軍拡日本召喚 (ウエストモール)
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The beginning of the war
内容を少し変更しました(2022/3/15)
Ⅰ
2015年、日本国は異世界に転移した。その日本国は現実とは違って国防軍が存在しており、防衛のために軍拡に取り組んでいる強化された日本国だった。
転移した後、日本国はロデニウス大陸のクワ・トイネ公国とクイラ王国の両国と接触し、資源や食料の輸入で急死に一生を得ると同時に、インフラや武器を輸出していた。そして、1年後の中央暦1639年に隣国のロウリア王国が2か国に宣戦布告。日本国はすぐさま援軍を派遣してギムにて部隊を殲滅すると同時に水陸両用部隊によって軍港を強襲し、数日で王国を降伏させた。
これが、これまでの日本国の動向である。
中央暦1639年 首相官邸
外交官の朝田は、パーパルディア皇国との交渉についての報告をしに首相官邸まで来ていた。
「というわけで総理、皇国との交渉は決裂し、宣戦布告を予告されました」
「こちらから無礼な態度は一切していないだろうな?」
「いえ、そんなことは有りません。逆に皇国側が無礼な態度をしており、軍祭での一件についての金銭的な賠償を要求したところ、黄色の猿だと罵ってきた上・・・こちらに対して賠償を要求してきました。勿論断りましたが、二週間後に宣戦布告をするという最後通牒を突き付けられる事態となり、平和的な交渉はもちろん国交の締結すら不可能となりました」
「向こうから来たくせに賠償を要求してくるのか・・・まるで北の連中ではないか。皇国は列強を謳っているが、所詮はならず者の集まりと言えるな。そんな国と交渉しても何も収穫は無いだろう」
「ですが、収穫もありました」
「そうなのか?」
「反体制派の人物と接触しました。それは、第3外務局長と皇族の女性でした。どうやら、クーデターを起こすつもりのようでして」
「それは良かった。皇国を打ちのめした後に彼らが次の皇国代表となれば、皇国は親日となってくれるだろう。輸出先となって経済が潤う」
その日の内に総理は記者会見を行い、次のように話した。
「フェン王国の軍祭にてパーパルディア皇国軍にミサイル巡洋艦と巡視艇が襲撃されたことへの金銭的賠償を皇国に請求したところ、逆に皇国から賠償として責任者の引き渡しを要求されました。それも、向こうから攻撃を仕掛けてきたにも関わらずです。我が国に非はありません。責任を取るべきは、襲撃の可能性を我々に伝えなかったフェン王国と先制攻撃を仕掛けてきた皇国です。我が国は引き渡しを拒否したのですが、引き渡しをしなければ二週間後に宣戦布告することを通達されました。都合が悪ければ軍事力で脅すような国家とは付き合うなどもってのほかであります。我が国は軍事力をもって答えることにし、陸海空3国防軍に出動を命じました」
そして、記者の質問が始まる。
「○○新聞です。機密に当たるかもしれませんが、国防軍はどのようにして皇国に対処するのでしょうか?」
国防大臣が話し始めた。
「機密に当たるために詳しく言えませんが、現在フェン王国のニシノミヤコを占拠する皇国軍が王都アマノキに侵攻する可能性があり、アマノキの大使館員を守るために部隊を展開させる用意があることは明言できます。それ以外は機密となります」
「分かりました」
その後も質問は続き、記者会見は終了した。
Ⅱ
レミール邸
「レミール様、日本国が動きだしました」
反体制派の第3外務局長カイオスは、レミールに報告した。
「本当か!これで、ルディアス様を極悪非道の宰相アディオから救うことができる」
現在、皇国の政治の実権は宰相アディオに握られており、皇帝ルディアスは軟禁に近い状態となっていた。
大半の幹部や官僚、一般兵士、金を積まれた一部の近衛兵団は彼に完全に従って、残りの人々は形だけでも従う形を取っていたが、裏ではクーデターの準備が進んでおり、クーデターを容易にするために日本国の力を借りようとカイオスとレミールは日本国の外交官に接触したのだ。
「とにかく、クーデターの準備を進めるのだ」
「はい。ムーからの密輸によって武器を入手し、牢獄に収監されている皇道派の幹部や近衛兵を脱獄させる手引きも始めています」
アディオ体制の崩壊は・・・・近い。
Ⅲ
国防省にて、総理は対皇国戦の説明を軍の幹部から受けていた。
「ニシノミヤコ沖合いには戦列艦211隻、竜母12隻と搭載されているワイバーンロード240騎、揚陸艦101隻が存在しており、その内の竜母12隻と戦列艦8隻がニシノミヤコ西方30km海域にいます。地上の臨時基地には皇国軍陸戦隊約3000人と火炎放射戦車のような運用をする地竜が32頭が存在しています。RF-4EJの偵察によると捕虜や市民に対する暴行や略奪も行われているようです」
「皇国兵の粗暴さが分かるな・・・偵察機の乗員にはメンタル面でのケアをしたほうが良いのでは?」
「すでに軍医によるカウンセリングを受けており、後部座席の乗員がPTSDと診断されています」
「分かった。それで、どのように戦力を撃破するんだ?」
「我々が送り込む戦力は海軍からは軽空母いぶきと艦載機のハリアーⅡプラス*110機、第1艦隊*2が。陸軍からは歩兵330名、1式歩兵戦闘車10両、99式自走155mm榴弾砲5両、MLRS10両、87式自走高射機関砲3両、EC665ティーガー3機。空軍からはF-15J改2機が参加します。最初に制空権を奪うために、いぶきから発進したハリアーⅡが本隊から離れている竜母と護衛の艦を対艦誘導弾で撃沈し、すでに空にいるワイバーンはF-15J改にて撃墜します。
地上では、おおすみ型揚陸艦3隻及び在日米海軍*3よりレンタルしたワスプ級強襲揚陸艦1隻にて上陸した部隊がゴトク平野に進出した陸戦隊に攻撃を仕掛ける他、陸戦隊の支援のために展開している戦列艦を攻撃するためにフリゲート艦1隻を差し向けます。最終的には、残りの戦列艦とニシノミヤコの部隊を壊滅もしくは降伏させて終了です。その後の作戦については、後日説明します」
日本軍は動き出す。皇国軍よ、覚悟しろ。
○1式歩兵戦闘車
2001年採用の歩兵戦闘車で、車体の大半が90式戦車と共通になっている。そのため、歩兵を載せる後部以外の防御性能は戦車に匹敵する。主な武装はエリコンKD 35㎜機関砲。副武装として79式対舟艇対戦車誘導弾、74式車載7.62mm機関銃。
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First Strike
内容を少し変更しました(2022/3/15)
○艦隊の編成について
1個艦隊=2個戦隊
・1個戦隊内訳
母艦1隻、ミサイル防空艦1隻、汎用駆逐艦2隻、フリゲート1隻。もしくはミサイル防空艦1隻、汎用駆逐艦3隻、フリゲート1隻。
Ⅰ
皇都エストシラント
「アディオ様、日本国からの返答が来ました」
アディオに白色の封筒が渡される。
「蛮族にしては上質な紙だな。日本国を征服する・・もしくは屈服させれば皇国でもこの品質の紙が作れるぞ。それで、内容は・・・」
彼は封筒をナイフで開封し、書類を見た。
「これは・・・なっ!要求を拒否するだと・・・ふざけるな!蛮族が逆らうなどあってはならん!」
そう怒鳴ると、紙を破ってベランダから川に投げ捨てた。
「皇国軍最高司令官を呼べ!攻めてくる軍を殲滅し、日本国を征服するのだ!」
こうして、皇国は戦争に突入した。しかし、アディオが見落としていたことがある。それは、書類に書いてある降伏の合図。激しい怒りからか内容をそこまで見ておらず、捨ててしまったのだ。
もう、後戻りは出来ない・・・
「アディオは戦争を決意したか・・・皇国が傷つくことは確定だろう。とはいってもクーデターを起こすには、そこまでしないといかん。国を変えることには痛みが伴う・・・か。はぁ・・」
カイオスはため息をついた。
Ⅱ
ニシノミヤコ沖
軽空母いぶきは第1艦隊と共に行動していた。いぶきの隣にはヘリ空母いずもが航行し、周囲ではミサイル巡洋艦こんごうとミサイル駆逐艦はたかぜ、汎用駆逐艦5隻、いしかり型フリゲート*12隻が輪形陣で警戒している。
いぶきの艦長である元国防空軍パイロットの秋津は、赤いカバーの掛かった席に座っていた。
「淵上大佐、今作戦は海軍航空集団初の実戦だ。航空隊の面々には相手が侵略者とはいえ、国のために戦う戦士である相手に敬意を払うとともに油断しないように言っておいてくれ」
「了解しました」
いぶき航空隊司令の淵上は、秋津に敬礼すると格納庫へと向かった。
「艦長、早期警戒機から入電。敵別動隊20隻を補足したとのことです」
「分かった。すぐにハリアーを上げてくれ」
すぐに命令が飛んでパイロットや整備士が慌ただしく動きまわり、ハリアーⅡプラスの準備を行う。
機体は飛行甲板に運ばれ、配置に着く。
「アルバトロス・リーダーよりブリッジへ、機体に異常無し。発進許可を求む」
「航空隊司令の淵上だ。相手は侵略者ではあるが、国のために戦う戦士であることには変わりない。敬意を払い、決して油断するな。発進を許可する」
「了解、発進する」
2発の93式空対艦誘導弾を抱いたハリアーⅡプラスは、エンジンノズルを水平にしたまま左舷側を滑走し始め、燃料消費抑制のために左舷側甲板先端に設置されたスキージャンプ台に差し掛かったタイミングでノズルを下方に下げ始めて、台を通過して飛び立つ。機体が少し降下したことで生まれた揚力のおかげで墜落することはない。
残りの9機も1機ずつ甲板に上げられて飛び立ち、編隊を組んで目標の方向へと機首を向けた。
「アルバトロス・リーダーより各機。レーダーにワイバーンが12体映っているが、無視しろ。我々の目標はあくまでも艦艇だ。さすがに国防空軍の連中から獲物を奪うわけにはいかない。敵艦の位置はすでにリンクされている。各機、目標振り分けに従って対艦誘導弾を発射せよ」
「「アルバトロス隊、FOX1!」」
計20発の93式空対艦誘導弾は皇国海軍の竜母艦隊へと突き進んでいった。
ニシノミヤコ沖合い約30kmの海上
第3文明圏内では敵は殆どいないとされる竜母艦隊は、護衛のフィシャヌス級戦列艦等を伴って沖合いに出ていた。その中でも一際目立つのは、両方の舷側が黒くなっている80m級装甲竜母ミール。
“装甲”と付いているように対魔弾鉄鋼式装甲を装備しており、ミールは竜母の中で初めてそれを装備した艦である。それにより、竜母の被害軽減に成功していた。元々全ての戦列艦が対魔弾鉄鋼式装甲を装備していた上に、竜母まで装甲の装備を開始している。そう、皇国海軍は名実共に第三文明圏内(では)最強の海軍となったのだ。
「素晴らしい艦隊ではないか、竜騎士長!」
分遣隊司令アルモスは、横に立っている竜騎士長に話しかけた。
「はい!大国だからこそ持っている高い造船技術によって建造されたこれらの竜母。文明国では保有不可能な上位種ワイバーンロード。そして、高い攻撃力と防御力を持つ魔導戦列艦。その3つを保有する皇国艦隊は、確かに第三文明圏最高の艦隊でしょう」
「その通り!第三文明圏内に敵は無いのだ。最近、日本とかいう極東の蛮族が宣戦布告してきたが、列強に勝つことは不可能。陸上戦力を送り込む前に、最強の皇国海軍を相手取る必要があるからな。制空権も制海権も取れない時点で詰みなのだよ」
その時だった。前方を航行する30門級フリゲート艦がムー国製のサイレンを鳴らし、魔信を入れてきた。
「前方より、謎の飛行物体多数!警戒せよ!
あ、こっちに突っ込んで来・・・」
直後、そのフリゲート艦にミサイルが突っ込み、フリゲート艦は消滅した。
「なっ、何だ!」
アルモスが驚いている間にも、間髪入れずミサイルの雨は艦隊に降り注ぐ。
「フィシャヌス轟沈!」
最新式の主力艦であるフィシャヌス級のネームシップが、なす術も無く1発のミサイルによって対魔弾鉄鋼式装甲に穴を開けられ、炸裂した弾頭にバラバラにされてしまった。
「竜母ガナム、竜母マサーラ消滅!」
飛んでくるミサイルへの対抗手段を持たない艦隊は、ただただ被害を増やしていくだけだ。
「こんなの嘘だ・・嘘だ・・・嘘だ!!!!」
こんなことを今まで経験したことが無いアルモスは発狂し、ついには考えることを止めてしまった。
分遣隊旗艦ミールにも、ミサイルは飛んで来る。
「こっちに来たぞ!」
「もうダメだ!船を捨てろ!」
士官達はアルモスを無視して海へと飛び込む。置いていかれたアルモスと逃げ遅れた兵士は、艦と運命を共にした。
「敵艦隊の全滅を確認。これより帰投する」
対艦ミサイルを撃ち終えたアルバトロス隊は、ロデニウス大陸から飛行してきたF-15J改とすれ違う形でいぶきへと帰還した。
「艦隊が一瞬で・・・」
「嘘だろ・・・」
空に上がっていたために無事だったワイバーンロード中隊の面々は、一方的にやられている現状を見て驚きを隠せない。
「各騎へ告ぐ。母艦を喪失したため、ニシノミヤコへと着陸せよ」
部隊はニシノミヤコに針路をとる。が・・・
「鏃状の飛行物体、こちらに接近!警戒せよ!」
鏃のような飛行物体─2機のF-15J改は04式空対空誘導弾をワイバーンロードへと発射する。
「ウィザード01、FOX1」
「ウィザード02、FOX1」
反応したアクティブ・レーザー近接信管によって炸裂した弾頭は黒い花を咲かせ、巻き込まれたワイバーンロード8騎をズタズタに引き裂いた。F-15J改はワイバーン部隊の正面を横断、少し離れた所で反転して20㎜バルカン砲を放つ。
「「FOX3!!」」
海上に、バルカン砲の重低音が響く。
ニシノミヤコ沖約30kmでの初戦にて、日本国防軍は部隊の要であった竜母艦隊とその護衛艦、艦載騎を全て撃破した。
Ⅲ
皇国の侵略で滅亡したアルタラス王国の王女ルミエスは日本国外務省に呼び出され、霞ヶ浦に来ていた。
「私に何のご用件が?」
「外務省の柳田です。我が国と皇国の交渉が決裂し、戦争に突入したのはご存知で?」
「はい」
「そこで、日本国政府から提案があります。フェン王国のニシノミヤコを占拠する皇国軍を叩き出した後に、殿下を長としてアルタラス王国亡命政権を名乗っていただきたいのです。我が国は王国独立のための支援を最大限行う準備があります」
「本当にいいんですか?宰相のクーデター軍に乗っ取られているとはいえ、相手は列強ですよ?」
「日本国は負けるつもりは一切ありません。必ず、王国を解放します」
柳田の声に熱意がこもる。
「今すぐとは言いません。決めるのは日本国がフェン王国を救った後でも構わないので、頭の片隅に入れておいてください」
ルミエスとの会談は終了した。
日本国からの提案は、10割が善意だった訳ではない。それには、アルタラス王国の地理と施設、資源が関係していた。まず、王国はフィルアデス大陸に非常に近く、国内には列強のムーが建設した空港が1つ存在している。国防軍は対文明圏用の軍事拠点を、大陸に近いアルタラス王国の空港に築こうとしているのだ。
もう1つは、魔石鉱山の存在である。すでに鉱山は皇国の手に落ちており、軍事利用のために魔石は皇国に輸送されていた。どんなに強力な軍隊であっても、補給が途絶えれば戦うことは不可能となる。そのため、王国を解放することは補給を断つことに繋がると考えられていたのだ。
○いしかり型フリゲート
フランスのラファイエット級フリゲートを輸入した物。しかし、某国からの圧力で船体しか輸入できずに全ての装備が日本もしくはアメリカ製となっている。また、計画中の3900トン型駆逐艦の参考にもされている。
全長:124.2m
全幅:15.4m
最大速力:25kn
装備
・127㎜コンパット砲 1基
・MK29(8連装ミサイル発射機)1基
RIM-162 ESSM
・エリコンKD35㎜機関砲 2基
・90式SSM4連装発射筒 2基
・MK32短魚雷発射管 2基
・哨戒ヘリコプター 1機
同型艦
・いしかり
・ちくご
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Phantom Menace
兵器紹介
○1式歩兵戦闘車
2001年採用の歩兵戦闘車で、車体の大半が90式戦車と共通になっている。そのため、歩兵を載せる後部以外の防御性能は戦車に匹敵する。主な武装はエリコンKD 35㎜機関砲。副武装として79式対舟艇対戦車誘導弾、74式車載7.62mm機関銃。
Ⅰ
皇都エストシラント 皇城
「──様、日本国は愚かな判断を下しました。文明圏外が我々の物となるのも、もうじきです」
カーテンの閉まった薄暗い一室にて、アディオは誰かに話しかけていた。目線の先にはモニターらしき物体があり、それには黒フードの男が映っている。
フードから見えるのは口元だけであり、笑みを浮かべているのが伺えた。そして、男は口を開いて話す。
「占領した後、蛮族にはたっぷりと教育を施してやらねばならんな。ところで同志アディオよ、反体制派が動きだしたのは知っているか?」
「いえ、存じ上げません。さすがは──様、私目よりも早く情報を得るとは!」
アディオは、その情報収集能力に驚嘆して額から汗を流しつつ、フード男を称賛する。
「私を舐めてもらっては困る。私の手の者が、様々な勢力に潜入しているからな。無論、反体制派にもだ。お前の手の者だと、反体制派が警戒していて潜入不可能だろうが、私の手の者ならば、怪しまれる心配はない」
「それにしても、反体制派は愚かですな。日本国との戦争で疲弊したところを押さえる魂胆でしょうが、我々の圧勝は確実。疲弊することなく勝利します。行動を開始したところで取り押さえ、売国奴として処罰してしまいましょう」
「それに関しては、お前に任せよう」
「お任せください…」
黒フードの男は語り始める。
「ついに、大東洋諸国は我々の物となる時が来る。侵略に力を入れていた先代が亡くなった後、ある程度は平和的にしていた。だが、皇国の野望は消えていない。平和的にするのも作戦の内…」
「ただ、大使がアルタラスへの要求をあのように変更したのは想定外です。そのおかげで、計画を早めることになってしまいました」
「早まったとはいえ、大使が傷つけられたことで侵攻する大義名分を得ることができた。そして、各国に対して強硬な態度を取る理由にもなったわけだ」
「その中で、監察軍のワイバーンを落とした日本国が我々に賠償を要求してきたのはご存知ですね?」
「もちろん知っている。たしか、対応をお前に任せていたな。東洋の蛮族風情が…」
「我々は日本国を侵略するついでに、栄えある皇国に逆らった日本国の友好国も同罪として全て手中に収めるぞ。皇国大躍進計画に基づいて国力をさらに増大させる。そのまま、全ての文明圏を順に併合して、我々の目標である世界を押さえる国家・・・大パーパルディア皇国を築くのだ!」
「その志のため、私は精進いたします。パーパルディア皇国・・・万歳」
そして、モニターの映像は途切れた。
誰にとは言わないが、
Ⅱ
陸将ベルトランに率いられた皇国軍陸戦隊3000名は、横隊の地竜を先頭にして方陣を組んだ状態でゴトク平野付近に布陣していた。方陣は歩兵が中空の四角形を形成し、中に指揮官や砲兵が入る陣形であり、皇国ではその前方に横隊の地竜を配置した陣形を考案者にちなんでベルトラン陣形と呼んでいた。この陣形で負けたことは1回もないらしい。
「将軍、先行したワイバーンロード隊から偵察報告が来ましたが、伏兵の存在は確認出来ていないそうです」
「良い報告だ。ニシノミヤコ上陸戦の際は
偵察をしなかったことで被害が出た先例から偵察を行ったが、日本軍による偽装は王国軍が初めて行った偽装よりも高度なものであり、陣地の存在を簡単には見破れない。そして、ワイバーン対策として対空陣地に隠されていた87式自走高射機関砲3台の攻撃準備が整っていた。
「87AW、射撃開始!」
突然、少し離れた複数の場所から光弾が激しく撃ち上げられ、上空のワイバーンロード12騎全てが撃墜される。
「ワイバーン部隊、全滅!」
「伏兵がいないのでは無かったのか!?それに、あの攻撃はまるで対空魔光砲ではないか!」
「将軍!あの攻撃がこちらに飛んできた場合、大損害が出ることでしょう。ここは、支援に来た戦列艦の砲撃で排除させるべきです」
「そうだな。支援砲撃を要請する」
将軍が海を見ると、戦列艦20隻全てが砲列甲板の左舷側の大砲を出しており、砲撃準備が整っていた。
次の瞬間、“ドン”という音とともに先頭の戦列艦が煙に包まれる。ベルトランはすでに勝ったかのような気分に包まれ、ニヤリとする。ただ、後続の艦の動きがおかしいことに気づき、我に返る。煙が晴れると、地上を砲撃したはずの戦列艦がおらず、代わりに水面へ多くの木材と水兵が散乱していた。
「栄えある皇国の戦列艦が破壊されているだと?一体どこからの攻撃だ?」
彼が海を見渡すと、見慣れない灰色の艦が航行しているのが見える。それは日本海軍のフリゲート艦、“いしかり”だった。その艦をよく見ると太陽が描かれた旗がはためいているのが分かり、それが日本の艦であることに気づく。
「目標アルファ1を撃沈!」
「よし、残りのアルファ2から20までを攻撃する。撃ち方始め!」
引き金を1回引くたびに1隻が爆発して沈み、127㎜砲が次の目標を指向する。引き金を19回引いたとき、そこに存在していた戦列艦は全滅した。
「全目標、撃沈を確認。敵兵の救助を行う」
ヘリコプターで漂流者を救助した後、フリゲートはその場を離脱した。
陸戦隊の間に恐怖が伝播し、いつ崩壊してもおかしくない状況であり、ベルトラン自身も恐怖していたが、兵士を落ち着かせようと試みる。
「皆の者、落ち着け!この戦で勝てば、我々の部隊が優先的に首都の人間や物資を好きに扱う権利が与えられる!つまり、上玉の美男美女を独占出来るのだ!」
兵士達は落ち着きを取り戻すどころか、興奮して士気が高くなっていった。
「士気の高い我々に敵はない!今こそ愛国心を示すときだ!陸戦隊前進!」
部隊は進み始める。
「敵部隊、前進を開始」
前進する様子は、砲兵部隊の
「敵部隊が離れたところで、歩兵戦闘車の部隊による攻撃を実施。ヘリコプターと火砲は待機せよ」
第1戦闘団団長の天野は、82式指揮通信車の中から部隊に通達する。
「敵部隊、所定のラインを通過」
「よし、歩兵戦闘車は前進せよ」
異変を感じたベルトランが望遠鏡を除くと、10体の鉄の塊が向かってくるのが見えた。彼は知らないが、それは日本陸軍の1式歩兵戦闘車だ。
「何だあれは?とにかく、こちらに向かってくるとあれば全て敵だ!あれを討ち取れば大きい手柄になる!あれを殺せ!」
最前列の歩兵が地竜と地竜の間に入り、マスケット銃の発射準備を行う。2列目と3列目の歩兵は最前列の歩兵が次弾を装填するまでの時間稼ぎをすべく、その後ろに待機していた。
「敵さんも歓迎してくれてますよ、車長」
「ああ、
彼は車長兼部隊長であり、今回のために特別に編成された歩兵戦闘車のみの部隊を指揮するという大役を背負っていた。
「では、我々は
「「了解」」
そして、全ての35㎜機関砲が陸戦隊へと指向された。
「あの怪物を撃て!」
最前列がマスケット銃を撃った後、流れるように2列目と3列目も順番に発砲し、再装填した最前列の歩兵がまた発砲する。こうした連続射撃が繰り返されるが、銃弾は虚しく正面装甲に弾かれてしまった。
「陛下より賜ったこの銃が効かぬだと!?」
「お返しだ。目標、敵先頭集団!射撃開始!」
地竜と先頭の歩兵がまとめて掃射され、流れ弾が後方で待機していた一部の兵士に被害を与える。ベルトランの足元には、複数の小さな穴が穿たれた。
「先頭集団及び地竜隊壊滅!後方にも損害あり!」
「銃は効かぬか・・・牽引式魔導砲を使え!」
当初よりも小さくなった方陣の中でベルトランは命令する。
「撃て!」
城門を破壊する威力を持つ大型の弾が1式に命中するが、相手は90式戦車を元にした歩兵戦闘車であるため、主力戦車並みの防御力に対して刃が立たない。
「大砲も効かないのか…」
そのまま、何事もなかったかのように歩兵戦闘車はバックで撤退を始めた。そして、入れ替わるかのように空から何かが飛来してくる。それは、バタバタと音を立てていた。
「未確認騎が3騎接近!」
それは、日本陸軍が採用した攻撃ヘリコプターであるEC665ティーガー。機首下に装備されたリボルバーカノン式の30㎜機関砲による掃射で、陸戦隊の右翼と左翼を削り取り、彼らを中央に追い込む。
ベルトランは呆然と立ち尽くした。すでにワイバーンや戦列艦、地竜を失い、歩兵も多くが戦死している。
「将軍、我々は中央に追い込まれています!今すぐにでも降伏すべきです!」
生き残っていた1人の士官が進言した。
「降伏したところで殺されるか奴隷にされるだけだろう。今まで我々は降伏した兵士や民間人をなぶり殺しにし、奴隷にしてきた。それがこちらにも帰ってくるのだぞ。それに、宰相の怒りを買うことになり、家族が反体制派として処刑されてしまうだろう」
「ですが将軍、このままでは全滅します。ここは、少しでも生き残る可能性に懸けましょう。家族についてですが、日本により皇国が占領されたときの混乱に乗じて逃亡できるかもしれません」
「しょうがない、降伏の合図を!」
隊旗を預けられている兵士が前に進み出て、隊旗を上下さかさまにして左旋回に振り始めた。これは、第3文明圏での降伏を示す合図である。
日本陸軍派遣部隊第1戦闘団は、ヘリコプターによる攻撃で皇国軍陸戦隊を中央に追い込むことに成功した。すでに榴弾砲とMLRSが向けられており、いつでも殲滅できる。
「中佐、敵部隊の動きに変化があります」
「どうした?」
天野中佐は攻撃を指示するつもりだったが、部下の報告で指示を一時的に保留する。
「旗を左旋回で振っているようです」
「降伏の合図か?」
「もしかしたら、大規模な魔法攻撃の準備かもしれません」
「何の意図があるのやら…」
そして、しばらく悩んだ天野の脳内にとある考えが浮かぶ。天野は思わずその考えを口に出した。
「連中に慈悲を与えるべきなのか?」
「今なんと?」
「今まで弱いものに対して虐殺を行ってきた連中が不利になって降伏してきたところで、“はい、そうですか”と簡単に許していいのだろうか?」
「それはそうですが、日本人の被害者はいませんよ?」
「仮に降伏を許した場合、連中は裁判に掛けられるだろうが、何人かは軽い刑で済んで再び野に放たれる。そいつらが日本人に危害を加えないと言いきれるだろうか?」
周囲がいきなり静まり返る。
「そういえば、日本政府は皇国上層部に対して降伏の際には白旗を上げるように通達したそうだ。いまの連中はどうだ?」
「「あ・・・」」
そこに、攻撃する大義名分があった。
「連中はこちらから通達したように白旗を上げておらず、高威力の攻撃魔法の準備をしている可能性がある。この世界で日本人が虐殺される事態を起こしてはならない。敵部隊を砲撃せよ!撃て!」
無慈悲に命令が下され、120発ものロケット弾や5発の榴弾が発射される。空中で爆発したそれらからは大量の子弾と榴弾の破片がばらまかれ、陸戦隊に降り注ぐ。
「降伏したというのに!作法も知らぬとは!おのれ蛮族!末代まで祟ってくれるわ!」
次々と兵士達は体を引き裂かれていき、ベルトランもその後を追った。
降伏の際は白旗を上げるようにする日本からの通達が皇国上層部から部隊に伝わっていれば、この悲劇は無かったかもしれない。彼らは、皇国上層部という名の見えざる脅威の被害者である。
一方、海上でも皇国軍は蹂躙されていた。海に投げ出された将軍シウスは拘束され、ニシノミヤコ守備隊は王国軍の前に降伏した。
フェン王国の戦いと呼ばれた戦いは日本の完全勝利に終わり、王国ではこの日を記念して祭りが催されるようになった。
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アルタラスの戦い
オリジナル兵器
○揚陸支援駆逐艦しらね改
しらね型駆逐艦1番艦しらねを、島嶼奪還作戦において強力な対地攻撃を行えるように改造した駆逐艦で、2番目の54口径127mm砲とアスロック8連装発射機を撤去する代わりに、75式自走155mm榴弾砲から流用した52口径155㎜榴弾砲を搭載している。なお、本来であればいずも型の就役によって2015年に除籍されるはずだが、日本が転移するという緊急事態であるために就役の期間が伸ばされている。なお、2番艦のくらまは改造されていない。
新規キャラクター
○水谷海将(空母いぶき)
○茂木重直大佐(オリキャラ)
フェン王国の戦い後、総理は記者会見を開いていた。
「国民の皆さん、フェン王国救援部隊は死傷者を出さずに任務を達成しました。しかし、まだ安心は出来ません。これは一時的に皇国軍を退けたに過ぎず、再び攻めてくるでしょう。そこで、再び攻めてくることを防ぐため、攻勢に出ることといたしました。そして、現在皇国によって占領下におかれ、前線基地となっている旧アルタラス王国を植民地支配から解放します」
会場の人々はどよめく。激しくカメラのフラッシュが焚かれ、パソコンのキーボードの音が響いた。
2週間後
クワ・トイネ公国のマイハークにアルタラス解放作戦に参加する日本軍の部隊が集結していた。今回の作戦において、海軍第2艦隊を基幹に揚陸支援艦や揚陸艦を加えた艦隊、水陸機動団、第7師団の機械化歩兵連隊や戦車隊が参加する統合任務部隊が結成されている。
マイハーク駐屯地
駐屯地の会議室には長机が置かれ、任務部隊の司令官や各部隊の指揮官が着席していた。
「これより、翌日に行う作戦の最終確認を行う」
そう言うのは、統合任務部隊司令官を務める海軍の水谷海将だ。
「本作戦の目的は、現地の抵抗組織の支援であり、沿岸部に展開して皇国の駐留部隊を引き付けることにある」
「作戦の第1段階では、わが第二艦隊隷下の第六戦隊が海上警備艦隊やワイバーン部隊と交戦、海上優勢と航空優勢を確保します」
「第2段階では、我々水陸機動団はAAV7を投入して東部の砂浜から上陸を行い、その際は隷下のヘリコプター部隊や海軍の支援を受けます」
「揚陸支援駆逐艦〈しらね〉艦長の茂木であります。本艦は搭載しているドローンと連携し、沿岸部に展開してくるであろう敵部隊や設置されている砲台等の施設、停泊中の艦隊を攻撃します」
しらねの艦長の名は茂木重直。明治維新まで存続した武家の末裔であり、強面であるために怖がられているが、本当は優しいらしい。
「第7師団長の大内田です。水陸機動団による制圧の完了後、我々はLCACを利用して上陸し、展開します」
「そして、これ以降は沿岸部の基地及びワイバーン用滑走路の制圧のみに留め、現地の抵抗組織の動きを待つこととするが、戦況によっては直接的な援護も必要となるだろう。なお、今回はムー国から観戦武官が訪れることを留意しておくように。以上だ」
「司令官に敬礼!」
司令官の水谷は退室した。
作戦当日 アルタラス島南東部沖
陸海統合任務部隊は、第二艦隊の第六戦隊を前衛に、艦隊旗艦を含む第二戦隊と揚陸部隊を後衛へ配置して旧アルタラス王国の沿岸部へと進んでいた。
第六戦隊旗艦 ミサイル巡洋艦きりしま
「対空レーダーに正面から向かってくる2つの反応あり。フェン王国でのデータと照合したところ、ワイバーンロードであることを確認。哨戒部隊と思われます」
「そうか。対空戦闘用意」
艦長は、静かに対空戦闘を告げる。
「対空戦闘用意!」
艦内に鐘を鳴らすような音が響く。
「目標、ワイバーンロード2騎。主砲攻撃始め」
「撃ち方始め!」
正面の目標へ向けて前甲板の127㎜砲が2発発砲し、数秒後に遠くがピカッと光った。
そして、レーダーからは2つの光点が消えた。
「これ以降も警戒を厳となせ」
ワイバーン基地
「何?哨戒騎の反応が消えただと?」
「はい」
「どうやら、軍祭でワイバーンを叩き落とした日本のお出ましのようだな。海軍基地に伝えろ。我々はワイバーンロードを発進させて日本の部隊を先行して叩くぞ。出し惜しみは無しだ」
「了解」
揚力発生のために魔石が埋め込まれた滑走路から次々とワイバーンが飛び出していき、基地の魔力探知レーダーには20個の光点が現れた。
「地上よりワイバーン20騎上がりました!」
「来たか。第六戦隊の各艦にも対空戦闘を通達、データリンクも開始」
「了解」
第六戦隊には、きりしま以下3隻の駆逐艦、1隻のフリゲートが所属している。
「敵航空部隊が海上に出た後、攻撃を開始せよ」
フリゲートを除いた4隻のVLSからSM-2が4発ずつ垂直発射され、過半数のワイバーンを叩き落とした。さらに、生き残りに対してはフリゲートと駆逐艦が発展型シースパローを発射して対応した。
アルタラス島軍港
「全艦隊、出港せよ!敵はワイバーンを落としたとはいえ所詮は蛮族だ、存分に暴れるがいい」
海上警備艦隊の指揮官ダーズは、旗艦である50門級戦列艦「ヒデル」から全艦20隻に命ずる。風神の涙と呼ばれる魔石によって起こされる風を帆が受け、全艦が次々と港から出港していった。
「リージャック中将!ワイバーンが全滅したことを受け、海軍の警備艦隊が勝手に出撃しました!」
陸軍のリージャック中将に報告が入る。
「まあ、好きにさせてやれ。奴らが不在になったところで、こちらには停泊中の艦隊20隻と沿岸部の砲台、塹壕に配置された銃兵、基地に存在する精鋭兵や地竜がいる。簡単に撃ち破れないだろう」
「では、全部隊に戦闘の準備をさせますか?」
副官が言う。
「いや、砲台と塹壕の兵士だけでよい。それに、日本の船がワイバーンを落とすことができようが、戦列艦に勝つことは不可能だ。50門級にすら負けるかもしれん。私はこれから昼寝をする、目を覚ましたときには敵が殲滅されているだろうな」
リージャックはそんなこと言うと自室に閉じ籠もり、自分を起こさせないために自らに忠誠を誓う2名の兵士を扉の外に配置した。
「データリンク及び目標の振り分け完了、各艦は右に回頭後に対艦誘導弾を発射せよ」
目標20隻に対して第六戦隊の各艦は、4発ずつの90式対艦誘導弾を発射する。
「ん?何だあれは?」
望遠鏡を覗いていたダーズは、水面スレスレを飛んでくる何かに気づく。しかし、それはもう手遅れであった。次の瞬間、ほぼ同時に20隻が破壊され、誰も己の死を悟ることなく散っていった。
「これが、日本の勝利の秘訣か・・・」
観戦武官としてムーから派遣された技術士官のマイラスは、艦隊旗艦いせの甲板に立っていた。
「あれらに対抗するには、人海戦術で押し切るくらいしか無いでしょうね」
共に派遣されていた戦術士官のラッサンは、戦術的な観点で分析する。
「ただ、あれらの誘導弾に加えて極めて精密な主砲による攻撃もあること、それを全ての艦が行えることを考えると、1隻に攻撃を当てるだけで、おびただしい数の犠牲者を出すことになるぞ」
彼らの脳裏には、対空ミサイルや主砲に撃ち落とされる複葉戦闘機マリン、対艦ミサイルに撃沈される主力艦の姿が浮かんでいた。
「ロウリアもパーパルディアも、とんでもない相手にケンカを売りましたね・・・ほんと、技術的にも戦術的にも勝ち目がないというのに・・・」
「無論、我々やミリシアル帝国、そして最近暴れまわっているグラ・バルカス帝国にとっても勝ち目はないだろうな。たぶん、古の魔法帝国でようやく互角かもしれない」
第二戦隊
「制海権及び制空権を確保しました」
司令官の水谷海将の元に報告が入る。
「作戦は第二段階に移行、揚陸部隊は前進せよ。本艦は揚陸部隊に随伴しつつ、水陸機動団の攻撃ヘリコプターの発艦準備を行う。また、しらねの茂木艦長にも連絡しろ」
「了解」
護衛として揚陸艦隊の正面に展開していた第二戦隊が一斉に左に回頭し、揚陸艦隊が前進する。その先頭には揚陸支援艦しらねの姿があった。しらねは、前甲板の2番目の54口径127mm砲とアスロック8連装発射機を撤去する代わりに、75式自走155mm榴弾砲から流用した52口径155㎜榴弾砲を搭載しており、対地攻撃能力は海軍一である。
「副長、艦内放送に繋いでくれ」
「了解」
そして、茂木艦長は話し始める。
「本艦の目的は、上陸時に障害となるものを排除することにある。ドローンによる偵察があるものの、少しでも敵を見落とせば味方部隊に大きな損害を与えてしまうことになる。決して、気を抜いてはいけない。以上だ」
「対地戦闘用意。偵察ドローンの発艦急げ」
後部のヘリコプター格納庫のシャッターが開き、ヘリコプターの形をした偵察と攻撃の誘導を行う無人機が引っ張り出される。そのまま、無人機は沿岸部の空へ飛び出していく。制空権は取ってあるため、ワイバーンに撃墜される心配はない。
「艦長、ドローンと砲塔の連携に異常無しです」
砲術長が報告する。
「よし、砲撃開始!」
数十秒のインターバルをおいて、ドン・・・ドン・・・ドン・・・と発砲音が鳴り響く。弧を描くように飛んでいった複数の榴弾は炸裂して広い範囲の砲台を破壊した。
「砲台の排除を確認。目標を変更します」
ドローンのカメラと誘導装置は、今度は軍港に停泊中の100門級戦列艦を始めとする艦隊20隻に向く。
「撃ち方始め!」
1発放つたびに1隻に砲弾が直撃し、船体に大穴を開けられて次々と沈没する。
脅威が排除されたため、在日米海軍からレンタルした強襲揚陸艦ワスプからは複数のAAV-7が発進して砂浜へと向かう。その上を、先行して同部隊のAH-1Wスーパーコブラが3機飛んでいき、塹壕に隠れていた兵士の多くを機関砲で排除、その間にAAV-7は全て上陸した。そして、生き残っていた少数の兵士から銃撃が飛んでくる。
「敵兵発砲!反撃する!」
40㎜自動擲弾銃を発砲し、一方的に敵兵は制圧された。
「総員降車、塹壕内を完全に制圧する」
塹壕内が完全に制圧されたのは10分後の出来事であり、降伏した者は1人のみであった。
「作戦は第三段階に移行する」
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