遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~ (勇紅)
しおりを挟む

学園生活編
第一話 世界よただいま、と思えばこんにちは?


第一話目です。
投稿に慣れていないため、ミス等があると思いますが…
発見された場合ご指摘してくださると嬉しいです。


今回はデュエルはしません。


目の前に広がったのは見慣れた部屋だった。

両親からの誕生日プレゼント、小遣いを貯めて買ったおもちゃ。

しばらく帰る事がなかった部屋を見た時、自然と涙が溢れそうになった。

右を見ても左を見ても1年近くの間過ごしたあの部屋とは違い、本来自分が使っている部屋だ。

 

「やっと、帰ってきたんだ……」

 

必死で涙をこらえる少年、不動聖星(あきら)は震える声でゆっくりと言葉を紡ぐ。

すると不意にデュエルディスクが目に入った。

あの世界で愛用していた青色のデュエルディスクからカードを引くと、そこに描かれているモンスターに笑みが浮かんだ。

 

「ははっ、君も俺と一緒に来たんだな、【ジュノン】。

嬉しいよ」

 

自分が居た世界とは違い、エクシーズ召喚というものが普及しているあの世界で共に戦ってきた相棒。

どんな時にも自分のピンチに駆けつけて最前線に立ってくれた彼女が手元に存在する事に、あれは夢ではなかったのだと再認識した。

故郷の世界ではシンクロ召喚が普及していたため、どうもエクシーズ召喚を使う事に抵抗があった。

周りからは変な奴というレッテルを張られたが、それでも自分のアイデンティティを護るためにどうしても使うのを渋ってしまった。

 

「それが聖星のデュエルスタイルなんだろう?

だったらお前はそれを貫けば良いじゃん」

 

「シンクロ召喚か……

実に興味深い召喚法だ。

もし、また出会う機会があれば是非シンクロモンスターを使う君と一戦交えたいものだ」

 

異世界の住人だというのに一切の壁を感じさせず親身に接してくれた遊馬の言葉。

同じ異世界から来た存在からか、打ち明けた時たいそう驚かれたが友好的だったアストラルの言葉。

 

「はっ、もうテメェの面倒を見なくていいと思うと清々するぜ。

元の世界に戻っても迷子になるんじゃねぇぞ」

 

「もしこっちに来たら是非ハルトに会ってくれ。

あいつも寂しがっているからな」

 

同じクラスになって仲良くなれたのに自分の信念の為に道を違えた、けど結局は以前のように笑えるようになったシャークの言葉。

1度命を失ったが奇跡が起こり、また家族と一緒に笑って過ごすことが出来るようになったカイトの言葉。

皆自分が元の世界に帰ると言った時、とても寂しそうな表情だった。

だけどこの世界が自分の帰るべき場所だったのだ。

 

「父さんと母さんに会わないと」

 

自分の記憶が正しければだいたい半年~1年は会っていなかったはずだ。

もしこの世界の時間の流れがあの世界と一緒なら自分はその期間行方不明という事になっているはず。

そうだった場合両親は酷く驚くだろう。

その時はどう説明しようなどと考えながらも、聖星は扉を開けようとした。

 

「待て、聖星」

 

「え?」

 

背後から聞こえた声に聖星は振り返り、そこにいるドラゴンの名前を呟く。

 

「どうしたんだ、【星態龍】?」

 

自分があの世界に行く切っ掛けと帰る方法を教えてくれたドラゴン。

この世界で自分が良く使っていた切り札でもあり、大切な相棒でもある。

世界を超えたせいか【星態龍】と言葉を交わせるようになり、この世界でも交わせるのだと思いながら耳を傾けた。

 

「言いにくいんだが……

時間を間違えた」

 

「は?」

 

一気に冷たくなった聖星の声。

それに【星態龍】はさらに申し訳なさそうな表情を浮かべる。

自分の勝手な都合で聖星を1年近くも両親の元から引き離し、やっと帰って来たと思えばとんだ大失態を起こしたのだ。

だがこれが現実。

 

「ここはお前が生まれる時代より数十年過去の時代だ」

 

「…………」

 

「あ、聖星?」

 

「今すぐ帰れないのか?」

 

「世界を超えるには相当な力が必要だ。

高位の精霊である私でさえ、力が回復するには数か月かかる」

 

「じゃあ何か月?」

 

「早くて半年、遅くて1年だ……」

 

無表情のまま淡々と尋ねてくる聖星に【星態龍】は申し訳なさそうに返す。

恐る恐る聖星の表情を伺うと、彼は穏やかに微笑んだ。

その反応に身構えたが。

 

「しょうがないなぁ。

じゃああと1年、この世界でゆっくり楽しむか」

 

と言われ【星態龍】は目を見開いた。

確かに聖星は普段は穏やかで滅多な事がなければ表情を変化させない。

だからこのような反応が返ってくる可能性もあったが、せっかく元の世界に帰ってこられたというのに違う時代だと聞かされ怒り狂う可能性が高かった。

それを覚悟していた分拍子抜けした気分だ。

 

「それだけか?」

 

「【星態龍】のドジっ子ぶりは今に始まった事じゃないだろう?

もう慣れたさ」

 

某神のカードが裏でドジリスと呼ばれるようにこの精霊も意外とドジっ子なのだ。

デュエルでは心強いのに、赤い竜は皆ドジっ子でなければならないという条件でもあるのだろうか。

等と考えながら聖星は周りを見渡す。

 

「で、この部屋が俺の部屋にそっくりなのは?」

 

「あぁ。

お前が目を覚ます前に失敗に気付いて、慌てて私が創った。

だがまだ問題がある」

 

「問題?」

 

「この時代にお前の国籍が存在しない。

それにこの部屋もとあるマンションの一室で、この部屋にお前が住んでいるという登録はされていない」

 

【星態龍】の言葉を黙って聞いている聖星はすぐに頷き、机の上に置いてあるPCに向かう。

そしてPCを立ち上げるとすぐに作業を開始した。

慣れた手つきでタイピングをし、次々にウィンドウが開いたり閉じたりする。

その様子に【星態龍】は念のために尋ねた。

 

「……聖星、何をしている?」

 

「国籍の偽造と住所登録。

あと他に必要な事。

あ、へまはしないから安心してくれ」

 

「やはりな……」

 

あっさりと口にされた言葉に【星態龍】は聖星の逞しさに感心するしかない。

たしかあの時も聖星に国籍がない事を話したら、すぐに彼はPCを使って国籍を偽造した。

本来なら簡単には出来ない事だが聖星は父譲りのハイスペックさでいとも容易くしてしまう。

国籍の偽造等を行っている時、聖星の目にある物が止まった。

 

「デュエルアカデミアの入学試験?」

 

「何だ、この時代にもあるのか?」

 

「そうみたいだな」

 

デュエリストを育成するための教育機関、デュエルアカデミア。

将来デュエル界を引っ張るエリートデュエリストを育てるのが目的の場所で、聖星も未来ではデュエルアカデミアの生徒だった。

成績は実技より筆記の方が得意だったのはここだけの話。

 

「なぁ、【星態龍】。

力が回復するまで数か月以上はかかるって言っていたよな?」

 

「あ、あぁ。

……まさか聖星」

 

【星態龍】は恐る恐る聖星を見下ろす。

しかし聖星はずっとPCの画面にくぎ付けでその顔は微笑んでいた。

あの笑みは何かを楽しもうとしている時の笑み。

同時に【星態龍】は悟った。

 

「じゃあ、願書を取り寄せないとな」

 

END




聖星はシンクロ召喚使いだったのですが、ZEXALの世界では【星態龍】しか持っていなかったため自然とZEXALの世界でカードを集めました
そして完成したのが【魔導書】です

あと、カイトやシャーク達は無事という設定ですが…
ダークシグナー達も生き返ったのですから、絶対カイト達も無事ですよ!!

魔法使いって良いですよね

次回は入試です



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 入学試験

やっと元の世界に戻ってこられたと思ったら、実は過去だったという現実を目の当たりにした聖星。

彼はこの時代のデュエルアカデミアの筆記試験を済ませ、実技試験の為海馬ランドへと向かっていた。

 

「受験番号は23番か…

聖星、これは良い数字なのか?」

 

「倍率を考えればいい数字だと思うぜ」

 

海馬ランド行きのバスでデッキの最終調整をしている聖星。

筆記試験の後に郵送で送られてきた受験番号は筆記試験の成績順となっている。

彼の周りにも受験生がたくさんいるようで皆自分のデッキと真剣に向かい合っていた。

筆記試験の時に聖星は今まで見た事がないくらい大勢の中学生がいて驚いたが、その筆記試験を突破出来た生徒はほんの一握りといわれている。

 

「聖星は小学部からアカデミアに通っていたな」

 

「まぁな」

 

自分が暮らしていた時代のアカデミアでは小学部に入試制度はあったが、そこまで難しくはなくあくまで形だけの試験だった。

それを経験しているせいかこの時代の筆記試験の競争率が恐ろしいと感じられる。

 

「それにしても、この時代の筆記試験って凄いよな…

理科や数学は自信があったけどまさかカードのテキストからカード名を答えろ、って。

正直あまりわからなかった」

 

「お前はカードの効果ばかり勉強していたからな」

 

デュエルモンスターズはルールが複雑なカードゲームで、1枚のカードに10以上の裁定があるのも珍しくない。

しかも自分は優先権のルールが若干異なる世界に1年以上もいたため勘が鈍っていたのだ。

だから必死にカードの効果等を勉強したが…

以下のステータスを持つモンスター、以下のフレイバー・テキストを持つモンスターを答えろとか。

聖星は少し遠い目をしたが周りの受験生が騒がしくなったため意識を現実世界に戻した。

 

「あれが、海馬ランド……」

 

窓越しからでも分かる巨大な遊園地。

自分も父に連れられて遊園地に行った事はあるが、海馬ランドは初めてだ。

しかもゼロ・リバースが起こる前の海馬ランドだ。

一体どんな場所なのだろうかと思うと胸が高鳴る。

 

「それで、どんなデッキで挑む気だ?」

 

ここ数日、聖星は様々な【魔導】デッキを作っていた。

【星態龍】も最初は覗いていたが結局聖星がどのデッキで挑むのか知らない。

聖星は口元に人差し指を当てて微笑んだ。

 

「内緒」

 

**

 

会場に到着した聖星は受験生の人数に口笛を吹いた。

明らかに筆記試験より少ない。

ドーム内にいる人数は在学生もいるためか多いが、純粋な受験生なんて少ないとしか言いようがない。

聖星は試験の緊張感に深呼吸をしてフィールドを見下ろす。

そして受験生と思われる少年達に話しかけた。

 

「隣、良いか?」

 

「ん?

あぁ、構わない」

 

自分が話しかけた少年は白い制服を着ている。

友好的な笑みを浮かべると彼も笑みを返してくれた。

 

「俺は不動聖星。

君は?」

 

「俺は三沢大地だ。

よろしく」

 

「よろしくな」

 

それから2人は以前の筆記試験、目の前で繰り広げられる実技デュエルについて話していた。

どうやら三沢は筆記試験1番の成績優秀者のようで聖星が解けなかった問題を丁寧に教えてくれた。

 

「あ~…

あのフレイバー・テキストって【ルイーズ】だったんだ」

 

「武藤遊戯が使用しているカードでは【ブラック・マジシャン】や【暗黒騎士ガイア】【デーモンの召喚】が有名だからな。

まさか【ルイーズ】が出てくるとは思わなかったさ。

ま、流石はデュエルアカデミアの筆記試験といったところかな」

 

「あぁ。

これなら過去のデュエルの記録も見れば良かった」

 

三沢から教えてもらった答えに納得しているとアナウンスが流れ始める。

 

『次は受験番号1番から50番のデュエルを行います。

受験番号1番から50番は…』

 

「おや、どうやら俺達の出番のようだな」

 

「頑張ろうぜ、大地」

 

「あぁ、お互いベストを尽くそう」

 

優しく微笑んだ聖星に対し三沢は不敵な笑みで返す。

彼も相当な自信があるのだろう。

アナウンスで指定された場所に行った聖星は目の前にいる試験官を見る。

 

「君が受験番号23番の不動聖星君か」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「……随分と大人しい子だな。

緊張でもしているのか?」

 

「多少はしていますね」

 

「安心しなさい。

緊張するのが普通だ。

この場で緊張していないのはかなりの自信の持ち主かただのバカだ」

 

随分とはっきり言う試験官だ。

聖星はふぅん、と薄い反応を返しながらもデュエルディスクを構えた。

同時に試験官も構え自然と表情が真剣な物へと変わった。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は受験生、君からだ」

 

「ありがとうございます。

俺のターン、ドロー…

俺は手札から【魔導召喚士テンペル】を攻撃表示で召喚」

 

「はっ!」

 

聖星が召喚したのは茶色の衣服を身にまとい、フードで顔を隠している女性モンスター。

手に持っているのは杯らしきアイテムで表示された攻撃力は1000.

その数値に試験官は真顔で言う。

 

「攻撃力1000か……

装備魔法で攻撃力を上げる戦術か?」

 

「いいえ、それは違いますよ。

俺は手札から永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動」

 

「ほう、見た事もないカードだな……」

 

「さらに俺は【魔導召喚士テンペル】の効果を発動します。

【魔導書】を発動したターン、このカードを墓地に送る事でデッキからレベル5以上の光または闇属性の魔法使い族モンスターを特殊召喚します」

 

「何!?

いきなり最上級モンスターを召喚できるだと?

思ったよりやるじゃないか」

 

「ありがとうございます」

 

試験官の言葉に聖星は微笑み、デッキから目的のカードを取り出す。

本来なら1ターン目からあのカードを出そうとは思わない。

しかしこの実技デュエルはインパクトも大事だという情報も入っている。

それならインパクトのある行動をしよう。

 

「俺は【ブラック・マジシャン】をデッキから特殊召喚」

 

「ぶ、【ブラック・マジシャン】だと!??」

 

聖星の宣言に試験官は目を見開き、会場にいる受験生、在校生も騒ぎ始めた。

そして召喚士の【テンペル】の周りに魔法陣が描かれ彼女はその中に消えていく。

と思えばその魔法陣から紫色の魔法使いが現れた。

 

「マジかよ!?」

 

「本物だと!?」

 

「すっげぇ、ブラマジ来たぁ!!」

 

「あんなレアカード、どうやって手に入れたんだ!?」

 

一気に騒がしくなった会場に聖星はばれないよう苦笑を浮かべる。

【ブラック・マジシャン】は伝説のデュエリスト武藤遊戯の代名詞と呼ばれる魔法使い族モンスターである。

相当入手困難のレアカードであり聖星も本当を言うと持っていなかった。

 

「(【星態龍】が出してくれたなんて口が裂けても言えないよな)」

 

しかし罪悪感を覚えた【星態龍】が精霊の力を使って聖星に望むカードを与えたのだ。

その中の1枚がこれだ。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドです」

 

「【ブラック・マジシャン】か。

私も長年デュエリストをしているが本物を見るのは初めてだ。

不動君、おかしいかもしれないが礼を言わせてほしい」

 

「いえ、礼を言われるほどの事はしていません」

 

「だが手を抜くつもりはない!

私のターン、ドロー!!」

 

デッキから勢いよくカードを引いた試験官は不敵な笑みを浮かべる。

何か仕掛けてくるか?

そう思いながら聖星は身構える。

 

「私は永続魔法【レベル制限B地区】を発動!」

 

「あ」

 

試験官の場に現れたのはロックカードの1つとして有名なカードだ。

聖星はゆっくりと【ブラック・マジシャン】を心配そうな表情で見上げた。

 

「このカードが場に存在する限り、レベル4以上のモンスターは全て守備表示になる!

さぁ、【ブラック・マジシャン】も守備表示になってもらおうか!」

 

「くっ……!」

 

悔しそうに表情を歪めて守備表示になる【ブラック・マジシャン】。

彼はその場に膝をついて両腕をクロスする。

だが【レベル制限B地区】は試験官のモンスターにも影響を及ぼすカード。

彼もレベル4以上のモンスターを召喚しても守備表示になる。

 

「(という事は彼のデッキに【絶対防御将軍】でも入っているのか?

それにしても【レベル制限B地区】なんて久しぶりに見たなぁ……)」

 

未来ではまだスタンディングデュエルで何度か見た事はあるが、遊馬達の世界では殆ど目にしなかった。

まぁ例え高レベルモンスターを守備表示にしてもエクシーズ召喚してしまえば意味がないので当然と言えば当然か。

 

「更に私はフィールド魔法【伝説の都アトランティス】を発動!

これで私達の手札・フィールドに存在する水属性のレベルは1下がる!

そして【アトランティスの戦士】を召喚!」

 

「はっ!」

 

無機質なデュエルフィールドが一瞬で深海の幻想世界に変わり、聖星は周りを見渡した。

深海に沈んだかつての大文明の遺跡が放つ威圧感。

そしてその遺跡を守るよう1体のモンスターが現れた。

手にボーガンのようなものを持つ【アトランティスの戦士】の攻撃力は1900と表示されたが、フィールド魔法の効果で2100へと上昇した。

 

「更に私は手札から装備魔法【デーモンの斧】を発動!」

 

「攻撃力3100か…」

 

装備魔法が表示されたと思えば【アトランティスの戦士】がその手に斧を持つ。

【ブラック・マジシャン】の守備力は2100で戦闘破壊される未来が簡単に見えた。

だがそう簡単に倒されるつもりはない。

 

「バトルだ!

【アトランティスの戦士】で【ブラック・マジシャン】に攻撃!!」

 

「罠発動、【強制脱出装置】。

【アトランティスの戦士】は手札に戻ってください」

 

「な、何!?」

 

聖星が発動したのは場のモンスターを手札に戻す通常罠。

指定された【アトランティスの戦士】は大きな機械に放り込まれ、勢いよく発射された。

 

「【ブラック・マジシャン】を護ったか。

だが【レベル制限B地区】をどう攻略する?

カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

試験官の言葉に聖星は微笑むが、内心は汗ダラダラ状態だ。

確かに【レベル制限B地区】を突破する方法はいくらでもある。

【サイクロン】、【大嵐】での破壊。

【魔導書】では【トーラの魔導書】による魔法カードへの耐性、【ゲーテの魔導書】による除外、そして【魔導法士ジュノン】で破壊するという手だろう。

だが…

 

「(【ジュノン】デッキに入れてないんだよなぁ)」

 

このデッキはあくまで【ブラック・マジシャン】を軸にした【魔導書】デッキ。

【黒・魔・導】で魔法・罠カードを破壊する手もあるが今手札にそのカードはない。

次のドローで引けるだろうか?

 

「俺のターン、ドロー」

 

さて、どんなカードがくる。

デッキからカードを引いた聖星はゆっくりとカードを見る。

 

「(あ、このカードが来たんだ)」

 

引いたのはモンスターカード。

そして今手札にあるカードと見比べる。

考え込むように顎に手を添える聖星は小さく頷いた。

 

「俺は手札から【魔導書士バテル】を攻撃表示に召喚」

 

「はっ!」

 

聖星の場に淡い水色の魔法陣が描かれ、その中から少年の魔法使いが現れる。

手には1冊の本を持っておりパラパラとめくっている。

水属性なのか【伝説の都アトランティス】の効果で攻撃力が500から700へと上昇する。

しかし試験官は先ほど以上に怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「攻撃力500のモンスターを攻撃表示だと?

確かにレベルは低いようだがどうする気だ?」

 

「例え低くても効果はそれに似合うものを持っていますよ。

【魔導書士バテル】の効果発動。

このカードの召喚に成功した時デッキから【魔導書】と名のつく魔法カードを1枚手札に加えます。

俺は【グリモの魔導書】を手札に加え、装備魔法【ワンダー・ワンド】を発動」

 

【バテル】の持っている本が光り輝き、淡い輝きを放つ青紫色の本になる。

と思えば本を持っていない左手に宝石が埋め込まれている杖を持つ。

攻撃力が500ポイント上昇し1200になったが、聖星の目的はこれじゃない。

 

「さらに【ワンダー・ワンド】の効果発動。

このカードを装備した魔法使い族を墓地に送る事でデッキからカードを2枚ドローします」

 

「賢い選択だ。

例え攻撃力を上げようと次のターン、私のモンスターで破壊される恐れがある。

だが今私の場にモンスターは存在しない。

バトルフェイズの後に生贄に捧げた方が良かったんじゃないか?」

 

「伏せカードが恐ろしいので」

 

2枚ドローした聖星はすぐにカードを確認する。

ドローフェイズにドローしたカードと相性が良いカードが来た。

このターンで勝てる!

そう確信した聖星は微笑み手札から1枚のカードを掴んだ。

 

「俺は【ブラック・マジシャン】を生贄に捧げ……」

 

「【ブラック・マジシャン】を!?

何を考えている!??」

 

聖星の行動に試験官は目を見開いた。

【ブラック・マジシャン】は相当なレアカードで攻撃力も高い。

そのモンスターを生贄にするなど考えられないのだ。

このデュエルを見ている在学生達も信じられないという表情を浮かべ、中には小ばかにしている人もいる。

しかし聖星は特に気にもせずモンスターの名を宣言する。

 

「【黒魔導の執行官】を特殊召喚」

 

名前を宣言すると【ブラック・マジシャン】が紫色の光に包まれる。

そして杖や身にまとっている衣の形が変わり、光の中から威厳溢れる魔法使いが現れた。

カラーリングや雰囲気から【ブラック・マジシャン】の進化系のカードだというのが分かる。

 

「【黒魔導の執行官】……?」

 

「【ブラック・マジシャン】を生贄に捧げる事で特殊召喚できる魔法使いです。

攻撃力は変わりませんが効果は凶悪ですよ」

 

「効果だと?

例えどんな効果だろうと守備表示だ。

さぁ、どうする?」

 

そう、今試験官の場には永続魔法【レベル制限B地区】が存在する。

そのカードの効果で【黒魔導の執行官】は強制的に守備表示になった。

折角召喚したのにもったいない、というのが試験官の正直な感想だ。

 

「俺は手札から【グリモの魔導書】を発動。

このカードはデッキから【魔導書】と名のつくカードを1枚サーチします。

俺は【セフェルの魔導書】を加えます。

そして【黒魔導の執行官】の効果発動」

 

発動されたのは先ほど【バテル】によって手札に加わった【魔導書】。

淡い青紫色の本が【黒魔導の執行官】の目の前に現れ光を発し始めた。

聖星は新しい【魔導書】を加えるが、それに呼応するよう【黒魔導の執行官】は杖を試験官に向ける。

 

「何だ?」

 

「通常魔法が発動した時相手に1000ポイントのダメージを与えます」

 

「っ、1000ポイントもだと!?」

 

静かに言われた数値に試験官は目を見開く。

当然だろう。

1000ポイントは初期ライフの4分の1で、さらにバーンカードで有名な【デス・メテオ】と同じ数値なのだ。

【黒魔法の執行官】は不敵な笑みを浮かべて試験官に波導を放つ。

 

「うわぁ!!」

 

直撃した波導は凄まじい威力で試験官は衝撃で2・3歩ほど下がる。

だがまだ終わらない。

 

「さらに俺は【セフェルの魔導書】を発動。

手札に存在する【魔導書】を見せる事で、墓地の通常魔法の【魔導書】の効果をコピーします。

俺は【ヒュグロの魔導書】を見せます。

そして【セフェルの魔導書】も通常魔法です」

 

「な、何…?」

 

2枚目の通常魔法。

慌てて【黒魔導の執行官】を見たが、彼の杖の宝石は再び光を宿していた。

冷や汗を流すと【黒魔導の執行官】が攻撃してくる。

 

「ぐぁっ!!」

 

2度目の効果でライフが2000まで削られてしまった。

しかし聖星は容赦する気は一切なく、このターンで終わらせる気満々だった。

 

「そして俺は通常魔法【ヒュグロの魔導書】を発動します。

このカードの効果で【黒魔導の執行官】の攻撃力は1000ポイントアップします」

 

「ぐあっ!!」

 

3枚目の通常魔法。

これで試験官の残りのライフは1000.

あと1枚発動されたら勝負がついてしまう。

ゆっくりと顔を上げた試験官は聖星の顔を凝視する。

 

「最後に【マジック・ブラスト】を発動。

俺の場に存在する魔法使いの数×200ポイントのダメージを受けてもらいます」

 

「まさか、それも……」

 

「はい。

通常魔法カードです」

 

ふわっ、と擬音がつくように優しく微笑んだ聖星。

しかし対戦相手からしてみれば悪魔のような微笑みだろう。

宣言が敗北宣告のように聞こえた試験官は叫んだ。

 

「そんな、バカな--!!」

 

ドーム内に響く爆音。

【マジック・ブラスト】と【黒魔導の執行官】のバーン効果によって起きた爆発だ。

爆炎がゆっくりと晴れていき、そこには呆然と膝をついている試験官がいた。

聖星はそんな彼を不思議そうな表情で見て首を傾げる。

 

「ありがとうございました」

 

「っ!!

あ、あぁ。

【ブラック・マジシャン】を見ることが出来たのは嬉しかったが……

まさかあんな負け方をするとは思わなかった」

 

レアカードである【ブラック・マジシャン】、そしてその関連カードである【黒魔導の執行官】の特殊召喚は素直に評価しよう。

だが1度も攻撃宣言をせず、全てバーン効果でライフを削り取る事に対しては素直になれない。

 

「いえ、本当なら【ブラック・マジシャン】で攻める戦術をとるデッキなんですけど…

【レベル制限B地区】の突破方法が無かったのでこのような戦術で勝たせていただきました」

 

【サイクロン】と【大嵐】も一応入れているが、やはりサーチ手段が豊富な【魔導書】でダメージを与えた方が確実に勝てると思ったのだ。

もう【レベル制限B地区】がなければ素直に殴っていただろう。

 

「そうか…

合格通知は後日自宅へと送られる。

これで君の実技試験は終わりだ」

 

「分かりました」

 

優しく微笑んだ聖星は改めてお礼を言い、深く頭を下げる。

そして受験生がいる席へと戻ろうとした。

すると壁にもたれて自分を待っている少年がいた。

 

「お見事だよ、不動」

 

「あ、大地。

もうお前は終わったのか?」

 

「あぁ。

ついさっき終わったところだ。

しかし流石は試験官というべきか、手古摺った」

 

「俺も。

まさか【B地区】を張られるなんて思わなかった」

 

「恐らく君の試験官は君の動きを封じ、自分は【アトランティス】でレベルが下がり攻撃力が上がったモンスターで攻撃するデッキだったんだろう」

 

「だろうなぁ」

 

それにしてもあの伏せカードは一体なんだったのだろうか。

もしかするとロックカードをデッキに入れているためカード破壊を防ぐカウンター罠。

または更なるロックカードだったかもしれない。

今更考えても無意味なので考える事を止めた聖星は腰を下ろす。

 

「すっげえ強いなお前ら!」

 

「え?」

 

席に座った途端、背後にいた少年に声を掛けられた。

三沢と聖星に声をかけてきたのは甘栗色の髪の少年でとても眩しい笑顔を見せてくれた。

 

「お前達のデュエル見てたぜ。

2人ともバーンで決めちまうとはな」

 

「ありがとう。

俺は不動聖星。

君は?」

 

「俺は遊城十代。

よろしくな」

 

「あぁ、よろしく」

 

にっ、とVサインと決める十代に微笑む聖星。

すると十代の肩に1匹の半透明の天使が浮かんだ。

 

「クリクリ~」

 

小さくよろしくね、と言うように鳴いた天使はそれだけ言うとすぐに姿を消した。

それを見ていた聖星は持ってきている別のカードホルダーに目をやった。

聖星の意思が分かったのか小型の【星態龍】が姿を現す。

 

「この少年、精霊のカードを持っているな」

 

「(らしいな)」

 

まさか精霊のカードを持つデュエリストと出会うことが出来るとは思わなかった。

それにあまり見た事がないカードだ。

一体あの精霊の名前は何で、その精霊と一緒にいる彼はどんなデュエリストなのか。

一気に興味がわいた聖星は真剣に十代を見る。

すると構内に十代を呼び出すアナウンスが響いた。

 

「おい、あいつまだ受けてなかったのか?」

 

しかも受験番号は100番台。

確かすでに終わっているグループのはずだ。

それなのに今頃受けるとはどういう事だ。

呆れた表情を浮かべている【星態龍】に対し、聖星は静かにデュエルフィールドに立つ十代を見つめた。

 

「(天使っぽい精霊がいたから、光属性か天使族デッキかな?

それとも……)」

 

そして十代のデュエルが終わった。

彼のデュエルは素晴らしいとしか言いようがなく、対戦相手はデュエルアカデミアの実技最高責任者のクロノス教諭。

しかもクロノス教諭のデッキは試験用のデッキではなくどうみても本気のデッキだ。

互いの魔法・罠カードを破壊しそれを逆に利用してのトークンの特殊召喚。

ハンデスの中でも凶悪と言われている【押収】を発動した時は言葉を失ったほどだ。

 

「どう見てもあの先生本気だったよな」

 

先程のデュエルを思い出し、いまだにデュエルフィールドで騒いでいる十代を見下ろす聖星。

 

「あぁ。

【古代の機械巨人】を1ターン目から召喚する程だ。

しかしそのモンスター相手に勝ってしまうとは、110番…

良いライバルになりそうだ」

 

「同意。

楽しい学園生活になりそうだな」

 

END




ここまで読んで頂きありがとうございます。
今回聖星が使用したデッキは【ブラマジ魔導(仮)】です。
【テンペル】の効果で【ブラマジ】特殊召喚、【魔導書廊エトワール】【ヒュグロの魔導書】で攻撃力を上げて殴るという単純なデッキにしたつもりだったのですがどうしてこうなった。

始め十代と一緒に遅刻するパターンにするか、通常通りに受験するパターンにするか迷いましたが通常パターンにしました。

それにしても…
バーンデッキにしたつもりもないのにバーンで勝ってしまった場合、レッド寮所属っていうのは無茶がありそうですか?
聖星の場合はバーンでライフ全てを削ったので、アニメの世界では嫌われそうな勝ち方ですよね。
まぁロックカードを使う試験官も試験官ですけど。

本当は【スキルドレイン】とか入れたかったんだ…



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 オベリスクからの挑戦

実技の試験も終わってから数日がたった。

それまでの間はとくにする事もなく近所のカードショップへ行き、どんなカードがあるのか見てみた。

流石は過去というべきか、低レベルモンスターの価値が見いだされる前なので低レベルモンスターが安く販売されていて驚いた。

まるで歴史館にいるような気分になりながらも数日間楽しみ、ついに結果が届いた。

分厚い封筒の中には【合格証書】と入学に関する書類が入っており、【星態龍】と一緒に一通り目を通した。

 

「おい、聖星。

いくつか聞いていいか?」

 

「ん?

あ、このカードはいらない?」

 

「違う。

どうしてお前がオシリス・レッドなんだ?」

 

隣から聞こえた【星態龍】の声に聖星は顔を上げて尋ねる。

今はアカデミアで使うためのデッキを作っており、それにシナジーのあるカードを探している。

【星態龍】は不機嫌なのか若干声が低く纏っている空気が重い。

まぁ慣れている聖星は特に気にする事もなく受け流して答えた。

 

「さぁ。

実技試験とかが悪かったんじゃないのか?」

 

「筆記試験は20番台とはいえ上位、実技試験だって勝っただろう。

しかも【ブラック・マジシャン】を使用したのだ。

オベリスク・ブルーはともかく何故レッドへの配属なんだ?」

 

デュエルアカデミアはエリートデュエリストを育成する関係上、かなり厳しい上下関係がある。

それは成績による寮分けだ。

中等部からの成績優秀者はオベリスク・ブルー、高等部から入学した成績優秀者はラー・イエロー。

そして聖星が配属されたオシリス・レッドは落ちこぼれの生徒が集められた寮である。

 

「まぁまぁ。

受かったんだから良いだろ?

俺はプロを目指すために入学したわけじゃないんだし」

 

聖星はデュエルアカデミアでの学園生活を最後までする気はない。

【星態龍】の力が戻り、時期が合えばすぐに未来に帰るつもりだ。

だからどんな寮に配属されても気にしないし、気にする資格なんてないと思っている。

だが【星態龍】は納得しないようで言葉を続けた。

 

「聖星。

審議会の様子の映像を入手しろ。

お前なら防犯カメラから音声くらい拾うことが出来るだろう?」

 

「え、何で?」

 

「お前がどうしてレッド寮配属になったのか納得いかない。

だから聞いて決める。

もし正当な理由があれば私も何も言わない」

 

「別にそこまでしなくても良いだろ?」

 

「お前はもう少し自分の境遇に不満を覚えろ!」

 

**

 

ようやくアカデミアへ向かう日が来た。

アカデミアに行く方法は飛行機と船の2つがある。

別に入学式に間に合えば良いのでどちらの手段でも良かったのだが、顔見知りの少年によって強制的に飛行機に乗る羽目になった。

 

「なんか意外だな」

 

「ん、何がだ?」

 

自分を飛行機に乗せた張本人である十代は腕を頭の後ろで組んで座っている。

聖星はすぐに窓に集まっている生徒達に目を向けた。

彼らが窓越しに見ているのはこれから自分達が暮らし、様々な事を学ぶデュエルアカデミアが建てられている島だ。

希望にあふれている彼らの姿を見ていると自然と笑みが浮かんでしまう。

 

「十代って熱血少年っていう印象があったから、こういう状況で1番はしゃぐと思ったんだけど……

違うんだな」

 

目を輝かせながら窓に張り付き、彼らと一緒にアカデミアの事を語ると思った。

だが実際は聖星と一緒で椅子に座って島に着くのを待っている。

 

「ん~、確かに俺って熱血だけどこういうところではしゃぐって気にはなれねぇな。

ま、早く島についてデュエルしたいとは思ってるぜ。

その時は聖星、真っ先に聖星にデュエルを申し込むぜ!」

 

「そんなに俺とデュエルしたい?」

 

十代が自分を飛行機に乗せたのは聖星と早くデュエルをしたかったからだ。

彼曰くアカデミアについてから探そうと思ったが運よく見つけたため、逃がさないよう無理矢理引っ張ったらしい。

聖星の問いかけに十代は勢いよく頷き、目を輝かせながら話し始める。

 

「あったり前だろ!

だってさ、ブラマジ使いなんだぜ!

俺、聖星がバーン効果で先生を倒しているところしか見てなくてさ。

しかもブラマジの進化系のカード!

くぅ~~、考えたらわくわくが止まんねぇぜ!」

 

「いや、俺は【ブラック・マジシャン】使いじゃなくて……」

 

「へ、ブラマジが聖星のエースじゃないのか!?」

 

嘘だろ!?

だってあんなレアカードだぜ!??

驚いた表情を浮かべたと思ったら、もっと話を聞きたいと言うかのように周りをキラキラと輝かせ始める十代。

純粋に知りたくて仕方がないという反応にあの少年の事を思い出す。

確か【星態龍】のカードを見せた時の遊馬もこんな感じだったはずだ。

ついこの間までの事なのに妙に懐かしくなりながらも首を横に振る。

 

「【ブラック・マジシャン】は俺のデッキのエースじゃない。

俺は【魔導書】と名のつくカードと様々な魔法使い族のカードを使って複数のデッキを作っているんだ」

 

「複数……

って、事は……

まだ別にデッキも持ってるって事か??」

 

「あぁ」

 

「すっげぇ、全部と戦いたいぜ!!」

 

更に目を輝かせた十代は楽しみでしょうがないと雰囲気で語り、それからも聖星に対し話しかけた。

聖星も聖星で自分の一言で表情を変える十代が面白く、ついつい話し込んでしまう。

本当に楽しそうにデュエルについて話す少年達の姿を【星態龍】は優しく見守っている。

 

**

 

飛行機から降りて入学式も無事に終わった。

真っ赤に燃える赤色の制服を着た聖星はリラックスする為背伸びをする。

流石は入学式と言えば良いのか祝辞が長く、その間同じ態勢だったため疲れたのだ。

小学生の頃から思ったが、どうして校長という存在はあれほど長話が好きなのだろう。

 

「おい、聖星。

聖星はどこの寮なんだ?」

 

「僕と十代君はオシリス・レッドっす」

 

「俺もオシリス・レッドだぜ。

っていうか制服見れば分かるだろう?」

 

「あ」

 

「この制服ってそういう意味だったんっすね」

 

入学式が終わったら聖星は十代と水色の髪の丸藤翔という少年3人で外に出ていた。

翔は実技試験で聖星、三沢と一緒に十代のデュエルを見守っていた少年だ。

2人とも制服の色の意味を知らなかったようで聖星の言葉に納得していた。

これではこの学園の上下関係について知らないかもしれない。

少し心配していると視界に見慣れた少年の姿が目に入った。

 

「あ、おーい!

大地!」

 

「やぁ、聖星、1番君」

 

聖星が笑って声を掛ければイエローの制服を着ている三沢も笑みを返してくれた。

彼が着ている制服は黄色である。

成程、彼はラー・イエローの所属になったのだろう。

筆記試験は1番で実技デュエルでも堅実なデュエルをしていたから当然と言えば当然か。

 

「よぉ2番じゃないか。

お前はどこの寮なんだ?」

 

「僕はこの制服を見て通りイエローさ。

……それにしても君達2人がレッドだなんて信じられないな」

 

腕を組みながら怪訝そうな表情を浮かべる三沢は十代と聖星を交互に見る。

筆記試験はともかく十代は実技最高責任者を倒すほどの実力の持ち主である。

それに対して聖星は筆記試験も優秀、実技試験だってノーダメージで試験官を倒した。

三沢が何を言いたいのか理解できた聖星はあっさりと言う。

 

「なんか俺の戦い方が気に入らなかったみたいだぜ」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ」

 

レッド寮配属に納得しない【星態龍】を落ち着かせるため仕方なく審議会の映像を探し、審議会を行なった部屋にある防犯カメラの映像を入手し会話を聞いたのだが……

【ブラック・マジシャン】の召喚はともかくバーン効果のみで勝った事がアカデミアの生徒として相応しくないという理由でレッドになったらしい。

詳しくは話さなかったが聖星の説明でだいたい察してくれた三沢は同情する様な眼差しで聖星を見た。

 

「まぁ良い。

君達とはこれから長い付き合いになる。

もし何かあったら相談してくれ」

 

「ありがとうな、三沢」

 

「あ、そうそう。

君達の寮はあっちだよ」

 

そう言って三沢が指差した方は学舎からかなり離れた方角だ。

そしてその先にあったのは……

ネットの画像で予め知っていたが、想像以上に酷く粗末な扱いのレッド寮だった。

 

**

 

「なぁ翔。

デュエルの匂いって普通分からないよな?」

 

「安心して聖星君。

普通の人間なら分からないっすよ」

 

「良かった」

 

同じレッド寮の生徒からこの学園の風潮を聞かされに翔は一気に気分が沈んだ。

しかし聖星は元から知っていたし、十代はそういう性格なのか特に気にもしなかった。

今、荷物を部屋に置いた3人は探検という事で校内を歩いている。

その時十代がデュエルの匂いがすると言い出し今に至るのだ。

 

「あ。

そういえばどうして聖星君の部屋は1人部屋なんすかね」

 

「さぁ」

 

オシリス・レッドの寮では基本的に3人1部屋で生活している。

十代と翔はどんな運命なのか同室で、彼らの部屋にはもう1人前田隼人という少年がいるそうだ。

だが聖星の部屋には同居人がおらず1人部屋という状態になっている。

 

「(元々3人部屋だったのを情報操作して1人部屋にしたんだけどな。)」

 

これも人には言えないのだが【星態龍】が口出ししたのだ。

アカデミアのやり方に苛立っているところに3人部屋だという情報を手に入れ、更に機嫌が急降下し聖星に1人部屋にするよう指示した。

表向きの理由は何らかの拍子で【星態龍】、そしてエクシーズモンスターを見られたら不味いというもの。

本音は記述しなくても分かるだろう。

聖星としては3人部屋の方が楽しそうだったのだが、そう言われてしまえば反論できないので情報操作するしかなかった。

 

「お。

見ろよ、聖星、翔!」

 

自分達の前を歩いていた十代は何かを発見したらしく、2人を手招きする。

そこにはデュエル場がありソリッドビジョン、音響、全てが最新設備である。

翔はこれから使う施設にテンションが上がったようだが、聖星の反応は薄い。

未来人からしてみればこの設備は旧型になるので、翔のようにそこまで感動しないのだ。

 

「よし聖星、ここで俺とデュエルしようぜ!」

 

「は、ここで?

歓迎会はどうするんだよ?」

 

確か聖星の記憶が正しければこの後各寮で歓迎会があったはずだ。

しかもあまり時間がない。

それなのにここでデュエルしていたら夢中になって遅れるかもしれない。

流石に入学初日に歓迎会に遅れるなどまずいだろう。

それを心配したのだが十代は満面な笑みを浮かべるだけだ。

 

「こんな凄い場所で出来るんだぜ!

歓迎会なんてあと、あと!」

 

「という訳にはいかないんだな」

 

「え?」

 

自分達の会話に入ってきた第三者の声。

そちらに顔を向けてみればオベリスク・ブルーの制服を着ている生徒が2人いた。

彼らはゆっくりと近寄ってきて聖星達を小馬鹿にするように言う。

 

「ここはオシリス・レッドのドロップアウトボーイ達が来るところじゃないぞ」

 

「そうなの?」

 

「上を見てみろ」

 

言われた通り3人がそちらを見上げれば、オベリスク・ブルーの象徴である【オベリスクの巨神兵】の飾り物があった。

それはこの場がオベリスク・ブルーの専用フィールドだと証明している。

校内でそういう決まりがあるのなら従うしかない。

翔は素直に謝罪し、聖星も軽く頭を下げる。

しかし十代だけは違った。

 

「何かしっくりこないな。

じゃあお前俺と勝負しないか?

それなら良いだろう??」

 

「っ!

誰かと思ったら……!」

 

「万丈目さん、クロノス教諭に勝った110番と【ブラック・マジシャン】使いの23番ですよ」

 

「(あ、やっぱり俺ブラマジ使いって事になってる?)」

 

2人の顔を見た瞬間に目を見開いた男子生徒達の様子で自分と十代が相当有名人だという事が分かる。

別に聖星はブラマジ使いになったつもりはないのだが、訂正するのも面倒なので黙っておく。

すると座席に座っていたのか黒髪の少年が十代と聖星を冷めた目で見てくる。

 

「こんにちは。

俺は不動聖星」

 

「俺、遊城十代。

あいつは?」

 

「っ!!」

 

冷めた目でも別に怖くもないし、一応挨拶しようと思って声をかけたが……

どうやら十代の言葉が気に入らないらしく、少年は十代を睨みつけた。

それに対し目の前にいる生徒達が過剰に反応を示す。

 

「お前、万丈目さんを知らないのか!?

同じ1年でも中等部の早抜き超エリートクラスのナンバー1!」

 

「未来のデュエルキングと呼び声の高い、万丈目準様だ!」

 

万丈目。

聖星はアカデミアに入学するまでこの時代の事を調べたが、その名前で該当するのは万丈目グループという財閥くらいだ。

珍しい苗字だし彼はその財閥の人間なのだろう。

しかしあくまで有名なのは政界、財界の話でデュエル界では殆ど名前を聞いた事がない。

だからついこう言ってしまった。

 

「え、彼ってそんなに有名なのか?

ネットである程度実力のある生徒を調べたけど、全然名前出てこなかったぜ。

出てきたのはカイザー先輩くらいかな?」

 

「貴様っ……!」

 

「うっ……!!」

 

明らかに癇に障ったという表情を浮かべる万丈目に対し、彼らはカイザーという名前を出され言葉に詰まる。

しかし十代は知らないようで首を傾げて聞いてくる。

 

「カイザー?

誰だそれ?」

 

「この学園で1番強いって言われている3年生の先輩だよ。

全戦全勝。

不敗の帝王。

デュエル界でも有名で、卒業したらすぐにプロデュエリストの仲間入り間違いなしって言われているんだ」

 

「そんな強い奴がいるのか!

デュエルしてみてー!」

 

「俺もいつか挑むつもりさ」

 

例え未来人だとしても聖星はデュエリスト。

この学園最強と呼ばれる生徒がいるのなら同じ学生として1度でもいいからデュエルしてみたい。

等と考えているとオベリスク・ブルーの2人が笑い始める。

 

「これはとんだ大ばか者だ!」

 

「オシリス・レッドの落ちこぼれが、カイザーと戦うだなんて……

身の程知らずなっ!!」

 

ワハハハハ、とお腹を抱えながら笑う彼らに聖星は冷や汗を流した。

別に格下の自分達の発言に笑うのは構わないが、それ以上笑わない方が良いと言えたらどれほど良かったか。

しかしそんな事を言ったらますます笑われるのであえて黙る。

そして聖星は自分の背後で漆黒の炎を燃やしている【星態龍】を視界に入れないよう精一杯前を向いた。

 

「Be quiet!」

 

馬鹿笑いの声を遥かに凌ぐ声で響いた万丈目の声。

彼の言葉に先程まで馬鹿みたいに笑っていた生徒達は大人しくなる。

 

「諸君はしゃぐな。

そいつら、お前達よりやる。

23番は1ターンでライフ4000を削り切り、110番は入学試験で手を抜いていたとはいえ一応あのクロノス教諭を破った男だ」

 

「ふっ、実力さ」

 

「その実力、ここで見せて欲しいものだな」

 

「良いぜ」

 

互いに不敵な笑みを浮かべながら言葉を交わす十代と万丈目。

万丈目は弱者を狩る猛獣の目。

十代は強者に挑む戦士の目をしていると言えば良いだろう。

背後に見える闘志に聖星も自然と不敵な笑みを浮かべるが、翔だけが不安そうな表情で聖星の裾を引っ張った。

 

「あ、聖星君、止めた方が良いっすよ」

 

「そうか?

面白い展開になってきたと思うけど。

……それに俺も十代と万丈目のデュエル、興味あるし」

 

さっきまで歓迎会に遅れる事を心配していたのはどこの誰だっけ?

心の中でそう叫んだ翔は完璧にデュエリストの顔になっている聖星の言葉に顔を引きつらせた。

同時に誰でもいいからここを通ってほしいと心の底から願った。

 

「貴方達、何してるの?」

 

翔の願いが通じたのか落ち着いた少女の声が聞こえ、そちらに振り替えるとオベリスク・ブルーの女生徒が立っていた。

背筋をピンと伸ばし腕を組んでいる美少女。

彼女は険しい表情で聖星達を凝視している。

 

「天上院君。

なぁに、この新入り達が世間知らずでね。

学園の厳しさを少々教えて差し上げようと思って」

 

「そろそろ寮で歓迎会が始まる時間よ」

 

「っ、引き上げるぞ」

 

少女の言葉に万丈目は気まずそうな表情を浮かべ、その場から立ち去っていく。

2人の少年達も万丈目の言葉に従い慌てて彼の後を追った。

彼らの姿が見えなくなったのを確認し、少女は聖星達に向き直る。

 

「貴方達、万丈目君の挑発に乗らない事ね。

……あいつらろくでもない連中なんだから」

 

「まるで前例があるような言い方だな」

 

「ま、色々とあるのよ。

色々とね」

 

「ふぅん」

 

あまり見たくない生徒間のどろどろとした事情を見てしまった気分だ。

万丈目達が去った方角を見ている間、十代が彼女に俺に気があるのか?と発言し少しだけこの場の空気が和んだ。

肩の力が抜けたのか彼女は可愛い顔で教えてくれる。

 

「オシリス・レッドでも歓迎会が始まるわよ」

 

「そうだ!

寮に戻るぞ!」

 

「あ、待ってよ兄貴!」

 

慌てて走っていく十代と翔。

だから先程聖星が歓迎会は良いのか?と言ったのだ。

聖星はしょうがないぁ、と困った笑みを浮かべ2人を追いかける。

すると十代が振り返り彼女の名前を聞いた。

 

「天上院明日香」

 

「俺は遊城十代、よろしくな!」

 

「俺は不動聖星。

よろしく、明日香!」

 

**

 

歓迎会にはギリギリ間に合い、聖星は一通り食べ終えて部屋に戻った。

流石は学園内でも酷い扱いのオシリス・レッドというべきか、夕飯の内容はお世辞でも歓迎会に相応しいと言えなかった。

簡素すぎる夕飯に聖星は顔を引きつらせ、今後ここでどんなメニューが出るのか心配になった。

 

「明日から授業か……

どんなデッキで行こうかな」

 

「学園内では【ブラック・マジシャン】使いとして通っているようだ。

もう【ブラック・マジシャン】使いで通せばいいと私は思うが?」

 

「それはそれで面白そうだけど、こう……

たくさんの【魔導書】デッキを作って楽しみたいんだ。

前の世界ではあまり楽しいデュエルは出来なかったからな……」

 

異世界で経験したのは命や世界を賭けた正真正銘の決闘。

ダメージは実体化し、負ければ命を失ってしまう。

自分の目の前でも大勢の仲間がバリアンとのデュエルで敗れ、命を奪われた。

特に仲の良かった凌牙が敵に回りⅣ達とデュエルした時の絶望感は今でも忘れられない。

寂しげな瞳で語る聖星の言葉に【星態龍】は何も言えなかった。

 

「あの世界では皆を護るために酷いカードも使った。

だから今回は自分が考え付く限りの【魔導書】デッキで思う存分楽しみたいんだ」

 

「……好きにすればいい」

 

ふっ、と姿を消した【星態龍】。

彼の姿が見えなくなったのを確認した聖星は再びデッキと向かい合った。

すると机の上に置いてある生徒手帳が震え始める。

 

「こんな時間に何だ?」

 

アカデミアの生徒手帳には通信機能があり、様々な連絡に利用されている。

画面を見れば表示されたのは映像つきのメールの受信画面だ。

開けばあの場所で出会ったオベリスク・ブルーの生徒が映る。

一体何の用だと思えば0時にアンティルールのデュエルを行なおうという誘いだった。

随分と嫌なお誘いである。

 

「アンティルールって禁止されてるだろ。

彼、生徒手帳読んでないのか?」

 

「知った上での誘いだろう」

 

「やっぱり?」

 

「乗るのか?」

 

「ま、短い学園生活の中で良い刺激にはなるんじゃないのか?

それにこれから作るデッキのテストの相手には丁度いいと思うしな」

 

まだ0時までには時間がある。

それまでの間、彼と戦うためのデッキを作ろう。

そう決めた聖星はすぐに持っているカードを広げ、デッキを編集しようとした。

すると誰かがドアをノックする音が聞こえ、そちらに顔を向けた。

 

「おい、聖星。

起きてるか?」

 

「十代?」

 

扉を開ければ十代が居て、一体どうしたのだと尋ねれば彼の元にも万丈目からメールが届いたのだという。

成程、標的は注目の的となっている自分達2人で今後目立った行動をしないよう叩き潰す気か。

聖星も先程来たメールの事を話すと十代が言う。

 

「何だ、聖星にも来てたのか!

じゃあ一緒に行こうぜ」

 

「十代。

一応言っとくけど、この学園でアンティルールは禁止されている。

更に時間外に施設を使用するとなると……

下手したら退学だぜ?

それを知ってでも行くのか?」

 

「え?」

 

聖星の言葉に十代は一瞬で固まる。

どうやら知らなかったようで、背中にいる【星態龍】が盛大にため息をついている音が聞こえた。

しかし流石は十代といえば良いのか彼は不敵な笑みを浮かべる。

 

「ふっ。

デュエルを挑まれて逃げるわけにはいかないだろう」

 

「……本当、十代ってデュエルが好きだなぁ」

 

自分もデュエルバカという自覚はあるが、ある程度の危機管理能力とやらは持っている。

今回は無事に終わらせることが出来る確信はあるが、無理そうなら絶対に手は出さない。

だが十代にとってそんな事など関係ない。

デュエルの為なら行く。

そういう男のようだ。

 

「分かった。

俺も行く」

 

「そうこねぇとな!」

 

**

 

それから0時が迫り、聖星は十代、翔の3人で指定された場所を訪れた。

すでにその場所には万丈目達3人が待っており、不敵な笑みを浮かべて十代と聖星を見る。

 

「よく来たな、110番、23番」

 

「どうせ暇だしな」

 

「デュエルと聞いちゃ、来ない理由はないぜ」

 

十代は万丈目と、聖星は自分を呼び出した少年と視線を交えそのままデュエルフィールドに立つ。

聖星と対戦するのは取巻太陽という少年。

彼は見下した笑みを浮かべながら言う。

 

「繰り返すようだが、このデュエルはアンティルールだ。

俺が勝った時はお前の【ブラック・マジシャン】を頂く!

オシリス・レッドにあのレアカードは宝の持ち腐れだからな!」

 

「折角盛り上がっているところ悪いけど、別に俺は【ブラック・マジシャン】使いじゃないぜ」

 

「何!?

【ブラック・マジシャン】を持っているのにか!?

だがお前が【ブラック・マジシャン】を持っているのは事実。

さぁ、構えろ!」

 

「言われなくても」

 

「「デュエル!!」」

 

互いに表示された4000のライフポイント。

聖星と取巻は同時にデッキからカードを5枚引いた。

右側のデュエルフィールドでは聖星と取巻、左側では十代と万丈目がデュエルをしている。

傍観者である翔は心配そうに2人を交互に見た。

 

「先攻は俺だ、ドロー!

俺は手札からフィールド魔法【山】を発動!」

 

「【山】?」

 

って、何だっけ?と真顔で言いそうになった聖星は慌てて言葉を飲み込む。

ドラゴン族モンスターに影響を与えるカードだったと小学生の時本で読んだ気がする。

しかしあまりにも曖昧すぎるため頭をひねった。

そんな聖星の様子に取巻は見下すように笑う。

 

「何だ、【山】も知らないのか?

仕方ないな。

落ちこぼれのお前にこの俺が直々に特別授業だ。

フィールド魔法【山】はフィールド上に表側表示で存在するドラゴン族・鳥獣族・雷族モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントアップさせるカードだ」

 

「それだけ?」

 

「はぁ?

それ以外に効果があるわけないだろう?

よくそれでアカデミアの入学試験を突破出来たな」

 

ま、オシリス・レッドの君には相応しい等と勝手に語りだす取巻に聖星は心の中で首を横に振った。

そして同時に思う。

時代の流れって怖い。

 

「(俺の時代で攻撃力・守備力200を上げるために【山】なんて使わないしなぁ。

使うとしたら【竜の渓谷】に【ハーピィの狩場】とか……

それに攻撃力をどうにかしたいのなら【強者の苦痛】とか使えば良いし。

この時代じゃ【山】が現役だったんだ。)」

 

変なところで感動しているとソリッドビジョンによってフィールドが文字通り山へと変わる。

さて、先ほど取巻はドラゴン族、鳥獣族、雷族モンスターの強化のためのカードと言った。

という事は彼のデッキはそれ等3種族のどれかがメインと考える方が良いだろう。

 

「さらに俺は【サファイアドラゴン】を攻撃表示で召喚!

カードを2枚伏せターンエンドだ!」

 

「俺のターン、ドロー。

俺は手札から【魔導戦士ブレイカー】を召喚。

召喚成功時に【ブレイカー】の効果発動。

このカードに魔力カウンターを1つ乗せる。

これで【ブレイカー】の攻撃力は300ポイントアップだ」

 

【魔導戦士ブレイカー】は元々の攻撃力が1600の魔法使い族モンスター。

しかし召喚成功時に魔力カウンターを乗せる効果のお蔭で実質攻撃力は1900である。

力がみなぎるのか【ブレイカー】の周りに紫色のオーラが溢れだし、攻撃力が1600から1900へと上昇した。

 

「ふん、浅はかだな!

罠発動、【奈落の落とし穴】!」

 

「あ」

 

「これで【ブレイカー】はゲームから除外される!」

 

取巻が発動したのは攻撃力1500以上のモンスターを問答無用で破壊し、しかも除外してしまうというやっかいな罠カード。

【ブレイカー】が立っていた場所が歪み、底無し沼のようになり【ブレイカー】は飲み込まれてしまう。

 

「あちゃぁ……

迂闊だったなぁ。

カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

【魔導戦士ブレイカー】は乗っている魔力カウンターを取り除くことで場の伏せカードを破壊する効果を持つ。

折角その効果を使って伏せカードを破壊しようと思ったのに。

仕方なく聖星はカードを伏せてターンを終了した。

 

「俺のターン!

俺は手札から速攻魔法【サイクロン】を発動!

お前の伏せ左側のカードを破壊させてもらう!」

 

「対象となったカードを発動。

罠カード、【強制脱出装置】。

悪いけど【サファイアドラゴン】には手札に帰ってもらうぜ」

 

「何っ!?

くっ、それなら俺はもう1度【サファイアドラゴン】を召喚だ!」

 

聖星の罠カードで手札に戻された【サファイアドラゴン】は再び取巻の場に現れる。

再び召喚された【サファイアドラゴン】は青玉の翼を大きく広げて威嚇するように唸りだす。

 

「【サファイアドラゴン】でプレイヤーにダイレクトアタック!」

 

「ぐっ!」

 

バトルフェイズに移行し、【サファイアドラゴン】が聖星に向かってくる。

美しい竜から放たれた攻撃は聖星を貫き、その時の衝撃で体がぐらつく。

これで聖星のライフは1900まで削られた。

 

「ふん。

やっぱり落ちこぼれのオシリス・レッドだな。

こんな攻撃も防ぎきれないのに俺達ブルーに逆らうなんて生意気なんだよ!」

 

聖星のライフを見て高笑いを始める取巻。

まだまだライフと手札はあるため勝つ可能性は十分にある。

それなのに勝利を確信するのは早いんじゃないのか?等と思いながら聖星は苦笑を零した。

 

「俺はターンエンドだ!」

 

「俺のターン、ドロー」

 

ゆっくりとカードを引く聖星。

さて、いい加減反撃に出ないと次のターンで終わってしまう。

入学初日のデュエルが反撃せずに一方的な敗北など笑えない。

加わったカードと手札を見比べながら聖星はカードを発動した。

 

「俺は手札から【名推理】を発動」

 

「【名推理】?」

 

「相手はレベルを1つ宣言する。

そして俺はデッキからカードをめくり、最初に出てきたモンスターカードのレベルが宣言されたレベルだったらめくったカードを全て墓地に送る。

けど違った場合はそのモンスターを特殊召喚できる」

 

「っ!

つまり1枚で高レベルモンスターを呼べるって事か……」

 

「そういう事」

 

微笑みながら肯定した聖星に取巻は険しい表情を浮か、実技試験を思い出した。

彼のデッキが魔法使い族で固まっているのはすでに明白。

しかも彼は【ブラック・マジシャン】を使用していた。

それなら自分が宣言すべきレベルは1つ。

 

「俺はレベル7を選択する!」

 

「分かった。

まずは1枚目」

 

ゆっくりとデッキからカードをドローする聖星。

めくったカードを確認した聖星はそれを取巻に見せる。

 

「【ゲーテの魔導書】。

魔法カードだ」

 

「(モンスターじゃない)」

 

「2枚目は魔法カード【アルマの魔導書】、3枚目は魔法カード【グリモの魔導書】、4枚目はフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】」

 

次々とめくられるのは魔法カード。

4枚もめくったのにモンスターカードが出ないため取巻は聖星のデッキ構築を疑った。

もしかすると魔法カードばかり入れてモンスターカードがないデッキなのかもしれない。

だとしたらなんてデッキバランスの悪い構築なのだろう。

これだからレッドはと思い口を開こうとしたら聖星が笑った。

 

「(何?)」

 

「5枚目……

モンスターカード【魔導鬼士ディアール】。

レベルは6だ」

 

「なっ、7じゃない!?」

 

「宣言したレベルじゃない。

よって【魔導鬼士ディアール】を特殊召喚。

出番だぜ、【ディアール】」

 

聖星の声と同時に彼の場に紫色の魔法陣が描かれる。

魔法陣の中央が輝きだし、そこから1体のモンスターが現れた。

巨大な翼に2本の角。

逞しい肉体だが禍々しいオーラを身にまとい、人とはかけ離れた外見をしているモンスター。

悪魔の外見をしている彼は大きく両腕を広げ、召喚された喜びを表すように叫びだす。

 

「グゥォオオオオ!!!」

 

ホール内に響く【ディアール】の雄叫び。

ここ最近全くデュエルに出していなかったから出られて本当に嬉しいのだろう。

別に精霊が宿っているわけでもないのに、愛着がある故聖星は勝手にそう思った。

聖星は小さく頷き、高らかに宣言する。

 

「よし、行くぜ。

【ディアール】で【サファイアドラゴン】に攻撃」

 

【ディアール】の攻撃力は2500で【サファイアドラゴン】より400ポイント高い。

剣を振り上げた【ディアール】は【サファイアドラゴン】に向かってジャンプする。

 

「さらにリバースカードオープン、【マジシャンズ・サークル】。

魔法使い族の攻撃宣言時発動する。

互いにデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族モンスターを特殊召喚する」

 

「なっ、そいつ魔法使い族なのか!?

だが罠発動、【聖なるバリア-ミラーフォース-】!」

 

取巻の反応は尤もだろう。

聖星も初めて【ディアール】のカードを見た時魔法使い族という表記に驚いた。

まぁそれなら【魔草マンドラゴラ】にも同じような事が言えるが。

 

「悪いけど【ディアール】は破壊させない。

手札から速攻魔法【トーラの魔導書】を発動。

【トーラの魔導書】はフィールド上の魔法使い族1体に魔法、または罠の耐性を与えるカードだ。

俺は【ディアール】に罠の耐性をつける。

よって【聖なるバリア-ミラーフォース-】の効果では破壊されない」

 

「なっ!?」

 

【ディアール】が大きく剣を振り下ろすと【サファイアドラゴン】を神秘的な結界が守る。

しかし【ディアール】の目の前に1冊の魔導書が現れそれが結界を打ち破った。

 

「そして、チェーン処理により【マジシャンズ・サークル】の効果が適応される。

俺はデッキから攻撃力2000の【魔導冥士ラモール】を特殊召喚」

 

【ディアール】が剣を下ろす動作を止めると、聖星の場に巨大な鎌を持った紫色の魔法使いが現れる。

彼は冷たい瞳で取巻を見つめ【ディアール】以上の禍々しさを放っている。

 

「特殊召喚に成功した【ラモール】の効果発動。

このカードは墓地の【魔導書】の種類の数によって効果を得る」

 

「何、何だその効果は!?」

 

「3種類以上の時、このカードの攻撃力を600ポイント上げる。

4種類以上の時、デッキから【魔導書】を1枚手札に加える。

5種類以上の時、俺のデッキから闇属性のレベル5以上の魔法使い族モンスターを1体特殊召喚する。

俺の墓地には【ゲーテの魔導書】、【アルマの魔導書】、【グリモの魔導書】、【魔導書院ラメイソン】、【トーラの魔導書】……

5種類の【魔導書】が存在する。

よって【ラモール】の全ての効果が発動する」

 

「3つの効果が同時に発動するだと!?

ふざけるなっ!!」

 

聖星と取巻の会話の中【魔導冥士ラモール】は大きな鎌を振る。

そして自身の攻撃力が2000から2600に上昇し、自分の隣に紫色の魔法陣を描く。

その魔法陣から1枚の魔法カードが現れた。

 

「俺はデッキから【トーラの魔導書】を手札に加える。

そしてレベル8の【魔導獣士ルード】を特殊召喚」

 

魔法カードを追いかけるように現れたのは獅子の顔を持つ魔法使い。

手に持っているのは2匹の動物が描かれている盾。

表示された攻撃力は2700だ。

 

「そんな……

攻撃力2500以上のモンスターが3体も……」

 

「行くぜ。

【ディアール】はそのまま攻撃」

 

やっとの攻撃宣言に【ディアール】は再び剣を振り下ろし【サファイアドラゴン】を引き裂いた。

【サファイアドラゴン】は粉々に砕け散り、取巻のライフは4000から3600へと減少する。

 

「【ラモール】と【ルード】でダイレクトアタック!」

 

「うわぁああ!!!」

 

自分に向かってくるモンスターの攻撃。

取巻は反射的に目を瞑り、その攻撃を受けた。

そして彼のライフは0へとカウントされ、聖星の勝利が確定した。

 

「ふぅ、終わった」

 

デュエルが終わり、ソリッドビジョンが消えた。

デュエルディスクにセットされているカードをデッキに戻した聖星は取巻に顔を向ける。

彼は呆然と立ち尽くしており聖星を見ていない。

 

「……そんな……

…………ブルーの俺が……

…………レッドなんかに……」

 

「えっと……」

 

小声で繰り返される言葉に声を掛けようか迷う。

今までなら笑顔で相手と言葉を交わしていたが、どうもそれが出来る様子ではない。

どうしようかと迷い、助けを求めようと翔へと振り返ると……

 

「凄いよ聖星君、オベリスク・ブルーに勝っちゃうなんて流石っす!!」

 

「……これが彼の実力」

 

目を輝かせる翔と目を見開いている明日香がいた。

彼女の姿に聖星は不思議そうな表情を浮かべてここに来た時の事を思い出す。

自分達も3人、万丈目達も3人で来ていて彼女の姿はどこにも見なかったはずだ。

 

「えっと、何で明日香がここにいるんだ?」

 

「えっ、えぇ。

丁度通りかかってね……

それより凄いじゃない。

……問題は十代ね」

 

「え?」

 

聖星に声を掛けられ現実に引き戻された明日香は答える。

そしてゆっくりと十代達の方に目を向ければ、劣勢に立たされている十代の姿が目に入った。

一目見て不利な状況に思わず心配したが、彼の表情を見てその必要はなくなった。

どうやら十代は劣勢になればなるほど燃えるタイプのようで逆に闘志に燃えている。

 

「次に十代が引くカードによって勝敗が決まるな……」

 

「そうね」

 

十代の意気込みは十分だ。

だがあの状況を逆転するカードを引けるかどうか、まだ彼のデュエルをよく知らない聖星には判断がつかない。

デュエルを楽しみデッキを信じる十代と、他人を見下しデュエルを楽しんでいない万丈目。

勝利の女神はどちらに微笑むのか気になるところだ。

すると外から誰かの足音が聞こえてきて、明日香の表情が一変した。

 

「まずい、ガードマンが来るわ!」

 

「えっ!?」

 

「アンティルールは校則で禁止されているし、時間外に施設を使っているし、校則違反で退学かもよ!」

 

「十代!!」

 

明日香の言葉に聖星も声を張り上げる。

万丈目も事のヤバさを理解しているようで、取巻達を連れて帰ろうとする。

当然デュエルバカの十代は引き留めたが、万丈目は十代の実力はまぐれだと言い張り帰ってしまった。

 

「兄貴、見つかっちゃうよ!」

 

「さぁ、こっちよ!」

 

「う~~、嫌だ!

俺はここを動かない~~!!」

 

「兄貴っ!!」

 

「いい加減にしなさい!!」

 

面白くなってきたデュエルを中断されたせいか、十代は絶対に動かないと駄々をこねる。

しかしこのままでは見つかってしまい最悪退学処分だ。

翔と明日香は頑なに動こうとしない十代に頭を抱えた。

見ていられない聖星は仕方なく十代の肩に手を置き、素直に謝った。

 

「十代。

ごめんな」

 

「は、何だよ聖星?」

 

瞬間、聖星が十代の腹に拳を叩き込む。

同時に十代の苦しそうな声が漏れ、明日香達の方から小さな悲鳴が聞こえた。

十代は気絶したのかその場に力なく倒れ、聖星は彼を担ぎ上げて明日香達に振り返った。

 

「さ、明日香。

案内してくれ」

 

「え、えぇ」

 

聖星の言葉に明日香は小さく頷き、道案内をする。

そんな2人を見ながら翔は呟いた。

 

「……聖星君、意外と暴力的なんすね」

 

その後十代が目を覚ましたのは朝食前で、彼はすぐに聖星の部屋に突撃した。

いくらあの場から逃げるためとはいえ痛かった事を訴える十代に聖星は何度も謝った。

そして朝食後にデュエルするのなら許すと言われ、そのままデュエルの約束をした2人である。

おい、それで良いのか十代。

2人の会話を最後まで聞いていた【星態龍】と翔の心がシンクロした瞬間である。

 

END

 




ここまで読んで頂きありがとうございます!
聖星は口で説得するのではなく、武力で説得(笑)するタイプです。
それに遊星に鍛えられている設定なのでかなり強いです。
遊星のように相手が複数いても勝てます。
まぁデュエルだったら遊星のように1ターン3キルは出来ません。


今回聖星が使ったデッキは一応【闇属性魔導書】です。
モンスターは全て闇属性に統一しているので【魔導書士バテル】も【魔導教士システィ】も入っていません。


あと明日はPRIMAL ORIGINの発売日ですね!
新規カードに魔導書がないのは寂しいですがゴーストリック、エヴォルカイザー、エヴォルド、エヴォルダー、幻獣機のために買います。
後個人的にはアンティーク・ギアの新カード登場に驚きましたね。
ま、マジかっ…!!
これでクロノス教諭のデッキにさらなる夢がっ…!とわくわくしています。
では失礼いたしました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 注目のレッド決闘

 

朝食を食べ終えた十代と聖星はレッド寮の食堂から出て、互いに距離を取った。

理由はこれからデュエルを行うためである。

 

「へへっ。

さて、聖星、どんな【魔導書】を使うか楽しみだぜ!」

 

「俺も。

十代の【HERO】がどう攻めてくるのか楽しみだ」

 

デュエルディスクにデッキをセットし、構える2人。

クロノス教諭を倒した十代と【ブラック・マジシャン】を持つ聖星とのデュエルという事でオシリス・レッドの生徒の殆どはギャラリーと化している。

 

「「デュエル!」」

 

「先攻は俺だ、聖星!

ドロー!

俺は手札から【E・HEROスパークマン】を攻撃表示で召喚!

カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

光を発しながら現れたのは素顔が見えないヒーロー。

体中からプラズマのようなものが走り聖星を見据える。

彼の攻撃力は1600と表示され、伏せカードが現れた。

 

「俺のターン、ドロー。

俺は手札から【憑依装着-エリア】を攻撃表示に召喚」

 

「はっ!」

 

十代に対し聖星は青い髪の女性型モンスターを召喚する。

彼女は雫の形をした宝石のロッドを手に持ち、ゆっくりと目を開いて青い瞳を見せる。

美少女モンスターの登場にレッド寮の男子生徒達は一気に騒ぎだした。

 

「うわぁ、可愛い女の子っすね」

 

翔も【エリア】の姿にめろめろのようで、目じりが下がり、頬が朱に染まっている。

だが彼女は男子生徒など全く気にもせずロッドを構えた。

 

「【憑依装着-エリア】で【スパークマン】に攻撃」

 

聖星が攻撃宣言すると【エリア】は呪文を唱え始め、宝石に淡い光が集まる。

宝石に光が十分集まると彼女は大きくロッドを振り上げた。

可愛い子が攻撃する姿に男達は声をそろえて叫んだ。

 

「「「頑張れー、【エリア】ちゃーん!!!」」」

 

【エリア】の攻撃力は1850、それに対し【スパークマン】の攻撃力は1600.

このままバトルが成立すれば【スパークマン】が破壊され十代のライフが削られる。

しかし十代がそう簡単に攻撃を通すわけがなかった。

 

「罠発動、【異次元トンネル-ミラーゲート】!」

 

十代が伏せていたカードは鏡の世界を描いているようなものだった。

モンスターの影も見えず、どんな効果なのか想像できない。

 

「このカードは互いのモンスターの入れ替え、バトルを続行させる!!」

 

「え?」

 

十代の簡単すぎる説明と同時に【エリア】と【スパークマン】が光に包まれ、彼の言った通りモンスターが入れ替わった。

攻撃力の高いモンスターのコントロールを得た十代は勢いよく宣言する。

 

「行け、【エリア】!

そのまま【スパークマン】に攻撃だ!」

 

強く頷いた彼女は聖星と共にいる【スパークマン】に向かって攻撃する。

勢いよく放たれた攻撃は【スパークマン】に直撃し、彼は粉々に砕け散った。

そして聖星のライフが250減り3750になる。

 

「くっ……

攻撃反応型のカードはあると思ったけど……

俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

これで聖星の場にモンスターは存在せず、下手をしたら次のターン大ダメージを受ける事になる。

仕方なくカードを伏せてエンド宣言したが、十代の場にいた【エリア】が戻ってきた。

どうやら完全なコントロール奪取ではないようである。

 

「俺のターン、ドロー!

俺は手札から【融合】を発動!

手札の【E・HEROフェザーマン】と【バーストレディ】を融合!

来い、【E・HEROフレイム・ウィングマン】!」

 

ドローしたカードを見た十代はすぐにそのカードを聖星に見せてカード名を宣言する。

彼の場には【フェザーマン】と【バーストレディ】の2体が現れ、歪みへと吸い込まれる。

黒い歪みへと消え去った2体は互いの力を合わせ、新たなヒーローへと姿を変えた。

 

「はっ!」

 

現れたのはクロノス教諭とのデュエルでレアカードの【古代の機械巨人】を倒し、十代を勝利へと導くという大活躍をしたモンスター。

特殊召喚された【フレイム・ウィングマン】は翼を羽ばたかせ腕を組みながら十代の前に立つ。

表示された攻撃力は2100.

 

「【フレイム・ウィングマン】で【憑依装着-エリア】を攻撃!」

 

「「「あぁあああああ!!!!」」」

 

「いぃ!?」

 

勢いよく宣言するとギャラリーから大絶叫が聞こえたため聖星達は慌てて振り返る。

何だと思うと同級生や上級生達が十代を睨みつけていた。

彼らのあまりの形相に聖星と【星態龍】は理解できず怪訝そうな表情を浮かべた。

え、何でこいつらこんなに必死なの??

 

「な、何だ?」

 

「み、皆?

どうしたんだ?」

 

何故彼らがそんな怖い顔をするのか理解できず、恐る恐る尋ねると十代の弟分である翔が皆の心を代弁するかのように叫んだ。

 

「兄貴酷いっす!

そんな可愛い女の子に攻撃するなんて!」

 

「「はぁ?」」

 

翔の口から出てきた言葉に思わず2人は声をそろえて言った。

攻撃をするも何もこれはデュエルだ。

確かに可愛いモンスターが破壊されるのを見るのは心苦しいと共感できる。

しかしそこまで過剰に反応する必要はあるのだろうか。

彼らの気迫に【フレイム・ウィングマン】も戸惑い気味で交互に十代と男子生徒達を見ている。

ソリッドビジョンにまで困惑させるとは、どこから突っ込めばいいのか分からない聖星は苦笑を浮かべるしかなかった。

 

「あ~、もう、これはデュエルなんだ!

行け、【フレイム・ウィングマン】、フレイム・シュート!!」

 

「はぁ!」

 

再度の宣言に【フレイム・ウィングマン】は右腕から炎を出し【エリア】を攻撃する。

その炎を防ぐ方法はなく、彼女は悲鳴を上げながら炎の中で破壊された。

そして飛び火が聖星に降りかかりライフが3500になる。

 

「うわっ!」

 

「さらに【フレイム・ウィングマン】の効果発動!

【フレイム・ウィングマン】は戦闘で破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを与える!

1850のダメージを受けてもらうぜ!」

 

「ぐっ!!」

 

聖星の前に立った【フレイム・ウィングマン】はすぐに右手を前にだし、そこから炎を浴びせる。

体中が炎に包まれた聖星はあまりの熱さに苦しそうな声を出す。

これで彼のライフは1650となった。

 

「よしっ!

俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

デュエルで有利になった十代は聖星を見る。

実技試験、そして翔から聞いた内容で彼は瞬時に上級モンスターを並べている。

しかも全て召喚法が違う。

一体どんな方法で、どんな魔法使いを召喚し、どんな風に戦うのか。

想像するだけでわくわくしてきた十代は興奮気味の声で言う。

 

「どうした聖星。

お前のデッキはこんなもんじゃないだろう?

聖星の魔法使いがどんなふうに戦うのか見せてくれ!」

 

「言われなくても見せてやるさ。

俺のターン、ドロー」

 

挑発的な十代の言葉にも聖星は穏やかに返し、ゆっくりとカードを引いた。

さて今の手札で何が出来るだろうか。

勝負に出ても良いし、場を整えてから一気に畳み掛けても良い。

小さく頷いた聖星はカードを掴んだ。

 

「俺は手札から【魔導書士バテル】を守備表示で召喚。

そして【バテル】の効果発動。

このカードが召喚に成功した時、デッキから【魔導書】と名のつく魔法カードを1枚手札に加える。

俺は【グリモの魔導書】を手札に加え、発動」

 

召喚された少年は自分が持っている本を広げ、聖星にしか聞こえないような小声で呪文を唱え始めた。

すると【バテル】は光につつまれ、その光は本へと集中し新たな【魔導書】となった。

 

「【グリモの魔導書】は様々な【魔導書】を呼び出すことが出来る。

俺はデッキから【セフェルの魔導書】を加えるぜ。

そして【セフェルの魔導書】を発動!

このカードは手札に存在する【魔導書】を見せる事で墓地の通常魔法の【魔導書】の能力を得る。

俺は【ネクロの魔導書】を見せ、【グリモの魔導書】の効果をコピーする」

 

次々と現れては消えていく【魔導書】。

流れるような魔法カードの連続発動に十代は感心するように呟く。

 

「聖星のデッキってサーチ能力が凄いな」

 

「それも【魔導書】の売りだからな。

俺はデッキから【ヒュグロの魔導書】をサーチ」

 

手札に加えたのは赤色の【魔導書】。

だが今これを発動しても【フレイム・ウィングマン】の攻撃力2100には届かない。

しかし手札には実に頼もしいカードが存在する。

聖星は躊躇なくそのカードを発動した。

 

「そして手札から速攻魔法、【ディメンション・マジック】を発動」

 

「【ディメンション・マジック】!?

魔法使い族モンスターが存在する時、場のモンスターを生贄に手札の魔法使い族を特殊召喚する魔法カード……

遊戯さんも使ったカードか!」

 

「正解。

ま、生贄にするモンスターは魔法使い族じゃなくても良いんだけどな。

そして魔法使い族モンスターを特殊召喚した後、場のモンスターを破壊する」

 

「ゲッ!

いま俺の場には【フレイム・ウィングマン】のみ。

それなら速攻魔法、【融合解除】を発動!

【フレイム・ウィングマン】の融合を解除し、【フェザーマン】と【バーストレディ】を守備表示で特殊召喚するぜ!!」

 

聖星の発動したカードにチェーンして発動された速攻魔法。

【フレイム・ウィングマン】は2つの光に分裂し、風と炎の英雄が膝をついて現れた。

 

「俺は【魔導書士バテル】を生贄に捧げ、【氷の女王】を特殊召喚!」

 

フィールドにゆっくりと歪みが生まれ、そこから1つの棺が現れる。

重たい音を発しながら棺は開き【バテル】は自らその中に入る。

すると棺から冷気が漂い始める。

隙間から流れ出す冷気はフィールドを凍らせ、再び開いた棺の中から威厳ある女王が姿を現す。

 

「攻撃力2900……

すげぇ強そうなモンスターが出てきたな」

 

ただでさえ凍っていたフィールドが彼女の登場でさらに凍りつく。

自分のモンスターの守備力を超えられたというのに、十代は特に焦った様子もなく楽しそうに笑っている。

 

「さらに【ディメンション・マジック】のもう1つの効果発動。

フィールドに存在するモンスターを1体破壊する。

そうだな……

俺は【フェザーマン】を選択」

 

【氷の女王】が出てきた棺の中から無数の鎖が解き放たれ、【フェザーマン】へと向かって行く。

突然の事に【フェザーマン】は驚き、抵抗する間もなく鎖に拘束されてしまった。

破壊対象を捉えた鎖はすぐに棺の中に戻り、爆発してしまう。

 

「バトルフェイズ。

【氷の女王】で【バーストレディ】に攻撃」

 

【氷の女王】は持っているロッドを高く上げると冷気が上空に集まる。

みるみるうちに空気中の水分を凍らせ鋭い氷柱を作り出した。

氷柱は勢いよく【バーストレディ】に向かい彼女を破壊する。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!

良し、来た!

俺は手札から【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に捨てる!

俺は【E・HEROワイルドマン】と【ネクロダークマン】を捨てるぜ!

さらに手札からフィールド魔法【摩天楼-スカイスクレイパー-】を発動!」

 

フィールド魔法カードゾーンがデュエルディスクから出てきて十代はそこにカードをセットする。

ソリッドビジョンはすぐにそのカードのデータを読み込み辺り一面の景色を一変させた。

海が見えるこの場所は夜でも光が溢れる街へと変わる。

これはクロノス教諭を破ったときに使用されたフィールド魔法。

 

「凄い、外から見ていても迫力あったけど……

この場で見ると全然違うな」

 

「へへっ、カッコいいだろう!」

 

なんたってここは【HERO】が活躍するための場所なのだ。

【HERO】好きの十代もお気に入りの場所で、十代は聖星の言葉に笑顔になり次の魔法カードを発動する。

 

「これで舞台は整った!

魔法カード、【ミラクル・フュージョン】を発動!」

 

「【ミラクル・フュージョン】?」

 

「墓地と場に存在する【HERO】を除外する事で、融合デッキから新たな【HERO】を呼び出すのさ。

墓地の【バーストレディ】と【フェザーマン】を融合!」

 

 

墓地に存在する【バーストレディ】と【フェザーマン】が場に現れ、2人揃って歪みへと吸い込まれる。

しかし先程の歪みよりさらに暗い歪みで、墓地とは全く違う世界へと繋がっている事を示している。

 

「再び現れろ、マイフェイバリットカード、【フレイム・ウィングマン】!!」

 

「はっ!」

 

「そして【フレイム・ウィングマン】で【氷の女王】に攻撃!!」

 

【スカイスクレイパー】の世界に響いた十代の言葉に【氷の女王】は驚いた表情を浮かべる。

【フレイム・ウィングマン】の攻撃力は2100で自分より800も低い。

理解できない表情を浮かべると【フレイム・ウィングマン】はこの街で1番高い場所まで飛び上がった。

そして腕を組んで【氷の女王】を見下ろす。

 

「【スカイスクレイパー】の効果発動!

【E・HERO】が自分より攻撃力の高いモンスターに攻撃する時、【E・HERO】の攻撃力は1000ポイントアップする!

【フレイム・ウィングマン】、スカイスクレイパー・シュート!!」

 

「はぁあああ!!!」

 

十代の声に応えるよう【フレイム・ウィングマン】も声を発し、【氷の女王】に攻撃する。

このまま攻撃を許してしまえば戦闘ダメージと効果ダメージを合わせ3100ポイントのダメージを与えられる。

残りのライフが1650の聖星は敗北してしまうだろう。

【氷の女王】に向かって行くモンスターの姿に聖星はふっ、と笑い伏せカードを発動した。

 

「罠発動、【レインボー・ライフ】」

 

伏せられていたカードは表になり、効果を発動するため光り輝く。

 

「このターン、手札を1枚捨てる事で俺が受けるはずだったダメージは全て0となりその数値分俺はライフを回復する。

俺は【ネクロの魔導書】を捨てる」

 

「はぁ!?

って事は……

戦闘ダメージ200と効果ダメージ2900を回復するから、3100の回復!!?」

 

「そういう事」

 

攻撃力が3100まで跳ね上がり威力の増した攻撃は【氷の女王】を貫いた。

貫かれた場所からゆっくりとひびが入り、全身が砕け散る。

邪魔なモンスターの破壊に成功した【フレイム・ウィングマン】は聖星の前に立ち、再び右腕をかざす。

赤い口から放たれた炎は聖星の体を包み込んだが全く熱くなかった。

それどころか淡い緑色の光へと変わり、彼のライフを回復させる。

 

「これで俺のライフは1650から4750になったぜ」

 

「マジかよ」

 

「そして戦闘で破壊された【氷の女王】の効果発動。

このカードが破壊され墓地に送られた時、墓地の魔法使い族が3体以上だった場合墓地から魔法カードを1枚手札に加えることが出来る。

俺は【グリモの魔導書】を加えるぜ」

 

今聖星の墓地に魔法使い族は【憑依装着-エリア】、【魔導書士バテル】、そして今戦闘破壊された【氷の女王】が加わる事で3体となる。

フィールドに黒色の歪みが現れそこから【グリモの魔導書】が現れる。

 

「くっそぉ……

俺の手札は0。

ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

聖星は自分が引いたカードに少しだけ驚く。

先程十代が零した通り彼の手札は0、そして聖星は3枚。

このカードを使えば手札は増えるがその分十代にも可能性を与える事になる。

 

「(ま、これは互いの運次第だな。)

俺は手札から【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【セフェルの魔導書】を選択して手札に加える。

そしてカードを2枚伏せ、【天よりの宝札】を発動。

互いに手札が6枚になるようドローする」

 

「お、ここで手札増強カードか。

ありがたいぜ」

 

【天よりの宝札】には空から金貨が舞い降り、それに歓喜する人々が描かれている。

そのイラストが示すよう互いの手札を潤す効果を持つ。

カードを伏せて手札を0にした聖星と元々0だった十代は同時に6枚引く。

 

「そして魔法カード、【撲滅の使徒】を発動」

 

「【撲滅の使徒】!?」

 

聖星が発動したカードの名前に十代は信じられないような表情を浮かべた。

それもそうだろう。

【撲滅の使徒】は場の伏せカードを破壊し除外する効果を持つ。

今十代の場に伏せカードは存在せず、伏せカードは聖星の場にある3枚のみ。

 

「それじゃあお前の伏せカードが破壊されるぜ!

何でそんなカード使うんだよ!?」

 

「これで良いんだ」

 

「え?」

 

怪訝そうな表情を浮かべていると聖星の1枚のカードが粉々に砕け散る。

砕けた破片は時空の歪みに吸い込まれたが、その歪みが2つに分断する。

 

「この瞬間、除外された伏せカード【エクシーズ・ディメンション・スプラッシュ】の効果発動」

 

「【エクシーズ・ディメンション・スプラッシュ】?」

 

「セットされた状態のこのカードが除外された時、デッキからレベル8・水属性のモンスターを2体特殊召喚する」

 

「レベル8を2体!??」

 

「俺は【氷の女王】2体を特殊召喚する!」

 

歪みの中から吹雪が吹き荒れ、再び女王が現れた。

絶対零度を纏う女王が2体も現れた事で彼女達を中心に【スカイスクレイパー】を氷漬けにしていく。

じわじわと侵蝕する氷に【フレイム・ウィングマン】は逃げるようビルの上まで飛び上がった。

 

「攻撃力2900のモンスターが2体なんてすげぇぜ聖星!!」

 

「なんていうカードなんすか……

っていうか兄貴、攻撃力2900のモンスターが2体っすよ!

に・た・い!

状況分かってるんすか!?」

 

攻撃力2900といえば、勝てるモンスターが限られてくる。

それこそ海馬瀬人の【青眼の白龍】にクロノス教諭が操る【古代の機械巨人】のように伝説級のモンスターだ。

翔やレッド寮の生徒からしてみれば2900という攻撃力は驚異的に見え、しかも2体並ぶ状況は絶望に近いだろう。

しかも十代の場には攻撃力2100の【フレイム・ウィングマン】と相手ターンでは発動できない【摩天楼-スカイスクレイパー-】のみ。

一体どうやってこの2体の攻撃を防ぐというのだと思ったが杞憂に終わる。

 

「盛り上がっているところ悪いけど、このカードで特殊召喚したモンスターは攻撃できないんだ」

 

「「へ?」」

 

苦笑を浮かべながら告げられた言葉に翔だけじゃなく十代までも素っ頓狂な声を上げてしまう。

折角攻撃力が高いモンスターを召喚したと言うのに攻撃できないとはどういう事だ。

確かに墓地から魔法カードを加える効果は【魔導書】に合うだろう。

だがどうも納得できない。

 

「聖星君、攻撃できないって……

だったら何でそんなカード入れたんすか!?」

 

「面白そうだから」

 

「はぁ?」

 

聖星はこのデュエルに本気をぶつけ、本気で楽しみたい。

そして相手を驚かせたり、呆れさせたり、笑わせたりして盛り上げたいのだ。

十代は【氷の女王】の出現に喜び、翔達は驚いた。

と思えば自分の言葉で表情が一変する。

一見理解できないような行動でもコンボを決め、楽しむことが出来るのなら喜んでしよう。

 

「さて、女王様がお見えになったんだ。

十代。

この【HERO】が活躍する場は女王様には不釣り合いだと思わないか?」

 

「っ!

まさか、聖星、お前っ!」

 

「俺は手札からフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を発動」

 

聖星のフィールド魔法カードゾーンが開き、そこに1枚の魔法カードが置かれる。

【スカイスクレイパー】は一瞬で姿を消して代わりに魔力が集まる塔が映し出される。

周りはヨーロッパ風の街並みがありその中心部に魔力を漂わせる1つの塔が高くそびえている。

 

「すげぇ~!

って、ここもそんなに似合わないぜ!?」

 

「【スカイスクレイパー】よりは似合うさ。

なんたってここは魔力の英知、【魔導書】が集まる場所だからな」

 

【魔導書院ラメイソン】は魔法使いを育てるための教育機関だ。

そしてその地下にはこのデッキを動かす【魔導書】が集められている書庫があるのだ。

 

「さらに俺は【氷の女王】1体を生贄に捧げ、【ブリザード・プリンセス】を召喚!」

 

片方の【氷の女王】は吹雪の中に消え、代わりに巨大な氷の球をつけているロッドを持つ少女が現れた。

彼女腰に手を当てて胸を張り、可愛らしい笑みを浮かべている。

 

 

「げ、生贄1体で攻撃力2800!?

そんなのありかよ!?」

 

「また可愛い子登場っす!!」

 

「【ブリザード・プリンセス】は魔法使い族モンスターを1体生贄に捧げる事で召喚することが出来る最上級モンスター。

可愛いからってなめてたら痛い目見るぜ」

 

本当はこれ以外にも効果はあるのだが、ここで使用する事は出来ない為また別の機会に披露しよう。

 

「俺は伏せてある【ヒュグロの魔導書】を発動。

このカードは魔法使い族モンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせる。

これで【ブリザード・プリンセス】の攻撃力を1000ポイントアップ」

 

「攻撃力3800!?」

 

「まだ終わらない。

さらに伏せカード、【セフェルの魔導書】を発動。

手札に存在する【トーラの魔導書】を見せる事で墓地の通常魔法の【魔導書】の効果をコピーする。

俺は【ヒュグロの魔導書】をコピーし、【ブリザード・プリンセス】の攻撃力をさらに1000ポイントアップさせる」

 

「すげぇ、攻撃力4800とかあの【青眼の究極龍】を超えた!!」

 

「行くぜ、【ブリザード・プリンセス】で【フレイム・ウィングマン】を攻撃!」

 

【ヒュグロの魔導書】の英知を受けた【ブリザード・プリンセス】は大きくロッドを掲げ、勢いよく振り回す。

鎖につながっている氷の球も遠心力で宙を舞う。

そして【フレイム・ウィングマン】にその球を叩きつけた。

腹部から受けた衝撃に【フレイム・ウィングマン】は吹き飛ばされる。

 

「くっ、【フレイム・ウィングマン】……!」

 

破壊によって生じる風を受けながら戦闘ダメージによりライフが2700削られ1300となる。

やっと十代のライフを削ることが出来、聖星は握り拳を作った。

 

「この瞬間、【ヒュグロの魔導書】の効果発動。

このカードで強化された魔法使い族が相手モンスターを破壊した時、デッキから【魔導書】を1枚手札に加える。

このターン【ブリザード・プリンセス】は2枚分の【ヒュグロの魔導書】の効果を受けた。

よって俺は【グリモの魔導書】と【トーラの魔導書】を加え、カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

聖星の場に戻ってきた【ブリザード・プリンセス】。

彼女の隣には【氷の女王】が微笑みながら十代を見ている。

攻撃力2800と2900のモンスター。

そして十代の場には1枚もカードは存在しない。

 

「……すげぇ」

 

傍から見ればこの状況は不利だろう。

だが十代は小声で呟いた。

 

「凄い、凄すぎだぜ。

やっぱり聖星ってすげぇな!

【ブラック・マジシャン】だけじゃなく色んな魔法使い族を操るんだ。

聖星が持つ魔法使いはまだまだいるんだろう?

どんな連中がいるのか見てみたいぜ!」

 

【ブラック・マジシャン】はその知名度から十代でも知っている。

だがそれ以外に聖星が使っているカードの殆どは十代が知らないカード。

見た事も聞いた事もないカードを操る対戦相手に体が熱くなる。

 

「見せてあげたいのは山々なんだけど、このデッキの魔法使い族は同名カードを除いたらもういないんだ」

 

「え?」

 

「だから他の魔法使い族と戦いたかったら、他のデッキでデュエルしないとな」

 

「くぅ~~!

絶対に全部のデッキとデュエルしてやるぜ!

俺のターン、ドロー!」

 

これで十代の手札は7枚。

【E・HERO】の攻撃力は低いがそれを【融合】によって補う。

これだけ手札があればこの状況を逆転する方法は数多くあるだろう。

十代はすぐに不敵に笑ってカードを発動させた。

 

「俺は墓地に存在する【ネクロダークマン】の効果発動!

こいつが墓地に存在する時【E・HERO】は生贄なしで召喚できる!

俺は【E・HEROエッジマン】を召喚!」

 

「はっ!」

 

十代の背後に闇属性の【HERO】が現れ、その姿が消えたと思ったら黄金のモンスターが召喚される。

逞しい肉体を見せつけながら【エッジマン】は2体のモンスターを見るが、このモンスターの攻撃力でも聖星のモンスターは破壊できない。

 

「装備魔法【エレメント・ソード】を発動!

【エッジマン】に【エレメント・ソード】を装備!」

 

【エッジマン】は自分の前に手を出すと1本のソードを握る。

どんな効果なのか気になるが、攻撃力が2600から上昇しないところを見ると攻撃力を上げるカードではないと考えられる。

 

「さらに俺は2枚目の【ミラクル・フュージョン】を発動!

墓地の【ネクロダークマン】と【ワイルドマン】を融合!

来い、【E・HEROネクロイド・シャーマン】!!」

 

墓地に存在する2体の【HERO】が半透明の姿で場に現れ、上空にできた黒い歪みへと吸い込まれる。

歪みから神秘的な光が差し込み、その中から歌舞伎を連想させる英雄が舞い降りる。

彼の攻撃力は1900で【ブリザード・プリンセス】にさえ届いていない。

だが……

 

「【ネクロイド・シャーマン】の効果発動!

このカードが特殊召喚に成功した時、相手モンスターを1体破壊する!

俺は【氷の女王】を破壊するぜ!」

 

【ネクロイド・シャーマン】が持っている杖の先端から光が放たれ、その熱によって【氷の女王】は溶けてしまう。

すると聖星の場に【魔導書士バテル】が攻撃表示で現れた。

 

「え、【バテル】!?

どうして!?」

 

「【ネクロイド・シャーマン】がモンスターを破壊した後、相手モンスターを墓地から特殊召喚するのさ」

 

成程、だから【バテル】が攻撃表示で特殊召喚されたのだ。

これでは攻撃力2600の【エッジマン】に攻撃された場合2100ポイントの大ダメージを受けてしまう。

いくら【ブリザード・プリンセス】がいるといえども2100は痛い。

そしてもう1つ、聖星は気になった事があった。

 

「なぁ十代。

破壊と蘇生は同時扱いか?」

 

「へ?

いや、確か違うはずだったぜ。

それがどうかしたか?」

 

「いや、ちょっと気になっただけさ」

 

破壊と蘇生が同じタイミングか別のタイミングかで変わってくる。

しかも破壊されたのは任意効果を持つ【氷の女王】。

【氷の女王】の墓地から魔法カードを回収する効果は任意効果で、しかも破壊された直後にしか発動できない。

破壊された後蘇生するという処理が入ってしまった以上、【氷の女王】の効果は発動できない事になる。

 

「(墓地から【天よりの宝札】を回収しようと思ったんだけどなぁ)」

 

「俺はカードを3枚セット!

そして手札が1枚の時、こいつは特殊召喚できる!

【E・HEROバブルマン】を攻撃表示で特殊召喚!」

 

先程の聖星のように一気にカードを伏せた十代はモンスターを特殊召喚する。

小柄のヒーローはマントを翻して【エッジマン】の隣に並んだ。

一気にモンスターが3体並んだ光景に聖星達は目を見開く。

先程まで聖星が優勢だったというのに、今はこのような状況だ。

だからデュエルは楽しい。

 

「さらにリバースカードオープン、【強欲な壺】を発動!

デッキからカードを2枚ドローする!」

 

伏せられた魔法カードが表となり、十代がカードをドローすると同時に破壊された。

手札に加わった2枚を見た瞬間彼の表情が変わる。

 

「来たぁああああ!」

 

「え?」

 

嬉しそうに手を上げ、飛び上がった十代。

彼の様子に聖星は自然と身構えた。

きっとこの状況にとって最高のカードを手に入れたのだろう。

 

「俺は手札から速攻魔法【バブル・シャッフル】を発動!

【E・HEROバブルマン】と相手フィールドのモンスターを守備表示にし、【E・HEROバブルマン】を生贄に捧げ手札から【E・HERO】を特殊召喚する!」

 

「え!?

そのカードを発動するって事は、もう1枚はモンスターカード……

まさか今のドローでサポートカードと一緒に引いたのか!?」

 

「あぁ!」

 

信じられない。

モンスターカードなら【増援】等のサーチカードをドローすれば手札に加えることが出来、まだ納得できる。

だが特殊召喚を可能にし、さらに【E・HEROバブルマン】だけのサポートカードを引くなど、一体どれほどの確率だというのだ。

十代のデッキの核が【バブルマン】なら話は別だが、明らかにそれは違う。

 

「俺は【ブリザード・プリンセス】を守備表示にするぜ!」

 

「っ……!」

 

十代の宣言に聖星は伏せカードを見た。

伏せカードは魔法使い族に魔法または罠カードの耐性をつける【トーラの魔導書】。

ここで【ブリザード・プリンセス】に魔法カードの耐性をつけるべきか、否か。

難しい選択に聖星は迷った。

 

「(どっちだ、どっちが良いんだ!?)」

 

自分のライフは4750.

聖星は考え抜き【ブリザード・プリンセス】を見た。

彼女も聖星を気にしていたようだが、聖星は宣言した。

 

「リバースカードオープン、速攻魔法【トーラの魔導書】を発動。

このカードは場の魔法使い族モンスターを1体選択し、そのモンスターに魔法または罠カードへの耐性をつける。

俺は【ブリザード・プリンセス】に魔法カードへの耐性をつける。

よって守備表示にはならない!」

 

「だが【バブルマン】は守備表示になるぜ!

俺は守備表示になった【バブルマン】を生贄に捧げ、【E・HEROプリズマー】を特殊召喚!」

 

特殊召喚されたのは水晶の肉体を持つ【E・HERO】。

表示された攻撃力は1700。

聖星はダイレクトアタックを受けても無事でいられる数値だろうと判断し安堵の息を零す。

 

「そして俺はリバースカードオープン、【H-ヒートハート】を発動!

俺の場のモンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる!

これで【エッジマン】の攻撃力は2600から3100だ!

行くぜ聖星!

【エッジマン】で【ブリザード・プリンセス】に攻撃!」

 

ソードを振り上げた【エッジマン】は【ブリザード・プリンセス】に向かって行く。

すると十代が【エレメント・ソード】の効果を説明した。

 

「【エレメント・ソード】を装備したモンスターが違う属性のモンスターとバトルする時、装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする!

【エッジマン】の攻撃力は3100から3900だ!!」

 

「なっ!?」

 

力がみなぎった【エッジマン】は問答無用で切りかかり【ブリザード・プリンセス】は破壊されてしまう。

聖星は1100のダメージを受けてしまいライフは3650になる。

 

「まだ終わらないぜ、聖星!

【ネクロイド・シャーマン】で【魔導書士バテル】に攻撃!

ダーク・シャドウ・ストライク!!」

 

「はぁっ!!」

 

攻撃力1900の【ネクロイド・シャーマン】の攻撃を、たった500の【バテル】が防ぐことが出来るわけもなく【バテル】は一瞬で破壊された。

これで1400のダメージを受けライフは2250.

 

「くっ!」

 

「【E・HEROプリズマー】でダイレクトアタック!!」

 

【プリズマー】は自分の両手を合わせゆっくりと力を集中させる。

そして聖星に向かってその力を放った。

様々な色に変化しながら向かってくる攻撃に聖星は目をつぶる。

 

「ぐぁっ!」

 

眩い光による攻撃でライフは550となった。

削り取られなかった事に安堵の息を吐く。

 

「ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

何とか生き残った聖星は改めて十代の場を見た。

攻撃力2600の【エッジマン】、1900の【ネクロイド・シャーマン】、1700の【プリズマー】。

そして伏せカードが1枚にライフは1300.

手札に存在する【魔導書】と墓地に存在する魔法使い族を見比べて小さく頷く。

 

「スタンバイフェイズ時、【魔導書院ラメイソン】の効果発動。

場、または墓地に魔法使い族モンスターが存在する時墓地の【魔導書】をデッキの1番下に戻すことでデッキからカードを1枚ドローする。

俺は【セフェルの魔導書】を選択する」

 

「ドロー効果つきのフィールド魔法か!」

 

「そう。

俺は手札から【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【セフェルの魔導書】をサーチし、【ネクロの魔導書】を発動する。

このカードは俺の墓地に存在する魔法使い族モンスターを1体除外し、手札の【魔導書】を見せる事で自分の墓地に存在する魔法使い族モンスターを1体攻撃表示で特殊召喚する。

俺は【魔導書士バテル】を除外し、【セフェルの魔導書】を見せて【ネクロの魔導書】を発動。

そして墓地から【ブリザード・プリンセス】を特殊召喚する!」

 

聖星が発動したカードは魔法使い族専門の【早すぎた埋葬】ともいえる装備魔法カード。

手札の情報公開と墓地の除外だけでモンスターを特殊召喚できるため、一応2枚入れている。

まぁ大抵は手札コストとして墓地にいたり、他のカードのサーチを優先するあまりデッキに眠ったりしているが。

 

「あれ、どうして【ブリザード・プリンセス】なんすか?

攻撃力なら【氷の女王】が上っすよ」

 

「【氷の女王】は墓地から特殊召喚できないんだ」

 

「そうなんすか?」

 

攻撃力2900に魔法使い族。

しかも墓地から魔法カードを回収できるという効果を持っているため、もし墓地から特殊召喚が出来たら大変な事になる。

【死者蘇生】で【氷の女王】を蘇生し、【氷の女王】が破壊されたら【死者蘇生】を手札に加え再び蘇生。

墓地から魔法カードを回収する効果が原因で禁止カードとなっている【混沌の黒魔術師】の事を考えると、彼女の蘇生制限は仕方がないか。

 

「(この時代じゃ【混沌の黒魔術師】がまだ禁止じゃないから、実感はわきにくいよな)」

 

等と聖星が考えると【ブリザード・プリンセス】はふん、と鼻を鳴らしている。

 

「さらに俺は手札から【セフェルの魔導書】を発動。

手札の【ヒュグロの魔導書】を見せ、墓地に存在する【ヒュグロの魔導書】の効果をコピーする。

これで【ブリザード・プリンセス】の攻撃力は1000ポイントアップし3800だ」

 

【ヒュグロの魔導書】の英知を授かった【ブリザード・プリンセス】は赤いオーラに包まれて攻撃力が急上昇する。

自分のモンスターの攻撃力をまた軽く超えた事に十代は輝く瞳で【ブリザード・プリンセス】を見る。

 

「行くぜ、十代」

 

「あぁ。

来い、聖星!」

 

十代の残りのライフは1300.

そして【E・HEROプリズマー】は1700で【ブリザード・プリンセス】の攻撃力は3800.

悔しそうに、けど全力でぶつかり楽しめたと表情で語っている十代まはっすぐ前を見据える。

 

「【ブリザード・プリンセス】で【E・HEROプリズマー】に攻撃!!」

 

「はぁっ!!」

 

【ブリザード・プリンセス】は攻撃力が上がる毎に大きくなった氷の球を振り回し、先ほどのように相手モンスターに叩き落す。

あまりの重さに【プリズマー】は一瞬で破壊され十代は何もせず、不敵な笑みを浮かべながらその光景を見守っていた。

破壊によって発する爆風が十代の体を襲ってライフを0まで削った。

 

「あちゃ~!

負けちまったぜ!

絶対勝てると思ったのに。

けどガッチャ、楽しいデュエルだったぜ、聖星!」

 

「あぁ。

俺も楽しかった」

 

ソリッドビジョンが消えたと同時に十代は決め台詞を言う。

その笑顔は見ていて気持ちいいほど晴れ晴れとしており、先ほどのデュエルが本当に楽しかったのだと物語っている。

対戦した聖星も満足できるデュエルができて気分が良かった。

 

「それにしてもさ、十代って凄いよな。

特に【バブル・シャッフル】の時。

まさか【バブルマン】を特殊召喚して手札が0枚なのに、【バブル・シャッフル】を引いたなんて吃驚したよ」

 

「そうか?

結構普通にあるぜ」

 

なぁ?と同意を求めるように十代は自分のデッキに視線を落とす。

そんな十代の様子に聖星は自然に笑みを浮かべた。

きっと彼は自分が組んだデッキを心の底から信頼している。

だからカード達も十代が勝利を掴めるよう力を貸したのだ。

それを証明するように【ハネクリボー】の精霊がデッキから現れ満面な笑みを浮かべる。

 

「クリクリ~」

 

「え?」

 

【ハネクリボー】が嬉しそうに鳴くと十代は顔を上げ、周りを見渡す。

十代の様子に聖星は微笑み【ハネクリボー】を見下ろした。

すると横から拍手が聞こえ、顔を向ければレッド寮寮長の大徳寺先生が笑っていた。

 

「実に良いデュエルだったにゃ。

でも皆さん、授業に遅刻するのだけは止めてほしいのにゃ」

 

「「遅刻?」」

 

大徳寺先生の言葉に2人だけでなく、観客だったレッド寮の生徒まで固まる。

そして聖星は自分の腕時計を見た。

時刻は授業開始10分前。

 

「やっべぇ―――!!」

 

「もうこんな時間!?」

 

「遅刻するっす―――!!!」

 

残り時間に聖星達は急いで筆記用具を持ち、授業がある教室へと向かった。

慌ただしく走り去っていく生徒達に対し大徳寺先生はただ笑っていた。

 

END

 




ここまで読んで頂きありがとうございます。

やっと十代とデュエルできました。
何度か見直して、手札の枚数等に失敗がないか確認しました…
最初確認した時は伏せカードと手札の枚数が噛み合わず頭を悩ませましたね。

余談ですが【ネクロイドシャーマン】を召喚したシーン、最初は【シャイニング・フレア・ウィングマン】でした。
それでvsカミューラじゃないのになんで出てるんだ!?と気づき、急きょ変更しました。
もし【シャイニング・フレア・ウィングマン】でしたら十代の勝利で終わっていました。

聖星が使った【エクシーズ・ディメンション・スプラッシュ】って便利なカードだと思います。
普通ならランク8のモンスターを呼ぶために使用されると思いますが、私は【黒の魔法神官】を特殊召喚するために使用しています。
【黒の魔法神官】って特殊召喚するためにレベル6以上の魔法使い族が2体も必要ですから、【氷の女王】、【ブリザード・プリンセス】等を簡単に呼べて重宝しますよ。

そして最後に。
【エリア】は【憑依装着】の中で1番かわいい!!
異論は認めます!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 特技披露

 

「え、翔がラブレターを?」

 

「あぁ。

それもクロノス教諭からだ」

 

「…………クロノス教諭ってショタコンだったんだ」

 

今日の授業も全て終わり、十代とのデュエルで使ったデッキを崩していた聖星は【星態龍】からの話に驚いた。

語った事は今日の体育の授業中、男子更衣室で置き去りだった【星態龍】が見た事である。

なんとあのオシリス・レッドを忌み嫌っているクロノス教諭が翔へラブレターを送ったそうだ。

意外すぎる事を聞かされた聖星は何とも言えない表情を浮かべて小さく頷く。

そういえば今日の授業で翔がフィールド魔法について聞かれ貶されていたが、あれはあれでクロノス教諭なりの愛情表現だったのだろうか。

 

「一応言っておくが、宛先人は十代で差出人は明日香という娘になっていたぞ」

 

「へ?」

 

今後クロノス教諭に気を使って翔との会話の機会を増やそうか。

そうすれば2人の仲が良くなって、いや、だが翔の気持ちも……

等と1人で考え込んでいた聖星は思わず振り返る。

 

「クロノス教諭が翔にラブレター。

だけどそれは差出人が明日香で宛先人は十代。

あ~…………」

 

「教え子を陥れようとしているようだな」

 

クロノス教諭は実技試験の時本気のデッキでデュエルしたにもかかわらず十代に敗北した。

そして今日、翔を貶していた時十代の言葉によって大恥をかいた。

つまりクロノス教諭が十代を嵌めようとする動機は十分にある。

 

「つまり十代の代わりに翔が罠に嵌る、って事か」

 

これは面倒な事を引き起こしてくれたものだ。

聖星は頭を掻きながらもその場から立ち上がり、翔達の部屋へと行く。

 

「十代、翔、隼人、いる?」

 

「お、聖星じゃないか。

どうした?」

 

「聖星君」

 

ノックしてから入れば3人が各々自由にしていた。

十代はデッキの編集で翔は椅子に座っており、最後の同居人である隼人はベッドで横になっている。

聖星は皆に軽く挨拶をしてまっすぐ翔へと向かった。

 

「翔、さっきから聞こうと思ったんだけどさ。

君、何か良い事あっただろ?」

 

「なっ、なっ、何言ってるんすか聖星君!!」

 

「面白いくらい動揺してくれたな。

で、何があったんだ?」

 

「なっ、何にもないっすよ!

うぎゃっ!」

 

翔と同じ目線まで屈んだ聖星は優しく微笑みながら言う。

だが翔は彼の口から放たれた言葉に大袈裟に両腕を振り回し、そして椅子から落下する。

尻餅をついた翔は痛い……と呟いて聖星を見上げる。

少し申し訳なさそうな気がするが大事な友人を護るためだ。

悪く思わないでくれよと心の中で思いながら首を傾げる。

 

「もしかしてラブレター?」

 

「ギクッ!!!」

 

「誰から?

どこで?

明日香?

更衣室??」

 

「っ!!

言わないっす、絶対に言わないっすよ!!」

 

次々と当てられていく事に翔は冷や汗を流して聖星には自分の心が読めるのではないかと疑った。

しかし素直に話すわけにはいかず、翔は聖星達から背中を向ける。

すると興味を持ったのか十代も参加してきた。

 

「何だ、翔。

お前、ラブレター貰ったのかよ?

見せてくれよ」

 

「絶対に嫌っす!」

 

「良いじゃねぇかよ、別に減るもんじゃねぇだろ」

 

背後には聖星。

隣には十代。

自分より体が大きい同級生からの質問に翔は断固として答えようとしない。

だがそんな態度はさらに好奇心を刺激させ余計に気になってしまうもの。

十代はデュエル時とは違う意味での不敵な笑みを浮かべ翔の名前を呼ぶ。

 

「しょ~お?」

 

「あ、兄貴には関係ないっす!!」

 

「確かに十代や俺には関係ないぜ。

でも立派な校則違反だし、一応確認しとかないとな」

 

「「え?」」

 

聖星が言った言葉に2人は同時に振り替える。

隼人もこちらを伺うように体を起こした。

 

「だってさ、翔は更衣室でラブレターを貰ったんだろう?

女生徒が男子更衣室に入ったって事になるし……

立派なセクハラだよ」

 

男子が女子更衣室に入ったらかなり大騒ぎになるのと同じように、逆パターンでもかなりの騒ぎになるのだ。

常識的に考えて学校側からなにかの処罰が与えられるだろう。

そう淡々と語ると翔の顔はみるみるうちに青くなる。

 

「え、じゃ、じゃあ明日香さんどうなっちゃうんすか!」

 

「とりあえず、まずは本人確認から始めないとな」

 

「え?」

 

ポカン、としている翔達を放っておき聖星は生徒手帳を取り出す。

そして明日香の生徒手帳へ通信した。

数秒間は通信音が聞こえたがすぐに繋がったのか目的の人物の顔が映る。

 

「こんにちは、明日香」

 

「聖星じゃない。

どうしたのよ?」

 

「なぁ、明日香。

ちょっと聞きにくいんだけど、君……

今日男子更衣室に入った?」

 

「なっ!?

何言ってるのよ、私がそんな事するわけないじゃない!」

 

心外だわ!と可愛い顔を真っ赤にしながら言ってくる彼女に聖星は頷く。

本当は知っているのだがこれは一応確認だ。

今すぐ切りそうな勢いの彼女を落ち着かせるため簡単に言う。

 

「翔宛てに明日香名義のラブレターがあったらしいんだ。

しかも受け取ったのは男子更衣室のロッカー」

 

「え?

私じゃないわよ」

 

「そんなぁ!?

だって、ここに明日香さんの名前が書いてあるっすよ!!」

 

電話越しの明日香の言葉を聞いた翔が悲痛な声を上げ、ラブレターを見せる。

確かにそこには今夜女子寮の裏に来てほしいという内容があった。

聖星が読み上げると明日香が難しい表情を浮かべている。

 

「……そこ、お風呂がある場所よ」

 

「あぁ……

つまり呼び出して覗きの容疑をかけようって事か」

 

「そうみたいね」

 

重苦しい声で言われた明日香の言葉に翔が青を通り越して白い顔になる。

ラブレターをもらって天にも昇るような気分で指定された場所に行ったのに覗き扱い。

そうなっていたかもしれない自分の未来を想像し眩暈がした。

 

「あと翔。

これ、十代宛て」

 

「えぇえ!??」

 

すでに精神的に疲れた翔に追い打ちをかけるのは悪い気がした。

しかし犯人を特定するためにはどうしても本当の宛先人をはっきりさせる必要がある。

彼らの会話を全て聞いた明日香はだいたい予想がついたのか深いため息をつく。

 

「……成程、クロノス教諭ね」

 

「俺もそう思う」

 

「へ?

どうしてここでクロノス教諭が出てくるんだ?」

 

「……十代、本気で言ってるのか?」

 

デュエルに関してはかなり頭の回転が速く、友人に恥をかかせた相手にきつい言葉を投げかける程の思考があるというのにどうしてこういう単純な事が分からない。

もしかすると十代は自分の事に関して無頓着なのだろうか。

若干信じられない目で友人を見たが、聖星はすぐに立ち上がって明日香に伝える。

 

「じゃあ明日香。

俺は今から証拠を集めるから、コンピューター室に来てくれないか?

あそこならスキャナーがあるだろう?」

 

「え、良いけど。

何をする気?」

 

「だから証拠集め」

 

「……ごめんなさい、貴方が何をしようとしているのか理解できないわ」

 

「来れば分かるって」

 

なんたって自分はあの不動遊星の息子なのだ。

コンピューターに関しては彼に直に教え込まれたため、例え時代遅れの設備でも立派な証拠を集めるのは簡単だ。

通信を切った聖星は輝く笑顔で振り返る。

 

「さ、十代達も行こうぜ。

俺の特技見せてあげるからさ」

 

**

 

すぐにコンピューター室に向かった聖星達。

そこには寮が近いという事もあり、すでに明日香が到着していた。

しかも何故か明日香と仲のいい枕田ジュンコと浜口ももえまで一緒にいた。

 

「あれ、一緒に来たのか?」

 

「当然よ!

もしかしたら私達が入浴している時に覗かれたかもしれないのよ!

犯人をとっ捕まえて校長の前に叩きだしてやるわ!」

 

「ジュンコさんと全く同意見ですわ」

 

話しを聞けば彼女達も明日香から事情を聞いているようだ。

いくら十代を嵌めるためとはいえ、関係ない自分達が巻き込まれるのだ。

女性として許せるはずもなくジュンコとももえの背後には炎が燃え上がっていた。

 

「一応言っておくけど、今から俺がする事は犯罪だぜ。

それに関して黙っておくことと口裏を合わせてくれる事。

この2つを約束してくれるのなら見ても良いけど」

 

「え?」

 

犯罪という言葉に明日香達は聖星から離れる。

一体何をする気!?と表情で語ってくる3人に素直に話した。

 

「スキャナーで手紙の文字をコンピューターに取り込んで筆跡を照合する。

その時、犯人かもしれない人の文字をアカデミア内の監視カメラの映像から拾うんだ」

 

「お前、そんな事できるのかよ?」

 

「やり方覚えたら簡単だぜ」

 

犯人を特定する方法に明日香や翔は引きつった表情を浮かべた。

しかしこれも犯人を捕まえ、校長の前に叩きだすためだ。

明日香達はすぐに頷き約束した。

 

「じゃあ、始めようか」

 

コンピューター室の奥にあるパソコンを選んだ聖星は椅子に腰を下ろす。

彼は準備運動とでも言うように指の関節を鳴らした。

十代達はそれを見守るよう、そして他の生徒にパソコンの画面を見られないように集まる。

 

「まずは手紙を取り来んで……」

 

スキャナーを起動させた聖星はすぐにラブレターを取り込み、データ化する。

完了したらその画面は放置し、別の画面に移る。

犯人の予想はだいたい検討がついているので探す映像はクロノス教諭の授業のもの。

アカデミアのセキュリティを任されている会社にばれないようハッキングし、映像を探す。

様々なファイルや年月が書かれている文章などが現れては消え、次々と変わっていく画面に十代達は感嘆する。

 

「すげぇ、何が何だかさっぱりわかんねぇ」

 

「……これ、本当にハッキングしてるんすよね?

逆探知とかされないっすよね、聖星君??」

 

「大丈夫。

俺を信じろって」

 

「……聖星、手慣れすぎだわ。

まさか他にも同じような事をしてきたの?」

 

「まぁ、友達が困っているときとか」

 

「あんた、デュエリストじゃなくてハッカーが天職なんじゃないの?」

 

「天才ハッカーだなんて危険な香りがして良いですわ~」

 

等と言葉を交わしている間に映像を見つけ、次は拡大の作業へと移った。

拡大すればするほど荒い画面になっていくが聖星はすぐに処理をして綺麗な映像へと変える。

そしてラブレターの文字と映像の文字を照合して結果が出た。

画面に表示されたのは100%の文字。

 

「完璧に適合。

犯人はクロノス教諭だ。

あ、念のために唇も一致するか調べようか?」

 

「え、えぇ」

 

この時間、僅か10分弱。

あまりにも日常からかけ離れた早業を見せられたため、余計に短時間で完了したかと錯覚してしまう。

聖星は背伸びをしたが、ラブレターについてあるキスマークを指差して尋ねる。

明日香が頷くと聖星は生き生きとした表情で再びパソコン画面に向かった。

 

**

 

それから数時間後。

ブルー女子寮の裏側にある湖に1つの影が映る。

ゆっくりと女子寮に近づくその陰は湖から上がり、門を閉めている鍵を壊す。

そして彼、クロノス教諭は持参しているカメラを持って茂みに身をひそめた。

 

「ふふっ、好都合なこト~ニ、ここは丁度女子寮の風呂場ナノ~ネ。

これでシニョール十代は……」

 

「十代がなんですって、クロノス教諭?」

 

「ハィイ!!?」

 

背後から聞こえた声にクロノス教諭はゆっくりと振り返る。

するとそこには明日香、ジュンコ、ももえの3人が立っていた。

 

「なっ、どうしてシニョーラー明日香達がココ~ニ!?」

 

「丸藤君達から偽のラブレターが送られてきたと教えてもらったのです。

それで犯人はきっと彼が嵌められる瞬間を見るためここに来るだろうと思い、張り込んでいました。

現行犯で捕まえた方が見苦しい言い訳を聞かなくてすむと思いまして」

 

「それにラブレターに書かれていた文字があまりにもクロノス教諭の文字に似ていました。

まさかとは思いましたが、クロノス教諭。

最っ低ですよ?」

 

「これは校長に報告します。

最悪懲戒免職ですわ~」

 

明らかに軽蔑を含んだ眼差しを向ける女生徒達3人にクロノス教諭は冷や汗を流す。

この場を誤魔化すため誤解だと叫びたいが、彼女達の有無を言わさない威圧感に上手く言葉が出てこない。

しかも校長に報告となると……

 

「(あ、私の人生終わったノ~ネ。)」

 

心の中でそう呟いたクロノス教諭は即行校長の前まで叩き出された。

そしてどのような処罰が下されるかと言うと。

女生徒達の痴漢行為は未然に防がれかつ意図的ではなく、ただ1人の生徒を陥れようとし、生徒の名前を語った悪質な悪戯だと判断され半年の間減給扱いになった。

いくらなんでも軽すぎるのでは、と明日香達3人が意見を出したのだがクロノス教諭が高い地位に存在する事、アカデミアの印象の関係もありこのような処罰になったという。

記述する必要はないと思うが暫くの間明日香達が彼を見る目は冷たかった。

 

END




ここまで読んで頂きありがとうございます。
クロノス教諭の口調が難し過ぎる…



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 踊り子と運命を司る魔女

 

デュエルアカデミアに入学し二週間程たった。

クロノス教諭の処罰も決まり、やっと普通の日常が戻ってきた。

格上の相手から挑まれたり、入学早々特技を披露したり……

本当に濃い日常だった。

 

「それでこれからも楽しく学園生活送りたかったのに、どうしてこうなったんだろう。

説明頼める、取巻?」

 

「オシリス・レッドの分際で気安く呼ぶな!!」

 

聖星の問いかけに取巻は怒鳴り返す。

別に怒鳴るような事はないだろうに。

そう思いながら目の前にいるオベリスク・ブルーの生徒達を見た。

 

「なんだ、取巻、お前変な奴に懐かれているな」

 

「懐かれてたまるかっ!」

 

「挨拶する程度の仲だぜ」

 

「お前は黙ってろ!」

 

さて、一体聖星達は何をしているかというと時を遡ること数分前。

聖星は入学初日にアンティデュエルをした取巻や万丈目達の姿を見かけたら声をかけるようにしている。

当然万丈目達は見下した態度で接し、怒鳴ってくる事もあるが、そんなのベクターの態度や策略に比べたらまだ可愛いし微笑ましい。

だから今日も珍しく1人でいる取巻に声をかけたが、何故か複数のブルー生徒に囲まれた。

最初は取巻に嵌められたと疑問に思ったが、彼も相当驚いていたためそれは違うようだ。

 

「取巻、お前は万丈目のところに行け。

俺らはそいつに用がある」

 

「何する気だ?」

 

「なぁに、ちょっとそいつの持っている【ブラック・マジシャン】を是非譲ってくれと頼もうと思ってな」

 

代表格ともいえる男子生徒の言葉に取巻が納得の表情を浮かべる。

聖星も納得しどうやって切り抜けようかと考えた。

まずいことにここは人通りが少ない。

誰かが通って助けてくれるという希望は持たないほうが良いか。

すると【星態龍】が尋ねてくる。

 

「聖星、こいつら燃やすか?」

 

「(頼むから口の中の炎しまって。

それにこれくらい余裕で切り抜けられるし。)」

 

別に複数の男に絡まれる事など初めてではない。

元の時代でも父が偉大すぎていちゃもんをつけてくる連中はいた。

そいつらを追い返したら変な方で噂になって、さらに絡まれるという面倒な事になった。

だからこのような状況は慣れっこである。

 

「早く行ったほうが良いぜ。

どうせ万丈目に飲み物買うように言われているんだろう?

本当、あいつ人使い荒いよな」

 

取巻には一切目をやらず、目の前にいる生徒達だけを見据える。

これは完全に自分の問題であり関係のない取巻まで巻き込むつもりはない。

それを聞いた取巻は一切迷わずその場から立ち去った。

 

「…………あいつある意味潔いな」

 

などと零すと男子生徒達が聖星を取り囲む。

数は5人であるが運動が得意そうな体格ではない。

冷静に考えながら周りを見渡す。

 

「さて、見逃して欲しければ【ブラック・マジシャン】をよこせ」

 

「オシリス・レッドにあのカードは勿体ないんだよ」

 

「俺達エリートが持つのにふさわしいぜ」

 

「勿論、あの【黒魔導の執行官】っていうカードも渡してもらうぜ」

 

次々から発せられる言葉に聖星ははっきりと言った。

 

「そんなの出来るわけないだろう」

 

そう言った瞬間、目の前に拳が迫ってくる。

だが聖星は特に慌てた様子もなく軽々とよけた。

空振りとなった男子生徒は転びそうになったが、すぐに気に入らなさそうに襲い掛かってくる。

それもあっさりとよけた。

 

「っ、オシリス・レッドの分際で!」

 

二度もよけられて頭に血が上ったのか、顔を真っ赤にしながら殴りかかってくる。

随分と短気だなと思いながらそれも避けた。

すると他の男子生徒も向かってくるのだがあまりにも遅すぎて欠伸がでる。

 

「くそっ、ちょこまかとっ!」

 

「(いや、皆の動き遅いし)」

 

彼等の見えきった拳など、遊星の拳に比べたら遅い。

それに彼等は拳しか使わず、足を使うという発想がないようだ。

父なら容赦なく拳を素早く叩き込み、避けられてもすぐに肘や足を使って攻撃する。

瞬時に複数の攻撃をする遊星に鍛えられているせいか、本当に彼等の動きが遅く見える。

 

「聖星、何故反撃しない?」

 

「(反撃したらこいつら俺に暴力を振るわれたって騒ぐだろう?

だから逃げるタイミング待ち)」

 

「私は反撃しても大丈夫だと思うが。

証人もいるようだしな」

 

「(え?)」

 

【星態龍】の言葉に怪訝そうな表情を浮かべると静かな声が響きわたった。

 

「そこまでだ」

 

初めて聞く声はとても静かだった。

しかし明らかに怒りを含んでいる。

その声に聞き覚えがあるのかブルー生達は一瞬で固まり、ゆっくりと振り返った。

彼らの視線の先には険しい表情の青年と明日香がいた。

 

「あ、丸藤先輩に明日香……」

 

友人と、ネットの写真でしか知らない上級生の登場に聖星は目を瞬きする。

現れた1人は丸藤亮といいデュエルアカデミアで無敗の帝王、カイザーと畏れられている青年だ。

カイザーは聖星に目もくれず同じブルーの生徒達に言う。

 

「随分と楽しんでいるようだな。

自分達が何をしているのか分かっているのか?」

 

「あ、えっと……

……そ、そのレッド寮のやつがいちゃもんをつけてきて!」

 

「見苦しいぞ。

彼が持つ【ブラック・マジシャン】欲しさに襲ったのだろう?

その時の会話はちゃんと聞かせてもらった」

 

どうやら一部始終見ていたようで、反論を許さないと言うかのようにカイザーは吐き捨てた。

軽蔑するようなカイザーの眼差しと言葉に男子生徒達は何も言えなくなり、顔を真っ青にしながら震えている。

 

「今回の事はクロノス教諭、鮫島校長に報告する。

分かったな」

 

クロノス教諭だけではなく鮫島校長の名前まで出てしまい彼等の表情が絶望に染まる。

見ているこっちが同情しそうになる程の表情に聖星は心の中で合掌した。

それからすぐに彼等は立ち去り、カイザーは振り返る。

 

「俺の後輩達が迷惑をかけたようだ。

すまない」

 

「大丈夫です。

助けていただき有り難うございます」

 

正直助けが入るとは思わなかったので、彼らの登場には驚いた。

しかもカイザーはこの学園一のデュエリストだ。

もし現れたのが彼でなければブルーの男子生徒達もこうあっさりと引き下がらなかっただろう。

 

「本当に吃驚したわ。

聖星、どこか怪我はしてない?」

 

「あぁ。

一発も受けてないから大丈夫。

心配させてごめんな?」

 

「どうして貴方が謝るのよ」

 

優しく微笑めば明日香は困ったように笑う。

釣られて聖星も笑みを浮かべカイザーに振り替える。

 

「それで、いつから見ていたのですか?」

 

「彼等が【ブラック・マジシャン】を渡せと言っていた辺りだ。

すぐに助けようと思ったのだが、君の運動神経に驚いてしまって……」

 

困ったように笑った明日香に対しカイザーは心の底から詫びるような顔だ。

別に助かったのだし、この場を鎮静化してくれたので感謝はするが怒りなど感じない。

そう伝えるとカイザーはやっと微笑んだ。

 

「そう言ってくれるとありがたい。

彼らの事は俺から校長達に伝えよう」

 

「ありがとうございます。

でも、あまり表沙汰には……」

 

「あぁ。

そうするつもりだ」

 

カイザーからの言葉に聖星は安堵の息をつく。

入学前から何かと目をつけられていたという自覚はあったが、まさかこんな目に遭うとは。

楽しい学園生活を送りたい聖星にとって今回の事が広まって尾鰭がつき、もっと面倒な事になのは勘弁してほしい事だ。

話がまとまったのを感じ取った明日香は聖星に声をかける。

 

「そうだわ、聖星。

貴方、少し時間空いているかしら?」

 

「え、空いてるけど。

どうかした?」

 

「私とデュエルしてちょうだい」

 

「え?」

 

「そうだな。

君の実力はオベリスク・ブルーに匹敵すると明日香から聞いている。

俺も【ブラック・マジシャン】使いである君のデュエルには興味がある」

 

「分かった。

よろしくな、明日香」

 

目の前で話し始めたオベリスク・ブルーの2人に聖星は微笑んだ。

明日香は同い年でも上級者相手に勝つほどのデュエリストである。

そんな彼女とはいつかデュエルがしたいと思っていたので願ってもない話だ。

デュエルをするために距離を置き、向き合った2人。

聖星と明日香は互いにデュエルディスクを構えた。

 

「あ。

それと、俺は【ブラック・マジシャン】使いじゃないから」

 

「え!?」

 

「そうなのか?」

 

明日香は傍から見ても分かるくらい驚いているが、カイザーは眉ひとつ動かさなかった。

しかし恐らく声色から驚いているのだろう。

もう慣れてしまった反応に聖星は特に気にしなかった。

 

「「デュエル!」」

 

「先攻は私がもらうわ、私のターン、ドロー!

【サイバー・チュチュ】を召喚。

カードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

フィールドが光り輝き、ソリッドビジョンによって1人の踊り子が現れる。

桃色の少女は可憐な舞を見せて明日香の前に立った。

その攻撃力は1000であるため、聖星はすぐに伏せカードに注目する。

恐らくあれは攻撃を妨害する、または攻撃力を変動させるカードだろう。

 

「俺のターン、ドロー。

俺は手札から永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動!

そして【グリモの魔導書】を発動する」

 

「デッキから【魔導書】をサーチするカードね」

 

実技試験のデュエルで使用されていたカードの効果を明日香はちゃんと覚えていたようだ。

明日香の言葉に聖星は微笑みながら頷きデッキを広げた。

するとソリッドビジョンで1冊の本が現れ、淡い紫色の光を放っていた書物は違う色へと変わった。

 

「【グリモの魔導書】はデッキから【魔導書】と名のつくカードを手札に加えることが出来る。

俺は【セフェルの魔導書】を選択して手札に加える」

 

加わったのは1人の魔導師が本から溢れ出る紫の光に包まれているカード。

このイラストにはとある物語が隠されており、初めて聞いた時は感動した。

いつかその物語に沿ったデッキを使ってみたいものだ。

 

「そして永続魔法【魔導書廊エトワール】の効果。

自分または相手が【魔導書】を発動した時、このカードに魔力カウンターを乗せる。

そして俺の場の魔法使い族は魔力カウンターの数×100ポイントアップ」

 

発動した【グリモの魔導書】は輝きを失ったと思ったら頭上まで浮かび上がり、1つの球体となる。

あれが魔力カウンターを示すものだろう。

 

「俺は【フォーチュンレディ・ライティー】を攻撃表示に召喚!」

 

「はあっ!」

 

「【フォーチュンレディ・ライティー】の攻撃力と守備力は彼女のレベル×200.

【ライティー】のレベルは1。

さらに【魔導書廊エトワール】の効果も加え攻撃力は300」

 

攻撃力が200と表示されたと思うと【ライティー】の周りに光が集まり、300へと上昇する。

説明された効果と表示された攻撃力に明日香は怪訝そうな表情を浮かべる。

明日香自身、【サイバー・チュチュ】の攻撃力は1000と低い自覚はある。

しかし聖星が使うモンスターはさらに低く、思わず尋ねてしまった。

 

「攻撃力300のモンスターを攻撃表示ですって?

舐めてるの??」

 

「まさか。

俺はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー!

私は【エトワール・サイバー】を召喚!」

 

カードを引いた明日香は2枚のカードを警戒するような表情を浮かべながら、モンスターを召喚する。

すると【サイバー・チュチュ】の隣に回転しながら両腕にリボンを巻き付けている踊り子が現れた。

攻撃力は1200とまた少し低いような気もするが明日香は声を張り上げた。

 

「行くわよ、【サイバー・チュチュ】で【フォーチュンレディ・ライティー】に攻撃!」

 

明日香からの攻撃宣言に【サイバー・チュチュ】は不敵な笑みを浮かべて走り出す。

このままバトルが成立すれば700ポイントのダメージを受けてしまうが、予測済みの聖星は静かに宣言する。

 

「罠発動、【亜空間転送物質】」

 

表側表示になった罠カード。

それには表現しがたい機械の装置が描かれている。

発動されたカードの名前に明日香とカイザーは思わず目を見開いてしまった。

 

「【亜空間物質転送装置】ですって!?

それは自分の場に存在するモンスターをエンドフェイズまで除外するカード。

今貴方の場には【フォーチュンレディ・ライティー】しかいないわ」

 

「このままでは彼の場にモンスターは存在しなくなり、【サイバー・チュイチュ】と【エトワール・サイバー】のダイレクトアタックを受けてしまう。

という事はもう1枚の伏せカードが鍵か……」

 

「いいえ。

これで良いんです」

 

「え?」

 

「何?」

 

焦りもなく返って来た言葉に明日香達は思わず声を漏らす。

もう1枚の伏せカードが鍵ではないと言うのなら、彼の狙いは……

すると【ライティー】は【チュチュ】に手を振って姿を消してしまった。

攻撃対象を失った【チュチュ】はその場に立ち止り、周りを見渡した。

 

「ゲームから除外された【ライティー】の効果発動。

このカードがカードの効果によって場から離れた時、デッキから【フォーチュンレディ】を1体特殊召喚できる。

現れろ、【フォーチュンレディ・アーシー】」

 

「はっ!」

 

「【フォーチュンレディ・アーシー】の効果。

このカードの攻撃力はこのカードのレベルの数×400。

【アーシー】のレベルは6。

よって攻撃力2400。

【魔導書廊エトワール】の効果も加えると2500になる」

 

「くっ……

それなら【サイバー・チュチュ】でダイレクトアタック!」

 

「え、ダイレクトアタックモンスター?」

 

「そうよ。

相手の場に【チュチュ】より攻撃力の高いモンスターしか存在しない時、【チュチュ】はダイレクトアタックが出来る!」

 

モンスターが特殊召喚されたとことで戦闘の巻き戻りが発生し、明日香は再び【サイバー・チュチュ】で攻撃宣言する。

攻撃力の高いモンスターを特殊召喚されたのでバトルフェイズを終了すると思ったが、まさかの効果に笑みを零した。

そんな彼に【チュチュ】は狙いを定めて勢いよく向かって行く。

 

「ヌーベル・ポアント!!」

 

「はぁっ!」

 

「くっ!」

 

回転した事で速度が上がった【チュチュ】の蹴りが聖星の懐にめり込む。

1000とはいえダイレクトアタックの衝撃に聖星はお腹を押さえる。

ライフは3000まで削られ、聖星は口元に笑みを浮かべながら呟いた。

 

「うわぁ、今の結構効いた」

 

「あら、この程度で音を上げるつもり?」

 

「まさか」

 

「そうこなくちゃね」

 

この学園指折りの実力者である彼女から誘われたデュエルだ。

互いに実力を見せきっていないのに終わらせるつもり等毛頭ない。

笑みを浮かべながら聖星が返すと明日香も不敵な笑みで返した。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

「このエンドフェイズ時、ゲームから除外されている【フォーチュンレディ・ライティー】が戻ってくる。

戻ってこい、【ライティー】」

 

除外ゾーンに繋がる扉が開かれ、中から【ライティー】が可愛らしい笑顔で帰ってきた。

【アーシー】と並んだ彼女は頑張るぞ!とやる気十分で構えた。

 

「さらに罠カード【強制脱出装置】を発動。

【ライティー】を俺の手札に戻す」

 

まさかのカードの効果に【ライティー】は勢いよく振り返り聖星を凝視した。

え、ちょっともう出番なし!??という声が聞こえた気がする。

しかしこれが彼女の売りなので恨まないで欲しい。

ゴメンと心の中で謝りながらディスクからカードを取り外す。

聖星がそんな事をしている間に明日香は難しい顔をした。

 

「また【ライティー】の効果を使うつもりね!」

 

「あぁ。

俺はデッキから【フォーチュンレディ・ウォーテリー】を特殊召喚」

 

「はぁっ!」

 

聖星が選択したのは青色の女性モンスター。

【ウォーテリー】のレベルは4で上昇値はレベルの数×300なので、攻撃力は1200である。

【魔導書廊エトワール】の効果で1300になり、明日香の全てのモンスターの攻撃力を上回った。

だが彼女の真価は別にある。

 

「【フォーチュンレディ・ウォーテリー】の効果発動。

このカードが特殊召喚に成功した時他に【フォーチュンレディ】が存在すればデッキからカードを2枚ドローする」

 

今、【ウォーテリー】の隣には【アーシー】が存在する。

よって聖星はドロー効果の条件を満たしているため、カードを2枚ドローする。

 

「……ねぇ。

もしかして貴方のデッキ、実技試験や取巻君のデュエルで使ったデッキと違うの?」

 

「え?

そうだけど。

どうかしたのか?」

 

「いいえ……」

 

実技試験と取巻とのデュエルでは闇属性の魔法使い族モンスターを使っていた。

しかし今聖星が使用しているデッキは明らかに特徴が違う。

見た事もないカードとのデュエルは楽しいが、やはり明日香としては【ブラック・マジシャン】のデッキと戦ってみたかったものだ。

 

「俺のターン、ドロー。

スタンバイフェイズ時、【フォーチュンレディ・ウォーテリー】、【アーシー】の効果発動。

彼女達のレベルを1つ上げる」

 

「レベルが?

という事は攻撃力も上昇するって事?」

 

「そういう事。

【ウォーテリー】のレベルは5、【アーシー】のレベルは7になる。

よって攻撃力は1500と2800だ。

そして【魔導書廊エトワール】の力を借り、1600と2900になる」

 

【ウォーテリー】と【アーシー】の周りに淡い光が溢れだし、聖星の言った通り攻撃力が上昇する。

自分のモンスターを超える攻撃力に明日香は険しい表情を浮かべた。

すると【アーシー】が杖を構えて明日香にむける。

一体なんだと思えば、杖から光が放たれた。

 

「っ!?

きゃっ!」

 

「【アーシー】のモンスター効果発動。

このカードのレベルが上がった時、相手プレイヤーに400ポイントのダメージを与える」

 

「そんな効果があったのね……」

 

これで明日香のライフは3600.

【アーシー】からの効果ダメージを受けた明日香からは少しだけ蒸気が上がっている。

たった400なのに、【魔導書廊エトワール】で強化されているから多少威力が上がっているのだろうか。

 

「俺は【フォーチュンレディ・ウォーテリー】を生贄に捧げ、【フォーチュンレディ・ダルキー】を生贄召喚」

 

「ふんっ」

 

青色の魔女が漆黒の霧の中に消え、その霧が晴れると紫色の魔女が杖を構えていた。

 

「【フォーチュンレディ・ダルキー】の攻撃力はレベルの数×400。

【ダルキー】のレベルは5。

攻撃力は2000」

 

「【魔導書廊エトワール】の効果も含め、2100ね」

 

「あぁ。

さらに俺は【セフェルの魔導書】を発動。

このカードは俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時発動できる。

手札に存在する【魔導書】と名のつく魔法カードを相手に見せる事で、墓地に存在する通常魔法の【魔導書】の効果をコピーする。

手札の【ネクロの魔導書】を見せ、俺は【グリモの魔導書】の効果をコピー。

何度も言うけど、【グリモの魔導書】はデッキから【魔導書】をサーチ出来る」

 

茶色と紫の魔女の間に濃い紫色の書物が現れ、はめ込まれている宝石から邪悪な闇が溢れだす。

その闇が本を包み込むと淡い光へと変わり【グリモの魔導書】となった。

【グリモの魔導書】は一瞬で赤色の書物へと変わってしまう。

 

「俺が加えるのは【ヒュグロの魔導書】だ」

 

「確か【ヒュグロの魔導書】は攻撃力を1000ポイント上げる効果だったわね」

 

「あぁ。

俺は【ヒュグロの魔導書】の効果発動。

【フォーチュンレディ・ダルキー】の攻撃力を1000ポイントアップ」

 

【ヒュグロの魔導書】がゆっくりと開き、【ダルキー】はそこに書かれている呪文を読みながら何度も頷いた。

 

「更にこのターン、俺は【セフェルの魔導書】と【ヒュグロの魔導書】を発動した事により【魔導書廊エトワール】に2つの魔力カウンターが乗る」

 

聖星の場に存在した【セフェルの魔導書】と【ヒュグロの魔導書】は魔力を失ったが、2つの光となり上空へと浮かび上がる。

これで魔力カウンターは3つとなり、魔法使い族モンスターは攻撃力が300ポイントアップする。

明日香は【ヒュグロの魔導書】と【魔導書廊エトワール】の英知を学んだ2体のモンスターの攻撃力を見て呟く。

 

「攻撃力3300と3100……」

 

「行くぜ、明日香。

【フォーチュンレディ・ダルキー】で【サイバー・チュチュ】に攻撃。

ダーク・フェイト」

 

「させないわ!

罠発動、【ホーリーライフバリア】!!」

 

「あ」

 

漲る力を放った【ダルキー】だが、明日香が発動した罠の効果により弾かれてしまう。

その光景を見た【アーシー】はどんまい、と言うように【ダルキー】の肩に手を置いた。

 

「手札を1枚墓地に捨てる事でこのターン、貴方からのダメージを0にするわ」

 

「確かそのカードってモンスターの破壊もダメなんだよな」

 

「えぇ、そうよ」

 

「うわぁ……

カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

【ヒュグロの魔導書】には魔法使い族モンスターの攻撃力上昇だけではなく、モンスターを戦闘で破壊した時デッキから【魔導書】を手札に加える効果も兼ね備えている。

後者の効果を使えないのは【魔導書】で動かすこのデッキでは痛い。

仕方なくカードを伏せてエンド宣言する。

 

「私のターン、ドロー」

 

明日香の場には攻撃力1200以下のモンスターが2体。

それに対し聖星は攻撃力2300以上のモンスターが2体。

普通のデュエリストなら逃げ腰になるが、明日香は怯む様子もなくカードを発動する。

 

「私は手札から【融合】を発動!

場の【エトワール・サイバー】と手札の【ブレード・スケーター】を融合!

融合召喚、【サイバー・ブレイダー】!」

 

【エトワール・サイバー】の隣に紫色の踊り子が鋭い舞で現れ、気の強い瞳で聖星を睨みつける。

すると彼女達の背後に光の歪みが現れ2体はそれに吸い込まれ、更なる力を手に入れた踊り子へとなり帰って来た。

【サイバー・ブレイダー】は力だけではなく品格まで上がったようで、先ほどの2体とは違う美しさを持つ。

 

「攻撃力2100かぁ」

 

「いいえ、違うわ」

 

「え?」

 

「【サイバー・ブレイダー】の効果発動。

相手モンスターが2体時、このモンスターの攻撃力は倍になるわ」

 

「倍!?」

 

「パ・ド・トロワ!」

 

勢いよく手を前に出した明日香は高らかに効果を発動する。

力が漲るのか【サイバー・ブレイダー】の周りにオーラが漂い攻撃力が4200となる。

 

「行くわよ。

【サイバー・ブレイダー】で【フォーチュンレディ・アーシー】を攻撃!

グリッサード・スラッシュ!!」

 

「はぁっ!!」

 

足を一歩引いた【サイバー・ブレイダー】は足に力を込め、一気に駆け出す。

フィールドを鋭く滑った彼女はそのまま回転し【アーシー】に渾身の一撃を放った。

戦闘で敗れた【アーシー】の体はガラスのように砕け散り、聖星のライフは1100削られ1900となる。

 

「さらに【サイバー・チュチュ】でダイレクトアタック!

ヌーベル・ポワント!」

 

「ぐぁっ!」

 

聖星の場に【チュチュ】より攻撃力の低いモンスターが存在しない為、【サイバー・チュチュ】は直接攻撃できる。

2度目の【チュチュ】の攻撃でライフはさらに1000削られて残り900である。

あっけないほどライフを削ることが出来、明日香は挑発するように言葉を投げかける。

 

「どうしたの。

取巻君を倒した時の貴方はもっと攻撃的だったわ。

まさかこれで終わりってわけじゃないわよね」

 

「いいや。

終わりじゃないぜ。

でも、これで俺の場にモンスターは1体。

攻撃力は2100に戻ってもらう」

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンドよ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

明日香の場には伏せカードが2枚に【サイバー・ブレイダー】と【サイバー・チュチュ】の2体。

それに対し自分の場には伏せカードが1枚に【魔導書廊エトワール】と【フォーチュンレディ・ダルキー】のみ。

 

「このスタンバイフェイズ、【フォーチュンレディ・ダルキー】の効果発動。

レベルを1つ上げる。

よって攻撃力は400ポイントアップし2700.」

 

【ダルキー】の周りに闇が漂い、彼女はさらに力を手に入れる。

厄介な【サイバー・ブレイダー】を破壊できる攻撃力だが、まずは手札を補充しなければならない。

 

「俺は手札から【ネクロの魔導書】を発動。

このカードは手札に存在する【魔導書】を見せ、墓地に存在する魔法使い族モンスターを1体除外する。

そして墓地に存在する別の魔法使い族モンスターを選択し、選択したモンスターを特殊召喚する。

俺は【ゲーテの魔導書】を見せ、【フォーチュンレディ・アーシー】を除外し、【フォーチュンレディ・ウォーテリー】を特殊召喚!」

 

「はっ!」

 

聖星の背後に歪みが現れ、そこに半透明の【アーシー】が吸い込まれていく。

と思えば【ウォーテリー】が歪みの中から現れ杖を構えた。

その攻撃力は3400。

 

「なっ、どうして攻撃力が3400なの!?」

 

「【ネクロの魔導書】の最後の効果さ。

このカードで特殊召喚したモンスターのレベルは、除外したモンスターのレベル分上昇する。

【アーシー】のレベルは6。

【ウォーテリー】のレベルは4から10となり、10×300で3000。

そして【魔導書廊エトワール】に乗っている魔力カウンターは【ネクロの魔導書】の発動を含めて4つ。

よって3400になったのさ」

 

「けど、貴方のモンスターが増えた事で【サイバー・ブレイダー】の攻撃力は4200に上昇するわ」

 

「分かってるって。

俺は【ウォーテリー】の効果により、デッキからカードを2枚ドロー」

 

ゆっくりとカードをドローする聖星。

確かに【サイバー・ブレイダー】の攻撃力上昇能力は厄介だが、モンスターの数を変えてしまえば良いだけ。

生憎今手札にモンスターは【フォーチュンレディ・ライティー】だけという悲惨な状況だ。

せめて【ライティー】を場から離すカードが来てくれればいいのだが……

 

「(モンスターが来ない……

やっぱりモンスターは【フォーチュンレディ】だけっていうのは無謀だったか?)」

 

だがまだ可能性はある。

聖星は別のカードを手に持ち、そのまま発動した。

 

「俺は魔法カード、【フォーチュンフューチャー】を発動。

ゲームから除外されている【フォーチュンレディ】を墓地に戻す事で、デッキからカードを2枚ドローする。

今除外ゾーンには【フォーチュンレディ・アーシー】が存在する。

彼女を墓地に戻し、2枚ドロー」

 

「なっ!

1ターンで4枚もドローですって!?」

 

【強欲な壺】、【天使の施し】を連続で使用してデッキからカードを大量に引く戦術なら驚きはしない。

しかしその方法では【天使の施し】の効果で手札を2枚捨ててしまうため、手札に残る枚数は少ない。

最高6枚ドロー出来る【天よりの宝札】でも自分と相手に恩恵を与えるカードだ。

それなのに聖星は手札を捨てる事も、明日香の手札を増やす事もなく自分だけの手札を増やした。

 

「成程。

一見【フォーチュンレディ】の攻撃力はレベルに左右され、しかも上昇値が低くいため使い辛く見える。

だが効果によるデッキからの特殊召喚とドローによりアドバンテージを稼ぐことが可能。

さらに【ネクロの魔導書】を使用すればレベルが大幅に上昇し高い攻撃力のモンスターを場に出す事が可能という事か」

 

折角召喚してもレベル4以下のモンスターの上昇値はとても低い。

だから相手ターンの間に戦闘で破壊されるのも珍しくない。

しかしカイザーの言うとおり、【ネクロの魔導書】を使用すればレベルを一気にあげ戦闘で破壊し辛くすることが可能である。

2人がそんな風に驚いている間、聖星はデッキからドローしたカードを見る。

そして小さく頷いた。

 

「俺は手札から【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【セフェルの魔導書】をサーチし、そのまま発動。

俺は【ゲーテの魔導書】を見せ、墓地に存在する【グリモの魔導書】の能力をコピー。

【アルマの魔導書】を手札に加える」

 

次々と発動されていく【魔導書】の流れに明日香は必死についていった。

1度でも彼のデュエルで発動されたカードなら大体の効果は分かるが、知らないカード名を言われると何を仕掛けてくるか予想がつかない。

だからどのタイミングで伏せカードを発動させようか考えた。

 

「手札から速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動。

このカードは墓地に存在する【魔導書】を任意の枚数除外する事で効果が変わる。

俺は【グリモの魔導書】、【セフェルの魔導書】、【ヒュグロの魔導書】を除外し相手の場に存在するカードを除外」

 

「私の場のカードを!?」

 

「ちなみに、このカードの効果は対象をとらない。

俺がどのカードを除外するか決めるのは、効果解決時だ。

これがどういう意味かわかるよな?」

 

つまり、今の段階では明日香の場から何が除外されるかわからないのだ。

聖星が静かに宣言すると墓地から3枚の【魔導書】が現れ、全ての【魔導書】が開かれる。

場に存在する【ウォーテリー】と【ダルキー】は同時に呪文を詠唱し始めた。

 

「っ、リバースカード、オープン!

速攻魔法【融合解除】!

【サイバー・ブレイダー】の融合を解除し、墓地に存在する【エトワール・サイバー】と【ブレード・スケーター】を守備表示で特殊召喚するわ!」

 

今、聖星が最も除外したいのは【サイバー・ブレイダー】だ。

1度除外されれば、そのカードを再び使用するのは難しい。

明日香は険しい表情をしてカードを発動し、【サイバー・ブレイダー】は【エトワール・サイバー】と【ブレード・スケーター】へと姿を変える。

彼女達はその場に膝をつき対戦相手を睨みつけた。

 

「それなら俺は明日香の伏せカードを除外」

 

「くっ……

【聖なるバリア-ミラー・フォース-】が……」

 

「さらに手札から【アルマの魔導書】を発動。

このカードはゲームから除外されている【魔導書】を1枚手札加える事が出来る。

俺は【ヒュグロの魔導書】を選択」

 

「攻撃力を1000ポイント上げるカードね」

 

「あぁ。

俺は【ヒュグロの魔導書】を発動。

【フォーチュンレディ・ウォーテリー】の攻撃力を1000ポイントアップ」

 

白い光を放つ書物は赤い輝きを放ち、【ウォーテリー】の攻撃力をさらに上昇させる。

 

「そしてこれで【魔導書廊エトワール】に乗っている魔力カウンターは9になった。

よって【ウォーテリー】の攻撃力は4900、【ダルキー】の攻撃力は3300」

 

「くっ……」

 

明日香は攻撃力4900の【ウォーテリー】と1000の【サイバー・チュチュ】を交互に見る。

いま彼女のライフは3600.

 

「【フォーチュンレディ・ウォーテリー】で【サイバー・チュチュ】に攻撃」

 

静かに放たれた言葉に明日香はゆっくりと顔を俯かせた。

カイザーはそんな彼女に目をやり、静かに聖星を見た。

【ウォーテリー】は実に綺麗な笑みを浮かべて【チュチュ】に狙いを定める。

彼女の笑みに【チュチュ】は思わず後ずさった。

 

「行け、【ウォーテリー】!!」

 

「はぁああ!!!」

 

聖星が声を張り上げながら宣言するとそれに応えるよう【ウォーテリー】も魔力を放った。

圧倒的な攻撃力に【チュチュ】は一瞬で破壊され、明日香もその魔力に包まれる。

 

「きゃぁああ!!!」

 

体を貫くほどの衝撃に明日香はその場に膝をつき、自分のライフを確認する。

1度ダメージを受けていたので、初期ライフに近い3900というダメージを受ければ0になるのは当然だ。

自分の敗北を改めて認めた明日香は小さく息を吐く。

そして顔を上げると聖星がゆっくりと駆け寄ってきた。

 

「明日香。

楽しいデュエルだった」

 

「えぇ。

私こそ良いデュエルをありがとう」

 

優しく微笑んだ聖星は手を差し出し、明日香は握って立ち上がる。

そして改めて思っていたことを口にした。

 

「本当。

以前のデュエルでも思ったけど、どうして貴方や十代程のデュエリストがオシリス・レッドなのかしら」

 

「あれ、明日香って十代とデュエルしたのか?」

 

「この間ね。

残念だけど負けたわ」

 

「俺も見たかったな、明日香と十代のデュエル。

十代、強かっただろ?」

 

「えぇ」

 

それからデュエルの詳細を聞くと、1度は【サイバー・ブレイダー】で追い詰めたのだが……

【E・HEROスパークマン】と【クレイマン】の融合で召喚される【サンダー・ジャイアント】の効果により逆転されたそうである。

自分とのデュエルでは出てこなかった【HERO】の名前に聖星は目を輝かせた。

 

「良いデュエルだった、明日香、聖星」

 

「亮……」

 

「ありがとうございます、丸藤先輩」

 

十代と明日香のデュエルについて話していると観戦していたカイザーが話しかけてくる。

終始真剣な顔で明日香とのデュエルを見守っていたカイザーは聖星に向き直る。

 

「【フォーチュンレディ】……

見た事のないカード達だ。

モンスターのステータスは低く、普通のデュエリストならその時点で使わないだろう。

だが君はモンスター効果、そして【魔導書】のサポートで見事使いこなしていた。

実に見事だ」

 

淡々と語りかけられる言葉に聖星は首を横に振りたかった。

確かにこの時代ではステータスを重視する傾向にある。

しかし聖星の時代のデュエルではステータスだけではなく、レベルや効果も重要になっていた。

そんな時代出身ゆえに、この時代の人達に比べ効果を重視する考えを持っている。

だから彼女達を使うデッキを構築できたのだ。

しかしカイザーは心の底からそう思っているようで、聖星は嬉しそうに微笑んだ。

 

「カイザー先輩にそこまで言ってもらえるなんて……

とても光栄です」

 

「俺もいつかは君とデュエルをしてみたいものだ」

 

勿論、君の全力でのデッキで。

 

「……え?」

 

微かに聞き取れた言葉に聖星は思わずカイザーを見上げる。

カイザーは一瞬だけ不敵な笑みを浮かべ、すぐに背中を向ける。

と思えば軽く別れの言葉を言い歩き始めた。

その彼の後を追うよう明日香も聖星に別れの挨拶をする。

 

「それじゃあ聖星。

私も行くわね」

 

「あぁ、また授業で」

 

「えぇ」

 

次は負けないわよ、と気の強いお言葉まで頂いてしまった。

負けず嫌いな女王様と鋭い帝王の後姿を聖星はただ眺めるだけだった。

そんな彼の隣に【星態龍】が姿を現し、首に絡みつきながら言葉を放つ。

 

「真剣に考えたとはいえ……

あれが遊びで組んだデッキだと、あの男は気付いていたようだな」

 

「あぁ。

観察力凄い……」

 

2人の姿が完全に見えなくなり、本当に聖星達だけになった。

聖星は自分のデッキを広げて共に戦ってくれたモンスター達を見る。

 

「(俺の全力のデッキ、かぁ……)」

 

確かに聖星は本気になってこのデッキを組んだ。

カード達と真剣に向かい合い、どんなカードを入れるべきか、抜くべきか沢山考えた。

だがこのデッキは聖星の全力とは程遠いものである。

彼の全力というのは【魔導書】の中でも最も凶悪なあのカードを使用する事を意味する。

 

「【星態龍】」

 

「何だ?」

 

「あのカードを使っても、デュエルって楽しめると思う?」

 

「遊馬達とは楽しめただろう」

 

「遊馬とアストラルはゼアルになってカードを創造できるし、【ホープ】の攻撃力は軽く1万越えるから張り合えた」

 

自分の思い通りにカードを創造できると初めて聞いた時は、状況が状況だったから心強かったが……

対戦相手としてデュエルした時にやっとあのチートさを認識した。

 

「お前の目で確かめろ」

 

「え?」

 

「あの男のデュエルを見て、あのカードを使用しても相応しいと思えたのなら使えば良い」

 

全力を望む相手に、全力でぶつかっていいのか。

その結果、何が待ち構えているのか分からない。

遊馬達のように笑って、対等に楽しむことが出来るのか。

それともクラスメイト達のように恐れおののき、つまらないと吐き捨てるか。

彼がどちら側なのかデュエルを見て確かめればいい。

デュエルとはその人の心を映す素敵なゲームなのだから。

【星態龍】の言葉に聖星は微笑んだ。

 

END




こんばんは。
今回は魔導フォーチュンデッキを使用しました。
何故このデッキにしたかというと、女の子モンスターvs女の子モンスターを書きたかったからです。

全員出したかったのに、出すことができませんでした…
ごめん、ファイリー、ウインディー。


それと活動報告にアンケートのようなものを設置しました。
内容は、オリ主をもう1人増やすか、増やさないかです。
ご協力をお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 一時休戦はトリガーである

こんにちは。
今回のお話は漫画版のキャラクターが出てきます。
と言っても出番は今回だけですが(笑)


「手札から魔法カード【ミラクル・フュージョン】を発動!」

 

「あ」

 

オシリス・レッド寮の前でデュエルしている聖星と十代。

あの日以降、1日に最低1回は十代にデュエルをしようと誘われデュエルをする日々が続いている。

十代は日によって変わる聖星のデッキと戦うのが楽しくて仕方なく、また、聖星もどんなピンチでも脅威のドロー力で逆転のチャンスを掴む十代とのデュエルが楽しくて仕方がない。

見た事もない魔法使い族。

驚異のドロー運。

逆転されるか、されないか。

スリルのあるデュエルに2人は夢中なのだ。

 

「墓地の【クレイマン】と【スパークマン】を融合し、【E・HEROサンダー・ジャイアント】を融合召喚!」

 

「はぁ!」

 

「【サンダー・ジャイント】の効果発動!

手札を1枚捨てる事で、このカードの攻撃力より元々の攻撃力が低いモンスターを破壊する!」

 

「俺の場には攻撃力3600の【魔導戦士フォルス】……

元々の攻撃力は1500」

 

「【サンダー・ジャインアト】の攻撃力は2400だ。

行くぜ【サンダー・ジャイアント】、ヴェイパー・スパーク!!」

 

十代の場に融合召喚された【サンダー・ジャイアント】の体から電気が発せられ、それは【フォルス】に向かって行く。

相手モンスターからの電撃に【フォルス】は悲痛な悲鳴を上げて砕け散った。

これで聖星の場には【魔導書廊エトワール】と【魔導書院ラメイソン】しか存在しない。

 

「【サンダー・ジャイアント】で聖星にダイレクトアタック!

ボルティック・サンダー!!!」

 

「うぁあああっ!!!」

 

【フォルス】を破壊した電撃がそのままの勢いで聖星を襲い、彼のライフを削り切る。

勝負がついた事でソリッドビジョンはゆっくりと消え去り互いにデュエルディスクの電源を切る。

 

「あぁあ。

今日は俺の負けか」

 

「へへん。

やっと白星更新したぜ!」

 

毎日デュエルしている2人の勝敗は凄まじい事になっており、今のところ聖星は54戦中29勝25敗である。

僅かな差で負け越している十代はその差が縮まった事に喜んでいた。

 

「本当、十代って強いよなぁ。

どんなにピンチになっても逆転のカードを引くし。

これがドロー運って奴か?」

 

「へへん、運も実力のうちさ」

 

「違いない」

 

「それで、今日はどんなデッキだったんだ?」

 

「今日は【魔導】と名のつく下級の魔法使い族モンスターだけのデッキだ」

 

「そういや、1体も上級モンスターが出なかったな」

 

聖星が召喚したのは有名どころでいえば【魔導戦士ブレイカー】。

他には【魔導剣士シャリオ】と【魔導戦士フォルス】、【魔導弓士ラムール】等を使っていた。

【魔導書】を発動して【魔導老士エアミット】と【フォルス】の攻撃力を大幅にあげ、殴るという実に単純な構築だ。

 

「(次はどんなデッキを作ろうかなぁ。

偶には別の種族を混ぜた【魔導書】も面白そうだよなぁ。)」

 

【魔導書】は魔法使い族モンスターのサポートカードが豊富なため自然と魔法使い族モンスターばかりになってしまう。

だがサポートとしてなら別の種族を入れても良いだろう。

新しいデッキ構築を考えながら聖星は十代と楽しそうに笑いあいながら食堂に向かう。

 

「あ、聖星君、聖星君。

丁度いいところに居たんだにゃ」

 

「あ、大徳寺先生」

 

「俺に何か用ですか?」

 

扉を開けて中に入れば、寮長の大徳寺先生が聖星を手招きする。

彼の膝上ではファラオが気持ちよさそうに眠っている。

椅子に座るよう促され、素直に座った2人は大徳寺を見る。

 

「聖星君と十代君は龍牙先生の事をご存じかにゃ?」

 

「龍牙?」

 

「教育実習の先生ですよね」

 

「そうですにゃ」

 

自分達が入学してから数日後、このアカデミアに実習生としてやってきた男性。

聖星と十代も何度か彼が教鞭を執っている授業に出た事もある。

 

「このデュエルアカデミアの教師の採用基準の1つに生徒と50回デュエルをするというものがありますにゃ。

それで龍牙先生が聖星君を対戦相手に指名してきたんですにゃ~」

 

「え?」

 

「マジかよ!?

すげぇじゃねぇか、聖星!

教育実習の先生に指名されるなんてさ!」

 

聖星はいまいち事情が呑み込めていないのか、首を傾げてきょとんとしている。

それに対し十代は自分の事のように興奮して聖星を大きく揺らした。

はっきりと反応に違いがある教え子に大徳寺先生は微笑んで言う。

 

「日時は明日の放課後にゃ。

聖星君、相手は連勝中のデュエリスト。

頼んだにゃ」

 

「あ、分かりました」

 

**

 

同時刻、アカデミア内のとある実技教室。

そこには2人の人間が対峙していた。

1人は万丈目と共に行動している取巻太陽。

もう1人は教育実習生としてアカデミアに来ている龍牙。

龍牙の場には巨大な恐竜のモンスターがおり、それに対し取巻の場にはほとんどカードがない。

 

「(そんな、何でだ……)」

 

「私のターン、ドロー」

 

静かに発せられた龍牙の言葉に取巻は顔を上げる。

彼の顔色は悪く、頬に冷や汗が伝っている。

明らかに動揺している様子で普通なら対戦相手も気にかけるはずだ。

しかし龍牙はそんな事など知るか、とでも言うように淡々とデュエルを続ける。

 

「(くそっ!

何で魔法カードが使えないんだよ!??)」

 

「【サイバー・ダイナソー】でダイレクトアタック」

 

「っ!!!」

 

容赦なく宣言された言葉に取巻はフィールドのモンスターを見上げる。

自分達より数倍の大きさを誇るモンスターは、その姿に違わず荒々しく突進してくる。

その攻撃力は自分のライフをはるかに上回り、モンスターが自分に凶暴な牙を向けた瞬間彼は大きく顔を歪めた。

 

**

 

「全く、何で教室に教科書一式忘れるんだよ」

 

「わりぃ、わりぃ」

 

「はぁ、僕も呆れちゃうっすよ」

 

今日の授業が終わり、さて皆で課題をしようと聖星が言い出した時だ。

十代が教室に教科書と筆記用具を忘れてしまったのだ。

よくあれほどの荷物を忘れる事が出来ると別の意味で感心しながら聖星達は廊下を歩く。

 

「ふざけるなよっ!」

 

「ん?」

 

「何だ?」

 

不意に前から聞こえた怒鳴り声。

しかもあの声は自分達が知っている人物のものだ。

3人は怪訝そうな表情を浮かべながらも好奇心が勝ったのか忍び足で様子を伺う。

 

「君もしつこいね。

悪いが私は会議に出席しなければいけないんだ。

用があるのなら後日にしてくれないか」

 

「そんな事言って逃げるつもりかっ!?」

 

「おい、あれって……」

 

「オベリスク・ブルーの取巻と龍牙先生だ」

 

「何であんなに揉めてるんすかね?」

 

廊下の前にいるのは万丈目と共に行動している取巻と、明日聖星とデュエルする予定である龍牙先生だ。

取巻は顔を真っ赤にしながら龍牙先生に噛みつき、それを龍牙先生は鬱陶しそうにしている。

取巻はエリート気取りで、自分より格下の相手を見下す事はあるが目上の相手にたてつくような人物ではない。

その彼が教育実習生とはいえ先生に対し激しい態度でつっかかるのは珍しいとしか言いようがなかった。

 

「これ以上は時間の無駄だ。

早く寮に帰りたまえ」

 

「俺のカードを奪っておいて何を言っている!!」

 

取巻の言葉に聖星達は大きく目を見開き自分の耳を疑った。

すると十代の表情が一変して出て行こうしたが、それを察した聖星が十代の腹に一撃放つ。

痛みのあまり言葉を失った十代は地に伏せ、翔は聖星から3歩ほど離れた。

 

「奪うだなんて野蛮な言葉を言うね。

私はただ譲ってもらった。

それだけだ」

 

「俺は一言も譲るなんて言ってない!!」

 

「どういう事だ、取巻」

 

「っ!

お前ら……」

 

「おや……」

 

熱くなりすぎて言葉が乱暴な取巻に声をかけた聖星はゆっくりと彼の隣まで歩み寄る。

龍牙先生は聖星、そして地に伏せている十代と翔に目をやる。

聖星は微笑みながら龍牙先生に軽く頭を下げて尋ねる。

 

「取巻。

今の話、本当か?」

 

「なっ!

お前なんかには関係ないだろっ!」

 

「関係あるって。

だって俺は明日、龍牙先生とデュエルするんだからな」

 

それでも関係ない、と自分のプライドのために叫ぼうとしたが先に龍牙先生が口を開く。

 

「明日……

ほほう、それなら君があの【ブラック・マジシャン】使いの不動聖星君か」

 

興味深そうにじろじろ見てくる彼に対して聖星は心の中で呟いた。

あぁ、この先生も誤解している人間か、と。

彼の口から放たれた言葉に聖星は苦笑を浮かべたかったが、内容が内容だ。

すぐに笑みを消して真剣な眼差しで尋ねる。

 

「それで龍牙先生。

取巻君からカードを奪ったという話は本当ですか?」

 

「先程の話を聞いていたのかい?

それは取巻君の言いがかりさ。

私はカードコレクターでね。

レアカードには目がなく、彼が私の持っていないカードを持っていたから譲ってもらっただけだ。

ただ名残惜しいのか……

このように返せと言ってくるのだよ」

 

「ふざけるなよ、あんたっ……!!」

 

白々しく言葉を並べる龍牙先生と、さらに顔を真っ赤にする取巻。

深くまで取巻の事を知っているわけではないが、先ほども記述した通り彼は基本的に目上には逆らわない。

それなのに逆らっているという事は取巻の言葉が真実と考えるのが普通だろう。

冷静に判断しながら聖星は龍牙先生を睨みつける。

 

「大変失礼ですが、取巻君は目上の方に対して礼儀正しい人です。

その彼がここまでするなんて、彼の言っている事が本当としか思えません」

 

「……お前」

 

慎重に言葉を放つ聖星に、取巻は信じられないような目を向けた。

確かに自分が言っている事は事実だが、会うたびに嫌悪感を示し、そしてこの間は見捨てた自分の言葉を信じるとは思わなかったのだ。

そんな聖星に対し、龍牙先生は話にならないとでも言うように肩をすくめる。

 

「そういえば不動君。

実は君が持っている【ブラック・マジシャン】のカードなんだが、私に譲ってもらえないか?」

 

「は?」

 

「先ほども言った通り私はカードコレクターだ。

それに君はオシリス・レッド。

もしここでカードを譲ってくれれば、君の成績を多少多めに見てあげよう」

 

【ブラック・マジシャン】はあの伝説のデュエリスト、武藤遊戯の代名詞ともいえる魔法使い族。

元々レアカードだったが、デュエルキングが使用していたという理由でさらに高騰してしまい、持っているだけでかなりのステータスになる。

カードコレクターならまさに喉から手が出る程欲しいカードだろう。

紳士的に振る舞っているが下心が隠れていない瞳に聖星は微笑みながら断言した。

 

「お断りします」

 

「不動君。

今私はこう言ったはずだ。

来年、君の成績を大目に見てあげると。

オシリス・レッドである君にとっても損な話じゃないだろう?」

 

オシリス・レッドは成績がギリギリラインの生徒達を集めたもの。

だから聖星の成績もかなり下だと思い、このように言うのだろう。

生徒からカードを奪い、さらには成績に対して甘くする代わりに自分が所持しているカードまで寄越せと言ってくるとは。

勝手に勘違いして自分の最低な人格を披露している事に気付いていないのだろうか。

怒りと同時に呆れもしたが、次の言葉でその感情は吹っ飛んだ。

 

「あぁ、【ブラック・マジシャン】だけではなく【魔導書】シリーズも譲ってほしいものだ」

 

「っ!!」

 

瞬間、龍牙先生の胸ぐらを掴み彼を壁に叩きつけた。

力いっぱい叩きつけたため、激しい音と苦しそうな声、驚く十代達の声が響いた。

しかしそんなもの今の聖星には関係ない。

聖星は苦しそうに顔が歪む龍牙先生を見上げ、低い声でゆっくりと言う。

 

「いい加減にしろよ、あんた。

【魔導書】をよこせ?

誰が貴様のような下衆にあいつらを渡すかよ」

 

あのカード達は聖星にとってとても思い入れが強い存在だ。

聖星は1年以上前、右も左もわからない異世界へと飛ばされた。

両親も、友人もいない。

デッキもない。

【星態龍】以外何もなかったあの世界がどれほど恐怖だったか。

だが【魔導書】のデッキを手にした事でシャーク、璃緒、遊馬、小鳥、カイト達と繋がりを持てた。

何も分からなかった自分を導いてくれたのだ。

そんな大事なカードをこんな奴が軽々しく譲れと言うなど、耐えられるわけがない。

聖星のそんな過去を知らない十代達はすぐに2人を引きはがす。

 

「落ち着けって、聖星!」

 

「聖星君、いくらなんでもこれは不味いよ!」

 

十代が聖星の腕をつかみ、翔が龍牙先生と聖星の間に入る。

2人の言葉にゆっくりと冷静を取り戻したが、それでもこの怒りは治まらない。

 

「ケホッ……

いい加減にしろよ、レッド如きのガキが……

こんな事をしてどうなるか分かっているのか?」

 

未だに咳き込んでいる龍牙は聖星を睨みつける。

まさかいきなりこんな事をしてくるとは思わず、一瞬だが本当に呼吸が止まってしまった。

せっかく自分が正式に教師になったら成績を大目に見てやろうというのに、暴行を加えるとは。

 

「随分と面白い事になっているようだな」

 

「ん?」

 

「あ、万丈目さん!」

 

振り返れば不敵な笑みを浮かべている万丈目が立っていた。

彼はいつものように極悪な笑みを浮かべながら聖星と龍牙先生の前に立つ。

 

「事情が事情です。

龍牙先生、聖星、すぐに校長室に行きませんか?」

 

**

 

「(アバババ、大変な事になってしまったノ~ネ!)」

 

万丈目の言葉に素直に従い、校長室には龍牙先生、聖星、取巻、クロノス教諭。

そして真剣な表情を浮かべた鮫島校長がいた。

聖星達が突然訪れたと思えばまさかの暴行、カードの強奪等の問題を話されてしまい、驚きを隠しきれなかった。

 

「成程、事情は分かりました。

龍牙君。

君は取巻君のいう事は言いがかりだと言うのですね?」

 

「はい。

私は取巻君ときちんと話をつけてカードを譲ってもらいました」

 

「っ!!」

 

校長の目の前でも白を切るつもりの龍牙先生を取巻は強く睨みつけた。

あまりにも剣幕な表情に鮫島校長とクロノス教諭は思わず龍牙先生を見た。

 

「です~が、シニョール取巻は嘘を言わない生徒でス~ノ。

それはオベリスク・ブルー寮長である私が保障しマ~ス」

 

クロノス教諭だって仮にも教師である。

十代のような気に入らない生徒を陥れようとしたことはあっても、生徒を愛し、生徒を信じる面を持つ。

しかも自分が自信を持って育ててきたブルーの生徒が被害に遭ったと叫んでいるのだ。

自然と厳しい眼差しを向けてしまうが龍牙先生は涼しい顔である。

 

「百歩譲って私が取巻君からカードを無理矢理奪ったとしましょう。

それを証明する方法はありますか?」

 

「………………」

 

龍牙先生の言葉に黙り込む校長。

確かに彼の部屋から取巻のカードが出てきても、譲ってもらったと主張している限り奪われたものだと証明するのが難しい。

取巻もそれが分かっているのか悔しそうに顔を歪める。

 

「それでは、不動君。

君への処罰ですが……」

 

「……はい」

 

事情が事情とはいえ、暴行を加えたのは事実。

退学になってしまう可能性はある。

 

「君には龍牙君とデュエルを行って頂きます」

 

「へ?」

 

「こ、校長!?

何故こんなオシリス・レッドと私が!」

 

「本来なら不動君は退学処分です。

しかし、君が龍牙君に暴力を振るったのは友人を傷つけられ、さらには君の命と言えるカード達を譲ってほしいと言われたため。

デュエリストとしては理解できます。

ですから救済措置として彼とデュエルして頂きます。

勝てば反省文20枚、負ければ退学処分となります。

よろしいですね?」

 

2人に確認はするが、異論は認めないと目で言っている鮫島校長。

彼の言葉に聖星は微笑み小さく頷いた。

 

**

 

「聖星!」

 

「聖星君!」

 

「十代、翔」

 

校長室から解放され、レッド寮に戻った聖星。

部屋の前には十代と翔が心配そうな表情で立っており、すぐに駆け寄ってくる。

相当心配させたようで2人の顔色はとても悪く、翔なんて真っ青だ。

自分の事でもないのにここまで心配してくれるとは何だか少し照れくさい。

 

「大丈夫かよ、お前」

 

「聖星君、一体どうなっちゃうんすか?」

 

「明日、予定通り龍牙先生とデュエルする」

 

「「デュエル??」」

 

「制裁デュエルをするって事さ。

もし負けたら退学。

勝てば残れる」

 

実に話しの分かる校長で良かった。

しかし聖星がする事は何1つ変わらない。

ただ目的が変更しただけ。

すると懐に仕舞っている生徒手帳が震え始め、聖星はすぐに取り出した。

 

「あ、メール」

 

「誰からだ?」

 

「取巻から」

 

「へ?」

 

これは何とも意外な人物からのメールだろうか。

先程の事に関するメールだというのはすぐにわかり、聖星は早速開いた。

 

『あんな事してお前バカだろう?

理由が理由でも暴力振るうってのはバカのする事だ

我慢って言葉を知らないのか?

とうぶんの間、お前は不良って言われるだろうな。

うっとうしいお前にはお似合いだぜ!』

 

挨拶も何もない侮辱のメールの内容に、聖星のメール画面を覗き込んでいる十代と翔は眉間に皺を寄せた。

何だこの内容は。

聖星は取巻の事を信じ、龍牙先生に意見を言い、このような問題まで起こしてしまったのだ。

切っ掛けを作ってしまった本人として他に書く事があるだろう。

 

「我慢を知らない?

デュエリストが自分のカードの事で怒って何が悪いんだよ!」

 

「……僕、やっぱり彼らの事好きになれないっす」

 

「まぁまぁ。

ただ素直になれないだけだろう」

 

「これのどこに素直になれないって解釈する要素があすんすか!?」

 

「縦読み」

 

「え?」

 

「1番最初の文字を縦読みしてみろよ」

 

画面を再び見せる聖星。

2人はすぐに文章の最初の文字を読む。

それが理解できたのか十代と翔は「ツンデレ……??」と同時に呟いた。

聖星は微笑みながら返信するために何と書こうか考えた。

 

**

 

それから一夜明け、デュエルフィールドには聖星と龍牙先生が立っている。

十代と翔は心配そうに1番前に座っており、取巻は少し離れた場所にいた。

彼ら以外にも観客はいるが、それは聖星と顔なじみの明日香と鮫島校長、クロノス教諭だった。

 

「「デュエル!!」」

 

「俺のターン、ドロー。

俺はモンスターをセット、カードを3枚伏せてターンエンドだ」

 

先攻を得た聖星は特に動くこともなく、カードだけを伏せた。

そんな単純な行動に龍牙先生は特に何かを言うわけでもなく鼻で笑う。

所詮オシリス・レッド。

良いカードが来なく、ブラフでカードを伏せたのだろう。

そんな2人のデュエルを明日香は上から観戦している。

 

「聖星が制裁デュエルをしているそうだな」

 

「亮」

 

背後から聞こえた上級生の声に明日香は振り返り、少しだけ目を見開いた。

明日香は十代からこの情報を得た。

しかし聖星とあまり関わりのないカイザーがこのデュエルの本当の目的を知っているとは思えない。

どうして知っていると視線で問いかければ彼は無表情のまま言った。

 

「クロノス教諭から聞いた話だ。

生徒からカードを強奪した龍牙先生に聖星が暴行を加えた、と」

 

「えぇ。

ただでさえ苛立っていた時に自分の大事なカードを譲れって言われたらしいの。

それで聖星は怒って龍牙先生を壁に押し付けちゃったそうよ」

 

「そうか。

確かに、それならアンティールールの容疑がかかっている龍牙先生と制裁デュエルをするのは妥当だな」

 

しかし、クロノス教諭から聞いた話だと龍牙先生が強奪している明確な証拠はない。

仮に聖星が勝ったとしても、彼にどのような処分が下されるのか……

デュエルアカデミアも面倒な人を教育実習生として迎え入れたものだ。

 

「ククッ……

私のターン、ドロー。

私は手札から魔法カード【化石調査】を発動する」

 

いつものように余裕な笑みを浮かべながらカードを引く龍牙先生。

彼は手札に加わったサーチカードをすぐに発動した。

 

「このカードはデッキからレベル6以下の恐竜族モンスターを手札に加える事が出来る。

私は【ハイパーハンマーヘッド】を加えて、通常召喚」

 

「ぐぉおお!!」

 

彼がデッキから手札に加えたのはレベル4の恐竜族モンスター。

召喚されると独特な頭を持つ恐竜は雄叫びを上げて聖星を見下ろす。

その攻撃力は1500

 

「【ハイパーハンマーヘッド】で裏側守備モンスターに攻撃!」

 

恐竜に恥じぬ勢いでフィールドを揺らし、自慢のハンマーとなっている頭で守備モンスターに突撃する。

すると裏側守備表示だったモンスターが光を発しながら表側表示になる。

そこにいたのは青白い肌を持つエルフだ。

 

「俺が守備表示にセットしたのは【ホーリー・エルフ】です」

 

「【ホーリー・エルフ】!?

武藤遊戯が使用したカードか!」

 

「守備力は2000

【ハイパーハンマーヘッド】より500高いから、500ポイントの反射ダメージを受けてもらいます」

 

「くっ」

 

突撃した【ハンマーヘッド】だったが、【ホーリー・エルフ】の周りに張られている聖なる結界にはじかれ龍牙先生のフィールドに吹き飛ばされる。

勢いよく吹き飛ばされた巨体は突進時以上の衝撃で落下した。

しかしすぐに起き上がり、もう1度【ホーリー・エルフ】に突撃する。

 

「だが、【ハイパーハンマーヘッド】の効果発動!

このカードが戦闘で相手モンスターを破壊できなかった時、相手モンスターを手札に戻す!」

 

仕返しだ!と言わんばかりの速さで【ホーリー・エルフ】に頭突きをする。

それも結界に阻まれるが何度も頭突きを繰り返した。

とうとうあまりにもの乱暴さに彼女は驚き、慌てて聖星の手札に帰っていく。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

ライフを削られたとはいえ、相手の伏せカードは一切発動されていない。

やはりただのブラフだったのだろう。

そう結論付けた龍牙先生は思い出す。

 

「(不動聖星。

アカデミア内では【ブラック・マジシャン】使いと有名だが、デュエルをするたびにデッキのモンスターを変えている。

だが、デッキの軸になっている魔法カードは全く変わっていない……)」

 

軸となっている魔法カードを封じてしまえば、彼のデッキに戦う力はないも同然である。

怪しい笑みを浮かべた龍牙先生は、自分の大事な大事な指輪を見る。

 

「(対策はさせてもらったさ、しっかりとな。)」

 

「俺は手札から【テラ・フォーミング】を発動。

デッキからフィールド魔法、【魔法族の里】を手札に加えます」

 

「なっ!?」

 

聖星が発動したのはデッキからフィールド魔法を加える通常魔法カード。

加わったのはまるで妖精がすむような可愛らしい住処がある森の中を描いているもの。

目を見開いて驚きの声を出す龍牙先生に聖星は笑みを浮かべる。

 

「おや、流石は教育実習生ですね。

【魔法族の里】をご存知で」

 

「あ、あぁ。

仮にも私は来年ここの教師になる人間だからね」

 

「校則違反のアンティールールをしている実習生がなれると本気でお思いで?」

 

「心外だな。

私はただ譲ってもらっただけだ」

 

「だったらこのアカデミアのセキュリティを任されている会社から、その時の監視カメラの映像を見せてもらいますか?

それを見ればしっかりと映っていると思いますよ。

……生徒からカードを奪うあなたの姿がね」

 

聖星の言葉に龍牙先生はハッとする。

そして一瞬だけ眉間に皺を寄せ、焦ったような表情を浮かべた。

鮫島校長はクロノス教諭と何かを話し、クロノス教諭は席を立つ。

一方、聖星の発言を聞いた明日香は十代に電話する。

 

「ねぇ、十代。

もしかして聖星……」

 

「おう。

凄かったぜ」

 

昨晩、龍牙先生の不正の証拠を集めようと聖星はPCでハッキングをしたのだ。

手慣れた操作で次々と映像を探す姿は流石としか言いようがなかった。

しかも証拠になる映像はなんと2桁もあり、彼の非道さが伺えてしまった。

 

「だったらそれを校長先生に見せたら……

ハッキングしたのがばれて別の問題が出るわね」

 

「ハッキング?」

 

「いえ、何でもないわ」

 

明日香の口からこぼれた言葉にカイザーは怪訝そうな表情を浮かべる。

すぐに彼女は作り笑顔を浮かべて電話を切った。

一方、監視カメラの映像の事に気づいた龍牙先生は別の理由でも動揺していた。

 

「(何故だ、何故魔法カードが発動できる!?)」

 

そう、龍牙先生は自分の持つ指輪から特殊な電波を発して相手のデュエルディスクの機能を低下させていた。

その結果、彼の対戦相手は全員魔法カードを使用することが出来ず敗北してしまった。

だから魔法カードを主軸とする聖星にも有効な手段だと思い、装置を作動したのだが……

聖星は魔法カードを発動できている。

信じられない現実に龍牙先生は大きく舌打ちした。

 

「手札からフィールド魔法【魔法族の里】を発動。

そして【魔法剣士ネオ】を攻撃表示で召喚」

 

ソリッドビジョンの光が新しいフィールドを作り出し、神秘的な空間へと変わる。

そのフィールドに金髪の青年剣士が姿を現した。

【ネオ】は持っている剣を抜き、【ハイパーハンマーヘッド】に向ける。

 

「手札から魔法カード、【一時休戦】を発動。

互いにデッキからカードを1枚ドローします」

 

すると場に1人の侍が現れ、彼は兜を脱いだと思ったら深く椅子に座り一息をつく。

そして互いにデッキを1枚ドローした。

 

「そして貴方がドローした瞬間、永続罠【便乗】を発動」

 

「【便乗】?

随分と扱いにくいカードを使うな」

 

「決まれば怖いですよ。

なんたって毎ターン【強欲な壺】を発動しているようなものですから」

 

現れたのは2人の男が目の前にある金貨を見て笑っているカード。

このカードは相手がドローフェイズ時以外にカードをドローした時に発動できる。

その後、相手がドローフェイズ時以外にドローした時自分のデッキからカードを2枚ドローするのだ。

ただ相手にカードを引かせるカードが少なく、発動するタイミングと自分がドローするタイミングにずれがあるため使い辛いとされている。

 

「俺は手札から【カップ・オブ・エース】を発動。

コイントスをし、表だったら俺が2枚、裏だったら先生が2枚ドローします」

 

ポケットから取り出したのは1枚のコイン。

聖星はそれを指ではじき、ゆっくりとコインを見上げた。

そして落ちてきたコインを手の甲に取り、コインをゆっくりと見る。

 

「裏、ですか。

どうぞ2枚ドローしてください。

しかしこの瞬間、【便乗】の効果により俺も2枚ドローします」

 

「ちっ。

表が出ようが、裏が出ようが君はカードをドロー出来るという事か」

 

「そういう事です」

 

龍牙先生がカードをドローすると聖星もドローし、手札に加える。

 

「手札から魔法カード【グリモの魔導書】を発動します。

デッキから【魔導書】と名のつくカードを1枚加える。

俺は【ヒュグロの魔導書】を手札に加えます」

 

1冊の淡い紫色の本は一瞬で燃えるような赤色となり、聖星の手に収まる。

【ネオ】は戦いたくて仕方がないのか、何度も聖星をチラチラとみる。

随分とせっかちな性格だなと思いながら微笑み静かに宣言した。

 

「バトルフェイズ。

【魔法剣士ネオ】で【ハイパーハンマーヘッド】に攻撃。

そして罠発動、【マジシャンズ・サークル】」

 

ディスクのボタンを押すと、六芒星が描かれているカードが表側になる。

このカードは互いのデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族モンスターを攻撃表示で特殊召喚する効果を持つ。

 

「俺は攻撃力1900の【ジェミナイ・エルフ】を特殊召喚」

 

「私のデッキに魔法使い族は存在しない……」

 

「それならデッキを公開してください」

 

「何!?」

 

「え?

何を驚かれているのですか?」

 

あまりにも大袈裟に目を見開く龍牙先生に聖星はきょとん……と首を傾げた。

自分は何かおかしな事を言っただろうか?

あ、もしかするとこのカードの効果をちゃんと把握していないのかもしれない。

そう思った聖星は言いなおす。

 

「【マジシャンズ・サークル】の特殊召喚効果は強制効果です。

もしデッキに対象となるモンスターが存在しなければ、相手にそれを確認させるためデッキを公開するルールになっています」

 

「そんな事、出来るわけがないだろう!」

 

「出来るわけがない、って……

それじゃあ反則ですよ。

この勝負、俺の勝ちになります」

 

「なっ、何故そうなる!?」

 

龍牙先生の言葉に聖星は開いた口が塞がらなくなってしまう。

え、本当にこの人は何を言っているのだ?

信じられないものを見るような目をした聖星は恐る恐る尋ねた。

 

「何故って……

え、龍牙先生、本当にデュエルアカデミアの教師を目指しているのですよね?」

 

「貴様、バカにしているのか?」

 

「あ、すみません。

だってルールに従わないから反則負けになるのに、それを理解できない貴方の頭脳に驚いて……

普通これくらいアカデミアの生徒でも分かりますよ」

 

一応言っておこう。

聖星は別に嫌味を言うためにこの言葉を並べていない。

心底そう思っている事を言っているのだ。

しかし相手である龍牙先生からしてみれば十分な嫌味で額に青筋がたった。

オシリス・レッドの落ちこぼれにここまで言われるなど大人としてのプライドが許さないが、彼の言っている事の方が筋は通っている。

 

「くっそっ……!

これが私のデッキだ!!」

 

やけくそとでも言うようにデッキを公開した龍牙先生。

モンスターは一目見て魔法使い族は存在しない事が分かり、魔法・罠も特定の種族をサポートするカードばかりだった。

あとは【大嵐】、【聖なるバリア-ミラーフォース-】くらいだろう。

 

「デッキの確認は終わりました。

もう良いですよ」

 

「ならば罠カード【狩猟本能】を発動!

相手がモンスターの特殊召喚に成功した時、手札から恐竜族モンスターを特殊召喚する!

私は【暗黒恐獣】を特殊召喚する!」

 

「グォオオオ!!!」

 

【ジェミナイ・エルフ】と【魔法剣士ネオ】の3人を覆う程の巨大な影が現れ、影の主は力強く咆哮を上げる。

漆黒の肉体と鋭い牙、棘のように逆立つ皮膚を持つ大型恐竜。

肉食恐竜の王者ともいえる姿に聖星の魔法使い達に冷や汗が流れる。

 

「……攻撃力2600ですか。

なら俺は【ジェミナイ・エルフ】で【ハイパーハンマーヘッド】を攻撃します」

 

龍牙先生の場に新たなモンスターが特殊召喚した事により、攻撃対象が増え、攻撃の巻き戻しが発生した。

本来なら【ネオ】が攻撃するべきなのだが、聖星はあえて【シェミナイ・エルフ】を選んだ。

 

「【ハイパーハンマーヘッド】の効果発動!

【ジェミナイ・エルフ】を手札に戻してもらうぞ!」

 

「カードを1枚伏せてターンエンドです」

 

「私のターン、ドロー!

私は手札から【俊足のギラザウルス】を特殊召喚する!

そして手札から魔法カード、【大進化薬】を発動!!

【俊足のギラザウルス】を生贄に捧げる事でレベル5以上の恐竜族モンスターに生贄は必要なくなる!」

 

【大進化薬】は場の恐竜族を墓地に送る事で、3ターンの間恐竜族の生贄が無くなるカード。

このターン、龍牙先生はまだ通常召喚を行っていない為最上級モンスターを召喚する事が可能となる。

手札に存在する上級モンスターで魔法使い族を蹴散らそうと考えたが……

いつまでたっても【俊足のギラザウルス】は消えなかった。

 

「…………え?」

 

全く変わらないフィールドに龍牙先生は間抜けな声を出してしまう。

そんな彼に対し呆れるように聖星は説明した。

 

「フィールド魔法、【魔法族の里】の効果」

 

「っ!!」

 

「俺の場にのみ魔法使い族モンスターが存在する場合、貴方は魔法カードを発動できません」

 

「なっ、何だと!?」

 

「魔法カードが使えない!?

なんすかその効果!?」

 

「俺の【HERO】デッキにとっちゃ天敵じゃねぇか!」

 

魔法カードはフルモン等を除けばデッキの多くの割合を占めるカードであり、【魔法族の里】のようなカードはまさに天敵だろう。

しかし【魔法族の里】はあくまで聖星の場にのみ魔法使い族が存在しないと意味がない。

相手の場に魔法使い族が存在すればロックが解けてしまうのだ。

 

「魔法カードが使えないって辛いですよね~」

 

ちなみにこれは意図的な嫌味である。

 

「くっ……!!

私は【俊足のギラザウルス】を生贄に捧げ、【暗黒ドリケラトプス】を生贄召喚!

【ドリケラトプス】で【魔法剣士ネオ】に攻撃!!」

 

「攻撃宣言時にリバースカードオープン、【奇跡の軌跡】。

このカードは俺の場のモンスターの攻撃力を1000ポイント上げ、貴方にデッキからカードを1枚ドローさせます」

 

「なにっ!?」

 

「これで【ネオ】の攻撃力は1700から2700

【暗黒ドリケラトプス】の2400を上回りました。

そして貴方がカードをドローした事で、【便乗】の効果が発動。

デッキからカードを2枚ドロー」

 

【魔法剣士ネオ】に向かって走っている【暗黒ドリケラトプス】。

向かってくる巨大なモンスターに【ネオ】は不敵な笑みを浮かべ、剣を構える。

突進してきた【暗黒ドリケラトプス】をジャンプしてよけ、頭部に剣を突き刺す。

それにより悲鳴を上げながら砕け散り、龍牙先生のライフが4000から3700に減った。

ちなみに【ジェミナイ・エルフ】と【ハイパーハンマーヘッド】との戦闘でライフが削られなかったのは、【一時休戦】に龍牙先生のエンドフェイズ時までダメージを0にする効果があるためだ。

 

「くっ……!!

カードを3枚伏せてターンエンドだっ!」

 

「俺のターン、ドロー。

ところで龍牙先生、【魔導剣士ネオ】のフレイバーテキストはご存知ですか?」

 

「おや、この私の知識を試そうと言うのかい?」

 

監視カメラの映像、聖星が魔法カードを使える、デッキの公開、魔法カードを使用できない。

様々な事が重なり不機嫌が最高潮に達した龍牙先生は普段の紳士的な笑みからかけ離れた表情で返した。

人間とは色々な顔が出来るものだと妙に感心していた聖星は微笑む。

 

「【魔法剣士ネオ】は異空間を旅する剣士です。

彼は様々ない空間を渡り歩き、そして逞しく成長しました。

世界の素晴らしさを知った彼は新たな力を手に入れ、異空間から無事帰還する事が出来たのです。

凄いですよね」

 

「何が言いたい?」

 

「見てれば分かりますよ」

 

聖星の意味深な言葉に十代達は【ネオ】に注目する。

注目を浴びた【ネオ】は誇らしく剣を構えていた。

 

「俺は【魔法剣士ネオ】を生贄に捧げ、【魔法剣士トランス】を生贄召喚!!」

 

【ネオ】は剣先で自分を囲うように円を描き、自分の前に剣を突き刺す。

すると円から激しく光が溢れだし【ネオ】を飲み込んだ。

光は一瞬で砕け散り、中から高貴な鎧、大剣を肩に担ぐ剣士が現れた。

一目見て成長した【ネオ】だという事が分かり、剣士の成長に会場が沸き立った。

 

「攻撃力2600……!

だが罠発動、【奈落の落とし穴】!!

召喚、特殊召喚されたモンスターの攻撃力が1500以上だった時、そのモンスターを破壊し除外する!

よってお前のモンスターには消えてもらう!」

 

「手札から速攻魔法【トーラの魔導書】を発動。

このカードは場に存在する魔法使い族に魔法または罠カードの耐性をつけます。

勿論俺は罠カードを選択」

 

「なにっ!?」

 

【トランス】の足元に異空間に繋がる歪みが現れた。

歪みの登場に【トランス】はどこか懐かしい目をしたが、すぐに【魔導書】の英知を受けて歪みに向かって剣を振る。

すると歪みは真っ二つに裂けてしまい消え去った。

 

「俺は手札から速攻魔法【手札断殺】を発動。

互いに2枚手札を捨て、カードを2枚ドローします。

龍牙先生がドローしたので、【便乗】の効果により俺はさらに2枚ドロー」

 

「次から次へと……!」

 

「魔法カード【グリモの魔導書】を発動します。

デッキから【セフェルの魔導書】をサーチ。

そして【ヒュグロの魔導書】を発動。

【魔法剣士トランス】の攻撃力を1000ポイントアップ。

さらに【セフェルの魔導書】を発動。

俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時手札に存在する【魔導書】を見せる事で、墓地の【魔導書】をコピーします。

俺は【アルマの魔導書】を見せ、墓地に存在する【ヒュグロの魔導書】をコピー」

 

「まさか、攻撃力が2000ポイントも上がるだと!?」

 

【トーラの魔導書】の英知も受けている【トランス】は【ヒュグロの魔導書】の英知まで授かった。

攻撃力は2600から4600まで跳ね上がり、彼の持っている大剣に力強いオーラが纏い始める。

 

「行きますよ。

【魔法剣士トランス】で【暗黒恐獣】に攻撃!!」

 

「はぁっ!!」

 

聖星の声と【トランス】の声が重なり、【トランス】は【暗黒恐獣】を叩ききる。

大型恐竜を一瞬で叩ききった【トランス】は華麗に着地してあるべき場所へと歩み寄る。

彼が歩いている間に【暗黒恐獣】は大爆発を引き起こす。

 

「ぐぁあ!!」

 

爆発によるダメージを受け、ライフは3700から1700まで減った。

 

「【魔法剣士トランス】が相手モンスターを破壊した事で、【ヒュグロの魔導書】の効果が発動します。

このカードで攻撃力が上昇したモンスターが相手モンスターを破壊した時、デッキから【魔導書】を1枚サーチします。

このターン、【魔法剣士トランス】は2枚分の【ヒュグロの魔導書】の効果を得ています。

よって2枚サーチ」

 

「それにチェーンし、【大地震】を発動!

恐竜族モンスターが破壊され、墓地に送られた時相手の魔法・罠ゾーンを3つ使用不可能にする!」

 

魔法・罠ゾーンの使用を封じる。

龍牙先生の言葉に十代と翔は思わず立ち上がった。

 

「やべぇ、聖星のデッキは魔法カードを多用する!」

 

「今、聖星君の魔法・罠ゾーンは【便乗】と伏せカード1枚っすから……

3枚使えなくなったら何にも出来ないっすよ!」

 

聖星のデッキは魔法カードのサポートによって成り立っている。

いくら強力なサポートカードがあっても発動できる場がなければ意味がない。

焦った声で喋る2人に聖星は微笑んだ。

 

「大丈夫だって、十代、翔」

 

「「え?」」

 

「俺は更にチェーンし、カウンター罠【魔宮の賄賂】を発動。

貴方がデッキからカードをドローする事で、魔法・罠カードの発動と効果を無効にします」

 

「なっ!」

 

【大地震】のカードに微かなプラズマが走り、そのまま消滅してしまう。

まさかのカードに龍牙先生は舌打ちし渋々デッキからカードをドローした。

 

「そして俺は【グリモの魔導書】と【ゲーテの魔導書】をサーチ」

 

デッキから加わったのはサーチ効果と多数の効果を持つ【魔導書】。

そして【魔宮の賄賂】の効果により龍牙先生がドローしたことで、カードを2枚ドローした。

なんとか魔法・罠ゾーンの封印を対応する事は出来た。

それにしても先程のカウンター罠の効果を思い出しながら十代は呟く。

 

「しっかし【魔宮の賄賂】か……

相手にドローさせちまうけど、魔法・罠をなんでも無効に出来るってすげぇな。

しかも今回は【便乗】があるからそんなにダメージを受けたようには思えねぇし」

 

「そうっすね。

あれなら【神の宣告】と違ってライフが低くても、相手のカードを無効に出来るっす」

 

「けど1枚のアドバンテージを相手に与えちまうから、使いようだな」

 

「え、そうなんすか?」

 

「だってよ、折角無効にしても相手が引いたカードがそれ以上に使えるカードだったら意味がないだろう」

 

十代の言葉に翔は首をかしげる。

何か分かりやすい例はないかと思いながら、十代は自分の場合を例えた。

十代の【融合】の発動に対し聖星が【魔宮の賄賂】を発動したとしよう、しかしドローしたカードが【ミラクルフュージョン】ならば、すぐに十代の場にモンスターが特殊召喚される。

このように1枚のカードで状況が逆転されるかもしれないので、諸刃の剣のような気がするのだ。

簡単に想像できた光景に翔はやっと納得した。

2人の会話を聞きながら、聖星達のデュエルを見守っている明日香はカイザーに尋ねた。

 

「ねぇ、聖星はこのターンで何枚デッキからカードを加えたの?」

 

「ドローフェイズ時のドローと、デッキサーチを加えると9枚だな」

 

「……デッキ切れしないか大丈夫かしら?」

 

「彼のデッキが40枚で構成されていると仮定すれば、残りは15枚だ」

 

「15枚!?

ちょっと、5ターン目の枚数じゃないわ!」

 

「俺は手札からカードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

「私のターン、ドロー……」

 

ドローしたカードは【ライトニング・ボルテックス】。

手札を1枚捨てる事で相手の表側表示のモンスターを全て破壊できるカードだ。

他のカードを見るも、ほとんどが魔法カードばかり。

しかし今龍牙先生は魔法カードを使えない。

魔法カードを使えないだけでこれだけデュエルがやりづらくなる。

知ってはいたが、される側になると心底腹が立つものだ。

 

「くそっ!

私は【首領亀】を守備表示で召喚!!

そして【首領亀】の効果発動!!

このカードの召喚に成功した時、手札から同名カードを特殊召喚する!!

私は2体の【首領亀】を守備表示で特殊召喚!!」

 

場に現れたのは甲羅に隠れている亀のモンスター。

自身の効果で次々と同名モンスターが特殊召喚されていく。

3体のモンスターが並んだことに翔は驚く。

 

「3枚も手札にあったんすか!?

運が良すぎるっすよ、あの先生!」

 

「いや~……

これは運っていうより、聖星が龍牙先生にカードを引かせすぎたのが原因じゃねぇの?

だってよ、聖星のやつ【便乗】を使うためにドローカードを5回くらい使ってたぜ。

しかも1枚ドローじゃなくて2枚ドローもあったし」

 

それだけ相手にドローさせておきながら聖星が優勢。

これは【魔法族の里】で魔法カードを封じているためだろう。

そうでなければ龍牙先生も反撃しているはず。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!!」

 

「エンドフェイズ時にリバースカードオープン、速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動。

俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、墓地の【魔導書】を任意の枚数除外し効果を発動できます。

俺は【グリモの魔導書】1枚を除外。

貴方の伏せカードを1枚手札に戻します」

 

「くっ!!」

 

「俺のターン、ドロー」

 

龍牙先生の場に伏せカードはまだある。

手札に【グリモの魔導書】はあるため罠カードの耐性をつけるカードをサーチするのは容易だ。

しかし相手が3体もモンスターを並べたのは誤算だった。

まぁ、些細な誤算だが。

ドローしたカードを見た聖星は小さく頷いて発動する。

 

「俺は手札から魔法カード、【大嵐】を発動します」

 

「何!?」

 

「全ての魔法・罠カードを破壊します」

 

目を見開き慌てる龍牙先生に対し聖星は淡々と言葉を並べた。

場に小さく風が吹いたと思ったら凄まじい轟音となり、魔法・罠カードを飲み込んでいく。

成す術もなく巻き込まれたカード達は次々に砕かれ破壊された。

 

「やはり全て魔法カード……

破壊して正解でした」

 

「くっ……!!」

 

破壊したのは【大進化薬】と【エネミーコントローラー】、【テールスイング】だった。

仮に罠カードがあってもフリーチェーンのカードはデッキに入ってなかったので、このタイミングで発動する事はないと予想も出来た。

だがまだ龍牙先生の場には守備表示のモンスターが3体も存在する。

聖星は微笑みカードを発動した。

 

「手札から魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【トーラの魔導書】をサーチします。

さらに【ブラック・ホール】を発動」

 

「ぶっ、【ブラック・ホール】!??」

 

「このカードはフィールド上に存在する全てのモンスターを破壊します。

あ、【ブラック・ホール】にチェーンして【トーラの魔導書】を発動。

【魔法剣士トランス】に魔法カードの耐性をつけます」

 

「と、いう事は…………」

 

「【トランス】は【ブラック・ホール】の効果で破壊されません」

 

フィールドの中心部に小さな黒色の球体が現れる。

すると球体は急に膨張して凄まじい重力を生み出した。

重力によってモンスター達は引き寄せられ、次々と破壊される。

そんな中【トランス】は真顔で立っており、破壊される【首領亀】を見届ける。

 

「そんな、ばかなっ……!!」

 

自分のライフは残り1700

伏せカードもモンスターも存在しない。

手札から発動できるカードもない。

それに対し聖星の場には攻撃力2600の【トランス】が堂々と立っている。

まさか自分がオシリス・レッドに敗北するなどあり得ない。

受け入れられない現実に顔を歪める龍牙先生に対し、聖星は微笑んだ。

 

「どうですか、龍牙先生。

魔法カードを使えない状況って辛いですよね」

 

わざとらしく魔法カードの部分を強調した聖星は【トランス】に目をやる。

 

「【魔法剣士トランス】でプレイヤーにダイレクトアタック!!」

 

ホール内に響く聖星の攻撃宣言。

【トランス】は強く頷いて大剣を振り上げ、龍牙先生に切りかかる。

勢いよく体を切り付けられた龍牙先生は情けない悲鳴を上げる。

 

「ぐぁああ!!!」

 

瞬間、ライフが0にカウントされソリッドビジョンが消えていく。

デュエルが終わったのを確認した聖星は鮫島校長を見る。

目が合った鮫島校長は優しく微笑み、強く頷いた。

するとクロノス教諭が鮫島校長に小声で何かを話し始める。

穏やかだった鮫島校長の顔がだんだんと強張っていき妙な雰囲気になる。

 

「不動聖星君。

見事なデュエルでした。

このデュエルで見事に勝利を治めたので、君への処罰は不問といたします」

 

「なっ、ちょっと待ってください校長!

こんな危険な生徒をアカデミア内に残しておくのですか!??」

 

鮫島校長は聖星の傍まで近づき、素直に褒め称えた。

当然最後の言葉はフィールドにいる者にしか聞こえない程度の小声でだ。

しかし龍牙先生は立ち上がり声を張り上げて叫ぶ。

彼の言葉に何も知らない生徒達は騒ぎ出す。

 

「(聖星……

この大衆の目の前で自然発火現象なんて面白いと思わないか?)」

 

「(だから止めろって)」

 

余計な事を言いやがって、と【星態龍】は内心毒づき龍牙先生を睨みつける。

聖星は特に気にした様子もなく鮫島校長を見た。

 

「龍牙先生。

非常に残念です。

貴方ほどの優秀なデュエリストなら未来を担う教師になっていただけると思っていました。

しかしそれは上辺だけだったようです。

貴方が学園内で生徒達からカードを強奪しているという証拠を手に入れました」

 

「くっ!!

た、確かに私は許されない事をしたっ!

だが、その小僧も私に暴行を働いた!

その事実は揺るがない!」

 

「その理由が友を傷つけられ、自分のカードを護るためという事も揺るがない事実です」

 

どちらも揺るがない事実。

どちらも許されない罪。

だが、聖星の罪はまだ理解できる事だ。

それでも龍牙先生は引き下がらないようで、鮫島校長は静かに宣言した。

 

「龍牙先生。

後日倫理委員会が貴方の部屋を取り調べます。

貴方にもしかるべき処罰が下されるでしょう」

 

単調とした声だったが重みのある言葉に龍牙先生はその場に膝をついた。

周りの生徒達はまだ騒いでいる。

聖星はそんな彼らを見渡しながら苦笑を浮かべた。

 

「(うわ~、これ絶対変な噂たつな。)」

 

楽しい学園生活を送りたいのに、聖星は理想の学園生活が遠のく気がした。

 

「聖星~!」

 

「聖星君!」

 

「うわっ!!」

 

横から聞こえてきた十代と翔の声に振り返れば、2人が抱き着いてきた。

すると十代に頭をガシガシと撫でられたり、翔が涙目になり始める。

 

「痛い、痛いって十代!」

 

「俺達がどれほど心配したと思ってるんだよ!

これくらいいいだろ??」

 

「嘘言うな!

十代、デュエルが始まる前は全然心配した素振りなかったじゃん!」

 

「昨日しただろ?」

 

「昨日の話!?」

 

「僕は心配したっすからね!

特に【暗黒恐獣】が出たところとか、凄く心配したっす!」

 

「あ、ありがとうな、翔」

 

これからの事で憂い気味な聖星だったが、十代と翔の登場でそんな雰囲気は消し飛んだ。

それを間近で見ていた鮫島校長は微笑み安堵の息をつく。

良い意味でも悪い意味でもこの年代の少年少女は敏感である。

今回の事で聖星に対する目が変わり、彼が居づらくなるかもしれない。

だが十代や翔と一緒にいる様子を見れば自然と乗り越えられる気がした。

鮫島校長がそんな事を考えている事を知らない聖星はいつものように2人と喋っていた。

 

**

 

「そーいやよ、龍牙先生って指輪から妙な電波を発して魔法カードを使えなくしていたらしいぜ。

聖星はなんで魔法カードを使えたんだ?」

 

制裁デュエルから二日後。

反省文を書く事が難航している聖星を励ますため、十代が差し入れを持ってきた。

彼からのドローパンを食べている聖星はこう返した。

 

「あぁ。

俺のデュエルディスクはカスタマイズ済みでね。

外見はデュエルアカデミア仕様だけど、中身のプログラムは俺のオリジナルなんだ」

 

「は?

オリジナル??」

 

十代の言葉に小さく頷く。

龍牙先生の証拠映像を集める際、デュエルにおいて違和感を覚え注意深く見たのだ。

結果全ての生徒が魔法カードを一切発動していない事が分かり、龍牙先生が指輪から特殊な電波を発している事を突き止めた。

好物の具が入っていたのか、美味しそうにドローパンを食べる聖星の言葉に十代は首を傾げる。

 

「え、そんなの分かるのかよ?」

 

「別に映像さえあればどんな電波を使っているのか解析できるし、電波の種類も分かれば対策なんて簡単だぜ」

 

「……マジで?」

 

「マジで。

だから電波を受けても麻痺しないようプログラムを書き換えたのさ。

いやぁ、大変だったぜ。

一部のプログラムを書き換えたら、他の面で不都合が生じるから、不具合がないかいちいちチェックしないといけないし。

お蔭で徹夜したよ」

 

「なぁ、聖星。

お前さ、絶対に才能を別の方に生かした方がいいだろ」

 

「え、そうか?」

 

「そうだって」

 

END

 




ここまで読んで頂きありがとうございます!
カイザーとのデュエルを希望していた方もいらっしゃったのですが、聖星はカイザーのデュエルを見ないと判断しないため今回は全く別の人とデュエルしてもらいました。
龍牙先生は漫画版遊戯王GXのオリジナルキャラです。
出すとしたらこの人しかいねぇだろ!と。


取巻からの縦読みですが…
他にも巻き込んで済まない、悪かったな、等と沢山浮かびました。
ですが1番あれがしっくりしたので、あれにしました。


今回のデッキは一応【便乗】+通常モンスター(主に【魔法剣士】組)がメイン
のはずだったのに【便乗】しか仕事してないという事実。
どうしてこうなった。


それにしても【便乗】って難しいですね。
【便乗】はダメージステップ時にはカードの制限により発動できないと書いてありました。
(発動できるのは攻守を変更する速攻魔法等)
【奇跡の軌跡】は相手モンスターの攻撃宣言時(バトルステップ)に発動したので、デッキからカード2枚ドロー出来ると思います。
違ったら感想等で教えてくださいm(__)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話 激突、青の竜使いと赤の魔術師!

 

「十代、翔。

何、この点数?」

 

レッド寮の聖星の部屋。

聖星は胡坐をかきながら目の前で正座している2人を見た。

十代と翔はそれぞれ聖星から目をそらし、決して合わそうとしていない。

 

「え~っと、なになに。

【魔草マンドラゴラ】、【火炎草】、【きのこマン】、【人食い植物】。

上記の中で1枚だけ他の3枚と違う点がある。

その点を2つ挙げよ。

十代。

1つ目、【魔草マンドラゴラ】は魔法使い族。

うん、俺が【魔力カウンター】デッキで使ったのを覚えてたんだな。

それで2つ目、【きのこマン】のみ平仮名とカタカナ。

……君、このテスト作った先生に喧嘩売ってる?」

 

「だ、だってよ!

そーじゃねぇか!

他になにがあるんだよ!?」

 

「問題文と十代の回答が噛みあってないだろ?

4枚中、仲間外れは1枚なんだぜ。

い・ち・ま・い。

分かる?」

 

十代の抗議を聖星は迫力のある笑顔で黙らせる。

ぐぬぬ、と悔しそうに唸る十代。

そんな彼は放っておき、次は翔に目をやった。

 

「翔」

 

「は、ハイ!」

 

「デュエルモンスターズの種族を全て答えよ。

君、魔法使い族、機械族、悪魔族、戦士族、天使族、ドラゴン族くらいしか答えられてないぜ。

海竜族は?

昆虫族は?

植物族は?

他の種族は?

これくらい答えようぜ」

 

翔が答えることが出来たのは、この時代で主流となっている種族ばかりである。

それにこの間、聖星は恐竜族使いの龍牙先生とデュエルした。

せめてあの種族だけは答えて欲しかったものだ……

今挙げた2つの答案はまだ可愛いもので、他の問題に関してはまともに答えられていない。

十代は実技があるからまだ希望は見えるが、翔に関してはどうだろう。

デュエルアカデミアに入学できるだけの実力はあっても引っ込み思案なところがあるため、緊張のあまりこけるかもしれない。

本来なら中学3年生として過ごすべき年齢の聖星でも解けるのになんという事だ。

 

「全く。

来週は月一テストなんだぜ。

こんな点数じゃ追試確定だな。

良いのかよそれで」

 

「良いって、良いって。

俺は実技さえできればいいんだから」

 

「十代。

実技は同じ寮の奴とやるんだぜ。

これはあくまで俺の予想だけど、俺と十代がデュエルするはずだ」

 

実技が出来る事は良い事だが、その実技でも敗北してしまえば意味がない。

しかも実技担当のクロノス教諭の事を考えると……

自分と十代がデュエルをして、仮に十代が負けた場合彼の成績が酷い事になるのは確定だ。

それを危惧して言った言葉だが十代は笑顔のままである。

 

「え、聖星とか?

何だよ、全然良いじゃん」

 

「分かった十代。

俺は十代と当たる事前提でアンチデッキ組むから」

 

「なっ、ちょ!?

アンチはやめろって!」

 

ジト目で十代を見た聖星は堂々と宣言する。

【魔導書】で【E・HERO】のアンチデッキを組むという事は彼とのデュエルを楽しむつもりはないという意味だ。

聖星の言葉に十代は大袈裟に反応しそれだけは止めて欲しいと言う。

 

「じゃあ十代、翔。

勉強しような」

 

「僕もっすかぁ!?」

 

「当たり前だろ。

1週間あれば平均点はとれる。

今日から勉強のノルマを達成するまでデュエル禁止」

 

「「えぇ~~!!?」」

 

**

 

それから1週間。

十代と翔は聖星の監視下の元、夜遅くまで勉強するはめになった。

翔は素直に褒めれば伸びる子のようで、悪い点を指摘してそれの10倍褒めればいい感じに知識が増えた。

意外に苦労したのが十代で、少し目を離したらその場にいないという事が何度もあった。

こいつ、どれだけ勉強が嫌いなんだ。

そしてテスト当日……

 

「あり得ない。

まさか寝坊するなんて完璧に油断した」

 

「徹夜のし過ぎだな」

 

十代と翔のテスト対策はまぁまぁ出来、赤点は免れるだろうと安心して眠った聖星。

しかし目を覚ませばテストが始まる10分前。

一気に血の気が引いた聖星は慌てて制服に着替え、朝食を食べずに教室に来た。

多少は遅刻したが内容は楽だったので何とかなった。

それに対し翔は途中で眠ってしまったようで、十代は聖星よりさらに遅れてやってきた。

午前中全てのテストが終了し、生徒達は我先にと教室から出ていく。

そんな中聖星は一限目のテストの問題用紙を見る。

 

「おや、聖星。

君は購買に行かなくていいのか?」

 

「大地。

購買って、今日何かあるのか?」

 

「今日は本土からレアカード入りの新パックが入荷するんだ。

皆、午後の実技授業の前にデッキを強化しようとパックを買いに行ったのさ」

 

「あぁ。

だから皆あんなに急いでたんだな」

 

新しいカード。

しかもレアカードが入っていると聞かされるととても気になる。

だが午後の実技のために買うというのは少し疑問が浮かぶ。

強力なカードが当たっても、デッキとのシナジーが薄ければ逆に足を引っ張り本来の力を発揮できない。

いくら入荷されるかは知らないが、シナジーのあるカードが当たるなどよほどの運の持ち主くらいだろう。

 

「君はいかなくて良いのか?」

 

「俺はテスト用のデッキを組んだし、それを崩したくないからパス。

そういう大地は?」

 

「僕も君と同じさ。

自分のデッキを信じているから新しいカードを買うつもりはない。

それより十代と翔を起こしてあげたらどうだ?」

 

「そうだな」

 

未だにすやすやと眠っている十代と翔。

自分はカードを必要しないが、2人がどうかはわからない。

軽く揺らすと2人はすぐに目を覚ました。

 

「ん~~?」

 

「……あ、れ?

聖星?」

 

「十代、翔。

早く起きないとレアカードがなくなるぞ」

 

「レアカード!?」

 

「何だよそれ!??」

 

「今日の昼休みに購買に入荷されるカードの事さ。

俺と聖星は買うつもりはないが、君達はどうする?」

 

「でも、もうこんな時間っすよね。

きっとカードはないっすよ」

 

「何言ってんだよ翔。

行ってみなきゃわかんねぇだろ。

まだカードは残ってるかもしんねぇしよ」

 

心配そうに顔を伏せる翔だが、十代は特に気にした様子もなく立ち上がる。

そのまま十代は購買へと走っていき、翔は慌てて追いかけて行った。

おいて行かれた聖星は三沢と顔を見合わせ、苦笑を浮かべた。

 

**

 

午後の実技デュエル。

通常なら実力が拮抗する者同士でデュエルし、実力を上げるため同じ寮の生徒でデュエルするのが普通だ。

だから十代と聖星はレッド寮の生徒とデュエルすると思っていたのだが……

 

「何で取巻なの?」

 

「お前のせいで巻き込まれただけだ」

 

「え?」

 

聖星の前に立っているのは若干苛立ちの表情を浮かべている取巻だった。

何故レッド寮の聖星がブルー寮の生徒とデュエルするのだろうか。

不思議そうな表情を浮かべると横から十代の驚きの声が聞こえた。

どうやら彼の相手は万丈目のようである。

 

「シニョール十代とシニョール聖星は、入学試験の時とても優秀な成績を収めたノ~ネ。

そんな貴方達~の相手は~レッド寮の生徒じゃ釣り合いがとれない~のデ~ス。

ですか~ラ、シニョール万丈目とシニョール取巻が貴方達の相手に相応しいと思いまシ~タ。

勿論、貴方達が勝てばラー・イエローへの昇格が認められマ~ス」

 

「あぁ、だから取巻が相手なんだ」

 

「……何で俺が」

 

万丈目と一緒に行動していた取巻はレアカードを求めて購買に行ったが、すでにカードは謎の男によって買い占められていた。

それに憤慨しているとその男、クロノス教諭が現れ、自分と万丈目にデュエルするよう提案した。

エリートである自分達が十代と聖星に現実を教えるためだという。

万丈目はノリノリであったのに対し取巻はどうも乗る気にはなれなかったが、前回の屈辱を晴らすためにいい機会と思いその話に乗った。

 

「そういえばカードはどうなったんだ?」

 

「どこかの落ちこぼれが余計な事をしてくれたおかげで昨日戻ってきたさ」

 

「へ、昨日?

遅くないか?」

 

「一応盗品だったからな」

 

「あぁ……

色々あるんだ」

 

だが、アカデミア側が試験の事を考慮して全員分のカードを急いで生徒の元へ届けてくれたらしい。

その割には時間がかかりすぎだと思うのだが、まぁ、大人の事情というものがあるのだろう。

苦笑を浮かべた聖星だがすぐに表情を変え、デュエルディスクを構えた。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は俺がもらうぜ、取巻!

俺のターン、ドロー。

俺は手札から【バイオレット・ウィッチ】を守備表示で召喚。

カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

光と共に現れたのは植物の葉の衣のようなものを纏う女性モンスター。

彼女は目を伏せたまま膝をつき、そのままの状態で動く気配がない。

 

「オシリス・レッドのお前に格の差を見せてやる!

俺のターン、ドロー!

俺は手札から【超再生能力】を発動!

このターンのエンドフェイズ時、手札から墓地に捨てたドラゴン族、場、手札から生贄に捧げたドラゴン族の枚数分デッキからカードをドローする!」

 

「へぇ、良いカード使うな」

 

確か遊馬達の世界であのカードは【征竜】デッキの貴重なドローソースとして活躍していたはず。

聖星も【征竜】使いとデュエルした事はあるが、あのデュエルは本当に追い詰められて肝が冷えた。

少し懐かしんでいると取巻が新たなカードを発動させる。

 

「俺は手札から【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる。

俺は【エメラルド・ドラゴン】と【密林の黒竜王】を捨てる!

そして俺は【スピリット・ドラゴン】を召喚!」

 

「【スピリット・ドラゴン】?

確か手札のドラゴン族モンスターを墓地に捨てる事で攻撃力と守備力を1000ポイント上げるカード。

【超再生能力】と相性はばつぐん、って事か……」

 

「オシリス・レッドのくせにこのカードの効果を知ってるんだな。

行くぞ!

【スピリット・ドラゴン】で【バイオレット・ウィッチ】を攻撃!

そして【スピリット・ドラゴン】の効果発動!

手札からドラゴン族モンスターを1枚墓地に捨て、攻撃力と守備力を1000から2000にアップさせる!

スピリットブレス!」

 

墓地に送られたカードの力を得て【スピリット・ドラゴン】の宝石に光が集まる。

と思えば口から光を放ち【バイオレット・ウィッチ】を消滅させた。

 

「【バイオレット・ウィッチ】の効果発動」

 

モンスターが破壊されても焦った表情をしない聖星。

戦闘で破壊された時に発動するという事はリクルーターか何かだろうか。

そう冷静に考えながら取巻は聖星を見据える。

 

「このカードが戦闘で破壊され、墓地に送られた時デッキから守備力1500以下の植物族モンスターを1体手札に加える」

 

「しょ、植物族!?」

 

「はぁ!?」

 

「おいおい、あいつ魔法使い族しか使わねぇだろ!?」

 

「何であいつがそんなカードを!?」

 

「見てれば分かるさ。

俺は守備力0の【死の花-ネクロ・フルール】を手札に加える」

 

聖星がデッキから加えて取巻に見せたのは醜い植物族のカード。

カード名とイラストから見てどうも良いものではなさそうだ。

いや、それよりもあの聖星が植物族を使うという事の方が衝撃だった。

誰かが言った通り今まで彼は多彩な魔法使い族を使ってデュエルをしてきた。

それなのに植物族を使っている。

 

「守備力0?

しかも攻撃力が0じゃないか。

そんなクズモンスターで何する気だ?」

 

「それは見てからのお楽しみさ」

 

理解できない行動に取巻の動揺はさらに大きくなる。

だが微笑みながら言う聖星の言葉に警戒心を抱いた。

オシリス・レッドと言ってバカにしてやりたいところだが、彼は入学試験の時から攻撃力の低いモンスターを使っていた。

だからきっと何か考えがあるはずだ。

 

「……俺はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ。

そしてこの瞬間、【超再生能力】の効果によりデッキからカードを3枚ドロー」

 

【天使の施し】と【スピリット・ドラゴン】の効果で墓地に捨てられたカードは全て3枚。

デッキからカードを3枚引き、手札を補充した取巻はこのターンを終わらせた。

 

「俺のターン、ドロー」

 

ゆっくりとカードを引いた聖星は少しだけ困ったような表情を浮かべる。

折角【死の花-ネクロ・フルール】を手札に加えたのに引いたカードがあまり良くない。

しかし戦えない訳ではないので、そのままそのカードを使った。

 

「俺は手札から【ローンファイア・ブロッサム】を召喚」

 

ソリッドビジョンにより光が集まり、重たそうな実をつけるモンスターが現れた。

高さは聖星の半分くらいだろう。

しかしその外見は明らかに魔法使い族とかけ離れていた。

 

「……そいつ、魔法使い族じゃなくて植物族だよな?」

 

「あぁ。

立派な植物族だぜ」

 

笑顔で肯定すると取巻の眉間に皺が寄る。

更に訳が分からないと言いたいのだろう。

 

「【ローンファイア・ブロッサム】の効果発動。

このカードが場に存在する時、場の植物族モンスターを生贄に捧げデッキから植物族モンスターを特殊召喚する。

俺は2体目の【ローンファイア・ブロッサム】を特殊召喚。

そして2体目の効果発動。

デッキから【ローンファイア・ブロッサム】を特殊召喚」

 

1番最初に召喚されたモンスターが消えたと思ったら同じモンスターが姿を現す。

お世辞にも綺麗とは言えない植物が消えては現れる様子に思わず言ってしまう。

 

「一体何を考えてるんだ。

同じことを繰り返して何の意味があるって言うんだ」

 

「見てれば分かるさ。

3体目の【ローンファイア・ブロッサム】の効果発動。

このカードを生贄に捧げ、デッキから【椿姫ティタニアル】を特殊召喚する」

 

デュエルでデッキに同名カードは3枚までなら入れても良いという決まりになっている。

3体目が現れた時、別のモンスターが特殊召喚されるとは予想していた。

その通りとなり、取巻はどんなモンスターが現れるか警戒した。

 

「特殊召喚、【椿姫ティタニアル】」

 

聖星が指を鳴らすと、【ローンファイア・ブロッサム】の足元から赤色の花びらが舞いあがる。

花びらは【ローンファイア・ブロッサム】を覆い隠すとさらに勢いをまし、中から光が溢れだした。

すると花びらの渦の中から巨大な蕾が現れ、赤い蕾がゆっくりと開花する。

美しく開花した蕾の中には気高い女性が眠っており、彼女は目を覚ますと腕を組んで取巻のドラゴンを見下ろした。

 

「こっ、攻撃力2800!?

しかも植物族……!!

おい、お前のデッキは魔法使い族が中心の【魔導書】だろ!

ついに自分のデッキのコンセプトを捨てたのか!?」

 

「いや、本当は別の目的があるんだけど……

まだカードが揃わないから【椿姫】を出しただけさ」

 

苦笑を浮かべながら弁解する聖星に取巻は頭が痛くなった。

自分とアンティルールでデュエルした時、彼は魔法カードばかりデッキに詰め込んでいた。

その時彼のデッキ構築を疑ったが、今回も別の意味で疑いたくなった。

 

「(だがあのモンスターは植物族。

確か【魔導書】は魔法使い族のサポートカードだ。

つまり今のあいつは殆どの【魔導書】を使えないって事になる。)」

 

下級モンスターが上級モンスターを簡単に倒せる【ヒュグロの魔導書】を最も警戒していたが、聖星に場には植物族しか存在しない。

今のところあのカードは警戒しなくても良いだろう。

だが攻撃力500のモンスターから2800のモンスターが出てくるのは誤算だった。

 

「バトル。

【椿姫ティタニアル】で【スピリット・ドラゴン】に攻撃」

 

「リバースカードオープン!

速攻魔法【月の書】!」

 

「あ」

 

「このカードの効果で【椿姫ティタニアル】を裏側守備表示になってもらう!」

 

美しい笑みを見せた彼女だが、取巻の発動したカードに僅かに目を見開いた。

勿論それは聖星も同じで【椿姫】のカードを見る。

 

「(【椿姫】は俺の場の植物族モンスターを生贄に捧げる事で、カードを対象に取る効果を無効にし破壊する効果……

けど今俺の場に植物族は【椿姫】しかない。

【椿姫】を生贄にしたら次のターン、俺の場はがら空き)」

 

そもそも【椿姫】の守備力は2600と高く、すぐに戦闘破壊される心配はない。

聖星は特に何もせず、彼女が裏側守備表示になるのを見届けた。

 

「それなら俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!

俺は手札から【強欲な壺】を発動!

デッキからカードを2枚ドローする!

そして俺は【スピリット・ドラゴン】を生贄に捧げ、【マテリアルドラゴン】を生贄召喚!」

 

青色のドラゴンは光の中に包まれ、代わりに6枚の翼を持つ金色のドラゴンが現れた。

【マテリアルドラゴン】はゆっくりと目を開き、その姿に違わず気高い咆哮を上げてフィールドを揺らす。

 

「攻撃力、2400か……」

 

自分を見下ろす金色の竜。

その攻撃力は1体生贄では十分すぎる数値だ。

しかしもっと恐ろしいのはその効果。

ダメージ効果をライフ回復に変える効果は現時点ではあまり活躍の場がない。

一方、手札を1枚捨てる事でモンスターカードを破壊する効果を無効にし破壊するという能力は厄介だ。

 

「(【マテリアルドラゴン】……

父さんの【スターダスト】とだいたい似ている効果だっけ。

違うのは手札を1枚コストにして場に残り続ける事と、モンスターの破壊にしか対応していない事。

【スターダスト】は殆どの破壊カードに有効だけど、墓地に行くから場ががら空きになる場合が多いし……

一長一短なんだよなぁ)」

 

【スターダスト・ドラゴン】と比較するとどっちが良いかは言えないが、目の前に現れるとついこの2体が並んだ時のことを考えてしまう。

うん、厄介としか言いようがない。

こうなったらバウンスと除外しか手が残っていないじゃないか。

 

「そして装備魔法、【早すぎた埋葬】を発動!

ライフを800払い、墓地に存在する【エメラルド・ドラゴン】を攻撃表示で特殊召喚!

さらに永続罠【竜の逆鱗】を発動!

これで俺のドラゴンは貫通効果を得る!」

 

金色の竜の隣に並ぶのは翡翠色に輝く竜。

共に美しいドラゴンであり、思わず見とれてしまいそうになる。

それは周りの生徒達も同じようで一気に沸き立った。

 

「すげぇ、上級モンスターが一気に2体だ!」

 

「攻撃力は2400!」

 

「しかも貫通効果付きかよ……」

 

「行くぞ!

【エメラルド・ドラゴン】で裏守備モンスターに攻撃!

エメラルド・フレイム!」

 

体中のエメラルドが光によって反射し、その光を口元に集める。

取巻の攻撃宣言に聖星は思わず首をひねった。

【エメラルド・ドラゴン】は確かにレベル6としては良い攻撃力2400を誇る。

しかし【椿姫ティタニアル】の守備力は2600である。

もしかすると確認していないのだろうかと思ったが、彼の言葉にそれは間違いだと知る。

 

「この瞬間、手札から速攻魔法【突進】を発動!

これで【エメラルド・ドラゴン】の攻撃力は3100だ!」

 

「へぇ、そう来たか」

 

口から放たれた炎は植物である【椿姫】をいとも容易く燃やしてしまう。

炎に包まれた女王は苦しそうに顔を歪めながら、女性特有の甲高い声を上げて破壊されてしまう。

本来ならダメージはないが、【竜の逆鱗】の効果で守備モンスターに攻撃しても戦闘ダメージを与えることが出来る。

これにより聖星のライフは3500まで減った。

 

「マジかよ……

【椿姫】がこうもあっさり倒されるなんて……」

 

燃え尽きて破壊された女王の姿に聖星は思わず呟いた。

【椿姫】は何度もデュエルしてくれたアキがよく召喚してくれたモンスターだ。

父やジャック達は比較的あっさり倒していたが、彼ら以外のデュエリストは【椿姫】を倒すのに苦労していた記憶がある。

まぁ自分も苦労していた組なのは秘密である。

それなのに取巻はすぐに倒してしまい、オベリスク・ブルーの実力は伊達じゃないと感じた。

 

「【マテリアルドラゴン】でダイレクトアタック!」

 

「罠発動。

【リビングデッドの呼び声】。

墓地に存在する【椿姫ティタニアル】を攻撃表示で特殊召喚する」

 

「くっ、また攻撃力2800かっ……!

カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー」

 

流石にもう追撃のカードはなかったのだろう。

聖星は自分のターンが回ってきてドローする。

手札に加わったのもやはり目的のカードではなかった。

 

「(まだあのカード来ないなぁ)」

 

もし父なら欲しいカードへと繋げるカードを引き、遊馬なら欲しいカードをそのまま引き当てただろう。

下手をしたら創造している。

やはり自分は凡人なんだなぁと思いながらカードを発動した。

 

「俺は手札から永続魔法【増草剤】を発動。

このカードは自分のメインフェイズ時に墓地から植物族モンスターを特殊召喚する事が出来る。

俺は墓地から【ローンファイア・ブロッサム】を特殊召喚。

そして【ローンファイア・ブロッサム】の効果により、このカードを生贄に捧げデッキから【桜姫タレイア】を特殊召喚する」

 

先程と同じように【ローンファイア・ブロッサム】が花びらの渦に包まれる。

【椿姫】の時と違うのはそれが淡い桃色の花びらだという事。

花びらの渦の中から溢れる光は【増草剤】を破壊する。

光の中から現れた蕾は花びらと同じ色でゆっくり開くと黒髪で清楚感がある女性が現れる。

彼女は持っている扇子で口元を隠し、妖しく微笑んだ。

その攻撃力は【椿姫】と同じ2800。

また登場した上級モンスターに取巻の表情は険しくなる。

 

「【椿姫ティタニアル】で【エメラルド・ドラゴン】に攻撃」

 

「カウンター罠発動、【攻撃の無力化】!

このカードの効果でこのターンのバトルフェイズを強制終了する!」

 

「それなら俺はターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!

俺は手札を1枚墓地に送り、魔法カード【ライトニング・ボルテックス】を発動!

これでお前の表側表示のモンスターは全滅だ!」

 

デッキから加わったカードを見た取巻はすぐに自信満々に溢れた表情となり、そのカードを発動させた。

すると聖星の場の頭上に暗雲が現れ雷が何度も光る。

今にも落ちてきそうな様子に【椿姫】と【桜姫】は難しい表情を浮かべた。

だがそれは一瞬で【桜姫】は扇を閉じ、扇を高く上げる。

 

「確かに【桜姫】は破壊されるけど【椿姫】は破壊されないぜ」

 

「何?」

 

「【桜姫タレイア】の効果。

このカードが表側表示で存在する限り、このカード以外の植物族モンスターはカードの効果では破壊されない」

 

「なっ!?」

 

聖星が説明すると、暗雲から雷が落ちる。

フィールド全体に落ちた雷は【桜姫】の扇子に集まり、彼女は雷撃を耐えるように顔を歪めた。

しかし耐えきれなかったのか悲痛な悲鳴を上げて破壊されてしまう。

燃えて消え去った友人に【椿姫】は悲しそうな表情を浮かべたが、すぐに凛々しい表情に戻る。

 

「くっそ……!

折角厄介なモンスターを除去できると思ったのにっ……!!」

 

だが、これで聖星のモンスターは1体。

彼女ぐらいならまだ何とかできる。

 

「それなら俺は装備魔法、【団結の力】を【マテリアルドラゴン】に装備!

これで【マテリアルドラゴン】の攻撃力と守備力は俺の場の表側表示モンスターの数×800ポイントアップ!」

 

今、取巻の場に表側表示のモンスターは2体。

よって攻撃力は1600ポイントアップし4000となる。

まさかの攻撃力にブルーの生徒達は叩き潰せ―――!!と声を張り上げた。

そんなにブルーがレッドを叩き潰す姿が心地良いのか。

 

「行け、【マテリアルドラゴン】!

【椿姫ティタニアル】に攻撃!」

 

「くっ、っ!!」

 

口から放たれた光によって【椿姫】は貫かれ、彼女は花びらとなって消えてしまう。

攻撃力の差1200ポイントのダメージを受け、これでライフは2300

 

「これで終わりだ!

そして【エメラルド・ドラゴン】でダイレクトアタック!!」

 

「手札から【速攻のかかし】の効果発動」

 

「て、手札から!?

それに今は俺のターンだぞ!」

 

【エメラルド・ドラゴン】の攻撃が聖星に向かっていく。

全てを燃やす勢いの炎に聖星は微動だにせず効果を発動した。

すると聖星の目の前に1体のかかしが表れ、【エメラルド・ドラゴン】の攻撃を一身に受ける。

 

「【速攻のかかし】は相手のダイレクトアタックの時、手札からこのカードを捨てることで発動できる。

このターンのバトルフェイズを強制的に終わらせてもらうぜ」

 

「くっ、変なカードばかり持っていやがって!」

 

「(変なカードって……

この時代には手札から発動するカード少ないっけ?

それにこのデッキ、無駄に上級モンスターが多いから場が空きやすいし……

【バトル・フェーダー】でも良かったんだけどやっぱり【速攻のかかし】の方が安心感あるんだよなぁ。)」

 

「これで俺はターンエンドだ!」

 

手札をすべて使い切った取巻は改めて聖星の場を見る。

彼の場にモンスターは存在せず、それに対し自分のモンスターは強力なドラゴンが2体。

強く握り拳を作った彼は自信満々に宣言する。

 

「ふっ、どうやら勝負はついたようだな」

 

「あれ、もう勝った気?」

 

「当然だろう。

お前の場にモンスターはいないし、ライフは2300。

それに対し俺の場は攻撃力4000のモンスターと貫通効果を与える【竜の逆鱗】がある。

例え守備モンスターで逃げても一瞬で終わらせてやる!」

 

攻撃力2800のモンスターを簡単に並べたのは驚いたが、聖星は得意の戦術が出来ていない。

自分のコンセプトはちゃんと残しているようだが、無理に普段使わないカードを使うからだ。

これだからレッドはバカなんだ。

そう自分に言い聞かせるように堂々と口にした取巻に聖星は微笑んだ。

 

「それはどうかな」

 

「何?」

 

「どうして俺が魔法使い族デッキなのに植物族デッキを入れたか、ってさっき聞いてきたよな。

俺はただ【死の花-ネクロ・フルール】を使いたかったからなんだ」

 

「何だと?」

 

【死の花-ネクロ・フルール】。

聖星が【バイオレット・ウィッチ】の効果でデッキから加わったカード。

あのカードは植物族で、魔法使い族を使う聖星が使いたがるようなカードではない。

それなのに使いたかった……

言葉の真意を探ろうと頭をフルで回転させ、ある可能性にたどり着いた。

 

「まさか、魔法使い族に関連がある効果か!?」

 

「正解、といえばいいのかな?

う~ん、まぁ、8割正解かな」

 

「何だ、その言い方……

バカにしてるのか!?」

 

「だってしょうがないだろう。

全部正解じゃないんだから。

まぁすぐに分かるさ。

準備が整えばな」

 

「そう簡単に整うわけないだろう!

整う前に俺のドラゴンで叩き潰してやる!」

 

取巻の言葉に聖星は微笑む。

手札に眠る【ネクロ・フルール】。

このモンスターを真価を発揮するにはあのカードが必要。

聖星はゆっくりとカードを引いた。

 

「俺のターン、ドロー」

 

取巻や観客達が見守る中、聖星は静かにそのカードを見る。

来てくれたのは魔法カード。

 

「俺は手札から【強欲な壺】を発動。

デッキからカードを2枚ドローする」

 

やっと最近見慣れた壺が場に現れ、聖星がカードを引くと砕け散る。

そして引いたのは目的の魔法カード。

聖星はそのカードに微笑み、小さく頷いた。

 

「俺は手札から永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動。

そして手札から通常魔法【グリモの魔導書】を発動する。

このカードの効果により、デッキから【セフェルの魔導書】を手札に加える」

 

【魔導書廊エトワール】は【魔導書】が発動するたびに魔力カウンターがたまる効果を持つ。

【セフェルの魔導書】をサーチして英知が無くなった【グリモの魔導書】は魔力の塊となり、聖星の頭上に浮かび上がる。

 

「そして【死の花-ネクロ・フルール】を召喚」

 

デッキからサーチされ、やっと場に出された【ネクロ・フルール】。

何もない場に1つの亀裂が走り、ゆっくりと根を張る。

今にも枯れて朽ち果てそうな植物は1つの果実を実らせた。

しかしその果実はとても醜く、見ていて気分が悪くなる。

 

「この瞬間、罠カード【連鎖破壊】を発動」

 

「【連鎖破壊】!?

攻撃力2000以下のモンスターが召喚に成功した時、デッキ、手札の同名カードを破壊するカード!

普通は相手のカードを破壊するために使う。

そんなカードを自分に使って何の意味があるんだ!?」

 

「破壊されることに意味があるのさ」

 

「っ!」

 

あっさりと返された言葉に取巻は言葉に詰まる。

すると【連鎖破壊】のカードから2本の鎖が解き放たれ、聖星のデッキに突き刺さる。

その鎖は2枚の【死の花-ネクロ・フルール】を絡め取りそのまま破壊した。

 

「【死の花-ネクロ・フルール】はカードの効果によって破壊され、墓地に送られた場合デッキから【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】を特殊召喚する事が出来る」

 

「【時花の魔女】……?」

 

「【連鎖破壊】の効果で破壊されたのは俺のデッキに眠る2枚の【ネクロ・フルール】。

これにより2枚の効果は発動した。

俺はデッキから2体の【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

破壊された【ネクロ・フルール】の実は場に落ち、その実が破裂する。

破裂と同時に闇が広がり、その中から2人の魔女が姿を現した。

黒に近いバラの杖を持つ魔女は花びらの帽子を被っており、先ほどの醜い果実から現れたとは思えない程の美しさを誇っている。

だが取巻はその攻撃力に目を見開いた。

 

「攻撃力、2900……!?」

 

「特殊召喚に成功した時、【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】の効果が発動。

このカードは相手の墓地に眠るモンスターを俺の場に特殊召喚する。

蘇れ、【サファイアドラゴン】」

 

1体の【フルール・ド・ソルシエール】が杖で魔法陣を描き、その中から漆黒のドラゴンが現れる。

元々【サファイアドラゴン】は美しい青色のドラゴンだったのに、【フルール・ド・ソルシエール】の力によって蘇ってたためこのような色になったのだろう。

何だか見ていて可哀そうになってくる。

 

「だ、だが俺の場には攻撃力4000の【マテラルドラゴン】が……!」

 

「【エメラルド・ドラゴン】を破壊すれば3200に下がるだろう?」

 

「それがどうした!?

仮に【エメラルド・ドラゴン】を破壊できたとしても攻撃力は3200!

攻撃力2900のそいつらじゃ勝てるわけがない!」

 

思わず強がってみる取巻。

だが彼はちゃんと覚えていた。

攻撃力を1000ポイントも上げる魔法カードの存在を。

そんな事を考えている取巻に対し聖星は【エトワール】の効果を説明する。

 

「【魔導書廊エトワール】は【魔導書】が発動する度に魔力カウンターを1つ乗せる。

そして俺の場の魔法使い族モンスターはその数×100ポイント攻撃力を上げる」

 

「何だと……?

今魔力カウンターは1。

攻撃力は3000……

つまりあと3枚発動したら……」

 

「【エメラルド・ドラゴン】を破壊した後の【マテリアルドラゴン】に勝てるって事さ」

 

だが、まだ使うつもりはない。

2体の魔女に挟まれている【ネクロ・フルール】に目をやり、聖星はカードを発動した。

 

「さらに俺は手札から魔法カード【フレグランス・ストーム】を発動」

 

発動されたのは1本の花に向かって植物族が吸収されているカード。

すると聖星の場にその紫色の花が現れ、【ネクロ・フルール】がその花に吸い込まれていく。

 

「このカードは俺の場に存在する植物族モンスターを1体破壊し、デッキからカードを1枚ドローする。

そしてそのドローしたカードが植物族だった場合、そのカードを取巻に見せてさらにもう1枚カードをドローする」

 

「……破壊って事は!」

 

【ネクロ・フルール】の効果を覚えていた取巻は険しい表情を浮かべる。

だがまだ【フレグランス・ストーム】の効果処理は終わっていない。

聖星は引いたカードを見せた。

 

「俺が引いたのは植物族の【紅姫チルビメ】。

よってもう1枚カードをドロー。

そして【死の花-ネクロ・フルール】の効果発動。

カードの効果によって破壊された事によりデッキから3体目の【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】を特殊召喚する」

 

「攻撃力3000のモンスターが3体も……」

 

「まだ終わってないぜ、取巻。

俺の手札にはまだ【魔導書】が残ってる」

 

「っ!」

 

「俺は手札から【ヒュグロの魔導書】を発動。

【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】の攻撃力を1000ポイントアップ!

さらに俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、手札の【ゲーテの魔導書】を見せて【セフェルの魔導書】を発動。

【ヒュグロの魔導書】の効果をコピーし、【フルール・ド・ソルシエール】の攻撃力をさらに1000ポイントアップ」

 

【ヒュグロの魔導書】の英知を受け、【フルール・ド・ソルシエール】の攻撃力は3000から4000になる。

そして新たに魔力カウンターがたまり4100

さらに【セフェルの魔導書】で【ヒュグロの魔導書】の英知をコピーし5100

魔力カウンターも3つ目になり5200となった。

攻撃力に比例して【フルール・ド・ソルシエール】のロッドの先端部にある薔薇はさらに美しくなっていく。

これで聖星の場には攻撃力5200のモンスター1体と、3200のモンスターが2体となる。

モンスターを見上げる取巻は強く手を握りしめた。

折角自分も攻撃力が4000に達するようモンスターを並べたと言うのに、破壊効果を無効にする効果を持つモンスターを召喚したというのに……

取巻は自分の両手を見て強く握りしめた。

 

「くっ、そっ……!

この俺がまたレッドのお前なんかにっ……!」

 

前回はまぐれだと思っていた。

ただレアカードを持つ落ちこぼれとしか思っていなかった。

だが自分が倒せなかった相手を難なく倒し、授業の時でも彼の知識が豊富だという事は嫌でも分かった。

だけど所詮彼は自分達より格下で、そんな彼がブルーより優秀などあってはいけない。

歯を食いしばる取巻の姿に聖星は問いかける。

 

「なぁ、前から思ってたんだけどさ。

レッド、レッドって何度も言って疲れない?」

 

「何……?」

 

「そもそも取巻って何の為にデュエルアカデミアに入ったんだ?」

 

「何の為って、お前に言う必要はないだろ!」

 

後は攻撃すれば良い。

そうすれば取巻のライフを0にし、無事勝利を掴むことが出来ると言うのに一体何を言い出すのだ。

それにこんな奴に話す義理など無い。

そう叫んだが、聖星は構わず言う。

 

「俺はさ、楽しいデュエルをしたいからこのアカデミアに入った。

取巻は?」

 

「人の話を聞け!」

 

「聞いてたら有耶無耶になるだろ。

だから勝手に進めさせてもらうぜ」

 

聖星の言葉に舌打ちする取巻。

この学園では上下関係がはっきりと別れているため、このように他者を見下し、見下される環境は自然と成り立ってしまうのだろう。

教師であるクロノス教諭さえレッド生を毛嫌いしているため更に拍車がかかったのかもしれない。

だがここに来る皆は本来、純粋に夢や希望を抱いていたに違いない。

それなのにこんな環境のせいで歪んでしまったとしか言いようがなかった。

 

「俺が乗った飛行機の中じゃ、皆綺麗な目をしてた。

それなのにさ……

レッドとかイエローとか、ブルーとか。

罵倒する側や、罵倒される側の同級生や周りを見ているせいか皆の目が曇っているんだ。

まだ入学してから1か月程度しかたってないんだぜ。

これおかしいだろ?」

 

「そんなもの、実力のない連中が悪いに決まってるだろ!」

 

「別に実力主義が悪いとは言わないさ。

デュエルってのはゲーム、つまり争い事だ。

勝つ者もいれば負ける者もいる。

けどさ、そうやって堂々と他人を罵倒して楽しい?

自分の方が優秀だって周りに見せつけて、自分のプライドを護って、疲れない?」

 

聖星は目の前にいる取巻だけではない。

周りにいる生徒にも問いかけるように目をやる。

もしレッドのくせに生意気だ!と罵倒が飛べば終わっただろう。

だが、今の聖星がブルー相手に勝利を掴める状況のせいか誰も何も言わなかった。

 

「……俺が、ここに入った理由……」

 

周りの空気のせいか、取巻も押し黙る。

そして小さく呟き、何かを考えるかのように顔を伏せた。

そんな彼を聖星は何も言わずただ見つめた。

すると取巻は勢いよく頭をふって顔を上げた。

 

「さっきからごちゃごちゃと……!!

お前には関係ないだろ!」

 

「………………それもそうだな。

悪い、変な話して。

じゃあ行くぜ。

攻撃力3200の【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】で【エメラルド・ドラゴン】を攻撃」

 

聖星の宣言に【フルール・ド・ソルシエール】は杖を持ち上げ、先端部の薔薇から雷が解き放たれる。

それは【エメラルド・ドラゴン】を貫き、取巻のライフを3200から2400へと削る。

 

「くっ!!」

 

貫かれた衝撃で【エメラルド・ドラゴン】は爆発し、その時の爆風がフィールドを覆う。

視界が悪い中聖星は淡々と言う。

 

「これで【マテリアルドラゴン】の攻撃力は4000から3200にダウン。

攻撃力5200の【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】で【マテリアルドラゴン】に攻撃」

 

3体の中で最も攻撃力の高い【フルール・ド・ソルシエール】が1歩前に出る。

そして【マテリアルドラゴン】に杖を向ける。

彼女を紫色のオーラが包み込み、そのオーラが薔薇に集中する。

紫色の薔薇は徐々に黒へと染まり、放った雷撃が【マテリアルドラゴン】を打ち砕いた。

 

「ぐあっ!!」

 

モンスターを打ち砕いた攻撃はそのまま取巻を襲い、彼の体に電撃が走る。

あまりにも脳を揺さぶる痛みに膝を折りそうだったが、まだ終わっていなかった。

 

「最後の【フルール・ド・ソルシエール】でダイレクトアタック!!」

 

「うわぁああ!!!」

 

自分に向けられる薔薇の杖。

冷や汗が頬を伝う前にそれから雷撃が放たれ、取巻に命中する。

体中にまだ帯電する電気がバチバチと音を鳴らし、残り400だったライフポイントが0になった。

そして取巻は膝をつき、荒い呼吸をする。

 

「すげぇ……」

 

「マジかよ……」

 

「レッドがブルーに勝った?」

 

「勝った―――!!」

 

「不動の奴やりやがったぜ!!!」

 

少しの静寂から一気に湧き上がる会場。

周りの生徒、特に同じレッドの生徒達は大盛り上がりでブルー達は信じられないという表情を浮かべている。

聖星はそんな彼らなど気にせず、取巻の元まで歩み寄る。

 

「取巻」

 

「っ……!」

 

また聖星に負けたのが心底悔しいのだろう。

取巻は鋭い眼光で聖星を睨みつける。

だが聖星は特に気にせず彼に手を差し伸べた。

 

「楽しいデュエルだった。

特に【マテリアルドラゴン】に吃驚したぜ。

もし、君が手札を温存してたら【ネクロ・フルール】の効果を使えなくて俺が負けてたかもしれない」

 

「チッ!

誰がお前の手なんて借りるか!」

 

自力で立ち上がった取巻は聖星から顔を逸らし、そのまま背中を向けてしまう。

傍から見れば嫌な行動と思うかもしれないが、メールの一件から聖星は素直じゃないと思ってしまった。

すると隣でも十代が勝ったようで彼のデュエルを見ていた観客達も騒ぎ出した。

 

「見事です、不動聖星君、遊城十代君」

 

会場内に響いた鮫島校長の声。

教師がいる方角に顔を向ければ微笑みながら喋っている彼の姿が見える。

 

「君達のデッキへの信頼感。

モンスターとの熱い友情。

緻密に計算された戦術。

そして何よりも勝負を捨てないデュエル魂。

それはここにいる全ての者が認める者でしょう。

よって遊城君、不動君。

君達はラー・イエローへ昇格です」

 

「おめでと―――!」

 

「おめでとう!!」

 

鮫島校長の言葉と同時に祝福する声が会場内に響く。

天井からは紙ふぶきが舞い上がり、自分達2人を本当に祝福してくれるようだった。

 

「そういえばさ、取巻。

3年生の実技テストっていつだっけ?」

 

「はぁ?

そんな事も知らないのか?

もうすぐ別の場所で始まる」

 

背中を向けていた取巻は呆れたように振り返り短く言う。

うん、やっぱり素直じゃないと思いながら聖星は首を傾げた。

 

「どこ?」

 

「それくらい自分で探せ!」

 

「あぁ」

 

**

 

「お、やってる、やってる」

 

十代や三沢達と昇格の喜びを噛み締めた聖星はすぐに3年生の実技試験の会場に来た。

周りの人達はやはり3年生ばかりで、下級生である聖星がいる事が珍しいのか時々こちらに視線を向ける人がいる。

特に気にせず聖星は進み、目当ての人を見つけた。

その人は同じ寮の人とデュエルしているようで丁度終盤らしい。

 

「あの男のデュエルを見に来たのか?」

 

「あぁ」

 

聖星の目当て。

それは先日助けてもらい、全力でデュエルをしたいと言ってきたカイザー亮の事だ。

柵に凭れて場を見下ろす聖星は【星態龍】の言葉に頷き、彼らの場を見た。

カイザーの場には【サイバー・ドラゴン】1体とライフは4000のまま。

それに対し相手の場には守備力3000の【千年の盾】と【ネオアクア・マドール】が存在する。

【神の恵み】、そして他にもライフ回復のカードがあったのだろう。

ライフポイントは7000程ある。

 

「俺のターン、ドロー……」

 

ゆっくりとデッキからカードを加えるカイザー。

彼は眉ひとつ動かさず手札のカードを1枚発動させる。

 

「俺は手札から【パワー・ボンド】を発動。

手札の【サイバー・ドラゴン】2体を融合。

融合召喚、【サイバー・ツイン・ドラゴン】」

 

手札に存在したのは場にいるモンスターと同じ【サイバー・ドラゴン】。

3体のモンスターが同じフィールドに並ぶ姿は圧巻だが、すぐに2体の【サイバー・ドラゴン】が歪みの中に消え去る。

するとその歪みの中から2つの頭を持つ機械龍が現れ高らかな咆哮を上げた。

 

「【サイバー・ツイン・ドラゴン】の攻撃力は2800

だが【パワー・ボンド】で融合召喚されたモンスターの攻撃力は倍となる」

 

「こっ、攻撃力5600!?」

 

対戦相手の生徒は目を見開いて驚き、周りの生徒達もその数値に目を見開く。

初めはカイザーの2.5倍くらいの高さしかなかった【サイバー・ツイン・ドラゴン】だが【パワー・ボンド】のエネルギーによりさらに巨大化していく。

温もりがない無機質な巨大モンスターに見下ろされるのは一体どんな気分なのだろう。

ただでさえカイザーが威厳ある風格でデュエルしているため更に恐ろしく感じる。

 

「何だよあの数値…………」

 

「あんなの、どうやって勝てって言うんだよ……」

 

「流石カイザーだ……」

 

圧倒的な攻撃力に生徒達は思わずと云った風に口にする。

そんな彼らの中で聖星だけ場違いな事を考えていた。

 

「(攻撃力5600……

凄いはずなんだけど、凄く感じられない。

遊馬の【ホープ】やカイトの【超銀河眼の光子竜】で感覚が麻痺してるのかな?)」

 

自分も先程は攻撃力5200のモンスターを出したし、取巻だって4000のモンスターを出した。

しかも遊馬だって軽く1万を超えるモンスターを出しているし、カイトは攻撃力6000を超えるモンスターの複数回攻撃をしてくる。

例えば【希望皇ホープ】と【H-Cエクスカリバー】を並べたのに、【超銀河眼の光子竜】に効果を無効にされ、更にオーバーレイユニットを4つ全部取り除かれた。

そして攻撃力が6500となった【超銀河眼の光子竜】の4回攻撃など…………

ただの地獄だろ。

それを防ぎ切った遊馬とアストラルも凄かったが……

 

「【サイバー・ツイン・ドラゴン】で【千年の盾】と【ネオアクア・マドール】を攻撃」

 

「え!?」

 

「複数回攻撃を可能とするモンスターか」

 

静かに宣言されるとそれぞれの首に光が集まり、相手の場のモンスターに向かって放つ。

【ネオアクア・マドール】は両手を広げて自分の前に波の壁を生み出すが、光は紙を破るかのようにあっさりと操り手と【千年の盾】を貫く。

絶対に鉄壁の防御を誇るモンスター達も、流石にあのドラゴンの前には無力のようだ。

 

「速攻魔法、【融合解除】。

【サイバー・ツイン・ドラゴン】の融合を解除し、墓地から【サイバー・ドラゴン】を2体特殊召喚する」

 

2頭を持つドラゴンは2つの光に分裂し、機械龍へと変わる。

これはバトルフェイズ中の特殊召喚のためあの2機には攻撃する権利がある。

相手の場にモンスターは存在しないためダイレクトアタックになるのは確実だ。

幸いにも2体の攻撃力は2100で、2体の同時攻撃を受けてもライフは2800残る。

聖星はまだ相手にもチャンスがあると思った。

 

「手札から速攻魔法【リミッター解除】を発動」

 

「りっ、【リミッター解除】!?

ここでっ!??」

 

カイザーが発動した【リミッター解除】は機械族の攻撃力を倍の数値にするカード。

これであの2体の攻撃力は4200となる。

体中から蒸気を出す【サイバー・ドラゴン】は機械で合成された音声で力強く鳴く。

相手も自分の敗北を悟ったのか、その表情はどこか諦めの境地だった。

 

「2体の【サイバー・ドラゴン】でプレイヤーにダイレクトアタック!!

エヴォリューション・バースト!!」

 

「うわぁあああ!!!」

 

勝利のブザーが鳴り響くと教師が勝者の名を宣言する。

カイザーは敗者に手を差し出し、彼の手を握った。

周りの上級生達はカイザーとその相手をした生徒に拍手を送り、凄かった、流石だと口にする。

先輩達の言葉を聞きながら【星態龍】は聖星に尋ねた。

 

「どうだ聖星。

あの男なら全力を出すのに相応しいか?」

 

「(いや、もう……

出すしかないだろ。

ってか、出さないと勝てないって)」

 

別に高い攻撃力を出したわけでもない。

それでも彼の落ち着いた雰囲気、威厳、風格。

全てが他の生徒達と違った。

 

「それで、軸はどうする?」

 

「(そんなの、あいつしかいないだろ?)」

 

凶悪な【魔導書】と共に戦うモンスター達。

様々な選択肢が存在するが、聖星が選ぶのはあの人しかいない。

カイザーのデュエルを見届けた聖星はすぐにその場から立ち去り、バリアン達と戦った時のデッキを思い出す。

 

**

 

「え、十代の奴レッド寮に残ったのか?」

 

「あぁ。

聞いていなかったのか?」

 

「あぁ。

初耳だぜ」

 

無事イエローに昇格した聖星は十代の姿を探したが、どこにも見当たらなかったため三沢に確認したのだ。

すると十代はレッド寮の方が自分に合っているという事で昇格を断ったそうだ。

十代らしいと言えばらしいが、少しだけ理解できなかった。

 

「十代の奴、忍耐力あるなぁ。

俺、レッド寮の飯の不味さが嫌だったから昇格したようなもんだぜ」

 

「そんなにレッドのご飯は不味いのか?」

 

「ご馳走がエビフライ」

 

「……俺もお断りだな」

 

もし食事がまだまともなら聖星も断っていただろう。

部屋は1人部屋だし、カードを隠すには困らない広さだった。

PCや工具類だって置くスペースはあった。

だがあの食事の酷さだけは我慢できなかったのだ。

 

「とにかく聖星。

ようこそ、ラー・イエローへ」

 

「あぁ。

これからよろしくな、大地」

 

END

 




Q【スピリットドラゴン】の攻撃って…
Aアニメで2体墓地に送る場合と、6体墓地に送る場合の攻撃名は出ていましたが1体はでていなかったので勝手につけちゃいました(オイ

Q【マテリアルドラゴン】って金色なの?
Aなんか木っぽい体でしたけど、隣に並ぶのが【エメラルド・ドラゴン】なら金色の方が良いかなぁと。
つまり勝手な捏造です。(…オイ

Q【椿姫】【桜姫】【紅姫】が来たんなら【姫葵マリーナ】出そうぜ!
A出したかったのに出なかったんや…orz

Q聖星はレッド寮の食事を入学前に調べなかったの?
Aレッドの扱いが酷いのは知っていたけど、食事まで見てなかったんだ。


そして最近思います。
魔導モンスターに攻撃名、効果名が欲しいと!
ラモール、ルード、ジュノン、トールモンドは思い浮かんだんですけど他が、ね。
とにかく中二病っぽい技名が良いさ!
日本語と英語の意味が食い違っても気にせん!
そんな気持ちで考えています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 本当のデビュー戦

イエローへと昇格してから数日。

大分イエローの雰囲気にも慣れてきた。

だがどちらかというと最初から身を置いていたレッド寮の方が妙に落ち着く。

人間は最初の環境に馴染みやすいというがまさしくそうである。

それでよくレッド寮に入り浸っているが今日は珍しく十代と翔、そして隼人がイエローの部屋まで来ていた。

 

「聖星、今日俺達の寮で怪談するつもりなんだ。

お前も来いよ」

 

「止めて、俺怪談とかダメなんだ」

 

「俺もなんだな!

……でもちょっと聞いてみたいんだな」

 

「隼人……」

 

聖星は隣にいる隼人になんとも言えない表情を浮かべ、自分を怪談に誘った十代に視線を移す。

どうやら彼等は今晩レッド寮の食堂で怪談を話すつもりらしい。

発案者の十代と翔はやる気満々で、意地でも聖星を参加させる気のようだ。

しかし先ほど言ったとおり聖星は怪談がダメである。

 

「やるなら3人でやってくれないか?

俺、本当にダメだから」

 

「えぇ、聖星君もやろうよ。

どうせ大した話じゃないんすから」

 

それでも断固お断りである。

笑顔で首を振る聖星に翔はやろうと誘う。

あぁ、これでは埒があかない。

聖星は大きくため息をつき、笑顔のままとある提案を出す。

 

「分かった。

じゃあ翔、俺にデュエルで勝ったら参加する。

どう?」

 

「聖星君と!?

そんなの勝てっこないっす!」

 

持ち出された提案に翔は即行首を左右に振った。

なんたって聖星は自分達より格上のブルーに勝つほどの実力者だ。

入学試験でもノーダメージで勝ち、龍牙とのデュエルでも高いプレイングを見せてくれた。

しかもラー・イエローへ昇格。

入学して1ヶ月程度だが、彼は自分より強いと知るには充分すぎる時間である。

 

「なら参加しない」

 

「良いじゃないすか、怪談くらい」

 

「翔、無理に誘うのも悪いぜ。

じゃあ俺達3人で楽しむから」

 

「あぁ」

 

良かった、十代は物分かりがいい人で。

そう思った聖星は部屋の扉を閉め、デッキを組む。

 

「今度はどんなデッキを作っているんだ?」

 

「【墓守魔導】」

 

「墓地を封じる気か」

 

「結構面白いと思うぜ」

 

確かこの時代の【墓守】デッキは【墓守の長】を主軸にするものが多かったはずだ。

そもそも【墓守】の基本的なステータスが低いため、見向きもされていない場合も多い。

墓地封じの【ネクロバレー】はかなり強力だと思うのだが……

仮にこのデッキを遊星相手に使用したら確実に眉間に皺が寄るだろう。

いや、【ボルトヘッジホッグ】や【レベル・スティーラー】がいるから【ジャンク・デストロイヤー】を出されて一掃されるか。

 

「そうか。

そういえば丸藤という男とのデュエルはどうした?」

 

「しようと思ったんだけど、なんだか予約制らしくて。

結構待つらしい」

 

「デュエルするのに予約がいるのか?」

 

「まぁ、学園一だからそれなりに大変だろう」

 

初めはカイザーと直接会ってデュエルしようと思ったが、ブルー寮に行った途端門前払いになったのだ。

そこで彼とのデュエルは予約が必要であり、それがこの学園のルールなら仕方がないと割り切り予約した。

だがその予約が酷い。

2か月待ちとか普通じゃない。

プロデュエリストでもないただの学生とのデュエルにここまで待たされるとは流石カイザー。

 

**

 

それから次の日。

普通に授業も終わり、今日の課題も終えた聖星はデッキを広げていた。

そこにあるのは2つのデッキで1つは全力のデッキ。

もう1つは昨日考案した【墓守魔導】である。

 

「それにしても、十代の奴。

用事って何なんだろうな」

 

「大徳寺から教えてもらった穴場だと言っていたな」

 

本当は授業の後すぐに十代にデュエルを申し込み、このデッキを回すつもりだった。

だが十代は今晩する事が有り、その準備の為早々レッド寮に帰ったらしい。

自分も参加したかったのは本音だが、十代の「お前怪談苦手だろ?」という言葉に強く頷いた。

仲間外れは嫌だが、怪談に付き合いのはもっと嫌だ。

 

「おい、聖星。

PDAが鳴っているぞ」

 

「本当だ」

 

机の上に置いてあるPDA.

一体誰からだと思いながら画面を開くと、カイザーの顔が映り思わず素っ頓狂な声を出してしまう。

 

「ま、丸藤先輩?」

 

「夜分にすまない。

君がわざわざブルー寮に足を運んでくれたと後輩から聞いてな。

もし君の都合が良ければ今からデュエルはどうだ?」

 

「良いんですか?

俺、予約しちゃいましたよ」

 

「あぁ、構わない。

それとも今夜は都合が悪いか?」

 

「いえ、そんな事はありません」

 

「そうか。

こちらから勝手に指定して悪いが、場所はアカデミアの灯台だ。

待っている」

 

そう言うとカイザーは一言述べ、聖星が返事をするとすぐに切ってしまう。

何も映らなくなったDPAの画面をただ見つめているだけ。

聖星は何度か深呼吸をし、この高鳴る鼓動を落ち着かせた。

まさかカイザーからデュエルの誘いがあったなどこれは現実だろうか。

学園一のデュエリストといわれる人物からのお誘いに感情が高まる。

自然と手が震え、口元が弧を描いてしまう。

 

「良かったじゃないか。

そいつらを早々に表舞台に出すことが出来て」

 

「あぁ」

 

一体、彼らを出すのは何か月ぶりだろう。

遊馬とアストラルのデュエルを見届け。

別れのデュエルをして。

この時代に迷い込んできて……

もう何か月もこのデッキを使わなかった。

下手をすれば半年以上使っていない。

それを遂に使う時が来たのだ。

 

「あ、そうだ。

十代にも一応伝えておこうか」

 

「あいつらは用事があるのだろう。

伝えて大丈夫なのか?」

 

「来るか来ないかは十代に任せるさ」

 

デッキケースからデッキを取出し、デュエルディスクにセットする。

そしてPDAで十代にカイザーとのデュエルの旨をメールで送る。

送ってすぐに部屋を出たが、鍵を閉めると同時に十代から返信が来た。

『今すぐ行くから待ってろ!!』

何とも十代らしいメールだ。

これを打っている時の十代の姿が簡単に想像できて、聖星はつい笑ってしまう。

 

**

 

カイザーに誘われた場所。

船を導くためにライトが光っている灯台に来た聖星は目的の人物を見た。

カイザーは腕を組みながら待っていたようで、すぐに聖星に歩み寄る。

 

「突然の申し出を受け入れてくれて感謝する。

ありがとう」

 

「いえ。

こちらこそデュエルに誘って頂けてとても嬉しいです」

 

軽くお辞儀をした聖星は少しだけ周りを見渡す。

どうやら十代達はまだのようで姿が見えない。

折角誘ったのだから、カイザーには悪いが暫く待ってもらうか。

そう思って口を開こうとすると、慌ただしい足音が聞こえ、森の中から十代達が顔を出す。

 

「ぷはぁ~、疲れたっす!」

 

「……あそこからここまではキツイんだな……」

 

「何だよ翔、隼人。

根性ねぇぞ。

あ、聖星~!

デュエル始まったか??」

 

「いや、俺も今来たところ」

 

「確か……

彼はクロノス教諭を破った遊城十代だったな。

それに翔も一緒か」

 

「もしかして余計でした?」

 

「いや、構わない」

 

もしかすると人目を気にするデュエルだっただろうか。

こんな時間、しかも人気が少ない灯台を選んだのだ。

少し配慮が足らなかっただろうかと思ったが、特に気にした様子もなく首を横に振られた。

 

「では、早速……」

 

「あぁ。

君の全力、楽しみにしている」

 

「こちらも、学園一の実力がどれ程のものか楽しみです」

 

2人は距離を取り、デュエルディスクを構える。

そして何も言わず視線が交わると同時に叫んだ。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻はもらいます、ドロー」

 

デッキからカードを引く聖星。

さて、久しぶりの全力のデュエル。

手札には何が来ているのだろうか。

ゆっくりと手札を確認すると、このデッキもやる気満々だと言うのが手に取るようにわかった。

 

「(手札がいきなりこれ?

……だったら、やるしかないな。)

俺は手札から速攻魔法【魔導書の神判】を発動します」

 

「【魔導書の神判】?」

 

「え、なんすかあのカード?」

 

「俺とのデュエルで今まで1度も使った事がないカード?

マジかよ、聖星の奴まだあんな【魔導書】を持ってたのか!」

 

「一体どんな効果なんだな……」

 

聖星が発動したカードに4人は似たような反応をする。

そう、これが今まで使うのを躊躇っていた【魔導書】だ。

カイザーとギャラリーの言葉を耳にしながら効果を説明する。

 

「このカードはエンドフェイズ時、発動したターンの間に使用した魔法カードの枚数までデッキから【魔導書】を手札に加えます」

 

「使用した魔法カードの枚数まで……

まさか、このターンで大量に手札を使用してもエンドフェイズ時に手札が回復するというのか?」

 

「その通りです」

 

【魔導書】デッキの核となる【魔導書】をサーチする効果。

しかも枚数は発動した数までなら自由に選択でき、種類さえも自分の意のままだ。

その時の状況によって除去カード、強化カード、サーチカード、または全てを瞬時に手札に加える。

相手がハンデス等に特化したデッキでなければ、悲惨な未来があっさりと見えるだろう。

だが【魔導書の神判】の効果はそれだけではない。

 

「そして、この効果で手札に加えたカードの数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスター1体をデッキから特殊召喚できます」

 

「サーチだけではなく、特殊召喚まで……

成程、手札だけではなく場まで整えるカードという事か」

 

この説明を1度聞いただけで理解できたようで聖星は内心助かったと零す。

凌牙とカイト、璃緒はすぐに理解してくれたのだが……

遊馬はアストラルの解説でやっと理解し、クラスメイトは全く理解できなかった。

まぁデュエルでその恐ろしさを理解させたが。

 

「次に俺は魔法カード【一時休戦】を発動します。

互いにデッキからカードを1枚ドローします」

 

「龍牙先生との制裁デュエルで使用したカードか。

確かダメージを0にする効果もあったな」

 

「はい」

 

【魔導書の神判】は確かに強力だ。

だが、それはあくまで次に自分のターンが回ってくることを前提とした話。

相手のターンに1キルされてしまえば意味がない。

それを防ぐために【一時休戦】は大いに役立っている。

 

「俺は【魔導書士バテル】を守備表示に召喚。

この瞬間、【バテル】の効果発動。

このカードが召喚に成功した時、デッキから【魔導書】と名のつく魔法カードを1枚手札に加えます。

俺は【グリモの魔導書】をサーチ。

【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【セフェルの魔導書】を手札に加えます」

 

【グリモ】と【セフェル】。

更に場には魔法使い族の【バテル】。

あまりにも見慣れた光景に十代達は次に何のカードが発動されるのか容易に想像できた。

 

「そして【セフェルの魔導書】を発動します。

このカードは俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、手札の【魔導書】を見せる事で発動できます。

墓地に存在する通常魔法の【魔導書】の効果を得ます。

俺はフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を見せます」

 

「墓地の通常魔法。

つまり君はもう1度【グリモの魔導書】を使えるという事か」

 

「はい。

俺は【グリモの魔導書】を選択。

デッキから【ゲーテの魔導書】を加えます。

そしてフィールド魔法、【魔導書院ラメイソン】を発動」

 

聖星がフィールド魔法を発動すると轟音が響き渡り、灯台が光に満ち溢れる。

するといくつもの球体が現れ、それらは踊るように空中に舞い上がる。

四方に広がった球体は魔力を放ち、聖星の背後から巨大な建物が現れた。

 

「俺はカードを3枚伏せます。

そしてエンドフェイズ時、【魔導書の神判】の効果が発動します」

 

「このターン使用された魔法カードは4枚だったな」

 

「はい。

俺はデッキから【グリモの魔導書】、【魔導書廊エトワール】、【ヒュグロの魔導書】を手札に加えます」

 

「何、3枚だと?」

 

聖星が加えたカードの枚数を聞き、カイザーは怪訝そうな表情を浮かべる。

今、彼の手札は1枚。

仮に4枚全て加えたとしても手札は5枚となり、手札制限にはひっかからない。

幾度もなく彼のデュエルを見たり聞いたりしたが、デッキに存在する【魔導書】の種類が少ないわけではない。

一体何を考えているのか分からなかった。

怪訝そうな表情のカイザーに聖星は微笑み、次の効果を発動した。

 

「そしてこの瞬間、【魔導書の神判】のもう1つの効果発動。

俺は3枚手札に加えた事により、デッキからレベル3の【魔導教士システィ】を特殊召喚します」

 

デッキから現れたのは初老の女性。

緑色の衣服を身にまとい、両手には短剣と天秤を模した杖を持っている。

彼女の攻撃力は1600で高くもなければ、低くもない。

一体どんな効果を持っているのか期待していると、【システィ】が淡い光に包まれる。

 

「【魔導教士システィ】の効果。

【魔導書】を発動したターンのエンドフェイズ時、このカードを除外する事でデッキから【魔導書】とレベル5以上の光属性または闇属性の魔法使い族を手札に加えます。

エンドレス・アンジェ」

 

【システィ】は短剣を地面に突き刺し、天秤の杖を前に突き出す。

杖はそのまま浮かび上がり、【システィ】は祈るように膝をついた。

すると天秤の左右に【魔導書】のカードと1枚の魔法使い族のカードが現れる。

2枚のカードが現れると彼女は光の中に姿を消してしまった。

 

「俺は【魔導書の神判】とレベル7の光属性【魔導法士ジュノン】を手札に加えます」

 

「最上級モンスターを加えたか……」

 

「ターンエンドです」

 

手札に加わった魔法使い族のカードをカイザーは思い出す。

魔法使い族は武藤遊戯の影響か様々なデュエリストが使用している種族だ。

幾度となく魔法使い族の使い手と戦った事はあるが、あのカードは全く知らないカードだ。

それは十代も同じようで目を輝かせながら両手の拳を握りしめる。

 

「すっげぇ、すっげぇ!

聖星の奴、まだあんな魔法使い族を持ってたのかよ!」

 

「十代、お前は知らなかったのか?」

 

「あぁ。

あの【システィ】も【ジュノン】も初めて見るカードだぜ!

どんなカードなんだろうな。

戦ってみてぇなぁ!

でも、あのモンスターどっかで見た事あるなぁ」

 

【システィ】の効果を聞いた瞬間、【魔導書】には必要な効果だとすぐに分かった。

【魔導書】で動かすために必要な魔法カードのサーチ、そして上級モンスターを手札に呼び込む。

どんな手段であの上級モンスターを特殊召喚するのか十代は楽しみで仕方がない。

テンションが無駄に高い十代に対し翔はカイザーに目をやり、小さく呟いた。

 

「確かに見た事もない魔法使い族……

でも、それでお兄さんに勝てるわけないよ」

 

その瞳にあるのは絶対的な自信。

だけど胸を張るような立派な自信ではなく、どこか悲しげな自信だった。

この時の翔の声色はとても弱々しかったが十代の耳に届くには十分だった。

 

「え、カイザーってお前の兄ちゃんなの!?」

 

「えっ!?

あ、そ、そうだけど……」

 

十代からの問いかけに翔は弱々しく返す。

その言葉は聖星にも聞こえており、そういえば2人の名字は同じだったなと思いだす。

 

「俺のターン。

俺は手札から魔法カード、【大嵐】を発動」

 

「え?」

 

パードゥンミー?

思わずそう口から出そうだった聖星はカイザーの場に現れたカードを凝視する。

間違いない、あれは【大嵐】だ。

ある意味この状況で出て欲しくなかった【大嵐】だ。

 

「場の魔法・罠カードを全て破壊する」

 

分かりきっている効果を説明され、聖星は目を見開く。

今彼がどんな心境なのか嫌でも分かった隼人は冷静に解説した。

 

「聖星は【神判】で加わるカードのせいで手札が6枚以上になる。

だからカードを墓地に捨てないため、手札のカードを伏せた。

つまりあのカード達は罠カードじゃない可能性が高いんだな」

 

「つまり【ネクロの魔導書】とか相手のターンに使えない【魔導書】のカードだって事だろ?

それを破壊されたら聖星には辛いなぁ」

 

サーチ系のカードは先ほどのターンで使い切り、【魔導書の神判】で補充しているためその点では心配はない。

しかし伏せているカードは高い確率で【魔導書】。

ただでさえ魔法カードは1度墓地に行くと回収しづらいのに、デッキの核をいきなり破壊されるなど痛手としか言いようがない。

するとカイザーと聖星の場に轟音と共に凄まじい強風が吹き荒れる。

カイザーのコートは大きく音を立てながら靡き、海も荒れ狂う。

カードが風によって表になろうとした時、聖星が冷静に言った。

 

「リバースカード、オープン速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動」

 

「明日香とのデュエルに使用したカードか」

 

「はい。

墓地に存在する【グリモ】と【セフェルの魔導書】をゲームから除外し、モンスターの表示形式を変更します」

 

「表示形式を?」

 

今、フィールドに存在するは守備表示の【バテル】だけ。

つまり表示形式を変更するのは【バテル】となり、守備表示の彼を変えて意味があるとは思えなかった。

カイザーが怪訝そうな表情を浮かべているが、聖星はただ微笑むだけだ。

 

「更にチェーンして速攻魔法、【魔導書の神判】を発動!」

 

「っ!

成程、手札に2枚あったのか」

 

「このデッキも久しぶりにデュエルが出来て嬉しいんですよ」

 

これでこのターンのエンドフェイズ時、聖星はカイザーが発動した魔法カードの分までデッキから【魔導書】を加えることが出来る。

すると【バテル】が【ゲーテの魔導書】の効果で表側表示から裏側表示へと変わっていく。

チェーンで発動されたカードの処理を終えた事で【大嵐】が全ての魔法・罠カードを飲み込んだ。

当然、その中にはフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】も入っている。

 

「この瞬間、【魔導書院ラメイソン】の効果が発動します。

このカードが相手によって破壊された時、墓地に存在する【魔導書】の枚数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスターを1体特殊召喚します。

俺の墓地に存在するのは【魔導書の神判】2枚、【魔導書院ラメイソン】、【ゲーテの魔導書】が1枚。

よって4枚。

俺は【魔導教士システィ】を守備表示で特殊召喚します」

 

破壊されたはずの【ラメイソン】は4つの魔力の塊を残し、そのうち3つが合わさって【システィ】へと変わる。

特殊召喚されたモンスターの効果を思い出しカイザーは確認の意味を兼ねて言う。

 

「君はこのターン【ゲーテの魔導書】と【魔導書の神判】を発動した。

つまりサーチ効果の発動条件はクリアしているという事か」

 

「はい」

 

「そうか……」

 

既に聖星の手札には上級モンスターが握られている。

このまま【システィ】を場に残し、再び【魔導書】と上級モンスターを握られるのは厄介だ。

となると彼が最優先にすべきことは……

 

「俺は手札から【パワー・ボンド】を発動。

手札の【サイバー・ドラゴン】3体を融合。

融合召喚、【サイバー・エンド・ドラゴン】!!」

 

「は?」

 

カイザーは高らかに宣言し、自分の持つ手札を4枚見せる。

そこには彼の宣言した通り3枚の【サイバー・ドラゴン】と機械族専用の融合カード【パワー・ボンド】があった。

フィールドに機械龍が3体並び、歪みの中に吸い込まれる。

すると歪みの中から光が溢れだし、3つ首のドラゴンが歪みの中から現れた。

 

「凄い……

初手に正規融合の素材と融合カードがくるなんて、普通じゃないだろ。

しかも全部同名カード……」

 

 

聖星はゆっくりと特殊召喚された【サイバー・エンド・ドラゴン】を見上げる。

月光で反射される銀色のボディに、【サイバー・ツイン・ドラゴン】を超える大きさ。

感情を宿さない無機質な瞳がある種の恐怖を掻きたてる。

その攻撃力は4000.

だが、まだ終わらない。

 

「【パワー・ボンド】の効果により、このカードで融合召喚された【サイバー・エンド・ドラゴン】の攻撃力は2倍になる」

 

「つまり攻撃力8000という事ですね」

 

「そういう事だ」

 

静かに返す聖星と答えるカイザー。

互いにあまりデュエル中で声を荒げない部類のせいか、淡々とデュエルをしているようにしか思えない。

しかし互い、特に聖星がまとっている雰囲気が真剣そのものでどこか迫力のあるデュエルだ。

一方、デュエルを見ている十代は嬉しそうに言う。

 

「すげぇ、攻撃力8000とか普通じゃねぇぜ!

俺、そんな攻撃力を持つモンスター初めて見た!」

 

「この勝負、お兄さんの勝ちっす」

 

「そうなんだな」

 

「は?

何でだよ。

聖星のモンスターは守備表示だぜ?」

 

通常なら守備モンスターを攻撃した時、戦闘ダメージを相手に与える事は出来ない。

それはデュエリストなら常識の事だ。

だが残念ながらあのモンスターにはその常識が通用しない。

それを誰よりも知っている翔は呟いた。

 

「【サイバー・エンド・ドラゴン】には貫通効果があるんすよ」

 

「な、何だって!?」

 

「【サイバー・エンド・ドラゴン】で【魔導教士システィ】に攻撃。

エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 

攻撃力8000の【サイバー・エンド・ドラゴン】は3つ首を全て【システィ】に集中させる。

自分に向けられる6つの眼に【システィ】は少し怯んでしまう。

そして【サイバー・エンド】の口から光線が放たれ【システィ】を一瞬で吹き飛ばした。

凄まじい破壊力を持つ攻撃は大爆発を引き起こし、聖星の姿を飲み込む。

 

「聖星!!」

 

大爆発の中に姿を消した聖星に十代は叫ぶ。

翔と隼人も心配そうに聖星を見た。

ゆっくりと爆発の光は消えうせ、煙の中から無傷の聖星が姿を現す。

予想外の事に3人は目を丸くした。

 

「あ、あれ。

何で無事なんだ?」

 

「え、え?」

 

「ど、どうなってるんすか?

だって【サイバー・エンド】の攻撃力を受けたんすよ」

 

思わず、というふうに互いに顔を見合わせる3人。

そんなに聖星の無事という事実が信じられないのだろう。

 

「翔の言うとおり、【サイバー・エンド・ドラゴン】には貫通効果がある。

本来なら聖星、君に7200の貫通ダメージだ」

 

「はい。

ですが俺が発動した【一時休戦】の効果により、丸藤先輩のエンドフェイズ時まで互いに受けるダメージは0になります。

よって俺のライフは減りません」

 

十代達に説明するように互いに言葉を交わす聖星とカイザー。

やっとライフが減らない理由を理解した十代は安堵の息をつく。

 

「なんだよ、聖星!

吃驚させんなよな~

ったく、心臓に悪いぜ」

 

「悪い、悪い」

 

「そう、【一時休戦】は全てのダメージを0にする。

俺が受ける効果ダメージもな」

 

「え?」

 

十代からカイザーに顔を向けた聖星は不思議そうな表情を浮かべる。

わざわざダメージではなく、効果ダメージと限定したのだ。

一体どうしてここでその言葉が出てくるのか分からなかったが、翔はハッとした表情となる。

 

「効果ダメージも……

じゃあ、【パワー・ボンド】のデメリットも無効になったって事っすか!?」

 

「【パワー・ボンド】のデメリット?」

 

「【パワー・ボンド】は融合召喚したモンスターの攻撃力を倍にする強力なカード。

だがその代償は高い。

このカードを発動したターンのエンドフェイズ時、俺は融合召喚したモンスターの攻撃力分のダメージを受ける。

だが【一時休戦】の効果により俺へのダメージはない」

 

つまり【一時休戦】の効果を逆手に取ったという事だ。

カイザーからデメリットの説明を受けた聖星は信じられないという表情を浮かべる。

あくまで聖星は次のターンに繋げるために【一時休戦】を発動した。

それなのにカイザーはそのカードを最大限利用できるカードを最初の手札に揃えていた。

 

「さらに俺はカードを1枚伏せ、【天よりの宝札】を発動。

互いに手札が6枚になるようデッキからカードをドローする」

 

「今、俺の手札は6枚だからドローできない……」

 

「俺の手札は0枚。

よって6枚ドロー」

 

【天よりの宝札】は互いにメリットを与えるカードだ。

だが【魔導書の神判】で聖星の手札は6枚もあり、ドロー出来るのはカイザーのみ。

カイザーだけが【天よりの宝札】の恩恵を受けたというべきだ。

【大嵐】といい【一時休戦】といい、悉く聖星の行為が裏目に出てしまったような気がする。

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンを終了する」

 

「この瞬間、【魔導書の神判】の効果が発動します。

このターン、丸藤先輩が発動した魔法カードは2枚。

よって俺はデッキから2枚の【魔導書】を加えます。

俺はフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】と【魔導書庫ソレイン】を加えます」

 

「【魔導書庫ソレイン】?」

 

聖星が加えたカード。

また初めて聞く名前で十代達は首を傾げる。

そのカードにはとある室内に太陽のオブジェが有り、そのオブジェに何本かのチューブが繋がっているというものだ。

 

「(伏せカードを破壊されたのも、手札を補充されたのも誤算だったけど……

この手札ならいけるな)

俺のターン、ドロー」

 

新たに加わったカード。

そのカードと裏側守備表示の【バテル】を見比べ、小さく頷いてしまう。

 

「俺は裏守備の【バテル】を反転召喚。

【バテル】の効果はリバース時にも発動します」

 

「効果の再使用……

だから【ゲーテの魔導書】で【魔導書士バテル】を裏側守備にしたのか」

 

「その通りです。

よってデッキから【トーラの魔導書】をサーチ」

 

聖星が見せたのは【魔導法士ジュノン】が描かれている【魔導書】。

そのカードを見て十代はやっとどこで【ジュノン】を見たのか思い出した。

 

「永続魔法、【魔導書廊エトワール】を発動」

 

【魔導書廊エトワール】は発動した【魔導書】の数の分だけ魔力カウンターを乗せる。

【魔導書の神判】の後に発動すれば、聖星は1枚多くの【魔導書】を手札に加える事が出来ただろう。

しかし聖星は今はモンスターの攻撃力を上げる事を重点に置いたようだ。

 

「【魔導書】が発動する度にこのカードに魔力カウンターを1つ乗せ、その数×100ポイント俺の魔法使い族の攻撃力が上がります。

そして俺は手札から速攻魔法、【魔導書の神判】を発動。

このターンのエンドフェイズ、このターン中に使用した魔法カードの枚数までデッキから【魔導書】を加えます」

 

これで聖星はエンドフェイズ時手札の枚数を回復することが出来る。

だが彼のターンが始まってから通常通りダメージは受けるため、このターン中に【サイバー・エンド】をどうにかしなければワンターンキルで終わってしまう。

すると【魔導書の神判】のカードが1つの球体となり、聖星の頭上まで浮かび上がった。

 

「……あれが魔力カウンターか」

 

「はい。

魔法カード、【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【魔導書士バテル】を加えます」

 

紫色の淡い本のカードが現れ、それは光を発してモンスターカードへと変わっていく。

カードには場に存在する少年魔導師と同じモンスターが描かれていた。

聖星が【バテル】を手札に加え終えると【グリモの魔導書】も魔力カウンターとなり宙へと浮かび上がる。

 

「俺は【魔導書士バテル】を守備表示に召喚。

【魔導書士バテル】の効果によりデッキから【セフェルの魔導書】をサーチ」

 

いつものように魔法カードをサーチする聖星。

ここまでの流れは聖星のデュエルを良く見る翔や十代の間ではもうお馴染みとなっている。

だが今後どんな風に展開していくのか予想もつかなかった。

 

「今、聖星君の手札には上級モンスターが1体」

 

「あぁ。

けど、どうやって召喚するんだろうな」

 

心配そうに呟く翔と楽しみにしている十代。

面白いくらいに異なる反応だ。

翔はこのターン聖星の行動、そして今までのデュエルを思い出した。

 

「このターン聖星君は通常召喚を行ったっす。

でも墓地にいないから【ネクロ】での蘇生は無理だよ……

それに、仮に特殊召喚出来てもお兄さんの場には攻撃力8000の【サイバー・エンド・ドラゴン】がいるっす。

例え【ヒュグロの魔導書】と【セフェルの魔導書】のコンボで攻撃力を上げてもせいぜい2000までしか上がらない……

【サイバー・エンド】には届かないっす」

 

攻撃力8000のモンスターとまともに戦って勝てるモンスターなんていない。

何度も兄のデュエルを見てきたが、同じように兄の前にひれ伏すデュエリストも多くいた。

今にも顔を伏せそうな翔の様子に十代は首を傾げた。

 

「なぁ、翔。

さっきからお前さ、なんかおかしくね?

兄貴が絶対に勝つ!っていうのなら分かるけどさ、なんか、妙に応援しているっていう感じしねぇし」

 

「兄貴はお兄さんのデュエルを見るのは初めてだから仕方ないっす。

お兄さんは強すぎる。

あの人の強さは誰も寄せ付けない……」

 

いや、十代が聞きたいのはそういう事ではない。

聖星からカイザーの話を聞き、彼が強いデュエリストだというのは知っている。

だが何故弟の翔がそこまで気弱になるのかいまいち理解できなかった。

元々翔は気弱で、兄の強靭さがプレッシャーとなり何か嫌な事でも抱いているのだろうか。

よく理解できなかったが十代は翔に別の言葉を投げかける。

 

「翔」

 

「兄貴?」

 

「見てみろよ、あいつの目」

 

「え?」

 

十代が見ているのはカイザーと対峙している聖星。

この時の十代には不敵な笑みが浮かんでおり、聖星は微かに笑みを浮かべていた。

 

「あれ、策があるって顔だぜ」

 

「策?」

 

「それに聖星が今使っている【魔導書】は俺達が知らないデッキ。

きっとあいつの事だ。

俺達を驚かせる方法でお前の兄ちゃんと戦うさ!

そうだろ、聖星!!」

 

魔法カードを使って戦うか、それとも罠カードを使うか。

見た事がないカードばかりでどんな戦術が来るか分からない。

だから楽しみで仕方がない。

きっと聖星ならやってくれると十代は信じた。

自分に向けられた言葉に聖星は照れくさそうに頭をかく。

 

「何か、随分と期待されているみたいだな。

じゃ、その期待に応えよっか」

 

聖星がそう呟くとカイザーは元々引き締まっていた表情をさらに引き締めた。

 

「手札に存在する【ヒュグロ】、【セフェル】、【トーラの魔導書】を見せる事で、俺は手札に存在する最上級モンスターを特殊召喚できます」

 

「なっ、手札を公開するだけで特殊召喚だと!?」

 

聖星が3枚の【魔導書】をカイザーに見せると、頭上にそのカードが現れた。

3枚のカードはすぐに消え、代わりにフィールドに魔法陣が描かれる。

淡い光を放ちながら輝く魔法陣の輝きは増し、灯台に一つの光柱が立ち上る。

自分のフィールドを照らす光に対し聖星は叫んだ。

 

「【魔導法士ジュノン】を特殊召喚!!」

 

その声に呼応するよう光は砕け、中から高位の魔術師が姿を現す。

彼女はゆっくりと目を開き凛とした表情で前を向く。

 

「いきなり攻撃力2500のモンスター!?」

 

「な、なんでこんなモンスターが特殊召喚できたんだな!?」

 

「新しいモンスター来たぁ!」

 

【ジュノン】の登場に一気に湧き上がるギャラリー。

カイザーもあまり表情の変化はなかったがどうやら驚いているようで、僅かに口元が開いている。

 

「【魔導法士ジュノン】は手札に存在する【魔導書】を3枚見せる事で、手札から特殊召喚できる効果を持ってるんだ。

凄いだろ?」

 

「あぁ、凄すぎだぜ!

俺は【ディメンション・マジック】とか罠カードの破壊とかで特殊召喚すると思ってなのにさ!

まさかそんな方法で特殊召喚するなんて思わなかったぜ!」

 

手札の情報を公開しての特殊召喚。

普通なら相手に情報を与えてしまうのであまり良くない方法だ。

しかし聖星は【魔導書の神判】や【魔導書】のサーチ効果で元から情報を公開している。

だから特に気にせず特殊召喚できるという事だ。

 

「丸藤先輩。

タロットカードはご存じですよね?」

 

「あぁ。

詳しい事は知らないがな。

だが何故急にその事を言う?」

 

「俺が使っている【魔導】シリーズはタロットカードがモチーフになっているからです」

 

「何?」

 

聖星自身、タロットカードには詳しくない。

きっとこのデッキを手にしなければ名前だけを知っているという程度の認識しかなかっただろう。

だがこのカード達の元だというのならデュエリストとして知っていて損はないと思った。

目を閉じた聖星は説明する。

 

「タロットカードは占いのための道具。

そしてタロットカードは正位置か逆位置かで異なる意味を持ちます」

 

「何が言いたい?」

 

「【ジュノン】はカード番号2、そして女教皇。

正位置の意味は知性、洞察力、優しさ、清純。

逆位置の意味は無神経、わがまま、不安定、神経質」

 

聖星が口にする意味にカイザーは怪訝そうな表情を浮かべる。

一体その正位置と逆位置がこのデュエルで何の意味があるというのだろう。

目を伏せたまま説明した聖星はゆっくりと不敵な笑みを浮かべた。

 

「【ジュノン】は俺にとってとても優しくて、貴方にとっては我が儘な存在って事ですよ」

 

「何?」

 

「【ジュノン】のもう1つの効果発動。

1ターンに1度、手札または墓地の【魔導書】を除外する事で場のカードを1枚破壊します」

 

「なっ、手札だけではなく墓地のカードを除外するだけで1枚の破壊だと!?

実質ノーコストの破壊という事か!」

 

今、聖星の墓地には複数の【魔導書】が眠っている。

いくら【魔導書の神判】で手札に【魔導書】が加わるとはいえ、手札のカードを使用する意義は低い。

驚きの表情を浮かべるカイザーに気を良くしたのか聖星は不敵な笑みを浮かべたまま続けた。

 

「当然、俺は墓地の【ゲーテの魔導書】を除外します」

 

墓地から取り出された【ゲーテの魔導書】を聖星は開いているカードケースに入れる。

そのまま聖星は【サイバー・エンド】を見上げた。

 

「【サイバー・エンド・ドラゴン】を破壊!

【ジュノン】、閃光の魔導弾(レイ・ジャッジ・ブラスト) !」

 

聖星の宣言と共に【ジュノン】は手に持っている書物を広げる。

とあるページに書かれている呪文を唱え始めた【ジュノン】。

一体何を言っているのかは理解できないが詠唱が始まると彼女の手の平に魔力が集まり、それを【サイバー・エンド】に向けて放った。

カイザーは【サイバー・エンド】を見上げ、すぐに伏せカードを発動した。

 

「リバースカード、オープン!

速攻魔法【融合解除】!

【サイバー・エンド・ドラゴン】の融合を解除する」

 

破壊寸前の【サイバー・エンド・ドラゴン】は光に包まれ3体の龍に分裂する。

効果破壊が失敗した事に【ジュノン】は気に入らなさそうに頬を膨らませた。

凛とした表情から子供っぽい一面を見せた彼女に聖星は声をかけた。

 

「気にしなくて良いぜ、【ジュノン】。

…………それに、これくらいしてくれないと面白くないだろう?」

 

そう、せっかくこのデッキを解放したのだ。

自分は全力で戦うし、彼にも全力でぶつかってほしい。

だが久しぶりのこのデュエルをそう簡単に終わらせる気もなかった。

普段の聖星からは考えられない挑発的な笑みに十代は翔と隼人に聞く。

 

「なぁ、何か聖星の奴若干性格変わってないか?」

 

「うん。

普段よりテンション高いっす」

 

「そうなんだな」

 

確かに聖星はデュエルの終盤に少しテンションが上がり、声を張り上げる事もあった。

しかし今はまだデュエルの終盤ではない。

それなのにあの挑発的な笑みを浮かべるという事はかなり興奮しているという事か。

 

「俺は手札から【ヒュグロの魔導書】を発動。

このカードは魔法使い族の攻撃力を1000ポイント上げます。

俺は【バテル】の攻撃力を1000ポイントアップ。

そして【トーラの魔導書】を見せ、【セフェルの魔導書】を発動。

【セフェル】の力で【ヒュグロ】の効果をコピーします」

 

勿論対象になったのは【魔導書士バテル】。

このターン反転召喚された【バテル】の手にある書物は赤色に染まり、攻撃力が一気に2000も上昇する。

そして発動された2枚の【魔導書】は魔力カウンターとなり宙に浮かぶ。

これで魔力カウンターは4つ。

 

「さらにフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を発動」

 

フィールドゾーンにカードがセットされると再び魔力が集まるフィールドが現れた。

自分達の慣れ親しんだフィールド魔法に【ジュノン】と【バテル】は嬉しそうな笑みを浮かべている。

更に魔力カウンターが1つ増え、2体の攻撃力も上昇する。

 

「攻撃力3000が2体か……」

 

「【魔導書士バテル】で【サイバー・ドラゴン】に攻撃」

 

【バテル】は【魔導書】を広げて呪文を唱える。

すると手の平に魔力が集まり、それを【サイバー・ドラゴン】に放つ。

守備表示だった【サイバー・ドラゴン】の体は貫かれ、粉々に砕け散った。

 

「そして【ヒュグロ】の英知を受けた【バテル】がモンスターを破壊した事により、デッキから【魔導書】を手札に加えます。

このターン、【バテル】は2枚分の【ヒュグロ】の効果を受けているため【ネクロの魔導書】と【アルマの魔導書】を加えます」

 

デッキから加わったカードをカイザーに見せた聖星は次の攻撃を宣言する。

 

「【魔導法士ジュノン】で2体目の【サイバー・ドラゴン】に攻撃。

女教皇の裁き(ハイプリーステス・ジャッジメント)!!」

 

「はあっ!!」

 

【ジュノン】は手の平を高く上げ、その手に魔力を集中する。

【魔導書廊エトワール】の英知がその魔力をさらにパワーアップし、【サイバー・ドラゴン】を包み込むほどの大きさとなった。

守備表示の【サイバー・ドラゴン】を睨みつけた【ジュノン】は勢いよく魔力を放つ。

 

「メインフェイズ2です。

俺は【アルマの魔導書】を発動。

ゲームから除外されている【ゲーテの魔導書】を加え、カードを4枚セット」

 

今聖星の場には永続魔法【魔導書廊エトワール】が存在する為、魔法・罠ゾーンは全て埋まった事になる。

幸いにも【大嵐】は先ほどのターンに使用されたため一度にカードの破壊はないはずだ。

 

「エンドフェイズに【魔導書の神判】の効果でデッキから【グリモ】、【アルマ】、【ゲーテの魔導書】を加えます。

そしてレベル3の【魔導教士システィ】を特殊召喚」

 

3枚目の【システィ】が場に現れる。

彼女は天秤の杖を前にだし、光に包まれていく。

 

「【システィ】の効果。

彼女をゲームから除外し、デッキから【セフェルの魔導書】と【魔導法士ジュノン】を手札に加えます。

エンドレス・アンジェラ」

 

前の聖星のターンのように【システィ】は2枚のカードを聖星に託し、異空間へと消えて行った。

 

「これで俺はターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー」

 

デッキからカードを引いたカイザーは聖星の場を見た。

前のターン同様、あの伏せカードの殆どは魔法カード。

だが【ゲーテの魔導書】や【トーラの魔導書】の速攻魔法が伏せられていたら厄介である。

 

「手札から魔法カード【強欲な壺】を発動。

デッキからカードを2枚ドローする」

 

カイザーの場に独特な顔が描かれている壺が現れる。

未来では絶対に見る事がないソリッドビジョンの姿に【星態龍】は聖星の肩に現れた。

 

「【強欲な壺】か……

聖星、そのカードに【強欲な壺】は入っているのか?」

 

「(入れてない)」

 

「何故入れない!?」

 

「(忘れてた)」

 

「あほかお前は!」

 

「さらにリバースカード、【運命の宝札】を発動。

サイコロを振り、出た目の分だけデッキからカードをドローし、同じ枚数分デッキからカードを除外する」

 

カイザーの目の前に現れた6面のサイコロ。

放り出されたサイコロはフィールドを転がり、5の目を出す。

 

「よって、デッキからカードを5枚ドローする」

 

「え?

ちょっと待ってください、5枚って……

これで貴方の手札は……!」

 

「11枚だ」

 

【天よりの宝札】で手札は6枚になり、さらにドローしたカードが【強欲な壺】。

それだけでも手札が7枚なのにここで【運命の宝札】。

手札11枚など聖星でも体験した事のない世界だ。

 

「(俺も【魔導書の神判】使ってるから偉そうな事言えないけど、この時代の【宝札】シリーズマジで狂ってる)」

 

相手にドローさせる【天よりの宝札】はまだ良いとしよう。

だがサイコロの目次第とはいえ最大6枚も引くことができる【運命の宝札】は酷いとしか言いようがない。

 

「手札から魔法カード【エヴォリューション・バースト】を発動。

【サイバー・ドラゴン】が存在する時、相手のカードを1枚破壊する。

俺は真ん中の伏せカードを破壊」

 

「(【ジュノン】を破壊しない?

【トーラの魔導書】を警戒したのか?)」

 

もし【ジュノン】を選択していれば【トーラの魔導書】で妨害される可能性がある。

それを警戒してバックのカード破壊を選んだのだろう。

それか確実に【ジュノン】を破壊できるカードを手札に握っているか、もしくは両方か。

唯一場に残っている【サイバー・ドラゴン】は大きく口を開き、光線を放った。

 

「【ネクロの魔導書】、蘇生カードか……

ならば俺は手札から【プロト・サイバー・ドラゴン】を召喚。

【プロト・サイバー・ドラゴン】は場に存在する限り【サイバー・ドラゴン】として扱う」

 

「つまり今貴方の場には【サイバー・ドラゴン】が2体という事ですね」

 

「そうだ。

さらに魔法カード【融合】を発動。

場に存在する【サイバー・ドラゴン】2体を融合。

融合召喚、【サイバー・ツイン・ドラゴン】!」

 

「キュァアアア!!!」

 

【プロト・サイバー・ドラゴン】と【サイバー・ドラゴン】は渦の中に吸い込まれ、中から月一試験で見たモンスターが現れる。

攻撃力は2800と【サイバー・エンド・ドラゴン】に比べたら低いが複数回攻撃の効果を持つため侮れない存在だ。

 

「そして俺はライフを半分払い、手札から速攻魔法【サイバネティック・フュージョン・サポート】を発動」

 

「【サイバネティック・フュージョン・サポート】?」

 

初めて耳にするカード名に聖星は鸚鵡のように同じ言葉を返した。

しかも発動コストがライフの半分というものでかなり強力なカードなのだと分かる。

これでカイザーのライフは2000になる。

 

「このカードの効果により俺はこのターンに1度だけ、機械族を融合召喚する場合、場と手札だけではなく墓地モンスターも融合素材として使用できる」

 

「なっ、デッキ以外全部!??」

 

「そうだ。

そして俺は魔法カード、【パワー・ボンド】を発動。

墓地に存在する3体の【サイバー・ドラゴン】を除外し融合召喚。

現れろ、【サイバー・エンド・ドラゴン】!!」

 

墓地に眠っている3体の【サイバー・ドラゴン】が半透明の姿でフィールドに戻ってくる。

すると【パワー・ボンド】のカードの中に吸い込まれて消えていった。

と思えば凄まじい地響きが起こり、光の中から再び3つ首の龍が姿を現す。

表示された攻撃力は【パワー・ボンド】の効果を含め8000である。

 

「攻撃力2800のモンスターに8000.

実際に相手にすると凄い迫力だな……」

 

2体の龍を見上げる聖星は頬に汗が伝い、思わず呟いてしまった。

月一試験で攻撃力5600にあまり驚きを覚えなかったが、やはり客観的な目で見るのと相手にするのでは全く違う。

今にも自分達を押し潰しそうな重量級の機械族モンスター。

聖星は【ジュノン】と【バテル】2体に目をやった。

 

「(あの表情、何かあるな)

行くぞ。

【サイバー・ツイン・ドラゴン】で攻撃表示の【魔導書士バテル】を攻撃!」

 

「攻撃宣言時罠カードを発動します。

【和睦の使者】。

このターンの俺への戦闘ダメージは0になり、モンスターは戦闘では破壊されません」

 

カイザーはゆっくり手を上げ攻撃を宣言する。

【サイバー・ツイン・ドラゴン】は攻撃力が1000しかない【バテル】に向けて光線を放った。

だが聖星のモンスター達を守るように結界が張られ、光線は弾き返される。

 

「かわしたか……

それなら俺は手札から速攻魔法、【速攻召喚】を発動。

手札から【サイバー・ジラフ】を通常召喚する」

 

「ギュア!」

 

召喚されたのは今までの【サイバー】モンスターとは異なり、犬のような動物を模したモンスター。

攻撃力も低いがカイザーのデッキには必要なモンスターである。

 

「【サイバー・ジラフ】の効果発動。

このカードを墓地に送る事でこのターン、俺への効果ダメージは0になる」

 

これで【パワー・ボンド】のデメリットのダメージ効果でライフが0になる心配はなくなった。

聖星がしのぎ切った時の保険もちゃんと引いているなど流石としかいいようがない。

 

「魔法カード【タイムカプセル】を発動。

デッキから1枚カードを除外する。

そして2回目の俺のスタンバイフェイズ時に除外したカードを手札に加える。

カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

カイザーの場には微動だにしない【サイバー・エンド・ドラゴン】と【サイバー・ツイン・ドラゴン】。

聖星の場に存在する3体の魔法使い達は臆せず見上げている。

互いに攻撃を受けても次のターンに場を整えている光景に十代は素直に呟いた。

 

「すげぇ。

互いに一歩も譲らないデュエルだ」

 

十代は目の前のデュエルに釘付け状態で、一体次にどんな展開になるのか楽しみで仕方がなかった。

学園一のデュエリストと様々な魔法使いを使う聖星。

しかも十代にとっては初めて見るカードのオンパレードだ。

興奮しない方がおかしいというものだ。

だが左右にいる友人はそう思っていないようで隼人は驚いていた。

 

「あのカイザーの【サイバー・エンド・ドラゴン】と【サイバー・ツイン・ドラゴン】が並んだのに聖星は全く怯んでないんだな……

普通のデュエリストなら自分の負けを悟って戦意を喪失するのに……」

 

「戦意を喪失、ねぇ~」

 

隼人の言葉に十代は頬を掻く。

今までの数ターンでカイザーが強いのは十代も認識したが、それでもあくまでカイザーは自分と同じデュエリスト。

デッキと共に戦う存在なのだ。

最後までデッキを信じればカイザーに勝つチャンスはやってくる。

それなのにどうして諦めるのか理解できず、十代は思わず呟いた。

 

「勝てっこない、勝てっこないって何で皆諦めちまうんだろうな」

 

「「え?」」

 

「だってさ、あんなにすげーモンスターと戦えるんだぜ!

わくわくするじゃん!」

 

十代は自分を口達者な人間だとは思っていない。

その場で思った事を素直に口にし、直感で物事を進めていく人間だ。

だから2人がちゃんと納得するような言葉は出ない。

けどこれだけは言える。

 

「きっと聖星もそうさ。

見てみろよアイツの顔。

凄いデュエリストやモンスターと戦えて嬉しい、って顔だぜ!」

 

胸を張って言い切った十代の言葉に翔と隼人は聖星を見る。

聖星は自分の手札と場を交互に見てただ微笑んでいるだけ。

 

「【魔導書院ラメイソン】の効果発動。

墓地に存在する【セフェルの魔導書】をデッキの1番下に戻し、デッキからカードを1枚ドローします」

 

ゆっくりとカードをドローした聖星は墓地と除外したカードも確認する。

そしてデッキに残っている【魔導書】の事を思い出した。

 

「(俺のデッキに存在する【魔導書】は【セフェル】と【ネクロ】が1枚に【ヒュグロ】、【トーラ】が2枚ずつ。

これ以上長引かせたらヤバいなぁ)」

 

【魔導書】はサーチ能力にたけているが、一度に3枚以上も手札に加わる事が有りデッキの消費が激しい。

その為長期戦に持ち込まれるとデッキ切れで敗北という事もありえる。

今回は折角先輩から誘ってくれたデュエルだ。

そんな事だけはしたくないし、自分だって不完全燃焼で終わらせたくはない。

 

「(伏せカードが怖いけど、このターンで終わらせる!)」

 

聖星はすぐに墓地に存在するカードを3枚手に取り、手札の【魔導書】をカイザーに見せる。

それは3人の魔法使い族が描かれている【魔導書】だ。

 

「墓地に存在する【魔導書院ラメイソン】、【ネクロの魔導書】、【アルマの魔導書】を除外し手札の【ゲーテの魔導書】を発動します。

このカードは3枚除外した時、相手の場のカードを1枚除外する効果を発動します。

俺は【サイバー・エンド・ドラゴン】を除外!」

 

聖星の宣言と同時に【サイバー・エンド】の背後に巨大な歪みが生じる。

その歪みから風が流れ込み【サイバー・エンド】を吸い込んでいく。

自分の体を引っ張る歪みに抵抗を見せる【サイバー・エンド】だが、どれほど抗っても無駄のようで歪みの中に消えていった。

 

「【ジュノン】の効果発動!

手札の【魔導書庫ソレイン】を除外し、【サイバー・ツイン・ドラゴン】を破壊!

閃光の魔導弾(レイ・ジャッジ・ブラスト)!」

 

【ジュノン】の魔力は勢いよく【サイバー・ツイン・ドラゴン】を貫き、綺麗なボディに大きな穴をあける。

すると穴から全身にひびが広がっていき爆発した。

 

「すげぇ、あのモンスターを一掃した!」

 

「これでお兄さんの場にモンスターはいないっす……!!」

 

「さらに手札に存在する【グリモ】、【アルマ】、【セフェルの魔導書】を見せて【魔導法士ジュノン】を特殊召喚!」

 

「はっ!」

 

魔法陣の光の中から現れた2体目の【ジュノン】はすぐに聖星に振り返り、小さく頷いた。

アイコンタクトをとった聖星は墓地のカードから1枚のカードを選ぶ。

 

「2体目の【ジュノン】の効果発動!

墓地の【魔導書の神判】を除外し、右側の伏せカードを破壊!」

 

「残念だが外れだ。

リバースカード、オープン。

【異次元からの帰還】」

 

「え?」

 

【ジュノン】の効果の対象になったのはフリーチェーンの罠カード。

しかも効果は聖星もよく知っているもので、先ほどまで自分が行った事を思い出した。

 

「ライフを半分払い、除外されているモンスターを可能な限り特殊召喚する」

 

「今、貴方の除外ゾーンには……

【サイバー・エンド】が……」

 

そだけではない。

カイザーの除外ゾーンには【サイバネティック・フュージョン・サポート】と【パワー・ボンド】のコンボで除外されている【サイバー・ドラゴン】が3体存在する。

ライフは2000から1000にまで減るが、その分場が凄い事になってしまう。

 

「【サイバー・エンド】は融合以外でも特殊召喚できる。

次元の狭間より舞い戻れ、【サイバー・エンド】、【サイバー・ドラゴン】!!」

 

「うわ、戻ってきた」

 

カイザーの場に次々とドラゴンの咆哮が響き渡り、聖星を守るように【ジュノン】達は手に持つ書物を構えた。

先程消えたはずの【サイバー・エンド】は再び聖星達を見下ろす。

攻撃力は4000に下がってしまったが【ジュノン】達の攻撃力より高い。

 

「もう場にモンスターが4体も揃っちまった!?」

 

「【サイバー・エンド】の攻撃力は4000.

【サイバー・ドラゴン】は守備表示。

【ジュノン】の破壊効果ももう使えない。

これじゃあ聖星君はお兄さんにダメージを与える事が出来ないっす」

 

今、【魔導書廊エトワール】に魔力カウンターは6つ乗っているので魔法使い族達の攻撃力は600ポイント上がっている。

【ジュノン】は3100、【サイバー・ドラゴン】の守備力は1600なので戦闘で破壊する事は出来る。

 

「(だけど、【異次元からの帰還】のデメリット効果でどのみちこのターンのエンドフェイズ時に全てゲームから除外される。

ここで無暗に戦闘で破壊して墓地に送っても意味はないな。)」

 

恐らくカイザーの事だからデッキの中に【死者蘇生】や【リビングデッドの呼び声】が入っているに違いない。

それなら戦闘で破壊し蘇生対象を増やすより、このまま除外されてくれる方が有り難い。

それならばと聖星はカードを発動した。

 

「俺は攻撃表示の【魔導書士バテル】に装備魔法【ワンダー・ワンド】を装備。

このカードを装備した魔法使い族モンスターを墓地に送る事で、デッキからカードを2枚ドローできます」

 

【バテル】は書物を持っていない手で杖を持ち、それを高く上げる。

杖の宝石が光り輝くと【バテル】の姿は消えてなくなり聖星の手札は増えた。

引いたカードに聖星は小さく頷き、加わったカードをすぐに発動させた。

 

「そしてもう1体の【バテル】に2枚目の【ワンダー・ワンド】を装備。

【バテル】を墓地に送り、カードを2枚ドロー」

 

先程墓地に送られた【バテル】と同じように、もう1体の【バテル】は光の中に消えていく。

 

「俺はカードを1枚伏せます」

 

「この瞬間、リバースカードオープン。

【フォトン・ジェネレーター・ユニット】」

 

表側表示になった速攻魔法カード。

そこには1つの機械が描かれており、絵柄からどんな効果なのか考えるのが難しい。

 

「俺の場の【サイバー・ドラゴン】を2体生贄に捧げ、手札、デッキ、墓地から【サイバー・レーザー・ドラゴン】を1体特殊召喚する」

 

「って事は……

【サイバー・ドラゴン】がまた墓地に行くだけじゃない。

貴方の場にモンスターが残ってしまうという事ですね」

 

「そういう事だ」

 

折角【ジュノン】と【ゲーテの魔導書】の効果でカイザーの場を一掃し、【異次元からの帰還】で除外されるというのにまた新たなモンスターが特殊召喚されてしまう。

対象に選ばれた2体の【サイバー・ドラゴン】は光の中に包まれ、尾の先端部にレーザー砲を持つドラゴンへと変わる。

 

「特殊召喚、【サイバー・レーザー・ドラゴン】」

 

静かに己の名を呼ばれた【サイバー・レーザー・ドラゴン】は小さく鳴き、聖星の場に存在する魔法使い族を見下ろした。

そしてエンドフェイズ時となりカイザーと聖星の場からそれぞれモンスターが歪みの中に吸い込まれた。

 

「聖星の場にはフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】と永続魔法【魔導書廊エトワール】。

モンスターは【ジュノン】が2体……」

 

「そして伏せが4枚なんだな……」

 

「お兄さんの場には【サイバー・レーザー・ドラゴン】と【タイムカプセル】だけ……」

 

一目見れば聖星が圧倒的に有利。

だが、カイザーの何事にも動じない風格。

相手を見透かしているようで、こっちの手は絶対に覗かせない瞳。

何度見てもカイザーが勝つという未来しか翔には見えなかった。

 

「…………凄い…………」

 

「聖星君?」

 

ふと聞こえてきた聖星の呟き。

そちら目をやれば彼は体を震わせていた。

 

「やっぱり丸藤先輩って凄いんですね!」

 

顔を上げた聖星は今まで見た事がないくらい目を輝かせていた。

そして聖星はこのデュエルの全てを思い出す。

自分のいつも通りの戦術で相手を攻めたがそれに対しカイザーは次々とかわしていく。

言いたい事を頭の中でまとめながら聖星は力説するように喋り始める。

 

「だって、丸藤先輩のライフはあと1000!

俺のライフは4000.

けど俺、自分が有利だって気がしないんです!」

 

【サイバネティック・フュージョン・サポート】と【異次元からの帰還】の効果でカイザーは自らのライフを大幅に減らしてしまった。

それでも聖星の戦闘が成功したのは守備モンスターを破壊する事くらい。

 

「【魔導書の神判】だって3回発動した!

【ジュノン】だって2体も呼んだ!

ここまでしたら俺のクラスメイト達は、あいつら以外はもう勝てないって諦めています。

俺自身、もう勝ったって思います」

 

「っ!」

 

思い出すのは同じクラスだった同級生達。

転校した時は親切だったが、一方的なデュエルをしてしまったせいか一線を引かれてしまった。

 

「なんだよ、あんなの反則だろ」

 

「あいつとデュエルしたって勝てねぇし、つまんねぇよ」

 

そんな事が自然とクラス内に成り立ってしまい、デュエルしても勝つ気でいてくれるデュエリストがシャークぐらいになってしまった。

聖星のそんな言葉にカイザーは少しだけ目を見開く。

 

「でも先輩は全然違う!

自分のライフをどれほど削っても、俺の戦略をものともせず次へと繋げる!

まるで俺の考えを全て分かっているかのように……

こんなのって普通じゃ出来ませんよ」

 

それだけカイザーが相手を見ているという事だろう。

デュエルとは様々な要素が絡み合ってくる。

相手の表情を見て、相手の考えを読む。

それが出来れば相手が罠を張っているのか、何を狙っているのか想像がつく。

特にカイザーの観察力は群を抜いている。

 

「そんな人と戦えて……

俺、今が凄く楽しいです!!!」

 

「……俺もだ」

 

全力でぶつかり合える強敵に出会えた事への喜びが伝わってくる聖星の言葉にカイザーは頷いた。

カイザーの言葉に高鳴る鼓動がどんどん煩くなっていく。

ゆっくりと深呼吸をした聖星は改めてカイザーを見た。

 

「俺はこのデュエルが凄く楽しい……

だからこそ、絶対に勝ちたい!!」

 

楽しいだけじゃ駄目だ。

長い間苦楽を共にしたデッキのためにも負けたくはない。

全力で楽しんで、全力で勝利を掴みとる。

それが今、聖星が望んでいる事。

 

「この勝負、負けませんよ!!

これで俺はターンエンド!」

 

灯台に自分のターン終了の宣言が響き渡る。

聖星の言葉を全て聞いていた翔は生き生きとしている友人と兄を交互で見ていた。

 

「お兄さんと戦っているのに……

聖星君、凄く嬉しそう」

 

「俺も聖星と同じ立場ならあんなふうにはしゃいでるな」

 

「え?」

 

「それほどお前の兄ちゃんが強くて嬉しいって事さ」

 

そう言った十代の表情はどこか寂しげだった。

十代は聖星の言葉にどこか共感を持つ事が出来た。

理由は違うが、全力でデュエルをしてくれる相手がいない寂しさは十代だって知っている。

だから同じデュエル好き同士、聖星があそこまで興奮するのを理解することが出来たのかもしれない。

 

「きっとよ、あのデッキが聖星の本当の実力なんだ」

 

十代には見せてくれなかった実力。

様々なデッキを操る聖星だが、やはり1番というべきデッキは持っていた。

そのデッキと真っ先に戦えたカイザーを少しだけ羨ましいと思いながらも翔と隼人に尋ねた。

 

「それよりさ、さっき聖星が言っていたあいつらって誰なんだろうな!

聖星が認めるんだ!

かなり強い連中に違いないぜ!

う~、カイザーともデュエルしたいし聖星の言うあいつらともデュエルして~~!」

 

「兄貴……」

 

「十代……」

 

根っからのデュエルバカらしいセリフに2人はつい笑みを浮かべてしまう。

十代の言葉は聖星にもばっちり聞こえており、ある意味冷静さを取り戻した聖星は自分の口元を塞ぐ。

 

「(やっべ、十代に追及されたらどうしよう)」

 

「海外にいるから無理とでも言っておけ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

カイザーのターンになると、突然場に異変が起こる。

彼の場に歪みが現れ、聖星達は怪訝そうな表情でその歪みを凝視した。

 

「この瞬間、【タイムカプセル】の効果で除外されている【異次元の宝札】の効果が発動する。

このカードを俺の手札に戻し、互いのデッキからカードを2枚ドローする」

 

「あ、その歪みだったんですね」

 

【タイムカプセル】は2ターン後に効果を発揮する通常魔法。

それなのに除外ゾーンに繋がる歪みが現れ、おかしいと思ったのだ。

 

「そして【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に送る」

 

引いたカードは【天使の施し】だったようで、カイザーはすぐにそれを発動した。

手札が入れ替わり終わると場に存在する【サイバー・レーザー・ドラゴン】が合図するかのように小さな声で鳴いた。

 

「【サイバー・レーザー・ドラゴン】の効果発動。

このカードの攻撃力より高い数値の攻撃力か守備力を持つモンスターを1体破壊する」

 

「え?

【サイバー・レーザー・ドラゴン】の攻撃力は2400だから……

やばっ!」

 

「【サイバー・レーザー・ドラゴン】、【魔導法士ジュノン】を破壊しろ!

破壊光線フォトン・エクスターミネーション!」

カイザーは1体の【ジュノン】を指差し、高らかに宣言する。

すると【サイバー・レーザー・ドラゴン】の尾の先端部が開き、中からレーザー砲が現れた。

光を集めたレーザー砲は眩しいレーザーを放ち、【ジュノン】を貫く。

一筋の光に貫かれたと思ったら【ジュノン】は爆発し、爆発による煙が聖星の場に漂う。

 

「くっ!!」

 

「魔法カード【死者蘇生】を発動。

墓地から【サイバー・ツイン・ドラゴン】を特殊召喚する」

 

「グォオオオ!!!」

 

カイザーの目の前にある地面からヒビが広がり、【サイバー・ツイン・ドラゴン】が復活する。

再び現れた2頭の龍に場に残っている【ジュノン】は険しい表情となった。

その表情は「うわ、また面倒なのが来た」と物語っている。

 

「【サイバー・ツイン・ドラゴン】で【魔導法士ジュノン】に攻撃!」

 

「え!?」

 

「そんな、攻撃力は【ジュノン】の方が上なのに!」

 

今、【魔導書廊エトワール】には魔力カウンターが7つ乗っている。

つまり攻撃力は700ポイントアップし3200.

【サイバー・ツイン・ドラゴン】の2400を超えているのだ。

 

「リバースカード、オープン、速攻魔法【ゲーテの魔導書】!

墓地に存在する【グリモの魔導書】と【ゲーテの魔導書】を除外し、【サイバー・ツイン・ドラゴン】を裏側守備に変更します!」

 

【ジュノン】に向かって光線を放とうとした【サイバー・ツイン・ドラゴン】。

だが目の前に1冊の【魔導書】が現れ、【ジュノン】がそれに書かれている呪文を唱える。

 

「ならば【サイバー・ツイン・ドラゴン】を融合デッキに戻し、速攻魔法【次元誘爆】を発動!」

 

「じ、【次元誘爆】!?

ここで!?」

 

カイザーが発動したのは複数のモンスターが描かれている魔法カード。

特に【ブラック・マジシャン】と【青眼の白龍】が描かれているのが印象的だろう。

カードの効果を知っている聖星は頬を引きつらせ、あの3首の龍を思い出した。

 

「【次元誘爆】?

どんな効果だ?」

 

「【次元誘爆】とは自分フィールド上に表側表示で存在する融合モンスター1体を融合デッキに戻す事で発動する事ができる。

お互いにゲームから除外されているモンスターを2体まで選択し、それぞれのフィールド上に特殊召喚する」

 

「へ?」

 

「という事は……」

 

「【サイバー・エンド・ドラゴン】が帰ってくるんだな!」

 

隼人の言葉に翔と十代は目を見開き、カイザーの場を見る。

【サイバー・ツイン・ドラゴン】が光の中に消えて行くと黒い歪みが2つ現れ、中から機械龍の咆哮が聞こえてくる。

 

「俺は【サイバー・エンド・ドラゴン】と【サイバー・ドラゴン】を特殊召喚する!」

 

「俺は【魔導法士システィ】を攻撃表示で特殊召喚!」

 

「来い、【サイバー・エンド・ドラゴン】!!

【サイバー・ドラゴン】!!」

 

2人のフィールドに4つの光柱が立ち、その中から互いのモンスターが姿を現す。

再び舞い戻ってきた機械龍達は戦える事への喜びからか甲高い声で咆哮を上げた。

4度目の最強モンスターの登場に聖星は凄いとしか零せなかった。

 

「【サイバー・エンド・ドラゴン】で【魔導法士ジュノン】に攻撃!」

 

3つの首が【ジュノン】を目標に定め、口にエネルギーの塊である光を集約する。

向かってくる攻撃に【ジュノン】が構えるとカイザーがカードを発動した。

 

「ダメージステップに速攻魔法【決闘融合-バトル・フュージョン】を発動!」

 

「【決闘融合-バトル・フュージョン】!?」

 

「だからさっき攻撃力が下なのに【ジュノン】に攻撃したのか!」

 

今、【ジュノン】の攻撃力は3300で【サイバー・エンド・ドラゴン】より700ポイント低い。

だが【決闘融合-バトル・フュージョン】は攻撃を行う融合モンスターの攻撃力を、ダメージステップ終了時まで相手モンスターの攻撃力分上げる効果を持つ。

これで【サイバー・エンド・ドラゴン】の攻撃力は7300となってしまう。

焦った様子を見せる観客だが聖星はただ微笑んだ。

 

「それくらい読めていましたよ」

 

「何?」

 

「リバースカード、オープン。

カウンター罠【神の宣告】を発動」

 

「っ!」

 

「俺のライフを半分払い、カードの効果を無効にして破壊します」

 

聖星の場に伏せられていたカードが表になり、カードが輝きだす。

デュエルモンスター史上最強と言われるカウンター罠。

どんなカードの発動と効果も無効にしてしまうカードの登場にカイザーは笑みを浮かべた。

【サイバー・エンド・ドラゴン】の攻撃力は4000のままだが【ジュノン】よりは高く、【ジュノン】はたった一撃で破壊される。

 

「悪い、【ジュノン】……」

 

やっと削られた聖星のライフ。

それでも1300もあり、他の【サイバー】モンスターは貫通効果を持たない為このターンで終わる事はないだろう。

 

「ならば【サイバー・レーザー・ドラゴン】で【魔導教士システィ】に攻撃!

エヴォリューション・レーザーショット!!」

 

「罠発動、【強制脱出装置】。

【サイバー・レーザー・ドラゴン】は手札に帰ってもらいます」

 

「くっ!

それならカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

【次元誘爆】で特殊召喚されたモンスターはエンドフェイズ時破壊も除外もされない。

つまり【サイバー・エンド・ドラゴン】達は場に残り続けるという事。

攻撃力4000のモンスターが場に残るとは流石にかなりのプレッシャーである。

 

「聖星。

今度は俺から君に質問だ」

 

「質問ですか?」

 

「そうだ。

俺はこのデュエル、何度【サイバー・エンド・ドラゴン】を特殊召喚した?」

 

「へ?」

 

何度も現れ、何度も消えて行くモンスター。

聖星がどれ程除去してもカードの効果でカイザーは【サイバー・エンド・ドラゴン】を帰還させてしまう。

カイザーからの問いかけに聖星は考え込むかのように黙った。

 

「4回ですか?」

 

「正解だ」

 

「聖星は4回も【サイバー・エンド・ドラゴン】を相手にしたんだな……」

 

「そのうち2回は攻撃力8000だったよな?」

 

「うん。

やっぱりお兄さんは凄い。

それに対抗できる聖星君も……」

 

「俺が1度のデュエルでここまで【サイバー・エンド・ドラゴン】を召喚したのは久しぶりだ」

 

それもそうだろう。

カイザーは【パワー・ボンド】や【リミッター解除】の効果で攻撃力を上げてくる。

仮に上げなくても【サイバー・エンド】には貫通効果があるためその一撃で残りのライフを削り切る事だってあるのだ。

1度出れば勝利は確実になってしまうため、こう何度も【サイバー・エンド】を特殊召喚するのは珍しいに違いない。

 

「俺は君の全力のデッキとのデュエルを望んだ。

君はそんな俺の気持ちに応え全力でこのデュエルに励んでいる。

そして何度も俺達の攻撃をかわし、ここまで耐えてくれた」

 

「そんな買い被りすぎです。

確かに【サイバー・エンド】を何度も除去しましたけど、俺、全く丸藤先輩にダメージを与えていませんよ」

 

何だろう、凄く恥ずかしい。

先程カイザーに対し興奮して色々言った聖星だが、逆に言われる立場になると恥ずかしさが込み上がってくる。

嬉しいのだがつい照れてしまう。

 

「随分と過小評価だな」

 

「いえいえ、過小評価してませんって」

 

恥ずかしさのあまり耳まで赤くなっている聖星は慌てて首を左右に振ってしまう。

そんな後輩にカイザーはつい笑みをこぼしてしまう。

もしこれが畏怖の念を抱いている者なら、彼の言葉に恐れ戦き恐縮しているだろう。

だが聖星には恐怖心が全くない。

カイザーは良い後輩が入って来たと改めて認識した。

 

「俺のターン、ドロー」

 

カイザーの場には【サイバー・エンド・ドラゴン】が存在する。

先程の【強制脱出装置】で融合デッキに戻せば良かったのだが、あえて聖星はそうしなかった。

 

「(やっぱり、切り札を切り札で倒した方が面白いもんな。

そうだろ、【ジュノン】?)」

 

声に出すでもなく、心の中で呟いた聖星。

 

「フィールド魔法【魔導書院ラメイソン】の効果発動。

墓地に存在する【ヒュグロの魔導書】をデッキの1番下に戻し、カードを1枚ドローします」

 

これで欲しいカードは揃う。

互いのモンスターの攻撃力の差は700だが、それくらいこのデッキならすぐに埋まる。

 

「俺は手札から魔法カード【死者蘇生】を発動。

墓地から【魔導法士ジュノン】を攻撃表示で特殊召喚します」

 

「はあぁっ!」

 

聖星が【ジュノン】に目をやると、彼女も少しだけ振り返り小さく頷いた。

彼女の頷きに同意するよう小さく頷いた聖星は声を張り上げる。

 

「手札から【グリモの魔導書】を発動し、【ヒュグロの魔導書】をサーチ!

そして【アルマの魔導書】を発動し、ゲームから除外されている【ネクロの魔導書】を手札に加えます!

そして【ヒュグロの魔導書】を見せ、墓地に存在する【魔導教士システィ】を除外して【ネクロの魔導書】を発動します!

墓地に存在する【魔導法士ジュノン】を特殊召喚!!」

 

「はっ!」

 

「【ジュノン】の効果発動!

墓地の【ゲーテの魔導書】を除外し、伏せカードを破壊!」

 

「リバースカード、オープン!

【月の書】を発動!

効果を使用していない【ジュノン】に裏守備になってもらうぞ!」

 

「させません!

リバースカード、オープン!

速攻魔法【トーラの魔導書】!

このターン、彼女は魔法カードを受け付けません!」

 

「だが、攻撃力は2500まで下がる!」

 

【月の書】の効果で裏側守備になるのを防ぐため、【ジュノン】は魔法からの攻撃を守る結界に包まれる。

だがカイザーの言うとおりこれでは【魔導書廊エトワール】の効果を受けなくなってしまった。

だが今の段階で【エトワール】に乗っている魔力カウンターは12.

【月の書】を破壊したもう1体の【ジュノン】の攻撃力は3700となっている。

 

「もう1体の【ジュノン】の効果発動!

墓地に存在する【アルマの魔導書】を除外して【サイバー・ドラゴン】を破壊!」

 

魔法の力を受け付けなくなった【ジュノン】だが、彼女は手を前にだし魔力を集約する。

【魔導書】の英知を借りる事が出来なくなった身でもこれくらいは出来る。

そう意気込むように呪文を詠唱し【サイバー・ドラゴン】を破壊する。

 

「手札から【ヒュグロの魔導書】を発動!

これで【ジュノン】の攻撃力は4800です!」

 

カイザーに伏せカードはない。

いるのは攻撃力4000の【サイバー・エンド・ドラゴン】のみ。

 

「【ジュノン】で【サイバー・エンド・ドラゴン】を攻撃!!」

 

聖星の言葉に両手を前に出す【ジュノン】。

支えを無くしたはずの書物は魔法の力で浮かんでおり、勝手にページがめくれていく。

彼女は目を閉じて顔を伏せやっと聞き取れる声で呪文を詠唱していた。

詠唱が進むにつれ両手に魔力が集まり、巨大な球体になっていく。

 

女教皇の裁き(ハイプリーステス・ジャッジメント)!!!」

 

フィールドに響き渡る自身の攻撃名に【ジュノン】は膨大なエネルギーを【サイバー・エンド・ドラゴン】にぶつける。

自分よりちいさな球体だがその破壊力はすさまじく【サイバー・エンド・ドラゴン】のメッキが剥がれ、内部のコードなどが見えた。

それもほんの一瞬でそのまま苦しそうな機械の声を上げながらカイザーの最強のモンスターは爆発する。

 

「もう1体の【魔導法士ジュノン】で丸藤先輩にダイレクトアタック!!!」

 

爆発によって生じた煙がフィールドを隠す中、再び響いた聖星の声。

カイザーはその声に少しだけ口の端を上げる。

煙が晴れていくと既に攻撃を待ち構えている【ジュノン】と目が合った。

すると視界が眩い光に覆われデュエルを終了するブザーが鳴り響いた。

 

END

 




ここまで見ていただき有難うございます。
カイザーとのデュエルを書き終えての一言。
「なにこれ、むずい」
何度も書き直したのですが、やはり手札の消費が激しく宝札シリーズに頼りすぎました。
聖星も心の中で呟きましたがアニメ版の宝札シリーズってマジで壊れていますよね。


【ジュノン】の効果名と攻撃名、日本語と英語が噛み合っていなくても気にしません(`・ω・´)


そういえば剣山曰く十代はDAのカリスマと呼ばれていましたよね。
カイザー、ブリザードプリンス(自称…?)とあだ名があるので聖星にもつけてみたいです。
思い浮かんだのがエンペラー、キングですが…
あいつそんなキャラじゃねぇぞ!!と自分で突っ込みました。
マジシャンだったらなんか安易すぎる気が…
タロットカードをモチーフにした【魔導書】を使うからハイエロファントかソーサラーにしようかなぁ。


改めて確認したらルビ振りがうまくいっていなかったでござる(´・ω・`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 いない間の出来事

 

【魔導書院ラメイソン】が消えていく。

魔法を学ぶための最高教育機構の姿が消えていくにつれ本来あるべき灯台の姿へと戻っていった。

その様子を見ながら聖星はゆっくりと息を吐き、自分のデッキに目をやった。

 

「皆、楽しかったか?」

 

誰にも聞こえないよう、自分達にしか分からないよう尋ねた。

このデッキに眠っているモンスターはまだ存在する。

残念ながらこのデュエルで活躍させることは出来なかった。

それでも対等に渡り合えるデュエリストとデュエルする事が出来たから楽しかっただろう。

 

「ありがとう……」

 

「聖星――!」

 

デッキにお礼を言うと、十代の呼ぶ声が聞こえてきた。

振り返れば今まで見た事がないくらい目を輝かせている十代がいた。

彼はすぐに駆け寄ってきてマシンガンのように喋り出す。

 

「すげぇぜ、聖星!

まさかこの学園1番のやつに勝っちまうなんてよ!

ってかさ、お前、まだ他に【魔導書】持ってたのか!

え~っと、【魔導書の神判】に【魔導書院ソレイン】だっけ?」

 

「書院じゃなくて、書庫な」

 

「そうそう、それ!

くぅ~~!

デュエルしてぇぜ!

ってか、ここでデュエルしようぜ!

あ、でもカイザーともデュエルしたいしなぁ」

 

「落ち着けって十代。

俺、まだ先輩にお礼すら言えてないんだぜ」

 

「あ」

 

聖星の言葉にやっと冷静になったのか、十代は苦笑を浮かべる。

頬を掻きながら振り返るとやはりカイザーは腕を組みながら待っていたようだ。

しかし特に気を悪くした様子もなく、内心ホッとしながら聖星は前に進んだ。

 

「丸藤先輩。

とても楽しいデュエルが出来ました。

デュエルに誘ってくれてありがとうございます!」

 

「いや、こちらこそ久しぶりに良いデュエルが出来た。

君とデュエル出来て良かったと思っている」

 

すっきりしたように晴れ晴れとした笑みを浮かべる2人。

やはり自分の全力でぶつかることが出来る相手がいるというのは良い事だ。

聖星がクラス内で浮いていたのと同じように、カイザーも良い意味でこの学園内では浮いている存在である。

強すぎるのが原因で、殆どのデュエリストはデュエルが終わってもいないのに諦める傾向が強い。

そのため勝手にカイザーには勝てないという雰囲気が生まれ、最後までデュエルを楽しめない場合が多いのだ。

しかし今回のデュエルは満足できる程のものでありカイザーは微笑んだ。

 

「それで丸藤先輩……」

 

「どうした?」

 

名前を呼ばれたと思って聖星を見れば、彼は真剣な表情を浮かべていた。

思わずカイザーも真剣な表情となる。

一体何を言うのかと思考を巡らせると聖星は言い放った。

 

「丸藤先輩が良ければまた俺とデュエルしてくれませんか?

勿論、このデッキで」

 

「あぁ」

 

何だ、そんな事かと思いながら頷くと聖星は嬉しそうに微笑んだ。

その笑みにはどこか安堵が混じっており、聖星も実力が拮抗しているデュエリストとの勝負をもっとしたいのだろう。

すると今まで空気を読んで黙っていた隼人と翔が近寄ってくる。

隼人は素直に聖星へおめでとうと言っていたが、カイザーの弟でもある翔はどう声を掛ければ良いのか分からないようで戸惑い気味だ。

 

「それにしてもハラハラしたんだな。

【サイバー・エンド】と【サイバー・ツイン・ドラゴン】が並んだ時なんて生きた心地がしなかったんだな」

 

貫通効果付きのモンスターと複数回攻撃付きのモンスター。

どちらとも敵に回したくないモンスターなのに、それが並ぶ光景などただの地獄、敗北宣言だ。

隼人のこの言葉はアカデミアの殆どの生徒達が同意するもの。

しかし十代と聖星は不思議そうな表情を浮かべて互いの顔を見る。

 

「そうかぁ?

俺は逆にわくわくして燃えるけどな~

聖星もそうだろ?」

 

「あぁ。

どうやってあの2体を倒そうかって、凄く考えた。

あ、でも除外したのに何回も戻ってきた時は肝が冷えたかな」

 

聖星の記憶が正しければ、まだこの時代に除外ゾーンに存在するカードを活用するカードは少なかったはずだ。

だから除外すればある程度は相手の戦術を狂わせることが出来ると思った。

しかしカイザーはちゃんと除外された時の対策も打っており、流石帝王としか言いようがなかった。

 

「でも、お兄さんが負けるなんて……

僕まだ信じられないや」

 

「おいおい……

翔、お前の中でカイザーはどれほど強い印象なんだよ」

 

「だって、お兄さんは完璧なんだよ。

負けたところなんて一度も見た事ないし……」

 

翔の言葉に隼人は強く頷く。

筆記の試験ではオール百点。

実技でも相手に隙を与えない戦術で完璧に圧倒している。

そんな彼を知っているからこそカイザーの敗北に驚いているのだ。

あまりにも大袈裟すぎる気がする聖星と十代はカイザーを見ると、彼は微かに苦笑を浮かべていた。

 

**

 

それから聖星達は時間も時間という事で、その場で解散となった。

十代達はすぐにレッド寮に戻り、聖星は途中までカイザーと共に林の中を歩いていた。

自分の全力のデッキであそこまで戦えるデュエリストとの会話は途切れる事はなく、別れるまで有意義な時間を過ごすことが出来た。

 

「う~~、楽しかった~~!」

 

部屋についた聖星はすぐにベッドに寝転がり、上機嫌に【星態龍】を見上げる。

宙に浮かんでいる【星態龍】ははしたない!と口にしているが特に気にせず勝手に喋る。

 

「どうしよう【星態龍】。

俺、まだあのデュエルの熱が冷めてないや!

あ~、寝れない!」

 

「良かったじゃないか。

私もあの男があそこまで出来るとは思わなかった」

 

楽しくて仕方がないと語る聖星に【星態龍】は優しい眼差しを向けた。

デュエルを振り返れば【星態龍】でさえ驚くような展開の繰り返しだった。

聖星が負けるとは思っていなかったが、次々と出てくる【サイバー・エンド】達に終始ハラハラしていたのは秘密である。

 

「それにしても……

十代や丸藤先輩を見てて思ったんだけどさ、この時代のデュエリストって凄いよな」

 

「は?」

 

突然の言葉に【星態龍】は首を傾げ、聖星を見下ろす。

確かに十代やカイザー達はとても強い。

カードを信じ、愛しているからデッキが応え、デュエルの流れをものとしている。

しかしそれは聖星の時代、遊馬達の世界でも同じはずだ。

今更どこに凄いと思うところがあるのだろうか。

そう疑問符を浮かべていると聖星は今までのデュエルを思い出しながら楽しげに語りだす。

 

「この時代の人達って、かなり融合重視のデッキだろ?」

 

「あぁ」

 

十代は【E・HERO】。

カイザーは【サイバー】、確か万丈目に明日香も融合を使っていたはずだ。

シンクロが中心の聖星の時代では、融合を使う人はあまり見かけない。

理由は単純に融合素材を揃えるよりシンクロ素材を揃える方が楽だからだ。

 

「初手で正規融合の素材と【融合】のカードが揃うのって凄いよな。

十代なんてさ、モンスターカードの同名カードは1枚しかいれてないんだぜ。

そんなデッキでよく毎回手札に揃うよな」

 

今日のデュエルでカイザーは初手に【パワー・ボンド】も含めて4枚揃っていた。

十代は初手に【フレイム・ウィングマン】や【サンダー・ジャイアント】の素材と【融合】が揃っている。

聖星だったらあんな事は絶対に出来ないと断言できる。

 

「そういえば決闘王の武藤遊戯という男も【融合】を使っていたな」

 

「えっと、【有翼幻獣キマイラ】、【竜騎士ガイア】、【超魔導剣士-ブラック・パラディン】だっけ?」

 

「あぁ」

 

歴史の教科書に武藤遊戯に関する項目があるが、それを何度読んでも彼のデッキ構築は理解できない事が多かった。

十代のようにカテゴリが統一されているのならまだサポートカードを共有できるため戦える。

だが上記に挙げたカードは種族もカテゴリもてんでんばらばらである。

統一感がないカードをピンポイントで引き、その場で融合。

今考えてもどんな引きだと思ってしまう。

 

「融合、か……

【融合魔導】ってのも面白そうだよな!」

 

「は?」

 

突然起き上った聖星は【星態龍】を見上げ、目を輝かせながら言い放つ。

一体何を言い出すんだ、と口にしようと思ったがそれより先に聖星はベッドから飛び降りた。

そして一直線にデッキケースの山に向かい、持っているカードを広げ始める。

 

「【融合魔導】って、軸は誰にする気だ?

というより聖星、お前は【融合】デッキに慣れていないだろう」

 

「軸は【覇魔導士アーカナイト・マジシャン】にしようかなぁ」

 

「シンクロを使う気か」

 

「へ、【沼地の魔神王】は?

あ、そっか。

【アーカナイト・マジシャン】の融合素材は魔法使い族シンクロモンスターと魔法使い族モンスターだから使えないんだ。

まいったなぁ……」

 

真っ先に思い浮かんだのは魔力カウンターを取り除くことで効果を発動する魔法使い族。

しかし【星態龍】の言うとおり融合素材にシンクロモンスターの魔法使い族が指定されているため、この時代では使えない。

融合素材代用モンスターを使用すれば良いと思うかもしれないが、属性や種族のようにカード名で指定されていない融合素材の代わりにはならないのだ。

 

「【スカルビショップ】は狙いすぎか?」

 

「……誰だ、そいつ」

 

「こいつ」

 

ほら、と差し出された1枚の融合モンスター。

禍々しい大剣とドクロの盾を持つ男性の姿が描かれており、攻撃力は高いが特になんの効果も持っていない。

聊か不安は残るが、まぁネタとして狙うのなら問題はないだろう。

 

「好きにしろ」

 

「あぁ」

 

融合素材がともに悪魔族なので、まともな【魔導】デッキにはならないだろうなぁと予想は出来る。

だが聖星本人は楽しそうなので良しとしよう。

瞬間、【星態龍】の背中に冷たいものが走った。

 

「っ!?」

 

【星態龍】は一瞬で表情を一変させ、とある方角を睨みつける。

その表情は険しく、いつも以上に目と目の間に皺が寄っている。

人間で例えれば眉間に皺が寄る、と言えば良いだろう。

【星態龍】の様子に聖星は怪訝そうな表情を浮かべて同じようにその方角に顔を向ける。

 

「どうした、【星態龍】?」

 

「……鳥の羽ばたく音が耳障りなだけだ」

 

「何だよそれ」

 

心配そうに尋ねてくる聖星に対し【星態龍】はそれだけを言って、その場にとぐろを巻く。

それ以上言う意思はないようで聖星はもう1度その方角を見た。

 

「(あっちの方角、なにかあったっけ?)」

 

【星態龍】は鳥の羽ばたく音と言い訳をしていたが、分かり易いほど態度が急変した。

だから何かあるのは分かるのだがそれが何なのか予想がつかない。

聖星がその方角を見ているのに対し【星態龍】は先ほど感じた違和感を思い出す。

体中の血が急激に冷え、腹の底から嘔吐が湧き上がる感覚。

 

「(間違いない、今のは闇の力……

闇のゲームか……)」

 

いきなり現れた膨大な力。それは【星態龍】にとってあまり関わりたくない力である。

闇の力は正しき力の場合もあるが、大抵は何かを壊す力である。

それがゲームとなればなにかしら賭け事が行われている。

命、肉体、記憶、精神、未来、友人、家族……

上げればきりがないくらい様々なものが思い浮かびあがる。

 

「(このアカデミア内で誰か闇のゲームをしているのか。

だが誰が?)」

 

確かにこのアカデミアには精霊の力が濃いというのは来た当初から分かっていた。

だが、まさか禁断のゲームまで行われているなど全く思わなかった。

【星態龍】は気付かれないよう聖星を見る。

いくら遊馬達の世界で命懸けのデュエルをした彼といえども、闇のゲームはあまりにも危険だ。

 

「(これは早く力を回復させないとな……)」

 

そして未来に帰る。のんびりと学園生活を傍観する気だったが、この学園に危険があるというのなら早く立ち去った方が良い。

【星態龍】は面倒だとため息をついた。

 

**

 

それからデッキを完成させた聖星は満足げに眠りについた。

朝にもなったので起床するとPDAが煩く鳴り響く。

誰だと思って名前を見ると珍しく隼人の名前が表示されていた。

 

「隼人?

どうしたんだ?」

 

「大変なんだな、聖星!

翔と十代が倫理委員会に連れていかれたんだな!!」

 

「は?」

 

倫理委員会?

隼人の口から放たれた名前に聖星は思い出す。

確かこの学園のセキュリティの管理、そして過ちを犯した生徒達への厳しい処罰を任されている委員会のはずだ。

そんな彼らが何故十代と翔を連れて行ったのか理解できなかった。

 

「隼人、翔と十代の奴何かしたのか?」

 

「……昨日、廃寮に行ったんだな」

 

「それだ……」

 

廃寮とはかつてアカデミアの特待生の生徒のために用意された寮の事だ。

今は誰も使っていないため立ち入り禁止区域となっており、近づく事は良くても中に入った場合厳しく罰せられる。

最悪退学になってもおかしくはない。

 

「で、でも、十代のPDAに廃寮に来いっていうメールが来て……」

 

「廃寮に?

何で?」

 

「来ないと、彼女の身は保証しないって……

縛られた明日香さんの写真つきだったんだな」

 

「へ?」

 

隼人のとんでもない発言にまた思考が止まってしまう。

詳しく話を聞いてみるとこうだ。

レッド寮までの帰り道明日香からメールが来て、そのメールには捕らわれた明日香の写真があり、廃寮にまで来るようにと書かれていた。

ちなみに教師達に知らせれば明日香の命はないという決まり文句も書いてあったそうだ。

それで十代は翔、隼人を連れて廃寮まで向かい明日香を助けるためタイタンという男と闇のゲームをしたという。

こんな事ならすぐに別れるんじゃなかったと頭を抱えた聖星はため息をつく。

 

「分かった。

十代のPDAは今どこにある?」

 

「ここにあるんだな」

 

「メールは残ってるよな?」

 

「あぁ」

 

「だったらそれを倫理委員会に提出しよう。

十代達が廃寮に行ったのは人命救助だ。

それを話せばすぐに解放されるはずだぜ」

 

というより、解放されなければおかしい。

隼人と落ち合う約束をした聖星は明日香の名前を探し、彼女に電話をした。

やはりここは被害者である彼女の証言が重要だ。

彼女の事だからちゃんと証言してくれると思うが、被害に遭った次の日に証言できるか心配だ。

 

「もしもし、聖星?」

 

「明日香、おはよう。

あのさ、隼人から聞いたんだけど……

大丈夫か?」

 

「あ……

えぇ、平気よ。

気絶させられただけだし特に怪我もしていないわ」

 

「じゃあ、悪いけど……

今から倫理委員会に行く事って出来るかな?

無理そうなら通話越しで証言してもらうけど」

 

「……ごめんなさい、聖星。

何の話かしら?」

 

「あ、ごめん」

 

今の時点で明日香は十代達の事を知らないようだ。

随分と焦っているなと自覚した聖星は先ほどの事を話す。

2人が倫理委員会に連れて行かれたと聞いた瞬間明日香の表情が歪み、申し訳なさそうなものへと変わった。

 

「……そう、分かったわ。

私もそっちに行くから」

 

「本当に大丈夫?

さっきも言ったけど、通話越しって手もあるけど」

 

「平気よ」

 

いつものように笑った明日香だがやはり疲れの色が見える。

それでも彼女は行く気のようで聖星は申し訳なさそうに笑った。

 

**

 

「「退学ぅ!!?」」

 

集合した聖星達はすぐに査問が行われている部屋に向かった。

辿り着いたと同時に2人の驚きの声がドア越しにまで響いてきた。

その内容に聖星達は顔を見合わせ、勢いよく扉を開けた。

 

「ちょっと待ってください!」

 

中には巨大な画面が複数存在し、鮫島校長、クロノス教諭、他にもアカデミアの関係者の姿が映っていた。

十代と翔は彼らの映像に囲まれているような形で立っている。

2人は驚いた表情で聖星達を見たが、特に十代はまるでお化けでも見るかのような目で聖星達を見た。

そこまで大袈裟に反応しなくても良いだろうと思っていると1人の女性が声を張り上げた。

 

「誰だ、お前達!

今は査問中だ!

即刻退室しなさい!」

 

「そうはいきません。

私と前田君も、あの廃寮にいましたから」

 

「何!?」

 

明日香の堂々とした言葉にこの場にいる教師達が目を見開く。

とくにクロノス教諭の表情は素晴らしく、一瞬で顔が真っ青になってしまった。

まぁ優等生である明日香が退学になってもおかしくない場所にいたと知ればそうなるだろう。

 

「天上院君。

それは本当の事かね」

 

「はい、鮫島校長。

それに遊城君と丸藤君が廃寮に入ったのは私を助けるためです」

 

「助ける……!?」

 

「どういう事だ!?」

 

一気に騒がしくなり、隼人は十代のPDAを取り出す。

明日香はそれを見ながら前を向いて昨日の事を話した。

 

「昨晩、私は森の中を歩いていたら突然大男に襲われ、廃寮まで連れていかれました」

 

「それで、十代宛てに明日香さんを返してほしかったら廃寮までに来いっていうメールが届いたんだな」

 

「しかも教師達に助けを求めたら明日香の身は保証しないという事まで書いてあります」

 

明日香の口から語られた真実に誰も言葉を発することが出来なかった。

鮫島校長は厳しい顔つきになり、クロノス教諭は相変わらずの真っ青、倫理委員会の女性は眉間に皺を寄せていた。

 

「嘘を言え!

退学になりそうな遊城十代以下2名を庇うためにそんな虚言を……!」

 

いや、どうしてそうなる。

現にここには明日香のPDAから送られたメールだってある。

時刻も昨晩だし画像だってちゃんと残っている。

彼女の言葉に明日香は反論しようとするが、先に聖星が訪ねた。

 

「あの、廃寮に監視カメラってありますよね?」

 

学生手帳に明記されている通り、廃寮は立ち入り禁止だ。

その校則を違反した生徒達を見つけるため、そして安全を守るために監視カメラが設置されているはず。

そうでなければ誰がいつ廃寮に入ったかなんて分かりやしない。

 

「それがどうした?」

 

「その監視カメラに明日香と明日香を浚った男の映像が映ってなかったんですか?

仮にたまたま犯人は映ってなくても、十代と翔がここに連れてこられたって事は2人の姿は映っていたって事。

その時の2人の表情を見れば嘘か嘘じゃないかすぐにわかりますよ」

 

なんたって大切な友人の命がかかわっているのだ。

興味本位で廃寮に入ったのか、それとも本当に人命救助のために入ったのか。

表情を見れば一目瞭然だと言い張る聖星に教師達は口を閉ざす。

さらに聖星は言葉を続けた。

 

「確かにすぐに先生達に伝えなかった十代達にも非はあります。

けど十代達が廃寮に入ったのは人命救助です。

それなのに彼らだけを咎めるのはおかしいですよ。

咎めるべきは部外者の侵入を許した、アカデミアのセキュリティを任されている倫理委員会では?」

 

「っ!!」

 

聖星の言葉に教師達の顔が倫理委員会の代表である彼女に向かう。

先程まで十代達を処罰するために厳つい表情を浮かべていたが、矛先が自分達になってしまうと険しい表情へと変わった。

だが聖星が言った事は別に間違ってはいない。

すると鮫島校長は目を伏せて言い放つ。

 

「事情は分かりました。

今回の事はさらに詳しい事情を聴いたのち、改めて審議したいと思います。

放課後、天上院明日香君、遊城十代君、丸藤翔君、前田隼人君は校長室に来てください。

勿論そのメールも持ってきてください」

 

「分かりました」

 

彼の言葉に明日香は深く頭を下げ、それに釣られるよう聖星達も慌てて頭を下げる。

そのまま部屋から退室すると翔と十代がその場に座り込む。

 

「はぁ~~!

終わった~~~!」

 

「……僕、生きた心地がしなかったっす」

 

やましい事はなかったといえど、あれほどの大画面に権力者達が映り重苦しい中での退学宣言。

十代はともかく気の弱い翔にはかなり精神的苦痛だっただろう。

未だに顔が真っ青な翔を気遣うよう隼人は声をかけている。

 

「十代、翔君。

私の為に本当にごめんなさい……」

 

2人と同じ目線まで屈み、明日香はそのまま頭を下げた。

彼女の言葉に2人は目を丸くして気にしてないとでも言うように笑った。

 

「気にすんなって。

別に明日香が悪いわけじゃないだろ」

 

「そうっすよ。

明日香さんが無事でなによりっす」

 

「十代、翔君……」

 

2人の笑顔に明日香もやっと笑い、もう1度だけ謝罪した。

自分のせいで十代達は危険な目に遭い、さらには退学になりそうだったのだ。

明日香自身気が気ではないだろう。

彼女の心境を察しながらも聖星は十代に尋ねた。

 

「それで、十代」

 

「ん、何だ?」

 

「何で俺に言ってくれなかったんだ?」

 

「へ?」

 

「何ですぐに俺にも言ってくれなかったんだ?って聞いてるんだ」

 

自慢ではないが聖星は武術に自信がある。

十代から変質者の話を聞けば飛んで行っただろう。

自分がいればタイタンという男が武力で解決しようとしても安心だ。

その意味合いを込めて聞くと十代はあっけらかんに言う。

 

「だってよ、そしたら聖星まで危険な目に遭うじゃん」

 

「じゃあ翔と隼人、自分は危険な目に遭ってよかったんだ?」

 

「いや、翔と隼人はメールを見たときその場にいたし……」

 

「とにかく、今後こういう事があったらすぐに呼べよ。

良いな?」

 

人の事は言えないが、十代は色々とトラブルに巻き込まれやすい。

クロノス教諭を実技試験で倒し、ブルーである万丈目さえも下し、イエローの昇格を断った。

このアカデミア内であり得ない事を次々に成し遂げ、色々な連中から睨まれている。

メールの内容を思い出しながら聖星は頭を抱える。

 

「(メールを送った奴は十代を指名していた。

つまり最初から十代を狙っていた可能性があるって事だよな……

あぁ、大丈夫かなぁ)」

 

正直に言って心配だ。

警備システムに問題があると言った以上、今後はこのような事がないよう警備も厳しくなるはず。

だから部外者がそう簡単に入ってこないと思うのだが、やはり心配だ。

聖星がそんな事を思っているとは露知らず十代は呑気に翔達と雑談していた。

 

**

 

十代達が鮫島校長に事情を話し終えた翌日。

イエロー寮で三沢と一緒に食事をしていると十代が慌ててやってきた。

レッドの生徒の登場に一瞬だけ場が騒がしくなったが、聖星と十代が友人なのは皆知っているためすぐに静かになった。

 

「聖星!」

 

「十代、どうしたんだ?」

 

息を整える暇もなく聖星に迫る十代。

迫力ある彼の声に三沢は後ずさるが聖星は動じずに返す。

きっと十代の事だから宿題を教えてくれとか、そういう内容だろう。

せめてヒントくらい教えるかと思っていると十代の口から出た言葉に箸を落としてしまう。

 

「頼む、俺とタッグを組んでくれ!!」

 

「え、何の?」

 

「制裁デュエルのタッグ」

 

「え?」

 

END

 




ここまで読んで頂きありがとうございました。
はい、タイタンとのデュエルは止めました。
明日香を誘拐したというメールを見て聖星も一緒についていくという事にしても良かったのですが、そうなってしまえばカイザーも一緒についてくるという。
そしたら何故かカイザーvsタイタンになってしまって。
しかもワンキル。
あれ、どこで書き間違えた?と思い直してこうしました。
だってカイザーが先輩だからという理由で聖星と十代にデュエルを譲らないから……


アニメでは明日香とカイザーが灯台で落ち合っていましたが、まさか明日香、襲われてすぐにカイザーと会っていたのでしょうか…?
何それ明日香マジ強い。


そしてスターターデッキを買いました。
新しいルールブックを読んだのですが…
ペンデュラムモンスターの扱いにいまいち理解がついていけません。
召喚に関しては大丈夫なのですが、破壊された時がえ?となってしまいました。
え?エクストラデッキからの特殊召喚?
え、どうなってんのこれ。
アニメを見て勉強しろって事ですね分かります。


それとマスターガイドも買いました。
じっくり読んだのはカードの世界観の部分という。
それにしてもエンディミオン王…
まさかとは思いましたがやはり【魔導書】達に総攻撃をしかけたのは貴方様でしたか。
これはネタデッキに良いじゃん。


植物+【魔導書】書いたから、【蟲惑魔】+【魔導書】書いてみたいです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話 英雄と魔術師の調和

 

「ちょっと待てよ、何で十代が制裁デュエルを受けるんだ?」

 

大衆の目の前で制裁デュエルのタッグを組んでほしいと言われた聖星。

一瞬十代が何を言ったのか理解できなかったが、すぐに彼を自室に連れ込んだ。

心配そうに三沢がこちらを見ていたが今は十代が優先だ。

 

「いやぁ、昨日校長に一昨日の事を話したんだけどよ……」

 

一昨日明日香の身に起こった事件。

十代を指名して廃寮まで呼び寄せ、タイタンと名乗る男とデュエルをした。

運悪く倫理委員会に廃寮を荒らしたと誤解され、退学を宣言されたが明日香の証言のため取り下げになると思った。

 

「あのメール、俺を指名してただろ?

だから倫理委員会のやつら、俺が原因だ、俺がアカデミアにいたら他の生徒に迷惑がかかるとか言いがかりをつけてきたんだ。

それでアカデミアの秩序を守るために俺だけは退学だってよ」

 

「……………………」

 

十代が事情を話し終えると、聖星は勢いよく拳を机に叩きつけた。

部屋に響く音に十代は肩を震わせ、恐る恐る聖星を見る。

見てみればそこには無表情の聖星がいた。

 

「……何、それ?」

 

言葉が出てこないとはまさにこの事だろう。

倫理委員会の理不尽な言い訳に聖星は声が低くなる。

彼らの言うとおり十代がタイタンの目的だったのは事実だろう。

だが、だからといって十代をアカデミアから追い出す理由にはなりはしない。

 

「クロノス教諭といい、倫理委員会といい……

この学園にはバカしかいないのかな?

そんな話通ってたまるか」

 

「お、おう……

俺も横暴だって言ったぜ。

でもよ、理事長も認めているからダメだって、って聖星何してんだ?」

 

「倫理委員会のバカとその理事長の個人情報を特定して晒す。

俺達より長く生きてるんだ。

人に知られたくない事の1つや2つくらいあるよなぁ」

 

「何やろうとしてんだよ!?

そんな輝く笑顔で言う言葉じゃないだろ!!」

 

どこからかPCを取り出し、さっそく個人情報を集めようとしている聖星。

十代は慌てて止めてさらに事情を説明する。

 

「で!

流石に校長もそれは酷いって言ってくれて、じゃあクロノス教諭が制裁タッグデュエルで勝ったら見逃すって言ってくれたんだよ!」

 

「あ、だから俺にタッグを申し込むわけか」

 

「あぁ」

 

未だに不機嫌だがなんとかPCを閉じてくれた聖星に十代はため息を零す。

倫理委員会の言い分もぶっ飛んでいると思ったが、友人の行動も十分にぶっ飛びすぎている。

それほど怒っているというのが分かり、少しだけ嬉しいと思いながらも改めて聖星に頼んだ。

 

「だから、俺とタッグ組んでくれないか?」

 

「それくらい別に良いぜ。

それで、相手は誰がするんだ?」

 

「それは当日のお楽しみだってさ」

 

「そっか……」

 

倫理委員会が十代を退学させるのには、他に理由がある。

でなければここまで強引にするわけがない。

恐らくその理由は聖星が言った倫理委員会側の責任だ。

十代を退学に追い込み、その責任を全て十代に押し付けるつもりなのだろう。

そんな簡単な事で上手く責任逃れ出来るとは思えないし、それどころか倫理委員会の理不尽さに保護者側が激怒する未来しか見えない。

逆に自分達の無能さを曝け出しているのに気付かない程向こう側も必死という事か。

 

「じゃあ試しにデッキを確認するか?

タッグデュエルとなると、互いのデッキをカバー出来るよう構築しておいた方が良いだろう?」

 

「あぁ。

俺もそう思うんだけどよ、聖星と俺のデッキってそこまでシナジーねぇだろ?

相性だって悪いしよ」

 

「だよなぁ。

戦士族と魔法使い族両方サポートできるカードっていったら【連合軍】と【迎撃準備】くらいだし……」

 

デッキを広げた2人は真剣な表情で互いに話し合う。

聖星は魔法使い族、十代は戦士族がメインのデッキ構築だ。

しかも聖星のデッキにはその種族をサポートするカードばかり入っており、それに対し十代は【E・HERO】をサポートするカードばかりだ。

まぁ、聖星は【魔導書】に他種族を混合したデッキでも使おうと使えるため戦士族を投入するという手もある。

すると【星態龍】が現れ、聖星と十代のカードを覗き込む。

 

「なぁ、聖星……」

 

「ん、どうした十代?」

 

十代の魔法・罠カードにもう少しだけ汎用性カードを入れたらタッグでも良い線いけるだろうか。

そう考えていると十代の声が聞こえ、顔を上げる。

すると彼は聖星を見ておらず、聖星の隣を見ていた。

 

「聖星ってさ、もしかして赤い竜のカードとか持ってる?」

 

「え?」

 

十代の視線の先には彼の言う赤い竜、【星態龍】が浮かんでいた。

まさかと思い声を掛けようとすると【星態龍】の目の前に【ハネクリボー】が現れる。

 

「クリクリ~!」

 

「グフッ!」

 

「あ」

 

「おい、何やってんだよ相棒!」

 

現れた可愛らしい天使の精霊は無邪気な笑顔で【星態龍】の顔面に突撃する。

いくら毛玉のような存在とはいえ、人の顔くらいの大きさである【ハネクリボー】がぶつかるのは痛い。

特に今【星態龍】はこの部屋に収まるためサイズを小さくしている。

無邪気にじゃれてくる【ハネクリボー】と【星態龍】を引き離し、十代は一息つく。

 

「ふぅ~

ったく、相棒。

挨拶も無しにぶつかったら驚くだろ」

 

「クリ~?」

 

十代は笑いながらも咎めるように言っているが、当の本人(?)はどうしてと聞くかのように体を傾ける。

2人の会話を聞きながら聖星と【星態龍】は確信し恐る恐る尋ねた。

 

「なぁ、十代」

 

「ん。

どうした?」

 

「君、いつから精霊が視えるようになったんだ?」

 

聖星の記憶が正しければ十代は精霊を視る目を持たない。

時々声は聞こえていたようだが、はっきりと視る事は出来なかったはずだ。

 

「あぁ、一昨日タイタンとデュエルしてからさ。

なぁんかタイタンとデュエルしてたらよ、何か真っ黒な饅頭みたいな連中が現れて俺を襲おうとしたんだ。

けどその時相棒が助けてくれたんだ。

な、相棒?」

 

「クリィ!」

 

「……真っ黒な、饅頭?」

 

「そうそう。

俺は相棒がいたから助かったけど、タイタンはその饅頭に飲み込まれちまってよ……

そーいやその後からタイタンの様子がおかしかったな」

 

不思議がる十代の言葉に聖星は言葉を失う。

ゆっくりと【星態龍】を見れば、微かだが彼も目を見開いていた。

聖星は十代を観察するかのように見て尋ねた。

 

「十代、体とか大丈夫なのか?」

 

「あぁ、大丈夫だって」

 

にかっ、と歯を見せて笑う十代を何度も見る。

特に違和感もないし、そういう事に敏感な【星態龍】も反応を示さない。

きっと悪影響は無かったのだろう。

良かったと胸を撫で下ろした聖星は改めて十代を見た。

 

「じゃあ改めて紹介するな。

こいつは【星態龍】。

本当はもっと大きいんだけど、部屋に入りきらないから基本的にこのサイズなんだ」

 

「【星態龍】だ」

 

「あぁ、よろしくな【星態龍】」

 

「クリクリ~!」

 

**

 

タッグデュエルの相棒が決まったため、その報告にとクロノス教諭の元へ向かう十代と聖星。

廊下を歩いていると行き違う生徒達が十代の顔を見てヒソヒソと話をする。

どうやら今回の事はすでに学園内に広まっているようだ。

同情するような眼差しもあれば、青い集団からは見下すような眼差しを覚える。

聖星は心配そうに十代を見るが当の本人は気にした様子もなく【星態龍】の事について喋っていた。

 

「くっそ~、早く【星態龍】とデュエルしたいぜ!」

 

「ごめんな、十代。

【星態龍】を召喚するためのモンスターが揃ってないんだ」

 

「別に構わねぇって。

だってさ、相当のレアカードだろ?

召喚に必要なカードが揃うのが大変な事くらい俺にも分かるからさ!」

 

申し訳なさそうに言う聖星だが十代は気にするなと笑顔を見せる。

【星態龍】はまだこの時代に存在していないシンクロモンスターのため、何があっても見せるわけにはいなかった。

だからまだ召喚に必要なカードが揃っていない、【星態龍】は恥ずかしがり屋だから等と理由を並べた。

仕方がないと分かっていても素直に受け入れられると少しだけ罪悪感を覚える。

 

「それよりさ、さっきのアレ凄かったなぁ。

聖星、本当にあのデッキにする気かよ?」

 

「あぁ。

その方が十代にとっても都合が良いだろう?」

 

「まぁ、そうだけどよ。

俺としては制裁デュエルの時じゃなくて、今あのデッキと戦ってみたいんだ!

なぁ、あとでデュエルしようぜ!」

 

「別にいいぜ。

調整の意味も兼ねてデュエルしようか」

 

「よっしゃ決まり!

……って、聖星」

 

「ん?」

 

「あれ、取巻じゃねぇのか?」

 

十代が指差した方向には1人で立っている取巻がおり、彼も自分達を視界に入れたようで一瞬気まずそうな表情を浮かべた。

聖星が何度も声をかけており、さらに龍牙先生の時の事があるので十代は特に気にせず歩み寄った。

 

「お、取巻じゃん。

珍しいな1人でいるなんてよ。

万丈目と、え~っと……」

 

「慕谷」

 

「そうそう。

慕谷達と一緒じゃないんだな」

 

「……あいつは今頃天狗になってるだろーな」

 

「え、何で?」

 

「何か良いことあったのか?」

 

2人の言葉に取巻は明らかに嫌そうな顔を浮かべる。

取巻としてはここで喋りたくはないが、この2人、特に聖星がそう簡単に引くとは思えないので仕方なく話した。

 

「俺と万丈目がお前達に負けたから、俺達の立場がなくなったんだよ」

 

「は?」

 

「あ、なるほどな」

 

このアカデミアは良くも悪くも実力主義。

そのせいでオベリスク・ブルーには無駄にプライドの高い生徒が大勢いる。

そんな環境にいるのにオシリス・レッドに負けたとなれば白い目で見られるのは当然だ。

お蔭で周りのブルーの生徒は万丈目と取巻に対してかなり厳しい目を向けている。

見下す相手が身近にいて嬉しいのだろう。

深くため息をついた険しい顔で取巻は尋ね返す。

 

「そういうお前はどうなんだよ。

アカデミア中で噂になってるぞ。

校則を破って退学だって?」

 

「(校則って……)」

 

「あ~、まぁ、なんとかなるさ。

なんたってタッグデュエルで勝てばお咎めなしだしな!」

 

「アカデミアらしい解決法だな」

 

どうやらアカデミアには事の真相は広まっていないらしい。

倫理委員会が意図的にそう流したのだろう。

だが正直に話せば被害者である明日香も好奇の目で晒されるかもしれない。

それを危惧した2人は訂正する事はせず苦笑した。

 

「ま、せいぜい頑張れよ」

 

「俺と十代なら楽勝さ。

な?」

 

「あぁ!

どんな相手でもどんとこいだぜ!」

 

「……お前達、デッキの相性最悪だろ」

 

自信満々に答える2人に取巻は呆れたように呟いた。

タッグデュエルとは自分のターンが回ってくるのが遅いため、上手く動けない場合が多い。

だから互いをサポートできるようなデッキを組む事がある。

だがこの2人がそんな事をするのだろうか。

 

「(やるとしたら不動のほうだな。

だが、【魔導書】と【E・HERO】ってどう混ぜるんだ?)」

 

いくら融合素材代用モンスターが存在するとはいえ、デッキバランスが悪くなるのは確実。

少しだけ想像したがうまくまとまらない。

取巻が何を考えているのか分かったのか聖星は微笑んで自信満々に言う。

 

「ま、【HERO】にも色々あるんだよ」

 

「は?」

 

**

 

それから数日が過ぎ、制裁デュエル当日となった。

十代と聖星はイエロー寮の部屋で最終チェックをして会場へと向かう。

既に会場には生徒達がおり、今回のデュエルを見に来たようだ。

その生徒の中には入学当初から聖星達と関わりのある三沢の姿もあった。

 

「ついに始まるか……」

 

「タッグデュエル。

聖星はともかく十代は初めてだって言ってたけど」

 

「君はオベリスク・ブルーの天上院明日香……」

 

「貴方も少なからず十代と聖星の2人と関わりがあるようね」

 

明日香は三沢の隣に腰を下ろし、デュエルフィールドを見渡す。

そして数日前の事を思い出しながら拳を強く握った。

 

「私のせいでこんな事になって……

本当なら私がパートナーになるべきだった……」

 

十代が廃寮に入ったのは捕らわれた自分を助けるためだ。

だから十代が退学処分を受けるのは間違っていると明日香は抗議した。

しかし倫理委員会やクロノス教諭は全く耳を貸そうとしなかった。

自分のせいで誰かの人生が狂わされる。

それを食い止めたくても出来ない。

強く握っている拳が微かに震えているのを三沢は見逃さず質問する。

 

「十代が廃寮に入ったのは好奇心によるもの。

だが一部では君を助けるためだと噂になっている。

君の言葉を考えると後者が真実か?」

 

「えぇ。

私が不審者に囚われてしまって……

だから十代に私と組んでほしいと頼んだんけど、聖星と組むから気にしないで欲しいって言われたわ」

 

「十代の奴も馬鹿だな。

気にしないでくれと言われて、気にしないわけがないだろう」

 

聖星と明日香のデッキを考えると、十代のパートナーになりやすいのは同じ戦士族デッキの明日香。

それなのに十代は聖星を選んだ。

自分の退学がかかっているのに分かっているのだろうかと思うが、もしかしたら何も考えていないのかもしれない。

すると十代と聖星が教室に入ってくる。

2人は周りの生徒達の姿に感心しながら知り合いを探す。

 

「お、隼人と翔だ」

 

「間に合ったみたいだな」

 

慌てて来たのか、2人は息が上がっているようだ。

しかしすぐに息を整えて自分達に声援を送ってくれる。

それに微笑みながら別の席にも目をやった。

 

「お、あっちには三沢と明日香だぜ」

 

「丸藤先輩もいるな」

 

「ではこれよ~り、タッグデュエルを開始する~の!」

 

2人の姿を確認したクロノス教諭はフィールドでマイクのスイッチを入れ、一気に盛りあがる。

レッドの生徒が叩き潰されるのが嬉しいのかブルーの生徒達はいやらしい笑顔で十代を舐めるように見ていた。

そんな生徒達がいるなか鮫島校長はクロノス教諭に問いかける。

 

「それで対戦相手は?

教員かオベリスク・ブルーの生徒かね?

もしや君かね?」

 

「いいえ、伝説のデュエリストを呼んであります~の!」

 

「「え?」」

 

マイクのせいで会場内に響くクロノス教諭の言葉に、皆は彼に注目した。

すると微かな物音が聞こえ、聖星はそちらに顔を向けた。

 

「十代」

 

「ん?」

 

どうしたんだよ、聖星。と十代が聞く直前だった。

目の前に何者かが横切り、目にも止まらない速さで空中を回転する。

普通の人間には出来ないような動きでフィールド内を勇ましく舞う姿に釘付けになる。

するとパフォーマンスを見せてくれた2人は背中合わせに動きを止め、十代と聖星を見る。

 

「な、何だ!?」

 

「凄い……」

 

「我ら流浪の番人」

 

「迷宮兄弟」

 

現れたのは同じ顔の男性で、額に『迷』『宮』がそれぞれ書かれている。

着ている衣服も中華風のもので動作は全て左右対称になるよう一切のずれもなかった。

 

「彼らはあのデュエルキング武藤遊戯と対戦した事がある伝説のデュエリストなの~ね」

 

「へぇ、伝説のデュエリストが相手か……」

 

「お主等に恨みはない」

 

「故合って対戦する」

 

「我らを倒さねば」

 

「道は開けぬ」

 

「「いざ、デュエル!!」」

 

静かに宣言した迷宮兄弟は十代と聖星を見る。

ピリピリと伝わってくる威圧感に十代は楽しげな、聖星は優しげな笑みを浮かべた。

 

「凄いぜ、聖星!!

まさかの伝説のデュエリストが俺達の相手だぜ!

面白いデュエルになるぜ、絶対!!」

 

「あぁ。

本気で行こうぜ」

 

「おうよ!」

 

「では両者、位置について!」

 

クロノス教諭の言葉に4人は位置につく。

聖星の前に迷宮兄弟の兄がおり、十代の前に弟がいる。、

4人が配置についたのを確認したクロノス教諭は確認事項を言った。

 

「タッグデュエルで~わ、パートナーへの助言はダメです~の。

です~が、パートナーの墓地、フィールドは自分のものとして使える~の。

よろしいの~ね?」

 

説明されたデュエルのルールに聖星達は頷いた。

そしてデュエルディスクを起動させ、同時に宣言する。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

デュエルディスクの一部が光り、それは聖星が先攻である事を示した。

自分のターンに聖星は迷宮兄弟を見渡し少しだけ深呼吸をする。

 

「俺のターン、ドロー。

俺は【魔導書士バテル】を守備表示で召喚」

 

「はっ!」

 

「【魔導書士バテル】の効果発動。

デッキから【魔導書】と名のつく魔法カードを1枚手札に加えます」

 

「【魔導書】だと?」

 

「ふむ、聞いた事のないカードだな」

 

「彼らは特別ですから。

俺は【グリモの魔導書】を選択します。

そして魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【魔導書】と名のつくカードを1枚手札に加える事が出来ます。

加えるのは【セフェルの魔導書】です」

 

守備表示に召喚された【バテル】は1冊の書物を取り出す。

と思えば書物は淡い光に包まれていき黒いオーラを纏った書物へと変わっていく。

 

「魔法カード【セフェルの魔導書】を発動。

手札の【魔導書】を見せる事で墓地の通常魔法の【魔導書】の効果をコピーします。

手札の【魔導書院ラメイソン】を見せ、【グリモの魔導書】をコピー。

そして俺はデッキから【ゲーテの魔導書】を加えます。

さらにフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を発動」

 

加えたのは除外する【魔導書】の枚数によって効果が変わる速攻魔法。

魔法使い族の攻撃力を上げる【ヒュグロの魔導書】または魔法・罠カードの耐性をつける【トーラの魔導書】ではなかった事に十代は意外だと心の中で呟いた。

するとフィールドに光が差し込み、轟音を鳴り響かせながら巨大な建物が現れる。

 

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

伏せられた2枚のカード。

何を伏せたのかは分からないが、【ゲーテの魔導書】の可能性が1番高い。

すぐに確認した十代は思わず聖星を見た。

始めて聖星と戦う迷宮兄弟はこのターンに発動されたカードを思い出しながら言葉を発する。

 

「随分と忙しいな小僧。

まだデュエルは始まったばかりだというのに」

 

「もう少しデュエルを楽しんだらどうだ?

私のターン、ドロー!

私は手札から【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる」

 

「え?」

 

「【天使の施し】?」

 

「手札事故か?」

 

1ターン目から発動された手札入れ替えカードの名前に様々な生徒達は首を傾げる。

耳に入ってくる言葉に迷宮兄弟は内心やれやれと肩をすくめた。

だが十代と聖星は簡単に想像がつき身構えた。

 

「そして装備魔法【早すぎた埋葬】を発動する。

私はライフを800払い、墓地から【水魔神-スーガ】を特殊召喚する!」

 

発動されたのは墓地からモンスターを1体特殊召喚する装備魔法。

兄のライフが7200になるとフィールドが裂け、裂け目から大量の水が噴き出す。

聖星達のフィールドにまで飛んできそうな程水の勢いは強く、中から【スーガ】が姿を現す。

武藤遊戯と戦った事があるモンスターの登場に十代と聖星は嬉しそうに笑った。

 

「そして【地雷蜘蛛】を召喚。

私はこれでターンを終了する」

 

【スーガ】の隣に現れたのは1体の巨大蜘蛛。

レベル4のモンスターにしては高い攻撃力を持つが、デメリット効果を持つため積極的な攻撃には向かない。

攻撃力2000越えのモンスターが2体も揃った状況に十代は不敵に笑った。

 

「くぅ~~!

わくわくしてきた!

俺のターン、ドロー!

スタンバイフェイズ時、【魔導書院ラメイソン】の効果発動するぜ!

墓地の【セフェルの魔導書】を俺のデッキの1番下に戻し、デッキからカードを1枚ドローする!」

 

「何っ!?」

 

「何を考えているの十代!?」

 

十代が元気よく宣言した言葉に三沢と明日香は目を見開く。

彼らだけではなく、聖星のデュエルを知っている取巻も信じられないとでもいうような顔をして舌打ちした。

 

「あのバカっ……!

【魔導書】は不動のデッキ、手札、墓地に存在して真価を発揮するのに……!

それを自分のデッキに戻すなんて不動の可能性を潰す気か!?」

 

取巻の言った通り、【魔導書】は墓地に存在する時コスト、またはカード効果のコピー等で使う事が多い。

別にデッキに戻してもサーチして手札に加えればいい話なのだが、問題は戻した人物が【魔導書】を使わない十代だという事だ。

【魔導書】を使わない者のデッキに【魔導書】を戻すと、相棒である聖星の可能性を奪い、自分のデッキ枚数を多くしてキーカードを引く確率を減らしてしまう。

いくらデッキからカードを1枚引くことが出来るとはいえ、十代のしている事が理解できなかった。

 

「手札から【E・HEROフェザーマン】を守備表示で召喚!

カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー!

私は手札から魔法カード【生け贄人形】を発動する」

 

「【生け贄人形】?」

 

あまり聞き慣れないカード名に十代は聖星を見る。

視線を向けられた聖星は思い出すかのように言った。

 

「え~っと、自分の場に存在するモンスターを1体生贄に捧げて手札のモンスターを特殊召喚するカードだっけ?」

 

「おしいな小僧。

特殊召喚できるのはレベル7と限定されている」

 

「あ、そうそう」

 

「私は兄者の場に存在する【地雷蜘蛛】を生贄に捧げ、【風魔神-ヒューガ】を特殊召喚する!」

 

【地雷蜘蛛】の足元が輝きだし、その光から強烈な風が吹き荒れる。

風の中に包み込まれた【地雷蜘蛛】は歪んでいき、代わりに【ヒューガ】が風と共に姿を現した。

【水魔神-スーガ】と【風魔神-ヒューガ】の2体が並ぶ光景は妙な威圧感を覚える。

 

「攻撃力2400と2500のモンスターが2体か」

 

「流石は伝説のデュエリストだぜ!

な、聖星!」

 

「あぁ」

 

いや、十代も1ターンに攻撃力2000以上のモンスターを平気で複数並べるだろう。

ピンチになればなるほど驚異のドロー力を発揮し、場を整える十代の言葉にそう思ってしまった。

喉から出そうだった言葉を慌ててしまい、彼の言葉に同意する。

 

「十代。

【水魔神】と【風魔神】が来たんだ。

【雷魔神】とあいつも来たら最高だろうな」

 

「え、あいつ?

あぁ、あいつか!」

 

聖星が口にした言葉に十代は疑問符を浮かべた。

だがすぐにどのモンスターを指しているのか分かり、そのモンスターの姿を思い浮かべる。

アカデミアの生徒の憧れの的である武藤遊戯を苦しめたといわれる伝説のモンスター。

そのモンスターを操るのが目の前のデュエリスト達。

 

「来ると思うか?」

 

「そりゃあ来るだろう!

あの遊戯さんと渡り合えたデュエリスト達だぜ。

次のターンには出てくるんじゃねぇの?」

 

「だよな」

 

【三魔神】が全て揃い、自分達の敵として立ちはだかる。

そして彼らの最強のモンスターも君臨するかもしれない。

もし現れたらどう攻略しよう。

魔法カードで攻撃力を上げて戦闘で破壊するか、それとも単純に除外するか。

聖星は自分のデッキに眠るカード達で出来る攻略法を考えながら迷宮兄弟を見据えた。

 

「ふっ、兄者よ。

どうやら彼らはあのモンスターをご要望のようだ」

 

「そのようだな弟よ。

ならばお望み通り、貴様らに見せてやろう!」

 

聖星と十代の会話が聞こえていた2人は互いに顔を見合わせて言葉を交わす。

伝説のデュエリストと呼ばれている彼らも1人のデュエリスト。

自分達が操るモンスターに対し純粋な期待を寄せられて悪い気はしない。

しかも聖星と十代は真っ直ぐ自分達を見据えている。

久々に度胸のある相手とのデュエルに自然と口が弧を描く。

 

「しかしいくら我らのデュエルを披露するためとはいえ、兄者のモンスターを勝手に使ってしまったのは心苦しい」

 

「なぁに、弟よ。

これくらい軽いものよ」

 

「すまない兄者。

だがそれでは私の気が済まない。

償いをさせて欲しい。

私は手札から魔法カード【闇の指名者】を発動する!」

 

「え?

何でここで【闇の指名者】?」

 

 

弟が発動したのは1枚カードを宣言し、相手のデッキに指定されたカードがあれば手札に加えるもの。

普通なら相手のデッキに眠る厄介なカードを手札に加えさせ【マインドクラッシュ】等のハンデスカードで破壊する戦術に活用する。

先程の迷宮兄弟の会話を聞いている限り何かを仕掛けてくるのは明白。

しかし【闇の指名者】を発動するなど何をしたいのか理解できなかった。

 

「私は【雷魔神-サンガ】を宣言する!」

 

「え?」

 

「【サンガ】!?

マジかよ!?」

 

「あれ?

【闇の指名者】ってそんな効果だっけ?」

 

弟が宣言したのは何と兄のデッキにいるモンスターの名前。

同時に兄のデッキから【サンガ】は加えられた。

デュエルディスクがエラーを認識しないという事はこの使用に誤りはないという事。

前代未聞な使い方に聖星は自分の時代と裁定が違うのだろうか?と真剣に考えた。

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターンです」

 

デッキからカードを1枚ドローした聖星は改めて場を見渡す。

相手の場には【スーガ】、【ヒューガ】の2体。

自分達の場には守備表示の【バテル】と【フェザーマン】の2体。

攻撃力では圧倒的にこちらが不利である。

 

「スタンバイフェイズに【魔導書院ラメイソン】の効果発動。

俺は【グリモの魔導書】をデッキの1番下に戻してカードを1枚ドローします」

 

引いたのはモンスターカード。

目当てのカードではなかったが、次へと繋げることが出来るものだ。

聖星はそのカードを手札に加えず周りを見渡す。

自分達が叩き潰される事を望んでいる生徒。

伝説のデュエリストのデュエルが見れて感激している生徒。

心配そうに自分達を見ている生徒。

絶対に勝つと信じている生徒。

様々な表情を持つ者達がこの会場に揃っている。

さて、こんな状況、自分がこのカードを使ったら皆はどんな反応をするだろう。

楽しみな聖星は微笑んでモンスターの名前を宣言する。

 

「俺は手札から【E・HEROエアーマン】を守備表示で召喚」

 

「はぁ!」

 

「「「え、【E・HERO】!?」」」

 

会場に響いたカードの名前に生徒達は一気に騒ぎだす。

するとソリッドビジョンにより機械の翼を持つ英雄が風を纏いながら現れた。

彼は守備表示のためその場に膝をつき両腕をクロスさせる。

その風貌は明らかに魔法使い族ではなく【HERO】だと実感させられるものだ。

場に召喚されたモンスターの姿に明日香と三沢は開いた口が塞がらなかった。

 

「まさか聖星が【E・HERO】を使うだなんて」

 

「いや、十分あり得る可能性だ。

聖星は基本的に魔法使い族を使用しているが別の種族を混合している場合もある」

 

しかもこれは相手のデッキより相方のデッキを重視した方が良いタッグデュエル。

もし十代と聖星が自分のスタイルを一切崩さずタッグデュエルをしたらうまく回らなかっただろう。

だが聖星が【E・HERO】を使う事で十代は自分のカードで聖星をサポートする事が出来る。

 

「けど【E・HERO】は殆ど下級モンスター。

攻撃力の高いモンスターは融合モンスターばかり。

そう都合よく手札に融合素材のカードが来るかしら」

 

明日香達の中で【E・HERO】というものは十代の影響もあり『融合』して強くなるというイメージがある。

しかも融合には融合素材が必要であり、例外を除けば最低でも3枚は手札、場に必要になる。

自分のスタイルを貫くため【魔導書】も入れている聖星のデッキに【融合】を加えたら手札の消費が激しくなり事故を起こしてしまうかもしれない。

心配そうに見ている明日香達とが違い翔と隼人は必死に応援している。

 

「頑張れ―!

兄貴~、聖星君~!」

 

「きばるんだぞ!」

 

「【エアーマン】の効果発動。

このカードが召喚に成功した時デッキから【HERO】を1枚手札に加えることが出来ます。

俺は【E・HEROエアーマン】を手札に加えます」

 

2人の声に手を上げて応えた聖星は【エアーマン】の効果を発動する。

デッキから加わった同名カードに迷宮兄弟は面倒くさそうな表情をしていた。

そんな彼らの様子を伺いながら【三魔神】を見比べる。

 

「(あの3体の効果って確か攻撃された時に相手の攻撃力を0にするんだったよな……

下手に攻撃しない方が良いか。)

俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

新たに伏せられたカード。

モンスターを守備表示にだし、カードを伏せただけ。

一向に動こうとしない聖星に迷宮兄弟は挑発するように言う。

 

「ふっ、我々の場に【水魔神】と【風魔神】がいる」

 

「守備に徹して逃げ切る気か小僧」

 

「「だが、守備だけでは我らを倒す事は出来ん!!」」

 

「私のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、永続罠【DNA改造手術】を発動します」

 

「何?」

 

表側になった罠カードの名前に兄は怪訝そうな表情を浮かべる。

それに対し観客席にいる三沢と明日香達は気付いたかのように十代の場と聖星の場を見比べる。

 

「このカードが存在する限り俺達の場のモンスターは全て俺が指定した種族です。

俺は魔法使い族を選択します」

 

「上手い!

【E・HERO】のサポートカードは【E・HERO】の名を必要としている。

だから種族を変更されても問題はない」

 

「それに対して聖星の【魔導書】は魔法使い族が必要不可欠。

聖星は【DNA改造手術】を入れる事で十代のモンスター達も【魔導書】のサポートを受けられるようにしたのね」

 

微かに聞こえてくる三沢達の言葉に兄は納得し、不敵に笑う。

 

「私は手札から【スター・ブラスト】を発動する!

ライフを500の倍数支払う事で、その分だけ私のモンスターのレベルを下げる。

私は1500ポイント支払い、レベル7の【雷魔神-サンガ】をレベル4にする!」

 

「っていう事は……」

 

「通常召喚が可能って事か!」

 

「その通り!

現れよ、【雷魔神-サンガ】!!」

 

パチッ!!とカードを置く音が響きソリッドビジョンによって生み出される雷がフィールドを覆う。

フィールドを走り抜ける雷は強烈な光を発しながら一か所に集まり、巨大な魔神へと姿を変える。

僅かな雷を纏っている【サンガ】の登場に迷宮兄弟は不敵に笑った。

 

「【水魔神-スーガ】」

 

「【風魔神-ヒューガ】」

 

「【雷魔神-サンガ】」

 

「「この3体が我らの場に存在する。

そしてこの3体を生贄に捧げる事で【ゲート・ガーディアン】を特殊召喚する!!

現れよ、【ゲート・ガーディアン】!!!」」

 

手を高く上げた迷宮兄弟の言葉に【三魔神】の目が光り、共鳴するかのように変形し始める。

【スーガ】は全てを支える足となり、【ヒューガ】は上下のバランスを保つ胴体に、【サンガ】は全てを破壊を行う腕と頭部になった。

3体のモンスターが合体したモンスターの大きさは今まで出会ってきた中でも圧巻である。

伝説といわれるモンスターの登場に十代は聖星に振り返った。

 

「攻撃力3750か……

やっぱり伝説のデュエリストってすげぇな!!」

 

「あぁ。

やばい、楽しくなってきた」

 

楽しげな表情を浮かべる2人に兄は言い放つ。

 

「行くぞ、小僧!

【ゲート・ガーディアン】で【E・HEROエアーマン】を攻撃!」

 

巨体の【ゲート・ガーディアン】は重い足を動かしながら【エアーマン】に歩み寄る。

守備表示の【エアーマン】は自分の数倍の大きさの有るモンスターをただ見上げるだけだ。

自分に向かって振り下ろされる拳に対し【エアーマン】は微動だにもせず砕け散った。

粉々になったモンスターを見つめながら聖星は静かに宣言する。

 

「【エアーマン】が破壊された時、罠を発動します。

【ヒーロー・シグナル】」

 

暗い夜に射出されている1つの光。

それはヒーローが仲間を呼ぶサイン。

【エアーマン】は最後の力を振り絞りサインを送った。

 

「俺の場のモンスターが破壊された時、デッキから【E・HERO】を特殊召喚します。

俺は【E・HEROフォレストマン】を守備表示で特殊召喚」

 

「はっ!!」

 

「守備力2000……

更に守りを固めたか」

 

「だが【ゲート・ガーディアン】の攻撃力の前では意味がない。

私はこれでターンエンドだ」

 

「行くぜ、俺のターン!

ドロー!」

 

デッキからカードをドローした十代は聖星を見る。

十代からの視線に気が付いた聖星は小さく頷き、迷宮兄弟を真っ直ぐに見る。

口元に弧を描いた十代はすぐに宣言する。

 

「俺は【E・HEROフォレストマン】の効果を使うぜ!

スタンバイフェイズ時、こいつが表側表示で存在する時デッキまたは墓地に存在する【融合】を手札に加えることが出来る!

俺はデッキから【融合】を加え、そして【融合】を発動!」

 

「何!?」

 

まさかの効果に迷宮兄弟は目を見開く。

しかしすぐに表情を変えてフィールド全体を見渡す。

聖星は【DNA改造手術】で自分のモンスターにしか使えないカードを十代にも使えるようにし、場のモンスターが戦闘で破壊されたら十代に有利なモンスターを特殊召喚した。

自分の事だけではなくパートナーの事を考えての行動。

そして十代はそれを全力で使う。

 

「成程、貴様達もタッグデュエルが分かるようだな」

 

「へへっ。

場の【E・HEROフェザーマン】と手札の【バブルマン】を融合し、【E・HEROセイラーマン】を特殊召喚する!」

 

「はっ!」

 

守備表示の【フェザーマン】の隣に【バブルマン】が現れ、2体は歪みの中に吸い込まれる。

代わりに現れたのは細身の英雄で手にアンカーを備えている。

その攻撃力は1400.

 

「【セイラーマン】は俺達の場に伏せカードがある時、相手プレイヤーにダイレクトアタックが出来る!」

 

「何!?」

 

「行け、【セイラーマン】!

アンカー・ナックル!!」

 

「はぁ!」

 

自分に指示された攻撃宣言に【セイラーマン】は高く飛びあがる。

そして狙いを兄に定めて構えた。

しかし迷宮兄弟は笑みを浮かべてカードを発動させる。

 

「罠発動、【炸裂装甲】!」

 

「ゲ!」

 

表側表示になった罠カードの名前に十代は嫌そうな顔をする。

それは攻撃してきた相手モンスターを破壊する罠カード。

十代でなくても嫌な顔をするだろう。

 

「リバースカード、オープン。

速攻魔法【トーラの魔導書】。

このカードは魔法使い族モンスターに魔法または罠カードの耐性をつけます」

 

「しまった!」

 

「【DNA改造手術】の効果で場のモンスターは全て魔法使い族!!」

 

「その通り。

当然、俺は【セイラーマン】に罠カードの耐性をつけます。

よってこの攻撃は有効です」

 

兄の周りが光り、モンスターを吹き飛ばすほどの突風が吹き荒れる。

アンカーを投げようとした【セイラーマン】は一瞬だけ守りの体勢に入った。

しかし目の前に1冊の書物が現れ、その書物が持つ魔力によって風から護られた。

行けると確信した【セイラーマン】はそのまま勢いをつけて両腕のアンカーで兄を貫いた。

 

「ぐぁ!」

 

「兄者!」

 

「くっ、なんの……

これしきっ!」

 

これで迷宮兄弟のライフは5700から4300になる。

3000以上のライフの差をつけ、十代は握り拳を作った。

 

「さんきゅー、聖星」

 

「良いって事さ」

 

「俺はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「私のターンだ!

【ゲート・ガーディアン】!!

その軟弱なモンスターを攻撃しろ!!」

 

今迷宮兄弟にとって厄介なのはダイレクトアタックを可能にする【セイラーマン】。

幸いにも【セイラーマン】は攻撃表示。

攻撃力3750を誇る【ゲート・ガーディアン】の敵ではない。

 

「速攻魔法、【融合解除】!

【セイラーマン】の融合を解除し、【フェザーマン】と【バブルマン】を特殊召喚する!」

 

向かってくる攻撃に【セイラーマン】は分裂し、【フェザーマン】と【バブルマン】に戻る。

2体は共に攻撃表示でありいつでも攻撃できるよう構えていた。

しかしその姿に弟は笑い声を上げる。

 

「ははっ、どうした小僧?

【バブルマン】と【フェザーマン】を攻撃表示で特殊召喚だと?

せっかく【ゲート・ガーディアン】からの戦闘ダメージを0にするチャンスだったというのに無駄な事をしたな」

 

2体のモンスターの攻撃力は1000と800.

明らかに【セイラーマン】より低く、さらに多量の戦闘ダメージを受ける事になる。

 

「【ゲート・ガーディアン】で【バブルマン】に攻撃!」

 

「俺のする事に無駄な事なんてない!

リバースカード、オープン!!

速攻魔法、【バブルシャッフル】!」

 

「あ」

 

十代が発動したカードに聖星は【ゲート・ガーディアン】を見上げる。

そしてあのモンスターのステータスを思い出すがどうも曖昧で正確な数値を思い出せない。

 

「十代。

【ゲート・ガーディアン】の守備力っていくつだっけ?」

 

「確か3400だったはずだぜ」

 

「うわ、固いなぁ」

 

攻撃力3750に守備力3400.

特殊召喚するまでの手段が面倒で出すのにも一苦労だが、出たら出たで厄介だ。

しかし倒せないわけでは、いや、倒す方法など無数にあるので問題はない。

どうやって破壊しようかと考えていると十代が進めた。

 

「俺の場に【バブルマン】が存在する時、【バブルマン】と相手モンスターを守備表示にする!」

 

「なっ!

まさか【ゲート・ガーディアン】を!?」

 

「あぁ、そうさ!

【ゲート・ガーディアン】には守備表示になってもらうぜ!」

 

【バブルマン】と【ゲート・ガーディアン】は共に守備表示となり両腕をクロスして膝をつく。

攻撃をかわされただけではなく、これ以上追撃出来ない事に2人は舌打ちする。

だがまだこのカードの効果は終わらない。

 

「そして守備表示になった【バブルマン】を生贄に、手札の【E・HERO】を特殊召喚する!

俺は【ネクロダークマン】を特殊召喚!」

 

「はぁ!!」

 

「くっ……!」

 

「私はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「行くぜ、俺のターン」

 

相手の場に伏せカードは弟が伏せた2枚のみ。

モンスターゾーンには守備力3400の【ゲート・ガーディアン】。

それに対し自分達の場には【バテル】、【ネクロダークマン】、【フェザーマン】、【フォレストマン】の4体。

 

「俺は【魔導書院ラメイソン】の効果により【トーラの魔導書】をデッキの1番下に戻し、デッキからカードを1枚ドロー。

そして【フォレストマン】の効果でデッキから【融合】を加えます」

 

「聖星が【融合】を加えたか」

 

「やっぱり、彼のデッキも融合モンスターを使うのね」

 

「俺は手札から【融合】を発動。

場の【魔導書士バテル】と【E・HEROネクロダークマン】を融合」

 

「え!?」

 

「何ですって!?」

 

「バカな、【E・HERO】と【魔導書士バテル】の融合だと!?」

 

【E・HERO】は仲間と力を合わせる事で強くなるカテゴリ。

だが融合には融合素材モンスターが必要であり、融合素材のモンスターは名前を指定されている。

【沼地の魔神王】のような例外も存在するが【魔導書士バテル】はその例外ではない。

それなのに聖星は融合素材に指定した。

守備表示の【バテル】と【ネクロダークマン】は歪みの中に消えて行く。

 

「一体どんなモンスターが現れるの?」

 

エラー音も何もないという事はこの融合は有効という事。

聞いた事もない組み合わせに明日香達は聖星の場を凝視した。

すると聖星の場に一筋の光が差し込み、その光がフィールドの一部を氷漬けにする。

 

「冷徹の力で永久の世界を作れ、融合召喚。

【E・HEROアブソルートZero】!」

 

「はあぁっ!!」

 

凍て付いたフィールドに吹雪が吹き荒れ、色を持たない氷の戦士が現れる。

純白のマントを翻しながら現れた戦士は一瞬で魔法使いとなり、力強く着地し地面に張った氷を粉々に砕く。

同時に砕け散った氷を核に空気中の水分が凍りついて雪の結晶が舞い上がる。

氷の世界に膝をついた彼はゆっくりと立ち上がり【ゲート・ガーディアン】を見上げた。

 

「【Zero】、来たぁ!!」

 

「な、何が起こっているのだ……!?」

 

「理解が出来ん」

 

「【アブソルートZero】は【E・HERO】の名を持つモンスターと水属性の融合で特殊召喚できるニューヒーローだ!」

 

「【バテル】は水属性。

だから融合召喚出来たんですよ」

 

「モンスターではなく、属性を指定しての融合だと!?」

 

「何だ、その融合は!?」

 

彼らの中での融合は決められた名前を持つモンスター同士、または融合素材代用モンスターによる融合でしかない。

しかし目の前で起こった融合はその常識に当てはまらないもの。

デュエルの世界は日々進化しているが、この融合はそれを証明しているものの1つなのだろうか。

 

「そして俺は【E・HEROエアーマン】を攻撃表示で召喚。

【エアーマン】の効果で俺はデッキから【E・HEROオーシャン】を加えます。

そして【フォレストマン】を守備表示から攻撃表示に変更」

 

再び現れたのは風を纏う戦士。

【Zero】と同じように魔法使いへと変わった彼は聖星の手札に仲間を呼ぶ。

 

「手札から魔法カード【ヒュグロの魔導書】を発動します。

これは魔法使い族の攻撃力を1000ポイント上げるカードです。

【Zero】の攻撃力は2500から3500にアップ。

そして【ゲート・ガーディアン】の守備力は3400」

 

「くっ!」

 

「行けぇ、聖星!」

 

「【アブソルートZero】、瞬間氷結」

 

聖星からの攻撃宣言に【Zero】は手をかざし【ゲート・ガーディアン】に氷の波導を放つ。

みるみるうちに【ゲート・ガーディアン】の足元は凍りつきこのままでは全身氷漬けになってしまう。

 

「舐めるな、小僧!

リバースカード、オープン!

【強制脱出装置】を発動する!」

 

「手札から速攻魔法、【トーラの魔導書】を発動します。

効果の説明はいらないですよね?」

 

【ゲート・ガーディアン】を守ろうと弟はモンスターを手札に戻す罠カードを発動する。

だが聖星はすぐに罠カードの効果を防ぐ速攻魔法を発動する。

【DNA改造手術】の効果で魔法使いとなっている【Zero】は授かった英知により融合デッキに戻る事はない。

【Zero】の魔力で【ゲート・ガーディアン】は冷たい氷の彫刻に閉じ込められ、そのまま砕け散ってしまう。

その様子に迷宮兄弟は信じられないという表情を浮かべた。

 

「そんな……」

 

「【ゲート・ガーディアン】がこうもあっさりと……」

 

「よっしゃぁあ!

【ゲート・ガーディアン】突破!

流石聖星だぜ!」

 

「十代だって、俺が戦闘破壊できるようサポートしてくれたじゃん。

守備表示にしてくれなかったら無理だったな」

 

「なぁに、これくらい当然だろ!」

 

へへっ、と笑う十代に聖星は微笑む。

だがすぐに真剣な表情となり効果を発動させた。

 

「モンスターを破壊した事で俺は【ヒュグロの魔導書】の効果により、デッキから【グリモの魔導書】を加えます。

【E・HEROフォレストマン】、【フェザーマン】、【エアーマン】でダイレクトアタック」

 

「っ!

ぐぁあ!」

 

【ゲート・ガーディアン】が破壊された事実に動揺していた弟は一瞬だけ反応が遅れ、モンスターの攻撃をまともに受けてしまう。

個々の攻撃力は大したことではないが、3体同時になるとかなりのダメージとなる。

弟は攻撃の衝撃によって吹き飛ばされてしまいライフは4300から3300、2300、500という順に減っていく。

 

「そしてメインフェイズに【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【セフェルの魔導書】を加えて発動します。

手札の【ゲーテの魔導書】を見せ、【グリモの魔導書】をコピー。

俺は【ヒュグロの魔導書】を手札に加えます。

カードを1枚伏せ、ターンエンドです」

 

淡々とカードを発動し、それを処理していく聖星。

今のところ聖星達とライフは無傷のまま。

それに対し迷宮兄弟のライフは500という数値。

そんな状況に誰かが呟いた。

 

「すげぇ……」

 

「オシリス・レッドが伝説のデュエリストをおしている……?」

 

「このままじゃあいつらマジで勝っちまうのか?」

 

落ちこぼれが伝説のデュエリストに勝つ。

別に迷宮兄弟が弱いわけじゃない。

伝説の名に相応しく、カードの効果、使い方を熟知し召喚の難しい【ゲート・ガーディアン】を特殊召喚した。

もし他の生徒達が彼等を相手にしたら勝てるかどうか分からないだろう。

だが聖星と十代は勝とうとしている。

 

「良いぞ、兄貴――!!

聖星君―――!!」

 

「そのままなんだな!

一気にライフを削れ――!」

 

目の前の事実を上手く受け入れる事が出来ない生徒達。

だが誰よりも聖星と十代に近い翔と隼人は声を張り上げて声援する。

その言葉に明日香と三沢は微笑み、取巻はフンと鼻を鳴らす。

そしてフィールドに立っている2人を見る。

 

「そうだ、十代、聖星!

もう少しだ!」

 

「2人なら出来るわ!

頑張りなさい!!」

 

「相手のエースを倒したんだ!

さっさと終わらせろ!」

 

翔と隼人のように3人も声を張り上げる。

特に皆は取巻の言葉に驚き、思わず彼に視線が集まる。

しかしそんな事など知った事か!とでも言うかのように取巻は素知らぬ顔をしている。

当然聖星と十代にも取巻の声は届いており、2人は顔を見合わせて笑った。

 

「フフフ……」

 

「ん?」

 

次々と聞こえてくる応援の声。

そんな中笑い声が聞こえてくる。

2人は迷宮兄弟に顔を向けて不思議そうな表情をする。

 

「「アハハハハハ!!!」」

 

顔を伏せていた迷宮兄弟は同時に顔を上げて笑い声を上げる。

いつまでも続く笑い声に聖星は思わずきょとんとしてしまう。

すると迷宮兄弟達は嬉しそうに不敵な笑みを浮かべてた。

 

「面白い、面白いぞ小僧共!」

 

「アカデミアの落ちこぼれと聞いていたから一瞬で終わると思っていたが、どうやら違うようだ」

 

「一見シナジーのないようなデッキ。

だが魔法・罠カードを巧みに利用してそのデメリットを無かったことにしている」

 

「そして、我らを相手にしても平常心を失わない。

それどころか楽しむ精神力!」

 

「「久しぶりに手ごたえのある相手が現れたというものだ!」」

 

同時に響く楽しそうな言葉。

彼らの言葉には嘘など全く感じない。

それは迷宮兄弟が聖星と十代を認めたという事。

彼らの言葉を理解できた2人は不敵な笑みを浮かべた。

 

「何言ってるんだ。

伝説のデュエリストと戦えるんだぜ!

ビビってられるかよ!」

 

「あぁ。

一生に1度あるかないかのチャンスなんだ。

本気で楽しんで、勝たせていただきます」

 

「ここからは本気で行くぞ、小僧共!

私のターン、ドロー!」

 

【ゲート・ガーディアン】は【Zero】の手によって倒された。

属性を指定する融合とは完全な想定外だが、久しぶりに腕のあるデュエリストとのデュエルに胸が高鳴る。

このデュエルは十代の退学を賭けた制裁デュエルだという事を完全に忘れた兄は勢いよくデッキからカードを引く。

 

「私はライフを半分支払い、手札から魔法カード【ダーク・エレメント】を発動!

この効果によりデッキから【闇の守護神-ダーク・ガーディアン】を特殊召喚する!」

 

【ダーク・エレメント】は墓地に【ゲート・ガーディアン】が存在する時発動できる魔法カード。

迷宮兄弟のライフは500から半分の250になってしまうが、場に禍々しいオーラが漂い始めた。

そのオーラは1体の巨大なモンスターとなりフィールドに降臨する。

攻撃力3800と【ゲート・ガーディアン】を超える数値である。

 

「【闇の守護神-ダーク・ガーディアン】で【E・HEROアブソルートZero】を攻撃!

ダーク・ショックウェーブ!!」

 

ここで攻撃力の低い【フォレストマン】達を攻撃しても良かった。

だが次のターンに【Zero】の攻撃力を上げられるわけにはいかない。

真っ先に強いモンスターから叩き潰す。

そう決めて兄は攻撃宣言をした。

【ダーク・ガーディアン】は自分を軸に闇の波導を放ち、【Zero】を闇の中に引きずり込んで破壊した。

聖星達のライフは8000から1350削られ、6650となる。

すると迷宮兄弟のフィールドが一瞬で氷漬けになってしまった。

 

「な!?

何が起こった!?」

 

「【ダーク・ガーディアン】が氷に包み込まれただと!?」

 

「ダイヤモンド・ワールド」

 

「何?」

 

「【Zero】は場から離れた時、相手の場のモンスターを全て氷漬けにします」

 

「これで【ダーク・ガーディアン】は砕け散るぜ!」

 

十代の言葉の通り氷の世界に閉じ込められた【ダーク・ガーディアン】は砕け散った。

ライフを犠牲にしてまで特殊召喚したモンスターをあっさりと破壊されてしまった事に顔を歪める。

 

「クッ、おのれ……

私はカードを3枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!

俺は【フォレストマン】の効果でデッキから【融合】を手札に加え、【融合】を発動!

場の【フェザーマン】と手札の【バーストレディ】を融合し【E・HEROフレイム・ウィングマン】を融合召喚する!」

 

「はっ!」

 

現れたのは十代のお気に入りのヒーロー。

今迷宮兄弟の場にはモンスターがおらずがら空きである。

 

「【フレイム・ウィングマン】でダイレクトアタック!」

 

「させるか!

罠発動、【聖なるバリア-ミラーフォース―】!

これで貴様の場のモンスターは全滅だ!」

 

【フレイム・ウィングマン】の腕から放たれる炎は銀色に輝く結界に跳ね返される。

罠カードの効果によって跳ね返された炎は2人の場に存在するモンスター全てを焼き尽くした。

 

「くっそぉ。

やっぱりそう簡単には勝たせてくれないか」

 

「ライフじゃ押しているんだけどな」

 

「俺は【フレンドッグ】を守備表示で召喚。

カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

召喚されたのは犬の形を模したロボット。

可愛らしい声で鳴いた【フレンドッグ】は十代を守るように身構える。

 

「私のターン、ドロー!

私は兄者のリバースカード、【魂の解放】を発動する!」

 

「【魂の解放】?」

 

「ここで除外って事はまさか……」

 

「ふふふっ。

そう、私は墓地に眠る【三魔神】と【ゲート・ガーディアン】を除外する。

さらに罠カード【異次元からの帰還】を発動!

ライフを半分払い、ゲームから除外されている【三魔神】、【ゲート・ガーディアン】を特殊召喚する!」

 

次々と除外されていくモンスター達。

除外ゾーンがデュエルディスクには用意されていないため、弟は4枚のカードを胸ポケットにしまう。

【異次元からの帰還】が発動した事でライフを250から125へ削られたがその見返りは大きい。

 

「「我が兄弟の元に降臨せよ!」」

 

【異次元からの帰還】は除外されているモンスターを可能な限り特殊召喚するカード。

【魂の解放】によって墓地から除外された【三魔神】と【ゲート・ガーディアン】は轟音と共にフィールドに戻ってくる。

場にモンスターは存在しなかったのにカードのコンボで4体もモンスターが並び、生徒達は伝説の本気を見た気がした。

 

「すげぇ、もうこんなにモンスターが揃っちまった!」

 

「行くぞ、小僧!

【風魔神-ヒューガ】で【フレンドッグ】に攻撃!!

風魔波!」

 

【三魔神】の中で最も攻撃力が低い【ヒューガ】は風を操り【フレンドッグ】を破壊する。

攻撃によって爆発した【フレンドッグ】は墓地へと送られ効果が発動する。

同時に十代の伏せカードも発動した。

 

「【フレンドッグ】が破壊された時、【ヒーロー・シグナル】を発動!

デッキから【E・HEROスパークマン】を守備表示で特殊召喚する!」

 

「はっ!」

 

「そして【フレンドッグ】が戦闘で破壊された事により、俺は墓地から【融合】と【E・HEROエアーマン】を手札に加える」

 

【フレンドッグ】は戦闘で破壊された時墓地から【融合】と【E・HERO】を手札に加える効果を持つ。

十代はサーチ効果を持つ【エアーマン】を加えた。

 

「だが終わらんぞ!

【水魔神-スーガ】で【スパークマン】を攻撃!!」

 

「罠カード、【ヒーロー・バリア】!

【スーガ】の攻撃を無効にする!」

 

「ならば【サンガ】で攻撃!」

 

【スーガ】の波を使った攻撃は十代のカードに防がれてしまう。

また場にモンスターが残ってしまったが弟は諦めず【サンガ】に攻撃させる。

 

「速攻魔法、【ゲーテの魔導書】を発動。

俺達の場に魔法使い族が存在する時、墓地の【魔導書】を除外して発動します。

俺は【ヒュグロの魔導書】、【セフェルの魔導書】、【トーラの魔導書】をコストとして除外。

そして相手の場のカードを1枚除外します!」

 

「ならばそれにチェーンして【王宮の鉄壁】を発動!」

 

「あ」

 

墓地から3枚の【魔導書】を取り出した聖星はデッキケースに仕舞う。

そして効果を説明すると弟はニヤリと笑い、永続罠を発動した。

それには城全体を囲う鉄壁が描かれている。

 

「【王宮の鉄壁】?

何だ、そのカード」

 

「除外を封じる永続罠だよ。

あのカードがある限り、俺達はカードを除外できなくなった」

 

「はぁ!?

って事は、【ゲーテ】の除外効果は不発って事かよ!?」

 

「あぁ」

 

【ゲーテの魔導書】は【魔導書】をコストとして3枚除外して発動する。

その後に【王宮の鉄壁】が発動された事で【ゲーテの魔導書】は場のカードを除外する事が出来なくなった。

これで除外したコストが無駄になってしまった。

それだけではない。

【異次元からの帰還】はエンドフェイズ時にこのカードで特殊召喚したモンスターを除外する。

しかし【王宮の鉄壁】の効果によりそれが出来なくなってしまう。

聖星のカードを封じるだけでなく、自分達のデメリットまで打ち消してたのだ。

【サンガ】は両腕に雷を纏い、【スパークマン】を叩き潰した。

これで十代と聖星の場にモンスターはいない。

 

「【ゲート・ガーディアン】でダイレクトアタック!!」

 

「ぐぁあ!」

 

【ゲート・ガーディアン】の直撃を受けた十代はその場から吹き飛ばされる。

6650もあったライフが2900まで削られた。

ライフの半分近く削られた事で安心できなくなった。

 

「十代、大丈夫か?」

 

「へっ、これくらいへっちゃらだぜ!」

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

引いたのは【融合】。

聖星は融合デッキに残っているモンスターを確認する。

 

「(【王宮の鉄壁】……

どんな状況でもカードの除外を封じてしまう永続罠。

これじゃあ【ゲーテの魔導書】だけじゃない。

【ミラクル・フュージョン】で上級モンスターを呼べないじゃないな)

俺は【魔導書院ラメイソン】の効果で墓地の【ゲーテの魔導書】を戻し、カードを1枚ドロー」

 

スタンバイフェイズ、【ラメイソン】の効果で新たにカードをドローする。

加わったカードと手札を見比べ戦略を考える。

正直上手くいくかは分からない。

 

「(ま、やってみるか。)」

 

もし上手くいかなかったら次の手を考える。

そう決めた聖星はカードを掴む。

 

「俺は手札から【融合】を発動。

手札の【E・HEROオーシャン】と【魔導剣士シャリオ】を融合」

 

「また【E・HERO】と属性の融合か!」

 

「荒ぶる風を纏いし英雄よ、道を開くため苦境を吹き飛ばせ。

融合召喚。

【E・HERO Great TORNADO】!」

 

【オーシャン】と【シャリオ】は互いの武器を高く上げて刃を合わせる。

すると2人を中心に暴風が吹き荒れる。

全てを吹き飛ばすほどの暴風の中から2つの光が輝き、漆黒の衣を纏った風の戦士が現れる。

 

「【E・HERO Great TORNADO】の効果発動。

このカードが融合召喚に成功した時、相手のモンスター全ての攻守を半分にします」

 

「何!?」

 

「タウン・バースト」

 

特殊召喚された【E・HERO Great TORNADO】は両手を高く上げ、風を呼び起こす。

風は【ゲート・ガーディアン】達4体のボディを傷つけた。

 

「【Great TORNADO】で【ゲート・ガーディアン】に攻撃」

 

「ならば【炸裂装甲】!」

 

「あ…………

やっぱり伏せカードがやっかいだよな」

 

発動されたモンスター破壊カードに聖星は頬を掻く。

鎧の中に閉じ込められた【E・HERO Great TORNADO】は一直線に聖星の墓地へと送られてしまう。

破壊する事は出来なかったが、相手モンスターの攻守を半減できたので良しとしよう。

 

「カードを1枚伏せてターン終了です」

 

「私のターン!

行くぞ!

【ゲート・ガーディアン】でダイレクトアタック!」

 

「罠カード、【和睦の使者】を発動します。

これでこのターン、戦闘ダメージは0です」

 

「ふっ。

カードを1枚伏せ、ターンを終了する」

 

「俺のターン、ドロー!

行くぜ!

俺は手札から【E・HEROクレイマン】を守備表示で召喚!

そして【速攻召喚】を発動!

【エアーマン】を召喚する!」

 

光との中から粘土の英雄が現れ、その隣に風の英雄が現れる。

特に【エアーマン】は3度目の登場である。

もう効果を覚えた迷宮兄弟は不敵に笑って尋ねる。

 

「ふっ、デッキから新たな【HERO】を呼ぼうという考えか」

 

「いいや、違うぜ」

 

「何だと?」

 

「【エアーマン】の効果はこれだけじゃない!

【エアーマン】のもう1つの効果発動!

このカード以外の【HERO】が存在する時、その枚数分相手の魔法・罠カードを破壊する!」

 

「何っ!?」

 

今、十代達の場に【E・HERO】は【クレイマン】のみ。

よって【エアーマン】は1枚のみ破壊できる。

 

「俺は【王宮の鉄壁】を破壊!」

 

十代の宣言に【エアーマン】は羽にから風を巻き起こし、【王宮の鉄壁】を破壊する。

 

「そして魔法カード、【ホープ・オブ・フィフス】を発動!

墓地の【E・HERO】を5枚デッキに戻し、デッキからカードを2枚ドロー!」

 

十代は墓地に存在する【アブソルートZero】、【Great TORNADO】、【フレイム・ウィングマン】、【セイラーマン】、【エアーマン】の5体を選択する。

【アブソルートZero】、【Great TORNADO】、【フレイム・ウィングマン】、【セイラーマン】の4体は融合モンスターのため融合デッキに戻り、メインデッキに戻るのは【エアーマン】のみだ。

デッキに戻した十代はデッキをシャッフルし、デュエルディスクにセットする。

 

「手札から魔法カード、【ミラクル・フュージョン】!

墓地と場に存在する【HERO】で融合する!」

 

「なっ、墓地だと!?」

 

「墓地の【E・HEROオーシャン】と【フォレストマン】を除外!

融合召喚!

【E・HEROアブソルートZero】!!」

 

墓地に存在する海と大地の英雄は半透明の姿で場に現れた。

2体のモンスターは歪みの中に吸い込まれていき、十代の場を氷漬けにする。

再び場が氷の世界となり、その世界の中心に現れたのは相手モンスターを氷漬けにする【Zero】。

 

「行くぜ!

【Zero】で【ゲート・ガーディアン】に攻撃!!」

 

今、【ゲート・ガーディアン】の攻撃力は【Great TORNADO】の効果で1875になっている。

迷宮兄弟の残りのライフは125でこの攻撃が決まれば十代達の勝ちである。

しかし彼等だってそう簡単には終わらせない。

 

「無駄だ!

罠発動、【聖なるバリア-ミラーフォース-】!」

 

「くっ!!

けど、これで【Zero】の効果が発動し、あんたのモンスターも破壊されるぜ!」

 

相手を氷漬けにする【Zero】の攻撃は【Zero】自身に返ってくる。

全てを凍て付かせる魔術に【Zero】は砕け散ってしまった。

だが、同時に【Zero】を軸に氷の世界が迷宮兄弟の場まで広がった。

 

「くっ……」

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「私のターン!

手札から魔法カード、【死者蘇生】を発動!

墓地から【ゲート・ガーディアン】を特殊召喚する!」

 

勢いよくドローした弟は引いたカードに笑みを浮かべ、そのまま発動する。

何とそのカードは墓地からモンスターを特殊召喚するカードで、この状況では願ってもいないカードだろう。

氷が広がるフィールドの大地が裂け、そこから【ゲート・ガーディアン】が現れる。

 

「【ゲート・ガーディアン】で【クレイマン】に攻撃!」

 

特殊召喚された【ゲート・ガーディアン】は守備表示となっている【クレイマン】に狙いを定め、その拳を叩き落とした。

攻撃力が3700以上もあるモンスターの攻撃を守備力2000の【クレイマン】が耐えられるわけもなく押し潰されてしまう。

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

「……いい加減ヤバくなってきたな」

 

迷宮兄弟のエンド宣言に聖星はつい零してしまった。

【Zero】や【Great TORNADO】を特殊召喚したというのに、何度も【ゲート・ガーディアン】は蘇ってしまう。

流石は伝説のデュエリストとしかいいようがない。

だがこのデュエルは十代の退学がかかっているのだ。

これ以上長引かせるわけにも、追い込まれるわけにもいかない。

 

「(絶対にこのターンで決める!)」

 

聖星はチラッ、と十代を見る。

十代は立ちはだかっている【ゲート・ガーディアン】に不敵な笑みを浮かべており、その表情に焦りは一切ない。

恐ろしいくらい自然体な十代に聖星はつい笑ってしまった。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

カードをドローした聖星はすぐにドローしたカードを見る。

それは1枚の魔法カード。

聖星はその名前にカードを手札に加えず宣言した。

 

「俺は【強欲な壺】を発動。

デッキからカードを2枚ドローします」

 

新たに加わったカード。

新たに来たカードの名前に聖星に強く頷いた。

 

「俺は【魔導書士バテル】を召喚。

デッキから【トーラの魔導書】をサーチ。

そして手札から【ミラクル・フュージョン】を発動!

墓地の【Zero】と【クレイマン】を除外する!」

 

墓地から現れた2体の周りの大地が大きく盛り上がり、彼らの姿を隠してしまう。

すると大きく隆起した地面にヒビが入り、粉々に砕けてしまう。

 

「融合召喚、【E・HEROガイア】!!」

 

聖星の宣言と共にフィールドがさらに割れていく。

そこからゆっくりと鋼の肉体を持ち、剛腕を持つ英雄が姿を現した。

 

「【ガイア】の効果発動!

こいつが融合召喚した時、相手モンスター1体の攻撃力を半分にし、その数値分攻撃力を上げる!」

 

「なんだと!?」

 

「攻撃力の減少と吸収……

まさか!」

 

「そう、俺は【ゲート・ガーディアン】を指定する!

【ガイア】!!」

 

名前を呼ばれた【ガイア】は両腕を勢いよくフィールドに叩きつける。

その時の威力は凄まじく大きく大地は揺れ、【ゲート・ガーディアン】は膝をつく。

これで【ゲート・ガーディアン】の攻撃力は3750から1875に下がり、【ガイア】の攻撃力は2200から4075になる。

 

「【E・HEROガイア】で【ゲート・ガーディアン】に攻撃!」

 

「させん!

罠発動、【次元幽閉】!

このカードは攻撃してきた相手モンスターを除外する!

悪いが消えてもらうぞ!」

 

腕を構えた【ガイア】の目の前に異空間へと繋がる歪みが現れる。

その歪みはどんどん大きくなっていき【ガイア】を飲み込もうとする。

しかしその光景に十代は不敵に笑い、聖星は焦った様子もなく静かに宣言した。

 

「甘いぜ、迷宮兄弟!

さっき聖星が何を加えたのか忘れちまったのかよ!?」

 

「ハッ!」

 

「し、しまった!」

 

「俺は手札から速攻魔法、【トーラの魔導書】を発動!」

 

「これで【次元幽閉】の効果は【ガイア】には通用しないぜ!」

 

【ガイア】は自分の魔力を歪みに向けて放ち、広がっていく歪みを閉ざす。

一瞬で消えてしまった歪みと共に【次元幽閉】のカードは粉々に砕け散った。

迷宮兄弟は破壊された【次元幽閉】から慌てて【ゲート・ガーディアン】へと目をやった。

 

「「【E・HEROガイア】、コンチネンタルハンマー!!!」」

 

聖星と十代の力強い宣言に応えるよう【ガイア】は両腕の銃口に魔力を集中させ、塊を生み出す。

大地の力を纏うパワーは凄まじい勢いで【ゲート・ガーディアン】へと向かって行き、【ゲート・ガーディアン】を貫く。

大きな風穴があいた部分から全身にひびが走り、【ゲート・ガーディアン】は崩れ落ちる。

地面に落下した肉体はその場で大きな爆発を起こし、爆風と炎は迷宮兄弟を飲み込む。

 

「「うぉおおお!!!!」」

 

体全身を焼き尽くすほどの炎に2人は悲鳴を上げ、残り125だったライフは0になった。

そしてデュエル終了のブザーが鳴り響きソリッドビジョンが消えて行く。

場から消えるモンスター達を見届け終えた聖星は十代に目をやる。

十代も聖星と同じようで、目が合った二人はそれぞれ笑みを浮かべた。

そして同時に手を上げて勢いよくハイタッチする。

 

「やったな、聖星!!」

 

「あぁ!」

 

「最後に出した【E・HEROガイア】、凄くかっこよかったな!

ってか俺と調整した時、あんなカード入れてなかっただろ?

いつ入れたんだ?」

 

「今朝だよ。

融合はあくまで【Zero】と【Great TORNADO】だけにしようと思ったんだけど……

そういえば地属性の【フォレストマン】もデッキに入っていたから入れてみようかなぁって思ってさ」

 

【E・HEROガイア】。

【HERO】の名を持つモンスターと地属性モンスターが必要な融合モンスター。

聖星自身、上級は【Zero】と【Great TORNADO】を軸にしようと決めていたから初めは入れようとは思わなかった。

しかし【フォレストマン】が存在し、もしかしたら活躍するかもしれないと思い土壇場で入れたのだが……

まさかフィニッシャーになるとは夢にも思わなかった。

 

「遊城十代に……」

 

「不動聖星だったな」

 

背後から聞こえたのは迷宮兄弟の声。

2人はすぐに振り返り、自分達より背の高い彼らを見上げる。

彼らの表情はどこか満足げであり悔しさが微塵にも感じられなかった。

 

「先程も言ったと思うが、お前達のデュエルは実に素晴らしいものだ。

1枚のカードで互いにサポートカードを共有できるようにし、その状況を存分に活用する」

 

「我ら兄弟が戦ったタッグデュエリスト達の中でもお前達は5本の指に入るほどの名タッグだ。

お前達とデュエルが出来た事を誇りに思う」

 

そう言い終えた2人は聖星と十代に手を差し出す。

すぐに察した聖星達はその手を強く握り、無邪気な笑みを浮かべた。

ただの学生が伝説のデュエリストに認められ、誇りとまで言われた。

感動的な光景に鮫島校長は目を輝かせ、大徳寺先生は安心したように微笑む。

そんな場面に生徒達は揃って立ち上がり、それぞれ拍手を送る。

 

「また機会があればお前達とタッグデュエルをしたいものだ」

 

「だが、今度は我ら迷宮兄弟が勝つ!」

 

「何言ってんだよ。

今度も勝つのは俺達さ!

な、聖星!」

 

「はい。

次のデュエルも本気で楽しんで、絶対に勝たせていただきます」

 

互いに再戦を口にする4人。

実に素晴らしい雰囲気を称えるよう、鮫島校長がフィールドに上がって言葉を発する。

その言葉は本当に今のデュエルが素敵で仕方がないと表現しているものばかりだった。

十代に迷宮兄弟、生徒達は鮫島校長の言葉を真剣に聞いていたが聖星だけは違った。

 

「(次、か……)」

 

この場で聖星達は再戦を誓った。

だが、その次は実現するのだろうか。

誰も知らないが聖星は未来の人間でいつかは帰るつもりである。

【星態龍】の力も着々と戻ってきており、この調子なら2年に上がる前に未来に帰ることが出来る。

もし自分が帰ってしまえば再戦は叶わないだろう。

 

「(出来たら、それまでに次のデュエルをしたいなぁ……)」

 

END

 




ここまで読んで頂きありがとうございます!
リアルとの格闘の末、やっとタッグデュエルを書き終えました。
前回の更新から3週間以上も経ってしまって…
あぅ、次の更新がいつになるやら。


迷宮兄弟とのデュエルで使用したデッキはその名の通り【魔導HERO】です。
属性を指定している【Zero】や【GreatTORNADO】なら【魔導書】デッキでも平気で入ると思って書いてみました。
【Zero】は比較的にポンポン出てきます。
【バテル】に【氷の女王】がいるからですかね…?


え、隼人の退学話?
見事に飛ばしましたよ。
そして取巻がデレてきやがった……


そして【Zero】の効果名ですが、オリジナルです。
始めはブリザード・ワールドとか、エターナル・クリアとか色々思い浮かんだのですがダイアモンド・ワールドだったら綺麗かなぁと思ってこれにしました。


追記
まさかの【エクシーズ・ディメンション・スプラッシュ】の効果を間違えていて最後をほとんど書き直しました。
恥ずかしい…!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話 舞い上がる赤き眼の竜

「う~~!

全然終わんねぇ!」

 

「まだこんなにあるんすか……」

 

「頑張るんだな、翔、十代」

 

制裁デュエルが終わり、十代も退学せずにすんだ。

だが危険人物がいる事を知っているのに学園側に報告しなかった事も事実なので3人は今現在反省文を書かされている。

ちなみに倫理委員会だが杜撰(ずさん)な管理が明るみになったせいで色々問題になっているようだ。

ま、聖星にとっては関係ない事なので深くは知らない。

というか興味がない。

 

「十代、手が止まってる。

早くしないと夕飯まで間に合わないぜ」

 

「だぁああ!

分かってるって、聖星!」

 

反省文なんて一体何を書けばいいのかわからない十代。

彼は片手にPC、片手にシャーペンを握って必死に反省文を書いている。

別に今回の事は以後気を付けますだけで十分だろう!

そう零しながら十代はペンを走らせる。

 

「終わったっす!」

 

「マジかよ、翔!」

 

「羨ましいんだな……」

 

1番最初に終わったのは翔。

彼は両腕を高くの伸ばし、体のコリをとる。

だが次に重苦しい溜息をついた。

 

「はぁ~……

次はお兄さんに連絡しなきゃ……」

 

「丸藤先輩に?」

 

「何でここでカイザーが出てくるんだよ」

 

「それがっすね。

兄貴が聖星君とデッキ調整している間、お兄さんにどうして自分に連絡を入れなかったんだって叱られたんす」

 

少しだけ遠い目をしながら話し始めた内容に3人は納得する。

聖星は友人として十代に何故呼ばなかったのかと尋ねた。

それと同じようにカイザーも翔に問いただしたのだろう。

しかも2人は実の兄弟。

廃寮の事を聞いて誰よりも心配したのは彼だったかもしれない。

 

「ま、カイザーはお前の兄ちゃんだもんな。

凄く心配してくれたんだろ?

よかったじゃねぇか」

 

「まぁ、そうっすけどね……」

 

微笑ましそうに笑う十代に対し翔は苦笑を零す。

 

「でもさ、それと反省文の完成と何が関係あるんだ?」

 

「一応、ちゃんと反省しているのか確かめるためにお兄さんも見てくれるって……」

 

項垂れる翔の言葉に3人は再び納得した。

 

「そういえば聖星君の持っている【E・HERO】って凄く融合条件が緩いっすね。

あんなカードどこで手に入れたんっすか?」

 

「以前住んでいた所でね。

かなり安かったからまとめ買いしたんだ」

 

遊馬達の世界にいた時、見た事もないカード達のためにカードショップへ足を運ぶのは実に楽しかった。

エクシーズモンスターは積極的には買わなかったが、他のカードは知らないカードがあればすぐに買っていた。

それで様々なカードを集めて今のデッキが完成したのだ。

 

「マジか!

どこで売ってたんだ!?

俺もそのカードショップに行ってみたいぜ!」

 

聖星の言葉に当然【HERO】使いの十代は食いつく。

十代としては今すぐ聖星とトレードをして【Zero】、【Great TORNADO】達を手に入れたいのが本音だ。

だがカードを見せられた時笑顔で「譲らないからな」と言われたせいで無理に言えない。

 

「なぁなぁ。

どこのカードショップだよ?

教えてくれよ!」

 

「いや、教えたくてもそこのショップもう潰れているし」

 

「へ?

潰れたって本当の事か!?」

 

「あぁ。

まぁ、普通数十万するカードを千円単位で売っていたんだ。

お世話になったけど仕方ないかなぁ」

 

「嘘だろ~~…………」

 

がくっ、とその場に項垂れる友人に聖星は苦笑を浮かべた。

本当は潰れて等いないのだが異世界にあるカードショップなので十代が行くことは不可能。

聖星もトレードなら十代に譲ってあげても良かったのだが、この世界にはないカードなので渡すわけにはいかない。

だから申し訳ないが諦めてもらうしかない。

 

「ま、運があればどこかで出会えるさ」

 

「よ~し、絶対に見つけてゲットしてみせるぜ!」

 

**

 

それから数日後。

聖星の目の前には何故か取巻がいた。

ここが学舎内なら良いのだが、ここは聖星の部屋である。

そう、イエローの聖星の部屋にブルーの取巻がいるのだ。

 

「お前、ドラゴン族モンスターのカードを持ってないか?」

 

「なんで急に?」

 

「レッドだったお前に負けたせいで成績がやばいんだ。

それで今度慕谷と降格を賭けたデュエルをするんだよ」

 

「あ、だから新しいカードが必要なんだ」

 

険しい表情を浮かべたまま事情を説明され、聖星は頷いた。

実力主義、いや、寮主義といえるこの学園で降格などかなりの事だ。

昇格でも嫉妬を買うがエリート意識の高いここで降格となれば誹謗中傷の的になるだろう。

 

「それで、取巻のデッキってどんな構成になってるんだ?」

 

「お前、俺はドラゴン族のカードがないかって聞いたんだぞ」

 

「だってさ、デッキ構成が分からないとどんなサポートカードを勧めれば良いかわからないだろ?」

 

特にドラゴン族はデュエルモンスターズ界の中でも盛んな種族だ。

そのおかげで一口にドラゴン族デッキと言われても様々存在する。

例えば【闇ドラゴン】なら闇属性のサポートカードを勧めれば良い。

【カオスドラゴン】なら墓地肥しのサポートカードだ。

 

「……ほら」

 

「ありがとう」

 

何か言いたそうだが相談している側だし、別に見せても問題はないと判断したのか取巻はデッキを広げる。

やはりモンスターカードが大部分を占めており、魔法・罠カードは少な目だ。

聖星としては真っ先に目についた【山】を抜くことをお勧めしたい。

 

「どうだ?」

 

「なんていうか……」

 

**

 

取巻のデッキの編集は終わり、聖星は降格を賭けたデュエルを行うフィールドへと足を運んだ。

十代も誘ってデュエルを見ようと思ったのだが、隼人曰く昨日は三沢の部屋の片づけがあったためぐっすり眠っている。

だからもう暫く寝かせてほしいとの事。

 

「あ、クロノス教諭に万丈目」

 

会場に入ると観客は誰もおらず、フィールドには慕谷だけではなくクロノス教諭と万丈目の姿もあった。

取巻の話だと慕谷は天狗になり万丈目まで見下しているという。

その彼が何故ここにいるのだろうか。

 

「シニョ~ル聖星でス~カ。

シニョ~ル三沢の応援に来たノ~ネ?」

 

「え?

大地もデュエルするんですか?」

 

「あぁ。

この万丈目様とな」

 

「正確には万丈目の降格を賭けたデュエルを三沢がするんだ。

勝てば三沢はブルー寮。

つまりその落ちこぼれの代わりに三沢が俺達の仲間入りって事さ」

 

「っ、慕谷……!」

 

ふん、と見下すような笑みに万丈目の顔が歪む。

入学当初は万丈目の威を借りていたのに随分とした変わりようだ。

呆れた顔しかできない聖星は必死に微笑んで誤魔化した。

 

「頑張れよ、取巻。

今のお前とそのデッキなら勝てるさ」

 

「当たり前だろ。

負けたら降格なんだ。

絶対に勝ってやる」

 

横を通り過ぎようとした取巻に声をかけたが、相当気が立っているのかかなりピリピリしている。

負ければさらにブルー寮の生徒からバカにされ、同じイエロー内でも浮いてしまうかもしれない。

そんな未来ばかりを想像しているのだろう。

それなら気が立ってもおかしくはない。

 

「よく臆さず来たな、取巻」

 

「ったく、そっちは随分偉そうになったな慕谷」

 

「偉そう?

お前が落ちぶれただけだろう。

今はイエローとはいえレッドの雑魚なんかに負けるんだ。

ま、安心しろ。

中学のころからつるんでいるよしみだ。

お前のようなクズがこれ以上ブルーの中で恥を晒さないよう引導を渡してやるよ」

 

どこが中学からのよしみだ。

慕谷の言葉に聖星は心の中で突っ込みながら取巻に目をやった。

彼は明らかに怒りに満ちた表情を浮かべており、その拳は強く握られていた。

 

「「デュエル!!」」

 

2人が揃うと審判であるクロノス教諭が手を挙げ、開始を宣言する。

同時に2人は声を張り上げデュエルが始まった。

 

「俺のターンだ!

俺は手札から【アステカの石像】を守備表示に召喚!

そして永続魔法【波動キャノン】を発動!」

 

「【波動キャノン】?

慕谷のやつ、バーンデッキ?」

 

場に現れたのは見るからに固そうな岩石族モンスター。

その守備力は2000とレベル4モンスターとしては申し分ない。

そしてその効果は、相手への反射ダメージを倍にするというもの。

嫌な効果を持つモンスターを誰も好きに攻撃したりしない。

だからあのカードを入れる場合、強制的にバトルを行わせるカードを入れるケースが多い。

しかし聖星はもう1枚の永続魔法の名に首を傾げた。

 

「【波動キャノン】か。

確か自分のメインフェイズ時に墓地に送ることで、それまで経過した自分のスタバイフェイズの数×1000ポイントのダメージを与えるカードだったな」

 

「(あぁ。

決まればダメージ量は多いけど、相手にカードを晒しだしているから真っ先に破壊されやすい。

だからあのカードをデッキに入れるデュエリストなんてあまり見たことない。

慕谷のデッキも面白そうだな。)」

 

あの永続魔法をカードの破壊から守る事が出来るカードなどあまり数はない。

せいぜい相手の魔法カードを封じる【魔法族の里】や罠カードを封じる【王宮のお触れ】、【サイコショッカー】、そして魔法、罠、モンスター効果を封じるカウンター罠系くらいだ。

慕谷はどのようなカードを使って守るのだろう。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。

俺は手札から魔法カード、【超再生能力】を発動!

このターンのエンドフェイズ時、俺が手札から捨てたまたは場と手札から生贄にしたドラゴン族モンスターの数だけデッキからカードをドローする」

 

取巻が発動したのは聖星とデュエルしたときにも使用した速攻魔法。

今の時代では生贄に捧げる、手札のドラゴン族を捨てる方法など限られているためあまりドロー力は期待できない。

 

「俺は魔法カード、【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に捨てる」

 

「早速手札入れ替えカードか。

相変わらず事故が多いな、お前のデッキは」

 

はっ、と鼻で笑った慕谷の言葉に聖星は首を横に振る。

先ほど記述した通り取巻は【超再生能力】を発動しているのだ。

彼らにとって無駄に見えるかもしれないが、ちゃんと理解している聖星と取巻にとっては無駄ではない。

取巻は【仮面竜】、【サファイアドラゴン】を墓地に捨てた。

 

「そして【グレイ・ウイング】を召喚!」

 

「グォオオオ!!」

 

取巻がカード名を宣言するとフィールドに黒色のドラゴンが現れる。

小柄な【グレイ・ウイング】は咆哮を上げると主である取巻を守るよう慕谷を見下ろす。

その攻撃力1300.

その数値に慕谷は不敵な笑みを浮かべた。

 

「なんだ、たった攻撃力1300か.

俺の場には守備力2000の【アステカの石像】がある。

攻撃したところで700、いや【アステカの石像】の効果で1400のダメージを受けるぜ」

 

「なに勝手に騒いでる。

守備力2000なんてすぐに突破出来るさ」

 

「っ!

まさか手札に【山】や【ドラゴンの秘宝】があるのか?」

 

「いいや、こいつさ。

永続魔法【一族の結束】を発動!」

 

【グレイ・ウイング】の後ろに現れた永続魔法。

そこには5体のモンスターが手をつなぎ、士気を高めている姿が描かれている。

 

「このカードは墓地の種族が1つの時、俺の場にいる同じ種族の攻撃力を800ポイント上げるカードだ。

これで【グレイ・ウイング】の攻撃力は1300から2100だ!」

 

「2100!?」

 

「【グレイ・ウイング】の効果発動!!

手札を1枚捨てることで、こいつはこのターン2回攻撃できる!!

俺は【スピリットドラゴン】を捨てる!

バトルだ!

【アステカの石像】を粉砕しろ!」

 

取巻の言葉に【グレイ・ウイング】は高く飛び上がり、【アステカの石像】を踏み潰す。

まさかこうも簡単に【アステカの石像】を突破されるなど考えてもいなかった。

 

「【グレイ・ウイング】!

慕谷にダイレクトアタック!!」

 

「ぐぁあ!」

 

【一族の結束】の効果で攻撃力を800ポイント上げている【グレイ・ウイング】は勢いよく慕谷に突撃する。

自分を貫く攻撃に慕谷は膝をついた。

これで彼のライフは1900となる。

 

「カードを1枚伏せる。

エンドフェイズだ

【超再生能力】の効果によりデッキからカードを3枚ドローする」

 

「くっ……

取巻の分際で……」

 

「ターンエンド」

 

「俺のターン!」

 

先ほどまで見下した笑みを浮かべていた慕谷だが、2ターン目でいきなり2000以上のダメージを与えられたせいかその顔は歪んでいる。

対して取巻は少しだけ肩の力が抜けたのかゆっくりと息を吐いている。

 

「俺は魔法カード、【悪夢の鉄檻】を発動!」

 

取巻の周りに禍々しい円が描かれ、その円から無数の鉄の板が現れる。

鉄の板は取巻達を閉じ込めるかのように檻を形成した。

 

「これで俺達は2ターンの間、互いに攻撃できない!

モンスターをセットしてターンエンド!」

 

「俺のターン!

手札から速攻魔法、【サイクロン】を発動!

【悪夢の鉄檻】を破壊する!」

 

「カウンター罠、【神の宣告】!

俺はライフを半分払い、お前のカードの効果を無効にして破壊する!

これで【悪夢の鉄檻】は破壊できない!」

 

フィールドに突風が吹き荒れ、その風は一か所へと集まる。

小さな風は雷を纏いながら大きく成長し取巻を閉じ込める檻を粉々に吹き飛ばそうとした。

だが目の前に2人の女性を連れた老人が現れ、その老人が手を上げると【サイクロン】は消えてしまう。

その事に取巻は大きく舌打ちした。

いくら慕谷のライフを1900から950までに減らしたとはいえ、攻撃できないのは痛い。

このままでは無駄にターンを費やし【波動キャノン】が多くスタンバイフェイズを迎えてしまう。

 

「【サファイアドラゴン】を召喚。

カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

「グォオオ!!」

 

【グレイ・ウイング】の隣に現れたのはドラゴン族の中でも攻撃力が高い青い竜。

攻撃力も【一族の結束】の力を借りて2700までなった。

しかし【悪夢の鉄檻】があるためその破壊力を発揮できない。

 

「取巻のやつ、苦しそうだな」

 

「ふん。

せっかくお前にデッキの相談をしたんだ。

もっとマシなデュエルをして欲しいものだ」

 

「無茶言うなって。

見てみると慕谷のデッキはバーンデッキ。

下手したらロックも入ってるかな?

それに対して取巻は単純にモンスターで殴って勝つビートダウン。

魔法カードや罠カードで動きを封じ込められたら戦い辛いって」

 

聖星は慕谷のデッキを知らない。

十代と一緒に万丈目達とデュエルしたときも彼はただ1人傍観者だった。

月一テストでも取巻とデュエルをしている間に彼のデュエルは終わった。

この時代はビートダウンが主流でロックやバーンをメインとしたデッキなどあまり見ない。

だから勝手に慕谷もビートダウンだと思い込んでいた。

 

「(もし取巻があいつのデッキはロックバーンだって教えてくれたら別のアドバイスをしたんだけどなぁ)」

 

「俺のターンだ!

俺は【ステルスバード】を反転召喚!」

 

「【ステルスバード】?

ここでセットしてたんだ」

 

慕谷のターンに入ると伏せられていたモンスターが表側表示になる。

そのモンスターは青色の鳥。

反転召喚された【ステルスバード】は大きく青い翼を広げて羽ばたいた。

するとその時生じた風が刃となり取巻を襲う。

 

「うっ!!」

 

刃は見事に取巻に直撃し彼のライフを1000ポイント削る。

これでライフは3000.

 

「【ステルスバード】は反転召喚に成功したとき、相手に1000ポイントのダメージを与える。

そして【波動キャノン】を墓地に送る。

【波動キャノン】は2回のスタンバイフェイズを迎えた。

よってお前に2000ポイントのダメージだ!!

食らえ!」

 

「ぐあっ!!」

 

場に残されていた【波動キャノン】は煙を吹き出しながらエネルギーをため込む。

すると勢いよく2つの波動を放ち取巻のライフを2000ポイント奪った。

 

「【ステルスバード】は1ターンに1度、裏側守備表示にできる。

俺はこれでターンエンド!

次のターン、お前のバトルは封じられている。

攻撃しか能のないお前は終わりだなぁ、取巻」

 

「ふっ、それはどうだろうな」

 

「何?」

 

「よく見ろよ、慕谷」

 

不敵な笑みを浮かべながら言い放った言葉。

慕谷はゆっくりと目だけを動かし、自分たちの場を見渡す。

特におかしいところなどない。

それなのに何故取巻はそんな事を言ったのか。

 

「お前、伏せカードがないだろ?

つまり次のターン、俺が【悪夢の鉄檻】を破壊するカードを発動しても防げないって事だ」

 

「っ!!」

 

取巻の言葉に慕谷はハッとする。

だがもう自分はエンド宣言をしてしまったためカードを伏せることはできない。

悔しそうに唸る慕谷を見て取巻は自分の手札を見た。

 

「(とは言ったものの、まだ条件が揃ってない……

このドローに賭けるしかないか)

俺のターン、ドロー!」

 

勢いよく引いた取巻。

彼は自分がドローしたカードを見て笑った。

 

「俺は【グレイ・ウイング】を除外し手札から【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を攻撃表示で特殊召喚!」

 

「【レッドアイズ】!?」

 

黒色の爬虫類に近いドラゴンは光となって消え、代わりに漆黒の闇が広がる。

その闇が歪みを生じ、その中から1体のドラゴンが現れる。

そのドラゴンは金属に近い漆黒の皮膚を持ち、体中に燃えるように赤いラインが引かれている。

 

「グォオオオオ!!!!」

 

歪みから出てきた【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】は大きく息を吸って気高い咆哮を上げる。

その咆哮はフィールドだけではなく会場全体を包み込む。

【レッドアイズ】の名を持つ巨大なドラゴンの登場に対戦相手の慕谷だけではなく見物している万丈目やクロノス教諭まで言葉を失った。

 

「【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】はドラゴン族の中でも屈指のモンスター。

俺の場のドラゴンを除外する事で特殊召喚出来る。

攻撃力は海馬瀬人が持つ【青眼の白龍】には及ばないが、こいつは墓地と手札に眠るドラゴンを呼び覚ます能力を持つ最強のドラゴンだ!」

 

「手札と墓地の……!?

なんでお前がそんな強力なモンスターを持ってるんだ!?」

 

「あいつは今までそんなカード使ったこと無かった……

どこで手に入れたんだ?」

 

取巻の言葉の意味が理解できた慕谷と万丈目はこの数年を思い返す。

数年間共に過ごしただけはあり取巻が持つモンスターは大体知っている。

しかしこんなモンスター等見たことがない。

もし昔から持っていたのならデッキに入れているはず。

それなのに今まで見た事がないということは、つい最近手に入れたという事。

問題はどこから手に入れたか、だ。

慕谷の叫びに取巻はチラッと聖星を見た。

そして先日の事を思い出す。

 

**

 

「なんていうか…………

遅い?」

 

「は?」

 

自分のデッキを見せたとき聖星はそう言った。

少しだけ首を傾げた聖星の言葉に取巻は自分のデッキを見る。

 

「遅いって、どういう意味だよ?」

 

「いや、そのまんま」

 

「はぁ?」

 

明らかに意味が分からないという表情を浮かべたが、聖星は特に説明もせず取巻のデッキを何度も見た。

モンスターカードが半数あり、残りの半数は魔法と罠が同じ比率で入っている。

別に1ターンに2体もモンスターを召喚できないわけではないが、やはり通常召喚がメインのせいか遅く感じられる。

 

「取巻って例えばさ、相手が【サファイアドラゴン】以上に強いモンスターを出したときどうやって対応しているんだ?」

 

「そんなの【山】や【ドラゴンの秘宝】で攻撃力を上げて倒すに決まってるだろう」

 

「…………」

 

他にも【死者への手向け】等の破壊カードもある。

【シールド・クラッシュ】に【聖なるバリア―ミラーフォース―】。

ドラゴン族のサポートカードとなると【竜の逆鱗】、【超再生能力】、【山】、【スタンピング・クラッシュ】、【ドラゴンの秘宝】ぐらいだ。

 

「(別に回せない事もないけど、【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】があったほうが安定するよな。

魔法・罠カードも【山】と【ドラゴンの秘宝】はいらないし、それを入れるくらいなら【一族の結束】を入れたほうが良い。

レベル4のモンスターで攻撃力が高いのは【サファイアドラゴン】と【スピアドラゴン】くらいか……)」

 

次々と思い浮かぶサポートカード。

それに聖星自身、元の時代でドラゴン族をよく使っていた。

だからどのように動かせばいいのかだいたいは見当がつく。

問題はこの時代にないカードを取巻に譲っても良い事かだ。

聖星が使うことに関してはあまり問題ない。

どうせ使用するのはこの学園内での話だし、幸いにもカード数があまりにも膨大なためこの世には全カードを把握するサイトや書籍が存在しない。

だから使ったところで【魔導書】が異世界のカードだとばれないのだ。

仮にばれそうになってもとっとと未来に帰れば良い。

だが取巻に渡してしまえば、まだ生まれていない、または異世界のカードをこの時代に残す事になってしまい今後何かを引き起こすかもしれない。

 

「(いや、でも父さんの【シューティング・スター・ドラゴン】の事を考えると別に渡しても大丈夫か?

確かあれってデュエル中に手に入れたって父さん言ってたよな。

ジャックさんの【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】だって公式に作られたカードじゃないらしいし。

もしかして問題ない?)」

 

様々なことを考えたが、父と父の友人の事を思い出して杞憂だったのかもしれないと思い始めた。

初めて聞いたころはただの冗談だと思ったが、遊馬とアストラルがカードを創造して普通に使ったのを見て冗談ではなく事実だと気付いた。

その理論からいくと別に平気な気がしてくる。

 

「で、何か良さそうなカードは思い浮かんだか?」

 

「……浮かんだっていえば浮かんだけど。

仮にそのカードを譲るとして、取巻はどのカードで俺のカードをトレードするつもりなんだ?」

 

「不動が出すカードによる。

今のところ俺が出せる最高のカードはこいつだな」

 

懐からデッキケースを取り出した取巻は1枚のカードを見せる。

それを見た瞬間聖星は「あ」と小さく零した。

カードの色はあまり見ない青で、描かれているのは全身黒ずくめの魔法使い。

 

「【マジシャン・オブ・ブラックカオス】……」

 

「どうだ。

魔法使い族使いとしては喉から手が出るほどほしいカードだろ?」

 

「あぁ。

よくこんなレアカード持ってたな」

 

「たまたまだ。

まぁ、儀式カードを持っていないから宝の持ち腐れだけどな」

 

武藤遊戯が使ったといわれる伝説の魔法使い族モンスター。

【星態龍】に頼めば普通に出してもらえるが、こんな形で本物をお目にかかれるとは思わなかった。

普通なら家宝にして大事にするだろうが、それを手放そうとしてまでドラゴン族が欲しいのだろう。

 

「分かった。

じゃあ俺はこのカードを出すよ」

 

相手が【マジシャン・オブ・ブラックカオス】を出すというのなら、聖星は出すものを決めた。

ついでにおまけも渡そう。

 

「俺が出すのは【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】」

 

「【レッドアイズ】!??

かなりのレアカードじゃないか!」

 

「攻撃力は2800で場のドラゴン族を除外するだけで特殊召喚出来る。

つまり1ターン目から出すことが可能って事。

他にも墓地からドラゴン族モンスターを特殊召喚出来る。

たとえ戦闘で【マテリアルドラゴン】を破壊されてもすぐに特殊召喚できるし、手札で召喚できない上級モンスターを瞬時に特殊召喚できる」

 

「なんて出鱈目なカードなんだ…………」

 

最悪手札で腐っている低レベルドラゴン族が一瞬で上級モンスターに変わる。

しかも攻撃力もほとんどのモンスターを蹴散らせる事が出来る数値。

そしてもう1枚は永続魔法のカード。

 

「何だこれ?」

 

「墓地の種族が一種類の時、場に存在する同じ種族のモンスターの攻撃力を800ポイント上げるカードだ」

 

「800!?

なっ、これ1枚で場のモンスター全部800も上がるのか!?」

 

「あぁ。

だから【山】と【ドラゴンの秘宝】を抜いて、代わりに【ナイト・ショット】を入れていれる事もできるし」

 

「【ナイト・ショット】?」

 

「え?」

 

知らないのか?と思わず呟いてしまったが、聖星はすぐに思い出した。

確か【ナイト・ショット】は遊馬の世界で手に入れたカードだ。

自分の時代になかったからこの時代にないのも当然の話。

仕方ないと思いながら聖星は魔法カードを入れているケースを取り出す。

 

**

 

あれから聖星に見せてもらったカードは取巻にとっては宝の山のようなものだ。

自分が見た事も聞いた事もない強力なカードがたくさんあった。

特にドラゴン族の豊富さには驚き、喉から手が出るくらい欲しかった。

どれ程譲ってほしいと言っても聖星は首を横に振るだけ。

絶対に相応しいカードを用意してトレードしようと決めた取巻は宣言する。

 

「【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の効果発動!

墓地から【サファイアドラゴン】を特殊召喚する!

さらに魔法カード、【巨竜の羽ばたき】を発動!」

 

「しまった……!」

 

「場のレベル5以上のドラゴン族モンスターを手札に戻すことで、場の魔法・罠カードを全て破壊する!!」

 

今取巻の場にはレベル10の【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】が存在する。

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】は咆哮を上げて大きく翼を羽ばたかせる。

鋼の翼によって生み出される突風により【悪夢の鉄檻】は粉々に砕け散っていく。

そのまま飛び去った【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】は取巻の手札に戻っていく。

 

「そして蘇生した【サファイアドラゴン】を除外し、【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を再び特殊召喚する!」

 

「グォオオオ!!!」

 

「また現れたか……!」

 

「行くぞ慕谷!!」

 

「っ!!」

 

「【サファイアドラゴン】で裏側守備の【ステルスバード】を攻撃!!」

 

通常召喚で呼ばれた【サファイアドラゴン】は口から炎の息吹を出して【ステルスバード】を焼きつくす。

炎に身を包まれた【ステルスバード】は奇声を発しながら破壊された。

これで慕谷の場にカードはない。

しかもライフは950という数値。

信じられないとでも言うかのように慕谷は言葉を発せなかった。

 

「止めだ!

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】で慕谷にダイレクトアタック!!」

 

「うわぁあああ!!」

 

取巻の言葉に【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】は口を開けてエネルギーの球体を作り出す。

かなりの熱さで空気がじりじりと焼けているのが分かる。

そして放たれたエネルギーは慕谷を包み込んで爆発した。

 

「勝負、あったノ~ネ!

勝者はシニョ~ル取巻!

よって、シニョ~ル取巻の降格は取り消しになるノ~ネ」

 

「……良かった……」

 

「良かったな、取巻。

おめでとう」

 

「……不動」

 

試合終了の言葉に取巻は心底安心したような表情を浮かべた。

聖星が声を掛ければ肩の荷が下りたのか、少しだけ微笑んできた。

レアな表情だなと思いながら聖星は茶化すように言った。

 

「けど、途中はダメだと思ったぜ。

だって相手が君の苦手なロックバーンなんだ」

 

「は?

俺があの程度の状況逆転できない本気で思ったのかよ?」

 

心外だ、とでも言いたげな取巻の言葉に聖星は微笑んだ。

さて、取巻とのデュエルも終わった。

次は万丈目と三沢のデュエルがある。

一体どんなデュエルを見せてくれるかと思うと楽しみで仕方がない。

 

「あ、聖星!?」

 

「あ、十代」

 

「何で聖星がここにいるんだよ?

さっきから何度も呼んだんだぜ!」

 

「え、マジ?」

 

慌ててPDAを見た聖星だが、着信履歴には数件ほど十代の名前が載っていた。

すると遅れて翔に隼人、三沢が姿を現した。

しかし彼らの表情には焦りの色があった。

 

「で、何でお前がここにいるんだよ?」

 

「取巻のデュエルを見てたんだ」

 

「へ?」

 

「前にも言っただろう。

誰かさん達とデュエルしたおかげで立場が悪いって。

それで慕谷と降格を賭けたデュエルをしたんだよ」

 

今終わったと言えば十代は残念そうな表情を浮かべる。

十代も慕谷のデッキは知らないので、彼のデュエルが気になるのだろう。

相変わらずだなと思いながら三沢に目をやる。

 

「大地。

次は君の番だ。

相手は万丈目だけど頑張れよ」

 

「え?

聖星、三沢の相手って万丈目なのかよ!?」

 

「そうだけど?」

 

知らなかったのか?と表情で尋ねると十代は一瞬で表情を変えた。

それはいつも見るような楽観的な顔ではなく、怒りを込めたものだ。

十代はすぐにクロノス教諭の傍にいる万丈目を睨みつけた。

 

「万丈目!

まさか三沢のカードを捨てたのはお前か!?」

 

「なっ!?」

 

「何ですトーネ!?」

 

「どういう事だよ、十代?」

 

「三沢のカードが海に捨ててあったんだよ。

あまりにもタイミングが良すぎるだろ!」

 

今回のデュエルでは三沢が勝てばブルー寮への昇格が決まり、プライドの高い万丈目にとっては格下の寮へ降格する事を意味する。

両者にとって重要なタイミングでの一方のデッキの紛失。

十代の言うとおりあまりにもタイミングが良すぎる。

取巻は自然と表情が険しくなり、聖星も信じられないという表情で万丈目を見る。

しかし当の本人は下らないと言うように吐き捨てる。

 

「何の言いがかりだ?

どうして俺が……」

 

「本当に言いがかりかしら?」

 

万丈目が言葉を発しようとすると、入り口から明日香が入ってくる。

彼女の隣にはカイザーも一緒にいる。

 

「明日香、カイザー」

 

「私、見てしまったの……」

 

どうして君が?と視線で問えば明日香は戸惑うように言葉を放つ。

それは昨日の夜、万丈目が海にカードを捨てたというものだ。

彼女の言葉に皆の視線はさらに厳しくなるが万丈目は「自分のカードを捨てた」と言い放つ。

よくこんな状況でそんな言葉が出てくるものだと聖星は怒りを通り越して呆れてしまった。

 

「ふん。

俺を泥棒呼ばわりした責任は取ってもらうぞ」

 

万丈目は三沢に目をやると、次にクロノス教諭に目をやってあり得ない事を持ち出してきた。

 

「いかがでしょう?

このデュエルで負けた方が退学になると言うのは」

 

「なっ!?

無茶苦茶だ!」

 

「っていうか、大地は万丈目が泥棒とは一言もいってないだろう?

普通責任を取るのは十代のはずだぜ」

 

「煩いぞ、聖星!

貴様は黙ってろ!」

 

「いや、そのデュエル受けます」

 

「なっ!?」

 

「大地……!」

 

背後から聞こえた三沢の言葉に十代と聖星は思わず振り返る。

彼はデッキを捨てられたというのに特に焦った様子もなかった。

 

「デッキならあります。

その条件受けましょう」

 

「何を言ってるんだ、お前……?」

 

「大丈夫だ。

捨てられたデッキは調整用のデッキだからな」

 

「え?」

 

「見ろ!

俺の魂を込めた命のデッキを!」

 

不敵な笑みを浮かべた三沢は勢いよく上着を脱ぐ。

するとそこには6つのデッキケースがあった。

そのデッキはそれぞれデュエルモンスターズの属性をイメージしたデッキだという。

まさかのデッキに万丈目は気に入らなさそうに顔を歪めて自分のデッキ突き出した。

 

「そんなこけおどし、この俺の恨みの炎で焼き消してやる!」

 

「これがこけおどしかすぐにわかるぜ、万丈目!」

 

「「デュエル!!」」

 

**

 

聖星達がデュエルを見守る中、ついにデュエルの決着がついた。

万丈目は攻撃力2800の【炎獄魔人ヘル・バーナー】で三沢を追いつめたが、万丈目の言動で炎属性のアンチデッキである水デッキを使用した三沢に軍配が上がった。

これにより万丈目はデュエルアカデミアから退学になる。

 

「ではシニョ~ル三沢。

貴方ニ~ハ、オベリスク・ブルーへの昇格を認めるノ~ネ」

 

「申し訳ありませんが、そのお話はお断りさせていただきます」

 

「なっ、何でス~ト!?」

 

このデュエルは三沢の昇格を賭けたデュエル。

彼が勝てば三沢はエリートクラスであるブルーへの仲間入り。

それに彼の性格なら十代のように好きな色だという理由で残るとは思えない。

 

「ブルー寮に行く時はこの学園で1番になってからと入学式の時に決めました」

 

クロノス教諭にそう言った三沢は十代と聖星を見た。

 

「クロノス教諭を倒した十代と、カイザーを倒した聖星。

君達2人を倒すのが先だ!」

 

ビシッ、と2人を指差した三沢は堂々と宣言した。

彼の言葉に十代と聖星は不敵に笑う。

 

「おう!

俺もお前といつかデュエルしたいと思っていたんだ!

今すぐやろーぜ、三沢!」

 

「俺も、筆記試験1番の君とデュエルしたかったんだ。

十代の後で頼めるか?」

 

「いや、今は無理だ。

このデッキはあくまで調整用。

君達と戦うデッキは俺の部屋の壁が数式で埋め尽くされた時だ!」

 

6つのデッキは全て調整用。

その言葉に万丈目はさらに悔しそうに顔を歪め、聖星達は嬉しそうに口元に弧を描く。

万丈目で三沢が見せてくれたプレイングは実に素晴らしいもの。

それを超える戦術を編み出すデッキで聖星達に挑んでくる。

その日が楽しみで仕方がない。

 

「じゃあ、俺もそのデッキに応えるよう最高のデッキを作るか……」

 

三沢に相応しい【魔導書】デッキ。

一体何が良いかな、と思いながら早速デッキ構築を考える。

 

「あ。

そうだ、十代」

 

「何だよ?」

 

「ほら」

 

聖星はデッキケースを取出し、中から3枚のカードを十代に見せる。

そのカードに十代は目を見開いた。

 

「【エアーマン】に【Great TORNADO】、それに【Zero】じゃねぇか。

どうしたんだよ急に」

 

「その3枚ならトレードしても良いかな、って思ってさ」

 

「えぇ、この3枚を!?」

 

「あぁ。

ただし、あとで君のカードを何枚か貰うからな」

 

「オッケー、オッケー!

メイン以外だったら何だって良いぜ!」

 

十代は3枚のカードを聖星から受け取り、嬉しそうに笑う。

よほど嬉しいのか何度もありがとうと言ってくる友人に聖星は微笑んだ。

すると取巻が勢いよく聖星の腕を引いてきた。

 

「いてっ、どうしたんだよ取巻」

 

「どうしたんだ、じゃないだろ不動!

今の三沢の言葉は本当なのか!?」

 

「え、何が?」

 

自分に迫ってくる取巻に対し聖星は不思議そうに首を傾げる。

聖星の言葉に取巻は頭を抱えそうになった。

周りを見ればクロノス教諭だけではなく明日香まで目を見開いてカイザーと聖星を交互に見ている。

そんな彼らの心を代弁するよう取巻は叫んだ。

 

「お前がカイザーに勝った、って事だよ!」

 

「あぁ、勝ったぜ。

流石アカデミアの帝王だよな。

1ターン目から【大嵐】を使われて【魔導書】全部破壊されてさ。

しかも、俺の戦術が悉く裏目に出ちゃうんだぜ。

【一時休戦】を使用すれば【パワー・ボンド】のデメリット効果を無かったことにされるし、【ゲーテの魔導書】で除外したら【異次元からの帰還】とかで帰ってくるし」

 

「……あり得ない」

 

自分の叫びに聖星はたいした事のないように返す。

そのまま聖星はあの時のデュエルを思い出しながら微笑んだ。

取巻はいつものように微笑む彼の言葉に何も言えなくなる。

 

「亮、今の話……

本当なの?」

 

「あぁ。

彼の全力のデッキは実に面白い。

次にデュエルする時は必ず勝ちたいものだ」

 

【魔導書】を操る聖星に驚異の逆転劇を披露してくれる十代。

今年は本当に面白い1年が入学してきた。

整った顔に似合った綺麗な笑みを浮かべながらカイザーは聖星を見る。

その目に宿る闘志に明日香は本当の事なのだと再認識した。

 

「あ、そうだ!

せっかくだからよ、カイザー!

ここで俺とデュエルしてくれ!」

 

「何を言っているのデス~カ、ドロップアウトボ~イ。

シニョ~ル丸藤と戦いたけれ~ば、予約しなければならないノ~ネ!」

 

「え、それ本当かよ!?」

 

「十代、残念だけど本当だぜ。

俺が予約した時は2か月待ちだったかな」

 

「えぇ~…………」

 

学園一の男と呼ばれるカイザーとのデュエルに2か月も要するなど、十代は上手く言葉が出なかった。

肩を落とす友人に聖星は苦笑を零した。

するとカイザーが十代に歩み寄ってくる。

 

「俺は構わない。

どうする、遊城十代?」

 

「え!?

そんなの決まってるだろ!

楽しいデュエルをしようぜ、カイザー!!」

 

十代の顔は輝きだし、すぐに不敵な笑みになった。

そんな後輩にカイザーも笑いデュエルディスクを構える。

聖星からもらったカードを全てデッキに入れ、フィールドに上がる。

 

「「デュエル!!」」

 

END

 




十代とカイザーのデュエル?
そんなの書いていたら私の心のLPが0になります。
それに早くセブンスターズ編に行きたいので。
セブンスターズ編ではオリ主が洗脳されて敵側になるパターンを見た事がありますが、それも面白そうだなぁと思ってます。
けどそうしたたらそれまで誰がメインになるのか…


カードを譲る件についてですが、実際そこまで問題はないと思います。
流石にシンクロモンスターやエクシーズモンスターなら問題になると思いますが、【シューティング・スター・ドラゴン】や【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】の事を考えると「いや、これ行けるんじゃね?」という結果になりました。
【レダメ】と【マジシャン・オブ・ブラックカオス】が釣り合わない?
まぁ、聖星も遊戯王の住人って事で許してください。


聖星の持っているカードは基本的に【星態龍】が出してくれますが、中にはZEXALの世界で買ったカードもあります。
次は【サイコショッカー】か…
え、SALは飛ばす気満々ですが何か?

追記
また再びアンケートを取りたいと思います。
今後、とある理由で伝説のデュエリストとのデュエルを書こうと思っています。
その人物ですが。
①武藤遊戯。
②海馬瀬人
③城之内克也
④孔雀舞
の中から1人です。
この人が良い!というのがあれば、活動報告にアンケートを設置しますのでそちらに投票してください。
コメント欄に投票されたものは無効とさせていただきます。
では、皆様の貴重な意見をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話 生きたまま贄から逃れる決闘

「あり得ない……」

 

「あぁ。

だが実に見ごたえのあるデュエルだ」

 

ぽつり、と呟かれた言葉に三沢は返す。

まさか返答があると思わなかった取巻は少しだけ三沢を見たが、すぐに視線を戻した。

 

「【サイバー・エンド】で【魔導法士ジュノン】に攻撃!

エターナル・エヴォリューション・バースト!!」

 

「させません。

速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動。

墓地の【ヒュグロ】と【ゲーテ】を除外し、貴方の場のモンスターの表示形式を変更させてもらいます」

 

今、カイザーの場にはモンスターが1体。

つまり表示形式を変更されるのは【サイバー・エンド】という事になる。

3冊の本が現れ、それぞれ魔導士達が呪文を唱える。

 

「ならば速攻魔法、【融合解除】を発動!

【サイバー・エンド】の融合を解除する!」

 

「なら【融合解除】で特殊召喚された【サイバー・ドラゴン】1体を裏側守備表示にします。

これで【ジュノン】を戦闘破壊できません」

 

「甘いぞ、手札からさらに【瞬間融合】を発動!

2体の【サイバー・ドラゴン】を融合し【サイバー・ツイン・ドラゴン】を融合召喚する!」

 

「キュォオオオ!!!」

 

分裂したはずの【サイバー・ドラゴン】はまた1体のモンスターへと融合する。

再び現れたカイザーのモンスターに取巻と三沢はうまく声を出せなかった。

このデュエルでカイザーは【サイバー・エンド】、【サイバー・ツイン】を合わせて5回も出している。

これで6回目だ。

 

「【サイバー・ツイン】、エヴォリューション・ツイン・バースト!!」

 

「くっ、【ジュノン】!」

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ。

【瞬間融合】で特殊召喚された【サイバー・ツイン】はエンドフェイズ時破壊される」

 

「ですが、この瞬間【魔導書の神判】の効果が発動します。

このターン発動された魔法カードは【融合】、【ゲーテの魔導書】、【融合解除】、【瞬間融合】の4枚。

よって俺は【グリモ】、【セフェル】、【ヒュグロ】、【アルマの魔導書】4枚を加えます。

そしてデッキから【魔導教士システィ】を特殊召喚。

【システィ】を除外し、デッキから【魔導書の神判】、【魔導法士ジュノン】を手札に加えます」

 

「一気に6枚も補充した!??」

 

「これで聖星の手札は9枚か」

 

そう、目の前で繰り広げられているのは学園の帝王と呼ばれる丸藤亮と期待の1年生である不動聖星のデュエルだ。

2人は互いに実力が拮抗しているため、暇があればよくデュエルしている。

その観客には聖星とよく一緒にいる十代達、そして同じ寮の三沢、カイザーとよく一緒にいる明日香。

最後に最近一緒にいるようになった取巻がいる。

 

「不動のやつ、カイザーに勝ったって話は本当だったんだな……

何なんだよあのデッキ。

手札が全然減らないじゃないか」

 

「あぁ。

今まで使っていたデッキは調整用のデッキだったんだろう。

俺もあのデッキに対抗できるようなデッキを作らないといけないな」

 

ちなみにこの場にいるのは取巻、三沢、カイザー、聖星の4人。

十代達は何故か連絡がつかず、彼らにこのデュエルを教える前にデュエルが始まってしまった。

 

「手札の【トーラ】、【ネクロ】、【アルマの魔導書】を見せて手札から【魔導法士ジュノン】を特殊召喚します」

 

「はっ!」

 

「【ジュノン】の効果発動。

墓地に存在する【魔導書院ラメイソン】を除外し、先輩の伏せカードを破壊します」

 

「墓地か手札の除外で1枚破壊か。

【ジュノン】も厄介だ」

 

「あれが不動の本当のエースなのか……」

 

激しく繰り返される攻防。

観客である自分達さえついていくのがやっとな世界に、どこかテレビを見ているような気分になった。

目の前で起こっているのに、どんなデュエルよりも遠い。

取巻はどうしてあそこまで実力がある聖星がレッド寮に所属していたのか理解できなかった。

 

「入学当初じゃ考えられなかったな……

こんな光景」

 

高等部に上がるまでカイザーの後を継ぐのは万丈目だと思っていた。

しかし彼はレッドに負け、さらにカードを捨てるという暴挙まで起こしてしまった。

それに対し聖星は学園最強のカイザーに勝ち、学園屈指の実力者になっている。

 

「それは俺も同じさ。

目の前の光景もそうだが、君が俺達と一緒に行動を共にする事になるなんてな。

俺としてはそっちが驚きだよ」

 

「……うるさい」

 

隣にいる友人からの言葉に取巻はつい顔をそらした。

確かに三沢の言う通りだ。

以前の取巻だったら格下である聖星や三沢達と一緒にはいかなっただろう。

それなのに今はこうやって彼らと普通に言葉を交わし、彼らのデュエルを間近で見ている。

どうしてこうなったのだろうと思いながら取巻は零した。

 

「あいつらがガキに見えてきたんだよ」

 

「ガキ?」

 

「俺はただデュエルをしにこの学園に入学したのに、いつの間にかブルーに染まって……

あいつらと一緒に誰かを罵倒しているのが当然だった。

デュエルはしているけど、入学したときしたかったデュエルじゃない。

けどどっかの暴力野郎に「何のためにアカデミアに入ったんだ?」って聞かれて、昔を思い出したら俺、こんなところで何やってるんだ?って思ってさ……」

 

昔は純粋に勝つのが好きだった。

勝つだけではなく、勝つ過程のデュエルも好きだった。

それなのに万丈目達と出会い、周り、特に先輩達の背中を見ているうちにそんな事すっかり忘れてしまって。

勝つだけじゃない、勝って罵倒するのが当然の世界になってしまった。

 

「だから、今でも格下を罵倒するあいつらを見ていると「あぁ、ガキだなぁ」って思って。

しかもそんな連中とついこの間までつるんでたんだぜ。

なんか自分が情けなくなる……」

 

楽しむことを忘れ、罵ることに快楽を覚えた同級生達。

そんな彼らと一緒だったという事実に人間として恥ずかしくなった。

だから昔の自分のように楽しくデュエルをしている聖星達と一緒にいるほうが少しは気が楽なのだ。

 

「ま、陰では色々言われているけどな」

 

「仕方がない。

彼らには彼らなりの結束力がある。

君はそれから外れたんだ」

 

「エターナル・エヴォリューション・バースト!!」

 

「うわぁっ!!」

 

「ん?」

 

「終わったようだな」

 

カイザーの張りあがった声と聖星の悲鳴。

同時に聖星の場の【ジュノン】が爆発し、爆風と煙、その時飛び散った破片が聖星を襲う。

ライフポイントが0になりカイザーの勝利が決まった。

 

「今回は俺の勝ちだな、聖星」

 

「はい。

今回も負けてしまいましたが、次こそは絶対に勝ちます」

 

「それは俺も同じだ。

今回も勝ったとはいえ、まだ俺の方は黒星が多いからな」

 

「カイザー相手に白星が多いだと……?」

 

「…………あり得ない」

 

**

 

「そーいやよ、聖星は冬休みどうするんだ?」

 

「冬休み?」

 

デュエルアカデミアは秋に入学式を行う学園。

そのため最初に来る休みは夏ではなく冬である。

十代からの問いかけに聖星は顔を上げ、目の前でエビフライを食べている十代を見る。

聖星は上手く調整が出来ないデッキのカードを机に置き、考え込むかのように黙る。

 

「俺は本土に戻ろうかな」

 

「父ちゃんと母ちゃんに会いに行くのか?」

 

「まぁ、そんなもの」

 

両親は共に未来に存在するため、別に本土に戻る必要はない。

だがほとんど人のいないこの島に残っても面白くないため、本土に戻るつもりだ。

 

「(本土に戻ったら何をしようかなぁ。

なんか面白い機械の展示会とかあったかな?)」

 

まずは家の掃除。

続いてはカードショップ巡り。

しかしせっかくの冬休みなので遊びまわりたいのも本音である。

 

「聖星」

 

「ん、どうしたんだよ【星態龍】?」

 

いきなり現れた友人に聖星はそちらに目をやる。

【星態龍】の姿を認識できる十代も不思議そうな表情を浮かべながら彼を見た。

2人の子供からの視線に気づきながらも【星態龍】は食堂の外を睨みつけている。

外は微かに風が吹き、木々が揺れる音が聞こえてくる程度だ。

 

「どうやらこんな時に面倒なことを引き起こした生徒がいるらしい」

 

「はぁ?」

 

面倒とは一体どういう事だ。

そう表情で尋ねたが【星態龍】は答えになるような、ならないような微妙な事を口にする。

 

「精霊の気配を感じる。

まぁ、あまり力はないが……

人間にとっては脅威になる存在だろう」

 

「それって悪い精霊って事か?」

 

「聖星にとっては悪い部類に入るだろうな」

 

「分かった」

 

聖星は食べかけのお椀を下げ、その場から立ち上がる。

悪い精霊というのがどういう意味かはよく理解できないが、放っておくと面倒な事になるのは経験上分かった。

でなければ【星態龍】が反応するわけがない。

十代にはレッド寮に残ってもらおうと見下ろすが、十代も同じように立ち上がった。

 

「俺も行くぜ、聖星!」

 

「行くって……

気持ちは分かるけど、十代はここで待っていてくれ。

ちょっと見に行くだけだから」

 

いくら十代が闇のデュエルの経験者といえども彼が直面した不可思議な現象は1度のみ。

それに対し聖星は何度もそのような非日常な出来事を体験した。

なにより友人を目の前で失った事がある聖星はそんな所に十代を連れていく事など出来なかった。

 

「友達が危ないところに行こうとしているのに、黙って送り出すなんて出来るわけないだろ!」

 

「十代、【星態龍】が言っていただろ?

人間にとっては脅威だって。

俺は【星態龍】の加護があるから大丈夫だけど……」

 

「大丈夫だって、俺には相棒に【E・HERO】達もいるからな。

な、相棒?」

 

「クリクリ~」

 

デッキケースから現れた【ハネクリボー】は「任せて!」とでもいうかのようにウインクをする。

確かに【ハネクリボー】も精霊で闇を追い払う光を持つが明らかに【星態龍】より力は弱い。

 

「っ、でも……!」

 

「聖星。

大丈夫、俺達を信じてくれ!」

 

十代には危険すぎる。

そう口にしようと思ったが、十代の目が遊馬に似ていてつい言葉が詰まる。

聖星は上手く言葉が出てこなくて、何を言えば良いのか迷ったが【星態龍】が言い放つ。

 

「残念だが聖星。

お前の気遣いは無駄になるようだ」

 

「え?」

 

「向こうから来たぞ」

 

瞬間、レッド寮の食堂の扉が勢いよく吹き飛ぶ。

それとともにガラスが割れる音が室内に響き、宙を舞った扉が奥まで追いやられる。

咄嗟に屈んだ2人は恐る恐る顔を上げ、扉へと目をやった。

 

「だ、誰だ……?」

 

衝撃によって部屋の明かりはゆらゆらと揺れ、上手く侵入者を照らしてくれない。

だがそこにいるのは明らかに自分達より、いや、人間より大きな高さを持っているのは分かった。

警戒する様な聖星の言葉にそれはニヤリと笑う。

 

「一体何事なんだにゃ!?」

 

「っ!」

 

「来るな、大徳寺先生!!」

 

この衝撃の音はどうやら大徳寺先生の部屋にまで聞こえていたようで、温厚な彼が慌ててやってきた。

聞こえてきた大徳寺先生の声に十代は声を張り上げる。

しかし大徳寺先生は食堂に入り、生徒ではない何かに気が付く。

 

「いっ、一体これは……」

 

「ふん、また邪魔者が増えたか……」

 

「君は……?

なっ、向田君!?」

 

やっと揺れも収まり、明かりが均等に室内を照らし始めた。

大徳寺先生は眼鏡越しに見える侵入者に驚いたが、それ以上に彼がブルーの生徒を抱えている事に目を見開く。

 

「一体どこの誰だか知りませんが、彼をどうするつもりだにゃ!」

 

それはゆっくりと帽子、コート、顔に巻きつけている包帯を取り自分の姿をさらす。

黒ずくめの服装から露わになった姿に聖星達は自分の目を疑った。

胴と顔を支えるための長い首に顔に取り付けられた機械。

全身を覆う機械は緑色を基準としており、あまりにも人間からかけ離れていた。

 

「私の名は【人造人間‐サイコショッカー】。

この者は私をこの世に呼び出し、自ら生贄に志願した者。

その男をどうしようなど私の勝手だ」

 

「呼び出した?」

 

【サイコショッカー】から発せられる雰囲気。

それは肌を突き刺すように鋭く、呼吸する空気がとても重苦しく感じられるほど危険なものだ。

本能が逃げろと命じているが気になる言葉を聖星は繰り返す。

それから彼は詳しく語ってくれた。

 

「昨日、この者は仲間3人と共に精霊界にいる私に交信してきた。

その時私はこの世に召喚する為3体の生贄を欲した。

そして3人は私の要求に「はい」と返してきたのだ」

 

「え?

自分が生け贄にされるかもしれないのに「はい」って返したのかよ?

バカじゃないか?」

 

「俄かな知識を得た人間だったのだろう。

だから『生贄』の意味をちゃんと理解せずに「はい」と返した。

つくづく人間の行動は理解できん」

 

「怖いもの見たさって奴もあったんだろうな」

 

【星態龍】の言葉に十代は緊張気味の声で返す。

目の前にデュエルモンスターズの精霊が現れ、彼が生贄として人間を浚う。

だが何故【サイコショッカー】がここに来たのか。

それが理解できない。

 

「私はあと2体を生贄にすれば復活する。

本来なら私を呼び出した2人を生贄にするつもりだったが……

実に良い生贄がいたものだ」

 

「え?」

 

「まさか……」

 

嬉しそうに僅かに弾んだ声で言われた言葉に聖星と十代は嫌な予感がした。

【サイコショッカー】の舐めるような、特に十代に向けられる視線がそれを肯定している。

 

「君達、特に赤色の方が持つ波導、パワー……

全てにおいてこの島の誰よりも群を抜いている。

君達2人こそ私の生贄に相応しい!!」

 

「それなら俺とデュエルしろ、【サイコショッカー】!」

 

「十代!?」

 

「十代君!?

何を言ってるんだにゃ!?」

 

どうするか、と聖星が思案すると十代が先に前へでる。

しかもあまりにも無謀な事を言い始めた。

当然聖星や大徳寺先生は目を見開き、信じられないという表情で彼を凝視する。

十代はまっすぐ【サイコショッカー】を見ており、向田に目をやって言葉を続ける。

 

「お前が勝てば俺は生贄になる。

けど、俺が勝てばそいつは返してもらうし他の2人にも手を出すな!」

 

「良いでしょう。

ただし、君とのデュエルで賭ける生贄は君だけじゃない。

そこにいる子供もだ!」

 

随分と聞き分けのいい【サイコショッカー】だ。

彼から見れば十代が自ら望んで生贄になると言っているようなもの。

それでもちゃんと聖星も生贄に含んでいるのは流石というべきか。

 

「聖星、俺に命預けることは出来るか?」

 

「…………そういう十代は、もし俺と逆の立場なら預けられる?」

 

「あぁ」

 

十代は聖星の実力を知っている。

きっと彼の事だからこんなデュエルでは全力で立ち向かい、瞬殺するだろう。

けど十代にとって聖星は大事な友達、いや、自分にとっては親友と呼べるような存在だ。

そんな彼に危ない目に遭ってほしくない。

だから自信満々に聖星に尋ね、聖星の問いかけに答えた。

 

「そっか…………

それが聞けて良かった」

 

目を向ければ微笑んでいる聖星。

十代もつられて笑みを浮かべたが、その瞬間、腹に激痛が走る。

 

「がっ…………!?」

 

「あ、聖星君!!」

 

激痛とともに十代は視界が暗くなり、大徳寺先生の悲鳴にも近い声が微かに聞こえた。

意識を落としてしまった十代はそのまま地に崩れ落ち、聖星は微笑みながら大徳寺先生に言う。

 

「大丈夫です、気絶させただけですから」

 

聖星の一撃で気を失った十代。

彼の傍にはデッキから現れた【ハネクリボー】が心配そうに十代を見ている。

【星態龍】はやれやれとでも言うようにため息をついている。

周りの反応を見ながら聖星は【サイコショッカー】に振り返った。

 

「さ、遊ぼうぜ【サイコショッカー】。

賭けの内容はさっき十代が言った通りで構わない」

 

「ふん。

どちらが来ようが構わない。

生け贄よ、お前達はもう私から逃れられない!!」

 

「「デュエル!!」」

 

食堂内に響いた2人の声。

デュエルディスクを構える聖星に対し、【サイコショッカー】の場には5枚のカードが浮かび上がる。

目の前で始まってしまった非現実的なデュエルに大徳寺先生は顔を歪めながら呟く。

 

「これは精霊との命を懸けた……

いわば闇のデュエル。

気をつけろよ、聖星君」

 

「先攻は私だ!」

 

【サイコショッカー】に先攻を取られた聖星は仕方ないというように自分の手札を見る。

瞬間、手札に存在するカードに目を見開いた。

カードからデッキの内容を把握した途端、体中から冷や汗が流れ出す。

 

「(やばい、このデッキまだ調整中のやつ!)」

 

「私のターン、ドロー!」

 

手を前に出した【サイコショッカー】。

すると小さなプラズマが走り、1枚のカードが現れる。

 

「私は手札から【召喚僧サモンプリースト】を守備表示で召喚する。

そして手札から魔法カードを1枚墓地に送り、【サモンプリースト】の効果発動」

 

【サイコショッカー】が召喚したのはレベル4の魔法使い族モンスター。

当然聖星もそのモンスターは知っており、効果もちゃんと理解している。

未来では手札から魔法カードを捨て、デッキから【フレムベル・マジカル】等のチューナーを特殊召喚しシンクロ召喚に繋げている。

酷い時代では【レスキューキャット】を特殊召喚し、【氷結界の龍ブリューナク】や【ゴヨウ・ガーディアン】を呼んだという記録がある。

しかしこの時代ではデメリット効果のせいで使い手が少なかったはずだ。

一体【サイコショッカー】は何の目的で使っているのか。

 

「私はデッキから【終末の騎士】を特殊召喚する。

そして特殊召喚された【終末の騎士】の効果発動。

デッキから1体、闇属性モンスターを墓地に送る。

当然私が墓地に送るのは……」

 

デッキを広げる【サイコショッカー】。

彼は1枚のカードを取り出し、聖星に見せた。

 

「私自身だ!」

 

【終末の騎士】の目の前に1枚のカードが現れ、それは粒子となって消えていく。

墓地に彼のカードが送られたという事は…………

 

「さらに永続魔法、【エクトプラズマー】を発動。

私達は各エンドフェイズ時にモンスターを生贄に捧げ、相手にその攻撃力の半分のダメージを与えなければならない。

私は【終末の騎士】を生贄に捧げ、【終末の騎士】の攻撃力の半分、700ポイントのダメージを君に与える」

 

「ぐぁっ!!」

 

「聖星君!」

 

【終末の騎士】の体から魂のようなものが出てきて、それが勢いよく聖星に攻撃する。

腹部に攻撃を受けた聖星はその場に膝をついた。

聖星は強く唇を噛みしめ、何かを堪えるように腹部をおさえる。

 

「(たった700のダメージなのに……

この痛み……

間違いない、本物だ!)」

 

普通のソリッドビジョンではありえない激痛。

だが聖星はこの痛みを知っている。

遊馬達の世界でバリアンと戦った時に味わった痛みと同じだ。

もう2度と味わう事はないと思っていたがまさかこんな形で再び体験するとは夢にも思わなかった。

同時に十代にデュエルをさせなくて良かったと思った。

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー」

 

1ターン目からライフを削られた聖星は冷静を保ちながらカードをドローする。

自分の手札を見た聖星は心の中で呟いた。

 

「(やばい、事故ってる……)」

 

手札にあるのは緑か紫色のカードばかり。

モンスターカードが1枚もないわけではないが、壁になるモンスターどころか【エクトプラズマー】で生贄に捧げるモンスターがいないのだ。

流石は調整中のデッキというべきか。

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「モンスターを召喚せず、か……

ならば私はエンドフェイズ時、罠発動!

【リビングデッドの呼び声】!」

 

「なっ!」

 

「もうすでに奴の手札にあったのか!」

 

墓地からモンスターを1体特殊召喚する永続罠。

今【サイコショッカー】の墓地には2体のモンスターが存在する。

だがこの状況で彼が特殊召喚するモンスターなど容易に想像がつく。

 

「私は私自身を召喚する!」

 

高らかな声と共に粒子となって消えた【サイコショッカー】。

しかしすぐにカード達の前に現れ、場に特殊召喚された。

 

「これで聖星君は罠カードを発動する事が出来なくなった。

……しかもモンスターが場にいない。

これ以上モンスターを出されたら彼の負けだ」

 

「さらに【冥界の使者】を攻撃表示に召喚」

 

「はぁ!」

 

「しまった!

奴の手札にはモンスターが!!」

 

「行くぞ!

まずは私自身でダイレクトアタック!

電脳エナジーショック!!」

 

「手札から【速攻のかかし】の効果を発動」

 

ビチバチと音を発しながら生み出されたエネルギーの塊は勢いよく聖星に向かっていく。

攻撃力2400のダイレクトアタックなどたまったものではない。

すると聖星の目の前に屑鉄で組み上げられた1体のかかしが現れる。

 

「頼む!」

 

かかしは聖星を守るように立ちはだかり、【サイコショッカー】の攻撃で粉々に砕け散った。

 

「何だ!?」

 

「お前の攻撃を無効にし、このターンのバトルフェイズを終了させてもらった」

 

「手札からの発動だけではなく、攻撃の無効とバトルフェイズの強制終了だと!?

くっ、ならば私はメインフェイズ2で【冥界の使者】を生贄に捧げ【エクトプラズマー】の効果を発動する!

【冥界の使者】の攻撃力は1600!

よって800ポイントのダメージを君は受ける!」

 

「ぐぁ!!」

 

再び受けた【エクトプラズマー】の威力は凄まじく、聖星は痛みにより再び膝をついた。

先ほど以上の激痛が体を走り、唇を噛みしめながら聖星は無理に足を動かす。

激痛を覚える場所が熱を持ち、力強く脈を打っている。

それでも倒れるわけにはいかず聖星はしっかりと【サイコショッカー】を見た。

 

「くっ、そ…………」

 

「ふっ、まだ立ち上がれるか……

ではこの瞬間、墓地に送られた【冥界の使者】の効果を発動する。

互いにデッキからレベル3以下の通常モンスターを手札に加える」

 

「……え?

通常モンスターを?」

 

「そうだ。

私は【千眼の邪教神】を手札に加える」

 

「それなら俺は【魔天老】を加える」

 

【サイコショッカー】が加えたのはペガサスが使用したといわれている通常モンスター。

対して聖星が加えたモンスターに大徳寺先生は怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「(【魔天老】は悪魔族。

彼が使う【魔導書】デッキにシナジーがあるとは思えない。

それなら今回は魔法使い族と悪魔族混合か?

いや、待て……

確か…………)」

 

「私はカードを1枚伏せ、これでターンエンドだ」

 

【サイコショッカー】の足元に1枚のカードが浮かぶ。

これで聖星のターンに移った。

聖星のライフは残り2500だが【サイコショッカー】は4000のまま。

 

「俺のターン」

 

ゆっくりとカードを引く聖星。

手札に来たのはまたしても緑色のカード。

残っているモンスターカードは先ほど効果で加わった【魔天老】のみ。

 

「大丈夫か、聖星?」

 

突然隣に現れた【星態龍】。

彼は心配そうに聖星の顔を覗き込んでいる。

友人の言葉に聖星は悔しそうだが首を左右に振った。

 

「(……正直に言うと手札が悪すぎる。

モンスターが【魔天老】だけなんだぜ)」

 

「どうしてこんな大事な場面でそんなお遊びデッキを使ったんだ」

 

「(……これしかデッキ持ってきてなかったんだよ)」

 

「それなら初めから十代に任せれば良かっただろう」

 

「(駄目だ。

十代にこんな危険なデュエルをさせられる訳がないだろ)」

 

しかし手札は明らかに悪い。

次のターンで負ける事はないが、反撃に出る事が出来る手札ではない。

やはりもう少し汎用性のあるモンスターを入れるべきだったか。

 

「俺は手札から【一時休戦】を発動。

互いにデッキからカードを1枚ドローし、次の相手ターンのエンドフェイズまで互いに受ける全てのダメージは0になる」

 

「ふむ……

私のターンでの敗北を防いだか」

 

これで次のターンは確実にくる。

聖星は逆転のチャンスを掴むためのカードが来ることを願った。

 

「……俺はこれでターンエンド」

 

「伏せカードもなし、か。

つまり良いカードが引けなかったのだな。

この調子では君がその少年と一緒に私の生贄になるのも時間の問題だ」

 

「誰がお前なんかの生贄になるかよ」

 

「ふふっ、いつまでその威勢も持つか楽しみだ。

私のターン!

私はカードを1枚伏せ、【千眼の邪教神】を召喚。

【エクトプラズマー】の効果で【千眼の邪教神】を生贄に捧げる。

【邪教神】の攻撃力は0だが元々このターン私は君にダメージを与えることは出来ない。ターン、エンドだ」

 

今までのデュエルの中で1番低い声でのエンド宣言。

自分の召喚が実現しようとしている事への喜びを抑えるため声を低くしているのだろう。

容易に想像できたが同時に聖星は体から嫌な汗が流れてきた。

 

「(手札のモンスターは【魔天老】のみ。

【一時休戦】で引いたカードは別に悪くはないけど、明らかにカードが足らない。)」

 

聖星はゆっくりと十代を見下ろす。

自分が気絶させた彼は呑気に寝息を立てている。

そんな彼を見て緊張が解れるかと思ったが、逆に体が重くなる。

 

「(このドローに俺だけじゃなく、十代の命までかかっているんだ……)」

 

もし、目的のカードが引けなかったら聖星は【魔天老】を守備表示で出すしかない。

しかしせっかく出した【魔天老】はすぐに【エクトプラズマー】の効果によって墓地に送られてしまう。

そうなってしまえば次のターンで【サイコショッカー】の攻撃を受け、【エクトプラズマー】の効果ダメージでライフを削られる。

 

「かっとビングだ、聖星」

 

「え?」

 

横から聞こえた言葉に聖星は顔を上げる。

そして真剣な表情で自分を見ている【星態龍】と目があった。

 

「かっとビングとは勇気をもって踏み出す事。

かっとビングとはあらゆる困難にチャレンジする事」

 

「え、え?」

 

「かっとビングとは、どんなピンチでも決して諦めない事」

 

「っ!」

 

繰り返される言葉に脳裏に過ったのは年下の友人。

自分より子供なのに世界の命運、大人達の憎悪、復讐の連鎖に巻き込まれてしまった彼。

突然自分の身に起こった非日常な出来事に戸惑い、傷つき、心が折れそうだった事は何度もあるそうだ。

それでも彼は、遊馬はその言葉を胸に抱き全てに立ち向かって行った。

 

「それにそのデッキはお前が頭を使って考えたデッキだろう。

遊星に言われた言葉を忘れたか?」

 

「父さんに言われた言葉……」

 

少しだけ顔を伏せた聖星は父を思い出す。

どんな弱小カードでも自分の手足のように使いこなし、強力な相手をものともせず倒した父の姿を。

彼はデッキを組んでは悩む聖星によく言っていた。

 

「いいか、聖星。

例えどんなカードでもこの世界に存在する理由がある。

自分を必要とし、最後まで信じてくれるデュエリストにカード達は必ず応えてくれる。

だからどんな時でもカードを信じるんだ。

そうすればカード達は応えてくれる」

 

必要とされる理由はある。

不必要とされる理由なんてない。

自分が必要だと信じてくれたからこそ、カード達は信じてくれるデュエリストのために応える。

そう遊星は言っていた。

 

「確かに今のお前の手札は最悪だ。

調整中だからな。

だが、たとえ調整中のデッキでもお前が最後まで諦めなければデッキは応える。

少なくとも私がデッキの立場なら諦めた人間を励まそうとも、最後まで付き合おうとも思わない」

 

そう言った【星態龍】はゆっくりと姿を消す。

カードの中に戻っていった友人に聖星は笑ってしまった。

 

「酷い言われようだな、【星態龍】。

俺は別に諦めてないけど」

 

必要以上に緊張し、恐怖に囚われたのは認めよう。

それでも聖星は勝負を捨てたつもりはない。

 

「あとついでに言うなら、かっとビングなんて言葉を【星態龍】が言うとなんかおかしい気がする」

 

「どういう意味だ、聖星!」

 

「だってキャラじゃないだろ」

 

諦めるな、と言われるのはまだ分かるが……

その例えにかっとビングを持ってくるとは思わなかった。

本当、変なところで面白い友人に聖星は微笑んだ。

 

「最後の別れはすんだか、生贄よ」

 

「最後?

まだデュエルの決着はついてないんだぜ。

随分と気が早ないな」

 

「自分の場を見てみろ。

先ほどから一切モンスターを召喚していない。

それにその様子では手札のモンスターは【魔天老】のみ。

それに対し私の場には私自身と【サモンプリースト】、ダメージを与える【エクトプラズマー】。

どうやってこの状況を逆転する?」

 

「さぁ、どうしようか」

 

いつものように微笑みながら聖星はデュエルディスクにはめられているデッキを見る。

まだまだ沢山のモンスターやカードが眠るデッキ。

それでも逆転できる手段はたくさんある。

そのカードを引けるかは自分と彼らの信頼関係次第。

 

「(頼むぜ、俺のデッキ)」

 

ゆっくりと指を置く聖星。

大徳寺先生は心配そうに聖星を見つめ、【サイコショッカー】は勝利を確信しているのか余裕な表情を浮かべている。

 

「俺のターン」

 

ドロー。

目を閉じたままカードを引いた聖星はゆっくりと目を開ける。

そして視界に入ったカードの名前に笑みを浮かべた。

 

「俺は手札から【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に捨てる。

俺は【魔天老】と【熟練の白魔導師】を墓地に捨てる」

 

引いたのは手札入れ替えカード。

カード達はまだ自分に応えてくれる。

そう言われた気がして聖星はさらにカードをドローし、新たに来たカードを捨てては発動した。

 

「魔法カード【強欲な壺】を発動。

デッキからカードを2枚ドロー。

そして手札から【魔界発現世行きデスガイド】を召喚」

 

聖星の場に一つの円が描かれ、その中から可愛らしい女性モンスターが現れる。

彼女は手にマイクを持っており【サイコショッカー】に向かって可愛らしいウインクをする。

 

「彼女は魔界に存在する悪魔族を現世に案内する役目を持つ。

さ、今回のお客さんはだぁれかな?」

 

聖星がわざとらしくそう言うと【デスガイド】がマイクで何かをしゃべり出す。

その時の身振り手振りはまさに観光地を巡る時のガイドの姿そのものだ。

 

「魔界から現世……

墓地からフィールド……

お前の墓地に存在する悪魔族は……!」

 

「墓地?

あぁ、魔界だから墓地だと思ったんだ。

けど残念、外れさ」

 

「何?」

 

「魔界はデッキと手札の事さ。

さぁ、今回のお客さんは【魔天老】様だぜ」

 

歩きながら周りのものをあれこれ説明する【デスガイド】。

彼女の後ろについていき、その説明を満足げに聞いている黒い影が現れる。

黒い影は紫色の翼をもち、巨大な脳のような頭をする悪魔族に代わっていった。

 

「さらに手札から【融合】を発動。

手札の【沼地の魔神王】と場の【魔天老】を融合する」

 

「【魔天老】の融合だと!?」

 

手札に存在する【沼地の魔神王】と【魔天老】はともに歪みの中に吸い込まれる。

するとその歪みの中から赤い角と髑髏の鎧、巨大な剣を持つモンスターが現れる。

彼はニヒルな笑いをして【サイコショッカー】を見下ろした。

その攻撃力2650.

 

「融合召喚、【スカルビショップ】!」

 

「なっ、【スカルビショップ】だと!?」

 

自分達を見下ろしている大柄の悪魔族に似たモンスター。

そのモンスターは以前聖星が【融合魔導】を作ろうと【星態龍】に零したとき、候補に挙がったモンスターだ。

しかし融合素材と【スカルビショップ】は共に異なる種族。

融合素材代用モンスターもデッキに入れたが、いざ回すと攻撃力不足となりどうも上手く勝てない。

 

「まだ終わらない。

墓地の【熟練の白魔導師】と【魔天老】を除外し、手札から【カオス・ソーサラー】を特殊召喚する」

 

次に現れたのは純白の衣に身を包んだ男性と融合素材となった【魔天老】。

2人は異次元へと繋がる歪みの中に消えていき、漆黒の衣服を身にまとう【カオス・ソーサラー】が特殊召喚された。

 

「【カオス・ソーサラー】の効果発動。

1ターンに1度、フィールドの表側表示のモンスターを1体除外する。

俺は当然、【人造人間‐サイコショッカー】を選択する!」

 

「なっ、くそっ……!!」

 

「次元の狭間に消えろ!」

 

【カオス・ソーサラー】は両腕に黒と白の光を宿し、その2つの光によって大きな歪みを生じさせる。

目の前に現れた歪みはブラック・ホールのように【サイコショッカー】を飲み込もうと膨大な重力を発生させた。

自分を吸い込もうとする効果に【サイコショッカー】は抗うが抵抗も空しく場から除外された。

 

「くっ、生贄の分際で……!

だがまだ私は終わらない……!」

 

場から消えさった【サイコショッカー】。

しかし彼の声が食堂内に木霊しまだ彼が完全に消滅していない事が分かる。

すると半透明の【サイコショッカー】が苦しそうに聖星の前に現れる。

 

「あぁ。

それくらい知ってる。

俺は手札から【ヒュグロの魔導書】を発動。

場に存在する魔法使い族モンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせる。

俺は【スカルビショップ】を選択!」

 

「攻撃力を1000ポイントも上げるだと!?」

 

「さらに手札から【トーラの魔導書】を見せる事で【セフェルの魔導書】の効果を発動。

墓地に存在する【ヒュグロの魔導書】の効果をコピーして【スカルビショップ】の攻撃力をさらに1000ポイントアップ!」

 

「攻撃力4650だと!?」

 

「そして【地割れ】を発動。

相手フィールドの1番攻撃力が低いモンスターを破壊する」

 

「なっ!?

今私の場には【召喚僧サモンプリースト】のみ!」

 

「そう。

破壊されるのはそいつさ」

 

魔法カードが場に現れるとそこから【サモンプリースト】に向かって地面が避けていく。

足場だった地面が裂けた事により【サモンプリースト】は支えを失い、重力に従って地の底に落ちていった。

 

「これでお前の場はがら空き!

【スカルビショップ】、【サイコショッカー】にダイレクトアタック!」

 

「させない!

罠発動、【魔法の筒】!

【スカルビショップ】の攻撃力分のダメージを受けてもらうぞ!」

 

慌てて発動されたのは攻撃を無効にし、その攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える罠カード。

きっと【サイコショッカー】自身が場から離れたときの事を想定して伏せていたのだろう。

だが相手が悪かった。

 

「そうはさせない!

速攻魔法、【トーラの魔導書】を発動!

こいつの効果で【スカルビショップ】は罠カードの効果を受け付けなくなった!」

 

「何!?」

 

大剣を大きく振り上げる【スカルビショップ】。

彼は誰でも射殺せそうな冷たい眼差しを向け、勢いよく切りかかる。

体を切り裂くような激しい痛みに【サイコショッカー】は悲鳴を上げる。

 

「ぐぁああああ!!」

 

攻撃力4650のダイレクトアタック。

これで【サイコショッカー】のライフは0になる。

電気が漏えいしているのか、体中から電気を発する【サイコショッカー】に聖星は言った。

 

「約束だ。

俺達の事は諦めてもらうし、彼は返してもらう」

 

「くっ、そ……

私が、私が……

こんな、とろこでぇええ!!!」

 

【サイコショッカー】は悔しそうに叫び、彼の悲痛な声が食堂内に響き渡る。

その反響と共に【サイコショッカー】は消えていきこの場には聖星と十代、大徳寺先生。

そして今回の事を引き起こした向田だけになった。

【サイコショッカー】も消えたことに食堂内の空気が軽くなり、聖星はその場に膝をつく。

 

「聖星君!」

 

「大徳寺先生……」

 

気が抜けたせいか体に力が入らない聖星。

それでも彼の体は小刻みに震え、頬には汗が伝っていた。

そんな教え子に大徳寺先生は膝をついて微笑んだ。

 

「本当に頑張ったんだにゃ。

最後まで諦めずに闇のゲームに勝ってくれて先生は嬉しいのにゃ~」

 

「……はい」

 

偉い、偉い。

そう言われているかのようで、大人の言葉に聖星は本当に終わったのだと実感し安心したのか聖星は自然に微笑んだ。

 

「少し待ってほしいのにゃ。

頑張ったご褒美に何か温かいものでも作るのにゃ」

 

「ありがとうございます、大徳寺先生」

 

**

 

精霊の襲撃から一晩明け…………

 

「聖星~~!!」

 

「あ、十代。

お腹大丈夫?」

 

「あぁ、もう痛みも何ともねぇよ。

じゃねぇ!!」

 

内容が内容で、彼をイエロー寮まで帰すのは危険だと判断した大徳寺先生は十代の部屋に泊まる事をすすめた。

聖星もその言葉に甘え、十代の部屋でゆっくり眠りについた。

しかし部屋の主である十代が目を覚ますと聖星も強制的に目覚めさせられて、目の前に迫られた。

 

「お前なぁ、どうして俺を気絶させたんだよ!」

 

「いやぁ、やっぱり危ないかなぁって思ってさ。

昨日のデュエル、やっぱり普通じゃなかった。

十代にさせなくて良かったよ」

 

「何安心しきった笑顔で言ってるんだよ!

ったく、本当お前って俺以上に無茶する奴だよな」

 

「え、そうか?」

 

「あぁ!」

 

END

 




【スカルビショップ】の【魔導書】デッキ回すの難しかったです(´;ω;`)
汎用性がある【ライラ】とか入れても【スカルビショップ】より【カオス・ソーサラー】が活躍してしまう始末。
えぇ……と思いましたよ。
実際に組んでみても「やべぇ……こねぇ……」という事態に何度陥ったか。
しかもデッキ内にいる他のモンスターもネタに走りましたからね。
これだけでデッキの他のモンスターが分かった人は私と握手してください。


Q【サイコショッカー】のデュエルってライフに比例して体が消える(?)んじゃ…
A痛みのほうが表現しやすいかなぁ、と。

Qなんか聖星がヘタレ?
A聖星だってまだ15歳なんです、目の前で友達が死んだり敵側に回ったりしたトラウマがあるんです。
そう考えたら遊馬先生マジメンタル最強。
そのメンタルをアニメ版王様に分けてあげて欲しいな。

Q遊星がまともに父親らしい事(台詞のみ)をした!
A遊星だから絶対子供に口癖のように言ってるよ。


アンケートの投票ですが、皆様の心温かいご意見に舞い上がっています。
そしてまだ対戦相手のアンケートは受け付けています。
伝説のデュエリストとのデュエルは次の次に行おうと思っているので、アンケートの締切りは次の話を更新した時までとさせて頂きます。
同時にオリキャラに関するアンケートもまだ実施しているので、そちらの締切りも同じ時期とします。
皆様の貴重な意見をまだまだお待ちしております!
では失礼しました~



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話 千載一遇のチャンス

見渡す限り溢れかえっている人の数。

目の前を行きかう人々の腕には決まって自分達の剣を身に着けている。

同じ剣を持つ聖星は首を左右に振りながら人の波の中にただ佇んでいた。

 

「お~い、聖星~!」

 

人波の中から聞こえた自分を呼ぶ声に聖星はそちらに顔を向ける。

するといつものように眩しい笑顔を浮かべながらこちらに足を向ける友人を見つけた。

彼の姿を確認した聖星は安堵したかのように微笑んだ。

 

「十代、やっと見つけた」

 

「いや~、わりぃ、わりぃ。

まさか寝坊しちまうとは思わなくってさ」

 

「本当、メールが来たときは呆れたぜ。

まぁ、十代らしいっちゃらしいけど」

 

「どーゆう意味だよ、それ」

 

「だって十代、月一試験でも寝坊しただろう?」

 

「うぐっ!

それを言われると何も言い返せません…………」

 

やっと互いの姿を認識した2人は冗談交じりで言葉を交わす。

そして自分達の周りを見渡しこれから起こるイベントに対し胸を躍らせた。

 

「よぉし、絶対に優勝するぞ!!」

 

握り拳を作り、誰よりも意気込む十代。

アカデミアで見る時以上に気合が入っており、どれほどこのイベントを楽しみにしていたのか分かる。

さて、ここまで十代が張り切っているイベントというと「優勝」という言葉で分かると思うが……

 

「頑張れよ、十代。

なんたって優勝賞品はまだ発売されていないレアカードのプレミアムパック。

しかも10パックも貰えるんだからな」

 

冬休みといえば12月下旬から始まるもの。

その時期は世間一般でいえばクリスマス、お正月という1年の中で誰もが活発になる時期である。

そして今回十代が参加する大会は新年を祝して海馬ランドで開かれるデュエル大会。

新年早々のデュエル大会のせいかいつも以上に優勝景品が豪華であり、参加者もかなり熱が入っているようだ。

 

「ちゃんと十代の勇姿はカメラに収めておくから全力で行ってらっしゃい」

 

「あぁ!

…………え、聖星は出ないのかよ!?」

 

「あぁ」

 

勢いで強く頷いたが十代は言われた言葉をやっと理解し、勢いよく聖星に振り替える。

それに対し聖星は微笑むだけ。

 

「だってレアカード入りのパックが10パックだぜ!

準優勝でも5パック!

何ででないんだよ!?」

 

「俺、目立つの嫌だし」

 

「だ~!

じゃあなんでお前を誘ったのか意味ねーじゃん!」

 

「ごめんな」

 

記述しなくても分かるとは思うが、この大会は公式試合でテレビ中継されるのだ。

つまりデュエルしている姿が映像として記録され未来永劫残り続ける。

そんなものに未来人である聖星の姿が映ってしまえばどうなるか考えただけで頭が痛くなる。

申し訳なさそうに微笑む聖星に十代は肩を落とし、見るからに落ち込んでしまう。

しかし流石は十代というべきかすぐに切り替えたようだ。

 

「しょうがねぇな。

じゃあ無理に誘ったのに付き合ってくれたお前への礼に、パックをゲットしてくるぜ!」

 

「え、良いの?」

 

「あぁ。

県外なのにわざわざ来てくれたんだ。

これくらいはするって」

 

十代としては全力でデュエルを楽しみ、決勝戦で聖星を倒して優勝をするつもりだった。

彼との公式でのデュエルを楽しみにしていた分残念だが無理に強要する気は十代にない。

笑顔でそう言った十代に聖星はふにゃり、と笑みを浮かべて嬉しそうに礼を言った。

 

「じゃあ俺は選手登録してくるぜ。

聖星はどうする?」

 

「俺はあのベンチで待ってるよ。

ついでだから何か飲み物買っとこうか?」

 

「マジ?

じゃあコーラ頼む!

金は後で払うからさ!」

 

「お金は要らないけど、パックは頼むな」

 

「おう!」

 

そう言った十代は受付へと走って行った。

取り残された聖星は売店へと向かい、コーラの他に何か良いものがないか探す。

すると隣の人とぶつかった。

 

「あ、すみません」

 

「いや、別に、って不動?」

 

「え?」

 

慌てて謝罪すると何故か名前を呼ばれ、思わず顔を向けると見知った顔があった。

 

「取巻?」

 

「何だ、お前もデュエル大会に参加するのか?」

 

そう尋ねる取巻の左腕にはデュエルディスクが嵌められている。

彼もこの大会の参加者なのだろう。

聖星はすぐに首を横に振って否定した。

 

「いや、俺は十代に誘われて来ただけ。

大会には参加しない」

 

「はぁ!?

何言ってるんだよ、お前!

今回の大会に優勝すればレアパックが貰えるだけじゃない!

あの武藤遊戯さんとデュエル出来るんだぞ!!」

 

「え?

ごめん、今なんて言った?」

 

「だから、優勝したらキング・オブ・デュエリストの遊戯さんとデュエル出来るんだ!」

 

聖星は自分の耳を疑い、慌てて持ってきていた小型のノートパソコンを立ち上げた。

十代から誘われた時、簡単に大会の情報は調べた。

その時伝説のデュエリスト、しかもデュエリストの頂点に立ち神のカードを操る決闘王と戦えるなどどこにもなかったはず。

自分が見逃したとは考えにくい。

すぐに公式ホームページに飛び、目的の情報を探した。

 

「……なお、優勝者には武藤遊戯とデュエルする権利が与えられる。

更新日は昨日……」

 

前日に更新された情報を知るわけがないだろう!

ホームページに表示されている文字を読んだ聖星は心の中で悪態をついた。

何故そんな重要なことを昨日更新したのか。

その理由は旅に出ていた武藤遊戯がたまたま童実野町に戻ってきて、たまたまそれを知った海馬社長が彼に頼んだからだ。

本当に頼んだのか、無理やり参加させたのか真実は当事者のみ知る事だ。

そんな事を知らない聖星は悩んだ。

 

「(どうしよう。

決闘王とのデュエルだぜ。

この時代では生きる伝説。

でも俺の時代じゃもうデュエルする事はできない人だ。

つまり今回の大会は千載一遇のチャンス。

この機を逃したら絶対に後悔する。

でも大会に出場したら【魔導書】のデッキを使わないといけないし、俺の事が公式に記録される。

そうなったら未来に帰った時何か影響があるかもしれない。

…………こうなったら偽名を使う?

いや、ここには十代と取巻がいる。

下手をしたら明日香や大地達も来ているかもしれない。

そんな知り合いがいる中で偽名なんて使ったら怪しまれるし、でも本名で参加したくないし……!

でもデュエルしたい!!)」

 

一生に1度しかないキング・オブ・デュエリストとのデュエルをとるか。

未来の自分の安全をとるか。

2つに1つ。

聖星は傍から見てもわかるほど悩んでいた。

友人の恐ろしいくらいの悩みっぷりに取巻は怪訝そうに首をかしげる。

 

「……………………る」

 

「は?」

 

「この大会。

出場する」

 

「まぁ、普通そうだろうな」

 

「というわけで取巻。

俺、選手登録してくるからコーラとメロンソーダお願い」

 

「はぁ!?」

 

「あ、お姉さんこれ代金です。

お釣りはいりません」

 

「なっ、ちょ、おい、不動!」

 

自分に2人分の飲み物を押し付けた聖星は人波にあっさりと消えてしまった。

姿が見えなくなった友人に取巻は盛大にため息をつく。

 

**

 

「えぇ!?

遊戯さんも来るのかよ!?」

 

「あぁ。

ホームページにそう書いてあるから間違いないぜ」

 

「不動だけじゃなくてお前まで知らなかったのかよ……

ちゃんと大会の情報くらいチェックしろよ」

 

やった、遊戯さんと戦えるなんて、ラッキー!!と握り拳を作る十代。

聖星はどこか複雑な表情を浮かべ、取巻は痛む頭を抑える。

3人は無事エントリーが済み、大会が始まるのを今か今かと待っている。

 

「そーいやよ、今日の聖星のデッキって何だ?

カイザー相手の全力デッキ?」

 

「いや、今回は違うデッキさ。

確か十代相手にも使ったことはないデッキかな」

 

「……本当、お前どうしてそんなに沢山カードを持ってるんだ?」

 

取巻の心底不思議そうな呟きに聖星は微笑む。

暗に教える気はないと言っているのだろう。

仮に教えたところで一般人の取巻が信じるとは思えないが。

すると海馬ランド内に独特な音が鳴り響く。

そして会場に目をやると司会者らしきサングラスをかけている黒服の男性が立っていた。

 

「全国から集まったデュエリストの皆様。

本日はこの海馬ランドで開かれるデュエル大会に参加していただき誠にありがとうございます。

さて、本来ならここで永延と挨拶を述べるのが私の務めでしょうが、皆様はそのような事は望んでいないと思います」

 

彼の言う通りだ。

ここにいるほとんどの人間は早くデュエルがしたくて仕方がなく、すでに好戦的な表情を浮かべている者ばかり。

 

「それではルールの説明をします。

皆様、受付時に渡されたケースを開けてください」

 

受付時に渡されたもの。

それは名刺入れ2個分のサイズで開けばバッジケースになっている。

その中には1つのバッジがあり、十代、取巻、聖星はそれぞれデザインが異なっている。

 

「それはこの大会の参加資格。

大会の参加者はそのバッジをかけてデュエルしていただきます。

そしてバッジが8つそろったデュエリスト8名のみ決勝トーナメント進出です。

ちなみに8名になった時点で予選は終了とさせて頂きます」

 

「つまり、この大会は勝つだけじゃダメって事か?」

 

「そうみたいだな。

何としても8人以内に入れるよう時間との勝負ってわけか」

 

「まるでバトルシティだな」

 

確認するように尋ねる十代に聖星は頷く。

取巻は自分達が幼いころ開かれた大会を思い出しその時のルールと似ていると思った。

 

「では、只今より海馬コーポレーション主催のデュエル大会を開始します!」

 

「「「「うぉおおおおお!!!」」」」

 

司会者が宣言した言葉に会場は一気に沸き立つ。

その雰囲気に感化され聖星達の表情も好戦的になる。

 

「よっしゃぁ!

じゃあ俺は誰とデュエルしようかなぁ」

 

「俺は少し遠く離れた場所でデュエルするよ。

予選で不動達と当たりたくないしな」

 

「それには賛成。

折角の大会だ。

決勝トーナメントで当たりたいよな」

 

へっ、と誰よりも好戦的な笑みを浮かべている十代。

興味なさそうにクールに振る舞いながら目をそらす取巻。

微笑んでいるだけだが決して負けないという闘志を抱く聖星。

3人は一瞬だけ視線を交え、何も言わずにその場を立ち去った。

 

**

 

場所は変わって巨大なモニターが備え付けられている一室。

そのモニターには大会の参加者の様子が映っており様々なデュエルを見る事が出来る。

大きなソファに座っている大会の主催者、海馬瀬人は低レベルなデュエルの様子にふん、と鼻を鳴らした。

一方彼の向かい合ったソファに座っている青年と男性は瞳を輝かせながらデュエルの様子を見ていた。

 

「それにしても驚きデ~ス。

まさか遊戯ボーイがこの大会の特別ゲストとして呼ばれていたとは私は全く予想でなかったデ~ス」

 

「いや、今回は海馬君に強引に連れてこられたっていうか……」

 

「貴様も決闘王ならそれらしく振舞ったらどうだ。

いつまでたっても放浪しおって」

 

「僕はそんなキャラじゃないってば!

それに世界中を見たっていいじゃない」

 

世界を見る事が別に悪いことではない。

ただ海馬コーポレーションの社長として勤めている海馬としては、いつまでもふらふらしている遊戯にいい加減落ち着いたらどうだと言いたいのだ。

彼自身、自分が欲してやまないキング・オブ・デュエリストの称号を持っている。

その名を使えば世界を掌握する事もできるというのに。

遊戯はそういう事には一切興味を持たずただぶらぶらと世界中を回っていた。

 

「それでペガサス、何故ここに来た?

この俺にアポイントを取らず押しかけてきたのだ。

それ相応の理由はあるんだろうな?」

 

海馬とペガサスはソリッドビジョンの技術を与える者とデュエルモンスターズのデータを与える者という関係。

互いに与え、利益を生み出し、デュエルモンスターズを発展させる。

だから彼が日本に来る事に関しては何とも言わないが、予約も何もなしにいきなり来られるのは非常に迷惑だ。

まぁ、海馬は海馬で相手の都合など考えずに押しかけるタイプだが。

 

「海馬ボーイは相変わらずユーモアがありまセ~ン。

もう少し肩の力を抜いてはどうですカ?」

 

「下らん話はやめてさっさと本題に入れ。

貴様が自分が関わっていないデュエル大会をただ観戦するためだけに日本に来たわけではなかろう」

 

「オーノー。

遊戯ボーイ、どうすれば海馬ボーイはもっとユーモアを覚えてくれるのでしょうカ。

いい方法はありませんカ?」

 

「うん、ないと思うよ」

 

「遊戯!」

 

笑顔でペガサスに返す遊戯に海馬はつい声を張り上げる。

昔はもう1人の遊戯ばかり目が行き、彼は気弱でただの弱虫だと思っていたがこうやって言葉を交わすと遊戯も遊戯でかなり肝が据わっている。

 

「ではジョークはここまでにしマ~ス。

実はイエスタデー、私は不思議な夢を見たのデ~ス」

 

「不思議な夢?」

 

「…………」

 

「イエ~ス。

それはとても冷たく、悲しい、バット……

デュエルモンスターズの新たな可能性を示す夢デ~ス」

 

ペガサスは巨大スクリーンに目をやり、そこに映っているデュエリスト達を見る。

1人1人、その中に輝く事が約束されている原石を探すかのように。

夢の中で目を覚ましたペガサスは目の前の光景に目を疑った。

炎が上がり、死の匂いが充満する大地。

その地上を我が物顔で歩く巨大な生物。

そしてその生物に対抗しようと攻撃を繰り返す5体のドラゴンと、そのドラゴン達を遥かにしのぐ巨大さを持つ赤い竜。

 

「地上にいたモンスター達からは神に似た力を感じまシタ」

 

「神の力だと?」

 

「どういう事、ペガサス?」

 

「それは私にもわかりまセ~ン。

そして地上のモンスター達に対し、ドラゴン達からはとても神秘的な力を感じたのデ~ス」

 

鳥やトカゲ、クジラなどを模したモンスター達から感じられたのは邪悪な力。

しかしドラゴン達から感じたのはその闇を払いのける聖なる力。

一目見てあのドラゴン達は敵ではないと分かった。

 

「その時、巨大な赤いドラゴンが私にこう告げたのデ~ス。

今日、この大会にデュエルモンスターズの新たな扉を開くデュエリストが現れる、ト…………」

 

「デュエルモンスターズの……」

 

「新たな扉……」

 

ペガサスの言葉に海馬は胡散臭そうな表情を浮かべる。

いくら高校時代に非科学的な現象に巻き込まれ、多少は耐性がついたとはいえやはり夢のお告げなど信じられないものだ。

だが遊戯はかつて千年アイテムの所持者だったペガサスの言葉を真剣に考えた。

 

「だから私は全ての予定をキャンセルし、はるばる日本にまで来たのデ~ス」

 

巨大モニターに映し出されるデュエリスト達。

どれもまだ発達途上なのか幼稚なデュエルも多くみられる。

しかしとても素晴らしいデュエルタクティスで勝ち続けるデュエリストもいる。

ペガサスは目を閉じ、夢の内容を再び思い出した。

その時、勢いよく扉が開く。

 

「大変でございます、瀬人様!!」

 

「どうした磯野?

騒々しいぞ」

 

「はっ、それが…………」

 

**

 

「「デュエル!!」」

 

海馬ランド内で開かれているデュエル大会。

聖星は早速最初の相手を見つけ、互いに距離をとった。

相手は自分と同じ年くらいの少年だ。

 

「先攻は俺だ。

俺のターン、ドロー。

俺は【魔導化士マット】を守備表示で召喚」

 

聖星が召喚したのは15,6歳くらいの少年。

彼は口に草をくわえ、眠たそうにくわぁ……と欠伸をする。

欠伸をかみ殺さず堂々とする姿は彼の元となった愚者のカードに相応しいだろう。

 

「【マット】の効果発動。

1ターンに1度デッキから1枚【魔導書】を墓地に送る。

俺は【アルマの魔導書】を墓地に送る」

 

効果の発動を宣言すると【マット】はとても面倒くさそうな表情を浮かべる。

そんなにやりたくないのか。

苦笑を浮かべながら聖星はデッキを広げ【アルマの魔導書】を墓地に送る。

 

「さらに魔法カード【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に捨てる。

俺は【魔導鬼士ディアール】と【ヒュグロの魔導書】を墓地に捨てる」

 

「え、何で上級モンスターを墓地に捨てたんだ?」

 

聖星が捨てたカードにレベル6のモンスターに少年は首をかしげる。

レベル6なら生贄が1体ですむので次のターンに召喚が可能だ。

それなのに聖星は捨てた。

教える気はないのか聖星は微笑みそのまま続ける。

 

「さらに永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動。

【魔導書】と名の付く魔法カードが発動するたびに魔力カウンターをのせる。

俺は手札から【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【魔導書】と名の付くカードを手札に加える。

俺は【セフェルの魔導書】を加える」

 

「随分と魔法カードばっかり使うなぁ」

 

「そういうデッキだからな。

そしてこの瞬間、【魔導書】が発動した事で【エトワール】に魔力カウンターが乗る」

 

【マット】の前に現れた1冊の書物。

それは淡い紫色に輝きを放っていたが、次第にその光は黒ずんでいった。

 

「手札から【セフェルの魔導書】を発動。

俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、手札の【魔導書】を見せる事で発動できる。

手札の【魔導書院ラメイソン】を見せ、墓地の【魔導書】と名の付く通常魔法をコピーする」

 

「通常魔法のコピー?

えっと、君の墓地にある【魔導書】は……」

 

「通常魔法は【アルマ】、【ヒュグロ】、【グリモ】の3枚。

けど俺はさっきサーチに使った【グリモの魔導書】をコピーするぜ」

 

「……って事はまた【魔導書】を?」

 

「あぁ。

俺は【魔導書士バテル】を手札に加える」

 

「え、モンスターカード?」

 

「【グリモ】は【魔導書】と名の付くカードならなんだって手札に加えていいんだ」

 

【バテル】は魔法カードという制限があるが【グリモの魔導書】にはそんな制限などない。

あるとしたらせいぜい同名カードを加えないという点だ。

同時に【エトワール】の魔力カウンターが2つになる。

 

「俺はフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を発動」

 

パチッ、とフィールド魔法ゾーンが開きそこにカードをセットする。

すると凄まじい轟音が鳴り響き聖星の背後から巨大な建物が現れる。

建物の周りには魔力カウンターに似た球体が浮遊しており一目見て魔法使い族に関係のあるカードだと分かった。

そして【エトワール】の魔力カウンターが3つになった。

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。

俺は手札から【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる。

俺は【ロード・オブ・ドラゴン‐ドラゴンの支配者】と【神竜ラグナロク】を墓地に捨てる」

 

「うん?」

 

少年が捨てた2枚のカード。

それはあまり聞きなれないカードだがどこか聖星の中に引っかかった。

【ロード・オブ・ドラゴン】はドラゴン族のサポートカードとして記憶している。

【ラグナロク】も通常モンスターのドラゴン族だ。

だが頭の中で何かが引っかかり、喉のところまで何かが来ているような気がする。

 

「(なんかあの組み合わせで何かあったよな……

あれ~?)」

 

「そして俺は魔法カード【龍の鏡】を手札から発動!!」

 

「あ。

【キングドラグーン】」

 

「そうさ!

俺は墓地の【ロード・オブ・ドラゴン】と【ラグナロク】を除外し【竜魔人キングドラグーン】を融合召喚する!!」

 

墓地から合われた魔法使いとドラゴン族。

2人は互いに合わさるかのように歪み、その歪んだ影が巨大なドラゴンを生み出す。

 

「グォオオオ!!」

 

特殊召喚されたのは手に笛をもった竜人。

融合前の姿とは違い凄まじい威圧感を放つドラゴンに聖星は冷や汗を流した。

【キングドラグーン】は攻撃力2400と少し低めだが効果はドラゴン族を対象にする効果を全て封じてしまう。

しかも【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】のように手札からドラゴン族を特殊召喚するのだ。

 

「【キングドラグーン】の効果発動!

1ターンに1度、手札からドラゴン族を特殊召喚できる!

俺は【ホルスの黒炎竜Lv6】を特殊召喚する!」

 

「ゲ」

 

堂々と宣言されたドラゴンの名に聖星は自分の場を見る。

【ホルスの黒炎竜Lv6】は自身に対する魔法効果を無効にする。

まだ【Lv6】は大丈夫だが問題はさらなる進化系のモンスターだ。

何とかしたいというのが本音だが生憎伏せカードが悪すぎる。

 

「ところでさ、このフィールド魔法にはどんな効果があるんだ?」

 

「え?

【魔導書院ラメイソン】は俺のスタンバイフェイズ時、墓地の【魔導書】をデッキに戻すことでデッキからカードを1枚ドロー出来るんだ」

 

「1枚ドロー!?

つまりこのまま残すわけにはいかないな……

手札から速攻魔法【サイクロン】を発動!!」

 

「え?」

 

少年が発動したのは相手の魔法・罠カードを破壊するカード。

すると【ラメイソン】に風が吹き、雷を纏った突風が吹き荒れる。

それは数か所にも発生し【ラメイソン】の建物を次々と吹き飛ばした。

その光景を見ている聖星は上手く言葉が出なかったがカード処理を行った。

 

「破壊され墓地へ送られた【ラメイソン】の効果発動。

このカードが相手によって破壊され墓地に送られたとき、墓地に存在する【魔導書】の枚数以下のレベルを持つ魔法使い族を特殊召喚する」

 

「えぇ!?

まだあったのかよ!??

俺の早とちり!」

 

「あぁ……

ちゃんと確認はしような?

そして俺の墓地には【ラメイソン】を入れて5枚の【魔導書】が眠っている。

よって俺はレベル2の【見習い魔術師】を守備表示で特殊召喚」

 

「はっ!」

 

「【見習い魔術師】の効果発動。

このカードが特殊召喚に成功したとき、魔力カウンターを乗せることができるカードに魔力カウンターを乗せる」

 

「今君の場には【エトワール】があるから、これで魔力カウンターは4つ目か」

 

「あぁ」

 

これで聖星の場のモンスターは2体。

少年の場にもモンスターは2体だが彼はまだ通常召喚を行っていない。

仮に通常召喚で3体になっても【見習い魔術師】にはリクルート効果があるので暫くは持つだろう。

 

「行くぜ!

【キングドラグーン】で【見習い魔術師】を攻撃!」

 

【キングドラグーン】から放たれた光線を浴びた【見習い魔術師】。

彼は全身を焼くような熱に顔を歪め粉々に砕け散る。

 

「【見習い魔術師】の効果発動。

このカードが戦闘で破壊された場合、デッキからレベル2以下の魔法使い族をセットする事が出来る。

俺は2体目の【見習い魔術師】をセット」

 

「だったら【ホルスの黒炎竜】で【魔導化士マット】を攻撃!」

 

【ホルス】は大きく翼を広げ、天に向かって羽ばたく。

鋼の翼はその重さなど感じさせないほどのスピードを生み出し、あっという間に【ホルス】は大空に高く羽ばたいた。

大きく息を吸い込んだ【ホルス】は炎を息を吐き【マット】を燃やし尽くす。

 

「エンドフェイズ時だ。

【ホルスの黒炎竜Lv6】の効果発動!

このカード墓地に送ることで【ホルスの黒炎竜Lv8】を特殊召喚する!!!」

 

「グォオオオ!!!」

 

「うわぁ、来ちゃったよ……

俺達の天敵」

 

フィールドに残る炎は【ホルス】の体中を包み込んだ。

その炎の勢いは激しくなり、中からさらに美しく巨大な力を手に入れた【ホルスの黒炎竜Lv8】が現れる。

【ホルスの黒炎竜Lv8】は魔法の発動と効果を無効にし破壊する効果を持つ。

魔法カードを多用する聖星の【魔導書】デッキにとっては最悪なカードだ。

しかも罠カードで対処したくても【キングドラグーン】の効果でドラゴン族はカードの対象にならない。

未来では【ホルス】も【キングドラグーン】もあまり見なかったため、デュエルに召喚されるまですっかり忘れていた。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

にっ、と爽やかな笑顔を浮かべる少年に聖星も笑い返す。

どうやら彼も十代と同類の人間のようでデュエルする際とても好感が持てる。

だから純粋にこんな状況でも楽しいと思えるのだ。

 

「俺のターン、ドロー」

 

ゆっくりとカードを引く聖星。

引いたカードは【ディメンション・マジック】。

折角強力なモンスターを破壊出来るカードを引いたというのに【ホルスの黒炎竜】のせいで発動したって無駄だ。

どうしようかと思いながら聖星は墓地を確認した。

 

「俺は【魔導書士バテル】を守備表示に召喚。

【バテル】の効果発動。

召喚に成功した時デッキから【魔導書】と名の付く魔法カードを手札に加える。

俺は【トーラの魔導書】を手札に加える。

そしてセットされた【見習い魔術師】を反転召喚

【見習い魔術師】の効果で【エトワール】に魔力カウンターを乗せるぜ」

 

セットされた状態の【見習い魔術師】は光の中から現れ、大きく杖を振り回す。

すると宝石に彼の魔力が集まり【エトワール】に5つ目のカウンターが乗る。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターンだ!」

 

勢いよくカードを引いた少年は聖星に笑いかけ、力強く宣言する。

 

「【キングドラグーン】の効果発動!

こいつの効果で手札から【マテリアルドラゴン】を特殊召喚する!

行くぜ、バトルフェイズだ!

【ホルスの黒炎竜】で【見習い魔術師】に攻撃!!」

 

口元に高熱の炎が集まっていく。

その炎により美しい【ホルス】の鋼が綺麗なオレンジに染まっていく。

準備ができた【ホルス】は勢いよく炎を吐き出し攻撃表示の【見習い魔術師】を攻撃した。

 

「くっ!!」

 

攻撃力3000の攻撃。

【見習い魔術師】の攻撃力は400のため聖星のライフは2600も削られ、残りはたったの1400だ。

 

「【見習い魔術師】の効果。

デッキから【見習い魔術師】をセットする」

 

「次に行くぞ!

【マテリアルドラゴン】で【魔導書士バテル】に攻撃!」

 

「罠発動、【マジカルシルクハット】」

 

「げ!」

 

「効果は知ってるよな?」

 

「あったり前だろ!

デッキから魔法・罠カードを選んでモンスターとして裏側守備表示に特殊召喚するカードだ。

しかも場のモンスターも裏側守備にしシルクハットの中に隠しちまう」

 

「正解。

魔法カード【ヒュグロの魔導書】と罠カード【ブレイクスルー・スキル】を選択し、裏側守備でセット」

 

聖星が宣言すると【バテル】の両サイドに2枚のカードが現れる。

すると巨大な?を描いたシルクハットが3体のモンスターを隠し、ランダムに動き始める。あまりの速さに少年は目が追い付かず、どこに【バテル】が隠れているのか分からなくなった。

 

「っ、【マテリアルドラゴン】、真ん中のカードを攻撃だ!」

 

体中から黄金の槍を放つ【マテリアルドラゴン】。

その槍は真ん中のシルクハットを串刺しにし、中に隠れているモンスターを破壊する。

シルクハットは砕け、中にいたモンスターが露わになる。

 

「残念。

破壊されたのは【ヒュグロの魔導書】だ」

 

「なら【キングドラグーン】で右側を攻撃だ!!」

 

最後に残ったモンスターは口から炎を吐き出し右側のカードを破壊する。

そのシルクハットに隠れていたのは【バテル】で、彼は苦しそうに顔を歪め、無念の声を上げる。

 

「【バテル】の効果発動。

このカードがリバースした時、デッキから【魔導書】を加える。

俺は速攻魔法【ゲーテの魔導書】を加える」

 

最後の力を振り絞り、【バテル】は聖星に【魔導書】を託す。

モンスターの意思を受け取り聖星はデッキからカードを加えた。

 

「あちゃぁ……

ライフを削れなかったか。

俺はこれでターンエンド」

 

彼の言葉とともにバトルフェイズは終了し、場に残っていた最後のシルクハットが破壊される。

 

「俺のターンだな、ドロー」

 

ゆっくりとカードを引いた聖星は手札を見る。

手札だけではなく、墓地にもカードが揃った。

小さく頷いた聖星はしっかりと3体のモンスターを見た。

 

「行くぜ。

まずは【見習い魔術師】を反転召喚。

このカードの効果で【エトワール】に6つ目の魔力カウンターを乗せる。

そして罠カード【無謀な欲張り】を発動」

 

「え!?」

 

聖星が発動したのは罠が張ってある場所に男が近づくシーンが描かれている通常罠。

そのカードの名前に少年は身に覚えがあるのか警戒するように聖星を見る。

 

「俺はデッキからカードを2枚ドロー。

けど、これから2ターンの間はドローフェイズをスキップしなければならない」

 

やはりデッキの特性上、手札のカードが不足がちになる。

だからドローソースを入れているのだが大抵はデメリット効果つきのカードばかり。

しかし【無謀な欲張り】なら【ラメイソン】がある限りドローフェイズをスキップされても痛くないと思いデッキに投入した。

 

「さらに墓地に眠る【魔導鬼士ディアール】の効果発動。

墓地に存在する【魔導書】を3枚除外し、特殊召喚する」

 

「墓地のカードを!?

実質ノーコストの蘇生じゃないか!」

 

「さ、【ディアール】、出番だぜ」

 

伏せカードしかない聖星の場に【ヒュグロ】、【アルマ】、【グリモの魔導書】が現れ円を描き出す。

その円は魔法陣となり闇の輝きを放ち、禍々しい瘴気が溢れ出てきた。

瘴気は巨大な翼、立派な角、人が持たないものを持つモンスターを生み出した。

 

「グォオオオ!!!!」

 

「今、俺の場には魔力カウンターが5つたまった【魔導書廊エトワール】が存在する。

確か【ホルスの黒炎竜Lv8】は特殊召喚される前に発動された永続魔法の効果までは無効にできなかったよな?」

 

「あぁ」

 

「【ディアール】の攻撃力は2500.

けどこの効果により600ポイントアップし3100だ」

 

「やばっ!」

 

「【ディアール】で【キングドラグーン】に攻撃」

 

【魔導書】の英知を得た【ディアール】は気高き咆哮を上げる。

その咆哮は相手の場のモンスター達の体を震わせ、対戦相手の少年さえも体が震える事を覚えるほどだった。

咆哮を終えた【ディアール】は大きく剣を振り上げ【キングドラグーン】に向かっていく。

 

「罠発動、【マジシャンズ・サークル】。

魔法使い族モンスターが攻撃宣言した時、互いにデッキから魔法使い族を攻撃表示で特殊召喚する。

俺は【魔導冥士ラモール】を特殊召喚する」

 

「俺は【ロード・オブ・ドラゴン‐ドラゴンの支配者】だ!」

 

互いの場に1つの魔法陣が現れ、その中から互いに闇を司る魔法使いが現れた。

【ラモール】は感情を見せない冷たい瞳で相手のフィールドを見渡し、【ロード・オブ・ドラゴン】は無表情のまま【ラモール】を見ている。

 

 

「【ラモール】の効果発動。

こいつが特殊召喚に成功した時、墓地の【魔導書】の種類で効果が決まる。

今、墓地に存在するのは【ヒュグロの魔導書】、【魔導書院ラメイソン】、【セフェルの魔導書】の3種類。

よって【ラモール】の攻撃力上昇効果が発動する」

 

「攻撃力上昇!?

【エトワール】の効果でも上がるのに、まだ上がるのかよ!」

 

「あぁ。

【ラモール】の元々の攻撃力は2000.

自身の上昇効果で2600、【エトワール】の効果で3200だ」

 

「…………マジ?」

 

「マジ」

 

攻撃力3000以上のモンスターが2体揃った事で少年の顔が引きつっている。

しかしこれも決闘王とデュエルするため。

聖星は微笑み、【ディアール】に指示を出した。

 

「【ディアール】はそのまま【キングドラグーン】に攻撃」

 

「はぁっ!!」

 

攻撃の続行を言い渡され【ディアール】は自分の数倍も大きい【キングドラグーン】を頭上から切り裂く。

真っ二つに切り裂かれた【キングドラグーン】は爆発し、少年のライフが4000から3300に削られた。

 

「そして【ラモール】で【ロード・オブ・ドラゴン】に攻撃」

 

「ふんっ!」

 

続いて攻撃宣言を受けた【ラモール】は自身のデスサイズを振りかざし【ロード・オブ・ドラゴン】に引導を渡した。

攻撃力の差が倍以上もあるため【ロード・オブ・ドラゴン】は抗う暇も苦しむ暇もなく破壊される。

これで少年のライフは2000削られ残りは1300.

 

「さらに墓地から罠発動」

 

「ぼ、墓地からぁ!?

何言ってんだお前!?」

 

普通罠カードは場に伏せる事で発動するカード。

それなのに場ではなく、カードを送る墓地で発動するなど聞いた事がない。

当然の反応かと思いながら聖星は説明した。

 

「俺が発動したのは【ブレイクスルー・スキル】。

このカードは墓地に存在するとき、俺のターンで発動できる。

相手モンスターの効果をエンドフェイズまで無効にするんだ」

 

「……相手モンスターの効果を無効?」

 

「そ、無効」

 

聖星の言葉を肯定するかのように墓地から1枚のカードが現れる。

それは何かの膜かバリアを破っているモンスターが描かれており、そのカードは【ホルスの黒炎竜】へと光を放つ。

光に包まれた【ホルスの黒炎竜】は効果を失ってしまった。

まさかの展開に少年は上手く言葉を発する事が出来ない。

 

「これで魔法カードが使える…………

俺は手札から速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動。

墓地に存在する【魔導書】を3枚除外し、相手フィールドのカードを1枚除外する」

 

「除外!?」

 

「俺は【マテリアルドラゴン】を除外する」

 

墓地から除外された【魔導書】は【グリモの魔導書】、【魔導書院ラメイソン】、【セフェルの魔導書】だ。

3枚の【魔導書】は【マテリアルドラゴン】を取り囲み異次元の彼方へと追いやった。

ライフポイントだけではなく、超巨大なドラゴン族モンスターを1度に2体も失った事に少年は「えー…………」と呟いている。

 

「さらに俺は速攻魔法【ディメンション・マジック】を発動。

場の魔法使い族を生贄に手札の魔法使い族を特殊召喚する。

俺は【見習い魔術師】を生贄に【魔導戦士ブレイカー】を特殊召喚する」

 

役目を終えた【見習い魔術師】は安堵の笑みを浮かべ、自分の背後に現れた棺の中に納まる。

そして棺は蓋を閉められ中からレベル4の魔法使い族が姿を見せた。

彼は鞘から剣を抜き聖星を守るために前に出る。

 

「【ディメンション・マジック】の効果はまだ終わらないぜ。

魔法使い族の特殊召喚を終えた後モンスターを1体破壊できる」

 

「破壊効果……

だから攻撃力の低い【マテリアルドラゴン】を除外したのか!」

 

折角効果を無効にしたのに聖星は攻撃力の高い【ホルスの黒炎竜】を場に残した。

どうして残したのか理解できなかったが【ディメンション・マジック】の破壊効果を聞き、やっと理解できた。

尤も【ディメンション・マジック】の破壊効果は任意効果なので【マテリアルドラゴン】で無効にはできないが。

【ブレイカー】が現れた棺の中から無数の鎖が解き放たれ【ホルスの黒炎竜Lv8】を無理やり引きずり込む。

その時だ。

 

「え?」

 

「な、何だ!?」

 

突然【ホルスの黒炎竜】が消えてしまったのだ。

【ディメンション・マジック】の破壊効果かと思ったがそれにしてはおかしい。

破壊効果では棺の中に取り込み爆発するという演出がある。

その前に消えるなどおかしすぎる。

相手の少年が何かを発動したのかと思ったが彼の様子からそれはない。

 

「あ、あれ、どうしたんだ?」

 

「おい、俺のモンスターが消えたぞ!」

 

「うっそぉ!?

私の【マロン】ちゃん!!」

 

「女王様~~!!」

 

次々に聞こえてくるデュエリストの声。

聖星は周りを見渡し自分の目を疑った。

何と他のデュエリスト達のモンスターは消えたり、アンデッド族のような容姿になったり、溶けて消えたりしているのだ。

会場内は突然の事にパニック状態になっており司会者達も困惑している。

 

「……一体どうなってるんだ?」

 

「聖星!!」

 

「不動!!」

 

「十代、取巻」

 

背後から聞こえた声に振り返れば焦った様子の2人が駆け寄ってくる。

どうやら彼らもこの事態に焦りを覚えたようでとりあえず知り合いの元へと来たという感じだ。

 

「やっぱりこっちもか!

俺のモンスターも溶けちまったんだよ。

取巻もか?」

 

「あぁ。

俺の場合はデュエルディスクが一切カードに対して反応しなくなった。

それで不動、お前はどうなんだ?」

 

「俺か?」

 

聖星は自分のデュエルディスクを見下ろし、場に出されているモンスター達を見る。

彼らは対戦相手がいなくてもそこに凛として立っており、特におかしな点は見られなかった。

 

「聖星のモンスターだけいつも通り?

何かおかしくないか?」

 

「こいつら以外反応しないんじゃないのか?」

 

「ちょっと待って。

魔法カード【トーラの魔導書】を発動」

 

今はバトルフェイズ。

聖星はすぐに手札の速攻魔法を発動した。

すると場にはちゃんと【トーラの魔導書】は現れ、聖星が【ブレイカー】に罠カードと宣言すれば【ブレイカー】は光に包まれる。

つまり聖星のデュエルディスクは正常に作動している事になる。

 

「不動のだけ正常に動いている??

どういう事だ?」

 

怪訝そうな表情を浮かべる取巻。

しかし十代はすぐに何かに気が付いたようで確認をとるように聖星に目をやる。

十代からの視線に聖星は小さく頷き、物陰に移動してリュックの中からノートパソコンを取り出した。

 

「不動?」

 

「多分だけど海馬コーポレーションかインダストリアル・イリュージョン社のどっちかにサイバー攻撃が仕掛けられている。

それが原因でデュエルディスクが正常にカードを読み込めなくなったんだ」

 

デュエルディスクのシステムは海馬コーポレーションが。

カードに埋め込まれているマイクロチップはインダストリアル・イリュージョン社が管理している。

聖星はすぐに両者のシステムに侵入し情報を集め出した。

 

「どうだ聖星?」

 

「やっぱり海馬コーポレーションがサイバー攻撃を受けてる。

しかも早い」

 

「マジかよ、何とかできそうか?」

 

「あぁ。

この程度なら……」

 

「って、ちょっと待て不動、遊城!!

お前達何やってるんだよ!?」

 

大丈夫、と微笑むと取巻が慌てて2人の間に入る。

急に入ってきた同級生に聖星と十代は不思議そうな表情を浮かべた。

 

「え?」

 

「何だよ取巻、うるさいなぁ」

 

「うるさいなぁ、じゃないだろ!

さっきからサイバー攻撃とか何とかできるとかって、どういう事だよ!」

 

「取巻、できたらもう少し声を下げて」

 

周りの人達はほとんどが運営側に殺到しているか自分のデュエルディスクを確認しているかで聖星達に気づいていない。

しかし大声で言われて気づかれたら面倒な事になるのは明白。

だから黙ってほしいと頼んだ。

 

「あ、そっか。

お前は聖星の特技知らないんだっけ」

 

「はぁ、特技?」

 

「聖星はハッキングやプログラムの書き換えが得意なんだぜ。

聖星のデュエルディスクだけが無事だったのもプログラムがこいつのオリジナルだからさ」

 

「……………………は?」

 

何を言っているんだこいつは。

そう顔に書いてある取巻は地面に膝をついている聖星を見下ろす。

聖星はすでにPCの画面に集中しており取巻の声など届いていない。

 

「ハッキング…………?

ハッキング!?

じゃあお前、今海馬コーポレーションに侵入してるのかよ!?」

 

「あぁ」

 

短く返ってきた言葉に取巻は頭が痛くなる。

ハッキングとは取巻の中では犯罪行為であると同時にかなりの高度な技術が必要というイメージがある。

しかも海馬コーポレーションは大手企業中の大手。

他社にデュエルディスクの情報が漏れないようシステム管理はしっかりしている。

それにいとも容易く侵入しているなど信じられる話ではない。

 

「聖星、何分くらいで終わりそうだ?」

 

「簡単なウイルスだし、逆探知も同時にしているから……

あと5分くらい」

 

「簡単なのか?」

 

「あぁ。

凄く簡単」

 

尤もこの時代に生きているプログラマーやハッカー達にとっては最先端のウイルスだ。

しかし聖星は未来人のため彼らのサイバー攻撃はとても古く、対処法など山のようにあるもの。

聖星は涼しい顔で逆探知も行い一切迷わずキーボードを押す。

相変わらずの友人に十代は素直に笑って取巻は考える事を止めた。

 

「おい不動。

さっき逆探知とか言っていたけど、逆にお前が海馬コーポレーションに逆探知とかされたりしないのか?」

 

「うん、そんなの99.99%ありえない」

 

「流石聖星だぜ」

 

「……………………」

 

「あ、手順を変えてきた」

 

聖星に妨害されている事に気付いたのだろう。

全く違う方法でサイバー攻撃をし、今度は聖星自身へもその矛先が向かった。

しかし所詮古い技術。

聖星は特に焦りもせず相手のサイバー攻撃を叩き潰した。

 

「よし、終わった」

 

ふぅ、と一仕事を終えた聖星は息を吐く。

そして視線を参加者達に向ければまだデュエルディスクの不調を訴えている。

 

「聖星、サイバー攻撃は終わったんだろう?」

 

「あぁ。

終わったけど、システムの復旧中かな。

それが終わればいつも通りに動くはずだぜ。

あとはこいつらだな…………」

 

PCの画面には緑色のウィンドウともう1つ、地図を映しだしているいるウィンドウがある。

地図には赤い点が点滅しており十代と取巻はその画面を覗き込んだ。

 

「何だこの点?」

 

「逆探知先か?」

 

「正解。

あとはこいつらの居場所を海馬社長にメールで連絡して……」

 

「メールって絶対ばれるだろ!

大丈夫なのか?」

 

「平気、平気。

ダミーアドレスを使うから。

そこから俺を割り出すなんて絶対に不可能だし」

 

「…………お前、絶対天職違うだろ」

 

「あ、取巻もそう思うか?」

 

平然と高度な事をやる同級生に取巻は心底ありえないと思った。

取巻の微かな呟きに十代は激しく同意した。

 

「それよりさ聖星。

ここにサイバー攻撃をしかけた連中がいるんだろ?」

 

「あぁ、そうだけど」

 

「だったら、俺達でとっ捕まえようぜ!」

 

「え?」

 

「何を言ってるんだ遊城?」

 

「だってさ折角の大会を滅茶苦茶にしたんだぜ!

しかも海馬さん達がたどり着く前にそいつらが逃げるかもしんないだろ!」

 

新年を祝して開かれたデュエル大会。

しかも決闘王と戦えるかもしれなかったのだ。

こうなってしまえば大会が中止になるのは必然。

せっかくのチャンスを潰され、デュエリストとして黙っていられない。

そう力説する十代に取巻は強く頷く。

 

「遊城の言うとおりだ。

俺は賛成。

不動、お前はどうする?」

 

「本音を言えば行きたいけど、あまりにもリスクが高すぎる」

 

赤く光っている場所。

そこはこの海馬ランドからあまり距離もない。

だから時間的には問題はないのだが、問題は敵が何人かだ。

 

「地図で確認するとここは近々取り壊しが決まっているマンション。

一応どの部屋でウイルスを送ったのかまでは分かったけど、ハッカーが1人なのか複数なのか分からない以上たった3人で行くのは危険だ」

 

「んなもん、デュエルで倒せば良いだろ!」

 

「十代。

デュエリストの命であるプログラムにこんな事をするやつだぜ。

デュエリストとしてのプライドがあるかどうか…………」

 

「あ~~、も~~!

聖星は臆病すぎるんだよ!

とにかく、早く行かないと逃げられちまう!

俺は行くぜ!」

 

「十代!?

って、取巻までぇ!」

 

難しい考えが苦手な十代はそのまま聖星に背中を向け一気に走り出す。

聖星はすぐに止めようと思ったが取巻も一緒に行ってしまったため止めるタイミングを失ってしまった。

すぐに人ごみの中に消えてしまった2人に聖星は頭を抱えたくなった。

 

「どうする、聖星?」

 

「あの2人だぜ。

行くしかないだろ」

 

もし犯人が武器を持っていたらどうする気なんだ。

聖星は深いため息をつき、海馬にメールを送ってすぐにその場から走り去った。

 

**

 

同じ時刻、海馬コーポレーションのコンピュータールームにいる人達は我が目を疑った。

それはこの会社の社長である海馬も同じだ。

磯野から突然サイバー攻撃を受けているとの報告が入り、慌てて駆け付けた。

そうしたら彼の言う通りこの場はサイバー攻撃の対応に追われ騒然としていた。

 

「……馬鹿な、一体どうなっている?」

 

海馬は自分が打っていたPCの画面を凝視した。

そこにはウイルスは完全に排除したという文字が並んでいる。

 

「(このウイルスは今までにはない最新のもの。

そしてこの場にいる誰もがそれに対処できなかった。

認めたくはないがもう少しで我が社のシステムは乗っ取られていただろう。

だが、いきなり外部から何者かがハッキングしウイルスを破壊した……)」

 

あり得ない。

海馬の中にこの5文字が浮かび上がり上手く言葉を発する事が出来ない。

だがここは大企業の社長というべきか彼はすぐに威厳ある態度をとり、未だに動けないでいる部下達に指示を出す。

海馬の言葉にオペレーター達は我に返り次々とキーボードを打っていく。

 

「(我が社の社員が総力を挙げても対応できなかったサイバー攻撃を短時間で無力化した。

恐らくそいつの頭脳はこの中の誰よりもずば抜けている。

でなければそんな芸当は出来ん。

一体何者が…………)」

 

彼らが必死にシステムの復旧に勤しんでいる間、海馬は逆探知を開始した。

そして今まで自分が出会った、または耳にしたなかで該当する人間がいないか思い出す。

だがそんな人物など思い浮かばない。

逆探知もされないよう、対策も完全に施されている。

身元を特定されないための徹底した対応に海馬は口元に弧を描いた。

 

「(このまま野放しにするのは惜しい…………)」

 

だが、手掛かりが全くない。

諦めの悪い海馬はどうしたものかと思考を切り替えた。

すると1人のオペレーターが海馬を呼ぶ。

 

「どうした?」

 

「はい、今不審なメールが届きました」

 

「メールだと?

見せろ」

 

「はい。

スクリーンに出します」

 

PCに向けていた視線を大画面のスクリーンに映す。

そこには届いたメールが表示された。

メールには短い文章と地図が乗っており、それを読み終えた人達は再び騒ぎ出す。

 

「クズ共の居場所だと?

ふぅん。

実に面白い事をしてくれる。

おい、このメールの送り主を特定しておけ。

俺はここに向かう」

 

「はっ!」

 

「モクバ、車の用意をしろ」

 

「分かったよ、兄様!」

 

**

 

「くっそ、一体どうなってやがる!」

 

「おい、お前の自信作だろ!?

何で効かねぇんだ!?」

 

「誰かが妨害したんだよ!

畜生、一体どこのどいつだ!」

 

廃墟となっているマンションの広間で2人の男が揉めていた。

彼らはPCの画面を凝視し、ERRORの文字を見続けた。

ウイルスを作り出したハッカーは何度もキーボードを打ち、再び海馬コーポレーションにサイバー攻撃をしかける。

しかし何度繰り返してもERRORと表示されるだけ。

すると勢いよく扉が開く。

 

「なっ!?」

 

「誰だ!??」

 

振り返れば高校生くらいの少年が3人そこにいた。

彼らは険しい表情を浮かべ現れた少年、聖星達を睨み付ける。

 

「お前達だな、こんな事したのは!」

 

「なっ、どうしてここが分かった!?」

 

「こっちには天才ハッカーがいるんだ!

逆探知なんて楽勝なんだよ!」

 

「天才ハッカー……?

そうか、お前達かっ!!」

 

「俺の自信作を台無しにしやがって!!」

 

2人の男は悔しそうに顔を歪め聖星達を睨み付ける。

聖星は冷静に男達を観察し、彼らが武術に長けているか考えた。

しかし雰囲気や体格、筋肉からそれはないと判断する。

あとは武器を所持していないかだ。

 

「海馬コーポレーションにお前達の事は伝えた。

すぐに職員や警察が来るはずだ」

 

「くっ、小僧の分際で!」

 

取巻の言葉に男達は顔を真っ赤にし、左腕を前に出す。

そこには彼らには似合わない白銀の翼があった。

 

「へっ、デュエルか!

やってやるぜ!」

 

「誰が行く?」

 

相手は2人。

自分達は3人。

取巻は聖星と十代に目だけやり静かに尋ねた。

彼の問いかけに聖星は一歩下がる。

 

「俺はパス。

2人に頼めるか?」

 

「は?」

 

「おう!」

 

意外という表情を浮かべる取巻に対し、十代は軽く手を上げる。

確かに聖星も奴らをデュエルで叩き潰したい。

だが彼らが最後まで大人しくしているという保証もない。

だから聖星は彼らが不穏な動きをしたらすぐに対応できるようにした。

 

「俺達の怒りを思い知れ!!」

 

「その台詞、そっくりそのまま返すぜ!!」

 

「折角の大会をめちゃくちゃにしたんだ……

ただで終わると思うなよ……」

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

広い部屋に4人の声が響く。

十代の相手は小柄の男性で、取巻は体格の良い男性を相手にする。

 

「俺のターンだ!

俺は生け贄なしで【可変機獣ガンナードラゴン】を召喚する。

カードを一枚伏せターンエンド」

 

「ギュアアアア!!」

 

小柄の男性は怒りに任せてカードを引き、モンスターを召喚する。

現れたのは機械族のモンスター。

レベルは7なのだが生贄なしで召喚する事が出来る効果を持つ。

巨大なモンスターはすぐに半分くらいの大きさになり聖星は伏せカードに目をやる。

 

「(【ガンナードラゴン】か。

生贄なしで召喚した場合攻撃力と守備力が半分になるデメリットがある……

って事はあのカードは【スキルドレイン】か【禁じられた聖杯】?)」

 

デメリット効果により攻撃力が半減してしまうカードだがモンスター効果を無効にすれば攻撃力は1400から元の2800になる。

他に考えられるのが場から除外するもしくは表示形式を変更にするカード。

まさかウイルスカードを伏せてはいないだろう。

仮に伏せていたとしても十代のデッキは融合が主力の【E・HERO】デッキなので、発動されても大した損害はないはずだ。

するとメールを頼りに車を走らせた海馬と何故か乗ってきた遊戯、ペガサスの3人が到着する。

 

「ホワット!?

子供ではありませんカ。

どうして私達より先に来たのでショウ?」

 

「ふぅん、恐らく俺宛にここにサイバー攻撃をしかけた連中がいることを知らせた連中だろう。

そして逃亡しようとするクズ共を足止めしているといったところか」

 

「彼らを捕まえられるかは十代君達に掛かっているんだね」

 

彼らは窓の外から中の様子を見て気配を殺す。

窓から覗いて見えるのはデュエルをしている4人の姿。

まさか少年達が犯人だとは思えず、海馬は男2人に軽蔑の眼差しを向けた。

デュエルモンスターズの創始者と伝説のデュエリストが自分達を見ているとは夢にも思わない十代は勢いよくカードを引く。

 

「俺のターン!

手札から速攻魔法【サイクロン】を発動する!

悪いが、伏せカードには消えてもらうぜ!」

 

「ならライフを1000払い【スキルドレイン】を発動!

これで【ガンナードラゴン】の攻撃力は元通りになる!!」

 

「(やっぱり【スキルドレイン】か。

【サイクロン】はチェーン1で【スキルドレイン】はチェーン2だから、まずは【スキルドレイン】の効果は適応され場のモンスター達の効果は無効化される。

そして【サイクロン】で破壊され、モンスター効果を使う事ができるようになったけど……

【ガンナードラゴン】の攻撃力が2800に戻ったなぁ)」

 

一瞬だけだが自身の呪縛が解け【ガンナードラゴン】は巨大化する。

そして攻撃力に似合う凶暴さを取り戻し十代を見下ろす。

 

「これで【ガンナードラゴン】の攻撃力は2800!

どうだ小僧!

これで俺の勝ちだ!」

 

「へっ。

だったらその攻撃力をもう1度半減させてやるよ」

 

「何?」

 

「俺は手札から魔法カード【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に捨てる!

俺は【E・HEROワイルドマン】と【フェザーマン】を墓地に捨てるぜ!

そして、【ミラクル・フュージョン】を発動!

墓地の【フェザーマン】と【ワイルドマン】を融合し、【E・HERO Great TORNADO】を特殊召喚する!

荒ぶる風を巻き起こし全てを吹き飛ばせ!!」

 

墓地に存在する2体の英雄は異空間の彼方へと飛ばされるが、彼らの力を合わせた英雄が突風と共に舞い降りる。

荒々しい風を纏いながら現れた英雄にペガサスは目を見開いた。

 

「なんですか、あの【E・HERO】は!?

ミーの知らない【HERO】デース」

 

「え、ペガサスも知らないの!?」

 

「イエース……

一体あのボーイはどこであのようなカードを……」

 

「【Great TORNADO】の効果発動!

融合召喚に成功した時相手モンスターの攻撃力を半分にする!」

 

「なっ、そういう事か!」

 

先ほど十代が言った言葉を理解した男は目を見開く。

【Great TORNADO】はすぐに風を巻き起こし、【ガンナードラゴン】を後退させる。

荒々しい風に怯んだのか【ガンナードラゴン】は怯えるかのように縮こまる。

 

「さらに【融合】を発動!

手札の【スパークマン】に【クレイマン】を融合させ、【サンダージャイアント】を特殊召喚!」

 

「はっ!」

 

「【サンダージャイアント】で【ガンナードラゴン】に攻撃!」

 

【サンダージャイアント】は巨大な両腕に稲妻を走らせ、その力を凝縮する。

電気の音を発しながら光る球体は彼の手から放たれ【ガンナードラゴン】を破壊した。

攻撃力が1400に戻った【ガンナードラゴン】は一瞬で感電し、砕け散る。

同時に男のライフが1000ポイント削られて2000になった。

 

「……そんな、まさか……」

 

「【Great TORNADO】でダイレクトアタック!」

 

「うわぁああ!!」

 

「ガッチャ、楽しいデュエルだったぜ!」

 

衝撃によって吹き飛ばされた男に対し、十代は笑って言う。

いつも通りの彼の決め台詞に聖星は微笑んだ。

いくら相手が相手でもデュエル自体は好きだからそう言うのだろう。

 

「遊城も終わったようだな」

 

「取巻。

お前も凄かったな。

【大嵐】、【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】、【一族の結束】、【速攻召喚】で相手のライフを0にするなんてさ」

 

まずは相手に先攻を譲り、伏せカードを全て【大嵐】で破壊。

【苦渋の選択】でドラゴン族モンスターを墓地に送ってドラゴン族を通常召喚。

その後【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を特殊召喚。

【レッドアイズ】の効果でドラゴン族を特殊召喚し、追撃として【速攻召喚】を使用。

しかも【一族の結束】で攻撃力を上げているという。

素直に褒められた取巻は当然だろうという表情で言う。

 

「はぁ?

それくらいしないと俺の気が収まらないんだよ」

 

「だよな」

 

一生に1度しかないチャンスを無駄にされたのだ。

表面上は冷静だが腹の中では怒り狂っていたのだろう。

ワンキルなどまだ温いレベルだ。

そう思っていると男の1人が立ち上がり、声を張り上げた。

 

「この、糞ガキ共!」

 

「え?」

 

「っ、遊城!」

 

「十代君!」

 

部屋に響く声に後ろに振り返ると男が十代に向かってナイフを振り落す。

突然の事に取巻と遊戯は彼の名を叫び、十代は体が動かないのかナイフを見る事しか出来なかった。

すると間に聖星が入り、男の手首を掴んで強く引っ張る。

引っ張られた事で男は傾き、聖星は無表情のまま男の顔に膝蹴りを食らわせた。

 

「ガハッ!?」

 

男は鼻から血を流し反動で後ろに倒れそうになる。

だがこれで終わるはずがなく男の懐に入り込んだ聖星は強く握りこぶしを作り、勢いよく叩き込んだ。

カエルが潰れたような声が聞こえたが容赦はせずそのまま踵落としで相手を沈める。

土埃が舞い、地面とご挨拶をしている男はピクリとも動かず聖星はもう1人の男に振り返った。

そして素早く気絶させる。

一瞬の出来事に上手く言葉が出ない取巻達。

だが十代だけは目を輝かせながらすげー!と騒ぐ。

 

「さっすが聖星だぜ!

なぁなぁ、今のどうやったんだ??」

 

「どうって、え、普通に」

 

「普通であんな事できるわけねぇだろ!」

 

「そうかぁ?」

 

「…………お前、本当に腕っ節が強いな」

 

何度か聖星の拳を受けた事がある十代は映画のワンシーンのような格闘術に興奮している。

それに対し取巻は龍牙先生の事を思い出し、引きつった笑みを浮かべた。

こんな反応に慣れっこな聖星は気絶した2人を何で縛ろうかと考えた。

すると拍手が聞こえてくる。

 

「お見事デース」

 

「うん、凄かったよ3人共!」

 

「え?」

 

別の入り口から聞こえてくる声。

自分達以外の声に一瞬だけ警戒したが、声の主を視界に入れると間抜けな声を出してしまう。

それも仕方ないだろう。

何故なら拍手を送ってくれた人達はあまりにも有名人なのだから。

 

「ペガサスさんに遊戯さんに、海馬さん……?」

 

「本物……?」

 

「何でこんなところに?」

 

まさかの登場人物に全く気付かなかった3人は固まる。

ペガサスと遊戯は友好的な眼差しを向けているが、海馬だけは異なり聖星に対し厳しい眼差しを向けている。

それに気が付いている聖星は背中に大量の冷や汗を流した。

 

「(あ、俺どうしよう)」

 

END

 




ここまで読んでいただき有難うございます!
遂に遊戯達の登場です!
遊戯や海馬と関わらせるにはこれしか手はないだろう!と思いこのような形にしました。


Qデュエル大会で遊戯と戦うんじゃないんかい!
Aそれじゃあ社長が興味を示しません
 彼のデュエルディスクはカスタマイズ済みでも外見は一般のデュエルディスクと同じだから

Q社長はヘリだろ!
Aヘリじゃプロペラ音で気づかれます
 結果、聖星は身を隠します
 今回は身を隠す暇がなかったよ、やったね!


さぁ次回はアンケートで決めたデュエリストとのデュエルです!
アンケートでは遊戯への票が1番多かったので、遊戯とのデュエルを書きたいと思います。
(うわぁ…構成が大変だ。)
これにて対戦相手へのアンケートとオリキャラに対するアンケートは締め切らせて頂きます。
2人目のオリキャラは長編には出さない方針で行きます。
投票してくださった皆様、有難うございました!


今更ですが聖星の年齢について。
シャークさんって14歳ですよね。
聖星はシャークさんと同い年。
ゼアルの制服を見ると1年は赤、2年は緑、3年は青。
つまり聖星は中学2年生。

ZEXALⅡにトリップ&帰還:中学2年生(14歳)

帰還直後アカデミアの入学試験を受ける

アカデミアは秋入学
(本来なら中学3年生)

冬休みで正月が過ぎた←今ここ

つまり聖星、エドと同い年なんです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話 新たな扉の鍵、4体のドラゴン

デュエル大会に参加した聖星達。

しかしそのデュエル大会は何者かのサイバー攻撃のせいで滅茶苦茶にされ、聖星達は犯人である男2人組を倒した。

そこまでは良かったのだが……

背後から声をかけてきた伝説のデュエリストの存在に動揺が走った。

 

「え、え?

どうして遊戯さん達がここに!?」

 

流石の十代でも伝説のデュエリスト3人に会えた事は衝撃だったようだ。

いつもと違い緊張気味の声で恐る恐る尋ねる。

取巻は完全に硬直しており、海馬コーポレーションにハッキングをした聖星はどうやってこの場を切りぬけるか必死に考えていた。

海馬は聖星達を見定めるように見ながら十代の言葉に答える。

 

「ふぅん。

何者かがこの俺にここに犯人がいるというメールを寄越してきた。

半信半疑だったがメールの通りここにくると俺の海馬ランドを乗っ取ろうとしたクズ共とお前達がいたという事だ」

 

つまり海馬達は聖星のメールでここに来たという事だ。

メールを出した張本人である聖星はある程度こうなる事を予想はしていた。

しかしこんなに早く急行し、さらに海馬だけではなく遊戯、ペガサスまで来るとは全く予想しなかった。

すると海馬は何かを思案するかのように黙り、ゆっくりと聖星達に歩み寄る。

 

「我が海馬ランドに仕掛けられたらサイバー攻撃を全てかわし、かつ逆探知までしたのは貴様か?」

 

そして聖星の前で立ち止まった。

 

「っ…………」

 

真っ先に自分まで進んできた海馬の言葉に聖星は僅かに目を見開きながら彼を見上げる。

何の迷いもなく自分にまで歩み寄った彼の言葉には確信の色があった。

じっと海馬の目を見たが誤魔化せる気がしない。

聖星は体中から冷や汗が流れるのを覚えながら慎重に言葉を選んでいく。

 

「はい。

いくら事態を沈静化させるためとはいえ、勝手に海馬コーポレーションのシステムに侵入してしまい申し訳ございません」

 

大企業の社長からしてみれば例え助けるためとはいえ勝手に侵入した事は腹が立つ事。

なるべく大事にはしたくない一心で素直に頭を下げる。

それでも海馬から放たれる威圧感は全く衰えなかった。

すると緊張しながら頭を下げる聖星と海馬の間に慌てて遊戯が入ってくる。

 

「そんな……

君がしたことは正しいとは言い切れないけど、友達や今日の大会を楽しみにしていた人達を助けたんだ。

たから顔を上げて。

海馬君も許してくれるよ。

そうだよね海馬君」

 

確認するかのように海馬を見上げる遊戯。

だが海馬は遊戯の言葉など全く耳を貸さず別の言葉を発した。

 

「貴様、名は?」

 

海馬からの問いかけに顔を上げた聖星は小さく息を吐き、しっかりと海馬の目を見て名乗った。

 

「聖星……

不動聖星です」

 

「(不動聖星……

俺と社員が全力を上げても防げなかったサイバー攻撃をいともたやすく防いだ。

コンピューターに関する頭脳はずば抜けているといっていい。

そして武器を持っている相手でも怯まず、それどころか瞬時に気絶させるだけの力量……

俺相手で怯んでいるのは緊張ゆえ、ではなさそうだな。

不都合なところを見られてしまいどうやって誤魔化そうか考えている顔か。

先ほどの時点で度胸があるのははっきりしている。)」

 

人一倍優れている知識。

そして武術。

誰もが羨むような技術を彼は持っている。

海馬は会社を出るとき、この人物を特定した後どうしようかと様々な事を考えていたがこの若さなら問題はない。

 

「貴様、俺の下で働く気はないか?」

 

「…………え?」

 

「はぁ!?」

 

「えぇ?!」

 

海馬の言葉に驚きの色を表す少年達。

やっと硬直状態のとけた取巻だが海馬の発言に再び固まり思考が停止した。

聖星は意外な言葉でも投げかけられたような表情で、一気に緊張が抜けたのか首をかしげている。

 

「あの……

俺は学生ですよ?

まだ15ですし。

そんな俺を引き抜くのですか?」

 

「構わん。

貴様は幾度となく対応を変えたサイバー攻撃をものともしなかった。

更には先程の身のこなし。

コンピューターに関する知識、武術、並大抵のものではない。

今すぐ俺の下で働け。

無論、俺が引き抜くのだ。

それなりの地位を与えてやる」

 

まさかそっちの方面の言葉が来たか。

意外すぎる勧誘に聖星は困ったような表情を浮かべる。

別に聖星からしてみれば古い技術を最新の技術で対処したようなもの。

あの海馬瀬人にここまで言わせる程の事をしたとは思っていない。

 

「えっと……」

 

「すげぇじゃん、聖星!

まさかお前、あの海馬コーポレーションで働けるんだぜ!」

 

「え?」

 

「まさか断る気か、不動!

あの海馬コーポレーションだぞ!

こんな話、千載一遇のチャンスだ!」

 

「落ち着けって2人とも。

それに働けるって、俺地方出身だぜ。

どうやって通えっていうんだよ」

 

十代は純粋に目を輝かせており、取巻は今までに見たことがない程の真剣な表情だ。

2人からしていれば友人が大企業に勤めるかもしれない場面だ。

しかもデュエリストとして憧れの会社で別に悪い話ではないはず。

だが肝心の聖星には未来人という理由があり、どうしても断りたい。

嘘も方便で理由を並べようとしたが、海馬がこう言ってくる。

 

「それがどうした?

身一つで構わん。

学校もこの近辺に転校させてやる。

どこに通っている?」

 

「あ~……

デュエルアカデミアです」

 

「デュエルアカデミアだと?

ならば特例で卒業させてやろう」

 

やはりこうなるか。

遠ければ近いところまで引っ越せば良い、と実に簡単に断言されてしまい頭を抱えた。

聖星は必死に他の理由を考え、何とかこの状況を切り抜けようとする。

だが十代と取巻は顔を見合わせ不思議そうな表情を浮かべた。

 

「と、特例!?」

 

「どうしてだ?」

 

「海馬さんはデュエルアカデミアのオーナーなんだよ」

 

「マジかよ!?」

 

「なら卒業させるのは簡単って事か」

 

海馬がアカデミアのオーナーというのなら聖星を早期卒業させる事などいとも容易い。

聖星も海馬の言葉に頷けば互いに同意したという事で鮫島校長も笑顔で判を押すだろう。

 

「いや、その……」

 

上手く言葉が発せられない聖星。

様々な事を理由にして断ろうとするが、海馬の権力、財力、頭脳があれば全て理由をへし折られそうな気がしてならない。

 

「海馬君、急に話をせかしすぎ!

聖星君困惑しているでしょう!」

 

「何だ遊戯。

これは俺の仕事だ。

邪魔をするな」

 

「あのねぇ、君にとってはビジネスでも彼にとってはそうじゃないんだよ!

君ってさ、本当昔から強引だけど聖星君の意見もちゃんと聞いてあげようよ」

 

「遊戯ボーイの言う通りデ~ス。

それに今は聖星ボーイの勧誘より、彼等を警察に引き渡すことが優先のはずデ~ス」

 

自分の前に入ってきた遊戯。

僅かに身長が低いためつい見下ろしてしまうが、彼の背中はこの中の誰よりも頼もしく見えた。

ペガサスも遊戯の言葉に同意し伸びている男達を見下ろす。

 

「それに海馬君は聖星君の事より今回の事、記者会見しなくて良いの?」

 

「ぐっ……!」

 

「きっと今頃マスコミが大騒ぎだよ」

 

「チィ!」

 

そう、仮にも大企業が主催の大会中にトラブルがあったのだ。

主催者側として記者会見をし参加者に詫びる必要がある。

海馬は忌々しそうに男達を見下ろし聖星達に背中を向ける。

 

「ならば俺はひとまず先に戻る。

不動聖星、貴様にはまた後日こちらから連絡する。

話はそれからだ」

 

そう言い残し、海馬は車が待つ場所へと向かった。

彼の背中を見送ると聖星はゆっくりと息を吐き出す。

 

「俺、目をつけられたかな」

 

予想外の展開にどうしようかと真剣に頭を抱えたくなった。

聖星の言葉の意味を理解した遊戯は苦笑を浮かべる事しかできない。

するとペガサスが手をたたき皆は彼を見る。

 

「そうで~す、大会を妨害した彼らに立ち向かった勇敢なボーイ達。

ここで会ったのも何かの縁デ~ス。

私と遊戯ボーイ、そしてユー達で食事にでもしませんカ?」

 

「ペガサスさん達と食事!?」

 

「マジですか!?

是非ご同行させてください!」

 

「では、改めて自己紹介をさせていただきマ~ス。

私はペガサス・J・クロフォード、デュエルモンスターズの創始者デ~ス」

 

「僕は武藤遊戯。

よろしくね」

 

「俺は遊城十代です!

よろしくお願いします、遊戯さん、ペガサスさん!」

 

「取巻太陽です。

お二人と一緒にお食事できるなんて光栄です!」

 

分かりやすいくらい目を輝かせる十代と取巻。

聖星もこんな状況でなければ素直に喜んでいるのだが、海馬の事もあり聖星は今後の事でお腹が痛くなった。

正直にいうと食事どころではない。

このまますぐにデュエルアカデミアに退学届を出し、住んでいるアパートも解約して別人として生きていきたいレベルだ。

 

「…………家に帰りたい」

 

**

 

それから警察に彼らを引き渡し、聖星達はそのままレストランへと足を運んだ。

流石は有名人であるペガサスが選んだというべきかあまりにも高級品溢れる場所で3人とも硬直してしまった。

それに対し遊戯はもう慣れたようで動揺もなく対応している。

彼らとの会話はとても楽しく、ペガサスと遊戯の武勇伝を聞くだけだというのにあっという間に時間が過ぎていった。

十代と取巻は次のどんな事が彼らの口から語られるのか楽しみで仕方がなく、食事にはほとんど手を付けていない。

 

「そういえば十代ボーイ、太陽ボーイ。

ユー達のデュエルは実に素晴らしいものデシタ」

 

「うん。

十代君の【E・HERO】も見た事ないモンスターだったよね。

何処であのカードを手に入れたの?」

 

実にさりげない会話。

この2人の会話にどんな意味があるのか聞かれた十代と取巻が見抜けるはずがない。

大した疑問も抱かず十代は笑顔で答える。

 

「はい。

あのカードは聖星にもらったんです。

取巻の【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】もだよな」

 

「あぁ」

 

「ほぉ、あのカードは元々聖星ボーイのものだったのですカ」

 

創始者であるペガサスはカードを全て把握している。

以前は自分が全てを手掛けていたが今は社員にもカードのデザインを頼み、それを世にはなっている。

当然社員が作るカードすべてに目を通し、カードの名前、絵柄、効果、ステータスも完璧に覚えた。

それなのに聖星が持っていたというカードは全く覚えがない。

ペガサスは聞き手に回り大人しく自分達の会話を聞いている少年に気づかれないよう目をやった。

 

「そうデ~ス、実はユー達に見てもらいたいものがありマ~ス」

 

「見てもらいたいもの?」

 

ペガサスの言葉に遊戯達4人は彼に視線を集中させる。

自分がアメリカから持ってきた愛用のカバンを膝の上に置き、その中から一冊のスケッチブックを取り出した。

まだ真新しくほとんど傷がないもので、中に描かれているものも少ない。

 

「実は私は夢の中でとても素敵なドラゴンと出会いました」

 

「ドラゴン?」

 

「イエ~ス」

 

ペガサスの言おうとしている事に唯一話を聞いた遊戯はすぐに気づき、3人に目をやる。

聖星達は純粋に不思議そうな表情を浮かべ彼の言葉を聞いていた。

 

「そのドラゴン達は実に勇敢で美しく、思わず絵に描いてしまったのデ~ス。

それで、そのドラゴン達をモンスターのデザインとして採用しようと思っていマ~ス」

 

自分に何かを訴える形で夢の中に現れたドラゴン達。

彼らの姿は本当に神々しく、目が覚めたペガサスは赤い竜の言葉を理解したと同時に彼らの姿を忘れまいとスケッチブックに描いていた。

まだ着色まではしていないが、ある程度の線は引けている。

 

「ペガサスさんの描いた絵を見せてくれるんですか!?」

 

「はいはい、是非見たいです!!」

 

「え、え?

食事にまで誘って頂けただけでも光栄なのに原画まで拝見して良いのですか??」

 

モンスターのデザインとして採用されるかもしれない絵を見る事ができる。

十代と取巻は年相応の反応を示し、聖星も嬉しそうだがどこか遠慮気味に恐る恐る尋ねてきた。

創始者、決闘王の2人と一緒に食事だけでも世界中のデュエリストから羨望されるというのに、さらには原画を見せてもらえるというのだ。

性格が出る反応にペガサスはにっこりと笑った。

 

「ノ~プロブレムデ~ス。

よろしければ、彼らに相応しい名前も考えてくだサ~イ。

もし素晴らしければカードの名前に採用しマ~ス」

 

「本当ですか!?」

 

「わ、分かりました!」

 

ペガサスからスケッチブックを受け取った十代はすぐに表紙を開く。

 

「すげぇ――!」

 

「なんて迫力のあるドラゴンなんだ……」

 

表紙を捲って自分達の目に入ったのは、雄々しく翼を広げ全ての頂点に立つかのような迫力がある。

悪魔のような角を持つドラゴンは本当に勇敢なドラゴンとしか言いようがなかった。

まだ線しかないのだが今にも動き出しそうで十代と取巻は興奮で鼓動が高鳴った。

次のページを捲ると2体のドラゴンが出迎えてくれた。

 

「これは……

薔薇ですか?」

 

「そうデ~ス。

そのドラゴンはまるで薔薇のようにビューティフル。

夢の中では薔薇の花びらが舞う炎で攻撃していましタ」

 

「やべぇ、かっけぇ、すげぇかっけぇ!」

 

美しく、とても気高い薔薇のドラゴン。

その隣には体が細長いドラゴンが描かれている。

高貴なドラゴンなのか体中に宝石等の装飾品を纏っており、その眼は不思議と優しさを覚えた。

ただの絵なのにここまで感じてしまうのは、描き手であるペガサスの画力が凄いからなのだろう。

そして次のページを捲った。

 

「…………綺麗だ」

 

これを呟いたのは取巻だ。

最後のページに描かれていたのは最初のドラゴンと対をなすかのような存在。

薔薇のドラゴンとは違う美しさを持つ姿に心を奪われそうになった。

十代は興奮の容量が超えてしまったのかもう耐えきれないとでも言うかのように顔を上げ、目を輝かせながら話し始める。

 

「凄いです!

俺、今までいろんなドラゴンを見てきましたけどこいつらはそのドラゴン達に全く劣りません!

早くカードになったこのドラゴン達と戦ってみたいです!

きっとかなりの強敵になるに決まっています!

それにこんなに凄いドラゴン達が夢に出てくるだけじゃない、それを再現できちまうなんて流石ペガサスさんです!

お前もそう思うだろう、あ……」

 

聖星、と十代は呼ぶつもりだった。

だがその言葉は聖星の顔を見た時何故か続かなかった。

隣に座っている彼は今まで見た事がないような表情を浮かべ、ただそのページに描かれているドラゴンをみつめている。

 

「(何だ、この違和感……?)」

 

自分と取巻のように興奮し、感動しているわけじゃない。

今の聖星には嬉しさだけではなく別の何かが混ざっている。

だがその何かが上手く言葉に表現できない。

胸にもやもやとすっきりしない疑問が浮かび十代は聖星の名前を呼ぶ。

 

「聖星……」

 

「ん?

どうした、十代?」

 

「あ、いや……

なんかさ、このドラゴン凄いよな。

どんな名前が似合うかな~って。

聖星はどんな名前が良いと思う?」

 

顔を上げて自分を見てきた聖星に十代は慌てて言葉を並べる。

何故か焦っている友人の様子に聖星は怪訝そうな表情を浮かべたが、十代の言葉に微笑んでこう続けた。

 

「そうだな…………

―――――なんてどうだ?」

 

聖星が提案した名前に遊戯が顔を上げた。

 

**

 

「今日は本当にありがとうございました」

 

「俺、今日の事は絶対に忘れません!」

 

「貴重なお話をしていただきありがとうござます!」

 

外はすっかり茜色に染まり、行きかう人々は慌ただしい。

聖星達はペガサスと遊戯に深く頭を下げ、改めて礼を述べた。

 

「いえ、ミーの方こそとても楽しい時間を過ごせましタ~。

もし機会があれば、またユー達と食事をしたいデ~ス」

 

「うん。

その時は皆ともデュエルしたいね」

 

「本当ですか!?

じゃあ、今すぐデュエルしませんか!」

 

「遊城。

今から帰らないと真夜中だ」

 

「そうだぜ十代。

ご両親に怒られてもいいのか?」

 

「うぐぅ…………」

 

的確な2人の突込みに十代は返す言葉もない。

本当なら遊戯さんとのデュエルだぜ!?お前達だってデュエルしたいだろ!?と押し切りたい。

だが遊戯とペガサスには多くの事を話してもらい、さらにはサインも書いてもらったのだ。

これ以上我儘を言うのは失礼な気がして大人しく引き下がるしかない。

 

「では、ミーと遊戯ボーイは海馬ボーイのところに行きマ~ス」

 

「海馬君、不機嫌だろうなぁ」

 

聖星達と別れ、海馬のもとに向かおうとするペガサス達。

ペガサスはにこやかに笑っているが遊戯はこれからの事を思うと少し憂鬱である。

同時に磯野達に胃薬等の差し入れを買った方がいいだろうかと考えた。

 

「聖星も、もしかしたら今日中に海馬さんから連絡があるかもな」

 

「嫌な事思い出させないでくれよ」

 

「嫌な事って、不動。

お前自分がどれほど羨ましい状況か分かってないだろ?」

 

十代の軽い冗談に聖星は再び頭を抱えた。

ただ大会に参加しただけなのに、次から次へと不安な事が起こる。

今日は厄日だと思いながら聖星は曖昧に返す。

 

「じゃあ、今から一緒に海馬君のところに行く?」

 

「「「え?」」」

 

まさかの言葉に3人は遊戯を凝視する。

微笑みながら聖星を見ている遊戯はもう1度繰り返す。

 

「きっと海馬君の事だから十代君の言う通り、今日中に連絡をすると思うよ。

今日が駄目なら明日の早朝かな。

彼、凄く執念深いから早めに説得しないと後々大変だよ」

 

かつてはライバルと言われ、海馬のデュエルを間近で見てきた遊戯だから言える台詞だろう。

昔を懐かしむように海馬の性格を口にした遊戯だが、その対象となっている聖星にとっては笑いごとではない。

 

「けどよ、聖星の家ってここから遠いんだろ?」

 

「それは大丈夫デ~ス。

きっと海馬ボ~イが送ってくれるでしょう」

 

「それなら今日行こうかな」

 

たった数分しか言葉を交わしていないが海馬の性格はだいたい把握した。

それに遊戯の言葉を考えると今日中に話をつけておいた方が良いかもしれない。

彼らと一緒に行く事には聊か不安はあるが1人で海馬と会うのも不安である。

聖星は腹を括って行く意思を示した。

 

「じゃあ聖星。

またメールするからな」

 

「どうなったのか、ちゃんと詳しく話せよ」

 

そろそろ時間も時間故、2人は少し残念そうな表情を浮かべながら聖星と別れる。

友人達の後ろ姿をみつめながら聖星は遊戯とペガサスを見て十代達との会話を思い出す。

 

「(遊戯さんはともかくペガサスさん、絶対に俺について怪しんでるよな)」

 

「そうだろう。

食事の最中、何度もお前に鋭い目を向けていた」

 

聖星の心の中での呟きに【星態龍】は同意する。

この世に存在するカードはあまりにも多すぎて把握しているネットワークも書籍もない。

だから取巻と十代に異世界のカードを譲る事が出来たのだ。

しかし【Great TORNADO】と【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の話題になった時ペガサスの表情が微かに変化した。

あの時の顔は自分が知らない物の存在がある事への驚き。

つまりペガサスはあの2枚のカードは正規のカードではないという事を見抜いている。

 

「(このまま一緒にいたらちょっとした言葉で余計に怪しまれると思うけど。

今は遊戯さんがいるから大丈夫かな)」

 

「いくらペガサスといえども決闘王の前なら下手は発言はしないだろう。

最悪燃やす」

 

「(おいおい、仮にも【星態龍】の生みの親でもあるんだぜ。

そんな事言うなって)」

 

流石にペガサスと2人きり、という状況なら聖星は海馬と会う事を後日にしただろう。

だが今回は遊戯もいるためペガサスも下手な事は言ってこないと思って今日にしたのだ。

当然その選択が大きな間違いである事に聖星と【星態龍】は気づかなかった。

 

「そういえば聖星ボーイ。

先ほど尋ねるのをすっかり忘れていましたが、ユーはあのカードをどこで手に入れたのですか?」

 

「(うわ、いきなり来た)

え、あのカードですか?

あのカード達は地元にあったカード店で買ったんです」

 

この言葉は十代達にも使った台詞だ。

十代はその店を訪れたかったようだが聖星に潰れたと教えられ、酷く残念そうにしていた。

調べればすぐに嘘だとわかる言葉だがこの場を凌げれば良いと思っている。

ペガサスは友好的な笑みを消し、獲物を狩るかのような顔をする。

 

「ふむ……

確かに嘘は言っていないようです、バット、大事な事を話していませんね」

 

「大事な事って……

俺は別に何も隠していませんよ」

 

いつものように微笑み、そのまま言葉を続ける聖星。

あくまで話す気はない聖星は遊戯に意識を向けようと彼に目をやった。

 

「……そうですか。

実は1つ。

十代ボーイ達には話していない事がありマ~ス」

 

「え?」

 

いきなり話題が変わり、聖星はペガサスに振り返る。

自分の鞄を開けてスケッチブックを取り出したペガサスは1枚1枚ページを捲りはじめた。

 

「先ほどユー達にはドラゴンの絵を見せましたね。

その夢にはもう2体、ドラゴンがいたのデ~ス。

バット、何故かその2体のドラゴンを描くことができませんでした。

実にワンダフ~ル。

そのうちの1体、赤いドラゴンが「今日のデュエル大会にデュエルモンスターズの新たな扉を開くデュエリストが現れる」とミーに教えてくれたのデ~ス」

 

「赤い竜……?」

 

「なるほど、赤き竜がこの男に見せたのか。

それならこの男があのドラゴン達を描くことが出来たのも納得だな」

 

肩に乗っている【星態龍】の口から放たれた言葉に聖星は小さく頷いた。

赤き竜とはかつて父から聞いた事がある名称。

詳しい事は忘れてしまったが、父が大切な仲間と巡り合えたきっかけを作った竜だと聞いている。

 

「十代ボーイと太陽ボーイが使う見た事もないカード。

それの元々の所有者だった聖星ボーイ。

誰がそのデュエリストかは明白デ~ス」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。

新しい扉?

俺がそんな凄いデュエリストなわけないじゃないですか」

 

いや、上辺ではそう言っているが本当は思い当たることが多すぎる。

デュエルモンスターズの新しい扉、そしてペガサスが描いたドラゴン達のデザイン。

今の聖星の頭にはシンクロモンスターの事が思い浮かんでいる。

 

「決定的な確信はユーにドラゴンの絵を見せたときに得ました。

最後のページに描いたドラゴンを見たときのユーの目は、初めて見るものに向ける目ではありまセ~ン。

懐かしいものに再会し、嬉しかった目でしょう。

他にも悲しみが伝わってきましたが……

外れていますか?」

 

「っ!?」

 

『再会した喜び』と『悲しみ』。

ペガサスが口にした言葉はあまりにも的を射ていた。

そしてペガサスは最後のページに描かれているドラゴン、【スターダスト・ドラゴン】の姿を聖星の前に差し出した。

 

「ユーは何故このドラゴンを知っていたのですカ?」

 

「そ、それは…………」

 

それは聖星が未来人で、聖星の父である遊星のエースが【スターダスト・ドラゴン】だから。

口にすれば簡単な事だがあまりにもその内容はバカバカしいもの。

いくらデュエルモンスターズの創始者であり赤き竜の夢を見た男でも馬鹿にされるに決まっている。

口籠っていると遊戯が聖星の肩に手を置いた。

 

「あ、遊戯さん」

 

「聖星君、大丈夫?

ペガサスもそんな怖い顔で詰め寄ったら駄目だよ。

ただでさえ聖星君、海馬君の事もあって疲れているんだからさ」

 

「ソーリー、ついデュエルモンスターズの事となると熱くなってしまうのデ~ス。

気を悪くしてしまったら申し訳ございまセ~ン」

 

遊戯の言葉にペガサスは悪戯っ子のような笑みを浮かべ軽く頭を下げる。

どう返せばいいのか分からない聖星はとりあえずペガサスから距離をとる。

 

「そうだ、折角だし気分転換に僕とデュエルしない?」

 

「え、遊戯さんと!?」

 

「うん。

どうせ海馬コーポレーションはすぐ近くだし。

少しくらい遊んだって大丈夫だよ。

それとも僕じゃ役者不足?」

 

「いえ、とんでもありません!

俺、遊戯さんとデュエルしたかったから今日のデュエル大会に参加したんです!

むしろこちらからお願いしたいくらいです!」

 

先ほどまで口籠っていた聖星はまさかの誘いに目を輝かせ嬉しそうに笑った。

今日は厄日だが同時に最高の日でもあるに違いない。

生きる伝説とデュエルが出来るだなんて嬉しくて仕方がない。

傍から見ても楽しそうな少年の笑みに遊戯は微笑み、ペガサスも肩から力を抜いた。

 

「場所はここで良いかな?」

 

「はい。

大丈夫です」

 

遊戯が選んだのは少し人影の少ない場所。

あまり目立たない場所で人目を気にせずにデュエルをするのならうってつけだ。

遊戯は昔から使っているデュエルディスクを身に着け、聖星もデュエルアカデミアのを腕に付ける。

互いにデッキをセットしライフポイントが表示される。

 

「「デュエル!!」」

 

END

 




中途半端なところで切るなよ!!と言われそうですが社長に勧誘される聖星が書けたので満足です。
次回は最初から最後までデュエルにしたいと思います。
本当なこのお話でデュエルも書くつもりだったのですが、そうなったら更新日がいつになるやら……
なのできりの良いここで区切らせて頂きました。


遊戯とのデュエル…
近くのレンタル店が本気で私に喧嘩を売るレベルで遊戯王DMのビデオとDVDがありません。


そして今月は十代のSDが発売しますね!
【M・HERO】の全属性が揃って嬉しい限りです。
これは絶対に買いますね!
【C・HEROカオス】さんも今後の環境にどう対応するのか気になります。


あとARC-Vを毎週見ていますが。
早くシンクロ来い。と祈りながら見ています。
遊戯王の召喚の中では1番シンクロ召喚が好きなので早くアニメで動く姿が見たいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話 神のみの世界

「「デュエル!!」」

 

裏路地に響いた遊戯と聖星の声。

デュエルディスクが起動し、互いにデッキからカードを5枚ドローした。

 

「まずは聖星君、君のターンだ」

 

「はい、ありがとうございます、遊戯さん。

俺のターン、ドロー」

 

デッキからカードをドローした聖星は唯一の観客であるペガサスに目をやる。

彼は聖星のデュエルを見定めるように真剣な顔つきでそこに立っている。

自分を新しい鍵だというペガサスの前でのデュエルはやり辛さを覚えるが、遊戯とのデュエルだ。

深呼吸をした聖星はいつものようにデュエルをするよう心掛けた。

 

「俺は手札から魔法カード【グリモの魔導書】を発動します」

 

「【グリモの魔導書】?」

 

「ふむ。

また私の知らないカードですカ」

 

聖星が発動するのは【魔導書】デッキのエンジンであるカード。

これは遊馬達の世界で手に入れ、聖星の時代には存在しないものだ。

当然遊戯とペガサスが知るわけがない。

 

「このカードは1ターンに1度しか発動できず、発動した時デッキから【魔導書】と名の付くカードを1枚手札に加えます。

もちろん【グリモの魔導書】は加えられません。

俺は【セフェルの魔導書】を加えます。

そして【魔導戦士フォルス】を攻撃表示に召喚」

 

「はぁ!」

 

聖星の場が輝き、中から炎の色を持つ女性戦士が姿を現した。

彼女の周りには魔法の文字が浮かび上がり、獅子を模した盾に手を置く。

表示された攻撃力は1500.

 

「そして【セフェルの魔導書】を発動します。

このカードは俺の場に魔法使い族モンスターが存在し、手札の【魔導書】を見せる事で墓地の【魔導書】の効果をコピーします」

 

「聖星君の場には【魔導戦士フォルス】が存在する。

そして墓地には【グリモの魔導書】。

つまり君はもう1枚デッキからカードを手札に加える事が出来る、って事だね」

 

「はい。

そういう事になります。

俺は手札から【ヒュグロの魔導書】を見せ、デッキからフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】をサーチします。

そしてフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を発動」

 

デュエルディスクのフィールド魔法ゾーンが開かれ、そこにカードをセットする。

すると周りに光が満ち溢れ大地から巨大な建物が出現する。

 

「【魔導戦士フォルス】の効果発動。

墓地に存在する【魔導書】を1枚デッキに戻すことで魔法使い族モンスターの攻撃力を500ポイント上げます。

俺は墓地の【グリモの魔導書】をデッキに戻し【フォルス】の攻撃力を1500から2000にアップ」

 

「凄い。

1ターン目から攻撃力2000のモンスターを召喚したなんて」

 

【フォルス】の周りに浮かぶ魔法の文字の光が輝きを増し、攻撃力が2000になった。

レベル4モンスターで2000とはこの時代では脅威になるはず。

聖星は決闘王相手の出だしでは良い布陣だと思った。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンを終了します」

 

「【魔導書】に【魔導戦士】。

君のデッキは魔法使い族なんだね」

 

「はい」

 

「見た事もない魔法使いか。

うん、楽しくなってきたよ。

僕のターン、ドロー。

僕は手札から【磁石の戦士β】を召喚」

 

遊戯の場に召喚されたのは黄色の体を持つモンスター。

球体の顔を持つモンスターはどこか愛嬌がある。

攻撃力は1700と今の【フォルス】より低めだ。

 

「さらに手札から魔法カード【同胞の絆】を発動!

ライフを1000ポイント払う事で僕の場にいる【磁石の戦士β】と同じ種族のモンスターを2体、デッキから特殊召喚するよ」

 

「【β】の同種?」

 

「うん。

僕は【磁石の戦士α】、【γ】を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

場に現れた魔法カードが光り出し、中から灰色とピンク色の戦士が次々へと場に現れた。

灰色の戦士は剣を構え、ピンク色の戦士は磁石の翼を羽ばたかせる。

ライフを犠牲にしたとはいえ一気にモンスターを複数特殊召喚したのは素直に凄いと思う。

 

「1ターンで3体のモンスターか……」

 

しかもただのモンスターではない。

未来ではあの3体が揃うと、武藤遊戯はとあるモンスターを召喚したと伝わっている。

手札にあのカードがあるかは知らないが一気にそろえたという事はそれを意味するだろう。

 

「このカードで特殊召喚されたモンスターはこのターン、攻撃も生贄も出来ない。

けど融合は出来るんだ」

 

「……やっぱり」

 

「場に存在する【磁石の戦士α】、【β】、【γ】を融合し【磁石の戦士マグネット・バルキリオン】を攻撃表示で特殊召喚する!

来い、【マグネット・バルキリオン】!!」

 

遊戯の声に応えるように3体のモンスターは関節部が外れ、1体のモンスターへと組みあがっていく。

【α】の剣と盾を持ち、【γ】の桃色の翼を大きく広げるモンスタは遊戯の前に立ち剣を構える。

特殊召喚された【マグネット・バルキリオン】の攻撃力は3500と表示された。

 

「攻撃力3500.

聖星ボーイのモンスターの攻撃力を上回りマシタ」

 

「行くよ!

【マグネット・バルキリオン】で【魔導戦士フォルス】に攻撃!

マグネット・ソード!」

 

【マグネット・バルキリオン】は大きく剣を振り上げ、【フォルス】に向かっていく。

大きく羽ばたき空から攻撃してくる【マグネット・バルキリオン】に対し【フォルス】は獅子の盾を向けた。

磁石の剣は獅子の盾に突き刺さりそのまま持ち手の【フォルス】を貫いた。

 

「っ!」

 

攻撃表示だった【フォルス】は破壊され、聖星のライフは1500ポイント削られた。

2500になったライフを見下ろしながら聖星は遊戯を見た。

 

「僕はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー。

スタンバイフェイズ時、フィールド魔法【魔導書院ラメイソン】の効果を発動。

俺の場、または墓地に魔法使いが存在するとき、墓地に眠る【魔導書】をデッキの1番下に戻し、デッキからカードを1枚ドローします」

 

「墓地に存在する【魔導書】の回収だけじゃなく、ドロー効果。

つまりこのフィールドが存在する限り君のデッキに【魔導書】は尽きないって事だね」

 

「はい」

 

まだデュエルが始まって3ターン目だが、彼のデッキは【魔導書】という名のカードが核になっているのは分かった。

 

「(聖星ボーイの墓地に【魔導書】が存在する限り、聖星ボーイは毎ターン2枚のカードをドローする事になりマ~ス。

さ、遊戯ボーイ。

ユーはどうやって彼の実力を見極めますカ?)」

 

自分がデザインした記憶も、作る事を許可した記憶もないカード達。

一体聖星が何を考え、どのようなデュエルを展開するのか全く読めない。

彼の操るカードも気になるが、ペガサスは聖星が自分に隠そうとしている何かも気になった。

そして遊戯の行動も……

 

「(遊戯ボーイは十代ボーイ達とのデュエルを断りマシタ……

バット、聖星ボーイはデュエルに誘ったのは何故カ)」

 

最初は自分と聖星が話しやすいよう、彼の緊張をほぐす為かと思った。

だが遊戯はもっと別の事を目的としている目をしている。

同時にペガサスは食事の時に感じた違和感を思い出した。

 

「(聖星ボーイがあのドラゴンを懐かしげに見た時、遊戯ボーイもとても驚いていた表情を浮かべたのデ~ス。

その理由がとても気になりマ~ス)」

 

ペガサスは他と異なる表情を浮かべる聖星ばかりに目をやっていたが、不意に目に入った遊戯の表情にも興味を持った。

長い付き合いとは言えないが、特別な関わりを持つ遊戯の驚愕の表情は一体何を意味するのか。

恐らく遊戯はペガサスとは異なる何かを聖星に感じ取ったのだろう。

 

「俺は【セフェルの魔導書】を墓地に戻し、デッキからカードを1枚ドローします。

そして魔法カード【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に捨てます。

俺が捨てるのは【アルマの魔導書】と【ネクロの魔導書】です」

 

「また新しい【魔導書】。

でもそれを墓地に捨てたって事は…………」

 

聖星が墓地に捨てたのは除外された【魔導書】を手札に戻すカードと、蘇生カード。

しかし遊戯はそのカードの効果を知らない。

だが何のために墓地に落としたのかは容易に想像がつく。

 

「(フィールド魔法【ラメイソン】の効果でドローするために墓地に落としたのかな?

でもさっきの【フォルス】は墓地の【魔導書】を利用するカード。

もしかすると墓地のカードを利用する別のカードがあるかもしれない)」

 

「俺は【魔導剣士シャリオ】を攻撃表示で召喚」

 

「ふんっ!」

 

光の中から現れたのは白馬に乗る若い魔法使い。

彼は自分より攻撃力が高い【マグネット・バルキリオン】に怯む様子もなく剣を構えた。

 

「手札から【グリモの魔導書】を発動します。

デッキから【セフェルの魔導書】を加えます。

さらに手札から魔法カード【ヒュグロの魔導書】を発動。

俺の場の魔法使い族モンスターの攻撃力をエンドフェイズまで1000ポイントアップさせます」

 

「これで【シャリオ】の攻撃力は1800から2800.

でもまだ【マグネット・バルキリオン】には届かないよ」

 

「はい。

それくらい承知です。

手札から【セフェルの魔導書】を発動。

手札から【トーラの魔導書】を見せ、墓地の【ヒュグロの魔導書】の効果をコピー。

これで【シャリオ】の攻撃力は3800です!」

 

場に現れたのは闇を描く【魔導書】。

薄暗い光を放ちながらそのカードは力が満ち溢れる赤い【魔導書】へと姿を変えた。

2つの英知を受け取った【シャリオ】の剣には赤い魔力が宿り攻撃力が3800まで上昇する。

 

「凄い、【マグネット・バルキリオン】の攻撃力を超えた!」

 

2枚のカードのコンボで自分のモンスターの攻撃力を超えた事に遊戯は素直に感心した。

今まで様々なデュエリスト達と戦ってきたが、こうもあっさりと【マグネット・バルキリオン】の攻撃力を超えたのほんの一握りだけである。

海馬コーポレーションの社長である海馬瀬人に唯一無二の親友である城之内克也、そして……

脳裏に過ぎる数々のデュエリスト達を懐かしみながら遊戯は次はどのような戦術を繰り出すのか待ち構えた。

 

「【魔導剣士シャリオ】で【磁石の戦士マグネット・バルキリオン】に攻撃。

この瞬間、リバースカードオープン。

【マジシャンズ・サークル】」

 

「そのカードは!」

 

「(魔法使い族モンスターが攻撃宣言した時に発動できるカードデ~ス。

互いのデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族モンスターを1体、攻撃表示で特殊召喚する事が出来マ~ス。

聖星ボーイは魔法使い族デッキ。

遊戯ボーイのデッキにも数多くの魔法使いが眠っていマ~ス。

そんな遊戯ボーイに対して【マジシャンズ・サークル】を発動するとは、聖星ボーイ……

彼は勝負に出たのデ~ス)」

 

「だったら僕はカウンター罠【攻撃の無力化】を発動するよ!」

 

遊戯が発動したのはバトルフェイズを強制終了する罠カード。

チェーン処理によりまずバトルフェイズが終了し、次に【マジシャンズ・サークル】の効果処理に移る。

 

「俺はデッキから攻撃力2000【魔導冥士ラモール】を攻撃表示で特殊召喚」

 

「僕は攻撃力1000の【沈黙の魔術師】を特殊召喚!」

 

輝きの中から現れた2体の魔法使い。

聖星が召喚したのは禍々しいオーラを漂わせ、魂を刈り取るデスサイズを持つ青年。

遊戯は幼いながらも才能を持つ小さな赤と黒の少女を召喚した。

 

「そして特殊召喚された【ラモール】の効果発動」

 

「え?」

 

「【ラモール】は召喚、特殊召喚に成功した時墓地に存在する【魔導書】の種類の数によって効果を発動する事が出来ます」

 

「成程、このために聖星ボーイは【天使の施し】で墓地に【魔導書】を送ったのデ~ス」

 

「3種類の時、このカードの攻撃力は600ポイントアップ。

4種類の時、デッキから【魔導書】を1枚手札に加えます。

5種類の時、デッキから闇属性、魔法使い族、レベル5以上のモンスターを特殊召喚します」

 

今、聖星の墓地には【グリモ】、【アルマ】、【ネクロ】、【ヒュグロ】、【セフェルの魔導書】。

計5種類の【魔導書】が眠っている。

 

「墓地には5種類。

よって全ての効果を発動できます」

 

「えっ、1度に3つの効果を発動出来るって事!?」

 

「【ラモール】、悪夢の覚醒(サイレント・デス)

 

効果名を宣言すると【ラモール】の体が薄暗い紫色に包まれ、攻撃力が2600へと上昇する。

だがこれで終わらない。

 

悪夢の始まり(ナイトメア・クリエイト)

 

【ラモール】の肉体に集まった紫色の光は彼の左手に集中し、1冊の書物となる。

聖星の手にもその書物と同じものが描かれているカードが加わった。

 

「俺が加えたのは【ゲーテの魔導書】です。

そして終焉の呼び声(コール・オブ・ダークネス)!」

 

持っている鎌を大きく振り回した【ラモール】は自分の隣に魔法陣を描く。

その魔方陣の輝きが強くなるとそこから空間が割れ、1体の悪魔がフィールドに舞い降りた。

 

「特殊召喚。

【魔導鬼士ディアール】」

 

「グォオオオ!!!」

 

禍々しい剣を構え、見るからに恐ろしい風貌。

この姿を見て誰がすぐに魔法使い族だと思うだろうか。

その攻撃力は2500.

攻撃力3800の【シャリオ】、2600の【ラモール】、2500の【ディアール】。

本来なら一斉攻撃を仕掛けたいのだが遊戯の発動した【攻撃の無力化】の効果により既にバトルフェイズは終了している。

 

「(【マグネット・バルキリオン】を破壊して、【ヒュグロの魔導書】の効果でデッキから【魔導書】をサーチするつもりだったけど上手くいかないなぁ。)

俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドです」

 

「僕のターン、ドロー」

 

デッキからカードをドローした遊戯は互いの手札の枚数を確認する。

聖星は2枚、遊戯は3枚。

そして自分の場に存在する【沈黙の魔術師】を見下ろした。

 

「僕は手札から【天よりの宝札】を発動するよ。

互いに手札が6枚になるようデッキからカードをドローする。

僕達の手札は互いに2枚。

よって4枚ドローだ」

 

「分かりました」

 

「そしてこの瞬間、【沈黙の魔術師】の効果発動」

 

「え?」

 

遊戯の言葉にカードをドローした聖星は【沈黙の魔術師】を見る。

彼の場に存在する幼い魔術師は光に包まれ、可愛らしい少女からミステリアスな女性へと成長した。

そのレベルは4、攻撃力は3000となった。

 

「え、どうしてレベルと攻撃力が?」

 

「【沈黙の魔術師】は相手がカードを1枚ドローする度にレベルを1つ上げ、攻撃力を500ポイントアップする効果を持つ。

今、君がドローしたのは4枚。

よってレベルは4となり攻撃力は2000ポイントアップしたんだよ」

 

これで遊戯の場には攻撃力3500と3000のモンスターが揃った事になる。

それに対し聖星の場には攻撃力が1800にまで下がった【シャリオ】と2600の【ラモール】、2500の【ディアール】。

 

「行くよ、聖星君。

【マグネット・バルキリオン】で【魔導剣士シャリオ】に攻撃!

マグネット・ソード!」

 

再び磁石の翼を大きく広げた【マグネット・バルキリオン】は天空に舞い、【シャリオ】に己の剣を振り下ろす。

同じように剣を使う【シャリオ】は反撃しようと構えるがそれより先に聖星が動いた。

 

「リバースカード、オープン。

速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動」

 

「このタイミングでの速攻魔法!」

 

「【ゲーテの魔導書】は発動時に除外する【魔導書】の枚数によって効果を変えます。

俺は墓地に存在する【ヒュグロ】、【ネクロ】、【グリモの魔導書】を除外します。

そして3枚の【魔導書】を除外した時、俺は場に存在するカードを1枚除外できます」

 

「場に存在するカードの除外!?

じゃあ君が除外するのは……!」

 

「【マグネット・バルキリオン】には消えてもらいます」

 

【シャリオ】に向かっていく【マグネット・バルキリオン】だが、彼らの間に漆黒の歪みが生まれる。

その歪みからは僅かな風が吹き、次第に周りを飲み込むほどの強風が発生した。

【マグネット・バルキリオン】は逃れようと羽ばたくがそのまま歪みへと吸い込まれた。

 

「凄いね、聖星君。

攻撃力3500の【マグネット・バルキリオン】をこんな形で倒すなんて。

でもまだ僕の場には攻撃力3000の【沈黙の魔術師】が存在する。

【沈黙の魔術師】、【魔導剣士シャリオ】に攻撃!」

 

「はっ!」

 

「サイレント・バーニング!」

 

【沈黙の魔術師】は大きく杖を振り上げ、【シャリオ】を攻撃する。

攻撃対象になった【シャリオ】はその攻撃によって砕け散った。

一瞬で破壊された仲間に【ディアール】は険しい表情を浮かべ、【ラモール】は眉ひとつ動かさず真っ直ぐと前を見ている。

これで聖星のライフは1200削られ、1300となる。

 

「うわぁ……

まだ4ターン目なのにもうライフがこれだけ?」

 

相手が1ターンで攻撃力の高いモンスターを召喚し、攻めてくる事は十代やカイザー相手で慣れているつもりだった。

しかし聖星も【強制脱出装置】や【ゲーテの魔導書】、【一時休戦】等でその攻撃をかわしライフを守っている。

だから余計にたった4ターンしかたっていないのにライフが削られた事に驚いたのだ。

 

「(丸藤先輩とも十代達とも違う。

やっぱりキング・オフ・デュエリストは凄い!)」

 

改めて彼は他のデュエリストとは違うのだと、再認識した聖星は尊敬の眼差しで遊戯を見る。

聖星の視線に気づいた遊戯はただ微笑みカードを手に取った。

 

「僕はカードを2枚伏せてターンエンド。

さ、聖星君。

次はどんなカードを見せてくれるの?」

 

「それは見てからのお楽しみですよ、遊戯さん。

俺のターン、ドロー」

 

「この瞬間、【沈黙の魔術師】はLv5になり攻撃力は3500にアップ!」

 

「俺もスタンバイフェイズ時にフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】の効果を発動します。

墓地に存在する【セフェルの魔導書】をデッキに戻し、カードを1枚ドロー。

そして【沈黙の魔術師】はLv6になり攻撃力は4000ですよね?」

 

「うん。

そうなるよ」

 

「オ~ノ~。

攻撃力4000とは神である【オベリスクの巨神兵】に匹敵しマ~ス。

聖星ボーイ、ユーはどうやって【沈黙の魔術師】を倒すのですカ?」

 

聖星の手札が増えていくにつれ【沈黙の魔術師】の攻撃力も上昇する。

だが今は相手モンスターの攻撃力より手札を増やすことが優先となる。

8枚ある手札を全て見ながら聖星は小さく頷いた。

 

「俺は場に存在する【魔導鬼士ディアール】を生贄に捧げ、【魔導皇士アンプール】を召喚」

 

悪魔の姿をした魔法使いは光に包まれ、代わりに金の装飾がされている衣服をまとう男性が現れた。

彼は威厳ある顔で【沈黙の魔術師】を見た。

その瞳は【沈黙の魔術師】を見定めるような眼差しで、彼は隣にいる【ラモール】にも目をやった。

 

「【魔導皇士アンプール】の効果発動。

俺の魔法使い族と墓地に存在する【魔導書】を1枚除外し、このターンのエンドフェイズ時まで貴方の場のモンスターのコントロールを得ます」

 

「え!?」

 

聖星の口から放たれた【アンプール】の効果に遊戯は目を見開く。

【アンプール】は持っている杖を高く上げ、何やら呪文を唱え始めた。

すると彼の足元に漆黒の歪みが生じ、その中から1冊の書物が現れる。

 

「俺は【魔導冥士ラモール】と【ゲーテの魔導書】を除外します」

 

呪文の詠唱は続き、指定された2枚のカードは紫色の光に包まれていく。

【アンプール】の宝石は輝きを増し、それに呼応するよう彼の周りを舞う魔法の文字が光っていく。

それを警戒するように見ていると【沈黙の魔術師】の足元に魔法陣が描かれる。

 

「【アンプール】、犠牲の円舞(サクリファイス・ワルツ)

 

「っ!?」

 

魔法陣は【沈黙の魔術師】を引きずり込み、聖星の場へと召喚した。

 

「【沈黙の魔術師】!」

 

「これであなたの場にモンスターは存在しません」

 

遊戯のライフは3000.

【沈黙の魔術師】の攻撃力は4000.

このままダイレクトアタックが決まれば聖星の勝ちである。

 

「(けど決闘王なんだ。

この攻撃があっさり通るか?)」

 

聖星は【沈黙の魔術師】から遊戯の足元に存在する2枚の伏せカードを見る。

 

「(怖いのはあの伏せカード……

攻撃モンスターを破壊する罠か、それとも速攻魔法か。

でも、怖くはない。

俺の手札には魔法使い族モンスターに魔法か罠の耐性効果をつける【トーラの魔導書】がある)」

 

仮に遊戯がどんなカードを発動しても、聖星の攻撃は止められないはずだ。

小さく頷いた聖星は宣言した。

 

「【沈黙の魔術師】でダイレクトアタック。

サイレント・バーニング」

 

【アンプール】の術により体を操られている【沈黙の魔術師】は一瞬だけ険しい表情を浮かべ、唇を噛みしめながら杖に自分の魔力を集める。

彼女は大きく杖を上げ、遊戯に向かって攻撃した。

自分に向かってくる仲間の攻撃に遊戯はすぐに宣言する。

 

「罠発動、【聖なるバリア‐ミラーフォース‐】!」

 

「(やっぱり)」

 

「これで聖星君の場のモンスターは全滅だよ!」

 

遊戯が発動したのは相手の場の攻撃表示モンスターを問答無用で破壊する強力なカード。

透明な壁が遊戯を守るように包み込み、【沈黙の魔術師】の攻撃を跳ね返す。

弾き返された攻撃は聖星のフィールドに降り注ぎ【アンプール】と【沈黙の魔術師】を破壊しようとする。

 

「そうはさせません。

速攻魔法、【トーラの魔導書】を発動します。

このカードはこのターンのエンドフェイズまで、魔法使い族モンスター1体に罠か魔法の耐性をつけさせます。

俺は【沈黙の魔術師】に罠カードの耐性をつけます!」

 

「ホワット!?

これでは【沈黙の魔術師】は【ミラーフォース】の効果を受け付けまセ~ン!」

 

彼女の前に現れた書物は勝手にページがめくれ、【沈黙の魔術師】に魔法をかける。

これで【沈黙の魔術師】は破壊されず、攻撃が通る。

勝利を確信した聖星は安心したように口元に弧を描く。

それと同時に遊戯の口元も弧を描いた。

 

「甘いよ、聖星君」

 

「え?」

 

「僕の場にはもう1枚伏せカードが存在している」

 

「まさか……

このタイミングで発動できるカードなんですか!?」

 

「罠発動、【精霊の鏡】!!」

 

ゆっくりと表側表示になり発動された罠カード。

描かれているのは鏡を持つ青色の女性。

カードの中から現れた彼女は自分の持っている鏡を聖星の場へと向けた。

 

「【精霊の鏡】?」

 

「相手が発動した魔法効果を鏡の中に封印し、僕が自由に使う事が出来る。

悪いけど【トーラの魔導書】の魔法効果は僕が使わせてもらうよ」

 

「なっ!?

それじゃあ【沈黙の魔術師】は効果で破壊される…………」

 

「うん」

 

聖星の場に存在した【トーラの魔導書】は鏡の中へと吸い込まれていく。

これで【沈黙の魔術師】を守っていた魔法はなくなった。

空から降り注ぐ攻撃は【沈黙の魔術師】と【アンプール】を直撃し、彼等を破壊する。

 

「マジかよ……」

 

聖なる光の攻撃にフィールドのカードが全て消え去り、残されているのはフィールド魔法のみ。

一気に形勢を逆転したと思えば、やはり聖星の窮地には変わりがなかった。

無意識に唇で弧を描いた聖星は微笑む。

 

「流石決闘王。

そう簡単に勝たせてくれませんね」

 

「仮にもキング・オブ・デュエリストだからね。

そう簡単に終わらせる気はないよ」

 

互いに笑う遊戯と聖星。

実に楽しそうにデュエルをしている青年と少年の姿に自然とペガサスも笑みを浮かべてしまう。

しかしすぐに表情を変え、2人の場を見渡した。

 

「流石は遊戯ボーイデ~ス。

こういう場合も想定して魔法効果を封じる【精霊の鏡】を伏せていましたカ。

これで聖星ボーイの場にモンスターは存在しまセ~ン。

……さて、どうしますか聖星ボーイ?」

 

「俺は魔法カード【一時休戦】を発動します。

互いにデッキからカードを1枚ドローし、次の貴方のエンドフェイズまで互いに受けるダメージを0にします」

 

「ダメージを?

戦闘ダメージだけじゃなく効果ダメージも0にするの?」

 

「はい」

 

聖星が頷くと遊戯は何かを考えるかのように黙り込む。

 

「ターンエンドです」

 

「僕のターン、ドロー。

僕はモンスターをセット、カードを2枚伏せてターンを終了するよ」

 

今聖星の場にモンスターは存在しないが【一時休戦】の効果でダメージを与えることは出来ない。

だから遊戯は自分の場を整えてターンを終了した。

 

「俺のターン、ドロー。

スタンバイフェイズ時、【魔導書院ラメイソン】の効果により墓地に存在する【アルマの魔導書】をデッキに1番下に戻しドローします」

 

墓地から回収された速攻魔法。

遊戯は真剣に聖星と聖星が持つカードを見ながら、カードがドローされる姿を見る。

 

「手札から永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動。

【魔導書】を発動する度に魔力カウンターを乗せ、その数×100ポイント俺の魔法使い族の攻撃力を上げます」

 

「つまり君が【魔導書】を発動する度に君のモンスターは強くなるって事だね」

 

「はい。

さらに【魔導老士エアミット】を召喚」

 

淡い水色の魔法陣が場に現れ、その中から魔法の文字と共に1人の老人が現れる。

長い髭を持つ老人は年齢など感じさせないほど背筋をピンと伸ばし、自分の杖を地面につけた。

その攻撃力は1200と頼りない数値だ。

だが遊戯は決して侮る様子など見せずしっかりと前を見ている。

 

「手札から魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【セフェルの魔導書】を手札に加えます」

 

デッキから【セフェルの魔導書】を加えると【エアミット】の周りに浮かぶ文字が輝き始める。

その様子を注意深く見ると攻撃力が1200から1600になる。

 

「【エアミット】の攻撃力が400も上がった?」

 

「【魔導老士エアミット】の効果です。

彼は【魔導書】と名の付く魔法カードが発動する度に攻撃力を300、レベルを2つ上げます」

 

「そっか。

それに【グリモの魔導書】が発動された事で【エトワール】に魔力カウンターが乗り、さらに100ポイントアップしたんだね」

 

「はい」

 

つまり、聖星が【魔導書】の効果を発動する度に【エアミット】は攻撃力を400ポイント上げるという事になる。

 

「そして手札の【ネクロの魔導書】を見せ、【セフェルの魔導書】を発動。

墓地に存在する【グリモの魔導書】の効果をコピーし、デッキから【ヒュグロの魔導書】を加えます」

 

再び発動された【魔導書】。

紫色の書物は赤色の書物に代わると、今度は【エアミット】自身の効果が発動しさらに攻撃力が400ポイント上昇し2000となった。

しかもデッキから加わった赤色の書物の効果は相手にとってかなり厄介なもの。

 

「手札から【ヒュグロの魔導書】を発動。

【エアミット】の攻撃力を1000ポイントアップします。

そしてバトルフェイズ。

【エアミット】で裏側守備モンスターに攻撃」

 

長年鍛えぬいた事で身に着けた魔力の力と【エトワール】、そして【ヒュグロの魔導書】の英知を授かった【エアミット】。

彼は低い声で呪文を唱え始める。

すると周りに浮かんでいた文字の輝きが増し、【エアミット】はその光を杖の宝石に集めてモンスターを攻撃する。

 

「(攻撃力は【エトワール】と【エアミット】自身の効果も含めて3400、普通のモンスターなら耐えられない)」

 

勢いよく向かっていく魔力は裏側守備のモンスターを貫く。

だがそのモンスターは砕け散ることなどなく、表側表示となってその可愛らしい姿を露わにする。

真っ白で無駄なものがなく、可愛らしい姿のモンスターの姿に聖星は目を見開いた。

 

「え?

【マシュマロン】!?」

 

「そう。

僕が伏せたのは【マシュマロン】。

【マシュマロン】は戦闘では破壊されない効果を持っているんだ。

そしてこの瞬間、【マシュマロン】のもう1つの効果が発動するよ。

裏側守備のこのカードと戦闘を行ったモンスターのプレイヤーは1000ポイントのダメージを受けるんだ」

 

「っていう事は……」

 

遊戯の場に存在する【マシュマロン】はその顔に似合わない生意気な笑みを浮かべ、聖星に向かってくる。

しかも可愛らしい口を大きく開け、物騒な鋭い歯を見せてきた。

反射的に目をつむったが【マシュマロン】は聖星に噛り付き、彼のライフを奪う。

 

「(うわ、やっば。

あとライフたったの300か)

俺はカードを1枚伏せて、ターンを終了します」

 

「僕のターン、ドロー」

 

ゆっくりとカードを引いた遊戯はそのカードを手札に加える。

そして別のカードを掴んだ。

 

「僕は手札から【沈黙の剣士】を召喚。

そして永続魔法、【マシュマロンのメガネ】を発動。

このカードがある限り、聖星君は【マシュマロン】以外のモンスターに攻撃する事は出来ないよ」

 

場に現れたのは【マシュマロン】が描かれているおもちゃのような眼鏡。

その眼鏡は【エアミット】に勝手に掛けられる。

魔法の宝石を嵌めこんだ服を着る老人がおもちゃのような眼鏡を掛けている姿など、かなり言葉にしがたいが……

はっきり言うと似合わない。

 

「僕はこれでターンエンド」

 

「この瞬間、リバースカード、オープン。

速攻魔法【サイクロン】を発動します。

【マシュマロンのメガネ】を破壊させてもらいますよ」

 

雷と轟音を伴いながら発生した【サイクロン】は遊戯の永続魔法を飲み込んでいく。

【マシュマロンのメガネ】が破壊された事で、【エアミット】は元の威厳のある顔を見せてくれた。

 

「あちゃ……

これで【マシュマロン】を攻撃対象にされなくなっちゃったね」

 

「ですが遊戯さんの事です。

その伏せカードにまだ何かあるんですよね?」

 

「それは見てからのお楽しみだよ」

 

「はい。

俺のターン、ドロー。

スタンバイフェイズに移行し、【ラメイソン】の効果発動。

【セフェルの魔導書】をデッキの1番下に戻してカードを1枚ドローします。

【魔導老士エアミット】で【沈黙の剣士】を攻撃」

 

「リバースカード、オープン!

【時の飛躍-ターン・ジャンプ-】!」

 

「【ターン・ジャンプ】?」

 

「このカードは僕達の場の時を3ターン先へと飛ばすカード。

よって、このカードの効果により時が進み【沈黙の剣士Lv0】は【Lv3】となり攻撃力が1000から2500にまでアップ!」

 

「なっ!」

 

今、【エアミット】の攻撃力は2400.

時が急に加速し、それに合わせて成長した【剣士】は少年から逞しい青年へと姿を変える。

肩に担いでいる大剣も相応しい程立派になり、向かってくる【エアミット】に対し剣を構える。

 

「はぁっ!!」

 

「くっ!?」

 

一気に足に力を入れた【沈黙の剣士】は素早く動き、敵である魔導士を切り裂く。

無念の表情を浮かべた【エアミット】はそのまま爆発し、聖星のライフは300から200になった。

これでもう後がない。

 

「……俺はモンスターをセットしてターンエンドです」

 

ゆっくりと宣言する聖星。

流石にライフが0に近くなり、焦りの色が見えてきた。

負けたくないという感情が伝わってくる目に遊戯は少しだけ笑う。

 

「僕のターン、ドロー!

そしてこのスタンバイフェイズ時、【沈黙の剣士Lv3】は【Lv4】になる!

よって攻撃力は3000だよ!」

 

遊戯のフェイズが移行すると同時に【沈黙の剣士】は光に包まれ、更に逞しい青年へと姿を変えた。

沈黙の名に相応しい凛々しい表情は今の聖星にとってどれほどの脅威だろう。

 

「そして【マシュマロン】を生贄に……」

 

「え?」

 

遊戯がモンスターの名前を宣言すると【マシュマロン】が姿を消す。

すると遊戯の場に暗雲がゆっくりと集まり、とても低い音がゆっくりと響き始める。

次第に音は激しくなり暗雲から勢いよく雷の雨が降ってくる。

 

「現れよ、【デーモンの召喚】!」

 

「グォァアアア!!」

 

雷は一か所に集中し、目に突き刺さるような黄色の光の中から悍ましい姿の悪魔が姿を現す。

召喚された悪魔は大きく両腕と翼を広げ、大きな咆哮を上げた。

 

「【デーモンの召喚】……

本物だ」

 

デュエルキングダムで活躍したレベル6で最高の攻撃力を誇る悪魔族モンスター。

名前と映像に残っている姿しか知らない聖星は敵として立ちはだかる悪魔に目を輝かせた。

 

「行くよ!

【デーモンの召喚】で裏側守備モンスターを攻撃!

魔降雷!!」

 

裏路地に響いた攻撃名に【デーモンの召喚】は目を光らせ、体中に雷を纏う。

その雷は激しい音を立ててフィールドを舞い、裏側守備モンスターに命中する。

表になったのは1人の男性で、守備力がたったの200しかないためあっさりと破壊された。

 

「この瞬間、【魔導術士ラパンデ】の効果発動。

このカードが墓地に送られた時、デッキからレベル3の【魔導】と名の付くモンスターを手札に加えます。

俺は【魔導召喚士テンペル】を手札に加えます!」

 

「でも、君の場にモンスターは存在しないよ!

【沈黙の剣士】でダイレクトアタック!!」

 

「手札から【速攻のかかし】の効果発動」

 

「手札からモンスター効果!

それにダイレクトアタックのタイミングって事は……」

 

「はい。

相手がダイレクトアタックしてきたとき、攻撃を無効にしバトルフェイズを終了します」

 

遊戯の攻撃宣言に【沈黙の剣士】は大きく大剣を振りかざし、切りかかろうとする。

だがどこからかスクラップで作られたかかしが現れ、聖星を守るようにその一太刀を受ける。

かなりの衝撃なのか、火花が散り、【沈黙の剣士】は反動で遊戯の場まで戻る。

その時の彼は仕留めきれなかった悔しさからか、微かに表情が変化した。

 

「……はぁ、何とかしのげた」

 

バトルフェイズは終わり、これ以上戦闘が行われることはない。

後は遊戯がバーン系のカードを使ってこない事を祈るだけだ。

 

「(遊馬はライフが削りきれなかったら容赦なく【ガガガ・ガンマン】を召喚してライフを0にしてくるからなぁ。

あ、でもそんなカードがあったら初めから使ってるか)」

 

しかし自分のライフは残り200.

決闘王が削ろうと思えば削りきれる数値だ。

次に自分のターンが回ってくれば逆転できる手はあるが、このまま押し切られたら不味い。

バーンカードがない事を願いながら遊戯を見る。

 

「(まだ、何か策があるって顔だね。

さしずめさっき手札に加えた【魔導召喚士】にかけているのかな?)

僕はこれでターンエンドだよ」

 

聖星のターンに移った。

自分に回ってきたターンに聖星は小さく頷き、デッキに指を置く。

 

「俺のターン、ドロー!

スタンバイフェイズ、墓地に存在する【ヒュグロの魔導書】をデッキに戻してカードを1枚ドローします」

 

遊戯のライフは3000、場には攻撃力2500の【デーモンの召喚】と3000の【沈黙の剣士】が存在する。

さらには【トーラの魔導書】の効果を封印している【精霊の鏡】。

自分の場には【ラメイソン】しか存在しない。

どうにかして流れを変えたい聖星はモンスターを1枚掴む。

 

「俺は手札から【魔導召喚士テンペル】を召喚します」

 

光の中から現れたのは綺麗な顔をフードで隠す女性。

 

「手札から魔法カード【グリモの魔導書】を発動します。

デッキから【セフェルの魔導書】を手札に加えます。

そして【セフェルの魔導書】の効果を発動。

【ネクロの魔導書】を見せ、デッキから【ヒュグロの魔導書】サーチ。

さらに【テンペル】の効果発動!」

 

「(やっぱりね)」

 

「【魔導書】を発動したターン、このカードを墓地に送る事でデッキからレベル5以上の闇または光属性の魔法使い族モンスターを特殊召喚します」

 

「えっ、一気に上級モンスターを召喚するの!?」

 

「【テンペル】、カオス・ゲート!」

 

このターン発動された【グリモの魔導書】が彼女の前に現れ、【テンペル】の足元に魔法陣が広がる。

それは瞬く間に、神聖な輝きを放ちフィールドを照らす。

【テンペル】がその輝きの中に消えると、さらに輝きは強くなり、魔法陣から強烈な光柱が立つ。

 

「特殊召喚」

 

光はゆっくりと球体へと形を変え、その中から純白の翼が姿を見せる。

聖なる翼は静かに広がり、純白の羽が風により舞い上がる。

まるで天から天使が舞い降りてきたような幻想的な演出に遊戯とペガサスは言葉を失った。

純白の翼、衣に身を纏いし魔法使いは静かに【デーモンの召喚】と【沈黙の剣士】を見下ろす。

 

「【魔導天士トールモンド】」

 

名前を宣言された【トールモンド】は宝石のように綺麗な瞳を遊戯達に向ける。

その攻撃力は【魔導】の名を持つ魔法使い族モンスターの中で最高の2900だ。

 

「【魔導天士トールモンド】。

そのカードが君の切り札なんだね」

 

「はい」

 

類稀な才能を持っていた少年は戦いに身を投じた際、闇に堕ち、多くの命を奪った。

それだけではなく自らの命さえも危機に瀕してしまう。

それを助けようとしたのがあの黒いカード達。

結果、彼は助かり聖なる力を持つ魔法使いへと進化した。

 

「このカードでこのデュエル、終わらせます!」

 

「君の全力、見せてもらうよ!」

 

「はい!

【トールモンド】の効果発動。

このカードが魔法使い族の効果、または【魔導書】の効果で特殊召喚に成功した時墓地に存在する【魔導書】を2枚手札に加えます。

俺は【グリモの魔導書】と【セフェルの魔導書】を選択」

 

両手を前に出した【トールモンド】。

すると2冊の書物が墓地から回収され、聖星の手札に加わる。

 

「これで終わりじゃないですよ。

【トールモンド】の第2の効果!

この効果で【魔導書】を加えた時、手札の【魔導書】4種類を見せる事でこのカード以外のカードを全て破壊します!」

 

「なっ!?」

 

「全体破壊効果デスカ!?」

 

「ディヴァイン・クリア・フィールド!!」

 

聖星は手札にある4種類の【魔導書】を見せる。

すると【トールモンド】の周りに【ネクロの魔導書】、【ヒュグロの魔導書】、【グリモの魔導書】、【セフェルの魔導書】が浮かび上がりそれぞれが武器へと変わる。

4つの武器は淡い光を放ち、それを軸に光の波導が放たれた。

絶えず放たれる波導に【デーモンの召喚】と【沈黙の剣士】は粉々に砕け散り、【魔導書院ラメイソン】は崩れ落ちる。

そしてフィールドには【トールモンド】しか残らなかった。

 

「遊戯ボーイの場のカードが全て破壊されましタ……

それに聖星ボーイの手札にはあのカードが……」

 

「俺は【ヒュグロの魔導書】を発動し、【トールモンド】の攻撃力を2900から3900にアップ!」

 

「っ!」

 

「バトル!

クリア・ノヴァ・バースト!!」

 

聖星の宣言に【トールモンド】は遊戯に向かって手を向ける。

そして自分の魔力を集め、彼のライフを奪おうと光線を放った。

英知によって強化された光は遊戯の姿をかき消すように勢いよく向かっていく。

 

「クリクリ~」

 

「え?」

 

不意に聞こえた精霊の声。

聖星は少しだけ目を見開き、遊戯を見る。

すると茶色の毛玉が現れ、遊戯を守るように手を広げた。

 

「クリ―――!!」

 

突如場に現れた【クリボー】は【トールモンド】の攻撃を受け止め、爆発する。

その時生じた煙が充満するが、すぐに晴れていき笑っている遊戯が目に入る。

 

「……そんな、まさか手札に【クリボー】が?」

 

「そうだよ。

僕は【クリボー】を墓地に送り、【トールモンド】からの戦闘ダメージを0にしたんだ。

これで僕のライフは削られないよ」

 

遊戯の説明に聖星は言葉を失った。

折角遊戯に勝つチャンスを掴んだというのに、結局ダメージを与える事が出来なかった。

しかし状況は明らかに聖星が優位。

その事実があるおかげかあまり動揺せず、聖星はへにゃっと笑う。

 

「でしたら俺はカードを2枚伏せてターンエンドです」

 

「僕のターンだ」

 

ゆっくりとカードを引いた遊戯。

彼はそのカードを優しく見つめ、聖星へと視線を移す。

 

「それにしても場のカードを全て破壊する【トールモンド】。

そんなモンスターを召喚されたら、普通対抗できないよね」

 

「そんな……

遊戯さんは【クリボー】で攻撃を防いだじゃないですか」

 

「ううん。

僕が防いだのはあくまで攻撃。

効果までは防げていないよ」

 

今まであのモンスターと戦ったデュエリスト達はどう対処してきたのだろう。

ダイレクトアタックを受け、次のターンで破壊したのか。

それとも何も出来なかったのか。

自分は運よく手札に【クリボー】がいたから助かったが、いなければ負けていた。

 

「その効果を防ぐ事が出来るとすれば、どんなモンスターがいるかな?」

 

「モンスター、ですか?」

 

「うん」

 

遊戯からの優しい問いかけに聖星は考える。

この時代で【トールモンド】を封じ込めるカード。

真っ先に思い浮かんだのは取巻が使う【マテリアルドラゴン】だ。

だから、そう答えようと思い唇を動かそうとした。

 

「【スターダスト・ドラゴン】だったら防ぐ事が出来ただろうね」

 

「…………え?」

 

聖星はゆっくりと遊戯を凝視し、彼の口から放たれた言葉を頭の中で繰り返す。

 

「遊戯さん……?」

 

今にも消えてしまいそうなか弱い声で呼ばれた遊戯はまっすぐに聖星を見ながら言葉を続ける。

 

「【スターダスト・ドラゴン】は自身をリリースする事で破壊効果を無効にし、破壊する。

そうだったよね?」

 

優しく尋ねられた言葉に聖星は上手く言葉が出なかった。

ここはシンクロ召喚がまだ生まれていない時代。

そして【スターダスト・ドラゴン】はカードとなっていない時代だ。

それなのに何故目の前の人物は【スターダスト・ドラゴン】の効果を知っており、さらには未来で使われている言葉を口にした。

突然の事に理解が追い付かない聖星は思わず【星態龍】を見た。

【星態龍】も【星態龍】で驚いており、めったに浮かべない表情を浮かべている。

 

「遊戯さん、どうしてそれを知っているんですか?

だって【スターダスト】はっ……」

 

「高校生の時、1度【スターダスト・ドラゴン】と戦った事があるんだ」

 

「え?」

 

衝撃の言葉に聖星はさらに困惑する。

それに対し遊戯は懐かしむような眼差しで聖星を、いや、聖星を通して何かを見る。

 

「その時、僕は未来に生きるデュエリストと友達になった。

とても君に似ているデュエリストだよ」

 

自分に似ている人物、そして【スターダスト・ドラゴン】との戦い。

この2つの要素に聖星はすぐに彼の後姿が思い浮かんだ。

 

「貴方は、父と会ったことがあるんですか?」

 

「……そう。

君は遊星君の息子さんなんだね」

 

納得したかのように遊戯が微笑む。

これは聖星の言葉が正しい事を意味している。

遊星が過去に行った事があるという事実を知り、聖星はさらに困惑した。

幼い時ダークシグナーやイリアステルの事は聞いたが、まさか遊星が自分と一緒でタイムスリップを体験していたなど聞かされなかった。

 

「ワンダァフール!!

何という事でショウ!」

 

「え?」

 

横から聞こえたペガサスの声に思わずそちらに向く。

すると彼は子供のように純粋に瞳を輝かせ、聖星を見つめている。

 

「ユーは只者ではないと思っていましたが、未来人だったのデ~ス!

先程遊戯ボーイが使用したリリースという言葉を聞く限り、デュエルモンスターズは発展したのですネ!

一体どのように発展したのか気になりマ~ス!

このデュエルの後、是非聞かせてくだサ~イ!!」

 

一気にテンションが上がり、一方的に喋るペガサス。

どう返せば良いのかよく分からないが、彼は自分の立場を疑わず信じてくれたので安心した。

普通なら遊戯の言葉をバカにするか否定するだろう。

随分と器が大きい人だと思いながら小さく頷く。

 

「ねぇ、どうして聖星君はこの時代にいるの?

もしかして……

未来で何かあったの?」

 

「え?」

 

真剣な声で尋ねられた言葉に思わず素っ頓狂な声を出してしまう。

遊戯と遊星が出会ったとき、それはペガサスが殺され歴史が変わるという一大事だった。

その時ともに戦った遊星の息子が未来から来たのだ。

もしかすると、と考えてしまう。

遊戯の気持ちを一切知らない聖星は不思議そうな顔を浮かべた。

 

「何か……?

特に何もありませんよ」

 

「世界の滅亡も?

遊星君に何か危機が迫っているわけでもないの?」

 

「え?

どうして世界の滅亡が出てくるんですか?」

 

「…………詳しい事はデュエルが終わった後に話すよ。

今はこのデュエルを楽しもう」

 

「あ、はい」

 

先程までの探るような雰囲気はなくなり、遊戯は微笑んだ。

少しだけ気になるが後で説明してくれるのなら今聞く必要はない。

聖星は遊戯の手札を見る。

 

「僕は手札から【浅すぎた墓穴】を発動!

互いに墓地からモンスターを1体、守備表示で特殊召喚する。

僕は【沈黙の剣士】を守備表示で特殊召喚!」

 

「俺は【魔導皇士アンプール】を守備表示で特殊召喚します」

 

遊戯が魔法カードを発動すると2人の場に亀裂が走る。

そこから互いのモンスターが特殊召喚され、【沈黙の剣士】は地面に剣を突き刺し膝をついた。

それに対し【アンプール】は王座に座る。

 

「さらに手札から魔法カード【死者蘇生】を発動!

現れよ、【沈黙の魔術師】!」

 

「はっ!」

 

黄色い光の中から現れたのは黒の女魔術師。

レベルが下がっているためまだ幼い姿で遊戯の前に立つ。

進化する能力を持つ白の剣士と黒の魔術師が揃い、遊戯が何をしようとしているのか考える。

 

「聖星君」

 

「はい」

 

「僕のデッキにも【トールモンド】によく似たモンスターがいるんだ。

君にその子を見せてあげるよ」

 

「え?」

 

【トールモンド】に似ているモンスター。

今と先程の状況を思い出しこれから召喚されるモンスターの効果を考えた。

 

「僕は【沈黙の魔術師】と【沈黙の剣士】を生贄に捧げ……」

 

幼い2人は暗い歪みの中に吸い込まれていく。

一瞬で消えたモンスターは歪みの中で合わさり、新たな影が歪みの中で動き回る。

それは人の姿ではなく何かの生き物の影だ。

漆黒の歪みはそのモンスターを召喚するため大きく開き、中から赤い宝石を無数につけた巨大なドラゴンが現れる。

 

「【破壊竜ガンドラ】を生贄召喚!」

 

「グワァアアアアアアア!!!」

 

「っ……!」

 

召喚された【ガンドラ】は大きく口を開き、遊戯のために戦えるのが嬉しいのか体が震えるほどの咆哮を上げる。

逞しい肉体に美しい宝石が身につけられた姿は美しさではなく、どこか畏怖を覚えるような威厳がある。

【ガンドラ】は敵である【トールモンド】と【アンプール】、聖星の伏せカードを見下ろした。

 

「【破壊竜ガンドラ】、デストロイ・ギガ・レイズ!!」

 

遊戯の言葉に【ガンドラ】は巨大な尾を振り回し、翼を羽ばたかせる。

空中に浮かびあがり全てを見下ろすと漆黒の皮膚に埋め込まれた赤い宝石が1つ1つ輝き始める。

 

「グワァアアアアアアア!!!」

 

宝石全てからその輝きは放たれ、流星群のように聖星の場に降り注ぐ。

轟音と共に次々と繰り出される光は【トールモンド】と【アンプール】だけではなく、聖星のカードまで貫いた。

 

「そんな……」

 

フィールドに残されたのは数多の羽と無残な姿になった玉座。

先程まで自分を守っていたモンスター達の遺したものしかその場にはなかった。

だがそれもすぐに消えてしまう。

 

「【破壊竜ガンドラ】はライフを半分払う事でこのカード以外を全て除外する。

そして【ガンドラ】の攻撃力は除外した枚数の数×300ポイント。

今、【ガンドラ】が除外したのは聖星君の場の4枚。

よって攻撃力は1200.」

 

「俺のライフは200……

俺の負けですね」

 

デュエルディスクに表示されている数値を見て聖星は笑い、自分に言い聞かせるように呟いた。

手も足も出なかったといえば良いのだろう。

まともにライフを削られた気がしない。

【アンプール】でモンスターを奪っても、その一手先を読まれていた。

【トールモンド】で一掃しても今度は逆に一掃された。

このデッキで全力を出して負けたのだ。

 

「(もし、あっちのデッキだったらどんな展開になってたんだろうな)」

 

【魔導書の神判】を使っていたら、もっと優位に進めていただろうか。

もしもの可能性を考えながら、聖星は遊戯を見る。

視線が交わると遊戯は戦士の顔をし高らかに宣言する。

 

「行け、【ガンドラ】!

デストロイ・ギガ・レイズ!!」

 

場を破壊しつくした絶対なる破壊竜は赤い眼を一瞬だけ輝かせる。

それに連動するよう宝石も再び赤く光り、【ガンドラ】は逞しい腕を広げる。

【ガンドラ】を中心に再び放たれた光は全て聖星に向かっていった。

 

「うわぁああ!!!」

 

赤い光に包まれていくなか、ライフポイントが0へとカウントされた。

激しい破壊音と無機質な計算音が聞こえなくなるとデュエル特有の雰囲気はなくなり、【ガンドラ】が姿を消していく。

その光景を見守り、何もなくなったのを確認した聖星は遊戯に目を向けた。

 

「ありがとうございます、遊戯さん!

俺、このデュエル凄く楽しかったです!

遊戯さんのモンスター達も見れましたし、遊戯さんの戦術も見れた。

負けたのは悔しかったですけど……

でも楽しかったです!!」

 

「うん。

僕も君の魔法使い達と本気で戦えて楽しかったよ。

でも、次は全力の君と戦いたいな」

 

「え?」

 

「だってさっきの君、顔にそう書いてあったよ」

 

クスクスと笑う遊戯の言葉に聖星はぽかん、と口を開ける。

カイザーの時も思ったが、やはり実力者は相手が全力のデッキで戦っているのかいないのか分かるのか。

やはり武藤遊戯は凄いと感動しながら聖星は強く頷いた。

 

「それで、遊戯さん……

さっき父さんが遊戯さんの時代に来たって話なんですけど」

 

「うん、本当の事だよ。

ちょっと長い話になるけど、聞く?」

 

「はい」

 

目を細めた遊戯は聖星から空へと視線を移し、数年前のあの日を思い出した。

祖父と共に見に行ったデュエルイベント。

楽しい日になるはずだったのに、突然現れたドラゴン達の手によって破壊活動が行われた。

しかしいつの間にか時間を遡り、遊星、そしてもう1人の青年と共に悲劇を繰り返さないため共に戦った。

 

「その時遊星君はパラドックスに【スターダスト・ドラゴン】を奪われ、僕達の前に敵として立ちふさがったんだ」

 

「……【スターダスト】が?」

 

守りを司る純白のドラゴン。

父と共にフィールドを駆け抜ける【スターダスト】が、いくら敵の手に渡ったとはいえ、多くの人々の命を奪ったという事実に聖星の声は震えていた。

どのモンスターよりも破壊が似合わない【スターダスト】の姿に遊星はさぞかし怒り狂っただろう。

 

「オ~、ノ~……

あの時の大会はとても胸騒ぎがしたのデ~ス。

まさかそんな事が起こっていたとはアンビリ~バボ~。

遊戯ボーイも酷い人デ~ス。

そんな大事な事があったのを何故私に教えてくれなかったのですカ?」

 

「ごめん、ごめん。

だってペガサス、子供達に囲まれていて話しかけるタイミングがなかったし」

 

「そうですカ……

ところで聖星ボーイ、遊戯ボーイ。

先程ユー達の会話で出てくるシンクロ召喚とは一体何の事でショ~カ?」

 

「聖星君、説明を頼めるかな?」

 

「はい。

シンクロ召喚とはチューナーモンスターと、非チューナーモンスターのレベルを合計し、それと同じレベルを持つシンクロモンスターをエクストラデッキ……

あ、この時代じゃ融合デッキですね。

そこから特殊召喚する方法です」

 

ペガサスは聖星の言葉を一文字一句聞き逃さないよう真剣な顔で聞いている。

流石はデュエルモンスターズの創始者なのか、その顔は先程までとは違い鋭い。

だがどこか子供のような純粋さを含んでいる。

口で説明した聖星は本物があった方が分かりやすいだろうと思い、ポケットから1枚のカードを取り出す。

 

「これがシンクロモンスターです」

 

「ホワット!?

何と美しいカードデ~ス!

これがシンクロモンスター、ビューティフゥル!!」

 

ペガサスに差し出したのは【星態龍】のカード。

今、聖星が持っているシンクロモンスターといえば彼しかいない。

自分自身をペガサスに持たれた【星態龍】は聖星の肩に現れ、まじまじと自分を見るペガサスを複雑そうな顔で見ている。

 

「……聖星。

別のカードを出すから早く私のカードを戻してくれ。

あんな子供のような目で見られるのはどうも居心地が悪い……」

 

「(照れるなって)」

 

「照れてなどいない」

 

すぐに否定した【星態龍】は自分の周りを光らせ、聖星のポケットに勝手に何枚かのカードを入れる。

どうやら本気でペガサスから離れたいようだ。

まぁ、あんなに見られたら居心地が悪くなるのも当然か。

しょうがないなぁと思ってカードを取り出そうとすると、ペガサスに手を握られる。

 

「聖星ボーイ!」

 

「はい?」

 

「やはりユーはあの赤い竜が言っていた通り、デュエルモンスターズの未来を切り開いてくれるボーイデ~ス!

是非っ、シンクロ召喚の開発のため我が社に協力して欲しいのデ~ス!!」

 

「え?

俺がですか?」

 

「イエ~ス!

まだミーはシンクロ召喚を全て理解はしていまセ~ン。

バット、ユーはそれを理解していマ~ス。

シンクロ召喚の開発には、誰よりも理解している聖星ボーイの力が必要デ~ス。

ですから~、是非協力してくだサ~イ!」

 

そういえば、赤き竜は自分がデュエルモンスターズの可能性を切り開く存在だとペガサスに予言していた。

自分のような平凡な学生がそんな大きなプロジェクトに関わっても大丈夫なのだろうか、という心配はある。

しかしペガサスの言う通りこの時代でシンクロ召喚の1番の理解者は聖星だ。

覚悟を決めた聖星はペガサスを見上げる。

 

「俺でよろしければ、是非協力させてください」

 

END

 

 




Q何故【浅すぎた墓穴】で表側守備表示で特殊召喚したし
AアニメでレベッカVSレオンでは表側守備表示だったから…


【呪符竜】を使ってほしいという要望があり、なんとか入らないかなぁと試行錯誤を繰り返したのですが…
こんな結果になってしまいました(´・ω・`)
申し訳ございません…


最近ARC-VでLDS組が熱いです。
特に真澄ちゃんがストライクゾーン。
アニメで北斗君をいじる姿に、是非聖星の嫁にっ!!!となってしまった。
いや、別に聖星は遊星のようにドMじゃないしっ…!
ただ真澄ちゃんの皮肉を笑顔で受け流す聖星を書きたいだけだし。
だが恋愛描写なんて私には無理だorz


あと、今は幻竜族という種族が存在します。
聖星は未来で使っていたデッキを【ジャンク竜星】にしたいんです。
本編から数十年たっている、っていう設定なので新たに種族使いされてもおかしくないかなぁと。


さて次回はどうしようか。
ついうっかりエクシーズ召喚の事も話すか、それとも黙ったままにするか。


ちなみに題名は【トールモンド】の全体破壊効果イメージです。
別に【トールモンド】は神じゃないけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話 アドバイザー契約と。

「というわけなので、聖星ボーイは我がインダストリアルイリュージョン社のシンクロ召喚専門のアドバイザーになったのデ~ス」

 

「どういう事だペガサス」

 

「その言葉の通りデ~ス。

ですから~、海馬ボーイは聖星ボーイから手を引いてくだサ~イ」

 

広い一室で交わされる男性達の言葉。

デュエルモンスターズの創始者と伝説のデュエリスト達。

自分の周りにいるデュエリストの事を再度確認した聖星は、本当に自分は凄いところにいるのだと改めて思った。

本来なら目立たずこの時代から去るつもりだったのに、シンクロ召喚を開発、発展させるアドバイザーになってしまった。

 

「う~ん、あの調子じゃもう暫くかかりそうかな」

 

「俺が直接海馬さんと話さなくて大丈夫なんですか?」

 

「別に平気だよ。

こういうのはペガサスの方が得意だし。

あ、もしかして聖星君交渉とか得意?」

 

「いえ、得意ではありません」

 

明らかに不機嫌な表情となっている海馬と、その海馬と笑顔で言葉を交わすペガサス。

いくら命がけのデュエルを何度も体験している聖星といえども、あの中へ飛び込む勇気などなかった。

 

「聖星君。

【青眼の白龍】の関連カードとか未来ではない?」

 

「関連カードですか?」

 

「うん。

知ってる限りで良いんだ」

 

どうしてここで【青眼の白龍】が出てくるのだろう。

海馬の相棒が【青眼の白龍】というのは分かっているが、ここでその関連カードをだしてどうしようというのだ。

あれか、もしかしてそれを使って交渉するのだろうか。

聖星はどうしようかと思いながら【星態竜】を見上げる。

 

「現物があったほうが良いのなら出すが」

 

「(じゃあ頼む)」

 

聖星が暮らしていた時代でも確かに【青眼の白龍】のサポートカードは何枚かあった。

遊馬達の世界でも【青眼の白龍】を模したエクシーズモンスターだって存在し、初めて見た時は驚いたものだ。

内ポケットにカードが現れたのを感じた聖星はそのカードを取り出す。

 

「直接的なサポートカードでしたらチューナーモンスターになりますけど、この2枚があります」

 

「【伝説の白石】に【青き眼の乙女】?

2枚ともレベル1チューナーなんだ。

効果は…………」

 

聖星から2枚のカードを受け取った遊戯はテキストをじっくり読む。

短い文章の【伝説の白石】はすぐに読み終え、次は【青き眼の乙女】に目をやった。

そして【青眼の白龍】を特殊召喚する効果に遊戯は海馬を見た。

 

「うん。

海馬君に見せたらすぐに大金を用意してでも欲しがるだろうね」

 

相変わらずにこにこと笑っている遊戯は聖星に2枚のカードを返し、時計を見る。

時刻はすでに9時を回っている。

 

「不動聖星!」

 

「あ、はい?」

 

遊戯にカードを返してもらった聖星は突然自分の名前を呼ばれ、思わず海馬を見た。

顔を向ければ修羅と見間違えるほど険しい表情を浮かべた海馬と視線が合う。

射殺されるのではないだろうかと思ってしまうほど鋭い眼差しだが、こんなもの本気で殺しにかかってきた七皇に比べたらまだマシである。

 

「貴様、俺からの誘いは断っておきながらペガサスの誘いには乗るだと?

どういう事だ?

それなりの考えはあるのだろうな?」

 

海馬はとてもプライドが高い。

それは自分が持っている財力、権力、思考能力、営業者としての腕が高い事を自覚しているからだ。

その自分の誘いを断る事など、普通ならありえない。

それもデュエリストなら尚更だ。

海馬の言葉に聖星は少し困った表情を浮かべ同じことを繰り返す。

 

「先程お話しした通り、俺は未来からの人間です。

その自分が関わり、歴史に狂いが生じてしまうと未来が崩壊してしまいます。

海馬さんのお誘いは本当に嬉しいのですが、俺のデュエルモンスターズ以外の知識、特に技術面は未来を狂わせる可能性が最も高いのです。

ですから申し訳ございませんが、俺は海馬さんの会社で働く事は出来ません」

 

「未来の崩壊だと?

それがどうしたというのだ。

そんなもの、俺のロードには関係のない事だ」

 

いや、海馬には関係なくとも未来人の聖星にはとても関係のある事だ。

海馬のはっきりとした主張に聖星は頭を抱えたくなった。

【星態龍】もいい加減この空気に耐え切れなくなったのか、聖星に提案する。

 

「聖星。

その2枚をこの男に譲ったらどうだ?

武藤遊戯の話が本当だと、この男にとってその2枚はお前の技術以上の価値があるかもしれん」

 

「(でもさ、この時代にはないカードだぜ。

別に普通のカードなら渡すけど、こいつらはチューナーだ。

まだ正式に製作案すら出ていないシンクロモンスター関連のカードを渡すのは気が引けるんだけど)」

 

「だがペガサス、そして未来の事を考えるとシンクロ召喚はいずれ世に放たれる。

その時のため、サンプルとして何枚かのチューナーとシンクロモンスターは必要だろう。

何もないところから作るより、完成品がある方がこいつらにとっても助かると思うが」

 

完成品の存在。

確かに0から作るより、見本がある方がある程度参考になり大いに助かる。

デュエルディスクのデータ読み込み、ソリッドビジョンへの対応。

メモリーチップの埋め込みなど。

山積みとなっている様々な問題が、聖星が持つカード1枚で解決する可能性があるのだ。

そう考えると良い交渉材料だろう。

聖星はソファから立ち上がり、海馬に2枚のカードを差し出す。

 

「何だ、この弱小カードは」

 

「(弱小って……)

未来で開発された【青眼の白龍】のサポートカードです」

 

「何?」

 

自分の魂と呼べるカードのサポートカードという事で、海馬はさっそく2枚のカードのテキストを読み始める。

海馬の目が【青き眼の乙女】を見た時止まったが、彼は表情を変えずに読み続けた。

読み終えた海馬はこの2枚を己のデッキに組み込んだとき、どのような戦術が出来るのかすぐに考える。

 

「成程、この2枚を俺に差し出す代わりに貴様から手を引けという事か」

 

「はい」

 

「良いだろう、と言いたいところだが無理な話だな」

 

「え?」

 

「単純な話だ。

今現在、我が社が開発しているデュエルディスクではシンクロ召喚に対応する事が出来ない。

そのようなプログラムなど組んでいないからな。

だからシンクロ召喚の開発を進めるという事は、そのカードを読み込めるようデュエルディスクも改良しなければならない」

 

「……その時、俺の知識が必要になる。

という事ですか?」

 

「そういう事だ。

どの道貴様は海馬コーポレーションに手を貸さなければならん、という事だ」

 

確かに海馬のいう事は一理ある。

今聖星が使っているデュエルディスクも、いざという時の為にシンクロ召喚、エクシーズ召喚に対応するようプログラムを書き換えている。

だが海馬達にはその方法が分からない。

シンクロ召喚の開発に成功しても、デュエルディスクの開発が出来なければシンクロモンスターの普及など夢のまた夢だろう。

 

「では聖星ボーイは我が社のシンクロ開発のアドバイザー。

そして海馬コーポレーションのデュエルディスク開発アドバイザーというのはどうでショウ」

 

「それが妥当ですね……」

 

「ふん。

今回はこの2枚、そして【ブルーアイズ】のシンクロモンスターを俺に譲る事に免じてそれだけにしておこう」

 

そう言った海馬は【伝説の白石】と【青き眼の乙女】をデッキケースの中にしまった。

だが聖星は彼の言葉に怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「【ブルーアイズ】の……?

え、どういう意味でしょうか?」

 

「どういう意味、だと?

この2枚は【ブルーアイズ】のサポートカードであるのと同時にチューナーモンスターだ。

【ブルーアイズ】のシンクロモンスターが存在すると考えるのが普通だろう」

 

海馬の中で【青眼の白龍】は絶対的なる存在。

そのサポートカードにチューナーという文字があるのなら、【青眼の白龍】とシンクロして召喚されるモンスターが存在する。

そう考えるのは別におかしくはなかった。

聖星は【星態龍】に目をやり、小さく頷いた。

そして懐から1枚のシンクロモンスターを差し出す。

 

「確かに【青眼の白龍】を模したシンクロモンスターは存在します。

ですがこれは【ブルーアイズ】専用のシンクロモンスターではありません。

モンスター効果は【ブルーアイズ】のサポートには良いかもしれませんが……」

 

「……美しい」

 

聖星が出したカードに海馬は今までの中で最も目を輝かせ、聖星にしか聞こえない程度の声で呟いた。

そこに描かれているのは【ブルーアイズ】の面影を残す銀色のドラゴン。

気高く雄々しい姿に海馬は笑みを浮かべた。

 

「デュエルディスクの開発についてはまた後日追って連絡する。

その時はアカデミアにいようが貴様に本土に帰ってきてもらう」

 

「ちゃんと公欠扱いですよね?」

 

「当然だ。

なんなら今すぐ鮫島と話をつけて卒業扱いにしても構わんぞ。

ただし俺に協力するのならな」

 

「それはお断りします。

今の学園生活は気に入っているので」

 

別に【星態龍】の力が回復するまで海馬コーポレーションとインダストリアルイリュージョン社で働くのも面白そうだが、聖星だってまだ友人と遊びたい年頃だ。

十代や取巻、皆とバカな事をやって過ごしたい。

はっきりと言い切った聖星に海馬は「フン」とだけ返した。

そんな会話を聞きながら遊戯は、シンクロ召喚の開発のため聖星はアメリカに行く事になるのだろうか?と考えた。

 

「では聖星ボーイ、日本の諺には善は急げ、というものがありマ~ス!

ですから~、今すぐ私と一緒にアメリカに来てくだサ~イ!」

 

「え?」

 

「(やっぱりね)」

 

**

 

それから冬休みの期間、聖星はゆっくり過ごせた気がしなかった。

パスポートは当然偽造し、アメリカに渡った聖星は毎日ペガサスと一緒にシンクロ召喚の書類を作成した。

時にはペガサスミニオンの月行や夜行とテストデュエルをし、充実だったがゆっくりできなかった。

しかし楽しかったのは事実なので良い思い出が出来たと思う。

 

「で、結局海馬さんの誘いは蹴ったのかよ?」

 

「う~ん、蹴ったっていうのか?」

 

「はぁ?」

 

冬休みを終え、アカデミアが始まった初日。

イエロー寮にいた聖星は当然の如く十代と取巻の2人につかまり、十代のお気に入りの場所である木の下で座っている。

樺山先生に作ってもらったカレー弁当を食べながら簡単に話した。

 

「海馬コーポレーションに就職するっていう話は断ったけど、デュエルディスクの新しいプログラムを開発する事にはなったんだ。

もちろん、それ相応の報酬は貰うけど」

 

「嘘だろ!?

断ったのか!?」

 

「あ~、やっぱり聖星、あの話蹴っちまったのか」

 

「俺ならすぐに喜んで書類にサインするのに……

不動、お前10年後後悔するぞ」

 

取巻の言葉に苦笑を零すしかできない聖星。

もし自分がこの時代の人間なら、多少悩み結局は頷いていただろう。

それだけ海馬コーポレーションが魅力なのだ。

どうせ勧誘されるなら未来でされたかったと思いながらカレーを食べる。

すると見慣れた少年がこちらに近づいてきた。

 

「聖星。

それに十代、取巻も一緒か」

 

「あれ、大地?」

 

「どうした三沢?」

 

現れたのはイエローで一緒に食事をする三沢。

確か今日は新しい数式を思いついた!と言って部屋に籠っていたはずだ。

新学期早々部屋の壁を数式だらけにする友人に苦笑を零したのもまだ記憶に新しい。

 

「あぁ。

聖星を探していたんだ」

 

「俺?」

 

「あぁ」

 

三沢からの言葉に首をかしげると、三沢と一緒に来た少年が前に出る。

知り合いの聖星はその少年の名前を呼ぼうとしたが、それより先に少年が行動を起こした。

 

「頼む、不動!

俺にデッキを組む極意を教えてくれ!」

 

「は?」

 

いきなり頭を下げられ、なんだかデジャヴと思った聖星。

三沢と一緒にこの場所に来たのは同級生の神楽坂だ。

あいさつを交わす程度の仲、さらに細かく言えば苦手な部類の彼に何故頭を下げられなければならない。

それにデッキを組む極意とは何だ。

困った聖星達は助けを求めるよう三沢に目をやる。

 

「彼は神楽坂。

俺達と同じイエロー寮の生徒だ。

十代と取巻は初対面だと思うが……

神楽坂がどんなデッキを組むか聖星は知っているだろう?」

 

「あぁ。

確かコピーデッキだっけ」

 

「コピーデッキ?」

 

コピーデッキとはその名の通りとあるデッキのレシピを模倣して構築したもの。

当然同じ構築になるのだから回し方は大体同じになってしまう。

まぁ、同じデッキでもデュエリストによっては違うプレイングを見せてくれる場合もあるのである意味面白いデッキだ。

 

「情けない話だが俺は強いデッキを組もうと思えば何故か無意識のうちに誰かのデッキに似てしまう。

そしてそのデッキでデュエルすると勝率がいまいちなんだ。

いや、連敗と言ってもいい」

 

「無意識に?

そんなのってあるのか?」

 

神楽坂をあまり知らない十代は怪訝そうな表情を浮かべてしまう。

自分の好みのデッキに構築してしまうならわかるが、誰かのデッキに似るなど聞いた事もない。

当然の疑問に三沢が答える。

 

「神楽坂は記憶力が良すぎるんだ。

そして研究熱心な性格も災いしてか、無意識のうちに名高いデュエリストのデッキを組んでしまう」

 

「へぇ~、なんか面白そうだな」

 

「面白いだと!?

さっき連敗だって言っただろ!」

 

「うわ、わりぃ」

 

「で、コピーデッキって今まで誰のデッキを組んできたんだ?」

 

真剣に組んでいるのに負けてしまう。

傍から見れば神楽坂の性質は面白そうだが、本人からしてみれば勝てなければ意味がないのであまり良くない。

癇に障ったとでもいうように怒鳴る神楽坂だが取巻の言葉に自分の記憶を呼び起こした。

 

「クロノス教諭に城之内克也、インセクター羽蛾、ダイナソー竜崎に……」

 

次々と上がる有名人の名前に皆はそれぞれのデッキを想像する。

どれもこれも大会で高評価を得ているデュエリスト、そしてクロノス教諭は実技担当教師であるため高いプレイングを要するデッキの使用者である。

 

「だが不動。

お前は1つのカテゴリに縛り、様々なデッキを作っては勝っている。

だから頼む。

デッキを組む極意を教えてくれ!」

 

「いや、そんな事言われても……」

 

再び頭を下げられ、聖星は言葉に詰まる。

別にデッキを組むなんて、その時使いたいカードを決め、それに【魔導書】を組み込んでいるという実に単純な作業だ。

神楽坂がいう極意など聖星は持っていない。

 

「う~ん、神楽坂ってさ、そのデッキを組んで、何度か回してる?」

 

「回す?」

 

「例えどんな強いデッキで、効果を記憶していてもすぐに扱えるわけじゃない。

……まぁ、稀に例外もいるけどさ。

どのタイミングでどのカードを発動するかなんて、実際にデッキを動かさないと分からないだろ」

 

「それなら何度もやった!

何度もやって、その時に最適なプレイングをしている!」

 

「じゃあ慣れてないから負ける、ってわけじゃないのか」

 

聖星だってテストデュエルで勝っているが、最初からそのデッキを完璧に扱えたわけじゃない。

ある程度扱い方を分かっているカードを組み合わせ、十代や翔、明日香達と試しにデュエルをしてプレイングを覚えた。

時にはあまりに回らず、連敗記録を更新したことだってあった。

神楽坂は負けてすぐに別のデッキを構築し、慣れないままデュエルしたのかと思ったが違うようだ。

どうしようか、と考えていると聖星はある事に思い至った。

 

「じゃあさ、いっその事神楽坂が知らないカードでデッキを組んでみるか?」

 

「は?」

 

「だってさ、神楽坂が誰かに似たデッキを組むのは、そのデッキレシピを覚えているからだろ。

だったら、名前も効果も知らない初めて見るカードでデッキを組んだらどうだ?

それならコピーデッキにならないし、神楽坂に何が足らないのか分かるかもしれないだろう?」

 

神楽坂は記憶力もよく、頭も良い。

実技の成績はお世辞にも良いとはいえないが、筆記や理論だったら自分や三沢と張り合えるくらい凄いのだ。

だからその記憶力、理論、理解力を駆使し、全く知らないカードでデッキを組めば何か分かるかもしれない。

そう提案したが神楽坂は戸惑い気味だ。

 

「だ、だが、俺の知らないカードなんてそうあるわけがない。

俺が研究熱心なのはお前も知っているだろ?」

 

「大丈夫だって、俺、神楽坂や大地、先生も知らないカード沢山持ってるからさ」

 

「え?」

 

楽しく微笑みながら言う聖星に三沢と神楽坂は怪訝そうな表情を浮かべる。

そして聖星の持っているカードを見た事がある十代と取巻は互いに目を合わせ、小さく頷いた。

 

**

 

「何だ、この量のカードは!?」

 

あれから昼食を食べ終え、皆は聖星の部屋に移動した。

部屋についた聖星はベッドの下からトランクケースを1つ取り出し、その中身を皆に見せた。

そこには未来で発売されたカード、遊馬達の世界で手に入れたカード、そして【星態龍】が出してくれたカードがある。

三沢と神楽坂はそのカードを手に取り、1枚1枚穴が開くくらい見つめた。

 

「何てカードの数なんだ。

それにどれもこれも俺が知らないカードばかり……

聖星、どこでこんなカードを?」

 

「以前住んでいたカードショップでね。

安かったから大量購入したんだ」

 

「そうか」

 

ちなみにここにあるカードの一部はペガサスが近々こっそり流通させる予定のものもある。

ペガサスはシンクロモンスター以外のカードにも興味を持ち、一部を見せたのだ。

 

「やっぱ聖星が持ってるカードってすげぇな。

見てるだけでワクワクしてくるぜ!

なぁ、取巻!」

 

「何で俺に言うんだよ」

 

改めて見てもこのカードの量には圧倒され、十代は目を輝かせる。

聖星がここにあるカードを使う事がないというのが残念だが、やはりあまり見ないカードと対面するのはとても心が躍る。

相変わらずの十代に聖星は微笑み、神楽坂に向き直った。

 

「じゃあ神楽坂。

俺とゲームしよう」

 

「ゲーム?」

 

「まず、君はこのカードの中から1つデッキを作る。

デッキを作るって言っても、魔法・罠カードは自分のカードを使っても良いぜ。

けど最低限モンスターカードはこのトランク内のものしか使っちゃ駄目だ」

 

「どうして魔法・罠は俺のカードでも良いんだ?」

 

「全部知らないカードで組んだ方が1番効果は良いと思うけど、それじゃあ【死者蘇生】、【大嵐】、【ミラフォ】が使えないから少し不便だろ」

 

なんたって【強欲な壺】や【死者蘇生】は今のデュエリストのデッキでは必須に近いカードだ。

特に【強欲な壺】など、デッキに入っていなければデッキとは呼ばないと世間一般で言われている。

それにデッキに投入する魔法・罠カードは汎用性の高いものを除けば、デッキに組み込むモンスターカード等に対応する物が多くなる。

 

「それが前準備。

次にゲームの説明。

その組んだデッキで、デッキに入れた俺のカードと同じ枚数分デュエルする。

それでデュエルに勝ったら、デッキの中から1枚神楽坂に譲る。

負けたら負けた回数分、十代のテスト勉強を手伝う」

 

「はぁ!?

何でそれで俺が出てくるんだよ!?」

 

「この数か月で学んだけど、俺1人じゃ十代の赤点は避けきれても平均点は無理だ。

十代だけじゃなくて翔と隼人、俺自身の勉強もあるし……

それに神楽坂は俺より頭良いから良い助っ人だと思うぜ」

 

仮に聖星のカードでデッキをくみ上げても、それはあくまで聖星のカードである。

いつか聖星に返さなければならない。

流石の聖星もデッキ丸ごと神楽坂に譲るのは抵抗があるので、このようなゲームの報酬として渡すことにした。

 

「だが不動。

組んでいきなりゲーム開始は酷くないか?」

 

「取巻の言う通りだ。

知らないカードばかりで組んだデッキは扱いが難しい。

最初は負けてもおかしくない」

 

「分かってるって、取巻、大地。

ゲームの対戦相手は俺、十代、取巻、大地を除いた生徒が対象だ。

俺達4人は神楽坂がデッキに慣れるための練習相手。

勿論、もう慣れたって自信がついたら俺達4人をゲームの対戦相手に変更しても良い。

それでどうだ?」

 

神楽坂。

そう聖星が問いかけると神楽坂は顔を下に向ける。

そしてゆっくりと口を開いた。

 

「確かに知らないカードでデッキを組めば、コピーデッキではない俺だけのデッキを作る事が出来る……

だが、それで強いデッキを組めるのか?」

 

「組める、組めないかはやってみないと分からないだろう」

 

というより、このカードの枚数でデッキが組めない方がおかしい。

一応シンクロやエクシーズには頼らない、関連性がないカードばかりを【星態龍】に出してもらった。

強いか弱いかは神楽坂のプレイング技術、知識次第だ。

運も必要となってくる場合もあるが、運をあまり必要としないデッキだって組もうと思えば組める。

聖星の言葉に神楽坂は頷き、トランクケースにあるカードに向き合った。

 

「よし、まずはカードの効果を全部覚えてやる!」

 

「何か面白そうだな。

俺もデッキ組むの手伝うぜ、神楽坂!」

 

「俺もだ。

それにこのカード達を一通り見てみたいしな」

 

「本当、不動ってどうやってこんなにカードを手に入れているんだか……」

 

神楽坂がカードを手に取るのと同じように、十代達も聖星のカードを見る。

このカードはあのコンボに使える、あのカードと合わせたら逆転できる。

口々に自分の考えを出しながら皆は神楽坂のデッキ構築を進めていった。

 

「よし、一先ず完成したぜ!」

 

「やったな、神楽坂」

 

「あぁ!」

 

昼から構築を始めたというのに、外はすっかり暗くなっている。

それほどデッキ構築が難航したのだ。

元々神楽坂は誰かのデッキを真似て構築していたので、0から構築するというのが苦手だった。

何を軸にするのかが決まらずそれだけで2時間近くは時間を費やした。

 

「じゃあ、まずはテストデュエルだな」

 

「はいはいは~い!

だったら俺がやる~!」

 

十代は大きく手を上げ、自分自身を指さした。

真っ先に名乗り上げるなど十代らしいが聖星は微笑みながら告げる。

 

「十代。

悪いけど、それは明日だ。

もう夜だし、門限が近いぜ」

 

「えぇ~!?

マジかよぉ!?

折角あのデッキと戦えると思ったのに…………

神楽坂!

明日、朝一番にお前にデュエルを申し込むからな!」

 

「あぁ、来い、遊城十代!」

 

初めて組んだ誰にも似ない、オリジナルのデッキ。

早く試したくて仕方がない神楽坂と、それの最初の対戦相手になりたい十代。

闘志を燃やす同級生を聖星は微笑みながら見つめる。

そして今回カードに関して協力してくれた【星態龍】はため息をついた。

 

「聖星。

いくらペガサスがお前のカードを世に放っても良いと言っても、流石にこれは……」

 

「(…………うん、俺もやりすぎたとは思う。

でもコピーデッキしか組めない神楽坂が知らないカードでデッキを組むと、どんなデッキが出来るのか興味が出てね)」

 

「そうか……」

 

END

 




デュエル無いんかい!!!
すみません、まだ神楽坂のデッキが頭の中でまとまっていなくて……
カイザーは真剣に考えたデッキだから、デッキは応えてくれると言っていたので、この方法で組ませれば神楽坂勝率上がるんじゃね?と思ったからです。

次回は十代と神楽坂のデュエルです!
執筆はデッキを決め次第するので、少し更新が遅くなるかもしれません!
では失礼いたしましたー!

……RAGING MASTERS買い損ねた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話 墓場より出でし存在

「「デュエル!!」」

 

レッド寮とイエロー寮の間にある森の中。

そこでデュエルに丁度良い場所があるため、神楽坂と十代はそこで新たなデッキのテストデュエルをする事にした。

観客であるのはデッキ編集を手伝った聖星、三沢に十代と同室の翔と隼人だ。

 

「それにしても酷いっすよ。

デッキの編集なら僕達も呼んで欲しかったっす」

 

「俺も呼んで欲しかったんだな……」

 

「悪い、悪い。

急な話だったからさ」

 

何故十代が見知らぬイエローとデュエルする事になったのか、今朝2人に尋ねられた聖星は昨日あった事を話したのだ。

彼が組んだデッキも気になるが、2人は聖星が持っている知らないカードに興味があるようで非常に残念がっている。

もし機会があれば2人にも見せよう。

そう思った聖星は十代達を見る。

 

「行くぞ十代!

先攻は俺だ、ドロー!

俺は手札から【手札抹殺】を発動!」

 

「いきなり【手札抹殺】かよ!」

 

「このカードは互いの手札を全て捨て、捨てた枚数分カードをドローする。

俺達の手札は互いに5枚。

よって5枚ドローだ」

 

「畜生、せっかく【融合】が手札にあったのに……」

 

少し残念そうに手札を捨てる十代。

デッキに愛されている彼の手札にはおそらくだが、正規融合するための素材は揃っていたはず。

それなのに捨てる事になるとはまさに痛手だ。

しかし神楽坂は不敵な笑みを浮かべ、宣言した。

 

「この瞬間、墓地に捨てられた【暗黒界の術師スノウ】、【暗黒界の狩人ブラウ】のモンスター効果発動!」

 

「このタイミングで発動するカードっすか!?」

 

デッキを組むとき一緒にいなかった翔はまさかの発動タイミングに目を見開く。

しかもそれが複数枚存在するのだ。

神楽坂は笑みを浮かべたまま初めて見る翔と隼人に説明するように口を開く。

 

「【暗黒界】のモンスター達は手札から捨てられることで真価を発揮するモンスターだ」

 

「だからいきなり【手札抹殺】を発動したんすね……」

 

この時代では【手札抹殺】や【天使の施し】のカードは手札事故を回避するための手段という認識が強い。

そのため【手札抹殺】を使うという事はデッキの構築が下手という印象を持つものが多いのだ。

しかし【暗黒界】ではその手札交換のカードはメリットとして働く。

 

「こいつらは手札を整えるための下準備。

まずは【ブラウ】!

このカードが手札から捨てられたとき、デッキからカードを1枚ドロー!

【スノウ】の効果!

このカードが手札から捨てられたとき、デッキから【暗黒界】と名の付くカードを1枚手札に加える!

俺はフィールド魔法【暗黒界の門】を加える!」

 

加えられたのは何者かが立ち、1つの扉が開いているとこを描いているカード。

カード名が共通しているので、何らかのサポートカードだろう。

 

「そしてフィールド魔法【暗黒界の門】を発動!」

 

パチッ、と軽い音が聞こえたと思えば神楽坂の背後に巨大な門が現れた。

数メートルは高さのある門に聖星達はそれに合わせて顔を上げる。

 

「【暗黒界の門】の効果発動!

墓地に眠る悪魔族モンスターを除外し、手札の悪魔族モンスターを捨てる事でデッキからカードを1枚ドローする!

俺は【ブラウ】を除外し、手札の【暗黒界の尖兵ベージ】を捨てる」

 

神楽坂の背後に弓矢を持つ【ブラウ】が半透明の姿で現れ、歪みの彼方へと消えていく。

すると閉じていた門が地響きのような音を発しながらゆっくりと開いていく。

門が開くことで別世界の光があふれだし、武器を持つ【ベージ】がその門の中へと消えていく。

消えていったと思えば再び門はゆっくりと閉まっていった。

流石はソリッドビジョンといえばいいのか、かなりこだわっている演出に皆は言葉を失う。

 

「……すげぇ。

すげぇな、この演出!

マジでカッコいい!!」

 

「……【門】ってこういう感じの演出だったんだ」

 

「知らなかったのか、聖星?」

 

「あぁ。

俺、【暗黒界】のカードは使ったことがなかったから」

 

【暗黒界】は悪魔族で構成され、しかも手札から捨てられる必要がある。

【魔導書】と組み合わせようと思っても上手くいかないのは明白。

だから使わずケースの中に秘蔵入りしていたのだ。

 

「そして手札から捨てられた【ベージ】の効果発動!

このカードが手札から捨てられたとき、俺の場に特殊召喚される!

甦れ、【ベージ】!」

 

暗い紫色の渦がゆっくりとフィールドに広がり、その中から槍を構えた【ベージ】が現れる。

表示された攻撃力は1600だがすぐに1900へと変わる。

 

「え、攻撃力が上がった?」

 

「どうしてなんだな?」

 

「【暗黒界の門】の効果さ。

【暗黒界の門】は悪魔族モンスターの攻撃力と守備力を300ポイント上げる効果を持つ。

だから【ベージ】の攻撃力は1900に上昇した」

 

不思議そうな顔を浮かべる2人に三沢が解説する。

流石勉強熱心な三沢、昨日の時点であのカードの効果を把握したようだ。

 

「300って地味に痛いよな」

 

味方からしてみればありがたい効果だが、敵からしてみれば面倒くさいと思うほどの上昇値。

 

「俺はモンスターをセットし、ターンエンドだ」

 

「モンスターをセット?

っていう事はリバースモンスターか」

 

神楽坂のデッキに入っているリバース効果を持つモンスター。

デッキ構築を手伝っていた聖星達は当然それが何なのか想像がつく。

十代も答えにたどり着いたようで少しだけ面倒くさそうな顔を浮かべた。

 

「行くぜ、俺のターン!

俺は手札から【E・HEROエアーマン】を召喚!

【エアーマン】の効果発動。

このカードの召喚に成功したとき、デッキから【HERO】と名の付くモンスターを1体手札に加える。

俺は【E・HEROキャプテン・ゴールド】を加えるぜ!」

 

「【キャプテン・ゴールド】?

そんな【HERO】いたっけ?」

 

十代が手札に加えたモンスターは黄金のスーツを着た筋肉質の男性がビルの頂上に立っているカード。

今まで何度かデュエルしてきたが、あんなカードを十代は持っていただろうか。

もしかすると買ったパックに入っていたのかもしれない。

聖星が首をかしげていると十代は宣言する。

 

「そして【キャプテン・ゴールド】の効果発動。

このカードを墓地に捨てる事でデッキから【摩天楼―スカイスクレイパー―】を手札に加えるぜ」

 

「フィールド魔法サーチ効果か。

これなら【暗黒界の門】を破壊できるな」

 

「あぁ。

手札のカードを都合よく捨てるカードは限られている。

それを補うのが【暗黒界の門】の役目だ。

そのカードを破壊さるという事は神楽坂のデッキの回転力が落ちるという事になる」

 

聖星の言葉に三沢は頷き、解説するかのように言葉を述べる。

三沢はプロのデュエリストより解説者の方が活躍できると思ったのはここだけの話だ。

 

「フィールド魔法、【摩天楼―スカイスクレイパー―】を発動!」

 

十代の手札に加わったカードはすぐに発動され、暗黒界の入り口ともいえる巨大な門が崩れていく。

代わりに地面から無数のビル街が現れ十代達の周りを覆い囲んだ。

 

「これで【暗黒界の門】の効果はなくなり、【ベージ】の攻撃力は元に戻るぜ!」

 

「くっ……!」

 

「行け、【エアーマン】!

【暗黒界の尖兵ベージ】に攻撃!」

 

【エアーマン】は大きく両腕を広げると翼についている羽が周り、強風を生み出す。

その風は【ベージ】を飲み込み、一瞬で破壊した。

これで神楽坂のライフは4000から3800に下がる。

 

「俺はカードを3枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!

俺は裏側守備のモンスターを反転召喚!」

 

「ワン!」

 

光とともに現れたのは武装した白い犬。

威嚇するかのように唸り声を上げた犬は十代を睨み付ける。

 

「うわ、おっかない目だなぁ」

 

「【ライトロード・ハンター ライコウ】のリバース効果発動!

このカードがリバースしたとき、デッキからカードを3枚墓地に送り、場のカードを1枚破壊する!

俺は真ん中の伏せカードを破壊!」

 

【ライコウ】は低い遠吠えをし、狙いを定めたのか十代の伏せカードを噛み砕いて破壊する。

その素早さはハンターの名にふさわしいものだ。

 

「やっぱりおっかねぇ」

 

自分のカードを破壊された十代は冷や汗を流しながら自分を未だに睨む【ライコウ】に呟く。

十代は仕方なく破壊されたカード、【サイクロン】を墓地に送った。

 

「さらに俺は手札から魔法カード、【テラ・フォーミング】を発動!」

 

「【テラ・フォーミング】!?」

 

「あ、また【門】が出てくるか」

 

【テラ・フォーミング】はデッキからフィールド魔法をサーチする効果を持つ。

先程三沢が言った通り、【暗黒界の門】はコストが必要とはいえ、毎ターン手札を捨てる事が出来るため【暗黒界】にとって重要なカードだ。

そのため破壊された後はすぐに発動する必要がある。

 

「(けどよく【テラ・フォーミング】なんてカード入れたよな。

普通に【暗黒界の術師スノウ】のサーチ効果だけで十分だと思うけど……

念には念を、か?)」

 

「このカードの効果により、俺はデッキからフィールド魔法【暗黒界の門】を手札に加える。

そして再び【暗黒界の門】を発動!」

 

光り輝くビル街は一斉にライトが消え、そのビルは崩れ去っていく。

その光景と入れ替わるように不気味な門が再び現れる。

 

「【暗黒界の門】の効果発動!

墓地に存在する【暗黒界の術師スノウ】を除外し、手札の【暗黒界の龍神グラファ】を捨てる。

そしてデッキからカードを1枚ドロー!!」

 

またゆっくりと開く重苦しい扉。

今度はその扉の前に禍々しい鱗を敷き詰めた巨大でなドラゴンが現れる。

紫の煙と共に現れた姿は暗黒界の神と名乗るのに相応しいもので、その威厳ある姿に翔は小さく悲鳴を上げる。

 

「この瞬間、【暗黒界の龍神グラファ】の効果発動!

カードの効果で手札から捨てられたとき、相手のカードを1枚破壊する!

俺は左側の伏せカードを破壊!」

 

「くっ……!!」

 

門から姿を現した巨大なドラゴンは半透明の姿で十代を見下ろし、その鋭い爪で十代の伏せカードを切り裂いた。

一瞬だけ見えたが、破壊されたカードは【異次元トンネル―ミラーゲート―】だ。

 

「そして【トランス・デーモン】を召喚!」

 

「キャキャキャキャキャ!!」

 

「うわ、気持ち悪いっす……」

 

「【暗黒界】のカードじゃないんだな」

 

現れたのは攻撃力1500の小型の悪魔。

翔の言う通り、パッと見て悪魔らしく綺麗な外見とは言えない。

歪んだ表情で周りを見ながら奇妙な声で笑っている。

 

「【トランス・デーモン】の効果発動。

手札の悪魔族を1枚捨てる事でこのカードの攻撃力を500ポイント上げる!

俺は【暗黒界の尖兵ベージ】を捨てる!

そして【ベージ】は自身の効果で特殊召喚される!」

 

これで神楽坂の場には3体のモンスターが揃った。

【暗黒界の門】の恩恵を受けた事で【トランス・デーモン】の攻撃力は2300、【ベージ】は1900。

【ライコウ】は200のままだ。

 

「まずいっす。

兄貴の場には攻撃力1800の【エアーマン】と伏せカードのみ」

 

「いや、翔。

これからもっと凄い事になるぜ」

 

「聖星の言う通りだ」

 

「え?」

 

同級生の言葉に不思議そうな表情を浮かべる翔と隼人。

墓地と場にモンスターが揃い、条件は整った。

神楽坂は不敵な笑みを浮かべ高く手を上げる。

 

「これで条件は揃った!

墓地に存在する【暗黒界の龍神グラファ】は場の【暗黒界】を手札に戻す事で墓地から蘇える!

さぁ、牙を研ぎ澄ました龍神よ、再び羽ばたき、恐怖を与えろ!」

 

神楽坂がそう叫ぶと【ベージ】は姿を消し、その場から禍々しい邪気が溢れ出る。

ゆっくりと場に漂う重苦しい空気は1つに集結し、何かを形成していく。

強靭な爪に巨大な肉体。

その体を支える漆黒の翼。

暗闇の中光り輝くトパーズの眼。

獣の髑髏と悪魔の角という恐ろしい風貌を現したドラゴンは尾をゆっくりと動かし、その場を揺るがす雄叫びを上げた。

 

「グォワァアアアアアアア!!」

 

「来たー!!

そのデッキのエース!!」

 

「ふん。

【グラファ】の攻撃力は2700。

だが俺の場には【暗黒界の門】がある。

これで【グラファ】の攻撃力は3000だ!」

 

「攻撃力3000!?」

 

「場のモンスターを手札に戻すだけで蘇生するなんて、滅茶苦茶っすよ!」

 

「……翔、聖星は手札を見せるだけで攻撃力2500のモンスターを出すんだな」

 

「……そうだったね。

神楽坂君も聖星君もずるいっす!!」

 

「え、何が?」

 

攻撃力が高ければ高いほど相手の場を制圧する可能性は上がる。

しかしそれだけ強いカードを場に出すためにはそれ相応のリスクや召喚条件が伴う。

それなのに神楽坂や聖星の使うカードは簡単に召喚できる。

それに対し文句を言う翔だが、目の前の【グラファ】や【ジュノン】並みに簡単に召喚できるモンスターを沢山知っているため聖星は首を傾げた。

 

「別に攻撃力が高いモンスターなんて簡単に出ると思うけどな……」

 

「え?」

 

「天使族なら【神の居城-ヴァルハラ】があるし、アンデット族なら【馬頭鬼】で墓地から特殊召喚。

植物族は【ローンファイア・ブロッサム】ですぐに出てくる。

俺の幼馴染が使う鳥獣族の最上級モンスターなんて魔法カード1枚で出てきて、消えたと思ったら墓地から現れてモンスター全部破壊。

姉さんは墓地にモンスターを落として【ダーク・アームド・ドラゴン】を特殊召喚して、俺の場のカードを破壊してくるし。

取巻の持っている【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】だってドラゴン族を除外すればすぐに出てくるだろう。

あとは【征竜】かな」

 

いや、よく考えれば今上げたモンスター達は何らかの形でカードを消費して手札が減っている。

そう思えば手札が一切減らずに出る【グラファ】や【ジュノン】はずるに入るのだろうか。

 

「(あ、でもその考えで行くと【馬頭鬼】と【ダムド】は手札が全く減ってないよな。

【ロンファ】と【ガルドニクス】もデッキから出てくるから、手札消費は1枚しかないし)」

 

等と考えると懐から鈍い機械の音が聞こえる。

すぐにPDAが鳴っていると気が付き、それを取り出す。

 

「あ」

 

「どうした、聖星」

 

「取巻きから電話。

悪い、ちょっと抜ける」

 

「あぁ」

 

せっかく面白いところだというのに。

しかし彼から連絡があるなど珍しいと思いながら聖星は静かに会話できる場所へと移動する。

聖星の後姿を見送った三沢は十代と神楽坂のデュエルに向き直した。

 

「行くぞ!

【暗黒界の龍神グラファ】で【E・HEROエアーマン】に攻撃!

ダークネス・アブソリュート・ブレス!!」

 

【グラファ】は黄色の目を光らせ、その紫の雷を纏いながら大きな口を開く。

赤い舌が覗く口には巨大な冷気の塊が集まり、それが【エアーマン】を襲う。

【エアーマン】は飛行してかわそうとしたが、飛び立つ前に氷漬けにされてしまう。

冷気の波動は十代にまで襲い掛かり、彼のライフを1200ポイント奪った。

 

「ぐぅ!!

罠発動、【ヒーロー・シグナル】!!

俺の場のモンスターが破壊されたことで、デッキから遺志を継いだ仲間達が現れる!

来い、【E・HEROバブルマン】!」

 

「はぁ!」

 

氷が砕けた場所から仲間を呼ぶサインが放たれ、答えるように【バブルマン】が守備表示で現れる。

 

「特殊召喚された【バブルマン】の効果発動!

このカードの召喚、特殊召喚に成功したとき、このカード以外にカードが存在しなければ俺はデッキからカードを2枚ドローする」

 

「だが守備力はたったの1200!

【トランス・デーモン】の敵ではない!

やれ、【トラスト・デーモン】!!」

 

「キャキャキャキャキャ!!」

 

不気味な笑みを浮かべながら【バブルマン】に向かっていく【トランス・デーモン】。

あまりの不気味さに翔や隼人は引いた表情を浮かべるが、幾度なく戦場を潜り抜けた【バブルマン】は動じず、反撃しようと構える。

だが【トランス・デーモン】の前に敗れ去ってしまった。

 

「【ライトロード・ハンター ライコウ】でダイレクトアタック!!」

 

「ぐっ!」

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

今十代の手札は【バブルマン】の効果のおかげで5枚。

ライフは2600.

場にはカードが存在せず、それに対し神楽坂の場には攻撃力3000、1800、200のモンスターに伏せカードが1枚とフィールド魔法。

ライフは3800だ。

手札を見渡した十代は笑みを浮かべ、カードを掴む。

 

「俺は手札から魔法カード、【強欲な壺】を発動!

このカードの効果でデッキからカードを2枚ドローする。

そして手札から魔法カード【死者蘇生】を発動!

【E・HEROエアーマン】を攻撃表示で特殊召喚するぜ!」

 

再び風を纏いながら現れた【エアーマン】。

そして特殊召喚された事で効果が発動する。

 

「【エアーマン】の効果発動!

デッキから【E・HEROエッジマン】を手札に加える。

そして墓地の【E・HEROネクロダークマン】の効果発動!」

 

「【ネクロダークマン】?

さっきの【手札抹殺】か!」

 

「【ネクロダークマン】は墓地に存在してこそ真価を発揮する。

こいつが墓地に存在するとき1度だけ【E・HERO】を召喚するとき、生贄が必要なくなる」

 

「……という事は……」

 

「【E・HEROエッジマン】を生贄なしで召喚!」

 

「はっ!」

 

十代の背後に現れたダークヒーローのような風貌の代わりに、金色に輝く戦士が場に現れる。

最上級ヒーローの登場に翔と隼人は十代にエールを送った。

その攻撃力、2600.

 

「そして魔法カード、【ミラクル・フュージョン】を発動!」

 

「来たか……!」

 

「墓地の【バブルマン】と【キャプテン・ゴールド】を融合し、現れよ、凍てつく世界を生み出す絶対的ヒーロー!

【E・HEROアブソルートZero】!!」

 

「はぁっ!!」

 

墓地に眠る2体の英雄が相手を倒すため、力を合わせて生まれた英雄。

光柱が立ち上り、それは一瞬で氷漬けとなる。

砕け散った氷は光を反射しながら輝き、純白の英雄が凍りを纏いながら現れる。

 

「さらに【エッジマン】に【H-ヒートハート】を発動!

【エッジマン】の攻撃力を2600から3100にアップ!」

 

「なっ!?」

 

「まだだぜ、神楽坂!

俺は【Zero】に【エレメンタル・ソード】を装備!

このカードを装備したモンスターが違う属性のモンスターとバトルする時、攻撃力を800ポイントアップする!」

 

「っ!?」

 

十代の言葉に神楽坂は自分のモンスターと相手のモンスターの攻撃力を比べ、自分のライフを計算した。

【Zero】の攻撃力は実質3200となり、【エッジマン】は【H-ヒートハート】の効果で3100.

攻撃力200と1800のモンスターに攻撃されたら終わりである。

 

「させるか!

リバースカード、オープン!

【サイクロン】!

これで【Zero】の【エレメンタル・ソード】を破壊する!」

 

「ゲ!」

 

【Zero】に力を与えるはずだったソードは雷を発しながら場を荒らす風に飲み込まれ、粉々に砕け散る。

折角決める事が出来ると思ったのに破壊された十代は楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「やっぱりそう簡単には勝たせてくれないか」

 

「当たり前だろ。

これは俺が持てる知恵を全て使って作ったデッキだ。

絶対に勝つ」

 

「あぁ。

行くぜ!

【エッジマン】で【トランス・デーモン】を攻撃!

パワー・エッジ・アタック!!」

 

燃えたぎる力を手に入れた【エッジマン】は輝く拳を振り下ろし、【トランス・デーモン】を打ち砕く。

攻撃力の差1300が神楽坂のライフからマイナスされ、2500となった。

 

「【トランス・デーモン】の効果発動!

このカードが破壊された時、ゲームから除外されている闇属性モンスターを1体手札に加える。

俺は【暗黒界の狩人ブラウ】を手札に加えるぜ」

 

「【アブソルートZero】で【ライトロード・ハンター ライコウ】に攻撃!

瞬間氷結!!」

 

手をかざした【Zero】の標的になった【ライコウ】は一瞬で氷の彫刻となり、粉々に砕け散る。

その時発生した冷気は神楽坂を襲い、更にライフを2300奪った。

 

「俺は永続魔法【悪夢の蜃気楼】を発動。

そしてカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

【H-ヒートハート】の効果が切れ、【エッジマン】の攻撃力は2600に戻った。

ドローしたカードを見た神楽坂は十代が発動した【悪夢の蜃気楼】を見る。

 

「【悪夢の蜃気楼】の効果発動!

相手のスタンバイフェイズ時、デッキからカードを4枚になるようドローする。

今、俺の手札は0.

よって4枚のドローだ!」

 

相手のスタンバイフェイズに手札を増やし、自分のスタンバイフェイズに増えた分だけ手札を捨てる永続魔法。

4枚引いたという事は次のターン十代は4枚捨てる事になる。

 

「ならば、俺はフィールド魔法【暗黒界の門】の効果発動!

墓地の【トランス・デーモン】を除外し、【暗黒界の狩人ブラウ】を捨て、デッキからカードを1枚ドロー!!」

 

「【ブラウ】の効果ってなんだっけ?」

 

「デッキからカードを1枚ドローする効果なんだな」

 

「さらに俺は魔法カード【ブラック・ホール】を発動!」

 

「【ブラック・ホール】!?」

 

神楽坂が発動したのは場のモンスターカードを全て破壊する除去カード。

場の中心に黒い球体が現れたと思ったらそれが一気に肥大化し、巨大な重力を発生しモンスター達を取り込んでいく。

これで互いの場のモンスターはいなくなった。

 

「俺は【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる!

俺が捨てたのは【暗黒界の鬼神ケルト】と【暗黒界の尖兵ベージ】だ!」

 

次々と捨てられていくカード達。

だが背後にその2体が現れ、周りに紫色の輝きを放つ。

 

「【ケルト】と【ベージ】はカードの効果で墓地に捨てられた時、特殊召喚する!

来い、【ケルト】、【ベージ】!!」

 

「はぁ!」

 

「はっ!」

 

【ケルト】は自慢の肉体美を披露し、【ベージ】はそれに戸惑いながらも武器を構える。

攻撃力が表示され、互いに【暗黒界の門】の効果で攻撃力が300ポイント上昇する。

力がみなぎるのか攻撃力2700となった【ケルト】はさらに強い雷を纏う。

 

「そして【ベージ】を手札に戻し、墓地の【グラファ】を呼び戻す!」

 

「やべっ!」

 

先程と同じように【ベージ】は姿を消すが、神楽坂のフィールドはゆっくりと裂けていきその奥底から【グラファ】が蘇る。

白い息と紫の煙を纏いながら蘇った【グラファ】はその眼に十代を映し、静かに見下ろす。

 

「行くぞ!

【暗黒界の鬼神ケルト】で十代にダイレクトアタック!」

 

「うわっ!!」

 

【ケルト】は一際激しく雷を鳴らし、十代にその拳を叩き付ける。

まともに受けた十代は少しだけ吹き飛ばされ、ライフは残り100となる.

十代はすぐに顔を上げ、神楽坂を見る。

その顔は楽しくて仕方がない事を物語っていた。

 

「【暗黒界の龍神グラファ】でダイレクトアタック!!」

 

「うわぁあああ!!!」

 

フィールドに響く十代の声。

同時に残りのライフは0まで削られ、ソリッドビジョンが消えていく。

その様子を見ながら神楽坂は自分のデュエルディスクを見下ろす。

 

「…………勝てた」

 

小さく呟いた神楽坂は胸に手を当て、自分の鼓動の音を聞く。

破裂するのでは中と思うほど煩く鳴る心臓の音が聞こえてきて、体が震えてくる。

 

「すげぇ、すげぇな神楽坂!

お前達凄く強いじゃん!

なぁ、もう1回デュエルしようぜ!」

 

走りながら突撃した十代はマシンガンの如く言葉を放つ。

しかし当の本人から返答がなくすぐに怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「神楽坂?」

 

「悪い。

その、上手く言葉で表せないんだが……

俺、自分で考えた自分だけのデッキで勝つのが久し振りで……」

 

その記憶力ゆえ、初心者の頃はともかく今ではすっかり誰かに似たデッキ構築をするようになってしまった神楽坂。

しかし聖星が貸してくれた見知らぬカードで組んだこのデッキは誰も知らない、似ない、自分だけのデッキである。

初めはどう回せばいいのか理解はしているのに実行できるのか不安だった。

戸惑いながら言葉を口にする神楽坂に十代は笑みを浮かべた。

 

「楽しかっただろ?」

 

「…………あぁ」

 

「よ~し、今度は俺が勝つぜ!

神楽坂、もう1回デュエルだ!」

 

「望むところだ!」

 

神楽坂が力強く頷くと十代も満面な笑みを浮かべ、もう1度距離を取ろうとする。

少し観客となっている三沢達に目をやれば、翔と隼人は十代を応援し、三沢は楽しそうな笑みを浮かべている。

 

「あれ?

聖星は?」

 

「あぁ、彼なら取巻から連絡があったから席をはずしているよ」

 

「ふぅん」

 

そういえば彼の姿だけが見えなかった。

取巻もデッキ編集を手伝った者としてこのデュエルを見に来るはずだった。

何か用事でもできたのだろうか。

そう考えていると聖星がゆっくりと戻ってきた。

 

「どう、デュエルの決着ついた?」

 

「聖星」

 

「おう!

負けちまったけどな。

けど、これからリベンジ戦をするつもりだ!」

 

けっこう良い線までいったのに、最後に逆転されてしまった。

これだからデュエルは楽しい。

言葉にはしないが全身でそう言っている十代に対し、聖星は少し険しい顔を浮かべていた。

 

「どうしたんだ、聖星?」

 

「取巻のカードが奪われた」

 

「は?」

 

「取巻の【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】が奪われたんだ」

 

「はぁ!?」

 

END

 




ここまで読んでいただき有難うございます
神楽坂のデッキは【暗黒界】にしました。
登場した時期はセブンスターズ編だったので大丈夫かなぁ、と。
他のデッキの候補は【甲虫装機】、【水精鱗】、【アンデライロ】、【終世】、【剣闘獣】、【機械族】があったのですが…
あみだくじをした結果、【暗黒界】に決まりました!


それにしても…
これは3期の異世界編で神楽坂凄い事になるな…
アニメでは【グラファ】が出ていないから、狙われそうですね。


そして次回は彼らが登場です。


追記
誤っていたカード効果を修正しました
それとタグのアンチ・ヘイトは全く関係ないと思ったので外します


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話 青いカードとウイルス

取巻の【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】が盗まれた。

その連絡が来た聖星は十代を引っ張ってブルー寮の近くまで来た。

こちらに来る途中ブルーの生徒に睨まれ、絡まれて罵倒を浴びせられたが、今はそんなものに真面目にかまっている時間はない。

【星態龍】が自然発火現象がどうのこうのと言っていたような、と思いながらも聖星は走った。

 

「取巻!」

 

「遊城、不動……」

 

指定された場所に向かうと取巻がすぐに自分達を見つけ、ゆっくりと歩み寄ってくる。

近づけば近づくほど取巻の顔色が悪い事が分かり、2人は心配そうに声をかける。

 

「取巻、【レダメ】が盗まれたって本当なのか?」

 

「あぁ」

 

「一体何があったんだよ」

 

「見てくれよ、この写真」

 

気に入らなさそうにPDAを取り出した取巻。

彼はそれを操作してとある画面を2人に見せた。

 

「なっ……!?」

 

「酷いな……」

 

画面に映ったのは自分達の部屋より広い取巻の部屋。

あまり物が置かれていない質素な部屋だが、机の引き出しは全て出され、中に入っていたと思われる物が床に散乱している。

さらには机の上も荒らしたのか教科書やノートまでも散らばっている。

一瞬で何が起こったのか分かる画像に取巻は頭を抱えながら説明する。

 

「朝飯を食べて戻ってきたらこうだった。

鍵は壊されていて、すぐにデッキと貴重品を確認したら【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】だけが抜き取られていた」

 

「他のカードは無事だったのか?」

 

「あぁ」

 

そう言って取り出されたのはデッキケース。

簡単に広げてもらったが、確かに取巻が使っているドラゴン族デッキだ。

何度もデュエルしたことのある2人は【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】以外のカードが無事である事に少しだけ安心した。

しかしこれは逆に言えば【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】が犯人の狙いという事になる。

 

「それで、犯人は?」

 

「クロノス教諭にすぐに伝えて、今探してもらっているところだ」

 

「けど悠長には待ってられないだろ。

授業だってあるしよ」

 

聖星の問いかけに取巻は答え、十代が尋ねる。

最近の取巻の戦術は素早く【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を召喚し、手札や墓地に眠るドラゴン族を場に特殊召喚するものだ。

つまり【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】が核であり、それが存在しなければ展開力が落ちる事を意味する。

 

「取巻。

君の部屋ってブルー寮のどのあたり?」

 

「俺の部屋は1階だが…………

何をする気だ、不動?」

 

「何って……

セキュリティ会社から監視カメラ映像を手に入れて犯人を特定するだけだぜ」

 

それがどうかしたか?

さも当然のように言い放った聖星に取巻は開いた口が塞がらなかった。

それに対し十代は「流石聖星だぜ!」と自分の事でもないのに誇らしく言っている。

確かに聖星の技術力が高い事は取巻も知っている。

だが、今回の事は既に学園側に報告済みなので学園側がセキュリティ会社に要請しているはずだ。

それを今聖星が行って何の意味がある。

 

「カードっていうのは大きさから考えて隠そうと思えばどこにでも隠せるんだ。

それに【レダメ】程のレアカードだったら売り飛ばされる可能性だってあるし、早い方が良いだろ?」

 

「まぁ、それはそうだな……」

 

「じゃあもっと詳しい位置を教えてくれ」

 

PCを取り出した聖星はその場に座り、取巻の部屋の位置を尋ねる。

だいたいの位置を把握した聖星は早速ハッキングを開始した。

目にも止まらない速さでタイピングし、次々とファイアーウォールを突破していく。

 

「お~……

何が起きてるのかさっぱりわかんねぇけど、何度見てもすげぇな」

 

「ファイアーウォールってそう簡単に突破できるものなのか?」

 

「知識があれば簡単だぜ。

それにこういう技術は日進月歩。

突破するための技術なんてすぐに開発されるさ」

 

この時代では絶対に突破されないと過信されていても、聖星の、いや、遊星の時代の技術では簡単に突破できる。

先日の海馬コーポレーションのサイバー攻撃だってその進歩の結果だ。

すると画面に様々なアングルの映像が映し出された。

 

「お、出た」

 

「すげぇ、まだ5分もかかってないぜ」

 

「それで不動、俺の部屋の前のカメラはどれだ?」

 

「ちょっと待てって。

今探してるからさ」

 

次々と切り替わる映像をたった2つの目で見ながら、該当する監視カメラ映像を探していく。

 

「あれ?」

 

「ん?

どうした聖星?」

 

不意に指の動きを止めた聖星。

彼がタイピングを止めた事で映像の切り替わりも終わり、ずっと同じアングルの映像が流れる。

一体何があったのだろうと、全く機械に詳しくない十代が尋ねる。

取巻も聖星の言葉に怪訝そうな表情をしており、聖星を見下ろしている。

十代の問いかけに肝心の彼は一切返答せず、そのまま動きを止めた。

と思えばまたキーボードを探し、別の画面を表示させる。

そこには映像ではなく無数の数字が表示されている。

画面を下にスクロールしながらも別の窓を開いてはそこで作業をする。

 

「……どういう事だ?」

 

「聖星?」

 

「どうした不動。

まさか失敗したのか?」

 

「過去の記録を見ても……

じゃあこれは…………

……………………内部?

…………他のカメラは……」

 

「聖星?」

 

不思議そうな顔をしながら2人に聞こえるか聞こえないかの小声で勝手にしゃべり出す聖星。

その瞳はただ目の前のPC画面しか見ていなかった。

微笑みながら息をするかのようにハッキングを繰り返していた聖星の様子に十代は痺れを切らした。

 

「聖星!

俺達にもわかるように説明してくれよ!」

 

「あ、悪い」

 

「それで、どうしたんだ。

まさか失敗したとか?」

 

「いや、それはない。

けど映像がないんだ」

 

「え?」

 

「盗難が起きたのは今朝だろ?

だからその時間の映像を探したんだけど……

見てくれ」

 

指さされた部分に映っているのは取巻の部屋周辺を映しだしている映像。

日時は間違いなく今日である。

早送りで流れていく映像には取巻が部屋から出ていく姿が映し出され、彼の姿は早々と消えてしまった。

これ以降犯人が映っているだろうと思うが、次の瞬間取巻が戻って来た。

 

「は?」

 

「な……

どういう事だ?」

 

「時刻の表示を見てくれ」

 

「時刻?」

 

聖星が指差した部分には今日の日時が記録されている。

取巻が朝食のため部屋を出た時刻が7時15分なのに、彼の姿が消えたらすぐに7時58分になってしまった。

 

「え、じゃあ取巻のカードが盗まれる時間だけ映ってないって事かよ!?」

 

「そういう事。

他のブルー寮の監視カメラ映像やそのセキュリティ会社が担当している学校や会社の映像も調べてみたけどその時間帯だけ録画されてないんだ。

それでセキュリティ会社の記録を調べたらその時間帯、誰かがハッキングさせて機能を停止させている」

 

「じゃあ意図的って事か?」

 

「あぁ」

 

取巻の言葉に頷きながら聖星は口元に手をやる。

逆探知をしようと思ってももうハッキングは終わり、システムは正常に作動している。

いや、そもそもカードを1枚盗むためにここまでするのだろうか?

確かに【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】はレアカードで買い手によっては数百万いくだろう。

しかしいくらなんでも大がかりすぎる。

 

「(けど盗まれる時間帯とハッキングし、システムを乗っ取られている時間帯が一致している。

これは偶然?

そんなわけないよな。

だってあまりにも犯人には都合がいい)」

 

頭の中で自分の考えをまとめながらどうやって犯人を特定しようか考えた。

運よく犯人につながる痕跡が取巻の部屋にあれば良いのだが、ない場合はどうすればいい。

 

「(けど犯人が盗んだのは【レダメ】だ。

裏サイトを見ればもう出品されているかもしれない。

問題はそれが「取巻の【レダメ】」かこちら側では確認できない事。

そもそも【レダメ】の発売時期っていつだっけ?

まだ未発売なら確定なんだけど……

って、まだ未発売か。

ペガサスさん【レダメ】の事は知らなかったみたいだし。

っていう事は裏サイトに【レダメ】が出品されていたら確定しても大丈夫。

問題は…………)」

 

犯人がまだ出品していない、もしくはすでに売却済み。

売却済みなら海馬コーポレーションとインダストリアルイリュージョン社に手伝ってもらって取り戻す事が可能だ。

だが出品されなければ特定は難しい。

様々な可能性が脳裏をよぎるが1つ1つ潰していくことにした聖星はその裏サイトを探ろうとした。

 

「皆さん、こんなところで一体何をしているんだにゃ~?」

 

「だ、大徳寺先生!?」

 

「おっ、驚かさないでください」

 

背後から気配を一切感じさせず現れた大徳寺先生に十代と取巻は逃げ腰で文句を言う。

今の今まで犯罪行為を見ていたため、第三者の登場は心臓に悪い。

しかも相手は学園側の人間だ。

なんとか聖星を隠そうと振り返った2人の様子に大徳寺先生は首をかしげる。

 

「ごめんなさいなんだにゃ。

ところで聖星君、そんなにPCを大事そうに抱きかかえてどうかしたんですか?」

 

「背後からいきなり声をかけられて驚いただけです。

気にしないでください。

それより、大徳寺先生はどうしてこちらに?

授業ですか?」

 

「聖星君の言う通りですにゃ。

今から錬金術の授業です。

あ、ここで会ったのもついでですにゃ。

聖星君。

今日の授業が終わったら校長室に来てください。

お客さんがお見えになるそうですにゃ」

 

「お客さん?」

 

「何でもインダストリアルイリュージョン社の関係者だとか」

 

インダストリアルイリュージョン社からの客人。

一体誰だろうと聖星は首をひねる。

ペガサスは今アメリカでデュエル大会を主催し、それで多忙のはずだ。

いや、そもそも自分如きのためにペガサスが直接アカデミアに来るはずがない。

それならば誰だ、と考えたところで十代と取巻の驚きの声が聞こえる。

 

「インダストリアルイリュージョン社!?

聖星、お前海馬コーポレーションだけじゃなくてあのインダストリアルイリュージョン社とまで繋がりが出来たのかよ!?

なぁ、どんな繋がりだ?

教えてくれよ!」

 

「不動、まさか海馬コーポレーションを蹴ったのはインダストリアルイリュージョン社に就職が決まったからじゃないだろうな!?

どうなんだ、え!?」

 

「いや。

昨日話しただろ?

デュエルディスクのシステム開発で海馬コーポレーションに協力するって。

それが縁でインダストリアルイリュージョン社でも仕事を頼まれたんだよ」

 

「やっぱりお前すげぇな」

 

「……海馬コーポレーションにインダストリアルイリュージョン社。

これで不動がそのまま就職しましたって言われても俺は驚かないぞ」

 

「それはそうと、取巻君。

恐らく君も校長室に呼ばれると思うにゃ」

 

「…………はい」

 

聖星のインダストリアルイリュージョン社との繋がりで忘れていたが現状は全く変わっていないのだ。

監視カメラ映像が役に立たない以上、現場に残っている犯人の痕跡を頼りにするしかない。

それで犯人が特定され【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】が戻ってくれば良いのだが……

もし戻ってこなければデッキ構築を見直さなければならない。

 

「(だが俺の持っているカードだけで以前のような回転力は出せない。

出すとしたら新しいカードを手に入れないと……

だがそう都合よくカードが手に入るか?

…………不動がトレードしてくれそうな魔法使い族って、他に何があった?)」

 

大徳寺先生の言葉で現実に引き戻された取巻は顔色を変え、険しい表情を浮かべて黙ってしまった。

そんな取巻を励ますよう、十代は軽く肩をたたいた。

 

「よし、だったら俺は翔や隼人達と一緒にブルー寮の周りを調べてみるぜ。

時間はまだそんなに経ってない。

もしかすると何か犯人の痕跡が残ってるかもしれないしな」

 

「俺も探してみる。

時間帯が時間帯だし、目撃者がいるかもしれない。

大地にも連絡して協力してもらうよ。

皆にはろくな説明せずにこっちに来ちゃったし」

 

「……遊城、不動。

すまない」

 

**

 

「で、聖星。

お前は犯人をどう見ている?」

 

「とりあえず内部犯の可能性が高い。

理由はアカデミア全体のセキュリティ体制が向上し、外部から人が入りにくくなったから。

それとここ数日の島を出入りした人を記録したデータも見たけど、事件発覚の時点でアカデミア内に部外者はいなかった」

 

【星態龍】の言葉に聖星はすぐに返した。

十代を誘き出すために明日香を人質にとったあの事件。

あれが切っ掛けで倫理委員会等のセキュリティが杜撰だと発覚し、見直されて強化されたのだ。

だから外部の人間が平気でアカデミア内に侵入できるとは思えない。

 

「おい、聞いたか取巻の話」

 

小声で聞こえた誰かの声。

足を止めた聖星はそちらに顔を向ける。

見ると複数のブルーの生徒が集まっていた。

 

「あぁ。

あの【レッドアイズ】のカードを盗まれたんだって?」

 

「まぁ良いじゃねぇか。

盗まれたのはあいつのカードなんだ。

それにデッキの中にあったカードを盗まれたんだろう?

あいつの管理不足だろう」

 

「そうそう。

ブルーのくせにレッドに負けて、降格になりかけたらイエローの連中とつるみ始めて。

あげくはエースカードを盗まれるとか。

あいつブルーの自覚ないんじゃねぇの?」

 

「完璧ブルーの恥さらしだな。

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】だっけ?

あんなレアカード、レッドに負ける取巻には不釣り合いだぜ。

盗んでくれた犯人には感謝しないとな」

 

廊下に響く生徒達の笑い声。

そういえば以前、取巻が三沢に陰で色々言われていると零していたような気がした。

自分達の輪から外れた取巻を貶す事が娯楽となりつつ彼らにとって、まさに食いつきやすい話題なのだろう。

耳障りだと言いたくなるような言葉に【星態龍】は顔を歪める。

瞬間、聖星が近くの壁を殴った。

 

「ヒッ!」

 

背後から聞こえた音にブルーの生徒達は情けない声をだし、慌てて振り返る。

彼らの視界に入った聖星は少しだけ顔を上げ、口元に弧を描く。

 

「お前は……」

 

「初めまして、取巻とデュエルで勝った元レッド寮の不動聖星だ」

 

優しく微笑みながら自己紹介をする聖星に彼らは何かを口にしようとする。

だがそんな事今の聖星が許すわけがなく、ただ聖星は微笑みながら喋り始めた。

 

「それにしてもさ、随分とおもしろい事言ってるよな。

管理が甘いっていうところは反論できないから置いておくけど。

犯人に感謝?

え、なにそれ?

人のものが盗まれているのによくそんな事平気で言えるよ。

こんな事を平然と言えるような奴があの丸藤先輩と同じブルーだなんて、ブルーの品ってやつも随分と落ちてるねぇ。

エリートとかそういう以前に人として終わってるよ。

うん、取巻が俺達側についたの嫌でも分かる、分かる」

 

「何だと、イエローのくせに勝手にごちゃごちゃと!」

 

「ふん。

たまたま這い上がれた落ちこぼれが俺達に意見するんじゃねぇよ!」

 

思った通りの返答。

今までの彼らの行動パターンを日常生活で嫌程知っている聖星はさらに優しく笑い、その顔とは似合わない低い声で言った。

 

「じゃあさ、デュエルしようぜ」

 

「はぁ!?

何でテメェなんかと!?」

 

「さっき言ったじゃないか。

ブルーのくせにレッドの俺ごときに負けたって。

それで馬鹿にしているって事は、君達、取巻より強いんだろう?

その強さに興味があってね。

だからさ、デュエルしよう」

 

輝くほどまぶしい笑顔なのに目は笑っておらず、声も低い。

普通ならどれ程彼が怒っているのか初対面でもわかる。

しかし彼らはそれを察してはいても、所詮イエローの雑魚としか思っていないため笑い飛ばした。

 

「ハハハハハ!

運よく取巻に勝った落ちこぼれが、俺達とデュエルだと?

お前馬鹿じゃないのか?」

 

「そもそも俺達がお前とデュエルして何のメリットがあるっていうんだ!」

 

「メリット?

あるぜ」

 

そう言った聖星は【星態龍】に視線で何かを訴えた。

彼のしたいことが分かった【星態龍】は迷うことなく、聖星の内ポケットにとあるものを出した。

聖星はそのままカードを取り出し、3人に見えた。

見せられたカードに3人は同時に息を飲み込んだ。

 

「君達のなかで1番強い奴が勝ったら、【ブラック・マジシャン】と【黒魔導の執行官】、【混沌の黒魔術師】、専用魔法の【千本ナイフ】、【黒・魔・導】、【光と闇の洗礼】のカードを君達にやる。

ただし負けたらもう取巻を馬鹿にするな。

君達の中で1番強い奴が取巻を負かした奴に負けるんだ。

馬鹿に出来る立場じゃない。

良いな?」

 

武藤遊戯のエースカードだけではなく、それの関連カードが5枚もついてくる。

しかも【混沌の黒魔術師】の知名度は高いが、かなりのレアカードであまり世の中には出回っていない。

それがこのデュエルに勝つだけで手に入る。

こんなにおいしい話は今後あるのだろうか。

いいや、あるわけがない。

 

「分かった。

その条件で受けてやる!」

 

「行けよ、原田!」

 

「あぁ」

 

前に一歩出て、勝ち誇ったような笑みを浮かべる緑髪の少年。

名前は原田というようだ。

その表情には絶対に負けないという自信があり、同時にバカを見るような目をしていた。

恐らくたかが取巻のためにレアカードを差し出してくれるなんて、本当にバカなイエローだと思っているのだろう。

考えていることが筒抜けな表情に聖星は笑みを消し、真剣な表情になる。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は君達曰く落ちこぼれの俺からさせてもらうぜ」

 

「はぁ?

エリートである俺に先制攻撃を許すっていうのか?

どんな守備モンスターを出すか楽しみだよ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

ドローして手札に来たのはあまり見慣れないカード。

融合、シンクロ、エクシーズ。

それぞれが主流の環境に身を置いた聖星でも、このカードはあまり見た事がなかった。

だがこのデッキにはそれが何枚か入っている。

 

「(何体呼べるか楽しみだな……)

俺は手札から魔法カード【高等儀式術】を発動」

 

「【高等儀式術】……?」

 

「デッキに存在する通常モンスターを墓地に送る事で、そのレベルの合計と同じレベルを持つ儀式モンスターを1体特殊召喚するカードさ」

 

「な…………

はぁ!?」

 

「いきなり儀式召喚だと!?」

 

儀式召喚。

儀式モンスターのレベルと同じ、またはそれ以上になるよう場と手札に存在するモンスターを生贄に捧げる事で召喚する方法だ。

今召喚は肝心の儀式モンスター、儀式魔法が少ないためあまり見かけない。

それは彼らも同じようで、ギャラリーとなっている2人は目を見開いたまま呟いている。

 

「普通儀式には儀式魔法、儀式モンスター、儀式素材の3つが必要だ。

それを先攻1ターン目にするとしたら手札が半分以下になる可能性がある……」

 

「あぁ。

それなのにデッキから素材を墓地に送るとか、そんなカードあるのかよ……」

 

「俺はレベル8の【マジシャン・オブ・ブラックカオス】を選択し、デッキからレベル4の【月明かりの乙女】と【魔導紳士‐J】を墓地に送る」

 

「【マジシャン・オブ・ブラックカオス】!?」

 

「デュエリストキングダムで武藤遊戯が使った魔法使い族か!?」

 

青いカードに描かれる漆黒の魔術師を見せると、彼らは更に目を見開いた。

墓地に送られた2体の魔法使いは半透明な姿で場に現れる。

するとフィールドの中心部に1つの棺が現れ、その周りを8つの器が囲っている。

【月明かりの乙女】と【魔導紳士-J】は8つの光となり、器の真上で激しく燃える。

 

「光と闇の洗礼を受けし、偉大なる魔術師よ。

儀式より新たに得た魔力を我らに示せ」

 

赤い炎は青白く、闇を纏う炎へと変わっていく。

すると棺の周りが暗い色をした靄のようなものに覆われ、形が見えなくなっていく。

それと並行するかのように足元が薄暗くなり、呼吸が苦しくなる。

 

「儀式召喚。

【マジシャン・オブ・ブラックカオス】!」

 

魔法陣が描かれた棺は光り輝き、重苦しい音を立てながら開いていく。

開いたと思えばその中から光柱が立ち上がり、内側から1体の魔術師が現れる。

魔術師は漆黒の杖を持ったまま静かに場に佇み、無表情のまま原田達を見つめた。

1ターン目から伝説のカードを見る事が出来るとは思っていなかった彼らは上手く言葉を発する事が出来なかった。

 

「俺は手札から【グリモの魔導書】を発動。

そしてデッキから【セフェルの魔導書】を手札に加える。

さらに手札の【トーラの魔導書】を見せ、【セフェルの魔導書】を発動。

墓地に存在する【グリモの魔導書】の効果をコピーし、デッキから【魔導書】を1枚加える。

俺が加えるのは【ゲーテの魔導書】だ」

 

ろくな説明もせず、機械のようにゲームを進める聖星。

時々彼らが不思議そうな顔を浮かべたが、カード効果の説明を求められていないので聖星はそのまま続けた。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー!

俺は【魂を削る死霊】を守備表示で召喚」

 

光と共に現れたのは紫の衣服をまとったアンデッド族モンスター。

【魂を削る死霊】はそのまま膝をつき、防御しているのか巨大な鎌を盾にしている。

守備力はたったの200だが効果がこの時代では強力なのでデッキに入れているのだろう。

目を細めた聖星はそのままデュエルディスクのボタンに触れた。

 

「召喚成功時、永続罠【真実の眼】を発動する」

 

「……は?」

 

聖星が発動したのは赤い目が描かれているカード。

エジプトの壁画に描かれていそうなデザインに原田達は顔を見合わせる。

 

「【真実の眼】ってどんな効果だ?」

 

「確か相手の手札を公開させるカードだったはず」

 

そう、彼の言う通り【真実の眼】は一方的に相手の手札をピーピングする効果を持つ。

しかも永続罠のため1ターンだけの効果ではないのだ。

効果を思い出した原田は顔を歪めながらバカにするように怒鳴る。

 

「なっ、俺の手札を覗き見るってか!?

そんな卑怯なことしないと俺には勝てないって事か?

流石雑魚らしい考えだぜ」

 

卑怯。

その言葉に聖星はゆっくりと微笑み、首を横に振りながら優しく説明する。

 

「別に見なくても勝てるぜ。

ただ負けた後見苦しく手加減してやったんだ、って言われたくないからな。

手札を公開していたら手加減していたのか、していないのかはっきり分かるだろう?」

 

そう、こいつらは無駄にプライドが高い。

彼らは自分のプライドや面目を保つためなら、手加減をしてやったんだと見苦しくも叫ぶだろう。

そうさせないためにこのカードを発動した。

優しい口調で言われた原田達の顔は赤くなり、カードを握る手に力がこもっているのが目に見えて分かる。

 

「(えっと手札は……

【リビングデッドの呼び声】、【黄泉ガエル】、【雷帝ザボルグ】、【ゴブリンゾンビ】、【氷帝メイビウス】……

あれ、こいつもしかして【アンデット帝】?)」

 

【帝】の名を持つモンスターは強力な効果を持つものが多い。

しかしその効果を発動するためには生贄召喚が必要で、不死の名を持つアンデッド族は特殊召喚に長けている。

生贄要員をそろえるには良い種族だろう。

だが、この時代ではステータスが重視されているためサーチ能力が高い【ゴブリンゾンビ】を採用しているとは思わなかったのが聖星の素直な感想だ。

手札を確認した聖星は場で鎌を構えるモンスターを見下ろす。

 

「(【魂を削る死霊】……

戦闘では破壊されない効果を持つ厄介な相手。

けどカード効果の対象になったら破壊されるデメリットを持つ。

【魔導書】では【ゲーテの魔導書】で攻撃表示、または除外するくらいしか対処法はないか……)」

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

原田の手札から【リビングデッドの呼び声】が消えていく。

伏せられたのは間違いなくそのカード。

【魂を削る死霊】が効果で除去された事を想定して伏せたのだろう。

 

「(けど【魂を削る死霊】のために【ゲーテの魔導書】は使いたくないなぁ。)

俺のターン、ドロー。

あ」

 

【ゲーテの魔導書】は発動するためにコストが必要となる。

いくら次のターン【帝】の召喚を防ぐためとはいえ、【魂を削る死霊】のために使うのは少し気が引ける。

だが今ドローしたカードだったら抵抗感もない。

 

「俺は墓地に存在する【月明かりの乙女】と【怪盗紳士‐J】を除外し、【カオス・ソーサラー】を特殊召喚する」

 

先程墓地に送られた2体が再び姿をあらわし、歪みの中に吸い込まれていく。

そして淡い光と暗い光を両手に持つ魔術師が姿を現した。

その攻撃力は2300.

生贄なしに召喚した上級モンスターに原田は焦る。

 

「な、なんだ、そのモンスターは!?」

 

「このカードは墓地に存在する光属性と闇属性モンスターを除外する事で特殊召喚されるモンスターだ。

そして戦闘を放棄する代わりに、相手の場のモンスターを1体除外する効果を持つ」

 

「何!?

だ、だが【魂を削る死霊】は効果の対象になった時破壊される……

墓地にいるこいつを蘇生させれば、次のターンに【帝】を召喚してやる!」

 

「え?」

 

「何だ、まさかもう俺の伏せカードを忘れたのか?

俺の伏せカードは【リビングデッドの呼び声】だぞ」

 

「次のターン、原田が【魂を削る死霊】を蘇生させ、【雷帝ザボルグ】を生贄召喚するって事さ。

そこまで頭が回らないのか?」

 

原田と一緒にいる細目の少年の言葉に聖星は首をかしげる。

成程。

つまり彼らは【魂を削る死霊】が対象になった瞬間、破壊されて墓地に送られ、【マジシャン・オブ・ブラックカオス】の攻撃宣言時蘇生し。

さらに次のターンに生贄召喚すると言いたいのだろう。

やっと理解できた聖星は無表情で返す。

 

「いや、それ無理だけど」

 

「はぁ?」

 

「何言ってんだ、こいつ?」

 

「どうやらギリギリイエローのこいつには俺達の高度なプレイングが理解できないようだな」

 

3人の言葉に聖星は頭の中を整理する。

迷宮兄弟とデュエルした時、あり得ない方法で【闇の指名者】を使っていた。

その時今の時代と未来ではカードの裁定が違う事を知った。

もしかすると【魂を削る死霊】の自壊タイミングも違うのだろうか。

しかし納得できない聖星は自分の知識を述べる。

 

「そうじゃなくて、【魂を削る死霊】は効果の対象になった瞬間に破壊されるわけじゃない。

例えば【月の書】だったら効果解決時に【魂を削る死霊】は裏側守備表示だから、場には存在しない扱いになる。

だから破壊されないんだ。

それと同じように除外の効果の対象になっても、効果解決時に除外ゾーンに存在するから破壊効果は使えないぜ」

 

そう言い終えると、3人は無言となってしまった。

ハハハ、と笑い飛ばそうとしない様子だと聖星の言っているような場面に遭遇した事でもあるのだろうか。

 

「(……え、こいつら本当にエリートなの?

こんなの小学生でも常識の話だろ)」

 

未来で通っていたアカデミアの授業では注意点として担任から教えてもらった記憶がある。

 

「俺は【カオス・ソーサラー】の効果発動。

【魂を削る死霊】を除外する」

 

待っていました、と言わんばかりに【カオス・ソーサラー】は歪んだ笑顔を見せながら呪文を唱える。

すると【魂を削る死霊】の背後に黒い歪みが現れ、その中に【魂を削る死霊】は吸い込まれていった。

破壊される様子も、墓地に送られた演出もないため聖星の言った事が正しい事が分かった。

 

「そんな、マジかよ……!?」

 

「これで場には使えない【リビングデッドの呼び声】だけ。

【マジシャン・オブ・ブラックカオス】でダイレクトアタック」

 

「ぐわっ!」

 

宝石が埋め込まれた杖を原田に向けた【マジシャン・オブ・ブラックカオス】。

淡い光が宝石に集められ、眩い光となって原田のライフを奪った。

これで彼のライフは4000から1200へと削られる。

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「くっ、俺のターン!

ドロー!」

 

攻撃の衝撃で吹き飛ばされた原田は苛立った様子で立ち上がり、荒々しくカードをドローする。

その時引いたのは運良くドローカードの【強欲な壺】である。

原田は唇で弧を描き、同級生の2人も握り拳を作った。

 

「よし、魔法カードだ!」

 

「これで原田のライフは【真実の眼】のもう1つの効果で1200から2200になる!」

 

原田の手札を公開している【真実の眼】にはもう1つの効果がある。

それは手札に魔法カードがある場合、スタンバイフェイズ毎にライフが1000ポイント回復する効果だ。

聖星の場には攻撃力2300以上のモンスターが存在するため、2200になったとしてもダイレクトアタックで終わってしまう。

しかし引いたのが新たにカードをドローする【強欲な壺】だ。

希望に満ちた表情の原田に笑みを浮かべた聖星は容赦なくカードを発動した。

 

「【真実の眼】の効果発動時、リバースカード、オープン。

【闇のデッキ破壊ウイルス】を発動」

 

「【ウイルス】カードだと!?」

 

「モンスターを潰しに来たか!」

 

「いいや、違う。

このカードは【死のデッキ破壊ウイルス】とは違い、魔法か罠カードを宣言して破壊するカードだ」

 

「何!?」

 

海馬が使うウイルスカードは問答無用で攻撃力1500以上のモンスターを破壊する【死のデッキ破壊ウイルス】を使っていた。

あのカードの発動コストは攻撃力1000以下の闇属性モンスターで軽かった。

だがこのカードのコストは攻撃力2500以上の闇属性モンスターである。

 

「俺は攻撃力2800の【マジシャン・オブ・ブラックカオス】を生贄に捧げ、場と手札に存在し、相手ターンで数えて3ターンの間ドローしたカードを全て確認し、宣言したカードを破壊する。

俺は魔法カードを宣言」

 

「なっ!?」

 

【闇のデッキ破壊ウイルス】から無数の塵のようなものが溢れ出し、【マジシャン・オブ・ブラックカオス】が咳き込む。

すると彼は苦しそうに膝をつき、そのまま粉々に砕け散った。

だがそれだけでは終わらず、散らばった破片は髑髏の形をしたウイルスとなり原田の手札に感染する。

指定された魔法カードは紫色に変わり、ドロドロとなって溶けていった。

 

「そんな……」

 

「これじゃあ原田は新たにカードをドロー出来ない……」

 

「くっそ、俺は【ゴブリンゾンビ】を守備表示に召喚。

……ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。

俺は【カオス・ソーサラー】の効果で【ゴブリンゾンビ】を除外」

 

守備表示となり刃を構えていた【ゴブリンゾンビ】は【魂を削る死霊】と同じように歪みに吸い込まれていく。

前のターンと同じように原田の場はがら空き同然となってしまった。

だが聖星の場に攻撃できるモンスターは存在しない。

 

「手札から魔法カード【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に捨てる」

 

ゆっくりとデッキからカードを引いた聖星。

攻撃可能なモンスターが引ける事を願いながら、聖星はカードを見る。

そして小さく頷いた。

 

「俺は儀式モンスターの【救世の美神ノースウェコム】と通常モンスターの【コスモクイーン】を墓地に捨てる。

そして【ゲーテの魔導書】を見せ、墓地に存在する【ノースウェコム】を除外して【ネクロの魔導書】を発動。

このカードは手札の【魔導書】を魅せ、墓地に存在する魔法使い族を除外する事で、墓地に眠る別の魔法使い族モンスターを特殊召喚する事が出来る」

 

「なっ……!」

 

「墓地に眠る【マジシャン・オブ・ブラックカオス】を特殊召喚する。

還ってこい、【マジシャン・オブ・ブラックカオス】!」

 

「はぁっ!」

 

「くっ……!」

 

再び場に現れた黒魔術師。

威厳あるその姿のモンスターに原田は一歩下がった。

手を打ちたくても何もできない。

聖星が宣言すれば原田の敗北は決まってしまう。

屈辱で歪んでいる顔を見ながら聖星は静かに宣言した。

 

「【マジシャン・オブ・ブラックカオス】でダイレクトアタック」

 

「うわぁああ!!!」

 

フィールドに広がる闇の波動。

それを一身に受けた原田はその場に崩れ落ちる。

ライフが減っていく音が響き、ライフポイントが0になった。

聖星は無表情のままデュエルディスクの電源を切り、彼を見下ろす。

すると原田が勢いよく顔を上げ叫んだ。

 

「くっ、こんなのまぐれだ……!

まぐれに決まっている!」

 

「そうだ!

そもそもお前が【真実の眼】なんていう卑怯なカードを使うから、原田の手札に【強欲な壺】がある事が分かったんだ!

もしお前がそれを知らなければドロー次第では原田が勝っていたかもしれない!」

 

やはりこうなったか。

無駄にプライドの高い奴の相手は疲れる。

せっかく言い訳が出来ないように【真実の眼】を使ったのに、まさかそれを卑怯と叫ぶとは予想外である。

 

「じゃあデッキトップ2枚を捲ってみろよ。

それでこのデュエル、彼が勝てるのか分かるだろう?」

 

聖星の言葉に原田はすぐに2枚捲った。

捲られたカードは相手モンスターを破壊する【地砕き】とアンデッド族を蘇生する【生者の書-禁断の呪術-】だ。

そのカードを見た瞬間、聖星は吐き捨てた。

 

「無理だね。

どのみち彼は勝てない」

 

「何だと!?」

 

「俺が最初から伏せていたもう1枚の伏せカードは【トーラの魔導書】。

このカードは魔法使い族に魔法カードか罠カードの耐性をつけるカードだ。

【地砕き】を発動したとき、俺が【マジシャン・オブ・ブラックカオス】に魔法カードの耐性をつけてしまえば破壊されない。

【生者の書】は墓地にアンデット族モンスターが存在しないと意味がないから発動条件を満たしていない。

そんな手札でどうやって勝つんだ?」

 

【地砕き】は相手の場に存在する守備力が1番高いモンスターを破壊する魔法カード。

だがその効果は決して過信できるものではない。

守備力の高いモンスターが魔法カードへの耐性があった場合、破壊することは出来ないのだ。

どのみち勝てなかった事実に原田はさらに顔を歪める。

 

「取巻に勝った俺に、君達の中で1番強い奴は負けたんだ。

君達3人にあいつを馬鹿にする権利なんてない。

それどころか俺が攻撃力2800のモンスターを複数体並べても、それ以上の攻撃力のモンスターを場に出した取巻の方がよっぽど強いさ」

 

聖星が攻撃力2800の【椿姫ティタニアル】と【桜姫タレイア】を並べた時、取巻は諦めずに装備魔法を使い攻撃力4000以上のモンスターを出した。

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】がなくてもあれ程のデュエルを見せてくれたのだ。

吐き捨てるように言った聖星は背中を向けその場から立ち去ろうとする。

だが、不意に足を止めて振り返った。

 

「それと……

【真実の眼】が卑怯だって?

俺はゲームのルールとこのカードの効果に従ってデュエルをした。

相手の手札の情報を得るのだって立派な戦略の1つだ。

自分達が使わないからって、卑怯扱いするな。

カードを作ったペガサスさんに失礼だろ」

 

**

 

それから聖星はすぐに校長室に向かった。

授業後すぐに来るように言われていたが、彼等とのデュエルのせいで余計な時間を費やしてしまった。

相手は怒っていなければいいのだが……

そう考えながら聖星は深呼吸をして校長室に入る。

 

「失礼します」

 

「おや、聖星君。

待っていたよ」

 

扉が開き、真っ先に声をかけてくれたのは鮫島校長。

彼に軽く頭を下げると視界に見慣れた青年達が映った。

その人達の姿に聖星は納得したのか、微笑みながら手を差し出した。

 

「お久しぶりです。

夜行さん、月行さん」

 

手を差し出したのは顔が瓜二つの長髪男性。

1人は優しく微笑み、快く聖星の手を握ってくれた。

それに対しもう1人はため息をつきながら握ってくれる。

 

「お久しぶりです、聖星さん。

聖星さんもお元気そうで安心しました」

 

「お久しぶりです。

授業が終わり次第校長室に来るように伝えられているはずですが。

今まで貴方は何をしていたのですか?」

 

彼らは独身であるペガサスが跡継ぎのために引き取った孤児の2人。

特にペガサスミニオンと呼ばれる孤児達の中でかなりの実力者だ。

明らかに呆れた表情を浮かべるのは双子の弟天馬夜行。

笑顔を浮かべるのは兄の月行だ。

夜行の厳しい言葉に聖星は苦笑を浮かべ、正直に言う。

 

「すみません。

少しデュエルを……」

 

「客が来ている事を知っての上ですか?

全く貴方という方は……」

 

「まぁ良いじゃないか夜行。

彼はまだ子供だ」

 

「確かに子供ですが仮にもシンクロ召喚プロジェクトのアドバイザーですよ。

きちんとその自覚を持っていただきたい」

 

友人を侮辱され、デュエルをしていたと言えば夜行もこんな態度はとらないだろう。

だが言う必要はないと判断し、夜行と月行を見比べながら尋ねた。

 

「それで、どうして2人がアカデミアに?

俺に何か用でもあるのですか?」

 

「ペガサス様からの言伝を伝えに来ました」

 

「至急、私達と共にアメリカのインダストリアルイリュージョン社に来るように、とのことです」

 

「え?

何か問題でもあったんですか?」

 

「はい。

詳しい事は飛行機の中で話します」

 

そのまま夜行は聖星に複数の書類を渡す。

そこには公欠届と大きく書かれており、鮫島校長を見た。

目が合うと彼は微笑んで頷いてくれる。

 

「君の事はペガサス会長から直接聞いています。

デュエルモンスターズの新しい召喚法を我が校の生徒が開発したというのはとても誇らしい事です。

聖星君、新しい事を企画するのは大変だと思いますが頑張ってください」

 

「分かりました。

ありがとうございます」

 

「では、聖星さん。

すぐにその書類に署名捺印をし、荷物をまとめてください。

30分後に出発します」

 

「え?」

 

夜行からさらっ、と言われた言葉に聖星は固まる。

いくらなんでも30分後は無理があるのではないか?

そう言いかけたが無言の圧力で「道草をくった貴方が悪い」と目で訴えられ、聖星は小さく頷いた。

 

「(十代と取巻にはメールで伝えるか……)」

 

END

 




月行、夜行の登場を予想していた人挙手
夜行は邪神の影響はあったとはいえRの暴走っぷりのせいで性格がキツイお兄さんにしか思えないんだよね。
コンプレックスとかいろいろ抱えていたから性格が歪んでそう。
まぁ、流石に子供の聖星には見せないと思いますけど。
月行は安定の穏やかなお兄さん。


【真実の眼】と【闇のデッキ破壊ウイルス】は書いていて疑問に思ったんですけど…
スタンバイフェイズ時に【真実の眼】のライフ回復効果が発動した場合、チェーンして【闇のデッキ破壊ウイルス】を発動して魔法カードを破壊してもライフは回復すると考えているのですが、それで良いのでしょうか?
だったらドローフェイズに【闇のデッキ破壊ウイルス】を発動しろ、と言われそうですが聖星は発動タイミングをよく間違えるの(【神判】を相手スタンバイで発動しない等)で、チェーンブロックを組むときに発動させました。


今回のデッキは儀式魔導書です。
当然高等儀式術は3積みですよ。
この時代は3積みOKだったはず。
罠カードは【真実の眼】、【闇のデッキ破壊ウイルス】、【強制脱出装置】のみです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十話 石版より語られる魔と光★

さぁ、ついにあれを使用しますよ。
そして今回はかなりぶっ飛んでいるお話です。
とてもぶっ飛んでいます。


「【星態龍】」

 

ゆっくりと呼ばれた名前。

自分自身のカードが置かれている机を見下ろす子供に【星態龍】はあまり働かない表情筋が引きつったのを覚えた。

ちなみにカードの隣には見事な凹みが出来ている。

おい、誰だ、こいつに金属を凹ませる程の力を与えた奴。

あ、遺伝か。

等と現実逃避をしている【星態龍】に対し聖星は声に全く似合わない微笑みを浮かべながらお願いした。

 

「手加減するつもりはないんだ。

俺が指定するカード、全部出して」

 

人間は怒っていても笑う事が出来る。

改めてそれを思い知った【星態龍】は自分の隣で聖星の微笑みに困惑している白いドラゴンを見た。

 

**

 

時を遡る事数時間前。

取巻の盗難事件がまだ片付いていないというのに、月行と夜行の兄弟に強制的に渡米させられた聖星。

飛行機の中で聖星は何故今回ペガサスから呼ばれたのか事情を説明してもらった。

 

「シンクロ召喚への反対意見?」

 

「今更か」

 

聖星の言葉に双子は同時に頷く。

流石双子。

こんなところでもシンクロするのか、と場違いな事を考えながら2人の話を詳しく聞いた。

 

「はい。

シンクロ召喚はレベルの合計分のモンスターを融合デッキから特殊召喚するものです。

その特徴上、下級モンスターが有利になる召喚法なのはご存知ですよね」

 

「ですが、今のデュエルモンスターズ界はステータス主義。

攻撃力が高ければ良いという考えを持つ者が多い。

残念ながらインダストリアルイリュージョン社内でも、そのような考えを持つ者が多くいます」

 

「そして大した攻撃力もない下級モンスターが活躍する召喚法を企画する必要はない、という意見が上がっているのです」

 

「そこで、反対派の代表と賛成派の代表がシンクロモンスターを使用したデモンストレーションデュエルを行う事になりました。

賛成派代表にはとある条件で戦っていただき、反対派が勝てばシンクロ召喚プロジェクトの中止が決まります」

 

この時代特有の反対意見に聖星と【星態龍】は開いた口が塞がらなかった。

シンクロ召喚は簡単に言えばレベルの足し算。

しかも召喚法の中には「チューナー以外の○○モンスター2体以上」という制約がつく場合もある。

シンクロ素材を3体以上必要としてしまえば下級モンスターが必要となるのは必須だろう。

それが気に食わないとは流石ステータス主義。

 

「そう都合よく進まないとは思いましたけど…………

意外なところから反対意見が出ましたね」

 

「ふん。

ある意味正しい判断だな。

シンクロ召喚の登場でデュエルの環境は高速化が進み、融合、儀式、アドバンス召喚が衰退していった。

それを知っている私としてはその反対意見は無碍に出来ん」

 

「(知ってる、って。

【星態龍】は初期に開発されたシンクロモンスターじゃないだろう。

どこで知ったんだよ?)」

 

「ネットだ」

 

自分の首に巻きつきながら真顔で返してくる【星態龍】の言葉に聖星は首をかしげる。

彼はネットを使う事が出来たのだろうか。

いや、何もないところからカードや家具を出したりするのだ。

電脳世界を多少操作するくらい出来るのかもしれない。

 

「そこでペガサス様は賛成派の代表として貴方をご指名したのです」

 

「え、俺が?」

 

月行の言葉に外を眺めていた聖星は思わず振り返った。

この時代でシンクロ召喚を1番理解しているのは聖星。

そんな彼に白羽の矢が立ってもおかしくはない。

 

「出来ますよね?」

 

「……夜行さん、顔が近いです」

 

「出来ますよね?」

 

「……はい」

 

**

 

「おぉ!

聖星ボーイ!

待っていましタ!

突然呼び出してしまい申し訳ありまセ~ン」

 

インダストリアルイリュージョン社に着いて早々に通された部屋にペガサスはいた。

扉を開ければ深く椅子に腰を下ろしていたペガサスが立ち上がり、両腕を広げて聖星を出迎える。

日本人にはあまり馴染のない歓迎法に聖星は少し抵抗感を覚えながらも、ペガサスのように両腕を少しだけ広げた。

そして熱烈なハグを頂く。

 

「事情は夜行さん達から聞きました。

シンクロ召喚のためです。

地球の裏側からでも飛んできますよ」

 

「サンキュー。

本来なら私が彼らを説得すべきなのですが、バット、この目でシンクロ召喚の素晴らしさを目にしない限り彼らは納得しないのデ~ス」

 

「分かりました。

シンクロモンスターがどれ程画期的な召喚法か、必ず証明して見せます」

 

「期待しています、聖星ボーイ。

月行、夜行。

彼を部屋に案内してくだサ~イ」

 

「はい」

 

ペガサスに対し深く頭を下げた月行と夜行。

彼の言葉に従い、聖星は2人のあとについていくことにした。

流石はインダストリアルイリュージョン社の本社と言うべきか設備は整っており、壁は殆どがガラス張りで1つ1つの部屋で何をしているのか分かるようになっている。

首に巻きついている【星態龍】は周りを見渡しながら3人の会話に耳を傾ける。

 

「あ、そうだ。

夜行さん。

月行さん。

あとでデュエルしてくれませんか?」

 

「私達とデュエル、ですか?」

 

「はい」

 

「私は構いません。

夜行、お前はどうする?」

 

「新しいシンクロ召喚とやらにも慣れる必要がある。

聖星さんがシンクロ召喚を使うデッキでデュエルするというのなら構いません」

 

冬休みの間、暇な時間を見つけてはペガサスミニオンの月行達とデュエルをした聖星。

モンスター効果の発動を封じる【エンジェルO7】にはかなり手古摺った。

【魔導教士システィ】と【ヒュグロの魔導書】のコンボで殴りに行こうとしたが、罠カードの妨害でなかなか倒せない。

夜行のデッキでは【獣神機王バルバロスUr】、【神禽王アレクトール】、【神獣王バルバロス】の3体が並んだときは肝が冷えたものだ。

今回はどんなデッキで彼らに挑もうか。

そう考えながら楽しげに言葉を交わしていると、首から微かな重みが消えた。

 

「あれ?」

 

不意になくなった重みが気になり、目をやれば【星態龍】がとある部屋の前で浮かんでいた。

その黄色の瞳は真剣に何かを凝視しており、聖星もつられてそちらに目を向ける。

そこにあったのは1つの巨大な石板だ。

人の数倍の大きさを誇る石版には様々な文字が刻まれ、巨大な竜と複数の小さな竜、1人の人間が祈りを捧げる姿が描かれている。

 

「どうかしましたか、聖星さん?」

 

「あの石板、どうしたんですか?」

 

「あぁ、あれですか。

あれは南米のアンデス山脈から発掘されたものです。

時代を調査したところ、約3000年前の物だとされています」

 

「……3000年。

かなり古いですね。

あの石板、どうするんですか?」

 

デュエルモンスターズの起源はエジプトで、カード達はそこにあった古代の石版に描かれたモンスター達を基にして生まれたと聞いている。

だからあれがエジプトから発掘されたものなら納得はいくのだが、アンデス山脈とはどういう事だろう。

純粋な疑問を尋ねると夜行が答えた。

 

「あの石板からサンプルを採取し、カードに組み込んでいるんです」

 

「え?

そんな事が出来るんですか?」

 

「別に珍しい事ではありません。

ペガサス様はエジプトの石版だけではなく、古代の宝石の成分をカードに使用しています。

この石版も新たにつくられるカードの成分になるはずです」

 

「へぇ、宝石や石版から成分を取り出してカードにするだなんて。

やっぱりデュエルモンスターズは奥が深いですね」

 

何もないところから新たなカードだって生まれるのだ。

宝石や石版の成分を取り入れているカードがあったとしてもおかしくはない。

改めてデュエルモンスターズの凄さを実感していると月行が微笑みながら尋ねてきた。

 

「どうです。

近くでご覧になりますか?」

 

「え、良いんですか?」

 

「構いませんよ。

あの石板から採取した成分データはシンクロモンスターに使われる予定なので。

いずれアドバイザーの貴方も目にするはずです」

 

石版の成分データ。

想像もつかないようなデータを見せてもらえるかもしれない、という事に聖星は目を輝かせる。

へにゃ、と笑った聖星は彼の言葉に甘えて石版が設置されている部屋へと入った。

【星態龍】はすでに石版の前におり、石版を見上げている。

 

「(どうした、【星態龍】。

そんなにその石板が気になる?)」

 

熱心に石版を凝視する友人に聖星は心の中で声をかけた。

聖星の声が聞こえたのか【星態龍】は複数の眼を動かし、小さく頷いた。

 

「あぁ」

 

「(ふぅん)」

 

ゆっくりと石版の前に立つ聖星。

その大きさは近くで見れば見るほど圧倒されるものだ。

数メートルにも及ぶこの石版の縁には様々な文字が刻まれ、中央にはドラゴンを崇める絵が描かれている。

これほどのものを彫るのにどれ程の時間と労力が必要だったのだろう。

当時の事を考えながら聖星は1体、1体のドラゴンを見た。

 

「(あれ?)」

 

巨大なドラゴンを取り巻く小柄のドラゴン達。

廊下では遠目で気付かなかったが、近くで見るとその姿に見覚えがあった。

 

「【スターダスト】……?」

 

石版の一角に刻まれているドラゴン。

その姿は石版故に少し雑に描かれているが、ドラゴンの姿はどう見ても【スターダスト・ドラゴン】だった。

まさか、と思い聖星は他のドラゴンも見る。

 

「(……【レッド・デーモンズ・ドラゴン】に【エンシェント・フェアリー・ドラゴン】

それに【ブラック・ローズ・ドラゴン】まで……)」

 

間違いない。

この石版に刻まれているのは赤き竜とシグナーと共に戦うドラゴン達である。

まさか彼らが描かれている石版を見る事になるとは思わなかった聖星は、遊星への土産話が出来たと内心喜びながら目を閉じる。

 

「(石版の成分をカードにするって月行さん達は言っていたけど、これから【スターダスト】達が生まれるのかな)」

 

その時だ。

 

「えっ?」

 

不意に感じた違和感。

そう、例えるならばエレベーターに乗ってゆっくりと降下する時に覚えるもの。

しかも周りは漆黒の闇が広がり、月行に夜行、それどころか【星態龍】の姿もなかった。

落下していると認識した聖星は反射的に何かを掴もうとする。

だが彼の手は何も掴まず、逆に誰かに掴まれた。

慌てて見上げた聖星はそこにいた人物を凝視する。

 

「貴方は?」

 

「落ち着くと良い。

これは我が見せている3000年前の記憶」

 

「記憶?」

 

突然現れた男の言葉に怪訝そうな表情を浮かべた。

だが足元に地面のようなものを感じ、恐る恐る足を伸ばす。

落下しないと分かると、聖星は安堵の息を吐く。

すると男が聖星の隣に立ち、前を見た。

途端に暗闇の世界は赤い光に包まれて燃え盛る大地を映しだし、数多くの悲鳴が響き渡る。

 

「何ですか、これ?」

 

暗雲が空を覆い尽くし、火の海となっている大地。

逃げ惑う人々に対し3体の巨人が我が物顔で歩いている。

赤いドラゴンは空を飛びながら口から衝撃波を放ち、黄色と青色の巨人はその鋭利な爪で大地を裂く。

目の前に広がる光景はまさに地獄だった。

 

「三幻魔……」

 

「え?」

 

「精霊達の命を喰らい、永遠の命をもたらす精霊達の名だ」

 

「精霊の命を喰らう?」

 

男から視線を移した聖星はかすかに人以外の悲鳴も聞こえる事に気が付いた。

巨人達が破壊を行えば行うほど、この世の精霊達は悲鳴を上げながら粒子となって消えていく。

その中には確かにデュエルモンスターズで見た事のあるモンスターも存在した。

 

「我ら星の民は竜の星に導かれ、平和に暮らしていた。

だが…………

彼らは突然この世界に姿を現し、我らの暮らしを脅かしてしまった。

それがこの混沌の世だ」

 

星の民。

男の口から放たれた民の名に聖星は聞き覚えがあった。

だが、どこだったかは分からない。

すると暗闇の空が赤く光り、巨大な赤いドラゴンとそのドラゴンに仕える竜達が現れた。

その中に【スターダスト・ドラゴン】達の姿があった。

現れたドラゴン達は3体のモンスターに戦いを挑み、地下深くに封印していく。

 

「そこで我らが神、竜の星より召喚された赤き竜の力により三幻魔達を石版に封じ込み、地下深くに封印した」

 

「【スターダスト】達が封印?

じゃあ、あの赤くて1番大きいのが赤き竜……?

って、ちょっと待ってください」

 

赤き竜の話は遊星から聞いている。

殆どの事は忘れてしまったので確証は持てないが、目の前で起こっている事は3000年前の出来事。

しかし遊星から聞いた話だと赤き竜は5000年毎の存在のはず。

 

「赤き竜って5000年毎に邪神と戦うんですよね?

それなのに3000年前にもこの世界に現れたんですか?」

 

「その通りだ」

 

「父さんから聞いた話と全然違う……」

 

「竜の星は遥か昔より存在する。

その化身たる赤き竜が5000年毎にしか舞い降りない理由などどこにもない」

 

男の言葉に聖星は黙る。

しかし、何故いきなり自分にこのようなものを見せるというのだろうか。

その理由を問おうと口を動かす前に男は悲しそうに顔を歪めた。

 

「今、この惨劇を知らない者が三幻魔達を目覚めさせようとしている。

もしそのような事になればこの世界は再び平和が乱され、混沌の世になるだろう」

 

「え?」

 

三幻魔が目覚め、この世が混沌となる。

つまり目の前で起こっている事が再び起こるという事だ。

同時に聖星は遊馬の世界で体験したバリアンとの戦いを思い出し、背筋に冷たいものが走ったような感覚を覚えた。

いくらバリアン世界の消滅と共に皆が甦り、アストラルのおかげでシャーク達も無事だったとはいえ、目の前で仲間が消えていく光景。

あんなもの、もうこりごりだ。

 

「……どうすれば良いんですか?」

 

震える声を必死に絞りだして男に問いかける。

だが男はその問いかけには答えずただ聖星に向き直った。

 

「三幻魔を封印するため再び竜の星に祈りを捧げなければならない。

だが、竜の星と共に戦う者達はまだ目覚める時ではない。

そしてかの竜達も…………

だから我はそなたをこの時代に呼んだ」

 

「え?

貴方が俺をこの時代に呼んだって……

俺は【星態龍】が間違えてこの時代に来たんですよ」

 

「精霊の道を歪める事など、我らが竜の星の力の前ならば簡単だ。

本来ならばもう1年早くそなたをこの時代に呼ぶつもりだったのだが……

そなたが異世界に行っているなど予想外だった」

 

苦笑を浮かべているのだろう。

声に隠れている微かな感情変化に聖星もつい苦笑を浮かべてしまった。

もし【星態龍】の都合で遊馬達の世界に行っていなければ、自分はもっと早くこの時代に来ていたらしい。

どうやら自分は相当摩訶不思議な現象に巻き込まれる運命のようだ。

異世界に飛び、過去の世界に来て復活を阻止して欲しいなど遊星も真っ青のレベルである。

 

「(あ、でも父さんの事だから無事に成し遂げそう)」

 

「かの竜達はまだ目覚めない。

だから代わりにその竜がそなたの力になる」

 

「竜?」

 

男がとある方角に指をさす。

そこには巨大なドラゴンがおり、静かに聖星を見下ろしている。

しかし上手くその姿を認識する事が出来ない。

 

「我は『星竜王』……

星の民を導き、竜の星の英知を受け継ぐ者。

そして、不動聖星。

そなたは…………」

 

「え?」

 

ゆっくりと紡がれた言葉。

同時に意識が遠くなり、視界が黒く塗りつぶされていく。

再び感じた浮遊感に聖星は手を伸ばそうとした。

 

「聖星!」

 

「っ!?」

 

隣からはっきり聞こえた声。

慌てて見れば険しい顔をしている【星態龍】が見下ろしている。

ゆっくりと息を吐いた聖星は周りを見渡し、ここは石版を研究している部屋だと分かった。

突然周りを見渡した少年に月行と夜行は首をかしげる。

 

「どうかしましたか、聖星さん?」

 

「急に黙り込むだなんて。

それ程これに感動したのですか?」

 

「……あ、はい……」

 

夜行の言葉に聖星は否定しようとしたが、どうせ信じてもらえないだろうと思い苦笑を浮かべながら微笑んだ。

その笑みに2人は違和感を覚えたようだが、深く追及して欲しくなさそうな目を浮かべる聖星に何も言えなかった。

もう1度目を閉じた聖星は石版を見上げ、そこに刻まれているドラゴン達を見つめる。

 

「(今の夢か?)

って、あれ?」

 

先程見た事を整理しようと思ったが、右手に違和感を覚えそこに視線を落とす。

そこにあったのは1枚のカード。

デュエルモンスターズの絵柄が描かれているが、自分はこんなものを持っていた記憶はない。

一体何のカードだと思い裏返すとそこには聞いた事もない、だが見た事あるモンスターの姿が描かれていた。

 

「【閃珖竜スターダスト】?」

 

間違いなくこれは【スターダスト・ドラゴン】の姿。

だが聖星の知る【スターダスト・ドラゴン】とは差異がありすぎる。

名前、絵柄、属性、効果。

あまりの違いに驚きながら、先程のビジョンは夢ではなかったのだと分かり【星態龍】に目線で問いかける。

【星態龍】はただ難しい顔を浮かべた。

 

「…………大方、赤き竜が何かしたのだろう。

ご丁寧にそのカードには精霊も宿っているようだ」

 

「え?」

 

「姿を出せ。

まぁ、突然の事で戸惑うのもわかるがな」

 

【星態龍】が尾でカードをペシペシと叩く。

するとゆっくりと半透明のドラゴンが現れ、緊張気味に聖星と【星態龍】を交互に見る。

その姿は間違いなく今手に持っているカードに描かれているドラゴンだ。

よく観察すると遊星の【スターダスト・ドラゴン】とは若干色が異なり、妙な模様がある。

 

「……俺、こっちの方が好きだな」

 

「グゥ!?」

 

あ、こいつは人の言葉を喋れないのか。等と思いながら口パクでよろしく、と伝えた。

左右にいる天馬達は1枚のシンクロモンスターを眺める聖星に首をかしげるが、どう声をかければ良いのか分からなかった。

 

「おや、そこにいるのは天馬兄弟ですね。

それと……

賛成派代表の少年か?」

 

背後からかかった声に振り向くと、癖毛のある眼鏡の男性がそこにいた。

彼の登場に月行と夜行の空気が一瞬だけ震えた。

敏感に感じ取った聖星は仲が悪いのか?と疑問に思いながら微笑む。

 

「初めまして。

不動聖星です」

 

「私はフランツ。

インダストリアルイリュージョン社でカードデザイナーをしている。

……代表ですからどれ程の方が来ると思ったら、こんな子供か」

 

にこやかに自己紹介をしてくれたフランツ。

だが、最後の言葉は明らかに相手を見下すような意味合いを含めた言い方だった。

それに気づいた月行はすぐに言葉を放つ。

 

「Mr.フランツ。

確かに彼はまだ子供ですがシンクロ召喚のアドバイザーであり、海馬コーポレーションのデュエルディスクプログラムのアドバイザーでもあります」

 

「えぇ。

彼のご活躍は耳にしている。

とても優秀な頭脳を持っているようですが、しょせんは子供だろう。

あぁ、そういえば申し遅れたが私が反対派の代表だ。

つまり君と戦うデュエリストだ」

 

「反対派…………」

 

成程。

聖星は目の前の男とデュエルをするという事か。

どんなデッキを使うのだろうか。

少し気になり、簡単に探ろうと思って彼の言葉に耳を傾ける。

 

「聖星君。

今、世間はどのようなカードを求めていると思っている?」

 

「どのようなカードを……?」

 

一体突然何を尋ねるのだ。

そう疑問に思いながらも考えてみる。

自分がデュエルする側として、どのようなカードを求めるか。

思い浮かぶのは笑顔でデュエルをしている友人達。

彼らの姿に聖星ははっきり答えた。

 

「デュエルを楽しめるカードですね」

 

バリアンとの戦いで誰もが笑顔を失いそうになった。

だが、アストラルと遊馬のデュエルは本当に楽しかった。

あの場に立っているわけでもないのに、彼らの本当に楽しそうな感情が伝わってきてこちらも楽しくなってきたのを覚えている。

デュエルとはそういうものである。

だから聖星はそう答えた。

しかしフランツは嘲笑うかのように口の端を上げる。

 

「これだから子供は……

それは違う。

今、世間が求めているのはより強いカードだ。

強いカードは見る者を魅了する事が出来る。

それなのに、使えないカードに活躍の場を与えて何の意味があるのかね?」

 

「…………使えない……

……カード?」

 

「これはペガサス様から頂いた企画書だ」

 

そう言ってフランツは1冊の冊子を取り出した。

ある程度の厚みはあるが中身は知っている。

アドバイザーでもある聖星も持っているものだ。

 

「確かに彼らを活躍させるためにシンクロ召喚は画期的な召喚法でしょう。

しかし世間が求めているものとは圧倒的に違う。

こんな役に立たないカード達を使うシンクロ召喚を企画する理由が分からない」

 

付箋が張り付けてあるページを見せるフランツ。

彼が見せてくれたページには攻撃力が低い、と言われて見放されている【レスキューキャット】、【カードガンナー】等のモンスター達が載っている。

その写真を指で叩きながら説明するフランツに対し、聖星は右手を動かそうとした。

瞬間、夜行がその手を掴む。

 

「っ、夜行さん……」

 

「いけません」

 

聖星にしか届かないような声で呟く夜行。

ゆっくりと息を吐いた聖星はそのままフランツを睨み付ける。

 

「何ですか、その目は?」

 

「貴方にとって自分がデザインしたカードは何ですか?」

 

「何?」

 

「もしそのカード達が弱いから、っていう理由で見向きされなければ貴方はどう思うのですか?

心が痛まないんですか?」

 

彼はカードデザイナーなら様々なカードを生み出しているはずだ。

その中には弱いという理由で見向きもされないカードもあるはず。

なければ、それはそれで優秀だと認めよう。

しかし先程の発言はいただけない。

 

「デザイナーにとって自分がデザインしたカードは子供みたいなものじゃないんですか?

その子供達が活躍出来なくて、悔しいと思わないんですか?

けどシンクロ召喚はそんなカード達でも活躍できる……

勝利へと繋がる希望になる事が出来るんです。

それなのに、弱いカードに目を向ける必要はない?

貴方、それでもカードデザイナーですか」

 

彼は世間が求めるのは強いカードとも言った。

強ちそれは間違ってはいない。

だが、間違っている。

 

「それにカードっていうのは強ければ良いってものではありません。

強すぎる力は必ずしも尊敬や羨望の眼差しの対象になるわけがない。

ゲームバランスを崩し、全てに疎まれる存在になります。

そんなの生まれてきたカードが可哀そうです」

 

「疎まれる?

要は強いカードを持つ者への嫉妬だろう。

それならその者達のために新たなカードを作ればいい」

 

「………………どうやら貴方には口で言っても無駄なようですね」

 

「それは私の台詞だよ。

ま、夢見がちな子供らしい考えで立派だと思うがね」

 

では、失礼。

そう告げたフランツは軽く頭を下げ、背中を向けた。

コツコツ、と靴の音が静かに響く。

その背中を見送りながら聖星は自分に宛てられた部屋へ向かった。

そして冒頭に戻る。

 

**

 

それから翌日。

デッキを完成させた聖星はデュエルディスクにデッキをセットした。

そしていつもより分厚い融合デッキもセットする。

普段はあまり融合デッキを使わない聖星だが、シンクロ召喚を使うとなれば話は別だ。

この時代に則り、無制限で使用させていただきます。

そう、無制限に。

 

「聖星さん。

大丈夫ですか?」

 

「はい。

一晩考えたら頭が冷えました。

今では清々しいくらい爽やかな気分です。

もう、本っ当に」

 

「…………そ、そうですか」

 

デュエル前に声をかけてきたのは月行だ。

あの後、デッキのテストデュエルを双子に付き合ってもらった。

初めは上手く回らなかったが、彼等とのデュエルのおかげでかなり戦えるようになった。

戦略の幅が広いというのは本当に嬉しい事だ。

ちなみに夜行は寝不足でまだ出社していないようだ。

 

「デッキは、あのままですか?」

 

「はい」

 

「……そうですか」

 

真剣な顔で頷いた聖星に月行は顔を歪める。

そして昨日、聖星がフランツに言った「強いカードは疎まれる」という言葉を思い出した。

 

「聖星ボーイ」

 

「ペガサスさん……」

 

「ユーに全てを託しマ~ス」

 

「はい」

 

「それでは。

只今よりシンクロ召喚プロジェクト賛成派と反対派のデモンストレーションデュエルを開始したいと思います。

両選手、前へ!」

 

司会進行役はこの為だけに海馬コーポレーションから来てくれた磯野という男性だ。

バトルシティ決勝トーナメントでも彼が司会をしてくれたので、これほどの適任者はいないらしい。

しかしよくアメリカまで来てくれたものだ。

そう思いながらデュエルディスクを起動させる。

 

「今回はシンクロ召喚の有用性を証明するため、不動聖星選手にはメインデッキに使用できるモンスターは攻撃力1000以下という条件で戦っていただきます。

不動選手、構いませんね」

 

「はい」

 

「では、デュエル開始!!」

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は俺がもらいます、ドロー。

俺は【王立魔法図書館】を守備表示で召喚」

 

聖星の場に淡い光が集まり、そこにはたくさんの本棚が現れる。

場所を示すような名を持つモンスターがどのような形で登場するのか気になったが、まさか本棚とは。

 

「そして手札から速攻魔法【魔導書の神判】を発動します」

 

「【魔導書の神判】?」

 

「聞いた事もないカードデ~ス。

聖星ボーイはまだ【魔導書】のカードを持っていたのデ~ス。

一体どのような効果なのでショウ?」

 

「ペガサス様、聖星さんとのデュエルであのカードをご覧になられていないのですか?」

 

「イエ~ス。

月行、ユーは違うのですカ?」

 

聖星が発動した速攻魔法。

2人の魔法使いらしき男女が1人の魔法使いの前と共に描かれている。

未来のカードだと聖星から説明を受けたペガサスは、何度も聖星とデュエルをした。

その彼でさえあのカードは初めて見たのだ。

ペガサスの言葉に月行は顔を引きつらせ、昨晩のテストデュエルを思い出す。

 

「…………えげつないカード、とでも言っておきましょう

私個人としては使ってほしくないカードですけど」

 

「ホワット?」

 

聖星なりの考えがあってあのカードを使用しているのを月行は理解しているつもりだ。

大人として別の道も示そうと夜行と2人で説得を試みたが、どうもこの子供は嫌な意味で意思が強く1度決めたら曲げない。

ましてや時間があまりにも短かった。

月行の後半部分を聞き取れなかったペガサスは怪訝そうな顔を浮かべ、何でもありませんと言った。

 

「このカードの効果はエンドフェイズ時に発動するものです。

エンドフェイズ時、このターン使用された魔法カードの枚数まで、俺はデッキからこのカード以外の【魔導書】と名の付く魔法カードをデッキから手札に加えます」

 

「何?

つまり君はエンドフェイズ時に手札が増えるのか……?」

 

「はい。

そして魔法カードが発動した事で【王立魔法図書館】に魔力カウンターが1つ乗ります」

 

【王立魔法図書館】の頭上に1つ淡い緑色の球体が浮かび上がる。

このカードは自分または相手が魔法カードを発動すれば最大3つまで魔力カウンターを乗せる効果を持つ。

あれが魔力カウンターなのだろう。

 

「手札からフィールド魔法【魔法都市エンディミオン】を発動します」

 

フィールド魔法カードを専用に置く場所が現れ、そこに1枚のカードをセットする。

すると大地が大きく地響きを鳴らし、ソリッドビジョンの光が幻想的な魔法都市を形成する。

聖星が良く使う【魔導書院ラメイソン】は金属の塔を中心としたフィールドだった。

しかし【魔法都市エンディミオン】はレンガ造りの街のようで、城壁の周りに魔力を宿す場所が設けられている。

城壁に囲まれたフランツは周りを見渡す。

 

「【魔法都市エンディミオン】の効果。

このカードは互いに魔法カードを発動するたびに魔力カウンターを乗せます」

 

「成程。

君の今回のデッキは【魔力カウンター】を軸としたデッキ、という事か」

 

「まぁ、そんなところです」

 

【魔法都市エンディミオン】を発動したことで【王立魔法図書館】に2つ目の魔力カウンターがたまる。

それを見ながら別のカードを発動させた。

 

「さらに魔法カード、【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てます。

俺は手札の【ブークー】と【ハリケル】を捨てます」

 

「【ブークー】と【ハリケル】だと……!?」

 

聖星が見せた2枚のモンスターにフランツは驚く。

彼だけではなく、周りにいる反対派の者達も自分の目を疑った。

【ブークー】と【ハリケル】は共に魔法使い族の通常モンスター。

しかし壁にもならない低ステータスで、活躍した記録はほぼないと言っても過言ではない。

 

「いくら攻撃力1000以下のモンスターのみの使用しか許されていないとはいえ、何の効果も持たない通常モンスターを使うなど。

余程夢見がちのようだな」

 

「先日俺は言ったはずですよ。

彼らは勝利へと繋ぐ希望だと。

もうお忘れですか?」

 

シンクロ召喚は見向きもされないカード達を使用する事をコンセプトに企画している。

このデモンストレーションはそれを立証するデュエルだ。

彼らを使わず、誰を使うというのだろう。

そして【天使の施し】の発動により、【王立魔法図書館】には3つ目、【魔法都市エンディミオン】には1つ目の魔力カウンターが乗った。

 

「【王立魔法図書館】には3つの魔力カウンターがたまりました。

よって、【王立魔法図書館】の第二の効果発動。

このカードに乗っている魔力カウンターを3つ取り除き、カードを1枚ドローします」

 

ゆっくりとカードを引く聖星。

墓地にモンスターは存在する。

後はあのカードさえ来てくれれば良いのだが……

次のドローに期待するか、と思いながら別のカードを発動させる。

 

「そして手札から【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【魔導書】と名の付くカードを1枚手札に加えます。

俺は【セフェルの魔導書】を選択します」

 

魔力カウンターを失った【王立魔法図書館】だが、新たに魔法カードが発動された事で淡い光を宿す。

それは【魔法都市エンディミオン】も同じで2つ目となる。

 

「魔法カード【セフェルの魔導書】を発動。

俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、手札の【魔導書】を1枚見せる事で墓地の【魔導書】と名の付く通常魔法の効果をコピーします。

俺は【ネクロの魔導書】を見せ、【グリモの魔導書】を選択。

デッキから【魔導書の神判】を手札に加えます」

 

聖星の流れるように慣れた手順にフランツは眉間に皺を寄せた。

本来なら先攻1ターン目はモンスターを召喚し、カードを伏せるだけで終わるはず。

それなのに聖星は魔法カードを多用に発動させていた。

 

「フィールド魔法【魔法都市エンディミオン】の効果発動。

1ターンに1度、魔力カウンターを必要とする効果が発動する時、代わりにこのカードの魔力カウンターを使用できる。

俺は【魔法都市エンディミオン】から3つ取り除き、【王立魔法図書館】の効果を発動。

デッキからカードを1枚ドローします」

 

「魔力カウンターを代わりに出すフィールド魔法だと!?

成程、3枚の魔法カードを発動すれば君は【王立魔法図書館】と【魔法都市エンディミオン】のコンボにより、2枚のカードをドロー出来るという事になる」

 

「はい。

俺はカードを3枚伏せます」

 

【王立魔法図書館】の効果で5枚になった手札。

モンスターを召喚、フィールド魔法の発動、手札交換をしておきながらそれ程の手札がある。

面倒な相手だと思ったフランツは聖星を睨み付けた。

しかし聖星が3枚手札を伏せた事で2枚となる。

 

「そしてエンドフェイズ時、【魔導書の神判】の効果発動。

このターン発動された魔法カードは【魔法都市エンディミオン】、【天使の施し】、【グリモの魔導書】、【セフェルの魔導書】の4枚。

よって俺はデッキから【魔導書】と名の付くカードを4枚まで手札に加えます。

【グリモ】、【セフェル】、【ヒュグロ】、【ゲーテの魔導書】です」

 

「っ、手札が6枚に…………!!」

 

「そして【魔導書の神判】のもう1つの効果発動。

俺は【千眼の邪教神】を守備表示で特殊召喚」

 

4つの淡い光が禍々しい紫へと変わり、地面に紫色の魔法陣が描かれる。

その中から巨大で多量の眼を持つ魔法使い族モンスターが現れた。

攻撃力、守備力共に0のモンスター。

しかしその姿にペガサスは目を見開いた。

 

「オー、ノー!

【千眼の邪教神】デ~ス!!」

 

決闘者の王国で決闘王、武藤遊戯とのデュエルでペガサスが使用したカードだ。

まさかそのカードをこのような形で目にするとは夢にも思わなかったペガサスは子供のようにはしゃいだ。

そんな彼の嬉しそうな声を聞いた聖星はフランツに分からない程度で微笑む。

 

「私のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、【魔導書の神判】を発動します」

 

ドローと同時に発動された速攻魔法。

勿論フランツにそれを止める術はなく、【王立魔法図書館】には3つ目、【魔法都市エンディミオン】には1つ目の魔力カウンターが乗ってしまう。

 

「くっ……!

そういえばそれは速攻魔法だったな」

 

これではこのターン、魔法カードを多量に使用すればエンドフェイズ時にその分だけ聖星の手札が増えてしまう。

しかし、それで引き下がるほどフランツは臆病者ではなかった。

 

「私は手札から魔法カード【魂吸収】を発動!」

 

「え?」

 

「このカードはカードが除外されるたびに1枚につきライフを500回復する。

無論、除外されるのは貴方のカードでも構わない。

そして【速攻の黒い忍者】を召喚!」

 

「はっ!!」

 

現れたのは全身真っ黒の忍者モンスター。

彼はクナイを握りしめながらも腕を組みながらフランツの前に立つ。

その攻撃力は1800.

召喚されたモンスターを見ながら聖星は内心ホッとする。

 

「(【速攻の黒い忍者】……

墓地の闇属性モンスターを除外する事でゲームから除外されるモンスター。

あのモンスターを使う、って事は【マクロコスモス】や【異次元の裂け目】はないんだよな……

良かった)」

 

聖星がシンクロ召喚を行う場合、父である遊星の影響があるせいか墓地を多用する事が多い。

それなのにその墓地を封じられてみろ。

このデュエル、かなり危なくなってしまう。

 

「さらに【苦渋の選択】を発動。

私はデッキからカードを5枚選択し、貴方がその中から1枚選ぶ。

選んだ1枚は私が手札に加え、残りは墓地に送られる」

 

「(うわぁ、面倒くさいカード発動したよこの人)」

 

「私が選んだのは【異次元の偵察機】3枚、【ネクロフェイス】、【終末の騎士】だ。

さぁ、選ぶが良い」

 

「【ネクロフェイス】です」

 

「では、【ネクロフェイス】を手札に加え、残りを墓地に送ろう」

 

墓地に送られたのは全て闇属性モンスター。

しかもそのうちの3枚、【異次元の偵察機】は除外されると攻撃表示で戻ってくる効果を持つ。

あれを3枚すべて墓地に送るのは渋ったが、【ネクロフェイス】が【速攻の黒い忍者】の効果で除外されるよりはマシだと思い選択しなかった。

 

「(【ネクロフェイス】は除外された時、互いのデッキトップ5枚を除外するカードだ。

除外されるなんて止めてくれよ。

【魂吸収】が発動している時に効果が発動したら10枚除外されるから、ライフ5000ポイント回復……

いや、ある意味そっちの方が面白い?)」

 

「さて、バトルフェイズだ。

【速攻の黒い忍者】で【千眼の邪教神】を攻撃!」

 

「リバースカード、オープン。

【同姓同名同盟】」

 

「何!?」

 

「このカードは俺の場にレベル2以下の通常モンスターが存在する時発動できる罠カードです。

このカードの名前通り、同名モンスターをデッキから特殊召喚する。

現れよ、【千眼の邪教神】」

 

守備表示となっている【千眼の邪教神】の周りに禍々しいオーラが溢れ出す。

そのオーラは分裂し、2体の【千眼の邪教神】をデッキから呼び出す。

 

「だが、しょせん壁を増やしただけ!

行け、【速攻の黒い忍者】!」

 

地面に膝を着いた【速攻の黒い忍者】は狙いを定め、その場から姿を消す。

しかし次の瞬間には【千眼の邪教神】の背後で刀を構え、無駄のない動きで標的を切り裂く。

真っ二つに切り裂かれたモンスターは守備表示だったため聖星にダメージはない。

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、【魔導書の神判】の効果が発動します。

貴方が発動した魔法カードは2枚。

俺は【ネクロの魔導書】、【ゲーテの魔導書】を手札に加えます。

モンスターは特殊召喚しません」

 

「おや、壁を増やさないのか?

【同姓同名同盟】を入れているという事は【ブークー】と【ハリケル】も複数デッキに投入していると思ったが」

 

「答えはすぐに分かります。

俺のターン、ドロー」

 

ゆっくりと引いたカード。

これで自分の手札は9枚。

その中で【魔導書】は【グリモ】、【ヒュグロ】、【セフェルの魔導書】が1枚に、【ネクロ】、【ゲーテの魔導書】が2枚ずつ。

 

「俺は魔力カウンターが3つ乗っている【王立魔法図書館】の効果発動。

魔力カウンターをすべて取り除き、デッキからカードを1枚ドロー」

 

これで10枚。

同時に【王立魔法図書館】から魔力カウンターの光が消える。

それに対し【魔法都市エンディミオン】には3つの魔力カウンターが溜まっている。

 

「【魔法都市エンディミオン】の効果発動。

このカードに乗っている魔力カウンターを使用し、【王立魔法図書館】の効果を発動。

デッキからカードを1枚ドロー。

そして【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【トーラの魔導書】をサーチします。

さらに先程引いた【苦渋の選択】を発動」

 

「君もそのカードを持っていたか」

 

「使わない理由はないので。

俺は【ゾンビキャリア】、【グローアップ・バルブ】、【ブークー】、【ハリケル】、【スポーア】を選びます。

どうぞ、この中から1枚選んでください」

 

「ならば【ハリケル】だ!」

 

「俺は【ハリケル】を手札に加え、残りの4枚を墓地に送ります」

 

加わったのはレベル2の通常モンスター。

墓地に送られたのも殆どが攻撃力500未満のモンスター達。

しかし、彼らの真価はそれではない。

それを理解している月行は顔を引きつらせながら呟いた。

 

「Mr.フランツ……

貴方は墓地に送ってはいけないカード達を墓地に送りましたね」

 

「俺はデッキからカードを1枚墓地に送り、チューナーモンスター【グローアップ・バルブ】を特殊召喚」

 

「フッ!!」

 

デッキからカードを1枚墓地に送り、その代わりに球根のようなモンスターが場に現れた。

その攻撃力はたったの100である。

普段ならそんな雑魚モンスターが現れたら笑うのだが、聖星が宣言した名前にフランツは眼鏡を押し上げた。

 

「チューナー……

それがシンクロ召喚に必要なカードの1つ」

 

「はい。

さらに俺は手札から【トーラの魔導書】を見せ、【ネクロの魔導書】を発動します」

 

「【ネクロの魔導書】?」

 

「このカードは手札のこのカード以外の【魔導書】を見せ、墓地に存在する魔法使い族を1体除外します。

そして別の魔法使い族を墓地から特殊召喚する」

 

「魔法使い族専用の【早すぎた埋葬】。

ですが発動するとどうなるのか分かっているのかね?

モンスターを除外するという事は、私の永続魔法【魂吸収】が発動し、500ポイントのライフが回復してしまうが」

 

「たった500.

シンクロ召喚を使った高速デュエルの前では0にも等しいですよ」

 

「言ってくれる」

 

「俺は墓地に眠るレベル2の【ハリケル】を除外し、レベル2の【ブークー】を選択。

蘇れ【ブークー】」

 

「ブ~ク~!」

 

ぽん、と明るい音と共に現れた可愛らしい本のモンスター。

その姿に笑みを浮かべながら聖星はさらに説明を続けた。

 

「そして【ネクロの魔導書】の効果で蘇生した【ブークー】のレベルは【ハリケル】のレベル分だけ上がります。

よってレベルは4です」

 

「聖星ボーイの場にはレベル4の【ブークー】、【王立魔法図書館】にレベル1の【千眼の邪教神】が2体。

そしてレベル1のチューナーモンスター。

何が来るのか楽しみデ~ス」

 

レベルの組み合わせで行くと、最低レベル2.

最高レベル11のモンスターが呼ぶ事が可能となる。

楽しげにデュエルを見つめるペガサスの言葉にフランツは気に入らなさそうに聖星を見た。

 

「ふん、見せてもらおうか。

そんな雑魚の寄せ集めに何が出来るのかを!」

 

「そんなにご覧になりたいのでしたらお見せしますよ。

行くぞ、皆!」

 

聖星の掛け声に場に存在するモンスター達は強く頷く。

 

「レベル1の【千眼の邪教神】2体とレベル4の【ブークー】にレベル1の【グローアップ・バルブ】をチューニング!」

 

名前を宣言されたのは4体のモンスター。

【千眼の邪教神】2体と【ブークー】は空中へと舞い上がり、1つの列をなす。

それに対し【グローアップ・バルブ】は淡い1つの星と緑色の輪となり、3体のモンスターを包み込む。

 

「天に煌めく星々に選ばれし魔術師よ、遺された力を掌握し希望への活路を見いだせ!

シンクロ召喚!」

 

聖星の叫び声と同時に背後に緑色の光柱が立つ。

光は【魔法都市エンディミオン】の青空を貫き、空中に浮かんでいる魔法の文字が一部消え去ってしまう。

光が生み出す轟音と強風により聖星のコートはなびいた。

 

「解き放て、【アーカナイト・マジシャン】!!」

 

「はぁあっ!!!」

 

光は砕け散るように壊され、中から白い衣服を羽織っている魔術師が現れる。

魔術師は踊るようにその場に降り立ち、聖星を見て微笑んだ。

そして振り返った魔術師は敵であるフランツを睨み付ける。

 

「……これが……」

 

「……シンクロ召喚……」

 

「オ~!!

ベリービュウティフゥ~ル!!

何度見てもその美しい召喚法、たまりまセ~ン!!」

 

シンクロ召喚を行う場合、殆どのモンスターが緑色の光の中から現れてくる。

その召喚する姿を美しいと称する者は未来でもたくさんいた。

聖星もそれには同意である。

 

「(でもエクシーズ召喚もカッコいいよな。

逆巻く銀河の中から現れる、っていう感じがして。

あ、これはカイトの専売特許か)」

 

オーバーレイネットワークを構築する際、モンスターが輝く渦の中に吸い込まれていく姿。

初めて見た時には感動したものだ。

少し昔を思い出しているとフランツが眼鏡を押し上げながら言葉を放つ。

 

「成程それがシンクロ召喚ですか……

しかし、せっかくモンスターを4体も使ったのに攻撃力はたったの400.

それのどこに希望への活路を見い出す力があるのかね?」

 

「【アーカナイト・マジシャン】の効果」

 

「む」

 

「このカードがシンクロ召喚に成功したとき、このカードに魔力カウンターを2つ乗せます。

そして彼女自身の攻撃力はこのカードに乗っている魔力カウンターの数×1000ポイント。

よって攻撃力は2400です」

 

「なっ……!?」

 

「まだ終わりません。

【アーカナイト・マジシャン】の効果発動。

俺の場に存在する魔力カウンターを1つ取り除くことで、相手の場のカードを破壊する」

 

「何!?」

 

【アーカナイト・マジシャン】に乗っている魔力カウンターではなく、聖星の場の魔力カウンターなのだ。

今、聖星の場には魔力カウンターを乗せる【王立魔法図書館】と【魔法都市エンディミオン】が存在する。

【王立魔法図書館】と【魔法都市エンディミオン】共に3つのカウンターが存在している。

つまり聖星は最高8枚までフランツのカードを破壊できるという事だ。

 

「俺はフィールド魔法【魔法都市エンディミオン】の魔力カウンターを1つ取り除き、伏せカードを破壊!」

 

「【速攻の黒い忍者】の効果発動!

墓地の【異次元の偵察機】を2体除外し、このカードを除外する!」

 

攻撃力を保つため、聖星が【アーカナイト・マジシャン】のカウンターを使うとは考えにくい。

攻撃力2400のモンスター等【速攻の黒い忍者】が勝てるわけがない。

フランツの宣言により【速攻の黒い忍者】は場から消えてしまった。

しかし【アーカナイト・マジシャン】は初めから相手モンスター等眼中にはないのか、伏せカードだけを破壊する。

 

「くっ……!

だがこの瞬間【魂吸収】の効果発動!

【速攻の黒い忍者】のコストとして除外されたカードは2枚、これでライフポイントを1000回復。

さらに【速攻の黒い忍者】自身が除外された事で500回復だ!」

 

ゆっくりと上昇していくフランツのライフポイント。

これで彼のライフは6000となる。

 

「【アーカナイト・マジシャン】は効果の発動に制限回数はありません。

次はそのカードを破壊させていただきます」

 

「何だと!?」

 

「【エンディミオン】から1つ取り除き、永続魔法【魂吸収】を破壊!」

 

【魔法都市エンディミオン】に宿っていた魔力の結晶が【アーカナイト・マジシャン】が持つ杖に吸収されていく。

力を手に入れた【アーカナイト・マジシャン】はその杖の宝石を【魂吸収】に向けて魔力の塊を放った。

膨大なエネルギーを受けた永続魔法は一瞬で塵となり、フランツの場は丸裸状態となってしまう。

 

「俺の墓地に存在するレベル2のチューナーモンスター、【ゾンビキャリア】の効果発動。

【ゾンビキャリア】は手札のカードを1枚デッキトップに戻す事で墓地から特殊召喚出来ます」

 

聖星の手札はまだまだたくさんある。

しかも魔力カウンターが3つ乗っている【王立魔法図書館】も存在するのだ。

コストとしてデッキトップに戻しても、すぐにドロー出来るので実質ノーコストの蘇生だろう。

 

「甦れ、【ゾンビキャリア】」

 

「グゥウゥ……」

 

「レベル4の【王立魔法図書館】にレベル2の【ゾンビキャリア】をチューニング。

爆炎の力を宿す魔術師よ、遺された力をその手に掴み、敵の戦略を崩せ!

シンクロ召喚!」

 

名を呼ばれた【ゾンビキャリア】は醜い姿から綺麗に輝く星となり、【王立魔法図書館】の本棚へと埋め込まれる。

彼らの肉体は緑色の光に包まれ、再び強風を巻き起こした。

 

「現れよ、【エクスプローシブ・マジシャン】!」

 

「はぁ!!」

 

緑の光の中から現れたのは男性の魔法使い族。

その攻撃力は2500である。

白銀の衣を纏う魔術師は無表情のまま隣に立つ【アーカナイト・マジシャン】を見る。

互いにアイコンタクトを取り、小さく頷いた。

 

「さらに手札から【ヒュグロの魔導書】を発動。

これで【アーカナイト・マジシャン】の攻撃力1000ポイントアップし、攻撃力は3400です」

 

「な、なに……!?」

 

負ける。

この時フランツはそう思った。

自分のライフは6000。

【スポーア】の攻撃力は分からないが、攻撃力3400と2500の攻撃を受ければ残りのライフは100.

しかもこのターン、彼は通常召喚を行っていない。

手札には攻撃力900の【ハリケル】が存在する。

 

「さらに墓地に眠るチューナーモンスター【スポーア】の効果発動。

植物族モンスターである【グローアップ・バルブ】を除外し、【グローアップ・バルブ】分のレベルを上げて守備表示で特殊召喚します」

 

「ポアッ!」

 

【ブークー】の時と同じように可愛らしい音と共に現れたモンスター。

大きな瞳を輝かせていると、突然ふわふわの体が大きくなる。

これで【スポーア】のレベルは2となる。

 

「バトルフェイズです」

 

「何?」

 

聖星の宣言にフランツは目を見開いた。

 

「【エクスプローシブ・マジシャン】でダイレクトアタック。

シャイニング・フレイム・バーニング!」

 

自分の攻撃名を宣言された【エクスプローシブ・マジシャン】は両手に魔力を宿す。

淡い小さな光の魔力は激しく燃え盛る炎となり、フランツに向かっていく。

その炎はフランツを囲うように回転し、一気に爆発していく。

 

「ぐわぁあ!!」

 

「そして【アーカナイト・マジシャン】でダイレクトアタック!

ホーリー・マジック!!」

 

未だに爆発により煙が消えない中、【アーカナイト・マジシャン】の杖に膨大な魔力が宿る。

赤い目を細めた魔術師は杖を回し、魔法陣を描く。

描かれた魔法陣はフランツの足元にも現れ、その輝きが彼を襲った。

 

「ぐぅうう!!」

 

攻撃力2500以上のモンスターのダイレクトアタックを2度同時に受け、フランツはその場に膝を着いた。

これで彼のライフは100となる。

 

「ははっ、ははっ……」

 

「何がおかしいんですか?」

 

「いや、失礼。

やはり貴方は子供。

幼稚な思考の持ち主だ」

 

「どういう意味でしょうか?」

 

「私のライフは残り100.

ですが貴方の手札には攻撃力900の【ハリケル】が存在する。

もしそのモンスターを召喚していればこのデュエルに決着はついた。

折角のチャンスを貴方は無駄にした。

これを笑わずにどうしろというのですか?」

 

「………………」

 

フランツの言葉に聖星はきょとん、とした顔を浮かべる。

彼の表情に月行は目を見開いた。

まさか、本当に見落としていたのだろうか。

確かに聖星のデュエルはまだ拙い部分があり、【魔導書の神判】をスタンバイフェイズ時に発動するようになったのも自分と夜行が指摘してからだ。

 

「次のターン、【速攻の黒い忍者】と2体の【異次元の偵察機】が私の場に戻ってくる。

その3体を生贄に【ギルフォード・ザ・ライトニング】を発動してしまえば貴方のモンスターは全滅。

勝負は分からなくなってきたようだ」

 

「罠発動。

【緊急同調】」

 

「何?」

 

「俺の場に存在するチューナーモンスターと非チューナーモンスターでシンクロ召喚をします。

ちなみにこれはバトルフェイズ中の特殊召喚なので追撃が可能です」

 

「…………何、だと?」

 

今、聖星の場にはレベル2となっているチューナーモンスター【スポーア】。

そしてレベル7とレベル6のシンクロモンスター。

シンクロモンスターをシンクロ素材にしてはいけないというルールはない。

つまり聖星は新たなモンスターを呼べるという事だ。

先程とは一変し、フランツの表情は血の気が引いたのか真っ青になってしまった。

そんな彼に聖星は微笑む。

 

「すみません、期待を裏切ってしまって。

けどシンクロ召喚のデモンストレーションですから。

シンクロモンスターで止めをささないと意味ないですよね」

 

穏やかに微笑んでいた聖星はそのままカードの名前を宣言した。

 

「レベル6の【エクスプローシブ・マジシャン】にレベル2となったの【スポーア】をチューニング」

 

場に存在した2体はフィールドから飛び立ち、【エクスプローシブ・マジシャン】は半透明な姿となる。

それに対し【スポーア】は2つの輝く星と2つの輪となり、【エクスプローシブ・マジシャン】を取り囲んだ。

埋め込まれた星は8つの輝きとなり、今までにない輝きを放つ。

 

「星々の命を翼に宿す白銀の竜よ、一筋の閃光となり、世界を駆けろ!

シンクロ召喚!」

 

聖星の姿をかき消すほどの輝きはすぐには消えず、その中で何かが蠢いているのが分かった。

 

「玲瓏たる輝き、【閃珖竜スターダスト】!」

 

名を呼ぶ主の声に呼応するよう心臓の鼓動が響き、光の中で蠢くドラゴンが姿を現した。

白銀の肉体に埋め込まれる紫の宝石はまだ残る光を反射し、聖なる光を纏う。

【閃珖竜スターダスト】は【アーカナイト・マジシャン】の隣に降り立ち、自分を見上げるフランツの姿を黄色の瞳に映す。

 

「グォオオオ!!」

 

【アーカナイト・マジシャン】も【エクスプローシブ・マジシャン】も美しい風貌をしたモンスターだった。

だがこのモンスターはその2体を凌駕するほどの美しさを持つ。

誰もが言葉を失う中、ペガサスは自分の眼を疑った。

 

「アンビリーバボー……!」

 

この場にいる者であの姿を見た事があるのは聖星を除いてペガサス1人。

だからこそ理解が出来なかった。

 

「(あのモンスターは夢の中で見たドラゴンと酷似していマ~ス。

聖星ボ~イはあのようなモンスターを持っているなどミーには一言も言っていまセ~ン。

それに【スターダスト・ドラゴン】ではなく【閃珖竜スターダスト】……

一体どうなっているのです!?)」

 

自分が赤き竜の夢によってデザインしたドラゴンを聖星は【スターダスト・ドラゴン】と呼んでいた。

それなのに、そのモンスターと酷似しているドラゴンを聖星は持っている。

 

「行きますよ、フランツさん」

 

「っ!!」

 

「【閃珖竜スターダスト】、流星閃撃!!!」

 

自分に向けて大きな口を開き、輝く光を集める【スターダスト】。

その攻撃力は2500でフランツのライフを削り取るには十分すぎた。

向かってくる巨大な光にフランツは目を閉じた。

 

「ぐわぁあああ!!!」

 

悲鳴を上げながらフランツはその場から吹き飛ばされ、ライフが0となった。

 

「勝負あり、勝者、不動聖星!!」

 

今まで顔色一つ変えずにデュエルを見守っていた磯野の声がデュエルフィールドに響く。

その声を聞きながら聖星はペガサス達に振り返った。

賛成派の月行達は笑顔で聖星を見つめている。

しかしペガサスだけは神妙な顔つきだった。

 

「おめでとうございます、聖星さん。

これでシンクロ召喚のプロジェクトは予定通り進める事が出来ます」

 

「そんな……

月行さん達がデッキ調整に付き合ってくれたお蔭です。

まぁ、あまり回りませんでしたけど」

 

「1ターンに3体のシンクロモンスターを呼べたのです。

十分じゃないですか」

 

確かにシンクロ召喚に馴染がない彼等からしてみればそう思うだろう。

だがシンクロ召喚が流行している未来人からしてみれば普通の事だ。

遊星など1ターンに4回のシンクロ召喚をするなんてざらにある。

 

「本当は【トリシューラ】や【ダーク・ダイブ・ボンバー】も出したかったんですけど……」

 

「聖星さん、流石にそれは止めてあげてください。

夜行はあれで心を砕かれましたから」

 

「え?」

 

昨日のデッキ調整に付き合った月行は悪夢を思い出しそうだった。

一体何がどうなって【ブークー】や【ハリケル】達から【ダーク・ダイブ・ボンバー】になる。

しかも【ネクロの魔導書】で無駄にレベルを上げた魔法使い族を生贄に捧げ、ライフを2000近くも奪うのだ。

【トリシューラ】は何も言うまい。

 

「お見事デ~ス、聖星ボ~イ」

 

「ペガサスさん」

 

「厳しい条件下の中、よく勝利を掴んでくれたのデ~ス。

やはりシンクロ召喚はデュエルモンスターズをさらに発展させる召喚法デ~ス。

後で詳しく聞かせてくだサ~イ」

 

聖星の手を握り、激しく振るペガサス。

相変わらず過激な人だと思っていると、ペガサスの視線が鋭い事に気が付いた。

 

「ペガサスさん?」

 

「後で私の部屋に来てくれますね?」

 

お願いではなく、命令。

有無を言わせない威圧感に聖星は小さく頷く。

聖星が頷くとペガサスは優しく笑い、皆に振り返り今後の事を話し出した。

 

「(……え、なにペガサスさん。

俺、怒らせるようなことしたかな?)」

 

「【スターダスト】の事を話していないだろう」

 

「(あ、すっかり忘れてた)」

 

「石版で見た事も話すんだぞ」

 

「(あぁ)」

 

**

 

デモンストレーションも終わり、外もすっかり暗くなっている時間帯。

聖星は正直に昨日石版の前で見たビジョンといつの間にか手に入れていた【閃珖竜スターダスト】の事を話した。

 

「『三幻魔』に『星竜王』、『星の民』。

とても興味深い話デ~ス」

 

「俺が父から聞いた話では赤き竜は5000年毎に冥界の王と戦い、地縛神を封印してきました。

それなのにあの石板で俺に語り掛けてきた星竜王は3000年前、彼らは三幻魔が引き起こした混沌の世を鎮めるため赤き竜の力を借りたと言っています」

 

「赤き竜をこの星の守護神だと仮定しまショウ。

私達生者を助けるのは別におかしくはありまセ~ン。

地縛神の封印が解かれるように、三幻魔の封印も解かれようとしていマ~ス

しかも人間の手によってデス……

それを察した星竜王の魂はユーをこの時代に呼び、ユーに復活を阻止して欲しいと頼んだ。

そして赤き竜の力を【閃珖竜スターダスト】として聖星ボーイに授けた。

ここまでは合っていますカ?」

 

「はい」

 

ソファに深く腰を下ろしているペガサスはふぅ、と息を吐き強く目を瞑った。

目の前にいる少年が言っている事は嘘ではないだろう。

自分がデザインしたわけでもなく、未来でも存在しないはずの【閃珖竜スターダスト】の存在がそれを証明している。

 

「シグナーの竜はまだ目覚める時ではない。

つまり【スターダスト・ドラゴン】達は三幻魔と戦うためだけに目覚めさせるのは早すぎる、という意味でしょう。

彼等は数十年後に復活する地縛神と戦う定めデ~ス」

 

「はい。

ですから星竜王はシグナーの竜の代わりに【閃珖竜スターダスト】を託すと言っていました」

 

聖星は自分の横を見下ろした。

そこには【星態龍】と何か言葉を交わしている【閃珖竜スターダスト】がいた。

 

「それでペガサスさん、三幻魔に関して何か心当たりはありませんか?」

 

「ソーリー。

私には全く心当たりがありまセ~ン。

バット、【閃珖竜スターダスト】がデュエルモンスターズのカードである限り、三幻魔もデュエルモンスターズに関係している存在だというのは分かりマ~ス」

 

「ですよね……」

 

ペガサスに心当たりがあり、なおかつ彼がデザインしたカードの中にヒントがあれば良かった。

しかしカード等遊星やジャックのように勝手に作り出す事が出来るものだ。

もしかすると三幻魔の復活を目論む何者かが既に作ろうとしているかもしれない。

 

「ペガサスさん。

暫くの間、アメリカに残っても構いませんか?」

 

「私は構いまセ~ン。

ユーがここにいてくれれば、シンクロ召喚のプロジェクトがより一層進むでショウ。

私としては喜ばしい限りデ~ス。

ですが~、ユーの目的はそれではないようですネ?」

 

「はい。

デュエルアカデミアは孤島なので三幻魔に関する情報を集めるのは難しいと思います。

ですがインダストリアルイリュージョン社でしたら、何か掴めるかもしれません」

 

取巻の【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の行方も、神楽坂の勝敗も気になるところだ。

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の行方ならここでも調べる事が出来るし、神楽坂の事は十代達に任せよう。

とにかく今は三幻魔の情報を集めるのが優先である。

 

「オーケー、分かりました。

では、早速ユーの部屋を手配しまショウ。

どのような部屋を希望しますか?」

 

「前回のように豪華な部屋ではない、普通の部屋をお願いいたします」

 

END

 




やっと終わった…
デュエルが意外と短く終わりましたね。
もう少し捻るべきだったかな…


【閃珖竜スターダスト】を登場させたのはただ単にそのカードを使う聖星が書きたかったからです。
それ以上の理由はない!
けどこの世界には【スターダスト・ドラゴン】がカード化される予定だし、どうしようと思いながらこじつけを考えました。(オイ
……分かっていますよ、無茶苦茶な理論だというのは。
けどこうしないと使えない……!


ゴドウィンはジャックに「3000年前星の民は竜の星に祈りを捧げ、赤き竜を召喚した。そして地上に邪神を封印した。」と話しているのに【地縛神】は5000年毎に赤き竜と戦う、という設定に変わっています。
じゃあ3000年前に戦っていた邪神の設定どうしようと考え「あ、これ【三幻魔】とかよくね?」と思いついたんです。
まぁゴドウィンは「幾度となく邪悪な戦乱が平和を脅かします。」と言っているので、3000年前に起こった『赤き竜vs邪悪な何か』の戦いは何度もあったと捉えても良いですよね。
この物語ではそのうちの1つが【三幻魔】との戦いとしています。


ペガサスは【三幻魔】の存在をセブンスターズ事件まで知らない設定にしています。
確か本編では【三幻神】や【三邪神】と違い、ペガサスが【三幻魔】を手掛けたという描写が一切ないので。
とりあえず大徳寺先生が見つけた、というのは回想で分かっているんですけどね。


矛盾点があっても所詮二次創作という事でご了承くださいm(__)m


そして今日のARCV…
終わるまでずっとハラハラしていました。
あそこまで緊張感を持ちながら見るデュエルは久しぶりです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一話 食い違い

ペガサスが急遽用意した部屋。

冬休みに過ごした部屋と違って狭く、最低限のものしか置かれていないが聖星にとってはこの程度が丁度良い。

その部屋に置かれている机の前で聖星は友人の言葉に微笑んだ。

 

「それでさ、神楽坂の奴、前の実技試験じゃダメージを受けずに完勝したんだぜ!

これで14戦12勝2敗さ」

 

元気よく次から次へと言葉を発するのは日本にいる十代。

インダストリアルイリュージョン社に行くから暫く休む旨をメールで伝えた時、十代はたいそう驚いたようだ。

それで十代なりに気遣い、アカデミアでの授業や皆の事をこうやってテレビ電話で伝えてくれる。

ノートに関しては取巻が貸してくれるようだ。

 

「あれ、2回負けたんだ。

相手は誰と誰?」

 

「俺と三沢。

もうあのデッキには慣れたからって言って俺達は対戦相手に回ったんだぜ」

 

「ふぅん。

じゃあ神楽坂は12枚確保できたんだ」

 

自分なりのデッキが上手く組めない神楽坂のために聖星が出したゲーム。

神楽坂が1勝ずつする度に1枚譲り、1敗するたびに十代の勉強を見るという内容だ。

確か神楽坂に渡したのは23枚なので、あとは9戦すればこのゲームも終わりを迎える。

 

「今のところ【スノウ】、【ブラウ】、【ベージ】が2枚ずつ、【暗黒界の門】と【グラファ】を3枚って決めてたぜ」

 

「それだけでも十分デッキ組めそうだな」

 

【暗黒界の龍神グラファ】と特殊召喚をサポートする【暗黒界】達がそれなりの枚数を入手できたのなら、ある程度のデッキは組む事が出来る。

神楽坂が他にどんなカードを持っているかは知らないが、彼が今まで組んだデッキを考慮すると【暗黒界】と相性のいいカードくらいあるはずだ。

必要最低限のカードの入手は確定したので神楽坂も少しは肩の荷が下りただろう。

そういえば自分は神楽坂と1度もデュエルしていないと思っていると十代が真剣な表情となった。

 

「ところで聖星。

【レダメ】の行方は分かったか?」

 

「……いや、裏サイトや地下デュエルを色々探ってみたけど【レダメ】の情報は一切なかった。

多分、盗んだ奴がまだ持ってるはずだ」

 

「そっか……

ひでぇよな、取巻の奴、あのカードを凄く大事にしてたのによ……」

 

「あぁ。

それで、今取巻はどうしているんだ?」

 

言っては悪いが最近の取巻は【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】に頼った戦術をとっていた。

ただでさえ以前聖星が叩き潰したブルーのような生徒がいるのに、実技試験で連敗が続けば何を言われるか分かったものではない。

それを心配して尋ねてみると十代は頬を掻く。

 

「実技試験は何とか勝ってるけどよ……

新しいドラゴン族を集めようと必死だぜ。

俺や三沢も使わないドラゴン族を何枚か譲ったけど、やっぱり【レダメ】がないと回転力がな~」

 

「そっか……」

 

十代達が譲ったドラゴン族は【タイラント・ドラゴン】や【フェルグラントドラゴン】、【魔王ディアボロス】等癖の強いカードらしい。

場に出れば心強いかもしれないが、特殊召喚のさいに制限等があるためやはり扱いづらさが否めない。

 

「(取巻のデッキは多属性のドラゴン族を使うからなぁ。

もし、あいつのデッキが【カオスドラゴン】だったのなら【ライトパルサー・ドラゴン】や【ダークフレア・ドラゴン】を譲る事も出来るけど……

確か光属性と闇属性のドラゴン族ってあまりデッキに入れてなかった気がする)」

 

今まで彼が使ってきたのは風属性の【サファイアドラゴン】や【スピリットドラゴン】、【エメラルド・ドラゴン】、地属性の【密林の黒竜王】。

光属性と闇属性のドラゴン族といえば【マテリアルドラゴン】や【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】ぐらいだったはずだ。

 

「(【ストロング・ウィンド・ドラゴン】とか?

あれってレベル6で攻撃力2400だからそれなりに戦えるし。

でもテキストにアドバンス召喚やリリースって書いているからダメか)」

 

「ってか聞いてくれよ、聖星!

俺一昨日酷い目に遭ったんだぜ!」

 

「え、酷い目って?」

 

先程まで真剣な表情は消え失せ、十代は大げさにTV画面まで迫って一昨日の事を話し出す。

 

「テニスの時間にさ、俺が打ったボールが明日香の方に向かっていったんだ。

そしたら暑苦しいテニス部の部長が明日香を守るために別の方向に撃ったんだけど、それがクロノス教諭に当たってさ~」

 

「あ~……

で、罰は?」

 

「テニス部入部体験。

しかも何百球も打たされたんだぜ!

俺がクロノス教諭に当てた訳じゃないのに理不尽すぎねぇか!?」

 

「根本的原因は十代だけどな。

……あれ、でも部長なのに人がいる方に打った部長も悪いのか?

でも良かったじゃないか。

クロノス教諭の事だから反省文100枚、ってなるかと思ったのに」

 

いくらわざとでなくてもレッド寮の生徒を毛嫌いしている彼の事だ。

しかもコントロールミスしたのは入試の頃から何かと目立っている十代。

かなり理不尽なことを言うと思ったが、まだ現実的な内容である。

 

「それだけじゃないんだって!

なんかよく分かんねぇけど、その部長俺と明日香の仲疑ってよ、いきなり明日香のフィアンセ?

フィアンス?

まぁ、とにかくその座を賭けてデュエルだとか言ってきたんだぜ!」

 

「うん。

その人の頭の中、よほどお花畑なんだね」

 

何だ、そのぶっ飛んだ発想は。

十代と明日香はただの友人だし、何をどうしたら仲を疑ってしまうのだ。

別に疑うのならまだ誤解ですむ話だが何故婚約者の座を賭けてデュエルしなければならない。

確かに十代にとっては災難だっただろう。

 

「けど売られたデュエルは買う主義だからな、勿論勝ったぜ!

…………まぁ、その後が面倒だったけどな」

 

「あ~

明日香とか大変そう。

自分の婚約者を勝手に決められそうになったわけだし」

 

「へ?

フィアンセって婚約者って意味なのか?」

 

「え?

婚約者以外何があったっけ?

っていうより、知らなかったのか?」

 

「おう」

 

真顔で断言された聖星は日本にいる明日香達に同情した。

きっと十代の事だからその場で明日香に意味を尋ねたに違いない。

お世辞にも十代の頭は良くない。

興味のない分野に対して知識が乏しいのはある程度理解できるが、だからといってフィアンセの意味くらい一般常識的に知っていて欲しかった。

 

「その時皆呆れただろうな……」

 

「呆れた、っていうかさ。

その後取巻に無理矢理部屋に連れていかれて、そこでいきなり一般常識の勉強とか始めたんだよ。

何でだよ!?って突っ込んだら睨まれるし」

 

「……取巻、お疲れ様。

本当お疲れ様」

 

「何だよ、聖星までぇ!」

 

次に会ったときは朝食でも昼食でも飲み物でもカードのパックでも何でもいい。

奢ろうと決めた聖星は本当に疲れたかのように項垂れる十代に対し微笑んだ。

十代から皆の近状を聞いてみるが本当に楽しい。

シンクロ召喚の企画を進める事が楽しくないわけではないが、やはり十代達と一緒にその場に居たかったと思ってしまう。

三幻魔の事もあるし、もう少しこの学生生活に触れる事が出来ないと思うと寂しいものだ。

 

「それよりさ、お前ちゃんと寝てるのかよ?」

 

「え?」

 

十代の言葉に聖星は首をかしげる。

目の前の十代は難しい顔をして目元を指さした。

 

「目元に酷い隈があるぜ」

 

「え、嘘?」

 

「あぁ。

やっぱり自覚してなかったのかよ」

 

十代に指摘されて聖星はここ最近の日常生活を振り返った。

プロジェクトの書類に目を通したり、テストデュエルをしたり、三幻魔に対して調査をしたり。

定時に帰ってもこの部屋で独自に情報を集めている。

確かに多忙すぎて以前のような睡眠時間は確保できていなかった。

 

「一応睡眠は3時間とってるから平気だと思ったんだけど……」

 

「3時間!?

聖星、よくそれで倒れねぇな!

俺だったら絶対に無理!」

 

「そう?

慣れたら平気だけど」

 

たった1年程度の1人暮らしの間。

親の目がないというのは寂しさもあったが、自由もありよく夜遅くまで起きてはデッキを組んでいた。

その時は寝ずに学校に行ったことも多々あり別に苦ではなかった。

聖星の言葉に十代はひきつった笑みを浮かべている。

 

「あ、そうだ。

十代に紹介しないと」

 

「紹介?

誰を?」

 

聖星は自分のデッキケースから1枚のカードを取り出す。

小声で声をかければそのカードから宿っている白銀の竜が姿を現した。

液晶越しでも充分見えるようで、竜が姿を見せると十代は目を見開いて画面に食らいついてくる。

 

「何だ、その白いドラゴン!?

そっちで出会ったのか!?

凄くカッコいいじゃねぇか!」

 

「あぁ。

【閃珖竜スターダスト】っていうんだ。

【スターダスト】、彼は十代。

俺の友達だよ」

 

「グルゥ」

 

聖星の頭の上に乗った【スターダスト】は自分の姿が見える少年に戸惑いながら、小さく頭を下げた。

一応お辞儀らしい。

随分と人間らしい事をする、と思いながら言葉を交わす。

 

「なぁなぁ。

どこで出会ったんだ?

新しく買ったパックか?」

 

「秘密」

 

「何だよ、隠すなよ!

くぅ~~、聖星、日本に戻ってきたらすぐに俺とデュエルしろよ!」

 

「いや、ごめん。

こいつを召喚するパーツはまだ揃ってないんだ」

 

「何だ、【スターダスト】もかよ……

つまんねぇの~」

 

ふてくされ、心底残念そうに呟く十代。

それからも他愛もない事を話し、通話を終わらせた。

画面が黒くなると【スターダスト】と【星態龍】はドラゴン同士何かを話し始め、聖星はそんな2匹を微笑みながら見下ろした。

 

「(あ、でも少し頭重いかも……

丁度切らしていたし…………

コーヒー買いに行こう)」

 

「どうした聖星?」

 

「コーヒー買いに行く」

 

「そうか」

 

デッキケースを掴んだ聖星はそのまま宛てられたマンションを出た。

外はすっかり暗く、人通りは多いが自分の同年代の子供などあまり見ない。

デートのカップルや仕事帰りのサラリーマン等様々な人が行きかう中、スーパーに足を運ぶ。

するととある人の後姿を見かけた。

 

「あ、フランツさん」

 

「あぁ、君か」

 

外出用コートを羽織り、片手に鞄を持っているフランツ。

彼は指で眼鏡を少し上げ怪訝そうな表情で聖星を見下ろした。

明らかに仕事帰りの彼は周りを少しだけ見渡す。

 

「こんな時間までお仕事ですか?」

 

「えぇ。

シンクロ召喚に必要なカードのために新たなカードをデザインする必要があるからな。

同時にそのカードにも物語を作らないといけない。

完了期限までまだまだあるとはいえ、早めに終わらせたい」

 

指定された期間内に仕事を終わらせれば一定の報酬を支払われる。

アメリカは時給制としか知識がなかった聖星はこの事を聞かされた時ひどく驚いたものだ。

同じ社内なのにまるで個人契約しているかのように仕事の期間を決め、それまでに仕事を完了させる。

聖星達のシンクロ召喚プロジェクトはそれに該当するようだ。

 

「物語、ですか……

そういえばフランツさんが使っていた【異次元の偵察機】も【異次元の戦士】の足代わり、という設定がありましたね」

 

デュエルモンスターズは1つではなく、様々な世界観を描いているカードだ。

古き日本の事や異世界を交えた世界。

弱き者を助けるため異世界からくる光を司る騎士達。

たった1人の女性を執拗に追い回す男性。

シンクロモンスターの中にも当然様々な物語を担うモンスターが存在する。

【氷結界の龍トリシューラ】の物語には乾いた笑みしか出なかった。

 

「ところで聖星さん。

貴方、お1人で?」

 

「え?

あ、はい」

 

先程まで周りを見ていたフランツはその言葉に眉間に皺を寄せた。

この時間に中学生の子供が出歩くのは多少まずかっただろうか。

フランツはため息をつき、背中を向ける。

 

「子供がこんな時間に保護者同伴でもないのに外出とはいただけない。

自宅が近いのなら送ろう」

 

「いえ、これからスーパーに行く予定なので……」

 

せっかくの心遣いだが、流石に彼もいっしょにスーパーに行こうとは誘えない。

だから遠慮気味に首を振ったのだが彼は再び溜息をつき、スーパーがある方角へ歩き出した。

 

「フランツさん?」

 

「この辺りはまだ治安が良いとはいえ、完全に安全とは言えない。

貴方に何かがあればシンクロ召喚プロジェクトに支障が出る」

 

照れ隠しでもなんでもなく、心底そう思っているかのような眼差しを向けられた。

ここまでして貰ったら断れるわけもなく、聖星は小さく頷いた。

それからスーパーに行き、目当ての物を購入した。

今は送ってもらっている最中で2人の間に会話はあったと言えばあったが、殆ど聖星から話しかけていたようなものだ。

それが鬱陶しくなったのかついフランツは呟いてしまう。

 

「やはり子供だな」

 

「はい?」

 

微かに聞き取れた呟き。

聖星はフランツを見上げ、首を傾げた。

フランツはフランツで頭が痛むような仕草をしたがそのまま言葉を続けた。

 

「貴方がアドバイスをしているシンクロ召喚を快く思っていない相手とよく平気で話す事が出来るな、と感心しているだけだ。

子供特有の能天気さというべきか」

 

「子供相手に思ったことを口にする貴様も十分子供だと思うがな」

 

「(【星態龍】、それそっくりそのまま返されるよ)」

 

「むっ」

 

まさかの言葉に【星態龍】と心配そうな【スターダスト】がカードから現れる。

皮肉を言う相棒にツッコミを入れながら首を横に振って微笑んだ。

確かに普通なら気まずい雰囲気が流れると思うが、正直なところ聖星は反対意見を持つからと言ってその人物を快く思わないわけではなかった。

 

「別に俺は貴方がシンクロ召喚に反対している事には何も思っていませんよ。

いきなり自分が親しんだ環境が変わろうとしているんです。

反対意見を持つ方がいてもおかしくはありませんし、出るのは当然だと思っています」

 

ゆっくりと変わっていくデュエルモンスターズ。

この世界ではシンクロモンスターが生まれ、遊馬達の世界ではエクシーズモンスターが生まれた。

シンクロ召喚に慣れ親しんだ聖星がいきなりシンクロ召喚を否定され、エクシーズ召喚が主流の世界に放り込まれた時はかなりの嫌悪感を覚えたものだ。

きっとフランツも聖星程とはいかないがシンクロ召喚に嫌悪感を覚えたはず。

 

「ですが、カード達を馬鹿にするのは許せません」

 

「弱いカードの侮辱は許さず、強いカードの存在は快く思わない。

変わっているな」

 

「別に快く思わない、とは言っていません。

どんなカードにもそこにある以上、必要とされる理由があります。

ただ人間っていうのは複雑なんです。

強いカードが欲しいと言っているのに、いざそれが自分の驚異的な敵になったら手の平を返すかのように疎ましく感じます。

フランツさんだって【魔導書の神判】と直に戦ってみてどうでした?」

 

そこに存在する限り、必要とされる理由がある。

これは父である遊星の言葉だ。

しかし現実は残酷で必要とされる理由があったカードは驚異的な力ゆえに、必要とされなくなった。

それを持つ少年はそれと戦った男性に問いかける。

 

「確かに面倒なカードだったが……

だからこそ、私達がそれに対抗できるカードを生み出すべきだ」

 

「それじゃあ次にそのカードが疎まれる存在になります」

 

「弱いカードに活躍の場を与え、強いカードは生み出さない。

それで貴方や貴方の周りが納得しても、彼らは納得するだろうか?」

 

「彼ら?」

 

ゆっくりと頷いたフランツは横に目を向ける。

釣られて目を向けるとデュエル大会のポスターがあった。

そこにはプロデュエリスト達がデュエルしている姿が描かれ、その戦術に歓声を上げる観客達もいた。

 

「デュエルモンスターズとは世界を動かすゲーム。

そして観客である人々は見応えのあるデュエルを求める」

 

攻撃力の高いモンスターが低いモンスターを吹き飛ばす。

しかしその刺激も繰り返されると飽きが生じてしまう。

何度もTV越しで見てきた観客達を思い出しながらフランツは問いかける。

 

「なら、見応えのあるデュエルとは何だ?

弱小カードが並ぶ場面?

いや、強いカード同士がぶつかり合う激しいバトルだ。

シンクロ召喚という画期的な召喚で観客達を魅了する事も可能だろう。

しかしそれは一時的なもの。

人々はすぐにもっと見応えのあるデュエルを求める。

それに応えるため私達はカードを作っているんだ」

 

「強すぎるカードを使って一方的なデュエルをしても、周りは魅了されるでしょうか?

……俺が以前住んでいた街ではそんな事なかったですよ」

 

確かに初めは暖かかった。

しかし次第に彼らの目は冷たいものになっていった。

それを覚えている聖星はこれにどう答えるのか、彼の答えを待った。

フランツは悩む間もなく、さも当然のようにその言葉に返した。

 

「それは貴方の周りの話。

その目をもっと広い世界に向けてみろ。

世間は貴方ではなく、私に賛同すると思うがな」

 

そう言い切ったフランツは足を止め、上を見上げる。

そこは聖星が今暮らしているマンションだった。

もう着いてしまったのか、と思っているとフランツは背中を向ける。

 

「では、失礼」

 

「……送ってくれてありがとうございます」

 

目を合わせようとしない男性の背中を見つめながら聖星はお礼を言った。

そのままフランツは来た方向へ向かって歩いていく。

だんだんと小さくなっていく姿を見ながら【星態龍】は先程の言葉を思い出した。

 

「一時的、か。

生憎だがシンクロ召喚は世間に広く受け入れられ未来でも根強く残っている召喚法だ。

あの男の読みは外れだな」

 

世間が刺激的なデュエルを求めるのは認めよう。

その結果シンクロ召喚にも様々な強力なカードが現れた。

未来のデュエルを思い出しながら【星態龍】は友人を見下ろす。

 

「聖星?」

 

「いや……

シンクロ召喚プロジェクトの停止は免れたけど、やっぱり人の心っていうのはそう簡単には変わらないんだな、って思って……」

 

身をもって知れば分かってくれると思った。

あの世界の同級生達は分かってくれたのだから。

その結果が拒絶でも、その拒絶で理由を失う事を防ぐ事が出来れば。

しかし所詮子供の理想だった。

 

「父さんだったら、どうしてたんだろう」

 

**

 

ガラス張りにされ、外の景色が一望出来るペガサスの部屋。

そこに呼ばれた聖星は高級なソファに腰をおろし、目の前に座っているペガサスを見る。

 

「聖星ボーイ、【星態龍】に1つ尋ねたい事がありマ~ス。

よろしいでしょうカ?」

 

「【星態龍】に、ですか?」

 

デュエルモンスターズの生みの親であるペガサスは、カードに宿る精霊にも興味を示した。

精霊を視る目を持たない事にどれほどペガサスが残念がったか。

その彼が【星態龍】に尋ねたい事とはなんだろう。

すぐに【星態龍】は姿を現し、聖星の隣に浮かび上がる。

 

「私にだと?

何だ?」

 

「ユー達は【宝玉獣】というカードをご存じでしょうカ?」

 

「はい。

世界にたった1枚しかないカードだと聞いています」

 

ローマの支配者、ユリウス・カイサルはローマが世界に君臨する証として世界各国から7種類の宝石を集めて石版を作ろうとした。

その宝石の成分をカードに取り入れ、生み出されたのが【宝玉獣】。

歴史的背景、さらにそれぞれ1枚しか存在しないカード達という事で未来でも伝説のカードとして扱われている。

 

「確かに私は7つの宝石を見つける事は出来ました。

バット、宝石を収める石版……

【レインボー・ドラゴン】の石版だけが見つからないのデ~ス」

 

ペガサスの困ったような表情に聖星達はやっと理解した。

聖星と【スターダスト】は【星態龍】に目を向ける。

友人からの視線に【星態龍】は難しい顔を浮かべた。

 

「【星態龍】は高位の精霊だと聞きマシタ。

同じドラゴンの精霊デ~ス。

【レインボー・ドラゴン】の石版がどこに眠っているか分かりませんカ?」

 

「確かに知っている」

 

「え、知ってるの?」

 

「あぁ。

【レインボー・ドラゴン】の登場は我々精霊界でもかなりの衝撃だった。

自然とどこに石板があったのか知れ渡ったものだ」

 

自分も高位の精霊ではあるが、【レインボー・ドラゴン】は更にその上を行く存在だ。

長年行方不明だったかの竜の所在が発覚した時は、更なる混乱の幕開けだったため嫌でも記憶に残っている。

【星態龍】は昔を思い出すように呟き、聖星は改めて【星態龍】の凄さを認識した。

 

「だがそれを教える事は出来ない」

 

「え?」

 

まさかの言葉に聖星は再び【星態龍】を見る。

そんな彼の様子にペガサスは首を傾げた。

聖星は苦笑を浮かべそうになりながらも、【星態龍】の言葉をそのままペガサスに伝える。

 

「ホワット!?

何故デ~ス!?

【レインボー・ドラゴン】が世に現れる時期ではないというのですカ!?」

 

「そうだ。

少なくとも2年は待て。

そうすれば【レインボー・ドラゴン】は己の使命の為に、自分から姿を現す」

 

「……【レインボー・ドラゴン】の使命」

 

【星態龍】を超える精霊が背負っている使命。

その役目を果たす時が2年後に起こるという事は、それ相応の出来事が起こるという事。

一体どんな出来事なのだろうと聖星が考えていると、【星態龍】は微かに笑みを浮かべた。

 

「(【レインボー・ドラゴン】……

そういえばそれと同じ時期だったな。

………………覇王が現れたのは)」

 

2年待て、と言われたペガサスは納得したのか小さく息を吐く。

 

「仕方ありまセ~ン。

アンデルセンボーイには悪いですが、2年待つことにしマ~ス」

 

「アンデルセン?」

 

「ミーが【宝玉獣】を託したボーイの事デ~ス。

ユーと同じ高校生で精霊が見えるボーイデ~ス」

 

「え。

その人も精霊が見えるんですか?」

 

「イエ~ス。

ユーが赤き竜に選ばれたように、アンデルセンボーイも【宝玉獣】に選ばれたのデ~ス」

 

「へぇ」

 

自分と同じで精霊を見える存在。

興味があるといえば、あるに決まっている。

どんな人物なのだろうと考えているとペガサスが名案だ!とでも言うように笑顔を浮かべる。

 

「そうデ~ス!

聖星ボーイ!

ユーは今、表向きはデュエルアカデミアの姉妹校に留学している事になっていマ~ス!」

 

「はい」

 

鮫島校長や十代、取巻の3人には事情を話している。

しかし実際は彼の言った通り、姉妹港に留学している扱いなのだ。

何故今更ここでその話題を出すのだろうと思っていると、ペガサスは笑顔で言葉を続けた。

 

「アンデルセンボーイがいるアークティック校に留学してみてはどうですか!

きっと、楽しめるでショ~!」

 

「あの、ペガサス会長。

俺は三幻魔の情報を手に入れるためにここにいるわけで……」

 

「ノ~プロブレ~ム。

三幻魔の情報は我々インダストリアルイリュージョン社が全力を挙げて調べマ~ス。

ユーはまだ学生デ~ス。

思う存分遊んできてくだサ~イ」

 

「いえ、その……」

 

笑顔を浮かべながら力説してくる彼の言葉に聖星は上手く言葉が出ない。

日本人はノーが言えないと聞くが、こういう時にノーが言えない自分が恨めしくなった。

しかもピンポイントでアンデルセンという生徒がいるアークティック校。

これは明らかに狙っているだろう。

 

「どうせ行くならグレートバリアリーフが見られるオーストラリアにあるアカデミアに行きたいものだ」

 

「グルゥ…………」

 

ボソッ、と呟いた【星態龍】の言葉は当然2人には届いていなかった。

 

END

 




フランツは2期にならない限りもう2度と出ないと思った?
残念。
取巻という前例がいるんだ。
今後もちょくちょく出すつもり。


アメリカの会社の給料に関してはしょせん俄か知識なので突っ込まないでください。(何モ聞コエナイヨー)


フランツに関してはいくら1度デュエルしたからといって考えを改めるとは思えない。
アニメじゃペガサスが顔を見せたから改心しましたが「前回・今回」は状況が違いますしね。
5D’sでねじを締め直す必要がある某教頭が改心したのも「お前はえーよ」と突っ込みましたし。
まぁ、下手したら1時間以内に生徒から借りたカードでデッキを組んだ遊星に負けたんだし、即席で組んだデッキで【古代の機械巨人】がボロボロに負けたから改心してもおかしくはない。


聖星は別にフランツが嫌いじゃありません。
フランツはフランツで世間の言葉に耳を傾け、消費者の大部分を占める意見を尊重して仕事しているし、フランツ自身デュエルで負けたからって子供である聖星を嫌うような大人気ない真似しないと思いたい。
社会人(隼人)か学生(聖星)かの違いがあるので。


あとTF出るそうです。
タッグフォースきたぁあああああああ!!!!
発売時期的にシンクロン・エクストリームのカードが収録されるか、されないか微妙なところですね。
…あれ、発売日って14年冬だよね?
15年冬なら確定だけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二話 場に留まる宝石達

「やはり来てしまったか……」

 

「グォオ……」

 

少し遠い目をしながら独り言のように呟いた【星態龍】。

そんな彼に【スターダスト】は答えるように返し、自分を頭に乗せている友人を見下ろす。

周りは欧州人がゆっくりと行きかい、アメリカでも日本でも味わえないお洒落な雰囲気の店が並んでいる。

そんな街並みを見渡しながら聖星は微笑んだ。

 

「文句言うなって。

何とか我儘を言って2週間の短期留学って事にしてもらったんだぜ。

それに折角だし楽しもう」

 

ペガサスの突然の提案で急遽アークティック校に留学する事になった聖星。

三幻魔の事で反対したのだが、相手はビジネス面でも腕を発揮するペガサスだ。

一般市民の聖星が口で敵うわけもない。

 

「オーストラリアが良かった……」

 

「未来に帰ったら父さんに頼んで行くよ」

 

【星態龍】は何故かグレートバリアリーフを見たかったようで、せっかく留学するならオーストラリアにあるアカデミアが良いと言い出した。

それをペガサスに伝えたところ「でしたら~、いっその事2つのアカデミアに留学してはどうデ~ス?」と返って来たので丁重にお断りさせて頂いた。

 

**

 

日の光が差し込む教室の窓。

外の街はレンガ造りに対し、この学校は近未来をイメージした建物である。

古風な街並みにぽつんと佇む近未来の建物に、外観としてどうなのだと色々ツッコミを入れたいが、そこは偉い方々の間で笑顔の攻防があったらしい。

そんな建物にある1つの教室はいつもより盛り上がっていた。

 

「今日くる奴男かな。

女かな?」

 

「俺は女が良いな~

大和撫子だっけ?

ジャパニーズガールは神秘的、っていうだろ」

 

「私も女の子が良いかな。

男の子だと何を話せば良いのか分からないし」

 

「えぇ~

私は男子が良い!」

 

盛り上がっている内容は察する事が出来るだろう。

今日、ここには2週間という短さだが日本のアカデミアから留学生が来るのだ。

日本といえば決闘王武藤遊戯、その生涯のライバル海馬瀬人、その生涯の親友城之内克也。

他にも名高いデュエリスト達の生まれ故郷である。

デュエルモンスターズを学ぶ彼らにとって聖地から来た留学生はとても興味深いものである。

クラスメイトの盛り上がりにクラスの中心的存在であるヨハン・アンデルセンも笑顔を浮かべていた。

 

「俺は男だろうが女だろうが別にどっちでもいいぜ。

やっぱりデュエルが強いか!

重要なのはそこだろう?」

 

ヨハンの言葉に友人達も同意し、小さく頷く。

椅子に座りながら周りの友人を見渡していたヨハンは肩に微かな重みを覚え、そちらに目をやれば大事な家族がいた。

その精霊も嬉しそうに鳴き、ヨハンの頬にすり寄った。

と思えば精霊、【宝玉獣ルビー・カーバンクル】は独特な耳をピンと伸ばし教室のドアを凝視する。

釣られて見るとドアは開かないまま、するりと1匹のドラゴンが顔を覗かせる。

 

「(え、精霊?)」

 

デュエルモンスターズの精霊の姿にヨハンは思わず立ち上がりそうだった。

しかし周りの目があるため、立ち上がりたい気持ちを抑える。

友人の言葉に耳を傾けながらも何度もドラゴンを見るヨハン。

顔を覗かせたのは白いドラゴンで、教室内を見渡したと思ったらすぐに廊下に出てしまった。

 

「(何だったんだ、今の白いドラゴン……!

この辺りでは見た事はないし、あんなカードなんて知らない。

あぁ、くそぉ、これから授業じゃなければ追いかけているところなのに)」

 

別にヨハンだって精霊を見るのが珍しいわけではない。

街を出歩けばカードの持ち主と一緒に浮遊している精霊を見る。

だが先程の精霊は名前も知らない、初めて見るドラゴンだ。

すると教室の扉が開き、教師が入ってくる。

彼女の登場に教室内はすぐに静かになり、彼女の後に続いて1人の少年が入ってくる。

 

「あ」

 

少年の姿を見たヨハンは思わず声を出してしまった。

そのままヨハンは少年を、正確には少年の肩と頭に乗っている2匹の精霊を凝視した。

頭に乗っているのは先程の白いドラゴンで首に巻きつきながら肩に乗っているのは赤いドラゴンだ。

 

「(さっきの精霊はあいつのカードだったのか)」

 

「ルビ~……」

 

きっとあの少年が日本からの留学生。

先程までデュエルに対する強さしか気にしていなかったが精霊のカードを持っているとは思わなかった。

ヨハンは他の生徒より目を輝かせ、食い入るように少年達に熱い眼差しを向ける。

 

「皆さん。

昨日も伝えましたが、彼は日本のデュエルアカデミアから留学して来たアキラ・フドー君です」

 

そこからはテンプレ通りの紹介が行われ、彼女はアキラに目を向けた。

小さく頷いた彼はチョークを手に取り、黒板に文字を書いていく。

アルファベットに親しんだ自分達の文字とは全く異なり、角ばった文字が並んでいく。

彼は丁寧にその文字の読みをローマ字で書いてくれた。

 

「皆さん、初めまして。

先程紹介して頂いたアキラ・フドー……

日本では不動聖星です。

黒板に書いたのは母国の文字、漢字です。

俺の名前は徳のすぐれた人を意味する「聖」とstarを意味する「星」で「アキラ」と読みます」

 

日本語は覚えるのが難しい、と誰かが言っていた気がする。

理由はヨーロッパ等ではアルファベットのみを使用した文字を用いるのに対し、日本語はひらがな、カタカナ、漢字の3種類を組み合わせた文字を使う。

しかも漢字の1字には複数の意味が存在するというのだ。

武藤遊戯がデュエルキングになった時に組まれた特集で豆知識程度に紹介された事を思い出しながら聖星の言葉を聞く。

 

「たった2週間という短い期間ですがよろしくお願いします」

 

はっきりと喋った聖星はそのまま微笑み、ゆっくりと頭を下げた。

 

「では、聖星君。

好きなところに座ってください」

「あ、はい」

 

「なぁ、君!

ここ空いてるからこっちに来いよ!」

 

教師の言葉が終わった途端、ヨハンは立ち上がって自分の隣を指出す。

周りの友人達はニコニコと笑みを浮かべながら賛成するように頷いている。

突然言われた聖星は少し動きを止めたが、すぐに微笑んで頷いた。

 

「誘ってくれてありがとう。

さっき紹介したけど俺は不動聖星。

聖星って呼んで」

 

「いいって事さ。

俺はヨハン・アンデルセン。

俺の事も呼び捨てで構わないぜ」

 

自分の隣に座った聖星に笑みを浮かべながらもヨハンは2匹の精霊にも目をやる。

 

「(ドラゴンの精霊って事はこいつドラゴン族使いか何かか?

くっそぉ、早く実技の授業になんねぇかな)」

 

【ルビー】はすぐにヨハンの肩から降り、聖星の傍に近寄ってドラゴン達を見上げる。

白いドラゴンはゆっくりと音もなく机の上に着地し、興味深そうに【ルビー】を見つめていた。

すると【ルビー】がドラゴンに触れ、驚いたドラゴンは慌てて後ろに下がる。

それが面白く感じたのか【ルビー】はじりじりとドラゴンに近寄り、対してドラゴンはゆっくりと下がる。

 

「おい、【ルビー】」

 

流石に拙いと思ったヨハンは隣にいても分からないくらい小さい声で【ルビー】を呼ぶ。

聴覚が優れている【ルビー】はその声に反応してヨハンに振り返った。

すると聖星の右手が白いドラゴンをすくい上げ、自然に頭の上に避難させる。

 

「え?」

 

その一連の動作を見ていたヨハンは思わず聖星を見る。

聖星は聖星で突然声を上げたヨハンを不思議そうな表情で見た。

 

「どうしたんだ、ヨハン。

俺の顔に何かついてる?」

 

「あ、いや……」

 

傍から見れば、頭を掻くために右手を動かした。

そう思っても疑問に思わないくらい自然な動きだ。

しかし彼は間違いなく白いドラゴンをすくい上げた。

 

「なぁ、聖星」

 

「何?」

 

「君さ、カードの精霊って信じる?」

 

真剣な表情ではなく、冗談を尋ねるような軽いノリで聖星に話しかける。

もし彼の返答が望むものでなければ笑って誤魔化そう。

期待しながらヨハンが尋ねると聖星は小声で返した。

 

「信じるも何も、今俺の肩と頭に乗ってるよ」

 

**

 

ヨハン・アンデルセン。

【宝玉獣】に選ばれしデュエリスト。

ペガサスからその少年がこのアカデミアに在籍しており同じクラスだというのは予め聞かされていた。

最初は誰だろうと思ったが教室に入った途端、肩に精霊を乗せた少年がいたためすぐに分かった。

 

「(ヨハンの目が凄く輝いていて眩しい)」

 

「(精霊を見る人間というのはほんの一握りだ。

数少ない存在と出会えて興奮しているのだろう)」

 

暗に見えていると示唆するような発言をした途端、ヨハンの周りが輝きだした。

初対面の聖星でも喜んでいると分かるくらいのオーラである。

休み時間になってある程度クラスメイト達と言葉を交わしたがやはりヨハンと話すのが殆どだろう。

 

「こいつは【ルビー・カーバンクル】。

そいつらは?」

 

「赤いのが【星態龍】。

白いのが【閃珖竜スターダスト】。

それにしてもまさかにカードに選ばれたデュエリストと同じクラスになれるなんて思わなかったよ」

 

「俺もまさか精霊が見える奴が留学して来るなんて思わなかった。

俺はずっと小さい頃から見えたんだ。

聖星もそうだろう?」

 

「俺?

いや、俺は去年かな。

突然【星態龍】が見えるようになってさ。

あの時は俺、頭がおかしくなったのかなって思って焦ったなぁ」

 

親元から引き離され、いきなり異世界での1人暮らし。

他の人には見えない存在が見える等、非現実的な事が1度に起きて驚いたものだ。

困惑しながらもしょうがないなぁ、の一言で笑った聖星はそれからすぐにシャーク達の中学校に転校した。

1年程前の話なのに随分遠い昔のように思えてしょうがない。

 

「見えなかった奴がいきなり見えるようになるなんて事もあるんだな」

 

「あぁ。

でも丁度転校先の中学にも見える奴が3人くらいいて助かったよ」

 

「3人!?

そんなにいたのか!?

日本って凄いな」

 

「何か、俺が転校して来る前に色々あって見えるようになったんだってさ」

 

「色々?」

 

「流石にそこまでは聞いてない。

けど、曰くつきの場所でデュエルしたら見えるようになったって」

 

遊馬はともかく、小鳥とシャークはバリアンと名乗ったベクターとのデュエルが切っ掛けで見えるようになったらしい。

思い出しながら話すと【ルビー】が再び【スターダスト】にちょっかいを出しにいった。

それを【星態龍】が尾を2匹の間に入れて止めさせる。

 

「曰くつき?」

 

「詳しくは教えてもらってないんだ」

 

「へぇ。

面白そうだな。

そいつらにもカードの精霊は一緒にいるのか?」

 

「あぁ、いたよ。

俺は直接言葉を交わしたことはないけど」

 

遊馬とアストラルが持っていた【№】達には己の意思があるように思えた。

しかし彼らを厳密に精霊と定義するのは正しいのかと問われれば疑問だが、どうせ会う事もないと思ったため、いたと肯定する。

すると再び【ルビー】が【スターダスト】にちょっかいを出した。

 

「こら、【ルビー】」

 

「随分と悪戯好きなんだな」

 

「普段はこんな事する奴じゃないんだけどな。

悪い」

 

【スターダスト】に目を向けて申し訳なさそうに笑うヨハンに【スターダスト】は首を横にする。

別に気にしてはいないようだ。

ヨハンに咎められた【ルビー】は不満そうな顔をする。

するとヨハンのデッキホルダーが光り、中からネコ科のモンスターが現れた。

ネコ科のモンスターは険しい表情を浮かべ、前脚で軽く【ルビー】をどつく。

 

「ちょっと【ルビー】。

おいたがすぎるわよ。

デッキに戻りなさい」

 

「ルビ~……」

 

紫の宝石を身に着けている彼女の言葉に【ルビー】は大人しくデッキに帰る。

見送った彼女は少し困ったような表情を浮かべて聖星達に顔を向ける。

 

「ごめんなさいね、【ルビー】が迷惑をかけちゃって」

 

「俺達は気にしてないよ。

な、【スターダスト】」

 

「グルゥ……」

 

「そう。

私は【アメジスト・キャット】よろしくね」

 

「俺は聖星。

こっちは【閃珖竜スターダスト】に【星態龍】」

 

微笑めば【アメジスト・キャット】も笑みを浮かべて返してくれた。

彼女は少しだけ頭を下げ、そのままデッキに戻って行った。

 

「それよりさ、次の実技授業、俺とデュエルしようぜ聖星!」

 

「あぁ。

むしろこっちからお願いしたいくらいだよ」

 

なんたってヨハンとデュエルするために留学してきたようなものだ。

デュエルのお誘いにあっさり乗った聖星は小さく頷いて微笑んだ。

 

「って事で先生、次の授業、俺と聖星でデュエルします!」

 

「何を言っているの、アンデルセン君。

対戦相手はもうすでに決めています。

駄目です」

 

「そこをなんとか!」

 

「駄目です」

 

聖星が頷くと同時に他の生徒と雑談をしていた担任にヨハンが叫ぶ。

元気のいい声だが当の彼女は真面目な顔で駄目だと言い張った。

しかしヨハンは2度も駄目だと言われても、はいそうですかと素直に聞くような少年ではない。

 

「先生!」

 

「駄目と言ったら駄目です」

 

「ヨハン、昼休みでもデュエル出来るから……」

 

「何言ってるんだよ。

俺は早く君とデュエルしたいんだ!

昼休みなんて遅い、遅い!」

 

この瞬間から担任とヨハンの攻防が始まり、授業のチャイムが鳴り終わるまで続いた。

ギリギリまで粘り、勝利を勝ち取った少年の白熱ぶりには周りから拍手が送られるほど。

彼の粘り強さに聖星はつい微笑み、【星態龍】は呆れた表情を浮かべ、【スターダスト】も尻尾で机を叩いて拍手を送っていた。

 

**

 

「うわぁ、なんか周りのギャラリー凄いな……」

 

「なんたって留学生がデュエルするんだ。

それくらい人は集まるさ」

 

自分達のフィールドを囲う生徒達の数に聖星は圧倒される。

まぁ、留学生がデュエルするのだから注目されるのはおかしくない。

転校した初日もこのような感じにクラスメイトが集まった。

懐かしいなと思いながら聖星は振り返る。

 

「あ、そうだヨハン」

 

「何だ?」

 

「さっき言い忘れてたけど、日本のアカデミアにも見える奴が1人いるから」

 

「まさかの4人目!?

聖星、出会いすぎじゃないのか?」

 

「そうかもな」

 

異世界だけではなく、日本のアカデミア。

更に意図的とはいえこの場所でヨハンとも出会った。

ゆっくりと目を閉じた聖星はすぐに顔を上げ、ヨハンを見る。

目が合うとヨハンも不敵に笑い、声を張り上げた。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は俺が貰うぜ、ヨハン。

ドロー。

俺は【魔導書士バテル】を守備表示に召喚」

 

「はっ!」

 

「【魔導書士バテル】の効果発動。

このカードが召喚、リバースした時デッキから【魔導書】と名の付くカードを1枚手札に加える。

俺は【グリモの魔導書】を手札に加える」

 

加わったのはサーチ効果を持つ淡い紫色の書物。

それを手に持った【バテル】は何枚かページを捲り、何かを考えるかのように顎に手を置く。

聖星が使用しているカードの名前にヨハンは首を傾げた。

 

「【魔導】……

あれ、もしかして君のデッキって魔法使い族?」

 

「主軸は魔法使い族だよ」

 

「へぇ。

【スターダスト】達がいるからてっきりドラゴン族かと思ったぜ」

 

「まぁ、ドラゴン族も何枚か入ってるかな。

俺はさっき手札に加えた【グリモの魔導書】を発動。

このカードはデッキに眠る【魔導書】と名の付くカードを1枚手札に加える効果を持つ。

【グリモの魔導書】は1ターンに1度しか使用する事は出来ないし、同名カードを加える事は出来ない」

 

「1ターンに1度しか発動出来ず同名カードのサーチが出来ない……

色々な制約があるんだな」

 

「…………なかったら【神判】が酷い事になるって」

 

「ん?

何か言ったか?」

 

「え?

何も」

 

ヨハンの言葉に聖星は微笑んで誤魔化す。

だが1ターンに1度しか使用する事が出来ないという制約はとても重要だ。

とあるカードはその効果がなかったため猛威を振るったと記憶している。

しかも【魔導書】には発動した分手札が増え、デッキが減る【魔導書の神判】もあるのだ。

当然の制約だろう。

 

「俺が加えるのは【セフェルの魔導書】。

こいつも1ターンに1度しか使用する事が出来ない。

しかも俺の場に魔法使い族が存在しないと発動出来ないんだ」

 

「今、聖星の場には魔法使い族の【バテル】が守備表示」

 

「そう。

俺は手札の【アルマの魔導書】を相手に見せ、【セフェルの魔導書】を発動」

 

「え?

何で俺に見せたんだ?」

 

「【セフェルの魔導書】の発動条件さ。

このカードを発動するために幅の魔法使い族の存在だけじゃない。

手札に存在する【魔導書】を相手に見せる必要もあるんだ」

 

「へぇ」

 

「そしてこのカードは俺の墓地の【魔導書】と名の付く通常魔法カードの効果をコピーする」

 

「コピー?

って事はまたか!」

 

ヨハンは聖星の説明を自ら口にしながら理解する。

彼の楽しそうな驚きの表情に聖星は頷く。

場に発動されている【セフェルの魔導書】は光り輝きながら墓地に存在する【グリモの魔導書】へと姿を変え、その姿も新たな【魔導書】へと変わった。

 

「俺は【グリモの魔導書】をコピーし、デッキから【魔導書廊エトワール】を手札に加える。

さらに俺は手札から【クラウソラスの影霊衣】を捨てて効果を発動」

 

【エトワール】を加えた聖星はすぐ隣にあるモンスターカードを掴み、ヨハンに見せる。

それは青色の縁を持つカードでヨハンはすぐに目を見開いた。

 

「って、それ儀式モンスターだろ!?

召喚もしてないのに効果が発動できるのか!?」

 

「あぁ」

 

小さく頷かれたヨハンは楽しそうに笑った。

儀式モンスターは通常、効果、融合モンスターと比べると種類は少ない。

しかもあったとしても半分以上は効果を持たないものだ。

それなのに手札から発動する効果を持つ儀式モンスター。

出会った事のないカードとの戦いに自然と笑みが零れる。

 

「【クラウソラスの影霊衣】は手札から捨てる事で、デッキから【影霊衣】と名の付く魔法・罠カードを1枚手札に加える。

俺が加えるのは儀式魔法、【影霊衣の降魔鏡】だ」

 

「儀式モンスターに儀式魔法……

儀式を主体にしたデッキか」

 

「正解。

俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

伏せられた1枚のカード。

しかしヨハンは先程加えられたカードの事ばかり考えた。

 

「儀式デッキか……

しかも【影霊衣】に【魔導書】。

どんなカードなのかわくわくしてきたぜ。

俺のターン!」

 

勢いよくドローしたヨハン。

手札に加わったカードを見て笑みを浮かべた彼はそのままそのカードの名前を叫ぶ。

 

「俺は手札から【宝玉獣トパーズ・タイガー】を召喚!」

 

「うおぉ!」

 

パシッ、とカードを置く音と同時にヨハンのフィールドに眩しい光が現れる。

見た事もないような輝きと共に1匹の虎が現れ、ヨハンの前に着地する。

白い毛並みを持つ雄々しい虎はヨハンに振り返りながら声をかけた。

 

「ヨハン。

今日はなんだかいつもより気合いが入っているな」

 

「あぁ。

相手は日本のアカデミアからの留学生。

それに俺と一緒でカードの精霊が見えるんだ。

楽しくて仕方ないぜ」

 

「ふっ。

だったらこの場を盛り上げてやる。

俺様に任せろ」

 

不敵な笑みを浮かべながら聖星達を見る【トパーズ】に対し【星態龍】はつい呟く。

 

「随分と血の気が多そうな虎が現れたな」

 

「おい、そこの赤蛇。

何か言ったか?」

 

「素直な感想を述べただけだ。

気を悪くしたのならすまない」

 

互いに視線が交わると2匹の間に火花が散る。

成程、どうやら彼らは合わないようだ。

しかし先に口出ししたのは他の誰でもない【星態龍】である。

聖星はすぐに肩に乗っている彼を軽くどつく。

 

「【星態龍】」

 

「【トパーズ】。

流石に赤蛇はないだろう」

 

「ふん」

 

なんとか宥めた聖星はヨハンに口パクで謝罪する。

それが伝わったのか気にするな、と返って来た。

【ルビー】だって【スターダスト】に色々ちょっかいを出していたのだ。

これくらい気にもしない。

 

「俺は手札から魔法カード【M・フォース】を発動!

【宝玉獣】の攻撃力を500ポイント上げ、貫通効果を与える!」

 

【宝玉獣トパーズ・タイガー】の元々の攻撃力は1600で魔法カードの効果により2100となる。

【バテル】の守備力はたったの400ポイント。

 

「行くぜ。

【トパーズ・タイガー】で【魔導書士バテル】を攻撃!」

 

前足に力を入れた【トパーズ・タイガー】は勢いよく【バテル】に飛びかかる。

自分に向かってくる白虎に【バテル】は目を見開き、反射的に書物でガードしようとした。

 

「【トパーズ・タイガー】は相手モンスターに攻撃する時、攻撃力を400ポイントアップさせる!」

 

「だったらダメージステップ前にリバースカード、オープン。

速攻魔法【ゲーテの魔導書】。

俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、墓地に存在する【魔導書】を任意の枚数除外する事で効果を発動」

 

「来るか」

 

攻撃の宣言と共に発動された速攻魔法。

聖星の場から紫色の歪みが現れ、その中からゆっくりと2枚の【魔導書】が現れる。

その2枚は別の歪みへと消えていった。

 

「俺は墓地の【グリモ】、【セフェルの魔導書】を除外して【宝玉獣トパーズ・タイガー】を裏側守備表示に変更」

 

【ゲーテの魔導書】から放たれた光は【トパーズ・タイガー】を包み込み、彼は一瞬で裏側守備表示となってしまった。

 

「へぇ。

貫通効果の対策はやっていた、って事か」

 

「(本当は【バテル】を裏側守備表示にしてもう1度効果を使いたかったんだけどね)」

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

【宝玉獣トパーズ・タイガー】の守備力はたったの1000.

突破するのは簡単な数値だ。

手札のカードを見比べた聖星は永続魔法カードを掴む。

 

「俺は手札から永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動。

俺が【魔導書】と名の付く魔法カードを発動するたびにこの場には魔力が集まり、その魔力によって俺の魔法使い達は攻撃力を100ポイントずつアップしていく」

 

上昇値はたった100だが【グリモの魔導書】から【セフェルの魔導書】、【ヒュグロの魔導書】、そして他のカードを1ターンで発動すれば攻撃力を1500以上上げる事も不可能ではない。

聖星は別の儀式モンスターを手に取り効果を発動した。

 

「手札から【ブリューナクの影霊衣】の効果発動」

 

「また手札誘発の儀式モンスター」

 

「【ブリューナク】は手札から捨てる事で、デッキから【影霊衣】と名の付く儀式モンスターを手札に加える効果を持つ。

俺が加えるのは【ユニコールの影霊衣】だ」

 

未来で猛威を振るった伝説の龍の鎧を纏った戦士。

そのカードが墓地に置かれると同時にデッキから1枚のカードが手札に加わる。

淡い青色の髪を持つ青年もまた何かの鎧を纏っている。

 

「そして手札から儀式魔法、【影霊衣の降魔鏡】を発動。

手札のレベル3【影霊衣の術士シュリット】を生贄に、レベル4の【ユニコールの影霊衣】を儀式召喚する」

 

「なっ、レベル3でレベル4を!?」

 

「そんなの出来るのかよ!?」

 

聖星の説明に一気に周りが騒がしくなる。

通常、儀式召喚に必要な生贄のレベルの数は儀式モンスターの数と同じ、またはそれ以上。

しかし今聖星がしている儀式召喚はそれの逆なのだ。

 

「【影霊衣の術士シュリット】は【影霊衣】の儀式召喚の生贄になるとき、1体で必要なレベル分の生贄になる」

 

「たった1体でどんなレベルの……

つまりレベル3なのにレベル8のモンスターも儀式召喚可能って事か。

へぇ。

聖星、本当に珍しいデッキを使うんだな」

 

ただでさえ儀式使いが少ないのが現実。

理由は例外を除けば儀式魔法、生贄モンスター、儀式モンスターと最低でも3枚のカードが必要になってしまうため。

場合によっては儀式召喚のレベルを合わせるために2枚以上のモンスターカードが必要となる。

何も考えずに手札のみで儀式召喚をしてしまえばあっという間に手札がなくなり、相手を制圧するためのカードがなくなってしまう。

プロデュエルでも危機的状況に陥りやすい儀式を使うデュエリストはいなかった。

 

「凍てつく氷に残された神の獣達、彷徨う魂を鏡に映せ」

 

静かに目を閉じた聖星が召喚の口上を呟くと、彼の目の間に淡い光が集まりだす。

その光の中から【降魔鏡】が姿を現し、その周りを4つの光が回っている。

ゆっくりと回る光を祝福するかのようにフィールドから水が沸き上がり、聖星の場を濡らしていく。

その光達は激しく輝きだし、1人の青年へと姿を変える。

 

「儀式召喚」

 

眩い光にヨハン達は腕で光を遮ろうとする。

そんな光など気にせず聖星は穏やかな声でその名を呼んだ。

 

「【ユニコールの影霊衣】」

 

「ふんっ」

 

名を呼ばれた若き魔法使いは持っている杖を振り回し、その場に佇む。

紫に近い淡い青い髪を持つ青年の登場にヨハン達は一気に盛り上がった。

 

「すげぇ、儀式召喚なんて久しぶりに見たぜ!」

 

「儀式召喚の生贄になった【シュリット】の効果発動。

このカードが生贄にされた場合、デッキから戦士族の【影霊衣】儀式モンスターを1枚手札に加える。

俺は【ブリューナクの影霊衣】を加える」

 

【ユニコール】の前に現れたのは赤と青の髪を持つ少年。

彼はニカッと歯を見せ、何かの呪文を唱えだす。

すると彼の足元に何かの紋章が現れ、氷のようなオブジェがその紋章から出てくる。

氷はすぐにひびが入って割れてしまい、中から【ブリューナクの影霊衣】が姿を見せる。

 

「そして俺は【アルマの魔導書】を発動。

このカードがゲームから除外されている【魔導書】を1枚、俺の手札に加える。

俺は【グリモの魔導書】を選択」

 

【アルマの魔導書】の背後に歪みが現れ、その中から紫色の書物が降ってくる。

書物は金色に光りだし、そのまま1枚のカードとなって聖星の手札に来る。

役目を終えた【アルマの魔導書】は淡い緑色の輝きとなり、【魔導書廊エトワール】の魔力となる。

 

「手札の【グリモの魔導書】の効果発動。

デッキから【トーラの魔導書】を手札に加える」

 

手札に加えたのは魔法使い族に魔法または罠カードの耐性をつける速攻魔法。

ヨハンの伏せカードを警戒したうえでの選択だ。

 

「行くぜ、ヨハン。

バトル」

 

「さぁ、来い!」

 

「【ユニコールの影霊衣】で裏側守備表示の【宝玉獣トパーズ・タイガー】に攻撃」

 

静かな声で宣言すると【ユニコール】は杖を振りかざし、裏側守備となっている【トパーズ・タイガー】に向かって魔法を放つ。

光ながら表側守備表示となった【トパーズ・タイガー】はその魔法によって氷漬けとなり、そのまま爆発する。

攻撃反応型の罠ではなかった事に安心していると、爆炎の向こう側に黄色の光が輝いた。

 

「え?」

 

爆発の時に生じる光とは違う光。

ゆっくりと煙が晴れていくと、ヨハンの場に威勢のいい【トパーズ・タイガー】の姿はない。

だがその代わりに照明の光を反射して輝く1つの宝石が場に存在した。

 

「宝石……?」

 

何故、宝石が存在する。

一瞬伏せカードの効果かと思ったが、未だに伏せカードは伏せられている。

ならば【トパーズ・タイガー】の効果か。

そう考えているとヨハンが不敵な笑みを浮かべた。

 

「残念だったな、聖星。

【宝玉獣】は破壊されても宝玉として場の魔法・罠カードゾーンに留まる能力を持つ。

つまり、戦闘破壊だけじゃ無駄って事だぜ!」

 

「……これが【宝玉獣】……」

 

破壊しても場に留まり続ける。

しかもこんなに綺麗な形でだ。

自然と聖星も笑みを浮かべ手札のカードを掴んだ。

 

「だったら俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「俺のターン!」

 

声を張り上げたヨハンは勢いよくカードをドローする。

自分が引いたカードにヨハンは笑い、そのカードを発動した。

 

「俺は手札から【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に捨てる。

俺が捨てるのは【宝玉獣アメジスト・キャット】と【アンバー・マンモス】だ」

 

墓地に送られたのは2体の獣族モンスター。

その中には先程【ルビー】を引きずって行った彼女もいる。

 

「さらに手札から【宝玉の恵み】を発動!

墓地に眠る【宝玉獣】2体を宝玉として俺の場に出す!」

 

「え?

っていう事は【アメジスト・キャット】と【アンバー・マンモス】が場に戻ってくるのか」

 

「そういう事!」

手札交換に使用し、墓地に捨てたカードを宝石として場に出す。

実に無駄のないコンボだ。

そう思っていると紫色の宝石とオレンジ色の宝石が光りを発しながらヨハンの場に現れた。

これでヨハンの魔法・罠カードゾーンには伏せカードを含めて4枚存在する。

 

「手札から魔法発動、【レア・ヴァリュー】。

俺の場に宝玉が2個以上あるとき、相手はその中から1枚選び、選んだ宝玉を墓地に送る。

そして俺はデッキからカードを2枚ドロー。

さぁ、選んでくれ聖星」

 

「【トパーズ・タイガー】を選ぶよ」

 

聖星が選択した【トパーズ・タイガー】は輝きを失い、そのままデュエルディスクから外される。

 

「【トパーズ】、お前の犠牲、無駄にはしないぜ」

 

「当たり前だろう、ヨハン。

お前らも。

ヨハンを負かすような事になったら承知しない」

 

仲間の犠牲に敬意を払うようにヨハンは呟き、半透明の姿で場に出た【トパーズ・タイガー】は誰かに向かって言い放つ。

彼の姿が消えるとヨハンはカードを2枚ドローし、再び笑みを浮かべた。

 

「さらに【強欲な壺】を発動!

デッキからカードを2枚ドロー!」

 

「(あれ、なんかデジャブ…………)」

 

1ターンにドローカードを3回も発動した。

聖星自身、している事もあるがどうしてもこの流れは日本にいる十代を思い出してしまう。

 

「魔法カード【宝玉の導き】を発動!

俺の場に宝玉が2個以上ある時、デッキから【宝玉獣】を特殊召喚する!

来い、【宝玉獣サファイア・ペガサス】!!」

 

ヨハンの声とともに現れたのは深い青色の宝石。

その宝石は光り輝くと青い角を持つ純白のペガサスとなった。

知的そうな瞳を持つ【サファイア・ペガサス】は聖星の場に存在する【ユニコール】、肩と頭に乗っている2匹のドラゴンに目をやった。

 

「ヨハン。

どうやら面白そうな少年と戦っているようだな」

 

「あぁ」

 

数少ない儀式使いに精霊のカードを持ち、さらには自分達の姿を認識できる。

これを面白いと言わずなんと言うのだろう。

 

「【サファイア・ペガサス】は召喚、反転召喚、特殊召喚に成功した時デッキから【宝玉獣】を宝玉として場に出す事が出来る。

俺は【ルビー・カーバンクル】を選択。

サファイア・コーリング!」

 

【サファイア・ペガサス】の青い角が輝きだし、その輝きはヨハンの場に赤色の宝石を出現させた。

 

「俺は魔法カード【宝玉の契約】を発動。

俺の場の宝玉を1つ目覚めさせる!

頼む、【ルビー】!」

 

「ルビビッ!」

 

発動されたカードの力により【ルビー】は宝石の殻を破り、中から姿を現す。

その攻撃力はわずか300と【ユニコール】よりかなり下である。

 

「(俺の場には【エトワール】の効果により攻撃力が2500になっている【ユニコール】がいる。

それなのに攻撃表示での特殊召喚。

これは何かあるな…………)」

 

「【ルビー】の効果!

こいつが特殊召喚に成功した時、俺の場の宝玉を可能な限り特殊召喚する!」

 

「って事は……

【アメジスト】と【アンバー・マンモス】が……」

 

「そーいう事!

【ルビー】、ルビー・ハピネス!」

 

【ルビー】はやる気の表情を出し、全身の毛を逆立てて宝石がついている尾を高く上げる。

その尾から赤い光が結晶となっている2体に向かって放たれる。

先程のように宝石はじょじょにひびが入っていき、中に眠っていた精霊が目を覚ました。

 

「来い、【アメジスト・キャット】!」

 

「にゃあ!」

 

【アメジスト・キャット】は軽い体を一回転させて着地する。

 

「【アンバー・マンモス】!」

 

「うぉお!」

 

【アンバー・マンモス】はその巨体を勢いに任せて着地した。

 

「あら、聖星、ヨハン。

早速デュエルしてるの?」

 

「当ったり前だろ!

日本のデュエルアカデミアからの留学生。

しかも俺と同じなんだ。

いの一番に挑まない理由がないぜ」

 

「ヨハンらしいな」

 

「へへっ」

 

実に楽しそうに笑いながら言葉を交わすヨハン達。

その様子は見ている側も和むような会話で聖星も自然と笑みが浮かんだ。

自分は一目があるときは表情を変えず心の中で【星態龍】と会話している。

しかしヨハンは普通に言葉を発し、言葉を返す。

 

「(ヨハンって凄いなぁ……)」

 

「(感心するような事か?

相手の場にモンスターは4体。

攻撃力は圧倒的に【ユニコール】が上だが、全員攻撃表示だ。

少しは警戒しろ)」

 

「(いや、俺だったら堂々とあんな風には会話できないから羨ましいなぁ、と思って)」

 

「(遊馬とアストラルも堂々と会話していただろう)」

 

「(そりゃそうだけどさ)」

 

「手札から魔法発動!」

 

何を仕掛けてくるか分からない中、ヨハンの声に聖星は現実に引き戻される。

彼の場を見れば1枚の魔法カードが表側表示になっていた。

それは【野性解放】。

 

「俺の場の獣族モンスター1体の攻撃力に、その守備力を加える!

俺は【サファイア・ペガサス】を選択。

【サファイア・ペガサス】の攻撃力1800に守備力の1200を加えるぜ!」

 

「つまり攻撃力は3000.

【ユニコール】を上回った」

 

「そーいう事だ!

バトル!

【サファイア・ペガサス】で【ユニコールの影霊衣】を攻撃!

サファイア・トルネード!」

 

【サファイア・ペガサス】の周りに赤いオーラが現れ、彼の攻撃力は3000となる。

そのまま【サファイア・ペガサス】は大きく翼を羽ばたき【ユニコールの影霊衣】に向かって風を叩き付ける。

強風の重圧に【ユニコール】は険しい表情を浮かべ、苦しそうに砕け散った。

そのまま風は聖星に襲い掛かり、彼のライフを500ポイント奪う。

 

「くっ!」

 

「【アメジスト・キャット】、【魔導書士バテル】に攻撃!

アメジスト・ネイル!」

 

「にゃあ!」

 

戦闘態勢に入った【アメジスト・キャット】は低い姿勢になり、一気に飛び上がる。

攻撃力1200の彼女は【バテル】を押し倒し、そのまま彼を鋭利な爪で切り裂いた。

 

「さらに罠発動、【キャトルミューティレーション】を発動!」

 

「あ、伏せカードってそれだったんだ」

 

ヨハンが発動したのは1匹の獣から魂が出ている罠カード。

場に存在する獣族モンスターを1体手札に戻し、その後同じレベルの獣族モンスターを1体特殊召喚する効果を持つ。

バトルフェイズ中の特殊召喚となるので、当然攻撃の参加も可能である。

 

「俺は【サファイア・ペガサス】を手札に戻す。

そして戻したモンスターと同じレベルのモンスターを手札から特殊召喚する」

 

「(【野性解放】を使用したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

けど1度手札に戻した事でその効果は無効になり、【サファイア・ペガサス】は破壊されない。

しかも特殊召喚されるモンスターは同名カードでも可能だから…………)」

 

「特殊召喚、【サファイア・ペガサス】!」

 

「はぁ!」

 

「(だよな)」

 

再び場に現れたペガサス。

しかも彼の効果は特殊召喚でも使用できる。

【野性解放】で強化して相手モンスターを破壊し、【キャトルミューティレーション】で手札に戻して破壊をリセットし、特殊召喚。

そしてデッキから【宝玉獣】を呼ぶ。

実に理想的なコンボである。

 

「【ペガサス】、サファイア・コーリング!」

 

青い光によって導かれたのは緑色の宝玉。

向こう側まで見る事が出来る程澄んだ緑色を持つという事はエメラルドだろう。

他にどんな宝石があるのだろうと考えているとヨハンの声が響く。

 

「【サファイア・ペガサス】でダイレクトアタック!」

 

「手札から【速攻のかかし】の効果発動」

 

「また手札誘発効果!」

 

【サファイア・ペガサス】は再び羽ばたき、上空から聖星に向かって風を叩き付ける。

しかしその風以上の轟音がフィールドに響き、背中にブースターをつけているかかしが聖星の前に出る。

風はかかしに直撃し、聖星には届かなかった。

 

「【速攻のかかし】は相手モンスターのダイレクトアタック時、手札から捨てる事でバトルフェイズを強制終了するんだ」

 

「あぁ~

ちくしょう、折角大ダメージを与えるチャンスだったのになぁ。

俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

カードを伏せたヨハンは聖星の手札を見る。

今、彼の手札は1枚。

このドローで2枚となり、その2枚でこの状況を変えなければならない。

 

「(さぁ、どうやってこの状況をひっくり返す、聖星?)」

 

「俺のターン、ドロー。

手札から【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、手札の【影霊衣の大魔道士】と【影霊衣の降魔鏡】を墓地に捨てる」

 

「え、儀式魔法を?

何を考えてんだ?」

 

聖星のデッキは儀式が主軸の構成。

その儀式に必要な儀式魔法を墓地に捨てるという事は普通に見たら愚かな行為だ。

しかしそれは言い換えれば儀式魔法より優先すべきカードが手札に存在するという事。

そう考えたヨハンだが、その読みは残念ながら外れている。

 

「墓地に存在する【影霊衣の降魔鏡】の効果発動」

 

「なっ!?

墓地から魔法カード!??」

 

「俺の場にモンスターが存在しないとき、墓地に存在するこのカードと【影霊衣】と名の付くモンスターを1枚除外する事でデッキから【影霊衣】と名の付く魔法・罠カードを1枚手札に加える。

俺はさっき墓地に捨てた【大魔道士】を除外する」

 

墓地から現れたのは【影霊衣の降魔鏡】と大柄の魔道士。

2枚のカードが歪みへと吸い込まれるのを確認した聖星は新たな儀式魔法を加える。

 

「俺が加えるのは儀式魔法【影霊衣の反魂術】」

 

加えたのは1人の女性が描かれている儀式魔法。

新たな魔法カードに次はどんなカードが来るのかヨハンは待った。

すると聖星の背後に大きな歪みが現れる。

と思えば先程除外された【大魔道士】が姿を現す。

 

「何だ?」

 

「除外された【大魔道士】の効果さ。

こいつは除外された時、デッキから【影霊衣】モンスターを1枚墓地に送る事が出来る。

俺は【影霊衣の術士エグザ】を墓地に送る」

 

宣言したのは人の形をした獣のようなモンスター。

青い体に武器を装備したモンスターはそのまま墓地へと送られる。

 

「そして俺の墓地にはもう1枚【降魔鏡】がある」

 

「へぇ。

一気に2枚もサーチか」

 

「あぁ。

俺は墓地に存在する【エグザ】と【降魔鏡】を除外し、儀式魔法【影霊衣の降魔鏡】を手札に加える。

そして除外された【エグザ】の効果発動」

 

再び開かれた除外ゾーンへの歪み。

【降魔鏡】はすぐに吸い込まれていったが、【エグザ】はその場に留まった。

 

「【エグザ】は除外された時、除外ゾーンに存在する【エグザ】以外の【影霊衣】モンスターを特殊召喚する。

戻ってこい、【影霊衣の大魔道士】」

 

聖星の場に【影霊衣】の紋章が現れ、その光の中からゆっくりと【大魔道士】が姿を現す。

攻撃力は1500だが【エトワール】の効果を含めて1700となった。

 

「手札の【ブリューナクの影霊衣】の効果を発動。

デッキから【ヴァルキュルスの影霊衣】をサーチ。

そして3枚目の【影霊衣の降魔鏡】を発動」

 

「何?

(今あいつの手札は4枚。

そのうち2枚は儀式魔法、1枚はさっき加えたレベル8の【ヴァルキュルスの影霊衣】。

今場にはレベル4の【影霊衣の大魔道士】しか存在しない。

つまり残りの手札はレベル4またはそれ以上のモンスターか)」

 

これで聖星の手札には儀式魔法だけになり、実質0枚になる。

どんなモンスターを召喚するのかと思うと、聖星は笑みを浮かべた。

 

「残念だけどヨハン。

【影霊衣の降魔鏡】で使用される生贄モンスターは【影霊衣】モンスターに限り、俺の手札、場だけじゃなく、墓地のモンスターでも可能なんだ」

 

「何だって!?」

 

聖星の説明にヨハンだけではなく、周りの生徒、【宝玉獣】達も目を見開く。

 

「墓地でも発動できる魔法カードに、墓地のモンスターも生贄に出来る儀式魔法か。

初めて見るな……」

 

「滅茶苦茶なカードじゃないか」

 

「流石日本からの留学生……

私達の常識を悉く覆していくわね」

 

「ルビィ~」

 

手札で発動する儀式モンスター。

墓地で発動する魔法カード。

墓地のモンスターも儀式に使える魔法カード。

どれもこれも今までの常識にはないものばかり。

周りの驚く反応に聖星は微笑み、墓地に存在する【影霊衣】を呼び出した。

 

「俺は墓地のレベル4【ユニコールの影霊衣】を除外し、場のレベル4の【影霊衣の大魔道士】を生贄に捧げる」

 

聖星が宣言すると【降魔鏡】が場に現れる。

その周りには8つの光が存在し、半分は淡い水色、もう半分は暗い水色である。

8つの光は1つとなり【ユニコール】の儀式召喚時以上の輝きを放った。

 

「嘲笑う幻影を手に入れし魔術師よ、闇の幻影を希望へ繋げる光に変えよ。

儀式召喚。

【ヴァルキュルスの影霊衣】」

 

「ふんっ」

 

光の中から現れたのは厳つい表情を浮かべる男性。

彼は【ユニコール】とは違い、力強く持っている杖を振り回さずそのまま地に着ける。

だが威厳ある姿に【ユニコール】以上の雰囲気を感じ取り、圧倒されてしまう。

 

「さらに俺は魔法カード、【儀式の準備】を発動。

デッキからレベル7以下の儀式モンスターを加える。

俺は【グングニールの影霊衣】を加える」

 

新たに加えたのは1人の女性のカード。

先程加えたもう1枚の儀式魔法で特殊召喚したいところだが、どうもそれは出来ない。

【エトワール】の効果で攻撃力が200ポイントアップし、3100となっている【ヴァルキュルス】を見上げてからヨハンに目をやる。

 

「行くぞ、ヨハン」

 

「それならバトルフェイズ前に永続罠【宝玉の集結】を発動!」

 

「【宝玉の集結】……?」

 

ヨハンが発動したカードに聖星は首をかしげる。

そのカードには7体のモンスターが描かれており、そのうちの5体はこのデュエルで姿を見せてくれた精霊達だ。

 

「俺の場の【宝玉獣】が効果または戦闘で破壊された時、デッキから新たな【宝玉獣】を特殊召喚するのさ」

 

「え?

場のカードは減らず、デッキは減る永続罠?」

 

「ま、そういう事になるな」

 

ヨハンの言葉に聖星は少しだけ考える。

恐らくあのカードを発動したという事はヨハンのデッキにはまだ【宝玉獣】が眠っている。

7体のうち4体はモンスターゾーン、墓地、魔法・罠ゾーンに1体ずつ。

つまり最後の1体がデッキに残っているはずだ。

 

「(けど攻撃力300の【ルビー・カーバンクル】がいるんだ。)

【ヴァルキュルスの影霊衣】で【ルビー・カーバンクル】に攻撃」

 

「【アンバー・マンモス】の効果発動!」

 

「え?」

 

「俺の場の【宝玉獣】が攻撃対象になった時、攻撃対象を【アンバー・マンモス】に変更する!」

 

「っ!」

 

杖を振り上げた隻眼の【ヴァルキュルス】は【ルビー・カーバンクル】に魔法を解き放つ。

水色に輝く魔法は真っ直ぐ【ルビー】に向かうが、巨体の【アンバー・マンモス】が前に出てその攻撃を受けた。

 

「ぐぅうう!!」

 

体中に電撃が走るような感覚に【アンバー・マンモス】は苦しそうな声を出し、粉々に砕け散る。

同時にヨハンのライフが4000から1400引かれ2600となる。

受けたダメージで体がよろけるが、ヨハンはすぐに立ち直り場を見た。

【宝玉の集結】の隣には宝玉となった【アンバー・マンモス】がいる。

 

「すまない、【アンバー・マンモス】……

【宝玉の集結】の効果によりデッキから【宝玉獣】を特殊召喚する!

現れよ、【コバルト・イーグル】!」

 

ヨハンが名前を呼ぶとデッキから深い青色の光が溢れ出し、それが1匹の鳥へと姿を変える。

大きな茶色の翼を羽ばたかせたモンスターは旋回しながら叫ぶ。

 

「よっしゃぁあ!

やっと出番きたぁ!!

待ってたぜぇえ!!

もう、俺が出る前に決着がつくんじゃないかって焦ったぁ!!」

 

「(テンション、高いなぁ……)」

 

「(馬鹿丸出しともいう)」

 

「(失礼だぞ)」

 

どうやらやっと場に出してもらえたのが嬉しいらしく、【コバルト・イーグル】は大げさと言いたくなるくらいのハイテンションで喋り出す。

ダメージは与えたが、結局モンスターの数は減っていない。

次のターン、どのように動いてくるか予想はつかないが聖星は動いた。

 

「だったらメインフェイズ2に【ヴァルキュルスの影霊衣】の効果発動。

場と手札のモンスターを2枚まで生贄に捧げ、捧げた分だけデッキからカードをドローする。

俺は場の【ヴァルキュルスの影霊衣】と手札の【グングニールの影霊衣】を生贄にし、カードを2枚ドロー」

 

場に存在する【ヴァルキュルスの影霊衣】は杖で自分の周りに円を描き、光柱が立つ。

同じような光も手札の【グングニールの影霊衣】を包み込み、聖星はデッキからカードをドローした。

 

「手札から儀式魔法【影霊衣の反魂術】を発動。

手札の【影霊衣の術士シュリット】を生贄に捧げ、墓地に存在する【影霊衣】を儀式召喚する!」

 

「墓地からの儀式召喚!?」

 

「【シュリット】は【影霊衣】の儀式召喚に必要なレベル分の生贄となる。

【シュリット】のレベルは3で【グングニール】のレベルは7だけど儀式召喚させてもらう!」

 

手札から現れた【シュリット】。

彼の目の前に【影霊衣】のシンボルマークが現れる。

ボロボロとなっているそれに【シュリット】は自分の命を吹き込むかのように光を分け与え始めた。

 

「闇に閉ざされ眠りにつく氷の竜よ、滅びの鎧となり今ここに甦れ!」

 

【シュリット】の体が半透明になっていくにつれ、傷だらけだった紋章は修復されていく。

それを中心に眠っている女性が現れ、ゆっくりと目を覚ます。

すると女性の衣服は氷のような冷たさを纏う鎧となり、彼女はそのまま立ち上がった。

 

「儀式召喚、【グングニールの影霊衣】!」

 

「はぁ!」

 

氷の翼を広げた【グングニール】はそのまま杖をヨハン達に向ける。

だがヨハンは自分達に向けられる敵意より、彼女が場に出てきた方法に目を輝かせた。

 

「凄い、新たな儀式モンスター!

しかも墓地からの儀式召喚だなんて!

聖星って本当に面白い奴だな!」

 

「ありがとう。

そう言ってくれて嬉しいよ。

これで俺はターンエンド」

 

「いいや、まだ終わらせないぜ。

エンドフェイズ時、【宝玉の集結】のもう1つの効果発動!」

 

「え?」

 

「このカードを墓地に送る事で、俺の【宝玉獣】と聖星のカードを手札に戻す!

俺は【サファイア・ペガサス】と【グングニールの影霊衣】を選択する!」

 

ヨハンの言葉に【サファイア・ペガサス】の角が光り、彼は大きな翼を羽ばたかせる。

何度も羽ばたかせる事でさらに強い風を生み出し、【グングニール】を吹き飛ばそうとする。

もしこの効果を通せば聖星の場にモンスターは存在せず、ヨハンの場にはモンスターが3体となる。

 

「流石にそれは遠慮したいな。

リバースカードオープン、速攻魔法【トーラの魔導書】」

 

「それはあの時加えた……!」

 

「このカードは俺の場に存在する魔法使い族モンスターに魔法または罠カードの耐性を付けさせる。

【グングニールの影霊衣】に罠カードの耐性を付ける。

悪いけど、手札に戻るのは【サファイア・ペガサス】だけだ」

 

強風により重い鎧ごと吹き飛ばされそうだった【グングニール】だったが、目の前に現れた書物が発する光に守られる。

そのまま【サファイア・ペガサス】は飛び立ち、ヨハンの手札に戻る。

 

「ちぇ。

モンスターを手札に戻せなかったか……

だったら俺のターン、ドロー」

 

仮に【グングニールの影霊衣】を手札に戻せて入れば【サファイア・ペガサス】を通常召喚し、ダイレクトアタックをしてライフを0にする事が出来た。

そう簡単にいかない事に残念そうに呟くが、内心はこうでなくてはと興奮していた。

 

「【宝玉獣コバルト・イーグル】の効果発動。

俺の場の【宝玉獣】を1体、俺のデッキに戻す。

戻れ、【ルビー】」

 

「ルビッ!」

 

ヨハンの言葉に【ルビー】は赤い光となってヨハンのデッキに戻っていく。

これで彼の場のモンスターは【コバルト・イーグル】と【アメジスト・キャット】の2体のみとなってしまった。

魔法・罠ゾーンに存在する宝石は名前がまだ分からないエメラルドと【アンバー・マンモス】の2つ。

 

「(【ルビー】は特殊召喚された時、宝石となっている【宝玉獣】を目覚めさせる。

【サファイア・ペガサス】は召喚、特殊召喚に成功した時デッキ、手札、墓地の【宝玉獣】を結晶として場に出す効果……)」

 

ヨハンの手札には【サファイア・ペガサス】。

デッキには【ルビー・カーバンクル】。

ヨハンが次のどのような行動を起こすか嫌でも分かる。

 

「(あれ、でも今ヨハンの場に【宝玉獣】は2体。

【サファイア・ペガサス】を召喚、【ルビー】を特殊召喚したら残りのモンスターゾーンは1つだから……

あのエメラルドの宝石がどんなモンスター効果を持っているかによるな)」

 

「【サファイア・ペガサス】を召喚。

そして【ペガサス】の効果で【ルビー】の宝玉を魔法・罠ゾーンに置く。

さらに魔法カード【命削りの宝札】を発動。

手札が5枚になるよう、デッキからカードをドローする」

 

「ここで手札増強カード……」

 

「魔法カード【宝玉の契約】を発動!

【アンバー・マンモス】を特殊召喚する!」

 

「はっ!」

 

宝石となっている【宝玉獣】を目覚めさせる魔法カード。

それをヨハンは【ルビー】ではなく、【アンバー・マンモス】に使用した。

再び現れた巨体のモンスターを聖星は見上げる。

 

「さらに【野性解放】を発動!

【サファイア・ペガサス】の攻撃力に守備力を足す!

これで攻撃力は3000だ!」

 

「はぁああ!」

 

再び赤いオーラに包まれる【サファイア・ペガサス】。

彼の体が一回り大きくなり、【グングニール】は一歩下がる。

今、【グングニールの影霊衣】の攻撃力は魔力カウンターが3つたまっている【エトワール】の英知を受けて2800.

攻撃力3000は僅かながらも真正面から闘って敵わない相手だ。

 

「それは勘弁。

【グングニールの影霊衣】の効果発動。

手札の【影霊衣の舞姫】を墓地に捨て、【サファイア・ペガサス】を破壊させてもらう」

 

「何?」

 

「【グングニール】、滅びの祈り」

 

【グングニール】はその場に杖を突いて膝を着き、何かの呪いを呟き始める。

攻撃力が上昇し、一回り大きくなった【サファイア・ペガサス】は突然地に伏せ氷漬けとなる。

 

「畜生、無理だったか……

だったら俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。

俺は手札から【強欲な壺】を発動。

デッキからカードを2枚ドロー」

 

ゆっくりとカードをドローした聖星は引いた2枚の中に見慣れたカードの姿を見つけ、微笑んだ。

 

「魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【ヒュグロの魔導書】を手札に加える」

 

場に現れた【グリモの魔導書】は淡い光を発しながら赤色の書物へと姿を変える。

それと同じカードが聖星の手札に加わった。

役目を終えた【グリモの魔導書】の英知は新たな魔力カウンターとなり、上空へと浮かび上がる。

これで【エトワール】に乗っている魔力カウンターは4つだ。

 

「魔法カード【埋葬呪文の宝札】を発動。

このカードは墓地に存在する魔法カードを3枚除外する事で発動できる。

俺は【グリモ】、【アルマの魔導書】、【儀式の準備】を除外。

そしてデッキからカードを2枚ドロー。

魔法カード【ヒュグロの魔導書】を発動。

このカードの効果により俺の場の魔法使い族1体の攻撃力は1000ポイントアップ」

 

今、聖星の場に存在するのは【グングニールの影霊衣】。

彼女は氷の翼を大きく広げ、攻撃力を一気に上昇させた。

表示された攻撃力にヨハンは呟く。

 

「今【魔導書廊エトワール】には魔力カウンターが4つ。

それで【ヒュグロの魔導書】を発動すればさらに1つ増え、【グングニールの影霊衣】の攻撃力は2500から4000になる」

 

「そういう事だ。

さらに【グングニールの影霊衣】の効果発動。

手札の【影霊衣の万華鏡】を捨て、左側の伏せカードを破壊」

 

聖星がカードを指定すると、【グングニール】はそのカードに向かって攻撃する。

カードはじょじょに氷漬けとなっていく。

だがヨハンは不敵な笑みを浮かべてそのカードを発動させた。

 

「残念だな。

速攻魔法【E・フォース】!

宝玉となっている【ルビー・カーバンクル】を特殊召喚する!」

 

大きくEと書かれているカードの発動により、【ルビー】の宝石が再び輝きだす。

砕け散った欠片と共に場に現れた【ルビー】は宝石の付いた尾を高く上げる。

 

「【ルビー】の効果で【サファイア・ペガサス】を特殊召喚!」

 

「はぁ!」

 

「それなら【グングニールの影霊衣】で【宝玉獣アンバー・マンモス】に攻撃!」

 

「かかったな!

罠発動、【宝玉の陣-琥珀】!

【アンバー・マンモス】の攻撃力は俺の場の【宝玉獣】の攻撃力の合計分となる!」

 

「え?」

 

大きく杖を振りかざす【グングニール】。

しかしヨハンの発動したカードの効果により、【宝玉獣】達の宝石から光が放たれ【アンバー・マンモス】へと集まっていく。

 

「【アンバー・マンモス】の攻撃力1700に【ルビー】の300と【アメジスト】の1200、【コバルト】の1400、【サファイア・ペガサス】の1800を足すから……

攻撃力6400?」

 

「そういう事だ!」

 

光は【アンバー・マンモス】の額の琥珀へと吸い込まれていき、彼の巨体がさらに巨大となっていく。

【グングニール】の攻撃を【アンバー・マンモス】は鼻で弾き飛ばし、そのまま勢いをつけ【グングニール】を踏みつぶした。

その瞬間、爆発が生じ聖星のライフが3500から2400削られ残りのライフが1100となる。

 

「くっ……!

だったらメインフェイズ2だ。

俺の場にモンスターが存在しない事により墓地に存在する【影霊衣の反魂術】の効果発動。

【影霊衣の大魔道士】と一緒に除外し、デッキから儀式魔法【影霊衣の反魂術】を手札に加える」

 

「それも【降魔鏡】と同じように儀式魔法を手札に加えるのか……!」

 

正確にいえば【影霊衣】と名の付く魔法カードを加えるのだ。

しかし聖星が知っている限り【影霊衣】と名の付く魔法カードは儀式魔法しかないので、あながち間違いではない。

 

「ゲームから除外された【大魔道士】の効果によりデッキから【影霊衣の戦士エグザ】を墓地に送る」

 

「あれ、待てよ……

確か聖星の墓地には3枚目の【降魔鏡】があったよな。

しかも除外したモンスターと、その効果で墓地に送ったモンスターはさっきのターンのモンスターと同じ。

という事は……」

 

「ヨハンが考えている通りさ。

さらに墓地の【影霊衣の降魔鏡】の効果を発動。

【エグザ】と【降魔鏡】を除外し、デッキから儀式魔法【影霊衣の万華鏡】を手札に加える。

そして【エグザ】の効果により、除外されている【影霊衣の大魔道士】を特殊召喚。

カードを1枚伏せて、ターンエンド…………」

 

「【大魔道士】の攻撃力は【エトワール】の効果を含めて2000。

【サファイア・ペガサス】よりちょっと上かぁ。

俺のターン、ドロー!」

 

ドローしたカードを見ながらヨハンは先程のターンを思い出す。

本来なら【宝玉の陣-琥珀】の効果により、相手モンスターを破壊するだけではなく3000以上の戦闘ダメージを与える事が出来た。

しかし聖星が【グングニールの影霊衣】の攻撃力を1100上げた事で彼のライフは上昇値と同じ数値分残ってしまった。

一筋縄ではいかないと思いながらカードを発動した。

 

「俺は手札から装備魔法【宝玉の解放】を発動!

【アンバー・マンモス】の攻撃力を800ポイントアップ!」

 

「罠発動。

【和睦の使者】。

これで俺の場のモンスターは戦闘では破壊されず、ダメージも受けない」

 

「だったら俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

【アンバー・マンモス】の攻撃力を1700から2500にすれば攻撃力2000の【影霊衣の大魔道士】を突破する事は出来る。

だがあのようなカードを発動されてはバトルしても無意味である。

ターンエンドと宣言した時、聖星が安心したように微笑むと肩にいる【星態龍】が聖星を尾で軽く叩いた。

【スターダスト】は叩かれた部分を撫でている。

和む光景にヨハンはつい笑みを浮かべてしまったが、同時に疑問に思った。

 

「(それにしてもかなりターンは経過しているのに一向に【スターダスト】と【星態龍】を召喚する様子がないなぁ。

何でだ?)」

 

魔法使い族デッキと問えばドラゴン族も入っていると返してきた。

てっきりそれはあの2匹を指している事だと思い込んでいたが……

不思議そうに考えていると、目の前にいる【宝玉獣】達と【星態龍】達を見比べてある考えに至った。

 

「あれ、もしかして聖星。

【スターダスト】達を召喚するカードがデッキに入ってないんじゃないのか?」

 

「え?

どうしてわかったんだ?」

 

まさかの問いかけに聖星は首をかしげる。

自分の予想が当たっていたことにヨハンは真面目な顔になり、自分の家族と彼の仲間を交互に見る。

 

「やっぱりな。

【スターダスト】達には戦う闘志が全く見えない。

【宝玉獣】達のように俺を見守る感じはするが、どちらかというと周りのように傍観者のような雰囲気だ。

普通気付くぜ」

 

「へぇ」

 

確かにエクストラデッキにこの2体のカードがあれば、【星態龍】達も今か今かと闘う気ではいただろう。

しかし最初から入っていない以上、自分の出番はないと分かっているので傍観者として会話する事しかない。

 

「そう、【スターダスト】と【星態龍】を召喚するためにはとあるカードが必要なんだ。

けどそれが使えなくてさ」

 

「何で?

まさかまだカードになってないとか?」

 

「そんなところ」

 

この時代では例外を除きシンクロ召喚を使わない。

慣れている召喚法を封じるのは少し寂しいが、発表されていないのに使用してしまえばどうなるかは分かっている。

納得いかないような顔を浮かべるヨハンだが聖星はそのままターンを進める。

 

「俺のターン、ドロー。

俺は【マンジュ・ゴッド】を召喚。

【マンジュ・ゴッド】の効果は知っているよな?」

 

「あぁ。

常識中の常識だぜ」

 

場に現れたのは恐ろしい表情を浮かべる灰色のモンスター。

召喚に成功した時、デッキから儀式魔法、儀式モンスターのどちらかを加える事が出来る効果を持っているため儀式デッキでは多くの場合投入されている。

 

「【マンジュ・ゴッド】の効果によりデッキから【ブリューナクの影霊衣】を手札に加える。

そして【ブリューナクの影霊衣】を墓地に送り、デッキから【グングニールの影霊衣】を手札に加える。

さらに儀式魔法【影霊衣の反魂術】を発動。

場に存在するレベル4の【影霊衣の大魔道士】とレベル4の【マンジュ・ゴッド】を生贄に捧げ、墓地より【ヴァルキュルスの影霊衣】を儀式召喚する」

 

2体の前に現れた傷だらけの紋章。

彼らはその場で力を分け与えはじめ、紋章の傷が修復していく。

そして2体が粒子となって消え去り、代わりに隻眼の魔法使い族が現れた。

 

「再び俺の前に現れろ、【ヴァルキュルスの影霊衣】」

 

「ふんっ」

 

再び儀式召喚された魔法使いは【エトワール】の効果を含めて攻撃力は3300.

【ルビー・カーバンクル】を攻撃すれば残りのライフが2600のヨハンは敗北する。

 

「罠発動、【宝玉の砦】!」

 

「え?」

 

「俺の場に存在する【宝玉獣】1体につき、1000ポイントとして数え、その合計以下の攻撃力を持つモンスターはこのターン攻撃宣言をする事が出来ない」

 

今、ヨハンの場には【宝玉獣】が5体。

つまり攻撃力5000以下のモンスターは攻撃できないという事だ。

【セフェルの魔導書】と【ヒュグロの魔導書】があれば5000等簡単に超えるのだが、残念な事に手札が悪い。

 

「あちゃ~……

だったら俺は【ヴァルキュルスの影霊衣】の効果発動。

場の【ヴァルキュルスの影霊衣】と手札の【グングニールの影霊衣】を2枚生贄に捧げ、デッキから2枚ドロー。

これでターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー!

【サファイア・ペガサス】でダイレクトアタック!」

 

「手札から【速攻のかかし】の効果発動」

 

先程と同じように【サファイア・ペガサス】の風を【速攻のかかし】が受け止め、【速攻のかかし】が爆発する。

数ターン前に見た光景にヨハンは悔しそうな表情を浮かべた。

 

「またダイレクトアタックを防がれたか……」

 

「手札から発動って結構厄介だろう?」

 

「あぁ。

だが、それ以上に楽しいぜ!

俺は手札を1枚伏せ、これでターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー」

 

ゆっくりとカードを引いた聖星。

彼は自分のデュエルディスクのボタンを押し、とある事を確認する。

そして引いたカードと手札のカードを見食らべ、小さく頷いた。

 

「手札から儀式魔法【影霊衣の万華鏡】を発動」

 

「遂に発動されたか、3枚目の儀式魔法!」

 

【影霊衣の反魂術】とは異なり、【シュリット】が描かれている儀式魔法。

そのカードの登場にヨハンは拳を握った。

 

「この儀式魔法は他のカード違ってね、融合デッキのモンスターを生贄に儀式召喚するのさ!」

 

「融合デッキのモンスターで儀式召喚!?」

 

「俺は融合デッキに存在するレベル4の【カオス・ウィザード】を生贄に、レベル4の【ユニコールの影霊衣】を儀式召喚する」

 

場に現れた1つの鏡。

それは4つの鏡へと増え、強い輝きを持つ光を反射して七色の光へと変えていく。

まさに万華鏡の名に相応しい輝きである。

その光から現れた【ユニコール】はゆっくりと目を開いた。

 

「(【ユニコール】の攻撃力は【エトワール】の効果を含めて2800.

とにかく今は攻撃対象を変更する【アンバー・マンモス】をどうにかする事が優先だな。)

行け、【ユニコール】。

【ルビー】に攻撃」

 

「【アンバー・マンモス】の効果!

攻撃対象を【アンバー・マンモス】に変更する!」

 

【ユニコール】が目を細めて【アンバー・マンモス】を見上げ、高く飛び上がり杖を振りかざす。

【アンバー・マンモス】もそれに応えるように構え、目だけを動かしてヨハンを見た。

 

「リバースカード、オープン!

速攻魔法、【ハーフ・シャット】!」

 

「なっ!?」

 

ヨハンが発動したカードの名前に聖星は目を見開いた。

1体のモンスターが攻撃を受けようとしている場面を描いているカード。

そのカードを聖星は何度も見た事があるのだ。

 

「(【ハーフ・シャット】、父さんが使っているカード……

場のモンスターを1体選択し、その選択したモンスターの攻撃力を半分にする代わり戦闘での破壊を無効にする速攻魔法。

もうこの時代にあったんだ)」

 

「悪いな聖星、【ユニコールの影霊衣】の攻撃力は半分になってもらうぜ!」

 

「っ!」

 

【ユニコールの影霊衣】は発動されたカードに目を見開き、一度地面に着地する。

彼の体は見る見るうちに小さくなり、攻撃力が2800の半分である1400になる.

装備魔法の効果により【アンバー・マンモス】の攻撃力は2500.

そして聖星のライフは1100.

 

「迎え撃て、【アンバー・マンモス】!!」

 

「うぉおおおおお!!!!」

 

後ろ足で立ち上がった【アンバー・マンモス】はそのまま重力に任せ小さくなった【ユニコール】を踏み潰す。

その時に地面が軽く揺れ、聖星のライフは0となった。

デュエル終了のブザーが鳴ると聖星は深呼吸をし、【星態龍】と【スターダスト】を見る。

 

「グルゥ……」

 

「惜しかったな」

 

「留学初日だから勝ちたかったんだけどなぁ……」

 

留学生として日本のアカデミアの恥にならないよう、話をつけてくれたペガサスの顔に泥を塗らないようせめて初戦は勝ちたかった。

しかし儀式デッキの常識をある程度覆したデュエルは出来た。

今回はそれでよしとしよう。

そう結論付けた聖星はヨハンを見る。

 

「聖星。

最後の儀式召喚凄かったな!

墓地からの儀式召喚でも驚くのに、まさか融合デッキのモンスターを儀式召喚の生贄にするなんて!

あんなカード初めて見たぜ!

やっぱり留学して来るだけはあるな!」

 

「だろう?

俺も初めて見た時はこんなカードがあっていいのか?って疑問に思ったから」

 

「あぁ。

【スターダスト】達と戦えなかったのは残念だったが良いデュエルが出来たぜ」

 

「俺も負けたけど良いデュエルが出来て良かった。

ところで、あの緑色の宝石は誰?」

 

「【エメラルド・タートル】の事か?」

 

「わしを呼んだか?」

 

「あ」

 

声がした方を見れば、すでにソリッドビジョンではなく半透明の姿となっている【宝玉獣】達が揃っている。

その中には見た事のない宝石を背負っている亀がいた。

 

「わしが【宝玉獣エメラルド・タートル】。

成程、近くで見れば見る程良い目をしとるのぉ。

そのドラゴン達も実に頼もしそうな目だ」

 

「不動聖星だ。

【エメラルド・タートル】も他の皆も、改めてよろしく」

 

のそのそと歩いて近寄ってくる【エメラルド・タートル】とデュエルで戦った精霊達に目をやり、聖星は微笑みながらそう述べた。

 

**

 

それから何時間たったのだろう。

人々が眠りにつく夜の街。

せいぜい点いている明かりは街灯くらいだ。

寒い風が吹き、視界も悪い路地裏でそれは響いた。

 

「うわぁあああ!!!」

 

辺りに響く男性の悲鳴。

だが周りの住人達はその悲鳴に気づかず、誰も起きた気配がない。

それもそうだろう。

男性がいる空間と住人達がいる空間の間には歪みがあり、遮断されているのだから。

悲鳴を上げた男は地に伏せ、何かを呟く。

そんな姿を別の男が見下ろし静かに吐き捨てる。

 

「ふん。

この程度の実力で候補者だった等笑える。

闇のゲームのルール通り、貴様の魂は闇へと飲み込まれる……

尤も、その行き先は当初の予定とは全く異なるがな……

これも貴様の実力がなかったせいだ。

恨むなよ……」

 

言い終わった男は黒いコートを翻しそのまま立ち去ってしまった。

 

END

 




お、おかしいな、私はヨハンが勝つのは【宝玉の陣-琥珀】の効果にするつもりだったのに何故あのカードに出番を奪われた!?
どういう事だ!?

【影霊衣】の扱いが下手くそですみません。
今回のデュエルで召喚する【影霊衣】モンスターは魔法使い族だけと条件を付けて書いたのでこんなデュエルになりました。

さて、12月6日は遊星ストラク発売日
声はかなり大人になっていましたね。
あまりにも貫録のある声に遊星ではなく敬意を払って遊星さんと呼びたくなる。
ってか呼ばせてください。


それにしても【魔導書】成分少ないな…
後半とかほぼ【影霊衣】。
速攻のかかし「おい、俺はどうなる?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三話 襲撃、闇のデュエリスト★

デュエルアカデミア・アークティック校に留学してから1週間がたった。

授業の後にまた別の生徒とデュエルをした聖星は【墓守魔導】を使用し、ヨハンや他の生徒を驚かせた。

まさか複数のデッキを持っているとは思わなかったのだろう。

今日も授業が終わり、自室に戻った聖星は時刻を見てPCを立ち上げた。

そしてインダストリアルイリュージョン社へ通信を始める。

 

「これが今回の報告だ。

夜行と月行、他のペガサス・ミニオン達が行ったテストデュエルの結果が以下の通りとなっている」

 

「ありがとうございます、フランツさん」

 

画面に映っている人から受け取ったデータを開く聖星。

早速目を通すが、その内容に顔が曇る。

シンクロ召喚を使うデュエリストと使わないデュエリストの結果だが、まだ使わない方の勝率が良い。

 

「やっぱりチューナーとシンクロモンスターの種類が少ないからあまり良い結果ではありませんね」

 

「慣れというのもある。

月行は【武装転生】等で墓地の活用には慣れているし、トークンはシンクロ素材にも出来るからそれほど苦ではないのだろう」

 

確かにペガサス・ミニオン達の中では月行の勝率が1番良い結果となっている。

やはり高レベルモンスターを生贄召喚または融合召喚する事に慣れている彼らに、いきなりシンクロ召喚は無理なのだろう。

しかも場にチューナーモンスターを出したとしても非チューナーモンスターがいない状況にもなりやすいようだ。

デュエルの内容も細かく記述しているデータを閉じ、フランツに目をやる。

 

「それにしても珍しいですね、貴方から俺に報告があるなんて……」

 

「ペガサス様やミニオン達は今度インダストリアルイリュージョン社主催のデュエル大会の準備で忙しい。

他にもカードに埋め込む石板、財宝、遺跡等の発掘もあるからな」

 

「あぁ、そんな話がありましたね。

確かエド・フェニックスやドクターコレクター、エックスが参加するようですね」

 

「あぁ」

 

最年少プロデュエリストや獄中でカード犯罪に協力するデュエリスト。

プロデュエリスト界でも異質なデッキを扱うデュエリスト。

当然その中には歴史に名を残す者も存在する。

是非現役の彼らと会い、欲を言えばデュエルをしたいものだ。

 

「サインも欲しいけどやっぱりデュエルだな…………

今はどこの遺跡を発掘しているんですか?」

 

「南米アンデス山脈だ。

そこで発掘された石板を見た事はあるだろう」

 

「あぁ、あれですか……」

 

聖星が星竜王から【スターダスト】を与えられ、さらには三幻魔復活のお告げを受けた。

きっとあの場所にはもっと詳しい手掛かりがあるかもしれない。

だからペガサスは更にあの場所の発掘に取り掛かっているそうだ。

 

「ところで、今そちらでは何やら不可解な事件が起こっているという情報が入っているが?」

 

「あ、はい。

謎のデュエリストによる無差別事件ですね」

 

ここ最近、意識不明のデュエリストが病院に搬送されるという事件が相次いで起こっている。

狙われたのはプロデュエリストやある程度名前が通っているデュエリスト。

彼らの共通点は未だわからず、警察や世間は無差別の犯行だと認識している。

 

「気を付けたほうが良い。

貴方は仮にもシンクロ召喚プロジェクトのアドバイザー。

貴方に何かがあれば我が社への損害は計り知れないからな」

 

「はい。

暗くなってからは外出を控えています。

無差別事件は人通りのない路地裏等で起こっているので外出しなければ安心ですよ」

 

安心させるように微笑む聖星だが、暗い中1人でスーパーに向かっている彼と遭遇した事があるフランツはため息をついた。

流石に聖星も馬鹿ではないと信じる事にし、別の話題に移す。

そんな聖星達を見守っている【星態龍】と【スターダスト】は窓の外を見た。

 

**

 

「聖星。

最近意識不明のデュエリストが続出している事に関してどう思う?」

 

「どう思うって……

いい感じはしないな」

 

デッキをシャッフルしている聖星はヨハンの問いかけに答える。

ヨハンはいつもより険しい表情でテレビを凝視している。

映っているニュースキャスターは昨晩、また無差別事件が発生したと報道しており内容を淡々と話している。

 

「搬送されたデュエリストは意識を失う直前、何者かとデュエルしていたらしい。

恐らくデュエルをした直後に何かをされ意識を失ったんだろう」

 

「普通のデュエルで人が気絶するような事は絶対に起こらないし、そう考えるのが普通だな」

 

普通のデュエル。

しかしそのデュエルが普通でなければどうだろう。

デッキをケースにしまった聖星はここ最近の2体を思い出す。

2体はとある一瞬だけ目が鋭くなり、そのまま外を睨み付ける。

だが本当に一瞬だけでまばたきをするといつも通りに振舞っているのだ。

 

「(【スターダスト】も【星態龍】も何でもないって言い張っているけど、絶対に何かあるよな)」

 

十代が闇のゲームをした時だって【星態龍】は気配を感じておきながら何でもないと聖星に言った。

あの時の雰囲気と最近の【星態龍】は全く同じである。

つまり被害者達は闇のデュエルをして敗北したと考えるべきだろう。

 

「犠牲者が出るのは夜中の0時以降。

それで聖星。

無理を承知で頼みたい事がある」

 

「頼み?

今の会話の流れを考えると真実を突き止めたいから付き合ってほしい、であってる?」

 

「あぁ。

流石聖星!

話が早くて助かるぜ。

で、どうする?」

 

「もちろん協力するさ。

でもさ、どうやって見つけるつもりだ?

被害者がデュエルをした場所に共通点はない。

闇雲に探しても見つからないかもしれないぜ」

 

「何言ってるんだ聖星。

俺とお前の2人だったら確かに無謀だけど、俺達には心強い味方がいるだろう?」

 

「味方?」

 

女の子が見たら黄色い声を上げそうな笑みを浮かべるヨハン。

そんな彼の周りにいる【宝玉獣】達は皆一斉に頷いた。

成程、それなら2人からいっきに11人になるわけだ。

納得している聖星は自分の胸ポケットにしまっている【星態龍】と【スターダスト】に目をやった。

 

「私は反対だ」

 

「【星態龍】?」

 

突然現れた【星態龍】はヨハンに向かってそう言う。

彼の言葉にヨハンは怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「ヨハン。

私と【スターダスト】は【宝玉獣】より高位の精霊。

そいつらが感知できないような事でも感知できる」

 

いつもより険しい表情を浮かべながら話し始める【星態龍】の言葉にヨハンは口を閉ざす。

しかし緑色の目はまっすぐ彼に向かっており、表情は真剣そのものだ。

 

「無論、無差別デュエリスト襲撃事件で何が起こっているのかも私達は感じていた」

 

「なっ!?

……感じ入るのなら、どうして助けに行こうと思わなかった?

もし助けに行けば犠牲者を助ける事が出来たかもしれない」

 

「そのデュエルは闇のゲームだ」

 

「闇のゲームだと……?」

 

「あぁ。

それは普通のデュエルとは異なる。

デュエルのダメージが現実のものとなり、敗者は闇に飲み込まれる禁断のゲームだ。

時には周囲にも影響が出る。

恐らく闇のデュエリストが犠牲者にデュエルを挑んでいるのだろう。

それを助けに行ってみろ。

聖星の身に何かあったらどうする?」

 

聖星はただでさえ自分の都合で振り回し、さらには三幻魔復活を阻止する使命を背負っている。

あの世界でも充分に傷ついたのに、これからも傷つくかもしれない。

しかも闇のデュエルとなれば直接闘うのはデュエリストの聖星だ。

もうこれ以上危険な事には首を突っ込まず、平穏に暮らしてもらいたい。

そう願っている【星態龍】にヨハンは返す。

 

「俺だってデュエリストだ。

闇のデュエルがどんなものかは聞いた事がある。

だからといってこれ以上犠牲者が出るのを黙ってみていろっていうのか?

そんな事出来るわけがないだろう」

 

「…………ならばお前達8人で探せばいい。

聖星に危険な真似はさせない」

 

「いや、俺も探すよ」

 

「聖星!?」

 

ヨハンが勝手に首を突っ込み、勝手に怪我をするのなら自己責任だ。

だからヨハンが行くという事に【星態龍】は強く反対しない。

だが聖星の言葉に彼は目を見開いた。

何故?と問う視線には応えず聖星はそのまま微笑む。

 

「ただしヨハン。

探すとしても俺と一緒に行動する事。

もし何かあった時1人じゃ不便だしな」

 

「あぁ。

そのつもりだ」

 

**

 

それから時間は過ぎ、ヨハンと聖星は見回りの警官に見つからないよう周りに気を配る。

闇のデュエリストを探しているのに職質され補導されるなどたまったものではない。

出現する時刻は0時以降と決まっているため、聖星は眠気覚ましとなるガムを噛む。

 

「お前なぁ、なんでコーヒーにしなかったんだ?」

 

「ガムの方が持ち運ぶのに便利だろう」

 

「そりゃあそうだけど」

 

ガムを噛む聖星に対しヨハンはホットコーヒーを飲む。

缶から出てくる湯気を見ながらヨハンは空を見上げる。

空には【宝玉獣】達が飛び交っており【スターダスト】も少しだけ遠い方角を調べている。

 

「けど流石ヨーロッパ……

やっぱり冬だと寒いな」

 

「日本でも冬だと寒いだろう」

 

「日本はそうだけど……

俺が通っているデュエルアカデミアは火山島に建っていて、温暖な気候と地熱のお蔭であまり寒くないんだよ」

 

「日本のアカデミアって火山島に建ってるのか?」

 

「あぁ」

 

ここは今にも雪が降ってくるのではないかと思うくらいの寒さである。

それに比べ日本のアカデミアは冬でも女生徒がノースリーブの制服で過ごせるほど暖かい。

火山島の地熱と天候は凄いと改めて思った聖星は星空を見上げた。

すると【宝玉獣】達が戻ってくる。

 

「皆、どうだった?」

 

「駄目だぜヨハン」

 

「こっちもよ。

怪しい人影なんて全くないわ」

 

「そうか…………

今は1時だ。

時間はまだまだある。

皆、今度は西地区の方を探そう」

 

「「あぁ!」」

 

力強く頷く【宝玉獣】達。

ヨハンの提案通り、西地区に足を向けようとすると突風が吹いた。

髪やマフラーが強風のせいで激しく揺れ、反射的に目を瞑る。

何だと思えば本来の大きさに戻っている【スターダスト】が聖星達の前に勢いよく着地する。

 

「グルォオ!!」

 

「【スターダスト】?」

 

「どうしたんだ?」

 

聖星とヨハンの問いかけに【スターダスト】は答えず、低い声で唸るだけ。

黄色の瞳は闇を睨み付けており皆はそちらに目をやる。

 

「どうやら現れたようだぞ、聖星、ヨハン」

 

2人の護衛を担っていた【星態龍】はデッキから現れ、同じように闇を睨み付ける。

緊張感ある2体の様子に自然と聖星達も構えた。

睨み付けている方角に存在する街灯の明かりが消え、冷たい風が頬を撫でるかのように吹く。

とても居心地の悪い風で、その風と共に足音が近づいてきた。

 

「ほほう。

【宝玉獣】の精霊が飛び交っていたからまさかだとは思ったが……

ヨハン・アンデルセン。

貴様がこんな時間に外出していたとはな」

 

「誰だ?」

 

視界もはっきりしない世界から聞こえてきた男の声。

名を呼ばれたヨハンははっきりとした声で返した。

周りにいる【宝玉獣】達はすぐにヨハンを隠すように前に出て、肩に乗っている【ルビー】は毛を逆立てる。

【宝玉獣】達の様子が面白いのか、現れた男は口の端を上げて名乗る。

 

「我が名はタイタン……

闇のデュエリストだ!」

 

真っ黒の衣装に身を包み、ウジャトの眼が嵌めこまれた仮面を被っている男。

がっちりとした体格を持っている彼の左腕には巨大なデュエルディスクが嵌められている。

警戒しているヨハン達の横で聖星は首を傾げた。

 

「タイタン?

あれ、どこかでその名前聞いた事あるけど」

 

「タッグデュエルの切欠を作った男だ」

 

「あ、そうそう。

そんな名前だったな。

確か明日香を浚って十代達を脅し、デュエルをしたインチキデュエリストだっけ?」

 

頭に引っかかった名前だが【星態龍】の言葉で思い出した。

入学して間もない頃、カイザーとのデュエルが終わった後に十代達が遭遇したデュエリストだ。

闇のデュエルで消えたはずの彼が何故ここにいるのか疑問に思いながらタイタンに目をやった。

 

「ほう……

遊城十代を知っているのか。

これはまた数奇な巡り合わせだな」

 

「知っているのか?」

 

「俺は直接会った事はないけど、精霊が見える友人が人質をとられてデュエルした事があるんだ。

そのデュエルは闇のデュエルで、タイタンは負けたから闇に飲み込まれたって聞いた。

それなのにどうしてこんな所で……」

 

初めはただのインチキデュエルだった。

ルーレットの目に細工を施し、タイタンが優位になるようなデュエルだったのに突然闇のデュエルへとなってしまった。

十代はデッキとの絆で勝利を勝ち取り、敗北した彼は闇に飲み込まれた。

聖星の説明にタイタンは懐かしむように話し始めた。

 

「確かに私は遊城十代とのデュエルに敗れ闇の世界に飲み込まれた」

 

暗い、暗い、闇の世界。

自分の周りを取り囲んでいるのは闇の魔者達。

自由に動く事も叶わず、ただ助けて欲しいと叫ぶしか出来なかった。

だが、ふと何者かの声が聞こえてタイタンに闇の力を宿した仮面を授けたのだ。

 

「そう。

私は闇の力を手に入れ、闇のデュエリストになったのだ!

ヨハン・アンデルセン。

貴様もターゲットのうちの1人。

さぁ、私とデュエルしろ」

 

「ヨハンがターゲット?」

 

タイタンは人差し指でヨハンを指し、聖星はつられてヨハンを見る。

肝心のヨハンも何故自分がターゲットになっているのか理解できず、ただ目を見開いているだけだ。

すぐに目つきを変えたヨハンはタイタンに問う。

 

「タイタンとか言ったな。

お前、一体どうしてプロデュエリストやストリートデュエリスト達を襲っているんだ?」

 

「襲っている?

ふん、私は別にあいつらを襲っているつもりはない」

 

「襲ってない?」

 

「ふざけるな!

お前とデュエルしたデュエリスト達は意識不明の重体なんだ!

これを襲っていないと言わず、どう言うんだ!?」

 

意外な返答にヨハンは怒鳴る。

怒りの表情を露わにするヨハンに対しタイタンは至って冷静に、不敵に笑うだけだ。

ただ笑っているだけなのに闇の力を持っているせいか妙に不気味である。

 

「私はただテストをしているだけだ」

 

「「テスト?」」

 

彼は闇の力を手に入れ、闇のデュエリストとなった。

実力ある者をテストして何をするつもりなのだろうか。

警戒しながらも聖星達はタイタンの言葉を真剣に聞く。

だが彼の口から信じられない言葉が発せられた。

 

「どうせ貴様は私から逃げられない。

折角だから教えてやろう。

私は三幻魔というカードを手に入れるため、実力のあるデュエリストを集めている」

 

「三幻魔……?」

 

タイタンが発した言葉を聖星は復唱する。

そしてその単語が何を意味するのか瞬時に理解した。

同時にタイタンが自分にとってどのような立ち位置に存在するデュエリストなのかも理解する。

一瞬で把握した聖星は表情を消し、デッキケースからデッキを取り出した。

 

「今まで私と戦ったデュエリスト達はその候補者だった。

尤も、実際にデュエルをしてみるとただの雑魚だったがな」

 

「それだけ?

ただカードを手に入れるためだけに闇のデュエルをしたっていうのか!?」

 

「そうだ。

三幻魔はその名に恥じない素晴らしい力を秘めているカード。

精霊の命を食らい、それと引き換えに持ち主に永遠の命を与える。

世界の征服も夢ではないぞ」

 

「冗談じゃない!

何が永遠の命だ!

何が世界の征服だ!

精霊達の命を使ってそんな事をするなんて、お前それでもデュエリストか!?」

 

ヨハンは三幻魔について何一つ知らない。

だがタイタンの説明で自分にとってとてもくだらなく、精霊達にとって危険なものだと判断できた。

自分のエゴのために精霊を犠牲にするカード。

それを手に入れるため大勢のデュエリストを犠牲にしている。

同じデュエリストとして、精霊が見える者として許せるわけがなかった。

ヨハンは怒りのままデュエルディスクを腕に嵌め、起動させる。

 

「良いぜ。

タイタン!

そのデュエル、受けて立つ!」

 

この男をこれ以上野放しにするわけにはいかない。

元々そのつもりだったヨハンだが、精霊の命に係わる事を聞かされ更に使命感に燃えてしまった。

熱くなっている友人に聖星は声をかける。

 

「待った、ヨハン」

 

「何だよ聖星。

危ないから下がっていた方が良い」

 

「このデュエル。

俺に譲ってくれ」

 

「は?」

 

隣から聞こえた言葉にヨハンは聖星を見る。

聖星はヨハンではなくタイタンを真っ直ぐと見ており、彼の腕にもデュエルディスクが嵌められている。

 

「何を言っているんだ。

奴の狙いは俺だぜ。

ここは俺達がデュエルをする!」

 

ヨハンの言葉に【宝玉獣】達は強く頷く。

一切引く気がない友人に聖星は微笑んだ。

しかしその笑みはすぐに消えて無表情となり再びタイタンに目をやる。

 

「ヨハン。

さっき言っただろう。

俺の友達が浚われて、こいつに脅されたって。

あのデュエルの後、あの男のせいであいつは色んな目にあったんだ」

 

人質となった明日香は恐怖を味わい、十代に関して責任を覚えていた。

十代だって彼のせいで危ないデュエルをした。

もし一歩間違えれば十代がタイタンのようになっていたかもしれない。

それだけではなく倫理委員会に責任を押し付けられ、退学にもなりそうになった。

言いたい事が一気にあふれ出し、上手く言葉が見つからない。

ただ目の前にいる男を叩き潰したい。

自然と険しい表情となった聖星は小さく呟いた。

 

「それに三幻魔に関しては俺の仕事だしな」

 

「何?」

 

微かに聞こえてきたヨハンの声を無視し、聖星はタイタンを真っ直ぐに見る。

 

「タイタン。

俺があんたの相手になる。

文句は言わせない」

 

「何を言っている小僧。

貴様のような子供…………

っ!?」

 

ターゲットではない聖星など眼中にはなかったタイタン。

だから彼の申し出など一蹴するつもりだったが、彼の仮面越しの眼に【スターダスト】の姿が映る。

闇ばかり映していた視界の中一際輝く純白のドラゴン。

すぐに自分に対してどのような存在か判断できた。

 

「…………成程。

随分と強力な精霊を従えているようだな」

 

いや、強力というより厄介という方が正しい気がする。

心の中で呟いたタイタンはデュエルディスクを構えた。

 

「良いだろう。

その力、我らの計画に支障になるかもしれん。

貴様はこの場で闇に葬り去ってやる」

 

「「デュエル!!」」

 

開始の宣言と同時に闇が3人の周りを覆っていき、閉じ込められる。

夜のヨーロッパの街並みは一切見えず、ただ暗黒の世界が広がっていた。

周りを見渡したヨハンは険しい表情のまま聖星を心配そうに見る。

 

「先攻は私だ、ドロー!

私は手札から【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に捨てる。

そして【デーモンの騎兵】を召喚する」

 

「ハッ!」

 

タイタンの場の闇から突如渦が発生してその中から槍を構え、青い肌を持つ馬に乗った騎兵が現れる。

赤い目を持つ【デーモン】は手綱を引っ張り、繋がれている馬を大人しくさせた。

表示された攻撃力は1900.

 

「【デーモンの騎兵】……

(確か【デーモンの騎兵】はカード効果で破壊された場合、墓地から【デーモンの騎兵

】以外の【デーモン】を特殊召喚する効果を持つ。

つまりさっき捨てたカードは【デーモン】の可能性が高い)」

 

先攻1ターン目から攻撃力1900のモンスターを召喚するのは悪くはない。

だが聖星としてはそのモンスター効果の方が厄介に見えた。

聖星はすぐに自分が記憶している限りの【デーモン】のモンスターを思い出す。

 

「私は手札から【デーモンの将星】を特殊召喚!」

 

「グォオオ!」

 

【デーモンの騎兵】の隣に現れたのは雷を身にまとい、骨の鎧をつけ赤い体を持つ悪魔。

【デーモンの将星】は大きく自分の両腕を広げ、青い眼で隣にいる【デーモンの騎兵】を睨み付けた。

突然睨み付けられた【デーモンの騎兵】は驚いたようでゆっくりと傍から離れる。

だが逃がしてくれる様子はなく、【デーモンの騎兵】をその大きな手で掴む。

 

「な、何をしているんだ?」

 

「【デーモンの将星】の効果だ」

 

「え?」

 

「小僧の言う通りだ。

このカードは私の場に【デーモン】と名の付くカードが存在する時手札から特殊召喚する事が出来る。

尤も、同時に私の場の【デーモン】を破壊せねばならないがな……」

 

「今あいつの場には【デーモンの騎兵】が存在する。

これで特殊召喚の条件はクリアしているんだ」

 

【デーモンの将星】はそのまま【デーモンの騎兵】を持ち上げる。

拳に捕えられている【デーモンの騎兵】は逃げようと必死に足掻いているが、敵う様子が無かった。

そのまま【デーモンの騎兵】は苦しそうな悲鳴を上げ粉々に砕けてしまう。

 

「この瞬間、【デーモンの騎兵】の効果発動!

このカードがカード効果で墓地に送られた場合、墓地から【デーモンの騎兵】以外の【デーモン】を特殊召喚する!」

 

「(やっぱり……

墓地にいた)」

 

「蘇えるが良い、【戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン】!!」

 

タイタンは人差し指を立てて手を高く上げる。

その先には暗雲が渦巻き、青い雷が轟く。

すると地面が大きく裂き、中から巨大な悪魔が姿を現す。

 

「グォオオオオオ!!!」

 

「で、でけぇ……」

 

「【将星】の倍くらい?」

 

墓地から蘇った悪魔の大きさは聖星が呟いた通り【デーモンの将星】の倍ほどある。

カードのイラストでは【デーモン・ソルジャー】達が跪いていており、彼らの数倍以上の大きさだったはずだ。

やはりデュエルだとある程度小さくなるのだろうと場違いな事を考えている聖星は自分の手札を見る。

それに対しヨハンは口元に笑みを浮かべていた。

 

「1ターン目から攻撃力3000と2500のモンスターが並んだ。

流石プロデュエリストを倒すだけの実力はあるという事か」

 

「私はこれでターンエンド。

さぁ小僧。

貴様のターンだ」

 

「俺のターン、ドロー。

俺は手札に存在する【魔導法士ジュノン】の効果発動。

手札に存在する【魔導書】を3枚見せる事で彼女を特殊召喚する」

 

「いきなりレベル7のモンスターを特殊召喚だと!?」

 

「え?

レベル6とレベル8を特殊召喚したあんたが驚くのっておかしいだろう?」

 

明らかに驚いた表情を浮かべるタイタンに突っ込みを淹れながら聖星は自分の手札に存在する【魔導書】を見せる。

そこに現れたのは【グリモの魔導書】、【トーラの魔導書】、【魔導書の神判】だ。

3枚のカードは回転しながら天へと昇り、その場に淡いピンク色の魔法陣が描かれる。

 

「特殊召喚、【魔導法士ジュノン】」

 

闇に覆われている世界に差し込む淡い光。

その魔方陣の輝きは一気に激しくなり、轟音を轟かせながら光の柱が立つ。

内側から亀裂が入り割れた柱の中から勇ましい表情をした【ジュノン】が姿を現せる。

 

「俺は手札から速攻魔法【魔導書の神判】を発動する」

 

「【魔導書の神判】……?

新たな【魔導書】か!」

 

「このカードが発動したターンのエンドフェイズ時、俺はこのターン発動された魔法カードの枚数までデッキから【魔導書】と名の付く魔法カードを手札に加える事が出来る。

さらにその枚数以下のレベルの魔法使い族モンスターを場に特殊召喚出来る」

 

「何ぃ!?」

 

ヨハンは初めて見る【魔導書】に目を輝かせ、タイタンは目を見開く。

聖星は慣れた反応なので特に気にせずゲームを続けた。

 

「そして【ジュノン】の効果発動。

1ターンに1度、手札または墓地に存在する【魔導書】を除外する事で場のカードを1枚破壊する。

俺は墓地に存在する【魔導書の神判】を除外して【ジェネシス・デーモン】を破壊する」

 

墓地から現れた【魔導書の神判】をデッキケースにしまい、玉座に座っている【ジェネシス・デーモン】を睨み付ける。

【凶皇】の名を見てみる限り【教皇】が由来なのだろう。

【教皇】に対し【ジュノン】は【女教皇】の地位に就く存在。

普通のデュエルだったらもう少しこの2体の対決を楽しむ事が出来たというのに。

残念だと思いながら聖星は宣言する。

 

「【ジュノン】、閃光の魔導弾(レイ・ジャッジ・ブラスト)!」

 

「はぁあっ!」

 

聖星の声に【ジュノン】は手に魔力を集め、それを【ジェネシス・デーモン】に向ける。

大きく手をかざし勢いをつけてそれを放った。

向かってきた魔力は【ジェネシス・デーモン】を貫き、そのまま彼の体中にひびが入る。

指先まで響き渡ると体内から光が輝きだしそのまま爆発した。

 

「くっ!

だが、【デーモンの将星】の攻撃力は【魔導法士ジュノン】と同じ2500!

このままでは相打ちだぞ小僧」

 

「それくらい分かっているさ。

俺は手札から魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

このカードの効果によりデッキに存在する【魔導書】を手札に加える。

俺は【セフェルの魔導書】を加える。

そして【セフェルの魔導書】を発動。

俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、手札の【トーラの魔導書】を見せる事で墓地に存在する通常魔法の【魔導書】の効果をコピーする。

俺は【グリモの魔導書】を選択する」

 

「くっ……!

またデッキからサーチする気か、小僧!」

 

「ご名答。

俺は魔法カード【ヒュグロの魔導書】を手札に加える。

そして【ヒュグロの魔導書】を発動。

このカードの効果で【ジュノン】の攻撃力は1000ポイントアップ」

 

「1000ポイントアップ……

つまり攻撃力3500だと!?」

 

赤い光に包まれる【魔導書】は【ジュノン】に新たな英知を授け、彼女の攻撃力を3500にする。

力を手に入れた【ジュノン】は目を閉じて新たな呪文を詠唱し始めた。

 

「【ジュノン】、【デーモンの将星】に攻撃。

女教皇の裁き(ハイプリーステス・ジャッジメント)!」

 

彼女の両手に集まる赤い光。

それは徐々に大きくなっていき、【ジュノン】は閉じていた目を開けた。

凛とした水色の瞳は自分より大きい【デーモンの将星】へと向けられ、その魔力を放つ。

【デーモンの将星】は光の魔力を真正面から受け、どろどろと溶けていってしまう。

その時の光はタイタンも降り注ぎ、闇に慣れた彼の目に多大なダメージを与える。

 

「ぐぅうう!」

 

聞こえてくるタイタンの苦しそうな声。

【ジュノン】はその様子に満足そうな表情をし、聖星に対しウインクする。

それに聖星は手を上げて応えた。

これでタイタンのライフは4000から3000となり、ヨハンは強く頷こうとした。

 

「よし、一気にライフを1000ポイント削っ……あれ?」

 

突然視界が歪み、上手く立つ事が出来ない。

まるで風呂上りに体験する立ち眩みのような感覚だ。

咄嗟に頭を抑えたヨハンは何とか倒れず持ちこたえる。

 

「どうしたヨハン!?」

 

「ヨハン、大丈夫か!?」

 

周りにいる【宝玉獣】達はすぐにヨハンの異変に気づき、彼を心配そうに見上げる。

家族の言葉にヨハンは笑みを浮かべた。

 

「あ、あぁ。

ただ眩暈がしただけ……」

 

だが言葉は続かなかった。

 

「何だ、これは……?」

 

ヨハンは自分の手を、いや、手があるべき場所を凝視した。

【宝玉獣】達も何かを叫んでいるが、今のヨハンには上手く聞き取れなかった。

流石の聖星も様子がおかしい事に気づきヨハン達に振り返る。

 

「ヨハン?

どうし……ヨハン!?」

 

振り返った聖星は自分の目を疑った。

先程まで自分を心配そうに見ていたヨハンの体が一部なくなっているのだ。

これは闇のデュエル。

ライフポイントはその名の通りデュエリストの命であり、ライフが減ると減った本人の肉体に何らかの影響を及ぼす。

しかしタイタンではなくヨハンに影響が出ている。

信じられない現実に動揺していると背後からタイタンの笑い声が聞こえてくる。

 

「ふふふふ、ふはははは!」

 

「タイタン、お前……

ヨハンに何をした?」

 

気に入らないほど高笑いをしているタイタンを睨み付ける聖星。

怒りに満ちた表情で自分を睨み付ける子供にタイタンは笑みを浮かべたまま謝罪する。

 

「すまない。

そういえばこの闇のデュエルの説明をするのを忘れていたな。

このデュエルのライフポイントは通常通り、我らデュエリストの命。

だが私のライフが減れると同時にその小僧の肉体も闇に喰われる」

 

「……え?」

 

「つまり私が負ければその小僧は闇に飲み込まれ、新たな闇のデュエリストになるという事だ」

 

「なっ!?

ちょっと待てよ、何だよそれ!

そんなの卑怯だろ!」

 

「ふん。

負けても良いのだぞ。

デュエルに敗北し貴様は闇に飲み込まれ、その後は傷ついたあの小僧を私がテストすれば良いだけの話だからな」

 

「くっ…………!」

 

こんな不条理な闇のデュエルの内容など、聞いた事もない。

聖星は十代達の事も、三幻魔の事もあるからこのデュエルを申し出た。

だがその理由の中にはヨハンを危険から遠ざける事も入っている。

それなのにこんな結果になってしまうとは誰が予想できたか。

腹立たしさに聖星は顔を歪め、手の皮膚に爪が食い込むほど拳を握りしめる。

この現状に苛立っているのは彼だけではなく【宝玉獣】達も同じである。

 

「つまりあの仮面男はヨハンの命を盾にしているという事か」

 

「そういう事だ。

先程あの男は【スターダスト】の事を邪魔になりうる存在と言っていた。

あの男が勝てば【スターダスト】達を闇に葬り去る事が出来、聖星が勝てばヨハンが手に入る」

 

「どっちに転んでも彼にとっては美味しい展開って事?

最っ低な人間ね」

 

「ルビィ~!!」

 

ヨハンの傍に寄り添っている【宝玉獣】達は聖星以上の怒りを露わにしていた。

今すぐにでもタイタンに襲い掛かりそうな彼らは必死に自分を制御している。

爪が地面に食い込み、歯を食いしばっている【宝玉獣】達の姿さえもタイタンは涼しい顔で流していた。

 

「……【ヒュグロの魔導書】の効果で強化された魔法使いが相手モンスターを破壊した時、デッキから【魔導書】を手札に加える事が出来る。

俺はフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を手札に加えて、そのまま発動する」

 

デュエルディスクから光が発せられ、闇のフィールドが一面魔法を学ぶ機関へと変わっていく。

薄暗い空は快晴な空へと変わり、相手の姿がはっきり見えるようになった。

タイタンの実に愉快そうな顔が嫌でも目に入り、聖星は深呼吸をして顔を伏せる。

 

「(落ち着け……

落ち着くんだ……

ここで焦ったら駄目だ。

焦ったら変なミスをする。

冷静になるんだ)」

 

聖星は目の前で消えていくロビンやアンナ達の姿を思い出しながら冷静になるよう自己暗示をした。

このデュエルは自分の命だけではない、ヨハンの命までかかっているのだ。

些細なミスさえ許されない。

同時にこの世界にはいない後輩の後ろ姿も思い出した。

 

「(遊馬だったらどうする?

どうやってこの状況を乗り越える?)」

 

遊馬だったら最後まで諦めず、皆を助ける道を探す。

そしてその信念でそれを現実にして来た。

頼りになる後輩の凛々しい顔を思い浮かべ、真っ直ぐとタイタンを見た。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド。

そしてエンドフェイズ時、【魔導書の神判】の効果発動。

このターン俺が発動した魔法カードは【グリモ】、【セフェル】、【ヒュグロ】、【ラメイソン】の4枚。

よって俺はデッキから【グリモ】、【ゲーテ】、【魔導書廊エトワール】の3枚を手札に加える」

 

聖星がカスタマイズしたデュエルディスクは指定したカードを勝手に取り出してくれる。

出てきた3枚のカードを手札に加えた聖星は第二の効果を宣言した。

 

「そしてデッキからレベル3の【魔導教士システィ】を攻撃表示で特殊召喚」

 

「はっ!」

 

「【システィ】、エンドレス・アンジェ」

 

特殊召喚に成功した【システィ】は祈るように膝を着き、そのまま光の中へと消えていく。

場に現れたと思ったら消えた女性にタイタンは怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「【魔導書】が発動したターンのエンドフェイズ時、【システィ】は真価を発揮する。

彼女を除外する事でデッキに眠る【魔導書】とレベル5以上の闇または光属性の魔法使い族モンスターを1体手札に加えるのさ」

 

「な、何ぃ!?」

 

「俺は【魔導書の神判】と【魔導法士ジュノン】を手札に加える」

 

遺された【システィ】の天秤に2枚のカードが乗せられ、それは聖星の手札へと加わる。

 

「ちぃ。

手札が1枚になったと思えば4枚になり、更には6枚だと?

ふん」

 

だが1ターンでデッキのカードをかなり消費している事でもある。

聖星は先程【魔導書の神判】も手札に加えていたため、次のターンも発動するはずだ。

これではデッキ切れを起こすのは遠くない話。

この勝負はデッキ切れで着くかもしれないと思いながらデッキに指を置いた。

 

「私のターン、ドロー!」

 

勢いよくカードを引いたタイタン。

自分の手札に来たカードに不気味な笑みを浮かべ、そのまま発動する。

 

「私は手札からフィールド魔法【伏魔殿-悪魔の迷宮】を発動する」

 

「なっ、【デーモン】の名を持つフィールド魔法!?」

 

「ほう、どうやらこのカードの事は知らないようだな。

このカードは私の場の悪魔族モンスターの攻撃力を500ポイントアップする場所。

貴様らを絶望の淵へと追いやる地獄の二丁目だ」

 

「(【デーモン】に関係するフィールド魔法は【万魔殿-悪魔の巣窟】だけだと思っていたけど……

まだ他にもあったのか。

しかも【デーモン】の名前を持つっていう事は……)」

 

新たなフィールド魔法が発動したことで【ラメイソン】の建物にひびが入り、空も割れていく。

青空の隙間から先ほど以上の禍々しい色の空が見え、大きな音を立てながら【ラメイソン】は崩れ落ちていく。

残骸がフィールドに広がりながら地面が激しく揺れ、巨大な建物が出現した。

 

「私は手札から装備魔法【堕落】を発動する。

このカードの効果により貴様の女教皇は私の傀儡人形だ」

 

「しまった……!」

 

タイタンが発動したのは【デーモン】と名の付くカードが存在する時相手モンスターのコントロールを奪う装備魔法。

聖星が【ジュノン】を見ると、彼女の周りに闇の瘴気が纏わりつき苦しそうに膝を着く。

 

「っ、ああっ……!?」

 

「【ジュノン】!」

 

痛む頭を押さえていたが、彼女の肌はゆっくりと薄暗くなり純白の衣服は黒へと染まっていった。

そのまま彼女は赤い目で聖星を見下ろしタイタンの前に移動する。

この時聖星の脳裏に女教皇の逆位置の意味が過ぎった。

 

「さらに私は【トリック・デーモン】を守備表示で召喚する。

行け、【魔導法士ジュノン】、小僧にダイレクトアタック!!」

 

「フフッ。

アハハハッ!!」

 

実に楽しそうに笑う【ジュノン】。

しかしその笑みは狂気が含まれている笑みである。

向かってくる攻撃に聖星は抵抗する事も出来ず、彼女の魔法に包み込まれた。

 

「うっ、うわぁあああ!!」

 

「聖星っ!!」

 

体中を走る痛み。

電撃を受けたような衝撃に聖星は膝を着く。

ライフが1500まで削られたが、そんな事を気にしていられる程余裕ではない。

 

「くっ…………」

 

「ふはは、どうだ小僧。

闇のデュエルの味は?

十代とかいう小僧も貴様と同じように苦痛の表情を浮かべたが、貴様はさらに苦しそうに歪んでいるな。

見ていて非常に愉快だ」

 

「くっ、そ……」

 

前から聞こえる笑い声に聖星は顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる。

まだ体が痺れ、痛みが残っている。

体中の鼓動が頭にまで響き、脳が悲鳴を上げている。

しかも体の一部が闇に喰われて消えている状態だ。

だが倒れるわけにはいかなかった。

 

「私はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ。

さぁ小僧。

貴様のターンだぞ」

 

「俺のターン……

ドロー」

 

「この瞬間私は【堕落】の効果でライフが800ポイント削られる」

 

「くっ……!」

 

「ヨハン!」

 

【堕落】は相手モンスターのコントロールを得る代わりに、相手ターンのスタンバイフェイズ時に800ポイントライフを失うデメリットを持つ。

本来ならこれのダメージでタイタンが苦しむはずだ。

だがヨハンの肉体が更に闇に喰われ、彼自身苦痛の表情を浮かべる。

ヨハンの様子に聖星は唇を噛んだ。

 

「(これであいつのライフは残り2200……

一体どうすれば良いんだ。)

手札から永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動」

 

聖星の背後に何処かの廊下のような場所が現れる。

悪魔達の迷宮に現れた新たな空間は異色な光景と言えるだろう。

 

「このカードは【魔導書】が発動する度に魔力カウンターを1つ乗せ、その数×100ポイント俺の魔法使い族モンスターの攻撃力を上げる。

さらに速攻魔法【魔導書の神判】を発動」

 

発動されたのはエンドフェイズ時に真価が発揮する魔法カード。

【魔導書の神判】は役目を終え、そのまま淡い光へとなり聖星の頭上へと浮かび上がる。

 

「そして手札の【ゲーテの魔導書】、【グリモの魔導書】、【トーラの魔導書】を見せる事で手札から【魔導法士ジュノン】を特殊召喚する」

 

「はぁ!」

 

先程と同じように魔法陣から現れた光柱の中から【ジュノン】が召喚される。

場に出た彼女はタイタン側にいる自分の姿に目を見開き、悲しそうに表情を歪めた。

微かだが拳が震えている。

再び自分の前に立った女教皇にタイタンは冷静に考える。

 

「(あのモンスターは墓地または手札の【魔導書】を除外する事でカードを破壊する効果を持つ。

今小僧が破壊したいのは私の伏せカードまたは【堕落】のどちらか、か。

だがヨハン・アンデルセンの命を握っている以上、下手な行動は起こせまい)」

 

【堕落】は【デーモン】と名の付くカードが場に存在しなくなると自爆するカード。

残念ながら今タイタンの場には【デーモン】と名の付くカードは【トリック・デーモン】を含めて2枚存在する。

 

「そのモンスターを出されるのはちと厄介だ。

罠発動、【奈落の落とし穴】。

攻撃力1500以上のモンスターを破壊し、除外する。

【魔導法士ジュノン】の攻撃力は2500。

悪いが消えてもらうぞ!」

 

「手札から速攻魔法【トーラの魔導書】を発動。

俺の場の魔法使い族モンスターを1体選択し、そのモンスターに魔法または罠カードの耐性を付ける。

【ジュノン】に罠カードの耐性を与える」

 

足元に異世界へと繋ぐ穴が現れ、【ジュノン】は反射的にスカートを押さえる。

だがすぐに【トーラの魔導書】の英知の加護を受けて穴へは引きずり込まれなかった。

 

「ちっ。

逃がしたか」

 

「俺は手札から魔法カード【光の援軍】を発動。

デッキからカードを3枚墓地に送り、デッキからレベル4以下の【ライトロード】と名の付くモンスターを手札に加える。

俺はレベル4の【ライトロード・マジシャンライラ】を手札に加え、召喚」

 

「はっ!」

 

白と黄色の光と共に現れたのはロングヘアの黒髪の美女。

彼女は静かに目を開け、腕を組んでタイタンの場を睨み付けた。

俗にいう仁王立ちである。

 

「【ライラ】は攻撃表示の時、守備表示に変更する事で相手の魔法・罠カードを破壊する事が出来る。

俺は装備魔法【堕落】を選択」

 

「くっ、そんな効果があったか……!」

 

「帰ってこい、【ジュノン】!」

 

腕を組んでいた【ライラ】は両手を前にだし、【堕落】を破壊する。

自分が攻撃した魔法カードが破壊されるのを見届けた彼女は満足そうな表情を浮かべ、そのまま膝をつく。

それと共に操られていた【ジュノン】が正気に戻り、急いで聖星の場に戻った。

開放された彼女は聖星達にごめんね、と謝るように顔を向ける。

他の皆はただ笑みを浮かべ首を左右に振った。

 

「まだ終わらない。

1体目の【ジュノン】の効果、墓地の【魔導書院ラメイソン】を除外して伏せカードを破壊する!」

 

「罠発動、【デーモンの雄叫び】!

ライフを500支払う事で私の墓地の【デーモン】を特殊召喚する!

現れるが良い、【トリック・デーモン】!」

 

「っ!?

【天使の施し】で墓地に捨てた奴か」

 

宣言された名前に聖星は目を見開いたが、先攻1ターン目にタイタンが発動したカードを思い出す。

すると比較的可愛らしい悪魔っ娘がタイタンの場に現れ、その場にちょこんと座る。

可愛らしい外見だがその表情は非常に好戦的だ。

流石は未来の【デーモン】における女帝だ。

 

「…………くっ……

手札から【グリモの魔導書】を発動し、【アルマの魔導書】を手札に加える。

そして【アルマの魔導書】を発動。

ゲームから除外されている【魔導書】を俺の手札に加える効果だ。

俺は【ラメイソン】を手札に加え、発動。

地獄の二丁目は英知の都市に変わってもらう」

 

次々に発動される【魔導書】。

聖星の宣言通り、悪魔達の迷宮はすぐに崩れ去り、代わりに先程のように暖かい青空へと変わっていった。

そして発動された【グリモの魔導書】、【アルマの魔導書】、【魔導書院ラメイソン】の英知は魔力カウンターへと変わり聖星の頭上へと移動する。

これで魔力カウンターは5つとなり【ジュノン】達の攻撃力は3000だ。

 

「(【トリック・デーモン】は戦闘、カードの効果で墓地に送られた時デッキから【デーモン】のカードを手札に加える効果。

あいつの場には2体。

しかも1体は【デーモンの雄叫び】で特殊召喚されたモンスター)」

 

【デーモンの雄叫び】はライフコストがあるというのに完全蘇生できるカードではない。

エンドフェイズ時に破壊されるデメリット効果を持つのだ。

だが【トリック・デーモン】は破壊され墓地に送られることで効果を発動できるカード。

 

「(今ここで【ジュノン】の効果でもう1体を破壊したらあいつの手札が2枚も増える。

それは駄目だ。)

カードを1枚伏せ、エンドフェイズだ」

 

戦闘を行わずエンドフェイズに移した聖星に【宝玉獣】達は目を見開く。

彼らが驚いているのは分かったが聖星はそのまま続ける。

 

「俺がこのターン発動した魔法カードは5枚。

よって【魔導書の神判】の効果によりデッキから【グリモ】、【ゲーテ】、【ヒュグロ】、【トーラの魔導書】を加える。

そして【魔導教士システィ】を特殊召喚」

 

「ふんっ!」

 

「【ライラ】の効果発動。

俺のエンドフェイズ時、デッキからカードを3枚墓地に送らなければならない。

さらに【システィ】の効果により、デッキから3枚目の【魔導書の神判】と【ジュノン】を手札に加える」

 

墓地に送られたのは【魔導召喚士テンペル】、【エフェクト・ヴェーラー】、【神の警告】の3枚。

モンスター効果を封じ、特殊召喚自体なかったことに出来るカード達が墓地に送られた事に聖星は顔を歪める。

 

「ちょ、どうして攻撃しないの!?」

 

「いくらヨハンを盾にされているとはいえ、相手の場にはモンスターが2体もいるんだぞ!」

 

「しかも守備表示だぜ!?

攻撃したって大丈夫だろ!」

 

信じられないと声を発する【アメジスト・キャット】に【トパーズ・タイガー】、【コバルト・イーグル】。

他の4体も同じ気持ちだろう。

聖星は何も答えずただタイタンの行動を待った。

 

「ふっ、ならば【デーモンの雄叫び】の効果だ。

このカードの効果で特殊召喚したモンスターは破壊される」

 

【トリック・デーモン】は自分の異変に気付いたが、特に慌てた様子もなくけらけらと笑っている。

そのまま闇に飲み込まれて消えていった。

 

「だが同時に【トリック・デーモン】の効果が発動する!」

 

「何!?」

 

驚きの声を上げたのは一体誰か。

聖星は険しい顔のまま静かに説明した。

 

「……【トリック・デーモン】は戦闘、または効果で墓地に送られた場合デッキから【トリック・デーモン】以外の【デーモン】と名の付くカードを手札に加える効果なんだ」

 

「その通り!

尤も【トリック・デーモン】の効果は1ターンに1度しか使えんがな」

 

「あ、しまった……

1ターンに何度でも使える効果じゃなかったんだ……!」

 

すっかり勘違いしていた聖星は目を見開く。

てっきり何度でも使える効果だと思ったから聖星はバトルフェイズを行わなかったというのに。

冷静になれと自分に言い聞かせた直後にこのような失態を犯すとは。

面白いくらい表情を変えた聖星にタイタンは笑った。

 

「ほぉ。

どうやら小僧、貴様はこのカードが1ターンに複数回発動できると思っていたようだな。

勉強不足だぞ」

 

「くっ……!

(何で勘違いしていたんだよ……!!)」

 

「私はデッキから【デーモンの将星】を手札に加える!

私のターン!」

 

加えられたのは【デーモン】が存在する時特殊召喚出来るレベル6の【デーモンの将星】。

今彼の場にはもう1体の【トリック・デーモン】が存在している。

 

「私は手札から【強欲な壺】を発動。

デッキからカードを2枚ドローする。

私の場に【トリック・デーモン】が存在する事により、手札から【デーモンの将星】を特殊召喚する!

【デーモンの将星】がこの効果で特殊召喚された時、私の場の【デーモン】を破壊する!

当然選択するのは【トリック・デーモン】だ!」

 

「速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動。

墓地に存在する【アルマ】、【グリモ】、【ヒュグロ】を除外し、場のカードを1枚除外する。

俺は【トリック・デーモン】を選択!」

 

【トリック・デーモン】の効果は墓地で発揮する。

だから除外すれば彼が新たなカードを手札に加える事は出来ない。

自分の背後に現れた異世界の入り口に【トリック・デーモン】は驚く。

【デーモンの将星】は先程のように【トリック・デーモン】を握り潰そうとするが、それより先に彼女は異世界へと吸い込まれてしまった。

 

「ちっ。

カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

ゆっくりとカードを引いた聖星。

彼は手札に来たカードを見て顔を歪め、ヨハンを見る。

タイタンのライフは残り1700.

いくら自分より多いとはいえ彼の体の半分以上は消えていた。

聖星の体も半分以上存在せず、自然と今まで以上の焦りが出てくる。

 

「(どうすれば良い?

俺が勝てばヨハンは闇に堕ちる。

けどタイタンが勝てば、あいつはすぐにヨハンを狙う)」

 

何度考えても突破口が見つからない。

自分がヨハンを犠牲にして勝つか、タイタンが勝つか。

今自分の目の前に置かれている選択肢はそれしかなかった。

目を強く握った聖星は両腕を下げて唇を噛みしめた。

すると背中を何かに突かれる。

 

「【スターダスト】……?」

 

「グルルルル……」

 

振り返れば半透明姿の【スターダスト】が聖星を見下ろしていた。

【星態龍】とは異なり人の言葉を話せない彼はただ静かに鳴いているだけ。

だがその黄色の瞳が何かを訴えている事だけは分かった。

聖星は【スターダスト】を見上げながら尋ねる。

 

「……本当?」

 

「グォ」

 

短く返された声。

だが今の聖星には十分すぎた。

 

「俺は【ラメイソン】の効果を発動。

墓地に存在する【グリモの魔導書】をデッキの1番下に戻し、カードを1枚ドローする。

そして【ジュノン】の効果を発動!

墓地の【セフェルの魔導書】を除外し、右側の伏せカードを破壊!」

 

「残念だが外れだ!

罠発動、【デーモンの雄叫び】!

ライフを500支払い、墓地より【デーモンの騎兵】を特殊召喚する!」

 

タイタンのライフがさらに500削られ1200となる。

同じようにヨハンの体も消え【アメジスト・キャット】の悲痛な声が聞こえてきた。

だが今はそちらに目をやる余裕はない。

場に【デーモンの騎兵】が特殊召喚されるとタイタンはデュエルディスクのボタンを押す。

 

「さらに罠カード【激流葬】を発動!

これで私達のモンスターは全て破壊される!」

 

「手札から【トーラの魔導書】を発動!

【ライラ】に罠カードの耐性を付ける!」

 

発動されたカードから怒涛の勢いで多量の水が押し寄せてくる。

【ライラ】は【トーラの魔導書】の英知で身を守る事が出来たが、【ジュノン】達はあっさりと飲み込まれて破壊されてしまった。

 

「だが【デーモンの騎兵】が破壊された事により、私の墓地の【デーモン】が甦る。

特殊召喚【戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン】!!」

 

「グォオオオオ!!!」

 

【激流葬】で荒らされた場に再び現れた【凶皇】。

赤い目を光らせながら聖星を見下ろしている【ジェネシス・デーモン】は玉座に座り、威厳ある姿を見せる。

その攻撃力は3000。

攻撃力1700、しかも守備表示の【ライラ】ではどう考えても勝てる見込みはなかった。

しかし【ジェネシス・デーモン】が現れた事で聖星は自然と笑みを浮かべてしまった。

 

「何を笑っている?」

 

「何って、ただ勝利を確信しただけさ」

 

「何?」

 

「今貴方の手札は0。

場には【ジェネシス・デーモン】のみ。

これで確信しない方がおかしい」

 

見たところ彼のデッキは【デーモン】デッキ。

だが直接攻撃を防ぐ【バトル・フェーダー】や【クリボー】が入っている可能性もある。

しかし今タイタンの手札は0.

それらのカードは握っていない事は明らかだ。

【天使の施し】で墓地に捨てられたカードも【ジェネシス・デーモン】と【トリック・デーモン】。

【ネクロ・ガードナー】等を心配する必要性もない。

 

「ほう。

私に勝つと?

つまり貴様はあの小僧の命より自分の命をとったという事か。

薄情な小僧だな」

 

先程まで自分の命と友の命を天秤にかけ、苦悩していた聖星。

それが突然吹っ切れ自分の命を取った。

少なくともタイタンにはそう映った。

 

「とる?

俺は別にヨハンを見捨てるつもりなんて一切ないけど」

 

「何?」

 

敵からの問いかけに聖星は微笑んだ。

この場に恐ろしい程似合わない優しい笑みだ。

その笑みにタイタンは何故か背筋が凍ってしまう。

 

「さっきあんたは言ったね。

【スターダスト】が邪魔になるかもしれないって。

その予感は正しかった。

なんたって【スターダスト】は光を司るドラゴンだからな」

 

「光……

だと……?」

 

「俺は手札から【グリモの魔導書】を発動。

デッキから装備魔法【ネクロの魔導書】を発動する。

そして【ネクロの魔導書】を発動!」

 

パチン、と軽い音が響く。

場に現れたのは1人の女神と魔法使いが描かれている装備魔法。

すると聖星の前に1冊の書物が現れ、勝手に開かれる。

 

「【ネクロの魔導書】は俺の手札に存在する【魔導書】を見せ、墓地に存在する魔法使い族を1体除外する。

俺はレベル3の【魔導召喚士テンペル】を除外する」

 

聖星が見せたのは【魔導書の神判】。

普段なら最初に発動するはずだが、このターンで発動する必要性はないと感じたのだろう。

 

「そしてこのカードを装備させ、墓地からチューナーモンスター【エフェクト・ヴェーラー】を特殊召喚する!」

 

「チューナーモンスター!?」

 

「何だ、そのモンスターは!?」

 

書物のとあるページから光が溢れ出し、その中から1人の女性モンスターが現れた。

羽衣のようなものを纏っている彼女は大きな瞳を見せ、聖星を守るように前に出る。

見た事も聞いた事もないモンスターの登場。

だがヨハンとタイタン、この場にいる殆どがチューナーという単語に驚いた。

 

「卑怯者に教える義理はない」

 

説明を求めるタイタンの言葉を一刀両断した聖星。

彼はそのままカード処理を続ける。

 

「【ネクロの魔導書】で蘇った魔法使い族は除外した魔法使い族のレベル分、レベルがアップする。

【エフェクト・ヴェーラー】のレベルは1。

【テンペル】は3。

よって彼女のレベルは4となる」

 

「レベルだと?

ふん。

攻撃力ならともかくレベルを上げてどうする気だ?」

 

「この闇を消し去る光の化身を呼ぶための布石さ」

 

「む?」

 

布石という言葉にタイタンは怪訝そうな表情を浮かべる。

このターン聖星はまだ通常召喚を終えていない。

今彼の場には魔法使い族モンスターが2体存在する。

そのモンスターを生贄召喚するために呼んだというのなら分かるが、先程の答え方ではレベルも関係しているように思えて仕方がない。

自分が知っている限りレベルが関係するカードを思い浮かべるが、どうもしっくり来るカードがない。

聖星はタイタンの考えを知ってか知らずか声を張り上げる。

 

「レベル4の【ライトロード・マジシャンライラ】にレベル4となった【エフェクト・ヴェーラー】をチューニング!」

 

「「チューニング!?」」

 

羽衣を纏う【エフェクト・ヴェーラー】は目を閉じて4つの輪と白い星となる。

そのまま彼女は【ライラ】を取り囲んだ。

守備表示だった【ライラ】はカードの絵柄のように両手を広げ、自分の周りにいる星々を受け止める。

 

「星々の命を翼に宿す白銀の竜よ、一筋の閃光となり、世界を駆けろ!

シンクロ召喚!」

 

快晴の空を突き抜けるほどの緑色の光が放たれ、光は空に浮かぶ雲を突き抜けて昇っていく。

それと共に鋭い風が吹き荒れ聖星の髪は激しく揺れる。

しかしそんな事気にもせず聖星は光の中で脈動を打つモンスターの名を高らかに叫んだ。

 

「玲瓏たる輝き、【閃珖竜スターダスト】!」

 

名を呼ばれた【スターダスト】は己の両翼をゆっくりと広げ、光の中から現れる。

緑の光はゆっくりと真っ白な光へと変わっていき、白銀とも純白ともとれる【スターダスト】の姿をさらに神秘的に見せた。

【スターダスト】が現れた途端フィールド外を覆っていた闇がゆっくりと晴れていく。

 

「これが【スターダスト】……

なんて暖かい光なんだ……」

 

闇に体を食われているヨハンは体中の苦しさを忘れて【スターダスト】を見上げた。

【スターダスト】は黄色の瞳で聖星を見下ろしながら小さく鳴いた。

 

「グォオ!」

 

光を纏った【スターダスト】は自分の目の前にいる【ジェネシス・デーモン】とその主であるタイタンを睨み付けた。

当のタイタンは仮面越しの目を大きく見開き、何度も口を開けたり閉じたりする。

混乱している頭をやっとの思いで整理し、自分の言葉を吐き出した。

 

「し、シンクロ召喚だと!?

それにチューナー…………

そんな召喚法など聞いた事もない!

小僧、貴様一体何者だ!?」

 

自分が知っている限り、この世にある召喚法は生贄、融合、儀式の三種類。

効果モンスターで特殊な特性を持っているのはスピリットとユニオン程度。

チューナーなど聞いた事もない。

それなのに聖星はそれ以外の召喚法と特性を使った。

未知なる存在への恐怖を覚え、聖星に怒鳴った。

 

「不動聖星。

三幻魔の復活を阻止するお前の敵だ。

それで充分だろう」

 

そう断言した聖星は【スターダスト】を見上げる。

小さく頷いた【スターダスト】は構えた。

 

「行け、【スターダスト】!」

 

「グォオオオ……」

 

大きく息を吸い込むと口の中に体中から力が集まり、光が集約されていく。

その光景を見ながらタイタンは聖星を見た。

 

「攻撃力2500の【スターダスト】で攻撃力3000の【ジェネシス・デーモン】を攻撃だと!?」

 

「その答えはこれさ!

手札から【オネスト】を発動!」

 

勢いよく手札から発動したモンスター効果。

それには1体の天使族モンスターが描かれ、力強い表情で前を向いている。

すると【スターダスト】の翼が七色に輝く羽となり輝きが強くなる。

 

「光属性が戦闘を行う時、そのモンスターの攻撃力に相手モンスターの攻撃力を加える!

これで【スターダスト】の攻撃力は5500だ!」

 

「なっ、5500!?」

 

攻撃力3000を2500に加えるなど、タイタンへのダメージはダイレクトアタックそのもの。

残りのライフ1200など一瞬で消し去る事が出来る。

 

「オオオオオ!!!」

 

流星閃撃(シューティング・ブラスト)!!!」

 

虹の翼を背負った【スターダスト】は光線を放ち、【ジェネシス・デーモン】を貫く。

聖なる光を浴びた【ジェネシス・デーモン】はどろどろと溶けていき地面へと崩れ落ちていった。

その光はタイタンにも向かっていき、彼の体を一瞬で包み込んだ。

 

「グッ、ガッ…………!!」

 

僅かに聞こえてくるタイタンの声。

同時に彼のライフが0になり、ヨハンの体の消滅速度が速くなっていく。

聖星はすぐにヨハンに振り返り【スターダスト】に叫ぶ。

 

「【スターダスト】!」

 

【スターダスト】の翼は元に戻るがそのまま口を開け、光を放つ。

その光がヨハンを包み込み、彼の肉体を貪っていた闇は一瞬で消滅した。

魔物達の悲鳴が聞こえたが気にも留めずヨハンの元へ走り寄る。

 

「ヨハン、大丈夫か!?」

 

「あぁ……

俺は平気だ」

 

膝を着いているヨハンは元に戻った体を確認し、聖星や【宝玉獣】達に目をやる。

皆相当心配していたようで【アメジスト・キャット】など涙目だ。

もう大丈夫だと言うように笑ったヨハンは【ルビー】達の頭を順番に撫でる。

そんなヨハン達を見て聖星は微笑み、タイタンに振り返った。

 

「タイタン。

三幻魔に関する情報を持っているなら今すぐ教えろ。

そうすれば【スターダスト】の力を使って、貴方をこの闇から解放する」

 

「この闇、から……?」

 

「あぁ。

【スターダスト】にはそれが出来る力がある」

 

本来ならタイタンは既に闇に飲み込まれている。

だが【スターダスト】の光の力のおかげだろう。

彼はまだそこに存在した。

しかしそれが後どれ程持つのか聖星には分からない。

目の前の男は聖星が欲している情報を持っているため、命を助ける代わりに情報を要求した。

 

「……三幻魔とは日本のデュエルアカデミアの地下に眠っている3枚のカードの事を指す」

 

「え?」

 

デュエルモンスターズは世界的に人気なゲームであり、プロデュエリストを育成するアカデミアは数多く存在する。

しかし、日本のアカデミアとなるとあそこしかない。

一気に激しくなった鼓動から目を背け、ゆっくりと尋ねた。

 

「日本のアカデミア?

何で……?

何であそこに三幻魔のカードが眠っているんだよ!?」

 

「それは私にもわからない。

だが、近々あの男は三幻魔を手に入れるためセブンスターズを使い、デュエルアカデミアに闇のデュエルを仕掛けるだろう」

 

「くっ!!」

 

セブンスターズ。

恐らくそれが敵の名前だろう。

しかし今は素直にその情報が手に入ったことを喜ぶ事が出来なかった。

デュエルアカデミアで闇のデュエルが行われるかもしれない。

アカデミアにいる仲間の事を思い浮かべながら聖星は顔を伏せた。

その時だ。

 

「シンクロ召喚。

未知なる召喚方。

そして光を司るドラゴン。

…………野放しにするのは危険すぎる」

 

「え?」

 

一気に低くなったタイタンの声。

周りの温度も低くなったような気がして聖星は顔を上げた。

同時にタイタンも顔を上げ、顔に血管が浮き上がり狂気に歪んだ顔を見せる。

纏っている闇の力は強くなり聖星に襲い掛かった。

 

「貴様はこのまま闇に喰われろ!!」

 

「なっ!」

 

「聖星っ!!」

 

増幅した闇は聖星に襲い掛かり、彼を飲み込もうとする。

ヨハンは声を張り上げ、聖星に向かって手を伸ばす。

しかし彼の手が届く前に飲み込まれてしまった。

声を失ったヨハンは血の気が引き、現実を否定するかのようにゆっくりと首を左右に振る。

 

「……愚かな」

 

すると聖星の声が聞こえ、彼の周りを取り囲んでいた闇が一瞬で消し飛ばされる。

【スターダスト】がヨハンの闇を祓った時のように魔物の悲鳴が聞こえ、彼は淡い光に包まれていた。

 

「なっ、弾かれただと!?」

 

「凄い……」

 

「…………あぁ。

何と愚かな事か」

 

「聖星?」

 

微かに聞こえてきた言葉にヨハンは恐る恐る名前を呼ぶ。

先程の言葉といい、今の言葉といい聖星はそんな風には喋らない。

呼ばれた聖星はそれに応えず、ただ目の前にいる愚か者に冷たい眼差しを向ける。

 

「偽りの闇を語り、闇に食われ、それだけではなく竜の子を闇に誘うなど愚かと言わずなんと言う」

 

聖星の声と誰かの声が重なり2つの声がこの空間に響く。

しかしこの場で言葉を発しているのはヨハンに背を向けている聖星だけだ。

それなのにもう1つの声も聖星から聞こえてくる。

理解が追い付かないヨハンはただ聖星を見るだけだ。

 

「闇に堕ちた戦士よ、いや、戦士の名さえも貴様には相応しくない。

人間よ、今貴様が闇に誘ったこの子供は我が叡智を受け継ぎ、かの禍を鎮めるため神の加護を受けし竜の子!」

 

「竜の子だと……?」

 

「見るが良い、我らが神の怒りを!」

 

手を高く上げた聖星。

すると闇の向こう側で何かが蠢いている。

【スターダスト】と同じくらいの大きさを持つ何かと、彼らとは比べ物にならないほど巨大な何かだ。

巨大な何かは体をうねらせながら目を光らせる。

 

「貴様は触れてはならぬ怒りに触れた。

光を司る竜の力により、裁きを下したいのは山々だが折角の闇のデュエルだ。

敗者らしく再び闇に堕ちるが良い」

 

「嫌だ……

嫌だっ、またあの世界に行くなど……!!」

 

2つの声の言葉にタイタンは顔色を変え、その場に膝を着いてうろたえ始める。

だが今となっては後の祭り。

最初は助けようとした聖星だが今はそんな気など一切ないようだ。

タイタンの足は沼のようになりゆっくりと沈んでいく。

 

「そんな、嘘だ……!

助けて、誰かっ!

助けてくれぇえええ!!!」

 

必死に聖星に向かって手を伸ばすタイタン。

足元の沼は意思があるかのように獲物を取り込んだ。

その光景にヨハンは目をそらし、耳も塞ぎたかった。

 

「…………恨むのなら闇を語った己の無知を恨め」

 

獲物を飲み込んだ沼は跡形もなくなり、もうそこには存在しない者に向かって呟く。

 

「虹の加護を受けし少年よ。

怖い思いをさせてしまったな」

 

突然話しかけられたヨハンは驚いたのか肩を跳ねさせる。

しかしすぐに真剣な表情となって怖気づかず聖星に、いや、聖星に乗り移っている誰かに尋ねた。

 

「あんた、聖星じゃないな……

一体何者なんだ?」

 

タイタンとのやり取りを見る限り敵ではないようだ。

しかしいくら精霊と交友があるヨハンでもこのような事態は生まれて初めてだ。

警戒しても仕方がないだろう。

低い声で尋ねられた言葉に聖星は振り返り、黄色の瞳でヨハンを見る。

そして笑ったと思ったら膝から崩れ落ちた。

 

「聖星!?」

 

糸が切れたかのように倒れた聖星にヨハンは叫び、慌てて近寄る。

顔は蒼白になり冷や汗もかいている。

どう見ても良い状態ではない。

ヨハンは舌打ちをして、聖星を背負った。

 

**

 

ぼやける視界。

だんだんと焦点が合い始めたのか目の前に広がる世界がはっきりと映しだされる。

目に入ってくる天井が自分の知らない物だと分かると聖星は不思議そうな表情をし、上半身を起こそうとした。

だが思うように力が入らず、上手く起こせない。

 

「やっと目が覚めたか、聖星!」

 

「あれ、ヨハン……

ここ……

誰の部屋?」

 

「俺の部屋だ。

聖星、デュエルの後何かに憑りつかれて倒れたんだぜ」

 

「え?

憑りつかれた?」

 

聖星は記憶の糸をたどって自分がどこまで覚えているのか思い出す。

言われてみればタイタンからアカデミアに三幻魔が眠っている情報を聞き出した以降の記憶がない。

どういう事だと考えていると【星態龍】が姿を現す。

 

「恐らくあれは星竜王だ」

 

「星竜王?」

 

「星竜王はお前に三幻魔の復活の阻止を依頼した。

そのお前が闇に飲み込まれそうになったから一時的にお前の体を乗っ取り、闇を祓ったのだろう。

現に聖星、体が思うように動かないはずだ」

 

「そうなのか聖星?」

 

「少し重いなぁとは思ったけど。

言われてみればあまり動かないかな」

 

これ程の疲労感はインフルエンザに罹った時以降だろう。

あの時の気怠さに何となく似ている。

明日の授業にはきちんと参加できるかどうか、そしてペガサスに三幻魔の事を報告できるようになるか心配した。

 

「(アカデミアの地下に三幻魔が……

これは留学を止めて早く戻った方が良いな)」

 

なんだかんだでアークティック校の生活を楽しんでいた聖星。

紹介してくれたペガサス、受け入れてくれた校長先生、そしてここの友人達に心の中で詫びながらため息をつく。

するとヨハンが眉間に皺を寄せた状態で自分を見下ろしているのに気が付いた。

 

「ヨハン?」

 

ベッドに横たわっている聖星は首を傾げて名前を呼ぶ。

ヨハンは聖星の目の色が元の緑色に戻っている事を確認し、真剣な表情で尋ねた。

 

「聖星。

星竜王や【スターダスト】って一体何の事だ?

それにチューナーモンスターにシンクロ召喚。

そんな召喚法、俺は一度も聞いた事もない」

 

「(やっぱり聞いてくるよな)」

 

闇のデュエルで何かあった時のためと、今回は精霊の力が宿る【閃珖竜スターダスト】と【星態龍】のカードを入れてデュエルした。

ヨハンの目の前でシンクロ召喚してしまう可能性も出てしまったが安全には代えられない。

彼自身ペガサスと繋がりがあるのでシンクロ召喚の事を知っても正式に発表されるまで黙ってくれると思っていた。

しかし星竜王に関しては完璧な誤算である。

 

「ヨハン達は星の民について知ってる?」

 

「いや、知らない」

 

「南米アンデス山脈に存在した民族の事だ。

その神の英知を全て掌握し、神と崇める竜の星に祈りを捧げ、民を導くのが星竜王」

 

石版の中で聞いた星竜王の事をゆっくりと話す聖星。

ヨハンの周りにはいつの間にか【宝玉獣】達も姿を現し、聖星の言葉に耳を傾けている。

 

「今から3000年前、この世界に三幻魔という凶悪な精霊が現れた。

彼らは精霊の命を吸収しながら暴れまわったんだ。

そこで星竜王は神と崇める竜の星に祈りを捧げる事で神の化身である赤き竜を召喚し、三幻魔を封印する事に成功した」

 

「赤き竜……」

 

聖星が星竜王に乗っ取られている間、闇の向こう側で蠢いていた影。

確かに最も巨大な存在は赤い光を放っていた。

あれが聖星のいう神なのだろう。

 

「けど三幻魔の封印を誰かが解こうとしている。

星竜王は俺に封印を守るように依頼して来た。

【スターダスト】は三幻魔に対抗するため星竜王から授かった精霊なんだ」

 

重い体を起こしながら聖星はデュエルディスクに手を伸ばす。

融合デッキから【閃珖竜スターダスト】のカードを取り出し、ヨハンに渡した。

手渡されたカードを見たヨハン達はその姿に思わず声を漏らす。

 

「これがシンクロモンスター……

【スターダスト】に似合っているな」

 

「だろう?」

 

「で、このシンクロモンスターっていうのは?」

 

「今インダストリアルイリュージョン社で極秘に開発されている新たな召喚法に必要なカードさ」

 

「新たなシステム!?」

 

「あぁ」

 

それから聖星はシンクロ召喚の方法。

必要なチューナーモンスターの事。

自分自身がシンクロ召喚プロジェクトとデュエルディスク開発のアドバイザーである事をヨハンに話した。

それを聞いている間のヨハンは本当に子供のように目を輝かせていた。

先程まで闇のデュエルで傷ついていたはずなのにまるで嘘のようだ。

輝く瞳を向けられながら説明を終えるとヨハンは表情を一変させゆっくりと告げる。

 

「聖星。

俺も日本のアカデミアに行く」

 

「え?」

 

突然言われた言葉に聖星は思わず聞き返した。

先程も言った通りこれは聖星が星竜王に頼まれた事でヨハンには一切関係がない。

 

「ヨハン。

これから日本のアカデミアは闇のデュエリスト達が襲撃してくる。

そこに留学するって事はどういう意味か分かって言っているのか?」

 

「当たり前だろう。

三幻魔が復活すれば精霊達が危ない。

それに友達のお前が1人で危険な目に遭うかもしれないんだ。

こんなところでのんびりとデュエルなんて出来るわけないぜ」

 

「駄目だ。

ヨハンの気持ちは嬉しい。

俺には【スターダスト】達がいるから闇の力なんてそんなに脅威じゃない。

けどヨハンは違うだろう?」

 

「確かにそうだ。

だがお前が止めても俺は行くからな」

 

力強い声で断言したヨハン。

聖星は上手く言葉が返せず絶句してしまう。

どんどん頭が痛くなっていくような気がして仕方がない。

痛む頭を押さえながらどうしようかと考える。

 

END

 




中二?
大好物ですがなにか?
星竜王の意思も聖星が負けて闇に飲み込まれるのなら助けないでしょうけど、今回はタイタンが負けたくせに仕掛けてきましたからね。
ヨハンを賭けた不条理なデュエル。
ああいう闇のデュエルも出来るような気がするんだ。


わーい、変なフラグが立っちゃったよー(棒読み)
アニメ沿いって何だっけ?
いやタグにオリジナル展開有って書いてあるからセーフか?
あれ、これヨハンが参戦したらセブンスターズ編カオスだ。


そういえば万丈目グループがアカデミアを買収しようとした話がありましたよね。
買収関連でシンクロ召喚に関する契約を万丈目グループが独占しようとする、っていう案が浮かんだんですけど…
そもそもペガサス会長が万丈目グループをまともに相手にするだろうかと思って止めた。
社長のように風変りではないはずだし。
いや、だがペガサスだってデュエリストだ。
デュエルで決着をつけると言われたら聖星に頼んでデュエルするのか?


それにしても次の制限リストが凄い事になりましたね。
うわぁ~
【羽箒】なんて持ってねーよ。
【現世と冥界の逆転】はあるからまだ良しとしよう。
だが【羽箒】、エラッタせずに帰ってくるとは何事だ。


映画も相棒と社長メインのようですし、ちょっと楽しみです。
他の世代のキャラも出ないかな~
十代とかジムとか遊星とか遊馬とかベクターとか出ないかな~


次回はセブンスターズ編突入です。
さて、誰をダークネスと戦わせるか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

セブンスターズ編
第二十四話 7つの鍵と選ばれし者達


「あ~!

取巻、神楽坂、いい加減にしてくれよ~!」

 

「何を言っている。

ここで放り投げたらまた赤点だぞ」

 

「ただでさえオシリスレッドなんだ。

進級できなくなったらどうする!?」

 

「んなの進級テスト間近で十分じゃねぇか」

 

「今の段階で逃げ回っている奴が間近になって机に向かえるか!?」

 

オシリスレッドの食堂。

お昼の時間はとうに過ぎているというのに、そこには複数の生徒達がいた。

その中には教科書とノートを広げ、逃げないよう十代を壁に追い込む取巻と神楽坂もいる。

少し離れた席でその光景を見守っている万丈目は怪訝そうな顔をして隼人、三沢、翔に尋ねた。

 

「おい……

あれは本当に取巻か?」

 

「あぁ」

 

「そうなんだな」

 

「あれじゃあ兄貴のお母さんっす」

 

今にも匙を投げそうな十代を取巻が必死に面倒を見ている。

翔の言葉に内心で同意しながら万丈目は遅い昼食を食べる。

流石はレッド寮というべきか、お坊ちゃんの万丈目には合わないようだ。

普段ならあまりの不味さに舌打ちしているところだが今は取巻の変わりっぷりに驚いている。

 

「君と一緒にいた頃の彼はあんなふうに誰かの面倒はみなかったのか?」

 

「あの時あいつと関わりがあったのはオベリスクブルーが殆どだぞ。

あそこまで世話を焼くような奴なんていなかった」

 

オベリスクブルーは仮にもエリートが集まるところだ。

それなりに勉強はできたし、誰かの面倒を見るといってもあそこまで熱を入れる必要はなかった。

きっと取巻があそこまで力んでいるのは十代がバカで逃げようとするからだろう。

意外な面があったものだと思いながら水を飲みほす。

 

「あ、こら、逃げるな遊城!」

 

「三沢、翔、隼人、万丈目~!

助けてくれ~!」

 

「ふん、自業自得だ」

 

目の前に並んでいる文字に十代は頭を抱え、今すぐ逃げ出したいと叫んだ。

しかしここで逃がしてしまえば十代の成績がさらに下がってしまう。

これでは進級できるかも不安だ。

頭を抱えたい取巻達は十代を無理矢理座らせ、次に進める。

すると食堂の扉が開き、皆はそこに立っている人物の姿に驚いた。

 

「聖星!?」

 

「聖星君!?」

 

「久しぶり、皆」

 

そこにいたのは私服姿の聖星で片手にはキャリーバックを持っている。

数週間ぶりの再会に十代達は自然と聖星の周りに集まった。

 

「何だ不動。

お前、いつ帰って来たんだ?」

 

「ついさっきの船でな。

皆元気そうで良かった」

 

「ははっ、元気に決まってるだろう!

そういうお前はまだ目元に隈があるなぁ。

ちゃんと寝てるのかよ?」

 

「この隈は寝不足ではなく環境が変わったためのストレスと主張させて」

 

十代からの問いかけに聖星は苦笑で返す。

今は暖かい季節だが彼が留学したのは真冬の国。

しかも周りは殆ど馴染のないヨーロッパの人々なのだ。

季節の変化はまだ耐えられるとして、人との接し方は意外とストレスが溜まるのだろう。

 

「ところで十代。

さっき外で聞いていたんだけど、君、ちゃんと勉強してた?」

 

「ギクッ!」

 

わざとらしく首を傾げると十代の顔が一変する。

見る見るうちに青くなっていく十代に聖星は更に怖い笑みを浮かべた。

冷や汗がだらだらと流れる友人にトドメをさすように取巻はある物を取り出す。

 

「不動、これがこいつの小テストの結果だ」

 

手渡された1枚のテスト用紙。

そこに記されている点数に聖星は笑みを消した。

そのまま十代を見るが、彼は慌てて目を逸らすだけ。

 

「取巻。

次のテストっていつだっけ?」

 

「5日後だ」

 

「5日か……

ちょっときついな。

俺の分もあるけど、でも神楽坂と取巻も手伝ってくれるのならなんとかなるかな……

翔、隼人。

暫く十代は俺の部屋で預かるけど問題ないよな?」

 

「勿論っす」

 

「俺も同じ意見なんだな」

 

「なっ、マジかよ!?」

 

「文句を言うな」

 

前回の月一テストはなんとか平均点ぎりぎりだった。

神楽坂も手伝ってくれるし、この調子で頑張れば平均点を超える事も可能だろう。

そう思っていたのにまさかこんなに下がるとは思わなかった。

十代の意見など無視して同居している翔と隼人と話をつける。

 

「じゃあ俺はこれから校長先生に挨拶してくるから、また後でレッド寮に寄るよ。

それまで十代は荷物を纏めておいてくれ」

 

「やっぱし勉強……?」

 

「勉強」

 

「勉強よりデュエルしようぜ~」

 

久しぶりに会えたというのにデュエルではなく勉強など。

駄々をこねるかのように文句を言う十代を無視し、食堂から出ようとする。

しかしすぐに振り返って不思議そうに尋ねた。

 

「…………っていうか、どうして万丈目がいるんだ?」

 

「今更か貴様!」

 

「あ、ごめん。

十代への説教が先かと思って」

 

**

 

鮫島校長へ報告も終わり、十代達も各寮に帰った。

1人になった部屋でベッドに横たわった聖星はPCの電源を入れる。

すぐにメーカーのロゴが現れ、使いたいアプリを起動させる。

PCの向こう側に存在する友人に今から通話して良いか尋ねると、OKという文字が返ってくる。

 

「あ、もしもし。

ヨハン?

あぁ、今日アカデミアについた。

…………連絡が遅い?

ごめん、ごめん。

しょうがないだろう、すぐに校長室に行って留学の報告書を出してその後は友達と会っていたんだ」

 

その後は十代の学力がどれほど下がったのか確かめたり、取巻、神楽坂と自分の3人でどうやって次のテストを乗り越えるか頭を捻ったりした。

聖星の言葉にヨハンは納得したような表情を浮かべ、幾つか言葉を交わす。

 

「それでヨハンはいつこっちに来るんだ?」

 

「それがなぁ……

どれ程頼んでも校長が許可を出してくれないんだよ」

 

シンクロ召喚、【閃珖竜スターダスト】、星竜王、三幻魔がもたらす混沌。

聖星と共に闇のデュエルを体験し、三幻魔がアカデミアに眠っているとヨハンは知ってしまった。

だから彼は聖星と共に三幻魔の復活を阻止するため、日本のアカデミアに留学すると言っていたのだが…………

 

「今度姉妹校とのデュエル大会があって、俺はアークティック校の看板だから今は止めてくれって。

デュエル大会なんて2日で終わるんだから、その日だけ戻るって言っても譲ってくれないんだぜ」

 

三幻魔の事を素直に話すわけにはいかず、アカデミアへの留学理由は世界を見てみたいというもの。

何も知らない校長が大事なイベントの目前に看板に留学を許すわけがない。

面倒な時期に被ったものだとヨハンは頭を抱える。

画面に映るヨハンの様子に聖星は心の中で呟いた。

 

「(デュエル大会も理由かもしれないけど、俺がペガサスさんに圧力かけるようにお願いしたから当然だな)」

 

頬杖をつきながら笑みを浮かべる聖星は数日前の事を思い出す。

今のようにPCの画面にはペガサスの姿が映り、ヨハンが留学しないよう頼み込んだ。

当然ペガサスはすぐに応じなかった。

 

「何故アンデルセンボーイの留学に反対なのデ~ス?

彼らの実力なら貴方の力になりマ~ス」

 

「それは分かっています。

けど俺はヨハンに危険な目に遭ってほしくないんです」

 

「ですが三幻魔の問題は世界規模の話になりマ~ス。

ユー1人に立ち向かわせるわけにはいきまセ~ン。

味方は多い方がいいでショウ」

 

以前、世界が滅亡の危機に瀕した時決闘王である武藤遊戯、城之内克也やその仲間が必死に戦った。

彼らの優しさ、互いを思う友情。

それが悪しき力に打ち勝ち世界は滅亡を回避する事が出来た。

それを知っているからこそ、聖星が1人で立ち向かう事に反対なのだ。

 

「確かに俺1人では重荷かもしれません。

ヨハンが俺の事を想っている事はとても嬉しい事です。

だからこそ関係のない友達を巻き込みたくないんです」

 

「ユーは誰かを頼るという事が苦手なようデ~ス。

いや、失う事を恐れているというべきでショウ…………」

 

「確かにそうですね…………」

 

ペガサスの言葉に聖星は顔を伏せてあの戦いを思い出した。

ナッシュが見せた鉄男やアンナ達が消えゆく姿。

映像越しで光となっていく後輩達にあの時は足元が崩れ落ちそうだった。

それでも遊馬達に情報を届けようと、Ⅳの言葉に背中を押され、あの街を走った。

瞳に宿る感情にペガサスは険しい表情を浮かべ、再び問いかける。

 

「アンデルセンボーイはセブンスターズに狙われていマ~ス。

今後も彼を狙ってくるかもしれまセ~ン。

そしてアンデルセンボーイはシンクロ召喚と星竜王の良き理解者デ~ス。

それなのに彼の留学に反対しますカ?」

 

「はい」

 

彼は関係者ではないといえば関係者ではない。

しかし、関係があるといえば関係がある。

微妙な立ち位置の彼を傍におかなくても大丈夫か。

真剣な眼差しのペガサスに聖星は強い意志で返す。

 

「…………オーケー、この件に関してはミーに任せてくだサ~イ。

暫く彼には月行達の中から誰か護衛をつけマ~ス」

 

「ありがとうございます、ペガサスさん」

 

渋々納得してくれた彼に聖星は安堵の笑みを浮かべる。

こうしてヨハンが日本に来ないよう裏で手を引いてくれたのだ。

今は表立っては行動していないがヨハンの周りに誰かいるだろう。

それに気づいていないヨハンは真顔で言う。

「こうなったら校長にデュエルを挑むしかないな」

 

「ヨハン。

流石にそれは駄目だろう」

 

今のヨハンなら校長先生相手でも勝てるような気がする。

それだけ彼の目は真剣そのものだった。

 

**

 

久しぶりに受ける日本の授業に聖星は懐かしみを覚えながらペンを走らせる。

大徳寺先生の言葉をすぐにノートに記しているとチャイムが鳴り響いた。

やっとお昼休憩かと思い背伸びをすると眠っていた十代が起き上がるのが目に入る。

どうやら十代は子供騙しともいえるお面を被って居眠りをしていたようだ。

トメさんに作ってもらった弁当箱を持ち、聖星が座っている席に来ようとする十代に大徳寺が声をかける。

 

「あ~、遊城十代君。

お昼はちょっと待つのだにゃ。

私と一緒に校長室に来て欲しいんだにゃ」

 

「え、俺?」

 

弁当を片手に持っている十代はまさかの名指しに固まる。

呼び出しを受けるにしても校長室だ。

十代はあんな所に行くような事をした覚えはない。

何故だと首をひねると翔と隼人が顔を青くする。

 

「十代、お前…………」

 

「兄貴、校長室っすよ。

まさか退学とか…………」

 

「いや、そんな覚えなんてねぇよ」

 

「はははは。

貴様とは短い付き合いだったがどうやらここでさよならのようだな、十代」

 

「万丈目君、貴方も来てください」

 

「何ぃ!?」

 

同じレッド寮の万丈目はフン、と十代をバカにしたように笑う。

しかし彼自身も名指しされ目を見開いた。

2人にはある種の因縁のようなものがある。

もしかするとそれに関する事だろうか。

そう考えていると大徳寺先生は聖星達にも目をやった。

 

「それから三沢君に聖星君、明日香さんも」

 

「え?」

 

名前を呼ばれた聖星は隣に座っている三沢と目を合わせ、神楽坂も不思議そうな表情を浮かべていた。

ブルー寮の席を見れば取巻も目を見開いている。

 

**

 

生徒達の好奇な目に晒されながら、5人は大徳寺先生の後をついていく。

お昼ご飯を待てと言われた十代は少し不満そうに尋ねた。

 

「何で呼ばれたのさ」

 

「さぁ。

それは分かりませんにゃ」

 

大徳寺先生も呼ばれた理由を知らされていない。

一体どんな理由なのだろう。

 

「なぁ聖星。

お前、何で俺達が呼ばれたと思う?」

 

「どう思うって、難しいな……

ここにいるメンバーの共通点って特にないし。

明日香、俺がいない間に何かした?」

 

「するわけないでしょう」

 

「だよな~」

 

所属する寮もバラバラ。

特に共通する部分といえば全員1年生とアカデミア内での実力者という事実だけ。

もしかすると何かイベントがあるのかもしれない。

すると反対方向からクロノス教諭とカイザーがやってきた。

 

「そうそうたる顔ぶれです~ノ。

貴方達も校長に呼ばれたのです~カ?」

 

視線で何か心当たりがあるかカイザーに問うてみたが、彼は首を横に振るだけ。

どうやらカイザーにも心当たりはないようだ。

 

「ティラミスふぅみ。

これは間違い探しです~ノ?

1人だけ仲間はずれがいるのーネ」

 

「気にすんなよ、サンダー」

 

「お前だ!」

 

「サンダー?」

 

「ノース校にいた頃、万丈目はそう呼ばれてたんだとよ」

 

「ふ~ん」

 

アカデミアを退学したはずの万丈目がここにいる理由はある程度聞いた。

ノース校のキングとして君臨していた彼は下の者達からサンダーと慕われていたようである。

何故そのような渾名になったのか是非聞いてみたいものだ。

 

**

 

「三幻魔のカード?」

 

「っ!?」

 

校長室に通された8人は彼の口から放たれた言葉に聖星以外首をかしげる。

予想通りの反応に校長は真面目な顔をして言葉を続けた。

 

「そうです。

この島に封印されている、古より伝わる伝説のカード。

そもそもこの学園はそのカードが封印された場所の上に建っているのです」

 

「「えぇ!?」」

 

「学園の地下深くに三幻魔のカードは眠っています。

島の伝説によるとそのカードが放たれるとき世界は魔に包まれ、混沌が蔓延り、人々に巣食う闇が解放され、やがて世界は破滅し、飢えと帰す。

それ程の力を秘めたカードだと伝えられています…………」

 

「破滅…………」

 

三沢の呟きに皆は互いに目をやった。

いくら自分達がデュエルを学んでいるといっても、所詮はカード。

様々な曰くつきの神のカードならともかく、神の名を持たないカードが世界を破滅に導くなど想像出来ないのだ。

これも想定済みなのか鮫島校長はさらに続けた。

 

「そのカードの封印を解こうと、挑戦してきた者達が現れたのです」

 

「一体、誰が?」

 

「七精門。

セブンスターズと呼ばれる7人のデュエリストです。

全くの謎に包まれた7人ですが、もうすでにその1人がこの島に……」

 

「なっ!?」

 

既に敵の1人がアカデミアに潜入している。

明日香の誘拐の件でこの学園の警備体制が変わったため、部外者がそう簡単に侵入できるとは考えられない。

つまり相手はかなりの実力者という事になる。

鮫島校長は机の上に1つのケースを取り出し、それの中身を見せる。

 

「これがその7つの鍵です」

 

ケースに収められていたのは1枚のパズルのように組まれている7つの鍵。

パズルのピースのように複雑な形を持っているそれは謎の模様が描かれている。

 

「そこで貴方達にこの7つの鍵を守っていただきたい」

 

「守るって、どうやって……」

 

「勿論、デュエルです」

 

「デュエル!?」

 

古から三幻魔の伝説が伝わっているように、その復活を阻止する儀式の方法も伝わっている。

その方法がデュエルなのだ。

当然、世界を守るために守護者は強者である事が条件となる。

 

「だからこそ学園内でも屈指のデュエリストである貴方達を呼んだのです。

この7つの鍵を持つデュエリストに彼らは挑んできます」

 

この場にいるのは8人。

そのうちの7人がこの鍵を持ち、セブンスターズと名乗る連中と戦わなければいけないのだ。

話の大きさに皆が互いの顔を見ようとする前に聖星が鮫島校長の前に出た。

 

「鮫島校長。

その7つの鍵は俺に託してくれませんか?」

 

「聖星君?」

 

「聖星、何言ってんだよお前?」

 

まさかの頼みに真っ先に反応したのは十代だ。

十代はこの話に対して面白そうな事だという印象しか持たなかった。

だから安易に鍵に手を伸ばそうとしたが、聖星があまりにも恐ろしい表情だったので驚いた。

誰よりも事情を理解している鮫島校長は聖星を真っ直ぐ見上げながら言葉を返す。

 

「聖星君。

今説明した通り、敵は7人。

確かに君は丸藤君を倒した実力者です。

だからといって君1人に任せるわけにはいきません」

 

「では鮫島校長。

三幻魔は遠い昔に封印されたと仰いましたが、誰が封印したかご存知でしょうか?」

 

瞬間、鮫島校長の表情が変わる。

目を見開いた彼はすぐに頭を切り替え、慎重に言葉を選ぶ。

 

「まさか聖星君、君は封印した人物をご存じなのですか?」

 

「はい」

 

強く頷いた聖星は自分の前にある鍵を見下ろし、言葉を続けた。

 

「今から3000年前、三幻魔はこの世界に現れました。

鮫島校長が仰るとおり、三幻魔の出現でこの世界は混沌に陥り、数多くの命が失われました」

 

その時、南米アンデス山脈に存在した星の民の指導者、星竜王が神と崇める竜の星に祈りを捧げ、神の化身である赤き竜を召喚した。

召喚された赤き竜は下部達と共に三幻魔と戦い、封印に成功した。

 

「今、インダストリアルイリュージョン社にその当時を記した石板があります。

その石板には星竜王の意思が宿り、俺はその意思に三幻魔の復活を阻止して欲しいと頼まれました」

 

「なっ……!」

 

驚きの声を上げる鮫島校長。

まさか自分の学園の生徒に三幻魔と関わりのある人間が生徒として存在していたなど、思いもよらなかったのだろう。

しかもインダストリアルイリュージョン社の名前が出たという事は、ペガサスもこの事を知っている可能性がある。

聖星の言葉に様々な事を考慮しながら鮫島校長は口を閉ざす。

 

「これは俺の仕事です。

ですから校長、その7つの鍵は全て俺に任せてください。

お願いします」

 

「赤き竜に星竜王……

突拍子すぎて信じられない話ですね」

 

「信じられないのは百も承知しています」

 

鮫島校長もある人からこの島の伝説を聞かされた。

初めはそんな夢物語を語るその人物が正気なのかと疑った。

だが彼の真剣さから本当の事だと悟り、今に至る。

そんな鮫島校長でも聖星の言葉は実に信じがたかった。

だが三幻魔の存在を信じるのなら、彼のいう赤き竜も信じざるを得ない。

 

「聖星君、君の言いたい事は分かりました。

しかし…………

こう言っては何ですが、仮に君1人に7つの鍵を預けた場合、7人のデュエリスト達は君だけを狙います。

もし君が敗れた場合、どうするつもりですか?」

 

この鍵を賭けて行われるデュエル。

1度敗北すればもしかすると全ての鍵が奪われるかもしれない。

そうなってしまえば封印が解かれ、世界は混沌へと陥ってしまう。

尤もな意見に聖星は別の事を提案する。

 

「でしたらプロデュエリスト6人に鍵の守護を依頼してください。

そもそも三幻魔の復活を阻止する守護者を生徒達から選ぶ時点でおかしいです。

俺やクロノス教諭、大徳寺先生はともかく、世界の運命を背負うには皆は幼すぎます」

 

「何だ貴様。

俺達を子ども扱いか?」

 

「よく考えてくれ、万丈目。

今、皆は人類の未来を背負ってくれって校長に頼まれているんだ。

これがどれ程重大な事か分かるだろう?」

 

世界を混沌にし、飢えに帰す力を持つ三幻魔が放たれたら人類がどうなるかは簡単に想像できる。

聖星の言う通り、今十代達は人類の未来を無自覚のうちに背負おうとしているのだ。

 

「私達が…………」

 

「人類の未来を…………」

 

明日香と三沢が聖星の言葉を繰り返す。

そして今自分達が置かれている立場がどのような事なのか考える。

授業でやるようなお遊びではない。

華やかな舞台で繰り広げる競技ではない。

静かに動揺が広がるのを感じながら聖星はさらに言葉を続ける。

 

「それに俺はアークティック校に留学中、セブンスターズの1人と戦いました」

 

「何だって!

本当かよ聖星!?」

 

「あぁ」

 

「既に接触していたのですか…………」

 

小さく頷いた聖星はタイタンの名を伏せて語る。

ヨーロッパで起こった無差別デュエリスト襲撃事件。

犠牲者全てが意識不明という事に気味悪さを覚え、友人と調査した。

 

「犯人はセブンスターズの1人。

奴はセブンスターズのメンバーの候補者をテストと称して襲っていた。

留学先で出来た友達もその候補者だった」

 

「なっ!?」

 

聖星はセブンスターズと戦ったと言い、友人が候補者だった。

カイザーは念のため皆の心を代弁するかのように尋ねる。

 

「聖星、その友達は…………

まさか…………」

 

「安心してください、丸藤先輩。

勿論無事ですよ。

今は護衛がついています」

 

もしその友人がセブンスターズの1人になっていたら聖星には辛い戦いになるはず。

無事だという言葉にカイザーは安堵したかのように息を吐く。

聖星はカイザーから再び鮫島校長に向かいその時の事を語る。

 

「その時のデュエルはただのデュエルではありません。

ダメージが実体化し、敗者は闇の世界に引き込まれる闇のデュエルでした」

 

「闇のデュエル?」

 

聖星が口にした言葉に鮫島校長の顔が強張る。

流石はデュエルの学園を任されている者、噂ぐらいは耳にしているのだろう。

それはこの場にいる生徒達も同じで十代も思い当たる事があるのか聖星の背中を凝視する。

 

「信じないの~ネ。

そんなもの、ただの迷信で~ス。

きっと妙な催眠術にかかってダメージが実体化したと貴方が勘違いしたに決まってま~ス」

 

ふん、と鼻息荒く断言したクロノス教諭には目もくれず聖星は鮫島校長だけを見る。

彼らが闇のデュエルを否定したって別にかまわない。

今は優先すべき事は、鮫島校長がこの鍵の守護者を生徒ではなく、もっと腕が立つ者に変えるように説得する事。

 

「校長、俺、やります」

 

「え?」

 

背後から聞こえた十代の声に聖星は振り返る。

十代は驚いている聖星など放っておき、ケースの中に入っている鍵を1つ手に取った。

まさかの行動に聖星は十代の手を掴む。

 

「十代。

君、何をしているんだ?」

 

「何って、この鍵を守ってくれっていう話、受けただけだぜ」

 

「そうじゃない。

この鍵を守るっていう事は、闇のデュエルをするって事だ。

それを君は…………」

 

「分かってるって」

 

聖星の手を払いのけた十代は鍵を首から下げる。

自分の胸元にぶら下がっている鍵を握った十代は笑った。

 

「つまりとんでもなくすげぇカードが学園の地下に眠っていて、俺達は強い連中からそのカードを守ればいいんだろう。

おもしれぇじゃねぇか」

 

「十代、面白いって……」

 

「何だよ聖星。

そんなに俺が信用できねぇのか」

 

「そういう問題じゃないだろう」

 

「心配すんなって。

俺は決闘王になる男だぜ。

人類の未来の1つや2つ、守ってみせるさ」

 

事態を軽く見ているとしか思えず、同時にあまりにも無責任すぎる発言に聖星は言い返そうとする。

それより先にカイザーが鍵に手を伸ばした。

 

「丸藤先輩!」

 

遂に声を荒げた後輩にカイザーは鍵を首に下げ、彼と向き合う。

焦りの色を覗かせる緑色の瞳を見下ろしながらカイザーはデュエルの時以上に真剣な顔で話す。

 

「聖星、君の忠告は受け取った。

君が俺達をこの戦いから遠ざけようとしている気持ちもよくわかる」

 

「っ…………」

 

「確かに俺は君に言われるまでスケールが大きすぎて、事の重大さに気づく事が出来なかった。

カイザーと呼ばれていても俺はまだまだ未熟者だ。

そんな自分に人類の未来を背負えるのか考えてみた」

 

例えパーフェクトと呼ばれようと、カイザーという名で呼ばれようと自分だってまだ子供。

学園内屈指の強者であろうと人類の未来を背負う事は怖い。

誰よりも頭の良い彼はこの場にいる誰よりも深く考え抜いた。

 

「結果、背負えるという結論を出した。

だから俺はこの鍵を取ったにすぎない。

皆はどうだ?」

 

振り返ったカイザーは皆に尋ねる。

辞退しても軽蔑はしない、臆病者とはいわない。

共に戦おうとする者は快く受け入れよう。

だからといって見栄を張り、安易な考えで鍵を手にする事は許さない。

カイザーの言葉に明日香は顔を上げ、前に一歩踏み出す。

 

「私もその話、引き受けます」

 

「僕も引き受けます」

 

「フン。

ま、学園復帰早々、この万丈目サンダーの名を轟かせるには十分だろう」

 

次々に鍵を手に取る同級生達。

その表情には先程あった困惑はなかった。

 

「三幻魔だか、赤き竜だか私には理解不能です~ガ。

教育者として自分がどうすべきなのかは分かっていま~ス」

 

そして残った2つのうち1つの鍵をクロノス教諭が手に取る。

生徒達が自ら戦いに挑むというのだ。

教師である自分がどうあるべきか、長年教師をしているクロノス教諭は分かっているのか言い切った。

それぞれ決意を決めた十代達に鮫島校長は微笑んだ。

 

「ありがとうございます、皆さん。

聖星君。

どうやら皆の決心はついたようです」

 

「校長はそれでも良いのですか?

生徒が闇のデュエルの犠牲者になるかもしれないんですよ」

 

「貴方も私の生徒です。

そして私は私の生徒を信じています。

だからこの鍵を貴方達に託そうと思いました」

 

しっかりと前を向いて話す鮫島校長。

もうこれはどれだけ説得しても頷いてくれない顔だ。

彼から十代達に視線を移した聖星は、皆も鮫島校長と同じ顔をしているのに気が付いた。

これ以上自分1人が止めて欲しいと言っても無駄だろう。

そう悟った聖星は諦めたかのように微笑んだ。

 

END




明けましておめでとうござい。
もう2015年だなんて早いですね…
あと3か月もしたら投稿を開始してから1年です。
まだデュエル構成や技術に未熟な面があると思いますがよろしくお願いします。

そして今回はセブンスターズ編の第一話となります。
鍵の守護者の中に取巻も入れる予定だったのですが、そうなったら誰かを外す必要が出てきますし。
大徳寺先生は敵側ですから外す事に抵抗はありませんが、他のメンバーは少し抵抗があったので…

そしてヨハンの留学話。
聖星が思いっきりフラグをへし折っています。
だって鍵の守護者でもないのにアカデミアに来たってこいつ何するの…?という事になりますからね。
ペガサスのお蔭で護衛がついているヨハン。
やったね、闇堕ちフラグはまだへし折られていないよ(白目)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十五話 調整デュエルという名の本気のデュエル

 

「ってなわけで、その鍵を守る事になったのさ」

 

「……おい、現実逃避していいか?」

 

もう少しで完全に青空が紅色に染まる時間帯、デッキ編集をしていた取巻はつい零してしまった。

主力だった【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】が盗まれ戦力が低下し、新たに構築しなおしたが未だに以前のような展開力には至らない。

自分が持っているカードで限界を覚えていた頃、十代から電話がかかってきた。

どうせ宿題を手伝ってくれという頼みだろうと思いながら通話ボタンを押すと頭を抱えたくなるような話が出てきて眩暈がする。

 

「墓守の一族との闇のデュエルが終わって平穏な日々に戻ったと思ったら次はセブンスターズ? 

三幻魔? 

あぁ、何でこの島はオカルトだらけなんだよ、訳が分からない!」

 

「何だよ、楽しいから良いじゃねぇか」

 

「お前はもう少し事態を重く見ろ!」

 

つい力んで机を叩いてしまった取巻。

その音が向こう側にも伝わったようだが十代は相変わらずヘラヘラと笑っている。

しかしその表情はすぐに消えてしまった。

 

「なぁ取巻」

 

「何だ?」

 

「聖星ってさ、いつからあんなものを背負ってたんだろうな」

 

「は?」

 

突然変わってしまった話題に取巻は疑問符を浮かべる。

聖星は十代と同じように鍵の守護者に選ばれた。

画面越しに映るめったに見ない表情に取巻はため息をついた。

 

「俺達は校長からこの鍵を託された……

けど聖星の奴、その前から三幻魔の封印について知っていたらしいんだ」

 

「何だって……?」

 

「三幻魔を封印した奴の魂に復活を阻止するよう頼まれたんだってよ」

 

「不動が?

それ、あいつが直接言ったのか?」

 

「あぁ」

 

「あいつ……」

 

「取巻、お前、闇のデュエルに関わったのってあの時が初めてだろう?」

 

「当たり前だろう。

そう何度もあってたまるか」

 

大徳寺先生が担当している授業の一環で行われた古代遺跡への探検。

取巻は行くつもりはなかったが、十代に誘われて行く事になってしまった。

しかしその場所に行くと自分達は異世界に飛ばされ、墓守の一族と名乗る者達に襲われた。

墓を荒らした罰として共に行動した翔達は棺の中に捕えられ、偶々別の場所に飛ばされた取巻と十代は皆の命を懸けて闇のデュエルをしたのだ。

 

「実はさ、冬休みにも精霊が襲って来たんだ」

 

「なっ!?」

 

「オベリスクブルーの向田達が召喚した【サイコ・ショッカー】が俺と聖星を生贄にしようとしてきてよ。

まぁ、その時俺は聖星に殴られて気絶していたから詳しい事は相棒から聞いた程度しか分からねぇ。

けど、そのデュエルも闇のデュエルだった……」

 

向田を助けるためにデュエルを申し出る自分を止める聖星を臆病と言った。

あの時の十代は向田を助ける事しか頭になく、そのデュエルがどれほど危険なものなのか全く想像しなかった。

けど今なら分かり、何故聖星が気絶させてまで代わろうとしたのか理解できる。

 

「お前の代わりに不動が、か……

確かに不動はここに来る前から闇のデュエルについて知っていた可能性はあるな。

それで、遊城は何をそこまで気に病んでいるんだ?」

 

「気に病むつーか、心配なんだよ。

【サイコ・ショッカー】の時は俺を気絶させて守ろうとしたし、鍵を貰う時も聖星は俺達を遠ざけようとした。

絶対あいつ、俺達を守る為に無茶な事するだろ」

 

「俺からしてみればお前も無茶な部類に入るがな」

 

だが十代の言いたい事も理解はできる。

彼の技術さえあれば、学園内の監視カメラをハッキングし、不審者を誰よりも早く発見する事は可能のはず。

他の鍵の所有者が接触する前に彼1人で片づけようとするかもしれない。

 

「そんなに心配だったら不動の傍にいたらいいだろう。

ついでに勉強も見てもらえばお前の学力も伸びて一石二鳥だ」

 

「うげっ、勉強は勘弁!」

 

明らかに嫌そうな表情をする十代。

そんなに嫌がって勉強から遠ざかり、成績が下がるから聖星が鬼になるのだ。

自分から悪循環の扉を開いているのに理解できていない十代にため息が出る。

 

「あ、そうだ取巻。

パック買ったらドラゴン族が何枚か当たってよ、いるか?」

 

「どんなカードだ?」

 

「実物見たほうが早いって。

じゃあ俺の部屋で待ってるからな」

 

「はぁ!? 

な、おいっ!!」

 

一瞬で暗くなる画面。

一方的に切られた通話に十代の言動に苛立ってくる。

だがこれが遊城十代という男だ。

諦めの境地が見え始めた取巻はデッキケースを手に取り、レッド寮へ向かった。

 

**

 

十代の部屋に並べられたカード達。

それを見ながら睨めっこをしている十代と聖星はあーでもない、こーでもないと言葉を放つ。

 

「とりあえず融合デッキにこの【HERO】達は全部入れておいたほうが良い。

融合デッキに枚数制限はないんだ」

 

「けどよ~、本当に良いのか、こんなにカードを貰ってよ」

 

「セブンスターズは闇のデュエルを仕掛けてくる。

絶対に勝たないといけないデュエルなんだ。

強化できる面は強化しておいた方が良い」

 

2人の間にあるカードは十代のデッキに投入できそうな新たなカード達。

以前聖星と交換しようとしたが、断られてしまったカードだ。

本来ならこの時代、またはこの世界には存在しない【E・HERO】ではあるが事情が事情のため聖星は手渡す事を決めてしまった。

 

「後は丸藤先輩に【サイバー・ドラゴン】関係のカードを渡して……

クロノス教諭には【歯車街】だな。

三沢は汎用性の高いカードとか? 

なぁ十代、万丈目と明日香には何を渡せば良いと思う?」

 

「聖星っさ、何気に俺達に対して過保護だよな」

 

「え、そう?」

 

「おう」

 

「……取りあえず、どうして不動がここにいるんだ?」

 

「取巻君を呼んだ理由とほぼ同じっすよ」

 

「十代、ドラゴン族だけじゃなく魔法使い族も当てたんだな」

 

「で、それを聞いた聖星君が丁度良いって事で兄貴にレアカードを渡そうとしているっす」

 

サイバー犯罪者を逆探知したり、監視カメラの映像をハッキングしたりした時には見せなかった表情を浮かべる聖星。

あの時の彼はただ息を吸うかのような自然な表情だった。

しかし今の彼は十代の勉強を見ている時以上に真剣で、傍から見れば少し怖い。

闇のデュエルを経験した取巻として聖星の警戒心は理解できる。

あんな苦痛で精神的にかなりまいってしまうデュエルなら心に余裕を持つため、強いカードを投入して安心したい。

 

「お、取巻、やっと来たか」

 

「やっとって、レッド寮まで何分かかると思ってるんだ」

 

靴を脱いで部屋に上がった取巻はその場で胡坐をかく。

2人と同じように並べられているカードを見下ろし、聖星に顔を向けた。

 

「不動、お前……

これをタダで渡す気か?」

 

「十代から魔法使い族7枚くらい貰うから、7枚渡そうって言ってるだけ。

トレードだよ、トレード」

 

「7対7でも釣り合ってないぞ!」

 

「だろ!?」

 

並べられているのは持っている属性を指定している融合モンスター4枚。

そして【E・HERO】の専用カード達。

十代が渡そうとしている魔法使い族も見せてもらったが釣り合っているとは思えない。

 

「神楽坂の時も思ったが、お前変なところで感覚がずれているな」

 

「おう、俺もそう思う」

 

取巻の言葉に十代は深く頷く。

言われている聖星としては神楽坂の時はともかく、今は命懸けの闇のデュエルをする目前だ。

デッキを強化し十代達が傷つく可能性が下がるのなら喜んで渡すつもりだ。

 

「お、そうだ。

ほら、取巻、渡そうと思ったドラゴン族のカード」

 

「悪い、俺も一応戦士族関連のカードを持ってきた」

 

「マジか、どんなカードだ?」

 

「そんなたいした物じゃないさ」

 

取巻からカードを受け取った十代はカードをさっそく並べる。

翔達も顔を覗き込み、どんなカードを持ってきたのか見てみる。

 

「んで、取巻。

お前はそれでトレードしても大丈夫か? 

俺はオーケーだぜ」

 

「あぁ、構わない」

 

「んじゃ、トレード成立って事で」

 

互いに新たなカードを手にした3人はその場でデッキを広げて構築し直す。

特に聖星は十代のデッキ構築に熱を入れ、自分のデッキ構築は後回しにしている。

 

「なぁ、聖星。

お前はデッキを見直さなくて良いのかよ」

 

「あぁ。

セブンスターズとの戦いは丸藤先輩とのデュエルで使うデッキに少しカードを入れ替えものだけで行くつもりだ。

今更見直すつもりなんてないさ」

 

入学して以来、この学園ではカイザーにしか使わなかった全力の【魔導書】デッキ。

【サイコ・ショッカー】の時のように窮地に陥らないためにもあのデッキで戦うしかない。

今まで1度もあのデッキと戦った事のない十代は若干セブンスターズが羨ましかった。

 

「だったら不動、後で遊城のデッキの回り具合を見るためにその【魔導書】デッキでデュエルしてみたらどうだ?」

 

「え?」

 

「お、ナイスアイディアだぜ取巻! 

聖星、これが終わったらすぐにデュエルな!」

 

「……それもそうだな」

 

まさかの提案に聖星は困った表情を浮かべたが、全力のデッキとデュエルして実力を見るのも悪くはない。

あのデッキとのデュエルで一方的に負けるようだったらまた構築し直さなくてはならない。

いつ攻めてくるか分からない以上、早いうちに確認しておいた方が良い。

もし全力のデッキと互角と戦う事が出来れば、聖星自身ある程度安心はできる。

 

「つ、ついにお兄さん以外の人があのインチキデッキとデュエルするんすね」

 

「翔、インチキは聖星に失礼なんだな」

 

「だって手札が0枚になったと思ったら6枚に増えてるんだよ! 

しかも3ターン連続!

インチキって言わずになんて言うんだよ、隼人君!」

 

「……翔、否定はしないけど地味に傷つくから止めてくれない?」

 

背後で断言している同級生に苦笑を浮かべてしまう。

中学時代を思い出してしまったが、あの時と比べたら断然マシな言い方だ。

少し遠い目をしている聖星を見ながら取巻は呟いた。

 

「俺からしてみればそんなカードを使わずに一気に手札を増やす遊城の存在自体がインチキだけどな」

 

「へへっ、運も実力のうちっていうだろう!」

 

**

 

デッキ編集を終え、夕食を食べずに聖星達は外に出た。

別に調整くらい卓上デュエルで十分じゃないか、と思ったが十代曰く「お前の全力との初戦が卓上デュエルなんて地味すぎるだろ!」らしい。

セブンスターズの事なんて頭の中からすっぽり抜け、ただ早くデュエルしたいと訴える十代に聖星は微笑んだ。

あのデッキを何度も目にしているのに、こんな風に接してくれるのは純粋に嬉しい。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は俺だぜ、ドロー! 

俺は【E・HEROエアーアン】を召喚!」

 

「はっ!」

 

デュエルディスクから光が発せられ、鋼の翼を持つヒーローが召喚される。

デッキにピン差しだというのに初手にそのカードを握っているとは流石十代。

 

「【エアーマン】は召喚した時、デッキから【HERO】を手札に加える事が出来る。

俺は【E・HEROフェザーマン】を手札に加えるぜ。

カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

十代の場には攻撃力1800の【エアーマン】に伏せカードが2枚。

先攻1ターン目としては良い布陣だろう。

カードをドローした聖星は加わったカードを見てみる。

 

「俺は【魔導教士システィ】を攻撃表示で召喚。

魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

【グリモの魔導書】はデッキから【魔導書】と名の付くカードを手札に加える魔法カード。

俺は【魔導書の神判】を手札に加え、ターンエンド」

 

「は?

もう終わりかよ?」

 

「手札が悪かったんだ。

けど、【システィ】の効果は発動させてもらう。

【システィ】の効果発動!

【魔導書】と名の付く魔法カードが発動されたターンのエンドフェイズ時、彼女は次元を超え、デッキから新たな【魔導書】とレベル5以上の闇または光の魔法使いを手札に加える。

俺は【グリモの魔導書】と【魔導法士ジュノン】を手札に加える」

 

珍しいものを見た気分だ。

対戦している十代も、観客となっている取巻達も同じことを思った。

普段の聖星のデュエルならもっと【魔導書】を発動し、デッキを圧縮するはず。

それなのに今回聖星が使用したカードはたったの2枚。

手札の枚数は今7枚となり、制限を超えてしまったがそれさえも彼は滅多な事ではしない。

 

「俺は手札から【魔導召喚士テンペル】を墓地に送り、手札を6枚にする。

さ、十代。

君のターンだ」

 

「普段のお前だったら場に【バテル】や【ゲーテの魔導書】が伏せてあるんだけど、今回はそれがねぇのか……

手札に【速攻のかかし】がいるとか?」

 

「さぁ。

それは攻撃してからのお楽しみ」

 

「違いねぇ。

行くぜ! 俺のターン、ドロー!」

 

手札を増やした十代は改めて聖星の場を見る。

彼の手札の枚数は6枚、場にカードは1枚も存在しない。

ここで十代が新たなモンスターを召喚し、ダイレクトアタックを決めてしまえばあっさりと勝負はついてしまう。

しかし聖星がそう簡単に攻撃を通すわけはないと経験上知っており、どうやって防ぐのか十代は楽しみにしている。

口元に弧を描いた十代は手札の魔法カードを使うんだ。

 

「俺は手札から魔法カード【融合】を発動! 

手札の【フェザーマン】と【バーストレディ】を融合し……

マイフェイバリット、カード! 【E・HEROフレイム・ウィングマン】を融合召喚!」

 

「ふんっ!」

 

炎と風を味方につける英雄が互いに合わさり、更なる英雄へとパワーアップする。

大きな翼を広げ、十代の前に立った【フレイム・ウィングマン】は腕を組みながらがら空きの場を見つめる。

 

「行くぜ、【フレイム・ウィングマン】! 

聖星にダイレクトアタック!」

 

攻撃力の高い【フレイム・ウィングマン】が先に大地から飛び立ち、聖星に向かって蹴りを入れようとする。

向かってくる攻撃に聖星は何かをしようとする動きがない。

それを不審に思いながら十代は叫んだ。

 

「フレイムシュート!」

 

「たぁ!」

 

「うっ!!」

 

「あ! 

聖星君、まともに受けちゃったっす!」

 

「これで聖星のライフは1900。

【エアーマン】の攻撃を受けたらライフは後100なんだな!」

 

デュエルディスクから発せられる電子音と共に聖星のライフが1900まで減っていく。

その様子に翔達は驚きを隠しきれない。

まさか先程聖星の言う通り、手札が悪かったのか。

十代は怪訝そうな表情を浮かべながらも次の攻撃を宣言しようとした。

 

「え?」

 

【フレイム・ウィングマン】が場に戻ると同時に聖星の足元から白煙が上がる。

じょじょに白煙は聖星の姿を隠し、そう思えば金属同士が擦り合うような音が聞こえ、何やら周りの温度が下がった気がする。

何かが起こったと悟った十代はすぐに不敵な笑みを浮かべ、白煙の向こう側に存在する何かを凝視する。

 

「特殊召喚、【冥府の使者ゴーズ】、【冥府の使者カイエン】」

 

聖星がカード名を宣言すると同時に煙は一瞬で晴れ、そこには巨大なゴーグルで目元を隠す男性と鎧のようなものに身を纏う女剣士が膝を着いていた

2人は身を屈めて地に膝を着きながらも、十代達を牽制するかのように武器を構えている。

 

「何なんすか、あのモンスター!?」

 

「初めて見るカードなんだな……」

 

「不動の場にカードはなかったのに、どういうことだ?」

 

身に着ける鎧、漂わせる雰囲気。

それら全てを考えて上級レベルのモンスターだと言うのは分かる。

だが何故それらが守備表示で特殊召喚されたのか理解できなかった。

 

「【冥府の使者ゴーズ】は俺の場にカードが存在せず、ダメージを受けた時手札から特殊召喚出来るモンスターなんだ。

今俺の場にカードは0。

よって特殊召喚の条件はクリアしている」

 

「だからお前、カードを場に出さなかったのか……

カイザーとのデュエルでも使った事のないモンスター、すげぇ、ワクワクしてきたぜ!」

 

「丸藤先輩が相手だったら【ゴーズ】より【速攻のかかし】や【一時休戦】の方が安心できるからな」

 

聖星の言葉に皆はカイザーとのデュエルを思い出す。

【ゴーズ】の特殊召喚の条件が、場ががら空きの状態でダメージを受ける事なら、カイザー相手にそれは無意味な事だ。

聖星を相手にしている時のカイザーは【パワー・ボンド】で【サイバー・エンド・ドラゴン】達の攻撃力を2倍にし、1度にライフを削りに来ている。

この程度の攻撃力ならまだライフポイントは大丈夫だと油断していると【リミッター解除】が発動される事も……

 

「そして【ゴーズ】は受けたダメージの種類によって新たな効果を発揮する。

効果ダメージなら受けたダメージと同じ数値分を十代に与える。

けど戦闘ダメージだった場合、【フレイム・ウィングマン】の攻撃力の数値と同じ攻撃力、守備力を持つ【カイエントークン】を特殊召喚するのさ」

 

「だから1度に2体も出てきたのか! 

って事は【カイエン】の攻撃力、守備力は2100で……【ゴーズ】の守備力は2500か……

攻撃できねぇな」

 

「【エアーマン】の攻撃力は1800。

仮に十代が攻撃しても反射ダメージを受けるだけなんだな」

 

「【スカイスクレイパー】があれば攻撃力を1000ポイント上げて、破壊する事は出来たんだがな」

 

「けど、どうして聖星君は【ゴーズ】と【カイエン】を守備表示で特殊召喚したんすか?

兄貴の場で攻撃できるのは攻撃力1800の【エアーマン】しか存在しないんすよ。

別に攻撃表示でもよかったんじゃないの?」

 

膝を着きながら十代のフィールドを見ている男女は間違いなく守備表示。

【ゴーズ】の攻撃力は2700、【カイエン】は2100と【エアーマン】より高い数値だ。

十代の場に攻撃力の高いモンスターがいるのならわかるが、いないのに守備表示で出す理由が理解できない。

翔の言葉に聖星は微笑みながら解説する。

 

「コントロールを奪われても大丈夫なように守備表示にしたんだ。

十代のデッキに相手モンスターのコントロールを奪うカードは少ないっていうのは分かっているけど……

攻撃表示の【ゴーズ】のコントロールを奪われて攻撃されると、特殊召喚する時に受けた戦闘ダメージと合わせてライフが0にされるかもしれないだろう」

 

「ふぅ~ん」

 

納得出来たような、出来なかったような微妙な顔を浮かべる翔。

デュエル後に改めて説明するかと思いながら十代に目をやる。

十代からしてみればダメージを与えたが、大型のモンスターが2体も現れ、次のターン反撃されるかもしれない状況。

さて、十代はこの状況をどうするのだろうか。

明らかに楽しんでいる十代に聖星は微笑んだ。

 

「へへっ、攻撃力2700と2100のモンスターか。

良いぜ、俺はこれでターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。

俺は手札から速攻魔法【魔導書の神判】を発動。

このターンのエンドフェイズ時、俺はこのターン発動された魔法カードの枚数までデッキから【魔導書】と名の付く魔法カードを手札に加える。

その後、加えた枚数以下のレベルの魔法使い族モンスターを特殊召喚する」

 

「来たか、【魔導書の神判】!」

 

目の前に現れた速攻魔法に十代はさらに深い笑みを浮かべた。

自分が未だに白星をあげていないカイザー相手に互角に戦う事が可能になる魔法カード。

聖星の全力の代名詞とも言えるカードはずっと十代が対戦してきたいと思っていたものだ。

それがどんな形であれ、こうやって戦う事が出来る。

絶対に勝つ、そう決めた十代は次の一手に構える。

 

「手札に存在する【グリモ】、【セフェル】、【トーラの魔導書】3枚を見せる事で【魔導法士ジュノン】を特殊召喚する!」

 

【ゴーズ】と【カイエン】の間に描かれるピンク色の魔法陣。

次々に魔法の文字が浮かび上がり、それは回転しながら光の柱を生み出す。

轟音と共に現れた光の柱はゆっくりと砕けていき、中から知性を司る女性が現れる。

 

「【ジュノン】の効果発動。

俺の墓地の【グリモの魔導書】を除外する事で十代の場のカードを1枚破壊する。

俺は右側の伏せカードを選択する。閃光の魔導弾(レイ・ジャッジ・ブラスト)!」

 

聖星の勢いのある声に応えるよう【ジュノン】はキレのある動きで書物を広げる。

目的のページを開くと彼女の周りに淡い光が集まりだし、手のひらに魔力が集まる。

ゆっくりと詠唱を始めた彼女は狙いを定め十代の伏せカードを破壊した。

対象となった罠カードは表になり、その姿を晒して粉々に砕ける。

 

「手札から魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【ヒュグロの魔導書】を手札に加える。

そして【セフェルの魔導書】を発動。

このカードは俺の場に魔法使い族が存在する時、このカード以外の【魔導書】を見せる事で、墓地に存在する通常魔法の【魔導書】の効果をコピーする。

俺が見せるのは【ヒュグロの魔導書】で、コピーするのは【グリモの魔導書】だ。

よってデッキから新たな【魔導書】を手札に加える」

 

場に現れたのは【魔導化士マット】が闇に侵されていく場面を描いたコピー能力を持つカード。

禍々しい紫色の光を纏いながら【セフェルの魔導書】は淡い光を纏う【グリモの魔導書】へと変わり、最後にフィールド魔法カードへと変わっていく。

 

「俺はフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を選択し、発動」

 

デュエルディスクを付けている腕を前に出すと、ディスクから光が発せられ海が見える景色は一瞬で変わってしまった。

魔法の文字が浮かび上がり、鋼で出来た魔力の英知を学ぶ図書館のような場所が現れる。

聖星のドローソースの発動に十代は更に鼓動が高鳴った。

 

「手札から【ヒュグロの魔導書】を発動。

【ジュノン】の攻撃力を1000ポイントアップさせる。そして【ゴーズ】と【カイエン】を攻撃表示に変更。

行くぜ、十代。

【ジュノン】で【フレイム・ウィングマン】に攻撃。

女教皇の裁き(ハイプリーステス・ジャッジメント)!!」

 

灼熱の炎のように赤く燃えたぎる英知を授かった【ジュノン】は内側から溢れる力を感じていた。

ゆっくりと目を閉じた【ジュノン】は掌を高く上げ、先程のように魔力を集める。

魔力が彼女の手に集まる事で気流が生まれ、微かに服が靡く。

勢いよく目を開いた【ジュノン】は【フレイム・ウィングマン】に攻撃する。

 

「罠発動、【攻撃の無力化】!」

 

「あ」

 

「悪いな聖星!このターンのバトルは強制終了させてもらうぜ!」

 

【フレイム・ウィングマン】に向かっていく魔力は勢いを落とさずに直進する。

だが彼らを守るように異空間へと繋がる渦が現れ、彼女の魔力はそこに飲み込まれていく。

その光景に【ジュノン】は額に青筋を立て【カイエン】はやれやれと言うように両手を上げた。

 

「あちゃ~、不発か。

じゃあ俺はカードを2枚伏せてターンエンド。

そして【魔導書の神判】の効果が発動する。

俺がこのターン使用した魔法カードは4枚。

よって俺はデッキから【グリモ】、【アルマの魔導書】、【魔導書廊エトワール】を手札に加え、レベル3の【魔導教士システィ】を攻撃表示で特殊召喚する。

【システィ】を除外し、【魔導書の神判】と【魔導法士ジュノン】を手札に加える。

これで終わりだ」

 

「【ゲーテ】はなし、か……

俺のターン、ドロー。

俺は手札から【融合回収】を発動。

融合素材に使用した俺のモンスターと【融合】カードを墓地から手札に戻す」

 

十代の墓地に存在する融合素材モンスターは風を操る英雄と炎を操る英雄の2体。

彼の融合デッキに入っている融合モンスターを思い出し、どちらが加わるのか考えた。

 

「俺は【E・HEROバーストレディ】を選択。

そして魔法カード【融合】を発動! 

場の【エアーマン】と【バーストレディ】を融合させる!」

 

【エアーマン】の隣に現れた【バーストレディ】は凛々しい瞳で【ジュノン】と【カイエン】を見る。

2人の背後にオレンジと青い渦が現れ、2人が吸い込まれると眩しい輝きが放たれ十代のフィールドを照らす。

 

「融合召喚、【E・HERO Great TORNADO】!」

 

「はっ!」

 

荒々しい風を纏いながらマントを翻し【Great TORNADO】はフィールドに降り立つ。

すると彼の足元から風が舞い上がり、聖星の場のモンスターを吹き飛ばそうとする。

【カイエン】と【ゴーズ】は持っている武器を地面に突き刺してその場にとどまり、【ジュノン】は呪文を詠唱して結界を張る。

しかし風の勢いは止まらず、3人を後方に追いやった。

 

「【Great TORNADO】のモンスター効果!

融合召喚に成功した時、相手の攻撃力と守備力を半分にする! 

これでお前のモンスターの攻撃力は下がるぜ!」

 

「半分だから【ジュノン】は1250、【ゴーズ】は1350、【カイエン】は1050……

十代のヒーローを下回ったか」

 

「へへっ、まだ終わらないぜ!

手札から魔法カード【ミラクル・フュージョン】を発動!

墓地の【バーストレディ】と【フェザーマン】を融合し、【E・HEROノヴァマスター】を融合召喚!」

 

墓地に眠り、仲間の活躍を見守っていた【フェザーマン】達が再び場に現れる。

すると地面が裂け始め、地下から炎が湧き上がる。

共に灼熱を纏う男性型のヒーローが登場し、赤い肉体を見せるかのように回転して着地した。

 

「【ノヴァマスター】、兄貴の新しいヒーローっす!」

 

「これで十代の場にも3体の【E・HERO】が揃ったんだな!」

 

「遊城の場には攻撃力2100、2800、2600のモンスター。

不動のライフは残り1900。

これは冗談抜きでやばいんじゃないのか」

 

「バトルだ! 【フレイム・ウィングマン】、【ジュノン】に攻撃だ!」

 

十代は真っ先に聖星のエースである【ジュノン】を指さす。

特殊召喚が成功した以上、【ゴーズ】達は攻撃力1500以下の通常モンスターも同然。

それに対し【ジュノン】は破壊効果を持つ、妥当な判断だろう。

【フレイム・ウィングマン】は自慢の脚力で空高くに飛び上り【ジュノン】に向かって飛び降りる。

 

「罠発動、【和睦の使者】。

このターン、俺のモンスターは破壊されず、ダメージも受けない」

 

「あ~、やっぱし入ってたか、そのカード」

 

「フリーチェーンのカード程使い勝手が良いカードはないだろう」

 

「聖星、【強制脱出装置】もよく使うよな。

お前以外に使ってる奴ってあんまり見ないぜ」

 

「俺としてはどうして使わないのか分からないんだよ」

 

【強制脱出装置】はたった1枚で相手が苦労して召喚したカードを手札に戻し、水の泡にする事が出来る。

発売当初は評価が低いと未来で教わったが、聖星はそんなに低く評価されるような効果とは思っていない。

十代達が手札を3枚消費して特殊召喚した融合モンスターだって何度もデッキに強制退出してもらった事もある。

 

「俺はカード2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。

スタンバイフェイズ時、フィールド魔法【魔導書院ラメイソン】の効果発動」

 

聖星の足元に紫色の歪みが発生し、そこから【グリモの魔導書】が現れる。

 

「俺は【グリモの魔導書】をデッキの1番下に戻し、デッキからカードを1枚ドローする。

手札の【グリモ】、【アルマの魔導書】、【魔導書の神判】を相手に見せる事で【魔導法士ジュノン】を特殊召喚する」

 

「はっ!」

 

「そして永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動。

【魔導書】と名の付く魔法カードが発動する度にこのカードに魔力カウンターを1つ乗せる。

そして俺の魔法使い族はカウンターの数×100ポイント攻撃力をアップ。

さらに速攻魔法【魔導書の神判】を発動。

効果は説明しなくてもいいよな?」

 

「あぁ。大丈夫だぜ!」

 

「俺は【グリモの魔導書】を発動し、デッキから【セフェルの魔導書】をサーチ。

そして手札の【アルマの魔導書】を見せ、【セフェルの魔導書】を発動。

【グリモの魔導書】の効果をコピーする。

俺は【グリモの魔導書】の効果でデッキから【ゲーテの魔導書】をサーチ」

 

十代が記憶している【魔導書】のカードが殆ど聖星の手札、場、墓地に揃った。

しかもフィールドには破壊効果を持つ【ジュノン】が2体と魔力カウンターが3つ乗った【魔導書廊エトワール】が存在する。

一気に攻めてくると分かった十代は気を引き締める。

 

「攻撃力の低い【ジュノン】の効果発動。

墓地の【魔導書の神判】を除外し、【E・HEROノヴァマスター】を破壊!」

 

【ジュノン】はページを開いて呪文を詠唱する。

【Great TORNADO】のせいで攻撃力が下がった彼女を助けるよう、もう1人の【ジュノン】も詠唱を始める。

互いに手を重ねながら続く詠唱の力は1体の時の比ではなく、【ノヴァマスター】を包み込めるほどの魔力を生み出す。

 

「【ジュノン】、閃光の魔導弾(レイ・ジャッジ・ブラスト)!」

 

「はぁあっ!」

 

「くっ、ぐぁ!!」

 

行けぇ!と言うかのように声を張り上げた彼女達が放った魔力は【ノヴァマスター】を直撃する。

体中に電撃が走るような衝撃に【ノヴァマスター】はそのまま爆発して消し飛んでしまった。

 

「墓地の【ヒュグロの魔導書】を除外し、もう1体の【ジュノン】で【Great TORNADO】を破壊。

閃光の魔導弾(レイ・ジャッジ・ブラスト)!」

 

聖星の宣言に2人は互いに目を合わせて頷き、再び詠唱を始める。

自分にも来ると分かった【Great TORNADO】は構えたが、2人はそのまま魔力を放った。

淡い光の攻撃に【Great TORNADO】は爆風の中に姿を消した。

一気に2体のモンスターが消え去った事に2人の【ジュノン】は【カイエン】を交えてハイタッチをする。

【ゴーズ】は親指を立て、【ジュノン】はVサインで返した。

 

「楽しんでいるところ悪いが、ヒーローはそう簡単には退場しないぜ!」

 

「え?」

 

十代の言葉に聖星は怪訝そうな表情をする。

それは【ジュノン】達も同じで、まだ場に残る炎と煙を目を凝らしてみるとそこに【Great TORNADO】が立っていた。

 

「え、どうして?」

 

「俺は罠カード【ボム・ガード】を発動させていたのさ!」

 

「【ボム・ガード】?

確かモンスターの破壊効果を無効にし、俺に500ポイントのダメージを与えるカード……」

 

「そういう事だ」

 

にっ、とVサインをした十代に聖星はつられて微笑んだ。

すると聖星の目の前に手のひらサイズの球体が飛んできて、それが目の前で爆発する。

これで聖星のライフは1400となった。

 

「(……今、俺の手札には【ゲーテの魔導書】がある。

墓地には【セフェルの魔導書】が2枚に【魔導書の神判】が1枚あるから、発動は可能。

問題は十代の伏せカード2枚と【Great TORNADO】に【ゲーテの魔導書】を使う価値があるか、ってところだな)」

 

いつもだったら【ジュノン】の破壊効果は伏せカードを除去する事を優先して使っている聖星。

しかし今回は【ジュノン】達の攻撃力を半分にされたおかげで、相手モンスターを戦闘破壊するのが難しくなってしまった。

だからモンスターを破壊したのに【Great TORNADO】が返ってくるとは思わなかった。

 

「(【魔導書廊エトワール】に乗っている魔力カウンターは3つ。

【ゲーテの魔導書】を発動すれば4つとなり、【ジュノン】の攻撃力は2900となり攻撃力2800の【Great TORNADO】を破壊する事は出来る。

……けど問題は)」

 

【Great TORNADO】の隣に存在する【フレイム・ウィングマン】。

攻撃力は2100で、仮に【ゲーテの魔導書】を発動して魔力カウンターを増やしたとしても攻撃力の低い【ジュノン】は1650。

戦闘破壊出来る数値ではない。

【ゴーズ】と【カイエン】は種族が違うので恩恵を受けることは出来ない。

ここで【Great TORNADO】を攻撃して破壊しても、次のターン【フレイム・ウィングマン】の攻撃で効果ダメージを受けてしまうのは確実。

 

「(あれ、【ゲーテの魔導書】で【フレイム・ウィングマン】の表示形式を変更すれば良いんじゃないのか?)

俺は手札から速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動。俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時発動できる。

墓地に存在する【セフェルの魔導書】2枚を除外し、【フレイム・ウィングマン】を裏側守備表示に変更」

 

「げ!」

 

墓地から現れた2冊の書物はそのまま光の粒子となって消え、同時に【フレイム・ウィングマン】が裏側守備表示となる。

これで新たに魔力カウンターが4つとなり、【ジュノン】達の攻撃力はそれぞれ2900と1650となる。

 

「さらに【アルマの魔導書】を発動。

このカードは除外されている【魔導書】を手札に加える効果を持つ。俺は【グリモの魔導書】を手札に加える」

 

「これで魔力カウンターは5つ。

【ジュノン】の攻撃力は3000と1750か…」

 

【フレイム・ウィングマン】の守備力は1200。

例え【Great TORNADO】の効果で攻撃力を半分まで下げられているとはいえ、十分に破壊出来る数値だ。

【ゴーズ】は好戦的な笑みを浮かべ、両手の関節を鳴らし始めている。

 

「攻撃力3000の【ジュノン】で【E・HERO Great TORNADO】を攻撃。

女教皇の裁き(ハイプリーステス・ジャッジメント)!!」

 

「罠発動、【聖なるバリア-ミラーフォース-】!」

 

「リバースカード、オープン。

速攻魔法【トーラの魔導書】。

攻撃力の高い【ジュノン】に罠カードの耐性をつける。

同時に攻撃力が100ポイントアップ。

これで【ミラフォ】の効果で破壊されるのは攻撃力の低い【ジュノン】と【ゴーズ】、【カイエン】だ」

 

「あぁ、3体には消えてもらうぜ!」

 

【ジュノン】が向けた魔力は目に見えない何かによって弾かれそうになる。

跳ね返ってきそうな自分の力に【ジュノン】は顔を歪めるが、足を踏ん張って声を張り上げ、無理に突破しようとする。

すると光は4つに分断し、それぞれ聖星の場の3体、十代の【Great TORNADO】に降り注いだ。

悲鳴と共に爆発音が聞こえ、十代のライフが3700となった。

 

「メインフェイズ2だ。

手札の【グリモの魔導書】を見せ、墓地に存在するレベル3の【魔導召喚士テンペル】を除外し、装備魔法【ネクロの魔導書】を発動。

墓地に眠る【ジュノン】に【ネクロの魔導書】を装備し、墓地から特殊召喚する」

 

「あれ、墓地から蘇ってきたって事は……」

 

「そう。

もう1度効果が使えるのさ。

【アルマの魔導書】を除外し、【ジュノン】、裏側守備表示モンスターを破壊!」

 

聖星の声に復活したばかりの【ジュノン】は頷き、裏側守備表示のモンスターを攻撃する。

これで十代の場にはモンスターも伏せカードも何もなくなってしまった。

 

「俺はカードを3枚伏せてターンエンド。

【魔導書の神判】の効果でデッキから【トーラ】、【アルマ】、【グリモの魔導書】を手札に加える。

そして加えた枚数が3枚により、レベル3の【魔導教士システィ】を特殊召喚。

【システィ】を除外して【ジュノン】と3枚目の【魔導書の神判】を手札に加える」

 

「3枚目の【魔導書の神判】か……

流石にこれ以上デュエルを長引かせたら辛いだろうな、聖星」

 

「あぁ。

俺のデッキに残り何枚【魔導書】が眠っているか、正直考えたくもないよ」

 

「へへっ。

お前の全力デッキでのデュエルなんだ。

デッキ切れで負けるなんて認めねぇからな」

 

「俺だってそんな負け方ごめんだな」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

十代の場にカードは存在せず、手札は今ドローしたカードのみ。

普通だったら絶望的な状況に諦めるだろうが目の前にいるのは遊城十代。

ピンチになればなるほど力を発揮し、逆転劇を披露する天才肌の少年だ。

どんなカードを引いたのか気になる聖星は楽しそうな表情で十代を見る。

 

「俺は手札から【E・HEROバブルマン】を特殊召喚する!」

 

「引いたのはやっぱりそいつか……」

 

「あぁ。

俺の手札がこのカードだけの時【バブルマン】は特殊召喚出来る。

そして俺の場にカードはない。

よって【バブルマン】の効果でデッキからカードを2枚ドロー!

魔法カード【強欲な壺】を発動! 

デッキからカードを2枚ドローする。

さらに魔法カード【大嵐】を発動!」

 

「え?」

 

「今俺の場に魔法・罠カードは存在しない!

悪いが、破壊されるのはお前のカードだけだぜ!」

 

「リバースカード、オープン。

速攻魔法【トーラの魔導書】。

【ジュノン】1体を選択し、魔法カードの耐性をつける」

 

フィールド上に存在する魔法・罠カードは突風に襲われ粉々に砕けようとする。

破壊される前に【トーラの魔導書】は英知を【ジュノン】に託し、光の粒子となる。

他の2枚、【サイクロン】と【神の警告】はあっけなく砕けてしまった。

 

「永続魔法【魔導書廊エトワール】の効果発動。

【エトワール】は破壊された時、乗っている魔力カウンターの数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスターをデッキから手札に加える。

魔力カウンターは7つ。

俺はレベル2の【魔導書士バテル】を手札に加える」

 

「不動のデッキの【ジュノン】は3枚とも場と手札にある。

サーチ出来るのは下級魔法使い族だけだ」

 

「【天使の施し】を発動! 

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てるぜ! 

そして【苦渋の選択】を発動!」

 

「あれ、そのカード入れてたっけ?」

 

「あぁ、ついさっきな。

俺は【E・HEROネクロダークマン】、【クレイマン】、【スパークマン】、【プリズマー】、【ブレイズマン】を選ぶ。

さぁ、聖星! 

1枚選ぶんだ!」

 

「全部【HERO】かぁ。

じゃあ手札に【ミラクル・フュージョン】を握っているのか?」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

十代が【苦渋の選択】の効果で選んだカードは全て【E・HERO】。

この中から聖星が1枚だけ選び、十代はそのカードを手札に加え、残りの4枚を墓地に送らなければならない。

これ程の【HERO】を墓地に送るなど、【ミラクル・フュージョン】で融合しますよと宣言されているような物。

今彼の墓地には炎属性の【ノヴァマスター】、風属性の【Great TORNADO】、場には水属性の【バブルマン】が存在する。

選択されている4枚には闇、地、光属性のモンスターが存在するためどれを選んでも無意味な気がしてくる。

 

「(仮に【ミラクル・フュージョン】を握っているとして、あれは場と墓地の【HERO】しか融合素材に出来ない。

【ネクロダークマン】を加えさせたら場に出すためには【バブルマン】を生贄にしないといけない。

仮に【クレイマン】だったらすぐに場に出る。

光属性は【スパークマン】と【プリズマー】2体を選択されているからどっちを選んでも無駄……

あれ、これはどれを選んでも同じ結末じゃないか?)」

 

どれを選択しても、すべて属性HEROの素材が揃ってしまう未来しか見えない。

非常に厄介な状態だと思いながら聖星はカードを指さす。

 

「じゃあ俺は【クレイマン】を選択」

 

「よし、じゃあ俺は【クレイマン】を加えて残りの4枚を墓地に送るぜ。

魔法カード【ホープ・オブ・フィフス】を発動。

墓地の【フレイム・ウィングマン】、【Great TORNADO】、【ノヴァマスター】、【プリズマー】、【キャプテンゴールド】をデッキに戻し、シャッフル。

そして2枚ドロー」

 

「【キャプテンゴールド】? 

いつそんなカードが墓地に行ったんすか?」

 

「さっき遊城は【天使の施し】を発動しただろう」

 

【E・HEROバブルマン】特殊召喚時、十代の手札は0だった。

ドロー効果使用からの【強欲な壺】、【天使の施し】、【苦渋の選択】、【ホープ・オブ・フィフス】……

【バブルマン】でドロー出来るのは2枚のはず、そして【大嵐】を使用したにもかかわらず十代の手札はまだ3枚もある。

【ホープ・オブ・フィフス】の効果でドローを終えた十代は「お」と呟いた。

 

「【ミラクル・フュージョン】を発動! 

場の【バブルマン】と墓地の【スパークマン】を融合し、【E・HEROアブソリュートZero】を融合召喚!」

 

【バブルマン】の足元に落ちている小石達がゆっくりと浮かび上がると持ったら猛烈な吹雪が吹き荒れる。

舞い上がる雪の結晶は巨大な氷と変わり、その氷の中から光を纏いながら1人の【E・HERO】が現れた。

 

「さらに速攻魔法【瞬間融合】!」

 

「あ」

 

発動された速攻魔法の名前に聖星は小さく声を上げる。

同時に自分が敗北する可能性が大きくなってしまった。

 

「場の【アブソリュートZero】と手札の【クレイマン】を融合し、【E・HEROガイア】を融合召喚する!」

 

気品ある振る舞いをする【Zero】はマントを翻して姿を消す。

すると地面が大きく揺れ、亀裂が入り始めた。

【ノヴァマスター】の時とは異なり、灼熱の炎は出てこなかったが代わりに巨大な肉体を持つ英雄が現れる。

大きな腕を持つ【ガイア】は自慢の腕を振り上げる。

 

「【Zero】の効果発動! 

こいつが場から離れた事で、聖星の場のモンスターを全て破壊する!

それにチェーンして【ガイア】の効果!」

 

十代はチェーン1に【Zero】、チェーン2に【ガイア】の効果を発動した。

逆順処理により先に【ガイア】の効果が発動され、【ガイア】はその腕を振り下ろした。

地震並の揺れが起こり、振り下ろした衝撃により地面が深く抉れていく。

衝撃波はそのまま1体の【ジュノン】に向かっていき、彼女の足元は崩れ、膝を着いてしまった。

 

「これで【ジュノン】の攻撃力は半分になり、その数値分【ガイア】の攻撃力はアップするぜ!」

 

【ジュノン】の攻撃力が1250に下がると同時に【ガイア】の攻撃力は3550まで上昇する。

悔しそうに【ガイア】を見上げた【ジュノン】だが、半透明姿の【Zero】の登場に目を見開く。

【Zero】はそのまま両手から吹雪を出し、2人を氷漬けにし、砕けてしまった

 

「行くぜ! 【E・HEROガイア】でダイレクトアタック! 

コンチネンタルハンマー!」

 

「うわぁあ!」

 

氷の破片となってしまった2体の姿に顔を歪めていると、巨大化した【ガイア】の拳が向かってくる。

反射的に目を閉じた聖星はその拳により薙ぎ払われ、ライフが0になってしまった。

 

「やったぁ、勝ったぜ!」

 

勝敗が決まり、十代は握りこぶしを作って喜んだ。

聖星の全力のデッキに勝てたのだ、喜ぶのは当然の事である。

そんな十代に見守っていた【ハネクリボー】も笑顔を浮かべておめでとうと祝福した。

負けてしまった聖星はいつものように微笑んでおり、立ち上がって十代に近寄った。

 

「おめでとう十代」

 

「おう、ガッチャ。

楽しいデュエルだったぜ、聖星」

 

「それくらいで戦えるなら、セブンスターズが襲ってきてもデュエル面では安心かな」

 

「何だよ、なんか含みのある言い方だな」

 

十代の不思議そうな表情に聖星は微笑んで応える。

闇のデュエルは実際に精神的にも肉体的にもダメージを与えるデュエルだ。

デュエルで優位に立つことは出来たとしても、プレッシャーに押し負けてしまう事もある。

そう答えると十代はつい言ってしまった。

 

「別に平気だって。

この間の墓守の一族との闇のデュエルだって、結構楽しめたんだぜ。

……あ」

 

「……十代、それ、どういう意味だ?」

 

発言と同時に笑顔が凍り付いた聖星。

しまったと言いたくなっても後の祭り。

目が据わっている聖星から顔を逸らした十代は助けを求めるよう取巻を見た。

だが取巻は取巻で翔と隼人と話している。

 

「(あいつ、助ける気ねぇな!)」

 

「十代、怒らないから詳しく教えてくれ」

 

「えっと……

取巻から聞いてくれ! 

俺じゃあ説明下手くそで上手く出来る気しねぇからよ!」

 

「なっ、遊城! 

俺の名前を出すな!」

 

「何だよ! 

お前だって一緒にデュエルしただろう!」

 

「……取巻、君までそういう事に巻き込まれたのかよ」

 

「好きで巻き込まれたわけじゃない!」

 

同情の籠った眼差しで取巻を見ると、彼の怒鳴り声が返ってくる。

確かにあんなデュエル、好き好んで関わりたくはないものだ。

内心頷きながらも詳しく聞くため、十代の首根っこをひっつかんだ。

 

END




ガチ魔導を使った聖星vs十代のお話でした
属性HEROだったらガチ魔導相手でも勝てる気がする、ってか勝つ
【バブルマン】の便利さといったら本当に便利ですね。
【Zero】の素材にもなるし、特殊召喚も出来るし、ドロー出来るし。



アンケートを締めきりました。
今までの文章でも構わないと言う意見があり、改善した方が良いという意見はなかったので今まで通りで執筆していきたいと思います。
ありがとうございました。



追記
【エレメンタル・ミラージュ】で【Great TORNADO】は特殊召喚出来なかったのでアニメ効果版の【ボム・ガード】に差し替えました
十代が【ボム・ガード】を使うのに違和感?
……他によさそうなカードが見つからなかったんやorz


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十六話 Darkness

 

十代を締め上げて闇のデュエルについて詳しく聞き出した聖星は安心した。

故意に危険な事に首を突っ込んだわけでもなく、本当に偶然巻き込まれたようだ。

しかし彼が呑気に「【墓守の長】からもらったんだぜ~」と割れたペンダントを見せてくれた時は一気に血の気が引いたものだ。

つい【星態龍】と【スターダスト】を見たが2体とも警戒している様子はなく、大丈夫だと信じた。

 

「ま、これで何とかなるだろう」

 

「あぁ、組み始めた時と比べたら上達したって」

 

「全戦全敗の俺に向かって言う台詞か?」

 

デッキをシャッフルしている十代と微笑みながらお茶を飲んでいる聖星に取巻は拳が震える。

背後にいる同室の翔と隼人は同情の眼差しを取巻に向けていた。

聖星に勝てた喜びの余り、そのハイテンションさで取巻にも勝負を挑んだ十代。

新しいカードをデッキに入れたのは取巻も同じなので快く受け入れたのだが……

 

「ありえないだろう!

ライフをあと200まで追い込んだのに【強欲な壺】、【天使の施し】、【ホープ・オブ・フィフス】!

【バブルマン】が墓地にいるから油断した!

さっきのデュエルだってライフを100にして場には【スカイスクレイパー】、手札には【融合】、【融合解除】の2枚のみ、【強欲な壺】、【天使の施し】、【天よりの宝札】、【ミラクル・フュージョン】は全部墓地、墓地のモンスターは2体だから【ホープ・オブ・フィフス】も来ないだろうと踏んだら【E‐エマージェンシーコール】!?

【エアーマン】からの【バブルマン】サーチ、はい【Zero】来た!

ふざけんな!」

 

「へへっ、最後にヒーローは勝つってな」

 

「俺はお前のヒーローがダークヒーローにしか見えない……

ヒーローって何だ」

 

机に突っ伏している取巻は恨めしそうに十代を睨み付ける。

すると誰かのPDAが鳴り、皆はその人物に目をやる。

持ち主である聖星はすぐにポケットから取り出し、皆に微笑む。

 

「悪い、ちょっと外す」

 

「誰からだ?」

 

「鮫島校長から。

何でも俺にお客さんだって」

 

すぐにメール画面を閉じた聖星はデッキを片づけ、荷物を取る。

一体彼に客とは誰だろう。

疑問に思った翔は十代達の顔を見る。

それに対し十代と取巻は何となくだが客が誰だか予想がついた。

しかしその客の目的は十代達の想像とは違うものだった。

 

**

 

「夜行さん達が、行方不明……?」

 

客として画面に映し出されたペガサスの言葉に聖星は目を見開いた。

 

「イエ~ス、他にもペガサスミニオンのデプレ、リッチー…

Mr.フランツを含むカードデザイナー達も行方が分からなくなっているのデ~ス」

 

ここ数日、インダストリアルイリュージョン社の関係者が続々と姿を消している。

1人くらいなら事故に巻き込まれたのだろうかと心配したが人数が増えるにつれペガサスや他の幹部、社員達もただ事ではないと気付いた。

すぐに調査に乗り出したが、調査員は誰一人として情報を掴む事が出来なかった。

 

「一体彼等の身に何があったのか、分かりまセ~ン。

バット、夜行が行方不明になった日、共に行動していた月行の言葉でついに事の真相が把握できたのデ~ス」

 

「本当ですか?」

 

社員が次々と行方不明になっているせいで険しい表情だったペガサス。

しかし聖星がそう言葉を発するとさらに眉間に皺が寄ってしまい、まとっている空気が重くなる。

その瞳には何かの迷いがある事を鮫島校長は気づいていたが聖星は気づかず、ただ彼の言葉を待った。

 

「社員達が見つけた時には夜行の姿はどこにもなく、意識がもうろうとしている月行が倒れていたのデ~ス。

月行は最後の力を振り絞り、彼らにこう言いました。

闇のデュエル、と」

 

「え?」

 

まさかの言葉に聖星は耳を疑った。

この場で話を聞いている鮫島校長もまさかの展開に微かに声を零した。

その声が聞こえなかった聖星は震える声で尋ねる。

 

「じゃあ、まさか月行さんは……」

 

「ユーの考えている通りデ~ス。

体に異常はありませんが意識が戻らず、今も病室で眠り続けていマ~ス」

 

間違いない、月行達は闇のデュエルで負けたのだ。

だが何故インダストリアルイリュージョン社の社員達が被害に遭わなければならない。

しかも1人だけではなく立て続けに襲われている。

聖星はその理由に心当たりがあり、ペガサスの瞳を真っ直ぐに見つめながら呟いた。

 

「まさか……

俺がシンクロ召喚を使ったから?」

 

「まだ断定はできまセ~ン。

バット、可能性としてはそれが1番高いようデ~ス」

 

「っ……」

 

ヨハンを救うためにタイタンとのデュエルで【閃珖竜スターダスト】を召喚し、タイタンは再び闇に飲み込まれた。

三幻魔復活を目論むセブンスターズが未知な召喚法、しかも闇をかき消す力を持っている存在を放っておくわけがない。

シンクロ召喚とは一体何なのか、彼らが詮索するのは当然の事。

事の内容に【スターダスト】と【星態龍】はすぐに現れ、聖星を見下ろす。

 

「聖星ボーイ、ユーが気に留める必要はありまセ~ン。

もしユーが【スターダスト】を召喚していなければアンデルセンボーイが敵になっていたかもしれないのデ~ス。

そうなってしまえばユー達は更なる苦戦を強いられてしまっていたはずデ~ス」

 

「はい、分かっています……」

 

だが責任を感じられずにはいられない。

あの時はヨハンを助ける事しか頭の中にはなく、シンクロ召喚をした事で誰かが被害に遭う等全く思い浮かばなかった。

冷静に考えれば分かる事だし、自分がタイタンの立場なら敵の情報を手に入れるために行動するだろう。

 

「セブンスターズは社員達からシンクロ召喚について聞き出し、詳しく知っている可能性がありマ~ス。

今後の戦いはとても厳しいものになるかもしれまセ~ン。

充分気を付けてくだサ~イ」

 

「はい」

 

「そしてシンクロ召喚についてですが……

ユーはこの戦いにおいて【スターダスト】だけを使うつもりなのか聞かせてくだサ~イ」

 

「本音を言うと……

歴史の改変について考えるとシンクロ召喚自体使いたくはありません。

しかし【スターダスト】は三幻魔の復活を阻止するためにここにいます」

 

それにもしかすると今後攻めてくるセブンスターズもヨハンの時のように人質を取るかもしれない。

その時対抗出来るのは肩に乗っている【スターダスト】だけ。

【星態龍】も高位の精霊だからある程度の防御は出来るそうだが【スターダスト】の方が力は強い。

 

「ですから相手の出方によっては【スターダスト】を召喚すると思います」

 

「出来る事なら【スターダスト】の出番がない事を祈りマ~ス。

しかし聖星ボーイ、事態が事態デ~ス。

シンクロ召喚の使用の制限解除を許可しマ~ス。

そしてシンクロ召喚がアカデミアの生徒の大半に知られてしまった時は~、ユーは我が社のテストプレイヤーだと公表しマ~ス。

よろしいですね?」

 

「いえ、それは止めてください。

俺が習った歴史では、シンクロ召喚のテストプレイヤーは俺ではありませんでした。

仮にテストプレイヤーと公表されてしまえば歴史が狂い、俺の未来が消滅するかもしれません」

 

「オ~、そうでした。

では、ユーは個人的にミーとフレンドで【スターダスト】はミーからのスペシャルプレゼントという事にしましょう。

少々無理はありますが、ユーが我が社の最重要機密に関わっているのは事実デ~ス」

 

「……それはそれで面倒事が増えそうな気がするんですけど」

 

十代と取巻はまだ良い。

だがあのペガサスと個人的にやり取り出来るとアカデミアの生徒に知られたら大騒ぎどころの話ではない。

そうなった時は十代と取巻もペガサス、そして遊戯と食事をした事がある事実をばらして同じ苦労を共にさせるか。

等と失礼な事を考えながら聖星は苦笑を浮かべた。

するとペガサスの表情が一変し、彼は黙りはじめる。

微かに誰かの話し声が聞こえ、恐らく部下が何か報告に来たのだろう。

 

「分かりました。

ソーリー、Mr. 鮫島、聖星ボーイ。

急遽用事が入ってしまいました」

 

本当に残念そうに肩を落とすペガサス。

それから別れの言葉を交わし、通信が切れた事を確認した聖星は鮫島校長と向き合う。

彼とも今後の事を話し、校長室から出た。

 

「それにしてもペガサスミリオン達が被害に遭ったか。

奴らは実力者を集め、セブンスターズに引き抜こうとしていた。

もしかするとデプレ達と闇のデュエルをする事もあり得るかもしれないな」

 

「グルルル……」

 

両肩から聞こえる【星態龍】と【スターダスト】の声。

彼の考えに聖星は小さく頷く事しかできなかった。

交流ある者が命懸けのデュエルをするなどやはり心が穏やかになれない。

聖星は周りに誰もいない事を確認し、自分の頬を思いっきり殴った。

 

「グルッ!?」

 

「聖星?」

 

かなり鈍い音が聞こえ【スターダスト】は慌てて聖星の前に回る。

痛む頬を堪えながら聖星はゆっくりと息を吐いた。

 

「大丈夫か?」

 

「あぁ、大丈夫。

少し考えすぎて、気合いを入れるために殴っただけだからさ」

 

「考えすぎ?

ペガサスも言っていただろう。

お前の責任ではないと」

 

「分かってるって」

 

にこっ、と先程自分の頬を殴った事がまるでなかったかのように微笑む聖星。

彼はそのまま背伸びをしてレッド寮に戻ろうとする。

 

「(【星態龍】の言う通りデプレさん達が敵になるかもしれない。

それにセブンスターズがタイタンのように手段を択ばないような連中だったら、アカデミアの生徒全員を人質にするような事だってあり得る。

向こう側から何か動かなければこっちは何もできない……

これじゃあ圧倒的に俺達が不利だ。

セブンスターズの本拠地が分かればこっちから乗り込むのに)」

 

セブンスターズは敵の情報を集める事が容易だ。

しかし聖星達アカデミア側は彼らの情報を集めたくてもそれが容易ではない。

争い事において手に入れている情報の差はかなりの戦力差になる。

これに関してはまたカイザー達と話し合わなければならないと考えをまとめた。

すると【スターダスト】の目つきが鋭くなり、勢いよく駆け出してしまった。

 

「え、【スターダスト】?」

 

「聖星、どうやらお前がいない間に向こう側が仕掛けてきたようだ」

 

「え?」

 

「十代達が危険だ」

 

「何で俺がいない時にっ……!!」

 

**

 

「我が名はダークネス、セブンスターズの1人。

遊城十代。

貴様が私の最初の相手だ」

 

「お、俺が!?」

 

じりじりと肌を焼く不快感。

十代はまだ良いが、隣に立っている明日香はスカートかつ袖がない制服のためかなり辛いはずだ。

足元に広がっている溶岩の泡が弾ける音とこの場の気温、そして圧し掛かってくる重圧に十代は自然と身構えてしまった。

聖星が帰ってくるのを待っていたら突然謎の光に包まれ、何故か部屋を訪れた明日香と一緒にこの火山の真上に飛ばされてしまった。

 

「何故かはわからんが、このペンダントの光に導かれた」

 

そう言ったダークネスは自分の首にぶら下がっている物に触れる。

それは十代が持っている闇のアイテムの片割れであった。

 

「だが欲しいのはその胸に揺れる七精門の鍵。

貴様からそのカギを奪って見せよう、闇のデュエルで」

 

「闇のデュエルだと!?」

 

「そう、闇のデュエルはすでに始まっている」

 

ふっ、と不敵な笑みを零す男を十代は睨み付ける。

するとこの場に自分達を呼ぶ声が響いた。

 

「兄貴~!」

 

「何!?」

 

自分と明日香がいる位置からかなり下の方から聞こえた弟分の声。

慌ててそこに目を向ければ青い結界に閉じ込められているルームメイトと友人の姿があった。

 

「翔、隼人!!」

 

「取巻君!!」

 

「光の壁に守られてはいるがあの檻は時間とともに消滅する」

 

つまりこう言葉を交わしている間にも時は進み、3人は危険に晒されているという事だ。

汚い手口に十代はダークネスを睨み付けて怒鳴る。

 

「ふざけるんじゃねぇ!!

あいつらはこの戦いには関係ない!!」

 

「生半可な事を言うなよ。

七精門の鍵を賭けたこの戦い、貴様には全能力を出し切ってもらう。

これはそのために用意した舞台だ。

さらに……」

 

ダークネスは懐から1枚のカードを取り出す。

文字は書かれてなく、絵柄は漆黒の闇のカードだ。

 

「貴様か私、どちらか負けた方がその魂をこのカードに封印される」

 

いや、魂ではない。

正真正銘命を懸けたデュエルだ。

そう締めくくった男に明日香は頭がついていかず、目の前の事を受け入れる事が難しかった。

 

「これが聖星の言っていた……

本当に現実なの?」

 

「まやかしかもしんねぇ。

だが俺はこんなデュエルを経験した事がある。

そして聖星は俺以上にな」

 

十代は取巻と共に【墓守の長】、【墓守の審神者】と命懸けのデュエルを行った。

あの時ダメージを受けるたびに味わった痛みは嫌でも体に染みついている。

 

「このデュエル、負けられない、絶対に!

勝負だ、ダークネス!」

 

「そうこなくてはな……」

 

「「デュエル!!」」

 

「十代……」

 

「私の先攻だ、ドロー。

私は手札から【仮面竜】を守備表示で召喚。

カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

デッキからカードを引いた十代はダークネスを守るように佇んでいる【仮面竜】を見る。

【仮面竜】は取巻のデッキにも入っており、戦闘で破壊される事でデッキから攻撃力1500以下のドラゴン族を特殊召喚する効果を持つ。

表示形式は指定されていないため、守備表示にモンスターを出す事も可能。

折角自分の場には高レベルモンスターが存在するのに、守備モンスターを連続で出されて戦闘ダメージを与える事が出来なかったなどよくある。

 

「(取巻はデッキから特殊召喚したドラゴンを次のターン、生贄召喚に使っている。

恐らくあいつも同じだろう。

なるべく場には残したくないが、今俺の手札に複数回攻撃できる手段はない。)

俺は【E・HEROワイルドマン】を攻撃表示で召喚!」

 

「はっ!」

 

「行け、【ワイルドマン】!

【仮面竜】に攻撃!」

 

十代の宣言に褐色の肌を持つ【ワイルドマン】は自慢の大剣を振りかざし、【仮面竜】を一刀両断してしまう。

【仮面竜】は悲鳴を上げながら砕け散ってしまうがダークネスは冷静だ。

 

「【仮面竜】の効果発動。

このカードが戦闘で破壊され、墓地に送られた時デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスターを特殊召喚する。

私が特殊召喚するのは【伝説の黒石】だ」

 

「な、なんだ?」

 

砕け散った欠片が一か所に集まり、そこには1つの赤黒く輝く石が現れた。

鈍い光は時々脈打つかのように輝き、この灼熱の地には似合う存在だ。

小さな石のはずなのに妙なプレッシャーを放ち、十代は無意識に汗をぬぐう。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

十代の場に1枚の伏せカードが現れ、彼のターンが終わった。

光の壁に守られている3人は十代からダークネスに視線を移す。

 

「取巻君、君ドラゴン族使いでしょ。

あのカードがどんなカードか知ってる?」

 

「いや、俺でも初めて見るカードだ。

それにしても守備力0……

あれは何かあるな」

 

「十代、きばれ」

 

「私のターンだ」

 

ダークネスの言葉とともに溶岩が弾け、1匹の竜のように立ち上る。

その光景に彼は更に笑みを深めていき、十代を見る。

 

「聞こえる、聞こえてくるぞ。

闇に身を潜め、獲物を狩るべく牙を研ぎ澄ます黒きドラゴン達の鼓動が!」

 

「黒きドラゴン?」

 

「【伝説の黒石】の効果発動!

場に存在するこのカードを生贄に捧げる事でデッキからレベル7以下の【レッドアイズ】を特殊召喚する!」

 

「【レッドアイズ】だと!?」

 

ダークネスが宣言した名前に十代達は目を見開く。

【レッドアイズ】は数十万円以上の価値を持つドラゴン族のカードで有名なのはバトルシティ4位の城之内が持つレアカードだ。

さらに武藤遊戯が海馬瀬人とのデュエルでも使用し、更に値が跳ね上がってしまったカードでもある。

そのおかげで【真紅眼の黒竜】自身だけでなく関連カードまでコレクターズアイテムの仲間入りをし、今では滅多な事では見ない。

 

「炎を纏いし漆黒の竜よ、渦巻く烈火を切り裂き、我が前に降臨せよ!

特殊召喚【真紅眼の黒竜】!!」

 

「ゴォオオオオ!!」

 

ダークネスが高く手を上げると十代達の足元で音を立てていた溶岩が一気に膨れ上がり、粘り気のある溶岩をまき散らしながら漆黒の竜が舞い降りる。

鋭い真紅の瞳に赤い光を反射して輝く黒い皮膚。

口元から覗く銀色の牙も赤色に染まっており、黒きドラゴンの姿をさらに威厳ある姿へと変えている。

目の前に現れた伝説のカードに十代は一気に鼓動が高鳴り自然と笑みを浮かべてしまった。

 

「手札から魔法カード【竜の霊廟】を発動。

デッキからドラゴン族モンスターを1体墓地に送る。

この時送ったモンスターが通常モンスターだった場合、私は更にドラゴン族を墓地に送る事が出来る」

 

「え、デッキからドラゴン族モンスターを?

何で、折角場に【真紅眼の黒竜】がいるんだよ」

 

「デッキ圧縮と墓地からの蘇生、または除外のコストと考えるのが妥当だな」

 

ダークネスが発動した魔法カードに翔は怪訝そうな表情を浮かべる。

彼が知っている限り墓地にドラゴン族を送る事に意味のある行動は【死者蘇生】と取巻が持っていた【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】くらいだ。

それに対しドラゴン族使いの取巻は彼の目的が理解できる。

問題は彼がどんなカードを墓地に送るか。

それはオレンジ色の縁を持つモンスターカード。

 

「私は1枚目に【真紅眼の黒炎竜】を選択する」

 

「効果モンスターを選んだか」

 

「これで彼はもう1枚墓地にドラゴン族を送れない…」

 

彼の選択に十代と明日香は静かに呟く。

先程の説明でてっきり2枚送ると思っていたが、彼が選んだのは通常モンスターではなかった。

安堵感を漂わせる2人にダークネスは笑みを深める。

 

「残念だな遊城十代、その読みは外れだ」

 

「何!?」

 

「私は2枚目に【真紅眼の飛竜】を選択する」

 

「なっ、どういう事だよ!?」

 

「さっき貴方が選んだのは効果モンスター!

通常モンスターじゃないはずよ!」

 

男自ら1枚目は通常モンスターでなければならないと説明したのに、彼の行動はその言葉に反する事だ。

理解が追い付かない対戦者、そして観客達を嘲笑うように説明する。

 

「それが可能なのだよ。

デュアルモンスターである【真紅眼の黒炎竜】ならな!」

 

「デュアルモンスター?」

 

「そうか、その手があったか!」

 

「取巻君、デュアルモンスターって知ってるの?」

 

「あぁ。

まだあまり市場には出回っていないが最近出始めた新たな特性を持つモンスター達だ。

効果モンスターでありながらデュアルモンスターは墓地、フィールドに存在する時通常モンスターとして扱う」

 

「えぇ、何その特性!?」

 

成績優秀者に入る取巻は無論、最近のカードについても可能な限りチェックはしている。

ネットで新たな特性を持つモンスターが出た時は当然すぐに調べた。

だがデュアルモンスターは独特な特性を持ちながらも非常に面倒なものも持っている。

 

「デュアルモンスターは場に存在する時、再度召喚する事で通常モンスターから効果モンスターに変わるモンスター。

召喚したターンにはただの通常モンスターで、次の自分のターンで再度召喚すると効果を得る。

つまり真価を発揮するのに2ターンかかるのがデュアルモンスターの特徴でありデメリットだ。

面白い効果だと思うが、手間がかかるのが欠点だな。

だからあまり見向きもされていない。

……俺も正直、ドラゴン族のデュアルモンスターは持っているけどデッキへの投入は遠慮している」

 

「けど、ダークネスはその欠点を利点にしたんだな」

 

「あぁ。

通常モンスター扱いをこんな形で生かすなんて…

流石セブンスターズの1人って事か」

 

通常モンスターとして扱うなら通常モンスターを指定するカードに使えば良い。

実に単純な事だが、単純すぎて逆に気づかなかった。

冷や汗を流す取巻から翔と隼人は十代に視線を移す。

 

「バトルだ、行け【レッドアイズ】、【ワイルドマン】に攻撃!

黒炎弾!」

 

【レッドアイズ】は自身の長い首を大きく振りかざし、口元に炎の塊を生み出す。

炎は凄まじい勢いで【ワイルドマン】を包み込んでしまった。

体中を焼き尽くす熱に【ワイルドマン】は苦痛の表情を浮かべ、無念の声を上げて消えてしまう。

爆発と同時に十代のライフは4000から3100となるが、十代はすぐにカードを発動させた。

 

「罠発動、【ヒーローシグナル】!

デッキから【E・HEROフォレストマン】を特殊召喚するぜ!

来い、【フォレストマン】!!」

 

【ワイルドマン】と変わるように現れたのは植物のような体で出来ている男性ヒーロー。

彼は守備表示となりその場に膝をつく。

新たに表れたヒーローにダークネスは不敵な笑みを浮かべた。

 

「ならば私はこれでターンを終了する。

だがここで墓地に存在する【真紅眼の飛竜】の効果が発動。

通常召喚を行っていないターン、墓地のこのカードを除外する事で墓地の【真紅眼の黒炎竜】を特殊召喚する!

風に導かれし黒竜よ、翼に烈火を纏い、その翼で立ちはだかる者を薙ぎ払え!」

 

【レッドアイズ】の時のように溶岩が1匹のドラゴンへと姿を変えていく。

そのドラゴンの姿は【レッドアイズ】にとても似ており、ただ違うのはダークネスが言う通り烈火を纏っている事。

その攻撃力は【レッドアイズ】と同じ2400で4つの眼に見下ろされている十代は不敵な笑みを零した。

 

「攻撃力2400のモンスターが2体か……

しかも【レッドアイズ】だろ。

わくわくしてきたぜ」

 

「おい、遊城!

一応俺達の命がかかっているんだからな!

そこ、忘れるなよ!」

 

「わぁかってるって!

心配すんなよ」

 

「……はぁ、遊城の奴」

 

痛む頭を押さえながら取巻はため息をつき、【墓守】の一族達とのデュエルを思い出す。

あの時自分は仲間と自分の命を賭けられデュエルを楽しむ余裕が全くなかった。

しかし隣で一緒に戦っていた彼は何と余裕があったのだ。

命懸けのスリルを楽しむ等普通なら考えられないが、十代のデュエル馬鹿っぷりを考えると逆に納得してしまった。

 

「さぁて、どうやってその2体のドラゴンを倒そうか……

俺のターン、ドロー!」

 

先程受けたダメージのせいでドローした時体に鈍い痛みが走った。

それに気づきながらも十代はその痛みから目をそらし、ダークネスを見据える。

 

「俺は【フォレストマン】の効果でデッキから【融合】を手札に加える。

魔法カード、【融合】を発動!

手札の【フェザーマン】と【バーストレディ】を融合!

いでよ、マイフェイバリットカード【E・HEROフレイムウィングマン】!!」

 

「はぁ!」

 

「さらに魔法発動、【ミラクル・フュージョン】!

墓地の【フェザーマン】と【バーストレディ】を融合!

現れよ【Great TORNADO】!」

 

【フレイムウィングマン】と同じように風を司る英雄が姿を現す。

彼が登場すると同時にフィールドに突風が吹き荒れ、ダークネスのモンスター達の攻撃力は半減してしまう。

これで【レッドアイズ】達の攻撃力は1200.

【フレイムウィングマン】達の攻撃力を下回った。

 

「【フレイムウィングマン】、【真紅眼の黒炎竜】に攻撃!

フレイムシュート!!」

 

「させん!

罠発動、【攻撃の無力化】!

バトルフェイズは終了させてもらうぞ!」

 

勢いよく飛び上がった【フレイムウィングマン】は自慢の脚力で【レッドアイズ】を攻撃しようとする。

しかしカウンター罠の効果で彼の目の前に奇妙な穴が生まれ、いつの間にか【フレイムウィングマン】は十代の場に戻された。

 

「ちぇ、だったら俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「私のターンだ。

ドロー」

 

自分の場には攻撃力が半減しているモンスター。

【真紅眼の黒炎竜】はまだ再度召喚扱いではなく、効果を使えない。

それに対し十代の場には攻撃力2000以上のモンスター。

どうしようか、と考えていると引いたカードの名に口角が上がった。

 

「遊城十代。

貴様は2体の【レッドアイズ】をどう倒そうか思案していたな。

確かに2体ならば方法はあっただろう。

だが【レッドアイズ】が3体立ちはだかった場合、貴様はどうあがく?」

 

「3体……!?」

 

「まだ【レッドアイズ】を持ってるっていうの!?」

 

ダークネスの言葉に十代と明日香は目を見開く。

結界に囚われている3人も彼の言葉に何て言えば良いのか分からない。

驚きのあまり固まっている観客達に気を良くしたのかダークネスが纏っている闇がさらに強くなっていく。

その彼の手に握られているカードへと集まり、ダークネスは高らかに叫んだ。

 

「私は【真紅眼の黒炎竜】を除外し、【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を特殊召喚する!!」

 

「……え?」

 

ダークネスの言葉に呼応するかのように【真紅眼の黒炎竜】の翼の炎が激しく燃え上がる。

その炎はその体を包み込み、漆黒のドラゴンを隠した。

炎の下に隠れた黒い皮膚はゆっくりと硬化し、漆黒とは違う輝きを手に入れる。

 

「黒き鎧を纏いし烈火の竜よ、その炎を取り込み、黒き鎧を鋼の鎧へと変えよ!」

 

銀色の輝きを手に入れたドラゴンは自分が纏っていた炎を振り払い、赤い眼と自信に刻まれている赤いラインを光らせる。

溶岩の光により照らされるこの場所でその赤は更にドラゴンの美しさを際立たせている。

 

「グォオオオオオ!!!」

 

閉ざされた空間で反響するドラゴンの咆哮は十代達の体を震え上がらせた。

しかしそれは恐怖からではない。

何故だ。

何故目の前にこのドラゴンがいる。

その思いが頭の中を占め、誰もが【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】と取巻を見た。

 

「【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】……?

何で……

こいつがここに?」

 

そう呟いたのは十代だったのか取巻だったのか、はたまた両方だったのか。

誰の声なのか正確には分からない。

それだけ目の前のドラゴンの登場に衝撃を受けたのだ。

 

「え、え、え、あれって取巻君が持っていたのと同じ!?」

 

誰よりもいち早く正気に戻ったのは翔で、翔は取巻を揺さぶる。

体に受けた衝撃で彼もハッとし、ダークネスを睨み付けた。

 

「おい、貴様!

貴様だったのか、俺の部屋に侵入して【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を奪ったのは!!」

 

「ほう、このカードは元々貴様のものだったのか。

何処から入手したのかは不明だったがこれは私のデッキを更なる高みへと導いてくれた。

我が黒き竜達を総べる【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】……

礼を言わなければな」

 

ダークネスの言葉に取巻は言葉を失う。

直接盗んだのは彼ではない。

しかし彼の為に盗まれた。

否定されればまだ別のカードだと心を落ち着かせることは出来たが、肯定され、更に返す気はないと取れる発言に頭に血が上る。

顔を真っ赤にした取巻は立ち上がりさらに怒鳴り散らす。

 

「ふざけるな!

それは俺のデッキの要なんだぞ!

礼を言うくらいなら返せ!!」

 

「返す?

貴様は鍵の所有者に選ばれなかった。

という事はこのドラゴンを操るのに値しないデュエリストだ。

何故そのお前に返さねばならない?」

 

「ふざけやがって……!!」

 

「取巻君、駄目だよっ!!」

 

「光の壁が薄くなってる!

今出たらまずいんだな!」

 

確かに世界の命運を賭けたこのデュエルに【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】は相応しいだろう。

だからといって自分のカードを奪って良い理由にはならない。

結界の外に出そうになる取巻を翔達が抑える。

騒ぐ取巻に興味をなくしたのかダークネスは十代に向き直った。

 

「無駄な時間を消費したな」

 

「おい、ダークネス!

この勝負、俺が勝ったら【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を返せ!」

 

「ほう?

良いだろう、敗者にこのカードは相応しくない。

だが貴様はこの私に何を賭ける?」

 

「俺はこのペンダントの片割れを賭けるぜ!」

 

「……良いだろう」

 

十代の胸に揺れるもう1つのペンダント。

それはダークネスの胸にも揺れている。

共鳴し合っているそのペンダントを1つにする事で何が起こるのか。

それは十代にそれを授けた【墓守の長】以外誰にも分らない。

 

「私は【真紅眼の黒竜】を生贄に【真紅眼の闇竜】を特殊召喚する!」

 

「っ、4体目の【レッドアイズ】……!」

 

しかも【レダメ】同様【ダークネス】の名を持つドラゴンだ。

ダークネスの場にいた【真紅眼の黒竜】は炎の中に消え、代わりに赤い宝玉が埋め込まれ、6つの羽を持つドラゴンが現れる。

纏う闇は【レダメ】以上に禍々しく明日香は背中に氷塊が走った気がした。

 

「このモンスターは【真紅眼の黒竜】を生贄にした場合のみ特殊召喚出来るモンスター。墓地に葬られたドラゴンの無念を晴らすため、自身の攻撃力を上げる効果を持つ。

今私の墓地にドラゴン族は3体。

よって攻撃力は3300だ」

 

「十代の【Great TORNADO】を超えた……」

 

「さらに私は【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の効果により、墓地から【真紅眼の黒竜】を特殊召喚する」

 

「グォオオオ!」

 

並んだ3体の【レッドアイズ】。

攻撃力はそれぞれ2400,2800,3000となっている。

十代はゆっくりと息を吐き、自分達を見下ろす3体のドラゴンを見上げた。

 

「【真紅眼の闇竜】で【Great TORNADO】を攻撃!!

ダークネス・ギガ・フレイム!」

 

「罠発動、【ヒーロー・バリア】!」

 

口から放たれた炎はまっすぐと【Great TORNADO】に向かっていく。

食らったらひとたまりもないと分かる攻撃に【Great TORNADO】は構えた。

同時に十代は罠カードを発動させる。

 

「これで【TORNADO】にその攻撃は届かないぜ!」

 

「ふっ。

ならば【レッドアイズ・ダークネスドラゴン】で【フレイムウィングマン】に攻撃!」

 

「くっ……

【フレイムウィングマン】!」

 

向かってきた攻撃を受けた【フレイムウィングマン】は一瞬で破壊された。

爆風はそのまま十代を襲い、彼の体は炎に包まれた。

 

「うわぁああああ!!!」

 

「十代!!」

 

体を焼き尽くすような熱に十代は悲鳴を上げ、明日香は近づこうとするがそれが出来ない。

炎はすぐに消えたが彼の体には酷いダメージを残してしまった。

十代の息は荒く、彼はその場に膝をつく。

しかしそれも一瞬で十代はすぐに立ち上がった。

これで十代のライフは2400となった。

 

「【真紅眼の黒竜】、【フォレストマン】を攻撃!」

 

十代を心配そうに見ていた【フォレストマン】は一瞬だけ反応が遅れ、そのまま炎に燃やされてしまう。

意識が飛んでしまいそうな十代は気を取り直すかのように頬を叩く。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

痛む体を必死に黙らせ、十代はドローする。

 

「俺は手札から【天使の施し】を発動する。

デッキから3枚ドローし、2枚捨てる。

俺は【スパークマン】と【クレイマン】を墓地に捨てるぜ」

 

墓地に送られたのは【サンダージャイアント】の融合素材になるカード達。

十代の手札に【融合】がないのだろうか。

いや、仮にあったとしても3体も並んでいる【レッドアイズ】をどうにか出来るとは思えない。

傷だらけの十代を取巻達はただ見守ることしかできない。

 

「さらに【ホープ・オブ・フィフス】を発動!

墓地の【ワイルドマン】、【フレイムウィングマン】、【スパークマン】、【クレイマン】、【フォレストマン】をデッキに戻し、2枚ドローする」

 

デッキに指を置いた十代はゆっくりと目を瞑る。

神経を集中させているという事は、彼はこのドローに逆転の一手を賭けているという事になる。

つまり今の手札に逆転のカードがない。

勢いよくドローした十代は強く瞑っている目をゆっくりと開けた。

 

「(よし!)」

 

自分の手札に来たカードに十代は口角を上げた。

 

「手札からフィールド魔法、【摩天楼‐スカイスクレイパー】を発動!」

 

フィールド魔法ゾーンにカードがセットされるとデュエルディスクが光り、十代の周りに華やかに輝く高層ビルが現れる。

地面を揺らしながら現れたビルに【Great TORNADO】は飛び乗り、マントを靡かせながら【レッドアイズ】達を見下ろした。

 

「バトルだ!

【TORNADO】で【真紅眼の闇竜】を攻撃!」

 

十代が選んだのは攻撃力が最も高い【真紅眼の闇竜】。

彼の選択に翔は叫んだ。

 

「な、なんで!?

次のターンまた【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の効果で復活しちゃうんだよ!」

 

「いや、それは大丈夫だ。

【真紅眼の闇竜】の特殊召喚条件を聞いてみると、あのモンスターは特殊召喚モンスター。

例え1度召喚されたとしても墓地からの蘇生はないだろう」

 

「【Great TORNADO】の攻撃力は2800.

【真紅眼の闇竜】は自身の効果で3000.

【スカイスクレイパー】の効果が適応するんだな!」

 

【Great TORNADO】が手を高く上げると【レッドアイズ】達の周りに強風が吹き荒れる。

その風は【真紅眼の闇竜】の肉体を切り刻んでいった。

風の鋭利な攻撃に【真紅眼の闇竜】は悲鳴を上げ破壊されてしまう。

場に吹き荒れている風はそのままダークネスを襲い、彼のライフを800ポイント奪った。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「私のターンだ。

手札から【紅玉の宝札】を発動する」

 

「【紅玉の宝札】?」

 

「このカードは私の手札に存在するレベル7の【レッドアイズ】を墓地に送る事でデッキからカードをドローする効果を持つ。

そしてデッキにレベル7の【レッドアイズ】が存在する時墓地に送る事が出来る」

 

「デッキ圧縮カードか……」

 

「手札の【真紅眼の黒炎竜】を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドロー。

さらにデッキから【真紅眼の黒竜】を墓地に送る」

 

「お前のデッキ、一体どうなってるんだよ……!」

 

【レッドアイズ】は価値が高く、なかなか出回らないカード。

それなのにここまで揃っているのは【レダメ】同様誰かから盗んだのだろうか。

墓地に【レッドアイズ】が集まっていく様子に十代は笑みを浮かべてしまった。

 

「そしてリバースカード、オープン。

【真紅眼の鎧旋】。

私の場に【レッドアイズ】が存在する時墓地に眠る通常モンスターを特殊召喚する」

 

「まっ、まさか……」

 

先程送られた【レッドアイズ】達。

片方は正真正銘の通常モンスター。

そしてもう片方は墓地で通常モンスター扱いのデュアルモンスター。

 

「私は【真紅眼の黒炎竜】を特殊召喚する!

さらに【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の効果により墓地より【真紅眼の黒竜】を特殊召喚だ!」

 

【真紅眼の鎧旋】に描かれているのと同じモンスターが現れ、その隣に【真紅眼の黒竜】が並んだ。

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】に2体の【真紅眼の黒竜】、そして【真紅眼の黒炎竜】……

 

「れ、【レッドアイズ】が4体……!?」

 

「さらに【真紅眼の黒炎竜】を再度召喚する」

 

再度召喚された【真紅眼の黒炎竜】は炎の勢いが増し、力が漲るのか体を震わせながら咆哮を上げる。

響き渡るドラゴンの咆哮に取巻達は険しい表情を浮かべた。

十代の場には【Great TORNADO】と【スカイスクレイパー】に伏せカードが2枚のみ。

 

「【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】と【Great TORNADO】の攻撃力は互角……」

 

「もし【Great TORNADO】が破壊されちゃったら兄貴を守るモンスターは存在しないっす!」

 

「行け【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】!」

 

大きく口を開けた【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】は口に自分のエネルギーを集め始める。

集まっていく高エネルギーはビルの屋上に佇んでいる風の英雄。

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】は大きく翼を広げて飛び立ち、【Great TORNADO】に向かっていく。

【Great TORNADO】はすぐにビルからビルへと飛び移り、夜の街を走る。

 

「罠発動、【無敵の英雄‐インビンシブル・ヒーロー】!」

 

「【インビンシブル・ヒーロー】?」

 

発動されたのは1人のアメリカンヒーローを数多の悪役が取り囲んでいるカード。

彼の足元には彼が倒したであろう悪役が目を回している。

ヒーローの名を持つカードなので【E・HERO】関連カードなのはすぐに分かった。

 

「このカードは俺の場に存在する攻撃表示の【HERO】を破壊から守る効果を持つ。

これでこのターン、【Great TORNADO】は破壊されないぜ!

そして速攻魔法【非常食】!

【インビンシブル・ヒーロー】を墓地に送り、俺のライフを1000ポイント回復させる」

 

罠カードの力を得て破壊される心配はなくなった【Great TORNADO】は一気に振り返り、【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】をまっすぐに見る。

視線が交わった瞬間【レダメ】はエネルギーを放ち、【Great TORNADO】は拳に風の力を集める。

闇を纏う炎と風の力は街の中央でぶつかり合い、激しい爆発が起こる。

その煙の中に立っていたのは【Great TORNADO】で【レダメ】はバラバラに砕け散った。

 

「チッ、命拾いしたな」

 

戦闘破壊が出来なくなった攻撃力2800の【Great TORNADO】。

そして3400まで回復してしまった十代のライフ。

ダークネスの計算ならこのターンで彼のライフを0にする事が出来た。

忌々しそうに十代を睨み付けながら笑みを浮かべる。

 

「まぁ良い。

私はこれでターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!

俺は手札から魔法カード、【強欲な壺】を発動!

デッキからカードを2枚ドローする!」

 

場に現れた緑色の壺。

それはすぐに粉々に砕け散り、十代に新たな可能性を与えた。

自分の手元に来たチャンスに彼は笑みを浮かべた。

 

「俺は手札から魔法カード【天よりの宝札】を発動!

互いに手札が6枚になるようデッキからカードをドローする!」

 

「何、ここでだと!?」

 

「俺は【融合】を発動!

手札の【エッジマン】と【ワイルドマン】を融合し、【E・HEROワイルドジャギーマン】を特殊召喚する!」

 

黄金のボディを持つ英雄は野性的な男性と混ざり合い、黄金の鎧を身にまとう英雄へと生まれ変わる。

褐色の筋肉を晒している彼はこの街には合わない風貌でありながらも堂々と【レッドアイズ】達を見上げている。

しかし攻撃力は【エッジマン】と同じ2600で何の変化もないように見える。

 

「行くぜ!

【ワイルドジャギーマン】で【真紅眼の黒竜】を攻撃!」

 

自分の持っている剣を大きく振り上げる【ワイルドジャギーマン】は攻撃対象とした【真紅眼の黒竜】を一刀両断した。

切り裂かれたドラゴンは苦しそうな声を上げて爆発する。

自分に向かってくる爆風にダークネスのライフは3200から3000になる。

 

「くっ……!!」

 

十代を下回るライフに攻撃力でも劣るドラゴン達。

しかしあと攻撃出来るのは【Great TORNADO】のみ。

仮に【融合解除】等のモンスターを特殊召喚するカードが来ても負けはしない。

十代が発動した【天よりの宝札】で手札に来たカードを見下ろしながら十代のターンが終わるのを待つ。

彼の考えが分かったのか十代は不敵に笑った。

 

「残念だったな。

【ワイルドジャギーマン】は相手モンスター全てに攻撃する事が出来るんだぜ!」

 

「なっ!?」

 

気が付けば【ワイルドジャギーマン】がまた剣を構えていた。

低く屈み、飛び上がる準備をしているモンスターにダークネスは一歩下がる。

 

「インフィニティ・エッジ・スライサー!!」

 

十代の声と同時に【ワイルドジャギーマン】は走り出す。

彼は目にも止まらぬ速さで次々の【レッドアイズ】達を切り裂いていく。

ダークネスの場に残っていた2体の【レッドアイズ】達は成す術もなく破壊されていった。

これで彼のライフは2600.

 

「【Great TORNADO】、ダイレクトアタック!!」

 

「ぐぅぁあああああ!!!!」

 

ダークネスの前に立った【Great TORNADO】両腕を高く上げ、竜巻を引き起こす。

目の前で起こった竜巻にダークネスは勢いよく吹き飛ばされた。

同時に彼のデッキからカードが散らばってしまう。

叩きつけられた彼はそのまま動かなくなり、ライフポイントが0になる。

デュエルの終了を意味するブザーが鳴った。

 

「十代が、勝った……」

 

響き渡る音に明日香は零す。

彼女は緊迫するデュエルが終わった事に安堵し、十代の元に駆け寄ろうとした。

その前に十代が膝を着いてしまう。

 

「十代!」

 

デュエルの最中、本当に苦しそうにしていた彼が倒れた事で明日香は血の気が引く感覚を覚えた。

慌てて手を伸ばしたがその前に視界が光で包まれる。

 

「っ!」

 

反射的に目を閉じた明日香は周りの涼しさに違和感を覚え、ゆっくりと目を開けた。

そして自分達がいる場所に目を見開く。

 

「え?」

 

先程まで自分達は火山の中にいた。

肌が焼けるような空間は赤い光で満たされていたのに、今目の前に広がっている光景は寒気を覚える夜の山。

火山の山頂付近なのか木々はなく、山肌が剥き出しである。

 

「……一体、どういう事?」

 

十代の寮に入ったと思えば火山に移動し、そして次は山頂付近に移動している。

闇のデュエルに瞬間的な移動。

明日香は痛む頭を抑えながら周りを見渡し十代の姿を見つける。

傍に駆け寄り、膝を折れば後ろから声が聞こえてきた。

 

「遊城!」

 

「兄貴!」

 

「十代!」

 

「取巻君、翔君、隼人君。

皆無事だったのね」

 

「天上院さんも無事でなによりです。

それで遊城は?」

 

「十代も無事よ」

 

結界に閉じ込められていた3人の無事な姿に明日香はやっと力を抜いた。

しかし取巻は相変わらず険しい表情で十代を見下ろしている。

翔と隼人はすぐに十代の傍に寄り、必死に声をかけた。

だが闇のデュエルのダメージが原因なのか目が覚める気配がない。

 

「取巻、十代、皆!」

 

「聖星……」

 

新たに加わった友人の声。

顔を上げた明日香達は下からやってきた聖星とカイザーの姿を捉えると手を振った。

後は聖星達に任せて大丈夫だと思った明日香は未だに倒れているダークネスへと足を向ける。

 

「不動、遊城が!!」

 

何度声をかけても反応を返さない友人に取巻は焦った声で叫ぶ。

多くは語らなくとも十代の傷を見て聖星は強張った表情を浮かべた。

 

「闇のデュエル、したんだな……」

 

「あぁ。

それだけじゃない。

遊城の対戦相手が俺の【レダメ】を持っていたんだ!」

 

「何だって?」

 

取巻の言葉に聖星は耳を疑った。

この時代に存在する【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】は聖星が【星態龍】に出してもらったもの1枚のみ。

それを持っているという事はダークネスが盗んだという事。

 

「分からないの?

吹雪兄さんよ!!」

 

「え?」

 

背後から聞こえた明日香の声。

一体何だと思うと彼女が涙を流し、対戦相手だったダークネスを抱きしめていた。

ダークネスの仮面は地面に転がり、その素顔にカイザー、そして取巻は目を見開く。

 

「吹雪先輩……!?」

 

「吹雪?」

 

彼の口から零れた名前を聖星は繰り返す。

その名は以前、十代の話題に出てきたことがある。

廃寮に入った時、十代は行方不明になっている明日香の兄の写真を見つけた。

その写真には洒落た書き方で天上院吹雪と名前が書いてあったそうだ。

 

「明日香のお兄さんがセブンスターズ?」

 

動揺を隠しきれない取巻の顔を見ながら呟くと彼に頷かれる。

十代の周りにいる皆は信じられないという表情をし、声を殺しながら泣く明日香と意識のない吹雪を見つめた。

 

END




お久しぶりです
一体何か月ぶりの更新なんでしょうね……
【レッドアイズ】の新規が出ると知り、裁定が出てからの執筆
長かった(ゲンドウポーズ)

今回はダークネスvs十代のデュエルです
折角新規カードが出たのですから【真紅眼融合】とか出したかったのですが無理でした
【真紅眼の凶雷皇-エビル・デーモン】はダークネスのコンセプトに合わないと思ったので最初から登場させるつもりはありませんでした
私としては【メテオ・ブラック・ドラゴン】を出したかったのにorz

そして行方不明になったインダストリアルイリュージョン社の社員達
普通敵側が正体不明のシステムを使用したカードを使って来たら調べますよね
なのでこのような形になりました
さて闇のデュエルで敗れた人達は!?
夜行は、月行はフランツ達はどうなる?

次回はカミューラの話にしたいと思っています

では失礼いたしました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十七話 有限の海に眠る龍★

日はすっかり沈み、月明かりさえも雲によって遮断されている湖。

ゆらりゆらりと静かに波打つ湖に1つの影が浮かび上がる。

そこには人の形をした何者かがいた。

それは不気味な笑みを浮かべ誰も聞いていないのに呟く。

 

「私はダークネスのようにはいかなくてよ。

ゆけっ、下部達!!」

 

品のある声で呟いた彼女はそう叫ぶと背後から無数の蝙蝠が飛び立っていく。

可愛い下部達が飛び立つ姿を見送りながら彼女は笑みを浮かべた。

そしてその口元には銀色に光る牙が……

 

**

 

「っ!!」

 

保健室で眠りについていた十代は突然目を覚まし、勢いよく起き上がる。

同時に体に激痛が走り、小さく声を漏らした。

そんな彼に翔が心配そうな表情を浮かべた。

 

「大丈夫、兄貴?」

 

「あぁ、なんとかな……」

 

「そんな顔をして言われても説得力がないぞ、遊城」

 

2人の言葉に十代は無理に笑い、そのまま自分と同じように眠っている吹雪に目をやる。

彼の傍には明日香とカイザーが椅子に座っており、明日香は悲しみの表情を浮かべて両手を強く握りしめている。

 

「鮎川先生、明日香の兄さんは……」

 

「大丈夫、命に別状はないわ」

 

「そうですか……」

 

鮎川先生の言葉に十代は安心したように呟く。

あれ程の激痛を伴う闇のデュエルだったため、命に係わる様な事があっても何ら不思議ではない。

十代と同じように闇のデュエルを経験した取巻はデッキから【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】のカードを取り出す。

すると扉がゆっくりと開き、三沢と万丈目、聖星の3人が入ってきた。

友人達の登場に十代は軽く手を上げる。

目を覚ました彼の姿に三沢と聖星は安心したような顔をしてすぐに近寄っていく。

それに対し万丈目は真っ先に明日香に目をやった。

 

「十代、起きて大丈夫なのか?」

 

「あぁ。

まだ少し痛むけどなんとかな」

 

「だったらもう少し寝ていた方が良い」

 

「あぁ、そうさせてもらうぜ」

 

素直に述べた十代に三沢は横になるように促し、それに頷く。

十代の傍らには【ハネクリボー】が心配そうな顔をしており、【スターダスト】は【ハネクリボー】の隣にゆっくりと着地する。

慰めるかのように言葉を交わしている2匹を見ながら聖星は小さく息を吐いてこの場にいる鍵の所有者を見渡す。

本当なら校長室の方が良いかもしれないが、明日香の事を考えると吹雪の傍に居させてあげたい。

そう思って口を開こうとすると【スターダスト】の隣に黄色の精霊が姿を現す。

 

「あら~、【スターダスト】ちゃんじゃない~

【スターダスト】ちゃんも十代のお見舞いかしら~?」

 

体をくねくねと動かしながら現れたのは【おジャマ・イエロー】。

オネエ口調で近寄ってくる彼に対し【スターダスト】は若干引き気味だ。

どうやら【スターダスト】はからかわれる基質があるらしく、良くも悪くもちょっかいをかけてくる者達に人気があるようだ。

不憫に思った聖星はすぐに【スターダスト】を自分の頭に乗せ、【おジャマ・イエロー】に詫びる様な笑みを浮かべた。

 

「あら~、せっかく【ハネクリボー】も交えてお話しようと思ったのに~」

 

「貴様、少しは大人しくしろ。

俺の顔に泥を塗る気か」

 

心底残念そうに呟く彼に持ち主である万丈目は低い声で言う。

一度アカデミアを退学した万丈目だがなんやかんやあって精霊が視えるようになり、【おジャマ・イエロー】のカードを手に入れたそうだ。

 

「貴様もだ聖星、少しは学習しろ」

 

「しょうがないだろう。

彼から寄ってくるんだから」

 

「不動に万丈目……

お前達突然何を話しているんだ?」

 

「さんだ!」

 

じろり、と睨まれた聖星は困ったように笑うだけだ。

対して翔達と一緒にここを訪れていた取巻は2人の会話に怪訝そうな表情を浮かべる。

しかし万丈目の「さん付けにしろ」という言葉に難しい顔になった。

以前の自分なら素直に呼んでいただろうが、今の万丈目に対してそう呼ぶのは抵抗がある。

万丈目がブルー寮での地位を失った時期、取巻も万丈目のように周りから笑い者扱いだった。

別に偉そうだから腹が立つとか、そういった感情が理由ではない。

ただどう接すれば良いのか分からないのだ。

1人で勝手に葛藤している取巻に気付かず、聖星は皆に声をかけた。

 

「ごめん、翔、隼人、取巻。

鍵の所有者だけに話したいことがあるから席を外してくれないか?」

 

「え、どうして?」

 

「何?」

 

突然の言葉に全員聖星に視線を向けた。

聖星は固い表情で皆を見つめ、ゆっくりと理由を説明する。

 

「とても重要な話だから出来れば関係者以外には話したくないんだ。

頼む」

 

硬い声色で言葉を発した彼はそのまま頭を下げた。

まさか頭を下げられるとは思わなかった翔は困ったように皆を見る。

取巻は今の状況が状況のため小さく頷いてそのまま出て行き、彼の行動に隼人は翔に目をやる。

 

「翔」

 

「分かったよ」

 

取巻だけではなく隼人も出て行こうとしているため翔も渋々納得し部屋から退出する。

3人が出ていき、部外者が鮎川先生だけになった事を確認した聖星は改めて皆に向く。

カイザーは椅子に腰を下ろしたまま真剣な表情で尋ねてくる。

 

「それで聖星、俺達だけに話とは?」

 

「俺が以前セブンスターズとデュエルをした、というのは校長室で話しましたね」

 

「あぁ」

 

「あの日以来、インダストリアルイリュージョン社の社員が行方不明になっているんです」

 

「え!?」

 

「インダストリアルイリュージョン社の社員が!?」

 

彼から告げられた言葉に皆は互いの顔を見合わせる。

聖星とインダストリアルイリュージョン社に繋がりがある事を知っているのはこの場で十代のみ。

彼以外の鍵の所有者は何故聖星がそんな事を知っているのか不思議に思い、明日香が口を開く。

 

「でも、それと今回の事とどういう関係があるの?」

 

「それは……

俺がその闇のデュエルで極秘で開発されている召喚法を使ったからだと思う」

 

「極秘で開発ですって!?」

 

「何なんだそれは?」

 

インダストリアルイリュージョン社の社員が行方不明と告げた時以上に驚きの声を上げる明日香達。

万丈目も驚いているようで聖星を凝視する。

 

「それはシンクロ召喚。

チューナーという新たな特性を持つモンスターを使う事で融合デッキから特殊召喚される新たな召喚法。

これがそのシンクロモンスターだ」

 

聖星はデッキケースから1枚のカードを取り出し、それを皆に見せた。

真っ白な枠を持ち、1匹のドラゴンが描かれているカード。

知らないカードの登場に皆はそのカードを食い入るように見て、十代は描かれているカードの主の名に首を傾げる。

 

「【スターダスト】?

それお前がアメリカに行っている時にって、あ」

 

画面越しに初めて出会った【スターダスト】を見た時に抱いた疑問。

このドラゴンの姿は以前ペガサスに見せてもらったスケッチブックに描かれていたドラゴンと酷似している。

疑問の正体がはっきりした十代は【スターダスト】がどんな効果を持っているのかわくわくし始めた。

 

「待て聖星。

それは今極秘で開発されているんだろう。

どうしてそんな物を貴様が持っている?

鍵を渡された時も思ったがまさかインダストリアルイリュージョン社と繋がりがあるのか!?」

 

万丈目の問いかけに皆は小さく頷く。

やはりそこを聞いてくるか、と思った聖星は大雑把に話した。

 

「俺は機械に関する知識を買われてデュエルディスクのプログラム制作に携わっているんだ。

新しい召喚法が販売済みのデュエルディスクで使えるようにプログラムを組んでいる。

あ、これは本当なら極秘の話だから誰にも言わないでくれ」

 

正確にはシンクロ召喚に開発をメインに関わり、ついでにプログラムの書き換えを行っている。

それは伏せていたが、違和感のない理由としたらこれが1番だろう。

明日香は心当たりがあるのかその説明で納得してくれた。

他の皆もその縁でシンクロモンスターを手に入れたのだろうと考え始める。

 

「俺は闇のデュエルで【スターダスト】を召喚した。

それ以降社員が行方不明になっている……

今入院している社員の証言によると行方不明の人達は闇のデュエルをしたらしい。

恐らくセブンスターズに捕まったんだと思う」

 

「成程な、シンクロ召喚について詳しく聞き出すためか」

 

三沢の言葉に聖星は小さく頷いた。

 

「だからセブンスターズはシンクロ召喚に関する知識を持っている。

もしかすると新たなシンクロモンスターを作っているかもしれない。

だから皆にシンクロ召喚について話そうと思ったんだ」

 

基本的にカードはインダストリアルイリュージョン社でしか製作できない。

カード内に埋め込まれているソリッドビジョンに関するチップの技術は極秘とされ、他社がまねできるような物ではないからだ。

あの海馬コーポレーションでさえその内容は未だに完全に把握し切れていない。

だが【閃珖竜スターダスト】のように未知な力で生まれるカードもある。

闇の力を操る彼らがカードを作る事は出来ると考えた方が良い。

 

「そのシンクロモンスターとやらを俺達は使えないのか?」

 

「俺がペガサスさんに相談すればある程度融通は利かせてくれると思う。

けどこれは極秘の召喚法で表立ってほしくない。

それにこの召喚法は慣れが必要なんだ。

皆のデッキに合えば良いけど現時点で開発されているシンクロモンスターは皆のデッキに合わない。

対抗するために下手に投入はしないほうが良い」

 

「けど急にそんな事を言われても……」

 

明日香は隣にいるカイザーに顔を向け、困ったように呟く。

彼女だって聖星が言いたい事は分かる。

だが相手も使っているのだから自分達も使わないと対抗できない気がするのだ。

シンクロ召喚の扱いの難しさを理解できない明日香達の様子に聖星は提案した。

 

「分かった。

誰か俺と試しにデュエルしてくれ。

目の前で実際すれば少しは実感がわくと思うから」

 

「よし、そういう事だったら聖星!

俺とデュエルしようぜ!」

 

「十代はダメ。

君は今療養中でデュエル出来ないだろう」

 

「大丈夫だって、この程度の痛み……」

 

「十代、その痛みを倍増してやろうか?」

 

「ごめんなさい」

 

真っ先に名乗り上げたのは当然の如く怪我を負っている十代だ。

彼からの申し出に聖星は困ったように断ったが、それでもやりたいという彼に聖星は満面な笑みを浮かべた。

同時に聖星は右手で握り拳を作り、それを見た十代は即行布団の中に潜り込んだ。

 

「だったら俺が行こう」

 

「丸藤先輩……」

 

「どうだ、役者不足ではないだろう?」

 

「はい、お願いします。

では先輩、デッキ調整があるのでデュエルは明日で良いですか?」

 

「構わない。

会場については俺から校長に頼んでおこう。

あまり人目に触れたくはないんだろう。

それとクロノス教諭にも俺から伝えておく」

 

「ありがとうございます」

 

自ら対戦相手を志願し、更にシンクロ召喚を使うデュエルに対し考慮してくれる。

たった3つしか違わないのにカイザーの対応に聖星は素直に感心した。

早速どんなデッキを構築しようかと考えると、あるカード達が思い浮かんだ。

 

「あ、丸藤先輩」

 

「どうした?」

 

「実は先日パックを買ったら【サイバー・ドラゴン】関連のカードが当たったんです。

多分先輩も持っていないと思います。

もしよければ貰ってください」

 

「何?」

 

聖星からの言葉にカイザーは首を傾げる。

【サイバー・ドラゴン】関連のカードはとてもレアリティが高く、市場にはあまり出回らない。

しかしカイザーはサイバー流を学ぶ道場の生徒だったため【サイバー・ドラゴン】、そして関連のカード達を手に入れる事が出来た。

その自分が持っていない関連カードなどあるのだろうか。

そう疑問に思いながら聖星からカードを受け取るカイザー。

 

「っ!?」

 

カイザーは聖星から渡されたカードを見てすぐに後輩を凝視した。

聖星はただ真っ直ぐ自分を見上げており、ただ微笑むだけ。

彼が当てたという【サイバー・ドラゴン】の関連カードは8枚。

それも全てカイザーが知らないカード。

軽く目を通してみたがどの効果も素晴らしいもの。

もしこのカード達を自分のデッキに組み込めば戦術の幅が大きく広がっていくだろう。

 

「ありがとう聖星。

このカードは大切に使わせてもらう」

 

「はい」

 

「ちょっと、聖星。

一体どんなカードを渡したの?

亮の反応からとんでもないカードだっていうのは分かったけど……」

 

亮の傍に腰を掛けていた明日香は友人の表情変化に驚いた。

あの冷静沈着で滅多に表情を変えない亮がたいそう吃驚していたのだ。

完成度も高く殆どのデュエリストを寄せ付けない強さを持つ彼があれ程の驚きを現していたという事は、聖星が渡したカードはあのデッキを更なる高みに導く事が出来るという事だ。

一方聖星が持っているカードの量を知っている三沢と十代は苦笑を浮かべた。

 

「確かにあのカードの中に【サイバー】関連のカードもあったな」

 

「あのカードをカイザーが使うのか。

って事はカイザーももっと強くなるって事だよな」

 

十代には【E・HERO】、カイザーには【サイバー・ドラゴン】のカード。

聖星は皆がセブンスターズに負けないようカードを渡しているのだろう。

十代の時も勝てる可能性は増やした方が良いという理由で属性を使用して融合する【E・HERO】を無理やりトレードしていた。

隣で楽しそうに笑っている十代に対し三沢は困ったように笑った。

 

**

 

時間は過ぎて翌日の朝。

カイザー用のシンクロデッキを構築し終えた聖星は欠伸をかみ殺しながら食堂で朝食をとっていた。

 

「あ、聖星」

 

「神楽坂」

 

「隣良いか?」

 

「あぁ」

 

隣に腰を下ろした神楽坂の朝食は樺山先生の手作りカレーだ。

しかもカツカレー。

朝っぱらからよくこんな重いものを食べる事が出来ると感心しながら味噌汁をすする。

 

「例の道場破りは今どうなってるんだ?」

 

「道場破りって……

一昨日1人目の襲撃があった。

2人目はまだ来ていないけど、多分この島に潜入しているんじゃないのか」

 

「だったら例の噂がその2人目の可能性もあるのか……」

 

「え、噂?」

 

カイザーとのデュエルはどうデッキを動かそうと考えていたが、神楽坂の言葉に顔を上げる。

授業の時より真剣な表情を浮かべている友人は周りを見渡し、小声で話し始めた。

 

「昨日の夜、ブルー寮の奴らが肝試しとして湖に行ったらしいんだ。

そうしたら見たらしいぜ」

 

「ちょ、ストップ、ストップ。

何だよその明らかに怪談になりそうな話。

俺がそういうの嫌いだって神楽坂も知ってるだろう?」

 

「最後まで聞けって。

湖の上に美女が立っていて、美人だなって見とれていたら……

どうやら口元で牙が光っていたらしい」

 

「美女に牙って……

まさかその美女が吸血鬼って言いたいのか?」

 

「あぁ。

ま、あくまでブルーの生徒1人が騒いでいる噂だがな。

けど今じゃその噂はブルーだけじゃなく他の寮にまで届いているんだ。

特に女子が盛り上がっている」

 

「アカデミアでの娯楽って地味に少ないからな~」

 

神楽坂からの情報に呑気に返すがセブンスターズの刺客であるとみて間違いはないだろう。

しかしよりによって吸血鬼。

脳内に吸血鬼の映画が思い浮かび、人々が吸血鬼の餌食になっていくシーンが勝手に再生されていく。

 

「吸血鬼か。

数世紀ほど前に人間によって滅ぼされたと聞いていたが、生き残りがいてもおかしくはない」

 

「(え、吸血鬼って実在するのかよ?)」

 

「あぁ。

寿命が人間より長く、それ程増えなくても問題はなかったから元々の数が少ない。

それ故吸血鬼狩りで滅ぼされるまで時間はかからなかったそうだ。

数の暴力という奴だな」

 

「(……そうか)」

 

セブンスターズは全員闇の力を扱う人間だと思い込んでいたが、まさか吸血鬼なんていうオカルトじみた存在が出てくるとは思わなかった。

和やかな笑みとは裏腹に内心はかなり冷や汗をかいている。

それを察している【星態龍】は同情の眼差しで聖星を見下ろした。

 

「そういえば今神楽坂って何勝したんだ?」

 

「18勝3敗。

だからあと誰かと2回デュエルしてお前とのゲームは終わりだ」

 

「あ、また1回負けたんだ」

 

以前十代から聞いた情報では十代と三沢に負けたはず。

3回目の黒星を与えた相手は誰だろう。

それが顔に出ていたのか神楽坂は相手の名を口にする。

 

「流石にカイザーには勝てなかった」

 

「結構対戦相手のレベルを上げたな。

というよりよく先輩と戦えたよな。

確か先輩とのデュエルって予約制で何か月も待たないといけないんじゃなかったっけ?」

 

「天上院さんやブルーの連中にはある程度勝てたからな。

カイザーとはたまたま十代とデュエルした時に出くわして、彼から面白そうだと申し込まれたんだ。

あの時は自分の耳を疑ったぜ」

 

「それ凄く分かる。

俺も丸藤先輩からデュエルしないか、って誘われた時心臓が止まるかと思った」

 

あの日の夜、PDAの画面にカイザーの顔が映った時は本当に心臓が止まるかと思ったものだ。

彼自身からデュエルを申し込まれ、それを理解した瞬間から心臓が高鳴った。

変な汗も流れてくるし、きっと対戦を申し込まれた神楽坂も同じ気持ちだったのだろう。

神楽坂とカイザーのデュエル内容を聞きながら聖星は朝食を平らげた。

 

**

 

朝食も終え、聖星は指定されたデュエルスペースに足を向けた。

人払いも完全に終わっており、ここにいるのは明日香と十代を除く鍵の所有者と鮫島校長のみだ。

クロノス教諭の姿も見え、彼はこれから何が起こるのか知らないようで不思議そうな表情をしている。

聖星はフィールドに立って皆に頼む。

 

「俺が今から行うデュエルはインダストリアルイリュージョン社が極秘に開発している新要素を使用します。

ですから今から見る事、聞く事はこの場にいる人達以外に他言無用でお願いします」

 

「新要素!?

一体それは何でス~ノ!??」

 

「え?」

 

真っ先に声を上げたのはクロノス教諭。

確か昨日保健室にはおらず、聖星が直接話せなかった人物。

しかしこの教室を借りるためカイザーが自ら伝えると言われたのだが。

聖星はカイザーを見上げ、恐る恐る尋ねる。

 

「丸藤先輩、確か先輩がクロノス教諭に伝えてくれるはずでしたよね?」

 

「俺が鮫島校長にこのデュエルの話をした時、校長から伝えると言われたのだが……」

 

「おっと、すっかり忘れていました」

 

「校長~~!」

 

観客席にいるクロノス教諭は隣に座っている鮫島校長に勢いよく顔を向ける。

しかし彼も聖職者だ、シンクロ召喚について知ったところで黙っていてくれるに違いない。

苦笑を浮かべた聖星はカイザーに頭を下げて距離をとる。

 

「ついに始まるか、シンクロ召喚を使用したデュエルが」

 

「あぁ」

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は丸藤先輩からお願いします」

 

「そうか。

ならば俺のターン、ドロー。

俺は手札から【プロト・サイバー・ドラゴン】を守備表示で召喚する。

カードを3枚伏せてターンエンド」

 

手札のカードを見下ろしたカイザーはすぐにモンスターを召喚し、自分のターンを終了させた。

場に現れたのは守備力600という数値を持つ機械族モンスター。

いくつものチューブが体中に繋がっており、エネルギーが送られている。

伏せてあるカードが3枚もある事に聖星は警戒しデッキからカードを引く。

 

「俺のターン、ドロー」

 

ドローしたカードを手札に加えた聖星は改めて自分の手札を見る。

手札に存在するのは以下のカードだ。

【調律】、【ジャンク・シンクロン】、【クイック・シンクロン】、【シンクロン・エクスプローラー】、【チューニング・サポーター】、【スターライト・ジャンクション】。

 

「(あ、これ何から始めよう)」

 

魔法・罠カードの除去カードはないがまぁまぁ良い手札と言えるだろう。

これ程のカードが揃ってしまえばどのような展開をすべきなのか迷ってしまう。

自分のエクストラデッキに存在するカードを確認して手順を考える。

 

「成程、遊星のデッキを真似たのか。

何故お前自身のデッキにしなかった?」

 

「(俺だって本当はあっちのデッキを使いたかったさ。

けどしょうがないだろう。

幻竜族はまだこの時代にないんだから)」

 

【アーカナイト・マジシャン】を使用した魔法使い族デッキを使用しようという考えはあった。

しかし、あのデッキの内容と自分の技量を考えて召喚出来るシンクロモンスターの数は限られている。

それに対し父のデッキ構築なら様々なレベルのモンスターを出す事が可能だろう。

幼い頃から相手をしているので戦術もある程度は理解できている。

 

「どうした、聖星?」

 

「すみません。

どのカードから発動しようか迷っているんです」

 

いつも以上に長考している後輩にカイザーは怪訝そうな表情を浮かべる。

返された言葉にそれ程シンクロ召喚とは難しいものなのかと思ってしまった。

 

「俺は手札からフィールド魔法【スターライト・ジャンクション】を発動」

 

発動するカードをカイザーに見せた聖星はすぐにそれをフィールドゾーンにセットする。

デュエルディスクがカードに埋め込まれているマイクロチップを読み込み、すぐに立体映像として映しだす。

七色の光は轟音と共に巨大な建物を次々と出現させていき、聖星とカイザーは巨大なハイウェイの上に立っていた。

ハイウェイの下にはネオンの光が輝き、至る所から何かが駆け抜ける音が聞こえてくる。

 

「これは……」

 

「クローバー型のジャンクションか」

 

始めて見るフィールド魔法の光景に万丈目達は周りを見渡す。

十代の【スカイスクレイパー】同様夜の街なのにネオンの輝きによってこの場所は明るい。

カイザーも少しだけ顔を動かしてこの景色を見渡した。

聖星は自分が立っているハイウェイを見下ろし、僅かに口角を上げる。

 

「ここは俺達がいる時代から数十年後をイメージした近未来の都市です。

人々は無限のエネルギーを手に入れ、夜でも常に光が満ち溢れています。

この都市で人々は新たな戦術を確立させ、迫力あるその戦術に熱狂しました」

 

「何?」

 

「これからお見せする戦術は人々を熱狂の渦に巻き込んだものの1つ。

ついてこられるよう頑張ってください。

尤も【神判】が入ったデッキと互角に戦える丸藤先輩だったら心配は無用ですね」

 

まるでカイザーを挑発するような声色と言葉遣いだ。

とても強気になっている聖星の台詞にカイザーも笑みを浮かべた。

 

「俺は手札から魔法カード、【調律】を発動。

このカードは俺のデッキから【シンクロン】と名の付くチューナーモンスターを1枚手札に加え、その後デッキの1番上のカードを墓地に送ります。

俺はチューナーモンスター【アンノウン・シンクロン】を手札に加えます」

 

「それがシンクロ召喚に使用するチューナーモンスターか」

 

「はい」

 

カイザーの問いかけに聖星は強く頷く。

一方観客席にいるクロノス教諭は万丈目と三沢に「チューナーとはなんです~の?」と小声で尋ねている。

万丈目は面倒くさそうに鮫島校長を見上げ、三沢は丁寧に説明し始める。

 

「【調律】の2つ目の効果。

デッキトップからカードを1枚墓地に送ります」

 

カード効果により1枚のカードを墓地に送る。

送られたカードは罠カード【くず鉄の像】である。

【スターダスト・ドラゴン】が描かれているカードが墓地に送られ、聖星は少し残念そうな顔を浮かべた。

 

「(どうせ墓地に罠が行くなら【ブレイクスルー・スキル】が良かった……)」

 

【くず鉄の像】にも墓地で効果を発動する能力はある。

しかし今の段階では全く使えない。

タイミングが悪いものだと思いながら聖星は【アンノウン・シンクロン】を掴む。

 

「相手の場のみモンスターが存在する時チューナーモンスター【アンノウン・シンクロン】は特殊召喚できます。

来い、【アンノウン・シンクロン】」

 

青い光と共に球体の機械モンスターが姿を現す。

それ自体から機械の信号が発せられ、聖星の前でゆっくりと上下に浮かんだり沈んだりしている。

その攻撃力は0で【プロト・サイバー・ドラゴン】を戦闘破壊する事など不可能だろう。

 

「手札のモンスターカード【チューニング・サポーター】を墓地に送り、チューナーモンスター【クイック・シンクロン】を特殊召喚します」

 

「はあ!」

 

「【クイック・シンクロン】は俺の手札のモンスターカードを墓地に送る事で手札から特殊召喚する事が出来ます。

さらにチューナーモンスター【ジャンク・シンクロン】を通常召喚」

 

「はっ!」

 

球体のモンスターの隣に丸みを帯びたデザインのモンスター達が並ぶ。

どれも攻撃力は低く、モンスターを戦闘破壊できるとは思えない。

しかし予めシンクロ召喚について聞かされていたカイザーは無表情でその3体を見つめていた。

 

「【ジャンク・シンクロン】の効果発動。

このカードが召喚に成功した時、墓地のレベル2以下のモンスターを特殊召喚します」

 

「さっきあいつは【クイック・シンクロン】の効果でモンスターを墓地に送っていたな」

 

「【調律】でも何かのカードが墓地に送られている。

もしかするとそのカードの可能性もある」

 

椅子に座りながら聖星の行動を予測する万丈目と三沢。

2人の会話が聞こえる聖星は三沢に対し心の中で首を横に振っていた。

もし父ならモンスターカードが墓地に送られていたかもしれないが、生憎自分にはそんな強運などない。

 

「【チューニング・サポーター】か。

確かレベルは1だったはずだ」

 

「その通りです。

蘇えれ、【チューニング・サポーター】」

 

【ジャンク・シンクロン】の隣に青い光が現れ、その光の中から【チューナーモンスター】が守備表示で特殊召喚される。

その守備力もまた低く、たったの300である。

 

「凄いな、たった1ターンでモンスターを4体も特殊召喚するとは……」

 

「確かに凄いがあんな雑魚モンスターがどうやって強力なモンスターになりやがるんだ?」

 

「シンクロ召喚とはチューナーという特性を持つモンスターを1体、それ以外のモンスターを最低でも1体は必要とする召喚法です。

今俺の場にはレベル5のチューナーモンスターの【クイック・シンクロン】、レベル1の非チューナーモンスター【チューニング・サポーター】が存在します」

 

「【アンノウン・シンクロン】と【ジャンク・シンクロン】は使用できないのか?」

 

「はい。

基本的にシンクロ召喚に使用できるチューナーモンスターは1体と決まっています。

そしてシンクロ召喚で呼べるモンスターは使用するモンスターのレベルの合計分。

2体のレベルの合計は6.

よって俺はエクストラデッキからレベル6のシンクロモンスターを特殊召喚する事が出来ます」

 

「エクストラデッキ?」

 

「あ、いや……

融合デッキを改名した名称です。

インダストリアルイリュージョン社はシンクロ召喚を公表すると同時に幾つか用語も変える予定なんです。

シンクロモンスターは融合デッキから特殊召喚されます。

融合デッキに融合モンスターではないカードが存在するのはおかしいので、今後はエクストラデッキと改名されるはずです。

他にも生贄がリリース、生贄召喚がアドバンス召喚になるはずです」

 

「新ルールに合わせて用語も変えるのか。

これは面白くなりそうだな」

 

新たなる召喚法にそれに伴って変わっていく用語。

確かにこれはデュエルモンスターズ界にとって革命同然な事だろう。

自分と対等に戦える相手がいない事に不満を覚えていたカイザーはこれが切っ掛けに相手が増える事を願った。

同時に自分も更なるステージに進めるかもしれないと淡い希望を抱いた。

そんな事など知らない聖星は宣言する。

 

「レベル1の【チューニング・サポーター】にレベル5の【クイック・シンクロン】をチューニング」

 

聞き慣れない言葉にカイザーや万丈目達は2体のモンスターを凝視する。

【クイック・シンクロン】は腰に下げている拳銃を手に取り、目の前に無数のカード達が姿を現す。

カードは回転し始め、その動きを青い目で見つめていた。

そして瞬時に1枚のカードを打ち抜き、【チューニング・サポーター】はハイウェイを舞い上がる。

それを追うように【クイック・シンクロン】が5つの星と5つの輪に姿を変える。

その星々は【チューニング・サポーター】に埋め込まれ、白い星は6つになった。

 

「集いし力が大地を貫く槍となる。

光さす道となれ、シンクロ召喚!」

 

ネオンの光に負けない緑色の光が轟音と共にハイウェイを照らし、その光の中から1体のモンスターが姿を現す。

ドリルを腕に備え付けているモンスターはゆっくりと顔を上げ回転しながら聖星の前に着地する。

 

「砕け、【ドリル・ウォリアー】!!」

 

「はっ!!」

 

着地した【ドリル・ウォリアー】のマフラーは風によって靡く。

その赤い瞳はただ敵である【プロト・サイバー・ドラゴン】とカイザーを映しだすだけである。

目の前に現れたレベル6の戦士にこの場にいる皆は目を見開く。

攻撃力100と700しかなかったモンスターが一瞬で攻撃力2400のモンスターに代わってしまった。

何度も聖星から聞いていたが実際に目にするのでは全く違う。

今までの常識からは考えられない存在に誰も言葉を発する事が出来なかった。

そんな中カイザーは知らないうちに口角を上げていた。

 

「【チューニング・サポーター】の効果発動」

 

「っ!」

 

言葉を失う皆に対し聖星は静かに効果を発動した。

現実に引き戻されたカイザー達は聖星に目を向ける。

 

「【チューニング・サポーター】はシンクロ召喚に使用された時、デッキからカードを1枚ドローします。

そしてフィールド魔法、【スターライト・ジャンクション】の効果発動。

俺の場に存在するチューナーモンスターをリリースする事で、デッキからレベルの異なる【シンクロン】と名の付くモンスターを1体特殊召喚します」

 

聖星の場にはレベル3の【ジャンク・シンクロン】とレベル1の【アンノウン・シンクロン】が存在する。

すると【アンノウン・シンクロン】の場が青い光で満ち溢れ、【アンノウン・シンクロン】は姿を消す。

 

「来い、【シンクロン・キャリアー】」

 

「はぁあ!」

 

レベル1のモンスターの代わりに現れたのはレベル2の【シンクロン・キャリアー】。

チューナーモンスターではないこのモンスターは今後のために必要なカードである。

 

「【シンクロン・キャリアー】の効果発動。

通常召喚に加え、【シンクロン】と名の付くモンスターを召喚する事が出来ます。

俺は【シンクロン・エクスプローラー】を召喚します」

 

【シンクロン・キャリアー】は自分のクレーンを地面に沈めた。

何かを掴んだのかゆっくりとロープを上げ、そこから【シンクロン・エクスプローラー】を釣り上げる。

 

「ハッ!」

 

新たに姿を現したのは丸いフォルムに赤いボディを持つ小型のモンスター。

着地した【シンクロン・エクスプローラー】の胴体にある穴に光が宿り、そこに墓地に存在するモンスターの姿が映し出される。

それは先程墓地に送られた【クイック・シンクロン】である。

 

「何?」

 

「【シンクロン・エクスプローラー】の効果です。

このカードが召喚に成功した時墓地に眠る【シンクロン】を特殊召喚します。

俺はレベル5チューナー、【クイック・シンクロン】を特殊召喚」

 

ただいま、というように姿を現した【クイック・シンクロン】は軽やかに着地する。

再び【クイック・シンクロン】がシンクロ召喚に使用されるのかと思った。

だが聖星は【ジャンク・シンクロン】に目をやり、視線を向けられた彼は小さく頷く。

 

「レベル2の【シンクロン・エクスプローラー】にレベル3の【ジャンク・シンクロン】をチューニング。

レベルの合計は5です」

 

「という事はレベル5のシンクロモンスターが来るのか」

 

「はい。

集いし星が新たな力を呼び起こす、光さす道となれ!

シンクロ召喚!」

 

ハイウェイの星空に姿を消したモンスター達は緑色の光と共に聖星の場に姿を現す。

 

「いでよ、【ジャンク・ウォリアー】!」

 

張り上げた声に呼応するように緑の光の中から【ジャンク・ウォリアー】が現れる。

一回転した彼は決めポーズを決め、【ドリル・ウォリアー】の隣に降り立つ。

 

「【ジャンク・ウォリアー】の効果発動。

このカードがシンクロ召喚に成功した時、俺の場に存在するレベル2以下のモンスターの攻撃力分攻撃力を上げます。

その効果にチェーンして【シンクロン・キャリアー】の効果が発動します」

 

【シンクロン・キャリアー】は自分の場に存在する【シンクロン】と名の付くモンスターが機械族または戦士族のシンクロ召喚に使用された時、自分の場に【シンクロン・トークン】を特殊召喚する効果を持つ。

【ジャンク・シンクロン】が戦士族である【ジャンク・ウォリアー】の素材となった事で効果が発動した。

 

「特殊召喚された【シンクロン・トークン】のレベルは2.

よって【ジャンク・ウォリアー】は【シンクロン・トークン】の攻撃力1000ポイント攻撃力が上がります」

 

新たなトークンが生まれたと同時に【ジャンク・ウォリアー】の体を光が包み、攻撃力が3300まで上昇する。

 

「そしてレベル2の【シンクロン・トークン】にレベル5の【クイック・シンクロン】をチューニング。

レベルの合計は7」

 

聖星の宣言に2体は身構え、先程のように光り輝く星となる。

【クイック・シンクロン】の5つの輪と星は【シンクロン・トークン】を取り囲み、中に埋め込まれる。

白い星の輝きは一瞬で増し、瞬時に緑の光へと変わっていく。

 

「集いし叫びが木霊の矢となり空を裂く。

光さす道となれ、シンクロ召喚。

いでよ【ジャンク・アーチャー】!」

 

3度目の緑の光の中から現れたのは巨大な弓矢を持つオレンジ色の戦士。

彼は左腕を前に突き出し、矢を引くように構える。

 

「【ジャンク・アーチャー】の効果発動。

1ターンに1度、エンドフェイズまで相手モンスターを除外します。

【プロト・サイバー・ドラゴン】を選択」

 

「罠発動、【サイバー・ネットワーク】」

 

「やっぱり伏せてあった……」

 

カイザーが発動したのは【サイバー・ドラゴン】が描かれている罠カード。

昨日聖星が渡したカードの1枚だ。

当然どんな効果を持つのか聖星は知っている。

だからこそ苦笑を浮かべた。

一方席に座ってデュエルを見守っている鮫島校長は目を見開いた。

 

「(【サイバー・ネットワーク】……

私の知らない【サイバー】関連のカード。

一体丸藤君はどこでそのカードを手に入れたというのだろうか)」

 

「俺の場に【サイバー・ドラゴン】が存在する時デッキに眠る光属性・機械族を除外する。

俺は【サイバー・ドラゴン】を除外する」

 

カイザーの背後に半透明の【サイバー・ドラゴン】が姿を出し、次元の歪みに吸い込まれていく。

それを眺めていた【ジャンク・アーチャー】は青い目で【プロト・サイバー・ドラゴン】を見つめ、青い矢を放つ。

矢を打たれた【プロト・サイバー・ドラゴン】は【サイバー・ドラゴン】と同じ歪みへと姿を消した。

 

「これで貴方の場にモンスターは存在しません。

【ドリル・ウォリアー】でダイレクトアタック」

 

名前を呼ばれた【ドリル・ウォリアー】はドリルを回転させながらカイザーに向かっていく。

勢いよく向かってくるモンスターに対しカイザーは静かに宣言する。

 

「罠発動、【攻撃の無力化】。

このターンのバトルフェイズを終了する」

 

「でしたら【ドリル・ウォリアー】の効果発動。

手札のカードを1枚墓地に送り、次の俺のターンのスタンバイフェイズまで除外します。

ターンエンド」

 

無表情のまま聖星の場に戻ってきた【ドリル・ウォリアー】はそのまま除外ゾーンへと行ってしまった。

その代わりに【プロト・サイバー・ドラゴン】が場に戻ってくる。

 

「俺のターン、ドロー。

【天使の施し】を発動する。

デッキからカードを3枚引き、2枚捨てる」

 

「(何を捨てたのか凄く怖いな……)」

 

まだ墓地利用という概念が薄いこの時代においてカイザーは見事にその墓地を活用している。

しかも昨日渡したカードは墓地でも効果を発動するものもある。

カードに愛されているカイザーなら先程捨てたカードがそれである可能性が高い。

警戒しながら聖星はカイザーを凝視した。

 

「ライフを半分支払い【サイバネティック・フュージョン・サポート】を発動。

このターン、融合を行うとき1度だけ場・墓地・手札から融合素材モンスターを選択する事が出来る。

俺は魔法カード【融合】を発動」

 

「【サイバネティック・フュージョン・サポート】を使ったっていう事はさっき墓地に捨てたのは……」

 

「聖星、お前の考えている通りだ。

俺が墓地に送ったのは【サイバー・ドラゴン・ツヴァイ】と【サイバー・ドラゴン・ドライ】の2枚。

この2枚は墓地に存在する時【サイバー・ドラゴン】として扱う」

 

背後に現れたのは【サイバー・ドラゴン】と比べ鋭いフォルムをしている機械族モンスター達。

片方はオレンジ色のラインがボディに走っており、もう片方は黄緑色のラインがある。

この2枚はどちらも聖星が渡したカードだ。

早速使ってきたカイザーに背筋に冷たい汗が流れた。

 

「墓地の【サイバー・ドラゴン】、そして場に存在する【プロト・サイバー・ドラゴン】を融合し【サイバー・エンド・ドラゴン】を融合召喚する!!」

 

半透明だった【サイバー・ドラゴン・ツヴァイ】達は【サイバー・ドラゴン】として扱われている【プロト・サイバー・ドラゴン】の両側に並び紫色の渦の中に消えていく。

代わりに渦の中から光が溢れ出し、三首を持つ機械のドラゴンが姿を現す。

ネオンの光は銀色のボディによって反射し、夜空の下にいるせいか銀色の竜はいつも以上に恐怖を駆り立てる風貌をしている。

 

「魔法カード【天よりの宝札】を発動。

互いに手札が6枚になるようドローする」

 

「あ、ありがとうございます」

 

シンクロ召喚を連続して行ったため聖星の手札は0枚。

それが一気に6枚に増えて実に嬉しい限りだ。

だがカイザーも手札が増えた事で今以上にモンスターを特殊召喚しようと思えば出来るはず。

 

「【サイバー・エンド】、【ジャンク・アーチャー】に攻撃!

エターナル・エヴォリューション・バースト!!」

 

【サイバー・エンド・ドラゴン】は3つの首を【ジャンク・アーチャー】に向ける。

6つの眼に睨まれた【ジャンク・アーチャー】は怯んだのか若干後ろに下がってしまう。

その弱気になった瞬間を見逃さず【サイバー・エンド・ドラゴン】は熱戦を放った。

敵からの攻撃に【ジャンク・ウォリアー】と【シンクロン・キャリアー】は慌ててその場から離れる。

 

「グ、オォ!!」

 

攻撃を受けた【ジャンク・アーチャー】は一瞬で爆発し、聖星はライフが4000から2300に減少してしまう。

【ジャンク・ウォリアー】は【サイバー・エンド】を睨み付け、【シンクロン・キャリアー】は涙目で敵を見上げている。

微かに体が震えている。

そんなモンスターを静かに見ながらカイザーはデュエルを続けた。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。

スタンバイフェイズ時、除外されている【ドリル・ウォリアー】が帰ってきます」

 

聖星の宣言通りに場に青い歪みが現れ、そこから【ドリル・ウォリアー】が現れる。

涙目になっている【シンクロン・キャリアー】の姿に怪訝そうな表情を浮かべたが、目の前に立ちはだかる巨大なモンスターの存在にどこか納得したようだ。

 

「そして【ドリル・ウォリアー】は戻って来た時、墓地に存在するモンスターカードを1枚手札に加える事が出来ます。

俺は【ジャンク・シンクロン】を選択します」

 

「墓地からレベル2以下のモンスターを特殊召喚するチューナーか。

今お前の場にはレベル2の【シンクロン・キャリアー】が存在する。

墓地にはレベル1の【チューニング・サポーター】とレベル2の【シンクロン・エクスプローラー】がいたはずだ。

これで最高レベル7のモンスターを呼べるという事か」

 

「そういう事になります」

 

カイザーの言葉に頷いた聖星は【ジャンク・シンクロン】を召喚する。

 

「【ジャンク・シンクロン】を召喚。

俺は【ジャンク・シンクロン】の効果でレベル1の【チューニング・サポーター】を守備表示で特殊召喚します」

 

ぽん、という可愛らしい音と共にフィールドに姿を現した【ジャンク・シンクロン】は自分の隣に墓地に繋がる道を作る。

そこからマフラーを巻いている【チューニング・サポーター】が飛び出してくる。

 

「レベル1の【チューニング・サポーター】とレベル2の【シンクロン・キャリアー】にレベル3の【ジャンク・シンクロン】をチューニング」

 

再び行われるシンクロ召喚に皆はどんなモンスターが召喚されるのか期待した。

今までのモンスターを見る限り、恐らく戦士族か機械族のシンクロモンスターが召喚されるはずだ。

しかし聖星が召喚するモンスターはそのどちらでもない。

 

「閉ざされた世界に眠りし古の龍。

今ここに目覚めろ、シンクロ召喚」

 

聖星の背後に立った光の柱は氷の柱へと変わり、その中から氷の体を持つドラゴンのようなモンスターが出現した。

凍り付いている体が触れたフィールドは次々に凍ってゆき、モンスターの吐息は氷の息だ。

 

「猛威を振るえ、【氷結界の龍ブリューナク】!」

 

「グォオオオオ!!」

 

体を震わせる程の雄叫びを上げた【ブリューナク】は【サイバー・エンド】を見上げる。

【ブリューナク】が呼吸する度に彼の口元の水蒸気は凍り付き、ハイウェイに氷の結晶が落ちていく。

氷の名を持つのに相応しいドラゴンの登場に三沢達は目を見開く。

 

「おいおい、まさかのドラゴンだと?」

 

「てっきりシンクロモンスターは【ウォリアー】と名の付くモンスターばかりかと思っていたが、こういうモンスターも存在するのか」

 

「ううう~、私の気のせいでしょ~か。

急に寒くなってきたノ~ネ」

 

開発されたばかりで数が少ないとは聞き、さらに聖星が今まで召喚したモンスターの姿形からシンクロモンスターは戦士や機械族のような姿をしていると思っていた。

良い意味で期待を裏切られた三沢達はその姿を目に焼き付ける。

一方クロノス教諭は自分の両腕をさすり、息を吐いて手を温める仕草をした。

 

「【氷結界のブリューナク】の効果発動。

手札を1枚捨て、場のカードを1枚丸藤先輩の手札に戻します。

【サイバー・エンド】を選択します」

 

「何!?

ならば罠発動【激流葬】!

場のモンスターを全て破壊する!」

 

【サイバー・エンド】は融合モンスターなので【ブリューナク】のバウンス効果では融合デッキに戻ってしまう。

このままではカイザーの場はがら空きになってしまい、ダイレクトアタックを受けるのは当然の事。

 

「あちゃ~

先輩の伏せカードも手札に戻すつもりだったのに、上手くいかないなぁ」

 

「伏せカードも?

まさか1ターンに使用できる回数の制限がないのか?」

 

「はい」

 

微笑んだまま肯定された疑問にカイザーは【激流葬】を発動して良かったと思った。

そして発動された【激流葬】のカードから凄まじい勢いで流水が溢れ出る。

水は聖星とカイザーの場のモンスターを全て飲み込み、次々と破壊していった。

シンクロモンスター達が破壊されていった姿に万丈目は笑みを浮かべる。

 

「よし、良いぞ。

聖星はこのターン通常召喚をした。

これ以上モンスターの召喚はないはずだ。

……と言いたいところだが」

 

「あぁ。

聖星はさっきのターン、モンスター自身の効果で何体ものモンスターを1ターンで召喚した。

手札はまだ8枚もある。

それに聖星のあの表情……

またモンスターを召喚してくるぞ」

 

万丈目の言葉を引き継ぐように三沢が冷静に同意する。

聖星は【激流葬】を発動されたというのに焦りの色が無かった。

カイザーがそのカードを発動するのを見越してはいなかったようだが、この状況を挽回出来る方法があるのだろう。

クロノス教諭と鮫島校長もその方法があるのが気になるのか聖星を凝視している。

 

「手札から魔法カード【ワン・フォー・ワン】を発動。

手札の【ダンディライオン】を墓地に送り、デッキからレベル1のモンスターを特殊召喚します。

俺が召喚するのはチューナーモンスター【グローアップ・バルブ】」

 

「ブォ!」

 

デッキから現れたのは球根のような形をしているモンスター。

球根の部分に巨大な目があり、実に気味の悪いモンスターだ。

クロノス教諭は気味が悪いの~ね、とでも言うように表情を変えた。

だがこの見た目の割に【グローアップ・バルブ】は実に有能な効果を持ち合わせている。

すると【グローアップ・バルブ】の隣に2体のモンスターが特殊召喚される。

 

「何?」

 

「【ダンディライオン】の効果です。

このカードが墓地に送られた時、俺の場にレベル1の【綿毛トークン】を2体特殊召喚します。

さらに墓地に存在する闇属性の【ジャンク・シンクロン】を除外し、【輝白竜ワイバースター】を特殊召喚します」

 

「ぐわぁあ!」

 

新たに場に特殊召喚されたのは墓地に存在する闇属性を除外する事で特殊召喚が出来るドラゴン族モンスター。

白い翼を広げた【ワイバースター】は威嚇するように唸る。

 

「いきますよ。

レベル1の【綿毛トークン】1体とレベル4の【輝白竜ワイバースター】にレベル1の【グローアップ・バルブ】をチューニング」

 

レベルの合計は6.

次はどのようなモンスターが現れるのかカイザーは静かにシンクロ召喚の様子を見つめた。

6つの白い星は緑色の光に変わり、人の形になっていく。

 

「託された力により悪を滅ぼすための暴君となる。

力を振りかざせ、シンクロ召喚。

【ゴヨウ・ガーディアン】」

 

「はっ!」

 

どこからか和風なメロディが流れてきて、その音と共に歌舞伎役者のような風貌をしたモンスターが舞い降りる。

その攻撃力の数値にカイザーは目を見開いた。

 

「攻撃力2800!?

馬鹿な、俺の【サイバー・ツイン】と互角の攻撃力を持つレベル6のモンスターだと!?」

 

レベル6といえばだいたい攻撃力は2000~2500の数値となる。

その数値を超え、2800の攻撃力を持つモンスター等聞いた事もない。

自分が長年使っているモンスターと比較してその異常さが嫌でも分かる。

カイザーの様子に聖星は不敵に笑い静かに言う。

 

「こいつの怖さは攻撃力だけではありませんよ」

 

「随分と大した自信だな」

 

「バトルになれば分かります。

シンクロ素材になった【ワイバースター】の効果発動。

このカードが墓地に送られた時【暗黒竜コラプサーペント】をデッキから手札に加えます。

そして【ワイバースター】を除外し、【コラプサーペント】を特殊召喚します。

さらに墓地に存在する【グローアップ・バルブ】はデッキトップを墓地に送る事で特殊召喚出来ます」

 

次々に現れるモンスター達。

【激流葬】で場のモンスターが全て全滅したなど嘘のような光景だ。

黒い肉体を持つ竜に再び現れた球根のモンスター。

 

「お前の場には【綿毛トークン】がもう1体……

これでまたレベル6のモンスターを呼べるのか」

 

「いいえ、レベル8ですよ」

 

「何?」

 

「手札から【ドッペル・ウォリアー】を特殊召喚します」

 

「はっ!」

 

「【ドッペル・ウォリアー】は墓地からモンスターの特殊召喚に成功した時手札から特殊召喚出来るモンスター。

【ドッペル・ウォリアー】のレベルは2、よってレベルの合計は8です」

 

レベル8とは今までシンクロ召喚で出されたモンスターの中で最も高いレベルである。

レベル6でもあれ程強力な効果を持っているのだ。

8のモンスターとなるとどんな効果になるのか興味がわいてくる。

 

「レベル1の【綿毛トークン】とレベル2の【ドッペル・ウォリアー】、レベル4の【暗黒竜コラプサーペント】にレベル1の【グローアップ・バルブ】をチューニング」

 

飛び立った3体のモンスターの後を追いかけるよう【グローアップ・バルブ】も夜空に舞い上がる。

薄暗い夜空に何度目か分からない緑色の輝きが満ち溢れ、その光は銀色に変わっていく。

 

「星々の命を翼に宿す白銀の竜よ、一筋の閃光となり、世界を駆けろ!

シンクロ召喚!」

 

今までにない程の強い輝きを放った光は天の雲まで貫き、ハイウェイを揺らす轟音を轟かす。

夜のハイウェイを照らす白い光は1匹のドラゴンの姿に形を変えた。

 

「玲瓏たる輝き、【閃珖竜スターダスト】!」

 

「グルオオオオ!!」

 

純白の肉体に黄色の瞳、紫色の宝石を身にまとう姿はまさに美しいとしか言いようがなかった。

【ゴヨウ・ガーディアン】の数倍程の大きさを持つドラゴンはカイザーを見下ろし、聖星を守るように前に立つ。

守護を司る竜の美しさに三沢達は無意識のうちに言葉を零した。

 

「なんて綺麗なモンスターなんだ……」

 

「マンマミ~ヤ……」

 

「【暗黒竜コラプサーペント】の効果発動。

このカードが墓地に送られた時、デッキから【ワイバースター】を手札に加えます。

そして【ドッペル・ウォリアー】はシンクロ召喚に使用された時【ドッペル・トークン】を2体、特殊召喚します」

 

2体のシンクロモンスターの足元に現れたのは小柄のトークン。

その攻撃力は400と頼りないが、傍らには攻撃力2800の【ゴヨウ・ガーディアン】と2500の【閃珖竜スターダスト】が存在する。

 

「【閃珖竜スターダスト】、ダイレクトアタック」

 

静かな攻撃宣言に【スターダスト】は大きく口を開け、体中から力を集約させる。

流石にこのダイレクトアタックを受けるわけにはいかなかった。

 

「速攻魔法、【ダブル・サイクロン】を発動!

このカードは俺と君の場の魔法・罠カードを1枚ずつ破壊する!

俺が選択するのは【スターライト・ジャンクション】と【サイバー・ネットワーク】!」

 

「あ、しまった」

 

1枚のカードから放たれた突風はフィールドのハイウェイを破壊し、味気がないただのデュエルフィールドに戻ってしまう。

同時にカイザーの永続罠も破壊されてしまい、聖星は除外されているモンスターを思い浮かべる。

 

「【サイバー・ネットワーク】はフィールドから墓地に送られた時、除外されている機械族・光属性モンスターを可能な限り特殊召喚出来る」

 

カイザーの説明に三沢達は今までのデュエルを思い出す。

 

「今除外されている機械族・光属性モンスターといえば……」

 

「シニョール聖星の最初のターン【サイバー・ネットワーク】で除外された【サイバー・ドラゴン】。

【サイバネティック・フュージョン・サポート】の効果で除外された【プロト・サイバー・ドラゴン】、【サイバー・ドラゴン・ツヴァイ】と【サイバー・ドラゴン・ドライ】の4体なノ~ネ」

 

「現れろ!」

 

高く手を上げると上空から4つの歪みが出現し、そこから除外されていた機械族達が帰還してくる。

同時にカイザーの場に伏せてあった最後の伏せカードは【サイバー・ネットワーク】のデメリット効果により場からなくなる。

守備表示で召喚され壁となっているモンスター達に聖星は【スターダスト】を見上げた。

 

「だったら【スターダスト】は【プロト・サイバー・ドラゴン】、【ゴヨウ・ガーディアン】は【サイバー・ドラゴン】に攻撃」

 

大きく翼を羽ばたかせ、【スターダスト】は口から光を放つ。

その光は【プロト・サイバー・ドラゴン】を一瞬で鉄くずに変えてしまった。

【ゴヨウ・ガーディアン】は持っている十手で【サイバー・ドラゴン】を貫いて破壊した。

すると【ゴヨウ・ガーディアン】は砕け散った【サイバー・ドラゴン】の欠片を十手の縄で捕えた。

 

「どういう事だ?」

 

「【ゴヨウ・ガーディアン】の効果発動」

 

「っ!」

 

「このカードが戦闘で破壊し、墓地に送ったモンスターは俺のモンスターになります」

 

「何だと!?」

 

今までの中で最も驚いた表情を浮かべるカイザー。

その表情に気をよくしたのか【ゴヨウ・ガーディアン】は凶悪な笑みを浮かべ、聖星の前に【サイバー・ドラゴン】を引きずり出す。

敵の陣に連れてこられた屈辱からか【サイバー・ドラゴン】は無機質で甲高い音を鳴らしながら聖星を睨み付ける。

地味に怖い【サイバー・ドラゴン】に聖星は冷や汗を流した。

 

「カイザーの【サイバー・ドラゴン】が奪われた!?」

 

「攻撃力2800に破壊したモンスターを自分のモンスターにする……

なんて効果なんだ」

 

観客からの声に聖星は内心頷いた。

未来でも【ゴヨウ・ガーディアン】はその強さを認められ、禁止カード扱いとなっている。

高速化が進んでいる未来でも禁止扱いなのだ。

この時代でこの効果と攻撃力はかなり脅威だろう。

 

「悪いですけど丸藤先輩の【サイバー・ドラゴン】、利用させてもらいます」

 

「何?」

 

「【サイバー・ドラゴン】を丸藤先輩の手札に戻し、手札からチューナーモンスター【A・ジェネクス・バードマン】を特殊召喚します」

 

「なっ!

場のモンスターを手札に戻す事による特殊召喚だと!?」

 

「聖星の奴、奪ったモンスターの利用法まできちんと用意していたのか……」

 

「あぁ。

それにシンクロ召喚を主体にしているんだ。

例え低レベルのモンスターのコントロールを奪ったとしてもシンクロ召喚に使用すれば良い」

 

【サイバー・ドラゴン】の代わりに現れたのは鳥の頭を持つモンスター。

今聖星の場にはトークンが2体存在する。

新たに現れたチューナーモンスターの存在により次に何が行われるのかは嫌でも分かった。

 

「レベル1の【ドッペル・トークン】2体にレベル3の【ジェネクス・バードマン】をチューニング。

平和のために生まれた哀れな機械の鼓動。

殺戮を繰り返せ、シンクロ召喚。

【A・O・Jカタストル】」

 

新たに姿を現したのは生き物から、人の形からもかけ離れた容姿の機械族モンスター。

低い機械音と電子音を発しながら一歩一歩前に進んでいく。

その攻撃力は2200.

 

「ターンエンドです」

 

「俺のターン、ドロー」

 

攻撃力2800に2500,2200.

それに対し自分の場に存在するモンスターは【サイバー・ドラゴン・ドライ】と【ツヴァイ】のみ。

傍から見れば勝ち目のない状況だろう。

だがカイザーは自分が引いたカードを見て口角を上げる。

 

「魔法カード【未来融合】を発動」

 

「【未来融合】か……

嫌なカードを引きましたね」

 

【未来融合】とは融合モンスターを選択し、その素材となるモンスターを墓地に送る。

そして2ターン後に融合モンスターを場に特殊召喚する効果を持つ。

2ターンも待たなければいけないが墓地肥しも兼ねており、未来では禁止カード扱いとなっている。

 

「【サイバー・ツイン・ドラゴン】を選択し、デッキに眠る【サイバー・ドラゴン】を2体墓地に送る。

そして【サイバー・ドラゴン・コア】を召喚」

 

召喚されたのは今までの【サイバー・ドラゴン】関連のモンスターとは異なり、かなり丸みを帯びているモンスター。

何処に目があるのか分からず、ただ体中にチューブが繋がれている。

 

「ギギッ……

ギギギッ……」

 

声なのかそれともボディの金属が擦れる音なのか分からない微かな音。

それを発しながら【サイバー・ドラゴン・コア】は赤く光りはじめる。

 

「【サイバー・ドラゴン・コア】が召喚に成功した時、俺はデッキから【サイバー】または【サイバネティック】と名の付く魔法・罠カードをデッキから手札に加える事が出来る。

俺が加えるのは【サイバー・リペア・プラント】だ」

 

「あ、やばい」

 

「【サイバー・リペア・プラント】は俺の墓地に【サイバー・ドラゴン】が存在する時発動できる。

デッキから機械族・光属性モンスターを手札に加える、または墓地から機械族・光属性モンスターをデッキに戻す。

俺はデッキから【サイバー・エルタニン】を手札に加える」

 

「ですよね」

 

カイザーが選択したのはレベル10の【サイバー】。

融合以外の高レベルモンスターのカードに鮫島校長は目を見開いていた。

そしてそのモンスターは特殊召喚モンスターで通常召喚することは出来ない。

【サイバー・エルタニン】を召喚する方法はただ1つ。

 

「俺は墓地に眠る【サイバー・ドラゴン】2体、【サイバー・エンド・ドラゴン】、場の【サイバー・ドラゴン・コア】、【ツヴァイ】、【ドライ】。

この6体を除外し、【サイバー・エルタニン】を特殊召喚する!!」

 

デュエルディスクの墓地が光り、守備表示のモンスター達もその光に包まれていく。

光の輝きは増し、聖星は腕でその光を遮ろうとする。

モンスター達を包み込む光は1つとなり、重苦しい重機の音が耳に届く。

輝きが収まるとそこには巨大な【サイバー・ドラゴン】の顔と5つの小型の顔があった。

 

「くっ……!」

 

「聖星。

このカードはお前に譲ってもらった1枚だ。

当然このカードの効果は知っているな」

 

「【サイバー・エルタニン】が特殊召喚に成功した時、場の表側表示のモンスターを全て墓地に送ります」

 

「そうだ」

 

カイザーが短く答えると6つの顔は大きく口を開き、収納されている銃口を【スターダスト】達に向ける。

自分達に向けられた事に【スターダスト】は翼を広げて空へと飛び立つ。

逃がさないとでもいうように【サイバー・エルタニン】の2つの顔は【スターダスト】を追いかけた。

 

「【サイバー・エルタニン】、コンステレイション・シージュ!」

 

効果を発動させる言葉がフィールドに木霊し、6つの顔は聖星の場のモンスター達を攻撃する。

これは墓地に送る効果であり、破壊効果ではない。

よって破壊を無効にする【スターダスト】達はなす術もなくフィールドから姿を消した。

 

「【スターダスト】!」

 

あっさりと場からいなくなってしまった友人に聖星は乾いた声しか出てこない。

場の状況が逆転した事に三沢は握りこぶしを作る。

 

「よし、聖星の場にカードは1枚もない!」

 

「ふん。

これで終わりか。

ま、カイザー相手に頑張ったというところか」

 

聖星の場に伏せカードもモンスターも存在しない。

そしてライフは2300.

【サイバー・エルタニン】は除外した機械族・光属性の数×500の攻撃力を持つ。

よって攻撃力は3000だ。

 

「【サイバー・エルタニン】、ドラコニス・アセンション!!」

 

小さな体に向けられる6つの銃口。

【サイバー・エルタニン】は標準を聖星に定め、一気に攻撃する。

向かってくる6つの光に聖星は目を細めた。

 

「手札から【速攻のかかし】を発動します」

 

手札のカードを1枚掴み、それを墓地に送る。

するとどこからか現れたのかブーストを用いて1体のかかしが聖星の代わりに全ての攻撃を受け止める。

攻撃の衝撃で壊れるどころか弾き返した【速攻のかかし】はそのままゆっくりと消えて行った。

 

「やはり手札に持っていたか」

 

「はい。

持っていなければ俺の負けでした」

 

「お前とのデュエルはこうでなくてはな。

カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターンです」

 

カイザーの場に存在するのは攻撃力3000の【サイバー・エルタニン】。

自分を見下ろす12の瞳に聖星はどう打開するか考えた。

緊張気味にデッキからカードを引き、ゆっくりとそのカードを確認する。

 

「あ……」

 

聖星と今までデュエルを見守っていた【星態龍】達にしか聞こえないような小声。

僅かに届いた漏れた声に【星態龍】と【スターダスト】は互いの顔を見合わせる。

 

「どうした聖星」

 

「グルル……?」

 

「いや、何でもない」

 

そう微笑む聖星に2匹は引いたカードを見る。

それはとあるチューナーモンスターだ。

しかしそのチューナーモンスターで一体何をしようというのだ。

少し考えている【星態龍】に聖星は笑みを向けた。

 

「俺はチューナーモンスター【デブリ・ドラゴン】を召喚」

 

「ガァ!」

 

短く低い声で鳴いたのは小型の【スターダスト】に似ているドラゴン。

あまりに似た風貌にカイザーは【閃珖竜スターダスト】の関連カードかと考える。

 

「【デブリ・ドラゴン】は召喚に成功した時、墓地に存在する攻撃力500以下のモンスターを特殊召喚します。

攻撃力100の【チューニング・サポーター】を特殊召喚。

さらに速攻魔法【地獄の暴走召喚】を発動。

丸藤先輩の場にモンスターが存在し、攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚された時、同名カードを全て攻撃表示で特殊召喚出来ます。

さらに【ドッペル・ウォリアー】を手札から特殊召喚します」

 

デッキから取り出したのは2枚の【チューニング・サポーター】。

これで聖星の場は【ドッペル・ウォリアー】、【デブリ・ドラゴン】、3体の【チューニング・サポーター】が揃った。

【地獄の暴走召喚】はカイザーも場に存在する同名カードを特殊召喚出来るのだが、【サイバー・エルタニン】は生憎特殊召喚モンスターのため召喚する事が出来ない。

三沢と万丈目はレベルの合計を計算する。

 

「聖星の場にはレベル1の【チューニング・サポーター】が3体。

そしてレベル4の【デブリ・ドラゴン】、レベル2の【ドッペル・ウォリアー】……」

 

「レベルの合計は9.

結構高レベルなモンスターを出してきやがったな」

 

観客席から聞こえる万丈目の言葉に聖星は首を横に振る。

レベルは9ではなく11にする事も出来るのだ。

【デブリ・ドラゴン】の無効効果を受けていない2体の【チューニング・サポーター】は聖星に振り返り頷いた。

 

「【チューニング・サポーター】の効果。

このカードはシンクロ素材になる時、レベルを1から2に変更できます」

 

「何だと!?」

 

「俺は2体の【チューニング・サポーター】のレベルを1から2に変更。

これで場のモンスターのレベルは11」

 

「レベル11……!!」

 

「おいおい、そんなモンスターまで存在するのかよ!?」

 

デュエルモンスターズ界において最高レベルは12である。

それに届かないといえどもレベル11はかなりの高レベルに分類される。

静かに微笑んだ聖星は宣言した。

 

「行きますよ。

レベル1の【チューニング・サポーター】1体とレベル2となった【チューニング・サポーター】2体、レベル2の【ドッペル・ウォリアー】にレベル4の【デブリ・ドラゴン】をチューニング」

 

大きく手を上げ、同時に5体のモンスター達がフィールドを舞い上がる。

【デブリ・ドラゴン】は4つの星と輪になり、他のモンスター達は透明な姿となる。

白い小さな星は直列に並び、緑色の輝きに包まれる。

 

「有限の海に眠りし赤き星、灼熱の脈動を轟かせ、星々を統べる威光を示せ!

シンクロ召喚!」

 

頭上で輝く光は黄色が混じる赤に変わり、1つの球体が姿を現す。

赤黒く燃えている球体は静かに脈打ちながら真の姿を現す。

光っている赤い肉体は僅かに炎を宿し、無数の目はゆっくりと開き黄色の眼にフィールド全体を映しだす。

1つの球体から本来の姿に戻ったモンスターは炎を吐きながら翼を広げる。

その様子に聖星は自信に満ち溢れた表情で名を叫ぶ。

 

「喰らい尽くせ、【星態龍】!!」

 

「グガァアアアア!!!」

 

久しく呼ばれた己の名に喜ぶよう【星態龍】は咆哮する。

体中を震わせる咆哮、【サイバー・エルタニン】に劣らない巨大な肉体にカイザーは僅かに笑みを浮かべていた。

 

「攻撃力3200……

まだこんなモンスターがいたのか」

 

「でかい……」

 

「あぁ。

【スターダスト】の倍はあるはずだ」

 

三沢達も召喚された【星態龍】の大きさに驚き、その攻撃力にも目を見開いた。

聖星は自分の頭上に浮かんでいる友人を見上げ、小声で語りかける。

 

「こうやって君を出すのはいつ以来だっけ?」

 

「少なくともこの時代に来てから1度も召喚されていないな」

 

「じゃあ半年以上も召喚してないんだ。

言われてみればこの口上を言うの、凄く久しぶりな気がする……」

 

遊馬達の世界ではあの環境上、召喚する事が出来なかった。

そしてこの時代でも決して召喚しないと心に決めていたはずだった。

しかし現実は残酷で聖星にシンクロ召喚を使わせてしまった。

だがどんな経緯であれ【星態龍】と肩を並べて戦う事が出来るのだ。

聖星は静かに目を閉じ、カイザーに顔を向ける。

 

「【星態龍】、バトル!!」

 

聖星は今までにないくらい声を張り上げ、攻撃対象を指さす。

声の張り具合に聖星がどれ程本気か感じ取った【星態龍】はそれに応えるよう、最高の攻撃を仕掛ける。

体中を纏っている熱が口元に集まり、【サイバー・エルタニン】を蒸発させるほどの高温を生み出す。

 

「星崩烈火弾!!」

 

自分の技名と同時にエネルギーの塊である炎を吐き出す。

【サイバー・エルタニン】に向かってくる攻撃にカイザーは罠カードを発動させた。

 

「罠発動、【聖なるバリア‐ミラーフォース】!」

 

相手モンスターの攻撃宣言時、相手の場の攻撃表示モンスターを全て破壊するという罠カード。

カイザーはこれで【星態龍】が破壊されると思った。

だが【星態龍】の攻撃はバリアをすり抜け【サイバー・エルタニン】に直撃する。

 

「なっ、これはどういう事だ!?」

 

「無駄ですよ。

【星態龍】は攻撃するとき自身の効果以外のカードの効果を受け付けません」

 

「そういう効果だったのか」

 

頭上で炎に包まれた【サイバー・エルタニン】は地面に落下する前に蒸発し、消え去ってしまう。

これでカイザーのライフは2000から200マイナスされ1800となった。

カイザーの場には伏せカードしか存在せず、聖星の場には【星態龍】、そしてライフは2300。

またもや状況を逆転されてしまった。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドです」

 

「俺のターン、ドロー

魔法カード【強欲な壺】を発動。

デッキからカードを2枚ドローする。

リバースカード、【異次元からの帰還】を発動。

ライフを半分支払い、除外されている俺のモンスターを可能な限り特殊召喚する」

 

「ここで【異次元からの帰還】ですか」

 

ライフが1800から900に削られてしまったが、帰ってくるモンスターを考えて見れば安い代償である。

今までにないくらい大きな歪みが発生し、そこから【サイバー・エンド】、【サイバー・ドラゴン】が2体、【サイバー・ドラゴン・コア】、【プロト・サイバー・ドラゴン】が特殊召喚された。

攻撃力4000のモンスターの再来に【星態龍】は低く唸り始めた。

 

「魔法カード【ソウル・テイカー】を発動。

お前の場のモンスターを1体、破壊する」

 

「永続罠、【安全地帯】を発動します。

これで【星態龍】はカードの効果では破壊されません」

 

【安全地帯】とはその名の通りモンスターを破壊から守るカード。

守る範囲が狭く、【安全地帯】が場から離れた時対象となったモンスターは破壊されるというデメリットを持つ。

だが【星態龍】を守るためには必要なカードだ。

 

「ならば【サイバー・エンド・ドラゴン】、【星態龍】に攻撃!

エターナル・エヴォリューション・バースト!!」

 

「リバースカード、【くず鉄のかかし】。

そのバトルを無効にします」

 

放たれた3つの光は【星態龍】を貫こうとするが、罠カードから1つのかかしが現れ一身にその攻撃を受け止める。

【サイバー・エンド】の攻撃が無効にされた事でカイザーは少しだけ悔しそうな顔を浮かべた。

 

「そして発動後、このカードは再びセットされます」

 

「再び使用できる罠カードか……

そのカードはこのターンではもう使用できないのか?」

 

「はい。

流石に1ターンに何度でも使えるカードではありません」

 

「そうか。

それを聞いて安心した」

 

カイザーが零した意味ありげな言葉に聖星は身構える。

もしこの発言が他のイエロー寮の生徒だったらそこまで警戒はしない。

だが今自分が相手をしているのはカイザーだ。

何度もデュエルをし、こういう声色で喋った時の彼は必ず何かを仕掛けてくる。

学習済みだからこそ聖星は身構えた。

 

「手札から速攻魔法【瞬間融合】を発動!

【サイバー・ドラゴン】となっている【サイバー・ドラゴン・コア】、【プロト・サイバー・ドラゴン】を融合し、【サイバー・ツイン・ドラゴン】を融合召喚する!!」

 

「キシャアアア!!!」

 

「【サイバー・ツイン・ドラゴン】、【星態龍】に攻撃!!」

 

「え?

攻撃力は【星態龍】が上なのに……

まさか手札に……!」

 

「その通りだ!

速攻魔法【リミッター解除】!

俺の機械族モンスターの攻撃力は2倍になる!!

これで【サイバー・ツイン・ドラゴン】の攻撃力は5600だ!」

 

「っ!!」

 

カイザーの言葉に聖星は悔しそうに顔を歪める。

【星態龍】の攻撃力は3200.

そして聖星のライフは2300.

【サイバー・ツイン・ドラゴン】の5600では僅かに足りない。

 

「エヴォリューション・ツイン・バーストォオ!!」

 

カイザーの声がフィールドに響き渡り、それに続いて【サイバー・ツイン・ドラゴン】の攻撃が【星態龍】を貫く音が聞こえてくる。

数秒遅れて【星態龍】は爆発し、爆風と炎は聖星を襲う。

体中にまとわりつく熱風を感じながら聖星はデュエルディスクが0の数字を表示するのを見つめた。

 

「……凄く悔しいな、これ」

 

久しぶりに【星態龍】を召喚したというのに、あまり活躍させる事も出来ず敗北してしまった。

やっと場に出す事が出来、見るからにやる気満々だった【星態龍】に申し訳がない。

しかし負けは負けだ。

気持ちを切り替えた聖星はカイザーを真っ直ぐ見て微笑んだ。

 

「ありがとうございます、丸藤先輩。

良いデュエルでした」

 

「それは俺の台詞だ。

シンクロ召喚か……

毎ターンあれ程モンスターを召喚されるのは確かに脅威だな」

 

「はい」

 

互いに微笑みながら言葉を交わしていたが、脅威という言葉に聖星は真剣な顔つきになる。

席に座っている万丈目達を見ればカイザーの勝ちにどうやら安心しているようだ。

 

「皆、これがシンクロ召喚だ」

 

固い声で投げかけられた言葉。

瞬時に三沢達も硬い表情になり聖星の言葉に耳を傾ける。

 

「さっきのデュエルのようにシンクロ召喚は使いこなせば1ターンにモンスターが何体でも召喚出来る。

もしセブンスターズがシンクロ召喚を使って来たら一筋縄ではいかない。

でも、もしかしたら使わないかもしれない。

それを覚えておいてほしいんだ」

 

「今回のデュエルでシンクロ召喚の事はだいたい分かった。

デッキ構築の参考にさせてもらうよ」

 

「ふん。

あの程度の展開力、俺の実力なら簡単に蹴散らせる。

ま、知らんよりはマシだろう。

貴様の言う通り、覚えておく」

 

「低レベルモンスターの寄せ集めがあれ程の強力なモンスターになるとは信じられないノ~ネ。

インダストリアルイリュージョン社も素晴らしい物を発明したノ~ネ。

しかしこのクロノス・デ・メディチ、例え道場破り達がそのようなカードを使っても負ける気はありません~ノ」

 

いつも以上に険しい表情を浮かべる三沢に強気な発言をする万丈目。

クロノス教諭もシンクロ召喚の高速回転は理解できたのか肝に銘じているようだ。

今回のデュエルが無駄にならなくて良かったと安心した聖星はこれからの予定を思い出す。

 

「(吸血鬼か……

はっきり言ってそんなに関わりたくないな……)」

 

行方不明になっている社員に、セブンスターズがシンクロ召喚を使うか否か、そして苦手な怪談めいた敵の登場。

キリキリと痛むお腹をおさえながら聖星はため息をついた。

 

END

 




カミューラ様は次回に活躍します(顔を逸らす)
【ヴァンパイア】とのデュエル構成よりこっちのデュエル構成が楽っていったいどういう事なんだろう
書いている自分が1番の驚きです

聖星のデッキはシンクロン・エクストリーム寄りの【白黒ジャンド】です
【ラッシュ・ウォリアー】とか出したかったけど難しいですね
【リミットオーバー・ドライブ】は出す気なしです

あと聖星の初手、あれが最善ですよね?
私の頭脳ではあれが最善の手順でした

いつかは大人遊星vs聖星のデュエルを書きたいです

【DDB】を使わなかったのは聖星なりの優しさです
流石にあれはあかん

普段の聖星は【竜星】の効果をフルに活用して【星態龍】を強化して召喚しているので、基本【星態龍】は無敵です
ですが今回は付加効果なんて一切ないので罠で守るのが基本
まあ、守れてないけどね!

【おジャマ・イエロー】が十代の事を何と呼んでいたのか凄くあやふやです
十代の兄貴って呼んでいたのって2期のホワイトサンダー戦からだって……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十八話 Encounter

聖星とカイザーがデュエルをしている時、保健室に残っている十代はベッドに横たわりながら暇だとぼやく。

外の景色は相変わらず晴天に恵まれており大した変化はない。

面倒な座学の授業を受けなくてすむのはありがたいのだが、こうも長時間やることがないと体が別の意味で痛くなってしまう。

 

「そんなに暇なら小テストの復習でもするか、遊城」

 

「だ~か~ら!

何ですぐにお前は勉強に持っていくんだよ!」

 

「じゃあ1つ聞くが、体調が治ったあとにきちんと勉強するか?

お前がこうして寝ている間にも教科書は先に進んでいるんだ。

体調が治ったあとに泣きつかれるなら今のうちに俺が先生の代わりに教えたほうがまだマシだろう」

 

「ぐぬぬ……」

 

鞄の中から教科書とノートを取り出した取巻は呆れたように十代を見下ろす。

今までの経験上、十代が遅れを取り戻すため自主的に勉強するとは考えにくい。

そして分からないところを後回しにし、結果進級試験の時に泣きつかれるという。

簡単に想像できる未来など取巻からしてみたら御免こうむりたいもの。

だから暇な時間を見つけて教えに来ているのだ。

 

「よければ天上院さんも一緒に勉強しませんか?」

 

「それもそうね」

 

兄の為に授業を休んでいる明日香も勉強に多少遅れが出るだろう。

しかし彼女は優等生で授業の遅れなどすぐに取り戻すことができる。

だから成績の面ではあまり心配はないが、ずっと眠っている兄の傍にいるのも精神的につかれるはずだ。

そちらを心配している取巻は明日香の言葉を聞いた後鮎川先生に目を向ける。

 

「本当ならそういうことは図書室でやって欲しいし、十代君は怪我人だから止めて欲しいけど……

ま、吹雪君に迷惑がかからなければいいわよ」

 

「ありがとうございます」

 

「お礼なんていいわ。

その代わりちゃんと静かにしてね」

 

安心したように笑った取巻に対し十代は項垂れた。

もしここで鮎川先生が許可しなければ嫌いな勉強をせずにすんだのだ。

「怪我人相手に酷いぜ!」と訴えても笑顔で「安心しろ。要は体を動かさなければいいんだろ?」と返され、さらに顔を青くする。

2人の対話に明日香はくすくすと笑い、取巻の横に腰を下ろした。

 

「くそ~、今頃聖星達は楽しいデュエルしているんだろうな……」

 

「不動が?」

 

「十代」

 

目の前に広げられた教科書の山に顔を引きつらせた十代はつい零してしまう。

もちろんその言葉は取巻にも届いており、察した明日香は咎めるように名前を呼ぶ。

デュエルを禁止され、さらに新システムを生で見る機会を奪われているのだ、デュエル馬鹿の十代がつい零してしまうのも仕方がない。

しかしここには部外者の取巻がいるため、そのような発言は少しマズイ。

 

「そういえば丸藤と前田は授業だからまだ来ないのは分かるが……

三沢や不動はこの時間授業はないだろう。

それなのに来ないのは不思議だな」

 

「今聖星達はセブンスターズと戦うためにデュエルの特訓をしているんだ」

 

「なるほど、それに参加できなくて悔しいってことか」

 

「あぁ」

 

十代らしい理由に取巻は一応納得した。

明日香の態度からもっと別の理由はあると思うが、恐らく鍵の所有者ではない自分が知っても意味のないことだろう。

十代は鍵の話を受けた時すぐに取巻や翔、隼人に全てを話した。

その彼が誤魔化すのだからなおさら知ってはいけないことだと思う。

あっさり納得した取巻に明日香と十代は内心ほっと息をつき、明日香は十代を睨み付けた。

 

**

 

カイザーとのデュエルが終わったあと、聖星は試しにと三沢達にシンクロ召喚用のデッキを貸してみた。

1度見ただけのデュエリストにあのデッキが使いこなせるわけはないと予想してはいるが、デッキの扱いの難しさを体感してもらうためだ。

当然慣れていない皆は上手くデッキが回らず、万丈目など途中で聖星に対して怒鳴ったくらいだ。

「こんなデッキ、この万丈目サンダーの性に合わん!」という言葉に苦笑を浮かべるしかない。

そして今噂の中心となっている吸血鬼が現れた湖に来たのだが……

 

「【星態龍】、【スターダスト】、なにか感じるか?」

 

「微弱な結界を張ってはいるようだな。

人間の目を欺く程度なら充分だろう」

 

「突破は出来そうか?」

 

「これぐらいなら問題はない」

 

「分かった、だったら行くか」

 

目の前に広がっているのはいつもと全く変わらない湖。

穏やかな風が微かに波を立たせ、魚達が泳いでいる。

尤もその魚達は本能で湖の異変に気づき、なるべく遠ざかろうとしているのだが人間の聖星はそれに気づかなかった。

すると【スターダスト】が目の前に降り立ち、問いかけるように鳴く。

 

「グォオ?」

 

「十代達に知らせなくていいのかって」

 

「グォ」

 

聖星は今から敵陣に単身で乗り込むつもりなのだ。

いくら【スターダスト】や【星態龍】が傍にいてもセブンスターズ達が卑怯な手を使ってくるかもしれない。

もしもの時に備え、仲間は多い方がいい。

 

「けど仮に皆に知らせてここに集まっても、皆を人質に取られる可能性だってある。

皆をここに呼んで危険に晒すより俺1人で乗り込んだ方が100倍マシだろう」

 

優しく微笑む聖星に【スターダスト】は【星態龍】を見る。

なるべく聖星に危険な目に遭ってほしくない【星態龍】でも今回は彼の意見に賛成のようだ。

しかし【スターダスト】は素直に自分が感じていることを伝えた。

 

「嫌な予感がする?

そりゃあ今から闇のデュエルをしに行くんだ。

え、違う?」

 

「グォオ……」

 

闇のデュエルとしての嫌な感じではない。

タイタンの時のデュエルとも、ダークネスの時とも全く違う気配を感じる。

結界越しに存在する建物から漂う邪悪な気配に【スターダスト】の警鐘は鳴り続いた。

体中を纏わりつくような何かは正直に言って近寄りたくないものである。

もう1度聖星に声をかけようと顔を上げると……

 

「その必要はありません」

 

突然背後から聞こえた声に【スターダスト】と【星態龍】は聖星を守るようにふり返る。

まだ日が昇り辺りは明るいが、森の奥は日の光が届いておらず奥が見えない。

その陰からゆっくりと白いスーツを身にまとっている1人の男が現れる。

男は人懐こい表情を浮かべながらもその瞳は穏やかな色を宿していなかった。

彼はそのまま一礼し、言葉を続ける。

 

「初めまして聖星様、私はイリアステルからの使者です」

 

「イリアステル?」

 

男がはなった言葉に聖星は首をかしげ、【星態龍】は大きく目を見開き、ゆっくりと本来の大きさに戻っていく。

明らかに警戒している友人に怪訝そうな表情を浮かべながらも、今にも火を吹きそうな様子を手で制し、男を見すえる。

 

「一体俺に何の用ですか」

 

「はい。

私達の主が星竜王のお告げを受けた貴方様に是非お会いしたいとお迎えに参りました」

 

「……どうして星竜王の事を知っているのですか?」

 

流石に男が口にした王の名前に聖星は警戒心を抱くしかない。

聖星が知っている限りこの名を知っているのはインダストリアルイリュージョン社の関係者を除けばヨハンと【宝玉獣】、鍵の守護者と鮫島校長、大徳寺先生くらいだ。

かつて栄えた文明の王の名を知る者達がまだいたとは意外である。

 

「イリアステルの発祥はおよそ3000年前、星の民が繁栄していた南米アンデス高地です。

我々はその民の力を受け継ぎ、世の安寧を妨げる三幻魔、そして様々な邪神達を監視する役目を負っています」

 

「という事は、貴方達は俺の味方という事になるんですか?」

 

「その通りです」

 

にっこりという効果音が聞こえてきそうな笑みを浮かべた男性。

しかし相変わらず胡散臭さを覚え、【星態龍】達は警戒をとこうとはしない。

仮に彼らが星の民の力を継ぎ、聖星の味方なら【星態龍】はともかく【スターダスト】は警戒をとくはずだ。

星竜王から授かった精霊の様子を判断材料とすると、どうも彼を信用することはできない。

 

「せっかくのお誘いですがお断りします。

今、俺は三幻魔の復活を目論むセブンスターズにデュエルを挑むつもりです。

それに彼らがいつ俺達の鍵を狙いに来るか分からない以上、島を離れるわけにはいきません。

重要なお話があるのなら、大変失礼ですがアカデミアの校長室で話してください」

 

もしかすると着いていけば何かいい情報を掴むことができるかもしれない。

聖星が行こうと押し通せば2匹も機嫌を急降下するとは思うが渋々頷くはず。

彼が本当に星の民の関係者で、世の平和を願っているのならこの理由で引いてくれるはずだ。

そう願いながら彼を見つめると、男は笑い声をもらす。

 

「何がおかしいんですか?」

 

「いえ、主が申し上げた通りだと思いまして。

ですが貴方様には是非主とお会いしていただきたい。

多少強引ですが、強硬手段を取らせていただきます」

 

強硬手段という言葉に聖星はかまえる。

だが男はただ笑みを浮かべるだけで何も起こらない。

ただの脅しか?と疑問を抱いたと同時に強く風が吹き荒れ、一瞬で視界が光に包まれた。

 

**

 

一方、シンクロ召喚について知った万丈目達は鮫島校長に呼ばれ、校長室にいた。

ここに集まった顔ぶれに自分達が何故呼ばれたのかすぐに理解した。

 

「皆さん、よく集まってくれました。

おや、聖星君はまだですか?」

 

招集をかけたのは闇のデュエルでダメージを負っている十代、吹雪の看病をしている明日香を除いた5人だ。

しかし校長室を訪れたのは万丈目、三沢、カイザー、クロノス教諭の4人だけだ。

 

「そういえば、カイザーとのデュエルが終わってから姿を見ていないな」

 

「どうせ十代のいる保健室だろ。

ちょっと待ってろ、すぐに呼びだす。

……チッ、でないぜあの野郎」

 

不思議そうに呟く三沢の隣で万丈目は舌打ちし、PDAを手に取って連絡する。

何コールか待ってみるが電話に出る気配がない。

仕方なしに保健室にいると思われる少年の番号にかけた。

その画面には取巻の顔が映り、彼はまさかの人物からの連絡に戸惑った雰囲気を出している。

 

「おい、取巻。

お前、聖星を見ていないか?」

 

「不動を?

いいや、見てないぜ」

 

「そうか。

もし保健室に来たら校長室に来いと伝えろ」

 

短く用件を伝えた万丈目は取巻の返答など聞かず、通話を切ってしまう。

相変わらずな彼の態度に保健室にいる取巻は難しそうな顔を浮かべた。

そんな彼に明日香は苦笑を浮かべ、十代は不思議そうに首を傾げた。

万丈目と取巻の会話を聞いていた三沢はイエローの友人に連絡を入れる。

 

「もしもし神楽坂、聖星を知らないか?」

 

「聖星?

いいや、知らないぜ。

なにかあったのか?」

 

「いや、ちょっと彼に用があってな……

どこに行くか聞いていないか?」

 

「あ、そういえば……」

 

「どうした?」

 

「いや、一緒に飯を食べているとき、吸血鬼の噂について話したんだ。

あいつ、かなり気にしていたから湖に行ったかもしれない」

 

「吸血鬼?」

 

神楽坂の口から放たれた単語に皆は互いに顔を見合わせた。

吸血鬼に関する噂など彼らは一切耳にしていないため、このような反応は仕方がなかった。

しかし鮫島校長は心当たりがあるようで眉間に皺を寄せて呟く。

 

「すでに聖星君の耳には入っていたのですか」

 

「校長、吸血鬼とは一体どういうことですか?」

 

「実は……」

 

カイザーからの問いかけに鮫島校長はゆっくりと息を吐き、今学園内で盛り上がっている噂について語り始めた。

鮫島校長はこの噂の的となっている吸血鬼が新たな刺客だと思い、皆に注意を呼びかけるため彼らを集めた。

しかしそれより先に聖星が行動を起こしていたなど予想外だった。

 

「吸血鬼など空想の産物でス~ノ!

どうせセブンスターズ達~が、私達を驚かせるための演技なノ~ネ。

もっとも、そんな演技に引っかかるほ~ど、私達は臆病者じゃないでス~ノ」

 

「確かに演技の可能性もあるが……

チッ、あの野郎、この俺を差し置いてセブンスターズに挑んでいるってことか。

勝手なことをしやがって」

 

「とにかく俺達も湖に行こう。

もしすでに闇のデュエルが始まっていたら大変だ」

 

「おいおい、流石にそれはないだろう。

吸血鬼ってのは夜に動くもんだ。

こんな真っ昼間から外に出てるわけがないだろ。

せっかくの演技とやらが台無しだぜ」

 

「だが、念のため確認する必要性はある」

 

万丈目の言葉に三沢が懸念し、それに関しては心配など無用だと返す。

自分達の常識とアカデミア内の噂、自分達に混乱を引き起こすための演技という可能性を照らし合わせ、昼間は安全だと説いた。

しかしもしもの事を考えてカイザーは湖に行く事に同意する。

すぐに湖に向かった4人だが、訪れた先の湖はいつもと何ら変わらなかった。

 

「ここがその湖か」

 

「どうや~ら、シニョール聖星はここにいないようなノ~ネ」

 

「どうやら俺達の杞憂だったようだな」

 

特に禍々しい気配も感じず、どこかでデュエルを行っているような音も聞こえない。

自分達の考えすぎかと思いながら4人は吸血鬼が現れると思われる夜にここに集まると決めた。

 

**

 

微かに感じる穏やかな風と何かの機械音が耳に届く。

それを認識したと思ったら次に自分が何か冷たいものに横たわっている事に気が付いた。

一体どうしたのだろうと重たい瞼を上げると白い世界が視界に入ってきた。

まだ動ききっていない思考で状況を確認しようと、僅かに痛む頭をおさえながら顔を上げる。

 

「ここは?

……【星態龍】、【スターダスト】?」

 

意識を失う前の記憶を思い出しながら自分と共にいる2体の竜の名を呼ぶのだが、彼らは一切答えてくれず、姿さえも見せてくれない。

しかも自分がいる場所は白い床と天井は見えるがそれは果てしなく続いており、壁が全く見えない。

無限に広がる空間に1人きりという事に少しだけ心細くなってきた。

取りあえずここから移動しようと立ち上がると背後から声がかかった。

 

「お待ちしておりました」

 

「え?」

 

振り返れば機械音を立てながら浮かんでいる何かが自分を真っ直ぐと見つめていた。

自分の3倍近くの高さをほこり、全体的に白と黒の装甲をまとったロボットの姿に聖星は言葉を失った。

だが、ドン・サウザンドや星竜王等の常識では考えられない事を経験していたおかげか、すぐに自分の置かれている状況を確認しようと声をかける。

 

「貴方は誰ですか?

それにここは一体どこですか?」

 

「誰ですか、か……

まさか貴方の口からそのような問いかけをされるなど、仕方がないとは思っていますがいささか悲しいものですね」

 

「どういう意味ですか?」

 

何者かの問いかけに返ってきた悲しげな言葉に聖星は首を傾げる。

その口ぶりは自分と彼がどこかで会っている事を意味している。

だが、肝心の聖星の記憶の中に彼に該当する存在はいないはずだ。

 

「私はゾーン。

貴方がこの時代に来るのを待っていました――よ」

 

**

 

「で、結局聖星の奴は見つからなかったのか?」

 

「部屋や保健室にもいなかったんだな」

 

「あれから何度もPDAに連絡を入れたが全て返答がなかった」

 

陽はすっかり落ち、夕空から夜空へと変わってしまった時間帯。

聖星と同じように鍵の所有者に選ばれた少年達は昼間と同じように湖の前に集まっていた。

万丈目の疑問に隼人とカイザーが答えると、彼は眉間に皺を寄せて舌打ちをする。

すると風も吹いていないのに湖に波が立った。

静かな暗闇の中でその音は異様に響き、カイザー達は一気に視線をそこに向けた。

同時に真っ赤なカーペットが湖の上に敷かれる。

 

「何だ?」

 

「バージンロードってやつか?」

 

「いや、違うだろう」

 

「呼んでいるんだ、俺達を」

 

湖の上に絨毯がしかれているという非現実的な事に万丈目はつい零してしまう。

それを的確に三沢が突っ込み、警戒心をむき出しにしたカイザーが静かに告げる。

高校生という子供ゆえの怖いもの知らずのおかげか彼らは冷静に対処しているが、大人であるクロノス教諭と大徳寺先生は真っ青である。

大人達の逃げ腰姿に気づいていない4人は誰がデュエルをするかと話し合う。

するとクロノス教諭が前に出た。

 

「流石なんだな、クロノス教諭」

 

「真っ先に立候補するとは」

 

「教師の鏡なんだにゃ」

 

自分達の前に出た教諭の姿に皆は素直に感心する。

背中から送られる生徒達の言葉に、実は逃げようとして下がったら何かにぶつかって驚いてしまったとは言えなくなった。

一気に血の気が引くのを覚えながらも自分を奮い立たせ、クロノス教諭は笑みを浮かべた。

 

「当たり前なノ~ネ!

赤き道は紳士の道!

つまりはメディチ家の道!」

 

内心震えているクロノス教諭は乾いた笑い声を上げながら何かの音に気付き、耳を澄ませた。

それは絨毯の上をヒールの靴で歩いてくる音だ。

敵が近づいてきていると瞬時に判断した彼らは目を凝らせて霧の向こう側にいる誰かを見つめた。

 

「ようこそ、赤き闇への道へ」

 

ヒールの音と共に現れたのは暗い緑色の長髪を持つ絶世の美女。

艶めかしい体のラインや胸元を強調するような真っ赤なドレスを着こなす彼女は美しい笑みを浮かべた。

 

「あら、お相手は貴方なの?」

 

「いかにもなノ~ネ」

 

「(やだわ、私あっちの子が良いのに)

チェンジはありかしら?」

 

「だぁ!?」

 

不敵な笑みを浮かべながら現れた彼女はクロノス教諭の姿に少々残念そうな顔をする。

そして一瞬だけ誰かに目をやり、輝かしい笑顔で聞いてきた。

実技担当最高責任者であるクロノス教諭の前で堂々と言い放つ姿に彼は額に青筋を立てながら怒鳴る。

 

「失礼なノ~ネ!!

このクロノス・デ・メディチ、相手にとって不足はないノ~ネ!」

 

「そう。

でわ、始めましょう闇のデュエルを。

今回のお相手は私、セブンスターズの貴婦人、ヴァンパイア・カミューラ」

 

「「デュエル!!」」

 

**

 

一方、勉強もほどほどに終えた十代達はのんびりと過ごしていた。

流石に勉強漬けだと十代のストレスにつながると考えた取巻は、折角【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】が帰ってきたという事でデッキ調整に付き合ってもらう事にした。

デッキレシピの相談にさっきまでベッドに沈んでいた彼はすぐに目を輝かせ、翔と取巻は苦笑を浮かべ、明日香はくすくすと笑う。

このカードは要らない、けどこのカードがないと駄目だ等と話し合っていると扉が開く。

 

「お、聖星!」

 

「不動……

お前、一体今までどこに行っていたんだ?」

 

保健室に入ってきたのは昼過ぎから連絡が取れなかった聖星だ。

彼はひらひらと手を振り、何も答えずただ笑みを返すだけ。

机の上に広がるカードに何をしているんだと聞こうとしたが、それより先に明日香が言う。

 

「万丈目君達が探していたわよ」

 

「え、万丈目達が?」

 

「えぇ」

 

「あ、本当だ。

着信数が凄い事になってる」

 

ポケットからPDAを出して電話の着信数、メールの受信数を見てみたが桁数がおかしい。

10件以上の電話が来ているなど人生初めてかもしれない。

ベッド横に置いてある椅子に腰を下ろした聖星は1つ1つメールの内容をチェックする。

万丈目からのメールが1番多いとこぼすと明日香は困ったような顔をした。

 

「聖星君、ちょっと良いかしら?」

 

「え?」

 

仕方なく電話で連絡しようとすると鮎川先生が膝を曲げて顔を覗き込んでくる。

一体なんだと思うと額に手を当てられた。

 

「鮎川先生?」

 

「少し顔色が悪いわ。

熱はないようね。

どこか具合でも悪いの?」

 

「あ、いや……」

 

「マジかよ聖星」

 

「不動?」

 

流石は孤島にある学園の保健担当の教師だ。

保健室を任されている彼女の言葉に十代達も聖星の顔を凝視する。

まさか顔色の悪さを指摘されるとは思わず、言葉に詰まってしまう。

すると勢いよく扉が開き、隼人が焦った声で言い放った。

 

「大変なんだな!

クロノス教諭が闇のデュエルをするんだな!」

 

「何だと!?」

 

「そんな無茶よ、またあんな危険なデュエルを始めるなんて!」

 

隼人からの情報にこの場にいる取巻や明日香はダークネスのデュエルを思い出す。

デュエルはしなかったが、モンスター同士の戦闘で発生した攻撃や爆発、爆風は間違いなく本物だった。

現に十代はそのデュエルが原因でまともに体を動かす事ができないでいる。

 

「クロノス教諭……」

 

聖星は内心隼人の登場に安堵しながらも、闇のデュエルに挑むクロノス教諭の無事を願った。

 

END

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九話 クロノス教諭vsカミューラ

 

「「デュエル!!」」

 

「レディファーストよ。

私のターン、ドロー」

 

ついに始まった闇のデュエル。

観客となっているカイザー達は、対戦相手に立候補したクロノス教諭を見守った。

美しくカードを引いたカミューラは微笑みながらモンスターの名を呼んだ。

 

「【ヴァンパイア・ソーサラー】を召喚。

カードを1枚伏せてターンエンドよ。

さ、どうぞ、先生」

 

場に召喚されたのは髪が長く、魔法使いのような帽子を被っている吸血鬼だ。

まとっている雰囲気はおどろおどろしいもので、霧が充満する夜というシチュエーションが不気味さを引き立たせている。

しかその守備力は1500であった。

未だに心臓が煩いクロノスは静かに息を吐いて笑みを浮かべた。

 

「ふっ、雑魚モンスターで様子見とは随分と堅実なデュエルナノ~ネ

しか~し、この私相手にその堅実さは意味がありませーん。

アンティパストで終わらせてあげル~ノ」

 

「アンティパストで終わるですって?

私からしてみれば貴方はアペリティーヴォにすらならないわ」

 

ふふふふ、と2人の笑い声がある種のコーラスとなっている。

怖がれば良いのか笑えば良いのか、少し反応に困る。

笑い声を除けば真剣なデュエルであるこの場に飛んできた言葉に大徳寺は首を傾げた。

 

「あんてぃ、何ですかにゃ?」

 

「アンティパストは前菜、アペリティーヴォは食前酒ですよ」

 

「へぇ~、流石は万丈目君。

博学ですにゃ」

 

「私のターン、ドロー。

私は【古代の機械素体】をしょうか~ん」

 

白い輝きと共に現れたのは1体の機械族モンスター。

普段目にしている【機械兵】達と異なり、いくらかボディが簡素化されている。

素体という名の通り、フレームをつける前の状態なのだろうか。

 

「【古代の機械素体】の効果を発動すル~ノ!

手札を1枚捨て~て、デッキから【古代の機械巨人】を手札に加えるノ~ネ」

 

早速手札に加えられたのは彼の代名詞と言えるカードだ。

しかし【古代の機械巨人】は原則特殊召喚が出来ないモンスターである。

既に通常召喚を行っているため、このターンで場に召喚される事はないだろう。

 

「【古代の機械素体】でこうげ~き!」

 

細い腕を持ち上げた【古代の機械素体】は、重量を生かした威力で【ヴァンパイア・ソーサラー】を叩きつぶす。

粉々に砕けた下部を静かに見届け、カミューラは妖艶な笑みを浮かべた。

 

「この瞬間、【ヴァンパイア・ソーサラー】の効果が発動しますわ。

デッキから【ヴァンパイア・アウェイク】を手札に加えます」

 

「(聞いたことのないカードナノ~ネ……)

カードを1枚伏せて、ターンエンドナノ~ネ」

 

「私のターン、ドロー」

 

ゆっくりとデッキからカードをドローすると、彼女はそのカードを手札に加えなかった。

不敵な笑みを浮かべながら彼女はその名を宣言する。

 

「手札から永続魔法【不死式冥界砲】を発動よ」

 

場に現れた怨念集合体のようなものの姿に、クロノス教諭は静かに顔を歪める。

黒い歪みの中から現れたのは青白い骨、それも1つや2つではない。

薄気味悪い様々な骨が組み上がり、1つの大砲となった。

 

「このカードは、私がアンデット族モンスターを特殊召喚することで先生に800ポイントのダメージを与えるわ」

 

「800……!」

 

「アンデットは墓地からの特殊召喚に長けている。

5回特殊召喚されたらライフは0だぞ」

 

説明された数値に万丈目と三沢は目を見開く。

ライフ4000であるこの世界において、800という数値は大きい。

特殊召喚を得意とする種族がたった1度の召喚に800のダメージを与えるのは高すぎる。

当然、ゲームバランスを崩さないため当然制約がある。

それを知っているカイザーは腕を組みながら冷静に口を開く。

 

「だが、あのカードの効果は1ターンに1度しか発動しない。

最短でも5ターンは必要だ。

クロノス教諭が相手に5ターンも許すとは思えない」

 

厄介な事に変わりは無いが、実技最高責任者であるクロノス教諭なら可愛い相手だろう。

それを自覚しているためクロノス教諭もたいして慌てはしなかった。

 

「そして、【ゾンビ・マスター】を召喚しますわ」

 

「ヒヒヒッ」

 

召喚されたのは攻撃力1800のモンスター。

ぎょろぎょろとした目を動かしながら地面に手を置くと、何もない地面にひびが入る。

 

「【ゾンビ・マスター】の効果発動。

手札を1枚墓地に送り、【ヴァンパイア・レディ】を特殊召喚」

 

軋む地面の音と共に現れたのは青い肌を持つ美女。

ワイン色とも血の色ともとれる美しいドレスを身に纏った彼女は、カミューラと似た微笑みを向けてくる。

すると彼女の登場と連動して【不死式冥界砲】が稼働し始めた。

骨がぶつかる音を立てながら材料にされている人や動物の恨みが集まっていく。

 

「食らいなさい!」

 

「ぐふっ!!」

 

腹部に衝撃を受けた瞬間、彼は思わず片手で口元を押さえた。

膝を付き、自分の身に何が起きたのか自覚するより先に、腹部から全身に激しい痛みが伝わっていく。

 

「(な、なんですーのこの痛みは!?

通常のデュエルでは、こんな痛みなどありえなノ~ネ!)」

 

ゆっくりと息を飲み込んだクロノス教諭は拳を握りしめる。

そのまま立ち上がり、小さく頭を振った。

そんな反応を示した事に気をよくしたのか、カミューラは頬に手を当てる。

 

「あら。

たった800のダメージなのに膝を付くなんて、そんなに痛かった?

不細工な顔がさらに不細工になってるわ。

【ゾンビ・マスター】で【古代の機械素体】に攻撃!」

 

「罠発動、【重力解除】!

残念です~が、貴方のモンスターの攻撃~は、私のモンスターに届かなイ~ノ!」

 

【ゾンビ・マスター】は手元にエネルギーの塊を作りだし、【古代の機械素体】に向けて放った。

同時に発動されたカードはモンスターの攻守を強制的に変更する効果を持つ。

攻撃表示だった【ゾンビ・マスター】、【ヴァンパイア・レディ】、【古代の機械素材】は守備表示となる。

これで攻撃はなかった事にされ、バトルフェイズを終了するしかない。

 

「強がった顔も不細工ね。

1枚伏せてターンエンドよ」

 

「私のターン!

フィールド魔法【歯車街】を発動!」

 

デュエルディスクから光が放たれ、2人の場に新しいフィールドが形成されていく。

地面から現れた歯車は1つ1つ意思を持っているのか、あるべき場所へと組み込まれ、大型の街となった。

1つの歯車が回り始めると、その動きに合せて街全体が音を立てながら活動を始める。

 

「このカードがあるかぎ~り、私は【古代の機械】を召喚する際に必要な生贄が減るノ~ネ。

【古代の機械素体】1体を生贄にささ~げ、現れる~ノ!

【古代の機械巨人】!!」

 

【古代の機械素体】は光の粒子に変わり、その粒子は竜巻のように舞い上がり、【古代の機械巨人】へと姿へ変えた。

表示された攻撃力は3000、効果は攻撃時に魔法・罠カードの発動を封じるものだ。

カミューラのモンスターでは到底敵わない存在のはず。

そのモンスターの登場に彼女は涼しい顔をしており、1枚のカードを発動させた。

 

「この瞬間、罠発動!

【和睦の使者】」

 

「ぬぬっ!」

 

「これで先生のモンスターは私のモンスターを破壊できないし、ダメージも与えられないわ」

 

「それならカードを2枚伏せてターンエンドなノ~ネ」

 

場には攻撃力3000のモンスターと、隠された効果を持つフィールド魔法に伏せカード2枚。

それに対しカミューラの場のモンスターは2体に、永続魔法1枚、伏せカード2枚である。

 

「私のターンよ、ドロー」

 

ドローで引いたのは1人の美女が描かれているカード。

彼女は小さく笑みを浮かべ、墓地に存在するヴァンパイアの力を借りる。

 

「墓地に存在する【ヴァンパイア・ソーサラー】の効果発動!

このカードを除外することで、このターン私は生贄なしでモンスターを召喚できるわ」

 

「なっ!

そんな効果があったノ~ネ!?」

 

「来なさい、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!」

 

高らかにその名を叫ぶと、半透明だった【ヴァンパイア・ソーサラー】は煙のように姿を消す。

【歯車街】の空の月がゆっくりと赤く染まり、【古代の機械巨人】の鈍い色を放つボディは僅かに月と同じ色になる。

フィールドに1つの影が差し、何事かと顔を上げると大きく翼を広げた美女が舞い降りる。

ゆっくりと目を開いた美女は小さな口で笑みを浮かべ、美しく色素の薄い髪を払う。

すると彼女は【古代の機械巨人】に襲いかかる。

 

「なっ、私の【古代の機械巨人】に何をするノーネ!??」

 

声を荒げるクロノス教諭に対し、見下すような笑顔を向ける。

と思えば、【古代の機械巨人】の首筋らしき部分に唇を落とす。

真っ赤な口紅の跡がどす黒く光り、【古代の機械巨人】は苦しみ出す。

 

「【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の効果ですわ。

このカードが召喚されたとき、相手のモンスターの血を啜り、彼女の下僕にするのよ」

 

「何ですーと!?」

 

そう、彼女自身または自分の場に【ヴァンパイア】が召喚されたとき、彼女より攻撃力が高い相手モンスターを装備カードにするのだ。

【古代の機械巨人】の赤い目は紫色に変わり、彼は【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の前に跪く。

満足げに微笑んだ彼女の攻撃力は、2000から5000へと上昇した。

 

「ふん。

錆びだらけの機械でも、紳士の真似事はできるようね」

 

「ぐぬぬぬぬっ」

 

「まずい。

これでクロノス教諭の盾となるモンスターはいない」

 

「それに対し、カミューラの場には攻撃力5000のモンスターか」

 

悔しそうに顔を歪めるクロノス教諭と同じように、三沢と万丈目も顔色を悪くする。

そんなデュエルの様子を、保健室では聖星達が見守っていた。

明日香のPADを囲っている翔は不安そうに呟く。

 

「攻撃力5000のモンスターなんて、どうやって倒すんすか?」

 

「伏せカードに賭けるしかないわね」

 

「そうなんだな」

 

幸いと呼べば良いのかは分からないが、彼の伏せカードは2枚。

その2枚にこの状況を凌ぐ効果があることを信じるしかない。

1つの画面に釘付けになっている皆に、十代は勢いよくベッドから起き上がる。

突然のことにぎょっとした聖星は慌てて傍に寄った。

 

「十代、何やってるんだよ。

大人しく寝とけって」

 

「クロノス先生が頑張ってるんだ。

こんなところで寝てられるか」

 

十代が浮かべる表情は、遊馬達の世界で何度も見てきた表情に似ている。

これは意地でも譲らないと悟った聖星は、頭を抑えて明日香と取巻に目をやった。

2人も同じ意見のようで、片方は呆れたような顔を浮かべ、片方は苦笑いを浮かべている。

 

「それで、遊城。

お前、歩けるのか?」

 

「聖星なら背負えるんじゃないかしら」

 

「いや、流石に無理」

 

「「えっ?」」

 

「何だよ、その顔」

 

車椅子でも借りるかと考えていたが、まさかの眼差しに聖星は納得いかないと不満げな顔をする。

確かに自分は皆の前で荒っぽいところを見せているが、力持ちというわけではない。

場面は戻り、カミューラは勝ちを確信しているのか自信に満ちあふれた声で宣言する。

 

「守備表示にされていた【ヴァンパイアイ・レディ】と【ゾンビ・マスター】を攻撃表示に変更。

バトルよ、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!」

 

「速攻魔法、【サイクロン】を発動するノ~ネ!」

 

「あら、【古代の機械巨人】を破壊するつもりかしら。

けど、【ヴァンパイアイ・レディ】の攻撃力は1500、【ゾンビ・マスター】は1800、下僕を失った【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は2000。

先生のライフは3200。

どのみち終わりよ」

 

「ふふふのふ~ん、それは違う~の!

私が破壊するの~は、【歯車街】なノ~ネ!」

 

「え?」

 

破壊対象として選ばれたカード名にカミューラは怪訝そうな顔を浮かべる。

同時に集めた情報の中から【歯車街】の効果を思い出した。

 

「しまった、このフィールドは!」

 

「どうや~ら、効果を知っているようでス~ノ。

ですが~、もう遅い~ノ!」

 

【サイクロン】は雷を伴いながら歯車で組み上がっている街を隅々まで破壊していく。

暴風の音と共に崩れ去る街はあっという間に廃墟同然となってしまった。

しかし、壊された歯車達が新たな何かに組み上がっていく。

 

「【歯車街】が破壊されたと~き、デッキ・手札・墓地か~ら【古代の機械】を特殊召喚すル~ノ!」

 

クロノス教諭が宣言したカード効果に、カイザー達は目を見開く。

【古代の機械】の上級モンスターは、特殊召喚出来ないモンスターが多い。

だから特殊召喚されるモンスターは下級モンスターであると予想出来る。

しかし、この状況をひっくり返す事が出来る下級モンスターなど彼らは知らない。

 

「出でよ、【古代の機械巨竜】!」

 

クロノス教諭の声と共に歯車は1体のドラゴンへと姿を変える。

見た事のないモンスターの姿にカイザー達は言葉を失った。

堂々と羽を広げて浮かぶ姿は下級モンスターのものではなく、【古代の機械巨人】と同じ上級モンスターの風格を持っているのだ。

特殊召喚された【古代の機械巨竜】の姿にカミューラは気に入らなさそうな顔を浮かべる。

 

「けど、攻撃力は3000!

行きなさい、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!」

 

「さらにリバースカードオープンなノ~ネ!

【リミッター解除】!!」

 

「何ですって!」

 

発動されたのは機械族モンスターの攻撃力を2倍にする即効魔法。

【古代の機械巨竜】は黄色の光を纏いながら巨大化していく。

そして攻撃力は倍の6000となり、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の5000を上回った。

 

「返り討ちなノーネ!

【古代の機械巨竜】!!」

 

「グォオオオオオオ!!!」

 

己の名を呼ばれた【古代の機械巨竜】は低い咆哮を上げる。

攻撃力が自分より上回った相手に【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は逃げようと背中を向ける。

それを逃さないというように、【古代の機械巨竜】は尾で彼女を地面にはたき落とした。

彼女が粉々に砕け散ると同時にカミューラのライフが3000となる。

 

「くっ!

(けど、【リミッター解除】の効果で【古代の機械巨竜】はこのターンのエンドフェイズに破壊される。

次のターンでこの男の場はがら空きね)」

 

伏せカードもフィールド魔法もこのターンを凌ぐために使い切った。

自分の優勢に変わりはなく、カミューラは余裕の顔で罠カードを発動する。

 

「罠発動、【ヴァンパイア・アウェイク】。

デッキから【ヴァンパイア・ロード】を特殊召喚するわ」

 

「はっ!」

 

新たに召喚されたのは【ヴァンパイア】の貴公子と呼ばれるモンスターだ。

マントを翻しながら場に現れた彼は【ヴァンパイア・レディ】の隣に並び、軽く会釈する。

そしてアンデッド族モンスターが特殊召喚されたことで、【不死式冥界砲】はその砲台を対戦相手に向ける。

再び集まっているエネルギーは勢いよく放たれ、クロノス教諭の腹部を貫いた。

 

「ぐふっ!!」

 

再び走る激痛に膝をつきかけるが、クロノス教諭は唇を噛んで耐え、真っ直ぐとカミューラを見た。

自分は800のダメージを受けて意識が飛びそうなのに、目の前の彼女は1000ダメージを受けても涼しい顔だ。

苦しげに立ち上がる様子のないクロノス教諭を見下ろしながらカミューラは更なるモンスターを呼び出す。

 

「さらに【ヴァンパイアイ・ロード】を除外し……」

 

先程特殊召喚された【ヴァンパイア・ロード】は紫色の風と共に姿を消した。

彼がいたフィールドには巨大な影が差し、その影に違わない巨体が現れる。

女性を魅了する美青年とはかけ離れる風貌を持ったアンデッド。

 

「【ヴァンパイアジェネシス】を特殊召喚!」

 

「グガァアアアア!!!」

 

紫色の逞しい腕を広げ、凄まじい咆哮を上げる。

咆哮による振動により体が震え、地面さえも揺れている。

 

「【ヴァンパイアジェネシス】の効果!

手札から【闇より出でし絶望】を墓地に捨て、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を蘇らせる!」

 

【ヴァンパイアジェネシス】は手札のアンデット族を1枚墓地に捨てる事で、そのレベル以下のアンデット族モンスターを特殊召喚する効果を持つ。

【闇より出でし絶望】のレベルは8、それに対し【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】のレベルは7である。

 

「ターンエンドよ」

 

「くっ……」

 

何とか立ち上がったクロノス教諭はカミューラの場を見渡した。

攻撃力3000の【ヴァンパイアイジェネシス】に【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】、【ゾンビ・マスター】、【ヴァンパイアイ・レディ】が存在する。

それに対して自分の場にモンスターは存在しない。

 

「あらあら、顔色が悪いわよ先生。

今にも倒れそうって顔ね。

たった1600のダメージでふらふらだなんて、これじゃあデュエルで決着が付く前に先生が倒れるんじゃなくて?」

 

「ふっ、この程度、なんともない~ノ」

 

「強がりね。

けど、醜い男のそんな姿見ても楽しくないわ。

どうせなら、彼のような子を相手にしたいわねぇ」

 

明らかに強がりの発言をカミューラは嘲笑い、そのままカイザーに目をやる。

年老いて醜い男を相手にするより、若々しい青年をいたぶる方が良い。

獲物を見る目を向けられたカイザーは思わず後退った。

可愛い生徒にギラギラとした眼差しを向ける美女にクロノス教諭は啖呵を切る。

 

「冗談ではないノーネ!

彼は私の大事な生徒!

指一本触れさせはしませン~ノ!

そして、私は栄光あるデュエルアカデミア実技担当最高責任者。

断じて闇のデュエルなど認めるわけにはいきませン~ノ!」

 

「ふん、雑魚が吠えちゃって……」

 

「先生は弱くないぜ!」

 

「え?」

 

遠くから聞こえた少年の声。

その声はこの場にいる全員が知っている人物の物だ。

声がした方角に目を向ければ隼人に背負われた十代がいた。

十代は痛む体に耐えながらカミューラを睨み付け、クロノス教諭に笑みを向ける。

 

「戦った俺が言うんだ、間違いない!

クロノス先生、見せてくれよ!

闇のデュエルを打ち破る、最高のデュエルを!」

 

「……ドロップアウトボーイ」

 

まさかの生徒からの声援にクロノス教諭は思わず笑みが零れた。

クロノス教諭は鼻持ちならない十代に対し、何かと痛い目を見させようと画策していた。

その十代が自分に最高のデュエルを望んでいる。

手のかかる生徒からの激励がこんなに嬉しい物とは思いもしなかった。

 

「……このクロノス・デ・メディチ、断じて闇のデュエルなどに敗れるわけにはいきませンーノ!

なぜなら!

デュエルとは本来、青少年に、希望と光を与えるものであり、恐怖と闇をもたらすものではないノーネ!」

 

「クロノス教諭……」

 

「だよな……

クロノス先生」

 

「それで、闇のデュエルは存在してはならないと言っていたのか」

 

「私のターン、ドロー!!」

 

デッキからカードを引いたクロノス教諭は、この状況で最高なカードを引いた。

彼は真剣な眼差しをカミューラに向け、カードを発動させた。

 

「手札から【古代の機械工場】を発動!

墓地に眠る【古代の機械巨人】と【古代の機械巨竜】を除外すること~で、手札から【古代の機械巨人】を生贄なしでしょうか~ん!!」

 

【古代の機械工場】は手札から【古代の機械】と名のついたモンスターカード1枚を選択し、選択したカードの倍のレベルになるように墓地の【古代の機械】と名のつくカードをゲームから除外する事でそのモンスターを召喚するカードである。

クロノス教諭が手札から選択したのはレベル8の【古代の機械巨人】。

生贄を得ずに召喚された【古代の機械巨人】は大きな体でクロノス教諭の前に立つ。

 

「けど、【古代の機械巨人】の攻撃力は3000。

【ヴァンパイアジェネシス】と同じ。

私のライフは3000、攻撃力が1番低い【ヴァンパイア・レディ】に攻撃したところで、私のライフを削りきることは出来ないわ」

 

「ノノノノノ~ン!!

私の手札はまだあるノーネ!

魔法カード、【古代の機械融合】を発動!」

 

「まさか、そのカードを引いていたですって!?」

 

場に現れたのは様々な部品が渦の中に吸い込まれていくのを表現したカードだ。

初めて見るカードに十代達は目を輝かせ、そのカードの効果を想像した。

 

「私の場に存在する【古代の機械巨人】を融合素材とする場合、他の融合素材はデッキのモンスターを選択出来るノ~ネ!」

 

「デッキのモンスターの融合だと!?」

 

「すげぇ!

デッキからの融合なんて、初めて見たぜ!」

 

デッキから選ばれたのは【古代の機械兵士】と【古代の機械砲台】の2体だ。

その2体は【古代の機械巨人】の左右に並び立ち、融合召喚時に現れる渦の中に吸い込まれる。

渦の流れに沿ってモンスター達は様々な部品となり、巨大なモンスターへ組み上がっていく。

【機械兵】の肉体は四つ脚へと変貌し、【砲台】は【古代の機械巨人】の左腕になる。

 

「融合召喚!!

【古代の機械究極巨人】!!」

 

【古代の機械究極巨人】は勢いよく前脚で地面を踏みつけ、軽い地響きを起こす。

3体分の重量を持つモンスターの重厚感は凄まじく、その大きさは【ヴァンパイアジェネシス】を上回る。

その攻撃力は4400、カミューラのモンスター全てを上回った。

 

「(魔法カードゾーンには【不死式冥界砲】が存在するノ~ネ……

これ以上アンデット族を増やされては困る~ノ。

しか~し、ここで攻撃するのは【ゾンビ・マスター】か【ヴァンパイアジェネシス】か……)」

 

ダメージを優先するのなら【ゾンビ・マスター】だろう。

しかし蘇生可能なモンスターの範囲を考えると【ヴァンパイアジェネシス】が場に残り続けるのは厄介のはず。

 

「【古代の機械究極巨人】で【ヴァンパイアジェネシス】に攻撃!!」

 

【古代の機械究極巨人】は砲台がついた左腕を【ヴァンパイアジェネシス】に向け、歯車が加速する事で生まれたエネルギーを放った。

高エネルギーは不死の体を貫き、【ヴァンパイアジェネシス】は破壊された部位からひび割れていき砕け散った。

エースをねじ伏せた攻撃はカミューラにまで響き、彼女のライフを3000から1600へと削った。

 

「よし!

これでアンデット族を蘇らせる方法を1つ減らした!」

 

三沢の言葉に皆は頷く。

出来れば【不死式冥界砲】を破壊できる手段もあれば良かったが、贅沢は言っていられない。

 

「フフッ……」

 

「何を笑っているノ~ネ」

 

不意に聞こえたのはカミューラの笑い声。

攻撃力4000以上のモンスターを場に出されたことで戦意を喪失したのだろうか。

しかし、彼女が纏っている雰囲気は全く弱まっていない。

するとカミューラは伏せていた顔を上げた。

 

「ひっ!!」

 

「なっ!」

 

クロノス教諭や聖星達は小さく悲鳴を上げ、中には声を出せない者もいた。

美しい顔は頬まで口が裂け、目元や首筋に血管が浮かび上がっている。

先程までの風貌とは一変し、人間離れした姿にこの場にいる全員は背筋が凍った。

 

「先生。

やはり貴方はアペリティーヴォにすらならないわ!

私のターン!」

 

顔と同じように美しかった声までもエフェクトがかかったような声となり、彼女が人ではない現実を突きつける。

 

「手札から【ヴァンパイア・ベビィ】を召喚!

この瞬間、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の効果発動!

【古代の機械究極巨人】よ、跪きなさい!」

 

「何でスート!??」

 

【古代の機械巨人】の時と同じように【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は唇を落とし、【古代の機械究極巨人】が膝をつく。

そのまま【古代の機械究極巨人】は彼女の装備カードとなり、攻撃力が2000から6400へと上昇した。

信じられないという表情を浮かべるクロノス教諭に対しカミューラは綺麗な顔に戻り、手で口元を隠して聞いてきた。

 

「あらやだわ、先生。

私の話を聞いていました?

彼女は自分が召喚されたときだけではなく【ヴァンパイア】が召喚される度に下僕を増やすって」

 

「そんな説明聞いてない~の!!」

 

「おほほほほ。

退屈すぎて説明し忘れちゃったのかしら、ごめんなさい。

けどねぇ、先生…

弱くてつまらないデュエルしか出来ない、無知な貴方が悪いのよ」

 

「ぐっ……」

 

カミューラの気迫迫る言葉にクロノス教諭は言葉に詰まった。

今彼の場にモンスターどころか魔法・罠カードさえ存在しない。

この状況を凌ぐカードと言えば手札誘発のカードになるが、クロノス教諭が操る暗黒の中世デッキにそのようなカードが入っているとは思えない。

見えてしまった結末にクロノス教諭は生徒達に向き直る。

 

「皆さん。

例え闇のデュエルに敗れたとしても、闇は光を凌駕できない。

そう信じて、決して心を折らぬこと。

私と約束してくだサーイ」

 

闇のデュエルの恐ろしさを知り、生徒には荷が重すぎると気がついたのに、なんとも情けない話しだろう。

以前聖星がプロデュエリストを雇って欲しいと校長に要求していた理由も理解出来た。

同時に、何故あの時の自分はその言葉に同意しなかったのだろうと後悔の念にかられる。

 

「最後の授業は終わったかしら、先生?」

 

「来るがいいノーネ!」

 

「それならお望み通り、とどめを刺してあげなさい!

【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!

ダイレクトアタック!!!」

 

「ふふっ!」

 

【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は触れるのも嫌なのか、掌をクロノス教諭に向け、衝撃破を放つ。

襲いかかってくる衝撃破は彼の体を一瞬で吹き飛ばし、ライフを0にした。

地面に転がるクロノス教諭の姿に皆が悲鳴を上げる。

 

「っ!!」

 

「クロノス教諭!!」

 

彼の身を案じる子供達の声を聞きながらカミューラは彼が持つ鍵を奪う。

 

「やっと1つ…

そして」

 

彼女が手にしている人形が薄暗い光を纏い始める。

その光はクロノス教諭を包み込み、彼の体を飲み込んだ。

顔も描かれていない、服も着ていない簡素な人形は徐々に姿を変えていき、クロノス教諭を模した姿となる。

 

「くっ、クロノス先生が人形に!?」

 

「これがこの闇のデュエルでの代償か……」

 

聖星が経験した闇のデュエルでは本当に死んだり、闇に飲み込まれたりするなどの結末が待っていた。

しかし、彼女とのデュエルは違うようで、人形という器に魂を封印された事に安心している自分がいる。

封印されたのなら、術者であるカミューラを倒せば助ける事は出来るからだ。

人形になったクロノス教諭を見下ろすカミューラは綺麗な笑みのままその人形を捨てた。

 

「それにしても、本当。

好みじゃないわね」

 

「っ、お前!!」

 

正々堂々と戦い、無念にも散ったクロノス教諭への扱いに十代は声を荒げる。

そのまま言葉を続けようとしたが、それを1人の手が制した。

そちらに顔を向けると眉間に皺を寄せている青年がいる。

 

「……カイザー」

 

「お兄さん……」

 

「……」

 

後輩と弟の声に反応せず、カイザーはカミューラに刺すような視線を向ける。

怒りが占める視線に彼女は気をよくし、聖星達と向き合った。

 

「それでは皆様、また会いましょう。

次は私の城へ招待してあげるわ」

 

「城?」

 

「っ!

皆、あれを見て!」

 

明日香の言葉に皆は湖を凝視する。

薄暗い霧は晴れていき、月光が湖を照らす。

その湖には本来あるはずのない物が存在した。

 

「あ、あれは!!」

 

月の光に照らされながら現れたのは巨大な城。

あれがカミューラの言っていた城だろう。

彼女が不敵な笑みを浮かべたと思ったら、どこともなくコウモリの群れが羽ばたき始める。

一面を覆う数のコウモリは夜空に消え、先程までそこにいたカミューラも姿を消していた。

 

END




お久しぶりです。
大学生活が楽しすぎて離れていましたが、復帰しました。
暫く離れるとカード効果などが分からなくなりますね。
VRAINSを見ていても、途中でカードの効果を把握できなくなり「うん、何が起こっているのか分からん」となってしまいます。
頼むからもうちょっと効果を単純にしてくれ、マジで。

クロノス教諭とカミューラの会話は高貴な心、高貴な心と念じながら考えました。
バカにそんな高度な会話は無理ですね(遠い目)

次回はカイザーvsカミューラにするか、それを省略して(アニメ通りに進んだと仮定して)聖星vsカミューラにするか色々と悩んでしまいます。
カミューラのお話しだけで3話も4話も使うのはちょっとしんどいなと感じながらも、書かないと満足できないと感じてしまいます。
カミューラはセブンスターズの中で大徳寺先生の次にデュエルする回数が多いんですよね。(大徳寺先生は吹雪、明日香、万丈目、十代の計4人だったはず)
そりゃあ話数も多くなりますよね……
様々な結末を考えながら納得のいく物を模索します。

では失礼いたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十話 冷酷になれない子供

夜が明け、朝になったはずなのに空は薄暗く、今にも雷が鳴りそうである。

そんな中、十代と吹雪がいるため皆は自然と保健室に集まっていた。

ベッドに横になっている十代は悔しそうな顔をして叫ぶ。

 

「くっそ~、よくもクロノス先生を!」

 

「闇のデュエル……

聖星の言うとおり、危険なデュエルだったんだな」

 

三沢は万丈目が持っている人形を見つめながら呟く。

何の変哲もないただの人形が、デュエル終了と同時にクロノス教諭の形になってしまった。

最初はあまりの出来事に脳が理解することを拒否し、今朝起きたときは夢だったのではないかと期待したものだ。

しかし万丈目の手の中にあるそれは確かに熱を持っており、昨晩の出来事は夢ではなかったのだと突きつけてくる。

 

「まぁ、カミューラはまだ良心的だよ。

俺が経験した闇のデュエルは負けたら闇の世界に飲み込まれたり、死んだりするようなものだから。

人形になるくらいならまだマシ」

 

「人形になるところのどこがマシなんだ?」

 

マシという発言に三沢と万丈目が眉間に皺を寄せる。

死ぬことも人形に魂を封じ込められることも、闇のデュエルと関わりのない三沢達からしてみれば同等なのだろう。

今回のパターンがどれ程幸せなのか聖星は答える。

 

「人形や魂をカードに封じられるタイプだと、その術をかけた相手に勝てば元に戻るパターンが殆どだ。

二度と帰ってこれないよりはマシだろ?」

 

「そうだな……」

 

聖星の言葉に三沢は小さく頷き、安堵の笑みを浮かべる。

永遠にこのままだとどうしようかと思ったが、元に戻る方法があり、それが勝つことならば勝つしかない。

すると万丈目が立ち上がり、クロノス教諭の人形をポケットにしまう。

 

「ふん、つまり勝てば良いって事か。

簡単じゃないか。

この万丈目サンダーにかかればな」

 

つまり、次は自分がカミューラと戦うと言いたいのだろう。

彼のやる気が満ちあふれる言葉に星態龍は真面目な顔で答える。

 

「気持ちは分からんでもないが、あのカミューラの事だ。

次の対戦相手に選ぶのは間違いなく丸藤亮だろう。

仮に万丈目が立候補したとしても、2度も私の好みじゃない男を差し向けるの!?と怒り狂いそうだな」

 

「どういう意味だ、貴様」

 

「星態龍、万丈目はやる気なんだから」

 

だが、その光景が簡単に想像出来てしまうのは仕方が無い。

万丈目自身も昨日の様子を思い出し、カイザーが選ばれてもおかしくないと考えている。

しかしだからといって自分が対戦相手として見られていないというのは気に入らない。

 

「フン。

実際誰が選ばれるか分からんだろう」

 

空中を睨み付けている万丈目と、その万丈目に苦笑いを浮かべている聖星。

会話が成立しているように見えるが、何かが足らない会話は、精霊を見る事が出来ない人にとっては違和感を覚えるものだ。

三沢は完全に頭上に疑問符を浮かべており、墓守の件で理解がある取巻は十代に小声で話しかけた。

 

「遊城、万丈目と不動は誰と話しているんだ?」

 

「ん?

あぁ、聖星の精霊の【星態龍】だ。

すげー格好いいんだぜ。

お前も後でカード見せて貰えよ。

……あれ?」

 

「どうした?」

 

「そういや俺、聖星に【星態龍】のカード、見せて貰った事ないな」

 

ベッドに横になりながら十代は首を傾げ、【星態龍】のカードを1度も見せて貰ってない事実に驚く。

聖星と出会ってからすでに半年以上は経っているというのに、何故かもう見た気になっていた。

彼と過ごせば必ず【星態龍】がおり、言葉を交わしているからだろうか。

 

「けど、次は誰がデュエルをするか決めておいた方が良いかもしれないな」

 

「聖星の言うとおりだ。

聖星と十代の話を聞くと、彼らは人質を取る事に躊躇がない。

クロノス教諭とのデュエルでは幸いと言えば良いのか、人質はとられなかったが、次もあぁなるとは限らないからな」

 

「ならば俺が行こう。

向こうは俺を所望しているらしいからな」

 

「っ、お兄さん!」

 

声を荒げる弟の声にカイザーは表情を変えない。

翔は十代が闇のデュエルで酷いダメージを負う姿も、クロノス教諭が負けて人形に変えられる姿も見ている。

実の兄が鍵を守るためとは言えあんな恐ろしいデュエルをするなど、弟ならば黙ってはいられないだろう。

 

「翔、お前の気持ちも分かる。

だが俺は、俺を守るために散ったクロノス教諭のためにも戦わなければならない」

 

「けど……」

 

「心配するな」

 

「……お兄さん」

 

それ以上、翔は何も言えないようだ。

兄の実力についてはこの場の誰もが知っている。

そのカイザーが行くと言っているのだ、反対する意見や自分が行くという声は上がらなかった。

すると保健室の扉が開き、皆の顔がそちらに向かった。

 

「おやおや、皆ずいぶんと酷い顔じゃない」

 

「トメさん」

 

「どうしたんすか?」

 

保健室に入ってきたのはトメさんである。

彼女はカゴと手に持っているトレーを机の上に置き、カゴを開けた。

カゴの中には水筒やジュース、トレーの上にはおにぎりやドローパンが置かれている。

トメさんお手製の差し入れに十代や翔は目を輝かせ、明日香は困惑顔で彼女に尋ねた。

 

「あの、トメさん。

ここは保健室ですよ?」

 

「大丈夫、大丈夫。

鮎川先生の許可はとってあるから」

 

「トメさん、これ食べて良いのか??」

 

「あぁ。

十代ちゃんや皆のために作ってきたのさ。

何だか大変なことが起きて皆が頑張ってるって聞いてねぇ。

さ、おにぎりもお茶も暖かいよ~。

冷めないうちにおあがり」

 

優しく微笑むトメさんの言葉に皆は笑みを零した。

すると隼人のお腹から小さく音が鳴ってしまう。

隼人は頬を染めて顔を逸らしたが、皆もお腹がすいていたのかただ暖かく笑った。

微かに湯気が上がっているおにぎりに釘付けになっている三沢はおにぎりの具は何なのか聞いてみる。

 

「トメさん、具材は何があるんですか?」

 

「えっと、梅干しと……」

 

「ちょっと待った!」

 

「え?」

 

突然上がった声に皆は十代に顔を向ける。

痛む体を押さえて起き上がった十代の輝く笑顔に既視感があるのか、明日香や翔、隼人、取巻は苦笑いを浮かべていた。

それに対し聖星達は首を傾げる。

 

「ドローパンもあるんだ。

1人1人ドローしていこうぜ」

 

要は何の具が当たるかはお楽しみ、ということか。

十代らしい発言にカイザーはつい笑みを零し、万丈目は呆れた顔をしてしまった。

 

「ふっ」

 

「なんだその考えは、と笑ってやりたいが……

ここまで来ると逆に感動するな」

 

「へへっ。

じゃあ、まずは俺から」

 

十代を筆頭に皆は具が分からないおにぎりとパンを1個ずつ取っていく。

トメさんの言った通りおにぎりは先程作ったようで、炊きたてのご飯の香りが食欲をそそる。

海苔もご飯にべっとり張り付いておらずパリパリだ。

聖星は一口食べ、中に広がった味に小さく頷く。

 

「海老マヨだ。

久しぶりに食べたなぁ。

取巻は何だった、ってすっごい顔」

 

「…………」

 

しゃけ召喚!と騒いでいる十代を横目で見ながら取巻に目を向ければ、眉間に皺を寄せ、強く目を瞑っていた。

おにぎりの具でこのような表情をするものと言えばあれしかない。

明日香はすかさずコップにお茶を注ぎ、取巻にそれを手渡した。

 

「はい、取巻君」

 

「……ありがとうございます」

 

口内に残る味をお茶で薄め、もう一口食べる。

また同じ味が広がってしまうが、美味しいことには変わりない。

明日香はまだ眠っている吹雪の分を確保し、自分用のドローパンを食べた。

口に含んだ瞬間、明日香は自分が食べているドローパンの具に驚く。

すぐにパンを凝視すれば、そこには黄金に輝く卵があった。

 

「やったわ」

 

ぽろっと零れてしまった言葉に明日香は我に返る。

慌てて皆に振り返れば、思った通り聖星達から視線を浴びていた。

一気に顔が赤くなった明日香は言葉に詰まったが、すぐに慌てて声を荒げた。

 

「な、何よ!

そんなに私を見て!」

 

「いや、明日香の嬉しそうな声が聞こえたからさ。

何が当たったんだ?」

 

聖星達の耳に入ってきた明日香の声は、ここ最近聞くことの出来なかった声色だ。

行方不明になった吹雪が帰ってきたと思えば寝たきりで、さらに記憶喪失で妹である自分のことさえ分からない。

両親とすぐに会えないアカデミアにおいて彼女が抱える心労は並大抵の物ではない。

その彼女が嬉しそうに呟いたのだ、友人として少し安心する。

聖星の心境など知らず、まだ頬を染めている明日香は渋々答えた。

 

「黄金の卵よ」

 

「お、良かったじゃねぇか明日香。

お前、それ好きだろ。

前も購買部で引き当てたとき凄くはしゃいでたしな」

 

「十代、忘れてちょうだい」

 

頭が痛いと訴えるように明日香は額に手を当てる。

ここまで恥ずかしがるということは、普段では考えられない程のはしゃぎっぷりだったのだろう。

見てみたかったなぁと聖星がこぼすと、十代が小さく笑う。

 

「本当に珍しかったぜ。

確か聖星は留学していてアカデミアにいなかった時期だな」

 

「そっかぁ、惜しい事したなぁ」

 

「ちょっと2人とも」

 

いい加減にしないと怒るわよ!と言い出しそうな彼女の言葉に2人は仲良く口を閉ざす。

流石にこれ以上この話題に触れているのはまずい。

お腹も満たされて和やかな雰囲気になり、少しだけ余裕が出てきたのかカイザーが聖星に尋ねる。

 

「留学と言えば、聖星。

アークティック校ではどんなデュエリストがいたんだ?」

 

「え?」

 

「そーいやセブンスターズの事ですっかり忘れてたぜ。

なぁなぁ、聖星。

教えてくれよ!」

 

カイザーと十代の言葉に聖星は考える。

どんなデュエリストがいたかと尋ねられて真っ先に思い浮かぶのは彼だ。

同時にここ数日ヨハンに連絡していない事を思い出す。

 

「(後でメッセージ入れておこう)

どんなデュエリストですか……

やっぱり1番印象深いのは最初に友達になったヨハンですね」

 

「どんな奴だ?」

 

「ヨハン・アンデルセン。

どこか十代に似ているデュエリストだよ」

 

「俺?」

 

「あぁ。

デュエル好きでデッキのことを信じ、デュエルに関するセンスが飛び抜けている。

性格も十代を少し冷静にした感じかな?」

 

聖星の例え話に皆は簡単に想像出来たようだ。

もっと話しを聞くため質問を続けようとしたら、万丈目が思い出したようにその名を繰り返す。

 

「ヨハン?

【宝玉獣】デッキのヨハンか?」

 

「あぁ。

知ってるのか?」

 

「話程度だがな。

古代ローマの君主、ユリウス・カエサルは自身の覇権を知らしめるために、世界中から7つの宝石を集めて石版を作ろうとした。

だが、その宝石をローマに運ぶ途中、嵐に遭い、海の底に沈んだ。

それをペガサス会長が探し当て、宝石の成分を使って作り上げたカードが【宝玉獣】だ」

 

「へぇ、詳しいな。

十代は知ってた?」

 

「いや」

 

聖星は自分が通っていたアカデミア中等部の教科書に載っていたから知っていた。

だが、この時代ではそこまで【宝玉獣】は有名ではないため、十代達は知らないと思っていたが万丈目は違うようだ。

 

「以前、万丈目グループはペガサス会長から【宝玉獣】のカードを買い取ろうとした事がある。

それで詳しいだけだ」

 

「そうだったんだ」

 

確かに成り立ちの関係上、【宝玉獣】は世界に1枚しか存在しないカードと言っても過言では無いだろう。

海馬瀬人が持つ【青眼の白龍】とまではいかないが、そのカードを持っている事はこの世界においてかなりのステータスとなる。

ここ最近政界、財界に進出しようとしている万丈目グループが欲しがるのも納得できる。

 

「ヨハンは【宝玉獣】達に選ばれる程のデュエリストだよ。

何度もデュエルしたけど、ヨハンはとても強かった。

手札が0なのに次の瞬間には5枚になったり、モンスターはいなかったのに一気に4体になったり」

 

「……どこかの誰かさんを思い出すような内容だな」

 

ヨハンとのデュエルで真っ先に思い出した事を伝えれば、何度も十代のドロー被害に遭っている取巻が遠い目をする。

当の本人である十代は彼の様子に気がつく事もなく更に目を輝かせていた。

 

「すげー!

【宝玉獣】のヨハンかぁ、デュエルしてみたいぜ!」

 

「ふん、デュエルするといってもどうやって会いに行くつもりだ?

留学か?

十代の頭では無理だろうな」

 

「うっ、そりゃあないぜ万丈目」

 

十代の実力ならば留学してもおかしくはないが、問題は学力と生活態度だ。

平気で授業中に居眠りをしたり、宿題をやらなかったり、真面目とは言えない十代が留学できる可能性は低い。

彼自身その自覚があるのか、冷や汗を流しながら頬をかく。

 

**

 

それから再び夜は訪れ、カイザーは城を訪れた。

湖に浮かぶレッドカーペットを歩いて門をくぐれば薄気味悪い場内が出迎えてくれた。

どちらに進むか迷えばコウモリ達が誘うように導いてくれた。

 

「よく来たわね、カイザー亮」

 

大きなホールに出たと思えば頭上から声が聞こえる。

そちらに目を向ければカミューラが不敵な笑みを浮かべていた。

彼女は目だけで彼が立つべき位置を示し、カイザーはその場に立った。

その様子を聖星達はPDA越しに見守っていた。

 

「ルールはお分かりね。

勝者は次なる道へ、敗者はその魂をこの愛しき人形に封印される」

 

「「デュエル!!」」

 

互いに表示されたライフポイント。

先に動いたのはカミューラだ。

 

「私の先攻、ドロー!」

 

勢いよくカードを引いた彼女はカードの名に笑みを浮かべる。

 

「私は魔法カード【手札抹殺】を発動。

お互いに全ての手札を捨て、デッキからカードをドローします」

 

今お互いの手札は5枚。

彼らは全ての手札を墓地に捨て、5枚カードをドローした。

カミューラのデッキはクロノス教諭とのデュエルで分かるとおり、墓地からの蘇生を得意とするアンデット。

彼女が発動したカードに聖星は険しい顔を浮かべる。

 

「どうした、聖星?」

 

「いや、丸藤先輩ってたいてい初手に融合出来るよう【サイバー・ドラゴン】を握ってるからさ……

もし今ので全部墓地に送られていたら、面倒な事になるよ」

 

カイザーとは何度もデュエルしているが、最初のターンで【サイバー・エンド・ドラゴン】か【サイバー・ツイン・ドラゴン】のどちらかが召喚されるケースが多い。

それを考えると今墓地に捨てられたカードが【サイバー・ドラゴン】と融合の効果を持つものだと辛い。

 

「そして【ヴァンパイア・レディ】を守備表示で召喚。

カードを場に1枚伏せ、ターンを終了」

 

「俺のターン」

 

カイザーは先程墓地に捨てられたカードを思い出す。

あのカードがあれば手札に存在するカードを活用することが出来る。

 

「手札から魔法カード【サイバー・リペア・プラント】を発動。

俺の墓地に【サイバー・ドラゴン】が存在するとき、機械族・光属性モンスターをデッキから手札に加える。

または墓地の機械族・光属性モンスターをデッキに戻す事が出来る」

 

カイザーの後ろに半透明のモンスターが姿を現す。

そのモンスターは【サイバー・ドラゴン】であり、聖星の読み通り墓地に捨てられていたようだ。

これで条件はクリアし、カイザーはあのカードの効果を使用する事が出来る。

 

「俺はデッキから【サイバー・エルタニン】を手札に加える」

 

手札に加えたカードに翔は首を傾げた。

彼は兄弟であるが故にカイザーのデュエルを見る機会も多く、デッキの中を見たこともある。

 

「あれ、お兄さんのデッキに最高レベルの【サイバー】モンスターっていたっけ?」

 

「俺もカイザーの高レベルモンスターは融合モンスターしか知らねぇな」

 

翔の言葉に賛同するよう十代も呟く。

 

「【サイバー・エルタニン】は通常召喚出来ない。

墓地に存在する機械族・光属性モンスター全てを除外して特殊召喚する。

【サイバー・ドラゴン】2体と【サイバー・ドラゴン・ドライ】を除外し……」

 

カイザーの背後が光り輝き、2体の【サイバー・ドラゴン】と【サイバー・ドラゴン・ドライ】が姿を現す。

3体のモンスターが次元の狭間に飲み込まれ、代わりに巨大な渦が出現した。

機械が起動する轟音と共に渦の中から【サイバー・エルタニン】が顔を出す。

その巨大さにカミューラは思わず一歩下がった。

 

「このカードは……

融合じゃない上級【サイバー】モンスター」

 

「【サイバー・エルタニン】の効果。

このカードが特殊召喚に成功したとき、フィールド全てのモンスターを墓地へ送る」

 

「何ですって!?」

 

「【サイバー・エルタニン】!

コンステレイション・シージュ!!」

 

【サイバー・エルタニン】は口を大きく開け、無防備な【ヴァンパイア・レディ】に標準を合わせた。

自分に向けられた4つの砲口に彼女は大きく目を見開く。

放たれた砲撃はか弱い美女に集中し、あまりの熱量に一瞬で蒸発してしまう。

場から消え去ったモンスターに目もくれず、カイザーは次のカードを発動した。

 

「くっ……!!」

 

「更に俺は、手札から【サイバーロード・フュージョン】を発動」

 

「そのカードは!」

 

発動されたカードの名にカミューラは思い出す。

確かフィールドと除外ゾーンに存在する決めらモンスターをデッキに戻し、融合する効果を持つ。

彼の場にモンスターは【サイバー・エルタニン】のみだが、除外ゾーンには特殊召喚のコストで除外された【サイバー・ドラゴン】が2体。

 

「除外されている【サイバー・ドラゴン】を融合し、【サイバー・ツイン・ドラゴン】を融合召喚する!」

 

「キシャアアアアアア!!」

 

突き刺すような光と共に特殊召喚されたのは2つの頭を持つ機械族。

【サイバー・エンド・ドラゴン】と違って貫通効果は持っていないが、その効果はがら空きのフィールドにとっては最悪だ。

 

「【サイバーロード・フュージョン】を発動したターン、俺は【サイバー・ツイン】でしか攻撃出来ない。

だが、【サイバー・ツイン】は2回攻撃を行える」

 

「攻撃力2800の2回攻撃!?

今私のライフは4000……」

 

「お前に次はない。

【サイバー・ツイン・ドラゴン】!!」

 

カイザーの怒りの攻撃宣言に呼応するよう、【サイバー・ツイン】は高い機械音を鳴らす。

口の中心にエネルギーが集まり、エネルギーがまとう電気の音が聞こえる。

2つの首は自分の体内を巡る力を凝縮し、カミューラに向けて勢いよく放った。

 

「手札から【ヴァンパイア・フロイライン】を特殊召喚!」

 

【サイバー・ツイン】の攻撃がカミューラに届く前に1人の女性がフィールドに現れた。

彼女は傘を畳み、その場に跪いている。

【ヴァンパイア・フロイライン】は攻撃宣言時、手札から守備表示で特殊召喚する効果を持つ。

その守備力は2000であり、【サイバー・ツイン】の敵ではない。

 

「【ヴァンパイア・フロイライン】の効果発動!

ライフを払い、その数値分だけこの子の守備力をアップする!」

 

カミューラが説明したカード効果にカイザーは眉間に皺を寄せる。

彼女のライフは4000から3200に減少し、同時に【フロイライン】の守備力が2000から2800にアップする。

攻撃力と守備力は同じ、よってモンスターは破壊されず、互いにダメージはない。

その様子を見て十代は残念がり、三沢は一筋縄ではいかないと呟く。

 

「あちゃ~、防がれたか」

 

「流石は闇のデュエリスト。

にそう簡単に勝たせてはくれないか」

 

「魔法カード【一時休戦】を発動。

互いにカードを1枚ドローする。

カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

機械音が鳴り、カイザーの場に1枚の伏せカードが現れる。

一切表情を変えずデュエルを続ける彼の姿勢にカミューラは笑みを浮かべた。

 

「ゾクゾクするわ。

1番タイプだと思っただけはあるわ」

 

「悪いが、俺にも好みがある」

 

「つれないお方。

だからこそ、手に入れがいがあるというものですわ。

私のターン」

 

カイザーの場には攻撃力1500の【サイバー・エルタニン】と2800の【サイバー・ツイン・ドラゴン】。

【ヴァンパイア・フロイライン】はライフが尽きない限り何度でも守備力を上げ、戦闘破壊される事は無い。

だが、あの帝王を相手にしているのだ。

きっと次のターンには【フロイライン】を攻略する一手を打ってくるだろう。

 

「墓地に存在する【馬頭鬼】を除外し、墓地に存在する【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を特殊召喚!」

 

「フフフ」

 

特殊召喚されたモンスターの姿に十代達は険しい顔をする。

クロノス教諭は彼女に何度もモンスターを奪われ、最後のターンも【古代の機械究極巨人】を僕にした【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】に敗れたのだ。

万丈目は忌々しくそのモンスター効果を思い出す。

 

「【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は自分より攻撃力の高いモンスターを装備カードにするんだったな」

 

これでカミューラが【ヴァンパイア】と名の付くモンスターを召喚するとカイザーのモンスターは奪われる。

 

「さらに墓地の【ヴァンパイア・ソーサラー】の効果発動。

これにより手札の【ヴァンパイア】は生贄が必要なくなりますわ。

【ヴァンパイア・スカージレット】を召喚!」

 

召喚されたのは灰色の髪を持つ美青年だ。

【ヴァンパイア・ロード】とは異なる美貌を持つ青年の登場に、ここに女生徒がいれば黄色い声が上がっていたに違いない。

横に並んだ【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】と【スカージレット】は黄色の光を纏い、効果が発動した。

 

「【ヴァンパイア・スカージレット】の効果を発動しますわ。

このカードが召喚に成功したときライフを1000払い、墓地の【ヴァンパイア】を特殊召喚する。

蘇りなさい、【ヴァンパイア・ロード】!」

 

「はっ!」

 

「さらに【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】、【サイバー・ツイン・ドラゴン】を僕にしなさい!」

 

「ふふふっ」

 

カミューラのライフが2200になると青い肌を持つ吸血鬼の王が特殊召喚される。

さらに【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は【サイバー・ツイン・ドラゴン】の額に唇を落とし、自分の使い魔にしてしまう。

使い魔になってしまった【サイバー・ツイン・ドラゴン】のボディは美しい白銀から薄黒い灰色へと変わる。

 

「そして【ヴァンパイア・ロード】を除外し、【ヴァンパイアイジェネシス】を特殊召喚!」

 

「ぐぉおおおお!!!」

 

「【ヴァンパイアジェネシス】で【サイバー・エルタニン】を攻撃!」

 

【ヴァンパイアジェネシス】は一瞬で紫色の霧となり、【サイバー・エルタニン】を攻撃する。

見えない敵に【サイバー・エルタニン】は反撃できず、撃沈する。

 

「このターン【一時休戦】の効果で私のエンドフェイズ時までお互いにダメージは受けない。

ここで攻撃しても無駄ね。

カードを1枚伏せて、魔法カード【命削りの宝札】を発動。

手札が5枚になるようドローするわ。

ターンを終了」

 

「俺のターン。

【愚かな埋葬】を発動。

【サイバー・ドラゴン・コア】を墓地へ送る」

 

「あら、随分と可愛らしいフォルムのモンスターね」

 

「さらに魔法カード【サイバー・リペア・プラント】を発動。

効果により【サイバー・ドラゴン】を手札に加える」

 

今、彼の墓地に存在するモンスターは【サイバー・エルタニン】と【サイバー・ドラゴン・コア】2枚のみ。

しかし【サイバー・ドラゴン・コア】は場と墓地に存在するとき【サイバー・ドラゴン】として扱われる。

これにより【サイバー・リペア・プラント】の効果を使用する事が出来た。

 

「【天よりの宝札】を発動。

お互いに手札が6枚になるようドローする」

 

今、カイザーの手札は1枚、カミューラは先程【命削りの宝札】を使用したことで5枚である。

彼女は小さく舌打ちをし、渋々カードを1枚ドローした。

そして【サイバー・ドラゴン・コア】にはもう1つ効果がある。

 

「墓地に存在する【サイバー・ドラゴン・コア】の効果発動。

相手の場にのみモンスターが存在するとき、デッキから【サイバー・ドラゴン】を特殊召喚する」

 

「キシャアアアア!」

 

デッキから1枚のカードが差し出され、カイザーの場にモンスターが特殊召喚される。

これで条件は整った。

 

「手札から【パワー・ボンド】を発動!」

 

「【パワー・ボンド】?」

 

「機械族専用の融合カードだ!

手札の【サイバー・ドラゴン】2体とフィールドの【サイバー・ドラゴン】で融合!

【サイバー・エンド・ドラゴン】を融合召喚!」

 

先程デッキに戻ったモンスター達が再びカイザーの手札に加わり、彼の最強のカードへと姿が変わる。

【サイバー・ドラゴン】達は一瞬で暗闇の中に消え去り、ただでさえ不気味で薄暗いホールがさらに薄暗くなる。

すると彼の背後に光の柱が立ち、その中で黒い影が蠢く。

重い金属の翼が羽ばたく音が反響し、翼を広げきった【サイバー・エンド・ドラゴン】は咆哮を上げた。

 

「【パワー・ボンド】の効果で融合召喚した機械族モンスターの攻撃力は2倍になる」

 

「っ、攻撃力8000!?」

 

「お前のモンスターの攻撃力が4800だろうが関係ない。

【サイバー・エンド・ドラゴン】で攻撃。

エターナル・エヴォーリューション・バースト!」

 

今度こそ仕留めるという決意が見える攻撃宣言に、【サイバー・エンド・ドラゴン】は攻撃対象である【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】に光線を放つ。

向かってくる光に彼女は主であるカミューラに振り返る。

 

「させないわ。

罠発動、【聖なるバリア-ミラーフォース-】!

攻撃表示のモンスターには全て消えて貰いますわ」

 

「速攻魔法、【融合解除】。

【サイバー・エンド・ドラゴン】の融合を解除する」

 

白銀のドラゴンは3体のモンスターに分離し、守備表示でフィールドに現れる。

全く手薄にならないカイザーのフィールドを見てカミューラは顔を歪めた。

 

「……可愛くない!」

 

「【サイバー・ジラフ】を召喚、そして生贄に捧げる。

これにより俺がこのターン受けるダメージは0となる。

カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー」

 

今、カミューラの場には攻撃力2200の【スカージレット】、3000の【ヴァンパイアジェネシス】、4800の【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】。

そして守備表示の【ヴァンパイア・フロイライン】。

【サイバー・ドラゴン】の守備力は1600で、【ヴァンパイア・フロイライン】で攻撃しても倒すことは出来ない。

 

「(けど【ヴァンパイア・フロイライン】で攻撃するとき、ライフを支払えばその分攻撃力はアップする。

【フロイライン】、【スカージレット】、【ヴァンパイアジェネシス】で【サイバー・ドラゴン】を破壊して、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】でダイレクトアタックが出来るわ)

【ヴァンパイア・フロイライン】を攻撃表示に変更。

【ヴァンパイア・スカージレット】で【サイバー・ドラゴン】に攻撃!」

 

「罠発動、【神風のバリア-エアーフォース-】」

 

「【神風のバリア】?」

 

発動されたのは見慣れない罠カード。

その絵柄は炎の攻撃を弾いている様子を描いている。

名前を聞く限り、先程カミューラが発動した【ミラフォ】と似ている効果なのだろう。

 

「お前の場に存在する攻撃表示モンスターには全員手札に戻って貰う」

 

「【ヴァンパイア】を手札に!?

何なの、そのカード!?」

 

【スカージレット】は【サイバー・ドラゴン】に向かっていくが、見えないバリアに衝突する。

その時光がバリアに走り、その光はカミューラのモンスターを包み込んだ。

光が治まったと思えば彼女の場には誰も居なかった。

 

「…………ターンエンドよ」

 

手札に【ヴァンパイア】達が戻ったことで、彼女の手札は11枚になってしまった。

上限である6枚になるよう、カミューラは墓地にカードを送る。

 

「俺のターン、ドロー。

手札から魔法カード、【強欲な壺】を発動。

デッキからカードを2枚ドローする。

【サイバー・ドラゴン】を全て攻撃表示に変更。

バトルだ、【サイバー・ドラゴン】!」

 

カミューラの残りライフは2200。

【サイバー・ドラゴン】2体の直接攻撃で終わる数値である。

だが彼女も闇のデュエリストであり誇り高きヴァンパイア一族なのだ。

 

「カウンター罠、【攻撃の無力化】を発動!

バトルフェイズを強制的に終了させますわ」

 

またもや攻撃が防がれてしまった。

ライフもフィールドもカイザーが圧勝しているのに、最後の一撃が届かない。

返しのターンで何を仕掛けてくるか考えていると、カイザーの場に時空の歪みが生じる。

 

「何!?」

 

「ふふふ、良い顔をするわね」

 

「カミューラ、何をした?」

 

「私は罠カードを発動していたのよ」

 

「罠カードだと?

バカな……!?」

 

先程までカミューラの場に魔法・罠カードはカウンター罠の【攻撃の無力化】のみだった。

しかし、確かにカイザーの目の前にはカミューラが発動した罠カードが存在している。

そのカードの名前にカイザーと聖星は目を見開いた。

 

「【拮抗勝負】!?

カミューラの奴、そんな面倒なカード持ってたんだ……」

 

嫌なカードを持っていると感心していると、そのカードを知らない明日香は首を傾げた。

 

「【拮抗勝負】?

どういう効果なの、聖星」

 

「【拮抗勝負】……

バトルフェイズ終了時に発動できる罠カード。

自分の場のカードと同じになるよう、相手はカードを裏側で除外しなければいけないんだ。

そして自分の場にカードが存在しないとき、あのカードは手札から発動できる」

 

「そんな、手札から発動ですって!?」

 

「ってか、それも驚きだけど、裏側の状態で除外ってマジかよ!?

【異次元からの帰還】や【次元融合】が使えないってことだろ!」

 

十代の考えている通り、裏側表示で除外されるということは、除外されているカードの情報が公開されていないことを意味する。

【異次元の埋葬】や【次元融合】など除外されている『モンスター』を指定しているカードでは、モンスターカードか確認出来ないため、使えないのだ。

 

「ふふふ。

流石の貴方もこの効果には驚いたようね。

さぁ、カードを選びなさい」

 

カミューラの言葉にカイザーは自分の場を見渡し、残すべきカードを考える。

すると【サイバー・ドラゴン】3体と【サイバー・リペア・プラント】が時空の歪みに吸い込まれていった。

彼が残す事を選んだのは1枚の伏せカードである。

 

「俺は【サイバー・ヴァリー】を召喚。

ターンエンドだ」

 

「私のターン。

魔法カード【生者の書-禁断の呪術-】を発動しますわ。

墓地から【ヴァンパイア・ロード】を特殊召喚し、更に彼を除外し、【ヴァンパイアジェネシス】を特殊召喚!」

 

再び場に特殊召喚された【ヴァンパイア・ロード】は一瞬で光の粒子となり、【ヴァンパイアジェネシス】へと姿を変える。

美しい青年が威圧的なモンスターへと進化する姿は何度見ても驚きである。

 

「さらに【ヴァンパイアジェネシス】の効果発動。

手札の【バーサーク・デット・ドラゴン】を捨て、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を攻撃表示で特殊召喚!」

 

「はぁ!」

 

再び揃ってしまった2体のモンスター。

今カイザーを守るモンスターは【サイバー・ヴァリー】のみ。

2体の攻撃を受けてしまえばライフを大幅に削られてしまう。

 

「行くわよ。

【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】で【サイバー・ヴァリー】を攻撃!」

 

「【サイバー・ヴァリー】の効果発動。

このカードを除外し、バトルフェイズを終了させる。

さらにデッキからカードを1枚ドロー」

 

「……くっ、ターンエンドよ」

 

またしても防がれてしまった攻撃にカミューラは顔を歪める。

ここまで攻撃が通らないと流石の彼女の顔にも焦りの色が出始めた。

 

「俺のターン、ドロー。

【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚引き、2枚捨てる」

 

カイザーは墓地に捨てるカードを公開し、その2枚を墓地ゾーンに置く。

そのカードはモンスターカードである。

 

「さらに魔法カード、【運命の宝札】を発動」

 

【運命の宝札】とはサイコロを振り、出た目の数だけデッキからカードをドローし、その後デッキからその枚数分除外する効果を持つ。

彼の目の前に真っ白なサイコロが現れ、ころころと転がっていく。

 

「出た目は4、よって俺は4枚ドローする」

 

「4枚も……!」

 

「そしてデッキから4枚、ゲームから除外する。

手札から【サイバー・ドラゴン・フィーア】を召喚」

 

「キュア!」

 

「【サイバー・ドラゴン・フィーア】はフィールドに存在する時、【サイバー・ドラゴン】として扱う。

さらに手札から速攻魔法【サイバネティック・フュージョン・サポート】を発動!」

 

【サイバー・ドラゴン】として扱われている【フィーア】の目の前に1枚の魔法カードが現れた。

そのカードはライフを代償に、手札・フィールド・墓地のモンスターで融合する効果を持つ。

 

「俺は場の【サイバー・ドラゴン】と墓地の【サイバー・ドラゴン・ネクステア】、【サイバー・ドラゴン・ヘルツ】で融合!

再び現れろ、【サイバー・エンド・ドラゴン】!!」

 

「キシャアアアアアア!!」

 

「【サイバー・エンド】ですって!?

【サイバー・エンド】は【サイバー・ドラゴン】しか融合素材に出来ない。

まさか、さっきの2枚も!」

 

「そうだ。

【ネクステア】と【ヘルツ】も墓地に存在する時【サイバー・ドラゴン】として扱う」

 

再び現れた攻撃力4000のモンスターをカミューラは見上げる。

今自分のライフは2200、攻撃力の低い【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を攻撃されてもライフは残る。

カイザーがこれ以上カードを発動しないことを願った。

 

「さらに装備魔法【エターナル・エヴォーリューション・バースト】を【サイバー・エンド】に装備」

 

「【エターナル・エヴォーリューション・バースト】?」

 

「このカードがある限り、俺のバトルフェイズ中、お前はカードの効果を発動することが出来ない」

 

「あら、さっきの【拮抗勝負】がよほど効いたのかしら」

 

カミューラの挑発的な言葉にカイザーは何も返さない。

だが、この状況で不利なのは誰がどう見てもカミューラである。

その自覚があるカイザーは表情を変えずにバトルフェイズに移行する。

 

「バトルだ。

【サイバー・エンド】、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】に攻撃!」

 

【サイバー・エンド】は標的である【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】に向けて口を開き、3つの首から光線を放った。

3つの光線は1つになり、彼女を一瞬で塵に変えてしまった。

その攻撃はそのままカミューラに向かっていき、彼女はその衝撃で壁に叩き付けられる。

 

「っ、きゃああああ!!」

 

背中から伝わる衝撃に苦しそうに顔を歪ませ、カミューラのライフは200となる。

装備魔法【エターナル・エヴォーリューション・バースト】は墓地に【サイバー・ドラゴン】が存在する時、装備モンスターは続けて攻撃出来る。

だが今カイザーの墓地に【サイバー・ドラゴン】は存在しない。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「ふふ、ふふふ」

 

「何?」

 

壁に叩き付けられたカミューラは衝撃で髪が乱れ、美しいドレスも一部が汚れている。

顔を俯かせていた彼女はクロノス教諭とのデュエルで浮かべた醜い笑みを見せた。

 

「可愛さ余って憎さ百倍だわ!

私のターン!

お・し・お・き」

 

「っ」

 

自分に突きつけられるモンスターの笑みにカイザーは思わず後退った。

 

「手札から魔法カード【幻魔の扉】、発動」

 

「【幻魔の扉】?」

 

カミューラの背後に風が巻き起こり、地面が裂けていく。

裂け目からこの世の物とは思えない声が聞こえてきた。

だがその声はカイザーの耳には届かず、その声をかき消すほどの轟音と共に石造りの扉が出現する。

悪魔を象った飾りがついている扉は禍々しいオーラを纏っており、【スターダスト】は目を鋭くさせて唸り始めた。

 

「グルルッ!!」

 

「あれは、闇のカードかっ!」

 

「え?」

 

「本当か、【星態龍】!?」

 

PDAで見守っていた聖星は【星態龍】の言葉に目を見開く。

十代と万丈目も彼らの会話は聞こえていたが、聞き慣れない単語に反応が遅れた。

顔が豹変したカミューラは変質した声でカードの効果を宣言する。

 

「【幻魔の扉】。

このカードはまず相手フィールドのカードを全て破壊することが出来る!」

 

地を這うような声で宣言すると、扉がゆっくりと開き、向こう側の光によって【サイバー・エンド】が破壊される。

あまりの眩しさにカイザーは思わず腕を上げ、光の先を見つめる。

 

「もっと良いことを教えて差し上げますわ。

このカードはデュエル中に使用したモンスターを条件なしに特殊召喚することが出来るの」

 

「なっ!?」

 

「そう。

【融合解除】したとはいえ、貴方が1度でも使用した【サイバー・エンド・ドラゴン】でもねぇ」

 

「バカな!

モンスターの全滅だけではなく、無条件の特殊召喚を行えるカードだと!?」

 

「もちろんその代償は高いわよ。

このカードの発動条件、それは私自身の魂!

私がデュエルに負ければ、私の魂は【幻魔】のもの!」

 

通常のカードにおいて強力なカードの発動に伴う代償はライフやモンスター等である。

しかしその代償が魂とは、流石闇のカードというべきだろう。

すると美しい顔に戻ったカミューラは悪戯を思いついた子供の笑みを浮かべる。

 

「なんだけどぉ、せっかくの闇のカードなんだから、もっと闇のデュエルらしく使わせて頂きますわ」

 

「闇のデュエルらしく?」

 

「ご覧なさい!」

 

カミューラの声と同時に彼女の頭上に複数の影が浮かび上がる。

力なく空中に浮かんでいる人達の姿に聖星は目を見開いた。

 

「夜行さん!?

それに、フランツさん、デプレさんにリッチーさん、皆まで!?」

 

そう、カミューラの頭上に浮かんでいるのは行方不明になっているIS2社の社員達である。

彼らは闇のデュエルに敗れたと考えられ、今ペガサスが依頼した探偵達が必死に探しているはずだ。

その彼らがここにいるということは、フランツ達とデュエルした闇のデュエリストはカミューラという事になる。

 

「せっかく集めた魂の1つを無駄にしちゃうけど、貴方が手に入るのなら安いわ」

 

「魂を無駄に?

どういうことだ、カミューラ」

 

「ふふっ。

彼らの中の誰かに私の身代わりを頼むだけよ」

 

「っ!!」

 

「そうね、彼にしましょう」

 

そうカミューラが呟くと、ペガサスミニオンの1人、夜行が【幻魔の扉】の前に運ばれる。

 

「彼の魂を生贄に【サイバー・エンド・ドラゴン】を特殊召喚!!」

 

夜行の体が半透明に薄れていき、肉体から引き離された魂が【幻魔の扉】の中に吸収されていった。

同時に光り輝く扉の奥からカイザーの【サイバー・エンド・ドラゴン】が現れる。

自分のエースが敵に回り、見下ろされている状況に彼は眉間に皺を寄せた。

どうすれば良いのか思考を再開させるとカミューラが笑った。

 

「この【サイバー・エンド・ドラゴン】を倒してご覧なさい。

蘇るために生贄に捧げられた彼の魂は二度とこの世界に戻れなくなる。

それでも良いのかしら?

ねぇ、世界を守る英雄さん」

 

その言葉にカイザーは思わず舌打ちをした。

 

「(俺の場に伏せられたカードは【ドレインシールド】。

このカードを発動すれば【サイバー・エンド】の攻撃を無効にし、【サイバー・エンド】の攻撃力分ライフを回復する。

だが、このターンを生きながらえ、次のターンに勝機を掴んだとして……)」

 

カイザーの勝利と同時に、このデュエルで名前も知らない彼が犠牲になる。

この戦いに身を投じる時に覚悟を決めたとしても、それはあくまで自分が犠牲になる場合。

勝利のために赤の他人を切り捨てられるほど冷酷な青年ではなく、仕方のない犠牲だと割り切れるほど大人ではない。

彼らのデュエルを見守っていた翔は叫んだ。

 

「何なんすかあれ!

あんなの、お兄さんが手出し出来るわけないよ!」

 

「くそっ、カミューラの奴、何で正々堂々とデュエルしないんだ!」

 

十代も今までに見たことがないような顔を浮かべ、怒りを露にしている。

彼も翔や隼人、取巻を人質にとられたが、あくまで十代を本気にさせるため。

同じ人質でも天と地ほどの差がある。

 

「……俺が」

 

「え?」

 

不意に聞こえた声に十代は隣にいる聖星を見る。

 

「俺がシンクロ召喚を……だから、全部……

……も……俺のせいで……」

 

「聖星……」

 

十代だけではなく、ここにいる鍵の所有者はIS2社の社員が行方不明の事を知っている。

カイザーを窮地に陥らせている間接的な原因が自分にあるのだ。

微かに聞こえてくる呟きに十代はさらに顔を険しくした。

カミューラを睨み付けているカイザーは静かに口を開く。

 

「聖星、十代、皆。

後は頼む」

 

PDAから聞こえてきたその言葉に翔達は目を見開いた。

 

「っ、ダメだ、お兄さん!!」

 

「行くわよ、カイザー亮」

 

カミューラからの言葉にカイザーは何も返さない。

彼は両手から力を抜き、真っ直ぐと彼女を凝視する。

 

「【サイバー・エンド・ドラゴン】でダイレクトタック!!」

 

カミューラからの宣言に対し、【サイバー・エンド・ドラゴン】の動きは鈍い。

ゆっくりと3つの首をカイザーに向け、音を立てながら口を開く。

口内に存在する砲口にエネルギーが集まり、七色の光が輝き始めた。

その光は勢いよく放たれ、カイザーに直撃した。

同時にライフが0へカウントされる。

 

「くっ……」

 

ライフが0になった途端、体から力が抜けていった。

カイザーは立つことが出来ずその場に膝を付き、その瞳から光が消える。

敗者の体から薄暗い光があふれ出し、その光はカミューラが持つ人形に吸い込まれた。

クロノス教諭の時と同じように人形はカイザーの姿に変わった。

するとPDAの画面にカミューラの顔が映る。

 

「っ、カミューラ!」

 

「鍵と人形は頂いたわ。

安心なさい。

私のコレクションの1つとして大事に扱ってあげるわ」

 

手に持っているのは人形に封印されてしまったカイザーの姿。

その人形を見せつけられると画面は砂嵐となり、何も映らなくなる。

 

「そんな……

お兄さん……」

 

PDA越しに兄の変わり果てた姿を見て、翔はその場に膝を付く。

涙を浮かべて悲しむ姿に聖星は思わず目をそらし、下唇を強く噛んだ。

隼人と明日香は翔と同じ目線まで屈んだが、上手く言葉が出てこない。

十代はショックを受けている2人を交互に見て思わず叫んでしまう。

 

「何だよ……

何なんだよ、これって!」

 

「兄貴?」

 

「デュエルって、楽しいはずのもんだろ!

なのに、何で翔が泣いて、聖星が苦しまなきゃいけないんだ!

カイザーやクロノス先生があんな目に遭わなきゃいけないんだよ!」

 

デュエルとは皆を楽しませるためのツールであり、皆と繋がるために大切なゲームである。

どれ程すれ違おうが、デュエルで心と心をぶつけ、真意を知り、絆が生まれる。

そんなデュエルを十代は何度もしてきた。

だから、このように現実に納得できない。

 

「皆、次は俺が行く」

 

「聖星……」

 

「これは俺にも責任がある。

だから行かせてくれ」

 

重苦しいその言葉に皆は何も返せなかった。

 

END




前半の和やかな雰囲気と後半のシリアスさの温度差、どれくらいあるのか。
カミューラは目的のために魂を集めているので、カイザー以外の魂を持っていてもおかしくないと思いこういう展開にしました。
カイザー1人で挑みに行くと、人質要員があの場にいないので……

・カミューラの分身が瞬間異動で翔を浚う
・コウモリが保健室を襲撃して翔を浚う

この2パターンも考えましたが、今回の展開にすると行方不明になったIS2社の社員達の行方が分かり、聖星にプレッシャーを与える事も出来ます。
それで次は聖星とカミューラのデュエルですが、聖星が使うデッキはどうしようか考え中です。
素直にガチの【魔導書】デッキでいくか、社員達から情報が漏れているかもしれない【シンクロ】デッキでいくか。
または聖星本来のデッキを使うか。
1番楽なのは【魔導書】なんですけどね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十一話 打ち砕け、閃珖竜スターダスト★

カイザーとのデュエルに勝利したカミューラは優雅にバスタイムを楽しんでいた。

ローズの香りがする泡風呂に癒やされながら、今日の戦利品を眺める。

1番タイプだと思っただけのことはあり、その男が手の中に存在するという事実はとてつもない優越感を覚える。

 

「ふふっ、次の相手はあの坊やね……」

 

カミューラの目に映し出されているのは1人の少年。

黄色の制服に身を包んでいる聖星は、カミューラの視線に気がついている様子ではない。

彼は愛用しているリュックサックに食べ物をつめ、そのまま部屋に設置されている洗面所に向かった。

 

「あら、どこかへ出かける気かしら」

 

行き先として考えられるのは、十代がいる保健室だろうか。

恐らくだが、あそこでカミューラと対戦する用のデッキを組むのだろう。

だが、どこで何をしようが無駄だ。

 

「ふふふっ、一体どんなデッキを組むのか楽しみだわ」

 

**

 

カミューラに監視されていることなど知らない聖星は、足を踏み入れた世界を見渡した。

本来ならここには洗面台や洗濯機があるはずだが、目の前に広がっているのは壁が全く見えない空間である。

左右を見て目的の人物を探すと不意に真後ろから気配を感じた。

 

「どうかしましたか、聖星。

貴方が再びここを訪れる日はまだ遠いはずですが」

 

後ろにいたのは白銀の機械に乗り、肉体全てを鎧で隠してる男性だ。

その姿を初めて見た者は驚くだろうが、聖星はその男性が何者なのか分かっているため全く驚かない。

それどころか少し安心したような顔を浮かべる。

 

「あぁ、ちょっと頭を冷やしに来たんだ」

 

「……そうですか」

 

男性、Z-ONEはそれ以上何も喋らなかった。

聖星はその場にリュックを置き、大きなため息をつく。

そして数日前のことを思い出した。

 

「ご覧なさい。

これが、我々が辿る未来です」

 

静かに告げられた言葉に聖星は言葉を失った。

真っ赤に燃えている夜に草1つ生えていない赤黒い大地。

そして地面に転がっているのは見慣れた姿が刻まれた石版だ。

 

「……これが未来?」

 

「人間の欲という物は恐ろしい。

私の父、そして貴方の祖父が作りだしたモーメントは、人間の欲望やシンクロ召喚に反応し暴走に陥ったのです。

暴走したモーメントは【機皇帝】を使い、人々を攻撃し始めました」

 

険しい顔をしている聖星の横に浮かんでいるZ-ONE、聖星の父である遊星は、哀しげに語った。

モーメントとは不動博士が基礎を築いた夢の永久機関である。

その能力はたった1つで大きなシティの電力をまかない、デュエルディスクやD-ホイールの原動力となっている。

人類に必要不可欠となったそれは無機物の集合体だが、とある理由により人間の心を読み取る事が出来た。

 

「ですが【機皇帝】はあくまで欲に塗れた人々を攻撃します。

私は街を駆け巡りながら正しき心を人々に伝え始めました。

そして【機皇帝】は彼らにだけその砲口を向けなかったのです」

 

目を閉じたZ-ONEは若い頃の事を思い出す。

その思いに呼応したのか聖星が見ている映像もその光景に変わった。

様々な【機皇帝】はD-ホイールを押しながら笑い合っている彼らの横を通り過ぎていく。

 

「しかし、私の呼びかけに応じ、正しき心を持てた人達は極僅か……

結局モーメントは暴走してマイナス回転を始め、ゼロ・リバースが再び起こりました」

 

世界中に広まっているモーメントの数は百を超えている。

1つでもシティとサテライトを分けるほどの地殻変動を起こすのだ。

それ程の数が一度に暴走を始めれば、地球がどうなってしまうかは簡単に想像出来る。

大地は激しく揺れ、地面は裂け、底に見えるのは灼熱の赤。

殆どの人々は奈落の底に落ちていき、唯一残された遊星の目から光が消えた。

 

「だから私は決めたのです。

人類の未来を救うためにモーメントをこの世から消し去ると」

 

「モーメントを?」

 

この映像を見て分かるとおり、モーメントが原因で世界は滅びた。

原因となるものを排除すれば世界を救えると考えるのは自然なことだろう。

自分に何か言いたげな眼差しを向ける息子を見下ろしながら言葉を続ける。

 

「かつてはシンクロ召喚、いえ、デュエルモンスターズそのものを無くそうとしました。

そのために私はパラドックスを過去に送り込んだのです」

 

「パラドックスって、遊戯さんと父さんが戦った!?」

 

その問いかけにZ-ONEは小さく頷いたような気がする。

聖星は妙に引っかかると思いながらも、彼の次の言葉を待つ。

マスク越しに自分を見下ろすその瞳は厳しいが、憂いも、哀しみもあった。

 

「聖星。

貴方はシンクロ召喚をこの世に誕生させてしまった事、そして、モーメント開発者の一族としての責任があります」

 

「だから俺に手を貸せと?」

 

「はい」

 

Z-ONEが口にした責任という言葉に聖星は唇を噛む。

確かに彼の言うとおり、自分がペガサス会長にシンクロ召喚について話したせいでモーメント暴走の要因を作ってしまった。

皮肉なものだと思いながらZ-ONEを見上げた。

 

「……分かった、と言いたいところだけどその前に聞かせて。

具体的にはどういう計画を立てているの?」

 

「私の青年時代に存在するモーメントは1つ。

破滅したネオ童実野シティ、アーク・クレイドルをシティに落下させ、シティに存在するモーメントを破壊します」

 

「え?」

 

確かにモーメントを排除するのなら、数が少ない時代を選ぶのが合理的である。

しかし破壊という言葉に嫌な予感と何かの違和感を覚えた。

 

「これがシミュレーション映像です」

 

映し出されたのは全ての光を失った街だ。

一瞬どこの街か分からなかったが、最も高い建物に刻まれているKCの文字の存在に気がつく。

聖星の時代とは多少違うが、歴史の教科書に載っていた海馬コーポレーションに違いない。

その街の頭上に浮かんでいるのは廃墟となっている街であり、文字通りその街がシティを押しつぶす。

街そのものが落下してきた衝撃は凄まじく、海馬コーポレーションを中心に衝撃波が広がり、轟音を立てながらシティが破壊されていく。

 

「そんな、こんなのって……

人類の未来を救うためだからって、これはやりすぎだろ!」

 

「未来を救うためにはネオ童実野シティがどうなっても構いません。

彼らの犠牲により、数多くの命は救われる。

1人の命と10人の命、重いのはどちらですか?」

 

「……」

 

声を荒げた聖星に対し、Z-ONEは落ち着いた口調で返す。

真っ直ぐ自分を射貫く眼差しと迷いが一切無い言葉に本気であると悟る。

聖星は腑に落ちない表情を浮かべながらも首を横に振った。

 

「父さん、それは無理だよ」

 

「どういう意味でしょうか?」

 

「人間、いや、生命にとって欲望っていうのは何があっても切り離せないものなんだよ。

確かに欲があるから嫉妬・憎しみが生まれるけど、欲があるから生きたい・誰かを愛したいと思える」

 

聖星は知っている、欲望を切り捨てたことで滅びの道を歩んでいた世界を。

その世界とZ-ONEが見せた未来の行く末の切っ掛けは真逆といえる。

欲望を捨てたことで滅びの道を歩んでいたアストラル世界、欲望を持ちすぎたせいで滅んでしまった未来。

どちらを選択しても同じような危機を迎えるのならば、選ぶ道は1つだ。

 

「欲望を切り離せないのなら、モーメントを切り捨てる。

だけど、世界を救うためにモーメントをなくそうとしても、人々は便利な技術をそう簡単に捨てる事は出来ない。

現に、父さんが赤ん坊の頃にゼロ・リバースが起きても、シティでは新しいモーメントが開発された」

 

「……」

 

「結局、俺達人間はモーメントとも、自分達が持つ欲望とも向き合って生きていくしかないんだ」

 

「……」

 

「俺達がやるべきことはモーメントを破壊することじゃない。

人間が自分の欲望・モーメントとどう向き合って歩むか、それを導くことだ。

父さんもそう考えたから皆がモーメントと一緒に未来を歩めるように『フォーチュン』を作ったんじゃないのか!!」

 

自分達しか存在しない空間は音が反響せず、最果ての向こう側に音が飲み込まれる。

聖星の言葉はあっさりと消えて無くなり、Z-ONEは黙り込んでいるためこの空間を静寂が包み込んだ。

言い切った聖星は小さく息を吐き、もう1度父を見上げる。

 

「『フォーチュン』でダメなら俺がそれを超える制御装置を作る。

だから父さん。

父さんが持っている知識、全部俺に教えて」

 

フォーチュンだけでは不安だというのなら、さらに精度を増した装置を自分が作れば良い。

そのための技術を聖星は持たないが、目の前に居るZ-ONEは持っているはずだ。

彼から教えを請うべきだと考えた聖星はそう提案する。

だが、Z-ONEは顔を逸らし背中を向けた。

 

「……所詮は理想論。

私には時間がないのです」

 

「……予定としては、あとどれくらいでアーク・クレイドルをシティに落とすつもり?」

 

「協力する気のない貴方に教える必要はありません」

 

「それじゃあ俺をどうする気?

確かに俺はシティにアーク・クレイドルを落とすことには反対だけど、破滅の未来を回避することに関しては賛成だ」

 

ましてや聖星はこの計画のことを知ってしまった。

このまま解放すればZ-ONEの邪魔をするのは明白だろう。

星竜王と接触した聖星はそれを可能にしてしまう力を持っている。

Z-ONEは静かに目を閉じ、聖星に振り返った。

 

「では、デュエリストらしくデュエルで決着をつけましょう」

 

「待った、今は止めて欲しい。

今俺が持っているのはセブンスターズ用のデッキ。

このデュエルは俺達の未来がかかっている、そして相手は父さんだ」

 

父と戦うのならば万全な状態で臨みたいということだ。

敵であると宣言された以上、相手が弱っている、もしくは本気を出せない時に叩くのも戦略の一つ。

しかし仮にも自分達は親子であり、どうしても情が働いてしまう。

聖星からの言葉にZ-ONEは小さく頷いた。

 

「良いでしょう。

今の貴方は【三幻魔】の復活を防ぐために戦う戦士。

落ち着いた頃にもう一度ここに来なさい」

 

その言葉を告げられると聖星の目の前に扉のようなものが現れる。

白い光が溢れる扉の向こう側は間違いなくアカデミアだ。

もう1度Z-ONEを見上げると、既にそこには彼の姿がなかった。

困った顔を浮かべた聖星は歩を進め、光の中に進んでいく。

 

「……」

 

光が薄れると同時に慣れ親しんだ部屋の光景が広がる。

どうやらZ-ONEは気を遣ってラー・イエローの寮にまで送ってくれたようだ。

部屋で良かったと思いながら聖星は近くにあったベッドに腰をかける。

 

「聖星!

一体これはどういう事だ!?

先程まで我等は湖の前にいたはずじゃないのか!」

 

「グルゥ…?」

 

突然現れたのはあの空間で一切現れなかった【星態龍】と【スターダスト】だ。

彼らの様子から2人はZ-ONEとの会話を知らず、湖から部屋まで瞬間移動したと勘違いしているのだろう。

いや、勘違いではなくそれが正しいのかもしれない。

 

「……あぁ、頭が痛い」

 

「聖星?」

 

「グル?」

 

動揺している2人、そして自分が半年以上も暮らしている部屋に戻った安心感からか、急に疲れが襲ってくる。

先程までは煩いほど鼓動が鳴っていたが、今はその音をかき消すほどの頭痛がする。

同時に胸中に渦巻くのは苛立ちだろう。

聖星はベッドに背中を預け、小さく呟いた。

 

「父さんと喧嘩するの……

いや、喧嘩なんて可愛いものじゃないか」

 

「父さんだと?」

 

「……後で説明する」

 

これを喧嘩と呼べば良いのか分からないが、今はとにかく一眠りしたい。

10分ほどでも良いから眠らないと次のデュエルにおいて冷静でいられる自信がない。

Z-ONEに対して色々と言いたいことはあったが、上手く口に出来なかった。

こういう時、ストレートに感情を爆発するのが得意な姉が羨ましくなる。

等という事があったが、聖星はここを訪れた。

 

「ごめん、ここでご飯食べて良い?」

 

「好きにしなさい」

 

これからカミューラとデュエルをする聖星はその場で胡座をかき、リュックの中からドローパンを取りだした。

十代達と一緒に食事を取る事も考えたが、Z-ONEと食事を取る方がまだリラックス、なおかつ気を引き締めることが出来ると思ったからだ。

 

「父さんも食べる?」

 

袋から取り出した1つをZ-ONEに差し出す。

中身は分からないが、それもこのパンの楽しみ方だ。

しかしZ-ONEは遠慮気味に首を横に振った。

 

「いえ、あまり好きではありませんので」

 

「え、オムライスの方が良かった?」

 

「……次に来るときはそれをお願いします」

 

「分かった」

 

まさか断られるとは思わなかった聖星は傍目から分かるようにしょんぼりとしている。

Z-ONEは少し気まずい空気になってしまい投げかける言葉を考える。

しかし聖星は気にせず別の話題を出した。

 

「そういえば気になったんだけどさ、父さんって栄養どうしてるの?

それが父さんの生命維持装置っていうのは初めてここに来たとき聞いたけどさ」

 

「この装置には【モウヤンのカレー】を組み込んでいます。

例え魔法カードでもデュエルモンスターズのカード、その力は私の命を維持するのに充分役立っているのです」

 

「ふーん」

 

凄いな、デュエルモンスターズのカード。

人間の叡智を超えた力を持つカードにも、そういう使い方があるのかと感心する。

ここに十代と取巻がいれば、十代は純粋に凄いと笑い、取巻はあり得ないと頭を抱えただろう。

 

「この後ここでデッキを組む予定なんだけど、相談に乗ってくれる?」

 

「ふふ、【死者蘇生】なんてどうです?」

 

**

 

「聖星君」

 

「ん、何?」

 

食事を終えた聖星は保健室に足を運んだ。

扉をくぐれば配な表情を浮かべている友人達がおり、これからカミューラに挑む聖星に視線を送る。

そんな中、兄を人形にされた翔が恐る恐る声をかけてきた。

 

「本当に大丈夫なの?

あのカミューラが人質にした人達って、I2社の人達で聖星君の知り合いなんだよね?」

 

「あぁ。

けど大丈夫。

闇のカードに対抗するための切り札はちゃんとあるから」

 

自分の肩に乗っている【スターダスト】はその言葉に何度も頷く。

精霊の姿が見えない翔はぎこちない笑みを浮かべる。

 

「……そう。

聖星君、お兄さんの仇、絶対にとってきて」

 

「分かってる」

 

不安を拭えないようだが翔は真っ直ぐと聖星を見上げた。

今の翔に出来ることと言えば、信じて友を戦場に見送ることである。

すると聖星と十代は目が合い、十代も彼と同様心配そうな顔をしている。

 

「聖星、本当にこのペンダント使わなくて良いのか?」

 

「あぁ、それは十代達が持っていてくれ。

カミューラは吹雪さん曰く、正真正銘の化け物なんだろう。

俺がそれを持って行くとこっちの守りが手薄になる。

その隙を突かれる可能性も有るからね」

 

「安心しろ、十代。

聖星には【スターダスト】がついている。

その闇のアイテムよりは信頼出来るぞ」

 

「ガウ!」

 

「ははっ、【星態龍】と【スターダスト】がそう言うのなら大丈夫だな。

頑張れよ、皆」

 

痛む体に耐えながら浮かべられた笑みに、聖星も笑みで返す。

万丈目は小さくフンと言って窓の外を睨み付け、取巻と隼人は十代の視線の先を追う。

聖星の肩を見ているようで、そこに精霊がいるのだろうと納得する。

一方、翔や明日香、三沢は十代と聖星の会話に首を傾げた。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

**

 

城に入る前にPDAの電源を入れ、通信が出来る状態にする。

すると、カイザーの時と同じようにコウモリ達が出迎えてくれた。

 

「よく来たわね、坊や。

てっきりずっと部屋で引きこもるかと思っていたけど、ちゃんと来たのね。

褒めてあげるわ。

ご褒美に可愛いお人形にしてあげる」

 

「うーん、貴女を人形にした後の事を何度か考えたけど、貴女はどうして欲しい?

姉さんはもう人形遊びをする年じゃないし、父さんの幼馴染みに小さい娘さんがいるんだけど、彼女に渡すのはちょっと危険そうだし……

I2社に送るのが良いか、大徳寺先生の授業の小道具になるのが良いか、それとも次に襲撃してきた闇のデュエリストに熨斗で包んで叩き返すか。

どれが良い?」

 

「無駄な話よ。

なんたって、勝つのはこの私ですもの」

 

真剣なのか、カミューラに対する嫌味なのか、聖星は彼女の今後について首を傾げた。

弱くて生意気な子供が首を傾げる姿は見ていて楽しく、可愛らしいと思える。

同時にその顔が絶望に歪むことを考えると背筋がゾクゾクして仕方がない。

 

「ついに始まるのね……」

 

「聖星君、大丈夫かな」

 

「なぁに、心配ねぇな。

なんたって聖星には強い味方がいるからな!」

 

大きな瞳を不安げに揺らす明日香と翔を励ますよう、十代は笑みを浮かべる。

精霊と縁がない彼らにはピンと来ないだろうが、聖星の傍には【スターダスト】がいる。

【スターダスト】がどんな精霊か十代は知らないが、きっと大丈夫だ。

でなければ聖星は誰か1人を犠牲にする前提で動いているという事になる。

 

「「デュエル!!」」

 

薄暗いホールで始まったデュエル。

デュエルディスクは聖星からの先攻を示した。

 

「俺のターン、ドロー」

 

「手札に存在する【魔導書の神判】、【グリモの魔導書】、【セフェルの魔導書】を見せる事で、【魔導法士ジュノン】を特殊召喚する」

 

「はぁ!」

 

聖星が見せた3枚のカードは淡い光に包み込まれ、その光がフィールドに集結する。

光は1つの魔方陣を描き、その中から桃色の髪を持つ美女が現れた。

最初から特殊召喚された【ジュノン】は強気な目でカミューラを睨み付ける。

 

「さらに速攻魔法【魔導書の神判】を発動」

 

「タイタンとのデュエルで使っていたカードね。

確かそのカードはこのターンに使用した魔法カードの枚数までデッキから【魔導書】をサーチし、魔法使い族を特殊召喚する効果を持つ。

今坊やの手札に魔法カードは2枚……」

 

「そういうこと。

俺は手札から【グリモの魔導書】を発動し、デッキから【トーラの魔導書】を手札に加える。

そして俺の場に【ジュノン】がいることにより貴女に【トーラ】を見せ、【セフェルの魔導書】を発動。

墓地の【グリモの魔導書】の効果をコピーし、デッキから【ゲーテの魔導書】を手札に加える」

 

これで聖星は2枚の魔法カードを使用した事になる。

【ゲーテの魔導書】は墓地に存在する【魔導書】の数によって効果が変わるカード。

聖星はどのカードを伏せようかと考えながら別のカードを手に取った。

 

「さらに手札からチューナーモンスター、【エフェクト・ヴェーラー】を召喚!」

 

「はっ!」

 

「……それがチューナーね」

 

美しい女性である【ジュノン】の隣に並んだのはどこか幼さを残す青髪の少女。

その攻撃力はとても低く、攻撃向きのモンスターとは到底思えない。

しかし錯乱気味だったタイタンから得た情報によると、チューナーという特性は侮れない。

 

「チューナー?

なんすか、それ?」

 

「聞いたこともないカードなんだな」

 

翔は隣にいるオベリスク・ブルーである取巻に視線で問いかける。

当然、その問いかけに答えられるわけもなく、彼は首を横に振った。

それに対し明日香と三沢は聖星の心境を察する。

 

「ここには翔君達がいるのに……」

 

「聖星も形振りかまってられなくなったんだろう。

なんたってカミューラにはあれだけの人質がいるからな」

 

自分達にシンクロ召喚について話すときは部外者の存在を快く思っていなかった。

本来なら公表されるまで何年もかかるプロジェクトの内容だ。

関係者の1人として当然の考えだろう。

しかし聖星は、翔達ならばシンクロ召喚について知られても大丈夫と判断したのだ。

 

「あれが聖星の言っていたチューナーのカードか!」

 

「この脳天気野郎が……」

 

「しょうがねぇだろ、万丈目。

俺はカイザーと聖星のデュエル、見てないんだから」

 

「貴様はもう少しシリアスという言葉を学べ!」

 

いや、十代が学ぶのは空気を読む事か。

特殊なカードに対して目を輝かせる純粋さはここまで来ると別の意味で尊敬の念を覚えてしまう。

万丈目が心底呆れている頃、聖星はカミューラに対する切り札を呼ぶために声を張り上げる。

 

「行くぞ!

レベル7の【魔導法士ジュノン】にレベル1の【エフェクト・ヴェーラー】をチューニング!」

 

聖星の言葉に【ジュノン】と【エフェクト・ヴェーラー】は同時に頷き、宙へと浮かび上がる。

【エフェクト・ヴェーラー】は1つの星と光輪になり、輪郭だけを残し透明になった【ジュノン】の体内に取り込まれる。

 

「星々の命を翼に宿す白銀の竜よ、一筋の閃光となり、世界を駆けろ!

シンクロ召喚!」

 

聖星の背後に淡い光柱が轟音と共に立ち、その揺れはホール全体に伝わる。

激しい音を立てながら光の中から宝石が埋め込まれた白竜が姿を現す。

 

「玲瓏たる輝き、【閃珖竜スターダスト】!」

 

「グォオオオ!!!」

 

薄れゆく光の中で一回転した【スターダスト】は大きく翼を広げ、カミューラに対し威嚇するように砲口を上げる。

粉々に砕け散った光は星屑のように空から舞い降り、【スターダスト】の魅力を上げていった。

美しい演出にカミューラは忌々しそうに顔を歪め、代わりに十代は大興奮だ。

 

「すげぇ!

これがシンクロ召喚か!

あぁ、ちくしょう、何で俺保健室にいるんだろう!」

 

「落ち着け、遊城」

 

「なんか、兄貴の興奮している様子を見ると逆にこっちが冷静になるっすね」

 

「シンクロ召喚、よく分からないけど……

十代らしいんだな」

 

「ふん、闇のデュエルが終わった後に存分に相手して貰え」

 

「あぁ!

勿論そのつもりだ!」

 

普通ならば翔や隼人も大盛り上がりだろう。

しかし、ここ最近デュエル出来なかった反動で爆発している十代の姿に冷静になってしまった。

十代の雰囲気に飲み込まれた皆はこのデュエルの恐ろしさを少し忘れているようだ。

その証拠に真面目な明日香と三沢は困ったように笑っている。

 

「これはっ……

なんて嫌な光なのかしら。

眩しすぎて吐き気がするわ!」

 

「流石、本物のヴァンパイアだとこの光は苦手なんだ」

 

「えぇ。

今すぐ八つ裂きにしてあげたい気分よ」

 

「出来るものならどうぞ」

 

「生意気……!」

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド。

そして【魔導書の神判】の効果」

 

このターン、聖星が発動した魔法カードは2枚。

よってこの瞬間、彼は2枚まで【魔導書】を手札に加え、その枚数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスターを特殊召喚出来る。

 

「俺は【魔導書の神判】、【グリモの魔導書】を手札に加える。

そして特殊召喚するのはレベル1の【スターダスト・ファントム】だ。

来い、【スターダスト・ファントム】」

 

単調な声でモンスターを呼ぶと、1体の魔法使いが守備表示で特殊召喚される。

青いマントを羽織り、【スターダスト】の頭部を模した杖を持つ男性。

その風貌から【スターダスト】の関連カードだという事が分かる。

 

「私のターン。

手札から【幻魔の扉】を発動!」

 

「うわ、俺が言うのもなんだけど、いきなりかっ……」

 

カミューラが発動したカードの名に、聖星は顔を引きつらせる。

同時に保健室にいる皆の表情も一変した。

子供達の警戒する様子を知ってか知らずか、カミューラの高笑いが木霊する。

 

「勿論効果は知ってるわよね?

魂を捧げることで、貴方の場のモンスターを全て破壊し、モンスターを特殊召喚するのよ」

 

カードの発動と同時にカミューラの背後に禍々しい扉が出現する。

その扉は重厚な音を立てながら闇の霧を吐き出し、このホール全体にその霧が充満し始めた。

 

「けどね、私、とても慎み深いから、また生贄の役目をお前の仕事仲間に譲ってあげる」

 

最初は楽しそうに効果を説明していたが、その声は段々と低い物へと変わっていく。

声にこもっている感情は重苦しく、自分の代わりに誰かが生贄になることに一切の罪悪感を抱いてないことが分かる。

 

「さぁ、誰を生贄にしようかしら?」

 

次々に浮かび上がるI2社の人達。

彼らに意識はないようで、人形のように眠っている。

聖星は顔が青白い皆を見上げ、静かな声でその名を呼んだ。

 

「【スターダスト】」

 

「え?」

 

【スターダスト】の体に埋め込まれている紫の宝石が輝きだし、その光はカミューラの背後に現れた【幻魔の扉】に向かっていく。

自分の方に向かってきた光を追ったカミューラは勢いよく上を見上げた。

光は皆を優しく包み込み、霧に囚われないようにした。

その事実に彼女は目を見開き、大きく舌打ちした。

 

「【スターダスト】は【幻魔】を封印した星竜王が授けてくれたカードだ。

大昔に1度【幻魔】に勝ってるんだ。

これくらい出来たって当然だろう。

さ、ちゃんとコストは払ってくれよ」

 

「こんなの聞いていないわ……

タイタンにこの男達、使えない連中ね!」

 

カミューラは今までノーリスクでこのカードを使っており、今回もリスクを背負わずにデュエルを出来ると思っていた。

何故なら、この闇のカードに対抗できる術は限られている。

まさかピンポイントでその術を目の前の少年が持っているなど夢にも思わない。

もしタイタンとまともに意思疎通ができていたら、または捕まえていた社員達がもっと深く知っていたら、こんなことにはならなかった。

覚悟を決めた彼女は高らかに宣言する。

 

「私は、ヴァンパイア一族の誇りを幻魔に捧げ、発動!

さぁ、その忌々しいドラゴンを寄こしなさい!

そのドラゴンに、この私に跪き、愛しい主人を真っ白な手で血祭りに上げる栄誉を与えるわ!」

 

随分と嫌な栄誉である。

【幻魔の扉】から放たれた光は聖星の場のモンスターを破壊し尽くそうとした。

その光に【スターダスト・ファントム】は悲鳴を上げる暇もなく粉々に砕け散って行く。

だが【閃珖竜スターダスト】は目映い光に守られ、破壊されるどころか幻魔の光を跳ね返す。

 

「何!?

どうして破壊されない!?」

 

「残念だけど、【スターダスト】に破壊効果は通用しない。

【閃珖竜スターダスト】は守護のドラゴン。

闇を祓うだけではなく、1ターンに1度、破壊を無効にするのさ」

 

「くっ…!

けど、もう無効には出来ないはず。

それなら貴方が召喚した【魔導法士ジュノン】を頂くわ!」

 

開いた【幻魔の扉】から現れたのは【ジュノン】だ。

【ジュノン】は光が宿っていない瞳で【スターダスト】と聖星を見つめている。

どうやら心を食われたようだ。

 

「そして私は手札から魔法カード【ヴァンパイア・デザイア】を発動!」

 

「【ヴァンパイア・デザイア】?」

 

「知らないようね、だったら教えてあげる。

このカードはデッキから墓地に【ヴァンパイア】を送る事で、私の場のモンスターをそのモンスターにする事が出来るのよ」

 

「え?

それって、つまり……」

 

「フフッ」

 

そう笑いながらカミューラは1枚のカードを墓地に送る。

すると【ジュノン】は苦しみだし、頭が痛むのか額を押さえながらその場に膝を付く。

苦しげな声を上げる彼女の後ろには【ヴァンパイア・ロード】が不敵な笑みを浮かべている。

その様子を見ている十代達はすぐにこの後の予想がついた。

 

「【ジュノン】が【ヴァンパイア・ロード】に!?」

 

「という事は……

来るぞ、奴が!」

 

「【ヴァンパイア・ロード】となった【魔導法士ジュノン】を除外し、特殊召喚!

【ヴァンパイアジェネシス】!」

 

「うぁ、あぁああ!!」

 

嫌だというように頭を振る【ジュノン】は黒い霧に包み込まれ、その闇の中から人とは思えない巨大なモンスターが現れる。

その攻撃力は3000、【スターダスト】を一瞬で葬ることが出来る攻撃力に聖星は一歩下がる。

 

「【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】じゃなくて良かったといえば良いのか……

けどこっちも1ターン目からの召喚かよ……」

 

「【ヴァンパイアジェネシス】で【閃珖竜スターダスト】で攻撃!

ヘルビシャス・ブラッドォ!!」

 

紫色の霧となった【ヴァンパイアジェネシス】は勢いよく【スターダスト】を攻撃する。

体中を貪られるような痛みに【スターダスト】は悲鳴を上げ、霧の一部はプレイヤーである聖星に襲いかかる。

 

「くっ!」

 

皮膚を突き刺すような痛みに聖星は顔を歪め、情けない声を出してしまう。

これで聖星のライフは3500まで削られ、【スターダスト】を破壊される。

そう思って笑うカミューラだが、【ヴァンパイアジェネシス】は【スターダスト】を破壊せずに場に戻ってきた。

 

「破壊されていない?

そいつの効果は1ターンに1度じゃなかったの!?」

 

「墓地に存在する【スターダスト・ファントム】の効果さ。

このカードの効果で1ターンに1度、【スターダスト】は戦闘では破壊されない。

尤も、攻撃力と守備力は800ポイント下がるけどね」

 

【スターダスト・ファントム】は墓地に存在する時、場のドラゴン族・シンクロモンスターに銭湯破壊耐性を付与する。

しかしその効果は完璧ではなく、当然制約があった。

【スターダスト】の攻撃力は2500から1700、守備力は2000から1200まで下がる。

これで【スターダスト】が戦闘破壊に耐えられるのは残り1回だ。

 

「なる程、そう何度も使えるってわけじゃないのね。

カードを1枚伏せて、ターンエンドよ」

 

「俺のターン、ドロー。

【魔導書の審判】を発動する。

そして【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【ルドラの魔導書】を手札に加える。

【ルドラの魔導書】を発動し、手札から【トーラの魔導書】を捨て、デッキからカードを2枚ドロー」

 

「いちいちターンが長いわね、もっと短くしたらどう!?」

 

「そう言われても、これが【魔導書】の売りだからなぁ」

 

苛立ちがピークを迎えつつあるようで、カミューラの声はドスのきいたものになっている。

恐ろしい声ではあるが、それは裏を返せば彼女の余裕がなくなってきているということ。

それを分かっているため聖星はただ困ったように頬をかくだけだ。

 

「【スターダスト】を守備表示に変更。

カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

このターン、聖星が発動した魔法カードは2枚。

デッキから加えたのはまたもや【グリモの魔導書】と【魔導書の神判】だ。

次のターンも手札が増え、モンスターを特殊召喚されると思うと厄介でしかない。

 

「そして【見習い魔笛使い】を守備表示で特殊召喚する」

 

「ふん!」

 

【スターダスト】の横に並んだのはぽっちゃり体型の若い魔法使い族だ。

彼は笛を大事そうに持っており、大して強そうな見た目ではない。

 

「私ターン、ドロー。

手札から【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる。

そして【強欲な壺】を発動しますわ」

 

「一気に手札を入れ替えた。

しかも墓地にカードが2枚も」

 

「さらに魔法カード【大嵐】を発動!」

 

「やばっ。

墓地に存在する【セフェル】、【神判】、【トーラ】を除外し、【ゲーテの魔導書】を発動。

場のカードを1枚、選んで除外する」

 

「まだ終わらせないわよ!

罠発動、【ヴァンパイア・アウェイク】!

デッキから【ヴァンパイア・レディ】を特殊召喚するわ!」

 

「それなら俺は【ヴァンパイアジェネシス】を除外する。

さ、退場してくれ」

 

カミューラの場に現れたのは青い肌を持つ可憐な女性。

彼女は黄色の瞳で【スターダスト】の首筋を見つめ、【スターダスト】は思わず後退る。

同時に【ゲーテの魔導書】の効果で【ヴァンパイアジェネシス】は異次元の歪みに飲み込まれてしまった。

モンスターの特殊召喚の処理が終わると、聖星の場に残されたカードが破壊される。

 

「破壊されたのは【リビングデッドの呼び声】……

そう、そのカードで破壊された【スターダスト】を特殊召喚するつもりだったのね」

 

計算上、【スターダスト】が破壊に耐えられるのは戦闘破壊と効果破壊を合計して2回。

そしてカミューラが操る【ヴァンパイア】は墓地からの蘇生を得意とするモンスター。

1ターンで場の全てが埋まることだってある。

墓地に送られた場合のことを考え、対処法を用意しているのは当然だろう。

 

「けど、そのモンスターにはすぐに消えて貰うわ。

速攻魔法【帝王の烈旋】を発動!

そのドラゴンには【ヴァンパイア】を呼ぶための生贄になって貰いましょう」

 

「え?

俺のモンスターを生贄?」

 

まさかのカード効果に聖星は大きく目を見開く。

その恐ろしさを理解した聖星はすぐに【スターダスト】を見上げた。

 

「【ヴァンパイア・レディ】と【スターダスト】を生贄に、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を生贄召喚!」

 

「キャハハッ!」

 

「……厄介なのが来た」

 

【ヴァンパイア】が場に増える事で自分より攻撃力の高いモンスターを装備魔法にするモンスター。

何度高攻撃力モンスターを召喚して墓地に送っても、墓地から蘇り、モンスターを奪われる。

正直なところ【ヴァンパイアジェネシス】より厄介だ。

幸いなのは【スターダスト】は既に墓地に存在しており、今のところ装備される心配はないという点か。

 

「あら、安心するのは早いわよ、坊や。

墓地に存在する【馬頭鬼】の効果発動。

このカードを除外し、【ヴァンパイア・ロード】を特殊召喚するわ」

 

「はぁ!」

 

「そして墓地に存在する【アンデット・ストラグル】の効果発動。

除外されているアンデット族を墓地に戻し、このカードを場にセットするわ」

 

「墓地で魔法カード……

【拮抗勝負】といい、カミューラ、嫌なカードばかり持ってるな」

 

恐らく【馬頭鬼】同様、先程の【天使の施し】で墓地に送られたカードだろう。

一体どのような効果なのか聖星は把握しておらず、正直次に何が起こるのか予想出来ない。

デュエルを見守っている三沢はカミューラの墓地に存在するアンデット族を思い出す。

 

「【馬頭鬼】はターン制限をもうけられていないカードだ。

これで彼女はまた墓地からアンデット族を特殊召喚出来る」

 

闇のカードに頼る戦術をとる女かと思ったが違う。

手札から相手のカードを裏側表示で除外する罠、相手モンスターを生贄に捧げる速攻魔法、そして除外されたモンスターを再利用する速攻魔法。

アンデット族は除去カードが少ない種族であり、【ヴァンパイア】は高レベルモンスターが多くその生贄の確保が必要となる。

その点を補い、かつ相手の戦術を崩す方法を彼女は知っているのだ。

 

「彼女はただの闇のデュエリストじゃない。

彼女が使うカードは計算し尽くされている」

 

三沢の言葉に十代達は同意するように頷く。

そして十代は難しい顔を浮かべながらつい零してしまった。

 

「強い、強すぎる……

何でこんなに強いのに、カミューラは闇の力に頼るんだ」

 

これほどまでに強いのだ。

きっと闇のデュエルなど関係なければ、楽しい、燃えるようなデュエルが出来たはずだ。

心の底から惜しむような言葉が聞こえ、聖星はカミューラを真っ直ぐ見る。

 

「カミューラ、1つ質問に答えて欲しい」

 

「あら、何かしら。

私が好きな命乞いの仕方?」

 

「どうして貴女は闇のデュエリストとして戦う?

貴女の目的を知りたい」

 

「……デュエルに勝つことなど私には何の意味もないわ」

 

「え?」

 

勝つことに意味はない。

まさかの返答に聖星は怪訝そうな顔をする。

それに対し彼女は昔を懐かしむように語り出した。

 

「中世欧羅巴においてヴァンパイアは全盛を誇り、我々は誇り高い一族として孤高に生きてきた。

だが人間達は我々をモンスターと呼び、その存在すら許さなかった」

 

彼らは己が信じる神の名を高らかに掲げ、その名の下にヴァンパイアを手にかけ始めた。

それはカミューラにとって悪夢の日々。

聞こえてくる同胞の悲鳴から背中を向け、愛しい子供の耳を塞ぎ、生き延びるために隠れ、逃げ続けた。

しかし人間達の執念は凄まじく、とうとう目の前でその子供を殺され、彼女は絶望を抱えながら永遠の眠りについたのだ。

 

「そんな私を起こす者がいた。

闇の力を使いヴァンパイア一族を復活させないか。

その力を貸そうって」

 

その男から渡されたのが、今彼女がつけている首飾りだ。

 

「私がデュエルした相手を人形にしているのは単なる遊びじゃない。

私の目的は彼らの魂を使い、滅ぼされたヴァンパイア一族を復活させ、我々一族の魂を認めず滅ぼした人間共に復讐すること!」

 

手に握っているのはカイザーの人形。

彼女はその人形を強く握りしめ、笑みを浮かべながら叫んだ。

鬼気迫るその言葉に聖星は静かに零した。

 

「貴女は人間が憎いんだな」

 

「えぇ、そうよ。

私達は何もしなかったわ。

お前達人間に危害を加えるつもりなど毛頭もなかった。

それなのにお前達人間は違った!

これを憎まずにどうしろというの!」

 

憎んでいるだけならば人間を滅ぼせば良い。

しかし彼女は仲間の復活を望んでいる。

それが何を意味するのか聖星はすぐに察することが出来た。

 

「寂しいんだ……

当然か」

 

聖星だって異世界に飛ばされたときは酷く寂しい思いをしたものだ。

カミューラは目の前で縁者を殺され、自分以外の同族は死んでいる。

彼女が味わっている孤独と運命、それは聖星の比ではない。

だが、彼と比べたらどうだろう。

いや、比べるなんて烏滸がましく、カミューラと父に失礼だ。

 

「ふっ、同情するのならサレンダーしてくださる?」

 

「断る」

 

「そう。

なら、苦しみが長引くだけよ。

除外されている【馬頭鬼】を墓地に戻し、【アンデット・ストラグル】をフィールドにセットするわ」

そして再び【馬頭鬼】を除外し、【ヴァンパイア・レディ】を特殊召喚」

 

これでカミューラの場に3体の【ヴァンパイア】が並んだ。

その光景に明日香達は叫ぶ。

 

「まずいわ!」

 

「聖星の場には守備力1500の【魔笛使い】のみ!

それに対しカミューラの場には攻撃力2000のモンスターが2体と、1500が1体」

 

「不動のライフは3500…

総攻撃を受ければ負ける」

 

「【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!

そのモンスターを蹴散らしなさい!」

 

カミューラの声に従い、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は【見習い魔笛使い】に攻撃を仕掛ける。

美女の気迫ある攻撃に【見習い魔笛使い】は腰が抜けたようで逃げる事が出来ない。

一瞬で切り裂かれ、粉々に砕け散る。

 

「【ヴァンパイア・ロード】、【ヴァンパイア・レディ】!!」

 

2体のモンスターは小さく頷き、無防備な聖星に襲いかかる。

高く舞い上がり鋭い爪を聖星に向け、もう少しで届くという時だ。

彼らの攻撃を阻むように1人の青年が大きな鎌を振るう。

 

「何ぃ!?」

 

【ヴァンパイア・ロード】の拳を止めた青年は素早く鎌を振るい、華奢な吸血鬼を吹き飛ばす。

勢いよく飛ばされた【ヴァンパイア・ロード】は一瞬だけ悔しそうに顔を歪めるが、すぐに品のある笑みを浮かべた。

その隣に【ヴァンパイア・レディ】が立つ。

揃って並ぶ美男美女を静かに見つめている青年は聖星を守るよう大鎌を構えた。

 

「何なの、そのモンスター……

一体どこから」

 

「【見習い魔笛使い】の効果さ」

 

「え?」

 

「彼は破壊され墓地へ送られた場合、手札からモンスターを特殊召喚出来るのさ」

 

「そんな効果を持っていたのね……

厄介なモンスターばかりだわ」

 

「それはお互い様だろう。

そして特殊召喚された【魔導冥士ラモール】の効果。

このカードは墓地に存在する【魔導書】の種類によって効果を得る」

 

3枚の時は攻撃力が600ポイント上昇し、4枚の時はデッキから【魔導書】を手札に加える。

そして5枚の時はデッキから闇属性・魔法使い族モンスターを特殊召喚するのだ。

今現在、聖星の墓地に存在する【魔導書】は【神判】、【グリモ】、【ルドラ】、【ゲーテ】の4種類。

 

「よって、【ラモール】の攻撃力は上がり、俺はデッキから【ルドラの魔導書】を手札に加える」

 

「攻撃力2600……

(けど、【アンデット・ストラグル】の効果はアンデット族モンスター1体の攻撃力・守備力を1000アップさせる。

流石に【ヴァンパイア・レディ】を狙われたら返り討ちに出来ないけど、坊やの性格を考えると、狙うのは【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】)」

 

そうなれば【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の攻撃力3000となり、聖星のモンスターを破壊し、400のダメージを与えることになる。

 

「ターンエンドよ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

デッキからカードを手札に加えた聖星は手札を見つめる。

今彼の手札は6枚。

モンスターカードは1枚あるが、問題はこのモンスターが上級モンスターだということ。

手札に【魔導書】は3枚存在するため【ジュノン】ならば特殊召喚出来ただろう。

 

「手札から魔法カード【魔導書の神判】を発動。

そして魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【アルマの魔導書】をサーチし、【ルドラの魔導書】を発動。

手札から【アルマの魔導書】を捨て、デッキからカードを2枚ドロー。

そして手札から【ワンダー・ワンド】を発動」

 

「【ワンダー・ワンド】?」

 

「魔法使い族専用の装備魔法さ。

装備モンスターである【ラモール】を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローする」

 

【ラモール】が持っていた大鎌が緑色の宝石をはめ込んだ杖となる。

その杖と共に彼は金色の粒子となり場から消えてしまった。

これで聖星の場はがら空きになるが、ちゃんと対策は手札にある。

 

「そして魔法カード【死者蘇生】。

墓地から【ラモール】を特殊召喚する」

 

「……」

 

聖星の足下に紫色の魔方陣が現れ、どす黒い光があふれ出した。

漆黒の小さな雷を散らしながらそこから【ラモール】が再び姿を現す。

光が宿らない瞳で【ラモール】は自分より弱いモンスターを見つめる。

 

「今、墓地の魔導書は【アルマの魔導書】が加わり5枚になった。

よって【ラモール】の効果は全て発動する」

 

「という事は……」

 

「俺は【魔導書院ラメイソン】を手札に加える。

そして来い、【魔導獣士ルード】」

 

【ラモール】は大鎌を使って魔方陣を描き、そこから獅子の顔を持つ魔法使いが召喚される。

四足歩行ではなく、二足歩行の獅子はしっかりと【ヴァンパイア】を見つめていた。

そして表示された攻撃力は2700。

 

「バトル。

【魔導獣士ルード】で【ヴァンパイア・レディ】に攻撃」

 

声を荒げずに告げられた宣言に【ルード】は獅子が刻まれた盾で【ヴァンパイア・レディ】を叩きつぶす。

圧倒的な個撃力の差に彼女は何の抵抗も出来ずに破壊される。

爆発によって生じた爆風にカミューラは思わず腕で顔を隠す。

この攻撃によりライフが4000から1200削られ、2800になる。

 

「【魔導冥士ラモール】で【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】に攻撃」

 

大きく振りかぶった【ラモール】は勢いよく鎌を美女に振り下ろす。

迫ってくる刃物に【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は反撃しようと翼を広げる。

 

「リバースカードオープン、速攻魔法【アンデット・ストラグル】!

【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の攻撃力を2000から3000に上げるわ!」

 

「え?」

 

発動されたのは先程カミューラが伏せた速攻魔法。

墓地で発動するカードは、場で発動する効果と墓地で発動する効果が似ている場合が多い。

モンスター効果を無効にする【ブレイク・スルースキル】に攻撃無効関連の効果を持つ【光の護封霊剣】、カードを破壊する【ギャラクシー・サイクロン】。

だから聖星は同じように【アンデット・ストラグル】の効果も除外されたカードに関連する効果かと思ったのだ。

 

「返り討ちにしなさい!」

 

「はぁ!」

 

翼を広げた【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は素手で大鎌を受け止め、その鎌を奪い取り、逆に【ラモール】を切り裂いた。

切り口から生じた爆風は聖星に降り注ぎ、彼のライフを3500から3100に削る。

痛みに耐えながら聖星は手札のカードを掴む。

 

「まだだ、カミューラ。

まだ俺の手札はある」

 

「何をするつもり?」

 

「手札から速攻魔法、【ディメンション・マジック】を発動。

バトルを終えた【ルード】を墓地に送り、手札から【魔導書士バテル】を特殊召喚。

そして、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を破壊」

 

「なっ!」

 

場に現れたのは魔法使い族が入れ替わる棺。

鎖によって宙づりになっている棺が開き、中に【魔導獣士ルード】は無言のまま入り込む。

閉じたと思えば再び開き、中から現れたのは小柄な【バテル】だ。

そして空になった棺は獲物に狙いを定め、無数の鎖を放つ。

 

「くっ!」

 

向かってくる鎖に捕まってしまった【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は抵抗するが、あっという間に棺に閉じ込められてしまう。

今はまだバトルフェイズ中。

バトルフェイズ中に特殊召喚されたモンスターは攻撃する権利を持っているのだ。

 

「だけど、そのモンスターの攻撃力は【ヴァンパイア・ロード】の足下にも及ばないわ!」

 

「手札から速攻魔法【ディメンション・マジック】を発動」

 

「え?」

 

「【魔導書士バテル】を墓地に送り、手札から【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】を特殊召喚する」

 

攻撃力500の弱小モンスターの次に特殊召喚されたのは、攻撃力2900の魔女。

綺麗な花を身につけている彼女は不敵な笑みを浮かべながらその場に立つ。

2枚目の【ディメンション・マジック】の効果により、最後の砦であった【ヴァンパイア・ロード】は破壊されてしまう。

これで【ソルシエール】のダイレクトアタックが可能となってしまった。

 

「そんな、バカな……」

 

ゆっくりと下がりながらカミューラは左右に首を振る。

このようなこと、あってはならない。

自分は唯一の生き残りなのだ。

一族の復活も、人間共への復讐も、実行できるのは自分しかいないのだ。

その自分がここで負けるなど許されるわけがない。

絶望に染まっていく彼女の顔に聖星も顔を歪めてしまう。

 

「ごめんなさい。

貴女がヴァンパイア一族の運命を背負っているように、俺も背負ってるんだ」

 

これも生存競争だと切り捨てることが出来ればどれほど楽だっただろう。

聖星は拳を強く握りしめ、真っ直ぐにカミューラを見る。

 

「【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】!

ダイレクトアタック!」

 

聖星からの声に彼女はロッドの先端に魔力を凝縮する。

薔薇に集まった魔力は淡い光となり、カミューラに向けて放たれた。

人を包み込むほどの巨大な光はあっという間に彼女を飲み込む。

 

「キャァアアアアア!!!」

 

魔力が爆発する音と火花が散る音と共にカミューラの悲鳴がホールに響く。

同時に彼女のライフが2800から0へとカウントされた。

デュエル終了のブザーが鳴り、唯一場に残ったモンスターである【フルール・ド・ソルシエール】はゆっくりと姿を消した。

カミューラは負けたショックからかその場にへたり込み、顔を上げようとしない。

すると背後に何かの気配を覚える。

 

「っ!!」

 

思わず肩を跳ねさせたカミューラは恐る恐る後ろに振り返り、自分を見下ろす扉に声にならない悲鳴を上げた。

大きな音を立てて扉は開き、その中から無数の手が現れる。

まさかのホラー的な演出に聖星も小さく悲鳴を上げてしまった。

 

「イヤァアアアア!!」

 

反射的に逃げようとするが、それよりも早く白い手はカミューラの喉を掴む。

一瞬だけ呼吸が出来ず、そのまま彼女の魂は肉体から切り離された。

悲痛な悲鳴を上げながらカミューラの魂は【幻魔の扉】に飲み込まれていく。

そして扉は静かに閉じて消え去り、残された肉体はゆっくりと崩れ落ちた。

 

「……っ、ぁ…」

 

目の前で消えていった彼女の姿はあの時と同じだ。

空は赤黒く、赤い雷が降る街。

そんな中侵略を防ごうと奮起した仲間達の最期に。

 

「聖星!」

 

「っ!」

 

PDAから聞こえた大声に聖星はハッとする。

思わずそちらに目を向ければ翔達が叫んでいた。

 

「聖星君、お兄さんを!」

 

翔の言葉に聖星はカミューラが立っていた場所を見る。

そこには闇の呪縛から解放され、気絶しているカイザーやフランツ達が倒れている。

すぐに駆け寄ろうとしたが城全体が大きく揺れ始める。

 

「これは!?」

 

「主であるカミューラが【幻魔の扉】に取り込まれたからだろう。

全く、最期まで面倒なことを残す女だ!」

 

【星態龍】の推測に耳を傾けず、聖星はカイザー達のところまで走った。

何とか辿り着いたが、倒れている人達の数に舌打ちしてしまった。

人質の事を考えて聖星1人で城に来たが、彼1人でここに居る全員を連れ出すのは不可能だ。

だからといって見捨てられるはずもない。

城が完全に崩れ去る時間は刻一刻と迫っている。

 

「っ、やばい……!

崩れる!」

 

足場さえ崩れ始め、聖星は必死に皆に手を伸ばす。

だが間に合わない。

認めたくない現実が目の前に迫る中、聖星は意識を手放した。

 

End




ここまで読んで頂きありがとうございました。

Z-ONEと聖星の関係性はちょっとややこしいものにしました。
敵対するもの同士ではあるが、お互いに情があり、それを捨てる事も出来ない。
しかるべき戦いの日まではこうやって交流して欲しいなぁと。
それにラスボス倒してないのにいきなり裏ボスとかちょっと高難易度すぎますよ。

Z-ONEは遊星の記憶を持っているためなのか不動博士に対して非情になれていない面もあったので、聖星に対してもある程度話を聞き入れてくれるかなと思います。
非情というのは、モーメントを開発する前の博士を消す等の対処をしていないという点です。
博士がいなくなれば遊星が生まれない、そうするとZ-ONEの存在もなくなるという考えも出来ますが、そこは家族の大切さを分かっているZ-ONE(遊星)だから無理だったという事にしています。
そして聖星も色々と複雑な気持ちを抱えています。


ちっとこの小説のデュエル構成をするとき、悩む点がありました。
最初でデュエル構成をしていた段階では、ラストは【拡散する波動】で複数回攻撃、それでも足らないから【ディメンション・マジック】で特殊召喚。
からの【トーラの魔導書】で耐性を付け、直接攻撃!!という展開にするつもりでした。
そこで悩んだのは【拡散する波動】を使用したターン、他のモンスターは攻撃出来ないが、【トーラの魔導書】を使用したことで攻撃出来るかという点です。
今回のお話には出てきませんでしたが、もしかしたら今後出てくるかもしれません。

ただ、実際これが出来るのか私には分かりません。
公式試合でやったらジャッジを呼びたいです。
何故かと言いますと……

Wikiの【拡散する波動】のFAQでは
Q:発動ターンに《ホルスの黒炎竜 LV6》は攻撃できますか?
A:魔法効果を受けないので攻撃できます。
とあります。
【ホルスの黒炎竜LV6】の効果は「魔法の効果を受けない」、【トーラの魔導書】のテキストには「魔法カードの効果を受けない」と書いてあります。
なので魔法の効果を受けない【ホルス】が攻撃出来るのなら、【トーラの魔導書】の効果で魔法の効果を受けないようにしたモンスターも攻撃出来るのではないかと考えました。

ただ、Wikiの【トーラの魔導書】のFAQでは
Q:《マジシャンズ・クロス》で攻撃不能となっているモンスターがいます。このカードが持つ1つ目の効果を適用した場合、どうなりますか?
A:その場合も攻撃できません。
となっており、この理屈でいうと、【拡散する波動】で攻撃不能になっているモンスターは攻撃出来ないという事になります。

……どう違うのでしょうか、これ。
元々モンスターに内蔵されている永続効果だから?
別のカードによって付与された効果だから??
私には全く分からん(ゲンドウポーズ)

公式のQ&Aで【トーラの魔導書】、【拡散する波動】で検索して似た事例を探してみましたが、中々見つけられなくて……
カードが違うから攻撃出来ない?
(∩゚д゚)アーアーきこえなーい納得できなーい!

実際どう違うんですかね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十二話 最後のゲーム

 

先程まで大騒ぎだった保健室は嘘のように静まりかえっている。

誰も言葉を発することが出来ず、無機質な音を立て、砂嵐しか映し出さないPDAを持つ手は震えていた。

 

「くそっ!」

 

「十代!」

 

誰よりも先に動いた十代は保健室を飛び出し、出た瞬間壁にぶつかりそうになる。

彼はそんなこと気にせず、カミューラの城がある湖まで走り出した。

万丈目と取巻、三沢の3人は彼の後を追う。

明日香も彼ら4人を追おうとしたが、へたり込んでいる翔に視線を移し、どうすれば良いのか考える。

すると、机の上に置きっぱなしにされているクロノス教諭の人形が光り出す。

 

「な、何!?」

 

「下がって!」

 

明日香は思わず後ずさり、鮎川先生は生徒達を守るかのように前に出た。

光が治まると人形だったクロノス教諭が元の姿で座っていた。

 

「クロノス先生!」

 

「あれ?

私は一体何をしていたノ~ネ?

確か人形にされ~の、黄色い変な生き物にこちょこちょされ~の……」

 

頭上に疑問符を浮かべ、普段通りの口調で喋る先生の姿に皆は肩から力を抜く。

そして険しい顔をした鮎川先生が指示を出し始めた。

 

「いい、皆。

前田君は内線電話で鮫島校長にこの事を伝えて、本土へ救護ヘリの要請を。

天上院さんは私と一緒に薬と包帯類を持って行きましょう。

翔君、貴方はここで休んでいて。

クロノス教諭、翔君をお願いします」

 

「分かったんだな」

 

「はい!」

 

「よ、よく分からないけど、任せるノ~ネ」

 

実の兄がもしかしたら大怪我、またはそれ以上の事になっているかもしれないのだ。

上手く立ち上がれない翔は隼人とクロノス教諭に任せ、自分達は怪我人を手当てするために湖に走る。

一方、先に湖に向かっている十代は暗闇に包まれる森を走っていた。

 

「おい、十代!

いい加減に止まれ!」

 

「何で止まらなきゃいけぇんだよ!

聖星やカイザーが大変なんだぜ!

早く行かねぇと手遅れになっちまうかもしれないだろ!」

 

そうだ、早く行かなければならない。

あんな崩壊に巻き込まれたらひとたまりもないくらい十代にだって分かる。

とにかく助けないと、今の十代はその気持ちだけで動いていた。

すると森の奥に一筋の光が走った。

 

「何だ!?」

 

突然の光に十代は思わず足を止めてしまい、万丈目達もその光を見上げる。

細い光は雷をまといながら太くなり、生き物のようにうねっている。

蛇がとぐろを巻くような動きをしていると思えば、その光は空へ向かって昇っていった。

 

「何なんだあれは?」

 

「あれもセブンスターズの力なのか?」

 

目の前の現象に理解が追いつかない取巻と三沢は呆然としながら隣にいる皆に問いかける。

だが、この場にいる者に明確な返答をする者はいなかった。

光はアカデミア上空に浮かんでいる雲を貫き、周りを赤色に照らしている。

その光は次第に姿を変え、翼のようなものを生やした。

 

「ドラゴン?」

 

両翼を広げた光の姿に十代は静かに呟き、そのドラゴンが消えていくのを見ているしか出来ない。

ドラゴンが姿を消すにつれて光もなくなっていき、再び森は暗闇に包まれる。

4人は思わず顔を見合わせたが、十代を筆頭に湖へと足を動かした。

飲み込まれるほど深い闇に惑わされないよう進むと、静かに波打つ湖に辿り着く。

ついさっきまであった城の姿は跡形もなく、この場所は恐ろしいほど静寂しかない。

 

「おい遊城……

あの城は湖の上に建っていたんだよな?

まさか不動達、湖の中に?」

 

「っ、くそっ!」

 

「十代!?」

 

取巻の言葉に3人の表情はさらに引きつり、十代は勢いよく上着を脱いで湖の中に飛び込んだ。

その姿に万丈目は盛大に舌打ちをして追いかけようとする。

 

「待て、万丈目!」

 

「何だ、三沢!

あのバカ、こんな暗闇の中懐中電灯もなしに飛び込んだんだぞ!?

早く追いかけないとあの大バカ野郎まで死ぬぞ!」

 

「聖星のPDAが繋がった」

 

「……何?」

 

「画面には空、そして誰かの手が映っている。

微かだが光もだ。

恐らくこれは俺達の懐中電灯の光だろう」

 

つまり、誰かがこの近くに倒れているという事だ。

湖の底に沈んでいない人がいる。

 

「俺と取巻でこの辺りを探す。

万丈目はその懐中電灯で湖の中を照らしてくれ。

頼んだぞ」

 

「……あぁ」

 

三沢の言葉に2人は頷き、それぞれ決められた役割を果たす。

万丈目は十代が湖の中で迷わないように懐中電灯で照らし、取巻と三沢は互いに逆方向に誰か倒れていないか探す。

見落としがないよう、光で照らしながら草の根を分けてでも探し出そうとする。

そうしたら、取巻の視界に誰かの手が入った。

手の主に懐中電灯を向けると、行方不明だったIS2の社員だ。

そしてその周りには気を失っている他の社員、聖星、カイザーが倒れていた。

 

「いたぞ、三沢!

不動達だ!」

 

「分かった!

万丈目、十代に知らせてくれ!」

 

「どうやって知らせろっていうんだ!?

あのバカは水の中だぞ!」

 

「息が苦しくなって浮上したときに伝えれば良い!」

 

その言葉に万丈目は言葉を詰まらせる。

あの体力バカでもえら呼吸は出来ない、息が苦しくなったら浮上してくるのは当然だ。

どうやら相当焦っているのは自分も同じようで、万丈目は頭が痛むのか手で額を押さえた。

すると湖の中から十代が勢いよく顔を出す。

 

「十代!」

 

「何だよ、万丈目?」

 

「聖星達はあっちにいる!

取巻が見つけた!」

 

「本当か!?」

 

万丈目の言葉に十代は急いで陸へ上がり、屈んでいる三沢達の方へ走る。

近寄れば彼らの言葉通り、意識がない男達が何人もそこにいた。

聖星はカイザーの手首を握っており、崩れゆく城の中、必死に掴んだのだろう。

 

「三沢、聖星達は?」

 

「大丈夫だ、皆の息はある。

目立った外傷もない。

むしろ無傷と言って良い」

 

三沢の隣に膝を付いた十代はその言葉にしだいに笑顔になっていった。

力んでいた力も体から抜け、思わず大きく息を吐いてしまう。

それは取巻や万丈目も同じようで、ぎこちないが口角が上がる。

 

「そっか、無事なんだな、良かった……

って、さみぃ~!」

 

「……まぁ、まだ寒い時期だしな」

 

緊張の糸が途切れたためか、十代は大げさに両腕を抱え込む。

確かに冬は過ぎ、春は近いが夜は冷えるものだ。

全身びしょ濡れの十代の髪からは水滴が一定の間隔で落ちていた。

苦笑いしか出来ない三沢に対し、取巻は盛大なため息をついてコートを差し出す。

 

「とにかく脱げ。

いつまでも濡れた服を着ていると風邪を引くぞ。

ほら、コート貸すから」

 

「サンキュー、取巻」

 

彼の言うとおり、体を冷やすわけにはいかない。

十代は取巻のコートを着る前に、濡れている衣服を脱ぎ始めた。

すると背後から誰かが走って近寄ってくる。

 

「皆、聖星君や丸藤君は見つかった!?」

 

「「「「あ」」」」

 

瞬間、空気が凍る。

懐中電灯の光で照らされている皆は逆光で誰が来たのかはっきり分からない。

しかし、微かに見える衣装で女性が2人立っているのは分かった。

そして今十代は上半身裸でズボンを脱ごうとしている瞬間である。

急いで追いかけてきた明日香は目の前の光景を理解した瞬間勢いよく後ろに振り返った。

鮎川先生はとても気まずそうな顔をして恐る恐る尋ねた。

 

「……十代君、どうして服を脱いでるの?」

 

「いや、その。

聖星達が湖の中に沈んでいるんじゃないかって思って……

それで、寒かったから……

アハハハハ……」

 

「そ、そう。

このタオルを使って」

 

「は、はい……」

 

十代は鮎川先生と目を合せることが出来ず、大人しくタオルを受け取った。

そして邪魔にならないよう離れた場所に移動する。

三沢達は同情するような眼差しを十代に向けた。

 

「それで、聖星達は見つかったの?」

 

「天上院君」

 

少し耳が赤い明日香は地面に倒れている聖星とカイザーの姿に顔を歪めた。

鮎川先生はすぐに皆の容態を調べだし、小さく息を吐く。

 

「どうやら無事のようね。

持ってきた薬品が無駄になって良かったわ」

 

瓦礫の山から彼らを救助し、手当をするかもしれないと思って持ってきた手荷物達。

これらが無駄になって心底ほっとしている。

こういうのは出番がない方が良い。

 

「それにしてもこの人数じゃあ保健室は使えないわ。

救助ヘリもいつ来るか分からないし……」

 

「鮎川先生、体育館はどうでしょう。

あそこなら彼らを寝かせる事が出来ます」

 

三沢の言葉に鮎川先生は大きく頷いた。

これほどのメンバーを1つの寮に寝かせるのは部屋が足りない。

だからといって複数の寮に分けるのは効率が悪すぎる。

自然と選択肢は体育館に絞られる。

彼らを体育館に運ぶため、男性職員に来て貰うよう鮎川先生はPDAを取り出した。

 

**

 

鮫島校長は体育館の上から眠っているIS2社の社員達を見下ろす。

難しい顔を浮かべながら両腕を後ろで組み、全員の容態を看ている鮎川先生に声をかけた。

 

「鮎川先生、皆さんの容態は?」

 

「はい、ただ気を失っているだけです。

他に異常はありません」

 

「そうですか。

それは良かった」

 

その言葉に彼は安堵したようにため息を零す。

ペガサス会長から彼らが行方不明の話を聞き、今後この戦いのどこかで関わってくるとは直感していた。

彼らのことは鮎川先生に任せ、鮫島校長は体育館を後にした。

一方、十代達は聖星の部屋に集まっていた。

 

「なぁ、皆。

あれは一体、何だったんだろうな」

 

投げかけられた問いかけに万丈目達は十代に目をやる。

彼が問いかけているのは湖で遭遇した謎の光についてだろう。

だが、勢いよく空へ昇っていく光について、ただの学生である彼らが答えを持っているわけがない。

 

「ふん、俺が知るか」

 

「セブンスターズとの戦いに備え、闇のゲームに関する情報を集めてみたが……

あのような光については何一つ情報がなかった」

 

殆どあったのはダメージが実体化する事や、敗北者の末路についてだ。

デュエル終了後にあのような光が昇った記述などどこにもない。

しかし空へ駆け上がる様子はまるで生き物、例えるならドラゴンのようだった。

 

「赤いドラゴン、赤い竜……

もしかすると、あれは聖星が言っていた赤き竜なのか?」

 

「え?」

 

三沢の言葉に十代達は彼に視線を集める。

 

「覚えているか、十代、万丈目。

聖星が保健室で語った三幻魔と、三幻魔を封印した星の民の伝説を」

 

「あぁ、あれか!

星の民とかいう連中が神様を呼んだ話!」

 

「その話に出てきた竜があのドラゴンだと言うのか?」

 

「あくまで俺の推測だ。

これに関しては、聖星が目を覚まして話を聞くしかないだろう」

 

「そうだな」

 

**

 

夜が明け、やっと平穏な朝が来た。

カーテン越しに太陽の光が射し、自然と瞼が上がる。

まだ覚醒しきっていない頭は目の前にある赤と白が何か分からず、ゆっくりと手を伸ばす。

目の前にあるそれに触れようとすると、手はあっさりと空を切り、やっとそれがドラゴン達だと理解する。

 

「【星態龍】に【スターダスト】?」

 

「もう平気か?」

 

「平気……?」

 

眉間に皺を寄せていると思われる彼の言葉に、昨晩のことを思い出す。

布団を放り投げた彼は自分を見下ろす彼らに詰め寄った。

 

「先輩は!?

皆は!?」

 

聖星が覚えているのはカミューラが消え、彼女の居城が崩れるところまでだ。

そう、カイザーの手を掴んだ覚えはなく、もしかしたらと最悪な事態を想定する。

【星態龍】は首をゆっくりと縦に振り、短く答えた。

 

「皆生きている。

怪我もない。

また赤き竜に助けられたようだ」

 

「赤き竜に?」

 

「グァア」

 

同時に頷いた2匹の表情は穏やかで、本当のことだと理解した。

大きく息を吐いた聖星はそのまま背中から倒れ込み、暖かい布団に体を沈める。

自分のせいで闇のデュエルの犠牲になったIS2社の社員達と、彼らのために全てを十代と聖星に託したカイザーが無事だった。

やっと心の緊張がほぐれ、自然と笑みが零れてしまう。

 

「良かった、本当に良かった」

 

「カイザーは自室だが、他の皆は体育館にいる。

後で様子を見に行ってやれ」

 

「うん、そうする」

 

よく頑張ったというように【星態龍】は赤い尾で聖星の頭を撫でた。

夜行達が行方不明になったと聞いて以降の聖星はどこか気を張りすぎていた。

星竜王にこの世界の戦いを託され、学友がその戦いに巻き込まれてしまう。

さらに友を助けるためとはいえ、シンクロ召喚を使ってしまったせいで見知っている人達が行方不明になる。

緊張状態が続く中、やっと少しだけ力を抜けるようになったのだ。

すると広い部屋に間抜けな音が鳴り響いた。

 

「…………」

 

「食堂に行くか?」

 

「キュ~」

 

「……行く」

 

頬を赤らめ、片手で目元を隠した聖星の声はとても小さかった。

 

***

 

イエロー寮の生徒達はそれぞれ仲の良い生徒と固まり、それぞれ頼んだ朝食を食べていた。

聖星は三沢と神楽坂達がいないか探してみる。

特に三沢には昨日のことについて色々と聞いておきたい。

きっと冷静で頭の回転の早い彼のことだから、セブンスターズについて進展したことがあったら説明してくれるだろう。

 

「聖星」

 

「大地、神楽坂」

 

背後からかかった声に振り返れば、探していた人物達がいた。

神楽坂は今日の定食を注文済みのようで、暖かい湯気が上がっている定食を持っていた。

美味しそうな匂いに涎が垂れそうになるが、心配そうにしている三沢に笑いかけた。

 

「目が覚めたかのか、聖星。

体調はどうだ?」

 

「大丈夫か?

三沢から聞いたぞ」

 

「あぁ、もう平気。

ほら、ピンピンしてる」

 

笑いながら自分の肩を回せば、少しだけ三沢の表情がやわらかくなった。

以前星竜王に体を乗っ取られたときは大変だったが、今回は特に後遺症のようなものもない。

とにかく何か食べたくて仕方がないため、神楽坂に場所取りを頼み、三沢と2人で朝食を取りに行った。

 

「それで大地、俺が勝った後なにかあった?」

 

「そうだな。

城の崩壊を見て聖星達を助けに行ったとき、赤い光柱が立った」

 

「赤い光?」

 

「あぁ」

 

闇のデュエルを象徴するような重苦しい夜を貫いた光。

轟音と暴風を起こしながら天に昇る姿はまるで意思を持つ生き物のようにも見えた。

目を閉じて昨晩のことを思い出す三沢に、聖星は納得がいったように呟く。

 

「聖星、君はあれが何か分かっているんじゃないのか?」

 

「流石は大地。

それの説明は十代達と合流した後で良い?

流石に食堂で話すのはちょっとな」

 

「もちろん構わない」

 

三沢は聖星の言葉に首を縦に振り、ゆっくりと後ろに振り向いた。

食堂を利用している生徒達はいつものように過ごしている。

彼らを巻き込まないためにもこの話題は避けた方が良い。

 

「そういえば聖星、君は神楽坂とデュエルしたのか?」

 

「あ~、まだしてないなぁ」

 

「彼なりに改良を重ねている。

興味があれば1度デュエルしてみると良い」

 

「分かった」

 

さて、自分は何を食べようか。

少し軽めのサンドイッチでも良いし、神楽坂と同じように定食でも良いだろう。

迷った結果、お手軽なサンドイッチを注文し、神楽坂が待つ席に向かう。

 

「あれ?」

 

目立つ髪型を持つ神楽坂の元へ向かうと、見慣れた赤と黒が彼の前に座っていた。

聖星の声に三沢も気がついたのか、そこにいる友人達に首を傾げる。

 

「十代に万丈目?

何故君達がここに?」

 

「よっ、三沢。

聖星も平気そうだな」

 

「俺はこいつに無理矢理連れてこられただけだ。

あと数分で取巻も来る」

 

欠伸をかみ殺している万丈目は、レッド寮で作られたおにぎりを頬張っている。

普段の彼なら、怒鳴って十代を止めただろう。

それなのにここまで来たのは昨晩のことが気になったからだろう。

しかし、取巻はともかく、十代と万丈目がここにいて、彼らがいないのは少し妙だ。

それは聖星も思った事なのか、十代の前に座った彼は尋ねる。

 

「十代、翔と隼人は?」

 

「翔はカイザーのところ。

やっぱり兄ちゃんのことだからな、1番に起きてさっさとブルー寮に行っちまったぜ。

隼人は翔の付き添いさ。

聖星達も後で行くだろう?」

 

PDA越しに兄が人形にされるところを目の当たりにしたのだ。

いくら怪我がないとはいえ、兄は本当に無事なのか、心配で仕方がないのは当然である。

今頃、目が覚めたカイザーに情けない顔を見せ、大声を上げているだろう。

 

「うん、後でお邪魔するつもりさ。

でも、その前に体育館に行って良いか?」

 

「おう」

 

まずは体育館にいるフランツ達の様子を見て、その後はカイザーのところに行き、十代達に赤き竜について説明をする。

やることが多いなぁとため息をすると、先程三沢と話したことを思いだした。

 

「そういえば神楽坂、今は何戦何勝したんだ?」

 

そう、神楽坂のゲームの進行具合だ。

彼に渡したカードの数は23枚。

カミューラが襲撃してくる前には21戦していたから、もう23戦終えていてもおかしくはない。

聖星からの問いかけに神楽坂は実に良い笑顔を浮かべた。

 

「19戦3敗。

あと1回デュエルすれば不動とのゲームも終わりさ」

 

どうやら1回デュエルをし、見事白星を挙げたようだ。

この調子なら今日中に最後のデュエルを行い、無事にゲーム終了となるだろう。

さて、聖星が貸しているカード23枚のうち、神楽坂は何を選ぶのだろう。

そう思いながらサンドイッチを飲み込むと、話題の中心である彼は立ち上がった。

 

「そこでだ、不動。

お前にデュエルを申し込む!」

 

「え?」

 

「このゲームの最後の相手は、不動、お前にすると決めていたからな!」

 

自信満々な笑みでそう宣言した神楽坂は語る。

どれ程強いカードでデッキを組んでも、伝説のデュエリストのデッキを真似ても、どうしても勝てなかった。

しかし、聖星から知らないカードを借り、その中で最高のデッキを組んだことで自分の実力を発揮出来るようになったのだ。

空回りしていた力が、嘘のように歯車が合い、稼働しているといって良い。

 

「その切っ掛けをくれた不動とデュエルせずにゲームを終わらせるなんて、デュエリストのする事じゃないだろ!」

 

以前の神楽坂ではみることの出来なかった真っ直ぐな瞳。

闘気に満ちあふれるその言葉は、デュエリストの本能を刺激するには充分すぎた。

自然と口角が上がった聖星は大きく頷いた。

 

「よし、その挑戦受けて立つ」

 

「そうこないとな!」

 

目の前で交されたデュエルの約束に、万丈目は小さくため息をついた。

同時に隣に座っている十代に違和感を覚える。

普段の彼なら犬のようにはしゃいで彼らのデュエルを楽しみだと騒ぐだろう。

だが、今の彼は腕を組んで「面白そうだな」と静かに笑っているのだ。

不気味なものを見るような目で、万丈目は十代を凝視した。

それは彼らも同じようで、【おジャマ・イエロー】と【ハネクリボー】も心配そうに顔を出す。

 

「あら~

彼ぇ、ちょっと凹み気味?」

 

「クリ~……」

 

**

 

体育館に寄った結果、夜行達は誰1人目を覚ましていなかった。

一瞬だけ闇のデュエルの後遺症かと思ったが、【星態龍】と【スターダスト】曰く、ただ疲れて眠っているだけだという。

それに対し、翔に看病されているカイザーは大分回復したようで、聖星達に笑顔を見せてくれた。

 

「「デュエル!!」」

 

互いの声と共に2人のライフが表示される。

先攻を得たのは神楽坂だ。

 

「俺の先攻だ、ドロー!」

 

ゆっくりとカードを引いた神楽坂は聖星を見る。

聖星から提示されたルール上、基本的に魔法・罠カードは神楽坂が自由にデッキに入れることが出来る。

もちろん、今回のデッキに入っているカードは聖星が知らないカードも入っているのだ。

そのカードを発動したときに目の前の彼がどれほど驚くか楽しみである。

 

「俺は手札から【暗黒界の取引】を発動!

互いにデッキから1枚ドローし、1枚捨てる。

俺が捨てるのは【暗黒界の尖兵ベージ】だ!

来い、【ベージ】!」

 

「はぁぁ…」

 

場に輝く光があふれ出し、その中から1本の槍を構えた兵士が現れた。

【ベージ】はカード効果で捨てられたとき、場に特殊召喚出来る効果を持つ。

1番手に選ばれた【ベージ】はいつでも駆け出せるよう、腰を低く落とす。

 

「さらに【プリーステス・オーム】を攻撃表示で召喚!」

 

呼ばれた女性の名に、【ベージ】の目が点になる。

そして恐る恐る横に振り向くと、彼の隣に黒い魔方陣が描かれ、紫色の光があふれ出す。

邪悪さをまとった光の中から現れたのは鞭を持つ女性モンスターだ。

 

「ふんっ」

 

「【プリーステス・オーム】……

そういえば入れてたな」

 

彼女は妖しい笑みを浮かべながら独特な形の鞭を地面に叩き付けた。

乾いた音がデュエル場に木霊し、隣に立っている【ベージ】の士気がみるみるうちに下がっていく。

理由を知っている者からしてみれば納得する反応だ。

しかし、それを知らない万丈目は腕を組みながら首を傾げる。

 

「何だ、あのカードは。

俺とデュエルしたときには使わなかったな。

どういう効果だ?」

 

「え~っと、確か……」

 

「【プリーステス・オーム】。

彼女の効果は、自分の場の闇属性モンスターを生贄に捧げ、相手に800ポイントのダメージを与えること。

神楽坂の【暗黒界】デッキはモンスターの特殊召喚に長けている。

早い内に手を打たないとすぐにライフがなくなるな」

 

「そうそう、それ」

 

自分の記憶の糸をたぐり寄せる十代に対し、三沢はすぐに効果について解説する。

 

「1ターン目にバトルは行えないが、800ポイントのダメージを受けてもらうぞ、不動!」

 

対戦相手である聖星を指さしながら、神楽坂は彼女の効果を発動する。

もちろん生贄として選ばれる闇属性モンスターは1体のみ。

【プリーステス・オーム】は再び地面を叩き、隣で凹んでいる【ベージ】に微笑む。

氷のような笑みに、逆らえないと判断した彼は聖星に突撃した。

 

「え?」

 

槍を構えながら向かってくるモンスターは紫色の光弾になり、聖星の体を貫く。

 

「ぐっ!」

 

体に衝撃が走ると同時にライフが3200まで削られた。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

自信ありげに宣言された言葉に聖星は静かに息を吐く。

三沢のいうとおり、1ターンに何回でも使用できるダメージ効果は厄介としかいいようがない。

これは早く退場して貰わなければ、あっさり負けてしまうだろう。

 

「俺のターン。

手札から【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる」

 

引いたカードはとある【魔導書】とモンスターカード。

特にモンスターカードの方は墓地に居て真価を発揮する。

デッキ圧縮・墓地肥やし・手札交換を全て出来てしまうのは本当にありがたいものだ。

 

「俺は【名推理】を発動。

さぁ、神楽坂。

レベルを選んでくれ」

 

【名推理】、このカードは相手がモンスターのレベルを宣言する。

その後、聖星は通常召喚可能なモンスターが出てくる限りデッキからカードを捲るのだ。

モンスターのレベルが宣言通りなら、捲ったカード全てを墓地に送り、異なればそのモンスターを特殊召喚する。

 

「不動、真の狙いは墓地に【魔導書】を落とすことか?」

 

「さぁ、どうだろうな。

落ちすぎて使える【魔導書】がデッキからなくなるリスクもあるぜ」

 

穏やかな笑みを見せる友人に、神楽坂は考えを巡らせる。

聖星はデュエル毎にデッキのモンスターを変える。

そして今は2ターン目であり、デッキを構成しているモンスターが何か分からない。

 

「それなら俺はレベル7を宣言する!」

 

「分かった、7だな」

 

宣言された数字に、神楽坂は【魔導法士ジュノン】を警戒したのだろうか。

それとも入学試験に使用した【ブラック・マジシャン】か。

 

「1枚目、【魔導書院ラメイソン】。

2枚目、【神の宣告】。

3枚目、【ルドラの魔導書】」

 

ゆっくりと墓地に送られていくカードの名に、神楽坂は安堵する。

多少【魔導書】は落ちてしまったが、最強のカウンター罠が墓地に落ちるのは嬉しい誤算だ。

 

「4枚目、【魔導弓士ラムール】。

レベルは3だ」

 

「くっ!」

 

「【魔導弓士ラムール】を攻撃表示で特殊召喚。

頼んだ、【ラムール】」

 

召喚されたのはゴーグルを身につけ、弓だけを持つ魔法使い族。

その攻撃力は600と、1700である【プリーステス・オーム】に比べてとても低い。

そんなモンスターを攻撃表示に召喚したのだ、きっと何かある。

 

「そして【ラムール】の効果発動。

手札の【グリモの魔導書】を見せ、【魔導戦士フォルス】を特殊召喚する」

 

「はっ!」

 

勇ましいかけ声と共に現れたのは赤をイメージとした魔法使い。

彼女が着地した瞬間に砂埃が舞い、手に持つ戦斧を肩に乗せる。

巨大な戦斧は獅子の頭を象ったもので、彼女に好戦的なイメージを与える。

 

「そして【グリモ】の効果でデッキから【トールの魔導書】をサーチ。

さらに【ルドラの魔導書】をデッキに戻し、【フォルス】の効果発動」

 

【フォルス】の周りに浮かんでいる文字が1つに集約し、それが1冊の魔導書となる。

それは勝手に開き、綴られている言葉が光り出した。

同時に【フォルス】が赤い光に包まれ、攻撃力が1500から2000に上昇する。

 

「攻撃力が500上がった?」

 

「あれ、万丈目って【フォルス】見るの初めてか?

【フォルス】は墓地の【魔導書】をデッキに戻すことで攻撃力を500ポイントアップするんだぜ」

 

十代は入学当初から聖星とつるんでおり、三沢は聖星と同じ寮のため、何度も彼のデュエルを見ている。

そんな2人に対し、万丈目が聖星とまともな接点を持ち始めたのは最近だ。

知らなくても当然だろう。

 

「しかも彼女の効果は魔法使い族になら誰にでも使える。

墓地から【魔導書】を回収する効果も、中盤以降に展開力が下がるあのデッキにとっては有益だ」

 

「三沢ってさ、解説役とかアカデミアの先生とか、そっちの方も似合いそうだよな」

 

「そうか?」

 

「あぁ」

 

友人からのさりげない言葉に三沢は不思議そうな顔をする。

十代は本当にそう思っているようで、微笑みながら頷いた。

 

「バトル。

【フォルス】で【プリーステス・オーム】に攻撃」

 

戦斧を両手で持った【フォルス】は勢いよく飛び上がり、【プリーステス・オーム】に向かって斧を振り下ろす。

【プリーステス・オーム】は手を伸ばして結界を張り、彼女の攻撃を凌ごうとした。

斧と結界がぶつかった瞬間に火花が散り、【フォルス】は雄叫びを上げながらもう1度斧を振り上げる。

 

「はぁあああ!!」

 

何度も激しく斧で攻撃を加え、結界を吹き飛ばす。

その衝撃に【プリーステス・オーム】の周りの砂埃が舞い上がる。

瞬間、一筋の閃光が輝いた。

気がついたときには彼女は一刀両断され、粉々に砕け散る。

 

「よし」

 

これで厄介なバーンモンスターを排除できた。

素直に喜んでいると、神楽坂の場にある違和感を覚えた。

結界の欠片と共に舞い上がっている砂埃の色が変色し、煙へと変化していく。

 

「……え?」

 

煙は【プリーステス・オーム】がいた場所に集まり、煙の奥から何かが向かってくる。

一体何が特殊召喚されたのか、そう身構えていると鉄の塊が現れる。

モンスターとは思えない無機物の姿に、三沢は目を見開いた。

 

「あれは、まさか【タイム・マシン】!?」

 

その言葉に聖星は首を捻る。

三沢が驚いているという事は、かなり厄介な効果を持っているという事だろう。

しかし名前を聞いてもどのようなカードか思い出せない。

聖星の反応は想定内だったのか、神楽坂は不敵な笑みを浮かべる。

 

「悪いな、不動。

俺はリバースカード【時の機械-タイム・マシン-】を発動させて貰った。

このカードの効果で【プリーステス・オーム】は俺の場に戻ってくるぜ!」

 

【タイム・マシン】の扉が開き、中から先程砕け散ったモンスターが姿を現す。

せっかく場から退場して貰ったというのに、再び舞台に上がった同族に【フォルス】は「面白い」とでも言いたげに笑った。

 

「うわ、場に残った……

仕方ない、カードを2枚伏せて、俺はターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー」

 

神楽坂のライフは3700、それに対して聖星は3200。

このターンでどこまで聖星を追い詰めることが出来るだろうか。

 

「手札から【強欲な壺】を発動!

デッキからカードを2枚ドローする。

俺はモンスターをセット、そして魔法カード【強制転移】を発動!」

 

「あ、そのモンスターが何か分かった」

 

「察しが良いな。

ま、このモンスターも一応お前から借りているカードだ。

分かって当然か」

 

【強制転移】はお互いにモンスターを選択し、そのモンスターのコントロールを相手に移すカードだ。

【暗黒界】デッキに組み込まれるモンスターで、裏側守備表示となれば自然と1体のモンスターが思い浮かぶ。

 

「俺は裏守備のこいつを選ぶ」

 

「俺は【ラムール】だ」

 

【ラムール】の攻撃力は600、そして効果は【魔導書】がなければ使えない。

弓兵が敵に回っても怖くはないが、神楽坂からもっらたプレゼントはとても怖い。

コントロールが移り、念のためモンスターを確認すると、やはり聖星の想像通りだった。

 

「バトル!

【プリーステス・オーム】でそのモンスターを攻撃!」

 

「はぁ!」

 

向かってくる攻撃に、裏守備モンスターが姿を現す。

小さな壺に隠れているモンスターは、手札を全て捨て、5枚ドローするという凶悪効果を持つリバースモンスター。

神楽坂は嬉しそうにモンスターの名前を呼んだ。

 

「この瞬間【メタモルポット】の効果発動!」

 

今回のゲームは、一応『神楽坂が知らないモンスター』でデッキを組む事を前提としている。

しかし【暗黒界】において【メタモルポット】は非常に相性の良いモンスター。

モンスター1枚くらいなら良いだろうと、デッキに入れる事を可としたのだ。

 

「さぁ、手札を全て捨てて貰おうか」

 

「けど、手札が5枚に回復した。

その点は感謝するよ」

 

互いに手札を墓地に捨て、同時にデッキからカードを5枚ドローする。

 

「悪いがこのターンでけりをつけさせて貰う!

俺が墓地に送ったのは【暗黒界の龍神グラファ】と【暗黒界の鬼神ケルト】。

【グラファ】は通常、カード効果で墓地に捨てられたとき、場のカードを1枚破壊する。

だが、それが相手のカードだったら?」

 

「……破壊効果に加え、俺の手札からランダムに1枚選する。

それがモンスターだった場合、神楽坂の場に特殊召喚する」

 

「その通り、さぁ、手札を前に出せ!」

 

神楽坂の背後に半透明の【グラファ】が姿を現す。

黄色い眼で見下ろされるのは気分が悪い。

一方、【グラファ】の効果を聞いた万丈目達は自分達のデュエルを思い出した。

 

「俺の【アームド・ドラゴンLv5】を奪った恨みは忘れんぞ」

 

「俺は【リボルバー・ドラゴン】だったな……」

 

万丈目は【アームド・ドラゴンLv7】を特殊召喚出来なくなり、とても苦戦した。

三沢も苦戦したようで、当時を振り返って苦笑いしか出来ない。

同級生2人の言葉に、十代はなんとも言えない表情をする。

 

「(俺は1回もモンスターを当てられたことないって言える雰囲気じゃないな」

 

十代の豪運はこういうところでも発揮されるのだ。

【グラファ】の幻影は聖星の伏せカードである【トーラの魔導書】を破壊する。

 

「1番右だ!」

 

「当たりだよ。

流石だな、神楽坂」

 

聖星は不幸にも選ばれてしまったモンスターカードをつかみ、神楽坂に向かって投げる。

指2本でカードをキャッチした彼は、自分が当てたモンスターを確認した。

 

「【魔導剣士シャリオ】か。

良いカードを引いたぜ」

 

緑色の光と共に現れたのは白馬にまたがり、剣を持つ青年。

表示された攻撃力は1800だ。

 

「そして【ケルト】の効果!

こいつ自身を特殊召喚し、デッキから【グラファ】を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

【ケルト】はカード効果で捨てられたとき、【ベージ】同様特殊召喚される。

しかし、今回は聖星がコントロールするカードによって捨てられたのだ。

滅多に見る事の出来ない、デッキから悪魔族モンスターを特殊召喚する効果が発動した。

 

「仲間の声に応じ、場に君臨しろ!

【暗黒界の龍神グラファ】!」

 

「グォオオオ!!」

 

特殊召喚されたモンスターの数に、聖星は笑うしかない。

十代は目の前の光景に対し、静かに呟くしかなかった。

 

「すげぇ、一気にモンスターが5体になりやがった……」

 

「まずいぞ、聖星の場には攻撃力2000のモンスター1体のみ!」

 

「神楽坂の場には攻撃力2700に2400、1800。

1700に600のモンスターか」

 

龍神の名を持つ【グラファ】が2700、【ケルト】は守備力が低い代わりに2400の攻撃力を持つ。

攻撃力の合計は9200、聖星のライフは3200。

攻撃力2000の【フォルス】1体だけでは生き残る事が出来ない。

 

「行くぞ!

【グラファ】で【フォルス】に攻撃!」

 

「くっ!」

 

【グラファ】は口から青い炎を吐き出し、【フォルス】を焼き払う。

これでライフは3200から2500へと減少した。

攻撃を素直に受けたことに、十代達は目を見開く。

 

「伏せカードを使わなかった!?」

 

「つまりもう1枚の伏せカードは【ミラフォ】や【攻撃の無力化】ではないということか」

 

「行け、【ケルト】!

ダイレクトアタック!!」

 

主からの命令に、【ケルト】は鍛え上げられた腕を振り上げる。

数メートルはあると思われる巨体の攻撃に聖星は身構える。

瞬間、【ケルト】の攻撃がはじき返される。

 

「な、何だ!?」

 

何かに妨害されたソリッドビジョンに、神楽坂は聖星の伏せカードを見る。

しかし、最後のカードが発動された様子はない。

ならば手札からの誘発効果と思ったが、手札はきちんと4枚ある。

 

「罠カード」

 

冷静に語られたカードの種類に神楽坂は聖星を凝視する。

彼は静かに墓地から1枚のカードを取り出し、それを神楽坂に見せる。

 

「っ、墓地か!」

 

「そう。

俺が発動したのは【光の護封霊剣】。

このカードの効果で、ダイレクトアタックは封じさせて貰ったよ」

 

【光の護封霊剣】は、相手モンスターの直接攻撃を止める効果を持つ。

モンスターを戦闘破壊から守れないのは欠点だが、場を荒らす【暗黒界】相手には有効な手だろう。

 

「そんなカードが……

それなら【プリーステス・オーム】の効果発動!

【グラファ】、【ケルト】を生贄にする!

これで不動に1600ポイントのダメージだ!」

 

「ぐっ!!」

 

再び向けられた攻撃に、聖星のライフが2500から900へと下がる。

【プリーステス・オーム】を生贄に捧げなかったのは、次のターン召喚した【暗黒界】を生贄にするためだろうか。

小さく咳き込んだ聖星は指を鳴らす。

 

「この瞬間、罠発動。

【一族の結集】。

場に存在するモンスターとカード名が異なる、同種族のモンスターを特殊召喚する。

俺は墓地に存在する【魔導法士ジュノン】を特殊召喚!

来てくれ、【ジュノン】!」

 

「はぁ!」

 

神楽坂の場には聖星のカードも含め、魔法使い族モンスターが3体。

淡い光をまといながら蘇った【ジュノン】は、敵側に付いている仲間に怪訝そうな顔をする。

【ラムール】は苦笑いを浮かべ、【シャリオ】は首を横に振る。

特殊召喚された聖星のエースモンスターを見て、神楽坂はカードを掴む。

 

「カードを3枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「3枚とか怖いな~」

 

伏せカード3枚だと、一体何を伏せられているのか考えただけで頭が痛い。

だが、スリルがあって背筋がゾクゾクする。

モンスターの召喚を妨害するカードだろうか、それとも破壊するカードだろうか。

もしかすると【暗黒界】の効果を発動させるためのカードかもしれない。

自分の4枚の手札、【ジュノン】、墓地に眠る【魔導】達でどのように攻略しようか。

明らかに楽しんでいる友人に、三沢は微笑んで2人のフィールドを見渡す。

 

「さて、聖星のライフは残り900。

それに対して神楽坂は3700。

神楽坂のことだ、あの伏せカードは十中八九カウンター罠。

その罠をどうやってかわすかが、このデュエルの勝敗を分けるな」

 

三沢の言葉に神楽坂は心の中で同意した。

伏せカードは全て罠カード。

聖星は【トーラの魔導書】や【ゲーテの魔導書】、そして【ジュノン】の効果を使って罠カードを対処しようとするだろう。

だがそれらのカードを使っても、対処しきれないカードを1枚伏せている。

その罠カードを攻略しない限り、聖星の勝利は遠い。

 

「(さぁ、来い、不動!!)」

 

神楽坂は聖星のように墓地で発動するカードや、手札誘発カードをあまり持っていない。

持っていても、このデッキに加えるのは勧めれないものばかり。

今の状況は神楽坂が出来る最大の防御である。

 

「遊城」

 

「お、取巻。

やっと授業終わったのか」

 

「あぁ。

それで、今はどうなってるんだ?」

 

「ああいう状況」

 

背後からかかってきた声に振り返ると、授業を終えた取巻がいた。

彼は2人の場を見て、状況を整理しようとする。

聖星の場にはお馴染みの【ジュノン】が存在し、神楽坂の場には何故か【魔導】モンスターが2体揃っていた。

 

「…………あいつ、デッキ変えたのか?」

 

「変えてない、変えてない」

 

取巻きの言葉に十代は手を横に振って否定した。

苦笑いを浮かべていた十代はすぐに視線を2人に戻し、口角を下げる。

その表情変化に取巻は怪訝そうな顔をした。

 

「どうしたんだ、遊城」

 

「何がだ?」

 

「いや、なんていうか……

楽しそうじゃない?」

 

指摘されたことに十代は数回瞬きし、思い当たることがあるのか頭をかく。

普段の十代なら何らかの言葉を返すが、驚くことに何も返ってこない。

いや、口にするのを迷っているといえば良いのだろうか。

朝から十代の違和感を覚えていた三沢と万丈目も心配そうに会話に混ざる。

 

「今朝から元気がないようだが、体調でも悪いのか?」

 

「聖星と神楽坂の2人がデュエルをすると聞いても静かだったな。

お前らしくもない。

拾い食いでもしたか」

 

「俺は犬じゃねぇ!

あ~、いや、その……

別に体調が悪いって訳じゃないぜ。

ただ……」

 

「ただ?」

 

十代は昨晩の出来事を思い出す。

デュエルに敗北したカミューラは塵となって消え、聖星達は崩れゆく城に取り残された。

謎の光のお陰で今回は無事だったし、あの時はとにかく必死だった。

だが一晩経ち、頭が冷えたときに気がついてしまったのだ。

 

「あれは夢じゃなかった。

負けた奴は死ぬかもしれないし、もしかしたら周りの皆を巻き込んじまうかもしれない。

そう思うと、何て言えば良いんだ……?

俺のデュエルって正しかったのかなって思っちまったんだ」

 

「正しい?」

 

「俺は頭悪いから、その、デュエルは楽しければ良いって考えなんだ。

カミューラと聖星のデュエルだってどこか楽しんで見てた。

異世界に飛ばされたときに闇のデュエルをしたけど、あのデュエルだって楽しかった。

けど、デュエルのあとにカミューラは死んだ。

そう、死んじまったんだ」

 

【墓守の長】達のデュエルは痛みを伴うデュエルだった。

しかし隣に【ハネクリボー】と取巻もいたし、墓地を封じられているあの状況をどうやって覆そうか考えるのが楽しかった。

吹雪とのデュエルだって後遺症が残るほどのダメージを受けたが、命が奪われるほどの被害はなかった。

クロノス教諭やカイザーも人形にされただけだ。

 

「だから、デュエルに対して素直に楽しめないっていうか……

う~ん、俺もよく分かんねぇ」

 

腕を組ながら適切な言葉を探す十代の姿に、三沢は顎に手を添える。

恐らくだが十代は、今まで死者が出なかったため、闇のデュエルに対し軽く考えていた面があったのだろう。

だが実際に最悪の事態が起こってしまい、その事実に衝撃を受けたというところか。

万丈目は小さくため息をつく。

 

「要は怖じ気づいたという事か。

情けない」

 

「怖じ気づいてるわけじゃねぇよ」

 

「死ぬのが怖くてデュエルに対し悩んでいる事を怖じ気づくと言わずどう言うんだ。

他の言葉があるのなら言ってみろ。

何ならこの万丈目サンダー様にお前の鍵を譲っても良いんだぞ」

 

「誰が譲るか!」

 

言い合いを始める万丈目と十代に、三沢は乾いた笑みを浮かべるしかない。

全く、万丈目は友人を慰めるためとはいえ、もう少し言葉を選べないのだろうか。

同意を求めるように取巻に目をやれば、首を横に振って返された。

 

「十代。

逆に聞くが、楽しいと思うことのなにが間違っていると思うんだい?」

 

「え?」

 

三沢からの素朴な疑問に十代は間抜けな声を出す。

 

「当然これからの戦いにおいて誰かが死ぬこと、巻き込んでしまう可能性は頭に入れておくべきことだ。

だがデュエルとは本来楽しむものだろう?

それを間違っていたのかと疑問に感じる必要性はどこにもないさ」

 

「そうか?」

 

「あぁ」

 

情けない話しだが、十代が抱いている不安を解消する術を三沢は持っていない。

何故なら三沢も、もしかすると隣で偉そうにしている万丈目も、どこか脅えているからだ。

しかし、十代が持つ疑問について答える事は出来る。

 

「まぁ、難しい話はおいておいて聖星達のデュエルに集中しよう。

その方が直感的な君には良いだろう」

 

「確かに三沢の論理的な言葉より、その方が十代は理解しやすいだろうな」

 

「何か万丈目、今日はいつも以上に俺をバカにしてないか??」

 

「ふん、貴様はバカだろう」

 

本当に素直じゃない、三沢と取巻の心は一致した。

観客達が上記のような事を話し合っている間、聖星は手札と墓地、フィールドと睨めっこを終えた。

 

「俺のターン、ドロー。

俺は【魔導書士バテル】を召喚」

 

「罠発動!

【神の警告】!

悪いが【魔導書】はサーチさせないぜ!」

 

「くっ……!」

 

【バテル】が守備表示で場に現れると、2人の天使を侍らせた神様がフィールドに降り立つ。

彼は手を高く上げて【バテル】に向かって何かを口にした。

その言葉に天才少年は難しい顔をして、フィールドから離れる。

 

「それなら手札の【セフェルの魔導書】を発動する。

手札の【ネクロ】を見せ、墓地の【グリモ】の効果をコピー」

 

場に【ジュノン】が存在し、手札の【魔導書】を見せたことで【セフェルの魔導書】の発動条件は満たされた。

【ジュノン】の目の前に黒に近い紫色の魔導書が現れ、それは彼女の魔力で淡い光に包まれる。

穢れていた魔導書の邪気は祓われ、真っ白な魔導書となる。

 

「俺が加えたのは【アルマの魔導書】だ」

 

「【アルマ】か……」

 

聖星が加えたのは除外されている【魔導書】を手札に加える効果を持つカード。

場には除外効果を持つ【ジュノン】が存在するため、この後聖星が何をしようとしているのか簡単に想像がついた。

 

「そして墓地の【グリモの魔導書】を除外し、【ジュノン】の効果発動!

左側のカードを破壊!」

 

【ジュノン】は掌を伏せカードに向けて魔法を放つ。

貫かれたカードは表側になり、書かれている名前に目を見開く。

 

「【透破抜き】……

それも入れてたんだ」

 

「あぁ。

良いカードを当てたな」

 

そのカードには、隠していた小判と団子が露となっている様子が描かれている。

セコいことをしていると思うが、それより効果が凶悪だ。

このカードは手札・墓地でモンスターの効果が発動した瞬間をトリガーとしている。

なんと、そのモンスターを除外してしまうのだ。

手札で【ジュノン】、墓地で【魔導鬼士ディアール】の効果を使えば問答無用で除外されてしまう。

 

「それなら俺はさっき加えた【アルマ】を見せ、【ネクロの魔導書】を発動。

【バテル】のレベルを受け継ぎ、【魔導冥士ラモール】を特殊召喚する。

蘇れ、【ラモール】」

 

半透明の【バテル】は地面に魔方陣を描き、掌を地面に置いた。

すると静かに風が吹き始め、紫色に光る魔方陣に集まっていく。

強風にまで成長した風で【ジュノン】や【シャリオ】の装飾品は激しく揺れる。

風は竜巻のように天空へと昇り、その中から大鎌を携えた青年が現れる。

 

「特殊召喚された【ラモール】の効果発動。

こいつは墓地の【魔導書】の枚数によって効果を得る。

俺の墓地には【トーラ】、【ゲーテ】、【ラメイソン】、【セフェル】の4種類存在する。

よって【ラモール】の攻撃力は2000から2600になり、デッキから【グリモの魔導書】を手札に加える」

 

「なる程、だから【アルマの魔導書】で【グリモの魔導書】を手札に加えなかったのか」

 

「あぁ。

どうせ【ラモール】の効果で手札に来るしな。

さらに墓地の【魔導鬼士ディアール】を特殊召喚」

 

聖星の宣言と同時に、墓地に眠る3枚の【魔導書】が地面から現れる。

神楽坂によって破壊された【トーラの魔導書】と、【天使の施し】で墓地に捨てた【ゲーテの魔導書】。

そしてこのターン使用した【セフェルの魔導書】だ。

3枚の【魔導書】が壁を作り、回転しながら光を生み出す。

 

「ぐわぁああああ!!!」

 

光の壁から聞こえてくる醜い雄叫びに、【シャリオ】達は後退る。

輝いていた壁は黒ずんでいき、内側から粉々に砕け散る。

中から現れた悪魔は両翼をゆっくり広げ、敵陣営にいる仲間を睨み付けた。

 

「うわぁ、【ディアール】の顔、マジだな」

 

「何がだ?」

 

精霊を見える分、十代には取巻達とは違う光景が見えるのだ。

【ディアール】は仲間でも容赦はしないと目で語っており、【ラモール】は虚ろな瞳で静かに仲間を見ている。

それに対し【ジュノン】は、両サイドにいるダーク系モンスターに頭を抱えている。

まるで自分がここに居るのが場違いで、神楽坂側に居るのが正解ではないのだろうか。

 

「人を殺すような睨み付けってああいうのを言うんだろうなぁ。

あと場違い感を感じてる【ジュノン】が向こう側に行きたがってるし、【シャリオ】達も歓迎気味だぜ」

 

「いや、仮にも不動のエースだろう」

 

いくら居心地が悪いからといって、敵側に行こうとするな。

これから神楽坂がどうやって聖星の猛攻を凌ぐのか気になるのに、十代の解説につい気がそれてしまう。

 

「ははっ、攻撃力2500以上のモンスターが3体か……」

 

先程は神楽坂がモンスターを大量展開したが、聖星も負けてはいない。

攻撃力2500の【ジュノン】に【ディアール】、2600の【ラモール】。

数字で見れば神楽坂のモンスターでは到底敵わないだろう。

だが、どこか余裕があるのか焦りの表情はなかった。

万丈目と三沢は冷静すぎる友人の様子に、伏せカードに注目する。

 

「神楽坂の奴、涼しい顔をしてやがるぜ」

 

「あぁ。

恐らく、あの伏せカードだろう」

 

「俺は【グリモの魔導書】の効果により、デッキから【トーラ】をサーチ。

そして【アルマの魔導書】の効果で、除外されている【ゲーテの魔導書】を手札に加える」

 

新たにデッキ、除外ゾーンから手札に加わった【魔導書】2枚。

そのカードを交互に見た聖星はゆっくりと息を吐いた。

神楽坂のライフは残り1700。

場には攻撃力600の【ラムール】が攻撃表示で存在し、攻撃力2600の【ラモール】で攻撃すればこのデュエルに勝利する。

 

「バトル。

【魔導冥士ラモール】で攻撃」

 

「罠発動!

【イタチの大暴発】!」

 

「え?」

 

「俺のライフがお前のモンスターの攻撃力の合計より低いとき発動できる。

攻撃力の合計が、俺のライフ以下になるようモンスターをデッキに戻して貰うぜ!」

 

「え、え?

えぇえ!??」

 

表情が固まった聖星は次第に状況を受け入れ始め、情けない声を上げた。

聖星の叫びようも納得いくものであり、取巻は険しい顔を浮かべる。

 

「不動の場に存在するモンスターの攻撃力の合計は7600。

それに対し神楽坂は【神の警告】の効果で、ライフを2000失い、1700」

 

「待てよ、1700って事は……

聖星の奴、全員デッキに戻すってことか!?」

 

なんたって聖星のモンスターは全て攻撃力2500を超えているのだ。

十代の驚きように三沢は強く頷いた。

 

「そういうことだ。

しかもあのカードはプレイヤーに強制的に行わせる効果。

対象はカードではなく、プレイヤーである聖星自身。

カードを対象にしているわけではないから【トーラ】の効果で防げない!」

 

「これは勝負が見えたな」

 

もう見る価値はないと言うように、万丈目は目を瞑る。

【ジュノン】達の足下が盛り上がり、激しい爆音が鳴り響く。

爆発に生じた砂煙が視界を悪くし、小石が地面に落下する音が聞こえる。

薄暗い煙は徐々に晴れていき、聖星の場が見渡せるようになった。

そして、神楽坂の目に存在しないはずのモンスターが入ってくる。

 

「っ、何だと!?

何故裏守備モンスターがお前の場にいるんだ!?」

 

今はバトルフェイズであり、聖星が発動できるのは速攻魔法ぐらいだ。

神楽坂は今までのデュエルを思い出し、聖星が何をしたのか考察する。

【トーラ】は耐性をつけるカード、【ゲーテ】はカードを除外する効果のはずだ。

その時、ある事に引っかかる。

 

「裏側……

表示形式の変更、まさか!」

 

「そう。

俺が発動したのは【ゲーテの魔導書】」

 

墓地からカードを手に取った聖星は、神楽坂に見えるように手を前に出す。

テキストには伏せカードのバウンス、カードの除外、そして表示形式変更について書かれていた。

聖星はよくカードの除外の効果を使用していたため、別の効果について見落としていたのだ。

 

「墓地に存在する【アルマ】と【ラメイソン】の2枚を除外し、【ジュノン】を裏側守備表示にしたのさ。

【イタチの大暴発】は表側表示のモンスターにのみ適応されるからな」

 

まさかの最後の伏せカードを突破されたことに神楽坂は両手を強く握りしめた。

震える両手に対し、彼の表情は好戦的なものになっていく。

明らかに楽しんでいる様子に、十代はつい呟いてしまう。

 

「すげぇな……」

 

神楽坂と同じように十代も両手を握りしめた。

2人の攻防は凄まじいものだ。

神楽坂が伏せたカードは聖星を追い詰めるのに充分だった。

モンスターの召喚封じ、効果モンスターの除外、そしてライフを削ったのも【イタチの大暴発】を最大限に利用するため。

しかし聖星は直前に手札に加えたカードで見事に罠を防いだのだ。

 

「すげぇ、うん、やっぱりこうだよ。

デュエルはこうじゃないとな」

 

伏せカードが何か予想し、どのように罠を潜り抜け、相手の次の一手を先読みする。

じわじわと胸に何かがこみ上がってくるのを覚え、次第に口角が上がっていった。

 

「だが、これで攻撃出来るモンスターはいない!

次のターン、俺が闇属性モンスターを召喚すれば【プリーステス・オーム】の効果でライフは0に!」

 

そう、神楽坂の手札には【暗黒界の術師スノウ】がある。

彼のターンで【スノウ】を召喚し、【プリーステス・オーム】と一緒に生贄に捧げると1600ポイントのダメージを与える。

900ポイントしか残っていない聖星の敗北は確定だ。

 

「それはどうかな」

 

「何?」

 

「速攻魔法【ライバル・アライバル】を発動」

 

「しまった!!

それがあったか!!」

 

場に現れたのは喧嘩している女の子達の元に、1人の女の子が乱入する様子を描いているカード。

そのカードの効果は魔法カード【速攻召喚】と似ており、神楽坂もよく覚えている。

 

「そうさ。

【ライバル・アライバル】は互いのバトル中に1度だけ召喚出来る速攻魔法。

俺は裏側守備表示の【ジュノン】を生贄に捧げ、【魔導皇士アンプール】を召喚!」

 

「ふんっ」

 

【ジュノン】の代わりに現れたのは、威厳溢れる皇。

彼は椅子に座っている状態で頬杖をつき、足を組んでいた。

 

「攻撃力2300……

そんな……」

 

このままでは攻撃力600の【魔導弓士ラムール】に攻撃されれば、1700ポイントのダメージを受けてしまう。

ライフがぴったり削られる事に神楽坂は墓地とフィールド、手札を見るが、この攻撃を防ぐカードはなにもない。

相手モンスターを奪い、カードを破壊し、デッキにもモンスターを戻した。

ここまでして勝てないとは悔しくてたまらない。

だが、今回のデュエルでこのデッキの改善点も見えた。

楽しく、有意義なデュエルであると思えた神楽坂は清々しそうな顔を上げる。

 

「【アンプール】!

とどめを刺せ!!」

 

聖星の言葉に【アンプール】は玉座から立ち上がり、【ラムール】に狙いを定める。

手を天に向けて掲げた彼は静かに呪文を唱える。

彼の持つ魔導書から引き出された魔力は巨大なエネルギーの固まりとなり、それは【ラムール】に叩き付けられた。

膨大な熱量に包まれた【ラムール】は一瞬で破壊され、余波で神楽坂のライフが0になる。

 

「っ、うわぁああああ!!!」

 

彼は咄嗟に両手で顔を隠すが、目を射すような光と衝撃に悲鳴を上げた。

デュエル終了のブザーが鳴り、ソリッドビジョンが消えていく。

敗者となった彼はその場に膝をつき、深呼吸を繰り返す。

 

「神楽坂」

 

「……不動」

 

近寄ってきた勝者を見上げると、聖星は嬉しそうに微笑んでいる。

 

「今回は俺の勝ちだな」

 

「あぁ。

正直に言って悔しいぜ」

 

差し伸べられた手を握り、立ち上がった神楽坂は笑いながら答えた。

さて、部屋に戻ったらデッキを組み直さなければ。

自分が持っているカードを思い浮かべながら、どのカードを入れ替えるか考えた。

 

「23戦19勝4敗。

ということで、19枚のカードは神楽坂にあげるよ」

 

「あぁ。

それなら4枚のカードは不動に返さないとな」

 

神楽坂はすぐにデッキから4枚のカードを選ぶ。

【メタモルポット】を含めたカードを差し出せれば、聖星は不思議そうな顔をした。

 

「え、今返してくれるのか?

デッキを組み直した後でも良いんだぜ」

 

「いや、元々返すカードは決めていた。

だから心配は要らない」

 

「そっか」

 

そう言うのなら遠慮なく返して貰おう。

4枚のカードを受け取った聖星は空のデッキケースにカードを仕舞う。

すると背後から元気のある声が聞こえてきた。

 

「聖星、神楽坂!

凄くわくわくするデュエルだったぜ!

2人のデュエル見てたら俺もデュエルしたくなってきた。

なぁ、誰か俺とデュエルしようぜ!」

 

いや、この場にデュエリストが6人も居るのだ。

タッグデュエルも面白いだろう。

そう提案する彼の様子に三沢達は安心したように微笑んだ。

 

END




私にシリアスは無理だ(ゲンドウポーズ)

半裸の十代と明日香達のシーンは書いていてとても楽しかったです。

アニメで十代が自分の考えは間違っていたのかと悩んでいるところ、誰にも相談しなかったんですよね。
まぁ主人公の宿命というべきか、もう少し万丈目達を頼っても良いんだぜ??とアニメを見ながら突っ込んだ覚えがあります。
ここでは取巻達に指摘されて、独り言を呟いた感じです。
もちろんこの後温泉で【カイバーマン】と遭遇し、最初から全力でデュエルを楽しみます。(書くとは言っていない)

そろそろヨハンを登場させたいなぁ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十三話 大人達からの期待

お久しぶりです、ちゃんと生きています
今回のデュエルはちょっと短めですが、楽しんでいただけると嬉しいです

あと大事なことですが……
パックの収録内容なんて気にしたらダメ



悪夢といえる日から数日。

深い眠りについていたI2社の社員達は次第に目を覚まし始めた。

鮎川先生や女医のミーネが忙しそうに体育館の中を歩いている様子を、ペガサスは小さく息を吐きながら見守っている。

 

「聖星ボーイ、私の部下達を助けていただき感謝しマ~ス」

 

「元を辿れば俺の責任ですから、当然のことをしただけです」

 

そう、全ては自分が闇のデュエルで【閃珖竜スターダスト】の力で闇を祓ったのが原因なのだ。

しかし、あの時【スターダスト】を召喚しなければヨハンは闇に飲み込まれていた。

仕方のなかったことだと言えるが、どうしても後悔ばかりが募ってしまう。

不器用な笑みを浮かべる聖星は、まだ眠っている夜行や目覚めたばかりで頭を押さえているフランツに目を向けた。

ペガサスはすぐに彼の元へ歩み寄り、優しくフランツの名を呼ぶ。

 

「Mr.フランツ」

 

「ペガサス会長……?」

 

フランツはずきずきと襲ってくる痛みに耐えながら、自分に声をかけてきたペガサスの顔を見た。

その瞬間、自分の身に何があったのか、正確に言えば記憶が途切れる直前までどんな目に遭ったのか思い出す。

 

「私は……?

っ、そうだ、私は…!

一体何なのだ、あのデュエルは……!」

 

「Mr.フランツ……

ユーが体験したのは闇のデュエルデース。

貴方も噂程度なら聞いたことはあるでショウ」

 

仮にもI2社に勤めているカードデザイーナなのだから、当然聞いたことはある。

不思議なアイテムを用いて行われる、科学では説明できないゲーム。

デュエルで生じるダメージは現実のものとなり、敗者は永遠の闇に囚われるという。

 

「あれが闇のデュエル?」

 

「イエース。

彼らは闇のアイテムを使い、ユー達を狙いました。

彼らの目的はこの島に眠る強大な力を持つ三幻魔デース」

 

「この島に眠るカードを?

それで、何故我々が狙われたのです?」

 

「ユー達を襲った闇のデュエリストは本物の吸血鬼だと聞いていマース。

彼女はMr.フランツや夜行達の魂を生贄に使い、滅ぼされた同胞の復活を目論んでいたようです」

 

本当はシンクロ召喚について詳しく知るためなのだが、シンクロ召喚反対派である彼の耳に入れるわけにはいかなかった。

仮に彼や他の反対派が真実を知ってしまえば、シンクロ召喚計画の停止、さらにはアドバイザーである聖星にも怒りの矛先が向いてしまうかもしれないからだ。

 

「しかし、何故セブンスターズ達は三幻魔のカードを狙うのか。

私の部下を狙ったことに怒りはありますが、同時に彼らが哀れデース」

 

「え?」

 

「ペガサス会長?」

 

「情けない話ですが、ミーもかつてはある目的のために闇のアイテムを持っていました」

 

そう言って彼はゆっくりと前髪で隠している片目を2人に見せた。

瞬間、2人の呼吸が止まった。

さらけ出されたそこには本来あるべきものがなく、ぽっかりと空洞が生々しく存在した。

ペガサスはすぐに隠し、哀しげに微笑んだ。

 

「しかしその力は周りを傷つけるだけだったのデース。

目的を果たすことが出来ず、私の元に残ったのは誰かを傷つけた事実とこの爪痕だけです。

大きすぎる力は大きすぎる悲劇を生む。

そして一生、その後悔を抱いて生きていかなければいけないのデース」

 

かつての己は千年アイテムの力に取り憑かれ、愛しい人の復活という禁断ともいえる夢を抱いた。

彼女に会うためなら誘拐も監禁も、何だってした。

それに相応しい傷だから、今でもペガサスは義眼を嵌めていないのだ。

きっとセブンスターズも何らかの形で大きな傷を負うだろう。

 

「本当に貴方達がその力の犠牲にならなくて良かった」

 

「ペガサス会長……」

 

穏やかに微笑むペガサスは本当にそう思っているのだろう。

かつて闇のアイテムを持っていたから、最悪なケースを想像するのは容易だ。

大切な部下が自分と同じ、いや、それ以上の目に遭うなど、十字架を背負っているペガサスにとっては耐えられないことだ。

フランツは何故ペガサスが強すぎるカードの開発ではなく、シンクロ召喚という道を選んだのか、なんとなくだが分かった気がした。

 

「フランツさん」

 

「あぁ、君もいたのか」

 

「お久しぶりです。

気分はどうですか?」

 

「最悪だ。

ペガサス会長の前ではなんだが、すぐに復帰できるとは思えない」

 

「それなら心配ありまセーン。

仕事は私や他の社員達で上手くやりますから、ユー達は自分の体、そして家族のことを考えてくだサーイ」

 

「ありがとうございます」

 

その言葉に素直に甘えることにしたフランツは、重い体を横にした。

聖星はやっと安心したように体から力を抜いた。

 

**

 

それから聖星はお昼ご飯を食べるために十代達の姿を探す。

教室には居なかったから、購買あたりだろう。

目的地を目指すと、昼食を買いに来た生徒達相手にトメさんがせっせと接客をしている。

 

「凄いなぁ、トメさん。

片手でおつりを出して、もう片手で次の商品の会計をしているんだから」

 

「ここに勤めてから何年も経っているようだからな。

慣れだ」

 

「ガウゥ」

 

両肩に乗っている精霊達の言葉に頷きながら友人の姿を探す。

すると、今までのアカデミアでは珍しい赤と青、そして黒の組み合わせを見つけ出す。

 

「十代、取巻、万丈目」

 

「ん?

おぉ、聖星!

もう話し合いはすんだのか?」

 

「あぁ」

 

声をかけると十代は満面な笑みで振り返り、他の2人はいつものように愛想があるようでない顔を向けてくれる。

こちらに向けた表情を見て、何だかんだ取巻と万丈目はどこか似ているような気がする。

以前の万丈目は張り詰めた威張り方をしており、対して取巻は自分より強い者に取り入るのに必死だった。

そんな2人の態度はともに片方は取っつきやすくなり、もう片方は柔らかくなった。

周りに対する接し方を思い出してもやはり似ている。

 

「それで、あの人達は今後どうなるんだ?」

 

「皆が目を覚まし始めたから、そろそろアメリカに帰国する準備をするって。

といっても、一応不法滞在扱いだから手続きが大変みたいだけど」

 

「そうなのか?」

 

「うん」

 

聖星の説明に十代は首を傾げ、万丈目と取巻は納得する。

彼らの扱いは表向き拉致された被害者ということになるだろう。

誰に拉致され、どのようなルートで日本に連れてこられたのか調査する必要がある。

闇のデュエルに関して説明するのは不可能なため、この調査をどう偽装するか今のところ悩みの種らしい。

 

「けど良かったじゃないか。

誰も危険な状態じゃないんだろう?」

 

「あぁ。

それだけが救いだよ」

 

もし救い出した人達の中に後遺症が残っていたらと、考えただけでもゾッとする。

以前より気が軽くなった聖星は、十代達と同じように昼食を購入することにした。

今朝は和食だったから、お昼はパン系が良い。

トメさんお手製の商品を眺めながら、手頃なコロッケパンを持つ。

するとある商品に目が行った。

 

「あれ、こんなパック発売されてたっけ?」

 

食料品の隣に設置されていたのはカードコーナーで、一般的に流通しているものからアカデミア限定のパックまで取り揃えてある。

その中で目にとまったのは見慣れないパックだ。

表には【太陽の戦士】、【海神の巫女】、【妖精王オベロン】が描かれており、パックの中身がいまいち掴めなかった。

 

「そのパックは不動が留学している間に発売されたやつだ。

まぁ、今回は入荷直後に買い占められることはなかったから、ある程度の生徒には行き渡ったらしいぞ」

 

「あぁ、だったら知らないや。

ってか、買い占め?」

 

万丈目は思わず取巻を睨み付け、うっかりと零してしまった彼はあさっての方角を見る。

2人の妙な態度に怪訝そうな顔を浮かべると、思い出したように十代が呟いた。

 

「そーいや、最初の月1テストの時に発売されたやつ、誰かが一人占めしたんだっけ。

デッキを強化できなかったって翔が落ち込んでたな~」

 

「へ~……

それにしても2人とも変だな。

まさか万丈目、金に物を言わせて……」

 

「誰がそんなことをするか!

俺だって購買まで行ったのに買えなかったんだぞ!」

 

そう、万丈目は別に嘘は言っていない。

関与しているのは事実だが、買い占めた張本人は彼ではない。

それに関しては今の2人にとってはあまり思い出したくない過去の1つだろう。

もう半年以上前のことだし、からかうのはこのくらいにして、聖星は並んでいるパックに手を伸ばした。

 

「お、買うのか?」

 

「あぁ。

昼飯食べた後に開けようぜ」

 

「それじゃあ俺も買ってみるか。

取巻と万丈目は?」

 

「俺はパス。

今月小遣いが厳しいんだ」

 

「俺も遠慮する。

今更そのパックを買ったところで、レアカードが当たるとは思えんしな」

 

この男は残り物には福があるという言葉を知らないのだろうか。

それとも、その諺を信じて数パック買ったが、良いのが当たらなくて見限ったのだろうか。

どうでもいいことをすぐに頭から追い出し、両手でパックを持って交互に見下ろした。

 

「う~ん、どれにしよう」

 

まずはお試しとして2パックにしようか、それとも奮発してここに置いてあるパック全部にしようか。

久しぶりに自分でパックを選ぶ聖星は、悩ましげな表情を浮かべながら目を輝かせる。

 

「よし、まずはこれだけ買ってみる」

 

そう言って彼は5パックを購入した。

 

**

 

場所を外に移した聖星達は、陽の光が射しこんで暖かい草原で昼食をとる。

柔らかい風が潮の香りを運び、波の音も聞こえてくる場所だ。

デュエリスト故に新しいパックを開封する瞬間は特別な時間である。

コロッケパンを食べ終えた聖星が開封する様子を十代は楽しそうな顔で見ている。

 

「え~っと」

 

そう言って聖星は中に入っていたカードを1枚、1枚確認した。

パックの中に入っていたのは【魔界の足枷】、【アックス・レイダー】、【幻のグリフォン】、【ホワイト・ダストン】、【地砕き】の5枚である。

見慣れたカードの姿に「こんなものか」と納得していると、十代が目を輝かせている。

 

「すげぇ、見た事ないモンスターがいるぜ」

 

「どれとどれ?」

 

「この【幻のグリフォン】と【ダストン】ってやつ」

 

「あぁ、この2枚?

はい。

万丈目と取巻は?」

 

十代にカード2枚を差し出し、他の2人にも見るかと誘ってみる。

取巻は素直に残りの3枚を受け取り、万丈目は静かにコーヒーを飲んでいた。

 

「すげぇなこの【幻のグリフォン】、レベル4なのに攻撃力2000もあるぜ!

しかも通常モンスター!」

 

「何だって!?」

 

「ゴフッ!

ゲホッ、ゲホッ!」

 

「万丈目、大丈夫か?」

 

十代の言葉に取巻は信じられないと言うように顔を上げ、万丈目は大きく咳き込む。

何故ならレベル4で攻撃力2000のモンスターなど、存在したとしても召喚するために制約、またはなんらかのデメリットがあるのが普通である。

それなのに、ただの通常モンスターで攻撃力2000など前代未聞である。

十代が持つカードに皆は注目し、「レアカードだな」「くっ、俺が買ったときは当たらなかったのに…!」等と言い合っている。

彼らのはしゃぐ様子に微笑みながら、次のパックを開けた。

 

「あ」

 

「どうした?」

 

「【マジシャンズ・ヴァルキリア】が当たった」

 

聖星が見せたのは、あの武藤遊戯も使ったと言われる魔法使い族の少女。

【ブラック・マジシャン・ガール】と似た風貌だが、釣り目であり、気が強そうな印象を持つ。

そしてその姿、流通している枚数の関係で高額で取引されているカードでもある。

 

「お、魔法使い族じゃん。

しかも聖星、それ持ってなかっただろ?」

 

「あぁ」

 

遊馬の世界でも、そしてこの時代でも、【マジシャンズ・ヴァルキリア】のカードを手に取ったことはない。

元の時代で持っていた記憶もなく、正真正銘、初めて当たったカードである。

今のデッキに使えるカードが当たったのは純粋に嬉しくて、自然と笑みが零れてしまう。

 

「だが【マジシャンズ・ヴァルキリア】は1体だけでは真価を発揮せんぞ。

残りの3パックでもう1枚を当てる気か?」

 

何故万丈目は喜んでいる隣で辛い現実を突きつけてくるのだろうか。

先程記したとおり、このカードは数が少なく、高い。

正確な金額は覚えていないが、聖星の小遣いで買うには大きく戸惑うレベルだ。

【星態龍】にお強請りするという手もあるが、せっかく1枚目を自力で手に入れたのだ。

久しぶりに自分の運だけでカードを集めてみたくなってくる。

 

「ん?」

 

「お、また何か新しいの当たったか?」

 

3パック目を開け、見慣れたカードを1枚1枚眺めていると、知らない少女が顔を出した。

水色の長髪少女が描かれているモンスターに、聖星はその名前と種族を見て首を傾げる。

聖星の表情から十代も好奇心で覗き込み、2人揃って同じ表情を浮かべた。

 

「【ウィッチクラフト】?」

 

「十代、知ってる?」

 

「いや、知らないな」

 

カードに記された名は【ウィッチクラフトマスター・ヴェール】。

この場にいる万丈目と取巻にも目をやったが、2人とも同じような反応だったため、知らないのだろう。

【マスター・ヴェール】のカードを見た万丈目達は率直な感想を述べた。

 

「高レベルモンスターで攻撃力が1000?

クセの強そうなカードだな」

 

「テキストの量も凄いな」

 

「普通に強いと思うぜ。

特殊召喚制限がないから【マジシャンズ・サークル】であっさり出てくるし、【一族の集結】でも簡単に特殊召喚出来るし」

 

手札の魔法カードの枚数に左右されるらしいが、【魔導書】のサーチ能力なら問題はないはずだ。

魔法使い族の攻撃力を上げる効果も、先程当てた【マジシャンズ・ヴァルキリア】に使えば大打撃を与える事も可能となる。

これは面白そうな光属性魔法使い族デッキが組めそうだ。

新しい案が浮かび、すぐに部屋に帰りたくなった聖星は、首に巻き付いてきた【星態龍】に目を向ける。

 

「【ウィッチクラフト】か。

こいつら、カード化されていたのか」

 

「【星態龍】、知ってるのか?」

 

「あぁ。

彼女達は魔法道具の制作を専門として扱う魔女だ。

得意先は主に【魔導書院ラメイソン】と【魔法都市エンディミオン】だぞ」

 

なんと言うことだろう。

彼の口から発せられた名前はあまりにも親しみすぎているもので、聖星は驚くしかなかった。

まさかそんな繋がりがあるモンスターとは思わなかったのだ。

 

「へぇ、じゃあ彼女達は【ラメイソン】と【エンディミオン】には属さないんだな」

 

「あぁ」

 

すると、今まで黙っていた十代が痺れを切らしたのか、ついに会話に入ってくる。

 

「なぁなぁ、どういうことだ?」

 

「う~ん、何て言えば良いんだろう……」

 

「【ラメイソン】は簡単に言ってしまえば学校だ。

【魔法都市エンディミオン】は魔導王が統治する都市。

この2つはお世辞にも仲が良いとは言えん」

 

「実際【エンディミオン】から戦争仕掛けたらしいし……」

 

「あらぁ、それならおいらも知ってるよ」

 

聖星の前に現れたのは、【おジャマ・イエロー】。

彼(彼女?) は体をくねくねさせながら精霊界での話をし始めた。

 

「魔法使い族のなかではかなりの衝撃的な戦争だって。

あの戦争で【魔導】側の死神がたくさん攻撃して、戦場は大混乱になったらしいよ」

 

「【魔導】側の」

 

「死神」

 

【イエロー】の言葉に、十代と万丈目はゆっくりと聖星を見た。

何故か凝視されている聖星は、そんな顔になる気持ちも分かるのでただ苦笑いを浮かべるしかなかった。

そう、【魔導】側の死神は聖星がよく使う例の闇属性モンスターである。

 

「【ラモール】めっちゃこえぇじゃん!

どうりで常に死んだ目をしてるし、敵側に回った仲間でも容赦ないわけだぜ!」

 

「ちなみに十代、【ラモール】の前の姿は【マット】、後の姿は【トールモンド】なんだぜ」

 

「嘘だろ!?」

 

あの殺意しかない死神が、何故か面倒くさがり屋な少年で、何故か場のカードを全てぶっ飛ばすモンスターと同一人物。

デュエルモンスターズには様々な物語が存在するが、【ラモール】の物語が気になり始めた。

目の前で騒いでいる十代達を眺めている万丈目は、少し居心地が悪そうにしている取巻が視界に入った。

 

「どうした取巻?」

 

「俺だけ全く話が見えない」

 

「……そうか」

 

見えないこの男に対し羨ましいと言えば良いのか、それとも自慢げに精霊が見える生活について語れば良いのだろうか。

万丈目は自分の目の前で体をくねらせている気色悪いモンスターを見上げながら、心底取巻を羨んだ。

少し遠い目をしている万丈目の隣で、十代は笑いながら【ハネクリボー】を撫でた。

 

「あ~……

取巻って精霊見えないもんな」

 

「俺も見えるようになりたい」

 

「止めておけ取巻。

こんな不細工な精霊につきまとわれるだけだぞ」

 

「不細工!?

兄貴~、酷いよ~!

おいらのように綺麗でキュートな精霊なんてそうそういないのに!」

 

「気色悪いことを言うなぁあ!!!」

 

**

 

それから数日経ち、囚われていた人々が裏のルートで出国するための手筈が整ったようだ。

生徒達の目に触れないよう気を使いながら船に乗り込んだ彼らを見送った聖星は、何故か校長室にいた。

そして何故か、目の前でにこにこと笑っている鮫島校長から信じられない事を告げられる。

 

「俺がブルーに?

どうしてですか、校長」

 

「うむ、確かに驚くのも無理はない。

だが聖星君、君の実績を考えるとそうおかしな事ではあるまい」

 

その言葉に聖星は理解できていないとでもいうように首を傾げる。

本来ならイエローのトップからブルーへと昇格するはずだ。

しかし今現在イエローのトップは聖星ではなく三沢である。

さらに最近では、【暗黒界】デッキを操っている神楽坂が実技の成績を伸ばし、うっかりしていると追い抜かれてしまうような状況だ。

疑問符ばかり浮かべている友人に呆れたのか、【星態龍】が耳元で教えてくれる。

 

「三沢は万丈目との昇格デュエルで勝ちはしたが、蹴っていたからな。

恐らく、今でも蹴られ続けているのだろう。

だから聖星に話が来た、というあたりか」

 

(そういえば……

そんなデュエルもあったな)

 

あの頃は色々ありすぎて、そのような出来事があったのをすっかり忘れていた。

納得できた聖星の心境を知ってか知らずか、鮫島校長の言葉を引き継いだクロノス教諭は聖星が選ばれた理由を説明してくれる。

 

「筆記試験・実技試験共に上位、デュエルアカデミア・アークティック校への留学、そしてI2社のアドバイザー。

そんなシニョール聖星はブルーにいるべきなノ~ネ」

 

「そこで、次の月1テストでブルー寮の生徒とデュエルしてもらおうと考えている。

勝てばブルー寮への昇格となる。

頑張ってくれたまえ」

 

「わ、分かりました」

 

期待を込められた4つの眼差しに耐え切れず、聖星は逃げ出すように校長室を後にした。

人の気配を感じない廊下まで来ると、体から力が抜け、無意識のうちにため息をついてしまう。

何とも言えない感情を抱えながら外を眺めている聖星に、【星態龍】は茶化すように首に巻き付いてきた。

 

「良かったな。

あの城のような寮に住めるかもしれないぞ」

 

「でも正直乗り気じゃないんだよなぁ」

 

「何故だ?」

 

まだ三沢がブルーへ昇格していないのに、自分が昇格するかもしれないことに気が引けるのだろうか。

三沢はそんなことを気にする男でもないし、周りの人間だって三沢がブルーへの昇格を断り続けていることを知っている。

友人に気を使う必要性はないと言うが、聖星は別の事に対して悩みを持っているようだ。

忘れたのかよ、とでも言うかのように聖星は自分の目的を話す。

 

「そもそも俺は未来に帰るまでの暇つぶしとしてデュエルアカデミアに入学したんだ。

2年に上がる前には退学するつもりでいるのに、そんな俺がブルーになっていいのかなって」

 

嬉しいことに【星態龍】の力は順調に回復しており、このままなら進級試験前には完全復活するはずだ。

セブンスターズとの戦いが続いているのなら残るつもりではいるが、仮に全て終わっていたのなら残る必要はない。

それを知らない校長達は純粋に生徒の実績を評価し、それに相応しいチャンスを与えてくれる。

そこにあるのは、可愛い生徒への期待だ。

イエローへの昇格は食事事情があったため仕方なかったと考えてはいるが、ブルー昇格後に退学する事はその期待を裏切ることに繋がる。

だから、聖星はブルーへの昇格に対して乗り気になれないのだ。

 

「お前の考えは分かった。

だが、聖星。

進学前に退学するのなら、ブルー寮に所属していた方が良いのではないか?」

 

「どうして?」

 

「仮に退学するとして、その理由はどうするつもりだ?」

 

「……家庭の事情?」

 

流石に学費が払えません!という情けない言い訳は通用しないだろう。

この時代用に作った口座にはI2社から振り込まれた契約料があるため、お金には困っていない。

となると、実家を継ぐことになりました、親の介護のため学業に専念できなくなりました等の理由が妥当か。

 

「今のお前にはI2社のアドバイザーという実に便利な肩書きがあるだろう。

その肩書きを有効活用すれば、退学も卒業扱いになるはずだ。

このデュエルアカデミアにおいて、イエロー寮の生徒がアドバイザーのため特例で卒業した場合と、ブルー寮の生徒だった場合、どちらが大人達は素直に納得してくれる?」

 

「まぁ、ブルー寮だろうな」

 

「そういうことだ。

ブルー寮に所属していた方が色々と都合が良いぞ。」

 

仮に卒業扱いにはならなくても、生徒がデュエルモンスターズ発展のために、未来のために羽ばたいていくのだ。

聖星が気にしている『大人達の期待を裏切る』行為にもならない。

【星態龍】の言葉に納得した聖星は、ゆっくりと空を見上げ、どのようなデッキでデュエルしようかと思考を切り替えた。

 

**

 

「ということで、ブルー昇格を賭けてデュエルすることになった」

 

いつものように微笑みながら校長室で告げられた事を話すと、レッド寮の食堂にいた皆は揃いに揃って固まった。

すぐに十代がすげぇなと声をかけようとしたが、それより先に弟分の声が狭い食堂に響き渡る。

 

「え、え、え!?

ついに聖星君がブルー寮へ!?

……あ、そっか。

普通そうっすよね」

 

「どういう意味だよ、翔」

 

椅子を引いて翔の前に座れば、翔は今日の夕食である鯖定食を食べながらさも当然に言い放った。

 

「ブルーの人より強い兄貴や聖星君と一緒にいたから、この学園の常識を忘れてたっす」

 

美味しそうにとまではいかないが、一定のテンポで魚を口に放り込んでいる翔は何度も大きく頷いた。

確かに彼の言う通り、この学園では強い者が上に行くのが常識だ。

しかし、隣に座っている十代が主にその常識破りの代表である。

十代は翔と異なり、実に美味しそうに炊き立てのご飯と魚を口の中にかきこんでいた。

ハムスターのように頬をぱんぱんに膨らませながら、十代は親指を立てて笑顔を見せてくれる。

 

「ブルーに昇格したら、たまにブルーの飯分けてくれよ」

 

「え?」

 

「だってよ。

ブルーの料理って美味いんだろ?

すげー興味あるんだ」

 

曇りない瞳で言われた言葉に、聖星は勝手に持ち出してよかったっけ?と一瞬考えてしまったため、反応が遅れてしまう。

だから彼の言葉に真っ先に返したのは、翔の隣に座っていた隼人だ。

 

「十代、それはちょっと駄目だと思うんだな」

 

「え~、隼人はブルーの料理興味ないのか?」

 

自分達が食べている食事の数倍美味しいといわれているものだ、興味がないわけがない。

しかし、常識的に考えて駄目だ。

十代、翔、隼人、この3人の中で1番の常識人である隼人は苦笑いを浮かべながら「それでも駄目なんだな」と言った。

 

**

 

それから数日が経ち、ついに聖星のブルー寮へ昇格するデュエルが行われる。

何とかデッキ調整をした聖星は、デッキに対して「頑張るぞ」と声をかける。

両肩に乗っている【星態龍】と【スターダスト】もデッキに尾と手を乗せ、聖星を頼むように祈った。

そのままデュエルディスクにデッキをセットし、フィールドに立つと、既に対戦相手がいた。

 

「ふぅん。

貴方が不動聖星君?」

 

「貴女は?」

 

聖星の前に立っているのは赤味の強い紫の髪の女生徒だ。

耳元の髪の毛を三つ編みにしており、制服は改造しているのか、腹部を見せるスタイルである。

釣り目と彼女が身にまとう制服の形から、彼女は気が強く、自信家な性格なのだと察することが出来る。

 

「私が今回の相手を務める胡蝶蘭よ。

全力でお願いね、坊や」

 

「(この人、俺がまだ中学生だって気がついてる……?)」

 

「いや、彼女の性格故の発言だろう」

 

堂々と坊やとい言われ、聖星は少しだけ首を傾げたが、【星態龍】は冷静に突っ込んだ。

すると、彼女から熱い視線を送られていることに気が付いた。

手の甲を腰につけながらじろじろと見てくる女性の様子は、まるで自分を観察しているように見える。

 

「……あの、何か?」

 

「あら、ごめんなさいね。

亮様と互角と言われているデュエリストだから、どんな子かなって興味があるのよ」

 

「亮様?」

 

誰のこと?とでもいうかのように【スターダスト】は隣にいる【星態龍】を見る。

あぁ、そういえば【スターダスト】は苗字と異名しか知らないのかと納得し、答えようとしたが、それより先に蘭が首元のネックレスを開いた。

その中には亮様と呼ばれているカイザーの写真があった。

 

「貴方に勝てば、亮様は私のことを目にとめ、認めて貰える。

そのための踏み台になってもらうわよ」

 

頬を少しだけ赤く染め、うっとりとした表情を浮かべられ、聖星は嫌な予感がした。

その予感を覚えたのは聖星だけではないようで、カイザーの弟である翔は呆れたような顔を浮かべている。

観客席にいる十代は弟分の表情に気が付かず、呑気に笑っている。

 

「流石カイザー、下級生から様付けかぁ。

そーいや以前、レイからもそう呼ばれてたっけ」

 

「下級生のなかでも亮の事をそうよぶのは、熱狂的なファンである彼女くらいよ」

 

「何だよ、明日香。

あいつそんなに有名なの?」

 

「えぇ」

 

腕を組みながら胡蝶蘭を見つめる明日香は、彼女がこのアカデミアでどう呼ばれているのか説明を始めた。

一方、翔の隣に座っている取巻は小声で尋ねる。

 

「丸藤、仮にカイザーがああいうタイプを彼女として紹介してきたらどうする?」

 

「家族全員ひっくり返るっすよ。

そもそも、あぁいう人、お兄さんが全力で逃げるタイプっすね」

 

「だろうな」

 

眼中に入らないではなく、全力で逃げるときたか。

大量のハートを飛ばす彼女に対し、困り顔で接しているカイザーを簡単に想像できる。

取巻の脳内で胡蝶蘭に言い寄られているカイザーは、翔の言う通り、耐え切れなくなり背中を向けて走って逃げた。

友人達が上記のような会話を繰り広げているとは知らない聖星は、体に力を入れてデュエルディスクを構える。

 

「なる程。

このデュエル、負けられない理由が出来た」

 

主に丸藤先輩の今後の学園生活のため!!

ブルー寮への昇格なんてもうどうでもいい。

とにかく、尊敬する先輩の平穏を脅かすかもしれない彼女を倒さなければならない。

仮に聖星が負けてしまえば、調子に乗った彼女が何をしでかすか想像したくもなかった。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は俺だ、ドロー」

 

ゆっくりとカードを引いた聖星は、手札に来てくれたモンスターの姿に笑みを零す。

自分の想いに応えてくれようとしているのか、手札も良い。

 

「俺は手札から【王立魔法図書館】を守備表示で召喚。

魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【セフェルの魔導書】をサーチする。

そして、魔法カードが発動したことにより、【王立魔法図書館】に魔力カウンターが1つ乗る」

 

場にソリッドビジョンの光が輝くと、聖星の目の前に巨大な本棚がいくつも現れた。

その守備力は2,000と、ちょっとやそっとでは突破されない数値である。

 

「さらに俺の場に【王立魔法図書館】が存在する事で、【セフェルの魔導書】を発動。

【グリモの魔導書】の能力をコピーする」

 

今、聖星の場には【王立魔法図書館】が存在するため、【セフェル】の発動条件をクリアしている。

彼はもう1つの条件である【ネクロの魔導書】を蘭に見せた。

 

「俺が加えるのはフィールド魔法【ラメイソン】だ。

そして【魔導書院ラメイソン】を発動!」

 

2人の外側に風が吹き、穏やかだった風は強風に変貌する。

そして、轟音を鳴り響かせながら金属の壁が聖星たちを包み込んだ。

 

「これで、【王立魔法図書館】の効果が使える。

乗っている魔力カウンターを3つ取り除き、カードを1枚ドロー」

 

【王立魔法図書館】の目の前に浮かんでいた魔力カウンターは一瞬で消え、その代わり聖星のデッキが輝く。

どんなカードが来るのだろうと思いながら引いてみると、実に良いモンスターが来てくれた。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

「1ターン目から忙しく動くわねぇ。

私のターン、ドロー。

手札から【代打バッター】を召喚!」

 

「ギギッ……」

 

ぱん、と軽い音とともに現れたのは巨大なバッダのモンスター。

攻撃力と守備力を確認しようと思ったが、そのモンスターの効果を思い出す。

【代打バッター】は場から墓地に送られた時に、手札から昆虫族モンスターを特殊召喚する効果を持つ。

 

「昆虫族を特殊召喚出来るカードか」

 

「えぇ、よく知ってるわね。

手札から【ブラック・ホール】を発動!

さぁ、貴方のモンスターにも消えてもらうわ!」

 

フィールドの中心に黒い球体が現れたと思えば、【ラメイソン】が現れた時以上の暴風が吹き荒れる。

【王立魔法図書館】と【代打バッター】は自分達を引き寄せる重力に逆らうことが出来ず、渦の中心に吸い込まれていった。

その様子を見た蘭は、不敵な笑みを浮かべて高らかに宣言する。

 

「【代打バッター】が墓地に送られたわ。

その目を大きく開いて見なさい!

私の美しいモンスターの姿をね!!

特殊召喚、【インセクト・プリンセス】!」

 

「はっ!」

 

静かになったフィールドに降臨したのは、美しい蝶の羽をもつ昆虫族モンスター。

片方の手を顎に当てている彼女は、蘭の言葉通りとても美しい。

その攻撃力は1900である。

 

「(【インセクト・プリンセス】、確か相手の昆虫族を破壊すると攻撃力が上がるカードだっけ。

彼女の反応からあのモンスターが主力なのは間違いない。

ということは……)」

 

「行くわよ、【インセクト・プリンセス】でダイレクトアタック!

ステム・シャワー!」

 

「ぐっ!」

 

壁となるモンスターが存在しない聖星は、防ぐ暇もなく【インセクト・プリンセス】の攻撃を受けてしまう。

ソリッドビジョンといえでも、多少体に走る痛みに苦しい声を零すが、すぐに真っすぐ向き直った。

これでライフは2100となる。

 

「私は永続魔法【無視加護】を発動。

カードを2枚伏せて、ターンエンドよ」

 

「俺のターン、ドロー。

【魔導書院ラメイソン】の効果により、墓地の【セフェルの魔導書】をデッキの1番下に戻し、カードを1枚ドローする」

 

「この瞬間、【針虫の巣窟】を発動させてもらうわ」

 

「あ」

 

発動された罠カードに、聖星は【無視加護】を見る。

その反応に蘭は説明する必要性がないと思ったのか、デッキトップから5枚のカードを引いた。

 

「ふふっ。

墓地に送られるカードはこのカード達よ。

よく覚えておきなさい」

 

彼女が聖星に見せた5枚のカード。

それは魔法・罠カードが1枚ずつ、昆虫族モンスターが3枚だった。

蘭のデッキは昆虫族デッキが主体のようだから、確実に昆虫族モンスターが墓地に落ちるとは思っていた。

しかしそれが3枚だと色々と厄介である。

困った顔を浮かべる聖星に対し、まだ理解できていない翔は首を傾げる。

 

「え、どうしてデッキからカードを墓地に送ったんすかね?

【死者蘇生】を使うか、何かのコストの除外?

昆虫族で墓地のカードを除外するモンスターカードって、誰かいたっすか?」

 

「昆虫族限定でいえば、攻撃力2800の【デビルドーザー】が存在するな」

 

「えぇ。

けど、胡蝶蘭の目的は【デビルドーザー】ではなく、【インセクト・プリンセス】を守ることよ」

 

「どういうことっすか?」

 

確かに【インセクト・プリンセス】は、昆虫族モンスターを破壊しないと攻撃力が低いモンスターだ。

攻撃力2000以上のモンスターと戦えるくらい成長するまで守る必要がある。

しかし、何故それが墓地にカードを送る事につながるのだろうか。

頬杖をついている十代は蘭の場を見渡し、墓地のカードが必要と思われるカードを探す。

 

「今の段階でそれが分かるのは表側表示になってる【無視加護】くらいか?

明日香、あれってどういう効果なんだ?」

 

「簡単に説明すれば、墓地に昆虫族がいれば何度でも戦闘を無効に出来るカードよ」

 

「へぇ~、なるほどな。

それで自分のモンスターを守るってわけか」

 

見間違いでなければ、彼女の墓地には3体の昆虫族モンスターが墓地に送られていたはず。

【代打バッター】を含めると、墓地の昆虫族モンスターは4体だ。

今回の聖星がどんな【魔導書】デッキかは知らないが、モンスターを大量展開出来るデッキでなければ、辛い戦いになるだろう。

 

「俺は手札から【マジシャンズ・ヴァルキリア】を攻撃表示で召喚」

 

「はっ!」

 

聖星がモンスターを召喚した瞬間、男子生徒達から歓声が上がる。

驚いた聖星は思わず周りを見渡すが、皆は凛々しい【マジシャンズ・ヴァルキリア】に釘付けだ。

十代と最初にデュエルをしたときも、【エリア】の登場でギャラリーが狂喜乱舞状態だった。

それを思い出した聖星は苦笑いをするしかない。

 

「行くぞ、【マジシャンズ・ヴァルキリア】で【インセクト・プリンセス】に攻撃」

 

「何ですって!?」

 

蘭が驚くのも無理はないだろう。

【インセクト・プリンセス】の攻撃力が1900に対し、【マジシャンズ・ヴァルキリア】の攻撃力は1600。

このままバトルを続ければ聖星がダメージを受けることは確実なのだ。

 

「さらに罠発動、【マジシャンズ・サークル】。

お互いのデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族モンスターを攻撃表示で特殊召喚しなければならない。

俺は【ウィッチクラフトマスター・ヴェール】を攻撃表示で特殊召喚する」

 

【マジシャンズ・ヴァルキリア】の隣に六芒星の陣が描かれ、光り輝く陣の中から1人の少女が現れた。

隣に立つ凛々しい魔法使いとは異なり、まだ幼さを残す彼女は可愛い笑顔を見せてくれる。

 

「攻撃力1000!?

てっきり攻撃力2000のモンスターを喚ぶかと思ったけど……」

 

聖星が何を考えているのか理解できない蘭は、すぐ目の前に迫っている【マジシャンズ・ヴァルキリア】の姿に慌てて声を張り上げた。

 

「私は【無視加護】の効果で、【インセクト・プリンセス】を守るわ!」

 

【マジシャンズ・ヴァルキリア】が杖から放った攻撃が【インセクト・プリンセス】に直撃する前に、墓地から現れた【代打バッター】が盾となる。

大きな昆虫が粉々に砕けるのを見届けた聖星は、次の宣言をする。

 

「【マスター・ヴェール】で攻撃」

 

「【無視加護】の効果でその攻撃も届かないわよ!」

 

次に現れたのは【黄金の天道虫】である。

【マスター・ヴェール】は少しだけつまらないとでも言うかのように頬を膨らませ、とてとてと歩いて聖星の場に戻った。

可愛らしい反応をする彼女に苦笑を浮かべていると、感心したかのように【星態龍】が零す。

 

「流石はブルーでインセクト・プリンセスの異名を取る女だな。

【マスター・ヴェール】の攻撃も防ぎに来たか」

 

「あぁ、そうこないとな。

俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「私のターン、ドロー!

【強欲な壺】を発動!

デッキからカードを2枚ドロー!」

 

今回引けたのは1枚の罠カードと1枚のモンスターカードだ。

そのカードと手札のカードを見比べた彼女は、聖星の場にある伏せカードを警戒する。

 

「(今、坊やの場にはモンスターが2体。

【マスター・ヴェール】の攻撃力は1000だけど、【マジシャンズ・ヴァルキリア】がいる限り私は【マスター・ヴェール】に攻撃できない……)」

 

先程、聖星は攻撃力が低いにもかかわらず【インセクト・プリンセス】に攻撃を仕掛けてきた。

先程のターン、彼の場に伏せカードは存在しなかったため手札に攻撃力を増減するための速攻魔法カードがあったからだろう。

そして、今伏せられているカードはそのカードの可能性がある。

 

「手札から【サイクロン】を発動!

その伏せカードには消えてもらうわ」

 

蘭が発動した【サイクロン】は激しい音とともに聖星のカードを飲み込んでいく。

抗えないほどの強風に飲み込まれたカード、【ブレイクスルー・スキル】は数回程回転したのち破壊された。

 

「【棘の妖精】を守備表示で召喚。

行くわよ!

【インセクト・プリンセス】で【マジシャンズ・ヴァルキリア】を攻撃!」

 

「【マスター・ヴェール】の効果発動」

 

「えっ、ここで!?」

 

「あぁ、ここでさ。

彼女がいることで【マジシャンズ・ヴァルキリア】は、俺の手札の魔法カード1枚につき攻撃力を1000ポイント上げる」

 

「な、そんなっ!?」

 

胡蝶蘭は、今日対戦する聖星のデッキに関して事前に調べてはいた。

【魔導書】という魔法カードを多量に使用して手札を絶やさずに戦うスタイル。

その彼が、手札の魔法カードの枚数分攻撃力を上げる効果を使用するなど恐怖でしかない。

 

「俺の手札に存在する魔法カードは【ネクロの魔導書】と【ゲーテの魔導書】、【アルマの魔導書】の3枚。

よって、【マジシャンズ・ヴァルキリア】の攻撃力は4600だ」

 

【マスター・ヴェール】が持っている杖を高く掲げると、フィールドに3枚の【魔導書】が現れる。

3冊の書物は彼女の杖に魔力を送り、そのエネルギーは【マジシャンズ・ヴァルキリア】へと注がれた。

 

「【マジシャンズ・ヴァルキリア】、返り討ちだ」

 

「はぁあ!!」

 

静かに与えられた言葉に、【マジシャンズ・ヴァルキリア】は大きく頷く。

向かってくる【インセクト・プリンセス】に冷たい眼差しを送った彼女は、大きく杖を振り上げ、仲間から貰った魔力を弾き出す。

膨大な魔力の塊に【インセクト・プリンセス】は自分の行動が失敗だと自覚するが、既に遅い。

 

「きゃぁああ!!!」

 

「っ、【インセクト・プリンセス】……」

 

相棒の悲痛な声とともに、ライフが4000から2700削られ、1300へとカウントする音が聞こえる。

墓地に送られた彼女の姿に、蘭は顔を歪ませながら手札のカードを掴む。

 

「くっ……

だったら、手札から【早すぎた埋葬】を発動!

帰ってきなさい【インセクト・プリンセス】!」

 

「はっ!」

 

ライフ800をコストに蘇った【インセクト・プリンセス】は、険しい顔で【マスター・ヴェール】を睨みつける。

敵から送られる怒りを【マスター・ヴェール】は涼しい顔で流している。

これはデュエルだし、攻撃力を上げて相手モンスターを叩き潰すのはよくやる戦術。

きっと相手から向けられる怒りなど慣れっこなのだろう。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドよ」

 

今、蘭の墓地には昆虫族モンスターが2体。

【無視加護】の効果で、聖星の攻撃宣言は2回まで無効にできる。

そして【棘の妖精】の効果は【マジシャンズ・ヴァルキリア】と似ており、彼女は昆虫族を守るものだ。

よって、【インセクト・プリンセス】がすぐに戦闘で破壊される危険性は低い。

 

「俺のターン、ドロー」

 

蘭が聖星のカードを睨みつける中。彼は引いたカードを見て小さく頷いた。

 

「【ラメイソン】の効果発動。

このカードの効果によって墓地に眠る【グリモの魔導書】をデッキの1番下に戻し、1枚ドロー」

 

これで聖星の手札は6枚になった。

そのうち3枚は先程【マスター・ヴェール】の効果で判明しているが、すぐに使えるものではない。

【ネクロの魔導書】は墓地に魔法使い族モンスターが2体以上存在しなければ意味がなく、【ゲーテの魔導書】は墓地に【魔導書】が必要だ。

さらに【アルマの魔導書】は除外ゾーンに【魔導書】がなければ使えない。

 

「俺は【魔導書士バテル】を守備表示で召喚」

 

「ふん」

 

「【バテル】の効果で、【グリモの魔導書】を手札に加える。

そして、そのまま発動。

俺がデッキから加えるのは【セフェルの魔導書】だ。

さらに、手札の【アルマの魔導書】を見せ、【セフェルの魔導書】を発動。

これでもう1度、【グリモ】の効果が使える。

デッキから加えるのは【ルドラの魔導書】だ」

 

「【ルドラ】?」

 

「簡単に言えばコストがちょっと重い【強欲な壺】さ。

俺は【バテル】を生贄に捧げ、【ルドラの魔導書】を発動。

デッキからカードを2枚ドローする。

さらに速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動。

悪いけど、【無視加護】には消えてもらうぜ」

 

「何ですって!?」

 

【無視加護】の周りには【グリモ】、【セフェル】、【ルドラの魔導書】が現れる。

3枚のカードは3人の魔法使いへと姿を変え、そこから時空の歪みが発生した。

そのまま【無視加護】は時空の狭間へと消えて行ってしまう。

 

「そしてライフを1000払い、手札から【拡散する波導】を発動。

このターン、【マスター・ヴェール】は全てのモンスターに攻撃できる」

 

「っ!?

そのモンスター、レベル6以上なの!??」

 

「バトル!

【マスター・ヴェール】で【棘の妖精】に攻撃!」

 

「罠発動、【次元幽閉】!」

 

「させない、速攻魔法【トーラの魔導書】!」

 

【トーラの魔導書】の加護を受けた【マスター・ヴェール】は不敵な笑みを浮かべ、ステッキを構える。

これで除外される心配もなく、安心して蘭の場に存在するモンスター全てに自分の魔力をぶつけることが出来るのだ。

 

「そして【マスター・ヴェール】の効果発動!

俺の手札に魔法カードは【ネクロ】と【アルマ】の2枚、よって彼女の攻撃力は3000だ!」

 

「そんなっ!」

 

蘭の場には守備表示の【棘の妖精】と表側攻撃表示の【インセクト・プリンセス】のみ。

【インセクト・プリンセス】は不安そうな顔で振り返り、視線が交わった蘭は強く手を握りしめた。

【マスター・ヴェール】が持つガラスの杖に、2つの魔力が宿り、それは虹色の輝きを放ちながらフィールドに拡散する。

 

「きゃぁあああ!!!」

 

眩い光に飲み込まれた2体のモンスターは一瞬で消え去り、残り500だったライフは0へとカウントされる。

同時にデュエル終了のブザーが鳴り響いた。

 

「勝者、ラー・イエロー、不動聖星!

昇進試験、合格なノ~ネ!」

 

2人のデュエルを見守っていたクロノス教諭は宣言する。

その言葉が響き渡ると、ギャラリーから拍手が送られる。

特にイエロー寮の同級生達は笑顔を浮かべ、素直に祝福しているようだ。

それに対しブルー寮の生徒の一部は良い顔を浮かべていない。

仕方のないことだと判断した【星態龍】は、聖星の視線が十代達に向いていることに気が付いた。

 

「やったな、聖星!

これでブルー寮に昇格だぜ!」

 

「おめでとう、聖星君」

 

客席から身を乗り出して喜んでいる十代達の言葉に、聖星は素直に微笑んだ。

 

「あぁ、引っ越しとか色々大変になるけど、とにかく勝ててよかった。

……丸藤先輩の平穏も守られたし」

 

「それに関しては本当にありがとう、聖星君」

 

最後に呟いた言葉は、目の前にいた翔にしっかり届いていたようで、翔は真顔で返す。

2人の間で交わされる言葉に取巻や隼人達は納得していたが、十代だけは首を傾げていた。

 

END

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。
これで聖星はブルー寮へと昇格です
聖星の対戦相手を誰にしようかなと思ったのですが、流石に取巻と何度もやるのは面白みがありませんし
ユベルの手で仮面の三騎士にされた三人の誰かにしようと思っても、デッキが分からなかったので、多分十代達と同級生だと思う胡蝶蘭を選びました
これで蘭が二年生だったらどうしよう……


遊戯王VRAINSが終わってしまいましたね……
遊戯王のアニメが終わるたびに寂しさを覚えますが、やっぱり慣れません

あと、@イグニスターデッキを組みました
いや、正直ノーマークだったんですけど、あんな最終回見せられたら組むしかないだろ!!
主人公のために相棒が散るとか、そういう展開大好きです

VRAINSも短編ですが、書いてみたいですね
LINK VRAINSだと、聖星が活躍出来そう
ただ私の頭の中だとジャスミンが最初に遊作達と接触する流れになってる
あとで活動報告に設定案を書いてみます

追記

あと、フランツがラーのコピーを奪うフラグ折ってやったぜ★
ペガサスから過去の話を聞き、自分達の身を案じる姿を目の前で見たら、強いカードに固執しても、ラーを奪うという発想まではいかないですよね
仮に隼人に嫉妬しても、危険なことに手は出さないでしょう



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十四話 2つの再会◆

今回はデュエルなしです、すみません
この時期の再会といったら彼らです
+αもあります


「父さん、昇格試験パスしたよ」

 

この空間を訪れたと思えば、突然告げられた言葉にZ-ONEは固まった。

視線の先にいる息子は普段より口角をあげた笑みを浮かべており、自分を見上げている。

同時に彼が所属しているアカデミアの制度を思い出した。

 

「あぁ、ブルーになったのですか」

 

あまり積極的に上を目指していなかった彼が、よく昇格の話を受け入れたものだ。

それに関して問いかければ「退学するとき有利になる」と返され、何とも言えない気分となる。

向上心から来たかと思えば、まさか学園から去る時の事を考慮しての選択など、親としてどう反応するのが正しいのだろう。

しかし、ZONEはあることが気になった。

 

「(妙に目が輝いていますね)」

 

傍から見てもわかる程に期待を込めた眼差しを向けられ、Z-ONEは困惑する。

単に昇格試験に合格して気分が乗っているだけではなく、自分に何かを求めているようだ。

親と過ごした記憶がなく、長い間人間とも関わったことのないZ-ONEは何が正解なのか分からなかった。

いや、忘れてしまったというのが正しいだろうか。

こういう時、聖星の片割れである少女ならすぐに何をして欲しいか訴えてくれるというのに。

 

「何か欲しいものはありますか?」

 

「え?」

 

どうやらこの発言は外れだったようだ。

予想外な言葉を貰った時の驚いた表情をされ、Z-ONEは内心ため息をつく。

だが、聖星はすぐに微笑みながらとあるお願いをしてきた。

 

「いや、別にそこまでしてもらうつもりは……

あ、じゃあさ、今日はここでご飯食べて良い?」

 

「貴方、普段から時間があればここで食べているでしょう」

 

「今日はいつもより話したいことがたくさんあるんだ。

デュエルの相手がさ、丸藤先輩の事が好きみたいで、俺に勝ったら先輩に認めてもらえると思っていたみたいなんだ。

でも、あの人、多分先輩の好みじゃないと思うんだよ」

 

ああ、始まってしまった。

Z-ONEが乗っている機械の腕部分に腰を下ろした聖星は今日の出来事を楽しそうに話す。

両足をぶらぶらと揺らしながら語っている姿は本当に普通の学生だ。

いつかは戦わなければならないというのに、何故こうやって穏やかに過ごせる。

しかし、悪い気はせず、上手く言語化できない感情を抱きながらZ-ONEは聞き役に徹した。

 

**

 

「ようこそ、聖星。

ブルー寮へ」

 

ブルー寮への昇格が決まり、ついに引っ越す日が来た。

荷物が搬入され、後は指定された部屋に行くだけだ。

デッキや財布などが入っている鞄を背負いながらブルー寮へ向かえば、カイザーが出迎えてくれた。

差し出された右手に自分の手を重ね、聖星は微笑む。

 

「よろしくお願いします、丸藤先輩」

 

「部屋にはもう行ったのか?」

 

「いえ、これから向かうところです」

 

「それなら俺が案内しよう。

この寮は広い。

初めて来た生徒だと迷う事が多いからな」

 

「ありがとうございます」

 

彼の後に続いて玄関をくぐれば、西洋の城をモチーフにした世界が広がる。

一歩踏み出せば少しだけ足が沈んでしまう柔らかい赤い絨毯に、見上げれば光の屈折により七色に輝くシャンデリアがあった。

内装はところどころ【オベリスクの巨神兵】の像があり、間違い探しの要領で【青眼の白龍】を探してみたが、残念なことにあのドラゴンの姿はなかった。

 

「物珍しいか?」

 

「はい。

学生が住む寮なのにここまで豪華だとは思わなくて……

まるで御伽噺の世界に迷い込んだ気分です」

 

「最初は誰でもそうだ。

じきに慣れる」

 

自分の後ろに着いてきながらブルー寮の内装を見ている後輩の姿は、新入生が入学するたびに見る姿によく似ている。

中等部からエリートとして進級してきた彼らも、この豪華さには圧倒されていた。

万丈目グループの三男である万丈目は慣れた様子だったが、一般家庭出身のカイザー自身も「やりすぎでは?」と思った程だ。

 

「ここが聖星の部屋だ」

 

白塗りにされている階段を登りきり、2階へと辿り着いた2人はとある部屋の前で足を止める。

レッド、イエローと2つの寮に所属していた聖星は、目の前の扉がいかに豪華であるか理解できてしまう。

レッド寮の薄い板1枚で出来ているドアとも、イエロー寮の一般家庭向けのちょっと厚めの木製ドアとも違う。

改めてこの寮の価値観は認識した聖星は、ふと廊下の先にある扉に目をやる。

そこでは数人の引っ越し業者が作業をしており、いくつかの段ボール箱を運んでいた。

 

「あれ、誰か昇級したのですか?」

 

「いや、聖星以外に昇級した者の話は聞いていないが」

 

カイザーも聖星と同じことを疑問に思ったようで、数日前の月1試験を思い出す。

3年生で今更昇級試験を受ける者はいないし、2年生の試験でそのようなデュエルがあったという話はなかったはずだ。

聖星の反応を見ても、1年生で彼以外の昇級試験はなかったはずだ。

まぁ、じきに分かるだろうと判断を下し、カイザーは聖星に話しかける。

 

「この後はどうする予定だ?」

 

「この後ですか?

荷解きをした後は……

特に決まってないです」

 

「それなら後で一緒に食事はどうだ?」

 

「え、良いのですか?」

 

「あぁ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

カイザーと別れた聖星は、まだ段ボールが積まれている部屋の中を見渡す。

元々持っている物が少なく、机やベッドは備え付けのものがある。

これはそんなに時間がかからないなと思いながらガムテープを剥がし始めた。

中に詰め込まれている教科書や参考書を机の上に置きながら、聖星は大事なことを思い出す。

 

「そうだ、父さんのところに繋がるようにしないと……」

 

昨晩は遅くまでZ-ONEに付き合ってもらい、【星態龍】に「寝ろ! Z-ONEも甘やかすな!」と怒られた。

生憎、あの父には精霊の姿が見えないようで彼の言葉は届いていなかったが。

この日常の延長戦にある馴れ合いがいつまで続くのかと思うと、少しだけ胸が苦しくなる。

その時、PDAの電子音が鳴り響く。

ポケットからPDAを取り出した聖星は、十代からの電話だと知り、特に疑問に思う事もなく受話器ボタンを押した。

 

「聖星、大変なことになったぜ!」

 

「何だよ、大変な事って……」

 

「万丈目グループがアカデミアを買収する話が出てるんだ!」

 

「え?」

 

十代の話を要約するとこうだ。

万丈目の兄達がこのアカデミアを買収する話をオーナーこと海馬に持ち掛けた。

普通なら断るのだが、海馬の性格を理解しているのか彼らはデュエルで勝負をつけることを提案したそうだ。

デュエルで己の道を切り開くのを信条としている海馬はあっさりとその話に乗り、万丈目グループが出した条件さえも飲んでしまったという。

 

「自分は初心者だから対戦相手が使えるモンスターの攻撃力は500未満……

何て無茶苦茶な条件飲んじゃうんだよ、あの人は」

 

「あぁ、それでさ、万丈目の兄ちゃんたち、万丈目を対戦相手に指名したらしいんだ」

 

「何だよそれ、万丈目に対する嫌がらせ?」

 

「……う~ん、わかんね」

 

ただでさえ実家がこのアカデミアを買収するという話なのだ。

万丈目グループの関係者である万丈目に対し、アカデミアの生徒達が心無い発言をしてもおかしくはない。

とにかく、万丈目と会って何か力になれないか相談しなければ。

カイザーとの食事は楽しみにしていたが、それより今はこっちが優先だ。

十代にすぐ合流する旨を伝えた後、聖星はカイザーに事情を説明するため彼の番号を探した。

 

「良かったな、お前が指名されなくて」

 

「え?」

 

肩から聞こえてきた言葉に顔をあげれば、【星態龍】が無表情で言葉を続けた。

 

「海馬の性格なら、聖星の実力を知るために聖星を対戦者として指名していたかもしれないぞ」

 

「止めてくれよ、【星態龍】」

 

「グルルゥ……」

 

万丈目グループといえば、十代と万丈目の姉妹校対決でTV中継を行ったという。

今回のデュエルでも宣伝効果を兼ねてTV局を呼んでいるかもしれない。

そんな状態で異端者の聖星がデュエルをする事になってみろ、永遠に消えない記録が残り、Z-ONEと一緒に頭を抱える未来が見える。

 

**

 

十代と合流した聖星は、すぐに万丈目が向かったであろう方向へ急いだ。

カラフルなアカデミアの中で唯一目立っている黒色を見つけた。

声をかけようと足を進めると、嫌な言葉が耳に入ってくる。

 

「きっと今度のデュエルって」

 

「そうそう、万丈目兄弟の策略だぜ」

 

「まさか万丈目は最初から負ける気で?」

 

「ここが万丈目グループのものになれば、万丈目自身のものになるって事だろ」

 

あぁ、やはりこうなったか。

良くも悪くも万丈目の立ち位置は複雑だ。

三沢との昇格と降格を賭けたデュエルを行う前までの彼はお世辞にも良い人とは言えない。

レッドとイエローを見下し、同じ寮の生徒でも顎で使っていたのだ。

聞こえるように陰口をたたかれるのも無理はないと理解はしているが、やはり納得できない。

聖星が何かを言う前に十代が飛び出し、周りにいる生徒達に怒鳴りつける。

 

「お前たち、そんな言い方ないだろ!

万丈目はここの生徒だぞ!

1度でもデュエルしたことがあれば、万丈目はそんな奴じゃないって分かるだろ!」

 

十代の発言に彼らは揃って口を閉ざす。

まさか誰かに庇われるとは思っていなかったのだろうか。

十代に続くよう、聖星も前に出て静かに口を開いた。

 

「確かに以前の万丈目なら分からないけど、今の万丈目は違う。

それは代表デュエルで証明されているんだろ?

あの場にいなかった俺が分かるのに、何であのデュエルを見ていた皆は分からないんだよ」

 

代表デュエルに関しては十代からの又聞きなので、詳しいことは分からない。

それでも万丈目は兄の意思に従わず、自分の信念を貫いたと聞いた。

その彼が何故今回は兄達に屈すると思っているのだ。

 

「十代、聖星、余計なことを……

貴様らの助けはいらないと言っただろう」

 

「何を!」

 

「喧嘩している場合じゃないぜ」

 

今にも言い争いになりそうだった2人を、三沢が止める。

隣を見れば明日香も一緒に歩いてきた。

彼女達も今回の事は耳に入ったようで、協力を申し出にきたようである。

 

「話は全部聞いた」

 

「私達にできることがあったら言って」

 

「協力するぜ」

 

「断る」

 

万丈目はこれは俺の問題だと言うかのように背中を向ける。

確かに彼の性格を考えれば素直に協力を受け入れるとは思えない。

だが、学園がかかっている以上気軽に傍観するという選択肢はなかった。

それを証明するかのように、別の人物が万丈目に声をかけてきた。

 

「そう尖るな。

デュエルで負けるならまだしも、このままじゃデュエルすることが出来ないんじゃないのか?」

 

「カイザーの言う通りだ、万丈目。

ここで皆の協力を断るのは得策じゃない」

 

なんと、一緒に合流したのは珍しい組み合わせである。

まぁ、同じ寮なので途中で出くわし、そのまま来たという事も考えられるか。

2人の言葉に翔は怪訝そうな表情を浮かべて理由を聞いた。

 

「どういうこと、お兄さん、取巻君」

 

「ないんだよ、カードが。

攻撃力500未満の」

 

「え?」

 

「カードがない?」

 

「遊城、不動。

万丈目の性格を考えてみろ」

 

万丈目は魔法や罠のサポートで相手のモンスターを翻弄し、圧倒的なパワーで畳みかけるパワーデッキ。

当然、デッキに入っているモンスターの攻撃力は総じて高い。

その彼が攻撃力500未満のカードを所持しているわけがない。

中学の頃から万丈目と共にいた取巻は誰よりもそれを知っているのだ。

少しだけ自嘲気味に笑った万丈目は、ポケットから1枚のカードを見せる。

 

「俺が持っている攻撃力500未満のカードといえば、これ」

 

それはノース校で奇妙な縁を結んでしまった、攻撃力0の【おジャマ・イエロー】だった。

 

「「「えぇえええええ!!!!???」」」

 

校舎内に響く驚きの声に、【星態龍】と【スターダスト】は思わず耳を塞ぎそうになる。

だが、そんな2人など気にせず十代と聖星は両目を見開いて万丈目に詰め寄った。

 

「それじゃあ、デッキも組めないって事かよ!?」

 

「バーンデッキにする?

チェーンバーンなら構築次第ではモンスターいらないし、手軽に組めるぜ?

あ、慕谷はいまどこにいる?

あいつ、確かロックバーンデッキだったよな??」

 

万丈目がカードを持っていない以上、モンスターを抜きにした構築を考える必要性がある。

聖星が何枚か貸すという手もあるが、彼の性格上断る可能性が高い。

これから万丈目に自力でカードを当ててもらう事を考えると、非現実的で頭が痛い。

すると、今までこの会話を見守っていた大徳寺が話に入ってくる。

 

「噂で聞いただけなのですが、この島に1か所だけそれを手に入れるかもしれない場所があるのにゃ」

 

「え?」

 

「決してしてはいけない事ですが……」

 

このアカデミアが建っている島はそれなりに歴史があり、古井戸があるそうだ。

昔の生徒達は余った弱小カード達をその井戸に捨てていたそうだ。

しかも、ここから厄介な話で、カード達は捨てられた恨みで悪霊化しており、近づいた者達を呪うという。

 

「カードを捨てるって……

酷いことを」

 

無意識のうちに零れた言葉に、【スターダスト】は慰めるように聖星に擦り寄った。

だが、その最低な生徒達のおかげで希望の光が見えた。

何とも皮肉な事だろう。

聖星の言葉が聞こえてない万丈目は、呪われるかもしれないという言葉に真っ向から返す。

 

「構わん、例え呪われても俺はカードを手に入れねばならん!

俺はこの学園を守らねばならんからな!」

 

**

 

「って、何でお前達がついてくる!」

 

カードを回収するためにバッグを肩に背負う万丈目は、自分の後ろにいる十代と聖星に問いかける。

空はまだ青く、森も太陽の光のおかげで視界がはっきりしている。

夕暮れまでにまだ時間はあるが、早く回収した方が良いだろう。

万丈目の苛立ちが混じった問いかけに、十代と聖星はそれぞれの理由を口にする。

 

「いや~、学園の未来がお前の肩にかかってるんだぜ。

悪霊が出てきたら、お前を守らないと」

 

「カードの悪霊が本当にいるのなら、精霊が見える者として放っておけない。

まぁ、何が出来るかは分からないけど……」

 

2人の言い分に、万丈目は深いため息をつく。

悪霊から守るというのは分かるが、この自分が十代に守られるのは気に入らない。

そして聖星は何が出来るか分からないのに着いてきたという、とんだ甘ちゃんだ。

まともに相手をしていたら疲れるだけだと結論付けた万丈目は、止めた足を再び動かす。

深い森の中へ進む3人の少年を見守りながら、【星態龍】は大徳寺の言葉を思い出した。

 

「そもそも大徳寺の話が眉唾物ではないか?

半年以上この学園にいたが、悪霊らしい力など感じたことなどないぞ」

 

「グルル……」

 

それは【スターダスト】も同意見のようで、生き物の気配が微かに感じられる森の中を見渡す。

本当に悪霊がいるのなら小鳥の気配や囀りが聞こえないはずだ。

これならカードが捨てられていた事は事実であり、二度と心無い生徒が井戸に近づかないようにする作り話というほうが現実味がある。

 

「バカバカしい。

カードの悪霊なんているわけ、うわぁ!?」

 

【星態龍】の言葉を肯定しようとした万丈目は、突然現れた白色の塊に悲鳴を上げる。

発光しながら浮遊しているそれは聖星達を見下ろすかのように動き回り、狙いを定めている。

 

「やっぱりでやがった」

 

「ひえ~、大徳寺先生の話は本当だったってわけか」

 

「【星態龍】、何も感じないって言ったよな?」

 

「こいつらの気配が薄すぎるんだ」

 

高位の精霊である彼でも感知できないなど、どれほど影が薄いのだ。

自分の姿を何とか保っている悪霊達は寒気を覚えるような笑みを浮かべながら聖星達に突撃してきた。

皆は襲ってくる悪霊に対して構えたが、3人の前に巨大化した【スターダスト】が現れる。

 

「グルゥウウワァ!!!」

 

「ひっ、ひぃ~~!」

 

体だけではなく、森全体を震え上がらせるほどの唸り声は悪霊に効いたようで、彼らは情けない声をあげながら姿を消していく。

闇の力を祓える【スターダスト】が相手なのだ、いくら悪霊化していても低レベルの精霊では敵うわけがない。

完全に追っ払ったことを確認した【スターダスト】はいつもの大きさに戻り、聖星の肩に着地する。

 

「【スターダスト】、守ってくれてありがとう。

でも、少しやりすぎちゃったみたいだな……」

 

お礼の意を込めて頭を撫でると、もっと欲しいというように擦り寄られる。

素直に可愛いなぁと思いながら撫で続けるが、耳を澄ますと【スターダスト】の威嚇で驚いた小鳥や動物達が逃げる音が聞こえてくる。

人間より敏感な動物は、あの程度でも感じ取り、命の危機を覚えるようだ。

少しだけ申し訳なく思いながら進むと、それらしい古井戸を発見する。

 

「お~、井戸だ、井戸!」

 

「やかましい、見れば分かる!」

 

降りるために必要な縄梯子を放り投げると、地面と梯子がぶつかった音が聞こえてくる。

どうやら梯子の長さは足りたようで、井戸水がない部分があるようだ。

少しだけ安堵しながら降りていくと、水は一切なく、地面には様々なモンスターカードが無造作に捨てられていた。

 

「ここがカードの墓場か」

 

「成程、弱っちぃカードばかりだ」

 

殆どが通常モンスターだと思っていたが、意外と効果モンスターも多い。

面白い効果を持っているというのに、やはり攻撃力0だから捨てられたのだろう。

さて、ここにあるカードを全て持って帰るのか、それとも何枚か選ぶのか。

万丈目に尋ねようとすると、2体の精霊が現れる。

 

「やいやいテメェら、何しに来やがった!?」

 

「何しに来やがった!?」

 

「まさか捨てられた俺達の恨みを忘れたわけじゃねぇだろうな!」

 

「ねぇだろうな!」

 

カードから出てきたのは【おジャマ・ブラック】と【グリーン】。

万丈目の元には【イエロー】がおり、彼らの精霊が同じ場所に揃う事は偶然だとしても凄いことだ。

聖星が心の中で感動している事を知らない万丈目は、突然現れた2人に対して全く恐怖心を抱かずそっけなく返した。

 

「知るか、俺が捨てたわけじゃない」

 

「野郎、やるなら相手になってやるぜ!」

 

「なってやるぜ!」

 

「来るなら来い、ろくな攻撃力のないお前達に何が出来る?」

 

その言葉は事実だったようで、2人の表情が一瞬にして歪む。

これは怒りを買ったかと思ったが、小さな瞳と大きな瞳からは大粒の涙が零れ落ち、大きな声をあげて泣き出した。

あまりの煩さに聖星達は両耳を塞ぐ。

自分達の無力さを嘆く【おジャマ・ブラック】の言葉に感化されたのか、今まで隠れていた精霊達も涙目で姿を現した。

 

「俺達はやっぱり落ちこぼれよ!

こんな奴ら脅すことも出来ないなんてよ!

せめて、弟が見つかれば兄弟3人力を合わせてもう少し何とかなるかもしれないのによぉ!」

 

「弟よ、どこ行ったんだよ」

 

「「【おジャマ・イエロー】よぉ!!」」

 

「おいらの事、呼んだ?」

 

「え?」

 

ひょっこりと顔を出した【イエロー】の姿に、【ブラック】達の表情がまた一変する。

先程の絶望感に囚われた悲しげな顔ではなく、希望に満ちた顔だ。

幻覚だと思うが、彼らの周りに薔薇の花やキラキラと輝く何かが見える。

【イエロー】は【ブラック】と【グリーン】の事を兄と呼び、その胸に飛び込んでいった。

 

「そうか、お前らは兄弟だったのか」

 

「何とも見苦しい再会シーンだ」

 

「万丈目、そんな言い方は駄目だろ」

 

聖星の言葉に万丈目はフンと鼻を鳴らし、この場から帰ろうとする。

その時、この場にいる精霊達がここから出してほしいと涙目で懇願した。

精霊達が一斉に「出してくれ」と訴える姿は見ていて痛々しい。

 

「こんな暗いところで一生を過ごすのは嫌だよな……」

 

「私とて真っ平ごめんだ」

 

「グルル……」

 

「万丈目」

 

十代が困ったような顔を向ければ、万丈目は難しい顔を浮かべながら「分かった、こいつらは俺が面倒を見る……」と言い切った。

瞬間、精霊達の歓喜の声が木霊する。

彼らの喜びようは凄まじく、【星態龍】は真顔である事を思い出す。

 

「……おい、まさか万丈目のやつ、あの狭い部屋にこいつら全員入れる気か?」

 

「これから毎日お祭り騒ぎは確定だろうな」

 

ブルー寮の部屋ならなんとかなるが、流石にレッド寮の部屋は狭すぎるだろう。

何人かは聖星が引き取ろうかと考えたが、すっかり精霊達は万丈目に懐いてしまったようで、1人1人彼に向かってキスをしている。

井戸の中で必死に追いかけっこをしている友人の姿に、聖星は苦笑を浮かべるしかなかった。

 

**

 

そしてデュエルの結果は、無事に万丈目が勝利を収めた。

最初、万丈目に与えられたハンディは攻撃力500未満のカードだったが、万丈目はそれより厳しい攻撃力0のモンスターのみでデッキを構築した。

長男・長作が召喚する高レベルのドラゴン達に圧倒されながらも、持ち前のタクティスでその攻撃をはねのけ、【おジャマ・デルタハリケーン】で場を一掃。

最後は攻撃力3300の【カオス・ネクロマンサー】でとどめを刺した。

無事に友人がこの学園を守り切った姿を見届けた聖星と取巻は、寮に戻るため森の中を歩いている。

 

「はぁ、見ていてハラハラした……」

 

「うん。

本当に勝ててよかった」

 

疲れたようにため息をつく取巻に対し、聖星は少し楽しそうにしていた。

普段から微笑む顔がデフォルトのため、多少の事なら違和感はないが、今は妙に声も弾んでいる。

 

「どうしたんだ、不動。

そんなに万丈目が勝って嬉しいのか?」

 

「それもある。

けど、何か万丈目のデュエルに触発されたせいか、新しいデッキ組みたくなってきたんだ」

 

あぁ、成程。

確かにあれほど立派な逆転劇を見せられては、デッキを組む意欲が刺激されて当然か。

デッキを1つしか持たない取巻だったらデッキ内容を弄る程度で終わるが、聖星は1からデッキの構築を練るだろう。

ならば明日か次の実技の授業辺りでそのデッキのお披露目会があるはずだ。

 

「低攻撃力のデッキでも組む気か?」

 

「あぁ、【フォーチュンレディ】や【ゴーストリック】でも良いな。

あ、でも【フォーチュンレディ】は1回組んだっけ」

 

【フォーチュンレディ】と【ゴーストリック】。

聖星の口から放たれたカードの名前は、2つとも取巻が聞いたことのない名前だ。

一体何のカードかと思って聞こうとしたら、それより先に背後から声がかかる。

 

「何だ、それ?

そんなカード聞いたことないぜ」

 

「【フォーチュンレディ】はレベルによって攻撃力が変動する魔法使い族で、【ゴーストリック】はリバース効果を得意とするモンスター達さ」

 

「へぇ、楽しそうだな!

デッキを組んだらすぐに俺とデュエルしてくれよ!」

 

「あ、ずるいぜ!

聖星、デッキが組み上がったらまずは俺とデュエルな!」

 

「うーん、構築に少しかかるから出来上がるのは明後日かな。

それでも良い……

って、え?」

 

新たに加わった2人の声に、聖星は勢いよく振り返る。

それもそのはず、1人の声はともかく、もう1人の声をこの島の森の中で聞くことはあり得ないのだ。

振り返った先には満面な笑みを浮かべる十代と、このアカデミアでは見る事のない紫の制服に身を包んだ少年が立っていた。

 

「ん、どうしたんだ、聖星?」

 

まるで悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべている少年は、ドヤ顔で聖星を見ている。

見事に驚かされた聖星は口を金魚のようにぱくぱくとさせ、自分の目を疑っているのか何度も目をこする。

しかし、目の前に立っている少年は間違いなく彼で、隣に立っている十代に負けない程眩しい笑顔を浮かべていた。

 

「な、な……

何でいるんだよ、ヨハン!??」

 

「何でって、留学してきたに決まってるだろ」

 

「えぇ!!?」

 

普段からそんなに声を荒げない聖星が珍しく慌てている。

ヨハンと聖星の関係を知らない取巻は不思議そうな顔を浮かべるしかない。

とりあえず、今の段階で分かる事は、聖星にとってヨハンの留学は予期せぬ出来事というくらいだ。

 

「おい、不動。

彼は一体誰なんだ?

そして、何で遊城と一緒にいる」

 

「あ、それは俺が説明するぜ」

 

どうやら混乱している聖星に代わり、十代が現状を説明してくれるようだ。

きちんとわかりやすい説明であることを願いながら、取巻は彼の話に耳を傾けた。

時を遡る事数十分前、十代と万丈目はいつものようにくだらない事を話しながら校舎を出た。

 

「ん、何だ?」

 

「様子がおかしいな」

 

森の中を抜け、レッド寮に向かう十代達はイエロー寮が騒がしい事に気が付いたのだ。

寮の門の前に人だかりが出来ており、出入りをしている生徒達も少しだけ足を止めてはすぐにその場から立ち去っている。

その中に見慣れた背中姿があり、万丈目はその人物に声をかける。

 

「神楽坂、どうした。

妙に騒がしいな」

 

「あ、あぁ……

実は変な奴が来ていて、今三沢が対応しているんだ」

 

「変な奴?」

 

困ったような表情を浮かべながら簡単に説明された言葉に、十代と万丈目は顔を見合わせた。

神楽坂につられて生徒達の視線の先を見てみると、確かに妙な少年が三沢と何か話していた。

淡い青紫の衣装を身にまとっている少年は、襟元の形からアカデミアの関係者だと分かるが、整った顔立ちは欧米人のものだ。

 

「転校生か?」

 

「バカめ、それならレッドの制服を着ているはずだ」

 

十代の言葉に万丈目はすぐに突っ込む。

このアカデミアで外国出身の関係者といえばクロノス教諭くらいだが……

教育実習生にしては若すぎる、一体あの少年は何者なのだろうか。

すると三沢と話していた少年が大げさに反応する。

 

「えー!?

聖星のやつ、もうこの寮にいないのか!?」

 

不意に少年が口にした名前に、十代達は再び少年を凝視した。

待て、何故彼の口から友人の名前が出てくるのだ。

少年と直接会話をしている三沢はこちらに気づいていないようで、強く頷いてPDAを差し出した。

道を教えているのか、2人で画面とブルー寮がある方角を交互に見ている。

そんな2人に対し、十代はすぐに声をかけた。

 

「よぉ、三沢。

そいつ誰だ?」

 

「十代」

 

多数の生徒達の波をかき分けながら前まで来た十代は、改めて少年を凝視する。

青い髪に透き通る緑色の瞳を持つ少年は、三沢の視線を追って振り返った。

少しだけ釣り上がっている目元が怖い印象を与えるが、それはすぐに柔らかくなり、十代の頭上から足元までじっくり観察してくる。

 

「十代?

もしかして、君が遊城十代?」

 

「え、何でお前、俺の事知ってるんだ?

ってか、聖星の事も知ってるようだけど……

お前、誰だ?」

 

聖星の事だけではなく自分の事まで知っているとは思わず、十代はますます理解できないというように首を傾げる。

十代がこの島以外で有名になる切っ掛けと言えば、TV中継を行われた万丈目とのデュエルくらいだ。

しかし、それなら何故聖星の事を知っているのか理由にならない。

不思議そうな表情を浮かべる十代に対し、彼は不敵な笑みを浮かべながら名乗る。

 

「俺はヨハン・アンデルセン。

デュエルアカデミア・アークティック校から留学してきたんだ。

君の事は聖星から聞いてるよ」

 

「ヨハン……

あー、聖星が言ってた【宝玉獣】デッキのヨハン!?」

 

「そう、それ俺の事」

 

カイザーとカミューラがデュエルをする前、アークティック校に留学した聖星が少しだけ口にした名前だ。

万丈目と聖星曰く、この世に1つしかない【宝玉獣】デッキの使い手であり、デュエルの腕前は折り紙付きという。

デュエリストとしての本能か、いつかはデュエルしてみたいと思っていた人物だ。

まさかこんなに早く出会う事が出来るとは思わなかった。

 

「あ、そうだ。

いきなり会って悪いんだけど、ブルー寮まで案内してくれないか?

俺、方向音痴でさ。

ここにつくまでも迷ってさ、多分2時間ぐらいは森の中彷徨ってたんだ」

 

「2時間……」

 

ヨハンの言葉に十代は頬がひきつるのを覚え、詳しく理由を聞いてみる。

彼の故郷では特徴のある建物が多く、それを目印+精霊達の道案内でどうにかなった。

しかし、ここの大部分は森であり、特徴のあるものが少ない。

校舎は大きいため、とりあえずそこを目指せば辿り着けただろうが、寮となるとそういうわけもいかなかった。

彼の苦労話を聞いた十代は、ヨハンからのお願い事を引き受けることにした。

 

「というわけで、十代に案内してもらったのさ」

 

「……嘘だろ」

 

もうどこから突っ込めば良いのか分からない程混乱している聖星は両手で顔を覆いたかった。

ペガサス会長に頼み込んでヨハンがアカデミアに来ないよう色々と手をまわしたのに、何故来ることが出来たのだ。

無意識に険しい顔をしていたのか、ヨハンが少しだけ不満そうな声で尋ねてくる。

 

「何だよ、その顔。

俺が来て嬉しくないのか?」

 

「っ、嬉しいとか嬉しくないとかそれ以前の問題だ!

今アカデミアは危険なんだぜ!

セブンスターズは平気で人質を取るような連中だし、それにヨハンはデュエリストとしても狙われているんだぞ!

だから、絶対に来るなって言ったのに!

何で……」

 

来たんだ、この馬鹿!

そう言葉を続けるつもりだった。

だが、先程まで笑顔だったヨハンの表情が一瞬で能面のようになり、言葉が詰まってしまう。

同時にどれほど自分が酷い事を言っているのか自覚した。

そうだ、聖星がヨハンの身を案じて手をまわしていたのと同じように、ヨハンも聖星の事を思ってここに来たのだ。

 

「……ごめん、ヨハン。

言い過ぎた」

 

「……まぁ、聖星が言いたいことは分かる。

けど、今のは傷ついたぜ」

 

聖星と再会した時、ある程度文句を言われる覚悟はしていた。

しかし、まさかここまで言われるとは思わなかった。

流石に腹が立ったヨハンは再び笑みを浮かべ、聖星に近寄る。

まさか笑顔を向けられるとは思わなかった聖星は疑問符を浮かべたが、その顔はすぐに苦痛に歪む。

 

「え?

ぃ、痛い、痛い、痛い!」

 

あっという間にコブラツイストを決められた聖星は降参だ!とでも言うかのように叫ぶ。

しかしヨハンは止める気は一切ないようで、全く笑っていない目で聖星を見下ろしている。

一触即発状態な空気固まっていた十代と取巻は、ヨハンの行動に驚きながら止めるべきかこのままにすべきか迷った。

すると、2匹の精霊がヨハンのデッキから現れる。

 

「ヨハン、そのくらいにしておいたらどうじゃ?」

 

「ルビビ~」

 

「うわっ、吃驚した!

こいつ等、ヨハンの精霊!?」

 

突然現れた【エメタルド・タートル】と【ルビー・カーバンクル】の姿に十代は目を輝かせる。

自分達の姿が見える少年の言葉に【エメラルド】は優しく微笑み、ヨハンを見上げて足に自分の頭を押し付けた。

【ルビー】も彼の肩に乗って困ったような顔をする。

家族から止めなさいと言われては、これ以上続けるわけにはいかない。

ヨハンはため息をついて聖星を開放し、十代に振り返る。

 

「へぇ、聖星の言う通りだな。

やっぱり君もデュエルモンスターズの精霊が見えるんだ」

 

ここまで案内される時、十代に精霊について話しかけようと思った。

しかしそれより先に聖星と合流してしまい、結局確かめていなかった。

先程まで纏っていた怒りの雰囲気はなくなり、ヨハンは好戦的な笑みで十代を見る。

 

「あぁ、お前もか?」

 

「あぁ。

俺は子供の頃から見えていた。

君は違うのか?」

 

「あぁ、俺も小さい時から……」

 

ヨハンの言葉を肯定しようとした十代だが、彼は少しだけ目を見開き、何かを考えるかのように固まる。

その様子にヨハンと、やっと息を整えた聖星は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「十代?」

 

「どうしたんだ?」

 

「いや、何でもない」

 

声をかけられた十代はすぐに顔をあげ、無理に微笑んだ。

珍しい反応をした友人に聖星は取巻に振り返る。

何故俺を見るんだと視線で問いかければ、なんとなくという視線が返ってきた。

そこから調子を取り戻した十代とヨハンは、お互いの精霊について語り合っている。

 

「こいつは【ルビー・カーバンクル】、伝説上の生き物さ」

 

「ふぅーん、伝説って?」

 

「あぁ」

 

ルビルビと可愛らしく鳴いている【ルビー】の頭を撫でる姿は、精霊が見えない取巻からしてみれば異質だ。

しかし、十代と聖星の視線は間違いなく何もないヨハンの肩に向けられている。

確かにそこに何かがいると言っている3人の様子に、取巻は疎外感を覚えた。

 

「また精霊が見えるやつが増えたのか」

 

以前、万丈目は精霊が見えるようになったところで良いことはないと言っていた。

しかし仲の良い友人の殆どが見えるのに、自分だけ見えないというのは実に気分が悪い。

羨ましいやら、妬ましいやら、複雑な感情を抱きながら取巻は声をかける。

 

「それで、ヨハンだったか?

所属の寮はどこなんだ?」

 

「ん?

えっと、君は?」

 

楽し気に話していたヨハンは首を傾げる。

確かにまだお互いに自己紹介を済ませていなかったなと思い、取巻は素直に名乗る。

 

「オベリスクブルー所属の取巻太陽だ」

 

「俺はヨハン・アンデルセン。

デュエルアカデミア・アークティック校からの留学生だ。

オベリスクブルー所属って事は、デュエル強いのか?」

 

ヨハンからの問いかけに、自分は強いと返答できればどれほど良かったか。

確かに学園内では上位に位置しているが、周りにいる人間が人間だ。

カイザーと互角に戦う聖星に、レッドでありながらカイザーをあと一歩まで追い詰める十代。

その2人に連敗している身としては強いと断言できない。

 

「まぁまぁだ」

 

「まぁまぁ?」

 

取巻の悩みを知らないヨハンはその言葉に怪訝そうな顔を浮かべるが、だいたい察してくれたのだろう。

それから会話を発展させようとするが、ヨハンが空中に向かって指を動かす。

何かを撫でているように見える姿に取巻はある事を頼む。

 

「アンデルセン。

肩に誰が乗ってるんだ?

出来ればカードを見せて欲しい」

 

「え?」

 

「あぁ、ヨハンには言ってなかったっけ。

取巻は精霊を見る事は出来ないけど、精霊の存在を知ってるんだ」

 

「何で?」

 

ヨハンが驚くことも無理はないだろう。

幼い子供ならともかく、ある程度常識に縛られた年齢になると人間は見えないものに対し否定的になる。

見えない人間の前で精霊と対話すると、殆どの人間には気味悪がられたり、頭のおかしい人間と思われたりした。

 

「授業の一環でこの島にある遺跡を見学しようとしたら、異世界に飛ばされたんだ。

そこで遊城と一緒に【墓守】の精霊と闇のデュエルをしたんだよ」

 

「あれは吃驚したよな~

結局デュエルで勝っても【墓守】の連中、【長】の言葉に従わずに【審神者】と一緒に俺達を葬ろうとするし。

サラがいなかったらどうなってたんだろうな」

 

ほんの数か月前に起きた事件を思い出し、取巻の目から光が消えた。

十代は楽しそうに【墓守】とのデュエルをヨハンに語るが、取巻としては苦い思い出だ。

闇のデュエルの危険さはヨハンだって知っている。

しかし、精霊とのデュエルとなると、精霊が見える者として興味を持つのは当然だ。

ヨハンは目を輝かせながら2人に当時の話を詳しく聞き始めた。

これは長くなると察した聖星は、もうすぐ暮れそうな空を見上げてため息をついた。

 

END




やったね、ヨハン!
フラグ回収したよ!

次回は十代vsヨハンの予定です。
ネオスがない状態の十代vsヨハンだと、どちらに軍配が上がるか
さぁ、どうしようか

あと、今日のデュエリストフェスティバル参加したかったです
地方民には辛い
Aiのデュエルセット欲しかった……

あと、ブルーの制服を着た聖星を描いてみました

【挿絵表示】

画力は突っ込まないでください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十五話 宝玉VS英雄

聖星がブルーへと昇格した翌日、突然全校集会が開かれた。

急な話のため、一部の生徒達は眠たそうに欠伸をしたり、何のための集会かと話し合ったりしている。

カイザーも同級生と何故急に開かれたのか、その理由について言葉を交える。

 

「隣、良いかしら?」

 

「あぁ、構わない」

 

頭上からかけられた言葉に頷くと、明日香は静かにカイザーの隣に腰を下ろす。

反対側に座っている同級生達は、オベリスク・ブルーの妖精といわれる彼女の姿に頬を赤く染めた。

親友の妹に向けられる眼差しに気分が良いとは言えず、カイザーは警告するように横目で彼らを見る。

それだけで察してくれたのか、彼らは苦笑を浮かべながら前を向いてくれた。

 

「今朝、聖星の様子がおかしかったの」

 

「何?」

 

「別に悪い意味じゃないわ。

森の中ですれ違った時、誰かを探していたみたいなの」

 

「誰か?

……十代か?」

 

「いいえ、違うみたい」

 

朝食を済ませ、校舎に向かう途中に見かけた青い制服姿。

彼の姿はイエローの期間が長く、青色のコートに身を包む姿は新鮮であり違和感がある。

挨拶をしようと近寄れば、聖星は誰かに電話をしていたみたいだ。

 

「え、湖、いや、海に出た?

何で、どうやったらそうなるんだよ??」

 

「どうしたの、聖星」

 

「明日香……」

 

「困りごと?」

 

そう、普段の彼はもっと穏やかで基本的に焦りの表情を見る事はない。

デュエルの最中でピンチになっても、たいていの場合笑っている。

だから珍しいという意味を込めて尋ねれば、聖星は困ったように笑う。

 

「ありがとう明日香。

けど、大丈夫」

 

「でも、さっきの会話を聞いていたけど、大丈夫そうには見えなかったわ。

また十代が何かしたの?」

 

「いや、十代は関係ないよ。

ただ、今日の集会に関係ある事で……」

 

「え?」

 

それ以上、詳しく聞くことは出来なかった。

携帯越しの相手の発言に頭を抱えたようで、聖星は「ごめん、急いでるから。また後で」という台詞を残して走り去ってしまう。

追いかけようと思ったが、聖星は足が速く、森の中に紛れた青を探すことは出来なかった。

1人森の中に取り残された明日香は難しい顔をするが、今日の集会で分かることなのだ。

ならば後で詳しく聞けばいいと結論を付け、ここまで来たのだ。

 

「集会に関係がある?

となるとI2社関係か?」

 

「さぁ」

 

自分達が知らず、聖星が知っているとなると、聖星の立場を考えてI2社関連の事が思い浮かぶ。

他に何かあるだろうかと考えていると、聖星と十代、取巻の3人が入ってくる。

十代は相変わらずだが、他の2人は少しだけ疲れたような表情を浮かべていた。

聖星と取巻はカイザー達より少し下の席を選び、十代は翔と隼人が待つレッド寮の席へ向かった。

 

「随分と疲れ切っているようだな」

 

「誰かを探すために森の中を走り回っていたみたいだし、当然ね。

取巻君と十代も一緒だったのかしら」

 

すると、舞台端からクロノス教諭が姿を現す。

何か良いことがあったのか、普段より深い笑みを浮かべている。

会場内にマイクのスイッチが入った音が響くと、にこにこと笑っているクロノス教諭が話し始めた。

 

「全校生徒の皆さん。

新しい友達が出来たノ~ネ」

 

「新しい友達?」

 

「転校生か?」

 

まるで小学校の教師が言いそうな台詞だが、これ以上分かりやすい言葉はないだろう。

しかしこの時期に転校生など珍しい。

いや、カイザーを追っかけてレイという少女も時期を気にせずアカデミアまでやってきた。

少し前に起こった出来事を思い出し、少し遠い目をしたカイザーは耳に入ってきた言葉を疑う。

 

「皆さん知っての通り、デュエルアカデミア~には、世界各国に分校があるノ~ネ。

そのなかの1つ、デュエルアカデミア・アークティック校から留学生が来てくれたノ~ネ」

 

「えぇ!?」

 

「成程、だから聖星は知っていたのか」

 

会場内響いた学校名に明日香は大きなリアクションをし、それに対してカイザーは聖星の様子に納得する。

聖星は短い期間だがアークティック校に留学していた経験がある。

恐らく、留学生は聖星と交友があったのだろう。

 

「それで~は、留学生を紹介するノ~ネ」

 

マイクを持っていない左腕を高く上げ、留学生が登場する方向を見る。

全校生徒の視線がそこへ向かおうと、奥から綺麗な青い髪を持つ少年が姿を現した。

人懐こい笑みを浮かべ、手をあげながら前へと歩む彼はクロノス教諭の隣に立つ。

 

「彼は1年生のヨハン・アンデルセンなノ~ネ。

皆さん、仲良くするように」

 

短くまとめたクロノス教諭はそのままヨハンにマイクを渡す。

受け取ったヨハンは人好きのする笑みを消し、好戦的な表情をして挨拶を述べ始めた。

 

「初めまして、ヨハン・アンデルセンです。

以前、俺が在学しているアークティック校にデュエルアカデミアから留学生が来ました。

その彼がこのアカデミアの素晴らしさ、そして、強いデュエリストがたくさんいることを話してくれました。

俺はその話を聞いて、絶対にこのアカデミアに留学すると決めたのです。

そして、それが今日叶いました」

 

好戦的な笑みに違わず堂々とした性格である彼は、全校生徒達を見渡しながらここへ来た経緯、目標を話していく。

力強く話される自己紹介は何か引き込まれるものがあり、生徒の皆は聞き入っている。

ただ立っているのではなく、マイクを持っていない手を動かしながら話す言葉は聞いていて心地が良い。

自然とデュエリストとしての闘志が刺激されるようで、カイザーも無意識に笑みを浮かべていた。

 

「(ヨハン・アンデルセン……

世界に1つしかない【宝玉獣】デッキの使い手)」

 

聖星が絶賛し、闇のデュエリストに狙われるほどの実力を持つ少年。

今後プロデュエリストになってもデュエル出来る機会がそう何度もあるとは思えない相手。

その少年が、自分と同じアカデミアにいるのだ。

二度とない好機にカイザーは自然と拳に力が手に入り、この後の予定を立てる。

 

「(彼が【宝玉獣】使いだと知っているのは俺達鍵を持つ者、そして聖星と親しい者……

恐らくだが、この後デュエルに挑む余裕はあるはずだ)」

 

もしヨハンのデッキがこの世に1つしかないものだと分かれば、アカデミア中の生徒がデュエルを申し込むだろう。

そうなってしまえば自分の番がくるのは数日後になる可能性がある。

そうなる前にデュエルをしたい。

獲物を狙う猛獣の眼差しをヨハンに向ける時、ヨハンは今までにないくらい不敵な笑みを零した。

 

「俺はこの学園に来たら、あるデュエリストにデュエルを申し込むと心に決めていました」

 

その言葉に会場内がざわめきだす。

海の向こう側から来た少年が最初に指名するデュエリスト。

自然とアカデミアの生徒達はこの学園の強者達に視線を向けた。

ある者は万丈目へ、ある者は明日香、ある者は三沢、そして、ある者は……

 

「オシリス・レッドの遊城十代。

君にデュエルを申し込む!」

 

全校生徒の視線が、オシリス・レッドの席にいる十代に注がれる。

当の本人は一瞬だけぽかんとした顔をしていたが、現状を把握できたのかその顔は満面な笑みになった。

そのまま勢いよく立ち上がった十代はヨハンに向けて不敵な笑みを浮かべた。

 

「おう、受けて立つぜ、ヨハン!!」

 

交わる視線。

とても良く似た表情をしている2人の背後には闘志が燃え上がっている。

これは面白いデュエルになるだろう。

これから行われるデュエルは盛り上がると確信したカイザーは早く全校集会が終わって欲しいと願った。

クールに見えてデュエルバカのカイザーがそう考えているとは知らない取巻は、隣で少し眠たそうにしている聖星に話しかける。

 

「まさか、いきなり遊城にデュエルを申し込むとはな。

てっきり不動を指名するかと思った」

 

「いや、それはないって。

俺とヨハン、何度もデュエルしたし」

 

「それもそうか」

 

欠伸を噛み殺しながら返された言葉に納得する。

流石に聖星の全力デッキとは戦ったことはないようだが、何度もしているのなら初めてデュエルする相手を指名するのは当然だ。

 

「とりあえず、集会が終わったらヨハンを迎えに行くよ。

また迷子になったら困るし」

 

「……よく昨日はイエロー寮まで辿り着いたな」

 

いくら何でも校舎内で迷子になる事はないと思いたい。

しかし、全校集会での打ち合わせもあり、校舎まですぐだからと1人でブルー寮を出たヨハンを思い出す。

精霊達を連れた背中を見送り、準備もできたから自分達も行くかと寮を出ようとした時。

聖星宛に「迷った、どうしよう」というメールが届き、2人揃って真顔になったのだ。

結局【宝玉獣】達の姿が見える十代にも協力してもらい、3人でヨハンをクロノス教諭達の元へ連れて行った。

今後はこのネタで弄ってやると心に決めた取巻は、どんなデュエルになるのか想像する。

 

**

 

場所は全校集会を行った会場からデュエル場へと移った。

留学生とオシリス・レッド期待の星のデュエルであるため、観客が非常に多い。

聖星は取巻、カイザー、明日香と一緒に万丈目達と合流する。

着席した皆はデュエルディスクを構えた2人に注目し、デュエルが始まるのを待った。

 

「「デュエル!!」」

 

「俺のターン、ドロー!

俺は【E・HEROクレイマン】を守備表示で召喚。

カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「俺のターン!」

 

先攻を取った十代は堅実に場を整え、ヨハンにターンを送る。

ゆっくりとデッキからカードをドローしたヨハンは笑みを浮かべ、手札に来てくれた家族の名前を呼ぶ。

 

「【宝玉獣トパーズ・タイガー】を召喚!」

 

「来るか【宝玉獣】!」

 

カードをディスクにセットする音と共に、場に煌びやかな黄色の光が満ち溢れえる。

十代や万丈目達は初めて見る輝きに目を見開き、ある生徒はその美しさにため息をついている。

 

「綺麗……」

 

「あぁ」

 

明日香とカイザーもその美しさに見惚れ、それ以上の言葉が出てこなかった。

光が治まるとその場には雄々しい虎のモンスターが現れる。

 

「ぐわぁああ!!」

 

「頼んだぜ【トパーズ】」

 

「成程、最初の相手は聖星が言っていた十代か。

ヨハン、先陣は任せろ」

 

自信家のようで勝気の笑みを浮かべた【トパーズ・タイガー】はヨハンから十代に視線を移し、どのような人物なのか観察するように見つめる。

十代の瞳に宿っているのはデュエルに対する熱い想いと、精霊に対する好意が見える。

 

「すげぇ、ヨハンの精霊って喋るやつが多いのか?」

 

「さぁ、それはデュエルを続けてからのお楽しみさ」

 

「……兄貴とヨハン君、何をしゃべってるんすか?」

 

「下らん社交辞令だ」

 

「不動、翻訳頼む」

 

「相手は十代か、俺に任せろって言ってる。

【トパーズ・タイガー】は【宝玉獣】の中でも1、2を争うほどの好戦的でね。

今にも【クレイマン】に飛びかかろうとしている」

 

聖星の説明に取巻は小さく頷き、再びフィールドを見る。

自分の目にはモンスター同士がその場に立っているようにしか見えないが、聖星と万丈目の目には違いものが見えているのだろう。

見えるとまではいかないが、聞くことが出来る隼人は好戦的と言った聖星の説明に同意した。

 

「【トパーズ・タイガー】に装備魔法【宝玉の解放】を装備。

これで【トパーズ・タイガー】の攻撃力は800ポイントアップする」

 

【トパーズ・タイガー】の攻撃力は1600と、守備力2000の【クレイマン】には届かない。

しかし、【トパーズ・タイガー】の宝石が輝きだし、攻撃力が2400まで上がった。

 

「バトル!

【クレイマン】に攻撃!」

 

「ガァアアア!!!」

 

ヨハンの攻撃宣言と共に駆け出した【トパーズ・タイガー】は【クレイマン】を切り裂き、爆発する。

モンスターが爆発した時に生じた煙で視界が悪くなるが、十代はすぐに伏せカードを発動する。

 

「くっ、罠発動!

【ヒーロー・シグナル】!

ヒーローが戦闘で破壊された時、意思を継いだ仲間を特殊召喚できる!

来い、【E・HEROフォレストマン】!」

 

「はぁ!」

 

「【フォレストマン】……?」

 

十代が召喚したのは、その名に相応しい体を持つモンスターだ。

肉体は木でできているのか、体から葉っぱが生えている。

ヨハンの知識では【E・HERO】と名がつくモンスターに【フォレストマン】というモンスターはいなかったはずだ。

初めて見るモンスターにヨハンは十代にデュエルを申し込んだのは正解だと実感した。

 

「場にモンスターが残ったか、しょうがない。

俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

場をがら空きにしたかったが、状況は先程と殆ど変わっていない。

守備力2000のモンスターが場に残っているのは良い状況とは言えない。

何とかモンスターを繋げた十代は、次にどんなモンスターが出てくるのかわくわくした表情をしている。

 

「クリリ~」

 

不意に聞こえてきた可愛らしい声に、十代はデッキを見下ろす。

すると半透明の【ハネクリボー】が現れ、十代の肩に乗ってきた。

 

「ん、どうした相棒?」

 

「クリ~」

 

どうやらデッキの中からではなく、外に出てこのデュエルを見たいようだ。

珍しいなと思いながらも大切な相棒が隣にいる事を嬉しく思い、十代はヨハンに向き直る。

 

「へぇ、それが君の精霊の【ハネクリボー】?」

 

「あぁ。

俺の1番の相棒さ!」

 

「な~」と声をかければ、嬉しそうな声が返ってくる。

見ていて微笑ましい2人の様子にヨハンも自然と優しい眼差しになる。

ヨハンにとって【宝玉獣】達は大事な家族だが、十代と聖星にとっては相棒なのだ。

自分達とは違う関係を築いている彼らが微笑ましいのだろう。

 

「俺のターン、ドロー!

スタンバイフェイズ時、【フォレストマン】の効果が発動する。

【フォレストマン】はスタンバイフェイズ時に場に存在するとき、デッキから【融合】を手札に加える事が出来るのさ」

 

「【融合】カード……

来るか?」

 

「あぁ。

手札から【融合】を発動!」

 

十代が手札から見せたのは【融合】と2体のモンスター。

風を味方につけた英雄と、彼の相棒である凛々しい女性の英雄である。

十代の場に融合召喚を行うための歪みが現れ、その前に2人が光と共に場に姿を出す。

そのまま2人の英雄は融合し、お馴染みのヒーローとなって舞い戻る。

 

「手札の【フェザーマン】と【バーストレディ】を融合!

来い、【E・HEROフレイム・ウィングマン】!」

 

「はぁ!」

 

「こいつが俺のフェイバリットカード、【E・HEROフレイム・ウィングマン】だ!」

 

「へぇ、そいつが十代のフェイバリットカードか!

なるほど、かっこいいぜ!

だが、【トパーズ・タイガー】の方が攻撃力は上だ。

どうするつもりだ?」

 

そう、融合の力によって召喚された【フレイム・ウィングマン】の攻撃力は2100。

自身の宝玉の力を解放している【トパーズ・タイガー】には300ポイント届かない。

しかし、十代にとって敵がヒーローより強いのは燃える展開なのだ。

 

「確かに【フレイム・ウィングマン】じゃ【トパーズ・タイガー】には敵わない。

けどな、ヒーローが強敵と戦うために相応しい舞台があるんだぜ!」

 

「え?」

 

「手札から装備魔法【フェイバリット・ヒーロー】を発動!」

 

十代が発動したのは【フレイム・ウィングマン】が技を放っている絵柄の装備魔法だ。

彼は相応しい舞台と言ったから、てっきりフィールド魔法が発動されると思った。

そして装備魔法を装備したというのに【フレイム・ウィングマン】に変わった点は見られない。

不思議そうに首を傾げると、十代がバトルフェイズに入る。

 

「行くぜ、バトルフェイズだ!

この瞬間、【フェイバリット・ヒーロー】の効果でフィールド魔法を発動する!」

 

「はぁ、何だよ、その効果!?」

 

「フィールド魔法【摩天楼-スカイスクレイパー-】をデッキから発動」

 

1枚のカードをヨハンに見せた十代はそのカードを発動し、デュエルディスクから放たれた光がフィールドを包み込む。

すると地響きが起こり、2人の足元から高層ビルが出現し始めた。

ビルは次々と現れ、十代とヨハンを囲ってしまう。

明るかった天井は一瞬で夜になり、ネオンの光が街を包み込んでいた。

 

「へぇ、まるでアメコミの世界だな」

 

「へへへっ、行くぜ、ヨハン!

【E・HEROフレイム・ウィングマン】で【トパーズ・タイガー】に攻撃!」

 

「なっ!?

攻撃力は下だぜ?」

 

「それはどうかな?

【摩天楼-スカイスクレイパー-】がある時【フレイム・ウィングマン】の攻撃力は守備力の分だけあがるんだ!」

 

その言葉にヨハンは理解した。

この場で最も高いビルには腕を組んだ【フレイム・ウィングマン】が立っており、【トパーズ・タイガー】を見下ろしている。

狙いを定めた【フレイム・ウィングマン】は飛び上がり、重力による加速で攻撃の威力が上がる。

 

「攻撃力3300!?」

 

「フレイム・シュート!!」

 

十代の叫び声と共に【トパーズ・タイガー】は貫かれ、激しい爆発が起こる。

家族が破壊された衝撃と共にヨハンのライフが4000から3100に下がってしまう。

翔はその様子に嬉しそうにはしゃぐ。

 

「よし、これで【フレイム・ウィングマン】の効果が発動すれば、ヨハン君ライフは更に削られるっす!」

 

「いや、まだだ」

 

「え?」

 

会場の歓喜に飲み込まれた翔に対し、聖星は冷静にそれを否定する。

自分の前の席に座っている聖星を見下ろせば、彼はいつものように微笑んでいた。

 

「まだ、【トパーズ・タイガー】はあそこにいる」

 

「どういう事なんだな、聖星?」

 

翔の隣に座っている隼人にも聞こえていたのか、聖星へ問いかけた。

その言葉に返ってくる音はなく、聖星はただ穏やかに笑って高層ビルと爆風が映し出されるフィールドを見ている。

視界が晴れていくにつれ、十代は違和感を覚えた。

 

「何?」

 

ネオンの光が満ち溢れるこの世界に、科学の力では表現できない明かりがあるのだ。

考えていると、美しい宝石が姿を現す。

 

「えっ、どういう事だ?」

 

「残念だったな、十代。

これが【宝玉獣】の特殊能力。

【宝玉獣】達は破壊されても宝玉として場に残るのさ」

 

「何だよそれ、すっげぇ!」

 

普通のデュエルなら破壊されたモンスターは墓地に送られてしまう。

しかし、彼が扱う【宝玉獣】は宝石としてヨハンの前に留まり続ける。

今までにないタイプのモンスターに十代は目を輝かせる。

 

「そして【宝玉の解放】のもう1つの効果が発動する!

このカードが場から墓地へ送られた時、デッキから宝玉を出す」

 

ヨハンは【宝玉の解放】のカードを墓地に送り、デッキから1枚のカードを抜く。

それを魔法・罠ゾーンにセットすると、紫色の宝石が現れた。

彼が選択したのは【宝玉獣】の紅一点である【アメジスト・キャット】のようだ。

 

「あ~、どんなモンスターなんだ。

凄く見たいぜ。

だが、俺達だってまだ終わらない。

【フェイバリット・ヒーロー】の第3の効果が発動する」

 

「まだ効果があったのか!」

 

「あぁ。

相手モンスターを破壊した時、【フェイバリット・ヒーロー】を墓地に送る事で【フレイム・ウィングマン】はもう1度バトルできる」

 

「何!?」

 

説明された効果に驚くと、ヨハンの前に影が出来る。

見上げれば【フレイム・ウィングマン】が自分を見下ろしており、黄色の瞳と視線がかち合う。

無意識にやべっ、という声を漏らすと【フレイム・ウィングマン】が左手を出す。

ヨハンに向かって炎を吐き出す。

 

「うわぁああっ!!」

 

体を焼く程の熱に悲鳴を上げたヨハンはその場に膝をつく。

ライフが3100から更に2100削られ、残りは1000となる。

まさか1ターンでライフの4分の3を削られるとは思わなかった。

留学生ではなく、在学生が先にライフを削ったことに会場は大きく湧きあがる。

 

「俺はターンエンドだ」

 

「俺のターン、手札から【レア・ヴァリュー】を発動!

場の宝玉を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローする」

 

2つの宝石が描かれている通り【レア・ヴァリュー】は、宝玉となっている【宝玉獣】が2枚場に存在するとき発動できる魔法カード。

1つの宝石を犠牲にすることで希望を掴む効果を持つ。

墓地に送られたのは【トパーズ・タイガー】の宝玉である。

 

「何だ、もう墓地に行くのか。

【アメジスト】、しっかりやれよ」

 

「あら、【トパーズ】。

誰にものを言っているの?」

 

選択されてしまった【トパーズ】は不敵な笑みを浮かべ光の粒子となって消えていく。

託された【アメジスト】は勝気な笑みで返し、家族を見送る。

2人の会話を聞いていたヨハンは【トパーズ】に敬意を払うよう目を瞑る。

 

「さらに【宝玉の絆】を発動!

デッキから【宝玉獣】を1枚手札に加え、そのカードとは別の【宝玉獣】を宝玉として場に出す。

俺は【サファイア・ペガサス】を手札に加え、宝玉は【コバルト・イーグル】を選ぶ」

 

綺麗な紫色の宝石の隣には深い青の宝石が現れた。

 

「手札から【サファイア・ペガサス】を召喚!」

 

「ヨハン、やっと私を呼んでくれたな」

 

「頼んだぜ、【ペガサス】」

 

「あぁ、任せてくれ」

 

2つの宝玉の前に現れたのは純白の肉体を持ち、コバルトとは違う美しさを持つサファイアの角を持つモンスター。

彼はヨハンに振り返って笑みを向けた。

 

「【サファイア・ペガサス】、サファイアコーリング!」

 

ヨハンが効果名を宣言すると、【サファイア・ペガサス】の角から光が溢れ出る。

彼の効果は効果名の通り、仲間を呼ぶものだ。

墓地から【トパーズ・タイガー】のカードが現れ、ヨハンの場に3つ目の宝玉が置かれる。

 

「そして魔法カード【宝玉の導き】を発動。

俺の場に宝玉が2つ以上あるとき、新たな【宝玉獣】をデッキから特殊召喚する!

来い、【ルビー・カーバンクル】!」

 

「ルビビッ」

 

「【ルビー】、ルビー・ハピネス!」

 

丸いフォルムを活かした登場をした【ルビー】は可愛らしい目を鋭くさせ、宝石がついている尾を高く上げる。

すると【ルビー】の宝石から仲間の宝石たちに向かって光が放たれた。

3つの宝玉がその光を浴びると、表面にゆっくりとひびが入っていく。

 

「何だ?」

 

何かが起こる。

そう直感した十代はこれから何が起こるのか楽しそうに笑う。

彼の期待の眼差しに応えるよう、ひび割れた宝玉から眠っていた【宝玉獣】達が場に特殊召喚された。

 

「ひぇ~、今日はギャラリーが沢山いるな!」

 

「ちゃんとやってよね、【イーグル】」

 

「勿論、相手はあの十代ってやつ何だろう?

良いとこ見せまくるぜ」

 

「そう、頼もしいわ。

そしてさっきぶりね、【トパーズ】」

 

「ふっ。

俺がいなきゃ始まらないということさ」

 

あぁ、何て楽しそうな精霊達なのだろう。

互いに冗談交じりの言葉を交わしながらヨハンと共に戦う意思を見せる。

精霊とのデュエルを経験している十代だが、ここまで精霊が生き生きしているデュエルの対戦相手として場に立った事はあっただろうか。

相手をしたとき大抵は命をかけたり、していないときは観客席でデュエルを眺めたりしているだけだった。

興奮からか、手に汗がにじみ出ているのが分かる。

 

「すげぇ、マジかよ!

一気にモンスターが5体になった!」

 

「どうだ、俺の家族凄いだろ!」

 

「あぁ」

 

「なら、次に行くぜ。

永続罠発動、【バーサーキング】発動!」

 

今まで伏せられていたカードが表になると、そこには赤い毛を逆立てるゴリラのモンスターが描かれていた。

そのカードの名前に隼人は目が鋭くなり、翔は首を傾げる。

 

「何、あれ?」

 

「簡単に言えば、獣族モンスターの攻撃力の半分を別の獣族モンスターに分け与えるカードなんだな」

 

「へぇ~」

 

今、十代の場には攻撃力2100の【フレイム・ウィングマン】と、守備力2000の【フォレストマン】が存在する。

それに対しヨハンの場のモンスターは、皆総じて攻撃力が低い。

1番高い【サファイア・ペガサス】でも1800なのだ。

仲間の力を借りて相手のモンスターを倒すのは自然な流れだろう。

 

「俺は【アメジスト・キャット】の攻撃力1200の半分、600を【サファイア・ペガサス】の攻撃力に加える。

これで攻撃力は1800から2400になる」

 

【サファイア・ペガサス】の周りに赤い光がまとわり、宣言通り攻撃力が2400になった。

表示された数値に十代は焦ったような顔をする。

 

「バトルだ!

【サファイア・ペガサス】、【フレイム・ウィングマン】に攻撃!

サファイア・トルネード!」

 

「はぁあ!」

 

翼を広げた【サファイア・ペガサス】は【フレイム・ウィングマン】に向かって突進する。

【フレイム・ウィングマン】は避けようとするが、それより先に【サファイア・ペガサス】の角が【フレイム・ウィングマン】を貫いた。

手応えを感じた【サファイア・ペガサス】はヨハンの前に戻り、取り残された英雄は爆発して散ってしまう。

 

「くっ!」

 

「【トパーズ・タイガー】で【フォレストマン】に攻撃!

さらに速攻魔法【M・フォース】!

【トパーズ・タイガー】の攻撃力を500ポイント上げ、貫通効果を与える!」

 

「攻撃力2100!?」

 

「それだけじゃないぜ、【トパーズ・タイガー】は相手に攻撃するとき、攻撃力を400ポイントアップする!

つまり攻撃力2500の貫通攻撃さ」

 

「何!?」

 

まさかのコンボ効果に十代は目を見開く。

身軽さを活かした攻撃を仕掛けた【トパーズ・タイガー】は先程と同じように【フォレストマン】を切り裂く。

これで十代のライフは4000から3700、3700から3200へと減少する。

 

「うわぁ!!」

 

連続して襲い掛かってくるダメージに十代は目を瞑るが、まだ終わりではなかった。

まだヨハンの場には3体の【宝玉獣】達が待っているのだ。

 

「【アメジスト・キャット】、【コバルト・イーグル】、【ルビー】!

ダイレクトアタック!!」

 

「さぁ、皆、行くわよ!」

 

「任せな!」

 

「ルビビッ」

 

壁を失った十代に【アメジスト】は飛び乗り、自慢の爪で顔をひっかく。

痛そうな悲鳴がデュエル場に響き、思わず翔や取巻は顔を逸らす。

それに続き、【コバルト・イーグル】は突撃し、【ルビー】は口から光線を放った。

 

「うわぁああ!!」

 

「兄貴!?」

 

次々に襲い掛かってくるダメージに十代はその場に膝をついた。

一瞬で逆転された事に明日香と取巻は難しい顔をする。

 

「まずいわね、一気にライフを900まで削られたわ」

 

「しかも場に遊城のモンスターは存在しない。

それに対しアンデルセンの場にはモンスターが5体」

 

ライフはお互いに1000と900で並んでいるが、どう見てもヨハンが有利だ。

だが、これで押し切られて終わるだろうか。

いや、終わるわけがない。

十代と何度もデュエルをしている取巻や聖星は分かっているのか、十代に目をやる。

そして万丈目がくだらなさそうに零した。

 

「ふん。

あんな状況でも逆転出来るのがあのバカの気に入らないところだ」

 

「流石、何度も大事なデュエルで遊城に負けてる万丈目の言葉は重いな」

 

「取巻ぃ!

貴様こそ、今まで十代に勝てたことがあるのか!?」

 

「ないが、それがどうした??」

 

「取巻君、開き直りすぎっす」

 

まさかの会話を繰り広げる2人に翔は呆れた表情を向ける。

この2人が、以前は偉そうに人を顎で使っていた男とその取り巻きだと言えば誰が信じてくれるだろう。

随分と関係性が変わったなと実感した翔は十代へと視線を向ける。

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー」

 

今、十代の場には自分達を囲う【摩天楼-スカイスクレイパー-】しか存在しない。

だが、手札は3枚もあり、充分に逆転出来るだけの希望はあった。

引いたカードを見た十代はまだまだデッキが諦めていないことを再確認し、カードを発動した。

 

「【強欲な壺】を発動!

デッキからカードを2枚ドロー。

そして、手札から魔法カード【ホープ・オブ・フィフス】を発動!

墓地の【HERO】を5枚デッキに戻し、シャッフル。

そして2枚ドロー」

 

「え、4枚もドロー??」

 

「おう、4枚ドローだ」

 

ヨハンの驚いた様子が楽しいのか、十代は満面な笑みを浮かべて指を4本立てる。

これで手札は5枚になった。

新たに加わったカードに【融合】はないが、ヨハンのモンスター達を倒すことは出来る。

 

「手札から魔法カード【ヒーロー・アライブ】を発動!

ライフを半分にすることで、デッキから【HERO】を特殊召喚する!

頼んだぜ、【E・HEROエアーマン】!」

 

「はっ!」

 

「また俺が知らない【E・HERO】!」

 

十代のライフ450を代償に特殊召喚された英雄は腕を組みながら静かに場に立つ。

 

「そして特殊召喚された【エアーマン】の効果により、デッキから【スパークマン】を手札に加える。

さらに【HERO’sボンド】を発動。

場に【HERO】が存在するとき、手札からレベル4以下の【E・HERO】を2体特殊召喚する!

俺が喚ぶのは【スパークマン】と【オーシャン】だ!」

 

「はぁ!」

 

「ふんっ!」

 

両手から光を放ちながら現れたのは金属のマスクをかぶっている英雄と、海を司る英雄である。

3体の属性が違う英雄が並ぶ姿は実に見応えがある。

それぞれの攻撃力は1800、1600、1500である。

仮に【バーサーキング】の効果で低攻撃力のモンスターの攻撃力をあげても、ヨハンの残りライフ900を削り切るのは充分だ。

それに気が付いたヨハンは先程伏せた1枚のカードを発動する。

 

「罠発動、【宝玉の砦】!

このターン、十代は攻撃力5000以下のモンスターじゃ攻撃できないぜ」

 

「何ぃ!?」

 

「うん、俺もよくやられた」

 

ヨハンが発動したのは、場に存在する【宝玉獣】の数×1000以下の攻撃力を持つモンスターは攻撃できないという効果を持つ罠カード。

今、ヨハンと共に戦う【宝玉獣】は5体。

よって攻撃力5000以下のモンスターは宝玉の威圧に押され、攻撃できないのである。

 

「ちぇ、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

勝てると思ったのだが、流石はアークティック校のデュエリストだ。

なかなか勝負が決まらない事が楽しいのか、十代は思考を切り替えてヨハンを真っ直ぐ見る。

 

「俺のターン、ドロー!

永続罠【バーサーキング】の効果で【ルビー】の攻撃力の半分、150を【コバルト・イーグル】の攻撃力に加える!」

 

【ルビー】の周りに青い光が集まり、その光は赤色に変わって【コバルト・イーグル】の周りに集まりだす。

力がみなぎるのか【イーグル】は両翼を広げて気持ちよさそうな顔をしている。

これで攻撃力は1550になった。

 

「これで【オーシャン】の攻撃力を上回ったぜ。

バトルだ!」

 

「カウンター罠【攻撃の無力化】!

悪いが、ヨハンの攻撃も通さないぜ」

 

「あ~、やり返されたか。

それなら俺は【ルビー】と【アメジスト・キャット】を守備表示に変更」

 

この中で最も攻撃力が低い【ルビー】は両足を揃えて座り、【アメジスト・キャット】はその場に伏せる。

表示された守備力はそれぞれ300と400である。

 

「そして魔法カード【マジック・プランター】を発動。

永続罠【バーサーキング】を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローする。

カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「俺のターン。

行くぜ、ヨハン!

【エアーマン】で攻撃!」

 

「罠発動、【重力解除】!」

 

「げ!」

 

「悪いが、全てのモンスターの攻守を変更させてもらうぜ!」

 

ヨハンの宣言通り、【重力解除】は場のモンスターの表示形式を変更する効果を持つ。

十代のヒーロー達は膝をついて守備表示になり、ヨハンの家族は翼を閉じたり、伏せたり、牙をむき出しに構えたりする。

しかし、この状況は十代にとって好機である。

 

「だが、まだ終わっちゃいない!

速攻魔法【瞬間融合】を発動!」

 

「何!?」

 

「【E・HEROスパークマン】と水属性の【オーシャン】で融合!」

 

守備表示だった2体のヒーローは勢いよく舞い上がり、光に包まれながら融合する。

鋭い光は青い光に代わり、その光は雪の結晶へと変わっていく。

その演出と、十代が選択した融合素材の種類で聖星達は誰が融合召喚されたのか理解した。

 

「現れよ、氷結のヒーロー、【E・HEROアブソルートZero】!」

 

十代の叫び声に呼応するよう、彼のフィールドに光の柱が立つ。

轟音と共に【スカイスクレイパー】が揺れ、場の一部が凍っていく。

光は大きな音を立てながら崩れていき、その中から純白のヒーローが姿を見せる。

一目見て強い、そう確信したヨハンは興奮を隠しきれない様子で騒ぎだす。

 

「すげぇ!!

何だ、そのモンスター!

かっこいいぜ!」

 

凛とした姿で敵対する姿は実に美しい。

かっこよさと美しさを兼ね備える姿は見ていて楽しいものだ。

だが、その攻撃力は2500と、見とれている場合ではない。

そう訴えている【アメジスト・キャット】の視線にヨハンは頬をかく。

 

「行くぜヨハン、【アブソルートZero】で【ルビー・カーバンクル】に攻撃!

瞬間氷結!!」

 

目を鋭くさせた十代は手を大きく振り、攻撃宣言をする。

主からの宣言に【Zero】の瞳は一瞬だけ輝き、手を刃に変えて【ルビー】に切りかかろうとする。

勢いよく向かって行く十代のモンスターに翔と隼人は身を乗り出す。

 

「【ルビー・カーバンクル】の攻撃力は300!」

 

「この攻撃が通れば十代の勝ちなんだな」

 

だが2人は忘れていた。

ヨハンの場にもう1枚伏せカードがある事に。

向かってくる冷たい敵にヨハンは不敵に微笑む。

 

「そう簡単に【ルビー】に攻撃させるわけないだろ!

罠発動、【宝玉の集結】!」

 

「あっ、ヨハン、それ駄目……」

 

自信満々に宣言されたカード名に、聖星は思わず零してしまう。

しかしその反応は驚きや焦りとは少し違った。

初めて見るカードの発動に十代は構え、ヨハンは説明する。

 

「このカードを墓地に送り、【サファイア・ペガサス】と【Zero】をお互いの手札に戻す」

 

「えぇ!?」

 

「やったな、あいつ……」

 

ヨハンの説明に【Zero】の効果を知っている翔や取巻は目を見開く。

数多くのギャラリーの反応に、ヨハンは怪訝そうな表情をして周りを見渡す。

 

「え?

何で皆そんなに驚いているんだ?

まさか……」

 

確かにギャラリーは困惑している。

だがそれは、十代の攻撃をうまくかわしたことへの驚きではない。

そして十代を見てみれば、せっかく融合召喚したモンスターを融合デッキに戻されるというのに、余裕な笑みを浮かべている。

彼の反応に、己の選択が自分の首を絞める行為だと結論付けた。

理解できたヨハンは背中に冷や汗が流れ、慌てて【宝玉獣】達を見る。

 

「っ、皆!」

 

焦った声で叫べば、自分を守ってくれていた【宝玉獣】達が一瞬で氷漬けになってしまった。

美しい氷の像は足元からヒビが入っていき、虚しい音を立てながら崩れ落ちていく。

氷の結晶はすぐに宝玉となり、ヨハンの場に帰ってくる。

戻ってきてくれた彼らに安堵しながらも、説明を求めるため十代に顔を向けた。

 

「十代、一体何が起きたんだ?」

 

「【Zero】の効果さ。

【Zero】は場から離れた時、相手フィールドのモンスターをすべて破壊する」

 

「そんな効果があったのか。

やっちまったぜ」

 

「へへっ。

このままダイレクトアタックと言いたいところだが、これ以上は無理だ。

俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

十代の場に新たなカードが現れ、ヨハンにターンが移る。

ヨハンの場には4つの宝玉のみ。

それに対し十代は【スカイスクレイパー】と守備表示の【エアーマン】、そして1枚の伏せカード。

ヨハンの手札には【サファイア・ペガサス】が存在するため、まだまだ勝負は分からない。

自分を落ち着かせるため深呼吸をしたヨハンは、ゆっくりとデッキに指を置く。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

デッキに残っているモンスターは【アンバー・マンモス】と【エメラルド・タートル】のみ。

そして手札には【サファイア・ペガサス】が存在する。

ヨハンは自分の手札に来たカードを見て、すぐにそれを発動した。

 

「手札から【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる!」

 

手札に加わった、いや、駆け付けてくれたのは【アンバー・マンモス】と【エメラルド・タートル】。

そして1枚の魔法カード。

そのカードの名前にヨハンは無意識のうちに口角をあげ、視線をカードから十代に移す。

 

「十代、この勝負、貰ったぜ!」

 

「何?」

 

「魔法発動、【宝玉の氾濫】!」

 

「やばい!」

 

ヨハンが発動したカードの名前に、聖星は声を荒げる。

珍しく声を張り上げた彼の様子に、皆はあのカードがとんでもないものだと察した。

明日香やカイザー達が聖星を凝視している中、4つの宝玉は煌めき始める。

 

「俺の場に宝玉が4つあるとき発動できる。

全ての宝玉を墓地に送る事で、フィールド全てのカードを墓地に送る!」

 

「何!?」

 

破壊でもなく、墓地に送る効果。

まさかの効果に十代は驚きを隠しきれず、最後に伏せたカードを見下ろす。

しかし、このカードを発動しても意味がない。

紫と赤、青、黄色の光は合わさりながらフィールドを照らしていく。

【スカイスクレイパー】や【エアーマン】、伏せカードの【クリボーを呼ぶ笛】は光に飲み込まれ、墓地に送られた。

 

「そして、墓地に送られた十代のカードの枚数分、俺は墓地から【宝玉獣】を特殊召喚する!」

 

「墓地に送られた俺のカードは3枚……」

 

「そう、俺は3体の【宝玉獣】を特殊召喚する!

蘇れ、【サファイア・ペガサス】、【トパーズ・タイガー】、【エメラルド・タートル】!」

 

何もなくなった場に淡い光が差し込む。

その光の中からヨハンの声に導かれた【宝玉獣】達が姿を現す。

先程と状況が真逆だ。

ヨハンの場のモンスターを一掃したと思えば、今度は自分の場を一掃されてしまった。

十代は悔しそうに、だけど楽しくて仕方がないという顔をヨハンに向ける。

 

「行くぜ、十代!」

 

「来い、ヨハン!」

 

「【エメラルド・タートル】、ダイレクトアタック!!

エメラルド・カッター!!」

 

【エメラルド・タートル】から放たれた刃は十代を攻撃する。

鋭い風と共に受ける衝撃に十代は吹き飛ばされた。

 

「うわぁあああ!!」

 

残り450だったライフは0になり、デュエル終了のブザーがなる。

特殊召喚された【宝玉獣】達はゆっくりと消えていき、ヨハンはデュエルディスクの電源をオフにする。

大の字に倒れている十代は勢いよく起き上がり、目を輝かせながら決め台詞を言う。

 

「あぁ、最高だった!

ガッチャ、楽しいデュエルをありがとう、ヨハン!」

 

「がっちゃ?」

 

2本の指を向けられたヨハンは十代の言葉に首を傾げる。

笑みを絶やさない彼はガッチャの意味を説明する。

 

「俺の決め台詞。

楽しいデュエルをありがとうって意味さ」

 

「へぇ、良い言葉だな」

 

どんなデュエルでも楽しみ、最高のデュエルにする。

そんな十代の性格、ポリシーを詰め込んだ、まさに十代らしい言葉だ。

2人の笑いあっている姿に聖星は笑みを浮かべ、隣に感じた気配に顔をあげる。

 

「【星態龍】」

 

「ヨハンが勝ったのか。

どうする聖星、このままアークティック校でのリベンジを果たすか?」

 

「いや、それは後日にするよ。

今はあの人が戦いたそうにしているから」

 

「あの人?」

 

聖星は何も言わず、静かに背後にいる人物を見る。

釣られて見れば、好戦的な表情を浮かべているカイザーがいた。

この表情は早くデュエルがしたい時にしているものだ。

よく聖星に向けているから理解できる。

 

「なぁ【星態龍】」

 

「何だ?」

 

「ヨハンに【レインボー・ドラゴン】の石板の在りかを教えたいんだけど……

駄目?」

 

「歴史を変えたいのか?」

 

「だよな~」

 

今のヨハンのデッキにエースモンスターは存在しない。

それなのに十代相手にあそこまで戦えるのだ。

【レインボー・ドラゴン】を手に入れ、【宝玉獣】デッキが完成した時、ヨハンはどれ程のデュエリストになるのだろう。

とても興味があるし、1度でも良いからデュエルしてみたい。

【星態龍】曰く、あと2年は待たなければいけないらしい。

 

「(でも、その頃には未来に帰ってるんだよな……)」

 

【三幻魔】を倒し、Z-ONEを説得して、その後家族が待つ時代へ帰る。

それが当初の目的であり、その決意は今でも揺らいではいない。

だけど、一瞬だけでも良いからと夢を見てしまう。

複雑な感情を抱いていると、ヨハンと十代の2人がこちら側を凝視している。

目があえば2人は手を振ってくれ、聖星は手を振り返した。

 

END

 




十代vsヨハンはヨハンの勝利に終わりました!
いや~、やっぱり2人の楽しそうなデュエルを書くのは楽しいです
(表現できているとは言っていない)
今の十代には漫画版HEROがいるけど【ネオス】がいないからこんな感じかなと
勿論この後意気投合するし、夕日をバックにこのデュエルの反省会するよ!!


そして、明日はついに新パック!!
皆のデッキ強化!!!
【HERO】はぶっ壊れ(?)が来ましたね(`・ω・´)
もうメリットしかない
私はAiのトークンも欲しいので、3店舗くらい回って買ってきます
1番欲しいのは遊星の新規カード達です
当たると良いなぁ


最後にアンケートの現状ですが、ARCVが人気だと……!?
正直1番吃驚です


以前の活動報告にも書きましたが、
5D'sのIfでは、原作アニメ開始までの内容or遊星と一緒にシティに行くところから始めるか考えています
ただ、このルートだと鬼柳が死なない、セキュリティに喧嘩を売らない
どうしよう
私の中で鬼柳が暴走したのは、皆と目指す目標がなくなったためだと考えています
だけどIf storyでは聖星と遊星の仲がぎくしゃくしているので、遊星のために奮闘しており、満足状態です
でも、鬼柳をダークシグナー化させるためセキュリティを襲撃する理由を考えたのですが、真っ先に浮かんだのが
『聖星が治安維持局に連れていかれる』です
ゴドウィンだったら聖星が遊星の弟ではないと分かりますし、怪しんで連れていくかなぁと
ただ、これだと遊星も鬼柳と一緒に殴り込むし、下手したら遊星が死んでダークシグナー化してしまう


VRAINSのIfは以下のような感じです
・ヒューマノイドを開発した技術力をSOLテクノロジー社に目を付けられる
・部下に使用されたウイルスの内容がオーバーテクノロジーの領域で、興味を持ったリボルバーが聖星達に接触する
・同じくオーバーテクノロジーに目を付けたライトニングが、聖星か聖歌の意識データを奪う
やっぱり機械に強い設定だと便利ですね


ARCVは、正直言って何も考えていませんでした
すみません(;'∀')
間違いなく真澄がヒロインですから、柚子と一緒に真澄も浚われるルートを考えています
それなら聖星が激怒する
ARCVルートの聖星は他の聖星と比べて1番メンタル強いし、男前なんです
好きな子のために強くなるというの大好きなんです


こういうシーンが見たいという要望があれば、活動報告にコメントしていただけると嬉しいです
ただ書くとは約束できません
必ず書くとは約束できません(大事な事なので2回書いた)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十六話 新しい刺客の足音

今回はデュエルがないため、めちゃくちゃ短いです


 

うららかな昼下がり、授業もない休日を彼等は好きに過ごしている。

尤も、孤島に設立されているアカデミア内で出来る娯楽と言えば限られており、好きに過ごすにも限界があった。

それでも彼等は青空の下でカードを並べ、あれやこれやと議論を繰り広げている。

赤と紫に近い青の制服を身に纏っている少年達は周りの視線など一切気にしておらず、実に楽しそうだ。

 

「これとこれを組み合わせると、ほら。

このコンボってどうだ?」

 

「それ、すげー良いかも!

待てよ、十代。

そのコンボが出来るってことは、こっちのカードを間に挟むと……」

 

「おお~!

そういうコンボもありだな!」

 

一脈相通ずるデュエリスト同士の盛り上がりは大きく、それを眺める事しか出来ない翔は小さくため息をついた。

 

「……すっかり仲良しっすね~、兄貴とヨハン君」

 

「まるで遠い昔から一緒にいた友達みたいなんだな」

 

胡坐をかきながら頬杖をついている翔が零した言葉に同意したのは同室の隼人。

ヨハンが留学してからまだ4日程しかたっていないというのに、あの2人の意気投合っぷりは驚きだ。

十代との会話量だって、翔と隼人が交わした量を軽く超えている自信がある。

つまらなさそうな表情と物寂しそうな表情を浮かべている彼等に対し、遅れてこの場にやって来た聖星は苦笑を浮かべるしかない。

 

「十代とヨハンは性格も似ているし、デュエルバカ同士、通ずるものがあるんだよ」

 

元々聖星はアークティック校に留学した時、彼等が出会ったら絶対に仲良くなるという確信があった。

彼の予想通り、2人は出会ってまだ数日しか経っていないというのに、昵懇の仲にまで関係を構築している。

微笑ましい事だと十代達を眺めていると、聖星を見上げていた翔は不満そうに首を傾げる。

 

「そういう聖星君は寂しくないんすか?」

 

「え、何で?」

 

まさかの翔の問いかけに聖星は目を丸くし、翔と同じように首を傾げた。

不思議そうな表情を浮かべる同級生に翔は「マジっすか」と言葉を漏らし、しばらく思案する。

太陽光に照らされている整った顔には本当に分からないと書いてあった。

さてさて、これはこの同級生が鈍いのか、それとも本当に心の底からそう思っているかのどちらだろう。

まぁ、前者だろうが後者だろうがここまで言葉を投げかけた以上、後戻りすることは出来ないのも事実。

頬杖を続ける翔は数日前の十代と聖星の様子を思い出す。

 

「兄貴はこの間まで聖星、聖星って呼んでたのに、今じゃヨハン、ヨハンだよ。

そりゃあ、聖星君はヨハン君とも友達だけど、のけ者にされている感じしない?」

 

「あ~、そういう事」

 

自分にとって仲の良い友人達が、自分をきっかけに友達になる。

それがとても良いことであるのは間違いない。

だが、その結果、友人達と自分の間に距離が生まれ、孤独を覚えるケースもある。

憧れの同級生がぽっと出の人間に奪われるのは充分寂しい事だが、そちらの方が寂しさはもっと強いはずだ。

現状そのポジションになっている聖星はどうなのだろうか。

翔の言い分を理解できた聖星は微笑みながら首を横に振る。

 

「いや、全然。

のけ者って言われても、ヨハンは十代の部屋に行く前に俺の部屋に寄って誘ってくるし。

十代がブルー寮に来るときも、十代は真っ先に俺の部屋に来るしなぁ」

 

今日はI2社の報告書に目を通すから先に合流してほしいと頼み、十代とヨハンは聖星を抜いてコンボ議論をしているに過ぎない。

翔が危惧しているのけ者扱いを受けている気は一切せず、そこまで寂しさは覚えていない。

 

「むしろ俺としては、あのまま十代と仲良くしてくれた方が助かるかなぁ」

 

「え?」

 

「どうしてなんだな、聖星」

 

「だって、十代の勉強会をするとき、手伝ってもらいやすいだろう」

 

「しっかりしてるっすねぇ、聖星君」

 

今のところ、勉強会の教える側は神楽坂、取巻、聖星の3人で行っている。

教えてもらう側は問題児の十代、最近は成績が良くなってきた翔、隼人だ。

6人であーだ、こーだと話しながら勉強会をするのは楽しいが、やはりもう少し助っ人が欲しいのも本音である。

ヨハンの頭の良さはアークティック校で知っているので、役者不足ではない。

まさかそっち方面で十代とヨハンが仲良くなっている事に満足しているとは思わず、翔と隼人は何とも言えない顔を浮かべる。

すると、背後から声がかかる。

 

「誰の勉強会だ?」

 

「っ、お兄さん!」

 

「カイザー!?」

 

「丸藤先輩」

 

突然聞こえて来た声に3人は慌てて振り返り、自分達のところまでやってきた青年の姿に驚く。

カイザーは他の生徒にも大きな反応を返される事が多いため、特に焦った様子もなく聖星達を見下ろす。

翔は実兄、聖星はよくデュエルする相手という事ですぐに復活したが、唯一関りが薄く、臆病な隼人だけが数歩程離れた位置まで下がっていた。

 

「お兄さん、どうしたんすか?」

 

「あぁ、ヨハンにデュエルを挑みに来たのだが……

どうやら今はデュエル出来なさそうだな」

 

ヨハンが留学してから、カイザーは何度かヨハンにデュエルを挑もうとしてきた。

しかし、教師や同級生からの頼み事、授業などが重なって中々時間が取れなかったのだ。

そして今日こそはとやってきたのだが、当の本人達は楽しそうに語り合っており、邪魔をするのは忍びない。

せめてデュエルの約束だけでも取り付けないかと考えていると、兄の気遣いは無駄だと言うように翔は言い放つ。

 

「兄貴とヨハン君だよ、お兄さんが誘ったら喜んでデュエルするっす」

 

「そうですよ、丸藤先輩。

ちょっとヨハンを呼んできますね」

 

「だが、聖星、あれだけ白熱しているところを中断させるのも……」

 

真のデュエルバカを舐めてはならない。

そもそも聖星だってヨハンとカイザーのデュエルを見てみたいのだ。

カイザーの言葉をまるっと無視した聖星は2人の名前を呼びながら駆け寄った。

 

「ヨハ~ン、じゅうだ~い、丸藤先輩がデュエルしたいって」

 

「「マジ!!??」」

 

「マジ」

 

聖星の言葉に2人は反射的に立ち上がり、目を輝かせながら奥にいるカイザーを見つめる。

純粋な後輩達の眼差しにカイザーは微笑み、ゆっくりと歩み寄った。

 

**

 

ヨハンとカイザーのデュエルが終わって数日。

聖星はヨハンと一緒に取巻の部屋の前までやってきた。

ブルー寮へ昇格した当初はあまりの豪華さに傷つけたらどうしようとノックしづらかったが、既に慣れてしまい、遠慮なくノック出来るようになった。

 

「取巻、一緒に授業行こうぜ」

 

しかし、いつもの取巻ならばすぐに声を返してくれるのだが、数十秒待っても部屋の中から返答がない。

怪訝そうな表情を浮かべた聖星とヨハンはお互いの顔を見合わせる。

 

「【ルビー】、悪いけど取巻の様子を見てきてくれないか?」

 

「ルビッ」

 

さて、どうしようかと聖星が考えるより早く、ヨハンは肩に乗っている【ルビー】に頼む。

家族からのお願いに【ルビー】は任された!という表情を浮かべ、あっという間に部屋の中に入っていった。

いくら取巻が精霊を見る事が出来ないとはいえ、堂々と部屋に入っていく後姿に聖星は苦笑を浮かべるしかない。

 

「ヨハン、けっこう大胆だな」

 

「もしかすると風邪で寝込んでるかもしれないだろ?

それに、取巻の事だから小言を言ってきてもそこまで怒らないって」

 

確かに取巻ならば呆れはするだろうが、怒ってくるイメージはあまり湧かない。

むしろそれは万丈目がやる反応に近い気がする。

それに声を返せないほど寝込んでいる可能性も無きにしも非ずである。

すると、すぐに【ルビー】は部屋から出てきてヨハンの足を登り始めた。

 

「お帰り【ルビー】。

それで、取巻のやついたか?」

 

「ルビビィ」

 

定位置まで戻った【ルビー】はヨハンからの問いかけに首を横に振った。

つまり、この部屋の主は不在という事だ。

自分達を置いて先に教室に行くなど珍しいものだと思い、聖星は顎に手を当てながら呟く。

 

「あれ、取巻、今日は何かあったっけ?」

 

別に取巻は委員会に所属しているわけでも、教師から何か頼まれたわけでもない。

一体どうしたのかと不思議に思いながら2人は教室へと向かった。

だが……

 

**

 

「これは一体どうしたことにゃ?」

 

目の前に広がった光景に、授業の担当者である大徳寺は困ったような表情を浮かべた。

彼が担当する錬金術の授業は受講している生徒が多く、いつも教室には多くの学生がいる。

それなのに空席が目立ち、普段の6割しか生徒たちが顔を出していない。

しかも、聖星達より先に寮を出たと思われる取巻の姿もないのだ。

思い当たる事があるヨハンは隣の席に座っている聖星に目をやった。

 

「聖星、これってまさか……」

 

「セブンスターズの仕業?」

 

セブンスターズには勝つためならば平気で人質をとるデュエリストがいる。

このデュエルアカデミアが戦場になる以上、彼等が巻き込まれたって何ら不思議ではない。

カミューラのデュエルを思い出した聖星は背中に冷たい汗が流れるのを覚え、力強く両手を握った。

すると、1人の女性職員が大きな鞄を持って教室に入って来る。

 

「どうかしましたか?」

 

「これが森の中に」

 

「川田君の鞄じゃないですか」

 

彼女が抱えているのは授業に出席していない生徒の私物である。

ハンカチや鍵などの小物ならばただの落とし物だと片付けられるが、教科書や筆記用具などが入っている鞄だ。

うっかり落としましたではすまされない。

それはつまり、彼は森の中で鞄を手放さざるを得ない状況に陥ったという事。

聖星はすぐに立ち上がり、皆に声をかける。

 

「大徳寺先生、俺達、皆を探してきます。

十代、ヨハン、行こう」

 

「おう!

翔、隼人、行こうぜ!」

 

「これだけの人数が行方不明なんだ。

俺達も手伝うぜ!」

 

聖星の言葉に十代とヨハンも立ち上がり、彼らに続いて万丈目たちも立ち上がる。

探しに行く気満々の彼等に大徳寺は困ったように笑い、この授業は自習にすると宣言した。

そして、鍵を持つ者とヨハン達は鞄が発見された森の中を探索していた。

 

「皆無事だといいんですがにゃ」

 

「お~い、皆~!」

 

「取巻~、いたら返事しろ~!」

 

可愛い教え子達を心配している大徳寺を最後尾にし、聖星達はどんどん前を進んでいく。

空を見上げれば精霊達も協力しており、【サファイア・ペガサス】【コバルト・イーグル】【星態龍】【閃珖竜スターダスト】が飛んでいる。

すると、【スターダスト】がゆっくり聖星達の前まで降りて来た。

聖星は友人の傍まで駆け寄り、彼を見上げて尋ねる。

 

「【スターダスト】、何か見つけたのか?」

 

「ガルゥ」

 

聖星からの問いかけに【スターダスト】は首を曲げ、ある方角を見る。

きっとあちらに何かを見つけたのだろう。

背後にいる友人達へ振り返った聖星は、十代、ヨハンと視線を交えて小さく頷く。

そして、3人は【スターダスト】が指示した方向へ向かって走り出した。

あっという間に森の中に消えてしまった3人に対し、翔と明日香は困ったような表情を浮かべて疑問を口にする。

 

「……聖星君、誰と話しているんすか?」

 

「さぁ?」

 

精霊を見る事が出来ない彼等にとってこの反応が普通である。

彼等の中で唯一はっきり見える万丈目は頭を抱えるような仕草をし、大きくため息をつきながら進言した。

 

「とにかく、あのデュエルバカ3人衆を追いかけるぞ」

 

「万丈目の言う通りだ。

敵が隠れている可能性がある森の中ではぐれるのは危険だ。

行こう」

 

万丈目の言葉に三沢は同意し、彼等も一気に駆けだした。

 

END




お久しぶりです
めちゃくちゃ放置して申し訳ございません
就職、転勤等があって慌ただしい日々を過ごしていました
まだまだ忙しい部署に所属していますが、最近は隙間時間を見つけられるようになり久しぶりに小説を書いていみました
正直、カードも最近一切触っていないのでユーチューブで勉強し直し中です
リアルでデュエルやりたいです……
ヨハンのカードも金科玉条という1対3カードの出てきましたし、ヘルカイザーのストラクも出たんですね!

当初はヨハンVS聖星のデュエルを書こうと思いましたけど、どう頑張ってもガチ魔導が圧勝してしまう……
じゃあヨハンVSカイザーのデュエルでも、と思ったのですが……
お願いヨハン、早くレインボー・ドラゴンを手に入れて!!
デュエルのルールを忘れている&思い通りのデュエル構成が出来なかったので今回はデュエルなしです!!
ごめんなさい!!
いつか番外編で書けたらなぁと考えています。

番外編デュエル予定
十代&取巻VS墓守の長&審神者
ヨハンVSカイザー←NEW

次回、誰とタニヤっちを戦わせようか迷ってます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十七話 アマゾネス一族の長★

今回はタニヤとのデュエルです。
久しぶりにデュエルを書いたので分かりづらいかもしれませんが、楽しんでいただけると幸いです。


 

【スターダスト】の案内によって森を抜けた聖星達は、目の前に広がった光景に言葉を失った。

外界から隔離されているこの島はあまりにも広く、3年間この学園に籍を置いている者でも全貌を把握していない生徒がいる。

当然、入学して1年未満の聖星達も把握していない。

だが、そんな彼等でさえ目の前に聳え立っている建造物が異質だと理解できた。

 

「コロシアム!?」

 

「何故、こんなところにコロシアムが?」

 

そう驚いたのは十代とヨハンの2人。

先頭を走っていた聖星は険しい顔を変えないままコロシアムの中に突撃する。

遅れて走ってきている万丈目達も森の中に突然現れたコロシアムの登場に一瞬だけ足を止めたが、十代達の後を追って中に入った。

巨大な入口を潜って中に到達すると、様々な色の制服を身に纏う少年達が重労働をしている。

鉄パイプや丸太を使って巨大な岩を運び、複数の生徒たちは協力してオブジェになりそうな岩を起こしていた。

 

「あれは川田君!?」

 

「後藤君もいるんだな」

 

「皆!」

 

この場で働かされている少年達は間違いなく行方不明になっていた生徒達で、大徳寺先生は彼等の無事な姿を確認することが出来、安堵した表情を浮かべた。

しかし、その安堵の息を零すより早く、隣にいる万丈目は鳩が豆鉄砲を食ったような顔となり、とある場所を指さす。

 

「お、おい、あそこ見ろ!」

 

「クロノス先生!?」

 

「取巻もいた!」

 

「マンマミーア」

 

「え?」

 

万丈目が示した先には青い制服を身に纏っているクロノス教諭と、彼と一緒に岩を持ち上げようとしている取巻がいた。

突然名前を呼ばれた2人は同時に聖星達の方に顔を向け、自分達に突き刺さっている視線に気まずそうに顔を逸らす。

聖星は無事そうな彼等の様子に愁眉を開くが、隣に立っているヨハンは眉間に皺を寄せながら怪訝な顔をし、十代はヨハン同様怪訝な表情だがその雰囲気は柔らかい。

 

「よかった、無事で……」

 

「セブンスターズに連れ去られた割には元気だな」

 

「何やってるんだよ、取巻」

 

ヨハンは聖星達から今までのセブンスターズの悪行を聞いてきた。

それぞれの目的は違うが、彼等はデュエルの際に必ずと言っていい程人質をとっていたという。

だから今回行方不明になった彼等もそれ相応の扱いを受けていると踏んで探してきたというのに、予想外の結果に脱力したくなる。

いや、もしかするとこの件の犯人はセブンスターズではないのかもしれない。

脳裏に浮かんだ可能性を口にするより先に、顔を真っ赤にした取巻が声を張り上げた。

 

「し、仕方ないだろう!

厳重な金庫を買うためには金が要るんだ!」

 

「金庫?」

 

一体厳重な金庫などを購入してどうするつもりなのだ。

すぐにその答えにたどり着いた聖星と十代は納得し、隣で疑問符を浮かべているヨハンに説明しようとする。

だが、それより早く、この場に招かれざる客人を番人である猛獣が出迎えた。

 

「グルルルル……」

 

「ゲ!?」

 

聖星達の前に現れたのは1匹の虎。

しかもただの虎ではなく、重厚な首輪を身に着け、体中にはいくつもの古傷が刻まれている。

一目見て数々の血戦を乗り越えてきたと分かる猛獣の登場に、武器1つ持たない人間が敵うわけもない。

だから、十代は腹の底から叫んだ。

 

「逃げろ!」

 

十代の叫び声と同時に皆は一斉に駆け出した。

まとまって逃げ始めた侵入者を虎は逃がしてくれる様子はなく、唸り声を上げながら聖星達を追いかけ始める。

背後から徐々に距離を詰めてくる虎に冷や汗を流した聖星は、デュエルディスクを起動させて融合デッキから1枚のカードを取り出す。

 

「こうなったら、頼む、【閃珖竜スターダスト】!!」

 

ブレーキをかけて振り返った聖星はデッキからカードを1枚引き、頼りになる精霊を召喚する。

例えソリッドビジョンでも自分の体より数倍大きく、鋭い爪や牙を持つドラゴンの登場に怖気づくはずだ。

光と共に現れた【スターダスト】は大きく両翼を広げ、虎の目の前で吠えた。

 

「グルゥアアアア!!!」

 

「グルルル……」

 

純白のドラゴンの登場に虎は足を止め、眉間に皺を寄せながら低い唸り声を更に低くする。

これで尻尾を巻いて逃げ帰るかと思いきや、虎は姿勢を低くして【スターダスト】に勢い良く飛び掛かってきた。

まさかの攻撃に【スターダスト】は微かに目を見開き、とっさに避ける。

簡単な威嚇が通用しない相手に【スターダスト】は尾で地面を叩き、口元にエネルギーを集中させる。

ブレスが放たれようとするなか、虎は構わず強大な敵に襲い掛かり続けた。

 

「ガァアア!!」

 

「ガァ!!」

 

目の前で繰り広げられる竜と虎の戦いに十代とヨハンは感動を覚え、目を輝かせながら興奮気味に2匹を応援し始める。

 

「すげぇ、あの虎、【スターダスト】相手に怯んでねぇ!」

 

「良いぞ、いけ、いけ!!」

 

「十代、ヨハン!

早く安全なところまで逃げろよ!」

 

折角自分達が時間を稼いでいるというのに、まだ安全圏まで避難していない親友達に聖星は思わず突っ込んだ。

彼等に対し、既に高い位置に避難している翔と隼人は虎と戦っているモンスターの様子について零す。

 

「なんか、心なしか【スターダスト】、困ってないっすか?」

 

「きっと、威嚇で終わるはずが立ち向かってこられて、吃驚しているんだな」

 

殆どの者達の意識が虎と【スターダスト】に向けられる中、大徳寺先生はクロノス教諭へと叫ぶ。

 

「クロノス教諭、これは一体どうした事なのにゃ!」

 

「その虎に皆連れてこられたノ~ニャ」

 

事情の説明を求めた時だ。

 

「フッフッフッフッ」

 

不意に女の笑い声がコロシアム内に響き渡る。

そちらに目を向ければ、顔に傷があり、筋肉隆々な褐色女性がいた。

目を伏せている彼女は鋭い釣り目を開け、凛々しい表情で働いている生徒達に目をやった。

 

「そう、お陰でこの通りコロシアムは完成した。

者共、感謝するぞ!」

 

「何だ、あいつ」

 

明らかにこの学園の関係者ではない女の登場に皆の表情が険しくなる。

そんなこともお構いなしに彼女はコロシアムに着地し、【スターダスト】と争っている虎の名前を呼んだ。

主からの声に戦闘態勢だった虎は大人しく下がり、彼女の元まで走っていく。

忠実に戻ってきた虎の頭を撫でた彼女は、凛々しい顔を一変させ、満面の笑みで働いてくれた生徒達を集める。

 

「皆さ~ん、ありがとうね、協力してくれて。

お陰で立派なコロシアムが出来たわ」

 

手に持っているのはいくつもの白い封筒。

横一列に並んでいる生徒達の前に立った彼女は、輝く笑顔を崩さず報酬を渡していく。

 

「これほんの気持ち、ありがとうね、お疲れさん、今日はゆっくり休んでね、は~い、ありがとうね」

 

次々に報酬を受け取った生徒達は笑顔を浮かべ、良い汗を流した等と口にしながら解散していった。

当然、その中には取巻もおり、彼は手元にある封筒を見下ろして握り拳を作った。

 

「これで金庫が買える」

 

しみじみと呟かれた言葉にはかなりの重みがあった。

肩から力を抜いている同級生の様子にヨハンは同情の眼差しを送っている聖星達に尋ねる。

 

「聖星、十代。

取巻のやつ、何でカードじゃなくて金庫を買おうとしているんだ?」

 

「あ、そっか。

ヨハンは知らなんだっけ」

 

「取巻、一度エースドラゴンを盗まれてるんだよ」

 

「え!?」

 

まさかの言葉にヨハンとデッキにいる【宝玉獣】達は大きく目を見開く。

デュエリストにとって試行錯誤を繰り返してくみ上げたデッキは、自身の思考を反映させた存在、まさに自分の分身と言って良い。

そのデッキの中心であるエースを盗まれるなど、この世の絶望に近い。

心配そうな表情を浮かべたヨハンを安心させるよう聖星は微笑んだ。

 

「大丈夫、今はちゃんと取巻のところに返ってきてるから」

 

「そうか、それは良かった。

けど、なるほどな~。

それなら確かに金庫が欲しくなるぜ」

 

ヨハンも今までの人生でカードを奪われ、傷ついてきた人達と出会ってきた。

彼等の落ち込みよう、絆を引き裂かれた悲しみは痛い程理解できる。

だからこそ、当時の彼の心境は想像に難くない。

神妙な顔をしているヨハンの隣で聖星は呟く。

 

「取巻、相談してくれたら俺が金庫を作ったのに」

 

「確かに、聖星お手製の金庫だったら信頼できるな」

 

「??」

 

「ヨハンも知ってるだろ。

聖星、新しいシステムのデュエルディスク開発に携わるくらい機械に強いんだ。

だから頑丈なセキュリティシステムなんて朝飯前なんだぜ」

 

「へぇ~、聖星ってそこまで機械に強いんだな」

 

クロノス教諭が気持ち悪いから報酬を受けとれない中、聖星達はのんびりと上記の会話を繰り広げていた。

暫定的にセブンスターズであると思われる女性が目の前にいるというのに、呑気な彼等を咎める者はこの場にいない。

理由としては彼等が想定していた最悪な事態にはなっておらず、生徒達は労働していただけに過ぎないからだ。

建造物であるコロシアムから闇の気配を感じないのも一役買っている。

生徒達に報酬を支払い終えた彼女は、招かねざる、いや、いつか招待しようと思っていた客人達に振り返った。

 

「私はタニヤ、偉大なるアマゾネス一族の末裔にして長。

そしてセブンスターズの1人」

 

「アマゾネスって」

 

「おなごだけの一族が世界のどこかにあるって聞いたことあるけど」

 

「本当だったのね」

 

「このコロシアムで七精門の鍵を賭けた聖なる戦いを行う」

 

カミューラもデュエルの舞台として湖の上に城を顕現させていた。

そしてアマゾネス一族の彼女はこの壮大なコロシアムの建造。

最初に火山口で勝負を挑んだダークネスは危険度ではトップクラスだが、ある意味控え目なデュエリストだという事実に少し驚く。

この調子だと残りのセブンスターズも己の拠点を島のどこかに作っている可能性が高い。

それに気が付いた【星態龍】は聖星に耳打ちする。

 

「聖星、私は島を巡回する。

もしかすると不審な建造物がどこかにあるかもしれん」

 

「頼む、【星態龍】」

 

闇のデュエルで最も必要とされるのは、闇を祓う【閃珖竜スターダスト】。

自分に出来る事はここにはあまりないと判断した友人の言葉に聖星が頷くと、タニヤは先程までの凛々しい声から猫撫で声で説明を始める。

 

「でもねぇ、私と戦うことが出来るのは男の中の男だけぇ」

 

「何よ、それ!?」

 

「はぁ、ふざけてるの?」

 

まさかの発言に驚愕したのは女性である明日香と【アメジスト・キャット】だ。

明日香も鍵を守る者として闇のデュエルに備え、デッキと向かい合ってきた。

だというのに、そのステージに立つ資格はないのだと宣告されたのだ。

これが強さを基準としているのならば明日香も多少は納得できただろう。

しかし、性別を理由に舞台に上がれないなど、明日香が憤慨するのも無理はない。

 

「我こそは男と言う者、出てこ~い!」

 

「俺だ!」

 

「いや、俺だろ!」

 

「いや、俺だ!」

 

「いいや、俺だ」

 

上から十代、万丈目、三沢、聖星の順番である。

何故男しかデュエル出来ないのかその理由は分からないが、男として名乗り上げろと言われた以上、前に出るのが男というもの。

自信満々に前に出た男子4人に明日香は冷たい眼差しを送り、対してタニヤは品定めをするように額に指を当てる。

 

「ふ~む、面構えは皆悪くなく、地獄を見てきた者もいるようだが……

You!」

 

小さな声で言葉を零したタニヤは決めたのか、勢いよく対戦相手を指さす。

彼女の視線の先にいたのは三沢で、お眼鏡にかなった彼は不敵な笑みを浮かべる。

三沢が選ばれたことで他の3人は大人しく観客席に戻る。

 

「ちぇ~」

 

「フン」

 

少しだけ落ち込んで戻って来る同級生に明日香は冷めた表情で顔を逸らした。

ヨハンの隣に並んだ十代は、コロシアムから出て行こうとしている青色の後姿に声をかけた。

 

「取巻、こっちだぜ~!」

 

「肉体労働の後だぞ!

部屋に帰らせて寝させろ!」

 

「じゃあここで寝れば良いだろ。

大丈夫、デュエルの途中で寝ても、聖星が背負って連れて帰ってくれるからさ」

 

「え、俺?」

 

確かに取巻位ならば背負うどころかお姫様抱っこという好待遇で寮まで連れて帰る事は朝飯前だ。

心の底から早く帰りたいと思っている取巻は眉間に皺を寄せながらも、帰った場合、どのようなデュエルが繰り広げられたか熱く語られると予想をした。

それはそれで面倒だと考え、ため息をつきながら聖星の隣に歩み寄った。

 

「貴様、名前は」

 

「俺は三沢大地」

 

「言い忘れていたが、このデュエルは闇のデュエルではない」

 

「何?

どういうことだ?」

 

このデュエルは先程タニヤが言った通り、七精門の鍵を賭けたデュエルだ。

当然、そのデュエル=闇のデュエルという方程式が三沢の中に出来上がっている。

だというのに、彼女はこれが闇のデュエルではないと断言した。

どのような意図があるのか問いかけると、タニヤは今までにないくらい甘えるような声で真意を語る。

 

「魂なんていらな~い、私はお前自身が欲しいの~」

 

「「え?」」

 

「つまりぃ、私が勝ったらお前を婿として村に連れて帰る」

 

「婿ぉ!?」

 

「「え??」」

 

まさかの目的に聖星達はお互いの顔を見合わせた。

隼人が口にした通り、アマゾネスとは女だけの集団である。

しかし、女だけで子孫を残す事は生物学上不可能であり、一族を存続させるために婿は必要不可欠。

そして、一族の長の婿になるという事はそれなりの実力者である事が要求される。

世界の命運を賭けて戦う三沢達は、タニヤにとって婿に相応しい男の集団だと映ったのだろう。

 

「訳のわからん事を。

ならば、俺が勝った場合はどうする!?」

 

「そしたらぁ、私、三沢っちのお嫁さんになったげる~」

 

つまり勝っても負けてもタニヤが得をするという事だ。

 

「このデュエル、なんか羨ましいかも」

 

「羨ましいか?」

 

横から聞こえてく翔の言葉に、ヨハンは思わず突っ込んだ。

苦笑を浮かべるしかない聖星は、自分にせめてもの救いだと言い聞かせるように呟く。

 

「でも、闇のデュエルじゃないから見ている分には気楽だよな」

 

**

 

結果として、取巻はデュエルの途中に眠気が限界を超え、聖星に背負われてブルー寮の自室に戻った。

目が覚めた時には三沢とタニヤのデュエルが終わっており、三沢の敗北として幕を閉じたようだ。

しかも面白い事に、最初はタニヤの思いを拒絶的だった三沢がデュエルを通じて彼女の魅力に惹かれ、両思いになったという。

 

「分かった、とりあえず俺は今後三沢に会ったら桃色侍って呼んでやる」

 

聖星から事の顛末を聞いた取巻は呆れてものを言えないという状況ではなく、ふつふつと怒りが沸き上がり、拳がプルプルと震えていた。

怒りを露わにしている友人の発言に聖星は苦笑を浮かべ、フォローになっていない言葉を零す。

 

「デュエルで恋が成就するなんて素敵だと思うけど」

 

「状況を考えろ、状況を!」

 

例えタニヤに相手を傷つける意図はなくとも、彼等のデュエルは正真正銘、この世界の命運を賭けているのだ。

相手の色香に惑わされて冷静さを欠き、敗北するなど納得できるわけがない。

決して自分より先に彼女をゲットした三沢が羨ましいわけではない。

決して!

 

「それで、不動。

三沢は大丈夫なのか?」

 

「それがなんか微妙なんだよな~」

 

「は?」

 

「俺達は追い出されたから、精霊の【スターダスト】と【コバルト・イーグル】に三沢とタニヤの様子を見てもらっているんだ。

三沢は複数のデッキを持ってるだろう?

片っ端からそのデッキを使ってタニヤにデュエルを挑んでいるようなんだけど……」

 

「けど?」

 

言葉を濁すかのように口に詰まった聖星は取巻から目を逸らし、小さな声で言葉を続ける。

 

「タニヤ、負け続ける三沢に幻滅し始めているらしい」

 

「そのまま振られちまえ」

 

付き合って翌日に振られるなど、これほど美味しい飯のタネはない。

しかも振られる理由がデュエリストとしての実力不足である。

先程まで沸いていた怒りは一瞬でなくなり、腹の底から笑えそうだ。

男の嫉妬とは本当に醜い。

 

**

 

更に結果を追加するとして、三沢はタニヤから解放された。

【スターダスト】と【コバルト・イーグル】の報告通り、全戦全敗の三沢は解放された。

しかし、そこに今までの文武両道・硬派の影は一切なく、オムライスにイチゴジャムをかけたり、ソースやタバスコを直に飲み干したり、とにかく奇行を繰り返し始める。

そして、アカデミアの校舎で空を眺めながら物思いにふけている三沢に聖星は声をかけた。

 

「大地」

 

「聖星か。

どうした?」

 

「ちょっとした世間話をしに来たんだ」

 

「世間話?

悪いが、今はそんな気分じゃ……」

 

三沢の隣に立った聖星はいつものように微笑みながら、少しだけ三沢の顔を覗き込んで尋ねる。

 

「タニヤはどんなデュエリストだったんだ?」

 

「え?」

 

「俺はタニヤとデュエルしていないから、どんな人か分からないんだ。

けど、大地は何回もデュエルしたんだろう?

大地から見て、彼女はどんな人?」

 

「……」

 

まさかの問いかけに三沢は口を閉ざす。

確かに自分が敗れた以上、タニヤは聖星もしくは十代、万丈目とデュエルをするだろう。

だからこそ、彼等の勝利に繋げるため、三沢はタニヤのデッキの特徴を助言するべきだ。

しかし、三沢の口から出てきたのは到底アドバイスになるものではない。

 

「彼女は気高い人だ」

 

「気高い?」

 

「あぁ。

タニヤは闇のデュエリストでありながら、その潔い戦いに姑息さはなく、真っすぐ向かってくるあの姿には尊敬の念さえ覚える」

 

今まで、三沢が直接見てきた闇のデュエリストはカミューラだけだ。

正真正銘の吸血鬼で一族復活のために数多の人間を捕え、目的のために非道な手を使ってきた彼女と比べ、タニヤはどこまでも真っすぐだ。

お互いに全力を出し合い、拳を交え、正々堂々な戦いに喜びを覚える彼女の姿は誰よりも高潔で、美しい。

あの姿に心を奪われた三沢は、今、ぽっかりと開いてしまった胸に手を当てながら望みを口にする。

 

「もう一度彼女に会いたい、彼女と戦いたい」

 

相手をしっかりと見据え、相手の可能性・計算を凌駕する素晴らしいデュエリストをこの体が、魂が求めているのだ。

 

「だが、今の俺の実力では彼女を満足させるデュエルは出来ない。

それが悔しくて、情けなくて……」

 

あぁ、なんて自分は矮小な男なのだろう。

今まで積み上げてきた自信、タクティスでは心の底から惚れた女を満足させる事がない不甲斐なさに涙が込み上がってきそうだ。

頭を抱えて声を振り絞る三沢に聖星は声をかけようとする。

しかし、それより先にこちらの様子をうかがっていた十代がやって来た。

 

「良かったな、三沢。

そんなデュエリストと出会えて」

 

「十代」

 

「それに、明日香まで」

 

十代が声をかけたことで、壁に隠れていた明日香もゆっくりと歩み寄って来る。

自分達2人しかいないと思っていた三沢は、弱音を吐いた手前、気まずそうに顔を逸らした。

人によっては泣き言を言うなと叱責されるかもしれないが、十代は満面な笑みを浮かべて言い放つ。

 

「俺ますますやってみたくなったぜ、あのタニヤってやつと。

羨ましいぜ、三沢っち」

 

「……十代」

 

**

 

それから日が暮れ、真夜中を過ぎた頃。

聖星が自室で熟睡していると、頭に強い衝撃が走った。

 

「な、何!?」

 

突然の事に驚き、飛び跳ねるように起き上がると【星態龍】がカードから出ていた。

窓際では【スターダスト】がコロシアムの方角を睨みつけており、彼等が何故聖星を叩き起こしたのか察した。

 

「聖星、タニヤが動いたぞ」

 

「分かった、すぐに行く」

 

椅子に掛けていたコートとデッキケースを手に取った聖星は急いで部屋から出る。

途中、【ルビー】達に起こされたヨハンと、三沢に起こされた十代達、鍵に関係する者達と合流した。

再びコロシアムの前に立った聖星達は、タニヤの姿を探す。

闇夜の中、月に照らされるコロシアムは美しく、気高い彼女と戦う戦士を待っているような雰囲気だ。

 

「どこだ、タニヤ!」

 

三沢の声が森の中に響く。

彼の声に応えたのか、それとも他のデュエリストの闘気を感じ取ったのか、樹林の中からタニヤが現れる。

 

「よく感じてくれたな、デュエルに飢えた私の渇きを」

 

バースに体を預けて現れた彼女は、戦いに来た戦士達の顔を眺める。

まだ鍵を持っている男が誰なのか覚えているタニヤは不敵な笑みを浮かべていた。

三沢の話から彼女とデュエルする気満々だった十代は一歩前に踏み出そうとする。

それより早くタニヤが口を開いた。

 

「そうだな。

次はそこの青いの、貴様にデュエルを挑もう」

 

「え、俺?」

 

タニヤが指名したのは、青いコートを身に纏う聖星だ。

まさかの指名に、聖星は大きく目を見開き、十代と顔を見合わせる。

 

「どうして俺を?」

 

なにせ、この場で1番燃え滾っているのは十代だ。

戦いに重きを置いている彼女ならば十代の挑戦を喜んで受けるはず。

理解できないと顔に書いている聖星に対し、タニヤは笑みを崩さずに断言する。

 

「顔はそこまで好みではないが、貴様の目は地獄を見てきた者の目だ。

更に、貴様は新しいデュエルの可能性を提示している男だと聞く。

地獄を潜り抜け、新しい未来を創る者ならば、良いデュエルが出来るだろう」

 

「っ!」

 

「地獄?」

 

聖星を選んだ理由にこの場にいる者達の殆どが疑問符を浮かべる。

しかし、聖星がセブンスターズと戦う前から闇のデュエルを経験していたと察している十代は、納得した表情を浮かべた。

そして、地獄が何を指しているのか心当たりがある聖星は小さく息を吐く。

タニヤの言う通り、聖星は仲間が次々消えていく地獄の中、希望を繋ぎ、未来を掴み取る戦いを経験した。

遊馬達の世界で起こった出来事を、タニヤは本能的に感じ取ったのだ。

 

「そうか、そういう事なら……

ごめん、十代。

このデュエルは俺に任せて」

 

「ちぇ~、まぁ、タニヤからのご指名だ。

良いデュエルしろよ、不動っち」

 

「その呼び方止めてくれ」

 

折角やる気に満ち溢れていたというのに、十代に申し訳なさそうな顔を向けながら謝る。

だがここは遊城十代というべきか、相手がそう選択した以上、デュエルの観戦を楽しむ方向へ思考を切り替えたらしい。

満面な笑みで聖星の背中を叩いた十代は、大真面目にタニヤ風のあだ名で呼んだ。

 

**

 

「知っての通り、ここにお前の明暗を分ける2つのデッキがある。

死して散り、名を残したいか?

それとも負けても生き長らえ、恥を晒したいか?」

 

「悪いけど、俺は名前を残す事に興味はない。

ただ、希望を繋ぎ、勝利して仲間達と同じ世界を生きる。

それだけだ」

 

仲間達と勝利を分かち合うのはタニヤも理解できる。

だが、歴史に名を刻むのは誰だって持つ欲求だ。

無欲とも取れる発言に愚か者と言いかけたが、緑色の瞳に宿る意思は燃え上がっている。

 

「(あの目は無欲ではなく、名を残すより優先する何かがあると決意している目だな)」

 

一体、目の前の少年はどのような決意を背負っているのだろうか。

アマゾネス一族の長であるタニヤの心を打つデュエルをしてくれると期待しながら、彼女は笑みを浮かべ続けた。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は俺だ、カードドロー」

 

三沢とタニヤのデュエルを1度しか見ていないが、彼女のデュエルは計算し尽くされている。

彼女の人となりを知るには不十分だが、タニヤが高い実力を持つデュエリストである事を知るには十分過ぎた。

 

「手札から【魔導書の神判】を発動する。

俺はエンドフェイズ時、この瞬間からお互いに発動した魔法カードの枚数までデッキから【魔導書】を手札に加え、加えた枚数分以下のレベルを持つ魔法使い族モンスターをデッキから特殊召喚する」

 

「ふむ、これが噂のカードか。

成程、手札が尽きないのは恐ろしいな。

だが、戦いがいがある」

 

「【神判】を見てそう言ってくれるのは凄く嬉しいよ」

 

なにせ聖星が今まで出会ってきたデュエリストの殆どは【神判】の脅威に怖気立ち、逃げ腰になる者が多かった。

しかし、タニヤは強者と戦う事を好み、決して怯えの表情を見せない。

確かに良い女性だと心の中で呟きながら別のカードを掴む。

 

「永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動。

俺が【魔導書】を発動するたびに魔力カウンターが1つ乗り、俺の魔法使い達はカウンターの数×100ポイント攻撃力がアップ」

 

聖星が発動したのは魔法使い族の攻撃力を上げるカード。

場に現れた【エトワール】が輝き始めた。

 

「手札から【魔導書士バテル】を守備表示で召喚」

 

「はぁ!」

 

「【バテル】の効果発動。

彼は召喚された時、デッキから【魔導書】をサーチできる。

俺は【グリモの魔導書】をサーチして、そのまま発動」

 

「【グリモの魔導書】?」

 

「すぐにどんな効果か分かるさ」

 

守備表示で召喚された【バテル】の周りに無数の【魔導書】が現れ始める。

主が求める【魔導書】はどれか探している彼は目的の物を選び、パラパラとめくって満足そうにそれを眺めた。

 

「【グリモの魔導書】の効果により、デッキから【ルドラの魔導書】を手札に加える」

 

探し物を終えて一息ついていた【バテル】は再び【魔導書】を要求され、気難しい表情を更に気難しいものへ変えていく。

しかし、そこは才能を認められ【書士】の座についた少年だ。

仕事はきっちりやるタイプで、再び空間に現れた無数の書物の中から【ルドラの魔導書】を探し出す。

 

「【ルドラの魔導書】を発動。

【バテル】を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドロー」

 

聖星が発動したのは場の魔法使い族、または場・手札の【魔導書】を墓地に送る事でカードを2枚ドロー出来る【魔導書】。

立て続けに【魔導書】を探していた【バテル】はやっと仕事を終える事が出来て嬉しいのか、赤紫色に光る書物と共に姿を消す。

更に、2枚の【魔導書】が発動した事で魔力カウンターが2個たまる。

 

「さらに彼は俺の場に表側表示の魔法・罠カードがある時、手札から特殊召喚できる。

【水月のアデュラリア】を特殊召喚する」

 

「はぁ!」

 

【バテル】の代わりに現れたのは、彼と同じ水を司るモンスター。

深く帽子をかぶっているため目元が見えないが、やる気に満ち溢れているようでロッドを構えた。

そして、表示された攻撃力は1000。

あまりに低い数値にタニヤは笑みを崩さず、【エトワール】を見上げる。

 

「攻撃力1000か。

成程、どうやって私の【アマゾネス】達と戦うのか見せてもらおう」

 

「【水月のアデュラリア】は場の表側表示の魔法・罠カードの数×600ポイント攻撃力と守備力をアップさせる。

今、俺の場には【エトワール】が存在する。

よって、彼女の攻撃力は【エトワール】の叡智を授かり1800だ」

 

魔法使いの教育機関の最下層に存在する星の広間は数多くの力を授ける。

特に【水月のアデュラリア】はその影響を強く受け、自身の効果と合わせると攻撃力が800ポイントアップした。

 

「カードを3枚伏せてターンエンド」

 

星の広間の隣に3枚の伏せカードが現れたと思えば、墓地からこのターンの最初に発動された【魔導書】がフィールドに姿を現す。

 

「この瞬間【神判】の効果発動。

俺が発動した魔法カードは3枚。

よってデッキから【グリモ】【ルドラ】【セフェルの魔導書】を加え、レベル3の【魔導教士システィ】を特殊召喚する」

 

「はぁ!」

 

「【システィ】の効果。

彼女を除外し、デッキから【魔導法士ジュノン】と【魔導書の神判】を手札に加える」

 

剣と天秤を持ちながら特殊召喚された【システィ】は真っすぐとタニヤを見据え、隣に現れた次元の隙間に吸い込まれていく。

 

「モンスターの召喚に多くの伏せカード、更には手札が6枚か。

私のターン、ドロー!」

 

タニヤは自分が引いたカードと元々持っていたカードを見比べる。

そして、1枚の緑色のカードを掴んで発動した。

 

「私は手札から【アマゾネスの叫声】を発動!」

 

「【アマゾネスの叫声】?」

 

場に現れたのは【アマゾネスの射手】が叫んでいるシーンを描いているカード。

カード名から察するに仲間を呼ぶ効果を持つのだろう。

初めて見るカードがどのような効果を持つのか、聖星はタニヤの説明を待った。

 

「このカード以外の【アマゾネス】カードをデッキから手札に加えるカードだ。

墓地に送る事も可能だが、今はその時ではない。

私はフィールド魔法【アマゾネスの死闘場】を手札に加え、発動する!」

 

パチン、とフィールド魔法ゾーンに1枚のカードが置かれる。

同時にコロシアム全体が揺れ始め、地面から黒鉄の壁が無数に生えてきた。

それらは空へ向かっていき、戦士達の退路を断つために閉じていく。

 

「な、なにこれ!?」

 

「檻!?」

 

「これは発動時、お互いのライフが600ポイント回復する」

 

バトルは後攻であるタニヤのターンから始まるため、ダメージを一切受けていない2人のライフは4600まで回復する。

自分だけではなく相手のライフまで回復してくれるタニヤのデュエルに万丈目は腕を組みながら呟く。

 

「ライフを回復してくれるとは見上げたもんだが、この不気味な檻は何だ?」

 

「フフフ。

【アマゾネスの死闘場】とはモンスターとの絆を自らの魂をかけて証明する神聖な場だ」

 

「自らの魂?」

 

「いずれ分かる。

私は手札から【アマゾネスの剣士】を召喚」

 

「はぁ!」

 

光と共に現れたのは受ける戦闘ダメージを相手プレイヤーに移し替える戦士族モンスター。

赤い髪を靡かせ、大剣を振るう彼女は肩に大剣を担ぎながら【水月のアデュラリア】を見据える。

 

「更に装備魔法【アマゾネスの秘宝】を【アマゾネスの剣士】に装備する!」

 

タニヤが発動したのは緑色の宝石が嵌め込まれている首飾りのカード。

【アマゾネスの剣士】の胸元にそれは現れ、【アマゾネスの剣士】は今まで以上に自信に満ち溢れた笑みを浮かべた。

あのカードがどのような効果か知っているカイザーと明日香は真剣な表情で言葉を放つ。

 

「まずいな、【アマゾネスの秘宝】を装備したモンスターは1度だけ戦闘での破壊を免れる。

更に、戦闘を行った相手モンスターはダメージ計算後に破壊される効果を持つ」

 

「えぇ、しかも【アマゾネスの剣士】が受けるダメージは全て聖星が肩代わりするわ」

 

兄と同級生の言葉に翔は聖星の場に存在するモンスターの攻撃力を改めて計算する。

 

「えっと……

【水月のアデュラリア】の攻撃力は【エトワール】、【アマゾネスの死闘場】と【秘宝】の数だけ600上がってるから2800で、そこに【エトワール】の効果も入ると……

攻撃力3000!?」

 

「バトルだ、【アマゾネスの剣士】で【水月のアデュラリア】を攻撃!!」

 

「罠発動、【モンスターレリーフ】」

 

「何?」

 

「俺の場のモンスターと手札のモンスターを入れ替える。

頼む、【マジシャンズ・ヴァルキリア】」

 

タニヤの宣言で【アマゾネスの剣士】は一気に駆けだす。

しかし、それより早く【水月のアデュラリア】は水飛沫となって場からいなくなり、代わりに気が強い魔法使い族モンスターが攻撃表示で特殊召喚される。

彼女の攻撃力は【魔導書廊エトワール】の叡智を受け、1600から1800へと上昇する。

 

「はぁ!」

 

「ふん、【マジシャンズ・ヴァルキリア】の守備力は1800。

どちらを選んでも貴様が受けるダメージは同じ。

ならば、守備表示ではなく攻撃表示で特殊召喚するのが真のデュエリスト。

戦闘は続行!

行け、【アマゾネスの剣士】!」

 

大剣を大きく振りかぶった【アマゾネスの剣士】は頭上から【マジシャンズ・ヴァルキリア】を攻撃する。

ターゲットに選ばれた【マジシャンズ・ヴァルキリア】のロッドから光が集まり、彼女の周りに結界が張られる。

結界と大剣がぶつかり合う音が響き、激しい突風が吹き荒れる。

 

「くっ!」

 

目の間で起こった戦闘の余波は容赦なく聖星を襲い、彼のライフを4600から4300へと削った。

傷つく主の姿に【マジシャンズ・ヴァルキリア】は気を取られ、首からぶら下がっている宝石の光を見逃した。

戦闘中に目の前の敵から意識を逸らした相手に【アマゾネスの剣士】は冷たい眼差しを送り、力任せに結界ごと叩き潰す。

 

「きゃっ!!」

 

バリンという音と共に【マジシャンズ・ヴァルキリア】は破壊され、悲鳴を上げながら爆発した。

 

「この瞬間、【アマゾネスの死闘場】の効果発動」

 

「モンスター同士の戦闘の後、ライフを100支払うことで相手プレイヤーに100ポイントのダメージを与える事が出来る」

 

「相手プレイヤーに!?」

 

お互いに同じポイントのダメージを与える意図が明日香は一瞬だけ理解できなかった。

フィールド魔法でダメージを与える効果を持つカードは、大抵そのフィールドで地の利を得るモンスターを操る側のみに適応される。

更に、ダメージを受けるのは一方のみ。

だが、【アマゾネスの死闘場】は双方ダメージを受け、聖星でも効果を使用する事が出来るのだ。

 

「つまり、タニヤと不動が拳を交えるって事か」

 

「聖星向きのカードだな。

聖星の一発はマジでいてぇぞ」

 

「兄貴、聖星君に気絶させられた事あるもんね」

 

「十代、何やったんだよ」

 

幸いな事に、アークティック校に留学中の聖星は一方的に格下と見下す生徒に絡まれたり、正当防衛として武力行使をしたりする事がなかった。

だからヨハンは彼が武術に長けている事を知らず、妙に重みのある十代の発言に目を丸くする。

 

「モンスターだけに戦わせちゃあ悪いからね。

尤も、乗るか乗らないかはお前の自由だ」

 

「面白そうだ、その喧嘩、乗った」

 

聖星の言葉と同時にタニヤのライフは4600から4500、聖星のライフは4300から4200へと削られる。

そして、2人の目の前に自分自身の精神体が現れ、空中へと駆けだす。

拳を構えた聖星とタニヤは激しい攻防を繰り返し、お互いの拳が顔面へと入った。

これで聖星のライフは4100、タニヤは4400だ。

 

「くっ!!

……良い拳持ってるじゃない」

 

「うっ!!

……子供の頃から父に鍛えられたからな」

 

「ほう。

貴様の父もそれなりの戦士だったという事か」

 

「あぁ、自慢の大英雄さ」

 

痛みが残る頬をこすりながら、聖星は微笑みながら返す。

今まで数多くの拳を受けてきたタニヤは、聖星の一発で彼がどれ程の実力者なのか把握した。

同時に、ここまで強い彼を育てた父もどれ程の戦士なのか推し量ることが出来る。

 

「それはとても良い事だ。

カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー」

 

聖星が引いたのは1枚の罠カード。

更に他の手札は【水月のアデュラリア】、【ジュノン】、【グリモ】、【ルドラ】、【セフェル】、【魔導書の神判】。

さて、このカードはどこで使うべきか考える。

 

「俺は【魔導書の神判】を発動。

効果の説明は必要?」

 

「いいや、不要だ」

 

「それなら【グリモの魔導書】を発動し、デッキから【トーラの魔導書】を手札に加える。

そして【セフェルの魔導書】を発動。

貴女に【トーラの魔導書】を見せることで、【セフェル】は【グリモ】の効果をコピーする。

俺は【ゲーテの魔導書】をサーチする」

 

場に現れた様々な【魔導書】はそれぞれ象徴する輝きを放ち、次の一手に繋がる【魔導書】へと姿かたちを変えていく。

慌ただしくカードが入れ替わっていく様子をタニヤはしっかり構えて見つめるだけ。

 

「(ここまで伏せカードを使う気配はないか……

【トーラの魔導書】も手札に加えた、それなら)

手札に存在する【トーラ】【ルドラ】【ゲーテ】を相手に見せ、【魔導法士ジュノン】を攻撃表示で特殊召喚する」

 

3枚の【魔導書】が場に現れ、誰もいないフィールドにピンク色の魔法陣が描かれる。

光を発しながら勢いよく描かれる魔法陣は完成すると光の柱を立て、中から同じ色の髪を持つ女性が現れた。

 

「さらにさっき手札に戻した【水月のアデュラリア】を再び特殊召喚する」

 

いまだに聖星の場には【エトワール】が存在するため、【水月のアデュラリア】の特殊召喚条件は満たしている。

ピンクと青の魔法使い族が並ぶ様子はとても綺麗だ。

 

「【魔導法士ジュノン】の効果を発動。

1ターンに1度、手札または墓地の【魔導書】を除外し、フィールドに存在するカードを破壊する。

俺は墓地の【神判】を除外し、【魔導書廊エトワール】を破壊」

 

「何?

私のカードではなく、自分のカードだと?」

 

「そんな、どうして自分のカードを!?」

 

今、聖星が破壊すべきは戦闘ダメージを跳ね返す【アマゾネスの剣士】。

またはタニヤの伏せカードのはず。

聖星の意図が読めないタニヤと翔に対し、何度もデュエルをしているカイザーと十代は理解しているようで、誰が選ばれるのか考える。

怪訝そうな表情を浮かべるタニヤに説明するよう、聖星は短く言い放つ。

 

「破壊されることに意味があるのさ」

 

「むっ」

 

「【エトワール】が破壊され墓地に送られたとき、このカードに乗っていた魔力カウンターの数以下のレベルを持つ魔法使い族をデッキから手札に加える。

今、【エトワール】に乗っている魔力カウンターは5つ。

よって俺はレベル3のチューナーモンスター【相愛のアンブレカム】を手札に加え、通常召喚する」

 

「はぁ!」

 

デッキから取り出されたのは2人の男女が仲睦まじい姿を見せているカード。

そのまま召喚すればイラスト通りの妖精が花で相合傘をして現れた。

微笑ましい様子に笑みが零れるが、タニヤは彼等の様子より彼等が持つ能力に口角を上げた。

 

「チューナー、それが噂の新たな可能性のカードか!」

 

「あぁ。

これが新しく開発されているチューナーモンスターだ。

そして彼等の召喚に成功した時、手札を1枚捨て、墓地に眠るレベル4以下のモンスターを特殊召喚する。

帰ってこい【マジシャンズ・ヴァルキリア】」

 

手札に存在した1枚の罠カードを墓地に送り、効果で破壊された【マジシャンズ・ヴァルキリア】が復活する。

これで聖星の場にモンスターは4体。

しかし、この場にいる全員が知っている通り、次の一手に繋がるチューナーモンスターがいる。

 

「行くぞ、タニヤ。

レベル5の【水月のアデュラリア】にレベル3の【相愛のアンブレカム】をチューニング」

 

聖星の掛け声とともに【水月のアデュラリア】と【相愛のアンブレカム】はフィールドから飛び出した。

【水月のアデュラリア】は半透明な姿となり、【相愛のアンブレカム】は3つの星となる。

光り輝く星々は緑色の輪を生み出し、その中に【水月のアデュラリア】が飛び込む。

 

「星々の命を翼に宿す白銀の竜よ、一筋の閃光となり、世界を駆けろ!

シンクロ召喚!」

 

白い星が8つとなり、その星を中心に緑色の光がフィールドを照らし出す。

眩い光は大きな翼をもつモンスターへと変貌し、星の雨を纏いながら姿を見せた。

 

「玲瓏たる輝き、【閃珖竜スターダスト】!」

 

「グォオオオ!!」

 

呼ばれた名前に呼応するかのように【スターダスト】は回転し、場に降臨した。

【アマゾネス】達のような力強い演出ではなく、神聖さをまとう演出はこの場にいる者達に美しいという感情を抱かせた。

 

「これがシンクロ召喚。

素晴らしい、まさに相手にとって不足無しだ!」

 

「手札から【ルドラの魔導書】を発動。

【マジシャンズ・ヴァルキリア】を墓地に送り、2枚ドローする」

 

【相愛のアンブレカム】の効果で蘇った彼女は場に残る2体の仲間に目をやり、後を頼むと言うかのように強く頷いた。

彼女の意思を【ジュノン】と【スターダスト】は受け取り、真っすぐ【アマゾネスの剣士】とタニヤを見据える。

 

「速攻魔法【ゲーテの魔導書】を使う。

墓地に眠る【ルドラ】、【神判】、【エトワール】を除外し、タニヤのカードを除外する。

さぁ、退場する時間だ【アマゾネスの剣士】」

 

【ルドラ】、【神判】、【エトワール】の3枚が場に現れ、回転しながら消えていく。

同時に【アマゾネスの剣士】の目の前に時空の歪みが生じた。

吸い込まれまいと【アマゾネスの剣士】は持っている大剣を地面に刺して抵抗するが、抵抗むなしくゲームから除外された。

 

「バトル。

【閃珖竜スターダスト】でダイレクトアタック。

流星閃撃!」

 

口元に集まったエネルギーは白いブレスとなりタニヤを襲う。

攻撃力2500のダイレクトアタックが通れば、デュエルを有利に進める事が出来る。

しかし、向かってくる攻撃にタニヤは一切動じなかった。

 

「永続罠【アマゾネスの急襲】を発動!」

 

「まずいな」

 

伏せられていたカードは1枚の永続罠。

観客席にいるカイザーはそのカードを知っているのか、表情を変えずに呟く。

 

「このカードは1ターンに1度、私とお前のバトルフェイズ時に手札の【アマゾネス】モンスターを特殊召喚する。

来い、【アマゾネス女王】!」

 

「はぁ!」

 

タニヤの手札から現れたのは眼帯を付けた青い髪の女性。

今まで倒してきたモンスターたちの牙や爪、毛皮で出来たコートを羽織っている彼女は凛々しい顔を浮かべながら大剣を構える。

新たなモンスターが攻撃表示に特殊召喚されたが、聖星はそのまま宣言した。

 

「だけど、【アマゾネス女王】の攻撃力は2400。

そのまま行け、【スターダスト】!」

 

「ガァ!!」

 

口から放たれたブレスの強烈な光は【アマゾネス女王】の姿をかき消し、そのままタニヤの場を抉っていった。

思ったダメージを与える事は出来なかったが、まだ聖星の場には【ジュノン】がいる。

追撃しようとすると、不意に影が差し込んだ。

 

「え?」

 

一体何事だと思って顔を上げると、頭上から【アマゾネス女王】が雄叫びを上げながら降って来た。

大剣を構えている彼女はそのまま【スターダスト】を一刀両断し、地面に着地する。

 

「なっ!?

どうして、【スターダスト】の攻撃が効いてない!?」

 

「【アマゾネスの急襲】の効果だ」

 

「え?」

 

「このカードの効果で特殊召喚された【アマゾネス】はこのターン、攻撃力が500ポイントアップする」

 

つまり、【アマゾネス女王】の攻撃力は2400ではなく、2900だったという事。

攻撃力2500の【スターダスト】で破壊できないのは道理と言える。

想定外の事態に困惑し、ライフが4100から3700へと減った少年の様子にタニヤは不敵な笑みを浮かべながら告げる。

 

「敵の不意を突いて攻撃するのだ。

例え格上のモンスターでも倒すのは可能」

 

「だが、【スターダスト】は守りの竜。

1ターンに1度なら破壊を免れる」

 

「では、【死闘場】の効果を使うぞ!」

 

「来い!」

 

先程のタニヤのターンと同様、聖星とタニヤの精神体が殴り合いを始める。

激しい音と共に良い一発を受けた2人はふらつきながらも場に戻る。

これで、聖星のライフは3700から3600、3500。

タニヤのライフは4400から4300、4200へと削られた。

実力が拮抗しあう者同士の喧嘩に2人は良い笑顔を浮かべており、カイザーは怪訝そうな表情で疑問を口にした。

 

「何故、タニヤは【アマゾネスの急襲】の3つ目の効果を発動しない?」

 

「3つ目?」

 

一体どういう事だと問いかけてくる弟からの眼差しに、カイザーは【アマゾネスの急襲】の効果を説明する。

 

「【アマゾネスの急襲】は、【アマゾネス】と相手モンスターが戦闘を行った後、相手モンスターを除外する効果を持つ。

いくら【スターダスト】が守護の竜とはいえ、除外効果までは防げないはずだ」

 

確かに1ターンに1度とはいえ、戦闘と効果の破壊を1度だけ防ぐ効果は非常に厄介だ。

それを除去できる術をもっているのに、使おうとしないタニヤの戦術をカイザーは理解できない。

単純なプレイングミスかと思ったが、三沢に全勝しているタニヤがそんなミスをするだろうか。

納得できていないカイザーの言葉に、誰よりもタニヤを理解している三沢は説明する。

 

「これが彼女の戦い方ですよ」

 

「何?」

 

「タニヤは正面から相手と戦う戦術を好む。

俺がデュエルした時も、相手のカードを破壊する効果は【アマゾネスの秘宝】しか使ってきませんでした」

 

特に【アマゾネスの死闘場】が彼女の戦闘スタイルを顕著に表していると言っていいだろう。

三沢の言葉に思い当たる点があるのか、ヨハンが笑みを浮かべながら呟く。

 

「へぇ、あのタニヤってデュエリスト、俺と似てるな」

 

「え、ヨハン君と?」

 

「あぁ、つまり彼女は相手の可能性、全力を見たいんだ。

俺も同じさ。

だから俺のデッキにカウンター以外の相手のカードを破壊するカードは入っていない」

 

「へぇ~、そうだったんすね」

 

「カードを2枚伏せてターンエンド。

この瞬間、【神判】の効果で【グリモ】【ヒュグロ】【セフェル】を加え、【システィ】を特殊召喚。

【システィ】を除外し、【魔導書の神判】と【黒魔女ディアベルスター】を手札に加える」

 

聖星が新たに加えたのは【魔導書】の中核になる魔法カードと、赤と黒の衣服を身に纏った女性モンスターのカード。

普段の聖星ならば2体目の【ジュノン】を手札に加えるのだが、初めて見る魔法使い族モンスターに十代とヨハンはデュエルに釘付けになる。

 

「私のターン、ドロー!」

 

今、タニヤの手札は2枚。

場には【アマゾネスの死闘場】、【アマゾネスの急襲】そして攻撃力2400の【アマゾネス女王】のみ。

それに対して聖星の場には伏せカードが4枚と攻撃力2500のモンスターが2体、手札は6枚と来た。

傍から見れば圧倒的にタニヤが不利に見えるだろう。

しかし、十分に逆転は可能だ。

 

「手札から【天よりの宝札】を発動。

互いにデッキから手札が6枚になるようドローする。

尤も、お前の手札は既に6枚あるがな」

 

「あぁ。

ドローをどうぞ」

 

「ふっ。

私は手札から魔法カード【次元の歪み】を発動する。

私の墓地にモンスターが存在しないとき、除外されている私のモンスターを特殊召喚する。

さぁ、再入場だ、【アマゾネスの剣士】!」

 

「はぁ!」

 

「バトルだ。

【アマゾネスの剣士】で【閃珖竜スターダスト】を攻撃!」

 

「そんな、【アマゾネスの秘宝】もないのに!」

 

明日香の言葉にこの場にいる者達は強く頷く。

確かに先程の【アマゾネスの剣士】は攻撃力が上の【水月のアデュラリア】、【マジシャンズ・ヴァルキリア】に攻撃を仕掛けた。

だがそれは戦闘破壊を無効にする【アマゾネスの秘宝】を装備していたからだ。

だが、無謀な攻撃を仕掛けてくるとは到底思えない。

何かがあると察した聖星は伏せカードを発動する。

 

「リバースカードオープン、速攻魔法【死の罪宝-ルシエラ】を発動」

 

「【死の罪宝-ルシエラ】?」

 

「俺の場にレベル7以上の魔法使い族が存在する時、発動できる。

タニヤのモンスター全ての攻撃力を、選択した魔法使い族の攻撃力分ダウンさせる」

 

「何!?」

 

「俺の場にはレベル7、攻撃力2500の【魔導法士ジュノン】が存在する。

よって【アマゾネス女王】と【アマゾネスの剣士】の攻撃力は2500ダウン」

 

【死の罪宝-ルシエラ】が紫色の光を纏い始めると、同じように【アマゾネス女王】と【アマゾネスの剣士】が光を纏いながら苦しみ始める。

それぞれの攻撃力はどんどん下がっていき、聖星は追加の効果を説明した。

 

「さらに、この効果で攻撃力が0になったモンスターは破壊される」

 

「【アマゾネス女王】と【アマゾネスの剣士】はともに攻撃力が【ジュノン】より下。

ならば、手札から速攻魔法【アマゾネスの秘術】を発動!

【アマゾネス女王】と【アマゾネスの剣士】を融合し、【アマゾネス女帝】を特殊召喚する!」

 

【死の罪宝-ルシエラ】にチェーンして発動されたのは【アマゾネス】の融合カード。

すると、1人の老婆が現れ、呪文を唱え始める。

彼女の呪文に【アマゾネス女王】と【アマゾネスの剣士】は歪みながら消えていき、フィールドに炎が舞い上がる。

炎は次第に治まっていき、銀髪の女性モンスターが現れた。

その攻撃力は2800。

 

「だが、【ルシエラ】の効果で攻撃力は下がってもらう」

 

「くぅうう……」

 

仲間のピンチに駆けつけた【アマゾネス女帝】は、自分にかかった呪いに顔を歪め、その場に膝をつく。

どんな強大なモンスターも寄せ付けない攻撃力はたったの300になってしまった。

 

「さらに【ルシエラ】の説明を加えると、攻撃力が元に戻るタイミングは記されていない」

 

「何だと!?

つまり、お前のターンになっても【アマゾネス女帝】は弱体化したままだというのか!?」

 

「勿論、それなりに代償はある。

次の俺のターンのスタンバイフェイズ、【ジュノン】は墓地に送られる。

だけど、罠発動、【ソロモンの律法書】」

 

聖星が発動したのは厳重な箱の中に仕舞われている1冊の本のカード。

それは場に現れ、次のターン退場が確定している【ジュノン】の前にやって来た。

小難しい事がずらずらと並べられているが、【魔導書】で慣れている【ジュノン】は苦も無く読み進める。

一方、聖星が発動したカードに取巻と十代は安堵の息を零した。

 

「上手い、あれは自分のスタンバイフェイズをスキップするカード」

 

「これで、【ジュノン】は墓地に送られないな」

 

「では、私はカードを3枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

ゆっくりとカードをドローした聖星は、自分の手札と場のカードを見比べる。

先程4枚もカードを伏せていた聖星が言うのもあれだが、伏せカード3枚とは中々に怖い。

更に手札の【アマゾネス】を特殊召喚する【アマゾネスの急襲】も存在するのだ。

どう動くのが良いのか思案し、聖星は宣言する。

 

「【魔導法士ジュノン】の効果発動。

右から2番目のカードを破壊」

 

「残念だが外れだ。

速攻魔法【相乗り】!」

 

「ゲッ」

 

「ほう、その顔を見るに、このカードの効果を知っていたか。

【相乗り】が発動したターン、お前がドロー以外でデッキ・墓地からカードを加える度に私はデッキからカードを1枚ドローする」

 

タニヤの説明に十代達は納得したような表情を浮かべ、それぞれ感想を口にする。

 

「マジか、聖星相手にする時めちゃくちゃ良いじゃん」

 

「……ドロー以外だから、遊城相手には使いにくいか」

 

なにせ、聖星は【グリモ】や【バテル】、【神判】の効果で毎ターン2~3回はデッキからカードを加える事がある。

対聖星用ならばデッキに入れても良いカードのはずだ。

そしてデスティニードローを武器としている十代にはあまり刺さらないだろう。

このターン、タニヤにドローを許してしまう事が確定してしまった聖星は頬をかき、小さく呟いた。

 

「しょうがない、やるか。

俺は手札の魔法カード、【魔導書の神判】を発動。

【グリモの魔導書】の効果でデッキから【アルマの魔導書】をサーチ」

 

「ならば、私はデッキからカードを1枚ドローする」

 

「【アルマの魔導書】を発動。

【アルマの魔導書】はゲームから除外されている【魔導書】を手札に加える効果だ。

俺は【ルドラの魔導書】を手札に加える」

 

【相乗り】はあくまでデッキ・墓地からカードを加える事で発動する。

除外ゾーンに存在する【ルドラ】は対象外だ。

 

「【ルドラの魔導書】を発動、手札の【セフェルの魔導書】を捨てて2枚ドローする。

そして、【ヒュグロの魔導書】を発動、【ジュノン】の攻撃力を1000ポイントアップ」

 

【ヒュグロの魔導書】は魔法使い族の攻撃力を1000ポイント上昇するカード。

更に相手モンスターを破壊すれば、デッキから新しい【魔導書】を手札に加える事が出来る。

しかし、現在タニヤのライフは4200。

攻撃力3500の【ジュノン】と2500の【スターダスト】で十分にライフを削り切る事は理論上可能だ。

 

「(問題は、【アマゾネスの急襲】で新しいモンスターを特殊召喚されたら削り切れないって事だ。

まぁ、そのために彼女がいるんだけど)

更に手札を1枚墓地に送り、【黒魔女ディアベルスター】を攻撃表示で特殊召喚する」

 

「はぁ!」

 

場に現れたのは黒いフードを深く被り、大剣を携えている女性。

しかし、そのフードから覗く顔つきはまだどこか幼さを残しており、顔の片方を赤い仮面で隠していてもその愛らしさが伝わってくる。

それは観客にも伝わったようで、女の子モンスターに目がない翔は頬を真っ赤に染めながら【ディアベルスター】を凝視する。

 

「うわぁ、可愛い女の子っす~!」

 

「あれ~、翔。

お前のアイドルカードって【雷電娘々】じゃなかったっけ?」

 

「そ、そうっすよ」

 

確かに翔はアイドルカードとしてデッキに一切シナジーがない【雷電娘々】をデッキに投入している。

しかし、可愛い女の子が好きなのは男の性なので仕方ないと割り切れるわけもなく、十代からの突っ込みに翔は黙るしかなかった。

 

「【黒魔女ディアベルスター】は特殊召喚に成功したとき、デッキから【罪宝】の魔法・罠カードを1枚場にセットする。

俺は【罪宝狩りの悪魔】を選択してセット」

 

そこに描かれているのは1枚の手配書。

独特な仮面をつけた黒衣の女性が描かれている事から、黒魔女と名乗っている彼女が悪魔として指名手配されている事が分かる。

 

「ならばこの瞬間、罠発動、【アマゾネスの弩弓隊】!

相手モンスターの攻撃力は500ポイント下がり、全てのモンスターで攻撃しなければならない!」

 

「え、ここで?」

 

確かに【アマゾネス】のモンスターは総じて攻撃力が低いモンスターが多い。

そのため【弩弓隊】を発動することで相手モンスターを戦闘破壊しやすくする事はよくある戦術だ。

だが、例え今発動したところで、攻撃力300の【アマゾネス女帝】は【ジュノン】に勝てない。

 

「(という事は【急襲】で特殊召喚した【アマゾネス】モンスターと【スターダスト】達を強制戦闘させるためか)

それなら、リバースカード、オープン。

【トーラの魔導書】の効果で、【ジュノン】の攻撃力は下がることはない!」

 

これで、【ジュノン】と【アマゾネス女帝】の戦闘で発生するダメージは3200。

タニヤのライフを4200から1000まで削り取る事が出来る。

 

「バトル。

【魔導法士ジュノン】で【アマゾネス女帝】を攻撃!」

 

「ふっ、【弩弓隊】に【トーラの魔導書】を発動したのは良い判断だ。

だが、これはどうかな!

リバースカード発動!!

【決闘融合-バトル・フュージョン】!!」

 

「嘘だろ、ここで!?」

 

露わになった伏せカードの名前に、この場にいる者達の殆どは驚愕な表情を浮かべた。

あのカードは融合召喚を主軸にする者達の多くが持っており、故にその強大な効果を知っている。

 

「私の融合モンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動できる。

私のモンスターの攻撃力はダメージステップ終了時まで、【魔導法士ジュノン】の攻撃力分アップする!」

 

「つまり、【アマゾネス女帝】の攻撃力は3800!」

 

「【ジュノン】の3500を超えた!」

 

明日香と万丈目はまさかの数値に大きく目を見開く。

【罪宝】の呪いにより弱体化していた【アマゾネス女帝】は赤いオーラに包まれながら力を取り戻し、凛々しく立ち上がって剣を構える。

【ジュノン】は迎撃されるのを覚悟で魔法の呪文を唱え、エネルギー弾を放った。

 

「はぁ!!」

 

「はぁっ!!」

 

轟音と共に放たれたエネルギー弾を躱した【アマゾネス女帝】は、一瞬で【ジュノン】の目の前まで詰め寄る。

そして自分の身の丈もある大剣で彼女を切り裂いた。

【アマゾネス女帝】の切り裂いた風圧が聖星を襲い、彼のライフは3200となる。

 

「ぐっ!

だけど、【ジュノン】は【スターダスト】の効果に守られる」

 

「だが、【アマゾネスの死闘場】の効果発動する」

 

タニヤの言葉に聖星は強く頷き、力強く拳を構えた。

再び始まった喧嘩に、タニヤと聖星のライフは200ずつ削られる。

タニヤのライフは4000、聖星は3000となる。

 

「【スターダスト】で【アマゾネス女帝】に攻撃」

 

【決闘融合】の効果が切れた【アマゾネス女帝】は再び膝をつき、【スターダスト】は容赦なく【アマゾネス女帝】を破壊する。

 

「うっ!!!

行くぞ!!」

 

「あぁ!」

 

爆炎がフィールドを包む中、聖星とタニヤの攻防は続く。

激しい打撃音を響かせながら自分の場に戻ったタニヤは、【アマゾネス女帝】の効果を処理する。

 

「【アマゾネス女帝】の効果発動!

このカードが戦闘で破壊された場合、墓地から【アマゾネス女王】を攻撃表示で特殊召喚する!

蘇るがいい【アマゾネス女王】!!」

 

「はぁ!」

 

無念の敗北を迎えた【アマゾネス女帝】の遺志を受け継ぎ、【アマゾネス女王】が再びフィールドに降臨する。

その攻撃力は2400。

普段の【黒魔女ディアベルスター】ならば問題ない攻撃力だが、今の彼女は【弩弓隊】の効果で攻撃力が2000に下がっている。

申し訳なさそうな顔で【ディアベルスター】を見上げると、彼女は気にするなというように手を振った。

 

「行くぞ、タニヤ。

【ディアベルスター】、【アマゾネス女王】に攻撃!」

 

聖星の掛け声と同時に【ディアベルスター】が軽い身のこなしで【アマゾネス女王】に切りかかる。

お互い歴戦の戦士である彼女達の刃は激しくぶつかり合い、その衝撃によって空気が振動した。

一歩も引かない切り合いが続くが、【アマゾネス女王】がゆっくりと押している。

そして、ついに【アマゾネス女王】が【ディアベルスター】の剣を弾き飛ばした。

回転しながら宙を舞う剣が地面に突き刺さるより早く、【アマゾネス女王】は【ディアベルスター】を切り裂いた。

 

「はぁ!」

 

「きゃっ!」

 

勇敢に立ち向かったモンスターは破壊され、聖星のライフは2400へと削られた。

更に【死闘場】の効果でお互いのライフがさらに200ポイント減っていく。

何度目か分からない殴り合いにだいぶ痛みの感覚が麻痺してきたようだ。

先程まで脈を打つように痛かった頬が今はそんなに痛くない。

 

「悪い、【ディアベルスター】。

だが、彼女の攻撃は無駄じゃない。

罠発動、【オプションハンター】。

戦闘で破壊された彼女の攻撃力分ライフを回復する」

 

すると、先程墓地に送られた【ディアベルスター】が半透明の姿で聖星の前に立った。

腰に手を当てた彼女は仕方なさそうに聖星に手を伸ばし、励ますようにその肩を叩く。

しょせんソリッドビジョンなので実際に触れる事は叶わないが、確かにそこには仲間の暖かさがあった。

これで、聖星のライフは4700となる。

 

「エンドフェイズだ。

【神判】の効果でデッキから【グリモ】【ルドラ】【トーラの魔導書】を手札に加え、【見習い魔笛使い】を守備表示で特殊召喚する」

 

「ならば私も【相乗り】の効果でドローさせてもらう。

私のターン、ドロー!」

 

これでタニヤの手札は4枚。

場には【アマゾネス女王】1体のみ。

攻撃力では聖星のモンスターより若干劣っているが、この程度ならば十分に覆す事が出来る。

どうやって逆転しようか、どうやってあの強いドラゴン達を倒そうか。

戦術を考えるだけで胸が高鳴り、今にも踊り出したい気分だ。

 

「手札から【強欲な壺】を発動する。

デッキからカードを2枚ドローする。

墓地に存在する【アマゾネスの秘術】を除外して、【アマゾネスの秘術】の効果を発動!

【アマゾネス】融合モンスターを融合召喚する場合、1度だけ融合デッキに眠る【アマゾネス】モンスターを墓地へ送って融合素材とする事が出来る」

 

「そんな効果があったのか」

 

「そして手札から【融合】を発動!

融合デッキに存在する【アマゾネス女帝】と手札の【アマゾネスペット虎】を融合。

融合召喚、【アマゾネス女帝王】!」

 

「はぁあ!!」

 

「うわぁ、最上級モンスター来ちゃったよ」

 

流石は誇り高きアマゾネス一族の長。

最上級モンスターである【アマゾネス女帝王】をこの状況で召喚するとは、彼女の実力の高さをうかがえる。

その攻撃力は3200と、【スターダスト】と【ジュノン】では到底叶わない。

【アマゾネス女帝王】は強気な眼差しで相手モンスター達を睨みつけるが、【ジュノン】達も数々の修羅場を乗り越えてきたモンスターであるため、逆に睨み返す。

 

「【アマゾネス女帝王】が融合召喚に成功した時、デッキから【アマゾネス】モンスターを1体特殊召喚する。

さぁ、来るがいい、【アマゾネスの聖戦士】!」

 

「はっ!」

 

「さらに手札から【融合回収】を発動。

墓地に眠る【アマゾネスペット虎】と【融合】を手札に戻す。

そして再び【融合】を発動!

手札の【アマゾネスの戦士長】と【ペット虎】を融合、【アマゾネスペット虎獅子】を融合召喚!」

 

「ガァアアアア!!」

 

特殊召喚されたのは、このデュエルを見守っているバースの面影を残すモンスター。

バースとは異なるのはライガーという名前通り、獅子の鬣を持っている点か。

更に身に纏っている装備は戦いのために作られたもので、その鎧の下には数多の傷跡が隠されていた。

 

「バトルだ!

【アマゾネスペット虎獅子】で【閃珖竜スターダスト】に攻撃!」

 

「え、【アマゾネスペット虎獅子】の攻撃力は2500。

相打ち狙い?

だけど、【スターダスト】の効果は……」

 

「それくらい百も承知の上だ。

【アマゾネスペット虎獅子】の効果発動!!

【アマゾネスペット虎獅子】の攻撃力は500ポイントアップする!」

 

「なっ!?」

 

「ガァアア!!」

 

タニヤの宣言に【アマゾネスペット虎獅子】は勢いよく【スターダスト】へ飛び掛かる。

【スターダスト】は羽ばたいて逃げようとするが、それより早く【虎獅子】の首元へ噛みついた。

まさかの攻撃に聖星は【スターダスト】を見上げながら声を荒げる。

 

「【スターダスト】!」

 

体に走る激痛に【スターダスト】は顔を歪め、勢いよく【虎獅子】をふるい落とす。

地面に叩きつける勢いでふるい落とされた【虎獅子】は、かなりの高さだというのに難なく着地した。

噛まれた首をさすりながら降り立った【スターダスト】は低く唸りながら【虎獅子】を睨みつける。

聖星は傷つけられた【スターダスト】の敵を討つかのように、拳を握りしめて宣言した。

 

「タニヤ、【アマゾネスの死闘場】だ!」

 

「あぁ、来るがいい!」

 

彼等の声が木霊するフィールドに、鈍い音が遅れて響いた。

これで聖星のライフは初期と同じ4000、タニヤのライフは1700となった。

 

「安心しているところ悪いが、【アマゾネスペット虎獅子】の効果はこれで終わりではない」

 

「え?」

 

「バトルを終えた後、お前の場のモンスターは1体攻撃力が800ポイントダウンする」

 

「800も!?」

 

慌てて自分のフィールドに目をやると、【スターダスト】が青色の光に包まれ、攻撃力が2500から800ポイント下がっていく。

その数値を見た瞬間、聖星は【アマゾネス女帝王】の攻撃力を思い出す。

 

「【スターダスト】の攻撃力が1700に……」

 

「そして、【アマゾネス女帝】で融合した【アマゾネス女帝王】は2回攻撃が出来る!」

 

「2回も!?」

 

「行けっ、【アマゾネス女帝王】!!」

 

主からの命令に走り出した【アマゾネス女帝王】は一気に駆けだし、【虎獅子】の効果で弱体化している【スターダスト】に狙いを定める。

持っている大剣を【スターダスト】に投げつけ、勢いよく投げらえた大剣は【スターダスト】の体を貫いた。

一瞬でやられてしまった仲間に【ジュノン】は顔を歪め、聖星のライフは4000から1500削られ、2500となった。

 

「ぐぅ!!」

 

砕け散った【スターダスト】の欠片がフィールドに舞い降りる中、聖星とタニヤの殴り合う音が聞こえる。

そして、主達が元の位置に戻ったことを確認した【アマゾネス女帝王】はフィールドに突き刺さっている剣を握り、【ジュノン】へと切りかかった。

悲鳴を上げる間もなく【ジュノン】は敗れてしまう。

衝撃波で後ろに下がった聖星を見つめる明日香は心配そうな表情で聖星の背中を見つめる。

 

「これで聖星のライフは1800。

まだ【死闘場】の効果を使ってもライフは残るけど……」

 

「さぁ、行くぞ!」

 

「あぁ!」

 

お互いのライフが100ずつ削られ、最終的にライフが聖星は1800、タニヤは1300になった。

しかし、まだタニヤの場には【アマゾネスの聖戦士】がいるため、攻撃は残っている。

 

「【アマゾネスの聖戦士】で【見習い魔笛使い】を攻撃!

聖剣の舞!!」

 

「この瞬間、俺のターンでセットした【罪宝狩りの悪魔】を発動。

墓地に眠る【黒魔女ディアベルスター】を手札に加える」

 

「何?」

 

「はぁあ!」

 

ここでモンスターカードを墓地から回収するとは思わず、怪訝そうな表情を浮かべるタニヤ。

一体どのような意図があるのか考えている主をよそに、剣を構えた【聖戦士】は問答無用で【見習い魔笛使い】を切り裂く。

守備力も低く、防ぐ術を持たない【見習い魔笛使い】は一瞬で砕け散った。

そして、【死闘場】の効果で聖星とタニヤのライフは200減っていった。

新たに殴られた頬を拭いながら聖星は散った仲間のカードをタニヤに見せる。

 

「この瞬間、【見習い魔笛使い】の効果発動。

このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた場合、手札からモンスターを1体特殊召喚する」

 

「なるほど、そのために【黒魔女ディアベルスター】を手札に回収したのか」

 

「あぁ。

頼んだ、【黒魔女ディアベルスター】」

 

「はぁ!」

 

赤黒い光と共に現れたのは、先程返り討ちにあった【黒魔女ディアベルスター】。

今度は絶対に負けるつもりがないようで、激しい闘志を燃やしながら腕を組んでいる。

せっかくモンスターを繋げることが出来たというのに、ある違和感を覚えた取巻はヨハンと十代に尋ねる。

 

「アンデルセン、遊城。

確かあのカードは特殊召喚に成功した時デッキから【罪宝】カードをセットするんだったよな?」

 

「あぁ、確かそんな効果だったはず」

 

「何故、不動は【死の罪宝-ルシエラ】を伏せないんだ?

もしあれを使えば次のターン、逆転できるだろう」

 

「多分、聖星の事だからピン刺しなんじゃないのか?

見た感じ、【罪宝】シリーズにそこまで重きを置いていないようだからな」

 

そう、ヨハンの言う通り、聖星がこのデッキに入れている【罪宝】シリーズは既に場に出し尽くした。

聖星が聞こえない声で交わされる会話に気づかない彼はデッキ指を置く。

つい先ほどまではモンスターの数では勝っていたが、今は完全に逆転されている。

だが、不思議と焦りは全くなかった。

 

「俺のターン、ドロー」

 

ゆっくりとカードを引いた聖星は、手札に加わったカードを見て小さく頷く。

 

「手札から【ルドラの魔導書】を発動。

【アルマ】を墓地に送り、2枚ドロー」

 

この手札で今の状況を突破する事は出来るかもしれない。

だが、もしもの事を考えて手札は多く欲しい。

その思いで新たにカードを2枚引く。

 

「手札から速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動。

墓地に眠る【アルマ】【ルドラ】【セフェルの魔導書】を除外し、場のカードを1枚選んで除外する。

俺が除外するのは【アマゾネス女帝王】!」

 

先程墓地に送られた【アルマ】と【ルドラ】、墓地に眠っていた【セフェル】の魔導書がゆっくりとフィールドに現れる。

3冊の【魔導書】は緩やかに回転し、次元への歪みを生じさせる。

指名された【アマゾネス女帝王】は険しい表情を浮かべるが、抵抗する間もなく次元へと吸い込まれた。

 

「さらに墓地に存在する罠カード、【ブレイクスルー・スキル】を発動」

 

「墓地からの罠か!」

 

「俺のターンにこのカードを除外する事で、場に存在するモンスターの効果をエンドフェイズ時まで無効にする。

俺は【アマゾネスペット虎獅子】を選択する!」

 

【アマゾネスペット虎獅子】は攻撃時の攻撃力上昇、相手モンスターの攻撃力ダウンだけではなく、自身以外の【アマゾネス】モンスターを攻撃から守る効果を持つ。

この効果が無効になったことで、最も攻撃力の低い【アマゾネスの聖戦士】へ攻撃を行う事が出来る。

 

「更に手札から【ヒュグロの魔導書】を発動!

【黒魔女ディアベルスター】の攻撃力を2500から3500にする!」

 

「なにぃ!?

【アマゾネスの聖戦士】の攻撃力は、自身の効果を含めて1900!」

 

そして、タニヤのライフは1300。

敗北を悟ったタニヤは静かに目を閉じ、ゆっくりと体から力を抜いた。

しかし、それはほんの一瞬。

彼女の信条は『最後の最後までデュエルに諦めは許されない、つまりは情けも許されない』である。

その信条に従い、諦めずにデュエルをしてきた。

だが、全てを出し切り、反撃する手段を持たないタニヤはこの結末を受け入れるしかない。

覚悟を決めたタニヤは最後の光景をこの目に焼き付けようと、しっかりと聖星を見据えた。

 

「行けっ、【黒魔女ディアベルスター】!!

【アマゾネスの聖戦士】に攻撃!!」

 

聖星の張り上げた声と共に、【黒魔女ディアベルスター】は剣を持って【アマゾネスの聖戦士】に切りかかる。

【魔導書】の叡智を授かった事で彼女の剣は赤い力を身に纏い、通常時より高い威力を出す。

鍛え上げられた【アマゾネスの聖戦士】の剣は一瞬で折れ、割れた刀身が宙を舞った。

己の武器を失いながらも諦めない【アマゾネスの聖戦士】は、宙に浮かんでいる刀身を強く握りしめ、【黒魔女ディアベルスター】に振り下ろす。

だが、それよりも早く【黒魔女ディアベルスター】が【アマゾネスの聖戦士】の体を一刀両断した。

同時に爆発が起こり、爆風はタニヤの体を飲み込み、彼女のライフは0になった。

試合終了のブザーが鳴る中、ソリッドビジョンが消えていく。

やっとデュエルが終わったのだと分かった聖星は、気が抜けたのか、麻痺していた痛みが襲ってくる。

 

「体中痛い……

ここまで殴り合ったのは久しぶりだよ」

 

「私もだ」

 

良くも悪くも、喧嘩というものは忌避される傾向にある。

聖星が遊星に武術を叩きこまれたのも、腕を磨くためではなく、可愛い我が子に自分を守る術を知ってほしい親心だ。

ここまでの殴り合いをしたのは、シャークと大喧嘩した時以来である。

少しだけ懐かしい気持ちになっていると、タニヤが満足げな表情を浮かべているのに気が付いた。

 

「私は今日まで一族に見合う強い男を探していた。

最後の最後に出会えたようだ。

最高のデュエリストに」

 

すると、彼女の肉体が淡い光に包まれる。

何事かと目を見開くと、立派な肉体は美しい白い毛並みに変わっていく。

本来の姿に戻った彼女に、全員が言葉を失った。

そんな中、唯一声を出せたのは翔だ。

 

「と、虎!?」

 

そう、タニヤの正体はホワイトタイガー。

闇のアイテムを使い、人間に化けていたのである。

お互いに全力を出し切ったデュエルに満足したタニヤは、誰にも届かない声で礼を述べる。

 

「良いデュエルをありがとう」

 

その言葉を最後に、彼女とバースは一緒にコロシアムから出て行った。

闇の力を失った彼等がどこに向かうのかは誰にも分からない。

尊敬した彼女の正体に言葉を失っていた三沢は、動揺を隠せず呟く。

 

「俺は……

虎に惚れたのか?」

 

「いや、良い女だったじゃないか」

 

三沢を励ましたのは万丈目。

清々しい程真っすぐで、殴り合っている姿に恐怖を覚えはしたが、終わってしまえば実に良いデュエリストだったと言い張れる。

朝日を浴びている聖星は優しく微笑みながら、良きライバルであるタニヤの背中を見送った。

 

**

 

「いや、本当。

滅茶苦茶なデュエルだったな」

 

しみじみと零したのは、先頭を歩いている取巻。

まだ授業まで時間があるため、彼等はそれぞれの寮に戻る事にしたのだ。

夜通しデュエルをしていたため、すっかり聖星の体は空腹を訴えている。

今日の朝食は何だろうと楽しみにしていると、目の前に見たことがある集団が現れた。

 

「不動聖星だな」

 

「え?」

 

突然名前を呼ばれた聖星は顔を上げ、目の前の集団を凝視する。

そこには濃い緑色の制服とマントを身に纏っている倫理委員会のメンバーが存在した。

睨まれたら退学間違いなしと噂されており、入学当初、聖星が杜撰な管理だと指摘した倫理委員会である。

今更何故彼等が自分に用があるのか。

それは取巻、カイザーも同じようで、唯一彼等の存在を知らないヨハンだけが不思議そうな表情をしていた。

 

「お前を査問委員会まで連行する」

 

「どうしてですか?」

 

「貴様には身分詐称の容疑がかかっている。

大人しく着いてきてもらおうか」

 

「!??」

 

身分詐称。

リーダーと思われる女性の口から放たれた言葉に、体中から一気に冷や汗が流れ出す。

何で、どうやってばれた。

頭の中にその言葉が駆け巡り、聖星の顔は一瞬で真っ青になった。

顔色を一変させた様子に自覚があると判断した女性は聖星の腕を掴もうとする。

だが、それより早くヨハンが聖星の前に立ち、カイザーは彼女達に問いただす。

 

「待ってください。

聖星が身分詐称とは一体どういう事ですか?」

 

「カイザー丸藤亮。

貴方達には信じられないかもしれないが、この世に不動聖星という男は存在しない」

 

「何!?」

 

不動聖星はこの世に存在しない。

ならば、自分達と共にいるこの少年は何者なのだ。

まさかの言葉に3人は説明を求めようと聖星に振り返る。

だが、当の本人の顔色はとても悪く、上手く言葉が出てこないようだ。

今までにないくらい動揺している聖星の様子に3人はこれが冤罪ではないのだと察した。

 

「さぁ、来てもらおうか。

貴様が一体どこの何者なのか、何のためにこのアカデミアに来たのか正直に話してもらうぞ」

 

尤も、良くて退学、悪くて刑務所行きだがな。

無慈悲な言葉が嫌に耳に張り付いた。

 

END

 





ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。

今回のデュエルでは彼女の解釈についてとても悩みました。
少なくとも私の中でのタニヤはモンスターと殴り合う戦術を好むデュエリストで、破壊効果や除外効果を好まないキャラクターという印象を抱きました。
だからそのキャラクター性を貫くのならば、強制効果といえども破壊効果がある【アマゾネスの秘宝】は使わない方が良かったかもしれません。
しかし、あのカードを使わないと【アマゾネスの剣士】を上手く使えなかったので……
タニヤのデュエルスタイルが人によっては賛否両論かもしれませんが、少なくともこちらの小説ではそういうデュエリストなのだとご了承ください。


当初は聖星に使わせるデッキは【ソロモンの律法書】等、カード名に【書】がついているカードを中心としたネタデッキの予定でした。
しかし、あまりにもカードが少なくて断念し、【罪宝】もどきデッキにしました。
25周年記念の【ディアベルスター】が可愛くて、これはもう使うしかない!!と勢いでデュエル構成を書いたのですが、楽しかったです。

デュエルのトドメも【シンクロ・ストライク】で強化された【スターダスト】がするはずだったのですが、何故かこうなりました。
何でだろう……


そして、ついにばれた聖星。
国籍は偽造していますが、ある理由で彼は存在しない人間だと判断を下されました。
一体だれが、どうやって下したのかは次回書く予定です。


蛇足ですが、またアンケートを開始しています。
ご協力いただけると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十八話 前を走るのではなく、導くために

月の光が届かない深い夜。

空からの光どころか文明の灯火さえつけていない部屋で、彼は人目を忍ぶようにパソコンで通話していた。

当然、目が悪くなると注意する人間はおらず、更におかしなことに画面に写っているのは一人の男のシルエットのみ。

相手の顔がまともに見えない通話は端から見れば不可解だろう。

しかし、彼はそれがさも当然のように受け入れている。

 

「アムナエル。

デュエリストの闘志は順調にデュエルアカデミアを包み込んでいるか?」

 

「はい、デュエリストの闘志は間違いなくセブンスターズの介入によって増大しています。

しかし、残念ながら、星竜王が託した【スターダスト】のエネルギーが闘志を中和しているのか、当初の予定より大幅に遅れているのが現状です」

 

その言葉に謎の男は口を閉ざす。

彼の目的を達成するためには一定量のデュエリストの闘志が必要不可欠である。

男に残された時間はそれほど長くなく、悠長に満ちるのを待つわけにもいかない。

この世の覇権、永遠の命、喉から手が出るほど欲しい力が目の前にあり、それを手に入れるピース、舞台、全てを整えた。

だというのに、最後の最後で余計な邪魔が入ってしまった。

心の底から気に入らないと吐き捨てるよう、忌々しそうに男は言葉を放つ。

 

「星の民とやらも余計なことをしてくれたな……

ならば、不動聖星をデュエルアカデミアから追い出すしかあるまい」

 

「はい。

それで、不動聖星が持っていた鍵は誰に託しますか?」

 

「ヨハン・アンデルセンだ。

やつも遊城十代と同様、精霊を操る力を持つ。

鍵の所有者としては充分だ」

 

「承知しました」

 

**

 

もし彼が冷静なら、鮫島校長をはじめ学園の重役達の顔が並ぶ画面を呑気に眺め、十代と翔もこんな風に見下ろされていたのかと考えていただろう。

しかし、今の聖星にそこまでの余裕はなく、重い体を無理に立たせ、背中を伝う汗の冷たい感触にさえ震えている。

そんな聖星を見下ろしている倫理委員の女性は目をつり上げながら、何故この場が開かれたのか説明を始めた。

 

「先日、匿名の通報があった。

オベリスクブルー1年不動聖星は身分詐称をしていると」

 

「匿名の通報?」

 

「あぁ。

そこで我々は指導要録に記載されていた中学校関係者に貴様の事を知っているか調査した」

 

学生が経歴を詐称しているなど、どうせ以前転校生としてやってきた少女と同様、年齢を誤魔化している程度だと思っていた。

しかし、通報があった以上調べるのが彼女達の仕事なので、調査を行ったところどうだろう。

叩けば叩くほど埃が出てきて、あまりの内容に言葉を失ったのは記憶に新しい。

女性職員は言葉を区切り、力強く調査結果を報告する。

 

「不動聖星という人間が在籍していた記録はあった。

だが、誰一人として貴様の事を知っている人間はいなかった」

 

「!??」

 

「マンマミ~ヤ!?」

 

彼女の言葉にこの場にいる全員が己の耳を疑った。

つまり、聖星の存在を認める記録はある、だが、彼の存在を証明する記憶がない。

通常ならば矛盾する事がありえない事態に各々困惑な表情を浮かべる。

そんな中、校長としての威厳を保ち、険しい表情を崩さない鮫島校長は彼女に問いかける。

 

「失礼ですが、聖星君が在籍していた記録はあったというのに、誰一人彼の存在を知らないというのはどういうことですか?」

 

「中学校の卒業名簿等のデータ媒体には確かに不動聖星という生徒がいた記録はありました。

しかし、彼が所属していたクラスの生徒、担任教師、部活顧問、彼が住んでいるマンションの近隣住民に話を聞いたところ、皆口を揃えて彼の事を知らないと証言。

更に、卒業アルバムを筆頭に学校側が保管している写真データには不動聖星の姿は一切確認できませんでした」

 

「ふむ……」

 

両肘を机の上に立て、口元で手を組んだ鮫島校長は思案する。

3年間一人の学生が一度も写真に写らない事などあり得るのだろうか。

いいや、限りなくその可能性は低い。

仮に聖星が病弱で入院生活を余儀なくされ、まともに学校に通っていなかったという線も一瞬だけ浮かんだが、それならば教師側が知らないと答える事はなく、データ上にもその記述があり中学校側がアカデミアへ情報提供をするはず。

そして、聖星はプログラミング技術を買われてインダストリアルイリュージョン社や海馬コーポレーションに協力している実績がある。

プログラミングに優れている彼ならば、中学校のデータを改竄する事は容易だろう。

聖星の詐称が白から黒へと変わっていくのを感じ、鮫島校長は眉間に皺を寄せた。

すると、女性職員が机を叩き、画面越しに怒鳴る。

 

「さて、吐いてもらうぞ。

貴様は一体何者だ!」

 

あまりの怒声に彼女の言葉は音が割れてしまうが、その事を気にかける人間はこの場に存在しない。

現に聖星は気にかける余裕はなく、この状況をどう潜り抜けるか必死に考えていた。

だが、国籍等のデータを改竄したのは正真正銘の事実。

彼等が調べあげた内容に一切の誤りはなく、誤魔化すとしてもそう簡単なものではない。

むしろ、そんな奇跡な方法が存在するのか疑わしい。

口の中が乾き、とてもうるさい心臓の鼓動を聞きながら覚悟を決める。

命懸けのデュエルとはベクトルが異なる絶体絶命のピンチに聖星は口を開けようとしたその時だ。

 

「聖星」

 

「(【星態龍】?)」

 

自分を見下ろす女性が痺れを切らす前に何か発言しようとすると、【星態龍】が目の前に現れる。

彼は安心させるように聖星の額を尻尾で軽く叩き、言葉を続けた。

 

「この状況を打破する策を思いついた」

 

「(っ!??

それって本当?

一体それってどんな方法なんだ?)」

 

「あぁ、そのためにはペガサスの協力が必要不可欠だ。

今から私は何とかしてペガサスにコンタクトを取る。

聖星は、自分は正真正銘不動聖星であり、学校関係者から聖星に関する情報を得られなかった事にもちゃんとした理由がある。

ただし、その事情はペガサスが来るまで一切話すつもりはないと言ってくれ」

 

「(分かった、信じるよ)」

 

「任せろ」

 

100%不利であるこの状況をひっくり返すことが出来る方法等、本当に存在するのだろうか。

一瞬だけ精霊の力を使ってこの場を有耶無耶にするのかと考えはしたが、ペガサスの名前が出たことでその線は消えた。

I2社の名誉会長でありデュエルモンスターズの生みの親であるペガサスを頼るというのは、今の聖星にとっては最善かもしれない。

友人にどのような策があるのかは分からないが、藁にも縋る思いでその提案に乗った。

【星態龍】がこの部屋から出ていった気配を感じながら聖星は深呼吸をし、しっかりとした眼差しで前を見た。

迷いがない緑色の瞳には先程まであった脅えはなく、一瞬で変わった雰囲気に鮫島校長は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「何者も何も、俺は正真正銘、不動聖星です。

母校の先生達が俺の事を知らない件に関しても、きちんとした理由はあります」

 

「関係者の全員が口をそろえて『不動聖星』を知らないと言ったんだぞ。

どんな事情だ」

 

「それは俺の口から説明する事は出来ません」

 

「は?」

 

その言葉を漏らしたのは女性か、それともクロノス教諭か、はたまた別の職員か。

はっきりと断言された言葉は到底受け入れることが出来る内容ではなく、この場にいる者達の思いを代弁するかのようにの彼女は怒鳴る。

 

「貴様、それで私達が納得すると本気で思っているのか!?」

 

「俺の口から事情を説明させたければ、ペガサス会長を呼んでください。

俺1人の言葉より、会長の言葉もあった方が信用できるはずです」

 

別にすぐ納得してもらおうなんて聖星だって考えていない。

聖星自身、【星態龍】がどのような策を講じているのか想像もつかない。

だが、長年共に戦い、この一年で親交を深めた友人が任せろと言ったのだ。

絶対に大丈夫だと自分に言い聞かせながら聖星はそれ以上何も言わない。

本気で口を開けるつもりがない生徒の様子に鮫島校長は真剣な表情で言葉を放つ。

 

「聖星君。

1年近く君という生徒を見てきました。

君は月1試験で入学した生徒達の表情が荒んでしまったことが異常であると口にし、七精の鍵を生徒達に託した時には他の生徒達の安全を心配した。

君が真摯な少年である事は理解しています。

私は君を信じます。

ですから、どうかその事情を話してくれませんか?」

 

「ありがとうございます、鮫島校長。

鮫島校長だったら俺の話を信じてくれるかもしれません。

ですが、査問委員会に呼ばれた以上、その事情は彼女達にも知れ渡ります。

その時、彼女達は俺の言葉を信じてくれますか?

自分達の警備が杜撰だった事を隠すために遊城君に制裁デュエルを行おうとした人達ですよ。

仮に信じてくれたところで、自分達の面目を保つために真実を握りつぶそうとしてもおかしくはありません」

 

「貴様……!

先程から黙って聞いていれば!」

 

おっと、流石に最後は余計だっただろうか。

しかし、鮫島校長の願いを受け入れることは出来ないための理由は必要だ。

当時の恨みをちょこっとだけ込めた聖星は各方位から感じる視線を涼しい顔で流す。

顔面蒼白でこの部屋に連れてこられた少年の態度とは思えない堂々とした姿に、鮫島校長は難しい表情を崩さない。

 

「とにかく、俺はペガサス会長が来るまで絶対に話しません。

事情を話さない事を罪とし、退学処分にしたいのならご自由に」

 

尤も、そんなことをすればインダストリアルイリュージョン社とデュエルアカデミアの信頼関係に大きなひびが入ると思いますが。

口から出かかった最後の言葉は何とか飲み込み、聖星は喋る気は一切ないと態度で示す。

被疑者である少年に昔の話を蒸し返され、なめた態度を取られてしまい、彼女は再び怒鳴ろうとする。

しかし、その言葉をさえぎって鮫島校長は決断を下す。

 

「分かりました。

そこまで言うのなら私は早急にペガサス会長に連絡を取ります。

それまでこの件について保留。

聖星君、君は処分が決まるまで自室で待機するように。

勿論、ペガサス会長や友人と接触する事、授業への出席等は認めません。

よろしいですね?」

 

「分かりました」

 

この場で最高権力を持つ男性の言葉に聖星は強く頷く。

とにかく、最低限の指示は守った。

あとは【星態龍】とペガサス会長が上手く何とかしてくれると信じるしかない。

他力本願な部分が多くて情けないが、聖星は深く頭を下げて退出した。

 

**

 

聖星が倫理委員会に連れていかれた直後、部屋の前では数名の生徒達が扉に耳を張り付けていた。

その制服の色は赤、青、青紫、黒の四色。

特に赤と青紫の表情は真剣で、これでもかと耳を澄ませている。

 

「なぁ、ヨハン。

中の声聞こえるか?」

 

「いや、全く聞こえない」

 

聖星が連行された直後、ヨハンと取巻は十代達に連絡をとった。

もちろん、聖星が身分詐称の容疑で連れていかれた事を聞いた十代達は大慌てでヨハン達と合流した。

真剣な表情で耳を澄ませている後輩達を見下ろしながらカイザーは腕を組み、心配そうに扉越しにいる後輩を見つめる。

可愛がっている後輩は基本的にデュエルで不利になっても微笑み、そこまで焦った表情を浮かべることはない。

その彼があそこまで顔を真っ青にしたのは初めてで、嫌なことばかり脳裏によぎってしまう。

知らないうちに険しい顔を浮かべている彼に明日香は声をかける。

 

「聖星が身分詐称だなんて……

亮、本当だと思う?」

 

「聖星は彼等にその事を問われたとき、一切反論していなかった。

もし冤罪ならば聖星は真っ先に否定していただろう。

つまり……」

 

「そう。

でも、きっと何か事情があるのよ。

この間だって貴方を追いかけてはるばるアカデミアに来た女の子がいたでしょう?」

 

「……あぁ、そうだな」

 

明日香の言葉にカイザーは肩から力を抜いた。

良くも悪くも聖星は真っ直ぐで友達思いな少年だ。

彼の過去に何があったのかは分からないが、少なくとも害心があるとは思えない。

 

「(事情が事情ならば、俺から聖星がアカデミアに残れるよう口添えするか)」

 

恋する乙女のごとく大切な人を追いかけてここに来た等の可愛らしい理由ならば、成績優秀者、カイザーとして先生側に働きかけよう。

それはどうなのかと非難されるかもしれないが、聖星はアカデミアから退学させるのは惜しい人材だ。

カイザーがそんなことを考えているとは知らないヨハンは最終手段としてデッキからカードを取り出し、傍に立っていた万丈目はぎょっとした。

 

「しょうがない、【アメジスト】、【ルビー】。

中の状況を確かめてくれ」

 

「おい待て、ヨハン。

貴様、本気で言っているのか?」

 

「聖星のピンチだぜ。

すぐに助け出せるように準備するのが友達ってもんだぞ。

な、十代」

 

「おう!

俺と翔の時だって聖星は助けてくれたんだ。

今度は俺の番だ」

 

「兄貴、僕達の時と今回はかなり状況が違うっすよ」

 

何を言っているんだこのデュエルハガコンビは。

ひねくれた性格をしている自覚がある万丈目でも流石に精霊になかの様子を見てこいと頼むという発想はない。

仮に頼むとしてもあくまで精霊が見えない者達がいない状況だ。

現に明日香やカイザーは不思議そうにこちらを見ている。

すると、勢い良く扉から何かが通過した。

 

「「「うぉお!?」」」

 

「いたっ!」

 

予告なしに出てきた何かに十代とヨハン、万丈目の両肩は勢い良く跳ね上がった。

更に運が悪いことに十代の後ろにいた取巻は顔面に石頭をくらい、その場にうずくまる。

 

「わ、わりぃ、取巻」

 

「けっこう大きな音がしたんだな」

 

「取巻君、大丈夫?」

 

痛みに震えている取巻を隼人と明日香が心配そうに声をかけ、十代は頭を押さえながら謝罪する。

一体何事だと出てきた何かを凝視すれば、赤い龍が黄色い眼でヨハンを見下ろしていた。

 

「【星態龍】!?

聖星はどうしたんだ?」

 

「十代にヨハン達か。

ちょうどよかった、ヨハン、ペガサスと連絡を取れないか?」

 

「え?」

 

まさかの頼みごとにヨハンは怪訝そうな表情を浮かべる。

しかし、聖星がI2社のアドバイザーだという事を思い出し、2人が知り合いでもおかしくないと思い至った。

 

「ペガサス会長に?

どうして?」

 

「今から私が話す事をペガサスに伝えて欲しい。

もし連絡先を知らなければ聖星の部屋に行く」

 

「大丈夫、会長への連絡先は分かるから。

悪い、十代、俺は一旦部屋に戻る」

 

「俺も行くぜ、ヨハン。

取巻、万丈目、何かあったら連絡頼む!」

 

「あ、おい、遊城、アンデルセン!」

 

まだ痛む鼻を押さえつけている取巻は突然の言葉に驚くが、彼の制止を聞く前に2人はブルー寮へと向かってしまった。

だんだんと小さくなっていく背中に取巻は頭を抱え、万丈目はフンと鼻を鳴らす。

【星態龍】を目視出来ない取巻はどのような会話が交わされたのか分からないが、とにかく聖星の精霊が何か助けを求めたのだろうと察した。

だが、取巻以上に精霊への理解がない明日香やカイザー達には2人の行動が奇妙なものとして映り、お互いに顔を見合わせている。

 

「ねぇ、万丈目君、取巻君。

兄貴達、急にどうしたんすか?

ペガサス会長に連絡をとるとか言ってたけど……」

 

恐る恐る訪ねてくる翔に万丈目は言葉に詰まる。

下らんただの妄言だと切り捨てれば簡単だが、名指しされた以上それは難しく取巻へと視線を移した。

当然、取巻もこの場を誤魔化す言葉が思い浮かばず、2人は冷や汗を流すしかない。

無言のまま視線で「どうする?」と会話している同級生達に翔と明日香は首をかしげた。

 

**

 

「鮫島校長、何故不動聖星を帰したのです!」

 

ドン、と机を激しく叩く音が校長室に響く。

普段ならば慎めと苦言を呈するところだが、彼女の怒りに共感できるため他の職員は静かに成り行きを見守っていた。

倫理委員会のリーダー格である女性の怒りっぷりに鮫島校長は一切引かず、静かに言葉を放つ。

 

「聖星君の表情を見る限り、彼に悪意はないように見えました。

彼は身分を偽っている点は認めていましたが、その理由がはっきりしない限り、処分を下すのは早計だと判断した次第です」

 

「……」

 

悪意。

その単語に女性の顔が大きく歪む。

強く拳を握りしめた彼女は冷静にあれと自分に言い聞かせながら深呼吸し、鋭い眼光で上司を睨みつけた。

 

「どんな事情であれ、身分詐称は立派な犯罪です。

学園内のルールを破るとはわけが違いますし、ましてや彼は善悪の分別がつく年齢。

彼の実績を考慮しても退学処分は免れないでしょう」

 

そう、廃寮に侵入した生徒を退学処分にするのはあくまで学園内のルール。

それに対し聖星の行った事はこの国に定められたルールを大きく外れている。

以前この学校に転入してきた少女、レイも身分詐称をしていたが、彼女はまだ小学5年生という善悪の分別が分かり切っていない子供だった。

彼女の両親の誠意ある対応もあったためレイの事は厳重注意と本土へ送り返す事でなんとか終息した。

しかし、聖星は義務教育を終えた高校生であり、レイと同様の対応を取る事は出来ない。

その意味合いを込めて言葉を区切ると、いいタイミングで外部からの連絡が入った。

鮫島校長は一言断りを入れ、電話に出る。

 

「はい。

……分かりました、こちらに繋げてください」

 

その言葉と同時に校長室のテレビに銀髪の男性の顔が映し出された。

待ち望んだ人物の登場に、この場に緊張が走る。

険しい顔を浮かべる者達に対し彼は実にマイペースに挨拶の言葉を述べた。

 

「グッドイブニング、おっと、失礼、ジャパンではグッドモーニングでした」

 

「ペガサス会長。

大変お忙しい中、早急に対応していただきありがとうございます」

 

そう、鮫島校長に連絡をしてきたのは聖星が指名したペガサスだ。

日本との時差を考えるとペガサスは夕食を終え、趣味を楽しんでいる時間だったはず。

それなのにこうやって対応してくれた事に感謝しかない。

 

「ノ~プロブレム。

それで、Mr.鮫島、ミーに話とは何でしょう?」

 

「はい。

実は、不動聖星君についてです」

 

「聖星ボーイですか?」

 

先程まで満面な笑みを浮かべていたペガサスは、共同開発者の名前が出たことで不思議そうな表情を浮かべる。

ころころと表情が変わるI2社の名誉会長に何故こんな時間に連絡を入れたのか、アカデミアで何が起きているのか、そして聖星の事を知っている人間が存在しない点について説明した。

最初は鮫島校長の言葉にたいそう驚いていたが、説明が進むにつれてペガサスの表情は真剣なものになっていく。

 

「オーケー、事情は把握出来ました。

こうなってしまった以上、彼が何者なのか少しだけ話す必要がありマ~ス」

 

「ペガサス会長は聖星君が身分を偽っている理由をご存じなのですね」

 

「イエス。

ですが、これはとてもデリケートな問題デ~ス。

普段ならばミーが気軽に口にしていい問題ではありまセ~ン。

バッド、聖星ボーイが望んでいるのならば、ミーは話しマ~ス」

 

彼の言葉にクロノス教諭をはじめ、この場にいる者達は互いに顔を見合わせた。

先程まで明るい声で言葉を発していた男の姿はそこになく、商談をしている時以上に真剣な表情を浮かべる男の声色はとても重い。

身分を詐称するほどの問題なのだ。

自然と重苦しい雰囲気になるのは当然だろう。

両手の指を絡めたペガサスは口角を下げ、目元を険しくしながらあるお願いを口にする。

 

「では、この場にいる皆様に約束していただきたい。

これからミーが話す事は1人の少年の人生を大きく左右するものデ~ス。

ですから、絶対にこれからの話を口外しないでくだサ~イ」

 

「聖星君の人生を……」

 

「でなければ、ミーはユー達を罪もない若者の人生を壊した大人として軽蔑しマ~ス。

それは若者を守り、育て、導くべき教育機関の関係者として最もやってはいけない事デ~ス」

 

「分かりました。

約束しましょう」

 

軽犯罪法に抵触する内容を、あの大企業の名誉会長が容認している。

その事実も驚きだが、軽蔑という重い言葉を用いてまで口止めをされた事に声を吞んだ。

雲行きが変わって来た事を肌で感じているとペガサスは低い声である言葉を放つ。

 

「United States Federal Witness Protection Program」

 

「え?」

 

流暢な英語で放たれた言葉にこの場にいる殆どの者達が疑問符を浮かべた。

しかし、唯一それを聞き取れたクロノス教諭はその内容を理解し、驚愕の声を上げる。

 

「なんです~と、シニョール聖星が!?

ですが、それなら彼の事を知っている人がいなかったのも納得なノ~ネ」

 

「クロノス教諭、先程ペガサス会長が仰った言葉は……」

 

「証人保護プログラムと言った方がユー達には馴染み深かいかもしれまセ~ン」

 

「「!?」」

 

日本語訳で紡がれた言葉に彼等の表情が強張る。

同時にペガサスが聖星の人生を大きく左右すると危惧した意味を理解した。

だが残念な事にそのプログラムについて知らない職員もいるようで、数名の男性は説明を求めるようペガサスに視線をやった。

 

「証人保護プログラムとは犯罪の証人を報復等から守るため、保護対象を表向き死亡扱いしマ~ス。

その後、保護の対象となった人達は偽名、居住、パスポート、あらゆる個人情報が与えられマ~ス。

聖星ボーイはその証人保護プログラムを受けているのデ~ス」

 

「何だと!?」

 

「証人保護プログラムを受ける以上、経歴の全ては嘘で構成されてしまいマ~ス。

バッド、実在しない学校を経歴に載せるのは不適切」

 

倫理委員会は匿名の通報があったから聖星の過去を調べたが、この世には他人の過去を詮索するのが趣味な人間だっている。

ましてや進学、就職するためには経歴が必要不可欠であり、そこに偽りの地名等を書けばまともに暮らせないのは想像に難くない。

だから、聖星は指導要録に記されている学校の卒業であるという記録が残り、人々の記憶には存在しないのだ。

想定外すぎる過去に彼女は声を荒げる。

 

「嘘を言うな!

貴方とあの少年が出会ったのは、彼がこのアカデミアに入学した後の話だろう!

そもそも、何故貴方は彼が証人保護プログラムを受けていると知っている!?」

 

彼が犯罪者からの報復を恐れ、そのようなプログラムを受けているのが事実だとしよう。

そんな立場の少年が何故ただ一企業の会長に重要な事を打ち明けたのか。

彼等の関係はそれほどまで深くないはずだ。

尤もな疑問を問いかけられたペガサスは顔色1つ変えず、懐かしむように微笑んだ。

 

「その理由は実に単純デ~ス。

ミーと聖星ボーイは証人保護プログラムを受ける前からのフレンド。

地球広しといえど、世間というものはとても狭いものデ~ス。

彼と再会した時はゴーストを見た気分になりました」

 

本来ならば再会したペガサスと聖星の縁はそこで途切れるべきだった。

しかし、ペガサスは両親から引き離され、新しい人生を歩む独りぼっちな子供を見守りたいと思ったのだ。

だから自分は絶対に聖星の味方であると伝え、特別に全てを打ち明けてもらったと言う。

ペガサスの言葉に彼女はこの事を理事長にどう報告するか頭を抱え、顔を両手でおおった。

 

**

 

査問委員会から解放され、謹慎を言い渡された聖星はどこまでも続く白い空間へと足を運んでいた。

ほぼ徹夜でデュエルをし、碌な食事を取る事も出来ないまま査問委員会に連行されたのだ。

体が休息を求めて悲鳴を上げている。

しかし、自分の感情を落ち着かせ、頭の中を整理するためには誰かと会話するしかない。

だから聖星はここを訪れ、今日あったことをZ-ONEに話す。

 

「証人保護プログラムとは考えましたね。

その理由ならば貴方が退学になる可能性はほぼないでしょう」

 

「あぁ、俺も【星態龍】から作戦を聞いたときはその手があったかって吃驚したよ」

 

ここ最近、ある意味定位置となりつつあるZ-ONEの手の上に腰を下ろした聖星は深いため息をつく。

自分1人では絶対に思いつかない突破口を見つけ出すとは、流石は年の功というべきか。

既に感謝の言葉は述べ終えているが、改めて礼を言わなければと考える。

そして聖星はZ-ONEをジト目で見つめ、首を傾げながら尋ねた。

 

「っていうか、父さん。

今日の事、実は知ってた?」

 

「さぁ、どうでしょう」

 

「ふ~ん」

 

聖星からの問いかけにZ-ONEは特に慌てたり弁解したりする様子を見せず、ただ言葉を濁すだけだ。

どちらの線でもあり得そうだが、ここで追及するのは野暮というもの。

頬杖をついた聖星は思考を切り替え、懸念している事をどうしようかと考えた。

一難去ってまた一難という諺が脳裏を過ぎり、自然と先程以上に深いため息が零れてしまう。

 

「随分と元気がありませんね。

なにか他に心配事でもあるのですか?」

 

「あぁ、セブンスターズの事だ」

 

「セブンスターズ?」

 

「さっき、鮫島校長から連絡があったんだ。

俺はペガサス会長がアカデミア側に俺の証人保護プログラムに関する書類を提出するまで自宅謹慎だって。

だけど、存在しない証人保護プログラムを1から偽造して提出するには数日、下手したら数週間かかる。

もし、その間にセブンスターズが攻めてきたら……」

 

思い出すのはバリアンが侵略してきた光景と、ここ数カ月に行われた闇のデュエルだ。

遠い何かを見つめる聖星を見下ろしているZ-ONEは何も言わず、ただ息子の言葉を待つ。

数秒ほど沈黙を貫いた聖星は静かに目を伏せ、首からぶら下げている七精門の鍵を取り出した。

 

「確かに皆は強い、だけど命を懸けたデュエルの恐ろしさは想像を遥かに超える」

 

既に十代達は闇のデュエルを目の当たりにし、その恐ろしさを知っている。

だが、聖星からしてみればあの恐怖はまだ序の口でしかない。

ダークネスとのデュエルで十代は数日の間まともに動けない程のダメージを負った。

今後、皆がそれと同等、いや、それ以上のダメージを受けるデュエルをしないとは断言できない。

更に奇跡的にアカデミア側の鍵の所有者はデュエルに敗北しても死者は出ていない。

しかし、いつまでもこの奇跡が続くとは到底思えなかった。

 

「それに、セブンスターズはタニヤのように正々堂々を好むデュエリストだけじゃない。

目的のためならタイタンやカミューラのように闇の力で卑怯な手を使うデュエリストだっている。

十代以外の皆は闇に抗う術を持っていないんだ」

 

十代が持っている2つに割れたペンダントは闇に抵抗する力を持っている。

闇のデュエルをするたびに明日香や万丈目達にそのペンダントを託すという案も一瞬だけ考えたが、セブンスターズがずっと1人ずつ挑んでくるとも限らない。

現にバリアン世界と遊馬の世界が融合しようとした時、ナッシュ達は同時に攻めてきた。

そして、気を失った遊馬を守るために聖星やⅣをはじめ多くのデュエリストはバリアン七皇とデュエルをし、聖星以外の皆は敗れ、消滅してしまった。

仲間が敗れ、消えていく感覚は今でもしっかりと覚えており、聖星は更に強く鍵を握りしめる。

 

「今この島で起きている戦いは世界が崩壊する中自分の命を盾にし、希望を繋ぐデュエルじゃない」

 

そう、あの時は世界の融合、ナッシュ達の急襲が始まり、遊馬達に希望を託すという選択肢しかなかった。

だが、今はまだ仲間達を守るために多くの選択肢が目の前にある。

最後の1人に希望を託すというギリギリの状態ではないのだ。

しかし、ここで闇に対抗できる自分が身動きできない状態になってしまえば、選択肢を選び続ける事が出来ず、もしかするとあの時と同じ状況を招いてしまうかもしれない。

歯痒い気持ちを抱きながら思いを吐露した聖星にZ-ONEは言葉を返す。

 

「確かに、今の戦いは一縷の希望を繋ぐものではなく、勝利が確約されています」

 

「うん」

 

そう、聖星達はセブンスターズとの戦いに勝利し、【三幻魔】の復活を防いだ。

だからこそ聖星とZ-ONEは未来で生まれ、ここにいる。

仮面越しの青い瞳は静かに聖星を見下ろし、穏やかな声で語りかける。

 

「ですが聖星、この戦いは犠牲なくして勝利を得た戦いではありません」

 

「っ!??」

 

まさかの言葉に聖星は勢いよく顔を上げ、Z-ONEを見上げる。

緑色の瞳は小さく揺れ、自分の面影を色濃く残す顔は青くなっていく。

 

「貴方がこの時代に来る前、何を見てきたかは分かりません。

ですが、貴方の口ぶりからおおよその事は想像できます。

多くの命が失われる中、貴方達は足掻き、希望を託され、未来を勝ち取ったのでしょう」

 

「……」

 

Z-ONEが知っている聖星が歩んだ歴史において、彼が行方不明になった期間があった。

戻ってきた聖星は、遊城十代達の時代で【三幻魔】を巡った戦いに巻き込まれたと遊星に打ち明けてくれた。

だが、それが全てではなく、何か他に重要な事が伏せられているとしっかり記憶に刻まれている。

きっと今この少年が思い出している経験がその謎の空白なのだろう。

 

「英雄でない遊城十代達があの場に立ち、闇に立ち向かう姿は貴方から見れば無謀で無意味な姿に見えるかもしれません。

しかし、強大な敵との戦いは例え英雄でも一人で出来るものではなく、時に仲間の屍を乗り越えなくてはならない。

敗れた者達の意思を継ぎ、最後の一人になっても戦い、破滅の未来を防ぐために」

 

Z-ONEが思い出すのは、かつての己と共に破滅の未来を回避するために過ごした同志達だ。

あの時のZ-ONEはたった1人で立ち向かい、守るべき者達を失った現実に絶望し、僅かに生き残った仲間達と共に奔走した。

しかし、命の灯は静かに散っていき、最後の1人になってしまった。

今思えばなんて未熟で、なんて滑稽な英雄だったか。

 

「そうやって乗り越えた彼等が英雄となり、彼等が掴んだ勝利は未来に繋がります。

そして、未来を生きる私達が生まれるのです」

 

「……」

 

「その希望というバトンを受け取る時、仲間が欠けるかもしれません。

それは悲しいことですが、決して無駄な事ではない」

 

「じゃあ、父さんは何もせず仲間が傷つく姿を見ていろって言うの?」

 

「そうは言っていません。

仲間が傷つく事を見逃せない感情と、仲間を信じる事は両立します」

 

シグナ―に選ばれ、英雄になる資質を持っていたとしても、不動遊星は弱い人間の1人に過ぎない。

だが、それを自覚しながらも彼は仲間から目を逸らさず、仲間が救われる事を信じ続けた。

それを何もしない自己満足だと非難された事もある。

 

「仲間が傷つき、消えていく現実・歴史から目を逸らしてはいけません。

ですが、遊城十代達はこれからの時代を作り出すデュエリスト。

彼等は私達に劣らず強いと信じなさい」

 

確かに彼等は未熟だが、未熟故にたどり着ける領域というものがある。

その可能性は尊く、簡単に踏み躙られるようなものではない。

しっかりと十代達を見つめ、見守る事が偽善だと叫ばれようと、仲間と向き合うという小さな積み重ねが彼等を動かし、歴史を紡ぐのだ。

それはZ-ONE達が生まれた時点で証明されている。

 

「聖星。

何故、貴方に聖星と名付けたか知っていますか?」

 

「え?」

 

何故、ここで自分の名前の由来の話になるのだろう。

仲間を信じる事を説かれていたはずなのに、急に変わった話題に不思議そうな顔を浮かべながら聖星は首を横に振る。

 

「いや、聞いたことないけど」

 

どうやら、過去の彼は聖星に語った事はなかったらしい。

不動博士はルドガーの耳に胼胝ができるほど遊星の由来を語ったというのに。

本当に以前の自分は口下手だったのだと再認識し、穏やかに告げる。

 

「聖とは知徳に優れ尊敬の念を集める者、星とは暗闇のなか道標になる光。

だから私達は貴方に知識と思いやりを持ち、迷う人々の道標になって欲しくて聖星と名付けました。

導く事は成長を促す事です」

 

「導く事は成長を促す事……」

 

「はい。

力を持たないからと貴方が振り返らず前ばかりは走っていては、彼等は一切成長しません」

 

息子には仲間と共に歩みながら乗り越えなければいけない壁にぶつかって立ち止まった彼等の手を引っ張り、壁を打ち砕く道を示して欲しいと願った。

大事な人達に傷ついて欲しくないと思う事は別に悪い事ではない。

しかし、今の聖星は十代達の成長を阻害し、目の前に広がる可能性を狭めようとしている。

だからこそ、Z-ONEは伝えたい。

彼等はそこまで弱くないと。

 

「現に遊城十代は【魔導書の神判】を使う貴方に勝ちました。

たった1人の成長が呼び水となり、周りは強くなっていきます」

 

Z-ONEの言葉に聖星は顔を伏せる。

父の言う通り、十代のデュエルの腕は入学当初と比べて格段に上がっている。

万丈目も兄達からの重圧を押し退け、1人の人間として成長した。

明日香はやっと戻ってきた兄が記憶喪失で心細い日々が続くというのに、一切弱音を吐かない。

闇のデュエルを目の当たりにしても、誰一人として瞳に弱い光を宿していなかった。

それは、あの戦いの中、最後まで抗い続けた遊馬達が宿していた光と良く似ていた。

それを思い出した聖星はZ-ONEから顔を逸らし、静かに微笑んだ。

 

「そっか……

あんな辛いデュエル、皆に経験して欲しくないって思っていたけど……

皆を遠ざけるんじゃなくて、知っているからこそ立ち向かう方法を伝える事も出来るのか」

 

星竜王から1人だけ【閃珖竜スターダスト】を託されたため、全て1人でやらなければならないと無意識に力んでいたのかもしれない。

しかし、鮫島校長は可愛い教え子達が激しい戦いの中で成長し、世界を守ってくれると信じていた。

Z-ONEが言うように聖星が先に走るのではなく、皆と共に並んで走ると。

そもそも星竜王はたった1人で戦って欲しい等、一言も言っていなかった。

当たり前の事をすっかり忘れていた聖星はZ-ONEに満面の笑みを向ける。

 

「ありがとう、父さん。

父さんのおかげで元気出たよ」

 

「それは良かった」

 

自分に向けられる笑顔に先程まであった憂いの感情はなく、実に晴れ晴れとしていた。

まだまだ厳しい戦いが続くこの先で、少しでも息子の肩の荷が下りるのならばこうやって言葉を交わすのも悪くはない。

聖星につられてZ-ONEが微笑むと、聖星の部屋とこの空間を繋げる扉から【星態龍】が飛び出してきた。

 

「聖星、すぐに来い!」

 

「え?」

 

突然呼ばれた名前に振り返ると、とても焦っている様子の【星態龍】と目があう。

一体何があったのだろうかと疑問に思うが、すっきりしている聖星は特に慌てずZ-ONEの腕から飛び降りた。

あっさりと地面に着地した聖星はそのまま振り返り、申し訳なさそうな表情で謝罪する。

 

「ごめん、父さん。

【星態龍】が呼んでるから行かないと」

 

「構いませんよ。

むしろ、本来ならこの状況が異常です」

 

「別に親子なんだから変じゃないだろ?

それより父さん、また後で来るから。

一緒にご飯食べよう!」

 

「好きにしなさい」

 

聖星の言葉に「自分達は仮にも未来を賭けたデュエルをする敵同士なのだから、この状況は立派に異常だ」と口にしかけた。

しかし、今更言ったところで聖星が態度を改めるかと聞かれるとそんな事はなく、正真正銘無駄な事だと思い直す。

手を振りながら自室に戻った息子を見送り、この場に残されたZ-ONEは静かに呟く。

 

「聖星、仲間を信じ、共に歩むという事はとても贅沢な事なのですよ」

 

**

 

「って、何やってるんだよ、皆?」

 

【星態龍】に呼ばれて扉を開けると、窓際に見慣れた3人の姿があり、聖星は思わず突っ込んだ。

空は既に暗くなっており、相当Z-ONEと話し込んだらしい。

しかし、今はベランダを伝って部屋に侵入してきた十代、取巻、ヨハンの3人に突っ込む事が優先だ。

聖星の驚いた表情に十代は親指を立て、取巻は疲れたと言うように肩を下ろし、ヨハンは十代と肩を組んだ。

 

「よっ、聖星。

自宅謹慎って言われたから退屈してるんじゃないかと思ってさ。

様子見に来たぜ」

 

「一応言っておくが、俺はこのデュエルバカコンビを止めたからな」

 

「何言ってんだよ、ここまできたら取巻も立派な共犯者さ。

な、十代!」

 

「おう!」

 

「(これ、倫理委員会にばれたらまた問題になるなぁ)」

 

自宅謹慎を言い渡されている友人の部屋に侵入するなど、クロノス教諭達に見つかったら大問題だ。

まぁ、流石に退学に追い込まれる事はなく、せいぜい厳重注意と反省文を書く程度だろう。

苦笑を浮かべるしか出来ない聖星に対し、ヨハンは我が物顔でソファーに座って聖星を見上げる。

 

「聖星、分かっていると思うが俺達はただ聖星の顔を見に来ただけじゃない。

話してくれ、一体お前は何者なんだ?」

 

「あれ?

【星態龍】からペガサスさんに伝えたのはヨハンだろ?」

 

てっきり【星態龍】から聖星は証人保護プログラムを受けているという説明をされたものだと思っていた。

違うのか?と視線で問えば、ヨハンは強く頷く。

静かに窓を閉めた十代と取巻もそれぞれソファーや椅子に座り、聖星を凝視する。

 

「俺は重要なところは伏せられて簡単な事しか伝えていない。

ペガサス会長には【星態龍】の真意が伝わったようだけど」

 

「俺とヨハンにはさっぱり。

それに、俺達は聖星の口から直接聞きたいんだ」

 

「分かった、話すよ。

俺もヨハンに頼みたい事があったから」

 

「俺に?」

 

「あぁ」

 

強く頷いた聖星は唯一空いているベッドに深く腰を下ろし、【星態龍】が書いてくれた筋書きを話そうとした。

だが、自分を見つめる6つの瞳を見た時、不意に言葉が詰まった。

 

「(俺は、また嘘を重ねるのか?)」

 

査問委員会で身分詐称と糾弾されたとき、自分は本当に曖昧な人間なのだと思い知った。

この時代に聖星の居場所はないため、架空の国籍を作り出さなければ生きていけない、これは事実である。

だからそれに対して罪悪感を抱いた事はなく、さも当然の事だと受け入れていた。

しかし、聖星はそこから証人保護プログラムという嘘を纏い、こうやってこの場に残り続ける。

それは、これから共に戦う仲間に対して誠実な事だと言えるのだろうか。

仕方のない事、【三幻魔】の復活を阻止するために必要だから、言い訳など山ほど思い浮かぶ。

 

「……」

 

「聖星?」

 

突然黙った聖星に3人は顔を見合わせる。

心配そうに自分を見つめる同級生達の眼差しに、聖星は静かに目を閉じて顔を上げた。

 

「俺は、この時代の人間じゃない」

 

「え?」

 

そう声を漏らしたのは誰だったか。

だが、その小さな声をかき消すほどの驚きの声がデッキから上がる。

同時に【星態龍】と【スターダスト】が現れ、聖星の傍に駆け寄った。

 

「聖星!?

お前、何を言って……!!」

 

「キュイ!?

ギュ~!」

 

目の前に迫って来る友人達の慌てる様子に聖星は微笑み、触れる事は出来なくとも優しく頭を撫でた。

穏やかに笑っている聖星が強く頷けば、2匹はそれ以上何も言う事は出来ない。

【星態龍】達の驚く様子はしっかりと目撃され、ただの冗談だと笑い飛ばせる状況ではなくなった。

 

「大丈夫だよ、【星態龍】、【スターダスト】。

3人なら信じられるから」

 

特にヨハンは数週間程度の付き合いではあるが、彼は友人が嫌がる事を率先してやる人間ではない事は分かり切っている。

十代と取巻も悪戯に言いふらすようなデュエリストではない。

【星態龍】は静かに3人へと振り返り、驚きのあまり固まっている少年達を凝視する。

黄色と緑色の瞳から向けられる視線に3人はやっと思考が働き始めたのか、それぞれ戸惑いの声を漏らす。

 

「待った、タンマ。

聖星がこの時代の人間じゃないって、へ??」

 

「デュエルモンスターズの精霊に闇のデュエルがあるんだ。

別の時代の人間がいたっておかしくはないが……」

 

「不動、別に俺達をからかっているわけじゃないよな?」

 

やはり、いくらオカルト等に巻き込まれてある程度の耐性が出来ているとはいえ、十代、ヨハン、取巻の顔には困惑の色が強い。

この反応は自分が異世界の住人だと打ち明けた時の遊馬達に似ている。

いや、遊馬達はアストラルという前例があったため、ここまで困惑してはいなかったか。

1年前の事を懐かしみながら微笑むと、聖星はデッキからあるものを取り出す。

 

「証拠はあるよ、ほら」

 

そう言って聖星が差し出したのは1枚の白いカード。

一瞬だけ【閃珖竜スターダスト】のカードを取り出されたのかと思ったが、その中心に描かれているのは真っ赤な龍。

すると【ハネクリボー】や【宝玉獣】達も現れ、彼等は真っ白なカードと聖星の横に浮かんでいる龍を交互に見る。

彼等の中で最も遅く出会った【宝玉獣】とヨハンはこれのどこが証拠なのか理解できず、首を傾げながら聖星に目をやった。

だが、1番付き合いが長い十代は表情を一変させ、今までの違和感が消えていく感覚を覚える。

 

「【星態龍】がシンクロモンスター?

確かに聖星と【星態龍】は聖星がペガサス会長と出会う前から一緒にいたけど……

マジかぁ~」

 

「遊城、どういうことだ?」

 

「あぁ、俺が【星態龍】と知り合ったのは入学してからすぐの頃だ。

え~っと、ほら、俺が制裁デュエルを受けただろ?

その時には聖星と【星態龍】は一緒にいたぜ」

 

その言葉に取巻は制裁デュエルを行った時期と、聖星がI2社のアドバイザーになった時期を思い出す。

 

「ペガサス会長と出会う前からシンクロモンスターを持っていたって事は、不動は未来の人間か……」

 

「だから聖星、俺に【星態龍】のカードを中々見せてくれなかったのか~」

 

「聖星が未来の人間だっていうのは分かった。

だが、それなら、どうして未来の人間の聖星がこの時代にいるんだ?」

 

ヨハンからの問いかけに聖星は小さく頷く。

さて、これは一体どこまで説明すればいいのだろうか。

意を決して十代達に自分はこの時代の者ではない事を打ち明けはしたが、所詮それは衝動的なもの。

遊馬達の世界について話すべきか考えながら言葉を選ぶ。

 

「俺は1年前、【三幻魔】の復活を阻止するために星竜王によってこの時代に召喚された。

この時代に来た当初は自分で国籍の偽造をしていたんだけど……

冬休みにペガサス会長と出会った時、ペガサス会長は会長が知らないカードを持っている俺の事を不審に思ったんだ」

 

「「ペガサスさんが知らないカード?」」

 

十代と取巻はお互いの顔を見合わせながら冬休みの出来事を思い出す。

確か、あの時デュエルをしていたのは十代と取巻の2人。

特に聖星が変わったカードを使った記憶もなく、ペガサスと遊戯との食事でも何かカードを見せた覚えはない。

強いて言うならば、自分達が使っているカードの元々の所有者は聖星だと口にしたくらいだ。

そこまでの考えに至った2人は勢いよく聖星に目を向ける。

まさか!と問いかけてくる十代と取巻の表情に正解と答えるよう、聖星は言葉を続ける。

 

「あぁ、俺の【魔導書】と十代と取巻に渡したカードの殆どはこの時代にはないカードなんだ」

 

「【レダメ】がこの時代のカードじゃない?

待てよ、不動。

それって歴史的にどうなんだ??」

 

「もしかして、俺の【HERO】達、歴史変えちまったりしてないよな!?」

 

「大丈夫、ペガサス会長には許可を取ってるから問題はないよ。

【三幻魔】のカードとか、他にも色々なカードがI2社以外のところで誕生して世界中にあるから」

 

その言葉に十代と取巻はホッとため息をつく。

しかし、I2社が与り知らないところで新しいカードが生まれている事をさらっと暴露され、それはそれでどうなのかと疑問が残った。

3人の会話を聞きながらヨハンは頬杖をつき、自分と出会う前に色々あったのだなぁと嫉む。

もっと早く皆と出会いたかったと思っているヨハンに気づかず、聖星は【星態龍】のカードをしまった。

 

「ペガサス会長には隠し通せないと思った俺は、彼に全てを話した。

最初は驚かれたけど、進化したデュエルモンスターズを見て会長は凄く楽しそうだったよ。

それで、I2社本社に行ったとき、星竜王の魂が宿った石板を見つけ、俺がこの時代に来た使命について知ったんだ」

 

本当に、あの頃は色々あったものだ。

伝説のデュエリストとデュエルしたいと願ったから信念を曲げてデュエル大会に参加しただけなのに、気が付けばシンクロ召喚のアドバイザーとしてペガサス達に協力。

本社を訪れれば、星竜王から【三幻魔】について依頼され、【閃珖竜スターダスト】を託された。

数カ月前の事を懐かしみながら語った聖星は顔を上げ、真っすぐ3人を見た。

 

「この時代に来た当初は、元の時代に戻るまでの暇潰しとしてデュエルアカデミアに来た。

でも、今は違う。

俺は、十代達がいて、俺達が生まれる未来を守るためにデュエルアカデミアにいる。

だけど、今の俺は自宅謹慎を命じられている。

いつこの謹慎が解かれるのか俺にも分からない……」

 

世界を賭けた戦いなのだから、セブンスターズが攻めてきた時は特例として外への出入りを許可されるかもしれない。

しかし、聖星は決めたのだ。

青いコートのぼたんを外した聖星は首から下げている七精門の鍵を取り外し、ヨハンの前まで歩み寄る。

 

「だから、ヨハン。

君にこれを託す」

 

「七精門の鍵?」

 

「聖星……」

 

「不動、お前……」

 

目の前に差し出され、小さく揺れているのは【三幻魔】を封印している鍵。

この戦いの要とも言える鍵を差し出されたヨハンはゆっくりと聖星を凝視した。

本当に自分で良いのかと問いかける眼差しに、聖星は真剣な表情のまま小さく頷く。

 

「俺は満足に七精門の鍵を守れないかもしれない。

頼む、ヨハン。

俺の代わりにこの鍵を守って欲しい」

 

その言葉にヨハンは体中の鼓動が速くなるのを覚えた。

何故なら、これはとても凄いことだから。

ヨハンにはアカデミアに来て欲しくなかったと、安全な場所に居て欲しかったと願っていたあの聖星が頼ってきたのだ。

そこには確かな信頼という感情があり、認められたという事実がある。

嬉しくて仕方がないヨハンは不敵な笑みを浮かべ、ソファーから立ち上がった。

 

「任せろ、聖星。

この鍵は何があっても俺と【宝玉獣】達で守ってみせる!

な、皆!」

 

ヨハンは自分の周りにいる【宝玉獣】達に目をやり、力強く声をかけた。

闇のデュエルは想像を超える過酷さがあると百も承知でアカデミアに来た【宝玉獣】達はその言葉に強く頷く。

心強い姿に十代と聖星は微笑み、取巻はただ静かに鍵を譲渡する姿を見つめる。

その瞳に憂いの感情がある事に気づいていない聖星は安心したように微笑んだ。

 

「うん、頼りにしてるよ、皆」

 

ヨハンはペガサスが出会った才能あるデュエリストの5本の指に入る程の実力者。

きっと彼等の絆ならばセブンスターズが卑怯な手を使ってきても乗り越えてくれる。

 

「それとヨハン、もう1つ」

 

「え?」

 

聖星から鍵を受け取ったヨハンは首に鍵をぶら下げ、聖星に目をやった。

一体なんだろうと思って言葉を持つと、それはとても意外な言葉で……

聖星の口から放たれた頼み事に十代、ヨハン、取巻は驚愕な声を上げた。

END




ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。


聖星が身分詐称していた事実が発覚しても見逃される理由は、WITSECしかないかなと使いました。
私はWITSECに関しては名探偵コナン程度の知識しかなく、本当のWITSECならば書類もしっかり作りこんでいるのでこんなにあっさりバレることはないと思いますが二次創作という事で見逃してください(震え声)


聖星とZ-ONEの会話はZ-ONE VS 遊星、遊星 VS アキ(2回目)を見直しながら考えました
一応説得する筋は通っていると思いますが、通ってなかったらごめんなさい


Q セブンスターズの件で出た犠牲って?
A 大徳寺先生だよ!


そしてヨハンに鍵を託した聖星
ある意味影丸の狙い通りですけど、こういう展開ならヨハン託すのが王道でしょ
確実に勝ちを狙いに行くのならカイザーなんですけどね(苦笑)


また、アンケートを締め切りました。
結果としては以下の通りです。

「今後取巻に使って欲しいドラゴン族は以下のどれですか?」
(16) 神竜ティタノマキア
(18) ブラック・ホール・ドラゴン
(9) 蛇眼の炎龍
(15) 星遺物の守護竜メロダーク

最初はティタノマキアがぶっちぎり一位を走っていたんですけど、途中でブラック・ホール・ドラゴンが追い抜き、ここ数日はメロダークが急激に票を集めていました
蛇眼の炎龍と一緒にはらはらとトップ争いレースを見ていて楽しかったです
では、取巻がブラック・ホール・ドラゴンを使うデュエルを書きます
ご協力ありがとうございました!

追記
吃驚するくらい改行が出来てなくて焦りました
え、Wordや編集ページではきちんと改行できていたのに何で!??
もし台詞と字の文で改行がおかしい点がありましたら、教えていただけると嬉しいです(´;ω;`)ウッ…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十九話 選ばれなかった者の意地

 

聖星が自室謹慎になってから数日、証人保護プログラムの書類作成は予想通り難航しているようだ。

事情を知っている鮫島校長や十代達は聖星が謹慎している状況に対し焦った様子はないが、聖星が査問委員会に連れていかれた事しか知らない明日香達の心境は穏やかではない。

アカデミアの島で降っている片時雨は、彼等の間にある温度差を的確に表現している。

そして、絶えず降っている雨と光風を浴びながら登校した取巻は、デュエルフィールドの上で腰に手を当てていた。

 

「いや、分かってた。

あぁ、分かっていたさ、留学生はブルー寮所属だからこういう可能性は十分にあるって」

 

そう、同じ寮の者同士でデュエルを行うのが月に1度行われるテストの基本ルール。

だから取巻の相手は明日香や慕谷、胡蝶、寺岡等が候補に挙がる。

当然、とある生徒もその候補に挙がるのだが、ブルーの生徒数を考えると対戦する可能性は限りなく低いだろう。

それに付け加え、今の自分の実力では彼の相手が務まるとは思えないという先入観もあった。

だが、その先入観を嘲笑うように神様とやらは現実を叩きつけてくる。

 

「何で俺の相手がアンデルセンなんだよ!?」

 

顔を伏せていた取巻は勢いよく顔を上げ、過去のアホな自分を殴る勢いで声を張り上げた。

一方、友人の突っ込む姿を目の当たりにしたヨハンは慣れているのか、ハハハと笑みを浮かべながらデュエルディスクにデッキをセットする。

 

「何だよ、取巻。

俺がデュエルの相手じゃ不満か?」

 

「不満じゃなくて、作為的なものを感じるんだよ」

 

留学して初めて行われる定期テストだ。

慣れない異国の地でリラックス出来るよう、それなりに交流がある生徒と組ませたという意図が見える。

しかし、それならば取巻ではなく明日香でも良かったのではないかと、この対戦を決めた教師へ恨めしそうに目をやった。

取巻の叫び声が聞こえ、自身に向けられる感情を読み取ったクロノス教諭は心外だと言うように首を横に振る。

 

「失礼なノ~ネ。

このクロノス・デ・メディチ、誓ってそんな事はしないノ~ネ」

 

「遊城と万丈目、俺と不動のデュエルはどう説明するんですか?」

 

「あれはイエローの昇格を賭けたデュエル。

例外なノ~ネ」

 

「……随分と都合のいい逃げ道がありましたね」

 

昇格を賭けたデュエルならば意図的に対戦相手を決めるのは当然だ。

定期テストのようにある程度のランダム性が必要とされる場合と比べるのは不適切だったか。

2人の会話に本校のシステムをまだ完全に理解しきれていないヨハンは首を傾げて尋ねてきた。

 

「例外?」

 

「遊城と不動が入学した最初の月1デュエルは、遊城と不動のイエロー昇格を賭けてブルーだった万丈目と俺でデュエルしたんだよ」

 

尤も、クロノス教諭は2人、特に十代をイエロー寮に昇格させるつもりはなく、彼等にこの学園の厳しさを叩きこむために組まれたデュエルだったが。

結果は誰もが知っている通り、誇り高いブルーの生徒が落ちこぼれのレッドの生徒に全敗とう形で幕を閉じた。

当時はあまりの屈辱に数日はまともに勉強が手につかなかったものだ。

いやぁ、あの頃の自分は実に青かったと懐かしんでいると、ヨハンは別の疑問が浮かんだのかそれについて聞いてくる。

 

「すげぇな、入学して最初のテストで昇格を賭けたデュエルって。

それにしても、それをするくらいなら何で十代と聖星がレッド寮だったんだ?」

 

「不動に関しては謎だが、遊城はシンプルに座学がヤバい。

どれくらいヤバいかと言うと、フィアンセの意味を知らないくらいヤバい」

 

「……マジ?」

 

絶句とはこの事である。

聖星達と親しくなってから十代の勉強会に強制参加させられている取巻の言葉には確かな重みがあった。

そして、例に挙げられたエピソードを聞かされたヨハンの表情は固まっており、十代がどれ程座学を苦手としているのか正確に伝わったようだ。

 

「十代の奴、進級できるのか?

進級のテストって実技だけじゃなくて筆記もあったよな」

 

「テスト前には俺と不動やイエローの生徒が集まって遊城に勉強を教えているから、年間成績はギリギリ平均点に届くか届かないかだ。

だから多分大丈夫だと信じたい」

 

「取巻、俺も手伝うぜ」

 

「頼む」

 

ヨハンとしても、留学して出会った友人、しかも自分と同じ精霊が見える少年が留年するなど見過ごせない。

音に聞く実力者だから留年の危機があるとは思わず、意外だなぁと軽く考えていたが、フィアンセの意味を知らないと聞かされた以上最悪なケースを想定してしまう。

実技最高責任者のクロノス教諭は他の生徒達のデュエルを見守るためか、ヨハンと取巻のデュエルフィールドから立ち去る。

それと入れ替わるよう、あまり親しくないブルーの生徒達が2人の姿を見て雑談を始めた。

 

「何だ、取巻の相手は留学生のヨハンか?」

 

「可哀そうになぁ、取巻。

あいつ、いつもレッドの十代に負けてるのに、十代に勝ったヨハンが相手だぜ」

 

「勝ち目のないデュエルかぁ、俺なら絶対に嫌だな。

成績が下がるの確定じゃないか」

 

「あれ、早くイエローに降格しろって遠回しに言われてるも同然だろ」

 

瞬間、先程まで取巻に同情の眼差しを送っていたヨハンの表情が険しいものになる。

2人の耳に届かない声量で話しているのならばヨハンは文句を言わない。

だが、これからデュエルを始めるヨハンと取巻に聞こえるように話すなど明確な悪意を感じる。

一言言ってやろうかと思ったが、目の前にいる友人が涼しい顔でデュエルディスクを構えていたため、ヨハンは口を噤んだ。

それに、ヨハンの対戦相手に対して可哀そうと口にする生徒はアークティック校にもいたと自分に言い聞かせてデュエルを始めようとするが、それより先に別のブルーの生徒達の会話が耳に入る。

 

「そういや、いつも一緒につるんでる聖星はどうした?

姿が見えないけど」

 

「謹慎中だとよ。

風の噂だが、犯罪に関与していたから退学処分を受けるとか受けないとか」

 

「げ、マジかよ」

 

彼等が話しているのは定期テストに顔を見せていない聖星の事だ。

倫理委員会が聖星を連行する際、その理由をカイザーやヨハンの前ではっきりと述べていた。

早朝ではあったがブルー寮の前で行われた事なので、あの場を目撃した生徒がいてもおかしくはない。

嫌な風に噂が広まっているなぁと苦々しい気分でいると、その後に続く会話に耳を疑った。

 

「あぁ、それなら倫理委員会に連れていかれるあいつを見たぜ。

いつも笑っているあいつの顔が真っ青で、見ていて腹抱えて笑いそうになった」

 

「良いなぁ、俺もそのシーン見たかった」

 

「っ!?」

 

こいつ等、本気か?

聞き間違いではない、彼の不幸な状況を楽しんでいる旨の発言にヨハンは一瞬だけ思考を止めた。

しかし、その間にも傍にいる生徒達は楽しそうに雑談をしており、次々にこの場にいない聖星への無礼な言葉を続ける。

 

「そもそもレッドの奴がブルーまで這い上がって来る時点でおかしいんだよ。

もしかしたら聖星の奴、金を積んで八百長試合してたんじゃないのか?

あいつ、色々なレアカード持ってるから実家太そうだし」

 

「あり得るかもな。

って事は、アカデミアに入学してきたのも裏口だったりして」

 

「ひぇ~、なんか闇を見た気分だぜ」

 

「っ!!」

 

ついに頭に血が上ったヨハンは勢いよく振り返り、声を荒げようとする。

だが、それより早く取巻の大声がデュエルフィールドに響いた。

 

「アンデルセン!」

 

背中から聞こえた名前を呼ぶ声に、ヨハンは蛇に睨まれた蛙の如く縮こまる同級生達から取巻へと視線を移す。

柳眉を逆立てているヨハンは心底ご立腹なようで、緑色の瞳は何故と問いかけてきていた。

彼等の会話を聞いていた【宝玉獣】達も次々にデッキから現れ、赤、青、藍、緑の宝玉達はヨハンに寄り添い、紫、黄色、橙色の宝玉達は同級生達を冷たい眼差しで睨みつける。

精霊を見ることが出来ない取巻は真っすぐヨハンの目を見つめ、諭すように言葉を放った。

 

「無視しろ、相手にするだけ時間の無駄だ」

 

「だけど、取巻」

 

「アンデルセン。

言いたくないが、成績によって寮を分けられたら自然と他人を見下す環境が生まれるんだ。

そしてここにはイエローからブルーへ昇格しても仲間とは認めない連中が多い。

特に不動はブルーに昇格する前からブルーの連中と何度か衝突していたからな」

 

ある時は聖星の持つ【ブラック・マジシャン】のカード欲しさにアンティルールを持ち掛けたり、待ち伏せしたり、褒められたものではない事を多々してきた。

また、これは人伝に聞いた事だが、取巻の【レダメ】が盗まれた時もブルーの生徒に喧嘩を売ったという。

最近では、聖星はカイザーと同等の実力者、アークティック校への留学等、自分達とは絶対的に違う強者だと理解され始めていたが、やはり不愉快で生意気な同級生だと思っている連中が多い。

眉間に深い皺を刻んでいるヨハンは低い声で嫌々納得したように尋ねてくる。

 

「……つまりあいつ等にとって聖星は仲間じゃないって事か。

だからって、あそこまで言うか?」

 

「言うさ。

気に入らなければ例え相手がどれ程の実力者であろうと下に見る。

凝り固まったエリート思考っていうのはそう簡単に治らないんだよ」

 

「本校の上下関係は厳しいって聞いてたけど、想像以上だな。

こんなんじゃあ楽しいデュエルなんて出来ないだろ」

 

アークティック校にいたとき、聖星に本校の様子を聞いた事はある。

その時にアカデミアの寮制度について教えてもらったが、平気で他人を侮辱するような連中が多い学園だとは夢にも思わなかった。

 

「ルビ~……」

 

久しぶりに本気で怒っている家族の様子に【ルビー】は頬を摺り寄せた。

そして、最低な言葉を放った生徒達を睨みつけている【アメジスト・キャット】、【アンバー・マンモス】、【トパーズ・タイガー】は低い声で感想を言い合う。

 

「倫理委員会に連れていかれた時点で聖星は彼等にとってかっこうの玩具ってわけ、良いご身分ね」

 

「将来、彼等のような者達がプロデュエリストになると思うと頭が痛くなるな」

 

「せっかく留学してきたんだ、あいつ等の根性叩き直すのも悪くないんじゃないか?」

 

彼等が言葉を交わす中、低い唸り声も微かに聞こえてくる。

こういう時、自分達の姿がヨハン達にしか認識されないのが歯がゆくなる。

もしブルーの生徒達が精霊の姿を見る事が出来れば、自分達がどれ程ヨハンや精霊の怒りを買ったのか理解できただろう。

背後と腰から感じる精霊の怒気にヨハンは冷静さを取り戻し、深呼吸を繰り返す。

 

「まぁ良い、あいつ等全員の顔は覚えた。

取巻、早くデュエルしようぜ!」

 

「覚えてどうするんだよ」

 

聞きたくはないし、答えは分かり切っているのだが一応聞いておこう。

取巻からの問いかけにヨハンはただ笑みを浮かべるだけ。

答える気はないのだと察した取巻はデッキケースからデッキを取り出した。

聖星から身の上話を聞かされた時から今日のために練りに練ったデッキである。

頼んだぞ、俺のデッキ。と心の中で呟いた取巻は顔を上げ、ヨハンに宣言する。

 

「それと、アンデルセン」

 

「何だ?」

 

「さっきあいつ等は俺が負けるとか言ってたけど、俺は負けるつもりはない。

当然、勝ちにいく!」

 

「あぁ、そうこないとな!」

 

取巻からの勝利宣言にヨハンは先程まで浮かべていた険しい表情を消し、満面な笑みで強く頷いた。

そう、デュエルとは楽しくて魂と魂をぶつけるゲームだ。

雑念を全て追い出し、今は目の前のデュエルを楽しみたい。

上手く感情を切り替えたヨハンに対し、取巻は静かに心の中で呟く。

 

「(……アンデルセン、選ばれる側のお前に俺の気持ちなんて絶対に分からないだろうな)」

 

2人のデュエルディスクが起動し、赤い光が輝く。

カードをセットする部位にも光が宿り、ライフのカウンターが4000と表示された。

 

「「デュエル!!」」

 

「アンデルセン、先攻は貰うぞ!

俺のターン、ドロー!」

 

勢いよくデッキからカードを引いた取巻はカードの名前を見て戦略を組み立てる。

残念ながらこの手札ではこのターンに大型ドラゴンを召喚して牽制するのは難しいだろう。

引いたカードを手札に加えた彼は別のカードを手に取った。

 

「手札から【兵隊竜】を守備表示で召喚。

俺はこれでターンエンド」

 

「がぁう!」

 

「【兵隊竜】かぁ。

確か俺が魔法、罠、モンスター効果を発動した時、デッキからレベル2以下のドラゴン族を特殊召喚するカードだったな」

 

「あぁ」

 

ヨハンが述べた通り、取巻が召喚した竜は1ターンに1度、デッキからレベル2以下のモンスターを特殊召喚する能力を持つ。

これだけの説明ならば有用かもしれないが、トリガーが相手のカードの発動であるため積極的に使うデュエリストは多くない。

だが、目の前に立っているのはアカデミアでエリート街道を歩んでいるオベリスクブルーの生徒だ。

どのような策略が隠されているのか考えながらヨハンは自分のターンに入った。

 

「俺のターン、ドロー!

手札から魔法カード【宝玉の絆】を発動!

デッキから【宝玉獣】を1体手札に加え、異なる【宝玉獣】1体をデッキから選び、宝玉として俺の場に出す。

俺は【宝玉獣アンバー・マンモス】を手札に加え、【ルビー・カーバンクル】を宝玉にする」

 

「この瞬間、【兵隊竜】の効果発動!

デッキから【兵隊竜】を守備表示で特殊召喚する」

 

2人が発動したカードの光がフィールドを包み込む。

取巻の場には黄色の光が輝きだし、そこから巨大な斧を持った竜が現れた。

それに対しヨハンの場には赤色の輝きから小さな宝石が現れた。

 

「魔法カード【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる」

 

「2体目の【兵隊竜】で3体目の【兵隊竜】を守備表示で特殊召喚する」

 

「このままカードを発動しても壁モンスターは増えるか」

 

「それなら、これでターンエンドするか?」

 

「まさか!」

 

ヨハンの手札には家族のやる気を現すかのように様々なカードが舞い込んでいる。

取巻とのデュエルを楽しみたい家族と自分のためにこれでターンを終了するという選択肢はない。

だからヨハンは次のカードを掴んで発動する。

 

「手札から装備魔法【金科玉条】を発動。

デッキから【宝玉獣】を2体選び、魔法・罠ゾーンに置く。

そして俺の墓地から【宝玉獣】を1体特殊召喚する」

 

「墓地の【宝玉獣】?

さっきの【天使の施し】か」

 

「当たりだ、取巻」

 

「それなら【金科玉条】が発動した瞬間、【兵隊竜】の効果発動!

デッキからレベル2の【ミンゲイドラゴン】を守備表示で特殊召喚する!」

 

「俺は【コバルト・イーグル】と【トパーズ・タイガー】を魔法・罠ゾーンに置き、【アンバー・マンモス】を選択する。

来い、【アンバー・マンモス】!」

 

「はぁ!」

 

「……」

 

デッキから選択されたのは独特な模様を体中に刻み、木製のような質感を持つドラゴン。

取巻の前に召喚された【ミンゲイドラゴン】は民芸品をモチーフにしているためか、一言も鳴くことはなく、両翼を目の前にクロスさせ、静かに鎮座した。

一方、【アンバー・マンモス】はマンモスという名に恥じない力強い声を上げながら場に現れ、小さなドラゴン達を見下ろす。

3体の【兵隊竜】は圧倒的な攻撃力を持つモンスターを前に脅えた様子を見せず、しっかりと【アンバー・マンモス】を見据えている。

 

「更に手札から魔法カード【宝玉の契約】を発動!

【ルビー】を俺の場に特殊召喚する!」

 

「ルビッ!」

 

「【ルビー】、ルビー・ハピネス!」

 

「ルビィ~!」

 

【宝玉の契約】より放たれた光は赤色の宝石を包み込み、まるで新しい命が生まれるかのように宝石が割れる。

その中から勢いよく飛び出した【ルビー・カーバンクル】は尻尾を高く上げ、ヨハンを守っている家族を目覚めさせた。

 

「【コバルト・イーグル】、【トパーズ・タイガー】を特殊召喚!」

 

「呼ばれて颯爽と登場ってな!」

 

「お前だけじゃないぞ、【イーグル】!」

 

2つの赤い光は青と黄色の宝石を照らし、その光の中から巨大な鷲と虎が現れる。

攻撃表示で召喚された2匹は守りを固めているドラゴンを見た。

守備力はそこまで高くはないが、主を守る心意気は本物のようで、ここを通す気はないと彼等の目が訴えている。

向けられる敵意に闘争心を煽られたのか、【コバルト・イーグル】と【トパーズ・タイガー】は実に良い笑顔を浮かべた。

 

「いやぁ、それにしてもまだ2ターン目なのに相手の場も良い具合に埋まってるなぁ」

 

「モンスター4体は確かに厄介だが、守備力はたったの800と200だ。

俺達の敵じゃないだろ、ヨハン」

 

「あぁ。

取巻はドラゴンを4体も並べたんだ。

だったら俺は5体並べないとな」

 

家族から向けられる言葉にヨハンは頷く。

それは期待ではなく、出来て当然という信頼。

今まで積み重ねて深めた絆があってこその発言はとても暖かい。

一方、ヨハンが【宝玉獣】達とどのような会話をしているのか分からない取巻は唯一理解出来た言葉に反応する。

 

「5体?」

 

「俺は手札から【サファイア・ペガサス】を召喚!」

 

「はぁ!」

 

「そうだ、まだアンデルセンは通常召喚をしていない……!」

 

まだ召喚されるモンスターに取巻は眉間に皺を寄せる。

ヨハンが召喚した【サファイア・ペガサス】は煌めく光の中から現れ、純白の翼を広げて存在感を強める。

頭部に生える宝石と同じ目を持つ【サファイア・ペガサス】はヨハンに振り返り、今すぐ駆けだせるように一歩前に出る。

 

「まさかこうも早く呼んで貰えるとはな。

だが、相手の場を見れば私を呼びたくなるのも当然か」

 

「頼りにしてるぜ、皆」

 

これでヨハンの場にはモンスターが5体。

取巻の場に存在する3体の【兵隊竜】と【ミンゲイドラゴン】を撃破し、ダイレクトアタックが出来る。

 

「【サファイア・ペガサス】の効果発動。

サファイア・コーリング!」

 

【サファイア・ペガサス】は召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、デッキ・手札・墓地から【宝玉獣】を宝石として場に出す能力を持つ。

当然、モンスターゾーンを圧迫しない効果を使わないという選択肢はなく、ヨハンはデッキで今か今かと待ち構えている家族を選び、デュエルディスクにセットする。

同時に場に緑色の宝石が現れ、取巻はあれが誰なのかすぐに理解した。

 

「緑色の宝石……

【エメラルド・タートル】か」

 

「あぁ。

それじゃあ取巻、バトルフェイズだ!

【ルビー】で【ミンゲイドラゴン】に、【コバルト・イーグル】、【アンバー・マンモス】、【トパーズ・タイガー】で【兵隊竜】に攻撃!!」

 

【ルビー】は攻撃力300という攻撃向きのモンスターではない。

しかし、取巻の場に存在する【ミンゲイドラゴン】の守備力はたったの200。

他の【兵隊竜】に関しては記さなくても分かるだろう。

4体のモンスターの攻撃によって取巻の場には爆風が吹き荒れ、取巻は破壊されるモンスター達を見る事しか出来ない。

爆発と共によって生じた黒煙が晴れる中、ヨハンの声が響く。

 

「【サファイア・ペガサス】、ダイレクトアタック!」

 

「ぐっ!!」

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

空から急降下してきた【サファイア・ペガサス】の攻撃は取巻の体を貫き、彼のライフを1800奪った。

ダイレクトアタックの衝撃で数歩下がった取巻はすぐに体勢を立て直し、真っすぐヨハンを見る。

ヨハンが先制した事で周りの生徒達は盛り上がり、大勢の声がデュエルフィールドに響く。

そんな中、自分達のテストを終えた十代、万丈目が観客席へやって来た。

特に十代は見知った顔がデュエルしている事に目を輝かせ、近くで見ようと最前列まで駆け寄っていく。

 

「おっ、始まってる!

ヨハンと取巻がデュエルしてるのか。

あ~、最初から見たかったなぁ~!」

 

「ふん、取巻の相手はヨハンか。

取巻も運がないな」

 

「何だよ、万丈目。

取巻の事応援してやれよ、友達だろ」

 

「誰が友達だ、誰が!」

 

一体十代は以前の万丈目と取巻を見て、何故友達という評価をしたのだろうか。

以前の2人は権力者と権力者に媚を売っている者で、良好ではあったかもしれないが友好的な関係ではなかった。

歪な関係がなくなりはしたが、だからといって好転したわけでもない。

その意味合いを込めて怒鳴るが、当の十代は本気で言っていたのか、きょとんとした表情を返される。

十代に理解を求めた自分が愚かだったと思い直した万丈目は数年前を振り返った。

 

「だが、あいつとは中学の頃からの付き合いだ。

取巻の実力はお前よりも知っている。

はっきり言おう、あいつには無理だ」

 

「マジでひでぇな、万丈目」

 

「そういう十代こそ、あいつがヨハンに勝てると思うのか」

 

確かに、百歩譲って取巻のデュエルの腕が向上しているとしよう。

強者とのデュエルで得た経験の積み重ねは確実に取巻を強くしている。

だが、その強さはあの場に立っているヨハンをはじめ、万丈目や十代を超える強さではない。

そう含めた問いかけをしたところ、十代は不敵な笑みを浮かべて返した。

 

「思ってるさ」

 

「何故だ?」

 

「何故って、当然だろ万丈目」

 

そう、十代にはしっかり伝わっていた。

もし取巻が逃げ腰でヨハンとデュエルをしていれば、取巻の敗北が濃いと判断しただろう。

しかし、あの場に立っている取巻の目は違う。

相手がヨハンだからと負けるつもりはない、勝つという強い意志を宿しているのだ。

 

「デュエルってのは、最後の最後まで誰が勝つか分からないもんだぜ」

 

そう笑った十代は万丈目からヨハンと取巻へと視線を移した。

上記のような会話が繰り広げられている事を知らない取巻はデッキからカードを引く。

 

「俺のターン、ドロー」

 

今、ヨハンの場には【宝玉獣】が5体。

低い攻撃力を持つモンスターが攻撃表示になっているのはヨハンとしても都合が悪い。

そして彼の場には1枚の伏せカード。

あれが何のカードなのか簡単に予想がつく。

では、あのカードに怯えて除去カードが来るまで守りに徹するかと聞かれると、答えはノー。

 

「俺の場にモンスターが存在しないとき、【ミンゲイドラゴン】は墓地から特殊召喚できる!

【ミンゲイドラゴン】を特殊召喚!」

 

「……」

 

「さらにこいつはドラゴン族の生贄召喚に使用する時、2体分の生贄になる!

【ミンゲイドラゴン】を生贄に捧げ、【タイラント・ドラゴン】を生贄召喚!」

 

「グォオオオ!!」

 

無言を貫く小型のドラゴンは風を纏いながら次元の彼方へと消え去り、代わりに額に宝石を埋め込まれた西洋風のドラゴンが場に現れる。

その攻撃力は2900と、ヨハンの場のモンスターを簡単に蹴散らせる数値だ。

更に【タイラント・ドラゴン】は自身を対象にする罠カードを無効にして破棄する効果を持つ。

 

「(アンデルセンはデッキに相手のカードを破壊するカードを入れていないと言っていた。

なら、この状況でモンスターを守るカードといえばカウンター罠の【攻撃の無力化】か、バウンス系のカード。

そのほとんどが相手モンスターを対象にする効果。

【タイラント・ドラゴン】にはそんなカードは通用しない!)」

 

だから、滅多な事ではない限りこの攻撃は通るはずだ。

さらに【タイラント・ドラゴン】は相手の場にモンスターが存在する時、追撃する効果も持つ。

攻撃力2900の【タイラント・ドラゴン】で攻撃力1700の【アンバー・マンモス】と攻撃力300の【ルビー・カーバンクル】を攻撃すれば、ライフの殆どを削る事が出来る。

 

「【タイラント・ドラゴン】で【アンバー・マンモス】に攻撃!」

 

「罠発動【和睦の使者】!」

 

発動されたのは、ヨハンへのダメージを0にし、モンスターの破壊を無効にするカード。

【タイラント・ドラゴン】を対象にしてはいないため、無効にして破壊する事が出来ない。

 

「そう簡単に通してくれないか。

カードを2枚伏せてターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー。

【強欲な壺】を発動。

デッキからカードを2枚ドロー」

 

新たに引いたカード達を見下ろしたヨハンは考える。

【ミンゲイドラゴン】が特殊召喚された時点で取巻が上級ドラゴンを呼ぶことは分かっていた。

普通のデュエリストならば厄介な相手となるドラゴンの召喚を阻害しただろう。

だが、ヨハンはカードによる破壊ではなく、真正面から叩き潰す事を好む。

故にそれを可能にするカード達が手札に来てくれた。

 

「魔法カード【野生開放】を発動!

【サファイア・ペガサス】の攻撃力は守備力分アップする!」

 

【サファイア・ペガサス】の攻撃力は1800、守備力は1200。

つまり、【タイラント・ドラゴン】の2900を超えた3000になる。

 

「バトル!

【サファイア・ペガサス】で【タイラント・ドラゴン】を攻撃!」

 

「罠発動、【バーストブレス】!!」

 

「げっ!!」

 

赤いオーラに包まれた【サファイア・ペガサス】が【タイラント・ドラゴン】に攻撃しようとすると、取巻の場に伏せられたカードが発動した。

そこに描かれているのはカード名に相応しく、ドラゴンがブレスを吹いている姿だ。

あのカードは取巻の場に存在するドラゴン族モンスターを生贄に捧げる事で、その攻撃力以下の守備力を持つフィールドのモンスターを全て破壊する効果を持つ。

早い話が、ヨハンの【宝玉獣】達全員は取巻に牙を向ける前に破壊されるのだ。

大丈夫だとは思うが取巻はヨハンに尋ねた。

 

「効果の説明はいるか?」

 

「いや、大丈夫だ。

けど良いのか、せっかく召喚した【タイラント・ドラゴン】を生贄に捧げて」

 

「あぁ、問題ない」

 

【タイラント・ドラゴン】は墓地から蘇生する時にある制約がかかる。

【ミンゲイドラゴン】の効果によって生贄に捧げたモンスターが1体だけだったとはいえ、高い攻撃力を持つモンスターをあっさりと手放す決断力は褒めるべきだろう。

 

「(ま、ここで【バーストブレス】を発動しておかないと、皆のダイレクトアタックでデュエルが終わっちまうからな)」

 

先程は絶対に勝つと宣言されたのだ。

それなのにあっさりとデュエルが終わってしまうなど心底つまらない。

まだまだ続くデュエルに楽しくなってきたヨハンは不敵な笑みを浮かべ続ける。

自分の場のモンスターを全て破壊されるというのに焦りの色を見せないのは、【宝玉獣】達の性質があるからだろう。

【タイラント・ドラゴン】の口から放たれた炎によって【宝玉獣】達は焼き払われ、何体かは宝石になろうとする。

すると、未だにフィールドに残る炎がじょじょに黒くなり、取巻の場に集まっていく。

ソリッドビジョンの様子にヨハンは口角を上げ、何が出てくるのか凝視した。

 

「何だ?」

 

「フィールドのモンスターが対象をとらないカードの効果で破壊された時、手札からこいつを特殊召喚する」

 

「!」

 

「現れろ【ブラック・ホール・ドラゴン】!」

 

そのカード名が宣言された瞬間、場に集まった黒い炎が輝きだす。

光さえ飲み込む闇は突風を生み出し、全てを吸い込む穴が大きくなっていく。

と思えば、その中から1対の手が現れ、巨大な顔がヨハンの場を覗き込むかのように現れた。

頭部に白い光を宿す鋼のドラゴンはゆっくりと降臨し、敵であるヨハンに威嚇として咆哮を上げた。

 

「グォオオオオオオ!!」

 

「すげぇ、かっけー!!」

 

体中を震わせる咆哮は殆どの者の戦意を喪失させるだろう。

だが、彼を見上げているヨハンは根っからのデュエルバカ。

例え恐ろしいモンスターが対峙しようと、ヨハンは目を輝かせながら声を弾ませる。

相変わらずな少年に破壊された【宝玉獣】達は苦笑し、【トパーズ・タイガー】はため息を零しながら声をかけ、【コバルト・イーグル】は【トパーズ・タイガー】の背中をぽんぽんと叩いた。

 

「おい、ヨハン。

俺達全員破壊されたんだぞ、何呑気に感動してるんだ」

 

「まぁ、まぁ。

確かにあれはカッコいいから見とれたってしょうがないって」

 

「あぁ、【タイラント・ドラゴン】も正統派ドラゴンでかっこよかったけど、こいつもかっこいいぜ。

俺は【サファイア・ペガサス】、【トパーズ・タイガー】、【ルビー・カーバンクル】を宝玉として場に残す」

 

5体の【宝玉獣】のうち場に残されたのは3体。

ヨハンの場に並ぶ青、黄色、赤の宝石を見ながら取巻はカード処理を行う。

 

「それなら俺は【ブラック・ホール・ドラゴン】の効果を使う。

このドラゴンが自身の効果で特殊召喚に成功した時、デッキから【ブラック・ホール】を手札に加える」

 

「へぇ、手札に【ブラック・ホール】か。

これは警戒しておかないとなぁ」

 

【ブラック・ホール】はデュエル初心者でも知っているほど有名な全体破壊カード。

まさかあのカードに専用の効果を持つモンスターが存在したとは知らなかった。

これだからデュエルは奥が深いのだと笑ったヨハンは次のカードを発動する。

 

「手札から【レア・ヴァリュー】を発動。

相手が選んだ【宝玉獣】を墓地へ送り、俺はデッキからカードを2枚ドローする」

 

「俺は【ルビー・カーバンクル】を選択する。

(【ルビー・カーバンクル】は特殊召喚された時、他の【宝玉獣】を目覚めさせる効果を持つ。

後の事を考えるとこのまま場に残すのは得策じゃないな)」

 

「すまない、【ルビー】。

俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

赤色の宝石と入れ替わるように2枚の伏せカードが場に現れる。

さて、あれはどのようなカードなのだろうか。

今までの経験と既存の手札で出来る事を考えながら取巻は自分のターンを始める。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

引いたのは1枚のドラゴン族モンスター。

思い入れのあるそのカードに取巻は不敵な笑みを浮かべた。

当然、真正面にいるヨハンにもその表情は読み取れ、これから反撃が始まると察した。

 

「手札から【サファイアドラゴン】を召喚!

そして、【サファイアドラゴン】をゲームから除外し、手札から最強のドラゴンを特殊召喚する!」

 

「最強のドラゴン!?

【ブラック・ホール・ドラゴン】と【タイラント・ドラゴン】を超えるドラゴンがまだいるのか!?」

 

「あぁ、紹介するぜ、アンデルセン。

俺のエースだ」

 

「取巻のエース!」

 

場に現れたのは高等部に進級する前から愛用している宝石のドラゴン。

光を反射して煌めく【サファイアドラゴン】はすぐに闇へと引き込まれる。

【ブラック・ホール・ドラゴン】が特殊召喚された時とは違う闇の輝きは一筋の光となり、燃えるような赤が輝き始めた。

エースという単語に更に目を輝かせたヨハンは幼い子供のように様子を見守る。

 

「【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】!!」

 

「グァアアアアア!!!!」

 

赤い光を纏いながら特殊召喚された【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】は大きく翼を広げ、【ブラック・ホール・ドラゴン】の隣に舞い降りた。

取巻がエースと称する程の威圧感はあり、【ブラック・ホール・ドラゴン】とも【タイラント・ドラゴン】とも違う美しさは見る者を魅了する。

そして心なしか取巻の表情が得意げだ。

見たこともないドラゴンの登場にヨハンは楽しくて仕方ないという表情を浮かべ、冷静に場を整理した。

 

「攻撃力2800かぁ。

これはちょっと厳しいなぁ。

罠発動、【粘着落とし穴】!」

 

「なっ!?」

 

「悪いが【レッドアイズ】の攻撃力は半分になってもらうぜ」

 

伏せられていたカード名に取巻の自信満々だった表情が驚愕へと変わる。

【粘着落とし穴】はヨハンが宣言した通り、特殊召喚されたモンスターの攻撃力を半分にするもの。

せっかく召喚したエースを弱体化されてはそのような顔になるのも無理はない。

一気に攻撃力が1400まで下がってしまったエースを見上げながら取巻は顔を顰め、カードの効果を発動する。

 

「だが、【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の強さは攻撃力だけじゃない!

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の効果発動!

【兵隊竜】を墓地から守備表示で特殊召喚する!」

 

「がぁう!!」

 

「【死者蘇生】内蔵のドラゴンか!

確かにエースに相応しい効果だな」

 

耳に届いたヨハンの言葉に取巻は眩しそうに目を細める。

普通のデュエリストならば、壁となるモンスターがいない状況で攻撃力3000のモンスターと特殊召喚効果を持つモンスターを並べられたら、臆して険しい表情を浮かべるだろう。

しかし、カードを交えている目の前のデュエリストは違う。

焦りの汗1つさえかかず、心の底から楽しそうにこの場にいる。

それは元々のヨハンの性格故か、それとも、もう1枚の伏せカードが逆転に繋がるカードだからか。

 

「(きっと、両方なんだろうな。

アンデルセンはそういうデュエリストだ)」

 

別に取巻はヨハンの事を十代のように太陽のような眩しい男と評価するつもりはない。

しかし、目の前にいる少年は間違いなく皆の前を走っていく、時代に選ばれた側の人間だ。

どれ程手を伸ばしても、やっと背中を掴めたと思っても、次の瞬間にはさらに前に進んでいる少年。

以前の取巻ならば彼等はそういう人間なのだと納得し、さも当然だとその背中を見つめるだけだった。

静かに目を閉じた取巻は先日の事を思い出す。

2人に強引に連れていかれ、大人達の目を盗んで聖星の部屋を訪れたあの夜を。

 

「(アンデルセン。

お前は不動から鍵を託された時どう思った?

俺はお前が羨ましくて、悔しくて、情けなくて仕方なかったさ)」

 

別に聖星がヨハンを頼った事を間違った選択だと口が裂けても言うつもりはない。

誰が見ても、留学してくる程の実力者であるヨハンに鍵を託すのが正解だ。

だが、あの場面を見たとき確かに取巻は絶望にも似た何かを抱いた。

 

「(あぁ、自業自得だ。

俺は今の強さに満足してお前達には勝てないと決めつけ、遊城や万丈目のように次の領域に行こうとしなかった。

強くなろうとしなかったから、不動はこの時代に来てから付き合いの長い俺じゃなく、たった数週間しか過ごしていないお前を頼った)」

 

その現実をどうしても許せなかった。

親しい友人の信頼を、ぽっと出の男が自分以上に得ている。

確かに、自分と聖星は最初から仲が良かったわけではない。

それでも自分達は日々を積み重ね、頼る事も頼られる事もあった。

だから聖星は取巻の事を信頼して未来の人間である事を打ち明けてくれた。

しかし、聖星はヨハンを選んだ。

何故自分を選んでくれなかった、どうして彼を選んだ。

八つ当たりでしかない感情が心の奥底からあふれでる度に、弱いくせに欲しがる自分の惨めさを自覚して嫌になっていく。

 

「バトル!!

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】で攻撃!」

 

「グォオオ!!」

 

「っ!!」

 

取巻の攻撃宣言と共に【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の口から炎が放たれる。

宝玉の壁をすり抜けた炎はヨハンの体を包み込み、彼のライフを4000から2600へと削った。

ダメージを負ったヨハンはすぐに笑みを浮かべ、真っ直ぐ前を見る。

その瞳に宿る煌めきはとても美しい。

 

「(だから決めた、俺はお前達より強くなってやるってな!)」

 

ヨハンばかりずるいと駄々をこねるなんて情けない真似はしたくない。

頼って貰えないのなら頼って貰えるほど、いや、俺を頼れと宣言できるほど強くなれば良い。

それが今の自分に出来るシンプルな答え。

以前の自分が今の取巻を見たらバカみたいに熱くなっている彼を嘲笑っただろう。

それでも良い。

過去の自分が何と言おうと、未来を決めるのは他の誰でもない現在の取巻だ。

 

「【ブラック・ホール・ドラゴン】でダイレクトアタック!!」

 

【ブラック・ホール・ドラゴン】の攻撃力は3000。

ヨハンの残りライフは2600。

彼等のデュエルを見守っていた十代と万丈目は少しだけ席から立ち上がり、取巻を凝視する。

 

「この攻撃が通れば取巻の勝ちだ!」

 

「まさか、あいつ……!」

 

「デッキから【宝玉獣アメジスト・キャット】を墓地に送り、【宝玉割断】を発動!」

 

「っ!?」

 

「【ブラック・ホール・ドラゴン】の攻撃力を半分にし、取巻はデッキからカードを1枚ドローする」

 

「それなら俺は【兵隊竜】の効果でデッキから【ミンゲイドラゴン】を特殊召喚する!」

 

伏せられていた最後のカードが表になる。

そのカードの効果は先程ヨハンが使用した【粘着落とし穴】と似ている。

違うのは発動するタイミングと相手に手札増強を許してしまう点か。

ヨハンへと突撃した【ブラック・ホール・ドラゴン】は彼のライフを2600から1100へと削ったが、その表情はどこか悔しそうだ。

モンスターと同じ表情を浮かべている取巻は静かに拳を握りしめ、デッキから加わったカードを見下ろす。

 

「(アンデルセンのモンスターの攻撃力は総じて低い部類が多い。

破壊カードなしで相手モンスターを倒すのなら攻撃力を増減するカードを使うのは予想がつく。

けど、2枚も半減カードを引くか?

いや、いい、今はデッキからドローさせてくれたと考えろ)」

 

そして取巻は【宝玉割断】をトリガーとして特殊召喚された【ミンゲイドラゴン】を見下ろす。

 

「これはバトルフェイズ中の特殊召喚だから、【ミンゲイドラゴン】も攻撃できる。

【ミンゲイドラゴン】でアンデルセンにダイレクトアタック!」

 

「ぐっ!!」

 

【ミンゲイドラゴン】は大きく口を開け、ヨハンへ噛みついた。

攻撃力は400と低いが、ヨハンのライフを風前の灯火にするには充分すぎる。

【ミンゲイドラゴン】が取巻の場に戻った事を確認したヨハンはゆっくりと汗を拭う。

 

「危ない、危ない。

【兵隊竜】を攻撃表示で特殊召喚されていたら俺の負けだったな」

 

「【兵隊竜】の攻撃力は700。

アンデルセンのライフも700。

守りを固めず、攻撃に徹すれば良かったってわけか」

 

万が一の事を考え、壁として並べようとした意識がここで足を引っ張るとは思わなかった。

だが、今のところ場もライフも取巻が優勢だ。

焦るなと自分に言い聞かせながら彼は【ブラック・ホール】を除く残りの手札全てを伏せる。

 

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー!

手札から【死者蘇生】を発動!」

 

「させるか!

カウンター罠【神の宣告】!

【ルビー・カーバンクル】は蘇生させないぜ」

 

今、ヨハンの場には宝玉が3つ。

【サファイア・ペガサス】と【トパーズ・タイガー】はドラゴン達を戦闘破壊出来る攻撃力だ。

彼等が特殊召喚されるのは願い下げである。

ライフを犠牲に妨害されたヨハンは頬をかく。

 

「あちゃ~、やっぱカウンター伏せてたか。

それなら、魔法カード【宝玉の恵み】を発動。

墓地に眠る【宝玉獣】2体を宝玉として復活させる」

 

「(【宝玉獣】を2体?

これでアンデルセンの魔法・罠ゾーンは全て宝玉で埋まった。

これじゃあアンデルセンは魔法カードを発動できない。

モンスター効果を使おうにも【宝玉獣】モンスターは7体のみ。

そいつら全員魔法・罠ゾーンか墓地にいる。

どうするつもりだ?)」

 

ヨハンの場には赤と紫の宝玉が置かれる。

つまり、【ルビー・カーバンクル】が魔法・罠ゾーンに置かれた。

しかし、先程取巻が考えた通り、ヨハンが出来ることはないように思える。

 

「それなら俺は、【兵隊竜】の効果で【デコイドラゴン】を守備表示で特殊召喚する」

 

彼が何をしようとしているのか読めないまま【デコイドラゴン】を特殊召喚すると、答えを教えてくれるようにヨハンはデュエルディスクのある場所を開く。

 

「俺は手札からフィールド魔法【虹の古代都市-レインボー・ルイン】を発動!」

 

「しまった、フィールド魔法を忘れていた……!」

 

自分もフィールド魔法【山】を散々使っていたというのに、そこを見落とすとは情けない。

驚きの表情を見せてくれた取巻に対し、ヨハンは自信満々に効果を説明する。

 

「【レインボー・ルイン】は俺の場に存在する宝玉の数で効果を得る。

俺の場に宝玉が4つ以上ある時、俺はデッキからカードを1枚ドロー出来る」

 

「ドロー効果があるフィールド魔法だと!?」

 

「当然俺は、この効果を使う」

 

「それならアンデルセンがドローした瞬間に罠カード【無効】を発動!」

 

「!?」

 

取巻が発動したのはフードを被った男が待ったをかけているカード。

そのカードの名前にヨハンは効果を知っているのか、厄介なものを見るような眼差しを送っている。

 

「カードの効果によってドローしたカードを互いに確認し、そのカードは全て墓地に捨てる。

さぁ、何のカードを引いたか見せてもらおうか」

 

「へぇ、良いカード使うじゃん。

俺が引いたのは【宝玉の氾濫】だ」

 

ヨハンが引いたカードを見た瞬間、取巻は安堵の息を零す。

煌めく宝石が描かれたカードはその外見にそぐわぬ強力な能力を持っており、先日でも十代とヨハンのデュエルでヨハンを勝利に導いていた。

それを覚えている万丈目と対戦相手だった十代は椅子に座ったままそれぞれ呟く。

 

「確か、ヨハンの場に存在する【宝玉獣】を4枚墓地に送るのが発動条件だったな。

今、ヨハンの魔法・罠ゾーンは埋まっているからあのカードを発動出来ないが、手札に加えられるよりはマシか」

 

「いやぁ、あぶねぇなぁ、取巻。

もし【無効】がなかったらこのターンで決着ついたかもしんねぇし」

 

「は?」

 

「え?」

 

何を言っているんだ、お前は。

隣の席から聞こえてきた言葉に少年達は同時にお互いの顔を見合わせる。

周りにいる生徒達もとある疑問を浮かべたようで、全員が十代を凝視していた。

そう、万丈目が先程呟いた通りヨハンの魔法・罠ゾーンは全て【宝玉獣】で埋まっており、【宝玉の氾濫】を発動する事が出来ない。

だというのに十代はこのターンで決着がついたかもしれないと述べた。

普通のオシリスレッドならば初歩的な勘違い故の発言だと捉えられたかもしれないが、十代の実力は隣にいる万丈目もよく知っている。

何故ヨハンが勝ったかもしれないという結論に至ったのか尋ねようとする直前、ヨハンが【レインボー・ルイン】の効果を発動した。

 

「だけど、【レインボー・ルイン】の効果はまだまだある。

俺の場に宝玉が5つある時、魔法・罠ゾーンの宝玉を1体特殊召喚する」

 

「ここで特殊召喚効果!?」

 

「当然、俺が選択するのは【宝玉獣ルビー・カーバンクル】!」

 

「ルビ~!」

 

青空が広がる石造りの会場の中で、眠っていた【ルビー】が目覚める。

気のせいだと思うが、【ミンゲイドラゴン】が【ルビー】の登場に驚いたかのような反応を示す。

再び特殊召喚された【ルビー】は先程と同様、尻尾を高く上げた。

 

「集え、俺の家族達!

ルビー・ハピネス!」

 

「ルビビィ~!」

 

「【アメジスト・キャット】、【トパーズ・タイガー】、【サファイア・ペガサス】、【エメラルド・タートル】!!」

 

次々にヨハンの宝石にひびが入り、数ターン前のように彼の家族が取巻に立ちはだかる。

5体のモンスターは取巻の場に存在するドラゴン達を睨みつける。

特に最も攻撃力が低い【ミンゲイドラゴン】へ突き刺さる視線はとても鋭い。

ライフが残り1100の取巻は、【トパーズ・タイガー】の攻撃を受ければ敗北してしまう。

殆どの生徒が終わったと嘆く中、取巻はデュエルディスクのボタンを押した。

 

「悪いが、お前の家族には退場してもらう!

【激流葬】発動!」

 

「なっ!?」

 

「これでアンデルセンと俺のモンスターは全て破壊される!」

 

カードが表になった瞬間、【レインボー・ルイン】に設置されている入場口から怒涛に波が押し寄せてきた。

狂瀾怒濤の中に飲み込まれたモンスター達は悲鳴を上げる暇もなく砕け散り、無情にも破壊されていく音さえ聞こえない。

この世の全ての音をかき消していた濤声が鳴りやみ、ゆっくりと波は消え去っていく。

そして、再び宝玉に戻った家族達から取巻に視線を移したヨハンは自分の目を疑った。

 

「あれ?

なんで【ブラック・ホール・ドラゴン】が残ってるんだ!?」

 

そう、【激流葬】はフィールドの全てのモンスターを飲み込む。

現に【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を含む4体のドラゴンの姿は跡形も残っていない。

しかし、間違いなく彼の目の前には白い光を宿す漆黒のドラゴンが佇んでいた。

 

「【ブラック・ホール・ドラゴン】は破壊の闇から出現するドラゴン。

あらゆる破壊効果は無意味。

こいつにとって【激流葬】は、波の出るプールで遊んでる感覚なんだよ」

 

「なるほど、だから遠慮なく【激流葬】を発動できたっけわけか」

 

納得した表情を浮かべたヨハンは相も変わらず不敵な笑みを崩さない。

だが、取巻にはその笑みがただの強がりにしか見えなかった。

そう、今この瞬間、ヨハンが出来る策は尽きてしまった。

 

「(アンデルセンの手札は0。

場に残っているのは何もできない【宝玉獣】とフィールド魔法のみ。

ドロー効果も特殊召喚効果も既に使い切った。

そしてアンデルセンのライフは残り700)」

 

あぁ、うるさい、自分の心臓の鼓動がバカみたいにうるさい。

それは顔を顰めるような騒音ではなく、とても心地いい凱歌の前奏だ。

強くなると決め、夜の目も寝ずにデッキと向き合い、このデュエルに臨んだ。

その結果がこの瞬間である。

まさか強くなりたいと願って、すぐに結果を残せるとは思えなかった。

別にこれで自分がヨハンより強いだなんて自惚れるつもりはないが、それでも今までの取巻にとってこの勝利はとても大きい。

早くターンエンドの宣言をしろと願い、逸る感情を必死に抑えながら心の中で叫ぶ。

 

「(勝てる、アンデルセンに!!!)」

 

「墓地から魔法発動」

 

「……え?」

 

ヨハンの口から放たれた言葉は、取巻が想像していたものではなかった。

落ち着いた声で紡がれた単語を彼の頭は一瞬だけ拒絶するが、これが現実だと見せつけるようにヨハンは1枚のカードを墓地から回収する。

 

「【宝玉の加護】。

俺の場に宝玉が置かれた時、墓地に眠るこのカードを除外する。

そして、【ルビー・カーバンクル】をもう1度俺の場に特殊召喚する」

 

「は?」

 

彼の手にあるのは見た事もない魔法カード。

そこには今にも羽ばたこうとしている【コバルト・イーグル】が描かれていた。

自分の知らないカードの発動に取巻は必死にこのデュエルを思い出す。

 

「嘘だろ、いつそんなカードを……」

 

確か、ヨハンは後攻1ターン目に【宝玉獣】のカードを揃えるため多様な魔法カードを使っていた。

しかし、何度振り返ってもあのカードを使用した記憶がない。

一体何が抜け落ちているのか焦る思考で振り返っていると、あるカードの存在を思い出す。

 

「(【天使の施し】か!)」

 

あぁ、確かにあの瞬間、ヨハンは【アンバー・マンモス】と一緒に何かのカードを墓地に捨てていた。

ヨハンのデッキに投入されているモンスターは7体。

それら全ては墓地で発動する起動効果を持っていない。

付け加えると墓地で発動する魔法・罠カードはそこまで一般的ではなく、可能性として除いていた。

自分の未熟さを目の当たりにした取巻は歯噛みするしか出来なかった。

先程と同じように輝きながら復活する【宝玉獣】達の光に照らされ、取巻の悔しそうな表情はヨハン達の目にしっかりと映る。

 

「……取巻」

 

ヨハンが【宝玉の加護】を発動するまでは、誰もが取巻が勝ったと思うだろう。

取巻自身、勝利というゴールテープを切るのは自分だと確信していたはずだ。

だが、これが現実である。

 

「バトルだ!

【トパーズ・タイガー】で【ブラック・ホール・ドラゴン】に攻撃!!」

 

「グアァア!!」

 

【トパーズ・タイガー】は相手モンスターに攻撃する時、攻撃力を1600から2000へアップする効果を持つ。

彼は【宝玉割断】の効果で攻撃力が1500まで下がっている【ブラック・ホール・ドラゴン】を簡単に葬り去った。

取巻のライフは1100から600まで削られ、無防備な彼が【宝玉獣】達の前に晒される。

 

「【アメジスト・キャット】、ダイレクトアタック!!」

 

「ニャア!!」

 

「ぐっ!」

 

ヨハンの場から勢いよくジャンプした彼女はそのまま取巻を押し倒し、鋭利な爪を出す。

そして、顔に激しい痛みが走った。

情けない悲鳴と共にライフが0へとカウントされ、デュエル終了のブザーが鳴り響く。

消えていく青空を眺めながら取巻はゆっくりと立ち上がった。

 

「……まぁ、気持ち1つで強くなれば苦労しないか」

 

少なくとも、数日前の自分よりは健闘していた。

今はそれで満足しよう。

次は墓地に送られたカードをきちんと把握する、そして守りに徹さず攻撃に重きを置く。

改善点を冷静に記憶しているとヨハンが駆け寄って来る。

 

「楽しいデュエルだったぜ、取巻!」

 

「あぁ、そうだな」

 

向けられる満面の笑みに釣られ、取巻も少しだけ笑みを零す。

 

「っていうか、取巻、どこがまぁまぁなんだよ、充分強いじゃないか!

最後のターン、マジで手に汗握ったぜ!

ま、俺の方が1枚上手だったけどな」

 

「何1つ言い返せないのが悔しい」

 

しかし、実に良いデュエルが出来た。

あそこまで熱が入ったデュエルをしたのは久しぶりな気がするくらいだ。

少しだけ耳障りな会話も聞こえてくるが、それら全てを無視して先程のデュエルの感想を言い合っていると遠くから名前を呼ばれた。

 

「ヨハン、取巻~!」

 

「お、十代達だ。

あいつらもテスト終わったんだな。

ほら、クロノス教諭にデュエルの結果報告しに行こうぜ」

 

「あぁ」

 

ヨハンはそう言ったと思ったら十代の方へと向かっていった。

真っ先に合流した2人は楽しそうに話しこんでおり、遅れてやって来た万丈目と取巻の視線が交わる。

相変わらず鋭い目つきだと他人事のように眺めていると、万丈目が口を開いた。

 

「ま、お前にしては健闘したんじゃないか。

次は頑張れ」

 

「あぁ、今度こそ勝つつもりだ。

それで、遊城と万丈目は誰が相手だったんだ?」

 

「そこら辺のレッドの生徒だ。

まるで話にならん」

 

「だろうな」

 

**

 

「ってな感じで、ヨハンが勝ったんだぜ」

 

「良いな~、俺も2人のデュエル見たかった」

 

薄暮の部屋で今日のテストの内容を聞いていた聖星は、心底残念そうな表情を浮かべながら十代の言葉を羨む。

当初は十代達の接触を禁止されていた聖星だが、証人保護プログラムの保護対象のため身分詐称に違法性はないと判断され、直接会わなければ友人との交流が許された。

ベッドに寝転びながら熱く語られたデュエルは本当に見応えがあったものだろう。

特に最後のターン、お互いの手札を全て使い切った攻防の熱気は凄かったと十代は語る。

画面に映る十代の横には万丈目、取巻、ヨハンもおり、ヨハンのドヤ顔が凄い。

 

「(あれ、そういえばヨハンって墓地で発動するカード持ってたっけ?)」

 

聖星の記憶が正しければ、【影霊衣魔導】を使用した時、ヨハンは墓地から発動された【影霊衣の降魔鏡】を見てたいそう驚いていたはずだ。

そしてアークティック校でも【宝玉の加護】を使用した記憶はない。

創作意欲が駆り立てられたペガサスが新たに作ったのだろうか。

後で聞いてみようと考えていると、ヨハンが話しかけてくる。

 

「それで、聖星。

今日は何してたんだ?」

 

「え~っと、次の授業用のデッキ編集と、シンクロ召喚のプログラムを組んでた」

 

「また新しいデッキ組んだのか!?

なぁなぁ、それ、どんなデッキなんだ??」

 

「次の授業のお楽しみさ」

 

「よし、じゃあその時は絶対に俺とデュエルしろよ!」

 

「待った、ヨハン!

聖星、その時のデュエルの相手は俺がするぜ!」

 

「よ~し、十代!

次の授業、どっちが聖星とデュエルするか勝負だ!」

 

「望むところだ!」

 

目の前で唐突に始まったデュエルに聖星は微笑んだ。

本当に楽しそうにしている彼等を眺めていると、不意に寂しさを覚えてしまう。

早く書類が完成する事を願いながら聖星は2人のデュエルを見守った。

 

END

 




ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
ヨハンVS取巻ですが、この対戦を予想していた方はいらっしゃいますか??

アニメの取巻は万丈目とつるんでいた時、そこまで向上心が高いキャラではないなぁと感じていました。
太陽という良い名前をもらっているのに、苗字が彼の運命というかキャラクター性を決めてしまっているというか……

悔しさをバネに強くなるのは王道ですよね。

そして最後のターンですが、どれだけ足掻いても取巻の勝ち目はないデュエルでした。
【神の宣告】はともかく【無効】は【レインボー・ルイン】の3つ目の効果で無効に出来ますし、そうすれば魔法・罠ゾーンが開いて【宝玉の氾濫】が発動。
【ブラック・ホール・ドラゴン】は破壊耐性しかないから容赦なく墓地に送られます。

これがメインキャラとそうじゃないキャラの運命力か~と書いていてしみじみと実感しました。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
さぁ、次は誰と誰のデュエルを書こうか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十話 ペルーの地

 

机の上に置かれているのは、A4サイズの茶色の封筒。

目を輝かせながらそれを開けた聖星は、その中に入っている書類に目を通す。

間違いない、求めていた証人保護プログラムに関する書類がやっと完成したのだ。

一体この書類を待つのに何日かかっただろう。

進んでいく授業に関しては取巻、明日香、三沢から情報が来ていたため自習でなんとかしていた。

勿論、分からない点があればクロノス教諭や同級生にメッセージを送っていたが。

学友との会話だってPDAを用いることでなんとかなった。

だが、しかし、やっと、やっとこの謹慎生活が終わるのだ。

安心からか、体の力が抜けた聖星は机に上半身を預ける。

 

「やっと、書類が揃った~」

 

「意外と時間がかかったな」

 

「いやいや、これでも早くしてくれたほうだぜ。

ペガサス会長が使えるコネを全部使って本物の書類を用意しないといけなかったんだ。

本当、ペガサス会長様々だよ。

今度、会長の好きなものを贈らないといけないなぁ」

 

「聖星の給料では手を出せない食べ物を平然と食べていそうだがな」

 

「うっ、それを言われると……」

 

【星態龍】の言葉に聖星は一瞬反論しかかったが、アメリカにいた頃ペガサスが食べていた物を思い出す。

聖星の実家はどちらかと裕福な家庭に分類されるが、父の貧乏性が出ていたためか高級食品とは無縁な生活を送っていた。

それに対してペガサスはどうだろう。

年商何百億という大富豪に相応しく、聖星が名前も存在も知らないチーズやハム、ワインを軽くつまんでは食べていた。

そんな彼に対し庶民な自分が考えうる最高な品を贈っても、ありがた迷惑になる可能性は十分に高い。

友人の冷静な突っ込みに聖星はそれならばお礼は何が良いかと頭を抱える。

未だに渡していないシンクロモンスターを数枚渡すのが無難かもしれない。

とにかく、書類は揃ったのだ。

茶封筒に書類をしまった聖星は久しぶりに皆と会えることに安堵していると、横から制服を引っ張られる。

 

「あれ、【スターダスト】?」

 

「どうした、何か用か?」

 

小さな手で聖星の制服を引っ張っていたのは【スターダスト】。

もしかすると一緒に喜んでくれるのかと思ったが、白くて美しい眉間に皺が寄っている。

明らかに喜んでいる雰囲気ではない友人の姿に聖星は自然と背筋が伸び、何事かと事情を尋ねようとする。

だが、唇から音が発せられる前に【スターダスト】の体が光輝いた。

 

「え?」

 

突然の事に驚いた聖星は反射的に目をつぶるが、次の瞬間には耳に刺すような咆哮が届く。

それもたった1つではない。

何重にも聞こえる咆哮に恐る恐る目を開けると、そこにあったのは見慣れた自室ではなかった。

 

「な、何だよ、これ?」

 

「【スターダスト】、これはお前が見せている幻影か?」

 

「グルルッ」

 

椅子に座って聖星達はいつの間にか謎の空間に浮かんでいた。

そこにある天地は真っ赤に染め上がり、大地からは命を奪う熱が音を立てながら舞い上がっている。

今は昼なのか夜なのかも分からない空は黒煙や雲によって覆われていた。

人々の悲鳴が木霊するなか、あっさりと奪われる命を嘲笑う不気味な笑い声も聞こえてくる。

星竜王から見せられた赤き竜と【三幻魔】とは全く違う、あれにも劣らない凄惨な光景に言葉を失うしかない。

 

「なんて酷い……

【スターダスト】、まさか、これって本当にあった事なのか?」

 

「グルル……」

 

【スターダスト】は首を縦に振り、聖星の問いを肯定する。

自分の予想が当たってしまった聖星は微かに顔を歪めて目の前の光景を静かに見守る。

【スターダスト】が意味もなく過去の記録を彼等に見せるとは考えにくい。

それはつまり……

すると、轟音と共に何かが聖星達の上を過ぎ去っていく。

一体何だと思って慌てて顔を上げれば、見慣れたドラゴン達が羽ばたく音と威嚇するような咆哮を残しながら飛んでいた。

その後ろ姿は見覚えがあるもので、震える声で名前を呟く。

 

「あれは……

【スターダスト・ドラゴン】に【ブラック・ローズ・ドラゴン】。

【レッド・デーモンズ・ドラゴン】、【エンシェント・フェアリー・ドラゴン】に【ブラックフェザー・ドラゴン】?」

 

「……という事は一万年前の幻覚か」

 

「【ライフストリーム・ドラゴン】はいないんだな」

 

間違いない、彼等は父や父の友人達が共に戦ったドラゴン達である。

幼い頃から見てきたドラゴンだけではなく、時々実家に遊びに来てくれたシグナー達が見せてくれたカードに描かれた姿に確信する。

【スターダスト・ドラゴン】達は自分達に目もくれず、己より数倍大きい敵へと戦いを挑んでいた。

相手の姿を見れば、数多の尾の先端には蛇の顔があり、巨体に違わない腕を振るう敵の姿は禍々しい。

例え【スターダスト】が見せている幻覚だとしても、その恐ろしさに足がすくみそうだ。

 

「もしかして、あれが【地縛神】?

何て大きさなんだ……」

 

「流石は冥府の使者が操るモンスターといったところか。

私でも勝てるか怪しいな」

 

「って、【星態龍】、あれに勝てる自信少しはあったんだ」

 

「なめるな、私は仮にも高位の精霊だぞ」

 

かつて星竜王によって見せられた幻にいた【三幻魔】の巨大さにも驚愕したが、目の前にいる【地縛神】はそれと比べ物にもならない程の大きさだ。

シグナーの竜と共にある赤き竜とほぼ変わらない大きさである。

あぁ、父達は自分とそう年が変わらない頃にあんな化け物と戦ったのか。

自分も七皇やドン・サウザンドという人間の人智を越えた存在と戦いはしたが、やはり恐ろしいものは恐ろしく感じてしまう。

故にどれ程恐ろしかったのか想像に難くなく、立ち向かって見事勝利を掴んだ父達へ尊敬の念を覚えてしまう。

きっと父達は仲間を信じ、絆を信じ、仲間から受け継がれた力で未来を勝ち取ったのだろう。

 

「グルルッ」

 

「【スターダスト】?」

 

目の前にいる【スターダスト】は頭を聖星にすり寄せ、ここに招いた理由を説明する。

さて、一体どのような意図があって一万年前の幻影を見せているのか。

静かに聞いていた聖星の表情は言葉が進むにつれて固くなっていき、【星態龍】は頭を抱える仕草をした。

その内容は到底受け入れられるようなものではなく、腹立たしいもの。

だが、もう事は起こっている。

ならば、星竜王に【閃珖竜スターダスト】を託されている聖星が適任だ。

覚悟を決めた聖星は大きく頷く。

 

「分かった。

行こう、ペルーに」

 

**

 

デュエルアカデミアの校舎にある一室。

あまり授業で使われる事がないこの部屋は、教材を取りに行く目的がなければ決して立ち入らない部屋である。

特にオシリスレッドの生徒にとってこの部屋はほぼ無縁な存在だろう。

そんな部屋に呼び出されたカイザーと明日香は、教室のドアノブを引く。

薄暗いと思っていた教室内は電気が点り、見慣れた青い後ろ姿が視界に入る。

久しぶりに見る友人の姿に彼等は思わず声をかけた。

 

「聖星」

 

「もう大丈夫なの?」

 

「丸藤先輩、明日香、久しぶり

あぁ、必要な書類は全部提出しきったし、昨日で謹慎は終わりだ」

 

「必要な書類?」

 

はて、彼は一体何をアカデミアに提出したのだろうか。

倫理委員会や鮫島校長達の間にどのような会話があったのか知らないカイザー達は怪訝そうな表情を浮かべながら尋ねようとする。

しかし、2人が来た事で呼び出した者達が揃ったため、聖星は先客である者達へと振り返った。

つられてそちらへ視線を向けると、鍵を託された者だけではなく、聖星と仲の良い取巻とヨハンがいた。

一方、書類という単語に面白いくらい表情を変えたクロノス教諭はなんとか話題をそらそうと大袈裟に両手を振り、そんな彼にドン引きしながら万丈目が取巻達に目をやる。

 

「シッ、シニョール聖星、私達に話とは一体何なノ~ネ」

 

「セブンスターズや赤き竜に関する事か?

それにしては取巻やヨハンがいるな」

 

「それは俺自身が疑問だ」

 

「寂しいこと言うなよ万丈目、俺は聖星から鍵を預かってるぜ」

 

取巻とて、何故自分がここに呼ばれたのか疑問でしかない。

ある程度の信頼を向けられているという自負はあるが、このメンバーとなると何故という感情が強い。

万丈目からの疑問の言葉に取巻はため息をつきながら返し、ヨハンは首からかけている鍵を見せる。

そもそもヨハンが鍵を預かっているのは皆の共通認識だったはず。

まぁ、聖星としては2人がここにいるのは当然だと認識しており、すぐに分かると口にする。

 

「今日、皆に集まってもらったのは俺が自室謹慎になった理由と、今後について説明するためです。

そして、これから俺が話す事は俺達の未来を大きく左右する話になります。

ですから、ここで話す事、特に俺に関する事は他言無用でお願いします」

 

そう、今から彼が話すのは常人には受け入れがたい事ばかり。

仮に受け入れられたとしても、別の不和が生じるかもしれない。

それでも、聖星は聖星なりに筋を通すため、彼等に話すと決意したのだ。

突然深く頭を下げられたお願い事に明日香達は何も言葉を発せず、お互いの顔を見合わせる。

聖星は身分詐称で査問委員会に連れていかれ、退学や無罪放免ではなく、何故か自室謹慎になっていた。

冤罪ならば冤罪だと発表し、堂々と表に出てくれば良い。

身分詐称が事実ならば退学処分、もしくは制裁デュエルを受けるはずだが、そのような動きもない。

不可解な処分に疑問ばかり浮かび、ブルーの生徒達が聖星について好き勝手言っていたのも記憶に新しい。

だから事情を話してくれるのは嬉しいが、自分達の未来を大きく左右すると言われてしまい反応に困ってしまう。

聖星1人の謹慎とその事がどのように関係するのか理解出来ない。

困惑している生徒達をよそに、唯一の理解者と思っているクロノス教諭は大きく目を見開き、聖星の前に立って小声で止める。

 

「シニョール聖星、よ~く考えるノ~ネ。

貴方の事情はそう簡単に他人に打ち明けて良いものではない~ノ。

彼等へ説明する内容は私や鮫島校長が一緒に考えますか~ら、この場では止めるノ~ネ」

 

「心配してくださりありがとうございます。

けど、もう決めた事です。

俺は、皆はそう簡単に他人に言い触らす人じゃないと信じています。

それに、クロノス教諭にも本当の事を伝えたいんです」

 

「本当の事?」

 

はて、本当の事とはどういう事だろうか。

まさか証人保護プログラム以外にも彼は秘密を抱えているのか。

目をぱちくりとしたクロノス教諭に対し、聖星は一歩前へ出て、皆をまっすぐ見た。

 

「俺は、未来からやって来た人間です」

 

「な!?」

 

その声を漏らしたのは十代だ。

聖星が話したのは数日前、自分達にだけ打ち明けてもらった彼の素性。

十代は慌てて聖星の肩を掴み、難しい顔をして問いかける。

 

「聖星、良いのかそれ喋っちまって!?」

 

「あぁ。

十代達には話して、他の皆には話さないっていうのは皆への信頼に反する事だろ?」

 

「いや、そりゃあ、そうだけど……」

 

十代はそのまま眉を八の字にしながらヨハンと取巻に振り返る。

いくらバカな自分でも、聖星の過去はそう簡単に明かして良いものではない事くらい理解している。

この場にいるメンバーの性格は分かっており、恐らくだが口は固いはずだ。

しかし、万が一の事を考えるとやはり知っている人間は少人数の方がいい。

助けを求める友人からの視線に取巻は左右に首を振り、ヨハンは苦笑を浮かべながら頷く。

 

「まぁ、聖星がそう決めたのなら良いけどよ……」

 

「心配してくれてありがとうな、十代」

 

すると、聖星の言葉に固まっていた者達の中でクロノス教諭が真っ先に復活する。

その表情はとても歪んでおり、彼の話しに乗るべきか迷っているようだ。

いくら証人保護プログラムの保護対象である事を伏せるためとはいえ、未来人という設定は突拍子すぎる。

同時にクロノスという男は闇のデュエル等のオカルト系が嫌いと学園内で有名。

ここは未来人設定に乗ってあげるのが正しいが、下手に賛同して怪しまれるのも不味い。

だからクロノス教諭は大根役者のような棒読みで否定する。

 

「急に何を言い出すのですか、シニョール聖星。

いくらなんで~も御伽噺がすぎル~ノ」

 

「それは本当の話デ~ス」

 

「え?」

 

突然響いた男性の声。

聞き慣れない声に皆はこの部屋に置かれているパソコンに目を向ける。

そこには、何度もニュースや教科書で見てきた生きる伝説がいた。

 

「「「ぺ、ペガサス・J・クロフォード!??」」」

 

「I2社の会長!?」

 

「本人なのか!?」

 

まさかの人物の登場に生徒達は驚愕な表情を浮かべる。

いや、聖星はシンクロ召喚のアドバイザー等でI2社と繋がりがあり、もしかするとその縁で出会えるのではないかという僅かな期待もあった。

しかし、その希望がとても小さいものだと思っていた彼等は、あっさりと叶った現実に驚くしかない。

彼等の反応に慣れきっているペガサスは、にこやかな笑みを崩さずに言葉を続けた。

 

「聖星ボーイから鍵を任された貴方達だけに真実を話したいと相談され、特別に時間を作ったのデ~ス。

彼が未来の人間である事はこの私が保証しマ~ス」

 

ペガサス自身、聖星から十代達3人に打ち明けたと聞かされたときは大層驚いた。

同時に仲間に傷ついてほしくないと願い、大事なことは伏せがちだった彼の決断に喜んだものだ。

未来の人間である事が外部に漏れるリスクは生まれるが、明日香や万丈目達は闇のデュエルに挑むデュエリスト。

会った事もない少年少女を信じるのはバカげていると嗤われるかもしれない。

それでも、大切な友人が信じたのだ。

だからペガサスも彼等を信じる事にした。

ペガサスは未だに信じきれない彼等に向かって説明する。

 

「彼は今から約1年前、赤き竜の導きによってこの時代にやって来たのデ~ス。

ユー達はシンクロ召喚をその目で見ていると聞いていマ~ス。

シンクロ召喚は聖星ボーイが持っていたシンクロモンスター達を基に開発を始めた新たな召喚法デ~ス」

 

「赤き竜によってこの時代に来た俺は、この時代に馴染むために国籍を偽造しました。

ですが先日、倫理委員会にそれについてバレてしまったのです。

正直驚きましたよ、匿名の通報が入って、倫理委員会が俺の素性を調べていたなんて全く想像していなかったので」

 

「匿名の通報?」

 

三沢からの問いかけに聖星は困ったように微笑む。

これに関しては本当に想定外で、視線をさ迷わせた彼は頬をかく。

 

「俺が素性を偽っているっていう通報だ。

……これはあくまで俺の推測だけど、セブンスターズが絡んでるはず」

 

「成程、彼等にとって闇を祓う【閃珖竜スターダスト】を持つ聖星は邪魔な存在だ。

合法的に聖星をこの島から追放できるのなら、喜んでやるだろうな」

 

「あぁ」

 

聖星の推測に三沢は難しい表情を浮かべる。

特にカミューラとのデュエルで【スターダスト】は闇のカードを打ち破り、I2社の人達が生け贄になることを防いだ。

更にこれはヨハンから聞いた話だが、ヨハンの肉体を食らっていた闇も祓ったという。

自分達にとって心強い【スターダスト】の存在は、敵にとっては驚異に写る。

そんなカードを持ち主ごと島から追い出すチャンスが転がり込んできたのなら、スキップで躍りながらチャンスを活用するだろう。

 

「そっ、そっ、それデ~ハ、ペガサス会長が説明した証人保護プログラムの件はどうなノ~ネ!?」

 

「申し訳ありません、クロノス教諭。

ここだけの話、あれも嘘です」

 

「なんでスート!?」

 

顎が外れるとはまさにこの事か。

大きく口を開けながら目玉が飛び出るほど驚いているクロノス教諭に対し、聖星は困ったように微笑む。

可愛い教え子が犯罪に巻き込まれ、自分の身を守るために家族や友人、過去を捨てて新しい自分になった。

一体どれ程辛い人生なのかと真剣に考えていたクロノス教諭にとって、証人保護プログラムまでその場しのぎの嘘だったと知らされ複雑な心境になるしかない。

呆然としている恩師の姿に聖星は笑ってごめんなさいと言うしかなかった。

笑って誤魔化すなと文句が飛んでくるかもしれないが、こればかりは許して欲しい。

ぐぬぬと唸っている教師の隣に立っている万丈目は聞き慣れない単語に首をかしげる。

 

「証人保護プログラム?

もしかすると、アメリカのか?」

 

「あぁ。

俺が未来の人間である以上、『不動聖星』は実在するけど存在しない人間なのは事実です。

ですが、俺は【三幻魔】の復活を阻止するためにどうしてもこの島に残らなければいけません。

ですから、『不動聖星』は証人保護プログラムに基づいて作り出された架空の存在という事にしました。

この理由ならば、堂々とアカデミアに残る事が出来ます」

 

「……確か~に、そういう事情なら仕方ないノ~ネ」

 

「それで、聖星。

もう1つの事は?」

 

「実は昨日、【スターダスト】がある事を教えてくれました」

 

カイザーからの問いかけに聖星は小さく頷き、説明を始めた。

だが、挙げられた名前にカイザーは困惑する。

 

「【スターダスト】から?

それは君が星竜王から受け取ったカードの事だろう?」

 

「あぁ、それはですね……

【スターダスト】、皆に挨拶出来るか?」

 

「挨拶?」

 

瞬間、この場の空気が変わった。

今まで闇のデュエルで自分達の周りの空気が変わり、不気味な雰囲気に包まれる事は何度も味わった。

だが、これは不快な感覚ではなく、どこか息が軽くなるもの。

微かな変化を敏感に感じ取った三沢、カイザー、明日香の3人は聖星の視線の先へゆっくりと目を向ける。

 

「うっ、うわっ!?」

 

「な、何だこれは!?」

 

「嘘、どういうこと!?」

 

そこにいたのは明日香より少し小さい【閃珖竜スターダスト】。

一瞬だけソリッドビジョンかと思ったが、誰もデュエルディスクを稼働させていない。

聖星が作った専用の機械による立体映像の線もあるが、それらしい機械はこの部屋になかった。

それでもソリッドビジョンだと脳が必死に認識しようとするなか、彼等の事を一切気にせず【スターダスト】は聖星へと駆け寄った。

動く度に揺れる床に、自分達の前を通った時に感じた風の動き、そして口からこぼれる吐息。

仮想の映像では再現できない生き物としての存在感がここにはあった。

甘えるように、だけど少しだけ恥ずかしそうに聖星に頭をぐいぐい押し付けた【スターダスト】はそのまま主の背中に姿を隠してしまう。

尤も、明日香より多少小さいサイズで実体化しているため、ところどころ翼や尻尾がはみ出ているが。

 

「改めて紹介します、星竜王から託された【閃珖竜スターダスト】です。

彼はデュエルモンスターズの精霊で、皆さんが知っている通り闇を祓う力を持っています。

ちょっと人見知りしますが、よろしくお願いします」

 

「グルルル……」

 

「嘘でしょう、ソリッドビジョンじゃないの?」

 

「カードの精霊……

実在していたのか」

 

明日香や三沢とて、カードの精霊について知らないわけではない。

デュエリストである以上、大徳寺先生の授業や風の噂で耳に入る事は何度もあった。

しかし所詮は噂、それこそ子供や物好きな人間が語った眉唾物だと思っていたのだが、それは違うのだと目の前の生物が語っている。

同じ空間にいるからこそ分かる威圧感と存在感。

間違いなく【スターダスト】は生きている。

未来人にデュエルモンスターズの精霊。

非現実的な連続に明日香達の頭はパンク寸前であった。

そんな彼等を余所に、ある少年は嫌な予感を覚え、某デュエルバカコンビは目を輝かせて聖星、正確には【スターダスト】へ駆け寄った。

 

「待てって、聖星!

【スターダスト】の奴、自分の力で実体化出来たのか!?」

 

「すっげぇ、ソリッドビジョンじゃなくて本物の【スターダスト】がいる!」

 

「って、ちょっと2人とも!

受け入れるの早すぎじゃない!

もっと他に驚くところあるでしょう!?」

 

触っても良いか?とキラキラとした眼差しで問いかける同級生に対し明日香は叫んだ。

悲鳴にも近い明日香の怒鳴り声に十代とヨハンは振り返り、不思議そうな表情でお互いの顔を見合わせる。

 

「いや~、他に驚くって……」

 

「俺と十代に万丈目は元々【スターダスト】が見えたしな」

 

「え?」

 

「おい、ヨハン、貴様!!」

 

まさかの流れ弾に万丈目は声を荒らげる。

精霊の実体化に喜んでいる彼等から名指しされた万丈目は、先程感じた予感がさっそく現実となり頭を抱えたくなった。

デュエルバカであり別名精霊バカでもある彼等が精霊の実体化に対して無反応なわけがない。

現状をあっさりと受け入れ、困惑している明日香達に驚かれるのは目に見えていた。

【スターダスト】が実体化した瞬間にこの部屋から出ていけば良かったと、数秒前の自分の判断の遅さに腹が立っていく。

勿論、名指ししたヨハンへの怒りはそれの数百倍大きい。

苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる同級生に三沢は問いかける。

 

「どういう事だ、万丈目?」

 

「そこのデュエルバカが言った通り、俺達はデュエルモンスターズの精霊を視る事が出来る。

三沢、お前の肩にはこいつが乗っているぞ」

 

そう言って万丈目が見せたのは【おジャマ・イエロー】のカード。

 

「!!?」

 

「万丈目、三沢をからかうなよ」

 

「ふん」

 

よだれを垂れ流しながら奇妙なポーズをとっている精霊。

度々万丈目のピンチを救っているモンスターが肩にいると聞いた三沢は予備動作なしでその場から下がった。

瞬間、後ろにあった棚に激突するが、それどころではない。

両肩を確認するかのように慌てている三沢に対し、十代は呆れた声で万丈目を諭す。

その間にもヨハンは【スターダスト】に夢中であり、鋭い爪や翼に触っていいか交渉している。

なお、【スターダスト】はヨハンが誤ってケガをする可能性があるため激しく首を横に振っており、それでもとヨハンは頼み込む。

さぁて、【アメジスト・キャット】の雷が落ちるまでのカウントダウンが始まった。

さっさと叱られろと念じながら万丈目は数日前を思い出す。

 

「タニヤのコロシアムを見つける前や、聖星が査問委員会に連れていかれた時、こいつらが何もない空間に向かって話しかけていただろう。

あれは精霊と話していたんだ」

 

「ちなみに、俺の精霊は【ハネクリボー】だぜ」

 

「俺は【宝玉獣】達の皆だ」

 

「俺は【星態龍】と【スターダスト】が一緒にいる。

万丈目は……

どう紹介すればいい?」

 

「せんで良い!」

 

「万丈目のところ、大所帯だもんな~」

 

十代や聖星は片手で数えられる程度。

ヨハンとて自分は精霊が宿るカードを多く持っている方だと自負していた。

しかし、アカデミアに来たところどうだろう。

レッド寮を訪れた時はあまりの精霊の多さに感激したものだ。

毎晩どんちゃん騒ぎをしており、耳栓なしでは眠れないと訴える万丈目の苦労は右から左へ流そう。

 

「なぁ、なぁ、【スターダスト】。

実体化するのに何かコツとかいるのか?

もしあるのなら教えてくれ!」

 

「アンデルセンの目が輝きすぎて眩しいな」

 

粘り強い交渉の末、【スターダスト】の翼に触ることを許されたヨハンは次から次へと質問する。

答えられる内容ならば【スターダスト】も答えただろうが、実体化する方法と聞かれると言葉を濁すしかない。

明確な理屈があるわけではなく【スターダスト】は自分の元々持っている能力で実体化しているだけで、こう、感覚的にとしか答えられなかった。

困り果てている【スターダスト】は聖星に助けを求めるよう目をやり、聖星はヨハンを落ち着かせようとする。

瞬間、強烈なネコパンチがヨハンを襲った。

 

「いってぇ!!」

 

「ヨハン、いい加減にしなさい。

聖星も、遠慮せずもっと早く止めても良いのよ」

 

「あ、あぁ」

 

「グルルル」

 

「……【スターダスト】の簡単な紹介はここで終わらせて。以前、校長室で話した通り、赤き竜は3000年前に【三幻魔】を封印しました。

ですが、赤き竜が本来戦う相手は【三幻魔】ではありません」

 

「本来戦う相手って……」

 

「どういうことだ?」

 

さて、問題はここからどう説明するかだ。

聖星からしてみれば終わった事なのだが、現在を生きる十代達にとってこれは未来の出来事。

更に厄介な事に皆がギリギリ生きている時代の話である。

いたずらに不安を覚えさせるわけにはいかず、慎重に言葉を選ぶ。

 

「この世界が誕生してから赤き竜は5000年毎に冥界の王との戦いを繰り返しています。

赤き竜は生者に味方する神様。

冥界の王はその名の通り、死者を率いる神様」

 

彼等の戦いはまさに世界を賭けた戦いだ。

お互いに下部であるシグナーの竜と邪神【地縛神】を操るデュエリスト同士を戦わせ、次の5000年間どちらが地上の覇権を握るか争う。

赤き竜が勝てばこの平和な時代は続き、冥界の王が勝てばこの世は地獄そのものになる。

聖星の話を真剣に聞いているなか、明日香がもしやと思って尋ねる。

 

「もしかして、聖星はその時代からやって来たの?」

 

「いや、俺がいた時代は赤き竜と【地縛神】の戦いが終わった後だ」

 

「じゃあ、どうして聖星が星竜王に【三幻魔】の復活を阻止して欲しいって頼まれたの?」

 

目の前にいる少年が赤き竜と共にこの世界を守るシグナーならば、星竜王が彼を頼った事にも筋が通る。

それにタニヤは聖星を地獄を見てきた少年と評しており、十代は聖星が昔闇のデュエルをしたと聞いていた。

聖星がシグナーであり、地獄と闇のデュエルは冥界の王との争いで経験したのではないか。

しかし、明日香の予想に反して聖星は自分をシグナーではないと断言する。

一体どういう事なのか視線で問いかけると、思い当たる点がある聖星は頬をかきながら説明した。

 

「それは多分、俺の父さんがシグナーだったからだと思う」

 

「聖星のお父さんが!?」

 

「あぁ」

 

「そういえば聖星、タニヤとのデュエルで父ちゃんの事、自慢の大英雄って言ってたな」

 

赤き竜と共にこの世界を守りきったのだ。

その偉業を聞いてしまえば大英雄という評価に納得する。

尤も、その偉業はすっかり忘れ去られ、本当の意味で不動遊星が英雄として語り継がれているのは別の話なのだが。

話が更にややこしくなるため、聖星は何も言わず静かに微笑んだ。

未来で起こる戦争に対し興味をひかれるが、他に聞かねばならない事があるためカイザーは疑問を口にした。

 

「それで、何故今その【地縛神】の話が出てくる?」

 

「はい。

何者かが【地縛神】が封印されている地を荒らしています」

 

「「「!!?」」」

 

まさかの言葉にこの場にいる全員の背筋が凍った。

言いたいことが正確に伝わったのを確認した聖星は言葉を続ける。

 

「もし一歩でも間違えたら、封印されている【地縛神】がこの時代で目覚めてしまうかもしれません。

俺が知っている歴史では、そんな事は起こりませんでした。

もし【地縛神】が目覚めてしまえばその時点で歴史が変わり、俺のいた時代が崩壊してしまいます。

ですから、俺は準備が出来次第、赤き竜の力を借りて【地縛神】が封印されている地、ペルーに行きます」

 

「ペルー!!?

……って、どこだ?」

 

「十代……」

 

想像通りの反応に聖星は苦笑を浮かべるしかない。

ふと取巻とヨハンへと視線を移せば、2人は揃いも揃って決意をした顔を浮かべている。

きっと自分が旅立ったあと、取巻達による十代のための世界地図勉強会が始まるのだろう。

手を貸せないことを申し訳なく思いながら、有名な観光地を挙げた。

 

「南米だ。

有名なのはナスカの地上絵とマチュピチュだな」

 

「あぁ、あそこ!

って、めちゃくちゃ遠いじゃねぇか!?

【三幻魔】はここに封印されているのに、どうして【地縛神】がペルーなんだよ!?」

 

それに関しては赤き竜達に聞いてほしい。

尤も、世界を懸けた戦いのため舞台は地球の上ならどこにでもなる可能性はある。

現に数十年後の舞台は日本だった。

十代の無知っぷりにおののいた取巻は今後の計画を立てながら手を上げる。

 

「だが、不動。

誰かが邪神を封印している場所を荒らしているからそれを止めに行くのは分かるが、まさか1人で行く気か?」

 

「あぁ、【地縛神】が絶対に復活するって話なら別だけど、今回はあくまで調査の名目が大きい。

それに俺には心強い味方がいるから大丈夫だ。

なー、【スターダスト】」

 

「がぁう」

 

星竜王から託された【スターダスト】が教えるくらいだから、それなりに緊急性が高いのは間違いないだろう。

だからといって皆を巻き込むつもりは毛頭なかった。

誤解のないように記しておくが、別に皆を信じていないわけではない。

心強い味方がいるのは間違いないし、彼等には彼等の役目があるのだ。

 

「それに、皆には引き続き七精門の鍵を守ってらいたいんだ。

だから、俺1人で行くつもりさ」

 

「それなら、俺も行こう」

 

「え?」

 

目の前から聞こえた声に聖星は微かに目を見開く。

そちらに目を向ければ、腕を組んでいるカイザーがいた。

想定外の申し出に聖星は不思議そうな表情を浮かべ、カイザーは不敵な笑みを浮かべながら自分ならば問題ないと説明した。

 

「俺の鍵は既にセブンスターズに奪われている。

十代達のサポートも俺がいなくても大丈夫だろう。

それに、足手まといになるつもりもない」

 

「それはグッドアイディアデ~ス!

彼はアカデミアのカイザーと呼ばれるデュエリストと聞いていマ~ス。

彼程ボディーガードに相応しいデュエリストはいないはずデ~ス」

 

事実、彼の鍵は奪われはしたが、それは人質をとられるという卑怯な手段を使われたからだ。

正々堂々としたデュエルならばペガサスの言う通り、これ程心強い相手はいない。

カイザーからの申し出に聖星と【スターダスト】は顔を見合わせる。

 

「丸藤先輩、今回も闇のデュエルになる可能性は充分に高いです。

それでも一緒に来てくれますか?」

 

「あぁ」

 

「分かりました、是非お願いします。

丸藤先輩」

 

そう言うと、カイザーは優しく微笑んだ。

 

**

 

「今から発つのですね」

 

「あぁ、だから暫くは会えないと思う」

 

十代達にナスカの地へ旅立つ事を伝えてから数時間後。

流石にデュエルディスクとデッキのみでペルーに向かうのは厳しく、彼等は旅の準備をしていた。

荷物をまとめた聖星はZ-ONEの元を訪れ、数日は戻ってこないことを伝える。

騒がしい日々がしばらく訪れない事に多少思うところはある。

しかし独りで過ごすのは今に始まった事ではない。

戦地に向かおうとする息子を見下ろしながら、Z-ONEは彼に手を差し出した。

 

「では、貴方にこれを渡しておきましょう」

 

「え?」

 

そう言ってZ-ONEの手元から黒い渦が生まれる。

何かと思えば、そこから1つの小箱が現れた。

手の平サイズの白い小箱には頑丈な鍵がかけられており、簡単に中身を見ることが出来ない。

最初は不思議そうな顔を浮かべていた聖星だが、その表情は次第に驚愕へと変わっていく。

 

「父さん、これ……!?

何でこれがここに?」

 

だって、これがここにあるなんてあり得ない事だ。

いや、父ならば何かの縁でこれ持っていてもおかしくはないが……

それでも彼の手元にこれが残っている事が信じられなかった。

目の前にいる父にとってこれは正真正銘忌むべき存在。

だというのに、彼はずっとこれを保管し続けていた。

父がどのような気持ちでこれを手元に置き続けたのか、考えただけで心が苦しくなっていく。

しかし、聖星の悲痛な感情を知ってか知らずかZ-ONEは口を開いた。

 

「私はそれの中に何が入っているのか知りません」

 

「え?」

 

意外な言葉に驚いた表情を浮かべられ、Z-ONEは小さくため息をつく。

別に自分は中身が分からないものを息子に託すつもりはない。

そもそもこれが手に入った当初、自分は仲間の力を借りて何度も開封しようと努力した。

ある時はピッキング技術で開けようとしたり、ある時はハンマーで叩き壊そうとしたり。

あぁ、なんて懐かしい。

しかし自分達の努力空しくこの箱はどれ程の衝撃を与えても一切破損しなかった。

あまりの頑丈さに最初に匙を投げたのは誰だったか。

それでも、手に入れた経緯が経緯なためこれは聖星に渡すべきだろう。

 

「ある人に託されたのです。

もし、貴方がナスカの地へ行く事があるのならそれを渡して欲しいと」

 

「ある人?

それって一体、誰なんだ?」

 

「遊城十代です」

 

「十代が!?

嘘だろ、だって父さん。

十代のやつ、なんで生きて……!?」

 

詳しい事は伏せるが、彼と出会ったのは本当に偶然だった。

自分以外の人類が滅んだ世界に彼等は唐突に現れた。

まさに奇跡とも言える出会いに希望と絶望を抱いたのは仕方がないだろう。

彼に関するデータは勿論収集しており、太陽のような少年が今後あぁなるのかと思うと、時の流れと言うのは恐ろしいと感じてしまう。

さて、息子はZ-ONEと十代に僅かばかりの交流があると知って何を尋ねてくるだろうか。

まぁ、ろくな答えを持ち合わせていないため、全て分からないという返答しか出来ないが。

しかし、Z-ONEの予想に反して聖星はずっと小箱を見下ろしている。

 

「聖星?」

 

「いや、大丈夫。

ちょっと考え事をしていただけ」

 

へにゃりと笑った聖星はそのまま小箱をリュックサックの中にしまう。

チャックを閉めた聖星はZ-ONEの手に自分の手を添え、優しく微笑んだ。

機械越しに伝わる体温が暖かい。

 

「ありがとう、父さん。

今まで皆を大切に持っていてくれて」

 

その声が震えていたように聞こえたのは、Z-ONEの気のせいだろうか。

 

**

 

デュエルアカデミアの人気がない場所。

かつてタニヤが学生達の手を借りて建設したコロシアムに聖星達はいた。

そこにはあの部屋で真実を知った者達が見送りに来ていた。

 

「それじゃあ、行ってくるよ、皆」

 

「十代、ヨハン、万丈目、明日香。

後は頼んだ」

 

「あぁ、俺達に任せろ。

聖星とカイザーも、あんまり無茶すんなよ」

 

「もし、2人じゃ無理だと思ったら呼んでくれ。

例え地球の裏側だろうとすぐに飛んでいくからさ」

 

「フン、安心しろ。

2人が戻ってくる頃にはこの万丈目サンダーが全て終わらせておいてやる」

 

「えぇ、万丈目君の言う通り、聖星と亮が戻ってくるまで片が付いている事が1番だわ。

2人とも、こっちの事は心配しないで」

 

未だに鍵を守っている者達は力強い眼差しで激励を送る。

それに対し、鍵を持たない者達は優しい表情で無事を願う。

 

「シニョール亮、シニョール聖星。

授業の事は気にしなくて大丈夫なノ~ネ。

そして、絶対に無事に帰ってくると約束して欲しいノ~ネ」

 

「不動、カイザー。

俺が偉そうには言えないが、負けるなよ」

 

「あぁ、言いたい事を全部言われたな。

月並みな言葉だが、2人とも無事に帰ってきてくれ」

 

この調査が1日で終わるとは限らず、聖星達がペルーで調査している間にセブンスターズの魔の手が伸びてくることは十分にあり得る。

それでも十代達はこれからの時代を作るデュエリスト。

彼等は闇の力なんかに簡単に屈してしまうほど弱くない。

そして、逆を言えば聖星達も安全な旅とは言いきれず、セブンスターズとの争いと同等の危険な目に遭う可能性も十分にある。

距離が距離なためすぐに助けに行く事は難しいだろう。

それでも彼等は離れ離れになる仲間を信じた。

 

「(大丈夫、皆ならきっと大丈夫だから)」

 

そう何度も自分に言い聞かせながら聖星は皆を見渡す。

Z-ONEからこの戦いは、犠牲なくして得た勝利ではないと聞かされた。

それはつまり、目の前にいる十代以外の誰かが欠けるという事。

それが誰なのか結局父は教えてくれなかった。

もし聖星に教えてしまえばどうなるか分かっていたのだろう。

助けたい、だけど、助言してしまえば歴史が変わるかもしれない。

明日を無事に勝ち取れるかという不安とは違う、正解が見えるからこその過ちが許されない現実に心が押し潰されそうになる。

これから傷つく仲間から目をそらさず、ただ仲間が無事でいる事を祈るしかない。

父は祈るしか出来ない自分の事を弱いと称していた。

 

「(父さん、貴方は弱くない。

こんな事、弱かったら出来ないさ)」

 

自分が生きている未来を守るために、次の世代に繋げるために必要な事だと理解している。

何て矛盾した行動だろう。

 

「なぁ、聖星」

 

「どうした、十代?」

 

「えっと、変なこと聞くけど……

お前、変なものリュックに入れてないか?」

 

「変なもの?」

 

一体突然何を聞いてきたかと思えば、リュックの中身についてだ。

変なものと言われると複雑な心境だが、十代からしてみればその例えは間違っていない。

さて、どう答えようかと考えていると、先に十代が口を開いた。

 

「あ、わりぃ、多分俺の気のせいだ」

 

「いや、気のせいじゃないと思うぜ」

 

「え?」

 

「秘密兵器としてあるものを持っていくんだ。

精霊の力もわずかにあったから、十代はそれに気づいたんじゃないか?」

 

そう、Z-ONEから預けられた小箱には微かに闇の精霊の力が宿っていた。

別にそれは中身に悪さをするものではなく、あの箱が傷つかないよう守るための力。

永い年月によってその力は弱まっていたが、人間相手には充分だった。

残り香レベルの気配に気づいたことに感心しながら話すと、ヨハンが目を輝かせる。

 

「精霊の気配をまとった秘密兵器!?

何だよ、そんなとっておきのとっておきがあるのなら教えてくれよ」

 

「帰ってきたら話すさ」

 

「約束だぜ、聖星」

 

「あぁ。

それじゃあ皆、そろそろ行ってくる」

 

「皆、必ず帰ってくる。

十代、翔の事を頼んだ」

 

別れの言葉を済ませると、青空の雲行きが悪くなっていく。

きっと何も知らない生徒達はゲリラ豪雨を警戒して建物に避難しているかもしれない。

だが、これは自然現象ではなく超常現象だと知っている聖星達の顔に焦りの色はなかった。

木々を揺らす風の勢いも強くなり、赤色の光が空を照らしていく。

一筋の光が太くなっていき、ドラゴンへと姿を変えた。

 

「ま、マンマミ~ヤ」

 

「すげぇ、あれが赤き竜なのか!」

 

「あれが、守り神……」

 

カミューラとの戦いの後、赤き竜を見たのは十代、万丈目、三沢、取巻の4人のみ。

初めて見るクロノス教諭達はそれぞれ異なる反応を浮かべていた。

顕現した赤き竜は静かに聖星を見下ろしたと思ったら、確認するかのようにカイザーへと目をやる。

 

「赤き竜、俺と丸藤先輩をペルーへ連れていって欲しい」

 

2人を見下ろしていた赤き竜は小さく頷き、気高い咆哮を上げる。

島全体に咆哮が木霊するなか、聖星とカイザーが赤い光に包まれる。

聖星は皆に振り返り、優しく微笑んだ。

 

「行ってきます」

 

END




こんにちは、ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回は長いくせにデュエルがありません!
投稿した時点で14,000字を超えてしまって「マジかよ」となりました

そしてついに皆に未来から来た人間だと話した聖星
聖星なりの誠実な対応です
精霊の存在を皆に知らせるのも今しかないかなぁと

そしてついにペルーに行きます!
当初の予定では聖星だけ行く予定だったのですが、カイザーという助っ人がいることに気づき、彼も同行することになりました
カイザーの性格ならあの場面で手を上げてもおかしくないですし
勿論、カイザーも活躍します
彼のおかげでカイザーで書きたいシーンが生まれました
サイバー流、大暴れさせます

Z-ONEが聖星に託したもの何でしょうね?

あと、5D'sの世界線で十代は生きているんですかね?
ユベルと融合しているから長生きしていて、あんな未来になった世界でも平気で生きてそうですけど
多分、精霊達に助けを乞われて別世界に行っている間、ZONEの世界は滅んだっていう感じでしょうか

感想があったら嬉しいです!














「本当に良かったのかい、十代」

「何だよ、やっと俺と2人きりになれたんだぜ。
もっと喜べよ」

「十代君、私を忘れてるんだにゃ」

「あはは、冗談だって先生」

「もう、十代君は相変わらずなんだにゃ~」

「へへっ」

「……それにしても、彼等も無茶をするね。
万が一、あの男達が自分達を処分する可能性があるっていうのに」

「しょうがないさ。
もしかすると、もう一度聖星と会えるかもしれないんだ。
あいつ等も藁にも縋る思いだったんだろうぜ」

「本っ当、彼は面倒なことばかり十代に押し付けて、自分はさっさと死んじゃうなんて酷い話だ。
十代の事をなんだと思ってるんだか」

「ははは、あいつ等に聖星と再会したら一発ぶん殴ってくれって頼んでおくべきだったな」

「それで、ユベル。
彼等と同じ精霊として、彼等の気持ちをどう考えるのにゃ?
彼等の魂は磨耗しきっていた。
もしかすると……って、聞くまでもなかったにゃ~」

「だったら聞かないでくれる?
はぁー、この男の魂も彼等に押し付けておけば良かったよ。
そうすればずっと十代と2人きりになれたのに」

「そうむくれるなって、ユベル」

END


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十一話 紫木蓮の陰り

まさかの4万字超えました……
今回はオリジナル展開&オリジナルキャラクターが出ます。
勿論、デュエルはアニメキャラとするのでそこは安心してください


 

絶体絶命とは、まさにこの事か。

考古学の授業の一環でこの地を訪れた彼は、周辺にある村の協力を得て特別に調査を行っていた。

授業を担当している教師曰く、星の民という者達に関する簡易的な調査だという。

例え簡易的な調査であっても、初めて聞く民族の名前は彼の好奇心を刺激するのに充分すぎた。

あぁ、この土地には一体どんな歴史があるのか。

大昔、この土地に暮らしていた人々は何を信仰し、何を使い、どのように明日を生きていたのか。

期待に胸を膨らませながら調査をしていたのだが、授業を担当していた教師が立ち入り禁止区域に入ってしまったのだ。

 

「……さて、どうしたものか」

 

粘り強い交渉のもと信頼関係を築きあげ、やっとここまで来た。

だというのに、自分達を信じてくれた村人達の気持ちを踏みにじるなど言語道断。

同行者である彼はなんとか教師を止めようとしたのだが、時すでに遅し。

代々受け継がれていた神聖なる地に立ち入られた村人達は当然の怒り狂い、今にも自分達2人を殺そうとしている。

 

「(どうすれば彼等の怒りは治まる?

いや、そもそもそんな方法なんてあるのか?)」

 

こちら側の非を詫び、謝り倒せば許してもらえるかと思えばそうでもない。

謝罪ならば先程から何度もしているし、詫びの言葉を重ねれば重ねる程状況が悪くなっていっている。

学生なりにこの状況を打破しようと必死に頭を働かせていると、突然大地が大きく揺れ始めた。

 

「っ、地震!?」

 

「おぉ、お怒りだ……

赤き竜がお怒りだ!」

 

「この地を荒らした不届き者共め、赤き竜の裁きを受けるが良い!!」

 

「赤き竜……?」

 

突然の地震に村人達は脅えを見せるどころか、燃え盛る炎のように勢いを増していく。

ただの自然現象を神の怒りと評し、神罰が下ると叫ぶ姿は見る人達が見れば滑稽だろう。

だが、あまりにもタイミングが良すぎる。

ロマンチストとまではいかないが、オカルティズムを否定しない彼は荒れ狂う村人達の勢いに自分の運命を悟る。

瞬間、激しい轟音と共に赤い光が空を穿った。

 

「何だ!?」

 

大地より現れた赤い光はとても太く、巨大な渦を描き始めた。

村人達はその光が現れた瞬間に地面にひれ伏せ、中には祈るように手を掲げている者もいる。

夜を覆い隠す暗雲を赤く染めた閃光は、蛇のようにうねり、空気を震わせながら翼のようなものを広げた。

それはまるで、ここは自分の縄張りだと威嚇するために遠吠えをする生き物のようだ。

 

「アンビリーバボー……」

 

緑色の瞳に映る姿はとても美しく、彼は一瞬で魅せられた。

 

**

 

赤き竜から力を借りてアカデミアからペルーに移動しているカイザーは、自分達がいる空間に驚きを隠しきれなかった。

煌めく星々が点在としている景色はまさに宇宙。

アカデミアで見上げる夜空でも、ソリッドビジョンが現わす星々とも違う。

さて、見晴るかす通り道を流星のように通り抜けている感覚は何が1番近いだろう。

 

「アカデミアに向かう飛行機とも違う感覚だな……」

 

カイザーは無重力の体験をした事はないが、宇宙空間にいる気分とはこういう事なのだと考える。

初めての感覚に戸惑う様子を見せる先輩の姿に、聖星は少しだけ懐かしい気持ちになった。

【星態龍】の能力で初めて世界を跳躍した時の自分もきっとあんな感じだったのだろう。

聖星も初めて浮遊した時は驚いたものだと思い出していると、前方に一等輝く星を見つけた。

 

「丸藤先輩、そろそろ到着します」

 

「もうペルーに着くのか?

流石はこの星の守り神だな」

 

「赤き竜は時間さえ越えますから。

それに比べたら地球の裏側なんて一瞬ですよ。

あと、何が起こるか分かりません。

念のためデュエルディスクを構えておいてください」

 

「分かった」

 

その言葉と同時に視界が白い光に満ち溢れ、先程まで何も感じなかった足元に確かな大地の感触を覚えた。

数分しか浮いていなかったのに足場があるという安心感はとても大きい。

後輩にバレないよう安堵の息を溢すと、聖星が不思議そうな表情でカイザーを見上げていた。

先輩としての意地で顔を一瞬で真顔に戻した彼はさも何もなかったかのように振る舞う。

光が薄くなっていくにつれて聖星とカイザーは気を引き締め、何が起きても臆さないよう一歩踏み出した。

だが、覚悟を決めた数秒前に反し、彼等は次の歩みを進めることが出来なかった。

 

「赤き竜だ!」

 

「赤き竜が降臨なさった!」

 

「赤き竜が、この罪人に裁きを下すため使者を送ってくださったのだ!」

 

「「え?」」

 

視界いっぱいに入って来たのは、その場にひれ伏す大人達。

中には武装している大人もいるようだが、こちらに銃口を向ける気配はない。

 

「聖星、これは」

 

「わ、分かりません」

 

突然現れた自分達に対し現地の人達が驚く事は想定していた。

だが、こんな展開など想定しておらず、大げさに崇められて動揺しない人間がいたら是非会ってみたいものだ。

 

「(いや、ジャックさんなら気にせずに話しかけるかも……

あの人、どこまでいっても王様だからなぁ)」

 

ジャックならばやると変な現実逃避をしている聖星はゆっくりと先頭の人達に歩み寄った。

カイザーから「待て、聖星」という心配そうな声が聞こえたが、赤き竜を崇めているのなら自分達に危害は加えないはずである。

装飾品を多く身に付けている男の前で膝をついた聖星は、彼に顔を上げてもらう。

 

「初めまして、俺の名前は不動聖星。

彼は丸藤亮。

赤き竜と共に闘う精霊からこの地が荒らされていると聞かされてやって来ました。

貴方達は?」

 

「丁寧なご挨拶をいただきましてありがとうございます、使者様。

私はリカルドと申します。

この村の長を務めさせていただいております」

 

「リカルド村長や他の村人達の皆さん。

赤き竜について知っているという事は、貴方達は星の民の末裔ですか?」

 

「さようにございます」

 

「(やっぱり)」

 

星の民の伝承が残っている地だ。

現地に住んでいる人達の中に赤き竜の事を知っている人がいてもおかしくはない。

しかし、最初に遭遇したのが赤き竜を崇めている村人達だったとは幸先がいい。

聖星に倣い、カイザーもリカルド村長と同じ目線になるよう膝を折って尋ねる。

 

「それで、一体何があったのですか?

彼等を追い込んでいるようですが」

 

カイザーの視線の先には初老の男性と自分達とそう年が変わらない少年がいた。

壁際まで追い詰められていた彼等も赤き竜の登場に驚いており、あの場から動けないようだ。

まぁ、下手に今のうちに逃げてしまえば火に油を注ぐ行為のため留まることが正解か。

カイザーは少年が身に付けている服装に注視しており、対してリカルドは説明を始めた。

 

「彼等はこの地に伝わる伝承を調べていた学者の方々でございます。

我々は一定の区域に限定して立ち入りを許可いたしました」

 

瞬間、リカルド村長は激しい怒りを宿した瞳で彼等を睨み付ける。

穏やかに説明してくれた彼の声は自然と荒ぶっていき、口から唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。

 

「しかし、彼等は立ち入ってはならないとされていた封印の地に足を踏み入れてしまいました。

これは我等星の民だけではなく、赤き竜への冒涜とも言えます!

決して許されるべきではありません!」

 

「そうだ!」

 

「さぁ、赤き竜の使者様、どうか彼等に罰を!」

 

その姿はまさに暴徒。

いや、暴徒と表現するのは言葉が悪い。

少年達は契約に反して自分達が守り続けた地を荒らすだけではなく、この世に危機を招こうとしたのだ。

村人達が彼等へ向ける怒りには正当性があり、故に生半可なものではない。

第三者から見ても彼等の怒りように理解は出来るだろう。

だが、目の前で怒り狂う村人達の気迫はすさまじく、闇のデュエルとは毛色が違う恐ろしさがあった。

闇のデュエルでも平然としていたカイザーでさえ、村人達の凄まじい殺意に怖じ気づき、言葉を失っている。

そんな中、落ち着いた声が響いた。

 

「待ってください」

 

言葉を発したのは聖星だ。

彼は顔が真っ赤に染まっているリカルド村長の肩を掴み、村人達1人1人に目を向けながら静かに言葉を紡いだ。

 

「貴方達の怒りは充分に理解できます。

俺も彼等の軽率な行動には怒りを覚えました。

だからこそ、じっくり協議すべきです。

罰というものは過剰でも、不足でもあってはならないもの。

ですから、どうかここは一旦その矛を納めてくれませんか?」

 

彼の堂々とした発言に村人達は言葉につまる。

本来ならば部外者の発言として突っぱねているだろう。

しかし、聖星達は赤き竜によってこの地に招かれた使者だ。

つまり、2人は自分達より上位の存在であり、無下にしていい人達ではない。

まさかの意見に村人達はお互いの顔を見合わせ、どうすべきか視線で話し合う。

素直に聞いてくれなさそうな様子にもうひと押し必要かと聖星が前に出ようとするが、それをリカルド村長が制した。

 

「聖星様がそうおっしゃるのなら……

この者達を牢へ連れていけ。

当然、別々の牢へ入れろ、妙なことを画策されては困るからな」

 

「「はっ!」」

 

彼の言葉に村人達は少年達を拘束する。

抵抗する意思がないのか、大人しく手枷をはめられた彼等はそれぞれ違う方角へ連れていかれた。

薄暗くてはっきりとは分からなかったが、微かに少年の表情には安堵の色が見えた。

カイザーは少年の方に視線を向けていたが、聖星は静かに初老の男性へと視線を向けていた。

 

**

 

場所は代わり、聖星とカイザーは赤き竜の使者という事で村長の自宅に招かれた。

特別に招かれた聖星達は物珍しそうに部屋の中を軽く見渡す。

星の民の伝承を受け継ぐ者達だからどのような生活を送っているかと思えば、自分達となんら変わらなかった。

所々にペルーの民芸品である雛型祭壇やひょうたん細工はあるが、いたって普通の客間である。

 

「(うーん、何か赤き竜についてのものがあるかなと思ったんだけど。

流石に客間には置いてないかぁ)」

 

ひょうたん細工に描かれている模様にも赤き竜や他のドラゴン達を模した模様はない。

少しだけ残念に思っていると、リカルド村長が部屋に入ってくる。

2人の目の前に座った彼はそのまま深く頭を下げた。

 

「先程はあの場を治めてくださり誠にありがとうございました。

心から感謝申し上げます、未来からの使者よ」

 

「「え」」

 

彼の口から放たれた言葉に聖星達は不思議そうな表情を浮かべる。

リカルド村長は2人の事を未来からの人間だと言ったのだ。

しかし、どれ程振り返っても、あの場で未来に関する事を口にした覚えは2人にない。

これも星の民だから出来る事なのかと思案している中、カイザーは真っ直ぐとリカルド村長を見る。

 

「何故、聖星が未来の人間だと分かったのですか?」

 

「亮様は違うのですか?」

 

「はい、俺は貴方と同様この時代に生きるデュエリスト。

聖星とは違います」

 

「リカルド村長は【三幻魔】というカードをご存知ですか?」

 

「はい。

3000年前、赤き竜が封印した悪しき存在だと伝わっています」

 

流石は星の民の伝承を受け継いでいる村だ。

これならば日本で起こっている事を話して問題はないだろう。

聖星とカイザーはお互いに小さく頷き、アカデミアで起こっている事を話し始めた。

【三幻魔】を封印している七精門の鍵を巡って、7人のデュエリストとセブンスターズと名乗る集団が闇のデュエルを行っている。

カイザーもその戦士であったが、今回は聖星のボディーガードとしてこの旅に同行した。

最初は興味深そうに聞いていたリカルド村長だが、言葉が進むに連れて彼の表情は険しくなる。

自分達の村から遠く離れた地で赤き竜と戦った悪しき存在が復活するかもしれないのだ。

伝承を守る者としてそのような表情になるのも仕方がない。

 

「それでは、何故聖星様が未来の人間だと分かったのか説明いたします。

私は俗にいうサイコメトリーと呼ばれる能力を持っております」

 

「サイコメトリー?」

 

「触れた物の記憶を読み取る能力ですね」

 

「はい。

先程聖星様が私の肩に降れた際に、僅かながら聖星様の記憶を読み取らせていただきました。

その結果、聖星様が未来の方であり、シグナーの血を引くお方だと知りました。

不快な思いをさせてしまうかもしれませんが、どうかご容赦ください」

 

「いいえ、気にしていません。

むしろ、話が早くて助かります」

 

赤き竜と共に現れた事で村人達から警戒の対象外になってはいる。

聖星が未来人である情報は不要かもしれないが、村長程の地位を持つ人間がそれを知っている前提で動いてくれるのなら聖星としてもありがたいことだ。

ただでさえ聖星が持っている秘密兵器はそう簡単に他人には見せられないもの。

少なくとも、リカルド村長ならば大丈夫だろう。

 

「リカルド村長、貴方の能力で彼等が禁止エリアに侵入した経緯を読み取る事は出来ますか?」

 

「残念ながら、私の力では必要な情報をすべて把握することはできません。

何度か彼等に触れれば可能かもしれませんが……」

 

「つまり、絶対ではないと」

 

「はい」

 

リカルド村長の言葉に聖星は険しい顔を浮かべて口元に手を当てる。

確かに禁忌の地に足を踏み入れて荒らしたのは立派な重罪だ。

しかし、彼等はしかるべき手順を踏んでここの調査を行っている。

それなのに何故あそこに立ち入ったのか、その理由を知りたい。

単純な好奇心からなのか、それともどうしようもない事情があったのか。

前者ならば話にはならないが、後者ならばこちらもその事情をくむ必要が出てくる可能性がある。

偽りなく事情を把握する事が難しい事に聖星は次の疑問を投げかけた。

 

「分かりました。

それで、リカルド村長からして彼等に与える罰はどれくらいが妥当なのですか?」

 

「死刑です」

 

死刑。

その言葉にカイザーは思わず眉間に皺を寄せてしまうが、聖星は続きを促す。

子供達の表情から自分の考えは受け入れられるようなものではないと察したリカルド村長は理由を説明した。

この村にとっては然るべき対処でも、時代と文化が違えば異質に見えるのは仕方がない。

 

「よくお考えになってください。

彼らの軽率な行動によって邪神が復活し、世界が滅亡していたかもしれません。

それも、赤き竜が聖星様と亮様を遣わす程深刻な事態でした」

 

「つまり、俺達が赤き竜の力を借りてこの場に来た事で、彼等の罪はとても大きいものだと証明されたのですね」

 

「はい」

 

確かに自分達は【閃珖竜スターダスト】から【地縛神】が復活するかもしれないと報せを受け、この場にやって来た。

勿論、犯人を捕まえた後の事だって大雑把だが考えてはいた。

様々な案を考えてはいたが、1番現実的な案は警察に突き出してあとは法の裁きを受けさせるというもの。

しかし、現実はそんなものは生ぬるいと言うように過酷な罰を与えようとしている。

どう説得するか思考を働かせていると、静かな声が聞こえて来た。

 

「ですが……」

 

「ですが?」

 

「少年の方はどうにかして無傷で帰したいと考えております」

 

「え?」

 

「理由を聞いても?」

 

これは意外だ、というのがカイザーの感想だ。

リカルド村長は先程、聖星とカイザーにあの場を治めてくれて感謝すると口にしていた。

しかし、彼は怒髪天を衝く勢いの村人達を止める素振りを一切見せなかった。

それは彼にあの場を治める意思はなく、あのまま少年達を処刑しようとしていたからだと考えていたのだが。

 

「彼と握手した時、私は彼の過去を読み取りました」

 

思い出すのは、初めて少年がこの村を訪れた日だ。

朝日に照らされながらこちらに手を差し出す少年の表情は、この地に伝わる伝承に触れられる事が本当に楽しみで仕方ないと輝いていた。

随分と物好きな子供だと朗らかな気持ちになっていたが、彼に触れた瞬間、彼の過去の映像が流れ込んできた。

それは、他者への献身に真価を発揮する力を身に宿した瞬間。

その力は数万年前、まだ人々が精霊と語ることが出来た時代から存在したもの。

彼が辿る運命を悟ったリカルド村長は静かに目を閉じて思いを吐露する。

 

「彼もまた特別な力に選ばれた者です。

その力は、赤き竜とは比べられる程大きくありませんが、間違いなく善の力です。

己の宿命を果たせず、この地で死なせるのはとても惜しい」

 

「特別な力……」

 

カイザーは2人に気づかれないよう聖星を見る。

聖星も世界を守るために星竜王から宿命を背負わされた。

リカルド村長の口ぶりから、例の少年は聖星程のものは背負っていない。

それでも、何かを背負っているのだ。

少年の過去を聞いて、選ばれた側の聖星はどのように思ったのだろうか。

緑色の瞳は真っすぐと前を向いているだけで、どのような感情を宿しているのか全く読めなかった。

同情も、同類を見つけた喜びも、何もない。

初めて見る瞳はどこか恐ろしく、愛い後輩がどこか遠い存在のような気がしてしまった。

すると、緑色の瞳が和らいだ。

 

「分かりました。

では、俺と彼でデュエルをします」

 

「……そうだな、それが一番良い案だろう」

 

「デュエル?」

 

聖星からの提案にリカルド村長は首を傾げる。

 

「禁止区域に立ち入った以上、罰は必要です。

もちろん、彼が勝てば罰金を支払う。

俺が勝てば罰金に付け加え、二度とこの地を訪れてはならないと誓わせます。

これでどうでしょう?

安心してください、もちろん手を抜くつもりはありません」

 

何事にも建前は必要だ。

誰かを救う運命を背負っているから無罪放免というわけにはいかない。

ならばデュエルで彼の生き様を見極め、村人達に彼は試練に耐えたと証明する。

思案に余っていたリカルド村長は納得し、希望が見えたことに安堵した。

 

「星竜王に選ばれた聖星様が彼を裁くのならば村人達も納得するでしょう。

では、デュエルの場を手配させていただきます」

 

「よろしくお願いします。

となると、問題は……」

 

リカルド村長の申し出に聖星は優しく微笑んだと思えば、すぐにその表情は険しいものになる。

そして、ゆっくりと顔を動かしてこの村の果てにいる人物へと目をやった。

 

「聖星?」

 

「リカルド村長。

少年と一緒にいた彼は何者ですか?」

 

「彼はリーパー。

考古学者であり教師として学生達と共にこの土地の調査をしに来た者です」

 

リーパー。

その名を聞いて真っ先に思いつくのはグリム・リーパー、つまりは死神だ。

名は体を表すという言葉があるが、彼の場合はその名に引っ張られてしまったのだろうか。

この土地に来た瞬間から感じた違和感に合点がいった聖星は静かに口を開く。

 

「詳しく調べないと分かりませんが、一瞬だけ彼から闇の力を感じました」

 

「何だと?」

 

「本当ですか、聖星様?」

 

「はい」

 

闇は闇でも、タイタンやダークネスのように人格を乗っ取るものでも、カミューラのように闇に生きる者が纏うものではない。

あれは、そう、【閃珖竜スターダスト】が見せてくれた幻の時に感じた闇だ。

【スターダスト・ドラゴン】達が死に物狂いで立ち向かった巨大な邪神から放たれる闇によく似ていた。

 

「ほんの一瞬だったので、あの闇の力が元々彼のものなのか、それとも何らかの理由で【地縛神】の闇が彼を操っているのか、そこまでは分かりませんでした。

ですが、彼が闇の力に操られているのなら、彼は利用されただけです」

 

闇の気配を感じたのは本当に一瞬だった。

良き力を身に宿す少年の傍にいたからこそ、聖星が村人達に気を取られながらもその異質さに気付くことが出来た。

死をもって罪を贖わせるつもりだったが、どうにかして助けたいと目で訴えてくる子供にリカルド村長は優しい笑みを浮かべる。

 

「承知いたしました。

では、念のためリーパーの檻は厳重にしておきます」

 

「はい、お願いします」

 

今、この土地には赤き竜が降臨した事で聖なる力が充満している。

あれほど微力な闇の力ならば、自分の領分である次の夜になるまでは大人しくしているだろう。

万が一、聖星達の隙をついて襲撃してきた場合は……

ベルトに備え付けているデッキケースの1つに触れた聖星は静かに目を閉じる。

その中には父から受け取った白い箱が入っており、触れた瞬間に暖かい息吹が伝わってきた。

 

「その前に1つ良いですか?」

 

「何でしょうか、亮様」

 

「丸藤先輩?」

 

「少年と話をさせてはもらえないでしょうか。

気になる点があります」

 

「気になる点?

それは?」

 

「いえ、今回の件にはそこまで関与しません。

ただ1人のデュエリストとしての好奇心が働いただけです」

 

カイザーは先程連れていかれた少年を思い出す。

右目に包帯を巻いていた彼は、自分の感が正しければ自分達と同じ立場の者だろう。

人間とは共通点を見つけてしまえば親近感を抱き、ある程度打ち解けてしまう生き物だ。

そこから話題を広げ、何故彼等は禁忌の地に足を踏み入れてしまったのか事情を聴けるはず。

 

「聖星も一緒に行くか?」

 

「はい」

 

**

 

この牢屋に閉じ込められてから、どれくらいの時間がたっただろう。

昔の映画に出てきそうな古い豆電球に集まる虫を眺めながら彼はキャンプ地に置いてきた家族の事を思い出す。

突然の事だったため連れてくる事は出来なかったが、今頃とても心配しているに違いない。

 

「(いや、こうなるのなら連れてこなくて正解だったな)」

 

さて、無事にこの困難を乗り越えてキャンプ地に帰った時、置いてきた家族は泣き出すだろうか、それとも怒り出すだろうか。

 

「(彼女の事だ、間違いなくハングリーだろうなぁ)」

 

彼女の気の強い性格を考えると雷を落とす択一だと考え直し、自然と笑みが零れる。

これから下される処罰によっては一生会えないかもしれないというのに、実に余裕だ。

これは彼が楽観的でもなく、呑気な人間だからでもない。

誰よりも諦めが悪く、最後まで希望を捨てない精神を持っているからだ。

希望を胸の内に灯しながら家族への想いを馳せていると、何者かが地下牢に向かってくる音が響く。

 

「誰だ?」

 

もしかすると、自分の処罰が決まったのだろうか。

随分と早いなと思って声をかければ、姿を現したのは先程赤い竜と共にこの地に降りてきた少年達。

 

「こんばんは」

 

「気分はどうだ?」

 

かけられた声に敵意に警戒、怒りの色はなく、少年は少しだけ安堵して笑った。

事を荒立てないためにも笑顔を纏い、彼は気さくに声をかける。

 

「ハロー、ドラゴンボーイズ」

 

「ドラゴンボーイ?」

 

「赤い竜と共に現れ、彼等と共に闘うボーイズだからな。

それとも、ドラゴンライダーの方が良かったか?」

 

これは癖なのか、自分はつい相手の特徴をとらえたニックネームをつける事がある。

名前をもじったニックネームならば周りの友人もよくしていたが、相手の身に付けているものから趣味を見抜き、それに由来するもので呼んでいるのは自分くらいか。

笑いながら説明すれば、青い髪の青年は静かに隣にいる少年を見下ろす。

 

「それなら俺ではなく、聖星に使うのが適切だな」

 

「え?」

 

まさかのご指名に、俺ですか?という表情を浮かべた少年は彼を見上げる。

それに対し青年は不思議そうな表情を浮かべた。

その顔には、はて、自分は何か間違ったことを言っただろうか。と書いてある。

数秒程お互いの顔を見合わせた彼等の様子がおかしく、つい笑い声が漏れてしまう。

緊迫した空気になるどころか、朗らかな空気にしかならない彼等の様子は傍から見ればじれったいだろう。

家族がいれば間違いなく緊張感を持てとひっぱたかれるに違いない。

 

「それで、俺に何か用かい?」

 

「あぁ、少し気になったのだが……

その制服、もしや君はデュエルアカデミアの生徒か?」

 

「え?」

 

「ホワット?

そうだが、それがどうかしたのか?」

 

青い髪の青年の言葉に、彼は改めて彼等の服を確認する。

あの時は気が動転しており、少年達の服装にまで気にする余裕はなかった。

だが、指摘された事で見慣れたものが目の前にあることにようやく気がついた。

彼が答えにたどり着くと同時に、自分の推測が当たっていた事に青年、カイザーは表情を変えずに説明する。

 

「やはりな。

俺達もデュエルアカデミアの生徒だ。

俺達は日本にあるデュエルアカデミアに通っているが、君はどこのデュエルアカデミアだ?」

 

「本当か!?

俺は校の生徒だ。

まさかこの地で異国のアカデミア生徒と出会えるなんてラッキーだぜ。

……こんな状況じゃなければデュエルを申し込むんだがな」

 

まさかの出会いに彼は興奮気味に立ち上がる。

あぁ、本当に幸運であり、とても残念で仕方がない。

風の噂では、サウス校と同じ姉妹校のノース校は本校と交流デュエルを行っているという。

しかし、自分が通っているアカデミアでは中々本校との交流の話が出てこない。

いつかは本校と交流をしてみたいと思っていたが、こんな形で夢が叶うとは思わなかった。

心の底から残念そうにしている少年と同意見なのか、2人も同じ表情を浮かべる。

 

「改めて自己紹介をしよう。

俺は丸藤亮だ」

 

「俺は不動聖星です」

 

2人が名乗った瞬間、彼の思考は一瞬だけ停止する。

本来ならばここですぐに名乗り返すのが礼儀だ。

だが、これは許して欲しい。

何故なら彼は今、とてつもない有名人と言葉を交わしているのかもしれないのだ。

それもアカデミー賞を受賞した俳優や連日テレビが褒め称えている野球やサッカー選手の比ではない。

いや、今のは言葉が悪い。

彼等デュエリストにとっては1度でも耳にしたことがあり、いつかデュエルをしてみたいと願っていた相手がここにいるのだ。

 

「丸藤亮……

オーマイゴッド!

もしかしてユーはデュエルアカデミアのカイザーか!」

 

その言葉にカイザーは小さく頷く。

肯定された事で彼はこの状況を忘れてしまうほど瞳を輝かせる。

彼のデュエルは全て計算され尽くされ、相手をリスペクトしながら行うデュエルスタイルはまさに帝王。

無敗伝説を誇り、卒業後はプロ入り確定、多くのプロリーグが彼にアプローチをしているという噂が流れてくるくらいだ。

これから更に伝説を残すデュエリストが今目の前にいる。

年相当に嬉しそうな表情を浮かべていた彼だが、すぐにその表情は照れ臭そうなものへと変わる。

 

「ソーリー、興奮してすみません。

俺はジム・クロコダイル・クック。

デュエルアカデミア・サウス校の1年生です」

 

「無理に畏まらなくて良い。

こういう状況だ。

自然体の方が今の君にとって負担は少ないだろう」

 

「俺は同じ学年だからタメ口で大丈夫だよ。

それにしても、サウス校にまで名前が知れ渡っているなんて丸藤先輩は凄いですね」

 

「名前が勝手に1人歩きしているだけだ。

むしろ、俺より聖星の方が凄いだろう」

 

「え、俺ですか?」

 

「君の影響力は計り知れないからな」

 

「う~ん、俺の影響というか、なるべくしてなったというべきか」

 

留学したわけでもないのに他校にまで名前が知れ渡っている事が凄いと褒めたのだが、返って来た言葉に頬をかく。

カイザーとしては実力者として名前が広がっていたとしても、自分の名がデュエル界隈にそこまで強い影響を与えていると思っていない。

むしろ、強い影響という点に関しては聖星の方が圧倒的に上だ。

カイザーの言葉に聖星はシンクロ召喚の事を言っているのだと察し、言葉を濁す。

当初の予定ではのらりくらりと学園生活を楽しみ、頃合いを見て退学するつもりだったのに。

いや、本当にどうしてシンクロ召喚プロジェクトに関わる事になったのか。

2人にしか分からない会話にジムは首を傾げるが、すぐに赤き竜に関連する事だと考えた。

 

「サンキュー、カイザー、ドラゴンボーイ」

 

「ジム、親しみを込めて呼んでくれるのは分かるんだけど、出来ることなら普通に名前で呼んで欲しい。

俺と赤き竜の繋がりを知っている人は極一部だから、ちょっとその渾名は……」

 

「聖星はどちらかというと……

いや、何でもない」

 

スペルブックボーイ、いや、グリモワールボーイか。

そう言葉を続けようとしたが、聖星のデッキを象徴している渾名になってしまうためすぐに口を閉ざした。

そもそもグリモワールはフランス語だからこの場合は不適切だ。

等と変な方向に天然を発揮しているカイザーに苦笑を浮かべた聖星は本題に入る。

 

「ところで、どうしてジム達は立ち入り禁止エリアに入ったんだ?」

 

「進んで入った訳じゃない。

これでも考古学者の端くれだ。

村人達と信頼関係を築かずに好奇心を優先して彼等の領域を侵した場合、彼等と大きな衝突は免れない事は分かっている。

バット……」

 

本当に突然だった。

夕食の後に明日のプランを確認し、さぁ、あとは寝るだけだと思ったのに。

人目を気にするようにキャンプから抜け出した教師の様子を怪訝そうに思い、嫌な予感がしたのだが……

それが現実になったのはすぐだった。

車に乗った彼が向かった方角は許可を得ていないエリア。

他の人達を起こして向かうという考えも一瞬だけ浮かんだが、それでは間に合わないし、見失う可能性が高い。

バイクに飛び乗ったジムは全速力で追いかけたのだ。

 

「まさか、リーパー先生がキャンプから抜け出して禁止エリアに行くなんて思いもよらなかった。

彼はそんな事をするような先生じゃないんだがな」

 

ジムが知っているリーパー先生という男は誰よりも相手の意思を尊重して働きかける教師だ。

考古学の調査において許可を得る事はそう簡単ではない。

だからこそ、誰よりも現地の人達の声に耳を傾ける必要がある。

それは長年考古学に携わっているリーパー先生も知っており、ジム達学生にそれの難しさをしっかり教えてくれた。

 

「ジム君。

交渉の場において最も重要なのは何だか知ってるかね?」

 

「双方の利益を示し、誠心誠意に伝える事でしょうか」

 

ジムからの返答にリーパー先生は優しく頷く。

 

「うん、誠心誠意と相手の利益を提示する事はとても大事だ。

けど、人間は真摯に対応され、利益を提示されても交渉を受け入れない事が多々ある」

 

「ホワイ?」

 

「納得できないからさ。

どれだけ浪漫あふれる利益、筋が通った説得、心の底からの誠意を見せられたとしても、心を揺さぶられない限り彼等はこちらの言葉に頷いてくれない」

 

「それでは、どう納得させるのですか?」

 

「まず、相手が何に重きを置いているのか、何に対し怒りを覚えるのか知るんだ。

相手の話を聞いて、仕草や表情から相手の感情を読み取る。

ま、要は相手に興味を持つことが大事だよ。

相手の事を知らないと、どうすれば納得するか分からないからね」

 

リーパー先生を初め、考古学に精通する者達は声を発する事がない遺跡から多くの事を読み取る。

何故そんな事が出来るのか。

それは遺跡の事が好きで、興味があって、この遺跡の事を知りたいという思いがあるからだ。

その熱意を現地の人達に向け、彼等の心を揺さぶり、彼等が納得できるよう交渉する。

リーパー先生の持論はそうなのだ。

それ程現場を知り尽くしている彼が何故あのような暴挙に出たのかジムには理解できない。

緊張がほぐれたせいか、あまり感じなかった疲れが出てきたようだ。

深いため息をつく少年にカイザーは問いかける。

 

「それにしても、赤き竜についてあまり驚いていないんだな」

 

非科学的な現象を目の当たりにしたのだ。

普通の人間ならばあの赤い竜は何なのかともっと慌ただしく問いただしてきてもおかしくはない。

だが、ジムは赤き竜の事を受け入れており、こちらの事情を早急に聞いてこない。

自分が尋ねる立場ではなく、あの場所で何をしていたのか尋ねられる立場という自覚があるからだろうか。

 

「赤き竜?

あぁ、あの赤い竜の事か。

確かに、伝説上の存在が目の前に現れたんだ、取り乱すのが普通だな。

おっと、勘違いしないで欲しい、別に感激してないわけじゃないぜ。

バット、俺にもそういう事に身に覚えがある」

 

なにせ、ジムは考古学が体系化していなかった時代、恐竜の骨を見た人達はドラゴンの骨と大騒ぎしたという浪漫話に好感を持つタイプの男だ。

人々の血と共に受け継がれてきた伝説が、科学技術では解明しきれない現象が目の前にある。

これで興奮しないとか考古学者ではない。

そして最後に語ったようにジム自身、オカルトな話に縁がある。

赤き竜が降臨した姿の美しさに感動したのもあるが、それもあってジムはこの現実をあっさり受け入れる事が出来たのだ。

ジムが放った最後の言葉に聖星は遠慮なく尋ねる。

 

「覚えがあるって、その右目のこと?」

 

「ホワット!?」

 

「右目?」

 

檻の外から聞こえた問いかけに、ジムは勢いよく聖星を見る。

東洋人特有の幼い顔立ちの同級生は確信を得ているのか、迷いのない瞳でジムを真っすぐ見据えていた。

悠揚として迫らざる態度を貫く聖星に対し、ジムの表情は酷く動揺しており、言葉を詰まらせている。

様々な人間に包帯で隠している右目について尋ねられた事はあった。

しかし、この状況で的確に尋ねられるとは夢にも思わなかった。

同時に彼が赤き竜と共にいる事を思い出し、納得したかのように疑問を口にする。

 

「オ~、ユーはそういうのが分かるのか?」

 

「何となくだけどな。

リカルド村長も気がついていたよ。

だから、君への処分をどうしようか迷っている。

例え異教徒だろうと、君に宿る力は誰かのためにある。

きっと、君も俺と同様、何かの宿命を背負っているんだろ?」

 

「宿命か……

俺のこれはそんなたいそうなものじゃないさ。

ただ、俺のこの右目は友のためにある」

 

罠に嵌まりそうだった友、今は家族ではあるが、彼女を必死に守ろうとした時。

気が付けば彼の右目は古くから伝わる力に変わっていた。

気絶していた自分と彼女の傍に寄り添っていた老人の言葉を思い出しながらジムは2人を見る。

 

「それより、マイフレンド、ユーに頼みがある」

 

「頼み?」

 

「あぁ、俺達の事をこの連絡先に伝えてくれないか?

きっと皆心配している」

 

そう言って渡されたのは、即席に書かれた1枚の紙。

それを見たカイザーはジム達が2人きりで訪れたわけではない事を思い出す。

 

「確かに、教師と学生が突然姿を眩ませたら周りが放っておかないだろうな」

 

「分かった、ジム。

絶対に伝えておくよ」

 

「サンキュー」

 

**

 

白々明けになった頃、カイザーは与えられた部屋で静かに目を覚ました。

時差の関係上、上手く眠れないと思ったが、昨晩の出来事は彼の体に大きな負担になっていたらしい。

暖かいベッドにもぐりこんだ次の瞬間には意識を手放し、気が付けば窓から日差しが差し込んでいた。

十代ならばまだ眠れる!と意気込んで二度寝していただろうが、真面目な性格であるカイザーは眠たげな表情を浮かべながらベッドから起き上がる。

そしてふと、隣のベッドで眠っている聖星へ目をやった。

 

「聖星?」

 

髪と同じ青碧の瞳に映ったのは、両手を組みながら目を瞑っている聖星だ。

ただ静かにそこにいる後輩が纏う空気は妙に重苦しく、思わず呼吸を止めてしまった。

しかしそれはほんの一瞬で、聖星は顔を上げて微笑んだ。

 

「おはようございます、丸藤先輩。

よく眠れましたか?」

 

「あ、あぁ……

ところで、何をしていたんだ?」

 

カイザーからの問いかけに聖星はきょとんとした表情を浮かべ、はにかむように笑って頬をかいた。

 

「見られちゃいました?

竜の星に祈っていたんです。

デュエルアカデミアにいる皆が無事でありますようにって」

 

かつて、神の化身である赤き竜は平和を脅かした【三幻魔】と戦った。

それならば、竜の星は【三幻魔】の復活を防ごうと戦っている十代達を見守ってくれているはずだ。

肩を並べる事は出来ずとも、遠い地で戦っている戦友達の勝利を願う事は出来る。

そして、平和を勝ち取るためには十代達の勝利だけでは足らない。

この場にいる聖星とカイザーも勝たねば意味がないのだ。

 

「彼等なら大丈夫だ。

例えセブンスターズが攻め込んで来ても十代達なら勝つ」

 

「はい。

ところで先輩、ジムとのデュエルに使うデッキを今から組む予定なのですが、手伝ってくれませんか?」

 

「あぁ、構わない」

 

**

 

朝食を食べ終えた聖星とカイザーはすぐにデッキの構築について話し合っていたが、どうやら想像していたより白熱していたらしい。

床一面に広がったカードを交互に見ながら交わす議論は昼下がりまで続いた。

何度かリカルド村長達が訪れたようだが、裁きの準備を行っていたという事で誰1人として声をかけてこなかった。

組み終えたデッキをケースに仕舞った聖星は、いくつもの炎が照らしているデュエルフィールドに立つ。

そして、穏やかな風が吹く中、手枷をつけているジムが数人の村人に連れられてやって来る。

 

「聖星?」

 

「こんにちは、ジム。

早速だけど、今から俺とデュエルをして貰おうか」

 

聖星の言葉にこのデュエルの意図を察した彼は、不敵な笑みを浮かべる。

 

「成る程、そういう事か。

オーケー、そのデュエルを受けよう」

 

村人の1人がジムの手枷を外し、押収していたデュエルディスクとデッキを彼に渡す。

左手に盾を取り付けたジムは真っ直ぐと聖星を見た。

 

「このデュエルは貴方の罪を計るもの。

負けたからと言って罰せられるわけでないし、勝ったからと言って無罪放免になるわけでもない。

ただ貴方は罪の意識を持ちながらデュエルに全力で挑めば良いさ」

 

「挽回の機会をくれただけでラッキーさ。

よろしく頼むぜ、聖星」

 

「あぁ」

 

「「デュエル!!」」

 

2人の掛け声とともに突風が吹き荒れる。

リカルド村長をはじめ殆どの男性達は、これから始まる神聖な儀式を見守っていた。

このデュエルはあくまで聖星が彼を見極め、裁く側。

よって最初に動くのは聖星だ。

 

「先攻は俺がもらう、ドロー。

俺はモンスターをセット、カードを2枚セット。

更にフィールド魔法【影牢の呪縛】を発動。

俺はこれでターンエンド」

 

「(裏側守備モンスター?

という事はリバースモンスターか)」

 

ルール上、リバースモンスター以外のモンスターを裏側守備表示で場に出す事に問題はない。

だが、モンスターを守備表示で召喚するのならば、リバース効果を持つモンスター以外は表側守備表示で出すのが通例だ。

故に、聖星の行動はとても分かりやすい誘いに映る。

ジムは自分が知りうる限りのリバース効果モンスターを思い出す。

 

「(伏せカードは1枚だから【メタモルポット】の可能性は低い。

墓地にカードは存在しないから【聖なる魔術師】、【闇の仮面】もないだろう……

ま、こちらから仕掛けないと始まらないか)

俺のターン、ドロー!」

 

勢いよくカードを引いたジムは手札にかけつけたモンスターの名前に笑みを浮かべる。

 

「俺は【風化戦士】を攻撃表示で召喚!」

 

「この瞬間、罠発動」

 

「ホワット!?」

 

「【針虫の巣窟】。

このカードの効果で、俺はデッキからカードを5枚墓地に送る」

 

そう宣言した瞬間、ジムは怪訝そうな、だけど少しだけ嬉しそうな表情を浮かべた。

相手がいきなり自分のデッキを破壊したからそのような顔をしたのだろうか。

意図を考えながらデッキの上から5枚めくった聖星は、ジムに見えるようカードを掲げる。

 

「墓地に送られたのは【シャドール・リザード】、【シャドール・ファルコン】、【グリモの魔導書】、【魂写しの同化】、【貪欲な壺】だ。

そして、墓地に送られた【シャドール・リザード】と【シャドール・ファルコン】の効果発動。

彼等はカードの効果で墓地に送られた時、それぞれ効果を発動する」

 

聖星の背後にうすぐらい紫に染まり、操り糸のようなものに拘束されている2体のモンスターが姿を表す。

そして、聖星の左後ろに控えていた鳥形のモンスターが輝きながらフィールドに舞い降りる。

 

「【シャドール・ファルコン】は自身を裏側表示で特殊召喚する。

頼む、【シャドール・ファルコン】」

 

頼まれたモンスターは裏側守備表示のため、その思いに応えることはない。

だが、それでいい。

すると、聖星の場に紫色の輝きが現れる。

 

「何だ?」

 

「【影牢の呪縛】の効果さ」

 

「オー、このタイミングで発動するのか」

 

「あぁ。

【シャドール】モンスターが効果で墓地に送られる度に、1体につき1つ魔石カウンターがたまるのさ。

そして、ジムの【風化戦士】はそのカウンターの数×100ポイント弱体化してもらう」

 

「っ、何だと!?

【風化戦士】!」

 

眩い光に【風化戦士】の体の一部が崩れ落ち、攻撃力2000のモンスターは攻撃力が1900になる。

しかし、これで終わりではない。

次は自分の番だと言うように【シャドール・リザード】が奇妙な声で鳴き、その姿は四足歩行の獣となる。

 

「【シャドール・リザード】はデッキから自身以外の【シャドール】を墓地に送る。

俺が送るのは【シャドール・ビースト】だ。

そして、【シャドール・ビースト】が効果で墓地に送られた時、デッキからカードを1枚ドローする」

 

「モンスターを場に特殊召喚するだけではなく、デッキからカードをドロー。

それに繋げるモンスター効果。

ユーはとんでもないデュエリストだな、聖星」

 

「この程度で驚いていたら、これからのデュエル持たないぜ、ジム」

 

そう、このデッキの真骨頂はここからだ。

尤も、その真骨頂を発揮できるかはジム次第にはなるのだが。

聖星が操るデッキの特性を知り尽くしているカイザーは、デッキを組んでいた時を思い出す。

 

「丸藤先輩、【シャドール・ファルコン】はデッキに入れても大丈夫だと思います?」

 

「チューナーか……

相手はジムなんだろう?

彼と対等に戦うのなら抜くべきだ」

 

「はい。

けど、問題はあれがデュエル中にちょっかいをかけてこないかなんですよね。

デュエルが終わるまで大人しくしてくれるのなら良いんですが……」

 

「確かに、そうなった場合は光の竜達の力が必要か」

 

「はい。

でも、ちょっと残念だなぁ」

 

「何がだ?」

 

床の上に広げられている【シャドール】を眺めている聖星は、困ったようにとあるカード達に目をやる。

それはこのデュエルでは絶対に使わないと決めていたカード達だ。

1枚は髪を靡かせ、光の翼が生えている少女。

もう1枚はカプセルのような中で眠りについている少女。

一見すると特に問題はないように見えるが、彼等はシンクロ召喚とは違う意味でこの時代で活躍するには早すぎるカードだ。

 

「【シャドール】を組むのなら【エリアル】と【ウェンディ】も入れたかったです」

 

「この件が終わったら、俺が相手になろう」

 

「良いんですか?」

 

「あぁ。

俺もまだこの時代にはない種族とデュエルしたいからな」

 

そう、上記にあげた2枚はこの時代には存在しない種族。

【シャドール・ファルコン】は状況が状況であるため、デッキに投入する理由はある。

しかし、流石にサイキック族の彼女達に理由もないのにデッキに組み込むのはルール違反な気がするのだ。

聖星が入学当初から貫いている理念になるべく反しないようにするのなら、彼女達には悪いがカードケースで留守番してもらうしかない。

次のデュエルの約束を思い出していたカイザーはバトルフェイズに移った声で現実に引き戻される。

 

「オーケー、それならバトルだ!

【風化戦士】、ゴー!」

 

ジムの掛け声に【風化戦士】は裏側守備表示になっている【シャドール・ファルコン】へ駆け出す。

【影牢の呪縛】にたまっているカウンターの数は3。

よって、攻撃力は1700までダウンしているが、【シャドール・ファルコン】を撃破するためならば問題はない。

持っている剣を大きく振り上げた彼は容赦なく攻撃する。

だが、その刃がモンスターを叩き潰す前に空から紫色の紐が降り注ぎ、刃を絡みとる。

 

「ロープ!?

一体どこから……!?

あの光かっ!」

 

「速攻魔法【神の写し身との接触】」

 

「っ!」

 

「俺の場とフィールドから決められたモンスターを墓地に送り【シャドール】融合モンスターを特殊召喚する。

だが、同時にフィールド魔法【影牢の呪縛】の効果発動。

【シャドール】モンスターを融合召喚する時、このカードに乗っているカウンターを3つ取り除くことでジムのモンスターを融合素材にする!」

 

「俺のモンスターを融合素材にするだと!?」

 

「召喚条件は【シャドール】と地属性モンスター。

空虚な匪賊に連なる賢者よ、跳梁跋扈による咎めを受けよ。

融合召喚【エルシャドール・シェキナーガ】」

 

紫色の紐に絡めとられた【風化戦士】は漆黒の渦に飲み込まれ、もう一体の裏側守備表示モンスター【シャドール・ヘッジホッグ】はその小さな体をみるみるうちに巨大化させていく。

黒に近い紫色のモンスターは白銀と漆黒のボディを持つ巨大なモンスターになった。

そして、渦のなかに取り込まれた【風化戦士】は女性型のモンスターになり、巨大なモンスターに拘束される。

その攻撃力は2600。

これはジムのバトルフェイズにて行われた特殊召喚。

緑色の隻眼は驚きのあまり微かに揺れており、腹の底から驚きと感動の言葉がでかかった。

しかし、これはとても真剣な裁きの場。

初めて見るタイプのデュエルタクティスにいつも通りはしゃぐわけにはいかない。

 

「【風化戦士】の効果発動。

俺はデッキから【化石融合-フォッシル・フュージョン】を手札に加える」

 

「俺も【シャドール・ヘッジホッグ】の効果を発動させてもらう。

デッキから【星なる影ゲニウス】を手札に加える」

 

聖星が【シャドール・ヘッジホッグ】の効果を使用した事で再び【影牢の呪縛】にカウンターが乗る。

まだたったの1ターンしか経っていないが、【シャドール】のカンターが乗る頻度はそれなりに多い。

これは早くフィールド魔法をどうにかしなければ思うようなデュエルが出来ないだろう。

 

「ジム」

 

メインフェイズに移った事で魔法カードを発動しようとした時、前から聞こえた名前を呼ぶ声にジムは顔を上げる。

 

「リカルド村長達と交渉したことがある君なら知っているはずだ。

この土地は何万年も前から彼等の祖先が受け継いで守り抜き、後世へと伝えなければならない場所。

これからの未来、次へと繋げるための希望と遺産がここにはある。

ジム、これから次へと繋がるはずだった希望の芽を摘ままれてみてどんな気分だ?」

 

「成る程、俺のフィールドは彼等から見て聖域。

そしてユーが操る【シャドール】達は俺とリーパー先生を模しているのか。

さしずめ、これは犯行現場の再現ってわけか」

 

よく思い出せば、【シェキナーガ】を召喚した時の台詞は、ジムへの宣告を意味するものだったのかもしれない。

止めようと駆け出した側のジムからしてみれば理不尽な事かもしれないが、実際この土地を守り続けてきた村人達、ジム達が禁止区域に侵入した事で赤き竜と共に来た聖星達には関係ないのだろう。

ブリムを掴みながらテンガロンハットを深く被ったジムは小さく息を吐き、真っ直ぐと聖星を見た。

 

「聖星。

まさか、俺の場にいるモンスターを融合素材に使われるとは思わなかったぜ。

今まで多くのデュエリストとデュエルしてきたが、こんな事は初めてだ」

 

「……」

 

「そして、聖星。

ユーこそ、コントロール奪取以外で自分のモンスターを融合素材にされたことはあるか?」

 

「え?」

 

「手札から【化石融合-フォッシル・フュージョン】を発動!」

 

「さっき加えたカード……

それに、さっきの口ぶりからするとそのカードの効果は」

 

「ザッツライト!

俺の墓地に存在する岩石族とユーの墓地に存在するモンスターを融合させるのさ!」

 

「やっぱり」

 

パチン、とカードをデュエルディスクに差し込む音が響く。

同時にフィールド全体が揺れ、2人の背後に巨大な岩のようなものが隆起する。

背後に振り返った聖星は様々な横縞が重なっている岩、いや、地層に囚われているモンスターの姿に目を見開く。

鉱物とも金属ともとれるボディを持っていたモンスターは風化によって体の殆どを失い、残っているものは骨だけ。

それでも、今墓地に存在するモンスターで四足歩行なのは1体だけで、誰が融合素材に選ばれたのかすぐに察することが出来た。

 

「俺の地層に眠る【風化戦士】と君の地層に存在する【シャドール・ビースト】を融合する!

カモン!!

【中生代化石騎士スカルナイト】!」

 

「はぁ!」

 

2人の背後にあった地層は光の渦となり、その中から小さな盾を構えた骸骨の騎士が現れる。

恐竜の骨で作った鎧を身に纏う彼は【シェキナーガ】に敵う攻撃力ではなく、ジムを守るよう守備表示になる。

すぐに壁を用意したジムのタクティスにリカルド村長達は感嘆の声を零しているが、腕を組みながら観戦しているカイザーは厳しい眼差しを向けていた。

 

「(やはり、融合モンスターが召喚されたか。

だが、ジム。

君は次のターンに備えて融合モンスターを特殊召喚したのだろうが、それは自身を守るどころか首を絞める行為に繋がる。

さて、君はどうやって聖星のデッキに立ち向かう?)」

 

先程カイザーは聖星のデッキの真骨頂を見る事が出来るかはジム次第と心の中で思案していたが、彼の予想通りジムは聖星にとって最適な環境を提供してしまった。

かの少年がどのように抗うのか、それとも何もできずに敗北してしまうのか。

どちらに転ぶか分からないデュエルの結末に思いを馳せる。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー」

 

今、聖星の場には【エルシャドール・シェキナーガ】と裏側守備表示の【シャドール・ファルコン】が存在する。

それに対してジムの場は【中生代化石騎士スカルナイト】が守備表示と伏せカードが1枚。

【スカルナイト】の守備力はわずか1100と、下級の【シャドール】でも突破できる数値だ。

このままバトルフェイズに突入し、出方を伺うのも悪くはない。

だが、目の前にいるデュエリストの真価を試すにはこのカードを使うべきだろう。

 

「ジム、攻めさせてもらうぞ。

手札から魔法カード【影依融合】を発動。

俺の手札、フィールドから【シャドール】融合モンスターによって決められた融合素材モンスターを墓地に送り、融合モンスターを特殊召喚する。

だが、ジムの場に融合デッキから特殊召喚されたモンスターが存在するのなら話は違う」

 

「まさか、また俺の場のモンスターを素材にする気か!?」

 

来るか、と身構えるジムだが、彼の予想に反し聖星は自身のデッキをデュエルディスクから外す。

前例がない行動に理解が遅れるが、ジムは考古学と地質学を専門とする少年。

数少ない手がかりからあるべき姿を推測する事には慣れており、この場の誰よりも早く正解を導きだした。

同時にそんな事があり得るのかと疑問が過ぎったが、聖星は宣言する。

 

「俺のデッキに眠るモンスターも融合素材とする事が出来る」

 

「デッキに存在するモンスターをだと!?

アンビリーバボー!」

 

「俺はデッキの【シャドール・ハウンド】と2枚目の【シャドール・ビースト】で融合。

融合条件は【シャドール】と闇属性モンスター」

 

選ばれたのは細身の四足歩行モンスターと、先程【スカルナイト】の融合素材となった大柄の四足歩行モンスターだ。

彼等は闇の渦へと姿を消し、片方は翼をもつモンスターへと変わっていく。

そして、もう片方は愛らしい緑髪の少女へと姿を変えた。

 

「夜もすがらの果てを求める閨秀よ、暗竜を従えて世界を駆けろ。

融合召喚、【エルシャドール・ミドラーシュ】」

 

「はぁっ!」

 

体中に存在する水晶体には紫色の糸が繋がれている龍は機械音を発しながら翼をはばたかせる。

だが、今まで現れたモンスターと異なり、少女の形をしている彼女には影糸が一切繋がれていない。

彼女が【シャドール】を統べる主なのだろうか。

ジムが初めて見るモンスターの特徴と今まで使用された【シャドール】と【エルシャドール・シェキナーガ】の共通点を探していると、聖星は容赦なくモンスター効果を発動させた。

 

「【影依融合】の効果で墓地に送られた【シャドール・ハウンド】と【シャドール・ビースト】の効果発動。

俺はデッキからカードを1枚ドローし、【スカルナイト】を守備表示から攻撃表示に変更する」

 

【シャドール・ハウンド】はカード効果で墓地に送られた時、表示形式を変更する効果を持つ。

これでジムの【スカルナイト】は守備表示から攻撃表示となり、戦闘でダメージを与える事が出来る。

空から無数の影糸が降り注ぎ【スカルナイト】を絡めとろうとするが、盾を構えた【スカルナイト】は立ち上がり、自身に向かってきた無数の糸を切り捨てる。

 

「えっ、何で効いてないんだ!?」

 

「【化石融合】の効果さ」

 

「まさか……」

 

「俺達の地層に眠るモンスターを融合素材に召喚した【化石】融合モンスターは、モンスター効果の対象にはならない。

つまり、【ハウンド】のその糸は【スカルナイト】には届いていなかったという事さ」

 

「自分のモンスターの効果の対象にさえ選べなくなるけど、相手からのカード耐性を得られると考えれば強いな

それなら俺は【ハウンド】の効果で裏側守備表示になっている【シャドール・ファルコン】の表示形式を変更。

この瞬間、【ファルコン】のリバース効果発動。

墓地に眠る【シャドール・ビースト】を裏側守備表示で特殊召喚する」

 

表側攻撃表示になった【シャドール・ファルコン】は小さな翼をぱたぱたと羽ばたかせる。

すると僅かな風によって小さな時空の歪みが生まれ、その奥から厳ついモンスターが姿を現した。

蘇った【シャドール・ビースト】は威嚇するよう唸りながら裏側守備表示になる。

【スカルナイト】を攻撃表示に変更できなかったのは痛い。

しかし、これで【影牢の呪縛】に乗っているカウンターは1つから4つに増えた。

 

「それなら俺は手札から【魔導書士バテル】を召喚」

 

「ふんっ」

 

「そして【バテル】の効果発動。

彼の召喚に成功した時、デッキから【魔導書】と名の付く魔法カードを手札に加える。

俺が加えるのは【グリモの魔導書】だ」

 

悲しい事に【針虫の巣窟】で墓地に送られてしまったが、これで【魔導書】のエンジンカードを手札に呼び込むことが出来た。

一気に動くと気が付いたカイザーはどのカードを呼び込むのか考える。

 

「【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【魔導書】と名の付くカードを手札に加える。

俺は【セフェルの魔導書】を選択し、そのまま発動」

 

淡い青に近い光を放つ書物が消え去ったと思えば、次は禍々しい闇を纏う【魔導書】が場に現れた。

【魔導書】からあふれ出る闇は【エルシャドール・ミドラーシュ】と呼応する様に場を侵食していった。

 

「俺の場に魔法使い族が存在する時、手札の【ヒュグロの魔導書】を見せ、墓地に眠る【魔導書】をコピーする」

 

「ユーの墓地に存在する【魔導書】は1種類。

つまり……」

 

「あぁ、ジムが考えている通りだ。

俺は【グリモの魔導書】の効果をコピーする。

デッキからサーチするのは【ルドラの魔導書】だ」

 

【ルドラの魔導書】は手札の【魔導書】、または場の魔法使い族を墓地に送る事でデッキからカードを2枚引くドローカードだ。

聖星の手札には【ヒュグロの魔導書】が存在し、場には【魔導書士バテル】と【エルシャドール・ミドラーシュ】が存在する。

どれを選択するのか考えてはみたが、聖星の性格を考えると後者を利用するだろう。

 

「【ルドラの魔導書】を発動。

【バテル】を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローする」

 

これで聖星の手札は6枚。

フィールド魔法【影牢の呪縛】に乗っているカウンターは3つ。

ジムのライフは一切削れていな4000だが、このターンで全てを削り切る事も出来なくはない。

 

「手札から【ヒュグロの魔導書】を発動。

このカードは俺の場に存在する魔法使い族モンスターの攻撃力を1000アップさせる効果を持つ。

【ミドラーシュ】を選択し、彼女の攻撃力を1000ポイントアップ」

 

「攻撃力3200!?

とんだ攻撃力だな」

 

「バトル。

【ミドラーシュ】で【中生代化石騎士スカルナイト】に攻撃」

 

「ホワット?」

 

まさかの攻撃宣言にジムは怪訝そうな表情を浮かべる。

【スカルナイト】の守備力は僅か1100。

【シャドール・ファルコン】では突破不可能だが、聖星の場には攻撃力2600の【エルシャドール・シェキナーガ】が存在する。

だというのに聖星は攻撃力が最も高い【ミドラーシュ】で攻撃を仕掛けてくる。

 

「(という事は、貫通ダメージ目当てか)

罠発動、【重力解除】!

悪いが、その攻撃は通さないぜ!」

 

沈黙を守っていた伏せカードが表になった事で聖星はすぐに手札のカードを掴む。

【重力解除】はフィールドの全ての表側表示のモンスターの表示形式を変更する効果を持つ。

これで【スカルナイト】は攻撃表示となり、聖星の【シャドール】達は守備表示になるのだ。

だが、こんな場面にも対応できるのが【魔導書】である。

 

「手札から速攻魔法【トーラの魔導書】を発動。

俺の魔法使い族を対象に発動する。

【ミドラーシュ】に罠カードの耐性をつける」

 

「何だと!?」

 

「【ミドラーシュ】、そのまま行け!」

 

盾から剣へと構え直した【スカルナイト】は真っすぐに【ミドラーシュ】を睨みつける。

【ミドラーシュ】は無粋にも睨みつける格下に冷え切った眼差しを送り、持っているロッドを掲げた。

宝石が嵌め込まれているロッドからあふれ出した光が【スカルナイト】を貫き、そのままジムの体を貫く。

 

「ぐっ!!」

 

ジムのライフが4000から3200へと削られる。

赤き竜の使者が最初にダメージを与えたことで村人達が沸き上がるかと思いきや、これは神聖なデュエル。

娯楽のデュエルと異なりヤジを飛ばすような無粋な客はおらず、彼等は真剣な眼差しでデュエルを見守っている。

 

「【ミドラーシュ】がモンスターを破壊した事で【ヒュグロ】のもう1つの効果が発動する」

 

「もう1つの効果?」

 

「モンスターを戦闘で破壊したとき、デッキから新たな【魔導書】を手札に加えるのさ。

当然、俺が加えるのは【グリモの魔導書】」

 

これが【ミドラーシュ】の攻撃力が最も高いにもかかわらず、守備表示の【スカルナイト】に攻撃した理由だ。

聖星はダメージ量ではなくデッキからの補充を選んだのだろう。

彼の行動を理解したジムは小さく息を吐いて宣言する。

 

「なら、俺も効果を発動させてもらおう。

墓地に眠る【化石融合】は俺の【化石】融合モンスターが戦闘・効果で破壊された時、手札に加える事が出来る。

カムバック、【化石融合】!」

 

「相手のモンスターを巻き込んでの融合に、破壊された時に発生する自己回収か。

本当、面白い効果だな」

 

「ユーの【影衣融合】もなかなかにワンダフルだぜ、聖星」

 

あぁ、面白い、面白いに決まっている。

お互いに使用するカードは融合召喚という軸は同じだが、素材となるモンスターの場所は全く異なる。

この時代では珍しい部類のカード達とのデュエルに燃え滾らないわけがない。

裁きの場という状況でなければ聖星はもっと楽しそうな表情を浮かべ、生き生きとカードを繰り出していただろう。

あまり熱くならないよう自分に言い聞かせながら聖星はカードを1枚掴んだ。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

モンスターの数、手札の枚数、そしてライフポイント。

現状において聖星が有利ではあるが、ジムはこの状況をひっくり返す事が出来るだろうか。

リカルド村長は彼を無傷で帰したいと願っている。

そして、ジムはリーパーの暴挙を止めようと動いただけである。

彼は悪くないと火を見るよりも明らかなのだが、村人達はそれで納得してくれない。

 

「(さて、ここからは俺の問いかけとジムの返答次第だな)」

 

赤き竜の使者である聖星が真剣にデュエルを行い、ジムが勝てば丸く収まりやすい。

しかし、もしジムが負けてしまったら。

薄っぺらなデュエルで敗北したのに無罪という結果を出しては誰も得心しない。

ならば、例えその結末になったとしても、ジムの生き様に彼等が納得出来るよう、重みを出すために聖星は言葉を紡ぐ。

 

「【化石融合】に【化石】モンスター。

本当に君は化石が大好きなんだね。

君の表情やデュエルスタイルからそれが強く伝わってくるよ」

 

「あぁ、俺は地質学と考古学がとても好きでね。

それがユーに伝わったようで嬉しいよ」

 

「それじゃあ聞くけどジム。

何故君は自分と関係ない過去の遺物と向き合おうと思ったんだ?」

 

「ホワット?」

 

「この地は星の民達が次の世代のために受け継いできた土地だ。

俺自身、星の民とは縁がある。

だから彼等が受け継いできた文化、遺跡には強い興味があるし、他人事じゃない。

けど、君はこの土地に縁もゆかりもない。

言葉を選ばずに言ってしまえば、君の行為は他人の領域を土足で踏み荒らす事だ。

それなのに、どうして君は考古学が好きなんだ?」

 

過去の事を知ろうとする姿勢はとても好ましい。

特に自分のルーツを探すため、縁があるのならば過去に興味を持った経緯も理解しやすい。

聖星のはっきりとした言葉にジムは真剣な表情になり、ブリムを指で上げながら話し始めた。

 

「聖星、ユーは言ったね。

この土地は星の民達が先祖代々受け継ぎ、次の世代へ繋げようと努めてきた聖なる地だと。

だが、この世には後世に伝えたくても伝えられなかった人々の暮らしがある」

 

それは自然災害によって一夜で滅んでしまった文明であったり、戦争によって敗れた国だったり様々だ。

近隣国と繋がるネットワークが何らかの理由で遮断され、そこから滅びに向かった場合もあるだろう。

家族、友、恋人、様々な仲間と笑い合って辛い現実と戦いながら明日を生きた人達が確かにこの世界にはいた。

 

「過去を生きた人達が今とこれからを生きる者達に知られず、歴史の闇に葬り去られる事はとても悲しいことだ。

この星に芽吹いていた命も、楽しかった事も、無念な思いも、伝えたかった事も、全てが最初からなかった事にされる」

 

「確かにそれは悲しい事だ。

だけどな、ジム。

過去の記録を読み取る事を優先し過ぎて、今を生きる彼等を蔑ろにして良い理由にはならないよ」

 

「蔑ろにしたつもりは……!

いや、結果としてはそうだな。

確かに俺はリーパー先生を止める事が出来なかった。

俺のフレンドが君達に迷惑をかけたのは紛れもない事実。

弁解するつもりは一切ない」

 

ジムはリーパー先生が何故あのような行動をとったのか未だに納得できていない。

その答えに聖星やリカルド村長達は近づいているが、彼は本当に何1つの手がかりを持っていなかった。

だからこの場ではっきりと断言する事は出来ず、ただ向けられる眼差しに耐える事しか許されない。

 

「聖星、確かに俺達考古学者は聖域を守る彼等からしてみれば土足で踏み荒らす匪賊だろう。

バット、考古学はただ過去を振り返るだけの学問じゃない。

何故失われたのか、その理由を読み解くことで悲劇を知り、悲劇を繰り返さないための教訓を得る事もある。

自然環境の変化だってそうだ。

天変地異、地殻変動、様々な理由で人間は変化した自然環境に適応し、生きてきた」

 

この世には、人間が歴史を学んで分かることは、人間は歴史から何も学ばないということだけだ。という言葉がある。

それは正しいというように幾度戦争を行い、戦争を辞めても結局人間は戦争を選んでいる。

ジムの教訓を得るという言葉は、聞いている者によってはただの綺麗事であり、実際に冗談半分でそう言われた事もある。

それでも、綺麗事だと言われようと、積み重ねた過去の姿が今を生きる人々に適応法を教えてくれるのだ。

 

「声を上げる事が出来なくなった彼等の声に耳を傾ける事で、今を生きる者達がこれからどう生きるべきかの指針になる。

だからこそ俺は、同じ地球という船に乗る1人として先人達が生きてきた証を後世に伝えたい」

 

「……」

 

「おっと、ソーリー、脱線し過ぎた。

好きな理由だったな。

やはり、過去の者達の声を聴いて、誰も知る事が出来なかった歴史を知る事が出来る点だな。

後世に伝える事はあくまで好きの先にある考古学者としての役目さ」

 

「好きの先にある役目か、とても素敵な考え方だよ」

 

リカルド村長も、ジムが星の民の文化を知る事に対しとても楽しそうな感情を持っていたと話していた。

だから彼が根っからの好奇心の塊だというのは知っていた。

村人達にジムは善人である事を示すために問いかけたのだが、まさか好きの先にある、自分がやるべき役目まで話してくれるとは思わなかった。

実に嬉しい誤算だと心の中で笑いながら次の疑問を投げかける。

 

「けどな、ジム。

君自身が現地の人達に敬意を払い、筋を通そうとしても、仲間の過ちで今回のように命の危険に晒される事もある。

ましてや、調査していた遺跡が呪われた地で、君のせいで仲間を巻き込む事だってあるかもしれない。

それでも君は、君の信念のために逃げず、進み続ける覚悟はあるのか?」

 

「イエス」

 

自分が巻き込まれる側ではなく、逆に巻き込む側になる。

それは決してないとは言えない未来だ。

それを簡単に提示しながら、逃げるつもりはないと出された答えに聖星は笑みを浮かべた。

 

「そう。

お喋りは終わりだ、デュエルを続行してくれ」

 

「オーケー、聖星。

俺のターン、ドロー!」

 

デュエルの状況はジムが圧倒的に不利。

相手の場にモンスターが4体いるのも厄介だが、最も厄介なのはフィールド魔法。

今、【影牢の呪縛】にはカウンターが4つ溜まっており、【シャドール】モンスターの融合に自身のモンスターを使われてしまう。

これ以上場を崩されてはたまったものではないと、ジムの思いに応えてくれたのか、引いたカードにジムは口角を上げる。

 

「手札から【サイクロン】を発動!

これ以上、俺のモンスターを素材にはさせないぜ、聖星!」

 

「【影牢の呪縛】が」

 

2人のフィールドに突風が吹き荒れ、フィールド魔法が破壊される。

同時に聖星の場にあった4つの魔石カウンターの光が色を失った。

 

「墓地に眠る【スカルナイト】の効果発動!

【スカルナイト】をゲームから除外し、【シェキナーガ】を破壊する!」

 

「っ!!」

 

ジムの背後に現れた半透明の【スカルナイト】は自身の剣を【シェキナーガ】に向かって投げる。

激しい勢いで向かってきた剣は【シェキナーガ】の体を貫き、機械仕掛けのモンスターは粉々に砕け散った。

 

「彼等は太古から眠りにつき、化石として蘇った騎士。

例えバトルで敗れたとしても、彼等が存在した跡は次の未来へ繋がるのさ」

 

「流石は考古学者の1人。

言葉の重みが違うね」

 

「誉め言葉として受け取っておくぜ」

 

「あぁ、受け取ってくれ。

でも良いのか、墓地から岩石族モンスターを除外して」

 

「ノープロブレム。

俺は【フリント・クラッガー】を召喚」

 

「がぁ!」

 

新しく場に現れたのは恐竜の化石をモチーフにしたモンスター。

一体何の化石なのだろうかと考えていると、【フリント・クラッガー】の口元で小さな火花が散った。

一瞬だけ散ったと思えばその火花は周りの風を巻き込んで巨大な炎となる。

 

「【フリント・クラッガー】の効果発動!

【フリント・クラッガー】を墓地に送り、ユーに500ポイントのダメージを与える!」

 

「くっ!」

 

吐き出された火の玉は【エルシャドール】達をすり抜け、聖星に直撃する。

これで聖星のライフは4000から3500になった。

 

「手札から【化石融合-フォッシル・フュージョン】を発動!

俺の地層に眠る【フリント・クラッガー】とユーの地層に眠る【エルシャドール・シェキナーガ】で融合!」

 

除外されたのは岩石族モンスターとレベル7以上のモンスター。

【化石融合】によるこの融合条件で特殊召喚されるモンスターはカイザーが知っている限り3体。

さて、その3体のうちの1体が出てくるか、それともカイザーが知らないモンスターが出てくるか。

地層に眠るモンスター達は歪みながら人型のモンスターへと姿を変え、巨大な鞘から刀身を抜く。

 

「カモン、【古生代化石騎士スカルキング】!!」

 

「はぁ!」

 

「なんか、過去に遡った方が人型に近くなってないか?」

 

表示された攻撃力は2800と、聖星の場のモンスターの攻撃力を超えた。

しかし、聖星はその数値よりモンスターの外見の方が気になったらしい。

【中生代化石騎士】が皮膚を持たない風貌だったのに対し、【スカルキング】の顔にはしっかりと皮膚がある。

慣れっこな反応にジムは笑みを浮かべ、持論を唱える。

 

「この惑星の歴史はまだまだ謎に包まれている事が多い。

もしかすると、恐竜と人間が同じ時代を生き、彼のような戦士がいたかもしれない。

ユーはそういうロマンは嫌いかい?」

 

「いいや、精霊と人間が語り合った時代があるんだ。

そういう時代があってもおかしくはないさ」

 

恐竜と人間が共存していた時代など、とんだ夢物語だ。

だが、それでも、何億年の歴史の中でそのような時代があったかもしれない。

もしかすると今もこうやってデュエルしている間にも、地底で共に暮らしている可能性だってある。

デュエルモンスターズの精霊と語り合い、星竜王に助けを求められた聖星は決して笑わない。

 

「手札から魔法カード【奇跡の穿孔】を発動!

デッキから岩石族モンスターを墓地に送る。

そして、墓地に【化石融合】が存在する時、更にデッキから1枚ドロー出来る。

俺は【シェル・ナイト】を墓地に送り、カードをドロー!」

 

半透明となって場に現れたのは貝をモチーフにした小柄なモンスター。

墓地に眠る【化石融合】の存在によって墓地に送られた彼も【化石】シリーズの立派な一員のようで、効果が発動した。

 

「【シェル・ナイト】の効果発動。

カードの効果で墓地に送られた事で、デッキから岩石族・レベル8モンスターを1体手札に加える。

バット、俺の墓地に【化石融合】がある場合は、そのまま特殊召喚する事も出来る」

 

「特殊召喚はするのか?」

 

「オフコース。

俺は【地球巨人ガイア・プレート】を手札に加え、特殊召喚する!」

 

ジムが選択したのはレベル8で攻撃力2800と【スカルキング】に並ぶ数値を誇る。

聖星の場に存在するモンスター達を戦闘で破壊できる攻撃力に、逆転できる一手を賭けた。

期待を込めて高らかに宣言したジムの声がデュエルフィールドに木霊する。

村人達もどのようなモンスターが現れるのか真剣な表情で見つめていたが……

 

「ホワイ!?

どうして【ガイア・プレート】が召喚されないんだ!?」

 

いくら待っても【ガイア・プレート】はジムの場に現れない。

それどころか、召喚時の演出であるプレートが割れる予兆も全く感じられなかった。

困惑しているジムに聖星は静かに言葉を放った。

 

「【ミドラーシュ】の効果だ」

 

「っ!!」

 

「【エルシャドール・ミドラーシュ】。

彼女が場に存在する限り、俺達はお互いに1ターン1度しかモンスターの特殊召喚を行えない。

つまり、【スカルキング】を特殊召喚した時点で君は化石達の力を借りられなくなっていたのさ」

 

「何だと……?

俺のフィールドを荒らすだけではなく、特殊召喚にまで制限をつけてきたか……」

 

自分の場のモンスターを融合素材にされるのも十分に痛いが、特殊召喚に制限をかけられるのも痛すぎる。

実に対処しづらいデッキだと、聖星の操る【シャドール】の恐ろしさに冷や汗を流しながらバトルフェイズに移行した。

 

「それなら【スカルキング】、【シャドール・ファルコン】にアタック!!

キングスソード・プレイ!!」

 

「(攻撃表示の【ミドラーシュ】じゃなくて守備表示の【ファルコン】を?

ジムにとって今場から退場してほしいのは【ミドラーシュ】のはず。

まさか、貫通効果?)」

 

聖星のこの考察は当たっている。

【古生代化石騎士スカルキング】は守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を超えていればその数値分の戦闘ダメージを与える効果を持つ。

【シャドール・ファルコン】の守備力は1400と、【スカルキング】の攻撃力2800のちょうど半分。

流石に1400のダメージを許す事は出来ず、聖星は伏せカードを発動した。

 

「リバースカードオープン。

速攻魔法【神の写し身との接触】を発動」

 

「それは最初に使った融合カード!?

2枚目のカードがあったのか!」

 

「手札の【星なる影ゲニウス】とフィールドに存在する【シャドール・ファルコン】を融合。

融合条件は、属性が異なる【シャドール】モンスター」

 

【星なる影ゲニウス】の属性は地。

それに対し【シャドール・ファルコン】は闇属性。

今までの【エルシャドール】は【シャドール】と名の付くモンスターと特定の属性を指定してきた。

新しい組み合わせにどんな厄介なモンスターが現れるのかジムは構える。

すると、聖星の背後に闇と青が混じった渦が現れた。

 

「忘失の影糸廻る時、誅伐の召喚士が群青の深閑にて目を覚ます」

 

デュエリストの召喚時の言葉と共に禍々しい紫と煌めく青の空間から無数の影糸が現れる。

それは今まで召喚されたモンスター達と異なり青の輝きを放っていた。

水飛沫が飛び散る音と共に巨大な何かが時空の波をかき分け、その姿を見せた。

 

「言祝ぐがいい、【エルシャドール・アプカローネ】!!」

 

深い海色の髪を持つ少女はゆっくりと目を開き、敵であるジムを見据える。

聖星の言葉と共に彼女は大きく杖を振るい、彼女が操る魚型のモンスターはヒレを広げて攻撃表示の形態をとった。

本来ならばこの瞬間、聖星は【シャドール・ファルコン】の墓地に送られた時発動する効果によって【シャドール・ファルコン】自身を特殊召喚できる。

それだけではなく、【エルシャドール・アプカローネ】と【星なる影ゲニウス】の効果も発動出来た。

だが、貫通効果を持つ【スカルキング】の前に低い守備力を持つモンスターをさらけ出すにはいかない。

【アプカローネ】と【ゲニウス】はともにフィールドに存在するカードとモンスターカードの効果を無効にし、発動を封じる能力を持つ。

ジムの場には【化石融合】によってモンスター効果の耐性を得た【スカルキング】のみのため、この能力は使ったところで無意味なのだ。

 

「それなら【スカルキング】、【エルシャドール・ミドラーシュ】に攻撃!

ゴー!」

 

「はぁ!!」

 

【シャドール・ファルコン】に向かっていた刃は目標を失い、代わりに【スカルキング】の赤い眼は【ミドラーシュ】に狙いを定める。

自分に向けられる敵意に【ミドラーシュ】はロッドを構え、龍が威嚇する様に咆哮を上げた。

しかし、そんな咆哮など意味はないのだというように【スカルキング】は【ミドラーシュ】を十文字切りした。

切り裂かれて数秒訪れた静寂の後、【ミドラーシュ】の体は爆発する。

爆風はそのまま聖星のライフを奪い、3500から2900へと削られた。

 

「くっ……!

この瞬間、【ミドラーシュ】の効果発動。

彼女が墓地に送られた時、墓地から【影依融合】を手札に加える」

 

「だが、まだバトルは続行させてもらう!

【スカルキング】、キングスソード・プレイ・セカンド!」

 

「っ!?

2回攻撃も出来たのか」

 

聖星の場には攻撃力2500の【アプカローネ】と、裏側守備表示の【シャドール・ビースト】の2体。

【スカルキング】はより低い守備力を持つ【シャドール・ビースト】に刃を突き立てた。

なす術もなく切り裂かれた【シャドール・ビースト】は粉々に砕け散り、聖星のライフが更に1800へと減っていく。

 

「それなら俺は【シャドール・ビースト】のリバース効果発動。

デッキから2枚ドローし、手札の【シャドール・ハウンド】を墓地に捨てる。

【ハウンド】の効果により【スカルキング】には守備表示になってもらう」

 

「カードを1枚伏せターンエンドだ」

 

守備表示に変更されたエースモンスターの姿にジムは苦しげな表情を浮かべる。

聖星の場のモンスターを1体まで削る事は出来たが、【スカルキング】を守備表示にされたのは痛い。

【スカルキング】の守備力は1300と決して高い部類ではない。

そして今攻撃表示になっている【アプカローネ】は待っていましたと言わんばかりの表情で【スカルキング】を睨みつけていた。

 

「(【アプカローネ】の攻撃力は【スカルキング】の守備力を超えている。

彼女の攻撃はなんとかなるかもしれいが、問題は聖星の手札はまだ5枚もある事だ。

そのうちの2枚は融合魔法の【影依融合】とデッキから【魔導書】をサーチする【グリモの魔導書】。

これはカードを切る順番を間違えればジ・エンドだな)」

 

「俺のターン、ドロー。

手札から【影依融合】を発動。

デッキに存在する炎属性の【魔導戦士フォルス】と【シャドール・ファルコン】で融合。

つつ闇をさ迷う魂達よ、燐火となりて裁断の末を導け。

【エルシャドール・エグリスタ】」

 

「ふんっ!」

 

特殊召喚されたのは炎のように糸を揺らめかせているモンスター。

金髪だと思った頭部にはドラゴンのような生き物が蠢いており、まるでメデューサみたいだなと思ってしまう。

 

「カードの効果で墓地に送られた【シャドール・ファルコン】の効果。

自身を特殊召喚する」

 

「クワァ!」

 

「手札から魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【ヒュグロの魔導書】をサーチ。

そして、【ヒュグロの魔導書】を発動。

これで【アプカローネ】の攻撃力は3500になる」

 

「そのカードで攻撃力を上げたモンスターは相手モンスターを破壊した時、デッキから【魔導書】をサーチ出来たな」

 

「あぁ。

だけど、今回はこの効果を使うつもりはない。

バトルフェイズだ。

【エグリスタ】で【スカルキング】に攻撃!」

 

「悪いが、このバトルは終わらせてもらう!

罠発動、【攻撃の無力化】!」

 

「っ!」

 

表になったのは、相手のバトルフェイズを強制終了するカウンター罠。

ジムの残り3200のライフを削り切れると思ったが、そう簡単に通してはくれないらしい。

残念な気持ちと安堵した気持ちが入り混じる中、聖星は手札からカードを掴む。

 

「流石にブラフじゃなかったか。

俺は手札から【ルドラの魔導書】を発動。

【シャドール・ファルコン】を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローする。

カードを1枚伏せてターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー!

手札から【天使の施し】を発動する!」

 

ジムが発動したカードはデッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる魔法カード。

墓地に融合素材がないと機能しない【化石】デッキにとってまさに歯車となるカードだろう。

一体何を捨てるのか見守っていると、ジムの背後に見た事があるモンスターが現れた。

 

「この瞬間【風化戦士】の効果発動。

デッキから【化石融合】を手札に加える。

そして、【化石融合-フォッシル・フュージョン】を発動!

俺の墓地に眠る【風化戦士】とユーの墓地に眠る【シャドール・リザード】を融合!

カモン、【新生代化石竜スカルガー】!」

 

地層同士の融合により、やっと恐竜らしい風貌を持つ【化石】モンスターが姿を現した。

その攻撃力は2500と【アプカローネ】と同等である。

不利な状況を突破する第一陣として選ばれたモンスターは実にやる気に溢れている。

やる気に満ち溢れている【スカルガー】には悪いが、聖星は退場してもらうためモンスター効果を発動した。

 

「【エグリスタ】の効果発動。

【スカルガー】の召喚は無効にさせてもらう」

 

「ホワット!?」

 

「安心してくれ、別にノーコストじゃないさ。

破壊した後俺は手札を1枚捨てなければならないんだ」

 

「随分と面白いジョークを言うんだな。

それのどこに安心する要素があるんだ?」

 

たった数ターンしかデュエルしていないが、【シャドール】の特性を理解するには十分過ぎた。

だからこそ聖星の安心してくれという言葉にジムは笑うしかない。

 

「俺は手札から【影依の原核】を捨てる。

そして、【影依の原核】の効果発動。

墓地に存在する【影依融合】を手札に戻す」

 

「なら、俺は墓地に眠る【スカルガー】の効果発動。

こいつを除外する事でデッキに眠る【化石融合】を手札に加えさせてもらう。

そして【化石融合-フォッシル・フュージョン】を発動!」

 

お互いにカードの効果で墓地から回収したのは各カテゴリーの象徴である融合カード。

【影依融合】は1ターンに1枚しか発動できないという制約があるが、【化石融合】は融合モンスターを特殊召喚する効果に限りターン制限はない。

つまり、手札に存在するのならば何度だって使えるのだ。

 

「【地球巨人ガイア・プレート】と【エルシャドール・ミドラーシュ】を除外し、【中生代化石マシンスカルワゴン】を召喚!」

 

次に融合素材となったのは、【シェル・ナイト】の効果で手札に加えられたにも関わらず出番を奪われたモンスター。

ジムのデッキは生贄召喚よりは特殊召喚に重きを置いている傾向にある。

あのまま手札に腐り続けるのならば【天使の施し】で墓地に送った方が有効に活用できるだろう。

【ガイア・プレート】達の代わりに現れたのは四輪を持つ【化石】モンスター。

【化石騎士】のロマンはまだすぐに理解できるが、【化石】とマシンにはどのようなロマンがあるのだろう。

世界観がごちゃごちゃになってきたと感じたカイザーは聖星のモンスターを見る。

 

「【スカルキング】、【エグリスタ】と【アプカローネ】に攻撃!」

 

【スカルキング】の攻撃力は2800。

2450の【エグリスタ】と2500の【アプカローネ】を葬り去るのは簡単な攻撃力だ。

【スカルキング】の刃は【エグリスタ】を一刀両断し、そのまま【アプカローネ】の体を貫こうとする。

向かってくる刃に【アプカローネ】はロッドを構え、刃を受け止めた。

まさかの防御に【スカルキング】は目を見開き、ジムは聖星を凝視する。

 

「残念だけど、【アプカローネ】は戦闘では破壊されない」

 

「バット、ダメージは受けてもらうぜ!」

 

【エグリスタ】が破壊された爆発によって聖星のライフは1800から1750、1450へと減っていく。

 

「うっ!!

だけど、場から墓地へ送られた【エグリスタ】の効果で、俺は墓地に存在する【魂写しの同化】を手札に加える」

 

【魂写しの同化】は【シャドール】の属性を変更し、融合する事が出来る装備魔法。

手札に【影依融合】はあるが、念には念を入れるためにこのカードを墓地から回収した。

ライフは1450まで削られたが、逆転するチャンスは十分にある。

聖星が体勢を立て直したのを確認したジムは伏せカードを発動した。

 

「リバースカードオープン、【化石岩の解放】!」

 

「それは、除外されている岩石族を特殊召喚するカード」

 

「イエス」

 

今、ジムの除外ゾーンには多くの岩石族モンスターが存在する。

だが、その中で【アプカローネ】の攻撃力を超えるモンスターは1体のみ。

聖星の予想を肯定するように、ジムの足元にひびが入っていく。

 

「ようやく召喚できるぜ。

地層に眠る赭色の巨人よ、灼熱の地中より現れよ!

【地球巨人ガイア・プレート】!!」

 

避けた大地の割れ目はじょじょに大きくなっていき、ジムの叫びと共に岩石の巨人が姿を現す。

その攻撃力は【スカルキング】に並ぶ2800。

やっとジムの思いに応える事が出来る【ガイア・プレート】の体は熱によって赤く染まり、今にも攻撃してきそうな雰囲気だ。

 

「【ガイア・プレート】で【アプカローネ】に攻撃!」

 

「罠発動、【ブラック・イリュージョン】!」

 

「ホワット?」

 

「攻撃力2000以上の闇属性・魔法使い族モンスターはこのターン、戦闘では破壊されず、ジムのカードの効果を受けない!」

 

「へぇ、良いカードを使うな、聖星」

 

ジムからの誉め言葉に聖星は微笑んで返した。

元々【アプカローネ】には戦闘破壊への耐性がある。

しかし、【地球巨人ガイア・プレート】は戦闘を行う相手モンスターの攻守を半減する永続効果を持つ。

このまま攻撃を許してしまえば【アプカローネ】の攻撃力は2500から1250へと下がり、1550ポイントのダメージを受けて聖星が負けてしまう。

BWと書かれている黒い盾によって守られた【アプカローネ】だが、【ガイア・プレート】の拳による衝撃は聖星のライフを300ポイント奪った。

これで聖星のライフは1150となる。

 

「亮様」

 

「何ですか、リカルド村長」

 

「聖星様は大丈夫なのでしょうか」

 

隣からかかって来た声にカイザーはリカルド村長を見る。

そこには聖星の不利な状況に心配そうな表情を浮かべる村人達がいた。

確かにこのデュエルは裁きのデュエルであると同時に、星の民達の威厳を保つための意味合いもかねている。

この場にいる者達の殆どは聖星に勝って欲しいと願っているはずだ。

 

「安心してください。

聖星の目はまだ諦めていません。

それに彼は星竜王に光の竜を託された少年です。

どうか信じてあげてください」

 

聖星のライフはまだまだ1000以上もあり、手札には【影依融合】がある。

それにあのデッキを一緒に組んだカイザーは、融合デッキで出番を待っているモンスター達がいる事を知っている。

聖星が敗北する未来が見えないカイザーは優しく微笑み、村人達を諭す。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。

手札から速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動。

このカードは墓地に眠る【魔導書】を除外する事で、ジムの場のカードを選んで除外する」

 

「俺のカードをだと?」

 

「【グリモ】【ルドラ】【ヒュグロ】を除外し、【スカルキング】を除外する」

 

「ホワイ!?

【ガイア・プレート】はバトルする時、攻撃力と半減にする効果があるんだぞ!

何故【スカルキング】を選んだんだ!?」

 

「答えはすぐに分かるさ」

 

迷いもない真っすぐな瞳からの言葉にジムは口を閉ざす。

攻守を半減する効果を持つ【ガイア・プレート】ではなく、複数攻撃を持つ【スカルキング】を選んだ理由はすぐには分からない。

だが、それが無策ではないというのならば、見せてもらおうではないか。

不敵な笑みを浮かべたジムは次に来るカードに対し構える。

 

「手札から魔法カード【影依融合】発動。

デッキの【シャドール・ビースト】と【聖なる影ケイオス】で融合する。

召喚条件は【シャドール】と光属性モンスター」

 

「来たか……」

 

宣言された融合条件にカイザーはぽつりと零す。

確かに特殊召喚モンスターが数多く存在する現状において、あのモンスターは的確に場を一掃してくれるだろう。

墓地に送られたのは何度も聖星のデッキからカードをドローしてきた【ビースト】と、青い糸に四肢を拘束されているモンスター。

2体が闇の次元へと溶けこむと、奥に光る漆黒が白銀の光へと変わっていく。

 

「輪転する朝影を見送り続けた紫木蓮よ、誅殺の影糸を広げ、理非を語るがいい」

 

光はじょじょに紫へと染まり、その中から無数の糸を纏う機械人形が姿を現す。

 

「【エルシャドール・ネフィリム】!!」

 

物言わぬ機械人形は目を閉じたままフィールドを見下ろす。

地から1つ入っていない指先はだらんと下がっており、その足は大地から離れていた。

【ミドラーシュ】と【アプカローネ】も女性、いや、どちらかというと少女に属するモンスターでまだ生き物としての熱を感じる事が出来た。

しかし、今降臨した【ネフィリム】はまさに無。

何も感じない無機質な表情は見る者によって恐怖を覚えるだろう。

さて、彼女と対峙しているジムはどのような感想を抱くだろうか。

 

「ビューティフル……」

 

どうやら好意的な感想を抱いてくれたらしい。

【エルシャドール・シェキナーガ】の時に現れた彼女は囚われの身になっており、どこか痛々しい面を見せていた。

しかし、【ネフィリム】は凛とした美しさを誇っている。

ジムの言葉に聖星はつい嬉しくなり微笑んでしまった。

 

「それと聖星、さっき思ったんだが、もしかしてユーも化石に興味があるのか?」

 

「どうしてそう思ったんだ?」

 

「紫木蓮さ」

 

それは聖星が【ネフィリム】の融合召喚の台詞に交えた植物の名前。

地質学や植物学にあまり精通していないカイザーや村人達は首を傾げながらジムの説明に耳を傾けた。

 

「木蓮は白亜紀の地層から化石が発見された事例がある花で、地球最古の花木と言われている。

そして、輪転する朝影とは繰り返される朝。

化石について知識がないとさっきの台詞は出てこないぜ」

 

「流石、現役の地質学者だとすぐに気づくか。

俺も男だからな、子供の頃はよく父さんに恐竜の図鑑を買ってもらったし、博物館にも連れて行ってもらったよ。

君の化石デッキを見て思い出したから、即席で作ったのさ」

 

「ユーもなかなか遊び心があるな」

 

そもそも聖星の本来のデッキは【竜星】だ。

あのデッキに辿りつくまでには様々なカードとの出会いと別れはあったが、その切っ掛けの1つにドラゴンや恐竜のような大きな生き物への憧れがあったのは事実。

少しだけ昔を思い出した聖星は融合素材になったモンスターの効果を発動する。

 

「融合素材になった【ビースト】の効果でデッキから1枚ドロー。

さらに【聖なる影ケイオス】はカードの効果で墓地に送られた場合、デッキから【シャドール】モンスターを1体墓地に送る。

その後、俺の場のモンスターの攻撃力と守備力は送ったモンスターのレベル×100ポイントアップする」

 

場のモンスターの攻撃力を上げるためにはなるべく高レベルモンスターが良いだろう。

しかし、墓地に送られたモンスターの効果を重視するのならばレベル等考慮しても無意味かもしれない。

何を送るのか見守っていると、聖星は1枚のモンスターカードをジムに見せた。

 

「俺はレベル9の【影依の炎核ヴォイド】を墓地に送る。

よって、【アプカローネ】と【ネフィリム】の攻撃力は900ポイントアップ」

 

「攻撃力3400と3700か」

 

「そして、【ネフィリム】の効果発動。

彼女が特殊召喚に成功した事でデッキから【シャドール】を1枚墓地に送る。

俺は【シャドール・ドラゴン】を選択」

 

【シャドール・ドラゴン】は効果で墓地に送られた時、フィールドの魔法・罠カードを1枚破壊する効果を持つ。

ジムの場には永続罠の【化石岩の開放】と伏せカードが1枚。

【ガイア・プレート】は【化石岩の開放】が場から離れた時破壊されてしまう。

どのカードを選ばれるか察したジムは【化石岩の開放】を見下ろす。

だが、彼の予想に反し、【シャドール・ドラゴン】はもう1枚の伏せカードを切り裂いた。

 

「っ、俺の伏せカードが!」

 

伏せられていたのは【聖なるバリア―ミラーフォース―】。

【ガイア・プレート】が破壊された時の保険を失い、ジムは何度目か分からない苦しげな表情を浮かべた。

 

「まだ終わらない。

【影依の炎核ヴォイド】が墓地に送られた時、フィールドのモンスターの元々の属性の種類の数だけ、俺のデッキからカードを墓地に送る。

今、俺達の場には闇、光、地属性3種類のモンスターが存在する。

よって、3枚墓地に送る」

 

墓地に送られたのは【ブレイクスルー・スキル】、【愚かな副葬】、【魔導剣士シャリオ】の3枚。

最初の【針虫の巣窟】でも5枚中2枚しか【シャドール】が落ちなかった事を考えると、仕方のない確率かもしれない。

手札のカードを全て使い切ってからデッキを頼れというメッセージでもあるのだろうか。

 

「魔法カード【ヒュグロの魔導書】を発動。

【エルシャドール・アプカローネ】の攻撃力を3400から4400にアップさせる!」

 

赤い書物の叡智を授かった【アプカローネ】は力がみなぎるようで、勢いよくロッドを振り下ろし、【ガイア・プレート】と【スカルワゴン】に守られているジムを睨みつける。

美女の睨みつける表情にはある種の恐ろしさを覚え、ついジムは「オ~、怖い、怖い」と呟いてしまった。

 

「【エルシャドール・ネフィリム】で【地球巨人ガイア・プレート】に攻撃!」

 

何度も記すようだが【ガイア・プレート】は相手モンスターの攻守を半減する永続効果を持つ。

それでも構わないと【ネフィリム】は糸を【ガイア・プレート】に絡みつけた。

四肢を拘束された【ガイア・プレート】は思うように動くことが出来ず、ものすごい力で引っ張られていく。

 

「【エルシャドール・ネフィリム】の効果発動。

彼女が特殊召喚したモンスターと戦闘を行う場合、相手モンスターを問答無用で破壊する。

これは対象を取る効果じゃないから【化石融合】の耐性は通用しない」

 

「何だと!?」

 

【ガイア・プレート】の効果はあくまでダメージ計算時に適応される。

ダメージ計算に入る前に破壊されては意味がない。

無慈悲に【ガイア・プレート】を千切った【ネフィリム】は無表情のまま聖星の場に戻る。

 

「【アプカローネ】で【スカルワゴン】に攻撃」

 

「はぁ!!」

 

ロッドから放たれた魔法に【スカルワゴン】は一瞬で破壊され、ジムは2700ポイントのダメージを受ける。

これで彼のライフは3200から500まで下がった。

 

「くっ……

【スカルワゴン】が破壊された事で、墓地から【化石融合】を回収する!」

 

「こっちもカードの効果を発動させてもらう。

【ヒュグロの魔導書】の効果発動。

このカードの効果で攻撃力がアップした魔法使い族が相手モンスターを破壊した事で、デッキから【アルマの魔導書】をサーチする」

 

「新しい【魔導書】!

まだあったのか!」

 

「【魔導書】魔法カードは俺が知る限りこの世に15種類存在する。

このデュエルで見せた【魔導書】は7種類。

半分も見せてないんだ、驚いてもらっちゃ困るぜ」

 

聖星の言葉にジムは口笛を吹く。

これまでのデュエルでまだ半分も見せてもらっていないとは驚くしかない。

一方、聖星の言葉にカイザーは自分が知っている限りの【魔導書】魔法カードを数える。

 

「(15種類?

待て、俺が聖星とのデュエルで見た【魔導書】は全部で14種類のはず。

残り1つは何だ?)」

 

採用頻度が低い【魔導書】も何枚かあったが、それを数えても1枚足りない。

それは単純に聖星が持っていないのか、それとも時代が合っていないため聖星が使用を控えているのか。

もしも後者ならばそのカードを使ったデッキと是非戦ってみたい。

うっかりとした失言でカイザーの闘志に火をつけてしまった事を知らない聖星はデュエルを続ける。

 

「【アルマの魔導書】を発動。

除外されている【魔導書】を手札に加える。

俺が加えるのは【グリモの魔導書】だ。

そして、【グリモの魔導書】を発動し、デッキから【ゲーテの魔導書】をサーチする。

カードを3枚伏せてターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー!

墓地に眠る【スカルワゴン】の効果発動。

このカードを除外する事で君の伏せカードを破壊する。

俺は真ん中を選択する!」

 

半透明の【スカルワゴン】は活躍の場もなく破壊されたことが悔しいのか、ものすごい突進で聖星の伏せカードを轢いていく。

轢かれてしまったカードは粉々に砕け散り、聖星は困ったように笑った。

 

「【ゲーテの魔導書】か。

良いカードを破壊したな」

 

【ゲーテの魔導書】にはカードの除外だけではなく、魔法・罠のバウンス、モンスターの表示形式を変更する効果がある。

しかし、今ジムの場には【化石岩の開放】しか存在しないため発動しても意味をなさない。

モンスターを召喚する前に除去できて安堵の息を吐くジムはカードを掴む。

 

「魔法カード【愚かな埋葬】を発動。

デッキから岩石族モンスター【サンプル・フォッシル】を墓地に送る。

そして、【化石融合-フォッシル・フュージョン】を発動!

【サンプル・フォッシル】と【エルシャドール・エグリスタ】で融合!」

 

地層に眠る2体の体は光に飲み込まれ、恐竜の骨へと変わっていく。

ばらばらだった化石の骨はじょじょに組み上がり、巨大なモンスターへと姿を変えた。

 

「現れろ【古生代化石竜スカルギオス】!!」

 

「ガァアアア!!!」

 

ジムの場に特殊召喚されたのは、最も化石と聞いてイメージしやすいティラノサウルスのような化石モンスターだ。

シンプルな外見だからこそカッコよさと迫力を兼ね備えており、咆哮によって空気を震わせる姿さえスタイリッシュに見える。

あまりの格好良さに思わず拍手したくなるが、聖星は小さく息を吐いて自分を落ち着かせた。

 

「攻撃力3500……

【アプカローネ】と【ネフィリム】を超えたか」

 

「バトルだ!

【スカルギオス】、【アプカローネ】に攻撃!!」

 

「罠発動、【立ちはだかる強敵】」

 

「っ!?」

 

聖星が発動した罠カード、【立ちはだかる強敵】はある意味でこの場で発動してほしくなかったカードだ。

相手が攻撃宣言した時、聖星は場のモンスターを1体指定し、ジムのモンスターは全てそのモンスターと強制的に戦闘を行わなければならない。

攻撃力3500を誇るモンスターとの戦闘など、普通ならば御免被るだろう。

しかし、聖星の場には例え攻撃力が1万を超えていようと問答無用で破壊する女神がいる。

 

「さぁ、【ネフィリム】、相手してやれ」

 

「【スカルギオス】!」

 

勢いよく突進した【スカルギオス】は大きな口を開けて【ネフィリム】を噛み砕こうとする。

しかし、それより早く鋭い何かが【スカルギオス】を細かく切り刻んだ。

体中からあふれでる影糸で【スカルギオス】を破壊した【ネフィリム】は何も言わず、ただジムを見つめる。

 

「……【スカルギオス】が破壊された事で墓地から【化石融合】を回収する。

そしてメインフェイズ、もう1度【化石融合】を発動する!」

 

「(本当に1ターンに何度も発動できるって良いなぁ)」

 

「【シェル・ナイト】と【影依の炎核】で融合!

【古生代化石マシン スカルコンボイ】を守備表示で特殊召喚!」

 

「ブルル……」

 

【スカルワゴン】はまだ色彩が豊かな方だったが、新たに特殊召喚された【スカルコンボイ】は岩石の色しか持っていない。

シンプルな色合いだと考えていると、【スカルコンボイ】が鳴らす音に【アプカローネ】達が苦しみだす。

 

「な、何?」

 

「【スカルコンボイ】の効果さ。

融合召喚したこのカードがフィールドに存在する限り、ユーのモンスターの攻撃力はそのモンスターの元々の守備力分ダウンする」

 

「つまり……!」

 

【エルシャドール・アプカローネ】の攻撃力は2500から500まで下がり、【エルシャドール・ネフィリム】の攻撃力は300まで下がってしまった。

いくら【ネフィリム】で破壊できるとはいえ、体中を苛む音に【アプカローネ】は実に苛立たしいと訴える表情を浮かべていた。

 

「モンスターをセット、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

攻撃力を一気に下げるモンスター効果には驚いた。

しかし、先程記述した通り【ネフィリム】で戦闘を行えば特に問題はない。

問題があると言えば、聖星の場に存在するモンスターの数とジムの場に存在するモンスターの数が同じという事。

しかも2体とも守備表示であり、【アプカローネ】に貫通効果はない。

まぁ、このカードを発動すればその問題も解決するのだが。

 

「手札から装備魔法【ネクロの魔導書】を発動」

 

「8種類目の【魔導書】か!」

 

「手札に存在する【魔導書】を見せ、墓地に存在する魔法使い族モンスターを除外する事で発動できる。

墓地に眠る魔法使い族を1体攻撃表示で特殊召喚する。

俺は【トーラの魔導書】を見せ、【シャドール・ヘッジホッグ】を除外し、【シャドール・ビースト】を攻撃表示で特殊召喚する」

 

「がぁう!」

 

これで聖星の場のモンスターは3体になった。

ジムの残りのライフは500。

彼の場を一掃し、残りのライフを削り切る事が出来るはずだ。

 

「バトルだ。

【ネフィリム】で【スカルコンボイ】に攻撃」

 

聖星の攻撃宣言に【ネフィリム】は【スカルギオス】にしたように影糸を操り、細かく切り刻む。

効果で【ネフィリム】の攻撃力を下げたとしても、まともな戦闘を行う事が許されなかった【スカルコンボイ】は悲しげな音を鳴らしながら墓地に送られる。

 

「墓地から【化石融合】を回収する!」

 

「構わない、【ビースト】でセットモンスターに攻撃!」

 

この状況で、ジムの壁として召喚された裏側守備モンスター。

一体どのようなリバース効果を持つのか警戒していると、伏せられていたモンスターが姿を現す。

パキケファロサウルスによく似た化石モンスターであり、彼が表側表示になった瞬間ジムが口角を上げた。

 

「【フォッシル・ダイナ パキケファロ】の効果発動!

このモンスターがリバースした時、特殊召喚されたモンスターを全て破壊する!!」

 

「特殊召喚されたモンスターを全部!?

嘘だろ!?」

 

驚愕な表情を浮かべる聖星に対し、カイザーは彼の墓地に存在するカードを思い出す。

 

「(【フォッシル・ダイナ パキケファロ】は戦闘によってリバースした。

つまり、今はダメージステップ。

【ブレイクスルー・スキル】の効果は使えないな)」

 

聖星の場に存在する【シャドール】は全員魔法カードの効果で特殊召喚されたモンスター。

【シャドール・ビースト】の鋭い爪によって砕かれた【フォッシル・ダイナ パキケファロ】の骨が雨のようにフィールドに降り注ぐ。

鋭い雨によって【アプカローネ】達は悲鳴を上げる暇もなく破壊され、跡形もなく消え去った。

土壇場に伏せられたモンスターの効果に聖星は乾いた笑いを浮かべるしかない。

ジムが逆転の一手を掴む寸前の笑みならば、聖星の笑みは現実に驚く笑みだ。

 

「(聖星の手札は罠カードの耐性をつける【トーラの魔導書】と、未だに使う様子が見えない装備魔法【魂写しの同化】2枚。

装備魔法の効果は気になるが、少なくとも追撃は来ないだろう。

となると、残りは伏せカード1枚か……)」

 

【立ちはだかる強敵】や【ゲーテの魔導書】と共に伏せられたカード。

もしあれが【リビングデッドの呼び声】のようなモンスターを蘇生するカードならばジムが敗北してしまう。

例え勝利を得る事が無罪に繋がるわけではないとしても、ジムは願わずにはいられなかった。

 

「(頼む、このままバトルフェイズを終えてくれ!)」

 

聖星はモンスターカード全てを墓地に送り、小さく頷く。

それは聖星がデュエル中にいつもやる癖であり、カイザーは察した。

何故このタイミングで頷くのか分からないジムは怪訝そうな表情を浮かべたが、次の瞬間真っすぐ前の見据える聖星の視線に貫かれる。

自分と彩度が違う緑色の瞳に宿る熱には諦めという感情はない。

つまり、これは。

 

「リバースカードオープン。

【影依の原核】」

 

表になったのは、このデュエルで墓地に眠る【影依融合】を回収する効果を見せた永続罠カード。

【エルシャドール・エグリスタ】の頭部にいた龍のような何かがカードからあふれ出る。

どのような効果があるのか身構えていると、聖星は微笑みながら説明した。

 

「このカードは発動後、効果モンスターとなり、モンスターゾーンに特殊召喚する」

 

「ここで、罠モンスターだと!?」

 

どろりと泥のようなものと共にフィールドに特殊召喚された効果モンスターはいくつもの首を持ち、ジムを睨みつける。

その攻撃力は1450。

そして、ジムのライフは残り500。

覚悟を決めたジムはテンガロンハットを深く被った。

結末を悟った友人の行動に聖星は静かに目を閉じ、今か今かと宣言を待つ【影依の原核】を見上げる。

 

「【影依の原核】でジムにダイレクトアタック!」

 

やっと告げられた攻撃宣言に歓喜するかのように【影依の原核】は地面を抉りながらジムへと迫る。

巨大な口に飲み込まれるようなソリッドビジョンにジムは強く目を瞑り、彼の姿は闇の中に消えた。

 

END

 




ナスカの地上絵があるペルーに行くのならジムの出番あるよね!!!って感じで出しました。
留学生組と聖星を絡ませたかったんですよ。
ジムとのデュエルを書くことが出来て大満足です。

デュエル中の問答はその場のノリで読んでください。
話の内容に深い意味はなく、とにかく勢いが大事だと自分に言い聞かせながら書きました。

今回は裁きのデュエルという事なので、聖星は若干口調を固くしています。
後半に進むと気が抜けて普段の口調に戻ってますけど。

ところで、ジムが通うサウス校ってどこの国にあるんでしょうね。
学生服のモチーフを考えるとメキシコやアメリカ西部にあるのかなと思います。
ジムが使うカードの【ウルルの守護者】やカレンを小型のクロコダイル(歯の見え方からクロコダイル?)だと仮定すると、オーストラリア出身疑惑は出てきますが。
まぁ、私的にはオーストラリア出身だと嬉しいです。

感想があると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

If story
世界よただいま、と思えば若い父がいた★


このお話は『もしも聖星が戻ってきた時代が5D'sの満足時代だったら』というのをテーマに書いています。
なので遊星達が出ます。
本編とは一切関係はありません。


遊馬達とバリアンの戦いを終え、シャーク達がヌメロン・コードの力により復活した。

アストラルと離れ離れになってしまったが、皆はその事を悲しまず前を向いて進みだした。

そして異世界からの住人である聖星も元の世界に帰る日が訪れたのだ。

だが……

 

「どこだよ、ここ」

 

右を見ても左を見ても廃墟、廃墟、廃墟。

ところどころにいる人々はテレビで見た事しかないような小汚い服を着ており、栄養が不十分ではないかと思いたくなるほど痩せている。

すぐに聖星は【星態龍】のカードを取り出し、どういう事かを問おうとした。

 

「……あれ、ない?」

 

デッキケースとは別のカードケースの中から白いカードを探すが、どこにも見当たらない。

見落としたか?と思ったがこんな状況でも【星態龍】は姿を現さず、しかも黒いカードの中で唯一白いため見落とすわけがないと思った。

まさか、と嫌な予感がして念のためデッキケース、そしてポケットの中も探してみた。

だがどこにも彼はいなかった。

 

「え、まさかはぐれた?」

 

冗談じゃない。

まだ周りに情報を集めるのに役立ちそうな本やPCがあればいいが、明らかにこんな廃墟にそれを期待しては無駄だ。

聖星にとってこれがどういう状況なのか教えてくれるのが【星態龍】で、その彼が傍にいないことは情報収集できない事を意味して非常にまずい。

どうしようかと思ったが、良くも悪くも聖星はもともと適応能力があり、さらにバリアンとの戦いで多少の事ではへこたれなくなったためすぐに思考を切り替えた。

 

「まぁ、なんとかなるか」

 

と。

ここでパニックに陥らなかった事を褒めるべきか、馬鹿だと突っ込めば良いのか……

 

「(見てみればジャンクの山とかも見えるし……

そこに行けば壊れたPCとかあるかなぁ。

もしあれば組み立てようか。

流石にPCを一から組め、って言われたら困るけど基が出来ていれば何とかなると思うし)」

 

すると不意に視線を感じた。

 

「ん?」

 

聖星が振り返ると複数の男達がにやけている。

揃いも揃って同じような服装を着ている男達は明らかに友好的ではない。

すると代表格とも取れる男が前に出てきて聖星を見下ろす。

 

「おいおい、どうした坊主。

サテライトに坊主のような身なりの綺麗な坊ちゃんが1人でいちゃあ危ないぜ。

ここがどんな怖いところかママから教わってないのか?」

 

「サテライト……?」

 

男が口にした名に聖星は不思議そうな表情を浮かべる。

その名には聞き覚えがある。

しかし、ここが自分の知っているサテライトなのかはまだ断定は出来ないので大人しく話を聞くことにする。

 

「ここはサテライトっていう所なんですか?」

 

全く動じずに問われた言葉に今度は男達が不思議そうな顔をする。

そしてまじまじと聖星の顔を見たが、ふざけているようには見えない。

 

「なんだ。

サテライトの事を知らねぇのか。

とんだ箱入り娘、いや、箱入り息子だな。

だったらおじさん達が教えてやるよ。

…………シティの人間がここでうろちょろしていたら、どんな目に遭うかってよ」

 

一気に声を低くし、拳の関節を鳴らす男。

すぐに彼らはデュエルディスクを構えた。

聖星は特にたいして慌てた様子もなく同じように構える。

 

 

**

 

 

「「「すみませんでした――!!」」」

 

「あ、いや……

そう謝られても……」

 

大の男達に全力で土下座され、聖星は困ったように笑った。

明らかにケンカを売られ、負けたら身ぐるみ全部をはぎ、勝ったら見逃すというルールでデュエルをした。

幸か不幸か、聖星が持っているデッキは丁度対バリアン用に組んだガチの【魔導書】のみ。

初めは相性が悪いデッキがない事を祈っていたが、どうやら彼らの扱うデッキは寄せ集めデッキのようなもの。

そんな凄いコンボがあるわけでもなく、ただ高い攻撃力のモンスターを召喚して殴るという単純戦略だ。

 

「で、俺が勝ったので質問に答えてもらいますけど。

ここはサテライトっていうんですか?」

 

「あぁ。

坊主、本当に知らねぇのか?」

 

「はい」

 

しっかりと肯定した聖星に男達は互いに顔を見合わせる。

嘘をついているようには見えず、彼らは恐る恐る聖星を見た。

 

「坊主、もしかするとお前……

記憶喪失か何か、か?」

 

「え?」

 

男性の言葉に聖星は不思議そうな表情を浮かべる。

だがよく考えるとこれは良い勘違いではないだろうか。

事実、聖星はここが何処なのか把握していないし、把握しても彼らが知っている常識を何一つ知らない。

だから記憶喪失としておけばこの後、変な行動を起こしてもその理由で片づけられる。

 

「……そういえば、どうして俺はここにいるんだろう」

 

顔を伏せて小声で言うと、周りの男達が騒ぎ出す。

そして憐みの目で聖星を見る。

自分に突き刺さる視線が居心地悪い。

聖星の感情を読み取ったのか、リーダー格の男、アーサーは丁寧に説明してくれた。

 

「ここはサテライトって名前だ。

今から14年前に起こったゼロ・リバースっていう天変地異によりあそこのシティと分裂した」

 

「ゼロ・リバース…………」

 

「見ろ、あれがシティだ」

 

アーサーが指差した方角にはこんな場所とは比べ物にならないくらい発達した街がある。

高層ビルが立ち並び、まだ昼だというのに華やかな電気の輝きが分かる。

 

「(……ゼロ・リバース、そっか、そうなんだ)」

 

廃墟の街に輝かしい街。

そして14年前に起こったとされる天変地異の名前。

どれもこれも歴史の授業、そして遊星から聞いた話と一致する。

自分が知っているサテライトとここが同一のものだと確信を持った聖星は、同時に自分がどんな状況に置かれているかも理解した。

 

「(俺、元の世界に帰って来たけど……

過去に来ちゃったんだ)」

 

心の中で呟くと体が重くなる。

異世界ではない分安心したが、【星態龍】がいない今どうやってこの時代で生きていけばいいのだろう。

遊馬達の世界では【星態龍】がいたおかげで最初から住居はあった。

だが、彼がいない分全部自分でどうにかするしかない。

 

「(こうなったら意地でも探すしかないか。

という事は当面の目標は【星態龍】探し?)」

 

「そうだ、坊主!

お前の腕を見込んで頼みがある!」

 

「頼み?」

 

「あぁ!

俺達チーム・ブルーウルフの代表になってチーム・サティスファクションと戦ってほしい!」

 

「チーム・サティスファクション?

代表ってどういう事?」

 

それからアーサーの話を聞くとこういう事だ。

ゼロ・リバースによってシティと分断されたサテライトでは、デュエルに飢えたデュエルギャングによって各地区の奪い合いが勃発している。

彼らのチームは今度、サティスファクションの名を持つチームと互いの地区を賭けてデュエルするそうだ。

 

「どうする?」

 

「どうするって……」

 

別に参加しても構わないが、問題はこれに自分が関わり未来に変化がないかだ

一瞬それを懸念したが、よくよく考えるとたかが地区を取り合うデュエルだ。

その程度の歴史を変えたぐらいで未来が揺らぐとは思えない。

 

「まぁ、デュエルするくらいなら別に良いけど」

 

「本当か、助かるぜ坊主!」

 

「坊主じゃなくて、聖星ですよ」

 

「……名前は覚えているか。

そうか。

なら聖星、俺達チームの代表になるんだ!

チーム・ブルーウルフのコスチュームを着てもらうぜ!」

 

「は?」

 

アーサーの口から放たれたセリフに固まってしまった。

今彼らはお揃いのTシャツとGパンを着ている。

デザインはいまいちだし、所々破れているし、まぁ何が言いたいかというと。

 

「(え、俺、こんなダサいの着なきゃいけないの?)」

 

こんな恰好、絶対に知り合いに見せたくない。

心底そう思った聖星は仕方なく彼らの衣装を受け取った。

 

 

**

 

「よぉーし、お前ら!

今日はついにチーム・サティスファクションとのデュエルだ!!

気合い入れろ!!」

 

「「うぉおおお!!!」」

 

「う、うぉ~……?」

 

廃墟が立ち並ぶ大通りのど真ん中で男達の野太い声が響き渡る。

正式なチームメイトではないが、一応代表となったため聖星も一緒に叫ぼうとする。

しかし妙にタイミングを外してしまい虚しくなってしまった。

 

「よし、行くぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

アーサーは手を高く上げ、デュエルディスクを構える。

一気に緊迫した雰囲気に包まれ、自然と聖星も静かになる。

すると遠い向こうから4人組の少年達がゆっくりと歩いてくる。

 

「へっ。

ついに来やがったぜ」

 

「俺の機械デッキでどう可愛がってやろうか……」

 

「期待しているぜ、坊主」

 

「ですから、聖星です」

 

対戦相手の数も一致しており彼らがチーム・サティスファクションなのだろう。

軽い冗談を交わしながらどんな人達なのか1人1人見る。

1人目は水色の髪で赤いバンダナを巻き、2人目はオレンジの逆立った髪で小柄な少年。

3人目は彼らの中で1番背が高く、どこか気品を漂わす少年。

そして4人目は……

 

「え?」

 

彼の姿を認識すると一気に周りが騒がしくなり、アーサー達は信じられないという表情を浮かべて聖星を見る。

聖星は自分に向けられる多数の目を気にせず、ただ向かってくる少年1人に釘付けだった。

 

「おいおい、なんだよお前ら。

随分と騒がしい出迎えだな」

 

「ふん。

俺達を倒すための作戦会議か?

今更あがいたところでどうにもならんぞ」

 

不敵な笑みを浮かべながら挑発の言葉を述べる少年達。

彼らもアーサー達が何かおかしいというのに気が付いたのだろう。

だが、何が原因なのかは分かっていない。

いや、分かるはずもない。

 

「おい、ジャック、鬼柳。

こいつらなんかおかしくねぇか?」

 

「あぁ。

何かに戸惑っている感じだ。

何かあったのか?」

 

違和感に気づき、素直に怪訝そうな表情を浮かべるのはマーカー付きの少年と……

自分にあまりにも似ている少年、遊星だ。

 

「(………………うぅわ。

何でこんなタイミングで父さんと出くわすの?

っていうか父さん本当に俺にそっくり。

いや、親子だから似ているのは当然っていったら当然だけどさ。

これって俺、絶対変な方向に勘違いされるフラグだよね)」

 

もしこのまま自分が代表としてデュエルしたらどうなるか……

ゼロ・リバースのせいで家族を失った遊星の気持ちを考えるとややこしい事になるのは必然である。

 

「アーサーさん……」

 

「聖星」

 

「はい?」

 

辞退したいと訴えようとした聖星はアーサーを見上げる。

彼は真剣な目で聖星を見下ろし言葉を続けた。

 

「辛い戦いだろうが、今のお前は俺達のチームメイトだ。

手を抜いたら承知しないぞ」

 

「…………分かりました。

頑張って叩き潰します」

 

頭上から聞こえてきた言葉に、ですよね。と心の中で返事をしながら聖星はデュエルディスクを構える。

覚悟を決めた聖星の表情にアーサー達は互いに視線を交わし一歩前に出た。

 

「よぉ、チーム・サティスファクション。

お前達と戦うチーム・ブルーウルフのメンバーは俺達4人だ」

 

やっと始まるのだと分かった鬼柳達は怪訝そうな表情を浮かべながらも、すぐに気持ちを切り替える。

だが彼らの視界に聖星が映ると4人は目を見開いた。

 

「なっ!?

おい、どーいう事だよ!?」

 

真っ先に声を上げたのはリーダー格である鬼柳だ。

皆の心を代弁した彼に対し、クロウとジャックは真っ先に遊星を見る。

注目を浴びている遊星は自分の目の前にいる聖星から目を離す事が出来ない。

 

「……君は、一体……?」

 

明らかに動揺している遊星達に対し、聖星は冷静に今後の事を考える。

はっきり言って全力でデュエルするつもりだったが、対戦相手が遊星のチームならば話は別となる。

 

「(終わったらさっさと逃げよう。

俺は正式なチームメイトじゃないし、大丈夫だよな)」

 

そう決めた聖星は静かに尋ねる。

 

「で、俺の相手は誰?」

 

目の前の事を処理できない彼らを正気に戻すため、あえて強めの口調で言ってみた。

すると遊星が慌てて尋ねてくる。

 

「待ってくれ!

君は、一体何者なんだ?」

 

「俺はチーム・ブルーウルフの代表。

そして貴方はチーム・サティスファクションの代表。

今はそれだけで十分です。

どうしても知りたければ……」

 

遊馬達の世界で使っていたデュエルディスクにデッキをセットし、電源を入れる。

独特だが耳に馴染む機械音を聞きながら聖星は微笑んだ。

 

「デュエルで聞いてください」

 

周りの状況に似合わない笑みを浮かべられ、遊星達は言葉を失うがすぐに納得した表情となった。

彼らはデュエリストで相手の事を知りたければデュエルを交える。

これが最も単純かつ有効な手段だ。

 

「鬼柳、ジャック、クロウ。

彼の相手は俺にさせてくれ」

 

「あぁ、勝てよ遊星!」

 

「ふん。

貴様に言われんでもそうしていた」

 

「じゃあ俺達3人の相手はどいつだ?」

 

まだ若干のざわめきはあるが、デュエルが始まるという事で次第に静かになっていく。

互いに適度な距離をとりデッキをセットした。

 

「「デュエル!!」」

 

同時に声を張り上げた聖星と遊星。

デュエルディスクは遊星を先攻と表示した。

 

「俺のターン、ドロー!

俺は【マックス・ウォリアー】を攻撃表示で召喚」

 

「はぁっ!」

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

遊星が召喚したのはレベル4で攻撃力1800の戦士。

彼とのデュエルで何度も戦い、何度も倒し、倒されたモンスターだ。

懐かしいモンスターの登場に聖星は感情が高ぶりそうになったが、すぐに無表情になり伏せカードを見る。

 

「(父さんのデュエルスタイルが変わっていない事を前提で考えると、あの伏せカードはモンスターを守る【くず鉄のかかし】かダメージを0にする【ガード・ブロック】)」

 

いや、次にモンスターを繋げるため【奇跡の残照】も考えられる。

今までの経験を基に考えながら聖星はドローした。

 

「俺のターン。

手札から速攻魔法【魔導書の神判】を発動」

 

「【魔導書の神判】?」

 

「このカードが発動されたターンのエンドフェイズ時、俺はこのターン発動された魔法カードの枚数分までデッキから【魔導書】と名の付くカードを手札に加えます」

 

「つまり、エンドフェイズ時にお前の手札は増えるという事か」

 

「はい」

 

遊馬達の世界に馴染むため手に入れたカード。

しかしあまりの強さに孤立してしまったが、代わりに遊馬やシャーク、カイト達と出会う事が出来た。

バリアンとの戦いで自分が生き残れたのも、様々な【魔導書】を加える事が出来るこのカードの力のおかげかもしれない。

 

「俺は魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【魔導書】と名の付くカードを1枚手札に加えます。

俺は【セフェルの魔導書】を加えます」

 

テンプレすぎる戦術に犠牲者となったチーム・ブルーウルフのメンバーはにやにやと笑っている。

観客の雰囲気に何かあると感じ取っている遊星はただ静かに身構えた。

 

「そして【魔導書士バテル】を守備表示で召喚します。

このモンスターを召喚した時、俺はデッキから【魔導書】と名の付く魔法カードを1枚手札に加えます。

俺は速攻魔法【トーラの魔導書】を加えます」

 

次々と減っていくデッキの枚数。

デュエリストとしてレベルの高い遊星は発動された魔法カードの枚数と聖星の手札を見比べる。

 

「そして魔法カード【セフェルの魔導書】を発動。

俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、手札の【魔導書】を見せる事で発動します」

 

「今、お前の手札には【トーラの魔導書】……

そして【魔導書】の発動条件からお前のデッキは魔法使い族デッキか」

 

「メインは魔法使い族ですね」

 

「メイン?」

 

つまり、デッキにはそれ以外のモンスターも入っている事。

与えられた情報をしっかり記憶し、遊星は自分の手札と伏せカードを見る。

 

「俺の場には魔法使い族の【バテル】が存在し、【トーラの魔導書】を見せる事で発動。

このカードは墓地に眠る通常魔法の【魔導書】の効果をコピーします。

俺は【グリモの魔導書】を選択。

デッキからフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を手札に加えます」

 

「(フィールド魔法……

一体どんな効果だ?)」

 

「そしてフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を発動」

 

デュエルディスクが【ラメイソン】のデータを読み込むと、モーメントの光が輝き始め廃墟の街が高度な魔法文明が築かれている世界へと変わる。

雲泥の空は鮮やかな青に変わり、空中に魔法の文字が漂う。

 

「俺はカードを3枚伏せて、ターンエンド」

 

「(エンドフェイズ時……)」

 

「そしてこの瞬間、【魔導書の神判】の効果が発動。

このターン発動した魔法カードの枚数分、デッキから【魔導書】を手札に加えます」

 

このターン、聖星は【グリモの魔導書】、【セフェルの魔導書】、【魔導書院ラメイソン】の3枚を発動した。

今聖星の手札は1枚と非常に少ないが、これで4枚になる。

 

「俺はデッキから【グリモの魔導書】、【魔導書廊エトワール】、【セフェルの魔導書】を加えます。

さらに【魔導書の神判】のもう1つの効果発動」

 

「何?

まだ効果があるのか?」

 

「はい。

このターン発動した魔法カードの枚数分以下のレベルを持つ魔法使い族を1体、デッキから特殊召喚します」

 

「手札の補充だけではなく、モンスターの特殊召喚だと!?」

 

「俺はレベル3の【魔導教士システィ】を特殊召喚」

 

青空に漂う魔法の文字が一か所に集まり、輝かしい光を発する。

その光は大地に降り注ぎ、魔法使いが召喚される魔法陣となった。

淡い光を放つ魔法陣の中から1人の女性が現れ、彼女はゆっくりと目を開き【マックス・ウォリアー】を見る。

しかしその攻撃力に遊星は怪訝そうな顔を浮かべた。

 

「(折角モンスターを特殊召喚出来たというのに攻撃力1600だと?

俺の【マックス・ウォリアー】の攻撃力は1800……

攻撃を誘っているのか?)」

 

攻撃表示同士のモンスターの戦闘では基本的に攻撃力が高いほうが勝つ。

それなのに聖星は攻撃力の低い【システィ】を守備表示ではなく、攻撃表示にした。

カードを3枚伏せているので、もしかするとそのカードが鍵なのかもしれない。

あまりに単純すぎる誘いに遊星はどう対処しようかと考える。

 

「『攻撃力1600だと?

【マックス・ウォリアー】の攻撃力は1800……

攻撃を誘っているのか?』って、思っていませんか?」

 

「っ!?」

 

前から聞こえた言葉に遊星は思わず聖星を凝視する。

目の前で穏やかに笑っている聖星は遊星の反応が嬉しいのか、無垢な笑みを見せてくれた。

 

「その顔、図星みたいですね」

 

しかしすぐに先ほどのように静かな表情に戻り、次の言葉を発する。

 

「【魔導教士システィ】の効果発動。

【魔導書】を発動したエンドフェイズ時、このカードを除外してデッキから【魔導書】と光または闇属性、レベル5以上の魔法使い族を1体手札に加えます」

 

「なっ!?

という事は君の手札はさらに2枚増えるという事か!?」

 

「そうなりますね」

 

信じられない。

遊星はこのターンの彼の行動、そして彼の場、墓地、手札、デッキを見比べた。

場にはモンスターが1体、さらに魔法・罠ゾーンにはフィールド魔法を含めて4枚。

墓地には幸いにもモンスターは存在しないが、手札は6枚。

さらにこのターンでドローを含めデッキから9枚のカードが加えられた。

 

「(彼のデッキ構成が40枚だと仮定すると残りは26枚。

まだ2ターン目だぞ?

いくらなんでも消費が激しすぎる。

だがその分場と手札のアドバンテージが高い。

なんてデッキなんだ……)」

 

「俺は【魔導書の神判】と【魔導法士ジュノン】を手札に加えます」

 

「やはりその魔法カードは加えるか……」

 

「はい」

 

小さく頷いた聖星は遊星の表情を見る。

2ターン目なのに場や手札等が凄いことになり、遊星はこのデッキの脅威を本能的に感じ取っているようだ。

手札に加えた【ジュノン】と【神判】を見比べながら聖星は考える。

 

「(うん、ここからどうやって手を抜こうか……)」

 

正直に言って聖星はこのデュエル、本気でするつもりはない。

対戦相手である遊星とチームメイト達には悪いが、ここで自分が勝ってはいけないような気がするのだ。

もしここで勝ってしまえば今後遊星達がどうなるかは分からない。

先程から煩い程勝ってはいけないと頭の中で警鐘が鳴っている。

 

「(けど皆の前だと手を抜いたってすぐにばれるからなぁ……)」

 

周りのチームメイトは良くも悪くもこのデッキの特徴を知ってしまった。

もし聖星が手を抜けば誰かが違和感を覚え、すぐに気づくだろう。

だからあからさまに手を抜くわけにはいかない。

 

「(他力本願だけど父さんの実力に賭けるか)」

 

「俺のターンだ!

ドロー!!」

 

未来の父ならきっとこのデッキでも勝つことは可能だろう。

それだけ彼はデュエルが上手い。

だがそれは頭の回転の速さ、デッキ構築だけではなく様々な経験を積んでいる要素も影響している。

この時代の彼にはその経験が不足しているだろう。

 

「俺は手札から魔法カード【調律】を発動。

デッキから【シンクロン】と名の付くカードを加え、デッキの1番上を墓地に送る」

 

「(来た、父さんのエンジンカード。

この状況だったら加えるのは……)」

 

「俺は【クイック・シンクロン】を手札に加える」

 

「(ま、召喚権を使いたくないから妥当だな)」

 

遊星が加えたのは【シンクロン】と名の付くチューナーの代わりにシンクロ素材に出来るレベル5のモンスター。

未来ではあのカードを使用し様々なシンクロモンスターを特殊召喚したものだ。

 

「墓地に送られたのは【レベル・スティーラー】だ」

 

「(うん、墓地で発動するモンスターが墓地送りになるのはいつも通りだ)」

 

「さらに俺は場の魔法・罠カードを墓地に送り【カード・ブレイカー】を特殊召喚する」

 

「え?」

 

遊星の場に巨大な手を模した杖を持つ男性が現れる。

彼は指定された伏せカードを粉々に砕き、場に特殊召喚された。

すると砕け散ったかけらが再び現れ、そのカードの絵柄が分かる。

機械の配線がオーバーヒートを起こしたのか、火花が散り、煙が出ている。

 

「それは【リミッター・ブレイク】……

まさか……!」

 

「どうやらこのカードを知っているようだな」

 

「……そのカードが墓地に送られたとき、デッキから【スピード・ウォリアー】を特殊召喚できる」

 

「そうだ。

来い、【スピード・ウォリアー】!」

 

カードから光が発せられ、その中から回転しながら【スピード・ウォリアー】が特殊召喚される。

互いに特殊召喚されたモンスターの攻撃力は低いが、先ほど遊星が加えたカードと墓地に送られたカードを思い出しこれからの事を考える。

 

「(【クイック・シンクロン】を特殊召喚し、【レベル・スティーラー】でレベルを4にして……

レベル2の【カード・ブレイカー】と【スピード・ウォリアー】でシンクロ召喚。

【ジャンク・デストロイヤー】を特殊召喚かな?)」

 

シンクロ素材に使用したチューナー以外のモンスターの数までカードを破壊できるガラクタの破壊者。

名前とは違い、かなり綺麗なボディをもつ破壊者が召喚される未来が見え、聖星は伏せカードを見る。

 

「手札から【ボルト・ヘッジホッグ】を墓地に送り【クイック・シンクロン】を特殊召喚する。

さらに墓地に存在する【レベル・スティーラー】の効果発動!

【クイック・シンクロン】のレベルを1つ下げる事で墓地から特殊召喚する!」

 

西部劇風のモンスターは特殊召喚され、その隣に星を背負った天道虫が現れる。

ここはでは予想通り。

さて、遊星は聖星の場のどのカードを破壊するだろうか。

 

「行くぞ!

レベル2の【カード・ブレイカー】と【スピード・ウォリアー】にレベル4となった【クイック・シンクロン】をチューニング!!」

 

【クイック・シンクロン】は自分の拳銃ホルダーからおもちゃの拳銃を取り出し、目の前に現れたカードたちを見る。

そこには遊星のデッキに存在するであろう【シンクロン】と名の付くチューナー達だ。

青い目はじっとカードの動きを見つめ、1枚のカードを打ち抜く。

それは…………

 

「集いし希望が新たな地平へ誘う。

光さす道となれ! 」

 

「(違う。

これは【ジャンク・デストロイヤー】じゃない)」

 

「シンクロ召喚!」

 

天を貫く光と共に轟音が鳴り響き渡る。

緑の光に照らされた遊星は手を高く上げ、モンスターの名前を宣言した。

 

「駆け抜けろ、【ロード・ウォリアー】!!」

 

「はぁ!!」

 

緑の光は一瞬で砕け散り、中に存在していた王が姿を現す。

黄色のボディは青空から降り注ぐ光を反射し、赤い目は敵である【バテル】を見下ろす。

無機質らしく感情を感じさせない眼はただ静かに敵を見ていた。

 

「(伏せカードの事があるから【ジャンク・デストロイヤー】かと思ったけど【ロード・ウォリアー】を召喚……

【ロード・ウォリアー】はデッキから機械族か戦士族モンスターを特殊召喚する効果がある……

何を特殊召喚するかによって変わるな)」

 

「【ロード・ウォリアー】の効果発動!

デッキからレベル2以下の戦士または機械族モンスターを特殊召喚する!

来い、【アンサイクラー】!」

 

【ロード・ウォリアー】が作り出した道筋から現れたのは一輪車のモンスター。

赤いボディを持つ【アンサイクラー】は小柄ながらも強気の目で聖星を見る。

 

「そして手札からチューナー【デブリ・ドラゴン】を召喚!!」

 

「……【デブリ・ドラゴン】。

あ……!」

 

通常召喚で呼ばれたのは小型のドラゴン。

攻撃力はたったの1000だが、墓地から攻撃力500以下のモンスターを呼ぶ事が出来るため遊星のデッキには必要なモンスターである。

そして今遊星の墓地に存在するモンスターは……

 

「【デブリ・ドラゴン】は召喚に成功した時、墓地から攻撃力500以下のモンスターを特殊召喚する。

甦れ、【カード・ブレイカー】!」

 

「はっ!」

 

再び現れたレベル2のモンスター。

攻撃力はたったの100なので【デブリ・ドラゴン】の特殊召喚条件を見事にクリアしている。

 

「行くぞ!

レベル2の【カード・ブレイカー】とレベル1の【レベル・スティーラー】、【アンサイクラー】にレベル4の【デブリ・ドラゴン】をチューニング!」

 

レベル4のチューナーモンスターは総じて何らかの制約を持っているモンスターが多い。

【デブリ・ドラゴン】も例外ではなく、ドラゴン族シンクロモンスター以外のシンクロ召喚には使用できないという制約がある。

この時代、遊星が持つドラゴン族シンクロモンスターといえば1体しかいない。

 

「集いし願いが新たに輝く星となる。

光さす道となれ!」

 

【デブリ・ドラゴン】は4つの輪と星となり、3体のモンスターを包み込む。

優しい星はそのまま非力なモンスター達に力を与えるように埋め込まれ、彼らを緑の光に包み込んだ。

 

「シンクロ召喚!」

 

遊星の背後に立った光は白い輝きとなり、純白の翼を持つ巨大なドラゴンが姿を現す。

 

「飛翔せよ、【スターダスト・ドラゴン】!!」

 

「グォオオオオオ!!!」

 

一瞬で輝かしい光を纏ったドラゴンは気高い咆哮を上げ、フィールドにその咆哮が響き渡る。

ついに現れたドラゴンの姿に聖星は高揚した。

黄色の瞳に身にまとう光。

逞しい純白の肉体に光を反射している宝石。

どれを見ても記憶の中にあるドラゴンと一致した。

 

「……【スターダスト】」

 

何一つ変わらないモンスターの姿に目頭が熱くなる。

だが気づかれまいと聖星は手札を見るふりをした。

そして小さく息を吐き、遊星を真っ直ぐにみる。

 

「貴方、デュエルが上手いんですね」

 

「何?」

 

「【カード・ブレイカー】は通常召喚が出来ず、特殊召喚する方法も自分のカードを破壊しなければいけません。

専用デッキでも組まない限り、普通ならただのデメリットの塊です。

それでも貴方はその効果を逆手に取りデッキから【スピード・ウォリアー】を特殊召喚し、さらに【デブリ・ドラゴン】の蘇生対象にした。

普通ならこんなデュエル出来ませんよ」

 

低レベル。

低ステータス。

使いにくい効果。

下位互換。

遊星が使うモンスターはそんな理由で見向きもされないカード達ばかり。

だけど彼が使えば、どんなモンスターも次の一手へと繋げる道となる。

こんな若い時からそんな上手いデュエルが出来たと思うと、本当に遊星は凄い人なんだと改めて感じた。

 

「…………名前……」

 

「え?」

 

「まだ、君の名前を聞いていなかったな。

俺は不動遊星。

君は?」

 

「……名前は聖星。

苗字は忘れました」

 

「何?」

 

こういう反応は当然だろう。

サテライトで特殊な環境上、名前を持たない子供がいてもおかしくはない。

例え名前はあっても苗字がない場合もある。

だから「苗字はない」という答えが来るのなら分かるが、忘れたと言われるとは思わなかった。

予想外の言葉に遊星は聖星を凝視した。

 

「どういう意味だ?」

 

「俺、デュエルに関すること以外記憶喪失みたいなんです。

それでアーサーさんに拾われました」

 

他人事のようにへらっ、と笑えば遊星の瞳が大きく揺れる。

酷く動揺している父の姿に聖星は胸が痛んだ。

 

「(あれ、でもこれって……

俺、父さんに精神攻撃仕掛けてる?)」

 

目の前に現れた自分に似ている少年。

名前を聞けば記憶喪失だと返される。

身寄りのない遊星にとってこの言葉はどれほどの影響力があるだろう。

 

「そうだ……

俺からも質問しても良いですか?」

 

「何だ?」

 

「【星態龍】というカードをご存知でしょうか?」

 

「せいたい、りゅう?」

 

どうやら知らないようだ。

可能性はかなり低いが、もしかしたら何か知っているかもしれない。

そう思って聞いてみたが無駄なようである。

 

「そのカードが君の記憶と関係があるのか?」

 

「…………まぁ、そんなところです」

 

「…………ならばこのデュエル。

もう1つ賭けてもらおう。

俺達が勝てば君をチーム・サティスファクションで引き取る。

異論はないな」

 

「え??」

 

「そして俺は、俺のデッキを賭ける」

 

「えぇ!?」

 

「はぁ!?」

 

「遊星、貴様正気か!?」

 

遊星が提案した内容に傍でデュエルしている鬼柳とジャックが声を荒げる。

特にジャックの言葉は聖星の言葉を代弁しており、聖星は同意するように頷いた。

 

「勝てばいいだけの話だ。

問題はない」

 

「随分と無茶な事を言い出しますね……」

 

未来での遊星はもっと理性的だったが、若さゆえかどこか強引だ。

しかしここまで自分の面影がある少年だ。

家族の大切さを知っている遊星が手元に置きたくなる理由も理解できる。

苦笑しか出てこない聖星は頭が痛くなった。

 

「俺は【スターダスト】のレベルを1つ下げ、【レベル・スティーラー】を攻撃表示で特殊召喚する!

【レベル・スティーラー】で【魔導書士バテル】に攻撃!!」

 

「罠発動、【聖なるバリア-ミラーフォース-】。

これで貴方の場のモンスターは全滅です」

 

「だが【スターダスト】の効果はその上を行く!

ヴィクティム・サンクチュアリ!!」

 

「でしたらそれにチェーンしてリバースカード、オープン。

速攻魔法【ゲーテの魔導書】」

 

「何!?」

 

「墓地に存在する【魔導書】を2枚除外する事で、場のモンスターの表示形式を変更します。

俺は墓地の【魔導書の神判】に【グリモの魔導書】を除外。

【ロード・ウォリアー】を裏側守備表示に変更します」

 

墓地から現れた2枚の【魔導書】は歪みの中に吸い込まれ、【ロード・ウォリアー】は裏側守備表示になる。

同時に聖星の場に七色に輝く結界が張られるが、【スターダスト】が白い光へと包まれ場から離れる事で粉々に砕け散る。

信じられない光景にチームメイト達は叫ぶ。

 

「【ミラーフォース】が破壊された!?」

 

「どうなってやがる!?」

 

「【スターダスト】はカードを破壊する効果が発動された時、自身をリリースする事でその効果を無効にし破壊する効果を持つ。

よってお前の【ミラーフォース】は無効になった」

 

「ですが【スターダスト・ドラゴン】はこれで墓地に送られました」

 

いや、【スターダスト】の効果はこれで終わりではない。

【スターダスト】はこの効果で墓地に送られた場合、エンドフェイズに戻ってくる。

あのドラゴンの効果をきちんと理解しているから、聖星はここで【ミラーフォース】を発動したのだ。

【スターダスト】によって邪魔な罠カードがなくなり、【レベル・スティーラー】は【バテル】に向かって突進した。

 

「俺はカードを1枚伏せターンエンド。

そしてこのエンドフェイズ時、【スターダスト】は戻ってくる。

戻ってこい、【スターダスト】!!」

 

遊星の周りに光の粒子が集まり出し、それは美しい【スターダスト】へと姿が変わる。

還ってきたモンスターの登場に周りは一気に騒がしくなる。

 

「俺のターン、ドロー」

 

遊星の場には【スターダスト・ドラゴン】と【レベル・スティーラー】、裏側守備の【ロード・ウォリアー】に伏せカードが1枚。

それに対し聖星の場には【魔導書院ラメイソン】と伏せカードが1枚。

だが手札は7枚だ。

 

「スタンバイフェイズ。

フィールド魔法【魔導書院ラメイソン】の効果発動。

墓地に存在する【魔導書】をデッキの1番下に戻し、カードを1枚ドローします」

 

「これで手札が8枚か……」

 

「はい。

俺は【セフェルの魔導書】を選択し、ドロー」

 

「この瞬間、罠発動!

【逆転の明札】!」

 

「【逆転の明札】……

って、あ」

 

遊星が発動した罠カードは赤と青い光に包まれているカードが描かれている。

【宝札】シリーズとよく似た名前通り、ドローに関係する効果を持つ。

当然聖星はそのカードの効果を知っており、遊星の手札と自分の手札を見比べた。

 

「【逆転の明札】は相手がドローフェイズ以外にカードを手札に加えた時に発動できる。

俺の手札が相手の手札と同じ枚数になるよう、デッキからカードをドローする」

 

「今、貴方の手札は0。

そして俺の手札は8枚……

って事は8枚ドロー?」

 

「そうなる」

 

そんな枚数を1度にドローするなど聞いた事もない。

モンスターを複数特殊召喚し、最後の1枚がまさかのドローカード。

しかも【魔導書の神判】で手札の枚数が増え、さらに【魔導書院ラメイソン】の存在により発動タイミングがいくらでもある状態で引いたのだ。

 

「…………貴方、本当にカードに愛されていますね」

 

「俺はカードを8枚ドロー!」

 

遊星がドローしたのを見届けた聖星はすぐに自分のカードを見た。

加わったのはモンスターカード。

しかし今この状況ではあまり必要とはしないだろう。

 

「俺は手札から永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動」

 

「【魔導書廊】?

(手札に【魔導書の神判】が存在するのに、それより先に魔法カードを発動させた?)」

 

【魔導書の神判】は発動ターンに発動した魔法の枚数までデッキから【魔導書】を加え、その枚数以下のレベルを持つモンスターを特殊召喚する強力なカード。

普通ならサーチする枚数を稼ぐために1番最初に【魔導書の神判】を発動するはずだ。

 

「このカードは【魔導書】が発動する度に魔力カウンターを1つ乗せます。

そして俺の場の魔法使い族はこのカードに乗っているカウンターの数×100ポイント攻撃力が上がります」

 

つまり聖星はデッキからくわえる枚数より、モンスターを倒す攻撃力を選んだのだ。

たかが100ポイントでもモンスター同士の戦闘となると馬鹿には出来ない。

【エトワール】を発動させた聖星は自分の前に立ちふさがる【スターダスト】を見上げる。

【星態龍】のお蔭か、精霊の存在に敏感になったため目の前のドラゴンが何を思っているのか手に取るようにわかる。

どうやら【スターダスト】も遊星に似ている聖星の存在に酷く驚いているようだ。

力強く、気高い姿しか知らなかったため意外な面に可愛いなと思ってしまう。

 

「攻撃力2500ですか……

しかも守護を司るドラゴン。

どうやって攻略しましょうか」

 

先程手札に加えた【ジュノン】では【スターダスト】との相性が最悪すぎる。

効果で戦えば一方的に【ジュノン】が敗れるだろう。

だが、それに臨機応変に対応できるのが【魔導書】の強みである。

 

「俺は手札に存在する【魔導書】を3枚見せる事で、手札から最上級モンスターを特殊召喚します」

 

「何っ!?

手札を見せるだけで最上級モンスターを特殊召喚出来るだと!?」

 

目を見開いて驚く遊星をよそに、聖星は手札に存在する【グリモ】、【セフェルの魔導書】、【魔導書の神判】を彼に見せた。

すると3枚のカードが場に現れ、それらから光が発せられる。

眩く、暖かい光はフィールドに巨大な魔法陣を描きさらに輝いた。

 

「絶望を打ち砕く、光を纏いし英知の祈り。

闇を照らし、一筋の希望を導け!」

 

淡い桃色の光は一気に空へと放たれ、薄暗い雲を裂き、さらに遠くにある青空まで貫く。

遥か遠い空まで続く光柱を見上げながら遊星はその中にいる魔法使いを凝視した。

 

「特殊召喚!

裁きの時は来た、【魔導法士ジュノン】!!」

 

バリン、とガラスが砕けるような音と共に柱は砕け散り中から桃色の髪を持つ女性が現れる。

彼女は品のある動作でその場に降り立ち、手に持つ書物を広げて遊星を見る。

 

「……それがお前のエースか」

 

「はい、彼女がこのデッキのエースです」

 

遊馬達の世界で手に入れた【ジュノン】。

彼女はどんなピンチでも聖星を助けに来てくれ、その小さな背中で聖星をどんな敵からも守ってくれた。

今日も小さい背中だが、今まで歩んできた経験のためかとても大きく感じる。

 

「俺は手札から速攻魔法【魔導書の神判】を発動。

エンドフェイズ、このターン発動した魔法カードの枚数までデッキから【魔導書】を加え、加えた枚数以下のレベルを持つ魔法使い族を1体特殊召喚します。

そして【グリモの魔導書】を発動し、デッキから【アルマの魔導書】をサーチします」

 

発動された【魔導書の神判】と【グリモの魔導書】はそれぞれ球体となり、フィールドに浮かぶ。

それが魔力カウンターを示すのだと遊星はすぐに気が付いた。

 

「次に【セフェルの魔導書】を発動。

【アルマの魔導書】を見せ、墓地に存在する【グリモの魔導書】の効果をコピー。

デッキから【ヒュグロの魔導書】をサーチ。

そして【ヒュグロの魔導書】を【ジュノン】に対して発動」

 

新たな【魔導書】が発動すると【ジュノン】が持つ書物は赤く輝きだし、それと共鳴するよう【ジュノン】も赤いオーラに包まれる。

【魔導書】はこれで4枚発動され、カウンターは4つ。

それで元々の攻撃力は2500のため、【ジュノン】の攻撃力は2900になると思ったが……

 

「攻撃力が3900まで上がった?

【エトワール】の効果だけではないのか?」

 

「【ヒュグロの魔導書】の効果です。

このカードは俺の場の魔法使い族モンスターの攻撃力を1000ポイント上げます」

 

「っ!?」

 

「さらに魔法カード【アルマの魔導書】を発動。

このカードはゲームから除外されている【魔導書】を1枚手札に加える効果です。

よって、俺は【グリモの魔導書】を加えます」

 

5枚目の【魔導書】が発動された。

聖星の目の前に黒い歪みが現れ、そこから1枚の魔法カードが戻ってくる。

そして役目を終えた【アルマの魔導書】はカウンターへと変わり、空中へと浮かんだ。

同時に【ジュノン】の攻撃力が3900から100ポイントプラスされる。

 

「攻撃力、4000……」

 

「行きますよ。

【魔導法士ジュノン】で【スターダスト・ドラゴン】に攻撃!

女教皇の裁き(ハイプリーステス・ジャッジメント)!」

 

【ジュノン】はゆっくりと呪文を唱え、手のひらに魔力を集める。

次第に大きくなっていった魔力は彼女の手から離れ、【スターダスト】の体を貫く。

攻撃の音に少し遅れて【スターダスト】の体は激しく爆発し、遊星のライフを1500も奪った。

 

「そして【スターダスト】を破壊した事で、【ヒュグロの魔導書】の第二の効果が発動します。

相手モンスターを破壊したとき、デッキから【魔導書】を1枚加えます。

俺は【ゲーテの魔導書】を手札に加えます」

 

「表示形式変更のカードか……」

 

「俺はカードを3枚伏せ、ターンエンド。

そしてこのエンドフェイズ時、【魔導書の神判】の効果が発動します。

このターン発動した魔法カードは4枚。

よって俺はデッキから【ネクロ】、【ヒュグロ】、【トーラ】の魔導書を手札に加えます。

そして【魔導教士システィ】を特殊召喚」

 

これで聖星の場の魔法・罠ゾーンがすべて埋まった。

遊星はそれの伏せカードを警戒するように見下ろし、特殊召喚された【システィ】に目をやった。

彼女は持っている剣を地面に突き刺し、祈るように膝をついた。

淡い光が【システィ】を包み込むと2枚のカードが現れた。

 

「俺は【ジュノン】と【魔導書の神判】を選択。

この時点で俺の手札は7枚なので【ブレイクスルー・スキル】を捨て、ターンエンドです」

 

「俺のターン!」

 

勢いよくカードを引いた遊星。

彼は9枚もある手札を見下ろし、ゆっくりと目をつむった。

と思えば目を開き、聖星を見る。

 

「行くぞ、聖星!

俺は手札から魔法カード【死者蘇生】を発動!

墓地に眠る【スターダスト・ドラゴン】を特殊召喚する!」

 

「させません。

カウンター罠、【神の警告】を発動します。

よって【スターダスト】は帰ってきません」

 

「ならば【ジャンク・シンクロン】を召喚!」

 

「はっ!」

 

破壊された【死者蘇生】の代わりに可愛らしい戦士族のモンスターが現れる。

オレンジ色のモンスターは【クイック・シンクロン】と同じくらい遊星が使っているチューナーモンスターで、思わず懐かしくなり頬が緩む。

 

「【ジャンク・シンクロン】の効果発動!

このカードが召喚に成功した時、墓地に眠るレベル2以下のモンスターを特殊召喚する!

来い、【スピード・ウォリアー】!」

 

「はぁ!」

 

【ジャンク・シンクロン】の隣に現れた【スピード・ウォリアー】は足を大きく開いて回転し、素早い動きでその場に着地する。

守備表示で特殊召喚されたため、そのまま【スピード・ウォリアー】は青色になる。

 

「さらに【ロード・ウォリアー】を反転召喚!

【ロード・ウォリアー】の効果発動!

デッキからレベル2以下の機械族、戦士族モンスターを1体特殊召喚する。

現れよ、【チューニング・サポーター】!」

 

再び【ロード・ウォリアー】は光の道を作り出す。

光に包まれながら現れたのはスカーフを巻き、シンクロ召喚に使用された際効果を発動する小柄のモンスターだ。

 

「【チューニング・サポーター】の効果発動!

このカードをシンクロ素材にするとき、こいつのレベルを2にする事が出来る!」

 

「レベル2……

【ジャンク・シンクロン】も含めてレベルの合計は……」

 

「俺はレベル1の【レベル・スティーラー】とレベル2の【スピード・ウォリアー】、レベル2となった【チューニング・サポーター】にレベル3の【ジャンク・シンクロン】をチューニング!」

 

4体の小柄のモンスターはそれぞれ宙に舞い上がり、非チュウーナーモンスターである3体は半透明となる。

それに対し【ジャンク・シンクロン】は3つの星と3つの輪へと姿を変え、3体のモンスターを包み込む。

 

「集いし闘志が怒号の魔神を呼び覚ます。

光さす道となれ!

シンクロ召喚!

粉砕せよ、【ジャンク・デストロイヤー】!」

 

「ハァッ!」

 

光の壁を中から打ち砕いたのは聖星が前のターンで予想していた魔神だった。

やはり出てくるのか、と思いながら【ジャンク・デストロイヤー】を見上げると黄色の目と視線が交わる。

 

「【チューニング・サポーター】はシンクロ素材になった時、デッキからカードを1枚ドロー出来る。

さらに【ジャンク・デストロイヤー】の効果発動!

このモンスターのシンクロ素材に使用したチューナー以外のモンスターの数までカードを破壊する!

シンクロ素材になったモンスターは3体!

よって、お前の伏せカード2枚と【魔導書廊エトワール】を破壊する!」

 

指定されたのは真ん中に存在する【エトワール】とその左右にある伏せカード2枚だ。

【エトワール】さえ破壊すれば【ジュノン】の攻撃力を下げる事が出来る。

【ジャンク・デストロイヤー】は両腕を前に突き出し、衝撃波のようなものを放った。

 

「タイダル・エナジー!」

 

自分の真横を通った衝撃波に【ジュノン】は驚き、後ろにある【エトワール】を見る。

 

「でしたらリバースカード、オープン。

速攻魔法【トーラの魔導書】を発動。

この効果により、このターン、【ジュノン】は魔法効果を受けません」

 

対象となってしまった3枚のうち1枚が表になる。

それには凛々しく【魔導書】を開く【ジュノン】が描かれていた。

女教皇に英知を託したカードにはゆっくりとひびが入り、そのまま砕け散ってしまう。

これで【ジュノン】は【エトワール】の加護を失い、攻撃力が2500に戻ってしまった。

デッキからカードをドローした遊星はそれを手札に加え、聖星を見る。

 

「この瞬間、【魔導書廊エトワール】の効果発動。

魔力カウンターが乗っているこのカードが破壊され墓地へ送られた時、このカードに乗っていた魔力カウンターの数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスター1体をデッキから手札に加える事ができます」

 

「何!?

【エトワール】に乗っていた魔力カウンターは5……」

 

「俺は【魔導戦士ブレイカー】を手札に加えます」

 

「ならば俺は【シンクロキャンセル】を発動。

【ジャンク・デストロイヤー】を選択し、墓地から【ジャンク・シンクロン】、【レベル・スティーラー】、【スピード・ウォリアー】、【チューニング・サポーター】を特殊召喚する!」

 

「…………え?

っていう事は……」

 

【シンクロキャンセル】は簡単にいえば【融合解除】の通常魔法かつシンクロモンスターバージョンだ。

遊星の墓地にはシンクロ素材が揃っており、彼の場に特殊召喚できる条件は満たしている。

 

「(もう1度【ジャンク・デストロイヤー】をシンクロ召喚出来るって事か……)」

 

聖星の場には2枚の伏せカードに【ジュノン】、【ラメイソン】。

また【ジャンク・デストロイヤー】を特殊召喚されれば確実に伏せカードと【ジュノン】を破壊されるだろう。

 

「来い!

【ジャンク・シンクロン】、【レベル・スティーラー】、【スピード・ウォリアー】、【チューニング・サポーター】!」

 

ジャンクの破壊者は黄色の光に包まれるとエクストラデッキに戻り、代わりに明るい音と共に4体のモンスターが特殊召喚された。

再びモンスターゾーンが並んだ光景に、聖星は自分のデュエルディスクを見下ろす。

伏せカードを使えば遊星が行おうとしているシンクロ召喚は防ぐ事が出来る。

だがこのデュエルでは手加減をするつもりなので使うべきか否か迷ってしまうのだ。

 

「(難しいな~

ま、父さんの場には【ロード・ウォリアー】もいるんだし、やってみるか)

モンスターの特殊召喚時、リバースカード、オープン。

速攻魔法【ゲーテの魔導書】」

 

「何!?」

 

発動されたのは3人の魔法使いが向かい合っている速攻魔法。

先程のターン、このカードの効果で【ロード・ウォリアー】は守備表示となり攻撃を行えなかった。

シンクロ素材が揃っている今のタイミングで、表示形式を変更するというのなら真っ先に狙われるのはチューナーモンスターである【ジャンク・シンクロン】の可能性が1番高い。

 

「墓地の【魔導書】を3枚除外して、場のカードを1枚除外します」

 

「どういう事だ!?

そのカードは相手モンスターの表示形式を変更する効果じゃないのか!?」

 

「【ゲーテの魔導書】には3つの効果があります。

1つ目は1枚除外して伏せカードを手札に戻す。

2つ目はモンスターの表示形式の変更。

3つ目はモンスターをゲームから除外する効果です」

 

「墓地に左右されるが、その時の状況によって最適な効果を選べるというのか…………」

 

「俺は【ジャンク・シンクロン】を選択します」

 

「くっ……!」

 

【ジャンク・シンクロン】の目の前に漆黒の歪みが現れ、【ジャンク・シンクロン】は驚いて逃げようと走り出す。

しかし強い吸引力で【ジャンク・シンクロン】はあっさりとその歪みに吸い込まれてしまった。

これで遊星は【ジャンク・デストロイヤー】をシンクロ召喚する事は出来ない。

それにこのターン彼はすでに通常召喚も行っており、【クイック・シンクロン】も墓地に存在するためこれ以上チューナーモンスターは出てこないはずだ。

 

「(あと警戒するのは【ワン・フォー・ワン】による【ターボ・シンクロン】の特殊召喚かな)」

 

「ならば俺は手札から魔法カード【武闘演舞】を発動!」

 

「あ」

 

しまった、その手があったか。

遊星が発動したカード名に【ジャンク・シンクロン】は除外ではなく、裏側守備の方が良かったと後悔する。

 

「俺の場にシンクロモンスターが存在する時、シンクロモンスター1体を選択して発動する!

そのモンスターと同じ種族・属性・レベル・攻撃力・守備力を持つ【ワルツトークン】1体俺の場に特殊召喚する!

俺は【ロード・ウォリアー】を選択!」

 

「ハッ!」

 

魔法カードの効果を得た【ロード・ウォリアー】は2つの存在に分裂する。

オリジナルの【ロード・ウォリアー】は綺麗な黄銅の輝きを放っているが、コピーである【ワルツトークン】は全体的に白色のモンスターだ。

 

「行くぞ!

【ワルツトークン】で【魔導法士ジュノン】に攻撃!」

 

「ハァア!」

 

【ワルツトークン】はその薄暗い目を一瞬だけ輝かせ、後ろについてあるブースターで加速する。

激しい炎を吹き出しながら向かってくる相手モンスターに【ジュノン】は周りに魔法陣を描き、応戦しようとする。

淡い色の魔法陣から無数の魔弾が放たれ【ワルツトークン】を破壊しようと向かっていく。

しかし【ワルツトークン】は全ての魔弾をかわしきり、【ジュノン】をその鋭い爪で切り裂いた。

 

「っ【ジュノン】!」

 

切り口から爆発した【ジュノン】に聖星は叫ぶ。

するとその煙の向こう側に赤い目が光り、聖星は身構えた。

 

「【ワルツトークン】との戦闘では互いにダメージはない……

だが、俺の場にはまだモンスターは存在する。

【ロード・ウォリアー】!!!」

 

遊星の叫び声と同時に煙の中から【ロード・ウォリアー】が現れ、標的である聖星に狙いを定める。

自分の数倍もある大きさを持つモンスターの姿に聖星は両腕を下ろし、ゆっくりと目を閉じた。

その様子に遊星は目を細め、お腹の底から叫ぶ。

 

「ライトニング、クロォオオオオ!!!」

 

漆黒の爪を光らせた【ロード・ウォリアー】は一気に加速し、聖星を貫いた。

耳に届くライフカウンターが減る音に聖星は小さく呟いた。

 

「…………良かった」

 

彼の呟きは誰にも届かなかったようで、代わりにチームメイト達は聖星の敗北に目を見開いていた。

 

「…………聖星が負けた?」

 

「……マジかよ?

だって【ジュノン】も【魔導書の神判】も使ったんだぜ?」

 

微かに聞こえる震えた声に聖星は振り返る。

1人1人チームメイトの顔を見渡したが、皆聖星の事を信じていたのか負けた事実を受け入れられないようだ。

ついこの間出会ったのに、デュエリストとしてここまで信用されていたと思うと本当に申し訳ない。

寂しそうな眼差しでチームメイトを見ている聖星に遊星は声をかけようとした。

 

「【ジェネティック・ワーウルフ】で攻撃だ!!」

 

「【アーマード・ウィング】でダイレクトアタック!!」

 

「【ツイン・ブレイカー】、ダブル・アサルト!!」

 

次々に聞こえてくる仲間の声とデュエルディスクの爆発音。

そういえば、聖星の事に動揺するあまり彼のデュエルディスクに手錠をはめるのを忘れていた。

どうやらこの勝負はチーム・サティスファクションの完勝のようである。

 

「さぁて、チーム・ブルーウルフさん。

今日からこの地区は俺達チーム・サティスファクションが仕切る。

分かったな?」

 

「……あぁ。

約束だ」

 

鬼柳の相手をしていたのはこのチームの頭であるアーサーだ。

敗北した事により地に突っ伏しているアーサーは悔しそうにゆっくりと頷いた。

この地区も制覇し、自分達の目標にまた1歩近づく事が出来た。

 

「ところでよ、遊星。

聖星はどこ行ったんだ?」

 

「何!?」

 

クロウの言葉に遊星は慌てて先ほどまで彼が立っていた場所を見る。

そこには聖星の姿はなく、見渡しても自分とよく似た髪型を見つける事が出来ない。

 

「そんな……

いない、だと?」

 

確かにさっきまではそこにいたのだ。

敗北により膝をついている仲間を見つめ、寂しそうな背中を遊星に向けていた。

それなのに何処にも見当たらない。

遊星は焦りから険しい表情になり、近くにいるチーム・ブルーウルフのメンバーを掴んだ。

 

「おい、彼はどこにいった!?」

 

「し、知らねぇよ、少し目を離したらどっか行ってたんだ!」

 

彼も遊星同様、仲間の決着に気が向いていたようで気が付いたときにはいなかったようだ。

それを聞いた遊星はさらに顔を歪ませ、もう用はないとでも言うように彼を地面に叩き付けた。

 

「どうした遊星、クロウ」

 

「あいつがよ、少し目を離したらいなくなっちまったんだ!」

 

「何だと?」

 

「なっ、マジかよそれ!」

 

傍に寄ってきた鬼柳とジャックも周りを見渡す。

確かに彼の言う通り遊星に似た少年は何処にも見当たらない。

他のチームメイト達に目を向けるが、彼らもどこに行ったか分かっていないようだ。

彼らが混乱している間、当の聖星は…………

 

「さて、服も着替えたし……

なんか帽子代わりになりそうなものないかな」

 

チーム・ブルーウルフのアジトに置いてある自分の服に着替えていた。

あのままチームの証である服装を着ていては例え逃げても簡単に見つかってしまう。

だから着替えたのだが、彼らのコスチュームと違い、聖星の服は綺麗すぎてこの地区では目立ってしまう。

 

「(ま、この場しのぎにはなるかな)」

 

そのまま聖星は逃げようとした。

だが不意に足が止まってしまう。

 

「(……でもさ、ここで逃げて……

…………これから俺どうすれば良いんだ?)」

 

ここ数日はアーサー達の暮らし方を観察し、サテライトでの生活は少しだけ学んだ。

【星態龍】が何処にいるのか分からない今、もう少しここで暮らす必要性が出てくる。

だがこの数日で学んだ知識だけで自分は生きていけるだろうか。

 

「(ま、まずはここから離れて……

壊れた部品を使ってPCを組み立てないと。

それから情報を収集しないと今後の事は分からないしな)」

 

元々アーサー達と出会う前は自力でどうにかしようと決めていた。

その日に彼らと出会い、伸びただけ。

生活するのに必要な知識は多少身につけたし、これからももっと身につければ良い。

 

「(誰かの世話になるっていうのもありだけど、父さんのところは論外だな。

あのまま父さんのところにいたら未来に影響される可能性があるし。

あ、でもどうしよう。

俺ついノリで名乗っちゃったよ)」

 

流石に漢字までは教えていないが、呼び方を教えてしまった以上遊星が未来でその名をつけるのか怪しい。

いや、むしろここで名乗ったからつけたのか?

だがあの遊星が誰とも分からない少年の名前を息子につけるだろうか。

知らず知らずのうちに自分を追い込んでいたことに気付いた聖星はまた頭を抱えた。

 

「(ダークシグナーとの戦いの後なら、正直に話してもある程度は理解を得られたかもしれないけど、今は絶対に無理だよな)」

 

父がオカルトや非現実的な現象に巻き込まれたのは18歳の時。

今の遊星の年齢は分からないが、あれほどやんちゃな事をしているのだからもう少し若いはずだ。

 

「……今は逃げ切る事を優先するか」

 

自分に言い聞かせるように呟いた聖星はその場から立ち去った。

 

END




Q聖星はアストラルを助けるため遊馬達と一緒に動かなかったの?
A最終回のアストラルVS遊馬のデュエルを見届け、ヌメロン・コードでシャーク達が生き返った後すぐに帰りました。

Q聖星は遊星の黒歴史を知らない?
Aサテライトの時暴れまわった事は聞いていますが、あんなダサい服を着ていたことは聞いていません。遊星自身話したくないでしょう。

Q【星態龍】どこいったし?もしかして彼だけ未来に帰った?
Aいえ、ちゃんと同じ世界、同じ時代にいます。それでとある人物に拾われています。囚われのお姫様(笑)状態ですよ。

Qこれ聖星が本気でやってたらどっちが勝ってた?
A遊星です。主人公補正ぱねぇ、という意味で遊星です。

Q遊星との約束を破って逃げるなんて…お前それでもデュエリストか!?
A約束なんてしていません、遊星が一方的に言ってきているだけです。聖星は承諾していません。だが拒否もしていないのでそう罵られても仕方がありません。

Q今後この子どうする気?
Aまぁ、あくまでイフストーリーなので深く考えていないですが…ダグナー編が終わるまでは未来には帰られません。


あと、遊星達が満足するため暴れまわっていたのって本編開始から3年前でしたっけ?
そこがいまいち分からないんですよ。
ジャックがスタダとDホイを奪ったのが2年前ですから…
まぁ3年前かな、と。
違ったらどーしよー。


さて、【竜星】デッキを組むか。
ネクストチャレンジャーズのお蔭で【竜星】軸と【メタファイズ・アームド・ドラゴン】軸が出来そうですね。
くっそ、聖星のデッキは【ジャンク竜星】のつもりだったのに【メタファイズ・アームド・ドラゴン】さんも良いような気がして来た。
今後の小波に全裸待機ですね。


あと聖星の姉ちゃんと幼馴染組の子供もイフストーリーで出したい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界よただいま、有名人の身内は大変です★

主人公が満足時代にタイムスリップしたら、というif story.
前回の続きになります。


「見つけたぜ、聖星!!」

 

「あぁ!!

しつこい!!」

 

廃墟が建ち並ぶサテライトのどこか。

無法地帯として有名なこの場所はとある事が切っ掛けで落ち着きを取り戻した。

それは各地区を支配していたデュエルギャング達が倒され、1つのチームが統一したからだ。

そんなサテライトで聖星はとある青年に追いかけ回されている。

 

「おらよっ!!」

 

「ヒッ!」

 

背後から迫ってくる青年は手錠のようなものを取り出し、それを聖星に向かって投げつける。

手錠は聖星の目の前にある配管にぶつかり、大きな金属音を立てた。

目の前で鳴った金属音に心臓が大きく跳ね上がった気がする。

反射的に振り返れば必死の形相を浮かべる鬼柳が迫ってきていた。

 

「逃げるんじゃねぇ!」

 

「逃げますよ!!」

 

近くの壁を乗り越えて、崩れかかっている民家に飛び移る。

足場はかなり悪いが、鬼柳に追いつかれるわけにはいかないのだ。

 

「何でそんなに俺に構うんですか!」

 

「そんなのお前と遊星を会わせるために決まってるだろ!」

 

「(ですよねー!!)」

 

そう、面倒な事に鬼柳達は聖星と遊星を生き別れの兄弟と勘違いしているのだ。

聖星は未来からきた遊星の息子なので、似ているのは当然のこと。

しかしそれを知らない彼らからしてみれば、遊星と似ている少年を生き別れの弟と勘違いしてもおかしくはない。

勘弁してくれと心の中で呟きながら、聖星は民家の中に入る。

 

「っ、待ちやがれ!!」

 

民家の中に逃げた聖星を追いかけて鬼柳も急いで中に入った。

しかしここに住民はいないようで、中は酷い有様である。

壊れた机にボロボロの布、歩けば床に靴の跡が残るほど埃まみれだ。

足跡を追えば壊れた窓から外に出たようだ。

 

「ちっ、外に逃げたか!」

 

荒い音を立てながら鬼柳は窓から飛び出し、周りを見渡して聖星の姿を探す。

しかしそれらしい少年の姿形もない。

誰かが逃げる足音も工場の騒音で聞こえない状態だ。

再び見失ってしまったことに鬼柳は唇を噛みしめ、近くにあった壁を思いっきり殴る。

 

**

 

肩を落としている鬼柳は重い足を動かしながらアジトへ向かった。

いつ見ても綺麗とは言えないアジトはいつもより小汚く思えてしまう。

どうにもならないが頭を大きく振り、扉を開くと皆の視線が集まる。

 

「お、鬼柳。

遅かったじゃねぇか」

 

「集合の時間は過ぎているぞ」

 

あまり汚れていないカードを整理しているクロウは手を上げて笑みを向けてくれる。

ジャックは両腕と両足を組んで窓から海を眺めていたようだ。

そして遊星はデュエルディスクのメンテナンスをしており、何も口にしなかったが気を許した者にしか見せない顔を浮かべている。

ぎこちない笑みしか浮かべられない鬼柳は、ぽつりと先程のことを話した。

 

「……聖星を見かけた」

 

「何!?」

 

「彼をか!?」

 

「悪い、遊星。

見失っちまった」

 

鬼柳の口から出た名前に遊星は目をも開くが、すぐにその顔から激しい感情はなくなる。

目の前にいるリーダーは明らかに顔色が悪く、声のトーンも重苦しい。

そんな彼の内に渦巻く思いを察してしまった以上、何も言えなくなってしまう。

 

「気を落とすな。

俺達は同じサテライトにいるんだ。

いつかまた聖星と会える」

 

「あぁ」

 

遊星からの励ましの言葉になんとか鬼柳は笑った。

聖星を追いかけるために体は疲れ切っており、だんだんと空腹を訴えてくる。

椅子に腰を下ろした鬼柳は小さく唇を噛みながら、机の上に置いてある食料に手を伸ばす。

 

「サテライトを統一できたってのに、遊星と弟を会わせる事が出来ねぇなんて情けない話だぜ」

 

小さくついたため息に、隣に座っているジャックが言う。

 

「そう焦るな、鬼柳。

遊星の言うとおり、奴がサテライトにいる限り俺達はまたどこかで出会う」

 

「おう」

 

**

 

一方、聖星は目の前に広がるジャンクに手を伸ばしていた。

もう使うことは出来ない冷蔵庫やライト、まだまだ使えそうな電卓や洗濯機等が積み上がっている。

内蔵されている基板を1つ1つ取り外し、使えるものはないか模索する。

 

「う~ん、これとこれで使えるか?」

 

HDDはなんとか綺麗なものを見つけた。

ディスプレイは少しヒビが入ったもの、キーボードはキーが壊れ、剥がれているものを手に入れた。

情報を集めるためのPCが完成するのはまだまだ先のようだ。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。

何かあった?」

 

頭上から聞こえた声に顔を上げると、髪がぼさぼさな子供達が覗き込んでいた。

顔にマーカーが刻まれているこの子供達は聖星が最近お世話になっている子達でもある。

どこに盗人がいるか、騙されるか分からないサテライトでは警戒心なく話せる相手は貴重なのだ。

 

「あぁ、綺麗な部品がたくさん見つかったよ。

今日はご馳走を食べられるかもね」

 

「本当!?」

 

「今日はパン食べられる?」

 

「あぁ。

あと、スープも飲めるぞ」

 

「やったぁ!」

 

ジャンクの上ではしゃいでいる子供達は慣れたようにジャンクの山を飛び跳ねる。

危ないと声をかけそうになるが、ここは彼らにとって貴重な遊び場でもある。

毎日遊んでいるだけはあり、全く転んだり怪我をしたりする様子がない。

はっきり言って心配するだけ無駄だ。

 

「じゃあ、俺はもう少しこの山から使えそうな部品を探すから。

皆はあっちで遊んで良いよ」

 

「「はーい!」」

 

嬉しそうに笑う子供達の背中を見送り、聖星は再び作業に戻った。

ガチャガチャと音を立てながら奥にあるゴミを引っ張り出す。

たまたま掴んだドライヤーを分解し、モーターを取り出す。

その中から再利用できそうな、または売れそうな部品だけを取り出し、今日の収穫品をリュックの中に詰める。

それから場所を変え、子供達と手を繋いでサテライトの闇市へと向かった。

 

「あれ、お兄ちゃん。

足引きずってるよ」

 

「ん?

あぁ、さっき走るときこけちゃってね。

一晩放置しておけば治るよ」

 

「そう?」

 

昨日までは怪我をしていなかったので、恐らく今日足を挫いたのだろう。

鬼柳に追いかけ回されたことを知らない子供達は心配そうな眼差しで聖星と彼の足を交互に見る。

 

「こんにちは」

 

「こーんにちはー!」

 

「あぁ?」

 

薄暗く、オレンジ色の蛍光灯が照らす店に顔を出せば、厳つい顔の男性が低い声で振り返る。

マーカーだらけのその顔に2人の子供は聖星の後ろに隠れるが、他の子達は聖星のように暢気な挨拶をする。

男性は最近顔なじみになった少年達の姿に「やっと来たか」と表情を変えた。

 

「すみません、おじさん。

この部品、どれくらいになりますか?」

 

「今日も大量に持ってきたな」

 

目の前に迫ってくる度に地面が揺れる感覚を覚えるが、聖星は顔色一つ変えずに今日の収穫を差し出した。

男性は顎に手を当てて部品を1つ1つ観察すると、胸元のポケットからいくつかの貨幣を取り出した。

 

「ほらよ」

 

「ありがとうございます」

 

指で弾かれた貨幣をキャッチすると聖星は子供達を連れて食料の調達に向かう。

先程の闇市は機械の部品や雑貨系が中心だが、これから向かうところは食料専門のところだ。

明らかに腐っているものや、これは本当に食べることが出来るのか疑ってしまうものばかり売られている。

しかし、食べなければ生きていけない。

子供達は今日の晩ご飯について和やかに話しながら聖星の後を追っていた。

背後から聞こえる可愛らしい声に耳を傾けていると、目の前にいる集団に足を止めた。

 

「お兄ちゃん?」

 

「どうしたの?」

 

突然止まったことに疑問を抱いた彼らは、釣られて真正面を見るが、同時に彼らの表情は恐怖に染まる。

そこにいたのは鉄パイプやバッド等を持ち、顔にいくつもマーカーを刻まれている男達だ。

普段なら面倒なのがいると思って目を合わさないよう通りすぎるが、今回はそうはいかないようだ。

彼らは下品な笑みを浮かべながら聖星を見ている。

 

「お、お兄ちゃん……」

 

「皆はおじさんの所に行くんだ。

良いね?」

 

「でも…」

 

「お兄ちゃん1人じゃ無理だよ」

 

震える声で必死に服を引っ張る子供達の頭を撫でる。

 

「大丈夫、あのこわーいおじさんが来たらすぐに解決するさ。

なんたってあの人、凄く恐いからね」

 

「う、うん……」

 

小さく頷いた子供達は大人達の視線に脅えながら来た道を走っていく。

聖星はその背中を見届けることはなく、真っ直ぐと男達を見据えている。

デュエルディスクを身につけていないところをみるとデュエルで解決出来そうにもない。

さて、この痛む足でどこまで対応出来るのだろうか。

 

**

 

さて、敗因は何だろうか。

いや、何故彼らが自分にこのような事をするのか、その理由を探るのが先か。

薄暗い部屋に手を縛られている聖星は小さく咳き込む。

痛む足や腹部、頭に吐き気を覚えながら目の前にいるリーダー格を睨み付けた。

 

「とりあえず、どうして俺はこんな目に遭ってるのか……

俺、貴方に恨みを買うような真似をした覚えはないんですけど」

 

「はははっ、確かにそうだな。

まずは自己紹介からだ。

俺はチーム・ロイグネンのリーダー、ケリー。

お前の兄貴にちと用があってなぁ」

 

古びた椅子に座ってふんぞり返っている男は腕を組みながら笑う。

周りにいる男達も相変わらず下品な笑みを浮かべている。

大柄な男の口から語られた理由になんとも言えない気持ちになる。

同時にサテライトに来て間もない自分が狙われた理由に納得がいった。

 

「俺を捕まえてどうするつもりだ」

 

「決まっている。

チーム・サティスファクションをおびき寄せるんだよ。

お前があの不動遊星の弟だっていうのは確認済みだ。

しかも、何故か逃げ回っているそうじゃねぇか。

どうした、兄弟喧嘩でもしたのか」

 

「こっちにもこっちの事情があるんだよ」

 

自分の両腕の自由を奪っている手錠は意外と頑丈そうで、試しに腕を動かしたがそう簡単に外れる気配はない。

尤も、この状況で両腕を使えても逃げ切れる確証はないが。

しかし遊星を徹底的に避けている身としてはこの状況はかなり不味い。

父と接触するよりも、自分のせいで父が危ない目に遭うのは嫌だ。

 

「どんな事情かは知らないが、少しは自分の立場ってのを考えた方が良いぜ。

お前の兄貴に恨みを持つ奴はサテライトにいくらでもいるってな」

 

「……次からは気をつけるよ」

 

ケリーからのありがたい忠告に聖星は肝を煎る。

 

「それにしてもこいつのデュエルディスク、あまり見かけないタイプだな」

 

「っていうか初めて見るな」

 

「っ!」

 

背後から聞こえた声に振り返ると、男達が聖星のDパッドを興味深そうに見ている。

今のサテライトで主流なのはシティでは古いと言われている初期のデュエルディスクだ。

それしか知らない彼らからしてみれば遊馬の世界で手に入れたDパッドは珍しいものだろう。

 

「モニター部分がでけぇな。

なんだ、若いのにもう老眼か」

 

「お、何だこれ。

文字が表示されたぞ」

 

聖星達が使うDパッドは教科書の役割も果たしている。

まともに学校に通ったことがない彼らには表示されている内容を理解出来ないだろう。

使い方をまともに知らない男達が操作する姿を見ながら、触るなと声を荒げかけた。

だがすぐに言葉を飲み込み、唇を噛んで耐えた。

もしそんなことをすれば壊されるに決まっている。

肝が冷えるのを覚えながら壊さないでくれと心の中で祈った。

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「外が騒がしくないか?」

 

「何?」

 

Dパッドに興味を示さなかった男が隣の男に声をかける。

男の疑問は回りに伝染し、彼らは唯一の出入り口である扉に目をやった。

すると錆だらけの扉が激しい音を立てて突き破られる。

 

「ぐわっ!!」

 

「うぐっ!」

 

激しい音を立てながら部屋に突き飛ばされた男は白目をむいており、倒れたと同時に埃が舞い上がる。

相当な量のようで聖星や男達は激しく咳き込む。

窓から差し込む工場の光が逆行となり、侵入者の姿を照らし出した。

 

「彼から離れろ」

 

ゆっくりと部屋に侵入する足音と共に聞こえてきたのは地を這うような青年の声だ。

そちらに顔を向ければ怒りを露にしている遊星の姿があった。

 

「え、嘘……」

 

「来るの早すぎだろう!」

 

想定外の到着の早さに男達は咄嗟に聖星の前に出た。

そんな行動を取られた遊星は縛られている聖星を見て眉間に皺を寄せ、ケリーを睨み付ける。

 

「お前の目的は俺なんだろう?

さっさと構えろ」

 

「弟想いの兄貴だなぁ。

仲間を引き連れていないところを見ると、相当慌てて来たのか。

こっちとしては好都合だ」

 

デュエルディスクを構える遊星に対し、ケリーも子分からデュエルディスクを受け取る。

遊星とデュエルで決着をつけようとしている彼に、聖星は思わずじゃあ俺の時もデュエルしろよと心の中で悪態をつく。

デュエルの邪魔にならないよう子分達は部屋の隅に寄った。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は俺が貰う、ドロー」

 

先攻になったのは遊星である。

彼は手札に加わったカードを見て、表情を変えずにそのカードをデュエルディスクにセットする。

 

「【シールド・ウォリアー】を召喚。

カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「はっ!」

 

カードをディスクにセットすると、カードに描かれている【シールド・ウォリアー】が召喚される。

彼はその場に膝を付いて自分の盾を前に出す。

その守備力は1600と低くもないが、高くもない数値である。

 

「俺のターンだ、ドロー!

俺は手札から【スクリーチ】を守備表示で召喚!」

 

「ゲゲゲ」

 

召喚されると同時に不気味な声を上げたのは表現しがたいモンスターだ。

目と鼻がなく、大きな口と足しか持たない【スクリーチ】は威嚇するように声を上げた。

初めて見るモンスターに聖星は首を傾げ、遊星は次のどのような行動を移るのか警戒する。

 

「さらに【強制転移】を発動だ!」

 

「なに?」

 

「お前のモンスターは俺が頂くぜ!」

 

遊星は慌てて【シールド・ウォリアー】を見ると、彼らのモンスターは黄色の光に包まれ、一瞬で位置が入れ替わる。

ケリーは自分の場にやってきた【シールド・ウォリアー】の攻撃力を確認し、口角を上げた。

 

「攻撃力は800か。

それなら使えるぜ、【シールド・ウォリアー】で【スクリーチ】に攻撃だ!」

 

攻撃表示になった【シールド・ウォリアー】は槍を構え、【スクリーチ】にその槍を突き刺した。

守備力が400しかない【スクリーチ】は抵抗する間もなく破壊される。

 

「この瞬間【スクリーチ】の効果を発動する!

このカードが墓地に送られたとき、俺のデッキから2枚の水属性モンスターを墓地に送るぜ」

 

「1度に2枚のモンスターだと!?」

 

「俺は【フラッピィ】を2枚送る」

 

ケリーが墓地に送るために選択したのは七色に輝くスライムが描かれている2枚のカード。

レベル制限がないようなので上級モンスター、もしくはチューナーを送るかと思ったが違うようだ。

聖星同様、遊星も怪訝そうな顔をしており思わず声を漏らしてしまう。

 

「何?

レベル2のモンスターを2枚墓地に送るだと?」

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターンだ」

 

カードを引いた遊星はちらりと聖星を見る。

薄暗い部屋だから彼のはっきりとした顔色は分からないが、この男達の性格を考えると暴行を加えられているのは確かだろう。

もっと早く再会していれば彼をこのような目に遭わせずに済んだかもしれない。

臍をかむ思いを内に秘めながら遊星は1枚のカードを掴んだ。

 

「手札から【ボルト・ヘッジホッグ】を墓地に送り、チューナーモンスター【クイック・シンクロン】を特殊召喚する。

そして墓地に存在する【ボルト・ヘッジホッグ】を特殊召喚!」

 

「ハッ!」

 

「チュゥ!」

 

青い光が遊星の場に現れたと思えば、その光は赤いマントとなり、そのマントを翻してカウボーイ風のモンスターが姿を現す。

遅れて隣に特殊召喚されたのはたくさんのネジを背負ったネズミのモンスターだ。

1人と1匹はアイコンタクトを交わし、お互いの考えに小さく頷いた。

 

「1度に2枚のモンスターだと!?

しかも片方はチューナーモンスター……」

 

目の前に並ぶモンスターの特性を考え、この後に起こる事を想像した。

それは他の男達や聖星も同じようで、デュエルに釘付けになっている彼らは頭上から近づく者達に気がつかなかった。

気がついたときには遅く、屈強な男が醜い声を上げて地面に倒れる。

 

「ぐえっ」

 

「な、何だ!?」

 

「まさか!?」

 

床に転がった仲間の姿に男達は驚き、薄暗い室内を見渡す。

すると目の前に拳が迫り、同時に勢いよく殴り飛ばされた。

殴られた衝撃と壁にぶつかった衝撃に男は伸びきってしまい、ゆっくりとその場に座り込んだ。

 

「よっと、いっちょ終わり」

 

両手を軽く叩きながら爽やかに笑った少年は遊星に振り返り、元気な笑みを浮かべた。

 

「遊星、こっちは片付けたぜ。

遠慮することはねぇ、そんな卑怯者、一気にぶっ飛ばしちまえ!」

 

「クロウ!」

 

顔にマーカーが刻まれているクロウの姿に聖星は開いた口が塞がらなかった。

一体どこからと疑問に思っていると、天井の穴からジャックと鬼柳が降りてくる。

膝を付いて着地したチーム・サティスファクションのメンバーにケリーは吠えた。

 

「テメェら!」

 

「おっと、そう興奮するなよ」

 

今すぐデュエルを捨てて襲いかかってきそうなケリーに鬼柳は待ったをかけた。

なんたって今はデュエルの真っ最中。

ここで暴力に走ってしまえば彼らと同じ存在になってしまうからだ。

 

「安心しろ、デュエルの邪魔はしない。

もしお前が遊星に勝てばこの場は見逃してやる。

どうだ、こんな状況だ、お前にとってはいい話だろう?」

 

「……」

 

鬼柳達の足下に転がっているのは自分の子分達。

顔が腫れ、意識が飛んでいる彼らの様子を見る限り、彼らを囮にして逃げるという選択肢は自然と消える。

鬼柳から持ちかけられた条件にケリーは納得したようで、小さく舌打ちをしてから遊星に向き直った。

 

「デュエル続行だ!」

 

聖星の安全が確保されたことで余裕が出来たのか、遊星はケリーを真っ直ぐに見る。

滅多に浮かべない表情でデュエルをする幼馴染みにジャックは小さくため息をついた。

クロウは聖星の背後に回り、手錠を外す。

 

「ほら、外れたぜ」

 

「ありがとうございます……」

 

「どこか痛むところあるか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

反射的にそう答えるとクロウが真顔になる。

一変した表情に、答えを間違えたと悟った聖星は思わず身構える。

すると軽く背中を叩かれ、体に激痛が走った。

 

「っ~~!!」

 

「で、どこが痛む?」

 

「っ、ちょっと!

酷くないですか!?」

 

「うるせぇ、隠そうとするお前が悪い。

ガキ共の方がもっと素直に言うぜ」

 

どうやら相当痛かったようで、聖星はクロウを睨み付けて声を荒げる。

当の本人は手をヒラヒラとさせながら正論を述べた。

何も返せない聖星は言葉を飲み込み、遊星とケリーのデュエルに目を向ける。

 

「行くぞ!」

 

遊星のかけ声と共に【クイック・シンクロン】が宙に舞い上がり、それを【ボルト・ヘッジホッグ】が追いかけていく。

【クイック・シンクロン】は5つの星と緑色の輪になり、共に戦う【ボルト・ヘッジホッグ】に自分の力を注ぎ込む。

 

「集いし思いがここに新たな力となる。

光さす道となれ、シンクロ召喚!」

 

遊星のフィールドを中心に風が吹き荒れ、その風は熱を持ち始める。

その風を吹き飛ばすほどの轟音が室内に鳴り響き、消えゆく音の代わりにエンジン音が聞こえてくる。

同時に2体のモンスターがいたフィールドに緑色の戦士が君臨した。

 

「燃え上がれ、【ニトロ・ウォリアー】!」

 

黄色の瞳を持つ戦士は目の前にいるケリーを見下ろし、時々自由を奪われている聖星へと目をやった。

何が起きたのかすぐに察したようで大きな手には自然と力が入る。

目の前のモンスターの様子に気がつかないケリーは、攻撃力2800のモンスターを特殊召喚されたのに笑い始めた。

 

「ついに来たか、不動遊星のシンクロモンスター!

だが、そう簡単にはいかないぜ。

罠発動【激流葬】!」

 

「なっ!?」

 

「さぁ、俺達の場から消えろ!」

 

ケリーが発動したのはモンスターの召喚・特殊召喚をトリガーとするモンスター破壊の罠。

今彼らの場に存在するのは【ニトロ・ウォリアー】のみ、よって遊星のモンスターだけが破壊される。

表側表示になった【激流葬】のカードから膨大な量の水が流れだし、【ニトロ・ウォリアー】を飲み込んでいく。

 

「更にリバースカード発動だ!

【グリード・グラード】!」

 

「あのカードは」

 

発動されたカードに身に覚えがあるのか、鬼柳は面倒くさそうな顔をする。

ケリーの場に1つの壺が現れ、壺は不気味な笑い声を上げた。

すると壺の中から2枚のカードが取り出される。

 

「【グリード・グラード】、こいつはシンクロモンスターが破壊されたとき、デッキからカードを2枚ドロー出来る」

 

「【シールド・ウィング】を守備表示に召喚。

カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「良かったな、通常召喚が残っていてよ。

行くぜ、俺のターンだ!

俺は手札から【フェンリル】を特殊召喚する!」

 

「ワオォン!」

 

場に特殊召喚されたのは墓地の水属性モンスターを除外することで特殊召喚出来る【フェンリル】だ。

ケリーは2枚存在する【フラッピィ】の1枚を除外し、この青い狼を喚んだようだ。

 

「さらに永続魔法【異次元海溝】!

場の【フェンリル】、手札の【フラッピィ】、墓地の【スクリーチ】を除外するぜ」

 

「え?」

 

場に現れたカードに描かれているのは深海で地面が割れている景色だ。

ジャックやクロウ達は初めて見るようで、どのような効果かと考えている。

しかし聖星はその名を知っており、懐かしそうな顔をした。

それに気がついた鬼柳は聖星と同じ目線まで屈んで尋ねる。

 

「何だ、聖星。

お前、あのカード知ってるのか?」

 

「え?

あぁ、はい。

【異次元海溝】、あれは手札と墓地、フィールドから1体ずつ水属性モンスターを除外するカードです。

ただ除外するだけじゃありません。

【異次元海溝】が破壊されたとき、除外されたモンスターを場に特殊召喚します」

 

「つまり、自分で破壊してモンスターを大量展開するのが目的ってところか」

 

「恐らくは」

 

除外されたモンスターの中にチューナーモンスターは存在しない。

通常召喚権を用いて、チューナーモンスターを召喚し、【異次元海溝】の効果でモンスターを帰還。

シンクロ召喚で高レベルモンスターを喚ぶという考えだろう。

しかしジャックは顎に手を当てて怪訝そうな顔をした。

 

「天井裏でデュエルの様子を見ていだが、何故あの男は【フラッピィ】を2枚墓地に落とした。

それと、既に手札に【異次元海溝】を破壊する手段があるのなら、通常召喚したモンスターを除外すれば良いだけの話。

わざわざ二度と戻ってこない【フェンリル】を選択する意図が理解出来ん」

 

もしかすると、手札に通常召喚出来るモンスターが存在しないのだろうか。

しかし、それなら場ががら空きになるような真似をする。

様々な可能性に思考を張り巡らせていると、ケリーが新たな魔法カードを発動した。

 

「そして【愚かな埋葬】を発動。

俺はデッキから【スパイラルドラゴン】を墓地に送る!」

 

「【スパイラルドラゴン】?」

 

ケリーが遊星に見せたのは青い体と桃色のひれを持つ海竜族モンスターだ。

カードに記されている攻撃力は2900とかなり高い。

 

「そして墓地の【フラッピィ】の効果で、【スパイラルドラゴン】を特殊召喚する!」

 

「なっ!?」

 

「はぁ!?」

 

ケリーの場に黒い歪みが現れ、そこからスライムの【フラッピィ】が姿を現す。

虹色に輝くスライムは姿形を変え、小さなモンスターから巨大なモンスターへと変貌した。

予期せぬモンスターの登場方法に遊星は目を見開き、一体何が起きたのか理解が遅れる。

 

「これは一体……」

 

「知らないようなら説明してやるぜ。

【フラッピィ】は墓地・除外ゾーンで合計3枚の時、1枚除外する事で墓地にある海竜族を特殊召喚出来るのさ」

 

自信満々に語られた効果に遊星達は納得する。

クロウは遊星と同じように目を見開き、ジャックは両腕を組み直した。

そして鬼柳は感心したような顔をして2人の言葉を引き継ぐ。

 

「そういうモンスターなんていんのかよ」

 

「なる程、墓地と除外ゾーンに揃うことで効果が発揮するカードだったのか」

 

「それならモンスターを墓地に送る【スクリーチ】、除外する【異次元海溝】はうってつけの効果って事か」

 

墓地・除外ゾーンに同名カードを揃えるなどそう簡単なことではない。

何故ならここはサテライト、墓地に有用なカードがあったとしても一癖も二癖もあるものばかり。

だからそんな癖のあるカードを使ってこのようなコンボを決めるなど、敵ながら天晴れとしか言いようがなかった。

攻撃力2900の【スパイラルドラゴン】に対し、遊星の場には守備モンスター1体。

普通なら焦りの色が見えるはずだが、遊星は顔色を一つも変えずに【スパイラルドラゴン】を見据えている。

 

「何を企んでいるかは知らねぇが……

さらに魔法カード【シールドクラッシュ】!」

 

「っ!」

 

「その鳥には消えて貰うぜ!」

 

【シールドクラッシュ】のカードから光が放たれ、その光を浴びた、いや、光に貫かれた【シールド・ウィング】は一瞬で粉々に砕け散る。

壁モンスターが存在しなくなった遊星は反射的に【スパイラルドラゴン】を見上げる。

 

「これでがら空きだ!

【スパイラルドラゴン】、やれ!」

 

【スパイラルドラゴン】は部屋全体が震えるほどの咆哮を上げ、巨大なひれで渦巻きを生み出す。

何もない場所から発生した攻撃に遊星は両腕をくろすさせて受けた。

同時に彼のライフが4000から1100へと削られていく。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターンだ」

 

直接攻撃を受けても微動だにしなかった遊星は引いたカードを見て目を瞑る。

恐らく引いたカードと場のカード、使えるカード全てで何が出来るか考えているのだろう。

頭の中で計画を練る遊星にケリーは良いカードが引けなかったのだと判断した。

 

「どうした、顔色が悪いぞ。

そうとう酷いカードを引いたようだな」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

「は、強がりを」

 

いや、強がりじゃない。

遊星と付き合いの長い聖星達には分かった。

このターンで逆転勝ち出来るか分からないが、遊星の顔に焦りの色は一切無い。

少なくとも【スパイラルドラゴン】を片付ける方法はあるのだろう。

 

「だが、これから俺に負けて兄貴のプライドをボロボロにされるんだ。

せめてもの情けだ、罠発動【副作用?】!」

 

「え、何あのカード」

 

「初めて聞くカードだな」

 

情けと称して発動したカードはこの場にいる全員が初めて見るカードである。

イラストには1体の鬼が使用した薬が回りに転がり、腰痛を訴えている場面である。

遊星に利益をもたらし、同時に害も与えるのだろうか。

カード名、イラストから効果名を想像するとケリーから説明が入った。

 

「まず、お前はデッキからカードを1枚から3枚までドローできる」

 

「え?」

 

「そして俺は、お前がドローした枚数×2000ポイントのライフを回復する」

 

「は?」

 

最初に声を漏らしたのは聖星、次に漏らしたのは鬼柳である。

彼らが素っ頓狂な声をあげてしまうのは無理もないだろう。

カードをデッキから手札に加えることは可能性を増やすことである。

枚数を選択出来るとはいえ、最大3枚もドロー出来るなど、可能性がどれほど増えるのか想像に難しくない。

 

「敵に塩を送るどころか、敵に新品の武器を送るようなものだな」

 

腕を組みながら壁に背中を預けるジャックの言葉に3人は大きく頷く。

 

「ほら、引けよ」

 

「それなら俺は3枚ドローする」

 

やはりそうか、いや、そうじゃなかったら遊星の思考を疑ってしまう。

そもそもケリーの場に伏せカードはなく、手札は0、場に存在するのは攻撃力2900の【スパイラルドラゴン】のみ。

その状況でライフを6000回復されたところで充分におつりが来る。

デッキからカードを3枚ドローすると、ケリーが緑色の光に包まれ、ライフが10000になった。

 

「……面倒な事になったな」

 

新たに手札に加わったカードと墓地に存在するカード、伏せカードを見比べる。

全てのカードが1つの線に繋がった遊星はカードを掴んだ。

 

「手札から【死者蘇生】を発動!

蘇れ、【ニトロ・ウォリアー】!」

 

「ウォオオオ!!」

 

遊星の場に黒い歪みが現れ、そこから効果破壊された【ニトロ・ウォリアー】が特殊召喚される。

【ニトロ・ウォリアー】は再び戦えるという高揚感を落ち着かせるように深呼吸をする。

 

「更に装備魔法【ファイティング・スピリッツ】を【ニトロ・ウォリアー】に装備。

このカードは相手モンスターの数だけ装備モンスターの攻撃力を300ポイント上げる」

 

「なっ!」

 

ケリーの場に存在するモンスターは1体。

そして【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力は2800である。

【ファイティング・スピリッツ】を装備した【ニトロ・ウォリアー】は気合いを入れるように唸り声を上げ、赤い光に包まれる。

 

「攻撃力3100!?

【スパイラルドラゴン】を超えただと!?」

 

「さらに速攻魔法【サイクロン】で【異次元海溝】を破壊する!」

 

「なっ!?

何を考えている!?

そうか、攻撃力を上げる気か!」

 

【異次元海溝】は破壊されたとき、最初に除外されたモンスターをフィールドに特殊召喚する効果を持つ。

つまり、ケリーの場のモンスターが増えるという事だ。

だが、遊星が狙っているのはそれだけではない。

 

「どうした。

早く除外したモンスターを喚べよ」

 

「くっ、俺は【スクリーチ】と【フラッピィ】を守備表示で特殊召喚するぜ!」

 

黄色い光と共にケリーの場に2体のモンスターが特殊召喚される。

【フラッピィ】は折角綺麗な色をしているのに、守備表示のため青一色で統一された。

場のモンスターが1体から3体に増えたことで【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力は更に上昇し、3700になった。

 

「(だが、仮に【スパイラルドラゴン】を破壊されても俺のモンスターは2体も残る。

それに俺のライフは10000。

次のターン、逆転のカードを引けば……)」

 

「何を安心している。

俺の伏せカードを忘れているぞ」

 

遊星は不敵な笑みを浮かべ、燎原の火のように畳みかけた。

彼は手を前に出し、ずっと伏せられていた罠カードを発動する。

 

「罠カード【恐撃】!」

 

「【恐撃】?」

 

表側表示になったのは2体のモンスターに手足を掴まれている兵士の姿だ。

薄暗い洞窟の中での出来事はどこかホラーじみている。

 

「【スパイラルドラゴン】を見てみろ」

 

「なっ!」

 

遊星の言葉に【スパイラルドラゴン】を見ると、どこからか墓地に存在するはずの【クイック・シンクロン】と【シールド・ウォリアー】が現れる。

【クイック・シンクロン】は【スパイラルドラゴン】の目の前で猫だましをした。

そして【シールド・ウォリアー】は耳元でうるさく鳴き始める。

半透明のモンスターからの攻撃に【スパイラルドラゴン】は萎縮してしまう。

 

「【スパイラルドラゴン】がみるみる小さく……!?

どういう事だ!?」

 

「【恐撃】の効果だ。

このカードは墓地のモンスターを2体除外する事で、お前のモンスターの攻撃力を0にする」

 

「こっ、攻撃力0だと!??

これじゃあダイレクトアタックと同じじゃねぇか!」

 

「バトルだ!

【ニトロ・ウォリアー】!!」

 

仲間の声に【ニトロ・ウォリアー】は拳を強く握りしめ、エンジンブースターから炎を吹き出す。

高く飛び上がると重力・ブースター2つの力で加速した。

 

「【ニトロ・ウォリアー】の効果発動!

魔法カードを使用したことにより、【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力は4700になる!」

 

「なにぃ!?」

 

そのまま振り上げた拳を【スパイラルドラゴン】の頭上に叩き付ける。

圧倒的な攻撃力に【スパイラルドラゴン】は悲鳴を上げながら爆発した。

破壊によって生じた爆風はケリーを包み込み、彼のライフを10000から5300まで削り取る。

 

「まだ終わらない!

【ニトロ・ウォリアー】が相手モンスターを破壊したとき、もう1度続けて攻撃を行う!!」

 

遊星の宣言と同時に、青一色だった【フラッピィ】が色鮮やかなボディを取り戻す。

これは守備表示から攻撃表示に変更したことを意味する。

何故そのような事が起きたのか理解出来ないケリーに、鬼柳が説明する。

 

「【ニトロ・ウォリアー】が続けて攻撃するには守備表示モンスターが必要だ。

まぁ、表示形式を変更するから、どのみちダメージを受けるんがな」

 

横から自信満々に説明する鬼柳の言葉にケリーは目を見開いた。

【ファイティング・スピリッツ】の効果も含め、最初のバトルを終えた【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力は3400。

攻撃力0のモンスターでは盾になれない。

鬼柳から【ニトロ・ウォリアー】に視線を移すと、緑色の巨大な拳が【フラッピィ】を貫いた。

 

「ぐぁあああ!」

 

再び向かってきた熱風によりライフが5300から1900まで削られる。

耳障りな音を聞きながらケリーは遊星を睨み付けた。

モンスターは守備表示で特殊召喚された【スクリーチ】のみ。

そしてライフは10000もあったのが既に5分の1以下である。

 

「だが、俺のライフはまだ残っている……!!」

 

次のターンに賭けると、意地を見せようとする姿は一応認めよう。

だがケリーは忘れていた、いや、知らなかったというのが正しい。

自分が遊星の逆鱗に触れている事に。

 

「罠発動【イクイップ・シュート】。

そして速攻魔法【エネミーコントローラー】」

 

「あ」

 

「終わったな」

 

一切表情を変えない遊星が発動した2枚のカード名に勝敗が見えた。

【エネミーコントローラー】は場のモンスターの表示形式を変更する速攻魔法。

そして【イクイップ・シュート】はモンスター同士の強制戦闘を行う罠カード。

つまり……

 

「【スクリーチ】に【ファイティング・スピリッツ】を装備させ、【ニトロ・ウォリアー】と強制戦闘だ!」

 

「またそのモンスターとバトルだと!?

ふざけるなぁ!!」

 

遊星が発動したカードの効果に抗えず、青色だった【スクリーチ】は攻撃表示になり、本来の色を取り戻す。

その攻撃力は装備魔法【ファイティング・スピリッツ】の効果を含め1800と表示される。

だが、このバトルが成立しても受けるダメージは1000、ライフは900残る。

苦しいが、まだ負けないと確信しているケリーに、遊星は静かに言い放った。

 

「あぁ、説明するのを忘れていた。

【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力を上げる効果は『魔法カード使用後の最初の戦闘』で適応される。

つまり、速攻魔法を使用したことで【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力は再び1000ポイント上昇する」

 

「はぁあああ!?」

 

「【ニトロ・ウォリアー】!!

ダイナマイト・ナックル!!」

 

3度目の叫び声に【ニトロ・ウォリアー】の黄色い眼が光る。

再び攻撃力が1000上昇し、2800となった【ニトロ・ウォリアー】は【スクリーチ】を勢いよく叩き飛ばす。

最大限に加速された拳の威力に【スクリーチ】の体は粉砕された。

そしてケリーのライフが0になる。

自身の敗北にケリーはその場に膝を付き、呆然としている。

クロウは両腕を頭の後ろで組み、ジャックは胸元で組ながら笑う。

 

「あーあ、あいつ可哀想に。

放心状態だぜ」

 

「無理もない。

ライフ10000をたった1ターンで0にされたのだ」

 

当然の結果だと笑みを浮かべている彼らには悪いが、聖星は今すぐここから逃げ出したい気分だ。

口の中が乾き、胃が重く、背中には冷や汗をびっしりかいている。

助けに来てくれたのは純粋にありがたい、とてもありがたいのだが、彼らと接触するのは避けたいというのが本音である。

しかし逃げようにもここにはチーム・サティスファクションが4人もおり、そのうち3人は自分の隣で笑っている。

 

「聖星」

 

どうやって逃げようかと考えていると、不意に声をかけられる。

顔を上げれば心配そうな、だがどこか安堵している遊星がいた。

 

「手酷くやられているな……

すまない、俺のせいで」

 

「そんな、貴方のせいじゃないですよ」

 

どう言葉を返せば良いのか分からず、とにかくその場の雰囲気に合わせて言葉を選んだ。

ハハハと笑えば遊星の顔が微かに歪む。

無理に笑っていると捉えられたのか、自責の念に駆られているのか、はたまた両方か。

 

「歩けそうか?

子供達から足を怪我していると聞いたんだが」

 

「え?」

 

何故ここで子供達のことが出てくる。

そう顔に出ていたのか、クロウが苦笑いしながら説明してくれた。

 

「闇市でパーツのリサイクルしてるおっさんがいるだろう?

あいつが子供達を連れて来て、お前が襲われたって教えてくれたんだ。

まぁ、情報を提供した報酬に良い部品を寄こせって言われたけどな」

 

「ちゃっかりしていますね……」

 

あの厳つい顔で子供達を引き連れて遊星達のアジトに向かったのか。

確かに子供達に彼の元へ行くように指示したのは自分だ。

あわよくば助けに来てくれるかもしれないと期待したが、まさか父の元へ行くとは全く想像出来なかった。

そもそも遊星達のアジトを知っていたのか、何故だ。

痛む頭を押さえていると、遊星が自分に背中を向ける。

 

「え?」

 

「俺達が世話になっている医者のところまで連れていく。

乗れ」

 

「いやいやいや!

そんなの良いです、自分で歩けますから!

ほら、立てますし、もうどこも痛くありませんから!」

 

「ほお?

じゃあこのクロウ様が背中を優しく摩ってやろうか?」

 

遊星からの申し出を断り、大丈夫だと証明するよう慌てて立ち上がる。

痛む体について悟られないようポーカーフェイスをするが、クロウの言葉に体が強張ってしまった。

その反応でまだ体は痛むと言っているようなものだ。

 

「ほら」

 

「……分かりました」

 

今年で14歳だというのに、何故父親に背負われてしまうのか。

顔から火が出るとはまさにこの事かと思いながら聖星は大人しく遊星の背中に乗る。

周りにいる3人の目はとても優しく、遊星もどこか嬉しそうである。

 

「(ここから消えたい……)」

 

この後、医師、シュミットがいるマーサハウスへと連れていかれ、手厚く歓迎されたのは言うまでもない。

 

END




聖星と会って1番テンションが高くなるのはマーサですね。
遊星におめでとうと微笑むイメージもありますが、遊星を育ててきた身としては兄弟の再会は奇跡のようなもの。
これから遊星は聖星を構い倒します。
そしてぎこちなく接する聖星に対し、どうすれば良いのか1人悩むでしょう。

あと、20th ANNIVERSARY DUELIST BOXの収録内容が明らかになりましたね。
1箱、8000円。
なん、だと……??
ステンレス製のカードが付いてくるから仕方ないとはいえ、高い。
そして、デュエルフィールドはランダム。
コンプリート難しくないですかねぇ???
学生にはきついですよ!!
1番欲しいのは【スターダスト】です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界よただいま、変なのに目をつけられた

空を覆う暗雲から絶えず流れ落ちる雨の中、その音をかき消す程の機械音が木霊している。

視界に広がる光は夜の闇をかき消す程に強く、自分に敵意を向ける明かりしかなかった。

地面で輝くサイレンの光と空で輝くヘリコプターの光は実に眩しく、目の前に立っている小柄な男の素顔が見えない。

震える拳を握り締めて振り返れば、セキュリティに取り押さえられ、何かを叫んでいる遊星達の姿が目に入った。

これ程の轟音が響くのだ、きっと自分の声は彼らに届かないだろう。

それでも言いたかった。

 

「ごめん、――さん」

 

唇の動きをどうとったのか分からないが、遊星の顔が酷く歪んだ。

 

**

 

肌寒い季節が過ぎ、本格的に寒くなってきた頃の話だ。

聖星が目を覚ませば目の前に遊星の顔があった。

最初の頃は慣れなかったが、サテライトという環境で暮らしていると別に珍しい事ではない。

サテライトはその性質上、暖房機というものがあまりない。

あったとしても、電源が入ったらラッキーと思う程度のものが殆どだ。

仮に調子のいいものがあったとしても、長時間使用して火事になったというケースもある。

だから少しでも寒さを紛らわせるために身を寄せ合って深い眠りにつく。

 

「お、目が覚めたか、聖星」

 

「クロウさん……」

 

「飯なら出来てるぜ、遊星起こしてくれねぇか?」

 

「はい」

 

聖星と遊星が眠っている部屋に顔を覗かせたのは、今日の食事当番であるクロウだ。

未来でも家事スキルが高いと知っていたが、やはりサテライトで暮らすとスキルが身につくのだろうか。

いや、ジャックの事を考えるとそれはない。

冷たくて凍える空気に体を震わせ、隣で眠っている遊星と、遊星の頭を陣取っている【スターダスト・ドラゴン】を見る。

遊星に合わせて小型サイズになっている【スターダスト】は丸まって眠っており、実に気持ちよさそうだ。

 

「ごめんな、【スターダスト】」

 

誰にも聞こえない程度の小声で謝罪し、半透明の【スターダスト】を撫でると、黄色の瞳がゆっくりと開く。

長い首を上げて聖星を見た【スターダスト】は、朝だと認識したのか欠伸をする。

気持ちよさそうな伸びのポーズは可愛らしく、聖星は自然と笑みを浮かべてしまう。

 

「遊星さん、朝です。

起きてください」

 

「っ……」

 

見慣れた青いジャケットに身を包んでいる遊星は小さく声を漏らし、ゆっくりと目を覚ます。

寝起きのため焦点が定まっていないが、すぐにその目は聖星を捉えた。

 

「あぁ、朝か……」

 

「はい」

 

「聖星、敬語じゃなくて良い」

 

「いえ、これは譲れません」

 

まだ暖かい毛布にくるまりたい欲を跳ね除け、起き上がった遊星はすぐに懇願する。

しかし、その願いを聞き入れるつもりなど聖星にはなかった。

首を左右に振って断れば、遊星は困ったように目元を和らげ、聖星の頭を撫でてくる。

遊星からしてみればやっと再会出来た弟を可愛がっているだけだが、聖星としてはとても複雑だ。

とりあえず、遊星の手を頭からどかせた聖星は立ち上がり、クロウ達が待つ部屋へ向かった。

 

「よぉ、遊星、聖星。

珍しく寝坊か?」

 

「昨日は夜遅くまでデュエルディスクの整備をしていたからな」

 

「少ないパーツで整備するのは大変でした……」

 

「ははっ、そりゃそうか。

けど、聖星も機械に強いなんて、流石兄弟だな」

 

鬼柳の言葉に聖星は何とも言えない表情をする。

遊星との兄弟関係を否定しようと色々考えたが、どうしても彼と繋がりがある事を証明する行動をしてしまう。

機械に強い事だって、本当は隠し通すつもりだったのだが……

 

「クロウ、これをとってくれないか?」

 

「これ?」

 

「これですか?」

 

「……あぁ、ありがとう」

 

足らない工具の傍にいたクロウに声をかけたが、聖星は遊星が欲しいものを何か理解し、すぐにそれを手渡した。

最初はデュエルディスクの整備に必要で、以前世話になっていたチームもよく使っていたから、その工具だと分かったと誤魔化した。

しかし、デュエルディスクに使われている細かいパーツの名称や、内部構造に関して口にしてしまい、努力が無駄になる。

 

「んじゃ、遊星と聖星も飯を食い終わったようだし。

今日の予定を話し合うぜ」

 

立ち上がった鬼柳はどこからかサテライトの地図を取り出し、それを机の上に広げる。

何か所か黒く塗りつぶされており、彼はここから少し離れた場所を指さした。

 

「今日はF地区に行く。

俺達が知っている手掛かりは已然、『せいたいりゅう』というカード名のみ。

聖星、カードの漢字は覚えてないんだよな?」

 

「すみません……」

 

「謝る必要はないさ。

このサテライトにあるのなら、必ず見つけ出すからよ。

安心しな」

 

「はい……」

 

そう、サテライトの統一を実現させ、聖星をチーム・サティスファクションで引き取る事に成功した遊星達は別の目標を持っていた。

それは、聖星が探している【星態龍】のカードを探すこと。

聖星からしてみれば未来に帰るための鍵だが、遊星達にとっては聖星の記憶を取り戻す鍵である。

何かあった時のために記憶喪失のふりをしていたのが、まさかこんな事になるとは全くの想定外だ。

顔を伏せて気まずそうにしている聖星にクロウが軽く肩を叩く。

 

「んじゃ、今日は俺と聖星が組む。

遊星はもしジャックが暴走した時に止める役として……」

 

「どういう意味だ、クロウ!」

 

「ジャック、以前売られた喧嘩をすぐに買って乱闘騒ぎになったのを忘れたか」

 

ジャックが反射的に勢いよく机を叩くが、遊星が冷静に宥めようとする。

事実を突きつけられたジャックは少し顔を歪め、深いため息をついた。

 

「じゃあ遊星とジャックはF地区の南側を。

クロウと聖星は北側を頼む」

 

「何だ、鬼柳は来ないのか?」

 

「俺は知り合いのところに行くさ」

 

「あぁ、あのおっさんか」

 

鬼柳の言葉にクロウは納得したようにその人物を思い出す。

誰の事だろうと興味はあるが、聖星は口を挟まず話が終わるのを待った。

そして、聖星達は3組に分かれてF地区で捜索を始めた。

 

**

 

「なぁ、聖星。

何でお前、そんなに遊星の事を兄さんって呼ぶのを拒絶するんだ?

もしかして自分が兄貴じゃないことが不満とか言うんじゃねーだろうな」

 

「え?」

 

F地区での捜索途中、素直な子供達にお菓子を与えて情報を集めていた。

しかし、目ぼしい情報はなく、休憩という事でジャンクの山に腰を下ろしている。

不味い飲料水を我慢して飲んでいると、隣からかけられた言葉に聖星は意外そうな顔をした。

 

「だってお前、今朝も遊星を起こすときさん付けだったろ」

 

「あ、はい……」

 

「喋り方だってそれがお前の素じゃないんだろ?

普通で良いんだぜ」

 

遊星の保護下に置かれてから数週間、遊星は何度も兄と呼んで欲しいと言ってきた。

しかし、弟と誤認されたまま必要以上に接するのは、未来へ悪影響を及ぼすと考えている。

だから明確な線引きをし、壁を作っているのだ。

俺は貴方の弟ではありませんと態度で突き付ける度に寂しそうな顔を向けられるが仕方ない。

クロウの厳しい眼差しから目を逸らした聖星は、手元のボトルを見下ろしながら言い訳を並べた。

 

「いえ、俺と彼が兄弟だなんて決まったわけじゃ……

それに、俺を待つ人がいると思うんです。

その人達に申し訳ない」

 

「はぁ?

あのなぁ、そういうのは鏡を見てから言えって。

仮に100人に聖星と遊星が兄弟に見えるか聞いてみろ。

全員が兄弟だって返すぜ」

 

なんたって、自分達が初めて聖星と会った時、あまりのそっくりさに二度見した程だ。

クロウ達だけではない、聖星が所属していたチーム・ブルーウルフのメンバーだって全員2人を交互に見たのくらいである。

ここまで似ているのに、兄弟ではありません、血の繋がりは一切ありませんと言われて納得できるわけがない。

 

「お前は記憶喪失。

本当に遊星と自分が兄弟なのか不安に思うのも当然だな。

けど、マジでそっくりなんだ、自信を持てって」

 

勢いよく背中を叩けば、苦しそうな声が返ってくる。

痛そうな顔を向けられるがこれは激励の痛みだ、ありがたく受け取って欲しい。

 

「それと、確かにお前の帰りを待ってくれる人達がいるだろうよ。

そいつらを大事にするのは別に悪い事じゃねぇ」

 

それが義理の両親なのか、義理の兄弟なのか、友達なのかクロウには分からない。

だが、人間は1人では生きられない。

だから聖星にも帰りを待っている誰かがいる。

 

「けどよ、遊星と自分が兄弟だってわかって、それでそいつらとの繋がりが切れると思ってるのか?

そんなわけねぇってさ。

人と人を繋ぐ絆ってのは、そう簡単に切れたりしねぇ。

しかも、お前らの再会は目出度い事だろ。

きっとそいつ等も喜んでくれるさ」

 

「……そ、そうですか」

 

「あぁ」

 

14年前に起きたゼロ・リバースのせいで、家族と死別、生き別れた者達は多くいる。

時を超え、離れ離れだった家族が再会を果たした。

一体誰がこの素晴らしい事を否定するのだろう。

もしそれを否定する人間がいれば、それは血が通った人間ではない。

断言したクロウは更に言葉を続ける。

 

「それに、遊星はお前に歩み寄ろうと必死なんだ。

ほんの少しでも良い。

お前からも歩み寄ってくれないか?」

 

そう笑いながら頼めば、聖星は不安げな表情を返してきた。

ここまで言っても聖星は自分と遊星の繋がりを肯定しようとしない。

記憶がないというのは、それ程まで現実を否定しがちになるのだろうか。

過去がなく、振り返った先に何もない人間は未来どころか、現在を信じられないということか。

これは先が長そうだとクロウは感じた。

 

**

 

結局、F地区でも【星態龍】の情報がなかった。

鬼柳の方も新しい収穫はなかったようで、難しい顔で地図を塗りつぶした。

そこで、何か思い出したかのように顔をあげる。

 

「そうだ。

お前らに話しておきたいことがある」

 

「話?」

 

「何だ、鬼柳」

 

ぬるま湯で薄く溶いたコーヒーを飲んでいたジャックはコップから口を離し、遊星はデュエルディスクから顔をあげる。

クロウと聖星もこちらに目を向けており、鬼柳は言葉を放った。

 

「どうやらここ最近、シティから何人かの人間が送り込まれているらしい。

それもシティで犯罪を起こした奴じゃない。

もっと別の目的を持った奴だ」

 

「何だと?」

 

「その目的とは?」

 

「そこまでは分からねぇ。

ただ、わざと汚らしい恰好をし、酔っぱらいのふりをしてサテライトを歩き回っているようだ」

 

「よく無事だな。

そんな連中、ここでは恰好の的だぞ」

 

ジャックの言葉に遊星達は同意する。

土地勘がなく知り合いもいない人間が酔っ払ってふらついているなど、追い剥ぎをしてくださいと言っているようなものだ。

鬼柳曰く、仕入れた情報では実際に追い剥ぎに遭遇しているようだが、見事返り討ちにしているという。

それだけではなく、今までにないくらいセキュリティが迅速に対応したそうだ。

 

「……つまり、そいつ等はセキュリティの関係者」

 

「そう考えるのが妥当だな」

 

「けどよ、何でセキュリティの連中がそんな下手な変装をして歩き回ってるんだ?

目的を考えようにも情報が少なすぎるぜ」

 

「勘弁してくれ、クロウ。

これでもあのおっさんから聞き出せた方だぜ」

 

「わーかってるって」

 

成程、今朝言っていた知り合いからの情報か。

鬼柳達の会話から、とても気難しい人なのだろう。

今後関わりを持ちませんようにと願いながら、聖星は窓から空を見上げる。

 

「聖星」

 

「はい」

 

横からかかった声に反射的に振り返れば、鞄を持った遊星と目があった。

 

「食料の買い出しに行く。

一緒に行かないか?」

 

「え?」

 

「俺1人で5人分は無理だ」

 

いや、それならそこで暇そうにしているジャックさんにお願いしてください。

絶対に俺より力持ちですから、と言う事が出来ればどれほど良かったか。

残念ながら聖星にはそこまでの捻くれた度胸はなく、素直に頷いてしまう。

 

「おっ、今から行くのか。

最近はすぐに暗くなるからな。

気をつけろよ、2人とも」

 

「分かっている、鬼柳」

 

「は、はい……」

 

暖かい眼差しを向けられてしまえば、もう拒否するという事は出来ない。

ジャックの心配そうな視線と、遊星にエールを送るクロウの視線に居たたまれなくなり、聖星は慌てて外に出た。

そんな彼の感情を理解しているのか、遊星は少しだけ悲しげに後を追う。

 

**

 

市場に来れば、先程のF地区と比べ物にならない程の人がいた。

 

「やっぱりこの時間は混みますね」

 

「あぁ。

シティから船が来た直後だからな」

 

サテライトで出回る食糧の中にも一応シティから来ている物もある。

尤も、質はとても悪く、生ごみ入れから掘り返したものと疑ってしまう食品も数多くある。

それを食べなければ生きていけない環境下で、よく遊星達は生きているものだと尊敬の念を覚えた。

聖星がそのような感想を抱いている事を知らない遊星は、自分とほぼ同じ目線の彼の名を呼ぶ。

 

「聖星」

 

「はい」

 

名前を呼べば、自分とは異なる色の瞳と視線が交わった。

兄弟なのに目の色が違うという事は、どちらかが父、どちらかが母譲りの目の色なのだろうか。

遊星の色がサファイアなら、彼のはエメラルドだろう。

 

「今度、D-ホイールを作るつもりなんだ」

 

「D-ホイール?」

 

「あぁ。

デュエルディスクの発展型だ。

シティではこれを使ったライディングデュエルが流行っているらしい」

 

たまたま自分がシティの回線をハッキングして、そこに映し出された映像。

それは2人のデュエリストがスピードの中でモンスターとモンスターを戦わせ、互いのプライドを賭けてデュエルしているものだった。

その場にいたラリー達は目を輝かせ、自分達もやりたいとはしゃぎだした。

当然、遊星もその気持ちに賛同し、彼らの想いに応えるつもりだ。

 

「聖星、君も手を貸してくれないか?」

 

「え?」

 

「必ず君の力も必要になる」

 

共に過ごしてまだ数週間程度しか経っていないが、彼の知識は本物だ。

ラリー達のためにも早くD-ホイールを作り上げるには協力者は多いほうが良い。

それに、もしかすると、これを切っ掛けに壁を作っている聖星の内側に入り込めるかもしれない。

やっと出会えた正真正銘の家族だ、何があっても手放したくないのだ。

焦る気持ちを抑えながら出来る限り優しく微笑むと、何故か苦笑いを返された。

 

「遊星さん、凄く緊張していません?

顔が固いですよ」

 

「そうか?」

 

「はい」

 

きょとんとした顔を浮かべられ、聖星は何とも言えない表情をする。

未来の父もどこか人付き合いが苦手で、人と話すとき緊張してぶっきらぼうになっていた。

その彼を知っている身としては、幼い彼がどこまで近寄れば良いのか分からず、距離を測りかねている姿は実に可愛く映ってしまうだ。

もし未来にいる父に知られたら睨まれそうな事を考えながら、聖星はクロウの言葉を思い出す。

 

「(歩み寄って欲しい、か……)」

 

本当ならこうやって遊星と話している事自体、あってはならない事だ。

皆が寝静まった後にアジトから脱出し、彼らと距離を置くべきである。

それでもここにいるのは、サテライトで生きていくのに不安があるからだろう。

頭で理解はしているが、家族が傍にいるという事は想像以上の安心感がある。

 

「遊星さんは俺の事を買いかぶりすぎです。

……でも、そんな俺でよければ手伝いますよ」

 

だから、これはいつか消える自分のために、今を必死に頑張っている彼への罪滅ぼしだ。

仮に【星態龍】が見つかっても、せめて1台目のD-ホイールが完成するまでは傍にいたい。

尤も、兄呼びだけは何があっても拒否させてもらうが。

優しく微笑みながら告げれば、遊星が安心したような表情を浮かべる。

 

「ありがとう、聖星」

 

「いえ、俺のために【星態龍】を探してくれているお礼です。

気にしないでください」

 

そこからは殆どD-ホイールについての話しかしていない。

足りない部品は何がある、2人で部品探しをしよう、探すことが出来なければ何を代用しようか。

ここサテライトでは手に入らない部品について、聖星は名前をあげることは出来たが、代用品についてはあまり名前が出なかった。

しかし、遊星はおもちゃの部品、ハンガーが良いなど様々な案が出てくる。

目当ての食糧を買い、後は鬼柳たちが待つアジトに戻るだけになった。

その途中、幼い声がひときわ響く場所があった。

そちらに目を向ければ、子供達が配管の周りに集まっている。

 

「あの辺りは子供達に大人気のようですね」

 

「暖を取れるからな。

夏は地獄だが、今の季節にはありがたい」

 

あの配管の中には、金属を溶かした時に生じる熱が通っているらしい。

夜遅くまで工場は稼働しているため、まともな家を持たない弱い者達にとっては天国のようなものだ。

すると、顔にマーカーを刻んだ男達が子供達に近寄る。

一目見て友好的ではないと分かり、次の瞬間には、暖を取っていた彼らを追っ払い始めた。

 

「聖星、少しここで待っていてくれ」

 

「分かりました」

 

傍から見てもわかるくらい顔を歪めた遊星は荷物を聖星に預け、すぐに男達の元へ向かう。

肩に手を乗せると、怒鳴り声をあげられるが、遊星は一切動じずに拳を叩きつけた。

あの一発で力の差を理解できればいいのだが、残念ながら相手もせっかく見つけた場所を逃したくないらしい。

これは長くなると思った聖星は、加勢しようか考える。

 

「貴方が不動聖星さんですね?」

 

「え?」

 

不意にかかった声に、聖星は後ろに振り返る。

その先には赤紫のコートを羽織った小柄の成人男性が立っていた。

目元に特殊なメイクをしている彼を聖星は知っている。

 

「どうして俺の名前を?」

 

「初めまして、私はイェーガーという者です」

 

「イェーガー……」

 

あぁ、間違いない。

彼は今から数年後、ネオ童実野シティの初代市長に就任した人だ。

イリアステルとの戦いで父と一緒に戦ったと聞いているし、聖星も何度か会ったことがある。

その彼が何故自分の前に現れたのか。

軽く頭を下げた彼は暴れている遊星に目をやり、口角をあげて言葉を続けた。

 

「ここは少々騒々しいですね。

静かな場所でお話ししましょう。

ご安心ください、そう時間はとりませんよ」

 

そう言った彼は、胡散臭い笑顔を浮かべてとある方角に手を向けた。

普通ならばここは行くべきではない。

しかし、聖星の中でイェーガーは父の友人の1人ということで、比較的安心感を覚える相手だ。

一応遊星に声をかけるべきかと迷ったが、そう時間はとらないということなので、小さく頷いた。

 

**

 

案内されたのは廃墟となっている工場だ。

周りの稼働している工場と違って煙たくなく、比較的に空気が澄んでいる。

さて、自分の知識が正しければシティにいるはずの彼が何故サテライトにいるのだろう。

 

「貴方、サテライトの人じゃないですね。

服装が綺麗すぎる。

つまり、セキュリティ?」

 

「おや、意外と観察眼があるご様子。

このイェーガー、感服いたしました」

 

背中を向けていたイェーガーはたいそう驚いたような表情をし、軽くお辞儀をする。

わざとらしい姿に、相変わらずだなと思う。

こういう仕草は幼いころから叩き込まれているので、無意識に出てしまう癖なのだろう。

 

「あの、回りくどい事を言うのは止めてください。

俺に何の用です?」

 

「失礼。

この私とデュエルしていただけませんか?」

 

「貴方と?

何故?」

 

「実は私も魔法使い族使いでして。

貴方様も魔法使いデッキを操る強者と聞き、はるばるシティからやって参りました。

強いデュエリストと戦いたいのは、デュエリストとして当然でしょう?」

 

「つまり、好奇心からと」

 

強く頷かれ、聖星は小さくため息をついた。

尤もらしい理由を並べられたが、恐らく嘘だろう。

いくらサテライトに強いデュエリストがいるという噂を耳にしたからといって、治安の悪いサテライトに来るなど考えられない。

身の安全など顧みずに飛び込むような性格なら話は別だが、イェーガーはどちらかというと用心深い性格だ。

 

「デュエルだなんて、めちゃくちゃ時間取るじゃないですか。

せっかくのお誘いですが、俺は今急いでいるんです」

 

早く遊星のところに戻らなければならない。

きっと完勝した事で子供達からヒーロー扱いを受け、困っている頃だろう。

簡単に想像できる光景を思い浮かべながら振り返ると、Dパッドから奇妙な金属音が聞こえた。

そちらに目を向ければ、拘束具のようなものがDパッドに嵌められている。

 

「何のつもりですか?」

 

「手荒い真似をして申し訳ございません。

私もはるばるシティからここまで来たのです。

このまま帰るつもりなど毛頭ございません」

 

あぁ、これは遊星に一声かければよかった。

今更後悔した聖星は、深いため息をついてイェーガーと向かい合う。

 

「分かりました、やれば良いんですね」

 

「えぇ、お願いします」

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は私から。

ドロー。

【ジェスター・クイーン】を攻撃表示で召喚します。

カードを3枚伏せ、ターンエンドです。

さ、聖星さんのターンですよ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

デッキからカードをドローした聖星は、イェーガーの場を見渡した。

先攻1ターン目から3枚の伏せカードがあるなど、実にやりづらい。

さて、モンスターの召喚を無効にするカウンター罠か、それとも攻撃をトリガーとする罠か。

何が伏せられているか様々な予想を立てながら、聖星はメインフェイズに移ろうとする。

 

「永続罠発動、【レイト・ペナルティ】」

 

「なっ、いきなりバトルフェイズスキップ?」

 

「おや、このカードを御存じで?

珍しいカードだと自負していましたが、博学なのですね」

 

両手をぱちぱちと叩きながら言われた言葉に、聖星は素直に喜べない。

あのカードはスタンバイフェイズ開始時、イェーガーの場にレベル2以下の魔法使い族が存在し、聖星の場にモンスターが存在しなければ効果が適応される。

その効果はえげつなく、聖星の言った通りバトルをスキップするのだ。

今、イェーガーの場にはレベル2の【ジェスター・クイーン】が存在し、条件をクリアしている。

 

「俺は【魔導書士バテル】を守備表示で召喚。

【バテル】の効果を発動」

 

「ふんっ」

 

召喚された魔導書庫の管理人は、両腕を組んでその場に膝をつく。

表示された守備力は400と、攻撃力800の【ジェスター・クイーン】ではあっさり突破されてしまう。

しかし、聖星は気にせず効果を発動させた。

 

「彼が召喚された時、俺はデッキから【魔導書】と名の付くカードを1枚手札に加える。

俺が加えるのは【魔導書の神判】だ」

 

全ての【魔導書】を記憶している彼は詠唱呪文を唱え、聖星が欲しているカードをデッキから呼び出す。

手札に加わったカードの絵柄を見た聖星は、とにかく早く終わらせようとそのカードを発動した。

 

「手札から魔法カード【魔導書の神判】を発動」

 

Dパッドにカードをセットすると、聞きなれた効果音が響く。

しかし、フィールドには何の変化もない。

 

「おや、特に変わった様子はないようですが」

 

「えぇ、効果が発動するのはエンドフェイズ時ですからね」

 

「ほう?」

 

顎に手を当ててカードを観察するイェーガーは、考えが読めない顔を浮かべながら自分の手札と聖星の場を見比べる。

 

「そして、魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

このカードはデッキから【魔導書】を1枚サーチできます。

俺は【セフェルの魔導書】をデッキから手札に加えますね」

 

「またもや見たことのないカード……」

 

聖星も、未来で生きていたとき【魔導書】のカードなど知らなかった。

恐らくだが彼らは遊馬達の世界にしか存在しないカテゴリなのだろう。

興味深そうに向けられる眼差しを無視し、聖星は次のカードを発動した。

 

「そして、【セフェルの魔導書】を発動。

俺の場に魔法使い族が存在するとき、貴方に手札の【魔導書】を見せることで、墓地に存在する【魔導書】の効果をコピーします」

 

「ほほう。

貴方の墓地に【魔導書】は1枚……

という事は【グリモの魔導書】の効果をコピーするのですね。

そのような効果を持つカードが存在するという事は、【グリモの魔導書】は1ターンに1枚しか発動できない制約付きでしょうか」

 

「ご名答」

 

流石は未来の初代市長である。

頭の回転力はそれなりにあるようだ。

聖星はデッキから差し出された1枚のカードを手に取り、それをイェーガーに見せる。

 

「俺は【魔導書院ラメイソン】を見せ、【ゲーテの魔導書】をサーチしました。

そしてフィールド魔法、【魔導書院ラメイソン】を発動。

カードを3枚伏せて、ターンエンド」

 

Dパッドから放たれた光は薄暗い工場を一瞬で青空に変え、聖星の背後に巨大な建物が出現する。

空中には解読不可能な文字が浮かび上がっており、緑色の光が円となって建物を囲んでいる。

その姿を見たイェーガーは、とある都市の駅前にあったといわれるモニュメントに似ていると思った。

 

「この瞬間、【魔導書の神判】の効果発動。

このターン俺が使用した魔法カードの枚数分だけ、【神判】以外の【魔導書】を手札に加えます。

俺がこのターン使用した魔法カードは3枚。

よって加えるのは【グリモ】、【アルマ】、【セフェルの魔導書】の3枚。

そして、加えた枚数以下のレベルを持つ魔法使い族をデッキから特殊召喚します。

来い、【魔導教士システィ】」

 

「はっ!」

 

聖星の説明にイェーガーは顎に手を当てたままだ。

普通ならこの説明をすると驚かれるのだが、彼は驚いているのだろうか。

デッキから差し出された4枚のカードを手に取った聖星は、頼りになる2人目の魔法使い族をフィールドに呼び出す。

 

「そして【システィ】の効果。

【魔導書】を発動したターン、彼女を除外する事でデッキから【魔導法士ジュノン】と【魔導書の神判】を手札に加えます」

 

特殊召喚された【システィ】は時空の歪みに吸い込まれ、代わりに凛とした女性のカードと、聖星が最初に加えたカードと同名カードがフィールドに現れた。

来てくれた仲間を手札に加えるため、聖星の視線が手札に向いている間、イェーガーは眉間に皺を寄せる。

 

「このターンで5枚のカードを……

1枚だった手札が6枚に回復ですか。

お見事です」

 

イェーガーも聖星と同じようにカードを3枚伏せたが、圧倒的に手札に差がある。

しかし妨害には成功しているため、大した焦りはなかった。

 

「私のターン、ドロー。

私は魔法カード【ディストレイン・カード】を発動します。

そうですね、1番左のカードを指定させていただきましょうか」

 

「え?」

 

その声と同時に、イェーガーから見て1番左端のカードが一瞬で黒ずんだ。

Dパッドに表示されている画面を見れば、そのカードには使用できないマークがついている。

 

「このターン、そのカードを使用する事は出来ません。

そして、貴方に800ポイントのダメージです」

 

「そんなっ……」

 

これで聖星のライフは3200.

しかし、伏せカードの1枚を封じられてしまったのは痛い。

聖星の表情からそれが読めたのか、イェーガーは不敵な笑みを浮かべてデュエルを続ける。

 

「さらに手札から魔法カード【財宝への隠し通路】を発動いたします。

これで【ジェスター・クイーン】は貴方にダイレクトアタックが出来ます」

 

道化の恰好をしている彼女は細い目をさらに細め、標的である聖星を見る。

睨まれた聖星は気味の悪い笑みについ下がってしまう。

 

「【ジェスター・クイーン】、ダイレクトアタック!」

 

「ふふふっ!!」

 

「くっ!!」

 

イェーガーの場にいた彼女は、【バテル】をあっさりと飛び越え、鋭利な爪で聖星を切り裂く。

10本の指で切り裂かれた痛みに声を漏らしてしまうが、すぐに落ち着いた表情を見せた。

 

「まだまだ行きますよ、【ジェスター・クイーン】は私の魔法・罠カードの数だけ更に攻撃できます」

 

「なっ!?

今貴方の場にはカードが3枚……!」

 

「そう、つまりあと3回攻撃出来るということです」

 

不敵な笑みを浮かべた【ジェスター・クイーン】はイェーガーの元へと戻ったと思えば、勢いよく聖星の元へジャンプする。

空中に浮かんでいる彼女の武器である爪は3倍の長さになった。

今、聖星のライフは2400.

つまり、この攻撃を全て受けてしまえば聖星の負けとなる。

 

「リバースカードオープン、【ゲーテの魔導書】を発動。

墓地に眠る【グリモ】と【セフェル】を除外し、【ジェスター・クイーン】を裏側守備表示に変更」

 

「おや?」

 

聖星の前にいる【バテル】は呪文を唱え始め、墓地から淡い紫色の書物と禍々しい書物を呼び出す。

2冊の【魔導書】は時空の彼方へ消え去り、空中にいた【ジェスター・クイーン】は強い力によってあるべき場所へ叩き返される。

 

「はぁ、良かった……」

 

「おや、指定するカードを間違えてしまったようですね。

私はこれでターンエンドです」

 

「俺のターン、ドロー。

フィールド魔法【ラメイソン】は俺の場または墓地に魔法使い族がいるとき、墓地眠る【魔導書】を回収し、デッキからカードを1枚ドロー出来ます」

 

【バテル】が存在する事で、条件はクリアしている。

墓地に存在する【魔導書の神判】をデッキの1番下に戻した聖星は、デッキから1枚カードを引いた。

 

「そして、さっき【システィ】の効果で加えた【魔導書の神判】を発動」

 

これで、聖星はこのターンのエンドフェイズ時、使用した魔法カードの枚数まで手札を回復する事が出来る。

先程のターンと同じことが繰り返されると察したイェーガーは静かに聖星を見ていた。

 

「俺は手札に存在する【グリモ】、【ルドラ】、【トーラ】を貴方に見せることで、このデッキの最高位魔導士を特殊召喚します」

 

「ほう。

最高位と来ましたか。

一体どのような魔導士なのでしょうか。

私の【ジェスター・クイーン】で翻弄してあげますよ」

 

「裏側守備のピエロに何が出来るんです」

 

嫌味の意味を込めて放った言葉だが彼もそれは分かっているようで、大した反応は返ってこなかった。

3冊の【魔導書】が円のように並び、回転し始める。

それは淡い桃色の光を生み出し、空を突き破る程の轟音を響かせた。

 

「来い、【魔導法士ジュノン】!」

 

「はぁ!」

 

光の柱の中から現れた【ジュノン】は目を鋭くさせ、【バテル】の隣に着地する。

表示された攻撃力は2500。

大抵のモンスターなら突破できる攻撃力だ。

 

「そして手札から魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

俺がデッキからサーチするのは【トーラの魔導書】です。

そして【セフェルの魔導書】を発動。

貴方に【トーラ】を見せることで、【グリモ】の効果をコピーし、【ヒュグロの魔導書】をサーチ」

 

フィールドに現れた禍々しい書物は【グリモの魔導書】へと変わり、次に赤く光る書物へと姿を変える。

 

「【ジュノン】の効果発動。

彼女は墓地または手札の【魔導書】を除外する事で、場のカードを破壊できます。

俺は墓地の【ゲーテ】を除外し、裏側守備の【ジェスター・クイーン】を破壊」

 

「おやおや、破壊されてしまいましたか」

 

裏側守備表示だった【ジェスター・クイーン】は破壊される寸前に姿を現し、悲痛な声を上げて砕け散った。

 

「【バテル】を攻撃表示に変更。

そして【ヒュグロの魔導書】を発動。

【ジュノン】の攻撃力は1000ポイントアップし、2500から3500になります」

 

今、イェーガーの場には伏せカードが2枚。

先程までは特殊召喚を封じるタイプ、攻撃宣言時に発動するタイプの罠等の可能性を考えていた。

しかし【ジェスター・クイーン】の効果を活かすためであり、単なるブラフの可能性も出てきた。

 

「バトルです。

【バテル】でイェーガーさんにダイレクトアタック」

 

「罠発動。

【進入禁止!No Entry!】、これで貴方のモンスターには守備表示になっていただきます」

 

露わになった罠カードの効果に、聖星の瞳は一切揺れなかった。

それどころかより力強い声で宣言する。

 

「【ジュノン】、行け!!」

 

「なっ、何故守備表示になっていないのです!?」

 

聖星が呼んだ名前に、イェーガーは場を二度見する。

確かに【バテル】は守備表示になっており、【進入禁止!No Entry!】の効果が適応されているのは明らかだ。

【ジュノン】は驚きを隠しきれていない道化など気にせず、掌に魔力を集め、イェーガーに放った。

 

「くぅうう!!」

 

自分に降り注ぐ魔力はイェーガーに大ダメージを与え、その衝撃の強さを示すようにコートや髪が激しく揺れる。

足元から焦げた煙が上がり、ライフが500まで削られた。

理解できないという表情をする彼に、聖星は1枚のカードを見せる。

 

「俺は速攻魔法【トーラの魔導書】を発動させていました。

このカードの効果で、イェーガーさんが発動した罠カードの効果を跳ね返しただけです」

 

「……そういう効果でしたか、厄介ですね」

 

「俺は【ルドラの魔導書】を発動。

【バテル】を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローします。

カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

そして、エンドフェイズ時になった事で【魔導書の神判】が発動する。

今、聖星の手札は3枚ある。

聖星はデッキから【グリモ】、【セフェル】、【ゲーテの魔導書】3枚を手札に加え、レベル3の【魔導召喚士テンペル】を守備表示で特殊召喚した。

その守備力は1000である。

新たに特殊召喚された女性モンスターを見ながら、イェーガーは手元の端末を見下ろした。

 

「(ふむ、【魔導書】……

ゴドウィン長官の予想通り、海馬コーポレーションのデータベースには存在していないカードですね。

そして彼が使っているデュエルディスク……

モーメントエンジンを搭載していないようですが、旧式にしてはデザインが見たことのないタイプ)」

 

サテライトを監視している者から報告があったとおり、目の前の人物は不可解な点が多すぎる。

直接監視とデュエルをすれば何か得られると思ったが、今手に入れている情報以上の事は得られそうにない。

どうしようかと考えながら、イェーガーはデッキに指を置いた。

 

「私のターン、ドロー」

 

引いたカードはモンスターカード。

さて、このデュエルを早々に切り上げるためにはどうすれば良いだろうか。

無駄な事を嫌う彼は手札のモンスターを召喚した。

 

「私は【ジェスター・コンフィ】を召喚します。

さらに装備魔法【ミスト・ボディ】を【ジェスター・コンフィ】に装備します。

これで【ジェスター・コンフィ】は戦闘では破壊されません」

 

場に召喚されたのは小太りで少し愉快な笑い声をするピエロだ。

その攻撃力はなんと0であり、聖星は怪訝そうな顔をした。

 

「そして伏せカードオープン。

永続罠【スピリットバリア】を発動します。

これにより【ジェスター・コンフィ】がいる限り、私への戦闘ダメージは0です」

 

成程、これで一応ダメージ0のコンボは完成した。

しかし聖星の場には問答無用でカードを破壊する【ジュノン】が存在する。

墓地と手札に【魔導書】は豊富にあり、次のターンになればすぐに【ジェスター・コンフィ】は破壊されてしまう。

それくらいイェーガー程の人物なら分かっているはずだ。

ならば、別の狙いがあると考えるのが妥当だろう。

 

「バトルです。

【ジェスター・コンフィ】、【魔導法士ジュノン】に攻撃しなさい!」

 

「え?」

 

いくら戦闘破壊無効、戦闘ダメージが0になるからといって、攻撃力0のモンスターで攻撃してくる理由が分からない。

【ジェスター・コンフィ】はボールから飛び上がり、ジャグリングに使っていた道具を【ジュノン】に投げる。

 

「さらに永続罠、【悲劇の喜劇】を発動します」

 

「え、何、そのカード?」

 

「流石に博識な聖星さんでも、このカードはご存じないようですね。

では、教えて差し上げましょう。

お互いのモンスターが戦闘で破壊されなかったとき効果が発動します。

聖星さんには、【魔導法士ジュノン】の攻撃力分のダメージを受けてもらいますよ」

 

「なっ!?」

 

イェーガーの説明に、聖星と【ジュノン】の表情は一瞬で変わった。

【ジュノン】は慌てて振り返り、聖星はDパッドに表示されているライフを見る。

残りのライフは2400、それに対し【ジュノン】の攻撃力は2500だ。

 

「くっ、とにかく行け【ジュノン】!!」

 

動揺して揺れている瞳を閉じ、無理に顔をあげた聖星は力強く叫んだ。

その言葉に背中を押された【ジュノン】は目を鋭くさせ、手元の書物から魔力を解放し、【ジェスター・コンフィ】を吹き飛ばす。

凄まじい暴風に飲み込まれた【ジェスター・コンフィ】はケタケタと笑いながら綺麗に着地する。

 

「さぁ、【悲劇の喜劇】の効果を受けていただきましょう!」

 

「うっ!!」

 

罠カードが光り出し、聖星の足元から赤い光の柱が立つ。

体中に走る衝撃に聖星は歯を食いしばり、その場に膝をついた。

デュエルが終わり、シティに戻る手配をするためイェーガーは再び懐から端末を取り出した。

しかし、まだソリッドビジョンが消えていない事に怪訝そうな顔をした。

まさかと思い、聖星のライフを確認すると、ライフが0になっていなかった。

 

「意外としぶといですね。

今度はどのようなカードを使用したのです?」

 

煙が薄れていくにつれて、聖星の場に見慣れないカードの姿が現れた。

1人の女性が綺麗な衣服を持っている絵柄に、イェーガーは何故聖星のライフが残っていたのか納得した。

 

「【禁じられた聖衣】。

このカードにより【ジュノン】の攻撃力は600ダウンしたのさ」

 

「成程、これで【魔導法士ジュノン】の攻撃力は1900になったと……

お見事です」

 

全く、下手な抵抗をせずに先程の戦闘で負けていれば良かったものを。

笑顔を張り付けながら裏でため息をついたイェーガーは、ある事を思い出した。

 

「ところで聖星さん、貴方は記憶喪失のようですね」

 

「何でも知ってるんですね。

いつから俺を見ていたんです?」

 

「ふふふっ。

下調べはしっかりする主義なので。

そして不躾ですが、先程お兄様との会話を盗み聞きさせていただきました」

 

「遊星さんとの会話を?」

 

「えぇ。

D-ホイールを作るというお話ですが……

サテライトの人間がD-ホイールなど、猫に小判、いえ、ドブネズミにダイヤモンドですね」

 

「……いきなり何です」

 

「夢を見るのは勝手ですが、身の程を弁えた方が、いえ、現実を見た方がよろしいという事ですよ。

D-ホイールは私達裕福な者の象徴。

サテライトのドブネズミには勿体ないものです。

ましてや、サテライトに流れ着くパーツだけで作るなど不可能」

 

「止めてください」

 

今までにないくらい、はっきりとした声が響いた。

叫んだわけでも、怒鳴ったわけでもない。

だが、今まで交わした言葉の中で最も重い声だった。

微かに震える拳を見たイェーガーは、聖星に気づかれないようほそく笑む。

 

「これ以上、貴方の口からそんな言葉を聞きたくない」

 

「私の口から?

どういう意味でしょうか?」

 

「あの人の事をドブネズミと呼ばないで欲しいと言っているんです」

 

あぁ、まさかこの人の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。

遊星に尊敬の眼差しを向けているイェーガーしか知らない聖星は、頭でわかっていても、実際耳にすると酷く心にくるものがあると実感した。

確かに今の彼にとってサテライトで這いずり回っている遊星の姿はドブネズミに見えるのだろう。

だが、例え未来で良好な関係を築けているとしても、その発言は聞き逃せない。

 

「おや、何故です?

サテライトに生きている者には妥当な呼称かと思いますが」

 

「……妥当な呼称?

ふざけんな、あの人は好きでこんな所で生きているわけじゃない。

あんた達がそうさせているんだろ?」

 

シティとサテライトが完全な格差社会になったのはいつからだ。

サテライトで起こる戦火をシティに広げないための策とは言え、あまりにもひど過ぎる。

その策略のせいで、父は、遊星はこんな閉じた世界での生活を強いられている。

 

「あんた達に押し付けられた理不尽な現実に屈さず、あの人はこのサテライトで仲間と共に生き、未来を目指してる。

その目指す先が、あんた達にとっては価値のないものかもしれないけど、あの人は必ず掴み取る。

いや、掴み取るだけじゃない、それを積み重ね、いつかは俺達が想像できない事を成し遂げるんだ!

それだけの強さをあの人は持っている!」

 

自分だって男だ、いつかは遊星の背中を乗り越えたいと思っている。

だが、この時代で生き、自分と年が変わらない遊星を見て時々疑問に思ってしまう。

この時の遊星さえ超えられていない自分は、あの人の背中を超えることが、いや、そもそも掴むことが出来るのだろうか。

それだけ遊星の背中は大きくて、とても遠い。

勿論、そこまで辿り着くには遊星1人ではとうてい無理だっただろう。

数多くの人間と出会い、別れ、絆を結んだからこそ出来たもの。

しかし、それだけの人達と繋がりを持てたのは、遊星の人徳があったからだ。

 

「あの人と同じ血が流れている者として言わせて貰う。

あの人はドブネズミなんかじゃない。

勝手に人の周りを嗅ぎまわって、嘘を並べてこっちに近寄ってくるあんたの方がたちの悪いドブネズミだ!」

 

「ほう、私がドブネズミと来ましたか。

随分と大きな口を叩きましたね」

 

「大きな口だって?

俺はただ、身内の事をそんな風に言われて黙っていられないだけさ!」

 

身内、そして同じ血。

その発言に、イェーガーは自分の認識を改めなければならないと考える。

 

「(情報によると、記憶喪失とはいえ、彼は自分と不動遊星の繋がりを否定する節があるそうですが……

彼は不動遊星を家族と認めている。

これはますます不可解ですね)」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

引いたのは1枚のモンスターカード。

だが、場に存在する【魔導召喚士テンペル】を見た聖星は、このモンスターの出番はないと確信した。

 

「フィールド魔法【ラメイソン】の効果により、墓地の【ルドラの魔導書】をデッキの1番下に戻し、カードを1枚ドローする。

さらに手札から【グリモの魔導書】を発動!

デッキから【ルドラの魔導書】を手札に加える」

 

【ジュノン】の手元に集まった光は淡い光の書物となり、それは聖星の手元へと舞い降りた。

これで発動条件は満たした。

聖星は目を鋭くさせ、高らかに宣言する。

 

「そして【テンペル】の効果発動!

俺が【魔導書】を発動したターン、彼女をリリースする事でデッキからレベル5以上の魔法使い族を特殊召喚する!」

 

「(レベル5以上、上級モンスターが並びますか)」

 

「【テンペル】、カオス・ゲート!!」

 

このターンに使用された【グリモの魔導書】が【テンペル】の目の前に現れ、彼女はとあるページを開いた。

そのページから無数の文字が浮かび上がり、足元に六芒星の魔法陣が描かれる。

輝く光は彼女を包み込み、フィールドに純白の光が満ち溢れた。

 

「冥府と現の狭間を彷徨いし闇の隷属よ、そのか弱き手で曙光を掴み取り、俺に勝利をもたらせ!!

【魔導天子トールモンド】!!」

 

聖星の場には白い球体が現れ、それはゆっくりと柔らかい翼になっていく。

暖かな光を纏いながら召喚された彼は、その声に応えるよう顔をあげ、翼を大きく羽ばたかせた。

その動きによって多くの羽が舞い上がり、天井から差し込む光が虹色に輝く。

感情を読ませない表情を浮かべる青年の姿は、言葉を失う程美しい。

その攻撃力は2900。

 

「【トールモンド】の効果、このカードが魔法使い族の効果で特殊召喚に成功した時、墓地に眠る【魔導書】を2枚手札に加える。

俺が加えるのは【ヒュグロ】と【トーラ】だ!

そして、この瞬間、俺の手札に【魔導書】は4枚揃った」

 

聖星は手札に存在する4枚の【魔導書】をイェーガーに見せる。

彼の手札にある【ヒュグロの魔導書】、【トーラの魔導書】、【ルドラの魔導書】、【ゲーテの魔導書】は、【トールモンド】の背後に現れる。

4冊の書物はそれぞれ剣や秤等、仲間達が持つ武器へと変わった。

 

「【トールモンド】の効果で4つの【魔導書】が揃った時、【トールモンド】以外のフィールドのカードを全て破壊する!」

 

「なっ、何ですとぉ!?」

 

「【トールモンド】、ディヴァイン・クリア・フィールド!!」

 

4つの武器は【トールモンド】の周りで回転を始め、それを軸に衝撃波がフィールドに放たれる。

敵味方問わず放たれた力はイェーガーの罠カード達を粉々に砕き、【ジェスター・コンフィ】は一瞬で消え去った。

【魔導書院ラメイソン】も激戦の中、ついに耐え切れなくなったのか、静かに崩れていく。

青い空が広がった世界は、元の無機質な工場に戻っていった。

これでイェーガーの場はがら空き、これ以上抵抗する術はないだろう。

 

「【トールモンド】、ダイレクトアタック!

クリア・ノヴァ・バースト!!」

 

宝石のように美しい瞳でイェーガーを捕らえた【トールモンド】は、自分の魔力を集めた。

虹色に光った両手から魔力が放たれ、容赦なくイェーガーを貫く。

体に走った痛みに彼は顔を歪め、悲痛な声を上げた。

 

「くぅう!!!」

 

貫くと同時に爆発の演出が入り、ライフが500から0にカウントされる音が聞こえてくる。

工場が揺れるほどの爆音が治まり、煙が晴れていった。

さて、この後イェーガーをどうしてやろうか。

一発殴らなければ気が済まないほど腸が煮えくり返っている聖星は、指の関節を鳴らして彼が立っている場所に歩み寄った。

 

「あれ?

嘘、もういない?」

 

完全に煙がなくなると、そこには誰もいなかった。

慌てて周りを見渡すが、彼らしき人影はない。

まさかと思って上を見上げると、天井の穴から覗く鉛色の空に、異様な黄色が見える。

 

「……そういえばあの人、不気味な気球を隠し持ってたっけ」

 

流石はピエロ、音を立てずに脱出するのはお手の物という事か。

今更思い出しては意味がなく、聖星は深いため息をついた。

このやり場のない怒りをどうにか鎮め、遊星と合流しなくてはならない。

いや、そもそも遊星は喧嘩を終わらせ、今頃自分を探しているのではないか?

 

「(あ、ヤバイ。

どうして勝手に離れたんだって怒られる)」

 

いや、怒りはしないか。

それでも絶対に何か言われると確信した聖星は、憂鬱な気分になりながら振り返った。

すると、工場の出入り口に遊星が立っていた。

 

「あ、遊星さん」

 

「見事なデュエルだった」

 

「……あの、いつから?」

 

見ていたのですか?と暗に含ませて聞けば、遊星は少しだけ微笑んで答えてくれた。

 

「君が【ジュノン】を召喚した辺りからだ」

 

照れたような表情で告げられた言葉に、聖星は色々な意味で先程の発言を取り消したくなる。

遊星が素晴らしい人間だと言った点は良い。

問題は遊星の事を家族だと肯定するような事を言ったことだ。

ばっちり聞かれていたようで、遊星は一緒に暮らしていた中で1番素敵な笑顔を向けてくれる。

 

「君はさっき自分の事を買いかぶり過ぎだと言っていたが、聖星も充分俺の事を買いかぶり過ぎている。

俺はそこまで出来た人間じゃない。

だが、嬉しいものだな」

 

自分達がD-ホイールを作ろうとしている事を、あの道化は馬鹿にした。

それだけでも遊星にとってはあの場に乱入する理由になる。

しかし、ドブネズミという発言を聞いた瞬間に聖星の雰囲気が変わり、踏みとどまった。

その結果、遊星を大切に想っているという旨の言葉を聖星の口から聞くことが出来た。

きっとあれが嘘偽りのない彼の気持ちなのだろう。

傍から見ても分かるくらい嬉しがっている遊星に対し、聖星の目からハイライトが消えた。

 

「(……【星態龍】、助けて。

父さんの誤解が一向におさまらない)」

 

**

 

イェーガーとの出会いから3日が経過した。

あの日、アジトに戻った遊星はシティの人間と聖星が接触した事を報告した。

最初は真剣に聞いていた鬼柳達だったが、遊星が嬉しそうに聖星の言葉について話し始めたので、次第に視線が暖かい物へと変化していく。

居たたまれない聖星は顔を逸らし、デッキと睨めっこをするのが精いっぱいだった。

 

「にしても雨か。

これじゃあ今日は捜索しない方が良いな」

 

窓際で雨空を睨みつけているクロウの言葉にジャックは深く頷いた。

聖星のために【星態龍】を探すのも大切だが、冬に雨に打たれるのは正直勘弁してほしいものである。

仲良くD-ホイールの設計をしている兄弟に目をやれば、遊星が目を輝かせながら図面に線を引いていき、聖星が小さく頷いている。

次々出てくる専門用語についていけないジャックは、冷えた指先を温めるため薄いコーヒーが入っているコップに手を伸ばす。

瞬間、アジトが光に照らされる。

 

「何?」

 

「え!?」

 

「何だ、これ!?」

 

突然の事に皆は顔をあげ、デッキを編集していた鬼柳はデュエルディスクを掴んで外を見た。

雨の向こう側には緑色の光を発する車が無数に存在し、空にはアジトを照らす光の原因であるヘリコプターがあった。

それらの車体にはSECURITYの文字が印刷されており、彼等は自分達の敵だというのが分かる。

だが、何故彼等がここにいるのか、その理由が分からない。

 

「出てきなさい、不動聖星。

君達は完全に包囲されている」

 

「セキュリティ!?

何であいつらが!?」

 

「聖星、何かしたのか!?」

 

「した覚えなんてありません!」

 

確かにそうだ。

彼が自分達のチームに加わってから、聖星は誰かと一緒に行動をするのが殆どだった。

仮に聖星がセキュリティに追われるような事をすれば、遊星達の中の誰かが気が付くはず。

遊星は近くにあった古いシーツを聖星の頭にかぶせ、庇うように前に出る。

 

「遊星さん?」

 

「俺の後ろから出るな。

良いな?」

 

「だけど……」

 

「遊星」

 

「鬼柳」

 

「俺が時間を稼ぐ。

その間に聖星を連れて逃げろ。

集合場所はB.A.D地区だ」

 

「……すまない」

 

「良いって事よ」

 

軽く手をあげた鬼柳は窓から飛び出し、ゆっくりとセキュリティへ歩み寄る。

突然出てきた少年に、1人の男が手元にある資料と少年を見比べる。

そして、彼が首を横に振るとセキュリティはデュエルディスクを構えた。

 

「ちょっと待て、何故聖星を連れて行こうとするんだ!

あいつが何かしたっていうのか!

もしそうならそれは何かの間違いだ!」

 

「君は確か鬼柳京介だったね。

悪いが、君には関係のない話だ」

 

「何だと!」

 

外から聞こえる会話を背に、遊星は聖星の手首を掴む。

聖星はこの場にいる皆に視線で本当に良いのかと問うが、返ってきたのは小さな頷きだけだ。

自分ではどうしようもない事に聖星は顔を歪め、大人しく後についていく。

 

「裏口も抑えられてるな」

 

「という事は、地下しかないか」

 

「あぁ」

 

ジャックの言葉にクロウは頷き、ベッドの下にある隠し通路の扉を開けた。

もしもの時に作っていたのが役に立つとは、嬉しいような悲しいような、複雑な気分である。

物音を立てないように外に出ると、誰かの気配はなかった。

その事に安堵し、階段を上り切った。

すると、先程と同じように聖星達を無数の光が照らす。

 

「どうも、3日ぶりですね。

不動聖星さん」

 

「イェーガー……」

 

雨の音をかき消し、雨を薙ぎ払う力強さを持つヘリコプターからイェーガーが下りてくる。

綺麗に着地した彼は相変わらずの胡散臭い笑顔を見せてくれた。

 

「ピエロのような男……

貴様、以前聖星がデュエルしたという男か!」

 

「えぇ。

イェーガーと申します、どうぞ、お見知り置きを。

尤も、今後貴方達と関わる事はないと思いますが」

 

手を腹部に添えて深くお辞儀をする仕草に、ジャックは顔を歪める。

遊星はあの時の男の登場に目を鋭くさせ、聖星の前に立った。

 

「シティの人間が何の用だ」

 

「この度は治安維持局からの命令で聖星さんを迎えに来ました。

さ、聖星さん、どうぞこちらへ」

 

「え?」

 

まさかの言葉に、聖星は自分の耳を疑った。

何故シティの治安を守るのが主な仕事の治安維持局が自分に目をつけるのだ。

いや、イェーガーから接触があった時点で目をつけられていたという自覚はあった。

だが、何故自分を連れて行こうとするのだ。

 

「どうして聖星を……」

 

「別におかしいことではありませんよ。

シティの人間を保護するのも我々、治安維持局の役目です」

 

「シティの?」

 

「待てよ、じゃあ聖星はシティ出身だっていうのか!?」

 

「えぇ。

聖星さんは今から数か月前に誘拐され、それ以降行方不明でした。

犯人は捕らえましたが既に聖星さんは海に突き落とされたあと……

その時味わった恐怖は相当のものでしょう。

まさか記憶喪失になっていたなんて」

 

わざとらしく振る舞う姿に、聖星は噛みつこうとする。

何故そんな嘘を平然と並べることが出来るのだ!

だが、イェーガーが言った通り、聖星は表向きには記憶喪失という扱いになっている。

彼の言葉を否定する事が出来ないため、強く拳を握り締めた。

その拳の震えをどう判断したのか、遊星はイェーガーを睨みつけて前に出た。

 

「おや、邪魔をするつもりですか?

シティには彼を待っているご両親とご兄弟がいるんですよ?

まぁ、貴方様と違って血の繋がりはありませんがね」

 

「っ!」

 

家族が待っているとう言葉に遊星の瞳が揺れる。

イェーガーの言う通りならば、当然聖星には家族がいるはずだ。

ましてや誘拐されたという話だ、彼等が今の時間をどのように過ごしているのか簡単に想像できる。

 

「聖星さん、お兄様と再会出来て嬉しい気持ちは理解できます。

ですが、我々も仕事です。

仮に貴方が拒むようでしたら無理矢理にでも連れていきますよ。

勿論、邪魔をする方には容赦いたしません」

 

「っ!」

 

つまり、大人しく来なければ遊星達の身の安全は保障できないということ。

聖星は自分の前に出ている3人の背中を見る。

ゆっくりと息を吐いた彼は遊星達の間を通り、イェーガーの元へ行く。

 

「聖星!?」

 

「おい、待てよ!」

 

「貴様、前に出るな!」

 

真っ直ぐとイェーガーに歩もうとすれば、行く手を阻むかのように遊星達が手を伸ばす。

だが、それより先に近くに潜伏していたセキュリティが3人を取り押さえた。

離せと叫んでいる彼らの様子に、聖星は振り返らずにイェーガーの前に立った。

 

「幾つか条件がある」

 

「何でしょう」

 

「こんな形で俺と彼らを引き離したんだ。

今後、俺を取り戻すために皆がセキュリティに何かするかもしれない。

その際の彼らの罪を不問にしろ。

もっと穏便に事を運べる方法があるのにこんな手段をとったんだ。

それくらい良いだろう?」

 

「良いでしょう。

サテライト担当の者に、今後、彼らの事は不問にするよう伝えておきます」

 

「交渉成立だな」

 

後ろで暴れている彼らに振り返り、聖星は謝罪するように目を伏せ、そのままヘリコプターに乗り込んだ。

 

END




おい、遊星と一緒にシティに行くんじゃなかったのかよ(セルフ突っ込み)

これから2年間、確かに絆をはぐくむのも良いけど、2年間離れ離れになって「絶対に弟を取り戻す」と燃える遊星も良いかなぁと
なんか、これだとジャックが【スターダスト】を盗んでシティに行っても、裏切り者扱いされないかもしれない

【悲劇の喜劇】って、対象を取るのか取らないのか分からない
私は対象を取るか、取らないかの判断は『選択』『選んで』でしています
コンマイ語分からない……
誰か教えてください……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界よただいま、まさかの家族登場★

「では、ごゆるりと」

 

その言葉と共に目の前の扉が閉じた。

聖星は小さくため息をついて、自分に与えられた部屋を見渡す。

大きなベッドに、向かい合っているソファ、その間にある高級そうなガラス製の机。

壁側を見ればアンティーク調のデスクがあり、上には不釣り合いなデスクトップパソコンが置かれている。

 

「何か、想像していたのと扱いが違うな……」

 

サテライトからシティへと連行された聖星は、複数のセキュリティに囲まれながらこの部屋に通された。

てっきり独房のようなところへ連れていかれると思ったのだが、想像と違って驚くしかない。

 

「(パソコンがあるなら父さんと連絡取れるかも。

父さん達、絶対に心配してるし、俺が不問にして欲しいと交渉しても絶対に守られている保証はない。

けど、この部屋には監視カメラや盗聴器は仕掛けられてるのかな?)」

 

今の自分は彼らの監視下にあり、プライバシーはないと考えた方が良いだろう。

これは少し時間がかかるぞ……と頭を抱えながら、早速パソコンを立ち上げた。

 

「(まずは、ダミー映像を監視カメラに流す必要があるからその設定をしないと)」

 

監視カメラに同じ映像が数分程流れるように設定するため、聖星はシステムにハッキングをする。

ハッキングがバレないように世界中の回線を中継したので、逆探知されても10分は稼げるはずだ。

早くしなければと思いながら進めると、1つの扉が閉じている画面へと移り、その扉が開く演出が起きた。

 

「え?」

 

扉の先にはデュエルフィールドがあった。

そこには複数のモンスターが存在し、手札や伏せカードも存在する。

見慣れた光景に聖星はこれが何なのかすぐに察した。

 

「……まさか、詰めデュエル?」

 

未来のセキュリティ、そして遊馬の世界でも防犯システムに詰めデュエルを採用し、それをパスワードにしていた。

まさか時間のかかる方法をパスワードにしているとは流石である。

簡単な文字の羅列を解き明かすより、カードを1枚ずつ扱うデュエルの方が頭を使い、時間に支配された時の緊張感による焦りが生まれやすい。

それを考えると詰めデュエルは良いパスワード代わりだろう。

 

「えっと、まず俺の場は……」

 

聖星の場に存在するモンスターは、守備表示の【ジェムナイト・アメジス】1体。

そして伏せカードは、シンクロ召喚を行える【緊急同調】と、手札と墓地の永続罠カードをセットしたターンに使用出来る【ブービートラップE】。

手札に存在するのは、魔法カード【死者蘇生】、【サイクロン】、チューナーモンスター【グローアップ・バルブ】、効果モンスター【絶対防御将軍】の4枚だ。

墓地には【リビングデッドの呼び声】、【血の代償】、ライフを800ポイント払う事でデッキから仲間を呼ぶチューナーモンスター【メンタルマスター】が存在した。

そしてデッキは【リ・バイブル】1枚のみ。

 

「俺のライフは900だから【メンタルマスター】の効果は使えるけど、2000ポイント必要とする【リ・バイブル】の効果は使えないな。

エクストラデッキには【A・O・J ライト・ゲイザー】、【ギガンテック・ファイター】、【ゼラの天使】の3枚のみ。

それで、相手の場は……」

 

相手の場には、モンスター効果が発動した時、問答無用で破壊する【死霊騎士デスカリバーナイト】と、レベル3チューナー【X-セイバー エアベルン】、攻撃力2900の【氷の女王】の3体が攻撃表示で存在する。

魔法・罠ゾーンには自分のモンスターを除外する【ディメンション・ゲート】が発動されており、除外ゾーンには攻撃力4000の【魔王超龍ベエルゼウス】が除外されていた。

 

「【ディメンション・ゲート】は俺が直接攻撃する時、除外したモンスターを特殊召喚するカードだっけ。

つまり直接攻撃したら攻撃力4000のモンスターが来るのかよ。

何だよそれ、真正面からぶつかるのは無理だな」

 

更に獣族を戦闘から1度だけ守る【神聖なる森】が発動されており、伏せカードが2枚あった。

カーソルを合わせると【カウンター・ゲート】、【閃光弾】と表示された。

直接攻撃をトリガーとする罠であり、【ディメンション・ゲート】を加えて考えると、どれだけ直接攻撃されたくないのだと頭が痛くなる。

 

「墓地には【クリッター】、【ゴブリンゾンビ】、【ゲリラカイト】の3枚。

デッキには【ゾンビキャリア】が1枚、エクストラデッキは15枚のまま」

 

そして、最後に確認しなければいけないライフは1700であった。

 

「とにかく、今厄介なのは相手の魔法・罠カードと【デスカリバーナイト】だな。

あれだけ直接攻撃をトリガーとするカードを伏せているという事は、直接攻撃で決着が着くと考えた方が良い。

手札にある魔法・罠カードを破壊できるのは【サイクロン】だけ……」

 

しかし、【サイクロン】で破壊できるのは1枚のみ。

直接攻撃時に【ベエルゼウス】を特殊召喚する【ディメンション・ゲート】。

直接攻撃でダメージを受けた時エンドフェイズ時になる【閃光弾】。

そして【カウンター・ゲート】は直接攻撃を無効にし、1枚ドローする効果がある。

【サイクロン】1枚でこの3枚を処理するのは不可能だ。

 

「俺の場にそれが出来るのはレベル7の【ジェムナイト・アメジス】。

【ジェムナイト・アメジス】は墓地に送られた時、伏せられている魔法・罠カードを全て手札に戻す効果がある。

だから、【サイクロン】で【ディメンション・ゲート】を破壊して、彼の効果を使えば他のカードを無力化できる

けど、相手の場には【デスカリバーナイト】がいるしなぁ」

 

【デスカリバーナイト】は自分・相手を問わずモンスター効果が発動した時、自身をリリースしてその効果を無効にし、破壊する効果を持つ。

手札に存在する【グローアップ・バルブ】を召喚し、シンクロ素材として墓地に送る事で【アメジス】の効果を発動したところで、【デスカリバーナイト】で無効にされる未来しかない。

 

「つまり【ジェムナイト・アメジス】の効果を発動する前に、囮になるモンスターが必要になるってことだから……

仮に【死者蘇生】で【メンタルマスター】を蘇生し、【メンタルマスター】の効果を使ったら【デスカリバーナイト】は破壊できる。

それで【グローアップ・バルブ】を通常召喚して、【ジェムナイト・アメジス】と【グローアップ・バルブ】でシンクロ召喚。

レベル8の【ギガンテック・ファイター】を特殊召喚した後、俺の場と相手の場の伏せカードは手札に戻る。

いや、でも駄目だ。

【ギガンテック・ファイター】の攻撃力は2800、2900の【氷の女王】には勝てない。

仮に攻撃力1600の【エアベルン】に攻撃しても、削れるのは1200ポイント。

これじゃ詰まない」

 

いや、【死者蘇生】を発動する前に、【ブービートラップE】を発動するのはどうだろう。

【ギガンテック・ファイター】は墓地に眠る戦士族の数だけ攻撃力が上がる。

手札に存在する戦士族【絶対防御将軍】をコストとして墓地に送り、墓地に存在する【リビングデッドの呼び声】を場にセットし、発動。

【メンタルマスター】を蘇生して効果を発動、【デスカリバーナイト】を強制的に場から退場させる。

その後、【グローアップ・バルブ】を通常召喚し、【グローアップ・バルブ】と【ジェムナイト・アメジス】でシンクロ召喚を行う。

【ギガンテック・ファイター】をシンクロ召喚し、【アメジス】の効果で伏せカードが全て手札に戻る。

 

「墓地に眠る戦士族は1体、だから【ギガンテック・ファイター】の攻撃力は2800から2900になる。

さらに手札に【死者蘇生】があるから、バトルに入る前に【ジェムナイト・アメジス】を特殊召喚できる」

 

これで場に攻撃力2900と1950のモンスターが揃うのだ。

相手のライフは1700、攻撃力1600の【X-セイバー エアベルン】が存在しても、モンスター2体で攻撃すれば怖くない。

 

「あ、駄目だ。

【神聖なる森】の効果で【エアベルン】は1度だけ戦闘で破壊されないんだっけ。

【アメジス】と【ギガンテック・ファイター】で攻撃しても、与えられるダメージは350と1300.

ライフ1700を削れない」

 

これはかなり頭を使うぞ。

米神に手を当てた聖星は、改めて場を見渡す。

 

「……【緊急同調】って何のためにあるんだ?

バトルフェイズ中にシンクロ召喚する必要があるっていうこと?

けど、エクストラデッキに存在するのはレベル8のシンクロモンスターのみ。

チューナーとチューナー以外のモンスターのレベルを組み合わせても、7と1しかない」

 

聖星のモンスターのレベルは【アメジス】が7、【絶対防御種軍】が6、【メンタルマスター】と【グローアップ・バルブ】、【リ・バイブル】が1だ。

それに対し、相手の墓地のモンスターはレベル3の【クリッター】、【ゴブリンゾンビ】と【ゲリラカイト】は共に4.

やはり自分のエクストラデッキのモンスターのレベルを考えると、蘇生させたモンスターと自分のモンスターをシンクロ召喚させるのは正解ではないだろう。

 

「いや、そもそも何で相手の墓地にモンスターが存在するんだ?

しかも全部、戦闘で破壊された時効果を発動するモンスターばかり」

 

手札に存在する【死者蘇生】を使って、この中から1体蘇生させろという事なのだろうか。

だが、何のために。

 

「待てよ、相手の墓地のモンスターは全て強制効果。

絶対に発動するんだ。

つまり、【デスカリバーナイト】の効果も嫌でも発動してしまう……」

 

その瞬間、1つの線が繋がった気がした。

 

「……そういう事か」

 

そうだ、シンクロ召喚を行うのはメインフェイズじゃない。

そして、【デスカリバーナイト】のために犠牲にするのは自分のモンスターでなくても良いのだ。

答えが見えてきた聖星は、手札のカードを発動する。

 

「俺は手札から速攻魔法【サイクロン】を発動。

【ディメンション・ゲート】を破壊する」

 

場に現れた突風は、次元の牢獄に【魔王超龍ベエルゼウス】を閉じ込めている檻を破壊する。

これで直接攻撃を邪魔する攻撃力4000のモンスターが再臨する心配はなくなった。

 

「そして【死者蘇生】で貴方の墓地の攻撃力1600の【ゲリラカイト】を貰います」

 

聖星が選んだのは、相手の墓地に眠るモンスターの中で唯一【エアベルン】と同じ攻撃力を持つ【ゲリラカイト】だ。

聖星の場に凧の形をしたモンスターが現れ、それは楽しそうに笑っている。

隣でとげとげの玩具をばらまくモンスターに【ジェムナイト・アメジス】は苦笑をこぼし、聖星の言葉を待つ。

 

「そして守備表示の【ジェムナイト・アメジス】を攻撃表示に変更し、チューナーモンスター【グローアップ・バルブ】を召喚。

バトル、【ゲリラカイト】で【エアベルン】に攻撃」

 

【ゲリラカイト】は手に持っている玩具を【エアベルン】にめがけて投げつける。

しかし、【エアベルン】は手に持っている爪で玩具を真っ二つに割り、そのまま【ゲリラカイト】を貫いた。

攻撃力は同じ1600だが、【エアベルン】は永続魔法【神聖なる森】の加護により戦闘で1度だけ破壊されない。

つまり、もう1度【エアベルン】に攻撃できるという事だ。

 

「これで【ゲリラカイト】の効果が強制的に発動する」

 

【ゲリラカイト】の強制効果、それは墓地に送られた場合聖星に500ポイントのダメージを与える。

だが、墓地から現れた半透明の【ゲリラカイト】の前に【死霊騎士デスカリバーナイト】が立ちはだかり、2人は仲良く墓地へと還っていった。

 

「【ジェムナイト・アメジス】で【エアベルン】に攻撃」

 

「はぁ!!」

 

【ジェムナイト・アメジス】は手に持っている剣を大きく振り飾り、【エアベルン】を叩き潰す。

これで相手のライフが1700から350削られ、1350になる。

 

「そして手札の【絶対防御将軍】をコストに、罠カード【ブービートラップE】を発動。

墓地に眠る【リビングデッドの呼び声】をセットする」

 

どうせこの後【ジェムナイト・アメジス】の効果で手札に戻るのだ。

【血の代償】でも良かったが、聖星はモンスターを蘇生できる【リビングデッドの呼び声】を選んだ。

 

「さらに俺は【緊急同調】を発動。

レベル7の【ジェムナイト・アメジス】にレベル1の【グローアップ・バルブ】をチューニング。

シンクロ召喚。

【ギガンテック・ファイター】」

 

誇り高い騎士は7つの輝く星となり、【グローアップ・バルブ】は1つの輪と1つの星となる。

集まった8つの星は淡い緑色の光へと変わり、轟音を轟かせながら不滅の戦士へと姿を変えた。

空から勢いよく【ギガンテック・ファイター】が着地すると、周りの土が舞い上がる。

 

「【ギガンテック・ファイター】の攻撃力は墓地に眠る戦士族の数×100ポイントアップする。

これで【氷の女王】と戦える」

 

最後に相手フィールドに残った【氷の女王】の攻撃力は2900.

流石は女王様、自分と同じ攻撃力のモンスターが現れても一切微動だしなかった。

すると、墓地から【ジェムナイト・アメジス】が現れ、持っている剣を地面に突き刺した。

彼を中心に衝撃波が放たれ、場に存在した全ての伏せカードが手札に戻る。

 

「【ギガンテック・ファイター】、やれ」

 

自分の巨大な腕を振りかざした【ギガンテック・ファイター】は、真正面にいる【氷の女王】に向かって突撃する。

【氷の女王】はフィールド全体を凍らせ、自分に歯向かう反逆者を氷漬けにしようとした。

絶対零度の冷気に【ギガンテック・ファイター】の体は白く凍っていくが、不屈の戦士は無理に体を動かし、倒すべき女王に自慢の一撃を食らわせる。

鈍い両者の悲鳴が聞こえ、次の瞬間2体は爆発した。

 

「【ギガンテック・ファイター】は、自分がやられた時、墓地に眠る戦士族を復活させる。

勿論、自分もな」

 

誰に聞かせるでもなく、聖星は呟いた。

煙が晴れていくにつれ、詰めデュエルのフィールドが見渡せるようになる。

そこに立っていたのは【ギガンテック・ファイター】だ。

これはバトルフェイズ中の特殊召喚となり、彼にはもう1度攻撃する権利があった。

 

「【ギガンテック・ファイター】、ダイレクトアタック」

 

「はぁああ!!」

 

相手プレイヤーの姿が見えないフィールドに、【ギガンテック・ファイター】の雄叫びが木霊する。

地面に向かって殴りかかった【ギガンテック・ファイター】の攻撃は、残りのライフ1350を一瞬で奪い去った。

同時に詰めデュエル終了のブザーが鳴り響き、セキュリティシステムのロックが解除される。

ランプが青色になった聖星は、詰めデュエルを解けた満足感を味わう暇もなく、プログラムを弄り始めた。

 

「とにかく、設定を変えないと」

 

目にも止まらぬ速さで設定を書き換え、この部屋のセキュリティを掌握する。

監視カメラには聖星の用意した映像が流れ、盗聴器の機能もかなり低下させることに成功した。

許容範囲の書き換えに成功した聖星は、休む暇もなく遊星宛てのメールを書き始める。

 

**

 

同時刻、聖星を逃がすために1人囮になった鬼柳は手当てを受けていた。

殴られて腫れた顔に冷たいタオルをあてられ、酷い痛みが走る。

 

「いてっ!

頼むぜ、ラリー。

もうちょっと優しくしてくれないか」

 

「あ、ごめんね」

 

苦笑を浮かべながら伝えると、眉を八の字に下げたラリーが申し訳なさそうに言う。

別に責めているわけではないが、さっき起こった出来事のせいで皆気分が沈んでいるのだ。

冷えたタオルを水が入った容器に戻したラリーは、後ろに振り返る。

そこには祈るように両手を組み、顔を伏せる遊星がいた。

 

「大丈夫か、遊星?」

 

「……あぁ」

 

隣に座っているクロウはそう声をかけるしかなかった。

聖星がヘリコプターに乗り、サテライトから飛び去った後、セキュリティ達は一斉に撤退した。

取り残されたのは、暴行を加えられボロボロとなった遊星達である。

体中に包帯やガーゼをつけている遊星は、2人で作っていたD-ホイールの図面を見下ろす。

何とも言えない表情を浮かべるジャックは、手当てをしたナーヴに軽く礼を述べ、天井を見上げながら呟いた。

 

「まさか、聖星がシティの人間だったとはな」

 

「頭のどこかでは分かっていたのかもしれない……」

 

「何だと?」

 

「いくらサテライトが広いと言っても、あれ程似ている俺達がこの14年間出会わなかったのはおかしい。

聖星はあれ程の実力を持つデュエリストだ、どこかで噂くらい流れているはずだ。

それに、記憶喪失と言っても聖星はサテライトで生きるための術だけを知らなさ過ぎた。

聖星が外から来た人間ならそれも納得できる。

だが……」

 

それでも、遊星は構わなかった。

例え距離を置かれていても、自分達を見下すシティの人間でも、聖星は間違いなく自分の弟である。

そして、聖星が自分の願いを受け入れ、歩み寄ろうとしてくれた矢先にこれだ。

 

「だが、あの男の言葉に現実を突きつけられた。

シティには聖星の帰りを待っている家族がいる。

例え実の兄である俺でも、彼等の気持ちを踏みにじる権利はない。

聖星は家族の元に帰るべきだ」

 

遊星の言葉にクロウは頬をかく。

確かに、クロウも聖星を待っている誰かがいる事を理解していた。

そして聖星自身もそれを分かっていた。

だからクロウは、待ってくれる人と遊星の両方を大切にする道があると伝えた。

 

「じゃあ遊星、聖星の事を諦めるのか?」

 

「諦める?

そんなわけないだろう、クロウ。

きっと聖星は二度とこちらに来ることは出来ないだろう。

だから、俺が行く」

 

シティとサテライトは表向き、行き来が不可能である。

しかし、再生するためのゴミをシティからサテライトに送るためのパイプラインが存在する。

それを利用すればシティに行くことが出来るのだ。

 

「そのためには、これを完成させないといけない」

 

人間の足であのパイプラインを突破するのは至難の業である。

だが、【スターダスト・ドラゴン】が羽ばたく姿を見るために作ろうとしたD-ホイールがあれば話は別だ。

遊星の言葉に鬼柳達は笑みを浮かべた。

 

「よし!

それならチーム・サティスファクションの次の目標は、遊星をシティに送り出し、聖星と会わせる事だ。

異論はないな、ジャック、クロウ!」

 

所詮、自分達はサテライトから出る事は出来ない。

だからこの閉ざされた世界で大きなことを成し遂げようと思い、チーム・サティスファクションを結成した。

だが、何があってもサテライトから出なければいけない理由が出来た。

仲間のために自分達がすべきことが見つかった鬼柳は高らかに宣言をする。

その言葉にクロウ達は強く頷き、遊星はやわらかく微笑んだ。

 

「ぇ、あだぁ!」

 

「何?」

 

突然奥から響いた人の声。

慌ててそちらに顔を向けると、雨に濡れたタカが地面に転がっていた。

ラリーは怪訝そうな顔を浮かべてタカの前に歩み寄った。

 

「何やってるの、タカ?」

 

「ははは、わるぃ。

遊星に伝えたいことがあって慌ててきたんだが、足元が滑って」

 

「俺に伝えたいこと?」

 

「あぁ。

遊星、パソコンに変なメールが来てるんだ」

 

「メール?」

 

不思議そうに首を傾げる遊星に、タカは強く頷いた。

それから遊星達はパソコンの前に集まり、メール画面を開く。

差出人の欄にはUnknownと書かれているが、本文を見た瞬間、誰がこのメールを出したのか分かった。

 

「聖星からだ」

 

「何だと!?」

 

「なんて書いてる?」

 

「……どうやら無事らしい」

 

メールの内容は、無事である事、目を盗んでメールを送っている事、遊星達の安否を気遣う事が書かれていた。

添付にも慌ててパソコンのカメラで撮ったと思わる画像があり、少しぶれているのが急いで撮った事を思わせる。

イェーガーの話から、聖星は手厚く保護されていると予想できた。

実際その通りだと分かり、遊星は安堵の笑みを浮かべ、こちらは全員無事という旨のメールを返す。

 

**

 

遊星から返ってきたメールの内容で、セキュリティは聖星との取引を守ってくれた事が確認できた。

安心した聖星は、時々連絡するメールを送り、その日は眠りについた。

そして、目の前に立っている男に警戒の眼差しを向けながら首を傾げる。

 

「それで、俺はいつになったら家族に会えるのですか?

俺と家族を会わせるためにここまで連れてきたのですよね?」

 

子猫の威嚇に等しい眼差しを向けられているイェーガーは、不敵な笑みを浮かべながら頭を下げた。

 

「ご安心を。

既にお父様はこちらの建物にいらしています」

 

「お父様?」

 

成程、一応父親役を用意したのか。

随分と手の込んだ事をするものだと感心していると、誰かが扉をノックする。

ソファに座っている聖星は立ち上がろうとしたが、それをイェーガーが手で制し、扉を開けた。

そこには高身長で綺麗な身なりの長髪男性が立っていた。

 

「失礼いたします」

 

「お待ちしておりました」

 

物腰が柔らかそうな男性は、アジア系の人間ではなく、どちらかと言うと欧米の人間である。

聖星の父親役を連れてきた案内人なのだろうかと考えたが、彼以外廊下にいるのは青い髪の女性1人だけだった。

彼は扉を閉め、一歩前に出て聖星を視界に入れると目元を和らげた。

 

「聖星さん、あちらにおわすお方が貴方のお父上、治安維持局長官のレクス・ゴドウィン様です」

 

「え?」

 

今、何て言いました??

思わず声が裏返った聖星は目の前にいる男性とイェーガーを交互に見る。

自分の聞き間違いでなければ、彼は確かにこう言った。

 

「治安維持局長官……?」

 

明らかに動揺している少年に、ゴドウィン長官は優しく微笑んだ。

 

「驚くのも無理はありません、聖星。

貴方が記憶喪失という事はそこにいるイェーガー副長官から聞いています」

 

「いやいやいや、おかしいですよ。

俺が貴方の息子??

確かに俺と家族に血の繋がりはないってイェーガーさんが言っていましたけど、長官と俺が親子だなんてありえない。

そもそも、セキュリティが俺の事を迎えに来た時、俺の事を不動聖星って呼んでいたじゃないですか!」

 

そうだ、彼らは自分の事を不動と呼んでいた。

あの時は突然の事に混乱したため気にも留めなかったが、普通なら今現在共に暮らしている家族の苗字で呼ばれるはず。

いや、今はそういう事が言いたいのではない。

混乱している頭の中を整理しながら、聖星は自分と彼の苗字が違う事を指摘する。

 

「えぇ。

表向き、貴方には不動の姓を名乗って貰っています」

 

「表向き?」

 

「理由は簡単です。

義理とはいえ治安維持局長官の息子となると、貴方を狙う人間は多くいます。

だから私は、貴方が私の養子であることが外部の人間に知れ渡らないよう、実の父親の姓を使わせていました。

しかし、どこからか情報が洩れてしまい、結果、貴方は浚われてしまった……」

 

彼の説明に、よくこんな辻褄が合う設定を作り上げたものだと思った。

確かに彼ほどの身分になると家族は恰好の人質要員だろう。

危険から遠ざけるという名目があれば、別に苗字が異なっていてもおかしくはない。

ゆっくりと歩み寄ってくるゴドウィン長官に、聖星はソファに座っているにもかかわらず、後ずさってしまう。

 

「……え、あの?」

 

ゴドウィン長官は慈愛が籠った眼差しを向け、その場に膝をつく。

同じ目線まで屈んだ彼は、聖星を抱きしめ、耳元で囁いた。

 

「お帰りなさい、聖星」

 

「……た、タダイマ」

 

何故自分は話にしか聞いたことがない男に抱きしめられているのだ。

傍から見れば、父親が行方不明だった息子を抱きしめている感動なシーンだろう。

しかし、これがただの茶番であると理解している聖星からしてみれば、吐き気を催す程の違和感があった。

 

「(鳥肌がやばい。

とにかくこの状況を何とかしないと!)」

 

どうせ向こう側も仮面を張り付けてやりたくない演技をしているのだ。

聖星は少し強めにゴドウィン長官の腕から脱出し、困惑したような顔を浮かべて尋ねた。

 

「えっと、俺は貴方の事を何て呼んでいましたか?」

 

「私の事は父上と呼んでいましたが、好きに呼んで構いません。

今の貴方にストレスは厳禁。

呼びやすいのが1番でしょう」

 

「(とても呼びたくないです)」

 

父上とかどの時代の侍ですか、武士ですか。

必死に笑顔を作りながら分かりましたと返せば、次の言葉に言葉を失う。

 

「それと、貴方には新しい学校へ通ってもらいます」

 

「えっ?

どうしてですか、ち……父上?」

 

「今まで通り、貴方をもとの学校へ通わせていればまたいつ狙われるか分かりません。

今後、狙われないように我々治安維持局の目が届くデュエルアカデミアに編入してもらいます。

友人とは会えなくなりますが、貴方を守るためです。

理解してください」

 

「けど、皆、俺の事を心配しているんじゃ……」

 

「貴方は親の都合で海外の学校に転校した事にしました。

未だにネット環境が整っていない秘境なので、連絡は不可能と伝えています」

 

次は友人との関係をリセットさせてきたか。

もし聖星が以前から関わりのある友人に会いたいと言い出しても、誘拐された事実を盾にすれば会えなくなる。

随分と強引すぎる展開に、聖星は理解が追い付かない。

この場に【星態龍】がいれば、冷静に判断し、聖星にどのような行動をすれば良いか助言してくれただろう。

 

「あ、そうだ。

俺が不動聖星と名乗っているのは、一応表向きですよね。

それじゃあ、貴方の息子としての名前を何ですか?」

 

「貴方の名はアキラ・コイヨリティ・ゴドウィンです」

 

「コ……

何ですか?」

 

随分と聞きなれない単語のミドルネームだ。

1度では覚えきれない名前に首を傾げながら尋ねると、ゴドウィン長官は言葉を続ける。

 

「アンデス高地に伝わる祭の名です。

インカの精霊に祈りを捧げ、未来に希望を託す祭と覚えておいてください。

詳細はまた後日、ゆっくりお教えします」

 

そのまま立ち上がったゴドウィン長官は、聖星に背中を向ける。

イェーガーが扉を開けると、外で待っていた女性はゴドウィン長官に頭を下げる。

まさかこれで終わりなのだろうか、あまりにも短すぎないか?等と疑問に思っていると、彼が振り返る。

 

「では、聖星。

何かあれば彼女に言いなさい。

出来る限りの要望は叶えましょう」

 

義父の横に立っているショートヘアの女性は、聖星と目があうと静かに頭を下げた。

大人の女性にお辞儀をされた聖星は慌てて立ち上がり、同じように頭を垂れた。

 

「しかし、貴方の安全が確保されるまで外出は禁止です。

良いですね?」

 

「え、ちょっと待って!

それじゃあ軟禁じゃないですか!」

 

「聖星さん、ゴドウィン長官は貴方が行方不明になった時、とても心配されていました。

親が子を守るのは当然です」

 

まさかの外出禁止令に、聖星は思わずゴドウィン長官に詰め寄ろうとする。

その前にイェーガーが2人の間に入り、笑みを浮かべながら説明した。

聖星をこの部屋に閉じ込めるのは愛故だと。

ここで反論できる材料を持っていない聖星は、静かに目を閉じてある事を提案した。

 

「分かりました。

でも俺の要望は出来る限り叶えてくれるのですよね?

なら、俺の事をサテライトに残されている遊星さん達に伝えたいんです。

俺が一体何者なのか、俺は何故誘拐され、サテライトに流れ着いたのか。

あの地で俺の面倒を見てくれた皆さんには、それを知る権利があります」

 

昨日、遊星達に自分の身は安全である事、遊星達も不当に捕まっていない事は確認がとれた。

しかし、それはあくまでダミー映像を流した時隠れて行った事だ。

堂々と彼らに事情を説明すれば、今後何らかの食い違いが生まれる可能性を少しでも低くする事が出来る。

 

「聖星、それは貴方の身を危険に晒すことに繋がります。

もし内容を盗聴等されていたらどうするのです。

私はもう1度貴方を失いたくありません」

 

「勿論、俺が貴方の息子だという事は伏せます。

政治家の息子という事で良いじゃないですか」

 

「いいえ、許可できません」

 

短く答えたゴドウィン長官はイェーガーを引き連れ、部屋から出て行ってしまう。

追いかけようと思っても出来なかった聖星は、閉ざされた扉を見ながら呟いてしまった。

 

「……一体何がどうなってるんだよ」

 

**

 

聖星の部屋を後にしたゴドウィン長官は、足音が響く廊下を歩きながらある事を尋ねた。

 

「それで、例の結果は?」

 

「はい、こちらに」

 

傍らに控えているイェーガーがある映像を表示すると、それはゴドウィン長官の手元へと移動する。

そこには様々な研究機関の名前が並べられていた。

1つ1つ項目を確認しているゴドウィン長官に、イェーガーが簡潔に説明をする。

 

「DNA鑑定の結果、確かに不動聖星には不動遊星と同じ血が流れている事が判明しました。

しかし……」

 

「これは……」

 

「はい。

複数の機関に依頼したところ、全てがあの2人が『兄弟』ではなく『親子』という結果を出しました」

 

あり得ない結果にゴドウィン長官は何度も複数の資料を確認する。

サテライトにいる遊星は今年で15歳。

あの部屋に閉じ込めている聖星も、どれ程見積もってもまだ10代前半だ。

あの2人が親子など一般的に考えて信じられない内容だ。

 

「ゼロ・リバースが起こった後、不動夫人は奇跡的に生き残り、当時お腹の中にいた子供が生まれたかと思いましたが……」

 

ゴドウィン長官が知っている情報では、不動夫妻の子供は遊星たった1人。

ゼロ・リバースが起きる直前まで、2人目を授かったという話も聞いていない。

それなのに彼の元に『不動遊星に似ている少年が現れた』という情報が入ってきた時はたいそう驚いたものだ。

1番現実的にあり得るのが、当時は妊娠していた事が発覚せず、事故の後発覚したパターンだ。

 

「全ての機関がこのような結果を出した以上、これを事実と認めるしかないでしょう」

 

「あり得ない『親子』ですか。

我々の監視下に置いて正解でしたね」

 

「えぇ。

引き続き監視をお願いします」

 

「承知いたしました」

 

**

 

「聖星からメールが届いた」

 

「本当か、遊星!?」

 

「あぁ」

 

昨日とは打って変わり、雨の気配が一切ないサテライト。

遊星はパソコンに弟からメールが届いたと伝えると、すぐに皆が集まった。

最初は冷静に文章を読み進めていたが、ある言葉が目に入った途端、ジャックが声を荒げる。

 

「何だ、これは!?」

 

室内響いたジャックの声を誰も咎めることが出来なかった。

それだけそこに書かれていた内容は衝撃的だったのだ。

遊星もメールに書かれている文章に目を見開き、マウスを握る手が一切動かなかった。

 

「シティでの名はアキラ・コイヨリティ……ゴドウィン……

治安維持局長官、レクス・ゴドウィンの養子?」

 

「何だよそれ、つまり聖星はシティで1番のお偉いさんの息子だったってわけか!?」

 

クロウの驚きの声に鬼柳は強く頷く。

その顔にいつもの爽やかな雰囲気はなく、あったのは重苦しいものだけだった。

 

「成程な、治安維持局長官の息子ともなれば誘拐されてもおかしくはない」

 

そして、たった1人の少年をシティに連れて帰るためにあれ程のセキュリティが動いた理由にも納得がいった。

まさか自分の弟がとんでもない立場にいる事を知ってしまった遊星は、上手く言葉を発する事が出来ない。

だがこれだけは分かる。

彼に会いに行くのは、そう簡単な道ではないという事を。

 

END

 




さて、誰がこの展開を予想できたか!!
予想出来た方挙手!!!
ゴドウィンも何故こんな暴挙に出たのか、理由としては義理の息子とした方が近くにおいても怪しまれないため
まぁ、記憶がある聖星はめっちゃ怪しんでいるけどね!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界よはじめまして、エクシーズとペンデュラムって何?

聖星が飛ばされた先がZEXALではなくARCVだった場合
21話を見て書きたくなりました

注意書き
聖星と真澄が恋人
聖星と真澄が恋人
大事な事なので2回書きました


マルコ先生等LDS関係者の襲撃事件が立て続けに起こって数日たつ。

未だに有力な情報はつかめず、第二の被害者であるマルコを慕う真澄の顔には日に日に焦りの色が濃くなっていく。

それを間近で見ている聖星は彼女が危険に巻き込まれないよう、なるべく一緒にいるようにしている。

 

「はい、真澄。

喉乾いただろう?」

 

「ありがとう」

 

近くの自販機で買ったジュースを微笑みながら渡し、聖星は彼女を見下ろしながら隣に腰を下ろす。

いつも以上に険しい顔を浮かべる恋人の手を握り、自分達の目の前に映る映像を見上げた。

そこにはLDSの文字が大きく映し出されている。

すると前から見慣れた2人が歩いてきた。

聖星と同じシンクロコースの刃とエクシーズコースの北斗だ。

刃はトレードマークとなっている竹刀を肩に置きながら尋ねてきた。

 

「なぁ、真澄、聖星。

お前ら、今日も探しに行くのか?」

 

「当然よ。

何としてでもあの黒マスクの男を探し出して、マルコ先生の事を聞きださなきゃ」

 

以前、聖星と真澄が見かけた黒マスクの男。

第一の襲撃事件が起こった倉庫で出会った彼は見た事がないデュエルディスクを身に着けていた。

しかも恰好が格好だ。

明らかに怪しい人物にしか見えない。

会った事がある真澄の言葉に2人は不満そうな顔を浮かべ、冷静に言葉を放つ。

 

「けど、そいつが犯人なのか?」

 

「エクシーズ使ったところ、見てないんだろう?」

 

「犯人かは分からないけど、エクシーズ使いであることは間違いないぜ」

 

「え?」

 

自分達は素良という少年の策にまんまとはまり、マスクの男を見逃してしまった。

あんな幼稚な手に引っかかるとは聖星もまだまだという事だろう。

それをネタに自分をこの世界に連れてきた精霊にからかわれたが、少年のデュエルが普通ではない事を踏まえると見失って良かったかもしれない。

聖星はともかく真澄は一般人なのだ。

断定した聖星の言葉に北斗は問いかける。

 

「何でわかるんだよ、聖星」

 

「匂い、かな」

 

「はぁ?」

 

「北斗やエクシーズコースの連中と一緒の匂いを感じたんだ。

ま、確固たる証拠じゃないけどね。

ただのデュエリストの勘だと思ってくれればいいよ」

 

「なんだい、それ。

君お得意の情報収集の結果じゃないのかよ」

 

聖星は遊星のスペックを見事に受けつぎ、機械に関して滅法に強い。

それに比例しているのか情報収集を集めるのも長けている。

だから無限にあるネットワークの情報から確信したと思ったのだが、ただの勘と言われてしまい北斗は深いため息をつく。

 

「勘を舐めないほうが良いぜ。

勘っていうのは、今までの経験をもとに組み立てて導き出される答えだ。

理論的な事は言えないけど、経験上断言できるのさ」

 

「聖星、勝率は俺の次だけど場数は踏んでるからな」

 

「(本当は【星態龍】がエクシーズモンスターの気配を感じる、って言ったから確信しただけで、正直に言ってもわかんないよなぁ)」

 

「とにかく、見つけ出してエクシーズを使うか確かめる!

行くよ、聖星!」

 

「あぁ。

じゃあ刃、北斗。

また明日」

 

飲み終えた缶ジュースをゴミ箱に捨て、聖星は真澄を追いかけた。

2人の背中を見送った北斗と刃はやれやれというかのように手を上げた。

 

 

**

 

 

「本当にここなの?」

 

「俺の情報が間違った事あった?」

 

「いいえ」

 

最初に向かったのは、KEEP OUTというテープが張り巡らされている道路だ。

あまり交通量がない場所で物静かだが黄色のテープが異様な雰囲気を出している。

聖星はお得意の情報収集でLDSの関係者がここで消息を絶った情報を得た。

何か手がかりがあるだろうと思い足を運んだのだが……

 

「(【星態龍】。

何か感じる?)」

 

「微かに力が残っているな……

だが、以前見た黒マスクの男とは違う。

恐らくここで起こった襲撃事件の犯人と黒マスクの男は別人だ」

 

「(つまりLDSを襲っている奴は複数いるって事?

……面倒だな)」

 

「しかもお前と同じで異世界から来た人間だ。

だが聖星、お前と奴らの決定的な違いは力を持っているかいないかだ」

 

「(……あぁ、そうだな)」

 

あの時見かけた黒マスクの男もこの世界にとっての異端者だったが、ここで騒ぎを起こした者も同じ世界の者だろう。

この世界は異世界の人間の侵略が密かに行われているのだろうか。

それなら実力者であるLDSの関係者を襲うのは納得いくが、何故他のプロデュエリストに被害はないのだろうか。

 

「え?」

 

「真澄?」

 

自分の前を歩いている真澄の声に聖星は彼女を見る。

真澄は傍を通っている道路を見上げており、釣られて聖星もそちらに目を向けた。

 

「おいおい……

凄い跡だな」

 

そこには獣のような爪痕が生々しく残っており、コンクリートが抉られている。

削り取られた一部はその真下に転がっており、その量にどれほど深いのか嫌でも分かった。

あんなもの、アクションデュエルでもない普通のデュエルで起こるわけがないし、受けてしまえばただでは済まない。

 

「ここでトップチームのメンバー達が……」

 

みるみる顔が蒼くなっていく真澄に聖星は手を握った。

握った時彼女の真紅の瞳が激しく揺れ、落ち着かせるよう握る手に少し力を入れた。

 

「おい、そこで何をしている!」

 

「っ!」

 

「真澄、こっち」

 

「えぇ……」

 

背後から聞こえた大人の声。

恐らくLDSの関係者で今回の事を調査しているのだろうが、立ち入り禁止の場所に入っているのだ。

見つかってしまえばお説教どころでは済まない。

聖星は彼女の手を引っ張りその場から離れた。

2人の背中を見つめながら【星態龍】は険しい表情を浮かべ、コンクリートを抉る爪跡を見る。

 

「(あれから感じる力……

襲撃犯はサイコデュエリストか?)」

 

サイコデュエリスト。

彼らはデュエルのダメージが実体化し、対戦相手や周りの物を破壊する事が出来る存在。

シグナーだったアキもかつてはその力に悩まされたと聞いている。

それは聖星も思っていたようで、犯人がどんな力を持っているのか興味を持ちながら、マスクの男と接触した時あの場にいた柊柚子と素良という少年少女を思い出した。

特に柚子はあのマスクの男と初めて会うような感じではなかった。

きっと彼女なら何か知っている。

 

 

**

 

 

それから聖星の行動は早かった。

デュエルディスクを使って彼女の居場所を特定し、先回りした。

何故こんな場所に来たのかは疑問だが、柚子と素良は港にある倉庫がある場所に居た。

そして聖星は2人に微笑みながら挨拶する。

 

「こんにちは、柊柚子さん、紫雲院素良君」

 

「貴方達は光津真澄に……

不動聖星……!?」

 

「LDSのお兄さん達じゃん。

何か用?」

 

可愛らしい少女の柚子は自分達の前に現れた2人の登場に驚きを隠しきれない。

それに対し素良はいつも通りの態度だ。

まさか自分の行動をネットワークや監視カメラを利用して特定されたなど思いもしないだろう。

 

「今、この舞網市の中で何が起こってるか知ってる?」

 

「何がって?」

 

「謎のデュエリストによる連続襲撃事件」

 

「連続襲撃事件?」

 

まるで理解できないとでもいうかのような表情を浮かべる柚子。

今まで様々な人達の表情を見てきた聖星が見た限り、彼等が嘘を言っているようには見えない。

彼女は本当に知らないのか?

傍にいる素良も含め、表情変化を見逃さないよう凝視する聖星に対し真澄は言葉を述べる。

 

「被害者は全てLDSの関係者。

……でも彼らは真実を語らない。

何故なら皆消えてしまったから」

 

「消えた……?」

 

「どういう事?」

 

襲撃された者達が消える。

この言葉から2人は何を連想しただろう。

聖星は微笑みながら優しく教える。

 

「最初の犠牲者である沢渡以外、皆行方不明なんだ。

それで唯一無事な彼は犯人を遊矢って証言しちゃってね。

でも、彼が俺達といる間に襲撃事件は再び起こった。

これで考えられる事は2つ。

1つ目は、真犯人は別にいて、沢渡が逆恨みで彼を犯人に仕立てようと偽りの証言をした。

2つ目は……

犯人は複数存在し、榊遊矢はそのうちの1人という事」

 

「なっ、ちょっと貴方!

まだ遊矢の事疑ってるの!?

遊矢は犯人じゃないわ!」

 

「ごめん、ごめん。

疑っている、と聞かれたら微妙なところかな。

ただあくまで1つの可能性を示しただけさ」

 

マルコが襲われたのは自分達が遊勝塾でデュエルをしているとき。

彼は確かにあの場にいた。

最初の犠牲者は無事に安否を確認でき、以降の犠牲者は確認できない。

だからあれ以降の事件の犯人は彼ではない。

だが関わりがないとは言い切れない。

そう口にした聖星を柚子はきつく睨み付けた。

 

「聖星の言う通り……

襲われて、消えたらしい……

聖星がネットワークを駆使しても、どこにいるのか分からないんだ」

 

トップクラスの人達は口を揃えて会えない状態だと言っていた。

一体どんな状態なんだと疑問を浮かべながらも、マルコの安否を心配する真澄は真っ先に聖星に情報を集めるよう頼んだ。

可愛い恋人の必死な頼み事を断れるわけもなく、聖星はすぐに情報を集めた。

 

「最初は怪我をして入院しているかと思った。

けど、彼らがどこかの病院に入院した情報なんて一切無かったぜ」

 

「お願い、あいつの居場所を教えて!

知ってるんでしょう!?」

 

「あいつって……」

 

「あの時貴方達と一緒にいた黒マスクの男よ!」

 

素良と対峙していた紫と黒髪の少年。

見た事もないデュエルディスクに漂わせている雰囲気。

間違いなく彼は今回の襲撃事件に関係している。

真澄は強く拳を握りしめ、柚子を睨み付けた。

 

「あの時ちゃんと捕まえていれば、その後の事件は防げたのに……

貴方が逃がしたせいよ!」

 

「そんな、私は知らないわ……」

 

「嘘をつくな!

マルコ先生が消えてしまったんだ……

あんなに強くて優しかったマルコ先生が……

今もどこかで苦しんでるかもしれないんだ……

だから……」

 

次々と思い出すマルコの姿。

いつも優しく真澄を指導し、他コースの聖星にも嫌な顔1つせず平等に接してくれた。

誰よりも尊敬し、敬愛した彼が苦しんでいるかもしれない。

早く助けなければ。

しかし現実はそう簡単ではなく、何の情報もない。

時間がたつにつれ最悪な事ばかりが脳裏をよぎり、非力な自分にさえ腹が立ってくる。

悔しくて、悔しくて仕方がない。

 

「だから一刻も早く見つけなくちゃいけないんだ!」

 

唇を噛みしめた真澄は勢いよく顔を上げ、柚子に怒鳴るように叫ぶ。

そんな彼女の目には涙が浮かんでいた。

 

「早くあいつの居場所を教えなさい!!」

 

「だから、知らないって言ってるでしょう!」

 

「ならなんで最初の事件の現場にあいつと一緒にいた!?

しらばっくれるならデュエリストらしく、デュエルで聞き出してあげるわ!」

 

真澄は足に着けているホルダーに手を伸ばし、青色のデュエルディスクを出す。

デュエルで決着をつけると言い出した彼女に柚子は怯むが、素良は笑みを浮かべながら言い放つ。

 

「LDSの融合召喚なんて大したことないよ。

ちょちょいとやっつけちゃえば」

 

「…………は?」

 

素良の言葉に聖星はつい声が低くなった。

しかしそれに気付かない素良はさらに言葉を続けた。

柚子は融合の力を手に入れ、以前より強くなった。

きっと今の柚子なら真澄に勝てる。

生意気ながらも自信満々に言う少年の言葉に、聖星は表情を消して嘲笑うかのように言った。

 

「今の彼女はあの時と違う、ねぇ。

どう違うのか証明してほしいな。

少なくとも俺の目には以前よりは強くなったけど、相変わらず弱く見えるけど」

 

「なっ、どういう意味よ!」

 

すぐに問いただしてくる柚子。

聖星は冷静になりながらも以前の彼女を思い出す。

あの時の彼女は傍から見ても酷く動揺しており、正直見ていられなかった。

今は多少なりとも見る事が出来るようになったが、どこか無理しているように見える。

そんな中途半端なデュエリストが真澄より強い?

そんなこと、あるわけがない。

 

「言葉通りさ。

君が前回真澄と戦った時、君は真澄を見ていなかった。

今はちゃんと見ているようだけど、君……

無理してるだろう?」

 

「っ……」

 

「やっぱり。

例えデュエルの実力はあっても、心に迷いがあるデュエリストが俺の真澄に勝てるわけがないだろう」

 

「聖星……」

 

「百歩譲ってLDSの融合召喚が君の言う通り、劣っているとしよう。

使い手の彼女が幼稚じゃ意味ないぜ」

 

「ふぅん。

お兄さん、随分とそのお姉さんを信頼してるね。

じゃあ早く2人のデュエルを見ようよ。

そうしたらお兄さんが信じてるお姉さんの融合が大したことないって証明できるからさ」

 

融合が大したことない。

その言葉に真澄の目が一気に鋭くなり、彼女の雰囲気が一気に冷たくなった。

彼女が誇りにしている融合召喚は敬愛するマルコとの思い出がたくさん詰まったもの。

それを貶されて平気なわけがない。

 

「その言葉……

私に融合召喚を教えてくれたマルコ先生の侮辱!!

先にお前を叩きのめしてやる!!」

 

「え、僕とデュエル?

止めておいた方が良いと思うよ。

余計自信なくしちゃう」

 

「うるさい!

LDSこそ最強だ!

それを思い知らせてやる!

行くわよ、聖星!!」

 

「あぁ。

……流石にここまで言われると腹が立つしな」

 

聖星は融合召喚をあまり使わない。

だが、使えないわけではない。

そんなにLDSを、マルコの教えを、真澄を侮辱するというのなら聖星は全力を出すつもりだ。

この場に相応しいデッキをケースから取り出し、聖星はデュエルディスクにセットした。

 

「っ!?

この感じは……!!

聖星、来るぞ!!」

 

「え?」

 

不意に感じた違和感に【星態龍】は姿を現す。

その違和感は明らかに自分達に敵意を向けているもので、【星態龍】の言葉に聖星は真澄の前に出た。

【星態龍】が何処を見ているのか聖星には分からないが彼と同じ方角を睨み付ける。

 

「ちょっと、聖星?」

 

「真澄、下がって」

 

「え?」

 

怪訝そうな表情を浮かべる真澄。

彼女は聖星を見上げ、彼の視線の先を見る。

それは柚子と素良を捉えず、何もない空間を見ているように見えた。

 

「お前達もLDSか?」

 

「きゃっ!」

 

低く、怒りに満ちた青年の声。

同時に風のように男が現れ、傍を通過された柚子が倒れる。

その時彼女のデッキが散らばるが、青年は見えていないのか聖星と真澄を凝視している。

 

「LDSなら、俺が相手だ!」

 

サングラスをかけている青年は荒っぽい声色で左腕を差し出し、嵌められているデュエルディスクを起動させる。

そのデザインはマスクの男と同じもので、聖星は目を細めた。

 

「彼と同じデュエルディスク……

っていう事は君が襲撃犯の共犯者?」

 

「…………」

 

「答える気はない、か。

良いぜ、やろう。

ついでにどうしてこんな事をするのかも聞き出してやる」

 

真澄を侮辱した素良達を叩き潰すために取り出したデッキ。

しかし、彼が相手ならこのデッキを使う理由にはならない。

別のデッキを取り出した聖星はデュエルディスクを起動させる。

 

「待って聖星!

こいつは私が……!」

 

「真澄。

あそこに出来た傷跡を見ただろう。

こいつのデュエルは普通じゃない。

俺が時間を稼ぐ。

その間にLDSに連絡しろ」

 

「だけど……」

 

「こういう時くらい、かっこいい事させてくれよ。

な?」

 

大丈夫、俺は負けない。

そう言い聞かせるかのように聖星は微笑んだ。

彼女には傷ついてほしくないし、聖星なら【星態龍】の加護により彼の力に対抗できる。

彼らの力で傷つかない事に気付いた青年はどんな反応するだろう。

怒りに身を任せているように見える分、焦った時の反応が楽しみだ。

 

「気を付けろ、聖星。

あの男、恐らくだが対戦相手をカードに封印する力を持ってる」

 

「(そんな事が分かるなんて、流石【星態龍】)」

 

「ふん。

仮にも高位の精霊だ。

それくらい見ただけで把握できる」

 

「(うん、頼りにしてる)」

 

「行くぞ!」

 

「あぁ、来いよ」

 

「「デュエル!!」」

 

END

 




隼が真澄にデュエルを申し込む姿を見た時、書かずにはいられなかった


ARCV設定
LDSシンクロコース所属
勝手に国籍を偽造してLDSに入塾
真澄に一目惚れして猛アタック、紆余曲折あったが晴れて恋人に
持ってきたカードは【星態龍】しかなかったが、すぐに以前持っていたデッキと似ているシンクロデッキを作る
だが融合もあまり浸透していない状況なのでパーツの入手が困難
頭は刃よりは良いが、実技は刃より下
ZEXALの時と違い、エクシーズ召喚もすんなりと受け入れ使ってみたいという思いがある
持っているデッキ
【ドラゴン族】
【幻竜族】
【ジャンク竜星】
【シャドール魔導】
【ジュノン軸魔導】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界よはじめまして、デートしてきます

聖星が飛ばされた世界がZEXALではなくARCVだった場合その2
アニメで真澄ちゃんがそんなに出てこなくなって寂しくなり書きました(おい、本編更新しろよ)

注意書き
聖星と真澄が恋人
今回はデュエルはなく、短いです


 

学校も塾もない休日のある日。

舞網市には海が近く、それの関係かは知らないが水族館が存在する。

かつて日本の台所と言われた場所にある水族館よりは小さいが、それでも様々な種類の海の生物達が人々を楽しませている場所だ。

折角恋人同士になったのだからデートくらいしたい、と聖星が言い出して真澄をここまで連れて来た。

 

「何か海の中を歩いている気分だよな」

 

「そうね」

 

最初に通ったのはアーチ状のガラス張りで囲まれた通路だ。

魚達が暮らしている水槽の真ん中に通路をくり抜き、足元以外魚が見えるようなつくりだ。

自由気ままに泳いでいる魚達を見上げながら聖星は真澄の手を引いた。

 

「そういえばさ、真澄ってこの水族館来た事あるのか?」

 

「いいえ、水族館よりデュエルばかりしてたわ。

あとは父が仕入れた宝石を眺めていたわね」

 

「宝石かぁ……

やっぱり触らせてもらってた?」

 

「何言ってるの、商品よ。

触れないわよ。

……まぁ、誕生日に貰ったものは別ね」

 

「え、誕生日に宝石買ってもらったのか?」

 

「えぇ。

ま、安物だけどね」

 

「ふぅん。

どんな宝石を貰ってたんだ?

やっぱり誕生石とか?」

 

「誕生石のネックレスにブレスレットとか、そういうのが多いよ。

デュエルの時に邪魔だからそんなにつけたことないけど」

 

この市で主流のデュエルはスタンディングデュエルだけではなく、アクションデュエルというものがある。

時にはモンスターの攻撃を避けるため、時には相手を妨害するために動き回るデュエルでアクセサリーは邪魔だろう。

刃は竹刀を持ってデュエルを行うが、真澄が非効率な恰好でデュエルをするとは考えにくい。

 

「(……やっぱり真澄へのプレゼントって奮発した方が良いのか?)」

 

宝石がついているアクセサリーをプレゼントされている彼女が満足するようなプレゼント。

両親から離れて暮らし、自分が自由に使えるお金が少ない聖星は地味に悩んだ。

それでも他愛もない会話を繰り返す2人は青い世界を自由に動き回る魚達を眺める。

 

「あ、次はリーフアクアリウムか」

 

「リーフアクアリウム?

何、それ?」

 

「珊瑚をメインとした水槽だよ」

 

「あぁ、珊瑚ね…」

 

暗い壁に丸い穴が開いており、それを覗けば珊瑚やそこを住みかとしている生き物を見る事が出来る。

赤や緑に桃色。

様々な珊瑚が青白い世界にあり、周りを魚達が泳いでいる。

 

「やっぱり珊瑚ってカラフルだよな。

そういえば珊瑚って宝石にもなるんだっけ?」

 

「えぇ。

でも、ここに展示されているのはならないわね」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ。

宝石になる珊瑚は宝石珊瑚と呼ばれて海岸とかで見られる珊瑚礁とは違うわ。

基本、水深100mまたはそれ以上の水深で生息しているのが宝石になるのよ」

 

「何で?

違いとかあるのか?」

 

「さぁ。

それは私も専門外だからね」

 

「そりゃそうか」

 

目の前にある色とりどりの珊瑚たちは珊瑚礁を形成する浅海に生息する。

青白い世界故か垢が紫、緑が更に深い青色に見えて神秘的な雰囲気がある。

これらも宝石にしたら綺麗だろうと思いながら別の質問をした。

 

「宝石になる珊瑚ってさ、何種類くらいあるんだ?」

 

「日本産で限定すると紅サンゴ、桃色サンゴ、白サンゴかしら。

紅サンゴはその名の通り血のように赤い色をしているわ。

特に赤黒くなればなるほど高級品ね」

 

「え、普通赤黒い色より紅色の方が綺麗だろ?」

 

「希少価値って奴よ」

 

「あ、なるほど。

で、値段は?」

 

「ピンからキリ。

安くて1000円。

高くて600万円」

 

「…600…」

 

聖星は宝石に関してあまり詳しくはないが、600という数字を提示され自分に分かりやすいものに変えて考えた。

600万円あればD-ホイールが一体何台買えるのだろうか。

少なくとも安いものであれば10台以上は余裕の金額だ。

 

「買う人っているんだ」

 

「当たり前でしょう。

特に高知県の赤黒い血赤珊瑚は世界最高品質とも呼ばれているから、セレブには人気よ」

 

「セレブって本当に凄いな」

 

「でも赤黒い珊瑚はマイナスのエネルギーを引き寄せるから、パワーストーンとしてはお勧めしないわ」

 

「パワーストーンとしてはどんな効果があるんだ?」

 

「色々あるけど……

体と心のバランスを保つことが主ね。

ヨーロッパでは年末年始にこの宝石を身に着けると健康でいられる、という言い伝えもあるわ」

 

「魔除け、みたいな感じか」

 

「えぇ」

 

そこから真澄は宝石の組み合わせなどを話し始めた。

ターコイズと組み合わせるのは良いが、エメラルド、ダイヤモンド、ブルーサファイア、キャッツアイと一緒に身に着けてはいけない。

それでも赤と緑の組み合わせの装飾品もあるが、あれは緑色の珊瑚を加工しているとのこと。

 

「(いや、そもそも何で水族館に来て宝石の話してるんだよ俺達)」

 

人間は胎児の頃から水と深いかかわりを持ち、海の傍にいると落ち着くという。

だから水族館に来たというのにどうしてこんな会話になった。

自分で突っ込みをいれながら真澄を見下ろしたが、彼女の表情が幾分か生き生きしているため聖星は微笑んだ。

 

**

 

「(どうしよう、ギャップ萌えってこういう事だよな……!?)」

 

今すぐにやけそうな顔を引き締めながら聖星はお土産コーナーでぬいぐるみを見ている真澄を見る。

聖星が持つカゴには抱き枕並みに大きなペンギンやイルカが入っており、彼女の手にはさらに小さいぬいぐるみがある。

真澄は【ジェムナイト】のせいで宝石のイメージが強いが、やはり中学生の女の子。

可愛いぬいぐるみには興味があるという事だ。

 

「さっきからなに笑ってるのよ」

 

「真澄が可愛いなぁ、と思って。

やっぱり可愛いものと可愛いものが揃うとさらに可愛いよな」

 

「貴方、本当ストレートよね」

 

「そうか?

俺は何を買おうかな……」

 

流石に抱き枕級のぬいぐるみは気が引ける。

というより、こんなものを買って帰ったら北斗や刃あたりにお腹を抱えて笑われるだろう。

まぁ笑われたら真澄の肩を抱き寄せ、笑顔で「水族館楽しかったぜ。真澄なんて本当目を輝かせて凄く可愛かった」と言うつもりである。

刃はともかく精神的に脆い北斗は膝を抱えていじけるだろう。

 

「聖星は子供ペンギンが似合うんじゃない?

甘えん坊だし」

 

「じゃあお揃い買う?」

 

「どうしてそうなるのよ。

私は親ペンギンを買うわ」

 

「なんだよ、それ。

お揃いにしようぜ」

 

目の前にある灰色の子供ペンギンを2つ手に取り、1つを真澄に渡す。

しかし真澄はすぐに戻し、隣にある親ペンギンを掴んだ。

そしれ子供ペンギンに親ペンギンをおしつけ、上目遣いで言う。

 

「いつも子供のように私に引っ付くじゃない」

 

「あれは甘えたいんじゃなくて、愛情表現だって」

 

「今日だって後ろから抱き付いてきたじゃない」

 

「だから、愛情表現だって」

 

「そうやって言ってる傍から抱き付くな!」

 

「ぐっ!?」

 

鍛えられた彼女の肘打ちが見事に鳩尾に入り、そのままその場に膝を着いてしまう。

そんな彼氏を真澄はため息をついて見下ろし、聖星は涙目で真澄を見上げた。

 

「…………今のは痛い」

 

「ば~か」

 

END

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

レイジング・クリムゾン

今回は『男主がセブンスターズ側になり、女主が男主を救うため未来から来た』をテーマに書いています。
主人公は女主です。
あくまでifの話なので本編とは一切関係ありません。



「なぁ、お前がジャスミン・アトラスか?」

 

「え?」

 

お嬢様が通うことを許されるとあるデュエルアカデミアは下校の時間なのか品のある女生徒達がいっせいに下校している。

アメジストの瞳を持つ彼女もそのうちの1人であり、背後から聞こえてきた声に振り返った。

そこにいるのは茶髪の二十代前半くらいの青年である。

はっきり言って会ったことどころか見たこともない人だ。

 

「そうだけど、用件は何かしら?」

 

友人達はかっこいいね~、やだイケメン等と呑気なことを言っている。

父親が有名人すぎて幼少期から苦労していたジャスミンは呆れた眼差しを彼女達に向ける。

もし彼が危険な人物だったらどうするつもりだ。

警戒心剥き出しのジャスミンに青年は苦笑を浮かべて用件を言った。

 

「聖星について話があるんだ」

 

短く告げられた内容にジャスミンの眉間に皺が寄る。

この反応は予想の範囲内だったのか青年は相変わらず考えが読めない笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「ちょっとあそこの喫茶店でお茶でもしながら話さないか?」

 

「ここで話せないことなの?」

 

「あぁ」

 

青年の言葉にジャスミンは顔色を一切変えず即答した。

喫茶店でお茶というそんな安いお誘い等幼い頃から受けている。

しかし彼の口から出た聖星という名前は気になる。

友人達に目をやったジャスミンは携帯電話を取り出し、確認する。

 

「父も同席しても良いのなら構わないわよ。

勿論、来るまでここで待ってもらうけど。

良いわよね」

 

「あぁ」

 

日本人特有の苦笑を浮かべる青年は特に動じた様子もなく頷いた。

 

**

 

ヒソヒソと女性の話し声が聞こえる。

その話題は小さな喫茶店で我が物顔をしているジャック・アトラスだ。

彼の存在感はそんじょそこらのデュエリストとは比べ物にならないほどで多少変装をしていても意味がない。

尤も、娘のジャスミンと妻からしてみれば変装ではなくただの私服姿なのだが。

 

「(本っ当、せめて帽子を被って欲しいわよ。)」

 

サングラスもつけず、素顔をさらけ出しながら変装したと言い張る父に内心でうんざりしながら目の前の青年を見る。

隣に座っているジャックはいつも以上に険しい表情を浮かべてジャスミンに声をかけた。

 

「それで、休暇中の俺を突然呼び出したのだ。

用件はそれ相応のものだろうな?」

 

「お前、初対面の人間にでもそんな態度なのか。

なんか色々すげぇな」

 

ケラケラと笑う青年の言葉にジャックの眉間に皺が寄る。

青年はどう見ても自分より20歳くらい下の年齢。

知り合いでもない青年にこのように接せられたら癇に障るのも当然。

無礼者、と怒鳴りなくなるのを抑え低い声で言う。

 

「貴様、俺をバカにしているのか?」

 

「わりぃ、わりぃ。

えっと用件だったな」

 

あまりにも失礼な態度にジャスミンの機嫌も一気に悪くなっていく。

親子共々冷気を漂わし始め、只ならぬ雰囲気に周りにいる客が少しだけ遠ざかる。

それに気づきながらも青年はリュックの中から1枚の写真を取り出した。

 

「なっ…!?」

 

「え?」

 

目の前に置かれた写真、それに写っている人物にジャックは青年と娘を交互に見る。

そこには制服を着た男女が数人映っており、その中心には青年と似ている少年がいる。

そして少年の右側には行方不明となっている聖星、そして今横に座っているジャスミンが笑顔を浮かべていた。

 

「ジャスミン、貴様、車に乗れ」

 

「パパ?」

 

「オーケー、流石ジャックだな」

 

身を乗り出して問いただそうとした娘を押さえ、ジャックは財布からカードを取り出す。

何故と尋ねようとしたらジャックが視線で制し、ジャスミンは大人しく鞄を持つ。

まだ注文したコーヒーは来ていないが仕方がない。

店員の困惑気味のありがとうございましたという声と共に喫茶店から出た。

ジャックはすぐに車の鍵を開け、2人が入るのを確認したらエンジンを付けた。

 

「うわぁ、すげぇ車だな。

やっぱキングになるとこういう車も買えるんだ」

 

「貴様の無駄な感想などどうでも良い。

さっさと話せ。

この俺が場所を変えてやったのだぞ」

 

運転しながらジャックはミラー越しに青年を睨み付ける。

 

「俺の名前は遊城十代。

さっき見せた写真は俺が高校時代に撮った奴だ」

 

「何故その写真に聖星とこいつが映っている」

 

「せっかちな奴だな。

ちゃんと説明するから質問は後にしてくれよ」

 

苛立ちと焦りだろう。

様々な感情を表情に出すジャックに青年は外の景色を見る。

さて、自分は良くも悪くも説明が上手ではない。

とりあえず順序立てて説明しようと言葉を選んだ。

 

「今、聖星は過去にいる」

 

「過去?

過去に行ったって言うの、そんなの非科学的だわ」

 

「ジャスミン」

 

「……」

 

「信じられねぇのは無理もねぇよ」

 

きつく睨み付けるジャックに彼女は黙る。

説明の途中で口出しするのは仕方がないだろう。

昔の自分もそうだったと思いだしながら十代は言葉を続ける。

 

「聖星は星竜王に助けを求められ、過去にタイムスリップしちまったんだ」

 

「星竜王だと?」

 

「あぁ。

シグナーだったお前ならどういう意味か分かるだろう」

 

「何故星竜王が?

貴様が高校生の頃だというのなら、俺達に頼んでも良いはずだ」

 

かつてシグナーとして仲間と共に幾度もこの世界を救ったジャック。

世界の運命を賭けて邪神と戦い、未来を賭けて未来人と戦った。

しかし役目を終えた故にジャック達から竜の痣はなくなった。

だが、十代の年齢を考えると彼の高校時代は今から10年以内の話。

子供である聖星を過去に送り込むより、当時の自分達に助けを求める方が話は早いはずだ。

 

「あ、一応言っておくけど俺、お前より何十歳も年上だからな」

 

「何ぃ!?」

 

「嘘だと思うなら遊星に聞いてくれ」

 

「遊星を知っているのか?」

 

「あぁ。

一緒にパラドックスと戦ったぜ」

 

「なっ…!?」

 

運転しているジャックは次々と出てくる言葉に驚く事しかできなかった。

自分より幼い姿でありながら年上等信じられるものではない。

しかし過去の経験からあり得ない話ではないと判断し、冷静に尋ね返す。

 

「まさかだとは思うが……

遊星の奴、聖星が過去にいる事を知っているのか?」

 

「あぁ。

俺が教えて、聖星にはタイムスリップする事は黙っといてくれって頼んだ。

聖星の奴、自分がタイムスリップするなんて一切知らなかったしな」

 

「やはりか」

 

道理で聖星が行方不明になった時、あの夫婦は特に慌てなかったわけだ。

今でもネオ童実野シティに住んでいる幼馴染をジャックは思い出す。

自分とクロウ達はあの夫婦に心配ではないのか?と尋ねたが、当の本人達は大丈夫と返すだけ。

その理由は説明されなかったが遊星がそう言うのなら、とあの時は無理矢理納得した。

 

「それでジャスミン、お前には過去に行って聖星を助けて欲しいんだ」

 

「聖星を?」

 

「あぁ。

聖星は星竜王に頼まれ、闇のデュエルをした。

けど人質をとられて負けちまったんだ」

 

「闇のデュエル?

何よ、それ」

 

全く話についていけないジャスミンはやっと口を開く。

シグナーの事は時々兄と一緒に聞いた事はあるが、ただジャック達の腕に痣があったという程度しか知らない。

星竜王や闇のデュエル等の知識は一切ないのだ。

 

「闇のデュエルとは生死を賭けたデュエルの事だ。

それに負けたという事は……」

 

「え?」

 

「あぁ、大丈夫。

ただ洗脳されて敵になっただけだから」

 

「どこが大丈夫なのよ!」

 

聖星が洗脳され敵側になった等、大事でしかない。

それなのに笑顔でそう答える十代をジャスミンは睨み付ける事しかできなかった。

 

「だからジャスミンには聖星を助けるために過去に行ってほしい。

いや~、洗脳された聖星はシンクロ召喚とか容赦なく使ってくるからさ。

知識のない昔じゃあ太刀打ちできたのが俺とカイザーくらいだったんだよなぁ」

 

十代の時代は融合召喚やアドバンス召喚が主流で、シンクロ召喚のような超高速デュエルは主流ではなかった。

1枚1枚の攻防を楽しむデュエルだったというのに、敵となった聖星は1ターンで何体もモンスターを特殊召喚し、鍵の所有者を襲っていった。

対策を打とうにもシンクロ召喚のシステムを聖星がろくに説明してくれなかったため、対策も打ちづらかったものだ。

 

「その時、ジャスミンが転校してきて色々アドバイスをしてくれたってわけさ」

 

その戦いが終わり、この写真を撮った。

そう締めくくった十代は懐かしむように目を細めた。

 

「貴様がここにいるという事は、こいつは無事に未来に戻ってこられたという事だな?」

 

「無事に着いたかは知らねぇけど、未来に帰ったのは間違いないぜ。

俺がちゃんとこの目で見てるしな」

 

「そうか……

ジャスミン、行け」

 

「ちょっと待ってよ、パパ。

私の意思はどうなるの?」

 

「ほう、行く気はないのか?

過去に行くなど滅多に経験できるものではないぞ」

 

「行く気があるか無いかの問題じゃないわ。

私、全く話についていけていないのよ。

突然過去に行けなんて言われても納得できるわけがないでしょう。

それに私は中学3年生、受験生よ。

じゅ、け、ん、せ、い!」

 

「大丈夫だって。

高校の知識が無くても俺と一緒に聖星のスパルタ地獄を味わうだけだからさ」

 

何が大丈夫だと言うのだ。

そう口にしたかったジャスミンはまた十代をきつく睨み付ける。

しかし彼の言う事が本当だというのなら聖星を助けなくてはならない。

だが、いくら聖星を助けるためとはいえ過去に行くなど簡単に頷ける問題ではない。

 

「それなら私じゃなくてエース兄さんに頼んでみたらどう?

エース兄さん、どうせ彼女もいないし私と違って暇でしょう」

 

「それは許さん」

 

「どうしてよ」

 

「お前が行かなければ歴史が変わり、未来が崩壊してしまうかもしれん」

 

ジャックの言葉に十代は頷いた。

子供達が生まれる遥か昔、ジャックがまだ青年だった頃、彼は過去が変わった事で崩壊しようとした未来を体験した。

もし彼女が過去に行く事を拒めば昔のでき事が再び起こってしまう。

そう危惧したジャックにジャスミンはため息をつく。

 

「分かった、やるわ」

 

「本当か、助かるぜ!」

 

「もし私が行かなくて過去が滅茶苦茶になったら後味が悪いもの」

 

はぁ、と何度目か分からないため息をつきながらジャスミンは鞄の中を漁る。

メモ帳を取り出した彼女は十代に質問をした。

 

「で、過去で私はどんなデッキを使っていたの?

父より何十歳も年上って事は、シンクロ召喚は主流になっていない時代よね」

 

「試験とか学生、聖星以外の闇のデュエリスト相手には【炎王】を使ってたぜ。

そういやお前の本当のデッキって何なんだ?」

 

「【炎王】ねぇ、昔使ってたからそれを選択するのは正しいかしら。

今は【ジュラック】よ。

貴方、過去で私の本気デッキとデュエルしていないのね。

それで、過去に行った私は誰を頼ったの?

まさか後ろ盾がいないのに学園へ入学する手続きができたのかしら?」

 

「いや、お前はペガサスさんを頼ったって聞いたぜ」

 

「ペガサスだと!?」

 

「……ペガサスって、デュエルモンスターズの生みの親の?」

 

「あぁ」

 

まさかの名前にジャスミンはペンを落としてしまった。

いくら自分が有名人の娘で、その縁で様々な芸能界、政界、財界等の有名人と繋がりがあるとはいえペガサスの名前には驚くしかなかった。

もう会う事は叶わない、この世界の基礎を創り上げたと言っても過言ではない人物。

その男性が自分の後ろ盾になるのだ。

一体何がどうなってそうなってしまうのか非常に興味がある。

 

「それとお前、アカデミアにいたときは偽名を使ってたから」

 

「偽名?」

 

「あぁ、その方が色々と都合が良いだろう?

聖星はそんな考えはなかったみたいだけどな」

 

けらけらと笑いながら当時を懐かしむ十代。

偽名を使う必要性に関しては嫌でも想像ができる。

どのような名前を使っていたのか聞こうと思い唇を動かそうとした。

 

「とまぁ、今俺が教えられるのはこれくらいだな。

後は頼んだぜ」

 

「え?

ちょっと待って、まだ聞きたい事が……!」

 

まだ解決していない疑問をぶつける前に十代の琥珀色の瞳が綺麗なオッドアイに変わる。

同時に車内に不思議な風が吹き、ジャスミンは反射的に叫んだ。

手を伸ばしてきそうな彼女に十代は罰が悪そうな顔をして笑った。

 

「いや、それがさ……

あいつも過去に来る前に俺からこれ以上詳しくは聞いていないらしいんだ。

だから話したくても話せなくてよ~

悪いな」

 

「なっ……!?」

 

両手を合わせられて謝られたジャスミンは無責任な!と叫ぼうとした。

だがそれより先に浮遊感を覚え、そのまま意識が途切れてしまった。

 

**

 

という実に腹立たしいでき事から数日が過ぎようとしている。

この時代に来た当初は右も左も分からなかったが、十代の言った通りペガサスのおかげでなんとかこの学園に潜りこむ事ができた。

十代の言葉には感謝はしているが、同時に落下する恐怖を覚えているジャスミンは元の時代に帰ったら真っ先にあの男を吊し上げようと決めている。

いくら過去に行く事を承諾したとはいえ、いきなり紐なしバンジージャンプはありえない。

思い出せれる十代の行動にジャスミンはこれから行われる紹介のため気を引き締めた。

 

「時期外れではありますが新しいお友達を紹介しよう」

 

マイクで拡張されたこの学園の校長の言葉にジャスミンは立ち上がった。

 

「本日よりオベリスクブルーに編入してきたアルテミナ・ジャスさんです」

 

名前を呼ばれると同時に姿を見せれば自然と拍手が起こる。

アルテミナ・ジャス。

十代のアドバイスを聞いて色々考えた結果、この名前にした。

ペガサスからはアルテミナと名乗るくらいならアルテミスと名乗れば良いと言われた。

テンプレといえる紹介内容を聞きながらアルテミナは友好的な笑みを浮かべる。

 

「初めまして、アルテミナ・ジャスです。

私はカブキッドのようなエンターテイナーデュエリストを目指し、それを実現するためデュエルアカデミアに編入してきました。

今日から皆さんと一緒にデュエルを学べると思うととても楽しみで仕方がありません。

日本の文化にはまだ慣れていないため失礼な事をすると思いますがよろしくお願いいたします」

 

日本人とは違う顔立ち、そして両親譲りの美貌を持つ彼女の言葉に生徒達は更に拍手を送った。

最初の掴みは大丈夫だろうと安心したが、彼女は自分の視界におかしな生徒達が映っている事に気が付く。

皆は彼女を歓迎しているようだが一部の生徒達は怪訝そうな、何かを怪しむような視線をアルテミナに送っていたのだ。

気味の悪い視線だが特に深く考えなかったアルテミナはまた笑みを浮かべてその場から退場した。

一方、転校生に妙な視線を送っていた者は小声で隣席の者に尋ねた。

 

「この時期に転校だと?

随分と奇妙だな」

 

「ん、そうか?」

 

「馬鹿が、一体今がどんな時期か貴様も知っているだろう。

あまりにもタイミングが良すぎる」

 

「ま、仮にお前が思っている通りだったら向こうから何か仕掛けてくるだろう。

俺はいつでも準備オーケーだぜ」

 

**

 

「(何なのこれ、全っ然、分かんない!)」

 

アカデミア用の教科書を開けたアルテミナは思わずそれを閉じようとした。

しかし現実逃避をしても意味がなく、彼女は知識0なりに頑張って教科書に書かれている意味を理解しようとした。

 

「(あいつ、私とあいつで2人仲良く聖星のスパルタを受けるって言っていたけど……

まさか聖星、この内容を理解しているの!?

嘘でしょ!??)」

 

国語は捨てた。

外国人だからという理由で漢字が分からないから全くできないと上手く言い訳ができる。

英語は多分余裕だ。

社会は全て暗記物と思えばまだ楽であるが……

 

「(せ、生物はまだ何とかなるとして数学と化学、物理なんて無理よ)」

 

今日から始まる授業内容を想像するとかなり憂鬱になってしまう。

さっぱり理解できない現実に聖星を助ける前に勉強を優先しなければいけない気がして来た。

いや、聖星をさっさと助けて彼に勉強を教えてもらうのも手か。

すると隣に誰かが立ち、そちらに目をやると金髪の少女を筆頭に3人の少女が微笑んでいる。

 

「初めまして、アルテミナ。

私は天上院明日香…

貴方の故郷じゃアスカ・テンジョウインの方が良いのかしら?」

 

「いいえ、知り合いに日本人もいるから順番は変えなくても大丈夫よ。

アルテミナ・ジャス。

後ろのお二人は?」

 

「私は枕田ジュンコ」

 

「私は浜口ももえですわ」

 

「明日香にジュンコ、ももえね。

よろしく」

 

笑みを浮かべながら手を差し伸べ、お互いに握手をしていく。

それを切欠に他の女生徒達も声をかけ、授業が始まるまでアルテミナの周りには人で溢れかえってしまった。

 

「ねぇ、アルテミナ。

昼休み一緒に食事でもどう?

その後デュエルもしたいんだけど、どうかしら」

 

「えぇ、喜んで」

 

さっそくデュエルに誘ってきたのは明日香だ。

今までの会話で彼女はこの学園内屈指の実力者だとももえとジュンコが自慢していた。

アルテミナもそんな人物からの誘いを断るつもりもなく、この時代の学生がどの程度の実力なのか知るのに良い機会だと思い快く受け入れた。

 

**

 

午前中の授業は終わり、皆はそれぞれ昼食をとる時間となった。

購買に行く者、お手製の弁当を食べている者等様々だ。

そんな中昼食を終えた一部の生徒はデュエルフィールドに集まり、これから始まるデュエルを観戦しようとしている。

いつも以上に騒がしいデュエルフィールドの様子にたまたま通りかかった十代達は顔を見合わせた。

その人だかりの中に見慣れた黒い後姿があったのでこの光景はなんなのか聞いてみた。

 

「万丈目、何だこの人だかり。

今日は何かあったか?」

 

「さんだ!

どうやら天上院さんと例の転校生がデュエルするそうだ」

 

「本当か万丈目!?

明日香とあの転校生のデュエルか~

どんなデュエルになるんだろうな。

取巻、翔、隼人、ちょっと行ってみようぜ!」

 

「って、おい、遊城!

……相変わらずのデュエルバカだな」

 

「デュエルを除いたらあいつにはバカしか残らんぞ」

 

「万丈目君の言う通りっすね」

 

「けど、あれが十代のいいところなんだな」

 

デュエル、しかも学園上位に入る実力者と転校生がするのだ。

誰よりもデュエルが好きな十代が食いつかないわけがない。

そんな友人を3人は呆れたように見送り、隼人は微笑ましそうに見ていた。

しかし彼等も例の転校生の実力は気になるところである。

一方、自分をこの時代に送り込んだ張本人がこの場にいることを知らないアルテミナは明日香に向かって不敵な笑みを浮かべる。

 

「明日香」

 

「何かしら」

 

「貴方が目指すのはどんなデュエリスト?」

 

「え?」

 

互いにデュエルディスクを装着した時、アルテミナは明日香に尋ねる。

突然の事に明日香は不思議そうな表情を浮かべた。

それに対しアルテミナは無邪気な笑顔で告げる。

 

「今朝も言ったけど、私はカブキッドのようなお客様、対戦相手……

皆が楽しめるエンターテイナーデュエリストを目指しているの」

 

「成程ね、どんなデュエルを見せてくれるのか楽しみだわ」

 

「えぇ、たっぷり驚いてもらうわ!」

 

「「デュエル!」」

 

「先攻は私がもらうわよ、アルテミナ。

私のターン、ドロー!

私は【エトワール・サイバー】を召喚!」

 

「はぁ!」

 

淡い光と共に現れたのはオレンジ髪の女性モンスター。

エトワールは確か花形俳優という意味だった気がする。

そう頭の中で思い出しながら目の前で回転しながら召喚された彼女を真っ直ぐと見る。

 

「随分と綺麗なモンスターね。

貴女美人だし、とても似合ってるわ」

 

「あら、ありがとう。

カードを1枚伏せ、ターンエンドよ」

 

「(攻撃力1200のモンスターを攻撃表示かぁ。

絶対何かあるわよねぇ~)

私のターン」

 

この時代の下級モンスターの平均攻撃力は確か1500前後だったはず。

それと比べると【エトワール・サイバー】の攻撃力は低い部類に入る。

そんな彼女を攻撃表示で召喚するというのは伏せカード、もしくは彼女自身に奇抜な効果がある。

そう考えるのが自然だろう。

 

「(さて、どう魅せましょう……)」

 

ゆっくりと目を閉じたアルテミナは引いたカードを見る。

描かれている景色に彼女は口角を上げ、明日香を真っ直ぐに見た。

 

「さぁさぁ、皆さんご注目!」

 

明日香と視線を交えたアルテミナはすぐに観客達にも目をやり、大きく手を広げた。

突然声を上げた彼女の行動に皆は不思議そうな顔をする。

しかし今朝の朝礼でエンターテイナーデュエリストを目指していると言っていたため、すぐに理解したようだ。

 

「今私達がいるのは自然溢れるデュエルアカデミア!

だけど残念な事に私達がデュエルしているのは外の自然が全く見えない建物の中!

折角の環境が勿体ないわ。

そう思わない?」

 

観客や明日香に問いかけるように目をやり、皆の反応を見守る。

しかし生徒達は室内でデュエルするのが主のためあまり勿体ないとは思わない。

それくらいアルテミナも理解はしていた。

 

「だから私が室内に居ながら自然を感じられるよう、舞台を整えるわ。

手札からフィールド魔法【炎王の孤島】を発動!」

 

綺麗な笑みを浮かべてアルテミナはカード名を宣言する。

デュエルディスクがカードに埋め込まれているチップを読み込み、白い壁で覆われたデュエルフィールドは一瞬で様変わりした。

建物の外のように森が広がり、微かに煙を上げる火山が遠くに見える。

 

「……成程、これの事を言っていたのね」

 

「えぇ。

この島は【炎王】達が暮らす緑豊かな島。

このアカデミアとそっくりでしょう?

それにここに住んでいる住人達はとても愉快でね、お祭り事がとっても大好きなの」

 

一面に広がる青空に揺れる木々、微かに香る海の匂い。

そして火山。

本当に自分達の学園がある島とそっくりだ。

 

「特に今日のお客さんは可愛らしい踊り子さん。

きっと皆歓迎するわ」

 

自分の事を指していると分かった【エトワール・サイバー】は周りを見渡す。

注意深く見れば木々の影に誰かが隠れているのが分かった。

一体何が出てくるのか分からない【エトワール・サイバー】は警戒するかのように神経を研ぎ澄ます。

 

「さぁ、舞台のスターを出迎えてくれるのは誰かしら?」

 

手札からカードを1枚手に取った彼女はそのモンスターを明日香に見せる。

 

「【炎王獣バロン】を召喚!」

 

「ウォウ!」

 

緑豊かな森の中に突然青い焔が現れる。

その炎は一気に巨大化し、中から赤い皮膚を持つ獣の顔をした男が姿を見せた。

両手に持っているのは鋭い剣で彼は体中に青い焔を纏っている。

器用に剣を中に放り投げると曲芸のように自由自在に剣を使って舞い始めた。

 

「さぁ、最初に出迎えたのは【炎王獣バロン】よ!

お客さんが美人で【バロン】は喜びの舞を舞っているわ。

……でも貴方に抜け駆けされるのは少し嫌みたい。

デッキにいる皆が彼女のエスコートは自分がやりたいってさ」

 

「ウオ?」

 

「フィールド魔法【炎王の孤島】の効果発動!

私の手札・フィールドのモンスター1体を選んで破壊し、デッキから【炎王】と名の付くモンスター1体を手札に加える」

 

「なっ、自分のモンスターを破壊するですって!?

何を考えているの!」

 

アルテミナの説明に【バロン】は勢い良く振り返る。

宙に舞っていた剣は地面に突き刺さり、【バロン】は嫌だと言うように大きく首を振った。

しかし他の住民達は認めないようで【バロン】は炎の中に消えていった。

 

「私はデッキから【炎王獣ヤクシャ】を手札に加えて【ヤクシャ】の効果発動!

私の場の【バロン】がカード効果で破壊された事で、彼を特殊召喚するわ!」

 

【バロン】を包んだ青い炎は赤色に染まり、真っ赤な炎へと変わった。

その炎は勢いよくふり払われ、棍棒を回しながら青い衣服を纏う男性が召喚される。

彼は礼儀正しく頭を下げ【エトワール・サイバー】を真っ直ぐ見た。

新しいモンスターの召喚に、観客である十代達はそれぞれ言葉を発した。

 

「お、かっこいいモンスターだな!」

 

「攻撃力は【バロン】と同じ1800っすね……

あれ、じゃあどうしてデッキからわざわざ【ヤクシャ】を特殊召喚したんすかね。

攻撃力が同じならそのまま【バロン】で攻撃すれば良かったのに」

 

フィールド魔法の効果でモンスターを破壊し、手札に加える。

そこで加えたモンスター自身の効果で場に特殊召喚するというのは実にいい流れのコンボだ。

しかし場にモンスターがいなくなるわけではないが増えるわけでもない。

特殊召喚したときに何か発動するのなら納得はいくが効果が発動する様子もない。

そんな翔の疑問に取巻が答える。

 

「一応破壊してデッキから特殊召喚しているからデッキ圧縮に一役買ってるだろう」

 

「あ、そっすね」

 

言われてみればそうだったと呟く翔の言葉は周りの観客たちの興奮によってかき消される。

やはり初めて見るモンスターが連続して現れるのはデュエリストとしての血が滾るようだ。

 

「【バロン】の代わりに彼が貴女の相手をするそうよ。

【ヤクシャ】、【エトワール・サイバー】に攻撃!」

 

「悪いけど、【エトワール・サイバー】の相手は貴方じゃ務まらないわ!

罠発動【ドゥーブルパッセ】!」

 

「【ドゥーブルパッセ】?」

 

「【ヤクシャ】の攻撃は私が受けるわ!」

 

【エトワール・サイバー】はするりと【ヤクシャ】の攻撃をかわし、明日香がその攻撃を受けた。

【ヤクシャ】とアルテミナはまさかの展開にわずかに目を見開く。

炎を纏った棍棒の攻撃に明日香はよろめき、彼女のライフは2200までに減少する。

だが明日香は不敵な笑みを浮かべて言い放った。

 

「そしてアルテミナ、貴女は【エトワール・サイバー】の攻撃力分のダメージを受けるのよ!」

 

「なっ!」

 

明日香の宣言に【ヤクシャ】は慌てて振り返り、自分の攻撃をかわした【エトワール・サイバー】を見る。

彼女は先ほど自分に攻撃を仕掛けてきた男などもう忘れてしまったかのように優雅に踊りだし、その華麗な舞からは想像ができないほど力強い蹴りを放つ。

とっさにアルテミナは両腕でその蹴りを受け止めたが、ライフは2800まで削られてしまう。

強烈な蹴りに笑みを浮かべたアルテミナは明日香の場に戻った踊り子と残念そうな顔を浮かべる【ヤクシャ】を交互に見比べ、肩をすくめた。

 

「あら、【ヤクシャ】は好みじゃないのね。

私はカードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

「私のターン、ドロー!」

 

デッキからカードを加えた明日香は攻撃力が上の【ヤクシャ】をどう処理しようかと考える。

いや、モンスターを相手にするよりアルテミナ自身を狙った方が早いかもしれない。

戦略を瞬時に組み立てて最善の策まで考えた明日香はその行動を移そうとする。

するとアルテミナの場で小さな炎が燃え上がり、中から先ほど仲間の嫉妬を買った【バロン】が半透明な姿を現す。

 

「何?」

 

「この瞬間【バロン】の効果を発動するわ」

 

「え、このタイミングで!?」

 

「えぇ。

【バロン】は何もせず退場するのは嫌いな子でね。

貴方達に楽しんでもらえるよう下準備を手伝ってくれるそうよ」

 

そう、【炎獣王バロン】はカード効果で破壊され墓地に送られた次のターンのスタンバイフェイズ時、デッキから新たな【炎王】と名のつくカードを加える能力を持つ。

カードの種類は指定されていないため、魔法・罠・モンスター、好きなカードを手札に持ってくることが可能だ。

デッキを広げたアルテミナは2枚の魔法カードを交互に見て、赤い雛鳥が描かれている魔法カードを手に取る。

 

「私は魔法カード【炎王炎環】を手札に加えるわ」

 

「相手ターンでも発動できるカードだったのね……

だったら私は手札から【増援】を発動するわ!

このカードはデッキからレベル4以下の戦士族モンスターを手札に加えることができる。私はデッキから【サイバー・チュチュ】を手札に加え、【チュチュ】を召喚!」

 

「はっ!」

 

光と共に場に現れたのは桃色の髪を持ち、目元をゴーグルで保護している少女だ。

標示された攻撃力は1000とこの場に存在するモンスターの中で最も低い。

ただでさえ【エトワール・サイバー】より攻撃力の高い【ヤクシャ】が場に存在するのに、それより低いモンスターを召喚するとは何を企んでいるのだろう。

アルテミナの常識だったらチューナーモンスターを召喚してシンクロ召喚につなげるが、あいにくこの時代にはまだそのシステムは導入されていない。

明日香が何を狙っているのか考えていると明日香は力強く宣言する。

 

「行くわよ!

【エトワール・サイバー】でダイレクトアタック!!」

 

「あら、直接攻撃モンスターだったの?」

 

「いいえ、【ドゥーブルパッセ】の効果よ。

あのカードの対象になった私のモンスターはこのターンのバトルフェイズ、貴女にダイレクトアタックができるわ!

さらに【エトワール・サイバー】は相手プレイヤーに直接攻撃する時、攻撃力が1700にアップする!

【エトワール・サイバー】!!」

 

アカデミアの女王にふさわしい気迫で叫ぶと、その勇姿に応えるよう【エトワール・サイバー】は舞い始める。

先程と同様に【ヤクシャ】に全く目もくれなかった彼女は勢いよく回転し、アルテミナへ直接攻撃する。

再び迫ってきた踊り子の迫力につい反射的に目をつむってしまう。

 

「くっ!!」

 

放たれた蹴りは前ターンの蹴りより力強く、削られるライフ量も多い。

これでライフは1100となった。

 

「【サイバー・チュチュ】でダイレクトアタック!」

 

「え?」

 

「【サイバー・チュチュ】は貴女の場に存在するモンスターの攻撃力が【チュチュ】より高いとき、相手プレイヤーにダイレクトアタックできるのよ!」

 

「な、ちょっと待って!?」

 

まさかの直接攻撃を可能にする効果にアルテミナは焦ったように叫ぶ。

今【サイバー・チュチュ】の攻撃力は1000で、彼女のライフは1100。

もし【チュチュ】の効果が【エトワール・サイバー】と同様に攻撃力を変動させるものならこの攻撃で終わってしまう。

伏せカードを発動させようと思っても、今の条件では発動することができない。

 

「ヌーベル・ポワント!」

 

「ぐっ!!」

 

再び受けた攻撃にアルテミナはその場に膝をつく。

ライフポイントの表示が100まで削られると同時に周りの歓声が一気に湧き上がり、

 

「すげぇ、天上院さんが押してる!」

 

「明日香さーん、頑張って!」

 

「何だよ、押されっぱなしじゃねぇか」

 

「いくら編入できるほど実力はあっても、天上院さんには及ばないってことかもな」

 

耳に届くのは優勢な明日香に対する励ましの言葉とアルテミナの現状に対する失望の言葉。

だが明日香はこの学園でも指折りの実力者のため、例え敗北しても当然の結果として受け入れるだろう。

この学園の生徒達はそうかもしれない。

だが、彼女は違うのだ。

 

「(やばい……

甘く見てたわね)」

 

膝を着いているため顔を俯かせているアルテミナは口元に弧を描く。

エンターテイナーとは見る者を魅了するデュエルを見せ、勝利を掴む。

父の背中を見ながら育ったアルテミナは当然そのような考えを持っていたし、当然かなりの負けず嫌いである。

さらに闘争心に火が付いた彼女は改めて気を引き締めて顔を上げた。

同時に明日香と目が合い、ブルーの妖精は不敵な笑みを浮かべて問いかけてくる。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドよ。

どうしたのアルテミナ。

この学園に転校したからにはそれなりの実力があるんでしょう。

まさかこのまま終わりだなんて言わせないでよ」

 

「安心して、それだけはないわ。

【ヤクシャ】、貴方だって守り神と一緒にバカ騒ぎしてないのに負けたくないわよね」

 

モンスター同士の戦闘もなしで、ましてやダイレクトアタックでライフポイントを削られてしまうなどデュエルとして面白みがいまいちだ。

アルテミナは明日香の問いかけに答えるように笑い、場に佇む【ヤクシャ】に声をかける。

彼女の言葉に同感なのか【ヤクシャ】は強く頷く。

 

「守り神?」

 

「それはこれからのお楽しみよ。

私のターン、ドロー!」

 

勢いよくカードをドローしたアルテミナは勝ち気な笑みを零して語り掛ける。

 

「私のライフは100。

明日香のライフに比べたら風前の灯火ね。

けど明日香、知ってるかしら。

例え小さな灯火でも、完全に消し切らなければ次の瞬間には全てを飲み込む業火へと変わるのよ」

 

100ポイントなど一瞬で消そうと思えば消す事ができる命。

しかしその小さな命が完全になくならない限り逆転のチャンスはある。

それを掴んだ時、明日香や周りの観客達はどのような表情を見せてくれるのだろう。

自分の腕の見せどころにアルテミナは力強く宣言した。

 

「私は手札から永続魔法【炎舞‐天璣】を発動!

このカードが発動した時、デッキから新たな仲間を手札に呼ぶことができる!

私は【炎王獣ヤクシャ】を手札に加えるわ。

さらに【天璣】は私の場の獣戦士族の攻撃力を100ポイントアップさせるのよ」

 

今アルテミナの場に存在する獣戦士族は【ヤクシャ】のみ。

彼の攻撃力は1800から1900へと上昇する。

その様子を見ていた男子生徒はこぼす。

 

「何だ、たった100かよ」

 

「100だからといって馬鹿にしちゃいけないわ。

獣戦士族モンスターはアタッカーが多いんだから」

 

彼の言う通り、100というのは低い数値かもしれない。

だがその100ポイント上げたモンスターの元々の攻撃力が高ければどうだろう。

時にその数値の差はデュエルの決着を決める重大な鍵となるかもしれない。

 

「さて、私達の島を訪れたのは2人の可愛らしい踊り子達。

【ヤクシャ】は振られちゃったみたいだけど他の皆はどうかしら。

貴方達をデートに誘いたい人はたくさんいるのよ」

 

「悪いけど、私のプリマ達はデートするより勝利を得る方が好きなの。

どれほど誘っても結果は見えているわ」

 

「あらあら、つれないわね。

でも、私の【炎王】達はそう簡単には引き下がらないわ」

 

「しつこい男は嫌われるわよ」

 

「ふふっ。

フィールド魔法【炎王の孤島】の効果を発動!

手札の【キリン】を破壊し、デッキから【炎王獣バロン】を手札に加え、加えた【バロン】を自身の効果で特殊召喚!」

 

見えるように前に出したのは炎を纏う一角獣。

青い炎に包まれながら消えたと思えばそのカードは先程の赤い獣へと変わる。

そしてその獣はアルテミナの場に荒っぽい舞を披露しながら現れた。

碌な説明もなしに次々に起こるでき事に十代と隼人は顔を見合わせる。

 

「ん、何だ?

いったい何が起こったんだ?」

 

「さっきの【バロン】が破壊されて【ヤクシャ】が特殊召喚された状況に似てるんだな」

 

「【バロン】は【ヤクシャ】と同じように場の【炎王】がカード効果で破壊された時、手札から特殊召喚できるのよ。

尤もこの効果は【炎王獣】共通の効果だから【キリン】にもあるけどね」

 

「【炎王獣】の共通の効果?

という事は毎ターン、貴女がモンスターを破壊すれば手札の【炎王獣】は特殊召喚されるっていうの?」

 

「えぇ。

もしバトルフェイズにモンスターを破壊しても、手札に【炎王獣】がいればすぐにモンスターは出てくるって事」

 

「くっ……」

 

明日香が使用するモンスターは先程アルテミナが思った通り攻撃力が低い部類に入る。

だから相手ターンの攻撃は【ドゥーブルパッセ】やモンスターを破壊するカードで対応していた。

だが、破壊されても手札から特殊召喚されるようでは破壊してもきりがない状況になりうる。

アルテミナの言いたい事が理解できた明日香は難しい顔を浮かべた。

 

「同時に破壊された【キリン】の効果発動。

デッキから炎属性モンスターを1体墓地に送る事ができるわ。

……そうね、このカードにしましょう。

そして【炎王獣ガルドニクス】を通常召喚!」

 

炎の中から現れたのは今までとは違う赤い鳥のモンスター。

そのモンスターの登場に【バロン】と【ヤクシャ】は互いに視線を交える。

と思えば【ガルドニクス】より一方後ろに下がるように動いた。

 

「行くわよ!

【炎王獣ガルドニクス】で【サイバー・チュチュ】に攻撃!」

 

「そう簡単には通さないわ!

カウンター罠、【攻撃の無力化】!

これで貴女のモンスターの攻撃は私のプリマ達に届かないわ!」

 

【ガルドニクス】は大きく口を開けて炎を吐き出す。

対象となった【チュチュ】は向かってくる炎に怯むが、その前に歪みが現れ、炎は吸い込まれていった。

【攻撃の無力化】はその名の通りどんな攻撃も終わらせてしまうカウンター罠。

これ以上攻撃できない事にアルテミナは心底残念そうな顔をする。

 

「ガードが堅いわねぇ。

これじゃあもてなそうと思ってもできないじゃない」

 

「あら、それはごめんなさい。

そんなにもてなしたいのなら、さっき貴女が言った守り神……

そのモンスターだったら考えてあげても良いわ」

 

使い手である明日香の性格が現れているのか、彼女達の瞳には勝利の文字しかない。

心強い、しかし敵からしてみれば敵に回したくはない顔をするモンスターにアルテミナは笑う。

2人の言葉の掛け合いに翔と取巻はそれぞれ零す。

 

「明日香さん、凄くノリノリっすね」

 

「なんだかんだで天上院さんもデュエル好きだからな」

 

対戦した事のある者なら分かると思うが、明日香は普段の冷静さとは異なりデュエル時にはかなり好戦的になる。

だからアルテミナが気取った言葉を使っても真正面から返すのだ。

一方十代と万丈目は真剣な表情で話す。

 

「ここまでのデュエル、まだ互いにエースを出してない。

この勝負、先にエースを出した方が有利になるな」

 

「ただでさえ残りのライフは100。

このまま天上院君が押し切るか、それとも逆転のコンボをあの女が決めるか……

どうでるか見物だな」

 

「カードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

「私のターン、ドロー」

 

デッキからカードを引いた明日香はアルテミナの自信にあふれる表情を見る。

あの顔がただの虚勢か、それとも本当に逆転できる自信があるのか判断はつかない。

ただ明日香がやる事は彼女の戦略を崩し、勝利を掴む事。

その為に手札のカードを1枚掴む。

 

「手札からフィールド魔法【フュージョン・ゲート】を発動!

悪いけど、貴女の孤島には消えてもらうわ!」

 

新たに発動されたフィールド魔法の登場にアルテミナの目が僅かに見開かれる。

破壊される事で効果を発動する【炎王獣】だが、今までその効果のトリガーとなっていたのはこの孤島自身。

微かに動いたアルテミナの顔にこれが正解だと明日香は考えた。

だが次の瞬間、火山が噴火し大地が揺れ始める。

そして溶岩が島を覆うかのように多量に流れ出した。

 

「な、何なの!?」

 

「地震なんだな!」

 

激しい轟音と爆音と共に揺れる森。

フィールド魔法は場に1枚しか存在せず、2枚目が発動したらその前に存在した1枚目は破壊されるルールである。

だからこれが【炎王の孤島】の最後なのだろうか。

それにしては演出が派手すぎる。

 

「あ、アルテミナさんのモンスターが溶岩に飲み込まれていくっす!」

 

動揺している明日香達とは対照的に【炎王獣】達は冷静で流れ出る溶岩に身を委ねていた。

次々に砕け散っていく彼らの様子に皆はアルテミナを凝視した。

 

「【炎王の孤島】、そこは南方に位置する活火山を有する孤島であり幻獣である【炎王獣】達の楽園。

住むべき島を失った彼らは島と共に滅びゆく運命なのよ」

 

「滅びゆく……?

まさか全員破壊されたっていうの?」

 

意味深な台詞に明日香は自分の推測を言う。

返ってきたのは肯定を意味する笑みだけだ。

2人の様子に見学している十代はたいそう驚いたのか声を荒げる。

 

「破壊された時に自分のモンスターまで巻き込むカードかよ!?

これじゃあ場ががら空きじゃねぇか!

……あれ、でも確か【炎王獣】の共通の効果って」

 

「自分の場の【炎王】がカード効果で破壊された時、手札から特殊召喚できる。

だがあの女の手札は1枚。

そう都合よく他の【炎王獣】が来るか?」

 

先程使い手本人であるアルテミナの説明を思い出しながら確認するかのように万丈目に目を向ける。

十代の言いたい事をくみ取った万丈目はそれを無視しながらも答える。

万丈目以外にもこの事を考えている生徒はいるようで周りからそれについて話している声が聞こえてくる。

 

「舞台は【炎王】達の楽園である孤島からルールが崩れた世界へと移ったわ。

でも安心して、例え舞台が変わっても【炎王】達は可愛い子へのもてなしを止めたりはしないから!

私の場の【炎王】が破壊された事によりさっき【炎舞‐天璣】で手札に来た【炎王獣ヤクシャ】を守備表示で特殊召喚するわ!」

 

再び現れたのは棍棒を手に持つ男性モンスター。

彼は先程と同じ舞を踊り、その場に膝を着いた。

アルテミナの時代では守備表示ならばモンスターは全体的に青色になる。

それに対してこの時代は攻撃表示の時と一切色が変わらない。

未来のデュエルに慣れている彼女からしてみれば、何故あのような仕様になったのか心底疑問である。

アルテミナが今のデュエルとは関係ない事を考えている時、明日香は真剣な表情で【ヤクシャ】の守備力を見る。

その数値は200と【サイバー・チュチュ】より低い値である。

 

「(さっき【ヤクシャ】を手札に加えたのに召喚しなかったのは、私が【炎王の孤島】を破壊することを見越しての判断だったのね。

流石というべきかしら。

でも【サイバー・チュチュ】は相手モンスターの攻撃力がこのカードより高い場合、直接攻撃が出来る効果を持っているわ。

それは彼女もわかっているはず……)」

 

自信に満ち溢れるアルテミナの表情に明日香は罠があると確信した。

だがここで臆していては勝利を掴む事が出来ない。

明日香は罠がある事を承知の上でデュエルを進める。

 

「フィールド魔法【フュージョン・ゲート】は【融合】がなくても融合できるフィールド魔法よ!

【フュージョン・ゲート】の効果により場の【エトワール・サイバー】と手札の【ブレード・スケーター】を融合!

【サイバー・ブレイダー】を融合召喚!」

 

「来たぜ、明日香のエースモンスター!」

 

赤い踊り子の隣に青い踊り子が姿を現すと、2人の美女は歪みの中に消えていく。

その代わり青い髪をなびかせ、赤いゴーグルを身に着けている新しいプリマが姿を現してくれた。

そのモンスターが登場すると会場が一気に湧き上がる。

 

「(今アルテミナの伏せカードは3枚。

1番左のカードは最初のターンから伏せてあったカード。

何度攻撃しても発動するそぶりはないから攻撃反応型のカウンター罠じゃない。

けど問題は残り2枚のカード)」

 

アルテミナの場にはモンスターの攻撃力を上げる永続魔法1枚と正体が分からない3枚の伏せカードのみ。

その中の1枚はモンスターの攻撃にも【サイバー・ブレイダー】の特殊召喚にも発動されなかった。

ただのブラフだと判断した明日香は警戒しながらもメインフェイズを終わらせる。

 

「行くわよ、【サイバー・チュチュ】でダイレクトアタック!!」

 

「速攻魔法【炎王炎環】を発動」

 

「このタイミングでの速攻魔法!?」

 

明日香の宣言と同時に伏せられていた1枚のカードが表になる。

先程【バロン】の効果でアルテミナの手札に加わったカードだ。

カード名より【炎王】の関連カードだというのはすぐに理解できた。

 

「私の場の【ヤクシャ】と墓地のモンスターを入れ替えさせてもらうわ!」

 

【サイバー・チュチュ】がアルテミナに向かおうとすると、膝を着いていた【ヤクシャ】が立ち上がり炎に包まれた。

【ヤクシャ】を包み込んだ炎はそのまま消えていった。

明日香が難しい顔を浮かべていると、アルテミナは再び語り掛けるように言葉を発した。

 

「孤島は消え去った。

そこに住む【炎王獣】達もね。

だけど彼らは完全には消えない。

例え何度滅んでも、その炎は廻るのよ」

 

淡々としたアルテミナの言葉が会場に響く中、熱気をまとった風がフィールドに吹き始める。

その風は全てカードを発動した彼女の背後に集まっていった。

するとその風は一気に膨張し、炎の渦へと変わっていく。

凄まじい熱気と轟音と共に炎の渦は竜巻のように荒れ狂い、天井に向かっていく。

 

「煥発より生まれし孤高の神、焔の鎧をまとい、大地を照らせ!」

 

赤と黄色が混じった色を持つ炎は高い位置で自身の形となり、大きく翼となる部位を広げる。

翼を広げた事でその炎が何になろうとしているのか分かった観客達はどんなモンスターが現れるのか期待した。

それに応えるようアルテミナはモンスターの名前を高らかに宣言する。

 

「特殊召喚、翡翠の炯眼、【炎王神獣ガルドニクス】!!」

 

「クォオオオ!!」

 

己の名を呼ばれると黄色の炎の中から鎧をまとい、青、黄色、赤、緑と多彩な毛を持つ1体の巨大な鳥が姿を現す。

巨大な鳥はゆっくりと火の粉と共に舞い降り、自分を見上げるプリマ達の姿をその翡翠の瞳に映しだした。

ただそこに存在するだけだというのに彼女達は押されるほどの威圧感を覚えてしまう。

流石は神の名を持つ獣というべきだろう。

 

「これが【炎王】の守り神……」

 

「攻撃力2700のモンスター!?

一体いつの間に墓地にいったんすか!??」

 

「【炎王獣キリン】の効果の時なんだな」

 

「すげー!!

何だよあの無茶苦茶かっこいいモンスター!!」

 

今まで召喚された【炎王獣】達とは比べ物にならないくらいの巨大さを誇るモンスターの登場に会場は【サイバー・ブレイダー】の時と同じくらい盛り上がった。

 

「それが貴女のエースなのね、アルテミナ。

けど忘れたの?

私の【サイバー・チュチュ】はこのカードより攻撃力の高いモンスターが存在する時ダイレクトアタックができるのよ」

 

「えぇ、確かに可愛い顔をして侮れない効果を持っているわ。

けど【炎王】の守り神が降臨したのよ。

まずは【サイバー・チュチュ】をもてなしましょう。

罠発動、【燃え上がる大海】!!」

 

「(最初のターンから伏せていたカード……!

まさか【ガルドニクス】が発動条件だというの!?)」

 

アルテミナは自分フィールドの1番右側に存在するカードを発動させた。

表になったカードには噴火を起こした島を守るかのように並ぶ【炎王】、そして彼らに敵意を向ける海のモンスターが描かれている。

その絵には輝きを放つ【ガルドニクス】が存在し、瞬時に【ガルドニクス】専用カードかと考えた。

 

「私の場にレベル7以上の炎属性モンスターが存在する時、フィールドに存在するモンスターを1体破壊する!」

 

「なっ!!」

 

「当然選択するのは【サイバー・チュチュ】!」

 

破壊対象を選択した途端【ガルドニクス】がイラストのような輝きを放ち始める。

その輝きは口元に集まり、大きな炎として【サイバー・チュチュ】を襲った。

向かってくる炎の攻撃に【チュチュ】はなす術もなく飲み込まれる。

 

「きゃあぁ!!」

 

「【サイバー・チュチュ】!」

 

破壊されるときの悲鳴と明日香の叫び声を聞きながら、アルテミナは口角を上げる。

本来なら【燃え上がる大海】のデメリット効果で彼女は手札を1枚捨てなければならない。

しかし【ヤクシャ】を特殊召喚した時点で彼女の手札は0のため捨てる必要はなかった。

ダイレクトアタックを可能とする【サイバー・チュチュ】を失い、明日香は手札を見る。

少しだけ思考を巡らせた彼女は手札から1枚カードを掴んだ。

 

「手札から魔法カード、【ハンマーシュート】を発動!」

 

明日香が発動したカードは【ゴブリン突撃部隊】が頭上から振り下ろされたハンマーに叩き潰されているシーンを描いている。

色々と損な役回りを描かれている彼等の状況から分かる通り、碌なカードではない。

このカードは場で1番攻撃力の高いモンスターを破壊する効果を持つのだ。

 

「これで【ガルドニクス】には退場してもらうわ!」

 

明日香の力強い声と共に上空から巨大なハンマーが現れ、【ガルドニクス】を粉々に砕く。

目の前であっさりと破壊された【ガルドニクス】にアルテミナは僅かに目を見開いた。

折角エースを召喚したというのにこうも簡単に破壊されるとは思わなかったのだろう。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドよ」

 

明日香はこれ以上何もできないと判断したのかターンを終了させる。

 

「明日香さん、手札全部使いきっちゃったっすね」

 

「けど、明日香さんの場には【サイバー・ブレイダー】と伏せカードがあるんだな。

少なくても次のターン、負けるとは思えないんだな」

 

「前田の言う通りだ。

それにアルテミナのエースカードはいなくなった」

 

「手札は0、そしてライフは100……

場には伏せカード1枚と【炎舞‐天璣】のみ。

これは本当に首の皮1枚でつながっている状態だな」

 

「けど見てみろよ取巻、万丈目、あのアルテミナって奴の顔。

この状況が楽しくて仕方がないって顔だぜ。

まだあいつは諦めてない。

一体どんなデュエルを見せてくれるんだろうな」

 

万丈目達のようにアルテミナの場からエースが消え去った事に安堵している生徒は大勢いる。

その声がちらほらと聞こえてくるが、そのような状況だからこそ盛り上がるものだ。

口角を上げたアルテミナは不敵な笑みを浮かべて明日香に向かって宣言する。

 

「ラストターンよ、明日香!

私のターン!!」

 

勢いよくカードを引いたアルテミナはそのカードの名前に笑みを浮かべた。

そのカードの枠は緑色で、この場をにぎやかにするには十分なカードだ。

手札が1枚に増えるとモンスターゾーンに火の粉が現れ、それは空中で渦を巻きながら凝縮する。

 

「この瞬間【炎王神獣ガルドニクス】の効果発動!

カード効果で破壊された守り神は輪廻を廻り、現世へと蘇える!」

 

「何ですって!?」

 

「蘇るって……

つまり【ミラフォ】や【炸裂装甲】で破壊しても帰ってくるっていう事なんだな!」

 

「攻撃力2700もあるモンスターを正面から攻撃するより魔法・罠で除去する方が早いけど、除去してもすぐに蘇るなんて打つ手がないっすよ!」

 

「蘇えれ【ガルドニクス】!!」

 

手を高く上げると炎の渦は火柱となり、その中から【ガルドニクス】が姿を現す。

再び現れた炎の鳥の姿に明日香は難しい顔を浮かべた。

 

「さらに【ガルドニクス】の第2の効果発動!

守り神が再臨した時、フィールドに存在する全てのモンスターは破壊される!」

 

「全てのモンスターを!?

という事は!」

 

「これが、私達に出来る最高のもてなしよ!!」

 

自信満々な笑みで宣言された破壊効果に明日香は【サイバー・ブレイダー】を見上げる。

【サイバー・ブレイダー】も目の前に現れた【ガルドニクス】の危険性を察知したのか後ろに下がる。

蘇生した守り神は自身の翼を大きく広げ、空中へと飛び上がると同時に炎を吐き出した。

頭上から炎を浴びた【サイバー・ブレイダー】は苦痛の声を上げながら破壊され、その炎はフィールド全体を覆い尽くす。

目の前を焼き尽くす光景に明日香は誰にも聞き取れない声で呟く。

 

「そんな……」

 

何かが燃える音が聞こえる中、呆然とする彼女とは対照的に不敵な笑みを浮かべるアルテミナは言い放つ。

 

「言ったでしょう明日香。

例え小さな灯火でも次の瞬間には全てを飲み込む業火になるって。

さらに【バロン】の効果によりデッキから【炎王の急襲】を手札に加えるわ。

尤も、このカードの出番はないと思うけど」

 

「(出番がない?

わざわざデッキからサーチしたのよ。

無駄なカードを手札に加えるとは考えられないわ)」

 

「行くわよ!

【炎王神獣ガルドニクス】でダイレクトアタック!!」

 

「ラストターンにはさせないわ!

罠発動、【聖なるバリア-ミラーフォース-】!!」

 

大きく口を広げた【ガルドニクス】は光を纏いながら口元に炎を集める。

このダイレクトアタックを受けてしまえば明日香のライフは0になってしまうが、明日香もそう簡単に負けるつもりはなかった。

勢いよく発動された【ミラーフォース】は使い手を守るかのように聖なる結界を明日香の場に出現する。

しかしその結界は赤く輝き、砕け散ってしまった。

 

「どうして、何が起きているの!?」

 

「無駄よ、明日香」

 

「え?」

 

赤い光を発しながら散っていく【ミラーフォース】からアルテミナの場に目を移すと1枚のカードが表側表示になっていた。

それは紫色の枠を持ち、何かのモンスターが背中を向けながら奥で炎の球が存在している光景が描かれている。

初めて見るカードだが、あのカードが【ミラーフォース】を破壊したのだと嫌でも分かった。

 

「【フレムベル・カウンター】。

このカードは墓地の炎属性を除外する事で相手が発動した魔法・罠カードを無効にし、破壊するの。

よって【ミラーフォース】は【ガルドニクス】の攻撃を返せないわ!」

 

「くっ!!」

 

悔しそうな顔を浮かべる明日香に対し【ガルドニクス】は感情を読ませない黄色の瞳でフィールドを見下ろしている。

口元に集まった炎は【サイバー・チュチュ】を焼き払った時より数倍の大きさへと成長していた。

明日香のモンスターは存在せず、唯一の伏せカードも無効となった。

アルテミナはこのデュエルの決着をつけるため高らかに叫んだ。

 

「【ガルドニクス】、レイジング・ノヴァ!!」

 

アルテミナの宣言と同時に炎は吐き出され、真っ直ぐと明日香に向かっていく。

攻撃力2700のダイレクトアタックに明日香の姿は炎の中に消え去る。

体中を包み込む炎の熱と衝撃に彼女は強く目を瞑り、その衝撃を耐える。

ライフポイントが0へと削られる音と炎の音が混ざり合い、ゆっくりと【ガルドニクス】は姿を消していった。

 

「……はぁ、何とか勝てた」

 

誰にも聞こえないよう呟いたアルテミナは明日香に目をやる。

正直なところ、ライフを100まで削られた時は焦ったものだ。

勝てる自信はあったが、もし先程のターンでカードを2枚伏せられていたら先程引いた魔法カード、【真炎の爆発】を使ってモンスターを増やしていただろう。

【真炎の爆発】から顔を上げたアルテミナはデュエルディスクの電源を切り、明日香に歩み寄ろうとした。

 

「あ、貴方……!」

 

「え?」

 

足を動かそうとした瞬間、視界の端に映った男子生徒の姿に反射的に指をさしてしまう。

彼女の驚いた表情に周りの生徒達は指をさした方向へと目を向ける。

そして皆の視線は十代へと集まった。

 

「……へ、俺?」

 

「兄貴。

アルテミナさん、兄貴を見て驚いているっすよ」

 

「何だ、十代。

貴様あの女と知り合いか?」

 

「え?

俺に外国人の友達なんていないはずだぜ……

ってか、会った事あるか?」

 

十代は必死に自分の記憶の糸をたどり、アルテミナに関する情報を思い出そうとする。

しかしどれだけ思い出そうとしても彼女と出会った記憶が出てこない。

以前、万丈目とのデュエルが報道されたが、その時に彼女は自分を見たのだろうか。

それならば十代だけではなく隣にいる万丈目にも反応を示すはずだ。

首を傾げる彼に対しアルテミナは頭を抱える。

 

「(そうよ、ここは過去の世界。

彼が私を知らないなんて当たり前じゃない。

私だって彼を全く知らないし……)」

 

恐らくこの後聞かれる事はどこで十代を知ったのかだろう。

ここで知り合いがいたと思ったけど全くの他人だったと言えば良いのだが、残念な事にその考えはアルテミナには思い浮かばなかった。

ペガサスから聖星と十代は友人同士だと聞いており、聖星から聞いたという事に決めた。

 

「貴方、遊城十代でしょう。

聖星から少しだけ話を聞いているのよ」

 

「聖星って……

お前、聖星の事知ってるのか!?」

 

「えぇ、父親同士が幼馴染なの。

その縁でね。

何度もデュエルしたわよ」

 

「マジかよ」

 

マジよ、と十代の言葉に返したかった。

しかし十代を含め周りの生徒達の表情が一瞬だけこわばったのが見えたため、返す事が出来なかった。

聖星が既に闇のデュエルで敗れた事もペガサスから聞いている。

彼等の心境を察しながら次にかけるべき言葉を探していると、それより先に十代が目を輝かせた。

 

「なぁ、アルテミナ!

聖星から俺の事を聞いてるって事は、俺は強いデュエリストだって知ってんだろ。

次は俺とデュエルしようぜ!」

 

「うわ、流石兄貴。

いきなりのデュエル宣言っす」

 

「そんな遊城に良い知らせだ。

あと10分で授業が始まる」

 

「えぇ、嘘だろぉ!??」

 

取巻の言葉に十代は自分のPDAを取り出して時間を確認する。

確かにあと10分ほどで午後の授業が始まってしまう。

流石に残り時間で満足できるようなデュエルが出来るとは思えず十代はがっかりしたかのように肩を下ろす。

目の前で一種の漫才を始めた同級生達にアルテミナは明日香に振り返る。

 

「彼等、いつもこんな感じなの?」

 

「えぇ。

騒がしいでしょう。

でも一緒にいて楽しいのよ」

 

「ふぅん」

 

女子校に通っていたアルテミナとしては共学の雰囲気というものは新鮮である。

明日香から再び十代達に目を向ければ、十代は万丈目、取巻と何か話している。

十代の発言に万丈目が突っ込みを入れ、バカバカしいコントをする2人に取巻は呆れた眼差しを向ける。

未来のアカデミアではなかなか見なかった光景だ。

 

「(聖星の事に関しては放課後でいっか……)」

 

どうせ放課後には鮫島校長から呼び出され、改めて自分はセブンスターズと戦うためにインダストリアルイリュージョン社から来たと自己紹介をするのだ。

その時に聖星について話せばいい。

そう結論付けたのだが、次の授業が錬金術だと思い出して一気に血の気が引いてしまった。

 

「……ねぇ明日香」

 

「何かしら」

 

「明日香って勉強得意?」

 

「え?」

 

「お願い、教えて」

 

END

 




おい、エンタメデュエルしろよ


最初の方はちゃんとエンタメしていたはずなんですけどね、後半は殆どしていないという
魅せるデュエルを書くというのは本当に難しいですね
改めて遊戯王の脚本を書いている方の構想力は凄いと実感しました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界よ初めまして、リンク召喚って何?★

これは聖星と、聖星の双子の姉・聖歌がVRAINSの世界に飛ばされたらというIf storyです。
私はAiの能力に夢を見ているのかもしれない。


「こんにちは、ホットドッグとジュース2つください。

1つはマスタードなしでお願いします」

 

「ホットドッグとジュース、1つはマスタードなしだね」

 

ある日の昼下がり、ちょっとした小腹がすいた聖星は良い香りに誘われてしまった。

犬のキャラクターが描かれているホットドッグ屋さんのようで、焼き立てのウインナーと瑞々しい野菜が食欲をそそる。

後ろで席を確保してくれた姉のためにマスタードのないものを注文すると、店員は注文通りのものを渡してくれた。

すると、髭を整えているイケメンな店員は不思議そうに聖星に尋ねる。

 

「ホットドッグ、2つで良かったのかい?」

 

「え?」

 

どういう意味ですか?という表情で問いかければ、店員は姉が座っている席へ視線を向ける。

つられてみてみると、自分がこれから座る席には何故か2人いた。

誰に似たのか分からない夜色の髪を持つ姉の前には、燃えるような髪の色を持つ義兄が座っているのだ。

聖星と店員の視線に気が付いたのか、義兄、星龍は立ち上がってこちらまで向かってくる。

 

「どうした、そんなに俺を凝視して」

 

「いや、せ……

兄さん、何でここにいるんだよ?」

 

彼はとある事情で家から出ることを禁じられている。

だから今日はこの街の散策のために2人だけで外出したのだ。

聖星が疑問に思っている事を理解したのか、星龍は眉一つ動かさずに姉へと視線を向けた。

 

「ここだと面白いデュエルを見る事が出来ると聖歌から連絡があってな。

急いで来た」

 

「……姉さん」

 

姉、聖歌に呆れた表情を向ければ、姉は可愛らしく舌を出して笑っている。

あの笑顔が通用してしまうから、本当に自分は聖歌に甘い。

 

「すまない。

これと同じものをもう1セットくれないか」

 

「あぁ。

マスタードはつけるかい?」

 

「マスタード?

どんな味だ?」

 

笑顔で対応していた店員の表情が少しだけ固まる。

ぱっと見、成人を超えている男性からそんなことを聞かれたらそりゃあ固まるだろう。

星龍はまさかの反応を理解できないのか、首を傾げ、聖星は苦笑を浮かべながら理由を説明した。

 

「すみません、兄さんはこの間までずっと持病で入院していたんで若干世間知らずなんです。

病院食でマスタードを使った料理は出なかったようで……」

 

「あぁ。

初めて口にするわけか。

それは責任重大だな」

 

なんたって、人間は見知らぬ食べ物の印象は一口目で決めてしまう。

ホットドッグを嫌いな人間は基本的にいないが、マスタードをつけるかつけないかは好みが別れる。

今後星龍がこの調味料に対してどのような印象を抱くかは、店員の言う通りこの場で決まってしまうのだ。

 

「はい。

追加のホットドッグとジュースだ。

是非味わってくれ、お兄さん」

 

「あぁ」

 

全く表情を変えずにホットドッグを受け取った星龍だが、その瞳は間違いなく輝いている。

成人男性の初体験を間近で見る店員は微笑ましそうに目元を和らげ、席に向かう聖星達に「ごゆっくり」と手を振った。

 

「もう、おそ~い」

 

「ごめん、ごめん」

 

「大丈夫だ、まだ冷めてはいない」

 

席にたどり着けば、聖歌はお腹がすいたと訴えながら足をぶらぶらさせていた。

目の前に彼女の分を置けば、すぐに暖かいホットドッグを持ち、元気よく「いただきます」と笑う。

丁寧に包み紙をよけながらホットドッグを美味しそうに食べる姿は実に見ていて気持ちいい。

隣に座っている星龍に目を向ければ、一口分だけ口に含み、すぐに飲み込んでしまった。

その様子に思わず聖星は声をかけようとしたが、それより先に開発者である聖歌が口を開いた。

 

「星龍お兄ちゃん、それ駄目」

 

「何?」

 

「今、噛んでなかったでしょ。

それ、不自然だよ」

 

「……一口サイズでも噛まないといけないのか?」

 

「うん」

 

何だ、それは面倒くさい。

そう顔に書いてある星龍、いや、聖星の相棒である【星態龍】は二口目を口に含み、ゆっくりと咀嚼する。

ぎこちない口の動きに、やはりまだ外に出すのは早すぎたのだと実感した。

さて、何故精霊である【星態龍】が人間の肉体を持っているのかというと、これは数日前までに遡る。

 

**

 

「「異世界?」」

 

「……その、すまない」

 

聖星と聖歌は、目の前で項垂れている1匹の精霊の言葉に困惑するしかなかった。

【星態龍】は聖星のお気に入り兼エースであるカードだ。

しかし、そのカードに精霊が宿っており、ちょっとした手違いで聖星と、偶々傍にいた聖歌を連れて異世界に来てしまったらしい。

最初は見知らぬ路地裏、急に見えてしまった精霊の姿、そしてぶっとんだ事実に混乱したが、受け入れてしまえば後は早い。

 

「ふぅ~ん……

聖星」

 

「ちょっと待っていてくれないか。

あ、流石異世界のネットはすぐに使えないか~

う~ん、これを弄れば良いのか?

いや、こっち?」

 

「どう?」

 

「うん、今出来るようになった。

これから国籍偽造するから、次に借りる部屋を探さないとな」

 

「流石、こういうことだと聖星の右に出るのってそういないよね~」

 

頭を下げている【星態龍】は一切慌てた声を出さない双子の様子に疑問を抱き、恐る恐る顔を上げた。

すると、聖星が身に着けているブレスレットからいくつものネット画面が空中に映し出される。

画面を指で操作している彼は時々難しい顔をしながらも、慣れたように手を動かしていた。

聖歌も自分のブレスレットを操作しているようだが、彼女の視線は聖星の画面に釘付けになっている。

 

「お、怒らないのか?」

 

普通ならばあり得ない現実に焦ったり、怒鳴り散らしたりするだろう。

2人の事はよく知っており、多少の事では感情を爆発させない性格だというのは分かっている。

しかし、それはあくまで世間一般の中学生と比較してだ。

流石に自分の失敗でいきなり異世界に来ちゃいました、1年くらい帰ることが出来ませんという状況になってみろ。

例え心の広い聖星と聖歌でも怒ると思うし、素直な聖歌が感情のままに【星態龍】を責めてもおかしくはない。

少しだけ震えている声の問いかけに、2人はそっくりな表情を向けて答えた。

 

「いや、もう過ぎたことだし。

別に危険な冒険をしろとか、世界を救ってくれとかそういう話じゃないんだろう?」

 

「それに、お父さんとお母さんがいない生活ってちょ~っと気になってたんだよね。

親の目がない生活、これで夜更かしし放題、遊び放題!」

 

「姉さん、火遊びは止めてくれよ」

 

「分かってるって、危険なことには首をつっこみませ~ん!」

 

自分が責められない事に不満を覚えながらも、【星態龍】は2人の様子に安堵した。

流石はあの不動遊星の血を引いているというべきか、こういう非科学的な出来事にも柔軟に対応し、生き延びようとしている。

いざという時は、元の世界に帰る期間は長くなるが、精霊としての力を酷使してでも2人がこの世界に馴染めるようにするつもりだった。

どんな状況下でも柔軟に対応できるように育てた彼らの両親に感謝していると、聖歌が目を輝かせながら聖星の腕に自分の腕を絡ませる。

 

「見てよ、聖星。

この世界、リンク召喚しなきゃシンクロモンスター呼べないみたい」

 

「え、どういう事?」

 

「え~っと、リンクモンスターのカードにはリンクマーカーっていうものがあって。

そのリンクマーカーの先にしか、エクストラデッキから召喚したモンスターを配置できないんだって」

 

「ごめん、意味が分からない」

 

「これは部屋を確保した後、ルールブック読み直した方が良いね」

 

聖歌のネット画面には、儀式モンスターと色合いが似ているモンスターが表示されていた。

モンスターの絵柄の枠には確かに矢印のマークが描かれており、なんと守備力がない!

この世界は自分達の世界と違うルールに則ってデュエルが行われているようだ。

楽しそうに語っている聖歌に対し、聖星は姉の話を聞きながら、右手はデータ改竄を進めていた。

 

「でもさぁ、やっぱり中学生が2人暮らしって世間的に見てどう?」

 

「まぁ、よろしくはないだろうな」

 

「保護者的な人って必要だよね」

 

聖歌のふとした疑問に、聖星は少しだけ眉間に皺を寄せる。

物件を借りるにしても、やはり保護者の名前と存在は必要だ。

どうするかと悩んでいる2人の様子に、【星態龍】は申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

すると、双子の視線が自分に注がれている事に気が付いた。

 

「な、なんだ、その目は……」

 

「聖星、どうする?」

 

「それしかないだろう」

 

「よし、私に任せて!」

 

「……は?」

 

こうして、聖星と聖歌の保護者として持病で入院していたが、無事に回復した兄、不動星龍が生まれたのだ。

 

**

 

「これでどうだ?」

 

「うん、大分良くなった」

 

途中でケチャップをこぼしながらも完食した星龍からの問いかけに、聖星は満足げに微笑んだ。

食べ始めの頃に比べたら自然な口の動かし方だった。

まだまだ改良する点はあるが、それはこれから暮らしていく中で改善すれば良い。

物件を借りた今では、人間の暮らしに慣れていない星龍に外出禁止令を出していた。

何かの拍子で人間離れしたことをしてしまい、不審な目を向けられないためだ。

しかし、目の前で人間の視点で物事を感じている星龍を見てしまえば、外出禁止令は取り下げようと思う。

 

「あ、始まるっぽいね」

 

聖歌の言葉に男2人は目の前に表示されているスクリーンを見る。

これから行われるのはカリスマデュエリスト同士のデュエルだ。

しかし、このデュエルは現実世界ではなく、LINK VRAINSと呼ばれるVR空間で行われている。

そのため、スクリーン内でデュエルをしている人達は自分の趣味やセンスを詰め込んだアバターを使用している。

 

「わぁ、あれがブルーエンジェル?

すっごく可愛い!」

 

聖歌が可愛いと言ったのは、カリスマデュエリストのブルーエンジェル。

その名の通り、青い髪と衣装に身にまとい、天使の翼を持っている可愛らしい少女だ。

皆を楽しませるように笑顔を振りまく姿はまさにアイドルだ。

 

「いいなぁ、俺もLINK VRAINSに行ってみたい」

 

「行けば良いだろう?」

 

LINK VRAINSに行くためには専用のデュエルディスクが必要なようだが、聖星達の財力なら購入する事も出来る。

まだリンクモンスターを持っていないため、うまくデュエル出来ないから遊びに行くのを遠慮しているのだろうか。

 

「駄目だろ。

星龍兄さんも一緒じゃなきゃ」

 

「え?」

 

「そうそう。

行くなら3人じゃなきゃ」

 

「なー」「ねー」と仲良く微笑む双子の言葉に、星龍は固まるしかない。

まさか自分も頭数に入れているとは思わなかった。

上手く言えない暖かい感情に胸がいっぱいになりながら、星龍はただ照れた表情を浮かべるしかなかった。

そんな3人を、とあるAIが怪訝そうな表情で観察していた。

 

「なぁ、遊作。

あそこにいる赤毛のお兄さん、なんかおかしいぜ」

 

「何がだ?」

 

聖星達が座っている席から少し離れた場所、キッチンカーの目の前に置いてある椅子に1人の少年が腰を下ろしている。

彼は旧型デュエルディスクから聞こえてきた言葉に耳を傾け、背中側にいる兄弟に振り返った。

傍から見れば仲良くデュエルを見ながら談笑しているだけ、どこにもおかしな点はない。

 

「軽くスキャンしてみたんだけどさ、あれ、人間じゃない。

中身には精密機械がびっしり詰まったヒューマノイドだ」

 

「何?」

 

怪しい事をしているのかと思いきや、まさかの単語に星龍を二度見する。

どこからどう見ても普通の人間にしか見えないし、それ程高性能なヒューマノイドなど聞いたことがない。

いや、心を持ったAIがいるのだ、もしかしたら遊作の知らないところで既に技術はここまで進歩しているのかもしれない。

だが、仮にそうだとして、何故その技術の結晶の塊である存在が普通に人間に混じっているのだ。

 

「けど、な~んかおかしいんだよな」

 

「どこがおかしい?」

 

「まるで俺のように感情がある。

けど、中身には感情や記憶領域を司る精密機器が搭載されていない。

人間でいえば体はあるのに脳がない状態なんだ。

それなのに美味しそうに物を食べたり、デュエルを見て楽しそうにしたり、あの2人を優しく見ている。

な、変だろう?」

 

「お前のようなふざけたAIがいるんだ。

実在してもおかしくはない」

 

「ひどっ!」

 

しかし、デュエルディスクに閉じ込めているAI、Aiが指摘した点が不可解なのは分かる。

Aiのデータを何度も調べた事がある遊作からしてみれば、記憶を司る部位がないのはおかしい。

 

「それで、あの男の存在にハノイの騎士は関係あるのか?」

 

「いや~、流石の俺様でもそこまでは分かんないぜ」

 

まぁ、予想はしていた返答だ。

ハノイの騎士が活動しているのは主にネット上での話。

現実世界で活動しているあのヒューマノイドがハノイの騎士と関係していると考えるのは不適切である。

彼の事は頭の片隅で覚えておけばいいと結論付けた遊作は、先程出されたホットドッグを口に運んだ。

 

「なぁなぁ、遊作」

 

「何だ」

 

「俺、あれ欲しい!」

 

「は?」

 

あまりに突然な発言に、素っ頓狂な声を出してしまった遊作を誰が責められるか。

 

**

 

「あぁ~~、やっと出来た」

 

「うん、無理、眠い」

 

この世界に飛ばされて2週間ほど過ぎた。

不動星龍の名前で借りた家族用のマンションは広く、各自プライベートを守るための部屋を確保できた。

しかし、今回作っているプログラムは共同作業のため、各自の部屋ではなく、リビングで作業を行っている。

作業を始めてからずっとPCに向かっていたため体が痛い。

変な音が鳴る体を伸ばしながら、星龍が作ってくれたスープを飲む。

 

「もう0時を回っている。

そろそろ寝たらどうだ?

いくら学校がないからといって、流石に連日夜更かしをするのはよくない」

 

「あぁ、そうするよ。

姉さんも寝るだろう?」

 

「部屋に戻るのめんどうくさい。

ここで寝る。

おやすみ」

 

「こら、聖歌。

ちゃんと部屋で寝ろ」

 

机に突っ伏して今にも夢の世界に旅立とうとしている聖歌に、星龍は盛大なため息をついた。

仕方ないと頭を抱えている相棒に、聖星は苦笑いをするしかない。

 

「片づけは俺がしておくから、【星態龍】は姉さんを部屋まで運んでくれないか?」

 

「あぁ、分かった」

 

既に半分眠っている聖歌を抱きかかえ、起こさないよう運ぶ【星態龍】。

廊下へと姿が消えた2人を見送った聖星は、PCの電源を落とそうとする。

すると、タイミングが良いのか、ニュースが表示された。

内容は今日の夕方、話題のデュエリスト、Playmakerがハノイの騎士に勝利したというものだった。

 

「(Playmakerか、LINK VRAINSの英雄と呼ばれるデュエリスト。

どんな人なんだろうなぁ)」

 

記事に載せられている写真には聖星より少し年上の少年が写っており、その視線は目の前にいると思われる敵に向けられている。

都市伝説と思われていた彼が表舞台に立った途端、世間は彼が何者か知ろうとした。

しかし、肝心のPlaymakerは一切の情報を公開しない。

そのクールさが世間を騒がせ、さらに記者達の記者魂とやらを燃やしている。

 

「聖星、寝るんじゃないのか」

 

「あぁ、ごめん」

 

戻ってきた【星態龍】から少しきつめの口調で言われてしまい、聖星は慌ててPCを切った。

完成したプログラムの試運転は起きてからすれば良い。

この世界の中学生達と違って、自分達は学校に通っていない分時間はたっぷりある。

欠伸を噛み殺しながら聖星は部屋に戻り、星龍は聖星の部屋の隅に座り込む。

そして仮の肉体から出てきて、本体であるカードへ戻った。

 

「聖星」

 

「何、【星態龍】?」

 

ベッドから上半身を起こして机の上を見れば、少しだけ不安そうな顔を浮かべる相棒がいる。

 

「本当に精霊である私がLINK VRAINSに行けるのか?」

 

LINK VRAINSへのアクセスは、当然だが生きた人間を想定しているもの。

実体がない、どちらかというと幽霊側に部類される【星態龍】がVRの世界にログインできるとは思えない。

 

「何言ってるんだよ。

だから、それが出来るように俺と姉さんがプログラムを作ってるんだ」

 

そう、今まで夜更かししてまでPCに向かっていたのは3人でLINK VRAINSに向かうためだ。

理論上、精霊の意識をログインさせるプログラムは完成した。

あとは起きてからテスト用のVR空間を起動させ、【星態龍】の意識をその世界に落とせるか試す。

これが成功すれば、次はLINK VRAINSだ。

 

「上手くいくと良いな、【星態龍】」

 

「そうだな……」

 

「おやすみ、【星態龍】」

 

「あぁ、おやすみ」

 

**

 

夕方になり、中学生が出歩いてもおかしくない時間になった。

テストプレイを終わらせた聖星達は、運動不足解消の目的も含め食料の買い出しをしていた。

もっとも、ただの買い物で運動不足が解消するかと聞かれると答えは否だ。

せっかく鍛えた体を衰えさせたくないため、ジムに通うことも視野に入れている。

 

「ねぇ、聖星、お兄ちゃん。

せっかくここまで来たんだからさ、デュエル見ていかない?」

 

「俺は良いよ。

星龍兄さんは?」

 

「私も構わない」

 

3人が通りかかったのは、巨大スクリーンがあるあの場所だ。

見慣れたキッチンカーもあり、姉と義兄に席を任せ、聖星は店員の元へ向かう。

 

「お、また来てくれたのかい」

 

「はい。

姉がここでデュエルを見たいって……」

 

「ははっ、確かにテレビで見るより迫力があるからな。

ここで見たいっていう人は君のお姉さんだけじゃないさ。

メニューはいつもので良いのかい?」

 

「はい、お願いします」

 

この世界に来てからは、よくここのホットドッグを食べている気がする。

理由としては、大迫力のデュエルを見る事が出来る場所にこのキッチンカーがあるかだら。

そして、ある程度の家事は出来る聖星達だが、いくら2人でもジャンクフード特有の旨味は表現できない。

良い香りがする調理場を覗き込めば、聖星より少し年上の少年が無言でソーセージを焼いていた。

何度か見かけたことはあるが、どうも話しかけづらい雰囲気のため、未だに名前を聞けていない。

 

「(年は俺とあまり変わらないよな?

友達になれたらいいな~って思ったけど、真剣にバイトしてるし、もう少し常連になってからの方が良いかな)」

 

「ほら。

ホットドッグとジュース3つだ。

1つだけマスタードなしだよ」

 

「ありがとうございます」

 

トレー毎渡された聖星は満面な笑みを浮かべ、聖歌達の元へ行こうとする。

瞬間、アルバイトの少年と視線が交わった。

声をかけるチャンスかと思ったが、すぐに目をそらされてしまう。

普段の聖星なら残念な表情を浮かべるが、ある違和感を覚えたため不思議そうな表情を浮かべていた。

 

「(何だろう、今の。

睨まれてた?)」

 

見間違いかと思ったが、彼の目はとても鋭く、冷たい眼差しを自分に向けていた。

何故そのような目を向けられるのか理由が思い当たらない。

もしかすると単純に目が悪く、細めていただけかもしれない。

睨まれる理由がない以上、それしか考えられないため、聖星はさっさと忘れて席へと向かう。

聖星がそのようなことを考えていると知らない少年、遊作は、協力者に小声で尋ねた。

 

「どうだ、草薙さん」

 

「……う~ん、どこからどう見ても人間だ」

 

聖星が席に着くと、3人は揃って両手を合せてからホットドッグを食べ始める。

その様子は人間との差異がなく、精密機械だらけのヒューマノイドと言われても信じられない。

 

「普通にホットドッグも食べてる。

Ai、本当に彼は人間じゃないのか?」

 

「何だよ、俺が嘘でも言ってるっていうのか!」

 

このキッチンカーの主である草薙は、自分と遊作の間にいるデュエルディスクに尋ねた。

彼の言葉が心外だったのか、少し拗ねたような声色を発しながらAiが姿を現す。

腰に手を当てながらぷりぷり怒る姿は可愛らしいが、慣れている遊作はソーセージを焼く手を休めずに冷たく言い放つ。

 

「黙れ」

 

「ひどっ!

まさか遊作ちゃんも疑ってる!?」

 

「疑ってはいない。

お前がそんな嘘をつくメリットがないからな。

食事をとることも、体内でバイオエネルギーに変換しているのなら納得できる」

 

そう、仮にこれがAiの嘘なのだとしたら、何故そのような嘘をつく必要がある。

自分達から逃げるためならもっとマシな嘘をつけば良い。

彼らからハノイの騎士の気配を感じているのなら、ストレートにそう言えば良い。

自分達をからかっているだけという線もあるが、嘘がばれた後に遊作から受ける仕打ちを考えれば釣り合わない。

 

「遊作、Ai。

彼らからはハノイの騎士の気配はないんだろう。

どうやらこの近所に住んでいるみたいだし、暫くは観察すれば良いんじゃないのか」

 

「あぁ。

俺は草薙さんに賛成だ」

 

「ちぇ~~」

 

両腕を組みながらデュエルディスクにもたれるAiは、羨ましそうに星龍を見ていた。

それに気がつかない聖星達はGo鬼塚のデュエルで盛り上がっている。

逆転のコンボを決めて勝利を収めたカリスマデュエリストの姿に聖歌が机を強く叩く。

 

「ってかさ、いい加減にデッキ作りたい!」

 

「うん」

 

もう我慢できない!とでも言うかのようにばしばし机を叩く姿はまるで小学生のようだ。

しかし、あのような逆転劇を治めたデュエルを見せられてはそう騒ぐのは仕方がない。

 

「こっちに来てから、1回もデュエルしてなかったんだよねぇ~」

 

「そんな余裕なかったしなぁ」

 

そう、自分達がこの世界に持ってきた物の中にデッキはなかった。

理由は、2人でデッキの調整を行っており、腰につけているデッキケースに入れていなかったのだ。

あの時、カードの詳細やコンボを検索するためにインターネット端末を持っていて良かったと心底思った。

とにかく住む環境を整える事、この世界のデュエルのルールを理解する事を優先していたが、今は大分余裕が出来た。

 

「そうだ、この後カード屋さんに行って、ストラクチャーデッキ買おうよ!」

 

「それ良いな。

とりあえず、3箱くらいと、パックも買おうぜ」

 

「お店に並んでるストラクチャーデッキを1種類3箱ずつ買うのはダメ?」

 

「う~ん……

この世界の中学生がいきなり数万円出しても驚かれないのなら良いんじゃないのか?」

 

いや、複数のお店を回って買った方が怪しまれないだろう。

恐らく1種類3箱を買う程度なら大丈夫だとは思うが、流石に数種類3箱ずつだと店員から怪しげな視線を向けられる。

どんなデッキがあるのか楽しく話していると、星龍が口を開く。

 

「カードならある程度私の力で出せるが」

 

「「え?」」

 

「仮にも私は高位の精霊。

精霊の力が強すぎる【宝玉獣】や神のカードは不可能だが、世間一般に流通しているものならば出せるぞ」

 

「「それを早く言って」」

 

「すまない……」

 

まさかの事実に2人は真顔になってしまう。

異世界を超える事が出来、さらには力が強くないカードならば無限に出せるだと。

どんなチート効果だ、流石はレベル11のドラゴン族モンスター。

星龍は2人を交互に見ながら「どうする?」と尋ねると、真っ先に聖星が返した。

 

「俺は良いや。

だって星龍兄さんが出したカードは俺がずっと使ってきたカードじゃないんだろう。

俺が使いたい【竜星】デッキはあのカードだから意味がある。

それが出来ないのならこっちでは違うデッキを使うよ」

 

「やだ、私の弟がイケメン」

 

幼い頃集めたパックで当てたカード達。

彼らと一緒にアカデミアの入学試験をクリアし、学校のテストでも共に戦ってきた。

父に負けたり、近所の子に勝ったり、夜遅くまでデッキの編集をしたり、変な事件に首を突っ込んだとき一緒に乗り越えたり。

あのデッキには10年近くの思い出が詰まっている。

だから、【竜星】デッキを使うのならば、あのカードでなければ自分は嫌だ。

 

「姉さんはどうする?」

 

「う~ん、聖星と若干理由が違うけど、私も違うデッキにする。

今のところリンク召喚メインのデッキにしようかな~

ほら、元の世界に帰ったら二度と使えないでしょう?」

 

元の世界で使っていたデッキが聞いたら「浮気者!」と叫ばれるかもしれない発言だ。

しかし、彼女の好奇心を否定する者はこの場にいなかった。

 

**

 

いくつものカードショップをめぐり、ネットオークションを利用してやっとデッキが完成した。

聖歌は【斬機】というカテゴリのデッキを使おうとしたが、星龍から「面倒ごとに巻き込まれるから止めろ」と説得されてしまい、不満そうだが諦めた。

聖星は何故なのか【魔導】カテゴリのカードばかり集まり、自然とデッキが魔法使い族になってしまった。

1パックには必ずと言っていいほど【魔導】カードが入っており、これは組めと言われているに違いない。

 

「姉さん、アバターはちゃんと準備できた?」

 

「もっちろん!

私のセンスを詰め込んだ可愛いアバターよ!

見たら絶対に驚くわ」

 

聖歌は年頃の女の子らしくお洒落にはとことん拘るタイプだ。

製作途中のアバターを見せてもらおうとしたが、唇に指をあてながら「秘密」と言われてしまい、結局どんな姿なのか知らない。

だからお返しと言わんばかりに聖星も自分のアバターがどのような姿なのか聖歌に教えていない。

仲の良い2人のアバターがどのようなアバターを作っているのか知っている星龍は、苦笑を浮かべながら2人の頭を撫でる。

 

「本当にお前たちはこういうものにこだわるな」

 

「だって、自分だけのアバターだぜ」

 

「皆があっと驚くものにしたいじゃん!」

 

はっきりと返された言葉に星龍はどう答えれば良いのか分からなかった。

こういう時、遊星ならどう助言していただろう。

昔の自分を思い出しながら可愛い我が子を止めたか、若気の至りだと口を閉ざすか。

まぁ、どうせ遊星達はこの2人がどのようなアバターを作ったか知る事はないのだ。

デュエルディスクを構えた3人は目を合わせて大きく頷いた。

 

「「「Into the VRAIN!」」」

 

その声と共に視界が現実世界から電子空間へと変わり、体が光に包まれる。

足元から上がってくる光はアバターの基礎となる衣服へと変わり、鋭い電子音を立てながら小物が追加されていく。

そして、エレベーターで降りていくような感覚を覚え、視界が暗くなった。

足場が安定したのを確認した3人はゆっくりと目を開き、目の前に広がる世界に瞳を輝かせた。

そんな中、真っ先に声を上げたのは聖歌である。

 

「うわぁ、すっごい!

気温も感じるし、匂いもある!」

 

両手を開けたり閉じたり、自分の顔を確認するように頬を触っている姿は実に微笑ましい。

まさに今回初めてLINK VRAINSにログインした初心者の姿だ。

聖星も目の前を行きかう人々の姿と建物、空の色に驚きを隠しきれない。

 

「これがVRってマジかよ。

リアルすぎる」

 

デュエル中継を見てある程度の景色は知っていたが、やはりTV越しの景色と実際自分で見るものは違う。

驚きの感情が含まれていた声は、次第に高ぶっている声色へと変わっていく。

聖歌と共にこの感情を共有しようとした聖星は、あることに気が付いた。

 

「姉さん。

こっちでは姉さんの事をなんて呼べば良いの?」

 

「ん?」

 

隣から聞こえた弟の言葉に聖歌は顔を上げる。

あぁ、そういえばアカウント名について全く触れていなかった。

聖歌は満面な笑みを浮かべながら楽しそうに答えた。

 

「GerberaWarrior、希望の戦士よ!」

 

「希望なのにGerbera?

何で?」

 

姉、GerberaWarriorの言葉に聖星は首を傾げるしかない。

希望という意味合いを込めた名前にするのなら普通hopeを使うはずだ。

そういう方面に疎い弟の発言に、彼女は嬉しそうに説明する。

 

「白色のガーベラはね、希望って意味があるの」

 

「あぁ、だから姉さんのアバターって白色が基準なんだ」

 

「そう。

お洒落でしょ?」

 

てっきり黒や紫等、重い色を基準のアバターにすると思っていたのに。

聖星の予想を反してGerberaWarriorは白を基準とし、赤やピンク等の明るい色を差し色にしたアバターである。

真っ白な髪と白を基準にしたコートに短パンだが、少しだけ和の雰囲気がある。

メッシュが黄色なのは元の姿との共通点を作りたかったからだろうか。

にこにこと笑っている姉の言葉に頷くと、彼女の顔が目の前に来る。

 

「な、なに、姉さん」

 

「お洒落でしょ?」

 

「あぁ……」

 

成程、褒めて欲しいのか。

彼女が何を望んでいるのか理解した聖星は微笑みながら「似合ってるよ」と答える。

満足な回答を得られたGerberaWarriorは頬を朱色に染め、聖星に笑みを向ける。

 

「それで、そっちはなんてアカウント名にしたの?」

 

「俺?

俺のアカウント名はStarPrayerさ」

 

「星と祈り?」

 

「まぁ、そんな感じ」

 

星に祈る人という意味を込めた名前だが、普通に聞けばそう思うだろう。

明るい衣装を選んだ姉に対し、StarPrayerは黒や青を基準としている。

自分のデッキをコンセプトにしているのか、所々に宝石らしき装飾品があった。

ひらひらと揺れているマントは穏やかな風が流れているのを示していた。

 

「凄く似合ってるし、かっこいいし、絶対に女子からモテるって言えるけど……

私、1つ不満がある」

 

「え、何?」

 

「何で目線がそんなに高いの??

もしかしてアバターの身長、現実より高めに設定してる??」

 

「厚底ブーツを履いてるからじゃないか?」

 

「むぅ~

私だってハイヒールなのに~」

 

現実世界で2人の身長はそれほど変わらない。

気持ち聖星が高いという感じだ。

しかし、この世界でははっきりと差が生まれておりGerberaWarriorはご不満のようである。

 

「話は終わったか?

なら、注意事項を確認しておく」

 

可愛らしい姉弟の戯れを見ていた【星態龍】、この世界ではStarEaterと名乗っている彼は、StarPrayerのデュエルディスクに巻き付いた。

彼の姿は【星態龍】としての姿に酷似しており、大きな相違点があるとすれば瞳の色だろう。

炎のなかで輝く黄色の瞳は冷たい青に変わっていた。

 

「なるべく離れない、遠くへ行くときは私に声をかける。

知らない奴にデュエルを申し込まれたら、私に報告する。

そしてハノイの騎士が現れたらすぐにログアウトする。

分かったな?」

 

「は~い」

 

「危険なことには関わらない。

そういう約束だからな」

 

手を挙げながら元気よく返したGerberaWarriorに対し、StarPrayerは微笑みながら返す。

さて、まずは誰とデュエルをしようか。

周りを見渡してみるとデュエル相手を探していそうな人はいない。

 

「試しに俺達だけでデュエルしてみる?」

 

「さんせ~!」

 

なんたって彼らはこの世界に来てからデュエルをしていないのだ。

ルールは頭の中に叩き込んでいるが、どうしても手間取ってしまうのは必然。

2人はお互いに距離を取り、デュエルディスクを構えた。

 

「「デュエル!」」

 

「先攻は俺だ。

えっと、ドローは出来ないから……」

 

ついいつもの癖でデッキトップに指を置いてしまったStarPrayerだが、すぐにこの世界のルールを思い出す。

静かに手札を見下ろしてみると、デュエルディスクに巻き付いているStarEaterが覗き込んでくる。

よく見てみると、デュエルの邪魔にならないよう気を遣ったのか、体の大部分がデュエルディスクの中に入っていた。

 

「俺は手札から【チョコ・マジシャン・ガール】を攻撃表示で召喚!」

 

「はぁ!」

 

「え、女の子モンスター!?」

 

StarPrayerの場に現れたのは青を基準とした小悪魔風なモンスターだ。

初めて見る可愛らしい女の子モンスター姿に、GerberaWarriorは思わず弟を二度見する。

それもそのはず、元の世界で彼が使用していたカードはドラゴン等の非人型モンスターばかり。

まさかの人型モンスターの登場に驚いてしまったのは無理もない。

 

「うそ~、私、てっきりドラゴン族系のモンスターが来ると思ってたのに」

 

「何か集まったからさ。

せっかくだしたまには気分転換だよ。

【チョコ・マジシャン・ガール】の効果発動。

手札の【マジシャンズ・ヴァルキリア】を墓地に送り、カードを1枚ドロー」

 

先攻ではドローが出来ないルールだが、彼女がいれば話は違う。

そして【チョコ・マジシャン・ガール】の手札交換効果は実に理に適っており、聖星は引いたカードを見て少し困った顔を浮かべた。

 

「(ここで【ジュノン】が来たかぁ)

俺は手札から【ルドラの魔導書】を発動。

手札の【ゲーテの魔導書】を墓地に送り、2枚ドロー」

 

【魔導法士ジュノン】は手札に3枚【魔導書】が揃えば特殊召喚できるが、あいにく今手札に存在するのは2枚のみ。

次のターンまで待つという選択肢もあるが、【チョコ・マジシャン・ガール】がいるのだ。

暫くはなんとかなるだろうと思い、すぐに【ルドラ】を発動した。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「私のターンね、いくよ!

ドロー!」

 

手札に加わったのは1枚の永続魔法。

元々あった5枚と見比べ、GerberaWarriorは静かに笑みを零した。

成程、この手札だったらあの召喚がすぐに出来る。

 

「私は手札から永続魔法【ミイラの呼び声】を発動!

効果の説明はいらないよね」

 

「あぁ、いつも姉さんが使ってるカードだ」

 

「私は【ミイラの呼び声】の効果で【馬頭鬼】を特殊召喚!

さらに手札から【不知火の武部】を召喚」

 

「はっ!」

 

彼女の場に召喚されたのは着物姿で薙刀を振り回している女性モンスターだ。

【チョコ・マジシャン・ガール】と敵対するように現れた彼女の姿に、StarPrayerは思わず首を傾げた。

 

「あれ?

姉さん、結局【不知火】デッキにしたの?」

 

【不知火】は元々の世界で彼女が使っていたデッキだ。

この世界ではリンク召喚が主流であり、せっかくだからリンク召喚をメインとしたデッキにすると言っていた気がする。

弟の言いたい事が分かったGerberaWarriorは笑みを浮かべながら人差し指を立て、数回横に振る。

 

「ふっふぅ~ん、幸運な事に【不知火】のリンクモンスターを見つけてしまったのだ~」

 

「え、あるの?」

 

「うん」

 

一緒にカードショップを回っている時に見つけたのなら、必ずStarPrayerが気付くはずだ。

見つけた時に大げさな反応をし、すぐにレジに向かっていただろう。

その姿を見ていないため、思わず視線がデュエルディスクに向いてしまう。

 

「StarEater?」

 

「私ではないぞ、彼女が自力で引き当てた。

まぁ、他の【不知火】カードは何枚か出したがな」

 

「あぁ、中古じゃなくてパックかぁ」

 

何と羨ましい引きだ。

いや、そういう自分も【魔導書】のカードをバカみたいに大量に引き当てた。

方向性は違うが、自分たちのデュエリストとしての運は良いのだろう。

 

「【不知火の武部】の効果発動!

彼女が場に現れたことで、デッキから仲間を呼ぶ!

来て、【妖刀-不知火】!」

 

若くて凛々しい女性の隣に立ったのは、淡い紫の髪を持つ男性モンスターだ。

美男美女が揃う光景は実に目の保養になる。

しかし【武部】と比べて男性の体は透けており、アンデット族だというのを思い出す。

 

「さぁて、いくわよStarPrayer!

私の前に来て、勝利を掴むサーキット!」

 

「っ!」

 

手を高く上げた瞬間、GerberaWarriorの頭上に四角い映像が現れる。

見慣れない演出の登場にStarPrayerの瞳が輝く。

GerberaWarriorと彼女の場のモンスター達は頭上に現れた物体に向かって飛び上がり、その中に姿を消す。

 

「消えた?」

 

「成程、こういう演出か」

 

StarPrayer達が驚く表情を浮かべているとは知らない彼女は、初めて行う召喚に胸が高まっている。

自然と笑顔になっているGerberaWarriorは、自分の周りを見渡した。

LINK VRAINS特有の紫の空が広がる世界ではなく、暖かく輝かしい光であふれている場所だ。

後ろに振り向いた彼女は足元にあるアローヘッドを見下ろして宣言する。

 

「アローヘッド確認、召喚条件はアンデット族モンスター2体以上!

私は【馬頭鬼】、【不知火の武部】、【妖刀-不知火】をリンクマーカーにセット!

サーキットコンバイン!!」

 

マスターである彼女に応えるよう、3体のモンスターはお互いの視線を合わせ、強く頷いた。

そして足元から大きな風が舞い上がり、3人は風に包まれながらアローヘッドにあるリンクマーカーとなった。

 

「逆巻く炎をその刃に宿して戦え、リンク召喚!」

 

3体のモンスターが電子の粒子へと変換され、それがとあるモンスターの体を構成する。

色がないモンスターは【不知火の武部】と同じように薙刀を持っており、足元から光輪が浮かび上がってくる。

そして色鮮やかな女性モンスターは凛々しい表情を浮かべ、StarPrayer達の前に現れた。

 

「リンク3、【麗神-不知火】!!」

 

「はぁ!」

 

優し気な笑み、しかしどこかに厳しさを含む笑みをこぼすモンスターの登場にStarPrayerは大きく手を叩く。

 

「凄い、これがリンク召喚!

シンクロ召喚とは全然違う!

良いなぁ、俺もやりたい!」

 

映像越しで見るリンク召喚も綺麗で最高だったが、やはり自分のデュエルで召喚される方がずっと良い。

言葉に表すことが出来ないほどにテンションが上がっている弟の姿に、GerberaWarriorは可愛らしい笑みを浮かべた。

 

「まだまだいくよ、【馬頭鬼】の効果発動!

帰ってきて、【妖刀-不知火】!

そして手札から【生者の書-禁断の呪術-】を発動!」

 

「え?

そうだよな、アンデット族デッキだから入ってるよな」

 

「私は【不知火の武部】を特殊召喚し、StarPrayerの墓地の【マジシャンズ・ヴァルキリア】を除外!」

 

GerberaWarriorの墓地に眠る【馬頭鬼】が除外されると同時に、【妖刀-不知火】が無表情のまま再び場に戻ってくる。

そして次の発動された魔法カードの効果で【妖刀-不知火】が舞い戻り、StarPrayerの墓地に存在する【マジシャンズ・ヴァルキリア】が除外された。

同族が除外されたことで【チョコ・マジシャン・ガール】は後ろに振り返り、心配そうに主を見る。

不安そうに瞳を揺らす仲間を安心させるよう、StarPrayerは自分の場の伏せカードに視線を落とした。

 

「行くよぉ、レベル4の【不知火の武部】にレベル2のチューナーモンスター【妖刀-不知火】をチューニング!」

 

2体のモンスターの姿が消えたと思うと、2つの光の輪がフィールドに現れる。

それは6つの輪に姿を変え、緑色の光を発したと思うと、轟音と共に光の柱が立つ。

 

「逆巻く炎は破壊の力となり、武士の意思は受け継がれる。

シンクロ召喚!

寥廓(りょうかく)をその刃で両断せよ、【刀神-不知火】!」

 

光の中から現れたのは主線のみのモンスターだが、耳に突き刺さる電子音と共に色付いていく。

手に持っている刀は【妖刀-不知火】のもので、それを持つ青年は炎を纏いながら刀を振り回す。

表示された攻撃力は2500だ。

 

「うわぁ、面倒なのが来た」

 

「バトル!

【麗神-不知火】で【チョコ・マジシャン・ガール】に攻撃!」

 

「罠発動、【一族の集結】」

 

「え、何それ?」

 

StarPrayerが発動した罠カードには【おジャマ】達が集っている。

彼女の知識で【おジャマ】達が集まり、カード名に【一族】と名の付くカードは【一族の結束】があった。

それを考えると同種族のモンスターに関連する効果だろう。

彼女の考えを肯定するように、StarPrayerは笑みで効果を説明した。

 

「手札と墓地から【チョコ・マジシャン・ガール】以外の魔法使い族モンスターを特殊召喚するカードさ」

 

今、StarPrayerの場には魔法使い族である【チョコ・マジシャン・ガール】のみ。

仲間が来てくれる事に【チョコ・マジシャン・ガール】は満面な笑みを浮かべ、StarPrayerに振り返った。

 

「俺は手札から【マジシャンズ・ヴァルキリア】を特殊召喚」

 

「はっ!」

 

特殊召喚されたのは先程除外されたのとは別の【マジシャンズ・ヴァルキリア】。

守備力は1800と表示されたが、【麗神-不知火】の攻撃力2300の敵ではない。

【チョコ・マジシャン・ガール】を狙おうと薙刀を振り上げていた彼女は、【マジシャンズ・ヴァルキリア】の効果で矛先を彼女に向ける。

 

「【麗神】!

そのまま【マジシャンズ・ヴァルキリア】を叩き切って!」

 

「はぁあ!」

 

GerberaWarriorの宣言通り、勢いよく叩き切る。

【マジシャンズ・ヴァルキリア】は強気な表情を浮かべ、持っている杖で薙刀を受け止めた。

金属同士がぶつかる音が響くが、杖にはヒビが入り、力に負けた【マジシャンズ・ヴァルキリア】が両断されてしまう。

 

「続けて【刀神-不知火】で【チョコ・マジシャン・ガール】に攻撃!」

 

自分に向かってくる勇ましい男の姿に【チョコ・マジシャン・ガール】は笑みを浮かべる。

先程まで不安そうな表情を浮かべていたのが嘘のようだ。

 

「【チョコ・マジシャン・ガール】の効果発動」

 

「え?」

 

「彼女がバトルの対象になった時、墓地に眠る【マジシャンズ・ヴァルキリア】が復活する」

 

【チョコ・マジシャン・ガール】は持っているハート型のロッドを振り上げ、目の前に魔法陣を描く。

水色の輝きを発する魔法陣は墓地へと通じる扉を開いた。

その中から先程破壊された【マジシャンズ・ヴァルキリア】が現れ、再び強気な瞳で相手の場を睨みつける。

 

「そして【刀神-不知火】は、【マジシャンズ・ヴァルキリア】に攻撃対象を変更しなければならない。

ちなみにこれは強制効果だ」

 

つまり、【マジシャンズ・ヴァルキリア】の効果は関係ないということ。

攻撃表示で特殊召喚されたことに疑問を覚えたGerberaWarriorは、攻撃力を確認した。

デュエルディスクに表示されている【マジシャンズ・ヴァルキリア】の攻撃力は1600。

どうやら墓地からの蘇生時に攻撃力を変動させる効果はないようだ。

 

「でも、攻撃力なら【刀神-不知火】の方が上!

行って!」

 

勢いを殺さずに切りかかる【刀神-不知火】は【チョコ・マジシャン・ガール】に向かっていた。

その彼女をかばうよう【マジシャンズ・ヴァルキリア】が間に入る。

その時、StarPrayerが呟いた。

 

「それが違うんだよなぁ」

 

再び響いた金属同士がぶつかる音。

だが、先程とは異なり、【刀神-不知火】の表情がだんだんと険しいものに変わっていく。

【マジシャンズ・ヴァルキリア】は顔色1つ変えておらず、それどころか彼に自分の掌を向けた。

そして、魔力を放出し【刀神-不知火】を吹き飛ばす。

 

「うそっ、どうして!?

何で!?」

 

激しい音とともに自分のフィールドに着地した【刀神-不知火】に、GerberaWarriorは理解できないと叫ぶ。

StarPrayerも破壊されていない【刀神-不知火】に疑問を覚えながらも、簡単に説明する。

 

「【チョコ・マジシャン・ガール】の効果はモンスターの蘇生だけじゃない。

攻撃してきたモンスターの攻撃力を半分にするのさ」

 

「う、うそぉ~……」

 

つまり、今【刀神-不知火】の攻撃力は2500の半分1250.

攻撃力1600の【マジシャンズ・ヴァルキリア】に勝てるわけがない。

 

「で、何で【刀神-不知火】が破壊されてないんだ?」

 

「【麗神-不知火】の効果よ。

彼女が存在する限り、炎属性モンスターは戦闘では破壊されないの」

 

「成程、それはやっかいだな……」

 

つまり、【麗神-不知火】をどうにか除去しなければモンスターによる戦闘破壊は出来ないということ。

こちら側も【チョコ・マジシャン・ガール】を守り切れば戦闘での破壊は怖くない。

これは意外に長引くと覚悟を決めた。

 

「私はこれでターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

さて、どうやって攻略しようか。

幸いにも手札に【魔導書】が揃ったため、【魔導法士ジュノン】を特殊召喚する事は出来る。

手札と墓地のカードと相談し、次の一手を考えていると乾いた音が響いた。

 

「え?」

 

「何!?」

 

乾いた音に混じったガラスが割れるような音。

一瞬何が起きたのか理解できなかったStarPrayerは、音の発生源である己の左腕を見た。

だが、そこには肘より下の腕がなくなっていた。

それを理解した瞬間、恐怖と激痛が走る。

 

「ぁ、ぐぁっ!?」

 

「StarPrayer!?」

 

デュエルの衝撃とは違う痛みに膝をつき、悲痛な声を上げる。

弟の姿にGerberaWarriorは悲鳴に近い叫び声をあげ、慌てて駆け寄る。

冷や汗を流す彼を抱きしめながら、彼女はこんな酷い仕打ちをした男に怒鳴りつける。

 

「あんた、急に表れて何するの!」

 

今まで聞いたことがない声を出す姉が睨みつける先には、仮面をつけ、白い衣装に身を包んだ男が立っていた。

彼の腕にはStarPrayerの左腕があり、不気味な笑みを浮かべている。

何故彼は自分にこんなことをしたのか、疑問に思っていると男は理解できない言葉を口走る。

 

「フハハハ、ついに、ついにイグニスを手に入れたぞ!」

 

「はぁ?

何の話よ!?」

 

「何だ、貴様は!?」

 

男が何を言っているのか分からず、GerberaWarriorとデュエルディスクにいるStarEaterは怒鳴る。

その声には間違いなく怒りが混じっており、StarEaterは今にも炎を吐き出しそうな勢いだ。

だが、残念なことに今の彼ではLINK VRAINS内で精霊としての力を上手く使えない。

自分が知らないところで命拾いしている男は首を横に倒しながら笑った。

 

「ほぉ、イグニスのくせに俺達を知らないのか?

いや、知らないふりをしているのか?」

 

イグニス。

確かラテン語で篝火という意味のはず。

しかし、この男の発言からもっと別の意味を持つはずだ。

イグニスがこの世界でどのような意味を示すのか分からないStarPrayerは、痛みに耐えるよう顔を歪ませながら叫ぶ。

 

「何だよ、それ。

よくわからないけど、StarEaterはイグニスじゃない!

俺の仲間だ、返せ!」

 

「仲間?

ふん、お前達のようなガキには関係のないことだ。

こいつはハノイの騎士が回収させてもらう」

 

「ハノイ!?

あんたが!?」

 

そんな捨て台詞を吐いた男は焦る双子等気にせず、背中を向けて走り出す。

思わず後を追おうとしたGerberaWarriorだが、すぐに足を止め、StarPrayerに振り返る。

姉として弟を放っておくわけにはいかない。

だが、このまま奴を逃がしてしまえば義兄が連れ去られてしまう。

どちらを取ればいいのか迷ったが、StarPrayerは叫んだ。

 

「姉さん、俺はいいから追って!!!」

 

「っ!!」

 

体を震わせるほどの叫び声に、GerberaWarriorは弟を心配する姉の顔から、怒りを宿すデュエリストの顔に変わった。

建物の間を縫うように逃げる男を追いかけるが、距離は一向に縮まらない。

 

「待ちなさい!

StarEaterを返して!」

 

狭い路地を通って逃げる男に自分の叫び声は聞こえているはずだ。

律儀に止まってくれると期待していないGerberaWarriorは、最終手段として自分のデュエルディスクのスイッチを押す。

すると、いくつかのネット画面が現れ、彼女は指一本であるプログラムを起動させた。

OKボタンを押すと同時にハノイの騎士のデュエルディスクが光りだす。

 

「何?」

 

突然稼働したデュエルディスクに違和感を覚えた男は足を止める。

一体何事かと調べるために操作をすると、なんとデュエルモードが勝手に起動しているのだ。

ライフポイントが表示され、この場から動くことが出来ない。

デュエルディスクの誤作動とは思えず、この現象を引き起こしたと思える人物に振り返った。

 

「小娘、貴様、俺のデュエルディスクに何をした?」

 

「悪いけど、貴方のデュエルディスクにウイルスを仕込ませて貰ったから」

 

「何だと?」

 

「このプログラムは私の自信作でね!

私が持っているワクチンプログラムを使わない限りログアウト出来ないわよ」

 

「何!?」

 

「嘘だと思うのなら試しにログアウトしてみて」

 

GerberaWarriorの言葉にハノイの騎士は信じられないという表情を浮かべ、ログアウトプログラムを起動させる。

しかし何度もERRORと表示されてしまい、彼女の言葉が真実なのだと突き付けられた。

ここはあくまで仮想世界、長時間ログアウトできなければ生死に関わる。

運良く誰かに現実世界の自分を見つけてもらえれば良いが、もし誰も知らずに数日が過ぎてしまった場合を考えて欲しい。

せっかく目的のAIを手に入れて良い気分だったというのに、台無しにされた気分だ。

 

「くっ、まさかそんなプログラムが……」

 

「私が負けたらワクチンプログラムを貴方に渡す!

だけど私が勝ったら、StarEaterを返してもらうわ!」

 

GerberaWarriorは真っ直ぐな瞳でハノイの騎士を捉える。

その瞳は普段の賑やかな彼女からは考えられないほど鋭くなっている。

可愛い弟と楽しい時間を過ごすはずだったのに、この男のせいでそれを壊された。

しかも左腕ごとStarEaterを奪うという、常人ならば思いつかない事をしたのだ!

ただでは終わらせないとでも言うようにデュエルディスクを構える彼女の姿に、囚われの身になっているStarEaterは呟いた。

 

「まずいぞ、GerberaWarriorのやつ、完全に頭に血が上っている」

 

眉間に皺が寄り、両手を握りしめすぎて爪が食い込む勢いだ。

冷静さを欠き、怒りに任せたデュエルを行ってもおかしくはない。

それは自分を捕らえた男も感じているようで、男は不敵な笑みを浮かべてデュエルディスクを構えた。

 

「良いだろう、さっさと終わらせよう」

 

平常を失ったデュエリストとのデュエルなど、すぐに決着がつく。

そう高を括ったハノイの騎士は、この判断が間違いだと気が付けなかった。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は俺だ!

俺は【星遺物の醒存】を発動!

俺のデッキからカードを5枚めくり、【クローラー】モンスターまたは【星遺物】カードがあった場合、そのカードを手札に加える。

そして、残りは墓地に送る」

 

【クローラー】。

それはGerberaWarrior達の世界には存在しないカテゴリだ。

普段ならどんなカードなのかと目を輝かせるが、弟を傷つけ、義兄を奪おうとする者が相手のため全く楽しめない。

怒りすぎて無表情になっているGerberaWarriorは突き刺すような視線を向けながらめくられるカードを見る。

 

「俺が手札に加えるのは【クローラー・デンドライト】だ。

カードを1枚伏せて、モンスターをセット。

ターンエンド」

 

「私のターン、ドロー。

手札から【ナイト・ショット】を発動!」

 

「何!?」

 

「効果は説明しなくても良いわよね?

さぁ、さっさとその伏せカードを墓地に送って!」

 

「くっ……」

 

【ナイト・ショット】は伏せられている魔法・罠カードを容赦なく破壊するカードだ。

GerberaWarriorの場から放たれた光は伏せカードを貫き、カードが粉々に砕ける。

 

「そして魔法カード【逢華妖麗譚-不知火語】を発動。

手札の【不知火の武部】を墓地に捨て、捨てたモンスターと異なる【不知火】をデッキ・墓地から特殊召喚するわ」

 

場に現れたのは【不知火の武部】が、友人と思われる長髪美女に鈴をつけているシーンが描かれているカードだ。

彼女はStarPrayerとのデュエルでも使用したモンスターを墓地に送り、デッキから1人の男性を呼ぶ。

 

「私は【不知火の武士】を攻撃表示で特殊召喚!

そして【武士】の効果発動、墓地の【武部】を除外し、攻撃力を600ポイントアップ!」

 

刀と剣を持っている青年の前に【武部】が現れ、彼女は自分が持っている刀を【武士】に渡す。

すると、【武部】の足元に異世界へと繋がる扉が開き、彼女はその扉の向こう側へ姿を消す。

これで【武士】の攻撃力は1800から2400になった。

 

「この瞬間【武部】の効果発動!

彼女が除外された事で、デッキから1枚ドローし、その後手札から1枚選んで捨てる」

 

引いたカードはチューナーモンスター。

良いカードを引けたと思った彼女は、手札にいては困るモンスターを墓地に送る。

 

「私は手札からチューナーモンスター【ユニゾンビ】を召喚!」

 

「「イエーイ!!」」

 

【武士】の隣に現れたのはお互いに肩を組み、仲良く歌っているアンデット族モンスターだ。

片方の歌は陽気な気分になれるものに対し、もう片方はどうも気分が沈んでしまう歌声である。

見事に噛み合っていない2人の歌声に【武士】は眉を顰めてGerberaWarriorに振り返ろうと思ったが、それより先に彼女が動いた。

 

「【ユニゾンビ】の効果でデッキからアンデット族モンスターを墓地に送り、【ユニゾンビ】のレベルを1つ上げる」

 

「レベル4のモンスターが2体揃ったか。

しかも片方はチューナーだと?」

 

ハノイの騎士は、てっきり感情に任せた拙いデュエルになると思っていた。

しかし予想に反してGerberaWarriorは実に良いデュエルをしている。

どんなシンクロモンスターが召喚されるのか冷や汗を流す。

仮面の下にある表情に焦りの色があることを知らないGerberaWarriorは、次のカードを発動させた。

 

「手札から魔法カード【愚かな埋葬】を発動!

デッキから【不知火の宮司】を墓地に送る!

そして、【ユニゾンビ】の効果で墓地に送られた【馬頭鬼】の効果を発動!

このカードを除外し、墓地の【宮司】を特殊召喚するわ!」

 

墓地に送られたのは、【不知火の武士】が持っている剣に祈祷をしている男性だ。

しかし彼は【馬頭鬼】に背中を押され、フィールドに特殊召喚される。

彼も横から聞こえる不協和音に顔を歪ませたが、それを忘れるように祝詞を唱え始める。

 

「行くわよ!

レベル4の【不知火の宮司】にレベル4チューナー【ユニゾンビ】をチューニング!」

 

その場に座っていた【宮司】は立ち上がり、【ユニゾンビ】は更に熱唱し始める。

2体のモンスターは粒子となって消え、2本の輪となる。

重なった2つの輪は8つの輪に姿を変え、その中心を光が走った。

 

「戦士の祈りは炎に宿り、敵を切り裂く神となる!!

シンクロ召喚!!」

 

GerberaWarriorの感情にリンクするかのよう、先程とは比べ物にならない程の轟音が響き渡る。

地面を揺らすほどの音は近くの建物も震え上がらせ、遠くにいるデュエリスト達にもここで何かが起こっている事を知らしめる。

 

九霄(きゅうしょう)にて炎の刀を掲げよ、【戦神-不知火】!!」

 

光の輪はモンスターの形を作り出し、透明だったモンスターは炎に包まれながら己の存在を確立させる。

右手に握られた刀は悪しきものを切る炎を宿し、左手に握られた剣は暗闇を照らす炎を宿す。

風と共に長髪が揺れ、燃えるような眼がハノイの騎士を貫いた。

 

「攻撃力3000のモンスターか……!」

 

彼女の場には攻撃力2400と3000のモンスターが並んでいる。

しかも自分の場には伏せカードがなく、あるのは裏守備表示で召喚したモンスターだけ。

このターン、GerberaWarriorは通常召喚を行ったためこれ以上モンスターを召喚出来ないはずだ。

だが、GerberaWarriorは声を張り上げる。

 

「【戦神-不知火】の効果発動!

このカードが特殊召喚に成功した時、墓地の【不知火】を除外し、除外した【不知火】の攻撃力を得る!」

 

「何だと!?」

 

「私が除外するのは攻撃力1500の【宮司】!

これで【戦神】の攻撃力は4500よ!」

 

【戦神】が持つ刀と剣が纏う炎は勢いを増し、フィールドの周りにまで炎が走り始めた。

空気が燃える音が聞こえる中、ハノイの騎士は一歩だけ後ずさった。

 

「バトル!

【不知火の武士】で裏側守備のモンスターに攻撃!!」

 

【武士】は鞘から素早く刀を抜き、目にも止まらぬ速さで裏側守備表示のモンスターを切り刻む。

現れたのは守備力600の【クローラー・デンドライト】。

リバース効果を持ち、デッキからモンスターを墓地に送る効果を持つ。

だが、そんなもの関係なかった。

守るモンスターも、頼りになる伏せカードも何もない。

無防備であるハノイの騎士に冷たい眼差しを向けるGerberaWarriorは声を張り上げた。

 

「【戦神】!!

やれ!!!」

 

怒りに任せた声を響かせる主の命に、【戦神】は静かに頷き、持っている刀を振り上げた。

刀でハノイの騎士に切りかかり、左手に持つ剣で彼を貫いた。

 

「うわぁああああ!!!!」

 

ライフポイントを超える攻撃を受けたハノイの騎士は激痛を感じながら建物に叩きつけられる。

その時の衝撃は凄まじく、すぐには立てないようで震える体でなんとか立とうとしていた。

雑魚を見下すように睨みつけるGerberaWarriorは、すぐにハノイの騎士の横にあるStarEaterを抱きかかえる。

 

「約束通り、StarEaterを返してもらうわよ。

あと、ワクチンプログラムは渡さないから」

 

「な、何?」

 

今にも血を吐きそうな表情を浮かべる男に、彼女は冷たく言い放つ。

そういう約束でしょ?と。

首を傾けながら告げられた言葉に、ハノイの騎士は目の前が真っ暗になる。

体中に走る痛みと、ログアウト出来ない事実、緊張感が限界を突破したのか、そのまま彼は気を失ってしまった。

 

「StarEater、大丈夫?」

 

「あぁ、私は平気だ。

それよりStarPrayerは?」

 

「分かんない。

でも大丈夫よ、私の弟でお父さんの子だもの」

 

あぁ、きっと大丈夫。

これはあくまでVRなのだ、現実世界に影響はないはずだ。

震える体から目を逸らしながら、GerberaWarriorはStarPrayerの元へ向かおうとする。

すると、第三者の声が響いた。

 

「あれぇ、もう終わっちゃってる??」

 

前から聞こえてきたのは、この緊張感に包まれた場にそぐわない声だ。

顔をあげて新たに登場した人物の姿を確認すると、そこには黒と緑のスーツに身を包み、鮮やかな緑の瞳を持つアバターがいた。

彼の姿をGerberaWarriorは知っている。

 

「Playmaker……?」

 

一瞬、何故ここにLINK VRAINSの英雄がいるのかと思ったが、彼がハノイの騎士と敵対している事を思い出した。

成程、ハノイの騎士が現れたと情報があれば彼がこの場に駆け付けるのは当然か。

納得していると、Playmakerのデュエルディスクにいる紫色の小人が不思議そうに彼を見上げる。

 

「Playmaker様、あっちのハノイ伸びちゃってるみたいだけど……

どうする?」

 

「拘束して色々聞きだす。

その前に、お前に聞きたいことがある」

 

「え、何?」

 

大丈夫だったか?等の身を案じる言葉が出てくると思ったが、まさかの質問だ。

何故Playmakerに尋ねられるのか分からなかったが、自分と彼の関係だろうか。

尤も、敵意を向けられていないため仲間だとは思われていないようだ。

 

「何故ハノイの騎士とデュエルをしていた?」

 

「何故って……

どうしてそんなことを聞くの?」

 

「理由は3つある。

1つ、ハノイの騎士の目的はこいつを持っている俺だ。

2つ、俺を探すため、旧型のデュエルディスクを持っているデュエリストが狙われている。

3つ、お前のデュエルディスクは新型、ハノイの騎士が狙う理由はない」

 

彼が3つの指を立てながら口にした言葉は実に分かりやすい。

少し遠回しにも思えるが、これは彼の癖なのだろうか。

自分達が狙われた理由に関しては、彼が望む答えを返せなかった。

眉を下げて困った顔を浮かべるGerberaWarriorは唇に指をあてながら答える。

 

「そんなの私達が聞きたいくらいよ。

ただデュエルをしていたら、急に仲間のデュエルディスクを奪われたの。

だから取り戻すためデュエルしていただけ」

 

「仲間のデュエルディスク?」

 

それが旧型だったのだろうか。

しかし、それなら「仲間のデュエルディスクが旧型だった」と言えば良い。

分からないという返答はこないはずだ。

Playmakerとハノイの騎士が探すイグニス、Aiは彼女が大事そうに抱きかかえている左腕を凝視した。

 

「それか?

だが、それも新型のようだが……」

 

「Playmaker様、そのデュエルディスク、中に誰かいるぜ」

 

「何?」

 

ハノイが彼女の仲間を狙った理由を考察しようとすると、左腕から聞こえた言葉に目を見開く。

Aiの言葉は事実だと示すように、デュエルディスクの液晶部分から1匹のドラゴンが現れた。

その姿に目を見開いたが、LINK VRAINSにはカエルやハトの姿をしている人達がいる。

ドラゴンの姿をアバターにしているデュエリストがいてもおかしくはない。

 

「恐らくだが、私と貴様を間違えたのだろうな」

 

「お前は?」

 

「私はStarEater。

彼女達の保護者だと思ってもらえれば良い。

デュエルの邪魔にならないよう、デュエルディスクに身を置いていたのだが……」

 

「あ~、成程。

それで俺の事をあんまり知らないおバカさんが間違えたってわけか。

ハノイの連中、そこんとこきちんと教育してないのかよ。

雑だな~」

 

「全くだ」

 

今回の1番の被害者と思われる彼は、盛大なため息をついた。

心なしか疲労がたまっているようにも見える。

苦笑を浮かべるしかないGerberaWarriorはStarEaterの頭を撫で、その小さな唇を動かそうとする。

 

「貴様っ!」

 

「え?」

 

後ろから聞こえた声に振りかえれば、先程気絶していたはずのハノイが襲い掛かってくる。

GerberaWarriorは反射的に拳を握り締め、硬そうと思われる仮面に叩きつけようとした。

だがそれより先に腕を引っ張られ、視界に緑が広がった。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、はい」

 

頭上から聞こえてくる低い声にGerberaWarriorは混乱する。

足元ではハノイの騎士が地面と仲良くキスをしており、自分は片腕で抱きかかえられている。

流石はLINK VRAINSの英雄、他人を助ける姿がスマートすぎる。

まさか自分より早く動けるとは思わず、思考が停止しかかった彼女は感情の籠っていない返事をしてしまった。

Aiの「Playmaker様イケメ~ン」という言葉に激しく同意しよう。

 

「あ、Playmaker様、ハノイが逃げた!

仲間がいるみたいだぜ!」

 

「何!?」

 

勢いよく地面に顔を向ければ、仲間と思われる男2人が彼を引きずっている。

一応それ相応の仲間意識はあったようで、再び気絶している彼を見捨てず、2人はその場から逃げ去る。

Playmakerは表情を一変させ、逃がさないとでも言うかのように走り出す。

 

「っ、逃がすか!」

 

「え、ちょっと!」

 

待ってと声をかけようと手を伸ばしたが、Playmaker達はあっという間に姿を消してしまう。

取り残されたGerberaWarriorはそれ以上言葉を発することが出来ず、行き場を失った手を下ろした。

 

「……お礼、言い損ねちゃったね」

 

「あぁ」

 

**

 

それからすぐに現実世界に戻った3人は、聖星に異常がないか確認していた。

聖星は左腕を何度も動かし、いつもと比べて違和感がないか確かめる。

 

「どう、聖星?」

 

「うん。

特に何も問題はないよ」

 

LINK VRAINSではある程度の衝撃を受けると、現実世界に戻った時フラッシュバックが起こるという。

いつものように穏やかな笑みを浮かべる弟の姿に、やっと安心できたのか、聖歌は彼の左腕を握り締めた。

そして、聖星の肩に額をつけて黙り込んでしまう。

 

「姉さん?」

 

「ごめん、ちょっとこうさせて」

 

「分かった」

 

流石に元気が1番の取り柄である聖歌でも、目の前で弟があんな目に遭うのはこたえるようだ。

もう大丈夫だ、安心して欲しいと伝えようと思っても1度受けたショックは中々直らない。

自分より少し柔らかい髪をとくように頭を撫でながら、聖星は思い出したかのように呟く。

 

「そうだ、Playmakerについてなんだけど……」

 

「え?」

 

ハノイの騎士に襲われそうになった姉を助けてくれたのだ。

そして星龍と聖歌はろくにお礼を言えていないという。

掲示板に書き込むという手段もあるが、出来れば顔を合わせてお礼を言いたい。

聖星はPCを立ち上げてPlaymakerについて調べ始めた。

 

「あった。

藤木遊作、Den Cityで1人暮らししている高校生……

って、この人、よく行くホットドッグ屋にいるバイトだよ」

 

「え?」

 

「彼がPlaymakerだったのか!?」

 

あっさりとPlaymakerの正体を突き止めた聖星は、画面に表示された写真に目を見開く。

聖歌と星龍も画面をのぞき込み、本当に彼が例の恩人だという事を知った。

まさか有名人がこんな間近にいるとは思わず、3人は互いの顔を見て無言になった。

そんな中、最初に口を開いたのは星龍だ。

 

「どうする、直接会って礼を言うのか?」

 

「でも、現実世界で言ったら怪しまれるし、マナー違反だよね」

 

「だよなぁ。

けど、LINK VRAINSで会えるとも限らないし……」

 

お礼を言いたいから特定しました、近くにいたから会いに来ました。

例え感謝の意を伝えるためとはいえ、遊作側からしてみれば迷惑な話でしかない。

だからといっていつ現れるか分からないLINK VRAINSで待つというのも効率が悪い。

それに彼がLINK VRAINSに現れる=ハノイの騎士がいる=危険な目に遭う可能性があるという事に繋がるのだ。

 

「あ、そうだ。

こういうのはどう?」

 

良い案があるのか、聖歌は両手をポンと叩き、とある事を提案する。

その内容に男2人は首を捻ったが、まぁ、何もしないよりはマシだと結論付けた。

 

**

 

「すみません、ホットドッグとジュースを3つずつください!

あ、1つはマスタードなしでお願いします」

 

「あれ、珍しいね。

今日はお兄さんと弟さんじゃなくてお姉さんが注文かい?」

 

「はい!」

 

外から元気な声が聞こえてきたと思えば、ここ最近常連になっている双子の片割れがいた。

草薙と遊作は珍しいと思いながら注文されたホットドッグを彼女に渡す。

トレーの上に置かれている出来立てのホットドッグを嬉しそうに見下ろす聖歌。

すると、彼女は思い出したかのようにあるものを草薙に差し出した。

 

「あ、そうだ。

店員さん、実はクッキーを作ったんです。

もし良ければどうぞ」

 

「え、良いのかい?」

 

「はい!

いつも美味しいホットドッグを作ってもらっているお礼です!」

 

店を構えず、キッチンカーで運営していると客との距離感が近い。

そのため、常連となった人からこのような差し入れを貰うこともあるのだ。

眩しいほどの笑顔を浮かべられた草薙は、素直に「ありがとう」とお礼を良い、手作りクッキーを受け取る。

真っ白な袋に黄色のリボンが結ばれ、何かの花を模したシールが貼られている。

 

「あの~、お兄さん」

 

彼女は草薙のことを店員さんと呼んでいる。

つまり、このお兄さんと呼ばれているのは遊作ということだ。

遊作は鉄板から顔をあげ、にこにこと笑っている少女を見下ろす。

 

「これ私の自信作なんです、絶対に食べてくださいね!」

 

そう言い終えると、お釣りとトレーを持った彼女はすぐに席へと向かって行った。

ゆっくりと小さくなっていく背中を見つめる遊作は、何故自分があのように声をかけられたのか考えた。

双子の弟から「あの人は食べなさそう」とでも言われたのだろうか。

まぁ、どうでも良いことかとソーセージを焼く作業に戻ろうとすると、横から楽しそうな声が聞こえてくる。

 

「やだ、もしかしてあの子、遊作ちゃんに気があったりして~」

 

「黙れ。

そもそも俺と彼女がまともに顔を合わせたのは今回が初めてだ。

気がある理由がない」

 

人型ではなく、デュエルディスクで引っ込んでいるAiの言葉を遊作は一刀両断する。

ここで注文を行うのは基本的に聖星か星龍のどちらかだ。

星龍がヒューマノイドのため、観察の意味を込めてこちら側から彼女達を見る事はあった。

しかし遊作の言う通り、聖歌ときちんと顔を合わせたことなど1度もない。

つまらないが事実を述べる少年に、Aiはこの場にいるもう1人に声をかける。

 

「どう思う、草薙ちゃん?」

 

「どうって……」

 

話を振られる予感はしていたが、いざ振られると返答に困ってしまう。

草薙としては、Aiの読みは外れており、単純に彼女が人懐こい性格をしているから奥にいる遊作にも声をかけただけと考えている。

 

「それで、草薙さん。

彼女の行方は分かったのか?」

 

「いや、それがさっぱり……」

 

「そうか……」

 

遊作がいう彼女とは、数日前LINK VRAINSで偶然遭遇した少女の事だ。

ハノイの騎士の勘違いで仲間を襲われ、それに激怒した少女はハノイにデュエルを挑み、勝利した。

そのあと遊作とAiは逃げるハノイを追いかけたが、この後トラブルがあったのだ。

ハノイの騎士を捕まえようと捕食形態になったAiが勢いよく襲い掛かり、ハノイの腕を食いちぎったのだ。

ここまでは良かったのだが……

 

「まっずぅううううう!!!」

 

「Ai?」

 

「なにこれまずい、お腹痛い、頭痛い!!」

 

「っ、貴様、何のプログラムを使った!?」

 

6本の腕を激しく動かし、苦しそうにじたばたと転がりまわるAiの様子に、Playmakerの表情が険しくなる。

以前もウイルスを食べてしまったが、ここまで酷い様子ではなかった。

地面に転がっているハノイの胸倉を掴んで聞き出そうとしたが、返ってきた言葉は意外なものだった。

 

「違う、俺じゃない!

さっき俺とデュエルした女がいただろう!

そいつが俺に使ったプログラムだ!」

 

「何だと?」

 

詳しく聞くと、仲間を取り返すため、ハノイの騎士がログアウト出来ないプログラムを使ったのだという。

苦しそうにもがくAiは涙をぽろぽろ流しながらPlaymakerに抱き着き、先程の少女を思い出した。

 

「うへぇ、あの子、可愛い顔して作るプログラムえげつない」

 

そのあと、Aiには悪いが思考を切り替え、目ぼしい情報がないか探ってみた。

しかしイグニスについてよく知らない相手だ。

ハノイの騎士の中でも下っ端の下っ端達、ろくな情報を入手できなかった。

すぐにログアウトした遊作は、草薙の協力を得てAiの中にあるプログラムを除去しようとした。

 

「プログラムの殆どは除去できた。

だが、どうしても一部だけが解除できない……

デュエルディスクから出られないくらい辛いんだろう、Ai?」

 

草薙の言葉にAiは強く頷いた。

別にいつものように人型の姿を取って遊作をからかう事は出来る。

しかし、正直それをやりたいと思えるほどの元気がない。

 

「頭は痛いし、関節っていうの?

そこもズキズキする。

人間でいう酷い風邪状態だぜ」

 

Aiは一般的なAIとは比べ物にならない程高性能であるため、時間がたつにつれてウイルスの除去は進んでいる。

しかし、完全に除去するにはもう少し時間がかかるだろう。

だから彼女を探し出し、ワクチンプログラムを貰おうとしているのだ。

残念ながらあの日以降、彼女と保護者であるStarEaterがログインしている形跡はない。

特定しようと思っても、見事に痕跡を消しており、現実世界の彼女に会うこともできない。

早く見つけなければと焦りながら、遊作と草薙は解析したプログラムを思い出す。

 

「だが、どうやったらあんなプログラムを思いつけるんだ……

遊作、仮に彼女と会ったら少し教えてもらってくれないか?」

 

「時間があればそうする」

 

END




ここまで読んでいただきありがとうございます!
おかしいなぁ、聖星より聖歌が目立ってる。
まぁ、聖星はデュエル出来ない状態だから仕方ない。

そして、まさかの2万8千字を超えるという!!
書いている途中に「長い!!デュエル削る!!」と決めました。
本来ならこの後GerberaWarrior VS Playmakerのデュエルがあったんです。
けど、長い……

Aiはあの状態で星龍の体をスキャンできるのか。
私の設定では出来るんだよ!!(暴論)

聖星のデッキはタイトル通り【魔導書】デッキです。
それに対して聖歌のデッキはかなり悩みました。
初期案では【ヴェルズ】だったのですが(シンクロ次元出身なのに)、当時と比べて面白いカードが増え、【不知火】にしました。
だから、彼女のアバターも若干和風チックです。
アカウント名はがっつり洋風ですが。

リアルに双子の姉弟の距離感は知らないのですが、まぁ、現実にこんな双子の姉はいないよね!
聖歌の性格は元気いっぱい&ブラコン傾向です。

プログラムの精度ですが、永久機関がある世界の出身者とVRがある世界の出身者と比べたらこんな感じでしょうか。
どうしても父親が遊星だから、プログラムや機械関係にはチート気味にしてしまう。

ちなみに、Aiが星龍のような体を欲しいと言ったのは、現時点では単純な好奇心です。
当然遊作から却下されました。
もし交流が進めばSOLtiSより先にヒューマノイドのボディが貰えるかもしれない。
やったね、Aiちゃん!
この点で考えても、SOLテクノロジー社のクイーン達に目を付けられるかもしれない。

2人のアバター姿は時間があれば設定かこちらに載せます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その他
キャラクター設定集◆


本編だけでなく、if storyを含めた主人公達の設定をまとめ直しました
オリ主だけではなく、オリ主の影響で原作アニメと大きく設定が異なっているキャラの設定も書いています。
今後本編やif storyが進むたびに加筆修正します。

見辛かったらすみません。


名前:不動聖星(ふどうあきら)

性別:男

年齢:15歳、ZEXALⅡの時点では14歳、本来なら中学3年生

国籍:日本

家族:両親(父、遊星)、双子の姉(聖歌)、弟の5人家族

外見:父親譲りの蟹頭、黄色のメッシュは左右に1本ずつ。祖父譲りの緑色の目。

性格:穏やかで争いごとは好まない。キレたら口より先に手が出るタイプ。命の危機にかかわる事に関しては、トラウマ故に仲間を頼るのが少し苦手。デュエル中でも声を張り上げることはあまりないが、とどめを刺すときは声が大きくなる。

特技:ハッキング、プログラミング。自分の国籍を偽造、偽ラブレター事件を解決したり、海馬コーポレーションにサイバー攻撃をしかけた連中を撃退したり、デュエルディスクを自分が使いやすいようにカスタマイズしている。

職業:オベリスクブルー所属。最初はレッドスタートだったが、ブルーの取巻を倒してイエロー、胡蝶蘭に勝ってブルーへと昇格した。プログラミングの技術と未来の知識を買われ、I2社のシンクロ召喚プロジェクトのアドバイザー。

目的:家族のもとに帰る事。星竜王に三幻魔復活阻止を依頼され、更には父と決着をつける前のZ-ONEにデュエルを挑まれ、彼と戦い、説得しようとする。

持ち物:遊馬の世界で使っていた青色のD・パッド。【魔導法士ジュノン】と【魔導書の神判】が主軸の【魔導書】デッキ。

デッキ:様々な【魔導書】。真剣なデュエル以外では使いたいカードを軸とした【魔導書】デッキを用いる。デュエルする度にモンスターががらりと変わるため、デッキに愛情はないのかと尋ねられる事もある。しかし、聖星は【魔導書】が大好きだから、様々なタイプの【魔導書】デッキを使いたい派。愛しかない。「カードを一切変えずに同じデッキで戦う事は殆どない。新しいカード、好きなカードが増えたらデッキの内容を変化させる事は誰だってする」という考え。未来のアカデミアでは指定されたデッキを使う授業が低学年から設定されていたため、色々なタイプのデッキに触れ、お気に入りのデッキを複数持っているのは普通だった。

相棒:【星態龍】と、星竜王から託された【閃珖竜スターダスト】。

過去:元の時代では【竜星】デッキを使っていた。【星態龍】の能力でZEXALⅡの世界にトリップ、そこでシャークのクラスメイトになる。ガチの【魔導書】デッキを使っていたため、若干クラスから孤立気味だったが、シャークや遊馬達のおかげで持ち直す。バリアンが攻めてきた時はベクターとデュエルし、相棒と呼べるデッキを貶され、両親の事をバカにされたため、ベクターの事は今でも苦手意識がある。仲間の死に対するトラウマもここで植え付けられた。

好み:つり目で透き通った瞳を持つ気の強い女の子。

今まで使ったデッキ

ブラマジ魔導(黒魔導の執行官)軸

闇属性魔導

水属性魔導

魔導フォーチュン

バニラ里ロック魔導

植物魔導

属性HERO魔導

融合魔導

儀式魔導

影霊衣魔導

 

 

名前:星態龍

年齢:不詳

性格:威厳溢れるような態度を取る。本人は真面目だが色々とドジ。ちょっと聖星に対して過保護傾向。例えアカデミアで闇のデュエルが行われても、聖星が危険に巻き込まれなければ放っておくというドライさも持っている。

能力:異世界に渡る力を持っている。聖星がZEXALの世界にトリップしたのも【星態龍】の能力による。精霊のため、闇の力を敏感に感じ取る事が出来る。知識も豊富で【レインボードラゴン】の石板のありか、覇王に関する事を知っている。

その他:カードを見て分かるとおり、星に擬態できるほどの巨大さ。しかし普段はそれだと不便なので、聖星の肩に乗るくらいの大きさになっている。聖星を異世界に飛ばした罪悪感からか、聖星が欲しがるカードを出している。

 

 

名前:閃珖竜スターダスト

年齢:不詳

性格:穏やかで大人しい。人見知りも若干するが、好奇心は旺盛。大人しい性格故なのか、からまれやすい体質なのかよく【おジャマ・イエロー】に絡まれている。

能力:闇のデュエルで行われる闇を祓う能力を持っている。自力で実体化も可能。人の言葉は話せない。

その他:【三幻魔】の復活を危惧した星竜王が聖星に託した精霊。本当は【スターダスト・ドラゴン】達を渡すべきなのだが、彼らは【地縛神】との戦いまで眠る必要があるため、代わりに【閃珖竜スターダスト】を託された。

 

 

名前:遊城十代

原作アニメの主人公。

入学試験のデュエルで【ブラック・マジシャン】を使った聖星に興味を持つ。同じ寮だったのでよく一緒につるんでいた。

聖星から【E・HERO Zero】【Great TORNADO】【エアーマン】を譲ってもらったが、セブンスターズのデュエルに備え、無理やり他の漫画版【HERO】を押し付けられた。嬉しいのは事実だが、聖星が心配しすぎている面に不満を持っている。

入学当初から【星態龍】を知っており、もしシンクロデッキを使った聖星vsカイザーのデュエルを見ていたら、『何故ペガサスと接点を持つ前の聖星がシンクロモンスターの【星態龍】を持っているのか』という矛盾点に気が付いただろう。

 

 

名前:取巻太陽

原作アニメでは殆ど出番なし。

ブルー時代の万丈目の取巻の1人。レッドのくせに生意気な聖星を叩き潰すためにデュエルをするが、敗北してしまう。その後、顔見知りになったため、廊下ですれ違うたびに聖星に声を掛けられる。最初は鬱陶しがっており、月1試験で再戦を果たすがまた黒星となってしまう。

教育実習生の先生にカードを奪われた時、聖星に助けられ、また、月1試験で聖星に「何のためにデュエルをしているの?」と問いかけられて以降、聖星の友人ポジションに収まる。これを切っ掛けに十代や三沢達とも交流を持つようになった。

なんだかんだで十代の面倒をみている(振り回されている)キャラになり、十代の悩みを聞いたり、彼が悩んでいる姿を指摘したりする。

自分はオベリスクブルーではあるが強者側の存在ではないと無意識に思っていた。

しかし、聖星が取巻ではなくヨハンを頼った事に悔しさを覚え、強くなると決意。

デッキは【レダメ】を主軸にしたドラゴン族。

 

 

名前:丸藤 亮

原作アニメの中で珍しいガチデッキ使い。

アカデミアでカイザーの称号を持っている。聖星と明日香のデュエルを見て、聖星が本気を出していない事を見抜いた。無意識に自分と対等、または最後まで挫けずに戦えるデュエリストを求めており、聖星にデュエルを持ち掛けた。結果は初の黒星。

それ以降聖星とは何度もデュエルを行い、勝率は50%くらいである。

セブンスターズ編で聖星から【サイバー】の新規カードをもらい、それを使ってデッキを強化した。また、シンクロデッキを使った聖星の対戦相手を自ら名乗り上げる。

多分、負けるのに慣れているからヘルカイザーにはならないと思う。多分。

 

 

名前:ヨハン・アンデルセン

原作アニメで3期に登場した十代の親友キャラ

ペガサスの計らいでアークティック校に留学した聖星と仲良くなった。ヨハンは最初、留学生に対してデュエルの強さにしか興味を持っていなかったが、同じく精霊が見えるという事で一気に距離を縮める。

自分を賭けた闇のデュエルを経験し、シンクロ召喚、竜星王について知ってしまう。

聖星だけを危険な目に遭わせるわけにはいかないと、日本のアカデミアに留学する気満々だったが、裏で聖星が阻止している。

しかし、ついに34話でアカデミアに登場。やったね!

38話で聖星から七精門の鍵を託された。

 

 

名前:神楽坂

原作アニメで遊戯のコピーデッキを盗んだラーイエローの生徒。

思うようなデュエルが出来ず、カテゴリを固定しながら様々なデッキを組む聖星にデッキを組む極意を教えてもらいに来た。

神楽坂は記憶力が良いゆえに、せっかく組んだデッキでも敗北してしまう珍しい性質の持ち主である。自分が心を込めて組んだデッキなら勝てるのだが、どうしても記憶力が邪魔をしてしまう。

そこで、聖星から神楽坂が知らないカードを見せてもらい、そのカードを使って組んだデッキが【暗黒界】。

【暗黒界】デッキを使うようになってから勝つようになり、成績も伸びてきた。ブルーに昇格してもおかしくはない。ただ、3年生になった時地獄を見る事を彼は知らない。

 

 

名前:Mr.フランツ

原作アニメで【ラーの翼神竜】のコピーを盗み、ジェネック大会に参加したI2社の社員。

強いカードを作るカードに執着しており、低レベルモンスターが活躍するかもしれないシンクロ召喚に異議を唱える。聖星とシンクロ召喚プロジェクトの存続をかけてデュエルし、敗北。

一応プロジェクトを進める方針に従い、夜に子供だけで出歩いている聖星に付き合ったり、プロジェクトの進捗状態を報告したりしている。

しかし、シンクロ召喚について知っているためカミューラに闇のデュエルを挑まれ敗北。聖星が闇のデュエルに勝った事で無事に解放され、ペガサスに強すぎる力を求めることで引き起こされる悲劇について語られる。これにより、過度な力を求めるのを止めるようになった。

 

 

IF story

名前:不動聖星

『世界よただいま』シリーズ

ZEXALの世界からGXの時代ではなく、満足時代に戻ったIfの聖星。何故かサテライトにとばされ、頼りの綱である【星態龍】ともはぐれてしまった。

食料確保やサテライトでの生き方を学ぶため、自分の実力に目を付けたアーサーという男のチームのメンバーになる。しかし、よりによって対戦相手が鬼柳率いるチーム・サイティスファクションだった。当然、遊星の弟と勘違いされた。

数か月は逃げ切ったが、ついに遊星たちに確保される。それ以降遊星と一緒に暮らしているが、息子だとばれないため距離をおいている。

この世界戦では鬼柳がセキュリティにケンカを売らない。ケンカを売るより、遊星と聖星の仲をどうするかで悩んでいる。

ついに治安維持局に目をつけられ、シティに連行された。そして、まさかのレクス・ゴドゥインの義理の息子アキラ・コイヨリティ・ゴドウィンとしてシティで暮らす事になった。どういう……ことだ……?

『世界よはじめまして』シリーズ

ZEXALではなく、ARC-Vの世界に飛ばされたIfの聖星。

LDSのシンクロコースの生徒。真澄に一目惚れし、口説き落とした勝ち組。多分1番エンジョイしているし、性格が男前。家族と離ればなれでも全然寂しくない。真澄をバカにするやつ許さない。彼女大好き。

『世界よ初めまして』シリーズ

ZEXALではなく、VRAINSの世界に飛ばされたifの聖星。

中学校には通わず、自分の好きなことをしている。初めてLINK VRAINSを訪れた時トラブルに巻き込まれ、ハノイの騎士が苦手になった。遊作と友達になりたい。

 

【挿絵表示】

 

 

 

名前:ジャスミン・アトラス(偽名:アルテミナ・ジャス)

性別:女

年齢:15歳、中学3年生(GX基準)

国籍:多分……日本?

家族:両親、2つ上の兄(エース)1人

外見:母譲りの黒髪の長髪に父譲りの紫色の瞳。モデル体型。身長は明日香より少し高い。

性格:勝気で前向き、負けず嫌い、皆を楽しませることが大好き。ジャックの影響だと思うが、若干女王様気質。父親が有名人故に色々な人に話しかけられる事があり、初対面の相手にはとても警戒心が強くなってしまった。テーブルマナーや社交場でのマナーは完璧。

特技:手品、演技、小道具作り。日常的に手品で皆を楽しませており、エンタメデュエルの演出に必要な小道具作りに余念はない。学園祭で1番本気出すタイプ。コスプレデュエルの事を知ったら、衣装は任せて!と親指を立てる。

職業:オベリスクブルー所属。ペガサスの権限をフルに使って編入することが出来た。ただ編入当初は勉強が苦痛で仕方なかったが、明日香のおかげでついていけるようになった。

目的:セブンスターズ側になってしまった聖星の救出。未来で十代に「聖星を助けてほしい」と頼まれ、GXの時代にタイムスリップする。この時十代からろくな情報を貰えなかった。

持ち物:【炎王】と【ジュラック】デッキ。

相棒:エースは【炎王神獣ガルドニクス】

 

【挿絵表示】

 

 

 

名前:不動聖歌

性別:女

年齢:14歳(VRAINS基準)

国籍:日本

家族:両親(父、遊星)、双子の弟(聖星)、弟の5人家族

外見:夜色の髪に金色のメッシュがある。尖っているくせ毛は耳より下あたりにある。瞳の色は母譲りの金色。

性格:元気がとりえ、家族、特に聖星が大好き。怒ったら1番容赦がない。例え尊敬する遊星でも、聖星が戻ってこない不満を爆発させマジ切れデュエルを挑むくらい聖星が大事。反抗期に入りかけており、遊星が妻に慰められている。

特技:ハッキング、プログラミング。とにかく機械いじり。【星態龍】のヒューマノイドボディを作り上げるくらい技術力は高い。お菓子作りも得意。最近はマカロンに挑戦中。

職業:VRAINSの世界では中学校に通っていない。株で稼いでる。最近は友達が欲しいと思うようになり、学校に通うことを検討している。

目的:聖星と一緒に元の世界に帰る事。

持ち物:ブレスレット型ネット端末、【不知火】デッキ。

相棒:エースは【戦神-不知火】

 

 

名前:不動星龍

性別:男

年齢:恐らく20代前半

国籍:日本

家族:聖星と聖歌

外見:赤髪のショートヘアに黄色のメッシュ、黄色の瞳。身長は遊星より少し高い。

性格:【星態龍】の項目を見れば分かる。聖星と聖歌の安全を第一と考える。

その他:中学生が2人暮らしは世間的にまずいという事で、聖歌が作り上げたヒューマノイドを使用した【星態龍】の姿。LINK VRAINSでは本来の姿に近いものを使用している。ハノイの騎士にイグニスに間違えられてしまった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 5~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。