闘神都市RPG【魔を滅する転生闘】 (月乃杜)
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第1話:闘争の都市へ

 NTR要素が在ります。

 クライアは俺の嫁とか、シード×葉月は鉄板という方はブラウザバック余裕なストーリー展開です。





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 これはユートがSAOの世界へと航る前の噺。

 

 黒髪に和服風の女性が、ユートの前に顕れた。

 

「貴方が管理神の従者の方ですね? 私はアガサ・カグヤと申します」

 

「管理神? 星神(ワールド・オーダー)の事か? それで、アンタも神みたいだけど……何の用?」

 

 面倒臭いから管理神──ガイナスティアの従者とかに関してはスルー。

 

 まあ、本当は『誰が従者やねん!』とかツッコミを入れたい処だが……

 

「あ、貴方の御名前は?」

 

「僕は緒方優斗」

 

「優斗さんですね、了解を致しました」

 

 とある世界で、レベル神をしているアガサ・カグヤは平素では軽いノリだが、真面目な話をしに来たらしくて口調も至極真っ当だ。

 

「私の所属する世界にて、最高神が悪戯を始めてしまいまして、その悪戯を阻止して欲しいのです。実は、それには貴方の敵が関わっているのです」

 

 ピクリと反応を示す。

 

「這い寄る混沌……」

 

「はい。既に平行世界で、何人かが私の所属世界へと送り込まれました。しかも……その……」

 

 アガサ・カグヤは頬を朱に染めて口篭る。

 

「どうした?」

 

「いえ、その〜ですね……エッチをしようとしていた処を浚われまして」

 

「……何を考えてんだ?」

 

「さあ?」

 

 いつもの事ながら彼奴の考えが読めないユートは、呆れながらアガサ・カグヤと共に首を傾げた。

 

「要は、君の世界の最高神を殺せと?」

 

「それは流石に無理です。創造神ルドラサウムは強力な存在ですし、配下である三超神方も居ますからね。私とて、本来は創造神たるルドラサウムの配下の一柱です。下っ端のレベル神に過ぎませんけど」

 

 創造神ルドラサウムが創り出した三超神──ハーモニット、プランナー、ローベン・パーンという三柱の神の事だ。

 

 その下に永遠の八神が、そして更に下には階級神達が存在しており、アガサ・カグヤの様なレベル神とは一級神を上限とし、最下級を一三級神とする中でも、七級神から一三級神までの下っ端だった。

 

「ですが、遊びで世界に過干渉をするのは拙いので、此方も貴方を送り込もうという訳なのですよ。対価として、転生特典(ギフト)程ではありませんが、何かしらを贈らせて頂きます。引き受けて貰えませんか?」

 

 尤も創造神ルドラサウムからすれば、アガサ・カグヤ達レベル神の動きなどは筒抜けであり、自らが楽しむ為に見逃しているというのが真相なのだが……

 

「事が這い寄る混沌絡みとなると仕方ない。特典とやらは有り難く貰うけどね」

 

「あは♪ ありがとうございます」

 

 ポン! と柏手を打ち、喜色満面で頭を下げる。

 

「それで、行動方針は?」

 

「はい、闘神都市にて開催される闘神大会に出場をして頂きたいのです。どうも創造神ルドラサウムは其処へ刺客を送り込んだみたいなので……」

 

「闘神都市……闘神大会……ねぇ。どんな大会?」

 

「闘神という最強の戦士を決める大会で、パートナーの女性を伴って出場をし、勝ち上がるトーナメントの形式を取ったものですね」

 

「パートナー? 女性を伴うってのは?」

 

「大会規約で、大会出場者が敗退した場合のペナルティを受ける役回りですよ。出場者が敗けたらパートナーは一年間、闘神都市での奉仕活動を余儀無くされますし、勝者は敗者のパートナーを一晩に限り殺す意外で好きに出来る権利が与えられます。出場者は殆んどが男性ですので……」

 

 最後の方をアガサ・カグヤは濁していたが、要するに相手のパートナーとヤるのであろう。

 

 殆んど……という事は、つまり女性の出場者も居るという事だ。

 

「ペナルティ金としまして百万Gを払えば奉仕活動は免除されますが、勝利者の権利は必ず適用されます。出場を為される際にはお気を付けを」

 

「勝てば良い訳だけどね」

 

 この場合だと勝ちを誰かに譲る選択肢は取り難く、勝ち上がるしか有り得なくなってしまう。

 

「それでは優斗さんを我が世界へと送ります」

 

 アガサ・カグヤは祓え櫛みたいな物を振り、ユートを地球とは異なる別の世界への入口を開いて送る。

 

 こうして、緒方優斗の新たな闘い? は始まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「此処が……闘神都市か」

 

 街並みはハルケギニア、トリステインの王都であるトリスタニアよりマシで、ファンタジーな世界だ。

 

「あのでっかいのが所謂、闘技場ってやつだろうな。さて、取り敢えずルールの確認とかしないと」

 

 ユートが向かう先となるのは闘技場、彼処であるならルールやら何やらを説明してくれる人間が居る筈。

 

 真っ直ぐに歩いて闘技場の前まで立つと、その大きな建物を見遣ると頷いて、ツカツカと入口から闘技場の中へと入った。

 

「いらっしゃいませ♪」

 

 ズコーッ!

 

 ユートはずっ転ける。

 

 受付に居たのはおっぱいの大きな、巫女装束を見に纏った黒髪ポニーテールの艶やく色っぽい女性。

 

「確か、受付嬢はシュリって緑の髪の毛の女性だって聞いたけど、シュリ違いだろう? 姫島朱璃!」

 

「ウフフ♪」

 

 微笑む朱璃。

 

「どうして此処に?」

 

「アガサ・カグヤ様の依頼というかね、ちょっとしたシャレで喚ばれましたの」

 

「あ、あのなぁ……」

 

 ドッと疲れた表情となるユートに、朱璃はニコニコとしながら言い訳……というか、本当の話をする。

 

「なんて、実際には貴方のサポート要員ですよ。残念ながら貴方の使徒まで喚べませんが、私は冥闘士(スペクター)だったからでしょうか、それ程にコストが掛からなかった様です」

 

「冥闘士……か。三巨頭は未だに揃わないからな」

 

「アイリスフィール様と、天羽 奏様、セレナ・カデンツァヴナ・イヴ様が一時的に揃ったのではない?」

 

「あれは揃ったとは云わないだろ? 未来から事故で来ただけなんだし。それにいずれは出逢うにしても、今はまだ何処に居るのかも判らないしな」

 

「まあ、そうですね」

 

 ユートが権能──神より簒奪した能力──の一つである【刻の支配者(ハイパークロックアップ)】というのを暴走させ、件の二人をユートの居る世界へ転移をさせたらしい。

 

 時間も空間も無視しての大転移……ユートはいつかそれを〝行わなければならない〟のだ。

 

 それは所謂、【大いなるパラドックス】である。

 

 初めてその現象を体験したのは、ハルケギニア時代に何度か世界転移をしてしまった際に行った【アスラクライン】の世界での事。

 

 なんやかんやがあって、誤ってメインヒロインである嵩月 奏と仲好くなり過ぎてしまい、その結果として世界崩壊の危機を迎えてしまったのだ。

 

 何故に? 理由は簡単、嵩月 奏は本来の原典主人公である夏目智春と共に、様々な事件を通じて絆を深め合い、最終的には契約(エッチ)をして魔神相剋者(アスラクライン)となって世界を救う。

 

 それなのに、その要となる嵩月 奏と夏目智春との出逢いが、嵩月 奏のミスもあったものの潰れてしまったのだから。

 

 ユートの自業自得だが、その所為で可成り大変な思いをした。

 

 調整をしながら、更には救える者を時には見捨てたりもして、ユートはアニア・フォルチュナを一巡目の世界へと送り、嵩月 奏の代わりになる悪魔と契約させる事で、何とか世界崩壊──非在化──を止めた。

 

 それ以来、出来る限りはメインヒロインに手を出さない様にしている。

 

 

 閑話休題……

 

 

 取り敢えず、朱璃と本物の受付嬢であるシュリからルール説明を受けた。

 

「資格迷宮?」

 

「はい、このコロシアムより山側の麓に有ります」

 

「其処で腕試しをして大会参加資格を得る事、先ずはそれが先決となります」

 

 朱璃とシュリから説明をされ、闘神大会本選に出る為にはどうやら資格を得なければならないと知る。

 

 話はそれからだ。

 

「本選出場枠は六四名で、先着順となっていますのでお急ぎ下さいね?」

 

「了解」

 

 闘技場から出たユートは宿屋へと向かう。

 

 それなりに良心的価格の宿代、ユートは予めアガサ・カグヤから貰ってた資金から宿代を出し、部屋へと入った。

 

「さて、パートナーを招喚しますかね。使徒を誰かにヤらさせない為にも勝つ! ってな」

 

 魔方陣が展開。

 

 二重の魔方円が時計回りと反時計回りに回転をし始めて、ユートは使徒招喚の為の詠唱を紡ぐ。

 

「汝、半ば我が使徒に名を列ねし存在。造りたる者、虚無の担い手、永遠なる連理の枝・比翼の鳥よ……我が言之葉に応えて来よ!」

 力が収束していく。

 

「汝が名はユーキ!」

 

 ユーキは確かに招喚されたが、半使徒であるユーキはアストラル体でしか招喚する事が出来ない。

 

 故に、ユーキは半透明な姿で顕現をした。

 

「【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】……アガサ・カグヤの加護を発動! この世界に馴染めユーキの肉体!」

 

 生み出されるはユーキの肉体、ユートは彼女の肢体の全て──それこそ膣内の具合まで──を記憶している為、創造されたのは寸分違わぬミニマム・ボディ。

 

 一四〇にも届かぬ身長、七〇も無い胸と尻、青み掛かったブロンドはポニーテールに結われている。

 

 更にはアガサ・カグヤの加護を受け、この世界での活動が可能となった。

 

「お早う、兄貴」

 

「ああ、ユーキ」

 

 互いに笑顔を向け合い、ちょっとした目覚めの挨拶を交わす。

 

 これで取り敢えずの準備は整った。

 

 ユートはユーキを伴い、闘神都市の探索というか……探検をしている。

 

 当のユーキはというと、嬉しそうに腕に組み付いており、ちょっと背伸びする妹の如く歩いていた。

 

 まあ、正真正銘の義妹ではあるのだが、ユーキ的には妹ではなく彼女っぽく振る舞っている心算である。

 

 とはいえ、背丈が低過ぎる所為もあってかユートの恋人には見えない。

 

 アイテム屋やカード屋といった施設を観て回って、昼になったら多分食堂であろう建物へと入る。

 

 流石はファンタジー世界というべきか、見た事も聞いた事もない食べ物で一杯だった。特にモンスターを食材としている辺りが正にファンタジーだ。

 

 探検をする序でに情報の収集も忘れてはいない。

 

 ユートは平素から言っている──『情報は力也』であると。何しろ、それが故に【カンピオーネ!】主体の世界では、草薙護堂みたいな【智慧の剣】を操る訳でもないのに、趣味と実益を兼ねて媛巫女の祐理から【天啓】の術を掛けさせていたくらいである。

 

 【神殺し(カンピオーネ)】──エピメテウスの落とし子には普通の魔術や呪術は善きにしろ悪しきにしろ効かないのだが、経口摂取(キス)を通じてなら呪術も受け取れるのだ。

 

 だから、あの可愛らしい媛巫女の唇を毎度毎度で奪いつつ、巫女装束をはだけさせて愛撫をしていた。

 

 勿論、どれだけ盛り上がろうとも本人にその気が無い限り、本番にまで及ぶ事は無かったが……

 

 それは兎も角としても、食事を終えた二人は食後の飲み物を口にしながら情報を開示し合う。

 

「う〜ん、この世界がナンバリング的にどうなのか、ボクには判断が付かない」

 

「そうか……」

 

「Ⅲならボクの知識を使えるんだけどねぇ」

 

 ユーキが本来の世界にて死んだのは、二〇一二年の春も半ばの頃。

 

 年齢は当時で一七歳。

 

 つまり一九九五年に生まれた訳だが、闘神都市Ⅱのウィンドウズ版が出たのがその頃であった。

 

 だからこそ、ユーキには闘神都市Ⅲ以前の知識など有ろう筈もない。

 

「まあ、主人公とヒロインを捜し出すしかないんだろうけどな。確か、ナクト・ラグナードと羽純・フラメルだったっけ?」

 

「うん、そうだよ」

 

 ソーサーにカップを置いたユートは、支払いを済ませると再びユーキと探索に出掛ける。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それなりに広いからな、流石に人を一人捜すのにも一苦労ってか?」

 

 一応、容姿に関して聞いてはいるものの、その容貌を見付ける事が出来ない。

 

「森の様な緑の髪の毛に、羽純の方が橙色の長髪か」

 

 ユーキとは手分けをしてみたが、どうやら彼方側も芳しくないらしく特に連絡もこないし、ひょっとしたらまだ闘神都市に来てない可能性も考える。

 

 そんな風にキョロキョロしながら歩いていると……

 

「イヤァァァァッ!」

 

 所謂、絹を引き裂く様な悲鳴というやつが響いた。

 

 悲鳴の聞こえた方角を見遣ると、えらく派手な服装──儀礼的な装束にも見える──を身に纏う翠の長髪を和風に三つ編みにして、後ろで結い頭に赤い宝玉の付いたアクセサリーを着けた高校生くらいの少女が走って来る。

 

 ドスン! 後ろばかりを見ていたからか、ユートにぶつかった少女が「キャ!?」と小さく叫びながら、尻餅を付いた。

 

「大丈夫か?」

 

「う、はい……」

 

 手を貸してやると力を込めて起き上がらせた。

 

「いったいどうした?」

 

「お、追われてるんです! 変な人に!」

 

「変な人?」

 

 少女が気にしていた後ろを眺めると成程、変な人かは扠置いて確かに誰かしら男が此方へと駆けて来るではないか。

 

「や、やっと追い付いた! 行き成り逃げやがって、どういう心算だ!」

 

「逃げるに決まってます! 召喚されたかと思ったら襲い掛かってくるなんて、貴方こそどういう心算?」

 

「お前はもう俺の女なんだから当然だろうが!」

 

「だ、誰が貴方の女なんですか!?」

 

 痴話喧嘩にしか見えないのだが、どうも様子がおかしいと考えたユート。

 

 ツンデレというには余りにも真に迫り過ぎており、寧ろ怯えた瞳で男を睨み付けている。

 

「おい、お前は闘神大会の参加者か?」

 

 若しもそうなら下手な手出しは出来ない。

 

 まだ予選すら突破してはいないが、難癖を付けられても敵わないからだ。

 

「ああ? そう……」

 

「違います! 本人がいってました!」

 

 意図を察した男がニヤリと嗤いながら肯定しようとしたが、少女がそれを即座に否定した。

 

「なら問題無いな」

 

 軽く小宇宙を燃焼させ、ユートは右の拳をアッパーカットに振るう。

 

「廬山昇龍覇っっ!」

 

「ですとーるっっっ!」

 

 名前も知らぬ男は手加減こそしていたが、昇龍覇を喰らって吹き飛んだ。

 

 人が降ってくる。

 

 それは決して比喩などではなく本当に。

 

 廬山昇龍覇──アッパーで龍のオーラと共に相手へ拳を叩き付け、空中に吹き飛ばすドラゴン最大の奥義と言わしめる必殺技。

 

 まあ、使い手の一人である龍星座(ドラゴン)の青銅聖闘士・龍峰は小宇宙を水に変換し、水の龍として放っていたが……

 

 ユートは昔、黄金十二宮の闘いの後にアテナ御披露目パーティーに呼んだ春麗を紫龍と共に五老峰へ帰した際、天秤座(ライブラ)の黄金聖闘士・童虎──老師から廬山昇龍覇をレクチャーされて修得をした。

 

 それ以前はモドキ程度にしか使えなかった訳だが、修得してからは紫龍レベルに廬山昇龍覇を充分に使い熟している。

 

 そんな昇龍覇を少女を追い回していた男へと叩き込むと、面白いくらいアッサリ吹っ飛んだ。

 

 手加減に手加減を重ね、殺してはいない。訊きたい事が有ったから、今はまだ生かしておいてやる。

 

 わざわざ、顎が砕けない様にソフトな殴り方をしてやったのもその為だ。

 

 ユートは気絶した男を引き擦って、少女も伴い裏道へと引っ張り込むと魔法で水を生み出し、頭から被せてやった。

 

 バッシャン! 派手に音を鳴らして水の塊が男を濡れ鼠にしてしまう。

 

「ゲホッ、ゲホッ!」

 

 気管にでも入ったのか、噎せる男を蹴り上げた。

 

「ぐはっ! な、何をしやがるんだ!?」

 

「まったく、胸糞悪いモノを見せてくれたな。まあ、それは良い。色々と話して貰おうか?」

 

 こいつが件の転生者だというのは間違いないから、この男なら色々と知っている事もある筈だ。

 

「けっ、誰が教えるか!」

 

 ボグッ!

 

「げはっ!」

 

 容赦なく蹴る。

 

「勘違いをするなよな? 僕はお願いしている訳じゃない……命令してるんだ。少しは立場を弁えろ!」

 

「ぐっ!」

 

「まあ、暴力で言う事を利かせても良いんだけどね、面倒だからお前の頭を支配して訊いてやる」

 

「は? な、何を!」

 

「最初の質問で答えなかった事を後悔をするんだな」

 

 言いながらユートは右手の人差し指で男を指すと、小宇宙を込めていく。

 

「幻朧魔皇拳!」

 

 ピシィッ!

 

「あ、がっ!」

 

 幻朧魔皇拳──双子座の黄金聖闘士のサガが使っていた、掛けた相手の精神を支配する技だ。

 

 フェニックス一輝が使っている鳳凰幻魔拳と同様、伝説の魔拳と呼ばれ恐れられている。

 

 この技の恐ろしい処は、技の解除には仕掛けた本人が解くか、若しくは目の前で人が一人死ぬかしなければならない事にあった。

 

「色々と知っている事を聞かせて貰うぞ?」

 

 ユートは男に質問する。

 

 それに対して素直に答える──というか、端から視ると薬中がコックリコックリしている様にも見えて、ちょっと不気味だ。

 

 とはいえ、知りたい事もある程度は解った。

 

 どうやらこの世界はナンバリングで云うと二番目、闘神都市Ⅱにあたるらしいという事。

 

 自分を転生させたのが、この世界の創造神であるという事と、ニャル子にしか見えない少女がパートナーとなる少女を召喚した事も備に話してくれた。

 

 転生特典(ギフト)は個数ではなく、だからといって無制限でもないコスト制。

 

 一〇のコストに応じて、転生特典を獲られる。

 

 パートナーのコストは、この世界に近い──アリスソフト系──の世界からならコストが一律で一だが、それ以外からだった場合は一律で一〇らしい。

 

 そして少女──スワティはカクテルソフト系からの召喚であり、彼は一〇ものコストを消費したから戦闘系特典は獲てなかった。

 

 腑に落ちない。

 

「お前、それでどうやってこの世界のヒロインをモノにする気だったんだ?」

 

 この世界で数居るヒロインを合法的にモノにするのならば、闘神大会で勝利をするのが手っ取り早い筈。

 

 何しろ、主人公に勝てばメインヒロイン──ユートはそれが誰か知らない──を好き放題に出来るのだ。

 

 なのに戦闘能力皆無とはどういう事か?

 

「スワティの縁を繋ぐ力を使えば、ヒロインとの縁を繋いでモノに……」

 

「なっ? アホですか! 私の縁を繋ぐ力は飽く迄もか細いながら、確かに縁を持つ人とのみです!」

 

 企画倒れだった。

 

 要するに、そのか細い縁を強化をする事で良縁を繋いでくれるのだろう。

 

 つまり、初めから有り得ない縁は繋がらない……

 

 確かにアホである。

 

「さて、欲しい情報は獲たからな……素っ裸になって大通りで踊って来い!」

 

「う、うう……」

 

「きゃるん!?」

 

 ユートが命令をすると、転生者らしき男は服を脱いで大通りへと躍り出た。

 

 スワティは顔を紅潮させてそっぽを向く。

 

 因みに短く包茎だった。

 

 平和な闘神都市の大通りでは、行き成り現れた裸の男に怒号や悲鳴が……

 

 その後、男が捕まってしまったのは云うまでもないだろう。

 

 

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第2話:スワティとの出逢いと血に染まる資格迷宮

 エロとグロに御注意。





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 ユーキと合流をしたら、何だか呆れられた。

 

「ちょっと離れている間に女の子をナンパとか、流石は兄貴だねぇ」

 

「人聞きの悪い事を言うなよな……」

 

 頭を抱えるユート。

 

「ジョークだよ。えっと、スワティだっけ?」

 

「は、はい!」

 

「君の仕事って、良縁を繋ぐ事でオッケー?」

 

「そうです。私は弁財天のサラスワティで、七福神の一柱になります。耕平さんの最後の縁を繋ごうとしたら行き成り此処に……」

 

「耕平……? ああ、要するに主人公かな?」

 

 ユーキも流石に知らないらしく、少しばかり首を傾げてしまうが、スワティがヒロインなら恐らく耕平というのは主人公なのだろうと当たりを付ける。

 

 スワティが曰く、北極紫微大帝──北極星を神格化した存在──の七つの星を勝手に使って河村耕平の縁を繋いだらそれを叱責されてしまい、期間内に星を返せなかった場合はスワティが北極紫微大帝の花嫁となる命令を受けた。

 

 然し、七人の女性との縁を成就した筈が還った星は六つだけ。つまり、七人の内の一人は星と無関係に縁が繋がった女性である事が判明してしまう。

 

 結局、最後の星は見付けられなかった為、スワティは北極紫微大帝の花嫁となるべく天界に帰る事に……

 

 最後に耕平と縁を成就した女性から一人だけ、真の意味で縁を繋ぐ事となる。

 

 そして耕平が相手を決めて口にしようとした瞬間、あの名も知らない転生者の前に顕れ、そして興奮したソイツは行き成り襲い掛かってきた。

 

 だから逃げ出したのだ。

 

「きゃる〜ん、耕平さんはどうなったんだろ?」

 

 肩を落としている辺り、神であるにも拘わらず耕平とやらに好意を示していたらしい。

 

「ところで、その星と云うのは縁が繋がった女性に入り込むんだよな?」

 

「うん、そうですよ」

 

「……くっく」

 

「?」

 

 突然、笑い出すユートを見て小首を傾げるスワティだったが……

 

「アハハハハハ!」

 

 何故か大爆笑された。

 

「な、な、何なんですか? 私、何かおかしな事でも言いましたか? きゃるーん! 笑われる理由くらい言って欲しいです!」

 

「いや、だって……その星の一つは君の中に在るってのに、それに全く気付いてないんだからさ!」

 

「きゃる!? 私の中に? へ? どうしてぇ!?」

 

「さてね。だけど考えてみればおかしくは無いだろ? スワティは言っていた筈じゃないか。河村耕平とは三度に亘って縁があった……とね。それだけ強い縁があったなら星を宿していても何ら不思議は無い」

 

「……あ!」

 

 神とはいえ、それだけの関わりがあればそれは立派な縁であろう。

 

 それが良縁や順縁であれば尚佳し。仮令、逆縁であっても縁は縁だが……

 

「だけどその縁を強引に引き裂いて、スワティをこの世界に喚んだ訳だな」

 

「そ、そんなぁ……縁結びの女神である私の力を強引に引き裂くなんて!?」

 

「這い寄る混沌は高位神。普段は雑魚っぽく振る舞うから解り難いが、そもそも金色の女王と同位の神から直接的に産まれた、ヨグ=ソトホートの兄弟神だし。本来のサラスヴァティなら兎も角、七福神に習合されて限定的な存在となっているスワティじゃ、対抗なんて出来ないだろうね」

 

「どういう事さ?」

 

「ユーキ、七福神の弁財天は水と芸術の女神。だけど本来はインド神話体系に於いて、創造神ブラフマーの妻という立ち位置なんだ。創造神ブラフマー、調和神ヴィシュヌ、破壊神シヴァで三位一体(トリニティ)を成す。そしてその三神の妻がサラスヴァティ、ラクシュミー、パールヴァティ。

サラスヴァティは弁財天、ラクシュミーは吉祥天」

 

 インド神話体系で最高神の妻だが、仏教に習合された時点でどう考えても神格が落とされている。

 

 何しろ、破壊神シヴァと妻のパールヴァティなど、降三世明王に踏み付けられているくらいだ。

 

 とはいっても、実は起源を辿るとゾロアスター教の女神アナーヒターと同じだとされる。

 

 スワティがその最源流の旧き女神だったのならば、這い寄る混沌にも対抗が出来ただろうが、今の彼女は七福神の一柱でしかない。

 

 謂わば、起源から薄まった分け御霊の一つだ。

 

 ユートはこれでもカンピオーネ、ある程度は神話を諳じる事も出来る。

 

 何しろ、敵は【まつろわぬ神】──それくらい出来ないと、とてもではないが相手をする事など出来はしないのだから。

 

 説明を受けたユーキも、それに納得をする。

 

「それで、情報ってそれだけなの?」

 

「いや、この世界がナンバリング的に闘神都市Ⅱだって事が判った」

 

「ああ、それでか……」

 

「それで?」

 

「うん、実は羽純・フラメルを見付けたんだよ」

 

「ハァ? だって、羽純・フラメルってナンバリングは闘神都市Ⅲだろう?」

 

「うん、一緒に居た相手が踏み台だったんだよ」

 

「……踏み台」

 

 その形容が全てを物語るというもの。

 

「イケメンで銀髪なオッドッアイか」

 

 此処がプライオリティの高い世界なら、地雷な容姿でしかないだろうに。

 

「今時、そんな容姿を選ぶ莫迦が居たんだな」

 

 ユートは呆然と呟いた。

 

 何せイケメン銀髪オッドッアイなど、地雷も地雷な踏み台様御用達の転生特典(ギフト)ではないか。

 

 そういうのは転生特典(ギフト)で獲ても、違和感しか出ないからハッキリと云えば似合わない。

 

 人物優先権(キャラクター・プライオリティ)の低い原作世界であるなら、謂わばニコポやナデポなどの洗脳系能力で堕とす事も可能だが、標準以上であると効かない程度ならまだしもマシな方で、寧ろ嫌悪感すら懐かせるのだから恐ろしく地雷だろう。

 

 オッドッアイではなかったが、あの白龍皇ヴァーリみたいなタイプならハマり役かも知れないが……

 

「まぁ、実際に胡散臭い事この上なかったね。選んだんじゃなく、ランダムだったか或いは……這い寄る混沌がわざとやったか」

 

 苦笑いを浮かべるユーキを見る辺り、その転生者はよっぽどだったのだろう。

 

「ナクト・ラグナードじゃなく、明らかに踏み台的な転生者顔の男と一緒だし、瞳にも生気はなかったしで【闘神都市Ⅲ】だとしたら変だとは思ったけど」

 

「恐らく、スワティと同じでパートナーとして選んだんだろうな。しかもスワティの状況を鑑みるに重要な場面で拉致られたと考えるのが妥当……かな?」

 

「重要な場面。例えば?」

 

「スワティは星を宿していたのに気づかなかった……若しかしたら河村耕平とやらはスワティを選んだかも知れないという場面だな。勿論、そうならなかったって可能性も有るんだけど。それで、ユーキ」

 

「何さ?」

 

「羽純・フラメルにとって重要なシーンってのは覚えているか?」

 

「さあ? けどスワティはちょっと特殊例だとして、大抵の女の子にとって重要な時、しかも取り上げられて絶望すら懐かせるシーンがあるとしたら、愛する人との初体験か結婚式とかじゃない?」

 

 ユーキは右手人差し指を下唇に添え、ちょっとばかり考えながら思い付いた事を口にする。

 

「わ、私の時より状況悪いじゃないですか!」

 

「そうだね。若し、初体験でドキドキしながら肢体を開いて待っている処を召喚されたなら、スワティでさえ押し倒されたんだから、襲わない理由も無いな」

 

 そんな状況なら逃げる事も侭ならず襲われ、泣きながら主人公──ナクト・ラグナードの名前を叫んで、敢えなく散らされたろう。

 

「ぶっちゃけ、本来の原作ニャル子ならやらないとは思うけど、完全に這い寄る混沌の(さが)に目覚めている上に、ナイアが混ざってるっぽいからねぇ」

 

 言外にそれくらい平然とやるだろうと、ユーキは頷きながら語った。

 

 迂遠なれど、干渉をして自らが破滅へと向かう様に誘導するのが彼の邪神。

 

 何を考えて、何を狙っているのかは相変わらず解らないが、少なくとも『世界に平和を』とかでは無い。

 

「私、これからどうしたらいいんでしょう……」

 

 無理にこんな異世界に連れてこられ、未来への展望など微塵にも見えない為、スワティは不安そうな表情となる。

 

「う〜ん……同じ地球だとしても、どの平行世界なのかが判らないし、スワティを還すのは無理だよね?」

 

「……そうだな」

 

「う、そう……ですか……きゃる〜ん……」

 

 目に見えて落ち込む。

 

 平行世界は鏡合わせみたいに無限に列なる訳でもなかったが、それでもその数は一つの原典世界に対して無限マイナス一だという、窮めて無限に近い。

 

 此処に居るスワティが居た世界が何処なのか、それを特定するなど不可能にも等しかった。

 

「あ! 星は惹き合うからそれを使えば?」

 

「それには星を取り出さなきゃダメだよ。ぶっちゃけると、君と強く縁が繋がった男と結ばれなきゃ取れないんでしょ?」

 

「はうっ! そうでした……きゃる〜ん」

 

 ユーキの指摘を受けて、テンションが駄々下がりになった。どうやら、彼女の口癖はテンションに関わって出るらしい。

 

「まあ、彼処で兄貴にぶつかった事で繋がった縁……それをスワティが紡いでいったなら、いずれ兄貴に取り出して貰えるかもね?」

 

「──へ?」

 

 星は縁を取り持つ切っ掛けで、その後に繋いだ縁を育んで絆へと変えたなら、最終的に結ばれて星は取り出される事となる。

 

 所詮は星が在っての縁、故に星が喪われたらそれで切れてしまうが、スワティが河村耕平の縁を本物へと変える予定だった。

 

 それは兎も角、ユートがスワティの星を取り出すと云うのは即ち、スワティがユートと結ばれるという事を意味している。

 

「きゃる〜ん!? わ、私とユートさんがですか?」

 

 瞬間湯沸し器も斯くやで真っ赤になるスワティは、あたふたと慌てふためく。

 

「だ、だ、ダメですよ! 私には……あ……」

 

 どの道、星が繋ぐ縁を辿れなければ還れないなら、星を身体の内より出さなければならず、その為にヤるべき事をヤるというのは、結局は耕平との縁を切ってしまうのと同義。

 

 それに、還った処で……

 

「河村耕平はとっくに誰かと結ばれてるよね」

 

「……はい。約束はミーナかサワディが果たしたかも知れませんし」

 

 ユーキの指摘に項垂れながら言うスワティ。

 

「ミーナとサワディ?」

 

「ミーナは私の後継ぎ……次代の弁財天です。サワディは妹なんですよ」

 

「ミーナ……インド神話でミーナというなら本名は、ミーナクシーか」

 

「あ、はい」

 

 どうやら(スワティ)が居なくとも、世界というのは回るらしい。

 

 嘗て、【ハイスクールD×D】主体世界でアザゼルが言っていた通りに……

 

「取り敢えず、スワティはウチで養うしかないか? ステータス・ウィンドウで最低限の機能を付けよう」

 

「確かにそれしかないね。それに、恩を売っとけば……何て、言わぬが華か」

 

「ちょっ!?」

 

 何をやらされるやら怖くなるが、少し気になったのはステータス・ウィンドウという単語。

 

「むう、ステータス・ウィンドウって何ですか?」

 

 だから剥れながらも訊ねるスワティ。

 

「魔法の一種。兄貴とボクとで開発したんだ」

 

 何処か誇らしそうに言うユーキは、無い胸を張っているのが少し痛々しい。

 

「魔法……ですか?」

 

「そう莫迦にしたもんでもない。空間倉庫、亜空間ポケット──呼び名は何でも良いけど、そんな感じの物を仕舞う空間は在るか?」

 

「一応は」

 

 何処からともなく物を取り出せる者は、そういった技能を持っている。

 

 スワティも御多分に洩れなかったらしい。

 

「じゃあ、その中の物を直に着替えたりサイズを変えたりする事は?」

 

「は? 仕舞う為の空間でそんな真似は……まさか、可能だとでも?」

 

 ユートは鷹揚に頷く。

 

 切っ掛けはVRMMOの話だったが、自分達が持つ亜空間ポケットを便利に出来ないか? それを発展させた考えがステータス・ウィンドウという魔法の構築に到らせた。

 

 要は現実でVRMMOの様なシステムメニューを出せないかと、そういう考えを持ったのである。

 

 様々な実験を行っては、術式の構築をやり直していった末に完成を見た。

 

 実装には多大なる魔力を必要とするが、ステータス・ウィンドウ一度でも実装してしまえば、僅かなエネルギーで幾らでも開く事が可能となっている。

 

 必要な最低限の機能からフルスペックに至るまで、バージョンアップも可能なそれは、アイテムの管理、能力の閲覧、技能の修得、武器防具の装備などを簡単にしてくれた。

 

 更に、武具の装備に関してはサイズを調整すらしてくれる為、これを応用して小さくなった服や下着なども問題無く着れるのだ。

 

 ユートとユーキも当然ながら実装しており、しかも完全なフルスペックだから全ての機能を使える。

 

「必要最低限となるとだ、名前とレベルと職業の閲覧と武具の装備に、後はアイテムストレージだけど……八種類を九つずつ仕舞える程度だね。あ、お金の管理も出来るから」

 

 フルスペックなら無制限に仕舞えるのだが……

 

 敵を斃せばリザルト画面に経験値(笑)やドロップ品の項目などが表示されて、アイテムはソートする事すら出来てしまい、そうなるともう現実(リアル)仮想(ヴァーチャル)の区分など曖昧なものだ。

 

 ゲームのスキルを現実に持ってきて使うなんて事も出来るし、それこそ仮想の世界のデータを持ち出し、現実に再現も可能。

 

 ステータス・ウィンドウはその【仮想×現実(ヴァーチャル・リアリティー)】実現の最初の……そして大きな一歩だった。

 

「さて、これで良し」

 

 ユートが術式を使って、スワティにステータス・ウィンドウを実装する。

 

 これでスワティもサイズを気にせず、服や下着などを変える事が出来る筈。

 

「そろそろ本題だけど……資格迷宮に行こうと思う」

 

「まあ、予選通過の条件が資格迷宮内の証を手に入れてくる事。しかも本戦出場枠は六四人までで、先着順になっているからさ」

 

「まだ本戦枠は埋まり切ってないらしいが、それでも既に五〇人余を越えていると聞いたからな。早い内に僕も予選通過しておかないといけないだろう」

 

 余裕かまして本戦出場が出来ないなど、無様を晒す訳にはいかない。

 

「という訳で早速行くよ」

 

「行ってらっしゃい兄貴」

 

「ああ、行ってくるよ」

 

 ユーキに見送られて出ようとすると……

 

「きゃるん、あの……行ってらっしゃい」

 

 心なしか頬を染めて瞳を潤ませたスワティが、見送りをしてくれた。

 

 恐らくは先程の話に中られたのだろう、羞恥などが心に渦巻いている様だ。

 

 それに普通に宙へ浮いてたから気付かなかったが、スワティはどうやら受肉をしており、人間に近い肉体を有しているらしい。

 

 ステータス・ウィンドウを構築、譲渡した際に手を握ったのだが、人との触れ合いを通じて温もりを感じたのは初めて──神同士なら兎も角──だったから、照れも入っている。

 

 ユートはこの世界に併せた姿──ファンタジー的な騎士っぽい出で立ちで資格迷宮へと出掛けた。

 

 資格迷宮は小規模ながらモンスター蔓延るダンジョンの体を成し、闘神大会への出場資格がある実力者かを問う場所。

 

 大して強いモンスターが出る訳でもないが、大会の出場者を振り分けるのには充分に機能している。

 

 此処で脱落をする程度でしかないなら、そもそもが闘神大会に出場をするべきではないという事だ。

 

 漆黒の軽鎧を身に着け、久方振りに妙法村正を腰へと佩くと……

 

「ちゃっちゃとクリアしてしまおうか」

 

 ユートは資格迷宮の中に入って行った。

 

 資格迷宮の中に突入をしたユート。

 

埴輪(ハニワ)か?」

 

 ユートの前に全身が緑色で手? と思しき部位にはトライデント? を持つ、目と口の辺りが空洞になったコミカルな物体が……

 

 所謂、埴輪と呼ばれている縄文土器っぽいナニか。

 

 襲ってくるのだから敵──モンスターの類いに間違いはないのだろう。

 

「やれやれ」

 

 ユートは溜息を吐くと、抜き放った妙法村正で横薙ぎ一閃、斬り付けた。

 

『ハニーッ!』

 

 緑の埴輪は悲鳴を上げながら真っ二つとなる。

 

「雑魚いな」

 

 某・鉄槌永遠幼女(ヴィータ)っぽく呟いてみた。

 

 ユートのステータス・ウィンドウのリザルト画面に緑色の埴輪から獲た物──僅かばかりの経験値とお金が表示されている。

 

「緑色の埴輪だから名前はグリーンハニー?」

 

 どうやらハニワではなく【ハニー】らしい。

 

 ステータス・ウィンドウの凄い処──フルスペック・バージョン──は、とある世界の記録にアクセス、斃したモンスターの名前が表示される事だ。

 

 その後も何体か違う種類のモンスターが現れる。

 

 橙色の丸っこい生物(なまもの)で、名前はぬぽぽというらしい。

 

 人魂に手をくっ付けて、イカれた表情をしたモンスターで、経験値もゴールドも可成り低いし、ハニワよりずっと弱かった事を鑑みると、RPGで云うならば『スライム相当だけどな』って処だろうか?

 

 ヤンキーと云う名前で、ガチムチな袖無しの白シャツを着て、バットくらいの長さの根を右手に、左手には煙草を吸って紫煙を吐きながら現れたモンスターは何と云うか『……あっ!』的な意味で後ろを守りたくなってしまう為、疾く消えて貰うべく妙法村正で真っ二つにしてやった。

 

 カード屋から聞いてて、人型モンスターというのが存在する事を理解はしていたユート、だが次の瞬間に我が目を疑ってしまう。

 

 緑色のショートヘアに、ウサ耳、どう見ても八〇に届かない胸を隠すブラに、パンツ姿のある意味で扇情的な姿の少女が現れた。

 

 カード屋が曰く【女の子モンスター】と云うらしいのだが、ユートはもう少しモンスターモンスターとした姿を想像していたのに、殆んど人間と変わらない。

 

 まあ、襲ってくるのなら敵として情け容赦無く斬り捨てるまでだが、何故だか『遊んで♪』と纏わり付いてくるだけで、攻撃をしてくる様子は全く無い。

 

 後でカード屋に聞いた話だが、普通は【女の子モンスター】でもモンスター、普通に襲ってくるものらしいのに……と。

 

 取り敢えず、このモンスターは相当な構ってちゃんらしいので、要望の通りに遊んで(・・・)上げる。

 

 元より、人種差別や種族差別を嫌うユートなだけに人型ならば忌避感も無い。

 

 流石に人型でない存在とヤるのは勘弁、せめてヒトの姿を保っていて欲しい、ユートも獣姦の趣味は無いのだから。

 

 それは兎も角……

 

 相手は人間の倫理観など関係の無いモンスターで、ユートも遠慮など一切せず呵責も感じず、【きゃんきゃん】という種族の彼女を『戴きます』したのだ。

 

 ヤってる最中、同じ種族の【きゃんきゃん】が何体か現れたので、ちょっとした御乱交となった。

 

 その中の一体と使い魔的な契約を結び、白紙カードへと封印をする。

 

 他にも【ラルカット】という種族で、青いストレートロングヘアに蝙蝠の羽根を頭から生やす、モリガンっぽいお姉さん型モンスターが現れた。

 

 モリガンとは某・メーカーの格闘ゲームに出てくる操作キャラクターだ。

 

 この【ラルカット】は、ツンデレっぽい口調ではあるのだが、何処かで【きゃ

んきゃん】との情交を観ていたのか? 情欲に満ちた表情で瞳を潤ませている。

 

 内股で擦り合わせると、水音が迷宮内に響いた。

 

『ア、アンタがしたいなら構わないんだから! けど勘違いしないでよ、別に私はどうだって良いんだからね!?』

 

 そっぽを向き、頬を朱に染めながら言う【ラルカット】に対し、ユートは嗜虐的な笑みを浮かべて……

 

「素直なきゃんきゃんと致したばかりだし、今は別に良いかな?」

 

 などと言いつつその場を離れようと踵を返す。

 

 すると袖口を引っ掴んでくるので、ふと振り返ってみると【ラルカット】は泣きそう──寧ろ啼きそうな表情でイヤイヤと頭を振っていた。

 

 どうも【きゃんきゃん】との情交を観ていて、相当に性欲を刺激されたらしい【ラルカット】は、見た目がモリガンっぽいだけではなく、何処ぞの夜の一族も斯くやで発情した様だ。

 

 その後、言葉責めで虐めながら焦らしつつ、程好く熟した処で戴いた。

 

 勿論、カード化する。

 

 因みに、ユートにはどうでも良い話ではあったが、その後にこの資格迷宮へと入った者の内、半分くらいがげっそりとした表情で、覚束無い足取りになりながら出て来たと云う。

 

 残り半分の内、帰って来なかった者が更に三分の一ばかり居り、二度と出てくる事は無かったとか。

 

 三分の二は何とも無く、無事に出て来たらしい。

 

 どうしてそんな事になったのか、資格迷宮に入るまでは謎扱いとして誰しもが首を傾げていた。

 

 そう、ユートにとってはどうでも良い話だ。

 

 女の子モンスターと宜しくヤった後、ユートは再び奥を目指すべく進んだ。

 

 普通の──ぬぽぽやヤンキーやグリーンハニーなど──モンスターは兎も角、きゃんきゃんなどの女の子モンスターは襲って来なくなったから、少し楽になったとも云える。

 

 手に入れるべき【迷宮攻略の証】が有る場所まで、もうそれ程には離れてはいないとみた。この資格迷宮の規模から鑑みると、そろそろ最奥の筈だからだ。

 

「ねえねえ君、ちょーっと良いかな?」

 

 行き成り話し掛けられ、ユートが声の方へと顔を向け妙法村正を構えると……

 

「ちょっ、おっかねーな。モンスターじゃねーんだ、剣を仕舞ってくれよ」

 

 軽鉄鎧を纏うチリチリな金髪癖毛でタレ目な男が、所謂ホールドアップしながら出てきた。

 

「何だ、アンタは?」

 

「いやいや、それは良いじゃない。それよりも俺さ、ちょーっと困っちゃってるんだよねぇ。この先にえらく強いモンスターが居て、行く手を阻む様に居座っちゃってんのよ」

 

「ふーん。強い……モンスターね」

 

「そう、一人じゃどうにも勝てそうもなくて、どうしようかって思っていた処、君が来てくれたんだ」

 

「一緒に斃してくれと?」

 

「まあね。と、言いたいんだけどさ……実はさっき逃げる時に足を挫いちゃってねぇ。援護くらいは出来るからさ、君に先行して欲しいんだよ」

 

「別に構わない」

 

「そっかそっか、引き受けてくれるか! 流石だね、俺の見立てに間違いはなかったよ。この投げナイフで援護はするから頼んだよ」

 

 奇妙な同行者が後ろに付いて、ユートは再びその先を目指して進んだ。

 

 手には黄色い薔薇を持っており、それの茎を指先でくるくると弄りながら。

 

「お兄さん、それは?」

 

「ああ、綺麗なものだろ? 僕が栽培してる黄薔薇」

 

「はは、情緒溢れているものだねぇ」

 

 モンスターが蔓延る迷宮を歩いているとは思えない空気で、ユートと奇妙な男は【迷宮攻略の証】が有るであろう奥へと歩いた。

 

 だが、歩けど歩けどそれらしきモンスターなどは全く出てこない。

 

「それで、件のモンスターは何処に居るんだ?」

 

「ああ、居るよ……お前の真後ろになっっ!」

 

 ニヤつく不気味な顔で、男がナイフを構えてユートに振り翳す。

 

 ビキッ!

 

「はれ?」

 

 だけどまるで硬直したかの如く……否、本当に硬直したらしく止まり……

 

「な、な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁああっ!? がふっ!」

 

 脚が縺れて無様な格好を曝しながら転んだ。

 

「う、ごけ……ねえ……」

 

 呂律も回らなくなってきたのか、口調も怪しくなってくる男は何とか顔を上げてみると、其処には冷たい笑みを浮かべるユートが、見下ろしている。

 

「どうだ? その香気を吸えば身体が麻痺する黄薔薇──パラライズローズの香りは?」

 

「んなっ!?」

 

 麻痺するとか言いつつ、ユートはその黄薔薇の香りを嗅いでいた。

 

「よく効くだろ?」

 

「て、めぇ、な、なんで……こんら……」

 

「人を後ろから刺そうとした人間に訊かれるとはね、気付かれてないと本気で思っていたのか? それに、まさか卑怯とは言わないだろうな?」

 

 そう言いながらナイフを取り上げると……

 

 ザクッ!

 

「ぎあっ!」

 

 男の腕を刺す。

 

「あ、ぎ、ぎぎ……っ!」

 

 余程痛かったのだろう、涙を流していた。

 

「この黄薔薇な、僕次第で神経を鈍化させたり鋭敏化させたり出来るんだけど、今は痛覚を数倍にまで引き上げているんだ。だから……クスクス、とっても痛いだろう?」

 

「あ、あ、あ……う……」

 

 朗らかな笑顔のユートを見て漸く男は悟った。

 

 決して敵に回してはいけない相手だ……と。

 

 今更、それに気が付いてももう遅いのだが……

 

「血の臭いに惹かれてそろそろモンスターが集まる」

 

「ヒッ!」

 

 男は息を呑む。

 

 確かに剣呑な気配が集まり出していた。

 

「僕はお前の末路を近くでじっくりと観察しよう」

 

 そう言うと姿が透明になったかの如く消える。

 

 実際には認識が出来ないくらい、気配を周囲へ同化をしてしまっただけだ。

 

 野生のモンスターでさえ気付けないレベルで。

 

「ま、まっれ! おいれからいれくれぇぇぇっ!」

 

 ダクダクと血を流して、それに惹かれるモンスターの気配に恐怖し、涙と鼻水に塗れた汚い顔を晒しつつ呂律の回らぬ口調で叫ぶ。

 

 ぬぽぽ……橙色で人魂っぽい姿のモンスター。

 

 ヤンキー……工事現場のオッサン風なモンスター。

 

 他にも牙をギラつかせているモンスターが多数。

 

「あひっ!」

 

 ガリッ!

 

「アギャァァァァァァァァァァァァァァアアッ!」

 

 脹ら脛を齧られた男は、鋭敏化した痛覚の所為もあってか、得も知れぬ痛みで盛大に絶叫を上げた。

 

 それを皮切りとして次々と男へ群がり、集っていくモンスター達は少しずつ、決してすぐには死なない様に皮を裂き、肉を喰い千切って咀嚼していく。

 

 ベリッ! グチャッ! クッチャクッチャ……

 

 その音がいっそうの恐怖と痛みを助長した。

 

「死にたくねぇ、死にたくねぇよー! 助けて、助けてくれぇぇぇぇっ!」

 

 ガリッ!

 

「ぎえっ!?」

 

 グッチャ、グッチャ……

 

「犠ぃぃ嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」

 

 ユートにとっては、名すら知らぬ男の絶望混じりな絶叫が、資格迷宮の内部にて生命が尽きるその時まで(こだま)するのだった。

 

 

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 みんな大好き、ザビエルさんはMMO−RPG風に云うとMPKされて、人生をログアウトしました。




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第3話:奇跡! 切り札は自分だけじゃないけどね

 後々に出てはくるけど、ユート達は闘神大会中での小宇宙の使用を、カグヤから禁止されています。





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 フラフラと宿屋に戻って来たユート、其処には精彩に欠く表情でスワティ辺りは心配をしていたのだが、ユーキ頭を抱えている。

 

「ヤバいな。兄貴ってば、血に酔ってるよ」

 

「血に酔ってるですか?」

 

「う〜ん、多分なんだけど……資格迷宮で下劣な屑を殺してきてるね」

 

「ふぇ!? 殺してって、どうしてですかぁ?」

 

「さあ? 兄貴を敵に回したのが下劣な屑だったからじゃない?」

 

「はぁ……」

 

 スワティはよく解らないといった風情で、気のない生返事をした。

 

「ボクは兄貴の相手をするからさ、スワティは巻き込まれない(・・・・・・・)様に部屋から退避した方が良いよ」

 

「きゃる? どういう意味ですか?」

 

「血に酔った兄貴はまあ、何と言うか……」

 

 ちょっと頬を朱に染め、ポリポリと掻く。その視線はユートの股間へと注がれていた。

 

「発情しちゃうんだよ」

 

「はつ……って!? きゃる〜ん!」

 

「兄貴ってば、下種を相手にすると残忍で残酷で冷酷になるからね。平然と敵を殺してしまうんだ。その血に酔って発情しちゃうから鎮めて上げないと……」

 

「きゃ、きゃる〜ん!?」

 

 今回は名も知らない男をモンスターに生きた侭喰わせるという、残虐極まりない殺し方をしている。

 

 そんな下種の血を浴び、興奮したユート。

 

「という訳でさ、さっさと退避をしないと襲われても知らないよ?」

 

「きゃる! わ、判りましたぁ!」

 

 慌てて部屋の外へと出たスワティを見送るユーキ、すぐにユートの方を向き直って瞑目をすると、服の釦に手を掛けた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌日、ユートとユーキはコロシアムへと向かう。

 

 【迷宮攻略の証】を持って行き、本戦出場の権利を得る為である。

 

 コロシアムの受付には、緑のショートヘアにアクアマリンの瞳の女性が居り、更にハイスクールD×D的な世界からやって来た人妻であり、黒髪ポニーテールな女性の姫島朱璃も何故か立っていた。

 

「優斗様、どうですか? 【迷宮攻略の証】は無事に手に入りましたか?】

 

「ああ、これだろ?」

 

「はい、確かに。流石ですね優斗様」

 

「おめでとうございます、無事に予選突破です」

 

 朱璃とシュリから祝福の言葉を受けるユート。

 

「それでは、闘神大会に於ける詳細なルールについて御説明しますね。その後、意思確認と契約書の取り交わしを行って、正式参加と相成ります」

 

「了解、了解」

 

 ユートは二人からルールの説明を受けた。

 

 最終確認をされた際に、ユートは取り敢えず気になった事をシュリに訊ねる。

 

「引き返さなかったら契約書の通り、全てを受け容れた事になるんだな?」

 

「はい、そうなりますね」

 

「そう、その最終確認って全員にしてるんだよね?」

 

「勿論です」

 

「判った」

 

 ユートとユーキは契約書にサインをする。

 

「兄貴、こうなったからには敗けられないよ?」

 

「勿論、敗ける気は無い」

 

 敗北すればユーキがどうなるか知れないし、更には一年間の強制労働をさせられてしまう。

 

「言っとくけど、兄貴以外に肌を許す気無いからね」

 

「判っているさ。絶対に敗けないから安心しろ」

 

 一年間の強制労働を免除されるには、一〇〇万Gの免除金を支払うしかない。

 

 それは難しくはないが、その際にネックとなるのは勝者が敗者のパートナーを一晩好きに出来る権利。

 

 故に敗北は許されない。

 

「それじゃ、行こうか」

 

「うん」

 

 出て行く二人を見て朱璃は思う……

 

「(う〜ん、仲睦まじいわねぇ。その優しさをもう少し朱乃にも欲しいわ)」

 

 苦笑いを浮かべながら。

 

 後日、最後の出場参加の資格を得るべく少年と金髪の女性が訪れる。

 

 資格迷宮は突破してきたものの、何処か頼り無さげな少年だったと云う。

 

「さて、次はどうする?」

 

「ラグナード迷宮に入る為の許可を、市長から受けに行こう」

 

「ラグナード迷宮……ね。彼処って修業用のダンジョンの筈だけど、兄貴に必要は無いんじゃない?」

 

「そうでもないさ」

 

 女の子モンスターのカードを増やす為にも。

 

 やり方は少しおかしかったが、ああいうのはちょっと愉しくなってきた。

 

 ブレードの【醒剣ブレイラウザー】や龍騎の【ドラグバイザー】みたいな専用リーダーを造ったら、その力を出力する事も可能になるだろうし。

 

「まだトーナメントの抽選すら終わってないけどね、許可だけは取っておいた方が後で楽だから」

 

「まあ、そうだね」

 

 一応、予選は既に通過をしているのだからラグナード迷宮へと入る権利は有しているだろうし、アプロス市長も実力者が入る分には反対もしないと思う。

 

 結果だけ云えば、許可は拍子抜けをする程アッサリと出た。

 

 これで暇潰しにラグナード迷宮へと入り、趣味的に女の子モンスターのカードを蒐集をする事も可能。

 

 それに平行してカードリーダーを造ろうと考えた。

 

 呑気に構えてはいたが、実は既に色々と変化が……

 

 転生者が一名、ユートが入り込み、更には本来なら予選を通過していたあの男の不在などが、本来の流れを変えてトーナメントにも影響を及ぼしてるのだが、原典を識らないユート達に解ろう筈もなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 この世界はファンタジーな世界であるが故に娯楽は無く、ハッキリと言ってしまえばこの上無く退屈。

 

 そういう意味では娯楽に溢れた現代日本は天国だと云えるし、恵まれた世界だとも云えた。

 

 だから、上手い暇潰しを見付けなければユートは、本戦開始までユーキとひたすらセッ○スでもしているしか無かったし、女の子モンスターのカード蒐集というのは愉しい暇潰しだ。

 

 カード屋にカードを見せたら、カード屋が手を加えるまでもなくカードが使える状態らしく、後は何らかのデバイスを用意すれば、普通とは違う効果も得られそうで楽しみだった。

 

 ユーキとしても助かる。

 

 先日……というか、今朝までずっとヤり続けていたから、負担も半端ではなく流石に疲れた。

 

 血に酔ったユートは抑えが利かず、遠慮も全く無しに欲望の塊を吐き出され、全然寝てないから眠い。

 

 ユートとの情事は好きだけど、ヤり潰されてしまうのはやはり困る。

 

 それが正直な感想だ。

 

 そんなユーキの思いなどは他所に……数日後の本戦トーナメントの抽選会までユートはラグナード迷宮へ潜ってカード蒐集したり、宿屋でカードリーダー・デバイスを造ったりする心算である。

 

 まあ、抽選会の後も当然ながら行動は変わらない。

 

 アプロス市長から迷宮を探査する許可は得た訳で、ユートはラグナード迷宮に向かった。

 

 ラグナード迷宮──先の資格迷宮とは、そもそもの規模からして全く違う闘神都市最大のダンジョン。

 

 ユートも詳しくは知らないのだが、少なくとも資格迷宮の時みたいに僅か半日もあれば踏破が可能なものではない筈だ。

 

 というよりは、ユーキがプレイをしたとか言っている闘神都市Ⅲの迷宮を鑑みれば、年単位での攻略すら必要となりかねない広さを持つと推測される。

 

 そういう意味でならば、退屈はしそうにない。

 

「これがラグナード迷宮──資格迷宮に比べて豪華な入口だな」

 

 あの今にも崩れそうだった資格迷宮、その貧相に過ぎる入口に比べると確りとしていた。

 

 資格迷宮を洞穴であるとすれば、ラグナード迷宮は正しくダンジョンだろう。

 

 ブラックメタル・メイルを身に纏い、バックラーを左腕に、腰には妙法村正を佩いた剣士としての出で立ちでラグナード迷宮の中へと入っていく。

 

 アプロス市長が言っていた事だが、最近は迷宮内を盗賊などが荒らして回っているらしい。

 

 場合によれば襲ってくるかも知れないと、アプロス市長から注意を受けた。

 

 だが、ユートからすれば何も問題は無い。出て来れば排除をするまでだ。

 

 早速、ユートは分かれ道に差し掛かって向かって右へと曲がる。

 

 何故かハニーらしき物体が鎮座をしていたのだが、取り敢えずは見なかった事にして放置しておく。

 

 先に進みまた右折すると梯子が掛かっている。

 

 其処を降りたら濃厚なる気配と共に、濃い緑の怪物が行き成り襲撃してきた。

 

「チッ! お呼びじゃあないんだよ!」

 

 舌打ちをして佩刀を抜刀すると、その侭怪物に対して斬り付けてやる。

 

 刀身には焔が宿って煌々と燃え盛っていた。

 

 斬っっ! 轟っっ!

 

 斬り裂いてやった瞬間、緑の怪物は傷口を燃やされてのた打ち回る。

 

「緒方逸真流・抜刀術──【華斬】!」

 

 燃えていた刀身の焔は、瞬時に消えてしまった。

 

 鞘内の火薬に鞘走りの際の摩擦熱で燃やし、瞬間的に刀身へと焔を灯す技で、敵は斬られたと同時に傷口を燃やされてしまう。

 

 それが緒方逸真流の抜刀術が一つ【華斬】だ。

 

 ユートはのた打つ怪物の首を落とす。

 

 すると、緑の怪物は消滅してしまった。資格迷宮でも死んだモンスターは消滅していたし、これが此処のモンスターのデフォルトという事なのだろう。

 

 リザルト画面を見ると、経験値とGOLDが表示されており、モンスター名は【おかゆフィーバー】とされていた。

 

「なんつー名前だ」

 

 とはいえ、そんな怪物に用事など有りはしない。

 

 フロアを調べようと動いてすぐに止まる。

 

「行き止まりか?」

 

 壁は崩せそうだったが、そうするとみすみす後発に道を教える事になる。

 

 今は放って置こうと考えたユートは、元来た道を戻ってハニーが鎮座する場所を今度は左折した。

 

 因みにフロアには名前が付いているらしく、先程の【おかゆフィーバー】とやらが出たフロアは【黄金の時代】とステータスウインドウに表示されていた。

 

 そして此処は【鉄の時代】とされている。

 

 このフロア、基本的には余り資格迷宮と変わらないらしく、大したモンスターも出て来なかった。

 

 奥に行くと【鉄の時代】の第二フロア。

 

 赤紫色のクローバー状な謎物体な【るろんた】なるモンスターが現れた瞬間、ユートは唐竹で真っ二つにしてやる。

 

 他には【ぶたバンバラ】という、酒場で名前を聞くモンスターの名前。

 

 このショルダーとスモールシールドに、ボロい槍を持つ豚野郎が食材と思うと複雑だが、さっさと斬る。

 

 探索をしていると、見た目に子供の姿をした少女がスキップをしながら向かって来ているのだが、まさか本当に子供がこんな迷宮に居る筈もない。

 

 恐らくは女の子モンスターだろうと考え、ユートは黒髪おかっぱ頭でミニスカっぽく纏めた着物を着た、両手に白狐に狸のパペットを填めた女の子モンスターに近付いた。

 

 モンスターであり、人間とは異なる生命体であるのならば、人間の……しかも地球の法律など関係無い。

 

 見た目がちょっとアレなのだが、そもそもユーキも大して変わらないのだから今更というやつだろう。

 

 女の子モンスターが此方に襲撃をしてくる。

 

「ぽんぽこパーンチ!」

 

 右手の狸パペット側で殴り掛かってきた。

 

 ポコッ!

 

 全く痛みを感じないし、どうやらこの少女は相当に非力なタイプらしい。

 

「こーんパンチ!」

 

 今度は左手に持つ白狐のパペットで殴ってくる

 

 所謂、強パンチとでもいうのだろうか? 少なくとも【ぽんぽこパンチ】よりは威力があった。

 

 でも効かない。

 

 もっと下層のモンスターならまだしも、こんな浅いエリアではユートを傷を付けるには及ばない様だ。

 

 ユートは、手にしていた妙法村正の刃を返して峰を前面に出すと……

 

「はっ!」

 

「きゃうっ!?」

 

 女の子モンスターの足を村正で払って転けさせた。

 

 尻餅を付いてひっくり返った少女の顔の近くへと、妙法村正を地面にズシャッと突き立てる。

 

「ヒッ!」

 

 ヒトの姿をしていても、つまる処はこの娘もやはりモンスター。理性より本能の方が強いのか、これ以上の抵抗は殺される可能性を感じて、すっかりと大人しくなってしまう。

 

 何だか見た目の可愛らしさも相俟って、自分が悪党外道の類いになった気分となるユートだが、モンスターである以上はそんなもの掻き捨てる。

 

 カタカタと、生命の危機に小さく震えるモンスターにアクセスし、ステータス・ウインドウからスキルを選択──【検索】を選ぶ。

 

 其処には【ざしきわらし】という名前が表情され、種族名が判明した。

 

 ネームドモンスターではないから、どうやら個体名は持っていない模様。

 

 まあ、この世界にそんな概念が有るかどうかも判らないのだが……

 

 ユートは大人しくなったざしきわらし──何故か平仮名で表記されていた──の元から露わな太股に触れると、内股をソッと(まさぐ)り始めた。

 

 ビクビクと怯えていた筈のざしきわらしだったが、暫くしたら頬を朱に染めてだらしなく半開きになった口から涎を垂らしており、目をトロンと蕩けさせながら喘ぎ声を響かせる。

 

 女の子モンスターというのは、カテゴリーとしては間違いなく狐狸妖怪・魔物の類いに属してはいるが、身体的には人間の女性との差異が余り無い。

 

 勿論、芯から診たならば全く別物であろう。例えばユートのモノは大丈夫だったが、本来なら彼女らには人間の精液は毒として働くという辺り、肉体の作りの違いを思わせる。

 

 ユートがカード屋に行ってカードを見せた時、手を加えるまでもなく既に心を開いており、一体全体、何をやったのかと訊かれた。

 

 ユート的には『ナニをヤった』としか答えられなかったが、その時に女の子モンスターの特徴を教えられたのである。

 

 実際、その昔に女の子モンスターを捕らえてヤった男が居たらしく、その直後に苦しんで死んだ様だ。

 

 その事から導き出された答えが、人間の精液が毒として作用するという事実。

 

 ユートはカテゴリー的に人間だが、可成り変質している所為で毒にはなり得なかったのかも知れない。

 

 

 閑話休題……

 

 

 着物の帯は解かず肩口をはだけさせ、小さな胸を軽く揉みながら人間でも感じる股間の部位を弄る。

 

 軽く涙を零しながら嬌声を発するざしきわらしの口を自らの口で塞ぎ、舌を絡ませてお互いの唾液を混ぜ合わせて呑み込ませた。

 

 

 それから一時間経過──

 

 

 ナニかを股間から溢しながら眠るざしきわらしに、ユートは白紙カードを使ってカード化をする。

 

 このカード化に関しては本人から了承済み。

 

 眠る前、試しに言ってみたら喜んで──というか、悦んで頷いたのだ。

 

 ある程度、【鉄の時代】を探索し終えたユートは、ラグナード迷宮から出ると宿屋へと戻る。

 

 部屋にはユーキとスワティが待っていた。

 

「お帰り、兄貴」

 

「お帰りなさい」

 

 二人に出迎えられるが、ユーキはすぐにニヤニヤと笑いながら訊いてきた。

 

「それで? 今日はどんな女の子モンスターを誑し込んで来たのかな?」

 

「ユーキ、人聞きの悪い事を言うなよ……間違いじゃないんだけどな」

 

「じゃあ、良いじゃん」

 

 ユーキが新しく作られたカードを見ると、其処には当然ざしきわらしの絵が描かれている。

 

「うわ、ビジュアル的にはちょっとヤバいよね」

 

 確かに実質には兎も角、単純にビジュアルだけを視たら、Y○UJ○にイタズラじゃ済まない事をしている変態さんである。

 

「それを言ったらユーキが相手でも同じだろ?」

 

「うわ、言ってはいけない事を!?」

 

 生きてきた継続累計年数は永いが、ユーキの見た目は身長が一四〇センチにも届かず、胸囲も七〇センチに届かないペタ胸であり、端からは中学生にすら見えない容姿だ。

 

 容姿の基がジョゼット、つまり【ゼロ魔】のタバサと瓜二つで、髪の毛を伸ばしてポニーテールにしている以外に差異は無い。

 

「きゃる〜ん。そういった会話は少し遠慮をして欲しいかも……です」

 

 縁結びの神様とはいえ、男性経験皆無なスワティは明け透けな会話を聞いて、真っ赤になっていた。

 

「さあ、早速デバイスを造ろうか!」

 

 ざしきわらしのカードを手にしたユートは、カードの力を機械的に引き出す為のデバイス造りを開始。

 

「それで、どんなのが良いかな?」

 

「カード型というのなら、【仮面ライダーブレイド】に【仮面ライダー龍騎】、【仮面ライダーディケイド】だろうね」

 

「全部、仮面ライダーじゃないか!?」

 

 自信満々に言うユーキが挙げたのは、カードを使って戦う仮面ライダー達。

 

 五二体+αのアンデットを敵に、剣崎一真達が戦う物語が【仮面ライダー剣】という作品で、滑舌の悪さからオンドゥル語と揶揄をされる言語で有名に。

 

 ミラーワールドに放たれたミラーモンスター、そのモンスターと契約して力を得た一三人の仮面ライダー達が互いに合い争うライダーバトルに、城戸真司というジャーナリストが参戦してライダーバトルを止めるべく戦うのが【仮面ライダー龍騎】の物語。

 

 十周年企画で制作された【仮面ライダーディケイド】はある意味では、最大の裏切者の物語。【アンチ・ライダーシステム】とも云うべき【ディケイドライバー】を〝再び〟手にしてしまった門矢 士(もやし)が、旅の果てに何を見るのか? 的な物語となっている。

 

 最大の裏切者の意味は、元々が仮面ライダー自体が裏切者であり、基本的には敵と同じか似た力を用いる事からきており、ディケイドが仮面ライダーの力を使うのは、本来の敵が仮面ライダーである事を示す。

 

 だが、何らかの事情にて記憶を喪った士は、最終的に大ショッカーと敵対し、仮面ライダーという鞘に戻った二重の裏切りから最大の裏切者となった。

 

 本人が意図していた訳でもないだろうが……

 

「ディケイドは無いな」

 

「何でさ?」

 

「いや、カードに掛かれた仮面ライダーに変身するのが真骨頂だろ? まさか、僕が女の子モンスターに成るのか?」

 

 ユーキはふと、考えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

《KAMEN RIDE》

 

「変身っっ!」

 

《CANCAN!》

 

「遊んで遊んで♪」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 げんなりするユーキ。

 

「……無いね、確かに」

 

「だろ?」

 

 仮面ライダーディケイドはソッコー却下された。

 

「龍騎も無理だな」

 

「まあ、龍騎は……ねぇ」

 

 ミラーモンスターと呼ぶには流石にちょっと違うだろうと感じたか、ユーキも苦笑いをしながら頷く。

 

 よく解らないスワティだけは、どうにも首を傾げるしかなかったが……

 

「となると、ブレイドか」

 

「そうだねぇ。女の子モンスターが何体くらい存在するか判らないけどそれなりに居るだろうし、アンデットの代わりには良いね」

 

「ん? でも通常のカードは兎も角、特殊カード──チェンジとアブソーブとフュージョンとエボリューションはどうする?」

 

「ああ……」

 

 変身の為のチェンジ。

 

 強化変身の触媒的なのがアブソーブ、強化変身の為のカードがフュージョン。

 

 そして最強フォームへの変身がエボリューション。

 

 確かに女の子モンスターのカードは、【スラッシュ】や【ブリザード】みたいなカード的なモノであり、変身系とは趣が異なる。

 

「行き成り行き詰まった」

 

「アハハ……」

 

 ユーキも乾いた笑いしか出ない。

 

「あの〜」

 

「なに? スワティ」

 

「例えば私の力をカードに封入するとか? 封印されちゃ困るけど……」

 

 ポン! と手を叩く。

 

「「その手があった!」」

 

 ユートは亜空間ポケットから何枚かのカードを取り出すと、女の子モンスターカードと並べて置いた。

 

 其処には【プリンセス】【ハーミット】【イフリート】のカード。

 

 他にも何枚かが在るが、今回はこれだけで良い。

 

「スワティのカードで変身をして、ハーミットのカードを触媒にイフリートのカードで強化変身、プリンセスのカードで最強フォームに変身……かな?」

 

「どういう意味の内訳?」

 

「プリンセスとイフリートは心通わせた訳じゃなく、割と無理矢理に力だけ奪った形だけど、ハーミットはそうじゃないんだよ」

 

「ああ、ハーミットは堕としたんだね」

 

 他に心通わせた者も居るのだが、アブソーブは一枚在れば良いのだし、それはフュージョンとエボリューションも同様だ。

 

 だから初期の三枚だけを選んで出した。

 

 また、本来このカードの役割は天使召喚にある。

 

「【ナイトメア】や【ベルセルク】は?」

 

「いや、今回は特殊カードを四枚だけだし、スワティを含めれば三枚で済むから要らんだろう?」

 

「ま、それもそうだねぇ。変身後の姿まで仮面ライダーにするのはアレだけど、デバイスはブレイラウザーと同じで良いよね?」

 

「機械的な部分は専門家(ユーキ)に任せる。形も好きに決めてくれ」

 

「りょ〜か〜い。取り敢えずブレイラウザーっぽいのを造るね。強化変身の為のラウズアブソーバの方は後で造るよ」

 

「判った」

 

 ユーキの言葉に頷くと、スワティの方を向く。

 

「それじゃ、カードを創ろうか?」

 

「きゃる〜ん! 頑張りますね!」

 

 何を? と訊きたかったが止めておく。

 

 用意したカードに神力を注ぐだけで、頑張る要素が皆無なのは知っているが、やる気なのにわざわざ水を差す事もあるまい。

 

 それから、抽選会までの数日間はデバイス造りへと精を出し、何とか完成まで漕ぎ着けた。

 

「心に剣と輝く勇気っぽい物を……仮面ライダーの姿じゃないけど、仮面ライダーブレイブって事で。あ、ちゃんとカメンライダーの姿にも成れるよ?」

 

 だから変身ツールの名前は【ブレイバックル】で、カード制御デバイスの名前は【ブレイラウザー】なのだと、ユーキは在りもしない胸を張り言ったと云う。

 

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第4話:変身! 仮面ライダーブレイブVS絶対王者

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 大きな黄色いリボンにてピンク混じりの長い赤毛を結わい付け、真白のドレスに身を包んだ透き通る様な白い肌をした美しい女性がコロシアム壇上に立って、マイクの前で口を開く。

 

 闘神都市のアプロス市長であった。

 

 タレ目勝ちで赤い瞳が、満員御礼なコロシアム客席を見回している。

 

「闘神大会の開会式を行うに当たり、この都市の代表として全世界の皆さんを心より歓迎致します。大会の開催に尽力をして下さった方々、市民の皆様、そして勇猛果敢な大会参加者の方へ感謝を! 私の願いは、幾度もの戦いを勝ち抜いた最強の『闘神』を見届ける事なのです。今日から決勝のその日まで、皆が感動を共有し国籍や言語を越えて心を通い合わせる事を期待してます。そして大会に出場する闘士の皆さんの健闘を祈ると共に、その勇気に最大限の敬意を表します。今此処に、闘神大会の開幕を宣言致します!」

 

『『『『『ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!』』』』』

 

 アプロス市長による開会演説が締め括られた途端、観客席からは大歓声が地よ響け、空よ震えろと謂わんばかりに沸き上がった。

 

「遂に始まったか闘神大会の本戦が」

 

「だね、仮面ライダーブレイブの力を如何無く発揮して欲しいな」

 

 ユートの右手にはブレイバックルが握られており、バッチリとやる気が漲ぎっているのが見て取れる。

 

 抽選会も終了していて、トーナメント表が貼り出されていた。

 

 それによると、一回戦の相手はケイジン・カーターという名前らしいのだが、何しろ原典の知識を持たない二人に、それが何者であるのか推し測れない。

 

「ケイジン・カーターね、誰であれ敗けてやる義理も無いし、必ず勝つさ」

 

「兄貴、相手のパートナーとヤる気満々だねぇ」

 

「混ぜっ返すな。もう二度とは僕以外に肌は許さないなんて言う以上、敗けられる筈もないだろ? 僕だってコル先生が亡くなってからは二度とユーキを誰かに触れさせる気は無いさ」

 

「うん」

 

 何処か遠い目のユーキ、遥か過去へと想いを馳せているのであろう。

 

 開会式や抽選会も済み、翌日にはトーナメント表も確認したユートはブレイバックルを手にすると、早速ラグナード迷宮に向う。

 

 ユートの識らない原典と多少、異なった並び方をしているのだが、識らなければ同じ事だである。

 

 ブレイバックルとブレイラウザーの試運転と称し、少し愉しそうな表情で迷宮まで来ていた。

 

 一応、ユーキやスワティの前で正常稼働するか否かの謂わば、起動テストの方は済んでいるにしてもだ、実働テストまではしている時間も無く、これが初実戦という事になる。

 

 ラグナード迷宮の入口に着くと、牛の角っぽいものを付けた覆面を被った筋骨隆々な巨漢と、赤毛のショートヘアに眼鏡を掛けている十代後半から二十代前半の女性が、黒髪に鎧を纏う少年と金髪の美女と一緒に立っているのに気付く。

 

 巨漢は会場で確認をした一回戦の相手、ケイジン・カーターで間違いない。

 

 ならば隣の赤毛の女性がパートナーで、もう一組の男女もまた闘神大会出場者と考えるのが妥当か……

 

 何だかよく解らないが、ケイジン・カーターらしき巨漢が、少年を引っ張りながらラグナード迷宮の中へと突入していき、少年は叫びながらされるが侭になっていた。

 

 苦笑いをしていた金髪の美女が此方に気付く。

 

「あら? 貴方は……?」

 

「闘神大会の出場者だよ。君らはさっきの二人のパートナーかな?」

 

「ええ、私はセレーナ・フレイズ。さっきの男の子──シード君の姉代わり母親

代わりって処だけど、パートナーを務めているわ」

 

「私はアンドラ・くじら。ケイジン・カーターのマネージャーでパートナーよ」

 

「御丁寧にどうも。僕の名はユート」

 

「ユート? ユート・オガタね? ケイジンの一回戦の相手……!」

 

 くじらと名乗った女性が目を見開いている。

 

「そうだよ。まあ、宜しく……色々な意味でね」

 

「っ! ケイジンは敗けないわ! 彼はプロレス界の絶対王者なんだから!」

 

 『宜しく』の意味を察したのか、くじらは羞恥か怒りなのか兎も角にしても、真っ赤になって怒鳴った。

 

「そっか。なら期待をしておくとしよう。彼が強い事と……君の味を」

 

「くっ! アンタなんか、ケイジンに伸されて敗けちゃえっっ!」

 

 クスクスと笑いながら言うと、再び真っ赤になって怒鳴るくじらを背にして、ユートはラグナード迷宮へと突入をする。

 

 可愛らしくポーズを取ったスワティの絵が描かれ、【CHANGE】と書かれたカードを左手に、スペードではなく剣と盾をモチーフにしたレリーフの機器を右手に持ち、ラウズリーダーへカードを装填すると、シャッフルラップが巻き付く様に腰へと装着され……

 

「変身っっ!」

 

 ユートが叫びながらも、ターンアップハンドルを引いたら、ラウズリーダーが一回転をする

 

《TURN UP》

 

 機器──ブレイバックルから電子音声が鳴り響き、スワティの絵柄のオリハルコン・エレメントが顕れ、ユートがそれを潜ると次の瞬間には装備が一変。

 

 見た目には防御力皆無で豪華絢爛な儀式用装束で、スワティのドレスを男性用に直した感じの服に、籠手や脚当てや肩パーツが付いた感じの防具、顔を覆ったバイザー、腰にはブレイラウザーを佩いた姿だ。

 

 パッと見で防御力は本当に無さそうだったが、何処ぞの異世界召喚少女騎士が纏っていた防具も、見た目の防御力が低そうな印象とは裏腹に、最強のクラスの防具であった様なモノで、確り攻撃は防いでくれる。

 

 尚、【OPEN UP】でなく【TURN UP】方式だったのは、ユーキ的に前者のイメージが余りにも良くなかったからだ。

 

 暴走しまくったレンゲルを始め、ダークライダー枠なグレイブ、三下風味でしかないランス、糞ビッチなラルクでは仕方がない。

 

 まあ……ラルクが本当にビッチかどうかは扠置き、故にこそ愛すべきダディやオンドゥルの方がまだしもマシだと、此方を採用したという訳だ。

 

「さあ、始めようか!」

 

 ブレイラウザーのオープントレイを円弧を描く様に展開すると、寂しくも三枚のカードが入っている。

 

《SWALLOW TURN!》

 

 選んだカードは【ラルカット】で、アクティブ効果は燕返しという二段攻撃。

 

「ウェェェイッ!」

 

 カードリーダーがカードを読み込み、電子音声を響かせるとブレイラウザーに光が灯り、効果の通り剣を揮うユートは目の前に現れた【プロレス男】という、青い覆面を被る脹れ上がっただけの筋肉を持つモンスターを斬り裂いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 夜になり、探索を終えてテレビを点けると……

 

〔闘神ダイジェスト!〕

 

「ファンタジー世界なのに存在する16:9ワイドなテレビとか、意味不明なんですけど……」

 

 ユートが呟く。

 

 テレビ画面には金髪ロングで、頭の両横に青い小さなリボンで軽くツインテールに結わいた美少女ナビ、それに赤い三角帽子に赤い服を着て、両手には煌めくナイフを持つ人形? らしき宙に浮く物体。

 

〔ぱうぱう、こんばんわ。今日から始まりました新番組の闘神ダイジェストの御時間でーす。明日から開催される闘神大会の試合結果やその他の様々な催し物の様子を私、クリちゃんと〕

 

〔解説の切り裂き君が御送りするよ。今日から大会の終了まで皆、宜しくね〕

 

 どうやら本名は不明だが【クリちゃん】というらしい金髪美少女と、相方となる【切り裂き君】と名乗る人形が色々と番組を盛り上げてくれる様だ。

 

「へぇ、面白そうだねぇ」

 

 ユーキも愉しそうだし、スワティも瞳をキラキラとさせている。

 

〔ではでは……明日もこの時間に、アデュー♪〕

 

 楽しみが増えたのだと思う事にした。

 

「明日もラグナード迷宮に行くから」

 

「りょーかーい」

 

「判りました」

 

 三人共、その日はすぐに眠った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ラグナード迷宮の探索をまた終えたユート。

 

「ふう、ヤっちまったぜ」

 

「兄貴、アンタねぇ……」

 

 新しいカードを手にし、汗を拭う仕草のユートを見てユーキはジト目だ。

 

 体操服に革ベルトを身に付け、黄色のマフラー? を首に巻いた黒髪ロングの女の子モンスター【やもりん】だが、キック力を強化をするべくラグナード迷宮の中で伝説の蹴り技を修得する修業中だったらしく、マスターした技の練習台にと襲撃してきたのである。

 

 戦闘にメリットが無いからと言ったが聞く耳を持たない【やもりん】に対し、ならば勝ったらカード化を了承させる事で勝負。

 

 見事に勝利を納めた。

 

 勿論、美味しく『戴きます』をしてからカード化、四枚目のモンスターカードをゲットだぜ!

 

 赤ブルマの上からの愛撫ですっかり参ったらしく、【やもりん】はアッサリと堕ちたのだ。

 

 蹴り技を強く鍛えるべく下半身を鍛えていただけあって、アソコの締まり具合もスゴかった……

 

 満足気なユートに対し、少し不満気なユーキは別に嫉妬している訳では無──いとも云えないが、自分とスるより満足されては立つ瀬が無いのだろう。

 

 小さな肢体で頑張って、狭いアソコで扱き上げるのがユーキだが、それよりも何だか良さそうにしているのが少し癪だったから。

 

「キック系のカードが手に入ったのは良かった」

 

「くっ、そんなにこの子のアレが良かったの!?」

 

「──は?」

 

 意味不明な呻き声と共に吐き出される呪詛にも近い科白に、ユートは思わず目を点にして首を傾げた。

 

 【やもりん】のカードはアクティブでキックの力、パッシブでカウンターという使い勝手の良いモノ。

 

 また、フィールドスキルに壁破壊が在った。

 

 カードリーダーは三つが設けられており、使いたいスキルに応じて読み込む為のリーダーを変える。

 

 アクティブはブレイド系仮面ライダーがよくやっている【キック】や【スラッシュ】といったスキルで、パッシブは予め読み込んで暫く持続するスキルだ。

 

 フィールドスキルに関しては、そのスキルの働きを瞬間瞬間に行使するモノ。

 

 これが中々に面白い。

 

 これからも女の子モンスターと交流? していき、カードを増やしていったら退屈凌ぎにはなるだろう。

 

「そういや、ケイジン・カーターだっけ? 一回戦の相手だけど、伝説の蹴り技ってのを会得したみたい」

 

「そうか、興味が無かったから石板を捜していた奴にくれてやったけど、自分の為じゃなくケイジン・カーターに渡したのか」

 

 ユートが斃し、ヤってからカードにした【やもりん】が持っていた伝説の蹴り技を描く石板は、それを捜していた少年に上げた。

 

 確か、セレーナ・フレイズという美女をパートナーにしていた少年だった筈。

 

「なら、少しは楽しめる……かな?」

 

 この世界のプロレス──WWTの絶対王者であると云うケイジン・カーターだったが、最近は行き詰まりを見せているらしく、伝説の蹴り技とやらを修得するべくこの闘神都市を訪れたらしい。

 

 やっぱり目的も色々という事なのだろう、夢や希望を持って来る人間も居て、野望や欲望の虜も居る。

 

 後者は兎も角、前者に関しては踏み躙るのが心痛む気もしたが、だからといって勝利は譲らない。

 

 況んや、後者なんぞ寧ろ幾らでも踏み躙って、全部を否定してやる。

 

「そう、否定してやる!」

 

 酒場で働くさやかという赤毛の女性、去年の大会で敗者となった者のパートナーだったらしいが、同じく去年の大会で優勝を果たした闘神クランクのお気に入りらしく、いつも酷い目に遭わされているとか。

 

 その陵辱の現場を先日、見る機会があった。

 

 猫なで声でさやかを呼び出し、『お兄ちゃん』とか呼ばせて自分のモノに奉仕を強要する姿。

 

 ユートはルール上の問題が無いから何も言わずに、酒場から黙って出て行ったのだが、どうやらシード君とやらは酷く憤慨をしていたらしい。

 

 『青い』とは言うまい、ルール的には問題無いから何も言わなかっただけで、ユートも公衆の面前でアレはどうかとも思ったし。

 

 尚、他所でヤる分には特に言う事も無かった。

 

 そもそも、義憤に駈られてクランクを打ちのめしたとして、それで逮捕されでもしたらユーキの身が危ないのだから。

 

 とはいえ、気分的に良くないのも事実だから優勝をしたら〝息子様〟を切り落として鬱憤を晴らす。

 

 若し、さやかが対価となるモノを用意した上で助けを求めて来ていたのなら、その場で助けるのに否やは無かった。

 

 勿論、真っ正面からブッ飛ばす訳ではない。

 

 それでも、それくらいはしても良いと思わせる程度には良い子で、それなりに美人ではあったのだ。

 

 それは兎も角として。

 

 ラウズリーダーにスワティの【CHANGE】カードを装填、シャッフルラップが腰に展開したと同時に掛け声を叫ぶ

 

「変身!」

 

 ターンアップハンドルを引くと……

 

《TURN UP》

 

 ラウズリーダーが回転、電子音声と共にオリハルコン・エレメントが展開し、ユートはそれを潜る。

 

 仮面ライダーブレイブとなり、ユートはコロシアムの中央へと立った。

 

 ユートの仮面ライダーブレイブ・Aモードを見て、ケイジン・カーターは目を見開いていたが、すぐ気を取り直して口を開く。

 

「ほう、中々に外連味の利いた姿だな」

 

「これを単なるハッタリと思うなよ? 僕の信頼する技術者が技術の粋を凝らして造り上げた逸品だ」

 

 ラウズホルスターから抜いて手にしたブレイラウザーを構えて、ユートは口元を吊り上げながら言う。

 

 オリハルコンプラチナを極限まで研磨したというのが原典のオリハルコンエッジを持つブレイラウザー、だけど流石に本物を用意する事は出来なかったが故、普通に神鍛鋼(オリハルコン)を用いている。

 

 勿論、高熱放射と高周波振動によるヒーティングエッジは採用されていた。

 

 要するに、根本的な素材以外は基本的に原典に窮めて近い代物という事だ。

 

 この格好をケイジン・カーターは外連と呼んだが、決してそれだけではないというのがユートの意見。

 

 ハルケギニアの時代よりずっと傍に居た者、ユーキが手ずから造り上げた逸品であるからには、ユートが信じない理由は無かった。

 

 さて、女の子モンスターのカードは現在だと僅かに四枚──【ラルカット】、【きゃんきゃん】、【ざしきわらし】、【やもりん】のみである。

 

 【ラルカット】は二段攻撃を可能とした燕返し。

 

 【きゃんきゃん】は防御を上げるガードアップ。

 

 【ざしきわらし】は命中やクリティカル率などを上げるラッキーヒット。

 

 【やもりん】は伝説の蹴り技の六十四文キック。

 

 現状では戦術など有りはしなかった。

 

「始め!」

 

 司会者兼審判による始まりのコールを受け、ユートとケイジンが同時に駆け出して互いに攻撃を放つ。

 

 当然だが、ケイジンは刃に直接は触れない様に攻撃を仕掛け、ユートはブレイラウザーの攻撃を極めるべく動いていた。

 

 ケイジン・カーターは、WWTのマットに立っているプロレスラー。

 

 ラグナード迷宮に棲まうモンスター、プロレス男の様な無駄筋肉と違い一切の無駄を省き引き締められた鋼の肉体……それは正しく絶対王者の風格だ。

 

 そんな鍛え抜かれた肉体には、神鍛鋼(オリハルコン)の刃とて瞬間的になら抗し得る。

 

 故にこそ、ブレイラウザーという剣に対しながら、拳で打ち合うという普通なら有り得ない、非常識な事も可能となっていた。

 

 仮令、小宇宙を使わない素の肉体能力だけで闘っていても、ユートもまた肉体が尋常ではないから普通に打ち合っているが、これで通常の人間の侭だったなら危なかっただろう。

 

 プロレス百戦無敗の絶対王者の名は伊達ではない。

 

「ケイジン・カーター……伝説の蹴りってのは使わないのか?」

 

 正確には伝説の足技というのだが、やっている事は要するに蹴りなのだ。

 

「ほう、君がそれを知っているというのは?」

 

「アンタが受け取った筈の石板……あれは元々は僕が手に入れた物だからね」

 

「そうか……」

 

「まさか、敗けたらパートナーがどうなるかも知れない一戦に、自分で手に入れた訳じゃないから使わないとか、そんな事を考えてはいないよな?」

 

「むう!?」

 

 闘神大会の勝者は、敗者のパートナーを一晩に限り好きにする事が出来る。

 

 但し、殺害だけは禁じられているが……

 

 それ以外なら何をしたとしても、勝者の権利として咎められはしない。

 

 勿論、何もしないというのも権利の一つだろうが、闘神大会出場者の多くは男であり、パートナーは全てが女性なのだ。

 

 ナニがどうなるかなど、言わずとも知れた事。

 

「それで敗けるのはアンタの勝手だが、全力を尽くして敗けたのならまだしも、出せる筈の力を出さず敗けてしまうなど、パートナーになってくれた女性に失礼な話だと思うぞ?」

 

「……」

 

 打ち合いを止めたケイジン・カーターは、瞑目をしながら天を仰いだ。

 

「そうだな、君の言う通りかも知れない」

 

 迷いは消えたと言わんばかりに、ケイジンがユートを真っ直ぐ見る。

 

「まあ、それでも僕が勝つんだけど……ね」

 

 そんなケイジン・カーターへニヤリと、口角を吊り上げながら不敵に笑って見せると、ブレイラウザーのオープントレイを開く。

 

 二人の動きが止まった事に観客はざわつくものの、突如として果てしない緊張感がコロシアムを包み込んで風を感じた。

 

「ヌオオオオオッ!」

 

 先に動いたのはケイジン・カーター。

 

 ユートはそんな彼を認めると、二枚のカードをオープントレイから引き抜き、それをブレイラウザーに付いたアクティブ用スラッシュリーダーへと通す。

 

《SWALLOW TURN!》

 

《SIXTY FOUR KICK!》

 

 ブレイド系仮面ライダーでは、カードを連続スラッシュする事でコンボというのが発生する。

 

 例えば、ブレイドだったら【キックローカス】と【サンダーディアー】を使って通常なら【キック】と【サンダー】だが、コンボの場合は【ライトニング・ブラスト】となる。

 

 そしてユートは、この組み合わせでコンボが発生する事を聞いていた。

 

《TWIN BREAK!!》

 

「はぁぁぁっ! ウェェェェェェイッッッ!」

 

 二人の【伝説の足技】が互いに炸裂する。

 

 それは相殺をし合って、ケイジン・カーターは着地をするが、ユートの攻撃はまだ終わってはいない。

 

 空中でターンをすると、再びケイジン・カーターへ蹴りを見舞う。

 

「な、何とぉぉっ!?」

 

「ウェェェェェェイッ!」

 

 最大の攻撃を仕掛ければそれだけ、攻撃後に大きな隙を作ってしまう。

 

 百戦錬磨のケイジンとはいえ、僅かな隙は出来てしまった訳だが、その僅かな隙を突いて再び蹴りが彼の胸部に炸裂……

 

「グハァァァッ!」

 

 コロシアムの壁まで吹き飛ばしてしまった。

 

 壁を破砕する威力で吹き飛ばされたケイジン・カーターは、丈夫な鋼の肉体であるが故に生きてこそいるのだが、流石に意識を保つ事は出来なかったらしく、ピクリとも動かない。

 

 司会者であり審判でもある人物がケイジン・カーターの様子を見て、気絶しているのを確認すると……

 

〔ケイジン・カーター選手の試合続行不可能、ユート・オガタ選手の勝利!〕

 

 高らかにユートの勝利を宣言するのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 アンドラ・くじらは控え室に設えられたベッドに腰掛け、緊張をした面持ちでケイジンの帰りを待つ。

 

 ケイジン・カーターは、WWTのマットで絶対王者として名を馳せるプロレスラーだ。

 

 くじらはそんな彼のマネージメントを行いながら、彼の為に相手の情報を集めたり、様々な世話などをしてきたのである。

 

 ケイジンはそれを純粋な〝善意〟と受け取ったが、くじらはセレーナから指摘を受けて気付いた……これは好意だったのだと。

 

 セレーナ・フレイズと話す機会があったくじらは、ケイジンに対して懐いていた想いに気付いたが、当のケイジンは全く気付いている様子もなかった。

 

 そして一回戦が始まり、ケイジンが勝利を納めれば扉が開く事はないだろう、だが然し開いたならそれはケイジンが敗北したという確かな証となる。

 

 ガチャ……

 

「っ!?」

 

 ドアノブが音を鳴らせ、動いた瞬間くじらはビクリと肩を震わせた。

 

 果たして扉が開き、入ってきたのは前にラグナード迷宮の前で会った青年で、彼はケイジンの一回戦での相手となっていた筈だ。

 

 そんな彼が、この時間帯に此処へ入って来たという事は、第一回戦は終わってケイジンが敗北を喫したという事に他ならない。

 

「……ケイジンは?」

 

「怪我はしたけど、丈夫な身体だからね。ちゃんと生きているよ」

 

「そう……」

 

 真剣すら使う大会故に、敢えて倒れた相手にトドメを刺すのは兎も角、攻撃を受けて怪我をしたり死んだりする事はある。

 

 実際、ケイジンも丈夫だったから割とピンピンしてはいるが、それでも全身がガタガタとなっていたし、蹴りを──【ツイン・ブレイク】を受けた胸部は陥没していたくらいだ。

 

 よくもまあ、生きていたものだった。

 

「さて?」

 

「ふん、ヤりたければ好きにヤれば良いじゃない!」

 

 くじらは大胆にも服を脱いで下着姿となり、程好く鍛えられながらも筋肉の付かないし、染みも全く無い綺麗な肢体を露わにして、然して大きくもない胸部を両腕で隠しつつ、ベッドの白いシーツの上でペタンと所謂、女の子座りで座ると上目遣いに睨んでくる。

 

「そ、じゃあ遠慮無く」

 

 半裸のくじらに近付き、無遠慮に肩へと触れた。

 

「ヒッ!」

 

 思わず息を呑む。

 

 威勢よく言い放ったが、そんなものは恐くないという見せ掛けのポーズでしかなく、実際には内心で震えていたのだから当然だ。

 

 ソッと押し倒される。

 

 ユートは特にがっついてはいない為、乱暴に押し倒したりはしない。

 

 だけどヤらない理由も有りはしない訳で、ユートはくじらの頬を撫でる。

 

「ひうっ!」

 

 目を固く閉じて顔を背けるが、ブラジャーの隙間へ手を突っ込まれ、小さくはなくとも大きくもない胸を揉みしだかれて声を上げてしまった。

 

「反応が随分と初々しい、ちょいと面倒だけど……」

 

「あっ、ん……」

 

 触れ方が更に優しめになって、嫌悪感とは異なる震えが……否、奮えが身体を駆け抜けていき、背筋を何か今まで感じた事の無い得も云われぬ感覚が奔る。

 

「アアッ!」

 

 大雑把なケイジンと全く異なる触れ方に、病み付きになりそうな感覚が間断無く襲い掛かってきて、自分でも気付かぬ内に嬌声を上げており、あられもない余りに大きな声を上げた時に気付いてしまい、羞恥から顔を真っ赤にしてしまう。

 

 これでも未だに決定的な部位には触れてもおらず、何だか焦らされた感じで切ない気分になってきた。

 

 股を擦り合わせるとクチッと水音が響き、今の自分の股の状態を知ってまた赤くなってしまう。

 

「(ぬ、濡れて……?)」

 

 くじらが手で確認をしようとしたら、それをユートによって阻止される。

 

「あっ!」

 

「自分で慰めちゃ駄目だろう?」

 

「べ、別に……」

 

 そんな心算は無いと言いたかったが、現在進行形で未だに触れられない部位が疼き始めており、自分で触れてしまえばその侭本当にヤりかねないと自覚をし、何も言えずにいた。

 

 自慰も赦されず、かといってユートは痒い所に手が届かない触り方でもどかしさばかりが募り、遂に涙を浮かべ始めてしまう。

 

「ね、ねぇ……何でさっきからずっと外れた場所ばかり触ってるのよ?」

 

「別に? そっちの方が愉しいからだけど?」

 

「うう……」

 

 胸を揉んだり太股を撫で回したり、首筋を舐めたり耳朶を甘噛みをしたりと、徐々にだが確実に気分が盛り上がる様に触れながら、性感帯の最も感じるであろう部位には微塵も触れようとはしないユートに対し、くじらはもう我慢の限界にきていた。

 

「も、もっとちゃんと触れてよぉ……」

 

「それじゃあ、ちゃーんと御強請りしてみようか?」

 

 とんでもない事を言われたくじらだが……

 

「あ、う……私の……イヤらしくヒク付いて期待してる部分を……貴方の舌で、指で、感じさせて……っ」

 

 ダメだと思っていると云うのに、思いに反して口を突いて出るのは御強請りの言葉だった。

 

 それからすぐにくじらは快感の波に呑まれ、絶頂の中で激しく絶叫を上げる。

 

「……あ」

 

 涙と涎に濡れて羞恥心から紅くなった顔をユートの下半身にふと向けると……

 

「す、すご……」

 

 決して自分には存在していない槍が、自身を貫かんと屹立しているのを視た。

 

 ケイジンのモノを拝んだ事はあるが、あの巨躯なる彼と比べてみて勝るとも劣らないモノ。

 

 それが少しずつ近付いてくると、納めるべき場所へと納められた瞬間再び快感の激しい波が押し寄せて、くじらは知識が無いから判らないが、脳内に快感を司る分泌物が溢れて絶頂へと導き、初めてを引き裂いた痛みを軽減してくれる。

 

 二時間にも亘る長い前戯から、決定的な本番に至ってケイジンの名を口ずさみつつも、白いシーツを紅い染みで汚しながら涙と涎を垂らして、後悔と満足感の板挟みによる背徳感まで、快楽へと換えて朝まで溺れてしまうのであった。

 

 

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第5話:偽カリスVS偽龍皇

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 くじらとの情事が終わってから帰って来たユート。

 

 勿論、ユーキを連れて。

 

 かんっぺきな朝帰りというやつだったが、スワティはユートとユーキの関係が単なる義兄妹(きょうだい)ではない事を知ってるし、そんな事もあるのだろうとスルーをした。

 

 これでも三度に亘って、河村耕平の縁を導いてきた縁結びの女神様。

 

 そもそも、その縁結びも謂わばエッチ有りのものなのだから、多少の耐性くらいはあるのだから。

 

「きゃる〜ん、ユートさんってば帰るなり眠っちゃいましたよ?」

 

「朝までヤっていたから、眠たいんだろうね。ボクはちょっと出て来るね」

 

「何処に行くんですか?」

 

「御散歩♪」

 

 ユーキはポケットにとある機器を捻り込み、ヒラヒラと手を振りながら宿屋の部屋を出た。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユーキが広場に続く大通り散歩をしていると、突然変な輩が声を掛けて来る。

 

「やあ、其処を行くタバサ似の女の子!」

 

「ハァ?」

 

 軽薄そうな口調に、しかも一応とはいえ姉の名前で呼んでくるソイツは、格好こそこの世界に融和してはいたが、現代人が持っているファンタジーに似つかわしくない雰囲気を醸し出しており、間違いなく転生者だと判断が出来た。

 

 思わず嫌そうな表情になってしまうが、相手が転生者ならば此処で始末する。

 

 わざわざ、(ユート)の手を煩わせるまでも無い。

 

「ボクに何か用?」

 

「おお! ボクっ子か!」

 

 ああ、間違いなく転生者だねぇ……それがユーキの下した判断。

 

 一人称であんなに大喜びをする人間が、この世界にそうそう居るとも思えなかったからだ。

 

「で? 何か用な訳?」

 

 鬱陶しいと思いつつも、面倒事を早目に終わらせるべく今一度、転生者らしき男に質問をすると……

 

「いや、何ね。闘神大会に出ようとパートナーを捜していたが、結局は見付からなかったのだよ。まったく困った、葉月をモノにしようと瑞原道場を捜したが、何処に在るのやら」

 

 どうやらこいつ、コストの全てを戦闘関連に注ぎ込んで、パートナーを得る為の一ポイントすら使い切ったらしい。

 

「まあ、仕方がない。君はとある少女によく似ているからね。うん、とっても可愛いよ」

 

 ゾワッ!

 

 ソイツが……否、ソレが微笑みながら美辞麗句を並べた瞬間、背筋を奔り抜ける悪寒を覚えて震える。

 

「(な、何なのさ? この気持ち悪い笑み……って、まさか!)」

 

 一つの可能性に行き着いたユーキ。

 

「あれ? 僕の必殺スマイルが効かない?」

 

「(必殺スマイルって……マジにあの(・・)伝説の地雷転生特典のニコポを?)」

 

 転生者は大概は莫迦だと思っていたけど、こいつは極め付けの大莫迦だ。

 

 正直、これはキツい。

 

「兄貴の為に情報収集でもしようかと思ったけれど、これは……とてもじゃないけど耐え難いね。もう良いから終わらせるよ」

 

「は? 何を言っているんだい? タバサ似ちゃん」

 

「もう黙れ……」

 

 その手に光の槍を現出、投げ付けた。

 

「うおっ!? これは……【ハイスクールD×D】で堕天使が使う光の槍か? タバサ似ちゃんは転生者の一人なのか?」

 

 どうも堕天使の力を転生特典(ギフト)か何かと勘違いしたらしいが、実際には全く異なっている。

 

 これは輝威(トゥインクル)と云う力によるモノ。

 

 【追憶する軌跡(メモリーズ・オフ)】という。

 

 ユートに真の意味で初めてを捧げた後、ユーキの中に発現した能力である。

 

 その効果は憑依した相手の能力の完全再現であり、凄まじく使い勝手が良い。

 

 普通なら肉体に依存する能力は、その肉体から離れてしまうと使えなくなるのが普通だろう。

 

 例えば、【ハイスクールD×D】の堕天使が使う光の槍や黒い翼、これらとて堕天使という特性──光の力は天使も使うが──によるモノだから、人間に改めて憑依をしたら使えなくなってしまう処を、ユーキの輝威((トゥインクル)により能力が残っているに等しい状態となる。

 

 ユートとの肉体と精神の触れ合いで、高い確率ではないが発現する輝威(トゥインクル)……

 

 今、ユーキが光力を用いて光の槍を作れたのもその為だった。

 

 ニコポによる嫌悪感と、タバサ似とか呼ばれる事への忌避感、ユーキの中ではキレてはならないナニかがキレてしまったらしい。

 

「お前は此処で消えろ!」

 

 ポケットから取りい出したるは、赤いハートを象る宝玉が填まった機械。

 

「そ、それはジョーカーラウザー? いや、ラウザーユニットが赤いって事は、カリスラウザーか!」

 

 驚愕する転生者を無視、自らの腰にカリスラウザーを宛がうと、ブレイバックルと同じ様にシャッフルラップが伸びて装着される。

 

 待機音が響く中でユーキはカードを取り出した。

 

 それは蟷螂の絵柄が描かれてハートのスートにAのが描かれ、更に【CHANGE】の文字。

 

「変身っ!」

 

 カリスラウザーの中央、そのリーダーに読み込ませると……

 

《CHANGE!》

 

 電子音声が鳴り響いて、ユーキの姿が黒を基調とした異形の姿──仮面ライダーカリスへと変わった。

 

「ボクはお前を……ムッ殺す!」

 

 醒弓カリスアローを左手に持つと、ユーキは転生者へと駆け出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 それはブレイバックルやブレイラウザーを造ろう、その話を始めた時の事。

 

 ユーキは気になっていた事があり、ブレイバックルやブレイラウザーを造る際にユートへと訊ねた。

 

「ねぇ、兄貴」

 

「何だ? ユーキ」

 

「【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】を手に入れたけど、仮面ライダーは創れたの?」

 

 とある世界──【ハイスクールD×D】を主体とするその世界に於いて、神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれるモノが在る。

 

 聖書の神──ヤハウェが造ったとされる人間に……神の子の血筋にのみ赦された力だ。勿論、抜き取れば純人外にも扱える訳だが、生まれ付き宿すのは人間の血を継ぐものだけ。

 

 ユートは先天的に宿す者を所有者(ホルダー)、後天的に獲た者を所持者(ユーザー)と呼んで区分した。

 

 ユートは、【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】を所有者から奪って手に入れた所持者というカテゴリーとなる。

 

 また、神器(セイクリッド・ギア)は数打ちのモノからレアな数点モノまで、様々に存在しているが更に貴重な一点モノが在った。

 

 その中には、十三種類の神滅具(ロンギヌス)と呼ばれる神器が在る。

 

 例えば【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】や【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】といったモノだ。

 

 ユートが獲たのはそんな神滅具の中でも上位四種、上位神滅具(ハイ・ロンギヌス)とユート本人が呼んでいる神器。

 

 それが、あらゆる魔獣を想像して創造する【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】である。

 

 因みに、他の三つの上位神滅具(ハイ・ロンギヌス)とは……

 

 神滅具の名前の由来でもある【黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)

 

 天候を操作すると云われる【煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)

 

 霧の結界を造り上げて、空間操作を可能としている【絶霧(ディメンション・ロスト)

 

 

 閑話休題……

 

 

「仮面ライダーか? そういえばユーキにもその話は帰ってからしたな」

 

 修学旅行で【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】の所有者を見て思い付き、その時の事を学年が違うが故に留守番していたユーキに話している。

 

「一応だけど、鎧型の魔獣として構成はしているよ。ちょっと使えないけど」

 

「何でさ?」

 

「僕のイメージの所為か、変身用デバイスを介さないと装着が出来ない。それと必要なアイテムも創ってはいるんだよな」

 

「必要なアイテム?」

 

「ラウズカード、アドベントカード、ゼクター、キバットバットといった変身の補助アイテムだね」

 

「ラ、ラウズカードって……アンデットを封印してるプライムベスタを?」

 

「そ、プライムベスタを」

 

 ユートは亜空間ポケットからトランクを取り出し、ユーキの目の前でそれを開いて見せた。

 

 因みに、所長やダディがラウズカードを仕舞っていたあのトランクだ。

 

 中にはスート別に分けられたプライムベスタが入っており、ユーキは瞳をキラキラさせて覗き込む。

 

「これ、本当にアンデットが封印されてるの?」

 

「【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】で創ったアンデットだけど、間違いはなくアンデットが封印されているよ」

 

 ラウズカードを見ていたユーキがふと気付く。

 

「あれ? ジョーカーやアルビノジョーカーは入ってるのに、スピリットヒューマンが無い?」

 

 ハートスートのカテゴリー2──ヒューマンアンデットが封印されたベスタが欠けていたのだ。

 

 ヒューマンアンデット──それは原典に於いて人間の始祖であり、嘗て一万年前のバトルロワイヤルを勝ち抜いた存在。

 

 ジョーカーが再び始まったバトルロワイヤルで人間に擬態をする為、一番最初に斃したアンデットだが、実はジョーカーを内側から変質させる為にわざと斃されて封印をされたという。

 

「ヒューマンアンデットって相川 始の姿だったろ? その侭の姿にするかどうかで悩んでね」

 

「ああ、成程ねぇ」

 

 ジョーカーが人間の──ヒューマンアンデットの姿に変身(・・)をしていた時、名乗ったのが【相川 始】という名前だ。

 

 ジョーカーは、この姿と名前で【ハカランダ】に住んでいたのである。

 

「ねぇ兄貴。僕さ、ガワだけなら造ってるんだけど、ブレイバックルとブレイラウザーを改良して、プライムベスタと女の子モンスターカードを使える様にするから、ハートスートのプライムベスタを頂戴!」

 

「ガワだけって?」

 

「ん、オリハルコンプラチナの代わりに神鍛鋼(オリハルコン)青鍛鋼(ブルーメタル)を使っているブレイラウザーとかね」

 

 ガシリッ!

 

「うひゃっ!?」

 

 行き成り抱き付かれて、流石に驚くユーキ。

 

「ちょっ、嬉しいけどさ……脈絡が無いよ?」

 

「やっぱりユーキは比翼の鳥だな。互いに足りない所を補い合える」

 

「へあ!? うん……」

 

 嬉しそうに言うユート、その言葉を若干だが頬を赤く染めながら聞き、目を閉じて頷いた。

 

「それで? ひょっとしてヒューマンアンデットの姿に注文でもあるのか?」

 

「あ、うん。ボクの大きくなった姿にして欲しい」

 

「は? 大きくなった姿って言っても、今の姿が最大じゃないか」

 

「だ・か・らぁ、おっきくなったイメージでだよ! こう、おっぱいもバインバインな感じで、腰もくびれてて、お尻も引き締まっているみたいな! 身長だって一七〇センチは欲しい」

 

「ユーキ、お前……」

 

 思わず涙する。

 

「憐れむなぁっ!」

 

 絶叫するユーキ。

 

 どうやらミニマムな自分に相当なコンプレックスを感じていたらしく、ユーキは成長をした感じの姿になってみたいと思った様だ。

 

「判った。とはいえ、僕のユーキというか……タバサやジョゼットのイメージがミニマムだからな。あんまり大きくは出来ないぞ? 【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】ってのは謂わば『勝利の想像力(イマジネーション)!』 ってヤツでやってるし」

 

「何それ?」

 

「いや、言わなきゃいけない気がしてな……」

 

 何やら電波を受信してしまったらしい。

 

「【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】を発動! プロパーブランクの内部に、カテゴリー2──ヒューマンアンデットを創造!」

 

 イメージはユーキの──延いてはタバサの成長? した姿を。

 

 だけど、現実と創造(もうそう)の板挟みとなり、どうにも思い浮かばない。

 

 せめて今のY○UJ○な姿から脱却をさせる為に、何とか自らの妄想力(イマジネーション)を全開に。

 

禁手化(バランス・ブレイク)……【|至高と究極の聖魔獣《アナイアレイションメーカー・ハイエンドシフト》】!」

 

 禁手(バランス・ブレイカー)を発動してまで。

 

 創造は無事に成功。

 

 プロパーブランクには、創造されたヒューマンアンデットの絵柄、ハートスートとカテゴリーの2が書かれており、【SPRIT】の文字が入ったプライムベスタへと変化した。

 

 ユーキが造るカリスラウザーというのは元がジョーカーラウザーで、その能力はプライムベスタ内に封ぜられたアンデットのコピーである。

 

 トランプのジョーカーがどの札にも変化出来る事、それがジョーカーアンデットの特殊能力なのだ。

 

 まあ、ジョーカーは別に存在している訳だが……

 

 とはいえ、ディケイドの【ブレイドの世界】に於いてはカリスラウザーは普通にライダーベルトであり、ジョーカーと別々に存在していたから問題無い。

 

 この場合、コピー能力が在ったかは疑問だけど。

 

 原典(仮面ライダー剣バージョン)では、カリスが他のアンデットに変身をしていたし、そもそも人間体自体がヒューマンアンデットへの変身なのだから。

 

 それから僅かな時間──ガワは出来ていたから後はカードの力を引き出せる様に調整するだけ──で完成させ、ユートにはブレイバックルとブレイラウザーを渡して、ユーキはカリスラウザーやカリスアローを。

 

 勿論、ハートスートのプライムベスタをユートから譲渡されており、十三枚のベスタがカードホルダーの中に入っている。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 カリスラウザーのサイドホルダーに入ったプライムベスタ、変身にカテゴリーA・チェンジマンティスは使っているから、残っているのはカテゴリー2からカテゴリーKまでの十二枚。

 

 ブレイドと同型なブレイブと異なり、武器にオープントレイは持たないカリスアローは、名前の通り弓としても使えるが、本体両側が刃になっていて近接戦闘にも耐える。

 

「せやっ!」

 

「うわっ、待てよ! 僕は単に君をパートナーにしたいだけなんだ。付いてくれば旨味だってあるぜ?」

 

 躱しながら言う転生者に対し……

 

「冗談は顔だけにしなよ! 君如きに付いていく物好きじゃないっ! 況して、ニコポなんて地雷スキルを選ぶ様な、ぶぁっかなんか相手に出来ないね!」

 

 素気無く断ってカードをラウズした。

 

《BIO!》

 

 ハートスートのカテゴリー7──バイオプラントのプライムベスタ。

 

 蔦を伸ばして敵を拘束したり、鞭の様に叩き付けたりが可能なカード。

 

 緑の蔦が顕れて転生者を縛り付けた。

 

「チィッ! 神器(セイクリッド・ギア)ァァァァァァァァアアッ!」

 

「なにぃ!?」

 

 あっという間に縛っていた蔦が断ち切られ、転生者の背中には蒼く光輝く翼が顕現している。

 

「ば、莫迦な! その翼、【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】なのか!?」

 

「フッ、当たりだ。やっぱり君も転生者なんだね? 闘神都市Ⅱの世界でハイスクールD×Dの神器を知っているとは。となると……カリスの力が君の転生特典(チート)って訳か」

 

 何処か自慢気に言う。

 

「戦うなら此方も力を使わせて貰おう。禁手化(バランス・ブレイク)!」

 

 禁手化──神器(セイクリッド・ギア)の進化した姿であり、基本的に禁手の姿の道筋は決まっているのだが、亜種という形で別の方向性に変わる事も。

 

禁手(バランス・ブレイカー)、【|白龍皇の鎧《ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル》】!」

 

 鋭角的な真白の鎧姿に、蒼く光り輝く翼……それはユーキも見た事があるヴァーリ・ルシファーが使っていた龍の力を鎧へと具現化したモノ。

 

「これが僕の転生特典(チート)、コスト八の神滅具(ロンギヌス)さ」

 

「コスト八……だって?」

 

「フッフッ、コスト二だったニコポにコスト八だった【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】でコストを使い切ってしまったから、パートナーまでは獲られなかったけどね。まあ、流石にコスト一〇の【黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)】とか【絶霧(ディメンション・ロスト)】とか【煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)】とか【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】はちょっと選べないよ」

 

「【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】……ねぇ」

 

 コストが云々とかは関係は無く、レオナルドという少年から抜き取ってユートが持っているし、ユーキのプライムベスタはそれで創られている訳だが……

 

 どうやら、上位神滅具(ハイ・ロンギヌス)というのはコストが御高いらしかったらしい。

 

「だけどね、幾ら君が仮面ライダーカリスの力を持っていても、神すら殺す事が出来る神滅具(ロンギヌス)禁手(バランス・ブレイカー)を纏ったからには、もう君に勝ち目は無いよ」

 

 気取って言う転生者だったが、ユーキはそうは思っていなかった。

 

 確かに中途半端なら能力では力でごり押しされていたろうが、生憎とユーキはそこまで中途半端な心算はないのだ。

 

「それにさ、君だってこの神器(セイクリッド・ギア)の能力は知ってるだろ?」

 

「十秒毎に相手の力を半減させ自らの力に還元する。禁手状態なら十秒毎と言わず力を半減させまくるね。後は空間圧縮で物体を半分にする。とはいえ、半減の能力は触れなきゃ使えないけど。それに空間圧縮だって防ぐ手立てがある」

 

 伊達に最強の白龍皇──ヴァーリ・ルシファーと闘ってはいない。

 

 そして、ユーキは此方では小宇宙を禁じられてはいても聖闘士なのだ。

 

 聖闘士に一度視た技は、二度と通じない。

 

 況してや、この転生者は何処にでも居そうな凡百の転生者だ。

 

 能力を使われても全く以て恐くは無かった。

 

 戦闘を開始する二人。

 

 武器らしい武器を持たない転生者は、どうも一誠やヴァーリの様に素手で戦うタイプらしい。

 

 一撃が殴り掛かる。

 

「おっと!」

 

 それを危なげ無く首を傾げて躱すユーキ。

 

 両腕で転生者がラッシュラッシュラッシュラッシュラッシュラッシュッッ!

 

 それを躱す躱す躱す躱す躱す躱す!

 

「くっ、当たらない!」

 

「無駄だよ」

 

「莫迦な、原作のヴァーリみたいな魔力や身体能力が無いから、実際のハイスクールD×Dの白龍皇みたいな強さじゃないとはいえ、こうまで!?」

 

 赤龍帝はパワーに秀で、白龍皇はスピードに秀でている。

 

 だが、そんな自慢の速さがまるで鈍足だと謂わんばかりに軽く躱されていた。

 

 紙一重のギリギリだが、それは余裕の裏返し。

 

 大きく避けると隙も大きくなるから、僅かな動作の紙一重で避けているのだ。

 

「弱いよね、君。典型的な転生者だ。折角の神器(セイクリッド・ギア)が台無しなくらい」

 

「なっ!?」

 

「確かに速度はそこそこ、だけどボクには速いだけの攻撃なんて通じないさ」

 

「心眼之法訣? そんな、有り得ない! 仮面ライダーカリスのコストは五で、ワイルド有りだと七だ! 心眼之法訣は六。どっちにしてもコストオーバーになる筈だ!」

 

「へぇ? 君らの言ってる転生特典(ギフト)はカリスや心眼之法訣も有るんだ」

 

 ちょっとばかり面白く感じるユーキ。

 

「は?」

 

「言っておくけど、ボクのこのカリスは兄貴との合作だし、心眼之法訣も自前で身に付けたものさ」

 

「な、んだ……と!?」

 

 龍を模した白いマスクで判らないが、転生者は驚愕に目を見開いている様だ。

 

「ボクには義理の、そして愛しい兄貴が居てねぇ……ボクが機械関係を、兄貴が魔導や特殊な部分を担当しているんだ」

 

「どういう……?」

 

「このプライムベスタ……兄貴が君が云う【ハイスクールD×D】の世界で手に入れた【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】で創造をしたモノだし、ラウザーはボク自身が作製したの物なのさ!」

 

転生特典(チート)じゃなかったのか!? しかも、コスト一〇の上位の神滅具(ロンギヌス)を別の世界で手に入れてるとか!」

 

「これで解っただろう? 君に勝ち目は無いよ」

 

 カリスアローで肩をポンポンと叩きながら言う。

 

「どういう事だ? だからって僕に勝ち目が無いなんて言えないだろう!」

 

「君自身で言っていたじゃないか、原作の白龍皇程じゃないってさ。僕や兄貴が白龍皇ヴァーリ・ルシファーと戦った事が無いとでも思った?」

 

「っ!? それは……」

 

 彼方側では小宇宙の制限も無かったが、この偽龍皇はヴァーリ・ルシファーに比べて格段に弱いが故に、相対的に視て充分な勝機があった。

 

「君が触れられない以上、半減の力は使えないよ」

 

「くっ、だったら!」

 

 転生者が掌を開いて腕を突き出すと、ユーキの周囲の空間が歪み始める。

 

「これは……」

 

「喰らえ!」

 

《Half Dimension!》

 

 電子音声が鳴り響いて、ユーキを空間圧縮が襲う。

 

「無駄な事を!」

 

 ユーキは腕を揮って空間の歪みを払うと……

 

 パンッ!

 

 空間が破砕されてキャンセルされた。

 

「な、な、何だってっ!? そんな莫迦な!」

 

 転生者の偽龍皇は驚き、狼狽えながら後退る。

 

「言った筈さ、聖闘士には一度視た技は通用しない。ヴァーリ・ルシファーが使ったそれを、ボクも見知っているんだよ」

 

「だからって、こんな腕を振り払うだけで!」

 

「ボクの転生特典(ギフト)は虚無魔法。その結果としてボクは【ゼロの使い魔】のジョゼットへ憑依した」

 

「……ジョゼットって? タバサじゃなくて双子の妹の方?」

 

「散々、姉さん似とか言ってくれたねぇ。もう君は消えちゃえ!」

 

 ユーキは右腰のホルダーからカードを三枚出して、ラウザーユニットを装着したカリスアローにラウズ。

 

《FLOAT》

 

《DRILL》

 

《TORNADO》

 

 カードを連続でラウズをすると、コンボが発生する組み合わせが在る。

 

 それはより強力な攻撃を発生させるのだ。

 

《SPINING DANCE!!》

 

 浮かび上がるユーキは、本来よりも激しい竜巻を纏って、高速でスピンしながら右脚を突き出して偽龍皇へと蹴りを繰り出す。

 

「でりゃぁぁぁぁっ!」

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 逃げ出そうと叫びながら後退しようとするが……

 

 ズガンッ!

 

「グハッッッ!」

 

 蹴りは胸部へヒットし、アーマーを砕かれながらも吹き飛ばされた転生者は、その侭外壁へと激突した。

 

「フッ、ワイルドカリスに成るまでもなかったね」

 

 カリスのコンボ技の一つ──穿孔舞踊(スピニングダンス)

 

 スピニングダンスのAPは三五〇〇、威力をトンに再計算すると百分の一。

 

 即ち、三五トンとなる。

 

 単純に三五トンも可成りの重量だが、それが勢いもよくぶつかってくるのだ。

 

 【|白龍皇の鎧《ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル》】を纏っていたとはいえ、ヴァーリ・ルシファーならまだしも、この衝撃は何の力も持たない人間では受け切れはしないだろう。

 

「が、は……っ!」

 

 【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】が解除され、口から喀血をしながら呻き声を上げつつ、苦しそうに身体を捩らせている。

 

「うぐ、うう……痛い……痛い痛い痛い!」

 

「終わりだね、君には死んで貰うよ。次は普通の転生で生まれ変わると良い」

 

 ザッザッと、足音を起てながら近付いてくるユーキ──仮面ライダーカリス。

 

 その異形の姿も相俟って空恐ろしく感じた転生者。

 

「ヒッ! やめてくれ! 殺さないで、殺さないでくれよぉぉぉっ!」

 

 無様に這いつくばって、命乞いを始めた。

 

「君が無害な存在だったら見逃しても良かったけど、【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】にニコポ、残念ながら充分に君は有害だよ。この世界の創造神に唆されたのだとはいえ、おかしな誘惑に駈られて変な欲を持ったのが運の尽きだったね」

 

「な、何でだよ! こんな風に転生をしたら誰だって思うだろ!? 女の子な君は解らないだろうけど! 君の兄だって!」

 

「そうだね、兄貴はそれこそ沢山の女の子を囲っているよ。まあ、ボクが推奨したんだけどさ」

 

「ハァ? だったら何で僕が咎められるんだ!」

 

「迷惑だから。君らは迷惑ばかり掛けるから。転生特典(ギフト)で女の子に魅力を示して堕とすのは良い。でもニコポで惚れさせるのは違うよ。第一、それってプライオリティの低い者でなければ使えない。プライオリティの高いヒロインには気持ち悪いだけの地雷スキルだって理解してる?」

 

「なっ!?」

 

「えっと、瑞原道場の葉月だっけ? その子もきっと君を蛇蝎の如く嫌ったんじゃないかな?」

 

「そ、そんな……」

 

 どうやら、彼はニコポでヒロインが次々に堕ちていく二次小説でも参考にして選んだらしい。

 

 地味にアホだった。

 

 まあ、原作介入してある意味ではユートも迷惑を掛けているが、そこはユーキの知った事ではない。

 

「(兄貴にもアレが有るんだけどねぇ)」

 

 ユートのアレ(・・)も大概な代物なのだ。

 

「という訳で、折角だからワイルドカリスに変身してワイルドのカードを使ってトドメを刺して上げるよ。なぁに、痛みは一瞬だ」

 

「い、嫌だ! また死にたくない!」

 

「どうせいつかは死ぬよ。それが早いか遅いかの違いがあるだけで」

 

 ユーキはユートが最優先であり、他は仲間くらいは大切にしても全くの他人に優しくはない。

 

「た、頼むよ……二度と君には近付かないから!」

 

「……ニコポの封印、それと【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】を貰おうか。転生特典(ギフト)が無ければ悪行も行えないしね。それで生命だけは助けて上げる」

 

「ま、待ってくれ! 神器(セイクリッド・ギア)を抜かれたら死んでしまう!」

 

「大丈夫。極力は死なない様に出来るから。虚無魔法と堕天使の神器摘出術式を組み合わせれば……ね」

 

 神滅具の摘出は周囲にも影響を及ぼすし、ユーキはレオナルドから【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】を摘出する為の術式を構築していた。

 

 虚無魔法有りきな為に、ユーキでなければ使えない術式だが……

 

「それで、どうする?」

 

「わ、判った……」

 

 ガックリと項垂れながら承諾した。

 

 その後、すぐにユーキは転生者から神器を摘出。

 

 転生者は闘神都市から、この世界での生まれ故郷へと逃げ帰る。

 

 こうしてユーキはお土産を片手に、ユートの許へ帰るのであった。

 

 

.

 



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第6話:転身! 白龍皇ユート

.

「兄貴、たっだいま〜!」

 

 元気一杯、御機嫌満開の表情で宿屋の部屋に入って来たユーキが見たモノは、ユートとベッドインをするスワティの姿であった。

 

「……何をしてんのさ? 寧ろナニをしてたのかな? それとももう事後?」

 

 ジト目になってスワティに詰問をすると……

 

「きゃるん! ち、違うんですよ、ユーキさ〜ん! あのですね、ちょっと寝顔を見てみようかなって思って近付いたら、行き成り」

 

「引き込まれたんだろ?」

 

「って、判ってるんじゃないですか〜!」

 

「そりゃね。ボクはこれでも何年も兄貴に付き合ってるんだからさ。趣味も性癖も癖も全部知ってるよ」

 

「きゃる〜ん……」

 

 ユーキは相対的に百年を越える付き合い、それ故に全てを理解出来ていた。

 

 例えば……

 

「兄貴ってさ、寝ている時に女の子が近付くと寝床に抱き込んじゃうんだ」

 

「女の子限定でって、いったいどんな癖ですか!?」

 

 男に抱き付く趣味は無いからか、男が近付いても特に抱き込みはしない様だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 目を覚ましたユートは、ユーキとスワティを連れて酒場へと向かう。

 

「いらっしゃいませ」

 

 ウエイトレスのさやかに迎えられ、席に着いた三人は思い思いに注文をした。

 

 ユートは序でにワインを頼んだ。

 

 別にビールでも何でも良かったのだが、ハルケギニア時代から飲み慣れているのがワインだっただけ。

 

 どの道、アルコールなど身体の内側で勝手に浄化されてしまうし、アルコール度数より味で決めた。

 

 食事を終えた三人は話を始める。

 

「転生者を斃した?」

 

「うん。これ、兄貴にお土産ね」

 

 白い光の玉……ユートはそれを視て何なのかすぐに気が付いた。

 

「それ、【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】……か?」

 

「正〜解〜、流石は兄貴。【叡智の瞳(ウイズダム・アイ)】は健在だね」

 

 ユートの目は転生特典(ギフト)によって、魔力の流れなどを視たり赤外線視や暗視、動体視力の向上といった機能を持っていた訳だが、探知(ディテクト・マジック)を常に目に集中をしていた事で、魔眼と呼べるレベルに進化をする。

 

 故に、ユートは見た目に単なる光の玉でしかなかった神器(セイクリッド・ギア)を、簡単に判別してしまったのだ。

 

「どうしたんだそれ?」

 

「斃した転生者の転生特典(ギフト)だってさ。コスト八だとか言ってたよ」

 

「コスト八ね。アガサ・カグヤが言うには、転生者の転生特典(ギフト)はコスト制だって話だったな」

 

「うん。コストは全部で十有って、そのコスト内でなら好きに選べるからねぇ。アリスソフトからパートナーを選べば一、それ以外なら全て使う……」

 

「んで? パートナーは居なかったのか? 【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】のコスト八だってんなら、まだ二も残っている筈だろう?」

 

 それを聞いたユーキは、呆れた表情となった。

 

「ニコポに使ったらしい」

 

「ハァ? あの地雷スキルのニコポをか?」

 

「うん、ニコポが丁度二だったんだって」

 

「成程、パートナーは選ばずに能力だけを獲た訳か。アホだろ、そいつ。選りに選ってそれを選ぶか」

 

 折角のコストを使えないスキルに変えたのだから。

 

「然し、ニコポって名前で入っていたのか。あれって二次のスラングだろうに」

 

「だよねぇ」

 

 苦笑いのユーキ。

 

 誰が始めたのかは知らないし、所謂処の御都合的な笑顔でポッやら撫でてポッとなっているのをそんな風に呼ぶ様になっただけで、スキルなどではなかったのではないか?

 

 始まりを知らないユートはそう考えている。

 

 何故か完全にスキルとして扱われている辺り、これらを用意したのが這い寄る混沌だと解った。

 

「まあ、ニコポは封印しておいたし、【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】はこの通りだ。無害だから放逐したけど、良かったよね?」

 

「別に構わない。対処に関しては一任されているし、文句は言われまい」

 

 ユートなら有無を言わさずに殺すだろうが、ユーキは流石に問答無用とする程に情け容赦無くはない。

 

 だからといって、ユーキのした事をどうこう言う程にユートも血に餓えている訳ではなく、平然と笑っていた。

 

「それで? 創造神の戯れの所為で小宇宙(コスモ)の禁止令が出てる訳だが、どうやって曲がりなりにも白龍皇を斃したんだ?」

 

「勿論、これさ」

 

 ユーキが亜空間ポケットから取り出したのモノは、カリスラウザーとハートスートのカテゴリーA。

 

 【チェンジマンティス】のプライムベスタ。

 

「そうか、早速使ったって訳か。どうだった?」

 

「中々に良かったよ」

 

 ユーキの身体能力は小宇宙を使わなければ大した事はなく、精々が【ハイスクールD×D】的に云うなら中級悪魔にも及ばない。

 

 小宇宙を使えば身体能力だけで、最上級悪魔とさえも張り合えるが……

 

 そんな訳で仮面ライダーのシステムは割と理想的であり、使ってみて楽しかったのも確かだ。

 

 昔は割かし憧れたものだったし、本当に『変身』が可能となったのは嬉しい。

 

「あ、あの!」

 

「どうした? スワティ」

 

「私もやってみたいです」

 

「「は?」」

 

 スワティのとんでも発言に二人はハモり、目を点にしたものだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「これが仮面ライダーレンゲルに変身する為のツール……レンゲルバックルだ」

 

「きゃるん! どうやって使うんですか?」

 

 まるで新しい玩具を与えられた子供の如く燥ぐ。

 

「この【チェンジスパイダー】をラウズトレイに装填する。そしてポーズを執って──ポーズ自体は不要──変身! と叫ぶ」

 

「ポーズを執って叫ぶ?」

 

 無論必要は無いのだが、要は様式美である。

 

 ラウズトレイにカテゴリーAを装填、腰へ据えるとバックルからシャッフルラップが伸びて装着された。

 

 スワティは教えられた通りにポーズを執る。

 

 原作で上城睦月がやっていた、左手を顔の前に持っていって掌は内側へ、右手で左肘を持つポーズを。

 

「きゃるん、変身!」

 

 叫びつつ右手でバックルのミスリルゲートを開く。

 

《OPEN UP!》

 

 電子音声が響き渡ると、スピリチアエレメントが顕れて、それがスワティの方へ徐々に近付いてくる。

 

 それをスワティが潜るとボトルグリーンを基調に、紫色のジェネラルスコープを持つ蜘蛛をモチーフにしたレンゲルクロスを纏った姿──仮面ライダーレンゲルとなっていた。

 

 とはいえ、これは謂わば仮面ライダーレンゲルの姿をした聖魔獣なのだが……

 

 原作では最強だと吹き、スペックは確かに強力だった仮面ライダーレンゲル。

 

 四人の中でも唯一、強化フォームが出なかった。

 

 だが、当然ながらユートとユーキはレンゲルに強化フォームを設定している。

 

 とはいえ、ラウズアブゾーバは未だに未完成な為、まだジャックフォームにもキングフォームにも成る事は出来ない。

 

 レンゲルへと変身をしたスワティは、醒杖レンゲルラウザーをブンブンと振り回している。

 

「処で、何でまた仮面ライダーに成りたいなんて?」

 

「きゃるん! 何だか二人が愉しそうだったから」

 

 ユーキの質問にスワティが答える。それは真っ当というべきか、ちょっとズレているというべきか。

 

「ま、まぁ……ボクも兄貴も好きだからねぇ。本当に仮面ライダーに成れるなら『変身』とか愉しいよ」

 

「好きこそモノの上手なれってね。やりたい事とやるべき事が一致する時、世界の声が聞こえるってな?」

 

 今までは仮面ライダーをどうこうする機会に恵まれなかったが、今回の事件は良い機会だった訳だ。

 

「これで兄貴のブレイブのスペード、ボクのハート、スワティのクローバーという三つのスートの仮面ライダーが揃ったね」

 

 ブレイブはブレイド枠、仮面ライダーモードの姿はシルエット的にブレイドに近いものがある。

 

「えっと、トランプには確かダイヤもありますね」

 

「そうだよ。ダイヤスートはダディな訳だけど……」

 

 ユーキは首を捻って目を閉じると腕を組む。

 

「この場には三人だから、どうしたってダディの仮面ライダーギャレンに成れる人が居ない」

 

「にしても、本来の原作はギャレンがライダーシステム第一号だった筈なのに、最後まで残ったな」

 

「だねぇ。まあ本当の意味ではライダーシステム自体がジョーカーの模倣だし、第〇号ともいえるのがこのカリスラウザーだけどね」

 

 ベルトの状態ではない、ラウザーユニットを手にしながら言うユーキ。

 

「あ、そうだ。ねえ兄貴、キングフォームに修正を入れたいんだけど」

 

「修正?」

 

「うん、キングフォームは【プリンセス】を使う予定だったろ? プリンセスはジャックフォームにして、キングフォームは【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】の力を引き出す形にしたいんだよ。という訳で、兄貴は神器を宿してからカードを創ってくれる?」

 

「キングフォームって……カテゴリーKとの融合って意味でか?」

 

「そうだよ。兄貴が言っていた通り、原作ブレイドのキングフォームはスートを一つの王国へと見立てて、それらを支配する存在という意味で、キングダムフォームって呼称するから」

 

 仮面ライダーブレイドのキングフォームは、烏丸 啓所長が当初に想定をしていたモノとは違う。

 

 本来はカテゴリーKとだけ融合する筈だったのが、剣崎一真は余りの適合係数の高さで、全てのスペードスートのアンデットと融合を果たしていた。

 

 仮面ライダーカリスのワイルドフォームと同様に。

 

 それ故、厳密な意味ではブレイドのアレはキングフォームではない。

 

 ユートはそれを王を頂点とした王国──キングダムフォームと呼んだ。

 

「ジャックフォームに使う筈だった【イフリート】はこの際、放っておこうか。んで、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)をキングダムフォームにしよう!」

 

 【プリンセス】【イフリート】【ハーミット】【ナイトメア】など、ちょっと特殊なカードは在ったが、ユーキとしては折角手に入れた力だったからこれを使いたいと考えたのだ。

 

「待て、こいつは覇龍って使えるのか?」

 

「どういう意味さ?」

 

「覇龍は元々、怨念が呪詛となって発動していた小型の二天龍に変じる術だろ。これにはそれが感じられないんだが?」

 

「ハァー? 怨念が感じられないってどういう……」

 

「ひょっとしたらだけど、この【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】は神器に封じられたばかりの頃、誰にも宿っていない時の物じゃないか?」

 

「ああ、成程……ねぇ」

 

 神器(セイクリッド・ギア)として封じられたのは三大勢力の大戦中、喧嘩をしながら乱入した事によって手を組んだ三大勢力が、寄って集ってボコった挙げ句に聖書の神が二天龍を引き裂いて魂を神器にしたという訳だが、怨念というのは歴代の白龍皇の持ち主の残留思念だ。

 

 まだ誰にも宿っていないというなら、怨念など存在しよう筈もなかった。

 

 また、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)も怨念によって引き出された力だと云うし、怨念が無いのなら果たして? という事なのであろう。

 

「怨念が引き出していたのは事実だけどさ、何らかの刺激を与えれば可能じゃないかな? 怨念が刺激になっていたから呪われた覇龍なんて云われただけだよ。漏れ無く暴走するしねぇ」

 

「そんなもんか。それなら何とかなるかもな」

 

 話に付いていけなかったスワティを置いてきぼりにして、ユートとユーキは話を進めていく。

 

「そういえば、一誠も変な加護でおかしなジャガーノートになったな」

 

「ふん、あんな変態帝なんてどうでも良いよ」

 

 たった一度だけ、ピンチになった一誠が異世界の神とやらの加護で、おかしな呪文を唱えておかしな覇龍と化していた。

 

 まあ、名前は覇龍と少し──平仮名的に一文字だけ──違っていたが……

 

 修学旅行の最中であったが故に、ユーキが見る機会はなかったのだが、聞いた処によると余りにも余りな能力だったと云う。

 

 その後、ユートによって調整をされて普通の能力に均された。

 

 何しろ、龍の帝王が精神崩壊寸前にまで追い込まれてしまったのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 何も無い空間。

 

 風の流れも水のせせらぎも土の薫りも火の温もりも無い、そんな上下左右の別すら付かない真っ白な空間だったが、ユートは此処と似た場所を知っている。

 

 まだユートが一番最初の緒方優斗だった頃、謂わばテンプレ的に──というのもアレだが、シーナを救うべく動いてトラックに諸共に轢かれて死んだ。

 

 その際、【純白の天魔王】に引き込まれた空間……それがこの場所と似た空間だったと思う。

 

 だが然し、此処と彼処はまた異なる場所だ。

 

 今、ユートが居る空間はユートが自らの意志で入った場所であり、そして……

 

『貴様は何者だ?』

 

 この場に居るのはユートだけではなかった。

 

 真っ白な巨大生命体が、ドン! と鎮座している。

 

「やあ、初めましてだね。白き龍の皇アルビオン」

 

『私を知っているのか?』

 

「ああ、知っている。君は自分の状態、状況を理解はしているのかな?」

 

『ふん、忌々しき聖書の神や魔王共に斃され、彼奴との決着を着ける事も叶わずにバラバラに引き裂かれ、神器(セイクリッド・ギア)というモノに封じられた。理解(わか)っているさ』

 

 本当に忌々しそうな声色で言うアルビオン。

 

「理解してるなら重畳だ。僕は今回、君を封じた神器──【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】の所持者(ユーザー)となった緒方優斗だ」

 

『ほう? 私の力を得て運が良いのか、それとも私と赤いの……ドライグとの戦いに巻き込まれて運が悪いのか、どちらにせよ平穏にはいかぬぞ?』

 

「心配は要らない。どの道平穏なんて僕には無いさ。それに僕は所有者って訳じゃなく、本来の持ち主から引き抜いて自ら宿したんだからね」

 

『それは物好きな事だ』

 

 神器所有者は死ねば変わるのだから、アルビオンにとって目覚める前の所有者に思い入れもなかったし、ユートが後天的な所持者であろうと気にしない。

 

『それで? 貴様は此処まで来て何をしたい?』

 

「何を……っていうかね、アルビオンに残念な御知らせがあります」

 

『残念? 何がだ?』

 

「君は赤白の決着を着ける事は出来ませ〜ん!」

 

『な、んだと?』

 

衝撃を受けるアルビオンを他所に、ユートは受け容れ難いであろう現実を話す為に口を開く。

 

「先ず、この世界はそもそも君が居た世界──地球でも冥界でも、況してや天界でもない全くの異世界だ」

 

『全くの異世界……』

 

「つまり、赤き龍の帝王たるドライグが居ない世界。勿論、君を知る僕は地球の出身という訳だし、地球に帰る事も可能なんだけど、その地球だって平行異世界というものでね、聖書の神が実在──するかも知れないが──しない世界だし、神器システムも存在していない。ドライグも居ない」

 

『む、うう……ならば私やドライグを知るのは何故なんだ? 全くの異世界だというなら私達を知っている筈があるまい?』

 

「僕は異界門(ゲート)を通じて、平行異世界間移動が可能なんだ。其処で赤龍帝のドライグを宿す人間にも会っているんだよ」

 

『それならば!』

 

 身を乗り出すアルビオンに更なる現実を……

 

「白龍皇を宿す人間と悪魔のハーフにも……ね」

 

『はい?』

 

 突き付けたのである。

 

『ど、ど、どういう意味なのだ!?』

 

「白龍皇ヴァーリ・ルシファー。赤龍帝の兵藤一誠。この二人は確かに赤と白のライバルだな。尤も、最初は笑ってしまうくらい弱かった赤龍帝だが……」

 

『ルシファーだと?』

 

「君達を斃した四大魔王の一角、ルシファーの曾孫。母親が人間だったから君を──同位体のアルビオンを宿して生まれた、あの世界で歴代最強の白龍皇だよ」

 

『私を宿した……同位体……? それはいったい?』

 

 アルビオン茫然自失となりながら呟き、一通りの事をユートは教えておく。

 

 アルビオンはドライグに比べて脳筋ではなく──それでも力と力をぶつけていたから脳筋な部分も在り──それが故に理解をした。

 

『は、はは……私の知ってるドライグじゃないな……乳龍帝だと? おっぱいドラゴン? しかも、しかも私が、この白龍皇と呼ばれた私が……尻龍皇だとは……な。あはは、あはははははははははははは!』

 

 お陰で若干壊れる。

 

 二十分くらいが経ったであろうか、漸く還ってきたアルビオン。

 

『それで、赤いのとの決着も着けられぬ私はどうすれば良い? 此処に来たのは用が有ったのだろう?』

 

「なに……折角、君の所有者となったんだ。挨拶をしておきたかったのもある。それと力の使い方に関して話し合いたいんだ」

 

『力の使い方?』

 

「普通の使い方もするだろうけど、基本的にちょっと変わった使い方になるね」

 

 ユートは説明をした。

 

 カードを使って姿を変えた後、必要に応じて強化形態となる事を。

 

 その強化形態こそ【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】の禁手(バランス・ブレイカー)となる【白龍皇の鎧(ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル)】だ。

 

 但し、シルエット的には多少の変化はあるかも知れないのだが……

 

『まあ、今の私は神器(セイクリッド・ギア)に過ぎない身だからな。龍の力を篤と使うが良いさ』

 

「ああ、宜しくな。白龍皇アルビオン」

 

『宜しく頼むぞ、真の意味で我が最初の担い手よ』

 

 これが白龍皇アルビオンとのファーストコンタクトとなり、キングフォームの形が決まった瞬間だった。

 

 

.『処で、緒方優斗よ』

 

「ユートで構わないけど? 何かな、アルビオン」

 

『ふむ、ではユートよ……一つ訊きたい事がある』

 

「それは?」

 

 アルビオンは一拍を置いて口を開いた。

 

『うむ……何と言うかな、嫌な気配が漂うのは何故なんだろうな?』

 

 本当に嫌なのだろうか、人間ならば汗をびっしょりと掻いている処だ。

 

「嫌な……気配? 例えばどんな?」

 

『ああ、龍殺し(ドラゴンスレイヤー)でも突き付けられたみたいな……」

 

「ドラゴンスレイヤー? ああ! そりゃそうだよ」

 

『やはり心当たりでもあるのか?』

 

「僕の中には、神やそれに近しい存在達から簒奪した権能が在るんだ」

 

『神やそれに近しい存在というと、天使や悪魔みたいな存在か?』

 

「そう。その中にアルビオンの同位体が存在する世界で手にした権能も在って、聖書の神から呪われた者──【神の毒】を喰らったら手に入った権能だろう」

 

『なっ!? 【神の毒】とはまさか……っ!』

 

 アルビオンも一応は噂くらい知っていた。

 

 アダムとイヴに干渉し、知恵の実を食わせた罪業により【神の悪意】を一心に集めた堕天使で、時としてルシファーと同一視される事もあるが、あの世界でのルシファーは四大魔王の一角であるが故に、サマエル自身が【赤き蛇】として、聖書の神より呪われる。

 

 本来、潔癖で悪意を持たない筈の【神の悪意】は、相当の毒となってサマエルを蝕んだ。

 

 それ故、サマエルは存在そのものが龍殺しとなり、【禍の団(カオス・ブリゲード)】から【龍喰者(ドラゴン・イーター)】というコードネームを与えられ、利用された訳だが……

 

『全ての食材(・・)に感謝を込めて、戴きます!』

 

 ユートにとって、龍や蛇という属性は単なる食事でしかなかったと云う。

 

 何しろ、地母神の本性に立ち返ったアーシェラを、ユートは食欲的な意味合いで喰らったくらいだ。

 

『とんでもない事をするものだ。だがどうした事か、嫌な気配だけではなく安らぐ雰囲気もあり、居心地は好いのだ』

 

「そりゃ、喰らっているのは龍喰者(ドラゴン・イーター)サマエルだけじゃあないからね。他にも別世界でリヴァイアサンと化したアーシェラという神祖とか喰ったし……」

 

『……なあ、実は私も喰われてないよな?』

 

「肉体が有れば少しくらい……タンニーンやティアマットみたいに尻尾くらいは食べてみたいかも」

 

 アルビオンはダラダラと冷や汗を流す。

 

魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)タンニーンと天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)ティアマットをか?』

 

「悪魔が混じっていたからなのか、タンニーンはちょっと不味かった。ティアマットは中々に美味」

 

『実はお前が龍喰者(ドラゴン・イーター)か!?』

 

 真なる意味で龍や蛇を喰らう者であるが故に。

 

 アルビオンは盛大にツッコんだものだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 現実空間に戻ってきてからユートは早速、【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】を試す。

 

「取り敢えず、神器(セイクリッド・ギア)としての発動だ。【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】!」

 

 気合いを込めて名を叫ぶと背中に顕現する蒼い光の翼は、確かにヴァーリが使っていた【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】と同じモノ。

 

「ユーキ……ちょい〜っとゴメンな?」

 

「ちょっ?」

 

 ユートがユーキの肩に触れると……

 

《Divid!》

 

 神器を発動させた。

 

「くっ、力が抜けて……」

 

 神器の能力によって力を半減させられたのだ。

 

「兄貴〜、何するのさ?」

 

「いや、だってな。この場で半減が効くのはユーキだけだろう? 神氣を持ったスワティには効き難いだろうからね」

 

「むう……」

 

 膨れっ面なユーキ。

 

「それじゃ、次に往こう。禁手化(バランス・ブレイク)ッッ!」

 

 カッ! と輝きが部屋を覆い尽くす。

 

 龍のオーラが真白の鎧に変換され、ユートの肉体を鎧っていった。

 

禁手((バランス・ブレイカー)……【|白龍皇の鎧《ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル》】」

 

「あっという間に至るとか……変態帝は涙目だねぇ」

 

 世界の流れを変える程の劇的な心情の変化、それが禁手(バランス・ブレイカー)へと至るコツ。

 

 コツさえ掴んでいれば、力の流動というのを知っているユートが禁手(バランス・ブレイカー)に至るのは如何にも容易い。

 

「うん、僕的には【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】より好みだな」

 

 後にはISに偽装をして使う事になるこの鎧だが、取り敢えずは仮面ライダーの強化フォームとして使う事となる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 昨夜、色々と試して充実した時間を過ごしたユートだったが、スワティとしては少しホッとしたような、残念なような複雑な気分であったろう。

 

 ベッドは二つ、スワティが一人で使っているから、必然的にユートとユーキが共に寝ている。

 

 そして出逢ってから数日でしかないが、毎夜毎夜の情事に思う処があった。

 

 ベッドの軋みやシーツや布団の衣擦れ、更にはナニかを打ち付ける音に水音、そして声を抑えている心算だろうが、間違いなく聞こえてくるユーキの嬌声。

 

 事後に漂う男と女の匂いもあり、眠れない夜を過ごして昼間に寝ていた。

 

 そんな中で初めて情事が無い夜だ。

 

 安堵した反面、物足りなさを感じたのだと云う。

 

 

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第7話:カラーという種族

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《Divid!》

 

 白い肩羽から蒼い光の翼を纏うブレイブ。

 

 カテゴリーKに相当するアルビオンのラウズカード──【エボリューション・アルビオン】とはまた別に【ディバイド・アルビオン】のカードが在る。

 

 カードに封印をしている訳ではなく、ユートの内のアルビオンの能力を引き出すカードな為、エボリューション一枚ではないのだ。

 

 直接、禁手化(バランス・ブレイク)するのならばまだ兎も角としても、仮面ライダーとして闘う以上は不粋と考えていた。

 

 というか、仮面ライダーの力と装備型神器を同時に使うというのは難しい。

 

 だが、ブレイド型の仮面ライダーならカードにより力を引き出せば可能。

 

 飽く迄も、ユートの内の力だから他のブレイド型──カリスやレンゲルやギャレン──では使えないが、それでもユートが使えるなら特に問題は無かった。

 

 そして、ユートはカードを使って【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】をブレイブに顕現させ、モンスターを相手に半減の力を使ったのだ。

 

 モンスターは力を半分も喪失し、ユート──ブレイブはその分の力を自らの力と換えている。

 

 まあ、英雄の時代の層のモンスターは所詮が雑魚、ユートは問題無く半減で獲た全ての力を吸収した。

 

 吸収した力は暫くの間を持続させる事も、一気に使って発散させる事も可能。

 

「ウェイッ!」

 

 斬っっ!

 

 ユートにとって雀の涙の力だからか、一気に使って次のモンスターを斬る。

 

「ふぃーっ!」

 

 どうやら、モンスターの気配は消えてしまったらしくて、ユートは大きく溜息を吐いて弁当を開いた。

 

「はぐっ」

 

 仮面ライダーモードではないから、変身解除をしなくても弁当を口にする事が出来る。

 

 弁当は簡単にサンドイッチだった。

 

「アルビオン、起きているのか?」

 

《ああ、中々の使い手だと思うぞ。私の力を如何無く発揮している。どうやら、同位体の私とやらを見ていて戦い方は学んだ様だな。後天的な所持者(ユーザー)だと自嘲をしていたがな、お前が最初の所持者で私は誇らしい》

 

「そうか……エロに関しては僕も一家言あるからな。それでも変な名前で呼ばれない様に気を付けよう」

 

《そうしてくれ。流石に私も尻龍皇は辛いのでな》

 

 互いに笑い合って休憩を終え、再びラグナード迷宮の探索に向かう。

 

 緑色の巨大な芋虫が目の前に現れた。

 

《Divid!》

 

 【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】は一度でも顕現させたならば、その効果はユートが仕舞わない限り続く。

 

 故にいつまでも出して、効力を発揮していた。

 

「イモムシDXね」

 

 斃したモンスターの名前はリザルトメニューで確認をして、手に入れた経験値とGOLDの管理をする。

 

 青い円らな瞳に橙色の丸い物体、【ぷりょ】が現れたら一気に斬り捨てた。

 

 次には金髪碧眼、白い肌がキラキラした少女が粉を撒き散らしながら現れた。

 

「クスクス、実験台を見〜付けた♪」

 

 赤いリボンで結わい付けたツインテール、赤い肩紐と腰紐に白いワンピース、何故か裸足で歩いている。

 

 顔立ちは可愛らしいが、一人笑顔で動いている辺り明らかにモンスターだ。

 

「女の子モンスターか」

 

《やはり……無理矢理にヤるのか?》

 

「無理矢理はしないぞ? 斃して自分から欲しいと思わせるだけだから」

 

《それは、快楽に抗えぬ様に襲っているだけだろう》

 

「襲ってくるのは向こう。勝者の権利を僕は行使するだけだね」

 

《ハァー、モノは言い様とはよく言ったもんだな》

 

 アルビオンは呆れながら溜息を吐いた。

 

「さあ、君には実験台になって欲しいから、大人しくなって貰うよ?」

 

「粉……毒か?」

 

「うふふ♪」

 

 バッ! 左腕に引っ掻けた手籠からユートに白い粉を投げ付けた。

 

「眠っちゃえ!」

 

 だが……

 

「平気へっちゃらだね」

 

 全く揺らがない。

 

「あ、あれぇ? だったらこれ! 麻痺しちゃえ!」

 

 再び白い粉を投げたが、やはり……

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁっ!」

 

「な、何で? だったら、この猛毒性の粉で!」

 

 バッ! バッ!

 

 焦った表情で投げ付ける女の子モンスター。

 

「残念無念、また来週!」

 

 やはり全く効かない。

 

 女の子モンスターは恐慌を来してしまう。

 

「え? え? な、何で? 何で? 何でぇぇ?」

 

 ユートは黄色い薔薇を取り出すと、香りを嗅ぎながら瞑目をしつつ口を開く。

 

「知っているか? 毒蛇は自らの毒にやられたりしない様に抗体を持つ」

 

「……え?」

 

 言いながら黄色い薔薇を投げ付ける。

 

 クラリ……一瞬の目眩をを感じた女の子モンスターは膝を付いた。

 

「あ……れ……?」

 

「どんな気分だ? 自分が同じ目に遭うというのは」

 

 絶句する女の子モンスターに対し、ユートは口角を吊り上げながら近付く。

 

 女の子モンスターに浮かぶ表情──それは恐怖。

 

「あ、あ……い、や……」

 

「どうした? 君もこうして人間や他のモンスターを実験台にしてきたんだろうに? 今度は自分の番になっただけだ」

 

 紫と紅い薔薇を出す。

 

「さっきの粉は確か眠りと猛毒だったな? 紫の睡眠薔薇(スリーピングローズ)と猛毒の王魔薔薇(ロイヤルデモンローズ)だ。君は僕みたいにこれらの耐性はあるのかな? それじゃ、実験を開始しよう」

 

「や、やら……イヤ、イヤイヤ……嫌ぁぁぁぁっ!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 【粉あらい】の女の子モンスターカードを、ブレイラウザーのオープントレイへと仕舞ったユート。

 

 嗜虐趣味は無かったが、偶にははっちゃけてみるのも愉しい。

 

 黄色い麻痺薔薇(パラライズローズ)というのは、相手の肉体を麻痺させてしまう反面、ユートの小宇宙乃至は魔力や霊力などを使って意志次第で神経を過敏にし、痛覚などを増大させてしまう効果があった。

 

 勿論、快感もだ。

 

 故にこそ粉あらいも最後には、ユートから与えられる快楽を享受した。

 

「さて、さっきから気になっていたけど、この二体の石像は何なんだろうか?」

 

 女性の石像、似た容姿をしているのに向かって左側と違い、右側の石像は翼を持っている。

 

 そして共通項としては、額に楕円形のナニか。

 

「何かの仕掛け……か?」

 

 ユートが視た限りでは、単に石像が置いてあるという感じではなく、何らかの仕掛けを動かす為のキー。

 

 例えば邸内の特定の家具を特定の法則で動かすと、隠し扉が現れたり開いたりするみたいな。

 

「ふむ、試してみるか?」

 

 先ず調べてみて、どんな風に動かすのかを考えた。

 

 何度か動かされているのだろうから、その流れを視ればだいたい理解出来る。

 

「こんな感じか?」

 

 特定の法則に則って回していく、まるで金庫のキーを開けるみたいな感覚で。

 

 ゴゴゴ……

 

 石の扉が重々しく開き、岩屋っぽい穴がポッカリと口を開いた。

 

「な、何事ですか? 何で扉が開いたの!?」

 

 慌てて出て来たのは大きなショルダー──何処ぞのハイエルフっぽい──を着けた青いストレートヘアに長い耳にターコイズブルーの瞳、極め付けに額に赤い楕円形の宝石を付けている巨乳な少女だ。

 

 少女はユートを見ると、怯えた瞳で息を呑む。

 

「ヒッ! に、人間!?」

 

 すぐに少女を庇う様に現れたのは、ピンクブロンドをショートに刈った蜂っぽさを持つ少女。

 

 女の子モンスターだ。

 

「クライア、下がって! お前、カラー狩りか!?」

 

「クライア……カラー?」

 

 ユートが少女の名前らしきものを呟き、続いて種族らしき名称を呟くと……

 

「はい?」

 

 どうやらそれが本名だったのか、クライア・カラーは小首を傾げて返事した。

 

「ああ、君は人間って訳じゃなさそうだね。隣の子も女の子モンスターかな?」

 

 ユートの質問に又も怯えた表情、瞳になっていっそ憐れな程に肩を震わせる。

 

「貴方、クライアを狙っている人間? だったら絶対に許さない!」

 

 クライアという耳長な娘の前に立ち、蜂の針っぽい槍を両手に持ってユートを睨んできた。

 

「狙う? よく判らないんだけど、クライアだっけ? 君は狙われてるのか?」

 

「そ、それは……」

 

 困った表情になって俯くクライアを見て、ユートは溜息を吐きながら言う。

 

「ハァー、少なくとも僕はこの子を狙う某かじゃないから、此処が秘密の場所なら入口を開きっ放しなのは如何にも拙いだろ。中で話を訊かせてくれないか?」

 

 そう提案すると蜂娘(仮)が心配そうにクライアへと顔を向けて、何処か怯えた感じの彼女に訊ねる。

 

「どうしたの、クライア? 何だか浮かない表情で」

 

「こ、この人……心の色が見えないから」

 

「えっ!? 本当?」

 

「う、うん」

 

 ユートにとって意味不明な会話だが、理解が及ばないという程でもない。

 

「リーディングか」

 

 某・愛と勇気の御伽噺な物語に登場する、銀兎みたいな能力を持つのだろう、ユートはそう判断した。

 

「無理だな。僕には単一の呪力は通じない。殆んど全てを弾いてしまうからね」

 

 二人に詳しく言っても解らないだろうが、ユートは【カンピオーネ】と呼ばれる存在で、強大な呪力を持ち合わせている為にまるで湖へ水鉄砲を使って塩水を撃ち込むが如く、何か影響を与える事すら叶わない。

 

 それはリーディングでも同じ事だった。

 

「それとよく考えてみろ。僕にそのクライアって娘を害する気があるってなら、隠れ家に上げようが門前払いをしようが、どっちにしてもこの場所を見付かった時点で詰み、チェックメイトだろうに」

 

「そ、それは……くっ!」

 

 容赦なく正しい正論に、蜂娘(仮)は呻く。

 

「他に見付かりたくないのなら……ほら、僕をさっさと隠れ家に上げる!」

 

「わ、判りました」

 

「クライア!?」

 

「大丈夫、確かにこの人からは色が見えないけれど、言ってる事は正しいから」

 

 蜂娘(仮)が悲鳴を上げるが如く絶叫するが、当事者のクライアは軽く微笑みを浮かべて言った。

 

 隠れ家の内部は外部からの見た目と異なり、十字架の無い教会といった感じの内装で、ボロボロではあっても何処か荘厳な雰囲気を醸し出している。

 

「処で、カラーというのは何なんだ? まあ、種族としての名前なのは理解出来るんだけど……」

 

「貴方はカラーを知らないのですか?」

 

「ユート」

 

「はい?」

 

 質問には答えず、自分の名前を名乗るユートにポカンとなるクライア。

 

「僕の名前だ。緒方優斗という」

 

「ああ! 成程、ユートさんですね」

 

 合点がいったのかポンと両掌を合わせて叩き、コクンと頷いた。

 

「そう、名前で呼んでくれると嬉しいね。それから、質問の答えだけど、カラーというのを僕は知らない。まあ、クライアを見る限りでは身体的特徴に、耳が長いというのと額の宝石か」

 

 額の宝石……そう口に出したら少し怯えたのを見逃しはしない。

 

「宝石に何かあるのか? 言いたくないなら別に言わなくても良いけど」

 

「……私達カラーの額に有る宝石は、魔力の結晶体。カラーはこれを使って魔法を使うんです。人間はこれを狙って懸賞金を掛けて、私を追っています」

 

「へぇ? カーバンクルみたいなもんかな?」

 

「カーバンクル?」

 

「額に赤い宝石を持つ幻獣だよ。カーバンクルも額の

宝石を狙われるし」

 

「そうなのですか? 確かに同じですね。それで私はこのラグナード迷宮に隠れ住んでいるんです」

 

 古来より人間の欲望とは果ても限りも無いらしい、そして途轍もなく醜いものであるようだ。

 

 ユートは眉根を寄せつつ顔を顰めた。

 

「クライア、若しも何者かが君を襲って来たら、これを使うと良い」

 

 ユートはステータス・ウインドウを開き、アイテムストレージの欄をタップ、アイテムを実体化させるとクライアへと手渡す。

 

 それは白いボックス状の機器で、更には鍬形虫の絵が描かれたカードが一枚。

 

「で、でも……」

 

 どんな物か解らないが、斃すという行為には抵抗を覚えるのか、少し困った顔になるクライアにの手を握ると、真っ直ぐにその宝石の様な瞳を見つめてユートは口を開く。

 

「クライア、その優しさはきっと君の美徳だろうが、敵には通じない。殺せとは言わないが、自らを護るのは必要だよ」

 

「は、はい……」

 

「僕は腐れた人間よりも、君が生命を繋ぐ方がよっぽど良いよ」

 

 ユートはある意味では、ハーデスやポセイドンの言い分を認めている。

 

 人間(ヒト)の心の醜さと美しさを見てきたユートにとっては、護る事も殺す事も常に同義だった。

 

 そしてユートは種族差別や人種差別を良しとせず、故にこそカラーを狙う人間とクライア、どちらの味方をするかと訊かれたなら、間違いなくクライアの方に味方をするだろう。

 

「その機器にカードを装填して、このハンドルを引けば君に力を与えてくれる。だから使う使わないは別にしても、御守り代わりに盛っていると良い」

 

「は、はぁ……」

 

 よく解らないクライアだったが機器を受け取る。

 

 とはいえ、きっと彼女は余程の事でもないと使わないだろうと、ユートは確信をしているのだが……

 

 話している内にクライアと蜂娘(仮)の警戒心も徐々に薄くなったのか、最終的には軽く談笑が出来る程度には打ち解けていた。

 

 お茶まで出して貰って、ユートも御茶請けにお菓子を振る舞い、中々に愉しい時間を過ごせたと思う。

 

 元々、ユートがラグナード迷宮に入っていた理由は修業なんかではないから、多少の時間をこうして過ごしても何ら問題は無い。

 

 帰る段になってクライアが来る前に、蜂娘(仮)が話し掛けてきた。

 

「ねぇ、ユート」

 

「どうした?」

 

「何でクライアに御守りだって、あれを渡したの?」

 

「勿論、クライアを護る為だけど?」

 

「それで同族を傷付けられても良いの?」

 

「クライアを襲った連中がどうなろうと、僕の知った事じゃないさ。自業自得というやつだからね。尤も、クライアは使わないかも知れないけど……な」

 

「そうだね。クライアって優しいから」

 

 蜂娘(仮)もそこら辺の事は懸念していたらしい。

 

「今度、来たら君にも何かクライアを護れるアイテムを上げるよ。生憎と今は持ってないけどね」

 

「はっちゃんだよ」

 

「ん?」

 

「あたしの名前。ハチ女だからはっちゃん。クライアが付けてくれたんだ」

 

「そっか、はっちゃんね」

 

 漸く蜂娘(仮)の名前を知ったユート。

 

 蜂娘(仮)改め、ハチ女のはっちゃんはユートを信じてみる事にしたらしい。

 

 其処へクライアが走ってやって来る。

 

「あの、遅くなっちゃってごめんなさい」

 

「いや、別に構わないよ」

 

「また、来てくれますか? ユートさん」

 

「ああ、暇を見付けてまた此処に来るよ」

 

「その時はお菓子を作っておきますね」

 

「わぁ! クライアのお茶とお菓子は美味しいんだ」

 

 はっちゃんが嬉しそうに言うと……

 

「ちょっ、はっちゃん! ハードルを上げないで! あの、そんな大層なものじゃないですから!」

 

「いや、楽しみにしてる。明日か、明後日の夕方頃には来るよ」

 

「はい♪」

 

 ユートは外に出ると石像を元の位置に戻し、扉前の偽装を再び施して帰った。

 

 ラグナード迷宮の入口に戻ると、中学生になるかならないかくらいの金髪少女に出逢う。身に纏うのは、如何にもな白いローブ。

 

「君は……確か、次の対戦相手と一緒に居た?」

 

「! お兄さん、ミリオと戦う人?」

 

「ああ、そうだが。こんな所で何をしてるんだ?」

 

「ミリオを待ってるの」

 

「成程、ミリオはラグナード迷宮内って訳か」

 

 まだ暗くなるには早い、ミリオは修業でもしているのか、出てきてない様だ。

 

「僕は帰るけど、君は……えっと、名前は何だっけ」

 

「クレリアだよ」

 

「そっか、クレリアはどうするんだ? 戻るんなら、街まで送るけど……」

 

「クレリアはミリオを待つから良いよ」

 

「そうか、判った」

 

 ユートはその侭、クレリアと別れてラグナード迷宮から離れると街に戻った。

 

 宿の部屋に帰ってから、すぐユーキに話をしカラーについて訊いてみる。

 

 どうやら、カラーという種族は闘神都市Ⅲにも登場をしていたらしく、ユーキもその名前を知っていた。

 

 概ねはクライアから聞いた話と同じだが、一つだけ彼女から聞いていなかった事柄がある。

 

 それはカラーの額の宝石の色について。

 

 カラーの額の宝石は赤いと処女、男性経験を持ったカラーの場合は青く輝くのだと云う。しかもその青は性交の回数などでより深く美しく輝きを増し、高値で売れるのだとか。

 

 それ故に、カラーが捕まった場合は宝石の価値を上げる為、必ず犯される。

 

 カラーには女性しか居ないし、人間と比べても比類無き美貌を持つのも原因の一つらしいが……

 

 ユーキもよくは知らないらしいが、何らかの条件を満たすと宝石の色が処女と非処女に関係無く色が一定に保たれるらしい。

 

 クライアが曰く、カラーという種族は次の生で天使か悪魔に成るとか。

 

 出来たら天使に成りたいというのが、クライアの望みだと聞いている。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌日、ラグナード迷宮に入ると赤毛で白銀の鎧を身に纏い、大きな盾と剣を持つ少年と、栗毛の軽装鎧の青年が二人で迷宮に居た。

 

「君らは確か、ミリオと……姦(かしま)しい?」

 

「はい、そうです」

 

「姦しいじゃない! 俺はカシマ・シードだよ!」

 

 頷く赤毛の少年ミリオ、そして憮然とするシード。

 

「一文字足りなかったか」

 

 そういう問題ではない。

 

「で、二人して修業か?」

 

「いえ、実は第二層に盗賊の砦が有ると判明しましたので、彼を囮役にして砦を落とそうかと」

 

 ミリオが答えると、憮然としたシードが言う。

 

「ちょ、何で彼には普通に教えるんだよ? 俺の時はクレリアが口を滑らさなけりゃ、教えてくれなかったってのに!」

 

「いえ、何と無く只者ではないオーラを感じまして、お教えしても問題は無いかと思いましたので……」

 

 つまり、シードは只者なオーラが漂っているという事なのだろう。

 

「お、俺って……」

 

 それを覚ってガックリと項垂れてしまった。

 

「盗賊……ね。僕も一緒に着いて行こう」

 

「構いませんよ。貴方なら主力になれそうだ」

 

 軽くシードがディスられてるがユートは勿論の事、ミリオも一切気にしない。

 

「んじゃ、準備するか」

 

 ブレイバックルに、カテゴリーA代わりのカードを装填すると、シャッフルラップが展開されて腰に装着されていく。

 

 待機音が鳴り響く中……

 

「変身!」

 

 掛け声を上げて、ターンアップハンドルを引く。

 

《TURN UP!》

 

 電子音声が響くと共に、スワティを象る紋様が描かれたオリハルコンエレメントが前面に顕れ、ユートがそれを走り抜けた。

 

 スワティが平素から纏う神様モードな衣装に近い、それでいて普通の金属鎧より遥かに優れた防具を装備して、ブレイラウザーを腰に佩いた姿へと変わる。

 

 仮面ライダーモードではブレイドに近い姿の聖魔獣を纏うが、此方では単純にオリハルコン・スレッドの衣装となっていた。

 

 某・黒の王子様っぽく、バイザーを顔に着けているからか、少し怖い。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「そうですね」

 

 

「ああ!」

 

 『変身』を呆然と見ていた二人だったが、ユートに出発を促されて我に返り、三人は盗賊の砦へと向けて駆け出した。

 

「此処の盗賊達は闘神都市の官憲が、ラグナード迷宮内に手を出さない事を知っているのです」

 

「成程ね、だからいい気になって暴れてる訳か」

 

「はい」

 

 暫く駆け往くと砦らしき建物が見えてくる。

 

「あれか!?」

 

「間違いありませんね」

 

 ユートの質問にミリオが答えると……

 

「さあ、撒き餌のシードさんは派手に暴れて下さい」

 

 撒き餌(シード)へと指示を出した。

 

「どうせ俺は撒き餌だよ、コンチクショー!」

 

 シードの絶叫を他所に、堂々と橋を渡って砦へと突っ込む三人。

 

「侵入者だぁぁああっ!」

 

 当然ながらあっという間に見付かって戦闘になり、ユートは腰に佩くブレイラウザーを抜剣し、ミリオとシードも各々が剣を抜いて敵に斬り付けた。

 

 砦の奥からワラワラと、まるでGの如く涌く。

 

《SWALLOW TURN!》

 

 ラルカットのカードを、ブレイラウザーのスラッシュリーダーに通すと、電子音声が鳴り響いて刃に青い光が灯る。

 

「ウェェイッ!」

 

 瞬間的に二発の剣戟を放って盗賊を斬った。

 

「最速で最短で真っ直ぐに一直線に! 盗賊(クズ)の親玉を叩き潰す!」

 

「親玉……猛大人ですね」

 

 ユートが情け容赦無く、盗賊共を斬り殺しながら叫ぶと、ミリオが盗賊の頭目をしている者の名前を教えてくれる。

 

 更に奥に進むと、十数人もの盗賊が一気に身体的にまだ幼いミリオへ、畳み込む様に襲い掛かって来た。

 

「死ねっ!」

 

「チッ!」

 

 傷付くミリオは舌打ちをしつつ、襲い来る盗賊共を斬り伏せていく。

 

「ミリオ!」

 

《SIXTY FOUR KICK!》

 

 【やもりん】の女の子モンスターカードをスラッシュリーダーに読み込むと、伝説の足技とも謳われていた六十四文キックを放つ。

 

「ギャァァァッ!」

 

「グワァァァアアッ!?」

 

 文字通り蹴散らされていく盗賊を尻目に、ミリオの許へと向かうユート。

 

 膝を付いたミリオであったが、難しい表情をしたかと思えば瞬時にダメージが光と共に癒えた。

 

「な、にぃ!?」

 

 間こそ空いたが、まるで悪魔であるフェニックス家の者の如く回復力。

 

「おや、どうしました?」

 

「その回復力は……」

 

「これこそが勇者の力というものですよ」

 

 勇者の力で済ます辺り、どうやらこの瞬間回復こそ勇者の証の様だ。

 

「問題が無いなら良いよ」

 

「はい、問題ありません。シードさんは撒き餌の役目を充分に果たしてくれていますし、僕達は一気に猛大人の所へいきましょう!」

 

「了解だ!」

 

 言葉の通り、盗賊を薙ぎ斃しながらも奥へと進んだミリオは……

 

「猛大人! 居るのは判っている! 出てこい!」

 

 更に奥の方へ叫ぶ。

 

「まったく、さっきから煩いアルね〜」

 

 ミリオの呼び掛けに応えるかの如く、スキンヘッドな強面で醜いまでに筋肉が盛り上がった男が、似非中国人っぽい口調で文句を言いてつ、気だるそうな雰囲気で出てきた。

 

 そんな猛大人を見て顔を顰めるユート。

 

 別に猛大人の醜さに対してではなく、のっしのっしと歩いている猛大人の腰の辺りに嫌悪感を催したからに他ならない。

 

 何も身に着けてない裸の少女……と呼べる年齢の娘が股間から汚い液体を垂れ流し、何処を視ているのか解らない虚ろなハイライトの消えた瞳で、口から涎を垂らしながら猛大人に向き合った状態でくっ付いていたからだ。

 

 今はもう見る影も無いのだが、顔の作りから可成りの美少女だった。

 

 少し幼めな顔立ちだが、長い黒髪と揉み上げに黒い瞳は日本人っぽい。恐らくJAPANの人間だろう。

 

 髪の毛は乱れていて判り難いが、癖の付き方からして普段はツインテールに結わい付けているのだろうと判断が出来た。

 

 最早、会話も叶わないだろうこの少女──戦国ランスという作品に登場している織田家の香姫。

 

 つまり、本来なら此処に居る筈が無い少女である。

 

「ふん、また餓鬼アルか。一ヶ月前にもこの娘と一緒に餓鬼が来たアルが、カラーに手を出す奴は許さんとか何とか言っていたアル。弱すぎて話にもならなかったけどネ」

 

「(転生者……か)」

 

 だとしたら、少女は転生特典(ギフト)として転生者に与えられた存在。

 

 そして、狙いはクライアだったのだろうが、二人で砦へと突入をして猛大人に殺されたのだろう、その後に少女は捕まって猛大人の慰みものに……

 

「うん? もう死んだアルか? つまらんアルね」

 

 猛大人は、自らのモノに貫かれていた少女を引き抜くと、まるでゴミでも捨てるかの如く投げた。

 

 本当に少女は死んでいるのだろう、呻き声の一つも洩らさず壁に叩き付けられてピクリとも動かない。

 

 少女が居なくなった事により、猛大人の醜い分身が露わとなる。

 

「ふむ、私の可愛い部下達を無惨な姿にしてくれたのはお前達アルか!?」

 

「それがどうした?」

 

「許さんアルよ! まあ、お前達みたいな餓鬼に殺される様な弱者は、私の部下じゃないアル。我が祖先が四千年の時を掛けて成熟させた究極の拳法、見るアルヨ! 覚悟するヨロシ!」

 

 構える猛大人。

 

「ユートさんは周りの連中を片付け下さい。猛大人は僕が斃します!」

 

「……判った」

 

 ミリオと猛大人の戦闘が開始される。

 

 とはいえ、ユートが部下らしき盗賊を片付けている間に猛大人は悲鳴を上げ、ミリオは膝を付く猛大人を見下ろしていた。

 

「ふん、お前はこの程度か猛大人!」

 

「も、もう悪い事はしないアル! 此処から出ていくから許して欲しいアル!」

 

「心を入れ替えて、もうわるさはしないと誓うか?」

 

「し、しないアル! 誓うアル!」

 

「ならば、其処のお前に殺された少女に詫びろ!」

 

 ミリオは無惨な姿を晒す少女の遺体を指差し、謝罪を要求する。

 

「ご、ごめんなさいアル。私が悪かったヨ!」

 

 ペコペコと少女の遺体へ土下座までする猛大人。

 

「もしまた、何処かで悪さをしているという話を聞いたらすぐに飛んでいくからな! それともう一つ……お前が盗み出した【勇者の証】を渡して貰おう」

 

「こ、これアルね! どうぞ御持ち下さい勇者様」

 

 【勇者の証】とやらを受け取ったミリオは、それの真贋を確認する。

 

「確かに本物だな。よし、もう行け!」

 

「ひぃぃぃっ!?」

 

 部下を引き連れて脱兎の如く逃げ出す猛大人だが、ユートはミリオの判断に対して目を見開く。

 

「おい、ミリオ! 何を逃がしてるんだ!?」

 

「無益な殺生は控えるべきでしょう」

 

「あの子を見て、そんな事を言えるのか!」

 

「彼女は可哀想ですけど、だからと言って私達までが猛大人みたいに殺しをする必要はありません」

 

「あの手の奴はまた繰り返すぞ!」

 

「その時は、また叩き潰すまでですよ」

 

「その時にはまた、余計な犠牲者が出ているって事を理解してるのか!?」

 

「……」

 

 また猛大人が悪さをするという事は、即ちその悪さの犠牲者が出ると云う事。

 

「ミリオ、それは優しさでも甘さでもないよ。単なる弱さだ……」

 

 ユートみたいに殺せば良いという訳でもなかろう、だけど少女に対する猛大人を見る限り、腐り切っているのは間違いない。

 

 見逃せば必ず再び悪徳を行うだろう。

 

 それに、盗賊を率いている頭目にしてはアッサリと終わり過ぎていた。

 

 とはいえど、この討伐を主導したのはミリオだ。

 

 そのミリオが見逃したのであれば、よもやユートが勝手に殺しに行く訳にもいかなかった。

 

 下手をすればミリオとの対立は避けられない。

 

 だからこそ、ユートは言いたい事を言い少女の遺体に近付くと、抱えて砦の外へと出るのであった。

 

 少女を弔う為にも。

 

 

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第8話:勇敢なる者達の闘い

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「大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変っっ!」

 

 勢いよく宿屋に飛び込んできたのは、怪しいフードにマント姿の何者か。

 

 声からして女であろうというのは判るが、怪しさは大爆発であった。

 

 まあ、声で誰なのかはすぐに判明しているが……

 

「どうした、はっちゃん」

 

 ハチ女のはっちゃん。

 

 女の子モンスターというカテゴリーで、クライアの友達を自他共に認める。

 

「クライアが、クライアが浚われちゃったよ!」

 

 それは約束された未来、それは当然の帰結、起こり得る必然の運命(さだめ)。

 

 はっちゃんの言葉は衝撃を以て響き渡った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「どうやら、僕らの出入りを見ていた盗賊が居たらしいな……そしてやっぱり、猛大人は再び事を起こしたって訳か」

 

 ユートの瞳は、声は冷え冷えとして見る者と聞く者に恐怖を与える。

 

 やはり逃がしたのは失敗だった、それだけがユートの心を充たしていた。

 

「猛大人、貴様は僕を怒らせたんだ……金色の御許へ還(ほろぼ)してやるぞ!」

 

「兄貴、ボクも行くよ」

 

「きゃるん、私も一緒に行きます!」

 

 ユーキとスワティが険しい表情で立つ。

 

「そうだな、人手は在った方が良さそうだ」

 

 単純な殲滅戦であれば、ユート一人でも事足りるのだろうが、今回はクライア救出戦だからどうしても手は欲しい。

 

 のんびりと襲い来る盗賊を相手にしては、クライアが猛大人の毒牙に掛かってしまうかも知れなかった。

 

 ならば二人には露払いを頼むのも良い。

 

「ユート、私もクライアを助けに行くよ!」

 

「……大丈夫なのか?」

 

「うん!」

 

「了解だ。これを渡しておこう。約束の力だよ」

 

 ユートは金色の機械的なブレスレットを渡す。

 

「これは?」

 

 ユーキは基本的に全ての物のガワを既に造っていたから、後はユートの持つ力を使えば良い。

 

 駆け出したユート達。

 

 ラグナード迷宮へと向かう四人、それを見ていたのはミリオだった。

 

「ユートさん、血相を変えてどうしたんですか?」

 

「君には関係無いよ」

 

「然し! その様子は唯事ではありません!」

 

 ミリオに構っている暇は無く、着いてくるミリオを放って走る。

 

 ラグナード迷宮に入って三人は……否、四人は各々がデバイスを使う。

 

 ユートはブレイバックルに【チェンジスワティ】を装填、ユーキはカリスラウザーを腰に据え、スワティもレンゲルバックルに【チェンジスパイダー】を装填して腰に、シャッフルラップが伸びて装着した。

 

「「「変身っ!」」」

 

 ターンアップハンドルを引くユート。

 

《TURN UP!》

 

 ユーキは、【チェンジマンティス】をリーダーに読み込ませる。

 

《CHANGE!》

 

 そしてスワティもミスリルゲートを開いた。

 

《OPEN UP!》

 

 電子音声が鳴り響くと共にユートは顕現したオリハルコンエレメントを潜り、ユーキはカリスに変わり、スワティもスピリチアエレメントを潜る。

 

 ミリオはユートの事は知っていたが、他の二人は知らなかったからか驚く。

 

 しかも、ユートの変身したとは違って明らかな異形の姿とあれば尚更だろう。

 

 フーデットマントを脱ぎ捨てるはっちゃん。

 

 よもやモンスターだとは思わず、ミリオは更に驚愕をするがいちいち構ってはいられなかった。

 

「来て!」

 

 はっちゃんが右腕を掲げると……

 

「ザビーゼクター!」

 

 何処からともなく顕れ、金色の蜂が飛んで来てその手に収まる。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 【ザビーゼクター】……仮面ライダーカブト系列の仮面ライダーザビーに変身する為のツール、集団行動を旨とする蜂をモチーフとしてるだけあり、完全調和(パーフェクトハーモニー)の精神の持ち主が適格者として選ばれ易い。

 

 勿論、このザビーゼクターはユートが【至高と究極の聖魔獣(アナイアレイション・メーカー・ハイエンドシフト)】で創り上げた聖魔獣であり、それを出力するのはユーキの造り出したザビーブレスである為、そんな意味不明な縛りなど有りはしないのだが……

 

 敢えて云うと、ユートが与えた者こそが適格者だ。

 

 ハチ女なはっちゃんだからこそ、ユートはザビーゼクターを与えた。

 

 第二層・英雄の時代と云われる層の奥、盗賊の砦に再びやって来たユートは、カリス、レンゲル、ザビーに露払いをして貰いつつ、勝手に着いて来たミリオと共に猛大人が居るであろう部屋を目指す。

 

 敵を薙ぎ払いながら先へと進んでいく。

 

 その道中、来てしまったものは仕方ないとクライアが猛大人に浚われた事を話しており、ミリオは悔しそうにしていた。

 

 クライアが被害に遭ったのは、自分が猛大人に情けを掛けたのが原因だと。

 

 ユートの言う通り始末していれば、今回みたいな事にはならなかった。

 

 勇者として情けは有っても情けない限りだと沈む。

 

 最奥にまで進むと……

 

「ギャァァァアアッ!」

 

 猛大人の部下らしき者の絶叫が響く。

 

 急いで現場に突入をして見た存在は、ワインレッドのスーツに銀色のアーマーを持つ緑のオーガンスコープの異形が、派手で大きな銃を手にしていた。

 

「ギャレン……」

 

 ユートの呟きが、やけに大きく反響したと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 猛大人は部下を使って、クライアを浚う。

 

 ユートから【御守り】を託されていたが、クライアは結局は使わなかった。

 

 ちゃんと説得をすれば、きっと解ってくれるのだと信じたいが故に。

 

 だが結局は、そんな儚い希望はものの見事に打ち砕かれてしまった。

 

 皮肉な事に、ユートと解り合えたという事実が彼女の目を曇らせたのだ。

 

 後ろ手にロープで縛られたクライアは、不安そうな表情で気味の悪い巨漢の前に立たされている。

 

「ほほう? 額の宝石が赤いと云う事は、ま〜だ処女アルな? 高く売れるのは男を知り尽くした青い宝石アルヨ。ぐふふ、これは楽しませて貰えるネ」

 

 猛大人の顔に浮かんでいる表情は、クライアに対する欲情を含む笑み。

 

 クライアにはもう説得の言葉が見付からない。

 

 バリィッ!

 

「キャァァァッ!?」

 

 行き成り服の襟を掴まれると引き裂かれ、形の良い胸を露わにしてしまって、しかも縛られている所為で隠す事も出来ずに、勢いで尻餅を付いてしまう。

 

 ミニとはいえ、一応穿いていたスカートも一緒に破られており、パンティまで丸見えな状態だ。

 

 猛大人は鼻息も荒くなっていて、自らの股間を隠していたモノを脱ぎ去ると、醜く腫れ上がっている分身が外気に晒された。

 

「い、いやぁぁっ!」

 

 汚らわしいモノを見せられたクライアは、顔を背けながら絶叫をする。

 

 そんなクライアに近付いた猛大人は、腕力に任せてにパンティを剥ぎ取ると、脚を開かせようとするのだが当然、嫌がるクライアは開くまいと力を込めた。

 

 屈した後の未来を想像すらしたくない。

 

「誰か……助けてっ!」

 

「ホッホッホッ、だーれも助けてくれやしないアル。お前もいい加減に観念するヨロシ!」

 

 周囲の猛大人の部下も、ニヤニヤしながらクライアを観ている。

 

 だが、意外な所から救助が現れた。

 

《EMERGENCY MODE》

 

「!? 何アルか?」

 

《TURN UP!》

 

 クライアの持っていた物の一つが勝手に動き始め、腰に装着されると鍬形虫の紋様が描かれている半透明の膜が顕れ……

 

「ギャピーッ! アル!」

 

 猛大人を吹き飛ばす。

 

 それはオリハルコンエレメント、仮面ライダーへと変じる為のシステム。

 

 この中に聖魔獣が粒子状に収まっており、このオリハルコンエレメントを潜り抜ければ変身が可能。

 

 果たして、クライアへとオリハルコンエレメントが迫り来て、図らずも潜った事によって仮面ライダーの姿となっていた。

 

 然し自らの意志で動く事は叶わず、仮面ライダーギャレンは勝手に動くと腰のホルスターから醒銃ギャレンラウザーを抜き、構えて猛大人の部下Aにサイティングをして、無慈悲に無感動にトリガーを引いた。

 

 BANG!

 

「ウギャァァァッ!」

 

 額を射ち抜かれた部下Aは絶叫と共に、頭を破裂させて吹き飛ぶと壁へとぶつかって、グチャリッ! という決して人間が出してはならない音を室内に響かせると、それっきり二度とは動かなくなる。

 

 元々が本物と同程度にはスペックを維持しており、そして仮面ライダーというのは基本的に人間でなく、遥かに高い能力を持つ怪人を相手に戦うのだ。

 

 その一撃を受けたなら、人間では軽い一発でも石榴になりかねない。

 

 何しろ、基本的なパンチが〝トン〟という単位。

 

 最も近接戦闘に向かないギャレンでさえ、その最大威力はAP二六〇であり、二.六トンなのだから。

 

 勿論、クライアが射った訳ではない。

 

 これを行ったのは聖魔獣ギャレンで、エマージェン

シーモードで装着者を護るべく、自らの意志を以て戦っているのだ。

 

 其処へ突入してきたのは……

 

「ギャレン……」

 

 仮面ライダーブレイブ──ユートと、勇者ミリオの二人であった。

 

「エマージェンシーモードが発動しているみたいだ。つまり、クライアが何かしらの害を受けそうになったという事か」

 

 要するに、エマージェンシーモードとは某・喋る口の悪い剣が、緊急避難的に持ち主を動かす様なもの。

 

「ミリオ、今回の主導は僕だから……君は周りの雑魚を潰せ。僕はあの筋肉達磨を殺す!」

 

「……判りました」

 

 事、此処に至ってしまってはミリオも否やは無い。

 

「ギャレン! クライアをその侭、ユーキ……カリス達の許まで連れていけ!」

 

 ギャレンは頷くと走って部屋から待避する。

 

「うぬぬ、ワタシの宝石! 許さないアル!」

 

「黙れ!」

 

「っ!?」

 

「許さない? 許さないというのは此方の科白だ……貴様は最早、決して生きて此処から逃がしはしない。金色の御許へ還るが良い」

 

 ユートは試作品として渡された黒い機器、ラウズアブゾーバーを左腕に装着。

 

 【ハーミット】のカードをインサートリーダーへと装填する。

 

《ABSORB!》

 

 現在はスートが無い為、音声はこれだけだ。

 

《FUSION!》

 

 そして次に【プリンセス】のカードをリード。

 

 ユートのジャックフォームとも云うべき姿、それは紫を基調とした鎧を纏い、巨大な剣を手にしたもの。

 

 神威霊装・十番(アドナイ・メレク)鏖殺公(サンダルフォン)

 

 霊装は勿論、スカートではないし胸部も男用に調整をしてある。

 

 そして、本来はキングフォームで使う予定だったからか、鏖殺公は重醒剣キングラウザーと同じ仕様。

 

「征くぞ!」

 

 ユートは重醒剣鏖殺公(サンダルフォン)を構えて駆け出した。

 

 ミリオが猛大人の部下を相手にしている間、ユートが猛大人本人を叩くという作戦を決行。

 

 鏖殺公を揮うユートは、猛大人へと斬り付けた。

 

 ガキィッ!

 

「な、にぃ!?」

 

 仮面ライダーブレイブ・弁天モードとしての力で、鏖殺公を揮い手加減無しで斬った筈なのに斬れない。

 

 明らかに素っ裸な猛大人は無防備に切っ先を受け、傷一つ付いていなかった。

 

「(チィッ! 鏖殺公が汚れるが、一番柔らかそうなあの反り返ったブツを斬り落としてやるか?)」

 

 クライアを犯そうとして反り返った猛大人のモノ、未だにそれは萎える気配もなく見苦しいまでに晒された続けている。

 

 正直、見たくない。

 

 とはいえ、男としてアレを斬り落とす算段をするのは如何なものか?

 

 ユートは従来のスペードスートのラウズカードを出すと、鏖殺公に後付けにて装着されたカードリーダーに読み込ませる。

 

《SPADE 10》

 

《SPADE J》

 

《SPADE Q》

 

《SPADE K》

 

《SPADE A》

 

 ギルドラウズカードではなく、通常の物であるが故に威力は低いのだが……

 

《LOYAL STRAIGHT FLASH!》

 

 それでも本来の八〇%の破壊力を持つ。

 

 各々のカードを模した膜が顕れ、それを通過する事によってパワーをチャージしていく。

 

「ウェェェェェイ!」

 

 猛大人を一刀両断にする為に、上段の構えから唐竹割りに振り降ろした。

 

 バキッ!

 

 だが、それすら猛大人には通用していない。

 

「ば、莫迦な!?」

 

 ダメージは通った様で、出血を強いる事は出来たのだが、致命傷には程遠い。

 

 威力が落ちているとはいっても、八〇%もあったら普通は人間など真っ二つを通り越して消滅する。

 

 それが、全くとは言わないまでも碌に効かない。

 

「ホッホ! 貴様の実力はこの程度アルか?」

 

 ブン! 猛大人が拳を握り締めて力の有らん限りで振り抜くと、ユートの腹部へと叩き込んできた。

 

 俗に云う腹パンである。

 

「ぐふっ!」

 

 アドナイ・メレクの上からでもそれなりに効いて、ユートは肺の中の空気を吐き出す勢いで吹き飛ぶ。

 

 壁にぶつかって破壊し、床に倒れ伏す。

 

 いつもみたく小宇宙を使えればどうと云う事もない敵なのに、現状でユートは小宇宙をこの場で使う訳にはいかなかった。

 

「(こうなると……斬撃か物理そのものか、いずれかの無効化乃至は耐性を持っている可能性が高いか……というか、この世界って確かRPGじゃなかったか? こんな序盤から斬撃やら物理を無効化とか、どんなクソゲーだよ!?)」

 

 敵が無敵過ぎる。

 

 況してや、まともに受ければカテゴリーKや14でさえも斃せる『ロイヤル・ストレートフラッシュ』を受け、ダメージが入らないというのは有り得ない。

 

 何しろ『ロイヤル・ストレートフラッシュ』のAPは一一二〇〇であり、これを威力換算で一一二トン。

 

 ギルドラウズカードではい為に、実際にでた威力は八〇%だから約九〇トン、細かく云うと八九.六トンになる。

 

 まあ、ブレイドの場合はだが……

 

 そも、人間なら一トン=千キログラムでも押し潰されるレベルだ。

 

 その実に百倍以上と考えれば、それがどんな威力なのか類推は出来よう。

 

 十分の一の百キログラムでさえ、持ち上げるのにはヒーヒー言うのだから。

 

 ユートは鏖殺公を揮い、猛大人は拳を揮い、どちらも攻め切れない。

 

 流石にカードを使う暇も中々与えてくれないのだ。

 

 戦っている内、パンチやキックも混ぜて攻撃をしているのだが、どれも効いている様には見えなかった。

 

 既にラウズカードは全てを十三枚ずつ、ブレイド系仮面ライダーで分けてしまっており、他のカードで試す事も叶わないが……

 

「(さて、どうするか? 氷結傀儡(ザドキエル)を使うには此処は狭すぎるし……)」

 

 あれは使い難い。

 

「(となると、物理以外ならアレか……な?)」

 

「考え事とは余裕アルね! 死ぬヨロシ!」

 

 何やら必殺技でも使う気なのか力を溜め始めた。

 

「今だ!」

 

 ユートはカードを出し、それをラウズアブゾーバのリーダーへ読み込む。

 

《FUSION》

 

 それは本来、フュージョンのカードとして使う予定だったモノ。

 

 但し、元々があの世界で使っていた【プリンセス】の神威霊装と違い、全くの未調整での運用となる。

 

 ボッ! ユートの全身を煌々とした紅蓮の炎が包み込み、その姿をアドナイ・メレクから変えていく。

 

 神威霊装・五番……

 

「エロヒム・ギボール!」

 

 それは肩や二の腕の半分が丸見えで、胸元も大きく開いた白い着物っぽくて、太股から着物の裾が左右に開き、此方も丸見えだ。

 

 ハッキリと言ってしまうと激しく似合わない処か、犯罪的なまでに変態チックな女装姿である。

 

 アドナイ・メレクは調整を施してあり、男が纏っても違和感など無かったが、エロヒム・ギボールは調整をしておらず、イフリートが使っていたその侭だ。

 

 ミリオは戦闘中だというのに、ユートの霊装姿を見て呆然となっている。

 

 それは猛大人の部下達も同様だったが……

 

 ユートも正直に言うと、滅茶苦茶恥ずかしい。

 

「焦がせ、灼爛殲鬼(カマエル)!」

 

 羞恥に耐えながら叫ぶと両刃の斧が顕現する。

 

(メギド)!」

 

 変形して腕と一体化した灼爛殲鬼(カマエル)を構えると、猛大人へと向ける。

 

「させないアル!」

 

 流石に焦る猛大人、技を放とうとするなもう遅い。

 

最終砲火(ファイナル・ファイヤ)!」

 

 某・ゴッドで雷神な王の如く叫び、最小限に威力を抑えて撃ち放つ。

 

「ビギャァァァァァァァァァァァァァアアッ!」

 

 火線は猛大人を呑み込んで焼滅させた上で、盗賊砦の壁を崩壊させると後ろの迷宮の部分まで焼き尽くしてしまった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 【コロシアム】で今日、第二回戦が始まる。

 

 

〔龍のコーナー、ユート・オガタァァァアッ!〕

 

 司会兼審判が、盛り上げながらこの戦いに赴く戦士の名を呼ぶ。

 

〔虎のコーナー、ミリオ・パタネッタ!〕

 

 ユートとは逆方向から、赤毛の少年が現れた。

 

 猛大人を焼滅させた後、ラグナード迷宮から出てからミリオと別れたユート。

 

 互いに二回戦で正々堂々と戦う約束をして……

 

 クライアとはっちゃんの二人は、宿屋の方に来て貰う事にした。

 

 猛大人は殺したのだが、残党が再び盗賊団を結成でもしたら危険だし、あわや犯されていたかも知れないクライアを落ち着かせたい処でもあったからだ。

 

 尚、後日に酒場のさやかから聞いた話であったが、ラグナード迷宮から巨大な火柱が上がったらしい。

 

 火柱というのは間違いなくユートが放った一撃で、どうやら迷宮の壁や天井を完全にぶち抜いてしまったみたいだ。

 

 現在、クライア達は聖具のフェイスチェンジを使って一部を変化、クライアは額の宝石を隠して耳を丸く見せ、はっちゃんも人間に近い姿となっている。

 

 向かい合う二人の闘士、それは闘士の中の闘士たる闘神を目指し、闘神大会を闘う謂わば敵にして同士。

 

〔始めぇぇっ!〕

 

「変身!」

 

 その掛け声と共にユートがターンアップハンドルを引くと……

 

《TURN UP!》

 

 電子音声と共にオリハルコンエレメントが顕現し、それを迷う事も無く潜り抜けて、スワティが着る儀礼的な装束に近い戦装束を纏ってバイザーを着けた姿──弁天モードに変身した。

 

 ラウザーホルスターからブレイラウザーを抜いて、甲高い金属同士がぶつかる音を響かせて、ミリオの持つ大剣と刃を合わせる。

 

 猛大人の非常識な頑強さを目の当たりにしたユートはすぐ、レベル神アガサ・カグヤを喚び出して確認をとってみると、この世界の人間は確かにそんな不可思議スキルを持つ者も多い、だけど猛大人のそれは常軌を逸していると云う。

 

 猛大人には対物理防御が高いというスキルが在ったには在ったが、幾ら何でも強化された仮面ライダーの斬撃をあそこまで防げる程ではなく、何かしらの強化が施されていた様だ。

 

 飽く迄も、元から持っていたスキルの強化であったが故に、その事に気が付くのが遅れたのだとか。

 

 つまり、創造神か或いは這い寄る混沌辺りが強化をしていた可能性が高い。

 

 とはいえ、創造神が能動的に動いたというのも考え難いし、意を受けた這い寄る混沌の仕業……と思った方が良かろう。

 

 ガキィッ!

 

 鈍い音を鳴らせながら、二人はバックステップにて下がった。

 

「流石にやりますね!」

 

「ミリオもな!」

 

 幼く見えても〝勇者〟というカテゴリーであるが故にか、並の人間では百人が一斉に掛かっても相手にならない強さだ。

 

 というか、これでも単純なパンチ力ならトンの威力を持ち、そんな腕力で剣を振り回しているユートに、生身で対抗しているミリオは確かに勇者と呼ぶに相応しい能力を有していた。

 

 ユートは手にした【ハーミット】のカードを……

 

《ABSORB!》

 

 先日、試合前という事で正式に装備したラウズアブソーバにインサート。

 

 更には【プリンセス】のカードをスラッシュする。

 

《FUSION!》

 

 ユートは紫を基調とした鎧に、フワフワした物質とは思えないインナーを纏った姿となった。

 

神威霊装・五番(アドナイ・メレク)!」

 

 そして手には巨大な剣。

 

鏖殺公(サンダルフォン)!」

 

 鞘にして玉座と一緒に出すのではなく、剣のみ召喚をして闘う。

 

 再び互いに駆け出して、剣檄を合わせた。

 

「くっ、パワーが上がっているのか!?」

 

 驚愕しながらも退く様子のないミリオ。

 

 鍔迫り合いで動きが止まったのを切っ掛けにして、ユートは本来のラウズカードを取り出して、鏖殺公に付けたオートスキャナーに読み込ませる。

 

《SPADE 10》

 

《SPADE J》

 

《SPADE Q》

 

《SPADE K》

 

《SPADE A》

 

 読み込ませたカードを模した幕が顕れ……

 

「うわっ!?」

 

 ミリオを吹き飛ばす。

 

《ROYAL STRAIGHT FLASH!》

 

「ウェェェェェェイッ!」

 

 斬っっ!

 

「がはっ!」

 

 【ロイヤル・ストレートフラッシュ】がミリオへと完全に極った。

 

 壁にまで吹き飛ばされ、倒れるミリオ。

 

 フラフラと立ち上がって来るが、どう見ても死に体なのは誰の目にも明らか。

 

 だが然し、ミリオが表情を顰めた瞬間に光を放ち、傷が一瞬で癒えていく。

 

「これは! あれが【聖なる奥歯】とやらか」

 

 どんなダメージも一瞬で治す、何処の【フェニックスの涙】や【エクスポーション】と謂わんばかりだ。

 

「うおぉぉぉぉっ!」

 

 再び襲撃してくるミリオに対し、ユートも鏖殺公で迎撃を行う。

 

「これは、首を一撃で叩き落とさないと駄目か?」

 

「随分と凶悪な事を言ってくれますね!」

 

「事実だろうが!」

 

 言いながらミリオの振り下ろしてきた剣を、回転しながら併せて弾き上げる。

 

「っな!?」

 

 反動で自分も上段に構える形になるが、それをすぐに振り下ろす。

 

 斬!

 

「ぐわっ!」

 

 鎧の上からだが衝撃は受けたのか、ミリオが踏鞴を踏んで一歩二歩と下がる。

 

「緒方逸真流……【木霊落とし】っっ!」

 

 驚く程の技ではない。

 

 基本的なカウンター技に過ぎないのだから。

 

 だが、それを見て思わず立ち上がった人間が、客席に居た事をユートはまだ知らない。

 

 

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第9話:狼摩白夜

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 私の名前は狼摩白夜。

 

 といってもこれは前世の名前であり、今生では別の名前な訳だけど……

 

 そう、前世や今生という言葉から判るかもしれないけれど私は所謂、転生者……という存在だ。

 

 一度は現世で死んだ私だったけど、腰まである長い銀髪にアホ毛が伸びた少女──神と名乗ったが邪神の類い──によりこの世界へ転生をした。

 

 狼摩家というのは戦国の世から続く士族の一族で、宗家である緒方家の分家筋に当たる一家。

 

 当然ながら私も家に伝わる【緒方逸真流】を習い、そこそこの腕前である。

 

 とはいえ、バカ兄にも敵わない程度ではあるが……

 

 況んや、バカ兄に勝てる宗家の優斗様や稀代の天才少女の白亜様には到底及ばなかった。

 

 因みに、緒方の家系では基本的に長男に優、長女に白の文字を付ける。

 

 双子だった場合はどちらにも付けるのが慣習。

 

 これは初代様夫妻の名前がそうだったかららしく、何と無く? 現代まで分家でも続いていた。

 

 私の死因は老衰でも病死でもなく自殺によるもの、それもバカ兄の道連れ的な無理心中というやつだ。

 

 バカ兄は私を無理矢理に連れ出し、崖から海に飛び込んで……溺死した。

 

 普段から最低最悪な人間だとは思っていたけれど、妹を道連れに無理矢理とかするなんて、とことんまで見下げ果てた兄だよ!

 

 分家で最強と自惚れて、自分こそ白亜様の夫に相応しいと増長していた。

 

 まあ、私は……というか私達はバカ兄が選ばれるとは思わなかったけどね。

 

 だって私達、分家筋の同世代の女の子は皆が知っていたから、白亜様が道ならぬ恋に胸を焦がし、苦しんでいたという事を……

 

 実の兄である優斗様へと恋い焦がれていた事実を。

 

 だから白亜様は常から言っていた。

 

『私は結婚なんてしない。子供も作らない。兄さんが結婚……して、出来た子供が私の次に家を継げば良いのだから』

 

 それは優斗様と結ばれない運命なら、一生涯誰とも添い遂げずにいる決意の表れだろう。

 

 だけど状況が一変した。

 

 優斗様が亡くなられてしまったのだ。

 

 白亜様や蓉子様の悲しみ様は、見ていて辛いものがあった……だというのに、バカ兄は笑っていた。

 

 これでチャンスが巡ってきたのだと、御通夜の時にニヤついていたのである。

 

 当然ながら周囲もそういう形で動く。

 

 人格的には破綻者でも、あのバカ兄が──狼摩優世がこれで緒方家の男の中で最強となったのだから。

 

 白亜様には及ばずとも、優斗様が男の中で最強だったからこそ、白亜様の考えが認められていた。

 

 でも、その優斗様が亡くなってはどうにもならず、意気揚々とバカ兄が白亜様の恋人となる。

 

 尤も、性交は疎かキス処か手すら繋いで貰えない、憐れな道化だったけど。

 

 優介様からきちんと説得をして、受け容れられない限りは暫定的な措置だと言われていたし、無理矢理に迫ればその時点で終わりだとされてもいた。

 

 だから素気無い白亜様にやきもきしていたバカ兄、良い気味だと思う。

 

 そして優斗様が亡くなられて数年、又も事態が一変する事件が起きた。

 

 白亜様が行方不明となってしまわれたのだ。

 

 警察は勿論、一族が総出で捜したけど全く見付からないし、手掛かりの一つすら落ちてはいない。

 

 そもそも、白亜様が居なくなったのは夜中から未明だと判っているが、其処から全く足取りが掴めなかったのだ。

 

 荷物……お金や通帳などの貴重品すら無くなってはおらず、靴すら玄関に置きっ放しになっていたとか。

 

 誘拐……

 

 或いは優斗様が亡くなら

れて世を儚んだ自殺。

 

 色々と考えられるのだが問題は其処ではなく、蓉子様の精神状態だろう。

 

 唯でさえ双子の兄に当たる優雅様を誕生前に亡くされて、今度は弟の優斗様を事故で亡くされたのだ。

 

 お墓の前で取り乱す姿を見たのも一度や二度ではなかったし、優斗様の遺体へと縋り付いて号泣していたのも知っている。

 

 それを見ながら笑っていたバカ兄は、やっぱり最低最悪な人間だろう。

 

 そしてトドメとばかりに白亜様が行方知れず。

 

 蓉子様は見ていられないくらい憔悴していた。

 

 処がその一年後、突如として白亜様が帰ってくる。

 

 皆が喜んだが、白亜様を見て皆が驚愕をしたのだ。

 

 大きなお腹……肥っていた訳ではなくて、白亜様は懐妊されていた。

 

 しかも嬉しそうに。

 

 その姿を見た分家の同世代の女の子達は、薄ら寒さを感じてしまった。

 

 当然だろう、優斗様を道ならぬ恋で愛しておられた白亜様が、優斗様以外の男と子を成して笑顔なのだ。

 

 誰の子なのか!?

 

 誰もが詰め寄ってたが、白亜様は信じられない事を平然と言う。

 

『兄さんの子供よ♪』

 

 背筋に氷水でも入れられたかの如くゾクッとした。

 

 白亜様はきっと壊れてしまっている。

 

 やはり何者かに連れ去られていて、徹底的に嬲りものにされ続け、そして妊娠してしまったのだ。

 

 帰って来たのも壊れて、妊娠したから棄てられたのだと考えれば、胸糞悪くなるけど辻褄も合う。

 

 白亜様は優斗様に抱かれて子を成した……そう思い込む事で心を保っているのかも知れない。

 

 愛おしそうにお腹を擦る姿は、保っているというよりも壊れ切っているとしか思えなかったけど……

 

 そう考えてしまうとドス黒い憎悪で一杯になる。

 

 子供に罪は無いし、白亜様の血を継ぐのだろうが、半分は強姦魔──既に決め付けている──の血が流れているのだ。

 

『兄さんったら毎晩毎晩、凄く激しいのよ。一晩中だもんね』

 

 毎晩とか一晩中だとか、一人の男がヤれるとも思えないから、数人〜十数人に代わる代わる輪姦(まわ)されたのかも知れない。

 

 うっとりとした白亜様と私達の温度差は激しい。

 

『今はちょっと用事で遅れてるけど、すぐに兄さんも帰って来るから』

 

『は?』

 

 どうやら強姦魔が此処に来るらしいが、良い度胸をしていると思う。

 

 緒方家に喧嘩を売って、生きて戻れると思ったら大間違いだよ!

 

 息巻く私達。

 

 数時間……白亜様は妊娠をしているし、子供は兎も角としても母体に悪影響を及ぼすのは拙いだろうと、蓉子様が色々と世話を焼いている中、フーデットマントを被っている誰かが歩いてきた。

 

 頭に血が上る。

 

 アイツが、あいつが、彼奴が白亜様を汚した男!

 

 そう思うと矢も盾も堪らず佩刀を抜き放とうと動く前に、バカ兄や分家の男共が動いて刀を揮った。

 

 バカ兄からすれば自分のモノを、横から掻っ浚った奴に報復の心算だろう。

 

 流石に終わったなと動きを止める私達だったけど、次の瞬間には驚愕すると共に目を見開いた。

 

 相手が刀を一振りしただけで、バカ兄達を往なしてしまったのである。

 

 バカ兄達はバカではあっても実力だけは確か。

 

 宗家には全く及ばないにしても、そこら辺の剣士に敗ける程に弱くはない。

 

 しかも、相手が使ったのは間違いなく緒方逸真流抜刀術──【切月渦】だ。

 

 切り裂く刃は月の如く、その動きは渦を巻くかの様な抜刀術。

 

 多対一で最も高い効果を持つ技である。

 

 脚の運びや腕の振り一つ取っても完璧で、その威力は数人の真剣持ちを峰打ちで弾き飛ばした事から推して知るべしだろう。

 

 余りに見事な技、私達はその動きに見惚れていた。

 

 結論だけ言うと彼は間違いなく本物の優斗様。

 

 よもや、死して後に転生をしていたとは……

 

 肉体的には兎も角、魂や精神的に優斗様本人だと、証明された。

 

 白亜様のお腹中の子も、転生をした優斗様との間に出来たらしい。

 

 精神的に兎も角として、肉体的には赤の他人であるが故に、御二人は……

 

 白亜様が羨ましい。

 

 私は……否、私達というべきだろうが……緒方家の分家筋で同世代の女の子は優斗様が好きだ。

 

 度合いは違うだろうが、若しも赦されるなら結ばれたいと思うくらいに。

 

 宗家だからだとかそんな理由じゃない。

 

 他の娘は知らないけど、少なくとも私の想いは白亜様に勝るとも劣らないと、自信を持って言える。

 

 昔、ちょっとあってから想いを寄せる様になったんだけど、それが少しずつ大きく強くなっていった。

 

 戦国の世や江戸時代程に身分が厳格ではない現代、その気になれば分家の長女でしかない私にも、宗家の長男たる優斗様に嫁ぐチャンスも狙える筈。

 

 しかも、宗家は白亜様が継ぐ事になっているから、余計にチャンスは増えた。

 

 だけどその白亜様こそが最大の壁で、常々仰有られていた──『兄さんと一緒になりたいなら、兄さんの気を惹きなさい。だけど、告白する事は赦さない』──なんて。

 

 想いは伝えずに気を惹けという、それは優斗様に気に入られて自らが欲しいと思わせ、優斗様自身が告白する様にしろと云う事。

 

 私達が告白をする事で、なあなあで頷いて付き合い始めたり、或いはそれに縛

られて好きだと思う様になったりするのでは駄目と、白亜様が曰くつまりはそういう事らしい。

 

 江戸時代とかなら所謂、大奥(ハーレム)なんてのを築き上げる事も出来たが、現代社会では勿論NG。

 

 重婚は犯罪だし、愛人を持つのも一苦労となる。

 

 故に選ばれるのは一人、私達は全員が優斗様と白亜様の通う学校に行き、出来る限り近くに居る様にしたものだった。

 

 それは兎も角……

 

 話に聞く限り、優斗様が転生をした先はライトノベル【ゼロの使い魔】の世界観だと云う。

 

 私達は、白亜様も含めてこの手のサブカルチャーにはそこそこ詳しい。

 

 優斗様がサブカルチャーを好きだからだ。

 

 やはり基本は話を合わせる事だろうし、優斗様の好きなアニメやライトノベルをチェックして、視聴する事で話を合わせた。

 

 仮面ライダーも観たし、私は割とハマったものだ。

 

 結局、宗家は白亜様が産んだ優斗様との子、白奈様が継ぐ事になった。

 

 バカ兄、ザマァ。

 

 ……なんて思ったのが、そもそものフラグか……

 

 あのバカ兄は私に夜這いを仕掛けて来た。

 

 勿論、必死に抵抗をして──ナニを──二度と使えない様に叩き潰してやった訳だが、それが発覚をして勘当されたバカ兄は、私を誘拐して無理心中を図る。

 

 死んだ私とバカ兄の前に某・ライトノベルの邪神星人が現れ、優斗様みたいに違う世界へ転生をさせると言ってきた。

 

 転生特典をコスト式に、好きなモノを選ばせてくれると言うから、再びバカ兄と兄妹として転生させられるのはバカ兄の転生特典から確定したし、バカ兄に犯されない様にコスト四を使い【乙女の拒絶】を得る。

 

 私自身が心底、受け容れた異性以外が触れようとしたら、凄まじい痛みと共に性欲が萎えるというものであるらしい。

 

 もう一つは、コスト六の仮面ライダーマリカに変身が可能な【ゲネシスドライバー】と【ピーチエナジーロックシード】だ。

 

 これは仮面ライダー鎧武に登場する【戦極ドライバー】の次世代機で、出力も通常の戦極ドライバーよりは大きいし、何より女性用の仮面ライダー。

 

 転生から十数年が経過、私とバカ兄は闘神都市へと来ていた。

 

 バカ兄はラグナード迷宮で何かを企んでいるみたいだが、私も手伝わされているのに何をしたいのか全く教えようとはしない。

 

 そして今日、あのバカ兄は天使喰いEXとかの特典を使って、捕まえた天使の女の子を性的に喰っているから時間が空いた。

 

 因みに、救出は不可能。

 

 バカ兄の転生特典は厄介な事極まりないから。

 

 あのバカ兄の性交なんて見たくも聞きたくも無く、暇潰しに闘神大会でも観てみようと、久方振りに地上へと出てみた。

 

 どうやら二回戦らしく、勇者と評判の少年が今回は戦うみたいだ。

 

 対するのはバイザーを着けた多分、男性。

 

 客席に来た時には既に、戦いは始まる直前だったけど間に合った。

 

 始まる試合。

 

 バイザーを着けた方は、仮面ライダーブレイドの使うラウズアブソーバみたいな機械を使い、姿を大幅に変えて戦闘を再開する。

 

 紫の鎧は、スカート姿ではないけどまるで某・精霊みたいな姿だ。

 

 その後、信じられない事をバイザーの男は行った。

 

 私は思わず立ち上がる。

 

「嘘! あれは緒方逸真流の【木霊落とし】!?」

 

 相手の武器を下段から上へと弾き、大きな隙を作らせてから上段から袈裟懸けに斬るカウンター技。

 

 試合はバイザーの男──司会者曰く、ユート! という名前らしいが、勝利を修めた。彼が本物か否かを確かめるべく翌朝になって出てくるのを待つ。

 

 今夜はミリオ君のパートナーの娘と【御楽しみ】だろうし、そうなれば一晩は出てこないだろうから。

 

 

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第10話:私達の逢瀬を始めましょう!

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 ミリオとの闘いに勝利をして、ユートはクレリアの居る控え室へと向かう。

 

 それ程には親交もなかった彼女だったが、クレリアはクレリアなりにミリオの力になりたいと考えている程度には理解していた。

 

 本来、闘神大会出場者のパートナーは見目麗しく、年齢も一五歳以上でなければならないが、クレリアは明らかにそれより下。

 

 ミリオと同い年なのだろうから当然か。

 

 そんな彼女がパートナーとして受理された理由は、魔法によって見た目を大人に変化させていたから。

 

 ユートは敢えてその魔法を解除すると、本来の姿のクレリアを抱いた。

 

 年齢に厳しい制限を法律で定めた地球なら兎も角、ハルケギニアやこの世界はそれが存在しない。

 

 地球で──草薙静花や、万里谷ひかりにそれをしなかったのは、何をしても許されるカンピオーネであるとはいえ、そこが地球であったからだ。

 

 それに年齢はまだしも、クレリアくらいの体格をした娘を抱くのは、別に初めてという訳でもない。

 

 ユートの知ってる魔導書の精霊は基本的に小さく、人間でもユーキやタバサみたいに発育不良(ミニマム)な娘を抱く事だってある。

 

 クレリアに悲壮感が無かったのも拍車を掛けた。

 

 余程、性に対して大らかでないと好きでもない男と性交などしたいとは思わないだろう。

 

 況してや、想い人が居るのなら余計にだ。

 

 クレリアの場合はそれに関して余り深く考えていないらしく、割とアッサリめにユートに抱かれた。

 

『これで私も大人の仲間入りだよ♪』

 

 ピロートークで言い放ったクレリア、明日から一年間をこの都市で奉仕活動に殉じなければならない。

 

 既にくじらがアイテム屋で働いているのは確認しているし、さやかも去年での出場敗者のパートナーとして働いている。

 

 それを回避する為には、百万GOLDを支払う必要があるが、ミリオに払える額ではないだろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌朝、ユートはクレリアと別れると宿屋に向かって歩いていた。

 

 だけどすぐに方向転換をして、人気が無くてそれなりに広い場所に足を運び、とある位置を見遣る。

 

「出てきたらどうだ?」

 

 ユートの声が響く。

 

「出てこないなら、攻撃を打ち込むぞ?」

 

 そう言うとユートは魔力を掌に集中させた。

 

 流石に攻撃をされるのは勘弁なのか、すぐにユートの前へと現れたのはフーデッドマントを纏う何者か。

 

「誰だ? 次の対戦相手の関係者……か? それともミリオかクレリアのファンか何かかな?」

 

 目の前の存在を襲撃者と認識をして、ユートが皮肉もたっぷりに訊ねると……

 

「……どちらも違うけど、貴方の力を、貴方の真実を見せて貰います!」

 

 そう言うと、赤い機器を取り出して腰に宛がう。

 

 声は女性っぽい。

 

「それはっ!?」

 

 銀色のベルトが伸びて、フードの女性? の腰へと装着された。

 

 そして手には青い錠前みたいな何か、前面が桃の様な形をしていて、ELS−003と刻印されている。

 

「変身っ!」

 

《PEACH ENERGY!》

 

 アンロックリリーサーを押すと錠前が開かれ、棘々しい女性の声色で電子音声が鳴り響く。

 

 ゲネシス・コアへと錠前を嵌め込んで閉じる。

 

《LOCK ON!》

 

 アラビア風の音楽と共に電子音声が鳴り響いた。

 

 ベルトの右側のシボール・コンプレッサーを押し込むと……

 

《SODA!》

 

 キャストパッドが二つに等分割され、シードインジケーターが露わとなって、下からエネルギーが充填されていく。

 

 すると上空にチャック──リファインシャックルが開いて、桃っぽい何かが頭を覆い本人はゲネティック・ライドウェアと呼ばれるド派手なピンクのスーツに身を包む。

 

《PEACH ENERGY ARMS》

 

 桃っぽい何かが展開し、それは鎧となって肩や胸部を覆って、右手には赤い色の弓の様な武器──ソニックアローが顕れた。

 

「仮面ライダーマリカ!」

 

 女性? はポーズを執りながら名前を名乗る。

 

「マリカ……日本語名……な訳無いか。アラビア語で確か女王だったか?」

 

 ユートは呟きながらも、ブレイバックルにラウズカード、カテゴリーAであるビートルアンデッドを封じたベスタを装填し、腰へと宛がった。

 

 シャッフルラップが伸びて装着されると、ターンアップハンドルを引く。

 

「変身!」

 

《TURN UP!》

 

 オリハルコン・エレメントが展開されて、ユートがそれを潜るとブレイドにも似たシルエットながらも、明らかに色や模様が別物な姿へと変わった。

 

 頭部は、シルエットだけならブレイドのキングフォームに近い。

 

「仮面ライダーブレイブ」

 

 これが、ブレイブ本来の仮面ライダーモードだ。

 

「然し、そんな仮面ライダーは見た事が無いな……」

 

「行き成り情報収集とは、慎重ですね。流石は座右の銘が『情報は力』『未知こそ敵』なだけあります」

 

「な、に……?」

 

 確かにそうだが、目の前の女性──なのだろう──はどうして知っている?

 

 答えは簡単、ユートの知り合いだからだろう。

 

 ユートはラウザーホルスターから、ブレイラウザーを抜いて構えた。

 

 仮面ライダーマリカも、右手のソニックアローを構えている。

 

「さあ、話は後。今は私達の剣舞(ソードダンス)を踊りましょう」

 

 目的は不明であったが、どうやら闘いになる事だけは確定の様だ。

 

「(転生者の一人……か)」

 

 二人はお互いに先手を取るべく、牽制の意味も込めて同時に前へ駆け出した。

 

「ソニックアロー!」

 

 ゲネシスドライバー同様に赤を基調としている弓型ツールウェポン、ソニックアローの弦に当たる部位を引いて、マリカが右手を放すと鏃の形をした部位からエネルギー弾が放たれる。

 

 幾度もそれを繰り返し、何発も放ったエネルギー弾だが、ユートは右手に持つブレイラウザーでそれらを逐次に弾き、地面に叩き付けたり空中に跳ね上げた。

 

 その隙を逃すマリカではなく、ユートの懐まで最接近するとソニックアローを剣の如く揮う。

 

「チッ!」

 

 舌打ちをしながらブレイラウザーで打ち合った。

 

 鍔迫り合いの音が眩しい人生を過ごしてきたユート故にか、マリカの猛烈苛烈な剣戟にも戸惑いは無い。

 

 水色のアークリムという刃により、まるで剣の如く使える弓はカリスアローと同じ、近・中・遠距離での闘いを可能としていた。

 

 まあ、有効射程距離的に中・近距離の方が闘えるのかも知れないが……

 

 ブレイラウザーとソニックアローが激しく、甲高い金属音を打ち鳴らし合いながらぶつかる。

 

「この剣技……」

 

 有り得ないくらいに似ている、自らの使う流派──緒方逸真流の剣技に。

 

 それにマリカは言った。

 

『私達の剣舞(ソードダンス)を踊りましょう』

 

 正確には刀舞(ソードダンス)だが、この言い回しは明らかに緒方家のもの。

 

 これは初代の──『我が刀舞を披露してしんぜよう』からきている。

 

 だけど違和感も有った。

 

 何と無くであるのだが、マリカは本来の闘い方をしていない気がする。

 

 緒方逸真流の動きとこの違和感、果たして……

 

「お前は何者だ?」

 

 剣戟の最中に訊ねる。

 

「さあ? 何者でしょう。御自身で考えられたら如何でしょうか」

 

 話す心算は無いらしい。

 

「力試しが目的なら此方に何らメリットも無いから、とっとと止めたいんだよ。この侭、消えても別に構わないんだが?」

 

「……メリットがあれば戦ってくれますか?」

 

 打ち合いを止めてマリカがユートに訊ねた。

 

「メリット?」

 

「声や仕草で解るとは思いますが、私はこれでも性別は女です。容姿も……それなりにモテましたし、悪くはないと思っています」

 

「だから?」

 

「この舞闘(たたか)いで、貴方が勝てば闘神大会敗者のパートナーと同じ扱いをして下さって構いません」

 

「ハァー?」

 

 何を言っているのか理解しているのだろうか?

 

 闘神大会敗者のパートナーと同じ扱い──ユートは昨夜から今朝に掛けて同じベッドに寝ていたクレリアを思い出し、思い切り間抜けた声で絶叫をする。

 

 尚、大人の姿になる魔法も本人の意識が無いから、解けてしまっていた。

 

 現代日本人の倫理観から云うと、クレリアの状態は如何にもヤバい。

 

 ○学生が股と股の間から白い欲望の塊を垂れ流し、あどけない表情で眠っている──の図だったから。

 

 まあ、そもそもユーキや那古人が相手だと似た状態になる訳だが……

 

 再び戦闘を開始する。

 

「くっ、スペックが高い。どうなっている?」

 

 ブレイブの出力はブレイドより実は高く、パンチ力も五トンに達していた。

 

 ジャックフォームになれば約八トン、キングフォームなら十トンとなる。

 

 ブレイドではなくブレイブなのは何もユーキからの意向ではなく、イメージ的にブレイドだとスペックを越えられなかったのだ。

 

「マリカのパンチ力は一二トン以上です。そこら辺の仮面ライダーより遥かに上ですよ!」

 

「っ!」

 

 強化形態でもないのに、ブレイドのキングフォームを倍以上も上回る出力。

 

 ブレイブの〝キングフォーム〟でもまだ足りない。

 

 とはいえ、スペックだけが全てを決するという訳でもないのだ。

 

 事実、スペック上でならマリカの半分以下でしかないブレイブで、ユートは確かに抗し得ている。

 

 ユートはラウズアブソーバーを開き、中からカードを取り出した。

 

「させません!」

 

 扇を出してマリカが投げ付けてくる。

 

「くっ!」

 

 それはユートの手に当たって、思わずカードを取り落としてしまった。

 

「これで強化変身は出来ませんね!」

 

 ソニックアローを片手に向かって来ながら言うが、次の瞬間……

 

《ABSORB QUEEN!》

 

 仮面で判らないが、目を見開いて驚愕してしまう。

 

「ど、どうして!?」

 

 足下にはユートが落とした筈のカードが確かに存在をしており、アブゾーブのカードをインサート出来る訳がなかった。

 

「これは囮で、弁天モードで使うカードだったんだ。此方が本物だよ!」

 

 言いながらラウズカードをスラッシュする。

 

《EVOLUTION KING!》

 

 使ったのは【エボリューション・コーカサス】で、劇中ではキングと名乗っていた少年、コーカサスアンデッドを封印していた。

 

 オリハルコンエレメントが顕れ、ブレイブがそれを通過すると金色をふんだんに使った色彩で、ジャックフォームより豪華絢爛な姿として変化する。

 

「仮面ライダーブレイブ・キングフォーム」

 

「え? それがキングフォームって……?」

 

 見た目がブレイドなのにブレイドのキングフォームと異なり、戸惑うマリカ。

 

「何を驚く? 元々キングフォームはカテゴリーKと融合したフォームだろ?」

 

「そ、それは……確かに。でも!?」

 

「そしてこれが」

 

 更なるカードのスラッシュを行う。そのカードには白地に禍々しいまでに赤い紋様が描かれていた。

 

《JOKER!》

 

「アルビノジョーカー?」

 

 緑の紋様でない処から、通常のジョーカーではなく劇場版に出た、志村純一に変じる白と赤を基調としたもう一人のジョーカー。

 

《OVER EVOLUTION KINGDOM》

 

 金色のカードを模しているナニかがブレイブの周りを回りながら、その姿を大きく変えていく。

 

 そう、丁度キングフォームになるブレイドの如く。

 

「これが……仮面ライダーブレイブ・キングダムフォームだ!」

 

 仮面ライダーブレイブ・キングダムフォーム。

 

 要は、仮面ライダーブレイド・キングフォームの事であり、ユートは本来想定されていた方をキングフォームと呼び、剣崎のブレイド・キングフォームの方はキングダムフォームと呼んでいるのだ。

 

 スートを束ねる王国──キングダムと。

 

 また、このブレイブ・キングダムフォームは原典のブレイド・キングフォームより遥かにスペックが上。

 

 仮面ライダーマリカとてスペックは高いが、流石にユートのキングダムフォームに比べると劣る。

 

 ガキィッ!

 

「そ、そんな……っ!?」

 

 マリカは技術力で負けており、遂には仮面ライダーのスペックでも負けた。

 

 これでマリカがユートに──仮面ライダーブレイブに勝てる要素は、限り無くゼロに等しくなってしまったといえる。

 

「はぁぁぁっ!」

 

「くはっ!」

 

 重醒剣キングラウザーの重々しい一撃は、マリカも受け止め切れずに呻く。

 

 仮面ライダーモードでは基本、弁天モードとは別個に武装を使える。

 

 共通するのはブレイラウザーだけだ。

 

 従ってキングラウザーと鏖殺公も、当然ながら別個に存在していた。

 

 正確にはキングラウザー(ブレイド)

 

 キングラウザー(ギャレン)や、キングラウザー(レンゲル)という、別のキングラウザーと区別をするべく名を付けている。

 

 そしてユートは今一つ、違和感についても考えた。

 

「(さっきの扇……何処かで見たな……)」

 

 何処だったのかまでは思い出せないが、ずっと昔に見た覚えが確かにある。

 

 あの扇こそが、違和感の正体であるのだと思った。

 

「(扇……か。確か緒方逸真流には扇術が在ったけど……あれはカウンターが主だったよね?)」

 

 元より技によって使える使えないは有れど、基本的には武器を選ばない流派。

 

 刀術、弓術、拳術、扇術など専用の技法も在る。

 

 時代が新しくなってから銃術なんてのも出来たし、錬術をユートが作ったから今尚も進化をしていた。

 

 錬術は体内エネルギーを操る技法である。

 

 扇術は鉄扇を使って攻撃やら防御を行うものだが、中には普通の扇を用いての体術混じりな技を好む者も居た。ある時には牽制として投げ、またある時は武器を受け流すカウンター型の戦い方をする場合も。

 

「やはり、知っている……気がするんだがな」

 

 ユートがキングラウザーを地面に刺し、肩や腕や脚などに散見するアンデッドクレストが妖しく光ると、更に胸部のハイグレード・シンボルも光る。

 

「っ! あれは……」

 

 マリカはゲネシスドライバーから、ピーチエナジーロックシードを解錠するとバックルから取り外す。

 

《LOCK OFF》

 

 更には、ソニックアローの窪み──エナジードライブベイに嵌め込んで施錠。

 

《LOCK ON!》

 

 弦を引く。

 

 ユートもギルドラウズカードを喚び出し、その黄金のカードをキングラウザーへとインサートする。

 

《SPADE TEN JACK QUEEN KING ACE……》

 

 スペードスートの五枚の紋様が顕れた。

 

《LOYAL STRAIGHT FLASH!》

 

「ウエェェェイッ!」

 

《PEACH ENERGY!》

 

 マリカが弦から指を放すと桃の形状のエネルギーが顕れ、極大化された光矢が放たれる。

 

 ぶつかり合う必殺技と必殺技……

 

 ドガンッ!

 

「ぐあっ!」

 

「キャァァァァッ!」

 

 互いに弾かれてしまい、反対方向へと吹き飛ばされてしまう。

 

 ピーチエナジーロックシードが外れ、マリカの変身が解除されて倒れ伏せた。

 

 ユートはすぐにも立ち上がると、ターンアップハンドルを引いて変身解除。

 

 カテゴリーAのカードをブレイバックルから引き抜いて、強制的に変身が解除されたマリカ──だった娘へと近付く。

 

「くっ、強い……ですね。私の方は耐え切れずこの様でしたのに。貴方の勝ちですよ──優斗様」

 

 パサリ……

 

 フーデッドマントのフードが落ち、露わとなるのは艶やかで美しいまでの漆黒の長髪。

 

「君は!」

 

 白粉をぬりたくっている訳でも、だが病的で不健康な訳でもない透き通るかの様な白い肌。

 

 これは緒方に列なる血筋の女に共通する特徴だ。

 

 この日本人離れをしている肌故に、白──と初代の奥方は名付けられた。

 

 そしてユートと同じで、黒曜石も斯くやの黒瞳に、日本人形みたいな美しく整った顔立ち。

 

 妹の白亜とよく似た容貌だが、明らかに白亜本人とは別人だと判る。

 

 何より、白亜がこの場に単独で居る筈も無い。

 

 白亜は活発な洋服が似合ったが、この娘なら純和服姿がよく似合いそうだ。

 

 そして、ユートにはこの娘に確かな見覚えがある。

 

「白夜……狼摩白夜!」

 

 ユートが独り立ちして、アパート暮らしを始めた頃から、白亜や分家の娘達が入り浸るという程でもなかったものの、よく訪ねて来てはご飯を作ってくれて、一緒に食べては泊まり掛けで遊んだものだった。

 

 狼摩白夜(びゃくや)や、坂城白姫(しろひめ)などの見た目には美しい少女達。

 

 当時は彼女らに変な噂が立ったら良くないと考えたものではあるが、今にして思えば何かしらの目的が有ったのでは? とも。

 

 家からの仕送りで大学に通うお気楽学生だったし、当時から有名だったMMO−RPGを皆でプレイしたりもしていた。

 

 優斗はユート、白亜だとハクア、白夜はヨル、白姫はヒメなどなど。

 

 惜しむらくは、次回作の発売前だったが故に初めてのVRMMOを遊べなかったという事か……

 

 それは兎も角、ユートはのそりと起き上がる白夜を見つめていたが、すぐに手を貸して起こしてやる。

 

「ありがとうございます、優斗様……相変わらずそつのない優しさですね」

 

 白い頬を仄かに桃色に染めて言う白夜。

 

「さて、早速ですが行きましょうか?」

 

「行く? 何処へ?」

 

「あら、先程言いました。私が敗けたら闘神大会敗者のパートナーと同じ扱いをして下さって構わないと。昨夜はあんな小さな子とも『御楽しみ』でしたのに、知らないとは言いませんですよね?」

 

「うっ!」

 

 本当の事だけに思わず呻くユートであった。

 

「さあ早速、宿屋にいきましょう」

 

「待てい!」

 

 ストップを掛けるユートに対し、プクッと頬を膨らませる白夜。

 

「何ですか、もう! 私じゃ魅力は有りませんか?」

 

「いや、充分に魅力的なんだけどな……」

 

 ユートはチラリと、フーデッドマントの上からでも判る脹らみに目を向けて、サッと明後日の方向へと目を逸らし、呟いた。

 

 白夜がフーデッドマントを脱ぐと、着物で窮屈そうに押さえ込まれた双丘から白い谷間が見える。

 

 妹の白亜は活発な娘で、夏場など家の中では白い袖無しシャツにホットパンツという、スポーツ少女ですと言わんばかりのラフな姿を晒していたが、その反対に白夜は楚々とした着物姿で日々を過ごしていた。

 

 この世界でもJAPANでは普通に着物が流通をしており、手に入れるのは決して難しくはない。

 

「魅力的ではあるんだが、さっき白夜が言った通りでクレリアを抱いたばかり。流石にその直後に別の娘を抱くのはちょっと……ね」

 

「むぅ、それは確かに……デリカシーに欠けますね」

 

 どうやら納得をしてくれたらしい。

 

 勿論、これは詭弁だ。

 

 実際、ユーキを抱いた後にラグナード迷宮で女の子モンスターとヤった事だってあり、其処まで忌避感を持ってはいない。

 

 元々が血縁関係だとか、それも関係無かった。

 

 何しろ、元とはいえ実妹だった白亜を孕ませて還したユートである。白夜とは四親等以上離れているし、其処は問題にしてない。

 

 本当に行き摺りならば、さっさとヤっただろう。

 

 既に手を出した相手なら今更だったろう。

 

 だが、白夜はそのどちらでもなかった。

 

 ユートにとって、ユーキや白亜やシエスタやアーシアなど、大切にしたいのだと思える娘達と同じに見れるだけの相手。

 

 その場限りの関係で終わらせたくない……

 

 そう思えるだけの相手、それが狼摩白夜だった。

 

 そういう相手とはきちんと仲をそれなりに深めて、順序良くゆっくりと抱きたいと考えている。

 

 白夜にとって朗報なのかも知れないが、前々世に於いて実は一番ユートが意識を向けた女の子は誰かと訊かれれば、『狼摩白夜』だと答えただろう。

 

 理由が理由なだけに喜べるかどうかは微妙だが……

 

 ユートは何処ぞの乳龍帝みたく、胸に対して大きな拘りこそ無かったものの、それでも男の子であるが故に胸に目が行く事はある。

 

 今生の白夜は前世の姿と変わらない為、当然ながら自己主張の激しい胸も同じだけ出ていた。

 

 何処ぞの雷光の巫女や、紅髪の殲滅姫程ではないにしろ、高校生の頃の白夜のバストサイズは実に九〇。

 

 日本人という枠組みから鑑みて、可成り大きい方だったのだから。

 

「それに、これっきり会えない訳でも無いだろう?」

 

「それは、会って下さるのなら……はい」

 

「それならもう少しゆっくりと関係を進めたいな」

 

「……そうですね。勝者は優斗様ですから、その御考えに従います」

 

 白夜は納得したらしく、素直に頷いた。

 

 とはいえ、良い雰囲気にでもなれば或いはすぐにも手を出したろうけど。

 

 それに御触りくらいなら普通にする。

 

「まあ、そうだね。折角だからデートでもしようか」

 

「デート……はい!」

 

 白夜は一瞬呆けた後で、満面の笑みを浮かべて頷いたものだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さあ、私達の逢瀬(デート)を始めましょう!」

 

「ブフッ!」

 

「? 行き成り噴き出してどうかしましたか?」

 

「いや、何でもない……」

 

 こないだの【エロヒム・ギボール】の精神ダメージが抜けやらぬというのに、白夜が口に出した科白は正にその原典──デート・ア・ライブに於ける五河琴里がよく言うもの。

 

 それは『さあ、私達の戦争(デート)を始めましょう』的な……

 

 それは兎も角、ユートは腕に組み付く白夜を伴い、闘神都市を歩いていた。

 

 着物だから判り難いが、ユートの腕が埋没してしまいそうな柔らかい双丘に、やはり目が行ってしまう。

 

「ふふ♪」

 

「どうした?」

 

「嬉しいんですよ」

 

「嬉しい……ねぇ?」

 

「はい、こうしてまた優斗様と歩けるのが」

 

「そっか……」

 

「はい!」

 

 どうやら喜んでいるみたいだし、ユートは訊きたかった事をグッと抑える。

 

 不粋に過ぎるからだ。

 

 死んだ理由や転生について訊ねるなど。

 

 緒方家は宗家と分家で、長男長女は基本的な顔の作りが似通う傾向にある。

 

 双子じゃああるまいし、見分けがつかない程ではないだろうが、ある程度には似たり寄ったりな容姿だ。

 

 男は割と凡庸な顔立ち、女は黄色人種とは思えないくらい肌が雪の如く白く、艶やかな黒髪にオニキス──黒曜石の様な瞳を持ち、確りと整った顔立ち。

 

 日本人形の様な整い方をしながら、決して人形では得られない生きた熱も同時に持つが故に、緒方家の女は基本的にモテた。

 

 それこそ、著名の士が挙って欲しがる程に。

 

 白夜とてそれは理解している事だ。

 

「優斗様、優斗様は私達の中で誰が一番御気に入りでしたか?」

 

「私達の中でっていうのは……分家でよくウチに遊びに来ていた中で?」

 

「はい」

 

「ヨル、ユキ、シロ、オト……結構数が居るな」

 

 白夜に白雪に白百に白音の事である。

 

 他にも何人か居るし……

 

「まあ、敢えて一人を選べば白夜だよ」

 

「……え?」

 

 ドクン! 白夜の巨乳な胸が期待感に高まる。

 

「ほら、胸が一番大きかったからね」

 

 ずっこけそうになる白夜だが、ユートに身体を預けているから動けない。

 

 そういえば、ユートからの視線をチラチラと感じていたが、やっぱり胸を視ていたという感覚は間違いではなかったと嘆息した。

 

「優斗様も男の子ですね」

 

「そりゃ……ね?」

 

 普通ならば嫌がりそうなものだが、好きな相手から視られていたのは嬉しいという事か、白夜はギュッと緒方優斗が視ていたおっぱいを更に強く押し付ける。

 

 一頻りデートを楽しんだ二人は、酒場で食事をしながら話をしていた。

 

 それは当然、デート中には訊けなかった事を白夜に訊く為と、今後についての話し合いをする為である。

 

「それじゃあ、御話ししますね? どうして私がこの世界に居るのか」

 

 ユートが頷いたのを見た白夜は暫し瞑目をすると、淡々と前世での出来事を詳しく話し始めた。

 

 

 

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緒方宗家と分家の娘達。

緒方白亜──緒方家長女。優斗が二十歳時、一五歳。ハクア。

狼摩白夜──狼摩家長女。優斗が二十歳時、一九歳。享年二七歳。ヨル。

風麻白雪──風麻家長女。優斗が二十歳時、一九歳。ユキ。

鴻上白百──鴻上家長女。優斗が二十歳時、一八歳。シロ。

坂城白姫──坂城家長女。優斗が二十歳時、一七歳。ヒメ。

秋雨白音──秋雨家長女。優斗が二十歳時、一八歳。オト。

 片仮名はMMO−RPGでのプレイヤーネーム。





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第11話:目覚めろ、その魂! Let the game begin

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 ユートは白夜から一通りの話を聞いた。

 

「莫迦だ莫迦だとは思っていたけど、極め付けの莫迦だったんだな優世は」

 

 頭を抱えたくなる。

 

「それで? 天使喰いEXって何だ?」

 

 狼摩優世が転生特典に選んだ一つ、【天使喰いEX】について訊ねると、溜息を吐くと共に白夜が重々しく口を開いた。

 

「私もよくは知りません。元からこの世界には【天使喰い】という概念があるみたいですが、文字通り天使を喰らう能力。ああ、食欲ではなく性欲的にですね」

 

 優世がヒトの形をしている天使に歯を食い込ませて肉を引き千切り、グッチャグッチャと咀嚼するグロい映像を思い浮かべ、表情を引き攣らせているのを見た白夜が注釈を入れる。

 

「その、アレです。バカ兄が射精()した瞬間に天使からエネルギーを逆に吸収をして、バカ兄自身の力に変換をします。とはいえ、本来は相手がその……」

 

 白い肌の頬を桃色に染めながら、躊躇いがちに言い淀んでしまう。

 

「どうした? つっても、察しは付くけどね。要するに天使をイカせた方がより効率的に力を吸収出来るんだな?」

 

「は、はい……」

 

 卑猥な言葉を言うのは、やはり恥ずかしい。

 

「でも、バカ兄は……早いので……」

 

「……」

 

 居た堪れない空気になってしまう。

 

 どうやら狼摩優世は早漏であるらしく、天使がイく前に自分がイッて射精()してしまうらしい。

 

 その所為で効率的な吸収が不可能であり、完全吸収には何度かに分けてヤらなければならなかった。

 

 天使喰いに成った時点で持久力や精力が付く筈が、正規の手段じゃなかったが故にか、そこら辺は前世の侭だった様である。

 

 流石に白夜も窺い知れないのだが、残念仕様な優世は短小、早漏、包茎(真性)の三重苦だった。

 

 因みに、ユートは普通だったのかも知れないけど、残念ながら童貞であったが故に、使う機会は全く無かった上に自慰すらした事が無かった為、自分自身の事すら知らない。

 

 優世の場合、女性との付き合いはあったらしいが、三重苦の所為で満足をさせた事は無かった。

 

 

 閑話休題……

 

 

「今、白夜はどう暮らしているんだ?」

 

 余りに切ない内容を払拭するべく、ユートは話題を転換する。

 

「バカ兄とラグナード迷宮の可成り奥の方で暮らしてます。バカ兄が何を企んでるのかは知りませんけど、碌な計画ではないですね」

 

「……どうして今も優世に付いて回る?」

 

「この世界、女が一人では生き難いので。まあ、壁代わりですね。バカ兄も一人では生きられませんから。一人で死ぬのが怖くて私を道連れにしたし、一人では闘神都市に来るのも憚るから私を連れ回す。だから、私もバカ兄を利用させて貰っています」

 

「成程……ね」

 

 どうやら、一人で生きる術を持たぬが故のもので、若しもそれが可能であるのならば、すぐにでも離れているであろう。

 

「白夜はこれからも優世の所で?」

 

「本当なら優斗様の許へとすぐにも馳せ参じたいのですが、私はバカ兄の所に戻って何を企んでるのかを調べてみますね」

 

「……そうか。大会が終わったらまた会おうか」

 

「はい、勿論です!」

 

 ユートの言葉に白夜は、朗らかな向日葵の如く笑顔を浮かべて答えた。

 

「そうだ、あの仮面ライダーマリカ……だったか? あれについて詳しく知りたいんだけど?」

 

「はい、構いません」

 

 頷いて話し始める。

 

「仮面ライダーマリカというのは、二〇一三年の秋から放映が始まった【仮面ライダー鎧武】に登場をするライダーの一人です」

 

「仮面ライダー鎧武……」

 

「ロックシードという果実が変化した南京錠、それを【戦極ドライバー】にセットして変身します。マリカは新世代で【ゲネシスドライバー】と【エナジーロックシード】を使う出力が上がった女性ライダーです」

 

「ふむ、ロックシードね。研究したいな」

 

「優斗様が欲しいなら差し上げても構いませんけど、私の使う力が無くなるのは流石に困りますね……」

 

「……代わりの物を渡せばくれるんだ?」

 

「はい♪ 優斗様の為ならあんな物で宜しければ」

 

 アッサリと言う白夜は、実際にユートの為になるのなら、幾らでも全てを擲ってしまうだろう。

 

 それこそ、エセルドレーダ並の忠誠心を魅せて。

 

「白夜は主役仮面ライダーではどれが好き?」

 

「私ですか? そうですね……仮面ライダーアギトでしょうか」

 

「アギト?」

 

「はい。シャイニングフォームとか最高ですね」

 

 存外とドップリハマっていたらしい白夜は、ニコリと笑い答えたものだった。

 

「判った」

 

 ユートはステータス・ウインドウを開き、アイテムストレージから【オルタリング】をタップする。

 

 すると、実際に【オルタリング】が実体化……

 

「これは……オルタリングですか?」

 

 白夜は渡された【オルタリング】を持ち、マジマジとそれを見つめる。

 

「実は主役の仮面ライダーのベルトは揃っていてね。それもその一つだよ」

 

「これ、優斗様が造ったんですか?」

 

「まあね。オルタリングやアークルは僕の領分だし」

 

 ユートの専門はマジックアイテムや術式で、ユーキの専門は機械やプログラム関係だ。

 

 一応、お互いにお互いの領分に足を突っ込めるが、やはり専門が違うとどうしても劣ってしまう。

 

 そういう意味でもユーキはユートの比翼の鳥だし、ユートはユーキの連理の枝であった。

 

「それは当然ながら本物って訳じゃない。それっぽく造った謂わば偽物。そいつに僕の持つ神器──【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】の禁手である【|至高と究極の聖魔獣《アナイアレイション・メーカー・ハイエンド・シフト》】で創造した聖魔獣……アギトを封じてある」

 

「え? 神器(セイクリッド・ギア)!?」

 

「そう。そのベルトを着けて『変身』すれば聖魔獣を着込む形で変身が可能だ。僕のブレイブもね」

 

 オルタリングを装着すれば後は、オンオフも自由に自分の意志一つで顕現する事が出来る。

 

 そういうマジックアイテムなのだから。

 

 白夜はちょっと目をキラキラさせていた。

 

「着けてみたら?」

 

「はい!」

 

 早速、白夜は言われるが侭に装着をしてみる。

 

 赤いベルト部、バックルは金色を基調としていた。

 

「中々に似合うかもね」

 

「そうでしょうか?」

 

 仄かに頬を染める白夜、何というか女の子としては喜ぶポイントを間違っている気がするが、嬉しそうなので良しとする。

 

「そういえば、気になっていたんですが……」

 

「? 何が?」

 

「アギトって、クウガとはどんな関係なんでしょう」

 

 行き成り何を言い出すかと思えば、今更ながら疑問を解消したいらしい。

 

「まあ、当時は五歳か其処らだった筈だしな。その頃から興味を持っていたならまだしも、放映終了後から興味を持ったなら判らない事もあるか……」

 

 白夜が仮面ライダーに対し興味を懐いたのは、当然ながらユートを好きになってからの事。

 

 そしてそれは十歳以降の事であり、最初に観たのは仮面ライダー電王だった。

 

 ユートは小さな頃から観ており、仮面ライダークウガも仮面ライダーアギトも見知っている。

 

「クウガとアギト……当初は同じ世界観の心算で設定したらしいけど、クウガは西暦二〇〇〇年でアギトが西暦二〇〇一年の噺。けどアギトの世界で未確認生命体第四号が活動していたのがアギトから二年前。つまりは一九九九年。年代的にズレがあるんだよ。早い話が窮めて似たパラレル世界って事らしいね。意図的にずらしたって話だけど……ディケイドは知ってる?」

 

「勿論です」

 

「ディケイドでのクウガの世界が、アギト本編に繋がっていたり……とかね」

 

「どうしてですか?」

 

「いや、未確認四号は未確認生命体が消えてから行方不明らしいし、雑魚クウガ……じゃなくて小野寺ユウスケはディケイドと旅に出て行方不明じゃないか」

 

「ああ、そういえば……」

 

 ン・ガミオ・ゼダ戦後、グロンギは消えている。

 

 そして、小野寺ユウスケは次元の彼方へ旅に出た。

 

 その二年後、津上翔一がアギトとしてアンノウンと戦ったのだとしたならば、割とすんなり落ち着く。

 

 小野寺クウガは正体を知っていたのが『姐さん』だけだったし、クウガではなく未確認生命体第四号の侭で呼ばれていても、それ程おかしくはないだろう。

 

「まあ、色々と矛盾とかはあるけど……ディケイドは今更だろう。例えば、設定では剣崎や渡は本編数年後だって話だったけど、電王はオリジナルから出ている様に見せて、剣崎達の仲間に居た電王は何? って話になるからね」

 

 デンライナーの面々との友誼は何だったのかと言わんばかりに、仮面ライダー電王ソードフォームが襲い掛かっていた。

 

 クウガが小野寺クウガをアルティメット・クウガにしたものなのは、五代雄介が戦いを止めて旅の空へと出ていたからだろう。

 

 尤も、実際には役者が捕まらなかっただけかも知れないが……

 

 白夜は愉しかった。

 

 こんな風にユートと逢瀬をして、仮面ライダーでも何でも良いのだが、お茶を飲みながらお喋りをする。

 

 前世ではそんな事も碌に出来ずにいたのだから。

 

 クウガとアギトの関連性を訊いたのも、ユートとの会話を途切れさせるのが惜しかったからである。

 

 純粋に疑問を感じていたのも事実だったが、やはりそれに尽きるのだろう。

 

 下手な会話をしてしまうと変な話題を振りそうで、解り易く仮面ライダーに関する話題にした訳だ。

 

 『女の子が好きな人と逢瀬で出した話題が仮面ライダーとか、何をやってるんでしょうか私は……』とか考えたが、白夜もデートなんて経験は基本的に無いから仕方がない。

 

 実際にはモテたのだし、御偉い医者の家系の息子だとか、政治家の息子だとかに食事に誘われて仕方無く行った事はあるが、自慢話へと終始するのが常だし、つまらなかったから余所事ばかり考え、全く聞いてはいなかったくらいだ。

 

 デートの続きや、悪い時にはホテルに誘おうとする輩も居たが、当然な事だがそれに乗る筈もなかった。

 

 尤も、相手がユートならほいほいと着いていったかも知れない。

 

 それからどのくらい居たかも判らないが、長い時間をユートと過ごしていた。

 

「それでは優斗様、また御逢いしましょう」

 

 それでも幸せな気分で、ユートと別れた白夜は酒場から、住処となるラグナード迷宮へと向かう。

 

 そんな白夜の前に不良っぽい連中が立ち塞がる。

 

「よう。君、可愛いな? 俺らと一発しけこまない? 寧ろ俺らのモノを君の中にしけこませてー!」

 

「ぎゃはは! お前、下品過ぎだろそれ!」

 

「あはははは!」

 

 数人の男はナンパの心算なのか、然し一般人ならばドン引きしそうな会話を、平然とかましていた。

 

 そんな連中に辟易とした気分となる。

 

「まったく……優斗様とのデートで折角、良い気分でしたのに。台無しです」

 

 俯いたのを震えているのだと勘違いをしたらしく、男が白夜の肩に手を置く。

 

「おら、さっさと路地裏に連れて行くぜ!」

 

「おう!」

 

 白夜は大人しく路地裏へ着いていくが、それが余計に連中を調子付かせた。

 

 路地裏に着くと、白夜は肩に乗せられた手を払いのけて……

 

「汚い手でこれ以上は触れないで貰えますか?」

 

 辛辣な科白を吐く。

 

「あん? 逆らってっと、いてーめに遭うぞ!」

 

「痛い目ですか? それはどちらでしょうね……」

 

 底冷えする様な冷やかな瞳で見遣って、津上翔一が変身前に執るポーズを構えると、オルタリングを腰に顕現させた。

 

 待機音が鳴り響く中で、右腕を前に、左腕を拳を握りながら腰に据える。

 

「変身っ!」

 

 叫んで両手でオルタリング左右のスイッチを押す。

 

 オルタリングに内蔵された賢者の石が輝きを放ち、封印をされていた聖魔獣が解き放たれ、白夜の身体を覆っていった。

 

「な、何だ!?」

 

「ヒッ! 化物!」

 

「俺は聞いてねーぞっ? こんなのは!」

 

「た、助けて……」

 

 金の二本角に赤い複眼、龍の顎の如くクラッシャーを持つ、金と黒を基調とした〝怪人〟の姿。

 

「化物とは、女の子に向かって酷い言い様ですね?」

 

 超越肉体の金と呼ばれし仮面ライダーアギトの基本形態、それが白夜の現在の姿であった。

 

 絶叫が上がり、何事かと見に来た者は驚愕する。

 

 数人の男が血の泡を口から吹きながら、二度とは使えぬであろう股間から赤く汚い液を漏らして、倒れ伏す姿を晒していたから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ラグナード迷宮に入り、白夜はワープポイントから現在の住処としている邸のあるフロアへ移動、ワープが可能なのは飽く迄も入口までであり、後は中継点に行けるのみである。

 

 それ故に、多少なりともモンスターと戦わねばならなかった。

 

 この辺りのモンスターはユートが潜る第二層と比べると、格段に強くなっているから流石の白夜も生身で連戦はしたくない。

 

 白夜の生身の戦闘能力は決して低くはないのだが、カンピオーネなユートと比べてしまうと見劣りして、基本戦術はカウンター型。

 

 扇を用いて雅に戦う。

 

 そんな白夜がこのフロアで戦えたのは、仮面ライダーマリカに変身をしていたからに他ならない。

 

「変身っっ!」

 

 今は【ゲネシスドライバー】と【ピーチエナジーロックシード】を、【オルタリング】と交換している。

 

 白夜は、オルタリングの左右のスイッチを押して、仮面ライダーアギト・グランドフォームと成った。

 

 更に右側のスイッチを押すと、ボディの色が赤く染まって左肩が鋭角化して、ベルトの賢者の石が赤くなっている。

 

 仮面ライダーアギト・フレイムフォーム──超越感覚の赤と呼ばれし姿だ。

 

 白夜はオルタリングからクロスホーンに似た鍔の、フレイムソードを取り出して駆け出す。

 

「ふっ! はぁっっ!」

 

 現れるモンスター共を、次々とフレイムソードにて斬り裂き、先へと進んだ。

 

 腰の後ろには本来アギトには無い、元の姿の時から持っている鉄扇が装備されとおり、白夜はそれを手に取ると展開して、敵の攻撃を受け流すと同時に鉄扇で殴り付けた。

 

 アギトのパワーで殴ったからか、モンスターは吹き飛んで死んでしまう。

 

 腰に鉄扇を戻すと、手にしたフレイムソードを両手に握って、クロスホーンを展開させた。

 

 アギトの頭のクロスホーンと同じく、最大の攻撃をする際には二本角から六本角となる。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 刀身に焔を纏わせると、一気に駆けて進行方向に居るモンスターを、一気呵成に斬り捨てていった。

 

 邸に戻った白夜は変身を解除して屋内に入る。

 

 何と、いつもの気分が悪くなる〝食事部屋〟に入ったら、優世が未だに出掛け前に犯していた天使を相手にヤっていた。

 

「あ? 白夜か。帰りが遅かったな」

 

「バカ兄は相も変わらず、〝早かった〟ですね?」

 

「喧しい! うっ!」

 

 怒鳴ると同時に目を固く閉じ、白夜にとって気持ちの悪い呻き声を上げると、天使の奥深くへ自らのブツを突き刺す。

 

 漫画的な擬音で表現をするなら、ビュッ! とか、ドピュッ! などと鳴りそうな出来事が優世と天使が繋がる先で起きているだろう事は、想像に難くない。

 

「妹の顔を見るなりって、バカ兄も変態度が増しましたか? ああ、それとも? 未練がましく白亜様の顔でも幻視しました? 或いは既にタイミング良く限界だったのでしょうか……」

 

 折角、ユートとの逢瀬で気分も最高であったのが、一気に急降下する。

 

 それが白夜の口から毒を吐かせていた。

 

 白夜はハッキリ、キッパリと実兄である狼摩優世が大嫌いである。

 

 道連れ心中をさせられてからは、憎んでいると言っても過言ではあるまい。

 

 それでもこの兄と一緒に居るのは、単純に優世と同じく一人では居られないという弱さが故だ。

 

 まあ、世の中の妹の十人中九人が薄い壁の向こうで兄の自慰による喘ぎ声を聞かされ、好意を持つ事など有り得ない話だろうが……

 

 とはいえ、残りの一人枠で白亜みたいに兄さんラブな奇特な妹が皆無ではない

……レベルで存在するのを前提としている。

 

「(本当に最低最悪な気分ですね。無理を言ってでも優斗様の所に泊めて貰うべきでしたでしょうか?)」

 

 腐れ兄貴の情事を見せられるくらいなら、優斗の所に泊まって『戴きます』をされた方が良い。

 

 優斗になら純潔の一つ、いつでも捧げられる。

 

 否、どんな事でも耐えて受け容れて見せよう。

 

 奴隷になれと云うならばなろうし、他の男に抱かれろと云うならば抱かれても構わない。優斗が言うなら全てを盲目的に受け容れ、如何なる命令も遂行する。

 

 彼のナコト写本の精霊、エセルドレーダも斯くやの忠実な下僕となっても構わないくらい、白夜はユートを愛していた。

 

 愛と哀──哀しいまでの愛情を以て、全身全霊全力全開でユートに全てを捧げて魅せるし、ユートの全てを受け止めて魅せる。

 

 そんな覚悟があった。

 

 尤も、そんな理不尽極まりない命令は決してしないのだろうが……

 

 現在、転生をして生まれ変わった白夜は誰にも抱かれた事の無い純潔の処女ではあるが、前世に於いては処女の侭に死んだ訳ではなかった。

 

 白亜を除いて八人──

 

 それは一族でユートを愛していた年頃の女達。

 

 その全員がそうだった。

 

 とはいえ、当時のユートはまだ出来ても殆んどしていなかった所為もあって、使徒契約はしていない。

 

 当時、使徒契約を交わしていたのはシエスタと白亜とカトレアの三人のみで、使徒契約を白夜達と交わす事自体が想像の埒外。

 

 そもそも、ユートの元居た世界は超常の力が一般的に流布していなかった為、考えもしなかった。

 

 それでもその八人、白亜も含めれば九人に対して残したものはある。

 

 それが彼女らの想いに応えるという事。残念だが、白夜はその中でも子を成せなかった。

 

 ユートとの相性が悪かったのか、或いは白夜自身がそういう体質だったのかは窺い知れないが、白亜を含む八人とは違って最後まで孕む事は無かったと云う。

 

 それは兎も角、だからこそ白夜は知っている。

 

 優斗に比べ、バカ兄こと狼摩優世がどれだけ劣っているのかを。

 

 能力云々ではなく男としての機能の話だけど。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「女の匂いがする……」

 

 宿屋の部屋に戻ったら、行き成りユーキが鼻をヒク付かせながら、此方に近付いて言ってきた。

 

「匂い? ああ、そりゃあクレリアを抱いたからね。でも、クレリアは香水なんて付けてなかったと思うんだが?」

 

「そんな人工的な匂いじゃないよ。生の女の匂い……体臭ともちょっと違う」

 

「いや、そんな技能がある事実に吃驚なんだが?」

 

 義妹ながら、不可思議な技能を発揮するユーキに、ユートも流石に引く。

 

「クレリア以外に誰と寝たのさ?」

 

「寝てない!」

 

 言外に誰かと居たのは、全く否定していない。

 

「嘘じゃなさそうだねぇ。操縦棹(そうじゅうさお)からはクレリアの匂いしかしないし……」

 

 怖っ!

 

 クンクンとユートの股間に顔を近付け、匂いを嗅ぐユーキの姿はいっそ異常にしか見えなかった。

 

 そんなユーキは何を思ったのか……

 

「てりゃ!」

 

「うわっ!?」

 

「きゃるん!?」

 

 ユートのズボンをパンツごと脱がしてしまう。

 

 スワティは顔を朱に染めると、両手で顔を塞いではいるものの、指の隙間から目を覗かせつつ、確り股間に付いているユートの分身を見つめていた。

 

 ユーキは目を閉じて口を開けると、舌を出してその分身にチロリと這わせる。

 

 ネットリとした唾液に塗れた舌が、そのざらついた表面を以て裏筋からつつーっと登り、一番敏感な部位へと到達をした。

 

 その感触を受けたユートの分身は、怒髪が天を衝く勢いで反り返る。

 

「な、何をしてくれてんだ……このおバカは!」

 

「あべし!」

 

 ユートがチョップを落とすと、有り得ない悲鳴を上げて床に顔をぶつけた。

 

 とはいえ、一度は勃ち上がった分身を満足させない事には、きっと収まりが付かないだろう事は、ユートが一番よく知っている。

 

 仕方ないので今夜は引き篭り、一晩中ユーキに相手をさせる事にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌日、ユートは【英雄の時代】より下層フロアとなる【青銅の時代】へと降りていた。

 

 其処はまるで水に沈んだ遺跡といった風情であり、何の準備もしていなかった冒険者では、先に進むのも覚束無い場所である。

 

 ユートは普通に飛翔可能な為、アッサリと前へ進む事が出来た訳だが……

 

 途中、何故かゾンビに襲われてしまった。

 

『グワァァァァッ!』

 

 生気の無い顔に窪んだ瞳の有るべき穴、元は剣士だったのだろうか? 元気に剣を揮って来る。

 

「ゾンビ……ね。それならこれだ!」

 

 ユートはベルトを腰へと装着すると、携帯電話らしき物を開いて操作した。

 

 3・1・5……エンターキー。

 

《STANDING BY……》

 

 電子音声が響き待機音が鳴り始めると……

 

「変身っ!」

 

《COMPLETE!》

 

 叫びながらも携帯電話型ツール──サイガフォンをベルトであるサイガドライバーのトランスフォルダーへと装填した。

 

 エネルギー流動経路たる青のフォトンストリームが身体を奔り、白いスーツを形成していく。

 

 人工複眼(スカイハイファインダー)の色は紫で、その形状はと云えばギリシア文字であるΨ(プサイ)を模していた。

 

 後背部には空を翔ぶ為のフライングアタッカー。

 

 その名をいと高き【天の帝王のベルト】──サイガギアである。

 

 仮面ライダーサイガ。

 

 仮面ライダー555系統のライダー、そのデザインは第三のライダーとして描かれながら、劇場版の敵役としてのみの登場となる。

 

 勿論、今のこれはユートが創った聖魔獣サイガだ。

 

 ユーキに無理を言って、

サイガギアを完成させて貰ってのテストとなる。

 

 別に普通にブレイブでも良かったが、敵はゾンビという事で死者が甦って進化した人類のオルフェノクが変身する──劇中設定──555系統を選んだ。

 

 素で翔べるユートだし、フライングアタッカーを持つサイガでなくとも、完成している主役のライダーであるファイズで良かった。

 

 敢えてサイガにしたのは趣味である。

 

 ユートはサイガの力で、ゾンビ共を次々と撃破。

 

 サイガフォンを外すと、折り曲げて1・0・6……エンターとキー入力する。

 

《BURST MOOD》

 

 トリガーを連続で引き、十二発のフォトンブラッド弾を撃ち放つ。

 

 三連弾を四回、それによって弾は撃ち尽くされてしまった訳だが、それで戦力が減じはしない。

 

 チャージも可能であり、他にも武器はあるからだ。

 

 フライングアタッカーを操作し、ブラスターライフルモードへと移行させて、秒速一二〇発の光子弾を撃ち放ってゾンビを全滅させてやった。

 

「必殺技を使うまでも無い雑魚ばかりだね。うん?」

 

 何だか小動物の如く震える少女──というよりも、女の子モンスターがゾンビの消滅した場所に居た。

 

 脚にまで届く青い髪の毛にコバルトブルーの瞳で、魚の尾っぽみたいな尻尾を持つ白いビキニ姿……

 

「確か、海の幸だったか」

 

 カード屋が曰く、レアな女の子モンスターらしく、逢えるかどうかは運次第。

 

 然し、海の幸とは食欲的に美味しそうな種族名だ。

 

 ユートは性欲的に喰べてしまうけど。

 

 足を海の幸に向けると、ビクッと肩を震わせながら涙目となる。

 

「こ、殺さないで……」

 

 海の幸は逃げたくとも、先程のゾンビ殺戮シーンに腰を抜かし、動けなくなっているらしかった。

 

 目の前まで歩を進めて、サイガフォンをドライバーから引き抜く。

 

 変身が解除されて素顔を晒したユートは、サイガギアをステータス・ウインドウを使って仕舞う。

 

 憐れに思えるくらい震えている海の幸に、ユートはそっと最接近をした。

 

「ヒッ!」

 

 元々が臆病な性格なのだろう、気絶してしまわないだけマシなのかも知れないとユートはクスリと笑う。

 

「死にたくない?」

 

 海の幸は質問に応える代わりに、コクコクと首肯をしてきた。

 

「そう、じゃあ……」

 

 海の幸をソッと押し倒してしまうと、水着に手を掛けてブラジャーの部分を脱がせてやる。

 

「ひゃう!?」

 

 小さな胸が露わとなり、海の幸は顔を真っ赤に染めると両腕で胸を隠した。

 

「楽しませろ」

 

 ユートは顎を手で上げさせると、海の幸の唇を奪って舌を絡ませる。

 

 クチュクチュと水音を響かせ、自分と海の幸の唾液を混ぜ合わせると、それを喉奥にまでトロリと流し込んでやった。

 

「んうっ!」

 

 海の幸は抵抗も赦されず唾液を呑み込む。

 

 力がぬけたのか、全身を弛緩させてグッタリとしながら息を荒げ、口元からは涎を垂らしていた。

 

 その後は海の幸を美味しく〝性的〟に戴いた。

 

 

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第12話:憤怒と憎悪は混沌の衝撃となって

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 女の子モンスターカードも随分と集まってきた。

 

 海の幸とヤった後、当然ながら彼女をカード化した訳だが、その後も何体かの女の子モンスターと闘い、『戴きます』をしてから後にカード化をしている。

 

 そしていい加減で此処の階層の女の子モンスターをコンプした頃、ゾンビを喚び出すボサボサな銀髪女性を見付けた。

 

 名前はプルマ。

 

 どうやら記憶喪失であるらしく、プルマという名前も適当に付けた偽名であるて云う。

 

 話を聞くと、どうも記憶喪失らしく記憶を回復する為に、とあるアイテムを捜してラグナード迷宮に入ったらしい。

 

 そして、この地で死んで果てた人間をゾンビとして甦らせ、情報を集めていたのだと云う。

 

 尚、次の対戦相手であるカシマ・シードもアイテムを捜してくれているとか。

 

「またアイツか……若しかしてシードというのがこの世界の主人公か?」

 

 それは正解であったが、此処でユートは思考の罠に掛かってしまう。

 

「とすると、ヒロインに当たるのはセレーナ・フレイズか……? どう考えても正統派ヒロインとは言い難い気もするけど」

 

 ともすれば嘗てのユートとカトレア並に年齢が離れているし、それだけならばまだしも明らかに遊んでいるとまでは云わないけど、性行為は何処かでしていると思える。その相手が誰なのかまで窺い知れないが、まさかシードだという事はあるまい……と。

 

 まあ、実際には闘神都市に来てからシードの筆下ろしをしていたりするから、その推測は誤りだが……

 

 ユートはシードがセレーナ以外と親しく接する女性を見た事がなく、セレーナをヒロインだと勘違いしてしまったのである。

 

 無くはないか……的に。

 

 ユートとしても其処らはどうでも良いし。

 

 

 取り敢えず……

 

「プルマだっけ? 記憶を取り戻したいのか?」

 

「は、はい……」

 

「その記憶喪失が不慮の事故なら良い……事はないけど扨置いて、自分の意志で記憶を消したのなら悲劇にしかならないぞ?」

 

「それは、どういう?」

 

「例えば、捨てたくて仕方ない記憶を魔術で消したってんなら、記憶を取り戻した瞬間に自殺したくなるかも知れない」

 

「……」

 

 其処までは考えていなかったのか、プルマは元から不健康な蒼白い顔を輪に掛けて蒼くした。

 

 そう、彼女の肌は白い。

 

 だけどそれは白亜や白夜や白姫達の健康的な白さではなく、永らく闘病生活をしていた病人の様にだ。

 

 ユートは気付いている。

 

 デスマスクやデストールやマニゴルド等といった、蟹座(キャンサー)の黄金聖闘士と同じく積尸気を使えるが故に解るのだ。

 

 彼女は──プルマは既に死んでいる……と。

 

 今の彼女は死した肉体に魂が貼り付き、辛うじて動かしているに過ぎない。

 

 放っておけば自我を失って暴れ出すだろう。

 

 

 閑話休題

 

 

「それでも良いというならアイテムを捜す迄もない、僕が君の記憶を取り戻させてやるよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ああ、可能だからね」

 

「是非、お願いします!」

 

 必死な様子に苦笑いをしながら、どうやってプルマを成仏させるか考えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 取り敢えず、シード達を含めて集合をしたユート。

 

「何、この鬼っ子は?」

 

「咲夜だ、見知りおいて貰おうか」

 

「ああ、君は……」

 

 何者なのかを理解して、ユートはそれ以上の詮索を止めた。

 

「本当にプルマの記憶を取り戻せるのか?」

 

「ユスティーナ様!」

 

「取り戻せる。それと……この爺様は誰?」

 

 聞けばプルマは本当だとハーメリンナ聖王国の第三王女──ユスティーナ・ハル・アプト・リンディアであると云う。

 

 この爺さんは行方不明となっていたプルマ=ユスティーナを捜して、この闘神都市くんだりまで来た。

 

 だが、漸く見付けたかと思えばユスティーナは記憶喪失な上に……

 

「そうか、咲夜が居るという事は事実を……プルマが既に死んでいるという事を知ったんだな?」

 

 プルマはコクリと頷く、とても悲しそうに。

 

「解った。その後の事に関しては咲夜に任せても?」

 

「うむ」

 

 心得ていると言わんばかりに鷹揚と頷いた。

 

 ユートは右の人差し指を立てると、プルマの額に向けて突き出す。

 

 ピシリッ! 頭に衝撃を受けたプルマが目を見開きながら仰け反り、数秒も経ったら涙を流し始めた。

 

「な、何をしたんだ?」

 

「幻朧拳。本来だと敵の脳を支配し、脳内で──愉快な──幻覚を見せる技だ」

 

 小宇宙が使えないから、今回は霊力で代用をする。

 

「思い……出しました」

 

 自分がハーメリンナ聖王国を出た理由、それは王位継承争いが激化して国が荒れていくのを見ていられなくなり、上の二人を抜いて自分が王位継承して争いを止めようと考えたらしく、闘神都市で開催されるであろう闘神大会に出場をし、優勝を目指したのだとか。

 

 闘神大会とはそれだけの権威がある大会。

 

 だけど、国を出てロックという魔術師に襲撃され、ユスティーナは死んでしまった。それでも死に切れずリビングデッドとなって、再び動き出したのだ。

 

 とはいえ、強い衝撃を受けたユスティーナは記憶を失い、闘神大会に出ねばという強い意志に導かれるかの如く出場をしたらしい。

 

 名前も覚えてはいなかったが故に、自分でプルマと名付けたのだと云う。

 

「ユートさんでしたね……お陰で記憶が戻りました。ありがとうございます」

 

 王女であった記憶を取り戻したからか、ボサボサな頭に魔術師ルックなプルマだが、喋り方が変化をして何処か気品が感じられる。

 

「後の事は君らでやってくれるか? 僕も大会に向けて動きたいんでね」

 

「あ、ああ……」

 

 シードが頷いたのを確認すると、ユートはその場から立ち去った。

 

 咲夜の刺す様な視線を感じながら。

 

 後日、闘神ダイジェストにてシードVSプルマは、クリちゃん&切り裂き君により、シードの勝利で終わったと報じられた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ウェーブが掛かった長い亜麻色の髪の毛に赤縁眼鏡を掛け、紺色のスク水を着てビート板を持った女の子モンスターちゃぷちゃぷ。

 

 水色のかえる兜を被った長い銀髪に、ビキニを着て赤いマントを棚引かせている青い瞳の剣を持った巨乳なかえる女戦士。

 

 長い赤毛に赤い瞳、肩の出た白い服を着て黒いストッキングを穿いた額に赤い宝石を張り付けたスモッグシルフ。

 

 

 緑のカエルフードを被り緑のケープをヒラヒラさせており、赤い瞳にグリーンブロンドのカエル大王の血を引くらしいカエル魔女。

 

 ユートはモンスターが蔓延るラグナード迷宮にて、女の子モンスターと出逢ってはカードに封印する。

 

 勿論、性的に『戴きます』をする事も忘れない。

 

 そんな中、ユートと似た様な事をする男を見付け、顔を顰めてしまった。

 

 当たり前だが、女の子モンスターとヤっている事に関してではない。

 

 ユートは何処かの誰かと違い、自分がしている事を棚上げなどする気は決してないのだから。

 

 先ず、相手がユーキから聞いていた銀髪オッドアイなイケメン君、テンプレな踏み台転生者だった事。

 

 正しく『うわぁ……』と言いたくなる、滅茶苦茶に気色悪い容姿だった。

 

 オッドアイならユートの【リリカルなのは】で好きなヴィヴィオや、その相方のアインハルトもそうだ。

 

 では二次元と三次元の違いなのか? とも思えるのだろうが、別にオッドアイに隔意は無い。

 

 イケメンだからか?

 

 そんなもの今までに沢山見てきている。

 

 どうにも雰囲気が気色悪いのかも知れない。

 

 次に、女の子モンスターを力尽くで犯している点。

 

 ユートも強引にヤるにはヤるが、最終的には双方が快楽を得られる様にする。

 

 最後に、女の子モンスターが死んでいる事だろう。

 

 カード屋から聞いたが、女の子モンスターにとって人間の男の精液は毒にしかならない……と。

 

 ユートは人間から可成り外れており、精液も毒にはなり得なかった。

 

 否、それだけなら嫌悪感を懐きはしない。

 

 ユートだって純粋な人間であれば同じ事になっていたのだから、ある意味では同じ穴の狢だろう。

 

 ならば何に顔を顰めているのか?

 

 それは精液(どく)を注がれて苦しみ、死んでしまった女の子モンスターを見て嗤い、尿道口に残る精液を死体に掛けて『やっぱり、コイツらだと面倒が無くて良いぜ』などと吹いている事にだろうか。

 

 精液(どく)を注げば死んでしまい孕む事は無いし、人間と違って確かに面倒な事にはならない。

 

 然し、それを平然と死体を前に言う神経が信じられなかった。

 

 寧ろ、あのカムイ・ゴウは精液(どく)を大量に子宮へと注がれて、瞳孔を開かせながらビクビクと痙攣をする女の子モンスターを、愉しいものでも観るかの如く表情なのだ。

 

 しかも死体を蹴り上げ、水に落として沈めていた。

 

 余りにも気分が悪いが、まさかこの場でカムイ・ゴウを斃す訳にもいかない。

 

 場合によれば失格になりかねないからだ。

 

 

 ユートはその場を離れ、口直しでもするかと迷宮の外へと出た。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートはユーキやスワティを連れ、さやかが働いている酒場へと繰り出す。

 

 今までは特に縁の無かったボーダー・ガロアという大会常連者と、パートナーのレイチェルが居た。

 

 悪い人間ではなさそうだったし、一緒に飲み食いをする事になる。

 

 そんな中でカムイ・ゴウの話が出た。

 

 転生者だとはいえども、やはりこの世界の人間であるが故か、情報が普通にあったのは驚きである。

 

 カムイ・ゴウは傭兵をして暮らしているらしいが、今までに何故か闘神大会に出ていない。

 

 それが今回、どうしてか出場をしてきたのには彼も驚いていた。

 

「(恐らく、今回は主人公のヒロインが出ているからだろうな)」

 

「(だねぇ……)」

 

 目と目で通じ合うユートとユーキだが、未だに勘違いをしているユートは……

 

「(然し、アイツの趣味がよく解らないな。羽純・フラメルをパートナーに選びながら、セレーナが欲しいとか考えるか? だったらセレーナっぽいのをパートナーにしそうだけど)」

 

 ズレた感想を懐いた。

 

 ユートの信条というか、座右の銘は『未知こそが真の敵』と『情報は力なり』な為、情報収集には割かし力を入れており、ボーダーに酒を奢りつつスワティに酌をさせてカムイ・ゴウの情報を仕入れてみる。

 

 ボーダーの……

 

「ちっと乳臭ぇが、まあ良いか! ガハハ!」

 

 という意見に、スワティが憤慨をしていたけど。

 

 判ったのは、カムイ・ゴウが相当な女好きであり、中でもいたいけな女の子の初めてを奪う事に、至上の悦びを感じるのだとか。

 

 特に好きなのが、処女を貫き引き裂いて流れ出た血と愛液と精液が入り雑じった液体でベタベタに濡れたモノを、大事なナニかを奪われて茫然自失となっている少女の口に捻り込んで咥えさせ、その舌で味あわせる事らしい。

 

 その上で無理矢理に頭を動かし、軽く歯が当たって口内と舌の滑りに快楽を得て射精()して、喉の奥に流し込ませた後の咽せた顔でまたも性欲を刺激され、今度は後ろの菊まで散らすという残虐さを見せる。

 

 ユーキとスワティは嫌悪を露わにし、ユートもまさか其処までとは思わ……なかった訳でもない。

 

 モンスターだとはいえ、女の子モンスターに対する行動を見る限り、それくらいはしてもおかしくないと判断が出来たからだ。

 

「奴の性癖はそんな感じだった様だが、肝心の能力がまたよく解らねー」

 

「解らない?」

 

「二つ名は【無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)】だとかよ、無限に剣を出すらしいぜ」

 

「「ぶはっ!」」

 

 ユートとユーキは二人して噴き出す。

 

「なんつーテンプレ乙」

 

 ユーキは頭を抱えたが、ユートは何やら難しい表情となっていた。

 

 そして、遂にユートの第三回戦目を迎える。

 

 

 カムイ・ゴウは悠々と、虎のコーナーより歩いて来ていた。

 

 最近、頓に困っていたのが自身のパートナーである羽純・フラメルの事。

 

 抱いてもうんともすんとも言わず、生理現象に基づいて生きている感じだ。

 

 何処を見ているのか判らない視線、食事も出されれば取り敢えずノロノロと食べるだけで、催せばトイレには行くし眠たくなれば眠りもする。

 

 だけどそれだけだった。

 

 幾ら貫いても最早、喘ぎ声の一つすら上げない様はまるで、ダッチワイフでも使って自慰をしているかの如く感覚である。

 

 仕方がないから一回戦と二回戦の敗者のパートナーやら、女の子モンスターで性欲を満たしていた。

 

 傭兵としてはそれなりに有名となり、正に順風満帆を絵に描いた様な人生。

 

 故に、女なんて幾らでも調達が出来る……と考え、闘神都市Ⅱの正ヒロインである瑞原葉月がビルナスのパートナーとして参加する闘神大会に、満を持しての出場と相成った。

 

 ビルナスを潰してやり、この大会で優勝して誰憚る事無く主人公(シード)と結ばれるのを夢見ていたであろう、葉月の泣き叫ぶ姿を想像をするだけで下半身のモノが(いき)り勃つ。

 

 初めて羽純を犯した時の興奮を味わえる。

 

 差し当たり、第三回戦の相手のパートナーを使い、抑え切れないリビドーというやつを鎮めよう……

 

 カムイ・ゴウはそんな事を考えながら、コロシアムへと姿を現した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 銀髪、青と赤の虹彩異色(オッドアイ)、整い過ぎた顔立ち、無駄に高身長。

 

 おまけに強大な魔力をも感じる、見た目が完全無欠に踏み台な転生者。

 

 名前はカムイ・ゴウ。

 

 元が日本人だった筈で、ならば厨二精神に溢れた感じで、神威 轟と漢字なら書くのだろうか?

 

 ユートはカムイ・ゴウを見ながら、そんな取り留めの無い思考に耽る。

 

 司会者兼審判は三回戦からシュリとなり、緑のショートヘアな女性が右手を天に掲げて……

 

「始め!」

 

 試合の合図を出した。

 

《TURN UP!》

 

 直ぐにもブレイバックルを腰に装着し、ターンアップハンドルを引くと、オリハルコンエレメントが目前に顕れて、ユートはそれを躊躇う事無く潜る。

 

 仮面ライダーブレイブ・弁天モード……スワティの力を封入したカードと融合する事で、スワティが着ている装束に近い物を装備、某・黒の王子様っぽい顔を覆うバイザーを着けた。

 

「ブレイバックルっぽい機械って……てめえ、まさか転生者なのか!?」

 

 どうやら他の選手の試合は観てなかったらしい。

 

 行き成り空中から赤い剣が顕れてユートを襲う。

 

「はっ!」

 

 ラウザーホルスターからブレイラウザーを抜いて、その赤い剣を弾いた。

 

「はん、てめえが転生者だろうが関係ねー! てめえは俺の踏み台だからな!」

 

「くっくっ、踏み台な容姿でよく言う!」

 

「顔のこたぁ、言うんじゃねーよっ!」

 

 何故か怒り出したカムイ・ゴウは、手に青い剣を出して斬り掛かってくる。

 

 どうやらこの容姿は本人の意志と無関係らしい。

 

 まあ、容姿が云々よりも性格がアレでは……

 

 ユートはブレイブラウザーでカムイ・ゴウの剣を弾きながら、〝自身の推測〟が正しかった事を覚った。

 

 その〝推測〟を裏付けたのが……

 

「死ねぇぇっ!」

 

 ユートに重なる影が突如として盛り上がり、槍となって襲ってきた。

 

「古典的な手法だが、確かに効果的だろうね。相手が僕じゃなけりゃ……」

 

 自身を囮にして死角からの奇襲──効果は抜群だ。

 

 それがユートでさえなければの話だが……

 

 グルリと回転する。

 

 同時にブレイブラウザーを揮い、影の槍を全て打ち緒としてしまった。

 

「な、なにぃ!?」

 

 緒方逸真流──【天輪舞】である。抜刀術であれば【切月渦】となるが……

 

「これは、闇夜の大盾(ナイト・リフレクション)? いや、確かあれは防御系の神器だった筈。こんな風に影の槍を出す能力じゃないんだがな? とはいえ、神器は使い手の想いに応えるものだし、イメージ次第ではやれるのか?」

 

 ユートはそう分析した。

 

 闇夜の大盾(ナイト・リフレクション)ならユートも実は持っている。前に使い手から簒奪してやった為、手持ちの神器に在った。

 

 その時は【闇夜の獣皮(ナイト・リフレクション・デス・クロス)】という、禁手を敵が披露している。

 

 カムイ・ゴウは禁手には至っていないらしいけど、剣を出す能力と影の操作をする能力、そして羽純・フラメルというパートナーを十のコストで獲た様だ。

 

 ユートは積極的に二つ名を明かしているっぽい事に違和感を感じて、幾つかの可能性を考えて対処を変えていく方向性でいた。

 

 先日、カムイ・ゴウに関する二つ名──【無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)】というのをボーダーから聞いて、最初はなんてテンプレとも思ったものだったが、すぐに違和感を覚えたユートは難しい表情となる。

 

 幾らテンプレ踏み台転生者っぽいとはいえ、其処まで莫迦だろうか?

 

 若しもこれが何らかの罠だったら?

 

 ボーダー・ガロアが加担しているとも思えないし、恐らく闘神大会に向けての対転生者用トラップとして自ら流したのだろう。

 

 そうなると額面通り受け取るのは危険だ。

 

 【無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)】のコストは、能力の高さを鑑みれば八〜九といった処だろう。

 

 単純に無制限に剣を出したり射出するだけでなく、固有結界(マクー空間)へと引き摺り込めるのだから、神滅具(ロンギヌス)並と考えて良い。

 

 だから、コストで転生特典(ギフト)を獲るシステムを知る転生者は、他の能力を持つと考えないだろう。

 

 だが然し、カムイ・ゴウは【闇夜の大盾(ナイト・リフレクション)】だと思われる能力を使った。

 

 仮に違っても操影術系の能力なのは間違いない。

 

 コストは三〜四だろう。

 

 パートナーがユーキ曰くアリスソフト系──其処から獲た場合がコスト一。

 

 影を操る能力が三〜四だとしたら、剣を出す能力は五〜六といった処。

 

 上位神滅具(ハイ・ロンギヌス)は疎か、通常の神滅具にも届かないコスト、でも仮面ライダーマリカと同じくらい。

 

 剣の射出も影を通じて行ったのであれば理解可能。

 

 ならば、カムイ・ゴウの真の能力は……

 

「魔の気配と聖の気配……魔剣創造(ソード・バース)の禁手──【双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)】だな?」

 

「くっ!」

 

 言い当てられたカムイ・ゴウは、悔しそうに呻き声を洩らしてしまう。

 

 自らの作戦を看破され、悔しげなカムイ・ゴウ。

 

 よもや、彼もこうも簡単に作戦が瓦解するなどとは思わなかったのだろう。

 

「糞が!」

 

 口汚く叫ぶと聖魔剣を創り出し、一振りを手に持って残りをあちこちから射出してきた。

 

 木場が偶に【魔剣創造(ソード・バース)】でやるユート命名、【剣花(ソード・フラワー)】と異なっており、恐らくはそれこそ【無限の剣製】みたいな感じでイメージしながら射出をしているのだろう。

 

 木場がやる地面から大量の剣を発生させるアレも、カムイ・ゴウのこれも原理的には同じ。

 

 地面から出すか、空中から射出するかの違いがあるだけだった。

 

 ユートは特に慌てるでなくブレイラウザーを手に、向かってくる全ての聖魔剣を迎撃していく。

 

 緒方逸真流は基本的に、多対一で戦う事を目的に創られており、手数が多くとも絶対的な戦力差とは決してなり得ない。

 

「う、嘘だろ?」

 

 驚愕するカムイ・ゴウ。

 

 意外に自分の転生特典(ギフト)を使い熟しているみたいだが、それでも能力に頼り過ぎなきらいがあるのは否めない。

 

 性格がマトモなら味方にしても良かった程度には、努力もしているのだろう。

 

 だが、性格が残念だ。

 

 ユートもえちぃのは好きだし、セ○クスも割と強引に迫ったりもする訳だが、カムイ・ゴウみたいなやり方は決してしない。

 

 例えば、草薙静花を相手に色々と御触りもしたが、本気で嫌がれば止めた。

 

 それでも強引に事を進めるなど有り得ないから。

 

 尤もユートはある程度、相手が赦してくれるレベルを計れる為、大抵は困った顔をしつつも受け容れる。

 

 そうして快楽に溺れて、最後には美味しく『戴きます』されてしまう。

 

 流石に当時は中学生だった静花は御触りまでだし、其処まで露骨な部位には触れていないが……

 

「お前の能力は効かない。終わらせて貰う!」

 

 ユートはラウズ・アブゾーバーのトレイを開くと、二枚のカードを引き抜いて一枚をインサート。

 

《ABSORB!》

 

 更にもう一枚をリーダーへとスラッシュする。

 

《FUSION!》

 

 光を放つと、紫色の鎧を身に纏った姿となる。

 

「なっ!? その鎧は……【デート・ア・ライブ】の夜刀神十香だと!?」

 

 基本的に転生者というのはサブカルチャーに詳しい者が多く、カムイ・ゴウも御多分に漏れず識っていたらしい。

 

 まあ……当然の事ながらスカートではないのだが、そのシルエットは間違いなく夜刀神十香。

 

 作中、彼女はプリンセスというコードネームで呼ばれている為、この姿の事は【プリンセスフォーム】と呼んでいた。

 

 【イフリート】も同じ、主人公の五河士道の義妹の五河琴里が変じた精霊で、故に【イフリートフォーム】と呼ぶ姿だが、使っていなかったが為に未調整で、その姿は琴里の精霊モードそのまんま、男のユートにはキッつい姿だ。

 

「チックショー! 何なんだよ、何なんだよお前!」

 

 明らかに自分やその他の転生者と毛色が違う。

 

 右腕をユートの方へ掲げて人差し指を突き出すと、カムイ・ゴウは聖魔剣を何十振りと射出した。

 

 慌てず騒がずユートは、ブレイラウザーのオープントレイからカードを抜き、スラッシュする。

 

《NIGHTMARE!》

 

 ユート──ブレイブへと融合するのは橙色と黒色を基調としたドレス、ヘッドドレスやガーターベルトは何処かゴスロリチックで、黒髪をツインテールに結わい付けていた。

 

 神威霊装・三番(エロヒム)である。

 

「時崎……狂三……?」

 

 ユートが弁天モードで使っているのは、女の子モンスターのカードばかりでは

なく、【デート・ア・ライブ】的な世界で獲たカードも同じくだった。

 

刻々帝(ザフキエル)!」

 

 【プリンセスフォーム】での鏖殺公(サンダルフォン)や【イフリートフォーム】での灼爛殲鬼(カマエル)と同じく、天使の名前を冠した呪法兵装。

 

 とはいえ、フュージョンで完全融合した訳でなく、一部融合による顕現だ。

 

 スペードスートのカテゴリー10──タイムスカラベみたいな感じで、一回使ってしまえば消える。

 

七の弾(ザイン)!」

 

 BANG!

 

 高速で飛翔した弾丸が、カムイ・ゴウを撃ち抜く。

 

 カムイ・ゴウの刻が停止すると同時に、彼が制御していた聖魔剣も停止。

 

 停まっている間に聖魔剣を打ち落とした。

 

「ハッ!」

 

 気付いた時には遅くて、ユートは次の行動へと移っている。

 

 それは全ての女の子モンスターカードの読み込み。

 

《CHAOS IMPACT!》

 

「僕と共に在る女の子モンスター達が、お前に宜しく……だとさ」

 

「ヒッ!」

 

 それは同族をヤり棄てにされた怨み骨髄だろうか、融合をした彼女らからそれこそ覇龍(ジャガーノート・ドライブ)並の憎しみが伝わってきた。

 

「ま、待てよ! アンタだって俺と同じじゃねーか。何で俺だけが責められなきゃなんねーんだよ!」

 

「それで?」

 

「いや、だから……」

 

「そんな話で僕が躊躇うとでも? 所詮は僕ら転生者はディケイディアン。世界(ものがたり)に入り込み、好き勝手にひっちゃかめっちゃか荒らし回る。謂わば世界の破壊者。正に悪魔。初めて転生してから、既に二百年を越えて在り続けている僕に、お前の言葉なんて余りに軽い。況してや、苦し紛れに同族意識を引き出そうとする見苦しい言葉なんか……な」

 

「に、二百年?」

 

 〝同じ存在〟だと思い込んでいたのか、毛色が違うと思ったが経過年数を聞いて驚愕する。

 

「終わりだ!」

 

 手にしたブレイラウザーから漆黒の塊を出して射出すると、それはカムイ・ゴウへ向け真っ直ぐ飛んだ。

 

「糞ったれがぁぁっ!」

 

 聖魔剣を何十と創り出して盾代わりとし、ケイオス・インパクトを防御しようと試みるも……

 

 パリン! パリン!

 

 次々と破壊される。

 

「止まれ、止まれ、止まれよぉぉぉぉぉっっ!」

 

 パリン! パリン! パリン! パリン!

 

 願いも空しく聖魔剣が壊されていき……

 

「ガハッ!」

 

 遂にカムイ・ゴウを捉えて撃ち抜いた。

 

「ふうん? 威力が可成り減衰されたか」

 

「うぐっ……!」

 

 一度は倒れたがフラフラと立ち上がるが、ユートは直ぐにも何処ぞの蒙古男張りのレッグラリアットを、カムイ・ゴウの首へと極めてやった。

 

 メキィッ!

 

「ギッ!?」

 

 次の瞬間、何かが折れる嫌な音を響かせて吹き飛ぶカムイ・ゴウ。

 

 首が有り得ない方向に曲がり、それでも虫の息ながら生きている。

 

「かはっ、げはっ!」

 

「お前はもうすぐ死ぬ……その間は存分に苦しめ」

 

「あ……く、ま……」

 

「違うな、魔王だよ。神殺しのね」

 

 序でに冥王でもあるが、上司様の二次的称号を網羅している事に鬱となってしまうユート。

 

「っ!?」

 

「序でにお前の神器を戴こうか。どうせ死ねば無くなるんだしな」

 

 驚くカムイ・ゴウを尻目に人差し指を突き付けて、ユートは燐気を集めた。

 

「喰らえ、死出の入口へと誘う積尸気冥界波!」

 

「ギィィィィッ!」

 

 魂に癒着するかの如く、神器は所有者と一つになっており、抜かれるのは相当な苦しみを伴う。

 

 【魔剣創造】と【闇夜の大盾】が光の球となって、カムイ・ゴウの身体から浮かび上がる様に顕れた。

 

 ユートはそれを回収し、最早カムイ・ゴウには目も呉れずに踵を返す。

 

 シュリによる勝利宣言を聞きながら、ユートは羽純・フラメルが居るであろう控え室へ向かうのだった。

 

 尚、ユートは〝忙しく〟て観てはいないが、その晩の【闘神ダイジェスト】に於いて、クリちゃんと切り裂き君によりカムイ・ゴウの死亡が報じられている。

 

 

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第13話:羽純・フラメルの軌跡

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 三回戦が終了した翌朝、ユートが羽純・フラメルを連れて、宿屋の部屋へと戻って来た。

 

「何で羽純が居るのさ? ってか、カムイ・ゴウに犯されて壊れてたんじゃなかったの?」

 

 印象としては、カムイ・ゴウに何度も何度も犯され続け、『やがて羽純は考えるのを止めた』的な状態になっていたと思われるが、今の羽純にそんな翳りは見当たらない。

 

「ユーキの考えに間違いは無いよ。確かに羽純は壊れていたからね」

 

 そう言って、羽純の方を見遣るユートに気が付き、顔を真っ赤にしながら俯いてしまう。

 

「んゆ? 何? その初々しい反応は……幾ら兄貴でも羽純を堕とせるとは思えないんだけどさ?」

 

 羽純は唯でさえナクト・ラグナードに想いを寄せていたし、何よりもカムイ・ゴウにより精神が参っていたのだから、ユートに反応をしたとも思えないとは、考え過ぎではない筈だ。

 

 ユートはその手練で女の子達を快楽堕ちさせるのが得意──本人は否定したがっているが──としている訳で、特別な相手というか夫や恋人が居る女性までは堕ちないだろうと、ユーキも考えていたのだ。

 

 否──不可能ではないのだろうが、時間が一晩という括りでは流石に無理だと思っていた。

 

「ひょっとしたら兄貴……〝アレ〟を使った?」

 

 プイッと目を逸らす。

 

「……兄貴の腐れ外道」

 

「うぐっ!」

 

 ジト目でポツリと罵倒をするユーキに、ユートも決まりが悪いのか呻きながら左胸を押さえる。

 

 見えないナニかが胸へと突き刺さったらしい。

 

「仕方ないだろ? 反応されないとつまらなかった……もとい、あの侭でほかっていたらそれこそパートナーのペナルティで働く場所なんて、性処理くらいしか無かったんだから」

 

 並べられたならご飯は食べるし、トイレに行って、睡眠も取る羽純だったが、それ以外には自分で動こうとしない。

 

 それでやれる仕事は何かと問われれば、男の闘神が性処理をする穴奴隷くらいしか無かったのだ。

 

 そうなれば最早、壊れるとかどうとかの問題ですら有り得まい。

 

 ユートは未だに知らない事だが、実は本当に闘神の館には心が壊れて性処理用の人形と化した少女が居たりするから、この懸念は当たっていたりする。

 

 しかも羽純より状態が悪いくらいだ。

 

「僕も〝アレ〟は……ね、あの権能は好きになれないんだよ。だけど必要とあらば使う事に躊躇いを持つ気は更々無いけどね」

 

「ま、兄貴らしいっちゃ、兄貴らしいのかねぇ?」

 

 外道の極みの様な権能、ユートはアレをどうしても好めない。何故ならアレはある意味であの地雷スキル並に酷い権能だからだ。

 

 アレを殺してこんな権能になったのは、きっとアレのイメージからだろう。

 

 因みに、パンドラ義母には呆れられたといおうか、『アンタって子は〜っ!』とアッパーを喰らった。

 

「お陰で羽純を正気に返す事は出来たし、便利と云えば便利な権能なんだよな」

 

「確かに……ね」

 

 使い方次第ではこの上無いくらい便利で強力。

 

「にしても、権能を使っても大丈夫だったの?」

 

「いけんのー」

 

「……兄貴?」

 

「ちょっとしたジョークだろうに」

 

 何も無理にオヤジギャグを入れんでも……

 

 ユーキは嘆息する。

 

「アガサ・カグヤに確認を取ったら、戦闘系の権能でなければ妄りに使わない事を条件に許可されたよ」

 

「へぇ、だけどアレはこの先でも少しは使うよね?」

 

「……そうなるな」

 

 使うとなれば躊躇わないとはいえ、やはり気分自体は良くなかった。

 

「羽純は何処か、力を活かせそうな場所で働けば良いのかな?」

 

「私の……力……」

 

 無制限の付与(エンチャント)が羽純の能力。

 

 羽純はこの能力を使ってナクト・ラグナードの剣を強化し、闘神大会(Ⅲ)での勝利を支えてきた。

 

 付与師であり、命ある限りは無制限にエンチャントが可能な【拡張付与能力】を持ち、悩みながらナクトに尽くしてきたのである。

 

「一年後、羽純はどうするのさ? もう還れない訳なんだけど……」

 

「はい、ナクトに会えなくなるのは寂しく思うけど、〝仕方ない〟ですから……出来たらユートさんの許に居たいです。こんな汚れた私でも良ければですけど」

 

「そ、そう。なら兄貴次第って事かな?」

 

 表情を引き攣らせながら流し目を送るユーキ、解ってはいたが正しく『効果は抜群だ』というやつだ。

 

 あの権能は何も無理矢理に洗脳するものではなく、それ故にユート的な観点からグレーゾーンすれすれ。

 

 これが単なる洗脳能力であれば、問答無用で封印を施したであろうが、生憎とそうではなかった。

 

 まあ、幾ら言葉を飾った処で洗脳と変わらないのは理解しているが……

 

「ユーキ、僕は羽純が働ける場所を捜してくるけど、ゲネシスドライバーとエナジーロックシードは任せて大丈夫か?」

 

 誤魔化す様に訊ねると、ユーキは頷く。

 

「少なくともゲネシスドライバーは僕の領分だから。エナジーロックシードに関しては、やっぱり兄貴の方の領分だね。後、戦極ドライバーも記憶通りに造れると思うよ」

 

「そうか、なら任せた」

 

「オッケー」

 

 白夜から既に記憶を見せて貰っているし、それらを元に取り敢えず原典に登場するツールなどを造ろうという話になった。

 

「ああ、そういえばさ……白夜さんにオルタリングを交換に渡したんだよね?」

 

「まあね」

 

「あれって、あの世界での悪魔には光の権化みたいな聖魔獣だから効果的な筈だけど、良かったの?」

 

「必要ならまた創れば良いだろ?」

 

「それもそっか」

 

 まだ実験していないが、光に弱い闇の女神には通じたし、ハイスクールD×D世界の悪魔や吸血鬼に対しても効果は期待出来る。

 

 とはいえ、流石は女神だけあってシャイニングフォームになってやっと……といった処だ。

 

「それじゃ、行こうか? 羽純」

 

「はい、ユートさん」

 

 部屋を出る二人。

 

 羽純がまるで忠犬の如く着いていく様は、何とも言えない光景だったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 羽純の仕事先を見付けて戻って来た二人は、折角だから彼女の世界での闘神大会の話を聞く。

 

 仕事は明日からな訳で、今日は特にやる事も無かったから、良い暇潰しだ。

 

 ユートも先日が試合だった事もあり、今日は迷宮の探索を休みにする。

 

「力に気付いた切っ掛け、それは私がお父さんに貰った桜貝を使って、ゴッコ遊びの心算で付与をした事」

 

 遊び、父親の見様見真似での付与だったが、羽純はそれを見事に成功させる処か付与スロットを増やしてしまっていた。

 

 あの世界──或いはこの世界でも、武器には【付与スロット】と呼ばれるモノが在り、スロットに付与師が素材を使って付与をする事によって、武器の強化を行う事が可能となる。

 

 羽純の父親は羽純の付与を知り、それは二度と使ってはならないと諭した。

 

 拡張付与──それはあの世界に於いて、本来は在ってはならない能力であり、世界のバグだとも云われていて神の怒りに触れる行為なのだと。

 

 それでも子供の羽純には理解が及ばず、どうして使っては駄目なのかと思いながらも、父親の言葉に一応は従っていた。

 

 けれど一度だけ、ナクトの短剣の付与スロットを増やして上げようと、羽純は拡張付与をコッソリ行う。

 

 それをフーデッドマントを羽織り、顔は判らなかったが女性らしき人に見咎められた。

 

 父親と同じく『もう使ってはならない』、『誰にも教えてはいけない』などの注意をして、拡張付与が施された短剣を『預かる』と言って持って行ってしまったのである。

 

 その後、拡張付与に関しては秘密にしていた羽純だったが、鉱山の落盤により多くの人間が怪我をした。

 

 神の怒りに触れるバグ、そんな拡張付与を持つ自分が居たから、こんな事故が起きたのだと震える羽純。

 

 そして、ナクト・ラグナードが数年前に闘神となったら帰ると行って、居なくなってしまったナクトの父親であるレグルス・ラグナードを捜すべく、闘神都市へと向かったのを追い掛けた羽純は、パートナーを見付けられないナクトの為、規約も読まずにパートナー契約をしてしまう。

 

 一回戦、二回戦と順調? に勝ち進むナクト。

 

 勿論、対戦相手のパートナーと致している。

 

 そんな中でも一番の不安があった。

 

 幼き日から憧憬の対象であるレメディア・カラー、カラーという種族の剣士。

 

 彼女は強いが、万が一にもナクトが勝ったら自らをパートナー代わりにしているレメディアを抱く筈。

 

 ずっと目標であり憧れたレメディアとそんな事になったなら、ナクトは本気でレメディアを好きになるかも知れない。

 

 そうなったら自分は……

 

 尤も、そんな心配ら要らなかった。決勝戦に於いてナクトとレメディアの戦い──それを制して闘神の座に就いたのはレメディアであったから。

 

 ナクトはパートナーが負うべき責務を、お金を払う事で解放しようとしたが、何故か石にすり替えられており、しかも何者かに襲撃を受けて羽純は連れ去られてしまう。

 

 その後のナクトは知らないが、一年後にムシ使いのアザミ・クリケットをパートナーとして闘神大会へと出場をした。

 

 その後もなんやかんやとあったが、全てが解決を見た後で漸く二人は互いの想いを認め合い、そして結ばれようとしたその時……

 

「えっ?」

 

 トロトロに蕩けた股を開いて、ナクトのモノを期待と不安が綯い交ぜになりながらも待っていたら、何の兆候も無く行き成り全く別の場所へと転移した。

 

 其処に居たのは不気味な笑みを浮かべた男、カムイ・ゴウと銀髪碧眼アホ毛な少女の二人。

 

 カムイ・ゴウはズボンとパンツを脱ぎ、羽純に伸し掛かり自らのモノをナクトの為に準備万端だったソコへと情け容赦も無く、嫌がる羽純の思いなど完全無視して突き入れた。

 

 後はユート達も知っての通り、考える事すら止めてしまった羽純はまるで西洋人形の如くで、食べるのとトイレと寝る事、生理現象を満たす事のみを自発的に行う生きたダッチワイフ。

 

 昨夜までは……

 

「ユートさん、宜しければユートさんの武器に拡張付与を施しますが?」

 

「う〜ん、要らない」

 

「──え? でも、便利ですよ? あの、桜貝なら少しは持っていますし……」

 

「いや、そうじゃなくて、必要が無いんだよな。僕の剣技は元より武器に頼り切ったものじゃあないしね、今はブレイブを使って闘ってるから」

 

「けど、その……だったら私はどうすれば? これじゃ私、役に立てない……」

 

 オロオロと視線を右往左往させ、胸元で手を組んで落ち込んでしまう羽純。

 

「別段、役に立たなきゃいけない訳じゃないだろ?」

 

「だって、私、私……」

 

 落ち込む処か鳴き始めてしまう。

 

〔ちょっと、兄貴!〕

 

〔何だ?〕

 

〔どうなってるのさ!? これってあからさまに兄貴に捨てられるのが怖くて、何とか自分の有用性をアピールしてる図だよ?〕

 

〔みたいだな……〕

 

〔本当にあの権能、洗脳をしてるんじゃないよね?〕

 

〔してない……筈〕

 

 念話を用いた会話故に、ユートとユーキ以外に聞こえてないやり取り。

 

 羽純の余りにも余りな、『捨てないで』アピールにユーキは疑問を持つ。

 

〔実際に、〝あの二人〟はああだったじゃないか?〕

 

〔まあねぇ……〕

 

 ユートの言い訳に対し、ユーキも思い当たる節があり取り敢えずは納得した。

 

 ユーキはゲームのお陰で彼女を知っている。

 

 羽純・フラメルはとある世界に於いて、バグとも云われる力を持つ。

 

 拡張付与──在ってはならない無限に付与スロットを増やせる、拡張をする事が可能な特殊で特別で……そして忌むべきチカラ。

 

 彼女の父親はこれを二度としてはならないと言い、更には別の者も人前で決してやってはいけないと忠告をする程であり、チカラを使えば神様が怒り災いが起きると言われていた。

 

 そんなチカラをナクト・ラグナードという幼馴染みの為に、羽純は闘神大会で使う事を決意する。

 

 ずっと傍に在った幼馴染みだから……だけでなく、きっと幼い頃より想い続けてきた彼の為に。

 

 だからだろう、闘神大会でナクトが勝ち上がるのは嬉しいし、ナクトが勝たなければ自分がどうなるのか想像に難くない。

 

 だが、それはつまり──ナクトが勝利をしたなら、敗者のパートナーと同じ事をしていると云う事。

 

 闘神大会への出場には、必ず見目麗しい女性をパートナーとして伴わねばならないルールで、大会出場者が女性なら自身をパートナーの代わりに出来る。

 

 そして出場者が敗けてしまった場合、敗者のパートナーを一日だけ殺害以外なら好きにする権利を与えられるのだ。

 

 大会出場者の多くは男、ならば綺麗だったり可愛かったりする女性を好きにする事が出来るなら、大抵の勝者が行うのは決まっているであろう。

 

 余程の真摯か男色家か、女性出場者でもなければ。

 

 或いはEDか?

 

 だから、ナクトが勝利をしてくれるのは嬉しいが、その反面で淋しさもある。

 

 この寂寥感はナクトが勝って、一人で宿に帰る最中に胸中へと飛来した。

 

 勝ったナクトは自身が打ち負かした相手のパートナーの控え室へ、自分が孤独に宿の部屋へと戻っている時にも、会話をしていたり肌に触れたり……抱き締めているのだろう。

 

 特に最初の相手、ドギ・マギのパートナーであったマニは、元々が商家の娘で深窓の令嬢といった雰囲気であり、ドギ・マギにより浚われて無理矢理に連れ回されていた。

 

 マニ・フォルテ──

 

 橙色の長い髪、青い瞳、白いドレスに包まれた白い肌に、目を惹くきょぬー、そして育ちの良さが窺える清楚な佇まい。

 

 そんな彼女が一日だけとはいえ好きに出来るなら、ナクトならずともヤる事は一つしかない。

 

 EDだったり、男色家だったり、女性だったりしない限りは。

 

 皮肉なものだ。

 

 自分は自身を守る為に、ナクトに勝利をして貰わねばならないし、元の動機はナクトの父親が闘神レグルスであり、会うには闘神になるしかないからとパートナーに立候補をした。

 

 結果、ナクトがマニを抱く手伝いをしたのだから。

 

 しかも当時、羽純は自分の気持ちを見定めてはいなかったし、ナクトもお馴染み以上に感じてはいない。

 

 マニを抱くのも闘神大会のルール上、認められている行為に過ぎなかった。

 

 だからこそ羽純はマニを抱いて帰ってきたナクトに笑みを浮かべ、ただ一言の迎えの言葉を口にする。

 

『お帰り、ナクト』

 

 胸の痛みを感じながら。

 

 その後も順調? に勝ち進んでいったナクト。

 

 十六夜幻一郎を倒して、十六夜桃花と致した。

 

 ナミール・ハムサンドを倒して、本人と共に双子の姉妹を抱いた。

 

 ムシ使いのマダガラ・クリケットを倒し、アザミ・クリケットを抱いた。

 

 決勝戦、相手は知り合いのレメディア・カラー。

 

 カラー種族の女剣士。

 

 レメディア・カラーとはナクトにとっては謂わば、憧れのお姉さん的な立ち位置に居り、そのレメディアに勝って抱いたら?

 

 羽純はズキズキと痛む胸押さえつつ、控え室にて戦いの行方を気にしていた。

 

 結果はナクトの惨敗で、レメディアは同性だったから特にナニをされる訳でもあるまい。

 

 後は免除金をナクトが支払えば終わる。

 

 だけど何故か免除金は無くなっており、羽純は浚われてしまった。

 

 これがユーキの知っている闘神都市Ⅲの羽純。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 此方側に来た羽純は何の因果か、心をズタズタにされながらも再び闘神大会のパートナーとなり、そして自分を弄んだ男は敗北。

 

 どうでも良かった。

 

 男に犯されるのも勝者に犯されるのも変わらない。

 

 自分の前に立つ勝者は、何事かを呟きながらキスをしてきた。

 

 好きにすれば良いのだ、自分は唯黙してされるが侭になるだけなのだから。

 

 そんな風に思っていた筈なのに、急に頭がクリアになったかと思うと、ナクトへの執着が無くなる。

 

 別に忘れた訳ではなかったし、大切な幼馴染みなのも変わらない。

 

 でも色恋沙汰で考える事は無くなっていた。

 

 色を取り戻した瞳が映したのは一人の青年であり、闘神大会で自分を犯していた男を倒した勝者。

 

 この世界に〝再誕〟して初めて視た人間──それは一種の刷り込み現象。

 

 ユート自身が把握をしていない、この権能の効力みたいな……否、副産物と云うか副作用といった感じであろうか?

 

 権能を使うと執着が消えてしまう分、ポッカリと穴が空いた様な感覚に陥るのだが、その穴を埋めるべく最初に視た〝異性〟を執着の代わりとしてしまう。

 

 つまりは、権能を使った施術者を最初に視てしまう必然から、ユートを執着の代替にするのだ。

 

 羽純のユートへの依存はそれが理由だった。

 

 まあ、個人差が出るのは御約束というやつで、羽純の場合は全てを喪った状態な上に、カムイ・ゴウから何度も……孕まなかったのが奇跡なくらい何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、犯され続けていた負い目もあって、あんな感じになったという訳である。

 

 取り敢えず、ユートからの説得もあってか? 羽純は普通にこの宿屋に世話になりつつ、一年間の奉仕活動に臨む事とあいなった。

 

 

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第14話:四回戦 小早川 雫の純情

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 ユートがダンジョンから戻って来た際、少しばかり微妙な表情をしていたのに気が付き、ユーキは小首を傾げてしまう。

 

「兄貴、どうしたのさ?」

 

「いや、何か変なくノ一が出てきてね」

 

「くノ一? それってⅢの十六夜桃花や十六夜燐花みたいな感じかな?」

 

「いや、その二人自体知らないが……何つーか、ドジなアホの子っぽかったな」

 

「んで、戦った訳?」

 

「んにゃ、協力を申し出て来たな」

 

「は?」

 

 ラグナード迷宮の新しい層──白銀の時代に降りたユートは、次の相手である臥路対策などは特にしてはいないが、やる事も無いから攻略をしているだけで、くノ一が言う臥路と闘う為の協力は不要だった。

 

「成程、つまり自分達では捕まえられない、だけれど傷付ける程度なら出来るから協力して斃したいと? んで、パートナーの雫姫を連れ戻す?」

 

「いや、犯せとさ」

 

「……何か恨みでもあるのかな?」

 

「どうやら臥路を愛していたけど、雫姫と駆け落ちしたらしくてね。逆恨みってやつかな?」

 

「やれやれだね。ああ! そういえば、シードって奴が臥路と雫にまたお節介を焼いていたよ」

 

「お節介? ケイジンとかプルマとか、そんで今度は臥路と雫? アイツは何処ぞのブラウニーかよ」

 

 溜息しか出ない。

 

「何だか天叢雲を捜してるんだってさ」

 

「ふーん。御苦労様だな」

 

 ユートにとってみれば次の対戦相手だし、そもそも敗けてやる心算など微塵も無いのだから、臥路の捜し物が見付かる見付からないに関わらず、帰還は叶わないのではなかろうか?

 

 敗けた出場者のパートナーは一年間の奉仕活動従事というペナルティが有り、雫姫を放ってJAPAN国に帰りはしない筈だ。

 

「そんなどうでも良い話は扨置いて、少し問題が発生したかも」

 

 ユーキはユートに直接的な関わりが無いのならば、大抵はどうでも良いと考えている。飽く迄も考え方はユート本位。

 

「問題? 何の?」

 

「羽純の世界が拙いかも」

 

「? どうして?」

 

「羽純の世界で何かしらの危機があった場合、当然ながら対処をするのはナクト・ラグナードなんだけど、何しろ羽純が此方に浚われてる訳だから、ラスボスを斃せないかも……」

 

「ああ、成程……ね」

 

 ユーキが覚えている限りでは、羽純とナクトが結ばれたのは最終決戦の前で、ならば最終決戦に際しての武器強化をする前の筈。

 

〔ゲームじゃ割とごり押しで勝てたけど、現実はもっとシビアだろうからねぇ〕

 

 この部分のみ念話で伝えてきた。

 

「とはいっても、そんなの僕にもどうしようも無い。羽純を還してやれるなら、スワティだって還せるよ。無限マイナス1の膨大な数の平行世界から、スワティや羽純が属する世界を捜すなんて、それこそ砂漠の中から一粒の黄金を捜し当てるに等しい作業だからね」

 

 羽純の顔色が良くない、ナクトへの執着は確かに無くなったが、それは恋心という意味合いでしかなく、ナクトが大切な幼馴染みだという事実が喪われる訳ではないから当然だろう。

 

 ユートのあの権能は幼馴染みの危機に心が動かなくなる様な、そんな薄情になるモノではないからだ。

 

「せめて後一人……後一人でも羽純の属した世界の者が居れば話は別だけど」

 

「どういう意味さ?」

 

「時空量子振動波形というのがあってね、各々が属する世界の量子振動波形というのは全く違う。指紋みたいに同じ波形は存在していない。唯一、同じ波形が在るとしたらそれは同じ世界に属していた場合のみだ。っていうかさ、ユーキには釈迦に説法だろう?」

 

「まあ、確かに」

 

 この辺は科学担当なだけに理解が出来たユーキ。

 

「二人が揃えば僕の方で以て【共振】を引き起こし、謂わば砂漠の中の黄金を輝かせる事が可能となる」

 

「成程ね、だけどそれでも可成り難しいよ?」

 

「勿論、其処は理解もしている。だから【(アイオン)の眼】を使うんだ」

 

「ハァ? んなもん持ってたったけ?」

 

「持ってないな。だけど忘れたのか? 僕の閃姫──使徒の中には【劫の眼】の原典を識る雪子、菊理に、リゼット(リーゼロッテ)、美鈴、栞が居るんだぞ? つまり、記憶の中から【劫の眼】の情報を拾い出す事も出来る」

 

 元が元なだけにユートはその原典を殆んど識らないのだが、それでも彼女らから情報を得る程度の事なら出来たし、何よりリゼットはその【劫の眼】に最も関わりが深かった。

 

「11eyes……」

 

 あれこそ、平行世界の在り方や扱いの難しさを見せた作品の一つ。

 

 何しろ同じ世界の人間だと思ったら、主人公の皐月 駆とヒロイン水奈瀬ゆか以外はその全員が平行世界の人間であり、故に世界の認識に差異が有った。

 

 例えて云うと、橘 菊理は平行世界の皐月菊理で、駆から見れば死んだ姉とは瓜二つというやつであり、他にもランドタワーの有無などが挙げられる。

 

 平行世界とはいっても、姉弟ならヤっちゃうと近親相姦では? とも思えるかも知れないが、時空量子振動数の差異は遺伝子の方にも作用し、遺伝的に二人が姉弟だと認められる事実は存在していない。

 

 Show you guts cool say what 最高だぜっ! 的な容姿でランドセルを背負っていても、『作中のキャラクターは全員が一八歳以上です』なのと同レベルな気もするが……

 

 それは兎も角、ユートは【叡智の瞳】にちょっとした強化措置を施し、一時的に【劫の眼】に変化せしめる事も可能だと考える。

 

「話に聞く限り、皐月 駆はリーゼロッテを斃す為、現在を基点にリーゼロッテを斃し得る未来の可能性を見通し、それで刃を突き付けたって事だ。僕のやろうとする事の違いは、世界の内側から縦線で分岐点を見通しのに対し、外壁からの観測になるって点かな?」

 

「……それってさ、危険は無いの?」

 

 指摘をされてプイッと目を逸らす。

 

「有るんだね?」

 

「片目が失明……とまではいかないだろうけど、暫くは視力を失うだろうな」

 

「駄目! ずぅぇーったいにダメだかんね!?」

 

 ユートの言葉に青褪め、ユーキはソッコーで禁止する旨を伝えてきた。

 

「一時的だし、だいたいが二人目が見付からなければやり様が無いんだ。心配をしなくてもね」

 

 ユーキの頭をポンポンと軽く叩き、撫でながら言うユートではあるが、これがフラグになりそうだとも考えていたりする。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 何度かの迷宮探索にて、女の子モンスターカードを何枚か増やしている。

 

 色んなタイプを抱けるのは愉しいし、現状でユートにとって迷宮は危険域だとは全く云えない。

 

 余裕でモンスターを屠っていきながら、偶に見掛ける女の子モンスター達へのナンパ? をしていた。

 

「今回はこいつだ!」

 

 チリーン!

 

 小型の音叉をぶつけると軽快な音が鳴り響く。

 

 それを額に近付けると、紫色の焔が全身を包み込んで姿を紫を基調とした筋肉質な角を持った存在へ変えてしまった。

 

 それは鬼。

 

 鍛え抜いた肉体に変身をする道具を用い、その姿を変える音撃の戦士。

 

「仮面ライダー響鬼、ちゃんと鍛えてますから!」

 

 シュッと敬礼の変化した形を取りながら言う。

 

 変身ツールにベルトが使われない珍しいライダー、ユートは音撃棒を腰から引き抜くと、先端部へと焔を灯して襲い来るモンスターへと駆け出した。

 

 そしてくの一とは再び出逢う事なく、その日の探索を終えて宿屋に戻る。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あ、今日は逢わなかったんだね? くの一と」

 

「向こうは向こうで臥路の妨害とかしてんだろうな。逢ったらどうするか?」

 

「兄貴の好きにしたら? カンピオーネの直感に頼ってみるとかさ」

 

 戦闘関連なら未だしも、そこまで都合良く直感とか働かない気もするが……

 

「協力は面倒臭いんだが、雫姫は好きでもない僕に抱かれたら死にかねないし、臥路の事も何とかしないといけないか……」

 

 一度はくの一の協力要請を断ったが、対戦相手やらパートナーやらの事を鑑みれば少しは動く必要はありそうだと、ユートは難しい表情となって思案する。

 

 雫姫との接触など殆んど無いユートをして、彼女が極度なロマンチシズムなのは見て取れた。

 

 好きな男──臥路以外に抱かれるのは疎か、肌を晒す事すら厭のだろう。

 

 それは誰でも同じだが、それで自決まで逝けるのが雫姫である。

 

 御淑やかな大和撫子だと見えるし、ルールの通りにユートに貫かれたならば、翌朝には短刀で喉でも突いて冷たくなっていそうで、少しばかりホラーだ。

 

 ルール通りにしたとはいえ死なれるのはアレだし、ユートが自発的に動くには充分な理由だった。

 

「その為にもあのアホの子は利用価値があるな」

 

 邪悪な笑みを浮かべているユートに、ユート本位なユーキの場合は慣れているから未だしも、スワティは若干引いている。

 

 そんなの関係無いとばかりに何やら思い出したか、ユーキはピン! と人差し指を立てると……

 

「あ、そうだ兄貴! 戦極ドライバーは完成したよ」

 

 そう言って、アイテムストレージから黒いベルトバックル──戦極ドライバーを取り出して見せた。

 

「へぇ」

 

 狼摩白夜からの情報と、ピーチエナジーロックシードとゲネシスドライバーを元にユートはロックシードを造り上げて、それを使うデバイスとしてはユーキが戦極ドライバーを造る。

 

 ちょっと時間を掛けたのだが、それでもダイオラマ魔法球込みで二日間はよくやった方だろうか?

 

 あちらの工房でユーキは頑張ったのである。

 

 本物ではないにしても、可成り近い物にはなった。

 

 ロックシードは入れ換えが利くから、素体となるであろう聖魔獣を戦極ドライバーに封じ、ロックシード側にはプロテクターが封印をされている。

 

 よって、ユート達の識らない原作──仮面ライダー鎧武で鎧武とバロンがやったロックシードの交換も、普通に再現が可能だ。

 

 そう造られている。

 

 ユートが白夜から獲得した知識を、セッ○スによるトランスでユーキに渡した情報を元にし、ギミックも完全再現してある。

 

 戦極ドライバーをユーキから手渡され、それを腰に据えるとフォールディングバインドにより装着され、自身の持つアイテムストレージからはロックシードを取り出し、早速それを起動させた。

 

 因みに、フォールディングバインドとはベルト部分の事であり、平成ライダーシリーズの大半で採用されている自動装着システムと思えば正解。

 

 バックルの左部から伸びたフォールディングバインドが、右部に差し込まれる形で装着されるのだ。

 

 

 ロックシードは見た目にはオレンジで、LS−07と番号が振ってある。

 

 実際のオレンジロックシードより少し豪奢な作り、錠前の金具に当たる部位を解錠……

 

《FLESH! ORANG……》

 

 電子音声が鳴り響く。

 

 次は中央のドライブベイに嵌め込み施錠すると……

 

《LOCK ON》

 

「変身!」

 

 施錠を表す電子音声が響いた後、カッティングブレードを倒す。

 

《FLESH! ORANG ARMS HANAMICHI ON STAGE》

 

 変身の為の電子音声が鳴り響き、上空というか天井にチャックが出現すると、オレンジの形をしたアーマーの塊が降りてきた。

 

 ユートもユーキもスワティも羽純も名前は知らず、取り敢えず成功だけはしたみたいだと安堵する。

 

 素体を装着したユート、オレンジ型のプロテクターが頭に被さり、それが展開されて文字通り鎧へと変化をした。

 

 仮面ライダー真戦鎧武。

 

 白夜の記憶にも無かったが故に、適当な当て字による名付けだったが……

 

「成功……だね?」

 

「ああ、流石はユーキだ」

 

「兄貴こそ、短時間でよく試作型のロックシードを作れたよね。聖魔獣に関しては未だしも……さ」

 

「慣れたからかな。各種の仮面ライダー達は元より、デュークモンやオメガモンみたいなデジモンも聖魔獣として創造した。それに、白夜から齎らされたエナジーロックシードやゲネシスドライバーも参考になったのが大きい」

 

「それはボクもだよ」

 

 篠ノ之 束や超 鈴音達をユートは既知外と呼ぶが、その本人も充分に既知外の範囲である。

 

 ユーキは、先の二人や他に何人かと混ぜると危険な訳だが……

 

「兄貴も充分にその範囲だよね?」

 

 ユーキにハッキリと言い放たれて、ユートは思わず床に四つん這いとなって沈み込んだと云う。

 

「あの、理解出来ます?」

 

「きゃる〜ん、さっぱり」

 

 一応、機械関係が在ったとはいっても基本的に羽純の世界はファンタジー傾倒世界だし、現代的な世界に暮らしていたと云っても、神様なスワティに理解など出来よう筈もない。

 

「ま、当面は必要性の無い物ではあるんだよな」

 

「だねぇ……剣系ライダーで攻めてるもんね」

 

 偶には違う仮面ライダーも使ったがユートは現在、仮面ライダー剣系と称される仮面ライダーブレイブを使っていたし、ユーキにもスワティにもクライアにさえカリス、レンゲル、ギャレンを渡してある。

 

 試作こそしたが、鎧武系ライダーは不要だった。

 

「そういえば臥路って侍だったか、なら次の試合にでも使ってみるかな?」

 

 戦国武将っぽい真戦鎧武だし、折角造ったのだから試してみたい欲求も無くはないユートだけに、臥路戦で試行はアリだと考えた。

 

 仮面ライダー鎧武の強化形態──陣羽や極には成れないが、初期形態でも充分な戦果を出せる。

 

「さて、ならあのくの一は精々利用させて貰うか」

 

 ユートは本来の主人公たるシードとは違い、ルール的に問題が無いのならば、普通に小早川 雫とヤるであろうが、その後にとある〝処置〟も必要になるだろうから臥路の問題も片付けたいと思う。

 

 緒方優斗は決して優しさで出来ていないのだから。

 

 仕込みは重々、後は臥路義笠との決戦である。

 

 基本的に闘神大会というのはルール無用のデスマッチと変わらず、多少なりの重武装は許されていた。

 

 実際、鎧兜に身を包んだ戦士も珍しくはない。

 

 よってユートも遠慮無く重武装で挑める。

 

 ユートのパートナーであるユーキはユート控え室、臥路義笠のパートナーたる小早川 雫は臥路の控え室で自らの相棒の勝利を待っていた。

 

 いつものアナウンスによって、ユートと臥路の二人がコロシアムに現れると、それを見に来た観客による割れんばかりの歓声。

 

 臥路義笠は陣羽織を着ており、その腰には佩刀を差しての登場だ。

 

 先達て、シードが臥路の捜すJAPAN国の宝である叢雲を手に入れようと、頑張っていたのだと聞いていたユートは、あろう事かシードが見付ける前に叢雲を密かに発見、秘匿してしまっていた。

 

 今はユートのアイテムストレージの肥やしである。

 

 そんな悪行に身を委ねたのには勿論理由があったのだが、そこら辺は取り敢えず関係がない。

 

 刀を構える臥路に対し、ユートは戦極ドライバーを腰に据える。

 

 フォールディングバインドか伸び、ユートの腰には戦極ドライバーが確り装着されて、右手に持っているのは【フレッシュ・オレンジロックシード】だ。

 

 臥路もユートの重武装化は知っている為か、特に驚いた様子もなかった。

 

 カシャッ!

 

《FLESH! ORANG……》

 

 解錠すると電子音声が鳴り響いた。

 

「変身っ!」

 

 高々とロックシードを掲げると、叫びながらドライブベイへと嵌め込み……

 

《LOCK ON》

 

 ベルトへと固定するべく施錠すると再び電子音声が鳴り響く。

 

 カッティングブレードを倒し、ロックシードの前面をカットしてやった。

 

《SOIYA! FLESH ORANG ARMS HANAMICHI ON STAGE》

 

 上空からチャックが出現すると、オレンジの形をしたアーマーの塊が聖魔獣の素体を纏ったユートの頭上に降りてきて、顔を覆ったかと思えば展開していく。

 

「試合、開始い!」

 

 その掛け声と同時に臥路が前方、仮面ライダー真戦鎧武となったユートに向かって駆け出す。

 

 重武装であるが故にこそ持つジレンマ的な弱点を、スピードの低下を考えての速攻といった処だろう。

 

 橙々丸を構えたユートは普通に唐竹の一刀を防ぎ、その侭の体勢から軽く引いて臥路の攻撃を逸らすと、地面へと誘導をする。

 

「くっ!」

 

 ユートは本物の仮面ライダーよりは力任せでなく、それなりに柔軟な戦い方が可能なだけに、緒方逸真流の剣術を使って臥路の攻撃を受けたという訳だ。

 

 即刻、返す刀で臥路へと斬り付けるものの……

 

「うぬ!?」

 

 自らの危機を察知したのかバックステップで躱す。

 

「(流石は剣豪か)」

 

 実力が低ければ終わっていたであろうが、臥路なら予感だけで避ける訳だ。

 

 少しは楽しめそうだ……先の試練迷宮で始末をした男とか、雑魚そのものであったから面白味など無く、精々が見苦しく絶望を叫ぶのを観るだけだった。

 

 ガキィッ! シャキン!

 

 其処からは何合、何十合と剣を打ち合う二人。

 

 久方振りに緒方逸真流を駆使するのは本当に愉しいと感じるが、余り長引かせても冗長が過ぎよう。

 

 鈴夜との約束もある。

 

 ガギィィイッ!

 

 一際に強く打ち合った後に互いが後ろに引く。

 

「中々の実力。JAPAN国に居ればそれなりの地位を得られそうだけど?」

 

「拙者が仕えるは雫姫のみなれば、雫姫が望まれるならばその様に動くまで」

 

 彼を知らない訳でなく、ある程度は話した事もあるから事情は知っていた。

 

 鈴夜からの情報もあり、JAPAN国の小早川 雫とのある意味で駆け落ち、その事を言っている。

 

「敗けたら雫姫にとっては地獄しかないぞ? あんたが敗ければ勝者が雫姫みたいな容姿端麗な娘を放ってはおかないだろう。そうなれば彼女は生きていられるのか?」

 

 ユートが見た限りでは、雫姫は正にお姫様然とした少女であり、愛した男以外に犯されて平然と生きていられる程に強いとは思えないと考えている。

 

 単なるお姫様にそんな強さは無いだろうから。

 

「拙者が勝てば良い!」

 

「僕に勝てるとでも?」

 

「勝つまで!」

 

 刀を上段に揮う臥路。

 

 ユートはそれを受け止めると、弾く様に上へ大橙丸を斬り上げる。

 

 更に小さく円弧を描くかの如く袈裟懸けに大橙丸を振り下ろすも、だがユートの攻撃を臥路は刀で防いで横へとズレた。

 

 その所為で【継ぎの舞い】に移れなかったユート、然し更なる追撃を行う。

 

「くっ!」

 

 第六感だろう、その場に残れば斬られると感じたのだろうが、まさか別に追撃をしてくるとは読めなかったらしい。

 

 追撃の突きも何とか身を捩って躱すものの、僅かに臥路の胸と腹の間を掠めてしまい血を流した。

 

 成程、臥路は正しく剣豪であろう。

 

 刹那の刻を以て躱したのは神業にも等しい。

 

 とはいえ、ユートの剣技は更なる攻撃も可能だったのは予想外だ。

 

 それでも臥路は伸び切ったユートの腕を伝い、刀を突き出していた。

 

 左手には既に抜いていた大橙丸とはまた別の刃で、無双セイバーと云う。

 

 ガキィッ!

 

 無双セイバーの腹部にて防ぐと、ユートはバックステップで下がった。

 

 ドライブベイからロックシードを解除。

 

《LOCK OF》

 

 今度は無双セイバーへと嵌め込んだ。

 

《LOCK ON》

 

「む?」

 

《ICHI JYU HYAKU FLESH ORANG CHARGE》

 

「せやっ!」

 

 裂帛の気合いと共に振り下ろされる無双セイバー、そこからチャージされたであろうエネルギー刃が撃ち放たれ、臥路を襲う。

 

「ガハッ!」

 

 流石の臥路も同じ様に腕が伸び切り、更には行動後硬直をしていては躱す事も侭ならず、まともに喰らって壁に叩き付けられた。

 

 斬れない様に加工していなければ死んでいたであろう攻撃は、臥路がぶつかった壁に罅を入れている。

 

 そんな衝撃を諸に受けてしまっては、細身の臥路ではダメージを吸収しきれなかったか……

 

「ぐはっ!」

 

 喀血をして地面へと倒れ伏してしまう。

 

 審判が臥路の様子を見遣った後、ユートの腕を天に掲げて叫んだ。

 

「勝者、ユート!」

 

『『『『『『わあああああああああっ!』』』』』』

 

 観客からの大きな歓声。

 

 ユートは臥路に近付いて何事かを話し、満足そうに頷いて一振りの剣を渡すと踵を返して立ち去った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 臥路の控え室の扉が開き入って来たのはユート。

 

 悲し気な瞳でユートを見た雫姫は、一度顔を伏せて再び上げたと同時に立つ。

 

「臥路は…………敗けたのですね?」

 

「ああ、そうだな。僕としても敗ける訳にはいかなかったからさ」

 

「判っています」

 

 ザッ! と僅かにユートの足が動くと、ビクッ! 雫姫の肩が震えて恐怖に染まった表情となる。

 

 それでも諦めてしまったのか表情を戻した。

 

「理解してます。あの、扉を閉めて頂けますか?」

 

 ガチャン!

 

 言われた通りに扉を閉めたユートは、更に鍵までも閉めてしまう。

 

 雫姫は着ていた着物に手を掛けると、衣擦れの音を静かな室内に響かせながら帯を外し、スルリと袖部を落として肩口を覗かせた。

 

 完全に落とせば白襦袢だけになったろうが……

 

「嫌……やっぱり嫌です! お願い、私は臥路を愛しているのですっ! あの人以外と肌を合わせるなんて出来ない!」

 

 これが本来の相手なら、選択肢次第だった。

 

「君は大会に出場する際、ルールを確認したろう? シュリからも何度も確認をされた筈だ」

 

「そ、それは……」

 

「つまり、君に拒否権は……無い」

 

 絶望に顔を青褪めさせる雫姫、ユートはそんな彼女を追い詰めるが如く一歩、また一歩と歩み寄る。

 

 完全に壁にまで追いやられた雫、ユートは手で雫をベッドに押し倒した。

 

「キャッ!?」

 

 コロンとベッドの上へと転び、服装を乱れさせながら仰向けとなり、ユートは雫姫の頬へと触れながら、動けない様に覆い被さる。

 

「あ、嫌……赦して、堪忍して下さい……いや、イヤ……イヤァァァァァァァァァァァァァアアアッ!」

 

 そして一晩が経ち……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 雫姫──小早川 雫が眠っている。

 

 ユートの腕を枕代わり、胸板に頬を押し当てながら安らかな寝息を立て、然しながらその目元には一筋の涙が零れ落ちていた。

 

 それは眠るが故の無意識からくる罪悪感なのか? 雫姫の股間からは、決して彼女の身体からは出ない筈の成分で作られた液体が流れ落ち、ベッドの一部には黒ずみ掛けている赤い染みがこびり付いている。

 

 小柄な方でユートの身体にすっぽり収まっていて、白い肌は発熱からうっすらとピンクに染まっていた。

 

 情事の後だと誰が見ても明らかであり、しかも雫姫は間違いなく初めて。

 

 それはベッドのシーツを汚す赤黒い染み、股間から流れる白から透明に変わりつつある液体に混じる桃色が証明している。

 

 情事を終えてから未だに一時間と経ってはおらず、雫姫は初めて味わったその激しい感覚と疲労感故か、眠るというより気絶したに等しい感じで意識を失っていたが、ユートは物足りなかったのか目を開けて雫姫の可愛らしい寝顔を観て、先程のえっちぃ行為を思い出しながら、雫姫の太股に分身の敏感な先端部を擦り付けていた。

 

 早い話が雫姫のすべすべとした肌を用い、自慰に耽っているという訳だ。

 

 流石に眠る──気絶する──雫姫へ無理矢理に挿入して

 通常時はそんな事も無い──否、だからこそ情事を交わす時には解放全開逝っちゃえ心の全部でと謂わんばかりに、持ち得る性欲の全てをぶつけてしまう。

 

 何人も同時に相手取り、一人に対して二十回以上も濃厚に抱くユート。

 

 そう、薄い情交などではない濃厚なモノだ。

 

 回数を増やしてもそれで内容が薄くなっては意味が無いとユートは考えたし、何よりもユートは全身全霊で愛さないと気が済まないタチだった。

 

 雫姫は今夜が初めてだったからか大分、手加減をされて負担も軽減している。

 

 子宮に三回と菊門に一回と口に二回、それとサイズ的にギリギリだがお胸でも一回の合計六回。

 

 普通の行為に比べて確かに少ない回数だ。

 

 朝になってユートが雫姫の頭を撫でると……

 

「う、ん……? 朝」

 

 擽ったそうに呻きつつ、フッと目を開けた。

 

「おはよう、雫」

 

「あ、おはようございます──ユート様」

 

 雫姫は頬を朱に染めて、はにかみながらユートへと挨拶を返す。

 

 昨日の──『嫌……やっぱり嫌です! お願い、私は臥路を愛しているのですっ! あの人以外と肌を合わせるなんて出来ない!』──という科白は何処へやらと謂わんばかり。

 

 或いはユートの性技によって酔い、メロメロにでもなったのだろうか?

 

 答えは否である。

 

 本来なら好きでもなかった筈のユート、そんな相手に処女を捧げさせられて、何度も胎内に射精を受けていた雫姫が、まるで愛しい彼氏を見る様な瞳と表情で朝の挨拶を交わす。

 

 ユートには女性限定であるなら、【まつろわぬ神】でさえも上手くやったならば想いを寄せさせる権能を持っており、優しさよりもヤラシさを持ったユートにヤらないという選択肢を端から捨てていたから、雫姫の性格から抱けば自害しかねないと考えて権能を行使していた。

 

 臥路義笠戦の前に準備だけは済ませてあったが故、雫姫はあっさりと権能によって堕ちる。

 

 それが今現在の雫姫。

 

「起きたなら臥路の所へと行こうか?」

 

「は、はい。すぐに着替えますので……」

 

 立ち上がったらポタポタと股間から、未だに残っていた異物とも云える液体が零れ落ちている。

 

 恥ずかしそうに股を閉じると、着崩れた赤い和服──PC版──で何とか隠しつつバスルームに向かう。

 

 暫しの間に聞こえてくる水の音、それに紛れて雫姫の鼻歌が響いてきた。

 

 これから何処へ行って、何をするのかは知らせてあった筈だが、まるでそれが楽しみだと謂わんばかり。

 

 ややあって……

 

「お待たせしました」

 

 ほんのり微熱で上気した肢体に未だ燻る湯気が立ち上ぼり、雫姫から微かにだが良い香りが流れてユートの鼻腔を擽ってきた。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「はい」

 

 外へと出て歩く。

 

 雫姫はユートの後ろを、三歩離れて歩いていた。

 

 約十数分を進むと陣羽織を羽織る侍──臥路義笠と忍装束の女性たる鈴夜が、二人並んで立っているのが見えてくる。

 

「遅くなったな」

 

「いや、此方も先程着いた処だから気にするな」

 

「そうか」

 

 挨拶が済むと雫姫が前へと出て臥路を見遣った。

 

「姫……」

 

「臥路、今まで本当にありがとうございました」

 

 深々と頭を下げる。

 

「私はずっと臥路を我侭で振り回しました。それを思うと御詫びのしようもありません」

 

「何と言われるのか、我が忠義は姫にあります故に、お気になされぬよう」

 

「ありがとう、そしてごめんなさい。私はこの方と共に往きます。臥路は国に帰って下さいませ」

 

「それが姫の御意志なら」

 

「とはいえ、雫姫を拐かしたとされるアンタだしな。手ぶらで帰れば間違いなく処断されるな。だから」

 

 ユートはアイテムストレージから、一振りの刀を出して臥路の前に出す」

 

「餞別と雫の手切れ金代わりにやるよ」

 

「ま、まさかそれは!」

 

「当たり、叢雲だ」

 

 結局、シードも見付けられなかった叢雲だったが、ユートは先んじて手に入れていたのだ。

 

「雫より大切らしいな? こいつを持って凱旋したら赦されるだろうさ」

 

「か、忝ない」

 

 

「言ったろ? 手切れ金代わりだって……な」

 

 後は鈴夜が万事を上手く運ぶ手筈。

 

 雫姫は死んだ事にして、全く無関係な女の死体から失敬した首を使い、国中を騙す事となる。

 

 その後は神器奪還の手柄を以て再び国許に仕える身となり、鈴夜を妻に迎える事によって余計な干渉などをブロックするのだ。

 

 まあ、後は野となれ海となれ……ユートには無関係な物語を紡ぐであろう。

 

 臥路と鈴夜が闘神都市を離れていくのを見守っていた雫姫は、再び深々と頭を下げると……

 

「ごめんなさい、臥路……さようなら」

 

 一滴の涙が頬を伝う中、最後の……そして永遠たる別離の言葉を口にした。

 

 

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第15話:瑞原葉月が捧ぐ純潔

 原作的には第一部完!





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 まるで地の底から沸き出る様な怨嗟。

 

 それは世界の全てを呪うかの如く慟哭。

 

 哭けど叫べど何も変わらないし変えられない。

 

 固く閉ざされた扉の向こう側の事には最早、無関係と謂わんばかりにユートはゆっくりと、昂った分身を薄い茂みの中へと潜り込ませていく。

 

 小さく高い声が上がり、最後の最後まで分身が到達すると、声は啼き声に変化をして固く固く茂みの中が狭められ、赤い液体が隙間よりチョロチョロと流れ落ちていた。

 

 白いシーツにポタポタ、ポタポタと赤い染みが拡がっており、啼き声の主の大きく見開かれた目尻からは大粒の液体が伝う。

 

 啼き声の主は小さく言葉を紡いだ。

 

「ゴメンね、シード……」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 次は準決勝。

 

 相手はシード・カシマ、お節介焼きな少年剣士君であり、パートナーはやはり剣士らしい筋肉の付き方をした金髪女性、セレーナ・ブレイズだった。

 

 年齢的に見ても場数を踏んでいそうだが、間違いなく非処女だと思われる。

 

 別にユートは処女厨ではないから、相手の貞操に関してはどうでも良い。

 

 寧ろ処女だと面倒もあったし、加減してしまうから欲求不満になるのだから、セレーナ辺りを相手にして其処らの鬱憤を晴らしておきたかった。

 

 未亡人も平気で喰ってる辺り、其処らに拘りみたいなものは無さそうである。

 

 セレーナなら処女でない以上、無理矢理に出来ない事をやらせでもしなければ痛がらない筈で、自分の中で好きでもない相手にヤられても折り合いは付けられるだろう。

 

 楽しみな事だ。

 

 ユートは先程から喘ぎ声や啼き声を聞きながらも、既にシード戦で勝利をした後にあるセレーナとの情事に思いを馳せていた。

 

 ベッドの上、寝転がっているユートの腰の上では、ユーキが激しく腰を振っていたし、羽純と雫姫が手で秘所を弄くられている。

 

 所謂、4Pな状態な為に然して丈夫だとは云えないベッドが軋んでいた。

 

 尚、羽純と雫姫の身柄はユートが引き取っている。

 

 敗けた際に支払うお金はユートが出したのだから、誰憚る事もなく二人の身柄を押さえられたのだ。

 

 クライアの額には未だに〝赤い〟宝石が付いてて、即ち彼女が処女である事を示している。

 

 ユートもクライアみたいな純朴な娘さんに、軽々しく手を出すのは憚られた。

 

 まあ、アーシアにだって最終的には手を付けたのだから、クライアが相手でも時間の問題だろうが……

 

 それ故に、クライアは隣の部屋で寝ている。

 

 スワティは同じ部屋に居るが情事に参加してなく、隅っこの方で顔を真っ赤に染めながら観ていた。

 

 自分が混ざるのは流石に憚るが、セッスに対して興味津々なだけに『きやるーん! 凄いです!』とか口にしながらガン見だ。

 

 情事を始めてから数時間が経過して、漸くフィニッシュとばかりにユーキの中へと白い欲望の塊を放ち、性欲を落ち着かせる。

 

 因みに、羽純と雫姫……二人はとっくにダウンして意識を手放していた。

 

 体力に自信のあるユーキだからこそ、最後まで奉仕を続けられたのである。

 

「うわ、タプタプだ〜」

 

 入り切らない欲望の残滓が零れていくのを見遣り、それを指で掬い取りながら呟くユーキ。

 

 表情は先程のオーガズムの影響からか、恍惚としていてエロいものがあって、下手をするとまたぞろ分身が屹立してきそうになる。

 

「あれ、また勃ってるよ? 兄貴ってばもう……仕方がないなぁ」

 

 してきそうになる……というか既に勃っていた。

 

 そんなユートの分身へ、ユーキは口を大きく開くと徐々に顔を近付ける。

 

 それから二十分かそこらが経ち、結局は三回もヌいてしまったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ラグナード迷宮の五層目──黄金の時代。

 

 白銀の時代より更に強力なモンスターが現れるが、新しく可愛いらしい女の子モンスターも現れていて、ユートは通常モンスターは地獄に落とし、女の子モンスターは天国に逝かせた。

 

 女の子モンスターカードも当然ながら増えていて、戦いにも幅が広がっていくのが解る。

 

 とはいえ、第一層の向かって右側に折れた場所から降りられる黄金の時代にも女の子モンスターが現れ、その際に『戴きます』したのも居るし、第二フロアにまで行かねばならなかった訳だが……

 

 へびさんとやぎさん──タイプの違う女の子モンスターだったが、大変に美味しく戴きましたとさ。

 

 昨夜はあれだけハッスルしておきながら、まるっきり甘い物は別腹だとでも謂わんばかりに抱くユート。

 

 他にも、アーシーという占い師の少女から頼み事をされており、それらを叶えてやった後に強力な水晶球を上げると、アーシーから感謝をされて占いでもしたのか、ユートが望みそうな事を既に察していて、頬を朱に染めながら一緒に宿屋へと向かう。

 

 ユート的にはこんな役得でもなければやってられない訳で、好きなだけ欲望を吐き出していた。

 

 休憩がてら部屋に戻った際にユーキが質問する。

 

「そういえばさ、臥路に渡した雫の代わりの首って、いったい誰?」

 

「うん? レイヌって女」

 

「レイヌ? えっと、それって誰だっけ?」

 

「盗賊団に所属していたらしいけど、資格迷宮で僕を襲った男のパートナーだ」

 

「ふ〜ん、なら良いかな。兄貴に仇為す輩は死んじゃえば良いからね」

 

 相も変わらず、ユートへの偏愛振りが凄い。

 

 ユートはレイヌの事を特に知らないが、彼女も本当は好きで盗賊をしていたりザビエルのパートナーをしたりしていた訳ではない。

 

 力無い少女が盗賊の中で生きるなら強かにならなければならなかったろうし、それこそ文字通り肢体を張って媚びを売らなければならなかったであろう。

 

 だけどそんな事情を知らないユートからしたなら、ザビエルのパートナーであると知られ、更にザビエルを返り討ちにした張本人に助かる為とはいえ、媚びを売ってくる様は嫌悪感しか懐かせなかった。

 

 レイヌも、もう少し慎重に事を運べば行き長らえたかも知れないが、選択肢を誤ってしまったが故にか、犯された後に首をコロンと落とされてしまう。

 

 そう、せめて自分がこうなった理由を真摯に話せば生命だけは喪わずに済んで生きていられたが、レイヌはあろう事か媚びを売って助かろうとしたのだから。

 

 最後の慈悲の心算なのかどうか定かでなかったが、イッたと同時に首を一撃で落とされた為、ザビエルとは違って苦しむ事もなかったという事が、せめてもの救いだろうか?

 

 どちらにせよ、ユートの識らない原典ではシードにちょっかいを掛けたのが、この世界ではユートだったのが二人の災いとなる。

 

 ザビエルは痛覚を敏感にされ生きた侭でモンスターに喰われ、原典では生き残る筈のレイヌも死んだ。

 

 それがザビエル&レイヌのコンビの末路だった。

 

 シード・カシマだけど、角を持つ褐色肌なプルマを成仏というか昇天をさせた少女──咲夜と何故なのかデートをしたりしてたが、ユートにはどうでも良い。

 

 本来の世界線でザビエルとの対戦があったシード、ザビエルやレイヌに散々っぱら絡まれた筈だったが、既に二人共が存命していなかったが故に、特にイベントらしいイベントも起きてはいなかったと云う。

 

 そして翌日……

 

 闘神フェスティバルという御祭りが開催された。

 

 フェスティバル、それは則ち御祭りの事である。

 

 闘神フェスティバルとは早い話が、闘神大会中にて催される派手な御祭り。

 

 準決勝を前に控えているのを期に、この闘神都市では屋台などが建ち並ぶ祭典と化していた。

 

「あ、これ美味しそう」

 

「まあ、これなんて甘そうですよ?」

 

「辛美味ぁ!」

 

「きゃるーん! 一杯、食べますよ!」

 

「美味しい……」

 

 羽純・フラメルが屋台を覗き、小早川 雫はまた別の屋台を見ており、ユーキは買った物を既に口にし、スワティははりきって物色をしていて、クライアとてフードで顔が見えない様に隠しているが愉しそうだ。

 

 闘神フェスティバルを開催している最中は、どっち道ラグナード迷宮に入る事は許可されていない。

 

 よって、ユートは皆を連れて闘神フェスティバルを楽しんでいた。

 

 午前中はユーキ達と見て回り、午後からは珍しくも連絡が着いた狼摩白夜とのデートが予定されている。

 

 何と云うか、面倒な依頼を受けているとはいえど、それなりに楽しんでいるといった風情だ。

 

 そもそもユートはわざわざラグナード迷宮で修業をする必要は無く、いつもは迷宮に篭るのも暇潰しにも等しい事で、後は女の子モンスターとの情事の為という爛れた目的。

 

 ユートにしてみたなら、仮面ライダーのシステムを調整したり実験したりするのも謂わば暇潰し。

 

 対戦相手を舐めている訳ではないから、情報収集も兼ねての探査行だった。

 

 これというのも、娯楽が極端に少ないこの世界では楽しめる場所など迷宮での殺伐としたモンスター退治くらいで、他に何か有るとしたら夜の闘神ダイジェストを観るくらいか。

 

 他にやるべき事も無く、結局は女の子とイチャイチャするのが一番の楽しみとなり、白夜との連絡が着かなければそれこそフェスティバル中は宿屋でユーキ達とのセッ○ス三昧、夜中の時間しか出来なかった事を朝っぱらから翌日の夜中に掛けて十数時間をヤり放題だった筈だ。

 

 今現在、健全にフェスティバルを楽しんでるのも、白夜とのデートを楽しみにしてるからに他ならない。

 

 まあ、ユーキ達と遊ぶのもそれなりに愉しくなってはきていたし、今は悪くないとも考えてはいるが……

 

「ねえ兄貴、お金は大丈夫かな? 賭けで可成り稼いだけど、それでも羽純と雫の強制労働免除金で大幅に減ったよね?」

 

「まだまだ余裕だ。これならもう一人くらい平気で引き取れるな。勿論、フェスティバルに使う程度は全く問題が無い」

 

「そ、なら良かったよ」

 

 ユートはユーキに命じ、闘神大会みたいな大型大会などに有りがちな賭けを行っており、既に的中率百パーセントで数百万を稼ぎ出していた。

 

 賭け自体はそもそも市長が胴元に等しく、ある意味では健全なものだから普通に稼げている。

 

 ユートは羽純・フラメルと小早川 雫を引き取る為の免除金にこれを使って、二人が強制労役に就かない様にしておいた。

 

 ユーキは自分の持った考えが杞憂と知り、再び買い食いに精を出し始める。

 

 それを微笑ましく見守りながら、ユートも空きっ腹を満たすべく追った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 午後になって、ユートはユーキ達に小遣いを渡して自分は白夜との待ち合わせ場所へと向かう。

 

 現在、広場は人でごった返しているから待ち合わせには相応しくないし、人の少ない場所という事もあって闘神の館の前となる。

 

 暫し待っていると和服姿な白夜が駆けてきた。

 

「ゆ、優斗様! 御待たせして申し訳ありません!」

 ハァハァと肩で息を吐きながら言う白夜に……

 

「大丈夫、此方も今来た処だからさ」

 

 などと、テンプレな科白を言ってみた。

 

「クスクス」

 

「何?」

 

「いえ、お気遣いをありがとうございます」

 

 突然笑う白夜に対して、訝しむユートだったが白夜はすぐに襟を正し、微笑みに変え答えたものだった。

 

 デートらしく腕を組み、白夜は幸せそうな顔で寄り添っている。

 

「二回戦以降は御会いしていませんでしたが、三回戦め観ていました。勝利……おめでとうございます」

 

「ありがとう」

 

「にしても、早々と鎧武系仮面ライダーを出してきましたね。鎧武と少し色合いとかが異なりましたけど、あれは?」

 

「フレッシュオレンジロックシード。仮面ライダーの名前は【仮面ライダー真戦鎧武】だよ。新鮮(フレッシュ)と真戦を掛けた」

 

「成程……」

 

 ちょっと微笑ましく感じたらしいく、白夜は口元を手で隠しつつ笑みをうかべるが、名前の付け方が面白かったのかも知れない。

 

「そっちこそ、アギトの方はどんな塩梅だ?」

 

「重宝しています。何しろバカ兄がバカの癖に悪知恵を働かせて、バカみたいな行動を取ってくれまして、今は通常の迷宮ではなくて地獄層なんです。行き成り敵が強くなって、バカ兄はニャル子っぽいのから貰った転生特典で無双していますが、仮面ライダーマリカの侭ではきつくなっていたかも知れません」

 

「基本スペックはマリカの方が高くなかったか?」

 

「ラグナード迷宮で戦っている優斗様には釈迦に説法でしょうが、モンスターには属性が有りますからね。無属性なマリカより、風と炎と地の力に加え光の権化たるシャイニングフォームも有ります。水と闇以外の弱点を突ける方が最終的にダメージが高いので」

 

「そういう事か」

 

 モンスターには得意属性と弱点属性を持つモノが多く存在し、それを突いたら相対的に何倍もの戦力を得たにも等しくなる。

 

 フォームチェンジしたり強化変身が可能なアギトであれば、その弱点を突き易くなるのがマリカより優れている点だった。

 

 それにしても仮にも兄をバカバカと連呼する辺り、白夜の狼摩優世に対する怒りは凄まじいらしい。

 

 それでも未だに兄としての意識は有るのか、今生に於いて襲われた事は基本的に無いのが救いか?

 

「使えているなら良いよ。一応はピーチエナジーロックシードとゲネシスドライバーは返しておく」

 

「別に宜しかったのに? 私はオルタリングだけでも良いですし」

 

「コピーも造ったからね。問題は無いよ」

 

「判りました」

 

 白夜はユートから二つのツールを受け取る。

 

「それにしても、大会中に御会い出来てデートまでしているのに、殺伐としている会話ですね」

 

「それは……確かに頂けないかな? こんな美少女を前にデリカシーが無かったかも知れない」

 

「び、美少女……」

 

 自覚はあるが、ユートに言われると嬉しさ一入だ。

 

 ギュッと自分の大きな胸にユートの腕を沈ませて、自身はユートから漂ってくる体臭や、腕や肩から感じる温もりを堪能していた。

 

 ユートは前世、ハルケギニア時代に白亜を連れ帰った際に請われて白夜達を抱いた訳だが、その時の肢体を思い出してゴクリと喉を鳴らしてしまう。

 

 嘗ては抱いたとはいえ、今の白夜は転生者となって処女な訳で、記憶的になら兎も角として肉体的には未だに誰も汚してない肢体、白夜の様子からならユートが望めばアッサリと処女を捧げてくれるだろうから、思わず宿屋に連れ込みたい衝動に駆られた。

 

「わ、私が欲しいですか? 優斗様……」

 

「そりゃ……ね」

 

「フフ、嬉しいです」

 

 大事にされるのも良い、だけど女の子にも性欲は有るのだし、好きな──愛してさえいる男になら良いと云えるのだ。

 

 だからこそ……

 

「良いですよ? 優斗様にならいつでも捧げます」

 

「──白夜?」

 

 不安そうな表情、それは拒絶を考えてのものとは違う気がした。

 

 それは恐怖と哀しみ。

 

 そして縋る様な瞳。

 

「宿屋に行こうか」

 

「はい……」

 

 寝物語に話して貰おう、ユートはそう考える。

 

 フェスティバルが開催されて人々が熱狂してる中、ユートと白夜の姿が徐々に雑踏の奥へと消えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 闘神フェスティバルから翌日、闘神大会も通常運行と相成っており、準決勝の準備が進められていた。

 

 準決勝はボーダー・ガロアに勝利したシード・カシマと、臥路義笠に勝利したユートの対戦。

 

 もう一組はよく知らない誰かと、シードとは同門の先輩に当たるビルナス。

 

 まあ、ビルナスは間違いなく決勝に上がるだろうと誰もが思っていたのだが、鉄板の優勝候補の名に偽りもなく、決勝進出!

 

 準決勝第二試合となるはユートVSシード。

 

 コロシアムに颯爽登場、ユートはこれまでの戦いとその後の顛末を思う。

 

 ケイジン・カーターというプロレスラー、パートナーのアンドラ・くじらという少女は押し掛けマネージャーらしいが、自らも多少の心得があるらしく足腰にキレがあり、ユートの分身をギューギュー挟み込んで楽しませてくれた。

 

 第二回戦の勇者ミリオ、彼の敵への見通しの甘さが故にクライアがピンチになってしまう。

 

 パートナーは魔術師でもあるミリオの相棒クレリアであり、年齢もミリオと変わらないから魔法で大人の姿になって御相手を願う。

 

 気絶したら子供に戻り、端から視ると可成り危険な場面だったり。

 

 第三回戦はカムイ・ゴウという転生者、パートナーはこの世界のパラレルワールドから連れて来られてしまった羽純・フラメル。

 

 カムイ・ゴウの毒牙に、ずっと掛かり続けたからか心が停止状態だったが故、権能で元の状態に戻す。

 

 今はユートの分身を受け容れるのも御手の物。

 

 昨夜も楽しませて貰い、今頃は夢の中だろう。

 

 第四回戦、臥路義笠との対戦では仮面ライダー真戦鎧武の力で戦った。

 

 パートナーはJAPAN国の姫、小早川 雫。

 

 精神的に強いと云えず、ヤれば翌日には冷たくなっていそうで、権能を用いてある意味で虜にした。

 

 現在は臥路義笠とも離れており、ユートの閨で嬉しそうに腰を振っている。

 

 彼女も羽純と同じく今頃はベッドで夢の中。

 

 ユーキ程に体力は無いから仕方がない。

 

 そして第五回戦目となる準決勝、目の前にはシード・カシマの姿が在った。

 

 ラグナード迷宮・第五層たる黄金の時代、シードは此処で修業を頑張っていたと云うが、ユートは女の子モンスター二体を捕まえてからは行っていないから、そこら辺はよく知らない。

 

「よく準決勝まで残れた。最初に会った時の見立てでは三回戦を勝ち抜くのも難しいと思ったが、それなりの伸び代はあった訳だ」

 

「俺は敗ける訳にはいかないんだ!」

 

「そうか……さて、此処で提案がある」

 

「提案?」

 

「今すぐ棄権しろ」

 

「は、ハァ?」

 

 訝しい表情となるシードだが、ユートはハッキリ・キッパリと大真面目だ。

 

「棄権したら君のパートナーにも、君の大切な娘にも手は出さないと誓おう」

 

「な、何を言ってんだよ!

 まるでアンタが勝つのが当たり前みたいに!」

 

「勝つよ、準決勝だけでなく決勝戦も……ね」

 

「ふ、巫山戯んなよっ! 俺は闘神大会に優勝しなきゃならないんだ! そして葉月と結婚する、そう葉月と約束したんだからな!」

 

「そうか、戦うというのならば容赦はしない。君にも君のパートナーに対しても……君の大切な娘にもな」

 

「葉月は俺が護る!」

 

 ユートの言葉に激昂するシードだが、彼は気が付いてはいなかった。

 

 真に護りたいのならば、ユートの言葉に従って棄権をするべきである……と。

 

「龍のコーナーより、剣舞のユート!」

 

『『『『『ワァァァァァァァァァァッ!』』』』』

 

 ユートの剣捌きが舞うかの如くから、二つ名として【剣舞】が定着している。

 

「虎のコーナー、シード」

 

『『『『『ワァァァァァァァァァァッ!』』』』』

 

 二つ名は特に無い。

 

「始め!」

 

 シュリの開始の合図を受けて、血の気に逸っていたシードが剣を構えて真っ直ぐに飛び出す。

 

 ユートもまたブレイラウザーを抜き放つと、それに併せる様に攻撃を捌いた。

 

 剣と剣……金属同士がぶつかり合って、甲高い音がコロシアム中に響く。

 

 ユートも使っているが、シードも女の子モンスターから得られるギフトを使える為、それなりには打ち合えていた。

 

 例えばラルカットから得られる【ツバメ返し】で、速攻の二度斬りが発生するが故に、ユートでさえ躱すのに集中力を必要とする。

 

 とはいえ、やはりシードとは地力が離れているし、脅威には感じていない。

 

 理不尽なまでのギフトといえど、使い手に地力差があっては意味が無かった。

 

 ラルカットにはラルカットをぶつけて相殺したし、きゃんきゃんのガードアップにはうし使いのガードダウン斬りが有効だ。

 

 しかも、シードが一度に扱えるカードには限りがあるらしく、八枚以上は使ってはこなかった。

 

 ガールズギフトとかいう技は特に制限も無いみたいではあるが、本来なら得られた筈のギフトを持たず、少し先に得られるギフトを手に入れていた。

 

 然しながら、そのギフトは【黒の剣】という闇属性の剣撃で、ユートには全く意味の無い攻撃。

 

 前回、第四回戦でシードが戦ったボーダー・ガロアのパートナー、レイチェル・ママレーラから獲たのだろうが運の無い話だ。

 

「どうやらそちらは進退も窮まったな」

 

「くっ、まだだ!」

 

 全ての攻撃を往なされ、確かに〝最後の切り札〟しか残っていない。

 

 ユートはブレイラウザーにカードをラウズ。

 

《BEAT》

 

 スペードスートのカテゴリー3……ビート・ライオンによる拳の強化により、ユートの拳が燃えるかの如く煌めきを放つ。

 

「はっ!」

 

「ゴフッ!?」

 

 所謂、腹パンで吹き飛ばされてしまうシードだが、何とか身体を捻って体勢を立て直しながらスリップ、地面との摩擦で留まった。

 

「くそっ!」

 

 悪態を吐くシードだが、ユートの行動に青褪める。

 

《THUNDER》

 

《KICK》

 

《MACH》

 

 シードが動きを制限されている間にトレイを開き、三枚のラウズカードを抜き出してラウズしたのだ。

 

《LIGHTNING SONIC》

 

「は、はやっ!」

 

 高速移動から雷を足に纏って蹴りを放つコンボ技、ライトニング・ソニックが放たれ……

 

「ガハッッッ!」

 

 威力自体はセーブされてはいても、破壊力は抜群な攻撃を躱せず防げず防御も叶わなかった為、まともに喰らったシードは壁までも吹き飛び、ぶつかった壁に罅を入れてしまう。

 

 動けないシードは何とか身体を捩るが……

 

「あ、葉……月……」

 

 その侭、ガクリと意識を手放してしまった。

 

「勝者、ユート!」

 

 シュリが高らかにユートの勝利を宣言。

 

『『『『『ワァァァァァァァァァァァッ!』』』』』

 

 此処に決勝戦進出の雄が出揃ったのである。

 

 シード・カシマの闘神大会が終わりを告げ、そんな元凶たるユートはシードの控え室へと向かう。

 

 扉を開け放つと金髪碧眼のお姉さんが座っており、扉が開く=シードの敗北を知ったからか……

 

「ハァ、シード君は敗けちゃった訳ね?」

 

 小さく溜息を吐きながら訊ねてきた。

 

「ああ、シード・カシマは出会った当初に比べれば、確かに強くなっていたけどあれじゃ負けてやれない」

 

「そう……」

 

 そもそも、この世界では成長限界というのがあり、シードは初めからユートに敵う程の実力にならない。

 

 成長限界を越えるには、劇的な変化がなければどうしようもなく、定められた実力を如何に使うかが後々の課題でもある。

 

 いずれにせよ、ユートには関係の無い話だが……

 

「じゃ、早速ヤろうか?」

 

「そんなにがっつかなくても解っているわ」

 

「がっついている心算なんて無いさ。取り敢えず今晩はたっぷり楽しませて貰うだけだからね」

 

 後にセレーナは言う。

 

『どういう体力と性欲?』

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ラグナード迷宮の六層、神の時代に降りたユート。

 

 正直、今更こんな迷宮に潜る意味は女の子モンスター以外に見出だせないが、それでも一度くらいはその女の子モンスターを手に入れる為、行ってみるしかないのが現状だ。

 

 まあ、女の子モンスターに関しては割と簡単に見付けられたし、簡単に堕とす事に成功をした。

 

 どうも、女の子モンスター独自の情報網が在ったらしく、ユートの噂も普通に出回っており、寧ろ積極的に現れたのは以外である。

 

 海の幸みたいな怖がりは兎も角、そうでない女の子モンスターは興味津々であったらしい。

 

 普通なら人間の男の精液は毒にしかならないのに、ユートに抱かれても死ぬ事など無い上、カード化されなかった女の子モンスター達は夢見心地だった。

 

 モンスターだとはいえ、性欲が皆無ではないからか其処で興味を惹いた様だ。

 

 それは良いとして、この神の時代のトラップはある意味で悪辣なモノ。

 

 親しい人間の姿を借りたモンスターに、心を傷付けさせて攻撃をすると云う。

 

 だが然し……

 

『ギャァァァァァアアッ! 莫迦な……仮に偽物だと判っていてもこうも容易く攻撃をするとは? 貴様に情は無いのかぁぁぁっ!』

 

 ユーキの姿をしたモンスターの心臓を抉るユート、血を吐きながらモンスターは怒鳴ってくる。

 

「莫迦め、どれだけの時間を僕がユーキと過ごしていたと思う? 偽物風情に騙されないし、その姿は不快でしかない! 消えろ!」

 

『グギャァァァァッ!』

 

 消滅するモンスター。

 

「貴様の様な輩は珍しくもない。例えば、海皇ポセイドンの海将軍・リュムナデスのカーサとか……な」

 

 冷たい蔑む様な視線も、既に外したユートはさっさと神の時代をクリアした。

 

 たったの一日、神の時代に掛けた時間はそれだけ。

 

 決勝戦までに残った日数は適当に潰し、そして遂に闘神大会決勝戦の当日……

 

 コロシアムには対戦相手のビルナスが立ち、腕を組んでユートを待ち構える。

 

 現れたユートをビルナスは睨み付けた。

 

「シードを倒すとはな」

 

「それなりに強かったが、それじゃ僕には届かない。勿論、ビルナス……アンタも例外じゃないさ」

 

「ならば見せてみろ、我が名はビルナス。瑞原道場の名誉に懸けてお前を倒してみせる!」

 

 言うが早いか、ビルナスは両腰に佩いた二刀を抜き放って構える。

 

「始め!」

 

 シュリによる開始の合図と同時に二人は駆けた。

 

 ガキィィィィッ!

 

 ビルナスがクロスをした二刀の上段から、ユートは妙法村正で叩き伏す。

 

「ヌウッ!」

 

 強面なビルナスの表情であるが、ユートからの一撃を防いで更に泣く子も黙る凶暴さとなった。

 

「ハッ!」

 

 更に力を込めたビルナスはユートを弾く。

 

 空中に投げ出されてしまったユートに追撃を掛け、二刀流を以て強烈な衝撃波を放ったが、虚空瞬動によって空を駆けて避ける。

 

 避けた瞬間、再び空を蹴り上げて高速でビルナスに近付くと、ユートは横薙ぎ一閃で斬り付けた。

 

「クッ!」

 

 左手の剣で防ぐビルナスだったが、衝撃が強く手が痺れてしまう。

 

「ふーん、成程ね。魔力による強化や氣による強化は当たり前と知ってたけど、これはちょっと小宇宙無しの闘いなんかもやり直さないと駄目かな?」

 

 最近は小宇宙に頼る闘い方が多く、それが使えない状況でのブランクが長く、ビルナスの相手はシード程に簡単ではない。

 

 今回は変身をしていないにしても、ビルナスの実力は大したものだ。

 

 普通の人間にしては。

 

 ガキィッ! ガン!

 

 剣舞と呼ばしめる舞い、ビルナスはそれに翻弄をされている。

 

 一進一退の妙か、だけどユートもそろそろ動いた。

 

「緒方逸真流・【旋舞】」

 

 本来は多対一の戦闘に用いる剣技だが、一対一でもきちんと応用が利く。

 

 独楽の如く周り舞いながら剣によって斬り付ける、周囲に敵が居たなら全てを斬り刻むだろう。

 

 ビルナスも生身で受ける訳にはいかず、両手の二刀によってガードしていた。

 

「ウヌゥゥ!」

 

 ビルナスはやはり強いとユートは感じている。

 

 シードも強かったとは思うのだが、それでも彼には及ばないのではないか?

 

 それが素直な感想。

 

 とはいえ、正史に於いて普通はシードがビルナスを降して勝利した。

 

 ならば何故、シードの方がビルナスより弱いか?

 

 それはシードが勝てたのは決勝戦だったからに他ならない、決勝戦に向かう前にラグナード迷宮の第六層をクリアして、葉月からは瑞原道場の奥義の一つたる【瑞原・天の剣】を伝授されていた。

 

 レベルも可成り上がっていた事を考慮に入れれば、ギリギリだったのではあろうが、ビルナスを相手にして勝利を収められたのだ。

 

 準決勝では正史に比べて遥かに弱く、その時点ではシードが剣士としてはある程度完成されたビルナスに勝つのは不可能。

 

 そして仮に正史のシードでも……

 

「僕には勝てないよ!」

 

 フッと姿が消える。

 

「なっ!?」

 

 刹那、百にも及ぶ斬撃がビルナスに叩き込まれた。

 

「勝者、ユート!?」

 

 行き成りな事に驚愕をしたのか、疑問符付きで勝利を宣言するシュリ。

 

 そう、ビルナスは意識を失って立った侭で気絶をしていたのである。

 

 嘗て、ハルケギニアでのアルビオン戦役に於いて、緒方白亜がユートに対して使った亜光速移動。

 

 昔は出来なかったこれも今なら可能である。

 

「今、此処に! 新たなる闘神の誕生ですっっ!」

 

『『『『『『ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』』』』』』

 

 闘神大会開始から半月を越え、遂に新闘神が誕生した事実に観客は皆が一様に沸き上がるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートが葉月の居るであろう、ビルナスの控え室に入った直後の事……

 

「ヤメロ! 葉月に、葉月に手を出すなぁぁっ!」

 

 ドンドンッ! 両手で扉を叩くシードの姿が。

 

 ビルナスが敗れたという事は、彼のパートナーである瑞原葉月は一年間の闘神都市での奉仕が義務付けられるという事で、何よりも今夜一晩の間は勝利者にして闘神となったユートが、殺す以外なら好きに出来るという事でもある。

 

 敗者でしかないシードにそれを止める権限は無く、扉の向こうで考えたくもない出来事が起きようとも、叫ぶくらいしか出来ない。

 

 両手から血を流しつつ、涙に濡れた顔で絶望しか見えない表情、大好きで結婚をしたかったから強くなろうとしたシード、だが然し結果はその大好きな子を今正に奪われようとしても、手出しが出来ない現実。

 

 強固な扉はシードが殴り付け様が、斬り付け様が、魔法を放とうがビクともしないのだから。

 

「ああ、遂に葉月の胎内に挿入っちゃったな〜」

 

 煽る様に言うユーキ。

 

 臥路の場合は忠義が先立った為、あの時点では雫姫の一方通行だった。

 

 が、まだ認められていなかったとはいえ一応は恋人同士だったシードと葉月、これは完全に俗にNTRと呼ばれる行為。

 

「嗚呼ぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

 

 愛する少女が自分と違う男のモノで女にされた……壁に阻まれた僅か数メートル先で、絶望が絶望に上塗りされてシードは心胆から声ならぬ叫び聲を上げた、血の涙を流しながら。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 まるで地の底から沸き出る様な怨嗟。

 

 それは世界の全てを呪うかの如く慟哭。

 

 哭けど叫べど何も変わらないし変えられない。

 

 固く閉ざされた扉の向こう側の事には最早、無関係と謂わんばかりにユートはゆっくりと、昂った分身を薄い茂みの中へと潜り込ませていく。

 

 小さく高い声が上がり、最後の最後まで分身が到達すると、声は啼き声に変化をして固く固く茂みの中が狭められ、赤い液体が隙間よりチョロチョロと流れ落ちていた。

 

 白いシーツにポタポタ、ポタポタと赤い染みが拡がっており、啼き声の主の大きく見開かれた目尻からは大粒の液体が伝う。

 

 啼き声の主は小さく言葉を紡いだ。

 

「ゴメンね、シード……」

 

 葉月は自分の膣内へキツそうに入り込んだユートの分身の長さ、太さ、固さ、熱さをかんじつつ、初めての痛みと相手がシードじゃない現実に涙を流しながら呟き……

 

「さようなら」

 

 別離の言葉を口にした。

 

 

.




 そして第二部が始まる。




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第16話:天使喰いの帰還

 噺的には第二部です。





.

 翌朝、眠る葉月を取り敢えずベッドに置いた侭で、ユートは服を着替えて扉を開くと外へ出る。

 

 其処にはニコニコ笑顔なユーキと、渋い表情となったビルナスが立っていた。

 

「どうした?」

 

「葉月お嬢様は?」

 

「寝ているけど」

 

「……そうか」

 

 ビルナスの質問は真っ当といえば真っ当。

 

 大事な瑞原道場の息女、瑞原葉月はビルナスが護るべき対象なのだから。

 

「シードはどうした?」

 

「暴れまくったからねぇ、闘神都市を追い出された」

 

 クスクスと笑いながら、ユーキは答える。

 

 余りにも余りな暴れっぷりに、持て余したスタッフがどうも闘神都市から追放したらしい。

 

「で? 葉月の味はどうだったのさ?」

 

「行き成りナニを訊いてくるかな、ユーキは」

 

「だって、気になるし」

 

「ま、剣士らしい肉付きだったからね。足腰も鍛えていたんだろう、膣内の締まり具合は良かったよ。初めてなのも相俟って可成りの良さだったからさ」

 

「ほうほう?」

 

 咥え込んで放さないといった感じで、ユートの敏感な部位を擦ってくれた。

 

 そんな猥談を聞いていたビルナスの表情は固い。

 

 本来ならそんな事にならない様に警護をしていたというのに、闘神大会に於けるルールだったとはいえ、〝葉月お嬢様〟の純潔の花をむざむざと散らされてしまったのだから。

 

 そう考えると殺意冴えも沸いてくる。

 

「あれ、ビルナス?」

 

 ピンクのバスローブに身を包んだ葉月が顔を出し、ビルナスの姿を見付けた。

 

「葉月お嬢様! 大丈夫なのですか?」

 

「ん、何が? お股がまだジクジクと痛むけど、ボク自身は特に何とも無いよ」

 

 顔を赤らめているのは、処女喪失という事実による羞恥心だ。

 

 昨夜の行為で自身の初めてを捧げた、それを思い出して身を捩っている。

 

 ビルナスはそんな葉月から違和感を感じていた。

 

 あの態度、まるでシード──愛する男に抱かれたかの如くではなかろうか?

 

「そういえばシードは?」

 

「シードは……彼が控え室に入ってからずっと暴れていた為、闘神都市を追放されてしまいました」

 

「そっか。ちゃんとお別れを言えなかったのは残念」

 

「いえ、強制労働免除金は用意しております。帰ればシードにも会えましょう」

 

「うん? ボクは残るよ。免除金はセレーナさんに使って上げて」

 

「──は?」

 

 信じられない事を聞かされて、ビルナスは間抜けた声で面喰らう。

 

「シードに伝えて。ボクの事はもう忘れて、違う幸せを見付けてね? って」

 

「お、お嬢様!?」

 

「あ、ボクの事は大丈夫。ユートが面倒を見てくれるんだもん……ね?」

 

「まあね」

 

 葉月からの確認に肯定の意を返すユート。

 

 何が何やら解らないが、少なくとも葉月の心の中にシードは居ない事だけは、朴念人なビルナスにも辛うじて理解が及ぶ。

 

「大切な幼馴染みだもん、ちゃんとシードが幸せを掴めると良いな」

 

 今も大事に想っているのは確かな様だが、明らかにベクトルが異なっていた。

 

 とはいえ……

 

「お嬢様の言葉、シードへ確かに伝えましょう」

 

 葉月についてはユートに任せる他ない、それならばセレーナを解放して葉月の言葉をシードに伝える為、闘神都市を出るしかないと考えるビルナスだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ビルナスと別れたユート一行は、宿泊している宿屋に一旦戻って来ている。

 

 闘神大会にて優勝をした闘神ユートは、闘神都市の市長であるアプロスに呼ばれていた為、葉月を宿屋に置いて来ねばならない。

 

「増えたねぇ」

 

 宿屋の一室に居るのは、瑞原葉月とサラスワティ、クライア・カラー、羽純・フラメル、小早川 雫だ。

 

 クライアとスワティ以外の三人は、ユートが大会で勝った後に身請けした娘であるが故に、身請け金を払わねば解放はされない。

 

 尤も、三人はユートから権能を受けているからか、もう離れる気は無い筈。

 

「それじゃあ、闘神の僕とパートナーのユーキは市長に呼ばれてるから行くよ。君らは暫く宿屋で待っていて欲しい」

 

「「「「「はい」」」」」

 

 五人が素直に頷いたのを見て、ユートは満足そうに微笑むとユーキを連れて、アプロス市長の居るであろう闘神の館へと向かう。

 

 その間、ユーキと今後についての話をしていた。

 

「つまりはだ、市長であるアプロスが敵なのか?」

 

「多分ね。もう余り憶えてないんだけど、羽純が居た世界──闘神都市Ⅲ世界でも確か闘神大会の開催者がそうだったし、彼の擁する闘神が軒並み敵対してきた……と思う。ナクト・ラグナードの大切な女性であるレメディア・カラーも操られて、父親のレグルス・ラグナードも同じくだよ」

 

「若し前作を踏襲してるとしたら、前作に当たるだろうこの世界も同じ可能性があるって訳か」

 

「そういう事だねぇ」

 

 元よりエロゲ自体を殆んどしてなかったユートは、闘神都市シリーズも全く以て識らない。

 

 故にこそ、こうして情報を集めている訳だ。

 

「まあ、敵なら敵でやり様なんか幾らでもあるかな」

 

 臨機応変にやっていく、それがユートの答え。

 

 その後、闘神の館に着いた二人は黒髪眼鏡なメイドであるのぞみに連れられ、アプロスの居る間へと……

 

「よくぞ居らして下さいました、新たなる闘神であるユート様」

 

 其処でアプロスから熱烈な歓迎を受ける。

 

「さあさ、此方へ。御粗末ながら食事も御用意させて頂きました。賞金など受け渡しもありますが、まずはユート様が優勝した宴にて語り合いましょう。勿論、パートナーのユーキさんも御一緒に」

 

 御機嫌な様子でユートとユーキを宴に招くアプロスだが、ユーキの推測が正しいのならこの辺りで某かを仕掛けてくる筈と、ユートはそう考えて口角を吊り上げると……

 

「では市長、僕の為に催してくれた宴を楽しませて頂きましょう」

 

 罠へと飛び込んだ。

 

 成程、一応は罠に掛ける心算でも心から祝福をしているのは間違いはなくて、食事は元貴族で美味い食事に慣れたユートにとっても舌鼓を打てる。

 

 そう……この食事会そのものがトラップであると、ユートは一口目からそれを理解していた。

 

「(安易だな、睡眠薬か)」

 

 眠らせた上で何かをしてくる気だろう。

 

 ならば話は簡単だ。

 

 暫くは……睡眠薬が遅効性だった為、効き始めるであろう時間までは歓談しながら食事を摂る。

 

 そろそろだと時間を見てユーキに軽い目配せをし、ワインを口にした処で倒れて見せた。

 

 ヒュプノスの権能で狸寝入りと知られない程度に、軽めの暗示を掛けておく。

 

 これで肉体的には寝ていても、現実で何が起きているかを視る事が可能だ。

 

 薄ら笑いをするアプロスは席を立つと、おもむろにショーツを脱いでのぞみにユートの準備をさせる。

 

 自分でやらない辺りが、また悪意を感じさせた。

 

 のぞみは顔を赤らめ恥じらいながら目を逸らして、ユートのズボンをソッと脱がすと、未だに通常態である分身を外へと晒す。

 

「あら? 勃ってもないのに中々じゃない」

 

 アプロスは口元に手を添えてニヤニヤしている。

 

「ユート様……拙いですが失礼を致します」

 

 のぞみは床に這いつく張り俯せとなって寝転ぶと、目の前のユートのモノへと手を伸ばして掴み、柔らかく温かい分身の先を中心に上下に擦り始めた。

 

 出来るだけ丁寧に毀れ物を扱うかの如く、それでもアプロスの手前だからか、少しずつ速く扱いていく。

 

 そして潤んだ瞳で分身を見つめると、下を出して先の方へと這わせた。

 

 ヒクヒクと軽い痙攣と共に屹立した分身、その大きさに目を見張りながら下を這わせていく。

 

 完全に勃ったのを確認したのぞみは口を最大限にまで開いて……

 

「あむ」

 

 咥え込んだ。

 

 暫しの淫靡な時間だが、アプロスが動く。

 

「さあ、御退きなさいな。射精()させてしまっては意味がありませんからね」

 

 命じられたのぞみは立ち上がり、唾液と先走りにて糸を引くそれをハンカチで拭って後ろに控えた。

 

「フフ、この世の天国を教えて上げるわ闘神様」

 

 屹立した分身の真上に立ったアプロスは、ニヤリと笑うと腰を降ろした。

 

 瑞々しい音と共にユートの分身が、アプロスの蜜壺へと沈み込む。

 

 アプロス自信から流れる液体、未だに残ったのぞみの唾液とユートの先走りが渾然一体となり、あっさりと沈んだ分身を刺激する為に腰を上下に振り始めた。

 

「何を……している?」

 

「あら、目が覚めたのね。だけど丁度良いわ、だってそろそろだもの」

 

 ユートの分身が刺激に耐えられなくなり、ピクピクとアプロスの蜜壺の内にて奮えているのが、本人にも理解出来ているのだろう。

 

「さあ、私の中でイってしまいなさい!」

 

 ドクン!

 

 一際に激しく脈動して、ユートの分身から欲望の塊がアプロスの胎内に吐き出されていく。

 

 それと同時にユートの中へと逆流をするかの如く、アプロスからナニかが流れ込んできた。

 

 そう、このプロセスを以てしてアプロスは何かを確かに企んでいたのだ。

 

 これがシード辺りなら、呆気なく軍門に下っていた処だろうが、生憎とユートはそんな可愛らしい反応はしてくれない。

 

「これで貴方は天使喰いとなった。私にはもう逆らえなくてよ!?」

 

「残念でした」

 

「え?」

 

「それと、アンタは好みじゃないけど一応は言っておこうか? 御馳走様」

 

 スパン!

 

「は、え……?」

 

 ユートが右腕を揮うと、アプロスは何故か転がるみたいな感覚を覚え、頭を持たない自分の身体から赤い液体が噴き出すのを見た。

 

「キャァァァァァァァァァァァァァァアアッ!?」

 

 恐れ慄くのぞみが甲高い悲鳴を上げ、腰を抜かしながら女性としてやってはいけない失禁をしている。

 

「あ、れ? どうして?」

 

 転がるアプロスの首に、悲鳴を上げるのぞみ。

 

「何故、何故、何故なの? 天使喰いは私に手出しは出来ない筈!」

 

「ふん、傷口が鋭利過ぎて脳が未だに死を認識してはいないのか。冥土の土産に教えてやる。僕は天使喰いとやらには成っていない。僕に入り込んだ術は破壊したのでね」

 

「なっ!?」

 

 神殺しの魔王、羅刹の君などと呼ばれるカンピオーネなユートは、外部で呪術を喰らっても効かないが、内部になら効果がある。

 

 実際、何処ぞの七番目はまつろわぬアテナを相手にした時、口移しで死の呪いを吹き込まれて死んだ。

 

 ウルスラグナ十の化身、雄羊の権能が無ければ完全に終わっていた。

 

 ユートは内部に入り込んだ術など、精緻と破壊が出来る様に術を待機させている為、余程の事がなければこの手の方法は効かない。

 

 先の食事への睡眠薬混入などはもっと簡単な話で、そもそもユートは毒素に対して自浄能力を持つ。

 

 水の精霊王との契約で、如何なる毒素も内なる水が浄化してくれるからだ。

 

 ユートはアプロスの髪の毛を掴み、顔を自分の前まで持ってきて不敵に笑う。

 

「アンタの目的、その脳に聞かせて貰おうか?」

 

「ヒッ!?」

 

 幻朧魔皇拳……

 

 瞬間、アプロスの頭脳に過去の想い出が甦る。

 

 デラス・ゲータとの出逢いと愛、アプロスを捕らえに来た天使達との戦いと、天使喰いとなったデラスの〝食事〟風景、更に地獄の鬼までが現れた。

 

 それでも一歩も退かないデラスとアプロスの二人、鬼王とデラスによる激闘と封印について。

 

 アプロスは封印を破る為にも闘神大会の優勝者を、デラスと同じ天使喰いへと変え、地獄を探索させていたらしい。

 

 未だに地獄の探索は終わらず、デラス・ゲータ封印の地は判らなかった。

 

 飴と鞭。

 

 天使喰いとなった闘神達には人質やら何やらによって脅すが、成果を上げれば褒美を与えていた。

 

 力を増す為に捕らえていた天使を与えたり、財宝を与えたりとそれは様々に。

 

「目的は恋人のデラス・ゲータを封印から解き放つ。成程ね、闘神大会は強者を捜すにはもってこいか」

 

 アプロスにデラスは約束をした、ずっと傍に居る……永遠に……永劫に。

 

「ならば、デラスと一緒にしてやるよ。永遠に永劫に……お前の魂を燃やし尽くして奴を滅ぼす事で……」

 

「そ、そんな!?」

 

「だから暫し眠れ、滅びの前の静寂の中で……な」

 

「イヤ、イヤァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

 封 印 完 了!

 

 氷結唐櫃(フリージングコフィン)モドキ、小宇宙が使えない現在では本物が扱えないが、魔力によって完全凍結をしたその上で、異界次元(アナザーディメンション)的な要領で時間凍結空間を魔力で生んで、その中へと放り込む。

 

 三昧真火を周囲に張り巡らしたから、もうユートでなければ取り出せない。

 

「クスクス……これで後は色々とお仕事だねぇ♪」

 

 笑いながら起き上がったユーキに、ユートが口角を吊り上げながら頷く。

 

「ああ、闘神の館は僕らが乗っ取らせて貰うさ」

 

「それは良いけど兄貴?」

 

「うん?」

 

「早く〝ソレ〟を仕舞ったらどうかな? それとも、其処のメイドさんで続きを楽しみたいの?」

 

「………………」

 

 ユーキが指差す先には、文字通り臍まで反り返ったユートの分身が、凄まじく自己主張をしていた。

 

「それも良いかな?」

 

「アハハ、言うと思った。確かのぞみさんだっけ? 兄貴のソレをおっきくした責任を取ってね?」

 

 笑顔を向けて宣言され、のぞみは放心するしかなかったと云う。

 

 それから半日、ユートはのぞみをアプロスの玉座の前で抱き続けていた。

 

 それを観ていて欲情したユーキも交えてヤったが、休憩を挟んでいたにも拘わらず遂に意識を失ってしまうのぞみ。

 

「やれやれ、気絶したか」

 

「保った方じゃないかな、きっとメイドさんだったから体力もあったし、処女じゃなかったって事は慣れてるんだろうからさ」

 

 まあ、確かに舌遣いなど異様に巧かった訳だから、処女だとは初めっから思ってはいなかったし、実際に挿入(い)れたらすんなりとユートの分身を受け容れた事もそれを証明している。

 

「ま、随分とヤり易かったから良いけどね」

 

「さばさばしてるねぇ」

 

 ユーキは苦笑いをうかべて肩を竦める。

 

 朗らかな雰囲気ではあったが、二人の足下には気絶して色々な液体に塗れて、股から白いモノを床に垂れ流すのぞみの姿が……

 

 数時間後、アプロスが使っていた私室のバスルームで身体を清め、新しい服に着替えたユートとユーキ。

 

 のぞみも同じく身体を洗い清めると、新しいメイド服に着替えていた。

 

 まだ足腰がフラついているのは御愛敬か。

 

「さて、のぞみ」

 

「は、はい……」

 

 トロンとした瞳で頬を朱に染めながらユートの言葉に応え、然しながらメイドとしての矜持か? 確りと頭を下げている。

 

「この館は広いから案内を頼めるか? それとメイドの仲間にも引き会わせて貰いたい。主が変わった事を喧伝しておかないとね? 序でに、天使喰いの連中は何処に居るか知らないか? いずれにせよ会わない訳にもいかないだろう」

 

「了解致しました。案内の道すがら、仲間にも引き会わせます。それと天使喰い……闘神の皆様はアプロス様からの指令で地獄の探索を行っております」

 

「そう、判った」

 

 話も終わって、ユートとユーキはのぞみに先導されながら館を歩き回る。

 

 途中で闘神の部屋なども見てみたが、やはり今は誰も居ないらしい。

 

 とはいっても、天使喰いは既に数を可成り減らし、現在は二人だけだとか。

 

 比較的まともな天使喰いのカーツウェル、力を求めて積極的に天使を喰っている幻杜坊。

 

 一応、闘神クランクも居るらしいのだが天使喰いでは無いみたいで、館の片隅での冷飯食らいな存在。

 

 外では闘神の権限で威張り散らすが、闘神の館では基本的に天使喰いやアプロスに媚び諂う様だ。

 

 メイドの住む部屋では、アンナというメイドを始めとして、何人か住み込んでいる娘達を紹介される。

 

 更に他の部屋……

 

「彼女は?」

 

「フランチェスカ様です。カーツウェル様の奥様なのですが、人質にされてしまった上に今は亡き闘神様達や御客様方に弄ばれ続け、今や心砕けています」

 

「……そう」

 

 ユートが踵を返そうとすると、物音に気が付いたのかフランチェスカがハイライトの輝かない瞳で見つめてくると……

 

「ああ、カーツウェル……カーツ! お帰りなさい。今、晩御飯の準備をしているのよ! でもダメよね、いつまで経っても要領が悪くって。けど、今に立派な主婦になってみせるわ! その為に……その為に……私、わたし……たくさんのおとこたちにだかれて……だかれて……いや……いやいやいやぁぁぁぁぁっ! カーツ、助けてカーツ! わたし、わたしは!」

 

 フランチェスカは一気に捲し立てるかの如く語り、恐らくは犯された記憶でもフラッシュバックしたのであろう、恐怖に満ちた表情でイヤイヤと頭を抱えながら俯いて首を振り、大声で助けを求めて絶叫をしながらユートの胸に飛び込み、押し倒すとキスをしてきて裸エプロン故に脱ぐ必要も

無く、自らの御陰にユートの分身を宛がうと……

 

「嗚呼、カーツ!」

 

 腰を落として胎内へと沈め込んだ。

 

 暫くの間は『カーツ! カーツ!』と叫びながら、ひたすらに腰を上下に振って淫靡な声を上げていた。

 

 涙を流して涎を垂れ流しながら所謂、アへ顔となって貪る様に腰を振りつつ、キスを求めている。

 

 愛する男に抱かれる様を幻視し、名前すら知らない男に身体を許すフランチェスカは、遂に絶頂を迎えて声の在らん限りで叫んだ。

 

 ユートも同時に果てて、フランチェスカの子宮へと白い欲望の塊を吐き出す。

 

 熱い白濁とした液塊を奥に叩き付けられて、何度も絶頂を感じたフランチェスカは海老反りになりつつ、身体を伸ばして意識を手放してしまった。

 

 のぞみは『あちゃ〜』といった感じに頭を抱えて、フランチェスカについての説明を補足する。

 

 何でも、男を見付けるとカーツウェルと思い込み、こうして勝手に身体を開いてしまうらしい。

 

 恐らくはか細い残された心を守る為に。

 

 寝床にフランチェスカを寝かせ、扉をゆっくりと閉めると再び案内を再開。

 

 闘神の館の最奥に着く。

 

「此処は?」

 

「……地下牢です。天使喰いの皆様に与えられる褒美──天使が何人も捕らえられている牢獄」

 

 降りてみれば成程、幾つもの牢獄に閉じ込められた白い翼に金色のハイロゥを持つ美しい少女や女性達、確かに天使であった。

 

「ふーん、中々に可愛かったり美しかったりするな。まあ、天使の一部はカラーが転生した者だし、クライアの美麗さを思えばおかしくもないか」

 

 カラーという種族は死に際して、若しくはある一定以上を生きた場合に天使か悪魔へと転生するとか。

 

 ユートの知らない原典、その世界のクライア・カラーは死後に天使へと転生、シードの前に現れた。

 

 実際、牢屋の中で此方をチラチラ視ていたり睨んだり怯えたりしている天使の中には、額に赤や青の宝石を付けたカラー出時の天使もそれなりに居る。

 

 青い髪の毛に長い耳は、クライアを思わせた。

 

「イヤ、食べないで!」

 

「くっ、私を見るな!」

 

 随分な言われ様だけと、それだけの事をアプロスや天使喰いがやってきたという事だし、ユートをそいつらの仲間だと考えているのなら、怯えたり罵倒したりは寧ろ普通だろう。

 

「ま、今は天使を相手にする時間は無いな。天使喰いが居ない間に館を掌握しておきたいし!」

 

「だねだね。だけど数人は夜のお供にしたら?」

 

「ユーキ、お前ねぇ……」

 

 ユーキの冗句──半ば以上は本気──にビクリと肩を震わせる天使達。

 

 天使喰いが天使を食らう方法は性交、『夜のお供』になんて聞いたら恐怖して当然だった。

 

「やれやれ……まあ、そうだな。ユーキが言う様に、夜のお供をしてくれるなら優先的に出しても良いな」

 

 チラリと見ながら言ってみたが、やはり肯定的にはなれないらしい。

 

 当然な訳だが……

 

「ま、良いけどね」

 

 踵を返しながら言う。

 

 別に期待はしていなかったし、ダメ元で言ってみたに過ぎないのだから。

 

 仮に牢から出たい余りに名乗り出れば、ユートとしてもで出来る限りの配慮くらいは約束したが、どうもユートが天使喰いであると勘違いをしているらしく、誰も名乗りでなかった。

 

 他にも理由があるのかも知れないが、それはユートに窺い知れないものだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 闘神大会が終了してから一週間が過ぎ、クライアと羽純と雫姫と葉月とスワティ全員を闘神の館に呼び、悠々自適に暮らしている。

 

 また、占い師のアーシーも『戴きます』をしたし、一緒に連れて来た。

 

 館は広いから多少の人数くらい平気だから。

 

 尚、闘神クランクに関しては彼女らに手出ししようとしたので、物理的に排除をしてやった。

 

 今頃、海の底で魚の餌にでもなっているだろう。

 

 また、アプロス市長の死と共に闘神ユートが後継となった旨を発表する。

 

 元より、闘神都市に於いては闘神が絶対視されているからか、余り混乱が起きる事も無かった。

 

 まあ、民は上の首がすげ替わったとしても、暮らしが変わらねばどうでも良いのかも知れない。

 

 実際、闘神都市の運営を変える気は無いと通達もしているし、来年の闘神大会も開催されるとしている。

 

 問題も無いだろう。

 

 更に一週間くらいが経った頃……

 

「ユート様……天使喰いの御二方が戻られました」

 

 朝の朝っぱらからのぞみが呼びに来た。

 

 ベッドの中には何人もの裸の女の子と、やはり裸のユートが折り重なるかの如く寝ている。

 

 どれだけの御乱交だったのかが判る様子に、のぞみは頬を朱に染めてゴクリと固唾を呑んだ。

 

 この二週間ですっかりと調教されたらしく、ユートの姿に欲情をしていた。

 

「ん、身嗜みを整えてから行くんでね、二十分くらいしたらアプロスの間に連れて来てくれないか?」

 

「りょ、了解致しました」

 

「心配しなくても、今夜はたっぷりと可愛がってあげるからね?」

 

 耳元で息を吹き掛けながら囁くと、のぞみは真っ赤になりながら頷く。

 

 それから約二十分後に、のぞみは二人の天使喰い──カーツウェルと幻杜坊を【アプロスの間】と皮肉付きで名付けられた広間に、揺ったりと案内した。

 

「君は誰だ? アプロス様はどうしたのだね?」

 

「僕の名前はユート。今年の闘神……謂わばあんたらの後輩って奴だ。アプロスならもう居ない。死んでこそいないけど、首を叩き落として封印してやった」

 

「「なっ!?」」

 

 これにはカーツウェルも幻杜坊も吃驚したらしく、目を見開いて大きく口を開いている。

 

「市長も既に正式な書類上で僕に変更がされている。さて、僕があんたらに求めるのは服従な訳だけど……少なくとも幻杜坊は従わないんだろ?」

 

「当然じゃ! アプロスが居らぬならワシがこの館の主となり、天使共を喰いまくってやるわい!」

 

「そういや、アプロスの奴は天使を褒賞に与えていたらしいな。従わないなら、消えて貰うだけだ」

 

「ふん、若造が! 高々、闘神になったくらいで自惚れよって。ワシが直々に殺してやろうぞ!」

 

 錫杖を揮いながら幻杜坊が襲い掛かる。

 

「まて、幻杜坊! 迂闊に戦いを挑むな!」

 

 カーツウェルからの忠告など聞きもしない。

 

「かぁぁっつ!」

 

 一気に飛び掛かってくると錫杖を振り下ろす。

 

「思う壺ってな!」

 

 左手に魔力、右手に氣。

 

 陰陽合一法……又の名を咸卦法と云う。

 

 小宇宙に比べると一段は落ちるものの、魔力のみや氣のみの一元のエネルギーより強力だ。

 

聖剣抜刀(エクスカリバー)……モドキ!」

 

「ゲハッ!?」

 

 高々、闘神になったくらいでと言っていたくらいだから理解をしてはいたが、油断をしまくった幻杜坊は仮令、天使喰いとなっていて地獄の鬼や高位の天使と戦えようが、存外と脆い。

 

 四肢を聖剣抜刀で斬り落としてやった。

 

 最早、幻杜坊は達磨でしかないのである。

 

「愚かな、天使喰いじゃないからと云って天使喰いより弱いと思ったか?」

 

「うぐぐ……」

 

「しかも油断をして御覧の有り様だ。笑い話にしかならないよな?」

 

「お、おのれ!」

 

「さあ、年寄りの冷や水も終わりだ。トドメをくれてやる……っよ!」

 

「う、ま……ま……」

 

 ゾブリ!

 

 手刀──聖剣抜刀で素っ首を叩き落とすと、喧しかった幻杜坊は静かに。

 

 小宇宙を使うより威力も速度も無いが、やはり普通に氣や魔力を使うより遥かに強力な一撃だ。

 

「カーツウェルだったか、アンタはどうするんだ?」

 

「その前に確認させて欲しい事がある」

 

「……奥さんの件?」

 

「何故、それを!」

 

「闘神の館は掌握済みだ。当然ながらアンタの奥さんのフランチェスカも発見をしている。のぞみから説明もされているからね」

 

「か、彼女に……フランに会わせてくれ!」

 

「会わない方が良いと思うんだけど……ね」

 

「会わない方が? それはどういう意味なんだ!」

 

「夫なら知る権利はある。案内をしよう」

 

 ユートはカーツウェルを伴い、アプロスの間を出ようとしたが……

 

「のぞみ、人を使ってそのゴミを片付けといて。部屋も掃除をお願い」

 

 一度部屋に戻ってのぞみに命じた。

 

「畏まりました」

 

 のぞみものぞみで一礼をして承知する。

 

 ただ、一言だけ。

 

「そういえばセサミの鍵の事はどうしよう……」

 

 どっちにしろ鍵の在処など教えてはくれなかっただろうが、セサミの鍵という幻杜坊に付けられた拘束具を外す鍵をどうしたものかと頭を抱えてしまう。

 

 それは兎も角、ユートが

案内をした部屋にはミントグリーンのロングヘアーな女性──フランチェスカが相変わらず裸エプロンにて料理をしていた。

 

「フ、フラン?」

 

「ああ、カーツウェル……カーツ! お帰りなさい。今、晩御飯の準備をしているのよ! でもダメよね、いつまで経っても要領が悪くって……」

 

 やはりハイライトの無い瞳で、カーツウェルを見ると前にユートへと言っていた言葉を繰り返すだけ。

 

 そんな痛ましい妻の姿に絶句するしかない。

 

 カーツウェルは正直な話で困惑をしていた。

 

 裸にエプロンなどというはしたない姿は未だしも、行き成りユート達が居ると云うのに自分を押し倒し、ズボンのチャックを下ろして自分の秘裂へと宛がい、腰を降ろしたかと思ったらまるで狂った様に振り始めた妻の様子に。

 

 そもそもにして、妻であるフランチェスカは人前で裸エプロンなんて姿を晒すタイプではないし、何よりもこんな情事を他人の目も気にせずヤれる露出狂ではないのだ。

 

 それが、カーツウェルのモノを咥え込み笑顔で涙を流しながら、口元からは涎を垂れて『アンアン』と啼いているのだから、とても信じられなかった。

 

「くっ、フラン……いったい君はどうしてしまったと云うんだ!?」

 

 然し悲しいかな、カーツウェルも肉体的には人間と大きく変わらない。

 

 即ち、人間の持っている生理現象を止める事などは叶わないのである。

 

 フランチェスカの膣内の襞に敏感な部位を攻められ続け、カーツウェルの下半身が絶頂へと至るまでには最早限界が近かった。

 

「ぐっ、うっ!」

 

 何年か振りの愛する妻の胎内に、普段はストイックなカーツウェルも欲望の塊を吐き出してしまう。

 

「嗚呼、カーツ! どう? 私、上手くなったよね? だから、だから私を嫌わないで……だって、私は……わたしは! 嗚呼、あああああああああああっ!」

 

 両腕一杯に縋り付いて、頬擦りをしながら言ってくるフランチェスカだけど、やはら途中からはおかしなフラッシュバックに悩まされたか、叫び始めて遂には糸が切れたマリオネットの如くグッタリとなり、意識を手放してしまった。

 

「これは……いったい?」

 

「それがアンタの奥さんの現状なんだ。アンタが天使喰いとなって引き離された後の事らしいが、アプロスはフランチェスカをアンタ以外の存命だった頃の天使喰いや、館を訪れた客人の相手をさせていたらしい」

 

「な、何だと!? 莫迦な……闘神のパートナーまでがこんな扱いを受けているなど、私は知らなかった! これでは何の為に!」

 

 そもそも、天使喰いとは天使を性的に喰って力へと変換して取り込む存在で、これは当然ながら此方側の世界では大罪とされる。

 

 カーツウェルが禁忌的な天使喰いとしてアプロスに従っていたのは、明く迄も妻のフランチェスカが人質となっていたから。

 

 自分が言いなりになっていれば、フランチェスカが無事だと信じていた──というか、信じるしかなかったからこそに他ならない。

 

「さてと、旦那が現れたから話を進められる」

 

「話を?」

 

「そう、彼女の心はズタズタになっている。元からが好きな男以外に触れられたいとも思わない貞淑な女性らしいから、何人か何十人か何百人か知らないけど、代わる代わる犯された訳だからね。だから完全な精神崩壊をする前に男をみんなアンタだと思い込む事で、今の状態になり最後の一線を越えなかった。この状態を戻す方法は在るけどね、下手にやるとヤられ続けた記憶が残って、自害するか今度こそ精神崩壊するか、記憶を消すのも可能だったけど、せめて旦那さんくらいの許可は必要だろう?」

 

「話を進めとはつまり記憶を消すと?」

 

「そう、アンタと引き離された後から今までの記憶、そいつを消す。多少の齟齬は出るだろうけど、其処はアンタ次第だろうね」

 

「む、う……」

 

 ユートからの説明を受けたカーツウェルだったが、難しい表情をしている。

 

「どうした? 他の男に犯されたら愛など吹っ飛んでしまったか? それなら、僕が貰うまでだけどな」

 

「そんな事は言ってない! 然し可能なのか?」

 

「勿論、可能だよ」

 

「そうか……」

 

 それきり黙り込んでしまったカーツウェル、そんな彼にユートは気を遣ったのだろう、踵を返して言う。

 

「暫く時間が欲しいなら、其処で寝泊まりすると良いから。肚が決まったのならのぞみに言ったら対応をしてくれるよ」

 

「済まない」

 

「別に良いさ」

 

 手をぷらぷら振って部屋を出て扉を閉める。

 

 カーツウェルは誰も居なくなったのを確認すると、未だに意識を失ってしまっているフランチェスカを、強く強く抱き締めて慟哭を上げるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「良かったの?」

 

「カーツウェルか? 構わないだろ、彼は幻杜坊とは違って被害者みたいなものだしね」

 

「ま、そだねぇ」

 

 テーブルを囲んで朝食を摂りながら話すユート達、当然だが其処には他の者──スワティやクライア──達も一緒に居る。

 

「取り敢えず、地獄に往くのに一度だけ協力をして貰うだけだし、フランチェスカの事は別物だしな」

 

「兄貴がそれで良いってんなら、ボクも構いはしないんだけどさ……」

 

 ユーキにとってユートの他は二の次、ユートが決めたならそれで良かった。

 

 のぞみがワインのお代わりを注ぎ、ユートはそれを一気に飲み干す。

 

「兎に角、優世は既に地獄に降りている訳だからね、此方も早い処行動をしないと間に合わない」

 

「ま〜ねぇ。どっちにしろ間に合いそうにもないんだけどさぁ?」

 

「言うな、理解はしてる」

 狼摩優世を止めるのには間に合わないであろうし、足止めを白夜に任せる心算も更々無い。

 

「デラスだけ、優世だけならどうとでもなるけどね、はてさて?」

 

「二人が合力はしないだろうけど、どう出るかな?」

 

 いずれにせよ、既に地獄に行った優世は先にデラスの許へと辿り着く。

 

 とはいえ、カーツウェルがユートを見ても何も言わなかった辺り、優世が彼と面識を持たないのは確定。

 

 ならば、カーツウェル達とは恐らく別ルートで地獄を進んでいるのだろう。

 

 白夜が曰く、バカ兄──狼摩優世はとんでもないお馬鹿な方法で、ラグナード迷宮の更に奥へと進んだ。

 

 即ち、地獄へ……だ。

 

 その方法とは、天使喰い一行がワープする為の泉を起動した瞬間、横入りするというアホなもの。

 

 一瞬だったからだろう、唖然となったカーツウェルと幻杜坊は、後ろ姿の優世と白夜を見送る事しか出来なかったのだ。

 

 後ろ姿であるから顔など判らず、その後も会う事が無かったという事か。

 

「兄貴、兄貴がカーツウェルを残した理由は?」

 

「……あの爺ぃ、幻杜坊が素直に協力するなんつ思っているのか?」

 

「全然」

 

 即答だった。

 

 ユートもユーキものぞみから聞いた二人──カーツウェルと幻杜坊の人となりから、幻杜坊との話し合いなど考えも付かなかった。

 

 まあ、天使を喰わせると約束をすれば従いそうではあったが、それだと天使が死んでしまう。

 

 あれだけの綺麗所だし、せれは勿体無かった。

 

「それに、僕自身の仕出かしたことじゃなかったとはいえ、フランチェスカを抱いてしまったのも事実だ」

 

「ああ、確かにヤっちゃったねぇ……兄貴のでっかいブツを、彼女の胎内に突き刺したんだっけ? 気持ち良かったよねぇ? 白濁とした液体をたっぷりと射精()してたもんね」

 

「実は意外とムカついていたのか!?」

 

 ユーキの口調が何故だかいつになく刺々しい。

 

「べっつにぃ? 行き成り目の前で押し倒されてからエッチなんて、バッカじゃないの? とか思っていなかったもん!」

 

 思い出したのか唇を尖らせてブスッとしている。

 

 普段はハーレムだとか、よく言っているのに意外と突発的な事には弱いのか、あの時は内心穏やかではなかったらしい。

 

「ま、良いけどさ……」

 

 話も終わり、食事を摂るのに集中をし始める。

 

 それから三日後、ユートの前に現れたカーツウェルがフランチェスカの記憶の消去、それに伴う対価として地獄への水先案内人を買って出るのであった。

 

 

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第17話:手折られるは地獄門に咲く一輪の花

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 カーツウェルの妻であるフランチェスカ……彼女の記憶を梳り取ったユートは暫くは記憶整理で眠るであろう事を宣言する。

 

 よって、カーツウェルはユートを地獄に案内した。

 

 無事を喜ぶのは妻が起きてからで良いからだ。

 

「此処が〝この世界での〟地獄という訳か」

 

 ユートが〝持つ〟地獄というか、あの世と大きく変わる所はなさそうだ。

 

 冥王ハーデスの神氣から得た神殺しとしての権能、その内の一つがハーデスの支配域となる冥界を創り出すというモノ。

 

 生と不死の狭間、地獄、極楽浄土、エリシオン……

 

 本来、極楽浄土とエリシオンは同じものであるが、ユートは一般的な極楽浄土と仲間内での楽園としてのエリシオン、この二つを分けて創造をしている。

 

 基本はハーデスの冥界と同じだし、ユートの冥闘士も存在しているから違和感は特に無かった。

 

 この世界の地獄、表面上はユートの冥界の地獄とは殆んど変わらないらしく、後はどういった施設が設置されているのか?

 

 そんな処だろう。

 

「では、私はあちらを探索しよう」

 

「本当に良いのか? 別に闘神の館で奥さんと一緒に暮らしていても構わないんだけどな?」

 

「いや、ケジメとして探索は続けようと思う」

 

「そうか。まあ、奥さんを未亡人にしない事だね? したら僕が頂くよ」

 

「……絶対に死なん!」

 

 事ある毎にフランチェスカを狙う発言を言い放ってくるユート、流石のカーツウェルも妻を奪われまいと気合いを入れていた。

 

 ユートも半分は発破を掛けているだけで、ガチに狙っている訳でもないが……勿論、本当にカーツウェルが死んだら貰う心算だ。

 

 カーツウェルと分かれ、地獄の道を進むユート。

 

 暫くの間は不毛というか荒涼とした大地、水も特に無いし罅割れた地面は潤いに欠けている。

 

 然し、モンスターは普通に現れてきた。

 

 鬼みたいなモンスターも居るが、ひょっとしたなら量産型の鬼なのだろうか?

 

 ちゃっかりと女の子モンスターのおててとちょーちんとメイドさんを抱いて、一体ずつをカードへと変えて連れて行く。

 

 潤いの足りない大地に、女の子モンスター達が荒い息を吐き、秘所から液体を垂れ流しながら恍惚とした表情で倒れ付していた。

 

 ユート自身もスッキリした顔になって立ち上がり、乱れに乱れた服装を着直してステータス・ウィンドウを開き、アイテム欄の中から食事と飲み物を取り出して昼休みを取る。

 

 昼休み後、ユートが訪れた場所には人間の魂らしきモノが大量に浮いていた。

 

「人間の魂か? 此処は……いったい……ム!」

 

 強い気配だ。

 

 人間の魂達とは明らかに違う気配であり、何と無く聖なる属性を感じる。

 

 身を隠すと強い気配の主──青い髪の毛、長い耳、青い瞳で露出嘉多な服装を身に纏う翼を持つヒト。

 

 天使が人間の魂達を導いていた。

 

「(あの額に輝いてる赤い宝石は……彼女はカラーから天使に成ったケースって訳だな?)」

 

 確かに髪の毛にしろ耳にしろ……あの巨乳にしてもクライアを思わせる。

 

 だけど決してカラーではないと主張する背中の翼、そして頭上に浮かんでいる金色のハイロゥ。

 

 一度死んだのか、或いはクライアとは比べ物にならない程度に生きていたか、天使となったカラーというのは、闘神の館に囚われた天使の中にもチラホラと見る事が出来たが、天使全体にも云える話で美しい。

 

 だけど、目の前の彼女は痴女も斯くやの大胆仕様な服装であり、それでも何処か清楚にも感じられた。

 

 あの、カラー出自の天使の額の宝石の色が赤いという事は……

 

「ユーキが言っていたな。カラーは天使化や悪魔化をすると額の宝石の色は変化しなくなると。彼女が処女とは限らない訳か……」

 

 天使になってから処女を喪っても、宝石の色に変化は無い筈である。

 

 元々、カラーという種族はメインプレイヤーの亜種として、三超神の一柱たるハーモニックが創った。

 

 その目的は天使や悪魔の供給源であると云う。

 

 カラーは女性しか存在しない為、繁殖にはメインプレイヤーの男が必要とされており、嘗ては人間の男を捕らえて搾精したらしい。

 

 ハーモニックが何の心算でそんな機能を付けたか、額の宝石とは男と交われば交わる程、青く美しく輝きを増すとされている。

 

 そして、そんな美しい青は人間の間で高値が付く。

 

 猛大人がクライアの宝石を狙い、青く輝かせる為に押し倒した理由だ。

 

 ユートは美しい花の一輪を手折るのは好きだけど、付属品だけを奪って折角の花を枯らすのは趣味ではないと考え、猛大人には死をくれてやった。

 

 花とは愛でるに限るし、新しい花の誕生に一役買うのも愉しい。

 

 まあ、誕生するのが花とは限らない訳だが……

 

 それは兎も角、ユートは現状では周囲に気配を溶け込ませており、直に見ても慣れた者でなければ見えない状態である。

 

 従って、あの天使が地獄門を開くのを待っており、上手く開いてくれたのならコッソリと入り込む。

 

 無駄な争いはお互い不幸なだけだし、見る限りではまともな感性を持っているらしいから。

 

「おんや〜? 何だよぉ、あんたも死んだのか?」

 

「………………」

 

 最悪のタイミングで声を掛けられた。

 

 確か、モンスターに喰わせて殺したザビエルとかいう男だったか?

 

 何故か大量の荷物を積んだ台車を牽いている。

 

「この世から消滅しろ! 積尸気冥界波モドキ!」

 

「ウギャァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

 瞬時に咸卦法を発動し、積尸気冥界波を放ってやってザビエルを吹き飛ばす。

 

「貴方は何者ですか!」

 

 当然ながら天使に見付かってしまい……

 

「チッ!」

 

 思わず舌打ちをした。

 

「その気配、天使喰い!」

 

「は?」

 

 彼女は何を言っているのだろうか? ユートは決してアプロスの術に嵌まってはいないし、天使喰いになど成った覚えも無い。

 

「待て、激しく待て!」

 

「黙りなさい、天使喰い! 貴方達にどれだけの天使が犠牲になったか、この私がその無念を晴らします! 我が名はラベルケース、覚悟なさい!」

 

 初っぱなから臨戦体勢となる天使──ラベルケースに対して、仕方無く此方も戦闘の準備を行う。

 

 小さめのトランクを取り出し、開いた中に入っているのはベルトと周辺機器。

 

 先ずはベルトを腰に着けると、次にグリップらしきものを取り出して口元まで持っていき……

 

「変身!」

 

 叫んだ。

 

《STANDING BY……》

 

 電子音声が響く。

 

 ユートはグリップ──デルタフォンを、右腰に付いたデルタムーバーへと差し込んだ。

 

《COMPLETE》

 

 白いフォトンブラッド……ブライトストリームが張り巡らされ、スーツと鎧が形成されていく。

 

 橙色のアルティメットファインダー、三角形であるΔをモチーフとした顔に、黒を基調とするスーツと鎧の姿、仮面ライダーデルタへと変身をした。

 

「す、姿が異形に!?」

 

 ラベルケースには化物にでも見えているらしいが、強ち間違いであるとも云えない姿だ。

 

「さて、余り気は進まないんだけど……売られた喧嘩は買ってやるよ!」

 

「来ますか!」

 

「煉獄に咲く一輪の花だ、踏み躙る様な趣味は無いんだが、手折って愛でるのは好きだからね。その花弁、散らして上げよう!」

 

 地面を蹴り、ユート──仮面ライダーデルタが敵たるラベルケースに向かって駆け出した。

 

 「ふっ!」

 

 ブンッ!

 

 空気を引き裂いた音を響かせながら、デルタの拳がラベルケースに向かう。

 

「そんなもの!」

 

 風の属性が強いラベルケースは身軽で、ちょっとした速度では避けるに容易いらしく、危なげ無くパンチを躱した。

 

 無論、小宇宙処か魔力も使わないユートがライダーの力と自前の身体能力のみにより、簡単に闘えるなどとは思っておらず、すぐに蹴りへと繋げる。

 

 だがそれもラベルケースにより躱されていく。

 

 とはいえ、それもデルタにとって既定事項であり、ラベルケースは我知らず追い詰められていた。

 

 最も良い形に追い詰め、デルタはジャンプ一番……

 

「はっ! 竜尾二連脚!」

 

 最初に左脚による通常の蹴りをラベルケースの頭に打ち込み、その勢いを利用して右脚による回転背脚蹴りに繋げて頸椎を打つ。

 

「キャァァァッ!」

 

 強烈な蹴りな吹き飛ばされて、ラベルケースは悲鳴を上げながら地面に叩き伏せられた。

 

 仮面ライダーデルタ……スペック的に蹴りの威力は約八トン、パンチの威力は約三.五トンである。

 

 単純なスペック的には、同系ライダーのファイズやカイザよりも上だ。

 

 というより、映画版での仮面ライダーサイガと同じ程度のスペック。

 

 こんな威力をまともに喰らえば、人間なら即死しているのだろうが……

 

「く、う……」

 

 天使であるラベルケースは少なくとも、仮面ライダーやその敵対者並の力は備えているらしく、ダメージこそ受けていても死んではいなかった。

 

 脳がクラクラしているのだろう、未だに頭を抱えて立ち上がってくる。

 

 デルタは右腰に装着されたデルタムーバーを外し、口元にまで持っていく。

 

 この状態をブラスターモードと呼び、謂わば光弾を放つ拳銃として使える。

 

「ファイア!」

 

《BURST MODE》

 

 音声認識で光弾がチャージされ、デルタはラベルケースにサイティングすると引き金を引く。

 

 四発のフォトンブラッド光弾が放たれ、デルタは続けて二回引き金を引いた。

 

 合計で十二発の光弾が、ラベルケースを襲う。

 

「くっ! 風の加護よ!》

 

 ラベルケースの周囲を、気流が覆っていく。

 

「むっ!?」

 

 フォトンブラッド光弾は彼女に命中せず、在らぬ方へと逸れてしまった。

 

「成程……彼女は風属性。あれは気流で敵の攻撃を逸らすんだな」

 

 風属性としては至極真っ当な使い方。

 

 よくある防御方法だ。

 

 だが、ユートは四大精霊王と契約を交わしたフル・コントラクター。

 

 それが四大──土水風火──属性であれば、基本的には干渉をする事が可能となっている。

 

 よって……

 

「ハァッ!」

 

「くっ!」

 

 ドゴンッ!

 

 風の加護を無効化して、謂わば腹パンを喰わせる。

 

「カハッ! そ、そんな、まさか!?」

 

 フラフラとよろけながら踏鞴を踏むラベルケース、その表情は信じられないといったものと、打たれた腹を押さえつつ苦悶を露わとしたのを綯い混ぜにして、荒い息を吐いていた。

 

「どうして風の加護が働かないのですか!?」

 

「簡単な話だ、僕は四大の精霊王と契約を交わしているフル・コントラクター。四大属性に限れば狂乱状態でもない限り、僕の上を往く方法は三つしか無い」

 

「フル・コントラクター? 天使喰いが精霊王と契約をしている? そんな!」

 

 此処で云う精霊王とは、フォーセリアなどで謂われる精霊王とは異なる。

 

 もっと上位であり、存在するというのも言葉としてはおかしい。

 

 精霊王というのは所謂、概念意識体なのだから。

 

 一種の法則そのもので、それが意志を持っているといえば正確ではなくても、ある意味では正解だ。

 

 実はそこら辺の神々より高位な存在で、燃えるという概念そのものが火の精霊王だと云えば解り易い。

 

 化学的に考えれば可燃物が存在してそれが燃えている訳だが、それも精霊王の存在が在ったればこそだ。

 

 ラベルケースも風の属性を使えるが、所詮は小精霊への干渉が精々でしかないから、精霊王との契約によって代行者レベルの干渉力を持つユートに敵わない。

 

「終わりだな……」

 

 幾ら天使が仮面ライダーに匹敵する戦闘力を持っているとはいえ、ラベルケースの服装は明らかに戦闘用ではないのだ。

 

 某・国民的RPGの四番目の褐色肌姉妹の姉の服装レベルの露出度な訳だし、当然の事ながら防御力など本人の素の防御+魔力なんかでの強化以外には無いにも等しい。

 

 つまり、全身鎧にも似た仮面ライダーに比べれば、紙防御な訳だ。

 

 そんな状態で三.五トン……否、ユート自身の拳も込みならそれ以上のパンチを受けては、すぐに対処をすり事は叶わなかった。

 

《READY》

 

 ベルト──デルタドライバーのバックルに嵌め込まれた【ミッションメモリー】を、デルタムーバー・ブラスターモードのスリットに嵌め変え、ポインターモードに変形させる。

 

「チェック!」

 

《EXCEED CHARGE》

 

 音声入力すると電子音声が鳴り響いて、ベルトからブライトストリームを通じエネルギーがポインターにチャージされていく。

 

 トリガーを引くと円錐形のエネルギーが、ラベルケースの胸元に発射されるとピタリと手前で止まった。

 

「くっ!? 動けない!」

 

 これには一種の拘束能力がある為、余程のパワーが無ければ動きを阻害されてしまう。

 

「ハッ! デリャァァァァァァァァァァッ!」

 

 そんな身動きを封じられたラベルケースに向かい、デルタはジャンプをすると右脚を伸ばして蹴りを入れる体制に入る。

 

 円錐形のエネルギーへとまるで吸い込まれる様に、デルタの肉体が姿を消して次の瞬間、ラベルケースの真後ろへと姿を現した。

 

「ルシファーズハンマー、天使に使うには皮肉が利いた技だろう? まあ、この世界の天使にルシファーは関係無いんだろうけどね」

 

 ボッ!

 

 Δ状の青白い炎がラベルケースを包む。

 

「あ、嗚呼……あああああああああああ!?」

 

 滅殺モードだったなら、ラベルケースは原作的には灰となって死んだろうが、非殺傷設定みたいなモード──不殺モード──だからダメージこそ受けていても死ぬ事は無かった。

 

 勿論、怪人相手みたいな爆発したりもしない。

 

 ダメージ故に仰向けに倒れたラベルケース。

 

「これで良しっと」

 

 気絶こそしていないが、動く事は出来なくなっているラベルケースへ近付く。

 

「うっ、私を食べる心算……ですか!?」

 

「だから僕は天使喰いじゃないと言っている」

 

「そんな筈はありません。私は天使喰いとも接触した事がありますが、その時に感じた気配と貴方の気配は似ています!」

 

「な、に?」

 

 ユートにとっても予想外な言葉で、どういう事なのかまるで判らないといった顔付きになった。

 

「(どういう事なんだ? アプロスの仕掛けてきた術は破壊したし、天使喰いになんてなり様がない)」

 

 考えてみても解らない。

 

「まあ、良いか。僕は別に君を食う気はないんだが、戦闘で昂った気分を鎮めるのなら、エロいお姉さんが一番だよね?」

 

「だ、誰がエロいお姉さんですか! 誰が!」

 

「いや、自分の痴女も斯く

やの格好を鑑みろよ」

 

 ミニ過ぎるスカートに、半乳を出している白い服? それ以外は装身具くらいしか身に付けていない姿、天使よりそういった商売的に堕天使だろう。

 

 殆んど裸に近いのだから普通なエロい。

 

「くっ、辱しめる気?」

 

「戦いに敗けた以上は文句など言えんだろうに」

 

 身動ぎすら出来ない為、近付くユートに対処する事が出来ず、ラベルケースは顔を青褪めさせていた。

 

「まあ、僕は無理エッチって余り好きじゃないんだ。だから……」

 

 ラベルケースの上半身を起こし……

 

「我は東方より来たりし者也て闇を祓う燦然と耀ける存在。照らし出す曙光にて竜蛇を暴き、我は汝を妃として迎えよう」

 

 口訣を口にしてラベルケースの顎を手でしゃくり、上を向かせると自らの唇を彼女の唇に重ねる。

 

 それはユートの神殺しの権能──【闇を祓いて娶る美姫】だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 簡易テントが設置され、その中には一組の布団が敷かれており、その中に男女が素肌を晒し生まれた侭の姿で包まっている。

 

 それは云わずもがなで、ユートとラベルケースだ。

 

 ラベルケースはユートの腕を枕代わりにしながら、胸板に頬擦りをするかの如く密着して寝ていた。

 

 つい十時間前までユートを天使喰いだと、敵愾心を露わとしていたとは思えない態度である。

 

 敷き布団の白いシーツには点々と赤い染み、それに彼女も股から未だに生々しく液体を垂らしていた。

 

 約半日、戦闘後の興奮を鎮める為にラベルケースとの情交を楽しみ、今現在は身体を休めている処だ。

 

「ん、……うん?」

 

 小さくて可愛い呻き声を上げると、ラベルケースが眠気眼を開いてボーッとした様子でユートの顔を見遣っている。

 

「起きた?」

 

「え? あ、はい」

 

 慌てて身形を整えようとするも、そもそも素っ裸で布団に潜っている身では、精々が乱れた髪の毛を多少なり触るくらい。

 

 とはいえ、ラベルケースも女なので少しでも自分を良く魅せたい欲求はあり、顔を朱に染めつつもさっさと髪の毛の乱れを正す。

 

 その際に、巨乳がプルンプルンと揺れてユートの目を楽しませてくれる。

 

 まあ……あの肢体の線を強調した服と呼ぶのも烏滸がましいアレで、ラベルケースのプロポーションを知ってはいた訳だが、昨夜はお楽しみでしたねレベルでゆっくりと観賞た肢体は、思った以上に興奮した。

 

 服を着ようとしていた筈のラベルケースが、何故か動きを止めて何処かを凝視している。

 

「どうした?」

 

「ゆ、昨夜はあれだけ激しかったのに、こんなに元気だなんて……」

 

 視線の先には彼女の肢体で屹立したユートの分身、そして昨日の情交を思い出したのか、自分を攻め立てた分身を見て更に真っ赤になってしまう。

 

「ま、インフィニット・リロードだしな」

 

 邪神クトゥルーに犯られた後、可成り変質した身体と精神だったのだが、一番の変化は性に関して。

 

 尽きる事無き胤とヤる気は女の子を啼かせ悦ばせ、自分も満足感を得ると云う強い性欲を持った。

 

「そ、そんなに私との……ソレは良かったですか?」

 

「少なくとも、今すぐ続きをしたくなるくらいには」

 

「〜〜〜っっっ!」

 

 声にならない悲鳴を上げるラベルケース、顔はもう茹で蛸の如くである。

 

 そして探索は……

 

 翌日になったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 瑞原道場……

 

 それは瑞原流剣術を教える道場で、シード・カシマやセレーナ・フレイズ達はこの道場にて瑞原の剣を教えられてきた。

 

 道場主は瑞原葉月の父親であり、一人娘たる葉月がシードと恋仲なのは知っているが、如何に可愛い娘の事とはいえすんなり認める訳にはいかない。

 

 理由は簡単でシードが弱かったからだ。

 

 何しろ、この道場に来てから大分経つというのに、何と新人にすら敗けるのだから筋金入りの弱さ。

 

 娘の葉月の相手には強い者を……そう考えれば次の道場主にしたいのは瑞原流最強の男ビルナスだ。

 

 瑞原・刃の剣を体得し、他にも奥義を既に使えているシードの兄弟子、葉月には彼こそを結婚相手と見て欲しかったが、何処をどの様に間違ったのだろうか? 葉月はシードに惹かれていったらしい。

 

 そこで一計を案じる。

 

 ビルナスには葉月をパートナーに闘神都市で年一回に催される闘神大会に出場をし、優勝をしたら葉月と結婚して道場を継がせる旨を伝え、葉月にはビルナスのパートナーとなって闘神大会に出場をしたらシードとの婚姻を許すと伝えた。

 

 後はビルナスが闘神大会で優勝すれば、瑞原道場の株も急上昇するだろうし、ビルナスと葉月を結婚させて道場も発展する筈。

 

 とはいえ瑞原氏はシードにも機会を与えた。

 

 シードが若し闘神大会な出場し、ビルナスを降せるなら──優勝が出来たならシードに葉月と道場を与えても良い……と。

 

 イレギュラーさえなければこの目論見は上手くいっており、シードとビルナスが闘神大会の決勝戦でぶつかり合って、シードが見事に優勝をしていた。

 

 その後は、勝者が敗者のパートナーを一晩好きに出来るルールの利用をして、初めて結ばれる筈であったのが、イレギュラーであるユートがシードを倒してしまった上に、ビルナスをも倒して優勝をしてしまう。

 

 当然、勝者の権利を用いて葉月の貞操は優勝をしたユートが喰い、しかも葉月は優勝者(ユート)に付いていってしまったとか。

 

 瑞原氏にとっても大誤算というやつだ。

 

 ビルナスに預けた解放金の百万Gも、葉月ではなくセレーナの為に使われて、シードは葉月を喪った事で今も引き篭っている。

 

 というか、闘神大会でのユートVSビルナス後に、葉月の居る部屋に入っていったユートを追い掛けて、スタッフらに止められるくらい暴れたらしい。

 

 血涙を流す勢いで泣き、固くて重い扉を殴り蹴り斬ろうとし、この世のモノとは思えない咆哮を上げた。

 

 勿論、直接的には葉月の情交など見てはいないが、微妙にリアルな解説をする少女の所為で、正しく絶望を与えられたのだ。

 

 更に暴れた所為で追放、今やシードが葉月に会う事は叶わないし、瑞原氏としても目論見が破綻した。

 

 後悔先に立たずというが正にその通り、バカな欲を掻かなければ葉月を喪わずに済んだのに……

 

 瑞原氏もまた、後悔によって半ば引き篭っていた。

 

 果たして、好きな女の子が目の前ではないにせよ、手を伸ばしたら届きそうな位置で、自分以外の男によって女にされた気持ちとはどんなものなのか、シードは引き篭って暗鬱な瞳で、何処とは云えない視線の先に想像の葉月を視ながら、下半身のとある位置に右手を伸ばして、限界を迎えるまで動かし続けている。

 

 何だか虚ろな瞳であり、ぶつぶつと何やらエロエロな事を呟き、下半身の部位を右手で刺激していた。

 

「葉月、葉月の大切な場所に入ってるよ……痛い? 大丈夫さ、すぐに良くして上げるから。俺ばっかりが気持ち良くなってゴメン。今度は葉月もイかせて上げるからね? ハハハハ……ほらね、そろそろだよ? もうすぐ……うっ! イク……葉月の中に俺のが全部流れてイクよ!」

 

 部屋の壁にシードの妄想(よくぼう)の塊が飛んで、その侭ピチャッと付着。

 

 壁には裸でイヤらしくもポージングする葉月が妙に上手く画かれた絵が貼られており、シードの妄想の塊はその葉月の絵の秘められた茂みの部位を濡らす。

 

「ハァハァ……葉月もイってくれたんだね? 俺、嬉しいよ。また良いかな? 挿入()れるよ葉月」

 

 再び分身に右手を伸ばして動かし始めた。

 

 そんな様子を見続けているのはセレーナである。

 

 先程から心此処に在らずな状態で、微妙に上手い絵と妄想で葉月の初めてを貫く〝物語〟を延々と口にしながら自慰に勤しむシードを見続けていた。

 

「シード君……」

 

 壊れたにも等しいシードの姿、闘神大会では何かと弟も同然な彼を叱咤激励してきた訳だが、今度ばかりは何も出来ずにいる。

 

 まあ、葉月の振りをして時折ではあるがシードに抱かれる程度はしていたが、抜本的な解決策は見出だせていない。

 

 其処へドタドタと喧しい足音を響かせ、扉を乱暴に開く者が怒鳴り込む。

 

「ええい、いつまで莫迦をやっているのだシード!」

 

 褐色肌につり目がちな、額に二本の角を生やしている少女……

 

「咲夜ちゃん?」

 

 鬼姫である。

 

「何処までウジウジと腐っている心算だ!」

 

 後ろ向きなシードの前へ出て怒鳴り散らす咲夜は、今のシードの姿を見て今度は別の意味で怒鳴る。

 

「な、ナニをヤっている! 下半身を丸出しにそんなモノを右手で握って……」

 

 シードの固く屹立をした分身が本人の右手に握られている上、コスコスと上下に動かしていた。

 

「葉月、葉月、葉月ぃぃぃぃぃぃぃっっ!」

 

 ビュッ!

 

 目を瞑り分身を擦る速度が弥増して、遂には妄想が暴発をすると分身から白くドロッとした液体が勢いよく放たれ、ピチャリと咲夜の顔に掛かって汚した。

 

「な、な、な、なぁぁっ! ナニをするかバカ者!」

 

「ぎゃびりーん!?」

 

 廬山昇龍覇も斯くやと思しきアッパーがシードの顎に極り、天井に顔が突き刺さってプラプラと揺れた。

 

 然し、羞恥心と怒りが綯い交ぜとなった感情の爆発がその程度で鎮まる筈もなくて、咲夜はシードを引き摺り下ろすとしこたま殴る蹴るの暴行を加えた挙げ句の果て、未だに屹立していた分身の根元の袋を蹴り上げてしまった。

 

 正しくフルボッコ。

 

 その後は、気を利かせてくれたセレーナから水に濡れたタオルを受け取ると、ゴシゴシと顔に付着をした液体を拭き取る。

 

 不幸中の幸いか、ズタボロな姿になったシードは、何とか精神状態が持ち直したらしく、風呂に入ってきて部屋も片付けると咲夜から話を聞ける様になった。

 

「その、ゴメンな咲夜」

 

「もう良い、私も少しばかりやり過ぎたしな」

 

 セレーナは『少し?』と首を傾げるも、火に油なだけだと判断をして黙る。

 

 壊れたシードはらしくもない行為に耽り、その事を自覚してからはただひたすら恐縮していた。

 

「それに、あの女──瑞原葉月だったか? 色々な事が重なったとはいえ他の男に寝取られたのだろう? ショックをうけても仕方があるまい」

 

「うぐぅ!」

 

 何か、見えない棘か槍が突き刺さったらしく胸を押さえて呻くシード。

 

 この話の前にセレーナがビルナスから聞いていた、葉月からの伝言をシードは聞かされていた。

 

『シードに伝えて。ボクの事はもう忘れて、違う幸せを見付けてね? って』

 

『あ、ボクの事は大丈夫。ユートが面倒を見てくれるんだもん……ね?』

 

 これではシードが盛大に振られた様にしか聞こえない訳だが、少なからず権能が関連している事をシード達が知る由もない。

 

「……急激な心変わりか」

 

「何か心当たりでも?」

 

 セレーナが訊ねると咲夜は難しい表情をする。

 

「先日、私は地獄に赴いていたのだ」

 

「「地獄!?」」

 

「ああ、私はそもそも地獄の鬼と同じだからな。其処にヒトの魂を導く役割を持った天使、地獄門の導き手ラベルケースが居るんだ」

 

「鬼じゃなくて天使が護っているの?」

 

「まあな。でだ、ラベルケースは天使喰いと接触し、そいつと戦った……筈なんだがな」

 

「筈?」

 

「うむ、戦闘の跡が残っていたから間違いない」

 

 確認してきたセレーナに答える咲夜だが、自分自身が要領を得てない所為か、上手く説明出来ていない。

 

「間違いはないんだがな、何だ……そのぉ……な?」

 

「「?」」

 

 本当に要領を得ない。

 

「私は奴……ユートが天使喰いになって、アプロスの手先としてラベルケースを斃し、喰らおうとしていたとばかり思ったのだがな、何故か……仲好くなっていたのだよ!」

 

「「ハァ?」」

 

 全く以て意味が解らず、シードもセレーナも首を傾げるしかなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 それは今にも、ユートがラベルケースとの情交に及ばんとした時……

 

「待て!」

 

 咲夜が待ったを掛ける。

 

「鬼姫か……」

 

「む? 何故、私の正体を知っている?」

 

「いや、正体云々じゃなくて額に角が生えてるから」

 

 鬼の証といえば角だし、ユートは少女──咲夜の事を鬼姫と呼んでいた。

 

「私の事はどうでも良い。その手を放せ、闘神ユート……否さ、天使喰い!」

 

「……また天使喰いか」

 

 どうして、どいつもこいつも自分を天使喰い扱いするのかと、そろそろキレたい気分である。

 

 間違って天使喰いになど成ってはいないし、ユートは神殺し──カンピオーネで充分だと思っていた。

 

「ラベルケースにも言ったけど、僕は天使喰いなんかに成っちゃいない」

 

「嘘を吐くな! お前からは天使喰いの気配が確かに有るんだ! 前に会った際には認められなかった気配をどう説明する? 況してや今にもラベルケースを喰らおうとしておいて!」

 

「いや、確かに(性的には)喰おうとしたが……」

 

 一応、権能を使ってしまったが本人の許可は得ていての話だ。

 

「やはり喰う心算だったのではないか!」

 

「性的にな」

 

「は?」

 

「今、正に挿入()れようとした時に邪魔してくれた訳だが、ラベルケースを見てみろよ?」

 

「……む?」

 

 息が荒くて胸を露わとした状態、頬は林檎の如くで真っ赤に染まり、瞳はぼんやりと蕩けている。

 

 何しろ、性交しようとして前戯ですっかり蕩けさせて準備万端に整っており、自然と股を開いてしまうくらいラベルケースは感じていたというのに、行き成り御預けを喰ったのだ。

 

 我慢をしてはいるが早く挿入()れて欲しいのだろうと、見え見えな態度となって内股を擦り合わせながらユートを見遣っていた。

 

「咲夜様、彼は天使喰いではありません。彼とは単にその……仲好くなったからちょっと交流をと」

 

「な!? だがこの気配、明らかに天使喰いだぞ?」

 

 仲好くなったからとて、普通は行き成り性器同士の交流はしない。

 

 そこら辺はユートも慣れたものと云う事か?

 

「なら……」

 

 パチン! 指を鳴らすと氷の壁が顕れ、咲夜の周囲を囲んでしまった。

 

「な、何だ?」

 

氷結唐櫃(フリージングコフィン)モドキ。そいつは君の力では破壊出来ない氷の壁だ」

 

 嘗て、冥王ハーデスとの最終聖戦でキグナスの氷河が天貴星グリフォンのミーノスを相手に使った技で、その際には役に立たなかったものだが、魔力で構築をしたモドキとはいえ咲夜に破壊は不可能。

 

「其処で観ているが良い。僕とラベルケースが仲好く運動をしている処を」

 

「や、止めろ!」

 

 ガンガンと叩くが揺るぎもしない氷の壁に対して、咲夜が鎌を出すと強力無比な魔力で斬り付ける。

 

 必殺技らしい。

 

 然し、氷結唐櫃(フリージングコフィン)モドキに効きはしなかった。

 

 数時間後、氷の壁が解除されて咲夜も解放される。

 

 真っ赤になりながら睨んでくるが、内股になっていて朱色のズボンをグショグショにしていては恐くも何ともない。

 

 数時間もの時間を交流中な二人を観ては、どうやら女としてのナニかに触れたらしく、羞恥と憤怒が混ざった表情になったらしい。

 

「ほら、普通なら出来る筈の時間があったのにやらなかった。これで証として欲しいものだね」

 

「や……」

 

「や?」

 

「喧しいわ、莫迦者共! もう知るか!」

 

 涙目になりながら転移をしてしまった咲夜。

 

「さて、もう少し楽しもうかラベルケース?」

 

「はい」

 

 最早、どうでも良いと言わんばかりにラベルケースに振り向くと、テントを張って本格的にヤり始めた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「……」

 

「……」

 

 唖然となる二人。

 

「一応、暫くは覗いてみたのだがな……」

 

「ただ、シているだけだったと?」

 

 セレーナの問いに頷く。

 

「それと、葉月だったか? あの女にも会ってみたんだが、ラベルケースと変わらない対応だった」

 

「っ!」

 

「洗脳解除の術を掛けてはみたが全く効果が顕れなかったし、何よりラベルケースも葉月も洗脳された者に特有の瞳ではなかった」

 

 その意味は理解出来る。

 

 したくはないが、葉月もラベルケースも単純に好意を持った可能性があると。

 

「だけどそれでも……俺はもう一度、葉月に会いたいんだ!」

 

「苦しむだけかも知れん、それでもか?」

 

「ああ!」

 

「ならば来年になったなら今一度、闘神大会に出場をするのだな」

 

 決意をしたシードへと、咲夜は意外な事を奨めるのであった。

 

 

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第18話:そして一年の刻が過ぎ去って

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 長い銀髪にアホ毛がビローンと伸びた翠色の瞳を持った少女が、邪悪な笑みを浮かべつつ息も絶え絶えにそこそこに育った左の胸を右手で掴み、激しく揉みしだきながらも乙女の秘密の花園へ左手を添え、なまら水音を響かせて指を秘裂へめり込ませていた。

 

「ハァハァハァ、ユートさんユートユートさんっ!」

 

 トロンと蕩けた表情で、ユートの名前を叫ぶ少女は更に指を激しく動かす。

 

 少女の目の前には空間を歪めた天神鏡が浮いてて、映っているのは鏡の名が示す通り少女本人ではなく、一人の青年が長い黒髪少女とまぐわう姿だった。

 

 青年はユート、黒髪少女は瑞原葉月と云う。

 

 二人のまぐわいが終わったらしく、少女もまた満足そうな顔で目を閉じる。

 

「はぁ、気持ち良かったですねぇ……」

 

 ヌルリと手を股間から離すと女の臭いを漂わせて、ヌラヌラと滴る液体。

 

「葉月とかいう娘は確か、この世界のメインヒロインでしたか? それだけに、可愛くて見応えはありましたが……流石に飽きます。そろそろ次の闘神大会も始まりますし、新しい転生者を用意しましょうかね」

 

 少女は乱れた服装を整えると、愛しそうにユートを見つめて呟く。

 

 少女こそユートの天敵、這い寄る混沌ナイアルラトホテップであり、ニャル子と名乗っている個体だ。

 

 度々、ユートと戦ってはいるニャル子だったけど、実は彼女にユートを憎んだりする気持ちなんて無く、寧ろ愛しているとさえ言ってしまえる。

 

 敵対者には違いないし、ユートに抱かれる甘い幻想は懐いてないニャル子は、偶にこんな形で転生者を見繕い、送り込んでは新しい女を合法? 的に与えて、ユートがその女とヤるのをピーピングトム──女だけど──しては自分の肉体を慰めていた。

 

 闘神大会はそういう意味で丁度良く、正に取っ替え引っ替え抱いているユートを見て目を輝かせる。

 

「ふむ、クライアやスワティとかいう女神には未だに手を出しませんか。まあ、良いです。お仕事開始といきましょうか」

 

 ニャル子は適当な地球を見繕うと、その中でオタクと呼ばれたり中二病と呼ばれる者を捜して殺す。

 

 魂を確保して自分の所まで引っ張り、相手が覚醒を果たしたらテンプレートに言葉を紡ぐ。

 

 コスト制で特典を与え、闘神都市世界へと送る。

 

「そういえば、次の大会でユートさんは出場しないのですよね。どうやって与えましょうかね……おや? 成程、彼女は流石です」

 

 クスクスと笑いながら、図らずもニャル子と似た考えに至った少女を見つめ、問題は無いと送り込む。

 

 今回、取り敢えず三人ばかり送った訳だが、一人は闘神大会を理解していなかったらしくパートナーを選ばなかったが、残り二人は同じゲームから違う女を選んでパートナーとした。

 

 一人目は青葉曜子(あおばようこ)

 

 二人目は由女(ゆめ)

 

「ふふふふ、それにしても男というのは業が深いと云いますか、人妻にふたなりとか……ホント特殊属性が好きですね〜。あははは、アーハッハッハッハ!」

 

 ラベルケースを最後に、現状では地獄の攻略もそこそこでしかなく、天使とも久しくヤっていなかったから清涼剤にはなりそうだ。

 

「クフフ、愛していますよユートさん。ですからもっと貴方のエロエロな部分を魅せて下さいね?」

 

 それはとても歪んだ愛。

 

 〝この〟ナイアルラトホテップは──ニャル子の姿を執る少女は、一度ユートに敗れてからこの歪みに歪み切った愛情といおうか、寧ろ情欲を懐いていた。

 

 直に相手にされないからこんな迂遠な方法でユートの性欲を煽り、それを観な

がら自慰に耽るのが現在のというか、暇を持て余せばヤる趣味となっている。

 

「にしても、あの鬼っ子もヤっちゃえば良いのに……勿体無いですねぇ。私程ではありませんが、それなりに見られる容姿ですのに」

 

 などと、究極の贋顔の癖して図々しい事を言う。

 

「まぁ、ユートさんなりの拘りですかね? 今回だと人妻とふたなりですから、可成りマニアックなプレイが期待出来そうですから、そっちを楽しみにしていましょうか。彼女が動くならちょっと籤に介入すれば、上手くユートさんに渡ると思いますしね」

 

 想像するだけで濡れてきたニャル子は、再びユートを思いながら耽り始めた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

.

 シード・カシマは咲夜と共に再び闘神都市の土を踏むと、僅か一年間とはいえ来なかったこの地を懐かしむ様にキョロキョロする。

 

 何と云うか、まるで初めて都会に来た田舎者な御上りさんみたいだ。

 

「シードよ、余りキョロキョロとするな。私達が田舎者みたいではないか。しかもお前は去年も此処に暫くは滞在していたのに」

 

「うっ、ごめん咲夜。たった半月か其処らしか居なかったのに懐かしくてさ」

 

「やれやれ」

 

 困った相方だと謂わんばかりに、ピンクブロンドの長い髪の毛を揺らす褐色肌をした額に二本の角を持つ金瞳の少女──咲夜は肩を竦めて呆れ気味の様子。

 

「あ、この酒場! さやかさんが働いていた!」

 

「さやか? ああ、あの……だが一年前の話だろ? もうペナルティ期間が終わっているし、酒場には居ないだろうな」

 

「あ、そっか……」

 

 さやかは酒場の華であったが、闘神クランクに言い寄られたり碌な目に遭っていない女性であり、シードを応援してくれたものだ。

 

 とはいえ、前年の選手のパートナーだったから一年間のペナルティで酒場で働いていただけ、だからこそ既に彼女に此処で働く理由なんて無い。

 

 即ち、酒場には居ない。

 

「残念だな。お別れの挨拶も出来なかった」

 

「シードが暴れて都市を追い出されなければ、彼女と挨拶も出来たろうに」

 

「うっ!」

 

 葉月を奪われた怒りと悲しみ、それを乗り越えるにはシードは若過ぎた。

 

 今だって達観しているのでも諦念している訳でも、況してや忘れている訳でもないから、同じ事が起きればやはり暴れるだろう。

 

 せめて辛い目に遭っていなければ良いと思うが……

 

「もう、ユートったら」

 

 思うが……

 

「あん、こんな所じゃダメだよ〜! せめて宿屋か、人気の無い所で……ね?」

 

 思う……?

 

「もう、強引なんだから。んっ……」

 

 見覚えのある少女が見覚えのある男と、公衆の面前で口付けを交わしていた。

 

「は、葉月ぃぃっ!?」

 

 瑞原葉月 十八歳。

 

 頬を朱に染めながら男の首に腕を掛け、嬉しそうに唇を受け容れる美少女。

 

 シードの幼馴染みで将来を誓い合った仲の筈だが、嫌がる素振りも見せないでキスをしている様は、とてもそんな相手が居るとは思えない態度だった。

 

 当然ながらシードとしては目の前で好きな子が他の男とキスをしたのだから、これにショックを受けたのは表情が絶望に染まっているから判る。

 

「おい、シード!」

 

「ハッ!」

 

 咲夜に呼ばれて我に返ったが、放っておけばいつまでも固まっていただろう。

 

「まずはそのだらしがない下半身を鎮めろ、バカ!」

 

「へ?」

 

 よくよく見ればシードの股間が不自然に盛り上り、いかがわしい事を想像していたと丸判りな状態に。

 

 どうやら葉月のキスを見て興奮したらしい。

 

「絶望しながら興奮するだとか、変態か貴様は!」

 

「うう……」

 

 情けなくて遂々、前屈みになって股間を隠す。

 

「あれ? シード……? やだ、見てたの!?」

 

「えっと……葉月、一年振りになるのかな?」

 

 真っ赤になる葉月に笑い掛けながら挨拶するシードだったが、頬を引き攣らせているのが判る。

 

「どうしてシードが此処に居るの? お別れしたんだからもう瑞原道場を継ぐとか関係無いのに」

 

 ズキッ!

 

 はっきり言われてナニかが刺さった。

 

「は、葉月にもう一度会いたかったから」

 

「そうなんだ。でもごめんねシード、ボクもうユートとこういう仲だから。ペナルティとか関係無くね」

 

 ユートの腕に絡み頬を染める葉月。

 

「うぐっ!」

 

 まあ、さっきのキスシーンを見ていたから判るが、こうして直に言われてしまうとクるものがあった。

 

 随分なバカップル振りを見せたからか、葉月も少し恥ずかしそうにしていたが罪悪感は無さそうだ。

 

「んで、君らは今大会での参戦希望者なのかな?」

 

「あ、ああ」

 

「そうか。まあ、途中で敗けたりしないようにな」

 

「あ、当たり前だ!」

 

 前回、敗北を喫した所為で姉の如く存在のセレーナがユートにヤられ、更にはビルナスの敗北で葉月まで奪われている。

 

 葉月に至っては身体処か心まで虜にされてしまい、もうどうやらシードに全く想いを感じていない。

 

 話し方から嫌われていないみたいだが、愛情ではなく友愛……友達レベルでのものにランクダウンしているみたいである。

 

 一年間、それだけあれば葉月は何回ユートと寝たのだろうか?

 

 シードは葉月のその行為を想像し、妄想に耽っては若さを爆発させていたが、それはセレーナが鎮めてくれていた。

 

 弟みたいな存在だった訳だし、嘗て幼いながら愛した男の息子だから持ち前の面倒見の良さを斜め上へと発揮、流石に最後までヤらせはしなかったけど口による奉仕でヌいてやる。

 

 一応、ビルナスと恋人だったりするが彼もユートに敗けた負い目からなのか、そこら辺は黙認していた。

 

 とはいえ頻度こそ少ないのだが、その夜はシードのアレを忘れるくらいには激しくヤっていたりするし、そのお陰かセレーナは数ヶ月前にビルナスの子を妊娠して、今は全てを休業しつつ大きくなるお腹を愛しんでいる日々だ。

 

 また、妊娠が発覚してからシードの性欲を鎮める役は咲夜が引き継ぎ、口では羞恥心でヤれないからと、手でヌいてやっている。

 

 今も嘆息していた。

 

 今晩もヌいてやるかと。

 

 因みに、本気で暴走しそうになった事が一度あったのだが、その時は命を狩る勢いで打ちのめした。

 

 咲夜も流石に最後まで致す覚悟までは無く、真っ赤になって槍の石突きでブッ飛ばしたものである。

 

「そうだ、シードも一年間を遊び暮らしてはいなかったんだろ?」

 

「修業していたさ!」

 

「折角だから大会前に実力を見てやるよ」

 

「っ!?」

 

「闘神大会で優勝しても、賞金と闘神の称号を貰えるだけで、別に僕と戦う権利を得られる訳では無いし、葉月を取り返せもしない」

 

「そ、それは……」

 

 シードにも解っている。

 

 所詮は自分の自己満足、それに咲夜を巻き込んでしまっただけだ……と。

 

「だから挑ませてやるよ。勝ったら副賞に叶えられるだけの願いも一つだけ叶えてやろう」

 

「──え?」

 

 ユートが近付いてシードの耳許で囁いた。

 

「葉月を返しても良い」

 

「っ!」

 

 シードはその言葉にカッとなったか、表情を強張らせつつユートに振り向く。

 

「どうする?」

 

「やってやるさ!」

 

 答えるシードだが……

 

「待て、若しシードが敗けたら私はどうなる?」

 

 咲夜が待ったを掛けた。

 

「どうもならん。本大会で敗ければ勝者が権利を得るだろうが、これはちょっとしたお遊びだからな」

 

「そ、そうか……」

 

 ホッと、葉月に比べると無い胸を撫で下ろす。

 

 まあ、葉月もそれ程には無いのだろうが……

 

 然しながら咲夜がそんな我が身の心配をしたのは、他ならないユートとシードが戦えば間違いなくシードが敗北すると考えたから。

 

 それがシード的には不満だったりする。

 

 自分はあの地獄みたいな修業を乗り越え、強くなったのに信じて貰えないと。

 

 シードにはそんな要素が無いにも拘わらず。

 

「それじゃあユート、早く行こうよ。闘神大会で盛り上り真っ只中だもんね? 愉しい場所は一杯だよ」

 

「そうだな、デートの続きを楽しもうか」

 

「勿論、今晩はボクと……だよね?」

 

 さっきより小さな声で、だけどシードにはそれが聴こえていた。

 

 今晩……ボクと……

 

 それが意味する事は理解も出来る。

 

「何でこんな事に……」

 

「言っても詮無いことだが敢えて言おう、シードは遅過ぎたのだ」

 

「遅……過ぎた?」

 

「強くなろうとする意志、その行為が全て遅かった。もっと早く危機感を持ち、命懸けで強くなれば葉月の父御も納得したやも知れんだろう、闘神大会なぞ出ずとも良かったやもな。だがシード、お前はいつまでも弱い侭で葉月と結婚すれば道場を継がねばならぬ事を甘く見過ぎた。その甘えが現状となったのだ」

 

「あ、ああ……」

 

 今のシードはビルナスをも倒せる強さを得ている、それを一年以上前に持っていれば葉月を得るのに迂遠な方法は要らない。

 

 別に弱くても良いなど、甘えでしかなかった。

 

 葉月さえ居れば? 道場主の師範が……葉月の父親がそれで納得するといつから錯覚していたのか?

 

 シードは自らの愚かさを覚ったか、膝を付いて更なる絶望に打ち拉がれた。

 

 葉月とのデートから翌日が経つ。

 

 予選の為の迷宮で人事件が起きたと聞く。

 

 だがモンスターが死体を喰らってくれて、行方不明者が一人出ただけだとして処理をされる。

 

 その際に、行方不明者のパートナーの青葉曜子が、別の出場者と共に居たのが確認された。

 

 闘神都市に放たれた間者からの報告である。

 

 実は昨年に捕らえられ、服従を誓う羽目になってしまったJAPANの忍者。

 

 そんな訳で闘神の館へと呼び出された出場者と青葉曜子、アプロスの間の玉座に座る市長にして闘神たるユートと邂逅する。

 

「さて、出場選手の小岩手仁義にパートナー青葉曜子だったかな?」

 

「ああ」

 

「は、はい……」

 

 二人は頷く。

 

 小岩手仁義は何と云うか……一目見て不良だと判る不良ルックで、何が言いたいかと云えば普通に番長と呼ばれる姿であり、容姿も菊川仁義であったからだ。

 

「えっと、坂を登りながら打ち切りになりそうな顔をしてるが……」

 

「仕方がねーだろーがよ、俺をこの地に送った銀髪がこの顔にしたんだからな」

 

 JAPAN国出身であるらしく、名前に違和感とかは特に無い。

 

 小早川 雫とか日本系の名前を知っているから。

 

「まあ、それは良いけど。それで? 君のパートナーの青葉曜子は確か別の人物と居たらしいが、そいつは行方不明でパートナーは君と一緒に居る。この意味を教えて貰おうか」

 

「黙秘権は?」

 

「この闘神都市で闘神に逆らっても愉しい事にはならないが、それを実地で試してみるか?」

 

「やめておこう」

 

 本人も試しに訊いてみただけらしく、肩を竦めながら言ってから口を開いた。

 

「まず、確認しておきたいんだが……アンタは御同輩ってやつか?」

 

「半分YES、半分NO。僕はこの地のレベル神であるアガサ・カグヤに呼ばれて来た来訪者。だが別世界での転生者でもある」

 

「成程ね……」

 

 この闘神都市世界に於いてはトリッパーの立場で、別世界の地球では転生者として生を受けた──仁義は誤解無く受け取った様だ。

 

「知ってるんだろうが俺は転生者。多分だけど銀髪に殺されたんだろうな」

 

「へぇ? 理解しているならどうして闘神都市へ?」

 

「特にやるべき事も無し、それに去年に雫姫の護衛で駆け落ちしたとか云われていた臥路義笠が天叢雲剣と共に還ってきた。姫は闘神都市の闘神が保護したとか言っていたそうだ」

 

「まさか、それを確かめに来た……と?」

 

「他に面白い事もねーし、半分は物見遊山の心算だったんだが、折角だし大会に出てみようかと思ったが、まさか女性をパートナーにしないと出場不可とはな」

 

「? 転生特典(ギフト)で貰わなかったのか?」

 

「此方に来なけりゃ出なかったんだ。女を貰う意味も判らなかったしな」

 

 つまり、純粋に力や道具のみを得たのだろう。

 

「なら青葉曜子は?」

 

「迷宮で襲われてたんだ。性的にな」

 

「性的に?」

 

 青葉曜子をチラッと見遣ると、頬を真っ赤に染めて俯いてしまった。

 

「恐らく青葉曜子を特典に選んだ奴だろうな」

 

「ああ、成程」

 

 昨年のスワティみたいなものだろうか、要は転生者にレ○プされ掛けて逃走をしたという訳だ。

 

「わ、私には夫が! 一郎さんが居るんです!」

 

 青葉曜子が叫ぶ。

 

 人妻を特典に選ぶとか、頭が沸いているとしか思えないユート。

 

「青葉曜子。青年奉仕団の団長で青葉一郎の妻だね。戦争に行く筈だけど?」

 

 ユーキが言う。

 

「どうしてそれを? そうです……戦争に行く前夜、あの人と求め合おうとしたのに、行き成りこんな所に連れ込まれてしまって……しかも半裸で股を開いて、一郎さんを受け容れようとした直前だったから」

 

 そんな時に召喚されて、興奮した転生者に襲われたから逃げ出し、最終的には試練の迷宮で小岩手仁義に救われたらしい。

 

「その後にパートナーになって貰ったのさ」

 

「理解した。特に問題は無いから迷宮をクリアしたなら本戦に出場だ」

 

「良いのか?」

 

「斯く云う僕も似た様な事を去年に殺っている」

 

「そ、そうか……」

 

 少し引き攣りながらも、小岩手仁義と青葉曜子の二人は玉座の間から出る。

 

 ユーキが多少の怪しい目をしていたが……

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 それは先日の話。

 

 ユーキにあの邪神が接触を試みたのだ。

 

「お久し振りですねぇ」

 

「何の用だ、邪神」

 

「連れない態度ですね? 私は貴女を然程に嫌ってはいませんのに」

 

「兄貴の敵はボクの敵だ」

 

「ふふ、ユートさん至上主義という訳ですね。貴女が少し羨ましいですよ」

 

 ニャル子とユーキの違いはユートに抱かれているか否かで、ユーキは普通に抱かれているからニャル子にとっては憧憬でもあった。

 

「私も貴女の知る私くらいだったら、普段から姿を見せてユートさんに迫る程度はするのですが、何分にも多少の違いが大違いですからねぇ……」

 

「普段からしおらしくしてりゃ、兄貴だって少しは考えたかも知れないのに」

 

「ニャルラトホテプ星人としての矜持が赦しません」

 

「さよけ」

 

 彼女はニャルラトホテプ星人のニャル子と同一存在だが、クトゥグア星人であるクー子を見れば解るが、原典のニャル子とは少しばかり異なる為、原典で主人公の八坂真尋に迫っていた様な性格ではない。

 

 結果、ナイアルラトホテップの性質が強くなって、敵対者としてハルケギニアでも闘いを演じた。

 

 その闘いの中で心が浮き立ち、敗北した時に愛情を持ってしまったニャル子。

 

 今の彼女は世界の破滅の為ではなく、ユートに相手して貰う為に敵対している部分の方が強い。

 

 歪んでいるが確かな愛、それが故にユートを集中的に狙うのだから業が深く、ユートの心臓はキリキリと痛むのであろう。

 

「それで、ボクにわざわざ接触してきたのは?」

 

「いえいえ、ユーキさんが自分をパートナー枠にして闘神大会に出場をするみたいですから、ちょいっとばかり気になった次第です」

 

「別に、兄貴の性欲解消の為にボクが闘神大会に勝って女の子を兄貴に抱かせようと思っただけさ」

 

「成程、やはりですか!」

 

 ユーキは自分を大きくした──ユート謹製ヒューマンアンデット──姿を用いてパートナーとし、大会の出場を既に決めている。

 

 そして、本大会に出場して勝利して得られる権利、敗者のパートナーを殺害という手段を除き一晩好きに出来るというので、ユートに抱かせようと考えた。

 

 勝利者(ユーキ)が別の誰かを招き入れ、敗者のパートナーを抱かせるのだって権利的にはアリだから。

 

「実はですね、今回の大会に二人ばかり私が転生させた方が出るんですよ」

 

「小岩手仁義?」

 

「ええ、一人目は。とはいってもまさかパートナーを選ばなかった彼が、他の方からパートナーを奪っての出場とは、思いもしませんでしたけどね?」

 

「ふーん、それで二人目……のパートナーは?」

 

「おやおや、転生者ではなくですか?」

 

「どうせ碌な奴じゃないんでしょ? パートナーの方が気になるね」

 

「青葉曜子を識るならば、【大悪司】は御存知で?」

 

 それはアリスから出ているエロゲのタイトル。

 

「一応、プレイはしてる。とはいえ基本的な知識だとOVAなんだけどね」

 

「充分ですよ。観世那古真燈教は判りますか?」

 

「通称──【那古教】と呼ばれる宗教団体。オオサカで勢力を伸ばしていたね。教主は那古神様と呼ばれる少女で、その実態はウィミィで造られたフタナリ娘。彼女の血には凄い回復力があって、飲めば死に掛けた人間も治癒するらしいね。若しかして……」

 

「はい、今一人の転生者が選んだのが那古神様、由女という名前の少女だったりします」

 

「確かあれって、失敗作とか聞いた覚えがあるな」

 

「ああ、それですがねぇ。実はどちらも機能します」

 

「は? どうして?」

 

「転生者さんが自分の性欲

を犠牲に、彼女を完全体にしましたからね」

 

「性欲を犠牲にって、だったら折角の欲望全開で獲たパートナーを犯せないんじゃない?」

 

「闘神大会に優勝した暁には解放する約束ですから、その時にたっぷりと楽しむ心算だったのでしょう」

 

「ふーん、自信があるって事かな?」

 

「本人はそうですね。それで貴女を訪問した理由は、籤へと干渉して青葉曜子と由女の両方をゲット出来る様にしますが、私と手を組みませんか?」

 

「兄貴を裏切る気は無い」

 

 すげなく断るユーキ。

 

「まさかまさか! 貴女に彼を裏切れなどとは言いませんよ! 貴女は彼の比翼にして連理! 物理的には兎も角、精神的には決して離れない! 貴女に望むのは私が彼を想って気持ち良くなる為の細工をして貰う事のみ!」

 

「は?」

 

「あの方、(ナイアルラトホテップ)の気配に敏感ですから、下手に近付くとバレてしまいます。だから貴女にこの術式を張って頂きたいのです。代わりに、私が籤に細工をして確実に青葉曜子と由女を彼が抱ける様にしましょう!」

 

 ゴクリと息を呑む。

 

 ユーキはユートが欲情して女を抱いているのを観るのが好きで、ユートに抱かれるのも大好きだからか、ニャル子の申し出は可成り美味しいと思う。

 

 特に幼い容姿の女の子であると、自分が弄ばれているみたいで興奮する。

 

 とはいえ、これはユーキが勝利する事を前提にしての話だが、はっきりと言ってしまえばユーキは普通に今大会の闘神になる自信があったし、受けても問題は無さそうだと判断した。

 

 万一にも小岩手仁義が、由女をパートナーとしている転生者と当たれば、どちらかしか抱けないのだから籤への細工は欲しい。

 

 既に男の色に染まっている人妻が、ユートの色に染められていく過程を思えば今から楽しみであったし、フタナリな娘が女の悦びに翻弄されながら、男の部分を膨らませて射精する姿も見てて楽しめる。

 

 その昔、転生の切っ掛けとなった男の身の上で女の快楽を感じるシステムを造ったユーキだけに、由女がユートに抱かれる姿が今から目に浮かびそうだ。

 

 由女の顔はゲームとかで知っているから。

 

「ふむ、特に変な細工はしてないみたいだね」

 

 ユート程ではないけど、ユーキもそれなりに魔法とかに詳しくなっているし、余程の巧妙さでないと誤魔化されたりはしない。

 

 ユートが科学技術に堪能してきているのと同じだ。

 

 だけどニャル子は小細工をしていたりする。

 

 この術が発動した場合、その結界内で女が受けている感覚を共有するもので、擬似的にユートに抱かれる気分を味わえると云う。

 

「了解したよ。今回に限っては手を組もう」

 

 だが、ユートなら未だしもユーキでは気付かない。

 

 まあ、問題は無いが……

 

 さてこうなると出来れば本物の由女も見ておきたい処だが、件の転生者が果たして予選を突破するか否かが問題だ。

 

 一応の結託だったけど、そもそもその転生者が予選を上がらなければ意味など無く、といっても転生特典さえ在ればあの簡単な迷宮をクリアする程度は不可能ではない筈だ。

 

 余程、戦いに向いてない能力や道具でもない限り。

 

「キャッ!?」

 

 都市を宛どなく彷徨いていると、可愛らしい悲鳴が聞こえたので振り向く。

 

 見れば黒髪に紫の着物を着た少女が転んでいた。

 

「あれは……由女?」

 

 会ってみたいと考えていたら出逢うとか、あの邪神の手引きを疑う偶然?

 

「大丈夫?」

 

「ふぇ? あ、済みません……転んでしまって」

 

 手を引いてやると謝ってくる那古御神な由女。

 

 まあ、この世界で那古教の威光なぞ通用しない。

 

 彼女は単なる一般人だ。

 

「気を付けるんだね」

 

「は、はい……」

 

 儚い印象だが、ウィミィに捕まって以降は今の印象とは全く異なる。

 

「(今の内にあっちの記憶は完全消去しとくか?)」

 

 ゲームでは由女は殆んど印象に残らず、寧ろOVAでの方が記憶にあった。

 

 とはいっても、那古神をやっていた時は幹部の赤毛女に欲情しつつ、少女みたいな儚さを魅せていたが、後半は女とヤってるだけでしかなかった気がする。

 

「(ヤバ、殆んど覚えていないや)」

 

 何しろ、可成り昔の話だから覚えていない部分が余りに多い。

 

「由女、何をしておる」

 

「あ……」

 

「──へ?」

 

 由女を呼ぶのは少女。

 

 アッシュブロンドというべきか、ブラッドルビーな瞳で黒いプリーツスカートなセーラー服を着た彼女、ユーキはその顔に見覚えがあって困惑する。

 

「た、岳画 殺?」

 

「ふむ? 私の名前を知るとは何処かで会ったか?」

 

 彼の【大悪司】に於いて主人公の山本悪司にとって十三歳の叔母、だがユーザーからは真のヒロイン的な扱いを受ける上、ヒロインになると設定が変化をする摩訶不思議な存在。

 

「まさか……」

 

 頭の片隅であの邪神の声が響いた気がした。

 

《いつから転生者が、貴女方の地球から転生した者だけと勘違いしてました?》

 

 岳画 殺──転生者でありながら、由女と同じ世界の出身者だったと云う。

 

 岳画 殺といえば主人公が率いる悪司組に入ってくる十三歳の叔母で、だけどヒロインとなった場合だと血の繋がりが否定されて、更に十八歳に設定そのものが変更される意味不明なる少女、しかも十八歳とか云われてもグラフィックなどは変わらない。

 

「二人で居るなら君らって闘神大会出場者?」

 

「その通りだ。それを訊くとなると……よもやすればそなたもか?」

 

「まあね」

 

 ユーキはジッと自分より小さな少女を見て、この娘の〝設定〟に思いを馳せ、そして試しに訊いてみた。

 

「えっと、由女がパートナーとして君が闘神大会へと出場するんだよね?」

 

「うむ、私が戦う」

 

 まあ、当然だろう。

 

 確か由女のステータス、使えたものじゃなかった。

 

 由女が戦ったとしても、恐らく秒殺である。

 

「君って年齢は?」

 

「十八歳だが……」

 

 この見た目にちんちくりん──ユーキも大して変わらないが──な姿で十八歳だとか流石はエロゲの人物というべきか?

 

 所謂、合法ロリな岳画 殺はユートにとって性的に好物なのだが、残念ながらユーキが勝ってユートが喰えるのは由女の方。

 

 ユートはこれまでにも、フタナリを三人ばかり喰っているから、珍しくはあっても充分に由女は抱ける。

 

 寧ろ、自分的には由女が性に翻弄される処を見たいとすら思っていた。

 

 同時に、折角なのだから岳画 殺もユートの為に戴けないか検討もする。

 

 重度の処女膜強靭症だったと思うが、転生して改善されたかどうか。

 

「取り敢えず、当たったらお互いに頑張ろうか」

 

「そうだな」

 

 ガワだけでなく中身まで岳画 殺、だとしたら死んだ理由は何だろう?

 

 ユーキが薄れた記憶から引っ張り出した原作知識、どっかのルートで岳画 殺が死亡するシーンが有った気もするし、その時の彼女なのかも知れない。

 

 だけど、岳画 殺が由女を特典に選んだ理由が理解出来なかった。

 

 何故に由女か?

 

 別に由女でなくとも幾らでも女は居る筈。

 

 とはいっても、理由なんて実質的にどうでも良い。

 

 ニャル子との約束で彼女──岳画 殺とは間違いなく当たる。

 

 取り敢えずは由女を楽しむ為に、彼女に勝つ必要性があった。

 

「そうそう!」

 

「ん?」

 

「私の名前は岳画 殺……殺すと書いてさつと読む。気軽にさっちゃんとでも呼ぶが良かろう」

 

「判ったよ、さっちゃん」

 

 さっちゃんが手を振り、由女が御辞儀をするのを見つつユーキも手を振って、闘神の館へと帰る。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ん、ああ……そっか」

 

 岳画 殺と会った翌日、ユーキは大きなベッドの中で目を覚ます。

 

 隣にはユートが眠って、更に向こうには小早川 雫の姿が在る。

 

 昨夜ユートは小早川 雫と寝た──性的な意味で──のだけど、其処にユーキが普通に参加をしたのだ。

 

 ふと下を見ればユートの下半身が凄まじい。

 

「兄貴、あれだけボクと雫の肢体を貪っておいてまだヤり足りないんだ」

 

 仕方がないと謂わんばかりに処理をしておく。

 

 これでも舌遣いは慣れたものだったから。

 

 起きてからは執務室にて市長の仕事をするユート、こればかりは蔑ろにしている訳にもいかない。

 

 アプロスを殺したのは少し早計だったかと、若干の後悔すら懐いてしまう。

 

 どうせだから操り人形な毎日の中で零と無限の狭間を迷わせれば良かったし、所詮はアプロスなんて絡まった糸を断ち切る力は心の中に存在しない。

 

 操って仕事をさせつつ、あの見目だけは麗しい肢体を貪れば愉しかった筈。

 

 ビッチと鋏は使い様だ。

 

「そろそろ来るかな?」

 

「何が?」

 

「最近、僕をストーキングしてる奴が居る」

 

「ああ、居るねぇ」

 

 仕事は書類関連だから、ユーキも役立つ。

 

 他はメイド力が高い娘をこの部屋に待機させるが、実際にそんな娘が居るかと訊かれると、クライアくらいだったりする。

 

 葉月は料理が苦手だし、掃除洗濯は得意らしいからそちらへと回せば良いし、お姫様だった雫には何を況んやで、家事は出来るけど女神にやらせるのもあれだからスワティも使わない。

 

 まあ、クライアは血生臭いのも苦手だろうから今日は部屋に待機させた。

 

 ストーカーがそろそろ痺れを切らせそうな気配で、それを煽る為にちょっとばかりアレであれな事を葉月にヤらせているし。

 

 だからメイドは館に元から居た娘──のぞみに任せていた。

 

 葉月は机の下でユートの下半身に奉仕中。

 

 何故なら……

 

「死になさい!」

 

 ガキィィィッ!

 

 ストーカーは葉月を餌にすれば出てくるから。

 

「は、葉月? どうして、何故そいつを庇うの!」

 

 剣を振るってきたストーカーだが、凶刃は葉月の剣によって止められる。

 

 剣と剣が激しくぶつかり合って、凄まじいまでの音が部屋に鳴り響いた。

 

 ギチギチと鍔迫り合いの音が眩しいが、金髪を白いリボンでポニーテールに結わい付けた白い胸当てを装備する少女は目を見開き、葉月へと問い掛ける。

 

「どうしてって、ユートを護るのは普通だよ? 貴女こそ市長にして闘神である彼を暗殺しようだなんて、バカな真似をしないでよねテレーズ!」

 

 彼女は葉月の同門。

 

 姿を確認した葉月がそう言ったから、今回はわざと葉月に奉仕させてテレーズとやらを煽ったのだ、

 

 大方、帰らない葉月の事を心配したのだろうけど、きっと望まぬ行為をヤらされていると考えた筈。

 

 ユートを睨む彼女を見ればそれが解る。

 

「のぞみ、その娘を取り敢えず地下牢に入れとけ」

 

「判りました」

 

 テレーズは武器を奪い、縄で雁字絡めにして地下牢に放り込む。

 

 何だか罵詈雑言で罵ってくるが、そんなのは知った事でもない。

 

「じゃあ葉月、続きをお願いしようかな?」

 

「あ、うん」

 

 テレーズの事が気になるだろうが、午後からシードとの決闘があるからあの娘に拘っている暇は無くて、葉月に奉仕の続きをヤらせながら仕事を再開した。

 

 午後、昼食を食べてから闘神の館の中庭にユートとユーキ、更に葉月が集まって来ている。

 

 ややあってのぞみに案内されたシードと、鬼っ娘の咲夜が連れられて来た。

 

「さて、お互いに言葉を尽くしても意味が無いから、さっさと始めようか」

 

「ああ!」

 

 ユートは妙法村正を正眼に構え、シードもラグナード迷宮で手に入れた村正を同じく正眼に構える。

 

「始め!」

 

 ユーキの掛け声に早速、シードが駆け出した。

 

「うおおおっ!」

 

 明らかに刀の扱い方ではないが、どうやら西洋剣を使っていた影響で刀の扱いになれていないらしい。

 

「力任せに来るなら!」

 

 ガキン!

 

「うあっ!?」

 

 上段斬りに来たシード、其処へ併せる様に刃を持って行き、シードの村正を弾いてやった。

 

「緒方逸真流──【木霊落とし】!」

 

 刃を下から上へ跳ね上げると、無防備なシードへ向けて今度は上から下へ斬り下ろした。

 

 何とかシードは刃を躱したものの、無茶な動きによって転んでしまう。

 

「ぐうっ!」

 

 すぐに立ち上がるが痛むのか呻いた。

 

「こなくそ!」

 

 剣を振るうと竜巻が現れてユートを襲う。

 

「瑞原・風の剣っっ!」

 

「瑞原・風の剣!」

 

「なっ!?」

 

 渾身の一撃を放った心算のシードだったが、ユートは敢えなく真似て放った。

 

 絶句するシード。

 

 風の剣同士がぶつかり合って消えた。

 

「ど、どうして!?」

 

「聖闘士って言っても判らんか……僕が所属していた組織にはある通説が在る。我々(セイント)の目は相手の技を完全に見極め、その中に存在する勝機を逃さない──故に我々(セイント)に同じ技は通じない!」

 

「そんな莫迦な!」

 

「だけど嘗て僕が所属していた組織とはまた別に……僕は一度見た技は真似る事が出来る。資質が無いのでなければ……な」

 

「う、そ……じゃないか。実際に真似てるし」

 

 ユートが獲た転生特典(ギフト)は、良く視える眼と魔法への親和性だ。

 

 魔法への親和性は精霊との高い同調率を得られて、様々な世界の魔法を扱えるというバグが発生、小さな願いが予想外な大きさへと化けた形である。

 

 良く視える眼。

 

 有り体に云えば流れとか目に視えないナニかを視る為の特殊視力だったけど、ハルケギニアの魔法である【探知(ディテクト・マジック)】を常に掛け続けた事で超進化をした。

 

 元より調べものをするに適したコモン・マジック、それ自体は大した魔法という訳でもなかったのだが、ユートの与えられたギフトと混ざり合い、某かの刺激でも起きたのか探知の魔法を吸収して魔眼となってしまっていた。

 

 結果、劣化はするものの他人の技を視ただけで真似るくらいは可能となって、きちんと技を使い熟せる様に修業すれば、自分のものとして扱える様になる。

 

 まあ、使う資質が無ければ真似るなど不可能だったりするが……

 

 

.




 ユートの地獄攻略は然程に進んでいません。




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第19話:異世界の闘神都市へ向かえ!

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 羽純・フラメルは手を腰の辺りで組み、試合を大人しく観戦していた。

 

 本来ならこの世界に存在しない人間ではあるけど、転生者による召喚によって喚ばれてしまい、その上で〝何故か〟という部分には今現在は靄が掛かったみたいに思い出せなかったが、幼馴染みのナクト・ラグナードと単なる【幼馴染み】の関係から更に一歩を踏み出そうとしていたが故に、服は着ておらず股をMの字に開脚した状態でナクトの分身が、羽純の秘裂に宛がわれた状態で今正にグッと力を籠めようとした瞬間、羽純は真っ赤な顔で恥ずかしそうに両手で目を覆い、見ていなかったけど世界から消え失せて、召喚主たる転生者の前に顕れる。

 

 急に秘裂への圧迫感が無くなった事に不審を覚え、『ナクト?』……と名前で彼を呼びながらソッと手を退けて前を見遣れば、目の前には見知らぬ男と銀髪の少女が立っており、見知らぬ男に至っては勃ってすらいたから一気に恐慌状態に陥るが、すぐにも我に返る事となった。

 

 秘裂への圧迫感が生まれた瞬間、ブチブチとまるで音が感触になったみたいな嫌な響きが下半身に表れ、次の瞬間には得も知れぬ痛みが羽純を襲ったから。

 

 既にナクトが秘裂を弄って愛液で潤っていたけど、何の配慮も無く無遠慮にも狭い道にぶち込まれた槍、肉壁のより一層狭い部分──処女膜と呼ばれる場所を強引に引き千切ったのだ、声にもならない悲鳴を上げて美しい肢体を弓形にし、『かは、かは……』と息も絶え絶えになり、目からは大粒の涙を流していた。

 

 だけど羽純の災難はそれで済まない……というか、済む筈もない。

 

 悦楽享楽愉悦愉快とばかりに転生者が腰を振る。

 

 ただただ腰を振り続け、舌を突き入れながら唇を奪うとこれまた強引に舌を絡ませて、羽純は喪失感を味わう暇すら与えられずに、痛みと気持ち悪さに吐き気を催しつつ、凶宴が終わるのを待つしかない。

 

 とはいえ、羽純にとっては永劫にも思えた時間も、実際には十分と経たず終了していた。

 

 それでも羽純がお腹の中に熱を数回も感じており、どうやら転生者は早漏野郎だったらしい。

 

 回数だけは保った辺り、それなりの回復力か?

 

 転生者に蹂躙された後、羽純はそこから所謂心神喪失状態に陥り、何があったか殆んど覚えていない。

 

 そんな中、光を取り戻した瞳が最初に映したのが、ユートの姿であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートとシードの決闘、それは始終ユートの有利で進んでいって、最終的にはユートの勝利に終わる。

 

 だけど、シードの戦いを観ていたら何と無くだったがナクトを思い出す。

 

 そして怒涛の様な記憶の奔流にフラリ……と目眩を感じてしまった。

 

「お、もい……出した!」

 

 靄が掛かっていた嘗て、一年前に自身に起きた事。

 

 涙が零れ落ちる。

 

「どうした羽純?」

 

 流石のユートも様子がおかしい羽純に気が付いて、多少の動揺をしながら本人に訊ねた。

 

「思い出したんです」

 

「思い出した?」

 

「はい、私がこの世界に来る前にどうしていたのか、その状況を……」

 

 羽純は語る。

 

 ナクト・ラグナードは、羽純をパートナーに拡張付与をしながら闘神大会を勝ち進み、ドギ・マギを斃してマニ・フォルテを抱き、忍者の十六夜幻一郎を斃して十六夜桃花を抱き、ナミール・ハムサンドを斃してナミール・ハムサンド本人と双子のルミーナ・ハムサンドを抱き、マグラガ・クリケットを斃してアザミ・クリケットを解放した。

 

「解放?」

 

「あ、はい。流石にアザミは抱かなかったみたい」

 

 羽純はそう説明する。

 

 決勝戦でレメディア・カラーと戦い、然し敗北を喫してしまったナクトは去年のシードみたく暴れたが、都市を追放になる。

 

 その後はレグルス・ラグナードの許に居た羽純。

 

 ナクトが一年後に再び、闘神都市にて大会に出場をしたのは知っていた。

 

 身体は自由にならないが意識はあったから。

 

 ナクトは無事に闘神にはなったが、都市長のシンの計略に嵌まって更なる探索をしなければならなくなってしまい、その上に特殊な指輪を着けられていた。

 

 迷宮の瘴気を防ぐ防壁を張る指輪であり、淫力が無ければ使えないらしい。

 

 淫力はまぐわえば貯まるから、ナクトは否が応にも女を抱きながら探索した。

 

 そして運命の日。

 

 フィオリという悪魔は、心を封じられた羽純を抱けと連れてくる。

 

 フィオリは無垢な令嬢としてナクトに近付いたが、その正体は比喩ではなくて真に悪魔だった。

 

 その美しい顔を愉悦に歪ませていた辺り、悪魔と呼ぶに相応しかったとか。

 

 しかも、自分の楽しみの為にナクトへ羽純の感情を取り戻す方法を教えた。

 

 ナクトは羽純の心を縛る物を見付けて破壊、羽純と漸くまともに話せる。

 

 話し合いをして淫力を貯める為に、そしてナクトを愛しているから『抱いて』と願う羽純。

 

 裸身をナクトの前に晒して前戯で準備、そして今正に分身をナクトが宛がい、グッと力を籠めようとした瞬間、羽純は消えた。

 

 其処から先はユートも知る内容となる。

 

「フィオリはあの夜は私しか抱かせないと言ってた。だから……」

 

「淫力の貯まってない指輪の侭、ナクト・ラグナードは迷宮に入るか」

 

 そうなればナクトは死ぬしかなくなる。

 

「お願い! 何でもしますからナクトを助けてっ! 私はもう既にユートのモノだけど、どんな事にも応じるから……お願い!」

 

「例えば、今すぐ大通りに出て見知らぬ男共に股を開けと命じても?」

 

「それが対価になるなら」

 

「……成程、面白いな」

 

「?」

 

 ユートが愉快そうに笑うのが何故か解らず、羽純は可愛らしく小首を傾げた。

 

「僕の権能──【降されし女王よ妃と成れ(プリンセス・アンドロメダ)】は、対象の中の優先順位を変動させる効果だ。それは敵対する者の敵対理由を無くすという意味にも繋がる」

 

 嘗て【まつろわぬペルセウス】を斃して簒奪をした権能は、ペルセウスが海獣ティアマトーを討ち取り、エチオピアの王女アンドロメダを手にした事に由来をしたものだ。

 

 さて、あの【カンピオーネ!】を主体とする世界に於いて英雄が救い出すという美姫とは、即ち討ち斃した竜蛇そのものを指す。

 

 例えば、ペルセウス・アンドロメダ型神話の代名詞たるペルセウスは正にで、他には八岐大蛇を降したという建速須佐之男命が救った寄稲田姫、これらが有名処だろうか?

 

 その地の支配者を降し、征服したという証。

 

 それが竜蛇を討った英雄が美姫を娶るという事。

 

 故にこその権能だった。

 

「心神喪失状態だったから本来の制約を無視して権能を使えたが、やはり不完全だったかな? まさか僕に対してナクトを救いたいと言えるとは。否、優先順位が変わるだけだからかな。別に嫌いになる訳でもないんだし……」

 

 実に興味深い。

 

「けど兄貴、一時的にとはいえ失明するんだろう? やって欲しくないよ」

 

「可能性だよ。それにやるにせよ問題がある」

 

「羽純とは別に闘神都市Ⅲ世界の誰か……ねぇ」

 

 やはりネックはそれだ。

 

 よもやすれば捜したなら居るかも知れない。

 

 転生者の呼び込みと特典の受け渡し、精力的にやっているなら僅か数名というのは無いだろう。

 

 ならば、或いはその中に羽純と同じ世界出身の誰かも居る筈だから。

 

 やるとなれば仕事は速い訳で、メイドも含めユーキの記憶を頼りに描いた似顔絵を使い、【闘神都市Ⅲ】に登場する人物──恐らくは女性しか居ない──を捜す事になって数日。

 

 未だに見付からないが、闘神都市はそれなりに広いから数日程度は見積り済みだったし、クライアやはっちゃんは出せないにせよ、スワティの持つ縁を視る程度の能力も総動員をして、羽純・フラメルの同郷者を人海戦術で捜す。

 

「きゃる〜ん、何と無くですけど羽純さんとの縁の糸が繋がる人が居そう」

 

 スワティは本来であれば縁結びの神様、元々の世界でも一人の青年に良縁を授けていたくらいだ。

 

 だが、頼り無い縁の糸を探るのは難しい。

 

 何より、青年に授けていた良縁だって青年本人が足を使って捜さねばならず、スワティは飽く迄も切っ掛けを与えたに過ぎない。

 

 まさか、スワティ本人がこうして飛び回る羽目になるなど、神としての自分でさえ思いもよらなかった。

 

 さて、そもそもスワティとは何者か?

 

 【きゃんきゃんバニー】シリーズ、プルミエールとエクストラとプルミエール2に於けるナビゲーター。

 

 メタ的にはそう云える。

 

 身長一六〇、体重は内緒でB八三・W五六・H八五と中々のスタイルだ。

 

 唯一、某か言いたいならエクストラではヒロイン枠ながら、最後まで〝合体〟シーンが無いナビゲーターの哀しさよ。

 

 その正体は本名のサラスワティという事からも判る通り、弁財天として名高いヒンドゥー系神話のブラフマーの妻のサラスヴァティ──の分け御霊である。

 

 ユートはその手のゲームを殆んどプレイしていなかったから識らないのだが、ユーキはプレイした事があったから判った事実だ。

 

 その能力は縁結び。

 

 河村耕平に良縁を授け、応援をしていた。

 

 エクストラで北極紫微大帝の星を勝手に使った咎により、期限内に飛び散った七つ全ての星を集めなければ嫁になって貰うと宣言をされてしまい、耕平は星を集めるべく奮起する。

 

 結局は全てを見付けられなかったが、耕平に真の縁を授ける段階でまさか自分がヒロインとなっているとは思わなかっただろう。

 

 選んでいる最中、ニャル子による召喚を受けたから耕平の選択は聞けてない。

 

 どの道、スワティ本人がこの場に居るからには彼女を選べないし、スワティの妹分のサワディか若しくはミーナクシーのミーナ辺りが引き継ぎ、耕平に真の縁を授けた筈である。

 

 まあ、ミーナはサワディより幼いから無理か。

 

 そんなスワティだからこそ可能な縁捜し、ユートとしても万が一にも見付ける可能性があるとするなら、スワティだろうと半ば確信をしていた。

 

 捜し始めて二日間。

 

 闘神大会の本戦が始まる数日前、漸くスワティからそれらしき人物を見付けたと連絡を受けた。

 

 ラグナード迷宮近くに在った小屋、そこに可成りの美人な女性が寝ている。

 

「寝てるというか、意識を失っていると言った方が、寧ろ適切かも知れないな」

 

 汗をグッショリと掻いたらしく、ガビガビな鎧の下の白い服に女性には不釣り合いな黒い剣。

 

 青い癖っ毛をロングにしており、額には紅い宝石を付けている事から、彼女がクライアみたいなカラーである事が判る。

 

 しかもカラーの身で紅い宝石、恐らくは処女なのだろうが肉体は可成り鍛えてあるとみた。

 

「レ、レメディア?」

 

「知り合いか?」

 

「は、はい。レメディアはナクトのお父さん、レグルス・ラグナードとパーティを一時期組んでいた人で、幼い頃に会ってるんです」

 

 スワティが見付けたのはレメディア・カラー。

 

 羽純の感覚的に昨年──ナクト・ラグナードと闘神大会決勝戦で戦い、それに勝利をして闘神となっているらしい。

 

「恐らく、転生者が望んだんだろうけど……何で一人切りで気絶してるんだ? それに転生者は……って、この剣の血の臭いは!」

 

 それで察した。

 

「転生者は殺されたか」

 

 召喚したは良かったが、どうやらすぐに斬り殺されでもしたのだろう。

 

 処女なのも頷ける。

 

「この剣が原因だろうな」

 

 気絶している理由までは解らないが、この黒い剣がまるで呪われた邪剣にしか感じられなかった。

 

 バキン!

 

 ユートはあっさりと刀身を握り潰して砕く。

 

 カンピオーネの身の上、小宇宙無しでもこれくらいは容易い。

 

「さて、館に戻ろうか」

 

 レメディアを背負うと、ユートは小屋を出て羽純やスワティを伴い、闘神の館へと戻る。

 

 館の空き部屋のベッドへとレメディアを寝かせて、羽純と同じカラーという事で連れてきたクライアに向き直ると……

 

「レメディアの世話は羽純とクライアに頼む」

 

 そう言った。

 

「判りました」

 

「うん、ユート」

 

 羽純は元より、クライアも異世界から来たとはいえ同族のレメディアを世話するのに否やは無く、二人はすぐに了承をする。

 

「ユーキ、余り怒るな」

 

「怒ってない」

 

 探索には手を貸したが、ユーキとしてはユートが傷付くのは嫌だし、況してや失明の危険なんて犯して欲しくはない。

 

 ただそれだけだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 クライア・カラーは眠るレメディア・カラーを見つめており、自らの額の赤い宝石に手を伸ばし触る。

 

「貴女もまだ未経験なんですね……」

 

 カラーという種族は嘗て神が創りたもうた存在で、その姿は基本的に現在世界のプレイヤーに酷似して、額には赤い宝石を持つ。

 

 更に女性しか存在しないが故に、殖える為には別の種族――メインプレイヤーとの交わりが必要であり、カラーが処女を喪うと同時に額の赤い宝石は青く強い魔力を持つ様になる。

 

 その美しさは交われば交わる程、鮮やかな輝きを含む青へと変わっていく為、カラーを狩り犯して犯して犯し抜き、最高潮にまで煌めきを放つ様になった宝石を額から剥がす。

 

 その青い宝石は高額にて取り引きされるが、カラーは宝石を失うと同時に生命活動も停止する。

 

 また、カラーの青い宝石を取り込むとメインプレイヤーは魔力を得るらしい。

 

 三超神のハーモニットが何故そんな風に創ったかは窺い知れないが、世界ではそれが真実であり常識として回っていた。

 

 レメディアの額の宝石も赤い事から、どのくらいを生きたかは判らないけど、少なくとも男性経験が無いのは間違いない。

 

 クライアとしてはユートに処女を捧げ、額の宝石を青に変えて貰っても構わないと思ってはいるのだが、最後まではしていない。

 

 基本的には他の娘とヤる際に、サポート要員くらいのポジションである。

 

「う、んっ……」

 

 呻き声と共にうっすらと目を開くレメディア。

 

「目が覚めましたか?」

 

「貴女……カラー?」

 

「はい、クライア・カラーと云います」

 

「そう、私はレメディア。レメディア・カラーよ……此処は何処なのかしら?」

 

「闘神の館です」

 

「闘神の館? 闘神!」

 

 気だるい感じで半覚醒な状態だったレメディアは、【闘神】という言葉に反応して起き上がる。

 

「あ、無茶しないで」

 

「うう……」

 

 身体が衰弱していた。

 

「すぐにご飯を持ってきて貰いますから」

 

 クライアは席を立つと、厨房へと向かう。

 

 レメディアは肉体を動かせないもどかしさを感じながらも、同族が普通に暮らしているなら危険も無いのだろうと座った状態で背中を背刷りに凭れ掛からせ、今までの事を思い出す。

 

「確か私は……」

 

 ナクト・ラグナードとの決勝戦、勝利して闘神となって目的の人物と会って、黒い剣を渡された後は操られていた。

 

 その後、行き成り変な男と銀髪アホ毛の元に喚び出され、襲い掛かって来た男をなます斬りにしてやる。

 

 頭と身体の行動矛盾から倒れて今に至る訳だ。

 

「私が私の意志で動けているという事は、あの黒い剣は喪われた?」

 

 都市長シン――父親から渡されたあの黒い剣。

 

 カラーとは誰が父親になろうと、誕生するのはカラーであるが故にレメディアもまた純血のカラー。

 

 だが然し、それでもシンは確かに父親なのだ。

 

「闘神の館と彼女は言っていたけど……」

 

 自分は全く違う世界にでも跳ばされたと判断していたのに、蓋を開けば闘神というよく知る言葉。

 

「いったい……」

 

 レメディアは知らない、銀髪アホ毛が邪神といったカテゴリーで、傍に居た男が転生者と呼ばれる存在であり、転生者はレメディアを見た瞬間に犯すべく襲い掛かって来た事を。

 

 まあ、だからレメディアは黒い剣で転生者を殺し、自己矛盾で意識をストップしてしまったのだが……

 

 そしてこの世界が自分の居た世界に似た平行世界、闘神都市Ⅲから闘神都市Ⅱの世界にシフトした現実、それは致命的に自らの目的を阻んでいる事を。

 

 ガチャ!

 

「っ!」

 

 思考に耽っていると扉が開かれ、クライアがトレイにご飯を載せ入ってきた。

 

「お待たせしました」

 

「あ、ああ」

 

 同族なだけに警戒心も薄れるが、闘神がクライアを使っているのだろうか?

 

 判らない事が多過ぎる。

 

 取り敢えず、クライアが持ってきた食事を食べた。

 

 自分を殺すなら寝ている時に出来たし、食事に細工はされていないだろう。

 

「美味いな」

 

 胃に優しく玉子粥。

 

 それは一日以上食べてない空きっ腹に染み渡る。

 

 暫し食事を堪能、飲み物――緑茶を飲んで食事を終えたレメディア。

 

「クライアと言ったな?」

 

「はい」

 

「お前はこの闘神の館とやらでどんな立ち位置だ?」

 

「……闘神ユートの友人、愛人は違いますね。して貰えてないですから」

 

「闘神ユートか。その人物に会いたいのだが」

 

「構いませんよ。食事を終えたら連れて来る様に言われてますから。歩くのが難しいなら呼べますけど?」

 

「いや、行こう」

 

 レメディアは渡された服に着替え、クライアに案内をされてアプロスの間に向かうのだった。

 

 アプロスの間の玉座に座るのは黒髪黒瞳の青年で、闘神の称号を持つ闘神都市の市長――つまり父親シンと似た立場だと聞く。

 

「レメディア、無事に目を覚ました様で何よりだよ」

 

「貴方が闘神ユートか?」

 

「ああ、ユート・スプリングフィールド。去年の大会で優勝して闘神となって、同時に市長の座に就いた。異世界の闘神レメディア、貴女を歓迎しよう」

 

「異世界……やはり此処は私の居た世界では無いか」

 

「その通り。君は邪神の企みに巻き込まれ、この世界に召喚されてしまった」

 

「帰る事は?」

 

「帰りたいのか? 不可能だな。君の世界が何処に在るのか判らない」

 

「……そうか」

 

 肩を落とすレメディア。

 

「私には何も出来ない……私は彼方側の闘神都市へと赴き、父に会うべく自らを代価に大会に出場をした。ナクトに……知り合いにも勝利して闘神にはなった。父にも会ったが……黒い剣に操られてしまった」

 

 父親の企みを知り止めたかったのに、レメディアはまんまと操られてしまう。

 

「本来なら無理だったが、実はレメディアを発見して状況は変わった」

 

「……え?」

 

「同じ世界の人間を二人、それで共振を引き起こして世界を特定、そいつを外から視る為に僕の〝視る〟事に特化した魔眼──【叡智の瞳(ウイズダム・アイ)】を一時的に【劫の眼】へと変化させる。あれの『望んだ未来を引き寄せる』──外側からその未来に到達する道筋を視る能力を使い、特定した世界への道筋を辿る事が出来る筈だ」

 

 幾つか解らない単語も有ったが、レメディアにとっては福音とも云える。

 

 だが、気になる事が一つだけあった。

 

「待って欲しい、つまりは私以外にも私の元居た世界の住人が居るのか?」

 

「居る。そもそも、君を捜していたのもその人物の為だった。彼女を――羽純・フラメルを彼方側へ還すという目的の為に」

 

「っ!? 羽純が?」

 

 カツン! 軽い足音が、レメディアの背後な響く。

 

「は、羽純!」

 

「久し振り、レメディア」

 

「それじゃ、羽純も?」

 

「うん。同じ様に召喚されたんだ。でもレメディアみたいに強くなかったから、それにナクトと結ばれようとした瞬間に召喚されて、抵抗も出来ずに犯されちゃったけどね」

 

「なっ!?」

 

 軽く言うが、女の子にとってどれだけ重たい事か、それはレメディアにだって理解は出来た。

 

「闘神大会にパートナーとして登録されて、私を犯した男の人は敗けた。その時の対戦者がユートだった。心がズタズタだった私は、ユートに心を救われたわ。抱かれて一年間をこの館で過ごしてきた」

 

「それは……」

 

「そして先日、私は一部の喪っていた記憶を取り戻す事が出来たの。だから元の世界に帰りたかった。貴女が見付かるとは思わなかったけど、ユートは私を還す為に同郷の人を捜してくれたんだよ」

 

「……そうだったのか」

 

 羽純の境遇とは悲惨そのもので、レメディアとしても何と言えば良いか判らなかったが、同じ女としては同情を禁じ得ない。

 

 とはいえどうやらユートは悪人では無さそうだ。

 

「問題は対価だよ」

 

 レメディアへ向けて言うのは、青髪ポニーテールの少女──ユーキ。

 

「対価?」

 

「兄貴は簡単に言うけど、【劫の眼】に変えるのとか失明の危険もあるらしい。一時的にはほぼ確実だって云うしね。そんな危険を犯すなら、貴女はどんな対価を支払うのさ? 言っとくけど羽純はもう兄貴のモノだから、対価は支払い様が無いからね!」

 

 ユーキの言い様に驚き、羽純の方を見遣ると真っ赤な頬で俯いていた。

 

「羽純、ナクトの事は?」

 

「……私を召喚した人に、私はユートに救われるまで散々に犯されたわ。初めてもナクトに上げられなかったの。救われた後は私自身の意志でユートにこの一年間は抱かれてきた。今更、ナクトの許に戻れないよ。でも、せめてナクトの生命は助けたかったから……」

 

「そうか。ならば私も同じく貴方に全てを捧げよう」

 

「全て?」

 

「失明するなら我が眼を代わりに奪うが良い。私とて目的さえ果たせば構わないからな。処女も捧げよう。この身はそれなりに男を悦ばせるくらいは出来る筈」

 

 ユートはユーキから聞いて知っている。

 

 レメディアは自らの処女をナクトに捧げ、生命を喪う覚悟で魔力を得た額の青い宝石を使う心算だと。

 

 とはいえ、宝石に魔力を宿せば良いのだから相手が変わっても問題は無い。

 

 対価に処女を捧げてでも帰り、青い宝石を以て目的――父親を止めようというそれを果たす気なのだ。

 

「判った。なら数日の間は僕の相手をして貰おうか」

 

「了解した」

 

 レメディアは頬を朱色に染め、ユートの言葉に頷いていた。

 

 この日の夜、レメディアの純潔を示す額の赤い宝石は空の如く青に変わる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 闘神都市Ⅲ世界に向かったユート一行、ナクト・ラグナードを救って全てを斬る剣に囚われた闘神ボルトを討ち果たし、手に入れられそうなモノは全て手に入れて帰ってきた。

 

 羽純・フラメルとレメディア・カラーはユートの許に戻る事を望み、悪魔であるフィオリは生命を救った上で真名を掴み、下僕にしてから御持ち帰りしたし、アズミ・クリケットも序でに手に入れている。

 

 レグルス・ラグナードと村に帰ったナクトだけど、本来の道筋とは随分と変わってしまい、何故かという程でもないが十六夜桃花と宜しくヤっているらしい。

 

 どうやら普通に惚れてしまって、レメディアも羽純も喪って意気消沈していたナクトを慰めた桃花だが、それが見事に大当たりしてしまい、お腹が膨れ始めていたから責任を取る形だ。

 

 それは兎も角――

 

 闘神大会当日までユートは御持ち帰りしたアズミやフィオリ、羽純にレメディアも加えて相手が足腰立たなくなるまで楽しんだ。

 

 前大会でナクトに抱かれていなかった上、今大会でパートナーになっても手出し一つされず、前の持ち主的な男もアズミを女として見てなかった様で、未だにアズミが処女だったのにはユーキが吃驚していた。

 

 お陰様で存分に味わえたのは間違いない。

 

 フィオリは流石に悪魔と云うか、見た目の幼さに反して知識も実践も中々に宜しい味わいだった。

 

 レメディアは初めっからユートの色に染まっているから言うまでもなく、羽純も転生者が前世では童貞だったのか下手くそであり、すぐにユート色に染まっていたから言わずもがな。

 

 大会まで正に酒池肉林の祭りだったと云う。

 

「ふーん、あの男がユーキの一回戦の相手か……」

 

 濃い緑の長髪にローブ姿は魔術師然とした格好で、手には御丁寧にも長杖を持っている。

 

 ユーキが闘神大会に出場すると知ったのは遂先日、自らをパートナーにしての参戦だとか。

 

 見た目には小学生でしかないユーキが、如何にして出場資格を得たのかと訊ねてみれば……

 

《SPIRIT》

 

『こうやってさ♪』

 

 カリスラウザーにより、カテゴリー2ヒューマン・アンデッドをラウズして、今の姿の生母であると云えるハルケギニアはガリア、オルレアン大公夫人の姿に豊満な胸をプラスした結構な美女となったのだ。

 

「ふーん、割と面白い相手じゃないの」

 

「そうか? アンチ・フィジカルバリアを張っているだけじゃないか」

 

 クライアを狙った猛太人とは別の意味で魔法でしかダメージが通らない訳で、並の戦士では確かに彼──ラグナスターに敵わない、

 

 だけどその程度でユーキに勝つなど不可能だ。

 

 ユーキの実力はユート程ではないが、それでも黄金聖闘士クラスのもの。

 

 小宇宙は此処で使えないにしても、戦闘経験ならば可成り高いのだから。

 

「変身!」

 

《CHANGE》

 

 ユーキはカリスラウザーにハートスートのカテゴリーA──チェンジ・マンティスをスラッシュ。

 

 本来の仕様とは異なってオリハルコンエレメントが現出し、それをユーキが潜る事によって黒い異形たる【仮面ライダーカリス】に変身をした。

 

「ほう?」

 

 ラグナスターは余裕綽々でそれを見ている。

 

「カリスアロー!」

 

 その気になれば弓矢としても、近接武器としても扱えるカリスアロー。

 

 魔術師に遠距離戦を挑む程に莫迦ではないユーキ、火炎を放つラグナスターの攻撃を躱し、カリスアローで一気に袈裟斬りにする。

 

 ガキィッ!

 

「なにぃ!?」

 

 ひ弱な魔術師が強烈なる一撃に耐えた……筈無く、何やらバリアみたいな魔法が使われているらしい。

 

「チィッ!」

 

 容易く終わると思ったのが間違いだと気が付いて、すぐに腰に着けたカードホルダーからラウズカードを取り出し、カリスラウザーを中央に嵌め込み、カードをラウズした。

 

《CHOP》

 

 シュモクザメの始祖たるハンマーヘッドアンデッドを封印したカードであり、全体的には手技を強化するカテゴリー3。

 

《TORNADO》

 

 鷹の始祖たるホークアンデッドを封印したカード、全体的に見れば属性を得るカテゴリー6。

 

 電子音声がラウズをしたカードの名を告げる。

 

《SPINING WAVE!》

 

 この二枚をラウズした事により、コンボが発生して強力な風を纏うチョップとなって攻撃。

 

 ガギィッ!

 

「っ!」

 

 やはりバリアが発生し、スピニング・ウェーブをも弾いてしまう。

 

「ふん、アンチ・フィジカル・バリア……か」

 

 此処までくれば察するに余りあるだろう。

 

 場合によればアンデッドを封印可能状態に追い込める攻撃を、魔術師が防ぐには余りにも足りない防御。

 

 魔法攻撃を一切防げない代わりに、物理攻撃の一切を遮断するバリア。

 

 少なくとも、主人公なら一回戦で行き成り当たる様な相手ではない。

 

 絶対に勝てないから。

 

「チッ、トルネードも魔法って訳じゃなく物理現象。防がれても仕方ないかな」

 

 仮面ライダーウィザードじゃあるまいし、基本的に仮面ライダーの攻撃というのは物理攻撃である。

 

「フフフ、降参しなさい。私が勝っても君をどうこうする心算は無い。君では私に勝てまい?」

 

「ふん、高がアンチ・フィジカル・バリアを張ったくらいで勝った心算? 舐められたもんだね。仮面ライダーだから仮面ライダーの技で戦っていたけれどさ、別に舐めプしたい訳じゃないから縛りプレイなんかをする気は無いんだよ!」

 

「ム!?」

 

 様子が変わったカリス、それに気付いたラグナスターが警戒をした。

 

「爆凰拳!」

 

 ズガン!

 

「げぶらぱ!?」

 

 カリスが殴り付けると、ラグナスターは変な悲鳴を上げながら壁まで吹っ飛ばされ、アンチ・フィジカル・バリアで壁にぶつかったダメージは無かったけど、爆凰拳のダメージによって気絶をしていた。

 

 シュリが近寄って確認、ラグナスターの意識が無いのを確かめて……

 

「勝者、ユーキ!」

 

 勝利宣言をする。

 

 沸き上がる観客。

 

 確かに物理攻撃に無敵なバリアだが、ユーキの使う【爆凰拳】とは無詠唱での虚無魔法──爆発(エクスプロージョン)を拳に宿した攻撃だ。

 

 拳だけならまだ兎も角、魔法による爆発は止められなかったラグナスター。

 

 手加減していたからこそ生きているが、聖闘士としての技だから普通の人間が喰らえばバラバラだろう。

 

 担架で運ばれるラグナスターを見送って、シュリの案内でラグナスターが連れたパートナーの控え室へと向かった。

 

 既にやるべき事はやったから、ユーキは遠慮も無く扉を開け放つ。

 

 吃驚した表情でユーキを見るのは、ラグナスターに比べて明るい翠の髪の毛をツインテールに結わい付けた魔術師の少女。

 

「驚いた。貴女がお父さんを斃しちゃったの?」

 

「まあね」

 

 成程、大会規定に反さない美少女であった。

 

「私の名前はナオ。魔術師ラグナスターの娘よ」

 

「ボクはユーキ。君を自由に出来る権利を獲た勝者って処だね」

 

「けど残念」

 

「何が?」

 

「お父さんに勝てるくらいの男の子なら、処女を捧げても良かったんだけどね。勝ったのが女の子じゃ」

 

 どうもナオは男に抱かれる事に忌避感が無いのか、処女を捧げても良いとか宣ってくれる。

 

「なら丁度良かったよ」

 

「うん?」

 

「入って来て、兄貴」

 

「――え?」

 

 勝者たるユーキと敗者のパートナーたる自分しか居ない筈が、兄貴と呼ばれた男が部屋に入って来た。

 

「だ、誰?」

 

「ボクの兄貴。ナオだったかな? 君の処女を奪ってくれる人だよ♪」

 

「はぁ? 何を言って……私を自由に出来る権利があるのは貴女よ?」

 

「チッチッチッ! ルールでは問題無い。大会規約――闘神大会本戦に於いて、勝利を納めた者は敗者のパートナーを殺害以外を好きに出来る――つまりはボクが望むなら例えば、ナオを広場に連れて行って複数の男に犯させる事も出来る。好きに出来るっていうのはそういう意味だよ」

 

「……あ」

 

 意味に気付いたナオ。

 

「じゃあ、兄貴。ボクは観てるからナオの処女を貫いて純潔を穢して上げてよ」

 

「全く、ユーキは」

 

 呆れながらもルール上、何の問題も無いからユートはその日、魔術師見習いのナオの処女を奪う。

 

 初めてとは思えない乱れっ振り、ユートとしてみれば中々に愉しい。

 

 ユーキはそれを愉快そうに観ながらも自らを慰め、いつしか二人の中に入って参加してしまうのだった。

 

 

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 ラグナスターとナオは、闘神都市に登場します。




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第20話:覇王の黄金龍 今こそ超越進化の時

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 久方振りに地獄の攻略をするべく、ユートはラグナード迷宮に訪れていた。

 

 カーツウェルから新しい階層に至る道が見付かったと報告があり、本人は妻とイチャイチャ休息を取っているからユートが行く。

 

 彼が地獄探査で出してきた謂わば契約内容だけど、『妻の精神的な治療』と『妻の肉体の再成』と『地獄の新しい階層を見付けたら一ヶ月のイチャラブ休暇』に+して給金とボーナス。

 

 精神的な治療に関して、ユートも可成り本気で行った訳だが、カーツウェルと思い込んで押し倒してから騎乗位で咥え込んだ事を、フランチェスカはバッチリ覚えており、記憶を消すか訊ねたら頬を朱に染めて、想い出として覚えておきたいと言われてしまう。

 

 逆レ○プ状態でヤってしまったけど、カーツウェルより具合が良くて忘れるのが勿体無いとか何とか。

 

 流石にあれから一度足りとてヤっていないのだが、若しかしたらヤっていても〝想い出〟として取っておくだけだったかも知れないと少し惜しかった。

 

 結構な美女だし。

 

 肉体の再成は彼女自身の肉体情報をコピってから、神器【魔獣創造】の禁手で構成して、積尸気転生波で魂魄を入れ換えた。

 

 当然、処女だったからかカーツウェルも燃え上がったらしい。

 

「さて、折角だから」

 

 ユートが右腕を真横に掲げると、機械っぽい蝙蝠が飛んで来て噛み付く。

 

「ガブ!」

 

 笛みたいな待機音。

 

 ステンドグラスみたいな紋様が浮かび、蝙蝠を腰に鎖が巻き付く様に顕現したベルトの留まり木にセットをする。

 

「変身!」

 

 赤いベルトへと蝙蝠──キバットバット三世をセットする事で全身を波紋が包み込んで、ユートの肉体をキバの鎧が装着された。

 

 仮面ライダーキバ。

 

 平成仮面ライダーシリーズ第九作目に位置している作品で、主人公の紅 渡は引き篭りなヴァイオリン職人という位置付けだ。

 

 モチーフは吸血鬼。

 

 仮面ライダーキバとなったユートは、黄色の複眼でモンスターを睨むと一気に駆け出した。

 

「ハッ!」

 

 ユートは敵対者に一切の容赦をしない。

 

 相手が女の子なら手加減くらいするが……

 

「死ね!」

 

『ギャバァァッ!?』

 

 醜いだけの存在に情けは掛けない。

 

 キバがベルトの左側の笛を手にして、キバットバット三世に吹かせる。

 

「ガルルセイバー!」

 

 何処からともなく飛んで来た青い柄の剣、三日月みたいな湾曲刀となってキバの手に握られた。

 

 手にした次朗が変化したガルルセイバーを手にし、身体の色も青を基調としたものとなり、次々と敵を屠っていくキバ。

 

「愉しいな。随分と久方振りだったし本当に愉しい」

 

 仮面ライダーへの変身、それは子供心に随分と憧れたもので、特にBLACKに成りたいと思っていた。

 

 今なら成れるが、だからといって【てつを】に成れる訳でもない。

 

 永遠の憧憬。

 

 だからこそ姿だけでも、何処ぞの破壊者の様に。

 

「バッシャーマグナム!」

 

 笛──フエッスルを吹いて叫ぶキバット。

 

 緑の銃らしき物が手に納まって、鎖が巻き付く様に腕が変化して体色や複眼が緑へと変化する。

 

 ガルルフォームからバッシャーフォームへ。

 

 トリガーを引くと弾丸が放たれ、モンスターを簡単に討ち砕く。

 

 地獄のモンスターや鬼が相手でも、仮面ライダーは全く遅れを取らない。

 

「ドッガハンマー!」

 

 紫のフエッスルをキバットが鳴り響かせ、その音に導かれる様に飛んで来たのは紫を基調としたオブジェであり、それがハンマーとなってキバの手に握られ、体色が紫基調となった。

 

 ズルズルとハンマーの頭を引き摺りながら、ノッシノッシと歩くキバへと襲い掛かるモンスターだけど、このドッガフォームの場合は防御力が高く、ダメージは全く通ってはいない。

 

「無駄だ……」

 

 ブン! 軽く振るわれたドッガハンマーが当たった瞬間、モンスターは叩き潰されて死んでしまう。

 

 ちょっと大きめなのが現れると、ドッガハンマーをキバットに咬ませる。

 

「ドッガバイト!」

 

 ハンマーの頭は手の様な形をしており、掌が開いたら其処には赤い一つ眼が。

 

 身動きが取れなくなったモンスターに、その一撃を喰らわせて斃した。

 

「仮面ライダーキバだと? そうか、てめえ……優斗だなぁぁあっ!」

 

 振り返れば黒髪に前髪の一部が金メッシュな男。

 

「狼摩優世……」

 

 それはユートが追っていた男──狼摩白夜の兄である狼摩優世だった。

 

「ぐっ、頭がいてーっ! てめえが居ると何時もだ、何時も頭がいてーんだ!」

 

「知るか! だが漸く会ったんだ、お前さえ討てれば戦いも終わる!」

 

「やらせっか! 起きやがれドライグ!」

 

 優世の左腕に赤い籠手、【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】が顕れる。

 

「禁手化!」

 

《Welsh Dragon Balance Breaker!!》

 

 バランスブレイク、神器の力を最大限にまで引き出す謂わば奥義。

 

 然しながら生命体を封じたタイプは更なる先が存在しており、優世はその先を解放する術を得ていた。

 

「我、目覚めるは覇の理を神より奪いし二天龍なり」

「! それは……」

 

《莫迦な、覇龍だと!?》

 

 ユートとアルビオンが驚きの声を上げた。

 

「無限を嗤い、夢幻を憂う 我、赤き龍の覇王となりて 汝を紅蓮の煉獄に沈めよう……」

 

 だが、怨み辛みを叫んだ聲が全く聞こえない。

 

「覇龍!」

 

《Juggernaut Drive!!》

 

 叫ぶ優世とドライグ的な電子音声、世界が染め上げられてこの場には暴力なる化身──覇龍化した優世、小型の二天龍が顕身した。

 

『さあ、やろうか』

 

「自意識を持っている?」

 

 ヴァーリ・ルシファーは覇龍化してもその膨大なる魔力で捩じ伏せ、生命を削らず自意識も持った侭にて戦えていたが、それは彼が嘗ての魔王たるルシファーの曾孫だったが故。

 

 人間に過ぎない優世に、同じ事が可能とは思えないユートだが、答えは他ならない傍らに居た……

 

「白夜!?」

 

 彼の妹から伝えられた。

 

「お久し振りです優斗様」

 

 相変わらず艶やかな黒髪をポニーテールに結わい付けて、黒曜石の如く黒い瞳には憂いを秘め、艶やかな着物にその初雪の如く透明感のある白い肌を隠す姿、一種の完成された美。

 

「バカ兄の力は人間を既に越えています」

 

「どういう事だ?」

 

「天使喰いEXによって、バカ兄は天使を何人も捕らえては犯し、その莫大な力を次々と吸収しました」

 

「っ! そういう事か」

 

「私はそれに目を逸らし、此処まで来てしまいましたから……」

 

 天使を救うには優世との決別を意味し、未だに悩みを抱えていた白夜にそれは選択出来なかった。

 

「優斗様、私はどうすれば良かったんでしょうか?」

 

「判らない。誰にだって、個人個人の悩みは有るから誰かの悩みの解決法なんて思い付かない」

 

「そうですね……」

 

「だけど白夜、僕と共に来いとは言えるよ」

 

 手を差し伸べるユート、白夜は瞳を潤ませて涙を零しと……

 

「はい!」

 

 嬉しそうに頷いた。

 

 振り返り、覇龍化をした優世と対峙した白夜は腰にオルタリングを顕現する。

 

『そいつは……お前が得たのはゲネシスドライバーとピーチエナジーロックシードだった筈』

 

「交換しました」

 

 ゲネシスドライバーなどユートから貰ったオルタリングの万分の一の価値すら無く、白夜にとってユートからの贈り物は本来から視れば何万倍もの価値を秘めている。

 

 ブンブン! 手を振って構えを執る白夜、その構えは津上翔一と同一だ。

 

「変身っ!」

 

 ベルト両サイドのスイッチを押しながら叫ぶ。

 

 オルタリングから光が放たれて、白夜の姿が金の装甲に黒いアンダースーツ、赤い複眼を持つ仮面ライダーアギトへと変化した。

 

 特撮番組で放映をされた【仮面ライダーアギト】に出てくるアギトそのもの、唯一の違いは腰に佩いている巨大な鉄扇。

 

 元より持っていた鉄扇と違い、どうやらアギトの方で再現をしたらしい。

 

『俺を裏切るか?』

 

「元から味方の心算なんてありませんよ」

 

『そうだった。緒方分家の女は皆、そいつの味方だったからな……」

 

 覇龍(ばけもの)仮面ライダー(ばけもの)の対峙、そして唐突にその戦いが始まってしまう。

 

「これが赤龍帝の覇龍か」

 

「御存知なのですか?」

 

「赤龍帝の覇龍は見た事が無い。機会が無かったし、有ったら有ったで拙いし」

 

 白龍皇の覇龍はユートもヴァーリが発動させたし、更にその先までも見ているからよく知っていた。

 

 また、赤龍帝の力は覇龍ではない別種のソレなら見知っている。

 

 だが、流石に純粋な赤龍帝の覇龍そのものまでは見ていない。

 

 結局、覇龍を一誠が発動させなかったからだ。

 

 本来、覇龍を発動させるタイミングはアーシア・アルジェントがシャルバ・ベルゼブブに消された時で、その際に暴発したのは何を隠そうユート本人。

 

 その後は【カンピオーネ!】主体世界に跳ばされ、羅刹王となって帰還した。

 

 それに覇龍化は寿命を削る行為だ。

 

 ヴァーリは魔王級の魔力で制御をしていたのだが、一誠では一万年もの寿命の九九パーセントを削っても二〇分と保たないだろう。

 

 それは兎も角、狼摩優世は小型の赤龍帝とも云うべき姿となって襲撃する。

 

『オラァァァッ!』

 

 巨体でありながら素早い速度は、ユートが識らない暴走した一誠の未完成に過ぎなかった覇龍なんて比べ物にはならない。

 

「チッ!」

 

 この世界では小宇宙が使えない為に、どうしたっていつもより力不足となる。

 

『ガァァッ!』

 

 強大なブレス。

 

「避けろ!」

 

「くっ!」

 

 キバとアギト――ユートと白夜は覇龍の赤龍帝が吐くブレスを散開して躱す。

 

 仮面ライダーとはいえ、流石に赤龍帝の覇龍ともなれば、迂闊には攻撃は喰らえないのである。

 

 聖魔獣だがスペック的には一応、本物の仮面ライダーと変わり無い訳だが……

 

「くっ、何て威力ですか! バカ兄の癖に!」

 

 防御力も低くはないし、多少なら攻撃を受けたとしてもダメージを減らすが、今はダメージを受けたくない状況である。

 

「こうなったら!」

 

 燃える。

 

 燃え盛る。

 

 その名は業火。

 

 そうとしか表現が出来ない現象が起きていた。

 

 煌々と燃えるボディに、オルタリングも紫色となっており、常時展開されている赤いクロスホーン。

 

 複眼は黄色くなった。

 

「バーニングフォームか」

 

 アーマーは煮え滾る熔岩の如くで、まるでプロミネンスが溢れているみたいに熱く熱く業火の戦士となる白夜――仮面ライダーアギト・バーニングフォーム。

 

「僅か一年か其処らで至る辺り、やっぱり資質は高かったって訳か」

 

 まあ、津上翔一も似たり寄ったりな感じだったし、やはり彼も成るべくして成った仮面ライダーアギト。

 

 オルタリングを預けてから約一年間、白夜とは何度か会っていたけどアギトについては話してない。

 

 そもそも、会うのは情を交わす為だから無粋な会話は萎えてしまう。

 

「僕もキバの侭じゃあな」

 

 優世は決して弱い訳ではなく、少なくとも素の一誠では相手にならないレベルで強かったのが、此方側へ転生してから明確なレベルが数値化され、強さを弥増していた上に天使喰いEXなどというスキルを使い、天使を犯し続けてきたのが力になっている。

 

 本来の優世の限界レベルは九九――通常のカンストらしいが、天使喰いEXの効果で限界レベルは千倍、天使を犯せば犯す程に少しずつレベルが、身体能力が上がっていったらしい。

 

 唯一の救いはセ○クスが下手くそな上、全く上達をしていないから犯した天使を取り込んでも大して上がっていない点。

 

 上達しないのはユートと違って、相手の事など顧みず快楽に従って腰を振っているだけだからだ。

 

 早い話が射精する事しか頭に無い。

 

 普通の天使喰いならば、それでも良かった。

 

 けど、優世のスキルとは特殊な天使喰いEXな為、射精をするだけでは実の処は意味が余り無い。

 

 つまり使い熟せてはいないのである。

 

 今の優世のレベルは未だに本来の限界レベルにすら達しておらず、その程度では元来の天使喰いシードがデラス・ゲータを斃したとされるレベルにさえ追い付いてはいない。

 

 とはいえ、赤龍帝となったのがそれを覆す。

 

 神滅具の力を使って足りないレベルを補えた。

 

 だから仮面ライダーキバとなったユートが苦戦し、白夜もバーニングフォームを白日の下に晒す。

 

 ユートはキバットバット三世を退避させ、キバへの変身を解除して新たに腰へベルトを装着。

 

 ブレイバックル――

 

「変身!」

 

《TURN UP》

 

 オリハルコン・エレメントを潜り抜けると、ユートは【デート・ア・ライブ】主体世界の精霊と呼ばれた存在――夜刀神十香が纏う神威霊装・十番(アドナイ・メレク)をスカートではなくズボンにした姿へ変化せしめていた。

 

 きちんと調整をしていたからこうだが、未調整な侭の五河琴理――イフリートの神威霊装・五番(エロヒム・ギボール)は琴理が使っていた侭の状態だから、精神的ダメージを負う姿になってしまう。

 

 それをJのカードにしたから、ジャックフォームは女装全開となる。

 

 まあ、今回は使わない。

 

 使うのは……

 

《ABSORB QUEEN!》

 

《EVORUTION KING!》

 

 キングのカードだ。

 

 ラウズアブソーバにQのカードを装填し、Kのカードをスラッシュする事により変身する上級フォーム。

 

《Vanishing Dragon Balgnce Breaker!!》

 

 ユートが設定したキングフォーム――それは白龍皇の鎧だった。

 

『貴様……何故、それを持っている!?』

 

「この世界に現れた転生者の一人が持っていたのを、うちの義妹が手に入れて来てくれたのさ」

 

『オノレ、オノレ!』

 

 ユートは更に白地に禍々しいまでの、まるで地塗られた紅で描かれた紋様を持つカードをスラッシュ。

 

《JOKER!》

 

 アルビノジョーカー。

 

 トランプには五四枚ものカードが封入される。

 

 各スートに一三枚セットで五二枚、それにジョーカーがプラスされて五三枚。

 

 これに無地の予備カードが一枚で合計が五四枚。

 

 そしてこの無地カード、その役割は予備だけに全てのカードに成り得るというジョーカーみたいなモノ、故に白いジョーカー。

 

《OVER EVOLUTION KINGDOM!!》

 

 一三枚のスペードスートが全て融合し、変じるその姿は白龍皇の覇龍だった。

 

 キングダムフォーム――仮面ライダーブレイドに於けるキングフォーム。

 

「さあ、待たせたな優世」

 

「コロシテヤルぞ!」

 

 此処に、世界は違えども白龍皇と赤龍帝がぶつかり合う運命が成立した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 五人のサイヤ人から力を受けて、一人のサイヤ人が赤きオーラを放ちながらも気を感じさせない存在――超サイヤ人ゴッドとなる。

 

 魔人ブウとの戦いを終えた孫悟空、ブルマの誕生日に新たに現れた存在とは、破壊神ビルスとその付き人たるウィス。

 

 孫悟空はビルスとの戦いに興味を持ち、界王星での戦闘に発展した。

 

『見せてやるよ、こいつが最強の……超サイヤ人3だぁぁぁぁっっ!』

 

 だけど超サイヤ人3さえビルスには敵わず、そして求められたのだ――『さあなりなさい、超サイヤ人ゴッドとやらに』……と。

 

 とはいえ、孫悟空はその超サイヤ人ゴッドというのを識りさえしない。

 

『超サイヤ人ゴッド……? 何だそりゃ?』

 

『なれないのか!?』

 

『これがオラの最終形態、これ以上の変身なんてもうねぇ!』

 

 その後、あっさり倒された孫悟空だった。

 

 だけど孫悟空はドラゴンボールにより、神龍から願いを叶えて貰う形で超サイヤ人ゴッドをどうやって呼び出すか、それを知った。

 

『五つの正しい心を持ったサイヤ人が手をつないで、もう一人のサイヤ人に心を注ぎ込めば神になります』

 

 これにより赤い髪の毛に赤い瞳を持った孫悟空――超サイヤ人ゴッド孫悟空に変身をした。

 

 神の力を持った氣である神氣、それは常人たる他のZ戦士には感じられない。

 

 だが然し、この世界線の彼らはその例題を既に識っていたのだ。

 

 即ち、小宇宙の持ち主であるユートとルーシェ――ビーデルだ。

 

 この二人の氣は小宇宙と呼ばれる【神に近い氣】であり、川に例えるなら氣や魔力や霊力やPSYON、これを支流として更に上流の源流を小宇宙とした。

 

 そして更に上流が最源流――つまり神そのものたる神氣、神力(デュナミス)に当たるのだとか。

 

 ユートは孫悟空や未来人トランクスの超化を視て、そのシステムを理解した上で自らも超化して魅せて、それが氣を全く感じさせない〝青いオーラに青い髪の毛に青い瞳〟の闘士という凄まじい圧力だけは感じる存在であった。

 

 後の超サイヤ人ブルー、超サイヤ人ゴッド超サイヤ人という形態。

 

 ユートは残念ながら死んだのが西暦二〇一三年で、超サイヤ人ゴッドが登場するのを待たずにこの世を去っており、あの世界に於いて実際に孫悟空が超サイヤ人ゴッド化したりベジータと共に超サイヤ人ブルーに成るまで、ユートは超化の名前すら判らなかったり。

 

 尚、ユートもルーシェも地球人だから超化したとしても超サイヤ人と呼べず、とはいっても超地球人とはちょっとアレだし……

 

 超ナメック人と名乗ったピッコロは未だしも。

 

 なので、【ウルトラマン超闘士激伝】に似た存在が在った為、そちらに倣って【超闘士】と呼ぶ事になり超サイヤ人ゴッドやブルーは【超闘神】とした。

 

 ユートは氣の方で超化、普通に黄金の【超闘士】に成る事も出来たから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 覇龍とは小さな二天龍となる姿、白と赤がマーブルを描きながら闘う。

 

 白い覇龍と赤い覇龍――その戦闘は正に熾烈。

 

「くっ、あのバカ兄があんなに力を持ってるなんて? どうやって……」

 

 明らかにユートと同格、白夜は優世があそこまでのパワーアップを果たしているとは思わずに、いまいち手を出しあぐねていた。

 

 バーニングフォームでも足りない。

 

 否、自身が飛べないのだからどんな形態も無意味。

 

「悔しい……」

 

 戦いに付いて往けないのが悔しくて仕方がない。

 

 何よりも、あのバカ兄が愛しいユートを独占しているのが悔しかった。

 

「もっと強く……なりたい……です」

 

 半減と倍加が繰り返されていき、反射と貫通がぶつかり合う完全な互角。

 

「くそっ、白夜の想像以上に強くなっている!」

 

 明らかに互角なのは優世の戦闘力が高いから。

 

「いったいどれだけの天使を犠牲にした!?」

 

『クックッ、さてなぁ?』

 

 天使喰いEXなるスキルを手に入れて、この世界に於ける天使を性的に喰う。

 

 だけど優世は白夜が曰く前世で彼女などは居らず、謂わば右手が恋人な状態であった訳で、ユートと違って射精の経験はあったにしても性テクニックが有った筈もなく、しかも漏れ聞く気色の悪い優世の喘ぎ声からして早漏だった。

 

 それは今生も同様。

 

 当たり前だが女性を感じさせるなど殆んど出来ず、性感帯に触れるから感じる程度のものらしい。

 

 イカせるなどまず無理。

 

 だから、自らがイク事でのみ天使を喰えた。

 

 これだと余りに非効率、数を熟さなければならないから簡単に強くなれない。

 

 それで尚、優世はユートに匹敵する力を示す。

 

 ならば優世はそれだけの人数の天使を犠牲として、性的に喰い散らかしてきたと云う事になる。

 

「やるしかない……か」

 

 今のユートはエネルギー関連を全く使っていない、素の状態で龍のオーラのみでの戦闘をしている。

 

 小宇宙が使えないから、だからといって魔力や闘氣すらOFF状態だ。

 

 辛うじてアルビオンが持つ龍のオーラが有るけど、元よりこれだけでは条件としては優世も同じ事。

 

「余り好ましくはないが、仕方が無いかな?」

 

 一旦、離れて地上に降りたユートを見て優世もまた地上へと降下をした。

 

『どうした? 諦めたのか優斗!』

 

 いつの間にか落ち着きを取り戻している。

 

「まさか。今まである意味で封印していた力の解放を決めただけさ」

 

『な、んだと?』

 

「お前は僕と違って彼方の世界――【ハイスクールD×D】を識っているな?」

 

『……ああ』

 

「それなら識っている筈。覇龍は確かに強力だが……一誠もヴァーリも覇龍すら越えて、自分に合わせての力を身に付けていったと。一誠は王道による龍神化、ヴァーリは魔王化だ」

 

「それがどうした!?」

 

 狼摩優世は【ハイスクールD×D】が最終回を迎えた後に死んだ為、そこら辺もちゃんと見知っている。

 

「ならば、僕にも可能だと思わないか? 白龍皇による独自の進化……神化が」

 

「まさか!?」

 

 信じ難いという叫び。

 

 話の通りならばユートが【白龍皇の光翼】を手にしたのは去年、つまりたったの一年間で自分すら出来ない進化をする心算なのだ。

 

「さあ、始めよう」

 

 ぐっと力を籠める。

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!」

 

 ゴワッ! 龍のオーラと異なる金色のオーラが身体を纏い覆うと、そのオーラがバチバチとスパーク。

 

 それに伴い世界が鳴動をするかの如く震え出して、大地のあちこちで大岩が浮かんでは粉砕される。

 

「な、何だ? いったい、これは何なんだ!?」

 

 優世は右を見て左を見てキョロキョロと、異常を起こす世界に驚愕をした。

 

 大空すら震えて渦巻き、雲が中心に向かって流動を引き起こす。

 

 ユートは中腰となって、両腕を腰に据えて力を更に籠めており、金色のオーラも激しさを増していた。

 

 更なるパワー。

 

「ば、莫迦な!?」

 

 黄金のオーラに白い鎧は染まるかの様に金色を湛えており、鋭利さを端々に持った形に変化せしめる。

 

「貴様、何なんだ!?」

 

「超サイヤ人とか?」

 

「巫山戯ろ! 貴様は地球人の筈だろうが!」

 

「そう、だからこう名乗る――【超闘士】と」

 

「ちょ、超闘士だとぉ? 確か【ウルトラマン超闘士激伝】の宇宙伝説に名を残す最強の闘士の事か!?」

 

 ユート――緒方優斗と同じかそれ以上にサブカルチャーを視聴、それが故にかユートより詳しい時があったりする優世。

 

 【ウルトラマン超闘士激伝】――あの漫画はあらゆる意味でDBをしていた。

 

 特にメフィラス大魔王が闘士ウルトラマンに敗れ、新たな敵たるヤプール人による侵略でウルトラマンが死んだ後、タロウを鍛える辺りは悟空の死後に悟飯を鍛えるピッコロの如く。

 

「何故だ、ウルトラ一族でもサイヤ人でも無い優斗が何故、超化なんて真似が出来るんだ!?」

 

「僕の転生特典(ギフト)、それは魔法に対する親和性と流れを視る目。だけど、この目に【ゼロの使い魔】の魔法の探知(ディテクト・マジック)を使い続け、その結果として疑似魔眼と成った。そして改めて転生した事で、魔眼は確固たる存在として進化をした……結果、僕は孫悟空やトランクスの超化を視て、それが充分に可能だと理解したって訳だ」

 

「!?」

 

 この世界に来るより前、精霊が空間震と共に現界をする世界より後、ユートは【絶望の未来】とも呼ばれたDB世界に往く。

 

 そんな世界でビーデルを救出したり、人造人間18号を倒して抱いたりなど、はっちゃけた後でトランクスの時空転移に着いて行く形で過去――第二三回天下一武道会の時期にまで跳んだユート、大会にヤムチャの代わりに参戦をした。

 

「小宇宙が使えればこれを更に神化、ブルーってのにも成れるんだが……な」

 

 残念ながら今は小宇宙が使えないから無理。

 

「名乗ろう。覇皇の黄金龍――覇皇龍(スペリオル・ドラゴン)だ!」

 

 水晶の如く煌めきを放つ黄金を基調に、端々に白い縁取りを持つ鋭角的な龍の鎧となり、小さな二天龍たる覇龍の姿より普通の禁手――【白龍皇の鎧】に近い姿形を取る姿。

 

 背中の光翼も黄金。

 

 それは狂える暴龍の力に因んだ名前だったと云う。

 

 ユートと優世……謂わば二匹のドラゴンが幾度と無くぶつかり合う。

 

 片や赤いオーラを纏った赤龍帝の覇龍、片や黄金のオーラを迸らせているクリスタルの如く透明感を持つオーラと同じ色の鎧を纏う白龍皇の覇皇龍(スペリオル・ドラゴン)

 

 原作では兵藤一誠が赤龍帝としての活躍をしていた〝らしい〟のだが、ユートが識る兵藤一誠とは少しだけ異なるとか。

 

「何がスペリオルドラゴンだ! 騎士ガンダムにでもなった心算か?」

 

「好きに言え!」

 

 スペリオルドラゴン――SDガンダム外伝 騎士ガンダム物語に登場する神、黄金の竜神でありガンダム一族の姿に似ている為に、ガンダムの神ともされる。

 

 モチーフはスペリオルガンダム、新騎士ガンダム物語が終了後に次元の彼方へ旅立って、スダ・ドアカ・ワールドには白銀の新たな神であるザンボーンが就いたのだと云う。

 

 ユートが名乗る覇皇龍、優世が言う通り其処から取られた名前だ。

 

「クソが!」

 

《Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! 》

 

 優世が倍加を発動。

 

「させるか!」

 

《Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide!》

 

 だがそうはさせじと半減するユート。

 

 実際、さっきから大方はこれの繰り返し。

 

 赤龍帝と白龍皇の力とは謂わば、同じ能力の流れが正反対に位置するモノ。

 

 倍加と半減は正にだし、透過と反射もそうだ。

 

「……優世、聞きたい事がある!」

 

「あ? んだよ!?」

 

「何故、頑ななまでに僕を嫌う? 白亜がどうという以前からだったろう」

 

 他の分家連中は優世に引っ張られた形であったが、狼摩優世に限れば白亜が生まれるより前から、ユートの事を嫌っていた筈。

 

 つまり、ユートの妹であった白亜は実の処だと直接的には無関係なのである。

 

「てめえが居ると頭が痛ーんだよ!」

 

「? それだけか?」

 

「その通りだ!」

 

《Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! 》

 

 再び倍加をしてきたが、咄嗟に反応が出来ない。

 

「チィッ!」

 

「死ね、優斗!」

 

 ガパッと開く赤龍帝の胸パーツ、大きな緑色の宝玉が露わとなる。

 

《Longinus smasher》

 

「っ! ならば、ギャリック砲っっっ!」

 

 両手で構えた状態からの圧縮闘氣放出。

 

 ベジータの技だ。

 

 ロンギヌススマッシャーとギャリック砲が二人の中央で激しくぶつかり合い、スパークを迸らせてユート側に優世側にと一進一退をしている。

 

「チッ、まるでアテナ・エクスクラメーションをぶつけ合ったみたいな感じか」

 

 冥王十二宮戦で六人もの黄金聖闘士がやらかした、アテナ・エクスクラメーションとアテナ・エクスクラメーションのぶつけ合い、あの時には紫龍が加わったから均衡は崩れたが……

 

 とはいえ、ロンギヌススマッシャーを相手にするにはギャリック砲は如何にも頼り無く、少しずつだけどユートの方にエネルギーが移動を始める。

 

《FINAL VENT》

 

「な、なにぃ!?」

 

 それは青い疾風。

 

 機械っぽい蝙蝠にも似たナニかがバイクと化して、それに跨がるは青に金の混じる騎士。

 

 FINAL VENTの言葉通り、騎士が持つ最大限の力――【疾風断】が放たれた。

 

 騎士の名は仮面ライダーナイトサバイブ、漆黒と銀の騎士たる仮面ライダーナイトが【SURVIVE -疾風-】のアドベントカードで変身する強化形態。

 

 最高速に達した時ナイトのマントが槍の如く変化、二つの押し合うエネルギーに特効を仕掛ける。

 

「って、何で仮面ライダーナイトのサバイブが?」

 

 手も出せず観ているしか無かった白夜が首を傾げ、仮面ライダーナイトサバイブの方を見つめる。

 

 全攻撃エネルギーを使い切ったナイトサバイブは、地上に降りて白夜の方へと駆け寄った。

 

「何してるのさ?」

 

「その声、ユーキ様?」

 

「そ、ボクだよ」

 

「ど、どうして……?」

 

 白夜が知るのはユーキが仮面ライダーカリスとなれる事で、まさか龍騎系ライダーにもなれるとは思わなかったのだ。

 

「ちょっとボク、今は龍騎系の方の調整や試験をしていたんだよ」

 

 その手には幾つかの龍騎系仮面ライダーの変身アイテム――カードデッキが。

 

「それで、貴女はいったい何をしてるのさ?」

 

「何をって……」

 

「兄貴の手伝いしないの? 寵愛を受けたいなら何か役に立ちなよ」

 

「私は飛べないから」

 

「シャイニングになりな」

 

「――え?」

 

「兄貴が聖魔獣に与えている能力で、仮面ライダーは最強形態になると飛べる。原典では飛べなくてもね」

 

「最強形態……」

 

「空を飛ぶ敵に対応する為には必要だったし、仮面ライダーを得たからって貴女みたいに飛べない人間だって居るからさ」

 

「でも、私は未だアギトのシャイニングフォームには成れません」

 

「兄貴、黄金の白龍皇――覇皇龍になってる。ならば貴女は兄貴が超化したのを見ている筈さ」

 

「え? はい」

 

「あれは……超闘士はそもそもが超サイヤ人の模倣。そしてその超サイヤ人は、穏やかな精神状態から激しい感情の揺さぶりで変化をするもの。主に激しいまでの激怒……怒りで」

 

「それは知ってますが」

 

 怒りは敵意に通ずる。

 

 故に成り易い。

 

「アギトは基本的にツールじゃなく感情が変身の鍵。そして聖魔獣は神器だよ。元より、仮面ライダー型の聖魔獣は他者に神器を使わせる為のもの。そして神器は使い手の強い想いに反応をする」

 

「強い想い……」

 

「本気で兄貴のモノになりたいなら、兄貴の力になりたいのなら……成れる筈、シャイニングにだって!」

 

 手にしたのは龍のエンブレムが入ったデッキ。

 

「折角だ、白龍皇に合わせて龍モチーフで往こうか。確か、アギトも龍がモチーフだったよね?」

 

「っ!」

 

 手鏡を取り出して放るとプカプカと浮かぶ。

 

 魔法で浮かせたのだ。

 

 カードデッキを鏡に写すと顕れたVバックルが回転しながらユーキに装着――城戸真司の如くポーズを執りながら……

 

「変身!」

 

 叫んでからカードデッキをバックルに装填。

 

 仮面ライダー龍騎に。

 

「ま、そういう意味じゃあ少しずっこいかな?」

 

 その右手にはカード。

 

 翼の紋様が描かれているそれは力を発し、ユーキの左手にはドラグバイザーツヴァイが握られる。

 

《SURVIVE》

 

 真紅の炎を纏い姿が新生されていく。

 

 生き残る事を意味してるサバイブのカードであり、【SURVIVE -烈火-】という三枚の内の一枚。

 

 仮面ライダーナイトで使った【SURVIVE -疾風-】、オーディンが常に使っている【SURVIVE -無限-】。

 

 龍騎系の仮面ライダーはこれで最強形態と成る。

 

「ふっ!」

 

 空に浮く龍騎サバイブ。

 

「ほ、本当に飛んだ?」

 

 今のユーキはフライなどの魔法ではなく、仮面ライダー龍騎サバイブに与えられた飛翔能力で飛んでいる状態、つまりユーキの言葉は紛れもない事実。

 

「先に行く。兄貴は無茶するし」

 

「強い……想い……負けてません、私の想いは貴女にも白亜様にも他の誰にも、決して負けてませんから! 仮面ライダーアギト……貴方が神器なら応えて! 私の想いにぃぃっ!」

 

 ユートが前々世に於いて事故死しなければ、本当ならば婚約者となれていたのは知っている。

 

 白亜は気付いていた……緒方優斗が、自分の兄が、狼摩白夜に惹かれていたという事実を。

 

 だけど叶わなかった。

 

 ユートが死んだから。

 

 それでも――肉体的には別人だが、魂は間違いなく本人な来世のユートが還って来たから、他の分家筋も同じくだったにしても処女を捧げる事が出来た。

 

 今生でもユートに再会をして抱かれる事が出来て、再び初めての痛みを刻んで貰えたのだ。

 

 嬉しい。

 

 本当に嬉しかった。

 

 前世では子を授かりこそしなかったが、白亜は別にしてきっと分家筋では一番愛して貰えた自信がある。

 

 悦んで貰えたと思う。

 

 豊満とはいい難いけど、スタイルだって舞いの修業を欠かさなかったのだし、充分に出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいた。

 

 足腰も鍛えられており、ユートの分身へ与えた圧力はによる締まり具合は間違いなく、自分の内部で更に膨張した程だ。

 

「応えて、アギト!」

 

 ピキッ!

 

 ピキピキッ!

 

 カシャーン!

 

 紅いボディに罅が入り、マッシブだった中から白銀のスマートな肉体が顕れ、その姿はバーニングフォームからシャイニングフォームへと変化した。

 

 だが、想いに応えたからであろうか? 今までならどのフォームも原典と変わらない姿だったが、今現在のシャイニングフォームは女性的なラインのボディ、胸が出て腰にくびれがあって腕や脚も細め、お尻の方も丸みを帯びていた。

 

「優斗様の為にもバカ兄は私が止めます!」

 

 翼を持たないアギトが、然し確かに空を舞った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「参ったね。ユーキが加勢してくれてなきゃ押し切られていた。どんだけの天使を喰ったんだあいつは?」

 

 天使喰いEXという能力は本来、通常の天使喰いより力を獲られるものだが、性に関わるが故に相手へと絶頂を味あわせなければ、獲られる力も半端となる。

 

 優世は質を獲られる程にテクニックは無かったし、耐久力は並以上だったにしても早漏だったから相手は絶頂まで至らない。

 

 だから数を熟した。

 

 ユート並とまではいかないにせよ、回数だけは熟せる耐久力を以て天使を犯して犯して犯しまくった。

 

 自分だけが絶頂を迎え、天使は中途半端な快楽のみによる補食。

 

 だが、数はそれこそ数百は喰ったからだろうか? 力も相応に獲られた。

 

 天使喰いEXのスキル、効果は喰った天使の生体的エネルギーを蓄えて、自らの力として加算をする機能が通常の天使喰いより高くなっており、更により数を熟す為に精力の活性化と、精子製造能力の遥かな上昇が成され、天使の持っているスキルを一人につき一つ好きに奪えるという。

 

 早漏や性技は流石にフォローされていないけど。

 

 正しく喰えば喰う程に溢れるパワー!

 

 その分だけ天使は捕縛、喰われて消えたのだが……

 

 美しい天使達だったが、優世からすれば快楽と力を獲る為の〝餌〟だった。

 

「さて、どうするかな? 待てよ……試してみるか」

 

 一計を案じたユートは、雄叫びを上げながら優世に突っ込んで往く。

 

「舐めるな!」

 

 先のユーキの攻撃によりロンギヌススマッシャーとギャリック砲を浴びて負傷したが、天使喰いEXにより天使から奪ったスキルで回復をしていた。

 

 ヒーリング。

 

 EXヒール。

 

 リジェネーション

 

 リカバー。

 

 リザレクション。

 

 リバイブ。

 

 凡そ回復系だと思われるスキルを取り込んだ。

 

「うりゃぁぁっ!」

 

「ぐおっ!?」

 

 殴り付けられた優世が、後ろへと吹き飛ばされた。

 

 飛び散る赤い破片の中に混じる緑の欠片、その中でも特に大きめな欠片を手に取り握り締め、そして左手の甲の空の様に青い宝玉へと押し付ける。

 

「ぐ、ううっ!」

 

 痛みが襲った。

 

 元々が相反する存在で、こんな真似をすれば赤龍帝の一誠が、ヴァーリから奪った宝玉を取り込んだ際と同じ現象が起きる。

 

 つまり、拒絶反応。

 

 だが然し――

 

「こちとら、戦闘経験だきゃあ豊富なんだよ! 相反する? 極大消滅呪文やら咸卦法やら既に通った道、この程度がどうしたっ!」

 

《Welsh Dragon power is token!》

 

 左腕だけが赤く染まり、電子音声が赤龍帝の籠手の力を取り込んだ事を示す。

 

「き、貴様!?」

 

 驚愕の優世。

 

 其処へ駆け付けたのは、仮面ライダー龍騎サバイブと仮面ライダーアギト・シャイニングフォーム。

 

「兄貴!」

 

「優斗様!」

 

「二人共、来たのか!」

 

 飽く迄も独りな優世と、後ろには最後の一線で仲間を持つユート。

 

 ユートも一人で闘うきらいはあるが、決して独りでは無いと云う事だ。

 

「また無茶をして」

 

 仮面が無ければプクーッと膨れっ面なユーキが観賞出来るが、残念な事に今は龍騎の仮面で観れない。

 

「この程度、今までを鑑みりゃ無茶なものか」

 

「……それはねぇ」

 

 今も片目が見えていないユート、これは先の羽純の願いを聞いた結果だ。

 

 話している間に倍加による電子音声が響く。

 

「さて、此方も」

 

《Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! 》

 

 赤龍帝の力を発現。

 

《Transfer》

 

 倍加した力をユーキ達に譲渡をした。

 

「やるぞ!」

 

「応っ!」

 

「はい!」

 

《FINAL VENT》

 

「はぁぁぁっ!」

 

 ユーキはドラグバイザーツヴァイにファイナルベントのカードを装填すると、顕現したドラグランザーがバイク化したのに跨がる。

 

 白夜は【アギトの紋章】を空中に発現させた。

 

「ドラゴンファイヤーストーム!」

 

「シャイニング・ライダーキック!」

 

《SPADE TEN JACK QUEEN KING ACE》

 

 展開されていくスペードスート。

 

《ROYAL STRAIGHT FLASH》

 

 現在は【白龍皇の鎧】も仮面ライダーの一部な為、必殺技はロイヤルストレートフラッシュだ。

 

 鏖殺公でそれを放つ。

 

「ち、くしょ!」

 

 必殺技の波に呑まれて、狼摩優世の覇龍は消えた。

 

「逃げたか」

 

「だね。恐らく例の脱出用のアイテムだよ」

 

 大会の参加者の一人を殺して、パートナーを犯した上で奪った代物だ。

 

「優斗様、バカ兄は独りになってもきっと諦めないでしよう」

 

「そう……だな……」

 

 思い出す。

 

 死ぬ前に狼摩家で白夜の稽古を受けた際、優世とも会っていた時に確かに言っていたのだ。

 

『頭が痛ぇーと思ったら、やっぱりてめえかよ』

 

 頭が痛いと言っていたのも聞いている。

 

「どういう事なんだ?」

 

 狼摩優世――未だに謎が残る相手であった。

 

 

.




 ユートが得た力を簡単に使い熟している様に見えるのは、単純に原典の主人公とかとは違って経験値が高いのと、力の流れを視るという【叡智の瞳】の副産物として制御に長けるから。それでも制御が難しかった暴龍神の力も、白龍皇の光翼と超化の力を融合させてある意味で完成しました。




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第21話:双子座見習いは打ち切り君

 此方にアップしていなかったな〜。





.

「改めまして、狼摩白夜と申します。因みに今生での名前も同じくですので」

 

 闘神の館に帰ってきて、早速と云わんばかりに全員を呼び、白夜による滞在の挨拶が行われていた。

 

 着慣れた和装にちょっとおめかしで簪などで飾り、白夜が頭を下げて挨拶するとパン! と柏手を打ったのは大きなリボンを頭に着けた赤い和装の少女。

 

「白夜さん! お久し振りでございます」

 

「雫姫もお久し振りです」

 

 小早川 雫。

 

 JIPANG国の姫君、故にこそ狼摩家の長女たる白夜とは面識があったし、実は割と仲が良かったから存外と会う機会も増えた。

 

「そういや、白夜さんって兄貴に転生特典(ギフト)を譲渡して、代わりにアギトのオルタリングを貰ったんだっけ? 貸して、調整をしておくから」

 

「えっと、貴女は……」

 

「ユーキ。兄貴の義妹で、ツール担当って処さ」

 

「つまり、オルタリングを造ったのは?」

 

「ボクだね」

 

 ユーキは腰に手を添え、軽く斜めに身体を傾けた感じで白夜に答える。

 

「判りました」

 

 白夜はオルタリングを腰に顕現、外してユーキへとそれを手渡した。

 

「じゃ、預かるね」

 

 ツール担当の言葉通り、仮面ライダーのシステムの中でも、仮面ライダー自体はユートが聖魔獣として創っているし、アンデットも同じくだったりするけど、ベルトやバックルや外付けの道具、基本的にこれらはユーキが造っている。

 

 但し、パワーアップの為のアイテムはユートが担当をしているのだが……

 

 例えば、狼摩優世を相手にした際に使ったサバイブになる為のカード、これはユートが造っておいた。

 

 アドベントカードとか、ラウズカードの類いは魔法のアイテムであり、科学的な部分は力を出力する為のデバイスであり、そちらはユーキが担当をしている。

 

 仮面ライダーのパワーアップ形態、アギトやクウガみたいなタイプだと使い手の意志力が要となる為に、白夜も先日までシャイニングフォームにはなれなかったらしい。

 

「あ、兄貴。館内でなら何も無いだろうけどさ、一応は代わりのベルトなり何なりと貸して上げといて」

 

「判ったよ」

 

 ヒラヒラと手を振っているユーキに応え、ユートは白夜へと振り返る。

 

「じゃあ、何が良いかな? アギト以外でだと好きなライダーは?」

 

「え、そうですね……」

 

 考える仕草をした白夜は顔を上げて訊ねた。

 

「Vバックルのカードデッキは全種、在りますか?」

 

「ああ、造ってるよ」

 

 出力の為のデバイスだから造ったのはユーキだが、中身となる仮面ライダーや能力の為のカードはユートが作成した物。

 

「なら、ファムを」

 

 仮面ライダーファム。

 

 龍騎系仮面ライダーで、数少ない女性ライダー。

 

「判った、待ってな」

 

 アイテム・ストレージを操作し、【カードデッキ・ファム】をタップ。

 

 手の中にファムの紋章が付いているカードデッキが顕れて、それを白夜の手を左手で握り手の平を上向かせ手渡す。

 

 仄かな赤みで頬を染め、渡されたカードデッキを愛しそうに握り、それを小物入れに仕舞った。

 

「……」

 

 余りに嬉しそうな表情に頬を掻くユート。

 

 既に今生でも抱いている相手だが、可愛らしい仕草にユートも照れていた。

 

「そういえば、この方達はブレイド系の仮面ライダーになれるんでしたか?」

 

 自己紹介で軽く説明を受けている。

 

「きゃるん! 私は仮面ライダーレンゲルだよ」

 

「私は仮面ライダーギャレンになれます」

 

 スワティとクライア……二人が自分の持つバックルを見せて言う。

 

「さっきの義妹、ユーキはカリスラウザーで仮面ライダーカリスになれる」

 

「確かカリスはハートスートのカテゴリー2、ヒューマンアンデットのカードで人の姿になってましたが、ユーキさんは……」

 

「あれは素の姿だ。ヒューマンアンデットは、ユーキの前世の母親に胸を盛った姿なんだよな」

 

「……そうですか」

 

 ちょっと頭を抱えた。

 

 母親……オルレアン夫人はタバサとジョゼットが年の割に小さな胸だけれど、やはり血筋なのか貧乳であったと云う。

 

 ギリギリで授乳が出来る大きさではあるが、触り心地は残念と言わざるを得ないのが現実。

 

 まあ、感度は良かったからユートに抱かれる際に、おっぱいを吸われて喘ぐ姿は中々に良かったけど。

 

 そんなオルレアン夫人の姿に+α要素、シエスタのおっぱいの形を盛り付けたのがヒューマンアンデットとなっている。

 

「あの、ファムのデッキを借りた上でお願いがあるのですが……」

 

「ラルクバックルだ」

 

「……え?」

 

「仮面ライダーラルクに成る為のバックルだよ」

 

 赤いチェンジケルベロスのラウズカードと、レンゲルと同じ形状のバックルを渡された白夜。

 

「好きに使うと良い」

 

「あ、ありがとうございます優斗様!」

 

 尚、ラルクのカードには変身用のケルベロス以外、アブゾーブとキングを除きアンデットは入ってない。

 

 マイティのカードとオリジナルに近いカード、全部で一三枚が存在している。

 

 また、左手首にはパワーアップ用ツール――ラウズアブゾーバが完備。

 

 実際には全機に完備されている装備品である。

 

 ラルク……だけでなく、グレイブとランスも含めて【チェンジケルベロス】と【アブゾーブオルトロス】と【エボリューションソルレオン】以外は、飽く迄もイミテーションとなる代物であった。

 

 Jとなるカードも、実は【フュージョン】としか書かれていなかったり。

 

 ユートからのプレゼント……というには華が無いとも云えるが、白夜からすれば充分な贈り物らしい。

 

 その日の晩のサービスはとても激しく、そして熱く燃え上がったのだとか。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユーキには試合もある。

 

 次の相手は小岩手仁義。

 

 【聖闘士星矢】や【風魔の小次郎】などを世に送り出した車田正美の作品――【男坂】の主人公たる菊川仁義……

 

 然しながら世の流行りから遅れて出されたソレは、残念ながら打ち切りの憂き目にあってしまい、有名な『オレはようやく登り始めたばかりだからな、この果てしなく遠い男坂をよ』――未完などという打ち切りエンドを魅せた。

 

 小岩手仁義はそんな彼の容姿を、這い寄る混沌によって取らされている。

 

 勿論、性格や能力が実際に菊川仁義という訳では決して無く、JAPAN国で喧嘩屋をしていた程度ではあるが、転生特典もあって敗け無しだったらしい。

 

 【風魔の小次郎】

 

 【聖闘士星矢】

 

 【サイレントナイト翔】

 

 基本的には異能を用いての戦闘だったが、彼の作品は異能らしきものは用いない不良少年の戦い。

 

 だからといって彼が――小岩手仁義が異能を使わないかと問われると、ユーキも首を傾げてしまう。

 

 喧嘩屋とはいえこの剣も魔法も存在する世界にて、両の拳だけで天下を取れる訳が無いからだ。

 

「龍のコーナー、ユーキ」

 

 第二回戦の開始。

 

「虎のコーナー、仁義」

 

 シュリがマイクで高らかに選手の名を呼ぶ。

 

 各々が控室のあるコーナーから現れ、二人が中心に向かって歩いてきた。

 

「レディ、ファイッ!」

 

 何だかノリノリなお姉さんのシュリ、今も受付嬢として【姫島朱璃】と共に働いている。

 

 Wシュリは高い人気だ。

 

「変身!」

 

《CHANGE》

 

 ハートスートのカテゴリーA――【チェンジ・マンティス】を腰のカリスラウザーに通すと、オリハルコンエレメントが顕れユーキの前に展開。

 

 それを潜ると黒を基調とした蟷螂の戦士、仮面ライダーカリスに姿を変えた。

 

 本来の仕様では霧の様なモーフィングで変化をするのだが、ユーキが調整して全てのバックルに共通してこの変身としている。

 

「その姿は?」

 

「仮面ライダーカリス」

 

「仮面ライダーか……」

 

 他にも成れるのだが……

 

 いざ戦いが始まると意外や意外、仁義はカリスとの戦闘が互角以上。

 

 カリスアローという武器にステゴロとか、有り得ない現実が目の前に在った。

 

「チィッ!」

 

 変身による強化も無く、武装を持つでもない仁義。

 

 だが、確実に強い。

 

「参ったね、小宇宙が封印状態なボクは基本的に虚無魔法か仮面ライダーかって感じだけど……小宇宙の使い手が相手か」

 

 どういう訳か小岩手仁義は小宇宙を使っている。

 

 今のユーキは魔法を使った擬似的な聖闘士技を使う事は出来ても、小宇宙は使えないから巫山戯た身体的な能力は持ち得ない。

 

 ユートは他にも様々な力を持つし、代替能力に困ったりはしていないのだが、ユーキはユート程につぶしが利かなかった。

 

 多少の強さなら圧倒的な能力で斃せるが、小宇宙を扱うとなるとちょっと話が違ってくる。

 

「ま、敗ける気は無いさ」

 

 厄介は厄介だが……

 

「どうする心算だ? 敗けても良いんだぞ? 俺は別にあんたをどうこうしようとは思わないしな」

 

「それはそれで魅力が無いと言われたみたいで、何か複雑なんだけど……ねぇ。とはいえ青葉曜子は兄貴に上げるし、ボクも其処らは覚悟しているさ。勝てば良いんだしね」

 

「ほう?」

 

 ユーキがカードを右腰のホルダーから取り出すと、カリスラウザーにラウズ。

 

《CHOP》

 

《TORNADO》

 

 カテゴリー3とカテゴリー6によるコンボ。

 

《SPINING WAVE》

 

「でりゃっ!」

 

「それは一回戦で視た!」

 

「うっ!?」

 

 驚いた。

 

 ユーキの攻撃を容易く躱して腕を掴んだのだ。

 

「くっ!」

 

「一度視た技をただ放たれて喰らう程、生温い修業を課せられてはいない!」

 

 ドグッ!

 

「かはっ!」

 

 鳩尾に蹴りを入れられ、ユーキが吹き飛ぶ。

 

「小宇宙、しかも聖闘士の闘技を身に付けている?」

 

 聖衣は身に纏わないが、明らかに青銅聖闘士は越えている能力。

 

 しかもあの蹴りはカリスの装甲すら破砕した。

 

 聖闘士の蹴りは大地を割るし拳は空をも裂く。

 

 小岩手仁義は聖闘士だ。

 

「先にも言ったが、勝っても君に手出しはしないから負けを認めないか?」

 

「は、冗談! ボクだって勝算は充分にあるんだ!」

 

「仕方がないか」

 

 余り女を傷付けたくは無かった仁義ではあったが、ユーキの方で負けを認めないのなら是非も無し。

 

「俺の最大にして我が師の秘技……受けろ!」

 

「その構えは!」

 

「猛ろこの星の我! 黒噴火殻(マウロスエラプションクラスト)!」

 

 噴火が巻き起こりユーキを呑み込んだ。

 

 黒き噴煙と星の血潮たる溶岩、地殻をも震えるその力は小岩手仁義が師匠から教わった? 秘技である。

 

「終わったな。あのカリスは防御力もありそうだし、死にはしないだろう」

 

 瞑目して踵を返す仁義。

 

《BIO》

 

「な、なにぃ!?」

 

 行き成り電子音声が響いたかと思えば、仁義の身体を拘束してくる植物の蔦。

 

「無傷……だと?」

 

 其処には胸の装甲に罅があるものの、先程の技によるダメージが皆無なユーキ――カリスの姿が。

 

「菊川仁義は【喧嘩の鬼】とやらに喧嘩を教えて貰ったというけど、小岩手仁義……あんたの場合は鬼は鬼でもカノン島の鬼が師か」

 

 カノン島の鬼――それは即ちデフテロス。

 

「原典以外で兄貴と同じくな奴は初めて見たねぇ……双子座の仁義!」

 

「まだ継承してねーよ」

 

 修業はまだ半端な為に、小岩手仁義は双子座の聖衣を未だ与えられておらず、故に小宇宙は使えても聖衣は纏っていない。

 

「何故、無事なんだ?」

 

「聖闘士に一度視た技は、二度と通用しない!」

 

「お前、聖闘士なのか!」

 

「鳳凰星座の祐希。青銅聖闘士だし、一輝さんの予備的な扱いだったけどね」

 

 獅子座になっていたが、レオーネという弟子に聖衣を継承後、鳳凰星座に戻ってしまった一輝。

 

 だからユーキは予備役。

 

「ま、実際は技を使われるより前にイリュージョンの魔法を使って入れ替わったんだけどさ」

 

 虚無魔法のイリュージョンとは、何となれば空をも創り出すとされる。

 

 そんな幻惑に仁義は囚われていたのだ。

 

「さあ、そろそろ決着だ」

 

 ユーキがカードを出し、それをラウズした。

 

《ABSORB QUEEN》

 

《FUSION JACK》

 

 ラウズアブソーバに二枚が通され、電子音声が鳴り響くとカリスの姿が変化。

 

 狼の祖たる【フュージョンウルフ】と、蘭の祖たる【アブソーブオーキッド】が使用された。

 

 金色がふんだんに使われており、更には胸の部位にハート型のハイグレイト・シンボルへウルフの紋様が刻まれている。

 

 ジャックフォーム。

 

 本来の仮面ライダーブレイドの原典に存在しない、カリスラウザーに通したらウルフアンデッドの姿に成るだけなのだが、そこら辺を専用アブソーバを造る事で調整をした。

 

 カリスアローにも【ディアマンテエッジ】が顕れ、その性能が大幅に強化をされたのは間違いない。

 

「さあ、征くよ!」

 

 本来の使用目的は中距離狙撃の弓型だが、初めからリムが刃になっていて近接戦闘も熟せる仕様であり、金色主体のディアマンテエッジで強化された分、更に近接攻撃が強くなった。

 

 

 斬! 斬っ!

 

 弓を剣の如く振り回す。

 

「くっ!」

 

 小宇宙を纏う拳でガードをするが、先程より素早くなったカリスに対応が難しくなっている。

 

 ジャックが陸戦型の狼、ブレイドやギャレンみたいな空戦型ではないが故に、カリスの場合は脚力の強化が主となっていた。

 

「成程、青銅聖闘士は越えているけど白銀聖闘士には届かない程度……か」

 

 そもそも小岩手仁義は、年齢にして一三歳にはなっているが、多く見積もっても精々が中学三年生くらいだと思われる。

 

 仁義は初めから、しかも年齢一桁で黄金聖闘士にまで成ったアイオリア達とは違い、早熟な天才肌ではなかったのだろう。

 

 良くても星矢みたいな、先ずは青銅聖闘士クラス。

 

 修業が済んでおらず聖衣も与えられていないなら、師匠のデフテロスが今の侭では満足せず、黄金聖闘士クラスになるまで鍛えていたのだろうが、実力を見る為に闘神大会に出場したと考えるべきか。

 

 尤も、女っ気が無かった仁義に出場するには女を見繕えとは、無茶な話でしかなかったみたいだ。

 

 偶々、青葉曜子と出逢ったから出場出来た。

 

「残念だけど君の実力ではボクに届かない!」

 

「ならば魅せてみろ!」

 

 仁義が技を放つ。

 

黒噴火殻(マウロスエラプションクラスト)!」

 

「効かないね!」

 

 ドン! 地面を踏み締めて技の発動を防ぐ。

 

「なにぃ!?」

 

「言ったよ、聖闘士に同じ技は二度と通用しない!」

 

 仮面ライダーカリスの姿だから判り難いが、ユーキも鳳凰星座の青銅聖闘士なのである。

 

 ユート程でないにせよ、見切りも可成り高い。

 

 何より、ユートが使ったのを視てこの技の潰し方は把握している。

 

 そして大技の出だしを潰されて隙が出来た。

 

「終わりにしよう」

 

 カリスラウザーはアローに装着、醒弓モードの状態でラウズカードをラウズ。

 

《DRILL》

 

《TORNADO》

 

 残念ながら強化をされたカリスアローを使う技は、ブレイドやギャレンと違って持ち合わせていない。

 

《SPINING ATTACK》

 

 スピニングアタック――カリスがフロートを手にするまで使っていたコンボ。

 

「でりゃぁぁぁっ!」

 

 浮かび上がるカリスが、回転を加えた蹴りを放つ。

 

「がはっ!」

 

 胸部に命中した必殺技、その威力は26000APとなる訳だが、APというのは百分の一でtに直せるから26tだ。

 

 最早、聖闘士であれ生身では防げないレベル。

 

 否、小宇宙を防御に使えばダメージこそ負うけど、致命的では無かった。

 

 然し今は隙を見せた瞬間を狙ったのである。

 

 モロに喰らった。

 

 壁まで吹き飛んで壁を砕く勢いで激突、仁義はそれでも起き上がらんと力を籠めて動くが……

 

「ぐっ!?」

 

 血を吐いて倒れる。

 

「き、気絶! ユーキ選手の勝利です!」

 

 シュリがカリスの右腕を掲げさせ、勝利宣言を高らかに叫んだものだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 小岩手仁義の控室の扉が開き、青髪に白い制服姿の青葉曜子が顔を上げる。

 

「仁義君は敗けたのね」

 

「そうだよ」

 

 相手はユーキ。

 

 それだけで察せる。

 

「それで……私はどうすれば良いんですか?」

 

「兄貴の御相手さ」

 

「兄貴……さん? 男性ですよね?」

 

「女なら姉貴だよ」

 

「ですよね〜」

 

 曜子は苦笑いだ。

 

「私、夫が……」

 

「大会選手のパートナーの規定、選手が敗けた場合は一日だけ相手選手の好きにさせなければならない」

 

「うう……」

 

「殺害以外で好きにするの定義は、自分以外を招き入れてその相手に何かしらをやらせる事も含まれる」

 

「それは……」

 

「それにアンタはもう帰れない。戦争に行った夫が帰って来ようが死のうが貴女には最早、関係が無い」

 

 実は次の試合で戦うだろう岳画 殺のパートナー、由女を使えばユートによる【偽・劫の眼(アイオンの眼・フェイク)】で本来の世界を捜せるが、ユーキは二度とアレをやらせる心算なんて無かった。

 

「帰れない……一郎さんとも会えない」

 

 尤も、青葉一郎は戦争で死亡しているとニャル子からユーキは聞いていた。

 

 最後のセ○クスの直前に消えた妻、目の前で神隠しに遭った曜子の事で失意の内に戦争に向かい、敢えなく戦死したのだとか。

 

 所詮は一兵士。

 

 死のうと生き延びようと世界が何らかの変化など、全く無かったりする。

 

「ふふ……兄貴は処女には手加減をしちゃうけどね、人妻なら処女なんかじゃあ有り得ない。一日をたっぷり使って兄貴を愉しませて貰うよ、青葉曜子」

 

 その後、控室に入ってきたユートに一日を使って抱かれ続け、腰が抜けてしまって気絶していた曜子は、【闘神の館】へ連れて行かれて一年の奉仕活動を館で行う命令を受ける。

 

 また、帰る事が出来ない曜子は一年後もユートの下で半閃姫となったと云う。

 

 

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第22話:私達の戦争を始めましょう的な

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 カーツウェルより新たな道を見付けたと報告は受けていたし、ユートは一人で地獄に降りて往く。

 

 当然ながらカーツウェルには休みを与えているし、今頃は奥さんと宜しくヤっている事だろう。

 

 まあ、心が壊れていた時に一発かましてしまってはいるが、幸いにもユートはデキ難いから妊娠にまでは至らなかった。

 

 それは兎も角として……新しく女の子モンスターを喰いながら進んで行くと、変に複雑な迷宮となる。

 

 仕掛けを解除しながらも進めば、ナースホルンなるモンスターに行き先を邪魔されてしまい、都合にして三回も戦う羽目になった。

 

 更に進むと恐らく階層の繋ぎと云える場所。

 

 所謂、ボスの間とも呼べる開かれた所だ。

 

「さて、こんな場所ならば小ボスが出そうだが?」

 

 部屋に入るユート。

 

「お待ちなさい!」

 

 其処へ待ったが掛かる。

 

 凛とした声。

 

 バサリと白い二枚羽を羽ばたかせ、降りてきたのは金髪をドリルな形に結わいた女性だった。

 

「これ以上を進む事は許可出来ません。早々に御下がりなさい!」

 

「僕はこの先に用事があるから来たんだ。出来たら、通して貰えないか?」

 

「それは出来ません。通るとあらば排除するのみ!」

 

「……仕方が無いのかな」

 

 カードを挿入しバックルを腰へと当てる。

 

 シャッフルラップが伸びてベルトとなり、待機音が部屋に鳴り響いた。

 

「変身!」

 

 ターンアップハンドルを引くと……

 

《TURN UP》

 

 バックルが一八〇度回転して、オリハルコンエレメントが目の前に顕れる。

 

 それを潜るとその姿が、精霊の夜刀神十香スタイル――プリンセスの姿でありながら、スカートではなくズボンとなるそんな服装に変化をした。

 

 神威霊装・十番(アドナイ・メレク)と呼ばれているスタイル、仮面ライダーブレイブ改め仮面ライダーアルビオンの現在の基本的なフォームである。

 

 だが、所詮は基本。

 

 ユートはすぐにも新しいカードを、左腕に付けられたラウズ・アブソーバーへと装填した。

 

《ABSORB QUEEN》

 

《EVOLRUTION KING》

 

 再び顕れたオリハルコンエレメントを潜り、その姿をまたもや変化させる。

 

《Vanishing Dragon Balance Breaker!!》

 

 電子音声が鳴り響いて、龍を模した人型の白いフルプレートアーマー姿。

 

 背中には蒼い光の翼。

 

「我が名は白龍皇ユート、推して参る!」

 

「剣の天使ハサエラ・ラビ……天使喰いよ、覚悟!」

 

 やはり何か勘違いをされている気がした。

 

 どうして【天使喰い】と勘違いされるのだろう? ユートは確かに一度は奴――元市長アプロスから確かに天使喰いとなる術を受け容れてはいる。

 

 然しながらそれは内部でズタズタにし、喰らい尽くしているから肉体に変化など無い筈なのに。

 

 事実、ユートは神殺しではあるが天使喰いでは決して無かった。

 

 にも拘らず、ラベルケースやサハエラ・ラビだけでなく、闘神の館に囚われていた天使達もユートの事を天使喰いと称した。

 

 まあ、ラベルケースは後に誤解も解けたから良い。

 

 見た目からして元カラーであり、額には処女を示す赤い宝石が輝いていた。

 

 天使や悪魔に成ったら、処女を散らしても宝石には変化がなくなるが、ラベルケースは確りと処女だったから中々に美味しい相手。

 

 この性交で誤解は解けたのである。

 

 何しろ、天使喰いというのは天使とヤって力を吸い上げるのだから、ヤっても喰われなければそれこそが何より潔白の証。

 

 という訳で、ユート的には誤解を解くべく天使とは闘い、そして抱く。

 

 半ば犯す様なものだが、相手が友好的でない以上は仕方が無いのだから。

 

「はぁ!」

 

 手にしたのは鏖殺公(サンダルフォン)……夜刀神十香が戦いでいつも使っていた大剣型の天使。

 

 それのコピーだ。

 

 とはいえ、それは十香と五河士道が同時に鏖殺公を使ったみたいなもの。

 

 性能は変わらない。

 

 そんな鏖殺公にブレイドの重醒剣キングラウザーと同じ機能、オートラウズ・システムが搭載されているのが変化といえば変化か。

 

 そして通すのはラウズカードとは違う物。

 

《ZAPHKIEL》

 

「来い、【刻々帝(ザフキエル)】ッッ!」

 

 鏖殺公とは違い、カードに能力として封じられている時崎狂三の天使。

 

 天使に対して天使でとは皮肉が利いたものだ。

 

 因みに、ユートは本来は消されていた筈の時崎狂三のアバターの一人を上手い事確保し、手懐けてしまっているからとても協力的に天使――【刻々帝】の力を齎らしてくれた。

 

「【二の弾(ベート)】」

 

 放たれる弾丸はハサエラ・ラビが諸に喰らう。

 

「キャァーッ!?」

 

 然し痛くない。

 

「? こ〜〜〜ん〜〜〜な〜〜〜の〜〜〜い〜〜〜た〜〜〜く〜〜〜な〜〜〜い〜〜〜!?」

 

 余りにのんびりした口調に驚くハサエラ・ラビ。

 

「はっ!」

 

 バキッ!

 

 ドカァァァン!

 

 刃の腹で殴り付けると、ハサエラ・ラビが壁にまで吹き飛ばされた。

 

「うっ、いったい何が?」

 

「こいつは【刻々帝(ザフキエル)】。時計の数字の弾丸を放つとそれぞれ特殊な能力を発揮する。さっきのは【二の弾(ベート)】、撃たれた相手は動きが鈍くなってしまう」

 

「ば、莫迦な……」

 

 然し、先程の自分を鑑みれば嘘とは思えない。

 

「【七の弾(ザイン)】」

 

 七の数字から弾丸を生成して再び放たれた。

 

 その効果は時間停止。

 

 ハサエラ・ラビは見事に動きが停まる。

 

刀舞天象(ソードダンサー)ッッ!」

 

 何処ぞの赤いガンダムのファングの如く、幾つもの短刀が放たれてハサエラ・ラビの傍までくると停止。

 

「そして刻は動き出す」

 

 ザクザクザクザク!

 

「イヤァァァァアッ!?」

 

 身体中を刻まれた為か、悲鳴を上げて倒れた。

 

「うっ……」

 

 ダメージが大きくてフラつくが、それでも何とか立ち上がって剣を構える。

 

「終わりだ」

 

 五枚のカードをオートラウズしていく。

 

《SPADE TEN》

 

《SPADE JACK》

 

《SPADE QUEEN》

 

《SPADE KING》

 

《SPADE ACE》

 

 ギルドラウズカード化したカードにより、いつものコンボを極めるユート。

 

《ROYAL STRAIGHT FLASH》

 

「ウェェェェイ!」

 

 スペードスートの10〜Aが顕現し、そのカードを通して斬撃を放った。

 

「アアアアアッ!?」

 

 所謂、非殺傷設定みたいなモードで放った為に生きてはいるが、凄まじいまでの衝撃に壁まで吹き飛び、大穴を穿ってハサエラ・ラビは気絶をしてしまう。

 

 ユートは拘束魔法で手首を拘束し、壁に繋げる形で寝転がせておいた。

 

「ほれ、起きろ!」

 

 バシャッ!

 

 いつまでも寝かせている意味も無く、水をぶっかけて起こしてやる。

 

「ケホケホッ!」

 

 いまいち状況を理解出来ないハサエラ・ラビだが、すぐに自分が両手を拘束されているのに気付いた。

 

「うっ!? 天使喰い!」

 

 さっきまでの威勢などはまるで無く怯える瞳。

 

「わ、私を食べるの?」

 

「そうだな」

 

 性的に。

 

「イヤ、ヤメテ! お願いだから許して!」

 

「問答無用で襲い掛かってきたのはそっちだ。ならば敗ければこうなっても文句は言わせん。最早、問答は無用ってやつだ」

 

「イ、イヤァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

 悲痛な悲鳴を上げながらハサエラ・ラビは、ユートによって初めての痛みを与えられるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ハサエラ・ラビとの闘いから帰ってきたら……

 

 

「きゃるん! 精霊って何なんですか?」

 

 スワティが本当に唐突に言ってきた。

 

「精霊? モノによっては違うのを指しているから、いったいどれの話だ?」

 

「ユートさんが変身した時に着てる紫が基調の服装、あれが精霊と関係してるって言ってました」

 

「ああ、そっちな」

 

 世界の理的な精霊ではなくて、異界から顕現をする一種の聖霊の事だ。

 

 ユートは“彼女ら”の様な存在を聖霊と定義する。

 

「ユートさんが変身してる仮面ライダーアルビオン、あれって二種類の形態が在るんですよね?」

 

「ああ、ブレイド系ライダーの主役たる仮面ライダーブレイドに似せたタイプ、それからスワティが聞きたがっていた精霊の神威霊装の十番を僕用にカスタマイズしたタイプだね」

 

「神威霊装?」

 

「精霊が神霊力で創り上げている戦闘装束だよ」

 

 高位の術師なら可能とするエネルギーの闘衣化。

 

 彼女らともなれば態々、術式を編まなくても必要とあらば幾らでも、戦装束をその身に纏う事が出来た。

 

「君が纏うそれと同じだ」

 

 そう、スワティが纏った女神装束も実は本人が神力(デュナミス)によって成構築したモノ。

 

 裸になりたければ、別に服を着たければ装束を解除してしまう形になる。

 

 スワティは未だに処女を捧げる勇気は無かったが、それでも最近は裸になってユートの布団に潜り込む。

 

 その際、スワティは服をパッと神力の粒子に還し、唯一普通に穿いている秘所を隠す白い布、ショーツを脱ぎ捨てている形だった。

 

 因みに、前はショーツを身に付けて無かったからといってノーパンではなく、褌にも近い布を宛がっていたりする。

 

 一年間でスワティとの仲は可成り近くなった。

 

 三度に亘る縁があったとはいえ、会わなかった時間と傍に居た時間の長さ的に河村耕平を思い出す事も少なくなったし、現状で還る術も無いのが諦感を生み出しており、傍で沢山の女性を侍らせているとは云えど温もりをくれるユートに、スワティは徐々に懐く様になっていく。

 

 人間と触れ合える肉体を手にしたのも、スワティが改めて温もりを知る切っ掛けとなり、河村耕平の時とは違うフィジカルな接触に感情が昂ったのもある。

 

 それにユートは女の子との触れ合い、温もりを感じるのが好きだとはいえ嫌がるなら手を出さない辺り、スワティ的に好感が持てたというのもあるし、逆説的に自分には全く手出ししないクセに他の娘にはそれこそセ○クスまでしているという事実に、ちょっと嫉妬をしたというのもあって、一年間の内に自らがデートに誘い、最後までは逝かないまでも自分の肢体を堪能させた上で、御手々によるユートの分身を弄る行為で射精()させるまではヤっていた。

 

 それにユーキが色々と教えてくれていて、次はお口でとか男の子の気持ち良くなる事を知識としている。

 

 つまり、だいたいユーキの所為であっと云う。

 

 尚、純真無垢な相手には中々手を出さないユート、アーシア然りクライア然りであり、スワティはそんな相手には見ていない。

 

 それでも手を出さないのは単純に、まだ河村耕平へ想いを残していたからだ。

 

 それに女神としては分け御霊だから処女とはいえ、スワティは本来だと弁財天――サラスヴァティが元となる為、大元たる女神には夫たる創造神ブラフマーが存在する負い目もあった。

 

 処女なのに夫が存在する女神が大元、スワティ本人は気にするのだけどユートは気にならない。

 

 処女厨ではなかったし、閃姫にするしないに拘わらず千を越えてヤっており、孕ませた数もそれなりだという事もあるが、未亡人や下手すれば人妻まで相手にしただけに、今更ながら拘ったりはしないから。

 

 確かに初めてを貫くのは嬉しい、無垢なアソコへと自分の分身を分け入らせ、自分色に染める行為に滾るのも嘘ではないのだ。

 

 だが然し、他人色だった相手を自分色に染め直すのもまた興奮を覚える。

 

 だからスワティのそれは気にし過ぎだった。

 

「此方に来る何個か前での世界、其処は精霊と呼ばれる存在が空間震という災害を引き起こしながら現界をする世界だった」

 

 しかも精霊とは皆が皆、うら若い可憐な少女の姿をしていたのだ。

 

「ただまあ、最初の印象は最悪に近かったかな?」

 

「どうして?」

 

「僕が世界を渡った瞬間、一個部隊が空から攻撃を仕掛けて来てね。しかも中でも白髪の女の子が執拗で、面倒臭いからぶちのめしてやった上で、権能を使って無理矢理に引き込んだ」

 

「ああ……」

 

 この世界でも何度か使った【まつろわぬ神】を殺して簒奪した権能、つまりは神の能力そのものを白髪の女の子に行使したのだ。

 

 まつろわぬペルセウスから簒奪したその権能は――【闇を祓いて娶る美姫(プリンセス・アンドロメダ)】と云う。

 

 神話・英雄譚に在りき、ペルセウスは戦女神アテナより恩寵を賜り、ゴルゴンの怪物たる三女メドゥーサを討ち斃す。

 

 ペルセウスは凱旋するべく帰り道、エチオピア王のケフェウスと王妃カシオペアの娘、美しいアンドロメダ王女が鎖に絡め取られ、大岩に括り付けられているのを発見。

 

 訳を訊いてみれば娘自慢が過ぎ、海神の怒りを買った為に自分を生け贄に怒りを鎮める心算だとか。

 

 ペルセウスは姫を救うべく動き、大海獣をメドゥーサの生首を使って石化して討った後、アンドロメダ姫を娶って幸せになりましたというもの。

 

 まあ、実際にはペルセウスはケフェウスに海獣を斃した後の報酬に姫を望んで約束した後で討ち斃していたり、ケフェウスも結婚をさせない為に兵士を差し向けたり偽装結婚させようとしたり、ドロドロな展開だったりしたらしいが……

 

 【カンピオーネ!】世界の解釈では、そもそも英雄が怪物を討ち取り美姫を娶る所謂、ペルセウス・アンドロメダ型神話というのは怪物自体が美姫であって、斃す……調伏した怪物であり美姫を自分のモノにする事は、一種の英雄たる存在としてのステイタス。

 

 実際、ペルセウス自身がそんな事を言っていた。

 

 ユートの権能はソコからイメージされているが故、何らかの勝負に勝利をした相手を自分のモノにする、そんな感じに構築される。

 

 とはいえ、洗脳ではなく優先順位の変動らしくて、元々の彼氏が居たとしても嫌いになるとか無関心になる訳ではなく、ユートの方を優先するだけの様だ。

 

「けど、無理矢理って……ユートさんはその、強姦は好きじゃないのでは?」

 

「うん、好きじゃないよ。けどそれは飽く迄も本来は無関係な相手を、欲望の侭に犯す行為がって話だな。敵対して襲って来た相手にしてやる配慮は無い」

 

 しかも明らかに殺しに掛かって来た相手、身の程を弁えさせる為に可成り手酷くぶっ倒したものだった。

 

 使っていた装備品に関しては剥ぎ取り、今後の参考にするべくアイテム・ストレージに仕舞って、白髪の女の子が嫌がるのを無理繰り押し倒して奪ってやる。

 

 その後はチョロいレベルで堕ちた。

 

 昔の想い出よりユートが優先された結果である。

 

「ま、精霊に関しては封印に協力して力を回収したり若しくは、封印自体は他の奴がやった後に力だけ回収させて貰ったりしたんだ。結果、精霊全員の神威霊装と天使を手に入れた」

 

「天使……? それは?」

 

「精霊が扱う武器だね」

 

 ユートは言いながら大剣を取り出す。

 

「それは仮面ライダーに成った時に使ってる……」

 

鏖殺公(サンダルフォン)――神威霊装・十番(アドナイ・メレク)と共に精霊の夜刀神十香が持つ力」

 

 但し、本物がスカートなのに対して此方は調整してズボンであったと云う。

 

 ユートがその世界――【デート・ア・ライブ】世界だと後にユーキから教えられたが、其処に出た瞬間にどうやらまだ名前すら持たなかった精霊が、空間震と共に顕現したらしくユートを精霊だと勘違いしたらしいのは、彼女らの会話から何とか理解はした。

 

 彼女らが精霊に対して、並々ならぬ思いを持つのも理解出来たし、勘違いしたのなら誤解を解けば良いと考えたユートは、取り敢えず高町式OHANASHIにはなるが『話を聞け』と提案はしてみている。

 

 要するに戦いながら会話をしていた訳だが、ユートはこの行為事態に否定的なタイプだ。

 

『お話を聞いてよ』

 

『お話ししなきゃ判んないでしょ?』

 

 などと言ってみた処で、そもそも襲って来た方からすれば勝てば官軍であり、戦闘を止める意味を見出だせないのだろう。

 

 場合によれば負けるにしても退けない理由がある事だって、そうなれば話し合いなど絶対に成立しない。

 

 だからユートは話し合いをしながら、その実は相手を討ち果たして屈伏させる事を考える。

 

 勿論、話し合いに相手が応じるならそれも良し。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「だから、僕は精霊ってのじゃないと言ってる!」

 

「それは有り得ない。貴女が顕れたと同時に空間震が起きた。つまり貴女が顕れた事で空間震は起きてる。貴女が精霊だから」

 

 淡々と言う白髪少女。

 

 何やら機器を身に付け、身体にはフィットしているレオタードに近い服。

 

 しかも彼女らが扱うのは魔法に似ている。

 

 意志の力で現実に干渉、それを具現化する武装という事だろう。

 

 顔立ちは可愛らしいが、精霊とやらに相当な御立腹みたいで、精霊だと思い込んでいるユートを、親の仇だと謂わんばかりの憤怒に歪めているのが勿体無い。

 

 因みに、後から聞いた話では実際に精霊が親の仇であるとか。

 

「チィッ、面倒な!」

 

 然しながらどうにも彼女の科白に違和感が……

 

 ミサイルやビームソードみたいな物を使ってきてはいるが、根本的なのは意志の力という装備品。

 

 折角だから鹵獲しておきたいと考え、故に手加減をしながら闘っていた。

 

「がっ!?」

 

 バリアフィールドみたいなものを展開しているが、ユートからすれば紙装甲と変わらない。

 

「そ、そんな……」

 

 精霊との戦闘でも充分な効果を発揮する筈なのに、ユートがあっさりと抜いて来たから驚愕する少女。

 

 少女の纏う武装、それはCRユニットと呼ばれている対精霊武装で、魔術師とされる彼女らの精霊と戦う上での最上たる物。

 

 防護服――着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)を身に付けて、顕現装置(リアライザ)が搭載されている戦術顕現装置搭載(コンバット・リアライザ)ユニット――通称CRユニットを喚び出して戦っている。

 

 基礎顕現装置を起動すれば随意領域(テリトリー)を自分の周囲へ数メートルに亘り展開が出来、仮令それが精霊による攻撃であろうとも通常のものなら充分に弾けるバリアフィールド。

 

随意領域(テリトリー)が抜かれるなんて……!」

 

 然し幾らフィールドを張っても無意味。

 

「哈っ!」

 

「ぐっ!?」

 

 ユートなら蜥蜴座(リザド)のミスティや、海馬(シーホース)のバイアンが使う空気の膜や、牡羊座(アリエス)の使う結晶障壁(クリスタルウォール)でさえ静かに抜いてしまえる。

 

 集中力が可成り必要で、理論上は抜けても牡羊座のムウ辺りが使う結晶障壁であれば、流石に抜くのは難しいのだが……

 

 だけど聖闘士でもなく、戦闘も未熟な経験足らずの小娘程度、簡単にフィールドを抜いて攻撃可能

 

 双子座は精神や空間への干渉を得意とする聖闘士、その御多分に漏れずユートもそれを特技とした。

 

 異界次元(アナザーディメンション)という技が在るが、これは敵を異次元へ放逐するのを通常としているのだけど、応用技として空間移動にも扱える。

 

 テレポーテーションとは原理が違うから、アテナの結界すらすり抜けてこれは移動を可能としていた。

 

 そのちょっとした応用、集中力を懸けて小さな穴を作り出し、敵のフィールドの向こう……本体へ直接的な攻撃を行う小技だ。

 

 故に……

 

「嗚呼っ!?」

 

 全身を(つんざ)く雷撃を簡単にぶつけ、少女から意識を奪うのに成功した。

 

「ふぃー」

 

 取り敢えず相手の戦力の分析をしていたから躊躇っていたが、全てのデータを収集すれば最早用は無い。

 

 肉体へと雷撃を当てる、つまりスタンガンを押し当てたみたいなものだから、少女は肉体の構造上からも耐えられず、気絶する事を余儀無くされてしまう。

 

「大分、離れたな。それならそれで都合は良いか」

 

 少女を抱えて異次元へと引き篭り、其処へ設えていたログハウスに入る。

 

 緊急避難用に麻帆良から移築したもので、中も空間を湾曲して拡がりを持たせたものだ。

 

「先ずは……剥ぎ取りか」

 

 モンスターとか獣を斃したら必ずやる剥ぎ取りを、ユートは少女の身に纏った装備品で行った。

 

 まあ、アイテムストレージに移動しただけだが。

 

 顕現装置や露出過多な服を剥ぎ取り、素っ裸になった少女に覆い被さると……

 

「我は東方より来たりし者也て闇を祓う燦然と耀ける存在。照らし出す曙光にて竜蛇を暴き、我は汝を妃として迎えよう」

 

 聖句を唱えた。

 

 それは即ち【闇を祓いて娶る美姫(プリンセス・アンドロメダ)】。

 

 割と使い易い権能だが、制限として勝利の暁となるから、何らかの勝負をして勝たなければ発動しない。

 

 その点、少女とは戦闘をしてこうやって勝った。

 

 条件は満たしている。

 

「――う?」

 

 意識が戻ったらしい。

 

「これは……」

 

 裸の自分。

 

 年齢の平均よりも小さなおっぱい、雪の如く白い肌を晒している自分。

 

 ショーツすら着けていないから、秘裂が薄い陰毛から覗いている自分の痴態。

 

「っ!? 何を!」

 

 そして自分に覆い被さるのは、先程まで戦っていた顔だったが……

 

「男の人?」

 

 胸板と股間に反り返った肉の棒は間違いなく男。

 

「まさか、女の子だと思われていたのか?」

 

「精霊は皆、女の筈……」

 

「人間だからな」

 

「そんな!?」

 

 何がショックだったのか驚きに満ち溢れた顔。

 

「私をどうする気?」

 

「ムカつくから殺しても良かったが、この世界の情報を得る為に生かしておく。とはいえ敵だから、先ずは小細工をしようとね?」

 

「っ!」

 

 ナニを仕出かす心算かは簡単に理解出来た。

 

「私には……」

 

 その昔に自分の為に動いてくれた少年が居たから、いつかは会いたいと思いながら数年間を生きた少女。

 

 異性だったから上手くすれば仲好くなれる。

 

 それを鑑みればこれは避けたい事態だが、まだ身体がまともに動かせない。

 

「やめて……」

 

 その願いも空しく響き、ユートは少女のスレンダーで美しい肢体を貪る。

 

 その後、ユートは少女――鳶一折紙から彼女の知る全ての情報を、本人の名前と共に得るのであった

 

 

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第23話:岳画 殺の特典

 取り敢えず移転の一環です。





 

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「あの……」

 

「どうした? クライア」

 

 クライア・カラーが小さく挙手、それを見たユートが首を傾げて訊ねる。

 

「その、ですね。エッチな事をする必要はあったんでしょうか?」

 

 顔を真っ赤にして頭からは蒸気を噴き、こんな話題がとても恥ずかしかったのだろいが、遂には両手で顔を隠してしまう始末。

 

 とはいえ、ユートに懸想する女の子達からすれば、此処は聞き逃せない案件だったらしく耳がダンボだ。

 

「無いな」

 

 全員がピシリと凍る。

 

 正確にはユーキを除いての話だが……

 

「あの権能で必要となるだろうアクションは、謂わば粘膜による直接的な接触。確かにセ○クスで僕の分身が折紙の秘裂内に挿入したなら、条件を満たす事にはなるんだけどな。それならキスで舌を絡めればお手軽に権能を使える。実際に、グィネヴィアやランスロットに使った際にはキスだけで済ませたからな」

 

「グィネヴィア?」

 

「ランスロット?」

 

 知らない名前だったが、この場で名前が挙がったならつまり女だろう。

 

 クライアとスワティが、その名を反芻した。

 

「権能を得た世界で神祖とまつろわぬ神とされていた二人でね、どちらも英国では知らぬ者は居ないくらい有名人ではある」

 

 飽く迄も通り一遍な伝承に過ぎないが、アーサー王と円卓の騎士ではある意味で有名人だった。

 

 だけど【カンピオーネ!】世界、ユートの再誕世界は型月のランスロットだったから普通に男だったが、湖の騎士サー・ランスロットは彼処では女神。

 

 鎧兜で正体を隠している様は型月なランスロットっぽいが、中身は可憐とも云える美女である。

 

 実質的に神話も名前すら喪った流浪の女神であり、軍神アレスと深い縁を持つアマゾネスの系譜にして、とっても珍しいであろうが女性の【鋼】だ。

 

 一応、名前が無いのも困るから鎧兜を脱いだ場合は別の名前を付けた。

 

 何しろ、ヤる時にランスロットでは流石に萎える。

 

 正確には自らヒュッポリテーで良いと言った。

 

 ヒュッポリテーというのはアマゾネスの女王であるオトレレと、軍神アレスとの間に生まれた娘である。

 

 このランスロットの原典……らしい。

 

 軍神アレスは言わずもがなギリシア神話体系に在るオリュンポス十二神の一柱であり、戦争の神とされるユートの世界でもアテナが嘗て闘った相手。

 

 然るにヒュッポリテーと名乗るランスロットとは、アーサー王伝説に列なったケルト神話体系。

 

 何がどうしてこうなったのかは兎も角、神話らしく渾然としたものであった。

 

「というかさ、この世界の人間っていうかカラーであるクライアはまだ判るが、何で地球の女神の一柱たるスワティが違う神話体系とはいえ、ランスロットとか識らないんだ?」

 

「きゃるん!?」

 

 スワティは日本に於ける弁財天、元々はインドでの神話……ヒンドゥー教に於ける創造神ブラフマーの妻であるサラスヴァティ。

 

 サラスワティなのだ。

 

 因みに、ブラフマー自身は仏教で梵天と呼ばれる。

 

 はっきりきっぱり地球の神でありながら、地球での伝承に疎いのは如何なものであろうか?

 

「話を戻そうか、脇道に逸れてしまったから」

 

「は、はい……」

 

 取り敢えずお茶でも飲んで喉を湿らす。

 

 ユートは珈琲だ。

 

「さっきも言ったけどね、この権能はキスすれば普通に発動するから、折紙との性交は行き成り襲われたんでムカついたから敵対者への懲罰的にヤった。それにバトってちょっと興奮気味だったし、折紙の容姿って君らに充分匹敵するだけのものがったからね」

 

 不意討ちでそれを聞いて全員が真っ赤になった。

 

「ん? でもでも、権能を使った後なら普通に抱かせて貰えたんじゃ?」

 

「いや、問答無用で洗脳をしてるんじゃないんだし、ヤらせろと言ってオッケーを出す訳が無いだろ?」

 

「きゃるん、そうなんだ」

 

「優先順位が最高位になるだけだからね。とある人物の忠実な下僕だったとしても優先順位が変わって僕の言葉を聞く様にはなるし、そのとある人物を恰かも裏切った感じにだってなる。だけど、そのとある人物を嫌う訳でも憎む訳でも無いんだし、ちゃんと好感度を上げないと身体を許すまではいかないよ」

 

「? そうなんだ……」

 

「まあ、優先順位が最高位だから無理矢理にヤっても許されはするけどね」

 

「――は?」

 

 所謂、恋人の如く付き合っている状態から好感度を上げ、セ○クス可能なまでにならないと『抱きたい』と言っても嫌がる。

 

 然しながら、強姦にも等しく無理矢理にヤった場合は嫌がりはしても、最終的には許してくれる訳だ。

 

 まあ、ユートは言葉巧みにヤれるだろうけど。

 

 実際、この場の瑞原葉月と小早川 雫はその権能を受けた存在で、各々が愛した男を友人として思ってはいるが、ユートの事は最初は兎も角として今は愛情を持って接している。

 

「それで、ユート様」

 

「何かな? 雫」

 

「ユート様が顕れた際に起きました空間震? あれはいったい何が原因でしたのでしょうか?」

 

「僕が変身時に使っている神威霊装・十番(アドナイ・メレク)の本来の使い手――夜刀神十香が現界していたらしいね」

 

 夜刀神十香――あの世界の主役とも云える五河士道が初めて認識した精霊。

 

 本来ならユートがこました鳶一折紙の想い人となる予定――依存していただけだが――の少年だったが、権能によって優先順位が変わっており、そこら辺でのイベントも潰れた。

 

 但し、前述した通り嫌う訳でも無関心になる訳でも無いが故に、士道を誤射というか、十香を庇った事で射ち抜かれた際の衝撃とか十香の報復攻撃とかは普通に起きている。

 

「色々とあった末に、僕はラタトスク機関のフラクシナスの司令官、五河琴里に呼ばれたという訳だ」

 

「いつかことり……女の子ですよね?」

 

「ああ」

 

 スワティの問い掛けに対し首肯して答えるユート。

 

「序でに言えばジャックフォームで使った神威霊装・五番(エロヒム・ギボール)の本来の使い手だ」

 

「ああ、あの! 恥ずかしい格好ですね?」

 

 ガクリ……

 

 膝を付いてしまう。

 

 スワティに悪気は無いのだろうが、ユートは基本的に神威霊装・十番以外には自分用の調整をしていなかったし、今回のあれにだって加える予定は無かった。

 

 だから未調整の侭に使ってしまい、精霊化した琴里ならまだ似合う霊装でも、男のユートが使うと痴態にしかならない格好に。

 

 尚、本人はそう思ってはいるのだが、ユートの顔は女性寄りの中性であるが故にか? 中腰になる男も居たかも知れない。

 

 それだけ刺激的な格好だったからだ。

 

「あの、プリンセスフォームとかイフリートフォームというのは?」

 

 珍しく口を出してきたのは羽純・フラメル。

 

「精霊には人間側で仮に名を付ける。それが姿や能力なんかで色々とね」

 

「色々と?」

 

「神威霊装・十番の十香は【プリンセス】、神威霊装・五番の琴里は【イフリート】だね。他に神威霊装・三番(エロヒム)の使い手の時崎狂三が【ナイトメア】なんて呼ばれてた」

 

 一万人を殺害した事が、悪夢(ナイトメア)の名前を与えたらしい。

 

 とはいえ、一万人という

のは飽く迄も把握されている人数との事。

 

「ラタトスク機関に行った後は、司令官である琴里の『私達の戦争(デート)を始めましょう』という言葉と共に、精霊を殺さず保護をする作戦に従事したな」

 

 ユートが封じた事もあったのだが、取り敢えず殆んど全員分の神威霊装や天使は確保している。

 

 未調整ばかりだけど。

 

 話も終わって、ユーキが白夜と話し合いをしているのだが、どうにも深刻そうなものではないらしい。

 

 ユーキは興奮をしながら白夜と愉しそうに会話中、なのでユートとしては手持ちぶさたというやつだ。

 

 そこでアルビオンバックルの調整と、いつか若しかしたら手に入った場合用に新しいバックルも造ってしまおうと製作開始。

 

 システム的にはレンゲルバックルで、カードも造り終えてみたがそもそもそれに対応する力が今は無い。

 

「ドライグバックルか……優世からドライグを奪えば使える様にはなるな」

 

 そしてよく考えたなら、狼摩優世は赤龍帝ドライグを宿している。

 

 奪って手に入れたなら、このドライグバックルも使えるだろう。

 

「あ、兄貴。作業が終わったんなら次にいくよ?」

 

「何の話だ?」

 

「新しい仮面ライダーを造る話だよ」

 

「新しい……ねぇ。クウガにアギトに龍騎にファイズにブレイドにヒビキにカブトに電王にキバにディケイドにWにオーズは造った。次となると?」

 

 一応、オーズ系列までは完成をしている。

 

「実は白夜さんから面白そうな仮面ライダーを教えて貰ってさ、先にそっちを造ってみたいなって」

 

「面白い?」

 

「ゲームライダー」

 

「――は?」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 仮面ライダーエグゼイド――二〇一六年の秋頃から放映をしたらしい。

 

 ゲーマドライバーというベルトに、ガシャットと呼ばれるゲームの特別製の物を装填して変身するとか。

 

 最初はズングリムックリな【レベル1】な姿だが、ドライバーの操作ですぐにレベル2になれる。

 

 また、上位のガシャットを使ってレベル3やレベル5やレベル10や20といった具合にレベルアップをしていく。

 

 最終的にはレベル99やレベル100、レベル自体を超越したガシャットとかも登場したし、今時……と言われてもユートには解らないが、珍しくなくなったレジェンドライダーのガシャットも存在するとか。

 

「ディケイドみたいな変身が普通になるのか?」

 

「違うよ兄貴。Wのガイアメモリにレジェンドライダーのメモリが出たりしたと思うけど、実際に劇場版や何かで変身したりもしているらしいよ?」

 

「ほう?」

 

「白夜さんから預かってた仮面ライダーのアレ、実はアレもレジェンドライダーに変身するのが在るんだって言われたし」

 

「そうなのか? 白夜」

 

「はい、優斗様。鎧武系のロックシードにも、レジェンドライダーロックシードが在りまして、それで過去のライダーに近い姿に変身が出来るんです」

 

 ガイアメモリは商品が出ただけで、実際にW系統の仮面ライダーがレジェンドライダーの力を得たりする映像は無かったが、遂にはレジェンドライダー化なんかも視野に入ったらしい。

 

「まあ、兎に角さ。主役の宝生永夢が使うガシャット……マイティアクションXから順次造ろうよ」

 

「ま、ユーキがやる気ならそれも良いかな」

 

 義妹として恋人として、そして仲間としても大切なユーキ、ならばやりたい事をちょっとは叶えたい。

 

「じゃ、いつも通りに」

 

「ボクが出力するドライバーを造る。兄貴は【至高と究極の聖魔獣】で仮面ライダーの本体を創る」

 

 ユーキは科学力を用い、仮面ライダー用のベルトや付随するアイテムを造り、ユートは神器の禁手を使って聖魔獣による本体創り。

 

 但し、それがカードとかだと魔導具となるが故に、ユートがそれらを造った。

 

 特にブレイド系統だと、封印用のカードもプライムベスタもユートが造るしかなく、ユーキは力を出力する為のバックルのみを作製

していた。

 

 魔法球内の工房でユーキが急ピッチで造る【ゲーマドライバー】と【マイティアクションX】のガシャットだが、ガシャット自体は仮面ライダーエグゼイドの本体となる聖魔獣が封入をされて初めて機能する。

 

 仮面ライダー用の聖魔獣とは中身ががらんどうで、ツール内に粒子化状態にて封入されており、変身して出力されるとベルト装着者に重なり着込む形だ。

 

 十三種の神滅具の中でも四種の上位神滅具(ハイ・ロンギヌス)に位置して、強力なモノと認識をされる【魔獣創造】ではあるが、大きな欠点も在った。

 

 それは幾ら強大な魔獣を創造しても、創造主が貧弱では狙われて終わる点。

 

 後は、余程の妄想力(笑)がないと大した魔獣も創れない点であろう。

 

 現に元の持ち主であったレオナルド、禁手で巨獣を創る程度しか出来なかったとか、本人を狙って仕留めれたとか容易い相手でしかなかったのだから。

 

 まあ、巨獣もそれなりには強かったのだろうけど、禁手で創ったからにはあれが限界だったし、ユートが創造した聖魔獣はどれもがレオナルドの魔獣を容易く葬れるくらい。

 

 というか、|破滅の覇獣鬼《バンダースナッチ・アンド・ジャバウォッキー》とか亜種の禁手は、豪獣鬼(バンダースナッチ)超獣鬼(ジャバウォック)を創るのに特化してそうな名前であり、間抜け過ぎる進化をしたものだとユートが鼻で嗤うレベルだったり。

 

 ユートの場合も亜種ではあるが、余りにも自由度が高過ぎる禁手である。

 

 仮面ライダーやデジモンを創造したり、果ては人体創造すらも視野にあった。

 

「兄貴ぃ、ガシャットの方が出来たからエグゼイドを封入しといて」

 

「了解」

 

 【マイティアクションX】のガシャットに、ユートは粒子化した聖魔獣であるエグゼイドを封入。

 

 専用ツール【ゲーマドライバー】に装填した上で、ドライバーを然るべく操作すれば仮面ライダーエグゼイドに〝変身〟が可能だ。

 

 更に時間が経つ。

 

「ゲーマドライバー完成」

 

 白夜の知識に存在してたゲーマドライバー、それをユーキは無事に完成させてみせる。

 

 次の試合の事もあるし、余り遅くならない様に完成させたのだった。

 

 魔法球内は可成り広大に造ってある為、こういった物の実験にも丁度良い。

 

 ユートはユーキから受け取ったゲーマドライバーを腰に装着、ライダーガシャットを右手に持ってスイッチを押した。

 

「変身!」

 

《ガシャット!》

 

 左手に持ち変えて装填。

 

《マイティアクション・エェェェックス!》

 

 セレクトして変身開始。

 

《レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム!? アイム ア カメンライダー!》

 

 解ってはいたが……

 

「ズングリムックリだな、レベル1だと」

 

 仮面ライダーという感じでは無かったと云う。

 

 いよいよ準決勝。

 

 ユーキVS岳画 殺だ。

 

 岳画 殺の武器は基本的に近代兵器である。

 

 ミサイルランチャーや、サブマシンガンなどを駆使して戦うヒロインだった。

 

「始めるよ。何気に初めての強化変身……悪いけど、実験に付き合って貰う」

 

「よく判らんが、私は勝ちに往くのみ」

 

 龍のコーナーからユーキが現れ、虎のコーナーからは岳画 殺が現れて観客は二人の小さな少女の揃い踏みに興奮度MAX。

 

 マキシマムガシャット、それをユーキは使う。

 

《マキシマムマイティエェェックス!》

 

 ガシャットのスイッチを押すと流れる音声。

 

《マキシマムガシャット》

 

 ガシャットをドライバーへと装填し……

 

「MAX大変身!」

 

 

 ユーキがゲーマドライバーのバックルのレバーを、右側に開きながら叫ぶ。

 

《レベル・マーックス! 最大級のパーワフルボディ! ダリラガーン! ダゴズバーン! 》

 

 ガチャッ! ゲーマドライバーに差し込んだマキシマムガシャットのスイッチ……頭部となっている部位を押してやる。

 

《マキシマムパワー・エェェックス!》

 

 空中に顕れた巨大な顔、マキシマムゲーマに呑まれる仮面ライダーエグゼイドのレベル2。

 

 それは試験的に変身したユートがレベル1な姿――ずんぐりむっくりなのとは違う等身大なモノ。

 

 尚、ユーキの身長は低いけど変身すると普通に長身な姿となる。

 

「身体が顔ってさ、何だかデスピサロだよねぇ……」

 

 マキシマムゲーマが展開された姿は、元々の形が顔なだけあって変身後には、エグゼイドの身体の部位に巨大な顔が付いた感じか。

 

 パンチ力:99。

 

 キック力:99。

 

 ジャンプ力:99m。

 

 走力:100mを0.99秒。

 

 能力が99に関わるという平成仮面ライダーとしてみると、実に仮面ライダークウガ・アルティメットフォームに匹敵。

 

 根本的にユートが創った仮面ライダーは聖魔獣。

 

 能力もイメージによって形作られており、仮面ライダーエグゼイドは狼摩白夜から得た記憶がイメージ元となっていた。

 

 記憶の取得はおでこ同士をくっ付けて行うのだが、もっと明確に記憶を取得したい場合は、セ○クスした際の絶頂で互いがイク時にやり取りをする。

 

 絶頂時の僅かな時間で、それこそ仮面ライダーエグゼイドの全話を視聴しただけの記憶を手に入れた為、このマキシマムガシャットも構築が出来た。

 

「君の運命はボクが変えるよ!」

 

 他のパワーアップ形態もちゃんと可能ではあるが、【大悪司】の戦闘メンバーは何気にハイスペック。

 

 レベル2や3では追い縋る可能性があり、かといってレベル5はイメージし過ぎて暴走するし、マイティブラザーズXXは二人になるから駄目。

 

 というか、マイティブラザーズXXはユートみたいな二重人格なら未だしも、ユーキでは〝もう一人〟が聖魔獣頼りになる。

 

 ユートが変身した場合、やはりというか優雅がもう一人のエグゼイド。

 

 始まる戦闘ではユーキがガシャコンキースラッシャーを手に、さっちゃんだと何処から出しているのか? 近代兵器を取り出しての戦いとなり。

 

(チィ、さっちゃんの特典は近代兵器の自由自在な取り出しか? 特典の一つは由女だろうけど、ポイントは10で1しか使わない。残り9で獲た特典かな?)

 

 しかも本来よりパワーアップをしているらしくて、仮面ライダーエグゼイド・レベルマキシマムな状態でダメージを喰らう。

 

「死ぬが良い」

 

 無表情な侭、さっちゃんが足踏みをするとミサイルランチャーが発車。

 

 どうやらスイッチを足で押したらしい。

 

 複数の小型ミサイルが、ユーキ目掛けて飛ぶ。

 

「はっ!」

 

 ガシャコンキースラッシャーを振り、全てのミサイルを撃墜してやった。

 

「ぬ!?」

 

「舐めないで欲しいかな。見た目に鈍重そうだけど、コイツは100mを1秒足らずで走破が可能なんだ」

 

 某・男物パンツ君みたいなムキムキでスピードダウンは無い。

 

 ガシャコンキースラッシャーの射撃をするものの、さっちゃんはその小柄さをスピードに変え、簡単に躱してしまう辺りスペックがやっぱり高い。

 

「だとしても!」

 

 ユートの為にも敗けるなんて心算は無かった。

 

(おかしい……)

 

 ハイスペックなのは理解していたが、さっちゃんがレベル99なエグゼイドに追い縋るのは予想外。

 

 レベル5くらいまでなら予想もしたが、これは幾らなんでも有り得ない事。

 

(何か秘密があるね)

 

 恐らくは転生特典だ。

 

 彼女が獲たのは由女と、近代兵器を取り出すなり造るなりと考えたが、由女でコストが1なのは間違いないだろう。

 

 なら近代兵器は?

 

 それがコスト9だとは思えない……となると、このハイスペックを越える能力は残りコストで獲たモノ。

 

(まったく、大変だねぇ)

 

 ユーキは仮面で判らないのだが、その口角を吊り上げながらそう思った。

 

 ユートは現在だと所謂、VIPルームで闘神大会の試合を観戦している。

 

 元々は嘗ての市長だったアプロスが使っていたのをユートに使い易く、しかも好都合な様にリフォームをしているVIPルーム……

 

 ソコでは淫靡な音が響き渡っていた。

 

 艶やかで美しく長い黒髪をストレートヘアに流し、頬を情欲で朱に染めながら和服を着た美人が、胸を丸出しにし跪き露わとなったユートの分身を挟み込みながら上下に動かしている。

 

 胸を使ったプレイ。

 

 別にユートが命じた訳ではなく、彼女が自らヤってくれているのだ。

 

 女性の名は姫島朱璃。

 

 闘神大会でWシュリとして新たな名物と化したり、色々と噂となっている。

 

 元から受付嬢をしているシュリは、試合が始まったら司会進行兼審判役をしているが、朱璃は特に仕事が無いからVIPルームにて観戦をしており、折りを見てはこうしてえちぃプレイをしてくれていた。

 

 とはいえ人妻。

 

 冥闘士・天暴星ベヌウの朱璃としてユートの配下をしているが、実は【ハイスクールD×D】世界に於いて堕天使幹部バラキエルの妻だったりする。

 

 このプレイは不倫にならない程度にえちぃ事をしているらしく、愛する相手は間違いなくバラキエルなのだと云う。

 

 実際に、朱璃とユートは一度足りと寝ていない。

 

 肝心要な部位だけは決して赦さず、胸や口や手といった一部で抜くだけ。

 

 とはいっても、抜けるだけ最高だとも考えられる。

 

 朱璃は人妻であるが故、決して堕ちない相手でありながらスゴい美女、正しく未婚なら大和撫子の見本といった純日本人とな容貌と人格者だから、普通ならば一部分での奉仕すら夫以外には行わない貞淑さも持ち合わせていた。

 

 にも拘らず、命令も無しに奉仕している理由は主としてではなく恩人として。

 

 若し、バラキエルという特定の夫が居なければ全部を赦した程の感謝を。

 

 だが然し、生き返れたのは姫島朱乃の母親だったからであり、バラキエルとの結婚で朱乃を生んでいなければそもそも死ななかったであろうし、接点は存在すらしなかっただろう。

 

 結局は出逢いすら有り得なかっただけ。

 

 だいたいにして当時からの実年齢にして、姫島朱乃が一七歳~一八歳の頃の事だから生きていたら朱璃は明らかに四十路。

 

 それでも美女は美女だろうが、今の冥王配下な状態と違って色々と衰えてもいた筈の年齢だった。

 

 冥王配下……生き返り、ユートの支配下となっているだけに、朱璃は堕天使として残り数千年……数十世紀を在り続けるバラキエルと共に居られる肉体を与えられており、朱璃は生き返ってから既に百年以上の時を見た目に二十代中盤程度で暮らしている。

 

 堕天使ハーフで転生悪魔な朱乃も、寿命は一万年とも言われている訳だから、何もしなくても後九千年は生きる筈だし、本来であれば朱璃は逸うに死に別れていたであろう。

 

 それを思えば身体の一部で男の性欲解消くらい安いもので、最後の一線だけは越えないまでも菊門までは既に赦していた。

 

「ん……」

 

 ユーキがマックス大変身をしてから暫くが経って、ユートの欲望の塊が朱璃の顔を汚す。

 

 備え付けのシャワールームで綺麗にし、再び戻ってきたら何故かユーキが苦戦を強いられていた。

 

「これは……いったい?」

 

 仮面ライダーエグゼイド・レベル99とされる形態になり、スペックだけなら平成仮面ライダーの中でも五指に入る筈の状態。

 

 仮面ライダーはスペックが全てではないにしても、普通の人間では決して有り得ない戦闘力だった。

 

「特典……か」

 

「特典?」

 

「今大会は這い寄る混沌が何人も転生者を送り込んで来たが、彼女らみたく存在は転生特典を与えられているんだよ」

 

「転生特典……ですか」

 

「パートナーも転生特典。コストは1だと聞いた」

 

 這い寄る混沌ナイアルラトホテップ――ニャル子が採用した特典を付ける為のシステムがコスト制。

 

 10というコストを与えられ、その範囲内でならば好きな特典を獲られる。

 

 ユートの【白龍皇の光翼】も別の転生者が、可成りのコストを支払って手に入れたものらしい。

 

 確か8ポイント。

 

 因みに、上位神滅具ともなるとコストは10とか。

 

 あのアッシュブロンドで小柄な少女……岳画 殺とか呼ばれていた彼女は普通にパートナーを獲ていて、つまりは1は使っている。

 

「残り9ポイントだけど、あの近代兵器を取り出すか創り出すかの力、あれって実はポイントが低いのか? だとしたら2~4もあればイケそうだな。残りを使って何を獲た?」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「くっ、何て強さだよ! 小日向仁義みたく聖闘士になる修業をしていた訳でもあるまいし、いったいどんな特典を獲たんだ?」

 

 【大悪司】の主要メンバーは仮面ライダークラス、だけどそれは第一段階での話であり、強化変身をした状態程ではない筈だ。

 

 それがまさかのマックス大変身したエグゼイド級。

 

「私の特典か? パートナーに由女で1。私が前世で使っていた兵器の量子化と復元及び、メンテナンスフリーでポイント3」

 

「やっす!?」

 

 安いとは思ったものの、可成りの低コスト。

 

「残り6ポイントは神憑依という」

 

「神憑依? ワイルドカリス付きと同じポイント?」

 

 ジャキッ!

 

「黒い大鎌?」

 

「私に宿る神の武器だ……私はこれをくれた存在に、性欲の殆んどを差し出したのだが、理由はこの神憑依を使うとな……」

 

 頬を朱に染めたさっちゃんの瞳、其処には情欲に満ちたものが混じる。

 

「性欲が昂るからだ」

 

 神憑りという能力は普通にも存在するが、トランス状態となって神を自らの内に受け容れるものだ。

 

 そして大概は一部を降ろすだけで済ます。

 

 だが、さっちゃんは神を完全に降ろしていた。

 

 【禍祓い】を持っていた万里谷ひかりは、斉天大聖を降ろしても無事に済んでいたけど、神憑りのスキルを持つ清秋院恵那でさえも本来は危険な術。

 

 況んや、さっちゃんみたいな人間が神を降ろしたら平気な訳がない。

 

 さっちゃんの場合は性欲の増大らしく、人間の理性を持った侭だと今から自慰を始めたくなるくらいに。

 

「そろそろ拙い。だから、代わらせて貰うぞ……」

 

 ガクンとブレイカーが落ちたみたく、さっちゃんの頭が下を向いた。

 

「あはは……」

 

 次に頭を上げたその表情は歓喜、そして狂気に満ちていたのだと云う。

 

「やっと出てこれたよ! メティスは現世に再臨したんだ! アハハハハ!」

 

「メティス?」

 

 それは嘗て、【カンピオーネ!】な世界でユートが性的に、そして食欲的にも喰らったまつろわぬ神――闇の母メティスであった。

 

 

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 移転が終わらない。




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