亜種聖杯戦争‐純血の聖杯‐ (ら・ま・ミュウ)
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ネタバレ注意
設定に矛盾があればご教示ください
【世界観】
Apocrypha時空のとある亜種聖杯戦争。
時計塔に属さないはぐれ魔術師が、自身の所有する鉱山の一角でアーサー王伝説に登場に登場する『聖杯』を発掘し、亜種聖杯戦争に使用する大聖杯の核にしたことが全ての始まり。
この魔術師は言峰に令呪を奪われて殺される。
【マスター一覧】
『聖堂教会』
【言峰綺礼】マスター
【遠坂時臣】協力者
此度の聖杯はアーサー王伝説に登場するガチ聖杯が核となっている可能性が発覚
聖堂教会は聖遺物の管理・回収を目的とする『第八秘蹟会』の言峰綺礼を代表として参戦させた。
遠坂時臣がサポート役へ(令呪は授かれなかった)
用いる触媒は、蛇の脱け殻の化石
【監督役】
万が一、綺礼が敗北し魔術師の手に聖杯が渡るようなことがあれば手段を選ぶなと念を圧されている。(今作では活躍のないキャラ)
刺青令呪持ち。多分後半あたりで殺されて奪われる。
『魔術協会』
【マリスビリー・アニムスフィア】マスター
カルデア建設資金調達の為。表向きは時計塔代表として。
用いる触媒は、ソロモン王の十個目の指輪
【ケイネス・ヌァザレ・アーチボルト】マスター
アーサー王伝説に登場する特大聖遺物を聖杯を聖堂教会などに渡して堪るかッと時計塔の代表として参戦(お義父さん同伴)
【ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ】(魔力担当)
【ルフレウス・ヌァザレ・ユリフィス】(戦略担当)
エルメロイⅡ世がいるのに、生存しているのはソラウが好きすぎてエルメロイを捨て婿に入った並行世界であるから。
用いる触媒は、とある女王を殺したチーズ
『単独勢力』
【マリー・サンザーラ】マスター(オリキャラ)
時計塔からは既に没落した物と思われていた古い魔術師一派、サンザーラ家の現代当主。
特徴 外見上は明るい性格だが、根は暗い。
趣味はアーチェリー
運が悪く、悪すぎて彼女のサーヴァントとなった者は例外なく幸運値はEとなる。亜種聖杯戦争には巻き込まれた。しかし、魔術師としての腕はこの聖杯戦争でトップクラス。
用いる触媒は、無し
【ロードエルメロイⅡ世】マスター
表向きは単なる偶然を装っているが、ケイネスのサポートとなっている。
用いる触媒は、マントの切れ端。
【間桐臓硯】マスター
【アイリスフィール・フォン・アインツベルン】協力者
冬木の聖杯システムを造り上げた御三家(間桐&アイツベルン)の参戦。
本来ならば、あり得ない共同戦線
ユグドミレニアに大聖杯を奪われて少し消極的。
アイツベルンは(魔力供給担当&戦闘ホムンクルスなどのサポート)
人海戦術。イリヤが未だ誕生しない並行世界。
用いる触媒は、アヴァロン(エクスカリバーの鞘)
【衛宮切嗣】マスター
【久宇舞弥】協力者
魔術協会から依頼を受け、その内容は時計塔の意に反するマスターの殺害だった。しかし令呪を授かってしまい……事故死を装って魔術協会を裏切る形で参戦。
用いる触媒は、なし。
【
死徒の少年。
人間に戻る為に聖杯を望んだが参加権は与えられなかった。
【サーヴァント一覧】(ネタバレあり)
セイバー
【アーサー・ペンドラゴン】
勝つ為なら非道にも染まろう。王の選定のやり直しを求める
アーチャー
【ギルガメッシュ】
愉悦っ!。慢心を捨てる。聖杯への望みはない。
聖杯と云うからには俺の物だろう?
ランサー
【エルキドゥ】
のほほーん。聖杯への望みはない…が、マスターの願いを叶えたいと思っている。
ライダー
【女王メイヴ】
エステ最高!不老の存在として受肉を願う。
キャスター
【ソロモン】
聖杯への望みは人間になること。彼曰くこの世界にビーストは生まれないらしい。
アサシン
【ジェームズ・モリアーティ】
アーチャーやキャスターではなくアサシンとして参戦。
複合サーヴァントであることは間違いないのだが、“ナニ”が混ざっているのかは不明。
バーサーカー
【???】
本来ならば、ライダーとして召喚される筈だったサーヴァント。反転などと言うレベルではなく、座に登録された彼とは全くの別物。
ルーラー
【シャーロック・ホームズ】
アサシンがルールを破ろうとしたので、聖杯に召喚された。
【マスターの強さランキング】
一位、マリー・サンザーラ(オリキャラ)
魔術回路『量』EX
魔術回路『質』EX
魔術系統 ルーン魔術 錬金術
魔術属性 五大元素使い
二位、ケイネス・ヌァザレ・アーチボルト
魔術回路『量』‐
魔術回路『質』‐
魔術系統 降霊術 召喚術 錬金術
魔術属性 風 水
三位、間桐臓硯
魔術回路『量』‐
魔術回路『質』‐
魔術系統 支配(蟲)延命術 召喚術
魔術属性 水
四位、言峰綺礼
魔術回路『量』‐
魔術回路『質』‐
魔術系統 霊媒 治癒術 洗礼詠唱
魔術属性‐
肉体の全盛期は過ぎている
五位、マリスビリー・アニムスフィア
魔術回路『量』‐
魔術回路『質』‐
魔術系統‐
魔術属性‐
六位、衛宮切嗣
魔術回路『量』‐
魔術回路『質』‐
魔術系統 ‐
魔術属性 ‐
七位、ロードエルメロイⅡ世
魔術回路『量』‐
魔術回路『質』‐
魔術系統 ‐
魔術属性
【最後に】
この聖杯は、
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召喚編
一人目のマスター
魔術師として、後継者を残すのは義務である。
妻を娶り、夫を取り、子を育む。
最近だと魔術の素養のある赤ん坊を養子を得ることも珍しくなくなったとか。
「――お母さんになるか」
今は肉体の全盛期。
私が子供を作るには、少しだけ早い。
けれど、遠くない未来。私も“あの人”のように子を授かるのだろう。
「少しだけ、嫌だな」
『――――――』
館内放送が次の駅が近い事を教える。
お腹に手を置くその女性は荷物をトランクを纏めて、ゆっくりと立ち上がった。
刹那、黒い影が前を横切る。
「きゃっ!」
「おや、失礼。お怪我はなかったですか?」
その彼女の手を取ったのは、ガタイのいい十字架のネックレスを下げたアジア系の男性だった。
(――聖堂教会の人……珍しい)
英国の現存する魔術の家系としては最古にして魔術協会創世記にはロードの席を預かっていた魔術師一派。
サンザーラ家。
神代の神秘をその身に内包し続ける事でいずれ根源へと到達を目指し、神代であった頃には神と交わる為にその身を獣に落とした等と眉唾物の噂を多岐に抱える彼らは
過去、極東の儀式《第二次聖杯戦争》に参加し魔術刻印をその代の当主諸とも失ってからは徐々に衰退の色を濃く見せ、今では時計塔から分家諸とも撤退し、あのロードエルメロイ二世にして、緩やかな滅びを待つだけと云われていた。
サンザーラ家三百五十六代目の当主マリー・サンザーラ。
新造の魔術刻印こそ三流の魔術師に劣るが一般の神父と聖堂教会所属の神父との違いぐらいは一目で判断出来る。
「レディ?」
「あ、ごめんなさい。大丈夫ですから」
今は魔術協会所属ではないとはいえ、魔術協会と聖堂教会の関係は水と油。
更に、無手ならまだしも野暮用なのか、黒鍵を初めとする概念礼装を複数隠し持つ完全武装ときた。
…この周囲で死徒でも現れたのだろうか。
正面から闘って勝てる見込みは三割といった所であろう。
厄介事には関わりたくないと、パタパタと腕を振るい足早に汽車から降りる。
「国立公園まではバスかぁ~今日はホテルでも泊まろうかな」
適当に旅行会社のパンフレットから抜き取って訪れたここ、イギリスのリーズ。
地図を広げて近場のホテルを探す彼女は予想だにしないだろう。
サンザーラ家の衰退の切っ掛けであり
極東の冬木と呼ばれる都市にて、過去三度に渡り行われた万能の願望器を賭け、七人の魔術師と召喚するサーヴァントが最後の一人一騎となるまで熾烈な戦いを繰り広げる『聖杯戦争』の模造版『亜種聖杯戦争』なるものに巻き込まれる事を。
補足:この並行世界でのサンザーラは『アタランテお母さん~聖杯戦争で子育て頑張る~』の世界線の衰退したフリではなく本当に滅亡の一手を辿っています。
マリーはサンザーラの悲願の器として完成していますが魔術刻印という“鍵”を失ったサンザーラが根源に到達することは不可能になります。
ただサンザーラ家が取り込んだあらゆる神々の血が全て先祖返りとして体現した状態であるため、魔力はほぼ無尽蔵で神代の魔術師クラスに強いです。
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二人目のマスターと最弱のサーヴァント(アーチャー)
かつて時計塔の魔術師が工房としていた場所に二人の男の姿があった。
「驚いたよ。まさか聖堂教会がこれ程上質な場所を提供してくれるとは。」
一人は、濃い赤色のスーツを纏う『優雅』この言葉で飾るに相応しい生粋の魔術師
「師よ、何から何まで……改めて聖堂教会を代表して感謝を申し上げます」
もう一人、表情の乏しい十字架のネックレスを下げた、ガタイの良い神父
「構わないとも。聖堂教会の目的は聖杯の回収……私の目的はその“中身”だ。我々の利害は一致している。」
魔法陣の最終調整に取りかかる遠坂時臣は、かつて魔術の教えを施した弟子であり、今現在同盟者である言峰綺礼に返答を返す。
「……しかし、以外だな。」
「…………?」
「教会が聖杯という特大の聖遺物を前にして、君という存在を派遣する形に留まるとは。私の予想では、教会は儀式を無視してでも、死に物狂いで聖杯の確保に乗り出すのかと思ったが、魔術協会に属さないとはいえ私の同行まで許すのは想定外だった。」
「師よ、それは教会の一部で此度の聖杯戦争を神から与えられた“試練”と見なす勢力が一定数現れたからになりません。そして下手に聖杯戦争のルールを逸脱すれば、我々は彼の“聖女”と矛を交えなければならない可能性がある。」
「ルーラー、ジャンヌ・ダルクか」
「死して尚、彼女の威光は教会にて輝いていますので」
「そうか。やはり、魔術協会ではなく聖堂教会についたのは私の英断だったな。」
魔法陣から出た時臣が汗を拭う。
手拭いを差し出しながらハイライトのない瞳で、この街唯一の教会が建つ方角へ視線を向ける言峰。
「(…最も、監督役は何か吹き込まれているようだが)」
ロードを二人も参戦させ、情報によれば他のマスター暗殺の依頼を“魔術師殺し”に出した魔術協会。
そこに聖堂教会が本腰を上げれば、どれだけ多くの血が流れるだろうか?
無感情にそんな事を考えていた。
「綺礼、召喚を始めよう」
「了解しました、師よ」
「素に銀と鉄―――
綺礼が魔法陣の前に立ち詠唱を開始する。
時臣は用意した触媒を思い、勝利を確信する
――誓いを此処に
何故ならば彼が選んだ触媒は、最古して最強、この世全ての財、宝、宝具ですら無限に等しい数を所有し、本来ならば聖杯戦争で召喚することの出来ない神霊の血を半分も受け継ぐ、偉大なる王【ギルガメッシュ】を呼び出すには最上の素材。彼が冒険の末に手にした不死の薬草を喰らい世界で始めて脱皮したと云われる蛇の脱け殻の化石。
彼の王を呼び出して負ける訳がない。
――天秤の守り手よ」
その瞬間、
魔法陣の魔力が渦巻き…そして、黄金の髪、黄金の鎧を纏う“英雄王”が降臨する
「……この戦い我々の勝利だ…」
眼前に在る、絶対的な力を前に遠坂時臣は高揚した。負ける筈がないと、この聖杯戦争においてこのサーヴァントこそが最強であると、両手を広げて悦びを表す。
「馬鹿な…宝具以外のステータスが全てEだと!?」
その言葉を耳にするまでは。
ギルガメッシュ(マスター言峰綺礼)※聖杯の呪い発動(大)
筋力E 耐久E 敏捷E
魔力E 幸運E 宝具EX
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三人目のマスターと最強のサーヴァントそして、四人目のマスターとライダーじゃないライダー
「――問おう、貴女が私のマスターか」
「如何にも」
イギリスのロンドンから離れた辺境の地にて、此度の亜種聖杯戦争…マスターとして選ばれた間桐臓硯はアイツベルンから提供された触媒を用いて予定通り、アーサー王の召喚に成功した。
「――ふむ、ステータスは宝具がAランクなのを除けば、まずまずといった結果か。アイツベルンのホムンクルスよ、これで満足か?」
臓硯は顎をさすり、杖で地面を叩いた。
すると、周囲の景色に己を溶け込ませる初歩的な魔術で身を隠していたアイツベルンのホムンクルス『ユスティーツァ』を模した量産型の彼女は姿を表し一言。
「では、盾を返却して貰おうか」
「……はぁ、再三になるが聖堂教会がギルガメッシュ王を召喚する可能性は極めて高い。返上してアーサー王本来の力を引き出す方が懸命じゃ。」
「早くしろ」
何処か、疲れたような臓硯の言葉に耳も貸さない彼女。
臓硯は小さく唸ると、足下を這う蟲に命じてアーサー王を召喚するに用いた触媒を、彼女の手の上に運ばせた。
それを受けとると、言葉もなしに後を去っていくホムンクルス。僅かに苛立ちを募らせる臓硯は目の前のサーヴァントに目を向けることでそれを紛らわせようと口を開く。
「セイバーのサーヴァント。アーサー王で間違いないな」
「そうだ」
「…この聖杯は、我々が造った聖杯戦争のシステムを模倣した贋作にすぎん……魔力を貯蔵することは出来とも、サーヴァントを召喚する所か万能の器として機能することはない。
「だが、私はこうして召喚されている」儂はそのカラクリを知る為にこの戦争に参加した。」
コツンと杖で地面を叩き臓硯は言う。
「闘争の果てに望みが叶うなど、思い上がるなよ?」
『ソレ』が目的で召喚された為に平然を取り繕うも僅かに顔を歪めてしまうアーサー王。
ユグドミレニアに大聖杯を奪われて以来、臓硯は不老不死の夢が叶わぬ事実に絶望し、悲観していたが、「(最後に面白い余興が見れそうだわい)」……新しい玩具を見つけた子供のように頬を吊り上げ嗤った。
時を同じくして、時計塔の一室。
「何よッこのステータスは!?」
「それは此方のセリフだ!」
取っ組みあう桃髪の女性と金髪の男性。
「アンタが、魔力を回さないで“ズル”しようとしたからこんなになったのよ!どうするのよ!戦車も出せないんですけどー!」
「ズルとは何だ!私は魔力の分配をマスターではない者に担当してもらい、弱点となる「ズルでしょうが!このズルッハゲ!」ハゲではないワックスで固めているだけだァァ!!!」
方やライダーのサーヴァント。方や時計塔の元ロード。
同レベルの争いを繰り広げる彼女達は――いや、全てのマスター達は気づいているだろうか?
この聖杯戦争…特定の条件を満たすと、もの凄く弱体化する事実に。
アーサー王(マスター 間桐臓硯)※聖杯の呪い(小)
筋力B 耐久C 敏捷C
魔力B 幸運B 宝具A
女王メイヴ(マスター ケイネス)※聖杯の呪い(極大)
筋力‐ 耐久‐ 敏捷E
魔力E 幸運C 宝具D
令呪による後押しでもなければ戦車を出せない。
筋力値と耐久値は鍛えた一般人レベル。
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機械になった人間
「――目標を捉えた」
スコープから覗く暗い眼下に見初められ、吸い寄せられるように接着する一つの弾丸が薔薇の花を咲かせたイギリスの夜道。煙を吐いたその唇が火薬の匂いを充満させ、鼻腔を擽る。その男――衛宮切嗣は無線を取り出し指定された場所へ回線を繋いだ。
「マスター候補の魔術使いを仕留めた。処理は任せる」
『――了解』
女性の声だ。
「…僕は次のターゲットに向かう」
『お気をつけて』
淡々としたやり取りの中、煙草に火を付けニコチンで肺を満たした彼はスナイパーライフルを縦長のリュックにしまいこみ鼠の気配すらない廃ビルの屋上から階段を目指す。
魔術師殺し。まさにその名に相応しく一つの命を奪ったばかりだと言うのにその表情は機械のようにひんやりと感情の感じられない無機質な物だった。
子供の頃は正義の味方になりたかった。
けれど―想い人を殺し、父を殺し、母のように思っていた人を殺し、数えきれない人間を殺し……僕の人生はそんな物と相反する邪悪な物で、救い上げたと思っていた命を都合のいい道具に変えるような畜生に僕は堕ちていた。
『万能の願望器』
今回のそれは粗悪品らしいが、僕が正義の味方ならそれを欲し『恒久的な平和の実現』なんて夢物語を目指したのかもしれない。いや、本物ならば例え今のように堕ちてしまった自分でも罪の清算をしようと身を食い潰す勢いで参加していたかも。
どちらにしろ――英霊を召喚出来たこと事態がイレギュラーで魔力を溜める事は出来ても願望器たる性能を持たないこの聖杯。
アーサー王伝説に登場した聖遺物としての価値が魔術協会と聖堂教会のやる気に火をつけ
「――考えても僕にはどうしようもない」
無関係な人間が魔術協会と聖堂教会の聖杯を掛けた奪い合いに巻き込まれ火の海となる――幼き日にみた絶望と重なり吐き気を覚えるが、正面からやり合う度胸も力もなくこそこそ闇討ちするしか取り柄のない殺し屋一人に何も変える事が出来る訳がないと頭を振るう。
「次は――ミズナ。英国の古い魔術師の一派の現代当主」
魔術協会から依頼を受けると共に手渡されたここ半年の間にこの街に拠点を構え移した魔術師の資料の中から年若い女性の顔写真を取り出す。
とても、笑顔の輝いた人だ。
此方側の人間にはとても見えない。偶然この街に訪れただけなのだろうと切嗣は思ったが、彼の結んだ契約は私情で破棄出来るほど生易しいものではない。
今回の仕事のミスは死と同義。自己強制証明により人生を三度は遊んで暮らせる額の対価に彼はそういう契約書にサインしたのだ。
そして、何より――「望まない相手を殺すのは慣れてる」
皮肉げに呟いた彼はターゲットの構えたホテルをカーナビに登録させ車を走らせる。そのハンドルを握る利き腕は不自然な火傷痕に包帯が巻かれていた。
絶望し過ぎて気づかない。
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聖杯戦争開始
聖杯戦争の始まりは物静かな庭園にて行われた。
「セイバーのマスター、間桐臓硯とお見受けする」
「如何にも。そう言う貴様はキャスターのマスターか。」
亜麻色の優男と白と赤の入り交じったローブを掛けた魔術師風の男。
間違いなく後者はサーヴァントであろう。
それも、キャスターとしては神代の中でも選りすぐり、神の血を分けた半神やも知れぬ。
間桐臓硯は目を凝らして能力を読み取ろうとするも殆どのステータスがボヤけて見えぬ事に軽く舌を打った。
「(セイバー、油断するでないぞ。ヤツの魔術師としての腕は彼の花の魔術師に匹敵する)」
五百年を生きた化け物にも理解出来ぬ隠蔽術式に最大限の警戒を募らせ、セイバーに念話で情報を共有する。
「了解した」
不可視の剣を握るセイバーは
更に、自身が知る最高峰の魔術師が近接戦に長ける事を承知の彼女は風の渦を作り、急かさずそこでサイドステップ。
大の大人が足をとらせる突風にキャスターが揺られる様子はなし。
セイバーは再度、風の渦を撃ち砂煙を混ぜて視界を濁した。
「くっ」
キャスターのマスターが顔を覆う。
その隙を逃さずセイバーは、臓硯は、眷属を放ちマスター殺害に試みた。
――騎士らしくないと、言えばそれまでだ。
彼の王は此度の聖杯戦争に騎士道精神等という甘ったれた覚悟を持ち出すつもりはない。
例え聖杯が臓硯の言うとおり願望器でなかったとしてそれがなんだ。
己の死後を明け渡してまで願った王の選定のやり直し。
確証のない言葉を信じられるほど、彼女は盲目ではなくそこには確かに熱い信念があった。
むしろ狂人的とも言えよう。セイバーが求める願いの重さは臓硯にして、軽視するのを躊躇ったほどだ。
つまり、このセイバーは勝つ為なら何でもする。
臓硯の眷属達はキャスターの放った赤い閃光に貫かれてた。
「すまないキャスター」
「……気にするな」
顔をそらさずマスターに言葉を返すキャスターは、その濃密な殺意に当てられ一筋の汗を流す。
彼の時代。玉座を狙う者は多々居たが、これ程までの存在はいなかった。
そして、この聖杯戦争の“裏”を見抜き唯一弱点を完全克服したキャスターにはおおよそ出来レースになるだろうと高を括っていたが、初戦にして己の未来視とは食い違う相手と相対することとなった。
「……これが聖杯戦争か」
キャスター真名を『ソロモン』はそう呟いた。
Zeroではなくstay/nightのセイバー
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