元ホテルマンですが妖精メイドに転生してメイド長に一目置かれてます (微 不利袖)
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番外
番外編※元主婦でしたが幻想郷とかいう場所に迷い混んで選択を迫られてます。前編


※が付いている通り結構シリアスです。久々の更新ながら、ほのぼのでないことをお許し下さいな。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

最愛の人を亡くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電話が鳴ったのは12時を回った頃。また同僚の人達と飲みに行って遅くなっているんだろうな...なんて考えは一瞬で消し飛ばされてしまった。

 

私は直ぐに病院へ向かった。信じられなかった...いや、信じたくなかったのが本音だろう。静寂に包まれる病室の中、すっかり冷たくなってしまった彼の手をとり、辺りが明るくなるまで静かに泣いた...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの生活は酷かった。自分の胸の真ん中が、ぽっかりと抜け落ちたような、生きることに疲れてしまったような...。

 

その日も慣れないパートが終わり、街灯のまばらな夜道を一人、静かに歩いていた。とぼとぼ、なんて音が聞こえる気さえした。

 

詳しく話を聞いたけれど、トラックとの事故だったらしい。正直、原因はどうでも良かった。彼がいなくなってしまったことに何も変わりは無かったのだから...

 

いつも明るくて、それで色々と気配りのできる面白い人...私なんかには勿体なかったなぁ...。

 

 

「...あれ?...ここは...」

 

 

そんな、もうどうにもならないことを考えながら歩いていた私は、あることに気づく。...見覚えのない、暗い路地。周りには灯りもなく、人気のないボロボロの平屋に雑木林。立っている場所は、乱雑に踏み均されたような獣道。

 

何故か分からないが、そのまま進んでいく。ここがどこかなんて知らない。けれど、勝手に足が動く。不思議には思ったけれど、その先を考えられるほど、頭は回らなかった。

 

 

「...ここって...」

 

 

しばらくして着いたのは、古びた神社...?のようなところ。穴の空いた賽銭箱に、削れた石灯籠や寂れた本殿。...こんな所にどうして...

 

ふと我にかえると、いつにも増して疲れがドッと、両の肩に重くのしかかってくる。...少し休もうか。私は境内にあった枯れ木に背中を預け、腰を降ろす。

 

 

「...なんか、疲れちゃったなぁ...」

 

 

そんなことを一人ぼやく。見上げた夜空は、都会の喧騒に阻まれることなく、各々が光輝き様々な星座を作り出している...。

 

つうっ...と頬を撫でる何か......また、泣いちゃったみたい...弱いなぁ、私。こんなんじゃ、あの人に怒られちゃうかな...。

 

急に一人で...独りでいることが怖く、酷く心細く思えた。両の膝を抱え、顔を埋める。流れ出す涙は止まるどころか、勢いを増していった...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!......ふぅ...こんなところですかね...」

 

 

構えを解き、額の汗を拭う。私は日課である朝の鍛練を終え息を吐く。後はいつも通りに門番としての仕事に就く。...今日も平和だと良いなぁ。

 

 

「ん?...あれは...」

 

 

門の前で立っていると、森の奥、霧の湖方から声が聞こえた。...この声は...

 

 

「あ、やっぱりチルノさん達でしたか」

 

「やっほー、めーりん!おはよー!」

 

「待ってよ、チルノちゃ~ん!」

 

 

飛んできたのは館近くに住む妖精の二人だった。チルノさんを追うように、大妖精さんが飛んでくる。まあ、よくみる光景だ。

 

 

「おはようございます、チルノさんに大妖精さん。こんな朝早くにどうかされましたか?」

 

「あ、あの実はですね...「変な人が倒れてたのー!」...そういう訳なんです...」

 

 

...人?ですか...平和、では無さそうかなぁ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...ん?あれ...ここって...」

 

 

目が覚めると、知らない天井だった。...というか、私...えーっと、確か良く分かんない神社で...泣き疲れて寝ちゃった...のかな。でもここって...

 

私は体を起こし、周りを見渡す。...うん、どうみても部屋。ホテルの一室みたい...ベッドの上で考えを巡らせる。...なんでこんな所に?

 

 

「うーん...ん?」

 

 

色々と昨晩のことや、今、現状のことを考えている中で、ふとある何かが視界に入る。私はそちらに目をやる。

 

 

「「......」」

 

「...子供?」

 

 

ベッドの脇に可愛らしい少女が二人、膝を付いてベッドに手を置いてこちらを見ている。...よく見るとメイド服?のような...そんな格好。片方が赤を基調としたデザイン、もう一方は白いデザインだ。

 

 

「...えーっと...おはよう...?」

 

「!...起きた、起きたよー!!」

「おきたよー」

 

「って、ええ...?」

 

 

とりあえず挨拶かな...なんて思い、声を掛けてみると、二人は驚いたようにそう言い残し部屋を出ていった。...なんで?

 

ポカンとしていると、開け放された扉の外、廊下から足音が聞こえてきた。...誰かを呼びに行ったのかな?さっきの子達は...

 

 

「あ、おはようございます...目が覚めたようで...良かったです」

 

「え、あ...おはようございます...えっと」

 

 

部屋に入ってきたのはさっき子達と同じような、ただ着ている服が青くなっただけの少女。ぺこり、とお辞儀をして挨拶をしてきた。少しおどおどしながらもひとまず返しておく。

 

 

「ごめんね...えっと、ここって一体...?」

 

「...そうですね、とりあえず一から説明しますね。実は...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...どうやら、森の中で倒れていた私をこの館?に運んで寝かせて置いてくれたらしい。...ありがたい話だけど...あの神社の近くにそんな館があったなんて...。

 

そして目の前の少女、メイドさんらしい...。こんな小さな子供がなぁ...というか、さっきの子達もなんだ...。それにしても、この子10歳いかない位だろうけど、しっかりしてるなぁ...。

 

 

「ひとまず、私はメイド長に貴女様が起きたことをお伝えしてきますね...申し訳ありませんが、このお部屋でお待ち下さい」

 

「へ?...あ、はい...分かっ...りました...」

 

 

そんなことを考えていると、そう青いメイドの少女は扉を締め、メイド長さん?とやらの所に行ってしまった。...とりあえず待ってようか...そう、思っていたところだった。

 

 

「...へ?何...これ」

 

 

突然、目の前に...えっとなんて言ったらいいんだろ...裂け目?なんか空中に筋みたいなのが...ってうわ、なんか開いた...

 

 

「ふぅ...ご機嫌よう、良く眠れましたか?外来人のお嬢さん」

 

「ほえ?...え、あ、はい...そりゃぐっすりと...」

 

 

開いた穴の中からは金髪の女性が現れた。...はい?どうなってんの?女性はその裂け目に肘を置き、そんなことを聞いてくる。...いや、夢?これ...

 

 

「...えーっと、貴女は?」

 

「八雲紫。ここ、幻想郷と呼ばれる場所の管理者です」

 

 

...?えーっと、げんそう...きょう?かんりしゃ?...頬をつねる。

 

 

「痛い...」

 

「夢ではありませんよ。ここは外界...簡単に言えば、貴方が元いた場所とは隔絶された場所...と言っても、急に理解は出来ませんよね。詳しく、経緯を説明しましょう」

 

 

そこからはぼんやりと、その人の話を聞いていた...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「忘れられたモノの流れ着く場所...」

 

 

やはり夢物語なのではないか、という内容をどうにか飲み下し呟く

 

 

「とはいっても、貴方は稀有な例です。外界...貴方が元いた場所へ帰ることも出来ます」

 

「へ?か、帰れるんですか!?」

 

 

帰れる、という言葉に強く反応する。それなら一刻も早く我が家へ...って、あれ?

 

 

「えぇ...と、時間のようです。もし帰りたい、という意志があるのなら、博麗神社という場所へ向かって、そこの巫女に頼んで下さい。それでは」

 

「え、あ!...消えちゃった」

 

 

何かに気づいたのか、帰る方法を端的に言い残し、その人...紫さんは不気味な裂け目の向こうへと消えていった。

 

 

こんこん

 

 

それとほぼ同時に部屋の扉がノックされる。

 

 

「失礼します。昼食の準備が出来ましたので、こちらへどうぞ。ご案内致します」

 

 

がちゃり、と開かれた扉からは先程の青いメイドの少女が入ってきた。どうやら昼食の時間らしい...ふと腕時計を見る。時刻は12過ぎ、随分とぐっすり眠ってしまったらしい。

 

言われるがままにそのメイドさんの後をついて行く。その道中、さっきの、紫さんの言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『帰りたい、という意志があるのなら』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の帰る理由って、なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちゃんと書けたかなぁ...なんて。後1話、予定してます。ここまで読んでくださりありがとうございます。それでは、また


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※元主婦でしたが幻想郷とかいう場所に迷い混んで選択を迫られてます。中編

ホントに遅くなりました。申し訳ない...重ねてシリアス回が続くうえに前後編の予定でしたが、全部で3話くらいになりそうです。そんなわけで、中編、どうぞ


 

 

 

妖精さんに連れられて館の中を歩いて行く。何というか...赤い。唯ひたすらに赤、赤、赤。踏みしめる絨毯に綺麗に飾られた花、様々なインテリアが赤一色で統一されている。...ちょっと目がチカチカするなぁ。

 

3分程歩き、如何にもな両開きの扉の前で妖精さんの足が止まる。ここも勿論赤...なんて考えていると、内側から音を立てて扉が開く。

 

 

「此方です。どうぞお入り下さい」

 

「え!?あ、ひゃいっ!...って、うわぁ...!」

 

 

おもっくそ返事を噛み散らかした私の目の前に広がっていたのは...アニメや映画、所謂作り話に出てくるような、綺麗で、立派な食卓...って言っちゃって良いのかな...だった。って、あ"...こういう時の作法とか、どうしよ...分かんない...

 

 

「ええと、本日の昼食は...」

 

 

あー、なんだっけ...たしかナイフとフォークが、内側?いや違う、外...?な、ナプキンって畳んだり畳まなかったり...お、おおお終わったら揃えて置けば良かったんだっけぇ...?ナイフエーンドフォーク?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さばの味噌煮メインの和食ですね」

 

「はい~。わしょく、練習中です~」

 

「お箸っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論...大変美味しゅうございました!あー...やっぱり日の丸背負ってんなら米よ米。鯖味噌は勿論、その他副菜の数々もお金取れる味だったなー

 

 

「お口に合いましたでしょうか?」

 

「あ、はい!とっても美味しかったです、ご馳走さまでした」

 

「いえいえ~、良かったです~」

 

 

どうやらシェフはこの黄色いお洋服の妖精さんらしい...凄いなぁ。

 

それにしても、温かい料理かぁ...いつ振りだろ。レンチンのお弁当とか、インスタントじゃない、誰かの手作り食べたのって...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『×××、美味しかった?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!......そっか。...そっ、か...」

 

「...大丈夫ですか?」

 

「え、あ、あぁ...大丈夫、です。...多分」

 

 

明るく振る舞おうとしてたんだけどな。泣いて、悲しんでばっかじゃ、あの人に心配掛けちゃうだろうから...

 

 

「昼食の方はお済みでしょうか?」

 

「あ、えっと...」

 

 

後方から声が掛かる。凛とした声...振り返ると、そこには妖精さんとは違う、美しい女性が立っていた。メイド服を身に纏い、扉の近くに佇んでいる。

 

 

「メイド長、はい、もうお召し上がりになられました。体調も大丈夫そうですし、食欲も問題無いようです」

 

「そう、分かったわ」

 

 

ごはん、おかわりしちゃいました。てへ。

 

 

「それじゃあ妖精長、後はお願いね」

 

「分かりました。お客様、此方です」

 

「へ?は、はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...という訳でして、貴女のような外界から来られた方にはここ、幻想郷からお帰り頂くことになるんです」

 

「ほぇー......やっぱり...」

 

 

青色の妖精メイドさん...たしか、妖精長さん?って呼ばれてた気がする...彼女の後に着いて行き、広い館の廊下を歩く。ホントに広いなー、ここ。

 

道中、紫さんから聞かされたことと同じようなお話をして貰った。話の限り、その...外来人?は結構居るらしく、私もそんな中の一人だそうな。

 

 

「...?〝やっぱり〟?」

 

「えっ?...あっ!?い、いやっ、やっぱり目がチカチカしちゃうくらい赤一色だなーっ!...と、思って...」

 

 

突然聞き返されて勢いで誤魔化す。いや、なんでか知らないけど、紫さん、妖精さん達から見つからないようにしてたし...庇う訳じゃないけど。ご、誤魔化せた...?

 

 

「......あはは、確かにそうですね。私も慣れるまで掛かりました」

 

「デ、デスヨネー...アハハー」

 

 

乗り切った...ナイス言い訳術。社会の荒波に揉まれ、身に付いたパッシブスキルに感謝...なーんて、内心、勝手に一喜一憂しながら歩みを進める。

 

 

「って、わぁ......広ーい」

 

「ここが玄関ホールです。運ばれて来た時は気を失われてましたので、見るのは初めてですかね」

 

 

長い廊下を歩いていると、開けた場所に出る。相変わらず赤一色の装飾が散りばめられた玄関ホール。凄い...なんか、よく分かんないけど高そうな抽象画...?さぞ有名な方が描いたんだろうなぁ...

 

 

「妖精さん、あの絵は...」

 

「お嬢様の描いた絵ですね。テーマは〝紅魔館の皆〟です」

 

 

......ん?どれが眼でどれが鼻で...って、腕3本生えてるような?

 

 

「死後評価されるタイプの...?」

 

「吸血鬼は長生きですからね」

 

「吸けっ!?」

 

 

...まぁ、妖精さんが居れば吸血鬼さんも居ますよねぇ...はっ!一宿一飯の代償に血を!?

 

 

「...B型って美味しいんですかね?」

 

「あんまり変わんないよー?」

 

「はえー...って、どっひゃあ!?」

 

 

味に関しての疑問を口にする私に、返ってくる言葉はとても無邪気で可愛らしくて...って、へ!?どなた!?

 

 

「ぱ、パツキン美少女!?」

 

「ぱ...?貴女がお外から来た人ー?」

 

 

声のする方を見ると、なんとビックリ金髪ロリータ。口から飛び出た俗世的な単語が似合わないような、各所から溢れ出る別世界の住人感......漫画やアニメから飛び出てきたんじゃ...?いや、私が飛び込んだのか?そういえば銀髪のメイドさんもドが付く美人さんだったような...もっと拝んどくんだった。

 

 

「はい、フラン様。これから博麗神社にお送りするんですが...フラン様も何かご予定が?」

 

「そ!今日は魔理沙と遊びに行くんだー」

 

 

快活で明るい雰囲気の女の子、フランちゃんは...飛んでる。うん、ふわふわしてる。羽根っぽいのもある、うん...というか、よく考えたら妖精のメイドさんたちもぱたぱたしてた気がする...まぁ、羽根があるなら飛ぶよね、うん......頑張ったら私、飛べたりしない?ふぬー!...ダメか。

 

 

「そうでしたか、暗くなる前に帰って来て下さいね。それでは、私たちはこれで...」

 

「よーちゃんも!気をつけてねー!バイバイ、お外の変な人ー!」

 

「変なっ!?」

 

 

無駄に念じている私が変な人認定を喰らったところで、フランちゃんは、ばひゅん!と飛んでいってしまった。変な人...変な...変......

 

 

「ふふっ...それでは行きましょうか」

 

「...私って変ですかね?」

 

「......普通ですよ」

 

 

いや、間!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、おーい!おせぇぞー、フランー!」

 

「ごめーん!ちょっとお話ししてたー!」

 

 

木々の合間を抜け、湖の畔、待ち合わせ場所のいつもの樹の下へと急ぐ。こっちに気付くや否や催促の声。もー、まだ約束の時間は......えへへー、過ぎてるや。よーちゃんとお外の人とお話しして遅くなっちゃった。

 

 

「ったく、ちょっとは待つ身にもなれよなー」

 

「ごめんってばー。あ、それでそれで!今日はどこ行くのー?」

 

 

わざとらしく不機嫌そうにする魔理沙に合わせて軽く謝り、今日の予定を聞く。最近はお天気悪くて館で籠ってたからなー、どこでも楽しみ!

 

 

「そうさなぁ...今日は霊夢も留守だしなー」

 

「?...霊夢、今日居ないの?」

 

「ん?あぁ、人里で仕事なんだとよ。なんでも、スキマ妖怪から直々に依頼されたとかなんとか」

 

「そーなんだ...あれ、じゃあ「あ、そーだ!確かアリスが、今日はケーキ焼くって言ってたな。行ってみるか?」ケーキ!?行こー!」

 

 

やったー!ケーキ楽しみだなー♪

 

 




はい、書き方忘れちゃってますね、これ...。妖精長ときーちゃんは頭の中でよく喋ってくれるんですが...書かないとダメですね、やっぱり。次回は一ヶ月くらいで出す予定です。ほのぼの書かないと...それでは、また


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番外編 5月10日

今日のお昼に気づいて急いで書きました。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

これはとある日の朝のこと...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあぁ...むにゃ......」

 

 

今日も今日とて、私は門の前に立ち自分の仕事をこなしている。それにしても、天気の良い日だなぁ...春の陽気が心地よい......って、ダメだって!今日は咲夜さんが館を空けてるとは言えそんな...

 

 

「めーいりん!」

 

「うっひゃあ!!?!ね、ねね寝てませんよ?!!」

 

「うわっ?!...急にどしたの?美鈴」

 

「へ?あれ...妹様?」

 

 

突然の呼び掛ける声にとてつもなく驚いてしまう。いや、あの...そんな後ろめたい事があった訳じゃなくてですね...って、よくよく見てみると声の主は妹様だった。...はー、良かったー。ん?でも、こんな時間に何か用だろうか...

 

 

「す、すみません...ちょっとビックリしちゃって」

 

「こっちもビックリしちゃったよ、もう」

 

「それで、何か御用ですか?こんな朝から...」

 

「あ、そうそう!」

 

 

いやぁ、心臓に悪いですよ妹様...と、やっぱり何か用があるらしい。まだお昼にもなっていないし、いったいなんだろう...

 

 

「お姉様から、館の皆私のお部屋に集合、だって!」

 

「お嬢様の部屋に?館の全員で、ですか?」

 

「そ!さ、美鈴も行こ行こー!」

 

「え、あちょっと、妹様!?」

 

 

お嬢様からの指示で...しかも咲夜さんがいないとは言え、住民総出で?って、ああ、そんなに引っ張らないで下さいよ、妹様ー!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様ー、連れて来たよー!」

 

「ちょ、妹様!もう離してもらっても大丈夫ですから!」

 

「ん、来たのね。ふぅ、これで全員揃ったわね...」

 

 

騒がしい我が妹が扉を開き、最後の住民を連れてくる。よし、これで全員ね。さて、とりあえずはここに皆を集めた経緯でも話そうかしらね...

 

 

「...レミィ、なんの説明も無かったのだけど、どうして私たちはここに集められたのかしら?」

 

「そうですね...あれ、咲夜さんと妖精メイドさんたちがまだみたいですけど...」

 

 

あら、話の芯になる部分全部聞いてくれるのね。流石は図書館組、知らないことを知らないままに出来ないのは、ある種の美徳ね...

 

 

「貴女たち、今日が何月何日か、分かるかしら?」

 

「えーっと、ちょっと待ってくださいね...ひぃ、ふぅ、みぃ...」

 

「...こぁ、分かるかしら?」

 

「えーと...多分、冬ではないのは確かですけど...」

 

「分かんなーい!」

 

 

なんだこの館、馬鹿と出不精と愛すべき馬鹿しかいないのかしら。まったく、咲夜がいないとホントにダメね...

 

 

「はぁ...今日は5月の10日よ、なんで皆して分からないのかしら」

 

「...質問の答えにはなってないわよ。どうして集められたのかしら?」

 

「そうですよ!まだ集まってない人もいますし...」

 

「あー、わかったわよ。ちゃんと一から話すわ」

 

 

ガンガン来るわね図書館組は...ま、いつまでも引っ張っておもしろいものでもないしね。それに時間も少し怪しいし...

 

 

「外の世界ではね、5月10日は『メイドの日』として広まってるらしいのよ」

 

「へー、そうなんだー」

「へー、そうなんですねー」

 

 

馬鹿が共鳴してるわね...ま、まぁ、素直なのもまた美徳、というか...ね

 

 

「と、言うことで...」

 

「ことでー?」

「ことで?」

「...はぁ。...ことで?」

「......え、あ!わ、私ですか?!...こ、ことで?」

 

 

ノリが良くて助かるわね...そう、

 

 

「今日くらいは、いつも頑張ってくれてる我が館のメイドたちを、私たちで労ってあげようっ!ってことよ!」

 

「いぇーいっ!」

 

「...そう、だから咲夜と妖精たちの姿はないのね...合点がいったわ」

 

「...美鈴さん、私たちって...」

 

「んー...まぁ、メイドではないですねぇ...」

 

ふふん!メイドたちのことを想えるのも、また一つのカリスマの完成形よね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、具体的にはどうするの?」

 

「あら、意外に乗り気なのね、パチェ」

 

「...まぁ、普段からお世話にはなっているし、そういう機会も余りないから」

 

 

そう、咲夜は勿論のこと、妖精たちにもかなり世話を焼いてもらっているのは事実。正直、こんな機会を提示してくれたのは好都合ってところかしらね...

 

 

「まぁ、今、咲夜には私から買い出しを頼んでいるわ。まぁ、帰りは夕方くらいになるでしょうね...」

 

「そう、時間はあと...」

 

 

柱時計の針はお昼前、だいたい10時...あと5~6時間と見積もって大丈夫そうかしら。そしてわざわざ咲夜を外出させた、ということは...

 

 

「そうそう、妖精たちは館にいるけれど、今回はサプライズよ!パーティーの準備はバレないようにすることね!」

 

「やったー!サプライズ大好きー!」

 

「妖精メイドさんはともかく、咲夜さんは喜んでくれますかね...」

 

 

やっぱりね...フランは乗り気だけれど、パーティーの準備となると...

 

 

「ところでレミィ」

 

「んー?どうしたの?」

 

「今まで紅魔館でやってきたパーティーの準備、誰がやってくれてたのかしら?」

 

「それは勿論......あっ」

 

 

やっと気づいたみたいね...そう

 

 

「準備って何すれば良いのかしら...?」

 

 

...はぁ、親友やめようかしら...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはーい!ケーキは外せないよ!」

 

「あとはお料理と...飾り付けとかもですかね」

 

「フラン、美鈴ナイスね!後は......」

 

「あ、はいはい!何かプレゼントとかもあると良いかもしれません」

 

「やるわね!小悪魔!採用!」

 

「...はぁ」

 

「ほら、パチェも何かアイディア出しなさいよ!」

 

 

やることが分からないままでは何も進まないと言うことで、今はパーティーについての会議中ね。...私、部屋に戻っても良いかしら...

 

 

「んー...まぁ、このくらいかしらね。よし!それじゃあ早速動くわよ!」

 

「はーい!私、ケーキ作るー!」

 

「私も行きますよ、妹様!お料理も作らないと行けませんしね!あ、あと飾り付け...」

 

「むー...何渡すと喜んでくれますかね、皆さん...」

 

 

...どうしたものかしら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、今日はメイド長が館を留守にしているので、また私が指示を出す形になっている。まぁ、だいたい指示も終わって自分の持ち場に向かっているところですね。えーっとまずは厨房、と...ん?

 

 

「あれ?パチュリー様?」

 

「あら、妖精長。厨房に何か用かしら?」

 

 

厨房の出入り口の脇に、パチュリー様が本を片手に佇んでいた。珍しいですね...それにしても、どうしてこんなところに?

 

 

「はい、お仕事で少し...パチュリー様はどうしてこんなところに?」

 

「そう...それならごめんなさいね、厨房は今ちょっと使ってるところなのよ。他のところでお仕事してもらえるかしら?」

 

「え、厨房を?...どうし」

 

 

轟音、そして激しい炎の奔流が出入り口から飛び出し、私の言葉が遮られる。えっ?何ですか、今の?

 

 

「んー難しいねー、また焦げちゃったや」

 

「ちょ、妹様?!とりあえずレーヴァテインは仕舞いましょう!!ね!?」

 

「......」

 

「あ、あの...パチュリー様?」

 

「ほ、ほら...せ、洗濯、洗濯とかどうかしら?今日は天気も良いし」

 

 

どこか言葉がぎこちないパチュリー様。というか今中から誰かの声が...?

 

 

「んー...あ!じゃあ」

「百人力とはいかないけど」

「四人力なら」

「行けるでしょ!」

 

「なんでですか!?意味分かんないですよ?!ちょ、妹様ー!!」

 

 

...またも轟音、だいたい四倍の規模で。これって...

 

 

「さ、お洗濯、お願いするわね...」

 

「え、でも「ね?」いや、あの「ね?」...分かりました」

 

 

まぁ、洗濯も元々あった仕事だから良いかな。踵を返し、そのまま洗濯をしに行く。そんな中でも背後からは時折、轟音が耳を掠める...大丈夫ですかね?ホントに...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、これでいいですかね...」

 

 

洗濯物を詰め込んだ籠を手に持ち、干すために外へ向かおうと廊下を歩く。さて、外はこの先のホールを通ってすぐ...ってあれ?

 

 

「パ、パチュリー様?」

 

「はぁ...あ、あら、また会ったわね」

 

 

またもパチュリー様がホールの出入り口の脇にいらっしゃった。なんだか、お顔に疲労の色が見えるのだけれど...

 

 

「ごめんなさいね、今、ホールは使ってて...通るなら少し迂回してくれないかしら...」

 

「え、またですか?...いったい何をされ」

 

 

またも轟音、出入り口からは弾幕のようなものが少し漏れ出ている。えっと...これは?

 

 

「もー!ぜったいこっちの飾り付けの方が良いのに!お姉様のバカ!」

 

「ふん!いーや、ぜったいにこっちだ!付き合いの長い私が言うんだから違いない!」

 

「たった5年の差じゃない!この年増!」

 

「な?!この...引きこもり!」

 

「なっ、言ったわねっ!」

 

「言ったわよっ!」

 

「「ぐぬぬぬぬ~!」」

 

「ちょ、お嬢様!妹様!!やめて下さいって、危なっ?!」

 

「......」

 

「あ、あのパチュリーさ「ね?」いや、あの「ねっ?」...は、はいぃ...」

 

 

私は迂回して外へ出ることにした...パチュリー様、怖かったなぁ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、お嬢様から言いつけられたお使いも終わり、今は帰路についているところ。それにしても、わざわざこんな風に頼まれるなんて少し珍しいわね...

 

まぁ、留守にするのは妖精長もいることだし、構わないのだけれど...今はもう帰って館が滅茶苦茶になっている、なんてことは無くなったからホントに良かったわね

 

 

「ん、あら...美鈴が居ないわね...」

 

 

そうこうしている内に館まで辿り着いた。が、門の前に美鈴が居ない...もう、お嬢様たちが起き出しているのかしら...ま、そうじゃなければナイフが飛ぶだけなのだけれど...

 

そのまま玄関の前に立ち、扉に手をかけそのまま開け放つ

 

 

「ただいま戻りまし」

 

「だー!早くしないと咲夜帰って来ちゃうよ!?」

 

「分かってるわよ!そもそも、フランが意固地にならなきゃこんなことには...」

 

「うぅ、酷いですよ、お嬢様...妹様ぁ...」

 

「...このバカ姉妹は...はぁ......」

 

「プレゼント、用意できましたよー...って、何ですか!?この有り様は?!」

 

 

阿鼻叫喚。この現状の為にあるかのように錯覚してしまう程に、それが全てを表している。口論するお嬢様たち、ボロボロの美鈴、酷く疲れた顔をしているパチュリー様、この惨状に驚きを隠せない小悪魔...そして滅茶苦茶になった館

 

 

「...お嬢様」

 

「って、咲夜!?ちょ、早すぎない!?」

 

「お嬢様」

 

「え、あ...ち、違うのよ、これは...」

 

「まだ、まだ怒りませんから...ね?お嬢様...?」

 

「...ごめんなさぃ...ぐすん」

 

((((あ、スッゴい怒ってる...))))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんっ...私が館に居ながら、こんな...」

 

「え、ち、違うの!フランたちが勝手に...」

 

 

そう言って頭を下げる妖精長。...まぁ、おそらくはこの子のせい、なんてことはないでしょうけど...

 

 

「それで、お嬢様...どうしてこんなことに?」

 

「うぅ...外の世界では今日がメイドの日だって、聞いたから...」

 

「はい...それで?」

 

「普段、皆お世話になってるから...お返ししようとして...」

 

「...はい」

 

「皆でパーティーの準備してたんだけど...うまくいかなくて...」

 

「......」

 

 

ふと、テーブルの上に目が動く。そこには、不恰好ながら、焦げてしまいながらも、形を保っているケーキのようなものがあった

 

 

「あ、それ...フランが作ったんだけど...難しくて、焦げちゃって...」

 

「......」ぱくっ

 

「え、咲夜、やめといた方が良いよ?お腹壊しちゃう...」

 

「...妖精長、貴女も食べるかしら?」

 

「!...はい...」ぱくっ

 

「ちょっ、二人とも?」

 

 

苦い、焦げ臭いし、何故か生クリームがしょっぱい...こんなものをケーキと呼ぶなんて、パティシエに失礼でしょうね...

 

 

でも、あたたかい...どこか優しい味がする...

 

 

「...妖精長、皆のこと、呼んできてくれるわね?」

 

「...はい、後できーちゃんと厨房に合流しますね」

 

 

...そう、この子にはお見通しみたいね...さて

 

 

「こんなに美味しいケーキをいただいてしまったら、ちゃんとお返ししないといけませんね、お嬢様」

 

「え?...さ、咲夜?」

 

「今夜はメイドたちが雇い主に送るパーティーになりますわ。直ぐに準備致しますね、お嬢様」

 

 

その気持ちだけで、貴女に仕えていて良かった...そう思えましたから。お返しさせて下さいな、お嬢様

 

 

「ぐすっ...え、えぇ、貴女に任せるわ、咲夜!」

 

「はい、お任せください、お嬢様」

 

 

今日は楽しいパーティーになりそうね...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティーの喧騒の中、私は窓辺で少し休んでいた。お嬢様やフラン様たちの好意はとても一生懸命で純粋で、そして一途で...とてもうれしかった

 

 

「隣、良いかしら?」

 

「あ、メイド長...どうぞ」

 

 

声をかけてきてくれたのはメイド長、両手にはワイングラスが握られている。あ、ありがとうございます...と、片方は私の分だったらしい

 

 

「...皆さん、お優しいんですね...」

 

「そうね...」

 

 

静かに、会話が流れて行く...ほとんど呟きのような小さな声だけれど、慈愛に溢れた、美しい言葉が紡がれていく...

 

 

「...いつもありがとうね、妖精長」

 

「...こちらこそ、ですよ。メイド長」

 

「ふふっ...まぁそういうことにしておきましょうかしら...ん」

 

「!...そうですね」

 

 

グラス同士が触れあう音は、静かな夜に響き、人知れず消えていった...

 

 

 




はー、筆が乗りました!メイドの日、なんてあるんですね...間に合って良かったぁ...。そして、申し訳ありませんが、次の更新は次の日曜日、そしてこれからは毎週日曜日の更新となります。それでは、また


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番外編 2月14日

そんな訳でいつぶりかの番外編です。時系列云々はまぁ...ふわっとしてますがお気になさらず。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「...お団子、美味しいですね。ずずーっ...ほぅ」

 

 

甘味処の椅子に腰掛け、三色団子を頬張り湯呑みを傾けて息を漏らす。余り人里に、ましてや甘味処には足を運びませんけど...こういう和の甘さというか...優しくてほっとしますね、ずずーっ

 

...さて、太陽も丁度てっぺんに差し掛かったような真っ昼間、妖精メイドのまとめ役の私がお仕事もしないで何故このようにほっと一息ついているのかと言うとですね...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、お休みですか?」

 

「そう!咲夜がさっき言っててねー!」

 

 

フラン様に話し掛けられ咄嗟に聞き返してしまう。えっ、と...そのようなお話、朝礼の時には聞かされて無いんですが...

 

 

「いえ、ですがそんな急に、それにさっきの音「そうだねー!休日ってなると人里で食べ歩きとか遠くの神社にお参りとか良いと思う!それじゃいってらっしゃーい!」え、ちょ!?フラン様押さないでくだうわぁー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...そんな訳で今はお団子を頬張っているところです。甘いものに罪は有りませんし、メイド長の善意で頂いたであろうお休みですし...

 

 

「今日ばかりは堪能しましょうかね...あーむっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チョコレートの作り方...ですか?」

 

「そう!咲夜なら知ってるでしょ?」

 

 

いつもの業務をこなしている最中、突然妹様に呼び止められ、そう切り出される

 

 

「えぇ、まぁ...知っていますが...」

 

「教えて!」

 

「!?...ど、どうされたんですか...?」

 

 

ずいっ、と目前まで迫られ少し仰け反ってしまう。教えることに関しては構わないですし...でも何故、突然...?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バレンタインデー...ですか?」

 

「そう!だからチョコレート作りたいの!」

 

 

お話を聞いたところ、外界の文化であるバレンタインデー...想いを寄せる相手にチョコレートやお菓子を渡す日、それ今日だと...ん?

 

 

「い、妹様...?まさか...」

 

「いつもお世話してくれる妖精さんと...館の皆、あといつも遊んでくれる魔理沙とか妖精の皆にも渡したいの!よーちゃんには特に...」

 

 

知らぬ異性の名前が出なかったことに勝手に安堵し、胸を撫で下ろす。恐らく妹様の認識では、友人や親しい相手に感謝の意を込めてチョコレートを渡す日がバレンタインデーなんでしょう...

 

 

「そうですか...分かりました、私で良ければお手伝いいたします」

 

「ホント!?咲夜、ありがと!」

 

「それでは善は急げです。早速取り掛かりましょう」

 

「おー!」

 

 

お菓子作りとなると...あの子にも手伝ってもらおうかしらね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お菓子作りなら任せて下さい~。なんでもお教えしますよ~」

 

「ありがとー、きーちゃん!」

 

 

キッチンに市販の板チョコや牛乳等の材料、そしてボウルやトレーと言った器具を一通り並べ終え、これから実践が始まるところ

 

元々、誰かに料理を教えたことなんかは無いけれど...この子も手伝ってくれるなら上手くいく筈ね。...あら、お砂糖を持ってきてなかったかしら。備蓄が確か倉庫に...

 

 

「貴女、先に始めておいてくれるかしら。足りない材料を持ってくるから」

 

「分かりました~、お任せ下さい~」

 

 

キッチンをあとにして倉庫へと向かう。なんなら、あの子だけでも出来そうかしらね...

 

 

「フラン様~、まずはチョコを溶かします~」

 

「はーい!きーちゃん先生!」

 

 

後方からはなんとも微笑ましい会話が聞こえてくる。そうね、まずはチョコを溶かして......熱......炎......あ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音、叫び声...振り向く顔の表面を熱気が炙る。......はぁ...前の5月のこと、思い出すのが少し遅かったわね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと...ご、ごめんなさい......」

 

 

酷く申し訳なさそうに頭を下げる妹様。キッチンに残った焦げ臭さが、その事件を物語っていた

 

 

「熱かったです~、ビックリしました~」

 

「あ、きーちゃんもゴメンね...ケガとか無い...?」

 

「大丈夫ですよ~。妖精は丈夫ですから~、あちょ~!」

 

 

スカートの先が少し焦げた妖精メイドも、自身の安否を不恰好に構えながら伝えている様子だった。一体誰の真似かしらね...ですが

 

 

「うん...でも、キッチンが...」

 

 

...この惨状では、お菓子作りを続けるのは難しいわね。急いで片付けても今日はもう...

 

 

「......きーちゃん、大きい音、何かあった...?」

 

「あ、はーちゃん~。フラン様がちょっと頑張っちゃって~、キッチンが壊れちゃったんです~...」

 

 

半ば、今日のお菓子作りを諦めていた時、さっきの轟音を聞いてなのか灰色の妖精メイドの子が様子を見にキッチンへとやって来た。黄色の子の説明を聞き、中をキョロキョロと見渡しているようだった

 

 

「......メイド長」

 

「ん、どうしたのかしら?」

 

 

ある程度見終わったあと、灰色の子に呼び掛けられる。...あぁ、そうね。片付けも人手がある方が良いものね

 

 

「......直す?」

 

「...え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ......メイド長、これで良い...?」

 

 

唖然とした。私も片付けは手伝ったものの...本当に朝、あのような惨劇が起きたのか分からない程に、ものの数時間で、綺麗なキッチンがそこにはあった。彼女は額の汗を拭い、こちらへそう問い掛ける

 

 

「え、えぇ...」

 

「どうなったかな...って、すごーい!元通り!」

 

「...ん、良かった。...仕事、戻る...」

 

 

その様子を見て戻ってきた妹様も興奮気味に目を輝かせている。...やっぱり妖精長や黄色い子、それにさっきの灰色の子も...妖精メイドたちのこと、何も知らないのね、私。今度ちゃんと、皆と話してみようかしら

 

 

「ただいま戻りました~。あ、直ってますね~、流石はーちゃんです~」

 

 

灰色の子と入れ替わる形で、お使いを頼んでいた黄色い子が戻ってくる。これでキッチン、材料、器具...大丈夫そうね

 

 

「うん、これならよーちゃんが帰ってくる迄に間に合うかな...」

 

「?...妹様、今何か...?」

 

「え!?う、ううん、なんでもないよ。そ、それより!」

 

「早速取り掛かりましょう~」

 

「...そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやっさーん、いつもの頼むー。...ん?」

 

「ずずーっ...ん、あれ...魔理沙さん?」

 

 

季節に似合わぬぽかぽか陽気に動く気にもなれず、のんびりとお茶を啜って一息ついていると、聞き覚えのある快活な声が耳に入る。声の主は知り合いである、魔理沙さんのものだった

 

 

「おお、妖精長か。珍しいな、人里で合うなんて」

 

「そうですね。ここに来るのもお使いとか、お休みを頂いたときくらいですからね」

 

 

名前を呼びながら流れるようにして隣に座られる魔理沙さん。しばらくしてお皿に盛られたお団子と湯呑みを持った店主さんが、それらを魔理沙さんの元へと運んで来た

 

 

「お、そうだ。お前知ってるか?外界では今日、バレンタインデーって言う行事?らしいぜ。あーむっ」

 

「バレンタインデー、ですか?えっと...」

 

 

そう切り出され、手元の懐中時計にある日付を確認する。2月14日...確かにバレンタインデーですね。魔理沙さんの聞き方的に、幻想郷では余り一般的ではないんですかね

 

 

「2月14日...そうですね、余り気にしてませんでしたけど...」

 

「ずずーっ...お、お前は知ってるんだな。なんでも、大事な人に感謝の気持ちを込めてお菓子を渡すんだってな。この前フランにも話してやったんだよなー」

 

 

お菓子...ずずーっ。館の皆さんや妖精メイドの皆、お世話になってる方々に何か作ってお配りしたかったですね...今からじゃ流石に間に合いませんかね

 

 

「あ、そう言えばさっきお前んとこの黄色い...きーちゃん?だっけか、見掛けたな」

 

「え、きーちゃんですか?」

 

「おう、急いでる様子だったから話し掛けはしなかったけど、なんか色々買ってるみたいだったな。ずずーっ」

 

 

...今朝のフラン様の言動、そしてあの時、前にあったパチュリー様の言動...少し重なる気がする。それに今朝のあの轟音とも言える音。少し遠く、向かう途中にフラン様に半ば追い出される形で休日を頂いたけれど、出どころは多分キッチン辺り?......あ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......これ以上食べると、虫歯怖いなぁ」

 

「ん、団子、そんな食ってるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました。あ、フラン様」

 

「お、お帰りよーちゃん。...あ、あのね、ちょっと渡したい物があって...その...」

 

 

いつもと逆の立場で玄関前、言葉を掛け合う二人...少し遠くの物陰には、少なくとも妖精メイド一人とメイドが一人...もしかすると主人や居候、門番に司書なんかも、その様子を見守っていたとかいないとか...

 

 




こんな感じですかね...バレンタインデー、もうすぐ終わりですけど。この行く末は皆さんの想像にお任せ致しますね。それでは、また


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本編
1話 メイド長は感情の起伏が激しい


それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

私は三星ホテルに勤務するホテルマンでした。現場ではスタッフの皆に指示を出し、勿論自分でも動く...まぁホテルの中枢を担う役目を任されていました

 

ある日の夜、仕事を終えいつものように家路についていたところ、信号無視をしたトラックに轢かれてしまい命を落としてしまったはずでした...そのはずなんですが...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖精長、私は人里まで買い出しに行くから戻って来るまで館のことは一任するわね」

 

「任されました、メイド長」

 

 

妖精のメイドさんになってメイド長に一目置かれてます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると知らない天井でした。ここはベッドの上みたいですね...あれ?私は確かトラックに轢かれて、それで...ん?

 

突然記憶に靄が掛かった様になり、それ以上思い出す事が出来なくなってしまった...どうなってるんだ?一体...

 

私はとりあえず自分の事を分かるところだけ挙げてみる。名前は...あれ、嘘だろ...ここから分かんないのか。性別は...男、職業は...ホテルマン、仕事の内容も案外覚えてるみたいだ

 

ん?...男?......。下半身に違和感。

ウッソだろ...マジ?咄嗟に掛け布団を弾き飛ばす。その事実を目にする前に私は固まる

 

 

「え、女物のドレス...いや、青い...メイド服...?!」

 

 

自分の今の装いに驚き、そして口をついて出た声色により一層仰天した。完全に女性...いや、年端も行かない少女の声だった。余りにも理解の追い付かない情報たちに少しの間思考が滞ってしまう

 

1分程黙り、私は部屋を見渡す。高そうな装飾の施された家具がところ狭しと並んでいる。どうやら病室のベッド、という訳ではないらしい。総じて目に痛い程赤い...いや、紅いといったところか

 

その中でドレッサーを見つけた。鏡!私はベッドから跳ね起き...!?直ぐに気付いた。明らかに目線がいつもより低い、体も軽い気がする。いくつもの違和感を引っ提げ、私は真実を覗き込んだ

 

 

「...嘘...だろ...?」

 

 

そこに映し出されたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二対の羽を携えた可憐な少女だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とんでもない現実を叩き付けられてから、私は一人ベッドの上で胡座をかき現状を理解しようとしていた

 

実は、少し記憶を思い出そうとしたところ、身に覚えのないことをいくつか覚えているのが分かった。自分が妖精であること。そしてここがお屋敷であり、そこで働くメイドだということ...私は頭を抱えた

 

 

「転生、ってヤツか?漫画じゃあるまいし...」

 

 

自分で馬鹿馬鹿しいと言ってやりたい...だが、それ以外に現状の説明がつかない。それが一番しっくり来る、来てしまっている。私は背中に手をやる...薄く、半透明なソレはちゃんと触れるし意識を集中させれば動く。まごうことなき羽、だった

 

結論、恐らく私...人間だった私は死んだんだろう。トラックに持ってかれたのは覚えてる、うん。そしてこの体に転生した。意味分からん...が、一番答えとして不自然ではないだろう。でもなー...

 

そんなことをいたちごっこの様に考えていると、足音が聞こえてくる。どうやらこの部屋へと少しずつ近づいて来ているようだ

 

足音がちょうど扉の前辺りで止まり、ガチャリとドアノブが音を立て開かれる。そこには、20代くらい?のメイド服を身に纏った女性が立っていた。こちらに気付くと声を掛けて来た

 

 

「あら、起きていたのね。なら良いわ、早く来なさい」

 

「あ、え...は、はい」

 

 

ひとまず返事をしておく...覚えている。この人は私の上司に当たる人だ。そして朝になるとここで働いている妖精のメイド達を集め指示を出している...ん?達?...ってことは私みたいなのがまだ居るってことか?

 

色々と分かって、もとい思い出してきた。なんならこの屋敷の大体の間取りまで分かる。私は溢れて来る情報を整理しながら上司、メイド長に付いていく

 

...いつもより歩くのが遅い。立派な羽根はあるものの、残念ながら飛び方はまだ思い出せない。すっかり短くなってしまった足で頑張って付いていく

 

しばらく歩いていると食堂に着いた。中に入ると、私と同じような背格好の妖精メイド達が10人程度集まっていた。違いと言えばメイド服の色くらいだろうか。まだ何人かは欠伸をしたり、眼を擦ったりと眠そうだ

 

 

「ひとまず、皆集まったようね。それじゃあ今日の仕事を割り振って行くわ。今日は......」

 

 

そこからは仕事の割り振りがしばらく続いた。基本的にベッドメイキングやら食事の用意、掃除洗濯etc...ほとんどホテルと似たような内容だった。私はベッドメイキングと部屋の清掃を言い渡された。他の妖精メイド達にもそれぞれ仕事が割り振られて行く

 

 

「それじゃあ皆、取り掛かって頂戴」

 

「...あ、はい」

 

 

考え事のせいで返事が覚束ない。私は覚えていた間取りを思い浮かべ、客室を回っていくことにした。んー、こうすれば効率良いかな。今は朝の...8時くらいかな...まぁお昼前には終わるだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ...さて、私も取り掛かろうかしら...」

 

 

妖精メイド達にいつものように指示を出し、私は仕事に向かう...まぁ、ほとんど使い物にならないのだけれど。妖精メイド達は基本的に仕事はできない、直ぐに遊び始める。監視していればしぶしぶやってはくれるが、それなら私一人がやった方が早い

 

ため息を一つ吐く...まったく、結局は大半の仕事は私がやらないといけないのよね。ひとまず、お嬢様と妹様の朝の支度から。そのあと使えない子達の尻拭いね、お昼までに終わると良いけれど...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やってみると案外簡単だった。部屋数は多かったが、部屋自体は綺麗に掃除が行き届いているのもあり、シーツの交換と少し掃除するだけで充分に綺麗になった。他の妖精メイドが遊んでいたのが見えたけれど...まぁ気のせいだろう

 

さて困った、お昼までまだまだ時間が余っている。今は...10時過ぎ。んー、流石に2時間ちょっと何もしないのもなぁ...メイド長に何か仕事が無いか聞こうか。私は屋敷の中を探すことにした

 

それにしても広いお屋敷だなぁ...なんて考えながらしばらく歩いていると、遊んでいる妖精メイド達を叱っているメイド長を見つけた。あー、やっぱり遊んでたのか...お説教が終わったのを見てメイド長の側に駆け寄る。

 

 

「メイド長、よろしいですか」

 

「どうかしたの?...また花瓶でも壊したのかしら」

 

「あ、いえ。ベッドメイキングと清掃が済みましたので、何か他にお仕事が無いかと...」

 

「...え?」

 

 

メイド長は少し間を開けて聞いてきた

 

 

「ごめんなさいね、疲れてるのかしら...もう一回言ってもらえるかしら?」

 

「?...貰ったお仕事が済みましたので他に何かやることがないかと...」

 

「 」

 

「...メイド長?」

 

 

口をぽかんと開いて動かなくなってしまった...あれ?もしかして仕事が遅かった...とか?となるとかなり厳しいのかなぁ、このお屋敷。するとメイド長は、ハッとして客室の方へ向かった...とりあえず付いていこうかな...怒られるかなぁ、私

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耳を疑った。仕事が済んだ?聞き間違いではなかった。あの使えない妖精メイドの子が?...百聞は一見に如かず、自分の目で確かめなければいけない。嘘だとしたらあの青い妖精メイドはそれなりにとっちめなければ...

 

私は客室のドアを開く...目を擦る...頬をつねる...痛い。...ちゃんと、掃除、できてる...?私は急いで他の部屋も調べることにした

 

できてる。できてる。できてる、できてる、できてる、できてるできてるできてるできてる...ちゃんと...できてる...一瞬、思考が止まる

 

はっ、そうだ、あの青い妖精メイド。あの子、できる子なんだ......あれ?...おかしいわね...私、なんで泣いて...?

 

 

「あのー...メイド長?何か不手際でも、ってメイド長!?なんで泣いてるんですか!?メイド長!?メイド長ー!!」

 

 

 




妖精長

青を基調にしたメイド服を身に纏う妖精。もともとホテルマンだったという記憶と妖精メイドだったという覚えがあるものの、双方の境界が曖昧である。仕事に関してはいわゆる、なんでもできるマンでとても優秀。まだ飛べない

ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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2話 同僚達は奔放で個性豊か

それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

私は買い出しに出掛けるメイド長の背中を見送る。さて、ここに来てからおおよそ一週間が経った。この体や館での仕事にも慣れ、いつの間にやらメイド長達から妖精長、なんて呼ばれるようになったが...少し荷が重い

 

さて、それはともかくとして館の仕事を一任されたのだ。メイド長の期待には応えなければならないし、早く動くに越したことはないだろう、うん

 

私は朝早くから鍛練を積む門番さんを横目に館へと戻っていく...とりあえず皆を起こそうか。えーっと、今日の朝食の当番は...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はいつもより軽い足取りで買い出しに向かう。何も心配事なんて無い。何せ、今日はいつもとは違う...そう、あの子が、妖精長が居るのだから

 

今まで、買い出しに行くのは憂鬱だった。私が館を留守にすると、妖精メイド達は仕事もせずにおおはしゃぎ。帰ってくると館の中は滅茶苦茶...思い出したらイライラしてきた、用事が済んだら甘いものでも食べようかしら...

 

それ以来買い出しに行く日は妖精メイド達に休暇を与え、館の外へ遊びに行くように仕向けていた。次の日は仕事が普段の倍...ゾッとする

 

そんな日々の中、気付けばあの子が居た。本当に嬉しかった、救われた。この十六夜咲夜、あれだけ泣いたのは赤子の時以来かしらね...

 

メイド長の目にも涙、なんて言ってきた妖精メイドにナイフをお見舞いしたのは余談だけれど、ともかく館のことは妖精長に任せて私は私のやることをやらないと...さ、まずは人里からね...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとまず妖精メイド達、もとい同僚達を起こして食堂まで連れて来た。ちょうど十人分の椅子と長いテーブルに、一人を除いて皆ちょこんと座って朝食を待っている。眠そうな子や、おしゃべりをする子など、見た目と同じく十人十色の様相が伺える

 

妖精メイド達は皆似通った風体をしているが、身に付けている服や帽子の色が違う。手前の子から、赤、黄、空、緑、紫、橙、白、黒、灰、そして私が青、と言った具合で判別ができるようになっている

 

ただ、皆には名前が無かった。かく言う私も妖精長とは呼ばれているが、名前は無いらしい。用事があるときに直ぐ呼べないのは不便過ぎる、ということで簡単ではあったが私が付けてあげた

 

 

「きーちゃん、きーちゃん、今日は何作ってるのー!」

「つくってるのー」

 

「今日はホットケーキですよ~、あーちゃん」

 

「やった!きーちゃん大好き愛してる!」

「あいしてるー」

 

「あ!ほら、火を使ってるんですから危ないですよぅ二人とも!」

 

 

今厨房に立っているのが黄色のきーちゃん。盛大なLOVEコールを送り、抱き付きに行こうとした一人目が赤色のあーちゃん。もう一人は白色のしーちゃん。そんで二人の服を掴んで止めているのが緑色のみーちゃん...頭文字伸ばしただけ?...なんのことやら

 

 

「しゃーねぇなぁ...アタシも手伝ってやろうかな」

 

「へ!?いや、むーちゃんはゆっくりしてた方がいいんじゃないか...ほ、ほら、そろそろできそうだし...ね?」

 

「んー?...まぁそうみたいだね」

 

「「......」」

 

「あーちゃん、いっつもはしゃいじゃって...」

 

 

手伝おうとしたのが紫色のむーちゃん。必死に止めたのは空色のそーちゃん。我関せずの黒色、灰色のくーちゃんとはーちゃんに、最後は橙、オレンジ色のおーちゃん。朝から元気で何よりだなぁ...なんて考えつつ、喧騒の中朝食を待っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食の時間もあっという間に終わり、今はそーちゃんときーちゃん、そして私の三人で食器を片付けている。

他の七人は座っておしゃべりをしているようだ

 

 

「あ!そーだ!今日ってメイド長いないんでしょー!?やったね!」

 

「そうですね。只、私が代理として指示を出すように言われてますから...サボろうなんて考えないように」

 

「うぇっ、そうなの?...ちぇー、妖精長のけちー」

 

「まあまあ、そんなに落ち込まなくても...ね?」

 

「ぶー、ぶー」

 

 

片付けも終わり、そんな会話を交えながら戻って来る。元気だったあーちゃんは明らかにしょんぼりしてテーブルに突っ伏している。隣でおーちゃんが機嫌をとろうとしているようだ。あの日叱られていたのはこの子達なんだけど...おそらく常習犯だろう

 

私は皆の方に向き直り、いつもメイド長がやっているようにお仕事の割り振りをすることにした

 

 

「ま、そういう訳ですから。とりあえずいつもみたいにお仕事、割り振って行きますね」

 

「「「はーい」」」

 

「えーっと、まずはあーちゃん......ってあれ?」

 

 

席に居なかった。まさか、と思い私が食堂の出入口に目を向けると、件のあーちゃんが今まさに忍び足で廊下に出ようとしているところだった

 

 

「...あーちゃん?」

 

「あ、えー...そのー......さらばっ!」

 

 

脱兎の如く走り去って行った...はぁ

 

 

「...あーちゃんとむーちゃん、それとおーちゃんは客室と廊下のお掃除をお願いしますね...それで」

 

「ちょ、妖精長。いいのか?どっかいっちまったけど...なんならアタシが追いかけようか?」

 

「大丈夫ですよ~むーちゃん」

 

「そうなのか?ならいいけどよ...」

 

 

何事も無かったように続ける私を止めるように、むーちゃんが言う。そう、今日はきーちゃんに手伝って貰うので問題ないのだ。そのまま残りの指示を出していく

 

 

「ふぅ...こんなところですね...さて」

 

 

少し間を置く

 

 

「全部お仕事が済んだらー、きーちゃんがクッキー焼いてくれまーす」

「焼きま~す」

 

 

わざとらしく大きい声で言う

 

 

「それじゃ、皆取り掛かってくださいね」

 

「「「はーい」」」

 

 

むーちゃんとおーちゃん、きーちゃんと私を食堂に残して皆それぞれの持ち場に移動していった。少しして誰かが走ってくる音が聞こえる。そら来た

 

 

「ぜぇっ、ぜぇっ...きーちゃん、っはぁ...ホント?!」

 

「ホントですよ~」

 

「おーちゃん!今日持ち場何処!?」

 

「えっ、ボクらは客室と廊下のお掃除「モタモタしてないで早く行くよ!」って、ええ!?ちょ、あーちゃん?!」

 

「あっ、おい!アタシを置いてくなよ!」

 

 

食堂前で急ブレーキを掛けて止まったのはあーちゃんだった。きーちゃんの言質を取ると、おーちゃんの手を取って走り出した。遅れてむーちゃんも走っていく...ひとまず、これでいいかな

 

 

「ごめんね、きーちゃん」

 

「いえいえ~、構いませんよ~」

 

 

サボり癖のあるあーちゃんは、直ぐに物に釣られる。きーちゃんの協力もあってどうにか仕事はしてくれそうだ...この手に限る。それでは~、と自分の持ち場に向かうきーちゃんを見送り、私は一人食堂に残される

 

私は食後の珈琲を淹れ、席に着く。ホテルで働いていた時から染み着いている朝のルーティンだ。これがないと、少し調子が出なかったりする。飲み終えてから、私も仕事に向かおう。私は珈琲を飲

 

ガシャーン、パリーン

 

「あー!むーちゃんなにやってんのー!」

 

...珈琲を

 

「ぐぅ...躓いちまった...花瓶が」

 

......珈琲

 

「あうぅ...ボクの服びしょ濡れだよぉ...」

 

 

 

......私は珈琲に砂糖とミルクをぶちこんで飲み干した

 

 

 




メイド長

奔放な妖精メイドたちに手を焼いていたが、妖精長が来てくれたこともあり最近はかなりご機嫌。館の留守を任せたりと、かなり信頼を置いている様子。最近服用する胃薬の量が減ったとかなんとか

ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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3話 妹様は少々スキンシップが激しい

それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

他の妖精メイド達へ指示を一通り出し、手早くカルシウムと糖分を補給した私は朝食を一式載せたワゴンを押しながら廊下を進んでいた。まだちょっと口の中が甘ったるい...

 

さて、私がメイド長に言われたのは大きく分けて二つ。一つ目が他の妖精メイドへの指示と出来ているかの確認。指示は今しがた出して置いた、大丈夫

 

そして二つ目。妹様の朝の支度、これに関しては初めてやる仕事になる...ちなみにこの館の主、吸血鬼である。なんというか、もう驚かなかったよね...

 

基本的に吸血鬼は夜行性であるが、昼間に外部の方々との用事がある時は朝に起きることもしばしばあるらしい...普段は夕方頃に起きられている

 

メイド長は夕方には帰る、と言っていたのでお嬢様のお世話は大丈夫だろう。何度か拝見したことはある。姿は10歳前後の少女だが、齢500を越えているという...

 

 

「ん、ここかな...」

 

 

そんな事を考えている間に、妹様のお部屋の前まで着いた。私はワゴンを脇に置いて、扉を叩く

 

 

「妹様、朝の支度に参りました」

 

 

......返事は無かった。どうやらまだ眠っているようだ...念のためもう一度

 

 

「妹様、お約束の時間に遅れてしまいますよ」

 

 

......返ってきたのは沈黙、まだ夢の中らしい...。二回の確認を経て、私は扉を開いた

 

 

「失礼致します...」

 

 

ワゴンを引き連れて、部屋の中へと入る。様々な装飾の施された家具が並ぶ中で、中央に鎮座する天蓋付きの女の子らしいベッドでは静かに寝息をたてる妹様の姿があった

 

さて、とりあえず起きてもらわなければ...私はベッドの近くにワゴンを止め、妹様の顔近くで声を掛ける

 

 

「妹様、もう朝ですよ」

 

「...んぅ」

 

 

口から漏れたまだ寝ていたい、ともとれるくぐもった声と共に寝返りをうつ

 

 

「妹様ー、起きてくださーい」

 

「んー...もぅ...ちょっとぉ...」

 

 

体を揺さぶりながら再度言う...これは強敵だなぁ。メイド長が他の子に任せられない、と言うのも納得できる

 

 

「ダメですよー、ほら、約束遅れちゃいますよー」

 

「むぅー...わかったわよぅ...さくやぁ...んぇ...?」

 

 

寝ぼけ眼を擦りながらようやく目を覚ました...どうやらメイド長と間違われているらしい。ごしごしと擦った目をぱちくりさせている

 

 

「あれ?咲夜じゃあない?...貴女は?」

 

「妖精長とでも、呼んで頂ければ。メイド長は朝早くから外に出ておりますので、代わりに朝の支度の方を任されました」

 

「んー...そう言えば昨日言ってたような...」

 

 

妹様はまだ半分寝ぼけた頭で昨晩のことを思い出しているらしい。私は話しながらワゴンを引き寄せ、朝食の用意をする。シリアルの入った器にミルクを適量流し込み手渡そうとする

 

 

「どうぞ、妹様」

 

「あーん」

 

「......」

 

「?...あーん」

 

「...し、失礼しました」

 

 

こちらに向けられた大きく開いた口に、一瞬思考が止まってしまった...おそらくこれが普通なんだろう。スプーンを手に持ち、掬って妹様の口へと運ぶ...どうやらお口に合ったようだ。

 

 

「んくっ...あー」

 

「...はい」

 

 

続けざまに開かれる口に同じようにスプーンを運んでいく...妹様が満足するまで、その往復は続いた。メイド長はいつもこれやってるのか...

 

 

「ん、ごちそーさま!ありがと妖精長」

 

「いえ、お粗末様でした」

 

 

ひとまずこれで朝の支度はおしまいだろう。私は空になった器をワゴンに載せる。後は残った館の仕事を...

 

 

「ん!」

 

「...はい?」

 

 

ベッドに腰掛けて両腕を万歳させる妹様......?どうかしたのだろうか。私の方に目を向けているが、その行動の意味がいまいち理解できなかった

 

 

「?...ん!」

 

「あの...妹様?」

 

「んー?...お着替えでしょー?ほら!」

 

「あ」

 

 

え、あ......ダメじゃね...?....ッハ?!しまった!ホテルマンの基準で朝の支度のこと考えてた!...すっとんきょうな声を出して、深く思考に潜る。ホテルマンとメイドの間で朝の支度の意味にズレがあったのもあり、お着替え、なんて概念が頭からすっぽ抜けていた。...不味い、かなり不味い。...いや、だって私、中身は成人男性なんですが...。外見はただの妖精のメイドさんだが、精神は男性なんですよ!?外はサクッと中ジューシーですよ!?...もう絵面がかなり不味い。他から見れば可愛い妖精のメイドさんが金髪少女の着替えを手伝っているなんとも平和でメルヘンチックな光景だが、こっちからすればもうただの犯行現場である。無論、そんな事知っているのは私だけなのだが... それでもやって良いことと悪いことがある。...いや、待て落ち着け、流石に...その...えーっと...う、産まれたままの姿は不味いが、寝間着と言えど下に何か着てはいるはず...いや、下着でも十分お縄だ。妥協して良い所ではない。しかしメイド長に任されたのもまた事実。...腹くくれ妖精長。...とりあえず素数を数えろ...1、2、3、5、7、11、13......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと、妹様はいつものお召し物を身に纏っていた...なんか記憶が飛んでいる気がする、いや無くて良いはずだ、思い出すな、自分を強く持て、妖精長

 

 

「ん!ありがと、えーと...妖精長?」

 

「...いえ、大丈夫です妹様...」

 

 

少し顔が熱い気がする。笑顔で感謝を述べる妹様にとりあえず返しておく

 

 

「...むー、ねぇ」

 

「...はい、なんでしょう妹様」

 

「妹様、って言うの、やめて欲しいんだけど...」

 

 

私の言動に少し思うところがあったのか、むくれた顔でそう言われてしまった

 

 

「私にはちゃんとフランドールって名前があるの!」

 

「ですが妹様「むー...」...わ、分かりました、フランドール様」

 

「...フランでいい」

 

「へ?」

 

 

突然ハードルが上がった気がする。主人の妹様を愛称で呼ぶのは流石にどうなんだろうか...同じような顔でこっちを見ている...

 

 

「...分かりました、フラン様...そんなに見られても、これ以上は譲歩できません」

 

「むー...まあいいや。...あーあ、私もお姉ちゃんが良かったなぁ...」

 

 

そんな呟きが聞こえた...確かに弟や妹は何かと兄、姉を基準にされるのが少し億劫なこともある。吸血鬼でも、そこは変わらないようだ

 

 

「......ねぇ」

 

「?どうされました、いもっ...フラン様」

 

「...一回だけさ...私のことお姉さま、って呼んでくれない?」

 

「はえ?」

 

 

今日何度目かわからない間の抜けた声が口をついた。いや、流石に...と思ったが、おそらくやらないとダメだろうなぁ...これ。メイド長も大変なんだろうなぁ...

 

 

「...一回だけですよ...?」

 

「!...うん、うん!」

 

「......お、お姉...さま」

 

「!...えいっ!」

 

「え、ちょ...わぷっ?!」

 

 

顔から火が出てるかと思うくらい顔が熱い。なんて思っていると、フラン様が飛び付いて来た。突然のことで驚いてよろけてしまう...私は正面からフラン様に抱き締められていた...いや、だから絵面

 

 

「へ?ちょ、フラン様?!」

 

「んー...可愛い!ホントに妹ができたみたい!」

 

 

がっちりホールドされて抜け出すことが出来ない。ぶんぶん振り回されて、完全に妹扱いだ

 

 

「んー?あれ、お顔赤いよ...お熱でもあるのかな...?」

 

「へ?!い、いや大丈夫ですっ「お姉ちゃんが測ったげるねー!」フラン様!?」

 

 

ぴとっ、とフラン様の額が触れる。話は変わるが、この館にいらっしゃる方々は皆容姿端麗であり、フラン様も漏れること無くその中の一人だ。外見は10歳前後ではあるもののそんな美少女のお顔が殆ど零距離にあるのだ...神に誓って、前世の私は幼女趣味では無かった...筈である

 

 

「んー...熱ではないみたい...あれ?妖精長?」

 

 

...古来から日本では人間には煩悩が108個有ると伝えられている。年末になると除夜の鐘をその数だけ鳴らし、新しい年に煩悩を持ち込まぬようにと、そうやって年を越している。さて、主人の妹様に当たる方に対してこんな感情を持つことは万死に値する。おそらく人の頃の108の煩悩がこの頭から抜けきってないんだろう、そうに違いない。一足早い大晦日だ。私は伏せ、床に頭を叩き付ける。いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく、しーち

 

 

「え?!ちょ、妖精長!?な、なにやってるの!?」

 

 

まだあと100回近く残っているのに止められてしまった。フランさまー、だめですー、まだのこってるんですー、あー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、急にびっくりしちゃったよ...」

 

「...すみません」

 

 

少しして正気を取り戻した私は、正座して俯いたまま謝っていた。...なんか頭が痛い気がする

 

 

「あ、そういえばフラン様、お約束は大丈夫なんですか?」

 

「へ?......あー!!!」

 

 

素朴な疑問を投げ掛けてみると、少し間が空いてから思い出したように声を上げる...あちゃー、忘れてたみたいだ...

 

 

「どうしよ!?早く行かなきゃ!!あ、じゃね!妖精長!」

 

「あ、日傘!忘れないでくださいねー!」

 

 

ばひゅん、と風のように部屋から出ていったフラン様の背中に声を掛ける。わかってるー!と聞こえた気がするので多分大丈夫だろう...さて、と

 

 

 

 

 

 

はーち、きゅーう、じゅーう......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーっ?!妖精長が死んでるっ!?」

「しんでるー」

 

 




生きてます、はい

妹様

吸血鬼姉妹の妹さんの方。普段から近くに住んでる妖精や、魔法使いさんと遊んでいる。妹という立場に少し不満を持っているが、なんやかんや姉とは仲が良い

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4話 門番さんは風邪をひかない

それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「いってきまーす!」

 

「わっ、お、お気をつけてー!」

 

 

館の扉が勢いよく開かれたと思うと、中から眼にも留まらぬ速さで妹様が飛び出していった...そういえば今日は朝から遊ぶ予定があるとかなんとか、咲夜さんが言っていたっけ

 

妹様はお嬢様から外に出ることを許されて以来活発になられたようで、最近は頻繁に霧の湖に棲む妖精達と遊んでいるらしいです...

 

見送る背中があっという間に小さくなっていき、振っていた手を下ろす。さて、今日も今日とて門番の役目を果たそう...まあここ数ヶ月の間、魔理沙さんと悪戯好きな妖精以外は、侵入者として訪れてはないんですけど...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっ?!...ここは?ベッドの...上?と言うか、自分の部屋である......えーっと、なんだっけ。なんでこんな場所に...?

 

 

「あ、起きたー!良かった~...」

「よかったー」

 

「あ、あーちゃんにしーちゃん...二人とも、なんでここに?」

 

 

ベッドの脇には椅子が二つ。そこには赤と白の妖精メイドがちょこんと座っており、私が起きたことに何故か安堵の声を漏らしていた...なんで?

 

 

「妖精長、フラン様のお部屋で倒れてたんだよー。見つけた時びっくりしちゃった」

「...ん」

 

「......あ、そうだったんだ...はこんでくれてありがとー...」

 

 

大体思い出した......道理でなんか、邪念というかなんというかが無い訳だ。額の鈍痛がその証拠だろう...あ、そうだ、今って...

 

私は懐から懐中時計を取り出す。メイド長から貸してもらっている物だ。手元にあった方が色々と便利だろうと、実際かなり助かっている

 

 

「もうすぐお昼か...」

 

 

どうやら丸一日寝過ごした訳でもなく、眠っていたのも二時間程度だったらしい。見かけによらず丈夫なんだなぁ...この身体

 

二人に看病の感謝を伝え、お昼休みに入るよう言っておいた。そのまま部屋をあとにする妖精達を見送り、私も続くようにベッドを降りる

 

さて、柄にもなく眠りこけていたし、言われた仕事はこなさないと。私は廊下を歩きながらやることを順番に考える。確か食堂の整理がまだだったような...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐお昼だね、そろそろご飯にしよっか」

 

「ん、さんせーい!チルノちゃん、いこいこ!」

 

「わわっ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

 

私はチルノちゃんの手を取り湖の畔へと向かう。提案した大ちゃんも後ろから待ってよー、と続く。三人は湖の畔にある樹の下で座って、大ちゃんが持って来た果実を頬張っていた...たまにはこんなのも良いよね

 

 

「このあとは弾幕ごっこやろっかなー」

 

「む、今日こそは負けないからなー!...でもアレ、あの燃える剣みたいのはナシね!」

 

「あはは...チルノちゃん、いっつも溶けちゃいそうになるもんね」

 

 

レーヴァテインが禁止になった...カッコいいのになぁ。そんな話をしながら手早くお昼ご飯を済ませていく。そんな中、ふと大ちゃんが独り言のようにぼそりと呟いた

 

 

「...今日は雨になりそうだね」

 

「え、そうなの大ちゃん?」

 

「お、大ちゃんの予報は百発...えーとなんだっけ......と、ともかく!凄く当たるぞ!」

 

 

へぇー、大妖精ともなるとそんなのも出来るんだ...実は大ちゃん、凄い子なのかも?...それにしても雨かぁ、今日はいつもより早く帰らないとかなぁ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........」

 

「んー...んー!」

 

 

今、私はお昼ご飯でもと使用人の食堂まで足を運んでいる。しかしどうやら先客がいたようで...咄嗟に隠れ、出入口の脇から顔を覗かせ、中の様子を探っている

 

 

「.........」

 

「...ふぅ...ふぬー!」

 

 

どうやら妖精メイドさんが居たようで、今は仕事...かな?椅子を重ねて戸棚の中の物を取りだそうとしているようだった

 

 

「.........」

 

「むぅ...ふぬぁー!!」

 

 

頑張って背伸びをしているものの、妖精ということもあり、中々手が届いていない...なんというか、我が子を見守るのってこんな気持ちなんだろうか...とても微笑ましい

 

 

「うにゅー!っうわ?!」

 

「あ、危ない!」

 

 

妖精メイドさんが力一杯手を伸ばしたその時、ぐらり、と足下の不安定だった椅子が崩れた。私の身体は声を発すると同時か、それより早く動いていた

 

 

「ふー、よかったー間に合って」

 

「...へ?...あ、門番さん?...あ、ありがとうございます...」

 

 

倒れた椅子達が散乱する中、滑り込むような形で妖精メイドさんを受け止めていた。何が起こったか分からないような様子で妖精メイドさんは私に感謝の言葉を溢す。さて、と

 

 

「え?あ、あの門番さん!?」

 

「よいしょっ、と。これで届きますかね?」

 

 

私はそのまま妖精メイドさんの脇に手を入れ、ぐっと持ち上げる。軽いなぁ...なんて考えていると、少し困惑した声が聞こえる。それも束の間、観念したのかそのまま戸棚に手を伸ばし、何か作業を始めたようだ

 

 

「あの、門番さん」

 

「ん、どうしたんですか?」

 

「終わりましたので...もう降ろしてもらっても...」

 

 

数分程度経っただろうか...作業が済んだらしく、言われるがまま、妖精メイドさんを降ろす...良く見ると、今朝咲夜さんの見送りに来ていた子だった。青いメイド服に見覚えがある

 

 

「あ、ありがとうございました。何分、こんな体躯ですので...」

 

「いえいえ、構いませんよ。困った時はお互い様ですから」

 

「あ、すみません......そう言えば、門番さんは何をしに食堂まで...?」

 

 

床に転がっている椅子達を片付けながら、そう聞かれた。あ、そうだ、お腹減ってるんだった私。ちょっと照れ臭く、頬を掻きながら応える

 

 

「ちょっと、お腹が空いちゃって...」

 

「そうだったんですね......ちょっと待っててください」

 

 

そう言うと、妖精メイドさんはとことこと走っていった...なんだろ。ひとまず言われた通りに椅子に座って待つことにした

 

 

「お待たせしました。これ良かったらどうぞ」

 

「え?これって...」

 

 

少しして戻って来た妖精メイドさんの手には、小さめのバスケットが握られていた。私の側まで来るとそのバスケットを差し出してくる。その中には...

 

 

「サンドイッチ...ですか?」

 

「はい、簡単なモノですけど...良かったら食べてください」

 

「いや...でも...」

 

 

さっき作ったにしては戻ってくるのが早すぎる。となると...おそらく妖精メイドさんの分だろう。流石に貰えないんだけれど...なんてまごまごしているとバスケットを押し付けられる

 

 

「困った時はお互い様、ですから」

 

「あっ......ありがとうございます、えーっと...」

 

「...あ、メイド長からは妖精長と呼ばれてます」

 

「...ありがとうございます、妖精長。私は門番の紅美鈴といいます」

 

 

今さらながら自己紹介を済まし、バスケットを受け取る。...妖精長、てことは、妖精メイド達のトップということだろうか...

 

さてと、あんまり門前を空ける訳にもいかない。それでは、と別の仕事へと向かった妖精長を見送り、私は長机にバスケットを置く

 

いただきます...ん、おいし...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

館の仕事をこなしているうちに、もうすぐ夕暮れと言った時間になっていた。先程、帰って来たフラン様とすれ違い軽く挨拶をした

 

門番さん...美鈴さんに手伝って貰うことになったのは申し訳無かったが......どうやって飛ぶんだろうか、未だに飛び方は分からないままだ

 

ふと、窓の外に目をやる...少し雲行きが怪しい気がする。これは...一雨来そうだ。他の子にも手伝ってもらって、洗濯物を取り込んでおかないと...

 

 

「あ、きーちゃん、そーちゃん。少し手伝って欲しいんだけど...」

 

「あ、妖精長~実はですね~...」

「少し雨が来そうなんだ。洗濯物を取り込みたいんだけれど...」

 

 

ちょうど二人の妖精メイドが見つかったので手伝いを...と思っていたけれど、どうやら同じ要件だったようだ。話が早い。

 

私は二人を引き連れて廊下を歩いていく。さて、降りだす前に全部取り込めればいいけれど...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を終え、いつものように門の脇に立つ。いまさっき妹様が帰って来た。もうすぐ、咲夜さんも帰ってくる頃だろう

 

 

「...ん?」

 

 

ぽつりと冷たい何かが額に落ちる...あぁ、どうやら雨のようだ。妹様がいつもより早く帰って来たのはそういうことだったらしい...

 

どしゃ降りという程では無く、まぁ普通くらいの雨。私は妖怪だし、この程度なら風邪なんてひいたりはしない。身体は丈夫ですからね、毎朝鍛えてますし...。

 

そんなことを考えていると、バチャバチャと水溜まりを踏む音が聞こえる。私の後ろ、館の方から...誰だろうか、こんな時間に

 

 

「門番さん、風邪ひいちゃいますよ~...」

 

「...貴女は」

 

 

そこには、黄色いメイド服を着た妖精メイドさんが傘をさして立っていた...この子は、良く私の隣でお昼寝をしている......どうやら雨の中立っている私を心配しているらしい

 

 

「私は大丈夫ですから、ほら、貴女こそ風邪ひいちゃいますよ」

 

「...でも」

 

「大丈夫、私は強いですから」

 

「...分かりました~」

 

 

えらく渋々ではあるものの分かってくれたようだ。さて、咲夜さんが留守の間は戻る訳にも行かない。この雨の中なら尚更、そういう時に敵が襲撃してくることだってある。それぐらいしないといけない...

 

 

「よいしょ~」

 

「って、わっ...妖精メイドさん?」

 

 

すると突然、戻ったと思っていた妖精メイドさんが私に肩車の要領で乗っかって来た。え、ちょっ、何を...?

 

 

「館に戻ったんじゃ...」

 

「えへへ~、これなら濡れませんよ~」

 

 

私の頭の上に被さるように凭れて座る妖精メイドさん。肩には持っていた傘もあり、雨に濡れることは無くなった...妖精メイドさんはなんで皆こんなに優しいんだろうか...

 

 

「...ありがとう、ございます」

 

 

妖精メイドさんの身体の熱が心地よく温かく思えた...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖精長、きーちゃん見てないかい?」

 

「え?...さっきまで一緒に...あれ?」

 

 

なんとか降りだす前に洗濯物を総員救出。大きな籠の中に入れ、戻っている途中だった。そんな中、そーちゃんにそう言われて、きーちゃんが居なくなって居るのに気がついた。

 

 

「...まったく、こんな時に何処へ」

 

「取り込んでる時は居たんですけどね...ん?」

 

 

気まぐれに窓の外に目をやると、門が見えた......あぁ、そういうことか。黄色い、見覚えのある傘にやれやれ、と納得する

 

 

「...きーちゃんには別の仕事を頼んでおきましたから、大丈夫ですよ」

 

「ん、そうなのか?...まぁ、ひとまずこの服を片付けようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

念のために傘を持って行って良かったわね...少し遅くなってしまった。お嬢様はまだ寝ているでしょうけど...早く帰らないと...そう思いながら帰路を急いでいると紅魔館が見えた

 

 

「あら......まぁ、今日くらいは大目に見ようかしらね...」

 

 

この日は門の前で眠っている二人を叱る気になれなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖精長ー!クッキーはー!?」

 

「今から作りますから待っててください...」

 

 




門番さん

お昼寝好き。一見普通の女性だが妖怪さん。普段から仕事をほっぽって寝ているため、時折メイド長からナイフでお仕置きされることもある。ガーデニングもしばしばやっているらしい

ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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5話 主人の親友の友人は有害で有益

それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

今日も今日とて快晴快晴!箒に跨がり、晴れた空を見上げながら木々の合間を抜けていく。んー、風を切る感覚はいつもながら気持ちのいいものだな

 

 

「お!見えた見えた...」

 

 

さてと、こんないい日には本を盗...げふんげふん、借りるに限る...ラッキー、今日は寝坊助がしっかり仕事をしているようだ。大きな鼻ちょうちんが、いっそ清々しいくらいだ

 

ザル...もとい立派な門を顔パスし、真っ紅な館の窓へ向けて一直線。さーて、待ってろよ、まだ見ぬ魔導書!...おっと、淑女たる者、人の家に入る時は挨拶だな...帽子の縁で顔を覆い、衝撃に備える

 

 

ガッシャーン!!

 

 

「おっ邪魔..し...ま......す」

 

「...ようこそ紅魔館へ......ところで、何か言うことは無いですか?...魔理沙さん...?」

 

 

さっきまでの勢いは嘘の様に消え、サーッと血の気が引く音がした...何がいい日だこんちくしょう。目の前の青い妖精メイドを見て、そう心の中でぼやいた...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日もいつもと変わらず、館の仕事をこなし、同僚がちゃんと仕事をしているかの見回りをしていた...最近は皆ちゃんと働いているようで特にトラブルも無く、平和な日々

 

 

ガッシャーン!!

 

 

「おっ邪魔..し...ま......す」

 

 

...平和な日々が送られていた、この瞬間まで。さてと妖精長、まずは落ち着こうか。ここで怒鳴って喚くのは簡単だ、赤子でも出来る。...ふぅ、まあ、曲がりなりにもお客様......うん、百歩譲ってお客様だ。元ではあるがホテルマンたるもの、お客様への応対は常に笑顔でこなさなければならない、うん笑顔笑顔。いましがた窓を叩き割って来られたお客様を見据える。箒に跨がり空中でピタッと止まっている。服にはいくつかガラスの破片が付いている...顔色が余りよろしくないようだ

 

 

「...ようこそ紅魔館へ......ところで、何か言うことは無いですか?...魔理沙さん...?」

 

「...いい天気...です...ね?」

 

 

説教は暫く続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まったく、なんで毎度毎度窓から入って来るのだろうか...しかも割りながら。今月でもう三度目だ。私は残念ながら仏より気が短いし、堪忍袋の緒もユルッユルである。そんな訳で...

 

 

「ちゃんと掃除して貰いますからね、魔理沙さん」

 

「げぇっ...なんで私が......いや何でも無いです私がやりますやらせてください」

 

 

割れた窓の後片付けをして貰うことにした。...笑顔、ひきつって無いだろうか。まあ、おあつらえ向きの立派な箒もあることだし、それに割ったの魔理沙さんだし、なんならやりたいらしいし

 

ひとまず、いつものようにメイド長へ伝えておかないと...いや、この人から目を離すと危険だ。何をするか分からない。誰か代わりに頼めそうな...あ

 

 

「むーちゃーん、ちょっといいですかー?」

 

「ん?妖精長ー、アタシに何か用かーい?」

 

 

少し遠くの廊下に紫色の妖精メイドが見えた。...うん、むーちゃんなら大丈夫かな...聞こえるように大きめの声を出し、手招きをする。気づいたみたいですかね...

 

 

「どうかした?...って、そこのモノクロは新しいメイドさん?」

 

「...まあ、日雇いみたいな...今日限りですけどね」

 

「あらら、後輩が出来たと思ったんだけど...そりゃ残念。で、要件は?」

 

 

冗談交じりに話すものの、ちゃんと要点を押さえてる辺り、むーちゃんだなぁ...なんて思いながら、手短に必要なことを伝えた

 

 

「ん、分かったよ。そんじゃね、妖精長......頑張んなよー、モノクロさん」

 

「お願いしますね、むーちゃん」

 

 

茶化すようにそう言い残し、むーちゃんはメイド長へ伝えに行ったようだ...因みに、今までに割った窓や皿、花瓶の数はむーちゃんが一番多い。ドジで手先が不器用なこと以外は頼りになるんだけど...

 

不服そうな顔をして、自前の箒を動かす魔理沙さん。これで懲りてくれればいいけれど...なんて考えていると、足音が近づいてきた

 

 

「って、フラン様?」

 

「...ん~...ふぇ、妖精長~?」

 

「お、フランじゃんか」

 

 

廊下の角を曲がって姿を現したのは、寝間着のままのフラン様だった。ちょ、何でこんな昼間に...今日は特にご予定があるなんてメイド長からは聞かされていないけど...

 

 

「どうされたんですか、こんなお時間に...」

 

「んー...トイレ~...」

 

 

...らしい、まあそんなところだろうとはなんとなく分かっていたけれど...右手で寝ぼけ眼を擦り、左手には枕が握られている

 

 

「よぉフラン、結構久しぶりだな」

 

「ん~?...あれ、魔理沙?...おはよ~」

 

「もう真っ昼間だぜ」

 

 

半分寝ながら挨拶を交わすフラン様。確か魔理沙さんとも良く遊んでいるらしく、そんな会話が繰り広げられる。少し談笑した後、じゃあね~、と別れを告げ、トイレに向かうフラン様...って逆ですよー、そっち...まあ大丈夫だろう。多分

 

 

「...ふぅ、妖精メイドさんよ、これで良いか?」

 

「ん...まあ大体おっけーですかね」

 

 

とんとんと箒の先端で床を指し示す。山になった窓の破片、周りは......大丈夫かな、うん

 

 

「そんじゃ、私はこの辺で...」

 

「あ、魔理沙さん、待って下さい」

 

「...まだなんかあるのか...?」

 

 

私の返答を聞くや否や、箒に跨がろうとする魔理沙さんを呼び止める。...凄い嫌そうな顔、表情豊かなことで...

 

 

「いつも遊びに来て下さってありがとうございます。パチュリー様も喜ばれると思います」

 

「!......別に、私は本が欲しいだけだからな...ついでだよ、ついで」

 

 

パチュリー様、主人の親友にあたる方だ。この館にある大図書館の管理を任されており、そこに住まわれている。ただ、喘息持ちに根っからの出不精とあまり活発的ではなく、お嬢様もどうにかしたいと言っていた程だ

 

...でも、この前大図書館に用があり訪れたところで魔理沙さんと楽し気に談笑していたのを見かけた。パチュリー様の笑顔を見たのはそれが初めてだった

 

正直、有難いと思っている。館に住む住人、皆さんには楽しく生活を送って欲しい。...元ホテルマンの性、だろうか...心の中で微笑する

 

 

「あと、今度からちゃんと玄関から入って来て下さいね...」

 

「...善処するぜ」

 

 

美鈴さんが怒られちゃうしね...そう言葉を残し、魔理沙さんは箒に跨がり飛んで行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぎいぃ、と重厚な扉がその巨体を軋ませながら口を開く。...誰かしら、なんて思いながらちょうど読み終わった本をぱたりと閉じ、出入口に目を向ける...あら

 

 

「...久しぶりね、魔理沙...また本でも借りにきたのかしら...?」

 

 

 

 

 

 

 

 

皮肉を放つ口元が緩んでいることに少女はまだ気づいていない...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ?いや、メイド長!?割ったのはアタシじゃないってば!ちょ、待っ」

 

ぐさり

 

 




生きてます(3話ぶり 2度目)

魔理沙さん

紅魔館の面々とは基本的に仲が良い。普段から良く大図書館を利用しており、フランとも弾幕ごっこで遊ぶほど...窓から入ってくる

ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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6話 あくまで司書さんのお仕事は管理

それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

いつもは静かなこの大図書館。パチュリー様が本のページを捲る音だけがこの広い空間に響く。...そんな静けさの心地良い場所ではあるけれど、今日は違うみたいです..。

 

手に持ったいくつかの蔵書。パチュリー様の読み終わった本を元の場所へと戻していく中、お二人の談笑する声がとても楽し気に聞こえる...。

 

ちらり、と本棚の隙間から様子を伺う。...うーん、魔理沙さん、今日は本を返しにきた訳ではないみたいで...多分またいくつか持って帰るんだろうなぁ...。

 

正直な話、別にここにある蔵書の貸し出しに関してはパチュリー様曰く、別に構わない、とのこと。何度か読んだ物や、特に興味の無い物などもあるからでしょう...。

 

だけど、司書として蔵書の管理を任されている私からすると、勝手に持って行くのは止めて欲しいところなんですよねぇ...いつの間にか穴だらけになった本棚を見ると胃が痛くなってしまう...。

 

 

「...こあ、ちょっと来て頂戴」

 

「あ、はいは~い。只今~!」

 

 

おっと、ご主人様のお呼びみたいですね。直ぐに返事を返し、お二人の元へ向かう。...一応、魔理沙さんに本のことお願いしておこうかな...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラス片の入った塵取りを片付けた後で、私は別の仕事に手を付けていた。今いる場所は倉庫。色々な生活用品がところ狭しと並んでいる中で、作業をしている。

 

 

「えーっと...次は常備薬の確認、かな」

 

 

手元にあるリストを見ながら、どれがどのくらい消費されているか、足りなくなっていないか等を確認していく。...なんでこんなに胃薬があるんだろうか...え、これでも先月より少ないの?

 

 

「...ん?これって...」

 

 

薬類の確認をしていると、「パチュリー様用」と書かれた紙の貼られた小箱があった。...あれ、これ喘息のお薬...にしてはちょっと数が多い気が...。

 

普段、パチュリー様のお薬は大図書館の方にほとんど置いているんだけれど...こっちにこの量ってことは......後で持って行こうか。

 

まあ、ひとまず目の前の仕事を終わらせよう。...えーっと...お皿足りてないね...後は...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けほっ...こあに紅茶の用意を頼み、再び魔理沙と談笑する。少し久しぶりなのもあり、まだ話したいことは多く残っている...やっぱり誰かと話すのは良い刺激になるわね...。

 

 

「...あ、ところでパチュリー。久々に弾幕でもどうだ?最近は骨のあるヤツがいなくてさ、退屈してたんだよ」

 

 

...スペルカード、ね。そういえば、最後にやったのはいつだったかしら...フランにせがまれてやった覚えがあるような...まあ、久々にやりましょうか...。

 

 

「...そうね、少し試したいスペルカードもあるし、咳もあんまり酷くないから...」

 

「お、流石話が早い。被弾三、スペカ三でいいぜ」

 

「えぇ、久々だけど...退屈はさせないわ...」

 

 

私が合意を言い終える前に、意気揚々と箒に跨がる魔理沙...らしいと言えばらしいわね。さて、ひとまず...

 

 

「ん?...なんだこれ...」

 

「結界、みたいなものよ...」

 

 

軽く詠唱を終えると、私たちの周りに薄紫色の半透明な壁が現れる。...流れ弾が本に、なんてことが無いようにね...こぁが怒っちゃうから...。

 

私は魔導書を片手にふわり、と宙に浮かぶ。それを見た魔理沙も同じように浮かび上がって来た...さ、やるからには先輩として、負けるつもりは無いわ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沢山のチェックや物の残数、他にも色々と補足をしておいたリストをメイド長に渡して、今は大図書館へ向かっている。...もう魔理沙さんは帰ってるだろうか...

 

手に持った小箱に目をやる。一応、メイド長に聞いてみたけれど、別に買いすぎた訳でもないらしく、大図書館の方へ運んでおいて、とのこと。

 

 

「...すっかり慣れちゃったなぁ...」

 

 

そんな言葉が口をついた。...いつの間にかこの館で目が覚めて、おおよそ一ヶ月。最初は戸惑いもあったけれど、どうにかやっていけている。

 

元の暮らしに未練は無い。...というよりそんなに覚えていないしね。...記憶に関しては、人としても、妖精メイドとしても、どこか穴が空いたような...そんな感じだ。

 

ぶんぶん、と首を振る。まあ、そんなに思い詰めても何か思い出したりする訳でもない...今は妖精長として、自分のやるべきことをしよう、うん。

 

 

「...ん?あれは...」

 

 

大図書館までもうすぐとなり、なんなら扉が目に入った。そこに、見覚えのある黒い妖精メイドの姿があった。どうやら中を覗いているようだ...

 

 

「どうかしたの?くーちゃん」

 

「...ん、あぁ、妖精長か...いやなに、少し面白いものがね...ほら」

 

 

?...おもしろいもの...。くーちゃんに促されるように扉の合間から図書館を覗く。

 

 

「って、うわ...これってもしかして...」

 

「ん、弾幕ごっこだよ。パチュリー様がやってるのはオレも初めて見るよ」

 

 

見上げる形でその弾幕ごっこが目に入った。はえー...初めて見た...。妹様や他の妖精メイドから聞いたことはあったけれど...こんな感じなんだ。...相手はどうやら魔理沙さんみたいだ。

 

ふっと視線を落とすと、小悪魔さんも二人を見上げている。...よく見ると、二人の周りには薄い...結界?のようなものが見えた...はへぇ...。

 

 

「ところで、妖精長は何か用でもあるんじゃないか?...ほら、その箱...」

 

「ほえー...っは!...そうでした...」

 

 

っと、いけないいけない...見惚れてしまった。そうそう、これを届けに来たんだった。ノックは...まあ、今は要らないだろう。少しだけ開いたドアを押し、私は中へと入る。

 

 

「...あれ?貴女は確か...妖精長さん...でしたっけ。何かご用ですか?」

 

「失礼します、えーっとこのお薬が...」

 

 

そう、小悪魔さんに声を掛けられる。ひとまず要件を...と話そうとしたそのとき、周りにあった結界が突然消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ったく、パチュリーのやつホントに久々なのかよ...んー、このままだとジリ貧だしな...ここらで一発かまさないと...でももうスペカは一枚だしなぁ...どうするか...

 

 

「...あら、来ないのね...それじゃあこれで...げほっ?!ごほっごほっ...」

 

「って、パチュリー!?」

 

 

最後の詠唱に入ろうとしたパチュリーが、突然咳き込み始めた。すると、周りの結界が消え、パチュリーはそのまま、真っ逆さまに落っこちていく。ッ不味い、間に合うか...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...もう、なんでこんな時に...自由落下していく体、力は上手く入らないし、呼吸もままならない...。鳴りを潜めていた喘息の発作。...やっぱり、少し無理し過ぎたかしら...

 

逆転した視界の端、こぁが何か言ってるみたい...ダメね、うまく聞こえないわ...。少しずつ近づく地面...痛そうね...大丈夫だといいけれど...

 

 

ドサッ

 

 

...あれ、痛く...無い?...少し暖かな、柔らかい感触...どうなったの...?

 

 

「...たく、世話の掛かるヤツだぜ」

 

「...けほっ...魔理...沙...?」

 

「おいおい、あんましゃべんない方がいいぞ」

 

 

頭の上辺りから、魔理沙の声が...ってえ?ちょ、もしかして今って私...お、お姫様抱っこされてる?......魔理沙に?......ええっ!?

 

 

「おーい、小悪魔。薬ってないのか?喘息用の...ってお前は...」

 

「ここにありますよ。魔理沙さん...小悪魔さんは急いでお水を取りに...ってパチュリー様大丈夫ですか!?顔真っ赤ですよ!?」

 

「って、おまっ、大丈夫かよ!?」

 

 

いつの間にか居た妖精長。いや、違う違うの。そんなに心配されるほど、喘息の発作自体は激しくないの、動悸は激しいけど。顔が真っ赤なのは...べっ、別にそう言う訳じゃ...って魔理沙、顔近っ...あ

 

 

「...むきゅう」

 

「パチュリー様ーっ!?」

「パチュリーっ!?」

 




生きてます(2話連続 3度目)

パチュリー様

喘息持ちの出不精魔法使いさん。とは言え、宴会などのイベントごとには積極的に出向くようになったのでマシにはなっているらしい。魔理沙さんのことは...まぁ、ねぇ...?態度で分かる、でしょ...はい

小悪魔さん

パチュリーさんの使い魔。基本的には大図書館で本の整理をしている。いつの間にか魔理沙さんに持っていかれてしまった本たちに頭を抱えている

ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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7話 お嬢様の威厳は使いきり用

それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

中庭を眺めながら、優雅にティーカップを口元に運ぶ。あら...咲夜ったら、また腕を上げたみたいね。今日は珍しくこんな時間に目を覚ましてしまった。煌々と光を放つ太陽はまだてっぺんを少し過ぎた辺り...幻想郷に来てから昼間から活動する事も増えたし、たまにはこんな時間にティータイムなんてのも乙なものね...

 

 

「それにしても、宴会なんていつぶりかしら...ねぇ、咲夜」

 

「そうですね、お嬢様」

 

 

テーブルの上、置かれているのはティーカップとお茶菓子...そしてこの招待状。今さっき妖精メイドの一人が、魔理沙さんからお嬢様宛てです、と言い持ってきたもの。帰り際に受け取ったらしい...

 

内容は宴会がある、といういたってシンプルなもの。いつも通り場所は博麗神社。最近は異変も鳴りを潜め、言うなれば「宴会ロス」と言ったところか。一念発起した魔理沙が企てた大宴会だそうな...らしいというかなんというか...

 

勿論、参加するに決まっている。紅魔館の面々は全員引き連れていく予定ね...あら、もう空ね。紅茶のおかわりを咲夜に頼む...フフッ、今から楽しみね...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも通り朝の指示出しを終え、妖精メイド達を散らす。さて、宴会の話が決まり日が少し経った。早くも明日に控えた宴会、お嬢様は紅魔館の皆で行く!と、言っているけれど...少しばかり問題がある

 

そう、妖精メイド達だ。買い出しの時のように、妖精長に任せておけば...とはいかない。なにせ、今回は宴会の規模がかなり大きいらしく、宴会の準備にかなり人手がいるらしい...となると、戦力として十分な妖精長は連れていきたい......

 

 

「どうしようかしら...」

 

「?...どうかなされたんですか?メイド長」

 

 

そんな考えを巡らせていると、件の妖精長に声を掛けられる...ちょうど良いかしら。妖精メイドの統率をほとんど任せているこの子にも、相談した方がいいわよね...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宴会、ですか...」

 

 

朝から何か考え事をしているふうだったメイド長。声を掛けてみたところ、実は...と、色々と話してもらった。宴会、ですか。場所はここから少し離れた神社の境内らしい...

 

 

「それで貴女には準備の手伝いとして一緒に来て欲しいのだけれど...」

 

 

とのこと。...いつもなら、メイド長が不在の時は、紅魔館で他の妖精メイド達とお留守番、なんだけど...私一人では手伝いとして不十分ではないだろうか。宴会の準備、となると基本的にお料理がメインだろう。となれば...

 

 

「そうですね...そういうことならきーちゃん辺りにもお願いしておきましょうか」

 

 

料理上手なきーちゃんには、来てもらって損は無いだろう...そーちゃんはダメかな、あの味音痴は筋金入りだし、何より自覚が無いのが怖い。洗い物とかは頼りになるけれど...

 

さて、しかし問題が2つある。1つ目は他の妖精メイドのこと。今まではこんな時、皆に休暇を上げていたらしいが、私は良いとしてもきーちゃんに申し訳ない。でも人手は欲しい...となると、全員宴会の手伝いとして連れて行くことも視野に入れなければならない。が、問題はそのあと...

 

2つ目の問題...宴会はお酒の席、行けば飲むことになるだろう。して、妖精という種族だが...お酒にめっぽう弱いのだ。小さな体躯で酔いが回りやすいのだろう...ちょっと前に他の妖精メイド達がお酒を飲んでいたのを見たけれど...かなりひどい有り様だった

 

...きーちゃんには悪いけれど、後で話しておこうかな。多分それが一番いいだろうし...うん

 

 

「...そう、貴女がそう言うなら、その子にも頼んでおいて頂戴」

 

「分かりました、となると後は...」

 

 

結局、私ときーちゃん以外には明日、お休みを与えられることになった。...きーちゃんには何か埋め合わせしてあげないとね。話はそれで終わり、私も仕事に向かうことにした

 

 

「...?...気のせいかな」

 

 

...そのとき、私はまだ気づいていなかったのだ。私とメイド長に刺さる、2つの視線に...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...聞いた?」

「きいたー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一通り仕事も終わり辺りは夕方、すっかり低くなってしまったお日様は山の向こうに鳴りを潜めようとしている

 

今はきーちゃんと二人で、メイド長の元へと向かっているところだ。なんでも、宴会に同行するにあたって、一応お嬢様にお顔を見せておいてもらいたい、とのこと

 

 

「ん~...宴会ですかぁ...初めてなのでちょっと楽しみです~」

 

「ごめんね、他の皆はお休みなのにきーちゃんだけ...」

 

「構いませんよぉ、妖精長~。お料理は大好きですから~」

 

 

事情をあらかた説明したところ、快く了承してくれたきーちゃん。...いやぁ、頭が上がらない

 

そんなことを話していると、メイド長に指定されたお部屋の前までたどり着いた。扉の前には既にメイド長が立っている

 

 

「来たみたいね...同行する子はその子だけでいいの?」

 

「はい、お力になると思います」

 

「頑張ります~」

 

 

メイド長の確認にそう返す。きーちゃんも意気込みを一つ言い、ぺこりとお辞儀をする。分かったわ、と言うと、メイド長は部屋の扉を数度ノックした。中からはお嬢様の声、了承を得て扉が開かれる

 

実際にお嬢様にお会いしたのはこれまででも、片手で事足りるほどの回数のみ。言葉を交わしたことは...魔理沙さんからのお手紙を渡した時くらいだろう...

 

 

「失礼します。お嬢様、連れて来ました」

 

「ん、ご苦労様、咲夜。...そう、その子達がねぇ...」

 

 

ひとまずお辞儀をして部屋の中へと入る。一言二言メイド長と会話するお嬢様。私たち二人を値踏みするような...幼い風貌からは想像もつかない威厳じみたものを感じる

 

 

「今回、ご同行することとなりました、妖精長とお呼びください」

 

「同じく、きーちゃんです~。お料理は任せてください~」

 

 

簡素ではあるが自己紹介をする。きーちゃんは...いつも通り、ですね...

 

 

「そう...まあ、咲夜の選んだ妖精メイドだものね、明日は頑張って頂戴ね」

 

「はい、仕事の方は問題ないと思います。できる子達なので...」

 

「あ、そうそう。それとね...」

 

 

激励の言葉を頂いた後に、メイド長からは太鼓判を押してもらえた。頑張らなければ...なんて思っていると、続けてお嬢様が口を開く...って、え?

 

 

「言って無かったけれど、この子達も連れて行くわね」

 

「やっほー!妖精長!」

「やっほー」

 

 

そこに居たのは、赤と白の妖精だった...いや、なんで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん、そろそろ咲夜が一緒に連れて行く妖精メイド達を、引き連れてくる頃ね...まあ、咲夜が選んだのなら、文句は無いわ

 

コンコン、とノックの音がする...どうやら来たみたいね。部屋の中に入るよう促す。あら、妖精メイドだけみたいね...咲夜はどうしたのかしら

 

 

「失礼します、お嬢様!ちょっとお話があります!」

「ありますー」

 

「ん?...まあ、構わないわよ。それで?」

 

 

入ってきた赤と白の妖精メイド。何か話があるらしい...ひとまず聞いてあげましょうかね...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事情をあらかた話してくれたお嬢様...大まかな内容はこうだ。今回の宴会には様々な権力者の方々が参加するらしく、そこに何人もの従者を手伝いとして駆り立てることができる、というのは一権力者としての威厳やらカリスマやらを示すことができるうんたらかんたら...らしい。隣でメイド長は頭を抱えている...

 

 

「...と、このメイド達に助言を貰ってね。私のカリスマを見せつける舞台としてこれ以上はないわ!」

 

「ないわー」

「ないわー!」

 

 

しーちゃんはともかく、あーちゃんまで...お嬢様もノリノリである。どうやら、どこかで宴会に関しての話が漏れていたようで

 

少し前、メイド長にお嬢様へは言っていけない言葉があると言われた。カリスマ、威厳、等々...どうやら二人...主にあーちゃんはタブーてんこ盛りでお嬢様を口説き落としたらしい...

 

とことこ、とこちらに歩いてくるしーちゃん。...まったく、流されやすいのは知っていたけど。何か話があるようだ

 

 

「...はぁ、なんですか?しーちゃん」

 

「...そーちゃんにはまだいってない...」

 

 

ちょ、まだって、なんですか、まだって。...脅しですね、これ。同行する妖精メイドは計4人になりそうかなぁ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くしゅんっ!...風邪かなぁ...」

 

「ん?大丈夫か?そーちゃん」

 

 





お嬢様

吸血鬼姉妹の姉の方で紅魔館の当主。幻想郷の中ではかなりのビックネームでカリスマ性もある...が、スイッチのON、OFFが激しくどこか子供っぽいところもちらほら...

ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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8話 宴会と書いて〝たたかい〟と読む#1

それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

時刻はもうすぐ夕暮れ。今日は宴会当日、そろそろお嬢様とフラン様も起き出す頃ですかね。私は銀の時計を懐に仕舞い、トコトコと廊下を一人歩く

 

今回同行しない妖精メイド達には、メイド長が朝から休暇を与えている。残っているのは私ときーちゃん、そして何故かあーちゃんとしーちゃん

 

さて、件の宴会なんだけれど開かれるのは夜からということもあり、館の仕事は昼に全部済ませておいた。あーちゃんが少し不機嫌だったけど、まあ気にしない

 

聞くところによると、参加者はほとんどが人成らざる者、らしい...これはアレですね、驚きすぎてどうすればいいか分からないパターンですね...

 

 

「すっかり慣れたと思ってたけどなぁ...」

 

 

吸血鬼に妖精、妖怪やら魔法使いとこの館ですら私からすると十分に魔境なんですけど...流石に亡霊や鬼、神様とまでなると流石にキャパオーバーである

 

そんな話を聞いたのはメイド長から。何故か亡霊について話すときの顔色が優れなかったけど......案外お化けとか苦手なんですかね、メイド長

 

 

「忘れられた者達の楽園...かぁ」

 

 

そんな規格外のお方達がいらっしゃるとなると、説得力があるなぁ...なんて思う。お伽噺の中だけの世界だと思ってたけれど、案外身近なのかな

 

少し前に、大図書館でこの場所についての文献を漁ってみた。疎らに穴の空いた記憶がどうにか補填できないか、と。特に思い出すことは無かったけれど、結構色々なことを知ることができた

 

幻想郷。神様や妖怪、そして人が共に生きる最後の楽園...まだ夢の中の話ではないかと疑ってしまう

 

ただ、私がここにいる理由は何も分からなかった。結局のところ、人の私、そして妖精の私、どっちが本当の私なんだろ...

 

 

「やっほー、妖精長...どしたの?そんな難しい顔なんかして」

 

「ん、あーちゃん...ちょっと考え事をね。お仕事は大丈夫でしたか?」

 

「ばっちり!」

 

 

声をかけてきたのはあーちゃん。頼んでいた仕事について訊ねると、自信満々にサムズアップ。まあ、大丈夫みたいですね

 

 

「それにしても、妹様の支度っていつもメイド長か妖精長がやってなかったっけ?」

 

「...いや、ね。ちょっとメイド長に別の用を頼まれちゃって」

 

「ふーん...ま、いっか」

 

 

勘弁してほしい。あの一件から、フラン様の朝の支度は運良くメイド長のいる時だけだったから良かったけれど、今日はメイド長がお嬢様の、私がフラン様の支度をするように指示されたのだ

 

...これからもあーちゃんに頼もう、うん。精神衛生上それが良い

 

 

「それより、お嬢様の支度が済み次第出発ですから、ちゃんと準備してくださいね」

 

「分かったー!しーちゃんも連れてくねー!」

 

 

さてと、フラン様の支度が終わったとなると、後はお嬢様だけ。神社に向かう準備をするように、あーちゃんに言っておく。まあ、きーちゃんは食堂だろうし、しーちゃんのことはあーちゃんに任せて私も準備をしようか...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お嬢様の身支度を終え、今は館の戸締まりのチェックをしているところ。それにしても、今日は大丈夫かしら...

 

珍しく、館の者全員で参加することになった宴会。規模が大きいということもあり、一部の妖精メイドも連れて行くことになった

 

まずは妖精長。言うこと無し、元から連れて行きたいと思っていたしね。そして黄色い子。妖精長曰く、力になる、とのこと。あの子の推薦なら文句ないわね

 

不安なのは残りの二人。白い子はまだ良いけれど、問題は赤。妖精メイドの中でも一二を争うトラブルメーカー...胃薬は多めに持って行こうかしら

 

 

「あ、咲夜ー、おはよー!」

 

「妹様、おはようございます」

 

「いよいよだねー、宴会。私すっごく楽しみー!」

 

 

ちょうど戸締まりの確認が終わったところで、妹様に声をかけられた。宴会という催しが久しぶりなのもあり、とても楽しそうなのがひしひしと伝わってくる

 

ふと、窓に目をやる。夕日はほとんどその身体を山の向こうへと隠し、辺りも少し暗くなり始めているようだった

 

 

「もうすぐ出発ですね。玄関まで一緒に行きましょう、妹様」

 

「はーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、皆集まったようね」

 

 

そう確認をするのはお嬢様。玄関前のホールには、館に住む面々が勢揃い。妖精メイドが全員はいないけれど、皆さんがこうして一同に介しているのを見たのは始めてかもしれない

 

 

「お嬢様、準備のほうは概ね済みましたので、直ぐにでも出発できますわ」

 

「そう、ありがと咲夜。それじゃあ皆、行くわよ!」

 

「宴会なんていつぶりかしらね...ねぇ、こぁ」

 

「そうですね、前の宴会は確か...」

 

「良かったねー!美鈴、今日は一緒に行けるよー!」

 

「そうですね妹様。いやぁ、最近の宴会は留守番ばっかりでしたから...」

 

「宴会かぁ...あーちゃん凄い楽しみ!」

「たのしみー」

 

「二人とも~、今日はお手伝いですからね~」

 

 

思い思いに発せられた言葉達には違いは有れど、楽しみである、という感情はしっかり込もっていた。...あーちゃんは相変わらずのようだ。...まあ

 

 

「楽しみだなぁ...」

 

 

ちょっとだけ、あーちゃんに賛成...かな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...はぁ」

 

「ん?どーしたんだ霊夢、ため息なんてついて。只でさえお前にとって幸せなんて無いようなモンなんだから、大事にしとけよ?」

 

 

お酒の入った箱を降ろし、ため息を一つつく。横から軽口を叩いてくる魔理沙...うっさいわね

 

 

「それにしても、いったい何人呼んだのよアンタ」

 

「んー?目についた知り合い全員」

 

 

既に賑わいを見せている境内を見渡してそう聞く。...ホントに幻想郷中、魑魅魍魎のオールスターになりそうね。ま、皆がお酒やら食材やら色々持ってきてくれるみたいだし、お金は気にしなくて良いわね

 

 

「全員、お賽銭入れてくれないかしら...」

 

「おいおい、銭ゲバ巫女がはみ出てるぞー」

 

 

ホントにああ言えばこう言うわね...。そんな魔理沙が突然思い出したみたいに、ああ、そうだ、と切り出した

 

 

「そうそう、昨日買い出し帰りの妖夢にばったり会ってさ。一応声掛けといたぞ」

 

「げぇ」

 

 

さらっと、言い放った言葉に変な声が漏れてしまった。妖夢、ってことはアイツも来るじゃない。はぁ、今日も大変そうねぇ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宴会なんて久しぶりね~、ね、妖夢」

 

「...そうですね、幽々子様」

 

 





あーちゃん

赤いメイド服の妖精メイド。基本的にはサボり気質で、よくメイド長に怒られている。ただ、能力自体はそれなり。元気がよくお菓子好き

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9話 宴会と書いて〝たたかい〟と読む#2

それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

時間で言うと午後5時辺りを過ぎた頃。私たち、紅魔館の一同は宴会の開かれる神社へと向かっている真っ只中だ。フラン様やあーちゃんのはしゃぐ声や、談笑するお嬢様とメイド長と、それぞれ久々の、初めての宴会を楽しみにしているみたいだ

 

...いやいや、あくまでお手伝いなんだから、なんて言うのは野暮だろうか。まあ、作業が一区切りしたら、あーちゃん達には宴会を楽しんで貰おうと思っていたし、たまには労ってあげたいしね...

 

 

「やっほ、妖精長。楽しみだねー、宴会!」

 

「あ、フラン様。...そうですね、私は参加するのは初めてですけど...しっかりお手伝い、頑張りますね」

 

 

ぼんやりとそんなことを考えていると、フラン様に声をかけられた。私は宴会が初めてなので勿論楽しみではあるけれど、久々に参加するフラン様も、とても愉しげだ

 

 

「あ、そっかー...妖精長達はお仕事だもんね。残念」

 

「いえ、誰かの為にお手伝いするのは楽しいですし...好きですから」

 

「...今日は起こしてくれなかったね」

 

「うぐっ?!...いや、あの、め、メイド長に他の仕事を頼まれてですね...」

 

 

意識の外からの切り返しに動揺を隠せずわたわたする私。返す言葉もどもり、簡素な言い訳しか出てこない。いわゆるジト目で睨まれてうまく言い返せない...

 

 

「お、やっほーフラン。これから神社にいくのかー?」

 

「あ、チルノちゃん!そうだよー。チルノちゃん達も?」

 

「はい、魔理沙さんにお呼ばれして...こんばんは、フランさん!」

 

「大ちゃんこんばんはー!」

 

 

フラン様を呼ぶ声。目をやると、青髪の妖精さんと緑髪の妖精さんがふわふわと飛んでいた。フラン様の応答から、良く遊んでいるというお話を聞くチルノさんと大妖精さんだろう

 

 

「ん?フラン、この妖精メイドの子はー?初めて見るけど...」

 

「あれ?...あ、そっか。皆とは初めましてだねー」

 

「そうですね...初めまして、大妖精です。皆からは大ちゃんって呼ばれてます」

 

「へ...あ、えーと初めまして。私は妖精長といいます。フラン様がいつもお世話になっております」

 

「あたいはチルノ!よろしくね!」

 

 

フラン様から聞いた通り、おしとやかな大妖精さんにおてんばなチルノさん、自己紹介だけでもその片鱗が伺える。二人とも頭にリボンを着けているのが印象的だ

 

...名前に大がつく、ということは凄い妖精さんなんだろうか。全ての妖精の母、みたいな。...流石にそんなことは無いだろうか

 

 

「妖精長ね、じゃあ...妖ちゃん!」

 

「はえ?」

 

「よろしくお願いしますね、妖ちゃん!」

 

「へー、良いね。妖ちゃん、私もそう呼ぼっと!」

 

「え、ちょっ、フラン様!?」

 

 

自己紹介もおしまい、と思った矢先、チルノさんからそう言われて気の抜けたような声が出てしまった。何か言い返す間もなく、大妖精さんがそう続けて言う。

 

なんというか、ネーミングセンスというか。まあ、赤いからあーちゃん!なんて言ってた私が言えることじゃないけれど...ってフラン様まで!

 

 

「あーちゃんもいいと思うー!よーちゃん!」

「よーちゃん」

 

「可愛らしいですね~、よーちゃん」

 

 

続けざまにあーちゃんとしーちゃん、そしてきーちゃんまでも、賛成!と言わんばかりにそう言ってくる。なんで皆まで...

 

 

「妖精長ってなんか可愛くないし、妖ちゃんのほうがよっぽど良いと思うよ!」

 

「フ、フラン様ぁ...」

 

「流石はあたい!ナイスあいであね!」

 

「えへへ、お揃いですね」

 

 

新しく妖ちゃん、またはよーちゃんに呼び名が決まってしまった。...自分の名前、考えとけば良かったなぁ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道中、霧の湖の近くでよくフランと遊んでいる妖精達と出会った。どうやら妖精長のことを気に入ったらしく、フランや妖精メイド達と愉しげに話しているようだ。

 

 

「なんとも微笑ましいわね、ねぇ咲夜」

 

「よー、よーちゃん...ッハ!?...そ、そうですねお嬢様」

 

 

...可愛いなこの従者は、まったく。なんでそんな乙女全開の面を鉄仮面半開きで隠した気になってるんだ。そりゃあ側にも置きたくなる

 

 

「...レミィ、あんまりのろけオーラは出さないで頂戴」

 

「あら、ごめんねパチェ。...それより聞いたわよ、魔理沙にお姫様抱っこされて気を失っちゃったんでしょ?ホントに奥手ねぇ...そんなだと、人形使いやら紅白やらに取られちゃうわよ?」

 

「あ、ちょパチュリー様?え、いや帰るって、何言って...あ、ちょっとパチュリー様ぁー!!」

 

 

顔を真っ赤にしてそう言い踵を返すパチェとそれを引き戻そうとする小悪魔...コイツも脈ありだろうか。くくっ、親友と言えど意地悪するのが楽しいのは吸血鬼の性だろうか

 

 

「あぁ、ちなみにソイツから聞いたのよ」

 

 

あ、小悪魔が燃えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...はぁ」

 

「あら、どうしたの~妖夢?ため息なんかついちゃって」

 

 

主の数歩後ろ足について歩く私は一つ息を吐いた。悪戯っぽくそう聞いてくる幽々子様には、貴女のせいです、なんて言えるはずもなく、本音をごくりと飲み下した

 

...憂鬱である。宴会に行く度にそうだ。お家ではそこまで大量に食べる訳ではない...それでも普通の5~6倍は召し上がるのだけれど

 

催し物やら宴会やらになるとタガが外れてしまうのだろうか、いつもの比ではない。毎度毎度、宴会に甚大な被害を与えてしまうのだ

 

もう一度、息を吐く。ほんとに霊夢さんに申し訳ないし他の参加者の方々にも謝ることになるしでもう...宴会が嫌いになりそうだ

 

霊体でいくら食べても太らないのを良いことにめちゃくちゃに食べるし...この前紫様が遊びにいらしたときには体重を気にする紫様をおちょくっていたし...酷くお庭を荒らされてしまった、お二人の喧嘩は規模が...

 

 

「お酒なんて久々だわ~」

 

 

そう、それだ。ご飯だけならまだしも、お酒もとんでもない量を飲まれるのだ。鬼と飲み比べされるなんてもう、胃がもたない。やめて欲しい

 

半霊が私を慰めるように顔の付近をふよふよと漂っている。...抱き締めておこう、私の一部だけど...。それにしても、と幽々子様が続ける

 

 

「宴会なんて久しぶりね~、ね、妖夢」

 

「...そうですね、幽々子様」

 

 

...うどんげさんに胃薬貰おう

 

 

 





きーちゃん

黄色いメイド服の妖精メイド。お昼寝好きでよく門番さんとすやすや寝息を立てていることも...お料理がとてつもなく得意で、よくお菓子を作ったりしている

ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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10話 宴会と書いて〝たたかい〟と読む#3

それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「さあ、着いたわよ!」

 

「ここが...博麗神社、ですか」

 

 

気の遠くなるような長く続く石階段を登りきり、お嬢様がそう告げる。...というかこんな所に神社って、参拝客はちゃんと来ているんだろうか...周りでは多種多様、様々な人妖が入り乱れ、宴会を楽しんでいる様子が伺える。

 

準備の手伝いのために早めに来た筈なんだけれど...境内や神社の中は、もう既にかなりの賑わいを見せている。ちなみにチルノさん達はお知り合いがいたのか、直ぐにすっ飛んでいってしまった、奔放というかなんというか。

 

 

「お!お前ら良く来たな、歓迎するぜ」

 

「あ、魔理沙ー!やっほー!」

 

 

そんな中で、少し離れたところから聞き覚えのある声が聞こえた。そこには見慣れた白黒衣装にとんがり帽子の魔理沙さんの姿があった。フラン様が呼び掛けに気づいたのか、手をブンブンと振って声をあげている。

 

 

「おう、というか全員来てるじゃんか。実は初めてじゃないのか?」

 

「そうね、折角久々に宴会があるから、とお嬢様もおっしゃっていらしたから...それより、宴会が始まるのはもう少し夜が更けてからじゃなかったかしら?」

 

「あはは...それなんだがなー...」

 

 

こちらに来た魔理沙さんがそんなことを言う中、メイド長が疑問に思っていたことを質問した。渇いた笑いを一つ挟んで答えが返ってくる。

 

 

「久々だからって、待ちきれなかった奴らが勝手におっぱじめちまってなー。気持ちはわからんでもないが...」

 

「...ホントにそういう面子が多いのね...」

 

「だろー?乾杯の音頭ぐらい主催の私にさせろっての。ろくに肴もできて無いのに飲みやがって、たくよー」

 

 

苦言を呈するパチュリー様に愚痴をこぼすように返す魔理沙さん。空きっ腹に酒、というのは人妖問わずに身体に悪そうだけれど...。さて、私達の仕事は、と

 

 

「そんなわけで咲夜、いつもみたいに頼めるか?」

 

「えぇ、今日は頼もしい子達も連れて来てるからね」

 

「お料理なら任せてください~、モノクロさ~ん」

 

「おおっ、って美鈴、お前なにやってんだよ...」

 

「いやぁ...乗っかられちゃって...」

 

「特等席です~」

 

 

勿論料理のお手伝いだ。頼もしい子達、と言われると私としては少し荷が重いけれど。なんて考えているとその言葉に続くようにきーちゃんが...何故か門番さんに肩車されてそう答えていた。

 

 

「大丈夫なのか?妖精メイドって...」

 

「大丈夫よ、なんなら能力抜きなら私より動ける子だっているから。ね、よー...精長」

 

「へ?いや、えっと...」

 

「って、お前も来てたのか青いの...コイツがお前より...?」

 

 

はい?私ですか?メイド長。...というか魔理沙さん、青いのってなんですか青いのって、もう何回も会ってるでしょうが。

 

 

「妖精長です、魔理沙さん。今日はお手伝いさせてもらいますので、よろしくお願いしますね」

 

「お、おう...よろしくな。まあ、咲夜が言うんなら大丈夫か。それじゃ、頼んだぜ」

 

「じゃーねー、魔理沙!後で飲もうねー!」

 

 

そう言い残し他の参加者の方々がいる方へ向かう魔理沙さんの遠ざかる背中に、声を掛けるフラン様。ひらひらと手を振っているところから、聞こえているようだ。フラン様も嬉しそうに笑っている。

 

 

「それじゃあ美鈴、後の事はよろしくね」

 

「はい!任せてください。そんなわけですから...」

 

「ほら、きーちゃんもそろそろ降りて来てください。美鈴さんも困ってますよ」

 

「...は~い、お邪魔しました~、門番さん」

 

 

少し名残惜しそうにぱたぱたと降りてくるきーちゃん。おそらく、あの雨の日からかきーちゃんは美鈴さんによくなついているようだった。元から一緒にお昼寝をしたりする程には仲良しだったみたいだけど。えーと、あとは...

 

 

「重ーい!門番さん変わってー!」

「かわってー」

 

「ありゃりゃ...任せてください、よっ、と」

 

 

黒こげになった小悪魔さんを担いだあーちゃんとしーちゃん。まだ意識が戻っていないらしく、美鈴さんに代わってもらっている。...パチュリー様は怒らせてはいけない、よし、覚えた。そのままメイド長と私達妖精メイドを残し、お嬢様達は宴会の喧騒に紛れていった。

 

 

「ん...あれ?妖精長?」

 

 

そんなことを考えていると、そう呼ぶ声が聞こえた。あれ?よーちゃん呼びをしてこないうえに、この声は...

 

 

「って、むーちゃん?!」

 

「よっ。妖精長達も宴会きてたんだね、館の仕事は済んだのかい?」

 

 

むーちゃん?!あれ、なんでこんな所に...ってあらららら??

 

 

「おいむーちゃん、どうかしたのか...って妖精長」

 

「くーちゃんまで?!」

 

 

一人ならず二人まで...いや待てよ、もしかして。周りを見渡す。...あぁ、悪い予感は的中した。少し遠くに、他の妖精メイド達を見つけてしまった。神社にて全員集合。いや、なんで?

 

 

「むーちゃんくーちゃん、宴会のこと何処で?」

 

 

怪しいのはあーちゃんとしーちゃん。大人しく着いてきてくれれば御の字とおもっていたけれど、あの二人ならやりかねない。そう思いつつも、目の前の二人に問いかける。

 

 

「んー?あぁ、今日の朝休暇を貰っただろ?そんで館から出る時に門番さんがさ。な、くーちゃん」

 

「ん、オレも一緒だったよ」

 

「いやー、宴会休暇ってやつだね。メイド長も怖いだけじゃ無いんだなって、あたし見直しちゃったよ」

 

 

あはは、と笑いながらそう返された。美鈴さんの優しさが今はとても...いや、やめておこう。1割どころか1分、1厘も悪くないんだから、うん。

 

...あーちゃんとしーちゃんに目をやる。

 

 

「じゃ、じゃあよーちゃ...妖精長。私達はこの辺で...さらばっ!」

「さらばー」

 

「ちょっ?!こら待て!って、あー...」

 

 

二人の逃げた先を見てそんな声が漏れてしまった。...こんなこと言うのもあれだけれど、可哀想である。

 

 

「...あら、お手伝い...するんでしょ?」

 

「いや、あの......ひゃぃ...」

「ひゃぃ」

 

 

メイド長のドスの利いた声はもう、ナイフより怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...やっぱり怖いな...」

 

「しー。また刺されるぞ、むーちゃん」

 

 

 




しーちゃん

白いメイド服を着た妖精メイド。普段からぼーっとしてたり、他の妖精メイドの言動を真似たりと少し流されやすい性格。素直な子

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11話 厨房と書いて〝せんじょう〟と読む#1

それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

メイド長に着いていく私達妖精メイド御一行。肩を落としているあーちゃんがきーちゃんに慰められているけれど...自分から手伝うって言った手前、今からお休み欲しいなんて、そうは問屋が卸さない...といったところだろうか。まあ、脳天にナイフが刺さっていないだけ温情はあったんだろう

 

 

「ここね...いつもよりかなり気合い入ってるみたいね」

 

「わ~、凄いですね~!」

 

 

慣れたように神社の裏手に回るメイド長に引き続き着いていくと、そこには野晒しとはいえ、かなりの規模の厨房が広がっていた。はえー...軽く見ただけでも紅魔館の3倍近い設備の量だ。きーちゃんも目を輝かせている

 

 

「お、咲夜か。いやぁ、毎度来てくれて助かるよ...と、そこの妖精達は?」

 

「あら、藍、もう来てたのね。今日はこの子達にも手伝ってもらうのよ」

 

 

その光景にキョロキョロと目を泳がせていると、メイド長を呼ぶ知らない声がした。見るとそこには...えーっと、ひぃ、ふぅ、みぃ...九つの尻尾を携えた女性がメイド長と親しげに話していた。お名前は、藍さんと言うらしい

 

 

「そうか...まあ、人手は多いに越したことはないしな。宜しく頼むよ、妖精さん」

 

「は~い、お任せください~、お稲荷さん」

「おいなりさん」

 

「おいなっ?!...私はそんな大層なものじゃあないよ」

 

 

ふふっと笑うメイド長。どうやら狐の神様ではなく、狐の妖怪さん...妖狐さんらしい。あ、尻尾が揺れてる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うし、挨拶回りもこんなもんでいいだろ。私はその辺の盃を掻っ払い、愛用の箒に跨がり最後の仕事をすべく、神社の少し上に飛んだ。んー、この辺でいいだろう。すーっと、息を飲み込む

 

 

「お前らー!!楽しんでるかー!!」

 

 

反応した妖怪やらなんやらから伝播し、そこいら中の参加者が此方に目を向けている。何が始まるのやらとわくわくしているような期待の眼差しや、今飲んでるとこなのに、なんて視線もある。...いやぁ、それにしても良く集めたもんだな、私。眼下に見える沢山の人妖に、染々とそう思う

 

 

「楽しく飲んでもらってるとこ悪いけど、皆大事なこと忘れてないかー!?」

 

 

たんまりと酒の入った盃を掲げる。この時点でなんのことか分かった奴らは、呼応するように手元にある酒の入ったコップやらなんやらを頭上に掲げている。へっ、ノリの良い奴らばっかで助かるな

 

 

「大宴会!最後まで楽しんでいってくれ!!乾杯!!」

 

「「「「「かんぱーい!!!」」」」」

 

 

ぐいい、と盃を一気に呷る。ぷはぁ!宴会、これにてスタートだぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

増援として頼もしい咲夜の到着を内心喜んでいると、境内の方が盛り上がっているのか、歓声にも近い声が聞こえてきた。ふと見上げた本殿の上空には...なるほど、正式に宴会開始、という訳だろう

 

 

「それじゃあ、そろそろ私達も動くとしようか」

 

「任せてください~」

「くださいー」

 

「ほら、あーちゃんも行きますよ」

 

「...はーい、妖精長」

 

 

その言葉に早々に動いていったのは紅魔館の妖精たち。残されたのは咲夜と私のみ

 

 

「ふぅ...なぁ、ホントに大丈夫なのか?あの妖精たちは」

 

「あら、貴女もそう思うのね...心配いらないわよ」

 

 

そうは言うけれど...妖精メイド、と聞くとほとんど役に立たないだの、いない方がマシだの、従者の集まりで呑んだ時に言っていたのは咲夜なんだがなぁ

 

 

「それより、今日は...」

 

「!...来られるらしい、魔理沙から聞いたよ」

 

「...そう。今日も忙しくなるわね...はぁ」

 

 

まだ到着はしていないだろうが、今日の宴会にはあの方も来られる運びになっている。今日は生憎紫様も私用で来られないので、ストッパーと成りうる方もいない...

 

私は腕捲りをし、まな板と食材たちの前に立つ。ひとまずは私たちの役目を果たそう。後は宴会が無事に終わりを迎えられることを祈るばかりだ...はぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーちゃんとしーちゃんは出来上がったのからどんどん運んじゃって下さい」

 

「りょーかい、よーちゃん!いってきまーす!」

「いってきまーす」

 

「腕が鳴ります~」

 

 

私たち妖精メイドの一行はとりあえず作業に取りかかることにした。私ときーちゃんが調理、完成したらあーちゃんしーちゃんの出番だ。因みにこの立派な厨房は河童さんたちが用意してくださったらしい

 

食材に関しては神社の裏手に沢山、山積みにされている。足を運んでいる宴会客の方々が持ってきてくれているそうだ...作りすぎの心配は恐らく要らないだろう

 

 

「あーちゃんもやる気になってくれて良かったですね~」

 

「そうですね。まぁ、いつも頑張ってますし...」

 

 

メイド長にきつくお説教されたあーちゃんは、終始半べそかいてたけれど、一段落したら楽しんできて良いよ、という旨を伝えたところあの通り。いつもああやってくれないだろうか、全く

 

 

「それより、私たちは私たちのやることをやっちゃいましょう」

 

「そうですね~。あ、これ持ってっちゃいますね~」

 

 

へ?ちょ、もう出来たの?...手、動かそっかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...はぁ」

 

「あら、藍、そんな憂鬱そうにしてどうしちゃったのかしら」

 

 

そう、今日である。魔理沙が企てた大宴会、無論私も招待されたし、何なら手伝いに呼ばれているくらいだ。まぁそれくらいなら良いとして...今日は来るんだろうか、あの方は

 

 

「そう言えば今日みたいね、大宴会。あーん、行けないのは残念ね、もうっ」

 

「...そうですか」

 

 

私用があり出向くことができない我が主が、くねくねしながらそんなことを仰っている。子は親を選べず、式は主を...選んだわ、そういや。後悔の念で押し潰されてしまいそうだ

 

 

「ま、今日は大丈夫だと思うわよ。紅魔館の従者たちも来るんでしょう?」

 

「咲夜、ですか?まあ、そうですけど...」

 

「...ふふっ、そうね。ま、頑張りなさいな」

 

 

他の従者も手伝ってくれるとは言え、足が重い...一段落したら、やけ酒だな、決めたぞ。潰れるまで飲んでやる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて、考えてたのはさっきまでだ。今は目の前で起こっている事象に、空いた口が塞がらない状態だ。...ホントなのか?...これ

 

 

「言ったでしょ?心配はいらないって。ほら手、動いてないわよ」

 

「は!...いや、すまない。ちょっとのみ込めなくてな...」

 

 

そこにはせっせと料理を作り、どんどんと運んでいく妖精たちの姿があった。悪い評判しか聞かなかったあの妖精メイドたちが?...いや、これは喜ぶべきことだろう。すでにいくつもの料理を終えているようで、咲夜の言っていることも間違いではないようだ

 

 

「魔理沙にも言ったけれど、能力抜きなら私より動けるわよ、あの子」

 

「!...冗談ではないみたいだな。見れば分かるよ、まだ少し信じれないけれど」

 

 

あの青い子と黄色い子、手際がとんでもない...私も家事には自信のある部類だと思っていたのだが、あれは少し桁が違う

 

 

「これなら、あの方が来ても問題ないかもな」

 

「そうね。まぁそれでも宴会の規模が規模だから、急ぎましょう」

 

「あぁ、そうだな。妖精たちにも負けてられんな」

 

 

紫様の言うとおり、今回は大丈夫かもしれないな...美味しい酒が飲めそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........」

 

「じー......」

 

 

きーちゃんも料理を出しに行って残ったのは私一人。変わらず調理を続けている。続けているんだけれど...

 

 

「.........」

 

「じー......」

 

 

...なんかいる。出来るだけ見ないようにしているけれど...調理している台からひょっこりと顔を出して、こちらを覗き込んでいる

 

 

「...んー...」

 

「じー......」

 

 

何か食べたいんだろうか...恐らくだけどそんな気がする。目が向けられているのは今焼いている卵焼き、熱い視線で焦げてしまいそうだ。うーん...どうしたものか

 

 

「...あ、あの」

 

「!さっ...ひょこっ?...」

 

 

隠れるようにしゃがみこみ、台の下に消えた...と思ったら、おそるおそる頭を出してきた。ちなみにこの音は全部口で言っている...

 

私は焼き上がった卵焼きを3つほど切り分け、小皿に盛る。お箸お箸、と...これで大丈夫かな

 

 

「これ、どうぞ。焼きたてですから、美味しいですよ」

 

「...貰って良いのかしら~?」

 

「はい、冷めない内にどうぞ」

 

 

すくっと立ち上がったその女性は、なんというか、ふわふわしているような...どこかきーちゃんに似ている気がする。私が小皿を手渡すと、その人はお礼を言ってどこかに行ってしまった

 

 

「よーちゃーん、出来たのあるー?」

 

「あ、じゃあこれお願いしますね」

 

 

さて、どんどん作っていこうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、幽々子様!勝手にどこ行って...ってそれどうしたんですか?」

 

「ん~?優しい子から貰ったのよ~。あむっ、んー、美味し~い♪」

 

「もう...ご挨拶行きますよ」

 

 




むーちゃん

紫色のメイド服を着た妖精メイド。姉御肌で頼りになるが、手先がかなり不器用で皿や窓、花瓶を割ったりなんかもしばしば...

ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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12話 厨房と書いて〝せんじょう〟と読む#2

それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「へい、おまちー!」

「おまちー」

 

「ん、そこ置いといて良いわよ」

 

 

神社の縁側で賑やかな境内を肴に一杯やっていると、料理を両手に携えた妖精がやってきた。目配せで座っている隣の方にそれを置いてもらい、ぐいぃと升を空にする

 

妖精はそのまま次の仕事でもあるらしく、すたこらと裏手の厨房へと走っていった。こんな無礼講でもお仕事なんて、大変ねぇ...

 

 

「ん、ほらよ」

 

「あら、悪いわね」

 

 

空になった升を見かねたのか、隣で呑んでいた呑兵衛が一升瓶を片手に溢れんばかりのお酒を注いでくる。おっとっと...いくら貰い物とは言えど、溢すなんて勿体ないことはできない。...今、貧乏性って言ったヤツ、覚えてなさい

 

 

「こんなところでしんみり呑んでるだなんて、らしくないんじゃないの?アンタ」

 

「んー?いいじゃん、たまにはさ」

 

 

頭部の両脇に捻れた角を引っ提げた、一見少女のような鬼はそう言うと、自前の瓢箪を数度呷る。いつもなら天狗や河童なんかに絡んで馬鹿騒ぎしてるのに...珍しいこともあるのね

 

 

「ぷはぁ!...いやぁ、今日は賑やかだねぇ」

 

「...そうね。最近は異変も無かったし、こうやって皆でお酒呑んで、どんちゃんするのも久しぶりかしらね」

 

 

平和が一番とは言うものの、時折こういった刺激がないと少しばかり寂しいと思うようになった。...自分で言ってなんだけど、ちょっと婆くさいかしら

 

 

「そうだね...ん」

 

「ん?...あぁ、はいはい」

 

 

こちらに突き出された瓢箪に少し困惑するも、直ぐに何がしたいのかは分かった。カッ、と乾いた小さな音は、宴会の喧騒に紛れて消えていった...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、すみません遅れました!」

 

「おお、妖夢か。...ということは」

 

「ええ。ここからが本番ね...」

 

 

手伝いとして何人かが厨房へと出入りする中、やってきたのは妖夢。料理に関しては、まぁ言わずもがな腕の立つ方だろう。その援軍に喜ぶのも束の間、そう、従者が居れば主もまた、この神社に居るということ

 

どうやら咲夜も分かっているようで、腕捲りをし今一度気合いを入れているようだ。今までも数々の『宴会』(たたかい)を乗り越えてきたのだ、私たちならやれるさ。...それに

 

 

「あーちゃん、しーちゃん、そこのやつもう出しちゃっていいですよ」

 

「あ、これも持ってっちゃってください~」

 

「よいしょっ、と。いってきまーす!」

「きまーす」

 

 

今日はあの子たちもいる。未だに料理を作るその手は止まることを知らず、皿の上は次々に酒の肴で溢れていく。咲夜、連れて来てくれてホントにありがとう...

 

とは言え、妖精たちに頼り切りという訳にもいかない。少しばかり、包丁を握る手に力が入る。一段落したら、あの子たちとも一杯やりたいものだな...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...おかしいですね」

 

「?どうかしたんですか~、妖精長~?」

 

 

ふと、疑問が一つ浮かび上がり、その言葉が口を突いて出た...おかしい。かれこれ一時間程度は手を休めることなく、調理を進めている。それなのに...

 

 

「よーちゃーん、次はー?」

「つぎー」

 

 

もう次、ですか。空っぽになったお皿を携えて、二人が帰ってくる。明らかに往復のペースは落ちていない...いや、むしろ少しばかり速くなっているようにも見える程だ

 

確かに境内には沢山の...それこそ100や200ではきかないような数の宴会客の皆さんはいらっしゃった。それでも、もうとっくに皆さんに行き渡るくらいの量は作った筈なんだけれど...

 

 

「それにしても、凄いねー。お客さん増えるばっかりだよー」

 

「そうですね~、あ、それとあとこれ、お願いしますね~」

 

「えー、流石にそんないっぺんに持てないって...よーちゃんも手伝ってよー!」

 

「...分かりましたよ、一緒に行きましょうか」

 

 

まあ、時間が経つにつれ人が増えるのはなんらおかしいことでも無いか。さて、厨房に関してはやっぱりきーちゃんに任せた方が良さそうだし、ちょうど料理も作り終わったことだし、私も運びに行こうか...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、まだ置けてない所は...」

 

「あ、妖精のメイドさ~ん。お料理、お願いできるかしら~?」

 

 

あーちゃんとは一度別れ、料理を両手にまだ行き届いていない場所を探す。すると、少し遠くの方からおそらく私を呼ぶ声が聞こえた。...なんか聞き覚えのあるような

 

声のする方へ目を向けると、人混みの合間から手招きをしているのが見えた。小柄な身体を活かし、私は人混みをかき分けて目的の場所へと着いた

 

 

「うふふ~、ありがとう妖精さん...あら、また会ったわね~」

 

「お待たせしました...って、貴女はさっきの...」

 

 

声の主は、さっき厨房で出会ったどこか不思議な雰囲気の女性だった。どうやらお一人で飲まれているらしく、周りには空になったお皿がいくつか置かれている

 

 

「さっきはありがとうね~。卵焼き、美味しかったわ~」

 

「あ、ありがとうございます。お口に合って良かったです」

 

「それ、いただいても良いかしら~?」

 

「はい、それではこちらに置いておきますね」

 

 

味付けが少し心配だったけど、それなら良かった。私はそう言われると手元の料理を置き、入れ換えるようにまっさらになったお皿たちを手に持った。よいしょっと

 

 

「ん~、美味しいわ~」

 

「それは良かったで「おかわりってあるのかしら~」...はい?」

 

 

味の感想に感謝を返そうと口を開くも、その言葉と、女性の手に持っている空のお皿に言葉は遮られてしまった。...あれ、さっき持ってきたばかりの筈なんだけど。まだ空のお皿が残っていたのだろうか...

 

否、違う。厨房でおかしい、と口走ったのは間違いではなかったのだろう。ここに来て、この場にて、違和感の正体が分かった気がする。女性の身体で隠れて見えない位置に何かあるのに気づく

 

 

「......直ぐ、ご用意いたしますね...」

 

「ん~、たのしみだわ~」

 

 

そこにあったのは皿の山。恐らく、いや確実にこの女性が平らげたであろう料理達の成れの果て。直感した...この方を『満腹にする』(倒す)まで、この『宴会』(たたかい)は終わらないだろう、と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ...お手並み拝見、といこうかしら...」

 

 




くーちゃん

黒いメイド服を着た妖精メイド。余り目立ってはいないけれど、妖精長を除けば一番のしっかり者で、口調は少し男の子っぽい

ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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13話 厨房と書いて〝せんじょう〟と読む#3

それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

内心、私は戦慄していた。お酒の肴とは言え、結構しっかりとした料理を作っていた筈なんですけど、目の前であんな、わんこそばみたく胃の中へ落とし込まれて行くのはちょっとした衝撃映像ですね...

 

 

「おかえりー...?どしたの、よーちゃん。怖い顔して」

 

「...あーちゃん。まだしばらく頑張ってもらいますよ」

 

「う、うん...?」

 

 

あの桁外れのペース、きーちゃんにメイド長や藍さん、加えて他のお手伝いの方々が居るとは言え、流石にもう厨房から離れるのはダメだろう。おそらく供給が間に合わなくなってしまう

 

 

「きーちゃんも、お願いしますね」

 

「?...はい~、お任せください~」

 

 

一つ、深呼吸をする。...ふぅ...さ、ここからが本番ですかね。元ホテルマンとして、来られたお客様には意地でも笑顔で帰ってもらいますからね...!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおっ...相変わらずスゲェなぁ...」

 

「んふー...あら、魔理沙じゃない~。久しぶりね~」

 

 

少しばかりざわついている場所があるなぁ...と足を運んでみると、そこには次から次へと皿を空にしていく幽々子の姿があった。すでにかなりの量を平らげているらしく、周りには山積みになった皿がいくつかの搭を形作っていた。ホント良く食うなぁ...コイツ

 

 

「ん~、今日は一段とお料理が美味しい気がするわ~」

 

「そいつぁ良かったな...」

 

 

味わって食ってんのか?なんて疑問が沸いてくるものの、酒と一緒に飲み下す。あれ、そう言えば...と、今一度周りを見渡してみると酒瓶は見つからなかった。...コイツ、まさか

 

 

「お前...まさか瓶ごと...」

 

「むー、流石に失礼過ぎないかしら~?」

 

 

毒を食らわば皿まで、酒を呑むなら瓶まで...なんてことは無いらしい。いやだって、お前ならやりかねないじゃんか。

 

 

「空きっ腹にお酒は良くないのよ~?あーむっ」

 

「いつになったら膨れんだよ...」

 

 

そんなことを言いながら、料理を食べ進める幽々子。どうやらまだ酒には手を付けてないらしい。言われて見れば、今までの宴会もそうだったっけか...

 

 

「...ま、ほどほどに頼むぜ」

 

「んー、善処するわ~」

 

 

かー、妖夢に軽々しく声掛けたのは失敗だったか...。まぁでも呼ばなきゃ後が怖いしな。善処ねぇ...せめて食べる手を止めて言って欲しいもんだな。...厨房の方は大丈夫か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...す、凄い...」

 

「ははっ、私も似たような反応だったよ」

 

 

幽々子様と神社まで訪れ、直ぐに厨房の方へ足を運んだ私。今は料理をする手も殆ど止まってしまい、その厨房の一画から目が離せないでいる...。眼にも留まらぬ包丁捌き、平行していくつもの作業をこなすその姿は、もはや芸術的と言っても差し支え無いように、私の目に映っていた

 

 

「ら、藍さん。あの子...いえ、あの方々は...」

 

「あぁ、あの子たちは紅魔館で働いてる妖精メイドだそうだ。そこのお皿、取ってくれるか?」

 

「あ、はい...でも、あそこの妖精メイドさんは確か...」

 

「役に立たない、か?ははっ、ここまで同じだと笑えるな。ん、助かるよ」

 

 

お皿の受け渡しをしながらそんな会話をする。でも、咲夜さんから良く聞いていたお話とは違うけれど...と思うも、藍さんの言葉が正しいというのは、妖精メイドさんの料理を作る手際の良さが物語っている

 

 

「今日は紫様がいないしどうなることかと思ったが、なんとかなりそうだ」

 

「え、そうだったんですか!?」

 

「ほら二人とも、殆ど手が止まってるわよ」

 

「あぁ、すまんすまん...それじゃ、これ持って行くよ」

 

「す、すみません!私も行きます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来ました、急いで持って行ってください!」

 

「わかったー!任せてー!」

「まかせてー」

 

 

料理を作る手は止めず、少しばかり乱暴に指示を飛ばす。申し訳ないけれど、そこまで気を回す余裕も頭のキャパも今は無いんですよね...

 

どこかで火がついてしまったのか、お客様をお待たせする、という行為を本能が嫌う。その想いは手際にも影響しているのか、今までの仕事の中でも一、二を争う集中っぷりだと自分でも肌に感じている

 

きーちゃんは勿論のこと、あーちゃんとしーちゃんの二人も頑張ってくれている。それでも、回転率はそこまで良くはなっていない。流石に皆も、長い時間働き詰めで疲労の色が見え隠れし始めているようだ...

 

 

「妖精長、これ運んでも大丈夫?」

 

「はい!どんどん運んで...ってあれ?」

 

 

その声に呼応するも、直ぐに違和感に気付き作業の手が止まる。あーちゃんもしーちゃんも、いましがた料理を手にして走り出していったのに...

 

 

「...くーちゃん」

 

「手伝うよ、妖精長」

 

 

声の主はくーちゃんだった...しかも、それだけじゃない

 

 

「ん、お皿洗いだとか水商売は私に任せて...」

 

「そーちゃんそれじゃ語弊がありますよぅ!それを言うなら水仕事ですぅ!」

 

「それじゃ、ボクこれ持ってっちゃうねー。一緒に行こ、はーちゃん」

 

「......」コクン

 

 

そーちゃんにみーちゃん、おーちゃんとはーちゃんまで...

 

 

「皆も...でも、どうして?」

 

「あーちゃんたちが頑張って走り回ってるの見ちゃってさ......それにさ」

 

「...?」

 

「みーんな、大事な同僚だから、ね」

 

 

!...もしかしたら、皆じゃ足手まといになるかもしれない、なんて考えてしまっていた過去の自分をぶん殴ってやりたい気分だ。...でも今はそんな暇はない、だから

 

 

「ふぬっ!」ぱしっ

 

「ちょっ、妖精長?!何を...」

 

「...よし、気合い入った!くーちゃん、ありがとね」

 

「...うん、一緒に頑張ろう」

 

 

両の頬を挟むように両手で叩く。...よし、こっからはホントに本気だ。もう、倒れるまで食べさせてあげますからね...!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー...時間も良いぐらいかな。よっ、と」

 

「あら、もう帰っちゃうの?らしくないじゃない」

 

 

縁側から腰を上げる萃香に声を掛ける。もう結構夜も更けて良い時間だけど...最後まで飲んでいかないなんてらしくないわね

 

 

「んー?いんや、ちょっとばかし頼まれ事があってね。まだ帰りゃしないさ」

 

「ふーん...そ。帰るなら一言くらい言ってからにしなさいよ」

 

「あいよ、そんじゃまた」

 

「ん...」

 

 

そう言うと萃香はまだ開けていない一升瓶と空の盃を一つ持って、宴会客の合間を抜けて行った。しばらくしてその背中は見えなくなる

 

 

「頼まれ事、ねぇ...」

 

 

静かになった縁側で一人呟く。ふと、自分の持つ盃の中に、夜空が写っているのが目に入る

 

 

「あら...月見酒とでも、洒落混もうかしら...」

 

 

どこか紫がかった月が、こちらを見下ろしていた...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くかー...はっ!...ありゃ、くーちゃんたちは...?」

 

 




そーちゃん

空色のメイド服を着た妖精メイド。少し間の抜けた言動がある。お皿洗いや洗濯物など、水仕事が得意...けど、料理のウデは絶望的。いわゆる暗黒物質を産み出してしまう

ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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14話 厨房と書いて〝せんじょう〟と読む#4

はい、14話になります。番外編挟んで遅くなりましたが、これにて宴会編は終了ですね。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「おーおー、まーた派手にやってるねぇ...」

 

「むぐむぐ、んくっ...あら、萃香じゃな~い。貴女も一緒にどうかしら~、美味しいわよ~?」

 

「いや、もう空じゃんかその皿...」

 

 

人だかりの出来ている境内の一画。積み重なった皿に囲まれ、冥界の女主人は口元を汚しながら人懐っこく冗談を口にする。紫のやつと一緒で、結構長い付き合いになるけど...まぁ、いつも通りと言うかなんと言うか...

 

 

「今日は紫は来てないのね~...お料理美味しいのに残念だわ~、持って帰りたいくらいね~。あーむっ、ん~」

 

「そうさねぇ...どこでなにやってんだか」

 

 

そんな会話をしながら、空の月を見上げる。ったく、何が目的なんだか...まぁ、別に何でも良いけどね。そうそう、それよりも、だ

 

 

「よっ、と。そろそろどうだい?紫も居ないし、一杯付き合っておくれよ」

 

「ん~?...そうね~、ちょうどお腹も膨れたところだし...良いわよ~、一緒に飲みましょ~」

 

 

どんっと、持ってきた一升瓶を置き、幽々子の対面に座る。へぇ...腹が膨れた、ねぇ。実は初めて聞くセリフなんじゃないか?ま、飲むんなら何だっていいか。さてと、今夜は良い酒が飲めそうだ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉ、なんだこれ...」

 

 

幽々子の食いっぷりで心配になり、厨房の様子でも...と思って見にきたんだが、これは...

 

 

「どいてー!モノクロさん!」

「どいてー」

 

「うわっと!...今のは確か...」

 

 

厨房の一画を見ている中で、私の両脇を走り去って行ったのは紅魔館の...いや、それよりもだ

 

 

「そーちゃん洗ったお皿貰いますね!くーちゃんはそこのと、あとこれも持ってって下さい!はーちゃんはくーちゃんと一緒に!」

 

「...ん、どんどん洗うよ」

 

「これと、これね。はーちゃん、行こっか」

 

「......」こくん

 

 

半分怒号のようにも取れる乱暴ながらも的確な指示、そして一切止まることのない手元での作業...こりぁ咲夜の言ってたこともあながち間違いじゃなさそうだな...

 

 

「あら、魔理沙じゃない。...ふふっ、言ったでしょう?私より動けるって」

 

「...あぁ、確かにその通りだったみたいだな」

 

 

ぼけーっとその光景を見ていると、件のメイドからそう、どこか自慢気に言われる。両手に持った料理からして、今から運びに行くところだろうか

 

 

「幽々子だが、いつもより明らかに食べるペースは早かったぜ」

 

「...そう、分かったわ」

 

 

私から見た情報をそのまま伝えてやる。食べるペースが早い、ということは満腹までも早い、ということ。流石の亡霊でも、胃袋には必ず限界ってもんがある...多分

 

 

「悪いが、料理に関して私が手伝えることは特にない。頑張ってくれよ」

 

「えぇ、皆に伝えておくわ。終戦は目と鼻の先ってね」

 

 

すれ違い様に短く言葉を交わす。へっ、頼りになるなぁ、紅魔のメイドは誰も彼も...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい...」

 

「みーちゃんは食材の補充を!おーちゃんは空になったお皿の回収お願いします!あと...」

 

 

じゃんじゃん指示を飛ばす。皆はとても良く動いてくれている。この調子なら...いや、相手は未知数、人ならざる者。どこまでいっても気が抜けない

 

 

「おーい、そこの妖精さんよー」

 

「あーちゃんしーちゃん、帰って来て直ぐで悪いですが、そこの料理出しちゃってください!」

 

 

やっぱり最初の方から手伝ってくれている三人の疲労はかなり多いだろう。でも、それでも頑張ってくれている。そんな中で私が動かない訳にはいかない...

 

 

「むー...おーい!そこの青い妖精さんよーい!」

 

「そこの鬼の方はお皿を...って鬼の方!?」

 

 

勢いそのまま指示を飛ばしている中で少し違和感を覚えたのも束の間、視覚からの情報でそう答えを出す。調理台からひょっこりと出た頭、こめかみの辺りから生えている捻れた二本の立派な角...そう、間違いなく鬼そのもの。ただ...

 

 

「...ちっちゃい?」

 

「なっ!?...流石に失礼じゃないかい?」

 

 

私と同じくらいの背格好にそう漏らしてしまう。いや、だって鬼って言ったら、こう...ねぇ?ぐわーって感じのもっとおっきいお方を想像すると言うか...

 

 

「あっ、す、すみません...えっと、それで何かご用ですか?...えっと」

 

「ん?...あぁ、萃香で良いよ。いやなに、少しばかり厨房の方に言伝てがあってね...咲夜のヤツは居るかい?」

 

 

ひとまず鬼のお方...萃香さんに謝罪し、用件を聞く。どうやらメイド長に用があるらしい...けれど

 

 

「すみません、メイド長は今料理を運びに神社の表の方に。良ければお伝えしておきますが...」

 

「あ、そう...そんじゃお願いしようかな」

 

 

言伝ての言伝て、というなんとも遠回りになってしまうが、それでもまぁ大丈夫だろう。それに、早く用件を済ましてもらって調理に戻らなくては...

 

 

「コイツ、酔い潰れちまったからもう大丈夫だって伝えといてくれ」

 

「...へ?」

 

「すぴ~...」

 

 

調理台で見えていなかった身体を覗かせ、そう言い放つ萃香さん。その小さな体躯に似合わず、肩に担いでいたのは...頬を真っ赤に染め上げ、幸せそうに眠っている先ほどの大食いさんだった。空いている左手には空の瓶が一つ。鬼殺し「真打ち」と書かれている

 

 

「あら萃香、って...そう、終わったのね......」

 

「おう、お疲れさん咲夜。いやー、今日も良く食ってたよ」

 

「すぴぴ~...むにゃむにゃ」

 

 

目の前の事態に頭が追い付かず、一種のパニック状態に陥る中で、メイド長が厨房へ帰って来た。萃香さんを一瞥すると安堵の息を漏らし、肩の荷が降りたような表情を見せている。えーっと...つまり

 

 

「えっと、メイド長...これは...」

 

「そうね...お疲れ様、妖精長。貴女の...いえ、貴女たちのおかげね」

 

「あ、そう...ですか...はあぁっ」

 

「ちょ、大丈夫!?妖精長!」

 

 

その言葉を聞いて、どっと疲れがのし掛かってくるのを感じ、膝からがくりと崩れ落ちてしまう。そっか、終わったんだ...良かった。...でも、酔い潰れたってことは...まだまだだなぁ、私

 

 

「へぇ、あんたが今日の功労者って訳か。お疲れさん、えっと...妖精長?だったっけ?」

 

「あ、いえ...皆さんのおかげです。それに、満足してもらえなかったみたいですかね...」

 

「んー?そうでもないよ、ほれ」

 

「むにゃむにゃ...もうお腹いっぱ~い...くかー」

 

 

!...そうですか...なら良かったなぁ。ん、やっぱりちょっと疲れちゃったかなぁ...ちょっと瞼が重いや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらら...ま、いっか。そんじゃ私はコイツを本殿に寝かせてくるわ。亡霊つっても重いもんは重いしな」

 

 

おっと...ついでにこの妖精さんも、な

 

 

「すぅ...すぅ...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ...ひとまずは終わったわね。お疲れ様、藍、妖夢」

 

「は、はい!今日もご迷惑おかけして申し訳ありません...」

 

「ははっ、良いんだよ。困った時はお互い様だからな。咲夜も、お疲れ様」

 

 

萃香との話を終え、残りの皆にも声をかける。もう、妖夢は相変わらずね...乗り切れたのは皆のおかげなのに。それに...

 

 

「おっと、そう言えばあの子たちは...」

 

「はい、あの手際の凄かった...」

 

「一緒にお酒は、今日はダメそうね...疲れて眠っちゃったみたいだから」

 

 

間違いなく、あの子たちの協力なくしてこの宴会は平和な終わりを迎えることはできなかったでしょうね

 

 

「そうか...またいつか一緒に飲もうと、そう言っておいてくれると助かるよ」

 

「お料理のコツとかもお聞きしたいです!」

 

「そう...きっと喜んでくれると思うわ」

 

 

各々からの感謝は、責任を持って私がしっかりと伝えることにする。今日の功労者は間違いなく妖精長...よ、よーちゃん、ね...えぇ

 

 

「さーくやー!終わったのー?」

 

「あらお嬢様、って真っ赤っか...」

 

 

そんな中、後ろから元気な声...ってお嬢様でしたか。もうすでにかなりの量飲まれているらしく、ご尊顔がスカーレットデビルになってしまっている

 

 

「はい、お料理のお手伝いは終わりましたわ。今日はいつまでここに?」

 

「愚問ね!もちろん朝までコースよ!」

 

 

...日傘、あったかしら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあぁ...あら~、もう朝なのね~...ん?」

 

「すぅ...すぅ...」

 

「あら...持って帰りたいくらい、ね~...うふふっ」

 

 

 




はい、これにて宴会編終了です。いやぁ、こうするしか無かったんや。さてと次回はどうなることやら...なんてね。ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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15話 亡霊さんは生き生きとしている

15話になります。さて、サブタイからお察しでしょうかね...お気に入り評価、感想栞等々、ありがとうございます。誤字報告の方も助かってます。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

ぱちり

 

 

今日は宴会を終えた明くる日。どうやら私は昨日の手伝いで少し張り切り過ぎてしまい、いつの間にか寝てしまったらしい。...恥ずかしながらぐっすり朝までコースでした

 

 

ぱちり

 

 

最後、記憶に残っているのはあの...お名前を幽々子さんと言うらしいお方の満足げな寝顔、そしてまだ残っていた洗い物たち。後片付けに参加できなかったのが心残りですね...

 

 

ぱちり

 

 

ちなみに幽々子さん、亡霊さんらしいです。今思い返してみると、館を発つ前にメイド長がおっしゃっていた気がします。怖がっていた理由は今なら分かりますね...

 

 

ぱちり

 

 

そんな訳で今、私は紅魔館にていつも通りメイド長の務めを果た......してはいないんですよねぇ。あ、そこ置かれちゃいますか...流石に厳しいですね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王手!...あら~、詰みかしらね~」

 

「むぅ、ありませんね...参りました」

 

 

さて、何で私は知らないお屋敷で亡霊さんと将棋指してるんでしょうか...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、もうこんな時間ですね...」

 

「む、もう帰るのか?」

 

 

うっすらと明るくなって来た空を見上げてそう呟く。今は宴会の一波乱を乗り越え、いつもの面々でお酒を飲みながら楽しく談笑をしてるところです...ですが

 

 

「はい、余り冥界を空けておくのも良くありませんから...幽々子様が起きられ次第、戻ることになりそうですね」

 

「そう...今日もありがとうね、妖夢。助かったわ」

 

「もう行っちゃうんですか~?よーむさん~」

 

 

亡霊の管理も立派なお仕事ですし、何かあっては閻魔様に何を言われるか...なんて言っていると、名残惜しそうに私の名前を呼ぶ声がする

 

 

「はい、今日は本当に助かりました。またお話しましょうね、きーちゃんさん」

 

「!...はい~、またご一緒させて下さいね~」

 

 

手際の凄かった妖精さんの一人、きーちゃんさん。色々とためになるお話もありながら、楽しくお話ができました。また新たに従者仲間が増えたのは嬉しいですね...さん付けは変ですかね?...私としては、見習うべき方ですので

 

 

「おーい、妖夢ー...お、いたいた」

 

「はいっ、て萃香さん、どうかされましたか?...まさか幽々子様がまた...」

 

「半分正解、幽々子から言伝てだよ」

 

 

皆さんとの別れを惜しんでいると、本殿の方から声...萃香さんですね。幽々子様が目を覚ましでもしたんでしょうか...なにやら伝言があるらしいようで

 

 

「先に帰るわ~、だそうだよ。伝えたかんなー」

 

「へ?...ちょっ、幽々子様ー!?」

 

 

なんで!?帰る時は一言くださいって...いや、伝言とかじゃなくて!...あぁ、もうっ!

 

 

「えっと、そんな訳ですので、今日はありがとうございました!またお願いしますね!」

 

「ふふっ...えぇ、またね」

 

「あぁ、また次の宴会でな」

 

「ばいば~い、よーむさ~ん」

 

 

だっ、と地を蹴り走り出す。ふと、そう言えばあの青い妖精さんとも少しお話したかったなぁ...なんて後ろ髪を引かれる。またいつか、お話しできるだろうか...いや、それはともかく

 

 

「待ってください!幽々子さまー!!」

 

 

今は白玉楼のお饅頭たちが無事であることを祈ろう...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんっとーにスミマセンッ!」

 

「いやっ、それはもう大丈夫ですから流石に土下座は...」

 

 

お話できましたね!初手謝罪ですけどっ!...もう、どうしてうちの主人は...

 

畳におでこを擦り付け、主人の失態、横暴についての謝罪の意を身体全体で表現する。あぁ、第一印象が土下座の人になってしまうぅ...

 

 

「こんな誘拐紛いなことを...」

 

 

そう、うちのお馬鹿主人は宴会のお手伝いで疲れて寝てしまっていた青い妖精さんを、あろうことかお持ち帰りしたのです...いや、なんでですか!?思えば帰って来た時に...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、お帰りなさい妖夢~」

 

「ただいま戻りました...じゃ無いですよ幽々子様!なんで先に一人で帰っちゃうんですか!?」

 

 

萃香さんの伝言を聞き、脱兎の如く白玉楼に帰り着いた私を呑気に迎える奔放な主人。心配した私の心中いざ知らず、縁側にて日向ぼっこをしている

 

 

「妖夢~お腹空いたわ~。朝ごはんお願いね~」

 

「あ、はい直ぐに...ってまだ食べるんですか!?というか質問に答えて下さいよ!」

 

 

首だけこちらを向き、いつもの調子でそう言われる。いえ、朝ごはんは別に構いませんけど...いや幽々子様、ノリツッコミの切れ、増したわねぇ~...じゃ無いですよ嫌でも増しますよこんなの

 

 

「あ、そうそう...」

 

「ぜーっ、ぜーっ...今度はなんなんですか?」

 

 

ツッコミ疲れて肩で息をする私...いや、もう何が来てもツッコミませんからね、フリじゃないですから!

 

 

「この子の分もお願いね~」

 

「...はえっ?」

 

 

振り返りながらそう言う幽々子様のお膝には、件の青い妖精さんが寝息を立てて気持ちよさそうに眠って...いや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、そこまで狭くはない冥界全土に響き渡るほどに大きな、『なんでやねんっ?!』がこだましたそうな...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ...大丈夫ですから。それに、明日には帰れるようにして頂けるそうですし...」

 

「それでもです!こんなこと、許されて良いことではありません!」

 

 

要点をまとめると、私は幽々子さんのお宅に...まぁ、ご招待された、と...それにしても、ここまで頭を下げられてしまうと、なんだかこちらが申し訳なくなってしまう

 

先ほどから何度も大丈夫、という旨は伝えているんですが...強情というかなんというか、変に芯が通っている方なのか一向に顔を上げてくれそうにない

 

 

「お願いしますから、土下座はこの辺りでもう...」

 

「はっ!...そうですよね、分かりました...」

 

 

どうやらようやく聞き入れて頂けたようで、顔を上げてくれた。ふう...これでなんとか

 

 

「主人の失態は従者の失態、腹を斬ってお詫びするのが礼儀ですよね!これ、お願いします!」

 

「わっ...って、はい?」

 

 

どこからともなく短刀を取り出したと思えば、腰に刺していた刀を一つ押し付けられる...ちょ、あの

 

 

「失礼ですが介錯をお願いします!それでは...」

 

「いや、ちょっと待ってくださいって、早まらないでください!」

 

「止めないで下さい!こうでもしないと示しがつきません!」

 

「妖夢~、ご飯まだかしら~?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......」

 

 

宴会を終え、お嬢様たちと館へと帰った私。流石に頑張っていた妖精たちはお昼まで休ませることにし、いましがたお嬢様と妹様を寝かしつけたところ

 

 

「...何かしら」

 

 

ふと口を突くその言葉...なにを根拠に口走ってしまったのか、言い放った私が分からない。少し興が乗って飲み過ぎたのかしら...

 

何かが抜けている。例えば、一つ足りないパズルのピース、ワンセット足りないティーカップとスプーン...例えば...

 

 

「あの~、メイド長~?」

 

「!...あら、どうかしたのかしら?お昼まではお休みの筈だけど...」

 

 

考え事の最中、少し下からそう私を呼ぶ声が聞こえた。目を向けると、昨日頑張ってくれていた妖精メイドの一人、黄色い子...何か用かしら

 

 

「メイド長~、よーちゃん見てませんか~?」

 

「妖精ちょ...う......」

 

 

最後のピースが嵌まった音がした。刹那、世界の色が失われる。私だけの世界...直ぐ様動く

 

 

ここは...いない、次...ここにも...いない、次ッ

 

いない、いない、いないいないいないいないいないいない...館全てを探した。これ以上の時間停止は厳しい...

世界に色が戻る

 

 

「きーちゃん、だったかしら?」

 

「へ?...は、はい~...」

 

「貴女を信頼している妖精長を信頼して、館のことを任せるわ」

 

「え?あの...」

 

 

答えも聞かずに走り出す...両の手にナイフを握り締めて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖夢さん、全然、悪くない...はい」

 

「ぐすんっ...私、悪い、ハラキリ...」

 

「違いますって?!ハラ、切る、良くない...はい」

 

「あーむっ...二人とも~、ご飯冷めちゃうわよ~?」

 

 




よーちゃんカウンセリングもできるんですね...あはは。そんな訳でお持ち帰り回です、次もそうなりそうかな?それでは、ここまで読んでいただき感謝です。良ければ他作品もどうぞ...それでは、また


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16話 半分幽霊さんは死にたがりさん

そんなこんなで16話です。さて、咲夜さんはどうするんでしょうかね...お気に入り感想、評価栞等々、本当にありがとうございます。とても励みになります、うれしい。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「ご馳走さまです。洗い物、手伝いますね」

 

「あ、お粗末様です...って、お客人にそんな...」

 

「お気になさらず。それに、いつもお仕事している時間ですので、何かしていないと落ち着かなくて...石鹸、お借りしますね」

 

 

色々と騒がしかった朝、朝食を終えて私は何かお手伝いしようと台所までやって来た。妖夢さんもすっかり落ち着いたみたいで...良かった良かった。遠慮を押し退け、半ば強引に石鹸をお借りする

 

それにしても、本格的な和食を戴いたのはいつ振りですかね。昨日の宴会ではいくつか作ったものの、館では基本洋食のメニューが多かったので、素朴な味付けの日本食はなんだか新鮮に感じましたね。お味噌汁、美味しかったなぁ...なんて考えながら食器を洗う

 

 

「あの、本当にすみません。ウチの主人がご迷惑を...」

 

「もう...大丈夫ですよ、気にしてませんから...むしろ朝ご飯まで用意して頂いて、こっちが申し訳ないくらいですから」

 

「それでもこんな暴挙、到底許されることじゃ...」

 

 

カチャカチャと食器の触れ合う音が止まり、そう切り出される。...うん、やっぱり妖夢さんは良い人ですね。気遣いのできる優しいお方です...でも

 

 

「あたっ?!...へ、な、何を...?」

 

 

ぺちんっと可愛らしい音が響く。私が妖夢さんの額を指で弾いた音...あれ、思ってたより弱々しいや。被弾した妖夢さんはまさしく鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている

 

 

「次謝ったらぐーですよ、ぐー」

 

「え、いや...あの」

 

「もう...良いですか?勝手に連れて来た幽々子さんも幽々子さんですけど、そんな中で呑気に寝てた私も悪いんです。はい!これでおしまいです!」

 

「...で、ですが」

 

 

拳を振りかざしながら、冗談混じりに言う。せめて私の目が届く範囲の方には、そんな暗い顔をして欲しくないですしね。ただ、それでも何か言いたげな妖夢さん...そうですか、ならば...

 

 

「...妖夢さんって、そういうのお好きなんですね」

 

「えっ?いや...ちょ「いえっ、そうですよね。そういう趣味とか趣向だとかも有りますよね...やっぱり人それぞれって言うかなんと言うか...」いや違いますよっ!?そんな人のこと...へ、変態みたいに!!というかなんでそんなあからさまに距離とるんですかっ!?違いますってばぁ!!」

 

 

さっきまでとは裏腹に明るい声色でまくし立ててくる妖夢さん...うん、こっちの方が良いですよ、やっぱり。演技には自信が無かったけど、上手く引き出せたみたいで良かったですね

 

 

「うん、やっぱりそっちの方が似合ってますよ、妖夢さんは...」

 

「だから!!...って、へ?...あ」

 

「ふふっ...改めまして妖精長です。皆さんからは、よーちゃんって呼ばれてます」

 

 

自分の変わりように驚いている彼女に唐突な自己紹介をして、右手を差し出す

 

 

「従者同士、これから仲良くして下さいね」

 

「!...はいっ、魂魄妖夢です!まだまだ半人前ですが、こちらこそよろしくお願いします」

 

 

握り返される手はまだ少し濡れていたけれど、温かく感じた...ってあれ、そういえば何気に仕事仲間以外の初めての友人なんじゃ?......もしかして友達少ない?私

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

能力を駆使し、常人では到底出すことの出来ない速度を保ちながら宴会会場へと向かう。ひとまずは現場を押さえないといけない。話はそれからね...

 

 

「...チッ、面倒ね」

 

 

しばらく走り、昨日も登り降りした気の遠くなるほどに長い石階段を前に苛立ちを隠せなくなるも、直ぐ様かけ上がる

 

今朝振りの境内はもうほとんど後片付けも終わり、酔い潰れた呑兵衛たちが倒れ伏しているくらい。その処理に追われているであろう、神社の主に声をかける

 

 

「ったく...ん?あら、咲夜じゃない。何か忘れ物でもしたの?」

 

「...えぇ、とっても大事なものをね」

 

 

酒が回りきり夢見心地の参加者の首根っこを掴み、バツの悪そうな顔を浮かべる霊夢。こちらに気付き、そう投げ掛けてくる...あながち間違いではない質問に苦笑を交えて返す。いえ、それよりも

 

 

「貴女、青い従者服の妖精を見かけなかったかしら?」

 

「妖精?......あぁ、それなら」

 

 

運が良い。最初にあたった人から情報が得られるなんてツイてるわね。まったく、それで一体どこに...

 

 

「幽々子のヤツが持って帰ったわよ?」

 

 

呼吸が止まる

 

 

「白玉楼で新しく雇ったのかしらね?まぁ、妖夢だけじゃ厳しそうだったし...ってあれ、咲夜?」

 

 

続く言葉が何だったのかは、早送りされる時間の中では聞こえなかった...ただ、それが分かれば十分。ナイフを握る手に力が入る。さて、あそこに行くのはあの異変の時以来ね...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...あ、ありません。参りました」

 

 

そんな訳で、お手伝いも終わり手持ちぶさたになっていたところに声を掛けられて将棋を指している、ということですね。すでに五回ほど挑んでいるんですが...幽々子さん凄い強いんですよね...

 

ちなみに妖夢さんはと言うと、買い出しに行くという事で人里に行ってますね。私も行ってみたかったんですけどね、人里。流石にここまで手伝わせる訳にはいきません!だそうです、むぅ

 

 

「お強いですね、幽々子さん...全然歯が立ちません」

 

「うふふっ、やっぱり私が弱いわけじゃ無かったみたいね~。こんなに勝てるなんて、楽しいわ~」

 

「え、てことは...」

 

「普段は殆ど負け越してるわね~」

 

 

はえー...そうなんですね。幽々子さんも十分お強いのに...上には上がいる、ということですかね。バラバラになっている駒を元の配置に戻しながら、そんな会話を交わす

 

 

ぱちり

 

 

ぱちり

 

 

ぱちり

 

 

「...あの」

 

「ん~?待った、なら...一回までなら良いわよ~」

 

 

しばらく駒が盤上を駆ける音のみが響く。追い詰められたこちら側の王将に目を向けられながらそう返される。ただ、そうではないんですよね。というか一手戻しても手遅れじゃないですかね、これ...

 

 

「どうして、私を連れて来たんですか?」

 

「あら...そうね~......」

 

 

私の素朴な疑問。何故、私のことを?口元に手をあてて、しばらく考え込んでいる幽々子さん...

 

 

「...少し、興味が湧いたから、かしらね~」

 

「興味、ですか...」

 

 

ぱちり

 

 

答えと共に打たれる一手...詰み、ですかね。この方には、色んな意味で勝てない気がします。何を聞いても、のらりくらりとはぐらかされるような...そんな感覚

 

ふと、誰かの足音が聞こえた気がした。私は障子の開け放しになっている縁側の方へ耳をすませる...妖夢さんがもう帰って来たのだろうか。それにしては、少しばかり早すぎる気がするけれど...

 

 

「あら~、妖夢ったらお財布でも忘れてたのかしら~」

 

「えっ、忘れ物ですか?」

 

「良くあることよ~。もうっ、おっちょこちょいなんだから~」

 

 

間の抜けた可能性を語られ、幽々子さんの方を向く。...まぁ、確かにやりかねないかなぁ、なんて考えていると背後に迫る足音は消え、三人目の声が...

 

 

「えぇ、私としたことが、こんなに大事なことを忘れるだなんて...」

 

「...あら~、珍しいお客さんね~」

 

「め...メイド、長?」

 

 

酷く聞き慣れた声が聞こえた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて...説明して貰えるかしら、妖精長...?」

 

 

意図的ではないけれど、少し怒気を孕んでしまった声色でそう問い掛ける。彼女は私の手元...ナイフと私の顔へと視線を何度か移しながら言葉を詰まらせている

 

恐らくこの事態の原因である、冥界の女主人に目を向ける。いつもの通り掴み所のないような微笑みを浮かべ、口元を扇子で隠したままこちらを見据えている。正直、この方は色々な意味で苦手ね...

 

 

「...あ、あの!」

 

 

観念したのか、覚悟が決まったのかは定かでは無いけれどそう口火を切る。聞かせて貰おうかしら、事の顛末を...

 

 

「わ、私が無理を言って幽々子さんのお屋敷をお訪ねしたい、とお願いしたんです。立派な日本庭園があるとお聞きして...つい」

 

「!...そう」

 

 

嘘、ね...口元は扇子で隠したままだけれど、表情に僅かながら驚きの色が見え隠れしている。頭を下げながらそう言いきった彼女...はぁ

 

 

「あたっ?!...へ?」

 

「今回はこれで許してあげるわ...」

 

 

ナイフを懐に仕舞い込み、無防備に晒された頭頂部へと手刀を振り下ろす。どすっと鳴った鈍い音に、何が起こったのか分かっていないような間の抜けた声が漏れる。更に言葉を続ける

 

 

「話してくれれば休暇も与えるわ...今度からはちゃんと前もって話して頂戴」

 

「...はい、申し訳ありませんでした...」

 

「それと...」

 

 

普段から頑張ってくれている彼女...話してくれればやぶさかではない。最後に一番伝えたかった事...

 

 

「余り心配させないで...お願いだから...」

 

「!...はい...すみません...」

 

 

軽く頭に手を乗せ、そう出来る限り優しくそう言った...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいね~、あんまり来たがってたから~...」

 

「いえ、こちらも申し訳ありません。ウチの妖精メイドが押し掛けるような形でお世話になってしまったようで...」

 

 

そう言うメイド長のとなりでぺこりと頭を下げる。咄嗟に私が行きたがった、と嘘を吐いてしまったけれど、幽々子さんも上手く合わせてくれている...申し訳ない

 

 

「よーちゃん、だったかしら~?最後に少し二人で話さないかしら~」

 

「!...メイド長...」

 

「...構わないわよ、出来るだけ手短にお願いね」

 

 

そう言うとメイド長は門の方へと先に歩いていく。残された私と幽々子さんは縁側に座り、少しおしゃべりをし始める

 

 

「すみません、突然合わせていただいて...」

 

「うふふっ、お安いご用よ~...それに」

 

「?...はい」

 

「卵焼きのお礼、ってことでどうかしら~?」

 

 

!...この方にはやっぱり敵いませんね、何もかも完敗です

 

 

「...ありがとうございます...あ、そろそろ帰りますね。妖夢さんが帰って来られたら、よろしく伝えて下さい。お世話になりました」

 

「また近いうちに遊びに来て良いわよ~、きっと妖夢も喜ぶわ~」

 

 

一つお辞儀をし、別れの挨拶を告げメイド長の元へと向かう。振り返るとひらひらとてを振る幽々子さんが見える...もう一度、深くお辞儀を返しておく

 

 

「お待たせしました、もう大丈夫です」

 

「そう、じゃあ行きましょう...私たちの帰るべき場所まで」

 

「...はい!」

 

 

こうして、私は白玉楼を後にした...あれ、そう言えば

 

 

「メイド長、館のお仕事はどうなってるんですか?」

 

「ん?黄色い妖精メイドの子に任せているわ」

 

「えっ」

 

 

...大丈夫、かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体どうすればー...助けて下さいー、門番さーん!」

 

「へ、どうしたんですか...ってうわっ!館がー!?」

 

 




戦闘は無し、咲夜さんは優しいんだ。館の惨状をみてどうなるか、ですが...良ければまた次回も読んで貰えれば幸いです。それでは、また


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17話 天狗さんは逃げ足が速い

少し書き足りなかったので、更新ですね。17話です。こんな風に気まぐれな投稿も合ったりします。この場合は次の更新は来週の水曜日まで、とかになりそうです。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「...帰っちゃったわね~、残念」

 

 

見えなくなって行く背中に名残惜しそうに独り言を溢す。残念ね、お夕飯も一緒に食べたかったのだけれど...あんなに大事にされてたなんて、やっぱり悪いことしちゃったわね~...

 

 

「...もう出て来てもいいんじゃないかしら~?」

 

 

虚空に問い掛けるように言い放つ。すると、私のちょうど隣辺りの空間が突如として裂ける...やっぱり盗み見してたのね、相変わらず趣味の悪いこと

 

 

「ふぅ、そうみたいね...それで、どう?面白い子だったでしょう?」

 

「えぇ、とっても良い子だったわ~」

 

 

そこから姿を現したのは私の古い友人。不気味な空間から身を乗り出し、その切れ目に腰を降ろしてそう投げ掛けてくる

 

 

「お料理も上手で気遣いもできて...ウチに欲しいくらいね~」

 

「...庭師の子が聞いたらどんな顔するかしらね」

 

「?妖夢なら喜んでくれるんじゃないかしら~」

 

 

んー、次の宴会にも来てくれるのかしら~、またご馳走になりなたいわね~。なんて考えながら古い友人...紫と言葉を交わす

 

 

「...あの子があの件の?」

 

「えぇ、そうね。理想とは少し違うけれど...まぁ、悪くは無い、かしらね。少なくとも私は今のあの子が気に入ってるから...」

 

「そう...まだ先の話だと思うのだけれど...」

 

「ふふっ、私たちにとってはすぐでしょう?」

 

 

少し前に話してくれた、ちょっと悲しいけど仕方の無いこと。少し酷いことかもしれないけれど、紫の気持ちも分かるもの。私は止めたりはしなかった...それは良いとして

 

 

「気をつけないとまた太っちゃうわよ~?」

 

「うっ?!...だ、大丈夫よ。この前よりちょっと減ったんだから、これくらいなら...」

 

 

会話を切り上げ、スキマを駆使して少し離れたちゃぶ台の上のお饅頭に手を伸ばす紫。...貴女、この前ダイエットするって言ってた筈じゃなかったかしら~?

 

 

「優しい友人として、これ以上紫がぷにぷにになっちゃうのは見過ごせないわ~。これは没収ね~」

 

「なっ!?今は......ぷ、ぷにぷにじゃないわよ!」

 

 

恐る恐る自分のお腹をつまみながらそう言い返してくる紫を尻目に、さっとお饅頭の乗ったお皿を回収する。うふふー、亡霊は太らないから気が楽ね~。あーむっ、んーおいし!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ...これで大丈夫ですかね」

 

「うぅ~、ごめんなさいです~」

 

 

館での作業も一段落し、一息つきながらそう呟く。さて、メイド長と一緒に館へと帰って来たは良いものの...まぁ、予想通りと言うかなんと言うか...ぐちゃぐちゃになったお部屋の後片付けが待っていたのだ。

 

申し訳無さそうに謝ってくれているけれど...これはきーちゃん悪くないと思いますけどね、うん。これからは私とメイド長が一緒に館を留守にしないように、ですね...

 

 

「気にしないで良いですよ、今回は私が留守にしたのが事の発端ですから。きーちゃんは頑張ってくれましたよ」

 

「うぅ~、よーちゃんはいつも大変なんですね~...いつもありがとうです~」

 

 

まぁ、悪いのは私...ですし、人と同じように妖精にも向き不向きがあるようですからね。この館で働いて良く分かりました。

 

例えばですが、言わずもがなきーちゃんはお料理が上手だし、みーちゃんは庭仕事が得意、くーちゃんは本の整理、そーちゃんは水仕事...等々、そんな風にそれぞれ皆得意なことがありますからね

 

 

「あとはテラスの方ですかね。きーちゃんは他の皆を手伝ってあげて下さいね」

 

「はい~、分かりました~」

 

 

そう言い残し、私は一人でテラスへと向かった。普段はお嬢様がおやつ...ティーブレイクに良く使われているんですが、帰って来た時にテーブルやら椅子やらが散乱しているのがちらっと見えたのだ。恐らくまだ片付いていないでしょう

 

 

「うっ...思ったより酷いですね...」

 

 

現場に着くと予想通りしっちゃかめっちゃか...一体何をどうしたらこうなってしまうんでしょうか。幸い、今日はティーセットが外に出されていなかったので、割れ物の処理は大丈夫ですかね

 

 

「ひとまず散らかった椅子を...って、わぷっ?!」

 

 

片付けを始めようとしたその時、ビュオッと、一陣の風が周囲に吹く。突然のことに思わず間の抜けた声をあげ、目を閉じてしまう。今日は天気も良くて風も穏やかだったんですけど...

 

 

「新聞のお届けに参りました!...って、あややー...随分と散らかってますねぇ」

 

 

ばさぁっという聞きなれない大きな羽音、同じく聞きなれない溌剌とした明るい声...恐る恐る目を開く。するとそこには

 

 

「なんでこんな......むっ、もしや宴会の最中、留守を狙った襲撃が?...となると明日の朝刊の一面は決まりですね...あっ、そこの妖精さん!何があったのか詳しく取材させて下さい!」

 

「...はい?」

 

 

カメラと新聞を携えた黒い羽根を持つ女性がペンとメモ帳を手に、有りもしないスクープに目を爛々と輝かせていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんだ、そうだったんですねぇ...ちょっぴり残念です。あ、これはこっちで大丈夫ですかね」

 

「はい、細かい位置は後で私がやりますので。手伝って貰って申し訳ないです」

 

 

なんとか興味津々な彼女に説明をして落ち着いてもらった。流石に襲撃はないですよ...変に想像力豊かな人...人ではなさそうですかね?さっき飛んでたし羽根もあるし...

 

 

「いえいえ!大切なお得意様ですからね、これくらいお任せ下さい!」

 

「ありがとうございます、助かります。えっと...」

 

「清く正しい射命丸こと、射命丸文です!以後、お見知りおきを」

 

「は、はい...ご丁寧にどうも。私のことは妖精長とでもお呼びください、射命丸さん」

 

 

突然の前口上に少し面食らってしまったけれど、同じように自己紹介で返す。先ほどの口振りに装いなどから、恐らく新聞記者の方なんだろう

 

 

「!...ふむふむ、そうですか。貴女がそうなんですね...」

 

「えっと、何か...?」

 

「いえいえ!こちらの話ですので、お気になさらず」

 

 

少しばかり引っかかる点も合ったものの、そのまま作業を続ける。射命丸さんの手伝いもあり、思っていたよりも片付けは早く終わった。有難い限りです

 

 

「ふぅ...これで大丈夫ですね、ありがとうございました。射命丸さん、おかげ様で早く終わりました」

 

「いえいえ!...それでですね、少々厚かましいかもしれないんですが...」

 

「?...はい」

 

「館についての取材を少し...って、うっひゃあ?!」

 

 

申し訳なさそうにそう言う射命丸さんの言葉を途中で遮ったのは、目の前を過ぎ去っていった一本のナイフ。突然のことに驚いたのか、射命丸さんは腰を抜かしている...って、このナイフは...

 

 

「残念だけれど、ウチは取材NGって何度も言ってるわよね?」

 

「さっ、ささささ、咲夜さん!?......い、いやぁそんな、私は夕刊を届けに来ただけでして取材だなんてそんな」

 

「...今日の晩餐はローストターキーが良いかしら」

 

「あーっ!私この後取材の予定が有るとか無いとかなんとか!あっ、これっ、確かに渡しましたからね!?おっ邪魔しましたー!!」

 

「え?あっ、ちょ...わぷっ!?」

 

「...はぁ、相変わらず逃げ足の速さは幻想郷一ね」

 

 

立っていたのはメイド長。手には数本のナイフ...それを目にした射命丸さんは慌てて新聞を私に押し付けると早口に挨拶を済ませ、ばひゅんと飛んでいってしまった...

 

 

「災難だったわね、大丈夫だったかしら?」

 

「え?は、はい。片付けのお手伝いもしてもらいましたし...これ、どうぞ」

 

 

新聞を渡しながら問いにそう返す。メイド長の口振りから、何度か取材には来ているようですね。それで追っ払われている、と...少し可哀想に思えてきた

 

 

「館に関して変なことを書かれても困るのよ。今日の内容は何かしら...!」

 

 

そう言いながらバサッと新聞を開くメイド長。すると、目を大きく見開いて新聞と私を交互に見比べてきた...?どうかしたんだろうか。気になった私は、そのまま新聞を覗き込む...するとそこには

 

 

『大宴会にて、無限の胃袋ノックアウト!?立役者は紅魔の妖精メイドだった!?』

 

「...へ?」

 

 

でかでかと書かれた見出しに、幽々子さんの酔い潰れた写真で、どんと一面が埋め尽くされていた。次の面には

 

 

「わ、私?」

 

 

いつ撮られたのかも分からない私の写真が載っていた...え、なんで?

 

 




まぁ、伏線と日常的な...本当は16話に書こうと思ってたんですが、長くなりそうだったのでこちらに。さて、この物語はどうなるのやら。ここまで読んでいただき感謝です...それでは、また


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18話 小兎さんは悪戯がお好き

18話になります。今回は少し変な始まりですかね、体感お話は短めかもしれません。察しの良い方は誰が出てくるかタイトルで分かるでしょうかね。繰り返しになりますが、お気に入り感想、評価に栞等々、ありがとうございます。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

『大宴会にて、無限の胃袋ノックアウト!?立役者は紅魔の妖精メイドだった!?』

 

 

つい先日、普通の魔法使いこと霧雨魔理沙主導のもと行われた大宴会にて、暴食の化身とも呼ばれる白玉楼の主、西行寺幽々子の襲来が確認された。

 

宴会にて数々の料理達を瞬く間に平らげていく姿は、さながら災害と言ったところか。今までの宴会でも、幾度と無く調理を担当する従者達を絶望に落として来た...

 

しかし、この度は違った。そう、この写真である(上、写真1、倒れ伏す西行寺幽々子)。誰かが毒でも盛ったのか...?否、信じがたいことではあるが、満腹により倒れ伏しているのだ。

 

そしてこの日、厨房にはいつもは見ない面々が居た。そう、紅魔の妖精メイドである。ここで一つ、前提として覆しておくべき常識がある。それは、妖精メイドは使えない、という文言。

 

幻想郷縁起に目を通したことのある者や、紅魔のメイド長と面識のある者ならば知っているであろう前提、常識...敢えて言い切ろう。それはもう、時代に置いていかれた過去の認識であると。

 

実際に目にし、更には写真(左、写真2、調理をする妖精メイド達)にも収めてある。静止画であるものの、それでも彼女らの手際の良さが伝わってくる...特に目立つのがこの青いメイド服の妖精。見聞きした限りでは、他の妖精達に指示をしたうえで、調理を平行して行っていた。

 

しかしながら謎に包まれた青き妖精メイド。私は情報を得るべく、館の関係者達や同僚とおぼしき妖精メイド達に情報提供を仰いだ。

 

 

館の主、Rさん

 

そうね、カリスマであるこの私が雇った一流の妖精メイドよ。他の妖精メイド達を惹き付けるような、そんなカリスマ性を感じるわね...ま、私には及ばないけれど。そもそも私の思うカリスマっていうのは...以下略

 

 

主の妹、Fさん

 

よーちゃんのことー?うん、スッゴい良い子だよ!私の朝のお世話もしてくれるしー、お願いしたら何でも聞いてくれるのー!お料理も上手だしー、あとねあとねー!...以下略

 

 

居候、Pさん

 

青い妖精メイド...妖精長のことね。えぇ、彼女はとっても優秀な子よ。良く気配りのできる子ね...なんなら、こぁよりも優秀なんじゃないかしら...

 

 

門番、Mさん

 

妖精長ですか?はい、とっても優しい方ですよ!...そう言えばこの前咲夜さんに聞いたんですけど、私の上司に当たる役職らしいですね...あの仕事ぶりなら納得ですけど

 

 

司書、Kさん

 

とっても優秀な方ですね。本の整理なんかもまだ私の方が早いですけど...いつ追い抜かれるか心配です。...えっ、パチュリー様がそんな事を!?うぅ、否定できないのが余計辛いですぅ...

 

 

同僚、Aちゃん

 

よーちゃんのことー?うーん、厳しいけど優しいよ!怒られてもナイフとか飛んで来ないしね...あ、しーっ!...これ、メイド長には内緒ね?

 

 

同僚、Kちゃん

 

よーちゃんですか~?う~ん...とっても頑張り屋さん、ですかね~。それにお料理以外も得意なんですよ~?掃除洗濯とか~、凄いですよ~

 

 

◯月X日、文々。新聞夕刊より、一部抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと...ここ、ですかね?凄い...」

 

 

幽々子さんのお世話になった明くる日、私はメイド長からおつかいを頼まれとある場所へと足を運んでいた。...因みに昨日の夜はメイド長のお説教が館に鳴り響いてました。あーちゃん、痛そうだったなぁ...ナイフ

 

さて、それはともかくとしておつかいですね。頼まれたのはパチュリー様の喘息のお薬。普段から服用されているんですが少々減りが早く、明日の分も危ういとのこと

 

 

「迷いの竹林、ですか...」

 

 

天を貫くほどに長く、そして高く伸びる竹を見上げそう漏らす。メイド長からいただいた簡単な地図を頼りにここまで来たんですが...ホントにここに病院があるんですかね...あ

 

 

「そうだ、案内人さんを見つけないと」

 

 

思い出したかのようにそう呟く。迷いの竹林という名の通り、この中は迷路のように道が要り組んでいるらしく、この場所に精通している方に案内を頼まないと目的地に着くどころか、出ることさえできないそうな。それこそ、何度か足を運んでいるメイド長でさえ、まだ迷ってしまわれるとか...

 

どうやら案内をしてくれる方はお二人いるらしく、一人は白い髪の女性、もう一人は兎の耳を生やした女性だそうな...もしかしなくても後者は妖怪さんですかね?いや、もしかするとお二人とも...?

 

 

「すみませーん、どなたかいらっしゃいませんかー?」

 

 

ひとまずはそのお二人のどちらかを見つけようと、私は大きめの声で竹林に向かい呼び掛ける......返事は返って来なかった。もう一度

 

 

「すみませーん!......ダメかなぁ...ん?」

 

 

特に返事もなくどうしたものかなぁ、なんて考えていると、視界の端に何かが写る。竹林の陰から顔を覗かせる誰か...こちらに気づいたようで、近づいてくる

 

 

「ふーん...妖精、ね。この竹林に何か用?」

 

 

そう声を掛けてきたのは背格好は私と遜色ないような少女。ただ、目を惹くのはその頭部。二つのうさみみ...おそらく、メイド長の言っていた案内人さんの内の一人ですかね。首からはニンジンを模した装飾品がぶら下がっている

 

 

「はい、この中にある病院の方に用がありまして...」

 

「そう......なら、案内したげる。着いてきて」

 

 

それだけ言うと、背を向けて竹林の奥へと歩いて行く。この方が案内人さんで間違いないでしょう。それにしてもこんな幼い子が...いやいや、多分妖怪さんですからね、背格好だけで判断はできないです。宴会でも、萃香さんの一件がありましたし

 

 

「ありがとうございます。私は...」

 

 

案内人さんの方へ着いて行きながら感謝と自分の名前を告げ...ようとしたその時、言葉が途切れる。理由は簡単

 

 

「ふぇっ?!」

 

 

突如として踏み締めていた地面が消え去ったからでした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはは、引っ掛かった引っ掛かった!」

 

 

いつの間にか日課となった竹林の巡回をこなしていた昼下がり、いくつかある出入口の近くから聞きなれない声がした。声の主は少し変わった格好の妖精、話を聞いてみるに永遠亭に用があるそうな...

 

ふふん、やっぱり私は運が良い。丁度暇してる時にこんな絶好のカモが来てくれるなんてね...案内してあげる素振りを見せればすぐにのこのこ着いてきて、やっぱり妖精はチョロいモンさね。さて、と

 

 

「ま、悔しかったら捕まえてみなよ?じゃあねー」

 

 

久々の遊び相手が落ちていった穴にそう投げ掛ける。妖精みたいな単細胞はこうやって煽ればすぐに怒って追っかけてくるからねー

 

特に返答も聞かず穴に背を向けてそのまま永遠亭の方へと向かう。ちゃーんと案内はしてあげようかね...ま、張り巡らした罠をくぐり抜けて私を見失わなければの話だけどねー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいたた...これは、落とし穴?」

 

 

突然のことに少し困惑しながらそう呟く。ここは穴の中、あの兎さんに騙されたみたいですかね...うぅ、腰打っちゃった、痛い...

 

穴の外から兎さんの声がするものの何を言っているか、内容は分からなかった。それもその筈、この穴かなり深い。パッと見、3~4メートル位はあるだろうか。辛うじて聞こえる足音は遠ざかって行った...

 

 

「...えっと」

 

 

しばらく今の状況に呆然とした後に、一度頭の中で整理してみる。ここは迷いの竹林、落とし穴の中。地上までの高さは私3人分程度...あれ?これって...

 

 

「出られない...?」

 

 

そう、私にとってこの羽根は飾りも同然。飛べないということはつまり...そういうことである。凹凸もなく綺麗に掘られた縦穴、よじ登れそうにもない

 

 

「......」

 

 

色々と考えた結果、自分の中で一つの答えが出た。さて、やることが決まったならば実行に移すのみ。すぅっと息を吸い込み、そして...

 

 

「誰かいませんかー!?助けてくださーい!!」

 

 

慟哭にも似たメーデーが竹林に木霊した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?...今、なんか聞こえたような...」

 

 

少し野暮用があり、慧音の住まい...もとい人里まで顔を出して来た帰り道。もう迷いの竹林まで目と鼻の先といった辺りで誰かの声がした...気がする。また誰か迷いでもしたんだろうか

 

 

「...取り敢えず行ってみようか」

 

 

まあ、この場所では良くあることだしな...なんて考えつつ、声がしたであろう場所へと向かう。この竹林には出入りできる道がいくつかある。ここから一番近いのは、と

 

 

「この辺りか?」

 

 

着いたのは一番使われている出入口。しばしば訪れる永遠亭への客は基本ここを使っている。そのせいなのか、わりと綺麗に舗装されている

 

 

「誰か居るのかー?」

 

 

ひとまず近くに人が居ないか、適当に呼び掛けてみる。すると、直ぐにさっきと同じように声が聞こえてきた。気のせいでは無かったらしい

 

 

「...かー......けて...さいー...」

 

「ん?まだちょっと遠いのか...?」

 

 

聞こえたは良いものの、まだ少し遠いのか何を言っているかは分からなかった。それでもどの辺りからかはわかる。こっちの方か...よし、もう一回

 

 

「大丈夫かー?」

 

「...こですー!...た!...た...てくだ...い!」

 

 

さっきよりも鮮明に聞こえる。方角はこのままかな、先に進んで行くと何を言っているかがやっと聞こえた。えーっと?

 

 

「ここですー!下!助けて下さーい!」

 

「は?下?」

 

 

声のする方、目線を下げるとそこには深い穴の中で声を上げて助けを求めている少女の姿があった

 

 




こんな感じですね。うーん...やっぱりちょっと短い気がする。投稿小説について、少しお知らせが活動報告にありますので、気になる方はご覧になって下さい。ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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19話 案内人さんは世話焼きさん

19話になります。全体で見れば丁度20本目ですね...感慨深い。お気に入り感想、評価に栞等々、本当にありがとうございます。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

「...来ないなぁ、あの妖精」

 

 

後ろを振り返りそう呟く。既にかなり走って来たのか、永遠亭も視界に入っている。...追いかけて来なかったなぁ、つまんないの

 

妖精だし、あれくらい言えば追っかけてくるモンだと思ったんだけどねー...なんて、期待外れな遊び相手に落胆したものの、まぁ今日も姫様と遊ぼうかね、と永遠亭へ足を踏み入れる

 

 

「お、鈴仙。今日のお夕飯なにー?」

 

「んー、まだ決めてないわよ。それより、いつもの見回り終わったの?」

 

 

廊下をとことこ歩いていると、鈴仙とばったり会った。両手には危険!なんて物々しい文字の書かれた木箱を持っている。おそらく薬か何かだろう

 

 

「もう済んださ、今から姫様と遊ぼうかと思ってね」

 

「そう、終わってるなら別に構わないわ」

 

「そんじゃ、あたしは行くよ」

 

「あ、そうだ。てゐ、ちょっと良いかしら?」

 

「んー?なにさ」

 

 

なんか、日に日にお母さんみたいになってるなぁ...なんて考えながら他愛ない話を終え、姫様の部屋へと再び歩き出す。すると、何か用でもあるのか鈴仙に呼び止められる。あたしも暇じゃあないんだけどねぇ...

 

 

「竹林でメイド服の妖精さん見かけなかった?」

 

 

一瞬思考が止まる。...妖精、身に覚えはある。そう言えばあれってメイド服だったような...いや待て、ここで正直に言うのは早計だ。ひとまず様子を見るのが得策...

 

 

「......いんや、見てないけど...その妖精がどうかしたのかい?」

 

「そう...実は咲夜さんから伝書があって、いつもは咲夜さんが必要なお薬を取りに来るんだけど...」

 

「...うん」

 

「今日は代わりに館で働いてる妖精メイドさんがくるらしくてね...」

 

「......うん」

 

「昼過ぎには着くようにさせる、って聞いてたんだけどもうすぐ夕暮れでしょ?」

 

「............」

 

「もしかしたら迷ってるかもと思ったんだけど...アンタが見てないとなると「あ、ちょーっと野暮用を思い出した!夕飯前には帰るよ!」あっ、ちょっとどこ行くのよ!?てーゐ!...」

 

 

まずいまずいまずい!もし追っかけてくる途中で迷ったとなると相当まずい!鈴仙の話を遮るようにして竹林の方へと走り出す。まさかあの妖精がお得意様の使いだったなんて...バレたらまずい!まーた実験台にされるー!注射はもう御免だー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、と。大丈夫か?」

 

「は、はい...なんとか」

 

 

そう声を掛けられながら、ロープを掴んだ私はされるがままに引っ張りあげられる。はー、良かった...どうにか夜までに間に合うかな、これ

 

 

「すみません、おかげで助かりました...えっと」

 

「ったく、またあの悪戯兎...ん?あぁ、妹紅で良いよ。それより怪我は...って、お前妖精か?」

 

「ありがとうございます、妹紅さん。そうですね...とは言え、この羽根は飾りみたいなモノで...」

 

「?...飛べないのか、珍しい妖精もいるもんだな」

 

 

お礼を言いつつ、助けてくださった女性...妹紅さんの疑問に答えて行く。まぁ、そうですよね...飛べない妖精なんて私の知り合いには居ませんし。いい加減誰かに教わりたいけど、教えてもらって飛べるようなものなんだろうか...

 

 

「申し遅れました、私は紅魔館で働いております妖精メイドです。妖精長、とでもお呼び下さい」

 

「妖精長...ん?なんかどっかで聞いた、いや見たような...まぁ、良いか。それで、こんなところに何か用でもあるのか?」

 

 

自己紹介に軽く首を傾げる妹紅さん。...白い髪の女性、メイド長のおっしゃっていた特徴そのまま。おそらくこの方で間違いないでしょう...今度こそ

 

 

「はい、実は永遠亭、という場所にお使いを頼まれまして...案内人さんを探していたんですけど、兎の耳を生やした方に着いていったらこの穴にズボッ、と...」

 

「...災難だったな...同情するよ」

 

 

いたたまれない表情のまま肩を叩かれる。今言葉に出してみて気づいたんですけど、流石にちょっと酷い気がする...なんでこんな目に?

 

 

「ま、同情ついでにしてやるよ、案内」

 

「!...何から何までありがとうございます、妹紅さん」

 

「なに、気にしなくて良いよ。こういう案内も好きでやってるからさ」

 

 

気前良くそう言ってくれる。良かったぁ...これでどうにか今日中にお使いを終えられそうですね。妹紅さんに感謝です

 

 

「あ、気をつけてな。その穴みたいに色々と罠があるから」

 

「はい。...妹紅さんは分かるんですか?罠の位置」

 

「んー、まぁこんな簡単な罠なら大丈夫さぁあああっ?!」

 

 

素朴な疑問を投げ掛けた次の瞬間、妹紅さんが視界から突如として消えた。落とし穴!?と思ったものの足下に穴は無い...じゃあ、と思い目線を上げる

 

 

「...手の込んだことするなぁ、あの兎ぃ...」

 

「だ、大丈夫ですか!?妹紅さん!」

 

 

しなる竹から伸びるロープで宙ぶらりんになった妹紅さんが目に映った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんの悪戯兎...今度会ったら丸焼きにしてやろうか。というか大見得きって罠引っ掛かるの普通に恥ずかしいんだけど...

 

 

「だ、大丈夫ですか!?妹紅さん!」

 

 

心配してあたふたとしている妖精長。このくらいなら自分でどうにかなるし良いか。さてと

 

 

「あー...大丈夫だよ。それよりちょっと危ないから、離れといて」

 

「へ?わ、分かりました...」

 

「ん、そんじゃあ...よっ、と」

 

 

妖精長には少し離れてもらい、身体から炎を出す。ボウッと勢い良く燃え上がり、そのまま足に繋がっていたロープが焼き切れる。そのまま着地して炎を収める

 

 

「これでよしっ、と。それじゃ、行こうか」

 

「......えっと、今のって...」

 

「?ただの妖術だけど...」

 

 

元々陰陽師としてやっていた時期も長かったし、多少の妖術なら使えるし火の扱いには自信がある。兎肉の焼き加減は保証できそうにないが...丸焦げにしてやろうか、アイツホントに許さん

 

 

「あーっと、まぁ魔法みたいなモンだよ。少し違うけどね」

 

「はえー...凄いですね」

 

 

魔法...妖術、と呟いている妖精長を尻目にそのまま案内を続ける。妖精にしては大人しいし、少し世間知らずな印象を受ける。あの氷精とは大違いだな

 

 

「この竹林、凄いですね...ホントに名前の通りと言うか」

 

「結界みたいなのが張られてるからね。がむしゃらに歩いても出られないし、永遠亭には着けないようになってるのさ」

 

 

この竹林は元々普通の竹林だったらしいが、永遠亭の奴らが住むようになってからそういう他者を寄せ付けないような目的で結界が張られたらしい

 

幾つかある結界の合間を縫って行けば、永遠亭までたどり着けるけど...今のところその道が分かるのは私と永遠亭の奴らくらい。私はいつの間にか慣れた、長いこと住んでるし

 

 

「そうなんですか、ちょっと不便ですね...」

 

「まぁ、腕は確かだし、薬の評判も中々なんだよ」

 

 

時折振り返り、話しながら目的地へと向かう。...うーん、やっぱり見たことあるような.....妖精長ねぇ...ん?新聞でそんな名前見た気が...あっ、そうだ

 

 

「あー!思い出した思い出した、妖精長って昨日新聞に載ってたあの妖精長か!...なんか見たことあると思ったら」

 

「昨日の新聞...あっ、あれですか。ちょっと恥ずかしいですね」

 

 

なんでも一昨日の大宴会であの亡霊の女主人が満腹になったとかなんとか...あの日の料理、いつもよりも美味しかった気もするし

 

 

「その反応...どこまでホントか分かんなかったけど、あながち虚言でもないみたいだな」

 

 

あの烏天狗、すぐあることないこと書くからなぁ...竹林暮らしで外の情報に疎くなるから、仕方なく新聞取ってるけど...まぁ、今回はそこまで嘘っぱちな訳でもないらしい。てかいつもそうしてくれ、頼む

 

 

「永遠亭までって、あとどのくらいですかね」

 

「そうだな...まぁ、行って帰ってで夕方くらいかな」

 

 

今が多分...2時くらいか?まぁ、このまま行けばそれくらいだろう...っと、また落とし穴。侵入者対策とは言え、いくらなんでも仕掛け過ぎだと思うが...

 

 

「ま、焦っても良いことないしな。そこ、気を付けてな」

 

「え?あ、こんなところにも...はい、ありがとうございます」

 

 

時間はたっぷりあるさ、のんびり行こう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬあー!?くっそ、誰だこんなとこに穴掘ったのー!?...アタシだったわ!こんちくしょう!」

 

 




自業自得が過ぎる

こんな感じですね。さて、無事にたどり着けそうかな?妖精長。ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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20話 兎さんは怒ると怖い

キリが良いですね、20話です。感想お気に入り、評価栞等々本当にありがとうございます。誤字報告もとても助かってます。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「...暇ね」

 

 

自室に籠り、畳の上をごろごろしながら天井を眺めてそう呟く。むー...今日は妹紅とやり合う日でもないし、いつもてゐが遊びにくる時間も過ぎてるし...あー、退屈で死んじゃいそうねー

 

最近は...まぁ、一昨日に大宴会があったばかりだけど、それ以外あんまり面白いことは起こってないのよね。また異変でも起こそうかしら?ま、あれは不可抗力って感じだったけれど

 

 

「...鈴仙にちょっかいでも掛けようかしら」

 

 

鈴仙ったら、毎回反応が面白いから飽きないのよね...永琳には程々にしてあげなさい、なんて言われてるけど...だって仕方ないじゃない、面白いんだもの

 

さ、そうと決まったら早速行こうかしら。上体を起こし、立ち上がる。んー、今日は何して困らせてあげようかしらね...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あとどれくらいで着きますかね、妹紅さん」

 

「んー?...まぁ、10分も掛からないかな」

 

 

いつまでもおんなじ景色、並び立つ竹林を眺めながらそう問い掛ける。歩き始めてから30分程だろうか...となると往復で一時間半程度。道順さえ間違えなければ案外近いようだ

 

今は...もう夕暮れ前ですね。鬱蒼と生い茂っている竹の葉っぱに覆われ、少し分かりづらいけれど日が傾いて来ていて、視界が利きづらい。それもあり、辺りを照らすために妹紅さんが...えっと、妖術で人魂のようなものを周りに漂わせている。便利ですね、妖術...

 

 

「ま、急がなくても永遠亭は逃げないよ......ん?...ちょっと静かにしてくれるか」

 

「?...どうされたんですか?」

 

 

そんなふうに話していると、急に妹紅さんの足が止まる。鼻先に人差し指を当て、静かにするように促される...?どうしたんだろうか

 

 

「...なんか来るな」

 

「なんか、ですか?......あ、確かにちょっとなにか聞こえてくるような...」

 

 

何かが来る。そう聞いて耳を澄ませてみると確かに聞こえる。向かって正面から、こちらに声?足音?が微かに...少しずつ近づいて来る

 

 

「...こだー!?よ...いー!!」

 

「?何か言ってますね。というか、ちょっと聞き覚えがあるような無いような...」

 

 

何かを叫んでいる声が少しずつ鮮明になっていく。あれ、この声どこかで聞いたような...?

 

 

「...へぇ、あちらさんから出向いてくれるとはね。探す手間が省けたよあの野郎」

 

「えっ?と言うと...」

 

 

どうやら妹紅さんはこの声の主が誰なのか見当がついているらしい。お知り合いですかね?なん考えていると、

 

 

「どこだー!?妖精ー!!って、いたー!!!」

 

「あっ、あの兎さんはさっきの...」

 

 

はっきりと聞こえた声と共にその声の主が姿を現す。うさみみを生やした少女...通りで聞き覚えがあると思ったら...こちらに気が付き、そのまま進路を変えずに猛進してくる兎さんは

 

 

「やーっと見つけたあああああっ?!」

 

「え、あのちょっと!大丈夫ですか!?ってやっぱり深っ!」

 

「かー...なーにやってんだよ、てゐ」

 

 

勢いそのままに落とし穴に引っ掛かった。えっ、なにごと?

 

 

「ったく...ほれ、掴まりなよ...って、うおぉ!?」

 

「はー、はー...み、見つけた。妖精のメイド...」

 

「...え、私ですか?」

 

 

仕方なさそうに穴に手を伸ばす妹紅さんが飛び退く。それもそのはず、突然穴から兎さんが飛び出してきたのだ。流石の跳躍力というか...って、見つけた?...一体どういう...

 

 

「おい、ちょっとてゐ「アンタうちのお客さんなんだって!?しかもあの館の使いなんだったら早く言いなよ!ちゃんと案内すんのにさ!ほらもう永遠亭も目と鼻の先だからさっさと行グエッ?!」

 

「...人の話はちゃんと聞けよこの馬鹿兎」

 

 

妹紅さんの言葉を遮り、捲し立てる兎さん...てゐさんと言うらしい少女の脳天に手刀が鋭く落ちる。うわっ、鈍い音...頭のてっぺんにはそれこそ漫画みたいな大きいたんこぶが拵えられていた。というか意識無いんじゃ...?

 

 

「ひとまずコイツは鈴仙に突き出すか。さ、言ってた通りだし、行こうか」

 

「きゅー...」

 

「あ、え...え?は、はい...」

 

 

すっかり目を回しているてゐさんを肩に担ぎ上げ、道を進もうとする妹紅さん。えっと...まぁ、いっか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「到着っと。おい、そろそろ起きろって」

 

「はぅあっ?!ここはどこ!?私はてゐ!!」

 

「永遠亭だよこの馬鹿兎」

 

「あだっ?!」

 

「へぇ...ここが......」

 

 

私たちが足を止めたのは古風な日本家屋...周りを塀に囲まれ、全貌はイマイチ掴めないけど、かなり大きい。いわゆるお屋敷というやつですかね。どことなく白玉楼に似ている気もする。あ、てゐさん起きたみたいですね、良かった...って、また痛そう

 

 

「おーい、鈴せーん。お客さん連れてきたぞー......あれ、居ないのか?」

 

「いてて...?私が出た時は居たし、特に出かける素振りも無かったけど」

 

「お仕事してるんですかね、お医者さんですし」

 

「...まぁ、入っても大丈夫だろ。コイツも居るし」

 

「ん、構わないと思うよ」

 

 

恐らくお医者さんのお名前だろうか、妹紅さんが呼び掛ける...けれど、特に中から返事は無かった。今は手が離せないとかかな。ただ、てゐさんがここの住民ということもあり、そのまま引き戸に手を伸ばす

 

 

「お邪魔し「ちょっ、輝夜様!誰か来たみたいですからいい加減に降りてください!早く応対しないと...」

 

「えー、このまま永琳のとこまで行きましょうよ。ほら、鈴仙号しゅっぱーつ!」

 

 

扉を開いた先では、なぜかうさみみを携えた女性の上に和装の女性が馬乗りになっていた。...はい?

 

 

「そんな我が儘ばっかり言わないでください!いつもいつも「おーい、鈴せーん」ちょっと待ってて下さい!いま輝夜様にお説教...を......?」

 

「ただいまー、鈴仙。ほれ、お客さん」

 

「あら、もこたんいらっしゃい」

 

「その呼び方やめろお前」

 

「あ、お邪魔してます...」

 

「あ...あうぅ......」

 

言葉を詰まらせたうさみみの女性...鈴仙さんは顔を真っ赤にして動かなくなってしまった......四つん這いで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、えーっと...貴女が紅魔館の?」

 

「はい。いつものお薬を受け取りに行くように、とメイド長から...」

 

 

鈴仙さんも立ち上がり、そのまま玄関にて要件を話す。あちら側にもメイド長が伝書を送っていたらしくそのままスムーズに快諾してもらえた...まだほんのり顔が赤いけど

 

既に料金は支払われているらしい。定期購入のようなものですかね...他の方々、妹紅さんにてゐさん、輝夜さんは近くで談笑している

 

 

「それにしても遅かったですね。伝書ではもう少し早く着く、とあったんですが...」

 

「あぁ、実はちょっと落とし穴に、ですね...」

 

「落とし穴...ちょっと、てゐ」

 

「やばっ!...三十六計逃げるに如かぐえっ?!」

 

「逃がさんよ、馬鹿兎」

 

 

落とし穴について話したところ、鈴仙さんが少しばかり怒気を孕んだ声でその名前を呼ぶ。それを耳にして危険を察知したのか、即座に逃げようとしたてゐさん...の首根っこを掴んだ妹紅さん。てゐさんからは潰れたカエルみたいな声が漏れる

 

 

「ちょ!?あんたには関係無「踏んだら縄で宙ぶらりんになる罠」あー、それ新作なんだよ...ね......え?」

 

「そういうこと、観念しな」

 

「あら、てゐったらまた悪戯したの?懲りないのね」

 

「ほい、鈴仙」

 

 

そのまま首根っこを掴まれたまま、鈴仙さんの目の前に突き出された。...ちょっと泣きそうになってません?

 

 

「いや、あの...違「てゐ?」......はぃ」

 

「私、夕飯まだ決めてないって...言ったわよね?」

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お鍋の具材になりたいの?」

 

「ごめんなさーいっ!!!」

 

 

涙ながらの謝罪が永遠亭に響き渡った

 

 




どこが幸運の兎さんやねん

んー、色々と安定しない...こっちの話ですが。次回ももしかすると水曜かも、です。ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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21話 お姫様はお転婆さん

そんなこんなで21話です。今回は難産でしたね...なんとか仕上がりましたが。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「すみません、うちのてゐが迷惑かけちゃったみたいで...後でキツく言っておきます」

 

「いえいえ、そんな...特にケガも無かったので大丈夫ですよ。気にしないでください」

 

 

丁寧にペコリと頭を下げられるも、痛いところも特になく、目的地まで辿り着けたので私としてはモーマンタイ、と言ったところなんですが...

 

因みに、お鍋の具材は流石に冗談だったようで、今は少しのお説教で済んだんですが...後でまたあれよりキツいお説教が待っているとのこと。鈴仙さんは怒らせてはいけないタイプの人みたいですね...他のお二人はしょんぼりしているてゐさんを面白がったり慰めたりしている

 

 

「申し遅れました。私、紅魔館に勤めております、妖精長、と申します」

 

「ご丁寧にどうも...って、え?貴女が藍さんの言っていた...?」

 

「?...藍さんとお知り合いなんですか?それも私のお話を...?」

 

 

少し遅れてしまった自己紹介に意外な反応を見せる鈴仙さん。どうやら藍さんのお知り合いらしいけれど...私のことを?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宴会の明くる日、いつものようにお師匠様のお手伝いをしていると扉を叩く音が聞こえた。来客みたいですね...一度作業をしている手を止め、応対のために玄関へと向かう

 

 

 

「はーい、どなたですか...」

 

「ん、久しぶり鈴仙...と言っても昨日の宴会には来てたみたいだけれど。今大丈夫かい?」

 

 

扉を開けると、そこに居たのは藍さん。珍しいですね、永遠亭に直接来られるなんて...

 

 

「藍さん!あっ、昨日はすみません。輝夜様が早々に酔ってしまって...その面倒を...」

 

「あぁ、そっちも大変だったみたいだな。いやなに、構わないさ。私も紫様のお相手をしたりで行けないこともあるからな...厨房の手伝いは来れるときで構わないよ」

 

 

昨日は幽々子さんも来ていたので、できればお手伝いしたかったんですけど...久しぶりの宴会だからっていきなり飛ばし過ぎですよ輝夜様...

 

 

「それで、今日はどういったご要件で?」

 

「あー...それなんだがなぁ...」

 

 

?...当たり前な疑問にひどく歯切れの悪い藍さん。何か思うところでもあるんでしょうか...

 

 

「...いわゆる、痩せる薬が無いかと思ってな」

 

「へ?...えーっと」

 

 

痩せるお薬...ですか?突然のことに間の抜けた声が口を突いて出てしまった。失礼ながら、まじまじと藍さんの身体を見る。特にお変わりになられた様子は...あれですかね、案外着痩せするタイプとか...

 

 

「いや、私じゃなくてな...紫様がちょっとな」

 

「あっ...そ、そうですよね!えっと、それなら...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突然押し掛けてすまないね。これ、お代」

 

「いえ、藍さんも変わらず、立派なお客様ですから!えっと...毎食後に飲むようお伝えください」

 

 

ひとまず痩せるお薬、ということで適当に見繕ってきた中から藍さんに選んでもらった。一様に痩せるお薬と言っても、色々種類もありますからね。これは結構キツめのお薬ですけど...

 

 

「それにしても、突然痩せるお薬が欲しいなんて...どうかしたんですか?」

 

「あー...実はな、幽々子様に何か言われたらしくてそれで...」

 

 

あっ...そういうことでしたか。確かにあの方なら言いそうですね...しかも亡霊って確かいくら食べても太らないとか。まぁ、それで宴会が毎回大変になるんですけれど...あ、そう言えば

 

 

「昨日、大丈夫だったんですか?厨房の方は...」

 

「ん?あぁ、大丈夫だったよ。何せ、とても頼もしい援軍が来てたからな...」

 

「援軍、ですか?」

 

「...そうだな、折角だし少し話そうか。昨日はな...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳でお話は聞いてますよ。何でも凄い活躍だったとか...」

 

「へー...そんな凄い妖精さんなのね。一昨日のお料理、美味しかったわ」

 

「それにしてはちょっとどんくさいというか、いてっ?!」

 

「ったく、落としたお前が言うなよ」

 

「あ、あははー...」

 

 

一通り鈴仙さんのお話が終わり、向けられるのは興味と羨望の入り交じった視線。...いやー、確かに少し頑張りましたけど...そこまで言われるとやっぱり照れてしまう...あ、そうだ

 

 

「鈴仙さん、それでお薬の方は...」

 

「あ、ごめんなさい!すぐに持って来ますね」

 

 

この場所に来た目的、パチュリー様の喘息のお薬のことを思い出す。どうやらお薬は屋敷の奥の方にあるらしく、鈴仙さんはそちらへと歩いていった。ひとまずこれでお使いは半分おしまい、ですかね

 

 

「...ん、そうだ。妖精長、お前竹林までは1人で来たんだっけか」

 

「え、はい。そうですけど...」

 

 

そんなことを考えていると、藪から棒に妹紅さんがそう聞いてくる。確かにそうですけど...何かあるんだろうか

 

 

「あー...となると帰りがちょっとばかり危ないかもな」

 

「えっ、それって...」

 

「そうねー、夜になると凶暴な妖怪が活発になるもの。貴女飛べないんでしょ?となると尚更、ね」

 

「ま、そういうことだな。おそらくあのメイドも夕暮れまでには帰ってくる、と踏んでたんだろうけど...」

 

「うっ...わ、悪かったってば」

 

 

きょ、凶暴な...妖怪。...今まで出会った方々は皆温厚で、そういう凶暴なお方はいなかったんですが...確かに妖怪って本来そういうやつですもんね...え、怖い

 

 

「あら、それならうちに泊まってけば良いじゃない」

 

「へ?」

 

 

輝夜さんの唐突な申し出にそんな声を漏らしてしまう。いや、でも流石にそこまでお世話になる訳には...

 

 

「お待たせしましたー...って、あれ?どうかしたんですか?」

 

「いや、あの「鈴仙、この子今日泊まっていくことになったから。いつもより1人...2人分多くお夕飯お願いねー」ちょ、輝夜さん!?」

 

 

そんな中、戻って来た鈴仙さんへ投げ掛けようとした言葉は途中で遮られてしまう。ええっ!?ちょ、待って下さいよ!それに2人分って...

 

 

「ほら、もこたんも泊まってくでしょ?明日の道案内もあるでしょうし。えぇ、決まりね!」

 

「ちょ、おまっ...はぁ、諦めなよ妖精長。こうなったら聞かないからな、コイツ」

 

「も、妹紅さん...」

 

「それに危ないってのはホントだからね。遠慮せずに泊まってくと良いよ」

 

「てゐさんまで...」

 

 

そんな訳で永遠亭での一泊が半ば強引に決定されてしまった。確かに仕方ないとは言え...これ、またメイド長に変な心配掛けちゃうんじゃ...うぅ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にがーい!藍これ苦すぎるわよっ!」

 

「良薬は口に苦し、ですよ。我慢して飲んでください紫様」

 

 




さて、また怒られちゃうのか妖精長。ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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22話 赤青さんは凄腕医師

22話ですね。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「ほ、ホントに凄い...」

 

「...そうですかね?」

 

 

鈴仙さんの熱い視線を受けながら、手に持っている包丁を動かす。という訳で、今は永遠亭のお台所にて夕飯の準備を手伝わせてもらっているところ、なんですが...

 

 

「確かにこの手際なら、ブン屋が記事にする気持ちも分かるな」

 

「そうねー。鈴仙も負けてられないわよ、ほらほら」

 

「あはは。姫様、それは流石に酷ってやつじゃ...」

 

 

なんでお三方も台所まで来てるんですかね...流石にこれだけの人数に見られるとなると恥ずかしいですよ。もう...

 

さて、白玉楼での一件では、お手伝いあんまりできませんでしたから...今回ばかりはちゃんと手伝わせてもらいますよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...帰ってこない、わね」

 

 

懐中時計を懐へと仕舞いながら、そう呟く。既に日は山の向こうへと鳴りを潜め、その対面ではもう欠けた月が空高く昇っている

 

...遅い、あの子ならもう帰って来る時間の筈。また何か面倒事にでも巻き込まれてしまったのかしら。やっぱり1人で行かせるべきじゃ...今からでも迎えに行きたいけど、私まで館を空ける訳には...

 

 

「あれ?どうしたんですか咲夜さん、そんな怖い顔して...」

 

「ん...どう、妖精長は帰って来たかしら?」

 

「いえ、まだみたいです...宴会の時のこともありますし、ちょっと心配ですね」

 

 

どうしたものかと頭を悩ませていると、門番の仕事を終えた美鈴に話し掛けられる。...こうなってしまった以上、仕方ないかしらね。少しばかり頼りないけれど

 

 

「美鈴、少し頼まれてくれないかしら」

 

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、と。そんじゃ、持ってくの手伝うよ」

 

「あ、ありがとうございます妹紅さん」

 

 

あらかた料理の方も出来上がり、後は食卓へと並べるだけ。結局は妹紅さんに手伝ってもらうことに...ちょっと申し訳ないですね。ちなみに他のお二人は、と言うと...

 

 

「ったくアイツら...つまみ食いするだけして先に待ってるって...どんな神経してるんだか」

 

「あはは...」

 

「あ、お二人ともー、真っ直ぐ行って突き当たりを右です!私も後から行きますねー」

 

「あいよー。じゃ、行こうか」

 

「そうですね。あっ、鈴仙さーん、また後でー!」

 

 

どこかあーちゃんに似ているような...なんて考えていると、台所からうさみみと顔を出した鈴仙さんが、廊下に出た私たちへと食卓までの道を軽く教えてくださった。私の呼ぶ声に手を振ってくれた鈴仙さんと別れ、妹紅さんと二人廊下を歩いて行く

 

 

「お、こっちこっち!待ちくたびれたよー」

 

「お前...早く食いたいならこれ並べてな。じゃ、残りのやつ取ってくるよ」

 

「はいよー、っと。ほらほら、姫様もお腹空かせてるから早く行こ」

 

「てゐー、まーだー?」

 

「あはは、ホントですね...お待たせしました、輝夜さん」

 

 

言われた通りに右へと進路を変えると、少し行ったところ辺りでてゐさんの姿が見えた。どうやら目印代わりにと、待っていてくれたらしい。こちらに気がつくと手招きで早く早く!と催促してくるのが分かる。余程腹ぺこなんですかね、てゐさん

 

妹紅さんは持っていた御盆をてゐさんに渡すと、まだ台所にいくつか残っている料理を取りに戻っていった。部屋の中からはこれまた催促の声、永遠亭の方々は食いしん坊さんが多いんでしょうか...

 

 

「あら、ちょっといつもより豪勢ね。これも貴女のお陰かしら?」

 

「いえ、献立は殆ど鈴仙さんがお決めになられましたよ。あ、お茶碗どうぞ」

 

「ありがと...ってこらてゐ、ちゃんと並べてから食べなさいな」

 

「むぐっ...はーい、あいたっ!?」

 

「ったく、ちょっと位我慢しろよ。妖精長、これも頼む」

 

「はーい、おっとと」

 

 

他愛もない話をしながら料理を配膳していく。てゐさんはつまみ食いの常習犯ですね...あ、今日何度目かの手刀が脳天に...思わず自分の頭をさすってしまう

 

 

「遅れましたー、ってもう全部並べ終わっちゃいました?」

 

「遅いよ鈴仙、早く食べよー」

 

「お、戻ってきたな」

 

 

あらかた配膳も済んだ辺りで鈴仙さんが合流。さて、それじゃあてゐさんも待ちわびてますしそろそろ...ってあれ?

 

 

「一つ多い...?」

 

「ん...鈴仙、永琳は?呼びに行ってたんじゃないのかしら?」

 

「はい、薬の調合をまだ...キリの良い所で切り上げる、と」

 

 

食器が一式多い...間違えたかな?なんて考えていると、お二人の会話の中で名前が一つ出てきた。どうやら、まだお会いしていない方がいらしたみたいですね...まだお仕事中らしい

 

 

「あら...じゃあ先に食べちゃいましょうか」

 

「待たなくても良いんですか?」

 

「んー?待っても良いけれど...いつまで掛かるか分からないわよ?それに...」

 

「お腹空いたー、早く食べたーい」

 

「...ね?」

 

「そ、そうですね」

 

 

あぁ...この様子ではもう待てそうにないですね。私含め4人は急かされるように席に着く

 

 

「じゃあ折角だし...妖精長、音頭とってくれるかしら?」

 

「へ?わ、私ですか?」

 

「そうですね。今日のゲストですし、お願いします!」

 

「誰でも良いから早くー」

 

「ちょっと位待てないのか?...ん、頼むよ妖精長」

 

「え...わ、分かりました。じゃあ」

 

 

半ば押しきられるように任される。まぁ、やりましょうか。両の手のひらを合わせて皆さんの方を見る...よし、それじゃあ...

 

 

「いただきます」

 

 

「「「「いただきます!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはぁー!美味しかったー...」

 

「そうねー、鈴仙もこれくらい料理上手なら...ねぇ」

 

「え...こ、これには敵いませんよぉ」

 

 

食事も終わり、それぞれ談笑したりお茶を啜ったりと、のんびりとした時間が流れている。献立にニンジンが少し多い気がしたんですが、曲がりなりにも兎さんみたいですね

 

 

「あれ、あの...卵とニンジンのやつ美味しかった!」

 

「お口に合って良かったです。簡単ですけど...」

 

「鈴仙、後でレシピ教えてもらいなさいな。また食べたいわ」

 

 

好評でした、にんじんしりしり。簡単で美味しいから良く作るんですよね。フラン様もあれならニンジン食べれるみたいで、重宝してます...あ、そう言えば

 

 

「永琳さん...来られませんでしたね」

 

「そうね...まぁ、いつもこんな感じだから、気にしなくていいわよ」

 

「一度集中するとしばらく作業に没頭しちゃうんですね、お師匠様...」

 

 

...いつも、と聞くと少し心配になってしまう。根を詰めすぎると身体を壊してしまいますし...よし

 

 

「鈴仙さん、台所お借りしてもよろしいですか?」

 

「え?大丈夫ですけど...」

 

 

立ち上がり、今一度台所へと向かう。鈴仙さんが行ってたのは確かあっち...少しなら探しましょうかね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ...ん、んぅ...」

 

 

調合用の器具を置き、伸びを一つ...身体の節々から小気味良く鳴る音が、私自身の疲労を訴えてくる。さて、後もう少し...

 

 

「失礼します、永琳さん...ですか?」

 

「ん...あら?貴女は...」

 

 

部屋の外、廊下の方からする聞き馴染みのない声に振り返る。そこには...おそらく妖精、かしら。そう言えばうどんげが妖精が1人泊まるって言っていた...気がするわね。その子かしら...

 

 

「どうかしたの?...あぁ、客間ならそこの奥の...」

 

「いえ、あの...これ」

 

「?...あら」

 

 

道に迷ったのかしら、なんて思っていると手元に何か持っているのが見えた。これは...

 

 

「お夜食です。余り根を詰めすぎると、身体によろしくありませんよ...?」

 

 

御盆の上にはおにぎりが二つとお漬け物...

 

 

「これ、貴女が?」

 

「簡単なものしか用意できませんでしたが...良ければどうぞ」

 

 

うどんげ辺りに聞いたのかしら。わざわざ私のために...最近はしばらく何も食べていなかったし...そうね

 

 

「ありがとう、いただくわ」

 

「はい。これ、置いておきますね...それでは、無理なさらないように...失礼します」

 

 

手元の布巾で拭いた机の上に盆を置き、軽い挨拶をして来た道を戻っていく妖精...軽く手を洗いおにぎりを一口

 

 

「...あったかい」

 

 

久方ぶりの食事にそんな声が漏れてしまう...まぁ、こんな身体になっても、無理は禁物かしらね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖精長ー、どこですかー?って、ぎゃああああ?!なんで落とし穴がー!?」

 

 




美鈴...どんまい。ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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23話 猫又さんは縄張り意識が高い

さて、23話になります。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「うーん...」

 

 

軽く唸り声を口から漏らしながら歩く。メイド長からおつかいを頼まれ、迷いの竹林へと足を運んでひと悶着あり、永遠亭でお世話になったのが昨日のこと

 

 

「えーっと...」

 

 

一晩を明かし、永遠亭の皆さんにお礼と別れの挨拶をした後、竹林の案内人である妹紅さんに出口までご一緒してもらい、別れたのが二時間程前。あれ、ここさっきも通ったような...?

 

 

「あれぇ...」

 

 

なんの連絡もなく、丸一日帰れていないこともあり急いで帰路についた私...だったんですが...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、どこですか...?」

 

 

...道に迷いました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん...どうしたものでしょう」

 

 

森の木々の合間を抜けながら、メイド長から貰った手書きの簡素な地図とにらめっこする。むー...分かんない

 

そう、元来地図というものは、自分の今いる現在地が分からなければ役に立たない只の紙くず同然の代物。気づいた時にはもう竹林まで戻る道さえも分からずに、森の中をさ迷っていたので...

 

 

「...はぁ」

 

 

せめてこうやって歩いていれば誰か、心の優しいどなたかに会える...かも、と思い歩を進めているんですが、一向にそんな気配はなく...初対面ではない大きな枯れ木を見て、思わずため息が出てしまう

 

肩を落とし、またいらない心配を掛けてしまうなぁ...なんて考えながら歩いていると、ふと視界の端に何かが映る。あれは...

 

 

「...建物?」

 

 

木々の合間から顔を覗かせたのは古びた家屋が幾つか。もしかして...人里?もしそうだとすれば、おそらく住民の誰かは紅魔館までの道を知っている筈...

 

 

「これは...」

 

 

急ぎ足でその建造物の一団へと向かう。雑木林を抜け、少し拓いた所へと出ると、その正体が分かった

 

 

「廃墟...いえ、廃村?でしょうか...」

 

 

古びた家屋達は近くでみると殆ど穴が空いていたり襖が破れていたりと、人々の営みがそこにあったとは思えない程寂れており、人の気配は感じられなかった

 

おそらく、人がいなくなってから数十年位は経過しているような...と、周りを見渡しながら歩いていると、この廃村跡に住民の姿を見つけた。見つけたんですが...

 

 

「ネコ...?」

 

「なーお」

 

 

ボロボロになった家屋の縁側。ひなたぼっこでもしていたのか、欠伸にも聞こえる鳴き声を漏らすと、こちらに気づいたのかとことこと私に近付き、足にすり寄ってきた

 

 

「わっ...ここはあなたのお家なんですか...?」

 

「なー、ごろごろ」

 

 

屈み込んで、猫の頭やら喉の辺りを撫でながらそんなことを聞いていると、少し視線を感じた。落としていた視線を上へ、家屋の屋根の方へと向ける...あぁ

 

 

「あなたたち、でしたか」

 

「なーお」

 

 

そこにはざっと数えて...十数匹のネコがこちらを興味ありげに覗き込んでいる姿があった。どうやら、人がいなくなってからは野良ネコが住み着くようになったみたいですかね...

 

さて、猫と戯れるのもやぶさかでは無いですが、早いところ紅魔館へ帰らないと...再び屈み込み、ネコを撫でる

 

 

「ごめんね。遊んであげたいけれど、今は「うりゃーっ!」...へ?って、ふぎゅっ?!」

 

 

猫との別れを惜しんでいると、上...屋根の方からそんな声が突然辺りに響く。何事かと振り向く間もなく、背中に衝撃が走り、前のめりに倒れ込んでしまう。その何者かはそのまま私の背に馬乗りになり抑え込んでくる

 

 

「いたた...な、何が「ウチの子たちに何してるのよ!」...え?」

 

 

もう一度聞こえたのはそんな少女の可愛らしい声。おそらくはネコのこと、でしょうけれど。私は只、撫でていただけなんですが...

 

弁明のため、首だけを後ろに向け言葉を発しようとする口が一度止まる。理由は明白だった

 

 

「ね...ネコみみ?」

 

「羽根...貴女、妖精ね?」

 

「...なーお?」

 

 

そう言う彼女の頭部にはぴこぴこと動くネコみみがあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...妖精がここに迷い混むなんて珍しい。最近は人間でさえこの辺りでは見かけることも減っていたし...元来妖精という種族は道に迷わせる側。それなのに...ううん

 

 

「それで、ウチの子たちに何してたのよ!」

 

 

それはそこまで関係のないこと。私がお昼ご飯の魚を捕りにいってる隙に、私の式神候補のネコたちに手を出していたことの方が問題よ!馬乗りのまま、ぐいっと少し力を込める

 

 

「ぐえっ...あ、あの、私は只道に迷ってしまって、それで...」

 

「しらばっくれてもダメよ、妖精はイタズラ好きだって相場が決まってるんだから!」

 

 

そう、今までも妖精たちには沢山酷い目にあわされてきたもの...今思い出しても腹が立つ

 

 

「なー!なーおっ!」

 

「へ?ちょ、急にどうしたの?」

 

 

そのまま抑え込んでいると、襲われていた一匹のネコが話し掛けてきた。うん...うん......えっ、じゃあホントに...いや、でも...ん?

 

 

「!...すん、すん...あっ!この匂いは...」

 

 

そんな証言にうーん...と唸っていると、上空から優しい、包み込んでくれるようないつもの匂い、気配が近付いてくる...これは!

 

 

「よっ、と。橙、今日も修行は欠かしていないか?」

 

「藍しゃま!!」

 

 

やっぱり藍さまだ!ここ、迷い家に時々訪れては私の様子を見てくださったり、修行をつけてくださる...私の主

 

 

「はい!藍さまの式として恥ずかしくないよう、鍛練の日々です!」

 

「うんうん、良い心掛けだな...ん?...橙、その下に敷いてるのは...」

 

「うっ...ら、藍さん...ですか?」

 

「って、もしかして妖精長か!?ちょ、橙!退いてやりなさい!」

 

「えっ。藍さまのお知り合い?」

 

「なーお...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、すまなかったな、ウチの橙が...悪気は無かったと思うんだが」

 

「ご、ごめんなさい...」

 

「いえ、私も勝手にこの集落に入ってしまったので...警戒されても仕方ないですし...」

 

 

突然現れた藍さんのお陰で、馬乗り状態から解放された私。どうやらここは藍さんの式神である...橙さん、の住まいだったらしい

 

頭部から生えるネコみみから分かる通り、橙さんは妖怪のようだ。ネコってことは、猫又?だろうか。今はお互いに謝りあっているところです

 

 

「いや、ここは迷い家と言ってな、道に迷うといずれこの場所に着いてしまうという性質が有るんだ」

 

「迷い家...ですか。ここが...」

 

 

迷い家...確か、少し前に大図書館で漁った文献で見た記憶がある。文献では、今藍さんが言った通りの内容だった...

 

 

「それにしても...何かあったのか?妖精長」

 

「あ、実は...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~少女説明中~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだったのか...なら、館まで私が送ろうか?」

 

「え、でも...」

 

 

一通り説明したところ、なんと藍さんが紅魔館まで連れていってくれる、とのこと。ですが、また人に迷惑を掛けてしまうとなると...

 

 

「なに、迷惑だなんて思っていないさ。宴会でも世話になったからな」

 

「藍さん...」

 

 

やっぱり優しい方です...ここの住人の方たちは皆こうなんだろうか。そうですね...ここはお言葉に甘えて「ぐきゅるるる~」...ん?

 

 

「!!?...いやっ!違っ...うぅ...///」

 

「...ふふっ。妖精長、その前にお昼でもどうだ?ご馳走しよう」

 

「ふふっ...そうですね、いただきます」

 

 

腹が減ってはなんとやら、ですもんね。ふふっ

 

 




難産でした...ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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24話 九尾さんは親バカ

遅れました...24話です。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「永遠亭か...となると、鈴仙にはもう会ったか?」

 

「ずぞぞー...んくっ。鈴仙さん、ですか?」

 

 

一口分のうどんをすすり終え、そう返す。用意していただいたお昼はきつねうどん。ちらっと藍さんの方の器を見ると、おっきい油揚げが三枚...やっぱりお稲荷さんなんじゃ...?

 

 

「あぁ、この前の宴会では主人のお守りで来れなかったみたいなんだが、普段から手伝いに来てくれてるんだ。よく飲みに行ったりもするよ」

 

「そうだったんですね...納得です」

 

 

鈴仙さんも優しい方でしたからね。また、ゆっくりお話してみたいです。ずぞぞー...んー、美味しい

 

 

「ぷはぁ、ご馳走さまでした!藍さま、私は皆にご飯あげて来ますね」

 

「ん、そうか。器は流し台に置いといてくれるか?」

 

「はい!それじゃ、お先です」

 

 

がたん、とちゃぶ台に器の置かれる音が鳴り、早々に昼食を終えたのは橙さんだ。食べるの早いですね...ずぞぞー

 

 

「皆にご飯...ってことは、あのネコたちはここで飼ってるんですか?」

 

「そうだな。あのネコたちは皆橙の式神候補でな、どちらかと言えば飼っている、というよりは住み着いてる、の方が正しいがな」

 

 

ずぞぞー...えーっと、橙さんが藍さんの式神だから...式神さんの式神さん候補、ということですかね

 

 

「式神さんの式神さん候補、ですか...ちょっとややこしいですね」

 

「ん?正しくは式神さんの式神さんの式神候補、だな。ずぞぞー」

 

「?...となると...」

 

 

式神さんの式神さんの式神候補...えっと、式神候補がここのネコたちで、その主人が橙さん。その主人が藍さんだから...

 

 

「じゃあ、藍さんも誰かの式神さんなんですか?」

 

「あぁ、そうだな。この前の宴会には来られなかったが、れっきとした主人がいるよ」

 

 

はへー...そうだったんですね。そう言えば、鈴仙さんのお話でお名前も出てたような出てないような...ずぞぞー

 

 

「んー...こう見るとお二人って、お母さんと娘さんみたいですね」

 

「ごふっ?!そ、そそそ、そうか!?いや橙は大事な式神だがそんな親子みたいだなんて言われると少し照れるというかなんというか確かに可愛いし頑張り屋で健気なところもあってだな...はっ!?...すまん、取り乱した...」

 

「...ふふっ、素敵ですね」

 

 

藍さん、かなりの親バカさんみたいですね...さてと、残りもささっと食べちゃいましょうか。ずぞぞー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走さまでした、とっても美味しかったです」

 

「む、そうか!...口に合ったようなら良かったよ。器、そこに置いといてくれるか?」

 

 

昼食を終え、空になった器を持って台所へと向かう。やー...おうどんなんて食べたのはいつぶりですかね。こっちに来てからは初めてですし、美味しかったなぁ...

 

流し台では既に藍さんがお二人分の器を洗っており、遅れてやって来た私に、そう目線で促してくる。流石に手伝うにしても、手は足りてそうですかね

 

 

「これが終わったら直ぐに出発しようか。妖精長は戻ってゆっくりしてて良いぞ」

 

「分かりました。色々とありがとうございます、藍さん」

 

「構わないって言ってるだろう?...まぁ、そうさな...代わりに、と言ってはなんだが...」

 

 

言葉の途中でカチャカチャと洗い物をする手を止め、台所を後にしようとするこちらへと顔を向け微笑み掛ける

 

 

「また今度...一緒にゆっくり飲もう」

 

 

!...ホントに、底抜けに優しいなぁ...

 

 

「いやなに、無理にとは「是非!...ご一緒させてもらいます」...そうか、嬉しいよ」

 

 

少し食い気味になってしまったけれど...うん、藍さんとはのんびり話しながら飲んでみたいです。どうせなら、メイド長と...あと、妖夢さんに鈴仙さんともご一緒したいですね

 

それじゃあ洗い物が終わるまで、お言葉に甘えてゆっくりしましょうか...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...」

 

 

昼食をとっていた居間へと戻り、直ぐ側の縁側へ座り外を眺めながら藍さんを待つ。外では、お昼を終えた橙さんとネコたちが戯れ

 

 

「だー!こら、待てってばぁ!!」

 

「ふしゃー!!」

 

 

戯れ...いや、威嚇されて...あれ、式神候補なんじゃ...?

 

 

「ぎにゃー!?ちょ、こっち来ないでー!!」

 

「「「ふしゃしゃー!!」」」

 

 

...追いかけ回されてます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んー...式神候補ってことは、もう既に皆手懐けてるようなものだと思ってたんですが...まぁ、喧嘩するほど仲が良い、とも言いますしね。案外仲良しなのかも

 

 

「お前はどう思います...?」

 

「なーお?...ごろごろ」

 

 

なんて話し掛けてみるものの、膝の上で私に良いようにされているネコは、まるで疑問符でも浮かんでるかのように鳴いて身をよじらせている...んー、ここが良いんですか?よしよし

 

この子は最初に私の前へ出てきた子で、今橙さんを追いかけ回している子たちとは少し離れてお昼寝してましたが、私に気づいたのかお膝の上に...

 

 

「さっきは説得してくれたみたいで、ありがとうございますね」

 

「なーお」

 

 

む、もっと撫でろ、ですか?しょうがないですね...藍さんが洗い物を済ませてくるまで、ですよ

 

 

「ぎにゃーっ!!??」

 

 

そんなこんなで膝上のネコと戯れていると、橙さんの一際大きな叫び声が聞こえてくる。この子もビックリしたのか身体を跳ねさせている

 

さっきまで追いかけ回していたネコたちは、一仕事終えた、なんて感じで各々が屋根やら木の上やら自分たちのお気に入りのスポットへと足を運んで行く

 

 

「うぅ...もぉ」

 

「皆さん、仲良しなんですね」

 

「でしょー?...って、何がどうなったらそう見えるのよ!?ばかぁ!!」

 

 

身体の至るところに引っ掻き傷を携えた橙さんが、ため息混じりに縁側へとやってくる...っと、妖夢さんに勝るとも劣らないツッコミですね。そのまま不機嫌そうに私から少し離れて腰をおろす

 

 

「...どうすれば、仲良くなれるのかな」

 

 

耳が垂れてしまい、明らかに元気のない声でぼそりと呟く橙さん。...そうですね

 

 

「ちょっと、手伝ってくれますか?」

 

「?...なーお!」

 

 

うん、良いお返事ですね。心優しい協力者を抱き上げ、橙さんの隣へ腰をおろす

 

 

「...ん?何よ...急に」

 

「よっ、と。はい橙さん、撫でてあげて下さい」

 

「なーお」

 

「!...べ、別に私は......こ、こう...?」

 

 

恐る恐る、と言った感じで身を乗り出し、震える手でネコの頭へと手を出そうとする橙さん

 

 

「あ、手は下から出してあげて下さい。怖がっちゃいますから」

 

「え!...そ、そうなの?じゃあ...」

 

 

そおっ、と出された手がネコの下顎に手が触れる。気持ち良さそうに喉を鳴らし、満足げな顔をしている...

 

 

「なーお...ごろごろ」

 

「ほ、ホントだ...気持ち良さそう...って、わ!」

 

 

ぴょんっ、と橙さんの膝の上へ飛び乗り、なでなでを催促するネコ。うん、嬉しそうですね...ネコも、橙さんも

 

 

「これで仲良し、ですね」

 

「!...うん!...あ、ありがと!えっと...」

 

「妖精長です。よーちゃんって呼んで下さい、橙さん」

 

「橙、で良いよ...ありがと、よーちゃん!」

 

「!...はい、どういたしまして、橙」

 

「なーお...ごろごろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...今行くのは、無粋だろうな。ふふっ」

 

 

 

その様子を見て、壁に背を預け耳を傾ける親バカさんが居たとか居ないとか...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、と。大丈夫か?妖精長」

 

「は、はい...大丈夫です」

 

 

久方ぶりの地面に、少し身体が慣れていないような感覚...ここは私の職場、紅魔館の前。一日ぶりなのに、なぜだかもっと長い間帰っていなかったような感覚がする

 

飛べないことを藍さんに話したところ、あっさりと尻尾への搭乗を快諾して下さった。乗り心地は良かったんですが...高い所が、ちょっと...うっぷ

 

 

「咲夜のやつも心配してるだろう。元気な顔を早く見せてやると良い」

 

「そうですね...何はともあれ、ありがとうございました、藍さん」

 

「あぁ、また橙と遊んでやってくれると嬉しいよ。それじゃあな、妖精長」

 

「あ、また今度飲みましょうねー!...行っちゃった」

 

 

あっという間に空の彼方に消えていった藍さん...振る手を下ろし、薬の袋を持って館の方へと歩いて行く。あれ?門番さんがいない...休憩だろうか

 

とことこと門を通り過ぎ、両開きの扉に手を掛け、ぎぎぃ、と開け放つ...

 

 

「ただいま戻りま...し......た」

 

「お帰りなさい、妖精長...それで、他に何か言うことは?」

 

 

そこには、満面の笑みで声が笑っていないメイド長の姿があった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~少女弁明中~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ...貴女は本当に色々と巻き込まれるのね」

 

「申し訳ありません...」

 

 

一部始終を正直に話したところ、ひとまずはお咎め無し、となった。館の皆さんや他の妖精メイドたちに謝っておかなきゃ...

 

 

「それで、美鈴は?」

 

「え、門番さん、ですか?」

 

「あら、一緒じゃなかったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、妖精長さんですか?もう帰りましたけど...」

 

「そ...そんなぁ......うぅ」

 

 

 




気持ち多めになっております。次回も水曜日までには...ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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25話 無意識は突然に

遅くなりました...25話になります。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「よーちゃん、一緒にお出掛けしましょ!」

 

「はえ?」

 

 

フラン様からの突然の提案に間の抜けた声が口から漏れる。今は朝、先ほど他の皆に指示を出し終え、今から自分の持ち場へと移動しようとした矢先、そう声を掛けられた...いや、でも確か...

 

 

「今日はお嬢様とメイド長とご一緒にお出掛けされる筈では?」

 

 

そう、昨晩メイド長からは館の留守を任せる、と言った旨の話を聞いていた。幽々子さんのお世話になった時のこともあり、館には最低でも私、若しくはメイド長のどちらかが必ず駐在することになっている

 

 

「私まで館を空ける訳には...」

 

「あら、そのことなら大丈夫よ。妖精長」

 

 

事情の説明中、背後から声を掛けられる。この声は...

 

 

「お嬢様...大丈夫、というのは一体どういう...?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、明日はお嬢様と妹様に同伴し、出掛ける予定になっている。一応、妖精長には説明もしておいたから気にすることは余り無いと思うのだけれど...

 

 

「あ、さーくやー!」

 

「あら、妹様。明日は朝早くからお出掛けですので、余り夜更かしはいけませんよ?」

 

 

廊下の曲がり角から姿を現し、明るい声色で私を呼んだのは妹様。そのまま元気よくこちらへと近付いて来られる

 

 

「そうそう、その明日なんだけどねー」

 

「?...はい、明日がどうかなされましたか?」

 

「よーちゃんも一緒に連れて行きたいの」

 

 

私の投げ掛けた質問に満面の笑みでそう答える妹様。よ、妖精長もですか...少し難しい問題ね、これは...。二人して館を空ける訳にはいかない...心苦しいけれど、出来ない旨を伝える他ないかしらね

 

 

「申し訳ありません、妹様。私と妖精長、二人して館を空ける訳にはいきませんので、今回は...」

 

「あら、楽しそうね、それ。良いわ、妖精長も一緒に連れて行きましょう」

 

「え...あ、お嬢様!?それは「え!?お姉さま、良いの?...やったー!!明日楽しみ!」ちょ、妹様!」

 

 

突然私の謝罪を遮ったのは、私の主人、お嬢様の言葉。それを聞いた妹様は嬉しそうにぴょんぴょんと身体を跳ねさせている...ど、どうしたものかしら

 

 

「ふふ、嬉しそうね、フランったら」

 

「お、お嬢様...しかし、妖精長も同行するとなると館の留守が...」

 

「あら、それなら代わりに貴女が館に残れば良いじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういう訳で、咲夜に話は通してあるわ。安心なさい」

 

「そう!だから一緒に行こうよ、よーちゃん」

 

「は、はぁ...」

 

 

どうやら、私とメイド長が入れ替わる形で話がついているようですね。それに、館の心配事が無いのなら特に行かない理由もありませんしね、うん

 

 

「そういうことでしたら、分かりました。私が同行させていただきますね」

 

「やった!そうと決まれば早く行きましょ!ほら、おねーさまも!」

 

 

私の同行が決まるや否や、待ちきれないとばかりにぐいぐい腕を引っ張ってくるフラン様。わわっ、ちょっと待ってくださいって...あ、そう言えば

 

 

「お、お嬢様、お出掛け先は一体どこでしょうか」

 

 

そう、どこに行くのか、である。余りこの場所の地理には詳しい訳でも無く、行き先が少しばかり気になり口を突いて出た質問

 

 

「地獄よ」

 

 

あ、地獄ですか。私も多分行くのは初めてで...す......あ、え............え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も、元、ですか...ビックリしましたよ、もう」

 

「ふふ、でも面白かったわよ?貴女の反応」

 

 

日傘を片手に持ち、お嬢様の隣を歩きながらそんな会話を交わす。ある程度舗装された道の両脇には木々が鬱蒼と茂っていて、少し先を日傘片手に踵を弾ませながら進むフラン様が見える。それにしても...

 

 

「地獄なんて言われたら、あんな反応もしてしまいますよ、お嬢様...」

 

 

館でそう言われた時は遠回しな解雇通知かと思ってしまったんですけど...そう、これから私たちが向かうのは、地底というところらしい

 

そこは元々地獄の一部だったらしく、その跡地に妖怪の方々が一部、地上から移り住んだのだとか...ここまでの道中でお嬢様やフラン様がお話ししてくれました

 

 

「それにしても、そんな場所にもご友人がいらっしゃるんですね」

 

「えぇ、もう結構な付き合いね。最近は余り顔を出せて無かったのだけど...」

 

 

更に言うと、行き先は地底に住むご友人のお住まいらしい。今更ながら、お嬢様の人脈って結構広い気がする...

 

 

「そうだねー、もうどのくらい行けてなかったかなー?」

 

「二ヶ月とかそのくらいだねー」

 

「あら、もうそんなに経ったかしら...時間の流れは早いものね」

 

 

そんなことを考えながら歩いていると、先を行っていたフラン様が戻ってきてそう言う。二ヶ月、ですか...人の尺度だとまぁ、久し振りですが...吸血鬼となるとどうなんでしょう

 

 

「あ、そろそろ妖怪の山だね。地底の入り口までもうすぐ!」

 

「ホントだ!ほら、よーちゃん早くー!」

 

「ちょ、待って下さいフラン様ー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが入り口...ですか?」

 

「そ!いつもここからお邪魔してるの」

 

 

腕を引くフラン様に連れられ、辿り着いたのは何処までも続くような...全く底の見えない暗い縦穴。てゐさんの落とし穴とは比べ物にならないですね...いや、というか

 

 

「ここを降りるんです...よね」

 

「そうね。唯一の出入口なんだから、もう少し分かりやすくても良いと思うけれど」

 

「出てくる時ちょっと迷っちゃうんだよねー、うん」

 

 

いやまぁ...立地も確かにそうですけど。いや、あのぉ...

 

 

「それじゃ、行きましょう」

 

「うん!ほら、よーちゃんも行くよー」

 

「行こ行こー」

 

「あ、あの!」

 

 

今にもその縦穴へ飛び込もうとしているお三方を呼び止める。皆さんの頭上にはハテナマークが出ているようにも見える程に首を傾げたりだとか、少し困惑したような視線が浴びせられる

 

 

「どうかしたの?よーちゃん」

 

「あの...実は...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー!よーちゃん飛べないの!?」

 

「はい...お恥ずかしながら...」

 

「へー、妖精さんなのに不思議だね」

 

 

地底へと続く縦穴の前、よーちゃんのカミングアウトを聞き驚いた声をあげてしまう。ほえー、飛べないんだね...確かに、言われてみればよーちゃんが飛んでるとこ見たことない...かも

 

この縦穴は降りるというよりは落ちる、だもんねー...飛べないってなっちゃうと妖精とは言え危ないし。うーん...あっ

 

 

「私、良いこと思い付いた!」

 

「はえ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの...フラン様...?」

 

「よし!それじゃ、よーちゃんしっかり掴まっててね」

 

 

飛べない事実を話した私は、今かなり困惑している。フラン様が良いことを思い付いたらしく、その策に乗る他ないとは思いますよ。私飛べないんですから...でも、それでもですよ!

 

 

「な、ななななんでお姫様抱っこなんですかぁっ!?」

 

 

右手で背中、左手で膝裏を支えられ、為す術なくフラン様の衣服をぎゅっ、と掴み、そう慟哭する。いや、あの!運んでもらえるのは助かるんですけど!!もっと他に無かったですか!?ほら、おんぶとかなんとか...

 

 

「んー、おんぶだと羽根がうまく動かせないからこうするしかないんだもん」

 

「いーなー、私も抱っこして欲しいなー...なんちゃって」

 

「ほら、フランに妖精長も、早く行くわよ」

 

「はーい、お姉さま。それじゃ、れっつごー!」

 

 

私の叫びも通ずることなく、そのままフラン様に抱かれ、四人で縦穴の中へと......あれ、四人...?...あ、え!?

 

 

「あ、貴女...どなたですか...!?」

 

「あれ、バレちゃった...?ま、歓迎するよ!よーちゃん、だっけ?」

 

 

 




さて、皆さんはどこで「ん...あれ?」ってなりました?ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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26話 地底の玄関にて

26話になります。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「ようこそ...って」

 

「よく分かったねー、地霊殿まで気付かれないと思ってたんだけどなー」

 

 

悪戯っぽい笑みを浮かべ、首を傾げながらそう告げてくる緑の髪の少女。そこに居るのが至極当然、といったような立ち振舞いに文言...

 

困惑の色を隠せないままフラン様の腕に抱かれ、長く暗い縦穴を降下していく

 

 

「んー?...あ、こいし!?」

 

「やっほー、フラン!久し振りだねー」

 

 

その最中、ふと隣に目線を移したフラン様が驚いたように声をあげる。こいし...え、名前ってことは...お知り合いの方なんですか!?こいし...さんも気さくに返している

 

 

「あら、こいしじゃない。わざわざお出迎えに来てくれたの?」

 

「んー?ま、そんなとこだねー。レミ姉も久し振りー!」

 

 

続いてそのやり取りに気付いたのか、お嬢様も一つ挨拶を交わす。お出迎え...それに久し振り?口振りから察するに、恐らくですが...

 

 

「フラン様、この方が仰っていたご友人の...?」

 

「ん、そうだよ!こいし、この子はウチのメイドのよーちゃん!」

 

「あ、合ってた...よろしくねー、よーちゃん」

 

「えっ、あ...よろしくお願いしまへぶっ?!」

 

「うぴゃあっ?!」

 

 

フラン様に抱かれながらも、今日訪問する予定だったお嬢様たちの友人、こいしさんに挨拶を返...そうとした時、突如として落下していた感覚が止まる

 

何かにぶつかった?...というよりはせき止められた、ような感覚。突然の出来事に、潰れたカエルのような声が出てしまう。勿論、私を抱いて降りていたフラン様も同様に、ソレに止められて少々可笑しな声をあげる

 

私たちを止めたその何かは、落ちてきた私たちを跳ね返し、トランポリンのように反発する。けれど、ソレから離れることは無く、数度ぼよよんと揺れ、動きを止める。これは一体...っ!?

 

 

「あいたた...ビックリしたぁ...って、うぇっ、なにこれぇっ!?」

 

「うわー...大丈夫ー?二人とも」

 

「これは、蜘蛛の巣?かしら...随分大きいのね」

 

 

上から聞こえてくる声...どうやらこれは蜘蛛の巣らしく、引っ掛かったのはフラン様と抱かれていた私だけだったらしい。確かに下は暗いうえに、喋ってて見て無かったですし...いや、問題はそこじゃない

 

 

「あ、ああっあ、あのっ!フラン様っ!?」

 

「うぅ~、べとべとするぅ...んー?どうしたの?」

 

「で、出来ればお早く退いて下さるとっ...えっと、そのぉ...」

 

 

現在、私の置かれている状況はかなりマズイ。倫理的に。簡潔に説明すると、上から順に、フラン様、私、蜘蛛の巣、となっているんですが...まず最初に私は今あお向けで背中側が蜘蛛の巣に引っ付いており、ついでに両手両足もしっかり引っついて身動きが取れない状態です。続いてフラン様ですが前方向に倒れるような形で蜘蛛の巣に引っ掛かってしまったようでうつ伏せになっており私と同じく両手両足を絡め取られ動かせない状態になっています。とどのつまりですね、あの...

 

 

「えー、でも引っ付いて動けないよ...こいしー!お姉さま!助けてー!」

 

「こいしさん!お嬢様!助けてください!出来るだけ早く!」

 

 

当たってます!色々と!!結構しっかり!!!!

 

身体は正面から密着する形で固定され、私があお向け、フラン様がうつ伏せなので、綺麗なご尊顔が殆どゼロ距離...なんなら喋るだけでその吐息が当たってるんですが!?

 

それにですね...あの、一応中身男なんですよ!なんか前も同じようなことあった気がするんですけど!!あー、平常心平常心

 

 

「全く...しょうがないわね。こいし、そっち側引っ張ってくれる?」

 

「はーい。それじゃ、せーのっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うへぇ...まだべとべとするよー」

 

「大変な目に逢いました...」

 

 

二人がかりで引っ張ってもらい、クモの巣から逃れた後、ようやく縦穴の底、地底までやって来ました。目の前には橋が一つあり、その先には立派な町が広がっている。未だに私とフラン様の衣服には、蜘蛛の糸が所々にへばり付いたままになっている

 

 

「こいしさん...あのクモの巣は一体...?」

 

「んー、多分ヤマメのだと思うけど...あ、ほらあそこの」

 

 

先程のクモの巣に心当たりが無いか、こいしさんに聞いたところ、知り合いの方らしく直ぐに名前が出てくる。ヤマメ...さん。恐らくですが、蜘蛛の妖怪さんでしょう...って、ん?

 

 

「あそこの...?」

 

 

そう言うこいしさんが指差すのは目の前にある橋の中程。見ると二人の方々が談笑している様子だった。あのどちらかが...

 

 

「やっほー!ヤマメー!パルスィー!」

 

「...取り敢えず行きましょうか。用があるのは旧都の向こう側なんだから」

 

「はーい、お姉さま。うぅ~、気持ちわるーい」

 

 

二人の名前を呼びながら、元気に橋の方へと駆けていくこいしさんの背中についていく私たち三人。こいしさんのお家で何か拭くものでも借りれると良いんですけど...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー!ヤマメー!パルスィー!」

 

「それでねぇ...ん?...おお?こいしちゃんとは珍しい。まーた地上で遊んでたの?」

 

「相変わらず元気ね...妬ましいくらいに」

 

 

適当に橋の上でパルスィと談笑していると、私たち二人の名前を呼ぶ元気な声が聞こえてくる。そっちからってことはまた地上に出ていたらしい。パルスィはいつも通り、と

 

 

「えへへー...あ、そうそう!ねぇ、あの縦穴にあった蜘蛛の巣ってどうしたの?」

 

 

少し照れながらそんなことを聞いてくるこいし。これは誉められてはないと思うけれど...蜘蛛の巣ね

 

 

「ん?あぁ、あれね。この前飛べない妖怪が落っこちてきてね、その時は私がいてどうにか大事にはならなかったんだけれど...いつでも私がいれる訳でもないし、ってことで一応張っといたのさ。それがどうかしたの?」

 

 

まぁ、知らない間に仕事場でぽっくり逝かれてても寝覚めが悪いからね。出入りに関しても、ちゃんと目を凝らして見れば分かるから邪魔にはならないだろうし...ん?

 

 

「へー...なんだってさ、二人とも」

 

「むー...もうちょっと分かりやすくしてよー!」

 

「こいしと喋ってて下見てなかったフランもフランよ。現に私は引っ掛かってないんだから」

 

「あーっ!というか分かってたなら教えてよお姉さま!」

 

「ちょ、フラン様落ち着いてください!」

 

 

地上からのお客さん。あー、大体分かっちゃった...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フラン様、これは仕方なかったことですから。機嫌直して...」

 

「つーん」

 

「あ、そっぽ向いちゃった」

 

 

お話を聞いたところ、どうやら安全の為に張られていたものだったらしいので、どちらに非があった、という訳でも無かったんですが...フラン様がちょっとご機嫌ナナメな状態です

 

 

「んー、地霊殿行こうにも...二人ともべとべとだしねー」

 

「そうですね...」

 

「つーん」

 

 

確かに、このままお家にお邪魔するのもどうかと思いますし...と言っても手元には何かできそうな物も持ち合わせていませんし...

 

 

「...そんなに汚れてるのが嫌なら温泉にでも行けば良いんじゃない?」

 

「え、温「温泉っ!?え、地底にあるの!?」あ、フラン様!?」

 

 

色々と悩んでいるともう一人の...パルスィさん、と呼ばれていた方がそうぼやくように言う。ってフラン様、興味津々じゃないですか...

 

 

「あー、色々とあってね。元々湧いてはいたんだけど、最近ちゃんとした施設が出来上がったんだよ」

 

「へー、そうだったんだ...私も知らなかったや!」

 

「私、温泉行ってみたい!!ね、良いでしょお姉さま!」

 

「温泉ね...私もちょっと興味あるわ」

 

 

ご機嫌ナナメだったフラン様も凄い食い付き方。まぁ、そこならべとべとも洗えるでしょうし...

 

 

「そうね、お邪魔する前に入りに行こうかしら」

 

「やったー!温泉なんて初めて!!」

 

「そうだねー、私も行ってみたいかなー」

 

「温泉一つで随分楽しそうね...あー、妬ましい」

 

 

どうやら満場一致で行くことが決定しそうですかね。それにしても温泉、ですか。私っていつぶりなんでしょうか...初めて、かも?

 

 

「それじゃ、早速行きましょ!」

 

「私も初めてですかね...ちょっと楽しみです」

 

 

いきなりトラブルに遭遇してしまいましたけど、なんとか丸く収まりそうですかね...

 

 

「よーちゃん、一緒に洗いっこしよーね!」

 

「あ」

 

 

心の中で特大の地雷を踏み抜いてしまった音がした

 

 

 




次回、妖精長死す

デュエルスタンバイ!

...嘘です。

ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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27話 地底の温泉にて

27話になります。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「...はぁ」

 

 

万年筆が書類の上を駆け回る音...それを遮るように、溜め息を一つ吐く。自分でも分かる程に疲労の色が見え隠れしているそれを、傍らに佇む一匹の飼い猫が酷く心配している

 

 

「さとり様、あまり無理はなさらないで下さい...」

 

「大丈夫よ、お燐...珈琲、お願いできる?」

 

 

万年筆を置き、自分の肩をとんとん、と叩く。私の身体を気に掛けてくれるのは嬉しいことだけれど、こなさなければいけない仕事の量は変わらない。あの異変から、最近は少し増えたかしらね...

 

内容は...地上から地底への訪問許可願と地底から地上への外出許可願。新しい娯楽施設の提案書、賭場の売上報告に...喧嘩で壊れた住居の修復に関する書類。あとは「さとり様ッ!!」

 

 

「ふぇっ?!」

 

 

突然の怒号ともとれるような大きな声と机を叩く音に、身体が跳ねてしまい、情けない声が漏れる

 

 

「さとり様はもっと自分を大切になさって下さい!!あたい以外のペットたちも、皆心配してるんですよ!?」

 

「お、お燐...?」

 

「とにかく!!今日これ以上お仕事するのはダメです!!」

 

 

あ...え?開いた口が塞がらない...普段から温厚なお燐が、こんなに感情的に...

 

 

「...分かったわ。ごめんなさいね、お燐」

 

「分かって下されば良いんです。それに今日は...」

 

 

あっ...嘘、でしょ...?主人想いな飼い猫の巡らせる思考に、困惑を帯びた言葉が心の中で木霊する...そ、そんな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レミリアさんたちも来られるんですから...」

 

 

う、嘘じゃ無かった...まぁ、心読んでるから当たり前なんですけど!いや、それよりも今日!?よりにもよって!?なんで仕事詰めの忙しい時に...いえ、来てくれるのは嬉しいですよ!?そりゃもちろん!!普段は宴会以外で会うことも殆ど無いですし...た、立場が立場ですからそう易々と地上に出ていくこともできないですし...あ~...折角遠路遥々レミリアさんが来てくれるのに......ん?ちょっと待って下さい。ここ数日の間は仕事が立て込んでしまってこの書斎から殆ど出ていない。それこそお手洗い以外には...って、まさか...

 

サーッ、と血の気が引いていく音がする。...わ、私...お風呂、入って...

 

 

「...お燐、私、いつから書斎に籠ってたかしら...」

 

「はい?えーっと...一週間くらい、ですかね」

 

 

いっ!?...くんくん......あ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、ここが...」

 

「あら、結構綺麗なのね」

 

「ねー」

 

「温泉だー!わーいっ!」

 

 

旧都へ繋がる橋を渡り、随分と古風な...風情を感じる街並みを横目に目的地へと歩を進めていた。そして、私たちの目の前には...街並みとは違い現代風な、所謂スーパー銭湯が鎮座している

 

 

「そんな訳で、ここが新しくできた温泉だよ」

 

「あっ、ここまでの案内ありがとうございます。ヤマメさん」

 

 

ぽかんと口を開け建物を見上げていると、ここまでの案内をしてくださったヤマメさんの声でハッ、と我に帰る。ぺこりと頭を下げ、簡単ではありますが感謝の意を伝える

 

 

「いやなに、ソレは大体私のせいだからね。これくらい気にしなくて良いさ...あ、あとこれ」

 

「へ?...これは...」

 

 

そう言ってヤマメさんが手渡してきたのは...四枚の紙。手のひらサイズで、書かれているのはシンプルに漢字が五文字...

 

 

「初回無料券...ですか?」

 

「そう。いやなに、地底じゃ結構たくさん配られてるからね、遠慮しなくて良いよ。私ももう使っちゃったし...それじゃ、ゆっくり楽しんでってね」

 

 

そう言い残し、ひらひらと手を振りながら背を向けて来た道を帰って行くヤマメさん...無言ながら、その背中へともう一度、深く頭を下げる...さて

 

 

「それじゃあ、早いところ入ろうかしら」

 

「やったー!お、ん、せんっ!お、ん、せんっ!」

 

「あははー、フランってばはしゃぎすぎだよー」

 

 

落ち着け、妖精長。この修羅場...どう潜り抜ける...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん...結構色々な種類の温泉があるのね」

 

「やっぱり一番おっきいのが良いよ!」

 

「えー、でもこっちも良さそうだよー?」

 

 

おっきな建物に入ってすぐ、くつろげるようなスペースにあった大きな案内板にはたっくさんの温泉が...んー、温泉自体が初めてだし、迷っちゃうね

 

 

「ねー、よーちゃんもこっちの方が...って、あれ?よーちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ...こっちには多分来られないと思うんですが...」

 

 

お嬢様たちが案内板に釘付けになっている隙に、できるだけはしっこの温泉に逃げ仰せて来れましたね...。施設の中は朝方というのもあり、そこまで人気は感じられないものの、ちらほら他のお客様の姿も見える

 

 

「早いところべとべとを流して出ないと、ですね...」

 

 

いくつかある脱衣場に入り、手早くメイド服を脱ぐ。この服にも、いつの間にか慣れちゃいましたね...ロングとは言え、スカートも最初は違和感凄かったですし...

 

正直なところ、自分自身の裸体にももう慣れてしまいました。最初の頃は入浴中に目を瞑ったりしてましたけど...

 

脱いだ服をランドリーへと持って行き、そそくさと長めのタオルを取ると、前を隠しながら目を付けていた場所へと移動していく

 

 

「温泉...いつ振りなんでしょうかね」

 

 

桶でお湯を掬い、ざぱぁと被る。ん、少し熱いくらいですが...まぁ丁度良いですかね。手早く石鹸を泡立て、身体のべとべとを洗い流す。温泉なんて、朧気な記憶では初めてなのか、久し振りなのかは分からないですが...

 

 

「まぁ、今は楽しみましょうか...成るべく手早く、ですけど」

 

 

タオルを湯船の脇に畳み、手拭いを頭に乗せてゆっくりと入る。んっ...やっぱりちょっと浸かるには熱いですね。しかし喉を過ぎればなんとやら、一気に肩の辺りまでを沈める...んぅ~、気持ち良い、ですね...はふぅ...

 

かぽーん、なんて銭湯で良く聞こえる音を聞き流しながら、温泉を堪能する。案内板にはサウナなんかもあると書いてましたからね...もし時間があれば行きたいところですが...

 

 

「あ、隣...よろしいですか...?」

 

「ほえ?...あっ、はい。大丈夫ですよ」

 

 

ぽけーっとお湯に浸かっていると、そう声を掛けられる。ぬくぬくとしていたせいか、返事が少し覚束ない...見ると、ピンク色の髪をした女性、ですが...身体からは触手?のようなモノが三つ目の瞳へ伸びており、ぱちくりと瞬きをしている...

 

あれ、こいしさんも確かあんなのが付いていたような...そういう種族の妖怪さんなんでしょうか、なんて

 

 

「ふぅ...えぇ、私とこいしは同じ妖怪で、なんなら姉妹ですからね。似ていても何ら、不思議では無いですよ」

 

 

あー、やっぱりそうなんですね...ん?あれ...私、今声に出して...?

 

 

「いえ、声には出てませんよ」

 

「えっ...?」

 

 

隣から聞こえてくる言葉に動揺が隠せないまま、そんな間の抜けた声が口を突いて出る。え、つまりこの方は...

 

 

「心が読める?ですか...はい、その通りですよ...えっと、妖精長、さん?」

 

 

 




ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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28話 さとりさとられ

遅れてしまい、申し訳ないです。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「なっ!?」

 

 

考えていたことを口に出す前に返答され、さらには名乗ってもいない名前を呼ばれ、驚きを隠せぬままに仰天が口から漏れる...ぜ、全部筒抜け、ってことですか...?

 

 

「ええ、全部が全部...という訳でも無いですが...まぁ、貴女が考えてることは大抵分かります」

 

 

や...ヤバいのでは...?こ、ここここんな場所で、万が一でもバレたら!?...それに、ここには他の女性客の方は勿論、お嬢様やフラン様もいらっしゃ「へっ!?」...ん?

 

色々と思案する中で、隣から聞こえてきた随分と間の抜けた声の主へと視線を向ける

 

 

「...?どうかしまし「れ、レミリアさん!?温泉来てるんですか!?」わぷっ!?...へ?」

 

 

何かあったのかと声を掛けようとしたところ、ざぱぁっ、と飛沫が立つ程の勢い、そして剣幕でそう迫られる。いや、来てはいますけど...え?

 

 

「た、確かにこんな場所で地上の妖精なんかが居るのおかしいと思ったんです!レミリアさん、もう地底まで来てるなんて...ああーっ!!このさとり、一生の不覚です...ちゃんと入り口でお出迎えする予定だったのにぃ...」

 

「え...あの「はっ!?...温泉?...レミリアさん...入浴......!?は、ははははだっはだっ!?...」...」

 

 

突如として早口になり、背を向け、頭をわしゃわしゃとしながら一人で悶絶し始めたこの...さとりさん、とか言う...いや、あの...初対面でこう言うのもアレなんですが、ヤバいお方

 

こんな...いえ、このような独創性溢れる方ともご友人とは...少し、お嬢様の人脈が気になってしまいますね。主に心配寄りな意味で

 

 

「......貴女」

 

「ひいっ!?な、なんですか...?」

 

 

急にだんまりになったと思えば、恐らく長湯以外の理由で真っ赤っかになった顔が突然、こちらへと迫ってくる。肩をガッ、と掴まれてしまい悲鳴に近い声が口を突いて出てしまう

 

 

「レミリアさんの従者なら、どこに居るか分かりますよね?案内して下さい」

 

「えっ、ちょ...」

 

 

いや、マズい。この方を会わせるのもマズいし、私が会うのもマズい...ましてや、アレがバレるなんて事があったら...

 

 

「?......!?...貴女...いえ、貴方...元、人間...?」

 

「へ!?な、なんのことですか...?」

 

 

ば、バレた!?肩を掴む手は離され、すぐに胸元を隠すようにタオルで前を覆いに掛かる...

 

いや、マズい...どれくらいマズいかと言うと館に来たばかりの時に、そーちゃんが作ってくれた黒一色のスクランブルエッグより遥かにマズい...

 

 

「し、しかも貴方...おと「あー!よーちゃん居たー!」え?」

 

「ん?おねーちゃんもいるー!」

 

「こら、二人とも走ったら危ないわよ...って、さとり?」

 

 

核心を突く言葉を遮り、聞き慣れた溌剌とした声で名前を呼ばれる。立ち込める白い湯けむりではっきりとは見えないけれど...間違いない、フラン様だ

 

付近に見える残りの影に声...お嬢様にこいしさんもご一緒のようです。こちらまで来られるとさとりさんは恐らく全部バラすでしょう......こうなってしまっては、やむを得ません

 

 

「!?っちょ、何「さとりさん、取引しましょう」...は...?」

 

 

さとりさんの手を引き寄せ、声のする方を背に向けてそう囁きかける。ぺたぺたと、こちらに近付いてくるフラン様の足音...時間はもう残り少ない

 

 

「私のこと...一切を黙っていてはくれませんか?」

 

「貴方...そんなこと、出来る訳が「先程、お嬢様の裸体をご想像して、ご興奮なされていたこと...お話しすることも出来ます」なっ!?」

 

 

交渉材料として、どうかと思いましたが...この口を突いて出た動揺。これなら...

 

 

「ぐぅ...そ、それでも「お嬢様ー、こちらのさとりさんが先ほもがぁ」わーっ!?わーっ!!分かりましたっ!!...黙っておきます...」

 

 

決めあぐねているさとりさんに口を覆われてしまう、もがもが...よし、かなり強引ではありましたが、なんとか危機は去ったみたいで「あー。おねーちゃんってば、もうよーちゃんと仲良くなってるー!」うぇ?

 

 

「ホントだー、私も混ぜてー!それっ!!」

 

「え、あっちょフラン様!?わ、わわわっ!?」

 

 

ざっぱーん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー♪気持ちいーね、よーちゃん!」

 

「は、はい...うぅ」

 

「あははー、よーちゃんのぼせちゃったの?顔真っ赤っかだよー?」

 

 

えー...この温泉施設における危機の第一波、身バレはなんとか回避したものの、続く第二波を至近距離でモロに喰らいながら顔を俯けている私、ですが...

 

 

「?...さとり、顔怖いわよ?」

 

「いえ、そんなことありませんよ?レミリアさん......」

 

 

全てお見通しのさとりさんから、軽蔑の目線がグサグサ刺さる刺さる。ふ、不可抗力なんですってば!

 

そう、現在私は不可抗力によって両隣をフラン様、こいしさんにガッチリ固められてしまい、身動きが取れず、なんなら目のやり場にも困り続けている...真下が唯一の救いですねこれは...

 

 

「んー...それにしても、良いお湯ね...さとりはいっつもこんな贅沢してるなんて、羨ましいわ」

 

「ねー、さとりんズルーい!」

 

「ズルーい!」

 

「ちょ、こいしは違うでしょ...」

 

 

...いつもなら、微笑のひとつやふたつ、漏れてしまっても可笑しくないやり取りにも、顔を俯けて無反応。状況が状況で頭も上手く回らないです...うぅ...

 

 

「あ、そーだ!よーちゃん、洗いっこしましょ!」

 

「あっ」

 

 

満身創痍な精神に、トドメの一撃である第三波がクリーンヒットしてしまう。ぐわんぐわん、とホントに脳が揺れている気が、して......あ...れ...?

 

 

「へ、よーちゃん!?」

 

「妖精長?ちょっ!」

 

 

ざぱん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱたぱたと聞こえる音...送られてくる心地よい風に気がつき、目が覚める。開かれた瞳には、電灯からの光が少し眩しい...あれ、私って、なんで寝て...?

 

 

「湯船で逆上せて、気を失ったんですよ」

 

「へ?...ッ!?」

 

 

聞こえて来た声に驚いた...のは勿論ですが、更に私を驚かせたのはその状況。声がしたのは私の頭上。温泉のベンチにしては、柔らかな感触...つまり

 

 

「ええ、膝枕ですよ...ヘンタイさん?」

 

「あ...さとり、さん...?」

 

 

 




少し短いですが、キリの良い所で。ここまで読んで頂き感謝です。それでは、また


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29話 さとられさとり

お待たせしました...29話、番外含めて30話目ですね。早いものですね。ここまで続けられたのも読んで下さる皆様のお陰です。本当にありがとうございます。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

見下ろされながら、目を覚ましたばかりの私の疑問、口に出していない考えに答えるのは...さとりさん。手元には私が寝ている間扇いでくれていたのか、団扇を携えている...って、あ!

 

 

「す、すみません!直ぐ...退き......あぅ」

 

 

現状を直ぐ様理解し飛び起きようとするものの、ぐらりと軽く揺れる視界に頭痛。ぽすん、と音を立てさとりさんの膝の上へ頭を預けてしまう。うぅ...いたた...

 

 

「はぁ...今の今まで気を失ってたんですから、無理するのはオススメしませんよ...?」

 

「...すみません...」

 

 

促されるままに、大人しくさとりさんの膝の上で寝そべり、天井を見上げる。いつの間にか、備え付けの浴衣に自分の装いが変わっていることに気が付く...着替えまで...

 

夢見心地のまま、ゆったりと時間が流れていく。倒れた場所が、施設の端の方だったからなのか、付近には殆ど人の往来はない。...ここまで運んでくれたのもさとりさんなんだろうか...

 

 

「フランさんが運んで下さったんですよ。とても心配してましたからね...」

 

 

フラン様...従者ながら、主人にご迷惑をお掛けしてしまうなんて...申し訳ない、どころじゃないですね。あ、そういえば皆さんは...

 

 

「三人には、この温泉を堪能してもらってます...折角、足を運んで下さったんですから」

 

 

そう、ですか...あはは。なんだか...少し不思議な感覚です、心を読まれるって。ちょっと面白いかもしれませんね...なんて

 

 

「ふふっ...変わってますね。...私と同じくらい」

 

 

また少し、沈黙が流れる。思考も段々とクリアになって行き、頭痛も治まり始めた...そんな中、またさとりさんが口を開く

 

 

「...貴方が、何か邪な考えを持っていたら...直ぐにでもレミリアさんに真実を伝えるつもりでした」

 

 

はい...至極当然なお考え、ですね...きーちゃんやあーちゃんたちにお別れ、出来なかったなぁ。そんな思考が頭の中に過る

 

 

「...でも、それも杞憂だったみたいですね...」

 

「...へ?」

 

「あ、よーちゃん!」

 

 

むくりと起き上がり、続けて紡がれた言葉に間の抜けた声で返す。しかし、その真意を聞く前に、また、元気な声が私を呼ぶ

 

 

「あ、フランさごふっ!?」

 

「もう起きて大丈夫なのね!?...良かったー...心配したんだよ...?」

 

「けほっ、けほっ...はい、ご迷惑おかけしました...」

 

 

声のする方へ向くや否や、腹部に鈍い衝撃、半ば突進された形で抱き付かれる。思わず言葉は途切れ、肺の中の空気がくぐもった音になって吐き出される。ふ、フラン様...一応、病み上がりなんですが...けほっ

 

 

「フラン、大丈夫ー?それトドメになってないー?」

 

「え?...あっ、ごめんね!大丈夫...?」

 

「は、はい...けほっ」

 

 

呼吸のリズムが整わない内に、こいしさんのツッコミが入る。正直、少し有難い...咳を一つして、深く息を吸い込む...すー、はー...よし、大丈夫

 

 

「起きたみたいね...全く、そんなんじゃ咲夜の代わりは務まらないわよ?」

 

「お嬢様...はい、面目ありません...」

 

 

呼吸が整って直ぐ、お嬢様からは厳しいお言葉を投げ掛けられる。返す言葉も無い、ですね...メイド長から、お二人のことを頼まれたというのに...

 

 

「あー!そんなこと言ってー。お姉さまだってよーちゃんが倒れた時大慌てだったくせにー」

 

「え」

 

「なっ!?...そ、そんなことは...」

 

 

突然のフラン様のカミングアウトに動揺の色を隠せないお嬢様...え、ということは...

 

 

「お姉ちゃん、アレホントー?」

 

「ちょっ、こいし!アンタは見て...あっ」

 

 

動揺をそのままに、その現場に居たこいしさんの掛けたカマに引っ掛かる。ここまで綺麗な墓穴は、私も掘ったことないですね...

 

 

「ふふっ...レミリアさんは心優しいご主人様、ですね」

 

 

そして、さとりさんから無情にも放たれたトドメの一撃。あー...これは

 

 

「──ッ!...フラン、こいし...?」

 

「あっ...お洋服、お洗濯終わったかな~...なんて」

 

「そ、そうだねー。私も汚れてたから洗ってたんだよね~...てへ」

 

「待ちなさい!二人とも!」

 

「「逃っげろー!」」

 

「あっ、ちょ!...行っちゃいました」

 

 

怒り...いや、恥ずかしさ、ですかね?が沸点に達したお嬢様に追いかけられ、そのまま私とさとりさんを残して、再び静寂が戻ってくる。た、台風みたいでしたね...びっくりしました

 

 

「言いましたよね。杞憂だった、って」

 

「えっ...じゃあ」

 

「別にそんなこと、考えてなかったでしょう?全部不可抗力だー、って」

 

 

良い意味でも、悪い意味でも、さとりさんには全部お見通しらしい...そう、再確認する

 

 

「それに、あの二人にあんなに信頼されてるなら...大丈夫ですね」

 

「!...ありがとうございます...こんな無理な頼みを「但し!」ふぇ!?...は、はい...」

 

「お互いに、秘密は秘密のまま...お願いしますね?」

 

「...あはは...はい、お安いご用です」

 

 

地底という、けして近くはない場所。そんな場所で出来た秘密を共有し合う...ご友人って、言って良いんですかね?...あっ「ふふっ...構いませんよ?」...あ、あはは...ですよね

 

和やかな停戦協定が締結し、かぽーん、なんて銭湯で有りがちな音が聞こえ、嗚呼、温泉に来たなぁ...と物思いに耽る

 

耳に入ってくるのはそんな、湯の滴る音やお知り合い同士の他愛無い喋り声...それにどたんばたんと人が走り回る音に、他のお客さんの戸惑いを含んだ悲鳴。ぱりーん、なんてガラスの割れるような音まで...って、ちょ

 

 

「いや、お嬢様!?フランさまー!?」

 

「ちょ、こいし!?」

 

 

 




またまた短くなってしまって申し訳ない...切りが良い、なんて言い訳ですね。更新頻度ですが、もうこれくらいになりそうです。ここまで書けなくなるとは...ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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30話 鬼さんこちら

お待たせいたしました。本編30話になりましたね...早かったなぁ、と。それもこれも読んで下さる皆様のお陰です。本当にありがとうございます。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「えっと、確かこっちの方に...」

 

「ぜーっ...ぜーっ...ちょ、貴方、待って...けほっ」

 

 

聞こえてくる声に音、三人の追いかけっこで荒れてしまった痕跡を辿って走る。流石に温泉施設、かなり広いですね...でも

 

 

「また悲鳴...あっち、ですか。...急がないと!」

 

「た、体力おばけ...はーっ、ひーっ」

 

「って、大丈夫ですか!?さとりさん!」

 

「あ、後で...後で追い付きます、けほっ...から...」

 

 

酷い息切れ...それに顔面蒼白、といった目に見える症状...もしかして、なにか重い持病「体力が無い、だけ...です...はーっ、はーっ...けほっ」...こいしさんのことは任せて下さい

 

 

「お願い、します...はぁー...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ...おかしいですね...」

 

 

幾つかの曲がり角を通り過ぎ、主とその友人の妹様を追いかけていた、のですが...

 

 

「聞こえなく...なった?」

 

 

お三方の追いかけっこが原因の喧騒...いつの間にか聞こえなくなってる?あるのは倒れた観葉植物や、床に転がる桶。痕跡は有れど、その発生元である三人の姿が無い

 

いつの間にか他のお客さんの往来も戻り、従業員のような人...多分妖怪さん、ですけど...も片付けに取り掛かっている。後で関係各所に謝りに行かないと...あ

 

 

「もしかして...外に...?」

 

 

一つの可能性が脳裏に過る。あの大きな街に出られると流石に捜すのは...いや、でも外だとしてもまだ近くにいるはず。確かあの角を曲がればフロント...早く行かないと!

 

 

「わぷっ!?...いたた...」

 

「っと、大丈夫かい?」

 

 

走り出した私はその曲がり角から出てくる方に気付かず、勢いそのままぶつかってしまう。しかし、その方の身体が大きいうえに、私自身が小柄なのもあって一方的に後ろに転け、しりもちをついてしまう。あいたたた......って、あ

 

 

「す、すみません!少し急いで...て......」

 

 

謝罪の意を口にするも、途中で言葉が詰まる。理由は三つ...まず一つ目。今はしりもちをついていて、その方を見上げる形ではある...あるんですが、それを踏まえても高い身長。しかも、声色で分かるように女性...

 

その驚きを納得させるのが二つ目。金色の前髪...それを押し退けるように額の中央辺りから生える角、だった...そう、私は以前にも会ったことがある。鬼...萃香さんと風体に差異はあるものの、そのガタイと角で確信して良いでしょう

 

そして三つ目...私の言葉を詰まらせた最後の要因。その大きな体躯、その両肩には...

 

 

「「きゅう...」」

 

「お嬢様!フラン様も!?」

 

「ん?あんた、こいつらの知り合い?」

 

 

漫画のようなたんこぶを引っ提げ、目を回した二人が担がれていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「めいど?...あぁ、したっぱみたいなモンかい」

 

「したっ!?...そ、そうですね」

 

 

すっかりノックアウトされてしまったご両人に驚いた後、自分がその二人の従者であること、姉妹喧嘩がヒートアップしてこうなってしまったことの説明と謝罪をした

 

どうやら力ずくではあったものの、この...勇儀さん、という方が暴れる二人を止めて下さったらしい。あれ、そう言えばこいしさんは...

 

 

「はー...や、やっと追い付いた...」

 

「あ、さとりさん!」

 

 

そうやって話していると、私が来た道の方から荒い息使いと共に声が聞こえた。右手を壁、左手を自身の膝に置き、呼吸を整えている

 

 

「お、さとり。そいつとこいつら、あんたの知り合いかい?」

 

「すー...はー...ふぅ。えぇ、その二人も私の友人とその妹です」

 

「ほー...ま、仲睦まじく温泉でゆっくりするのは良いけど、しっかり手綱引いて貰わなきゃ困るね」

 

「...私の客人に対して、いささか失礼では?」

 

「?レミ姉とフランはお馬さんってことー?」

 

 

少しばかりお二人の間に険悪な雰囲気が流れ......いや、お馬さんって違...ん?......ん!?

 

 

「って、こいしさん!?」

 

「ひひーん!...なんちって」

 

 

いつの間にか居なくなり、いつの間にか姿を現したお馬さ...こいしさん。いや、今はそんな場合じゃ...

 

 

 

「ぷっ...あっはっはっは!!冗談だよ、冗談。このくらいのいざこざ、地底じゃいつものことだからねぇ」

 

「はぁ...鬼は嘘吐かない、じゃ無かったんですか...?」

 

 

...ん?

 

 

「ははっ!そんなんじゃ、酒の席で笑い話の一つも出来やしないさ」

 

「ぱからっ!ぱからっ!」

 

「こいし、人前だからやめなさい」

 

 

...あれ、皆仲良し...?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ!あんた萃香に会ったことあるのかい」

 

「はい、この前の宴会で初めてお会いしました」

 

 

結局のところ、特になんのいざこざも起こらず。なんなら今は三人で談笑しながら、気絶してしまったお嬢様とフラン様が目を覚ますまで待機中ですね。フラン様が下敷きになってお嬢様はその上に乗って、まだ目を回してます

 

さとりさんはというと、走り回って疲れたからもう一度温泉入ってきます、とのこと...汗も凄かったですしね、うん。因みに、お二人が起きて、さとりさんが戻り次第、さとりさんのお家にお邪魔することになっている

 

 

「あ、あの大宴会ってやつでしょー?楽しかったなー」

 

「え、こいしさん来られてたんですか?」

 

「うん!お料理もお酒も美味しかったよー?特にお料理!」

 

「それなら良かったです、頑張って作った甲斐があります」

 

「え、あれよーちゃんが作ったの!?すごーい!」

 

 

やっぱり真正面から褒められるのはまだ慣れませんね...えへへ

 

 

「へぇ...そんなに旨いんなら、いつかご馳走になりたいねぇ」

 

「鬼はいっぱい食べるし、いっぱい飲むよー?」

 

「あ、あはは...できれば手加減して貰えると...」

 

 

ただでさえ、とんでもない幽霊さんもいらっしゃるので...ご容赦を...

 

 

「...うーん...ん?あれ、よーちゃん?」

 

「あ、フラン様!大丈夫ですか?」

 

「んー...ちょっと頭いたーい...」

 

「おはよー、フラン」

 

 

そんな話の最中、どうやらフラン様が目覚めたようですね。腫れの引いた頭をさすって少し眠そうにしてますね...あんなに大きなたんこぶだったのに殆ど治ってる

 

 

「...って、お姉様おもーい!そいっ!」

 

「あだっ...はっ!な、なに!?」

 

「レミ姉も、おはよー」

 

 

起きたフラン様に投げ飛ばされ、身体を打ち付けて目を覚ましたのはお嬢様。寝起きなのと突然のことで少しパニックを起こしてますね。目覚めは悪そう、ですね...

 

 

「ふぅ...二人とも起きたんですね」

 

「あ、さとりさん。はい...ちょっとわちゃわちゃしてますけど」

 

「ふふっ...そうですね」

 

 

丁度、お風呂上がりのさとりさんも合流。タイミングばっちりですね

 

 

「じゃ、私はこの辺で失礼しようか。妖精さん、今度の宴会楽しみにしてるよ」

 

「はい、勇儀さん。色々とありがとうございました」

 

 

二人の意識が戻ったのを見届け、お役ごめんと立ち去る勇義さん。掛けた感謝の言葉を背に受け、そのままヒラヒラと手を振って下さった。なんというか...カッコいい...

 

 

「さてと...それじゃ行きましょうか、我が家に」

 

「はい、お邪魔します」

 

 

温泉...また来たいですね、なんて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくち!ん~...亡霊って、風邪ひくのかしら~」

 

「?...どうしたんですか、幽々子様?」

 

 




さとりさんは出不精なのでこうなりましたね、少しは運動しましょう。ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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31話 猫と鴉と諸々と

それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「すごーい!もう乾いてるー!」

 

「そ、そうですね......はぁ」

 

 

そう驚きの声を漏らすのは、綺麗になったお洋服に袖を通したフラン様。確かに、1時間程度で乾燥まで終わってシワ一つ無いなんて...凄いですね

 

勇儀さんと別れた後、私たちはさとりさん宅へと向かう前に洗濯していた衣服を取りに行き、今は丁度着替えを済ませたところです......はい、お手伝いしました......

 

 

「...普段から着替えは貴方が?」

 

「いえ、最近は他の妖精メイドの子に代わって貰ってたんですが......」

 

「同情しますよ」

 

 

ぐぬぅ......今度また地底でこんな機会があったら、着替えはさとりさんに「同情は、しますよ」...さとりさん、ちょっと面白がってませんかね...?

 

 

「それじゃあ我が家に案内しますね」

 

 

さとりさん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさとり。あの施設、地底の妖怪たちで建てたの?それにしては造りがちゃんとしてたけど」

 

 

私たちは温泉を発ち、さとりさんのご自宅へと向かっている。地底ということもあり陽の光は届いておらず、可愛らしい日傘は二つともお役御免となっている

 

そんな道中、そう質問を投げ掛けるのはお嬢様。口振りから、あの施設に何か違和感があったらしい...因みにフラン様とこいしさんはお二人で愉しげにお喋りしている。ガールズトークってやつですね

 

 

「鋭いですね、レミリアさん。あの施設は、河童の方々に助力して貰ったんですよ」

 

「成る程ね、納得したわ」

 

「河童さん、ですか?」

 

 

河童、その単語には実は心当たりがあった。少し前にあった大宴会、神社の裏に用意されていた大規模な調理場。それを作ったのが河童さん、という話を仕事の合間に話して貰った覚えがある

 

確か...機械に滅法強く、職人であり、商売人である...らしい。少し「...ん?」となったものの、天狗が新聞記者さんだとか、妖精がメイドさんだとかで慣れてたので直ぐに受け入れることができた。この場所では常識に囚われちゃいけないみたいですね、うん

 

 

「えぇ。と言っても、基本的には現場監督みたいな立場ですね。建築は鬼やその他の妖怪たちが請け負っていたので」

 

「ふーん...確か、この街の家屋も鬼が建ててるのよね?」

 

「そうですね。仕事も早いですし、力仕事ですから」

 

 

はへー...新しく鬼が大工さん、というのが幻想郷知識として加わりました。もしかすると、妖怪さんは皆何かしら一芸に秀でているものなのかも、ですね

 

 

「ま、壊れるのも早いんですが」

 

「...え?」

 

 

それってどういう...そう続くはずだった言葉はそこで遮られる。轟音、そして家屋を崩しながら今歩いている大通りの端から端までを飛んで行った、人影。いや......え?

 

 

「はぁ...まぁ、こういうことです」

 

「いや、あの...今のは......じゃなくて!」

 

 

あぁ、またか...なんてため息混じりに呆れた様子のさとりさんを尻目に、家屋に突っ込み瓦礫に埋もれるその誰かに駆け寄る

 

 

「だ、大丈夫ですか!?...って、え?」

 

 

その瓦礫の山からは腕が一本だけ、何故か大きな盃...?なみなみとお酒の入ったソレを手にして露出していた。いや...なんで

 

 

「ぶっはあっ!...いやー、良いの貰っちゃったねぇ!」

 

「あ、勇儀さん!?」

 

「ん?おぉ!また会ったね、地上の妖精さん」

 

 

瓦礫を押し退け、ガバッと起き上がってきたのは、さっき別れたばかりの勇儀さんだった。空いた手で口元を拭い、飛んできた方を見据えている

 

 

「珍しいですね、貴女が飛ばされる側なんて」

 

「だろー?久々に骨のあるヤツが来たよ」

 

 

心配することも無く、さとりさんが声を掛ける。さっきの様子から、こんなことも日常茶飯事なんですかね...?

 

 

「骨がある、ですか...そこら一帯、ソレが終わったらお願いしますよ」

 

「はいはい、分かってるって...よっ!」

 

「わぷっ!?」

 

 

その言葉を最後に勇儀さんの姿が消え、軽い掛け声とは裏腹に轟音と崩れる瓦礫だけが残されていた......結局、今のは一体...?

 

 

「喧嘩、ですよ。片手塞いでましたし...今日は被害がいつもより小規模ですね」

 

 

?...これで、小規模?......何度目を擦っても瓦礫の山と成り果てた家屋はそのまま。ざっと見積もって十数棟......しょう...きぼ?

 

 

「少し前に鬼の...萃香さんがここに立ち寄った時は、街が半分更地になりましたから」

 

「さらっ!?」

 

「鬼は喧嘩大好きだからねー。勇儀は特に!」

 

 

鬼が鬼たる所以を目の当たりにしましたね......萃香さんもちゃんと鬼、なんだなぁ...なんて

 

 

「これが地底の日常ですよ。そろそろいきましょうか」

 

「は、はい...」

 

 

少しの戸惑いを残しながら、早くも瓦礫の撤去に取り掛かっている妖怪さんたちを横目に、さとりさん宅へ向かうのでした...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが...」

 

「たっだいまー!」

 

「おっ邪魔しまーす!」

 

「はぁ...つ、着きましたよ......うぷっ」

 

「アンタねぇ...この勾配でもダメなの?...先、行ってるわね」

 

 

街...正しくは旧都、らしいです...からしばらく歩き、少し離れた小高い丘の上、そこには立派なお屋敷が鎮座していた。って、さとりさん...ホントに体力無いんですね。ここまでとは...

 

ぜーはー言ってるさとりさんとは違い「ちょ、ちょっと...けほっ」...さとりさんとは違い元気なお二人、こいしさんとフラン様は各々挨拶をしてお屋敷の中へと入って行った

 

 

「ようこそ地霊殿へ。妖精さん?は見ない顔だね」

 

「あ、はい。お嬢様方は何度か来られ...て......」

 

 

気さくに話しかけられ、あ、ここ地霊殿って言うんですね...なんて思いながら、声のする方へ目線を動かし話す......が、今日何度目ですかね...言葉が詰まる。理由は明白

 

 

「え、いや...ネコ...?」

 

「代わりに今日はあの銀髪お姉さんはいないみたいだねー...ん、どうかしたのかい?」

 

 

そこで喋っていたのが、ちょこんと座る黒いネコだった。いや...ちょっと、ちょっと待って貰って...え?

 

 

「え、ネコが喋って...る?」

 

 

突然の事に軽くパニックになる私。今日は...いえ、この身体になってから驚くことばかりですね。特に今日は...ですが

 

 

「ネコ?...あ、そういやそうだったね。よっ、と」

 

「へ...?」

 

 

驚きは連鎖する。喋る黒ネコさんがくるっと、軽やかに宙返りすると...ネコミミと尻尾を携えた女性へとその姿を変えていた

 

 

「すー、はー...ただいま、お燐」

 

「お帰りなさい、さとり様。いやー...二人とも元気でしたねー」

 

「そうね。少し分けて欲しいくらいね...」

 

 

...もう難しく考えるのはやめにした方がいいですかね。黒ネコさん...お燐さんはさとりさんの従者さん、と...覚えました

 

 

「それじゃ案内するよ、妖精さん。あたいはお燐、よろしくね」

 

「よろしくお願いします、お燐さん」

 

 

お燐さんにそう促され、お屋敷の中へ入る。すると中では既に、他の住人さん?従者さんらしき...立派な翼を携えた女性の方が、先に入っていたお嬢様方とわいわいお喋りしていた。......黒い羽根。カラスさん、ですかね?

 

 

「うにゅ?初めましての人?」

 

「はい、私は、ふぇっ!?えっと...あの」

 

「じー......」

 

 

その方はこちらに気づいたようで、一先ず挨拶を...と思い自分の名前を告げようと...したんですが、突然目の前に、それももう目と鼻の先くらいの距離にそのご尊顔を近づけられ、凝視してくる。しばらくして口を開いた彼女が放った言葉は

 

 

「貴女、私にそっくり!」

 

「はい?」

 

 

疑問符が付きそうな程には藪から棒だった

 

 

 




こんな感じですね。妖精長、色々有りすぎて混乱状態でしたね...ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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32話 お昼の準備は優雅に

週一に戻しました、32話です。さてと...書き終えてからすこしやらかした、と思ってます...。それでも更新しますがね。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「そ、そっくり...?」

 

 

きらきらとした笑顔から放たれた言葉に困惑し、堪らずおうむ返ししてしまった。眼前まで近寄られ、流石に少し後退りをする。そ、そっくり...と言われても...

 

ざっと上から下まで、その方の容姿を確認する。身長は、勇儀さん程ではないけれど女性にしては高い。背中には二対の黒い羽根にマントを羽織っていて、お顔も似ている...訳ではない。そして、何故か右腕に着いている謎の六角柱...うーん

 

 

「あの...特に似「あ、こいし様ー!折角帰って来たんだからお庭で遊びましょー!」へ...?え、ちょ」

 

「いいよー、フランも一緒に行こー!」

 

「おー!」

 

「あ、ちょっと!......行っちゃいました」

 

 

疑問をぶつけようとしたところで、突然急旋回。こいしさんとフラン様を連れて玄関から出て行くのには10秒も掛かっていなかった。いや、えぇ...?

 

 

「相変わらず元気ね、お空...だったかしら?」

 

「えぇ、合ってますよ。こいしも最近は帰っていなかったですし、よっぽど遊びたかったんでしょう」

 

「あははー、昨日もあたいに会うたんびに、こいし様見なかったー!?って言ってましたからね」

 

 

お名前はお空さん、と言うらしい。それは良いとして、さっきの言葉は一体...

 

 

「余り深く考えなくても大丈夫ですよ。ああやって、よく分からないことを口走ったりするのはいつものことですから」

 

「さとりさん...そうなんですね」

 

 

うむむ、と頭を悩ませていると、不意にそう耳打ちされる。なんというか...お空さんとは初対面ですが、奔放で掴み所がない方、というか...

 

 

「因みに私も気になってどういう意図か見てみたんですけど...」

 

「...ですけど?」

 

「私にそっくりだ、ということしか分かりませんでしたね。そういう子なんですよ、お空は」

 

 

成る程...素直な方に悪い方はいませんからね。まだ少し気にはなりますけど、さとりさんが分からないならこの疑問も迷宮入りですかね

 

 

「さて、レミリアさん。いつも通り昼食を摂ってから夕方前にはご帰宅...それで大丈夫ですか?」

 

「えぇ、そのつもりよ。遅くなると咲夜が心配するだろうから」

 

 

未解決事件が一つ増えたところで、お二人がそうお話を...ふむ、どうやらこの後の予定は大体決まってるみたいですかね。懐中時計を見ると、丁度11時を過ぎた辺り。そうですね...うん

 

 

「さとりさん。昼食の準備、お手伝いしましょうか?」

 

「ふむ...従者と言えど、客人にそういったことは...」

 

 

そういうことなら手伝える...と思ったんですが、さとりさんお優しいですね。私としては、何かお仕事があった方がいつも通りで落ち着くんですが...

 

 

「あら、妖精長の料理のウデは保証するわよ?」

 

「へー、妖精さん料理上手なんだねぇ。あたいちょっと食べてみたいかも」

 

「お燐、貴女ねぇ...分かりました。レミリアさんがそう言うなら...お手伝い、お願いしますね」

 

「はい、お任せ下さい」

 

 

なんとかお二人の援護もあり、お手伝い成立ですね。さて、遅くても12時過ぎにはご用意したいですし、厨房は...

 

 

「お燐、お茶汲みのついでに彼、じゃなかった...彼女の案内お願いするわね」

 

「?...はーい。そんじゃ行こっか、妖精さん」

 

「...お、お願いします」

 

 

こ、怖かったぁ...さとりさん、次から気をつけて貰えると助かります......

 

 

「む...妖精長!」

 

「?...はい、なんでしょうか」

 

 

胸を撫で下ろし、お燐さんに同行しようとしたところ、お嬢様から呼び止められる。どうかしたんでしょうか...?

 

 

「頭上に気をつけなさい。さ、私たちも行きましょう」

 

「...頭上、ですか?」

 

 

そう言い残してさとりさんと奥の部屋へと歩いていかれた。何とはなしに天井を見上げる。...?特に何も変わった様子は...

 

 

「おーい、妖精さーん。早く早くー」

 

「あ、はーい!ただいまー!」

 

 

お燐さんの呼ぶ声に目線を戻す。既に一つ奥の曲がり角から半分身体を出し、手招きをしている。これがホントの...いえ、なんでも無いです!さて、お手伝いと行きましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、何か見えたんですか?」

 

「ん?そうね...まぁ抗えるかは、あの子の気の持ちよう次第...かしらね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、お燐さん」

 

「んー、なんだい?」

 

 

建物の中を進みながら、何の気なしに話し掛ける。まぁ、道中少しだけ気になった事があったから、ですが...

 

 

「ここ、動物が沢山いるんですね...」

 

「そ!みーんな、さとり様のペットだね」

 

 

そう、動物...ペットの数がとても多かったのだ。犬や猫、珍しいところならハシビロコウやカピバラなんかまで...放し飼いにしているのか、各々自由気ままに館の中を歩き回っている様子だった

 

 

「メイドさん...従者さんは、お燐さんやお空さんだけなんですか?」

 

「ん?いや、まぁ......んー、なんて言ったらいいのかな。あたいやお空もペット、と言うか...実は...」

 

 

 

お燐さんやお空さんもペット、ですか...お茶汲みとかを頼まれていたのを見るに、従者さんかと思ってたんですが...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、そういう訳なんだ」

 

「へー...そうだったんですね」

 

 

お話を聞くと、お燐さんやお空さんも、妖怪ではあったものの、人型を得たのは最近らしい。まぁ、妖怪さんの物差しなので余りあてにはなりませんが...

 

そして、普通の動物も妖怪になることがあり、動物から動物姿の妖怪、動物姿の妖怪から人型を持った妖怪に少しずつ成長?していくらしい。それで、人型を得た方々が他のペットのお世話役や、従者としての雑務をしている...みたいですね

 

 

「とは言え、人型に成ったヤツも少ないからねー。あたいら含めて...3人、かな?」

 

「え、その人数でこの...皆さんを?」

 

「そうなんだよねー...それでさぁ...」

 

 

歩きながらも話は続く。うーん...やっぱり従者さんはどんなところでも大変らしい。紅魔館はメイド長と門番さん、小悪魔さんも合わせて13人。...ここのペットさんが早く人型になれるのを祈ってます...

 

 

「お、着いた着いた...ここが厨房だよ。お紅茶お紅茶~」

 

「ありがとうございます。えっと...ん?」

 

 

そんなこんなでお喋りを弾ませていると、目的の厨房まで着いたらしい...お燐さんはもう一つの役目である、お茶の用意に取り掛かっている。ひとまず厨房を見渡して...みたところ、こちらに背を向けている誰かが居た。あの方は...

 

 

「ふんふふ~ん...あ、ゆーが」

 

「ん、お燐...お茶汲み?」

 

 

鼻歌混じりティーセットを取り出しながら、お燐さんが話し掛ける...ユウガさん、ですかね。黒スーツを着込み、白髪の...所謂デキる女性感が滲み出ている中で異質なのは、大きな白い動物由来のお耳ともふもふ尻尾が生えていること

 

...多分ですが、お燐さん、お空さん、ユウガさんの3人が、ここで人型になれる大事な人材さんですね

 

 

「そ、レミリアさんたち着いたからさ...それとほら、あの妖精さん。お昼ご飯のお手伝いしてくれるから、って。その案内」

 

「妖精...その子が?」

 

「はい、微力ながらお手伝いさせていただきます」

 

「......」

 

 

ご挨拶を、と側まで近寄りぺこりと一礼する。ユウガさんはなんだか、珍しいモノを見るような目で此方を覗きこんでいる。地底の妖怪さんは女性でも背が高いんですね...

 

 

「なぁ、お燐。地上の妖精ってこんなに行儀良いのか?考えられないんだが...」

 

「ね、地底とは大違い...やっぱり育ち出るんだねー」

 

「?...あの」

 

 

少ししてからユウガさんがお燐さんに耳打ちをする...ん?何か変なところありましたかね...?

 

 

「あぁ、悪いね、こっちの話こっちの話......とは言え、手伝ってくれるなら歓迎だよ。よろしく、えっと...」

 

「あ、周りからは妖精長と呼ばれてます」

 

「そうか。お...私は、周りからはユウガって呼ばれてる。よろしく、妖精長」

 

「よろしくお願いします、ユウガさん」

 

 

そうしてユウガさんが出してくれた手を握り、自己紹介を済ます。よし、それじゃあお昼の献立はどうしましょうか......

 

 

 




オリキャラが増えた。とは言え、地底編?が終われば多分出ないんだよなぁ...まぁ何故出たのか、予想してみて下さいな。次回もがんばって来週の日曜日に更新予定です。ここまで読んでいただいて感謝です。それでは、また


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33話 片付けはしっかりと

33話です。さて、週一に戻してみましたが...今のところはなんとかなってますね。続けれると良いなぁ...頑張ります。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「さてと...あ、ユウガさん。何を作るかってもう決まってますか?」

 

「ん?そうだなぁ...まぁ、大体決まってるけど。えっと...」

 

 

軽く袖を捲り手を洗ってから、あ、そう言えば...と一つ疑問を口にする。お昼の献立は...うん、どうやら考える必要は無さそうですかね。あくまで今回はユウガさんのお手伝いですし...という訳でメニューの説明を聞く

 

 

「ま、こんなところだな」

 

「ふむ...分かりました。それじゃ早速...」

 

「っと、タンマ。ちょっと待ってな、確か...」

 

 

あらかた概要を聞き、調理を...と気を急いているとユウガさんから制止の声が掛けられる。そのまま調理場の隅の方へ...何かを探しているんでしょうか?

 

 

「んー、これで良いか...しょっ、と」

 

「...木箱、ですか?」

 

 

間もなくユウガさんが手にしたのは...空の木箱、ですかね。何か、調理に関係が...

 

 

「ん、これ台にすれば丁度良いか?」

 

「台...あっ」

 

「飛びながらだと、包丁とかちょっと危なそうだしな」

 

 

そう言うとユウガさんは木箱をひっくり返し、調理台の側へ...どうやら私用の踏み台代わりにこれを...ありがたいですね。刃物云々関係なく、飛べないんですが...

 

 

「そんじゃ、取り掛かろうか。まずは、と...」

 

 

まな板の側に積まれた食材...よし、最初は下準備ですね。えーっと...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしましたー、お紅茶ですよー」

 

「ありがとう、お燐。下がっても良いですよ」

 

「はーい!ごゆっくりー」

 

 

がちゃりと扉のノブが回り、ティーセットを一式抱えた飼い猫が鼻歌混じりに客間へと足を踏み入れる。カップが二つにポットが一つ。お茶菓子は...昼食前ですし無くても良いですかね。テーブルに置かれたそれらを見て、お燐には退室を促す

 

 

「久し振りね、この部屋に来るのも」

 

「そうですね...私もここに誰かを招くのは、前にレミリアさんが来られた時以来ですから」

 

 

私はさとり。会話なんて読めば良い、そんな無粋なことは言わない。話すこと自体は好きですからね、私。そうやって、他愛もない言葉を交わすのはとても楽しい...勿論、相手がレミリアさんだからというのもありますが

 

 

「今日は咲夜さん、来られなかったんですね。何か私用でも?」

 

「ん?あぁ、フランがどうしても妖精長を連れて行きたいからって。今日は代わりに館の留守を任せてるのよ」

 

 

普段はいつも付き添って来られてたんですが...そういう訳でしたか。温泉で合った時には既にこいしとも仲良くしてましたし...

 

 

「あの子...妖精長さん、でしたか。いつから館に...?」

 

「んー...ウチは妖精メイドに対して、出るもの拒まず、だから...詳しくは分からないわね」

 

 

かなり緩い職場ですね...従者の管理はどうなってるのやら。まぁ、ウチも余り言えたものではありませんけど...

 

 

「ただ、妖精長と言うだけあって仕事は出来るわ。咲夜も一目置いてるくらいなのよ?」

 

「羨ましい限りですね。ウチも最近また一人増えたんですが...それでも他のペットたちのお世話で手一杯みたいですから」

 

「猫の手も借りたい、ってところかしら?」

 

「お燐は十分頑張ってますよ」

 

 

会話も一つ落ちたところでティーセットに手を伸ばす。さてと...

 

 

「冷める前に淹れましょうか...お砂糖はいつも通り三つで?」

 

「む、何時までも子供扱いしないで欲しいわね......二つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウガさん、一通り切り終わって下準備も済みました」

 

「な、早っ!?あー、っと...悪い。今ちょっと手が離せないんだ」

 

 

忙しなく調理を進める私たち。分担は私が切る、ユウガさんが作る、と至ってシンプル。今は食材を切り終え、ユウガさんに次の指示を仰いでいるところですが...お忙しいみたいですね

 

 

「そこの...上の棚に寸胴があるから、引っ張り出して調理進めててくれるか?」

 

「分かりました!...あ」

 

 

意気揚々と新たな仕事に取り掛かろうとして思い出す。私は飛べない。棚の上、というのは...少し既視感がありますが、それでもやるしかないですね

 

私はもう幾つか、部屋の隅から空の木箱を拝借して積み重ねる。しょっ、と...よし、これでなんとか手は届きますかね。ふぬっ!

 

 

「開いた...って、うぇっ!?」

 

 

かぱっと開いた扉...その瞬間、銀色の濁流が押し寄せてくる。その勢いに圧されてバランスを崩してしまい、積まれた木箱と棚へすし詰めにされていた調理器具たちが大きな音を立てて崩れ落ちた

 

 

「なっ!だ、大丈夫か!?頭とか、打ってないか?」

 

「は、はい...なんとか...」

 

 

ぐわんぐわんと床を転がるボウルやら鍋...木箱の崩れた向きが幸いしたのか、頭上から迫りくるそれらに飲み込まれることはなく、少し腰を打つ程度で助かった...あいたた

 

ん、頭上から...?あ、これって、さっきお嬢様が言っていたことなんじゃ...

 

 

「そうか、なら良かったよ。悪いな...片付けちょっと苦手でさ...あはは」

 

「...あ、いえいえ、大丈夫ですよ。こうやって無事なんですから...って、あ!ユウガさん!お料理!火!」

 

「ん?...あー!?ヤバッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃー...なんとかなったな。...って、まだこんな時間なのか!?」

 

「12時前...もうそんなに経ってましたか」

 

「もう!?...あんた、見掛けによらず凄いんだな...」

 

 

色々とハプニングが有りながらも、なんとか昼食の時間に間に合わせることが出来た。少しもたついてしまいましたけど...さて、あとは運ぶだけですね

 

 

「ユウガさん、お食事はいつもどこで...?」

 

「あぁ、案内するよ...と、その前に...」

 

 

行き先までの道をお聞きすると、徐に窓の方へと歩いて行くユウガさん。...?換気、ですかね。調理中、何度か火柱立ってましたからね...

 

 

「よっ、と。おーい!お空ー!こいしー!ご飯出来たぞー!」

 

 

おぉ、すごい声量ですね...しかし、少ししても応答はない。あの声で聞こえてないんでしょ...ん?

 

 

「よし。あー、持ってくのは私らがやるから、妖精さんはゆっくりしてて良いよ」

 

「え、あの...」

 

 

どこからか音が聞こえてくる...二つ、三つ...?後は任せてくれて良い、という旨の言葉は右から左へと通り抜けてしまった...いや、これって足音「お腹空いたー!!わっ、良い匂いー!!豪華ー!!」ってお空さん!?

 

 

「あんまり埃立てるなよー。ほら、手ぇ洗ってさっさと運ぶ」

 

「分かった!!これ食べて良い!?」

 

「今食ったら晩飯抜きな」

 

「持ってく!!」

 

 

ばひゅんと音が聞こえそうな程、目にも留まらぬ速さで入退室していったお空さん。そんな光景に唖然としていると、遅れて二人がまた調理場へとやってくる

 

 

「お空ー、待ってよー...って、凄ーい!ご馳走だー!それに何時もよりはやーい!」

 

「妖精さんのおかげだよ。ほら、こいしも手伝ってくれるか?」

 

「良いよー!ほら、フランも一緒に持っていきましょ!」

 

「うん!」

 

 

おそらくは客人...私たちが来たことで、幾分かお料理も豪華なんでしょう。こいしさんは目をキラキラさせてフラン様とご一緒に料理を携えて走っていった

 

 

「こいし様ー!廊下走っちゃ危ないですよー!...って、もう聞こえてないや...ん?おー、もう出来たんだね。持ってくんでしょ?あたいも手伝うよ」

 

「ん、頼む。そんじゃ、妖精さん、行こうか」

 

「は...はい...」

 

 

走り去って行ったお二人を追うように出入口前にお燐さんが...最後に残った料理をユウガさんたちで持ち、調理場はもぬけの殻に。なんと言うか...嵐のようなお家ですね...ここ

 

 

 




片付けは大事ですからねー。これで妖精長は危機回避かな?運命に抗え、妖精長!...はい。ここまで読んでいただいて感謝です。それでは、また


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34話 頭上にご用心


注意...この小説においてですが、「妖精長が何故、幻想郷に来たのか」という点に注目するため、次の話からシリアスな成分が多くなります。「そんなシリアスは求めていない!」という方はこのお話のあと、数話程飛ばして読んで貰うことになると思われることを、ここで先に申しておきます。誠に申し訳ありません。「シリアスは良いや」と思われる方は話の前に※印が付いていない話が投稿されるまでお待ち下さい。長々となってしまいましたが、34話はそのような展開になるキッカケが起きる程度ですが、それでも少しシリアス寄りの内容です。苦手な方はお気をつけ下さい。いつもより少し長めになっています。


さて、長くなりましたが...それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね



 

 

「あ、あのー...」

 

「ん、なんだ?...あ、もしかして嫌いなもんでもあるか?」

 

 

今の状況に戸惑いを隠せないまま、ユウガさんに声を掛ける。いえ、好き嫌いなんかは無い。お出しされたモノは残さず食べるようにしているのでその辺りは大丈夫です。なんですが...

 

 

「お姉ちゃーん、早く食べようよー」

 

「お行儀悪いわよ、こいし...お空もお箸置きなさい」

 

「うにゅっ!?...はーい、さとり様」

 

「あはは、惜しかったね、お空。あたい見たく大人しくしときなよ」

 

「フラン、貴女ちゃんとお箸使えるの?」

 

「む、お姉様よりは上手だもーん」

 

 

なんで私も食卓に!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

普段からお嬢様やフラン様と食卓を囲むことが殆どない私にとって、この状況の違和感が凄まじい...いつもはメイド長に指示されれば給仕に付くんですが...

 

 

「あの、私は別で食べますので皆さんの給仕を...」

 

「あら、構わないわよ妖精長」

 

 

そんな違和感から脱するべく、口に出した提案は途中でお嬢様に遮られる

 

 

「今は家族ぐるみの付き合いなんだから、そんな野暮なことは言わなくていいわ」

 

「あはは、よーちゃんってば咲夜とおんなじこと言ってるよ?」

 

「あ...」

 

 

突然、胸になにか刺すような...ぎりぎりと締め付けられるような鈍い痛みが走る。きっと、お嬢様にとってその言葉はいつも通りで、他愛もなくて、数日もすれば忘れてしまうような...そんな、気に留めることのない文言なんでしょう

 

でも......家族、ですか...。飾り気のない、ただ当たり前のように口にされるその言葉が、少し前まで何も持っていなかった私には、酷く暖かく思えてしまった

 

本当は怖かった。何も分からないまま、何も私のことを覚えていないまま、何も知らない場所で......もしかしたら、私は誰かを残してここに来たんじゃないか...そんな考えに至って、何度も怖いと...苦しいと...

 

 

「ん...妖精長...?」

 

「え...よーちゃん?」

 

「...へ?あ、あれ......?」

 

 

心配をするような声色で今の自分の名前を呼ばれる。返答に困り、覚束ないまま口を突いた私の声は、弱々しく震えていた。え...あれ、なんで......

 

 

「...んっ!」

 

「あ...フラン、様......?」

 

 

ぼやける視界の中、隣に座られていたフラン様が突然私を抱き締めて来た。もう、何も...訳が分からなくなってった。思考が上手く纏まらない

 

 

「...あのね、私、なんでよーちゃんが泣いてるか分かんないの。でもね、よーちゃんが悲しいと、私も悲しくなっちゃうから...」

 

 

抱き寄せる力が強くなり、その言葉はどんどんと悲哀を帯びていく。これは...これ以上は、いけない

 

 

「...すみません、フラン様。もう...もう大丈夫です!大丈夫ですから...」

 

 

強がりなんかじゃない。今の私は元ホテルマンで従者。お客様...いえ、仕えるお人を悲しませるのはダメだ...頬を伝う涙を少し乱暴に拭い、できるだけ明るい声で話す。今は、空元気でも良い、だから...

 

 

「ん?どした妖精さん。あ、もしかして玉葱切ったのが今さらしみてるのか?」

 

 

だか......ふっ...ちょ、ユウガさん...

 

 

「ぷっ...あはは!」

 

「ちょ、よーちゃん?」

 

「い、いえ...ちょっと、面白くて...あはは」

 

 

はー...冗談でこんなに笑ったのはいつぶりなんでしょうか。覚えて無いのが少し残念ですね。さっきまで、酷く暗かった私の心境も、今のを境に明るくなった...これは後でユウガさんにお礼しないといけませんね

 

 

「ふふっ...それじゃ、そろそろ食べましょうか。待ちきれない食いしん坊もいるみたいなので」

 

「さとりさまー!はーやーくー!」

 

「お空、待て!待てだよー?」

 

「うにゅー...」

 

「あたいもお腹空いちゃったかなー、流石に」

 

 

また、いつものように、と言うか...明るい雰囲気が戻ってきた。フラン様はもう心配ない、と言った風にご自身の席へと着き両の掌を合わせている

 

さて、料理を待ちきれない方々の為にも、私も準備をしよう。同じように手を合わせ、号令を待つ

 

 

「あ、そんじゃ妖精さん、頼むよ」

 

「あ...え?私、ですか?」

 

「そうですね。折角ですから、貴方にお願いしましょう」

 

 

わ、私...?ユウガさんの無茶振りに近いお願いに驚いていると、続いてさとりさんの追い討ちまで...いや、でもこんな大役...

 

 

「はーやーくー!」

 

「あ、え...えっと......い、いただきます!」

 

 

お空さんに急かされ、あたふたとしながら最早勢いで言葉を紡ぐ。少しの間が空き、笑みが溢れたり、やれやれ、なんて息を吐く皆さん...そんな空気に

 

 

「「「「「「「いただきます」」」」」」」

 

 

懐かしさを感じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しょ、と...これで全部です」

 

「あぁ、ありがとな妖精さん。悪いな、結局片付け手伝ってもらって」

 

 

両手いっぱいに抱えた空の食器を洗い場へと運び終え、ユウガさんにそう伝える。昼食は...なんだか、いつもより美味しかった気がする

 

 

「いえ...やっぱり、何か仕事してないと落ち着かなくて...職業病みたいなものですかね。たわし、お借りしますね」

 

「手、届くか?......そうか、職業病...ね。...うん、助かるよ」

 

 

調理の時と同じく、空の箱に立ち、そのまま洗い物をお手伝いする。普段妖精メイドの皆と食事するときよりも、ちょっと多いくらいですかね...まあ、ぱぱっと終わらせましょうか

 

 

「ゆーが、よーちゃん!お外で遊ぼー!」

 

「遊ぼー!」

 

 

さて、取り掛かろう...というところで、奔放な声で洗い場の私たちへと呼び掛けてきたのは...こいしさんのようですね。続くようにしてお空さんも出入口からこちらを覗き込むように顔を出している

 

 

「あー...妖精さんの手伝いもあるし、すぐ終わるだろうから先に庭で待っててな」

 

「分かった!行こ、お空。あ、また後でね!よーちゃん!」

 

「約束だからね!」

 

 

ユウガさんがそう言うと、そのまま私に念を押すようにして、お庭へと続く廊下を走って行かれた。遊ぶ...そう言えば、この場所に来てからはお仕事ばかりでしたかね...

 

 

「ま、そういう訳だけど...洗い物も得意だろ、妖精さん?」

 

「...はい、5分も要りませんよ!」

 

「あ、え...?は、速いな!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な!?妖精さん、なんだそのステップ!?ってぐえぇっ!?」

 

「すごーい!よーちゃん飛べないのに全然捕まんないねー!」

 

「あら、うちのメイドならそれくらい造作もないでしょ?」

 

「あ、こらゆーが。無理そうだからってお姉ちゃん狙うのはダメだよー!」

 

「ひー...あ、あのきゅっ、休憩...うぷっ」

 

「ちょ、さとり様!あんまり無理しちゃ...って、あ!」

 

「次の鬼はお燐だー!逃げろー!......あ、今って鬼誰だっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、もう帰っちゃうの...?」

 

「えぇ、そうね。もうすぐ日も落ちる頃だろうし...あまり咲夜に心配は掛けられないもの」

 

 

楽しい時間は過ぎるのが早く感じる...正直、それを実感したのは今日が初めてですかね。遊びも終わり、お空さんの名残惜しそうなその問いかけにお嬢様が仕方ない、と返している

 

 

「ん?あれー、お姉ちゃんは?お燐知らないー?」

 

「あー、自室で休んでますよ。一応ゆーがに付き添ってもらってますけど...」

 

「えー、お見送りしないとなのにー...」

 

 

むすーっ、とした表情で、別れの場に姉が居ないことを残念がるような、少し怒っているような様相でお燐さんとこいしさんが言葉を交わす。さとりさん...明日の筋肉痛が心配ですね

 

 

「ね、よーちゃん」

 

「?はい、なんでしょうこいしさん」

 

 

たたっと私に駆け寄り、声を掛けられる。どこか寂しげな表情に、なんだか罪悪感に似た感情が芽生えてしまう...そ、そんな目で見つめられましても...

 

 

「また、来てくれる...?」

 

「!......はい!勿論ですよ。良ければまた、一緒に遊びましょう。ですが...」

 

 

また...私としては勿論!...と言いたい、いや言ったんですけれど...と、わざと何か含んだような視線をお嬢様へと向ける

 

 

「そうね...なんなら、今度は紅魔館に来なさいな。皆で歓迎するわ」

 

「やった!...あ、それなら館の皆で一緒に遊べるね!」

 

 

成る程...今回は招待されましたけど...今度はこちらでおもてなし、ですね。今日のお料理に負けないようなご馳走をご用意しないと、ですかね。...さとりさんとパチュリー様のお身体が心配になってしまいますけど...

 

 

「!...うん、うん!...約束だよ?」

 

「わっ、と......はい、約束です。妖精メイド一同で、おもてなしさせていただきますね」

 

 

お嬢様のお誘いの言葉に嬉しそうな声をあげるこいしさん。そのまま私の手を握り、改めて約束を契る。...これ、私が答えて良いんですかね...?

 

 

「それじゃあ、約束も済んだみたいだし...帰りましょうか」

 

「うん...じゃーね!こいし、お空、お燐!次は紅魔館で遊びましょ!」

 

「ばいばい!絶対、ぜーったい行くからねー!」

 

「ばいばーい!」

 

「あはは...これはさとり様に要相談、かなぁ」

 

 

そうして、私たちは別れを惜しみ...再開の約束を胸に、地霊殿を去っていった。途中、振り返ってみると、窓から手を振るさとりさんの姿が見えた...あぁ、今日は本当に色々あったなぁ...

 

 

「ん?...おお、アンタら!もう帰るのかい?」

 

 

旧都の道を歩いていると、そう声を掛けられる。ん?この声は...あ!

 

 

「勇儀さん?それに...」

 

「早いお帰りだね。温泉、楽しんでもらえた?」

 

 

勇儀さんに、ヤマメさん!どうやら、壊れて...壊してしまった家屋の修理をしているようで、肩にかなりの量の角材を担いで...って、流石に多すぎませんか?

 

 

「ま、こんな辺鄙でなんにもないとこだけど...また来ると良いさ。そうだ、今度は賭場にでも案内してやるよ」

 

「...?お姉さま、とばってなあに?」

 

「フランはまだ知らなくて良いわ」

 

 

あはは...賭け事はそんなに得意では無いんですけど...。去り際にそんなことを言われ、そのまま手を振り旧都をあとにする

 

出入口である縦穴までの橋...その真ん中辺りには、パルスィさんが背を預けて立っていらっしゃった。通りすぎる際、言葉を掛けてくる

 

 

「...あら、日帰り旅行なんて良いご身分ね」

 

「そうね、腐っても館の当主だもの!」

 

「その妹!」

 

「......あ、その従者です」

 

「...はぁ、今度は引っ掛からないように気を付けることね」

 

 

...半分呆れたような表情、声色でそう返されてしまう。少し恥ずかしいですね...うん

 

橋を越え、縦穴の真下に着き、上を見上げる。外がもう暗くなっているのか、地上から光が届いている様子は無かった...いえ、それよりも...

 

 

「それじゃ、よーちゃん!」

 

「......はぃ」

 

 

入って来たときと同じように、フラン様に身体を預ける。館に戻ったら至急、きーちゃんとかに飛びかたを教えてもらおう。地底の行き来で毎回こうなるのは不味い...

 

 

「それじゃ、掴まっててね。よいしょっ、と!」

 

 

そのまま身体を浮遊感が襲い、ぐんぐんと地面から遠ざかって行く。しばらくすると、色々お世話になったクモの巣...合間を掻い潜ってそこを抜けて行......ん?

 

 

「フラン様、何か言いましたか?」

 

「ん?なんにも...あれ...?」

 

「何か聞こえるわね。...上から?」

 

「──────────」

 

 

声が聞こえた。どうやらフラン様、お嬢様ではなく...しかも上から。そして、近づいて来てる?

 

 

「──あ────あ──────!」

 

「?なんて言ってるんだろ...」

 

「何かしら......!!ちょ、フラン!危な」

 

 

そこで私の視界に映ったのは...木製の、バケツ...?槽?のようなものだった。それ以上、それが何かを認識するよりも前に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の意識は耐え難い頭の痛みにそこで途切れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「有我、それに妖精長...」

 

 

ひらひらと見送る手を下ろし、窓辺で呟く。帰っていく三人の背中が完全に消え、自室の椅子に腰掛ける。私を心配してくれたペットの一人...有我はもう部屋をあとにしていた

 

 

「お空と、そっくり...」

 

 

昼間に聞いた言葉に...既視感を覚えた。そう、有我がここで人型を得た日...同じように、お空が放った言葉...今なら合点がいく。彼女(かれ)らは...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「事実は小説よりも奇なり...ね」

 

 

そんな言葉が、一人の部屋に寂しく木霊した...

 

 





長々と失礼しました。以後、ほのぼのだけが読みたい、と言う方はサブタイトルから※印が消えるまで、ご覧にならない事をオススメします

他に、私の活動報告にて投稿小説に関する質問箱を設置しました。小説に対して疑問や何か聞きたいことがあればご利用下さい

ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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※35話 知らない天井

予告通り、今回からしばらくシリアス成分多めになります。苦手な方はご遠慮ください。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「......」

 

 

お嬢様に妹様...そして、妖精長が館に戻って丸1日...未だにこの子が目を覚ますことはない。時折、痛みに悶えているのか、寝苦しそうな声を漏らしたり、大粒の汗をかいたりと症状も酷く、意識が戻るような兆候もない

 

...昨日の夕方、まだ日も落ちきる前だと言うのに日傘もささず、ご自身の肌が焼けることなどお構い無しに、意識の無い妖精長を抱え館へと戻られた妹様...ぼろぼろと涙を溢すその様子は、一度私の思考を止めてしまった

 

そこからは余り覚えていない。気がついた時には永遠亭の医者が館まで足を運んでおり、妖精長の診察をしていた。結果...重症だけど命に別状はない、と言われた私は胸を撫で下ろした

 

館の住人...それに妖精メイドたちも、どこか何時ものような奔放さは無く、重く暗い空気が館を満たしていた。...ん?

 

 

「......咲夜、よーちゃんは...?」

 

「妹様......まだ、のようです」

 

「...そう、なんだ......」

 

 

ガチャリと扉を開け、中に入って来たのは妹様だった。日に当たってしまった箇所は包帯が巻かれ、泣き腫らした目元は赤くなっている。か細い声でそう問われ、私は首を横に振った

 

昨日、妹様は帰ってからご自身のことを責めていた。心を痛めていた妹様をお嬢様が慰めて下さり、最初に比べれば随分と落ち着かれた様子だった。それでも、いつもの明るい振る舞いはまだ、鳴りを潜めている

 

 

「目が覚めましたら、私が直ぐにお伝えしますので...今は自室でゆっくりお休み下さい...」

 

「...やっぱり、私のせいなのかな...?」

 

「!...妹様、それは「私が、一緒に行きたいって、我が儘言ったから!!...だから!...だから......よーちゃん...」妹様...」

 

 

掛ける言葉が、直ぐには思い付かなかった...私もそうだったから。もし、いつも通りに地底へ私が同行していれば...そんな考えが、私を縛り付ける。寝ずの看病も、ただ許されたいから、なのかもしれない...

 

消え入るような声でその名を呼び、崩れるように...すがるかのように、ベッドの脇に膝をついて妖精長の顔を覗き込まれる妹様...

 

 

「...起きるまで、ここで待ってても良い...?」

 

「...はい。...椅子、お持ちしますね」

 

「ううん、ここで良い...」

 

「ですが「ここが良いの...」...承知しました」

 

 

窓の外では夕日が、山の向こうへとその姿を隠していった...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...もう下げていいわ」

 

「え、あ...分かりました~...」

 

 

ろくに手をつけず、夕食を終える私に困惑の色を隠せていない妖精メイドの1人。正直、こんな状況じゃ、いくら美味しくっても喉を上手く通ってくれないわね...

 

並べられた料理は全て運び出され、この部屋には私1人。咲夜は妖精長に付きっきりで看病してくれているようだけど、もう丸1日...少し心配ね

 

フランは...大丈夫な筈。昨日は少し気が動転していて、状態は良くなかったけれど...あの子は強いもの。私の、妹だから...

 

 

「...もう少し、強く言っておくべきだったかしら...」

 

 

難儀なものね...運命が見える、なんて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......ん...んぅ...?」

 

 

鳥のさえずりが耳に入り、いつの間にか寝てしまっていた私の意識が戻る。いけない、妖精長は...って

 

 

「...タオルケット...」

 

 

気付くと、身体にタオルケットが掛けられている。...妖精メイドの誰かが、気を使って掛けてくれたのかしら...ベッドに上半身を預け、寝息をたてている妹様にも、同じようにタオルケットが...

 

 

「あ、起きられましたか。おはようございます」

 

「!...あ...」

 

 

突然、声を掛けられて身体を跳ねさせてしまう。でも、その驚きは聞こえた声色によって安堵へと変わる。いつものように、朝が来れば掛けられるその言葉がとても暖かかった

 

 

「申し訳ありません。なにぶん、この体躯ですので...ベッドへ寝かせられなくて...って、わっ!?」

 

「妖精長......良かった、起きたのね...」

 

「えっと...あの...」

 

 

いつものように丁寧な言葉...そう、私は思った。頭部にはまだ、痛々しい包帯が巻き付けられているものの、ちゃんと両の足で立って話している...私は嬉しさのあまり、彼女を抱き締めてしまった。そして...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません...お名前、というか...どうお呼びすればいいですか?」

 

 

その言葉が理解出来なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記憶喪失

 

頭部の打撲などの外傷や薬物中毒のため、それ以前のある期間の記憶を無くしてしまうこと。医学的には、「健忘(症)」という

 

...特にここにはそういうヒントのようなものは無いみたいね...

 

 

「...ふぅ」

 

 

東洋の医学書を閉じ、一息吐く。...妖精長の目が覚めて、少し時間が経った。一度、永遠亭から医師が検診に来たものの、直ぐに記憶を呼び覚ますことはできない、らしい...

 

傷はもう治りかけているから、後は記憶...でも一筋縄では行かないようね...。担当医からは、いつも過ごしていた館で、のんびりと記憶が戻るのを待つのが得策、と教えられたけど...

 

 

「ここが大図書館だよー!いつもはパチュリー様と小悪魔さんが居るんだ。時々、モノクロ魔法使いさんが来たり...くーちゃんとか、それこそよーちゃんが本の整頓を手伝ったりしてたんだー」

 

「そうなんですね...」

 

「...何か思い出せない、かな?」

 

「...ご免なさい、何も...」

 

 

あんな風に手の空いた妖精メイドが、この広い館の案内をするようになった。今は赤色の子が案内してるのね...皆としては、できるだけ早くあの子に記憶が戻って欲しいようね...でも

 

 

「...それでも、妖精長を信じて待つしか無いのかしらね...」

 

 

何冊目か分からなくなった医学書が、また一つ積み上げられた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーちゃん、まだ思い出せないみたいなんです~...」

 

「...そうなんですね」

 

 

門の前、いつものように仕事をこなしながら、休憩する黄色い妖精メイドさんと話をする。何処と無く、その声からいつもの元気は感じられなかった

 

他の皆もそうだ。特に酷いのは咲夜さんに、妹様。あの日から妹様は外に出られていない...

 

 

「門番さん~...」

 

「...はい、なんですか?」

 

「よーちゃん...全部このまま、忘れたままなんでしょうか~......」

 

「それは...」

 

 

全部...そう、全部だ。この館で一緒に働いてきたことも、一緒に宴会へ行ったことも...あの時、椅子が崩れて落ちそうになっていた妖精長を、私が助けたことも...私が覚えていても、妖精長は...

 

 

「...お腹、空いたなぁ...」

 

 

サンドイッチの味はまだ、忘れていなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......」

 

 

どうしようもなく、静かだった。...ここは地下室。少し前まで、私が1人でいた場所...独りだった場所。時々、少し嫌なことがあった時は、ここで1人になることがある

 

...よーちゃんは目が覚めた。凄く、すっごく嬉しかった。けど...よーちゃんが私のことを、フラン様って、呼んでくれはしなかった...

 

 

「よーちゃん...」

 

 

呟く声は直ぐ壁に跳ね返り、自分の心に突き刺さる。もう何度目なんだろ...私のせいで、私が我が儘言ったから、私が直ぐ気付けなかったから...なんて思うのも...

 

今は誰も、責めも、慰めもしてくれない...もう私は、独りじゃないと思ってた...でも、私はよーちゃんを独りにしちゃった...誰よりも独りが嫌だって、苦しいって知ってたのに...

 

 

「もう、我が儘なんて言わないから...」

 

 

お姉ちゃんなんて呼ばなくて良いから...帰って来てよ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見る。この館に住んでいる方々、働いている妖精のメイドさん、そして...私が、楽しそうに遊んでいる夢...全く覚えの無い夢を

 

 

「また、ですか...」

 

 

記憶が無くなってから、その夢のせいか直ぐに目を覚ましてしまう。寝ても覚めても、目に映るのは知らない光景...知らない天井だった

 

自分の懐中時計に目をやる。まだ深夜1時を回った辺り...また明日も、一応仕事がある。早く慣れ...いや、思い出さないと...もう寝よう...明日も早い

 

 

「こんばんは」

 

 

時計を仕舞い、今一度眠りにつこうとした時...聞き覚えのあるような、無いような...そんな声が聞こえた。いや、でも館の人たちとは違う...声の方を見る。そこには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...え?」

 

「お久しぶりね、妖精さん...」

 

 

不気味な空間から顔を覗かせる、妖艶な女性の姿があった

 

 

 




シリアス多め、どころか、まんま全部シリアスでしたね...申し訳ないです。まだ少し、シリアス続きます...ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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※36話 記憶のスキマ

がっつりシリアス、そしてちょっと短めです。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「え...誰、ですか......?いつの間にこの部屋に...」

 

 

お久しぶり、と再会を祝す言葉を掛けられる。でも私にはその方に会った覚えは、って...記憶喪失なら無くて当然でしたね...

 

 

「すみません...どうやら、私は...」

 

「記憶が無い、でしょう?」

 

 

もし、記憶が合った時のお知り合いなら...と、始めた現状の説明は直ぐに遮られる

 

 

「!...館の方にお聞きになったんですか...?」

 

「...えぇ、貴方の主から聞いてますよ。さて...」

 

「...?」

 

 

主...確か、レミリアさん、だっただろうか。恐らくお見舞いのようなものでしょうけど...その方は不気味な空間を閉じ、傍らに合った椅子へと腰掛ける。そして、勿体ぶるようにして放たれた言葉は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方にはこれまでの全てを知り、これからを選ぶ権利があります」

 

 

私には理解が及ばなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...どういう、ことですか...?」

 

 

そう返すしか無かった。まず、その言葉の意味が全くと言って良いほど分からなかった。記憶の有る無しに関係無く、理解が出来なかった...

 

 

「そうですね。まずは...」

 

 

すっくと立ち上がり、私の側へと女性が近づく。徐に私の額に手を当...て......

 

 

「...これでどうですか。妖精長、さん?」

 

「...はい」

 

 

妖精長と、いつも通りに名を呼ばれていつも通りに応答する。...思い出した、この館で目が覚めた日のことも、メイド長に一目置かれたのも、妖精メイドの同僚に四苦八苦したことも...フラン様にお嬢様、門番さんやパチュリー様に小悪魔さん...これまで会ってきた皆さんとのことも...全部を...

 

 

「お話し、続けても?」

 

「一つ、聞いても良いですか...?」

 

「えぇ...貴方が納得するまで、何度でも」

 

「貴女はいったい誰なんですか?」

 

 

記憶が戻っても、目の前にいる女性が誰なのか分からない。ただ、どこかで会っているような気がする...でも、それも確証には至らない、なんとも言えない既視感のような何か

 

気持ちの悪いそれから逃れたい...ただその一心でそう問う。返される言葉には...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...私は八雲紫。この幻想郷を創った妖怪の賢者であり...貴方をここ、幻想郷へと招いた者...と言えばいいのかしら」

 

 

私以外知り得ない言葉を引っ提げていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...いったい、どういう「元ホテルマンさん、と言えば分かりますか?」...はい」

 

 

疑問は口を出終わる前に遮られる。そして、私と...さとりさんくらいしか知らない、元ホテルマンという言葉で突拍子もない話たちの説明がついた

 

 

「他に何か、聞きたいことは...?」

 

「...これまでの全て、を教えてください」

 

「...分かりました」

 

 

他の質問は、と促されるものの...これ以上聞きたいことは、紫さんの話すべきことだろう。その為に、紫さんはここに来たんだろうから

 

 

「幻想郷...ここは私の造り上げた神秘の生きる楽園。それらの神秘が生きるには、人...人間の存在も必要です。神は人の信仰を、妖怪は人の畏を糧に存在を保っています」

 

「...はい」

 

「人が滅べば、神は力を失い、妖怪は滅ぶ。共存する人と妖怪の力は均衡を保たねばなりません。しかし妖怪は強く、人は弱い...」

 

「...」

 

「そんな人間の代表...妖怪に対抗できる存在が博麗の巫女。その存在のお陰で、この幻想郷の人と妖怪は上手く共存できているの...」

 

 

ある程度、ですが...なんとはなしに理解はできた。元々、大図書館にある文献を読んだこともあり、内容に何か矛盾なども感じない...ただ

 

 

「私が招かれた...今のお話には、それとどういう関係があるんですか...?」

 

「...博麗の巫女の素質...産まれた時からその才能がある人間はそう居ないものです。そして今の代の博麗の巫女...霊夢は今までで最も、その才に溢れている。歴代の巫女で一番...でも...」

 

 

私の質問も意に介せず...そのまま続きを聞いて欲しい、と言わんばかりに話は続く

 

 

「人の命は短い...年々強さを増す妖怪たちに対抗できる才を持つ人材。それを直ぐに探せるとは限らないの...だから」

 

 

声に力が無くなって行く。そうやって真実を語る紫さんの表情は少し、暗さを帯びていた...そして

 

 

「だから私は...その才能を、次の代へと受け継がせることができないか、そう思い立ったの。都合良く、私にはそれができるような能力(ちから)があったから」

 

 

長く続いた話はようやくその根幹の近くへと辿り着いた

 

 

「才能を、受け継がせる...?」

 

「そう。魂の一部分である才能...それを受け継ぐことができるなら、才のある人材を探す必要もないもの」

 

「ちょっと待って下さい...だから、その話と私のこと...いったい何が、どう関係してるんですか!!」

 

「...能力(ちから)があるとはいえ、魂というモノは不安定過ぎるの。その上初めての試みになる。何の準備も...何の確証も前例も無いまま、一歩間違えれば命に関わるようなことは出来なかった。...だから」

 

 

思わず言葉が怒気を帯びる。正直な話...合点がいっていた気もする。それ以上言葉を聞かなくても、何故私が妖精メイドとして、この幻想郷...この館にいるのか...分かってしまった。だからこそ、声を荒げた。そのまま紫さんが放った真実は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...だから私は試したの。仕事ができる、という貴方達の才能と...仕事のできない妖精メイドを使って」

 

 

嫌に予想通りだった

 

 




ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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※37話 同僚達は奔放で個性豊か

まだシリアス続きます。誤字報告ありがとうございます。見返しが甘くて申し訳ないです。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「それが貴方がここ、幻想郷に招かれた理由...その全て」

 

「な......」

 

 

それ以上、言葉が出なかった。息が詰まり、動悸が速まるのをひしひしと感じる。目の前には、全ての元凶が真実を吐き出し終え...静かに悲哀を帯びた目で、こちらを見透かすようにして...ただ、佇んでいた

 

 

「ま、待って...待って下さい...」

 

「...はい」

 

 

絞り出すように口を動かす。聞きたいこと...疑問や想いが溢れだしてくる。分かっていた...なんとなく理解していた。でも...でも!!......でも...分かりたくなんて、無かった...

 

 

「私は...元ホテルマンです」

 

「...えぇ」

 

 

私とさとりさん...そして目の前の紫さんしか知り得ない言葉を放つ。それは真実、違えようの無い真実...一体、それがどれだけ残酷なことか

 

 

「なんでですか...なんで私は、元ホテルマンなんですか...?」

 

「...」

 

 

疑問符が付く。...違えようの無い真実に。だから...だからこそ、問い質す。沈黙に憤りを覚えてしまう。どうして...どうして!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして...私は私なんですか...?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖精メイドの子達にも、人と同じように自我があります...きーちゃんやむーちゃん、他の子達もそうです...」

 

「......」

 

「なら、この子は...青い妖精メイドさんは、何処にいるんですか...?」

 

 

この身体には、私しかいない。元ホテルマンで妖精長である私しか...

 

 

「...貴方の才能を妖精メイドに受け継がせること自体は成功しました。ですが...」

 

 

顔を附せ、少し間を空けて続ける

 

 

「ですが、意図せずして貴方の魂の欠片が...妖精メイドの自我を侵食してしまったんです...」

 

「侵食...」

 

「その身体にはもう、妖精メイドの自我はほとんど残っていません...」

 

 

残っていない...その言葉が心を抉る。自分勝手な理由だなんて言えない。紫さんにとって、幻想郷の未来はそれほど...何かを犠牲にしようとも、守らなければならないものだろうから...

 

それでも...それでも!!......どうして、私が...この子が...

 

 

ぐらり

 

 

「...あ、え?」

 

 

突如として視界が90゜向きを変える。浮遊感が身体を襲い、ぽすんとそのままベッドに横たわる。何も聞こえない...瞼が閉じて行き、意識が遠退く。最後に慌てた様子の紫さんが見えた気がした...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...あれ」

 

 

気がつくと、真っ白な場所にいた。いや、正確には真っ白な場所の椅子に腰掛けていたのだ。どこか見覚えのあるテーブルを挟んで対面するように椅子がもう一つ...あ

 

 

「これ、テラスの...」

 

 

既視感の正体。紅魔館のテラスに置いてあるテーブル...そして椅子だった。いや、それよりもここは一体...?

 

 

「あ、起きたんだね」

 

 

声のした方を見る。理由は二つ、まずこんな場所で...見知らぬ場所で声なんかしたらそっちが気になるのは道理、だろうから...大事なのは二つ目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声が一緒だった。私と一緒だった...聞き覚えがある、なんて生易しいものではない。目が覚めたあの日、言葉を発して酷く驚いたのを思い出す...その声の主は...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは...ん?今は...こんばんは、かな」

 

「あ...わ、たし...?」

 

 

目が覚めたあの日、鏡で見た...青い妖精の少女の姿をしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、貴女は...」

 

「ごめんね、突然呼んじゃって。しょっ、と」

 

 

私と瓜二つの彼女は、手に持っていた見覚えのあるティーセットをテーブルに乗せ、空いていたもう一つの椅子へと腰掛ける。本当に鏡を見ているような気分だ。とても柔らかな、彼女の表情を除けば...

 

 

「色々と話したいこともあるし、聞きたいこともある...でしょ?」

 

「え、あ...はい」

 

「うん。じゃ、お先にどうぞ」

 

 

一日にこう何度も、言葉が詰まったり、疑問符が湧いて出たりするのは初めてだろうか。彼女に促されるように、私は話す

 

 

「貴女は誰ですか...?」

 

「紅魔館で働く、仕事の出来ない青い妖精メイド...だったよ」

 

 

予想通り...彼女はこの子だった。この身体の、元の持ち主。おそらくほとんどが無くなってしまった、残りわずかな自我...それが今、目の前にいる彼女...青い妖精メイドである彼女

 

 

「ここは何処ですか...?」

 

「私の...あ、今は貴方の頭の中、かな」

 

 

頭の中...だからなんだろう。テーブルなんかに見覚えがあったのも

 

 

「なんで、私を呼んだんですか...?」

 

「伝えたかったから」

 

「あ...」

 

 

先ほどの調子と少し変わり、真っ直ぐな目でそう返される。ふわふわとした雰囲気は無く、それでも柔らかな表情は崩さずに...

 

 

「私が望んだの。お仕事が出来るようになりたいって」

 

「え...?」

 

「あの妖怪さんが館に来て、そんな話をして...そしたら、出来るって...」

 

 

彼女は語る。ただ、言葉を紡ぐ

 

 

「もしかしたら、貴女が貴女じゃ...ううん、私が私じゃ無くなるかもしれないって、危ないかもしれないって、ちゃんと言われたよ」

 

「じゃあ、なんでそんな...」

 

「苦しかったの」

 

 

その言葉がまた、私の心を抉る

 

 

「何も出来ない私が、嫌だった...だから私は良いよって、そう言ったの。それにね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いよって言ったのは、私だけじゃなかったから」

 

 

 




ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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※38話 メイド長は感情の起伏が激しい 終

タイトルの通りです。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「あ...」

 

 

全てが腑に落ちた。紫さんから語られた真実と、彼女のその言葉で納得がいった...いってしまった

 

呆気にとられた私を余所に、彼女はどこか拙い手つきで紅茶をカップへと注ぐ。ふわりとその香りが辺りに広がった

 

 

「どうぞ」

 

「え...あ、はい...」

 

 

目の前へと用意されたティーカップ...頭が上手く回らない。半ば反射的にカップを手にして、口元へ運ぶ

 

 

「どうですか?」

 

「...美味しいです」

 

「うそつき」

 

 

言葉に詰まる。所謂図星...よかれと思って吐いたお世辞はすぐにバレてしまう。実際味は薄く、ぬるい...とても、美味しいと言える代物では無かった

 

 

「でも、優しいです...とっても」

 

 

微笑みながら、彼女の言葉は続く

 

 

「お茶汲みだけじゃない...お料理、お掃除にお洗濯も...何もできなかったんです、私たち」

 

「...やっぱり他の...皆もなんですね」

 

 

こくりと、どこか悲しげに頷く。皆...妖精メイドの皆も、私と同じように...ぽつりぽつりと彼女は言葉を紡ぐ

 

 

「小悪魔さんは中々本を片付ける場所が覚えられない私に何度も教えてくれた...」

 

 

彼女の微笑みが揺れた

 

 

「パチュリー様は私が知らないようなことをたくさん教えてくれた...」

 

 

彼女は俯いた

 

 

「門番さんは、私がちょっとサボっちゃった時...一緒に怒られてくれた...」

 

 

彼女の肩が震えた

 

 

「妹様は...とっても楽しそうに、私と...遊んでくれた...」

 

 

彼女の言葉が途切れ途切れになった

 

 

「お嬢様は...私を...見放さずに、雇ってくれた...」

 

 

彼女の手が目元を拭った

 

 

「メイド長は...こんな使えない私を...めげずに叱ってくれた...」

 

 

彼女の頬を何かが伝った

 

 

「そんな皆さんのために...出来るように...なりたかった......でも、私には出来なかった...」

 

「あ...」

 

 

彼女は泣いていた

 

 

「...ね、よーちゃん」

 

「...はい、妖精メイドさん」

 

 

彼女はごしごしと涙を拭いた...そして

 

 

「迷惑で、大変で、突拍子もなくて...それでも私として、妖精メイドとして頑張ってくれて...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう」

 

 

くしゃしくゃな顔で笑っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...ん」

 

 

身体を揺すられて目が覚める。ぼやけた視界には、どこか焦ったような顔をした紫さんが、まだ起きたばかりの私の脇に立っていた

 

 

「目が、覚めたんですね...良かった」

 

「私は......ん」

 

 

起床を安堵されるのは...いや、初めてではないですね。むくりと身体を起こす...すると、頬を何かが伝った。...涙...?......あ

 

 

「紫さん、私は...」

 

「突然、何故か気を失って...」

 

 

...どうやら、本当に彼女が...この子が呼んだみたいですかね。確かに、紫さんは動揺してましたし...

 

 

「そうですか...大丈夫です」

 

「一体、どうして...」

 

 

ふと今の時刻が気になり、借りている懐中時計を取り出す。今は...6時前、ですか。二度寝はともかく、三度寝は必要無さそうですかね

 

 

「いえ、少しこの子とおはなししてただけですから」

 

「!...そう、だったんですね...」

 

 

胸に手を当て、そう返す。少し驚いたような表情を覗かせるも、すぐにその顔に影が落ちる

 

 

「...答えを、聞いてもよろしいですか...?」

 

「ん、んーっ!...ふぅ。そう、ですね...」

 

 

ぐぐっ、と伸びをして頭を起こす。さて、と

 

 

「私は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...ん、んぅ...」

 

 

小鳥のさえずりに閉じていた意識が開かれる。しばらく身体を起こすこともなく、ただぼんやりと天井を眺めていた...

 

 

「...!今って...」

 

 

ふと我に帰り脇に置いてあった懐中時計を手にし、時刻を確認する。今は...

 

 

「8時......急がないと」

 

 

とうに朝だった。最近の疲れからか、いつものように起きれなかったようね...いや、それも言い訳かしら。急ぎ、ベッドから跳ね起きていつもの服に着替える

 

妖精メイドたちは...まだ動いてないでしょうね。私がこんな時間まで眠ってしまったし、それに妖精長はまだ...やめましょう、それよりも早く行かないと

 

いつものように指示を出しにと自室の扉、そのドアノブに手を掛ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんこん

 

 

「...え」

 

 

今まさに回そうとしたその時、扉が叩かれる。そして...声がした

 

 

「メイド長、起きてますか?」

 

 

考える間もなく、弾かれるように扉を開ける。部屋の前に...そこに居たのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖精、長...?」

 

「わっ!?あ、おはようございます、メイド長」

 

 

彼女だった

 

 

「すみません、しばらくしても起きてこられなかったので少し心配で...あ、いつも通り他の皆にはもう指示を出し終わって、わっ!?」

 

 

考えが纏まる前に...抱き締めた。ただ...ただ強く...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと...メイド長...?」

 

「貴方は本当に!...心配、ばっかりさせて!...もう...」

 

「!...ご心配、お掛けしました...」

 

 

こんなに、心配させてしまったんですね...まだまだ、未熟みたいですね。私は...

 

でも、なんだか懐かしい...初めてここで目が覚めた日も...メイド長、泣いてましたもんね。ん...?

 

 

「咲夜さーん!今日もお医者さん...が......」

 

「あ、おはようございます門番さん」

 

「そうね...もう大丈夫そうだから、お茶でも出して寛いでもらいましょうかしらね」

 

「え、あ...記憶が!?...あ!私、皆さんにお伝えしてきます!!」

 

 

声の主は...門番さんですね。私を見るなりそのままどこかへ走って行ってしまった...って、あ

 

 

「妖精長...良いかしら」

 

「はい、お客人の案内、ですね?」

 

 

これは久しぶりに忙しくなりそうですね...腕が鳴ります!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は元ホテルマンで妖精長です...これまでも、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これからも

 

 




少し長くなりますがあとがきです。良ければ読んでいって下さい

ひとまず、ここまで読んでいただき感謝です。「元ホテルマンですが妖精メイドに転生してメイド長に一目置かれてます」は、終とあるようにここで一区切り、となります

これはシリアスパートに限り、ここでおしまい、ということですね。今までにあったように、一話で誰かと出会い、その誰かと交流するような形式の日常を描いたおはなしは続いていく予定です

この作品ですがひとまず完結、とさせていただく予定です

さて、これ以上は長くなりますので...後語りは活動報告の方にでもと思います。興味がありましたらどうぞ

それでは、また


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その後
桶入り娘はウトウトと


少し間が空いてしまいましたね...このおはなしからまたほのぼのに戻ります。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「ん...んーっ!...ふぅ」

 

 

自室のベッドの上、上体を起こしてぐぐっと伸びを一つ...今日は誰も居ないみたいですね、部屋の中。まぁ、それが普通なんですけど...

 

シーツを退けて立ち上がり、いつもの服に着替える。フリルにスカートなんのその。人間慣れれば案外大丈夫、住めば都ともいいますしね、今は妖精ですが

 

 

「さてと...ん、あれ?」

 

 

身支度を済まし、ふと窓に視線が移る。館の外はうっすらと明るくなっており、これから1日が始まるんだと改めて実感できた

 

そして頭上に浮かんだ疑問符...まだ目の覚めきっていない頭の勘違いでは無いみたいですかね。瞼を擦り、もう一度外を見る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪...」

 

 

ふわりと宙を舞うそれらに、無意識に言葉が口を突いて出る。冬...ここ幻想郷に来てから、私にとって初めての季節...吐く息は白く、窓一面を曇らせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、メイド長」

 

「ん...おはよう、妖精長。一応聞いておくけれど...無理、してないでしょうね?」

 

「あはは...はい、もう大丈夫です」

 

 

冬の訪れに沁々する...なんてことはなく、自室をあとにして仕事場へと向かう。既に起きていたメイド長に挨拶をすると、そう心配される

 

まだ時折頭が痛むこともあるけれど、傷に関しては跡が残るようなことも無かった。永遠亭の皆さんにはいつかちゃんとお礼しないと、ですね

 

 

「よーちゃんおはよー...うぅ~、さぶいぃ」

 

「おはよう、あーちゃん。今日は雪ですからね...皆もおはようございます」

 

「おはようです~」

 

 

やけに寒そうなあーちゃんにそう返し、他の妖精メイドの皆にも挨拶をする。各々マフラーを巻いていたり、ミトンの手袋を着けていたりと防寒はバッチリみたいですね

 

 

「ひとまず、皆集まったようね。それじゃあ今日の仕事を割り振って行くわ。今日は...」

 

 

なんとなく、メイド長が話す指示の内容に懐かしさを感じながら、両の掌に息を吐く。はー...よし、今日も頑張りましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくしゅんっ!!...うぅー、さぶい...」

 

 

いつものように門番として館の正面玄関に立つ...まぁ、今日は雪が降ってていつもより寒いんですけど...。お昼の休憩になったら、黄色い妖精メイドさんに温かいスープでも作ってもらおうかなぁ...

 

 

「...ん?」

 

 

すっかり雪景色の林道...まだ姿は見えないものの、新雪を踏み締めこちらに近付いて来るのが聞こえてくる。気配は複数...来客の予定は聞いておらず、恐らく妖精でもない。自然と脚に力が入り、構えをとる。足音は更に近付き、その姿が視界に入る

 

 

「...って、えぇっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メイド長、皆もお仕事一段落ついたみたいです」

 

「そう、分かったわ。...そうね、キリも良いし休憩にしましょうか」

 

 

妖精長から皆の進捗を聞き、懐中時計を見る。今は二つの針がてっぺんで重なろうとしているところ...お昼の休憩には丁度良い頃合いね

 

妖精長の容態が良くなってから、仕事が滞ることは無くなった。とは言えまだ病み上がりみたいなもの...この子は大丈夫と言ってるけれど、余り無理はさせたくない...あら?

 

 

「えっと、確かこっちに居るって...あ!咲夜さーん!」

 

「美鈴...どうかしたのかしら」

 

「どうしたんだろうねー」

 

 

そんな考えを巡らせていると、廊下の角から美鈴の姿が見えた。キョロキョロと辺りを見渡し何か探してるようだけれど...と、どうやら目的は私のようで遠くから声を掛けてきた。何かあったのかしら

 

 

「あ、門番さん、おはようございます」

 

「え?あ、お、おはようございます...じゃなくて!咲夜さん!」

 

「騒がしいわね...何かあったの?」

 

「いや、お客様が...」

 

 

こちらまで走って来た美鈴はそう口にする。お客様...?今日は来客の予定なんて無い筈だけれど...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ち、地底からだそうです...」

 

「...え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあぁ~......流石に急過ぎないかしら?ねぇ、さとり」

 

 

大きなあくびをしたお嬢様が、少し不機嫌そうにそう言葉を放つ。応接室の横長のソファーにはそんな言葉を掛けられた地底からのお客様が3...いえ、4人座られていた

 

 

「へー、ここがねぇ...随分と尖った趣味してんだね。なぁ、キスメ」

 

「......」

 

「ねー!真っ赤っかー!」

 

「こいし、ソファーの上で跳ねないの...おやすみのところすみません。急ぎ、伝えなければいけないことが有りましたので...」

 

 

見知った顔は3人。さとりさんにこいしさん、それに勇儀さん...皆さん、地底にお邪魔したときにお世話になった方々だ。どうやら大事な話があるようで、お嬢様と私もその部屋へとご一緒している。というか...

 

 

「寒かったりしませんか~?」

 

「ひぅっ!?ご、ごごご、ごめんなさいぃぃ...」

 

 

知らない最後の方...何故か大きめの桶に入っている方ですけど、とんでもなく怯えている。会話から察するに、キスメさん...らしいですけど。館イチの温厚で通っているきーちゃんにあの怯えようですからね...

 

 

「ん、そこのは...!...そう、大体分かったわ。妖精長も呼ぶ訳ね」

 

「え、わ、私ですか...?」

 

「...はい、お考えの通りです」

 

 

合点がいった両名に挟まれ、疑問符が浮かび上がる。えっと...私?そして、私のそんな間の抜けた顔を見てさとりさんは言う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方のケガ、その原因はキスメ...彼女です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?...そう、なんですか...?」

 

 

そう言われても私は分からない。あの時、頭に何か降ってきたことは分かっている。鈍い痛みも覚えている。でもそれが...

 

 

「間違いないわね。あの時降ってきたのはそこの釣瓶落としよ」

 

 

すっかり目の覚めきったお嬢様が言い放つ

 

 

「勿論、わざとでは無いです。うたた寝していたら、いつの間にか身体が落下していて...だそうです」

 

「おんなじとこに棲んでるヤマメも、キスメはそんな寝相悪くないって言ってたよー」

 

「そう...ま、さとりが言うならそうなんでしょうね」

 

 

どうやら、わざと落っこちてきた訳では無いらしい。それに、さとりさんが事情を聞いてるんですもんね...疑う余地もないですね

 

 

「んで、今日は謝りにきたんだよ。なぁ、キスメ」

 

「...うん」

 

 

謝罪。それが地底から遥々地上まで来られた理由...できれば再開は皆さんで遊びに来る時、と思ってたんですけど...

 

 

「えと...よ、妖精さん」

 

「...はい」

 

 

少し震えながら、彼女は言う

 

 

「ご、ごめんなさい...」

 

「はい、許してあげます」

 

「ほ、ホント?もう、怒ってない...?」

 

「はい、もう痛くないですから、怒ってないですよ」

 

 

そう言葉を掛けると、キスメさんは隣に座っているこいしさんやさとりさんの顔を交互に見る

 

 

「ねー?よーちゃん優しいから大丈夫って言ったでしょー」

 

「そうですよ。かっ...のじょに限ってそんなことは無いです」

 

 

...なんとなく、さとりさんが何か言い間違え、いや正しいんですけどね、間違えそうになった気がする。頭の痛みよりも、そっちの方が怖いですよもう...

 

 

「はぁ...良かったわね、うちのメイドが優しくって。さてと...」

 

 

少し呆れたような調子で言うお嬢様。一拍置いて、言葉を続ける

 

 

「折角来たんだから、歓迎するわよ。咲夜」

 

「はい」

 

 

いつの間にかお嬢様の傍らにはメイド長が立っている

 

 

「お昼、多めにね」

 

「承りました。それじゃ妖精長、手伝ってくれるかしら?」

 

「はい、勿論です」

 

「やったー!ご飯ー!」

 

「お、こりゃついてきて正解だったね」

 

「お酒は控えて下さいよ」

 

「わ、私も良いの?」

 

 

時刻は丁度お昼前。それじゃあ頑張って作りましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それと、良いって言われる前に勝手に上がり込んじゃ駄目でしょ?こいし」

 

「えへへー、バレてた?」

 

 




こんな感じですかね。ま、想像通りキスメが落っこちてきてましたね。ちょっと次のおはなしは※付きでシリアス風味かもです。ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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※スキマの独白

一つ前のあとがき通りシリアス風味です。苦手な方はお戻り下さい。妖精長が記憶を取り戻した少し後のお話しです。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

ぱちり

 

 

ぱちり

 

 

 

「ん、あら~これで詰みね~」

 

「えっ、あ...もう、今日は全然ね...」

 

 

追い詰められた玉は逃げ場を失い、私の陣営は白旗を揚げる。幽々子相手に連敗なんて、いつぶりかしらね...

 

今日はいつもみたいに白玉楼にお邪魔して暇を潰している。少しの肌寒さを感じ、そろそろ冬眠の時期ね、なんて思う...今年、ここに顔を出すのもこれが最後かしらね

 

 

「らしくないじゃない~、何か考え事~?」

 

「...私だって、こんな日もあるのよ」

 

「ふ~ん...そう」

 

 

酷く幼稚な言い訳...端から見れば子供の負け惜しみのような返しね、自分で言ってて嫌になる。...きっと、あの子もこんな風に心配してくるのかしら...

 

 

「幽々子様、お茶をお持ちしました」

 

「あら、ありがと~妖夢~」

 

「ん...頂くわ」

 

「すずー...ほぅ...ん~、何か甘いもの欲しいわね~」

 

 

手元に置かれた湯飲みを手に取り一口...ふぅ、温かい。駒の配置を戻しながら物思いに耽る...さて、幽々子みたいに食い意地が凄まじいわけではないけど、こんな風に考え事をしていると甘いものの一つや二つ欲しくなってしまう

 

 

「......妖夢~、悪いけれどおつかい頼まれてくれないかしら~?」

 

「え?甘いものなら昨日いっぱい買って「美味しかったわ~」え...ま、まさか......全部?」

 

「うふふ~」

 

 

ここにお邪魔して、この二人のこんなやり取りを聞くのも何度目かしらね...ま、らしいと言うかなんと言うか...

 

 

「うふふー、じゃないですよ!!お饅頭は一日三つまでって言ったじゃないですか!?」

 

「我慢は身体に毒なのよ~?」

 

「確かに我慢は...って、亡霊じゃないですか!!身体もなにも...無いじゃないですか!!実体が!!」

 

「...キレッキレね」

 

 

それにしても、会うたびにツッコミのキレが増しているような気がするわね...

 

 

「ほ~ら、お客様も待ってるわよ~?」

 

「あ、ちょ!?分かりました、分かりましたから!!」

 

「いってらっしゃ~い」

 

 

ぐいぐいと押されるようにおやつの買い出しに駆り出されて行くのを縁側で見送る。あの長い階段を昇り降りするのは骨が折れるでしょうに...

 

 

「貴女ねぇ...そのうち嫌われちゃうわよ?」

 

「うふふ~、大丈夫よ~。それに...」

 

 

主従関係のヒビについて苦言を呈すると、いつものように朗らかに大丈夫と返される。そして、少し声色を変え続ける

 

 

「二人の方が...色々と話しやすいでしょう?」

 

「......なんのことかしら」

 

「うふふ~、それで隠せてるつもりだったの~?」

 

 

...思ったよりも顔に出てしまっていたのかしら。そう易々と心中を察せられるなんて、妖怪の賢者が聞いて呆れるわね

 

 

「...はぁ、バレてたのね」

 

「あら、何年の付き合いだと思ってるの~?それで、考え事って~?」

 

 

縁側に座りため息を一つ。勘づかれてしまっては根掘り葉掘り、洗いざらい吐くまで解放されないでしょうね。亡霊は執念深いから......それに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子、についてよ...」

 

 

話したかったから、ここに来たのかもしれないわね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、あら藍に...橙も。お出かけかしら?」

 

「あ、紫様...そう、ですね」

 

 

ある日の昼下がり。普段は迷い家に住む橙を連れている藍を見かけた。二人して身支度を済まし、玄関に向かうところだったみたい

 

 

「...なんだか元気無いわね。どうかしたの?」

 

「...実はですね、紅魔の妖精メイドの一人が大怪我をしたらしいのです。私としてはあの宴会は勿論、他のことでも良くしてくれたのでお見舞いに。それで橙も...」

 

「お友達なんです、その妖精メイドの子...」

 

 

ずきり、と何かが痛む音がした。明らかに、いつもより声が暗くなっている二人が目に写る

 

 

「...そう、だったの...迷惑にならないようにね」

 

「勿論です。それじゃあ行こうか、橙」

 

「はい、藍様...」

 

 

二人はそのままお見舞いに行った。家に残された私は大きくなってしまった罪悪感に押し潰されそうになった...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう...貴女が関係してたのね」

 

「えぇ、そう...」

 

 

今までの全てを伝える、なんて嘘だ。あの子が大怪我をしたのも、あの子の記憶が失われたのも、全て私の仕業。頭部にあの妖怪を落とし、その夜館で記憶を消した

 

記憶を残したまま、前世の未練を残したまま意味も分からず生きるなんて...酷過ぎる。前世を知らない、ただの才能有る青い妖精メイド...そうしてあげようとした......名前の知らないあの子為に...彼の為に、と

 

 

「心配してたのよ~?妖夢も」

 

「......そう、なのね...」

 

「勿論私も、ね」

 

 

でもそれは間違いだった。記憶のあるあの子がここ、幻想郷で生きたのはほんの少しの間だけ。でも...それでも、それほどに皆に愛されていた...あの子たちにも

 

 

「...うちの式神の二人ね、少し前にあの子のお見舞いに行ってたの」

 

「...うん」

 

 

声が震える

 

 

「とっても心配そうで...橙なんて、その子のことお友達って...言ってたのよ?」

 

「...うん」

 

 

言葉が途切れる

 

 

「......私...なんて、こと...を......」

 

「...うん」

 

 

涙が伝う

 

 

「...しょうがないわね~...妖夢が戻ってくるまでは、胸貸してあげるわ」

 

「ごめん、なさい!...ごめん、なさい......ごめん...なさぃ...」

 

 

私は泣いた。何百年ぶりに、泣きじゃくった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう、落ち着いた~?」

 

「...えぇ、ごめんなさいね...」

 

 

暫くの間、人目も惜しまず泣いた。人払いをしてくれた幽々子には感謝しないといけないわね...

 

 

「た、ただいま...戻り、ました......」

 

「あら、遅かったじゃな~い」

 

「お、遅!?全力だったんですけど...はー、ひー...」

 

 

目尻を拭った後、庭先から疲れきった妖夢の声が聞こえた。直ぐ様目当てのお菓子を意気揚々と受け取りに行く幽々子の姿に、こんなのに話して良かったのかしら、なんて思う。あーあ、ホントに...

 

 

「ん~、おいひ~♪あ、ふぁい、ゆふぁり」

 

「...ふふっ、ありがと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんなのが友人で良かったわね

 

 




シリアス終わり!構想段階のシリアスはホントに終わりです。展開なにか思い付いたら書く...かもですが。次回はちゃんとほのぼのです!ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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冬のある日、1

ここはひとまず日常です。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「石炭の補充はこれでよし、と」

 

 

客室の暖炉脇に積まれた燃料を見据え、少し汚れた手の甲で額を拭う。寒くなってからこれもお仕事の一つになりましたからね

 

最近は地底の皆さんが訪れたり、フラン様のお友達が泊まりで遊びに来たりと客室もフル稼働でしたしね...大変だったなぁ...

 

さてと、これで客室は全部、ですかね...後はお嬢様のお部屋と...ん?

 

 

「あ、やっといました~」

 

「きーちゃん?どうかしたんですか?」

 

 

ガチャリと扉のノブが回り、部屋にきーちゃんが訪れた。他のお仕事をしてもらってたんですけど...私のことをわざわざ探しに来たみたいですね。どうしたんでしょう

 

 

「実はちょっと~...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見たことない家具、ですか?」

 

「はい~...ちょっと組み立てられなくって~...」

 

 

話を聞いたところ、その家具の組み立て方が分からず私に聞きに来た、とのこと。それにしても見たことない家具...一体なんですかね。それにどこから...?

 

 

「んー、分かりました。ひとまず見てみますね」

 

「ありがとうです~。今は広間でむーちゃんが~...」

 

「急ぎますよきーちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こたつ?......あー、あの神社に置いてあった...変なテーブルみたいな...あれの事かしら?」

 

「はい、お嬢様。あの古道具屋に立ち寄った際に見かけまして...インテリアにでも、と」

 

「インテ!?...貴女、なかなかにセンスぶっ飛んでるわね...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むーちゃん!家具は無事ですか!?」

 

「んー...お、よーちゃん見つかったのか。って、無事?まぁ、無事だけど...」

 

 

きーちゃんを引き連れ広間へと滑り込む。そこにはむーちゃんが家具の部品に触れながら首を傾げている姿があった。マズイ!まずは家具の無事を確認して...って、ん?

 

 

「やー、アタシらじゃ分かんなくてねー。よーちゃんなら物知りだし、分かるんじゃ無いかってさ」

 

「そうです~」

 

 

二人の言葉を聞きながら件の家具の部品を見やる。広間の中央には、一見背の低い机に見えるもの、四角い板、そして無造作に置かれたお布団...いや、これって

 

 

「こ、こたつ...?」

 

 

間違いない。記憶が曖昧とはいえ、これらがこたつであるのは火を見るよりも明らかだ

 

 

「お、やっぱり知ってたんだね。流石、妖精長の名は伊達じゃないね」

 

「こたつ、って言うんですね~」

 

 

どうやら妖精メイドの皆は知らないらしい。確かにここ、紅魔館は幻想郷では珍しく衣食住が洋風に傾いている。いや、ならなんでこたつがここに...?

 

 

「そろそろ組み立ては終わったかしら?...あら、貴女も手伝いに来てくれたのね」

 

 

頭上にクエスチョンマークを浮かべ悩んでいると、少し散らかった広間へとメイド長がやってきた。確か今日は朝から出掛けて...帰ってきたみたいですね。メイド長なら何か知ってるでしょうか...

 

 

「あ、メイド長。はい、直ぐに出来ますが...ところで、どうして突然こたつが...?」

 

「ん?そう、実は...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「古道具屋で、ですか」

 

 

なんでも古道具屋で見かけ、珍しいインテリアとして買って来たらしい。メイド長...ちょっとセンスがぶっ飛んでるような...

 

 

「えぇ、そうね。ひとまず近くにいた妖精メイドの子に頼んでおいたのだけれど...」

 

 

とっ散らかった広間を一瞥してため息を吐く

 

 

「最初から貴女に任せれば良かったわね...」

 

 

こたつの部品以外にも、おそらくそれらを梱包していたであろう物が破られ散乱している。うーん...とりあえず後で掃除ですね...まあそれより

 

 

「これ、組み立てておきますね」

 

「お願いするわね。出来上がったらお嬢様のお部屋に運んでおいて頂戴」

 

「分かりました~、それなら手伝えますよ~」

 

「お、それならアタシも「あー!むーちゃんは広間の片付けお願いしますね!」ん?って、滅茶苦茶散らかってる!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せーの...しょっ、と。ありがとうございますきーちゃん」

 

「これくらいなら任せて下さい~」

 

「ふーん、これがねぇ...どう使うのかしら」

 

 

さっと組み上げ、きーちゃんと二人でお嬢様のお部屋へと運び終えた。お嬢様もどこか興味津々と言ったような様子で布団の部分をぺらりと捲ってまじまじとこたつを見ているようだった...って、あ

 

 

「これ、使えるんでしょうか...」

 

 

ふと思い出す。このこたつは古道具屋で買ったもの...動く、というか点くんですかね。ほんとに置くだけのアンティーク、インテリアになっちゃうんじゃ

 

 

「あ、そういえばこんなメモがありましたよ~」

 

「?これは...」

 

「ん、何かあるのかしら?」

 

 

なんて心配をしていると、きーちゃんが何か思い出したように手を叩き、ポケットから一枚のメモを取り出した。そのメモには

 

 

『この商品、本来は電気で動く暖房器具ですが、電気プラグの欠損が見られるので割安となっております。ですが、何かしらの魔力媒体でも動力として代用出来ますのでお客様の方でご対応お願い申し上げます...店主』

 

 

「魔力媒体...?」

 

「壊れちゃってるんですね~」

 

 

どうやら大事なところが壊れているようで...というか、魔力媒体...?そう悩んでいると、メモを覗き込んでいたお嬢様が切り出す

 

 

「ふーん...これ、ようするに動力があれば動くんでしょ?」

 

「え、多分そうですけど...」

 

「あら、魔力云々ならうってつけのがウチにいるじゃない」

 

「え...?......あ」

 

「ばいたい...ってなんですか~?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くちゅんっ!......こぁ...温かい紅茶、お願い...」

 

「はーい、今すぐー!」

 

 




ちょっと短めですかね。まぁ短いのは少し理由がありまして...因みに作者はこたつ持ってないです、欲しい...ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また


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冬のある日、2

さて、こたつはどうなるのやら...それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

「そう......で、魔力媒体が必要、ね...」

 

「そ。パチェならどうとでもできるでしょ?」

 

 

読みかけの本をぱたんと閉じ、お嬢様の話した内容を簡素にまとめ、そう返すパチュリー様。今は善は急げとお嬢様と私の二人で大図書館に来たところですね

 

それにしても、魔力媒体。聞いただけではなんか、漫画とかアニメで魔法使いさんが使う杖とか、魔導書とか...その辺りを想像しちゃうんですけど...あ、あと魔理沙さんの八卦炉?とか

 

 

「そうね、それくらいなら......少し時間を頂戴。今、用意してくるから」

 

「えぇ、お願いね」

 

 

なんて考えているとあっさり承諾。ロッキングチェアから腰を上げたパチュリー様はそう言って、奥にある私室へと向かっていかれた。結構突然の無茶振りだと思ったんですけどね...

 

 

「んー、待ち時間はどうしても暇ね...あ」

 

「?...どうされたんですか、お嬢様?」

 

 

とさっ、と空いたロッキングチェアに腰を下ろし、頬杖をつくお嬢様。もて余した時間に仕方なさを感じながら、何かが目に留まったのか声を漏らす

 

 

 

「丁度良いわね...妖精長、貴女チェスはできる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェックメイト、ですかね」

 

「な!?ちょ、もう一回!もう一回よ!」

 

 

業務も特になく、そんな訳でチェスをすることになったんですけど...なんだか、幽々子さんと将棋した時とはうって変わって勝ち越せちゃいましたね...

 

 

「...レミィ、負けてるところ悪いけれど用意出来たわよ」

 

「うぐぅ?!...そう...ありがと」

 

 

駄々をこねるお嬢様を諭すように、戻って来られたパチュリー様が話す。本当に少し、でしたね...まだ一時間経っていなかったんですが...

 

 

「そう...妖精長もチェス......これ、渡しておくわね」

 

「はい、って...紙、ですか...?」

 

 

そうやって渡されたのは...紙、いや布?...だった。表面には魔法陣のような、紋様のようなものと、読むことのできない何か文字の羅列があった。これが魔力媒体...

 

 

「あら、こんなので良いの?」

 

「ん...聞いたけれど、外界の暖房器具に使う程度でしょう?森を焼き払う訳でもないし、それで大丈夫よ」

 

「ま、それもそうね」

 

 

流石にお嬢様も疑ってかかる。外見は本当にただの布、ですしね...って、森を焼き払う...?ん?......なんとも物騒な話が出たような気がするけれど、気のせいということにしておく

 

 

「さ、これでアレも動かせるわね。早速試しましょ!」

 

「あっ、お嬢様!?」

 

 

ぱっ、とパチュリー様から受け取った、えっと...この際、魔力布って呼びましょう。それをお嬢様にかっさらわれる。そのまま大図書館をあとにする...って、ちょ!?

 

 

「はぁ...年相応、と言うよりは見た目相応、かしら...ま、レミィらしいと言えばらしいけれど」

 

 

そんな様子にため息を吐いて苦言を呈するパチュリー様。お嬢様...確か500歳、とかですもんね...いや、それより

 

 

「すみません、お嬢様の無茶振りに...」

 

「良いのよ......そう、貴女は知らないのね。ああいうの、いつものことなの」

 

 

いつもの...パチュリー様も、おそらくメイド長も大変なんですね。私が初体験なだけで今までも...

 

 

「...そう言えばあれの使い方、教えてなかったわね...」

 

「あ」

 

 

しんみりする間もなく、意気揚々と走っていったお嬢様の後を追う。破ったりしちゃダメですからね!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、貼り付けてから...」

 

「どう、妖精長。動きそうかしら?」

 

 

こたつへと潜り込み、その裏へ魔力布を貼る...って、凄い...勝手に引っ付いた。その後は確か紋章に手をかざせば...

 

 

「わっ!ほ、ホントに光った。なら後は...」

 

 

パチュリー様に言われた通りの手順をこなすと、魔力布がぼんやりと光を放ち始める。これで所謂コンセントが挿さった状態。後は電源を入れれば...

 

 

「あ、出来た...お嬢様、動きましたよ!」

 

「ホント?やった!あ......こほん...流石、妖精長ね。咲夜が一目置いてるのも頷けるわ」

 

 

熱源の部分が赤く染まり、ほんのり暖かさを感じる。なんだか少し、懐かしいですね...首をこたつから出し、点火の報告をする。はしゃぎ気味なお嬢様を見るに、見た目相応、というのも的を得てますね

 

 

「ところで妖精長」

 

「?はい、どうされましたか」

 

 

パチュリー様の言葉に納得していると、少し難しい顔をしたお嬢様がそう切り出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、どうやって使うのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは......!凄いわね...想像以上よ...」

 

 

肩まですっぽりとこたつに潜り込み、満足げにそう溢すお嬢様。目をキラキラとさせて、今まで体感したことのない心地好さを堪能している

 

一度入ればもう脱け出すことのできない魅力、というか魔力がありますからね、こたつ...まぁ、このこたつはホントに魔力あるんですが

 

ひとまずは仕える主人の要望に応えられたようで一安心。ぬくぬくしながら残りの仕事はなんだったかと思い...ん?

 

 

「あれ...?」

 

 

違和感...一度考えるのを止める。何故か、入った覚えのないこたつに、自分の身体が肩まで潜り込んでいることに気がつく。え、なんで?いけないと思い、這い出ようと...あれ?

 

 

「で、出れない...!?」

 

 

出ることができない。いくら踏ん張っても身体がこたつから一ミリも動かない。なんで!?

 

原因は全くもって分からないがこたつに囚われてしまった。ふんぬー!...ぬ、抜けない。多分私が非力なのもあると思いますけど...全然抜ける気配もない

 

 

「たっだいまー、さぶいぃ...あれ、よーちゃんにお姉さま」

 

「え?あ、フラン様!」

 

 

そんなふうに一人でぬくぬく奮闘していると、部屋の扉が開き、元気な声と共にフラン様がやって来た。確か今日は朝から遊びに...いえ、それよりも

 

 

「すみません、フラン様。ちょっと引っ張ってもら「って、あー!!」えっ!?」

 

「よーちゃん!それ、こたつ!?」

 

 

どうにか引っこ抜いてもらおうとフラン様に助けを求めた時、それを遮るようにして驚いた声を出されるフラン様。そしてこたつを指差し目を爛々とさせている...

 

 

「去年の春、神社で遊んでる時に霊夢に教えてもらったの!!今は使ってないけど、冬には暖かくて気持ちが良いのよ、って!!」

 

 

どうやら存在自体は認知しており、あの口振りや目の輝き...これからの展開が手に取るように分かってしまう。ま、不味い...ひとまず冷静に抑えてもらわないと

 

 

「そ、そうだったんですね...あの、フラン様!このこたつ、ちょっと変なので間違っても入って来たりは「おっ邪魔しまーす!!」フラン様ぁ!?」

 

 

このままフラン様まで抜け出せなくなっては困る、と制止しようとするも、言い終わる前に華麗なヘッドスライディングが炸裂。こたつ内部でしばらくもぞもぞされた後、亀のように顔を出される

 

 

「えへへ~、暖か~い...」

 

「......それなら良かったです」

 

「んー...ん、あら、お帰りなさい、フラン」

 

「ただいま、お姉さま~...気持ちい~、はふぅ...」

 

 

二人揃って満足げに顎を天板に預けている。なんならお嬢様は今、フラン様のご帰宅に気づいた様子ですしね...こたつの魔力、恐るべし...

 

それにしても不味い...これ以上の被害が出る前に、なんとかしなければ

 

 

「どう?ちゃんと動いてるかしら...」

 

「あらパチェ、貴女もどう?暖かいわよ~」

 

 

これ以上の被害は...

 

 

「へっくし!あれ、妹様。もうお帰りになられてたんですね...って、こたつ!?」

 

「めーりんも入りなよ~...にへへ~...」

 

 

被害は...

 

 

「パチュリー様ぁ...お紅茶の準備できました、ってうわぁ!?」

 

「むきゅぅ......」

 

 

...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...妖精長。説明、お願いできるかしら?」

 

「私にも分かりません...」

 

 

これを機に、紅魔館でのこたつ使用は禁止された...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、香霖。...お、アレ売れたのか?なんか曰く付きとか言ってた、あのこたつ」

 

「いらっしゃい。あぁ、アレなら......あぁ、結構良い値段で売れたよ」

 

「なんだ今の間」

 

 




こたつの魔力(ガチ)という訳で...次回は少し間空くかもです。それでは、また次回


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季節の変わり目、春の訪れ

暖かくなってきましたね...花粉とぅらいですけど、寒くないのは良いことです。それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


 

 

春。芽吹きの季節...人だった頃の感覚で表せば、出逢いと別れの季節。寝ぼけ眼で窓の外を見る。あんなに積もっていた雪も今では溶け、様々な植物に潤いを与えているようだ

 

こたつ云々の騒動も有りつつ、幻想郷での初めての冬を乗り越えた。そんな事実にしみじみしつつ、ベッドから降りて朝の支度を...ふ...ふぇ...

 

 

「へくちっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖精長が風邪を...?」

 

 

黄色い妖精メイドの子にそう伝えられ、戸惑いが混じったようにおうむ返ししてしまう

 

 

「はい~...朝から少し様子が変だったので~。今は皆にうつさないように、と自室でお休みしてます~」

 

「そう...珍しいこともあるのね。分かったわ、伝言ありがとう」

 

 

そのままその子には仕事に就いてもらうことにし、歩きながら物思いに耽る。体調が悪そうな所なんてあまり見たこともないけれど...もしかして普段から意図的に隠して?気を遣わせないようにして...?それならいつもの作業効率も納得が...

 

 

「いや、考え過ぎね...」

 

 

いや、と首を横に振る。確かに、こうして不調の一つでもないと完全無欠が過ぎるもの...河童も溺れる、だったかしら?そんな言葉もあるものね

 

さて、あの子が動けないとなると...いつもの倍は働かないと。普段はそれくらい助けられているもの。こうやって具合が悪いときくらいは、ゆっくり療養してもらおうかしら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇ?よーふぁんふぁふぇふぃーふぇふふぉ?」

 

 

運ばれて来た朝ごはんを食べなから、あーちゃんにおうむ返し...できてないや、ごっくん

 

 

「うん、朝見たときから顔真っ赤でねー、熱もあって。それで今は自分のお部屋で寝てるみたい。はい、あーん」

 

「ん、あーむ」

 

 

むぐむぐ...んー、ちょっと心配だなー...よーちゃん、あの怪我の時みたいに大変にならないと良いけど...

 

 

「んっく、ごちそーさま。ありがと、あーちゃん」

 

「お粗末様ですー。それじゃ、フラン様ばんざい!」

 

「ん!」

 

 

お着替えをしながら、今日は何しよっかなー、なんて考える。湖の周りにはチルノちゃんや大ちゃんもいるだろうしー...あ、そう言えば魔理沙、今日来るかもって言ってたっけ......でもやっぱり

 

 

「心配だなー...よーちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けほっ、けほっ...季節の変わり目、ですもんね...へくちっ」

 

 

ベッドの上で一人呟く。体調管理は、まぁ人並みにはちゃんとしてたと思ってたんですけどね...なってしまったものはしょうがないですが。というか妖精も風邪、ひくんですね

 

自身の額に手を当てる...うん、なんとなく熱い、気がする。多分38とか9とか、ただの風邪だろう。傍らに置いてあるコップを手に取り、一口。...ふぅ

 

風邪ならしっかり水分補給して、しっかり汗をかけば直ぐに良くなります。今、仕事が出来ないのは少し申し訳ないですけれど、無理して悪化したり、うつしたりするくらいなら早く治すのが吉、ですしね。......それにしても

 

 

「流石に少し暇、ですね...けほっ」

 

 

普段は仕事をこなしている時間。何もしていない、という事実に妙にソワソワしてしまう。んー、なんだかもどかしいですね...

 

とは言え、今の私に与えられた仕事は、一刻も早く風邪を治すこと。布団にくるまってゆっくり寝

 

 

ガッシャーン!!

 

 

「邪魔するぜー!って、あ......よ、よう...」

 

 

飛び散る窓ガラスの破片。急停止する箒乗り。...今月は...これで二枚目、ですね。寝る前にやること、できましたね...はぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪かったよ...ん、というかお前、顔赤いぞ?風邪でもひいてんのか?」

 

「けほっ...はい、うつすてしまうといけないので、魔理沙さんは...へくちっ!うー...すみません」

 

「おい、大丈夫か?」

 

 

お説教タイムは控えめに済まし、適当に掃除をしてもらう。不慮の事故で風通しが良くなってしまいましたね...流石に直さないとですし...そうですね

 

 

「...はい、大丈夫ですから...すみません、魔理沙さん。それで、はーちゃん...あ、えっと...灰色メイド服の妖精メイドの子を呼んで来てもらえませんか?」

 

 

はーちゃんはモノの修繕や、簡単な家具なら作ったりも出来る、そんな子ですね。フラン様が弾幕ごっこで誤って壊してしまった塀や門も直したり...後は誰かさんが割った窓なんかもですね

 

 

「灰色?...まぁ、分かった。...窓割った奴が言うのもなんだけど、暖かくして寝てろよな」

 

 

ホントですよ、もう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、終わった...」

 

「ありがとうございます、はーちゃん...けほっ」

 

 

窓を何度か開閉させながら、そう告げられる。うつしたりするといけないので外から直してもらいましたけど...相変わらずの手際、でしたね。ものの10分程度で...

 

 

「...よーちゃん」

 

「?...はい、なんですか?...けほっ」

 

 

手際の良さに感服していると、直りたての窓の外からはーちゃんに声を掛けられる

 

 

「無理、しないでね...」

 

「!...はい...ありがとうございます、はーちゃん」

 

「...ん」

 

 

軽い返答の後にぱたむ、と窓は閉じられる。他の妖精メイドの皆にも、要らぬ心配を掛けてしまっているようですね...

 

おもむろに脇に置いてあった懐中時計に手を伸ばす。針が示すのは...10時。それじゃあ、早く治す為にも寝ましょう。今度こそ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんこん

 

 

「......ん...んぅ、ん...」

 

 

扉を叩く音が聞こえ目を覚ます。まだ身体には気だるさがあり、衣服も寝ている間にかいた汗で肌に張り付き、少しの不快感を覚える。正直寝覚めは相当悪い

 

それにしても、ノック?こんな...あ、と懐中時計を見る。午後の2時過ぎ。こんな時間に誰が...?

 

 

「よーちゃん、起きてる?」

 

「あ、え...フラン様...?けほっ」

 

 

寝ぼけた頭に響いたのはフラン様の声だった

 

 

「あ、良かった...入っても大丈夫?」

 

「え、あ...どう、ぞ...?」

 

 

寝起きのままでうまく思考できず、そのまま了承してしまった。うつしてしまっては悪いんですが...というかいったい何を?

 

 

「お邪魔するね、よーちゃん。熱、まだある?」

 

「はい、まだ...フラン様、いったい...って、それは...?」

 

 

そうしてフラン様に目を向けると、フラン様はワゴンを押して自室へと入ってこられた。ワゴンには湯気の立つ器が幾つか載せられて...って、もしかして

 

 

「おかゆ、作ってみたんだ。魔理沙と、あときーちゃんにも手伝ってもらっちゃったけど...お腹、空いてる?」

 

 

きゅるるるる~

 

 

「...ふふっ、食欲はあるみたいだね。良かった!」

 

 

しつけのなっていないこの胃袋を叱りつけてやりたくなる...ともかく、お昼を過ぎて何も口にしていないのは確かですし、フラン様からせっかくのご厚意ですから

 

 

「......すみません、じゃあ「ふーっ、ふーっ...はい、あーん!」...あえっ!?」

 

 

器を受け取ろうとしたとき、突然レンゲを差し出され妙な声を上げてしまう。ちょ、流石にそれは...

 

 

「だ、大丈夫です。自分で食べられま「あーん!」...えと、フラン様「あーんっ!」......あ、あー」

 

 

根負けした私はしぶしぶ口を開く

 

 

「むぐ...!...美味しいです」

 

「ホント!?よかった!それじゃ、はい、あーん」

 

「あ、あー...」

 

 

味は、とても美味しい。それに温かい...おかゆはシンプルに卵が落とされていて、それにキノコなんかの具、塩っけも丁度良かった...むぐむぐ

 

 

「えへへ...いつもと逆だね。あーん」

 

「んっく...はい、あー...」

 

 

館に来たばかりの朝を思い出す。あの時は立場は逆で、寝起きのフラン様に朝食を召し上がって貰いましたものね...あれからはあーちゃんにできるだけ代わってもらってますけど。諸事情で

 

 

「むぐむぐ...んっく。ご馳走さまでした、フラン様」

 

「おそまつさま!それじゃあ...」

 

「...?」

 

 

あっという間に器は空になっていた。風邪とは言え、食欲があまり落ちてなくて良かったですね...と、器をワゴンに戻しナニかごそごそしているフラン様。どうしたんでしょうか...

 

 

「身体、拭いたげるね!」

 

「あ"っ?!」

 

 

もう一つあった器、もとい桶にはぬるま湯とタオル...あ、不味い!!見る程ではないものの、見られるのも十二分に不味い!!これもあの時とは逆!!

 

 

「や、汗なんかはかいてないのでだ、だだだ大丈夫ですよ!?」

 

「じゃ、脱がさないとだから...よーちゃん、ばんざい!」

 

 

聞く耳もなければ...逃げ場もない!...これはあの時と同じ、ですね。落ち着いて...素数を数えましょう。ふー...1、2、3、5、7、11、13、17、19、23......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、お大事にね、よーちゃん」

 

「は、はい...」

 

 

数分間の記憶は無い。見慣れた身体も、見られるとなるとちょっと...いえ、全然違いましたね...熱、上がってる気がしますし...

 

 

「...ちょっと風、あたりたいです...」

 

 

ベッドを降り、直りたての窓を開く。気持ちの良い風が部屋を通り抜け、なんとなく季節が変わっていくんだなぁ、と実感した。ふと、何か声が聞こえた

 

 

「は~るで~すよ~」

 

「あれは...?」

 

 

声は空から。おそらく...妖精。そんな言葉を言いながらとても気持ち良さそうに飛んでいるのが見える。はらりと、一つの花弁が部屋へと入ってきた。ピンクの花弁...空からの声へと呼び掛けるように呟く

 

 

「春、ですね...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔理沙!きーちゃん!よーちゃんね、おかゆおいしかったって!」

 

「お、そりゃ良かったな」

 

「良かったです~」

 

 




はい、妖精長風邪をひく、でした。実際作者もひきましてね...そこから思い付いたのは裏話ですが。皆さんもお身体は大切になさって下さいね。それでは、また次回

追記、素数最初から間違えてるのはそういうネタとなっております。その点に関しての誤字報告が幾つか来ていましたのでここで明言させていただきます。それほど迄に妖精長が焦っている、という描写のために敢えてしています。更に言えば3話でも同じネタを使用しております。そっちには誤字として報告無かったんですけどね。なんで今回いっぱい来たんだろ。分かんないや


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