蒼火墜!」

 

三十番台の詠唱破棄された鬼道が放たれ

その名の通り青い炎が俺に襲い来る。

だが・・・

 

「温い」

 

込められている霊圧が足りないのか

それとも詠唱破棄の影響なのかは

知らないが、威力が弱過ぎる。

 

そう判断した俺は始解もせずに純粋な剣術で、鬼道の核となる部分を切払う。

 

「くっ!破道の五十七・大地転踊!」

 

己の鬼道が切り裂かれたことに狼狽する

ことなく、五十番台の鬼道を詠唱破棄で

発動させる技術は見事。

 

周囲から岩が俺に向けて飛んでくる。

だがそれも・・・

 

「遅い」

 

襲い来る岩は音もなく振り払われた斬魄刀

によって粉塵と化す。

 

と言うか、プラズマである炎と個体である岩だと、

どう考えても岩の方が最大ダメージ少ないよな?

なんでこれが五十番台なんだ?

 

それにこれって後述詠唱しても威力とか

変わらないよな?岩だし。

 

「くっ!」

 

鬼道衆に問い合わせれば「触れるな」と

言われそうなことを考えながらも、相手が

打ってくるであろう次の手を予測する。

 

可能性があるとすれば詠唱した上での

六十番台か?

 

そう思っていた時期が俺にもありました。

 

「えいっ!」

 

まさかの踏み込みからの白打である。

 

いや、確かに彼女は白打の能力もそこそこ高い。

 

しかし彼女の本領は鬼道と、状況把握能力にある

そんな彼女が突っ込んできたという事は・・・

 

「縛道の六十一、六杖光牢!」

 

間合いを詰めてからの縛道。

それも六十番台詠唱破棄とは。

 

いやはや若者の成長は素晴らしい。

本心からそう思うが、残念ながら彼女の

行動は大前提が間違っているので、

俺には通用しない。

 

「むんっ」

 

「えぇ?そんなの有り?!」

 

放たれた六本の光帯を切り裂けば、彼女が

驚愕の声を挙げた。

しかし何というか・・・

 

「当然、有りだな」

 

「あうっ!」

 

後述詠唱をしようとしていたのか、

もしくは二重詠唱をしようとして

いたのかは知らないが、隙だらけの

彼女の頭をポンと斬魄刀の峰で叩いて

模擬戦は終了する。

 

 

副隊長となって早20年。俺は五席となった伊勢七緒と日々の鍛錬を行っていた。

 

「・・・あーうー。鬼道も縛道も切っちゃうなんて、ホント円乗寺副隊長は反則ですよねぇ」

 

感想戦と言う名の反省会を行っていると、

伊勢はそんなことをいってくる。

 

逆の立場ならそう思っても不思議ではない。

しかしなぁ。

 

「隊長格ならこの程度当たり前にやるぞ」

 

総隊長とか普通に切るし。流刃若火を始解

させたらほとんどが消されるしな。

 

そういったことが出来る相手が居るのだから

俺が始解しようがなんだろうが鬼道が通用

しない相手を想定するのは大事なことだ。

 

そう言ってやると伊勢は

 

「いや、隊長って言われましても・・・」

 

と、何とも言えない表情をして俺を見てくる。

このままだと俺がアレな扱いになりそう

なので、一応補足することにした。

 

「いや、斬魄刀には鬼道系の斬魄刀もあるだろう?」

 

「・・・えぇ」

 

斬魄刀の話になると、ただでさえ疲労で

低下していた一気に伊勢のテンションが落ちる。

 

これは伊勢が浅打を己のモノに出来なかった

ことに劣等感を抱いているからなのだが、

俺に言わせればそんなのはどうでも良いことである。

 

なぜなら、現状護廷一三隊に所属する

死神の中には始解が出来ない死神が

ごまんと居るからだ。

 

始解が出来ないなら、彼らの持つ浅打は

ただの脇差に過ぎない。

 

それなら白打や鬼道に精通している伊勢

の方がよっぽど優秀な死神と言えるだろう。

 

だから自分に自信を持てと言いたいのだが、

俺が言っても嫌味にしかならんという事は

理解しているので、今は鍛錬を積み実績を

上げさせている最中だったりする。

 

その結果が五席なのだから、もう少し

誇っても良いようなものなのだが・・・

 

いや、現状で満足されてもらっては困るので

もう少し劣等感は持っていて貰おう。

 

「・・・・・・」

 

あぁ。伊勢がじっとこちらを見てくるが

説明の途中だったな。

伊勢の育成に関しては後にしておくか。

 

「つまり、その気になれば斬魄刀を通じて鬼道を放つことも可能なわけだ」

 

剣からビーム!ってな。

 

「いや、その理屈はおかしくないですか?」

 

真顔で聞いてくる伊勢だが、何がおかしいものか。

『金剛爆』や『牙気烈光』がまさにそれだろうが。

 

「そもそもの話だが、手のひらから鬼道を放つ意味もなかろう?」

 

「・・・そんな、いや、けど」

 

なにやら考え込み始めたが、実際の話

手のひらから鬼道が放てるなら、肘でも

膝でもつま先でも、なんなら目や口から

だって放てるだろう?

 

髪の毛とかまでは言わんが、もう少し

可能性を考慮すべきだと思うぞ?

 

「えっと、つまり副隊長は、ご自分の

斬魄刀に鬼道の力を載せて、私の鬼道を

斬っていると言うことでしょうか?」

 

「うむ。その通りだ」

 

いぐざくとりぃ。

 

「えぇぇぇ・・・」

 

信じられないものを見た!って感じの

目を向けて来るが、この程度で驚かれてもなぁ。

 

なんというか、危機感が足りないんじゃないか?

 

「伊勢よ。席官たるもの油断してはいかんぞ。

そもそもの話、これからお前が戦う事になる

敵が隊長クラスじゃないと誰が決めた?

まさか何の情報もない相手との戦闘で、

『鬼道を切るなんて想像してませんでした』

と言えば、向こうが手加減してくれると

でも思っているのか?」

 

「・・・申し訳ありません」

 

浦原喜助によってリサを含めた7人の

隊長格と副鬼道長が嵌められて、

一方的に敗れたのはそれほど昔の話では

ないと言うのに、席官がこの有様ではな。

 

そう思うも、席官でしかない伊勢と

副隊長の俺とでは得られる情報量に

差があるのも事実であるし、そもそも

あの件については京楽隊長も細かい

情報を持っているわけではない。

 

ただ分かっているのは、彼らは浦原喜助

が行った『虚化』の実験によって死神と

しての尊厳を貶められたということと、

その浦原喜助が裁判中に四楓院夜一や

鬼道長の握菱鉄裁らに助けられ、

尸魂界から現世に逃げ出したことくらいだ。

 

その後の足取りが全く掴めていない以上、

席官として現世に行く可能性がある伊勢は

俺たち以上に注意をしなくてはならないというのに・・・。

 

「す、すみません!もっと頑張ります!」

 

様々な情報を伝えることが出来ない

もどかしさに顔を顰めていると、

それをどう思ったのか、伊勢は

焦ったような顔をして頭を下げて来る。

 

ここで俺が知る理想の上司なら優しく

「頑張り過ぎは良くない」とか言うの

かもしれんが、残念ながら俺たちが

居るのは失敗=死の世界。

 

それも死ぬのは本人だけじゃないんだ。

 

油断するくらいなら追い込みすぎる

くらい追い込むべきなんだよ。

 

それに彼女の叔父である京楽隊長から

直々に鍛えて欲しいと言われた手前、

中途半端はいかん。

 

メガネを掛けているから、目から鬼道は

勘弁してやるが、少なくとも手や足に

鬼道の力を纏って攻撃出来る程度には

なってもらわんと。

 

斬魄刀を使えないハンデを覆す為にも、しっかりと鍛えてやろうじゃないか。

 

そう決意した、円乗寺はこの後、徹底的に

伊勢七緒を鍛えることになる。

 

鍛えられる立場となった伊勢七緒も、周囲に

どれだけ止められても円乗寺との鍛錬を

止めることはなく、ひたすらに鍛錬を積み

その実力を上げていったと言う。

 

それから数十年後、護廷十三隊でも珍しい斬魄刀を持たない副隊長が生まれることになるのだが、それは後のお話である。

 




伊勢=サン超強化フラグ。
瞬閧?ナニソレ?(ΦωΦ)?

油断慢心とオサレイズムは表裏一体ってお話。


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8話。常識を起こさないでくれ。死ぬほど疲れてる。

この作品はディスプレイから100cm以上
距離を取った上で頭を空っぽにして読みましょう。

見るんじゃない。感じるんだ!

オリ設定・オリ展開
嫌いな人は読み飛ばし!


死神としての常識を投げ捨てる。

 

これは別に伊勢に限ったことではない。

むしろ自分こそ、その殻をぶち破る

必要があると思っている。

 

なぜなら、浦原喜助は一人で、否、

四楓院夜一や握菱鉄斎の手を借りた

としても、わずが数人で8名もの

隊長格をほぼ同時に無力化しているのだ。

 

それはつまり卍解を修めたからと言って増長してはダメだと言う証でもある。

 

そもそもの話、卍解は(鬼道もそうだが)

わざわざその名称を大声で叫ぶと言う

欠点がある。

 

さらに予備動作として霊圧を高める

必要があるので、見え見えなんだよな。

 

卍解が必要なレベルの敵を前にして

そんな余裕があるのか?

わざわざ相手に自分の情報を晒す必要が

あるのか?

 

わかるか?死神の戦闘は基本的に全部予備動作丸出しのテレフォンパンチなんだぞ?

 

鬼道を切り捨てたことにたいして伊勢が

非常に驚いていたが、そこまで

事前情報をもらっておきながら対処

出来ないほうがおかしいだろう?

 

詠唱破棄だの後述詠唱・二重詠唱があるなら

無詠唱の研究しろや!

 

と、こんな考えの元で鍛錬していた際に

偶然生み出したのが、

『鬼道を乗せて物理で殴る』と言う基本

にして奥義とも言える攻撃だった。

 

これが出来れば、部分的に強化を

行うことで爆発的な瞬発力を得る

こともできるし、これを使うことで

鬼道と白打と歩法を鍛えることにも

なるから、万々歳だろう。

 

・・・なにせ相手は瞬神夜一。

早さが足りなければ追いつけない。

そんなのを敵にするのだから最低限

の準備は必要なのだ。

 

そして浦原喜助の研究も一つの契機となった。

そう。虚化だ。

 

俺はその名前しか知らないが、それでも

彼が何を目指したかは十分わかった。

 

死神はプラス。虚はマイナス。

この考えが駄目だったんだ。

 

算数的に考えれば、プラスとマイナスが合わされば、ゼロになるか、どちらかが消えて数が多い方が残る。

 

俺はこれを当たり前だと考えていた。

 

しかし死神を黒。虚を白と考えればどうだ?

 

太極図のように黒と白が入り混じる

ことが可能なんじゃないか?

 

光と闇が両方そなわり最強に見えるんじゃないか?

 

メラゾーマとマヒャドで極大消滅呪文が出来上がるんじゃないか?

 

前世の知識もさることながら、溢れ出る

浪漫が止められん。

 

それに、だ。卍解の先が無いなんて誰が決めた?

 

普通の死神が斬魄刀をものにした状態を

『活動』とするなら、始解の状態が

『形成』と言っても良いだろう。

 

そんで卍解が『創造』とすれば・・・もちろんその先に『流出』があるよなぁ?

 

この考えは想像に想像を重ねた暴論で

ある意味ぶっ飛んだ解釈だが、当然

根拠はあるんだぞ?

 

この斬魄刀は、元々は誰かが造ったものだ。

当然斬魄刀が無い時代だってあったし、

そんな時代にも死神は居た。

 

その時の死神は弱かったか?

否。そんなことはない。

 

つまり斬魄刀と死神の強さは比例しない。

むしろ当時の死神の力こそ、俺が考える

『流出』に近いんじゃ無いかと思ってる。

 

そして滅却師。彼らも自身の力だけで戦う存在だ。

 

それを考えれば、斬魄刀に頼ること自体が

死神としての停滞なのではなかろうか?

 

無刀の極致とでも言うのが、剣士としての完成形ではなかろうか?

 

いや、斬魄刀が不要と言う訳ではない。

間違いなく多様性は増してるし、卍解が

強力なのは事実なんだからな。

 

だがしかし、縋るのはダメだ。

 

剣人一体。否、斬魄刀は己の魂でもある。故に目指すは心身一如。

 

その上で虚の力を取り込むことが出来れば

身体的な能力を高めることも可能になる。

 

つまり、俺はまだまだ成長できると言う事だ。

 

・・・鍛えねば(使命感)

 

問題は、最近になってこのことに気付いた

俺と、少なくとも20年以上前から

この技術を研究していた浦原の間には

大きな隔たりがあるってことだよな。

 

つまり俺がリサの仇を討つためには、

最低でも向こうが仕掛けてくるであろう

虚化に対抗出来るだけの下地が必要になる。

 

Q・毒耐性を付けるにはどうしたらいい?

 

A・毒を体内に取り込みましょう

 

そんなわけで今後は虚を殺したら少し

体内に取り込んだり、相手からわざと

攻撃を受けて自然治癒に任せるように

していこうと思う。

 

一気には無理だろうから、最初は普通の虚。

それから中型、次いで大型。そして大虚。

 

少しずつ、順番に取り込んで強くなる。

 

そのためには現世に行くか、虚園に乗り込む必要がある。

 

それを考えれば副隊長と言う役職が邪魔だ。

 

これを返上・・・は出来ないから、伊勢が

副隊長に相応しい実力になったら彼女を

副隊長に推薦し、俺は現世か虚園に乗り込む

ように働きかける必要があるだろう。

 

隊長や伊勢からはいつまでも仇討ちに拘る

女々しい男と笑われるかもしれん。

 

他の死神からも失望されるだろう。

 

しかし、だ。少なくとも向こうは既存の隊長を

返り討ちに出来るだけの技術と力があるのだ。

 

これに対抗する手段が無ければ、死神は常に

彼らの技術に怯えて暮らす事になるじゃないか。

 

俺はそれを認める訳にはいかんのだ。

 

だから外法だろうが何だろうが力を手に入れる。

 

そしてその力を以て護廷一三隊を強化し

死神としての矜持を取り戻す。

 

それが出来て初めて俺は前に進めるのだ!

 

この後、八番隊副隊長である円乗寺辰房は

積極的に現世や虚園への遠征を行い、相当

数の虚を殲滅して回ることになる。

 

その際、自身が被る傷にも構わらず、

むしろ積極的に傷を受けながらも戦い続ける

彼のことを、周囲の人間は『八番隊の剣八』

と呼ぶようになる。

 

・・・その二つ名のせいで辰房が十一番隊の

隊長や、四番隊の隊長から目をつけられる

ことになったのは、もはや様式美と言っても

良いかもしれない。




犯人が生きてるのに対処も追撃も何もしないって、原作の隊長とか普通に危機感無さすぎですよね。

浦原喜助の追放は元々のネタだったけど、その理由が後付けだったとかでしょうか?

零番隊には裏破道みたいなのもありますし、斬魄刀が必要不可欠って程でも無い気がします。

それはさておき、作者は正田卿が大好きです!ってお話。
・・・タグ追加しなきゃ。


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9話。ザラキはラスボスに通用しない。

クリフトぇ……

オリ設定・オリ展開。
嫌いな人は読み飛ばし


「くらえ!『終撃っ!』」

 

わざわざ声を出すなと言うに・・・

 

「くっ。来たかっ!」

 

攻撃の予兆を教えたことにはなるが、

そもそもあの技は鬼道を纏って体術を

繰り出すだけなので、どこぞの虎殺し

のように『水月だ』とか『側頭部』だのと

言った感じで明確に攻撃箇所を教えない

限りは完全に防ぐのは難しい。

 

「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁ!」

 

実際に伊勢の攻撃を防ごうとした相手が、

その攻撃を受けきれずに打撃を喰らって

吹っ飛んでいるのもそのせいだろう。

 

うーむ。たとえテレフォンパンチでも、

相手が対応出来ない速度で殴れば問題

ないのはこうして証明されてるんだから

アレはアレで良い・・・のか?

 

伊勢に霊力を纏って殴りつけると言う技術を教えて早10年。

 

ようやく彼女もあの技術を実戦で使える

レベルで利用できるようになった。

 

最初は何故か肩とか背中の死覇装が弾け

飛んで無駄にお色気を振りまいていたが、

それも今ではしっかりと制御出来ており、

霊力が無駄に外に出ていないのがわかる。

 

しかしなんだな。卓越した鬼道の才能と、

状況把握能力が有る伊勢でさえあんなに

苦労すると言うのは意外だった。

 

やはり死神としての常識が足を引っ張ったのだろう。

 

結局技名を叫ぶことで術式が安定

したので、伊勢はあの技術を使う

際に技名を叫ぶ癖が出来てしまった。

 

今は安定して使えるようになるのが先だと

思ってるから見逃しているが、いずれ

しっかりと矯正してやろうと思っている。

 

あぁ、ちなみに技名は『終撃』にした。

これは元ネタのスベリオ・・・最終の反撃

から取っているのは言うまでもあるまい。

 

そんな曰く付きの技名はともかくとして。

 

技術を習得した伊勢に対して教育役である

俺は、白打と鬼道を重点的に鍛える事に

したんだが・・・そこである死神が接触

して来た。

 

俺としても伊勢に同性の友人が出来るのは

良いことだと思っているので、伊勢と接触

する分には特に反対することは無かったんだがな。

 

どうも向こうの狙いは最初から俺だった

らしく伊勢と仲良くなった後、

その死神が俺に弟子入りを志願してきたんだ。

 

最初は断ろうとしたんだぞ?

 

そもそも俺は剣術の師範であって、

死神としての教師でも何でもないんだからな。

 

だが伊勢から頼まれたことも有り、結局伊勢と一緒に鍛える事になったんだ。

 

その死神の名は、砕蜂。二番隊の第三席だ。

 

この砕蜂の弟子入りの細かい流れを言うならば、

 

まず彼女は斬魄刀の始解は習得済みであり、

爪みたいな形で、活かすには剣術よりも

体術が必要になるような感じの斬魄刀だった。

 

そこで彼女はこれまで大前田副隊長の

下で瞬歩と白打を学んでいたのだが、

最近は大前田副隊長の技量を越えて

しまったようで、色々と行き詰まりを感じていたらしい。

 

そんな中、女性死神協会の会合に

参加した伊勢と話す機会が有って、

なんやかんやで意気投合したんだとか。

 

もっと細かく言えば、元々女性死神協会

の中で、伊勢は俺に虐待されているという

風聞があったらしく、その事で砕蜂が

詳細の確認をしたらしい。

 

で、伊勢としては虐待ではなく、しっかり

と成果が出てる鍛錬だ!と言い張った結果

簡単な手合わせをすることになり、

そこで伊勢が圧勝してしまったわけだ。

 

ここで手合わせになるのが死神が脳筋と言われる所以だと思うが、今はいいか。

 

その際に使われた技術に衝撃を受けた

砕蜂が、俺に師事を頼んできた。

と言う流れだ。

 

ちなみに現在の二番隊は隊長であった

四楓院夜一が逃亡したことで

かなり肩身の狭い立場となっている。

 

そりゃそうだよな。

 

死神の中でも監察や憲兵みたいな役割

である二番隊の責任者が、犯罪者と

駆け落ちしたような状況だ。

 

そりゃ立場も糞も無くなるわ。

 

で、今の二番隊の隊長職は空席となっており、

残された大前田副隊長が隊長の仕事を代行しているようだ。

 

俺としても隊長の仕事の煩雑さは知っているので。大前田副隊長の苦労は分かるつもりだ。

 

故に、胃と頭を痛めながら日々の業務を

行っているであろう彼の負担を減らすこと

になると言うなら、彼女の鍛錬を受け持つ

くらいの協力をすることも吝かでは無い。

 

何より、基本的に危機感が乏しく普段から

温い鍛錬しかしていない死神たちの中で、

しっかりと上を目指して修練する砕蜂に

関心したのも事実だ。

 

四楓院夜一への復讐心がその原動力と

なっていることに、勝手に親近感を

抱いたのも当然無関係ではないがな。

 

それに砕蜂は伊達に二番隊の上位席官ではない。

 

純粋な白打や瞬歩の技術は伊勢よりも

高いから、伊勢にとっても良い刺激に

なるんだ。

 

何せ今のアイツの訓練相手が務まるのは

八番隊では俺と隊長だけだし、その隊長

だって、姪っ子相手だから手を抜いて

しまうから鍛錬にならんのだよ。

 

流石に開幕の終撃で腹をぶち抜かれて倒れる

演技はやりすぎだと思ったが、あれはあれで

伊勢に技の危険性を知らせるには良かった

かもしれん。

 

おかげで砕蜂相手にも手加減出来るように

なったし。

 

全力でぶつかることしか教えて来なかった

俺は、一人の剣士としても教育者としても

まだまだ未熟と言うことだ。

 

そんな未熟者が伊勢や砕蜂と言った

才能豊かな若者を導いて行けるのだろうか?

 

「円乗寺ぃぃ!今日こそ斬らせろやぁ!」

 

内心で自身の未熟さに不安を感じて

いたとき、八番隊の修練場に招かざる

客人が訪れて来た。

 

(また来たか)

 

それは長身で痩躯と言うほどでは無いが、

ある意味理想的に絞られた肉体と、戦闘に

対しての飽くなき渇望を持ち合わせるが、

技術が拙く、死神にありがちな舐めプを

することで自分のポテンシャルの全てを

台無しにしている死神であった。

 

「嫌です」

 

心も技も未熟で、力任せの戦い方しか

できない死神と立ち会っても何の

得も無いことを理解している辰房は、

あっさりと彼からの挑戦を拒否する。

 

「そもそも貴方、弱いじゃないですか。もう少し鍛えてから来てくださいよ」

 

腕力はどうか知らないが、それを活かす技術と精神力がなければ、戦いには勝てない。戦いに勝てないなら弱者だ。

 

弱者と立ち会うくらいなら、刀禅を行い

精神修行したり、精神世界で斬魄刀と

鍛錬をしている方が余程有益じゃないか。

 

こういった理屈から、辰房は目の前の乱入者

に対してまともに取り合う気はなかった。

 

「・・・・・・あ゛?」

 

面と向かって弱者呼ばわりされた死神は

蟀谷に青筋を浮かべて殺意を向ける。

 

その殺意は修練場に居た伊勢が思わず

身構える程で有ったが、しかし辰房に

言わせれば、その行為自体が無駄な

行為でしかない。

 

むしろ「そんなことをするくらいなら無言で斬りかかれ」と言いたいところであった。

 

「なめるなぁ!」

 

殺意を向けられても腕を組んだまま動かない

辰房に、『まるで価値が無い』と言う目を

向けられた死神は、斬魄刀を抜いて斬りかかる。

 

だが舐めてるのはその死神である。

 

崩しも無ければ構えも無い。ただ感情の

ままに斬りかかる姿になんの価値が有ろう?

 

さらに言えば、この死神は始解すら修めて

いないので、この攻撃は正真正銘ただの斬撃だ。

 

故に辰房は始解をせずに彼をあしらうことが出来た。

 

『鏡門』

 

「ぐっ!」

 

内側からの衝撃には弱いと言う弱点を持つが

外部からの攻撃に対して非常に強固な効果を

発揮する結界を作り、死神の斬魄刀に当てる。

 

反射された衝撃でバランスを崩した死神に対し、辰房は躊躇いもなく追撃の一手を放つ。

 

『白伏』

 

「クソっ・・・」

 

意識を強制的に刈り取る術を当てることで、乱入者を昏睡状態に落とす。この間、僅か二秒も経っていない。

 

「馬鹿な!鎧袖一触だと?!」

 

「流石副隊長です!」

 

事の一部始終を見守っていた砕蜂が驚愕し

伊勢が俺を褒めて来る。

しかし、この程度で褒められてもなぁ。

 

心も技も無い獣を、向こうの苦手分野で

あしらっただけの話なので、面と向かって

褒められても微妙な気分にしかならんよ。

 

「わざわざ術名を口にして対処法を

見せてやったんだ。もし今後自分らが

絡まれた場合は、こんな感じで捌けよ?」

 

獣の癖に舐めプする半端者が。せめて教材になってくれ。

 

「はい!」

「は、はい(いや、無理だろ!相手は雑魚では無いのだぞ?!)」

 

 

斬魄刀も抜かずに乱入者をあしらう辰房の

姿を見た伊勢七緒は、頬を赤く染めて返事

をしたのに対し、漸く自分で歩ける程度に

回復した砕蜂は、頬を引きつらせながら

返事をした。

 

 

勢いよく修練場に乱入したものの、

あっさりと撃退された挙げ句、教材

扱いをされることになったこの死神。

 

砕蜂が心の中で叫んだように、彼はただの雑魚ではない。

 

彼こそは始解を使えないにも関わらず、

その規格外の強さを認められて正式に

隊長となった男。

 

その名を更木剣八と言った。

 

十一番隊の隊長であり剣八の名を継いだ男が弱いはずがない。

 

しかし、己を高める為に毒でも喰らうことを厭わない辰房と、戦いを楽しむ為に己を弱体化させることも厭わない更木剣八の相性は、周囲が思っている以上に悪かっただけの話である。




挑発からの物理反射。ピヨッた所に即死魔法。
人修羅やライドウすら殺せるコンボが炸裂です。

超スロースターターのザラキさんを倒すなら、一合目で斬るか、鬼道ですよね。

意図的に自分の力を弱めてる上に、卍解前の主人公にすら負ける状態ではウチの辰房君には勝てませんってお話。

京楽隊長?ハハッ。



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10話。お前のような三席が居てたまるか

テーレッテー♪
ネタ回です。(いつものこと?)

オリ設定、オリ展開。
嫌いな人は読み飛ばし。


「八番隊第三席副隊長補佐、円乗寺辰房である」

 

「お、俺じゃねぇ。私は、真央霊術院六回生檜佐木です!」

「同じく蟹沢です!」

「同じく青鹿です!」

 

「うむ。今日はよしなに頼む」

 

「「「はいっ!」」」

 

伊勢と砕蜂を鍛えること20年。

今では砕蜂が卍解を習得し、予てより目標と

していた二番隊の隊長となった。

そして彼女と競っていた伊勢も副隊長として

ふさわしい実力を得たと判断した俺は、

以前から予定していたように伊勢に

副隊長の座を譲り、その席次を三席とした。

 

これは、傍から見れば後進に抜かれた未熟者に対する降格人事になるのだろうが、本質は違う。

 

俺は浦原喜助と四楓院夜一を探し出し、

その首を斬る為に三席になったのだ。

 

何が言いたいかわからない?

 

いや、普通に考えて、もし俺が副隊長のまま

地上に出れば隊の業務に差支えが出るだろう?

 

更に言えば、副隊長以上の死神が現世に赴く

際は、その身に自身の力を抑える限定霊印を

刻むと言う制度が有る。

 

だからこそ俺は俺は副隊長ではなく三席になったという事だ。

 

何せ俺の目的は浦原たちの発見ではなく、殺害だからな。

 

その上で、もしも俺が現世で浦原たちを発見して

戦闘になった場合、自分の力を五分の一まで落とす

限定霊印を刻んでいる状態で、

隊長格8人(副鬼道長含む)を一蹴した連中を

相手に後手に回ることになるんだぞ?

 

しかも当然向こうは限定霊印の存在を知って

いるのだから、追っ手が来たら霊印を解除する前に叩こうとするはずだ。

 

つまり、戦いは短期決戦になる可能性が

非常に高い。そうなったら、俺は間違いなく負けるだろう。

 

そのため、制度の抜け穴として、霊印を

強制されない三席となる必要があったわけだ。

 

一応、他の霊的な存在に悪影響を与えない

だけのコントロールも出来ると言うことを

証明する必要もあったが、それらの問題を

クリアしたことで、今回の現世行きに於いてのみ

例外的に霊印を刻まないことを認められたという事情があるけどな。

 

しかし・・・そもそもの話だが、総隊長も

四十六室も何故今まで浦原喜助を野放しにしていたのかがさっぱりわからん。

 

四楓院夜一はまだわかる。四楓院家が何かしらの干渉をしたのだろう。

 

しかし浦原喜助は何故だ?その研究も然る

事ながら、隊長が現世に逃げたのだぞ?

当然限定霊印など刻まずにな。

 

何の制約もない浦原喜助によって現世の

霊的な存在にどれだけの影響を与えることになるのか考えないのか?

 

逃亡者である浦原喜助が死神の法を守る

可能性は限りなく低いだろうことを考えれば、

なんとしても捕縛して牢獄に繋ぐべきではないのか?

 

そんな想いを四十六室にぶちまけたところ、

向こうも浦原には思うところがあったらしく、

色々な制限付きではあるが、限定霊印を

刻まないままでの調査の許可が下りた。

 

そして現世に渡るタイミングを計っていたら、

丁度学院の生徒による実習が行われることを知り、特別講師として便乗したと言うわけだ。

 

・・・向こうが実習生に手を出さんとも限らんし、まぁ護衛を兼ねて、な。

 

そんなこんなで現世に来たのだが、所詮は学生と言うかなんと言うか。

 

「み、みょーん!」

 

霊の鳴き声が聞こえる。

・・・きっと彼女は二刀流が得意な剣士になるに違いない。

うむ。どこぞの庭には要注意だな。

 

俺がそんなアホなことを考えていても、

時間は進むし実習は進んでいく。

 

「ほらそこ!ちゃんと殺らねえから魂魄が痛がってるんだ、しっかりやれ!」

 

「は、はい!」

 

檜佐木六回生が後輩に指導をするのは良い。

後輩も初めての魂葬なら拙いのも当然だ。

 

しかし・・・

 

「なぁ蟹沢六回生?」

 

「はいっ!」

 

俺は実習生に指導をしながらも俺から

アトバイスを貰える位置をキープして居た

(ついでにチラチラとこっちを見ていた)

蟹沢六回生を呼びつけると、さっきから疑問に

思っていたことを確認することにした。

 

「今の学院は、六回生に巨大虚の相手をさせるのか?」

 

もしそうならいくらなんでもスパルタ過ぎ

だと思うのだが、危機感を煽ると言う意味

では間違いではない。

 

下手な隊士よりもよっぽど実戦的だなぁ。

と、学院の方針を決定した担当を褒めようと思ったのだが・・・

 

「え?いや、流石にそんなの無理ですよ!」

 

どうやらそれは俺の勘違いらしい。

 

となると、問題は俺らの周囲に展開している

巨大虚の群れは何か?と言う話になる。

 

(まさか初っぱなから当たりか?)

 

いきなり向こうから接触してきたか?

と思った俺は、とりあえず足手まとい達に

指示を出すことにした。

 

「緊急事態発生。これより諸君の指揮はこの私

八番隊第三席、円乗寺辰房が執る。

実習生たちは三人一組で防御結界を張るように。

六回生の三人は、その結界の完成度を確認して採点を行え」

 

「え?あの、それはどういう?」

 

「緊急事態だと言った。命令を復唱し、

実行しろ。それとも、学院の六回生は

緊急時であっても三席の命令には従えぬと?」

 

グダグダ抜かして足を引っ張るなら、命令不服従の現行犯で物理的に地獄を見せるぞ?

 

「し、失礼しました!これより実習生は

三人一組で防御結界を張ります!

そして私たち六回生は、その結界の

仕上がりを確認して採点を行います!」

 

「うむ。急げ」

 

「「「はっ!」」」

 

突然の指示に実習生たちや蟹沢六回生が

何やら質問をしようとしてくるが、強権を使い黙らせる。

 

今のところ相手の射程外なのか、向こうに

も何か都合が有るのかわからんが、

潜んでいる連中からは仕掛けてくる様子がない。

 

そのため多少の余裕が出来た俺は、

今も怪訝そうな顔をしている連中に

状況を教えてやることにした。

 

「青鹿六回生」

 

「はっ!」

 

「今の状況を理解しているか?」

 

「じょ、状況でありますか?」

 

「何のことか分かっていない、か。では檜佐木六回生、蟹沢六回生はどうか?」

 

「も、申し訳ございません!」

「私もです!」

 

ふむ、駄目か。

 

学生だから未熟なのは当然なのだが、

こんな未熟者を地上に送り出し、更には

実習生を引率させるとは、学院の教師は

一体何を考えている?

 

箝口令が有る為、細やかな罪状は知らない

にせよ、浦原喜助らが地上に潜んでいる

ことくらいは知っているだろうに・・・

 

帰還したら真っ先に学院の教師どもの頭を

叩き潰してやる!

そう思いながらも、俺は実習生たちに現状を

端的に伝えてやることにした。

 

「今、我々は巨大虚の群れに囲まれている。

私が居なければ間違いなく全滅していたな」

 

それも数百の群れか。自然発生ではありえん。

つまりは罠よな。

 

「「「はぁ?!」」」

 

三人の六回生は今さらになって斬魄刀を抜き

周囲を警戒しだすも、隠れている敵を発見

することは出来ないようだ。

 

さて、これは誰を狙った罠なのか。

学生を相手にするには大掛かりすぎる。

 

さりとて俺を狙ってこの数を差し向けてきた

可能性は・・・無いだろうな。

浦原たちは俺の力を知らんし、もしも

知っていたならこの程度の雑魚は送ってこないはず。

 

と、なると狙いはやはり学生になる。

この場合連中は、学院の生徒を殺すことで

瀞霊廷の連中の顔に泥を塗る為だけに

仕掛けてきたと言う可能性になる、か。

 

この腐れ外道共がっ!

 

「あ、あの、円乗寺三席、ほ、本当に我々は巨大虚に囲まれているのですか?」

 

内心で憤りを覚えていると、いくら探しても

巨大虚を見つけられない青鹿六回生が俺に

そんな確認をして来た。

 

その様子からは、緊張感と油断が垣間見える。

あぁ、緊急時の避難訓練か何かと思ったか?

 

残念だが事実だ。

 

「良い機会だ青鹿六回生。君たちに霊圧を

隠蔽している相手の察知方法を教えてやろう」

 

俺は教師では無いんだがな。

 

そう思いながらも、後輩である彼らに

死んで欲しいわけでもないので、

最低限の教育を行うことにした。

 

「基本的な話だがな。どれだけ本体の霊圧を

隠蔽しようとも、周囲の霊子は誤魔化せん。

故に不自然な流れを辿れば隠れている相手の

位置もわかる。たとえば・・・あそこだな」

 

「えっと、あそこ?ですか」

「・・・あっ!」

「本当だ、霊子の流れがおかしい!」

 

そう言って空中の一点を指差してやれば、

他の連中も気付いたのか、実習生の中

からも具体的な違和感を指摘する声が上がる。

 

うむうむ。中々優秀な奴が居るようで何より。

 

完全に霊圧を隠蔽出来ることの弊害だな。

そこだけ妙な空白地帯が出来るんだよ。

 

だから、それなりに霊圧を察知することが

出来るなら、そこに何かが居ると言うのは

簡単にわかるわけだ。

 

隠すな。誤魔化せってな。

 

「わかるか?あの大きさを見れば、隠れている

相手は間違いなく巨大虚だとわかるだろう?」

 

「た、確かにそうです!失礼致しました!」

 

「謝罪は受け入れよう。しかし戦闘中に敵から注意を逸らすな」

 

「は、はいっ!」

 

俺の言葉の正しさを理解した青鹿六回生が、

俺を疑ったことを謝罪し頭を下げてくるが、

ここはすでに戦場だ。

 

敵から目を逸らすべきではない。

 

そう教えてやれば、周りの連中も

気を引き締めたようで、防御結界の出力を高め始める。

 

うむ。これで他人事だと考えるようなら

普通に死ぬからな。

最低限の教えは出来たと思うとしよう。

 

「では、次。戦場に於いて『自分が見つかっていない』と勘違いしている阿呆がどうなるかを教えよう」

 

間抜けが生き残れるほど甘い世界ではない。その教材となれ。

 

 

~~~

 

 

『発射』

 

辰房が一言発すると、虚空を指差していた

彼の手から巨大な光線が出現し、

虚が潜んでいたと思わしき空間を貫く。

すると・・・

 

「ぐ、ぐぎゃぁぁぁぁ!」

 

その場所から体に大きな穴を開けられた

巨大虚が現れ、光となって消えていった。

 

檜佐木も青鹿も蟹沢も、当然実習生たちも。

自分達が見たこともない威力を誇る鬼道を使い、

あっさりと巨大虚を消滅させた辰房を

呆然とした目で見ていた中、一人の生徒が声を上げる。

 

「え?まさか今のは?!」

 

「「知っているのか雛森!?」」

 

「た、多分だけど、今のは破道の八十八。飛竜撃賊振天雷砲・・・だと思う」

 

「「は、破道の八十八?!」」

 

「多分だけど・・・でも他に掌からあんな

威力が高い光線が出るような破道は無い

はずだし・・・

でもでも、八十番台の詠唱破棄だなんて

普通は不可能だよね?それも三席でしょ?」

 

実習生でありながら鬼道の才に定評がある

雛森も、流石に本物を見たことが無いので

自信無さげに俯きながら考察を続ける。

 

そんな彼女に対して、この場で唯一答えを知る存在が言葉を掛けた。

 

「ふむ。八十番台の鬼道など見たことも

ないであろう実習生が、よくぞその解に

辿り着いたものだな。その研鑽は見事である」

 

「そ、それではやはり!」

 

術者である辰房からの言葉を受けて、

雛森はバッと音が出るくらいの勢いで

顔を上げるも、残念ながら雛森の予想は外れていた。

 

「しかし残念だったな。今のは飛竜撃賊震天雷砲ではない・・・白雷だ」

 

「「「?!」」」

 

「そ、そんなまさか!」

 

先程の桁外れの鬼道が、破道の四番に当り

基礎中の基礎とも言える白雷であることを

告げられた面々は、内心で「ありえん!」と

叫ぶも、とうの辰房はどこ吹く風と言わん

ばかりに周囲を睥睨しながら、こう告げる。

 

「同じ鬼道と言えども使う者の霊力の

絶対量でその威力は大きく異なる。

故にある一定以上の実力があれば、白雷が

一番てっとり早く虚を殺せるのだよ。

なにせ雷速だしな」

 

「いや、え?」

「それはそうですが」

「いくらなんでも」

 

さらりと告げられた辰房的常識に混乱する

生徒達を放置し、何故かテンションが

上がっている辰房は、未だに隠れて隙を

窺っている阿呆どもに追撃を加えようとしていた。

 

「そして、私が使う飛竜撃賊震天雷砲は

他の者が使うモノとはまるで違う」

 

そう言って右手の掌の上に一つの立方体を作り出す。

 

「え?掌の上に四角い・・・鬼道?」

 

傍から見れば何の方向性も無く、ただ

そこに在るだけの立方体だが、鬼道の

適正が高い雛森だけはそれが鬼道だと気付くことができた。

 

「よく見たな実習生よ。これが私の『飛竜撃賊震天雷砲』だ」

 

辰房が術の名を告げた瞬間、立方体から

爆発的な霊圧が解き放たれ、潜んでいた

虚たちの隠蔽が強制的に解除される。

 

「「「ギ、ギャーーーー」」」

 

「ほ、虚!」

「こんなに?!」

「くそっ!」

 

「落ち着け!全員結界を強化しろ!」

 

「「「え?」」」

 

「わからねぇか!巻き込まれるぞっ!」

 

「「「あっ!」」」

 

虚の出現に慌てる実習生たちに対し、

檜佐木は今危険なのは虚では無く、

辰房が放つ鬼道で有ることを叫ぶ。

 

それと同時に虚たちも「その術を発動させてなるものか!」と辰房に襲いかかる!

 

しかしその時、辰房が常と変わらぬ

ような表情で左手も前に出す動作をした。

 

その挙動を見た周囲の者たちが

『まさか?!』と思っていると

、周囲の予想に反することなく、

辰房の左手にも同じような立方体が

出来上がってしまう。

 

「「「・・・・・・」」」

 

想定外の事態と周囲を圧する霊圧に、

虚たちすら動きを止める中、

術者で有る辰房は、眈々と術を展開する準備を行う。

 

「この技の想像を絶する威力と、優美なる姿を見て、俺はこう名付けた」

 

両手に溜め込まれた莫大な霊圧がその場を

支配する中、辰房にしては珍しく己の技名

や、その来歴を口にした。そして・・・

 

「受けろ虚よ。破道の八十八・改『多重震動式(マルチプルパルス)天雷砲』!」

 

辰房の叫び声と同時に、彼の両手の上に

留まっていた立方体から無数の光が出現し、

動きを止めていた虚たちを貫いていく。

 

「「「ギ、ギャァァァ」」」

 

 

防御も隠蔽もお構いなしに光が虚を貫き、

強制的に消滅させていく様子はまさしく光の蹂躙。

 

この一撃に耐えることが出来た巨大虚は一体も居なかった。

 

・・・ちなみに辰房は技名を自動追尾式(ホーミングレーザー)震天雷砲

にするかどうかを悩んでいたのだが、

それは伊勢だけが知る秘密である。

 

「すげぇ・・・」

「これが八十番台の鬼道・・・」

「これで・・・三席?」

 

周囲に潜む虚が全てなぎ払われ、静寂が

支配する中、実習生の中でも力がある

阿散井・雛森・吉良が呆然として呟くと、

 

「おいおい。俺、この人らの後輩になるのか?」

「・・・頑張れ」

「私は基礎から勉強しなおさなきゃ」

 

なまじ卒業生として現役の死神に近い

立場である檜佐木・青鹿・蟹沢が

今の自分との実力差を自覚して、肩を落とす。

 

そして離れてこの場を観測していた者たちも・・・

 

「・・・隊長、ボク副隊長ですけど、あんなん普通に無理ですよ?」

 

糸目の男は『アレと比較されても困る』と

言う意味を込めて上司に声をかければ、

彼に隊長と呼ばれた男もややズレていた

メガネのブリッジを中指で押し上げつつ、

内心の動揺を表に出さぬように言葉を紡ぐ。

 

「・・・八番隊元副隊長の円乗寺辰房、か。

まさか八十番台の詠唱破棄に加え、二重展開

とも言える技術や術式の改良までしている

とは・・・完全に無警戒だったね」

 

 

 

辰房がこの事件に関わったことにより、

この場を利用して虚の実験をしようと

目論んでいた某隊長とその部下が彼に

目をつけることになる。

 

このことが数十年後にどのような意味を持つことになるのか。

 

未来は誰にもわからない。

 

 

 




現世に危険分子が居るとわかっておきながら、学生だけで現世に向かわせるって・・・死神はどれだけ迂闊なんでしょうねぇ。


ちなみに隠れていた虚たちの声。

『ふっ、アイツバレやがったぞ』
『しょうがないさ、アイツだし』
『だな、アイツは俺たちの中で最弱』
『アイツを倒して油断したところを叩く』

って感じです。

辰房の声? 振動に指向性を持たせることで、特定の相手にだけ聞こえるようにする技術ってありますよね?

つまり、自分はバレてないと思っていたもよう。

自信満々な三席が居るので、六回生は援軍要請をしていないため、現場にヨン様は現れませんでしたってお話。



確か斑目=サンは限定解除してませんでしたよね?


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11話。ブーメラン辰房

オリ設定・オリ展開
嫌いな人は読み飛ばし


「まったく、君は何をしているんだい?」

 

「返す言葉もございません」

 

「で、でも円乗寺さんが居なければ学生たちが全滅していたのは確かですし」

 

「それはそうなんだけどねぇ」

 

あの後、緊急事態と言うことで学生たちを

引き連れて瀞霊廷に戻った俺は、今回の件を

報告した後に京楽隊長から事情聴取と言う

名の説教を受けていた。

 

なぜか?そりゃ、現世で全力の鬼道の

八十八番なんかを使ったからだ。

 

いやぁ。学生さんが良いノリしてくれたから、

つい大魔王ムーヴを決めてしまったんだよなぁ。

 

いやはや、未熟未熟よな。

 

そんな自身の未熟を恥じるのは良いとして、

何故そのことで怒られるのか?と言えば、

明らかにオーバーキルだったからだな。

 

適当と言う言葉があるが、これは別に手を抜け

と言っているのではない。

十の力が必要とされる場所に、十の力を使えと言う話だ。

 

それで言えば、あの巨大虚に対して

あの鬼道はあきらかにやり過ぎである。

 

元々副隊長以上の者に限定霊印を刻むのは、

その霊圧で現世の霊的なものに対して

悪影響を与えないためだと言うのに、

明らかに普通の副隊長並の霊圧を解放したらどうなる? 

 

さらにあの場を観測していたであろう

浦原たちにもアレを見られただろうから、

今後は間違いなく警戒されるはずだ。

 

つまり、わざわざ総隊長や中央四十六室を

説得してまで限定霊印を刻まず、

さらに学生に紛れて現世に出向いた意味が

まったく無くなってしまったわけだ。

 

そりゃ隊長も説教の一つはしたくなるだろうよ。

 

とは言っても、伊勢がフォローしてくれた

ように、あの場に俺が居なければ学生たちが

死んでいたことも事実なので、とりあえず

今回の罰は『隊長から厳重注意を受けること』

になったと言う流れである。

 

「こちらは師匠が大人しく従ってくれて助かったがな」

 

そう呟くのは、現世から帰還してきた俺を

逮捕したお巡りさんこと、二番隊隊長の砕蜂だ。

 

これは下手な奴を派遣して戦闘になったり、

そのまま逃げられても困ると考えた

中央四十六室や総隊長の差し金らしい。

 

一体俺を何だと思っているんですかねぇ?

いや、ノリで問題を起こしたのは事実なんだけどな。

 

そんで、俺を捕縛するよう命令を受けた

砕蜂としては、教えを受けた仲だし、

俺の行動に対して酌量の余地があることを

知っているので、下手に抵抗して一般の

死神に怪我をさせるなどの罪を重ねる前に

自首して貰おうと思い、率先してこの命令を受けたんだとか。

 

・・・こいつらは本当に俺を何だと思っているのやら。

 

「俺とて法は理解しているからな」

 

大魔王ムーヴをかましてテンションが上がり

アホなことをしたのは自覚しているし、

目立つのもやりすぎるのもいかんのも知って

おきながらアレだからな。

 

学生たちに悪い例を見せてしまったことも反省しているぞ。

 

「いや、君は法を理解した上で逸脱しているから問題なんだよねぇ」

 

「・・・申し訳ございません」

 

染々と言う京楽隊長に言い返すことも出来ず、俺は素直に頭を下げる。

 

うむ。説教の最中に開き直るのは良くないな。

 

「ま、過ぎたことだし、七緒ちゃんが言うように

実習生にも被害が無かったんだからこれ以上は

言わないけどさ」

 

「けど?」

 

何だ?

 

「『暫く現世に行くのは禁止』だって。

これは山じいから言われたことだけど、

正式な命令だから」

 

「・・・了解しました」

 

そりゃそうだよな。

 

ようやく浦原を探せる!と意気込んで現世に

行った初日に、派手な花火を上げたんだ。

 

間違いなく連中に警戒されてしまったと見ても良いだろう。

 

つまり、俺が現世で奴らを探そうとしても、

向こうは隠れるか、こちらが見つける前に

向こうから奇襲をかけてくる可能性もある。

 

八人の隊長格を無傷であしらった男に先手を

取られた上に、奇襲を受けたらどうなるか?

なんて考えるまでもない。

 

故に罰も兼ねて暫く謹慎するのは当然のことだ。

 

「そーゆー訳だから、七緒ちゃん。また暫くは

三席に鍛えて貰うと良いよ」

 

「は、はい!」

 

「あ、あの、私も!」

 

「おいおい・・・」

 

己の迂闊な行いを反省していると、京楽隊長が

俺に彼女らの面倒を見るよう丸投げしてきやがった。

 

いや、隊長が忙しいのは知っているし、

伊勢の鍛練に付き合うには最低でも始解が

必要なのも知っているぞ?

 

さらに京楽隊長の始解は搦め手に特化した

始解だから、頭脳明晰な伊勢との読み合いは

楽しめても単純な出力だと押し負けるときが

あるから、修行中も一切気が抜けないと

言うことも知ってはいるのだ。

 

かと言って自分の姪っこ相手に全力を出す

訳にもいかないので、自分以外に彼女の

修行を任せることが出来る人間がいたら

喜んでそいつに任せると言うのもわかる。

 

でもって、今の伊勢と始解だけでまともに

戦えるのは隊長クラスに限られる。

 

もしかしたら斑目三席あたりならそこそこ

やれるかもしれないが・・・いや、無理だな。

 

あのハゲは隊長に似たのか舐めプが基本だし

逆に変な癖を付けることになるから、やはり

隊長に任せるのが一番だろう。

 

しかし他所の隊の隊長に始解をしてもらって

まで修行をさせるわけにもいかないもんな。

 

だから俺に鍛えさせるって言うのはわかるんだ。

 

・・・だがなぁ。

 

「あの、三席?」

 

「駄目、でしょうか?」

 

そう言って伊勢と砕蜂は上目遣いで俺を見てくる。

 

「駄目ってわけじゃないが・・・」

 

「「ないが?」」

 

「そもそも、三席に鍛えられる副隊長と隊長ってどうなんだ?」

 

特に砕蜂。お前は隊すら違うだろうが。

 

いや、確かに彼女の場合は始解も卍解も必殺だから、鍛練相手に事欠くのはわかるぞ?

 

副隊長になった大前田はそれなりに優秀だが、

砕蜂と比べたら格段に劣るのも事実だし。

 

故に修行相手を探しているのはわかるんだが、

それならまずは自分の部下を鍛えたらどーよ?

 

それに伊勢もな。

 

副隊長になったんだから、後進を鍛えて

己を見直すのも悪く無いんじゃないか?

 

そう言うと、二人は上目遣いから一転

ムッとした顔をして反論してきた。

 

「私はまだまだ未熟ですし、他人を鍛える余裕なんかありませんよ」

 

と伊勢が言えば、砕蜂も『然り』と頷いて言葉を紡ぐ。

 

「私もです。少なくとも卍解前の私よりも

早くて強い七緒が己を未熟と言うならば

私とて自らを未熟と言わざるを得ません」

 

自信満々に己が未熟であることを自己主張

されてもなぁ。

 

いや、隊長や副隊長になったことで満足して

しまい、自分が未熟であることを自覚せずに

向上心を無くしてる奴とか、どこぞの獣

みたいに戦闘の際に舐めプするよりは数百倍

マシではあるんだぞ?

 

それに、少なくとも二人とも俺のように

虚の力を取り込んではいないから、まだまだ

伸びしろがあるのも事実。

 

しかしなぁ・・・

 

「「それに!」」

 

「ん?」

 

俺が反論しようとすると、伊勢と砕蜂は一瞬

目を合わせたかと思うと揃って頷き、声を

揃えてこう言ってきた。

 

「「貴方が三席なのがおかしいんですよ」」

 

「・・・・・・まぁ、うん」

 

元副隊長でありながら限定霊印を刻まずに

現世に行くため、あえて三席となったことを

知っている二人に、真正面から席次のことを

言われてしまえば、俺から言えることは無い。

 

「それはそうだ。君、そろそろ隊長になったら?

なんなら僕が推薦するよ?

浮竹隊長と砕蜂隊長は認めてくれるだろうから

後は試験に合格するだけ。・・・どうだい?」

 

どうしたものか?と考えていたら、今まで

ニヤニヤしながらこちらを見ていた京楽隊長

までもが参戦してきた。

 

「・・・・・・」

 

軽い口調で俺を隊長にしようとする京楽隊長。

しかしその口元は笑いながら、目は真剣そのものである。

 

横で砕蜂がブンブンと頭を上下に振っているが、

それは見ないことにした。

 

・・・俺とて京楽隊長の言いたいことはわかる。

 

隊長は俺が卍解出来ることを知っているし

いまだに隊長の席に欠番がある現在、

使える者は誰だって使いたいのだろう。

 

しかし、今の俺には隊長になる資格がない。

 

なにせ俺の卍解は虚の力を取り込んだことで

従来のものから変異してしまい、未だに

その力をコントロールすることが出来ていないのだ。

 

この力に関しては、現時点では京楽隊長にも

言えないことなので、断る言い訳にはならない。

 

だから、胸が痛むのを堪えながら、俺はいつもの断り文句を告げる。

 

「すみませんが、現世に逃げた浦原を殺すまでは隊長にはなれません」

 

「・・・そうかい」

 

「円乗寺さん・・・」

 

「師匠・・・」

 

俺の言葉を受け、京楽隊長も伊勢も砕蜂も

沈痛な表情を浮かべてしまう。

 

「そう言うわけです。とりあえず二人の修行を

見ることは了解しましたよ」

 

そんな三人の三者三様の反応を見ながら

俺はこの話題を終わらせた。

 

リサを理由にすることにもちろん抵抗は有る。

 

しかし、浦原を殺すために現世に行くには

その身に限定霊印を刻む必要が有る隊長では

駄目だし、そもそも瀞霊廷の中に浦原や

夜一の味方が居ないとも限らない状況で

卍解を見せるなど有り得ない。

 

更に言うなら隊長は、許可無く始解する

ことすら禁じられている。

 

つまり、裏切り者を相手にそのような枷を

つけて戦うつもりがない俺としては、

隊長と言う役職は重し以外のなにものでも無いのだ。

 

たとえ身内であっても疑い、さらには殺すことに躊躇しない。

 

俺は浦原を殺すまでは一歩も進めなくなった

自分を、半ば嘲笑い、半ば誇らしく思いながら

瀞霊廷での修行を続けるのであった。

 




不退転の覚悟を決めて現世に行ったと思ったら即日帰還することになった辰房の図。

なんと言いますか、間抜けよなぁ。

七緒=サンと砕蜂は、原作より大幅に強化されていますが、辰房はそれ以上に強化されておりますってお話。


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12話。ある日の夜の会話

オリ設定・オリ展開
嫌いな人は読み飛ばし


俺が現世でやらかしてから数十年。隊長や

副隊長の面子も随分と代わったものの、

十三番隊以外の全ての隊に隊長と副隊長が

揃ったのを受けて、そろそろ現世に行こう

かなぁと思っていた時のこと。 

 

「辰房さん。あの噂、聞きましたか?」

 

「噂?」

 

なんやかんやで男女の仲になっていた七緒から

閨にて妙な話を聞かされた。

 

「えぇ。なんでも六番隊の朽木隊長の義理の

妹さんが現世で何かやらかしたらいんです」

 

「朽木隊長の義理の妹?確か十三番隊に所属

していて、朽木隊長からの依頼で平隊士に

留め置かれている少女だったか?」

 

既に始解を修め、それなりに鬼術も使えると

言うことだったので、十三番隊で使わないなら

八番隊で使おうと思っていたのだが、引き抜く

前に朽木隊長から京楽隊長にそんな要請が

されたと聞き、面倒臭いと思って引き抜きを

諦めた記憶がある。

 

「そう、その子です。聞くところによると

現世での任務にあたっていたところ

数ヵ月前に行方不明になったそうでして」

 

「あぁ、それで最近六番隊と十三番隊が騒がしかったのか」

 

義理とは言え隊長の妹だし、何より朽木の

人間だもんな。

 

そりゃ六番隊は元より、預かっておきながら

単独任務に出した十三番隊も慌てるわ。

 

つーか、浮竹隊長の行動がわからんな。

 

朽木隊長の要請を受けて彼女を席官に

しなかったと言うのなら、何故以前俺が

接触した霊圧を消せる巨大虚の群や、

浦原一派が潜む現世にお客さんである

彼女を単独で送り出したんだ?

 

腑抜けたのか、それとも頭が悪いのか。

 

恐らく両方だろうが、それは良い。問題はその娘だよな。

 

「で、現世で行方不明になったはずの小娘が

『やらかした』と言うのはどういうことだ?」

 

現世に渡った死神は絶えずその霊圧を

観測されている。

それが朽木の娘ならば尚更だろう。

 

にもかかわらず行方不明と言うことは、

すなわち死んだと言うこと。

 

それが何をやらかしたと言うんだ?

 

「それがですね。どうやら現世の人間に

死神の力を譲渡したそうなんです」

 

「・・・ほう。死してなお祟るか」

 

何かしらの事故に巻き込まれたのか奪われた

のかは知らないが、間違いなく重罪だな。

 

「いや、その子、死んでないんです」

 

「は?」

 

いや、おかしいだろ。

 

「生きていると言うなら其奴はどうやって

数ヵ月もの間、技術開発局の観測から

逃れたと言うんだ?」

 

一般の死神には間違いなく不可能。四大貴族

である朽木家ならば、プライバシーがどうとか

言って観測から逃れるような手段も有るかも

知れんが、それなら六番隊が焦る理由は無い。

 

「それが良くわかっていないんです。

朽木隊長が直接現世に赴き、彼女を

回収したらしいので、これからの調査に

なるんだとか」

 

「ほう」

 

行方不明になった朽木家の娘を、兄である

朽木隊長が迎えに行くのはわかる。

 

他の連中だと朽木家の名に負けて強制的に

連れ帰ると言う真似は出来んからな。

 

しかし重要なのはそこじゃない。

 

「・・・つまり朽木隊長や技術開発局ですら

知らない霊圧の隠蔽方法が有ると?」

 

「はい。そうなります」

 

そんな技術があれば、霊圧を基準に捜索を

行っている死神の目を欺くことも出来るな。

 

そして朽木の小娘はその技術をもつ存在と

どこで接触した? 瀞霊廷? ありえん。

 

ならば残るは現世しかない。

 

では、現世でそのような技術を持ち、

それを使用する必要が有る存在は誰だ?

 

「・・・ようやく足跡が見つかったな」

 

「はい、恐らく彼女は浦原と接触しています」

 

思わず口元がにやける俺に対し、七緒も

決意を秘めた目をしているように思える。

 

そうだよな。

七緒にとってもリサは赤の他人ではない。

 

さらに浦原の側には、先代の二番隊隊長で

ある四楓院夜一も居るはずだ。

 

それを考えたらこれは砕蜂にとっても

朗報と言えるだろう。

 

「取り調べは二番隊が?」

 

それならそのまま情報を貰えるから楽なんだがな。

 

「いえ、六番隊と十三番隊が合同でするそうです」

 

「・・・そうか」

 

拷問防止のつもりか?朽木の娘で有る以上、

中央四十六室も簡単には手を出せんだろうし

暫くは温い取り調べになりそうだな。

 

「とりあえず砕蜂も探るだろうから、今は

下手に動かずに居たほうが良さそうだな」

 

「そうですね」

 

朽木の娘から浦原一派の情報が流れる危険性

を考慮すれば、身中の虫が動くとしたら今。

 

ならば俺たちは無関係を装いながら

その虫を捜し、潰す。

 

虫が居る可能性が高いのは四楓院夜一の古巣

である二番隊と、浦原の古巣である十二番隊。

 

二番隊の隊長は砕蜂だが、四大貴族であり

前任者である四楓院夜一の名は重いからな。

 

十二番隊に関してはアレだ。基本的な技術で

負けている現状では、相手の裏をかけない

時点で話にならん。

 

盗聴やハッキングのように自覚せずに

情報を抜かれている可能性もあれば、

誤った情報を流されていることに

気付いて居ない可能性も有る。

 

何しろ常時観測している最中に堂々と

行方を眩まされたくらいだからな。

 

しかし二番隊も十二番隊も、どちらも

索敵や調査を担当する部署なのに、その

情報が信用出来ないのは頂けない。

 

・・・まずは自分の足で探すか。

浦原の拠点があったのは西流魂街。

 

これまでも何度か捜索はしていたが、何の

情報も得ることは出来なかった。

 

しかし今回の件で連中が動くなら、瀞霊廷

の中ではなく外にも注視する必要があるな。

 

「七緒、俺は数日空ける。京楽隊長や砕蜂にも伝えてくれ」

 

こう言うときフットワークが軽いのが三席の

良いところだよな。

 

「はい。ただ砕蜂さんには後で辰房さん自身

からお話をして下さいね」

 

「無論だ」

 

なんやかんやで砕蜂とも男女の関係になって

しまったからな。

 

後で「順番を飛ばした分の補填を求めます!」と

言われることはくらいは甘んじて受け入れよう

ではないか。

 

「それなら問題ありません。正式な調査任務

を割り振りますので、外はお任せしますね」

 

「あぁ、中は任せた。わかっているとは思うが・・・」

 

「はい。京楽隊長と砕蜂さん以外の全員を疑います」

 

「それで良い。油断はするなよ?」

 

「勿論です」 

 

ふっ。あの幼子が強くなったものだ。

 

・・・朽木の娘を助けるために浦原喜助が

動くなら良し、動かないなら情報を抜いた

上で現世に奇襲をかける。

 

この百年、長かったのか短かったのかはわからん。

だが漸く一歩踏み出せる。

 

 

 

――こうして辰房は『西流魂街の調査任務』に

あたる為、一時瀞霊廷から姿を消すことになる。

 

それは西流魂街に、瀞霊廷を揺るがす騒動を

引き起こす旅禍が現れる一週間前のことであった。




かなり急ですが、原作突入。
つーか、浮竹隊長はなんでルキアさんを一人で現世に送ったんですかねぇ?

他にも色々とツッコミ所はありますが、
それに関しては次話以降です。
展開予想はお控えください。

亡き婚約者への純愛一途を期待した諸君、残念だったな!

何だかんだて百年経ってますし?
辰房君も男性だし?
迸る熱いパトスを処理しないとねぇってお話。


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13話。上からくるぞ、気をつけろよぉ

オリ設定・オリ展開
嫌いな人は読み飛ばし。


七緒からの情報を得た俺が、西流魂街にて

何か異常が発生していないか? とか、

何か不審な人物が現れていないか?など

様々な調査をしていたときのことだった。

 

「む?」

 

これまで何の反応も無かったところに

突如として上空に穿界門が現れた。

 

「数は4、いや5、か」

 

そこから感じられたのは、数人の気配。

さらにその中には上位席官クラスの霊圧を

持ちながら、俺が知らない霊圧を放つ

死神の存在があった。

 

「これは・・・当たりだな」

 

現世から戻った死神が、最初に行うのは

所属する隊長への報告だ。

 

それを怠ればそれだけで懲罰の対象に

なると言うのに、わざわざ西流魂街に

穿界門を開ける死神など存在しない。

 

故にこのような真似をするのは、現世に

在りながら尸魂界の中に穿界門を開く

ことが出来ない死神のみ。

 

それが該当するのは現世に逃れた罪人。

 

あの日七緒と予想したように、やはり

朽木の小娘は浦原喜助と接触していたようだ。

 

しかし、この霊圧の主は誰だろうな?

 

浦原喜助と四楓院夜一の子供にしては

些か霊圧が弱いように感じるが・・・

 

いや、隠している可能性も有るか?

 

しかし、それなら中途半端に上位席官

クラスの霊圧を放つのはおかしい。

 

さらに、だ。

 

何でわざわざ遮蔽物が無く、周囲からも

観測されやすい上空を穿界門を開いた?

 

あれでは『見つけてくれ』と言っているような

ものではないか。

 

・・・陽動か、それとも協力者に対する合図か。

 

どちらにせよ浦原と関係ない可能性が

僅かでもある以上、今は手を出すのは

控えるが、どうにも違和感を覚える。

 

と、言うかだな。

 

ザッ・・・ザザッ・・・ザザザッ・・・

 

俺に対してなのか、範囲に対してなのかは

わからんが、さっきから認識阻害の術式が

かけられているんだよなぁ。

 

恐らくの穿界門の向こうに術者が居るか、

こっちに連中の協力者が居て、連中を発見

させないようにしているのだろうが、

流石にしつこいぞ。

 

いや、結果としてあの上空に作られた門に

対して隠密機動や周囲を巡回しているはずの

死神が何の反応も示して居ないのだから、

成功と言えば成功なのだろうが、な。

 

しかし、この認識阻害のおかげで、これから

あの門をくぐってやって来る者が浦原喜助の

関係者かどうかに関わらず、後暗いことを

考えていることが確定するのだから、ある

意味では墓穴だよな。

 

・・・それともこの術式に絶対の自信が有る

とでも言うのだろうか?

 

いや、認識阻害にせよ幻術にせよ自分が

それに陥ったことを自覚出来れば破るのは

容易いし、何より死神は斬魄刀との対話を

することで自身の状態を把握できるから、

幻術や認識阻害の術式の用途は戦闘中に

一時的に相手の認識を狂わせる程度の意味

しか持たないんだよな。

 

まぁ斬魄刀の感覚すら誤魔化すような強度

がある術式なら話は別かもしれんが、それ

でも卍解を使える死神ならば自分の状態

の把握は常にしているから、こんな術式を

開発したところで無意味。

 

いや、卍解を使えない死神用と考えれば効果的なのか?

 

しかし俺らの感覚を誤魔化したところで

十二番隊の機械を誤魔化せるのか?

 

それともやはり十二番隊も連中の協力者?

どちらにせよ聞くことが増えたな。

 

 

 

――ちなみにこの時、どこぞの伊達眼鏡隊長は

辰房に対し、別の位置に穿界門が開いたように

見えるよう催眠をかけていたのだが、辰房は

その催眠を無意識に無効化していたりする。

 

この辰房の動きを知ったどこぞの盲目隊長は

辰房に対して警戒度を高め、どこぞの細目の

隊長は辰房に対して興味を覚え、どこぞの

伊達眼鏡の隊長は計画の練り直しを考え

ていたりするのだが、辰房には預かり知らぬことであった。

 

そんな隊長たちの関心はともかくとして。

 

 

獰猛な笑みを浮かべながら、穿界門から

出てくる者を待っていた辰房の前に

現れたのは、4人の人影と一匹の猫であった。

 

(子供が4人に猫に化けた死神が1、か)

 

四番隊の隊長や十一番隊の副隊長を

みればわかると思うが、死神の場合は、

見た目だけでは年齢を判別することは不可能である。

 

しかし彼は侵入者の挙動から、侵入者が

見た目相応の子供であることと判断する。

 

(侵入したと言うのに賑やかなことだ。

しかし、死神は気付いていないが周囲の

住人は気付いているだと?

つまり認識阻害はそれなりの実力者に

だけ使用されているのか?

いや、今はいい。まずは連中についてだ)

 

尚も自分に掛かっている認識阻害の術式

を煩わしく思いながら、その発動条件を

推測する辰房であったが、重要なのは

その術式に自分が干渉されていないと言う

事実なので、とりあえず目の前の侵入者

たちに注意を払うことにした。

 

「だ・・か・・!」

「ご、ごめ・・くろ・・君!」

「少し・落ち・・・」

「・・・・・・」

「も・少・緊・感を・・・」

 

そんな辰房の視線の先では、4人と一匹の

侵入者がコントめいた騒ぎを起こしていた。

 

(・・・人間が2人。滅却師が1人。

死神が1人。猫に化けた死神が1人)

 

自分の目の前で大声で名前を呼び合い、

ながら騒いでいる侵入者に、辰房は

大幅にやる気が削がれそうに・・・ならなかった。

 

(人間のうち茶髪の少女がイノウエ

大柄な男がチャド、もしくはサド。

滅却師がイシダで死神がクロサキ。

そして猫がヨルイチ。・・・ヨルイチだと?)

 

目の前の少年少女は互いを呼び合う際、

間違いなくそう名乗っていた。

 

つまり猫の名はヨルイチで、死神の名は

クロサキなのだろう。

その名を聞いて辰房の脳裏に浮かぶのは

一人の死神だ。

 

わざわざ猫に化けた死神に夜一の名を

名乗らせるなら、それは囮の可能性が高い。

 

だが、現世からきた死神が夜一の名を使うことに意味が有る。

 

それはそうだろう。

 

こちらの観測から逃れ、現世で百年近く

行方を眩ませているのは虚化の実験を

していた浦原喜助だ。

さらに霊圧を感じさせない巨大虚。

数ヶ月前に現世で行方不明不明になって

いた朽木の小娘。

さらに見知らぬ霊圧を纏う死神と、その

死神と行動を共にする死神のヨルイチ。

 

ここまで事実を並べれば、全てを浦原と

繋げてしまうのも無理はない。

 

なんなら数十年前に十三番隊の副隊長を

殺した特殊な虚も、何らかの関係が

有るかもしれないとまで考えていた。

 

(厄介だな)

 

それらを考えた辰房は、一時的にその場を

離れ、京楽らに報告を行うことにする。

 

「縛道の七十七。天挺空羅」

 

認識阻害の術式の正体がわからないので

地獄蝶は使えない。

かと言って彼らの至近距離で縛道を

使えば感知される可能性がある。

 

子供や滅却師はともかく、ヨルイチを

名乗る猫の実力や、四楓院夜一との

関係が不明な以上は、安全の確保と

情報の伝達を最優先すべきと判断した結果であった。

 

報・連・相は大事。古事記にもそう書いてある。

 

そして認識阻害と身中の虫を警戒する

辰房が伝達する相手は僅かに3名。

 

こうして、現時点で辰房が得た情報と、

そこから導き出された推察を聞いた

三人は、ことの厄介さに内心で頭を

抱えながらも今後の対応を協議することになる。

 

 

穿界門を潜り、尸魂界へと侵入した

少年らは、未だに自分たちを観察する

複数の視線に気づいては居なかった。




本当に上から来た件について。

NARUTOの幻術破りの原理ですが
当然自分が催眠に陥っていることを
認識することが絶対条件です。

さらに死神の戦いは霊圧の戦いらしいので、
最低限術者に対抗できる霊圧も必要になります。

しかしアレですな。

1・現世から現れた
2・上位席官クラスの力を持つ
3・尸魂界で見たこともない死神で
4・名前が黒崎一護。

これでなんで黒崎一心との関係を疑わないんですかねぇ?

特に班目一角。

百年目に数年だけ隊長をやった浦原喜助より
数十年前に隊長をやってた黒崎一心の方が
印象に残りそうなんですけど?


と書いていたら、志波一心さんだと
ツッコミを受けましたので文章を修正だ!

それに、隊長までもが行方不明になった
現世に朽木のお嬢さんを送り込む浮竹の
配慮の無さよ。

白夜隊長、実は嫌われてませんか?ってお話。


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14話。あれ?声が、遅れて、聞こえるぞ?

オリ設定・オリ展開
嫌いな人は読み飛ばし。


『こちら八番隊第三席円乗寺辰房。

西流魂街にて旅禍を発見せり。

現在までに判明した情報を伝える。

なお、この天挺空羅は情報の漏洩を

防ぐため、京楽隊長と伊勢副隊長、

砕蜂隊長にのみ接続を行うものである』

 

「これって・・・砕蜂さん!隊長!」

 

「あぁ。師匠の予想通りか」

 

「・・・本当に来たんだねぇ」

 

八番隊の隊舎に於いて、朽木ルキアに

関することでの情報の擦り合せを

していた三人であったが、辰房からの

天挺空羅を受けたことで話を止め、

彼から齎される情報を聞くことに専念する。

 

『まず旅禍の数は5人。その内訳は

子供が4人と黒猫に化けた死神が1人』

 

「子供?」

「黒猫?」

「・・・アンバランス過ぎやしないかな?」

 

あまりにも不自然な構成に、三人は

陽動の可能性を疑うが、辰房からの

天挺空羅はまだ途切れてはいないので

考察は後回しにして話を聞く。

 

『構成は少女が1。名はイノウエ。

大柄な少年が1。名はチャド。

滅却師の少年が1。名はイシダ。

死神の少年が1。名はクロサキ。

黒猫が1。名はヨルイチである』

 

「「ヨルイチ?!」」

「ほぉ~」

 

黒猫の名がヨルイチであることに反応した

のは砕蜂だけではなかった。

 

しかしそれも当然だろう。

 

彼らの世代で死神でヨルイチと言えば、

先代の二番隊隊長である四楓院夜一だ。

 

さらに現世から見知らぬ死神と

現れたと言うのなら、その見知らぬ

可能性は浦原喜助の関係者か、

もしかしたら子供の可能性もある。

 

『このうちクロサキを名乗る死神は

現時点で上位席官クラスの力があると

思われる。

これらのことから、彼は現世で行方を

眩ませた浦原一派の関係者と思われる』

 

「・・・・・・なるほどねぇ。

浦原喜助は今も現世で姿を眩ませた

ままだし、ルキアちゃんも現世で

観測班の観測から姿を隠した。

それなら彼らの子供にも同じような

処置をしていても不思議じゃない、か」

 

「確かにそうですね。彼らの子で

有れば、当然死神の力も持っているで

しょう。朽木ルキアを助けに来る理由が

良くわかりませんが、向こうにも何らか

の狙いがあると思って良いでしょうね」

 

「・・・可能性は高いだろうな」

 

ここで彼らが一護のことを『朽木ルキア

によって死神の力を譲渡された存在』

ではなく『喜助と夜一の子供』と予想

したのは、当然わけがある。

 

無論彼らは実際に一護を見ていないので、

上位席官クラスの力と言うのが、実力を

隠しているのかさらけ出しているのかが

判断できないと言うこともあるが、最大の

理由はそこではない。

 

そもそも『朽木ルキアから力を譲渡された

現地の人間』は、現世に赴いた朽木白夜に

よりその力を破壊されていると言う報告を

受けていたからである。

 

そのため彼らの中では、その『現地の人間』

はすでに終わった存在であり、今回尸魂界

に乗り込んできた死神と関連付けることが

できなかったのだ。

 

そんな、本人が聞いたらなんとも

言えない顔をすること請け合いの

勘違いはともかくとして

 

「で、彼らの目的だけど?」

 

「朽木ルキア。でしょうね」

 

「だな。しかしその程度の戦力で罪人を

奪還しようと言うわけではあるまい。

他にも何かしらの理由があると見るべきだ」

 

「だろうねぇ。だったら今回の場合は

『浦原喜助がルキアちゃんに何かを

持たせている。旅禍はそれを回収に来た。

もしくはその為の陽動』と捉えるのが

一番妥当かなぁ?」

 

「そうですね。普通なら5人でどうこう

出来るものではありませんが、侵入する

だけなら四楓院夜一が居れば決して

不可能と言うわけではありません」

 

「・・・口惜しいことにな」

 

旅禍の正体から旅禍の目的へと話題を切り替えた

三人は、彼らの目的が朽木ルキアの奪還

では無く、朽木ルキアが持つ何かに用が

有ると言う推論を立てた。

 

細かいことは四楓院夜一や浦原喜助に直接

確認を取らなければ不明だが、これが一番

可能性が高いと思われたのだ。

 

なにせ・・・

 

『また、これだけ派手に旅禍による

侵入があったにも関わらず、未だに

死神が調査に来る様子がないことから、

連中には十二番隊の観測班、及び二番隊

の調査班に何かしらの伝手がある。

もしくは彼らを誤魔化す技術があると思われる』

 

「「・・・・・・」」

「・・・むぅ」

 

砕蜂の手前、辰房もやんわりと言葉を

選んだようだが、言っていることは

単純だ。

 

曰く『二番隊と十二番隊は信用できない』である。

 

二番隊の隊長である砕蜂だが、未だに

二番隊の中には四楓院家に対しての

忠義を誓う者がいることは知っている。

 

実際に幼少の頃から四楓院家に仕えるよう

教育を受けていた砕蜂も、夜一の弟である

夕四郎咲宗と会話するときは当たり前に

敬語であるのだから、そのことに対して

彼女から隊員に文句を言うことは出来ない。

 

しかし、憲兵としては間違いなく失格である。

 

だからこそ辰房も、砕蜂に情報を提供

することはあっても二番隊に情報を

提供するつもりはないのだ。

 

十二番隊も同じだ。なにせ彼らは

先代の浦原が作った技術開発局を

踏襲しているのだから、影響が全く

無いとは言い切れない。

 

一応隊長である涅マユリは、浦原喜助を

好いてはいないようだが、隊長と隊員は

別だ。

 

実際今の時点で十二番隊が旅禍を観測

出来ていないと言うのなら、その心根

だけでなく、能力も信用出来ないと

言うことになる。

 

現時点で内部の裏切り者の存在を

確信している三人からすれば、

これだけでも面倒極まりない事態だ。

 

しかし、さらに面倒は続く。

 

『加えて、広範囲に強力な認識阻害か

催眠の術式が展開している模様。

故に京楽隊長と砕蜂隊長は斬魄刀との

対話を密にし、己の認識が狂わされて

いないかどうかの確認をするよう提案

します。

伊勢副隊長に見えているものと隊長に

見えているものの差異を比べれば相手が

何を見せたいかの推察もできますし

術式を解除出来なくとも、自身の認識が

狂わされていることを自覚しているか

否かを知ることは必要かと思われます』

 

「「認識阻害?」」

「・・・へぇ」

 

認識阻害にせよ催眠にせよ、自分が嵌って

いることに気付かなければ解除は難しい。

 

また解除が出来なくとも、斬魄刀から

自分の感覚が狂わされていると言う

ことが分かれば、それだけでも大きな

違いである。

 

戦闘中に態々斬魄刀と対話をする

暇はないが、平時なら違う。

 

そう考えた京楽は、即座に自身の

斬魄刀と対話を行い、少なくとも

今は感覚を狂わされて居ないことを

確認した。

 

「本当なら浮竹にも教えてやりたいところなんだけどなぁ」

 

思わず。と言った感じでそう呟いた

京楽に対し、七緒と砕蜂は揃って

冷たい目を向ける。

 

「そしてその浮竹隊長が虎徹三席と

小椿三席に情報を伝え、虎徹三席が

四番隊の虎徹副隊長に伝え、さらに

虎徹副隊長が卯ノ花隊長に伝え、

卯ノ花隊長が総隊長に伝え、総隊長が

全隊長に知らせるんですね?」

 

「せっかく師匠が我々だけに情報を

流した配慮が無に帰すことになるな。

まぁ直属の上官である京楽隊長殿が

そうしたいと言うなら、私に止める

権限はないがな」

 

「・・・そうなるよねぇ」

 

『信用出来る人間だけに情報を渡す』

 

これだけ聞けば聞こえはいいが、実際は

情報の漏洩である。

 

京楽が七緒を信用しているように浮竹も

己の部下を信用しているだろう。

 

さらに自分の部下が操られている可能性

があるなら、それをなんとかしようと

するはずだ。

 

結果『信用できる部下』に情報が流れ、

その『信用できる部下』も肉親や友人を

失いたくないから情報を渡し・・・と

言った感じで秘匿情報が漏洩されていくのだ。

 

そんなことになっては、現在危険を冒し

ながらも、単独で旅禍の調査を行い、

こうして情報をくれている辰房の行動に

泥を塗ることになってしまう。

 

それを懸念している目の前の女性二人から

 

『そんなことをしたらどうなるか分かっているな?』

 

と言う視線を受けた京楽は、編笠を

深く被りなおし、浮竹への情報提供を

断念することにした。

 

そんな隊長達の心温まる会話を余所に

事態は動いていく。

 

『・・・旅禍が正面から兕丹坊と接触。

どうやら戦闘になるもよう。

状況によっては介入します。以上』

 

その言葉を最後に天挺空羅は途切れた。

 

「・・・兕丹坊と戦闘、つまりは紛れもなく敵だな」

「そうですね」

「だねぇ」

 

クロサキを名乗る死神が正式な任務で

動いているなら、門番である兕丹坊と

戦闘をする理由がない。

 

正面から向かったと言うのが良く

分からないが、認識阻害によって

通れると判断したのだろうか?

 

情報が不足しているのでなんとも

判断が難しいが、少なくとも門番と

戦闘をすると言う事実をもって、

彼らは客人ではなく明確な敵であると

言うことが証明された形となった。

 

これを陽動の可能性が高いと見た京楽で

あったが、ここで警戒をしている様子を

見せるのは悪手と考え、表面上は普段

通り過ごすことを提案し、二人もそれに

納得をすることになる。

 

 

 

「あ、お帰んなさい隊長。こっちは特に異常なしっす」

 

「(イラッ)・・・破ッ!」

 

「え? ぐ、ぐわぁぁぁぁ!」

 

「ふんっ!」

 

「な、なんで・・・ぐふっ」

 

期せずして夜一の情報を得て高揚しながら

二番隊の隊舎に戻った自分の前に、侵入者

にも気付かずに油煎餅を食べ散らかし、

あまつさえ『異常が無い』などとのたまう

副隊長を見た砕蜂は、思わず彼を殴り倒す

ことになったとか。

 

これを不当な暴力と取るか、正当な仕置きと

取るかは人それぞれであろうが、少なくとも

二番隊でこのことを問題にするような隊士は

居なかったと言う。




とりあえずわかったことを報告。

あれだけ派手に登場した原作主人公たちを
何故隠密機動や十二番隊が気付かないのか? 

それはどこぞの伊達眼鏡が催眠をかけて認識を
ずらしていたからさ!ってお話。

通信用の鬼道があるなら、伝令を伝える隠密機動の存在意義が無い?

・・・七十番台の鬼道ですので使い手が限られるのと、雇用の創出の為なんじゃないですかねぇ?





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15話。門番ってなんだっけ?

オリ設定・オリ展開
嫌いな人は読み飛ばし


「何やってんだあいつら?」

 

俺が京楽隊長等に天挺空羅で情報を伝達

する為に場を離れている間に、旅禍の

連中は兕丹坊が守る白道門へ、正面から

乗り込んでいた。

 

そうなると当然白道門を守る兕丹坊が

出てくるわけで・・・

 

「ぐわっはっはっは!」

 

正面から自分に挑んでくる旅禍に対し

馬鹿でかい声で笑い声を上げる兕丹坊。

 

・・・もはや潜入でも何でも無いな。

 

この状況になっても周囲に隠密機動が

居ないと言うのがよくわからん。

 

そんな俺の疑問を余所に、旅禍の中から

クロサキと呼ばれた死神が一人で兕丹坊

の前に立つ。

 

自分に対して一人で来るのか? と矜持

を傷付けられたような顔をする兕丹坊で

あるが、あの少年は上位席官クラスの

霊圧を隠しもしていないぞ?

 

俺が知る限りでは兕丹坊は良くて上位

席官に届かない程度の実力しか無い筈

だったのだが、少しは強くなったのだろうか?

 

そう思っていた時期が俺にもありました。

 

「万歳!兕丹打祭!」

 

崩しも何もなく、正面から技名を叫んで

斧だか斬魄刀だかわからん中途半端な

モノを旅禍の少年に叩きつける兕丹坊。

 

その仕草からは、増長と過信。そして

油断と慢心が伺える。

 

「・・・あれではな」

 

いくら何でも稚拙に過ぎる。

 

兕丹坊が斧を叩きつける度に周囲には

砂塵が舞い、ドドドドドドドドドドと

言う音が響いているが、あれに何の意味

が有るというのか。

 

潰すなら全身全霊の一撃で潰せ。

潰せないなら横薙ぎや別の攻撃パターンで相手を崩せ。

 

無様。あれが瀞霊廷を守る門番だと

言うのなら、今すぐにでも罷免し、

各隊の上位席官が持ち回りで門番を

担当したほうが良い。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

自分の攻撃でテンションを上げているが、

派手にやればやるだけ無様さが強調される。

 

そもそも兕丹坊は気付いているのだろうか?

 

クロサキに集中するあまり、他の四人が

完全に意識から外れているではないか。

 

敵は門番を殴り倒してでも瀞霊廷に侵入

しようとしている旅禍だぞ?

 

向こうが1対1と言ったからといって

それを真に受けてどうする?

 

・・・門番を見ればその国の質が分かる

と言うが、あれを見て我々が評価される

のかと思うと、頭が痛くなる。

 

総隊長には護廷に誇りを持つならば、

まずこういうところから意識改革を

する必要がある。と提言させて貰おうか。

 

少なくとも、無能や阿呆に門番をさせるのはダメだと声を大にして言わねばならん。

 

「ふぅふぅ。どうだべ! 跡形も無くなったか?!」

 

跡形も無くなったら「どうだ」も何もあるまいに。

 

それに、だ。

そもそもあいつはその目で何を見ている?

図体か?それなら草鹿副隊長も雑魚か?

手応えは無かったのか? 

硬い物に攻撃したらわかるだろ?

向こうは受け流しとかしていないぞ?

 

一体何を以て兕丹坊が「勝った!」と

豪語しているのかさっぱりわからん。

 

少しでも霊圧を探る気があれば少年が

微動だにしていないこともわかるだろうに。

 

それともアレか?

野菜の惑星の王子様の「やったか?!」

みたいな感じでお約束を踏襲しないと

ダメなルールでも有るのか?

 

それに旅禍は何をしている?

 

お前らの目的は門を抜けることじゃないのか?

 

なんでお行儀良く一騎打ちを観戦している?

 

さらにクロサキ。

なぜ隙だらけの兕丹坊に攻撃をしない?

貴様らは尸魂界に遊びに来たのか?

 

「・・・終わりか?」

 

「なっ! お、おらの万歳兕丹打祭が?!」

 

「ならこっちから行くぞ!」

 

「ふ、ふん、調子に乗るな!」

 

「ふっ!」

 

「あ、あぁぁぁぁ! オラの斧がっ!」

 

「あ~。えっと。なんかスマン」

 

「・・・・・・おめぇ良い奴だな」

 

・・・・・・

 

(な ん だ こ の 三 文 芝 居 は)

 

目の前で繰り広げられている門番と侵入者

が繰り広げる油断慢心のオンパレード。

 

兕丹坊の雑魚さ加減や、その雑魚相手に

イキる少年の姿は、もはやコントと言わざるを得ない。

 

双方の間抜けさ加減に思わず溜息を

吐きそうになった俺は、とりあえず

連中の手足を切り捨てようと、

一歩踏み出したのだが・・・

 

そのとき、俺の目の前で不思議なことが起こった。

 

「さぁ、通れ!」

 

はぁ?

 

俺は目の前で起こったことが信じられず

思わず思考停止をしてしまう。

 

あの阿呆何を考えている?

 

呆然とする俺の目の前では、

門番である兕丹坊が、

無傷である兕丹坊が、

まだ戦える状態の兕丹坊が、

己の判断で己が守護する白道門を開け

旅禍を瀞霊廷に招き入れようとしていた。

 

いやいやいや、これはない。

 

門番の仕事は許可の有るものを中に入れ、

許可の無いものは命を賭けてその侵入を

阻むものだ。

 

それがなんで勝手な判断で旅禍を

瀞霊廷に招き入れようというのか。

 

・・・今までもこんな勝手をしていたのか?

負けたら命惜しさに門を開いていたのか?

 

しかもあの阿呆は己の行動を正しいと

思い、その正義を疑っていない。

 

あれは自覚がない悪だ。

賄賂を貰って門を開けるよりもタチが悪い。

 

あんなのが平然とのさばっているから

何時まで経っても死神は温いのだ。

 

百年前の隊長格の大量消失に始まり、

現世に浦原が居るにも関わらず学生

だけを現世に送り込む教師然り。

 

数十年前に、十番隊の隊長である

志波一心が現世で消息を絶ったと

言うにも関わらず、預かり物の

朽木の娘を単身で現世に送り込み、

いざ何かあったら「行方不明になった!」

と慌てる浮竹隊長然り。

 

これだけ旅禍が暴れても現地にこない

死神連中然り、自分が旅禍に負けたにも

関わらず、援軍を要請しないどころか

命惜しさに門を開ける門番然りっ!

 

温い。温すぎる。

このような現状はさすがに見過ごせん。

 

「あぁ・・・こらあかん」

 

――綱紀粛正の一環として兕丹坊を

切り捨てようとしたとき、瀞霊廷の

内部から、のんびりとした京都弁が

聞こえてきた。

 

その言葉とほぼ同時に兕丹坊の左腕が切断される。

 

「嗄啊啊啊啊啊啊啊啊啊!」

 

「・・・あかんなぁ・・・門番は門あけるためにいてんのとちゃうやろ」

 

まったくもってその通り。

 

突如現れ、兕丹坊の腕を切り落とした

三番隊隊長である市丸ギン隊長の言葉に

俺は心から頷いた。

 

しかし当の兕丹坊にはその自覚が無いようで

 

「ぅうぅ・・・おらは負けたんだ。

負けた門番が門を開けるのは・・・

あたりめぇのことだべ!」

 

は?

 

「何言うてんねや?わかってへんな。

負けた門番は門なんかあけへんよ。

門番が負ける言うのは・・・死ぬゆう意味やぞ」

 

これまたその通りとしか言えん。

 

「ううう・・・」

 

市丸隊長の圧力を受けて怯える兕丹坊。

しかしその程度の覚悟で門を開けたと

言うなら初めから門など開けねば良いのだ。

 

とは言え、兕丹坊が旅禍を前にして

門を開けたままと言うのは、護廷の

名に傷が付く。

 

それに市丸隊長が敢えて兕丹坊を

生かしているのは、俺に殺れと言う

ことだろう?

 

いい加減連中の三文芝居は見飽きた。

 

さらに市丸隊長の攻撃に反応出来ない

ことから、向こうの力もわかった。

 

連中に隠している力は、ない。

 

あとはヨルイチを名乗る猫だが、あれに

関しては尋問の必要が有るので、今は殺さん。

 

だが裏切り者の兕丹坊。お前は駄目だ。

 

「ふっ!」

 

「お?」

 

兕丹坊を守る為なのか何なのかは知らんが、

突如クロサキが市丸隊長に斬りかかった。

 

あちらは市丸隊長に任せてもよかろう。

まずは殺すべき相手を殺す。

 

「崩山演舞」

 

「なっ?! あぁあぁあぁぁ?!」

 

瞬歩で阿呆懐の中に入った俺は、

始解と同時に連続攻撃を行い、兕丹坊を細切れにした。

 

抵抗? できるはずもない。

 

「あ~あ、殺りおった」

「は?!」

「「「え?」」」

「な、なんじゃと?!」

 

山のような巨体を誇り、その巨体と

残った腕で白道門を支えていた兕丹坊が

いきなり現れた俺に細切れにされた

ことに意表を突かれたのか、外にいた

四人の動きが止まる。

 

「阿呆が」

 

敵を前にして呆ける阿呆どもに対し、

俺は降り注ぐ兕丹坊の肉片を消し炭に

するついでに挨拶代わりの鬼道を放つ。

 

「受けろ鳳凰の羽ばたきを。

破道の三十一・改。赤火鳳翼天翔!」

 

本来は技名を叫ぶのは事前動作告知や

明確な隙になるから控えるべきだと言う

持論を持つのだが、俺が未熟なせいか

鬼道の改に関しては、その技名を口に

出さないと技が安定しないので仕方なく。

そう、仕方なく技名を告げることにしている。

 

・・・断じて大魔王ムーヴや車田ムーヴがしたいワケでは無い。

 

そんな言い訳はともかくとして。

 

俺の手のひらに生じた炎は鳳凰の形を象り

降り注ぐ兕丹坊の血肉を消し炭にする。

 

そして俺は右手で薙ぐような動作を行い

生み出した鳳凰を門の外へと向かわせた。

 

「え?」

「むっ」

「なっ!」

「くっ」

 

「いつから貴様らが対象外だと錯覚していた?」

 

兕丹坊と戦っていないから?

市丸隊長と刀を交えていないから?

 

だから自分が狙われるはずかないと思ったか?

 

甘い。貴様等は現時点で瀞霊廷に武器を

持って潜入しようとしている賊だろうが。

 

旅禍(テロリスト)に前衛も後衛も無い。ただ滅ぶべし。

 

俺の意志で放たれた鳳凰は未だに呆然と

立ち竦む三人と一匹へと襲いかかる。

 

「井上っ!」

「チャドっ!」

「石田っ!」

「夜一さんっ!」

 

炎に包まれる仲間を見て、市丸隊長と

斬り合うために白道門の内部に侵入

していた旅禍の少年の悲痛な声が響く。

 

甘い。本当に甘い。

危機感が足りないと言っても良い。

 

コイツ等、この期に及んで自分達が

死なないと思って居るんじゃないか?

 

ならばその妄想を抱えたまま死ね。

 

「安心しろ。向こうに止めを刺したら次は貴様だ」

 

恐らく捕虜にするために手を抜いている

市丸隊長には悪いが、捕虜は一人いれば良い。

 

更に言えば捕虜に力のある存在など要らん。

故にそいつはここで仕留める。

 

「そんなことさせるかよっ!」

 

門を支えていた兕丹坊が、消滅したため

重力に従い落下してきた白道門を左手で

支えながら、俺は後先考えずに突っ込んで

来た少年に対し、『面倒が省けた』と

笑みを浮かべるのであった。

 

 




兕丹坊は誰がどう見ても命惜しさに
門を開けておりますので、真っ当な
死神なら殺しますよね。

それに対して原作主人公君が逆切れしておりますが、そもそもの元凶は彼らです。

そして旅禍って死神から見たらただの
テロリストですからね。
故に、現時点では原作主人公やそれに
協力した兕丹坊に対して遠慮をする理由がありません。

チャド(その他)の霊圧が・・・ってお話


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16話。死神もどきの視点から

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嫌いな人は読み飛ばし。


最初、何が起こっているのか分からなかった。

 

突然俺達の前に現れた死神が、目にも

止まらぬ速さで斬魄刀を振るい、

兕丹坊を細切れにした・・・と思う。

 

その死神は掌から炎で出来た鳥を出して

己に降りかかる()()()()()()()()

平然と焼き払ったかと思ったら、次の

瞬間、その鳥を門の外に居た井上たちに放ちやがったんだ!

 

そして、いきなりのことで何がなんだか

わからず、狼狽していた俺に、

その死神はこう言いやがったんだ!

 

「安心しろ。止めを刺したら次は貴様だ」ってな!

 

その言葉を聞いて、一瞬カッとなった

俺だったが、まだ井上たちが生きている

ことを知り、追撃を加えて止めを刺す

ようなことを言った死神の動きを

止める為に飛び出した!

 

・・・だが、それが奴の狙いだった。

 

それまで左手一本で兕丹坊が開けてくれた

門を押さえていた奴は、俺が飛び出すと

同時に俺を見て、にやりと笑ったかと

思ったら、その門を押さえていた左手を

軽く動かし、門を上に吹っ飛ばした。

 

そして開いた左手から、さっきと同様に

炎で出来た鳥が姿を現すに至り、漸く

俺は誘われたことに気付いたんだ。

 

そう。奴の狙いは井上たちではなく、俺だった!

 

そのことに気付いた俺はなんとか方向転換を

しようとするも、すでに死神に向かって

飛びかかっている最中ではどうにも出来ず。

 

月牙天衝を使おうにも、もしも死神に

回避されたら井上達に斬撃が当たって

しまうので、それも出来ない。

 

(もう火に突っ込むしかない)

 

そう覚悟を決めたときだった。

 

「あかんなぁ。僕に背を向けるとか、ほんまにあかんわ」

 

さっきまで斬魄刀を打ち合っていた

細目の死神が、俺の背中に向けてそう呟く。

 

(しまった!)

 

散々浦原さんから「敵から目を離すな」

と教えられていたにも関わらず、その

教えを無視してしまった!

 

挟み撃ちを卑怯なんて言う気は無い。

ただ自分が馬鹿だったんだ。

 

後悔しながら声のした方向に目を

向けると、細目の死神はその場から

動かないまま、脇差しを此方に

向けて妙な構えを取っていた。

 

「そんなところから何を?」

 

思わずそう呟いた俺は、確実に腑抜けていたのだろう。

 

細目の死神は何も答えず、ただ一言呟いた。

 

「射殺せ『神槍』」

 

「あっ!」

 

浦原さんからも聞いていたし、実際に

見たじゃないか。

 

斬魄刀には様々な能力がある。

 

火を操ったり氷を生み出したり

するのも有れば、俺の斬月みたいに

斬撃を飛ばすことだってできるんだ。

 

だから相手の斬魄刀が脇差かどうかとか、

間合いがどうこうと言うのは無意味。

 

そして細目の死神の斬魄刀の能力は

『刀が凄い勢いで伸びてくる』と

言うものだった。

 

走馬灯って奴だろうか。

 

目の前の巨漢が作り出す炎の鳥と、

かなりの速さで延びてきた斬魄刀に

挟まれた俺は、自分に迫りくる斬魄刀が

スローモーションのようにゆっくりと

迫って来るのを感じると共に、次の瞬間

には斬魄刀に貫かれた後で炎に焼かれる

自分の姿を幻視した。

 

だけどそれは現実のものにはならなかった。

 

「・・・市丸隊長?」

 

「・・・しもた」

 

細目の死神の攻撃は、目の前の巨漢にも

当たるルートだったんだ。

 

このままでは俺ごと貫かれることになる。

 

二人の死神はそのことを俺より早く判断したのだろう。

 

背後から迫る斬魄刀の勢いは目に

見えて落ちたし、巨体の死神も

掌の炎の鳥を消したかと思ったら、

瞬時にその姿を消していた。

 

いや、正確には姿を消したんじゃない。

俺に見えないスピードで移動したんだ!

 

それだけじゃない。

 

「ぶっ!」

 

いきなり俺の頭に蹴り、いや、踏み

つけられたような衝撃が襲い掛かる。

 

何だ?!と思ったら、いつの間にか

巨漢の死神が細目の死神の近くに

立っていた。

 

それで気付いたんだ。

 

「やろう! 俺を踏み台にしやがった!」

 

その事に思わず文句を言おうとしたとき、

 

ドォォォォォォォン!!

 

タイミングよく巨漢の死神が上に投げ

飛ばしていた門が降りてきて、

向こう側が見えなくなってしまった。

 

最後に見えた光景では、巨漢の死神が

細目の死神に問い詰めて居るような

雰囲気であった。

 

・・・俺を無視して。

 

なんとも消化不良な気持ちになるも、

そんな思いはすぐに吹き飛ぶことになる。

 

「黒崎くん!」

 

「井上!」

 

無事だったか! そう言おうとした俺に

井上の悲痛な声が聞こえてきた。

 

「よ、夜一さんが!」

 

「夜一さん?」

 

確かに井上もチャドも石田も無事だった。

それなら夜一さんも大丈夫だろう。

 

そう思っていたんだが、それは大きな

間違いだった。

 

必死な顔をする井上の視線の先には、

遠目からでもわかる大火傷を負った

夜一さんの姿があった。

 

「黒崎。夜一さんは動けなかった

僕たちを守る為にっ!」

 

「・・・すまない」

 

石田が悔しそうに告げれば、チャドも沈痛な顔をして謝罪をして来る。

 

二人とも咄嗟に自分が動けなかった

ことで、夜一さんの足を引っ張った

ことを自覚しているのだろう。

 

そう。あのとき夜一さんはとっさに

動けなかった三人の為にあの炎の

攻撃をその身で受けたのだろう。

 

その結果が、この目を覆うような大火傷。

 

「しっかりして夜一さん!」

 

必死の表情で夜一さんに治療を施す

井上を見て、俺は今回の件を

甘く見ていたことを後悔していた。

 

俺は兕丹坊を無傷で倒したことで、

浦原さんからの教えを受けたことで

調子に乗っていたんだ。

 

所詮俺はつい先日までただの学生だった

子供でしかない。

 

一応ここに来る前に浦原さんが

鍛えてくれたけど、所詮は付け焼き刃。

 

ルキアだってあの見た目で50年以上

生きていたらしいし、その間ずっと

鍛えていたって話だった。

 

それでも隊長や副隊長の強さは

別次元だと言っていたじゃないか。

 

 

・・・本物の死神は強い。

 

 

そんなことは現世で隊長と戦って

鎧袖一触されたことで十分理解

していたはずだった。

 

本来なら兕丹坊と正面から戦うんじゃなく

夜一さんが言っていたように、どうにかして

バレずに侵入する方法を考えるべきだった。

 

最低でも兕丹坊は速攻で無力化する必要が有った。

 

なのに『己の力を試す』なんて自惚れて

正面から挑み、その音で無意味に強敵を

呼び寄せてしまった。

 

その結果が兕丹坊を殺し、夜一さんに

重傷を負わせてしまったんだ。

 

「くそっ!」

 

出だしからこんな有様で、俺は

ルキアを助けられるのか?

 

今までの自分の言動の迂闊さに腹が立つ。

 

「・・・とりあえず追手が来る前に移動しよう」

 

「・・・あぁ」

 

石田の言う通り、ここで突っ立ってても

何も解決しねぇ。

 

まずはここから離れて、夜一さんを

安静に出来る場所を探す必要が有る。

 

「とは言っても、な。どこかあてはあるのか?」

 

居ても立ってもいられすに、思わず行動を

起こそうとするとチャドがボソッと呟いた。

 

ほんの少し前の俺だったら

 

「そんなことを考えるより、とにかく動くべきだろ!」

 

とか言って考え無しに動いたと思う。

だけどソレをした結果が今の俺達だ。

 

俺の我儘に井上とチャドと石田を巻き込んだ

以上、もう間違えるわけにはいかねぇんだ!

 

だからこそどうするのが正しいのか?

そう考えるも俺たちに土地勘が有るわけでもない。

 

「くそっ。いきなり詰んじまった」

 

今更ながら、あまりにも無計画すぎた。

無計画なら無計画なりに夜一さんの話を

聞けば良かったものを、何も考えて

いなかった俺のせいで・・・

 

井上が夜一さんを介抱している様子を

眺めながら無力感に苛まれているとき、

 

俺たちの誰もが予想もしなかったことがおこったんだ。

 

「あの・・・」

 

「誰だ! って・・・子供?」

 

考え込む俺たちに声をかけてきたのは、

貧相、と言ったら聞こえが悪いかも

しれないが、そんな一言でしか形容

出来ない格好をした子供だった。

 

よく見れば周りには昔の農民みたいな

格好をした連中がわらわらと集まっている。

 

いつの間に? と思ったが、あれだけ

騒がしければ地元の人間が様子を見に

来るのは当然だろう。

 

問題は、この住民たちにとって俺たちは

侵入者でしかないってことだ。

 

このままさっきの死神に通報されて

しまったら間違いなく全滅する。

 

だからといって目撃者を全員殺す

なんてことは出来ない。

 

また自分の中途半端さに歯噛みをして

いたところ、その子供は思いもしなかった

提案をしてくれた。

 

「その猫さん治療したいんでしょ?

ここだと死神が来るから、向こうに

移動しない?」

 

「「「え?」」」

 

その子供の言葉に、俺も石田もチャドも

思わずポカンとしてしまった。

 

だってそうだろう? 

ここは死神の地元で俺は明らかに死神の敵だ。

 

それなのに、ここに住む子供が俺たちを

庇うなんておかしいじゃないか。

 

罠か? けど黙っていれば追っ手に

捕まる俺たちを罠に嵌める理由は何だ?

 

「・・・行こう、黒崎」

 

「石田?」

 

俺たちの中で最も警戒心が強い石田が

この子供の提案を受けるって決めた

ことに疑問を覚えそうになるが、

石田には石田なりの根拠があった。

 

「僕たちを罠に嵌める理由はない。

いや、もしかしたら何かあるかも知れない。

だけど、それでも今はここに居るよりは

さっさと移動して、井上さんが安心して

夜一さんを治療できるようにする必要が有る」

 

「・・・そうだな」

 

夜一さんのためにも少しでも時間を稼ぐ。

そのためなら罠でも何でも利用するしかない。

 

石田の覚悟を決めた提案を受けて

俺たちはその子の提案に乗ることにした。

 

 

 

――結果だけ言えば、その子の提案は

罠でもなんでもなく、善意の提案だった。

 

彼らは日頃から兕丹坊の世話になっていた

人たちらしく、兕丹坊を殺した死神を良く

思っていなかったのだとか。

 

だから意趣返しの意味も込めて彼らの

敵である俺たちに力を貸してくれたらしい。

 

そんなこんなでとりあえずの安全が

確保されたことで、夜一さんの介抱に

余裕が出来たのか、井上の口からも

「もう少しで大丈夫そう」と言う言葉を聞くことができた。

 

「・・・そうか」

 

「黒崎?」

「一護?」

 

一気に気が抜けた俺は、思わず床にへたりこみ

そのまま目を閉じた。

 

・・・こうして俺達のあまりにも密度が

濃かった尸魂界侵入初日は幕を下ろした。

 

 

 

命懸けでルキアを助ける。

 

言葉にすればたったこれだけのことが、

自分の魂に誓ったはずのこの言葉が、

とても軽く、虚ろになった気がした。

 

 

 




なんだかんだで助かった主人公一行。

細かいことは次の市丸隊長と辰房くんの話で解説だ!ってお話


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17話。細目の視点から

久々更新。

京都弁がわからないので話し方がブレブレです。

オリ設定・オリ展開
嫌いな人は読み飛ばし


いやいや、なんやの? あの鬼道は。

 

まぁ八十番台の詠唱破棄や2重詠唱が

出来るんやから、三十番台も出来るってのはわかるよ?

 

しっかし、あの威力は無いわぁ。

 

片手間に放った一撃で普通に

四楓院夜一が死にかけとるやん。

 

あんなん今の黒崎一護が喰ろうたら

骨も残らんやろ。

実際兕丹坊は塵も残っとらんし。

 

それに普通に藍染隊長の鏡花水月も

無効化しとるらしいし、一体あの人は

どないなっとんねや?

 

そら隊長が気にするのもわかるわ。

 

黒崎は可能性の塊らしいけど、所詮は

数ヵ月前に目覚めたばかりの小僧。

 

今から鍛えても隊長の域に至るまでは、最低でも何十年もかかる。

 

そんなら現時点で極まっとる

円乗寺はんの方が危険やもんな。

 

どうやって鏡花水月を無効化しとるかに

興味は有るけど、下手に接触したら、

鏡花水月の使い手が藍染隊長やって

ばれる可能性が有るし、僕や要も

鏡花水月に掛かってないことがばれたら

困るってんで積極的には関わってこん

かったんやけど、これは押さえとくべきやろ。

 

「して、なんのつもりですか?」

 

そんな風に考えとったら、円乗寺はんが

僕の前で訝し気な表情をしながらそう尋ねてきおった。

 

これはアレやろ? 

何で自分の邪魔したのかって聞きたいんやろ?

 

「そんなん黒崎一護を殺されたら困るからに決まっとるやろ」・・・とは言えんわな。

 

本当ならどうやって黒崎一護を生かして

返そうか悩んどったとこやけど、今回は

彼から理由を作ってくれたんで助かったわ。

 

「何のつもりもなにも。あんなぁ円乗寺三席。

いくら旅禍を倒すためとは言え、瀞霊廷の中に

向かってあんな鬼道放ったらあかんやろ」

 

いやほんと。

 

「・・・あぁ。それは、はい。そうですね」

 

完全に予想外ってか? かなわんなぁ。

 

「わかって貰えたらええんやけどな?

けど一応隊長としてお説教させて貰うと、

護廷の為に存在する僕たちが、瀞霊廷を

破壊したらあかんよ?」

 

実際あれが放たれてたら、黒崎どころか

着弾地点全部が灰になっとるからね。

 

ま、僕が言うことや無いけどな。

 

「・・・申し訳ございません」

 

うん。僕の言ってることが正論過ぎて

さっきまでの殺る気を失っとるなぁ。

 

一応追撃しとこかな?

 

「いやいや。わかって貰えたならええよ。

とりあえず連中については隠密機動に

任せて、僕らは総隊長用に報告書作ろか?」

 

「報告書? しかし先に旅禍を仕留めるべきでは?」

 

仕事熱心やなぁ。けどソレされたら困るんよ。

 

「いや、さすがに兕丹坊を殺してもうたら

書類は急いで作らなあかんて。少なくとも

あの程度の旅禍よりは重要やな」

 

「・・・そうですか? アレは一刻も早く

殺して、別の門番を用立てないと駄目な

程に落ちぶれていましたが、それでも

旅禍を優先すべきでは?」

 

確かにあれは無いけどなぁ。

 

「うん。兕丹坊に関しては僕も同意見や。 

けどな、それだって本来僕らが決めること

ちゃうやろ」

 

「むむむ」

 

何がむむむや。

 

「それに僕だって別に旅禍を見逃せ

言ってる訳や無いよ? あくまで

追跡や捕縛は隠密機動に任せて

僕らは報告書を優先って話や。

流石に門番無しってわけにもいかんやろ?」

 

「え?門番に関しては総隊長や中央四十六室

あたりが即座に決めるのでは?」

 

「そうかもな。けど、急ぎでかわりの死神を

用意せないかんとは言え、事情やら何やらを

知らな上の人達もなんとも出来へんよ。

素早く的確な判断をする為には僕や君からの

正確な報告書が必要になると思わん?」 

 

ほんまは藍染隊長の胸三寸やけどな。

 

「・・・確かにそうかもしれません」

 

良し。とりあえず黒崎の拿捕よりも

報告書を重視してくれそうやな。

 

「ま、兕丹坊が命惜しさに旅禍相手に

門を開けとったのはここに居る目撃者

全員が認める事実やから、それを粛清

したことに対しての罰は無いと思う。

ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「瀞霊廷内に鬼道をかまそうとした

ことに対するお小言はあるやろな」

 

「うっ」

 

「そもそも三席は前に現世でも似たような

ことして謹慎処分受け取らんかった?」

 

報告書はしっかり上がっとったから

僕が知ってても違和感ないやろ。

 

「・・・はい」

 

「あれやな。ついやり過ぎるってのが三席の

欠点みたいやな。いい加減流石に反省が

無いのはあかんと思うよ?」

 

「・・・返す言葉もございません」

 

「ま、お説教はこれくらいにしとくか」

 

おそらく藍染隊長がこの人を隔離する

としたらこれを利用するはず。

 

もしもこれを利用しないなら、隊長は

この人も脅威と見做してないってことに

なるから、現時点で尸魂界には藍染隊長に

勝てるやつはおらんってことになるわな。

 

「わかったらさっさと行こか。

ここで話しとってもしゃあ無いし。

隠密機動への連絡はこっちでしとくから」

 

「了解です」

 

惜しいなぁ・・・もし鏡花水月にかかって

無いのが総隊長なら、まだ可能性有ったんやけどなぁ。

 

 

 

――内心では辰房に対して

「どうやって鏡花水月を破っているのか?」

と言う問いかけをしたいのを必死で我慢しつつ

市丸は藍染の予定通りに黒崎一護を動かす為、

辰房と共に白道門の前から姿を消した。

 

 

 

この事件から二日後。

 

市丸が報告書を上げる前に緊急の

隊首会が執り行われることとなる。

 

その議題は、今回の旅禍の侵入と

白道門での戦闘。

及び兕丹坊の裏切り行為と粛清に伴う

門番の選定と言うものであった。

 

今回の辰房の行動が藍染の予定通りのこと

なのか、それとも予定外の出来事だったのか。

 

今の市丸にそれを量る術は無く、結局

彼は粛々と計画通りに動くことを

余儀なくされていたのであった。

 

 

 

 




敵か? 敵なのか? と逸る辰房くんに
正論を叩きつけて黙らせる市丸隊長の図。
有る意味一番まともなのこの人じゃない?

山本・強すぎて動けない
砕蜂・私怨強すぎ
市丸・細目
卯ノ花・剣狂い
藍染・拗らせ厨
朽木・すまない舐めプ
狛村・犬
京楽・雰囲気は良さげ
東仙・粘着根暗
日番谷・お子様
更木・マダオ
涅・MAD涅えもん
浮竹・病弱

京楽も隊長としての仕事はサボりがちらしいし、
隊長としてまともな奴ががががががが。

二と四と十二以外の隊の役割とは一体・・・

※あくまで作者個人の感想ですってお話。


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18話。隊首会

オリ設定・オリ展開
嫌いな人は読み飛ばし。


兕丹坊が粛清された日から二日、白道門の門番は

とりあえず後任の門番が決まるまで八番隊の

席官が行うことになり、業務はこれまで通り

行われることになっているので、今のところ

業務に支障は出ていない。

 

しかしだからと言ってこのままで良い筈もなく、

後任を決める為にも詳細な報告が必要だと判断

した総隊長山本元柳斎重國により、緊急の

隊首会が開かれることになった。

 

「おやぁ皆さんお揃いで」

 

その隊首会に於いて、隊長としてではなく

参考人として参加することになった市丸は

その場に他の隊長が集まっていることに

感嘆の声を上げる。

 

ただ、本来ならば全員参加が義務付け

られているはずの隊首会に一つ空席があった。

 

「あら? 十三番隊さんは?」

 

「浮竹なら体調を崩して欠席だよ」

 

市丸の疑問に答えたのは、欠席している

十三番隊隊長の浮竹の同期である

八番隊隊長の京楽春水だ。

 

「それはお大事にせんとあきませんなぁ

けど、隊長が来られないなら副隊長を

出さんとあかんのでは? 自分は病弱、けど

副隊長は置きたく無いって我儘は隊長として

どうかと思いません?」

 

「・・・そうだねぇ」

 

お大事にと言いながらも、常識を知る男市丸は、

隊長が病弱なら副隊長を出すべきではないか?

 

何十年と副隊長も決めないのは組織を束ねる

隊長として職務怠慢ではないのか? と

総隊長から贔屓にされている大先輩に対して

さらりと毒を吐く。

 

普段の市丸はこのようなことを口に出す

ようなことはせず、ただ心の中で

「使えんなぁ」と思うだけなのだが、今は

(こいつらがもう少しまともなら・・・)

と言う思いが表に出てしまっていた。

 

このような市丸の内心は知らなくとも、

彼が言っていることは確かなことなので

京楽としても返す言葉がない。

 

実は一時期、京楽は辰房を十三番隊に貸そうと

思ったこともあるのだが、彼の存在は助けに

なるどころか、逆に浮竹が倒れることになる

可能性が有った為に、辰房の派遣を見送った

と言う経緯があったりする。

 

しかしながら、そのような心配を必要と

される時点で隊長としては駄目なのだ。

 

親友を駄目出しされて軽くメンタルに

ダメージを受けている京楽を余所に

隊首会は進んでいく。

 

「確かに十三番隊に関しては副隊長を

置くよう話をする必要が有るの。

しかし今回の議題はそれではない。市丸や

先日の白道門での件を聞かせて貰えんか」

 

上座に立つ山本元柳斎重國がそう言うと、

その件とは無関係ではない京楽も気持ちを

切り替えて、話を聞く姿勢になった。

 

「話と言われましてもなぁ。どっから話したもんですかねぇ」

 

市丸としては誤魔化すつもりは毛頭なく

純粋に「何処から話たものか」と首を

捻ったのだが、その呟きに対する答えは

上座から来た。

 

「とりあえずは円乗寺三席から報告書が

上がって来ておる故、お主に聞きたいのは

旅禍と兕丹坊の裏切り行為についてじゃな」

 

「は? 彼は昨日の今日で報告書を

提出したん?

いくらなんでも早すぎやないですかね?」

 

ことが起こったのは二日前のことだ。

そこから報告書を提出し、裏取りに

一日を掛けたが故の隊首会の参集なの

だろうが、この流れは長い寿命を誇る

死神基準では仕事が早すぎた。

 

辰房に言わせれば危機感の欠如としか

言えないのだが、その辺は価値観の

問題なので何とも言えないところである。

 

それはともかくとして。

 

そんな市丸の疑問は、辰房を知る人間から

すれば、驚くようなことではない。

 

「まぁ、元々彼は書類仕事が得意なのと、

君と違って隊長の業務も無いからねぇ」

 

最も辰房を知る京楽がそう言えば、次いで

彼と親しい砕蜂も無言で頷いている。

 

「はぁ。そう言われたら何とも言えませんなぁ」

 

実際隊長業務は多岐に渡るし、市丸は

業務をキチンとこなすタイプの死神なので、

報告書だけに時間を掛けて居られなかった

のだが、三席である辰房はそのような

業務が無いので、報告書を優先的に作成

することが出来たと言うのも確かにあった。

 

まぁ市丸はとある事情からまともに

報告書を書こうとは思っていなかったと

言うのも有るが、それはそれである。

 

「加えて、自分で殺した門番についてだろ?

流石の彼も責任も感じてるみたいでねぇ」

 

「責任以上に憤りも感じているようだがな」

 

京楽が告げた言葉に、九番隊の隊長である

東仙要が被せてくる。

 

元々彼は規律に厳しいところがあるので、

兕丹坊の行いに忸怩たる思いが有るのだろう。

 

「円乗寺三席の気持ちは理解できる。まさか

命惜しさに門を開ける門番が居ようとはな。

そのような者が居たなら処刑は当然だろう」

 

「然り。儂とて『負けたら死ね』とまでは

言わんが、それでも増援を呼ぶことも無く

大人しく門を開けると言うのは許せんな」

 

「屑だな。屑は屑らしく死んどけってんだ」

 

「まったくダヨ。だけどマァあれのおかげで

彼の鬼道を観測出来たのは僥倖だと思うがネ」

 

そんな彼の言葉に六番隊隊長の朽木白夜や

七番隊隊長の狛村左陣も深く頷けば、

十一番隊隊長である更木剣八と十二番隊

隊長涅マユリも兕丹坊は死んで当然と

ばかりに頷いている。

 

「私しては少々やりすぎだと思わなく

もないけど、彼の気持ちも分かるよ」

 

「・・・だな」

 

そして比較的穏健派の五番隊隊長の

藍染惣右介や十番隊隊長である

日番谷冬獅郎も辰房の行動に理解を示す。

 

「流石に儂も報告書を読んだときには

目を疑ったわい。しかし周囲の者達

からの証言も取れておるしのぉ」

 

「そうですね。流石にこれは・・・」

 

また総隊長の山本元柳斎重國がそう言えば

彼と共に長年隊長として護廷一三隊に

所属している四番隊隊長卯ノ花烈も

手元にある辰房から上げられた報告書の

写しを見て、眉を顰めていた。

 

何せその報告書には、

 

『兕丹坊が旅禍と戦闘し敗北した後、

命惜しさに白道門を開けた。

それを目撃した市丸隊長が彼の左腕を

切り落とし門番としての責務を説くも、

兕丹坊は反省して態度を改めるどころか、

『門番が負けたら門を開けるのが当たり前』

と開き直った。

その様子から見るに彼に罪悪感などは無く、

今までも同様の事を行って来た常習犯である

とみられる。よって敵前逃亡と尸魂界に

対する裏切り行為の現行犯で処刑を行った』

 

と記されていたのだ。

 

実際に隠密機動に確認をさせたところ

兕丹坊が旅禍に対して白道門を開け、

彼らを瀞霊廷内に侵入させようとして

いたことも確認されているので、この

報告書に疑いの余地はない。

 

「ま、概ねこの通りですわ」

 

卯ノ花からそれを渡されて軽く目を

通した市丸も、この報告書に対して

特に加えるべきところは無かったので

思ったことをそのまま述べた。

 

「でも、これが有るなら僕の意見必要

ないんじゃないですかね?」

 

「一応じゃよ。それと旅禍については

特徴しかないからの。

実際に刀を交えたお主の意見も聞いて

おきたいと言うのもある」

 

「あぁなるほど」

 

辰房の報告書では旅禍についての記載は

 

『旅禍の数は5名。

橙色の髪をした死神・クロサキ

滅却師・イシダ

長身で色黒の男性・チャド

茶髪の女性・イノウエ

加えて黒猫に化けた死神が一人である。

 

それぞれの能力は不明。

ただしクロサキには兕丹坊を一蹴出来る程度

の実力があることから、現時点で上位席官

クラスに匹敵する程度の実力があると思われる』

 

としか書かれておらず、実際のところ

どれくらいの実力なのかは不明なのだ。

 

だからこそ市丸の意見を聞いて

おきたいと言うことなのだろう。

 

「つーかアレの鬼道を喰らって生きて

るってんならそれなりの実力はあると

思うんだが・・・生きてんだよな?」

 

「多分生きとると思うよ? それに

クロサキは間違いなく生きとるね」

 

「ほぉ」

 

己の為に強敵を欲している更木は、少なくとも

市丸と刀を交えて生きている獲物がまだ

死んでいないことに喜び、どうやって旅禍

と戦うか? と考えて舌なめずりをするが

ここで今まで黙していた砕蜂が声を上げる。

 

「それに関しての提案が有って、今回の

隊首会の開催を依頼したのだ」

 

「あぁん?」

 

「何や、今回の隊首会は二番隊さんが提案したん?」

 

「うむそうだ」

 

兕丹坊の裏切りと処刑。更に旅禍の侵入

と言う事件なので、確かにその情報は

共有すべき内容ではある。

 

しかしそれなら旅禍を全て捕えるなり

殺すなりしてからでも出来ることである。

 

にも関わらず、わざわざ今の段階で

隊首会を開くことを要請した砕蜂の

意図が奈辺にあるのか。 

 

各隊長がその意図を探ろうとしているのを

感じ取った砕蜂は、特に隠しだてをせずに

己の思うところを述べる。

 

「ここ最近、私は常々懸念していることがある」

 

「それは?」

 

「死神に緊張感が足りないということだ」

 

卯ノ花の言葉に対して、隊首会の参加者

全員に聞こえるように砕蜂はその懸念を述べる。

 

「兕丹坊の裏切り然り、兕丹坊と旅禍の戦闘に

気付かない隠密機動然り、旅禍の侵入や戦闘を

観測出来なかった一二番隊然り、現世で旅禍

と出会っていたにも関わらず中途半端な処置

を施したがために今回の事態を招いた六番隊の

隊長と副隊長然り、未だに浦原喜助や四楓院

夜一が居ると目される現世に朽木の娘を一人で

送り込んだ一三番隊の隊長然り、それを数か月

観測出来なかった一二番隊然り。明らかに

腑抜けている。そうでは無いか?」

 

「「「・・・・・・」」」

 

直接名指しされた朽木白夜と涅マユリは

顔を顰めるが、砕蜂が言っていることは

紛れもない事実だし、さらに彼女は自分が

預かる二番隊の隠密機動も同様に腑抜けて

いると断じているので、反論をすること

も出来ず、ただ黙って話を聞くしか無かった。

 

「それは今述べた隊だけではなく、全体的に

腑抜けていると言っても良いだろう」

 

「・・・確かにの。それで?」

 

山本も砕蜂の言うことに思う所は有るのか

特に反論せずに続きを促す。

 

「はい。今回の旅禍の侵入は我らにとっても

丁度良い訓練になるのではないかと愚考します」

 

「訓練? あぁなるほど。少なくとも

旅禍の一人は上位席官に匹敵する実力者。

それを私たちが倒すだけでは下の者達が

育たない。だから今回は彼ら旅禍を使って

上位席官を対象にした実戦的な訓練を

したい、と。そう言うことかい?」

 

一瞬怪訝な顔をした藍染だが、即座に

砕蜂の言いたいことを理解した。

 

「そうだ。今回の旅禍は我々個人の力で

潰すのではなく、護廷一三隊と言う組織で

当たるべきでは無いかと思ってな。

どうでしょうか総隊長?」

 

「ふむ・・・」

 

砕蜂からの提案を受けた山本は、確かに

今回の件は『上位席官と同等かそれ以上の

力を持つと目される旅禍が複数尸魂界に侵入

してきた』と言う稀少なケースであることや、

『それをただ隊長格が潰すのは惜しい』と

言う砕蜂の意見に納得する。

 

特に山本の琴線に触れたのは『護廷十三隊が組織として当たる』と言うフレーズであった。

 

個人の力では負けるかも知れないが

組織として戦うことで強敵を打倒する。

 

それは個人主義に走りつつある死神にとって

必要な経験では無いか? と思ったのだ。

 

また、これにより隊長たちも『隊の指揮』

と言う経験を得ることが出来るのも良い。

 

そう判断した山本は、少し考えた後で

総隊長として命令を下す。

 

「その言や良し。では今回の旅禍に

対しては隊長格は監督に留め、

上位席官を中心として動くようにせよ」

 

「おい、じじい、そりゃあ・・・」

 

面倒くせぇ。そう言おうとした更木に

山本は鋭い視線を向ける。

 

「お主が一番問題なんじゃ。隊長として

部下を統率してみせい」

 

「はぁ?」

 

「更木、そもそも上位席官に勝てんような

旅禍と戦ったとして、貴様は楽しめるのか?」

 

「あぁ・・・そりゃ確かにそうだがよぉ」

 

尚も反論しようとした更木だが、砕蜂から

そう言われたことで、考えを改める。

 

戦いを望む彼にとって一番つまらないのが

『戦ったら雑魚だった』と言うものなので

上位席官が露払いや旅禍の実力を量る為

の前座と考えれば我慢も出来なくはない。

 

こうして一番厄介な存在が黙ったことで

今後の方針が決定することになる。

 

「では各隊の隊長は上位席官が中心となって

旅禍に当たるよう指示をだすように。

また門番についてじゃが、旅禍の戦力を

省みて複数の席官が交代で着くことで

警戒任務の経験を積ませることとする。

担当は・・・白道門を八番隊」

 

「はいよ」

 

自分の部下である辰房が兕丹坊を殺したと言う

理由があるので、京楽は大人しくこの任務を引き受けた。

 

嵬腕(かいわん)が守る青流門(しょうりゅうもん)は七番隊が、

斷蔵丸(だんぞうまる)黒稜門(こくりょうもん)は九番隊が、

比鉅入道(ひごにゅうどう)朱洼門(しゅわいもん)は十番隊が人員を

派遣するように」

 

「はっ」

「了解です」

「了解」

 

狛村・東仙・日番谷も特に異論は無いので

大人しくその命令に従うことを了承する。

 

「で、春水や」

 

「ん?」

 

「円乗寺は暫し謹慎じゃ。説教もお主がやれ」

 

「・・・はいよ」

 

兕丹坊を殺したことは現場の判断として

適切であったので咎めることは無い。

 

しかし瀞霊廷内に鬼道を打ち込もうと

したことは『つい興が乗った』では

済まない案件だ。

 

今回は市丸が止めたからこそ問題には

ならなかったが、一歩間違えば大惨事

である。

 

山本からすれば、自身がそうであるように

護廷十三隊に所属する死神が瀞霊廷を

焼くなど、洒落になっていないことなので

その辺はきっちりと教育を施して貰いたい

ところであった。

 

 

こうして、瀞霊廷内は対旅禍戦を想定した

戦時シフトが組まれることになるのだが、

そのことは未だに流魂街に潜む黒崎や、

負傷から回復したばかりの四楓院夜一には

預かり知らぬことであった。

 

 

 




原作主人公の潜入が、イージーモードからハードモードになりました。

兕丹坊が鎧袖一触で負けたんだから、他の門も警戒しないと駄目かなって思った次第です。

辰房は自分のミスをきちんと報告する男であるってお話


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19話。舐めプとOSRは違うモノ

オリ設定
オリ展開

嫌いな人は読み飛ばし。


「隠密機動はすぐに着弾予想地点へ向かえ!

旅禍を見つけたなら即座に報告! また、

戦闘になった際は必ず複数であたること。

それと一人は戦闘に参加せず情報収集に撤する

ことを忘れるな」

 

「「「はっ」」」

 

「観測班、各々の霊圧を把握しろ。

・・・今度は逃がすなよ」

 

「「「了解」」」

 

戦時体制にシフトしてから数日後、瀞霊廷の

上空に展開してある遮魂膜に対して霊圧の

塊のようなものがぶつかって来たことを受け、

各隊の死神はこれを旅禍による侵入行為で

あると判断。各々が警戒を始める。

 

その霊圧は少しの時間遮魂膜と拮抗した後、

直ぐに散り散りに分散したのだが、相手が

上位席官クラスの実力者であると通達されて

いる彼らは『これで旅禍が死んだ』などとは

思っておらず、確実に旅禍が瀞霊廷の中への

侵入を果たしたと見なすことになる。

 

これにより護廷の死神たちは、旅禍を狩るために動き出す。

 

特に熱心なのは先日の汚名を返上する為、

全力で解析と追跡を行おうとしている

二番隊と十二番隊に所属する死神であった。

 

そんな彼らの健闘は決っして無駄にはならなかった。

 

「大前田、件の霊圧の弾丸が発射された

場所は確認出来ているか?」

 

「はい! 西流魂街の外れです。

なんでも志波空鶴って奴の屋敷だとか」

 

そう隊長の砕蜂が問えば、今回彼女に

代わって二番隊を指揮していた副隊長の

大前田は、煎餅も食わずに真顔で応える。

 

「ほう。拠点を転々としていたあやつか。

で、何をすべきかは理解しているな?」

 

「モチロンでさぁ!複数の上位席官と刑軍を

派遣して本人を捕えます!罪状は旅禍の

瀞霊廷への侵入を幇助した現行犯!」

 

「うむ。それで良い。従わぬなら

死なない程度に痛めつけろ」

 

砕蜂からすれば四楓院夜一や浦原喜助

との接点など付け足すべきことは多々

あるがそれは今は関係のないこと。

 

まずは『旅禍に味方した』と言う一点を

以て捕え、それから自身で空鶴の尋問を

行うと言う方針を固めていた。

 

「へい! 聞いたな?さっさと動けよ!

あぁそれと霊圧の着弾点にも隠密機動を

派遣するのを忘れんな!」

 

「「「「はっ!」」」」

 

(ふむ。予想以上に良く働くな。今後は

こう言った訓練もするべきかもしれん)

 

普段の態度とはまるで違う大前田の働きに

満足げに頷く砕蜂。

 

そんな砕蜂を背に、大前田はと言えば

 

(やべぇ。流石に失点が多すぎるぜ。

何とかして挽回しねぇと大前田の家が

潰されっちまう!)

 

前回の隊首会に於いて名指しで非難された

(二番隊は自分からだが)立場にある

大前田は、白道門で行われた兕丹坊と

旅禍の戦闘に気付かずあまつさえ隊長に

対して『異常有りません』などと言う

報告をしたことを激しく後悔していた。

 

腑抜け、と言われればその通り。

怠惰、と言われてもその通り。

無能、と言われても返す言葉が無い。

 

二番隊は隠密機動や刑軍が所属すると言う

隊の編成上、副隊長に求められるのは単純な

戦闘能力ではなく部隊の指揮能力である。

 

いや、本来これはどこの隊でも変わらない

のだが、二番隊は特にその傾向が強い。

 

にも関わらず、今回の旅禍の件でこうして失点を

重ねてしまっている今、無能の烙印を押された

大前田は『旅禍との戦いに敗れて殺された』と

言う口実で処分される可能性すらあるのだ。

 

もしも自分がそうやって殺された場合、残された

家族はどうなるだろう?

 

表向き殉死したことになる自分に免じて厚遇する? 

 

否。無能が原因で処理された人間の家族を

厚遇するなんてことはありえない。

 

厚遇しないなら、残る可能性はその逆。

 

二番隊が殺す相手は罪人だ。そうである以上

骨の髄まで利用するのが流儀であり、自分は

その二番隊の副隊長である。

 

死んだ暗部の副隊長なんざ、スケープゴート

として考えれば、これ以上使い勝手の良い

存在はそうそう居ない。

 

大前田が恐れているのはこれだ。

 

ここで無能を晒して処分された場合、自分に

どんな悪名を課せられることになるのか。

 

そして残された家族がどんな扱いを受けるのか。

 

二番隊はいくつもの命令違反を犯した小娘を

庇う十三番隊のような甘い部隊ではないのだ。

 

それを知る大前田は、最悪旅禍に敗れようとも

『無能』と言うレッテルを貼られて死ぬこと

だけは避けようとしており、結果として

これまで砕蜂が見たことも無いような真剣さを

もって任務に当たることになる。

 

諜報を担当する二番隊には油断も慢心もない。

 

「・・・さて、これはどうしたものだろうか」

 

この事実は死神たちにとっては良くとも侵入者

たる旅禍たちにとっては間違いなくマイナス。

 

己の意図していないところで己の目的を果たす

為の難易度が上がっていく事実を受け、どこぞの

伊達眼鏡隊長は今後の予定を組み直すことを

余儀なくされていた。

 

そんな伊達眼鏡隊長を見てどこぞの細目の隊長は

 

(どーせ最後はなんとかするんやろうけど、

それまでは散々悩んでくれたらええなぁ)

 

と、心の中でニッコリしていたとかしていなかったとか。

 

 

~~~

 

 

 

「砂になぁれ!! 『石破っ!』」

 

少しして、遮魂膜との衝突によって分断

された霊圧の一つが着弾した、とある

ポイントでは、偶然近場に居た丸坊主で

目付きが悪い死神と自意識過剰なところが

有る死神が二人の旅禍と接敵していた。

 

「もう一人は知らねぇが、橙色の髪の死神。

そうか。てめぇが兕丹坊を一蹴した

クロサキってやつか?」

 

「あぁ? 何で俺の名前を知ってる・・・

「当たりか。なら死ね」・・・うぉっ?!」

 

丸坊主の死神は橙色の髪をした死神、黒崎一護が

話をしている隙を突いて斬り込むも、その攻撃は

頬を掠めるだけで終わってしまう。

 

「ほぉ。今のを避けるか」

 

様子見とは言え、それなりの早さ、それなりの

威力で放った攻撃を回避された丸坊主の死神、

斑目一角は、目の前の旅禍が事前の報告通り

少なくとも上位席官クラスの実力を備えている

ことを確信して上機嫌になり口許を弛ませる。

 

「いきなり何しやがる!」

 

しかし、次いで放たれた旅禍の言葉が耳に入る

と、上機嫌だったその表情に怒りの色が出る。

 

「あ? いきなりもなにも。侵入者を相手に

『尋常に勝負』なんかすると思ってんのか?

それとも何か? 手前はいきなり自分の家に

侵入してきた賊と仲良く会話する趣味でも

あんのか? 寝惚けてんじゃねぇぞ」

 

賊が隙を見せたら斬る。それだけの話だ。

 

今までどこぞの三席から『弱いくせに戦いが

好きなだけの雑魚』だの『戦闘狂の皮を被った

未熟者』だの『油断慢心する飼い犬以下の

獣モドキ』だの『強いのは声だけ』だのと、

日々散々罵倒された結果、戦闘に対する意識を

矯正されつつある十一番隊第三席斑目一角は、

文字通り目の前に降ってわいた敵を見て、

会話をしながらも隙があったら即座に切り込む

つもりで侵入者の様子を探る。

 

「いや、そう言われればそうなのかも知れねぇけどっ!」

 

(・・・なんだこいつ?)

 

戦士限定でそれなりに人を見る目がある一角が

見たところ、目の前の賊は自分の攻撃を回避

するだけの目と反射神経が有りながら、

その佇まいは隙だらけであり、会話の最中の

呼吸を隠そうともしない未熟者であった。

 

つまり力の有る未熟者と言っても良い。

 

これは、ある意味でどこぞの三席が自分達の

隊長である更木剣八に向ける印象に似ているが、

剣八とは違って目の前の死神からは血の臭いが

しないし、刀を振るわれたと言うのにこちらを

殺そうと言う殺気も感じない。

 

故に現時点で一角は目の前の旅禍を『実戦経験に

乏しい天才』と位置付けることにした。

 

(さて、こいつはどうしたもんか・・・いや、どうするもこうするもねぇな)

 

こう言った相手を目の前にした場合、普段の

一角の思考ならば『経験を積ませてから殺す』

と言う選択をするのだが、今回に関しては

話は別である。

 

何せ現在護廷十三隊に所属する死神には旅禍の

討伐指令が出ているのだ。

 

そんな状況なので、ここで一角が黒崎を見逃した

としても、すぐに他の隊の連中に殺されるだけ。

 

さらに言えば、『敵を強くするために』わざと

逃がしたら、隊長は納得するだろうが、間違い

なく十一番隊の名を汚すことになるだろう。

 

それくらいならここで潰すべき。

 

「十一番隊第三席、斑目一角だ」

 

「あぁ? 何だいきな・・『延びろ鬼灯丸』・・り?!」

 

遊びは無い。ただ殺すべき敵を殺す。

 

一角はいきなり始解した自分に驚愕して体を

固くした敵を見て、すぐさま攻撃を開始した。

 

 

 

 

~~~

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・くそっ!」

 

遊びは無い。

殺すべき敵を殺す。

 

・・・そう言いながらも全力を出すことを

忌避するような戦士に勝ちの目など無い。

 

「―――遅えっ!」

 

「ガッ?!」

 

どこぞの三席が見れば『舐めプと舐めプの

じゃれ合い』と評されるであろう茶番は、

ある意味で順当な結果に終わった。

 

その戦いの内容や結果は、戦闘を観察していた

二番隊の隊士により、即座に護廷の死神たちに

伝達されることになる。

 

「・・・隊長」

 

「ん~君が行ったら情報を得る前に殺しそう

だし、そもそもまだ謹慎中の身でしょ?」

 

「くっ!」

 

「自業自得だねぇ」

 

一部の死神は「斑目さんが?!」と、戦いの結果

に対して驚愕の声をあげるも、大半の死神の

興味は一角の敗北よりも、その旅禍が自らを

『浦原喜助の弟子』と名乗ったことにあった。

 

「くそっ。これで三席かよ・・・」

 

戦いの後、そう呟いた橙色の髪をした旅禍こと

黒崎一護は、己が意図しないままに、朽木ルキア

の救出と言う目的を達成するための、そして

仲間が生きて帰る為に越えなければならない

ハードルの高さを自ら跳ね上げてしまったことを

未だ自覚していなかった。

 

 

 

 

 

 




ハゲは真面目にやっても負けます。
キャラと声は好きなんですけどねぇ。

中途半端に戦って負けるくらいなら、あく卍解しろよってお話。

大前田? ハハッ。


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20話。八番隊の方針

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オリ展開

嫌いな人は読み飛ばし


十一番隊の第三席である班目一角が旅禍に敗北。

 

この一報は現在瀞霊廷に侵入して来た旅禍を

狩る為に動いていた、各隊の上位席官たちを

震撼させるに十分な出来事であった。

 

「あのハゲがねぇ。で、コレがクロサキ

って死神モドキとの戦闘映像、か。」

 

八番隊の宿舎で謹慎していた辰房や、彼の前に

それを持って来た伊勢や京楽の目の前では、

両者の戦いを観察していた二番隊の隊士が撮影

に成功していた戦闘の様子が映し出されていた。

 

その映像を見る限り、班目は旅禍と接触した後

早々に始解を行っており、一見すれば一切の

遊びも無く旅禍に挑んで敗北を喫したように見えなくもない。

 

事実、コレを見ている各隊の隊長格の面々は

班目一角の敗因は彼がふざけたせいではなく、

単純に旅禍が強かったからだと判断すること

になるだろう。

 

「はい。まさか実情はさて置いても、護廷

十三隊に於いて最強を名乗る十一番隊の

三席が真正面から戦って力負けするとは

・・・これは正直予想外でした」

 

「だねぇ。戦闘技術は未熟だけど、霊圧だけを

見れば上位席官はおろか、現時点で副隊長を凌ぐ・・・かな?」

 

実際、八番隊の副隊長である伊勢は映像を

見てそのように判断したし、京楽もまた

旅禍が予想以上に戦えることに内心で軽く

驚いていた。

 

と言っても、それに一切動じない者も居るわけで。

 

「ま、所詮は実力を隠したまま戦いに挑む

ような阿呆です。中途半端に隠すから結局

全体的に実力を出し切れず全部が中途半端。

これでは相手が誰であれ負けるのも道理」

 

そんな動じない者の筆頭である辰房は、班目の

戦闘映像を見て「声だけ勇者が」と吐き捨てる。

 

((声だけ勇者?))

 

言葉の意味は良く分からないが、とにかくすごい罵倒だった。

 

・・・・・・それはともかくとして。

 

「あの、実力を隠す、ですか? 見た感じ

班目三席が手加減しているようには見えま

せんけど?」

 

何処の世界に自身の斬魄刀を破壊するような

相手に手を抜く死神がいると言うのか。

 

そう思いながら、伊勢は辰房に確認を取れば

問いを受けた辰房はそんな伊勢の常識を

一言で切って捨てる。

 

「ん? だってこのハゲ。卍解を使っていないだろ」

 

「「は?」」

 

だからあの戦闘は手抜きだ。

 

映像を前にそう言い切る辰房に、伊勢と京楽は

同時に素っ頓狂な声を上げることになる。

 

「あの、辰房さん?」

 

「ん?」

 

「班目三席って卍解使えたんですか?」

 

「あぁ。一度タコ殴りにした時に挑発したら

激昂してな。実際に卍解はしなかったが、

あの霊圧の高まりは間違いなく卍解の前段階

だろう。それに以前班目から教えを受けていた

阿散井、あぁ今は副隊長だから阿散井副隊長か。

とりあえずあれにカマを掛けたら、あっさりと

暴露してくれたぞ」

 

「はぁ」

 

卍解の扱いが軽すぎる。

 

未だに自身の斬魄刀の始解が出来ていない

伊勢は、そのことに何とも言えない気持ちに

なりながら、そう相槌を打つしか出来なかった。

 

「まぁ班目君の卍解は後で確認すれば良いさ。

で、今の問題は上位席官の筆頭である三席が

一対一で旅禍に敗れたことと、旅禍の彼が

浦原喜助の弟子を名乗ったことだんだよねぇ」

 

「ですね」

 

戦闘自慢の十一番隊の三席が負けた。

それも一方的に、だ。

 

この事実により、今後旅禍には最低でも

副隊長以上を当てる必要が有ると言う

ことになる。

 

とは言っても、京楽は自身の姪っ子である

伊勢を危険な相手と戦わせる気は無いし、

辰房としても伊勢を旅禍と戦わせようとは

思っていない。

 

両者の想いを知る伊勢としては、二番隊を

率いる砕蜂と自分の立場を比べてしまい、

死神として何とも思歯がゆい気持ちを抱いて

しまう所なのだが、ことはソレに収まらない。

 

「・・・それに旅禍の彼も、ねぇ」

 

「はい。まさかあそこで堂々と浦原喜助の弟子を名乗るとは思いませんでした」

 

「よくぞその名を口にした。とその豪胆さを

褒めるべきか、それとも本人から自身の罪を

知らされて居ないのかは不明ですがね。

しかし少なくともコレで彼らを即殺するわけ

には行かなくなったと考えれば、一概に悪手

とは言いきれません」

 

このことを中央四十六室が知れば、間違いなく

彼らを捕えて尋問し、浦原喜助の情報を吐かせ

るよう命令が下ると言うのは想像に難くない。

 

それに何より辰房自身も彼らには個人的に

聞きたいことも有るので、やはり即殺する

わけにはいかなくなった。

 

つまり今後自分たちは三席を真正面から

打ち破るような相手に手加減をして捕える

必要がある。と言うことが確定したわけだ。

 

正直に言えば面倒この上ないことだが、

百年近く探し求めていた情報がここで手に

入ると言うなら辰房にも伊勢にも京楽にも否は無い。

 

更に言えば、彼らは情報を持っていると半ば

以上に確信している朽木ルキアに対して

朽木家からの横槍のせいで真っ当な尋問が

出来なかったと言う事情もある。

 

つまりこれまで目の前でお預けを喰らっていた

ところに、突如として尋問しても問題の無い

相手が現れたと言うことだ。

 

当然彼らにこれを逃す気は無い。

 

後の問題は、どうやって旅禍から情報を

搾り取るか? であった。

 

「旅禍の目的は罪人である朽木ルキアの奪還。

ならば狙うは彼らが朽木ルキアを確保する前か

それともその後か。隊長はどう思いますか?」

 

「うーん。難しいねぇ」

 

「えっと、普通なら前では? こちらが

懺罪宮の付近で見張っていれば、向こう

から来るでしょうから、そこを捕えれば

良いと思いますが」

 

伊勢からすれば、相手の狙いが分かった以上

その近くに罠を張れば勝手に自爆するのでは?

と思うのだが、残念ながらそれは旅禍を殺す

分には良いが、それ以外の全てを軽視している

策に他ならない。

 

「いいかい七緒ちゃん。山じいの方針にもよる

けどもしも僕たちの方針が『彼ら旅禍が

朽木ルキアを奪還する前に捕えること』とする

なら、旅禍を懺罪宮まで接近させるのは失態に他ならないよ」

 

大人の都合。と言えばそれまでだが、そもそも

どんな組織にも面子と言うものが有り、その

面子が『誇り』に繋がると言うのは常識だし

更に『罠を張らなければ旅禍を倒せない』

などと言った風評を許すほど、護廷の死神を

統べる総隊長の山本元柳斎重國と言う死神は

生易しい性格をしていない。

 

「あっ。確かに」

 

「ですね。それに、だ。連中が懺罪宮に接近する

までの間破壊された建物の補修や怪我人の

治療など、訓練では済まないだけの損害が出る。

それくらいなら今のうちに隊長たちを出して

さっさと旅禍を捕えるべきだと思わんか」

 

「あぁ。それもそうですね」

 

大罪人、浦原喜助の関係者に班目一角が敗れた。

 

この事実が有る以上もはや今回の旅禍の侵入は

訓練の域を超えていると見なしても良いだろう。

 

ならばさっさと最高戦力をぶつけて彼らを捕縛し

情報を抜き取った後で逆侵攻・・・では無いが、

彼らの裏で糸を引いている浦原喜助に対して

即座に反撃を行うべし。

 

これが朽木ルキアを奪還される前に旅禍を

捕える際の目的となる。

 

では後はどうか、と言うと・・・

 

「ルキアちゃんを解放した後、旅禍の彼らは

どうしても現世に逃げる必要があるだろう?

それを逆探知すれば、僕らは簡単に浦原喜助の

居場所を特定することが出来るよね?」

 

「あぁ。捕えて尋問しても黙秘や嘘を吐く

場合が有りますからね。下手に時間を稼がれて

逃がすよりは、敢えて泳がせた方が良い。

そう言うことですか?」

 

「だな。この場合は相手を引き込むことも

計算の内になるから、懺罪宮の付近に旅禍を

近付けても総隊長や護廷十三隊の面目を

穢さずに済む。損害や何やらは・・・まぁ

連中の進行方向の誘導や戦闘を行う際の配置を

多少弄れば最低限に抑えることも出来るだろう」

 

「なるほど・・・」

 

極論すれば懺罪宮の前に罠を張る場合でも

誘導などは出来るのだが、それくらいなら

隊長が出て旅禍を潰した方が早いので、

罠を仕掛ける意味が無い。と言う結論になる。

 

「どちらにしろ山じいに確認だね。

あと辰房君は八番隊の宿舎に旅禍が

接近した時だけ戦闘を許可するけど、

自分から向かっちゃ駄目だからね」

 

「・・・了解です」

 

これは京楽による伊勢を戦わせないための

限定的な謹慎の解除とも見れるが、実際の所は

辰房を八番隊の宿舎付近から動かさないように

するための方便である。

 

彼を自由にすれば、喜び勇んで旅禍と戦闘を

行うだろうと言うことは京楽も理解している。

 

本来なら、それは良いコトであって、掣肘するような事では無い。

 

しかしながら、今回の戦闘は捕虜を得るか

向こうを逃がす戦いになる。

 

そう言った手加減が必要なケースになると、

この辰房と言う死神は一気にポンコツと化す

こともまた京楽は理解しているのだ。

 

と言っても、まさか宿舎に乗り込んで来た

旅禍を相手に戦うな。などとは言えないので

こうして限定的な許可を出したに過ぎない。

 

京楽は少なくとも自身が総隊長に提案を行った

後に、死神としての方針が決まるまでは辰房と

言う鬼駒を使うつもりはなかった。

 

そして辰房も自分が手加減を苦手としている

ことは重々承知している上、今回はその相手が

浦原喜助の関係者である。

 

連中を目の前にした場合、何処まで自分を

抑えていられるか分からないと言うことも

自覚していることも有り、辰房には京楽から

の命令に逆らうつもりは一切無かった。

 

 

 

 

こうして問題児たち(京楽と辰房)の思惑が一致し、京楽が山本に対して提案をする為に動こうとしたとき。

 

この場の誰もが予想しなかった、まさしく不測の事態が彼らに襲い掛かる。

 

「報告ッ! 六番隊の阿散井副隊長がクロサキを名乗る旅禍と戦闘に及び、敗北いたしました!」

 

「「「はぁ?」」」

 

予想もしなかった急報を受けた三人は、思わず揃って声を上げる。

 

自分たちが斑目一角と旅禍との戦闘の結末を

こうして報告と言う形で受け、色々と考察を

しているのだから、現場とは多少のタイムラグ

も有るのだろう。

 

故に、その時間で旅禍が阿散井と戦うことも

有るかもしれないし、斑目一角を一蹴した

相手との戦闘では阿散井とて確実に勝てると

は言えないのもわかる。

 

だからと言って、三席の後に立て続けに副隊長

との戦闘に及ぶとなれば、それは不測の遭遇戦

ではなく、どちらかが望んだ戦いでしかない。  

 

しかし、だ。そもそも現在副隊長は隊長に

代わって隊員の指揮を執っているはず。 

 

それが、何でいきなり旅禍と戦闘に及ぶのかがわからないのだ。

 

まさか旅禍が六番隊の隊舎に殴り込みでもかけたのか?

 

それとも、もしかして朽木隊長が出動命令を出したのか?

 

まさか現世で見逃した旅禍が暴れ回って

いることに責任を感じて思わず飛び出した?

 

それとも他に何か理由があるのか?

 

「・・・とりあえず、そのクロサキ君とやらは

どうなったのかな?」

 

京楽はどんな状況が重なって阿散井が戦闘に

及んだのかがわからない為、職務や職責と

言ったことは一先ず横に寄せ、阿散井を破った

旅禍がどうなったかの確認をすることにした。

 

と言っても、これはあくまで『負傷した旅禍を

確保したのはどこの隊だい?』と言う確認で

しかないのだが・・・そんな京楽の気楽な

問いは、報告に来た隊士に沈痛な表情を浮かば

せることになってしまう。

 

「・・・実は。クロサキと共に居た旅禍が

現場に現れ、阿散井副隊長との戦闘で負傷した

クロサキを抱え、四番隊の山田花太郎七席と

共に下水道に姿を消した、と」

 

「四番隊?! いや、それよりも、旅禍を

逃がしたと言うのですか?!」

 

裏切り者の存在や、負傷した旅禍をむざむざと

逃がしたと言う、あまりにあまりな報告に伊勢も

思わず「何をしているんだ!」と叫び声を上げる。

 

「は、はっ。現場に居た者が追跡しようと

したのですが、突如として姿も霊圧も確認

出来なくなったとのことでした。

現在十二番隊の機械でも追えないそうで・・・

私は隊長から『直ぐにこの情報を八番隊へ伝え

るように』と命じられた次第であります!」

 

そう言って、中途半端な情報を報告することに

申し訳なさそうな顔をする二番隊の隊士。

 

しかしその報告を受けた三人は、砕蜂が

自分たちに何を伝えたいかを瞬時に理解し

眉を潜ませる。

 

「・・・突如として見失った? まさか」

 

「認識阻害の術式だな」

 

「はぁ。厄介だねぇ。どうも」

 

副隊長が負け、その下手人に逃げられた。

 

この事実だけでも面倒なのに、敵の狙いが

読めないのが、面倒さに拍車をかけていた。

 

現在京楽や辰房が気にしているのは、クロサキ

の力などではなく、クロサキの後ろに居るのが

判明している浦原喜助の狙いであった。

 

それは『二番隊隊士の目や十二番隊の機器すら

欺ける術式の使い手がいるのに、わざわざ

クロサキに戦闘をさせる理由は何だ?』と言う

疑問であり、同時に『何故それだけの技術が

ありながら、直接朽木ルキアの下に行かない?』

と言う疑問でもある。

 

死神の戦力調査か? 

それとも浦原による意趣返しか?

はたまた旅禍の動きは何かの陽動で本命は他に有るのか?

 

どのケースでも面倒なのは確定しているし、

今から今回の後始末に駆り出されることが

確定している京楽は思わず頭を抱えそうになる。

 

しかし『凶報は単独ではやってこない』と言う法則は、彼ら死神にも適用されるようで・・・

 

「緊急ッ! 京楽隊長!伊勢副隊長!円乗寺三席!旅禍です!旅禍がこちらに接近しておりますッ!」

 

「「「・・・なんでさ!」」」

 

自分達の方針が決まっていない以上、黙って

いれば黙認していたモノを、何故わざわざ

旅禍(犯罪者)隊舎(警察署)の付近に現れるのか。

 

隊士からの報告を受けた三人は、旅禍を

どう扱うべきかを考える為、ほぼ同時に

頭を抱えてしまう。

 

 

 

ちなみにこの時、旅禍の反応を観測していた

十二番隊の隊士は「おいおい、死んだな」

と言いながら茶を飲み。

 

旅禍を追って情報を提供していた二番隊の

隊士も「終わったな。副隊長に報告しよう」

と、自分の任務が終わったことを確信して

撮影と報告書を書くための準備を行ったと言う。

 

 

 

 




原作でチャドさんが訪れたのが八番隊の宿舎なのかどうかは不明です。

ただまぁ三席が居て、隊長と副隊長が居たなら隊舎の近くなんじゃないかなぁと思ったりなんかして。

そもそもの話なんですが、原作主人公ってルキアを脱獄させた後ってどうやって逃げるつもりだったんでしょうかね?(ΦωΦ)?

不覚ッ! このとき既に阿散井が負けてたのを忘れてました!

次回、原作での因縁の戦いに終止符が?!ってお話


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21話。因縁の対決(前)

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嫌いな人は読み飛ばし!

文章修正の可能性有り


「旅禍が来たと言うから誰が来たかと

思えば貴様一人か。一瞥以来だな」

 

「お前は・・・」

 

道すがら死神から聞いた、朽木ルキアが囚われ

ていると言う建物を目指して進んでいる最中、

黒崎からチャドと言われる少年、茶渡泰虎は

以前遭遇した巨漢の死神と再度向き合っていた。

 

茶渡としては、あの時、一護と門番の戦いや

その後に現れた細目の死神による門番への

説教や攻撃などと言った話の流れに着いて

いけなかったのは今でも仕方がないこと

だとは思っている。

 

しかし、問題はその後だ。

 

突如として現れた彼が、一護と戦った門番を

粛清した後に自分たちに向けて放った火の鳥

のようなもののせいで、それから自分たちを

庇う為に夜一が負傷してしまった。

 

その時、彼が言った「いつから貴様らが対象外だと錯覚していた?」

と言う言葉は、今でも耳の奥に残っている。

 

そうなのだ。彼ら死神にとって自分たちは

侵入者にして犯罪者の仲間なのだ。

 

ならば直接戦っていなくとも、向こう

から敵視されるのは当然ではないか。

 

それなのに自分たちはのんびりと一護の

戦いを観戦して、気を抜いてしまった。

 

緊張を維持していなかったが為に、攻撃を

受けた時も咄嗟に動くことができなかった。

 

あのときの無力感を忘れてはいないし、

忘れてはいけない。

自分達はそう心に刻みつけたのだ。

 

油断を無くす切っ掛けとなった相手を

前に警戒する自分を見て何を思ったか、

死神は一つ溜息を吐いてから口を開いた。

 

「前は名乗ってなかったな。護挺十三隊、

八番隊第三席副隊長補佐、円乗寺辰房だ。

旅禍よ、貴様らが何の為に我らに挑んできた

のかはすでに理解している。

故に結論から言おう。朽木ルキアは諦めろ。

それと、大人しくするなら殺しはせん。

騒ぐなら死ぬほど痛い目に遭わせるがな」

 

「なん・・・だと・・・?」

 

今この死神は何と言った?

 

「三席? 副隊長では・・・無い?」

 

「私が副隊長?あぁ、情報源は

浦原喜助か四楓院夜一か。

まぁ普通に考えればそうだろうよ」

 

「普通に?」

 

つい口に出してしまった言葉に対して

反応する死神を前に、茶渡は瀞霊廷に

侵入する前日にした皆との会話を思い返す。

 

 

 

~~~~~

 

 

『あの時、瀞霊廷の中にいた細目の死神は

三番隊の隊長でな、死神の中でも指折りの

強者じゃ』

 

「アレが隊長か。確かに兕丹坊もそう言ってたな」

 

一護が苦い顔をしながらそう呟く。

 

『次いで、儂らに鬼道を放って来た巨漢の

方は、儂が知る限りでは第三席じゃった。

しかし今は副隊長になっておるはずじゃ』

 

「「副隊長・・・」」

 

巨漢が生み出した火の鳥の標的にされた

石田と茶渡は揃って呻くような声を出す。

 

2人は片手間と分かるような一撃で自分に

明確な死のイメージを与えて来た存在が、

向こうの最高戦力ですらないと言う現実を

知り、自分たちが敵に回したモノの強大さを感じていたのだ。

 

『じゃが、アヤツがあれだけの鬼道を放てる

ようになっておるとは知らなんだ。

あの威力はそんじょそこらの副隊長が放てる

モノではない。それを考えればヤツの実力は

既に隊長クラスと言っても良いじゃろうよ』

 

「あれが隊長クラスの実力、か」

 

聳え立つ壁の高さを思い、苦虫を噛み潰したか

のような表情をする石田。

 

そんな石田を前に、一護は別の可能性を考える。

 

「・・・アイツも隊長って可能性は無いのか?」

 

『む? それはどういう意味じゃ?』

 

「いや、実はあのとき・・・・・・」

 

何か根拠があるのか?と問う夜一に対し

一護が言うにはあの時、門が下りる前に

巨漢の死神が細目の死神に対して何か

文句をつけているようだったと言う。

 

もしも副隊長なら隊長に対してもう少し

従順じゃないのか? と言うのが現世で

六番隊の隊長、副隊長と遭遇した経験が

有る一護の意見であった。

 

『ふむ。まぁ朽木ならそうかも知れんな。

しかし隊長と副隊長の関係は型に嵌った

ような関係だけではない。

それに死神の場合は年齢の関係もある。

故に態度だけで向こうの関係や階級を

決めつけるのは危険じゃぞ』

 

平子と猿柿。六車と真白と言った例を

間近で見て来た夜一は、しみじみと

隊長と副隊長の関係についてを思い返す。

 

「年齢? あぁ、そうか。死神って

見た目と年齢が比例してないんだもんな」

 

朽木ルキアを知る一護からすれば、

彼女が50を超えていると言うのも

信じられないくらいだが、それが

事実である以上否定するつもりはない。

 

『うむ。そうじゃな。それと先任や

後任という関係もあるしな』

 

夜一が言うには、細目の死神は100と

少し、少なくとも200は超えていない

はずだが、巨漢の方は200年以上は

生きているそうだ。

 

実力主義を標榜する死神の場合、年功を

重視するわけでは無いが、同程度の実力

を持つなら先達を敬うようなところがある。

 

それで言えば、細目の死神が副隊長に

なる前から巨漢の死神は副隊長だった

ので、先輩と後輩と言う立場の可能性も

あるとのこと。

 

『それにヤツは隊長が着る羽織を着とらんかったじゃろ』

 

「羽織?」

 

『そう。あの細目の、市丸が着ておった

白い羽織のことじゃ。

余程の事情が無い限り、隊長が任務に就く

際はアレを羽織るのが死神の習わしじゃて』

 

「あぁ。なるほど」

 

隊長として着ることが義務付けられて

いる羽織を着ていない。故に彼は隊長

では無いと言う夜一の意見に、一護も

納得の意を示す。

 

ただ、それに何の意味が有ると言うのか。

 

「だけど、あの人が隊長さんじゃないって

ことは、隊長さんはあの人よりも強いって

ことなんだよね? そんな人が少なくても

13人もいるんでしょ?」

 

「「「・・・・・・」」」

 

文字通り自分たちを片手間で殺せる実力を

持った相手が、敵の最高戦力ではない。

そしてそれ以上の戦力が向こうには沢山いる。

 

井上がそのことを指摘すると、一護も石田も

茶渡も、揃って表情を曇らせた。

 

意気消沈する子供たちを見て、夜一は

(やっと事の重大さに気付いたか)と

内心で溜息を吐きながら、今後の方針を

伝えることにした。

 

『そうじゃ。だからこそ隊長や副隊長との

戦闘はしてはならぬ。

故に、今後は朽木ルキアを救出すること

だけを考えて、出来るだけ目立たぬように

動くことを心掛けよ。

特に一護。先だってのように、何も考えず

に死神に挑むような真似は断じて行うな』

 

「・・・あぁ」

 

あのとき、奇襲を仕掛けていれば無傷で門を

突破出来ていたと言うのに、わざわざ門番と

戦い、無駄に音を立てたせいで強者を呼び

寄せてしまったと言うことを自覚している

一護は、夜一からの念押しに対し、反論する

ことなく大人しく返事を返す。

 

自分たちの目的は死神の打倒ではない。

朽木ルキアの救出なのだ。

 

「だけどよぉ。向こうに入った後で、また

アイツと出会ったらどうすりゃ良いんだ?」

 

その思いを再認識して「無駄な戦闘はしない」

と心に決めた一護だが、それでも向こうから

やってくる場合もあるだろう。

(実際は自分たちから向こうが待ち構えて

いる場所に飛び込むのだが)

 

その時はどうする? と一護が問えば、

夜一は少し悩んでから『・・・その場合は

降伏か交渉するしかあるまい』と答えた。

 

彼女の本音の部分では『諦めろ』と言いたい

ところであったが、まさか協力者に過ぎない

少年たちに『自分たちの計画の為に死ね』

とも言えず、中途半端な指示となってしまう。

 

「つまり、諦めろってことかよ」

 

だが一護とて遊びで死神の本拠地に乗り込む

わけではない。

夜一が何を言いたいかを理解し、あえてそれを

口に出すことで、意識の共有を図る。

 

「井上、チャド、石田。聞いての通りだ。

これから先は本気でヤバイ」

 

「黒崎君?」

 

「ルキアを助けたいってのは俺の我儘だ。

それに付き合わせてお前たちまで危険な

目に遭わせるわけにはいかねぇ。

だからここで・・・」

 

「おいおい、正気か黒崎?」

 

待っていてくれ。苦渋の表情を浮かべながら

そう告げようとした一護に石田が声を掛ける。

 

「ここまで来て待たせるってなんだ?

それにそもそも僕は死神と敵対する

滅却師だぞ?

死神が強いことも、ここが危険なことも

承知の上でここにいるんだ。

・・・まぁ、あの時ろくに動けず夜一さんの

足を引っ張ったことについては謝罪するしか

ないが、それでも君に心配されるような

筋合いはない」

 

「石田・・・」

 

一護が何かを言う前に、石田はハッキリと自分の意見を告げる。

 

「そうだな。俺とてそのくらいは知った

上でここにいる。今更待てと言われてもな」

 

「そうだよ! ここで待ってた方が辛いよ!

それに黒崎君も茶渡君も石田君も回復とか

出来ないでしょ? 誰かが傷付いた時に

私が居ないと駄目だと思うんだけどなぁ?」

 

自身が口下手であることを知っている茶渡は

この流れに乗ろうと口を開く。するとこの

深い空気を吹き飛ばそうとしたのか、井上も

あえて軽い口調で一護に対して自身の有用性を

主張する。

 

「チャド、井上・・・すまねえ」

 

自分一人で行く。そう心に決めていた一護で

あったが、皆の声を聞き、心の中でさっきの

自分に『何を恰好つけてんだよ!』と悪態を

つきながら、皆の覚悟を軽んじていたことを

謝罪する。

 

『まったく、仕方のない連中よな』

 

そんな少年たちを見て、彼らを巻き込んだ

側の人間である夜一もまた心の中で謝罪し、

一つアドバイスをすることにした。

 

『もしもの時は大人しく降伏して『儂や

喜助に騙された』とでも証言せよ。

さすれば殺されることはあるまい』

 

「夜一さん、それは・・・」

 

一護も石田も茶渡も薄々と感じていた

ことではあるが夜一や浦原喜助は、

死神と何かしらの接点が有るらしい。

 

そのことを隠しながらも、己が危なく

なったら自分たちの名を使えと言って

くれた夜一に対して、一護らが感じたのは

隠し事をしていることへの不信感では

なく、隠し事がバレるかもしれないにも

関わらず自分たちの安全を考えてくれる

ことへの感謝であった。

 

 

~~~~~

 

目の前の男は副隊長ですらない。

 

その事に内心で驚愕しながらも、茶渡は

自分がどう動くべきかを考える。

 

「私の役職などどうでも良かろう。

で、こちらはすでに要求を伝えたが、

大人しく捕まるつもりはあるか?」

 

この場合、大人しく捕まると言うことは

夜一や喜助を売ると同じことだ。

 

茶渡には信頼を預けてくれた相手を売ると言う選択肢は、ない。

 

「・・・そこを退いてくれないか?」 

 

降伏は出来ない。ならば残るは交渉となる。

 

しかし、このとき茶渡は自分が大きな

勘違いをしていることに気付いていなかった。

 

それは、目の前の巨漢が突き付けた

要求は『大人しく従うか、それとも

抵抗して捕まるか』の二択だけであり、

その中に『交渉』と言う文字が無かった

ことだ。

 

相手の要求を無視すると言うのは、それが

出来るだけの力を持つ者の特権である。

 

そして茶渡泰虎と言う少年には、目の前の

死神からの要求を無視できる力は、ない。

 

「この私に旅禍である貴様を見逃せと?

浦原喜助と繋がりが有る貴様を見逃せと?

・・・寝惚けるな」

 

「ぐっ!」

 

今まで何も感じなかった巨漢の死神から

突如として発せられた霊圧に押し潰され

そうになりながら、茶渡は己の失敗を悟る。

 

「旅禍に負ける死神も阿呆なら、死神に

交渉を持ちかける旅禍も阿呆よ。

貴様がここに至るまでの道中どのような

死神と遭遇し、何を勘違いしたのかは

知らん。しかし先ほども言ったはずだ。

貴様はここで終わりだ、とな」

 

大人しく従わないなら死ね。

 

そう言わんばかりの圧力に、明確な

死の気配を感じ取った茶渡はただ一言

「すまん、一護」と呟いた。

 

 




夜一さんは他の死神に興味が無かったので
現役の二番隊の隊長をして居たときは
上級貴族でもなければ隊長格でもない
辰房のことは書類上のことしか知りませんでした。

なので「リサが居なくなったら三席だった
辰房が副隊長だろ?」
と言う程度の情報しかもってません。

リサはリサで、誰が藍染の鏡花水月に
かかっているかわからなかったので
辰房の情報は誰にも与えてません。ってお話。


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22話。因縁の対決(後)

筆が乗ったので更新。
久々の常識フィルター発動回

あくまで作者の常識に則ったツッコミなので
死神社会の価値観がこうだとは限りません。

オリ設定
オリ展開

嫌いな人は読み飛ばし。


ガキに「黙って投降すればそれで良し。

もし抵抗するなら痛い目に遭わせる」と

告知したところ、ガキが決死の覚悟を

決めた件について。

 

いや「すまん。一護」じゃねぇよ。

これだから自分に酔ったガキは嫌いなんだ。

 

とは言っても、このまま攻撃を加えたら

間違いなく目の前のガキは死ぬだろう。

 

手加減を加えて痛めつけても、こういう

奴は絶対に仲間を売らんよな。

 

ならどうする? 簡単だ。

庇う相手を選別させてやれば良い。

 

「抵抗する、か。まぁそれもよかろう。

しかし絶望を教える前に一つ聞きたい」

 

「・・・何だ」

 

「お前は何のためにここに来た?

いや、朽木ルキアを奪還しようとして

いるのは知っている。しかしながら、

それはクロサキとやらの願いだろう?

お前が命を懸ける理由にはなるまい?」

 

どうやらアレが朽木ルキアが死神の力を譲渡

した相手らしいからな。

 

なので今回の朽木ルキアの処刑はクロサキが

『自分のせいで朽木が捕まった!』と錯覚

してしまうのも、まぁわからないではない。

 

そんな感じで動揺していたところに

浦原が声を掛けたのだろうさ。

 

浦原の行動もアレだが、まさか死神の力を得て

1年にもならぬ若造に三席や副隊長が負ける

とは思わなんだ。

 

更に滅却師のガキに四席の一貫坂慈楼坊も

負けたと言うではないか。

 

それにこのガキがここに来たと言うことは

これまでに遭遇してきた死神も敗れたのだろう?

 

しかも見た感じ無傷。

 

まったく、この様でよくもまぁ護廷の死神を

名乗れたものよ。

 

一体どれだけの恥を晒せば気が済むのだ。

 

「・・・一護が助けたいと望んだからだ」

 

死神の不甲斐無さに溜息を堪えていると、

ガキがこちらを警戒しつつ徐に口を開いた。

 

と言うか、イチゴが望んだ? 

 

「そのイチゴとはクロサキのことか?」

 

「・・・あぁ、そうだ。あいつが命を懸けて望むなら、俺も協力する。俺はそう決めている」

 

なんとまぁ。

 

友が望んだから自分も命懸けで望む、か。

戦う理由を他人に依存していることは正直

気に入らんが、それに関しては人それぞれ。

俺から特に言うべきことは無い。

 

だがこれなら、殺したり尋問せずとも

情報が抜けるかもな。

 

・・・試してみるか。

 

「ふむ。そもそもクロサキや貴様は此度

何故朽木ルキアが処刑されることになった

のかと言うことを理解しているのか?」

 

まずはこれだな。

 

「・・・彼女が一護に死神の力を譲渡したからだ。と聞いている」

 

「ほう。そこまでは話していたか。

では再度聞こう。それを知りながら

何故貴様等は『朽木ルキアを解放する』

などと寝言をほざくのだ?」

 

「寝言、だと?」

 

ここで怒る?つまりこのガキは中途半端な

情報しか与えられておらず、現実を一切

理解出来ていない。と言うことか?

 

ならば教えてやろう。

 

「聞け。貴様等の国では知り合いが罪を犯して

死刑の判決が出た際「その判決が気に入らん」

と言って問答無用で殴り込み、力づくで牢を

破って罪人を逃がすと言う行為は当たり前の

行為なのか? それは犯罪ではないのか?」

 

室町だの江戸の時代ならまだしも、今の

現世は昭和か平成だろ?

 

「・・・いや、それはない。罪は償う

べきだ。しかし死刑はやりすぎだろう」

 

おいおいこのガキ。何を以てやりすぎだと

判断しているんだ?

貴様等の価値観が絶対の正義とでも言う

つもりか?

 

あぁ、そう言えば伊勢が隊士の中にも今回の

朽木の死刑判決について異を唱える連中が

居るとか言っていたな。

 

・・・主に十三番隊が。

 

でもって、下手に隊長同士が親しいから、

ウチの連中も感化されている可能性も

有るんだよなぁ。

 

よし。これ以上阿呆なことを言わんよう、

周囲にいる隊士連中にもわかりやすく

説明してやろうじゃないか。

 

「やりすぎ。と言うがな。そもそも貴様らは

此度朽木ルキアが犯した『死神の力の譲渡』

と言う罪がどれだけ重い罪なのかを理解して

いるのか? それに朽木ルキアが犯した罪は

それだけではないのだぞ?」

 

「・・・」

 

これは、理解していないな。仕方ない。

 

「今回は私が説明してやろう。隊士たちも聞け。

あれはな。貴様らの国で言うならば、強盗を

相手にして怪我を負った警察官が自分が持つ

拳銃を、通りすがりの民間人に貸し出して

暴漢と戦わせたようなもの。と言えばわかるか?

もしくはテロリストの討伐任務中に負傷した

自衛隊員や特殊部隊に所属する者が、己が持つ

自動小銃を民間人に貸して、自分の代わりに

敵と戦わせた。でも良いな」

 

もう駄目だろ?

 

「それは、いや、しかし・・・」

 

「しかし、なんだ? だがまぁ緊急事態で

そうするしか無かったと言うケースもある。

故に、通常これだけでは死刑にはならん」

 

「なら!」

 

なんで今回は死刑に? ってか?

そんなの決まっているだろう。

 

「問題の本質は朽木ルキアが我々への

報告を怠ったことだ。

本来ならばすぐに自分の状態を報告して

交代要員の要請をすべきところを、

アレは自分の失態を誤魔化すために姿を

眩ませ民間人に継続して戦わせたのだぞ?

もし貴様らの国で警察官や自衛官がそれを

したらどうなる? まともな軍隊がある国

ならば銃殺刑に相当する罪ではないのか?」

 

平和ボケしていると言われる日本ですら

大問題だろうが。

 

他の国なら間違いなく処刑案件だろうに。

 

「・・・・・・」

 

何も答えられないガキに対し、俺は

続けて朽木ルキアの罪を告げる。

 

「そして、我々の法では浦原喜助や四楓院夜一

との繋がりも立派な罪となるのだよ」

 

「・・・喜助さんや夜一さんとの繋がり?」

 

喜助さん。ねぇ。やはり繋がりがあったか。

 

「貴様は知らんだろうが、浦原喜助と言う

死神は過去にこの尸魂界で重罪を犯した

挙げ句、裁判の最中に現世に逃げた犯罪者。

そして四楓院夜一はその逃亡を幇助した罪人だ」

 

「なっ!」

 

ふむ。何も説明を受けていなかった、か。

 

浦原め。何が狙いかわからんが、無関係な

ガキを使うことで此方の良心に訴えかける

策か? 舐めた真似をしてくれる。

 

「貴様の態度を見ればわかる。浦原喜助は

そちらで名前を偽っていないのだろう?

ならば「古い話だから朽木ルキアは

浦原喜助の名を知らなかった」などと

言った言い訳は通じん。

わかるだろう?警察官がいまだ逃亡中の

指名手配犯と仲良くしていたらどうなる?

「知らなかった」で通用するか? 

国によってはそれだけで背信行為となり、

銃殺刑になるのではないか?」

 

中東とかもそうだが、普通に先進国でも

殺す可能性が有るだろうが。

 

「・・・」

 

「そして現世に赴く死神には要注意事項

として浦原喜助の名が伝えられることに

なっている。故に尚更「知らない」では

済まないのだ。

もしも上役が伝達を怠ったのだとしても、

無能と不勉強と言う本人の罪が減じることは

無い。アレが所属する十三番隊とその上役に

「無責任」と言う罪が課せられるだけだな」

 

連中はそんな自分たちの怠慢を棚に上げて

朽木の免罪を申し入れたそうだが、これに

関しては心から「寝惚けるな」と言いたい。

 

「そして朽木ルキアが朽木家の死神であることも

当然無関係ではない」

 

「・・・朽木家の死神?」

 

「そうだ。朽木家は瀞霊廷内でも四大貴族

とまで言われるほどの大貴族でな。

養女とは言えその家名を名乗る娘が、先に挙げた

大罪を犯しておきながら処刑以外の刑罰となった

場合、必ずや『朽木だから罪が軽くなった』と

言う声が出るだろう。

それはつまり今後の尸魂界に於ける信賞必罰の

在り方を歪ませることになる。

だからこそ朽木ルキアは殺さねばならん。

それが尸魂界の法なのだ」

 

目の前の少年もそうだが、周囲の隊士が

それを理解していないと言うのが頂けん。

 

死刑が早まろうが何だろうが、アレが死刑に

相当する罪を犯したことに間違いはないのだ。

 

その裏にある政治的な臭いなど、現場の

兵士が気にすることではない。

 

不満が有るならそれぞれの隊長に言え。

 

で、その隊長も不満を覚えているなら

自身が総隊長なり中央四十六室に対して

訴えれば良い。

 

結果がどうなろうと兵士は従うだけだろうが。

 

「良いか? 現在貴様らが行っているのは、

法によって知り合いが処されることに対し

「気に食わん」と言って他国に不法入国を

し、暴力を以て犯罪者を脱獄させようと

する行為だ。

・・・我々が貴様等を旅禍と言うから

分かりづらい部分もあるのだろうな。

旅禍とは、言いかえればテロリストなのだ」

 

「テロリスト・・・」

 

「そうだ。そして瀞霊廷にはテロリストから

干渉を受けて、一度裁定が下った刑罰を覆す

者もいなければ「犯罪者を開放するから捕ら

えてる場所を教えろ」と言われて、馬鹿正直に

「あそこです」などと教える阿呆もいない」

 

あの門番気取りが例外なんだよ。

 

「・・・いや、それは「いたか?ならば

その死神を教えろ直ぐに処刑してやる」

・・・確かにそんな死神はいなかったな」

 

そうだろうそうだろう。

 

まぁ後でコイツの進路を見て、これまで

コイツと接触したであろう死神を割り出し

聴取するのは確定しているがな。

 

それはともかくとして。

 

「また「犯罪者を解放するのに邪魔だから退け」

などと言われて、素直に道を譲る者もおらん!」

 

「護廷の死神を舐めるな」と周囲の隊士

にも理解できるよう、先程よりも強めの

圧をばら撒けば、それを至近距離で浴びた

ガキは「くっ」と顔を歪めながら膝をついた。

 

自分達が正義ではなく、罪人の側で

あることを理解したのだろう。

 

その目には、先ほどまでの刺し違えてでも!と言った気配はない。

 

ガキの中で自己の正義が揺らいだことを

確信した俺は、再度旅禍の小僧に勧告をする。

 

「最後に問おう。大人しくこちらに従う気は

あるか?抵抗するならここで死ぬ一歩手前

まで痛めつけてから拷問を行い貴様が持つ

情報をもらうだけだ。

だが逆に抵抗しないと言うのなら、簡単な

取引に応じてやろうではないか」

 

「・・・取引?」

 

「そうだ。貴様等の世界では司法取引と言う

のだったか? 今のところ貴様らの扱いは

「浦原喜助に唆された被害者」だ。故に

貴様がその事実を理解し、改心して我らとの

取引に応じると言うのなら、その取引の対象は

貴様一人に留まらん」

 

「それは・・・」

 

「当然クロサキもイシダもイノウエも

命は取らんと約束をしよう。

まぁクロサキは少し暴れているようなので

多少の傷は負うかもしれんが、しっかりと

治療して現世に帰そうではないか。

また現世に戻った後もこちらから貴様等に

危害を加えないようにも出来る。

我々の敵は貴様らを差し向けてきた浦原喜助で

あって、アレに騙された貴様らではないからな」

 

そもそもこいつらってここまで暴れて

おきながら、どうやって現世に帰る

つもりだったんだろうな?

 

それに現世に戻った後に報復される

可能性を考えなかったのか?

 

「帰還・・・か」

 

内心で不思議に思っていると、ガキは

ガキで「今気付いた」みたいな表情をした。

 

おいおい。本当に鉄砲玉として送り込まれて来たのかよ。

 

浦原喜助は本当にクソだな。

 

「もしもこれに応じないなら話は終わりだ。

貴様も、見るからに戦いに向かない少女も

滅却師の少年も、そしてクロサキも。

全員が死ぬか、生きていたとしても死の一歩

手前まで痛めつけた後で、浦原喜助や

四楓院夜一に関する情報を抜くための拷問を

させてもらうことになる。その後は当然、な」

 

言外に「自分の判断で仲間全員を殺すか?」

と聞けばガキは、少し迷いながらも小さな

声で「内容を聞かせて欲しい」と呟いた。

 

・・・釣れた。

 

別にガキの心が折れたわけではない。

 

自分は正義ではなかったことを知り。

友人も騙されている可能性が有ると言う

ことを理解しただけだ。

 

言うなれば自分の力や浦原喜助、四楓院夜一

への信頼よりも、俺や今後のことへの恐怖と

「仲間全員の身の安全」と言う希望に縋った

と言っても良いだろう。

 

それに、実際クロサキが浦原喜助の弟子を

名乗ったことで上層部では殺すよりも

捕虜にすべきって話になっているから、

現時点で俺達が連中を殺さないって

言うのは嘘じゃないしな。

 

ついでに言えば、現時点での俺たちの被害は

訓練と言って甘くみた一般の隊士や、阿散井や

班目と言った戦いを勘違いした雑魚が負けた

だけであって死者などの報告も無いことから、

総隊長とてこいつらを捕虜にした後に絶対に

処刑をする! とまでは考えていない筈。

 

もし総隊長や中央四十六室が処刑を考えていたら? 

 

そのときはこいつらを処刑すれば良いだけの話だ。

 

俺とて浦原喜助と繋がっている旅禍を

生かしたいわけでは無いからな。

 

武器を持って押し入って来た強盗に対して

「武器をしまえば警察に連絡しない」と

交渉した結果、強盗がそれを信じて武器を

仕舞ったらどうする?

 

捕まえるだろ?

 

もし「俺に騙された!」と騒いでも

「敵の言うことを馬鹿正直に信じる

方がアホなんだ」と言ってやるさ。

 

俺の内心を知ってか知らずか、遠くで

見ていた京楽隊長や伊勢は「うわぁ」と

言った表情をしているが、目の前のガキ

はそんな余裕は無いようで、必死で

最善の答えは何か? を考えている。

 

そうそう。精々迷って考えてくれ。

そして願わくば取引に応じて欲しい。

 

潰さないように蟻を踏むのは、力の加減が難しいのだから。




最後の一行が辰房君の本音です。
なにせ殺さずに捕まえて情報を抜くのは確定していますからね。

負傷させたら四番隊にも情報が伝わるし、
そもそも四番隊は席官が裏切っている
ので信用がありません。

ルキア=サンもなぁ。
せめて生存報告くらい自分でしなきゃダメでしょ。
それをしないと職務怠慢だし、自分のミスを
隠蔽しようとしてるって言われても反論はできませんよ? ってお話。


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23話。原作主人公の受難

オリ設定
オリ展開

嫌いな人は読み飛ばし。


辰房が常識を説くことで、茶渡のSAN値を

ゴリゴリと削っている最中のこと。

 

阿散井との戦闘の後、山田花太郎と

志波岩鷲によって身柄を回収されて

再度下水道に身を潜めながら追手の死神の

目を欺きつつ怪我や体力を回復させていた

黒崎一護は、『副隊長にも勝てた』と言う

事実から自分の力を過信したのか、回復後は

「時間が惜しい」と言わんばかりに正面から

堂々と朽木ルキアが捕まっている懺罪宮に

向かって全力で疾走していた。

 

「あれ、か?」

 

しかし、そんなことをすれば彼らを探して

いる死神に見つかってしまうのは明白。

 

「がはっ?!」

 

「花太郎!」

 

「くそっ!」

 

「岩鷲っ?!」

 

突如として一向に浴びせられた桁外れの

霊圧に、山田花太郎は呼吸も出来ない程に

追い立てられ、志波岩鷲もまた思わず膝を付く。

 

「あ~。あんなに怯えてかわいそ~」

 

自分自身プレッシャーを感じながらも、

二人を心配する一護の耳に、場違いと言える

ような明るい少女の声が響いた。

 

「なっ?! 二人から離れろ!」

 

「ん?」

 

突然「ぴょこっ!」と言う効果音が付きそうな

感じで現れた少女に、一護は思わず声を荒げて

斬魄刀を振りかざすも、本気には程遠い攻撃は

当然のようにひらりと回避されてしまう。

 

一護の攻撃を回避した少女は、バツが悪そうな

表情をしながら、一護の後方。つまり彼らの

進行方向へと移動する。

 

「くそっ!」

 

少女の動きを追って振り返った先には

いつの間にか少女以外にも2人の死神が

佇んでいた。

 

「馬鹿が。今のはお前が悪い」

 

「え~」

 

一人は長身で髪を逆立てたような、刺々しい

感じの髪をした柄の悪そうな死神。

 

探知能力に乏しい一護ですら、先程から

感じている桁外れの霊圧を発しているのは

この死神だ! と一目で確信するほどの

荒々しさを感じさせる死神だ。

 

「本来負傷者にはもう少し配慮が必要なの

ですが、そこの裏切り者には良い薬でしょう」

 

「ですよねー。聞いた剣ちゃん?」

 

「ちっ」

 

そしてもう一人は、落ち着き払った大人の

余裕を感じさせながらも、花太郎に対して

容赦のない言葉を投げかけた女性だ。

 

「裏切り者、だと?!」

 

一護からすれば花太郎はルキアの救出に

手を貸してくれる同志だ。

 

それを一方的に裏切り呼ばわりされて

面白いはずがない。

 

しかしそれはあくまで一護の理屈。

 

「怒りましたか?しかし、そこな山田七席が

旅禍であり、侵入者であり、阿散井副隊長を

斬った護廷の敵である貴方を癒したのは

事実でしょう? その行為は一般に「裏切り」

と言われる行為ですよ」

 

「あ・・・あぁ・・・」

 

静かに、だがはっきりと花太郎の罪状を

口にする女性を見て、花太郎は絶望の

表情を見せる。

 

「全く以て情けない。まさか私の隊から

裏切り者が出るなんて、ねぇ。

砕蜂さんが言う「温い死神」と言うのは

私のことも含まれていたのでしょう。

いやはや、本当に舐められたものです」

 

「くっ!」

 

その言葉と同時に彼女から放たれた霊圧は、

隣の男が放つ痛みを感じるかのような

刺々しいモノではなく、もっと静かなもの

であったが、その静謐さと同時に感じる

圧力はまるで深海に沈められたかのような

息苦しさを感じさせるものであった。

 

(こいつら、明らかに副隊長の阿散井より強ぇ! まさか、隊長か!)

 

内心で驚愕しながらもなんとか斬魄刀を構える一護。

 

しかし、彼はその行動がどれだけ遅く、

そしてどれだけ致命的な行動なのかを

自覚出来ていなかった。

 

「護廷一三隊四番隊隊長卯ノ花烈。

旅禍の少年よ、志波の子よ、そして

護廷を裏切った罪人よ。

あなた方の旅はここで終わりです」

 

自分の顔に泥を塗るのは、まぁ良い。

だが護廷を裏切ったことは許さん。

 

ただでさえ護廷に賭ける思いは総隊長にも

劣らない卯ノ花は、それを裏切った花太郎

に対して明確な殺意を抱いていたし、

咄嗟のこととは言え、自身に武器を向けた

一護のことも明確に『敵』と認識した。

 

そして敵と認識した相手に情けをかけるほど

卯ノ花烈と言う死神は甘くはない。

 

「お~卯ノ花さん、本気だねぇ」

 

「あぁ。後で手合わせしてぇくれぇ本気だ。

・・・一角の尻拭いで雑魚の相手をするなんざ

面倒だと思ってたが、コレを引き出してくれた

ことは感謝してやるよ」

 

場の流れを完全に卯ノ花に持って行かれた

少女と長身の死神は、そのことに苦情を

言うどころか、卯ノ花が本気で憤りを覚えて

いることに喜びすら感じていた。

 

ちなみに普段の卯ノ花烈と言う女性は

滅多なことでは怒らないし、目の前の

雑魚のような連中を相手に明確な殺意を

出したりもしない。

 

一護たちの不運は、彼らと行動を共にする

山田花太郎と言う死神が彼女が隊長を務める

四番隊の席官でありながら護廷を裏切り

旅禍に手を貸したという事実と、ここ数年間

自分が見定めて育てようとしていた死神が

どこぞの三席によって鎧袖一触で蹴散らされ

ながらもしっかりと成長して行く様子を

間近で見せられてきたことによって、彼女の

中に言いようもない鬱憤が溜まっていたことだろう。

 

『全力で戦える相手が欲しい』

 

常日頃からそういった思いを抱え込んで

きた護廷最凶の死神が今、旅禍に対して

その牙を剥く。

 

 

 

 

 

「いや、本気なのは良いんだが、確かじじいは「殺すな」って言ってなかったか?」

「そーだけど。もう忘れたんじゃない?」

 

・・・彼女が発した殺意は、隣にいた

死神が思わずツッコミを入れるほど

苛烈なものだったと言う。

 

 

~~~~

 

 

そのころ某所。

 

 

「隊長。これ、黒崎死ぬんちゃいます?」

 

細目の死神がモニターを見ながらそう呟けば

 

「あぁ。どう考えても死ぬね。・・・さて、これはどうしたものかな」

 

伊達メガネをつけた死神もまた、細目の

死神の言葉に同意する。

 

本来の計画では、始解が出来ず鬼道が苦手な

為に正面からの斬り合いしかできない筈の

更木剣八を当てて、黒崎一護の成長を促す

予定だったのだが、その黒崎と一緒になって

朽木ルキアを助けようとした山田花太郎の

存在が、卯ノ花烈を動かしてしまったのが

今回の誤算に繋がっていた。

 

(回復役が必要だと思ったんだけどねぇ)

 

さらに今回の『現場は副隊長に任せて

隊長はその監督に当たる』と言う体制も

悪い方向に進んでしまった要因だろう。

 

結果として彼女は医療の現場を副隊長の

虎徹勇音に任せ、自身は部下の粛清に

乗り出してしまったのだ。

 

困ったな。と言いながらも『隊長』と

呼ばれた死神はどこか余裕を感じさせる

表情を浮かべながらモニターを見ている。

 

彼にすれば黒崎の成長にも興味は有るが

「卯ノ花烈の戦力調査を行いたい」と言う

思いもある。

 

(もう出たとこ勝負で良いんじゃないかな?)

 

そもそも彼にすれば、ここで黒崎が死のうが

捕まろうが、朽木ルキアを処刑した後に

目的のブツを手に入れることが出来れば

それで良いのだ。

 

懸念していた「浦原喜助が黒崎一行に対して

何かしらの情報を渡している」と言う様子

もないようだし、今のままでも十分目的が

達成できそうなので、特に手を出す必要性を

感じていないと言っても良いだろう。

 

「まぁ現状どう転んでも目的は達成できる。

ならば不必要に動かないのが正解だろう」

 

優先順位を弁えている伊達メガネの死神は、

今は何もしないことを選択する。

 

「ま、隊長がええ言うなら、僕としては特に言うことも無いですわ」

 

その選択を聞いた細目の死神も、特に反論

することなくモニターを見学することに

集中することにした。

 

そしてモニターの向こうで卯ノ花烈と

黒崎一護がぶつかろうとしたとき、

一つの影が現場に舞い降りる。

 

「おや?」

 

「ふむ。ここで動くか」

 

目まぐるしく動く現場の様子を、まるで演劇を

観覧しているかのような様子で眺める二人の死神。

 

実際彼らにとって今の黒崎一護が必死で

戦っても演劇以上のものにはなり得ない。

 

他者からの干渉を防ぎたいなら、他者から

干渉されてることを理解した上で、その

干渉を跳ね除ける力が必要なのだ。

 

現在の瀞霊廷内でそれが出来るのは、当の

伊達メガネの死神一派と、どこぞの三席や

彼の周囲の死神のみであり、それらも彼が

本気を出せばどこぞの三席以外の死神は

抵抗も出来ずに終わると言うことは実証済み。

 

「せいぜい楽しませてもらおうじゃないか」

 

故に、彼ら黒幕側の者たちにとって今回の件は

『現世から現れた死神の力を持つ少年の冒険が、

喜劇で終わるのか?はたまた悲劇で終わるのか』

程度のことでしかなかった。

 

 




受難と言うか、自分から向かってますけどね。
まさに漫画界の山中鹿之助や!

そしてまさかの卯ノ花=サンが参戦。

まぁ自分の隊から裏切り者が出たら
責任取らなきゃ駄目ですよねぇ。

更木=サンも彼女が出てきたら
おとなしく譲ります。

そして伊達メガネの『隊長』と、細目の死神とは一体・・・(迫真)ってお話。


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24話。OSRとKYは紙一重

文章修正の可能性有り。

オリ設定
オリ展開

嫌いな人は読み飛ばし


「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

女性に刃を向けるのは本意では無い。しかし

相手は確実に自分より強いし、ここで手を抜け

ば自分に力を貸してくれた花太郎が殺される。

 

そう判断した一護は、相手が自分を格下だと

油断しているところに奇襲をしかけ、一太刀で

戦いを終わらせようと飛び出した。

 

しかし、相手は卯ノ花烈。今となっては知る

者も少ないが、かつて最強の剣士として名を

馳せた剣術家であり、剣士としての技量は

他の死神とは一線を画す存在だ。

 

「遅い」

 

「なっ?!」

 

故に、刀を握って一年にも満たない一護の

直情的な攻撃など、見る必要すら無い。

 

振り下ろしの斬撃を僅かな動きで回避した

卯ノ花は回避と同時に自身の斬魄刀を振るい

一護の腕を切り落とそうとする。

 

「クソっ!」

 

一護には卯ノ花の動きは見えなかったが、

天性の勘で腕を狙った攻撃を感じ取った

一護は右手を斬月から離しつつ、卯ノ花から

の攻撃を回避しようと身を翻す。

 

だが、それすら誘い。

 

「甘い」

 

「なっ? ぐあぁぁぁぁ?!」

 

一護の意識が上半身に偏っていたのを見抜いた

卯ノ花は、瞬時に鞘を使った下段攻撃を放ち、

隙だらけの足を砕くことに成功する。

 

「およ? 足?」

 

「逃がさねぇってことだろ」

 

「・・・えぇ。総隊長からは捕えろと

言われていますからね」

 

「あ、忘れて無かったんだね!」

 

「当たり前じゃないですか。私をそこの

更木隊長と一緒にしないでください」

 

「いや、アンタ絶対さっきまで・・・

「何か?」・・・なんでもねぇよ」

 

本来なら今の一撃で胴体を切り裂くつもり

だったのだが、先ほどの草鹿と更木の会話が

聞こえていた卯ノ花が山本からの命令を

思い出したことに加え「この二人に狂人

扱いされるのは流石に嫌だ」と考え、手加減

をした結果、足を奪うことにしたと言うのは

卯ノ花だけが知る秘密である。

 

まぁ鞘で足を粉砕するのが『手加減』として

適切なのかどうかは賛否が分かれるところ

だろうが、少なくとも一護の目の前に立つ

死神は『殺してないから手加減した』と言う

卯ノ花の主張に違和感を抱いていないようだ。

 

そんな彼女の内心はともかくとして、

一護は彼女が口にした、自分にとって

どうしても無視できない一言に対して

問いただす。

 

「俺を、捕えるだと?」

 

足の痛みを堪えながら、それでも精一杯の

虚勢を張って斬魄刀を構える一護。

 

しかしそれを向けられた死神たちはすでに

一護を『敵』として認識していない。

 

更に言えば、元々卯ノ花にとっての『敵』は

一護ではなく護廷を裏切った山田花太郎だ。

 

一護はその『敵』を庇おうとして刃を

向けたがために『敵』にカテゴライズ

されただけ。いわば貰い事故に近い。

 

その為、卯ノ花は『負傷者』となった一護

に対して追撃を加えることなく、むしろ

『大人しく降伏しろ』と言わんばかりに

柔らかな口調で話かける。

 

「えぇ。貴方は旅禍ではありますが、

別にコチラは誰も死んでませんからね。

今なら浦原喜助の情報や、朽木ルキアが

現世でどのような行動を取っていたかを

証言することで、貴方の罪を相殺する

ことも出来なくはないでしょう」

 

負傷者は多数出たが、それは実戦形式の

訓練なら当たり前の話。

 

卯ノ花も山本も、その程度のことで一護に

対して憎しみを向けることはない。

 

今の卯ノ花に有るのは、自分の部下が

護廷を裏切ったことに対する怒りと、

少数の旅禍に良いように翻弄された

護廷の死神たちに対する失望。そして

『今後は訓練をもっと厳しくしよう』

と言う決意である。

 

卯ノ花からの敵意を感じられなくなった

ことで、元々女性に刃を向けることに

抵抗を覚えていた一護の敵意が緩まった。

 

(・・・未熟な子供ではないか。浦原喜助は

何を考えてこのような子供を送り込んで来た?

我らの油断を誘う? その間に四楓院夜一が

動くか? それに、この少年には自分が囮だと

言う自覚が無いようだが、まさか正面から

乗り込んで我らを突破出来ると本気で考えて

いたのか?)

 

敵の前で明らかに警戒を緩めた一護を見て

卯ノ花はその未熟さに眉を顰め、次いで

未熟者を送り込んで来た浦原喜助の狙いを

考察する。

 

「・・・ルキアの行動を報告しろってのは、まだわかる」

 

「そうですか」

 

死刑になると言うことで必死で駆けて

来た一護だが、自分が証言することで

ルキアの罪が少しでも和らぐと言うなら

無理をして力づくで脱獄させるよりも

よっぽど常識的な選択だと言うことは

理解出来る。

 

少なくとも、こちらの言い分に一切聞く耳を

持たずに現世から連れ去て行った朽木白哉の

行動に比べたら全然マシであるので、彼は

ルキアについて話すことを否定しない。

 

しかしここで何故浦原の名が出てくる

のかが分からない。

 

「だけど喜助さんの情報って何だ?」

 

わからないから聞く。

 

今となっては一護にも浦原が尸魂界と何らかの

関係が有ったと言うことは理解しているが、

少し前の一角や目の前の隊長の様子を見れば

『個人の事情』と言って無視して良いものとは

思えなかったので、一護はその疑問を素直に

口に出した。

 

「お前ぇに「更木隊長」・・・あいよ」

 

何も知らない様子を見せる一護を見て、

更木は「お前ぇに話す必要はねぇ。

聞かれたことだけ答えろや」と告げよう

とするも、卯ノ花に止められてしまう。

 

卯ノ花としても似たような気持ちはあるが、

捕えて尋問して吐かせるのと、向こうから

自発的に自白するのでは話の内容の信憑性が

まるで違う。

 

また、長年隊長として君臨してきた自分が

『力で吐かせることしか出来なかった』

などと言う結果を出すのは頂けない。

 

そう考えた卯ノ花は、まずは穏便に接触して

成果を出すことで『自分は更木隊長とは違う』

と言うことを内外に示そうとしていた。

 

大人には譲れないモノが色々あるのだ。

 

閑話休題。

 

一護の態度を見て彼が何も知らされて

いないことを確信した卯ノ花は、捨て石

でしかない一護に憐れみの目を向け、

そして彼が知りたがっている事実を告げる。

 

「浦原喜助は、先代の十二番隊隊長で

あり初代技術開発局の局長を務めていた

死神です」

 

「・・・隊長?」

 

「えぇ。それが百数年前にとある事件を

起こしたこと。尸魂界で禁じられていた

研究を行っていたことなどで裁判を受けて

いたのですがね」

 

「裁判? それに研究って。あの人は

一体何を仕出かしたんだよ・・・」

 

事件については内容を知らないので何とも

言えないが、研究と言われてしまうと話は別。

 

彼が地下に造っていた明らかに違法な空間や

彼が持つ不思議アイテムを知っている一護には

それだけで「浦原さんはそんなことはしない!」

と言い切れなくなってしまう。

 

「えぇ。研究です。そして彼はその判決に

納得出来なかったのでしょうね。裁判中、

とある死神と共に逃げ出し、そのまま現世に

姿を眩ませたのです」

 

「何やってんだ・・・」

 

裁判中に逃げると言うことは、罪を認める

と言うことと同義。それくらいは一護にも

分かる。

 

その裁判が浦原の言い分を一切聞かず、

浦原が有罪であると言う結果ありきの

査問委員会に近いモノであることを

知らない一護からしたら、完全に浦原

喜助が悪いように思えてしまう。

 

そして一護はある事実に気付いてしまう。

 

「なぁ。もしかして、ルキアが死刑になる

理由の一つって・・・」

 

「えぇ。大罪人である浦原喜助との接触と

彼の情報を報告しなかったことも、彼女の

罪の一つですね」

 

「なにやってんだアイツは!」

 

浦原が何を仕出かしたかは知らないが、

少なくとも尸魂界の内部で正式に罪人と

して認知されているなら、現役の死神で

あるルキアが接触したら駄目だろう。

 

ルキアのポンコツ加減を痛感して頭を抱えて

しまいたくなる一護に、卯ノ花はさらに追撃

を加える。

 

「浦原喜助は優れた技術者であっても

優れた剣士ではありません。また優れた

指導者でもありません。加えて彼は我々の

実力も知っています。

そんな彼が、何故まだまだ未熟な貴方を

ここに送り込んで来たのですか?」

 

浦原喜助の狙いは何か。彼を知る者なら

誰もが疑問に抱くであろう問いである。

 

自分を未熟者と言われた一護は思わず反論

しようとするも、目の前の女性が自分よりも

遥かに強いのは分かっているし、それに

浦原の罪が本当なら悪者は自分たちだ。

 

元々力づくで罪人を脱獄させようとする

時点で悪者なのだが、それも一護なりの

理由が有ったからこそ、後ろめたい気持ち

はなかった。

 

しかし浦原が罪人で、ルキアの処罰に

ついてもしっかりとした理由が有ると

なると話は違う。

 

(少なくとも目の前の死神には勝てねぇ。

それに、ここで暴れて印象を悪くするよりも

大人しく情報を渡すことがルキアの減刑に

繋がるのなら・・・)

 

もしも一護が戦ったのが、技術の欠片も無い

更木剣八や、現世での因縁がある朽木白哉

なら、ここまで大人しく話は聞かずに反感を

抱いて抵抗していたかもしれない。

 

しかし目の前の相手はタダでさえ一護が

敵意を向けづらい女性であり、さらに

一瞬の攻防で「絶対に勝てない」と分かる

ほどに隔絶した技術を持つ死神だ。

 

技術は一日で身に付くモノでは無いし、

そもそも自分は死神になってから数か月の

素人でしかないことを再度自覚させられた

一護は、卯ノ花の持つ技術に対して素直に

敗北を認めていた。

 

「「・・・・・・」」

 

それらの事情から、一護は大人しく降伏し

ようとした。しかしそんな一護の目に

無言で自分を見る岩鷲と花太郎の姿が映る。

 

その目はまるで

『ここまで来て諦めるのか?』と

自分を責めているようで・・・

 

「なぁ、卯ノ花サンって言ったか?」

 

「えぇ。なんでしょう?」

 

「俺が大人しく話すって言ったら、

コイツらはどうなる?」

 

岩鷲に関しては半分自分から首を

突っ込んで来たようなものだが、

事の発端は自分の我儘。

 

花太郎に至っては、自分たちに誘拐された被害者である。

 

そんな二人を見捨てて、自分だけ

助かるような真似は出来ない。

 

一護の質問の意図を正確に理解した

卯ノ花は、偽ることなく真実を告げる。

 

「そこな暑苦しい男性は、旅禍である貴方に

協力した罪と、瀞霊廷への不法侵入の罪で

罰を受けることとなりますが、死罪とされる

ことは無いでしょう」

 

今回の事はあくまで訓練。当然障害に

ついての罪は問われない。

 

不法侵入に関しても、あの侵入方法を知った

ことは瀞霊廷にとってもマイナスではない。

それを考えれば、岩鷲には情状酌量の余地は

十分以上に有る。

 

そう告げる卯ノ花の言葉に嘘を感じなかった

一護は、自分たちの決死の潜入を『訓練』

扱いされていたことを知って何とも言えない

気分となったが『自分の気分よりも優先

するべきものが有る』と考え直し、不満を

押し殺して敢えて卯ノ花が言及しなかった

もう一人の協力者について尋ねる。

 

「・・・花太郎は?」

 

「無論、処刑です」

 

「ひぃ?!」

 

「如何なる理由があろうとも、護廷の死神が

旅禍に連れさられたり、旅禍に脅されたからと

言って負傷した旅禍を癒すなど有り得ません」

 

その死神に癒された旅禍のせいで、被害が

拡大したのは紛れもない事実。

 

そもそも処刑に不満が有るなら、彼は

最初に上司である卯ノ花に対して意見具申

するべきであり、旅禍に攫われたあとで

「実は僕も処刑に反対なんです!」と

言ったところで、命惜しさに旅禍に迎合

したようにしか見えない。

 

兕丹坊を殺したどこぞの三席の言い分の

ように『敵を利するくらいならば死ね』

とまでは言わないが、地獄蝶で助けを

求めるなりなんなり出来たはず。

 

ソレをしない時点で山田花太郎の裏切りは

明確であり、護廷の死神としてそれを看過

することは出来ない。

 

それが卯ノ花の言い分であった。

 

「・・・・・・」

 

花太郎の罪状を言い切る卯ノ花に、

「攫われた被害者だから許して欲しい」と

嘆願しようとしていた一護も、

『攫われた? ならば何故助けを呼ばない?』

と言われてしまえば返す言葉など無い。

 

「山田花太郎とて事が露見すれば処罰を

受けることは重々承知の上で貴方に助力

したはず。

その決断の結果がこれならば、彼自身が

受け入れなければなりません」

 

『今更助かろうと思うな』

 

ゴミを見るかのように花太郎を見る卯ノ花と

その視線と放たれる霊圧に怯える花太郎。

 

両者の様子を見た一護は、彼女の言い分が

正しいと感じながらも、花太郎を見捨てる

決断は出来なかった。

 

「・・・」

 

「い、一護さん!」

 

「?」

 

己と花太郎の間に立ち、無言で斬魄刀を

構える一護を見て、卯ノ花は本気で

意味が分からない。と言う表情を見せる。

 

「そこな花太郎は私の部下。故に私が

裁きます。貴方はそれを邪魔する、と?」

 

「・・・あぁ」

 

「貴方では私に勝てませんよ?」

 

「・・・あぁ」

 

「貴方が抵抗すれば、朽木ルキアさん

に関する証言に信憑性が無くなり、彼女に

とって不利な結果になるかもしれませんよ?」

 

実際は処刑が決まっているので、一護が

何を言ったところで不利も何もない。

だが『名誉』と言う点であれば一護の

証言によって少しは報われる可能性が

あるのは事実である。

 

朽木の家に迷惑をかけていることを

自覚しているルキアにしてみたら

それだけで十分な恩情となるだろう。

 

「・・・っ! それでも、だ」

 

言われなくとも、己の行動がルキアにとって

不利になることを理解している。

 

しかし一護は目の前で花太郎が犠牲になる

ことを認めることは出来なかった。

 

これを主人公体質とでも評するか、それとも

思春期の少年らしいと評するかは議論が

分かれるところかも知れないが、この場に

於ける選択として評価するなら『愚か』の

一言であろう。

 

「わかりませんねぇ。そもそも貴方は

朽木ルキアさんを助けに来たのでしょう?

その最中、お仲間が一人も死なないと

でも思っていたのですか?

それとも浦原喜助から『死神が人間で

ある貴方たちを殺すことは無い』とでも

吹き込まれましたか?」

 

「そんなことは言われてねぇ!」

 

自分の覚悟が穢された。そう受け取った

一護が声を荒げるも、声を荒げたいのは

卯ノ花の方である。

 

「では貴方は元々我々を相手にしても

誰も死なないと思っていた、と?

『危険なら自分が護る。敵は全部蹴散らす。

ルキアも助け出して、皆で仲良く現世に帰る』

そう思っていたと? その程度の実力で?

・・・護廷の死神を舐めるな」

 

「ぐっ!」

 

己の逆鱗に触れるどころか、唾を吐いて

足蹴にするような一護の主張に、卯ノ花は

「花太郎ごと斬り捨てる」と言わんばかり

の殺意を向ける。

 

まぁ卯ノ花が本気で相手を殺すと決意した

場合は殺意など見せずに斬るので、現状は

まだ冷静なのだが、卓抜した剣士が放つ

殺意に慣れていない一護にはそんなことは

わからない。

 

卯ノ花が放つ殺意に耐え切れなくなった

一護が、足の痛みを堪えながらもなんとか

前に出ようとしたとき、

 

「一護ッ! この馬鹿者が!」

 

突如として一護を罵倒する声が響く。

 

「は?」

 

いきなり聞こえて来た女性の声に、反応

してキョロキョロと周囲を見回す一護と、

そんな彼の素人丸出しの動きに溜息を

堪えながらも、声の主の気配を探る卯ノ花。

 

「は?ではないわ!儂は言ったじゃろうが!

『隊長や副隊長と戦うな』と!」

 

あと数歩詰めていたら斬り捨てられていた

であろう一護を救ったのは、突如として

現れた、褐色のどこか猫を連想させる女性であった。

 

「え? その言葉、まさか」

 

『隊長や副隊長と戦うな』それは瀞霊廷に

侵入する前日に聞かされた言葉である。

 

だが、それを言ったのは目の前の女性では

無く黒い猫だったはずで・・・

 

「ほぉ。予想外の大物じゃねぇか」

 

「・・・久しいですね四楓院夜一」

 

「おう。更木剣八はともかく、まさか

貴様までもが前線に出て来るとはの。

一体どういう風の吹き回しじゃ?」

 

今まで一護を『斬るまでもない雑魚』と

判断していたが故に、積極的に前に出る

ことなく卯ノ花のツッコミ役に回っていた

更木剣八が、斬りがいのある相手の出現に

テンションを上げれば、卯ノ花は「面倒な」

と言う顔をしながら乱入者に声を掛ける。

 

その両者に対して不敵な笑みを浮かべつつ

一切警戒を解かない女性を見て、彼女に

庇われている形となった一護はと言えば、

 

「しほういんよるいち? やっぱりアンタ

夜一さんか! つーかアンタ、この人らの

知り合いなのかよ! でもって浦原さんが

罪人ってホントか? いや、それ以前に

アンタって猫じゃなかったのかよ!」

 

緊迫した空気の中、的外れな驚きの声を上げていた。

 

「「「・・・・・・」」」

 

猫の姿しか知らなかったとはいえ、もう

少し空気を読んで欲しいところである。

 

実際、夜一と更木剣八、卯ノ花烈の三名は

なんとも言えない表情となったし、

この様子をモニターしていた伊達眼鏡の隊長

や細目の隊長も、空気を読まない少年と

その少年のせいでグダグダになりつつある

現場の様子に、思わず二人揃って

 

「「これはひどい」」

 

と声を上げ、現場に居る者達に同情するような視線を向けていたとか。

 

突如として死神の前に現れた四楓院夜一。

彼女の参戦により、尸魂界の混迷はさらに加速していくのであった。

 




一護=サンはなぁ。ボケも出来ますが、基本はツッコミなんですよね。
でもって基本的に彼は力任せの正面突破しか能が無いので、長い間研鑽を続け卓抜した技術を誇る卯ノ花=サンとの相性は最悪です。

卯ノ花=サンとしては、浦原喜助から
謎のアイテムを渡されている可能性を
考慮して戦闘よりも交渉で話を終わらせる
つもりでしたが、花太郎のせいで交渉決裂。

ホント、碌でもねぇ裏切り者ですってお話。


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25話。強い態度をとると弱く見える

オリ設定
オリ展開

嫌いな人は読み飛ばし。


「・・・未熟なガキを斬る趣味はねぇ。だが

相手が元隊長の四楓院夜一なら問題ねーな」

 

「ちっ」

 

獰猛な笑みを浮かべながら卯ノ花の横に

並び立つ更木剣八の姿を見た夜一は、自分の

存在が彼のやる気を引き出してしまった

ことを理解し、思わず舌打ちをしてしまう。

 

流石の夜一も足手まといを抱えて二人の

隊長に勝てるとは思っていない。

 

更に、現状では一護たち全員を救うなど

不可能であることは明白。

 

だが、夜一や浦原の知り合いである空鶴の

弟である志波岩鷲は殺されないようだし、

花太郎に関しては、元々夜一の知り合いでも

ないので、夜一に助ける義理は無い。

 

卯ノ花烈が言ったように、裏切りが判明

したら殺されることくらい覚悟をした上で

一護の味方をしたのだろうから、夜一も

『今さら命を惜しむな』と言って終わりだ。

 

そもそもの話だが、夜一は朽木ルキアの

命を助ける為に尸魂界に来たわけではない。

 

彼女の目的は、浦原が作った『とある危険物』

の回収と、浦原と自分を嵌めてくれた連中の

罪を暴くことだ。

 

その結果を得る為なら、一護とて捨て石に

するし、朽木ルキアのためとは言え己の

感情で護廷隊を裏切ったくせに、死を

恐れて震えている花太郎には、一人の死神と

しても、元隊長としても嫌悪感がある。

 

よって、夜一には花太郎を救う気は毛頭ない。

 

不適に笑いながらも夜一は花太郎と

岩鷲を見捨て「どうやって足を痛めた

一護を逃がすか?」だけを考えていた。

 

逃がそうとする夜一と、斬ろうとする剣八。

 

互いの間の空間が歪むかのような、まさしく

一触即発の空気が場を充たす中、その空気を

吹き飛ばす声が響く。

 

「はぁ? 夜一さんも元隊長なのかよ?! 

つーか、まさか、さっき卯ノ花さんが言ってた

裁判中の喜助さんを逃がした死神ってアンタの

ことか! 一体何してんだよ?!」

 

「「「・・・」」」

 

空気を読まない一護の言葉によって再度

緊張感を吹き飛ばされた三者は、揃って苦い

顔をするも、流石に一護のように目の前の

敵から注意を逸らすような真似はしない。

 

むしろ揃って苦い顔をしたことで、一護が

思わず後退りするような雰囲気が生まれる。

 

(今じゃ!)

 

そんな雰囲気の中、一護の性格を知って

いた夜一がいち早く緊張感を取り戻す。

 

「おっ?」

 

そして夜一は、どんな状態でも反射の域で

斬魄刀を抜ける技術を持つ卯ノ花ではなく、

顔を顰めながらも棒立ちをしている更木

剣八に向かって拳を繰り出した。

 

その速さはまさに瞬神。

 

さらに夜一は鬼道の力を拳に纏わせる

ことで、爆発的に攻撃力を高めている。

 

(まず一人ッ!)

 

本来は全身に鬼道を纏い、攻撃力だけ

でなく速度も増して必中の攻撃を繰り出す

技なのだが、そこまでやれば向こうも

警戒してしまうし、そもそも彼女が知る

更木剣八と言う死神は相手の攻撃を

回避するような死神ではない。

 

敵の攻撃を敢えて受けて、その威力で相手の

実力を量るような、規格外の死神なのだ。

 

なので、夜一は自分の攻撃が必ず当たると言う

前提で、細かい駆け引きや技術を使わず、ただ

最大最強の攻撃を繰り出していた。

 

これが更木剣八を知る死神が、彼を倒す

ことを考えた際に最初に考え付く対処法

である。

 

夜一もまたその考えに則って己の最大

最強の技である【瞬閧】を繰り出したのだ。

 

だが、ここで彼女は大きなミスを犯す。

 

「あぁ。()()()。ま、喰らってやっても

良いが、この後のこともあるんでな」

 

「なんじゃと?!」

 

意外! それは回避ッ!

 

必ず受ける。

そう思われていた更木剣八が取った行動は、まさかの回避であった。

 

ありえない! 目を見開く夜一だが、現実は

非情である。基本的に夜一が知る更木剣八は

過去のものでしかない。

 

しかし今の彼には、どこぞの三席だけでなく、

その弟子にまで腹を貫かれた経験があり、

今更その劣化版とも言える技を喰らうつもり

は無かった。

 

喰らった場合の損傷と、その後に来るであろう

横にいる隊長からの駄目出しを嫌って、受ける

ことよりも回避を選んだとも言う。

 

「おらよっ!」

 

何はともあれ、剣八は夜一の攻撃を受けずに

回避を選択。それと同時に、剣八の取った

予想外の行動に驚愕し、身体を硬直させている

夜一に容赦なく斬りかかる。

 

「くっ!」

 

空蝉を使おうにも、攻撃に意識を割いて

いたせいで反撃に対する備えを怠っていた

ことや、夜一が想定していたよりも剣八の

斬撃が格段に速く、鋭いこともあり、夜一は

無傷で回避することを諦め、咄嗟に左腕で

抜いた斬魄刀で剣八の攻撃を受ける。

 

「う、うぉぉぉぉぉ?!」

 

しかし体勢の不備もあり、剣八の放つ斬撃の

重さを殺しきれなかった夜一は、そのまま

周囲の建物に向かって弾き飛ばされてしまう。

 

「夜一さん!」

 

気が付いたら夜一が吹っ飛ばされていた。

 

正直一護には何が何だかさっぱりわかって

いなかったが、超スピードで行われた

隊長同士の戦いは夜一が敗北したと言う

ことだけは理解出来た。

 

(同じ隊長同士でこんなに差が有るのかよ!)

 

それを理解してしまった一護は、

「どうやってこの場を切り抜けるか」を

真剣に考えるも「どうしようもない」と

言う結論に至り、絶望の表情を浮かべる

ことしか出来なかった。

 

「この程度かよ。ま、卍解したらどう

なるかはわからねぇ、か」

 

そんな一護を横目に、剣八はつまらな

そうな顔をしたがすぐに考え直す。

 

相手は腐っても元隊長。

 

そして隊長は自分以外の全員が卍解を修得

しているのだ。

 

そのことを思い出し、斬魄刀を抜いた

夜一が本気を出すことを期待する剣八を

卯ノ花からの無慈悲な一撃が襲う。

 

「・・・四楓院夜一の卍解は戦闘向け

ではありません。

また彼女は斬より拳に特化した鍛え方を

していたので、戦闘に関しては斬魄刀を

使わないほうが強いと言われていました」

 

「はぁ?!」

 

「まぁ、あれから百と数年経ちましたから

この間に斬を徹底的に鍛えていれば話は

別かも知れません。が、先ほどの動きを見る

限り期待は出来そうにありませんね」

 

「おいおい、マジかよ」

 

「えぇ。本気です。大体、四大貴族の娘で、

隠密機動の長である彼女には個人的な武勇など

求められておりませんからね。

・・・求められていた組織運営についても

到底褒められたモノではありませんでしたが」

 

「はぁ。下らねぇ」

 

自分よりもよっぽど見る目が有る

卯ノ花の言葉を受け、更木剣八の

やる気が目に見えて落ちる。

 

「・・・言ってくれるのぉ」

 

「夜一さん! 無事・・・そ、その腕はッ!」

 

無事だったのか! そう思って顔を

輝かせた一護だが、夜一の姿を見た

瞬間、再度その表情を曇らせる。

 

「あぁこれか? さすがは剣八と言ったところじゃの」

 

倒壊した建物の残骸から夜一がその姿を

現し、不敵に笑うも、先ほど剣八の一撃を

防いだ夜一の左腕はあらぬ方向に曲がって

おり、素人目にも重傷と分かるような

状態であった。

 

「事実でしょう? 今の更木隊長の斬撃で

それだけの損傷を負うようでは、とてもでは

有りませんが我々の相手にはなりませんよ?

それに貴女に捨てられた二番隊がどうなったか、

元隊長なら想像が付くのでは?」

 

「・・・・・・」

 

剣八の一撃で重傷を負ったのも事実なら、

理由が有るとはいえ、自分が護廷の

裏切り者として手配されたのも事実。

 

己の行動のせいで残された者達に迷惑が

掛かったであろうことは想像に難くない。

 

それが隊長として軽薄な行動であったと

言われればその通りだし、夜一自身

隊長として真面目であったか? と問い

を受けたのなら『真面目ではなかった』と

返答するしかないような職務態度であった

ことも確かな事実である。

 

故に卯ノ花の言葉に夜一は返す言葉もなく

無言を貫くだけ。

 

そんな彼女を見た剣八は「拍子抜けだ」

と舌打ちをしながら斬魄刀を鞘に納める。

 

「・・・なんのつもりじゃ?」

 

「あ? 元々四楓院家や中央四六室から

手前は殺すなって命令が出てんだ。

だから、俺がやったら殺しちまうっての

がわかった時点で手加減が出来るヤツに

任せるのが妥当だろうが」

 

「ちっ!」

 

「否定はしませんが、そろそろ貴方も手加減

くらい・・・いえ、貴方には不要ですね」

 

せっかくどこぞの三席のおかげで剣八の箍が

外れかけているのだ。なのにここで手加減

などを覚えられて小さく纏まられては困る。

 

そう判断した卯ノ花は、夜一に向き直る。

 

「聞いての通りです。大人しく投降

するならその傷の手当をしましょう。

抵抗するなら手足の腱を斬ってから捕え、

牢で治療をすることになります。

・・・いかがなさいますか?」

 

圧倒的な技量で全ての小細工を斬り伏せる

卯ノ花に対し、小細工を弄することを前提

に戦う夜一。その相性は夜一が自覚する

ようにすこぶる悪い。

 

さらに問題なのが先ほど剣八に瞬閧を

回避され、反撃を受けたことだ。

 

勿論反撃の際に受けたダメージもある。

 

しかしそれ以上に問題なのは、剣八が瞬閧の

攻撃力を知っていたことや、迷わず回避を

選んだことであり、その両方に対して

卯ノ花が何の反応も取らなかったことだ。

 

このことから夜一は、自身の切り札が

切り札足り得ていないと言うことを

確信してしまう。

 

(くそっ! 勝てる目がまるで見えぬッ)

 

今、夜一を前にして降伏を勧告している

のは、切り札が通用しない上に、

中途半端な攻撃を全て潰す技量を持ち、

多少のダメージを与えても即座に治療を

行い戦闘を継続してくる剣の鬼。

 

どう考えても夜一が単独でどうにか

出来る相手ではない。

 

「くっ。・・・『潜め影狼』」

 

「あぁん?」

 

「・・・旅禍を見捨てて逃げますか」

 

勝てないなら、逃げる。

 

自身の目的を忘れていない夜一は

即座に始解を行い、その姿を眩ませる。

 

「よ、夜一さん?「貴方はもう眠りなさい」ぐはっ!」

 

夜一に置いて行かれた形になったことに

気付いた一護は、すぐに卯ノ花と剣八を

警戒するも、一護の拙い警戒など卯ノ花

からしたらただのお遊戯以下の児戯に

過ぎない。

 

「更木隊長。草鹿副隊長。これを任せます」

 

「・・・あいよ」

「はーい」

 

即座に一護を気絶させた卯ノ花は、一護を

剣八とやちるに任せ、自分は元々標的と

していた山田花太郎の前に歩みを進める。

 

「さて、お待たせいたしました。

ナニカ言い残すことは有りますか?」

 

「ひ、ひぃ?!」

 

「・・・それが最期の言葉ですか。あぁ、

ご家族にまで類は及ぼしませんので

安心して逝きなさい」

 

「う、うわぁぁぁぁ!」

 

「花太郎ぉぉぉぉ!」

 

花太郎は絶えず襲い来る卯ノ花の威圧に

耐えかねて、思わず走り出す。

 

そんな彼の背に岩鷲の悲痛な叫び声が上がる。

 

「が、岩鷲さ・・・「未熟」・・・え?」

 

岩鷲の存在を思い出した花太郎が

思わず振り向いた時、すでに

卯ノ花は斬魄刀を納刀していた。

 

「う、の・・・たい・・・」

 

ドシャッ。

 

「逃げるなら逃げる。戦うなら戦う。

上位席官がその判断すら出来ないとは。

これは私が甘やかしすぎたせいですね」

 

自身が真っ二つに分断した花太郎だった

モノを見て、卯ノ花は冷たい声で呟いた。

 

この後、卯ノ花は四楓院夜一を逃がした

ことと自隊から裏切り者を出した責を

負って、自身を降格するよう願い出る。

 

しかし総隊長はそれを受理せず、当座の

の処分として、今回の騒動が鎮まる

までの間の謹慎処分を下すこととなる。

 

 

~~~

 

 

 

「ふむ。これはこれで悪くないね」

 

黒崎一護が殺されずに捕えられたこと。

 

自身が警戒していた相手が勝手に謹慎処分に追い込まれたこと。

 

そして四楓院夜一の斬魄刀の能力を見たこと。

 

一連の流れに於いて、自身が何も手を

下さなくとも得だけを享受する結果と

なったことを確信した伊達眼鏡隊長は、

ただ薄い笑みを浮かべていた。

 

 




原作主人公、暑苦しい男と友にタイーホ。
山田花太郎七席の死亡確認。

よって、済まない=サンによる志波家の男に対する侮蔑もなければ、病弱=サンによる『ふう、やれやれ』も、夜一=サンによる挑発も無しです。


夜一=サンの斬魄刀は当然オリ斬魄刀。
公式?では使わない方が強いって話ですので、拙作では始解や卍解をしても特に霊圧に変化がないと判断し、常時解放型の鬼道系の斬魄刀ってことにしております。

そう言えば、原作では剣ちゃんがドヤ顔で『俺の斬魄刀は初めから封印なんかしてねぇ』とか言ってましたけど、後から普通に始解してましたよね?

そもそも封印とは一体……ってお話。


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26話。戦わずに勝つのが最良。兵法書にも書いてある

オリ設定
オリ展開

嫌いな人は読み飛ばし


「・・・大丈夫そうだな。行こう井上さん」

 

「うん!」

 

茶渡泰虎が降伏し、黒崎一護が捕縛され、

四楓院夜一が負傷して逃走した現在。

 

残る旅禍は井上織姫と石田雨竜の二名となった。

 

その二人は現在その辺の死神が着ていた

死覇装を奪い、死神の振りをして懺罪宮を

目指していたのだが、当然彼らの行動は

二番隊と一二番隊によって観測されている。

 

本来ならば、ここで複数の上位席官による捕縛を

試みるところなのだが、すでに捕らえられた

とはいえ、旅禍のひとりである黒崎一護が浦原

喜助の弟子であり、班目一角と阿散井恋次を

倒すだけの実力者であったことや、石田雨竜も

『鎌鼬』の異名を誇る一貫坂慈楼坊を鎧袖一触で

破る実力者であった為に、彼ら旅禍との接触は

副隊長以上の者が当たるよう命令が下されており、

現在、各隊の席官や一般の隊士たちは元々の訓練

内容である『獲物を捕らえる訓練』から、

『獲物を檻に誘導する訓練』へと、その行動指針を改めていた。

 

「こっちには死神がいないみたいだ。少し

遠回りになるけど、潜入作戦なんだから

戦闘は控えめにしたほうが良いだろうね」

 

「うん! 戦わなくて済むならその方が良いよね!」

 

そんな死神たちの方針の変更を知る由もない

二人は、誘導されるままに彼らが用意した檻

の中へと誘導され・・・

 

「戦わなくて済むならその方が良い。確かにその通りね」

 

「「?!」」

 

開けた空間に出た二人に、突如として女性の声がかかる。

 

「誰だ?!」

 

「いや『誰だ?!』って言われてもねぇ・・・侵入者は貴方たちでしょ?」

 

真剣な表情で石田が誰何すると、声の主は

呆れたような声を上げながら、その姿を

彼らの前に現した。

 

「お、女の人?!」

「ちっ(井上さんの前では殺りづらい相手だ)」

 

その姿は女性にしては長身で、亜麻色の髪と

整った表情が非常に特徴的な美女であるが、

何よりも彼女を特徴付けるのは、井上織姫を

超えるほどの胸部装甲だろう。

 

「ま、聞かれたからには名乗りましょうか。

一〇番隊副隊長、松本乱菊よ。ねえ貴方たち。

痛い思いする前に降伏してくれない?」

 

「「ふ、副隊長?!」」

 

相手が女性であることだけでなく、これまで

出会った死神の中で最上位の相手であること

を知った二人は、思わず声を上げる。

 

(ふぅん。死神と違って見た目相応の年齢、ね。

それに、滅却師はともかくとして、女の方は

どうみても戦場に出るようなタイプじゃない。

そりゃ『鎌鼬』も狙うわよ)

 

松本は滅却師の石田への評価を後回しにして

一目で戦士ではない井上に注意を向ける。

 

前に彼らと接敵した一貫坂慈楼坊が、石田では

なく井上を先に狙ったことで、石田から『卑怯』

と罵られたが、戦場に於いて弱い敵から処理する

のは当然の戦法であり、その判断は決して卑怯

と呼ばれるようなものではない。

 

松本からすれば、狙われて困るような弱者を

戦場に連れてきておきながら、狙われたら

被害者面して『卑怯』などと抜かす者の方が

よっぽど卑怯者だと思うし、死神の大半は

そう思うだろう。

 

さらに一貫坂慈楼坊は目の前の若造の青臭い

価値観で、死神として殺されているのだ。

 

まともな死神なら、この二人に嫌悪感を抱くなと言う方が難しい。

 

嫌悪感丸出して二人を眺める松本の後ろに、

さらにもう一人の死神が姿を現す。

 

黒髪黒目で、身長は松本よりも高く、体の

線は細めとも見えるが、鍛えこまれた様子

はその立ち姿からも良くわかる。

 

そして彼を特徴付ける最大のポイントは

左頬に刻まれた69と言う刺青だろう。

 

「ろくじゅうきゅう?」

「(いや、あれはシックスナイ・・・

何を考えてるんだ! 集中しろ!)」

 

数字をただの数字と受け止める井上と、

69が示す数字の意味を考察する石田(ムッツリ)

 

「・・・松本さん。向こうは弓の使い手みたい

なんですから、単身で姿を晒すのは危険ですよ」

 

男も松本と同様に、一目見て井上を戦士では

無いと判断し、注意すべきは滅却師の石田で

あると松本に警戒を促す。しかし当の松本は

あっけらかんとした表情で、返事を返す。

 

「あら? 別にいいじゃない。私に攻撃を

仕掛けて来たらそのまま潰すわよ。

いくらなんでも『鎌鼬』を破ったくらいで

調子に乗られても困るし?」

 

「・・・はぁ」

 

死神で最強の飛び道具使いに与えられる

称号らしい『鎌鼬』であるが、松本に

してみたら副隊長にもなれない未熟者たち

が自分たちを慰めるために自称している

痛い称号でしかない。

 

よって彼女には(飛び道具系って条件付きとはいえアレを最強なんて思われても困る)と言う思いがある。

 

そもそもの話、自分の灰猫は勿論のこと、上司

の少年が使う氷輪丸や、総隊長が使う

流刃若火だって遠距離攻撃が可能な斬魄刀だ。

もっと言えば劈烏(つんざきがらす)が飛び道具

として認められるなら、あれの完全上位互換

である朽木白夜の千本桜はどうなるのか。

 

そんな感じで、松本からしたら『鎌鼬』など

実の伴わない称号を自称して調子に乗る三下

という認識しかない。

 

しかし三下であっても死神である。

 

上位席官の癖に侵入者に負けたのは、まぁ良い。

 

班目一角や阿散井恋次が負けた以上、相手の

実力は確かなのだから、松本だって負ける

可能性が有るのだから。

 

そうである以上、そこに文句を付ける気はない。

 

で、負けたなら殺されることもあるだろう。

虚に負けた死神が殺されるのは当然なので

それについても、文句を言うつもりはない。

 

しかし生殺しは頂けない。

死神としての力を奪うくらいなら、何故一思いに止めを刺さないのか。

 

松本は戦士として、また、死神として石田に

対して隠しきれない嫌悪感を抱いていた。

 

檜佐木も勿論松本の気持ちを理解している。

と言うか『鎌鼬』は彼の部下なのだ。

 

部下が滅却師に生殺しの屈辱を味合わされた

のは業腹だし、こんな予期せぬタイミングで

上位席官を失ったせいで、今後の業務に支障が

出ることは確実である。

 

勿論、生殺しにも不満がある。

 

故に檜佐木の中にある石田に対する憤りは、

松本と同等、否、松本を凌駕していた。

 

自分達に対して降伏を勧告しておきながら

明確な敵意を向ける二人を前にした、

石田はこの時点ではまだ(井上さんを

守りながら殺れるか?)と抵抗の意志を

持っていた。

 

そう、この時点では。

 

「護廷十三隊、五番隊副隊長、雛森桃です」

「同じく、三番隊副隊長、吉良イヅルだ」

「十二番隊副隊長涅ネムと申します。

滅却師の貴方ではなく、そこの少女の情報を

持って来いと言う命により参りました」

 

松本と檜佐木に注意を払っていた石田を

囲むように、三人の死神が現れる。

 

彼らが現れたのは偶然ではない。

 

これは茶渡から侵入者の総数を聞き、残る

旅禍はこの二人しかいないと言うことを知った

京楽が、山本に対して

『全ての副隊長で囲んで確実に終わらせよう』と

提案し、二番隊や十二番隊からの情報と照らし

合わせて情報に誤りがないことを確信した

山本がその提案を認めた結果、差し向けられた

ものだ。

 

まぁ、ネムに関しては少し違う命令も

含まれているようだが、それはそれ。

 

「チッ! 副隊長が三人も増えたかッ」

 

「あぁ、俺はまだ名乗ってなかったな。

九番隊副隊長、檜佐木修兵だ。

俺達はお前らが降伏しない場合は

殺さずに死ぬほど痛い目に合わせる

よう命令を受けている」

 

「69の人もッ?!」

「チッ!」

 

思わず声を上げる井上と、5人の副隊長

に囲まれていることを悟り、井上を守り

ながらの戦闘は厳しいと判断する石田。

 

(抵抗しても殺さない。と言ったな。

それは何故だ? 僕たちが人間だから?

兎に角、殺されないと言うなら井上さんを

ここで置いて・・・駄目だな。

死神の言葉を信じるわけにはいかないし

何より回復役を失う訳にはいかない。

しかしこれは・・・・・・)

 

「石田君・・・」

 

一瞬、石田はここで井上を見捨てることも

考えたが、その場合今後の展望が見えなく

なることに思い当たり、その考えを改める。

 

圧倒的な不利の中、抵抗するか、それとも

降伏するかの葛藤の中、石田と井上の迷いを

感じとった松本は一つ選択を促す為の情報を

提供することを決める。

 

「あぁ、ちなみにチャド?って子は降伏

したし、クロサキって子は捕まったわよ。

で、貴方たちが頼みにしているであろう

四楓院夜一は負傷して逃げ回っているから

助けは来ないわよ」

 

「黒崎君と茶渡君が?!」

 

(黒崎は負けたか。そして茶渡君は降伏?

そう簡単に折れそうになかったが、嘘では

なさそうだ。しかし四楓院夜一? 夜一

さんのフルネームなんだろうが・・・

やっぱり彼女は向こうの知り合い、つまりは

死神だった、か)

 

「わかった。降伏する」

「石田君?!」

 

石田も薄々感じてはいたが、ここで夜一が

死神であることが確定したことは、死神を

憎む彼にとって大きな判断材料であった。

 

(黒崎が抱く「朽木ルキアさんを助けたい」

と言う思いに嘘がないことは分かる。

だがそれに便乗する死神の狙いが分からない

以上、僕が命を賭ける場所はここじゃない)

 

「ふぅん? まぁいいわ。修兵」

 

「了解です。吉良、雛森、捕縛を手伝え」

「「はい!」」

 

松本も檜佐木も、できたら石田を叩き潰したかった。

 

しかし上からの命令は捕縛であったし、

彼女たちは降伏した者を痛めつけるような

真似を好む小物でもない。

 

こうして、己の戦う意味を見出せなかった

石田と、そもそも荒事が苦手な上に黒崎が

捕まったことを知って、抵抗の意志を

無くした井上は死神に降伏することとなる。

 

残る旅禍は四楓院夜一唯一人。

 

しかし死神たちは、今も彼女の後ろにいる

であろう死神の存在を忘れてはいない。

 

かつて数多の隊長格を手玉に取った死神、浦原喜助。

 

これまで尸魂界から逃げ回っていた彼が、一体

何を考えて朽木の娘や旅禍の少年たちに干渉

してきたのか?

 

そして、何の為に盟友とも言える四楓院夜一を

足手纏いと共に送り込んで来たのか?

 

その謎が解明されない限り、死神たちが

油断をすることはないのだ。

 

 

 

朽木ルキアの処刑の日時が刻一刻と迫る中

元二番隊隊長によるラストアタックを警戒

する護廷の死神たちは、万全の態勢を整えて

来たる襲撃に備えるのであった。

 

 

 

 




石田=サンと井上=サン脱落。

他の隊の副隊長たちが出陣してきたので、涅えもんによる人間(死神)爆弾は発動しませんでした。

あれ、普通に仲間殺しですよね?
真面目に任務に当たっている最中の死神を使ったら駄目だと思うの。


護廷のエリートをあんな風に使って
罪に問われないはずがありません。

涅えもんはMADですが、MADだからこそ
迂闊な真似はしないのですってお話。


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