位階序列十四位のヒーローアカデミア (生活常備薬第3類)
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オリキャラ設定集:第六十話更新

 設定集初作成。色々手間取ったりするかもしれませんがよろしくお願いします。

 毎回更新する訳ではないですが、頑張って更新していきたいです。三日坊主にならない様に気を引き締めないと・・・!

 オリ主の主観故に表現されてなかったところもこちらで書く予定です。

 オリ主以外の書いてある量が少ないですが、ぶっちゃけオリ主の主観が多い為に書くことが多くなってるだけと言うのもあります。お許し、ください!

 一応オリキャラ設定というところなのでネタバレです。更に長いので、気になった人はキャラの名前でCtrl+Fを使って文字検索する事をお勧めします。

 本編で説明されている様な事は極力抜いています。ここは本編の補完みたいな場所なので。しかし説明するためにあえて加えている所もあります。

 私が例えられるキャラは、イメージとしてどのアニメやゲーム、ラノベに出てくるか、そして登場人物の名前を書いています。


登場人物

 

 回精(かいせい) 獣狼(じゅうろう)

 

 立ち位置:オリ主

 

 容姿

 首辺りに切りそろえた明るい茶色の髪に、本人の性別を知らなければ男か女かわからないほど中性的、少したれ気味の翡翠色の目と愛らしく整った顔は身長と個性が相まって周りから愛玩動物(可愛い者)として見られる愛され系オリ主。

 個性の影響で人間の耳の代わりに生えた茶色のキツネ耳を大きくしたような耳が頭頂部に二つ並んで生えており、先端の辺りだけ白色で茶色のキツネの尻尾が腰辺りから生えている。そして瞳孔も狐と同じように縦に長い。しかしそれ以外は人間とほぼ変わらない。

 身長が低く、本人曰く130後半というが実際は130前半である。耳だけでも10cmほどあるものの、身長測定は頭の頂点で測るため耳の大きさは含まれない。

 

 とある事件の後、胸部には細い線で円が描かれ、円の中には丸まった狐の赤色の模様が描かれている。

 また、この事件で血壊と呼ばれる力を扱えるようになり、発動の際に髪の毛と尻尾、虹彩が真紅に染まり、手なら鋭い爪、頬なら尖った牙と言った体の部位に合わせた真紅の模様が全身に現れる。

 

 高校入学時では、とある会社との契約によって髪を肩辺りまで伸ばしている。そして身長も130後半にも伸びた。

 

 林間合宿にて、ヴィランに薬物を撃ち込まれた影響で代謝が一時的に上がり、髪が腰辺りまで一気に伸びた。その後は整える目的で前髪だけ切りそろえ、後は願掛けで放置している。

 また、夜桜と融合した際に、瞳孔を中心に四枚の桜の花弁が虹彩の上にバツ印を描くように現れる。更に、その状態で血壊を行えば髪や耳、尻尾が桜色に変色する。

 そして、霊骸の力を使う際は先ほど変色した部分が黒色に染まる。

 

 性格

 前世の情報を人名や家族構成、自分の事と言ったものを除いた記憶しか残っていない。その影響か、幼い頃からしっかり者で真面目な性格となった。その分同年代との接し方が精神年齢の差が激しい為に分からず、受け身になったり話し方が柔らかい口調になったりとしている、しかし本人が親友と呼べる程仲の良い(認めた)人物ならば、素の口調で話したりする。

 記憶にある良識や性格から困っている人が居れば手を差し伸べるなど、小学生から中学生の間は周りから良い印象を持たれているが、本人はあまり気にしていない。

 本人としては撫でられたりするのは嫌いではなく、寧ろ好きな方。ただ純粋に恥ずかしいので、人前でやってほしくないという想いが強い。

 

 余談だが、顔の表情などはある程度自分の意思で作れたりも出来るが、尻尾や耳の感情表現を抑えたり、意識して動かす事は苦手、これは純粋に前世で尻尾や耳が無かった為であり、本来なら小学生辺りで感情のコントロールと共に覚える尻尾や耳のコントロールを、前世の記憶である程度すっ飛ばして精神年齢が上がってしまった影響でもある。

 

 また、本人は記憶を中核に人格や精神の形成が行われている為、幼少の頃は個性という超常との相性はそこまでよくはなかった。恐怖やホラーと言った事が出来る個性には特に弱く、一時期それを面白がった子供のせいで相手を傷つける感情、その中でも特に悪意と言った感情に晒され、悪意や敵意を向けられると恐怖で体が動かなくなってしまうトラウマが存在する。

 しかし、このトラウマはとある事件の際にヒーローの活躍と友人の危機を目にし、動けなくなるという事はなくなったが、未だ悪意や敵意に関しては苦手や嫌悪の意識が強い。

 

 中学時代はこの事件から、首無 妖目に加え微睡 快心が良く構うようになる。本人はそれを嬉しく思うも、快心には場所をわきまえてほしいという想いも強い。しかしそれを伝えた場合、人目が無いからニオイを嗅がれる以上の事をされるのでは?という疑心暗鬼で伝えられず、結局行き過ぎた時に止めるくらいしか出来ていないと言った風に、押しに弱い一面も。

 

 雄英に入学してからは本人が格上としか戦ってこなかった為に、同格や格下相手にするときの手加減が苦手で相手に怪我をさせる事を非常に嫌うが、一方でやらなければいけない時は相手に怪我をさせる事を躊躇わない。しかし、躊躇わないだけであって、それに何も感じない訳ではない。

 小中学校では体育祭や運動会と言ったイベントに個性の関係で一部参加できず、高校に入ってから初めて参加した体育祭で、本人も気づいていなかった負けず嫌いな感情(どちらかと言えば向上心)を知る。しかし爆豪 勝己ほどではなく、満足か納得出来る戦いなら負けてもいいと言った方向。ただ、同イベントで相手の調子を崩す目的以外にも煽り続けるB組の物間 寧人とは、性格的に相性が非常に悪い事が発覚、その後もA組の誰かが絡まれて威嚇したりと、正しく犬猿の仲と言える。

 高校では、中学の時と比べ早い段階でクラスメイトに心を許してきている。ヒーロー科のA組が真っ直ぐで善性の人が多く、それを本人が感じ取っているからでもある。更に蛙吹 梅雨の協力で個性のデメリットをクラスメイトに話した際に、笑いもせずに真剣に対策を考えてくれるみんなの姿を見て、本人も自分から歩み寄ろうという良い変化を起こした。

 しかし、良くも悪くも真っ直ぐなので、直球で褒められて赤面する事も。

 

 林間合宿にて、ヴィランの手で薬物を撃ち込まれた際に家族と言える精霊たちが死亡。その事自体は仕方のない事と受け入れてはいるが、意思のない複数の精霊が死亡した姿である霊骸を使う事には「“みんな”ではないとわかってはいるが、みんなと同じ存在の死体を使うという事」という忌避感がある。

 だが、彼らの死を土足で踏み荒そうとするならば、どんな手を使ってでもその者を許しはしないだろう。

 

 “みんな”は兄弟とも親子とも違う、当てはめるには難しい家族ではあったが、強いて言うならば双子と呼べるだろう。なので“みんな”の後輩ともいえる存在、無邪気で好奇心旺盛な夜桜に対しては、弟か妹かの様に接している。

 

 

 個性:獣人

『個性:獣人。動物の能力に見た目にそぐわない凄まじい力を持つぞ!更に体内に3体の精霊を宿し、周りに配置する事で死角を補う事も可能!』

 

 見た目では狐の耳や、狐の尻尾、縦に割れた瞳孔以外は人間とほぼ変わらない。しかし見た目とは裏腹に、その筋肉と骨の密度が異常な程高く、そこへ主要3体の精霊たち以外の意思のない精霊によって更に強化されている。しかしその密度によって水に沈んでしまうので、泳ぐことが出来ない。

 また、個性の影響で声帯が人と違うので話す際は途切れ途切れになり、笑う時も狐の鳴き声の様な笑い声になってしまう。逆に遠吠え等は人よりしやすいという点があるが、普通にうるさいので本人は大声を出すつもりはない。

 動物型の個性だからか、五感が普通の人と比べ優れている。しかし、他の動物型の個性よりも劣っているので、ニオイから追跡は出来るが、ニオイで相手の感情を読めとれないなど、劣る部分もある。

 しかし、血筋からか他人の感情に敏感。なので普通の人と比べると他人の感情を多く受け取ってしまうので、その事が原因でトラウマになってしまうが、感情を多く受け取る特徴でトラウマをある程度は乗り越えてもいる。

 余談だが華奢な見た目に低い身長は、精霊の影響が大きい。食事の量が多いのは、純粋に普通の人よりエネルギーが足りなくなるからでもある。

 

 精霊には3体の主な精霊と意思のない複数の精霊が存在し、3体はある程度自分で行動でき、積極的に獣狼をアシストするのに対し、意思のない複数の精霊は獣狼と主要3体によって使役されている。しかし獣狼の精霊は物理的に干渉が不可能なので、見て聞く事と獣狼から譲り受けた時に、味覚を感じる事だけしか出来ない。

 

 血壊と言う体内の精霊を暴走させ、力や速度を大幅に上昇させる身体強化を発動できる。しかし3体の精霊が備蓄したエネルギーを使って発動しているので、これが切れた場合、精霊たちが一斉に半年ほど休止期間に入る。

 また、血壊を使いすぎた場合に短い間、精神が幼児退行するというデメリットがある。この状態では文字通り精神が子供になっているので、とても人懐っこく、好意を隠さない姿はある意味見た目相応という、両親すらあまり見たことのない獣狼の姿を見る事が出来る。

 

 林間合宿にて、ヴィランに撃ち込まれた薬の影響で個性が変質、特に精霊の部分が全て新たなものに変わり、今まで存在した意思のない精霊たちは全て死亡した。

 

 新たな精霊たちは前の精霊たちより安定した存在であり、肉体強化以外にも仮名称“精霊の腕”と呼ばれる力場として、獣狼の意思で外部に影響を及ぼす。形は特に定まっていないが、力場が影響する範囲には桜の花弁が舞うという形で視認できる。

 また、夜桜と名付けられた獣狼の新たな意思のある精霊(家族)が後日誕生した。

 

 獣狼の新たな精霊の力とも呼べる精霊の腕。範囲内のモノを本人の意思で力を加える事が出来るが、純粋に体を動かす経験値しか無いために第三の腕として、物を掴む、引き寄せる、力を加える、と言った事くらいしか出来ない。

 この力は、夜桜が制御の一部を担っている、その為に夜桜と融合している時は夜桜分の精霊が合わさり、精密性と力の上限が上がる。しかし、融合していなくても精霊の腕を使う事が出来る。が、精密性や力の上限が大きく劣ってしまう。

 また、精霊の力を使った身体強化である血壊でも精霊の腕は強化される。

 

 獣狼の精霊たちが死んだ際に、残ったモノが獣狼の記憶から霊骸と呼ばれるモノに変貌。獣狼の個性を元に発生したためか、獣狼には効果が薄いが彼以外が触れようものなら個性因子を乱され、破壊、侵食されるという、個性汚染能力である。獣狼がしっかり制御して体内に戻す事で人死には出ていないが、もしも制御を放棄、もしくは汚染を早めれば、受けた相手は体を破壊される激痛の中、苦しみもがいて死ぬ事になるだろう。

 また、個性因子を乱すという特徴から一部の個性に対して防御にも使えるが、一部の幅が狭すぎるのであまり使われない。

 

 作者から

 キツネに関しては純粋に好きだからです。僕アカってみんな色とりどりですよね、なのであえて地味目のカラーにしました。目に関してはキツネ石という、翡翠そっくりな石があるそうな、じゃ翡翠色で。なノリです。喋りに関しては某獣人種の大使をイメージしましたが、彼女と違いこちらは純粋に口が動きづらく喋るのが疲れるから3つ4つ、場合5つ発音したら一回区切る。というキャラにしました。読みづらくてごめんなさい。喋り方は純粋に区切るのを除けば普通ですね。喋る事は嫌いではないです。

 

 精霊が宿っている模様とかの元ネタはドラッグ・オン・ドラグーンの契約で現れる模様をイメージしています。ただ向こうより圧倒的に平和的ですが。こうした理由は目で見える変化が欲しかったから、というのがあります。えぇ、決して好きだからこうしたわけではありません。カッコいいからでもないです。

 

 獣狼くんは妖目を天才と言いますが、獣狼くんも体を動かす事に関しては天才なのでお互いどっちもどっちです。

 

 ちなみに彼の貰っていたお小遣いは2時間の撮影で今でいう諭吉二人分、給料じゃなくお小遣いなのでオッケー!と職場の人たちはセーフと言い切っているが字面で見るとアウトである。

 

 一応獣狼は料理が出来るタイプですが、あまり凝ったものは作れません。しかし料理をするためには背が足りないので台座が必要になります。

 

 感想に返答した時も書きましたが、獣人種ってかなり強いので獣狼を強化する時に原作通りのスペックに強化!なんて出来ないんですよね・・・。やった場合、最悪全盛期のオールマイトとガチ殴り合い出来るバケモノの誕生ですよ、シャレになりません。

 

 ・・・位階序列が十四位より上は一部情報が出てませんが、そろいもそろって僕アカ勢の勝ち目が薄すぎるんですよね・・・。情報の出ている十四位の上である、十二位の吸血種ですら上位種族を騙せる認識操作(例として、自分の荷物を見えない様にして、手ぶらを装えるが、重さはある)ですよ?オールフォーワンですら見破れるか、かなり分の悪い勝負になります。あたまおかしい。

 え?六位の天翼種?僕アカ世界に都市破壊(この破壊とは、文字通り都市を“破壊し尽くす”)級の存在を持ち込むのは良くないと思います。僕アカ勢の勝率が那由他の彼方です、やめましょう。

 

 話を戻して、ギリギリの妥協点が精霊の力を強くして、物理的な方向の力にする事です。そうすれば手段が増える結果になっていいかな、と。

 

 

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 ()()精霊(せいれい)たち

 

 立ち位置:回精 獣狼の意思を持った個性。そして意思無く存在する個性。

 

 容姿

 主要3体の精霊は手の平サイズの獣狼を三頭身にデフォルメし、宮司服の赤、青、緑の袴で区別が付けられる。

 しかし、他の意思のない精霊たちは姿を形作る力すらないので認識不能。

 

 林間合宿の際、ヴィランに撃ち込まれた薬でほぼ全ての意思のない精霊が死亡、その際に獣狼の精神世界にて黒い雪として登場した。

 

 

 性格

 誰と話すにしても語尾が伸び、お気楽な雰囲気を醸し出す。時々ネットのネタ発現もするので、家族としては双子、家族でなければ親友ともいえる立ち位置。とても好奇心旺盛で、目覚めてすぐは色々と獣狼に聞いて回ったりもした。

 獣狼が大好きで獣狼の為に個性の発動を感知したり、第三の目として動いたりと頑張っている、因みに獣狼が他の人と関われる様に、一人の時以外はあまり話しかけようとしない。

 本人たちは甘い物が大好物で、次に肉類が好き。しかし獣狼と一緒に食べられるのなら、苦手な物でも別に構わなかった。

 

 本来なら消える定めの3体の精霊たち、しかし何の因果か意思を持ってしまい“死にたくない、消えたくない”と願う。その声を聴いた獣狼の助力によって生き延びるが、獣狼の肉体と精霊のバランスを崩す一因となってしまう。

 例え獣狼が許すと言ってくれたとしても、獣狼の為なら自分たちは消えてしまっても構わない。だって獣狼には、自分たちの命も楽しい思い出も貰ったのだから。

 

 能力

 主要3体は主に、獣狼の食事で得たエネルギーを備蓄し、血壊時のエネルギーにしている。他にも視覚と聴覚はあるので、相手から見えない事を良い事に、獣狼の第三の目として相手を捕捉したりも出来る。

 また、ステイン戦時に精霊をある程度制御する力も得る、しかし影響が少ないという欠点も。

 

 意思のない精霊たちは、常に獣狼の体内を血液に乗って巡りっており、筋肉や骨が自分の力で壊れない様に強化を行っていた。なので獣狼は筋肉質な父親と違い、華奢な見た目を維持出来た。また、血壊時には更に強化される。

 この意思のない精霊たちの力が肉体よりも強くなってしまっている、なので獣狼の幼児退行は獣狼の意識に意思のない精霊たちが汚染しているからでもあり、勝手に発動する血壊は獣狼の制御を離れて行っている証でもある。もしもこのまま放置すれば、そう遠くない未来で回精 獣狼と言う精神は消滅、精神が永遠に成長しない“ナニか”が回精 獣狼の体を使うだろう。

 

 しかし、外部からの影響で肉体が精霊よりも強くなり、意思のない精霊たちが死滅。そして最後に残った主要3体の精霊たちが、獣狼に自ら取り込まれ消滅する事で自らの精霊を制御する力を獣狼に譲渡し、新たな精霊たちが生まれる元を作り出した。そして発生したのが安定した精霊たちと、精霊の亡骸から派生した霊骸、主要3体の後輩ともいえる夜桜である。

 

 

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 夜桜(よざくら)

 

 立ち位置:獣狼の新たな狐型の精霊、3体の名も無き精霊の後輩。

 

 容姿

 黒色の体毛に両脚と尻尾の先が茶色の毛で覆われ、獣狼と同じく翡翠色の瞳に縦に長い瞳孔を持った狐。上瞼に化粧の様に赤い線が入り、額には四枚しか花弁がない赤い桜。両前足には肩まで蔦の様に赤い線が枝分かれしつつ伸びており、肩で円を描いている。

 体長(頭胴長)が峰田 実よりも長く非常に大きい。

 

 性格

 非常に好奇心旺盛で、獣狼の中に居るよりも自分の足で歩き、自分の目で見たいので出来る限り外に出ている。かといって好奇心に任せっきりと言う訳でもなく、ちゃんと守るべきルールは守る。

 体を動かす事が好きで、獣狼と何かしらで競おうとするが、体を動かす経験が足りずに良く負けてしまい、その度に悔しい思いをしている。

 

 能力

 獣狼の個性だからか、狐にしては非常に高い身体能力を持ち、旋回性能で言えば獣狼を凌駕するが、決して速度自体が遅いわけではない。

 また、獣狼よりも動物としての嗅覚や聴覚が効くので、ニオイで相手を追跡、音で探索と言ったことが得意だが、もっぱら晩御飯のおかずを強請る時にしか使われていない。

 

 

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 首無(くびなし) 妖目(あやめ)

 

 立ち位置:愉快な獣狼の幼馴染 → 獣狼が認めた親友

 

 容姿

 青と白の二色の髪をある程度伸ばし、後ろで一本結びをしている。中学2年にしては高めの160後半の身長と赤色の少し吊り上がったつり目を持ち、獣狼曰く「イケメンとはこういう奴の事を言う」のだそう。

 本人は帰宅部だが、ちゃんと鍛えており細身の体には引き締まった筋肉がついている。

 

 中学卒業時には身長が170を超え、更に獣狼との差をつけている。

 

 性格

 軽い雰囲気を持ち、語尾を伸ばした喋り方と表情をコロコロと変えるので、誰とでもと言うほどではないが大多数の人と仲良くなれる。本人は大の脅かせ好き、特に反応の良い獣狼は彼にとっては友人であり、お気に入りでもある。

 雰囲気をかなり作っており、根は真面目。そのため、過去に獣狼がトラウマを作る原因となった事を悔やみ、獣狼が孤立しない様に立ち回ったり、獣狼のヒーロー活動を支援するために快心と共に獣狼には内緒で画策したりと、最初は贖罪の為に行っていたが今では親友として応援している面が強い。

 

 しかし、獣狼を特別視するあまり、獣狼をあっさりといい方向に変えてしまったA組には感謝するものの、悪い方向に変えてしまった自分が変えてあげたかったという思いもあり、若干嫉妬したりしている。

 

 また、快心の変化を自分では出来なく、しかし獣狼にとって良い事として見守る姿勢を取っている。・・・もしも、獣狼が恋をしたのなら、自分も誰かを(自分を)好きになれるのではないかと想って。

 

 個性:首無し

 首から頭を取り外せる。取り外した後の体は取り外す前と変わらずに動かせる上に本人曰く「視界がある」とのこと。一応首につながってる時は固定化されており、自分の意志で取ろうと思わなければ取れない。

 

 作者から

 髪については鬼火をイメージしました。首無しってオバケですよね。そんでオバケと言えば鬼火かなーって。一本結びは本人だったらそれで頭が掴みやすいのと、ぱっと見絵ずらがやばいですよね。という事でそうなりました。後僕アカって顔面偏差値みんな高いのでイケメンに。頭という重荷が無いからか身長は高め。喋り方は普段はお茶らけているのに、真面目な時は真面目と言うキャラはカッコいいですよね。ちなみに第二話で「ちゃんと勉強が出来て運動している子もいる」とありましたが彼の事です。才能マンですね。

 

 普通に料理の出来る人です。ぶっちゃけその辺も才能マンです。

 

 若干ヤバイ雰囲気を醸し出していますが、それが首無 妖目でもあります。まぁ妖怪イメージなんだから、って言われたらそれまでですが。

 

 性格や喋り方のイメージはグラブルのドランク、見た目のイメージは同ゲームのミュオンですね。

 

 

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 微睡(まどろみ) 快心(かいしん)

 

 立ち位置:獣狼の始めての中学の友人 → 獣狼を放っておけない仲の良い友人 → 獣狼に恋した友人

 

 容姿

 黒色の髪を後ろでゆったりと編み込み、肩から前に持ってきている。身長は平均的な140後半辺り、眠そう黒色のたれ目で、顔は整っている方。

 

 高校時には身長が160まで伸び、その事で獣狼が拗ねる事態も起きたが、本人としては色々丁度いい高さであることと、拗ねた獣狼が可愛いと喜んでもいる。

 また、峰田が良く絡みに行ったり、撫でられている獣狼を羨むほど胸の膨らみは豊か。

 

 性格

 しっかり者で誰に対しても優しく振舞える、なので同級生から慕われ、異性からはその容姿やスタイルで人気が高いが、本人がそういった事を気にしないので全く知らない。

 弟に構う事が好きなブラコン気味、その影響か、弟と背が近い獣狼がずっと一人でいる事と、動物好きが相まって中学1年の時から目で追いかけ、妖目の協力で中学2年の時に友人となれた。が、獣狼の耳と尻尾に触れた時、想像以上に触り心地が良かったので、獣狼が嫌がっていなければずっと撫でている程、その触り心地が好きになっていた。

 

 とある事件に巻き込まれた際に、獣狼が自分の手から離れたときの顔が忘れられず、この時「このままでは何処かへ居なくなってしまいそう」と感じ、今まで以上に獣狼へ構い始める。しかし、獣狼と一緒にいる為の理由に「獣狼のお姉ちゃんになってあげれば一緒に居られる」と考えたりと、かなり世間一般とのズレがあったりもする。

 

 中学3年の時は同じクラスで沢山触れ合え、後ろから抱きしめたり、ニオイを嗅いだりと言ったところまでエスカレートした。本人は動物のニオイも好きで、特に獣狼のニオイが気に入っているが、ニオイを嗅がれる側からしたら若干怖い体験でもある。

 

 初めての恋、それに戸惑いながらも頼れる仲間のアドバイスで想い人に近づいて行くだろう。・・・周りから見たら、イチャイチャがイチャラブへとあまり変化のない事かもしれないが。

 

 個性:安眠

 触れた対象をすぐさま眠らせる。寝る時間を指定でき、起きた時にはかなり心と体がリフレッシュされているので家族に好評。自分にも使える為、疲労やストレス等を溜め込まない生活が出来るある意味“強個性”。

 しかし、眠らせるにもある程度の集中力を要する。なので精神的に不安定な状態では上手く発動しない。

 

 作者から

 妖目以外にも獣狼を弄るの友達キャラ。という事で決まった快心。髪型は三角形のナイトキャップをイメージし、眠る個性という事で黒をメインカラーにしました。獣狼を弄る為だけにナイスバディになったり、学校に動物用のブラシを持ってきたりと色々はっちゃけキャラです。時々暴走します。妖目はそれを見て爆笑してます。多分イメージは某騎士と魔法に出てくる小さい主人公の友人兄妹の妹の方ですね。勝手になってました。怖いです。

 

 ある意味登場するだけでシリアルにさせてくれるいいキャラ、なのではっちゃけてます。

 

 この面子の中では一番料理が出来ない人です、包丁を両手で持っちゃったりします。

 

 そしてやらないと言ったのに、片思い?ではあるが恋愛描写に発展させてしまった。だって書いてて「クソ、じれってーな!」って思っちゃってたんだもん!

 

 

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 回精(かいせい) 螺多(らだ)

 

 立ち位置:オリ主の母親

 

 容姿

 茶色いストレートのミディアムロング。身長は160~170辺り。笹の葉の様な耳を持ち、たれ目な顔立ちとスラっとしたスタイルは、獣狼が女性であればこんな顔だったろう。

 

 ヒーローコスチュームに関してはそもそもが無い。純粋に人前に出るつもりが無いのと他ヒーローのサポート特化の為に現場に出る事が無いからである。

 

 性格

 マイペースで細かい事をあんまり気にしない。しかし良識はちゃんと持っており、物を大事にしなかったり食べ物を粗末にするとちゃんと叱る。

 ・・・実際は細かい事をあんまり気にしないのではなく、気にすると精霊が勝手に色々やってしまう為に気にしなくなっただけである。

 

 個性の影響で不用意に興味を持つ事も出来ず、かなり無機質な青春時代を送っていた。その容姿や人間味を感じない無機質さから、良い意味でも悪い意味でも有名人であった。

 こんな性格や何時何が起きるかわからない個性を持った自分でもちゃんと理解のある夫には感謝しており、割と扱いが酷く見えるが、彼女からすれば愛情表現の一種でもある。

 なので獣王と出会う前の彼女を知る人物が見れば、彼女の人間らしさにかなり驚くだろう。

 

 妖目は思う所が無いわけではない、しかし本人がちゃんと反省している様なので大目に見てもいる。快心に対しては個人的に“波長が合う”ようで、かなり好感度は高い、しかしそれを表に出すことはしない。精霊に変な事をされると困るから。

 

 個性:精霊

 精霊っぽい事が出来る。嘘ではないものの全てでもない。感知に特化した個性か、自分たちと似たような個性を持ったものにしか見えない存在にお願いをし、“好感度と対価によって精霊が手を貸す”と言う割と曖昧な個性である。しかしデメリットも存在し、精霊に好かれない場合手を貸してもらえない。逆に精霊に好かれ過ぎると良かれと思って勝手に行動をする。対価が無いと精霊が手を貸さない。それが続くと手を貸さなくなると言った風に、非常に扱いが難しく、好感度に関しては発現した精霊の好みなのでかなりギャンブル性の高い個性。

 ちなみに精霊自らが勝手に行動する場合、対価は要求されないものの何が起きるかはわからない。なので螺田はヒーローとしての活動を後方支援にだけで止めている。・・・その後方支援だけでも、並みのヒーローでは太刀打ちできないレベルなのだが。

 

 体に精霊が宿っている部位があり、彼女の場合は右手の甲に白色の両手を腰の辺りの高さで軽く広げた人型が足を向けあい三角形を描いている。

 

 基本的に精霊の知性は幼稚園児くらいしかなく、物理的に殺すことは不可能でも同じ精霊同士ならば消す事は可能。精霊同士は勝手に消そうとしないが、好きな人があの精霊を消してと頼めばやってしまう。子供の狂気でもある。

 

 基本的に攻撃はペン位の太さの光線となって相手にぶつかる事が主流、属性や特徴が加えられると色が変わる。基本戦闘は相手を近寄らせない陣地を形成した防衛メイン、しかし街の被害が酷いので滅多にやらない。

 

 作者から

 獣人種って精霊の力と動物の力が必要だよなーって思って精霊っぽい事が出来る個性にしよう!“精霊=湖の乙女=女性”、じゃあ母親にしちゃうか!という作者の頭の悪さが垣間見える。螺多のラダはヴードゥ教に出てくる精霊の一種で慈悲深く、人々に恩恵をもたらす精霊(Wikipedia参照)。僕アカって親にもちゃんと名前決まってたりするのでリスペクトでしっかり名前を決めてます。個性の宿っている部位に~ってところはこちらもドラッグ・オン・ドラグーンの契約で現れる模様をイメージしてますね。

 容姿は髪などの色は獣狼と同じで耳とかは「精霊・・・ファンタジー・・・魔法・・・つまり精霊魔法?となればエルフだな!」という二回目の頭の悪さを発揮した。個性の精霊に関しては伝承やら伝説やら一次創作やらがごちゃ混ぜになって作者すら何を参考にしたとかは把握してなかったり。元になったイメージは無いです。作者がファンタジーも好きだからその手の物を読み過ぎてて無意識のうちに元にしたイメージが在ったりするかもしれません。なので作者もイメージがわかってない、固まってないという意味での無いです。

 

 ちなみに彼女が自慢するときは語尾が「~です」になっていたりする。獣狼もそれにつられたのか自慢する時に語尾が「~です」になる。

 

 

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 回精(かいせい) 獣王(じゅうおう)

 

 立ち位置:獣狼のお父さん

 

 容姿

 金色のタテガミを持ち、顔の形は人と変わらないものの鼻や口周り、耳もライオンになっている。獣狼曰く「ライオンと人間を足して2で割ったかのような見た目」。自身のタテガミに自信を持っており、本人的にはあまり切りたくない。しかし研究員に邪魔と言われバリカンで丸々剃られてしまったりしている。

 体は研究所勤めとは思えない程筋肉質、なのでもっぱら筋力の無い他の研究員の為に荷物運びとかもしていたりする。時々その事で立場的に偉いのに何故雑用を、と思ったりもするが、他人に任せるよりは早いし、落とされると困る物もあるので諦めていたりも。

 

 性格

 自らの体験談や知識の話をした後に本題に入るので話が長くなりがちであり、多くの人にスルーされがちだが本人は気づいていない。なお、本人は相手に分かりやすくと思い体験談や知識の話をしている。

 困っている人は助けるべき、という善性の持ち主であるがライオンの見た目で怖がられることを少し気にしている。この事で少しでも怖がられない様に、女性や子供に対して紳士的に行動する。このお陰かはわからないが、今では少し怖がられる事は減ったという。

 

 妻をしっかり愛しており、所々気にかけたりするし個性の影響で気にしなくなっている事にも理解があるため夫婦仲は良好である。しかし本人の性格も相まって妻に大体負ける。

 

 旧姓は動獣と言うらしく、その家系の者達は全員善性の持ち主であるが、その個性を狙った者も多かった。その為に個性と言う偏見を抜きにして、その人物を見る様になっている。だからか、根津校長にも友人として信頼されている。

 

 妖目と快心の二人は息子を心配してくれるいい友達と思っており、もしも二人の内どちらかが上手く職に就けなかった場合に備え自分の働く場所で良ければ採用しようとしている。

 と言うのは表向きで、獣狼から妖目の才能が凄いと小学生の時から聞いていた事。快心の個性使えば疲労によるミスやらが無くなって研究はかどるんじゃね?という打算もかなりある。

 

 個性:ライオン

 多分特に捻りもなく、ライオンっぽい事が出来る。で済んでしまう。

 動物系の異形型個性で人間サイズになった個性と言われ、見た目以上に力がある。

 

 ちなみにこういった動物系の異形型は他にもいるが、動獣家と呼ばれる血筋はその傾向が表れる。なので血縁は全員例外無く身体能力が高く、それに比例する様に戦闘能力も高い。

 

 作者から

 動物の力の方です。ライオンが研究してるというギャップよくない?という三回目の頭の悪さを発揮してこうなりました。裏話で個性研究をしているのは実は両親が個性婚による悪い影響があったため、個性の優劣なんて無くても出来る事があると言う事を証明しようと研究員を目指したというお話を考えて居たり。元のイメージは某運命のソシャゲに居る見た目でチョコを摂取させるのは不味いのでは?という親切心からチョコを貰えずに嘆いていた人(?)です。彼の様なユニークなキャラは好きです。

 

 はい、この人の両親の暗黒話の一端が二十話で書けましたね。そういう事もあり彼は身体能力とは関係のない研究職について見返してやろうとしました。妻とは学校か大学かで個性の暴走とかしてる時に助けたとか考えてたり。

 

 姿、話し方のイメージとしてはFGOに出てくるトーマス・エジソンです。見た目的にも僕アカっぽくていいですよね、しかし彼とは違い見せ筋ではありません。




 追伸:私は各キャラのイメージが出来ていますが、例えとして「○○に出てくる□□っていうキャラの色を変えた感じ」と言う風に答えられるキャラが少ないんです。

 なのでもしも「このキャラって△△に出てくる◇◇ってキャラに近いんじゃない?」と感じたのなら、良ければ教えてくれると助かります。


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スタートラインに立つ前のお話
第一話:微妙に慣れないこの世界のプロローグ


いろいろ手探りで始まる二次創作投稿始めました、生活常備薬第3種です。



 我、異世界にて転生者と相成った者に候。・・・やめよう。特に知識も無い言い回しをしても疲れるだけだ・・・しかし転生者なのに知識が無いとは、ハハッワロス・・・いや笑えねぇよ転生者なのに知識が無いとかメリットが精神年齢が高いだけだわ・・・これメリットか?まぁ純粋に前の俺が知らないだけなんだけどもね・・・。

 

 話を戻してなんで転生者か?それは純粋に今から見て前世と言われる記憶を持っているから。その記憶ではなんで死んだのかとかは思い出せない、友人に家族もうろ覚え。でもちゃんと前世だって認識できるくらいの知識はある。次になぜ異世界か?これについてはちょっと話が長くなる。

 

 中国の何処かだったか、光り輝く赤ちゃんが産まれた事が始まりらしいけどぶっちゃけるとそこまで詳しくはない。いや多分テストとかに出るし詳しく覚えていなきゃいけないだろうけど、それでも社会か歴史のテスト前に頭に叩き込む程度だろう。話を戻そう。光り輝く赤ちゃん以来、人々には水を出したり物を浮かせたりそもそも人の形を保っていなかったりとマーベルもビックリの超人だらけ。どんどん超人たちは数を増やし挙句そのスーパーパワーで犯罪放題。だって普通に考えて体がもう凶器やら武器やら下手したら兵器なんだぜ?真面目に生きるのが馬鹿らしくなる超人が一人二人と出てきても不思議じゃないよね。でも逆にそれを見過ごせない超人も一人二人と出てきた。そんな良い超人と悪い超人達によって世紀末伝説してる時を超常黎明期とか言うらしい。・・・こちたらまだこっちの歴史を習い途中の子供なんだから知識の偏りがあってもまぁ多めに見てほしい。でもってその超常黎明期が過ぎ今に至る訳だが、その間に超人達はもうどんどん数を増やして八割もスーパーパワーを持つようになった。流石に超人が大多数になってしまったのだから超能力やら超常現象とか言わば“珍しい謎なモノ”な呼び方ではなく、個性因子とか言う謎因子で“人それぞれの新しい身体機能”、つまり“個性”と呼ぶ事になった。

 

 しかし超常黎明期が終わっても個性を使った犯罪は終わらない。前世でも犯罪がなくならないのと一緒かもね、こっちは個性っていう力があるから余計に1日一回はドンパチ激しく大騒ぎだよ。同じ日本なのに前世と比べてこうも危険地帯になるとはなぁ・・・。また話がそれた、個性が使われる犯罪に対し政府は目には目を歯には歯を、個性には個性をという事で個性を使う許可を与えた人物達に個性を使った犯罪者の捕縛を要請した。これがヒーローと呼ばれる職業の始まりである。ちなみに個性を使って犯罪行為を行う人たちはヴィランだそうです。・・・ここ実はマーベル作品でしたー!なんてオチはないよね・・・?正直マーベル詳しくないけど生き残れる気がしないんだが?ともかくヒーローは瞬く間に人気職業になりヒーローが飽和するくらい多いんだとか。

 

 「じゃあ、ここの問題をわかる人ー?」

 「「「はーい!」はいはいはーい!」」」

 

 先生の声と子供の最早叫んでいると思えるような声により現実に意識を向ける。同じ年齢の子供たちの手が元気よく上がる。時々手以外を上げてる奴がいるというとても個性的で今もまだ慣れない光景である。なんで慣れないのかって?そりゃ前世の知識と幼稚園の時のちょっとしたトラウマがな・・・前よりはよくなっているしこの光景にも慣れてきているという事だろう。それにもし俺と同じ境遇の者がいれば俺ですらその慣れない光景の仲間入りを果たしているのだから。

 

 そんな俺の個性は“個性:獣人”という捻りもないもの。明るい茶色の髪色と同じ色をしたキツネの耳を大きくしたようなケモミミと同じく明るい茶色がメインで先端の方だけ白色のモフモフのキツネの尻尾。そして翡翠色の瞳孔はちょっと縦に長い他は見た目人とは大差ないという完璧にフレンズである。のけ者はいないね!と思ったがどうやら口はあまり動いてくれないらしい。ちょっと途切れ途切れになってしまうお陰で微妙にのけ者である、ぐぬぬ。でもいいもん!同年代と比べると体は動くし耳もいいし視力もばっちしだしどうやら動くことが割と好きらしく休み時間は割と走っている。走るのたーのしー!!さて、ここまでだと普通に元気なイヌ科で終わるがそうはならなかった。なんと特殊能力持ちである。特殊能力持ちである!しかしまだまだ幼い身、使いこなすには修業が足りない・・・と言っても幼い頃に一度だけ発動しただけだしね・・・一向に使える兆しは無いが、修業で体を動かすので楽しいので問題ない。

 

 ちなみに体は鍛えているが別にヒーローになる気はなかったりもする。先ほどヒーローは人気職業であるとか言ったが流石に命がけの職業はちょっと・・・という前世に引っ張られた考えである。それに考えてもみよう。今ではユーチューバーが小学生の人気1位の職業であるが、なろうと思ったりはしないだろう?そういう考えが出来ちゃう精神年齢なので安定した職業をと模索中である。・・・今は小学生低学年なのに職業の模索とか時期尚早なんてレベルじゃねぇ・・・。

 

 まぁ長くはなったがそんな現代なのにちょっと近未来なファンタジーしてる明らか異世界(平行世界?)に俺こと回精 獣狼(かいせい じゅうろう)は産まれたのである。ちなみに現在8歳です、(他の同年代の子供と比べたら)勉強超頑張ってます。




とりあえず頑張って書いたのを失敗してもいいからやってやらぁ!精神で投稿。
今はちゃかちゃか筆が進んでるけど絶対どっかで躓くよなこれ。
次のお話は早めに書くつもりです(多分4日以内くらい)。


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第二話:割と時が過ぎるのが早かった中学2年

 


 「これにて、始業式を終わります」

 

 やっとパイプ椅子から解放される。何事も最初の一回は緊張するものだがそれ以降になると耐性がついたのか慣れてくるものだが、特に始業式と終業式、校長先生のお言葉は何度もやりたくない学校行事の上位に食い込むと思うのは俺だけではないはず。春の暖かい陽気にこの前まで春休みという割と長期の休み明けというのもあり、何人かが慌てて起きたり起こされたり。クラス毎に順次退出するため早く教室に戻って帰りたいと思いつつ、中学二年になるまであっという間だったなぁと思い返す。

 

 小学生の頃は勉強を特に歴史や社会に関してはある一定の年代を過ぎると前世と違うところがあったので集中して、他の国語や算数に関しては流石に転生者として小学生には負けるはずもなく、ただ理科と音楽に関しては個性の影響で聴覚と臭覚が敏感になっている為にあまり上手く出来なかったが・・・仕方ないと割り切るしかないだろう。

 意外だったのが低学年からもう既に英語の授業をしていること、そしてやりたい人にはパソコンもある程度触らせてくれるという時代と共に教育も進んでいる事を実感できる・・・というよりさせられている。転生者じゃなかったらこれ全部詰め込められないんじゃない?でも出来てる子はいるしそこから休み時間に外で遊んだりするんですよ?この世界の子供ヤバない?・・・え?俺はちゃんと出来てるのかって?そりゃ転生者ですし、体は子供。つまり勉強をすればするほど面白いくらいに覚えられる。そしてこの時に一緒にストレッチやら無理のない程度に体を鍛えるんですよ、確かラグビーの監督が選手に体鍛えさせながら謎解きさせると良いと言っていたのを前世のニュースで見て今世で実践しているという訳だが・・・うーん!いいね!元が成長性のある体だからかこちらもどんどん足が速くなり力もついてきた。・・・ちょっと小学生の学習範囲から出て中学生の範囲をやってたりしたけど・・・ご愛敬という事で、親がやる気になってしまわれた・・・。

 

 おかげで低学年と高学年の中間くらいになると運動会の競技性のある種目は出禁になってしまった。しかしこれはのけ者にされているとかではなく、個性の無断使用は禁止というルールがあるからである。そして俺の個性は獣人、使う使わない以前に体が獣人としての能力を持ってしまっている。これは“異形型”という常時個性が発動していると言う型で他にも本人の意思で使える“発動型”と“変形型”、複数の型を持つ“複合型”と言うものもある。簡単に言えば異形型は個性使ってるのに発動型と変形型は使っちゃいけないという事に。そうなると不満しかない上に例え許可しても子供の個性使用は暴走や個性によっては他の子供に被害が出る場合があるために異形型の中でも特に有利になる競技は出場が出来ない決まりになってしまった。そして俺は全身を強化出来て走ってもよし、投げてもよし、持久力もあるという他の生徒泣かせである。仕方ないよね、ぶっちゃけ慢心ではなく本当に全部一位とれちゃうんだもん。・・・実際は俺の個性は異形型と発動型の複合型なのだが・・・運動会に出場できないことは確定なので細かいことは気にしない事にした。

 

 と、小学校時代を懐かしく振り返っていると漸く自分たちの番らしく、周りに遅れないようにかつ尻尾をひっかけないように気を付けて歩く。前に一度後ろの人に尻尾を踏まれるという致命的失敗をしまったが、何度もやられて良い痛みではないので絶対に踏まれないようにする。

 そうこうしているうちに教室に着き先生のありがたいお言葉を二つ三つもらい午前の内に終了。自己紹介とかは各自適当にやっといてくれというスタンスらしく先生もとっとと教室を出て行ってしまう。周りの生徒が各々に自己紹介や帰宅をしていく中、さっさと帰ろうかどうしようかと考えて気を抜いてしまったのが不味かったのだろう。

 

 「わっ!!」

 「ッ!?」

 

 考え事をしている最中に大きな音と共に今だ癒えないトラウマが気づけば()()()()()に居たために全身の毛が逆立つ。叫んだり後ろに倒れたりしなかったのは日頃の訓練の賜物か、それとも目の前の幼少期にトラウマを作り、何度も脅かしてくる後ろに立っている()()()()()()()()()()()()()()()()()腐れ縁の影響か。

 

 「いきなり、何しやが、る」

 「いやぁ~折角の新学期なのに我が友人の獣狼クンは自己紹介もせずに考え事・・・これはもう脅かすしかないっしょ?」

 「友人、じゃねぇよ。あと、脅か、すな」

 「またまたぁ~俺がいなきゃコミュ力ざこざこの獣狼クンは同じクラスメイトですら話しかけるの無理な癖にぃ~」

 「やめろ。頭を、ポンポン、するな!」

 「おぉ!ゴメンゴメン!ちょうどいい高さに頭があったからさぁ」

 「いいかげ、ん怒る、ぞ!!」

 「おぉ怖い怖い!・・・でもそういいつつ、獣狼クンは怒らないもんねぇ~?」

 「・・・チッ!!」

 

 ・・・周りからかなり注目されている。そもそも身長の時点でかなり目立っていたのに。・・・後ろに立った人がいきなり自分の首を外し、後ろに束ねた髪の毛を掴んだと思えば前の人の頭上から落ちてきたかのように驚かすという、人によっては割と洒落にならない事をしているのだから。・・・俺?俺はもう慣れたよ・・・。

 

 こいつは首無(くびなし) 妖目(あやめ)。青と白の鬼火の様な綺麗な二色の長めの髪と、少し吊り上がった赤色のつり目と中学2年にしては高めの160後半の身長。・・・あまり褒めたくは無いが、イケメンとはこういう奴の事を言うのだろう。

 幼稚園の時に自ら首を取るというぶっ飛んだ自己紹介をし見事前世の価値観が残っていた俺にトラウマを植え付けた男である。個性は首無し。一応首はあるため頭を固定することも出来るが自由に取り外せる他に体も遠隔で動かせる上にちゃんと体の方も視界があると言う個性。本人が人を驚かせるのが好きらしく主に人を驚かせる事に多用されている。

 特に良い反応をしていた(本人談)俺に対して頭を転がしてきたり、頭を取って体だけで会いに来たりと散々恐怖体験を叩き込んできたりとするものの、やりすぎたと反省しているのか今では口が上手く回らない俺のサポートをしてくれたりしている。・・・それでも俺の警戒が薄れたと気づくと今みたいに驚かしてくるが・・・。

 

 「俺は、別に、コミュニ、ケーション、が取れない、訳じゃ、ない」

 「いや、獣狼クン中1の時も同じこと言ったよね?そんで結局事務連絡しか話してないじゃないの」

 「・・・」

 「はーい目をそらさなーい!」

 「耳をっ!引っ張る、な!!」

 

 訂正、コイツ反省してない。人をおもちゃにしてやがる。・・・しかしコイツの言う事も事実であるため強く反論出来ない。それに今の会話を聞いた人たちの内何人かが此方に近づいてくるのがわかる。だが油断してはいけない。

 

 「妖目くん、その子が妖目くんの言ってた子?」

 

 腐れ縁の名前を呼ぶ声が聞こえる。そこには一人の女子が立っており、身長は妖目の肩くらいだろうか?その穏やかだが眠そうな印象を与える黒色のたれ目から放たれる視線は興味津々と言ったところだろう。はっきり言ってクラス1の、とは言えないものの顔立ちは整っている。・・・後ろでゆったり編み込んだ黒髪を左肩から前に持ってきており、先ほどからその先端を指で弄っている。髪を弄る事は何か意味があった様な・・・と考えていると。

 

 「うんそうだよ快心ちゃん!飛び級で周りに馴染めて無いんだよねぇ~」

 「誰!が!飛び級!だ!!」

 「え?違うの?妖目くんは飛び級って言ってたけど・・・」

 「同い、年!13、歳だ!」

 「え!?ご、ごめんね?」

 

 コイツゥ・・・!あんま喋らないのを良いことに好き勝手言いふらしたなァ・・・!そして目の前の女子!いくら目線が低いからって膝に手をついて目線を合わせようとするな!それは子供にやれ!!

 ・・・もう気づいているかもしれないが、今世の俺は割と身長が低い。いやそれでも130後半だからまだ希望はある・・・あきらめないぞ・・・。

 

 「まだ、希望、は・・・」

 「いやぁ~もう無理だと思うよ?いくら希望を持っても現実を見よーよ?」

 「~~~ッ!!帰る!!」

 「え!もう帰っちゃうの?あっ!私、微睡(まどろみ) 快心(かいしん)!獣狼くんって呼んでもいいかな!」

 「好きに、すると、いい!!」

 

─────

 

 「あー・・・行っちゃった・・・妖目くん、少し意地悪しすぎじゃない?」

 「あー、いいのいいの。あのくらいが丁度いいのさ。最後も快心ちゃんの自己紹介聞いてたみたいだしね?」

 「え?聞いてたの?てっきり怒って聞いてないかと思った・・・」

 「獣狼クンはああ見えて中々怒ったりしないからねぇ、ただあんまりいじられるのが好きじゃないから怒った風で逃げてるだけだよ」

 「そうだったんだ・・・でもあんな風にしてたら・・・その・・・余計に子供にみられるんじゃ・・・」

 「そうなのよねぇ・・・獣狼クン、頭いいのに変なところで抜けてるから困ったちゃんだよ」

 「でもいいなぁ妖目くん、あの耳とか触り心地いいんだろうなぁ・・・。尻尾とか絶対手放せなくなるよ・・・」

 「ごめんねぇ、でも獣狼クンにお近づきになるお手伝いをしたんだし、許して?・・・獣狼クンって押しに弱いし、頼み込めばきっと触らせてくれるよ」

 「そうなの?ありがとう!明日会うのが楽しみだなぁ・・・!でも、なんでこんなに手伝ってくれるの?」

 「そりゃぁ、可愛い弟分がクラスに馴染めずくらぁーい一年間過ごさせるのって嫌だしぃ?それに、一年の頃から獣狼クンを狙ってたんでしょ?それなら知ってるっしょ?獣狼クン、あんま人付き合い得意じゃないんだよね。なら、馴染みやすい人を宛がうさ・・・最も、恋愛感情というより耳と尻尾に触りたいって知った時は流石に笑っちゃったけどねぇ」

 「だって仕方ないでしょう?あんな可愛い耳に人の視線を引き付ける尻尾が悪いのよ・・・。それにちっちゃくって弟か妹みたいで可愛いし・・・」

 「・・・その話、獣狼クンにしたら確実に落ち込んじゃうからやめてあげなよ?」

 

─────

 

 帰り道を少し大幅に歩いて帰る。学校からある程度離れたし歩幅は戻すか。と頭の隅で考えつつも新しく自己紹介された事に少し嬉しさを感じつつ、あの野郎許さねぇと明日ジュースでも奢らせる事を決意する。・・・でもアイツのお陰でもあるのには変わりないので流石にリットルではなく500の方にしてやる。と何だかんだ妖目の居ることが既に確定している様な考えに苦笑しつぶやく。

 

 「今日も、楽しい、一日」

 

 なお、先に帰った俺の事を妖目が色々言いふらしたらしい。次の日快心さんに可愛がられやっぱり妖目は許さない事にした。




 キャラ設定は多分どんどん生えます。TRPGでよく学んだ。

 感想とか見るの怖い、評価見るの怖い。具体的には心に毎秒9%のスリップダメージ食らう位怖い。でも頑張る。

 次も出来る限り4日以内で・・・


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第三話:とても大切な輝かしき日常

 今作では獣人種ごと血壊もある程度スペックを下げる予定、でないと素の状態で心臓の音を聞いて真偽の判断が出来たりとヤバい。と言うかしないと血壊の影響で自分の寿命を縮めながら人助け=調整出来てないワンフォーオール使ってる緑谷と同じになるのでは?それってつまり除籍処分ルートじゃ。
 と思い素の身体スペックを障子 目蔵の複製腕で作られた耳よりちょっと聞こえる程度にしたり、ハウンドドッグの犬の個性程ではないにしろ臭いで追跡が出来たりといった具合にします。


 朝、と言うよりは早朝と言っても過言ではないだろう。季節によってはまだ薄暗かったりするのだから。そんな時間に何をしているかと言えば転生者によくある早朝に行う鍛錬・・・ではなく、小学校高学年になってから中々動く機会に恵まれなかったのでストレス発散もかねて体を動かしているのである。低学年の頃はまだ時間割が4時間しかなく、午後3時くらいには帰れていたために帰宅後すぐに公園へ走って遊びに行ったり出来たのだが・・・高学年になると時間割が増えて帰宅が午後4時くらいになったりもしたが、そこはまだ良い。問題は体育の授業が()()()()()()()()()()()()()以外も時々参加不可になったためである。仕方ないよね、足めっちゃ速いもん。そんなのにサッカーされたら絶対ボール取れないもん。流石にそんな状況だとこれ以上体を鍛えるなんてやってられない。体育に参加不可とか想定外すぎるって・・・。

 

 今では公園までわざと遠回りして走って行ったり、公園に着いたらちょっと長めに準備運動を行い障害物は少ないがパルクールよろしくアクロバティックに動き回っている。・・・近所のお年寄りに見つかっても「今日もろーくんは元気いっぱいねぇ」で済まされたりする・・・。この世界の人たちってヴィランが暴れてても見に行ったりとか色々肝が据わっているよな・・・。ちなみに前に一度頭から落ちて病院に連れていかれたが、お医者さん曰く「筋肉の密度も骨の密度も常人より圧倒的に高く、よっぽど速度を出して頭から落ちたりと負担かけなきゃ平気だよ。でも一応皮膚とか切れてないか頭の方確認しよっか」と軽く言われてしまった。この体ここまでハイスペックだったとは・・・いや恐らく“元ネタ”的にも妥当だけどさ・・・。

 

 この体になって色々変わっていっている。耳は良くなり外でかつ集中すれば数十m先の足音だって聞き分けられるのではないかと思えるほど聞こえるし、鼻は前じゃ考えられないほどに様々な情報をくれる・・・時々お近づきになりたくないような臭いもあるが・・・まぁ悪臭で行動不能になる様な事はもうないだろう。小学生の時に鍛えられてしまった。後は皮膚の感覚・・・というのだろうか?誰かが個性を使う前兆、の様なものを感じ取れたりする。勿論異形型はわからないが、発動型や変形型は「あ、使うな」となんとなーくわかったりもする。本当に便利な体になったもんだ。

 

 ・・・これじゃまるで俺がこの体を乗っ取ったみたいに聞こえるな・・・転生なんだろうけど、ただ前世の記憶があるだけだし・・・この世界に関してはマーベル作品ではない事は確認している。アイアンマンとかキャプテンアメリカとかはいない、つまり何も知らない世界といえよう。唯一知ってるのは俺の個性の元ネタくらいだが・・・。それでも今世とは違う世界だって断言できる。だって幾らヒーローヴィランが毎日欠かさずドンパチしているとはいえ、あの世界───ディスボードの世界に比べれば平和過ぎる。

 

 ノーゲーム・ノーライフ。俺の数ある前世の知識にあるライトノベルのタイトル。簡単に物語を説明するなら現代で最強のゲーマーコンビである主人公達がゲームで全てを決定できる異世界、ディスボードで十六種類いる種族──十六種族(イクシード)を統一して唯一神にゲームで挑戦して勝とう!というお話である。聞いている限り平和そうな世界だが主人公達の初期配置である人類以外は大抵チートである。しかしまぁ割とギャグだったりするので見てて楽しかった。ただし昔話の“大戦”てめぇはダメだ。涙が止まらなくなるし好きなキャラにちょっとヘイト向いたからな!・・・閑話休題(話を戻す)、そんな面白いライトノベルに登場する十六種族に個性の元ネタがいるのだ。

 位階序列十四位、獣人種(ワービースト)。これがほぼ確定で俺の個性になっている。優れた身体能力と耳や目、鼻など動物と同等。そして一部の獣人種の中には体内の精霊と言うMP的存在を暴走させて、物理限界を突破する身体強化能力を持つ血壊(けっかい)を使える個体がいる。メリットだらけで弱点が無いじゃんと思いきや致命的な弱点も存在する。獣人種はその身体能力の高さから体の密度が高く、水に浮けないのである。お陰でプールには入れてもらえません。泳がないからね・・・。

 そして俺は血壊が使える個体であり、血壊こそが俺の個性が複合型と判断できる理由である。

 

 色々考えてはいるが、結局のところ“何も知らない世界でノゲノラの獣人種っぽい力を手に入れちゃった”である。

 ・・・身体能力があるってことは色々将来の職が幅広く選べるって事だ、良い事と考えよう。何せ獣人種はディスボードで唯一なろう小説でよくある体感型VRゲームを作ったりと凄まじい科学力を持つ種族だ。寧ろ全然ありなのでは?・・・今どきの中学生ならヒーローになる!と答えるのだろうが、俺は未だにヒーローの仕事は怖いという認識が強い。ヴィランの悪意や敵意、市民を助けられなかった悲しみ、他にも俺が考えきれてないだけでもっともっと辛い事、悲しい事があるのだろう、それが怖い。だから俺はヒーロー以外の職に就きたい。・・・もしも、もしもその恐怖を拭い去れる何かがあったのなら。もしかしたら俺はヒーローを目指すのかもしれない・・・。

 

─────

 

 ふと時計を確認すれば午前7時半、少し考え事をし過ぎたがその分運動が出来た為よしとしよう。走って家に帰り汗を流した後少し慌ただしく朝食を取る。

 

 「今日は急いでるね、寄り道でもしちゃった?」

 「ううん、ちょっと、考え、事して、た」

 「はっはっは!運動しながら考え事とは、しかし良い研究者はちゃんと運動もこなす。私も獣狼くらいの歳はよく───」

 「そうなの、でも学校には十分間に合うし少しは落ち着きなさいね」

 

 お父さんの長い話は聞き流す。結局色々言って最後に何を言いたかったかを言うので最後を聞き逃さなければ問題ない。今世のお父さんは割とユニークだ。口と鼻の位置が人間とほぼ変わらず、しかしライオンと人間を足して2で割ったかのような見た目でタテガミまでちゃんとある。個性はライオン、見た目まんまである。こんな見た目でもなんと研究職、どうやら中々の地位らしい・・・前に他の研究員の邪魔だったらしく、タテガミが全部刈られていたが・・・あの時の哀愁漂う背中に貧相な見た目は忘れられない。

 

 お母さんは割とマイペースだったり、今もお父さんの話をガン無視で話しかけたりするのでお父さんの扱いが少し雑である。ぱっと見は普通に見えるが、よく見ると耳が笹の葉のような形をしている。個性は精霊、精霊っぽい事が出来るらしいが・・・本人の大雑把さであんまり機能していないらしい・・・。

 

 ここで気になるのが俺の個性である。お父さんはライオン、お母さんは精霊。精霊はまだわかる、血壊とは体内の精霊を暴走させて発動しているのだから。しかしお父さんのライオンは何処行ったのか。俺の耳は狐の耳を大きくしたようなケモミミとモフモフ尻尾。どうあがいてもイヌ科であるが、どうやらお父さんの祖父母の方に似てしまったらしい。ただ目に関しては瞳が縦に長いのでネコ科とも言えなくもないので本人は問題ないらしい。それでいいのか・・・。

 

 朝食を食べ終え、家族団らんを少し惜しみつつ部屋に戻る。首元辺りで切りそろえられた髪にブラシを入れて整え、制服に着替える。・・・前に整えずに学校に行った際に快心さんに動物用のブラシで整えられた事がある。流石にやめて欲しかったが勢いに押されてしまった・・・。学校に行く準備を整え玄関に向かう。

 

 「おかあ、さん。行ってき、ます」

 「はい、行ってらっしゃい」

 

 挨拶を交わし中学校に向かう。今日もいい1日だと良いな。

 なお、教室に着いた時に快心さんに尻尾の手入れをしていないと指摘されブラシをされた(押し切られた)。・・・ちょっと待て!他の女子もなんでブラシ持ってんの!?・・・朝礼が始まるまで好き放題された・・・。妖目は大爆笑してた。許さん。




 色々な紹介+説明会+オリ主くんがどう考えてるのか会。

 獣狼は割と押しに弱い、多分色々言われて結局ブラシされる。そのうち弟妹がいたり、動物好きな男子も参加してきそう。
 本人は嫌がってるけど耳や尻尾は正直だったり。

 次か次の次辺りに獣狼のオリジンが入ります。入ると思います。入ると良いなぁ・・・。うん、でも展開は大体考えてるから多分大丈夫。きっと・・・めいびー・・・。

 うん、ちょっと自信がついてきた。具体的にはスリップダメージが5%位になった。後9評価があって嬉しかった。こんなにも嬉しいとは・・・読む側じゃ絶対にわからなかった喜びだね。あ、でも面白くないと思ったら低評価入れても大丈夫だよ?出来ればなんでそう評価したか優しく感想で書いてくれると嬉しい。ただ展開的にどうしても・・・キャラ的にどうても・・・と言うところもあるかもだからそこはごめんなさい。


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第四話:強く輝くほどに深く影は落ちる

 ぶっちゃけ僕アカの世界って獣人種に勝てるのでは・・・?と思う人がいるので獣狼の力を割と抑えなくてもいいのでは?と思い始めた生活常備薬第3類です。
 まぁ抑えないと他の生徒の活躍を奪いまくるので、それは望まない展開故に抑えますが。

 ちなみになんと原作キャラが一人、短いですが出てきます!やったね!!


 土日、祝日。学生にとっては最も喜ばしい時間であろう。体を動かすことが好きな俺だって休日は好きだ。運動ばっかりしても体がダメになるらしい。週に一回は公園でのんびりしたりお母さんの買い物の荷物持ちをしたりとしている。今日は荷物持ちをしに家から離れた大き目のショッピングモールに自動車で来ている。流石に7月になるとお昼は暑い、お父さんとお母さんの3人で出発したのだが・・・。

 

 「なんで、付いてき、た」

 「いやぁ~獣狼クンのお母さんに乗せてってもらってホント助かったよ~。流石にこの暑い中を歩いていくのはキツかったからねぇ~」

 「あははは・・・ごめんね?でも向かう場所が近いから・・・」

 「・・・快心、さんは、悪くな、い。悪いの、は付いて、きた、コイツだ」

 「そんな事言わないでよ獣狼ク~ン、僕の行き先も同じなんだからさぁ~」

 「・・・あのまま、歩いて、いれば、よかった、のに」

 

 ・・・そう、休日なのにクラスメイトに出くわしてしまったのである。妖目は歩いていたところをその鬼火の様な白と青の混じった髪の色をお母さんが見つけ、行き先が一緒と分かると車に乗せ。快心さんはモールに着いた後にばったり出くわしたのである。その上二人ともプール開きの為、水着を新調しに来たらしい。ちなみにお父さんは暑さでダウンしている。タテガミを切って減らさなかったのである。本人曰く

 

 『いいか獣狼!お父さんのタテガミを減らすという事は他の男性で言うなら髪の毛を薄毛にしろ。と言っていることと同じなんだぞ!流石にお父さんライオンの顔をしているが、いや寧ろライオンだからこそ───』

 

主張をしていたが(言い訳をしていたが)流石にバリカンを構えたお母さんに敵わず、妥協してモールにある安めの理髪店でカットしてもらう事になったそうな。だが移動中の車の暑さに負けさっき見たときはお母さんにモール内の休息スペースで看病されている。車のクーラーつける事も提案されたが、お母さんが寒がりなのをお父さんが心配しそこそこの温度でしかクーラーがつけられなかった。・・・何だかんだお母さん想いの良いお父さんだ・・・。

 

 と、お母さんが動けないので仕方なく三人で売り場に向かう途中だ。快心さんに親と一緒じゃなくていいのか?と聞いたが「流石にお父さんに水着を見せるのは無い」と軍資金だけ貰って別行動をしてるそうな。なお、快心さんのお父さんは一緒に来ていた快心さんのお母さんの夏服持ちをしている。・・・どの家庭でもお父さんの扱いは酷いのだろうか・・・。

 

 大き目、と言っても売り場さえ知っていればすぐに付いた。そこで学校から指定された条件に合う水着を選ぶだけだ。そこは男子、そこまで時間もかからず水着を選び終えて用意していたお金で購入も終わらせた。しかし女子である快心さんはやはりお洒落を気にする歳なのだろう、真剣に選んでいた。・・・不用意に女性の水着コーナーに近づき過ぎた為に妖目が女性客に少し睨まれてた、ざまぁ。と内心笑っていると店員さんに「お姉ちゃんでも待ってるの?待ってる間飴でもどう?」と聞かれ妖目に爆笑されたので脛をかるーく蹴っておいた。

 

 

─────

 

 

 同時刻、7月に相応しい暑い日と言える中。しかしこの薄暗い路地裏では関係ないと言わんばかりに冷え込んでいた。・・・否、冷えているのではない。()()()()()()()()()()()()()()()()に、例えヒーロー活動を長くやっている者でも、相対し身構えていたとしても、動揺を隠せないレベルの殺気が周りのヒーローたちに放たれていた。目元を包帯の様な物で覆い、首には赤いマフラー。そして胴体には多数のナイフと背中には一本の鞘、左手に持たれた刀は所々刃こぼれしており見る者に言い知れぬ恐怖を与える。

 ───“ヒーロー殺し”、独自の倫理観と思想に基づき各地でプロヒーローを襲撃している連続殺人鬼である。

 

 「推測通り、と言う事か・・・」

 「貴様を捕まえるために組まれた特別チームだ、そう易々と逃げられると思うなよ?」

 「ステイン!お前の凶行もここまでだ!お前を捕まえて人々が安心出来る社会を!」

 「数ではこっちが有利だ!このまま奴を仕留めるぞ!!」

 「「「応!!」」」

 「・・・見極めさせてもらう・・・ハァ・・・お前たちが本物足りえるかを・・・」

 

 対するヒーローは四人。先ほどの殺気を受けても怯みはしたものの、それでも向かっていこうとする実力派の戦闘系ヒーローである。だがステインも伊達にヒーロー殺しを名乗っているわけではない。自分がいる地域のヒーローの情報は例え噂だとしても逃していない。故に。

 

 「ぐあっ!!」「大丈夫か!?」「あぁ・・・問題な、っ!か・・・体が、動かない・・・!」「くっ!ステインの個性か!?」

 

 油断はしていなかったのだろう。左手に持った刀を警戒し狙いを定めさせない様にお互いに代わりあって攻撃をしていたが、一人が傷つけられ行動不能に。このメンバーの中で唯一遠距離攻撃が出来る者が行動不能に陥った仲間の為にステインにあえて狙いが甘い攻撃を行い、遠ざけると同時に回収、安全な場所に退却を始める。他の二人はステインの足止めの為に残った。その迅速な行動は並大抵のチームワークでは行えない。

 

 「ハァ・・・俺の為の特別チームと言うのも納得できる良い連携だ・・・」

 「くっ・・・シュートスターが戻ってくるまで何とか耐えるぞ・・・!」

 「あぁ、悔しいが流石に俺たちだけでは手が負えないからな・・・」

 

 膠着状態。どちらかが迂闊に動けばステインに斬り捨てられる。緊張の糸が張り詰められ何かのきっかけがあればすぐに切れてしまいそうな危うさを保った中。

 

 衝撃、爆発音。明らかに事故等ではない人為的な、それも大きな爆発。目の前の相手から目をそらさなかったのは実力派の戦闘系ヒーローとしての矜持か。二人の耳につけたインカムから出来るだけ冷静に、しかし焦りを感じさせる声が聞こえる。

 

 『近くの大型モールにて爆発が発生!ヴィランの出現と思われます!!周りのヒーローはヒーロー殺し対策の為に散開しており、あなた達が一番近いです!!』

 

 殴られたと錯覚する程の大きな衝撃を受ける。どうしてこのタイミングなんだ。よりにもよってヒーロー殺しの被害が増えないよう周囲のヒーローにはこの場から離れろと通達を出していたのだ。動揺が隠せない、息が少し荒くなるのを感じる。しかし不思議な事にステインは動かない、まるで何かを見極めるかのように。

 

 「・・・行け、ワイヤード」

 「なっ!?だが俺が行ったらお前を一人残すことになる!!」

 「それでも、だ。俺が向かうよりお前の個性の方が人助けに向く」

 

 二人で向かうことは出来ない。何故なら相手はヒーロー殺し、多数のヒーローを死傷させてきた危険度の高いヴィラン。二人で背中を見せるなど二人とも殺される様なものである。故に一人を残し一人が向かう事が最適。例えそれがどれほど不条理で、残酷だとしても。

 

 「~~ッ!!必ず!必ず助けに来る!例え戻れなくても誰か救援を向かわせるからな!!!」

 「あぁ、楽しみに待ってるよ。でもそうだな、お前が来る前に別に捕まえてしまっても構わんだろう?」

 

 振り返らず走る、時には個性のワイヤーを使って壁をよじ登り最短路で現場に向かう。

 

 「・・・ヒーロー殺しと聞いていたが、やけに素直に見逃すんだな。君は」

 「俺が殺すのは贋物だけ・・・ハァ・・・俺と言う獲物よりも、市民を助けることを優先した・・・少しは見所がある・・・」

 「・・・なるほど、本当にヒーローしか興味がない。という事か・・・しかし私もヒーロー。市民を守ることも大事だが・・・目の前の凶悪ヴィランを野放しに出来ない事もわかってくれるな?」

 

 言葉は最早不要と言わんばかりに、両者とも駆け出す。敵わないとしても、それでも立ち向かう。それがどんな結末を迎えようとも。それがヒーローなのだと言わんばかりに。




 ステインのセリフって難しいね、でも頑張るよー。


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第五話:暗い影に足掻く者、悪意に怯える者

 さぁ、僕アカの大事な部分であるヴィランの登場です。オリキャラだけど頑張って書いていかないと・・・!

 ちなみに妖目が歩いてモールを目指していたことに関しては親と仲が悪いとかではなく、純粋に時間が合わずに自転車も使えなかったからです。

 僕アカ観たい・・・でもこれの続きが気になるから書きたい・・・!と言うジレンマに襲われてます。頑張って書かなきゃ・・・!


 見返すと前書きと後書きちょっと長くない?と思い減らしてみる努力。


 ───何かが来る。個性のお陰で敏感になった五感が何かを訴える。と同時に爆音と何かが崩れる音。人々の悲鳴が聞こえる。

 

 「きゃぁっ!?爆発!?」

 「う~ん・・・これはちょ~っと洒落にならない事態かもねぇ~・・・」

 「っ!連絡!親に、連絡!」

 

 急いでスマホを取り出し電話をかけようと操作をする前にお父さんから電話がかかってくる。

 

 「お父さん!無事!?」

 『あぁ、こっちは爆発した場所から反対側だから問題ない。快心ちゃんの両親もこちらにいるから安心してほしい。今快心ちゃんに電話をかけているところみたいだ』

 

 言われて快心さんを見ると、どうやら誰かと話しているようだ。声からしてお母さんだろう。向こうも似た内容を聞いたからかこちらに視線を向ける。

 

 「どうやらみんな無事みたい・・・寧ろ私たちが一番危ないかも・・・爆発に近いみたいだし・・・」

 

 言われて黒煙が吹き抜けから上がってきている。ここは2階なので1階のフロアから爆発した、という事だろう。しかし下の階は逃げる人々が少しでも爆発地点から離れようと一斉にこちら側に走ってきている。

 

 「お、お父さんたちはモールの反対側の外にもういるらしいから私たちも早く外に逃げないと・・・!」

 「そうだねぇ~、早めに逃げないともしかしたら手遅れになるかもねぇ~」

 「それ、どういう」

 

 警報音、突然の音に軽い耳鳴りを起こしつつ周囲を確認すると、()()()()()()()()災害用のシャッターが下りようとしていた。

 

 「んな!?なんで、全部!?」

 「やっぱりねぇ・・・こういう嫌な予感は当たってほしくないってのに・・・」

 「ど、どういう事!?妖目くん!!」

 「恐らくヴィランの襲撃、しかも突発的じゃない。計画的な方のね・・・爆発したのにいつまでたっても避難アナウンスが出ない。おまけに今の状況だ。警備システムやらは全部向こうに握られてると思っていいと思うよ」

 「そ・・・それって・・・もうただのテロじゃ・・・!」

 「そそ、今起きてるのはヒーロー対ヴィランなんて優しいものじゃない。テロリズムだよ」

 

 テロリズム、その言葉に背筋が寒くなる。なんで日本で、なんで今日に限って、なんでこのモールで、なんで、なんで。

 

 「獣狼クン!しっかりしろ!!」

 「っ!!だ・・・だいじょう、ぶ」

 

 妖目の声で目が覚める、体が震える。足に力が入らなくなって崩れ落ちそうだった。なんで、足に力が、俺のからだを、ささえる、くらい。

 

 「無理しちゃダメでしょ~?ほら深呼吸して」

 「大丈夫・・・ね?大丈夫だから・・・」

 「・・・ありが、とう。もう、落ち着い、た。快心、さんも、あり、がとう」

 

 ・・・情けない。本当なら精神年齢的にも俺が落ち着かせる立場のはずなのに、このザマとは・・・

 

 「くっそぉ!!どうなってんだよぉ!!」

 「開けてぇ!!まだ子供がいるの!!」

 「おかあさぁぁぁん!!どこぉぉぉぉ!!」

 

 十数人が閉じられたシャッターの出入り口付近に集まっている。どうやら逃げ遅れてしまったようだ・・・。俺のせいで、二人も巻き込んでしまったという事実が胸を苦しめる。

 

 「獣狼クンのせいじゃないでしょ~?どうせあんなに人がいたら出られないって」

 「そうそう、だから獣狼くんは悪くないよ?」

 

 ・・・妖目は必死に策を考えているのだろう。快心さんに至っては頭を撫でる手が少し震えている。・・・ここで震えてたって仕方ない。すぐに出来る事をしなきゃ。と考えた途端。

 

 『えー、当フロアに逃げ遅れた皆さまぁー?悪いんだけど1階に集まってくれるかなぁー?あ、隠れたって無駄だよ?監視カメラはぜぇーんぶこっちの手の内だしぃ?1階はもう確認済みだしぃ、2階以上にいるのはそこのシャッターに集まってる君たち16人だけだしねぇー?』

 

 ・・・人の神経を逆なでするような声が聞こえてくる。ちらりと1階を見ると逃げ遅れた人たちが全員集められているようだ・・・。周りには目出し帽をかぶり、様々な装備を装着できるタクティカルベストと呼ばれる物を装備し、手には個性が暴力として使われる以前からその手の者たちに親しまれたわかりやすい暴力───銃、しかも形状からして連続で弾を発射できる前世の知識にあるAKシリーズと似通った銃が握られていた。

 

 

─────

 

 

 1階の広場に集められた逃げ遅れた人たち──恐らくは人質なのだろう──は外への連絡手段を取り上げられ、床に座らされている。・・・腕を縛ったりしないのは銃の暴力に酔っているのか、それとも暴れても簡単に無力化できる個性持ちか。しかしヒーローと言う職業やヴィランと言う悪者を間近で見てきた影響だろう。人質には楽観、まではいかなくてもヒーローが何とかしてくれる。と信じているようだ。()()()()()()

 

 本人は気丈に振舞っているのだろう。しかしよく見れば()()()()()()()()()()()()()()の先は細かく震えており、その子を胸に抱きしめ頭を撫でている少女の姿を見れば年下の子を気遣う姉の姿にしか見えない。しかし実際は同い年の、しかも何時もしっかり者の印象が強いクラスメイトなので、その不安定な様子は少女から見ても明らかに異常であった。

 

 (獣狼くん・・・どうしちゃったんだろう・・・?妖目くんに話を聞ければ良いんだけど・・・下手に動いてテロリストを刺激しちゃうのも不味いし・・・)

 

 その本人は、恐怖と混乱に囚われていた。もしも彼の言う個性のない前世で同じ状況であったのなら無理もない。こちらは何も力を持たず、相手は銃と言うこちらを簡単に殺傷する事が出来る代物を持っているのだ。しかし今は八割の人間が何らかの能力を持つ超人社会。全ての人が、とは言わないがそれでも銃に対応できる個性が無いわけではないし、それらを対処する個性を使う事が許されたヒーローだっている。

 では何がここまで彼を不安定にさせているのか。答えを言ってしまえば彼の個性の影響である。彼の個性は──色々な要素が混じったキメラ染みた事になっているものの──動物なのである。そして聞いたことは無いだろうか?──動物は人の感情がわかる、と。

 とある条件下ではまた違ってくるものの、彼の個性は五感を動物と同等に出来る程ではない。しかしそれでも人間より強化された五感が人の悪意を、敵意を増幅し感じ取ってしまっているのである。これが幼い子供なら泣き叫ぶところであろう。大人ですら冷静さを失い蹲って動けなくなり、最悪は叫びだしたり、気絶してしまうだろう。震えだけで収まっているのはひとえに彼が転生者で、ある程度精神年齢を取っていて──そして朧気ながら自分が死んだと言う事を自覚してたからであろう。

 

 故に彼は震える。人の悪意に、敵意に。そして人間の暗い愉悦に──。

 故に、状況が変わっても彼は人質の中で誰よりも反応が遅れた。

 

 「もう大丈夫だ!人質諸君!!君たちの安寧を守るためのヒーローが今到着した!!」

 『おんやぁ?ヒーローくぅんは今更なぁにをしに来たのかなぁ~?』

 「テロリストどもめ・・・!もう好きにはさせんぞ!ワイヤーショット!!」

 「おぉ!戦闘系ヒーローでも一目を置かれてるワイヤードだ!!助けが来たんだ!!」

 

 ワイヤードは両手からワイヤーを勢いよく飛ばす。片方を一番端の銃を持ったテロリストに、もう片方を人質が密集している地帯の中央に。そして銃を持ったテロリストにワイヤーが接触。と同時に人質の中央に飛ばしたワイヤーが人質全体を覆う大きな細い網目状のネットを展開し、床に強烈な音と共にテントの様に広がり人質を守る。

 

 「大人しく眠っていろ!スタン!!」

 

 ヒーローの声と同時にテロリストのワイヤーに電気が流れる。男性の叫び声が聞こえしばらくした後に倒れる音。恐らく気絶したのだろう。ヒーローは殺しをしてないけない、と言うルールがなければ殺してしまったのでは?と不安になる様な光景だが。

 

 『おーおー、やぁってくれるねぇヒーローくぅぅん!!お前らそのくそったれなヒーローをハチの巣にしてやれぇ!!』

 

 銃声。状況は待ってくれない。ワイヤードは素早く人質の盾として使っているワイヤーを自分から切り離し、もう片方をワイヤー戻しつつ走り出す。銃口はワイヤードを追いかけ周囲の物を破壊しつつ、建物を支える巨大な柱に隠れたワイヤードを追い柱に穴を開けていく。その間に切り離したワイヤーの再生が完了したのだろう。柱から二本のワイヤーがまるで生き物の様に飛んでいき銃を撃つテロリストに刺さる。と同時に電気の流れたのだろう。男二人の叫びが同時に聞こえてくる。

 

 「くそっ!銃があれば何がヒーローは怖くないだ!!情報と違うじゃねぇか!!強いヒーローはみんな出払ってるんじゃないのかよ!!」

 「うるせぇ!とにかく奴を殺しちまえば問題ねぇんだ!」

 「おい!人質の中にガキがいたはずだ!それ使ってヒーローをあぶりだせ!!」

 「この網どうなってんだよ!!床にくっついてやがる!!斬ろうにもナイフじゃ全然歯が立たねぇぞ!!」

 「畜生・・・こうなったら!!」

 「バカ!やめろ!!」

 

 二回目の銃声。人質に向かって発砲したのだ。テロリストに暗い愉悦が混じる、どうだヒーロー。お前がさっさと殺されないから人質が死んだぞ。しかしテロリストの思い描いていた光景は幾ら銃弾を受けても表面が揺れて弾をどんどん床に散らばしていく網のせいで打ち破られていく。

 

 「なっ・・・なんだこの網!?撃っても切れねぇってふざけんじゃ、ぎゃああああああああ!!!」

 「畜生!アイツ何処に行きやがった!!」

 「生憎だったな、その網は特殊な合金を非常に丁寧に編み込んだ特別性。例え発動系で貫通力、破壊力共に優れた個性であろうとも破ることは不可能だ・・・!」

 「!?上、ガッ!?」

 「遅いっ!」

 「ぐおっ!?」

 

 テロリストが数人、人質を盾にヒーローを始末しようと意識を向けた間にワイヤードに意識を向けていた二人をワイヤーで素早く締め落とし、銃声に紛れてワイヤーを使い2階に移動。広場を横切る通路にワイヤーを固定し上から奇襲を行ったのである。

 戦闘中に過半数が敵から目を離す素人集団に苦戦するはずもなく、銃を持ったテロリストはたった一人のヒーローに一掃されたのである。

 

 「もう大丈夫だ!さぁ私が来た方向の出口は空いている!急いで逃げて!」

 「ありがとうワイヤード、あんたの事忘れないぜ!」

 「ありがとう・・・!ありがとう・・・!」

 『プフフッ・・・フフフフフ』

 

 放送から聞こえてくる笑い声を無視し、テントの様に設置された網を専用の器具を使って破り、人質を避難させる。人質の中に負傷者はいないか素早く確認し、振り返り仲間に連絡を取ろうとすると、小さい子供に呼び止められる。

 

 「ま、待って!」

 「どうしたんだい?もう怖い人たちはいないよ?」

 「ちが、違う!まだ、怖いの、まだいる!!」

 「まだいる?今倒したので・・・」

 

 何かが引っかかる。怖いの?テロリストたちじゃないのか?それにこの子の個性は恐らく動物系・・・何かを感じ取っている・・・?いや待て、もっと前に誰かが重要な事を・・・そう、テロリストの「情報と違う」「強いヒーローは出払っている」。今日、そして強いヒーローが出払っている様な案件・・・つまりヒーロー殺し捕縛作戦の事か?

 ワイヤードの頭の中で嫌な予感が膨れ上がる。こちらの情報がばれて居て尚且つそれに合わせてあのようなチンピラを焚きつけた黒幕が居ると。数多くの経験を積んだワイヤードはインカムに叫ぶ。

 

 「本部!気をつけろ!!敵はテロリスト以外にも何かがいるぞ!!」

 『ウフフ、フフフフフ!せぇ~かぁ~い!!正解者にはぁ~コイツをプレゼントぉ!!』

 「ッ!?みんな!急いで逃げろ!!出来るだけ早く、遠くに!!」

 

 直後、轟音。何かが落下してきた音、と言うにはあまりにも音が大きい。それが人の形をしていれば特に。()()は立ち膝をしつつ上半身を丸める体勢でひび割れた広場に存在していた。が、その存在が放つ威圧感は先ほどのテロリスト擬きのチンピラより凄まじかった。

 

 『フフフ、ウフフフフ。そいつはとあるお人から譲り受けた強化人間さぁ!さぁヒーローくぅん?早く市民を逃がさないとそいつは目の前に居る人間に襲いかかっちゃうぞぉ?』

 「ッ!?くそっ!ワイヤーショット!!」

 

 ワイヤードは目の前のヴィランが動き出すより前に先に片をつける為に先ほど使った物より高出力の電撃を浴びせるアタッチメントに取り換えまっすぐヴィランに刺さる・・・はずだった。

 

 「!?うぉっ!?」

 「・・・・・」

 

 ヴィランが行ったのは簡単である。ワイヤーを掴んで、ワイヤードを振り回した。想定した異形型の腕力を二回りほど上回る力にワイヤードは一瞬驚愕するものの、すぐさまワイヤーを切り離して建物にぶつけられるという最悪を避ける事が出来た。ヴィランが立ち上がった為にその姿がよく見える。服と言うより黒タイツと言っても過言ではない服装で感情のない瞳でこちらをとらえ続けているのだから。しかし状況は未だ最悪のままである。何故なら自分の攻撃を見切られる相手に人質が逃げるまでの時間を稼がなければいけないのだ。絶望、正しく今の状況を表す正しい表現だろう。

 それを踏まえ、()()()()()()()()こんな不条理や理不尽、ヒーローになった時から覚悟していた事だ。死ぬかもしれない?いいや、増援が来るまで耐えて見せる。何せヒーロー殺し相手に一人で持ちこたえている仲間もいるのだ。自分も実践しなくてどうする?例え死ぬとしても一人でも多く逃がしてからだ。怖くない訳じゃない、だが誰も救えない事の方がもっと怖い。体を落ち着かせる為に空気を多めに吸い、そして吐く、そしてまた吸い。

 

 「行くぞッ!!」

 「・・・・・」

 

 ワイヤーショットは掴まれる。故に巧妙にワイヤーを動かし死角からワイヤーを飛ばす、が弾かれた。相手の近接攻撃をワイヤーを束ね防ごうとし、とっさに大きく横に飛ぶ。その行動が正解だったと理解するのは一瞬だった。束ねたワイヤーを貫き手が僅かな隙間から貫き、先ほどまで自分がいた場所を突き刺していたのだから。相手が次の拳を振り抜こうとしている。束ねたワイヤーを掴み、拳をギリギリそらす。今度はワイヤーを貫かれる事はなかったが非常識な程のパワーを感じる。そうして、一歩間違えれば死が待ち受ける時間稼ぎを行う。一撃一撃が一方的な必殺の攻防、想像以上に体力を奪い続ける。

 

 「はぁ・・・はぁ・・・」

 「・・・・・・」

 『ハハハ!!サイっこうのダンスだねぇ!!えぇ!?ヒーローくぅん!?ほらほらちゃんと防がないとぉ死んじゃうよぉ!!』

 

 ワイヤードは目の前の黒タイツから目を離さない様に視界の隅で確認する。どうやら人質は逃げ切った様だ。後は待つだけ、簡単じゃないか。

 

 『ハー、ダンスもよかったけどぉ、そろそろ飽きちゃったなぁ?』

 「ふぅ・・・ふぅ・・・だったらお前も踊りに来たらどうだ?中々楽しいぞ?」

 『いいやぁ?エンリョしとくよぉ。代わりにダンサーを増やせばもっと面白くなると思わないかぁい?』

 「ははは、出来れば遠慮したいな・・・こっちも流石に疲れてきてね・・・」

 『うん?誰も君に踊って貰うとは言ってないよぉ?』

 「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 「ッ!?お前まさか!ぐぅっ!」

 「・・・・・・」

 

 一瞬、ほんの一瞬の隙をつかれ壁に投げられ、叩きつけられる。壁がひび割れ体が床に落ちる。意識を保とうと力を籠めるが。

 

 「がぁっ!?」

 「・・・・・・」

 『あーあ、つかまっちゃったねぇ。ゲームオーバーだよぉ』

 

 上から黒タイツに背中を踏みつけられる。抜けだろうと足掻こうともちっとも力が緩まない。

 

 『ハハハハハハァ!!まるで標本みたいに無様な姿だなぁ!ヒーローくぅん!?』

 「ぐ・・・くっそ・・・」

 『別に改造人間が一体だけぇ。なんてだぁぁぁれも言ってませぇぇぇん!!流石にぃ今君が戦ってる物とは劣化するけどぉ、なんの訓練もしてない民間人を潰すのも訳ないよねぇぇぇ!!』

 「ぐぅぅぅ・・・!」

 『ハハハッ!面白いねぇ!さっきまで元気なかったのにいきなり元気になっちゃったよぉ!!その調子でもぉっと足掻いて・・・』

 

 急に声が途切れる。なんだ?何かが起こったのか?薄れる意識の中。

 

 『なんだ、お前』

 

 今まで人をおちょくっていたはずなのに、今は余裕のない声と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()子供が、髪と同じ色に染まった目で、力強くこちらを見ていた。



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第六話:俺の、最高のヒーロー/回精 獣狼:オリジン

 やぁっとここまで来ました。書きたかった怖がりが、怖い事を怖いと認識しつつも力強く前に進む。最高じゃない?

 前回書いた熱を利用して一気に書き上げるぅ!!こんな深夜投稿で本当にすまない!!


 年下にしか見えない様な同い年の幼馴染は俺のヒーローだ。

 

 幼いころは俺の個性はユニークなものだと思っていた。だから幼稚園の時に頭を取って挨拶をしたら、阿鼻叫喚の泣くわ叫ぶわの大惨事。でも周りからはユニークな奴と見られると信じていたんだ、友達いっぱい出来るんだって。現実は非情だった。俺の個性はバケモノと言われ周りから距離を置かれた。そしてみんなの個性が出現するとみんなでバケモノ退治と俺に個性で攻撃をしてきた。痛かった、辛かった、やめてと言ってもやめてもらえない。いつしかどんどん苛立ちが溜まり、そんな苛立ちを誰かで発散させようと思って、俺をバケモノと呼ばない動物の耳と尻尾を持ったアイツにちょっかいをかけた。

 

 アイツはビビりだった、怖がりだった。ちょっとの事で毛が逆立ち酷いと叫んだりしてひっくり返ったりもした。それを面白がって余計にアイツに悪戯をした。楽しかった。苛立ちが無くなってスッキリした気持ちになれた。

 

 ある時アイツの居る前でまたバケモノ退治をしようとしてきた奴らが居た。でもアイツは連中を言いくるめて止めたのだ。その時になんで止めてくれたのか聞いてみた。そしたら「面白くないだろ、楽しくないだろ」って返された。嬉しかった、アイツだけは俺をバケモノとしてみない。それと同時に「楽しかったら、面白かったらやっていい」と子供特有の歪んだ考えを持ってしまった。・・・あの頃に戻れるならぶんなぐってやりたいよ。そうじゃないだろって。そして俺の悪戯はエスカレートしていって、最後にアイツにトラウマを植え付けてしまった。アイツ、自分は気にしてないって言っているが悪感情とかを急に向けられると体が少し震えるようになっていたのだ。勿論ヴィランを近づけてはいけなかった。体の震えが止まらず、しっかり呼びかけないと動けなくなってしまったのだ。前に一度ヴィランが街中で暴れたときに動かなくなって大変だった。

 

 だから俺はアイツを一人ぼっちにさせないために構い倒した。出来るだけ軽い雰囲気にしてアイツの近くに近寄りやすい雰囲気を作った。こっちは幼馴染だ、アイツの嫌がる事と平気な事の区別はもう十分についている。そして俺の望み通りアイツの周りに笑顔があふれた。嬉しかった、怖がらせるだけじゃなくちゃんと笑わせられるって。

 

 だからさ、俺のヒーロー(獣狼)。最後も笑ってくれよ。快心に引っ張られる獣狼を見て。

 

 目の前に迫る拳にゆっくりと目を閉じた。

 

 

─────

 

 

 こわい、こわい。なんでそんな、かんじょうをもってるの。

 

 おおきなおと、なに? こわい。

 

 こわいかんじょうが、こっちにむいた。やだ、やだ、やだ。

 

 こわいの、まわりからきえた?

 

 だれかがきた、こわくない。あたたかい・・・つたえなきゃ。まだこわいのがいるって。

 

 いや、いや、いや。だめ、あれはだめ。にげる、にげよ?

 

 なんでたちむかうの?あたたかいひとが行っちゃう。

 

 温かい人を置いて行ってしまった・・・あの人も最後は怖がっていた・・・でもそれ以上に温かかった。なんで?

 

 ダメなのが来た、温かい人と戦ってたのとは違う。けどダメだ。あれと戦っちゃダメだ。早く、逃げよう。

 

 叫び声が聞こえる。誰かが向かって行った。でも飛ばされて壁に叩きつけられた。早く逃げなきゃダメだよ。

 

 なんで?妖目どうして?そっちはダメだよ?死んじゃうよ、ダメだよ。

 

 

 妖目が飛ばされる。──それを見ているだけでいいの?

 

 妖目が叩きつけられる。──このまま何もしないの?──いやだ。

 

 妖目が蹴り飛ばされる。──このままだと死んじゃうよ?──いやだ。──現実を見ろ。嫌だと言うだけでは誰かの死は覆らない

 

 妖目が首を掴まれる。──何もできなくていいの?──いやだ。──このままでは妖目は死ぬ。その逃れられない運命から目を逸らすな──死なせたくない。

 

 妖目が此方を向いた。──嫌だ。怖いのは嫌だ。でも目の前で助けられる命が、助けを求める命を見捨てる方が。もっと怖い。──じゃあ、どうする?──もっと速く、もっと強く。手が届かないなら届くまで速く、力が及ばないなら及ぶまで強く。──君は知ってるだろう?力だって前に使えた、さぁもう一度だ──

 

 引っ張られる手を振りほどく、今までありがとう。お陰でもう震えは止まった。快心さんに微笑んで、現実(妖目の死)と向き合う。このまま何もしなければ妖目は死ぬ。あぁ、わかっている。本当に幼い頃、あの時の感覚は今思い出した。自分が獣人種だって思い知ったあの時の、感覚を籠めて──。

 

「血壊」




 「あ!今人質がショッピングモールから解放されたようです!」

 アナウンサーの一言で入口に人々の視線が集中する。その隙を縫って潜入する。

 「・・・悪戯に世間を騒がせる。粛清対象だ・・・」


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第七話:恐怖を打ち破る真紅の獣

 ちなみに私は僕アカ、なんとアニメしか見てません。静粛に、立ち上がらないで座ってください。物も投げないで!!うん、買いたくても置く場所が・・・。

 後アンケートもこの後実施予定だよ、無かったらしばらく時間をおいてから更新してね。・・・やってくれる人いるかなぁ・・・?
 あ、アンケートは一応1日くらい待ちます。なんで1日?私が続きが気になって書き始めちゃうからです。意思が弱いです。


 周囲の全てを、まるでゲームの様に上から見ている様な錯覚に陥る。妖目の弱弱しい呼吸、快心さんの立ち止まる足音、そして妖目に拳を振りかぶっているタイツ男の筋肉のしなり。全て、全て。見て、聞いて、感じ取れる。否、恐らく五感以外の()()が教えてくれる。空気の流れ、相手の次の行動、そしてその過程まで。

 そして、妖目の死と言う運命を覆す為に。地を蹴った。

 

 

─────

 

 

 先ほど黒タイツの仲間と思しき同じ黒タイツを着た男の襲撃に、一人の男性が叫びながら体を変質させつつ立ち向かうも黒タイツの男は無造作に腕を振り抜き、男性は吹き飛ばされながら壁に激突した。その光景を目の当たりにしその暴力が次は自分に振るわれるのではないか。と言う恐怖に人質たちは立ち止まる。

 

 「うおおおおおおおおおお!!」

 「!?妖目くん!?行っちゃだめだよ!!」

 

 一人の少年が少女の静止を振り切り黒タイツに立ち向かう。その姿を目にした人々は今のうちに我先にと逃げだすもの。壁に激突した男を救出して一緒に逃げようとするもの。未だ動けないもの。様々だ。

 少年は黒タイツの振り下ろしの拳を避ける、しかし地面に衝突した際にその怪力で吹き飛ばされる。吹き飛ばされつつ体勢を立て直そうとする少年だが、それより先に黒タイツが少年の足を掴む方が早かった。そして足を持った腕を振り上げて振り下ろす。単純な動きだけで少年は更に傷つき動きが鈍る。相手の都合など関係ないと言わんばかりに黒タイツは地に伏せている少年を蹴り飛ばす。先ほどから力を入れていないのだろう。少年は一回バウンドしただけで済んだが、少年のダメージは最早許容限界だった。かすかなうめき声と共に少年の首が掴まれ持ち上げられる、そして黒タイツの男は首を掴んでいる方とは反対の腕を構える。遊びは終わりだ。そう告げる様に腕に力を込めていく。人々は恐怖し、少年から背を向けて走り出す。次は自分だ、早く遠くに逃げなきゃ。

 すると、炸裂音、しかし爆発とは違う軽い、とても軽く乾燥した炸裂音が人質たちの後ろから聞こえてきた。

 

 「もう、お前の、好きに、させない」

 

 とても中性的な声が後ろから響いてくる。一部の人が後ろを振り返る、近くには先ほど少年を止めようとした少女と恐怖に立ち竦んでいた人たち。そしてその先の光景に今までに見覚えのない色を見る。

 黒タイツの、少年の首を掴む腕の上に、まるで白黒漫画の一コマにインクを落とした様に主張する赤。赤く、しかし赤よりも濃い赤──真紅色だった。

 それが髪と獣の耳、そして獣の尾だと気づいた。

 それがしゃがみこんで、片手で黒タイツの拳を止めている子供と気づいた。

 それが夏らしい、半袖半ズボンの服から見える肌に同じ真紅の紋様が現れている事に気づいた。

 それが伏せていた顔をゆっくり上げる。顔にも体に現れている模様と似た模様がある。そして閉じていた目を開く。

 

 「命を、救う。だから、お前を、倒す」

 

 ──真紅色の目。それが、力強く輝いていた。その全ての影を祓う様な輝きは、まるで──

 

 再びの炸裂音で現実に戻される。次の瞬間真紅は消え──。

 轟音と共に黒タイツが頭から天井に刺さる、そして黒タイツに掴まれていた少年は真紅に抱えられていた。

 

 真紅は少年を降ろす。少年は意識が朦朧としながらも真紅に手を伸ばす、そして真紅は手を取り。

 

 「助けて、来る」

 

 炸裂音と共に、真紅は消えた。人々はまるで狐につままれたような中、しかし確かに黒タイツが無力化され少年が救出され。気づいた時には出口の方から複数の足音が来てそれが救出部隊と気づき、助かったと喜んだ。

 

 

─────

 

 

 先ほど自分たちが捕まっていた広場に戻る。そこにはまだヒーローの気配がするから、生きているからと。そして広場に一瞬で到着する。そこにはボロボロのヒーローと、そのヒーローの背を踏みつける黒タイツが居て。

 

 『なんだ、お前』

 

 と言う放送の声が聞こえてきた。放送の声は無視。ヒーローは生きている事を通常よりも格段に強化された五感で認識すると、先ほど無力化した勢いで黒タイツに接近。そしてその勢いを利用した回し蹴りを頭に叩き込む、が。

 

 「重ッ!」

 

 想定より黒タイツは飛ばず、しかしヒーローから黒タイツを引き離しつつ、壁際という()()()()()()()()()()()()動きづらい場所から中央に移動させる目的は達成したのでよしとする。

 

 『!ハハハァ!そいつは特別性でねぇ!君がぶっ飛ばした奴より全ッ然強いよぉ!!』

 

 だろうな、と心の中で呟く。さっきの黒タイツは反応もせずにカチ上げられてくれたがこいつは咄嗟に腕でガードしやがった。完全には追えてないだけだろう、追えていればカウンターをしてくるはずだ。だったら・・・。

 もっと速く、もっと強く。なぜか()()()()()()()。このくらいまでは大丈夫、アイツはこのくらいは耐えられると教えてくれる。

 

 低い姿勢から勢いよく突撃、そして黒タイツの手前付近で床に手をつきそれを支点に膝に回転の勢いをつけた蹴りを入れるが、膝から脛に打点をずらされ良いダメージが入らない。それならばと腕の力だけで跳ね上がり、踏みつけの要領で胴体に足を繰り出すも腕に防がれる。ならばと防がれた腕を足場に一旦離れ、着地と同時に未だ胴体を守っている腕に拳を連続で叩き込むも他の部位より頑丈なのかダメージが入った気がしない。胴体を守っているのならと、顎を狙おうと行動しようとした瞬間。手を広げこちらを掴もうとしていた為に空中を蹴って離脱。

 

 『ヒャハハハハハ!!どうしたぁ!?全ッ然ダメージが与えられてないじゃないかぁ!!』

 

 ・・・先ほどから聴覚が起動している小さめの機械の音を捉えている。どうやら相手は監視カメラでこちらを見ているだけのようだ。そりゃそうか、監視カメラじゃ血壊の速さを捉えきる事は不可能だ。だからこそこっちが攻めあぐねている様に見えるし、監視カメラが下手に視界を動かさない様に黒タイツの前面にしか攻撃をしていない。それに()()()も仕込みが終わったようだ。仕留めよう。

 黒タイツから離れる。先ほど頭を蹴った時より速度をつける為に姿勢を低くする。

 

 『いいよぉ!!やけくその特攻!!ハハハハハハァ!!』

 

 放送は無視、視界の隅で準備が出来たようだ。向こうでこちらに合わせるようで流石としか言いようがない。

 

 「いくぞッ!!!」

 『ヒャハッ!その生意気なガキをつぶせぇぇ!!』

 

 足で溜めた力を開放する。先ほどよりも速く黒タイツに突き進む。黒タイツは腕を上げ殴り潰そうとしたのだろう、完全に意識を此方に向けている。故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『んなぁ!?この死にぞこないがぁ!!』

 「市民ばっかりに・・・子供が頑張ってるんだ・・・!これくらいぃ!!」

 

 既に限界を迎えているのだろう、自分は立ち向かえないし黒タイツに届く力がない。しかしならばと一矢報いる為の妨害を行う。その為にワイヤーを使い自分を引きずりながら移動する。そしてその妨害は功を成す。腕が途中で鈍る、ワイヤーは建物の柱に固定したようで、流石のパワーも柱を一気に壊す程ではない。

 

 ヒーローが作ったチャンスを逃さないために、途中で向きを変え黒タイツの腹に片足を刺し込む。しかし黒タイツの腹筋はギリギリで足を食い止め、腕を固定したワイヤーと足で踏ん張る事で吹き飛ばされることを防いだようだ。想定外の事態に反応が遅れた。何とか耐えた黒タイツは残った腕でこちらを掴もうとしている。不味い。このチャンスを逃せば次の攻撃のタイミングが。

 そこまで考えたタイミングで、聴覚と()()が空気を割いて飛んでくる小型の物を知らせてくる。段々音が大きくなっていくが小型の物は俺に当たるルートではなく──。

 掴もうとしていた黒タイツの肘に大型のナイフが上から刺さる。神経を傷つけたのだろう、黒タイツの腕は力なく下がっていく。

 

 「オオオ、オオオ!!」

 

 ──今だ。腹に刺した足を軸にその場で回転する。狙うは、黒タイツの顎・・・!

 つま先が黒タイツの顎を捉えパァンと言う軽い音と共に振り抜かれる、と同時に離れ警戒をする。想定より力が入っておらず、すぐさま仕留められるように警戒するものの。黒タイツは力なく膝から崩れ落ち、正座のような体勢で動きを止める。どうやら脳を揺らされれば流石に動けないようだ。安心したのか徐々に体の力が抜けていき、そして俺は倒れた。

 

 「おいっ!大丈夫か!?」

 「なん、とか。ただ、力が、もう」

 「個性の反動か・・・?とりあえず急いで救急隊員を呼ぶから待っていろ!」

 

 ヒーローがそう言うと一人喋り始める。無線か何かだろう、もう安心だと気を抜こうとした時。

 

 『てめぇぇぇ!!許さねぇからなぁぁぁぁぁ!!』

 「そう、言えば、まだ、いた」

 『ハッ!てめぇらもう力使い切っちまったんだろぉ!?ならそのまま仲良くあの世に行っちまえ!!』

 「何を・・・っ!まさか爆弾がまだ!?」

 『ヒャハハハハ!その通ぉり!!じゃぁな!!!』

 『うーん、それはもう無理だと思うよ!』

 『・・・は?』

 

 唐突に別の声が聞こえる。語尾が上がるかなり特徴ある声。しかしその声は着実にもう一つの声を追い込む。

 

 『友人に頼まれちゃってね!「息子がテロにあった、どうやら警備システムを乗っ取れるだけの準備をしてきている連中らしい。お願いだ、警備システムを乗っ取り返してくれ」だってね!彼には色々お世話になっているし、借りを作るのも悪くないから引き受けちゃったよ!』

 『乗っ取れるわけねぇ!俺様の作った完璧なシステムが、乗っ取れるわけが!!』

 『いいや無駄さ!今君の操作を受け付ける物は一つもない。その手に持った起爆スイッチもね?』

 『ッ!なんだよ!ざっけんなよ!!ふざけるな!!くそっでれねぇ!!』

 『HAHAHAHAHAHA!!諦めてヒーローが来るまでそこに閉じ込められてるんだね!!HAーHAHAHAHA!!』

 

 ・・・何か、最後少し狂気的な笑いだったような・・・でも、どうやら特徴ある声の人のお陰で助かったのだろう。・・・最後にあのナイフを投げたのは誰なのだろうか、少し気になり上階を探すと一人、男が立っていた。口が動いているから何かを言っているのだろう。生憎血壊の反動かしばらく耳がいつもより鈍い。でも、その目は何かを期待している様な目でこちらを見ている。・・・どうやら限界のようだ、ヒーローの呼びかけと、複数人の足音を聞きながら意識を落とす。




 警察とヒーローが突入したデパートの屋上から抜け出し、隣の建物に乗り移る事で早々にデパートから離脱する。今日は良い日だ。ヒーローに襲撃されたとは言え4人の内2人は見所がある。残り2人には逃げられたがそれを加味してもいい日だ。しかし、それと同時に見極めるべき存在もいた。

 民間人の身でありながら個性を使い、そして自分からヴィランに立ち向かう。不用意に個性を使い、被害を広げるその行為はヴィランと同じであり、粛清対象であると言える。しかし本人はあの場のヒーローの命すら救おうとしていた。その精神は寧ろ見所があると言えよう。

 「・・・今回は見逃す、しかし民間人の身でまた今回の様な無茶をするなら・・・ハァ・・・粛清対象だ・・・」


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第八話:目覚めと致命的失敗、あとお叱り

 お久しぶりです。修正したり書き加えたりしてのどったんばったん大騒ぎが終わったので次を書きたいと思います。そろそろ原作の入試だ・・・!

 ところで初めて登場する原作キャラがステインで次が根津校長って中々無いよね。どうしてこうなった。


 目が覚める。長い間寝ていたような体のだるさと意識がぼんやりした中で、一定間隔で鳴る特徴的な電子音と薬品の匂いが意識を覚醒させる。目を開けるとぼんやりとした視界が段々と鮮明に物を捉える。白、白、白。一面が白ばかりなこの場所は電子音と薬品の匂いから病院だろうか?そう考え起き上がる、が。

 

 「・・・おなか、すいた」

 

 異様にお腹が空いた。この体になってから食事の量は確かに増えたがここまで空腹を訴えることも無かった。・・・いや、前に一度あった。確かあれは小さい頃に血壊を使った時だ。あの時は血壊がすぐに収まったがそれでも今みたいな空腹を訴えていて、お母さんに頼んで沢山食べさせてもらったっけ。そう考えているとドアの向こうからいい匂いがしてきた。

 ───食べ物だ。そう考えるよりも体が動く、少し動きづらいがまぁ問題ないだろう。ベッドから降りドアの方向に進むと。

 

 「あれ?獣狼くんもう動けるようになったの!」

 

 声が聞こえる。けれど視界は“それ”を捉えて離さない、手を伸ばそうとすると“それ”は上がっていく。“それ”を追いかけ目線と手が上に向かうと口元を片手で抑え顔を少し背けた快心さんが居た。恐らく“それ”は快心さんの物だろう、どうにか譲ってもらわなきゃ。と考えたところで。

 

 「・・・獣狼くん、これ。欲しい?」

 「・・・!うん、ほしい」

 「・・・じゃあ、ちょっとお願いがあるんだけど。いいかな?」

 

 おぉ、これが妖目だったらくれなかっただろう。アイツは薄情だからな。俺は“それ”をもらえる嬉しさに、快く承諾した。・・・してしまった。

 

 

─────

 

 

 「あれから丸一日、か」

 「あぁ、命の危機って訳じゃないが本人は目覚めなくてな」

 「原因はわかっているのか?」

 「いいや、恐らくは個性を限界まで使った反動。という事くらいしかわからん」

 「そう・・・か、命の危機が無いとは言えテロ事件を解決に導いた恩人だ。早く目覚めて元気な姿を見せてほしいよ」

 「そう・・・だな」

 

 病院内をスーツを着たがっしりとした男と白衣を着た細見の男が歩く。スーツ姿の男は白昼堂々と爆弾を使い何処からか手に入れた銃をチンピラに与え終いには改造人間などという倫理観を完全に無視した存在を二人も用意するも、奇跡的に死者が0人で終わった事件。通称“テロ事件”を解決したワイヤードの()()()である一人の少年の容態の確認に来ていた。

 ・・・実際は協力者ではなく改造人間を二人無力化するという功績を残しているが・・・。一人目はまだ正当防衛で対処出来る、しかし二人目に関してはヒーローを救うためとはいえ一般人が事件現場に戻り個性の不正使用・・・未成年とはいえ立派な犯罪行為である。だが現場の判断。ヒーローが一般人に協力を求めた事にしたために少年の存在は明るみに出ることは無かった。

 しかし、世間はヒーローが一般人の少年に助けを求めるという事態を騒ぎ立てた。そしてその矛先は現場に居た唯一のヒーローに向いた。ワイヤードの名声や実力派ヒーローとしての地位に少なくない影響があったものの本人は「俺を助けるために戻ってきてくれた少年に、犯罪者の烙印を押すような事はしたくない。それに恩人の為に泥を被るのも、あの場で少ししか活躍できなかった俺の役目だ」と非公式ながら関係者に語っていた。

 

 「ほんっと、カッコいい事言ってくれるよ。ワイヤードは」

 「全くだ。・・・聞いたか?ワイヤードがテロ事件の前に3人の実力派ヒーローと一時的に組んでいたらしいが、ワイヤード含む4人でチームを結成したらしいぞ?」

 「・・・カッコいいなぁ、お陰で刑事の肩身が狭いよ」

 「ふん、そんな事言いつつ、ヒーローとは違う方向で市民を救いたかったんだろう?だから態々連絡が来てからくればいいもを、連絡が来る前に見舞いに来やがって」

 「うるせぇ、お前だって似たようなもんじゃねぇか。ナースが居るんだから容態の確認位任せてやれよ」

 「・・・違いないな」

 

 彼らは長年の友人の様な気やすさで未だ眠る少年の病室に向かう。本人たちは口に出さないものの心配しているのだ。スーツ姿の男はまだ書類が残っているのに外食と称してこの病院に訪れ、白衣の男は案内するついでに容態の確認を。しかしスーツ姿の男は前も一度来ている為に患者とぶつからない様に気を付けつつ進む。少年の病室に着いたのだろう、扉の前で止まるといきなり扉を開ける。

 

 「・・・」

 「おいおい、ノックくらいしろよ。・・・突っ立ってないで早く入ってくれないか?形だけとはいえ容態を確認・・・」

 

 空気が凍る、その表現がこれ以上ないほど適切であった。視線の先では黒髪の少女がベッドに座っている少年に手渡しで果物を食べさせていたのだから。扉を開ける音に反応したのだろう、こちらを見たまま固まってしまった少女と来客に気づいていないまま少女の指が摘まんでいた果物をぼんやりとした目で食べているのだから。

 スーツ姿の男は一瞬で刑事としての自分に切り替える。確かあの少女はテロ事件の被害者で少年の友人だったはずだ、個性は安眠で今みたいな状況に持ち込むものじゃない。と考えたところで。

 

 「ち、違うんです。誤解なんです。獣狼くんがお腹空いたっていうのでまだ疲れてるだろうと思い果物を食べさせてあげてただけで・・・」

 「・・・おねー、ちゃん。つぎ、あーん、あーん」

 「・・・とりあえず外でお話を聞かせてくれるかな?」

 

 アウト。刑事の男は少年が口にした内容を吟味するまでもなく少女を廊下に連れ出し病人に何をしているんだとか、彼は一応君のクラスメイトなんだぞとか、周りの迷惑にならない程度に叱っておく

 

 

─────

 

 

 気が付いたら近くに細身の医者が居た。医者から何処か体調が悪いところはないかと聞かれすぐさま空腹を訴えると、苦笑した後にご飯を持ってくると言い病室から出ていく。すると入れ違いに何処か呆れたような表情のスーツ姿の男性と落ち込んだ様子の快心さんが入ってきた。・・・どんな組み合わせだこれ?とりあえず快心さんに挨拶するとビックリしつつも挨拶を返してくれた。・・・本当にどうしたのだろうか?聞いても何でもないと返され。スーツ姿の男性が気にしなくていいと言う。・・・?まぁいいか。と考えたところで先ほどの医者が食事を持ってきてくれた。・・・イメージしていた病院食と量が違う、明らかに通常のお皿より大きい上にその分沢山乗っている。どうやら異形型の中にはエネルギーを沢山必要とする人がいるらしく、そのために大きいお皿を用意したりするんだとか。しかし今はその気遣いが有難かった。とてもお腹が空いているのだから。・・・おかわりは一回までらしい。

 

 全品おかわりし、平らげた後スーツ姿の男性が自己紹介をした。どうやら刑事さんらしく、大事な話があるからもう一人呼んでくる。と言い退出した。誰だろうと考えていると思っていたよりすぐに戻ってきた。そこには。

 

 「妖目・・・?無事か!?」

 「獣狼クンよりは無事かなぁ。あの後回復系の個性を持ったヒーローに治してもらったからねぇ・・・」

 

 ?何か少し元気がない様だが・・・ともかく妖目が無事でよかった。・・・ちゃんと間に合ったんだな、と思っていると刑事さんが本題に入るらしく、話を聞く体制に入る。

 

 「大事な話というのは今回の君たちが巻き込まれた事件、通称テロ事件についてだが───」

 

 今回の事件で死者が0人だったことに喜んだ。しかし一般人が大暴れした事は公表できずに協力者として隠す事、そして現場に居たヒーローであるワイヤードに泥を被ってもらった事を聞いた時には、かなりのショックと落ち込んだ為か耳が倒れ視線が下がる。と、突然硬くて大きい掌が頭に乗せられて少し雑に撫でられる。

 

 「それだけ反省してるのなら、あんまり叱ってやるのもよくないな。それにお前さんのお陰で死者が0人なんだ。そこは誇っていいぞ」

 「だからと言って今回みたいな事をやられると次はそこの刑事に逮捕されるだろうからな」

 「ま、そういうこった。もし人助けをしたいならヒーローになってから個性を使えよ?君みたいな強い個性を持ってる人なら立派なヒーローに」

 「!待ってくれ、獣狼はヒーローには」

 「妖目」

 

 妖目が俺のトラウマの事を気にしているのだろう、過保護にもほどがある。だから俺の今の嘘偽りのない本心を伝える。

 

 「もう、大丈夫、だよ。もう、乗り越え、られた」

 「だがお前は、トラウマがあるだろう!!」

 「あの時、妖目は、助けを、求めた、でしょ?だから、動けた。妖目の、お陰で、乗り越え、られたよ?」

 「・・・もう、大丈夫なのか?」

 「うん、大丈夫。だから、妖目も、許して、いいよ?」

 「・・・そっか」

 

 全く、俺の親友は変なところで自分を責める。本人が許してるんだから自分を許せばいいものを。お陰で話を知らない三人が変な顔をしてる。

 

 「あー・・・とりあえず何ともないって事でいいか?」

 「お世話を、お掛け、しました」

 「まぁいいけどよ・・・こっちからはあんま事件の事を言いふらすなよって事と、事件に首を突っ込むなよって釘を刺しに来ただけだからよ。特に妖目君、君は黒タイツに自分から向かって行ったんだからな。反省しろよ?」

 「・・・はい、ご迷惑をおかけしました・・・」

 「めずら、しい。妖目が、おとな、しい」

 「・・・私、空気だよぉ・・・」

 「忘れ、てた。ごめんね?快心、さん」

 「もう・・・どうせ色々話してくれないんでしょ?しょうがないなぁ・・・」

 「あはは・・・悪いけど、流石に内緒って事で、ね?後で獣狼のちっちゃい時の写真、コピーしてあげるからさ?」

 「さらっと、人を、売るな!!」

 

 こうして、事件は無事に終わった。どうやらみんなの仲も変わらないし、寧ろ妖目も幼稚園の時の呼び方に戻ってくれたから万々歳だ。お母さんもどうやら連絡を受けてきてくれるらしい。・・・丁度、お母さんと話したい事が二つほど出来たところだ。これからの事を、目線位の高さで()()()()()()()()()()()()二頭身くらいの小人たちの事を。




 すいません、前話がシリアスばっかでゆるーい感じになってしまいました。ごめんなさい。シリアスは長続きしません。疲れます。

 親友だからこそ言葉少なくても伝わるものもあります。

 あとこれから獣人種のクロスとか言っときながら微妙にずれていきます。どうかご容赦ください。出来る限り獣人種の延長という形でやれるようにします。


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第九話:想いを伝え、次に進む為の準備をする

 今回はかなり独自設定、独自解釈の強い話です。人によっては気分を害されるかもしれませんが、どうかご理解の程よろしくお願いします。

 非公開のだったユーザーを公開しました。生活常備薬第3類がクリック出来ますよ!活動報告で皆様に聞いてみたりするのでよろしければ返信をくださるとうれしいです。


 あの後、刑事さんと細身の医者が部屋から退出すると、残った快心さんは二言三言会話し帰って行った。どうやら本当にお見舞いに来てくれただけらしい。妖目は回復系の個性を使われたが一度で回復し過ぎるのも危険らしく、今日また回復してもらったらしい。・・・どうやら体力を酷く使うらしく、痛みはなくなったがかなり疲れたとのこと。部屋でのんびりとだべっていると扉がノックされる。俺が出ようとする前に妖目が返事をしたところ。

 

 「あら?妖目くん?」

 「お久しぶりです、荷物持ちますね」

 「ありがとう。丁度お腹空かせてると思って沢山持ってきちゃったから助かるわぁ」

 

 お母さんがやってきた、大き目の荷物袋に匂いと発言的に食べ物を持ってきてくれたのだろう。・・・持ち込んで大丈夫なのだろうか?一応病院食は栄養面で考えられている食事だ。下手に栄養が偏れば体にもよくないはず・・・。

 

 「持ち込み、ありなの?」

 「ちゃーんと許可は取ってあるわ、大丈夫よ。それに、まだ食べたりないんでしょ?」

 「そう、だけどさ・・・」

 

 何だかんだ13年・・・そろそろ14年か、家族一緒に暮らしていれば言わなくても伝わるもの、か・・・。うろ覚えだが一応転生者、もうそんなに今世を過ごしているんだなぁ。と考えているとお母さんは妖目を手招きしていた。

 

 「どうしました?」

 「ごめんなさいねぇ、お小遣い上げるから飲み物買ってきてくれないかしら?忘れちゃったのよ」

 「・・・えぇ、わかりました。俺もまだ診察費の支払いとかがあるので病院外には行けませんが」

 「ありがとうね、お茶でいいわよね?妖目くんの分もそれで足りるでしょう?」

 「はい、ありがとうございます。じゃ、行ってくるから大人しくしてろよ?」

 

 ・・・聞いたんだから一応返答くらい待ってほしい。妖目の言葉をスルーしつつ、お母さんには()()()()()と確信する。恐らくこの事の為に妖目を強引に追い出すような真似をしたのだろう。妖目は何気に人の事を良く見ているからな、恐らく自分の分を飲み切ってしばらく待つか、診察費の支払いを終わらせてから戻ってくるだろう。

 

 「さて、獣狼ちゃん。色々聞きたい事があるんでしょう?」

 「・・・うん、お母さん。この、小人、何?」

 「・・・やっぱり、見える様になったのね・・・。大分姿が私の知ってるのと違うけど、簡単に言っちゃえばその子たちは精霊よ」

 「お母さん、の個性、の?」

 「ううん、違うわよ?」

 「・・・え?」

 

 ・・・違うの?お母さんの精霊の個性の何かだと思っていたがあっさりと否定。どうやらそれなりに間抜け面を晒していたらしい。お母さんが素早くスマホのシャッターを切り、しょうがないと言う顔で教えてくれる。・・・ツッコまない、ツッコまないぞ・・・。

 

 「まずはお母さんの個性から説明しなきゃいけないわね。精霊っぽい事が出来るところまでは覚えてる?」

 「うん、小さい、時に、聞いた」

 「じゃあ・・・精霊っぽい事が出来るって言ってもどこまでできると思う?」

 「・・・?どこまで・・・?魔法、っぽい、事とか?」

 「うーん、半分正解!答えは他の精霊にお願いして色々出来る、よ」

 「色々?わから、ないの?」

 「出来る事が多すぎるのよねぇ・・・例えば・・・〈その荷物をこの机の上に運んで〉」

 〈はーい!〉

 「うわっ!?」

 

 お母さんが荷物袋を指さして机の上に運んで、と言うと複数の子供の声が聞こえると同時に()()()が3つ、荷物に付いたと思った時には独りでに浮き、机の上に物音を立てて落ちた。

 

 「こーら、物は大事に扱いなさい。それにその中身は食べ物なのよ?」

 〈おもいー〉〈ちょっときびしいー〉〈おなかすいたー〉

 「もう・・・はい、ありがとうね。今回の報酬よ」

 〈おかしー〉〈これすきー〉〈ばいばーい〉

 

 お母さんが手のひらサイズのお菓子を光の塊に渡すとお菓子を光の塊がお菓子に近づき持ち上げる。すると一斉に光の塊がお菓子を囲みお菓子が光に包まれたと思うと、次の瞬間お菓子ごと光の塊が消える。・・・13、4年過ごしている中で上位にランクインする程の驚きが襲う。

 

 「これが私の個性の真骨頂って訳ね。色々条件があるけど今みたいにお願いして、精霊が出来る事は出来るってわけ」

 「・・・チート、おつ」

 「そんなわけないでしょう。まず第一に精霊に好かれないと手伝いすらしてくれないのよ?しかも好かれる条件がその人の雰囲気なのよ?お陰でおばあちゃんはあんまり好かれてなくて荷物持ちすら一苦労なのよ?」

 「じゃあ、お母さん、モテモテ?」

 「モテモテって・・・まぁそうだけどね・・・後は今みたいに精霊の好きな物を対価に渡さないと手を貸してもらえなくなっちゃうわ。例外はあるけど・・・まぁ大体そんな感じね」

 

 うわぁ、すごいこせいだぁ。・・・え?じゃあ俺の目の前で浮いてるのって・・・。・・・これ、よく見たら寝てない・・・?

 

 「精霊、って言っても色々あるのよ。恐らくだけど獣狼ちゃんのイメージに引っ張られちゃったんじゃないかしら?おばあちゃんも精霊っていうより、妖精みたいな感じだし」

 「曖昧、なんだね・・・」

 「個性なんてそんなものよ。親から子へ受け継がれるもの、でも親と全く同じなんて実際は滅多にないのよ?」

 「詳しい、んだね」

 「私も何だかんだ個性で苦労したからねぇ。それに、今の言葉はなんと個性研究者のお父さんの受け売りなのです」

 「あ、お父さん、個性の、研究、してる、んだね」

 「・・・もしかして言われなかった?」

 

 うん。そういうとお母さんがあっちゃーと額に手のひらを当てる・・・あ、精霊出てきた。

 

 「あぁ、うん、大丈夫大丈夫、気にしなくて大丈夫よ」

 〈ほんとー?〉〈だいじょうぶー?〉〈ならいいかなー〉

 「・・・今の、って?」

 「・・・さっき言った例外、というかデメリットね・・・。好かれ過ぎると精霊が良かれと思って色々やっちゃうのよ・・・」

 「・・・それって、もしかして」

 「多分、想像通りよ。普通なら個性の不正使用でしょっ引かれちゃうわ・・・」

 「・・・普通、なら?」

 「そう、普通なら。何故ならしょっ引かれない為に一応ヒーロー免許持っているのです。まぁ、ヒーロー活動というより個性使ってもしょっ引かれない理由と時々のお小遣い稼ぎ。ってところだけどね」

 

 驚いた、お母さんがヒーローだったとは・・・予想外の幸運により少しうれしくなる。これならお願いが通るかもしれない。お母さんが手を叩き雰囲気を切り替える。

 

 「とまぁ、色々話が脱線したけど獣狼ちゃんの前に居る子たちは精霊で、これからのパートナーでありそして私の個性を一部とは言え獣狼ちゃんがちゃんと受け継いでいる証・・・と言ったら変だけど、そんなところよ」

 「証・・・」

 

 ・・・この人たちの子供でよかったと、今更ながらに思う。嬉しいさで心がいっぱいになる。・・・そして、ちゃんと勇気を出して伝えなければいけない。この想いを、俺がやりたいことを。

 

 「お母さん、言いたい、事が、あるの」

 「・・・うん、なに?」

 

 お母さんが俺の雰囲気が変わったことに気づいたのかちゃんと話を聞く姿勢を取ってくれる。深呼吸、心を落ち着かせて告げる。今回の事件の事を、もし今回と同じような事が起きても人を助けたい、もう目を逸らすことは出来ないと。そして。

 

 「お母さん、ヒーローに、なりたい」

 

 お母さんはじっと俺の目を見つめる。俺もそれを見つめ続けるとお母さんがため息を吐いた。

 

 「もう・・・獣狼ちゃんの事だからよく考えて決めたんでしょ?なら止められないじゃない」

 「!じゃあ・・・」

 「いいわよ、ヒーローになっちゃいなさい。でも、あんまり怪我とかして心配をかけちゃだめだからね?」

 「うん!!」

 「でも、その前にやることが色々とあるわよ?」

 「やる、こと?」

 「獣狼ちゃんの個性よ、ちゃんと調べて更新しなきゃいけないじゃない。今になって精霊が見えるってことは恐らく獣狼ちゃんの個性にはまだ不明な部分があるみたいだしね?」

 「あ」

 

 ・・・忘れてた。そうだ、更新しなくちゃいけないし。考えれば前世の知識にある獣人種とやれる事が同じだから個性は獣人。と気にしていなかったが、お母さんの話からするともしかしたら獣人種と同じではなく()()()()()()()()()()()()()()個性なのかもしれないのだ。

 

 「それじゃあ、早めに退院しちゃわないとね?やる事いっぱいよ~?」

 「うん。でも、その前、に。お腹、空いた」

 「・・・もう、しょうがないんだから・・・」

 

 ごめんなさい、お母さん。この後すぐに妖目がやってきて食事をとった後、退院手続きをして思ったより早く退院できた。細身の医者曰く「ベッドだって数は有限だ、お前みたいに元気な奴はさっさと退院しろ」だそうだ。




 前のアンケートがここに反映されるわけですね、83件も来るとは思いませんでした・・・!
 まぁ獣人種より出来る事があるからと言ってメリットだけなわけがないんですが。時間があればキャラ設定も更新しますが、気長にお待ちください。

 そして急ですが、次のアンケートです。獣狼のヒーローコスチュームを和風にするべきか中華風にするべきかで悩んでいます。一応サポートアイテムはもう既に考えてあるのでコスチュームだけのアンケートです。一応2日位を予定しております。


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第十話:想いを叶える為の修業タイムとロマン武器

 はい、修業タイムです。ですが格闘とかあんまり詳しくない一般ピーポーなのでこういう技術を教わったー位しか書けませんでした。ごめんなさい。

 久々にノゲノラを見たり読んだりしていましたが、やっぱり面白いです。そして記憶との大差がない事と、やっぱ人類種以外のチートっぷりがヤバかったですね。弱体必須です。大戦?読めません。涙で次が書けなくなるので。


 「どんな個性を持っているヒーローでも格闘技の経験はある。特にヒーローランキングに乗る人たちは全員格闘技を達人レベルまで鍛えている」

 

 と言う事で拳や蹴りを行う体の動かし方や着地時の力の分散、相手の攻撃の逸らし方や人間が何処を攻撃されると不味いのか。と言った体を動かす基礎を、お母さんからの紹介で丁度やることが無いからその期間だけなら。と快諾してくれた先生───あの事件でしばらく活動自粛をしていたワイヤード、本名鋼糸(こうし) (たばね)さんから教えてもらった。しかし肝心の型はというと。

 

 「うーん、反応が早いし身軽だな・・・下手に型に囚われるより基礎を鍛えて自分で型を作っちゃった方がいいかもね」

 

 結局のところ、こういった格闘技は個性発現前の人達が使う事を前提としている部分が多く、今回の俺の場合は型を覚えるメリットもあるが逆に型に囚われてその身軽な動きが阻害される事を考慮した先生が先ほど言った基礎だけを教え、後は大怪我を負わせる様な事は禁止以外ルールのない組手が始まった。勿論活動を自粛している為に先生は個性を使えなかったが、最初の方だと通常状態では一切有効打を与えられず、逆にこちらが転がされてばかりであった。しかし一月もすれば徐々に先生に攻撃が掠る事が増え、二月辺りでは先生と組手と言える様な形にはなったところで先生から提案があった。───武器を使った格闘に興味はないか?と。

 

 客観的に見て、俺は身長が低い。・・・しかしその分と言っていいのか、筋肉や骨の密度で太ってはいなく、寧ろちょっと細見なのに体重が重かったりする。少し話がそれたが、身長が低いという事は腕がその分短い、つまりただでさえ格闘戦という狭いリーチが更に狭くなっているのだ。それを危惧した先生が俺の成長性も鑑みて武器の使用を提案してくれたのだ。

 

 ここで武器をハイ決めて終わり。で終わればよかったのだが、そこでなんとお父さんが介入してきた。簡単にまとめると「俺だけ獣狼に何もしてやれてない!!」らしい。なんと個性研究の関係で繋がりのあるサポートアイテムを制作している会社───実際には個性研究とサポートアイテムとコスチューム作成を一緒に行っているらしい、コスト削減とか同じところでやる事で融通しやすくするんだとか───に見学をさせてもらえることになったのだ。勿論この見学には先生もついてきてくれた。・・・ちなみにそこが中学2年の秋に行われた会社見学会でお父さんが案内役でその時に驚かそうとしていた。が、お母さんのうっかりで事前に知ってしまい見事失敗していた。余談だが個性研究所の室長という案外地位が高い事に驚いた。

 

 そこでは個性を色々知っているお父さんが主導でどんな武器がいいか検討されたが中々決まらない。元々の身軽さを生かしたスピードで戦える短刀の様な武器からリーチを補う為の身長位の長さの棒、逆に防御に不安があると押し切られ盾とか他にも様々な色物を使わされた。・・・これ、良いように武器の実験されてない?

 

 そんな先生も含めてあーでもないこーでもないと騒いでる中から抜け出し、何かいいもの無いかと様々な武器やアイテムの数々(悪ふざけの産物)をあさっていると、一番しっくりくる表現がひし形を下だけ伸ばした様な───大体一番長いところで俺の足から胸位の長さで厚さがギリギリ掴めるくらい、横幅は肩くらいか?───金属の物体が鎮座していた。それに手を伸ばし、掴んだ後持ち上げてみると“それなり”に重い。・・・俺は自慢ではないがかなり力がある。人をチビだからと脅そうとする身長が1.5倍近くある異形型ですらやろうと思えば持ち上げられるのだ。その俺がそれなりと思う、つまり異形型や増強系ではない一般人には持ち上げるのすら一苦労だろう。

 

 その重さに逆に面白いと色々観察してると軽い金属音と共にひし形が中央から真っ二つに分かれる。一瞬で毛が逆立ち落としそうになるものの何とか落とさずに済む。壊しちゃったか?と断面を確認していると、どうやら元々二つの物を一つにしていたらしい。更に観察していると何か見覚えがある形をしている。ひし形だった時の下の部分にかなり頑丈そうな留め具、横からよーく見ると何枚も金属の板を合わせたようで、前面と背面の間の板は少し小さめであった。なんだったろうか・・・と考えていると後ろから誰かが近づいてきた。

 

 「おー、それ、気になるッスか?」

 「これ、知ってる、の?」

 「知ってるも何もそれの製作者ッスよ、どうです?やっぱり重いッスか?」

 「二つ、一緒、は、それなり。一つ、は、そんなに」

 「おぉ・・・まじッスか・・・じゃあそれ、使ってみたくないッスか?」

 

 瓶底眼鏡を付け、口には飴を舐めているのだろう。みかん系の甘い匂いがする髪の毛を全部後ろで縛っている作業着を着ている男性に話しかけられたと思ったら製作者で使わせてくれるそうだ。しかし。

 

 「これ、何か、わかん、ない」

 「あぁ!確かにそれじゃわかんないッスね。元にした物より大きさも重さも段違いッスから」

 

 そこを親指と小指で挟んで、掴んだまま小指を下に、親指を上に力を加えるとわかるッス。反対側も同じようにするッス。と言われた通りにまずは右手でやってみる。すると金属音と共に二つに分かれた金属の物体の片割れが()()()()。その様子に驚いて作業着の男性を見ると、流石に金属音で気づいたのか先生やお父さん、他のアイテム作成者の人々が驚愕の目でこちらを見ている。その驚きが伝わったのだろう。作業着の男性は悪戯に成功した子供の様に笑うと答える。

 

 「そう、それが僕の作った色んな状況に対応出来る万能()()ッス」

 

 名前はまだないんッスけどね。と苦笑いする男性。しかし俺はその言葉に納得と今世ではあまり感じなかった胸の高鳴りを感じた。これはそうだ、前世の子供のころ誕生日前になるとワクワクで落ち着かなくなるような。遠足や遠出の前日に眠れなくなるような。そんな気持ちのままもう片方も開き、そして両方を閉じる。

 

 「これ、使って、いい?」

 「勿論良いッスよ。最近の増強系の人たちは殴る蹴るが多くなって全然そういうのに興味を示してくれないんッスよ。試験場に行くッス、そいつの機能やその使い方。知りたいッスよね?」

 

 その言葉を待っていたと笑顔で返し、そのまま試験場に向かう。あぁ、まさかロマン武器の鉄扇に出会えるとは・・・!しかも色々機能がある?頬が緩む、口角が上がるのを抑えようとするも抑えきれていないだろう。鉄扇を抱きかかえながら作業着の男性の後に付いていくとポカンとした表情の人たちを目にするが、今はそれよりもこっちがいいとスルーして試験場に向かった。

 

 「・・・大きい武器を抱きかかえて満面の笑み作ってるのに必死に隠そうとするけど隠せてないし尻尾で完全にモロばれしてるケモミミっ子がめっちゃエモい」

 「わかる」

 

 その後、4()()()()()を確認した後これにすることを決めた。これなら俺の抱えている問題点や逆に利点を伸ばせると判断したからだ。決してロマンに惹かれたわけではない、決して。ちなみにこの後、俺の身長から見て大きい武器を持たされ、動画に残しておくと改善点などが分かって便利だ。と言われ撮影されたり、部屋の中で何故か稼働していたカメラに満面の笑顔を動画で撮られ、お父さん経由でお母さんに渡った。・・・年齢的には間違いではないのだろうけど・・・恥ずかしい・・・。




 獣狼の筋力は障子が体育祭で幾ら小さい身長とは言え同級生を二人も背中に乗せて普通に行動できている事から、増強系ならいけるのではないかという考えです。ただまぁ未血壊時だと腕力は“複製腕”込みだと普通に障子に負けます。逆に障子よりスピードがある感じですね。

 ・・・はい、ごめんなさい。武器とかかなり優遇してますよね・・・。でも雄英に入ってからだと扱えずに純粋に殴る蹴るだけになって単調になっちゃうのでは?と思った次第です。一応他にも理由を考えて居たりと、考えなしではないです。


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第十一話:狭き門に挑む者

 下手に描写してボロが出る前にどんどん進めていきます。


 早朝の肌寒さと薄暗さの中走る。今日は大事な日でこんな事をしている場合ではないかもしれないが、逆にやらないと落ち着かないので何時もの様に走り、公園に付く。と同時に()()()()()()()()()()()()()───俺とそっくりな髪型と顔立ちで、神主さんが着ている衣装の袴を各々が赤色、青色、緑色で区別した和服を着た───が3人現れた。

 

 〈融合に問題なしー〉〈体も問題なしー〉〈我らの備蓄も問題なしー〉

 「うん、ありがとう。甘いの、後で、上げるね」

 〈わーい〉〈獣狼さすがー〉〈これがあるからやめられねぇぜー〉

 

 小人たちは感謝を述べた後、胸の辺りにするりと()()()()()。彼らは中学2年夏の事件の時に現れた精霊たちであり、現れてからずっと眠りっぱなしであったが中学3年、春の始業式から帰宅すると自室に置いた小さいクッションの上で眠っていた精霊たちが目覚めた。・・・このまま眠りっぱなしではないかと不安ではあったが、目覚めてよかった。

 彼らに何故眠りっぱなしだったのか聞いたところ。なんでも血壊の精霊を暴走させて強化する方法はやはり体に負荷がかかる代物で、しかも幼少の時は発動してすぐ終わったからまだしも今回は2~3分とは言え発動した。更にそこへ今まで俺が精霊を認識出来ていなかったから精霊への備蓄・・・つまりエネルギーがギリギリだったのに、俺の為に失われるはずのエネルギーを彼らの備蓄で何とか補ったが血壊で備蓄が底をつきかけて眠り続けていたそうだ。話を聞きすぐに感謝と謝罪を行い、俺に何かできる事は無いかと聞いたところ。

 

 〈それならー〉〈甘いものー〉〈パフェがいいねぇー〉

 

 と言ったかと思うと胸の辺りにふよふよと浮かび上がり、そして俺の中に入っていった。ビックリして服を脱いで確認すると胸の中央・・・心臓の真上辺りに今までは無かった赤い模様───細い線で円が描かれ、円の中には丸まったキツネの様な物が描かれていた───が現れていた。すると突然頭に響いてくる声が聞こえてくる。

 

 〈出発ー〉〈甘いのが無ければー〉〈お肉でもいいぞー〉

 「!これ、どう、なってる?」

 〈我らは物に干渉できぬー〉〈でも獣狼に宿ればー〉〈干渉出来るのさー〉

 「つまり、これで、俺が、食べれば、いいの?」

 〈そういうことー〉〈宿っている間はー〉〈エネルギーだけがこっちに来れるー〉

 「エネルギー、だけ?」

 〈食べたものはなくならないー〉〈エネルギーを貰うか否か選べるー〉〈味もわかるから良いの頂戴ー〉

 「わかった、相談、してくる」

 

 そして、お母さんに精霊が起きた事、胸の模様や精霊が宿る事、そこから物に干渉できないから代わりにエネルギー補給をしたいため甘いのを沢山食べなければいけないと言うと。お母さんはしょうがないわねと言い和菓子や洋菓子を用意してくれた。どうやら精霊ごとに好みが違うらしく、食べ比べをすると良いとの事。結果、どうやら洋菓子を気に入った様だ。・・・お肉も食べてみたものの、好評ではあったが胃に溜まるのであまり良くないという結果に落ち着いた。ちなみに、お母さんは精霊が右手に宿っており、白い小さい人型が三角形を作っていた。

 

 ここからが忙しかった。個性の更新の為何が出来るかを再検査されたものの、精霊は検査機では精霊が測定できず、しかし確かに存在しているが目に見えて何かが出来る訳でもない。という事で前と変わらず獣人だそうだ。・・・だったら検査しなくてもよかったのでは?と思ったが、こういったところでちゃんと調べておくのは悪くないという事でしょうがないと諦めた。

 

 家の中でなら出てきても良いが、外に出るときは必ず融合───宿っている部位に戻る時に精霊が言っていた。───を行う事と、味を楽しむのは良いがエネルギーは勝手に持って行かないというルールを決めたところ快諾。聞いてみると今回は特別沢山必要なだけで、ちゃんと認識出来てる今ならちょっともらうだけで普通に過ごす分には問題ないとのこと、しかし血壊を使うのならそこそこ寄越せと言われた。

 

 変わらなかった事もあれば変わった事もある。先生の自粛期間が終わりヒーロー活動に戻ったからだ。先生は最後に訓練メニューと武器の扱い方とその練習道具をプレゼントしてくれた。・・・本当に最後まで先生には頭の下がる。ここまで期待されたんだ、しっかりヒーローにならなければいけないな。

 

 中学3年は妖目や快心さんと同じクラスになり、何だかんだ一緒で嬉しかった。・・・でも、快心さんあの事件から色々距離感間違えてるよなぁ。ペット扱いはもういいとしてもちょっと近すぎる・・・。

 とまぁ、中学3年は2年の時よりも妖目や快心さんの繋がりで他の人と関わることが多くなった。お陰で毎日が楽しかった。

 

 今の時間は午前6時、家に帰って準備をしなくちゃな。と運動を切り上げて家に帰ると少し時間をかけて汗を流し朝食を取る。

 

 「獣狼ちゃん、いつもより気合が入っているわね?」

 「うん、大事な、日だから、ね」

 「うむ!良い事だ!お父さんも研究発表のある日はいつもよりも───」

 

 お父さんの声をいつも通り聞き流し、食事を終え部屋に戻る。中学の制服に着替えると体操着を用意し筆記用具がちゃんと使える状態なのを確認した後、カバンの中に体操着を詰めた後に筆記用具を入れた。カバンの中には既に受験票が入っており準備は完了だ。財布とスマホも忘れずに制服の内ポケットに入れた後玄関に向かう。

 

 「獣狼ちゃん、行ってらっしゃい」

 「行って、きます」

 

 今日は大事な日、雄英高校ヒーロー科の入試日であり想いに向かって更に一歩進む日だ。




 次は入試、つまり原作入りですね!正直結構長くてダレてるのではないかと不安ですが頑張って書いていきます。

 キャラ設定も少し更新しました。よろしければ見て行ってください。


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第十二話:狭き門通りたくば英雄に至れる証を示せ

 原作ですよ!原作ゥ!!長かったですねぇ、時間かかりすぎですよね、ごめんなさい。

 アンケート衣装決めが和服になりましたよ!前回83人に回答をいただけましたが、今回は184人の片にも回答がいただけました!ありがとうございます。

 精霊の容姿を書き忘れてました。前話の冒頭に加えましたが、見るのが面倒な方は簡単に言えばデフォルメし三頭身になった獣狼です。



 筆記試験も難なく終わり、自己採点でも上位は確実に取れているだろうと確信出来ている。周りには既に移動を開始している受験生も居る中、筆記用具をしまうと同時にカバンの中からキャラメルを一粒取り出し口に含む。周りの生徒に合わせる様に移動を始めると同時に()()()()相談を始める。

 

 〈あまいー〉〈ふぉぉぉぉー〉〈みなぎるぜぇー〉

 (みんな、備蓄の方はどれくらい余裕がある?)

 〈連続は無理ー〉〈大体5分くらいー?〉〈長く暴走したければ寄越せー〉

 (十分だからこれ以上はダメだよ)

 〈〈〈はーい〉〉〉

 

 頭の中の会話はお母さんから教わった方法だ。なんでも「流石にやばい人に見られたくない」との事。しかしとても同意出来る事だったので有難く使わせてもらっている。

 

 精霊たちに備蓄の余裕を聞いていると、雄英高校ヒーロー科試験説明会場と立札がある部屋に着いた。どうやら迷わないよう近い部屋で説明をしてくれるらしい。受験番号で席が決まっているらしく、受験票を確認し自分の席で待っていると部屋が暗くなる。説明が始まる様なので聞き逃さないよう意識を切り替えると金髪を上に逆立てて首にスピーカーの様な機器を付け、革ジャンを着た男性が立っていた。前の方で聞こえたボソボソ声からプロヒーローの有名な人だと知る。・・・前までヒーローには興味なく、聞き流していたり修業を始めてからは忙しくて天気予報やニュースくらいしか見ていない。後で雄英高校に在籍しているヒーロー位覚えておかないと不味いな・・・。

 

 テンションの高い彼、プレゼント・マイクの説明は簡単。

 

・受験票に書かれた演習場の仮想ヴィランを10分以内に倒してポイントを稼げ。

・1~3までのポイントが割り振られた3体と0ポイントの1体で構成されている。

・他の受験生に攻撃を行う事は禁止。

 

 途中で横やりがあったが配られた資料通りであった。多数配置されている、という事は他の生徒との奪い合いになるのだろう。一部気になるところがあったが、概ねルールが分かったので良しとしよう。・・・恐らく、考えが正しければ言わない方が良いと思ったからだ。

 

 最後にプレゼント・マイクから雄英高校の校訓Plus Ultra(更に向こうへ)とよい受難を願われ、更衣室で準備してきた体操服に着替えたのち演習会場Dへバスで向かう事になった。・・・その時少し騒ぎになったが気にしない、中学でも似たような事があったからである。

 

 程なくして演習会場に付いたが・・・。これもう大きさが街じゃない?流石トップヒーローを輩出している雄英と言うべきか、その経済力に呆れればいいのか・・・準備運動をし万全の状態で待機していると、スピーカーが起動する微かな音を捉える。そろそろか、と判断しスタートの用意をすると。

 

 『はいスタート』

 

 平坦な声と共に門が開く、いきなりの事で思考が止まる。スタート?もう始まった?とりあえず行けばいいか、と無理やり思考と体を動かす。周りは未だ声の意味が分からずに塀の上部に設置されているスピーカーに注目していたようだ。

 

 『ほら、さっさと行く。時間は有限だぞ』

 

 その言葉に既に後ろの方と言っていい他の受験者たちが動き出す。やっぱり始まってたのかと判断が正しかった事に安堵しつつ、非情だが他より先に進めているアドバンテージを無駄にはしないために、門をくぐり市街地に突撃した。

 

 市街地では本当に今からでも人が住める様な完成度で、流石にお皿とかは無いだろうが椅子や机などの大型の備品は確認できた。近くの方でモーターの駆動音を捉えるとそこに向かう。そこには緑色に塗装され一輪でバランスを取り、腕には盾の様なパーツと大きく書かれた1という数字。しかしよく見ると盾の裏にはガトリングの様な機構もあるので注意が必要だろう。その推定1ポイントの仮想ヴィランが3体こちらに突っ込んでくる。

 

 『『『標的補足、ブッコロォス!!』』』

 「うわ、はも、ってる」

 〈きゃー〉〈怖いー〉〈お助けー〉

 

 ・・・精霊たちは呑気だなぁ。と呆れつつも()()()()()()()1ポイント仮想ヴィランによし、とこちらも格闘戦のために突っ込む。

 一番前に居た仮想ヴィランが大きく腕を振りかぶり、大きくこちらに盾を突き出してくる。・・・わかっていたけど、その銃火器使わないのね・・・。若干呆れつつも、殴られるつもりはないのでしゃがんで避ける。頭上で盾が通り過ぎるのを感じると同時にしゃがんだ勢いを使い軽く宙返り、そのまま縦の回転蹴りを仮想ヴィランの腕の関節部に叩き込むと簡単にばらばらになる。・・・あれ?あんまり痛くないどころか脆い?するともう撃破判定として十分なのか、一輪のタイヤが止まり盛大に転げ回る。

 その事に驚きつつも他2体の仮想ヴィランも大ぶりの近接攻撃なのでそれを避け、それぞれ胴体や一輪のタイヤを蹴ると両方とも見た目に反し簡単に壊せた。・・・1ポイントだから脆いのか?そう思い次の駆動音がする場所へ向かう。

 

 他の仮想ヴィランも特に問題なかったどころか割と柔らかかった。流石に3ポイントは普通車くらいの大きさで面倒だった為に胴体の部分に仮想ヴィランのパーツを突き刺して動きを止めた。・・・まじかコイツって顔しないでくれ、下手に攻撃すると腕や足が突き刺さるんだ・・・。そんな事を繰り返していると()()誰かの叫び声が聞こえてくる、・・・仕方なく、目の前の仮想ヴィランを他の受験生に譲りつつ、声の方向に走る。

 そこでは何の個性かわからないが恐らく中遠距離の個性なのだろう、腰を抜かせた男子が1ポイント2体とその間に居る2ポイント1体に壁際に追い詰められていた。流石にあれでは仮想ヴィランを倒すのは無理だろう、という判断で相手がこちらを見ていない事を良い事に2ポイントの背中に落ちるよう飛び上がる。・・・こいつら、特に2ポイントは視野が広いのか真後ろじゃないと大体反応される、なので奇襲の為に上を取る。着地の衝撃を2ポイントに全部叩き込み四脚がもげると同時に2体に気づかれるが遅い、右の一体をしゃがむと同時にその場で回り勢いをつけてタイヤに足払いをする、すると盛大に1ポイントが壁とは反対側に転んで動きが止まる。しかし音で後ろから盾を振りかぶっているのを察知し、しゃがみ状態から上にジャンプすると足元に盾が通過し1ポイントの胴体が来た。・・・丁度いいやとそのまま踏みつける。すると予想外の重さに2ポイントに重なるように倒れ動きが止まった。・・・これ、女子ならキレるだろう案件だなぁ。

 

 「あ・・・ありがとう・・・助かったよ・・・」

 「別に、良い。気を付け、てね」

 

 変な事を考えていると男子からお礼を言われたので、気にしてない事と次は助けられないかもしれないから注意するよう言う。あまり長居するのもよくないという事で、さっさとその場から離れ次の仮想ヴィランを探す。・・・気になるのは0ポイント、今まで一度も出会っていない。やはりプレゼント・マイクの発言からすると・・・。

 

 そこまで思考していると電線が切れたのか鞭がしなる様な音、そして轟音。他の受験生たちもそちらに注目していると、ビル程の高さに上がった土煙の中から巨大な影が見える。軽い地揺れと錯覚させる振動とキャタピラの駆動音、そしてこちらを物理的に()()()巨大なロボット。言われなくても分かる、コイツが0ポイントだと。周りの受験生は錯乱しつつも0ポイントから反対方向に逃げだす、俺も流石にあれをぶっ壊すのは骨が折れるので離れようとするとキャタピラの音に紛れていたが、しかし聞こえた。誰かが転ぶ音と小さい叫び声を。

 

 咄嗟にその音が聞こえた方向───0ポイントの方に走る。周りが驚愕の目で見てくるが関係ない、誰かがアレの近くで逃げ遅れている。音がしたと思われる場所に近づいたが誰もいない、聞き間違いか?と思っていると近くで呻き声がした。

 

 「誰か、いるの!?」

 「こ・・・ここだよー!足をくじいちゃって・・・」

 

 突然空中にがれきが浮かび左右に揺れる。ビックリしているとそこに人の匂いがした、それを頼りに近づくと突然()()()()ところで躓く。なんだ?と思っていると。

 

 「いったーい!ここだよここ、ここ!」

 「!?透明、人間?」

 「そうだよー!動けないからできれば助けてほしいかなーって!」

 

 驚いた、今まで過ごしてきた中でベスト10に入る驚愕を覚えてたがそんな事をしている場合じゃないと助けようとするが、何処に何があるかわからない為、仕方なく。

 

 「ちょっと、砂、かけるよ!」

 「え?わひゃぁ!」

 

 これで少しは見える、どうやらかけたのは背中らしい。・・・これ、もしかしなくても全裸?あんまり考えないようにしつつ、声のする女子を肩に担ぐ。

 

 「ちょっ!?もうちょっとしっかりした担ぎ方は無いのー!?」

 「ごめん!でも、背が、低い、から、こうしない、と、担げ、ない!」

 

 ・・・全裸の女子を肩に担ぐ・・・ヒーローを目指してるのに犯罪っぽい事態が精神的に辛い・・・。そんな事を思いつつ、モタモタしている間に近づいてきていた0ポイントから逃げる。しかし0ポイントもただでは逃がしてくれないようで、腕を伸ばし近くのビルを破壊してこちらに近づく。

 

 「いたたっ!がれきが!背中に!」

 「我慢、してっ!」

 

 もう少しで逃げ切れる。そう油断したからだろう、真上から大き目のがれきが降ってくる。不味い、そう思った瞬間。

 

 「うぉぉぉぉぉぉおりゃぁぁぁぁぁ!!くっ!」

 

 体から尻尾の様な物が生えた受験生ががれきに尻尾を叩きつけると軌道を逸らしてくれた。しかし無茶をしたのだろう、尻尾からは少なくない血が出ている。

 

 「おい!大丈夫か?」

 「怪我した、透明、な女子を、担い、でる!代わって!」

 「え?あ、あぁ!わかった!」

 

 そういうと尻尾の生えた男子は上着を脱ぎ、女子に被せるとそのまま横抱き───通称、お姫様抱っこ───をし、俺が立ち止まった事で男子が逃げようとしていた足を止める。

 

 「どうしたんだ?早く逃げないと巻き込まれるぞ!」

 「悪い、けど、ちょっと、やる事、出来た」

 「やる事って・・・」

 「あれ、壊して、来る」

 「え、壊すって・・・ちょ!」

 

 話を途中で切り上げ0ポイントに向かって走る、丁度他の受験生が壊したのか街灯が倒れているのでそれを使う事にする。久々の全力、どれくらいやれるか試さない手はない。

 

 (やるよ、準備して)

 〈おぉー〉〈全力ー〉〈燃えてきたー〉

 

 息を吸う、何度か使ってきたものの高揚する精神を落ち着かせて練習通りやればいいと、全力の為の言葉を紡ぐ。

 

 「血壊

 

 何度か練習したが未だにこの感覚が拡張されていく事に若干の心地よさを感じてしまうがそれを無視、()()()()()()()やり投げの要領で0ポイントの頭に狙いを定め、軽く走ったのちに。

 

 「いっけぇっ!!」

 

 空気を割く音とその重さを感じさせずに0ポイントの頭に飛んでいき、金属が裂ける音と共に着弾。大きくのけ反った0ポイントは動きを止めると同時に。

 

 『終了だ。負傷者は医療班が来るまで待機、後は入口に戻れ。』

 

 サイレンの音と共に入口で聞いた平坦な声が終了を告げる。終わったと認識し少し荒くなった呼吸を整えつつ血壊を解除する。流石にあの事件よりかは制御出来てるし、倒れることも無いな。頭の中で精霊たちに感謝を告げると放送で言われた通り入口に戻った。




 尾白と葉隠を出しちゃいました。・・・別に問題ないよね?街灯ってやばい重さ見たいだけど、空中蹴って移動できるスペックならいけるでしょ。という事で投げました。石は投げないでください。

 プレゼント・マイクって0ポイントのヒントくれてるんですよね。0ポイントがフィールドを所狭しと表現している事。つまり0ポイントは街の中で所狭しと行動するような巨体である、という事ですよね。わかってたらある程度冷静に判断できるかなーと思い獣狼はあまり慌ててません。

 ぶっ壊したのも理由はあります。多分次辺りで解説するので言えませんが・・・。


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第十三話:篩に掛けられ残った有精卵たち

 タイトルからわかる通りプロヒーローの先生たちです!ところでプロヒーローとヒーローの差って何でしょうね?ヒーローをメインの職にしてる人たちとかですかね・・・?

 話が変わりますが、オールマイトが合格通知を知らせる時のホログラムのOKって声とメイトリクス大佐のOKって声そっくりですよね。

 街灯の重量に関してはググって出てきたの参考にしてます。重いの投げたって思ってくださればいいです。


 壁一面に設置されたディスプレイの明かりだけが部屋を照らす。部屋の中に居る者達は時折私語を挟みつつもそれを咎めない、何故ならこの程度の私語など問題足りえないからだ。───ヒーロー、しかも雄英高校に在籍しているプロヒーローたち。様々な経験を積み少なくない危機を校訓であるPlus Ultra(更に、向こうへ)で乗り越えた名実共に本物たちである。

 

 そんな彼らはディスプレイから目を離さない、彼らは実技試験の受験生を“審査”してるからだ。しかしそんな彼らも実技試験の結果を出し終え、一息ついている。画面には自分たちが審査しランキングトップ10の10名が映し出されていた、そうなると気になった受験生の話が出てくるのも当然であり、各々がその受験生の話題を出す。

 

 1位の爆豪(ばくごう) 勝己(かつき)。爆破という強力な個性に後半になり他の受験生がペースダウンする中それでも戦闘を続けられる圧倒的なタフネスからくる戦闘持続能力。ヴィランポイント77、レスキューポイント0という凄まじい結果を出した。

 8位の緑谷(みどりや) 出久(いずく)。序盤の動きは悪かったものの、無駄と知りつつも逃げ遅れた受験生を助ける為に大型ヴィランに立ち向かい、文字通り()()()()()()。しかし個性が制御できていないのか、両足と右腕が酷い有様になると言う今の年齢では考えられない状態になっていたものの、その自己犠牲の精神は既にヒーローと言えるだろう。ヴィランポイント0、レスキューポイント60という1位とは真逆の結果を出した。

 

 「それではみんな!前年に発表した通り。今年は試験的に推薦4名、一般入試()()()の合計41名で頑張っていこうじゃないか!」

 

 語尾が上がるかなり特徴的な声。彼の名は根津(ねず)、雄英高校にて校長を務める()()()()()()()()()()()()。・・・名前からネズミなのだろうが、真相は謎のままである。その声に不満はないのか周りのヒーローたちは頷くことで回答を返す。ただ一人を除いて。

 

 (Aクラスは21人か・・・校長の理由、オールマイトの活動限界が間近なため試験的にではあるが人数を増やして少しでも多くのヒーローを育てる事は多少思うところがあるものの、問題はない。だが・・・)

 

 画面に表示されたトップ10を、その中で一際変わり種のポイントをしている8位をにらむ。

 

 (見込みがなければ切り捨てるまでだ・・・)

 

 彼の頭の中に1-Aで行う最初の試練が決まった。

 

 

─────

 

 

 試験の後、透明人間の女子に捕まりお互い入学していたらの条件で約束を取り付けられてしまったが・・・。まぁ問題無いだろうと判断する。何故なら雄英高校ヒーロー科は倍率300倍を誇る圧倒的に狭き門、同じ科に入らなければ早々出会う事も無いだろうと高を括り、合格通知がそろそろなので少し落ち着きなく自宅で待っている。中学の方もそろそろ終わりかぁ・・・。最初は短かったのに、2年になってから一日一日が楽しかったなぁ・・・。

 

 思い出すは妖目にデマを流されて酷い目にあい、快心さんに動物扱いされ、それを見ていた他の女子が介入してきて、テロが起きて、修業をして、変なアイテムの実験台にされ、快心さんの距離感が近くなり、文化祭では快心さんに女装させられ、修学旅行では何故か一人部屋に一人風呂、お父さんの職場の人たちに髪を伸ばして撮影され・・・。・・・ゴメン楽しかったって言いきれなくなったよ。主に快心さん。

 

 いつかいい思い出になってくれ。と考えるのをやめ、試験の事を思い返すことにする。試験の前の説明では仮想ヴィランと言っていたが、もしも本当に撃破数を競う試験なら“仮想ヴィラン”と言う言い回しはしないのではないか?という点である。ヒーローの役割、それはヴィランを退治することと()()()()()()である。

 つまりこの試験はヒーローとして戦闘力以外もヴィランから人を助ける事も見られているのではないか?と考え付いたのだ。大型ヴィランを破壊したのもその一環で、ヒーローがヴィランから背を向けて逃げるのは問題だと思ったためである。

 勿論思い過ごしかもしれない、しかしもしそうならヴィランポイントを稼いでないので酷い事になってしまうのだが・・・。大丈夫だと思う、寧ろ落とされたなら俺の目指すヒーロー像と違うから別のところに行けばいいや。などと少し自棄を起こしていると玄関から金属音と紙のこすれる音。すぐさま玄関に向かうと合格通知にしては小さめのサイズの紙が落ちている、持ち上げてみると中には何か金属製のものが入っており反対側を確認してみると、紙の右下に雄英高等学校の文字とUとAを組み合わせた特徴的な校章が描かれた赤い封印で止められていた。

 

 急いで部屋に戻り、カッターで封を切る。・・・慌ただしかったのか、精霊たちがこちらに近寄ってきて興味深く眺めている。

 

 〈通知ー?〉〈やっときたー〉〈我らの勝利報告だー〉

 「いや、まだ、決まった、訳じゃ、ないし」

 

 中を開けてみると小さな機械が机の上に転がる。なんだろうと見ていると突如大人気ヒーローであるオールマイトが浮かび上がった。・・・突然はやめて欲しい、毛が逆立ってしまった・・・。

 どうやらホログラムで内容は今年から雄英に勤める事、そして筆記の合格とヴィランポイントが少なかったがその分を軽く補えるレスキューポイントを手に入れて同率3位とのこと、そして最後に。

 

 『文句なしの合格だ。来いよ、回精少年。ここが君のヒーローアカデミアだ!!』

 

 ・・・そのセリフは少し卑怯だ。俺でも知っているナンバーワンヒーロー、オールマイト。そんな彼に合格と言われる。来いと言われる。自分がちゃんと夢に近づいているんだと実感し頬が緩む。

 

 〈獣狼よかったねー〉〈我々の勝利だー〉〈ドン勝ドン勝ー〉

 「ありがと、お祝い、だね」

 

 こうして、俺の進学先が決まったと同時にヒーローとして進んでいくことが決まった。雄英のヒーロー科に行くことが決まったとお母さんが知ったら喜び、お父さんは何故か安堵していた。聞いてみたがはぐらかされたため深く追求しない事にした。・・・何か俺がヒーロー科に行かなきゃ不味い事でもあったのだろうか・・・?




 はい、A組21人です。だってみんな魅力的なキャラですよ!?切り捨てられません。

 根津校長の表向きはオールマイトの活動限界、と言っていますが実は一応後継者候補を用意しているものの、少しは選択肢を広げてあげようとした親切心です。すれ違ってますね。


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夢のスタートラインに並ぶ者達(原作開始)
第十四話:最初の壁を越えて行け


 いやっほぅい原作ゥ!今まで長かったですね!でも見てくれてありがとうございます。

 遅れましたが、誤字報告ありがとうございます。

 見直してみるとここ回想とか過去語りでもよかったのでは?と思ったりしましたが止まらずに行きます、その先に完結があるので。

 今回遅くなってしまったのでついでに投稿日時設定というのを試してみます。


 いつもの日課をこなし汗を流してから朝食を取る、何時もの光景だが今日は違う。はやる気持ちを抑えていたものの、いつもよりも早めに朝食を終え自室に入る。昨日の夜に準備していたから通学途中であれが無いこれが無いなんてことはない、必要な物は全てカバンに入っているし、新しい制服もちゃんとハンガーにかかっている。

 制服に袖を通す、若干大き目で袖が手の甲の半ば辺りまで来ていたり股下が少し余るが問題ないだろう。・・・結局、中学の間はあんまり身長が伸びなかった。妖目はとうとう170の大台に乗り快心さんも160台に到達していた、つまり俺だけ置いて行かれたのである。快心さんは逆に「このままでも全然いいよ!」なんて言っていたが流石に高校生にもなって140より下なんて格好がつかない。

 そして何時も通り()()()()()伸びた髪の毛と尻尾にブラシを通し手入れをする。・・・だって、お父さんの職場の人たちが「髪の毛を伸ばして撮影させてくれたらお小遣い上げる!」と言いお小遣いにしては多めの金額をくれたのだ。その後辞めようと髪を切ろうと相談した時にあーだこーだ押し切られそうだったので妥協点として髪の毛を肩辺りまで伸ばしている。

 姿見で何処かおかしくないかと確認した後お母さんとお父さんに見せに行く。

 

 「獣狼ちゃん、似合ってるわよ。はい、ちーず」

 「うむ!制服に着られていることも無く問題はなさそうだな!私も───「あなた、今日くらいは短く」う・・・うん・・・。ちゃんと似合ってるぞ!獣狼!!」

 「あり、がとう。いってき、ます!」

 

 若干我が家の力関係が露呈したものの、いつもの事なのでスルーする。今年は知り合いがゼロの状態で始まるんだ、自分一人の力でクラスに馴染まないといけない。しかし不安はない、と言えば嘘になるがそれでも今年こそは自分から友人を増やすんだ!そう意気込み、家から出て駅に向かった。

 

 

~~~~~

 

 

 駅に到着し電車に乗り目的の駅で降りてバスに乗っている。しかし嬉し恥ずかし胸躍る新学期だと言うのに恐らく俺の表情はそれに合わないほど不機嫌と表していい表情をしているだろう、何故なら。

 

 「怒らないでよ獣狼、こっちとしてはサプライズのつもりだったんだよ?」

 「ごめんね?喜んでくれると思ったんだけど、ここまで不機嫌になるって思わなくって・・・」

 「むー・・・」

 

 そう、こいつら二人(妖目と快心さん)が俺に一切、雄英高校の経営科に二人とも受かったのに教えてくれなかったのだ。確かに二人が一緒の高校なのは嬉しいが、だからと言って全て黙っているのは酷すぎる。どこに受かったか聞いてもはぐらかされるから割とこっちは心配したのだ。バスには他の生徒も乗っており、奇跡的に快心さんと俺が座れている。・・・何か、こう、小さい子供に譲る様な雰囲気だったのは無視しよう・・・。

 そうこうしているうちにバスが止まり、他の生徒と一緒に降りると校門が見える。前は受験生としてくぐった、今年からは生徒として門をくぐるんだ。

 

 「ごめんね?でもこれからも科は違うけど同じ高校に通う仲間だよ!」

 「快心、さん。大丈夫、もう、怒って、無いから」

 「獣狼、また後でね?今年こそは僕抜きでも友達100人、増やすんだよ?」

 「小学、生かっ!高校、生だ!!」

 「あははは、ごめんごめん!・・・でも、無理すんなよ」

 「わかって、るよ。親友」

 

 言わずとも横並びの状態で拳と拳の甲を叩き合わせる、快心さんがしょうがないなぁ~って顔してるがカッコいいじゃん、こういうの。

 ───なお、この場面をとある女教師に見られ青春してると悶えさせてたのはどうでもいい話だろう。

 

 

~~~~~

 

 

 下駄箱で二人と別れ、数人と一緒の方向に歩きだし1-Aを目指す。すると1-Aと書かれた学級表札と自分の数倍近い大きさの扉を発見する。・・・個性の問題で大きい方が都合がいいのだろうけど、背が低いと使いづらそうだな・・・。すると、顔を半分を隠し白寄りの灰色の髪が片眼を隠した腕が沢山ある背の大きい人もどうやら1-Aの様だ。これはチャンスなのでは?自分から話しかけて円滑なコミュニケーションをとり友人を増やす、完璧だ。善は急げと当たり障りのないように話しかける。

 

 「君も、1-A?」

 

 するとこちらを向き、目線を下げて少し目を見開いた。・・・その反応はもう慣れた、俺には無駄だよ。心の中で一人芝居をしていると彼の腕・・・腕?を軽く広げると()()()()()()()()()()。その光景にビックリしかけるものの何とか表情に出てはいないみたいだ。

 

 「すまない、気付かなかった。俺は障子(しょうじ) 目蔵(めぞう)、君もという事は同じ1-Aになるのか、よろしく頼む」

 「気に、してない。俺は、回精 獣狼。同じ、クラス。よろしく」

 

 見た目の怪しさといきなり口が生えた事にビックリしかけたものの、態々気づかなかった謝罪と自己紹介をしてくれた。良い人だとこちらも自己紹介を返す。出来れば彼の様な人に友人になってほしいが・・・。思案していると、彼は教室に入るために扉を開ける。出遅れた、しかしまだチャンスはある・・・!と考えていると。

 

 「?入らないのか?」

 「あ、ゴメン。ありがと。・・・失礼、しまーす・・・」

 

 彼、障子くんが扉を開けた事で注目していたのだろう。クラスにいる人が障子くんから一斉にこちらを見る。・・・そのタイミングの良さはやめて欲しい。ビックリした・・・。すると。

 

 「あー!入試の時のー!!」

 

 その声に反応すると制服が()()()()()()()()()。何故?と思っていると制服がこちらに来る。

 

 「あの時自己紹介出来てなかったね!私、葉隠(はがくれ) (とおる)!一年間よろしくね!」

 「・・・!あぁ!透明、人間!俺は、回精 獣狼。よろしく」

 「うん!よろしくー!という事で・・・!」

 

 ?という事で?どういう事かと考えていると。

 

 「その尻尾モフらせろぉ~~~!!」

 「わひゃぁ!?」

 

 いきなり尻尾を掴むな!そして思い出した!肩に担いだ時に尻尾が当たって気持ちよかったからモフらせろって言われてたんだ。でもこっちは助ける為にやったからそれを拒否したかった、が裸同然の女子を担いでいた罪悪感で約束という事にしたんだ。入学してたらモフらせるって。でも流石に二人とも入学、ましてや出会う事も無いだろうと思ってたのに!!

 

 「おぉう・・・モフモフぅ・・・」

 「うぐぅ・・・約束、は守る・・・」

 「あはは・・・大変だな、俺は尾白(おじろ) 猿夫(ましらお)。よろしく回精さん。」

 「試験の、時の。あの時、は、ありがと。こっちも、よろしく」

 

 おぉう、知り合いがいるってのはいいなぁ・・・。尻尾を掴まれ、動けないでいると流石に目の前で繰り広げられてる茶番に立ち尽くしている障子くんを気遣ってか、尾白くんが自己紹介をしていた。それと同時に周りに他のクラスメイトもやって来て自己紹介をしてくれる。

 

 「あたし!芦戸(あしど) 三奈(みな)!回精の尻尾、あたしも後で触っていい?」

 「よろしく、芦戸、さん。・・・うん、いいよ」

 「ウチは耳郎(じろう) 響香(きょうか)。よろしく回精。」

 「うん、よろしく」

 「私は八百万(やおよろず) (もも)です、よろしくお願いしますわ。・・・後でブラシ要ります?」

 「よろしく・・・ブラシ、お願い、していい?」

 「葉隠ちゃん、そろそろやめないと回精ちゃんの尻尾が大変な事になってるわ。私は蛙吹(あすい) 梅雨(つゆ)よ。梅雨ちゃんと呼んで?」

 「ありがと、よろしく、梅雨、ちゃん」

 

 その後は眼鏡をかけたカクカクした動きの真面目そうな男子がそろそろ席に着く時間だ。という事で席があまり決まっていないみたいだったので適当な席に空いている席に着く、しかしその時に机に脚を乗せた爆発髪の制服を着崩している不良っぽい見た目のクラスメイトが目に余るのか、真面目そうな男子が注意していた。

 扉の方で音が聞こえる。そこには緑髪の生徒が立っていたので同じクラスメイトだろう、最早言い争いになりかけている方を注目して嫌そうな顔をしていた。・・・まぁ誰だって入学初日で不良がクラスで真面目そうな人と言い争いしているは嫌だもんなぁ・・・。すると不良が扉の彼に注目したために言い合いが中断される。それにつられて全員が緑髪の彼に注目を始めた。

 

 真面目そうな男子、飯田(いいだ) 天哉(てんや)は緊張して挨拶しようとしていた彼に向かいつつ自らの名前を名乗る。緑髪の緑谷(みどりや) 出久(いずく)も名前を名乗り、扉の前で飯田くんが緑谷くんに実技について話していると緑谷くんの後ろから明るい雰囲気のある女子が実技の時に知り合ったのか、実技の事で語り合っていた。

 

 「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

 冷たく言い放つ男性の平坦な声がした。その声に驚いたのか緑谷くんと明るい雰囲気の女子の会話は止まり、恐る恐る廊下を見ている。

 

 「ここはヒーロー科だぞ」

 

 更に声が続くと同時に何かを啜る音。そして扉に立っていた3人の驚愕する雰囲気に誰が居るのかと気になる。

 

 「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 その声と黄色い寝袋を持った整えていない長髪に無精ひげ、首に包帯の様な何かを巻いた黒で統一された衣装を着たくたびれた男性が教室に入ってくる。彼はクラスを一瞥すると。

 

 「担任の相澤(あいざわ) 消太(しょうた)だ、よろしくね・・・」

 「「「「えぇ!?」」」」

 「早速だが・・・これ着てグラウンド出ろ」

 

 みんなの驚きの声と相澤先生が学校指定の体操服を寝袋から出してくる。・・・流石に寝袋に全員分入ってないよね?その後、彼の案内で更衣室に案内され、そこに体操服があるとのこと。しかし俺が男子更衣室に向かうと手を掴まれる。

 

 「ちょ、ウチらはこっちでしょ」

 「・・・俺、男、だよ?」

 「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」

 「さっさとしろ。時間は有限っつったろ」

 

 という一幕があったが無事に着替えられた。・・・障子くんがさりげなくこちらを見ない様に隣を陣取ってくれたお陰で好奇の目に晒されずに済んだ。感謝を告げると気にするなとの事。心遣いイケメンかよぉ・・・。

 

 案内されるままグラウンドに出ると個性把握テストを行うとのこと、入学式やガイダンスを聞かれても。ヒーローになるならそんな時間は無いと突っぱねられ、雄英の自由な校風は先生側もと言われれば何も言えなくなった。相澤先生はこちらにスマホの画面を向けながら続ける。

 

 「お前たちも中学のころからやっているだろ?個性使用禁止の体力テスト」

 

 しかし相澤先生はこの個性使用禁止の体力テストに不満があるらしく、最後に文部科学省の怠慢とさえ言い放った。その中で相澤先生は実技トップの爆豪という男子に中学時のソフトボール投げの記録を聞き、個性アリで投げろ円から出なきゃ何をしてもいいという。それに爆豪くんは軽い準備運動をした後。

 

 「死ねぇ!!!」

 「・・・死ね?」

 「まずは自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 その言葉と共にスマホに写された記録は705.2mと中学時の67mより圧倒的な数値を記録していた。・・・飯田くんとの言い合いの時もだが、爆豪くんってかなり口が悪いんだな・・・、恐らくあれが素なのだろう。その記録に周りも騒めく、あるものは記録に驚き、あるものは面白そうと期待し、あるものは個性を使える事に流石ヒーロー科と歓喜した。───不味い。先生の雰囲気が変わった。

 

 「面白そう、か。ヒーローになるための3年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」

 「よし、八種目トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

 「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」

 

 みんなの声が響く。・・・これが自由な校風って事か。最高峰とはいえ初日の、先生の判断一つで除籍処分とは前世じゃ考えられない。

 

 「生徒の如何は俺たちの“自由”。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ

 

 他の生徒が理不尽過ぎると抗議するも。先生は日本は理不尽にまみれている、ヒーローはその理不尽を覆さなければならない、3年間雄英は君たちに苦難を与え続ける、遊ぶ時間なんてない。更に向こうへ、Plus Ultraさ。全力で乗り越えてこい。と最後に発破をかける。・・・わかっていたが、現実として叩きつけられるとやはり違う。

 

 (みんな、一応使わないと思うけど血壊の時間はどれくらいある?)

 〈6分ちょいかなー〉〈小出しにするー?〉〈小出しでも消耗が大きいよー〉

 

 何か裏があるのは気づけた。しかしそれが何なのかが読めない。故に場合によっては全力を出すことを決めつつ、通常時の状態で挑むことを決意した。

 

 第一種目の50m走では出来るだけ低く、しかし足の動きを阻害しない程度に“跳ぶ”。結果は真面目そうな男子よりちょっと速い、一応これが今の最高速か。

 

 「実技の時も見てたんだけど、随分速いな」

 「一応、そういう、個性」

 

 耳を指さし尻尾を指させばなるほどと納得してくれた。・・・微妙に一部の生徒から睨まれてる気がする・・・。仕方ないじゃないか、複合型だがメインは異形型なんだよ?発動型よりいいスコア出るのは仕方ない。

 

 第二種目の握力測定、特に言うことなく全力で握る。やっぱりこの記録ふざけてるよなぁ・・・。自信が無かったのか肘に特徴のある男子が背の低い俺の数値を見に来てうげっと言ってしまい注目を集める。・・・障子くんはもっと凄かったんだがなぁ。

 

 第三種目の立ち幅跳び。出来るだけ斜めを意識して跳ぶ。平然と爆発で飛んだり氷を配置して移動してる連中より普通だな。・・・より、であって飛べない人たちの中で自分のスコアが十分おかしいのは理解しているが。

 

 第四種目の反復横跳び。高校の時に140より下なんて格好がつかないといった矢先、俺より身長が低い頭にボールみたいな髪を大量にくっつけた男子がそれをもぎって左右に積み重ね、ポンポン跳ねて高得点を出してた。俺はまぁ、上から数えた方が早い位に取れてたし良いかな。

 

 第五種目のボール投げ、明るい雰囲気の女子が∞という記録になってるようでなってない記録を出したり、緑谷くんが相澤先生に“何か”言われ相澤先生のヒーロー名が判明したのと凄まじい記録を出し、爆豪くんが詰め寄ろうにも相澤先生に捕まった以外特になし。俺は彼らよりは伸びなかったものの問題ないスコアと言えるだろう。・・・何かは聞かなかった事にした。相澤先生のつぶやきと合わせて何がしたいか分かったが・・・口が軽い者は嫌われるからね。

 

 第六種目の上体起こし。尾白くんが手伝ってくれて上位に、俺の個性ってこういう体を動かしたりするところ有利だよなぁ・・・。思った以上に力強かったのか尾白くんが驚いていたが無事終了。

 

 第七種目の長座体前屈。・・・これ俺の身長的にどうしようもないじゃん。いやまぁ柔らかいけどさぁ・・・。

 

 第八種目の持久走。八百万さんの独走と飯田くんがそれを追いかけ、更に俺が飯田くんを追いかける状態に。やっぱり長距離だと飯田くんの方が速いな。八百万さん?若干変わってきているが獣人種として原作通りなら追いつけたかもね!流石に文明の利器に走って追いつけるほどじゃない。

 

 そして始まる結果発表、俺の順位は・・・3位か。出来れば爆豪くんの上とかやめて欲しい。不用意に不良と事を荒立てるのは面倒しかないのだ・・・。一人、悲感を漂わせているが。

 

 「ちなみに除籍は嘘な。君らの個性を最大限引き出す合理的虚偽」

 「「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」」」

 「あんなの嘘に決まってるじゃない。ちょっと考えればわかりますわ」

 

 3人ほど、人が出しちゃいけない様な声を出していたが誰も居なくならなくて幸いだ。一部の生徒は除籍が無くて安心したり、逆にいつでも受けて立つと張り切っている者もいた。これで終わりらしい、教室にカリキュラム等の資料があるから目を通せとのこと。最後に相澤先生が緑谷くんに保健室に行って治してもらえと紙を渡し、クラスメイトは保健室に向かった一人を除いて教室に戻った。

 

 全員が入学式当日とは思えないほど疲弊している中、俺はとりあえず妖目と快心さんに合流するかな。という事で帰ろうとしたが。

 

 「うわ~~~疲れたよ~~~回精くん尻尾貸してぇ~~~!」

 「ぎゃぅん!?ひっぱる、な!!」

 「あ、ごめんね?でもかりるよ~」

 「あ!あたしも回精の尻尾触りたい!」

 

 あ、これ無理だ。この流れ中2でやった。妖目と快心さんにチャットアプリから捕まったから無理と送り、心が沈んでいくのを感じていった。俺よりちっちゃいのと金髪のトゲトゲした男子に睨まれたが無視、尾白くんと障子くんならと目を向けるとゆっくり首を振られる。終わった。

 この後、マイブラシ(快心さんのではない)をカバンに入れて来ていた快心さんが参加しに、早速おもちゃにされる俺を笑いに妖目が来てクラスがより混沌とした状況になっていく、それが髪を結ばれお人形さん染みてきた俺を飯田くんと梅雨ちゃんが助けてくれる5分前であった。




 障子くん普通に喋るけど、ビックリさせる為に腕から生やしてもらいました。ごめんなさい。

 獣狼が居るので一部変わってたりもします。あの個性把握テストって身体強化された個性ならかなり有利ですよね。


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第十五話:自らの願いを形にする一歩

 原作入った途端に文字数が増えるぅ!もうちょっと上手く出来ないものかと悩むこの頃。

 獣狼のコス考えてたら長文になってしまった・・・。でも○○というキャラの○○の衣装です!なんて使いたくなかったので許してください。


 相澤先生の個性把握テストから次の日。除籍も先生の自由と初日から受難を用意してきた雄英だが、流石に教師全員がプロヒーローでも多少個性的ではあるものの授業は普通であった。・・・特にプレゼント・マイク先生の英語が受験時のテンションを知っているため時々思い出したかのようにテンションを上げている以外、一番普通だった事は恐らくクラス全員の総意だろう。

 午前の授業が終わる。食堂で食事をする為に移動していると前の方で緑谷くんに飯田くんと明るそうな雰囲気の女子が居た。ご相伴にあずかろうと声をかける。

 

 「三人、とも、食堂?」

 「む!回精くんか、お昼は食堂に行こうと約束していたんだ。君も食堂に?」

 「うん、俺も、食堂。ついて、行って、いい?」

 「あたしは大丈夫だよ、デクくんは?」

 「う、うん!僕も大丈夫」

 「ありがと、俺は、回精、獣狼。よろしく」

 「あたしは麗日(うららか) お茶子(おちゃこ)です。よろしくね!」

 「僕は緑谷 出久。よろしく、回精くん」

 「ぼっ・・・俺は飯田 天哉。回精くん、よろしく頼む」

 

 よかった、やっぱり優しい人たちだ。特に飯田くんは何かあった時に助けてくれるから仲良くしておかねば、という打算も微妙に入っているがそれでも仲良くしておきたい人たちだったので声をかけた。

 食堂ではプロヒーローのランチラッシュが食事を用意しているのでヒーロー好きの緑谷くんが感動し、麗日さんが名前通り麗かな表情をし、飯田くんも流石にここでもプロヒーローがいるとは思っていなかったのか唖然としていた。俺はランチラッシュの「白米に落ち着く」にサムズアップを返し、目の前のステーキを手早く切り分け口に運んだ。・・・600グラムのステーキを持ってきたときには体格とのギャップに3人とも驚いていたが、午後の授業の為に力を発揮したいから、というと納得していた。

 

 食事も終わり、午後の授業が始まる時間。全員がクラスで席に着きながらも少し落ち着きがない。当然だ、何故なら午後の授業は───。

 

 「わーーたーーしーーがーー・・・普通にドアから来たぁぁぁぁぁ!

 「「「「おぉぉぉぉぉぉ・・・!」」」」

 

 ヒーロー基礎学、ヒーローを目指す者達がこの授業に落ち着いていられる訳がなく、更に平和の象徴とも言われるオールマイトに授業を見てもらう事にクラス内の緊張が一気に興奮へと変わっていく。妙に角ばった動きのオールマイトは教壇に移動すると、腰に手を当てたポーズをとりつつ自分の担当がヒーロー基礎学でありヒーローの素地を作るために様々な訓練を行う科目、一番単位数が多いとも紹介した後こちらに背を向け一気に振り返りつつ手に持ったカードを見せてくる。カードに書いてあるのはBATTLE、戦闘訓練であった。

 オールマイト先生が力を籠め、壁に勢いよく指をさすと壁がせり上がってくる。そこには21人分の数字が描かれた箱が入っており、一つ一つの箱がスーツケース程の大きさがある。その箱には一人一人個性や要望を送り、それに沿ったヒーローコスチュームが入っているからだ、全員が歓声を上げる。

 

 「着替えたら順次、グラウンドベータに集まるんだ!」

 

 その声と共に各々が行動を開始する。俺も自分の出席番号である7番の箱を取ろうとするが。

 

 「・・・届か、ない」

 「これでいいのか?」

 「!障子、くん。ありがと」

 「ッ!?案外重いのが入ってるんだな・・・」

 「うん、俺に、必要、な武器。無いと、リーチが、ね・・・」

 

 腕を横に伸ばすと納得したのかそれ以上は聞かないでくれる。ホント障子くん気遣い出来るイケメンじゃん・・・。彼から07と書かれた箱を受け取り、更衣室に向かう。・・・しかし、そこで悲劇が待ち受けているとは誰も予想できなかったのだ・・・。いや予想できるかよこんな事態。

 

 

~~~~~

 

 

 「恰好から入るってのも、大切なことだぜ!少年少女!自覚するのだ、今日から自分はヒーローなんだと!!」

 

 オールマイトの声が聞こえる。あぁそうだ、自分は今日からヒーローだ!・・・それはそれとしてちょっと、心が折れそう。

 

 「いいじゃないかみんな・・・!カッコいいぜぇ!」

 

 ・・・あ、目を逸らされた。トップヒーローに目を逸らされる(匙を投げられる)事にショックを受け、そんな雰囲気を感じたのか尾白くんやあまり接点のなかった瀬呂くんが話しかけてくれる。

 

 「まさか、意見の半分を無視されるなんてね・・・」

 「あー・・・まぁ、ドンマイ?でもすっげぇにあってると思うぜ?」

 「瀬呂くん、その言葉は追いうちだって・・・!」

 「あ、」

 

 心が折れそうだ。耳が伏せられ尻尾が下がる。まさか要望の、男性服、洋風、鉄扇を装備、手足の防具の中から鉄扇を装備と防具以外無視されるって・・・!

 

 衣装はまさかの和風、そこはまだいい。まずは衣装の一番下に割と体にぴっちりな肩から手の甲を覆われた青い布製の手甲(てっこう)にその上から布と金属製で出来た和風な籠手を両腕に着け、真っ白な生地に赤い模様と赤い桜が刺繍された白衣(はくえ)───右腕の袖が切り取られ代わりに肩マントの様に布が存在する。───を上に着る。マントや袖が動かしづらそうだったが動かしてみるとかなり邪魔にならなかったのが微妙に腹立たしい。

 

 下は袴に限りなく見える物で袴と違いどちらかというと洋服の下───白色で様々な曲線、恐らく水の流れを表しているのだろう。───とここだけであったら問題ない。・・・色が赤で丈が膝上じゃなければな!!袴を短パンに改造したかのようなものになっていたが、一応これで洋服って言い切るつもりなのか?遠目から見たらどうあがいても袴だし、着方も袴だったぞこれ。

 

 デザイナーの暴走は止まらない。なんと帯まで寄越してきた。しかも帯に鉄扇を装備するところがあるので余計にたちが悪い。この帯の結び方まで指定されており、指定以外だと創意工夫が必要になる事は明らかだった為に仕方なく付ける。結果、背中に蝶結びをした帯───紫色に金色の雲が刺繍されている───と、全てつけ終わると帯の両横側、腰辺りに丁度鉄扇の()()()を4つ付けることが出来るので装着する。出会った時より()()()()()()()()()()()()()()()の鉄扇本体は右手に持つものは白衣に、左手は帯に差し込む。・・・よく見ると鉄扇に服に差し込むためのパーツがついていた・・・。

 

 最後に籠手と同系統の脛当てと赤と白で彩られたキツネの面を頭に斜めに付けて着終わった。これどうあがいても改造巫女服じゃん。周りも落ち込んでいるのに気づいたのか、視線に哀れみが込められている。

 最初見たときこれ時間かかるだろって思ったけど、所々こうすると良いという風に折り目や目立たない様に線が入っていて飯田くんと同じくらいで着終わったのだ。・・・こっちが送り返さない様に不満点を潰してる・・・?体格をほぼ全て把握されてるのか・・・?

 

 そんな恐怖を感じているとオールマイトの授業が始まる様で意識を切り替える。訓練の内容は屋内での戦闘、屋外よりも屋内の方が凶悪なヴィランが潜む。その対処を想定した訓練のようだ。気になったクラスメイトから一気に質問され思わずカンペを見ながら説明するオールマイト。状況設定はヴィラン2名が核兵器をビルの何処かに隠し、ヒーロー2名がそれを追い詰める。ヒーローはヴィランの確保か核兵器の確保、この場合は触ればいいらしい。ヴィランはヒーローを捕まえるか時間切れで勝利となる。コンビと対戦相手はクジで行う、これに飯田くんが適当なのかと指摘すると緑谷くんが見知らぬ誰かと組むのもプロヒーローにある事と返すと飯田くんは謝罪、オールマイトは早くやろうと急かす。が。

 

 「先生、一人、余る」

 「あぁ、回精少年だね?大丈夫!クジには一つジョーカーがあり、その人だけもう一度引いてもらい一組だけ3人チームになってもらう!しかし3人だと相手も不利だ、そこで相手のチームも一人。終わった者から手助けを得られるって寸法さ!選ばれた者は場合によってはヒーロー、ヴィラン共に経験できるチャンスだぞぉ!」

 

 その言葉に生徒の大半が盛り上がりつつも、クジを引くことに。・・・オールマイト先生?なんで疑問形だったんですかね・・・?みんながクジを引いていく。そして最後に俺の番だが・・・。

 

 「oh...まさか最後がジョーカーとは・・・。ではこのままチームのクジを引くといい」

 「・・・はい、チームは・・・A、です」

 「OK!ではチームAは麗日少女、緑谷少年、回精少年の3人チームだ!」

 「そしてぇ!最初の対戦相手は~~・・・こいつだぁ!!」

 

 クラスメイトの空気が固まる。こちらに見える様に突き出されたオールマイトの手には黒色のDと白色のAがあったからだ。オールマイトも疑問に思いつつも掴んだボールを確認すると固まってしまう。オールマイトは決まりが悪そうに他の生徒たちに提案する。

 

 「あ~・・・まさか最初にひいちゃうとはね・・・。悪いが今回は終わってないチームから選んでもらう事になる。勿論この後の戦う事を考えれば断ってくれても構わないが・・・。出来れば断らないで上げてね?」

 「問題ありませんわ。様々な状況、つまり個性を把握されている疲労がある等の危機的状況に対応する。これもまた訓練ですわ」

 「そっ、そうだとも八百万少女!フォローありがとうね!!」

 「ではAトリオがヒーロー!Dコンビのヴィランは誰か一人、新たな仲間を選ぶといい!」

 

 彼女の一言によって周りの空気がやる気に溢れる。オールマイトはそれに続きもう一人、選ばせるが。

 

 「ンなもん必要ねぇよオールマイトォ!相手の三人の内一人はクソナードだ!後は丸顔にクソ犬、俺一人でも充分だ!!」

 「んな!?爆豪くん!これは訓練なんだぞ!!誰か一人選ばなければいけない!それになんだその呼び方は!?同じクラスの仲間に失礼ではないか!!」

 「あァ!?うるっせぇんだよクソ眼鏡がぁ!!」

 「待ちたまえ爆豪少年!今回は飯田少年が言ったように訓練、例え必要ないと判断しても誰か一人選んでもらうぞ」

 「・・・チッ!勝手に決めてろクソ眼鏡!!」

 

 そう言うともう話は終わったと飯田くんを無視する爆豪くん。・・・これ飯田くんが不憫だなぁ・・・。

 

 「なっ!?・・・あぁもう仕方がない。ではすまないが力を貸してくれないか?切島くん」

 「おっ!いいぜぇ!一回の訓練が二回も出来るんだ!男らしく、不利な状況でも乗り越えてやる!!」

 「ありがとう、切島くん。君の力があれば心強い」

 「では、Dチームは爆豪少年、飯田少年、切島少年のトリオに決定だ!他の者はモニタールームに向かってくれ」

 「「「「はいっ!」」」」

 

 オールマイトからヴィランチームが先に入ってセッティング、その5分後にヒーローチームがスタートする。という説明が入りその後ヴィランチームにヴィランの思考を学ぶ事、これはほぼ実戦であり怪我を恐れずに戦う事、しかし度が過ぎると止める事を説明していた。しかし途中から爆豪くんが緑谷くんを睨んでいた。その目には言い知れぬ何か、見下し?・・・の様な物を感じる。・・・爆豪くん、個性把握テストでも緑谷くんに突っかかってたし、何か軋轢の様なものでもあるのか・・・?チーム分けには不満が無いが、この対戦カードは少し危険な感じがした。




 えーっと、はい。切島くんがJとDの掛け持ちです。頑張って描写して酷い事にならない様にしますが、恐らく時間がかかるのでご容赦ください。

 僕アカのキャラって喋らせてるととっても楽しいですね、ちゃんとキャラが立っていて面白いです。一部が難しいですが、それでも割とノリノリで書いてたり。


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第十六話:意地を通す戦闘訓練

 原作の戦闘、上手く書けるか気合を入れつつ書いていきます。

 ちなみに組み合わせは10面ダイスをころころりと。ダイスの女神様は絶対です。ただ切島くんを選んだのは飯田くんから見て足りないところを補う為です。最適解は八百万さんですが、選ばなかったのは純粋に出来る事が未知数であの場で聞くのも憚られる、という理由が。


 ヴィランチームがビルの中に入っていく、ここから核兵器の配置決めとその後の5分間で突入が始まる。時間はありそうだが手早く個性とやれる事を緑谷くんと麗日さんに情報を共有しあう。そこから相手チームの個性をわかる範囲で上げていく。

 爆豪くんは手のひらから爆破、飯田くんはふくらはぎからエンジンの様な物で加速、切島くんだけは全員個性把握テストの時に確認出来ておらず、しかしヒーローコスチュームから見て近距離型ではないかと緑谷くんの提言もあり、俺が最初に音で索敵した後誰が誰を対処するかを決めるが出来る限り核兵器に触れる事で勝利することとなった。理由は二人の個性のデメリット、緑谷くんは使った場所がバキバキになり麗日さんは使いすぎると酔いが酷くなりそのまま、なので出来る限りの短期決戦が望ましかった。

 その後、ビルの見取り図を見て覚えている際に二人の会話からやはり爆豪くんと緑谷くんの二人は短くて中学からの知り合いであろうと判断できた。緑谷くんが気合を入れていると麗日さんが緑谷くんを応援し、俺も彼に頑張れと言葉少なくだが応援した。そこでタイミングよくオールマイトの放送で訓練の始まりが知らされた。

 

 早速音である程度の場所を把握しようとするが。

 

 「・・・ごめん、無理だ。爆発、音で、わから、ない」

 「爆発・・・?じゃあそこに行けば」

 「移動、してる。恐らく、奇襲、目的」

 「多分かっちゃんだ・・・。汗が出る程かっちゃんの爆発は強くなるから」

 「こう、なると、目視、しか、無いね」

 

 索敵を封じられ、1階の窓から侵入することに。見取り図を見てわかっていたがこのビルは死角が多いし、何より。

 

 「・・・音が、反響、してる。奇襲、に、気づくの、遅れ、そう」

 「そっか、壁に凹凸が少ないし何より壁が多いんだ。その分広いところは広いけどそれ以外が狭く入り組んでいるからよく反響しちゃうのか」

 「しょうがないね、地道でも頑張って探していこ!」

 

 一番大切な索敵を封じられ、少し落ち込むがそれでも出来ない訳ではない。俺が先頭でその少し後に緑谷くん、麗日さんの順で進んでいく。1階では爆発音もそこまでしないので音の索敵を行い、いない事が早い段階で分かった為、早々に2階に上がる。しかし上がって少しすると爆発の音が止んだ、その事と共に警戒することを伝え曲がり角に通路に人がいない事を確認した後に少し進むと焦げ臭いニオイが()()()()()()()()。咄嗟に振り返り二人に伝えようとするがそこには既に大きく右手を振りかぶっていた爆豪くんがいた。緑谷くんが麗日さんを庇い後ろに飛ぶと同時に大きな爆発音。鉄扇をすぐさま手に持ち煙の中に居る爆豪くんに奇襲を仕掛けるため、まっすぐ向かうが。

 

 「わかってんだよォ!クソ犬がァ!!」

 「っ!?まずっ」

 

 既にこちらに手を向けていた爆豪くんの爆発を避ける為に後ろに大きく跳ぶ、爆発でダメージを受ける事はなかったが二人と離されてしまった。・・・予想よりも判断が冷静だ。下手に突っ込むとこの狭い空間じゃ爆発の餌食だな。でもどうやって音もせずに上から・・・。そこで気づいた。鉄パイプが爆豪くんの近くに転がっている、つまり爆発の個性を使って飛び上がった後、長さからして鉄パイプを壁に体を押し付け上の方で固定するためのつっかえ棒にしたのか?予想以上に頭が回る事に更に警戒していると爆豪くんが二人・・・恐らく緑谷くんを狙って走る。

 

 「中断されねぇ程度にぶっ飛ばしてやらぁぁぁぁぁ!!」

 

 それに緑谷くんは反応、爆豪くんの殴りを受け止め逆に背負い投げを決める。爆豪くんを投げた興奮からか緑谷くんが硬直しつつも語る。・・・やはりあまりいい関係ではなかったようだ。しかしそれにしては名前をあだ名で呼び合う仲・・・幼馴染か?

 

 「いつまでも、雑魚で出来損ないの木偶じゃないぞ・・・!かっちゃん、僕は!頑張れって感じのデクだ!!

 「デクゥ・・・ビビりながらよぉ・・・そういうところがぁ、ムカつくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 今だ、鉄扇を腰にある太いパーツと細いパーツの内、納刀する様に右手の鉄扇と()()()()()()()()()()()。そして抜刀する様に抜けば扇子でいうところの親骨部分が延長される。そのまま麗日さんの隣を抜け、爆豪くんに後ろから奇襲を仕掛ける、狙うは腕のパーツをそこそこの力での横なぎ。しかし。

 

 「っチッ!!」

 

 こちらをちらりと確認しすぐさま爆発で上に逃げ、緑谷くんの上を通る。ついでとばかりに爆風でこちらの勢いを潰しにかかる。・・・まただ、爆豪くんはかなり怒っていると判断していい状況、なのにこちらを冷静に対処してくる。

 

 「黙って守備してろぉ!!ムカついてんだよォ俺はァ!!!」

 「っ!麗日さん!回精くん!行って!!」

 「よそ見に手助けもいらねぇってかァ?余裕だなァ!」

 

 爆豪くんの言葉と共に爆発の勢いのついた蹴り。しかし緑谷くんはそれを防御すると同時に確保テープを足に巻き付ける。爆豪くんはそれに反応し緑谷くんを爆破しようとするも大きく右に跳び込む事で緑谷くんはそれを回避。・・・幼馴染だからこそ、動きが分かるという訳か・・・。なら下手に介入して時間を稼がれるよりも、ここを任せて核兵器を確保した方が良いな。

 

 「麗日、さん。行こう。彼が、足止め、してる、間に」

 「う、うん!わかった!」

 

 そして俺たちは緑谷くんを置いて走り出すと同時に鉄扇に取り付けたパーツを戻し、元の状態に戻した後また白衣と帯に差し込む。少なくても一人は核兵器の防衛を行っているだろう。その音を拾わなければ・・・。っ!微かに物を動かす音、位置的には上層。麗日さんに教えそのまま向かう。すると扉の開いた部屋があった為に中を確認してみればビンゴ、核兵器と飯田くん、切島くんが居た。二人とも核兵器に視線が向いていた為そのまま音を立てずに部屋に侵入、手前の二つ並んでいる柱に一人ずつ隠れ様子を伺う。

 

 「爆豪くんはナチュラルに悪いが、今回の訓練では的を射ているわけだ・・・。しかし、俺が選んでしまったばっかりに切島くんには迷惑をかける。本当にすまない」

 「別に問題ねーよ、ちょっとは予想してたのもあるが二人いりゃ何とかなるだろ」

 「ありがとう切島くん。そう言ってもらえるだけでかなり助かるよ」

 

 ・・・飯田くんはどうやら自分の選択をかなり気にしていたようだ。しかしそこで終われば級友たちの美談で終わったのだが、何故そちらに話が飛んだのか。

 

 「俺はぁぁぁ!!至極悪いぞぉぉぉぉぉ!!」

 「俺もぉぉぉ!!悪い奴だぞぉぉぉぉぉ!!」

 「ぼふぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 ・・・二人は、真面目にやってるんだろうなぁ・・・。音だけで状況判断してたので顔を出していなかったが、麗日さんが笑ってしまい、二人に気づかれた。・・・うん、話を聞いてなかったら笑っていたかもしれない。しかしこれは良い状況だ、麗日さんが気づかれているが注目はそちらに行っている。このまま隠れて隙を伺おう。・・・ちょっと目線をこっちに送らないでくれ、と向こうを指さす。

 しかし飯田くんは気づいていないようで一人で来ることに驚いていたものの、彼女対策をばっちり行っていたとのこと。フロア内を全部片づける事で。・・・あの時の物音ってこれかぁ・・・。所々こう、育ちの良さみたいなのが出てきている。

 

 「デクくん、ゴメン。飯田くんたちに見つかっちゃった、今じりじりと追い詰められてる」

 「うぇへっへっへ、俺は悪いぞぉぉぉ」

 「俺も、悪いぞぉぉぉ」

 「5階の、真ん中フロア」

 

 なんだろうなぁ・・・気合入れてたのに気が抜ける・・・。少ししょぼくれていると、突然連鎖的に聞こえる爆発音と共に轟音。そしてビル自体が振動している。確実に何か不味い攻撃を爆豪くんが行った事に慌てて通信を入れようとするも、まだ気づかれていないメリットを捨てる訳にはいかないと抑える。

 しかし流石に飯田くんは無視できなかったようで通信で爆豪くんに呼び掛けている。そこをチャンスと麗日さんが走り出すが、二人はそれを阻止しようと走り出す。だがその前に麗日さんが自らの個性で大きく跳びあがり、核兵器を確保するかと思われたが飯田くんが反応。個性による加速で麗日さんを追い越し、核兵器を持ったまま入口の近くまで戻ってくる。チャンスだ。飯田くんが麗日さんに自らの勝ち筋を言っている間に触る!

 

 「させねぇ、よ!!」

 「っ!?ぐっ!」

 「!?回精くん!隠れていたのか!!」

 「わりぃな!麗日がそっちの柱を気にしてたからもしかしてって思ってたんだ!このまま時間いっぱいまで相手してもらうぜ!」

 「くっ、そぉ!」

 

 相手の拳を受けて止まってしまう。不味い、相手のリーチに捉えられた。相手の連続攻撃をかわしつつも核兵器を確保できないかと様子を伺うと同時に通信が入る。

 

 「させねぇよ!!」

 「ちっ!」

 「ようやく武器を抜いたな、鉄扇とは中々イカすチョイスじゃねぇか」

 「ありがと、でも、それだけ、じゃない!」

 「っ!うぉっ!?伸びた!?」

 

 切島くんが一瞬の隙をつき攻撃してくるが、間一髪で鉄扇で防御、しかしその際金属同士がこすれる音と腕が変形していたために素手での防御は不味いと判断。鉄扇で受け流しつつ、隙をつき右手の鉄扇を細いパーツと組み合わせ抜刀と同時に切島くんに叩き込むが、金属同士がぶつかりあう音と硬い何かを殴った感触。どうやら体を好きな部分好きなタイミングで硬化出来る様だ。しかし切島くんは衝撃で後ろに後ずさり、飯田くんの近くに合流する形になった。これで離れた、作戦通りに窓際の麗日さんに合流する。

 

 『行くぞッ!二人とも!!』

 「はいっ!」

 「っ!」

 

 一瞬の判断で右手の鉄扇を太いパーツに差し込む。そして帯の留め具を外すと延長された親骨に地紙が付いたかのように巨大な鉄扇と化す。そしてそれを広げ来るであろう被害を抑える為防御態勢を取る。

 

 部屋の真ん中の床が()()()()()。それを柱にしがみついて耐えていた麗日さんは天井が壊れた際に取れた柱を個性で持ち上げ、吹き上がってきたがれきをボールに見立て柱をフルスイング(彗星ホームランを)する。飯田くんの冷静な突っ込みが入るがボールは止まらず、飯田くんはがれきを防ぐために防御していた。その隙をつき麗日さんが自らを浮かび上がらせて大穴を飛び越え、核兵器を確保しようとするが。

 

 「させねぇ!!」

 「こっち、もね!!」

 「うぉっ!回精の鉄扇か!?」

 

 硬化してがれきを防いだのだろう、切島くんが麗日さんを妨害しようとするが開いた鉄扇を投げつける事で地紙の部分が床に刺さり切島くんの行く手に立ちはだかった。そして遮るものもなく、麗日さんが核兵器を確保することでタイムアップと共にオールマイトの声で俺たちの勝利判定が下された。




 ・・・大体原作通りですね・・・。この戦い、原作でかなり大事なところなので大きすぎる変化は無しです。

 Q.爆豪に獣狼の攻撃よけられてるじゃん
 A.彼に把握テストの時に目を付けられましたね

 Q.弱体してるとは言え獣人種の身体能力でさっさと逃げれば?
 A.連続攻撃をされている中、不用意に動けば攻撃を食らうと判断しました。しかし核兵器の様子を伺う事を出来る身体能力差はあります。

 以上、今考えられる来るであろう疑問と言い訳でした。


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第十七話:訓練の終わりと次の始まり

 感想に返信したいけれど、いちいち返信するのも鬱陶しいかなと思い自粛しています。でも感想はとっても嬉しいです。

 鉄扇は某鬼畜獣狩りフレンズなゲームの武器をイメージにしたり、カッコいいですよね。ガチャンガチャン変形させてるだけでも楽しんでました。


 『屋内戦闘訓練、ヒーローチームWIN!!』

 

 オールマイトの勝利宣言と共に左手に持った鉄扇を帯に差し込み、穴を飛び越え切島くんの近くに着地した。・・・麗日さんは飯田くんが看病してくれてるので大丈夫、なら。

 

 「ごめん、鉄扇、当たって、ない?」

 「気にすんなよ!例え当たったってこれくらいなら俺の個性で防げるからよ!」

 「ありがと。それじゃ、ちょっと、下に、行くね」

 「お?おう、行ってらぁぁぁあああああああ!?」

 

 切島くんに謝罪しつつ、鉄扇を回収そして分解しパーツを帯に装着する。その後白衣に鉄扇を差し込むと共に部屋の中央の大穴から飛び降りる。切島くんの叫びが聞こえるがこれくらいなら大丈夫だ。落下しつつ緑谷くんを発見、左腕は爆風を防いだのか火傷が凄い事になっており、右腕に関しては腕から手にかけて変色しており見るだけでも痛々しい。着地と同時に緑谷くんに駆け寄り意識の確認を行う。呼びかけにはギリギリ反応してくれる、恐らく両腕の痛みで意識が断続的だ。命に別状はなさそうだが、かといって放置していいものでもない。

 

 「オール、マイト、先生。緑谷、くんは、痛みで、動けない、ようです。搬送、準備、を」

 『わかった、ありがとう回精少年。今すぐ向かうので君はモニタールームに移ってくれ』

 

 オールマイト先生に従いモニタールームに向かう。・・・爆豪くんは付き合いの短い俺から見ても放心している、緑谷くんに何かするという不安は無いだろう。オールマイト先生も彼に何か言う為にも俺をこの場から引き離したいのかもしれない。

 モニタールームに向かう間に切島くんと飯田くんに急に飛び降りた事で心配されたが問題ない、小さく見えても異形型である。と伝えたら納得してくれた。・・・微妙に、自分で小さい言ってて渋い顔になりそうだが・・・。

 

 モニタールームで講評が始まる。オールマイト先生曰くベストは接戦だったが飯田くんとの事、時点で切島くんらしい。俺は中々いい線行ってたと思うんだけどなぁ・・・。周りのクラスメイトたちも勝ったAチームではなく何故とオールマイト先生に聞いていた、しかしオールマイト先生は他のクラスメイトにどうして勝ったのにベストではないか聞いていた。・・・自分で考える力を養う為なんだろうけど、聞き方がちょっとウザいと思ってしまった・・・。

 

 それに答えたのは八百万さん、爆豪くんは戦闘に私怨丸出しで建物破壊、緑谷くんも建物破壊に作戦が無謀すぎる、麗日さんは訓練中なのに気が緩んでいる事、最後の攻撃(彗星ホームラン)が乱暴と指摘した後、飯田くんは今回ヴィランとしてベストな行動をしていた事、切島くんもベストだったが飯田くんが主体で動いていた為にと好評。最後に俺は。

 

 「回精さんは途中まではヒーローとして理想的な動きだったと思います。しかし最後の最後に壊れかけのビルで鉄扇を投げるという被害が広がりかねない行動をしていました。それが減点となったと推測します」

 「あ、そっか、最悪、穴が、広がる、ね」

 「そういう事ですわ。幾ら切島さんを止める為とは言え核兵器ごと皆さんが落ちかねません」

 

 八百万さんが今回の良い点悪い点を全て言ってしまったため、オールマイト先生が八百万さんを褒める事で締めくくったが本人曰くトップを目指すなら当然との事。

 

 気を取り直してオールマイト先生が次の訓練の組み合わせを発表する。その後、ビル全体を凍らせるという速攻の離れ業ですぐに終わってしまった。尾白くんに葉隠さん、知り合いだからって贔屓するのはあまり褒められた事ではないんだろうけど、二人が何も出来なかった事に少し悔しい思いをした。・・・みんなに集られながら。一応キツネだけどさぁ・・・!体温高いけどさぁ・・・!でも梅雨ちゃんに関しては流石に個性の影響で冬眠しそうだった為に何も言えなかったが・・・。

 

 その後は特にビルが大きく壊れるでもなく、モニタールームにも被害が発生するなどの事態は発生せずに無事終了した。・・・オールマイト先生、爆豪くんのフォローをちゃんと出来るかな・・・。新人教師だからか、微妙に授業でもぎこちなさが出ていた為に不安だ・・・。

 

 緑谷くん不在のまま、午後の授業が終わりみんなで放課後の反省会をしようとしていたところ。訓練の後ずっと大人しかった爆豪くんが無言で立ち上がり、帰ろうとしていた。みんなは止めたものの、それに対して何も反応せずに帰っていく。・・・心配ではあるが、付き合いの短い俺じゃ何も力になれないな・・・。自分に出来ることは無い、と割り切りつつチャットアプリで妖目と快心さんに訓練の反省会があるから別々に帰ろう。と提案すると二人とも了承する内容が来た。恐らく二人もクラスメイトと親睦を深めているのだろう。

 

 その後緑谷くんが戻り、すぐさま爆豪くんのところに行ったという事があったがどうやら爆豪くんのフォローに行ったらしく、戻ってきたところで先ほど緑谷くんに一部の人が訓練を褒め称えてたところで気づいた事を言う。

 

 「ねぇ、みんな、は、自己、紹介。何時した、の?」

 「え?アタシ達は個性把握テストをした日に教室に入った人からしてったかな?」

 「あぁ、俺もそう記憶している。何せ来た時には他に誰もいなかったからな」

 (((真面目!!)))

 「うん、でさ。俺、途中で、時間、切れして・・・」

 「「「「あっ」」」」

 

 そう、俺は一部の人たちは名前を知っているが一部だけだ。他は全く知らない。そして緑谷くんや麗日さんの自己紹介も含めた全員の自己紹介が始まった。・・・上鳴くんに峰田くんは快心さんを紹介してくれ、は無いと思う。彼女は友人だし、何より下心満載の人に紹介するつもりはない。そうしてやっとクラスメイトの名前を教えてもらえ、一部の生徒(常闇くんに)鉄扇について沢山聞かれた後、解散した。

 

 

~~~~~

 

 

 次の日、何時も通りの三人で登校していると校門の前に人だかりができている。話し声からマスコミらしい、オールマイトが教師をしているという事で群がっているようだ。・・・流石にこの数は迷惑だなぁ・・・。どうやら他の二人もマスコミだと気づいたらしく、快心さんはどうしようかと悩んでいるが、妖目は口角が僅かに吊り上がっていた。・・・この顔してる妖目って見た目はイケメンだからバレてないけど、悪だくみしてる顔だな・・・。

 

 「快心、さん。妖目、に、任せよ」

 「え?いいの?」

 「さっすが親友~、以心伝心で僕嬉しいよ~」

 「はいはい、親友、親友。・・・悪い、顔、してるぞ?」

 「だって、ねぇ?・・・嫌な連中を一斉に恐怖で引きつらせる。最高だろ?」

 「そうかい。その顔、じゃ、ヴィラン、として、捕まえ、なきゃね?」

 「おぉっと誤解だよ親友~。ただちょぉーっと、ね?」

 「・・・はぁ・・・先生、に、咎め、られても、助け、ないぞ」

 

 快心さんが久々に妖目の本性を見たせいで微妙に口を引きつらせてるものの、慣れたのかそれとも最適だと判断したのか特に口を挟まずついてくる。そしてマスコミたちにもロックオンされる。

 

 「あ!そこの青と白髪の君!オールマイトが教師をすることについてどう思いますか!?」

 「あぁ、オールマイト先生についてですか?」

 「!えぇ!何かお話を!!」

 「はい、オールマイト先生ですが・・・」

 

 マスコミの目が妖目に注目されている。あぁ、この人たちもこの性悪の餌食かぁ。

 ころり、と。転がり落ち、そのまま待ち構えていた両手───人によっては説明の際にろくろを回す人の手に見える。───に収まり。

 

 「あ、興奮しちゃって落ちちゃいました」

 「「「「ぎゃああああああああああああああ!!??」」」」

 「よし、今のうちに行こうか。親友」

 「・・・ご冥、福を、お祈り、いたし、ます」

 「あはははは・・・」

 

 ・・・久々に、大人数の絶叫を聞けて喜んでいる妖目。生放送だったら絶対事故になってるよなぁと遠い目の俺。苦笑する快心さん。カオスな状況で大人しく校舎に向かう。なおその叫び声で相澤先生がマスコミの相手をすることになっていた。

 

 朝のホームルームで相澤先生が訓練の事で爆豪くんと緑谷くんに釘を刺す。・・・しかし、ちゃんと二人のフォローしたりと厳しいがちゃんと向き合うタイプなのだろう、見た目で損しているが。

 相澤先生が言葉を続ける、今日は何をされるのかクラスに緊張が走った。

 

 「学級委員長を決めてもらう」

 

 一瞬で緊張が解けた。その後全員が一斉に立候補するが、飯田くんの案で投票に。相澤先生は時間内で終わるならそれでいいと投げ、投票が始まる。・・・人柄的に、この人かなぁ。そして緑谷くん3票、八百万さん2票で委員長と副委員長が決まったのだった。・・・自分で票入れないのか・・・。

 

 食堂では先日のメンバーに加え。

 

 「いやぁ~お邪魔しちゃって悪いねぇ~」

 「別の科だけど、よろしくね」

 

 妖目と快心さんの二人も来た。たまには一緒に食べようという事で他三人に聞いたところ、それを快諾。1年ながらヒーロー科と経営科が一緒に食事をとるという珍しい形になっていた。緑谷くんが委員長の職を不安がってはいるが、飯田くんは理由付けと共に問題ないと励まし、自ら緑谷くんに投票したと告げた。

 

 「え?何々~?そっちじゃ委員長決めしてたの~?こっちは入学初日でだよ~」

 「入学、初日、は、個性、把握、テスト。だった、から」

 「あ、そういえばそう言ってたね。だからこのタイミングかぁ」

 「そっちの、委員、長は?」

 「僕たちじゃないよ~、面倒だしね」

 

 そっか、と返したところで二人の重なる声。そして麗日さんの飯田くんって坊ちゃん発言。隣の緑谷くんに話を聞くと、何時もは一人称が俺なのに僕になっていたからとのこと。飯田くんが二人の眼力に負け、自分の家の出自がヒーロー一家という事を教えてくれた。・・・緑谷くんがいきなり興奮気味に喋りだしたのはビックリしたが・・・。それに対し飯田くんは胸を張って自慢する。しかし飯田くんは自分より上手の緑谷くんがなるべきと判断しているようだ。

 

 「ねーねー、実技試験の構造って?」

 「仮想、ヴィラン、倒す、以外に、助ける、採点、があった」

 「すごい、如何にもヒーローっぽい採点だね」

 「うん、でも、助ける、採点、は、説明、されない」

 「あー・・・だから実技試験の構造って事かー」

 

 飯田くんが笑顔で話している事に二人がやっと笑ったとうれしそうにして緑谷くんが何かを決めたと思ったところで耳障りな警報が鳴る。妖目が隣の上級生らしき生徒に話を聞くと侵入者の警報と教えてくれ、俺たちにも早く逃げろと告げた後走り出す。・・・でも、みんな出入口に集まってるから動けなくなるだろうなぁ。そう思い食事を続けていると妖目の笑い声と他の面子が呆れている気配がする。

 

 「回精くん!何をしている!早く避難しないと!!」

 「今、人が、一か所、に、向かって、る。今、行ったら、動け、無い」

 

 その言葉に緑谷くん、麗日さん、飯田くん、快心さんが入口を見て動けなくなると悟ったのか、どうするべきか考え始めた。

 

 「妖目、首、飛ばして、窓の、外、見れる?」

 「ひぃ~・・・ん?出来るよ~、今見れる範囲での状況確認ってやつだね~」

 

 どんだけ笑ってたんだコイツ・・・。首を外したところで緑谷くんと麗日さんが叫び、飯田くんが固まった。・・・おい、はよやれ。目線で訴えるとしぶしぶ頭を上に放り投げて窓の外を確認する。そしてキャッチ、その辺りで3人とも再起動が完了したのか妖目の発言を待つ。

 

 「あー・・・よくテレビ撮影で使う長ーい棒の先にマイクついてるのあるでしょ?アレ、見えたから恐らく今朝のマスコミじゃないかなぁ」

 「な!?では早くこの混乱を止めねばけが人も出るぞ!」

 「話、聞ける、と、思う?」

 「くっ・・・!何か、何かいい案は・・・あれだ!麗日くん!俺を浮かしてくれ、そして回精くん!あそこまで投げてくれ!!」

 「・・・うん、行ける。いいよ、痛、かったら、ごめんね?」

 「大丈夫だ!やってくれ!」

 「うん、じゃぁ、そーれ!」

 

 軽い掛け声とともに思ったより遅く飯田くんが出口の上に飛んでいく、そして壁に張り付き出口の僅かなでっぱりと天井付近のパイプを掴み非常口のマーク、ピクトグラムのポーズをとった後、大声で演説を行う。そのインパクトにより混乱は収束した。

 この件で緑谷くんが委員長を飯田くんに譲る事に、八百万さんの文句はあったものの他クラスメイトからの否定はないようだ。




 駆け足ですね、でもあんまり変更点が無かったのです・・・。一応獣狼ならこうするかなーと行動はさせてます。

 今回なんとアンケートがあります。ただ今回のアンケートは読者アンケートみたいな感じなのでこれに答えたからと言って必ず変わるってわけじゃないです。色々オリキャラの設定や個性に読み返したりしてたら「これってこうなのでは?」とか色々見つかって獣狼の強化案がちらほらと出てきてしまい・・・。

 まぁ完結した際に覚えて居たらあとがきとかネタとして書くかも


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第十八話:深い闇は這いより捕える

 アンケート2番が圧倒的に多いですね・・・。個人的には2番4番1番の横並び辺りかなと思っていましたが・・・。幾ら初めてと言ってもパワーバランスの加減が上手く行ってない証拠ですね。・・・そこそこはっちゃけてもいいんですかね・・・?


 お昼の警報騒ぎが起きて委員長が飯田くんに決まった次の日、午前の授業を終え午後のヒーロー基礎学が始まった。

 

 「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見る事になった」

 「はい!今日は何するんですか!」

 「災害水害なんでもござれ、レスキュー訓練だ」

 

 なるほど、救助活動では何が起きるかわからない。そのために幾らオールマイトとは言え新人だ、フォローの為に人員を増やすという事か。・・・相澤先生もカードを、今回の授業内容であるRESCUEと書かれたものを持っている。ヒーロー基礎学の際の必須アイテムなのかな・・・。

 少しにぎやかになる教室を相澤先生の一言で静まり返る、それを確認し相澤先生が説明を続ける。今回コスチュームの着用は自由、訓練場はバスに乗って移動すると告げた後は退出、それにつられたかのように全員が動き出す。当然俺もコスチュームを着用して挑むつもりだ。・・・あ、障子くん何時もありがとう。

 

 「1-A集合!バスの席順でスムーズに行くよう、番号順で二列に並ぼう!!」

 

 ホイッスルを吹かせ飯田くんがみんなを指揮する。・・・うん、やっぱり人柄的に問題はなかったみたいだ。でも・・・バスの横中央にも扉があるって事は・・・。

 

 「くそうっ、こういうタイプだったか・・・」

 

 バスは旅行などに使われる席が沢山あるタイプではなく、路線バスなどのタイプだった。・・・あぁ、委員長だからと張り切って空回りしてしまったのか・・・。一部のクラスメイトが飯田くんを慰めていると梅雨ちゃんと緑谷くんが話している。

 

 「緑谷ちゃんの個性、オールマイトに似てるわ」

 「うぇっ!?そっそうかな?」

 「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトは怪我しねぇぞ。似て非なるアレだぜ」

 

 そこから切島くんが自らの個性が地味だと不満を漏らし、それを緑谷くんはプロでも十分活躍できるカッコいい個性と褒め、そこから派手な個性という話になり爆豪くんと轟くんが話題に上がる。しかし爆豪くんは発言から人気が出ないと弄られ、本人はそれを否定するも付き合いの浅さで酷い性格がしっかり認識されてる事に凄いと弄られた。

 

 「地味って言やぁ回精の個性も、見た目が地味だがある意味派手だよな」

 「そう?」

 「個性使ってねぇとは言え、俺ですら全部繋げたら振り回せねぇぞその鉄扇。それを振り回すってどんな事になってんだよ」

 「筋肉、と、骨の、密度が、凄く、高い、んだって。だから、力、持ちです」

 「すっげぇなぁ、俺も個性使えば振り回せるんだが・・・デメリットがなぁ」

 「後、実は、奥の手、もある、んです」

 「おっ?必殺技とかそういうのか?いいよなぁ、俺もなんか武器でも要望してみっかなぁ」

 「・・・デメ、リット、の時に、大変、になり、そう」

 「そうなんだよなぁ・・・。はぁ・・・」

 「もう着くぞ、いい加減にしとけ」

 「「「はいっ」」」「はァい」

 

 相澤先生の一声で一斉に返事を返すみんな。・・・いい具合に教育されてるなぁ。そしてバスはドーム状の施設に到着した。そこには宇宙服の様な恰好をした人が立っていた。彼が恐らく相澤先生の言っていたもう一人なのだろう。

 

 「皆さん、待ってましたよ。早速中に入りましょう」

 「「「よろしくお願いします!!」」」

 

 マスクのせいで少し響いて聞こえる声、しかし聞こえづらいという訳ではない。緑谷くんが彼、スペースヒーロー13号の解説をし麗日さんが大ファンだと興奮気味に語る。他の生徒も彼についてはよく知っているのか騒めいていた。災害救助のエキスパートに災害救助を学ぶ、無駄には出来ないと気を引き締めた。

 

 「すっげぇ・・・!USJかよぉ!!」

 「水難事故、土砂災害、火災、暴風、エトセトラ。あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名もウソの災害や事故ルーム、略してU S J !!

 

 クラスメイトが固まった、俺もまんまとは思わなかったので固まっている。・・・しかし、僕が作った演習場、か・・・。つまりこの中は実際の災害と大差ないと考えていいだろう。最高峰と言われる所以はこういうところにあるのかと納得していると、相澤先生が13号先生にオールマイト先生は?と聞いていた。それに13号先生が通勤の際にギリギリまで活動してしまい仮眠室で休んでいるとのこと。それを聞いた相澤先生が不合理の極みと言い表した。

 

 「仕方ない、始めるか」

 「えー、始める前にお小言を一つ、二つ、三つ四つ・・・」

 (((増えるっ!)))

 

 そこから始まったのは13号先生の個性についての心構え、自らの個性は簡単に人を殺せてしまう、生徒の中にもそういった個性を持った人もいるだろう。体力テストで自分たちがどれくらい出来るのかを知り、戦闘訓練でそれを人に向ける危うさを知った。しかしこの授業ではそういった力ある個性を人を助けるために役立てる。それを学んでいってほしい。

 

 その言葉に大半のクラスメイトが13号先生を称賛した。しかし俺は心構えを聞いて一人考え込む。

 俺の個性の元───獣人種の力は人を簡単に殺せる、特に血壊をしたら移動する際の衝撃波ですら人を殺せるだろう。ある程度元と比べると弱体化されているとは言えそれでも獣人種、正直に言って絶対にやらないが、血壊ありならクラスメイトを、一部の雄英の教員でさえ()()()()()()()()()()()。その現実から目を逸らしたつもりは無いが、13号先生の言葉で少し怖くなってしまう。当たり前だ、倫理観に関しては未だ前世のまま変わっていない。誰だって拳から伝わる人の骨が折れる感触や他人の血液の暖かさを好きになれる訳がない、好きになれるとしたら狂人か異常者だ。だが俺はヒーローを目指すって決めたんだ、好きになれなくても慣れなければいけない。

 その為にも、と考えていると()()()()()()。USJの明かりが消えたのか薄暗い。だがそれだけではない、獣人種の、動物としての本能が教えてくれる。悪意が来たぞ、と。

 

 「っ一塊になって動くな!13号、生徒を守れ」

 「なんだありゃ?また入試んときみたいにもう始まってるぞパターンか?」

 「動くなっ!・・・あれは、ヴィランだ」

 

 クラスメイトたちが息を呑む、当たり前だ。遠目でヴィランが暴れているところを見たことはあっても目の前で暴れられるのは見たことが無い者ばかりだろう。それにヴィランが続々と増えていく、こんな数が暴れるなら自分たち生徒にすら被害が出るだろう。何より。

 

 (みんな、血壊の時間はどれくらい?)

 〈最近溜めてばかりー〉〈10分は行けるんじゃないー?〉〈獣狼怖いの?大丈夫ー?〉

 (怖いけど大丈夫、本格的に不味いのは手だらけの奴とモヤの奴だ)

 

 そう、最初に現れた黒いモヤと次に現れた手だらけの奴の悪意が凄まじい。・・・もしも、テロ事件を経験していなければ恐怖で動けなくなっていた。遠目からでもそう認識できる程度に、だがそれで終わらなかった。モヤの奥から大柄な上半身を()()()()()の様な物で覆われ、頭に至っては異形型なのか口が嘴の様に伸び、脳みそを露出させている。なんだあいつは、アレはダメと何かが語り掛ける。

 

 「相澤、先生。手の奴、と、モヤの、奴も、だけど、脳みそ、を、気を付け、て」

 「・・・わかった、13号、避難開始。学校に電話と───」

 

 相澤先生がこちらを見て、何かを感じ取ってくれたのだろう。忠告を聞いてくれた。そこから13号先生と上鳴くんに指示をだす。しかし緑谷くんが相澤先生が何をするかわかったのだろう、止めに入るが。

 

 「一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

 13号先生に後は任せ、相澤先生がヴィラン達に一人突撃する。13号先生の指示に従い入口から脱出しようと移動を開始した、が。

 

 「逃がしませんよ。初めまして我々はヴィラン連合、僭越ながら───」

 

 主犯格の一人と思われるモヤは自分たちをヴィラン連合と名乗る。そしてオールマイト殺害のために今日は来たという事。その発言に一部のクラスメイトが唖然とする、当然だ。平和の象徴と謳われたほどの人物を殺しに来たと言ったのだ。しかし前の方に居た二人は───爆豪くんと切島くんは違ったようだ。モヤに一瞬で距離を詰め攻撃を加える、しかし。

 

 「危ない危ない、生徒といえど優秀なヒーローの卵」

 「だめだ!どきなさい二人とも!!」

 「私の役目は、あなた達を散らして、嬲り殺す事!!」

 

 黒いモヤが広がりみんなを包む、予想通りならこのモヤで移動させることが出来るのだろう。何人かが纏めて飛ばされている中で一人だけで飛ばされそうになっているのを感覚が捉えたと同時に駆け出す。そして何とか間に合ったようでその一人、尾白くんと一緒に燃え盛る街中に飛ばされた。




 一応活動報告になんで唐突にこんなアンケートを取ったのか書いておきました。気になった方は見てくれると嬉しいです。三日坊主になってましたね、ごめんなさい。


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第十九話:闇は深く、しかし極光は照らし出す

 本日二度目の投稿(恐らくは)です。順番的にはこちらが後になりますね。一個前からどうぞ。失敗していたらごめんなさい。


 

 「尾白、くん。無事?」

 「あぁ、回精か、大丈夫。そっちは?」

 「平気、でも」

 「あぁ、アイツらを何とかしなきゃな」

 

 目線の先ではモヤによって配置されていたであろうヴィランを確認できる。今ここで見れるだけでも十数人、恐らくはまだいるだろう。

 

 「へっへっへ・・・こっちは二人かぁ・・・他のところから別の奴が来る前にさっさと殺しちまおうぜ」

 「いいなぁ、じゃあ俺はあっちの男をやる。潰しがいがありそうだ」

 「じゃー俺はあっちの女をやるよ、いたぶって楽しんでやる」

 

 ・・・先ほど、殺しがどうのに怪我をさせる事に慣れるべきと言ったが、いきなり本番だとは。だがやるしかない。

 

 「尾白、くん。相手、した、方が、良さ、そう、だけど」

 「理由を教えてくれ」

 「ここ、音が、響いて、る。密室、多分、USJ、内の、火災、ゾーン」

 「・・・なるほど、ここで逃げ回るのもアリだが倒してUSJ内を逃げた方が可能性があるって事か」

 「そういう、こと」

 

 待ちきれなくなったのかヴィラン達が突っ込んでくる。あえて鉄扇は使わずに素手で戦う事で力加減を覚える為にそのまま相手───ナイフ持ちのヴィランに突っ込んでいく。

 

 「おっ!いいねぇそのまま切り裂かれてくれよぉ!!」

 「誰ッ!が!!」

 「おぐぉ!!う、うで、腕がぁぁぁあ!!ぐほぉぉ!!」

 

 ナイフを振るう前に一気に懐に入り込む、そのまま振りかぶっている方とは逆の前に突き出している腕に全力の半分くらい力を込めて裏拳を叩き込む。・・・何か越しに、ばきり、と嫌な感覚が伝わってくる。顔をしかめながらも痛みでひるんでいる間に先ほどより更に半分の半分くらいで腹に殴りこむ。痛みに耐えきれず意識を手放したのかそのまま倒れ込む。

 

 「・・・次、だ」

 「ひっ、ヒィ・・・」

 「なんだよこれ・・・女は増強系じゃねぇか!!」

 

 ヴィランが何か言っているが無視、鉄扇を手に取り細いパーツを取り付けリーチを伸ばす。流石のヴィランもこちらが獲物を持っているとは思っていなかったようで。

 

 「ヒーローが獲物持ちってアリかよぉ!!?」

 「ヴィラン、に、ルールを、問われ、たく、無いッ!」

 「ぐがぁぁ!!」

 

 今度は腹に殴りこんだ時の倍くらいで相手を鉄扇で横なぎにする。ヴィランは腕でガードをしつつも両腕に大ダメージが入ったのだろう、ぶつかったところが一目見てわかるほど変色している。もう抵抗出来ないと判断し、横なぎの時より更に弱めで顎をカチ上げる。そのままヴィランは後ろに倒れ沈黙した。・・・その際何処かを切ったのか、鼻血が出たのかは判断できないが、返り血が頬に着く。気色悪い、血の匂いに少し吐きそうになり眉間に皺が寄るが拭って隙を晒す様な事はしない。

 

 〈獣狼ー〉〈大丈夫ー?〉〈無理してないー?〉

 「あぁ、大丈、夫。続け、られる・・・。次」

 「おい!女がやべぇって!このままじゃ殺されちまう!!」

 「殺さ、ない。でも、力、加減を、間違え、たら、ごめんね」

 

 そのまま鉄扇を太いパーツと組み合わせる。細いパーツの力加減は大体わかった。重傷から抑えなければと意識し走り出す。

 

 「くっ、来るなぁ!」

 「畜生!畜生!!」

 「ざっけんじゃねぇぞこの野郎!!」

 

 数名、火を操る個性なのだろう。火が飛んでくるが片方の鉄扇を広げ防ぐと同時に大体切島くんに投げたくらいで投擲、鉄扇が着弾した事に気を取られている隙に接近。

 

 一人目、大体顎をカチ上げた際の力で足を殴る。武器を持ったヴィランが投げた鉄扇に気を取られて防御も取れずに足が変色し立てなくなった。どうやら足を狙うのが効率的と判断したところで倒れた音と絶叫の声が聞こえ他のヴィランが我に返る。

 

 二人目、ちょっと力加減を間違えた。腕を殴った時と同じくらい力を込めてしまった。個性を使って対応しようと火を手のひらに集めていたがこちらの方が早く。ばきり、と鉄扇越しから嫌な感覚がやってくる。太いパーツを付けたままだとダメだな、取り外し帯に付ける手間すらかけたくなかったので、抵抗を封じる意味もかねて二人目の手のひらの上に落とす。嫌な音、恐らくはしばらく手が使えないだろう。その痛みで気を失っていた。

 

 三人目、こちらのやっている事に顔を青ざめている。・・・嫌ならなんで雄英に侵入してきた、俺だって嫌だが加減を覚えなきゃ人を殺してしまう。それだけはもっと嫌だ。だから出来る限り力加減を間違えない様に致命的な部分は攻撃していない。親骨を伸ばしただけの鉄扇を恐怖で乱雑になった抵抗を避けつつ振るう。腕に当たり動きが止まった、そのまま両脛を強打。動きが止まり鉄扇を持っていない素手の方で顎を軽く殴る。・・・嫌だけど、大体わかってきた。

 

 そこからはもう流れ作業になっていった。素手で、鉄扇で相手の四肢を殴打し行動不能にしていく。最初は骨を折ったりと重傷を負わせていたが徐々に酷い青あざ位に収まっていった。・・・尾白くんよりこちらがヤバいと判断したのだろう、こちらに多くのヴィランが来ていた。中には泣き叫びながら尾白くんに助けを求め自ら投降する者も現れ、逆に仲間を縛り投降してくるくらいだ。お陰で想定より早く終わった。もうヴィラン達は動けないだろう。

 

 「なぁ・・・回精、大丈夫か・・・?」

 「ふぅーっ、ふぅーっ、・・・うん、大丈、夫。まだ、動ける」

 「そっか・・・。俺は回精の事を友達だと思ってるから安心しろよ」

 「っ!・・・ありがと」

 

 疲れよりも気持ち悪さで息が荒くなっているのを抑える。そしてヴィランに重傷を負わせた事に拒絶されるのではと心配していたが、尾白くんに態々友達と言われ気遣われてしまった。・・・ホント、優しいな・・・。

 

 「早く、ここから、出よう。扉も、外から、壊して」

 「そうだな。それにみんなの事も気になる」

 

 そして燃え盛る街の中を歩き、丁度大通りの道の先が出口だったのでそこから出る。扉を閉め外から蹴り込み歪ませる事で開かなくさせた。・・・恐らくだが、炎が燃え続けているという事は中で空気が循環しているという事だろう。でなければ入ったらすぐに行動不能となり死んでしまう。大丈夫だと自分に言い聞かせて近くの林の中に逃げ込もうとすると広場から聞こえた。・・・聞こえてしまった。相澤先生の叫び声が。怖い、けど相澤先生がそれ以上に心配で。

 

 「尾白、くん、君は、林の、中に!」

 「回精!?どうしたんだ、おい!」

 

 尾白くんに林の中に行くように言葉少なく伝え走り出す。急げ、急げ急げ急げ───!

 

 

 広場が見えてくるとそこには、相澤先生の頭を掴み叩きつける脳みそと、それを見て嘲笑する手だらけの奴が。

 

 

 体が熱い、この先の悲劇を想定してしまう。血の匂い、恐らく相澤先生はもう瀕死だ。早く助けなければ、目の前が明滅する。息が荒くなる。しかしそれでも事態は進行する。手だらけの奴といつの間にかいたモヤが何かを話し込んでいる。そして───水面に顔を出していた梅雨ちゃんに、悪意をぶつけた。

 

 だめだ、ダメだ、駄目だ!!何をするかわからないが感覚で理解する。アレを止めなければ確実に梅雨ちゃんは死んでしまうと。感情の高ぶりで体の中に流れる何かが動きを速める。そしてそれに合わせて感覚が広げられていく。

 

 「血壊!!」

 

 なりふり構っていられない、一瞬で体を地面と水平に()()()。そしてそのまま伸ばした腕を蹴り千切るつもりで、そう蹴りを叩き込もうとしたのに。

 

 「なんっ、でっ!?」

 「・・・」

 「おー危ない危ない」

 

 さっきまで相澤先生のところに居た脳みそが一瞬でこちらに来て足を掴まれる寸前のところで空気を蹴る事でギリギリ避けた。幾ら別の事に集中していたとはいえ血壊中で俺が後手に回る。この事に相手は一体何なのだと固まっていると。

 

 「危ないから、どっか行ってもらおうか。やれ、脳無」

 

 今度は逃さなかった、だが視界に捉えるのでやっとの状況。脳無と呼ばれた存在の拳を避けるので手一杯だった。

 

 「おーおー、脳無の攻撃を避けるのかぁ。やっぱ最近の子供ってすげぇや。だめだなぁ、大人としてはっずかしいなぁ・・・。相手をしてやれ、脳無」

 

 その声と同時に脳無の攻撃が掴み主体に変わる。右手を大きく後ろに跳び後退する事で避けるがそのまま左手が追撃の伸びてきた。空気を蹴り脳無から更に離れる。

 

 「はっやいなぁ、でもぉ・・・そこからならもう間に合わないよなぁぁぁぁああ?」

 「っ!梅雨、ちゃん!!」

 

 状況の激変に固まっていた梅雨ちゃんたちに手が伸びる。今度は峰田くんにも手が伸びていた。一瞬の判断で脳無を追い越しそのまま手だらけの奴を止めようとするも。

 

 「くっそぉ!!」

 「・・・」

 

 何も言わず脳無はこちらに回り込みこちらを掴もうとする手を蹴って大きく移動し避けようとしたが。

 

 「なっ!?ぐぅぅ!!」

 

 蹴りが効かないどころか蹴りの衝撃すら関係ないと言わんばかりに足を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられる。叩きつけられた衝撃と痛みで気を失いそうになるが。

 

 「うぐッ!?」

 

 相手は関係ないとばかりに更に叩きつけてくる。血壊だと防御力も上がるのか、などと変な事を考えつつ次の衝撃で考えが中断された。

 痛みで意識がとびそうになる。次の叩きつけが来るはずだ、どうにか逃げなければ。と薄れる意識の中思った矢先にUSJ全体を揺るがす大きな衝撃。それと共に足が解放されていた。何故と考えていると入口の方から破壊音。そして誰かに抱えられている事を感じ意識を手放した。




 ぶっつけ本番で力加減を覚える事になりましたね。誰だって人を殴り慣れてなければ力加減なんてできません。獣狼は未だ対人経験がテロ事件時の黒タイツとワイヤードと切島くらいなんですよね。
 そういう意味では人を殴れないという事でアニメ1期の緑谷と同じ感じです。

 今回は原作に少し変更点がでます。まぁ獣狼が居る事でのバタフライ効果と言ったことでしょうか。


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第二十話:命を賭して救った者、企む存在

 ちょっと決意した事があるので前書きだと長くなるので活動報告でお知らせさせていただきます。


 平和の象徴オールマイト、彼の到着により雄英高校への襲撃という事態は収束に向かった。教師二人が重傷を負うものの後遺症もなく復帰できるとの診断が出たが、生徒二人。特に一人に関しては脳無と呼ばれたヴィランに足を掴まれ叩きつけられた事で掴まれた足や叩きつけられた際に肋骨や腕の骨が折れるという重傷を負ったものの、こちらも命に別状はなく後遺症もないだろうとの診断が出た。

 

 その事を聞いたクラスメイト達は安堵した、彼と付き合いのある者達は特にと言っていいだろう。診断では彼の筋肉の密度と骨の密度に助けられたとのこと、もしそれが無ければ後遺症を患う事になるか最悪命が無かったという。しかしその事を警察である塚内(つかうち) 直正(なおまさ)は生徒には伝えない、態々不安にさせる事を伝える必要もないためだ。

 

 だが親に関してはそうはいかない、彼の親に連絡を取り事情を説明、その日のうちに両親共に雄英高校に招き根津校長と共に頭を下げるが息子が無事ならそれでいいと。母親がヒーロー免許を持っているために遅かれ早かれこういった事態になるとは予測していたと言う。そしてこういった事態で生き残れたのなら強くなる。と若干のスパルタ教育を見せつけられるが、それでも何か謝罪として受け取ってくれと根津校長が言えば。

 

 「ふっ、こういった時は貸しにしておく。あの時と同じようにね」

 「HAHAHAHA!参ったよ、降参だ。僕に出来る範囲ならやらせてもらうと誓おう」

 

 根津校長の発言に塚内警部は驚く。彼は個性が発現した動物というとても珍しいケースでありそのせいで過去に人間たちに酷い目に合わせられたという。そんな彼がライオンの様な見た目をしているが人間に弱みを握らせると言っているのだ。その事を心配し聞いてみるが。

 

 「あぁ、問題ないよ。獣王くんのところには被服控除や色々な面で便宜を図ってもらっているし、彼ら動獣(どうじゅう)家は心配無用だ。何せ私と似た境遇だからね!」

 「根津殿、動獣家は私の旧姓です。今は回精ですよ」

 「細かい事は気にしない!それに、その動獣家の血を引いているからこそ獣狼君はヒーローを目指したのだろう?」

 「失礼、すみませんが動獣家とは・・・?」

 「そうか、もう知らない警察官が居ても不思議ではないね。話しても問題ないかい?」

 「えぇ、問題ありません。寧ろ忘れ去られない為にも語り継がなければならない。そう、私もあの時は───」

 「さて!獣王くんがこうなったら長い!僕が伝えてあげよう!!」

 

 そして語られるのは個性によって作られた超人社会の未だ浅い歴史の闇。個性婚、個性は基本的に両親から引き継がれる。つまり両親が強力な個性ならば産まれてくる子供はより強力な個性を持った者になる、という倫理的に欠如されたモノ。そこには所謂弱い個性の持ち主たちには今でいう無個性並みに当たりが酷かった時代。だからと言って強力であれば酷くなかったかと言われればそれも否である。

 

 何故なら社会は個性持ちが増えたとしても倫理観は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今では異形型でも街中を出歩けているが、第一世代~第二世代辺りまでは平然と大人が異形型を大人子供問わずバケモノと呼んで、第三世代からは収まってきたもののそれでも偏見は多く、第四世代から今の子供たちである第五世代でやっと偏見もなくなったのだ。

 

 そして彼ら動獣家はその偏見と個性婚の犠牲者だ。彼ら一家は第一世代が動物系の異形型であり基本的に家系内の者は動物系の異形型の個性を引きついだ。その為に街中では動物や害獣に家畜等と蔑まれ、その優れた身体能力を目当てに個性婚の縁談が多数やってくる。中には動獣家を犯罪者に仕立て上げ、社会的地位を失わせた後個性婚に持ち込もうとする者や動物だからと人権を無視した行為が行われようとした。しかし当時の警察では何の力にもならない。

 

 その為、彼らは悪意に敏感であり全員が人間を大きく上回る身体能力と動物としての能力で様々な悪意に立ち向かった。その影響か彼らは全員が誰かを助ける、悪意を見過ごせない心を持っており、「動獣家の人間を疑うよりも動獣家の人間が疑う者を疑え」と一部で言われるほどに功績を上げて行った。

 

 「これが動獣家さ、正直僕も聞いた時には信じていなかったよ。でも調べれば当時の逸話がどんどん出てくる始末、そっくりだろう?人間に振り回されて、でも正義の為に動いている」

 「・・・よく、悪に染まりませんでしたね・・・」

 「当然です、動獣家は悪意に敏感と言いましたが、正確には悪意が嫌いなのです。嫌いな方に行きたくはないでしょう?それに動物故に仲間意識も強く、しかしだからと言って人間を辞めているわけでもない。故に悪意に晒される者達には動獣家は個人差で程度は変わるものの手を差し伸べる」

 「・・・なるほど、確かに忘れてはいけない事のようだ」

 「警察の方にも動獣家の家系の者がいたはずだったのだがなぁ。確か・・・猫に犬、ゴリラもいたか?」

 

 その言葉に塚内警部は部下の一人を思い出す、確かに彼は人の悪意を見逃さない優秀な警察官だ。そして犬となれば保須警察署の署長が該当する、前に見たときにインパクトが(犬のおまわりさんで)あった為に覚えている。想像以上に動獣家が警察内部に居る事に驚きを隠せない。とそこでこの部屋にいた獣狼の母親である螺多が口を開く。

 

 「そろそろ獣狼ちゃんが気になってきたし、会いに行ってもいいかしら~?」

 「あぁ!構わないのさ!獣狼くんが寝ている保健室に案内しよう!」

 「では私もそろそろ今回の件で纏めるべき事がありますのでこの辺りで失礼させていただきます」

 「うむ!では私も「あなた、お仕事大丈夫なの?」はい戻ります・・・」

 

 先ほどまでに凛々しかった百獣の王が一瞬でよく躾けられた家猫に成り下がったのには流石の根津校長も塚内警部も驚きを隠せなかった。

 

 

─────

 

 

 根津校長に案内してもらい、帰りには呼ぶという事で一旦戻ってもらい保健室のリカバリーガールは金髪のガリガリと一緒に退出。丁度いいとベッドで寝ている獣狼の中に居る者達に呼び掛ける。

 

 「出て来なさい、あなた達は起きているんでしょう?」

 <ばれたー><獣狼のお母さん凄いー><なんでわかったのー?>

 「当り前じゃない、あなた達精霊は眠らない。活動を休止することはあってもね」

 <知ってたのかー><なら仕方ないねー><それでご用件はー?>

 「あなた達、獣狼ちゃんの中で()()()()()()()?」

 <何とはー?><てんで分からぬー><無罪を主張するー>

 「・・・そう、しらを切るのね。でも覚えておきなさい、あなた達は物理的に殺せなくても、同一存在からなら消せるってことを」

 <きゃー怖いー><我らは獣狼の味方ー><損になる事はしておりませぬー>

 「・・・わかったわ、今はその回答で勘弁してあげる」

 

 感情の高ぶりを感知したのか私の精霊───()()()()が臨戦態勢を取っていたのを解除させる。しばらくしてリカバリーガールが来るので帰る事を伝えると送ってくれるのでそれについていきつつ獣狼ちゃんの精霊について考える。

 

 獣狼ちゃんの精霊、彼らは()()だ。基本的に精霊は幼稚園児位の知性しか持っていない、故に好きな人を手伝う。だが彼らは明らかに小学校高学年、下手をすれば中学生くらいの知性を宿している。それだけではない、彼らは獣狼ちゃんに対価をちょくちょく求めている。では彼らは()()()()()()()()()()()()()()()

 前に獣狼ちゃんに聞いたがエネルギーの備蓄の為、と言っていた。なるほど、確かに対価を求める事も出来なくはない。だがそれにしても多すぎるのだ。結局のところ本人が得るはずのエネルギーを精霊に渡してそれを精霊が返す、これだけならそこまで高頻度に対価を受け取る必要もない。自分たちの維持のため?精霊は私たちに宿っている間は宿り主のエネルギーを貰い維持をするためのエネルギーを補充する。

 

 つまり、彼らは獣狼ちゃんの中で何かを行い失ったエネルギーを補充するために対価と称して補給しているのだ。

 

 (獣狼ちゃんの身に何も起きなければいいのだけれど)

 <だいじょうぶー?><かんしするー?><おまかせー?>

 (大丈夫よ、あなた達がいなくなったら寂しいわ)

 <えへへー><ぼくたちもー><はなれるのさみしー>

 

 私たち回精家にとって精霊とは言わばもう一つの家族、獣狼ちゃんの精霊も宿主の事を家族と思っているだろう。しかしそれでも不安は拭えない中、夕暮れを眺めつつ家へと帰るのであった。

 

 その日の夜、獣狼ちゃんが目を覚ましたけど遅い時間なので教員が送ってくれるそう。しかしその教員がうるさかったのか獣狼ちゃんがぐったりしていた為に、たまにはお風呂に入れてあげようとしたところ元気よく動き出したので良しとする。




 えぇ、私はもう止まりません。止まった覚えがあんまりないですが。

 という事で独自設定祭りです。個性婚って第二世代から第三世代でありましたが、第二世代から第三世代だとまだ異形型の偏見も残っているのでは?という事でこうしました。ちなみに動獣家の扱いはヴィジランテです、当時は警察がほぼ機能していなかったので丁度いいという事で見逃されてた。そういう感じですね。


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競技と栄光と体験と(原作2期開始)
第二十一話:束の間の休息と学校行事


 料理の下ごしらえは出来るだけやりたい人です、なのでじっくりと獣狼も強化していきます。テンポが遅く感じるかもしれませんが、いきなり覚醒!とかも嫌いではないですが、こういう事があったから覚醒!とかの方が好きなんです。


 USJ襲撃から次の日、怪我は精霊たちの持っていたエネルギーで足りた為に完治した。・・・流石に、老婆───リカバリーガール、保険医で珍しい回復系の個性持ち───に怪我の部位をキスされるとは思わなかったけど。完治したことをチャットアプリでクラスのみんなに知らせれば叩きつけられた現場を見たのだろう、梅雨ちゃんに峰田くん、緑谷くんがすぐさま反応してくれて他にもクラスメイト達がみんな心配するメッセージが届いた。予想通り爆豪くんは無かったが、轟くんからも来たのには驚いた。

 

 そして現在、今の俺はスイーツバイキングに快心さんと共に来ていた。USJ襲撃で怪我をした事がクラスメイト経由で伝わったらしい、妖目は通話で済んだが快心さんは心配だからと付いてきてしまった。・・・俺の方が戦闘力あるんだけどなぁ・・・。

 

 「それにしても意外だな、獣狼くんがスイーツバイキングだなんて」

 「そう?割と、子供、舌、だよ?」

 「ううん、どっちかっていうと焼肉とかの食べ放題に行きそうだったから」

 「あぁ、そう、言えば、話して、無かった、ね」

 

 思い出して個性の話をする。獣人ではあるがお母さんの精霊の個性も混じっており普通じゃ見えないが精霊たちの為に甘いものを食べに来た。するとあんまりにも突拍子もない事だったので快心さんがポカンととぼけた顔をしている。なので。

 

 「ほら、胸の、ところ。赤い、模様。あるでしょ?」

 「わわわ!獣狼くん人前で胸を見せちゃダメだって!」

 「・・・俺、男、だけど・・・」

 「あっ・・・ごめんなさい・・・」

 

 快心さんは俺をなんだと思っているのだろうか・・・。とりあえず胸の丸まったキツネの様な模様を見せる。

 

 「へぇー、可愛い模様だね」

 「うん、それで、出てきて、いいよ」

 「わっ、消えた・・・」

 〈久々の外出だー〉〈中もいいけど外もいいー〉〈でも触れないのは少し寂しいー〉

 

 精霊たちが現れて騒ぎ出す、しかし快心さんはそれに気づかない。

 

 「さっきの、模様が、精霊、の居る、証」

 「ほぇー・・・、こうも見せられたら信じるしかないかも・・・」

 〈あ、快心だー〉〈獣狼にあーんさせたー〉〈お姉ちゃん呼びもさせてたー〉

 「・・・快心、さん。精霊、たちが、俺に、あーん、させた、って。お姉、ちゃん、呼びも、させた、って」

 「・・・誤解なんです。獣狼くんが疲れてるから食べさせてあげようとしただけなんです」

 「・・・お姉、ちゃん、と、呼ばせた、のは?」

 「・・・ごめんさない・・・」

 

 顔が引きつる、まさか同級生にそんな事をさせられて居たなんて・・・!話を聞く(事情聴取)、どうやら俺がテロ事件の時に一日寝込みお見舞いに来た時にやったそうだ。ただその後テロ事件担当の刑事さんに叱られたとの事。

 

 「・・・もう、次は、無いから、ね?」

 「はい・・・ごめんなさい・・・」

 「とり、あえず、食べよう?」

 「うん・・・そうだね」

 

 そして俺は精霊たちの赴くままにお菓子を集め、快心さんは控えめにお皿に盛る。・・・え?こっちも盛るの?ちょっと無秩序じゃ・・・?

 

 (多すぎじゃない?お皿山盛りだよ?)

 〈沢山食べるのー〉〈沢山味わいたいのー〉〈幸せなのー〉

 (全く・・・また来るからちゃんと味わわないと)

 〈また来れるのー?〉〈流石獣狼やでー〉〈太っちゃうよー〉

 (君たちは太らないでしょ・・・)

 「わぁ・・・獣狼くんいっぱいだねぇ・・・」

 「うん、精霊、たちが、味わう、から」

 「そうなんだ、ところで気になったんだけどさ」

 「ん、なに?」

 「精霊さんに名前とか付けてあげないの?」

 「あ、」

 

 忘れてた。しまったなぁ・・・。殆どみんなとしか聞かないから流してしまっていた・・・。

 

 (みんな、忘れてて本当に申し訳ないんだけど名前とか決めよ?)

 〈名前かー〉〈うーん〉〈どうしよー〉

 (・・・こっちで決めよっか?)

 〈いいかなー〉〈今まで困らなかったしー〉〈このままでもいいでしょー〉

 (・・・そう?ならそうするけど)

 「名前、いいって」

 「え?そうなの?多分だけど個性が知性を持ってるのよね?なら名前があると嬉しいと思ったんだけど」

 「本人、たちは、困ら、ない、から、いいって」

 「へぇー・・・まぁ獣狼くんにしか聞けないなら困らないかもね」

 「お母さん、も、見えるし、話せる、けどね。でも、お母さん、も、名前、無かった」

 「じゃあ精霊さんって名前に無頓着なのかもね」

 

 快心さんの言葉にそっか、と返し()()()()()()()()()お菓子を口に入れる。恐らくは精霊たちがメインで味わう際に味覚の大半が持っていかれるのだ。だが精霊たちには備蓄の事で感謝しているためこのことは伝えていない。

 そうして時間いっぱいまで精霊たちはお菓子を楽しんだ。・・・この時に脂質や糖質、カロリーなどと言った栄養素の全てが精霊たちに行くと快心さんにばれ、帰りの電車は好きに遊ばれた。女子にこの手の話題がバレると本格的に不味いと思い知り、バレない様にしなければと決心するものの、これがフラグだったのだろう。

 

 

~~~~~

 

 

 次の日、教室に着くと。

 

 「回精ちゃん、もう動いて平気なのかしら?」

 「そうだぞ回精!お前あのでっかいヴィランに叩きつけられたろ!大丈夫なのかよぉ!」

 「何度もお世話になってる僕が言うのもなんだけど骨折一つでかなり体力が持ってかれるんだよ?無理をしないで一日くらい・・・」

 「うん、大丈、夫。異形、型で、丈夫な、個性、だからね」

 

 あの時水難エリアに居た3人組に心配されるものの個性のお陰で大丈夫で通す、実際大丈夫だから仕方がない。他のクラスメイトも気にはしていたが本人が問題ないという事で次第にあの事件についての話になる。そんな事があったんだーと適当に聞いていると時間になったのか、飯田くんが態々立ち上がり席に着くように教壇で言うが。

 

 「いや席についてないのお前だけだろ」

 

 という正確な一撃にまた空回りしたんだと思っていると、扉が開く音と共に口元と目元以外包帯ぐるぐる巻きの相澤先生がやってきた。クラスが驚愕で声を上げている中相澤先生は教壇に立つ。

 

 「俺の安否はどうでもいい、が。回精、幾ら頑丈とは言え勢いで行動をするな、警告したお前が無策で突っ込むんじゃない。だがお前の行動で救われた者もいる、次は考えて行動しろ、そうすれば無駄な怪我は減る」

 「っ!はいっ」

 「よろしい、そしてまだ戦いが終わっていねぇ・・・」

 

 相澤先生の言う通りだ、あの時は誰かが死ぬかもしれないという状況で頭が一杯で動くだけだったから。もっと考える力をつけなければ・・・。しかし相澤先生の続けた言葉でクラスに緊張が走る、中にはまたもヴィランがと心配するものもいたが。

 

 「雄英高校体育祭が始まる」

 「「「「クソ学校っぽいのきたぁあああああああ!!」」」」

 

 あまりの声量に耳を塞ぐ。・・・ちょっとキーンとしてる。ヴィランの襲撃があった為に中止した方が良いのではないかという質問に、相澤先生が逆に開催することで守りは万全だと言うアピールと今日本で屈指のイベントを中止にするわけにはいかない。そしてこれはプロヒーローにアピールするチャンスである、ヒーローになる気があるなら準備は怠るな。とホームルームを締めくくった。

 

 昼休み、麗日さんのキャラと顔付きが凄いことになっていたが、昨日スイーツバイキングでエネルギーを補充したものの足りなかったために既に食堂に来てカレーライス大盛りと付け合わせにステーキを注文し席に着く。食べ終わった頃には麗日さんと飯田くんも来ていたが運悪く近くの席が空いてなかったために軽く挨拶を交わしそのまま教室へ戻る。そして放課後に事件が発生した。

 

 「・・・すっごい、来てるね」

 「そうだね・・・回精って放課後時間とか平気な感じか?」

 「大丈、夫、だけど、どうして?」

 「いやな、同じ尻尾を持つ者同士で訓練すればお互いに見直せるものもあるんじゃないかって」

 「いいね、俺も、組手の、相手が、欲し、かった」

 「・・・骨、折らないでくれよ?」

 「・・・うん、多分・・・きっと」

 「そこは断言して欲しかったなぁ・・・」

 

 そうして俺と尾白くんはペアを組み市街地の屋根などの足場が悪い場所での移動を俺が、対人戦などの練習は尾白くんが。お互いにいいところとダメなところを指摘しあい何とか体育祭までに俺は手加減を、尾白くんは足場が悪い場所や空中での体の動かし方を覚えて行った。・・・ゴメン、ちょっと間違えたりして青あざ作っちゃった・・・。でも格闘技をやっていればよくある事と流してくれて嬉しかった。




 書いていて思ったけど、獣狼ってキツネってより何かこう、犬っぽい様な・・・。懐いた相手にちょくちょく絡みに行く感じが。

 そろそろ設定辺り更新しようと思います。でも体育祭書くの楽しみだったりするのでモヤモヤ。


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第二十二話:開幕の狼煙を上げろ

 言えない・・・っ!うっかりで二十一話を予定より大幅に早く投稿しちゃったなんて・・・!


 控室にて尾白くんと出来る範囲でお互いの体を解す。・・・尾白くんは尻尾が、俺は体重的に一部の体を解す運動が出来ない。芦戸さんが体操服に不満を漏らすものの、尾白くんはストレッチをしつつ公平にするためと説得。飯田くんが出入り口から入ってくる、そろそろ入場らしい。先ほどまで落ち着きのなかった人たちが緊張に包まれていく。

 

 しかしそのタイミングで轟くんが緑谷くんに挑発も兼ねた宣戦布告をする。場が緊張に包まれ切島くんが轟くんを止めようとするも「仲良しごっこじゃない」と一蹴、しかし緑谷くんも自分は劣っているがヒーロー科だけじゃない他の科も本気で挑んでいる、全力で勝ちに行くと返した。・・・全力、か。場合によっては俺は血壊を使わなければならない。しかし流石に尾白くんを巻き込むわけにはいかず、相澤先生に聞いて何とか増強系用のサンドバックが耐えられる程度には収まった。でも行えたのは片手で足りるくらいの回数、それに練習の為にエネルギーを使いすぎた。気をつけなきゃと考えていると。

 

 「大丈夫か?回精」

 「!大丈夫、うん、だいじょぶ」

 「あんな宣戦布告を目の当たりにしたのだ、飲まれるのも仕方なし。だがお前も体の内に獣を宿すもの、全力で食らいつくぞ」

 

 鉄扇のお陰、と言えばいいのかある程度付き合いのある常闇くんに励まされる。そうだ、みんな全力なんだ。出し惜しみなんてしてらんない、それに久々の体育祭に参加できるんだ。

 周りも移動を始めていたので俺も移動を始める。

 

 『どうせお前らの注目はこいつらだろぉ!?敵の襲撃を鋼の精神で乗り越えた!1-A組の登場だぁぁぁぁぁ!!』

 

 プレゼントマイク先生の会場を煽る声と共に入場する。・・・流石にA組の後の説明緩すぎない?あ、快心さんだ。向こうも気づいたのか手を振っているので手を振り返す。妖目も気づけば快心さんの近くに居て笑いながらこちらを指さす。後ろ?

 

 「獣狼ゥ・・・テメェ・・・」

 「女子に手ェ振って仲良しアピールですかァ・・・?」

 

 うわぁ、なんかやばいのが居る。そそくさと飯田くんの近くに退避、分が悪いと判断したのか上鳴くんに峰田くんは舌打ちと共に諦める。・・・そういう態度が見られて女子にマイナス評価食らうのでは・・・?

 

 「うわぁ、回精くん人気だね!」

 「葉隠、さん。下手な、慰め、なら、いらない、よ」

 「あのバカ二人に人気になったってしょーもないでしょ」

 「でもよぉ、流石に羨ましいってところは理解できるから何とも言えねぇんだよなぁ」

 「・・・砂藤、くん。女子の、人形、に、されれば、人気、モノだよ」

 「・・・悪かった」

 「・・・いいよ」

 

 流石に人気の為にプライドを捨てきれないようだ。中央に集まり、18禁ヒーローのミッドナイト先生が現れる。そのお陰で例の二人の視線が離れた。・・・わかりやすいなぁ・・・。

 

 「選手宣誓!1-A!爆豪 勝己!!」

 「・・・せんせー、俺が一位になる」

 

 一斉に1年生徒からブーイングの嵐が始まる。飯田くんも爆豪くんに抗議するが。

 

 「せいぜい跳ねの良い踏み台になってくれ」

 

 親指だけを立て、そのまま下に向ける。その行為に余計ヒートアップする生徒たち。・・・うん、多分1-Aは全員予想出来てたからなのか呆れややっぱりと言ったところが多い、他は快心さんと妖目と言った爆豪くんの性格を知っている人くらいか?

 

 収まった辺りでミッドナイト先生は第一種目を発表する。内容は障害物競争、コースはこのスタジアムから出て外周を周りスタジアムに戻ってくるルート、しかしコースを守れば何をしてもいいという危ない競争。

 

 そして時間が惜しいとばかりに位置につけと言う。・・・狭いな、こういうところはなぁ・・・。嫌な予感がしこっそり後ろに下がる。

 

 『スタートォ!!』

 『さぁて実況していくぜぇ!!っと早速A組轟!個性使って入口ごと他のリスナーたちを凍らせていくゥ!!』

 『早いな、もう少し時間をかけていくと思っていたが』

 

 実況を聴いてやっぱりかぁ、と予測通りだったと実感しつつ凍っている壁を蹴って飛びながらで凍っている前方集団を跳び越す。

 

 『だがそこから抜け出すは同じくA組連中だ!!』

 『まぁあの狭さだ。誰が何するかは予想もつく』

 『同じ組のライバルだから何するかもわかるってかぁ!?激アツゥ!!』

 『おい、良いから実況しろよ。先頭はもう第一障害に到着したぞ』

 『おぉっとわりぃ!最初の障害物は入試のロボインフェルノォ!!』

 

 実況の声を聴きつつ前方から冷気と共に誰かが個性を使う感覚がする。恐らく轟くんだ。どうやらもう突破したらしい、実況が生徒たちを煽るがぶっちゃけ相手するだけ無駄なんだよね。という事で巨大ロボが殴りかかってくる腕を避け登る。

 

 『おぉう!A組爆豪!下がダメなら上ッてかぁ!?クレバー!!』

 「悪いな回精!お前のルート使わせてもらうぞ!!」

 「流石、尾白、くん!」

 『おうおう!A組連中どんどん上を通過していくぞォ!?これ殆ど無視されてね!?』

 『当たり前だ、障害物なんだから無視するに決まってるだろ』

 

 尾白くんにルートを残さない様にあえて険しい道を行き巨大ロボを越えていくが。

 

 「甘いぞ!回精!!」

 

 飛ぶと同時に尻尾を()()()()。その勢いで更に飛距離を伸ばす。くそ、下手に教え過ぎたか?

 

 『おいおい!回精とA組尾白がロボインフェルノの上で追いかけっこしてんぜ?クレイジィー!!』

 『ほう、尻尾を振り回した力で飛距離を伸ばしてやがる。大きな尻尾が空中移動の妨げになりやすかったが、それを逆に利用してやがる』

 『見た目普通だがやってる事は達人じゃねぇか!!』

 

 そして第一障害を突破したものの、尾白くんは大きく引き離す事は出来なかった。だがこのままいけば上位入りは確実、一気に進もう。

 

 『先頭集団はえぇなマジで!!そんじゃまぁこれならどうよ!?ザ・フォォォォォルゥ!!』

 「ここで、引き、離す!!」

 「そう簡単に離されるか!!」

 

 ロープに着地し飛び跳ねる中、後ろをちらりと見る。ロボインフェルノの場所ではそこそこ近くにはいたが、流石にここでは尾白くんが不利だ。

 尾白くんはまだロープ自体に着地出来る程の経験がない、だから尻尾をロープに巻き付けロープが伸び切った状態から戻る反動を利用して跳んでいる。しかしロープに直接着地するよりも時間がかかってしまう為に徐々に引き離していく。

 

 『綱渡りだってのにこいつらロープをトランポリンみてぇに飛び跳ねてるぞ!尾白に関してはなんだかもう、スゴ技だな!!』

 『そこ実況しろよ、ロープに着地した際に大きく揺れる、特に尾白はまだロープに着地する技量が無いようだが大きな尻尾を器用に使っているな。一歩間違えればすぐさま谷底だが日頃から体を鍛え体軸と尻尾の精密さが十分にある尾白にしか出来ない芸当だ』

 『うっは!マジかよストイックゥ!!って先頭の轟がもう抜けたァ!!続いて爆豪が空飛んで追いかけるゥ!!こう見ると爆豪ずっこいな!!』

 『知るか、個性次第だ』

 

 爆豪くんは予想していたが轟くんも早い!更にロープからロープへ、時には島に着地し次のロープへ跳ぶ。最短距離をつき進めたお陰で結構早く次に進めそうだ。

 

 『早くも最終関門、その実態はぁぁ・・・、一面地雷原んん!!地雷の位置はよく見りゃ分かるから目と足酷使しろぉぉぉ!!!』

 

 地雷原ってマジか、どうやってそんなもの用意したんだよ・・・。・・・あ、教師のセメントス先生とパワーローダー先生か。だが人工物を埋めた時点で俺に()()な状況だよ?

 

 『オイオイオイ!!回精ガンガン突っ走ってんぞぉ!?でも爆発してねぇ!!どうなってんだこりゃぁ!?』

 『アイツの個性は見た目通り動物の力があるからな、キツネだって鼻は利く。恐らく地雷の臭いで判断してんだろ』

 『ハウンドドッグと同じかよぉ!!だが回精が追い上げた影響で轟が地雷原を凍らせ、爆豪が速度を上げていくゥ!』

 「おい、ついた!!」

 「俺の前にィ!何時までも居るんじゃねェ!!」

 「クッソ!」

 『喜べマスメディア!!お前ら好みの良い展開だァ!!!さあさあさあ!後続もどんどん追い上げてきたぞォ!!』

 『轟もなりふり構ってられないな、爆豪もだが回精も速い。一々地雷なんて確認してる余裕はないぞ』

 『轟と爆豪!お互い妨害しながらも一位を譲らないィ!!そしてそのすぐ後を回精が虎視眈々と狙ってんぞォ!!キツネなのに虎かよォ!!』

 『そこ関係ないだろ、まぁ有利なステージではあるが同時に不利でもあるからな。回精は』

 『おん?ミイラマンどういう事だ?』

 『少しは自分で考えろよ』

 

 放送からこっちの弱点が露呈しそうになっている事に冷汗を流しつつも前の二人を追跡する。ここを抜けたらこっちの番だ。しかしそう考えている間に後ろから先ほどから聞こえていた爆発音より数段上の爆発音と衝撃、振り返れば巨大な煙が上がっておりその中から誰かが飛んでくる。アレは・・・!

 

 『ヒュゥーッ!!A組緑谷ァ!ロボの装甲と地雷の爆発を利用して一気に猛追ィィ!!つぅーか抜いたァァ!!!』

 「俺の前に出るんじゃねぇクソデクゥゥ!!」

 『元先頭二人が争いをやめて一気に走り出したァ!!敵の敵は味方ァ!だが争いは終わらないィィィ!!』

 『何言ってんだお前』

 

 状況が変わる。後ろで諦観している場合じゃない、このままでは追い抜くことが出来る距離を越してしまう。

 

 『おぉっと!争いをやめてすぐさま回精が先頭に向けて突っ走るゥ!!新たな火種が産まれる瞬間だァ!!』

 『だから何言ってんだお前』

 

 二人が緑谷くんを追い越す瞬間、緑谷くんが装甲のケーブルを両手で握るのが見えた。ヤバい、両耳を咄嗟に塞ぐ。そして緑谷くんが装甲を地面に叩きつけ、複数の地雷を起爆。その勢いで更に前に進みすぐ近くにいた二人は妨害され、俺は。

 

 「ぐぉぉぉ、耳がぁ・・・」

 『緑谷ァ!装甲を地面に叩きつけ妨害と同時に前に吹っ飛んでいくゥ!!ってか回精が耳抑えてんだけど大丈夫かァ!?』

 『あれが不利の原因だ。耳が良いから爆発が近くで起きれば多少なりとも怯む』

 『マジかよドンマイだな!緑谷が更に前に進み轟、爆豪両名がそれを猛追!!回精も今復帰したのか慌てて追いかけるゥ!!』

 

 かなり離された!!急いで追いかけるがもう前方の三人はステージの入口に入って行った。

 

 『雄英体育祭1年の部!序盤の展開から誰がこの大番狂わせを予想できたァ!?今、一番最初にステージに帰還した男、緑谷 出久の存在をォォォォォォォ!!!

 『続いて轟、爆豪、そして回精もゴォォォォォォォルゥゥッ!!』

 

 クッソぉ・・・!一位を狙えたのに緑谷くんの妨害で出遅れてしまった・・・。・・・久々の一位以外、嬉しい、楽しい、面白い。そんな感情で一杯になり口角が吊り上がる、次は勝つぞ緑谷くん。

 

 「ッ!!??」

 「ヤッバ獣狼くんの獲物を前にした時の様な凄惨な笑みだよ中々無いレア表情」

 「あははは・・・快心さん、少し落ち着こ?」

 

 ・・・緑谷くんが何か震えあがったが気のせいだろう。何も聞こえない何も聞こえない・・・。そして他の生徒たちが次々とゴールしていく中、割と早い段階で遠くに尾白くんを見つける。やっぱり上位入賞してきたか・・・。こちらに気づいた尾白くんが俺に向けて拳を突き出す、それに笑顔で返しこちらも拳を突き出す事で返す。あぁ、わかっている。お互いに悔いのないよう戦おう。

 

 なお、その光景をミッドナイト先生に見られ。要チェック(青春してる)リストに追加されたのを俺たちは未だ知らない。




 轟は原作よりも早めに凍らせました。何気にこの手の競技では獣狼が有利なので警戒してます。
 尾白は獣狼との付き合いで尻尾を使って飛び跳ねたりする次の段階、つまり尻尾を使って空中で勢いをつけ飛距離を伸ばす、空中の姿勢制御と言った具合に強化されましたね。・・・タグに原作キャラ強化付けとかなきゃ・・・。

 回精が入った為青山くんは43位ですが、話の流れなのでご容赦ください。


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第二十三話:地を駆け空を跳ぶ獣

 チャカチャカと一位から順に42位までランキングを書いていく。ずれた順位分スコアをちゃんと反映させなきゃ・・・!

 一部騎馬を組みなおしてそこからスコアを再計算してきました。とっても疲れたです。もしもで色々なチームに入れたりした結果、彼のチームでもしも万全を期すのなら。という理由でこうなりました。

 ちなみに獣狼は体育祭は初めて、テンション上がってます。


 障害物競争のランキングが発表され、興奮冷めやらぬまま次の競技の発表が行われた。種目は騎馬戦、2人から4人までの騎馬を組むが42位から5ポイントずつ加算され2位は205ポイントだが、1位は1000万ポイントと言う膨大なポイントに。・・・ひと昔、いやふた昔前ほどのクイズ番組か?ポイント発表時に緑谷くんに周囲の視線が釘付けになるが説明が続く、こちらも個性アリの戦いだが悪質な崩し目的等の行為は一発退場とのこと。15分の交渉タイムを設けられチーム作りが始まった。・・・始まってしまった。

 

 (やばい、どうしよう・・・。俺この手の競技出たことないからどうすればいいの・・・?)

 〈大丈夫ー?〉〈我らがついてるー〉〈獣狼とはズッ友だよー〉

 (うん、ありがとうねみんな。でも今はどうやって他の人と組むかを考えないとね・・・)

 〈我らもぼっちー?〉〈二人組・・・うっ・・・〉〈やめるのです、やめろー〉

 

 やばい、みんな色々固まってる。・・・あ、緑谷くんのところ変に空いてる。なら丁度いいかな、仲もそんなに悪くないし最悪二人でやって俺が緑谷くん担げばいいか。そんな事を考え近づこうとすると。

 

 「テメェはこっちだクソ犬」

 「ぎゃうん」

 

 首根っこを爆豪くんに掴まれそのまま引きずられる。・・・ちょい強引じゃない?そのまま引きずられてると切島くんと瀬呂くんが居た。どうやら爆豪くんのチームらしい。

 

 「扱い、酷い」

 「っるっせぇ、テメェが居りゃこっちの足は完璧なんだよ」

 「あー・・・悪い回精。引き込む様に言ったの俺なんだわ・・・」

 「瀬呂、くん?一応、話は、聞くけど」

 「言った通りだ、テメェのその馬鹿力で騎馬やれって言ってんだよ」

 「俺らは切島の防御に俺の中遠距離、爆豪は爆破で範囲ってなると後は力があって索敵も出来る奴ってなると回精になったってわけ」

 「わりぃな回精、だが勝つためには何が何でもお前を引き込むぜ」

 「んー・・・」

 

 仲の良さで考えれば緑谷くん一択だ、爆豪くんとはあんまり接点がない。しかし損得で考えると爆豪くんなのである。実は血壊のエネルギーがそこまで溜まっていない、なのでお昼まで持てば何とかなる算段は付けているが緑谷くんと組む場合、恐らくだが高確率で血壊を長時間使う事になる。そうなればここで敗退だし何よりさっきの事で緑谷くんをライバル視している自分が居る。・・・ここまで揃ったら答えはわかりきっているな。

 

 「ん、良いよ。足に、なる」

 「・・・マジかよあんな連れてこられ方したのに・・・」

 「・・・実は俺も何か奢ったりすることになるかなって思ってたわ」

 「失礼、な。人を、なんだと、思って、る」

 「あー・・・言われてみれば回精って怒らないよな」

 「そうそう、爆竹みたいに一度爆発すると連続で爆発し続ける爆豪とは真逆だよな」

 「ンだと醤油顔テメェ殺すぞ!!!」

 「ほらこんな感じに」

 「俺も、怒った、りは、するよ?」

 「「うっそだぁー」」

 

 ホント、俺なんだと思われてるんだろうな・・・?怒るときはしっかり怒ると伝えるも中々二人には信じてもらえず、爆豪くんに関しては舌打ちして聞く耳持たぬだ。そして時間が流れて行った。

 

 『それじゃァいよいよ始めるわよ!!』

 『15分のチーム決めと作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬が揃ったァ!!』

 『・・・中々面白い組み合わせだな・・・』

 『スリィィ!トゥゥ!ワンンン!!スタァァァァァト!!』

 「行くぞォ!!」

 

 爆豪くんの声に合わせて移動を始める。緑谷くんがサポート科からのアイテムを借りてB組の攻撃を躱すが障子だけが騎馬のチームにアイテムの片足を破壊されてしまう。そこをチャンスと思ったのか爆豪くんが飛び緑谷くんに空中の追撃を仕掛けるが常闇くんのダークシャドウで防がれる。

 

 『うぉぉおいおい!!騎馬から離れてんだけどォ!そこんとこ大丈夫なの!?』

 『テクニカルだからアリ、よ!!地面についてたらダメだったけどね』

 「ナイスキャッチ!」

 「チッ!」

 

 時間約半分のところでマイク先生のスコア報告が入るが、接近する足音を耳が捉えた。

 

 「爆豪、くん。前に、倒れて!!」

 「ッ!チィィッ!!」

 「へぇ、やるねぇ。まさか気づかれて反応されるとは思わなかったよ」

 「ッぶねぇなテメェ!!」

 「おぉ、怖い怖い。まるで暴れ牛だね、ただひたすらに目の前の相手に突っ込むことしかできない。あ、これなら猪武者か?でも武者っていうより爆弾だね!猪爆弾なんてどう?君にぴったりだよ?」

 「んだとテメェ・・・!」

 

 そして彼は語る。今回B組は一部を除いて全員で協力しA組一辺倒のムードを引っくり返すと言う、そして更に彼は煽り続ける。

 

 「そうそう!君有名人だよね?なら後で聞かせてよ。ヘドロに捕まった時の感触ってやつを、年に一度ヴィランに襲われる気持ちってのもさぁ」

 「切島ァ・・・!予定変更だァ・・・!」

 「お・・・?ヒィ!?」

 「こいつらァ・・・!全員ぶっ殺すゥ・・・!!」

 

 彼の煽りで爆豪くんが限界ギリギリで切島くんの声で一応冷静だと両手を爆破し対応するが、聞こえる声が全然冷静じゃない。しかし相手も的確だ、爆豪くんの短気さを良く分かっている。そしてヘドロに捕まった、年に一度の単語で恐らくヒーロー科に入る前にヴィランに一度襲われているのだろう。彼の性格的に絶対触れられたくない事だろう、それを触れて更にヴィランに襲われると強調した。うん、めっちゃ怒ってるが大丈夫だろう。彼は変に冷静だ。なので。

 

 「爆豪、くん、相手、潰すぞ」

 「「!?」」

 「いいじゃねェかァ・・・意見が合うなクソ犬ゥ・・・!」

 「俺の、前で、仲間を、侮辱、するとは、いい、度胸」

 「かっ、回精が・・・」

 「切れた・・・つか表情怖すぎ・・・!」

 〈おぉう・・・〉〈獣狼がキレた・・・〉〈ご冥福ー・・・〉

 (大丈夫、ちゃんと手加減して潰す)

 「行くぞォ切島ァ!!」

 

 爆豪くんの掛け声とともに走り出す、一気に距離を詰め爆豪くんが爆破を食らわせようとするが彼はそれを受け流し反対側の手を爆豪くんに向ける。けど遅い。

 

 「シャァッ!」

 「ぐぅっ!?ちぃっ!!」

 「俺の!?チィッ!!クソがァァァァァ!!」

 

 爆豪くんの足を左手だけで支えつつ大きく右側に出て右手を切島くんの肩に乗せ、体を右手で引っ張り彼の手首を蹴り上げる。その際に爆豪くんの体制が崩れるものの騎馬が崩れてないので良しとする。しかし本当につま先に掠る程度しか当たらずに手をカチ上げ、上に向かって爆豪くんと同じ爆破をするだけに終わった。・・・今の当たりじゃ腕がしばらく痛むくらいか。爆豪くんがすぐさま追撃に爆破をするが相手は切島くんと同じ硬化で防ぐ。

 

 「くっ・・・痛いなぁ、これがあったら防げたんだろうなぁ。いい個性だねぇ、僕の方が良いけどさ」

 「コイツ・・・コピーしやがった」

 「正解。まぁ、バカでもわかるよね?」

 

 爆豪くんが更に仕掛けようとするが右側から液体が飛ばされる。どうやらB組らしい、追撃しようとするも切島くんが右足を取られてしまったようだ。仕方ない。

 

 「切島、くん。右足、硬化」

 「なんか嫌な予感がするんだが・・・?」

 「いいから、早く」

 「はっ、はいっ!」

 

 硬化してくれたようだ。これなら心置きなく、切島くんだから大体このくらいまで平気と判断し。右足ごと固まった液体に蹴りを入れた。

 

 「うぉい!回精!右足痺れたんだが!?」

 「これで、動ける」

 「・・・やっべー、回精怒らせねぇ方が良いわ・・・。爆豪よりやべぇ」

 

 この光景に物間と言われた奴は煽ろうとしている途中で口を引きつらせるが、爆豪くんには効いたようだ。爆発で飛びだす、相手の騎馬の個性で空中に壁が出来たようでそれにしがみ付いた、が数発で壊れ2本ハチマキを持って瀬呂くんのテープで戻ってくる。マイク先生の放送で3位にまで戻ってきたようだ。

 

 「これで3位、通過は確実だ」

 「まだだァ!!完膚なきまでの一位じゃなきゃ意味がねェ!!!」

 「少なく、ても、アイツは、潰す」

 「そういうこったァ!!そんで1000万取りに行くゥ!!醤油顔!!」

 「瀬呂だってぇーの!!」

 「クソ犬ゥ!速度上げろ!!」

 「せーの、で、ジャンプ、して、・・・せーの!!」

 

 爆豪くんを肩に膝立ちさせ、ジャンプしたと同時に瀬呂くんと切島くんを掴む。爆豪くんが両手を後ろに構えて瀬呂くんがテープを巻き取る力があれば!!

 

 「血壊!!」

 

 血壊を地面を蹴る一瞬だけ発動させる、出し惜しみは無しだ。見えない壁を張るがパンチで壊れる程度なら問題ないと突っ込む、判断は正しかったようで切島くんが硬化で壁を破り、爆豪くんが最後のハチマキを奪う。もう用はないとばかりに氷に包まれた会場の一角へ向かった。

 

 「氷が邪魔だ、クソ犬!!」

 「人、使い、荒い、ね!!」

 「・・・よく、俺の足無事だったなぁ・・・」

 「一応キレてても力加減はしてくれたって事だろ」

 

 蹴りの一撃で氷に轟音とヒビが走る。もう一撃を食らわせると今度は一部が突破できそうになった。そしてそれを見逃す爆豪くんでもない。

 

 「そ、こ、かぁぁぁぁぁぁ!!」

 『ヘイリスナーたちぃ!20秒を切ったぜぇ!!』

 「1000万は!?半分野郎かぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 「爆豪!勝手に行くな!!」

 

 爆豪くんが緑谷くんチームと轟くんチームに介入する。彼の襲撃に合わせてダークシャドウが轟くんチームに襲い掛かるが上鳴くんの放電で迎撃をするものの爆豪くんはすぐさま瀬呂くんのテープで退避させられていた。

 

 「あぶねぇぞ爆豪!お前が落ちたらこっちは行動不能なんだぞ!」

 「るせェ!今なら問題ねェ!!」

 「あちょ爆豪!!チィッ!俺たちも行くぞ!!」

 『カウントダウン開始だぜぇ!10秒前ェェ!!』

 

 轟くんが棒を八百万さんから受け取りそれを凍らせて迎撃する準備をする。緑谷くんの騎馬も突撃を始めた、なら!

 

 「瀬呂、くん!轟、くんの、武器に!」

 「!あぁ任せろォ!!」

 「!?ちぃっ!」

 「隙を見せたなァ!半分野郎ゥ!!」

 「ックッソォ!!」

 『タイムアァァァァァァァァァプ!!』

 

 爆豪くんがハチマキを一つ奪うと同時にタイムアップ。爆豪くんに駆け寄り結果を確認する、が。

 

 「チックショォォォォォォォ!!」

 『一位ィ!轟チーム!!』

 

 お目当ての1000万ではなく別のチームのポイントだったようだ、流石に今の彼に掛ける言葉は持ち合わせていない。

 

 『二位ィ!爆豪チーム!!三位ィ!てつて・・・あれ!?心操チームゥ!?そして最後の出場チームはァァ・・・四位ィ!緑谷チームゥだぁぁぁ!!以上の四組がァ!最終種目に進出だぁぁぁぁ!!!』

 

 ・・・爆豪くんには悪いが、頑張っても一位が取れないこの状況。とても楽しんでしまっている。

 

 〈獣狼楽しい?嬉しいー?〉〈もう怒ってない?大丈夫ー?〉〈でも獣狼の顔かっこよかった・・・ポッ〉

 (うん、楽しんでるしもう怒ってないよ、後最後どうやって見たの)

 〈冗談ー〉〈楽しんでるならー〉〈僕たちも嬉しいよー〉

 (うん、みんなありがと)

 

 次が最終種目、全力で一位を取りにいかないと・・・!でもその前に血壊使った分回収する必要がある、精霊たちにも上げなくちゃいけないし。そうして俺の次の戦いが始まろうとしていた。




 回精で索敵出来るのでポイントは取られません。ですがそのせいで怒らせるための煽りが少し増えています。

 回精は仲間意識の高い一族です。そんな奴の前で同じクラスメイトで今回だけとは言えチームメイトを態々傷をえぐって広げるような真似をする奴を許すかと言われれば・・・まぁ、無いなと言う事ですね。ちなみに煽りが元のままでも変わりません。

 ・・・これ、一部騎馬を組みなおして再計算した意味が・・・。


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第二十四話:己が為に決断する者、増える犠牲者

 えー、心操くんって個性が犯罪に使えるとか言われまくってました。なので女子に使うのって今の段階じゃかなり忌避してると思うんですよね、第一種目でも第二種目でも男子にしか声かけてないみたいですし。なのでこうなりました。

 一応怒られそうなので前もって保険の為に、割とお遊び的な要素があるので微キャラ崩壊です?

指摘されたので内容変更しました。ノリと勢いだけでもダメですね、もう少し考えねば。


 第二種目終了と同時に荷物置き場に急ぐ、流石に一瞬とは言え血壊を使ったのは不味かったらしい。

 

 〈エマージェンシー〉〈備蓄が危ないー〉〈お前・・・消えるのかー・・・?〉

 (ごめんね?今すぐ何か食べるから。何がいい?)

 〈肉ー!〉〈魚肉ー!〉〈えーとえーと・・・畑の肉ー!〉

 (無理に肉繋がりで揃えなくてもいいよ、今回に限っては食堂とお弁当のコンボだからね)

 〈そー言えばそうだったー?〉〈なら色々沢山ー?〉〈ここが我らの戦場だー!〉

 

 結局食べれるのならオッケーらしい、お弁当を回収後食堂へと向かう。食堂ではサラダに汁物とデザートのパフェを注文し受け取ってそこからお弁当のお肉と白米コンボ。更に飲料はジュースと言ったカロリーが多めのものにしている。・・・流石にお弁当にトレーに乗った様々コンボに他クラスから物凄く注目され周りの人たちはたまったもんじゃない、とそそくさと別の席に移動する。お陰で本来なら混むはずなのに空白地帯が出来上がってしまった。

 

 「罪悪、感が、凄い」

 「いいんじゃねぇの?お陰で俺たちが席に座りやすいわ」

 「そうだぜ!気にすんなって!誰かが座っちまえば関係ねぇしよ!」

 「瀬呂、くん。切島、くん」

 「切島さんの言う通りですわ。それにクラスメイトで集まれると思えばいいのではないでしょうか?」

 「そうね、回精ちゃんのお陰ですぐにご飯を食べられるのは助かるわ」

 「・・・うん、みんな、ありがと」

 

 この流れに釣られたのかどんどん周りにA組のみんなが集まってくる、そうなると当然俺の食事量に注目が行く。

 

 「ごちそう、さま」

 〈美味であったー〉〈やっぱり甘いものは別腹ねー〉〈お肉うまうまー〉

 「前から気になってはいたのだけど回精ちゃんって沢山食べるのね」

 「うん、個性、の、燃費が、悪くて」

 「へぇー、でも流石に食いすぎじゃねぇか?」

 「だいじょぶ、食べ過ぎ、ても、備蓄・・・やべっ

 「ねぇ回精、今食べ過ぎても大丈夫って、備蓄って聞こえたんだけどさぁ」

 「私も気になるなー、気になるなー!?」

 「けろ、回精ちゃんごめんなさいね。今回は手助け出来そうにないわ」

 

 俺のばかぁ!女子の前じゃこの手の話題はダメって前もって知ってただろうにぃ!芦戸さんと葉隠さんの包囲網からじりじりと後ろに追い詰められる。とそこへ救いの手がやってきた。

 

 「おっ、丁度女子が全員いんのか?」

 「八百万はクラス委員だから知ってると思うがよォ」

 

 上鳴と峰田(救いの手)はこう続ける。午後はチアリーダーの恰好をし応援合戦をする、もしも忘れてるといけないから伝えて来てくれと相澤先生からの言伝があった。・・・こいつら嘘の為に先生の名前出しやがった・・・。でもこの状況は俺には丁度いい。

 

 「・・・本当ですの?回精さんは何か聞いていませんか?」

 「さぁ・・・?でも、本当、なら、クラス、不参加、で、不味い、んじゃない?」

 「・・・それもそうですわね」

 

 こうして俺はこの場を女子全員が離れるように誘導する事でこの危機を脱したのだった。

 

 

~~~~~

 

 

 『どぉぉぉぉしたA組ィ!!どんなサービスだぁぁぁ!!??』

 「騙しましたわね!峰田さん!上鳴さん!!」

 「アホだろアイツらァ!!」

 「・・・あれ?なら回精なんであの時否定しなかったの?」

 「・・・俺も、知らな、かった、な」

 「あれれぇ~?ダメじゃないか獣狼、ウソついちゃ」

 「妖目、ウソ、じゃない」

 「全くも~、獣狼は嘘つくとすーぐ耳に出るの、知らないの?」

 

 マジか!?慌てて耳を触るも特にこれと言って変化がない。妖目にしてやられたっ!妖目を睨む、アイツ人の嘘を暴いて笑ってやがるぅ・・・!とっちめてやると歩き出すと肩を掴まれる。

 

 「回精さん・・・あなた嘘をつきましたのね・・・!」

 「えっ、あの、いや」

 「ちょーっとクラスメイトを騙すのってウチよくないと思うんだよね」

 「え、あの、まって」

 「うーん、これちょっとお仕置きが必要だとアタシ思うなー」

 「うん、うちも逃げる為とは言え騙すのってよくないと思うんよ」

 「とりあえずお仕置き決定だね、回精くんたちのせいで恥ずかしい思いしちゃったし」

 「あの、その、ごめん、なさい」

 「そうだよ、回精にお仕置きすんならあいつ等もお仕置きが必要じゃね?」

 「だね、上鳴と峰田ちょっと捕まえてくるわ」

 『回精お前押しに弱すぎじゃね!?ウケルゥ!!』

 

 何されるんだろう、とどんよりした思いの中上鳴くんと峰田くんも捕まり、最終種目の内容が説明される。騎馬戦の上位16名によるトーナメント方式の1対1の対決というシンプルなもの。ミッドナイト先生により組み合わせ決めとこの後のレクリエーションに上位16名は参加するもしないも自由とのこと。クジで決めようとした矢先に。

 

 「あの!すいません、俺・・・辞退します」

 「すんません、俺も辞退します」

 

 尾白くんと砂藤くんの二人が手を上げ辞退すると宣言した。飯田くんが二人を止めようとするも尾白くんは騎馬戦の記憶がほぼなく、そんなみんなが全力を出しているところで何もない俺たちが出ていいものじゃない、と。周りは本選で成果を出せばいいと言うが尾白くんはプライドが許さず、砂藤くんは尾白が辞退したのに同じ状況の俺が出るなんて自分が許せないと返した。その言葉に更にB組の庄田くんも何もしていない自分が出ていいわけがない。と辞退を宣言した。

 

 「そういう青臭い話はサァ・・・好み!!」

 (((好みで決めるんだ・・・)))

 「尾白、くん」

 「回精・・・すまない・・・」

 「いい、尾白、くんの、代わりに、頑張る、よ?」

 「回精・・・ありがとう・・・。でもなんでお前もだけど上鳴と峰田もプラカードを首から下げてんの

 「尾白、くん。たすけて」

 「尾白ォ!オイラ達このままじゃ何されるかわっかんねぇ!頼む!!」

 「尾白!俺とお前の仲だろ?頼む!」

 「尾白くん、外しちゃだめだよ?三人は組み合わせ決まったらお仕置きするから」

 「・・・すまない、回精・・・。でもお前たちは自業自得だろ」

 

 『私たちは私利私欲のために人を騙しました。』を首から下げた二人と『私は自分が逃げる為に人が騙されるように誘導しました。』と首から下げた俺。周囲の視線が他二人よりも柔らかいとは言え少し痛い。

 ミッドナイト先生はこちらを見て満足し、3人分の繰上りを決めなくてはいけないので拳藤チームに決めさせるが拳藤は鉄哲チームに譲る。ほぼ動いてない自分より上位キープしたあっちが適任と。しかし鉄哲チームも二人決め後一人と言うところで残り二人が物間チームに譲った。拳藤と似た理由で俺たちは二人のお陰で何とかなっていたが、上位チームの爆豪からハチマキを奪って上位チーム入りした物間チームを差し置ける程じゃない。という事で物間チームから一人出てトーナメントの順番が決まっていった。

 

 『さぁ!気になるトーナメントの組み合わせはこちら!!』

 

 第一試合:心操 対 緑谷

 

 第二試合:轟  対 瀬呂

 

 第三試合:塩崎 対 八百万

 

 第四試合:上鳴 対 発目

 

 第五試合:回精 対 物間

 

 第六試合:常闇 対 切島

 

 第七試合:鉄哲 対 飯田

 

 第八試合:麗日 対 爆豪

 

 俺の試合は第五試合。よりにもよって物間くんか・・・。

 〈獣狼ー〉〈大丈夫ー?〉〈ホアチャァー〉

 (大丈夫だよ、後何処でそのポーズ(荒ぶる鷲)覚えたの)

 

 嫌いな相手だが油断は出来ない、何せ爆豪くんが言った通り個性をコピーしてくる。異形型はどうなるかはわからないが下手にコピーされると不味いからな。そろりそろりと会場を後にしようとするが。

 

 「ぎゃうん・・・」

 「どこに行こうというのですか?」

 「さぁーて、幾ら重くてもこの人数なら運べるでしょ」

 「腕がなるよー!」

 「あ、うちが浮かそうか?」

 「いいのいいの!麗日は本選の為に休んでおいて!」

 「あの、俺も、本選・・・」

 

 麗日さんが本選で休ませるのなら俺だって休ませてほしかったなー!しかしここでも神は俺を見放さなかったようだ。

 

 「みんな、あんまり回精ちゃんで遊ぶのはよくないと思うわ」

 「おい回精ずるいぞ!お前だけ逃げる気かぁ!!」

 「そーだそーだ!お前もオイラ達と一緒だァ!!」

 「梅雨、ちゃん・・・!」

 「でも、私も今回の事は反省すべきだと思うわ。だから程々にね?」

 「神は、死んだ・・・」

 

 この後、厳正な(女子たちだけの)協議の結果、三人ともコスプレをすることに。上鳴くんは頭に桃を被った桃太郎、峰田くんは体操服の上から茶色い服タイツの様なものを着させられ猿の耳も付ければお供の猿、俺も尻尾と耳は自前で峰田くんと同じタイプの服を着てお供の犬をやらされた、しかし色が白で少し作りが雑だったのだろう。下の体操服の模様が若干見えているので峰田くんよりはマシかな・・・。・・・八百万さんこの後本選だけど大丈夫?あ、所々手を抜いてるから大丈夫なのね・・・。

 

 『おいおいA組上鳴は頭に桃被って桃太郎ってかァ!?雑ゥ!!同じくA組峰田とA組回精はその色的にお供の猿と犬ってかァ!?キジ何処行ったよ!!ってか上鳴と峰田はまだプラカード首から下げてるしウケルゥ!!』

 「常闇ィ!こうなりゃお前も道連れだァ!!」

 「ふざけるな!誰が好き好んで恥を晒すというのだ!お前たちの自業自得だろう!!ダークシャドウ!!」

 〈アイヨ!〉

 「ゲフゥ!」

 『おぉっと!A組峰田ァ!道連れを増やそうとするも迎撃されるゥ!!』

 『こんな茶番で実況しなくてもいいだろ』

 

 見世物ってこんな気分だろうなーってでも撮影会とどっちがマシかなーとか考えるがどっちもだなーと気分が落ち込む。レクリエーションも参加させられ借りもの競争では動物。という判断に困るものを引いてしまい苦汁の選択で両手でキツネを作り顔の横に持ってきて笑顔で「コンコン♪」と言ったら通過出来た。撮影会の経験が生きるとは思わなかったが俺の心は死んだ。




 峰田は八百万のヘイト稼いでますからね、信じてた人が理由ありきとはいえそれに手を貸したら普通に怒るんじゃないかなと。
 騙されるように誘導した者も、騙した者も同罪という事で始まるコスプレです。

 相澤先生的には変な茶番で頭が痛いけどそのノリの良さはヒーローの人気につながるので大目に見る事に、でないとチアリーダーの時点でお叱りが飛んでくるはずですから。


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第二十五話:戦いの始まりと怒り

 前話がちょっとお前アレじゃねぇの(超簡略化)と言われ確かにとなり変更しました。変更点は獣狼と上鳴と峰田の三人でキジの居ない雑過ぎる桃太郎になりました。ご迷惑をおかけします。

 物間はキャラとしては好きです、原作の麗日対爆豪戦みたくちゃんと評価するところは評価してるので悪人ではないって感じのイメージです。自分の心に素直なんでしょう。でも書き始めると煽りのさじ加減が難しいです。

 プレゼントマイクのお陰で会話文が多いです!実況しろとか言われてましたがちゃんと実況してますよ!はい、ごめんなさい。


 クオリティの低い桃太郎から解放され、セメントス先生の個性でステージが作られる。マイク先生のルール説明ではエリア外に出すか相手にまいったと言わせればいい。リカバリーガールも控えているので傷を負っても平気だが、流石に危ない状況では止めに入るとのこと。

 

 第一試合では心操くんの個性で緑谷くんが洗脳される、そのまま場外かと思いきや途中で緑谷くんの指が暴発し洗脳が解け心操くんを場外に投げた。・・・後ろでの尾白くんのセリフからすると会話とかで発動するタイプなのだろう。心操くんは緑谷くんを煽るが不快な感じはしなかった、寧ろ試合中の叫びや終わった後の緑谷くんとの会話が本心なのだろう。

 

 第二試合は瀬呂くんが一瞬で轟くんを場外に出そうとするが、轟くんがスタジアムを越える高さの氷を出し一瞬で決着がついてしまった。会場からは瀬呂くんにドンマイコールが流れる。・・・後で、何か奢ってあげよう。

 

 第三試合はこの最終種目では数少ない女子同士の対決、マイク先生が余計な事を言い塩崎さんに抗議されていた。その内容から近くに居た飯田くんに視線が行ってしまう、後ろでは。

 

 「八百万の創造で塩崎の衣装がボロボロ、塩崎の茨で八百万の衣装がボロボロ・・・うっはぁ!両得じゃねぇか!!」

 「峰田ちゃん、流石にそれはあり得ないわ」

 「ぐぼぉ!?」

 『とっとりあえずスタートォ!!』

 

 試合開始後すぐに八百万さんは片刃のそこそこ長い刃物を創造し塩崎さんの伸びた髪、茨を対処するも徐々に押されて行ってしまう。そこで作戦を変えたのだろう、液体とガラス容器を創造すると塩崎さんの茨に投げつける。次に行う事が予想出来たのか塩崎さんが慌てて対処しようとするも八百万さんが創造したマッチに点火される方が早く、八百万さんが創造した液体に引火した。

 

 『おぉぉっと!八百万は塩崎の茨を燃やしだしたぞォ!!お嬢様と思いきや過激な一面もお持ちだァ!!』

 『燃やすのはいい着眼点だろう、だが』

 「こんなことはしたくありませんが・・・!」

 「えっ、きゃぁ!!」

 『塩崎が燃えた茨を持ち上げ八百万の近くに叩きつけるゥ!こっちも過激な一面をお持ちだァ!!』

 『茨に水分が含まれてると思い可燃性の液体をかけてから燃やすのは良かったが、繋がったままなら相手の武器になる。そして』

 「きゃぁぁぁぁぁ!?」

 『塩崎の茨が自由に切り離し出来るのなら、燃やされた部分を切り離し地面から相手に奇襲が出来る』

 『八百万が茨でぐるぐる巻きだァ!そしてそのまま場外へ飛ばされるゥ!!』

 『八百万さん場外!塩崎さんの勝利!!』

 

 最後は両者お辞儀で締めくくりお互いステージを離れるが八百万さんは表情が暗い・・・。こういう事はA組の女子に任せるしかないな・・・。

 ところ変わって次の第四試合は上鳴くんとサポート科の発目さん。見たい気持ちはあるが次は俺の第五試合だ、みんなに一言つげて席を離れる。

 

 「回精、気をつけろよ!相手は結果負けたとはいえ俺たちの騎馬を翻弄した騎馬なんだからな!」

 「うん、ありがと。でも、勝って、くる」

 「おいクソ犬、テメェ負けたりしたら承知しねェぞ」

 「うん、勝つ、よ」

 

 ?周りが静かだ、なんだろうと見てみるとクラスメイトが驚愕の目でこちらを・・・爆豪くんを見ている。

 

 「ばっ・・・爆豪、お前他人の応援するとか大丈夫か・・・?」

 「リカバリーガールが来てるんだし見てもらった方が良いんじゃない・・・?」

 「「「うんうん」」」

 「ンだとテメェらコラァ!!あの潰し終わったクソ野郎に来られても迷惑なだけだァ!!!」

 「わかって、る。行って、くるね」

 

 そして控室で待機する、控室のモニターではそこそこ時間の経った上鳴くんと発目さんの戦いが流れているが・・・。上鳴くん、親指立ててどうしたんだろう。発目さんもこの事態は想定外だったらしく仕方ないと言った表情で場外に歩いて行った。え?発目さんが場外に出るの?そうして試合終了、上鳴くんがなんか変な事になってる間に上鳴くんの進出が決定した。

 

 (みんな、備蓄はどれくらい溜まってる?)

 〈厳しいかなー〉〈長く見積もって5分かなー〉〈訓練で備蓄を使いすぎたー〉

 (そっか・・・、体育祭が終わったらみんなで食べに行く?今度はお肉とか)

 〈ふぉぉぉぉー〉〈やる気出たー〉〈流石獣狼やでぇー〉

 

 精霊たちからの助言で早く終わらせても二回が限度であろう。次の試合次第だが出来る限り温存しなければ途中で試合自体を降りる事になる。そこまで考えた辺りで自分の番がくる。控室からステージに入場する。

 

 『さぁ!次の対戦は何だかんだ上位をキープ!その可愛い顔とは裏腹に優れた身体能力でここまで勝ち抜いてきたァ!!A組回精 獣狼!!!』

 『お次は騎馬戦にて策をめぐらせ上位陣に食らいついたァ!言葉の棘が今日も冴えわたるゥ!!B組物間 寧人!!!』

 「さっきのヴィラン顔の足じゃないか、怖いなぁ。うっかり殺さないでくれよ?」

 「だいじょぶ、ちゃんと、手加減、する」

 「手加減かぁ、いいよねぇ異形型とは言え増強系レベルの身体能力。でもさァ」

 『ではぁ!第五試合!!スタートォォォォ!!』

 「そうやって手加減とか調子乗ってるから足元救われるんだよねぇ!!!」

 

 その声と共に目の前は真っ暗になり、世界から音も消えた。

 

 

─────

 

 

 「所詮は動物なんだよねぇ!!視覚と聴覚を封じればただの丈夫なだけのサンドバックさァ!!」

 

 物間の声と共に回精に大振りの蹴りが入れられるも回避できるはずのそれを回精は回避しない。蹴りが直撃し後ろに一歩下がるが本人は顔を手で確認しているだけだ。

 

 『おぉっと!?回精どうしたァ!?物間の蹴りを直で食らったぞォ!?』

 『物間 寧人。発言からしてコイツの個性なら誰かから五感の一部を封じる個性をコピーしてきたんだろ』

 『コピーってマジか!!今年の一年はどいつもこいつもずっこいな!!』

 「五感が封じられたって回精ヤバくない?」

 「多分封じられたのは視覚と聴覚、さっきから回精くんは目と耳をしきりに確認してる・・・!」

 「それってほぼ何も出来ないやん!!」

 「いやまだだ、回精くんは動物の個性持ち。なら匂いで相手の位置が判断できるはず・・・!」

 

 その言葉の通り次の蹴りが来る瞬間に回精も拳を突き出すが物間に間一髪で避けられる。

 

 「っとと、危ないなぁ。でもそれ対策もちゃーんとあるんだよねぇ!!」

 「っ!?」

 『物間が地面を叩いたと思ったら回精鼻を抑えてるが大丈夫かぁ!?』

 『恐らくだが、回精の嗅覚対策に強烈な臭いを出す個性もコピーしたんだろう。さっきのと言い誰かからコピーしてきたか』

 『おいおい!これじゃぁ回精かなりピーンチじゃねェ!?』

 「よっと・・・しかしよかったよ。この二つとも使い続けるタイプじゃないからね。じゃなきゃ君にいつか良いの貰ってたよ」

 『物間が今度は両手が金属で覆われていくゥ!!これB組鉄哲の個性じゃね!?』

 「これなら君みたいな脳筋でもダメージ入るよね!!」

 「がっ!!」

 『顔面に良いの入ったァァ!!だが回精は血を拭いつつも倒れないィ!!』

 

 物間の攻撃は続く、上手く防御が出来ない回精にスティールで強化された両腕で殴り続けダメージを与えていく。

 

 「あかんよこれ、良いように殴られっぱなしやん!」

 「正直他の奴だったらもう倒れてんじゃないの、回精が特別丈夫だから耐えてるだけで」

 「お、おい!回精もう頭からも血を流してんじゃん!棄権したほうがいいって!」

 「けろ・・・。流石に痛々しいわね・・・」

 

 流石に決めに行くために物間は大きく腕を振りかぶり殴りかかる、が()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『ここにきて回精が物間の攻撃を避けたァァァ!!五感が戻ったのかァ!?』

 『違うな・・・、視覚や聴覚が戻っているならすぐさま物間に反撃しただろ。・・・あいつの個性か』

 『個性?回精の個性ってまんま獣人じゃねぇの?イレイザーヘッド』

 『あぁ、だが厳密には違う。生徒個人の資料だがここ見ろ』

 『へ?何々・・・。獣人ではあるが、精霊と呼ばれる独立した存在を宿しているゥ!?なんだよ回精めっちゃファンタジィー!!』

 『宿している、という事は分離も出来んだろ。資料だと目に見えねぇし特に何か出来るでもないから獣人のままだが、そいつらから状況を教えてもらってるはずだ』

 「へぇー、便利な個性だねホント。でも教えてもらうだけで何も出来ないってさぁ、実質()()()()()()()没個性だよねぇ!!」

 「意味が、無い、だと?」

 「そういえば喋れたんだっけ、今のも精霊から教えてもらったのかな?でも実際そうでしょ。見て教えてもらってからじゃ遅すぎなんだよね、宿してるって言ってたけど実際じゃ精霊っていうより寄生虫なんじゃない?」

 「そう、か・・・お前は、そこまで、───俺を、本気に、させ、たいん、だな」

 

 回精の言葉を最後に回精の髪の毛が、尻尾がどんどん赤く染まり体にも模様が表れていく。血の様に赤く、真紅に染まりきる。そして回精が片足を上げステージを踏みつける事で轟音が轟き、回精が居た場所は土煙に包まれステージ全体にヒビが走った。

 

 『おいおいおい!!ステージが一瞬でボロボロだぞォ!?なんだあのパワー!?それに回精も真っ赤かだぞ!!』

 『さっきの騎馬戦でも使ってたろ、見とけよ・・・。本人曰く、身体能力の超強化だそうだ。その脚力で臭いをぶっ飛ばしたかったんだろうな』

 「すっご・・・。まるで近くで爆発が起きたみたいな威力だなぁ・・・、でもその力を人に使ったら君が失格だよ?ヒーローの卵としてどうなのさ?」

 「・・・だから、こうする」

 

 声が止み土煙の中に居る回精の動きが止まる。そして一瞬の間の後、土煙が突如飛ばされると同時に()()()()()()()()()()()

 

 『今度はなんだァ!?土煙が飛ばされたと思ったら物間もぶっ飛んだぞォ!?』

 『・・・似たような攻撃をした奴が同じクラスにいる。そいつとはその時に同じチームで見てなかったとは言え聞いた位はしたんだろ。だがそいつと比べると規模も威力も精々が人に威力のある空気の塊を飛ばすくらいか』

 「ぐぅ・・・痛いなぁ・・・。でもその攻撃も精霊とやらが教える前に移動すれば当たらないし!」

 『物間が突っ込んだァ!身体能力が強化されてると聞いてなかったのかァ!!?』

 『遠距離攻撃が出来る奴に距離取ってどうするよ、それにさっきも物間が言ってたろ。あの力で殴ったら失格だ』

 「そーいうこと!!結局強化されたって使えなきゃ意味がないんだよねぇ!!」

 「なら、使える、様に、すれば、いい」

 『物間のスティールを纏った拳が回精の頭にクリーンヒットォ!!流石に回精もこれは不味いんじゃねぇの!?』

 『・・・全く、出来るのなら最初からやれ』

 『おん?どういう事だイレイザーヘッド?』

 「やぁっと、捕まえ、たァ!!」

 

 そこには物間のスティールを纏った拳を額で受け止め、その手首を真紅の模様が表れた両手で掴む回精。

 

 「クッソ!離せ!!」

 「誰、がぁ!!」

 「がっはぁ!」

 『なんと回精!物間の拳を頭で受け止め逆に捕まえたァ!!クレイジィー!!そしてそのまま相手の反撃を物ともせずに物間を振り上げてステージに叩きつけるゥ!!』

 「まいった、と言え、でなきゃ、もっと、痛いぞ」

 「へぇ、流石凶悪な奴の足だね。セリフがまんまヴィランだよ」

 「・・・そう、じゃあ、そのまま、飛べ」

 『回精が今度は物間を振り回して投げたァ!!抵抗することも出来ずに物間は場外に飛んでいくゥ!!』

 『B組物間くん場外!!A組回精くんの勝利です!!』

 

 

─────

 

 

 流石に痛い、勝利宣言が聞こえたからもう個性は解除されているのだろうと思い血壊を解除、目を開けると目に血が入りしみる。搬送ロボも来てる事から相手は気絶したか、もう耳障りな事を言われないと思えば気が楽だ。

 

 〈獣狼大丈夫ー?〉〈我らの為にありがとー〉〈やっぱ獣狼は最高やなー〉

 (ううん、こっちもありがとう。お陰で途中からダメージが減らせた)

 〈でもお陰で備蓄が減ったー〉〈大体3分くらいー?〉〈ピンチー〉

 (そっか・・・それにリカバリーガールの治癒も加えると危ないね・・・)

 

 大人しく控室に戻りリカバリーガールのお世話になる。俺は個性柄エネルギーを備蓄しているので治癒は問題なく行われた。・・・と言っても軽い傷ばっかりだ。血が出てるけどリカバリーガール曰く「そこまで問題にならない、個性に救われたね」とのこと。エネルギー補給の為に飲料を買い込みA組の席に戻るとステージはまだ修復途中、みんなも話し込んでるし邪魔しない様に適当に空いてる席に座るか。前の席が良いので緑谷くんの前を通ると。

 

 「回精くん!?大丈夫なの!?」

 「え!?回精もう戻ってきたの!?」

 「オイ回精!もっと安静にしとけって!!」

 「近くで、叫ば、ないで」

 「あっゴメン!回精くん!」

 

 聞くと、物間の攻撃でどんどん血が出て心配をかけてしまったようだ。なら安心させないとね。

 

 「だいじょぶ、俺の、体は、丈夫、です」

 「つってもよぉ、幾ら丈夫でも生身なんだから心配するに決まってんだろ」

 「砂藤ちゃんの言う通りだわ、回精ちゃんが丈夫でも心配なものは心配よ」

 「・・・うん、ありがと、ごめんね」

 

 『ヘイリスナーたち!ステージの修復が終わったから次の戦いが始まるぜぇ!』

 

 クラスメイトに恵まれていると実感しつつも次の試合に注目しつつ、飲料でエネルギーを補給する。リカバリーガールの治癒で1分くらいまで下がってしまっている、これからの戦いを考えると少しでも補給しなきゃ持たない。そうして次の対戦相手である常闇くんと切島くんがステージに入場してきた。




 物間くん難しいんですけどぉ!?正直人を煽るなんて事経験少ないからどのくらいやればいいのかわっかんない!

 物間は戦法として煽って調子を崩していくつもりでした。そして相手に対し対策してきたのでずっと自分のペースなら勝てると判断したのでしょう。というか彼何か口を開けば煽ってる事が多すぎて煽り主体になってしまう・・・!これでいいのだろうか・・・。


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第二十六話:初戦の終わり、そして次の戦いへ

 実は一つにまとめようとしましたが、二つに分ける事になりました。純粋に長すぎですね。前のも合わせて一つのつもりだったんですけどね・・・。

 各試合が割と短めなのはあんまりやり過ぎるとダレそうっていうのがあります。それでもどういった試合展開だったかは書いています。原作と違う組み合わせではちょっと長めに、といった具合にですね。

 なので今回はちょっと短いです。・・・最初の辺りはこのくらいだったんですよね。


 『アユゥレディ・・・スタァァァァトォ!!』

 

 開始すぐ切島くんが硬化を使い速攻を仕掛けてきた常闇くんのダークシャドウと殴り合っている、だがこのままでは埒が明かないと判断したのだろう。ダークシャドウの殴りを避けて一瞬でダークシャドウを追い抜く、そのまま常闇くんに走る。

 

 「うぉぉぉぉおおお!!!」

 「ダークシャドウ!!」

 〈アイヨ!!〉

 「ぐぅ!?おぉぉぉぉ!!」

 

 後少しで常闇くんに触れると言うところでダークシャドウの後ろからの攻撃に対処しきれずに地面に抑え込まれる。だが切島くんも負けておらずそれに対抗し立ち上がろうとしている。

 

 『切島が常闇の個性に取り押さえられるも気合と根性で立ち上がったァ!!』

 「くっ!させるか!!ダークシャドウ!包みこめ!!」

 〈動クンジャネェ!!〉

 「うぉぉぉぉ!?」

 『何とか根性で立ち上がった切島ァ!!だがダークシャドウに包み込まれてしまう!!』

 「切島くん、動けそう?」

 「ぐぅぅぅぅぅぅぅ・・・!ダメだ・・・動けません・・・」

 『切島くん行動不能!常闇くんの勝利です!!』

 『この戦い、どちらも勝機があったが切島は勝ちを急ぎ過ぎて焦ったな』

 「クッソー!後少しだったんだがよぉ!でもいい勝負だったぜ常闇!!」

 「あぁ、正直間に合わなかったらこちらがやられていただろう。良い戦いだった、切島」

 『両者試合終了後にお互いの健闘を称え硬く握手をするゥ!!』

 

 次の第七試合へのインターバルの間に常闇くんと切島くんが席に戻ってきたのでみんなが二人を称える。その言葉に切島くんは次は勝つと意気込み、常闇くんがまた勝たせてもらうと意気込んでいた。

 

 『第七試合、スタァァトォ!!』

 「A組ばっかりに調子乗らせる訳にはいかねぇんだよォ!!」

 「爆豪くんの件に関しては申し訳ないと思っている!だがこの試合負けるつもりはない!」

 

 鉄哲くんのスティールを警戒したのかスピードで翻弄する飯田くん。それに対し鉄哲くんは下手に動けば相手の思うつぼと判断、じっと見極める事に。

 

 『飯田がスピードで鉄哲を翻弄するも、鉄哲はじっと待ち構える姿勢だァ!!』

 「ぐぅ・・・そこだぁぁぁ!!」

 『鉄哲が動き出すゥ!飯田はそれを大きく体制を伏せて回避ィ!!』

 『いや、アレは回避じゃない』

 「う、おおお、おおおおおおおお!!レシプロ、バァーストォ!!」

 『なんと飯田ァ!鉄哲を両肩に担いだァ!!そのまま超高速で移動し場外に鉄哲を投げたァァ!!』

 『第七試合、飯田くんの勝利!!』

 『鉄哲も焦ったな、もっと冷静に判断できるようになればチャンスはあったな』

 「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」

 「鉄哲くん、爆豪くんの件だが本人ではないものの謝罪させてほしい。アレは決してA組の総意ではないと」

 「あぁ・・・、わかった!その謝罪を受け取る!!」

 『おぉっと!?飯田が爆豪の宣誓の事で謝って鉄哲がそれを受け取ったァ!!真面目かァ!!』

 

 そんな事もありつつ終わった第七試合、途中で控室に向かった麗日さんにそれを追いかけた緑谷くん。・・・正直、かなり不安だ。爆豪くんは騎馬戦で完膚なきまでの一位と言った、つまり誰が相手でも油断せず倒しつくすという事。だとしたら麗日さんの勝利は恐らく絶望的、それでも俺はきっと二人を見続けなければいけないだろう。同じクラスの仲間として、友達として。

 

 『さぁ第八試合、麗日対爆豪、スタァァァトォ!!!』

 

 そこからは一方的だった。突撃する麗日さんを爆破で吹っ飛ばす爆豪くん。爆煙でよく見えないが麗日さんは何度も突撃している、しかしその声からは気力の衰えを感じないので無謀な突撃と言うわけではなさそうだ。だが観客からは違って見えたようだ、無謀な突撃、ヒーロー志望なら早く場外に出して終わらせろ、ブーイングが鳴り響く。

 

 「かっ、回精くん!お、落ち着いて」

 「緑谷、くん。だいじょぶ、俺が、二人の、戦い、を、邪魔する、訳には、いかない」

 〈獣狼しんこきゅー〉〈備蓄がガリガリ削られるぅー〉〈落ち着いてー〉

 

 よく見れば手に模様が表れつつある、恐らくは髪の毛も赤く染まりつつあるだろう。このブーイングに対して感情が大きく揺らされているからか。しかしそこで相澤先生の声が響くプロ何年目だ、素面で言っているなら帰って別の仕事を探せと。爆豪が相手を認めているから油断できねぇんだと。・・・その言葉に気持ちが落ち着く、手の模様も溶け込む様に消えて行った。

 

 「ごめん、迷惑、かけた」

 〈我らの仲じゃないかー〉〈獣狼は仲間思いー〉〈だから我らは手を貸すのだー〉

 「ううん、大丈夫だよ、気にしないで」

 

 そして試合は動き出す、麗日さんは爆豪くんの爆破を利用してがれきを個性で浮かべていた。個性を解除しがれきを降らせると同時に麗日さんも走り出す、しかしその際に自分に個性を使ったせいで爆豪くんの想像以上の爆破に吹き飛ばされてしまう。まだ諦めずに立ち上がるも倒れてしまう、ミッドナイト先生が麗日さんを確認し。

 

 『第八試合、勝者、爆豪くん!!』

 『一回戦が全て終わったァ!小休憩挟んだら次の戦いが始まるぞォ!!』

 

 マイク先生の声と共に緑谷くんが席を離れる。・・・全然、飲料に手を付けられなかったな。血壊は自分の意思で使った事はあったが()()()()()()()()()()()、こんな事は初めてだ。飲料の蓋を開けフルーツの甘い香りを楽しみつつ口に含む。

 

 (ねぇ、今回勝手に発動しかけたけど何かわかる?)

 〈多分だけどー〉〈慣れて来ちゃったー?〉〈備蓄がなくなりゅー〉

 (そっか・・・、これが続くとどうなると思う?)

 〈・・・わかんないー〉〈我らにもー〉〈不明ー〉

 

 どうなるんだろうなぁ、と思っていると後ろから声を掛けられる。

 

 「なぁ回精、お前のその赤くなるの・・・大丈夫なのか?」

 「尾白、くん。平気、だよ。じゃなきゃ、こんな、丈夫、じゃない、よ」

 「そういえば回精、アンタ精霊を宿してるんだってね」

 「・・・相澤、先生。解説、しちゃった?」

 「「「うん」」」

 「あー・・・うん、居るよ。お母さん、の、個性。獣人、は、お父さん」

 「ッ!?」

 「轟、くん?どうした、の?」

 「いや・・・なんでもねぇ」

 

 恐らく、爆豪くんの戦いの雰囲気を断ち切りたかったのだろう。みんなから色々質問されたが精霊に関しては相澤先生がほぼ言ってしまっていたので身体超強化、血壊についてだが性能やら欠点を言う訳にはいかずはぐらかした。・・・一瞬轟くんから睨まれたが、本人は何でもないという。気にはなったが次の試合に向かう為か轟くんは席を立つ。

 そして、マイク先生の実況で次の試合が始まる事が告げられた。緑谷くん対轟くん、控室での因縁の対決だ。




 という訳で、最後にクラスメイトに獣狼の血壊と精霊が質問されたお話です。

 気づいてる人は気づいていたかもしれませんが、獣狼の個性的に轟くんとはかなり近しいんですよね。両親の力があるという意味では。ただ作者の構想的にまだ似てる点があったりします。

 思い付きで書いてたりしますが、次はしっかり最初から前半後半に分けて二回戦第一試合と第二試合、第三試合と第四試合と言う風に分けようかな、と。


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第二十七話:なりたいものに向け全力で戦う者たち

 こちらトーナメント二回戦目前半側です、具体的には緑谷対轟、塩崎対上鳴の試合です。

 ところで何時の間にかこの初心者丸出しの恥ずかしい二次創作がお気に入り500件を突破し30人の方にも評価していただきました。嬉しい限りです。評価って色が平均評価で赤に近ければ平均が高く、バーが評価数なんですね。初めて知りました。


 『さぁ二回戦第一試合、スタァァァトォ!!』

 

 その声と共に轟くんの氷が地を走る、だが緑谷くんは個性を使って指を弾くことで氷を砕く。・・・傷つく事も問わない攻撃、俺の血壊も精霊たちのお陰で改善されたが似たような物、だが身を削って攻撃する姿はあまり見ていて気持ちのいいものではない。それでも試合は続く、轟くんが何度も氷を使い緑谷くんがそれを圧倒的な風圧で砕いていく。一瞬の隙から氷の道で近づかれ迎撃するも轟くんには当たらず、氷で足が捕まってしまうが腕を犠牲にした力で氷ごと轟くんを吹っ飛ばす。

 

 轟くんが話をしているが聞いている限りでは何かがあったのだろうとしか判断できない、しかし轟くんがとどめを刺そうと氷を走らせるが壊れた指で迎撃、ただでさえ変色していた指が更に変色しつつも緑谷くんが叫ぶ。全力でかかってこい、と。轟くんは近接戦を仕掛けるべく走り出すが動きが鈍い。轟くんが攻撃しようと踏み込んだ瞬間逆に緑谷くんに踏み込まれ右腕で殴られる、恐らくは個性を使って殴られているが左腕をギリギリ凍らされている。

 そこからは壊れた指を更に酷使し轟くんを迎撃、時には避け壊れた指を握り拳を振るう。

 

 「カッコいいヒーローに、笑顔で誰かを助けられるヒーローになりたいからぁ!!」

 「全力で!やってんだ!!みんな!!君の境遇も、決心も僕には計り知れない。でも全力を出さないで一番になって否定するってふざけんなって今は思っている!!」

 

 ヒーローになりたい。全力でやっている。・・・体育祭に浮かれていた俺の心が揺さぶられる。全力でやっていたかと言われればやっていた、そしてヒーローに見てもらえる事も分かっていた。だが俺に緑谷くんほどの覚悟があっただろうか・・・。

 

 「だが俺は親父の力を、」

 「君の!力じゃないか!!

 

 轟くんの呟きすら聞き取れた俺だからわかった、わかってしまった。だからあの時轟くんに睨まれた、わかってしまった今どうするべきだろうか・・・、謝ったところで迷惑かもしれない。

 だが緑谷くんの言葉が届いたのだろう、今まで一切使ってこなかった左の力を開放する。会場全体がその熱風で包まれた。そこからの二人の会話は、特に轟くんは憑き物が取れたかのように晴れやかだった。

 

 轟くんが大規模な氷を使い緑谷くんは足を犠牲にしたジャンプで避けつつ一気に近づく、それを迎撃するかのように轟くんは周囲を熱する。セメントス先生とミッドナイト先生が止めようとするがギリギリ間に合うかだろう。それにこの後発生する現象は俺には不味いと両手で耳を塞ぐ、ステージが幾枚の壁となったと思った次の瞬間、両者の攻撃が壁を全て破壊し会場全体を凄まじい爆風が襲う。・・・後ろで峰田くんの叫びが聞こえる、恐らく飛ばされそうになったのだろう。俺ももし見た目通りの体重なら飛ばされていたかもしれない。

 

 『緑谷くん、場外!轟くんの勝利です!!』

 

 その声でステージに目を向けると轟くんが肩で息をしつつもステージに立っており、反対側では緑谷くんが壁に倒れていた。緑谷くんが搬送されマイク先生からステージ修繕の為に次の試合までは時間がかかるとのこと。なので麗日さんや飯田くん、USJで緑谷くんと仲が良くなったのだろう梅雨ちゃんと峰田くんも一緒にリカバリーガールの診療所に向かった。

 

 診療所に着くとノックする暇も惜しいとばかりに麗日さんがドアを開ける。中には両腕に包帯を巻かれリクライニングベッドで上半身を起こされていた緑谷くんとリカバリーガール、そして金髪の骨ばった男性。・・・え?この人のニオイ、なんでこの人から?

 突然の事で驚いていると麗日さんが金髪の人に挨拶をしていた。そこからみんなが会話していた、と思う。正直今は驚きが強すぎて内容が頭に入らない。しかしリカバリーガールの手術と言う言葉が出てみんなが叫んだ事で戻ってこれた、しかしリカバリーガールから部屋を追い出されようとしている。多分この人なら知っているはずだと信じて。

 

 「リカバリー、ガール、先生。ちょっと、大事な、話が」

 「なんだい?これから大事な時だ、手短に頼むよ」

 「その、みんな、が居ると、話、づらくて」

 「わかった、回精くん。心配だが先に戻っているぞ」

 「どうしたんだよ回精、お前まさか赤くなるの使うと何か悪い事が・・・!」

 「違う、よ、ちょっと、今後に、ついて」

 「けろ・・・わかったわ、峰田ちゃんも麗日ちゃんも行かないと話せないわ」

 「うん・・・じゃあね、回精くん」

 

 みんな何か事情があると思ってか深く聞かずに席に戻ってくれる。本当、俺には勿体ない位いい人たちだ。

 

 「・・・さて、人払いもしてあたしに何を聞きたいんだい?」

 「中に、いた、金髪、の人に、ついて」

 「あぁ、アレはうちの学校の雑用が「嘘、ですね」・・・どうして、そう思うんだい?」

 「俺、一応、鼻が、利きます。今まで、授業で、出会った、先生、は、わかり、ます」

 「・・・はぁ・・・。名前を出さないってことは、この場で口に出す危険性も分かってるって事かい。アンタみたいな賢い子にバレただけマシとするかねぇ・・・」

 「・・・この事、は、精霊、たちにも、言って、他言、無用、にします。もちろん、俺も」

 「あぁ、ありがとうよ。でも一応この事は校長にも伝えにゃならん、だが悪いようにはしないと誓おう」

 「ありがとう、ございます。・・・そろそろ、失礼、します、お時間、ありがとう、ござい、ました」

 「あいよ、ほれ、手を出しな、アンタもエネルギー使う個性なんだろ?グミ食べなさい」

 「はい。・・・では、失礼、します」

 

 グミを口に入れ歩く。・・・結構味が濃かった、多分カロリーとか諸々なんだろうけど、前世より味覚が敏感になってるから暴力的に甘い・・・。

 オールマイト、平和の象徴。何があったかは聞くべきではないだろう、深入りも禁物。ならば俺がオールマイトの秘密に触れてしまった事を伝えるものの秘密を知ったわけではない、そしてこの事は誰にも漏らさないと伝える。恐らくはこれが最善だろう、下手に秘密に触れたままそれを秘匿すれば気づかれた時に疑われる可能性がある。USJの事があったから内通者なんて思われたら大変だ。なら先に何故気づいたかという手札を、気付いた場にいた関係者に公開してしまえば危険も少なく済む。

 

 (みんな、今リカバリーガールとした会話は誰にも、お母さんにも他の精霊にも言っちゃだめだよ。俺たちだけの秘密だからね?)

 〈おぉー〉〈秘密の共有ー〉〈我らは獣狼の味方ー〉

 (うん、ありがとうみんな)

 〈うぇへへへー〉〈深まる仲ー〉〈これはもう我らルートですわー〉

 (うん、何処でその知識を手に入れたのかな?)

 

 みんなの知識が何処から入ってくるのか本格的に考えなければいけない、そう思いつつも席に戻る、が。

 

 「回精くん!次は君の試合なんだぞ!早く控室に行かなければ!!」

 「あっ、しまった!行って、くる!」

 

 結局席から控室に行く羽目に、これなら診察室から行けばよかったか・・・?控室に入るとモニターでは上鳴くんと塩崎さんがまだ戦っていた。上鳴くんはどうやらカウンターで塩崎さんと戦っているらしく、彼女が茨を伸ばして攻撃するとすぐさま電気を体に纏い避けつつ触れる事で少しずつ削っている様だ。

 恐らくは八百万さんとの戦いで切り離した事、地面に入るくらいの力はある事を知っているために一気に電気を放出するのは悪手と考えたのだろう。切り離すのも流石に電流ほどの速さがあれば間に合わないのか、着実にダメージが入っている、だが。

 

 『なんと塩崎ィ!次々と切り離した茨で上鳴を追い詰めていくゥ!!』

 「ちょ!マジかうぇい!!」

 『あぁっと!上鳴とうとう避けきれずに捕まってしまったァ!!』

 「上鳴くん、動けそう?」

 「む、無理そうでぅぇい・・・」

 『上鳴くん行動不能!塩崎さんの勝利です!』

 『茨がアースみたいに電気を地面に逃がしてたりと相性が悪かったとは言え持った方だろうな』

 

 次は俺たちの試合か、オールマイトの事で忘れかけたが他の人との覚悟の差。だったら俺は次の試合、罵られる事を覚悟し勝ちに行こう。・・・でも、常闇くんの事だからこちらを気遣ってくれそうだな。多少甘えた考えが出てきたがそれでもパンチ一発は覚悟して会場に向かう。常闇くんだって、いい感じはしなかったが物間くんだってヒーローになりたくてここまでやってきたのだから。




 オールマイトの秘密を獣狼が触れ、獣狼めっちゃ安全策を取ってます。

 そして何気に緑谷くんの言葉が獣狼にも刺さってます。幾ら初めて参加出来る体育祭とは言えみんながヒーローになろうっていう覚悟の中、自分一人だけそれに加え楽しんでいる様なものですからね。覚悟の純度が違います。

 なので相手に何言われても、パンチ一発位ならと覚悟して戦う事にしました。


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第二十八話:覚悟を持って戦う者

 二回戦目後半です。回精対常闇、飯田対爆豪の試合です。なんと今日は2話更新です。見ていないのなら前話からどうぞ。


 『さァ次の試合も行くぜェ!リスナーたちィ!!』

 『一回戦目では一方的に殴られながらも立ち続け、不利な状況を覆したクリムゾンビーストォ!』

 『ヒーロー科ァ!回精 獣狼!!』

 『対するは!一回戦目ではギリギリの接戦をし、お互い称えあうというスポーツマンシップを見せてくれたブラックビーストォ!』

 『ヒーロー科ァ!常闇 踏影!!』

 「全力、で行く、よ」

 「あぁ、もとよりこちらもそのつもりだ」

 『レディィィィ、ファァァァァァァイ!!』

 「待ち構えろ!ダークシャドウ!!」

 〈アイヨ!!〉

 

 スタートと同時に常闇くんを中心に円を描くように回り込む、しかし相手は完全に待ちの姿勢。当然だ、こっちは圧倒的パワーにスピード、下手に懐に潜り込まれたら勝ち目が一切ない。

 

 『回精早速動き出したァ!!しかしそれに対し常闇はダークシャドウを盾にその場から動かない!!』

 『回精はダークシャドウをどう攻略するかが肝心な場面だな』

 『おぉっと回精!突然真っ直ぐに常闇に突っ込んでくゥ!!』

 「迎撃しろ!ダークシャドウ!!」

 〈行カセネェ!〉

 

 真正面からダークシャドウが両腕を広げ捕まえに来る。その光景に予想通りと笑い、そしてそのままダークシャドウの頭に跳び込み閉脚跳びの要領で頭を跳び越え、両足でダークシャドウの後頭部を蹴って常闇くんに一気に近づく。

 

 『回精がダークシャドウの頭を跳び越えたァ!!ダークシャドウは腕を大きく空振りして更に後頭部を足場にされて一気に常闇に近づかれたぞォ!!』

 「ちょっと、飛んで、もらう!」

 「グっ!?ぉぉぉぉおお!!?」

 『おぉっと回精、常闇の両腕を掴んだと思ったら思いっきり場外に向けて山なりに投げたァ!!』

 「止め、ろ!ダークシャドウ!!」

 〈止マレェ!〉

 『しかし何とかダークシャドウがステージに爪を立てギリギリで持ちこたえたァ!!って回精はっぇえな!?もう追撃に来てんぞ!!』

 

 血壊を使わなくたって移動速度は速い、そして山なりに投げればある程度の時間は稼げるしダークシャドウを対処に回さなくちゃいけなくなる。そして狙いは一番大事などうあがいても気が散漫になる瞬間。

 

 『常闇が着地する瞬間に回精が追撃を仕掛けたァ!!ダークシャドウ間に合わない!!』

 「ぐぁぁっ!!」

 『回精の蹴りが常闇にヒットォ!!』

 「常闇くん場外!勝者、回精くん!!」

 「ごめん、最後、少し、力、入り、過ぎた」

 「ぐぅ・・・問題ない、だがまさかああしてダークシャドウを越えられるとはな」

 「うん、ダーク、シャドウ、は、強い。けど、攻撃、ワン、パターン」

 「・・・なるほど、確かにその辺りは抜かっていた。感謝する、回精」

 『回精!倒れた常闇の手を掴み起き上がらせながらの握手ゥ!!』

 『常闇は懐に入られてからの動きがダメだったな、個性を鍛えるのも大事だが自身も鍛えておけよ』

 「御意」

 

 そして控室に戻りA組の席に戻る途中で常闇くんに声をかける。言っておかなければいけないと思ったからだ。

 

 「常闇、くん」

 「なんだ、回精」

 「先に、謝る、ごめん」

 「・・・どうしたんだ?」

 

 俺は語る、緑谷くんの戦いで気付かされた覚悟の足りなさを。周りがヒーローになるために頑張っていたのに俺だけは体育祭を楽しむことを半分考えてしまっていた事。だから俺は怒られ殴られる事も覚悟している事を伝えた。それを聞いた常闇くんは腕を組み考える、そして。

 

 「では、一発殴らせろ」

 「うん、あでっ・・・?」

 「このデコピンがお前に対する手打ちだ、良いか回精。確かに俺たちはヒーローになるために、ヒーローに見てもらう為にこの体育祭を行ってはいた。だがな、それでもこれは体育祭、学校行事だ。それを楽しむことを悪だとは俺は思わん」

 「だがもしそれでも納得がいかないのならそうだな、お前の精霊について詳しく聞かせてくれ。俺以外のその手の個性は気になっていたんだ」

 「・・・うん、なら、仕方、ないね。大会、終わって、からでも、いい?」

 「あぁ、構わない」

 『二回戦最終試合!飯田対爆豪、スタァァァァトォ!!』

 「急ぐぞ、回精。もう試合が始まってしまった」

 「うん!」

 

 そしてA組の席に着き、お互い思い思いの場所に座る。飯田くんと爆豪くんがお互い高速で動きあって一瞬の交差でお互いに攻撃を加えている様だ。

 

 「あ、お帰り回精くん。遅かったね」

 「うん、ちょっと、話し、込んじゃ、って」

 「そうなんだ、試合は今みたいに凄いスピードでお互いけん制しあってる感じだよ。それにしても凄い飯田くんの速度に追いつけるかっちゃんもだけど飯田くんも全然負けていない───」

 「ありがと」

 

 緑谷くんがぶつぶつ言い始めたので簡潔に感謝を述べて試合に集中する。でも緑谷くんの言う通り飯田くんが想像よりも速度を出しつつ曲がっている、かなり訓練したのだろう。でもさっきから徐々に爆豪くんの爆発音が大きくなっている、このままでは飯田くんがいずれ追いつかれるだろう。

 

 「レシプロ、バーストォ!!」

 『ここで飯田!超加速したァ!やけになったのかァ!?』

 『よく見ろバカ』

 『純粋にひでェ!・・・あァ!?爆豪が何時の間にか角に追い詰められてるゥ!?』

 『幾ら飛べても今の飯田の速度は対処を間違えれば場外もありうるぞ』

 「んなのォわかってるわァ!!」

 

 爆豪くんは叫びながらも飯田くんの超スピードの蹴りを回避していく、だが。

 

 「そ、こ、だぁぁぁぁぁぁ!!」

 『飯田の蹴りが入ったぁぁぁぁ!』

 『・・・違うな、爆豪め逆に誘い込んだな』

 「やっと捕まえたぜェ、クソ眼鏡ェ!!」

 「んな!?くっ!!」

 『飯田の蹴りを爆豪が片腕で抱えて止めてるゥ!?飯田も負けじとエンジンの勢いで振りほどこうとするも爆豪は反対側の手で爆発を起こして力を相殺しているのかァ!?よく出来るなそんなこと!!』

 『純粋に爆豪のセンスが良いからだな、一瞬でも力加減を間違えれば吹っ飛ばされるぞ』

 「くっ、エンジンが・・・」

 「てめェ、その使い方負担をかけてんだろ。だからそれが終わった今、しばらく走れねェ違うかァ?」

 「・・・俺の負けだ・・・」

 『飯田くんの棄権!爆豪くんの勝利です!!』

 『爆豪その圧倒的センスと観察眼で相手を攻略しきったぞォ!!なんかもうスゲェな!!』

 

 次の俺の相手は爆豪くん、一切油断の出来ない相手だ。寧ろ最初から全力の方が良いかもしれない。

 

 (みんな、どのくらい時間は持ちそう?)

 〈1分か2分かなぁー〉〈我らの事は気にせずにー〉〈獣狼のしたいようにー〉

 (・・・ダメ、みんなが眠る事を引き換えにしたくはないかな。そうなると大体どのくらい?)

 〈獣狼・・・アンタってやつはー〉〈・・・うん、よくて30秒ー〉〈悪ければ20秒くらいー?〉

 (もしそれを越えたら?)

 〈予想だとー〉〈獣狼がぶっ倒れるー〉〈でもそこまで酷くはないー?〉

 (決まりだね、その辺りで行こう)

 

 幾ら全力と言ってもみんなを犠牲にするほどではない、これが今の全力と言えば爆豪くんも分かってくれるだろう。マイク先生の二回戦目終了の知らせを聞きながら準備をする。流石にもう何かを飲んで戦えるほど相手は優しくはないし時間もないだろう、今できる事は十全に動けるように少しでも休むことだけだ。




 さぁそろそろ準々決勝ですね。頑張って書いていきたいです。

 物間くんの煽りで何か色々言われる覚悟をしていましたが、特に来ないという事は大体あっていた、と思っていいんですかね・・・?


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第二十九話:悔いなき戦いを望む者

 準々決勝ですね、体育祭も残り僅かまで来ました。とりあえず先に、三回戦第一試合はごめんなさい。

 さぁ色々怒られないか不安のまま投稿だぁ・・・。いやマジで怒られそうで怖い。怒るときは優しく、丁寧にお願いしますね・・・?


 マイク先生の放送が控室に響く、正直に言って塩崎さんじゃ轟くんの相手は分が悪い、爆豪くんもそれを理解してかほぼ同時に席を立ち控室に向かった。

 道中では特に会話もなくお互い別々の控室に入り俺はモニターで観戦したが、試合は轟くんが自分の周りの地面を凍らせて相手の攻撃手段を封じ、そのまま一気に塩崎さんを氷で動けなくさせる、予想通り轟くんが勝ち進んだわけだ。少し気持ちが高ぶっているのを深呼吸で落ち着かせる、相手は爆豪くん。戦闘訓練ではこちらの攻撃を奇襲含め全て避けた一切油断の出来ない相手だ。

 

 『さぁリスナーたちお待ちかねの三回戦第二試合の始まりだァ!!』

 

 マイク先生の声でステージに向かって歩き出す、恐らくはこの試合が俺にとって一番の難所だ。マイク先生の実況が流れる中、ステージに到着した爆豪くんが話しかけてくる。

 

 「おいクソ犬」

 「なに?爆豪、くん」

 「テメェの身体強化、使えるンだろうな?」

 『レディィィィィ・・・』

 「使って、欲しい、なら」

 『ファァァァァァイ!!』

 「使わせ、て見せろ!」

 「上等ォ!!」

 『回精スタートと同時に突っ込んだァ!!だが爆豪それを爆破で迎撃したァ!!』

 『迎撃だけじゃなく距離を取ったな』

 

 逃がすものかと爆煙を更に突っ切り爆豪くんに突撃する。爆豪くんは再び爆破で迎撃と距離を取ろうと両手を前に構えるがそこを()()()地面を蹴って更に加速する。爆豪くんの目が驚きに染まるがそれでもこちらに合わせようとする、でもこっちが速い!

 

 『回精が一瞬で爆豪に近づき腕を取って投げたァ!!だがそれに合わせて爆豪も投げた腕と地面に爆破をし離脱とクッションにしたのかこれ!?早すぎて実況が間に合わねェ!!』

 『だがクッションの方は足りなかったな、叩きつけられて多少なりともダメージが入ったぞ』

 「ガッぐぅ!クソ犬ゥ・・・!テメェ今まで全力で移動して無かったとは舐めた真似をォ・・・!」

 「悪い、ね。でも、それだけ、爆豪、くんが、油断、出来ない」

 「ハッ!良いぜェ・・・そうやってどんどん全力を出してこい・・・!全部ぶっ潰す!!」

 

 爆破された腕の調子を確認する、多少痛みで動きが鈍いがそれくらいなら問題ないと判断。もう一度と爆豪くんに突撃する、しかし爆豪くんも腰を低く構えそして。

 

 「同じ手はァ、食わねェ!!」

 『ステージを爆破すると同時にもう片側の手を爆破してステージの破片をぶっ飛ばしたァ!これにはたまらず回精が横に動くゥ!!』

 「厄介、な手を!」

 「そらそらァ!まだまだ行くぞォ!!」

 『ステージの破片をスゲェ勢いで飛ばす爆豪!ってかこれ大丈夫なのか!イレイザーヘッド!』

 『他の選手だったらアウトだ、だが相手は回精。単調な攻撃なら今みたいに避けるしそれに』

 「くら、え!!」

 『あぁっと!回精がなんか投げたァ!ってアレもしかして爆豪の飛ばした破片かァ!?アレ掴むとかやべぇ動体視力してんな!』

 『こっちもこっちで顔面狙いだが、爆豪なら避けると確信していたんだろうな。事実爆豪は顔を大きく逸らす事で爆破の手が止んでいる、そして回精なら』

 「ッ!チィィ!!んなァ!?」

 「はぁッ!!」

 「ぐゥッ!!」

 『あぁ!回精が爆豪の破片攻撃に飲まれたァ!爆煙で見えなって回精が爆煙から突っ切ってきたァ!?そっから爆豪を殴り飛ばしたァ!!オイオイ二人とも大丈夫かよォ!?』

 『・・・爆煙から出てきた瞬間、回精は片腕で両耳、もう片腕で目を守っていた。ダメージ覚悟の突撃だな。爆豪も爆豪でギリギリ爆破と足で後ろに跳んだか、だが先ほどとは比べ物にならないほどダメージが入ったな』

 

 爆豪くんが起き上がる、だがそんな悠長にしていられないと痛む体を無視して走り出す。起き上がりきる前に追撃を仕掛ける!しかし爆豪くんは両手のひらを向けあい小さく爆発を繰り返す、そして。

 

 「スタンッ!グレネードォ!!」

 「ッ!?」

 「死ィ!ねェ!!」

 『爆豪突如凄まじい閃光を出したァ!!たまらず回精足が止まるが爆豪がそのまま追撃の爆破を加え回精が吹っ飛ぶゥ!!』

 『回精も途中で気づいて目を瞑ったが爆豪相手にその隙はでかかったな』

 

 今になって使った来なかった技か・・・、だが簡単に負ける訳にはと立ち上がろうとしてふら付く。

 

 『おぉっと回精がふらついたァ!流石に爆豪のダメージが大きすぎたかァ!?』

 『それもそうだが、一回戦であんだけ殴られまくったんだ。傷が治ってもそれ以外の部分が綻んでいたんだろ』

 「おいクソ犬、そろそろ使え」

 「言われ、なk〈ダメー〉え・・・?」

 〈ダメージが大きすぎて持たないー〉〈この後回復するのも含めるとー〉〈恐らく10秒が限界ー〉

 

 10秒しか持たない、血壊とはいえそれで彼を倒せるのか。中途半端な回答で止まった俺を爆豪くんは怪訝な顔で見ている。・・・いや、倒す倒さないじゃない。どんな結果に終わろうと使わなければいけないだろう。

 

 「ミッド、ナイト、先生」

 「回精くん、どうしたのかしら?」

 「10秒、それが、限界、らしい、です」

 「・・・クソ犬、マジで言ってんのか・・・?」

 「うん、10秒。それ、以上、は、体が、持たない、って」

 「だから、先生。戦う、けど、次への、進出、は、爆豪、くんに」

 

 そう言った瞬間爆豪くんが鬼の様な形相でこちらを睨む。彼にとっては受け入れ難い事だと思っていたが凄まじいな。

 

 「クソ犬ゥ!テメェお情けで先に進ませようってかァ!?「違うよ」ならなんだってンだァ!!」

 「全力、を出す。今の、俺の、全力、を、10秒、で。でも、反動、で、動け、なくなる。だから、次に、行くのは、爆豪、くん」

 「それに、俺に、負けて、次に、進む、かもよ?」

 「・・・ハッ!上等だクソ犬ゥ・・・!テメェの全力をぶっ潰して一位の価値を上げる為の踏み台にしてやるよォ・・・!」

 「出来る、ならね。・・・先生、カウント、お願い、しても、いいです、か?」

 「全く、良いわ。10秒で試合はどんな結果であれ爆豪くんが次へ進出します!」

 『おいおいおい!!熱い展開になってきたぞ視聴率稼げよマスメディアァ!!』

 「では、カウントを始めます」

 

 酷く、今この瞬間がスローに見える。だがこの伸ばされた時間は丁度いいかもしれない。呼吸を落ち着かせ目の前の爆豪くんを見る、彼はいつでも反応できるようにと両手を小刻みに爆破し続けている。その様子に笑みがこぼれ。

 

 「10!!」「ぶっ殺すゥ!!」「血壊!!」

 

 知覚が拡張される。しかし一部に違和感を感じる事から精霊たちの言っていた事は本当なのだろう。全力で倒しに行くしかない。

 移動の為ステージを蹴ると一回戦目の時ほど酷くはないがヒビが入る。真っ直ぐ来ると思っていたのだろう、音と共に手のひらを前に突き出したまま俺がその場から横に移動したことで爆豪くんの視線から外れる。しかしよく見るとこちらに視線を向けようとしている事が分かる、本当に油断できない。

 

 「9!!」

 

 爆豪くんがこちらを目で捉える前に一回戦目で行った空気の塊を相手にぶつける。それを音で確認したのかすぐさま舌打ちと共に爆破で移動、ギリギリ避けられた。それを追いかける為にステージから跳ぶ、そして空気を蹴って爆豪くんの真上を取って更に空気を蹴って急降下。だがギリギリこちらを視界に入れている、

 

 「8!!」

 

 構うものかとそのままステージに着地、空気の塊を放った場所から爆豪くんの反対側を取った。そのまま腕を投げようとして手のひらが脇の下からこちらに向いている事に気づく、爆破を避ける為横に跳びその一瞬後を爆破の衝撃が通る。場外に行かない為にステージを足で削りながら止まるとこちらを視界で捉えている爆豪くんが目に入る。

 

 「7!!」

 

 まさかこんな短期間で合わせられるとは、口角が上がり今度はそのまま突っ込む。爆豪くんはそれに合わせ大規模な爆破を用意しているのか両手を弾けさせている、しかしそれに付き合う義理はないと大きく横にずれる。だがその行動に爆豪くんは笑みをこぼし。閃光を放った、不味いと目を閉じつつ地を蹴り大きく上空に逃げる。

 

 「6!!」

 

 すぐさま目を開けると下には麗日さんの時に使った大規模爆破より小規模な爆破が通って行った。恐らく爆豪くんは閃光を使ったすぐ後に爆破したのだろう、だがそれでこちらを見失っている。すぐさま空気を蹴ってその衝撃で飛ばされる爆煙に紛れる様に地面に着地する、音で爆豪くんは上を見ているだろうと考え爆煙が晴れる前に突っ込む。

 

 「5!!」

 

 しかし爆豪くんはこちらに手のひらを向けている。この距離は間に合わないならと更に一歩踏み込み手のひらを()()()()。それだけで勢いよく爆破は違う方向に向かいそのまま胸倉を掴み上へ投げ、それを追う様に地面を蹴る。一瞬の出来事だがそれでも反応、両手のひらから爆破をし減速ではなく姿勢を立て直す。

 

 「4!!」

 

 姿勢を直している最中にこちらを見つけたのか既に視線で捉えられた。その事に笑みをこぼすと相手は凶悪な笑みで返す。更に蹴って加速しようとすると同時に相手が爆発で加速しこちらに飛んでくる。タイミングをずらされしかし相手はギリギリタイミングを合わせられたのかすれ違いざまに爆破を当てられるもこちらも空気の塊を殴って飛ばす。

 

 「3!!」

 

 空気の塊が直撃しスピンしながら落下する。それを追撃しようと後を追うが爆破で微調整と再び閃光、しかし予兆が分かっていた為隙を見せることは無いが追撃は間に合わない。もうステージにいるのでこちらもステージに降り立つ、時間的にも次で終わりだ。

 

 「2!!」

 「ぶっ潰す」

 「こい」

 

 両手を小刻みに、勢いよく爆破していく、それに合わせて俺も一直線に突き進む。

 

 「1!!」

 「ゼロォ!インパクトォ!!」

 

 その掛け声と共に目の前で大規模な爆発が発生した。それに合わせてこちらも拳を振るう、爆発の衝撃と拳が拮抗しステージで爆発音とは違う甲高い破裂音がした。そして次の一手をと考え、足を止めそれが当たらない軌道だと油断してしまった。爆煙の中から握り拳が伸び頭の横で開かれ()()()()()()()と共に意識が暗転した。

 

 

─────

 

 

 「回精くん続行不能!決勝戦進出は爆豪くんです!!」

 『・・・オイ今の誰か撮影しきれたか?というかマジで何なのお前のクラス』

 『知るかよ、才能を重ねそれでも壁にぶち当たっても意志だけで乗り越えた奴と。その凄まじい力を使いこなす為に努力し続けた奴。それがお互い悔いの残らぬように全力を出し切った結果だ。』

 「ふふふふ!凄まじい戦闘力に見た目も良い、経営科としていい株を見過ごせ「はぁい、ストップ」・・・なんですか、首無さん」

 「悪いんだけどぉ、獣狼をプロデュースするのは僕の仕事なんだよねぇー、だから他当たってくんない?」

 「何を言うかと思えば、そんな事「まかり通るんだなぁー、これが」・・・」

 「悪いね?僕たちは中学から獣狼を支えようって決めてたんだなぁ、これが。それにご両親にももう許可貰っちゃったしぃ?」

 「妖目くん妖目くん!獣狼くんが運ばれて行っちゃったし早くお見舞いに行かないと!」

 「うん、お見舞いはわかるけどなんでカバンを持っていこうとしてるのかな?ま、とりあえず他のヒーロー科はあげるから獣狼には手を出させないよって釘を刺したかっただけ、それじゃあねぇー」

 

 他の経営科が獣狼に寄ってくる前に掃う。かなり自分勝手なのはわかっているが俺たちは獣狼の為に経営科(ここ)に来たのだ、ぽっと出の奴に譲るつもりはない。あの日あの病室で獣狼が俺に大丈夫と言った辺りで確信が持てた、あいつはヒーローになると。その時に喜びと同時にアイツの為にまだ出来る事はあるのではないかと思った。

 

 だから快心さんと相談してアイツの受験する高校の経営科を受験した。獣狼の両親にも密かに相談し許可ももらえた、何故ここまでするのか聞かれた時も簡単に答えられた。快心さんの回答には二人とも笑っていたが許可を貰えた。それにもし獣狼がヒーローになれなくてもこっちで雇ってあげようと獣狼のお父さんからも保険をくれた。

 

 「えーっと確かこっちだよね、リカバリーガールの出張保健室って」

 「うん、そうだねぇ。この先の曲がり角を右だね」

 「じゃあ急がないとね!獣狼くんが心配だし!!」

 「結構急いでるけど、何かあったりするのかな?」

 「えっ、いや、その、ナンデモ、ナイデス、よ?」

 「うーん、気になるなぁ。でも獣狼が心配なのはわかるし先を急ぐかな」

 

 快心さんの誤魔化し方の下手くそ具合に苦笑する。何かあるし多分快心さんにとってメリットな事だろう。まぁ見てからのお楽しみでいいか。そう考えていたがこの後、保健室で騒ぎすぎてリカバリーガールから追い出される羽目になった。




 ゼロインパクト:ハウザーインパクトを無理やりゼロ距離用に調整したオリジナル技。グラウンドゼロとも考えたけどやめた。

 キーンと言う音:ゼロインパクトすらも囮にした爆豪の獣狼用の秘策、こちらもオリジナル技。拳を握り小規模の爆発を連続で起こし続け手を開けた時にとても短い距離に高周波を発生させ相手の平衡感覚に負荷をかける。

 一応最後の釘刺しですが、獣狼を追ってもそれ以上に知ってる奴が追っているから勝ち目が無いと周知させるのもあります。なので他の経営科はよっぽどの理由がなければ獣狼を妖目と快心に譲ります。


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第三十話:戦いが終わり、幕が閉じられる

 正直轟対爆豪戦は強いて言うならば爆豪の動きが悪くて時間がかかったものの、炎を使わない轟じゃ勝てないと思うので原作通りと思い大幅カットです!ゆるして。


 獣狼が搬送された出張保健室に着くと同時に扉が開かれ、獣狼の対戦相手の爆豪が出てきてすぐさまこちらを見ると。

 

 「おいクソ青白髪、ちょっと面ァ貸せ」

 「いいよぉー、快心さん後でねぇ」

 「うん!任せて!」

 

 快心さんの発言に少し疑問に思いつつも快心さんは保健室に入り扉が閉まる。彼は動くつもりはないようでこの場で話をするつもりのようだ。

 

 「テメェクソ犬と中学ン時からの知り合いだろ、アレがクソ犬の本気か?」

 「正確には幼馴染なんだけどねぇ、アレが本気かって言われればあの時点での全力の本気だと思うよぉ?」

 「そうか、ならいい。邪魔したなァ」

 「別に問題ないよぉー」

 

 口角を吊り上げ見る者に威圧感を与える笑顔、恐らく自分の目的が達成されている事に満足している顔だ。あの時点で、と言った時に少し眉が動いたが最初から万全な状態で戦えるとは思っていなかったようで、相手が全力を出してくれればそれでいいという判断なのだろう。本当に全力の勝負がしたいなら恐らく4日に分けて対戦が行われる事になるだろうし。

 

 流石雄英高校と言うべきか、ヒーロー科は本当に個性的な人が集まっているな。と感心したところで獣狼の見舞いに来たのだと保健室の扉を開ける。

 

 「いい子いい子ー、よーしよー・・・待って、誤解なんです」

 「んー、んー・・・?あ、あやめだー」

 

 獣狼が快心さんの膝の上でよしよしされ、上機嫌に尻尾を振っていた。ゴメンちょっと待ってほしい二人ってそういう関係?そう疑っていると。

 

 「あやめー、あやめー」

 「・・・とりあえず快心さん。状況説明お願いしても?」

 「・・・はい・・・」

 

 ベッドに寝転びながらこちらに手を伸ばす何処かいつもより圧倒的に仕草が幼い獣狼。その頭をベッドの近くの椅子に座り膝の上に乗せたまま快心さんが説明を始めた、曰く前も似たような状況になっていてこの状態の獣狼はかなりこちらの言う事を素直に聞いてくれる事。なので調子に乗ってしまった事。

 ・・・頭が痛い・・・。俺のヒーロー、しっかりしてくれ。

 

 「おやアンタたち、何してんだい」

 「リカバリーガール、その手に持っているものは・・・」

 「あぁ、これかい?そこのお嬢ちゃんに頼まれてね、食べ物を取りに行ってたんだが・・・。なんでその子を撫でてるんだい?」

 「・・・話せば長くなりますが、簡単にまとめると個性の使い過ぎのデメリット・・・でしょうか?」

 「・・・あぁ、何となくわかったよ。さっきとは態度が全然違ったからねぇ・・・」

 

 何か疲れたかのように呟くリカバリーガール。話をしていると扉の外から複数人の走ってくる音、そして勢いよく開かれる扉。

 

 「大丈夫!?回精くん!」

 「怪我しとらん!?」

 「回精!お前大丈夫k・・・」

 「けろ、峰田ちゃん、途中で止まると怖いわ」

 「あー、みんなー、いっぱいー」

 「「態度が幼い!!」」

 「・・・あー、その。首無、どういう状況なんだこれ」

 「・・・話せば、長いねぇー・・・」

 「はぁ・・・全く、アンタらここは保健室だよ!静かにおし!!」

 

 先ほどリカバリーガールに話した説明をまた行う。それを聞き緑谷はぶつぶつと小声で考察を始め、麗日さんは尻尾に興味が言ったのか目で追っている、峰田は固まったまま、梅雨ちゃんは今の状態の獣狼に興味があるのか観察している。

 

 「けろ、回精ちゃんこうなると見た目相応になっちゃうのね」

 「つゆ、ちゃんー、つゆ、ちゃんー」

 「けろけろ、回精ちゃん。私も撫でてみていいかしら?」

 「なでなで?いいよー」

 「あ!うちも尻尾触っていい!?」

 「うららか、さんー?いいよー」

 「けろ・・・、耳って案外しっかりしているのね・・・」

 「うぉっふぅ・・・尻尾にぃ・・・ビンタされるぅ・・・」

 「はははは・・・はぁ、まさか回精にこんなデメリットがあったとはな・・・」

 「でもそのデメリット、獣狼知らなかったみたいだよ?尾白くん」

 「そうなのか?・・・そう考えると凄まじいデメリットだな・・・」

 「だねぇ・・・はぁ・・・」

 「今の状況を見るからに記憶はそのままなんだろう。ある程度回精くんが心を許していれば恐らく触られる事に忌避感はない寧ろ積極的になっている事から多分動物の人懐っこさが出てるんだろういや待て今考えると回精くんは何かあると飯田くんや梅雨ちゃんに障子くんと尾白くんの近くに行っているからこの状態でなくても人懐っこさが出ていたつまり今はそれが強調されている?なら今起きているのは普段の行動が強調されている?ならこの幼い行動は一体───」

 

 快心さんの膝に頭を乗せ、梅雨ちゃんに耳を撫でられつつ尻尾は麗日さんに委ねている獣狼の顔は中々見れない満面の笑み。ぼそぼそと考察を口に出す緑谷にカタカタ震えだした峰田とそれを見て苦笑いする尾白に流石に笑う気力が無い俺、獣狼のデメリット一つでここまでなるかぁ・・・頭痛薬あるかなぁ・・・。と現実逃避をしていると。

 

 「回精てめぇぇぇぇ!!女子に集られてんじゃねぇぞぉ!!!それに微睡っぱ「それ以上はダメよ峰田ちゃん。流石に他クラスは問題だわ」アペェ!!」

 「いい加減におし!!幾ら怪我がそこまでじゃないとは言え怪我人だよ!!それにそろそろ次の試合が始まる時間さね!アンタら同じクラスメイトの観戦に行かなくていいのかい!」

 「あ、あぁ~・・・うちの尻尾・・・」

 「麗日さんの尻尾じゃないと思うな・・・」

 

 一人名残惜しく俺たちは全員外に追い出される、その光景に獣狼は少ししゅんとしてから手を振っていたので気づいた人たちが手を振り返すと嬉しそうに笑うのであった。

 

 

─────

 

 

 気が付くと保健室で横になっていた。そして記憶を遡っていると爆豪くんの手のひらから放たれた音で負けたのだと気づいたが、特に悔しいという思いもあんまり無い。何せ全力で戦ったのだ、燃え尽き症候群の様な感じなのかなと思っていると横から声がかかった。

 

 「よう、起きたみてぇだな」

 「轟、くん。ここに、居るって、事は」

 「・・・あぁ、爆豪には負けちまった」

 「そっか。・・・満足、出来た?」

 「・・・わからねぇ、だが・・・なんでもねぇ」

 「・・・そっか」

 

 今の轟くんの声には緑谷くんとの戦いの時と比べると少し劣るがそれでも晴れやかな声をしていた、このまま彼がいい方向に進んでくれると良いなと思っているとリカバリーガール先生が入ってくる。

 

 「おや、アンタたち目が覚めたのかい?なら丁度いい、表彰が始まるから控室にお行き。後アンタにはこれ上げるから食べながら行くといいさね」

 「ありがとう、ございます。お世話に、なりま、した」

 「・・・お世話になりました」

 

 渡されたクッキーを食べながら向かう、少々行儀が悪いが仕方ない。轟くんとは特に会話もなく控室に着くとそこには困惑しどうすればいいのかオドオドしている塩崎さんと口をふさがれ両手に拘束具を付けられている爆豪くんの姿があった。・・・よく見ると寝てる・・・のか?

 

 「・・・ねぇ、轟、くん。どうして、爆豪、くんが、ああ、なってる、の・・・?」

 「・・・最後に、左の力を使わなかったから・・・だと思う」

 「・・・そっかぁ・・・」

 「お、全員揃っているな、ならこっちに付いてきてくれ」

 

 セメントス先生の案内に従いついていく、爆豪くんはセメントス先生の力で運ばれて行っていると表彰台らしきものがあったのでそこで3の数字が書かれた台に塩崎さんと一緒に立たされた。・・・爆豪くんは1の台に立たされた・・・いやアレはもう貼り付け・・・?

 

 「それじゃぁここで待機していてね、ステージの中央に煙幕と共に上にあがるけど慌てずにね」

 

 その間に爆豪くんは起きたのだろう、轟くんに向かってくぐもり過ぎて何を言っているかわからないが文句を言っているのだと思う。こういう感じ何かA組っぽいなぁ・・・って思っていると隣の塩崎さんに話しかけられる。

 

 「あの・・・こちらの方の拘束は外さないのでしょうか・・・?」

 「うーん、俺は、外して、良いと、思う。けど、日頃、の、行い、がね・・・」

 「~~!!~~~~~!!!!!」

 「こんな、感じに」

 「そう・・・ですか・・・」

 

 こちらに鬼の様な形相で睨み何かを言い出した爆豪くん、その様子に顔を引きつらせる塩崎さん。でも恐らく一言二言で済むことだったのだろう、すぐさま轟くんに向かい何かを言っていると。

 

 『それでは!表彰式に移ります!!』

 「・・・放送、事故・・・?」

 

 その言葉に誰も答えてはくれず、そのまま表彰台が上がっていくと会場の中央に出た。A組のみんなや他の生徒もいる。そしてミッドナイト先生が大きくポーズをとってメダル授与をする人を紹介する。

 

 「HA-HAHAHA!!とぅ!!」

 『われらがヒーロー!「私がメダルをもってェ!」マイトォー「来たァ!!」ー!!』

 「被った・・・」

 

 打ち合わせなしかぁ・・・。しかしそこで止まる訳にもいかずなかったことにしナンバー1ヒーローからのメダルの授与が始まった。

 

 「HAHAHA!塩崎少女、3位おめでとう!いい勝負だったよ!」

 「はい、ありがとうございます」

 「でも、戦法が個性だけになっている。そこを改善出来ればもっと上に行けるだろう」

 「・・・あぁ、私の為にこんなアドバイスもいただけるとは・・・感激です・・・」

 「回精少年、君も3位おめでとう!凄い速さだったよ!」

 「ありがとう、ございます」

 「うん!どうやら自分の改善点も分かっているようだね?頑張ればそれだけ君は強くなる!」

 「・・・はい!」

 

 首から下げられた銅のメダル、その重みが少しこそばゆい。オールマイト先生は轟くんに炎を収めた理由を聞き轟くんはそれを清算しなければいけない事があると返した。それにオールマイト先生は優しく抱擁をし今の君なら清算出来ると励ました。そして問題の爆豪くんの表彰に移った。

 

 オールマイト先生が宣誓通りの結果を残した事を褒めるが爆豪くんはこんな一位は勝ちが無いと否定。・・・流石にそれは頭にくる発言だなぁ・・・。

 

 「爆豪、くん。俺の、全力、じゃ、不服?」

 「・・・ッ!!」

 

 俺の言葉に爆豪くんが何かを言おうとするも鬼の様な形相を更に悪化させた顔で睨む、俺はその目を見て視線を外さない。他の生徒たちが爆豪くんの形相に騒めいていると爆豪くんは視線を外し。

 

 「いいぜェ、オールマイトォ・・・!早くそのメダル寄越せよ・・・!んでもってェ次もこのメダル持って来て2枚にしてやる・・・そうすりゃ完膚なきまでに俺が一位だって証明になんだろォ・・・!!」

 「HA、HAHAHA!!良いぜぇ爆豪少年!その向上心はすさまじいものだ!!さぁ受け取れ!君が一位だ!!」

 

 そしてオールマイト先生は会場の全ての人たちに向け語る。この表彰台に立ったのは彼らだが、この場の全員にその可能性があった。次の世代は確実にその芽を伸ばしていると。最後に全員で合わせてあの言葉を言おうとするオールマイト。

 

 「せーの、」

 「「「「PLUS ULTRA!!!!」」」」「お疲れ様でしたァぁぁぁぁ!!!」

 

 会場が一瞬で静まり返る、次の瞬間一斉にオールマイトへブーイングが始まった。それにオールマイトはオドオドしつつ理由を言うも何時もの覇気がない。なんだろうなぁ、この感じが嬉しく楽しい。それにつられたのか精霊たちに声を掛けられる。

 

 〈獣狼よかったねー〉〈ライバルと書いて友と読むー〉〈それ逆じゃないー?〉

 (うん、初めての体育祭だったけど、いい思い出になりそう)

 

 そうして体育祭は終わった、みんなで教室に戻り相澤先生から明日明後日は休校、体育祭でプロヒーローから指名が来るかもだからワクワクしながら待っていろ。その言葉にクラスの全員が返事を返す。・・・ただ一つ空席がある事が気がかりだが・・・。明日辺りメッセージを送ってみるか・・・。

 しかしこの後の帰宅途中で妖目によって俺の個性のデメリットを教えられ、ついでと言わんばかりにその時に何をやっていたかも教えられた。・・・だから峰田くんに睨まれていたのか、というか梅雨ちゃんや麗日さんに合わせる顔が・・・!色々空回る思考を何とか整えて梅雨ちゃんと麗日さんに謝罪文とあの場所での事は言いふらさないでと言う事をメッセージで伝えたのだった。




 爆豪は全力で戦った相手やぶつかってきた相手を蔑ろにするタイプには思えません。なのでこうしました。

 そして明かされる獣狼のデメリット、一応こちらもノゲノラ設定があったりします。快心さんは・・・平常運転ですね。

 いよいよヒーロー名決めと職場体験です、楽しみですね。


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幕間:俺が目指したかった一位

 幕間チャレンジ、タイトルから誰の幕間からモロばれしていく、でもわかりやすさは重要だと思う。

 皆さん知ってますか?今は3月29日の32時ですよ!ごめんなさい調子乗りました。

 今回幕間についてアンケートを取ります、よろしければ投票していってください。


 部屋の明るさを鬱陶しく思いながら目を覚ます。今何時だと時計を見れば短針がほぼ真上を向いており、昨日が体育祭だったとはいえ日課が出来なかった事実に苛立ち起き上がると視界の隅で何かがキラリと光る。

 目を向ければあの半分野郎のせいでケチのついた金色のメダル、あの時クソ犬のせいで受け取る羽目になった一位の証が机に投げ出されていた。

 

 「・・・クソが・・・」

 

 今も鮮明に思い出せる。あの半分野郎なんでか知らねぇが途中で炎を止めやがった、ふざけんじゃねぇ。もう一回勝負させろと詰め寄ろうとするも体が鈍く動かない事に更に苛立ち爆破を使い詰め寄ろうとした時に意識が遠のいた。

 次に目を覚ました時にはある程度動くようになったから近くにいたミッドナイトにもう一度半分野郎と戦わせろと言っても断られた。苛立ちで無意識のうちに手から小規模な爆破が発生しミッドナイトに俺が一位だと言われ更にイラつき抗議していたらまた眠らされた。

 

 次に目を覚ませば両手が動かず口をふさがれ縛り付けられていた、右には半分野郎が居て苛立ち任せに怒鳴りつけるもあの野郎シカトを決め込みやがった。途中でクソ犬に日頃の行いと言われたがぶっ潰すと文句を言うも流される、キレてクソ犬に怒鳴ろうとするがそれよりも半分野郎と思いシカトした半分野郎に怒鳴り続けるも反応しねぇ。

 

 

 表彰が始まった。俺の番になりオールマイトに口の拘束具を外され宣誓の伏線回収を褒められるもこんな一位はいらねぇと突っ返した時、隣のクソ犬が俺の本気じゃ不服かと聞いてきやがった。その言葉に当たり前だと口を開こうとするも口を閉じて隣のクソ犬を睨む。

 

 クソ犬を認識したのは個性把握テストからだ。そん時は俺の前に現れやがった没個性のクソモブと思っていたが戦闘訓練でデクの野郎に攻撃を仕掛けた時に後ろから奇襲してきやがるのを予想してた俺はギリギリの避けられねぇタイミングで爆破を放ったが、あのクソ犬は反応し避けやがった。この時点でいつか潰す奴と記憶した。

 

 次に認識したのはUSJの襲撃事件の時、デクとクソチビとカエル女の話じゃ脳無って野郎の相手をしていたがクソチビとカエル女が襲われそうになって気がそれた時に脳無って奴に捕まれ叩きつけられたという話。・・・俺じゃ目で追えない奴の()()()()()()()。この時点で半分野郎に感じたのと同じことを思っちまいそうになったがふざけんじゃねぇと持ち直す。

 

 最後は体育祭の時、クソ髪と醤油顔が丁度いい奴がいるというから聞きゃクソ犬だった。ざけんじゃねぇと思ったが言い分は間違ってねぇから探す事に。小せぇから見つかりにくかったがデクのところに行こうとしているのを連れてくる、なんか言ってやがったが足になんならさっさと即決しろや。騎馬戦が始まるとしばらくしてクソ犬に助けられたが、それよりもB組のクソ共がイラついたので無視。そん時にいっつもアホ顔晒してるクソ犬が笑ってやがったのを見てそんな顔出来んならしとけや、と思うがそれよりクソ共をぶっ潰す事に専念した。

 最終種目ではクソ共の大将に良いように殴られまくってやがった、だが真っ赤になったと思えば逆転しやがった。出来んならさっさとしろやカス、だがあれが脳無とか言う奴を相手に出来た理由と思うと潰しがいが出た。アレなら俺の一位の価値を上げる良い踏み台になると確信した。

 

 ・・・正直言って認めたくねぇがもしもクソ犬がクソ共の大将からダメージを受けていなけりゃ俺が負けていたかも知んねぇと思うと苛立つが、そんなん言い出したらキリがねぇから飲み込んでやる。だがそんな状況で10秒と言う短期間とは言えコイツは全力を出して俺はそれをかなり分の悪い小細工を使ってやっとぶっ潰せた。そしてそれは俺の一位の価値を上げる勝利だと確信している、その中でこいつは俺に聞いてきやがった。

 非常にイラつき睨むが目を逸らしもせずにいる度胸と全力を出したクソ犬ならあのスカした半分野郎よりマシと言う判断で今回はこれで納得してやる。大分ケチが付いたが次の体育祭でも一位をとりゃ今度こそ俺が一番だと全員にわからせられる。

 

 「・・・チッ・・・」

 

 それでも妥協してしまった事に多少イラつきつつも、あそこでこれ以上俺の戦果(クソ犬に勝利)にケチつける真似をしたくねぇってのもある、自分から一位の価値下げるなんて馬鹿な事はしねぇ。

 体がダルいがこれ以上寝るのもよくねぇが下手に動くのもよくねぇ、あのクソ犬が飛ばした空気に当たった場所がまだ変な感じがしやがる。リカバリーガールには次の試合があるからと悪化しない程度に治癒されたが、悪化しない程度っつーことは怪我自体が残ってるって事だ。この様子なら明日も休みゃ治んだろ、とりあえず昼飯にするかと動き出した。




 短めなのは幕間だから、というのと爆豪が獣狼をどういう風に見てるかというのを説明するよりこういう形にした方が良いかな、と思った次第です。

 爆豪はコイツの事こう呼ぶよ、とか何か間違えていたら教えてください。

 アンケートは大体2日とかを予定しています。


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第三十一話:恥ずかしくとも受け入れる仲間

 はい、今日は二話分投稿しました。ですが文字の数では恐らく1.5話くらいでしょう。まだ幕間を読んでいない方はそちらをどうぞ、読まなくても問題ないので関係ねぇと言う方はこのままどうぞ。

 えー、ヒーローネームとか職場体験にしようと思っていたのに思いのほか話が広がってしまいました。なので時間的には未だ朝です、ごめんなさい。


 体育祭の後、体には違和感が表れていた。何かこう、肩がこる様な血の流れが悪い様なムズムズする、特に尻尾と耳の辺りが違和感が凄い。お母さんやお父さんに相談しても心当たりがないという事は俺自身の問題、そこで精霊たちに話を聞いてみると体内で力の流れがよくないとのこと。

 その話を聞いて思い出した、獣人種の血壊は成長しきっていない子供や女性が使うと体内で精霊の流れが悪くなる。恐らくは俺もその症状だろうと確信しお父さんとお母さんにマッサージをお願いしたが、お父さんは論外、お母さんはまだお父さんよりマシレベルだったが家事があるので長く出来ない。違和感を抱えたまま二日間の休みが終わってしまい。

 

 〈獣狼、大丈夫ー?〉〈我らは、大丈夫ー〉〈体が、カチコチー〉

 「・・・行って、きます」

 「獣狼ちゃん大丈夫?体調悪いなら休んでも平気なのよ?」

 「ううん、平気、だいじょぶ」

 「そう・・・?なら良いのだけれど・・・」

 〈我らに、お任せー〉〈と言いつつ、我らもー〉〈動きが、悪いー〉

 「・・・みんな、そろそろ、行くから、戻って」

 〈〈〈はーいー〉〉〉

 

 雨の日は尻尾が水分を吸って重くなるから嫌なんだよなぁと、カバンにタオルとそれを入れる袋を少し多めに詰めて傘をさしながら出かける。今日はこの調子だし二人には一人で行くと伝えてある、教室でゆっくりしたいと思いつつも傘に当たる雨音を聞いて歩く。・・・この選択を、後悔する少し前であった・・・。

 

 

~~~~~

 

 

 やっと・・・やっと着いた・・・、這う這うの体で1-Aと書かれた扉を開ける。その扉の音に気付いた人たちがこちらに目を向け、俺の姿を確認してギョッとする。

 

 「か、回精ーーー!!?」

 「ん?かっ回精大丈夫かお前!?なんでそんな()()()()()()()()()()()なんだよ!?」

 「回精ちゃん、何があったのかしら?」

 「・・・話せば、長い・・・。いや、短い・・・」

 

 そう、割と短い話だ。駅でこの姿は知られていなければ目立たず、逆に知られていればよく目立つ。大人も子供も群がって来る、大人は無意識なんだろう、子供は悪意なく興味本位で、濡れた傘が当たり合羽を着た子供には尻尾に抱き着かれ更に耳を勝手に触る。

 騒ぎを聞きつけた駅員さんに助けてもらうまで身動きが取れず、子供の親は子供を叱った後に謝られる。駅員には降りる駅でも同じことが無いようにと親切心で護衛された───この時聞いたが雄英体育祭の後はこういった事も仕事に入っているらしい、こっそりサインをお願いされた───が完全に見世物になっている。血壊の違和感と相まって精神的に疲れしてしまい今に至る。

 

 「と、いう事、がね・・・」

 「うわぁ・・・それ聞くと目立つってのも考えものね・・・」

 「というかお前も子供の被害者か・・・」

 「お前、も?」

 「・・・小学生にドンマイコールされた・・・」

 「・・・瀬呂、くんは、相性、悪すぎ、ただけ、だよ・・・?」

 「回精・・・お前だけだよドンマイと言わなかったの・・・」

 

 ごめん、言いかけた。心の中にそっとしまい込み、タオルで濡れている部分を拭うが体の動きがぎこちない。

 

 「回精ちゃん、動きが悪いけど何処か具合でも悪いのかしら?」

 「ううん、ただ、強化の、デメリット、がね・・・」

 「けろ・・・、回精ちゃん。私思った事は何でも言っちゃうのだけれど、やっぱりみんなにデメリットを伝えた方が良いと思うわ」

 「うっ・・・、でも・・・」

 「確かに恥ずかしい事だと思うわ、でも何かあった時に周りが知っていればフォローできると思うの」

 

 梅雨ちゃんの言う事は頭の中では正しいと思う、しかし恥ずかしさがまだ勝っており中々実行できない。その事を気にかけてくれたのか梅雨ちゃんは。

 

 「なら、私も一緒に事情を説明するわ。それなら恥ずかしさは減らないかしら?」

 「うぅ・・・わか、った。ありがと、梅雨、ちゃん」

 「けろけろ、良いのよ。私たち仲間じゃない。それに回精ちゃんが思うような事は無いと思うわ」

 

 そして梅雨ちゃんの案でまずは俺の血壊について話すことになった。いきなりデメリットについて言うよりは話しやすいという作戦だ。そこからみんなからこの強化の名前、どんな効果、使用時間と聞かれて行き最後にデメリットについて話す事になった。

 

 「けろ、実は回精ちゃんの血壊にはデメリットがあるのよ」

 「やっぱそんな身体強化してたらデメリットもあるか・・・、どんなんだ?」

 「その・・・、幼児、退行・・・

 「え?わりぃ聞こえなかったわ」

 「けろ、私が言うわ。回精ちゃんはしばらくの間幼児退行しちゃうのよ」

 

 大きな声で言えないと気遣ってくれた梅雨ちゃんにデメリットを言われる、流石に恥ずかしく下を向いてしまっている。

 

 「あー・・・上鳴と同じタイプってぇことかぁ・・・そりゃ災難だったな・・・」

 「えー?でも上鳴は可愛くないアホになるけど、ウチはこっちの方が可愛くていいと思うなぁー?」

 「ちょ!?可愛くないって酷くね!?というか砂藤も災難は言い過ぎだろ!?そりゃ可愛くねぇしアホも間違ってねぇけどそこまで言わなくてもよくね!?」

 「梅雨ちゃんが説明してるって事は見た事あるって事だよね、アタシもちょっと見てみたかったかも」

 「だねー!私もちょっと回精くんが可愛いところ見てみたい!!」

 「けろ、流石に本人が恥ずかしがってるからやめてあげてね?葉隠ちゃん、芦戸ちゃん」

 「「はーい」」

 

 みんなが意外にあっさりしている事に驚いて顔を上げる。みんながこちらを見て笑っているがそれは悪い感情ではなく暖かいものだと一目でわかる、その事に更に驚いていると。

 

 「俺も正直笑いごとじゃねぇからよ、個性でドンドン知性が下がってくからなぁ・・・」

 「まー確かにそのデメリットには驚いたよ?でもさ、さっき砂藤が言った通り上鳴っつー更に恥の上塗りしてる奴もいるんだし回精は可愛いもんでしょ」

 「恥の上塗りとかやめてくださる!?でもまぁ個人的には才能マンにも同じ欠点があって親近感わいて嬉しかったり?」

 「そうねー、確かに親近感っていうのも変だけど、デメリットとかをちゃんと言ってくれるって辺り信用されてるんだなーって思えて嬉しい感じはあるかも」

 「けろ、回精ちゃん、言ったとおりだったでしょ?」

 「うん・・・みんな・・・ありがと」

 

 みんなの優しさに思わず笑みがこぼれた。するとみんなキョトンとしてこちらを見る、なんだろう?と思っていると。

 

 「わ・・・わ・・・」

 「わ?」

 「「「笑ったぁ~~~!!!」」」

 「ウチ回精がそうやって笑ったところ初めて見たかも・・・」

 「あ、俺も。というか騎馬戦の時の獲物を定めた様な笑顔しか見てなかったからギャップが凄いわ・・・」

 「寧ろそっちが気になるんだが・・・」

 「けろ、回精ちゃんいい笑顔ね。・・・耳を塞いじゃってるわ」

 「耳が・・・きーんって・・・」

 

 後で聞いた話じゃ俺の笑顔が見たことなかったので反応してしまったそうだ、しかしちょくちょく笑っていたと話すと満面の笑みは見たことないと言われてしまった。確かにそういったのは見せたことないかも・・・。でも、これからは笑えるかな。

 

 「あ、幼児退行で忘れちゃってたわ。回精ちゃん体動かしづらいんでしょ?大丈夫なの?」

 「うん、血壊、使い、過ぎた、みたい。体が、こって・・・」

 「解決方法とかわかっているのかしら?」

 「耳と、尻尾、特に、こってる、から、マッサージ、が効くね」

 「けろ・・・マッサージなんて経験が無いから手助け出来ないわね・・・」

 「一応、撫でる、だけでも、効果は、あるよ?」

 「回精くん尻尾触らせてくれるの!」

 「あ!アタシ耳やりたーい!」

 「けろ、本人の許可をちゃんととってね」

 「・・・うん、お願い、しても、いい?」

 「「やったー!!」」

 

 そこから葉隠さんと芦戸さんにタオルで乾かすついでに撫でられたりしたが、葉隠さんはそこまで上手くなく途中で参加した梅雨ちゃんはそこそこ、意外にも芦戸さんが上手かったが途中で気になって参加してきた彼には及ばなかった。

 

 「うー・・・口田、くんが、一番、かもー・・・」

 「回精、お前机の上で溶けてんぞ・・・」

 「うー!くーやーしーいー!」

 「そっかぁー、口田って個性柄動物たちとよく触れ合うもんねー」

 「おい回精、お前動物と同レベルになってんぞ」

 「あー・・・別にー、構わないー・・・」

 「・・・ダメだ、気持ちよくて考える力が無くなってる・・・」

 

 ホームルームが始まる時間になったので名残惜しくも口田くんに感謝すると両手と頭を横に振って気にしてないのジェスチャー・・・かな?をしてくれた。それでもありがとうと伝えると後頭部に手を回して照れている様子だった。




 今回デメリット暴露は梅雨ちゃんの言う事もそうですが、何より獣狼がA組にちょっと一歩引いたところに居るな、と思いA組全体に近づけようと思い入れました。

 作者的メタ発言は獣狼が甘えられる環境作りたかった。

 えー、今回ハッちゃけた一話でしたが「ここ不味くない?」「ここ問題でしょ」とかそういうのがあれば言ってください。出来る限り直しますので。


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第三十二話:名前決めと体験先を決める

 恐らく一部の人にはもう既にバレているかもしれないヒーロー名決めです。そして職場体験の場所も決まるお話ですね。


 相澤先生が入室しホームルームが始まる、包帯の取れた相澤先生は特に傷もなさそうで大袈裟と言う表現はあっているみたいだ。そして今回のヒーロー情報学は特別と言う発言にクラス内に緊張が走る、いきなり何が起きるのか一部の生徒が身構えている中、相澤先生が口を開いた。

 

 「ヒーロー名の考案だ」

 「「「胸膨らむ奴きたぁぁぁぁ!!!」」」

 「ッ!!」

 「「「・・・」」」

 

 みんなが騒ぎ、相澤先生が個性を使った眼力で黙らせる。最早これもA組のネタか何かかもしれない、次のタイミングあったら俺も参加してみようかな。

 相澤先生が説明を続ける。体育祭で多くのヒーローから指名が来たためにヒーロー名を考えなければいけない、しかし今回の指名は体育祭で興味を持ったから、というお試しであり興味が無くなれば向こうから切ってくるそうだ。ヒーロー飽和社会、数多くのヒーローが居る為、無駄に生徒を呼ぶつもりはないという事だろう。相澤先生がリモコンを操作し黒板に指名件数が表示されていく。

 

 「例年はもっとばらけるんだが、今回は3人に注目が偏った」

 

 その指名の棒グラフでクラス内は指名が来た者は喜び、指名数の順位が体育祭の一位と二位で逆転している事に疑問する者、逆に指名が入っていない事に落ち込む者で様々だった。そして俺は爆豪くんより数は少ないが3000件近く指名が来ていた。・・・どうしよう、ヒーロー事務所なんて全く知らないけど・・・その状態で一件を決めるの・・・?

 

 「この結果をふまえ、指名の有無にかかわらず職場体験に行ってもらう」

 「お前らはUSJの時にヴィランとの戦闘を経験してしまったが、プロの活動を実際に体験してより実りある訓練をしようって話だ」

 「それでヒーロー名って事かぁ!」

 「俄然楽しみになってきた!」

 「そういうこった、仮ではあるが変なのを付けちまうと」

 「地獄を見るわよ!!」

 「学生時代のヒーロー名が世に認知され、そのままヒーロー名っていう人結構多いのよ?」

 

 その声と共に扉が開かれミッドナイト先生が教室に入ってくる。何故ミッドナイト先生が?と思っていると相澤先生が彼女に考案したヒーロー名を査定してもらうとの事、確かに相澤先生が苦手そうな分野で逆にミッドナイト先生は得意そう。

 

 「名は体を表す、オールマイトとかな。しっかり考えろよ」

 

 そういうと相澤先生が寝袋を用意し寝始めた。しばらく時間を取った後、ミッドナイト先生の一声で発表方式に。青山くんが短文をヒーロー名にし芦戸さんが血が強酸性の女王にしようとした為に教室内に変な空気が流れる。しかし梅雨ちゃんが流れを断ち切ってくれた。

 

 「梅雨入りヒーロー、フロッピー」

 「可愛い!親しみやすくていいわ!」

 

 梅雨ちゃんのお陰で他のクラスメイトも後に続く、憧れの名を背負う切島くん、自分の個性を表した耳郎さん、二つの要素をもじった障子くん、わかりやすさ重視の瀬呂くん、他にもどんどん決まっていきそれぞれにミッドナイト先生が合いの手を入れる、麗日さんが決まった後に俺の番になった。

 

 「獣人、ヒーロー。ワー、ビースト。です」

 「うん!こっちも名が体を表すいいお手本だわ!」

 

 その後、自分の名前にした飯田くん、蔑称を違う意味にした緑谷くんと決まったものの爆豪くんだけが中々決まらずに後日再考となった。相澤先生は職場体験の希望用紙を全員に配り指名された者は後で指名の一覧を配り、指名されていない者は40ある受け入れ可能事務所に週末、つまり二日後までに決めるように言いそのままミッドナイト先生と共に退出した。正直彼も決めなきゃいけない事があるのにこっちの都合で巻き込むのはかなり心苦しい、だけど聞かなければ。このクラスで一番ヒーローに詳しい緑谷くんに。

 

 

~~~~~

 

 

 昼休み、一人ぶつぶつ言っている緑谷くんに近づく、緑谷くんも考えなきゃいけないんだ、出来る限り早めに話してしまおうと肩を叩きつつ声をかける。

 

 「緑谷、くん。相談、いい?」

 「え?あっ!うん!いいよ」

 「実は、ね・・・ヒーロー、事務所、知らない、から、教えて・・・?」

 「へ・・・?いや、でもほら。中にはヒーローランキングに載ってるヒーロー事務所もあるよ?ほらこことかここも」

 「え!?回精そんなところからも来てんの!?いいなぁー!ここなんてテレビとかにも出てるとこじゃない?」

 「やっぱり爆豪との戦いが凄かったからなぁ、引く手数多だろ。武闘派と言われているところは結構来ているしな」

 「こっから探すとなると、数少ないうちは助かったかも。あ!でもここ有名なとこやん!」

 

 緑谷くんとの会話が気になったのか、それとも指名が固まった3人の内の1人だからか、芦戸さんや麗日さんに尾白くんが会話に入り峰田くんも気になるのか近くに居る。・・・みんな知ってるの?有名どころ多いの・・・?

 

 「ごめん、なさい・・・」

 「え?」

 「一つも、知らない、です・・・」

 「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」」」」」

 「え?嘘だろ回精!?一つも知らねぇなんて事無いだろぉ!?」

 「え!?だってここランキングの5本の指に・・・え!?」

 「・・・まて、回精。お前の知っているヒーロー名を言ってくれ。それで判断しよう」

 「「それだ!!」」

 

 知っているヒーロー名・・・、えーっと・・・。

 

 「オール、マイト。プレゼント、マイク。ミッド、ナイト。ブラド、キング。パワー、ローダー。セメン、トス。スナイプ。エクト、プラズム。13、号。ランチ、ラッシュ。リカバリー、ガール、ハウンド、ドッグ。根津、校長。インゲ、ニウム・・・かな・・・」

 「「「「ほぼ先生じゃねぇか(やん)(じゃん)!!!」」」」

 「ごめん、なさい・・・」

 「・・・うるせぇ・・・」

 「えーっと、じゃぁこことかはどう?ほらエンデヴァーヒーロー事務所」

 

 ここで緑谷くんからヒーロー事務所が一つ上げられた。恐らくこの流れならこのヒーロー事務所は有名どころ・・・のはず!どこかで聞いた・・・そう!体育祭で轟くんと緑谷くん戦で騒いでた燃えてる人!!マイク先生がエンデヴァーって言ってた!!

 

 「う、うん、知ってる、よ?燃えてる、人。だよね?」

 「・・・回精、お前その反応知らないって言ってる様なもんだぞ・・・」

 「ふっ」

 「どうしましたの?轟さん」

 「いや・・・なんでもねぇ」

 「・・・ごめん、なさい・・・」

 「回精・・・流石に知らなすぎだって・・・。バラエティとか見てなかったのかよ?」

 「その・・・テレビは、ニュース、とかだけ。すぐ、寝てた・・・」

 「よくそれで今まで過ごせたね・・・。アタシにはちょっと無理かなぁ・・・」

 「それまで、は、その・・・。外で、走るの、好き、だった、から・・・」

  (((犬だ・・・)))

 

 みんなの珍獣を見る様な視線が痛い・・・。それでも緑谷くんは顎に手を当てて何かを考えているようで。

 

 「じゃあ回精くん、何処かこういうところがいいとかない?」

 「・・・出来れば、ヒーロー、として、規則を、しっかり、してる、ところ。保須市、近くで

 「・・・!そっか、じゃあそうだな・・・、こことかどう?ここ、保須市だよ

 「ん?緑谷に回精なにコソコソしてんだ?」

 「ううん、ちょっと、相談、ごと」

 

 緑谷くんに保須市近くと言うと何かを察したのか保須市にあるヒーロー事務所で俺の希望に合うところを教えてくれた。みんなには言っていない俺の個性の力、それには他人の悪意を感じ取りやすくなるというのがある。飯田くんが話してくれたインゲニウム、ヒーロー殺しと言う名と共にニュースに流れてきた時は心配になった。そして今、職場体験先を決める飯田くんからは良くない感じがする、飯田くんには最初の接触は打算だったが、今では口には出したことは無いが友達だと思っている。

 

 そんな友達が悪い方向に行くのを黙って見て居られる訳が無い。だからヒーロー事務所の知名度を捨ててでも保須市近くで俺の希望が好ましい、緑谷くんのおススメなら問題ないだろう。

 このマニュアルヒーロー事務所なら。




 実は気づいていた人もいたかもしれませんが、獣狼がポンコツでしたと言うお話です。ヒーローと言う職業を現実で言うアイドルに置き換えればありえなくはないかなーと。だって獣狼は中2まで外で走ってる方が楽しいという奴でしたので・・・。流石に知らなきゃ不味い先生方とかは知っています。


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第三十三話:お手本を目指すヒーロー

 職場体験、ここは描写が無いためにかなりオリジナルだったりすっ飛ばしたりしますがご容赦ください。

 タイミングはズレると思いますが、キャラ設定を更新します。ですがあまり増えていないのとこれもまた読まなくてもいいものなので気が向いた方が居ればどうぞ。

 明日はなんと投稿をお休みします!


 緑谷くんのお陰でヒーロー名を決めたその日の内に体験先が決まった。しかし付き合わせた緑谷くんは大丈夫だろうかと心配していたがどうやら一件指名が来たらしく、そこに行くことになったみたいだ。その後は特に代わり映えなく、強いて言えば快心さんがヒーロー名を決めた次の日、昼休みに俺を撫でた人を特定しに静かに乗り込んできた位だ。

 

 快心さん曰く「昨日の帰りに獣狼くんが誰かに沢山撫でられた跡があったし、何よりそこまで撫でられて全然嫌がってないの。何かがあったに違いないよ・・・!」との事、口田くんに迷惑はかけたくない為に快心さんを説得するが、その際に無理のない程度でお願いを叶えるという約束を取り付けられてしまった。あまり変なお願いじゃなければいいんだけど・・・。

 

 そして職場体験当日、複数回分の着替えとコスチュームの入ったケースを持ち駅で相澤先生の簡潔にまとめられた注意を聞いた後に飯田くんと歩き出すと。

 

 「飯田くん!本当にどうしようもなくなったら言ってね・・・友達だろ?」

 「うん、うん」

 「・・・あぁ」

 「・・・緑谷、くん、麗日、さん。任せて」

 「・・・うん、回精くんも何かあったらすぐ連絡してね?力になるから」

 「うちは場所的にどうしようもないけど・・・、それでも相談に乗るよ」

 「うん、ありがと。それじゃ、ね」

 「気を付けてね、回精くん」

 

 緑谷くんの言葉に手を振って返答する。飯田くんは周りが見えていないのか先に行ってしまっていたので早歩きで追いつくと。

 

 「・・・まさか、回精くんが同じヒーロー事務所だったとはな・・・。盗み聞きするつもりはなかったのだが、教室で聞いた限りではかなり有名どころからも指名が来ていたんだろう?言っては悪いがどうしてここに?」

 「正直、俺の、ヒーロー、になる、動機、って、勢い、みたいな、ところ、あるから」

 「・・・なるほど、ならば確かに緑谷くんも勧める訳だ。これから向かうマニュアルヒーロー事務所のマニュアルは現代ヒーローのお手本を目指しているからな」

 「うん、人、助け、だけじゃ、ヒーロー、は、出来ない、からね」

 

 飯田くんには悪いが表向きの理由で納得してもらう、だがこれが嘘でも無いためにバレる心配はない。本当の理由を知ったら飯田くんはどうにかして俺を振り切って戻れなくなってしまいそうだから、隣に居るからよくわかる。飯田くんからは良くない感情、ヒーローが持っていてはいけない感情を感じる、体験先のヒーローにも伝えて協力してもらうしかないのかな・・・。

 

 新幹線に乗っている間、飯田くんと会話をしようとしても中々会話が続かずに目的地に到着してしまう。そして飯田くんの案内の元マニュアルヒーロー事務所に到着した。外観は言っては悪いがヒーロー事務所、というよりひと昔かふた昔前の小奇麗なオフィスビルをイメージさせられる。

 

 中に入ると本当にオフィスビルをイメージさせられるが、受付の人から案内されると室内はスーツを着た会社員が居てもおかしくない様な雰囲気だ、実際に何人かいる。しかし数名だがコスチュームを着用している人たちが居る、突然見えた現役のヒーローの姿に背筋を伸ばしているとその中で水色と白を基調としたコスチュームを着た人がこちらに気づき近づいてくる。

 

 「やぁ!君たちが雄英高校の職場体験に来た生徒だろう?俺はマニュアル、ここのヒーロー事務所を受け持っているプロヒーローさ」

 「初めまして、雄英高校から来た飯田 天哉です。今回はよろしくお願いします」

 「初め、まして。同じく、雄英、高校、から来た、回精、獣狼、です。よろしく、お願い、します」

 「うん!よろしく頼むよ!早速で悪いが更衣室に案内するからコスチュームに着替えてくれ」

 

 最早着慣れてしまった改造巫女服モドキを着用する。鉄扇もちゃんと機能することを確認し何時もの定位置に差し込むとマニュアルさんのところへ戻る、流石のプロヒーローと言えどこの改造巫女服モドキを見たときにはギョッとしていたが深く訳を聞かずにスルーしてくれたのはとても有難かった。

 

 「それじゃあ早速で悪いが俺と一緒にパトロールに行こうか。何か質問はあるかい?」

 「いえ、特にはありません」

 「俺も、無い、です」

 「よし!じゃあ早速行くぞ」

 「「はい!」」

 「うん!いい返事だ!」

 

 そしてマニュアルさんの後をついていきながら保須市のパトロールが始まった。しかしただパトロールするだけではなく何時もの業務の仕方やこういったパトロールによって得られる効果と言った点を飯田くんが答えつつも教えてくれる。

 

 「しかしインゲニウムの弟さんに体育祭の3位進出者が来るとはなぁ。俺よりも優秀なヒーローからの指名もあったろうに」

 

 しかしその言葉に飯田くんが答えない、何かを考えこんでいるようで飯田くんにしてはらしくない状態だ。飯田くんの太もも辺りを叩きつつマニュアルさんの言葉に表向きではあるものの、俺の紛れもない本心を語る。

 

 「俺、ヒーロー、になる、動機が、ある意味、勢い、なんです。だから、詳しい、友人、に、相談、して、ヒーロー、として、規律を、しっかり、してる、と聞いて、決め、ました」

 「おっ!そう言ってもらえると嬉しいなぁ・・・。飯田くんは?」

 「!お、俺も規律をしっかり重んじるヒーローのところで学ぼうと思いここを選びました」

 「・・・雄英生1年の注目株にそこまで言ってもらえると逆にこっちも気が引き締まるなぁ・・・。よし、ヒーローとして大事なポイントや規律、他にも経験したワンポイントなどを教えていくからしっかり身に着けるんだぞ」

 「「はいっ!」」

 

 そうして一日目はパトロールで終了した。特に事件と言ったものは起きず平和であったが所々で飯田くんは何かを考えているみたいだったが大丈夫だろうか・・・。ヒーロー事務所に着くと上の階で寝泊まりや食事が出来るらしくそこでお世話になる事に、しかし俺には食事が足りずに追加で購入してきた時には驚かれてしまった。

 

 二日目、午前中は電話対応やもしも事務所に依頼人が来た場合などと言った対応の練習を事務員さんに手伝ってもらい練習させてくれた、しかし慣れなければ事務員さんを雇い任せてしまってもいいそうだ。そして午後もまたパトロールだが一日目とはルートを変えている、何度も同じ道だけでは見落としてしまう場所も出てくるために数パターンルートを決めておくといいとアドバイスもくれた。

 

 そうして二日目も終わり、マニュアルさんが先に退出したので飯田くんに一言かけて俺も退出する。その時の返事が上の空でかなり気になるがマニュアルさんに話しておかなければいけないと思い後を追う。

 

 「マニュアル、さん。ちょっと、良いです、か?」

 「おっ、何か気になる事でもあったのかい?」

 「・・・飯田、くん、の事、です」

 

 話の重要さに気づいたのだろう、周りに誰もいない事を確認し小声で話し始める。

 

 「やっぱり彼、ヒーロー殺しを追いに?」

 「気づいて、たんです、か?」

 「いいや、俺のところに来る理由なんてそのくらいしか思いつかなくてね・・・」

 「・・・ごめん、なさい、利用、しました。ですが、規律を、学びに、来たのは、嘘では、ないです」

 「・・・うん、ありがとう。それでまだ話があるんだろう?」

 「はい、飯田、くんは、恐らく、ヒーロー、殺しに、復讐、するかも、知れ、ません。そして、俺は、それを、止めたい」

 「そのために俺に何をしてほしいんだい?」

 「その時、になった、ら、個性、使用、許可を、ください」

 「ヒーロー殺しと戦う為に?」

 「飯田、くんを、止める、ため。殺させ、ないため、です」

 「・・・うん、わかった。良いだろう、その時になったら許可を出す。でも飯田くんには出せない、なんであろうとヒーローが私怨で個性を使う事を後押しする事は出来ないからね」

 「・・・ご迷惑、お掛け、します。ごめん、なさい」

 「いいんだよ、こういった経験もヒーローには大事な事さ。寧ろ君も勝手に行動されるよりずっとマシだよ。それにヒーロー殺しが見つからないって場合もあるだろう?ヒーローとしてはあんまり言っちゃいけない事だけどさ・・・」

 「・・・ありがとう、ございます」

 

 右手を頭の側面に当てて苦笑するマニュアルさんに感謝するしかない。何故なら俺はテロ事件でヒーローに助けられそのヒーローは周囲のバッシングを受けてしまったからだ。今回はこちらも雄英生と言うヒーローの卵なのでそこまで酷くは無いだろうが監督不行き等で良くて減俸は逃れられないだろう。頭を深く下げ感謝の言葉を伝えると彼は声をかけてくる。

 

 「さぁ、頭を上げて、こんな光景他の人に見られちゃったら大変だからね。特にサイドキックの連中に見られたらしばらくネタにされちゃうからね!」

 「・・・はい」

 「それじゃあ何かあった時の為に何か連絡をこのケータイにくれ、そうすればすぐ許可を出そう」

 「わかり、ました」

 「・・・うん、ちゃんと届いた。それじゃ明日も早い、君も戻ってちゃんと休むんだぞ」

 「はい!また、明日、お願い、します」

 

 そうして二日目も終わった。職場体験は残り三日、何も起きなければいいと願いもしも最悪の場合は“あの人”に頼るしかないのかと考える事しか今の俺にはできなかった。




 色々こういった事あるんだろうなーと思いつつ、職場体験でこういう練習しそうと書いていきました。

 明日は休むと言いましたが、アレは嘘です。・・・ごめんなさい、エイプリルフールしたかったんです。


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第三十四話:望んだ出会い、望まない再会

 本当にこんな感じで突っ走っていっていいのだろうか・・・、不安になり小説情報を見ていたら何故かキャラ設定に12件もしおりがついていた事に笑い、少し不安が和らぎました。

 前話で言い忘れていましたが、職場体験を5日間にしたのは上鳴がこの一週間、と言っていたので休み込みで考え平日の5日、そこから休みを2日と考えました。


 二日目の夜、他のクラスメイトから連絡が来ていた。内容は職場体験で自分たちが何を教わったかについて、麗日さんや梅雨ちゃんと言った荒事の多い戦闘系は基本訓練が多くパトロールの時間は少なめ。逆に八百万さんや口田くんと言ったヒーローがメインだが、副業を行っているところはその副業を手伝いつつやはりパトロールの時間は少なめ。他にも災害救助がメインのところでは応急処置や災害時に役立つ知識と言った事を実践方式で教わっているそうだ。

 

 こちらも依頼人に対しての接客や電話対応、パトロールと言ったヒーローとしての基礎が多い事を書き込むと、意外にも切島くんが反応。あちらもどうやら接客の為のお茶出しや普段の言葉使い等と言った接客に大事なところを教わりつつ、ヒーローとして地味でも大事な仕事を教わっているみたいで少しイメージと違って驚いた、でも任侠って事だしそういう事なのか?

 

 飯田くんも何やらスマホを弄っている様なので今クラスのチャットに書き込みが無い緑谷くんと会話しているのかな。気が付くとクラスのチャットでは麗日さんがガンヘッドの言動が可愛いや、切島くんがフォースカインドが男気溢れてカッコいい、等々。なんやかんやみんな元気にしているようでホッとした辺りで緑谷くんから連絡が来た、なんでも壁を蹴って移動するコツを教えてくれとの事。何故そんな事を?と聞いてみるとやっと個性の制御が上手く行きそうと言う事でお祝いの意味もかねて壁を蹴る際の向きや力の加え方、まずは三角飛びで練習すると良いなどを教えた。

 

 そういえば今保須に居る事を伝えていなかったと年末の集まりに時々現れるあの人に少し事務的だが今保須市に来てヒーローの職場体験に来ている事、もし会えたらその時また挨拶しますとメールを送る。運よくメールを見てくれたのか忙しいはずなのにすぐさまメールが来る、・・・メールでもその特徴的な語尾は変わらないんですね・・・。微妙な気持ちになりながらもメールで挨拶ありがとう、職業柄会わない事の方が良い事だ。と言う内容が送られてきて内心ゴメンナサイ、関わりそうです。と謝りつつも二日目を終えた。

 

 三日目、今日は午前中を午後のパトロールに影響が出ない程度に訓練を行う。しかし訓練と言っても残っていたサイドキックのヒーローたちと市街地を想定した本格的な物、敷地内に空き地があるのでそこで人質を取られた場合。狭い場所での戦闘方法。と言った今ヒーロー基礎学で学んでいる一歩先、恐らくは二年で行われるであろう内容。しかも実際のヒーローが苦戦したり苦労した話も交えてなのでとても有意義な時間を過ごせた。

 

 午後ではパトロールを、三日目も違うルートで行われているけれど重要で気の抜けない事とは言え少し退屈であると感じてしまう。恐らくあまり動けていないからストレスになっているのかもしれない、後で相談したほうがいいかな・・・。そう思っているとマニュアルさんから声をかけられた。

 

 「二人とも少し休憩にしよう、午前中に動いちゃったのもあるしお昼を取ったとはいえ完全に休めたとは言えないからね。回精くん、お金は出すからそこのコンビニまで買いに行ってもらってもいいかな?飯田くんは何にする?」

 「俺は・・・お茶で」

 「じゃあ俺はミネラルウォーターで、はいこれで足りると思うよ」

 「わかり、ました。行って、きます」

 「頼んだよ」

 

 コンビニでお茶とミネラルウォーターとフルーツ100%の飲料を手に取る。ちらりと外を見ればマニュアルさんと飯田くんが話しているようだ、まだ少し時間がかかりそうなので自分のお金でから揚げを買い足そう。そこから少し並びマニュアルさんからもらったお金で飲料を買った後会計を別にしたから揚げも自分のお金で買う。流石にこの服装で買いに来る人は珍しかったらしく困惑されたが外にマニュアルさんが居た事に気づいたからか怪しまれずに済んだ、外に出れば少し前に話は終わったのかこちらを待っていたようだ。

 

 「ありがとう、回精くん。そのから揚げはどうしたんだい?」

 「すい、ません。少し、小腹が・・・」

 「そういえば君は見かけによらず沢山食べるからね・・・。ごめんね?あんまりお昼出せなくて」

 「だいじょぶ、です。材料、は、買います、ので、場所を、借り、られれば。後、おつり、です」

 「一日目も作ってたね・・・。おつりありがとう」

 「いえ、飯田、くんも、これで、だいじょぶ?」

 「あぁ、ありがとう回精くん」

 「・・・マニュアル、さんと、何か、あったの?」

 「・・・いや、なんでもない」

 

 飯田くんがあまりいい感情ではない・・・恐らく復讐心に囚われている感じがする。マニュアルさんが止めようと話を切り出したのだろう、しかし飯田くんはまだ割り切れていないようだ。そして反応からするとマニュアルさんは俺が飯田くんが心配でついてきた事は言っていないようだ、多分だけど何かあった際のストッパーを期待しているのかもしれない。

 

 そうしてまたパトロールに戻る、マニュアルさんが今回はパトロールの注意点について所々語ってくれる。会話やパトロールをしていく中で徐々にではあるが飯田くんの復讐心も抑えられてきているようで安心した。しかし夕方ごろに途中で再び休憩をしている最中にスマホを確認していたので俺も少し気になりスマホを確認すると緑谷くんから保須を通る事と飯田くんについて聞かれた。なので正直に飯田くんの近況を個人チャットで簡潔に教えたところで再びパトロールが始まった。

 

 空が暗くなり、街灯が辺りを照らしている中で特に問題と言った事は発生せず今日も何もなく終わりそうだなと思っていると突然の爆発音。音の方角では火災が起きたのだろう空が赤く染まっておりマニュアルさんがヘルメットに内蔵された無線機で事務所と連絡を取っている。

 

 「二人とも!ヴィランが出現したとの連絡があった!走るぞ!!」

 「「はいっ!!」」

 

 マニュアルさんが走る後を追っていると唐突に飯田くんの足が止まり別の方向に走り出す。咄嗟に振り返ると路地裏に走っていく姿が見えた、どうしてこのタイミングでと思ったがすぐに気づいた、ヒーロー殺しは路地裏で犯罪を行う。飯田くんがそっちに走っていったという事は何かを見つけてしまったという事だ、マニュアルさんに既に下書きで保存されていた飯田くんが動き出したとメールを送る。すると気づいてくれたのだろう、すぐさまメールの返信が来て個性使用許可と飯田くんを頼むという一文も来た。そして飯田くんの後を追い路地裏に入っていく。

 

 路地裏では何回も曲がっていったのだろう、匂いで追う為に一々立ち止まらなければならず時間がかかっていると鉄の様な───血だ。一気に臭いのする方向へ走り出すと飯田くんの肩に刃を突き刺す一人の男性、その姿を見てテロ事件で気絶する前に見た姿が思い出される。やっぱりあの人がヒーロー殺し・・・!

 

 持ってる獲物は恐らく刀、俺の戦闘距離じゃ分が悪いのですぐさま両手に鉄扇を持ち親骨と連結させ奇襲をしかけるがヒーロー殺しは連結する際の音に気付いて余裕を持って跳んで避ける。だが今は距離を取らせる方が大事だ、横眼で壁にもたれかかっているヒーローらしき人物を確認しているとヒーロー殺しが喋りだした。

 

 「様子を見るからにそこのスーツを着た子供を助けに来たというところ、職場体験か・・・ハァ・・・今立ち去るなら見逃してやるぞ」

 「出来、ない。殺す、つもり、でしょ?二人を、見捨て、られない」

 「そうか、ならお前もここでこいつらと一緒に淘汰されるか?」

 「ぐぁっ!?体が・・・!?」

 

 刀に付いた飯田くんの血を舐めたと思ったら後ろで倒れる音と前方から今まで体験したことのない寒い気配、震えそうになる足を意地で踏みしめ止まりそうになる思考を無理やり動かしてヒーロー殺しに走り出し相手の跳躍力と自分の体格から横なぎでは跳んで後ろを取られる可能性が高いと下からの振り上げを行うが。

 

 「ほぉ、あの中で動きかつ跳び越えられることを予想して振り上げるか・・・ハァ・・・中々いい着眼点だが、甘い」

 「うぐぅっ!!」

 「鉄扇とは珍しい物を選ぶ・・・」

 

 振り抜いた腕の方向に一瞬で避けられ背中から切りつけられるのを目で追えギリギリ反対側の鉄扇を背中に回してから広げる。金属がぶつかりあう音と共に後ろからの衝撃で前に受け身も取れずに転がるがすぐさま立ち上がる。だがヒーロー殺しは飯田くんとヒーローの方に行ってしまった、何かされる前に動くしかないと構えるが。

 

 「何故そこまで躍起になる?・・・ハァ・・・ここで殺されてしまえば何の意味もなくなってしまうぞ?」

 「そうだ、回精くん!君には関係のない事だ!早く逃げろ!!」

 「何故、か。さっき、言った、通り、見捨て、られない。それに、関係、なら、ある。2年、前。ショッピング、モールで」

 「2年前・・・?っ!そうか、お前あの時の子供か・・・ハァ・・・クククッ」

 「そう、お前に、助け、られた。礼は、言いたい、けど、今は、お前を、止める。殺させ、ない、ために」

 「あの時の判断は間違っていなかったという事か・・・ハァ・・・だがお前に俺を止められるか?」

 「そう、だね。一人じゃ、無理だ」

 

 一人でヒーロー殺しを止める事は出来ない、いずれ二人の内どちらかが殺されるか俺が行動不能にされて全員殺されるかもしれない。だが今なら違う。()()()()()()()()()()()()()()()()を聴きながら備える、保須を通るって言ってたがまさかこうやって現れるとは思わなかった。そしてヒーロー殺しの後ろから緑色の電流を体に迸らせる緑谷くんが壁を蹴って現れ。

 

 「スマァァァァァァッシュ!!」

 「ぐぅぅぅぅぅ!!ちぃっ!!」

 「今の、避ける、か!」

 

 緑谷くんの壁蹴りの音に反応したが避けきれず拳を受け、こちらに吹き飛んでくるのを追撃しようとするが殴り飛ばされた勢いのまま跳躍し横なぎを避けられてしまう。そのまま倒れたヒーローに近づき動かせるように待機する。

 

 「緑谷・・・くん・・・」

 「助けに来たよ、飯田くん!回精くん!」

 「ナイス、緑谷、くん」

 

 不器用ながらも笑顔を浮かべる緑谷くんは、助けに来たと言う姿は現状では正しくヒーローであった。




 これを含めるともう36話なんですね、気分的には20話くらいです。

 タイトルを出したりはしませんが、他の僕アカ二次を読むのも中々いい刺激になって面白いですね。体育祭こうするのか!とか。


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第三十五話:自分がなりたいモノの為に

 一から戦闘を考えなければ生き残れない僕アカのステイン戦、はっじまーりまーす。いえ、一からではないですが獣狼が割と最初から居るので原作から少し離れ気味です。


 緑谷くんの介入によって状況はこちらにとっていい流れになりつつあるけど、未だヒーロー殺し相手に油断の出来る余裕なんて一つもない。

 

 「緑谷くん・・・!何故・・・!」

 「ワイドショーでやってた、ヒーロー殺しの被害者の6割が街の人目に付かない場所で見つかってるって。だから騒ぎの場所からマニュアル事務所までの間をしらみつぶしに探したら当たった!飯田くん、動ける?プロの応援が必要だ」

 「・・・ダメだ、ヒーロー殺しに斬られてから動けなくなった・・・!恐らく奴の個性・・・!」

 「これもワイドショーで推測していた通りだ・・・!斬るのが個性の発動条件って事か・・・?」

 「違う、恐らく、血を、舐める、事。だから、刃物を、使って、る」

 「そうか・・・!血を舐めるのなら刃物の方が効率がいい・・・!回精くん、しばらくヒーロー殺しをお願いしても・・・っ!もう一人!?」

 

 緑谷くんが俺の武器ならヒーロー殺しにしばらく渡り合えると思ってくれたのだろう、だが俺のそばにもう一人ヒーローらしき人物が倒れているのを見て緑谷くんの言葉が途中で止まった。多分緑谷くんが飯田くんを担いで逃げる算段をしていたのだろう、しかし間違いを正すために俺も口を開く。

 

 「無理、ヒーロー、殺しに、時間は、稼げ、ない。相手の、方が、経験、と、技術、が、上手」

 「・・・!こうなると二人を抱えて逃げるのも無理か・・・!無理言ってでもプロを連れてくれば」

 「手を、出すなッ!君にも、回精くんにだって関係のない事だッ!!」

 

 いつもの飯田くんなら言わない事を口に出した事に、復讐心とはここまで人を変えるのかと驚くと緑谷くんも訳が分からないと言った声を出していた。

 

 「仲間が助けに、それも二人も来た。良い友人を持ったじゃないか、しかし俺はソイツを殺さねばならない。ぶつかり合えば当然弱い方が淘汰されるわけだが・・・さぁ、どうする?

 「っ!!」

 「っ・・・!」

 

 先ほど感じた寒い気配、しかし二度目だからこそしっかりと目を見る事が出来た。アレはこちらを見極める目、何かの思想を持っている者の目だと。後ろで電子音がする、この状況でもしっかり動ける緑谷くんに尊敬の念を抱きつつも緑谷くんに提案する。

 

 「あいつは、技術、と、反応、が凄い。だから、大きな、力で、連続、攻撃、するのが、良いと、思う。フォロー、頼める?」

 「かなり無謀だけど・・・今はもうやるしかない・・・!」

 「やめろ!逃げろ!!言っただろう!?君たちには関係ない!!」

 「そんな事・・・そんな事言ったらっ!ヒーローは何も出来ないじゃないか!!

 

 飯田くんの言葉に緑谷くんが反論する、こうなると俺も言いたい事が出来てしまう。

 

 「オールマイトが言っていた、余計なお世話はヒーローの本質なんだって!!

 「悪い、が、もう、見捨て、ない、助ける、と、決めた。後は、その、ために、進む。それ、だけだ

 

 言葉と共に両手の鉄扇を地紙と接続、そして最後の機能である鉄扇同士の要側を突き刺すように()()()()()()。一つの大きな棒状武器にする、手首のスナップと別の手へ移動させる事で軽く一回する。この重量と回転の連撃ならヒーロー殺しは避けるか逸らすしかない。場の雰囲気が一気に緊張感に包まれ何時でも突撃出来る体勢を整え、そしてヒーロー殺し俺たちに何を思ったのか()()。それを合図に打ち合わせなしでも緑谷くんと同時に走り出す。

 

 「ハハァ!イイっ!!」

 

 ヒーロー殺しの刀による横の大振り、それを叩き壊すべく両手を使い鉄扇を回し勢いをつけて真正面から片手での振り下ろしで打ち合わせる。それにより火花が散るが金属が壊れた様な音がない為に受け流されたと推測し、時間差で反対側からくるナイフに対応するべく鉄扇をスナップを効かせつつ反対側の手に持ち替え、体の前で回転させることでナイフを打ち上げで迎撃する。

 このタイミングで迎撃されるのは想定外だったのかナイフから甲高い音と共に割られ、壁を蹴り上を取っていた緑谷くんが奇襲を仕掛ける。

 

 「5%・・・!デトロイト、スマァァァァシュ!!」

 

 その掛け声と共にヒーロー殺しが頭を殴られ、緑谷くんはヒーロー殺しの後ろに着地する。しかし一瞬だがアイツは笑っていた、その事を気がかりに思っているとヒーロー殺しは半分に折れたナイフに()()()()()()()()()()()。それと同時に緑谷くんが着地した体勢から動かなくなる、まさかあの一瞬で腕を切りつけた?このままでは緑谷くんが不味いと再びヒーロー殺しに連撃を仕掛ける。

 

 「パワーが足りない、だがほぼ即席だろうコンビで大振りの一人を目くらましにし視界から外れ、確実に仕留められるように画策した。そしてお前は相方を信じ俺の前で攻撃を行う、一歩間違えば死ぬ一番危険な位置でだ」

 

 回転を使った連撃をまるでそよ風の様に右に左に上にと受け流し続ける、技術に差があるのは知っていたがここまで・・・!ヒーロー殺しが()()()()()()()()、相手の行動が理解出来た為一気に後ろに下がろうとするが。

 

 「だが経験が足りなかったな、独学故の規則性の無さは良いがこうやって回転の軸を攻撃しずらしてしまえば訳ない」

 「ぐっ!!」

 <我らも止まるー><不味いかもー><結構ピンチー>

 「口先だけの人間は幾らでも居る、だがお前たちは生かしておく価値がある。こいつらと違ってな」

 

 回転の軸を蹴りでずらされ鉄扇が地面とぶつかり合う事で大きな隙を晒す、それを見逃すヒーロー殺しではなく腕を深くない程度に刀で斬りつけられ血を舐められると同時に全身が硬直する、精霊たちにも何か悪影響が起きているようだ。相手はそれを目で確認する訳でもなく飯田くんに近寄っていく、それを止める為に力を籠めるが全然動く気配がない。緑谷くんが叫ぶがヒーロー殺しは折れたナイフを鞘に戻し新たなナイフを取り出す、そして倒れている飯田くんに刀を向け命を絶とうとするが、寸前で炎が飛んでくる事でヒーロー殺しは大きく後ろに下がる。

 

 「チッ、今日は何度も邪魔が入る・・・!」

 「緑谷、こういうのはちゃんと要件も書いておけ、到着するのが遅れちまったろ・・・!」

 

 炎を纏った轟くんの登場に飯田くんも緑谷くんも驚いている、気付かなかったがクラス全員に位置情報を送信したのか?緑谷くんの機転の良さに感心していると氷が地面からせり上がって俺の体を持ち上げる。

 

 「ピンチだから応援呼べって事だろ?大丈夫だ、後数分もすればプロヒーローも現着する!」

 

 そして続いた炎で氷が溶かされて鉄扇と一緒に氷の上を滑り轟くんの近くに避難させられた、俺以外にもヒーロー殺しに動けなくされた三人もいる。

 

 「情報通りのなりだな、こいつらは殺させねぇぞ。ヒーロー殺し」

 

 緑谷くんからヒーロー殺しの個性に関する情報を得る轟くん、だが一瞬目を離した隙に投げられたナイフで頬を切られヒーロー殺しが突撃してくる。

 

 「いい友人を持ったじゃないか、インゲニウム!!」

 

 その言葉と共にナイフの大振り、しかし氷で防ぐもヒーロー殺しの目線に釣られ上を見るとナイフを振るう前に投げた刀。だがそれすらも囮で本命は傷つけた頬に流れる血を舐める事、一瞬で炎を出すことで舐められずには済んだもののその後に壁として出した氷は空中で取った刀で一気に破壊される。

 

 「三人とも・・・やめてくれ・・・インゲニウムの名を受け継いだ俺がやらねば・・・!」

 「受け継いだのか?おかしいな、俺が見たインゲニウムの顔はそんなんじゃなかったんだがな。お前ん家も裏じゃ色々あるんだな」

 「くそっ、轟くん・・・!」

 

 視界の端で緑谷くんが徐々に動こうとしている、この面子では中間辺りで動きを止められた緑谷くんがだ。何故と思っていると轟くんの方で砕ける音とヒーロー殺しの声、轟くんが炎を出そうとするもナイフが腕に刺さり動きを止められる。

 

 「お前も、イイっ!!」

 「上ッ!!」

 

 空中で刀の刃を下に向けている、刃の先は動けないでいるヒーローに向かっていた。だが刃が刺さる前に緑谷くんがヒーロー殺しを空中で捕まえ壁に押し付けながら離れていく。轟くんが時間制限かと考えるも気が付いたのかヒーローがそれを否定、緑谷くんがヒーロー殺しに反撃を食らい地面に転がるも轟くんの氷でヒーロー殺しを更に遠ざけ、緑谷くんがこちらに戻ってくる。

 

 「血を取り入れて動きを止める、僕だけ先に動けたという事は考えられるのは2パターン」

 「血の摂取量で効果時間が変化するか、血液型で効果に差異が生じるか!」

 「血液型・・・俺はBだ・・・」

 「僕は・・・A・・・」

 「AB、だよ・・・」

 「血液型・・・ハァ、正解だ」

 「血、の、個性、なら・・・!血壊!!うぐぅっ!!」

 <動けたー><獣狼無理してるー><これ以上はダメだよー>

 「回精くん!?無茶しちゃだめだよ!!」

 

 血壊を使い無理やり体を動かそうとする、血壊は体内の精霊を暴走させ血液循環を速くさせる事で身体能力を強化している。なのでこれなら動けるようになると使ったが体の負荷が凄まじくすぐさま精霊たちによって血壊が解かれる、鼻血も出てきて気持ち悪いが、()()()()()()()()()()()

 

 「これで、動け、る」

 「お前も無茶をする、だが今は一人でも多く動ける奴が必要だ。これで他二人を抱えながら逃げられるか?」

 「多分だけど無理だ。移動速度はあっちの方が上で二人を抱えるとなると戦える人は一人になる。一人じゃヒーロー殺しは抑えられない、何時か抜かれて抱えている人も含めて四人が危ない」

 「俺も、そう、思う。なら、三人、で、防衛、した、方が、いい」

 「確かにな・・・、それに人が多い場所にヒーロー殺しを引き連れていくのは不味すぎる」

 

 作戦が決まる。三人でプロヒーローが現着するまで耐える、これが一番最善であろう方法だ。

 

 「轟くんは血を流し過ぎている・・・後方支援を!」

 「轟、くん。俺に、構わず、氷や、炎を、使って。勝手に、避ける、から」

 「・・・相当あぶねぇ橋になるが、やるしかねぇ、二人を守り切るぞ・・・!」

 「三対一、しかも一人は俺の個性を無茶な方法とは言え突破してきた。厳しいな」

 

 厳しい、そう言いつつも構えを解かずに寧ろやる気になっているヒーロー殺し。鉄扇を持ち直し突撃する、後ろで緑谷くんが壁を蹴って移動し奇襲のタイミングを伺い、俺の言葉通りに氷でヒーロー殺しごと攻撃する轟くん。氷を避ける為に移動しなくてはならないものの、ヒーロー殺しの前で攻撃を行い続ける。

 

 「ハァ!仲間が増えたとは言え先ほどと同じでは意味がないぞ!!」

 「策は、ある!」

 

 ヒーロー殺しが一歩踏み出す、ここだ。ここであえて俺も()()()()()()()。しかしこの手は予想していたのだろう、すぐさまナイフが迫る。ここからでは振り回せないし間に合わない。だがここも想定通りと鉄扇をつなげたまま()()()。流石にこの事態は想定していなかっただろうヒーロー殺しの息を呑む音と広がったことで円形の盾となった鉄扇に衝撃、ナイフが表面をなぞるだけで終わったのだろう。

 

 そしてこの隙があれば緑谷くんがヒーロー殺しを死角から襲う、ヒーロー殺しの気配が遠ざかるのを確認し鉄扇をたたむ事で視界を確保し後ろから迫ってくる氷を避け緑谷くんの攻撃を避けたヒーロー殺しが氷を避けるために飛ぶ、今度は範囲の広い炎が追撃を行う。こちらも地面に降りてきたヒーロー殺しを追撃、先ほどの事態を考慮しているのか動きが少し悪い。その隙をついて刀をへし折ろうと攻撃するも刀の重要性を理解しているのか、受け流すか回避に徹して攻めきれない。

 

 再び死角を突いた緑谷くんだが先ほどよりも速く動き足を斬りつけようとしたところで介入し鉄扇で防御し衝撃に耐えるも後ろから短い叫び、刃先の方で斬られたのか少し血が付着しているという事は鉄扇にぶつかるまではそのままの軌道で斬りつけ、ぶつかる寸前で手首の力を緩めて最小限に抑えた?技量の違いに驚いていると轟くんの声と明かりで炎が来るとわかり、緑谷くんと共に轟くんの方へ移動するもこの戦闘でしばらくは壁を蹴って奇襲する事は出来ないだろう。

 

 「やめて欲しけりゃ立てぇ!!」

 

 その言葉と同時に緑谷くんが倒れる、血を舐められたのだろう。倒れた緑谷くんの為に氷の棘でヒーロー殺しをけん制するも刀で棘を斬り砕き接近するがそれを阻止すべく後ろから接近する。

 

 「なりてぇもんちゃんと見ろぉ!!」

 

 炎が飛んでくるのを横に飛ぶことで避け飛び上がったヒーロー殺しを壁を蹴って追撃する。しかし棒形態の一振りでは刀で受け流され蹴りを入れられ地面に落とされる、炎によって発生した水蒸気で視界が悪くなる中、緑谷くんの声で轟くんはヒーロー殺しを迎撃し距離を離したのを立ち上がりそれを追う。

 

 轟くんの氷が棘の様に乱立していく中ヒーロー殺しはこちらに、正確には轟くんに走ってくる。なんとしても迎撃しようと連結を解除、二刀流で挑むが。

 

 「こちらも我流、才能に恵まれているな。しかしやはり経験が追い付いていない!」

 「チィッ!!」

 

 飛び出した氷の棘を斬りつけ破片を此方に飛ばす事で目くらましとし、破片を避けると棘から棘へと飛んで抜かれてしまった。急いで後を追うが。

 

 「言われた事が無いか?個性にかまけて攻撃が大雑把だと!そしてただ後を追うだけなら対処は簡単だぞ!!」

 「っ!?」

 

 氷の棘を無視し一直線で追いかけるも振り向きざまに顔をめがけて投げられたナイフで動きが止まり、後ろに倒れる事でギリギリ避けられた。すぐさま起き上がるもヒーロー殺しは轟くんをすれ違いざまに刀で斬りつけようとしていた。




 はい、流石にこのままだと一万字近くなるので少し変なところですが区切る事にしました。続きは明日投稿する予定です。


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第三十六話:決意、彼らに追いつくために

 前話からヒーロー殺しさんならこれくらい出来る!と言う謎の信頼を発揮しています。

 ステインの凝血ですが、ブラドキングの操血や獣狼の血壊など血液を自分の意思で動かせる相手には相性が悪いと考えました。しかし獣狼の血壊は強引なので体にダメージが入ります。


 轟くんに迫る刃、全ての動きがゆっくりと進んでいく中すぐさま血壊を発動し刀を叩き折ろうとするが。

 

 <無理ー><変な事になってるー><発動出来ないー>

 (でも早くしないと!!)

 <出来ないのー><さっきの無理が祟ったー><ごめんー>

 

 精霊たちの声に間に合わないのかと諦めかけるが、それでもと足を動かそうとしていると轟くんの後ろから排気音がし。

 

 「飯田くん!!」

 「解けたか、案外大した事ねぇ個性だな」

 

 ヒーロー殺しの個性が解けた飯田くんが体育祭で見せた大技で一気に加速、そして脚の勢いに任せるまま一回転し刀を折り着地と同時にヒーロー殺しに回し蹴りを行い壁際に飛ばす。級友が動けるようになったことで轟くんと緑谷くんは声を上げる。

 しかし俺は見極めなければならない、マニュアルさんに「殺させない」と言った。それには飯田くんもそうだがヒーロー殺しも含まれる、飯田くんに殺しをさせては結局意味がないからだ。

 

 「轟くんも緑谷くん、回精くんにも関係ない事で申し訳ない。だからもう!みんなに血を流させる訳にはいかない!!」

 「・・・感化され取り繕うとも無駄だ、人間の本質はそう易々とは変わらない。お前は私欲を優先させる偽物にしかならない、ヒーローを歪ませる社会のガンだ」

 「そう、本質、は、簡単、には、変わら、ない」

 「回精くん!?」

 

 俺の言葉に緑谷くんが声を上げ、ヒーロー殺しも興味があるのかこちらの話を聞く姿勢を取る。だが俺がお前の、ヒーロー殺しのその考えを聞いて()()()()()()()()()()()

 

 「しかし、私欲を、優先、させて、何が、いけない?本質、が、間違って、いる?それが、どうした。それでも、人は、前に、進める。善行、を、行え、るぞ」

 「・・・その言葉をお前が言うか、見捨てられないと、助けると言ったお前が。私欲ではなく誰かのために今も動いているお前が」

 「あぁ、何故なら、俺は、見たから、だ。間違って、歪んで、いても、誰かの、ために、前に、進む、人を」

 「だから、俺は、飯田、くんを、信じる。例え、本質、が、間違って、いても、ヒーロー、になると」

 

 ヒーロー殺しの言葉に何も言わなければ俺は親友(妖目)の事も否定してしまう事になる。例え動機が罪滅ぼしだとしても、その今までの行いは間違いなく善行なのだから。そして飯田くんも今までの嫌な感じがしない、ならばもう大丈夫だろう。

 

 「回精くん、ありがとう。でも奴の言う通り僕にヒーローを名乗る資格はない。それでも折れる訳にはいかない、俺が折れれば・・・インゲニウムが死んでしまうから・・・!」

 「・・・論外!それでもお前は信じるというのか!?」

 「インゲ、ニウム、は、規律を、守り、人を、導く、ヒーロー。ならば、飯田、くんは、それを、目指して、進むと、信じる」

 「そうか・・・だがこいつらは殺す!!」

 

 ヒーロー殺しが再び動き出す前に飯田くんを後ろに下がらせた轟くんの炎がヒーロー殺しを後ろの壁ごと焼く、その間に壁を蹴って上の壁に刀を突き刺し逃げ延びているヒーロー殺しを追いかけるが、すぐさま壁を蹴る事で刀を抜き別の方向に逃げるも轟くんが作った氷を足場に更に加速、氷を迎撃するために振りかぶった瞬間を狙い右手の鉄扇を大きく振り下ろすがナイフで鉄扇を滑らせ更に力も利用しヒーロー殺しが大きく左にずれる。俺に刀で攻撃しようとするも轟くんの氷が来たことで中断、氷の迎撃に刀を振るう。

 

 ヒーロー殺しが更に轟くんたちの方へ向かうのを確認し少し遅れるものの壁を蹴ってそれを追う、轟くんの炎も飛んでくるが構わず攻撃してと言ったのはこちらなので鉄扇を広げ逸らす事で一直線に近づいて行く。ヒーロー殺しの目は完全に飯田くんと倒れているヒーローに向いているが、こちらを捉えているだろうと想定し奇策で挑むために鉄扇の地紙のパーツの接続を()()()()()()、そしてそのまま大きく振るう事で地紙のパーツがヒーロー殺しに向かって飛んでいく。

 

 流石に一つしか命中しないものの、いきなり巨大な物が自分の横から飛んできては無視するわけにはいかずナイフと刀で迎撃するもバランスを崩した。その間に飯田くんは轟くんに策があるのか相談している、その時間を稼ぐために親骨を伸ばした状態の鉄扇でヒーロー殺しに振り下ろしを加えるが、バランスを崩した状態で刀を盾にしナイフを轟くんたちの方に投げる。二人が心配だが刀一本ならばと鉄扇でつばぜり合いをしてる中で殴り壊そうともう一本を振りかぶるも壁に足を付けたヒーロー殺しに受け流されそのまま炎を避ける足場として地面に踏み落とされ、追撃にナイフ投げられ帯の上から腹に刺さる。コスチュームと筋肉で阻止出来たのだろうが痛い。

 

 「回精!無事か!?」

 「なん、とか!」

 

 しかし時間稼ぎの甲斐あってか飯田くんが物凄い勢いで上に逃げたヒーロー殺しを追う、ヒーロー殺しも目標がそのまま来てくれるなら殺しやすいと判断したのか迎撃の姿勢を取っていたが、突如横から現れた緑谷くんに目を奪われ顔を殴られ胴体に蹴りが入った。このまま倒れるかと思いきやすぐさま意識を取り戻し空中で手放した刀を取り飯田くんを斬りつけようとするもギリギリで外れる。

 

 「お前を倒そう!今度は犯罪者として!!」

 「ここで決める!畳みかけろ!!」

 「みんなが信じてくれたヒーローとして!!

 

 飯田くんの蹴りが入り、轟くんの炎が顔を焼く。着地の事は考えていなかったのだろう二人を轟くんが氷の滑り台で落下の衝撃を抑えつつも二人に声をかける。

 

 「立て!まだ奴は・・・?」

 「流石に気絶してる・・・っぽい?」

 「じゃあ拘束して通りに出よう、何か縛れるものは?」

 「念の為武器も外しておこう」

 「流石に、この、状態、スルーは、きつい」

 「「あ」」

 

 ヒーロー殺しを倒したという興奮はわかるが腹にナイフが刺さったままなので下手に動けない。さっさと抜いて移動しなければいけないから。

 

 「ナイフ、抜いて」

 「でも抜いたら血が・・・!」

 「平気、帯で、圧迫、止血、する」

 「・・・わかった、少しいてぇぞ」

 

 ナイフが抜けやすいように力を抜く、ナイフの刺さってる長さ的に内臓は無事だろうが痛いものは痛い。帯をずらし結び目を前に持って来て一回解きキツく結びなおす。その間に腕にナイフが刺さったのか血が流れている飯田くんがヒーロー殺しを呆然と見て、腕を動かせる緑谷くんがヒーロー殺しの武装を解除し、轟くんが縛るのに使えそうなものを探す。

 

 その間に倒れていたヒーロー───ネイティブさんが動けるようになり、足を怪我しているからと緑谷くんを背負ってくれる。最後の跳躍で無理をさせたようで歩きづらそうにしていたから気を使ってくれたのだろう。轟くんがヒーロー殺しを縄で縛っている中地紙パーツを回収し鉄扇と組み合わせ棒状にした後に杖の様に歩く、流石にこの状態で歩くのは少し厳しいからだ。刃物をそのまま放置するのも不味いと思い全て鞘に入れ回収し、みんなが歩いて路地裏から会話をしつつ通りに出ると男性の声がする。

 

 「グラントリノ!」

 「新幹線で待っとれと言っただろう!!」

 「緑谷、くん。まさか、新幹、線から、直で?」

 「・・・あははは・・・」

 「誰この人」

 

 緑谷くんの説明で彼が唯一緑谷くんを指名したグラントリノさんだという事を知る。しかし緑谷くんが何故ここに?と質問するとグラントリノさんはいきなりここに行けと言われてここに来たら俺たちに遭遇したようだ。他にも言われて来たのかヒーローが続々とやってくる。

 

 「ちょ、君なんでそんなにごちゃごちゃしてるのよ」

 「この人、の、持ち物」

 「え?・・・まさかこいつヒーロー殺し!?」

 「何!?救急車の他にもすぐに警察に連絡するんだ!!」

 

 ヒーロー殺しの名にプロヒーローたちが慌ただしく動きだす、ヒーロー殺しもプロに預け手持ち無沙汰にしていると。

 

 「三人とも・・・僕のせいで傷を負わせた!!本当にすまなかった!!」

 「僕もごめんね、君があそこまで思い詰めていたのに回精くんに任せたから大丈夫って思ってた。友達なのに」

 「しっかりしてくれよ、委員長だろ」

 「なら、今度、甘いの、食べに、行こ?」

 「・・・うん!!」

 

 飯田くんが涙を流す、もう復讐心に囚われてはおらず何時もの飯田くんの様だ。慌ただしさが静かになったからだろう、何かの羽ばたく音がこちらに接近するのを捉えた。

 

 「みんな、何か、来る!!」

 「!?伏せろォ!!」

 「ヴィラン!?」

 

 その言葉と共に急降下した勢いで緑谷くんを掴み飛んでいく、その突風で動けないでいるとすぐ近くで()()()がし唐突に羽の生えたヴィランの動きが悪くなり降下していく、そして縄をまだ隠し持っていたナイフで切り裂き走るヒーロー殺し。

 

 「偽物が蔓延るこの社会もォ!!」

 「悪戯に力を振りまく犯罪者もォ!!」

 「ハァ・・・ハァ・・・粛清、対象だァ・・・!!」

 「ハァ・・・全てはァ・・・正しき社会の為にィ・・・!!」

 

 降りてきたヴィランをナイフで刺し、緑谷くんを片手で掴み上げヴィランを着地のクッションにしナイフを深く差し込む事で止めを刺しナイフを抜く。ヒーロー殺しは緑谷くんを捕まえ地面に押さえつけたまま動きが止まっている。

 

 「おい!一塊になって動くな!こちらにヴィランが飛んできたはずだ」

 「っ!もうあちらは終わったので?」

 「あぁ、して・・・あの男はまさか」

 

 一人の大男が走ってきたが見覚えのある姿、恐らくはエンデヴァーさんだろう。男性はヒーロー殺しを見て炎を纏った腕を振りかぶるもグラントリノさんに制止される。

 

 「ァア・・・偽物ォ・・・!」

 「正さねばァ・・・!誰かがァ、血に染まらねばァ・・・!!ヒーローを、取り戻さねばァ!!!

 「来い、来てみろ偽物どもォ!!俺を殺して良いのは本物のヒーローォ・・・オールマイトだけだァ!!!

 

 路地裏で感じた寒い気配よりもっとおぞましいナニか、その気配に動けずにヒーロー殺しから目が離せなくなる。しかしその硬直は金属音で解かれた、ヒーロー殺しがナイフを落とした音で。

 

 「なっ・・・気絶・・・してる・・・?」

 

 ヒーロー殺しが気絶している事に力が抜けたのか膝から崩れ落ちる者、尻餅をつく者と居たが俺も支えが無ければ倒れていただろう。それほどに鮮烈で強大な気配だった、今まで感じたどれとも違う執念とも言うべき気配。

 しかし遠くから聞こえるサイレンの音が事態が終わったことを、ヒーロー殺しの最後を告げていた。




 ステインとしては、自分が良いと思ったヒーローが何を思おうと関係ないと考えました。偽物を淘汰するのは自分の役割(誰かが汚れなければいけないなら自分でやる)で最後に自分も終われば社会の歪みを正せる。と言う考えだと思い今回の会話にしました。

 何気に自分が良いと思った相手に原作でもパワーが足りない、個性に任せっきりとアドバイスしている犯罪者なのに良い人ステイン。

 Q.みんなが信じてくれたって?
 A.轟くんがなりたい物をちゃんと見ろ(復讐に囚われずヒーローを目指せ)と言い、獣狼が信じたと言ったので


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第三十七話:戦いが終わり、後始末が始まる

 前話の最後辺り駆け足だなぁ、と思いつつも獣狼が何か出来る訳でもないので仕方ないかなぁ、と思いつつ次の話です。


 保須総合病院、そこで傷ついた俺たちは運び込まれその日の内に手当が行われた。個性と言う超常があるお陰かはたまたヴィランと言う定期的に暴れる存在のお陰か医療設備や医療技術など、俺の知っている前世と比べかなり進んでいる。

 

 その為頬を斬られ腕にナイフが二本刺さった轟くんと、肩を刀と足のスパイクで突き刺され腕にナイフが一本刺さった飯田くんは割と早めに退院出来るそうだ。

 しかし怪我した足で無理して跳び殴る際に力加減を誤ったお陰で骨にヒビが入った緑谷くんと、ナイフが一本刺さっただけとは言え流石にお腹は不味かったらしい、しばらく入院することになってしまった。

 

 ヒーロー殺しに関わった雄英生徒として他のヒーローやヴィランの襲撃に会った人と一緒の部屋は問題があるのか、四人で一つの部屋を使っている。そしてヒーロー殺しが逮捕された翌朝、麻酔の効果が切れしっかり受け答えが出来る状態になったので轟くんが緑谷くんに昨日の事を聞きたいのか口を開く。

 

 緑谷くんも昨日のヒーロー殺し、特に最後の叫びを聞いた事で自分たちがよくヒーロー殺しに挑み生き延びられたと状況や傷から判断し、轟くんは俺達はあからさまに見逃されしかし殺意を向けられつつも立ち向かった飯田くんを称賛した。飯田くんは何か言い返そうとするも扉が開く音で口を閉ざした。

 

 「おぉ、起きとるな。怪我人ども」

 「グラントリノ!」

 「マニュアルさん・・・」

 

 二人が入室しグラントリノさんが緑谷くんに説教を始めようとするも、俺たちに来客があるから後にするとし入口に目を向ける。その合図を待っていたのか一人の大男が入ってくる、マニュアルさんと言う成人男性の平均身長はありそうな人が大男の肩ぐらいまでしかなく、白に黒ぶちのネクタイを付けたスーツ姿、そして何よりその顔は犬の顔をしていた。垂れ耳にそれなりの歳故か口元がたるんでいる。

 

 「保須警察署、署長の面構(つらがまえ) 犬嗣(けんじ)さんだ」

 

 署長と言う肩書を聴き飯田くんと轟くんは立ち上がり、足を怪我した緑谷くんも立ち上がろうとするも犬嗣さんがそれを独特な語尾と共に掛けたままで結構と止める。

 

 「君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね?」

 「・・・はい」

 「逮捕したヒーロー殺しだが、火傷に骨折と中々重傷で現在厳戒態勢の元、治療中だワン」

 

 そして犬嗣さんが語る。警察は統率と規格の為に個性を武力として用いらず、そのために資格を持ったヒーローがその穴を埋めるために台頭した。個性と言う簡単に人を殺せてしまう力も先人たちがモラルとルールを順守してくれたお陰で今のヒーローが認められている。資格未取得者が保護観察者の指示無く個性で例え犯罪者であろうとも人に危害を加える行為は許されない犯罪行為である。

 

 「()()()()()、およびプロヒーロー、エンデヴァー、グラントリノ、マニュアル。この六名には厳正な処分が下されなければならない」

 「っ!待ってくださいよ!」

 

 轟くんは叫ぶ、飯田くんが居なければネイティブさんが、俺と緑谷くんが来なければ二人が殺されていた。誰もヒーロー殺しに気づいておらず規則を守り見殺しにしろと言うのか、と。

 しかし犬嗣さんは結果オーライで済む話ではないと返す。その言葉に人を救う事がヒーローの仕事だと返すも犬嗣さんは目を瞑り轟くんを卵と言う、雄英ももっと現実を教えるべきだと、エンデヴァーさんもちゃんと教育したのかと。

 

 「っ!この犬!!」

 「やめたまえ!もっともな話だ!」

 「まぁ待て、話は最後まで聞け」

 「以上が警察からの公式見解。んで、処分云々はあくまで公表すればの話だワン」

 

 罰を受けるグラントリノさんから止められ轟くんも止まる、止まった轟くんを確認し犬嗣さんが先ほどの剣呑な声音から親しみやすい声音に変わり話を続ける。公表すれば世間は君たちを称えるが処罰は免れず、汚い話公表せずに火傷後からエンデヴァーさんが捕まえたという事にすれば目撃者も少ない事から三人の違反は握りつぶせる。

 

 「だが君たちの功績も公表されることは無い。どっちがいい?」

 「一人の人間としては前途ある若者の、偉大なる過ちにケチをつけたくないんだワン」

 「まぁ、どのみち監督不行き届きで俺たちは責任取らなきゃいけないしな」

 「っ・・・!」

 「って回精くん!?どうしたの突然!傷でも開いたの!?」

 「うう、ん。だいじょ、ぶ・・・だいじょぶ」

 

 いけない、笑うな、今は良い場面なんだ。でも犬嗣さん相変わらず決め顔する時舌が出る癖治ってない・・・!必死に笑いを堪えていると、飯田くんがマニュアルさんに深々と頭を下げ謝罪する。マニュアルさんも軽く頭をチョップし。

 

 「よし!他人にも友達にも迷惑かかる、わかったら二度とするなよ」

 「はい!」

 「・・・すみませんでした」

 「・・・よろしく、お願いします」

 「大人のズルで君たちが受けるべき称賛は無くなってしまうが、せめて、共に平和を守る人間として、ありがとう」

 「・・・最初から言ってくださいよ・・・」

 

 その言葉にバツが悪そうに轟くんは目を逸らしつつ敬語に戻っていた、これでバッドではないもののベターかな、と思っていると。

 

 「さて、これで私の公務はこれで終わり。これからは私用だワン」

 「私用って・・・?」

 「それはだな、緑谷くん。この事態の解決を押し付けた大馬鹿者な親類にお仕置きをする為だワン

 「っ!?あだだだ!!犬嗣、さん、ギブっ!暴力、反対!!傷が、開く!!

 「安心しろ獣狼くん、君はそもそも大事を取っての入院だし、私たちなら少し開くくらい問題ないワン」

 

 いつの間にか近寄ってた犬嗣さんに両こぶしで頭を挟みグリグリとこぶしを捻られ鈍い痛みが頭を襲う、と言うか普通に痛い!?もしかしなくてもかなり怒ってる!?

 

 「私は怒っているぞ獣狼くん。縁が少ないとは言え血縁が無茶をしただけでなく、私の力も頼ってきただろう?君は律儀な性格だからな、何も言わずに私の世話になる事を許せなかった故のメールでの挨拶だろう?」

 「ばれ、てた!?いだだだっ!!」

 「バレバレだワン、全く。しかし今回に限っては事前に訪問先に伝え個性使用許可を得ていた事は褒めておく、お陰でプロヒーロー、マニュアルの罰を僅かだが減らせそうだ。わかったら返事と謝罪」

 「・・・はい、ごめん、なさい・・・」

 「よろしい、これでさっき笑おうとしていた事も含めちゃらにするワン」

 

 その言葉と共にこぶしが離されあまりの痛みにそのままベッドにうつ伏せで倒れる、お腹の傷とかもう関係ない。純粋に頭が痛く何も考えたくない。そしてこの光景に黙って見てるだけ、なんて友人たちではない。

 

 「あの・・・面構さんと回精くんってお知り合いなんですか・・・?」

 「あぁ、色々と血縁や親類が居る為に簡単に言ってしまうと、獣狼くんにとっていとこ違い。つまり祖父の兄の息子が私になるワンね」

 「ま、待ってください・・・さっきの話しからしてもしや回精くんはまさか俺の為に職場先を・・・?」

 「あー・・・あの時は言わなかったけど、君が復讐で動いているって確信したのって回精くんから教えてもらったんだよね・・・。あっでも一応自分の為に選んだのも事実っぽいから、そこまで気に病む必要はないと思うよ」

 「と言うか回精、お前だけ使用許可貰ってたのかよ・・・。ちゃっかりしてるっつーか、変なところで強かっつーか」

 「あっ、だからさっき三人って言ったのか。でも回精くんのお陰でマニュアルさんの罰が減るそうだし、よかったよ」

 「わしは良くねぇがな!お陰で給料減らされちまったじゃねぇか!」

 「あわわ、ごめんなさい!」

 

 轟くんと緑谷くんには尻尾を揺らして返答にする、ゴメンまだ痛い・・・。

 

 「獣狼くんはこれで何も学んでいなければグリグリに加えてもっとお仕置きする必要があったワン」

 「・・・?面構さん、それって・・・?」

 「ふむ・・・、この病室内でなら語って構わない。これも勉強の一環だ」

 

 うっ、その話をしなきゃいけないの・・・?尻尾での返事が無かった為か犬嗣さんが心配するように言ってくる。

 

 「少しは自分の事も話しなさい、君はどうも自分の事を二の次三の次にする傾向がある。・・・流石にこれ以上長居するのも問題だろう、私たちはこれで帰らせてもらうよ」

 「はい、それじゃあ飯田くんも回精くんも、元気でな」

 「チッ・・・おい坊主、これに懲りたら次からはちゃんと一言言ってから動けよ」

 

 犬嗣さんはまだ仕事が残っているのだろう、マニュアルさんも色々と犬嗣さんと話があるのか後を追う様に、グラントリノさんは緑谷くんへの説教を続けていたが流石に犬嗣さんの言葉に思うところがあったらしく、説教を切り上げ退出していく。

 

 そして残された俺たち・・・特に三人から聞きたい事があります、と言う視線を目を向けなくても感じる。恥を晒す様であまり喋りたくはないが犬嗣さんが言った通り今回は握りつぶせたから良かったものの、握りつぶせなかった場合何が起きるかを知らなければならない。そういう意味で勉強の一環と思って割り切るしかないか、姿勢を正し俺は語った。二年前の夏に何が起きたか、そして俺の為に泥を被ったヒーローの事を。




 次話は病院内での語り合いの予定です、と言うか想像より長くなってしまったので一話にまとめきれませんでした・・・。


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第三十八話:過ちを語り自分を語る

 獣狼視点で語られるテロ事件です。今回は握りつぶせましたがもし握りつぶせなかった場合を教える為に関係者である獣狼に語らせています。

 冒頭からちょっと特殊な語りを行っています、いちいち区切ったら読みづらいと思いこの方法を取りました。


 2年前の夏にあったショッピングモールでの事件って知ってる?うん、緑谷くんの言っているテロ事件。・・・薄々気づいてはいたけど、緑谷くんはこの手の話に詳しいね、悪い意味じゃないよ?緑谷くんの言う通りあの事件でプロヒーローの民間協力者ってのがあの事件で人質にされた当時中学2年生だった俺だよ。

 

 事件を簡単に言うと武装したテロリストがショッピングモールを襲撃し占拠し人質も取った、けれどプロヒーローがテロリストたちを無力化した、でもその後凄い力を発揮する個性を持った黒タイツの男が表れてプロヒーローが死にかけた。その時に勝手に飛び出してプロヒーローとその場に侵入したと思われるヒーロー殺しの協力で黒タイツを無力化、事態を解決出来た。

 これが飯田くんに関係ないって言われた時に言い返した関係だよ、助けてもらったお礼も言いたかったけど、あの場じゃお礼よりも誰かが死ぬのを阻止しなきゃいけなくなっちゃったけどね。

 

 これで終わり。だったら誰も死なずヴィランもテロリストも捕まってハッピーエンドなんだけど、そうはならなかった。うん、飯田くんの言う通り名前や存在を明かせない協力者・・・つまり未成年に助けを求めるヒーローとは何事だ、ってその場に居たたった一人のプロヒーローが非難されたんだ。

 

 何故かって言えば俺を助ける為だったんだ、未成年とはいえ個性不正使用で誰かを傷つけた。でも自分の命の恩人に前科をつける訳にはいかないという事でプロヒーローがその場を目撃した者がほぼ居ないという事であの場で俺に協力してもらった、と言う事にした。このほぼ居ないってのが厄介で俺が飛び出すところを見てた人質の人が居たんだ、だからテレビで未成年の子供って出たんだと思う。

 

 俺の為に泥を被ったヒーロー・・・ワイヤードさんはしばらくって言ってたけど、時間にして大体夏から次の春だから半年ほど活動自粛をすることになった。緑谷くんなら知ってると思うけど、活動再開する時には自粛する前に組んでいた三人とチームを結成して活動することになったんだ。

 

 運よくワイヤードさんと一緒に活動してくれる人が居たから今も活動出来ているけど、もしもそういう人が居なかったらどうなるか、問題行動を起こして活動を自粛したヒーローなんて人気が出ないからね。犬嗣さんが学んだって言ったのはこの辺りをちゃんと報告して動いたからだと思う。

 

 ・・・そして轟くんの事を卵と言ったのも、人を助けるために誰かに迷惑をかけてしまっている事に目を向けなかったからだと思うよ。でも今回に関してはそこまで大事にならなかったって意味なら俺より全然いい状況だから、この話を聞いてみんなの糧にして欲しい。

 

 「とまぁ、これが、俺の、ヒーロー、を、目指す、事に、なった、事件、だよ」

 「・・・確かに許せねぇとは言え、誰かに迷惑かけちまうヒーローなんて卵って言われても仕方ねぇな・・・」

 「うん、僕もあの時はグラントリノの迷惑になるなんて思ってもみなかった・・・」

 「俺に限っては復讐のために誰かのヒーロー活動を永遠に止めてしまうところだったのか・・・回精くん、本当に付いてきてくれてありがとう」

 「ううん、気に、しないで。でももし、自分が、許せ、ないなら、飯田、くんが、言った、インゲ、ニウム。人を、導き、規律を、守る、ヒーロー、目指して、ね?」

 「・・・あぁ、わかった。俺は兄の意思を引き継ぎ立派なヒーローを目指す」

 

 轟くんと緑谷くんが落ち込んでしまったが、飯田くんが前を向き始めたお陰で場の空気が少し明るくなった。更に空気を変える為に手を叩き注目を集める。

 

 「じゃ、犬嗣、さんにも、言われた、し、質問、タイムに、しよ?」

 「そういえば僕たちって回精くんの個性とか性格とかは知ってるけど、他は全然知らないよね」

 「・・・俺はあんま接点無かったから仕方ないが、流石に全然って程じゃないだろ?」

 「・・・いや、正直回精くんがかなり温厚な性格に個性が動物の力と精霊が存在し、中学の友人が二人経営科に居る事くらいしか俺は知らないぞ」

 「うん、僕もそんな感じ。個性のデメリットがそこに加わるかな?」

 「何!?回精くんの個性はデメリットありなのか?」

 「・・・回精くん、言ってもいいかな?」

 「・・・寧ろ、恥ずか、しいので、お願い・・・」

 

 そういえばデメリットに関しては緑谷くんはその場に居たらしく、梅雨ちゃんに連れられてクラスに報告した際には轟くんも反応が無かったとはいえ居たね・・・。緑谷くんの説明に体の動きが悪くなる事も付け加えて教えると飯田くんは。

 

 「なるほど・・・、厄介なデメリットだな・・・。よし、もしも起きてしまっても安心してくれ。俺が必ず安全な場所まで運ぼう」

 「・・・うん、ありがと。ちなみに、質問、があれば、よっぽど、じゃなきゃ、答える、よ?」

 「回精、ずっと気になってたんだが。どうしてそんな区切り区切りで話すんだ?」

 「あ、それね、発声、器官が、人の、形、してない、から」

 「え?割と深刻な問題とかじゃなかったの!?」

 「うん、動物、の、器官に、近い、から、連続、して、発声、は、難しい。逆に、遠吠え、とかなら、だいじょぶ」

 

 轟くんの質問が出たときに飯田くんと緑谷くんが急に固まってしまったが、俺が答えるとどうやら何か深刻な事態でこうなってしまったと思い込んでいたようだ。犬嗣さんの言う通り喋らなすぎっていうのも問題だな・・・。恐らくクラスメイトも似たような事を考えてしまっているだろう、どうやって誤解を解くか考えていると飯田くんに話しかけられた。

 

 「では、俺もいいだろうか?」

 「うん、いいよ」

 「ヒーロー殺しと話しをした時にいつもと口調が違っていたが、そっちが素なのだろうか?」

 

 あー・・・確かに元の口調になってはいたし、飯田くんはあの場で一番長く俺の会話を聞いていた人だからな、何時かバレる事だと諦めて白状する。

 

 「うん・・・、あっちが、素。何時もの、口調、は、問題、を、起こさ、ない為、の、猫、かぶり?的な?」

 「問題を起こさない?回精くんに問題があるとは思えないが・・・?」

 「見た目が、ね?素で、話すと、同い、年には、不評、で・・・」

 「・・・あぁ、ガキにため口で話されてるみたいって文句言われたのか・・・」

 「特に、不良に、よく、絡ま、れるから、この、口調、にね?」

 「でも雄英にはそういった人たちはいない・・・うん、いないはずだよ」

 「ごめん、使い、過ぎて、中々、戻せ、ない。でも、徐々に、でも、素で、話せる、様に、するね?」

 

 緑谷くんには表向きの嘘で対処する。だって本当は()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()、なんて言えるわけがない。これに関しては誰にも言ったことが無い俺の最重要機密、前世と言われる記憶を持っている事。妖目にだって両親にすら言ったことが無い。次の質問を募集すると緑谷くんがおずおずと手を上げる。

 

 「じゃ、じゃあちょっと前から気になってたけど、回精くんが使ってる鉄扇ってどうやって訓練してたの?かなり特殊なものだと思うけど・・・」

 「そっちは、お父さん、の、職場、が、ヒーロー、の、アイテム、作りも、してて、そこでね」

 「ヒーローのアイテム作りも?・・・あっ!もしかして・・・あった!この会社の事!?」

 「う、うん、そこだよ?」

 「うわぁ!凄い!!ここって個性の研究成果をコスチュームやサポートアイテムに反映させててプロ御用達の会社だし何より雄英高校の被服控除にもかかわって「ちょっと、待って」あ、ゴメンつい熱くなっちゃって・・・」

 「ううん、それより、被服、控除、にも、関係、してるの?」

 「うん、結構前から雄英高校のコスチューム制作依頼の他にも個性の事でアドバイザーみたいな事もしていたみたいだよ?」

 「俺の、改造、巫女服、モドキは、あそこの、人たち、が、犯人、か・・・!」

 「・・・あっ、殆ど無視されたって言ってたもんね・・・」

 

 思わぬところで俺のコスチューム案をほぼ無視した犯人が判明し、納得がいくと同時にどうしてくれようかと考えていると。

 

 「と言う事は回精くんのところはお父さんがその会社で中々の地位に居るという事か?」

 「うん、個性の、研究、者。室長、も、やってる」

 「室長って事は実質そこのトップじゃねぇか、だからそんな多機能な物になったのか」

 「うーん・・・、実は、増強、系用、の、試作、品を、借りたの」

 「試作?かなり使い勝手が良さそうなのにか?」

 「重い、らしい。後、鉄扇、使う、なら、普通に、殴った、方が、良いって、人が、多い」

 「なるほど・・・確かに色々間合いとか覚えなきゃいけないもんね・・・」

 「重いって・・・どんだけ重量あるんだよ」

 「・・・大体、子供、二人、分?」

 

 確かにそりゃ重いな、と言う呑気な声とマジかコイツと言う二人の視線。鉄扇にはパーツを付け替える事で状況対応能力を上げた代わりに増強系が常に発動していなければ扱えないほどの重さになってしまっている、そういう意味で試作品なのだ。

 

 その後も他愛ない好き嫌いの話や家族構成などと言った少し踏み込んだ話もして、逆に三人に質問したりと時間が過ぎて行った。こんなに他人を知ったのって妖目以来な気がすると、三人とは前よりかは仲良くなれたであろう事に嬉しさを感じた一日になった。




 情報の交換会、と言うと変でしょうがお互いを詳しく知れた一話になりました。

 獣狼は精神年齢が他の人に比べると前世の記憶の影響でかなり進んでいます。なので周りが年下に思えてしまうのです。

 大体文字数は3000~5000の間を目指しています。このくらいが一番気楽に読めるというのと、これを過ぎると誤字とかが増えるからです。純粋に疲れますね・・・。


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第三十九話:職場体験が終わり、再会を喜ぶ

 ネビルレーザーを出し過ぎてお腹壊したので投稿が遅れました、嘘です。

 頭に靄がかかった様な感じで中々上手く書けませんでしたね・・・。


 職場体験最終日の午前、既に飯田くんと轟くんは退院していた。飯田くんは昨晩の夜に身内の人が迎えに来てくれてそのまま家に帰る事に、轟くんは比較的軽傷だった為に学べる事はまだあると朝早くに職場体験へ戻る事にしたみたい。しかし病室から出る途中で爆弾を放り込んできた。

 

 「そうそう回精、お前のお陰でアイツの面白れぇ顔が見れた、ありがとよ」

 「え?どういう?」

 「あっ、多分あれじゃない?体験先を僕に相談してきた時にエンデヴァーの事知らないってバレたときの」

 「雄英生、しかも体育祭で入賞した奴に知られてねぇって知った時のアイツの顔は中々良かった」

 「ちょ!?それ、目を、付け、られる!仕方、ないでしょ、最近、まで、無、関心、だった、から!」

 「安心しろ、そうだろうと思ってちゃんとそこも言っといた。そしたら余計変な顔になったがな」

 

 そう言いつつ立ち去っていく轟くん、しかし違うそうじゃないと言いたかったが多分伝わらないだろう。初めのころのそっけない感じからかなり親しみやすくなったのは良いが、何かこう、かなり天然さんでマイペースだからなのだろう。所々ズレている。

 親しみやすくなったと言えば体育祭で緑谷くんとの試合の会話を聞いてしまった事を飯田くんに内緒で謝ると、「回精が話してるし俺も話す」と言った具合に家族関係が良くないという事をいきなりみんなが居るところで叩き込んだ時には驚いてしまったが。しかしこれも彼なりに俺達と歩み寄ろうとしていると思うと驚きはしたが、悪い気はしなかった。

 

 「それ、ヒーロー、殺しの?」

 「うん、ニュースとエンデヴァーの記者会見。回精くんはいつ退院になりそう?」

 「今日の、午後には。緑谷、くんは?」

 「右腕にヒビが入っちゃってて、念の為に今日一日は安静にして明日の朝だって」

 「そっか、寂しく、なったら、連絡、してね?」

 「そうは言っても、回精くんが居なくなってから半日もしない内に退院するんだから平気だって」

 

 病室に戻ると緑谷くんがスマホでニュースを見ていたので横から覗きこむ、流石に緑谷くんとは一緒に退院とはならず少し冗談を言ってみると通じたのか笑いながら返してくれた。犬嗣さんのアドバイスのお陰で三人との仲は確実に良くなったし、クラスメイトとはここ最近で一気に仲良くなれた気がする。しかし緑谷くんの声で思考が中断された。

 

 「あの・・・回精くん、耳が当たってくすぐったいんだけど・・・」

 「あ、ごめんね?・・・触ってみる?」

 「えっ!?・・・いいの?」

 「くくくっ、気に、なってた、でしょ?緑谷、くん、個性の、事は、凄い、好きそう、だし」

 「じゃあ、失礼して・・・」

 

 どうやら少し近すぎたようで緑谷くんの顔に耳の先が少し当たっていたようだ。少しからかい交じりに聞いてみれば食いついてきたことについ笑い声が出てしまう。最初はおずおずと手を伸ばされ耳を親指で耳の縁をなぞるように、確認するように触られ次第に指全体、手のひらと触られ始める。意外な事に口田くん程でないにしろ多分緑谷くんは撫でるのが上手そうだ、芦戸さんと同じくらいか?そう思っていると。

 

 「触り心地としては子供のころに触った耳が立っている動物たちと変わらない純粋に大きくなっているだけか?外側の毛は髪の毛よりも固めで内側に関しては髪の毛よりも柔らかいな熱もそこそこあるって事は体温調整も兼ねている?でもそれにしては耳の大きさが───

 「きゃぁきゃきゅぅ!耳、触られ、て、考察、されたの、初めて、だ」

 「あっ!ごめん、ついつい・・・。でも触り心地は良かったよ?」

 「ううん、構わ、ないよ。乱暴、に、しない、だけ、全然、良い」

 「あはははは・・・、あ、笑い声は動物っぽいんだね」

 「前も、言った、けど、発声、器官、の、関係、だね。キツネ、っぽく、なる」

 「へぇー、あっ!ならさ・・・」

 

 こうして緑谷くんによる俺の個性考察が始まってしまったが、有意義な時間だったので良しとする。彼はヒーローのこと以外にも個性の事にかなり見識が広い、しかし俺の個性は特殊なパターンらしく色々詳しく聞かれたが精霊の事に関しては常闇くんと約束があるからと断った。

 代わりに獣人としての個性をかなり詳細に語る事になったが、悪意を感じ取るのもやっぱり動物の感情を読み取る力の派生だったり、聴覚や嗅覚は人間の比率が高いからそこまで性能がよくならなかった、力に関しては純粋にいいとこ取りと中々に興味深い事が聞くことができ、気付いたら午後になるところだったのでマニュアルさんのところへ行く準備をし。

 

 「それじゃ、緑谷、くん。また、学校、で」

 「うん、回精くんも学校でね」

 

 お別れをしマニュアルさんの事務所へ寄る、流石に迷惑をかけっぱなしで何も言わずさよならは失礼だからだ。辺りが赤く染まり始めたころ、事務所に着くと受付の人にすぐさま通される。そこにはマニュアルさんがヘルメットを脱いだ状態で事務仕事をしていたがこちらに気づくと近づいてくる。

 

 「あれ?回精くん何か忘れ物でもしたのかい?」

 「お世話に、なった、ので、挨拶、に」

 「あぁ!別にそこまで気にしなくてもいいんだよ?退院したばっかりだし安静にしてなきゃ。でもそういう所をしっかりするのは飯田くん共々良い事だね!」

 「いえ、迷惑、を、かけて、しまった、ので・・・」

 「そんな気にすることないって!・・・君のお陰で本来なら5割のところ4割の減給で済むそうだ、それに君に相談されたときに飯田くんを無理やり送り返す事も出来た、飯田くんにも言ったが自分で背負い込んだことだから気に病むことは無いよ」

 「・・・はい、ありがとう、ございます」

 「よろしい!教えられることは少なかったけど、君も立派なヒーローになるんだぞ!」

 「はいっ!」

 

 こうして、俺の職場体験が終わった。飯田くんの復讐心もなくなり誰も死なず、迷惑が掛かったとはいえ表ざたにはならなかった。ハッピーとは言えなくとも良い終わり方かな?帰りは雄英に寄らずにそのまま帰っていいらしい、流石にヒーローの職場体験が厳しいものだと学校側も判断しているようでそのまま帰宅出来た。コスチュームは次登校する時に持ってこいとの事。

 

 帰宅後は両親に怪我の説明をするも「まぁヒーロー目指してるんだし」で済んでしまった事にそういえば我が家は割とスパルタだったと思い出した。しかしこれで終わる訳ではなくお父さんへの裁判が始まった、罪状は人のコスチュームを勝手に改造しまくった事。しかし本人から反論、どうやらお父さんは関わっていなかったらしく無実だと主張した。怪しかったものの、バリカンの前でもそういうのなら本当の事だろうと信じる事にした。

 

 土曜日は大事を取って安静にし、日曜日には色々頑張ってくれた精霊たちの為に前回とは趣旨を変えて焼肉の食べ放題に来た。今度は快心さんも来ておらず正真正銘一人焼肉と言う奴だが、精霊たちが居る為に一人ではない。精霊たちもテンション高めで食べ物のリクエストや食べ放題でよくあるちょい足しもして時間いっぱいまで楽しんだ。周りからはマジかと言う目で見られるも個性故に仕方ないと諦めたし、外食をするときは大抵こういう目線を受ける。帰宅後はゆっくりと精霊たちと会話したり室内で出来る遊びをしたりして次の日を迎えた。

 

 月曜日、早朝の日課を久々に行えた事に懐かしさと満足感を感じている中で少し気になったことを精霊たちに尋ねる。ヒーロー殺しとの戦いで無理やり血壊を行ったことの影響が未だ出ているらしいからだ。

 

 (どう?使えるようになった?)

 <あんまり調子よくないー><使えないことは無いー><時間はかなり短めになっちゃうー>

 (・・・そっか、みんなにも無理させちゃったみたいだし、しょうがないよね)

 <気にしなくていいよー><一番獣狼が大変んだったー><でもそんな獣狼が好きー>

 (うん、みんなありがとう。俺もみんなは家族みたいで好きだよ)

 

 その言葉と共に精霊たちが騒ぎ始めるが何時もの事なので聞き流す、流石に無理をし過ぎている気がするし血壊はしばらく封印だな・・・。帰宅し汗を流した後朝食を取っているとお母さんから話しかけられる。

 

 「ところで獣狼ちゃん、お腹の怪我の事は聞いたけど個性の方は大丈夫かしら?」

 「うーん・・・、ちょっと、怪しい、身体、強化、が、し辛い」

 「そっかぁ、後でお父さんにも聞いてみるわね?何かわかるかもしれないし」

 「うん、ありがと。後、ごちそう、さま」

 

 少し遅れ気味だったので急いで準備をする。久々の妖目と快心さんとの登校だから遅れる訳にはいかないし、相澤先生相手に遅刻なんてしたくない。着替えてカバンを肩にかける、時間的には問題ないだろうが早めに行って問題にはならないだろうと言う事で家を出た。

 

 駅に到着すると二人は案外すぐに見つかった、二人の匂いならもう記憶しているので簡単に場所が分かる。二人もこちらに気づいたので駆け寄る、近くまで行くとすぐさま快心さんが口を開いた。

 

 「久しぶり、獣狼くんも事件に巻き込まれて大変だったね」

 「うん、ひさし、ぶり。チャットで、送った、通り、だけど、良い、経験、だったよ」

 「流石ヒーロー科期待のA組上位入賞者だねぇ~、凄い事件をいい経験で済ませるとは」

 「後ろで、見てる、だけ、だからね」

 「・・・だろうねぇ~。ま!エンデヴァーが捕まえたようだし、一件落着じゃない?」

 「そう、だね。これで、ヴィランも、活動、しなく、なると、いいけど」

 「そっか、A組ってすごい頻度でヴィランに襲撃されちゃってるもんね・・・。A組のみんなもだけど獣狼くんも気を付けてね?」

 「だいじょぶ、何か、あれば、逃げる、し」

 「ヒーロー志望が言うセリフじゃないよねぇ~、そう言うところが獣狼らしいけど」

 

 たった一週間離れただけでも今の会話がとても楽しい、その後は俺たちが職場体験に行っている間の出来事や他にも他愛ない話をしつつ、雄英高校を見たときには少し懐かしさを感じてしまう事に実は寂しがり屋だったのかな?とらしくない事を考えてしまう。けれどもクラスのみんなに会えると思うと少しばかり、嬉しくなった。




 轟くんの叩き込んだ内容は流石に個性婚とかは話していません、エンデヴァーがスパルタで家族関係が悪くなったぐらいですね。

 飯田くんも緑谷くんも怪我が減りましたね。


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第四十話:日常を謳歌し学期末に備える

 評価が地味に増えていますが、どの数字に入れられているか全く把握していません。ゴメンネ、記憶力ナクッテ・・・。でもどんな評価でも入れてくださり、ありがとうございます。


 学校に着くと下駄箱で二人と分かれた俺はコスチュームを返すために事務室に寄っていた、事務員さんに聞くと職場体験で多かれ少なかれコスチュームが傷つくから一旦コスチューム制作会社に直してもらい、その間は二着目のコスチュームを使うと言ったように何着かでローテーションしていくみたい。

 

 次のコスチュームは教室にあるらしいのでそのまま向かう、流石に廊下は一週間来なかっただけでは特に懐かしさなんて感じる訳もなく教室に到着する。扉を開ければちらほら来ていない人は居るものの、みんなが居て戻ってこれたんだなぁと感傷に浸っていると轟くんの席に緑谷くんと飯田くんが集まっているので、自分の席に荷物を置き三人に近づいて行く。周りは自分たちの職場体験の話しで盛り上がっている中、三人は怪我の具合をお互い確認しているようだった。

 

 「おはよ、三人、とも」

 「おはよう回精くん、君もどうやら大事無いようで安心したよ」

 「飯田、くんもね。緑谷、くんは?」

 「うん、右腕のヒビも大丈夫だって」

 「そっか、轟、くんは、あの後、どう、だった?」

 「あぁ、アイツの顔が微妙な事になってて面白かった」

 

 職場体験の事を聞きたかったんだけどなぁ・・・。微妙な変化だが嬉しそうな轟くんに指摘する訳にもいかず、他二人も苦笑している。どうしたものかと思っていると上鳴くんの声でみんなの注目がこちらに集まる、今話題の最中であるヒーロー殺し逮捕に表向きは巻き込まれた四人が集まっているのだ、聞きたくなるのも分かる。

 

 そこからみんなに質問攻めにされる中、エンデヴァーさんの話題が出たときに思うところがあったのだろう。エンデヴァーさんを嫌っている轟くんが親父に助けられたと言った時には、家庭環境を知っている俺たち三人が轟くんを少し驚いた風に見てしまったが、緑谷くんは少し嬉しそうに相槌を打った。

 

 その後、やはりと言うべきかヒーロー殺しの話題になるが上鳴くんがヒーロー殺しの動画と言うもので飯田くんの目の前でヒーロー殺しを褒めてしまう。しかし飯田くんはその言葉に理解は示しても、ヒーロー殺しの行った行為を間違っていると断言し自分の様な者を増やさない為にも改めてヒーローを志すと宣言した。しかしその後は委員長として何時もの騒がしいと言われてしまうような飯田くんではあったが、逆にそのくらいがとてもらしくて。

 

 「くっくくく・・・」

 「回精くん?」

 「いや、しっかり、者の、飯田、くんに、戻った、なって」

 「・・・うん、飯田くんはこのくらいが丁度いいんだと僕も思う」

 「あぁ、あんときの顔より今の顔の方が全然いい」

 

 飯田くんの声をバックに三人の内緒話、騒々しいと呟く常闇くん、耳郎さんに叱られる上鳴くん、朝礼の時間もそろそろなので飯田くんの指示に従い大人しく自分の席に戻るクラスメイト。俺も自分の席に戻りつつ何時ものA組だなぁ、と感じていた。

 

 

~~~~~

 

 

 ホームルームも午前授業も特に問題なく終わり、午後のオールマイト先生によるヒーロー基礎学が始まった。流石に何回も授業を行ってきたからか声にある程度の慣れとネタ切れなのか、ちょっとばかし雑な何時ものセリフ(私が来た)を言いつつも説明が始まった。

 

 今回は職場体験直後と言う事で遊びを兼ねた救助訓練レースを複雑な迷路の様な工場地帯を模した運動場で行う。各自スタート地点に到着したら合図と共に救難信号を出すので、そこに誰が一番早く到着するかを競う内容となっていた。

 これがもしも相澤先生なら遊びとか無しでどんな内容になるんだろう、と関係のない事を思っているとオールマイト先生に直接名前は言われなかったが直接指を刺され、建物の被害は最小限にと注意を受けていた人もいたが今回に限って大規模爆破を使う事なんて・・・ショートカットする時にあるのか?ともかく爆豪くんもそこまで考えなしではないだろう。一組目がクジで発表されモニターの設置されているスペースに移動した。

 

 最初の組には仲の良い緑谷くん、飯田くん、尾白くんの三人が居て誰を応援しようか迷う中、緑谷くんが怪我を克服したという情報を知らない他のクラスメイトは勝利予想で緑谷くん以外の名前が上がっていく。確かに芦戸さんも瀬呂くんの勝利予想と訳も理にかなっているので同じ情報を持つ人に聞いてみる事にした。

 

 「轟、くん。誰が、勝つと、思う?」

 「瀬呂か尾白、どっちかの一位争い。そっから下は飯田と芦戸の順で緑谷は運が良けりゃって感じじゃねぇか?」

 「緑谷、くんは、もっと、上だと、思った」

 「正直経験が無さすぎる。良くて一位、悪けりゃ最下位だろ。飯田と芦戸に関しちゃ場所が悪すぎだが、移動力って意味じゃ飯田だろ」

 「案外、みんなを、見てる、んだね」

 「前の俺はそんな爆豪みてぇな風に見えてたか?」

 「・・・ごめん、ちょっと。口の、悪さが、無い、感じ」

 「・・・そこまで酷かったか・・・」

 「聞こえてんぞォ!!クソ犬に半分野郎!!ぶっ殺されてェか!?あァ!?」

 『スタートォ!!』

 

 オールマイト先生の合図により全員がモニターに集中する。流石の爆豪くんもこの状況で騒ぐよりもモニターから地形を把握しようという魂胆なのだろう、こちらをひと睨みした後にモニターに視線を移した。しかしそのモニターでは力を制御した緑谷くんが自由自在に足場になりそうな場所から次の足場へと飛び回り、トップ予想の瀬呂くんを追い抜かしていた。緑谷くんの圧倒的なパワーによる機動力はモニター前も参加者も釘付けにする活躍を見せていた、が。

 

 つるり、そのような表現が当てはまる滑落で。えっ、と言う声が聞こえてきそうな表情で落ちていく緑谷くん。轟くんの予想当たっちゃったなぁ・・・、それを見た他の参加者は今のうちにと、尾白くんは尻尾で地面を蹴りその勢いのまま前よりも激しく尻尾を動かす事で飛距離を伸ばし、芦戸さんは酸で足元を溶かしつつ時折壁を上る事で移動し、飯田くんは個性で走った勢いをつけ跳び上がり、瀬呂くんは個性のテープを勢いよく射出後に巻き取る事で加速した。

 

 一組目の結果は怖い位に轟くんの予想通りで一位の瀬呂くんと僅差の尾白くん、そして一人倒れている事を心配する飯田くんと悔しがる芦戸さんに倒れ伏す緑谷くんとなった。その後も順調にレースを行っていくのだが、俺の行うレースで問題・・・と言うよりは不幸な組み合わせが発生してしまった。

 

 「ねぇ・・・ウチ流石にこれどうしようも無いと思うんだけど・・・」

 「うん、正直俺もこれに関しては組み合わせが最悪過ぎると思う」

 「ってかこれアイツらの二位以下決定戦じゃね?」

 

 これがモニター前で組み合わせが発表された時の周りのセリフだ、うんどうしようもないしどうすればいいんだろう。当事者なのに・・・いや、当事者()()()()()俺にはもうどうしようもない。なので俺は粛々と一位を取ってしまおう、三回目の組み合わせである、俺、峰田くん、砂藤くん、葉隠さん、青山くん、上鳴くん。なんで俺ここに居るんだろう最初の組ならよかったなぁと遠くを見つつ心なしかどんよりした気分の中、スタートの合図が出たので一直線に最短路を跳んだ。

 

 「い、一位、オメデトウ・・・」

 「はい・・・ありがとう・・・ござい、ます・・・」

 「きっ君たちも、ね!今回移動に適していなかったものの、手に汗握る熱い接戦だったな!楽しかったかい!?」

 「いっ一位が取れないとしても、オイラ達で誰が先に着くかってレースだと思ったらまぁ楽しかったよな!?」

 「うぐっ」

 「で、でもでも!回精くんもほら!獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くす!みたいで凄かったよ!」

 「うぅっ」

 「「・・・ドンマイ、回精」」

 「・・・うん・・・」

 

 勝手にそう感じているのはわかってはいるが、峰田くんはオールマイト先生のフォローに乗った形で場を和ませようとしたのだろう、しかし一位が取れないの部分がナイフの様に刺さり。葉隠さんも俺のフォローをしようとしたが、その表現では大人げないと言われているようで。砂藤くんと上鳴くんのフォローに折れそうな心が僅かだが持ち直したが、この後のレースを観戦する程持ち直せてはいなかった。

 

 更衣室で落ち込みながら着替えていると飯田くんが峰田くんを注意する声で周りが壁に・・・正確には壁の穴に注目している。飯田くんの静止を無視し大声で己の欲望を口に出す峰田くん、でもそんな大声出すとその穴から隣の女子達に聞こえるんじゃ・・・。そう思ったのもつかの間、峰田くんの絶叫と緑谷くんの解説でどうやら耳郎さんのイヤホンジャックが奇襲したようだ。恐らくだがこの後は先生に相談して穴を潰すか八百万さんの個性で穴を潰すかの二択だろう、悪は潰えたという事でさっさと着替える事にした。

 

 今回は妖目と快心さんの二人と一緒に帰れるらしく下駄箱で待っていると二人がやってくる、しかし二人は俺が微妙に落ち込んでいる事に気づいたのか理由を聞かれたので特に隠す必要がないのでバス停への道すがらに答えると。

 

 「あぁ~獣狼ってばそういう所、変に正々堂々としてるよねぇー。勝てたんだから嬉しい!で良くない?」

 「だって、やるなら、接戦、が、よくない?」

 「獣狼くんは競技や運動会とか全然出れなかったもんね?」

 

 その言葉と共に快心さんの手がこちらに伸び、耳から後頭部に向けて何時も通り撫でられる。口田くんも撫でるのは上手く数多くの動物たちと触れ合った事で伸ばされた才能だろうが、快心さんは場数を踏んだ事による経験に裏打ちされた上手さだ。どちらも甲乙つけがたく思わず声が出てしまう。

 

 「ふぁ、まぁ、しょうが、ない、よね。地力が、違う、し」

 「珍しいねぇ、獣狼が大人しく撫でられるなんて。と言うかサラっと自然な流れで撫でる快心さんもアレだけど」

 「心境、の、変化?たまには、撫でられ、るのもー、いいかもー・・・」

 「その変化をもたらしたのってどーせA組のみんなだろ~?羨ましいぜ全く・・・

 「?まぁ、ねぇー・・・」

 

 妖目が何か言っていたが快心さんの撫でる音で聞き逃してしまった、しかし妖目もこちらが聞こえていないタイミングを計って言っているのは大概聞かれたくない時の事だから気にしない。バス停で待っていると快心さんが無言で撫でる範囲が側頭部辺りまで広がっていき、どんどんエスカレートしていきそうだったのでやんわりと手を外すと。

 

 「あっ・・・」

 「そろそろ、止めない、と、エスカ、レート、する、でしょ。快心、さんは」

 「あ、あはははは・・・、善処します・・・」

 「でもでもー、快心さんはそう言いつつ獣狼を嗅いだりしたいんでしょー?」

 「そっ、それはその・・・、だって少しの獣臭さと洗剤の匂いが混ざったいい匂いするんだもん・・・」

 「「えっ」」

 

 ごめん、流石に女子に獣臭いと言われるのはショックが大きい。ちょっとそれが真実なのか隣の親友に尋ねなければいけなくなり、それが事実なら俺は対策をしなければいけない。

 

 「・・・妖目、俺、そんな、獣、臭い?」

 「・・・多分快心さんだけが感じ取れる臭いだから気にしなくていいぞ」

 「「・・・」」

 「ちょっ!?二人とも一歩離れるのは酷くない!?」

 「あ、バスが、来た、よ」

 「そだねー、早く乗ろっかー」

 「待って!弁解の余地を!弁護させて!」

 

 流石にこれ以上快心さんで弄るのは弄られ慣れていない彼女にとっては辛いのでちゃんとお遊びだったとネタばらしする。しかし拗ねてしまった快心さんの為、妖目に俺の尻尾が売られた事は忘れないからな?

 そんな日常を過ごした翌日、A組の教室にてあの時に言われた言葉が微妙に刺さっていたようで他人と、特に女子と無意識に距離を離してしまっていたらしく。

 

 「回精ちゃん、今日はなんでそんなにみんなと距離をとっているの?」

 「・・・あー・・・、聞いても、いい?」

 「けろ、良いわよ?」

 「ねぇ、梅雨、ちゃん。俺って、獣、臭い?」

 「・・・けろ・・・、私はそうは思わないけど・・・」

 「ぶはっ、回精お前自分の臭い気にしてたのかよ」

 「女子に、臭い、って、言われ、ても、同じ、事、言える?」

 「「「「・・・」」」」

 「集合!!」

 

 そして俺の発言を聞いたA組男子たち・・・主に上鳴くんと峰田くん主導の自分たちの臭いチェックが始まった。ヒーロー科と言えど男子高生、女子に嫌われたくないという者から助けに来た人が臭うなんて問題だと真面目に取り組む者も参加し、中には関係ねぇカスと無視を決め込む者も。そしてそんな事態を巻き起こした俺は事情聴取をされていた。

 

 「なんで回精は獣臭いって言われてんのさ」

 「あー・・・彼女の、名誉の、為、名前は、伏せる、けど、動物、好きで、臭いも、嗅ぐ、人で、洗剤、と、獣、臭さ、が、良い、って・・・」

 「あー、たまに居るペットの臭いが良いって人かぁ。そうなると回精ってやっぱ動物扱いだったんだね。あ、アタシは全然気にならないと思うよ?」

 「・・・ウチも回精を臭いとは思った事は無いけど、まぁ獣臭いって言われて気にしない訳ないか・・・」

 「・・・そっかぁ、彼女が、変な、だけかぁー」

 「(((その反応からほぼ一人特定されてるんだけど、気づかないんだろうなぁ・・・)))」

 

 そうして今日みたいな変な事件(?)が時々起きるものの、特に問題と言った事は起こらずに衣替えが始まり夏直前まで来た。




 すいません、春の陽気で眠くなってしまっています。19時の時点で眠いってお子様かな?
 なので更新が前は1日でしたが、もしかすると2日や3日開ける事になるかもしれません。

 今回はA組のノリだったらこんな事もあるかなー、と思い書いてみました。次は期末試験ですが、期末の間かこの次辺りにちょっとオリジナル話でも入れてみようかなーとか思ったりしています。でもあまり期待しないでください、名前を考えるのが苦手過ぎるんです。


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第四十一話:季節の変わり目に友達と

 原作にはないお話を書いてみようと思います、流石に期末までの長期間を一気に飛ばすのはどうかと思いチャレンジしてみます。

 ちなみに途中から第三十八話の冒頭で行った獣狼の語りが始まります、獣狼が説明しなければいけないところなので許してください。


 制服も夏服に切り替わった事でちょっとした騒ぎ(何時もの峰田くん)も落ち着いた頃、放課後にお父さんの勤め先からメールが来ていたので確認していた。

 

 「・・・はぁ・・・」

 「珍しいな、お前がすぐに帰らずにスマホとにらめっことは」

 「常闇、くん」

 「あまりとやかく言うべきではないだろうが、お前は変に考えすぎる。悩み事ならば誰かに相談するのが一番だぞ」

 「あはは、バレた?」

 「・・・バレるも何も、お前は耳や尻尾に感情が出ているぞ・・・。お陰で気になっている者もいるようだからな」

 

 えっ、耳を触ろうとすれば何時もよりも垂れさがっていたのかすぐに触れてしまった。そして常闇くんの視線をたどれば少し離れた場所に俺が気になって残ってくれたであろう、緑谷くんに麗日さんと飯田くんの三人が一斉に首を逸らす。その様子に苦笑しつつもそうなると常闇くんが残っている事が気になった。

 

 「そう、言えば、常闇、くんは、なんで、残って?」

 「お前がまた悩んでるのかと気になった事と、そろそろ精霊について聞きたくなってな」

 「あっ、ごめん、忘れ、てた。・・・ねぇ、一つ、提案、良い?」

 「なんだ?言ってみろ」

 「この後、あそこの、三人、と、何処か、寄らない?」

 「ふむ・・・何か俺たちに関わる事か?」

 「うん、返答、次第、では」

 「・・・いいだろう、では三人も誘ってくるとしよう」

 

 荷物を持って立ち上がり時々ちらりとこちらの様子を伺う三人に常闇くんと一緒に向かう、別にそこまで気を使わなくてもいいんだけどなぁ。俺たちが近づいてくる事に三人で小声で話し合っている、そして意見がまとまったのか飯田くんが何を思ったのか。

 

 「すまない!回精くんが何か悩んでいるようで「ねぇ」っ・・・」

 「三人、とも、ちょっと、寄り道、しない?」

 「えっ・・・?寄り道?僕は大丈夫だけど麗日さんは?」

 「えっと・・・そんなに時間がかからへんなら大丈夫だと思う」

 「飯田、くんは、どう?」

 「あ・・・あぁ、俺も連絡を入れれば問題ないだろう。どこに行くつもりか聞いても?」

 「ちょっと、お茶しに。気に、なってた、でしょ?そこで、話すよ」

 

 飯田くんの言葉に被せる事で無理やり止めて言われた言葉がお茶へお誘いの言葉、想定外の言葉だったのかお互い視線を見合わせた後苦笑しながらも付いて来てくれる三人と常闇くん、何気に放課後にクラスメイトと寄り道するのって初めてなのでは?と思いつつもスマホで最寄りの喫茶店を探す。雄英の最寄駅付近に何件かある様なのでみんなに聞いてみると任せるとの事、なら一番駅に近いここにするか。

 

 「回精くん、一つ良いだろうか」

 「なに?飯田、くん」

 「その、回精くんが何かに悩んでいたのは聞いてしまっていたのだが・・・、離れていたせいか全部が聞き取れたわけではないんだ。もしよかったら道すがら教えてもらえないだろうか」

 「あー・・・、その、辺り、言って、無かった、ね。でも、他の、人、特に、雄英、生徒に、聞か、れると、不味い、かも、だから、着いたら、言うね」

 「・・・何か問題でも起きたのか?」

 「問題、と、言えば、問題。お父さん、の、職場、関係」

 「回精くんのお父さんの職場・・・。あっ、何となく悩みの方向が分かったかも」

 「流石。聞かれ、ない、方が、良い、よね?」

 「うん、多分だけど中には良い風に思わない人も出るかも」

 

 その言葉についていけない三人が気になるという顔をしているが喫茶店で語ると思ったのか深くは聞いてこなかった。歩く事十数分で駅近くの喫茶店に到着し入店すると、人気はまばらで雄英生徒はほぼ居ないと見ていいだろう。思わぬ好条件に心の中で喜んでいるとボックス席が空いているのでそこに座り、全員分の飲料と軽食を注文し待っている間に話すことにした。

 

 「じゃあ、まずは、お父さん、の、職場に、ついて、話すね」

 

 軽く緑谷くんの知っている情報と同じことをみんなに伝える。勿論有名どころの名前が出たことで驚く三人、麗日さんのお坊ちゃま二人目発言は否定させていただく。残念ながら話に聞く飯田くんや轟くん程良い場所に住んではいない。

 

 そしてここからが本題だ。先ほど来ていたメール、内容を簡単に言ってしまえば「遅れちゃったけど雄英入学おめでとう!最近来てなかったしそろそろ遊びに来ない?土日ならクラスのお友達も少数なら連れてきていいからさ!」と言うもの。

 

 「え!?めっちゃ凄いやん!!もしかしてうちらに関係するって」

 「そ、この事」

 「行く行く!そんな凄いところに行けるなんて滅多にないやん!」

 「あぁ、俺も行かせてもらうぞ。丁度土日は自主練と宿題だけで終わる予定だったからな」

 「凄い!僕も言っていいかな?」

 「俺も行かせてもらうが、何故こんな朗報を悩んだりしていたんだ?」

 「・・・ここから、が、問題、なんだよ、ね」

 

 ─それでみんなに言った通りお父さんの会社はプロ御用達の複合会社、そこへ遊びって名目だけど職場を間近で見る機会だよね。みんなも行きたがる様に他の雄英生徒に聞かれれば関係が無かったとしてもついて来ようとする人もいる、これがあまり人に聞かれたくない悩み事一つ目。そして本命が会社からメールが来るという事は「そろそろバカ共が抑えられなくなってきたから助けて、お詫びにお友達も呼んでいいから」と言うSOSなんだよね。

 

 「え?バカ共?」

 「うん、バカ共」

 「・・・SOSと言うのは?」

 「会社、の、方針、みたいな?順番、に、説明、するね」

 

 ─まずはバカ共のところから。有名だから知ってる前提で話すね、お父さんが所属している個性研究の人たちは比較的にまともな人たちなんだけど、アイテム作成とコスチューム作成の人たちは一言で言うならかなり個性的な人たちで芸術家か職人気質の人たちが揃っているんだよね。会社も普通じゃあまり採用されないような“腕は良いけれど目立つ欠点のある人(癖のある人)”と“そのフォローが得意な人”、“気にしない人”を集めたんだ。

 

 「もしかしてバカ共って・・・」

 「そ、癖の、ある人。勝手に、変な、事を、始める、人達」

 「・・・それ社員としてどうなのだ?」

 「あっ、だから昔は評判が酷かったんだ」

 「緑谷くん、知っているのか?」

 「うん、注文を勝手に変えられたとか納品直前になって一からやり直したりとか」

 「それ会社として一番やっちゃいかん奴じゃ・・・」

 「そうだね、でも、それが、寧ろ、ヒーロー、に、ぴったり、だった」

 「・・・あっ!そうか!芸術家って事はデザイン関係に妥協を許さない、つまりその人に一番合ったものを作ってくれる!」

 「なるほど・・・、では職人とは妥協を許さず良い物を仕上げるという事だな?」

 「うん、オシャレで、信頼、出来る。人気の、秘訣、だって」

 「だがそれならば何故そんなところからSOSが来るのだ?」

 「・・・癖が、ある人、だから・・・かな?」

 

 ─俺って自分で言うのもあれだけど、その・・・かなり珍しいでしょ?小さい体に異形型によくある筋力。芸術家の人からは滅多に居ないそのキャラ性を、職人からは筋力と鉄扇を扱えるだけの技量から試作アイテムのテスト係として気に入られちゃったんだ・・・。

 

 ─会社も癖のある人たちのガス抜きは結構重要な案件で、もしも失敗するとシャレにならない事態が起きたりするから仕事に影響が出ない程度に本人たちのタイミングで自由に息抜きをさせているんだけど、やっぱり職業柄閃きとか発想が大事だから本人たちが気に入ったもの・・・、この場合俺・・・だね。そういった気に入った物や人を用意することでガス抜きにしてるんだ。

 

 ─俺に試作品を提供したり役職に就いている人の血縁とは言え無関係な子供を会社に自由に出入りしたりと色々黙認してくれたのも、癖のある人たちのガス抜きになるっていう所もあるんだよね。つまり、会社としては色々黙認するからガス抜きに手伝ってほしい。って事なんだ。

 

 「回精くんも大変なんやねぇ・・・」

 「まぁ、ね。でも、リーチ、とか、弱点、を、カバー、出来てる、し」

 「なぁ回精、もしや俺達にもそのガス抜きを手伝えと言う事か?」

 「多分、違う、よ。会社も、俺達、が、大変、な事は、知ってる、から、その中、で、呼び出す、お詫び、だと、思う」

 「そうか、先に聞いておくが三つの部門の内何処に行く予定だ?」

 「みんなが、好きな、ところ、かな?でも、結局、全部、周り、そう」

 「それはまた大盤振る舞いだな・・・。いや、それだけ重要と言う事か」

 「そそ、他に、質問、は?ちなみに、土日の、どちらか、一日、開けて、貰う、よ」

 

 俺の言葉に特に質問が無いのかみんなは次の進行を待つ、なので次の日を休めるように土曜日に行くことにしたが一つ言い忘れていたことを伝える。

 

 「もちろん、だけど、この、話は、ここだけ、の、秘密。クラス、でも、内緒、で」

 「え?なんでなん?」

 「恐らくだが、人数指定があるのではないか?それに今回の件は会社のご厚意だ、何度もある訳じゃないだろう」

 「うん、傍から、見れば、親の、コネ、使ってる、ズルい、事、だから」

 「なるほど、余計な敵意を煽らない為でもあるか。A組はそうではないだろうが何処から話が漏れるかわからない、そう言う事だろう?」

 「だね、みんな、には、申し、訳、無いけど、運が、無かった、と言う、事で」

 

 そういったところでタイミングよく店員さんが注文の品を運んできてくれる、丁度話も終わった事だし後は談笑して終わりかな。

 

 「それじゃ、相談、も、終わった、し、談笑、する?」

 「では回精、そろそろ精霊の事で話を聞いてもいいか?」

 「いいよ、と、言っても、ほんとに、教え、られる、事は、少ない、けどね」

 「構わない、あの時も言ったが俺以外の意思を持つ個性と言うのが気になっただけだ」

 「うん、それ、じゃあね───」

 

 常闇くんと精霊の事について話していると気になったのか話に入ってくる三人、時々緑谷くんの考察を交えながら話すもやはり情報が少ない為に多くを語れずに居たが、常闇くんとしては話を聞けただけでも満足だったらしい。少し話し込んでしまったが飲料一杯の範疇には入るだろう、俺が誘ったからと全員分のお会計を支払い駅で解散となった。

 

 駅のホームで一人、電車を待つ間で会社に送るメールを作成する。今回の訪問は俺と友達四人の計五人になりそうです。前なら妖目や快心さんを呼ぶんだろうな、と思い高校生になってから友達も随分増えたなと笑いながらもメールを送信した。




 一日かけなかった事と、考える事が多すぎてあんまり進みませんでしたが。簡単に言えば会社見学の様な感じです。厳密には違うかもしれませんが。

 オリジナルな為に一人一人の話し方とか思考を考えつつ、書いていくのは大変ですね・・・、特に常闇くんの話し方は難しいですハイ。でも次は癖のある人の名前を考えなければいけません、そっちの方がキツイです。


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第四十二話:英雄の卵たちの案内人

 予定では大体一から二話でオリジナル話は終わり期末試験が始まる予定です。予定です!!

 会社に関しては法律とか諸々に詳しくないので大目に見てください。服装に関してもセンスゼロなので大目に見てください。


 喫茶店での話し合いからしばらく経った、メールの後すぐに会社から注意事項や服装と持ち物などの事でメールの返信が来たために四人にチャットで伝える。撮影や録音は原則禁止、服装は私服で構わない、持ち物は常識の範囲内で、お昼は社員食堂でこちらが出すので気にしなくてもいい、などと言ったことだ。

 

 そして今日は約束の土曜日、予めこれから向かう会社の最寄り駅で午前中に待ち合わせと言う事だ。待ち合わせ場所で待っていると遠くから常闇くんが歩てくるのが見えた。

 下が焦げ茶で上が白、黒の上着を着た常闇くんのイメージとは違うカジュアルな服装だ。手を振ればこちらに気づいたのか真っ直ぐ歩いてくる。

 

 「待ち合わせの十数分前に来たのだが、回精は早いな」

 「一応、誘った、本人、だからね、誰、よりも、早く、ないと」

 「なるほど、いい心がけだな」

 

 しばらく常闇くんが来たお陰で時々話をしながら時間を潰していると、遠くから何時もの三人組が表れる。緑谷くんは少しゆったり目の茶色い下と紺の上に肩掛けの緑色のカバンと言った動きやすそうな服装だ。男性陣の中でも飯田くんはベージュの下に白のシャツとキッチリした衣装にこちらも青色の肩掛けカバンと言う凄く飯田くんらしかった。最後に麗日さんは青色のロングスカートに白の上と小さめなピンクのカバンと言う女子らしく可愛らしい服装だ。

 

 三人もこちらに気づいたのか歩いてくる。時計を確認すれば待ち合わせの十分前、余裕をもって行動しようと言って決めた待ち合わせ時間を余裕をもって集まるという若干困る様な状況だった。

 

 「二人とも早いね、うちらも早めに来たのに」

 「むぅぅ・・・やはりもう少し早めに来た方が・・・」

 「飯田くん、流石に早すぎて会社に入れないんじゃないかな・・・」

 「多少、なら、だいじょぶ、だと、思う・・・よ?」

 「・・・そう思うなら断言して欲しいがな・・・」

 

 五人も集まれば一気に賑やかにもなるが、流石にずっとここに居ては他人の迷惑になってしまうので会社まで歩いていくことに。しかしみんな私服を見るのが初めてだからかやはりそっち方面の話題になる。

 

 「常闇くんってオシャレさんやねー、てっきり興味ない人と思ってたよ」

 「あぁ、服も自分で買うようにしているからな」

 「ほぇー、自分で買うって凄いね!似合っとるよ!」

 「・・・感謝する」

 「あ!でも似合っていると言えば回精くんも凄い服だね!」

 「面白い、でしょ?」

 「面白いというよりかは・・・アニメキャラみたいな服だよね」

 「確かに、どちらかと言えばテーマパークで見そうな服だな」

 「うーん、でもうちは可愛くて似合ってると思うなー」

 

 そうだろうか?水色の裾の大きい半ズボンに白色のシャツ、持ち物は必要最低限にズボンの数あるポッケの中。個人的には面白そうだから着てみたのだが、他の人には違う風に見えるらしい。

 

 雑談を交えつつ歩いていけば数分と言ったところで会社が見えてくる、見慣れていない四人は今からそこに行くという事で緊張する者や好奇心を抑えられない者、服を正す者に静かに見据える者など様々だ。会社の入口まで到着すると守衛室に声をかける。

 

 「おはよう、ござい、ます。回精、獣狼、です」

 「ん?あぁ!獣狼くんか!話は聞いているよ、そちらがお友達の四人かい?」

 「はい、クラス、メイトです」

 「おぉ、良かった良かった。獣王さんが中々友達を家に連れて来てくれないと嘆いていたからてっきり友達が居ないのかと思ったが・・・杞憂だったみたいだね」

 「俺も、友達、くらい、居ます」

 「おぉっとそりゃ失礼!そうだった。はい、彼らの分の入館証だ。獣狼くんはもう持っているんだろう?」

 「はい、ちゃんと、あります」

 「よろしい、では皆様。良い一日を」

 「「「「はい!」」」」

 

 おぉう、ここでもタイミングいいねみんな・・・。気を取り直してみんなに入館証を配り自分の入館証を首から下げる、道のりは知っているために守衛さんには案内を断ってみんなと一緒に歩き出すと、関心したように麗日さんが口を開く。

 

 「ほー・・・、外から見てわかってたけど広いねー・・・」

 「これだけ広いと移動にも時間がかかりそうだよね・・・」

 「移動、には、車を、使う、から、安心、して」

 「ほー、ちなみに見学って言ってもどのくらい見せてくれるん?」

 「んー・・・、大まか、くらい?流石に、その、辺り、なんとも・・・」

 「そっかー、でもそこは会社の人が考えるところやもんね」

 

 そんな話をしている内に目的地であるビル───ここでは主にデスクワークに来客対応をしている。───に到着した。守衛室を通った時に連絡が行っているだろうし案内係の人が来るのを待っていると。

 

 「やぁ獣狼、予定より早かったが待ちきれなくなったか?」

 「あれ?お父さん、なんで?」

 「「「「お父さん!?」」」」

 「何故かって?何故なら私が今回みんなを案内するからさ!!」

 「・・・案内、担当、の人、は?」

 「今回は本格的なものでもないし、頼むのは筋違いとは思わないかね?」

 「・・・本音、は?」

 「獣狼のお友達を見てみたいし話してみたい」

 「・・・、・・・~っ、・・・今回、は、見逃す、ね」

 「(((ものすごい葛藤してた!?それに今回は!?)))」

 

 かなり、かーなーり悩んだが守衛さんからお父さんが俺の友人関係で心配している事を知ったので、今回ばかりは心配をかけた俺が悪いので見逃すことにした。俺の言葉に気を良くしたお父さんは仕事モードでみんなに自己紹介を始める。

 

 「では獣狼からも許可が下りたところで、みんな初めまして!ここトライスターの個性研究所統括室の室長を任されている回精 獣王だ。今日は楽しんでいってくれたまえ!!」

 「まって」

 「む?なんだね獣狼、これから「統括、室、って、何」・・・あぁ!そういえば昇進した事を伝え忘れていたな!簡単に言えば全ての研究室を効率よく運用する為に上からの指示を各室長に指示するところが統括室。そしてそこで一番偉い室長に抜擢されたのがこの私なのだ!」

 「えっと、質問良いですか?」

 「おっと、早速か?はいそこの少年よ!私に答えられる範囲ならば答えよう!」

 「回精さんはもしかして個性研究部で一番偉い立場なんですか?」

 「はははっ、名前で構わないぞ!ここには回精が二人もいるからな。そしてその質問にはNoと答えよう、私の上には所長と副所長が居るからね!」

 

 唐突な一学生が会って良いレベルではない地位の存在に俺以外のみんなも固まっている、この沈黙をもう自分への質問が無いと判断したのか。

 

 「では私への質問は無いようだし、みんなの自己紹介をしてもらってもいいかな?」

 「あっはい!緑谷 出久です、回精くんと同じクラスです」

 「麗日 お茶子です!同じくクラスメイトです!」

 「飯田 天哉です!1-Aの委員長を任されています!今日はよろしくお願いします!」

 「常闇 踏陰、回精・・・くんとは同じ組の同士だ」

 「ハッハッハ!先ほども言ったが私の事は名前で構わないので獣狼は何時も通り呼んでくれて構わんよ!とりあえずこれ以上立ち話もつまらないだろう?移動しながら話そうではないか」

 

 そう言い歩き出すお父さん、みんなもその後を付いていきつつもお父さんの言う今後の予定を聞く。

 

 「さて!まずは私の管轄である個性研究所に向かった後にお昼の為に食堂に向かう、お昼を食べ終えたらアイテム作成所とコスチューム製作所に向かう流れだが、ここで質問のある人は居るかね?」

 「はいっ!」

 「うむ!元気な良い挙手だ、何かな?飯田くん」

 「今日は遊びに来たと言う事ですが、具体的には何をするのですか?」

 「個性研究所では学校でも自分たちの個性を計測しただろうが、こちらではちょっと本格的に計測しようと思う。だがそこまでしっかりやる訳ではないので気楽に身長を測るくらいの気概で大丈夫だ」

 「アイテム作成所では君たちが望めばだが、サポートアイテムを使ってみたり彼らが興味で作ったオモチャで遊んでもらおうと思う。ただオモチャと言って舐めてかかると痛いぞ!」

 「コスチューム製作所では一風変わってヒーローコスチュームの性能を持たせたユニークな服が紹介されると思うが・・・まず間違いなく着させられると思うので頑張ってくれ」

 「「「「(着させられるって何を!?)」」」」

 

 あぁ、今回はコスチュームの人たちが爆発しそうなのね・・・。お父さんがユニークと言うからには多分そこまで変な恰好ではないと信じたいが、望み薄だろう。みんなが視線を此方に寄越すがお父さんがこう言うという事は諦めた方が良いので首を横に振る。みんなが何を着させられるのかと戦慄していると駐車場に着いたお父さんが一台の大きめの普通車の前で止まる。

 

 「さて、ではコイツでこれから各場所に向かう事になる、席は丁度埋まるはずだ。移動中は好きに会話してると良い、私に質問があるのなら答えられる範囲で答えよう」

 

 お父さんの言葉で各々が好きな席に座り、全員座った事を確認したお父さんが運転席に乗り込む。そしてシートベルトなどの安全確認を行った後、俺たちを個性研究所に案内する為に車は発進した。




 区切りが良さそうなのでここで区切ります。次は個性研究所とお昼、次の次がアイテムとコスチュームで終わる予定になりそうです。・・・終わると良いなぁ・・・。

 という訳で会社名がちらっと出て来ました。統括室ってなんだよって思う方もいるでしょうが、それはここだけの特別な奴とかアレとかそんな感じに。


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第四十三話:知るという事の重さ

 UAを見てお気に入りがちょこちょこ減っているのを見てショックを受け、しおりとお気に入り数が300と700を超えた事に喜びつつも「お前減ったじゃん」とツッコミを入れていますが。

 とても嬉しいです、ありがとうございます。

 今回独自解釈のある話をしますのでご容赦ください。


 車が発進してからすぐのころにお父さんの言葉もあったからか後ろが賑やかになってきた、個性発現当初に詳しく調べて終わりだったものをまた調べてもらえる事に、自分がどれだけ成長したのか確認できる事に興奮を隠せないのだろう。

 

 気分的には小中学生の時に身長がどれくらい伸びてるかワクワクしたのと一緒かな?でもこの場合あんまり伸びてなくて落ち込むまでがセットだしこの例えはダメだね・・・。

 

 後ろから聞こえてくる賑やかな声を、助手席で外を眺めつつぼんやりしていると今になって考える余裕が出来たのか、麗日さんがお父さんに質問をしていた。

 

 「獣王さん、聞きたい事があるんですけど!」

 「何かね?麗日くん、残念ながらプライベートの事はうちの獣狼がちっちゃい頃しか答えられないぞー」

 「答え、るなっ!」

 「何それめっちゃ気になります!じゃなくてどうして会社の名前がトライスターなんですか?」

 

 その言葉に他の三人も気になるのか静かにお父さんの回答を待っている。その事にお父さんは肉食獣特有の牙をにやりとバックミラー越しに見せつつ───この笑いは感心している笑いだ───答えた。

 

 「ふふふ、みんなはオリオン座は知っているかね?」

 「オリオン座って言うと冬の星座ですよね?」

 「その通りだ緑谷くん。ではオリオンのベルト、もしくはオリオンの帯と呼ばれるものが英語ではなんというか知っているかね?」

 「もしやトライスターですか?」

 「正解だ飯田くん、しかし今の流れでは簡単すぎた問題だったな。ではここからは少し趣旨を変えて歴史の授業だ、だが君たちにとってはかなり刺激のある内容もあるから気を引き締めて聞きなさい」

 

 お父さんの言葉に自然と俺を含めた全員が姿勢を正す、その様子をバックミラーで確認したお父さんは全員が唐突な話でも覚悟を持って聞く姿勢に入った事に再びにやりと笑い。

 

 「よろしい、まずはヒーローの成り立ちに付いてだ。君たちは何処まで学校で習っているんだい?」

 「はい、超常黎明期に個性によって悪事がなされていた時、それを良しとしない人たちが個性を使い立ち向かった際の自警団がヒーローの原型になったと記憶しています」

 「ふむ、大体その辺りか・・・。ではその自警団・・・ヴィジランテに関しては何処まで知っているかね?」

 「えぇっと、今だとヴィランとほぼ同じように認識されてます」

 「そうだ、それであっている。だが自警団時代の・・・ヒーローとも呼ばれていない時代はとても過激でね、今ではヒーローは殺しはご法度だが昔ではそうではなかった」

 「えっ!?それってどういう?」

 「昔でも自警団の扱いは今とそこまで変わらないという事だよ、今で言うならばヴィラン同士が戦っている状況だ。何もかもが足りない時代、相手の事を考慮などしていられない時代だ」

 

 お父さんから語られる言葉には実際に見てきたかのような実感がある、まるで詳しい人から話を聞いたかのような言葉に重みがあった。その重みのせいか修羅場を一緒に潜り抜けた飯田くんや緑谷くんも固まってしまっている。

 

 「そんな状態であったが故に自警団たちは自らの手で人々を守らねばならなかった、何故かわかるかね?」

 「それ、は・・・自分たち以外が信用できなかったから?」

 「いい着眼点だ緑谷くん、しかしこれでは合格はあげられないな。・・・答えは後がないからだよ。今では増援が来るまで待てばいいが昔は増援なんてない、自分たちが倒れれば人々を守る者が居なくなるという極限状態だったのだ」

 「それ故に自警団は徐々に過激になっていた、守りたい者を守るために。世界で最初のヒーロー公認制度が決まった時何故7人しかプロヒーローに選ばれなかったと思う?答えは他の連中が過激過ぎたのだ」

 「7人しかいないプロヒーロー、手が足りない故に自警団は戦い続け、そして過激になった自警団はやがてヴィラン退治をこう言うようになった。───“狩り”と。・・・ここまでくれば会社が何故トライスターと言う名前かわかるのではないかね?」

 「・・・オリオン座のオリオンは偉大なる狩人の名、そしてその狩人が身に着けていた帯の名を冠した会社・・・。もしや」

 「恐らくは君の考えている通りだ常闇くん。そう、ここトライスターは元々は自警団を支える為のアイテムを作っていた民間人たちが集って出来た会社だ」

 

 会社の意外過ぎる成り立ちに言葉も出ない五人、しかしお父さんは気遣いの為か雰囲気を軽くするために。

 

 「と言っても今はもう昔の話だよ!今ではちゃーんと安心安全だよな?のホワイトな会社さ!」

 「・・・安心、安全、を、言い、切ろう、ね」

 「ハッハッハ!まぁともかく今の話で各々思う所はあるだろう。ヒーローとヴィランは表裏一体、だからこそキチンとルールを守って行動する様に!」

 「「「「はいっ!」」」」

 

 お父さんが良い感じで締めくくっている、その言葉にみんなも返事をする。だからこそ俺は言わねばいけない。

 

 「お父さん、それ、犬嗣、さんに、もう、言われた」

 「・・・マジ?」

 「マジ」

 「・・・あー・・・、おぉっと!もうそろそろ研究所に着くぞ!楽しみに待っているといい!!」

 「「「「(話を流した!!)」」」」

 

 流石にこれ以上掘り返すのは無粋なので流させる、しかしお父さんのフォローが上手く行ったのか車内は先ほどの話の雰囲気を引きずる事はなさそうだ。

 

 

~~~~~

 

 

 「さて、ここが今日君たちを案内する第三研究室だ!今日は運よく第三研究所の手が空いてな、話をしたら今話題のヒーローの卵たちの測定を快く引き受けてくれたのだ!」

 「研究室と言うか・・・」

 「運動施設じゃない?」

 「いや、まぁ・・・、最初は研究室だったんだよ。最初は」

 

 お父さんが何か言い訳しているが緑谷くんと麗日さんの言葉が正しいのでフォローはしない。確かに測定するために広いスペースが必要なのはわかるが、ここはぱっと見が三階はあるだろう体育館と多目的なグラウンド、ついでにプール付きだ。

 

 「獣狼から事前にみんなの個性を聞いているが・・・、なんと全員が計測方法がバラバラなので一旦解散になるぞ!まぁ一緒でも個々で分けるがな、個性を計測するという事はその人の知られたくない部分まで明かす事もある。その辺り人としてプライバシーはちゃんと守るぞ」

 

 お父さんの言葉で体育館から白衣を着た男性三人女性一人の計四人が歩いてくる。四人はお父さんの横に一列に並び自己紹介が始まる、と思いきや。

 

 「すまん、子供たちに話をする為に速度落としてきてちょっと時間がおしているんだ。自己紹介は道すがら頼むよ」

 「いや、まぁ遅れてるしそんなとこだと思いましたよ」

 「全くもう・・・それじゃあなたが麗日ちゃんね?私の後に付いて来て」

 「あ、緑谷くんはどの子だい?あっ君ね?君はこっちねー」

 「飯田くんってのは・・・君か、君は着替えてもらうからこっちだ」

 「残っている君が常闇くんだね?かなり特殊な個性と聞いている。きたまえ」

 

 四人は自分の担当する子を見つけるとそれぞれが準備のために移動を始める、それは良いのだが。

 

 「俺の、担当、は?」

 「私だが?」

 「・・・仕事は?」

 「お昼までは大丈夫だ、その後の案内人も決めてある。獣狼はこっちだ」

 

 何処までも用意周到なお父さんに少し呆れつつも後を追う、どうやら向かう先は麗日さんと常闇くんと同じ体育館のようで何を測定するのか聞いてみると。

 

 「前までは獣狼の身体能力を測ってばっかりだったからな、今回は特別な機械が使えるようになったから試しにと言う事だ」

 「特別、な、機械?」

 「あぁ、詳細は省くがもしかしたら精霊を視認出来るやもしれん」

 「おぉ・・・!みんなが、見える、ように?」

 〈我らが丸見えー?〉〈恥ずかしいー〉〈見ないでー〉

 「もしかしたら、だ。運が良かったら程度だぞ?」

 

 お父さんの言葉に精霊たちも面白がって騒ぎ出す、かく言う俺も期待に胸を躍らせていると体育館───詳細は違うがほぼ体育館なのでこう呼称する───の二階に上がり個性因子観測室と書かれた部屋に入る。部屋の中は中央で大きいガラスのはめ込まれ扉が取り付けられた壁で横に区切られており、俺たちの入ってきた手前側で観測しガラスの向こう側でデータを取ると言った形か?

 

 「ここは個性因子を観測する部屋だ、奥の壁一面に設置されている突起がそれだな。これならば個性で生み出された精霊と呼ばれるものも認識できるはずだ!」

 「おぉ、お父さん、が、頼も、しい」

 「ハッハッハ!普段からドンドン頼っていいんだぞ!」

 「・・・前向き、に、検討、する」

 「辛辣ゥ!お母さんに似てきたな獣狼!」

 

 などと言いつつも作業の手は止めないお父さん、準備が出来たのか壁の扉が開く。中に入れと言う事だろう、中に入ると部屋の中央に両足のマークがあるのでそこに立つ。

 

 『よし、良いぞ獣狼。そこで立ちつつ個性を使う、今回は精霊たちを体の外に出してくれれば観測できるはずだ』

 「うん、〈みんな、出てきて〉」

 〈久々に我らが認知されるー〉〈獣狼とお話は楽しいけれどー〉〈稀には他の誰かと話てみたいー〉

 「でも、それには、みんなの、声が、聞こえ、なきゃ、いけない、ね」

 『お?おぉぉぉぉ!?獣狼!今周りに三つ浮かんでいる反応があるぞ!もしやこれが精霊か!!』

 

 お父さんの声でガラスから様子を伺うと肉食獣が獲物を見つけたような凄まじい笑みを浮かべたお父さんが居た。これが子供に怖がられる原因かなぁ、そんな事を思いつつもお父さんの続きを待つと。

 

 『ん?んんん?しかし・・・、何やら反応が少し弱いな・・・。これがお母さんとの違いか・・・?』

 〈我らを見るのは百年早いー〉〈ふっふっふ若造めー〉〈出直してこいー〉

 「・・・ちなみに、声は、聞こえて、る?」

 『全く聞こえん!もしや何か喋っていたのか?』

 「・・・聞こえ、無いなら、いいかな」

 『むぅ・・・、気にはなるが仕方ない。次は身体強化をやってみてくれ』

 「はーい、じゃあ、みんな、行くよ」

 〈違和感なしー〉〈エネルギーよしー〉〈安全確認よしー〉

 「どこで、覚えて、くるの、そんな、知識・・・、ま、いっか。血壊

 

 片足を上げて指さしをする独特な(現場猫)ポーズをとって血壊の使用を許可してくれる精霊たち、一気に五感が広がる感覚に少し酔いそうになっているとお父さんが静かだ。

 

 「お父さん?どうした、の?」

 『ん!あぁいや、なんでもない。しかし凄まじい個性因子の活動を観測しているぞ』

 「奥の手、ですから」

 『全く・・・だがあまりこれを多用するなよ?お前にだって体の負担があるんだろう?』

 「そう、だね」

 『よし、これでデータは取れた。後は結果を楽しみに待っていると良いぞ』

 

 お父さんの言う通りあまり使うとエネルギーを使い果たしてしまうので解除する。そして扉からお父さんの居る部屋に向かうと何か考え込んでいるみたいなので話かける。

 

 「どうした、の?お腹、空いた?」

 「お腹が空いたのは獣狼だろう?いやなに、少し結果が出るのが遅れそうなのでな。家に着いてから渡してもいいか?」

 「別に、構わ、ない、けど、なにか、あったの?」

 「特殊過ぎてな・・・、中々に時間がかかるみたいだ。恐らく麗日くんや常闇くんも同じことになっているだろう、後で住所を聞いて郵便で送り届けねばな」

 「そういう、ものかー」

 「とりあえず結果は後にしよう、そろそろお昼の時間にもなるしな。みんなと合流だ」

 

 その言葉でお父さんの後を追い最初の場所に戻ると既にみんなが集まっていた、どうやら麗日さん担当の研究者が主体で話ているようだ。

 

 「それじゃさっき書いてもらったあなた達の住所に郵便で届けさせてもらうから、期待して待っててね」

 「「「「はいっ!」」」」

 「よろしい、それじゃあ遅れてきた統括室長も来たみたいだし。お昼ご飯の足に使っちゃってね」

 「ちょ!?それ酷くないか!?」

 「二連続で遅れてくる人に遠慮する必要はないでしょう?全く、どうでもいいところで変なドジするのが室長の悪いところですよ?」

 「うっ・・・、そこを突かれると痛いからやめて欲しいのだが・・・」

 「はいはい、ならさっさと子供たちの為に車を運転してくださいね」

 「うぅ・・・」

 「・・・なぁ、回精くん。いっつもあんな感じなん?」

 「・・・大体、は?やる時、は、しっかり、してる、よ?」

 「中々に、その・・・感情豊かなお父さんだな」

 「牙を抜かれた獅子か・・・」

 

 その後、お父さんの運転する車に乗り社員食堂に着いた俺たちは各々好きな食べ物を注文する。お父さん一押しのカレーライスを全員で注文し、トッピングでみんなの個性が出る形となった。俺はカツカレーにして福神漬けを入れ、お父さんはから揚げにらっきょう、緑谷くんは福神漬けオンリー、麗日さんは三種類ほどのチーズ、飯田くんは贅沢にハンバーグを、常闇くんは体作りの為か鳥のささ身を入れていた。

 

 「むっ!これは雄英高校の食堂にも負けず劣らず・・・!」

 「ほんまや!美味しい!」

 「ハッハッハ!そうだろう?何せ食堂にも力を入れているからな!腕利きを頑張って揃えたぞ!」

 「なるほど・・・これは美味だ。これと同等なら持参していたが食堂にも足を運びたくなったな・・・」

 「・・・そうなる、と、ヒーロー、と、兼任、してる、ランチ、ラッシュ、先生、って」

 「ほら!災害救助で大人数の料理を作るのに慣れてるんだよ!」

 「流石うわさに聞くランチラッシュ・・・」

 

 一体どんな噂だろうか、その手(食事)の話は泥沼になりそうだったので世間話に話題を変える。雄英の話だったり、俺のクラスでの立ち位置やちゃんと馴染めているかだったりと車内と変わってお父さんの質問が始まる。しかしみんなも本人の前でそういう話をするのはやめて欲しい。馴染めてるの部分で可愛がられてるとか答えないで、お父さんもまたかとか言わないで欲しい、ほらみんなが「あぁやっぱり」って顔してる!

 

 賑やかにお昼時間が過ぎていき、午後はアイテム作成所と問題のコスチューム製作所だ。




 はい、トライスターの名前の由来が出ましたが過去話は独自解釈です許してください。獣王がした話ですが、ちょっと過激なので教科書には乗らずに知っている人は知っている、アンケートを取れば三割位は知っている内容と言った感じです。

 イイ感じにタイピングが進み五千字行っちゃいましたね、この調子でバンバン書いていけたらいいですね。

 お昼ご飯のところは流石にこれ以上話を広げるのは俺の技量では厳しかったのです。


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第四十四話:食後の運動とろくでなし

 一万字突破したので二つに分けます。予定通りにいきませんでした・・・。


 お昼ご飯を終えて食休みを取っていると、お父さんはもう時間ないそうでみんなに軽くお別れをしてから移動に使った車はそのままなのでそこで待っていれば次の案内人が来てくれると言い残し、立ち去ったのが数分前で。

 

 「新しい案内人さんって誰なんやろ」

 「うーん、時間的にもそろそろだと思うんだけど・・・」

 「・・・あ、来た、みたい」

 

 駐車場で待っていると慌ただしく走ってくる足音が食堂の方から聞こえてくる、足音はどんどんこちらに向かってきており車の陰からその姿を現した。作業着を着て髪の毛を後ろに纏めた瓶底眼鏡の人がこちらに・・・って。

 

 「ニック、さん?」

 「ごめんッス!ちょっと遅れちゃったッスよ!」

 「ニック、さんが、次の、案内、人、なの?」

 「そうッスよ!みんなは初めましてッスね、自分の事はニックと呼んでくださいッス」

 

 如何にもTHE作業員と言う見た目の人物にみんなは驚いていたが自己紹介が始まった事で自分たちも名乗り始める、全員が名乗ったところで車のカギを開け急げと言わんばかりに。

 

 「申し訳ないッスけど、質問とかは移動の最中にお願いするッスよ。乗って乗って」

 

 その言葉に時間が押している事を思い出したのかすぐさま車に乗り込む、全員が乗り込んだ事でニックさんの運転により車はアイテム作成所に向かった。

 

 「ニックさん、質問良いですか?」

 「おっ、良いッスよ。自分に答えられる事なら何でも答えるッス」

 「ニックさんってその・・・、アイテム作成所の方なんですか?」

 「正解ッスよ。主に筋力が高い人向けのアイテムを作ってるッス、獣狼くんの万能扇子って言ったらわかりやすいッスか?」

 「え!?アレ作ったのニックさんなんですか!?」

 「そうッスよー、なんかこう・・・閃いたッ!っと思いついたッス」

 「ど、独特・・・ですね・・・」

 「気に、しないで、何時もの、事」

 「にしししし、自分で驚いてたらコスチューム製作所は大変ッスよ~」

 

 ニックさんの言葉で全員が黙ってしまう、しかしニックさんの言う通りコスチューム製作所は基本癖が強い人が多いので出来る限りそういった人たちに会わない事を祈るしかない。

 

 「おっ、見えてきたッスね。ここがアイテム作成所ッスよー」

 「なんか・・・、個性研究所と似てますね・・・」

 「あぁ、そりゃ元個性研究所ッスからね。丈夫だったんで改装して使い回しッス」

 「ニックさん、ここでは何を体験させてもらえるのですか?獣王さんはアイテムを使ってみたりオモチャで遊べると言っていましたが」

 「アイテムッスかぁ・・・、うーん・・・。今だとアレくらいッスかね・・・。オモチャに関しては準備オッケーッスよ、食後の運動がてら楽しんでくださいッス」

 

 アイテム製作所の前で車が止まる、ニックさんが自分たちでも使えるアイテムを取りに行くので今回使うアイテムの試験場の場所を聞いた他に着替えてくれと言われみんなを案内する。目的の場所に到着し扉を開ければ体育館程の広さと床には何かのエリアを示す緑色のライン、ライン内には大小様々な障害物がありアスレチックを彷彿とさせる。ラインの外にある壁沿いにある扉を指さし。

 

 「あそこ、が、更衣、室で、中に、ある、ものに、着替えて、くれ、だって」

 「えっ?着替えって何するの?」

 「多分、オモチャ、関係、だと、思う。自分に、合う、サイズを、選んで、って」

 「ニックさんが食後の運動とも言っていたしな、運動着を用意してくれてるのではないか?」

 

 女子と男子で別れ更衣室に入る、中にはサイズ別にいくつもの黒い体操服が並んでおりここから自分の体形に合ったものを選べと言う事だろう。

 着替えが終わり更衣室から出るとニックさんが落ち込んでいた。何があったのかと考えたところで隣から麗日さんも出てくる、丁度いいとみんなで話を聞くとアイテムの貸し出し許可が下りず落ち込んでいたとか。なんでも万が一でも危ない事はさせられないからオモチャだけで我慢してもらえ、と言う理由だった。

 

 「うぅ・・・、申し訳ないッス。折角楽しみにしてもらえてたのに・・・」

 「いえ!こうやって体験させてもらうだけでも楽しみですよ!」

 「それにプロヒーローを支える人たちの話も聞けています、それだけでも十分な価値があります」

 「そう言ってもらえると嬉しいッスね・・・、よし!あんま気にしても仕方ないッス!お遊びと洒落込むッスよ!」

 

 お遊びの説明が始まる、強化ガラスのゴーグルをつけこのエリアに放たれたドローンから一人で五分間個逃げ続けるという単純な物。しかし捕捉されるとBB弾でちょっと痛い程度に撃たれるので上手く避ける事、ただ遊ぶだけではつまらないので捕捉された時間が少ない人が一位と競技性まで出てきた。

 

 「あ、ちなみにッスけど獣狼くんは難易度上げるんでよろしくッス」

 「素の、力が、違う、から?」

 「それもあるし前に一回テストしたじゃないッスか、ちなみに今回のコレは大型遊戯場にも設置される予定ッスから気に入ったらそっちを利用してくれると嬉しいッス。手始めに獣狼くん、お手本の為にやるッスよ」

 「難易度、は?」

 「みんなに試してもらう難易度よりちょっと低いッスね、お手本なんでかるーくやって欲しいッス」

 「はーい」

 

 ゴーグルを装着しラインの中に入る、このゲームは開始地点は決まってないのでみんなから見えやすい位置で止まるとスピーカー越しにニックさんのカウントダウンが始まる。

 

 『3、2、1、スタート!!』

 『システム、キドウ、サクテキ、カイシ』

 

 スタートと共にドローンが一機、天井付近にある格納スペースから発進しエリア内に降下してくる。このままではすぐさま見つかってしまうので素早くドローンが降りてくる場所から離れるか、ドローンの死角に入りやり過ごすかを選択しなければならない。今回は近いわけではないので素早く離れる事にする、ドローンは一定の高さにまで降りてくるとそこからランダムに移動を始める。

 

 『獣狼くん、しばらくは普通に逃げて欲しいッス』

 「大体、普通の、人、くらい?」

 『そういう事ッスね』

 

 障害物から顔を出しドローンの位置を確認しつつこちらに向いていない間に死角から死角へ移動し逃げ回る。それをしばらくやっていると。

 

 『んじゃ獣狼くん、一回見つかっちゃって逃げてくださいッス』

 「しばらく、引きつけ、て?」

 『にしししし、物分かりの良い人は好きッスよ。後でランダム飴ちゃんを上げるッス』

 

 ランダム飴かぁ・・・、変な味に当たらなきゃいいけど。そんな事を思いつつもドローンにわざと見つかりに行く、するとドローンが高度を落とし赤いライトでこちらを照らしながら今回の難易度では個性未使用の高校生が走るくらいの速さで追跡を始める。

 

 『モクヒョウ、ホソク、シャゲキ、カイシ』

 

 モーター音と共にライトが段々と早く明滅していき、明滅がピークに達した時に低速でBB弾が発射されるので右に左に時には障害物を駆使しつつBB弾を避ける。しばらく避けてもう平気かなとドローンよりちょっと速度を出して障害物を使い二回三回と曲がって行きドローンの追跡をまく。

 

 ドローンはしばらく辺り一帯を探すので手早く移動するが一回探しているドローンがこちらを向いている間に移動する。すると素早くこちらを確認しに来るのでまた死角へと隠れる。

 

 『にししし、察しの良い人も自分は好きッスね。ランダム飴ちゃんから好きな味の飴ちゃんに昇格ッスよ。これで説明は終わったんで終了ッス、戻ってきていいッスよ』

 「じゃあ、りんご、味の、飴で」

 『了解ッス、みんなも飴ちゃんいるッスか?』

 『システム、シュウリョウ』

 

 ドローンが戻っていくのでみんなのところに向かう、みんなも飴を貰ったようだが表情からしてハズレは引いていないらしい。ニックさんからりんご味の飴を受け取り包装紙をはがし口に入れる、この飴はニックさんの手作りなので市販の飴とは違い甘味料の味も少ない。

 

 「んじゃ、やり方も分かったところで早速遊んでみるッスよ。誰からやりたいッスか?」

 「まずは俺からやってみてもいいだろうか?」

 「飯田くん?うちは大丈夫やけど」

 「僕ももうちょっと見てみたいから良いよ」

 「俺も問題ない、一番手はお前に譲ろう」

 「いいよ、俺は、寧ろ、最後に、やる、つもり、だし」

 「んじゃあ決まったッスね、ゴーグル付けて中に入るッスよ」

 

 そうして飯田くんから始まったゲーム大会、飯田くんは堅実な動きでドローンから逃げるも壁から覗いた瞬間にドローンに何度か見つかったが素の脚力もよくすぐさま逃げ切り時間としては中々いいタイムではないだろうか。

 

 次の緑谷くんはなんとドローンの動きを予想し逃げ続けていた、見つかった回数は飯田くんよりも少なかったもののBB弾が当たり逃げ切るのに時間がかかり、飯田くんよりタイムが多くなってしまっていた。

 

 麗日さんは飯田くんと同じく堅実に動くが体格の違いが出たのだろう、こちらはBB弾を避けられたが逃げ切るのに時間がかかってしまい緑谷くんよりタイムが多い

 

 常闇くんは緑谷くんと飯田くんの両方を採用したようで、冷静に追い詰められないように立ち回り見つかっても見事に逃げ切っていた、現在タイムは一番少ない。

 

 そして俺の番だが、現在進行形でドローンに()()()()()()()()()。確かに難易度上がると言ったがここまで上がるか普通!?今現在俺を追いかけているのはドローンの静穏性を追求し音の出にくいハイパワーモーターを採用、各部プロペラをフレキシブルに向きを変える事で従来のドローンより圧倒的なスピードを誇る対高機動ヴィラン追跡用ドローンの実証機に追いかけられている。

 

 『にしししし!!過去に獣狼くんにアッサリとノーアラート(未発見)クリアされた恨みで作られた特別性ッスよ!』

 「さっきと、説明、が、違う!!」

 『そうッスね!上にはそう言ってるだけで本命はこっちッスよ!!』

 「また、そんな、事を!!」

 

 ライトの明滅が無くなり連続で発射されるBB弾、障害物を曲がり避けつつも更に速度を上げて一歩を進みまた曲がる。静穏性が高められているが僅かなモーター音からまだ追いかけてくると判断、距離を取りつつジグザグに曲がり移動。やっと逃げ切れたと開始十数秒で安堵する事になるが。

 

 『モクヒョウ、ロスト、サーマルスキャン、カイシ』

 「大人げ、ねぇ!!」

 『あーはっはっはっは!勝てば官軍ッス!!』

 

 その後も熱探知から音探知に振動探知も行われては見つかり、BB弾は当たらなかったものの見つかっていなかった時間がドローンから逃げて移動している間だけとなり、タイムとしては一番多い結果になった。とりあえずニックさんと言えどドヤ顔が腹立つのでこの会社の中でも良心的な偉い人に報告する(チクる)事にもした




 鉄扇の製作者のニックです、ちなみにニックはあだ名で本名はちゃんとありますが、面倒なのであだ名で良いやと言う人です。

 サポートアイテムを最初は体験してもらおうかな、と思っていたのですがぶっちゃけサポートアイテムってどれもこれも使い方間違えれば危ないものじゃない?と思ったら貸し出すかな?と言う疑問になってしまい・・・。


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第四十五話:衣装を身に纏い楽しんで

 二連続投降の後の方です、まだの方は一話前からどうぞ。


 そして現在、私服に着替えニックさんの運転する車でとうとうコスチューム製作所に向かってしまっている。あそこは最初の遭遇で全てが決まると言っても過言ではないので、出来る限りのお祈りは済ませておく。

 

 「・・・なんか、回精くんがめっちゃ祈ってるんやけど・・・」

 「それだけ魔境って事ッスよ、みんなも祈っといた方が良いッスね。変な人に当たりませんようにって」

 「「「「(どんな魔境だそれ!?)」」」」

 

 そんなやり取りをしている中、立地が近い事もありすぐさま到着してしまう。これから決戦を行う意気込みで車から降りるがその雰囲気を察したのか他四人が若干引いていたが、今は気にならない。ニックさんが誰か呼びに行ってしまっているからだ。

 

 「・・・回精くん、そんなにここって・・・その、ヤバいの?」

 「・・・最悪、女装、させられ、る・・・」

 「「「・・・」」」

 「あ。あはははは・・・」

 「女子は、その、時々、の、恥ずか、しい、コスプレ。前だけ、隠す、とか」

 「・・・」

 「「「「魔境か!?」」」」

 「魔境、だよ!」

 

 いや多分だが俺より他四人に強制力は無いので俺が被害にあうだけだろうが、この気持ちは共有しておいてほしい。全員が表情を硬くし入口を見つめていると足音がする、この軽やかなステップで広い歩幅・・・間違いない!

 

 扉から出てきたのはニックさんとこの中で一番身長の高い飯田くんよりも背の高く、クラスで一番体格の良い砂藤くんよりも筋肉質な男性。しかし服装は女性用スーツを着込み色々とパツパツだ。整った彫の深い顔に金髪の角刈りの髪型が余計に視覚のインパクトを増している。

 

 「あら!いい逸材が揃ってるじゃない!ようこそコスチューム製作所へ!歓迎するわよ」

 「「「「(なんかインパクトすげぇ!?)」」」」

 「天野、さん、今日、男子が、多いし、男の、人に、なって、もらって、良いです、か?」

 「あらそう?まぁ確かに大人の魅力は青少年には毒ね」

 

 俺の発言に四人から何言ってんだという視線と天野さんの発言で主に男子三人から凄まじい形容しがたき意志を感じられる。だがそれも天野さんの肉体が変形し始めた事により四人の視線は天野さんに釘付けにされていたので、救世主である天野さんを紹介する。

 

 「この人、は、ここでは、大、当たり。天野(あまの)(じゃく)、さん。個性は、性、反転。性別、と、性格、が、反転、する、良い人」

 「大当たりたぁ言ってくれるじゃねぇか獣狼よぉ、まぁ他の連中が大外れなだけだがな。と言う訳でよろしく頼むぜお前ら」

 「おっ、女の人になっとる・・・」

 「あ?どっからどう見たって男だろ何言ってんだ嬢ちゃん?」

 「・・・性格、は、男、だから、気を、付けて」

 「性反転ってもしかして・・・性別と反対の性格になるって事?」

 「うん、だから、さっきは、女性、今は、男性、として、接して、あげて」

 「そしてデメリットは性別の認識が性格基準って事?」

 「そそ、だから、気を、付けてね」

 「ん?何コソコソしてんだ?さっさと行くぞ」

 

 そう言い先頭を歩く先ほどと身長が変わらない長髪の女性、先ほどとは変わって女性用スーツが良く似合っているが口に出すと酷い目に合うので気を付ける。全員で後を付いて行っていると前を向いたまま天野さんが話し出す。

 

 「んでだ、わりぃがお前らに色々着てもらうがそこはいいか?」

 「何を着る事になるんですか?」

 「んな硬くなるなって、バカ共みてぇな事はしねぇよ。ただまぁ世界各国の伝統的な衣装とかだって、これなら抵抗もねぇだろ?」

 「それは・・・そうですね、ありがとうございます」

 

 他のみんなも伝統衣装ならばと寧ろ好意的に受け止めてくれる。だが天野さんから続く言葉で俺のテンションが一気に落ちる。

 

 「ただ獣狼、悪いがてめぇは庇いきれなかった。何時もより数は少ないから我慢しろ」

 「・・・はーい・・・」

 「そう落ち込むなって、なんだったら女になって抱きしめてやろうか?」

 「いえ、だいじょぶ、です、気に、しない、で、ください」

 

 そうか?と言い話を切ってくれるが冗談ではない、他四人も今の発言がどういう意味なのか理解できたために戦慄している。しかし問題は()()()()()()()()()()()()()()()ので死活問題であることだ、コスチューム製作所の全員は確実にこれで意識を刈り取られている経験がある。ちなみにどっかの同性愛者達のお陰で男性は男性体、女性は女性体で絞められる。

 

 「んじゃまぁ、ここが男用の更衣室でこっちが女用だ。衣装も好きに着てくると良い、そんでもってこっちが獣狼用だ。諦めろ」

 「まぁ・・・、そう言う、約束、ですし・・・」

 「そういうこった、写真はこっちで取るがニックはどうすんだ?」

 「自分ッスか?てきとーに休憩室で寝てるんで終わったら起こしてほしいッス」

 「あいよ、それじゃ各自好きに着替えな。中には着るのに他人の手助けが居るだろうから手伝ってやれ」

 「あの、うちは誰に手伝ってもらえばいいんですか・・・?」

 「そん時は俺が女になって手伝ってやるよ」

 「・・・お願いします」

 

 その言葉に何とも言えない表情になったが、他には男性しかいない為精神が女性ならいいと妥協したようだ。そして各々が更衣室に入る、俺も覚悟を決めて更衣室に入ると今回は数少なく三着で終わりそうだが・・・。

 

 一つは中華系の服でとても動きやすそうな服だが一体・・・?もう一つは犬系列の鼻先から背中まである毛皮風の人口毛に革で出来た西洋風の胸当てと質素なズボン、蛮族風なのだろう。そして目を逸らしたい最後の一着は白、真っ白に至る所にフリフリがつけられた所謂ゴスロリ服と言われる物であろう、厳密には違うのだろうけど。

 

 とりあえず嫌な物からさっさと終わらせようとゴスロリ服に着替える、前に一度近しいものを着たこともあるのでチャチャっと着替え、撮影室に入ると天野さんだけだったので誰か来る前に言われた通りのポーズを取りつつさっさと終わらせる。ゴスロリと言う事なのでアレなポーズも無く付属品の傘と一緒に撮影されるだけで済んだ。

 

 さぁ撮影が終わり急いで戻れば見つからないと思ったところで撮影室の扉がガチャリと動くのを捉える。

 ───不味いもう来た───扉が開き始める。

 ───身を隠す物は───扉の向こうからみんなの談笑する声が聞こえる。

 ───傘!!───一瞬の判断で傘を開きみんなからの視線を遮る。

 

 「・・・白いフリフリの・・・傘?」

 「まさか・・・回精くんか?」

 「みんな、似合って、るよ。早く、撮影、すれば?」

 「回精・・・流石に視線を遮りながらそれは苦しいぞ・・・」

 「ほらほら、お前らさっさとどいてやんな。女装ってのは何度やってもなれねぇもんなんだよ」

 

 天野さんの一言で空気が変な事になる、それを自分の言葉が伝わったと感じたのかドヤ顔する天野さん。美人ってのはどんな顔でも綺麗で済まされていいなー、とか変な事を思いつつも傘でみんなから身を隠しつつも出入り口に近づく。みんなも扉から離れてくれたのでさっさと扉から出るが。

 

 「あっ」

 「え?今の音って・・・」

 「・・・傘から尻尾・・・?」

 

 扉に傘が引っかかりまさかの持ち手が取れて落としてしまい、見つかりそうになったが咄嗟に伏せる事で難を逃れた。そのまま傘を回収後斜めにして扉を通しさっさと自分の更衣室に戻っていった。

 

 

─────

 

 

 「・・・一瞬見えたけど、真っ白やったね・・・」

 「ゴスロリと言う奴なのだろう、回精くんも苦労しているな・・・」

 「あぁ、流石にあのような服を着る事に俺は耐えられそうにない」

 「でも後ろ姿だけやったけどスッゴイ似合ってたなぁ」

 「・・・お前ら、あんま言ってやんなよ」

 「あ、あはははは・・・」

 

 

─────

 

 

 とりあえず一番の何は去ったのでその後は気楽に着替えようと、次は中華系の服を着る事にした。よく中国の格闘映画で見るようなチャンパオと言うものらしい、模様も特になく白と黒で出来ているので試作段階なのだろう。特に難なく着替え終わり撮影室に向かう途中でみんなとすれ違う。

 

 麗日さんは聞くとスカートがとても長い中国の唐装漢服と言うものを現代風にしたもので、青とピンクがとても爽やかな印象を持たせる。飯田くんはちょっと早めの浴衣で黒がメインで白と青で模様付けされ場所が場所なら風流でとても映える事だろう。常闇くんは意外にもメキシコ系の伝統衣装を着ていた、しかし以外にもマッチしており違和感がない。緑谷くんは伝統衣装ではなく一昔前の英国紳士風な衣装だ、手に持ったステッキと頭にかぶったシルクハットで若干手品師を思わせるが・・・問題ないだろう。

 

 「回精くんも中華系の服なんやね」

 「うん、でも、多分、これ、試作、品」

 「コスチュームの?なんでそんなものが?」

 「さぁ・・・?天野、さんに、聞けば、わかる、かも」

 「回精くんは後何着着るんだ?それに合わせて着る物を絞りたい」

 「これ、含め、二着、だね」

 「このペースならば俺たちは後一着辺りが限度か、慎重に選ぶ必要がありそうだ」

 「そっかぁ、色々着てみたかったんやけどまぁ仕方ないよね」

 

 残念がるみんなと別れ撮影室に向かう、撮影室では天野さんがスタンバイしており何時でも撮影が出来そうであったので撮影しつつも聞いてみる事にした。

 

 「あぁそれか?お前のコスチューム案が中華系か和風かの二択になってよ、没案の一つだ」

 「・・・これが、良かった・・・」

 「諦めな、それがここの連中だってお前は身に染みてるだろ?」

 「・・・うん」

 「次はこのポーズな・・・よし良いぞ」

 

 天野さんの横にある画面通りのポーズを取り撮影される、戦闘用の服だからか構えを取ったり攻撃モーションの様なポーズが多い。撮影が終わると今回はみんなとはすれ違わずに最後の蛮族の衣装を着る、しかしよくこんなのを作ったなと頭の上にかぶった本物そっくりの犬・・・狼か?の頭を触るとこちらも違和感が少ない、人工物の臭いがしなければわからなかっただろう。

 

 模造品の大きな両手斧を持ち撮影室に向かえばみんなが撮影していた、しかし俺みたいに言われたポーズを取ったりとかではなく各々が好きにポーズをして集合写真の様な気やすさで撮影している。

 

 麗日さんは真っ白なアオザイを着ているが自らのコスチュームの影響かあまり気にせずに緑谷くんの隣で一緒に撮影している。飯田くんは明治辺りの学生服を着ているが勤勉そうな印象が強い。常闇くんはまさかの忍者だった、しかし本人はノリノリで忍者っぽいポーズをしている。緑谷くんは俺のチャンパオに影響されたのか男性用の青いアオザイを着ていた為に麗日さんとペアの様な雰囲気になっていたのが微笑ましい。

 

 「あっ!回精くんも一緒にどう?」

 「おっ、それでラストだな。ついでに撮っちまえば文句はでねぇだろ、やるぞー」

 「・・・それじゃ、お言葉、に、甘えて」

 

 常闇くんと飯田くんの間でポーズをする、しかし構図が明治の学生を襲う蛮族でハチャメチャなのだがそれもまた面白いので良しとしよう。しかしそうなると乗ってくるのがA組の特徴だ、アオザイペアと学生を守る忍者とそれを襲う蛮族。謎過ぎる事態に発展していき天野さんも笑いながら撮影する。あまりに楽しかった為にみんなで延長してしまい最終的にはアクション舞台染みた事になっていたが、それでも天野さんはオッケーを出してくれたので良いだろう。

 

 「いやぁーノリが良いなお前ら、お陰で面白いもんが撮れたぜ」

 「いえ、こちらも楽しませていただきました」

 「そりゃよかったよ、写真はすぐ出来っから待ってろ」

 「いやぁ・・・楽しかったね!本音はもうちょっと着てみたかったけど時間も時間だしね」

 

 そう言って時計を確認すれば帰るころには暗くなる時間になっていた、流石にこれ以上は不味いだろう。

 

 「どうなるんだろうって思ってたけど、楽しく終わったね」

 「だな、途中の着ぐるみチャンバラは中々良い勝負だった」

 「あぁ、撮影と言う場面でなければダークシャドウも出演させたかったのだがな」

 「撮影中だと明るいからね・・・、僕はみんなでSFごっこが楽しかったよ」

 「あ!それもよかった!」

 

 みんなはどうやら満足してくれたようで自分たちの印象に残ったシーンをみんなで語っている。みんなを誘ってよかったと思っていると天野さんが戻ってきた。

 

 「おうお前ら、人数分出来たからやるよ」

 「ありがとうございます、しかしただでよろしいのですか?」

 「いいんだよ、どうせこの写真使ってバカ野郎共が楽しむんだからな。その謝罪も込みだ」

 「・・・ならば有難く受け取ります」

 「そうしとけって、良い時間だしニックも起こさねぇとな」

 

 そう言うと休憩スペースに全員で向かう、天野さんはソファーを贅沢に使い寝ているニックさんを起こそうとするも中々起きないので仕方なくソファーから蹴り落した。流石のニックさんもこれには驚き。

 

 「な、なんッスか!?地震ッスか!?・・・ってあれ?皆さんお揃いッスね」

 「やぁっと起きたか寝坊助、さっさとこいつ等駅まで送ってけ」

 「え?もうそんな時間なんッスね・・・、それじゃあ皆さん準備するッスよー」

 

 蹴り落した天野さんにか、それを全く気にしていないニックさんにかはわからないが苦笑する四人。流石に慣れてきたようで驚きはしないみたいで車に向かうニックさんたちの後を付いていく。

 

 「今日はありがとうございました!」

 「とっても楽しかったです!」

 「今日は良い勉強になりました、ありがとうございます」

 「お世話になりました」

 「おう!じゃあなお前ら!機会がありゃまた遊びに来いよ!」

 「「「「はいっ!!」」」」

 「そんじゃみんなは乗ったッスね?駅まで送り届けるッスよー」

 

 別れの挨拶も済ませ、天野さんを残しみんなが車に乗るとニックさんの言葉と共に車は出口に向かい走り出す、夕焼けで赤く染まる空を眺めているとニックさんの笑い声が聞こえてくる。

 

 「にしししし、英雄の卵と言えどやっぱりまだ子供ッスね。みんなお眠りッスよ」

 「そりゃね、みんなは、まだ、高校、生、だよ?」

 「自分の隣には子供らしくない子供が居るッスよ、もっと可愛げを見せても罰は当たらないと思うッス」

 「・・・遠慮、しとく」

 「全く、気難しい子供ッスね。もっと気楽に考えていいと思うんッスけど?」

 「それじゃ、気楽に、おやすみ」

 「・・・そこで寝るんッスか・・・」

 

 当たり前でしょ、こっちだってみんなが楽しんでいるか割と気を張ってたんだから。入館証は既に回収してニックさんに渡してあるし、駅までの短い道のりだけどまぁ少しでも寝れるだけ良いかなと眠りについた。

 

 次に目を覚ませばみんなの集合場所だった駅で、みんなも次々に目を覚ますとニックさんにお礼を言って車を降りる。ニックさんも一言二言告げてみんなとお別れをし、全員が降りた事を確認し車で会社に戻っていった。

 

 「いやぁ・・・良い一日だったな」

 「せやねぇ、楽しかったな」

 「うん、写真とかも貰っちゃったしね」

 「だな、いい思い出になるだろう」

 「だね。・・・そろそろ、時間、じゃない?」

 

 時間を確認すれば三人が慌てて移動を始める、どうやらこれを逃すと次が長いようだ。

 

 「それじゃ!二人ともまた月曜日に!」

 「じゃあね!常闇くん、回精くん!」

 「二人ともバイバイ!」

 「バイバイ」

 「あぁ、また月曜日に」

 「・・・行ったか、では俺もそろそろ電車の時間なのでな。失礼させてもらう」

 「うん、また、月曜、に」

 「さらばだ回精、月曜日にな」

 

 常闇くんも改札口へと歩き出す、俺はそれを見送り何とか無事に終わったと安堵しつつ帰り電車に乗るために別の改札口へ歩き出したところでスマホに着信が来た。確認してみれば麗日さんで内容は「ゴスロリ似あっとるよ!」・・・?っ!?嫌な予感がし天野さんから受け取った写真を急いで確認すれば最初の方に俺が撮影したゴスロリの写真が混ざっていた。恐らく天野さんが適当に印刷して入れてしまったのだろうが・・・。とりあえず返信「出来れば忘れて欲しい」。ただまぁ忘れられないだろうなぁ、と気落ちしつつも被害は最小限だと諦めるしかない。先ほどより少しばかり重くなった足で帰宅を始めた。




 という訳でオリジナル展開も終わり、次は期末試験ですよ!

 ・・・なんか、スッゴイ時間がかかった気がする・・・。


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第四十六話:期末試験と宣戦布告

 という訳で原作に戻ってきました、長かったような短かったような。

 三千字じゃ何か足りない気がする・・・、もっと書こう!四千突破ヨシ!!段々と毒されている様な気がしますが気のせいでしょう。


 天野さんの大雑把さによりあの時の四人には口止めをお願いしてから、更に時が経ち今は七月の前半。授業が終わり相澤先生の有難い期末試験のお話で勉強と実技があるという事を再確認され、相澤先生の退室と同時に芦戸さんと上鳴くんが叫びが聞こえる。

 

 周りも一気に期末試験の話題となり、中間で成績が良くなかった人たちが慌てたり逆に成績の良かった人たちは余裕の表情だが、中間一位の八百万さんは実技の事で何故か落ち込みどんよりしていた。しかし八百万さんが勉強の苦手な人たちに教えを乞われた事で一気に回復し、目を輝かせながら張り切っている姿は可愛らしい。

 

 俺も期末試験対策で中間と同じで妖目の家で勉強会かなー、なんて思っているとスマホが振動し着信を知らせる。内容を確認すれば妖目からで「今回勉強会はクラスの連中とやるから無し」との連絡、まぁ一人でも出来ない事は無いし良いかなぁ。

 

 更に時が経ちお昼休み、今日はいつもの三人に加え俺に梅雨ちゃんと葉隠さん、轟くんを加えた七人と言う大所帯。みんなで実技の事を相澤先生の発言から色々考察していると久々に感じる面倒な気配、体育祭で懲りないのかと構える。

 

 「いてっ!B組の!えーっと、物間くん!」

 「あぁごめん、頭大きいから当たってしまったよ」

 「君ら、職場体験でヒーロー殺しに遭遇したんだろう?体育祭に続いて注目集めるよねぇ?」

 「でも君らの注目って悪い意味だよね?厄介事を呼び込む疫病神的な!」

 「怖いなぁ!何時か君たちの呼び込む厄介事で僕たちも被害を受けそうで!疫病神に祟られたみたいにぃ!あぁこわッ」

 「物間シャレにならん!飯田の件知らないのか?」

 

 確か体育祭の拳藤さんか?彼女が面倒な奴(物間くん)を殴って止め、謝罪と共に実技の内容が対ロボット戦だと明かしてくれる。情報源は上級生らしく緑谷くんがぶつぶつと一人考察を始めてしまった。途中で目を覚ましたのか拳藤さんにA組を出し抜くチャンスと文句を言うもまたも殴って止める。

 

 「憎くはないっつーの、お前もそろそろ学びなよ。ホントゴメン、だからそろそろ()()を解いてくれないか?幾ら本当にやるつもりは無くても回精の本気を知ってる分ひやひやしてるんだ」

 「え?うわっ!?回精くん、目が・・・それに赤い模様も・・・」

 「・・・次は、無い。そして、吐いた、唾は、飲め、無いぞ」

 「・・・そうだな、次はもっと早く止めるよ」

 

 それなら良いんだけどな。その言葉は口に出さず腕を見れば血壊が勝手に発動したのか、赤い模様が手の平まで広がっているので自分の意思で血壊の発動を抑える。模様は末端から徐々に消えていき鏡は無いが目も元の色に戻り顔の模様も消えただろう、ため息と共にお昼を再び食べようと顔を上げればみんなの視線がこちらに釘付けになっていたのでちょっとビックリした。

 

 「え、っと・・・、何か、御用、で・・・?」

 「あっ、えっとね?回精くんの必殺技を始めて間近で見てちょっと綺麗だなーって・・・」

 「そうね、綺麗で何処か神秘的だったわ。精霊と言うのも頷けるわね」

 「あぅっ、えと、ありが、と・・・」

 「回精、お前照れてるのか?」

 「その・・・、あまり、見せな、かった、から、褒められ、慣れて、無い」

 「そうか、だが慣れておいた方がいいんじゃねぇか?お前の見た目は可愛らしいんだからよ」

 「・・・善処、します」

 

 轟くんの言葉は最もなので前向きに考えなきゃな・・・。食事を続けながらも葉隠さんから可愛いものを見る様な視線を感じる。しかし表情も目線も分からないので確証はない、透明人間ってこういう時ズルいなぁ。

 

 授業も全て終わり放課後になると食堂に居た七人を伝手に演習内容がクラス内で共有される、その事に個性の加減が苦手な人たちが、対人戦闘ではない事に喜んでいると何時もよりピリピリした爆豪くんに怒鳴られていた。

 

 加減繋がりで最近個性を制御できるようになった緑谷くんに矛先が向き、完膚なきまでに差をつけてぶち殺す(お前を負かす)と宣戦布告されていた。体育祭での決着をつける為か轟くんにも矛先が向いた後、言いたいことは済ませたのかさっさと帰宅する爆豪くん。

 

 「くくくく・・・。宣戦、布告、されたね」

 「あぁ・・・。だが今回はちゃんと左も使う、遅れは取らねぇ」

 「ガンバ、俺は、もう、眼中、に、無い、見たい、だし」

 「・・・回精はそれでいいのか?」

 「んー・・・、まぁ、一度、越えた、だけで、眼中、に、無いのを、彼風、に言う、なら」

 「足元、すくわれ、ちゃうぞ」

 「・・・結構、負けず嫌いなんだな」

 「まぁね、体育、祭で、知れた、んだよ?制限、ありとは、言え、負けたし。だから、上の、人には、挑戦、しなきゃね?」

 「なら、結果的にとは言え二位だった俺もお前に足元をすくわれねぇように半端な結果は残せねぇな」

 

 轟くんの言葉に喉を鳴らす様な笑いが出る、もしも実技が聞いた通りならわかりやすく勝敗が決まるであろう。体育祭の後は特にそういった比較するような授業も無かったし丁度いい機会だと言う事だ。二人には悪いけど俺も挑みたくなったという事で許してほしい。伝えたい事も伝えられたので荷物を持ち帰宅する、まずは筆記試験対策だ。

 

 

~~~~~

 

 

 筆記試験一日目、全員が黙々とやっているんだろうなー、と一人()()()()()()()で筆記試験を受けていた。仕方ないよね、やろうと思えば擦れる音で何を書いているか判断できそうだし、実際テストの点が色々影響してくる中学でもう既に隔離されていたのだから。そうなると俺の為に時間を割いてくれている根津校長には頭が上がらないが、本人も「この時期は暇だし、生徒が先生を気遣う必要はないよ!」と言ってくれたので気にする事もやめた。

 

 「はい!それじゃあ筆記用具を置いて答案を持って来てちょ!」

 「ありがとう、ございました」

 「うん!二日目と三日目も僕が担当するからよろしく頼むよ!」

 「はい、それじゃ、帰り、ます。さようなら、根津、校長」

 「さようなら回精くん!元気でね!」

 

 手を振ってくれる根津校長に軽く手を振り返して退室する、この部屋は玄関に近いからすぐ帰れるのが利点だな、と変な事を思いつつも次の試験に向けて勉強をする為に帰宅した。

 

 筆記試験二日目と三日目も宣言通りに根津校長が監督役を行ってくれた。この三日間は特に問題もなく試験も自己採点では中々良い点数で終わった為にA組で筆記お終いパーティーとかやらないかな、と思って帰ろうとすると。

 

 「あぁ、待ってくれ回精くん。ちょっとお話をしようじゃないか」

 「?良いです、けど、何か、あり、ました?」

 「色々あったからね、後回しにしちゃってついつい忘れてたんだよね!ごめんよ」

 「後、回し・・・?」

 「オールマイトの事さ」

 

 そういえばあった、体育祭で緑谷くんのお見舞いに行った時に。リカバリーガール先生に誰にも言わない事を伝えてから何も接触が無かった為についうっかり忘れてしまっていた。

 

 「その反応だと君も忘れちゃってたんだね?そこを責める気はないから安心しておくれ」

 「それで、俺は、どう、すれば?」

 「んー・・・ぶっちゃけ君たちの血族なら悪用することは無いだろうし、そのまま黙って居てくれればいいよ?」

 

 ・・・驚いた、何かこう誓約書で口外しませんとか書くと思っていたからだ。

 

 「まぁ、そう言う顔にもなるよね。でも僕と君のお父さんって実はお友達なのさ!だから君が悪い子じゃないっていうのもよく知っている。故に口約束でもちゃーんと守ってくれるだろう?」

 「・・・ですね、言い、ふらす、気は、ありま、せん。ですが」

 「ん?何かな?」

 「血族、って、どういう・・・?」

 

 俺の言葉が驚きだったのか固まる根津校長、その後ぎこちない動きで再起動した後。

 

 「・・・もしかして、お父さんから聞いてない?」

 「・・・その、はい・・・」

 「全くもう・・・。簡単に言っちゃえば君たちの一族は信用できる一族って事さ、詳しくはお父さんに聞くんだよ?」

 「・・・はい、気に、なったら、お父さん、を、縛って、でも、聞きだし、ます」

 「HAHAHAHA!!そういう所は君のお母さんそっくりだね!!とまぁ、僕からのお話はこれだけだよ、残りの実技試験も頑張ってね!」

 「はい、さようなら、根津、校長」

 「はい!さようなら!」

 

 この三日間で見慣れたやり取り、お互いさようならと手を振って俺が退出する。一族って事はお正月とかに集まる人たちの事も示しているのかな?と言う事はやっぱり元々は有名なお家だったとか?色々考えるも今の俺に関係あるのか?と思うと実技もあるし後で良いかな、と言う結論に至ってしまう。だがお父さん宛てのメールに「血族って何?」と下書き保存しA組によってから帰る事にした。ちなみに実技も終わってから試験お終いパーティーを軽くやると聞いて少しがっかりしたが誰にもばれて居ないようで助かった。

 

 

~~~~~

 

 

 そして実技当日、実技試験会場にコスチュームを着て全員が集まっている。ロボとの戦闘にしては随分プロヒーローが多いなと思っていると、相澤先生が喋りだしたのでそちらに意識を集中させる。

 

 緑谷くんの考察通り、先輩方から話を聞くのも織り込み済みのようで上鳴くんが試験の内容を口に出すと相澤先生の首に巻いた捕縛布の束から根津校長が表れ上鳴くんの内容を否定した。より実践に近い試験・・・つまりここに居るプロヒーロー(教師)対生徒のペアで戦闘訓練を行う事、ペアと対戦する教師に関しては独断で決められ組み合わせが発表される中、緑谷くんと爆豪くんペアの紹介でオールマイトが対戦相手として降ってきた。そして降ってきたからこそ教師たちの横に誰かが()()()使()()()()()()()()事に気づけた。

 

 一部の生徒がまさかのオールマイトの登場に唖然とするが、俺はそれどころではない。教師たちの横にいるという事はその誰かは教師の一人なのだろうが、俺の個性を察知する能力を誤魔化していた事に驚きを隠せない。根津校長の言葉でペアと対戦教師の組み合わせが一気に発表されていくが、十戦目になっても俺の名前が出てこない。しかしそれよりも俺は虚空にしか見えない()()が気になりその一点を見つめていた。

 

 「そして十一戦目だが、回精 ()()くん。君には一人で戦ってもらうよ」

 「なっ!?一人でですか!?体育祭で三位となったとはいえ教師相手にそれは厳しいものがあると思います!」

 「安心しろ、今回の為に俺達みたいなバリバリの現役ではなく後方支援用のヒーローを一人、ゲストとして呼んだ。そして・・・」

 「やっぱりオールマイトさんが落ちてきた風圧でバレちゃったみたいねー?獣狼ちゃんってばずーっとこっち見てるんだもの」

 

 誰もいない空間から聞きなれた声がすると同時に聞きなれた声がしたと思えば突如空中に光の輪が表れ、地面に向かい降りていくと同時にその姿を現した。茶色いストレートの髪に笹の葉の様な耳、そして見慣れたエプロン姿。

 

 「お母さん・・・?」

 「はーい、獣狼ちゃんのお母さんの回精 螺田でーす!ヒーロー名はティターニアなんて名前してまーす」

 「「「「「お母さん!?!?」」」」」

 「回精対ティターニア、十一戦目の組み合わせだ」

 

 俺だけで戦うとか、ゲストとかは関係なく。お母さんと言う、予想外な対戦相手にただひたすら困惑するしかなかった。




 えー、物間くんに関してはその、獣狼との相性が悪すぎですね・・・。今回の血壊は個性発動していいんか?と言う点でしたらギリギリセーフ判定です、完全に発動してないので。

 はい、何がとは言いませんが忘れてました。そして色々フラグの様なものを適当に投げて刺さって立つと良いなー、とか考えてます。許して。

 実はずーっと考えて居たりしてました展開です。螺田対獣狼、そして獣狼が最も苦手な戦いを仕掛けられる人物でもあります。


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第四十七話:実技、空を奔る鮮やかな光

 前書きよりも早く本文書け欲が強くなった常備薬です、でも前書きが無いとアニメのOPみたいに「始まった!」って気持ちになれないのは私だけでしょうか?


 モニタールームにて十戦目が終わった。最初は麗日さんに緑谷くんと八百万さんが居て、途中から終わった梅雨ちゃんに飯田くん、途中試合の人が出て行って戻ってきたりと様々な面々がモニタールームに出入りしていたが、一部の人たちはモニタールームには姿を現さなかった。

 

 次は俺の十一戦目なので十戦目とは違う市街地演習場に向かっている。相手は俺のお母さんで個性も詳細不明の精霊と言うもの、病院で精霊を見せてもらって以来殆ど目にしていなかったので全く予想がつかない。強いて言うなら物を持つ事が出来る、俺の精霊と似たように栄養素を活動する為のエネルギーにしている事くらいか?

 

 演習場に到着、中に入り所定の場所にて待機し演習の始まりを待つ。わからない事を考えすぎても仕方がない。相澤先生の言う通りなら後方支援、つまり遠距離攻撃に気を付けて立ち回るしかないな。と思ったところで演習開始のブザーが鳴り、()()()()()()()()が降り注いだ。

 

 

─────

 

 

 「ちょ!?開始早々に!?」

 

 開始の合図とともに回精を映していたモニターが空から降り注ぐ光の線を僅かに捉え、次の瞬間土埃に包まれ回精ごとモニターから姿を隠す。しかし次の瞬間土煙を破り回精の姿が見えるとモニタールームの全員は安堵するが。

 

 「また降ってきたぞ!一体何なのだあの光線は!?」

 「けろ、回精ちゃんは前にお母さんの個性が精霊と言っていたわ。これが精霊の攻撃なのかも」

 「精霊か精霊で無いかはこの際置いといて、攻撃としては厄介だぞ。一発一発は大した事ねぇようだが回精に合わせて攻撃が動いているようにも見える。恐らくホーミング付きだ」

 

 轟の言葉に全員がモニターに映る攻撃を見ると、確かに僅かではあるが回精の動きに合わせて攻撃が軌道を変更している。回精もそれを見越して動き回避をしているが、かなり行動がし辛そうだ。

 

 「ここに緑谷が居ない事が悔やまれるな、アイツ程個性に関し精通している者もこのクラスにはいまい」

 「そうですわね、精霊はともかく回精さんの苦手としている事は予測しか考えられていませんし・・・」

 「ほぉ、その予測とやらを言ってみんさい」

 「はい、回精さんは常闇さんとは真逆の、遠距離で立ち回られ続けては苦手なタイプです。今の戦闘を見るからに恐らくは姿を現さずに遠距離攻撃をする相手にどう立ち回るか、と言う課題かと」

 「よく見てるね。ほぼ正解だよ、あの子は遠距離攻撃と範囲攻撃に弱い。それ故に姿を現さずに遠距離からの攻撃、そして範囲攻撃をしてくる相手にどう立ち回るか、そう言う課題さね」

 

 リカバリーガールに言われ全員がモニターを見ると、確かに回精だけではなく周りごと光の線が降り注いでいる。行動がし辛いのもこれに誘導性能が追加され、どちらに回避しても光線が待ち構えているからであろう。

 

 「あっ!回精くん上手く建物内に逃げ込めた!」

 「けろ、確かにこれなら範囲攻撃もある程度防げるわ」

 「・・・待て、何か様子が変だぞ」

 

 

─────

 

 

 初手ぶっぱからの白色の光線をかわしたものの、何発かは当たり痛む体を動かしてなんとか建物内に逃げ込めた。物陰に身を潜めながらも精霊たちと相談を始める。

 

 (みんな、攻撃を仕掛けている精霊たちについて何かわかる?)

 〈お母さんの精霊の一部ー〉〈前に見た三人は頭ー〉〈今いるのは言わば兵隊アリー〉

 (つまり・・・まだまだ数は増やせる?)

 〈そういうことー〉〈同じ精霊だからわかったけどー〉〈随分と我らとは違うー〉

 

 精霊たちの言葉に返答しようとするが、建物の外から今までの攻撃とは比べ物にならないレベルで個性発動時特有の感覚がする。不味い逃げなきゃ、急いで鉄扇を構え外に出ようとするが相手の方が一手早く、今までの光線がペン位の太さならこれは大木の丸太だろう、そんな自分の身長近くの白色の光線が窓を突き破り室内に入ってきた。

 

 「嘘ッ、でしょ!?」

 

 丸太の光線は室内に突入すると同時にこちらへペンの光線よりかは遅い速度で、しかし同じ光線だからかそれでも素早くホーミングしてきたので鉄扇で受け止めるが、確実に攻撃力が上がっている。光線を束ねて威力を上げている?光線を上にはね上げれば天井を貫きその更に天井も貫いたのであろう音がする。今のうちと入った方向とは別の方へ逃げると丁度裏口だったらしく、路地裏に出た。

 

 〈白色の光線の精霊がー〉〈こっちを見失ってるー〉〈視界はそれぞれ別物ー?〉

 (それじゃあ今のうちに出口を目指そう) 

 〈だねー〉〈流石に相手がなー〉〈悪すぎるー〉

 

 スタートと出口はほぼ反対方向、ならこっちかと路地裏を走って進んでいると先の方で一瞬何かが光ったと同時に個性発動の兆候、壁を伝い上に逃げればすぐ下を赤色の光線が路地裏を横になりつつ通過していた。通過した路地裏の一部が焦げている事から当たれば大やけどは免れない。

 

 〈また来るー〉〈今度は三本ー〉〈このままじゃ焼かれるー〉

 

 路地裏の先から空中に居る俺に向かって三本、赤色の光線が横になって迫ってくる。どっかのホラーゲームや映画で見た様なシチュエーションだなぁ!と変な事を思いつつも一本目を壁を蹴る反動で跳び越え、二本目は逆に下をくぐると途中で軌道を変え上がっていったことから、三本目は上に行くとフェイントし下に行けば上手く引っかかってくれたが。

 

 「あっつ!」

 〈腕に掠ったー〉〈コスチュームには当たったー〉〈直撃は大やけどー〉

 

 左腕に掠った際にコスチュームの袖にも当たり焦げてしまっていたが、袖に当たった時に少し引っ張られたことからあの赤色の光線にも白色の光線と同じように物理的な干渉が可能と分かった。だがこちらに合わせて動きを変える光線はいつか当たってしまう、それだけで大ダメージなので早々に壁を蹴って建築物の屋上へ出る。

 

 上に出たことで出口に近づいている事が分かったが、次の光線が上空で待ち構えていた。色は空色、効果は白色の光線より高い追尾性能と速度で。

 

 〈あっぶねー〉〈掠ったー〉〈また来るよー〉

 

 曲がる時はとてもゆっくりなのだが、こちらを向いた瞬間に一気に加速するのでそれに合わせて避ける。しかし一定距離進むとまた曲がりこちらに向かってくるので面倒な事この上ない。

 

 (とにかく移動!足を止めると多方向から向かってきて不味い、みんなは後ろを監視して!)

 〈らじゃー〉〈体育祭のあれかー〉〈我らも頑張るぞいー〉

 

 空色の光線が一気にこちらに向かってきたのでギリギリで伏せる事で回避、そのまま立ち上がり出口に向かって屋上から屋上へと走って跳ぶ。

 

 〈後ろから三発ー〉〈その後に続けて四発ー〉〈カウントに、いちー〉

 (今ッ!!)

 〈四発目来るよー〉〈カウント開始ー〉〈さん、に、いちー〉

 (これなら!)

 

 直前で横に転がる事で三発を避ける、続けてカウントが始まるので態勢を立て直し次の攻撃は丁度いい位置に鉄製の扉があったのでそれを開けて盾にし、走ると後ろで何かがひしゃげる音がする。どうやら扉に当たったらしく回避できたと安堵していると。

 

 〈四発が消えたー〉〈当たると消えるっぽいー〉〈他とは違うのねー〉

 

 精霊たちの言葉で後ろを向けば、空色の光線は三発確認出来るが残りは確認できない。なら何かにぶつけて落とせばいいと物を探そうとすると。

 

 〈不味いー〉〈左から白い丸太光線の精霊が来るー〉〈三発来るよー〉

 

 精霊たちの言葉に左を向けば音もなく丸太の様な太さの白色の光線がこちらにやって来ていた。こうなればと白色の光線にあえて突っ込めばあちらもこちらに真っ直ぐ突っ込んでくる、急激に俺が横に移動したために空色の光線もこちらに微調整を行いそして。

 

 〈空色回避ー〉〈カウントダウンー〉〈さん、に、いちー〉

 「ここッ!」

 

 白色の光線を左に受け流し、足場として更に跳躍する。そうする事で空色の光線は必然的に白色の光線に当たり消滅する、これで白色に気をつければいいと思って屋上を走っていると。

 

 〈白色が空色にー〉〈やばいやばいー〉〈警告さん、に、いちー〉

 「はぁ!?」

 

 警告に従い横に飛べば丸太の様な太さの空色の光線がすぐいた場所を高速で通過していた。白色はどうなったと思い先ほどの場所を見れば白色も消えていた、つまり考えられるのは・・・。

 

 (白色が空色に変わった!?)

 〈ようですなー〉〈当たった辺りから変色してー〉〈空色に染まり切ったらこのようにー〉

 

 何それ白色は当たった色に染まるのか!?厄介過ぎだろ!?そんな事を考えていても状況は変わらず、今度は前から屋上を砕きつつ光線が迫ってくるので、このままではがれきに埋められるかもしれないと大通りに降りる事で避けた。

 

 大通りでは最初にあった白色の光線がまた降り注ぐのかと警戒していたが特にそういった事もなく、走りだすと地面の方に違和感、咄嗟にジャンプすれば今までなかった場所に短い緑色の光線が複数本突如現れる。緑色はトラップか・・・、と思ったところで。

 

 〈空色注意ー〉〈またこっちを捕捉してるー〉〈に、いちー〉

 (あっぶね!?)

 

 ジャンプ中に空色に捕捉されてしまったために、植木を蹴って避ければ凄まじい音と共に植木が引きちぎられる。元白色をどうにかしなければ・・・、恐らくは当たった色と同じ特性を持つようになるんだろうけど・・・。と思ったところで解決策を思いつく。

 

 (ねぇ、みんなは緑色の場所わかる?)

 〈おおよそくらいー〉〈隠れるのが上手いー〉〈でも近づけばわかるー〉

 (じゃあ、緑色を探すのに二人、空色警戒に一人で空色を緑色にぶつけよう)

 〈おぉー〉〈ナイスアイディアー〉〈やってみるかー〉

 

 何時も一緒にいる為にすぐさま伝えたい事が伝わった、後は行動に移すのみ。

 

 (走り出すタイミングはみんなに任せたよ)

 〈空色がこっちを捕捉したー〉〈緑色発見ー〉〈十一時の方向ー〉

 〈空色警戒さんー〉〈にー〉〈今だー〉

 

 精霊たちの言葉で十一時の方向に走り出す、するとまたしても地面の方で違和感が表れる。それに合わせて先ほどよりも高くジャンプをすると空色の光線と緑色の光線がぶつかり合い、空色の光線が徐々に緑色へと変色していき緑色に染まり切った途端、光線が消えた。

 

 〈おぉー〉〈道の先の方にー〉〈緑色が新たに表れたー〉

 (動く気配はありそう?)

 〈全然ー〉〈作戦成功だー〉〈無視しよー〉

 (そうだね、これ以上元白色に邪魔されるのは面倒だ)

 

 脚に力を籠め一気に窓枠に跳ぶ、僅かなでっぱりを足場にもう一度跳んで手すりを掴みそのまま屋上に着地、ちらりと出口を見ればかなり近づいており、屋上から屋上へとゴールを目指して進む。しかし前方上空でまたも個性発動が行われた、何が来るかわからないので物陰に隠れると短い青色の光線が先ほど発動が行われた場所から降り注ぐ。心なしか肌寒く感じるので。

 

 (着弾すると少し寒くなった・・・と言う事は冷気か?)

 〈当たれば動きが鈍るー〉〈厄介な攻撃ー〉〈足止めですなー〉

 (だけどこの攻撃間隔なら平気だね)

 

 次のビルの屋上へと渡るとまたも攻撃が来る兆候があったので物陰に隠れれば青色の光線が降り注いだ、しかし。

 

 (・・・さっきより、感覚が短くなってない?)

 〈同意ー〉〈このままだとー〉〈出れなくなるー〉

 

 しかしそれでも前に進まなければならず、大通りよりも屋上への入口と言う物陰がある屋上を進んでいくがとうとう頭を出して数秒で青色の光線が降り注ぐようになってしまった。

 

 (どうやら、発動地点に近づけば近づく程感覚が短くなるみたいだね。それに横に動いても釣られてくるみたいだし)

 〈どうするー〉〈このままだと失格ー〉〈林間合宿がー〉

 (・・・しょうがない、あまり使えない手だけど使うしかなさそう)

 

 一気に飛び出し出口の方向、つまり青色の光線を発射する方へと走り出す。かなり近づいているためかもう既に発射されそうなので鉄扇の地紙パーツを一つ、外して空中の発射地点に投げつければ凄まじい音と共に地紙パーツが大通りへと()()()()()。しかしチャンスではあるので一気に走り抜けるともう攻撃はしてこないようで安心したが。

 

 (回収できないよね・・・)

 〈無理ー〉〈さっきの緑色の地点ー〉〈危ないねー〉

 

 しょうがない、終わったら回収するかな。それにもう出口は目と鼻の先だが・・・、この広い空間で待ち構えていないはずがないだろう。証拠に更に近づけば今までとは打って変わって黒い球体が夥しい数が出口を守る様に現れた。今までの光線とは雰囲気がかなり違う存在に警戒していると黒い球体が一斉に動き出す、こちらに来るかと警戒したがある一定の点を中心に回りだしたのだが・・・。これを突破しなければ出口からは出れないであろう。

 

 (これが恐らくラスト、さっさと出口を通ってクリアしよう)

 〈おー〉〈でも黒い球体が何なのかー〉〈わからないのが怖いですなー〉

 (そうなんだよなぁ、とりあえず何k───)

 

 何かが来る。思考を中断し咄嗟に横へ跳ぶと頭の位置辺りをギリギリ視認できる速度で通る黄色の光線、来た方向と角度から推測すると出口を一望できる大通りの先、開始地点の後ろにあるこの街を囲っている巨大な壁の上から狙われている。急いで屋上から降りて狙撃ポイントから隠れれば、こちらを視認できなければ撃たないのか攻撃が止んだ。

 

 (最後の最後で足止めに狙撃かぁ・・・)

 〈厄介過ぎるー〉〈いっそ一気に突破しちゃうー〉〈選択肢としてありよりのありー〉

 (時間はどのくらい出来そう?)

 〈五分くらいー〉〈油断は禁物ー〉〈同族同士の戦いは初めてー〉

 (・・・そうなんだよなぁ)

 

 この手の戦闘は恐らくお母さんは経験的にも上手、攻撃の配置がいやらしく俺でなければ回避出来ない様な攻撃も多々あった。そしてその攻撃が全て最初に配置されていれば何も出来ずに詰んでいた事からちゃんと手加減してもらえている事も分かる。お母さんが姿を消していた時に俺も精霊たちも全く気付かなかった事から同族、もしくは似たような個性との戦闘も経験済みで、対策済みの結果が緑色の光線の様なステルス性能だろう。

 

 だが考察する時間も余裕もない、今どのくらい経っているかは把握していないが余裕がないと見て間違いないだろう。もうごり押しするしかない。

 

 (みんな、使うよ───血壊)

 

 発動と同時に一気に黒色の球体群に突っ込む、狙撃に気を付けつつ時間との勝負だと思っていたところで。

 

 〈獣狼ストップー〉〈罠だー〉〈解除してー〉

 「ッ罠!?」

 〈黒色の球体に近づくほどー〉〈エネルギーが奪われるー〉〈現在残り四分ー〉

 

 脚でブレーキをかけ止まる、これで平気と思いきや黒色の球体が今までの動きを辞めて一部がこちらに寄ってくる。寄られたら不味いと再び元居た死角に向かって下がるがそれでもこちらを追尾してきた。

 

 〈獣狼の力に反応してるー〉〈解除しないと恐らくずっと追いかけるー〉〈現在残り三分半ー〉

 (血壊対策!?ホンットチートだなぁ!!)

 

 慌てて血壊を解除すれば黒色の球体はこちらを見失ったのか、その場で静止する。それに安堵して、黒色の球体から球体へと()()()()()()()()()()()に右肩が命中。右肩を中心に凄まじい力が加わりバランスを崩し倒れた。しかし隠れた場所にも届いたという事で嫌な予感がし、痛みを堪えてその場を転がると。再び跳弾した黄色の光線が倒れていた地面を貫いた。

 

 〈獣狼大丈夫ー?〉〈痛くないー?〉〈右腕は動けそうー?〉

 (うん、大丈夫だけど右腕はしばらく無理かも。痛みで力が入り辛い。けどそんな事も言ってられない)

 

 再び跳弾で来た黄色の光線を避ける、ここはもう死角ではなくなってしまったからだ。だが今の攻防で特性は把握できた、黒色の球体は精霊の力を使えば寄ってきてエネルギーを奪うが力を使わなければ平気、そして黄色の光線は恐らく精霊の力で出来た物に跳弾するとても速い無誘導弾。黒色の球体に触れる事はなるべくしないで黄色の光線での狙撃を気を付ければいい。

 

 そうと分かれば一気にゴールに向かって走り出す、途中狙撃が来るが加減速や姿勢を変える事で何とか避けて黒色の球体が回っている地帯に突入した。黒色の球体は考察通りこちらには近寄ってはこないで一定速度で回り続けているが、球体の間隔は意外に広く突破するだけならば簡単であろう。

 

 (横、狙いは足ッ!)

 〈お見事ー〉〈次が来るまでー〉〈大体五秒ー〉

 

 先ほどから球体を使った跳弾で狙ってくる狙撃が無ければだが。黒色の球体が回っている地帯はそこまで広くはない、30mもあればいい方だろうが狙撃のせいで10m位までしか進めていない。球体の間隔が広いのは恐らく跳弾がしやすい様にしているのだろう。

 

 〈獣狼止まってー〉〈次の狙撃が来るよー〉〈いち、きたー〉

 

 精霊たちの声で止まれば跳弾時の独特な音、視界と音を頼りに黄色の光線を追いつつも球体を避けていると。光線がこちらに向かう、場所は胴体。ジャンプをするわけにもいかず咄嗟に四つん這いになれば光線は地面とぶつかり消滅する。そしてまた移動が始まるが、それでも球体は絶え間なく動き続けているので新しいルートを探してから移動した。

 

 その後も三度、跳弾を使った攻撃を回避し漸く出口まで後少しと来た。しかし一番大きく動く外周部の為に移動が更に辛くなっている、そして狙撃もまた単純に攻撃するだけではなくなっていた。

 

 〈獣狼来るよー〉〈今度は二発同時ー〉〈警戒してー〉

 

 精霊たちの声で一気に警戒を高める、鳴り響く跳弾の音と視界を横切る光線。一方を追うともう一方が追えないので跳弾したタイミングで何時でも避けれる様に準備するが、しばらく跳弾した後に光線は消えた。

 

 〈二発とも跳弾しただけー〉〈純粋な足止めだねー〉〈手段がえぐいー〉

 (何とかしなきゃ時間だけが使われていくね・・・)

 〈どうにか跳弾を止めたいー〉〈このままじゃ時間切れだー〉〈私にいい考えが無いー〉

 

 先ほどからこんな状態が続いているのだ、二発飛んできては二発とも狙ってくるか、一発は狙って一発は跳弾、二発とも跳弾だけ、見事に翻弄されている。これに加えて球体も避けているので中々に厳しい。・・・策はあるにはある、だが失敗すれば即リタイアだが・・・、このままじゃ時間切れでリタイアなので。

 

 (みんな、策はあるよ。かなり危険だけどね)

 〈良いね獣狼に賭けるよー〉〈オールオアナッシングー〉〈勝つか負けるかー〉

 (よし、俺の策はね───)

 

 精霊たちに策を伝える、この策は精霊たちがミスると勝っても負けても大変な事になるので是非失敗しない様にしてもらわなければならない。

 

 〈失敗が許されないねー〉〈緊張してきたー〉〈でも我らが緊張って中々無かったようなー〉

 (それじゃ、みんな調整を失敗しないでね?)

 〈アイアイサー〉〈イエスマムー〉〈あらほらさっさー〉

 

 ・・・ツッコまないぞ。とりあえず策は伝わったという事で、既に放たれ跳弾している光線に備えている。そして腕に来た一発をギリギリで避けたタイミングで来た光線が脇腹を掠る。

 

 「いっつぅ・・・!」

 〈やばいやばいー〉〈段々と対処されてるー?〉〈次は確実に来るよー〉

 (うん、だからタイミングよろしくね?)

 

 脇腹を掠った痛みに耐えつつも、直撃で無かったために姿勢を崩すことは無かった事は幸いか。攻撃がしばらく来ない為に球体の間隔が一際広い場所に移動する、少し出口と離れてしまうが仕方ない。そしてその場所を陣取り攻撃を待っていると。

 

 〈来るよー〉〈獣狼の感覚頼りー〉〈さぁ勝って笑おうー〉

 (もちろん!)

 

 黄色の光線が三発、やってくるのを視認しまだ増えるのかよと思いつつもそれも無駄だと笑う。確かに狙撃は跳弾込みで正確で恐らくもう全弾命中か半数命中だろう。だがもしも、もしも跳弾の為の球体が()()()()()()()()()()、その狙撃は成功するのかな?

 

 「血壊!そして、解除ッ!!」

 

 俺の精霊の力に全ての球体たちが反応し、こちらに寄ってくる。しかしすぐさま解除し動きが止まった事で、()()()()()()()()()()、あらぬ方向へ飛んでいく。予想通りの展開に更に口角が上がるのを実感するが、同時にエネルギーを奪われ過ぎた為に体がふらつく。

 

 〈こちらの残存エネルギー〉〈残り十秒ー〉〈ホント危ないー〉

 (でも、これで俺たちの勝利だ)

 

 ふらつきながらも止まった球体には目もくれずに、ゴールに転がり込む事で勝利を告げるアナウンスが鳴り響く。そのアナウンスを仰向けになりつつも耳にし、久々の接戦を乗り越えた感覚にただ満足していた。




 モニタールームには轟くんと常闇くんが追加されています。前者は宣戦布告された相手を見る為に、後者は精霊が気になった為にです。

 獣狼の弱点は前々から思っていたところではあったんです、ただ大規模攻撃を行う人が居なかったために露呈しなかっただけで。大規模攻撃+初見殺しには弱いんです。


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第四十八話:試験終わりに打ち上げを

 累計だと五十話なんですよね、実はもっと短く終わるんじゃないかなー。と思っていただけに驚いていたり。そしてこのお話を投稿してからもう一か月過ぎてるんですね・・・、意外と早かったような気がします。


 期末試験の実技が終わった次の日、期末試験の勝利条件を達成できなかった芦戸さん、上鳴くん、切島くん、砂藤くんの四人組が林間合宿にいけないと落ち込んでいた。しかし相澤先生の林間合宿に全員で行く発言でどんでん返しが発生したが、筆記試験では赤点が出なかったものの実技にて先ほどの四人組と最初の方で実質脱落してしまった瀬呂くんが赤点となり、学校で残るよりも厳しい補修時間を特別に用意されるという事で五人は真っ白になっていた。

 

 

~~~~~

 

 

 授業も終わり林間合宿のしおりを配られて全員が確認している中、林間合宿に向けて買い揃えるのと期末試験終了を祝って明日の休みにみんなで買い物に出かける相談をしていた、が。

 

 「行ってたまるか、かったりぃ」

 「悪い、休日は見舞いだ」

 「先約、が、あるから、俺も、行けない・・・」

 「ノリわりぃよ!空気読めよKY男ども!!・・・って、回精もかよ!?」

 

 峰田くん以外にも何人かは俺が行かない事には意外だったらしいが、俺もみんなで買い物に行きたかったが久々に家族三人で外食なのでそちらを優先したい。

 

 「ごめん、お父さん、中々、休みが、取れなく、て」

 「あー、まぁそういう事ならしょうがねぇか」

 「みんな、楽し、んで、来てね」

 「しょーがねぇな、回精の分まで楽しんできてやるよ」

 「・・・峰田、くん、今日は、随分、ご機嫌、だね?」

 「あ?わかっちゃう?そりゃぁーまぁ?実技で活躍しちゃったしぃ?」

 

 そう言えば峰田くんと瀬呂くんペアは、瀬呂くんが早々に戦闘不能になり実質峰田くん一人で勝利条件を満たしたんだっけ。そして峰田くんの言葉を聞いてしまったペアである瀬呂くんは必死に釈明をする。

 

 「しょうがねぇだろ!?完全に不意打ちだったんだぜ!?その状況でお前だけでも逃がした俺の力も評価して欲しかったわ!!」

 「まぁ?その後何も出来ずにミッドナイトに膝枕されてたのって誰だっけかなぁ?」

 「ぐぬぬぅ・・・峰田のどや顔で正論言われんのクッソ腹立つぅ・・・」

 「あ、わかるわー。自分勉強できますアピールの時も世界の残酷さを思い知ったぜ」

 「オイ上鳴!流石にそりゃ言い過ぎだろ!」

 

 瀬呂くんの言葉に上鳴くんも会話に混ざり、峰田くんが上鳴くんの言葉に言い過ぎと反発する。期末試験の緊張から解放されたためか何時もよりも賑やかになってしまっているが、特に険悪な雰囲気は無いので全員が冗談で言っているのだろう。最初の釈明辺りは結構本気だったようだけどね。

 

 

~~~~~

 

 

 休日のお昼、久々に休みとなったお父さんの運転でちょっと遠くの食べ放題のお店に来ていた。毎回食べ放題なのだがこれに限っては俺とお父さんの食べる量がえげつないので、普通のレストラン等では明らかにお金が足りなくなってしまうので食べ放題のあるお店は重宝している。ただ同じ場所に何度も行くのはお店側に負担がかかり過ぎるので、何か所かローテーションすることになるが、仕方のない事だろう。

 

 「ふっふっふ、久々の休暇に家族みんなで外食に向かう、良いものだな。私の父親は中々に恥ずかしがり屋で───」

 「さぁ獣狼ちゃん、お父さんは無視して食べちゃいましょ?」

 「んじゃ、早速、取って、来るね」

 

 席を立ち両手にお皿を持ってお皿を置きつつ料理をよそっていく、こぼれない程度に盛れたので席に戻ればお母さんは飲み物を用意してくれたのか、机に氷水の入ったコップが三つあったので倒さない様にお皿を置いて食事を始める。食事中は精霊たちと脳内会話をしたりとあまり喋らない方だが、色々気になった事が増えてきたのでこの機会に聞いてみる事に。

 

 「ねぇ、お母さん」

 「んー?なぁに?」

 「試験の、時、精霊、の力、を、どう、やって、維持、したの?」

 「あぁ、簡単よ。ランチラッシュに頼んで災害時の大規模な炊き出しとかで使う器具を使って沢山作って沢山精霊たちに食べさせたのよ」

 「・・・それ、だけ?」

 「えぇそうよ?だって精霊に満腹とか胃袋とかないし、食べたら全部エネルギーに変換よ。精霊たちもランチラッシュの美味しいご飯を食べて満足してたし、ランチラッシュも災害時の練習になるって喜んでいたわ」

 「うわぁ・・・チート、おつ・・・」

 

 と言うことはアレか?俺は逃げを選んでいなければ、ほぼ無制限の攻撃に三十分晒され続けていたのか?その事に引いているとお母さんが心外と言う顔をする。

 

 「やーね、獣狼ちゃんだってこの歳で私の攻撃をかいくぐってゴールしたのも大概よ?」

 「いや、俺のは、割と、限界、とか、あるし」

 「・・・私からしたら、どっちも大概だと思うのだがね・・・」

 

 この中で唯一の純粋な異形型であるお父さんのツッコミが入り、一旦会話が途切れるがお父さんの言葉にお母さんが呆れたように。

 

 「あらやだ、お父さんも動物系の異形型からしたら並外れた力を持っているくせに」

 「お父さん、って、ライオン、の、個性、じゃない、の?」

 「ふむ、確かに私の個性はライオンだが・・・、少し動物系の異形型について話す必要がありそうだね」

 

 あ、この流れは・・・。

 

 「ではちょっとした授業の始まりだ。獣狼にとっても為になるのでしっかり覚えておくように」

 「・・・はーい・・・」

 「ではまず動物系の異形型についてだが───」

 

 そして始まったお父さんの授業、時々食べ物や飲み物を取りに行くために中断はするが外食をしに来た真っ当な家族の会話ではない。だが俺にとっても為になる話ではあったのが中々に憎めないのだが。

 

 お父さんの話を纏めると、動物系の異形型は大まかに二つのパターンに分かれる。動物の特徴を持った人間になるか、動物を()()()()()()にするか。前者の場合は純粋に動物としての特徴が出るだけで身体能力は人間のままだ、だが後者は動物の特徴が出て尚且つ人間のサイズになった事で身体能力が激増するという。

 

 聞いた事は無いだろうか?もしも動物や昆虫が人間位のサイズだと身体能力が凄まじい事になるという話を。後者の場合そのような状況が個性を発現した者にも起きるらしい。そして人間以上の大きさを持つ動物の場合、人間と言う小ささになるので身体能力が減るという訳でもなく、その場合元の動物が持っている身体能力そのままになる事があるのだとか。

 

 「そして私はその身体能力がそのままの側でね、ライオンは個体によって大きさは変わるものの大抵は人間より大きく、体重は基本的に成人男性の平均体重より三倍に近い」

 「つまり、そんな体を支えられる筋力が人間サイズになっても発揮されている、と言う事だ。無論支えるだけで終わりではない、力を籠めればもっとパワーを出せるぞ?」

 「話が長いけど「は、話が長い・・・」、ようするにお父さんも獣狼ちゃんと同じで見た目通りのパワーはしてないって事よ」

 「つまり、純粋、な、力、比べ、だと」

 「動物としての身体能力で劣っているキツネじゃあ、ライオンには敵わないわよね。まぁそんなくだらない「く、くだらない・・・」話は置いておいて、今日は獣狼ちゃんの期末終了のお祝いに来たんだから、沢山食べないとね?」

 「うぅ・・・確かに獣狼のお祝いの席で獣狼の為になるとは言え、授業はちょっとアレだったな・・・」

 「お父さん、の、話も、為に、なった・・・、よ?」

 「・・・うむ!獣狼の役に立ててよかった!」

 

 お母さんの何も隠すつもりが無い指摘でお父さんが真っ白になってしょんぼりとしていたが、お父さんの少し迷惑な授業で思った事を直接伝えれば、しょんぼりしていた顔は元気よく復活していた。ちょっとチョロくないかなー、と心配していたが顔に出ていたようで。

 

 「大丈夫よ、お父さんがチョロいのは私たちだけだし」

 「そっか、なら、平気、だね」

 「流石に目の前でチョロいとか言われると傷つくのだが?」

 「はいはい、あなたは私たちに優しい猫さんですよー」

 「・・・その対応も、中々にやめて欲しいのだがな・・・」

 

 ・・・まぁ、夫婦仲が良い事は悪い事ではないのだろう。口ではそう言いつつも満更ではない表情のお父さんとその相手をするお母さんの居る空間は、流石に息子でも居ずらいので新しい料理を運んでくるという、大義名分をもってその場を離れた。戻って来た時には多少居ずらさが和らいでいたのは良かったが、外出している時にそういう事はしないで欲しい。最悪会話に入り込めずに脳内会話に逃げる事になるのだから、いや精霊たちとの会話が嫌とかじゃないよ?

 

 その後はお父さんの授業であまり進まなかった分を取り戻すかの様に食べて、合間合間にお母さんの個性の話を聞いたりと久々の外食を楽しんでいた。しかし同じ時間に緑谷くんたちお買い物組がヴィラン連合の中核的存在である死柄木と遭遇していた事を知ったのは、夜のニュースでショッピングモールにてヴィラン連合出現!?と言う報道された時に心配になってクラスメイトに連絡を取った時であった。




 お母さんの螺田が実技試験でやった事はシンプル!回復しながら攻撃すればエネルギーが尽きない!です。力はあるけど燃費が悪い典型ですね。

 そしてまたも独自設定や独自解釈ですが、ここまで読んくれてる人ならもう注意しなくてもいいんじゃないかなって。

 そろそろキャラ設定更新しますね、多分明日辺りになります。


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夏の始まり、月夜になく(原作3期開始)
第四十九話:夏の始まりでプールにて


 キャラ設定書きだしていたら数が多くて書き損ねてましたぁ!それでもちゃんと書けているか、情報が抜けていないかはわかりません。ごめんなさい。

 なるほど・・・、これが水着回になると唐突に描写が増えるという現象・・・!あ、はい遅れてごめんなさい。

 今回雄英高校の経営科について、独自設定が入ります。と言うのも、こういう事を本職としてる人もいそう。と思いこうしました。


 始めて全校生徒が集まる終業式も無事に終え、夏休みが始まっていた。打ち上げの後、夜のニュースが気になって買い物に行ったみんなに連絡すると遭遇したのは緑谷くんだけの様で、チャットアプリでも無事を確認はしていたのだが学校で会った時にもまた確認をしてしまったが、それだけヴィラン連合の、USJ事件や保須事件の影響が大きいからだろう。

 

 夏休みでは林間合宿に行く前にしばらくの猶予がある、ただその間は休みを消化するなんて雄英生徒の、特にヒーロー科は居ないだろう。普通の人より毛皮のある(耳と尻尾)分暑さはあまり得意ではないが、一応夏毛に生え変わって耳はそこまで変化は無いが、尻尾は冬と比べればスッキリしている為に問題は無い。一度、抜け毛───特に冬毛───を集めて何かを作ろうとしていた友人の女子が居たものの、見つけ次第丁重に実力行使によって捨てさせてもらったのは余談だろう。

 

 しかし雄英側も夏休み前にヴィラン連合を危険視し長期の外出を自粛するように、という指示があったのだが家ではお父さんしか運転出来ないのと、そのお父さんが忙しい立場になったのに加え俺の林間合宿で実質長期の外出をすること自体、今年は無いだろう。それにお母さん夏はインドア派だしね。

 

 そんな中、今日は力を少し控えつつもサイクリングでもしようかなー、と体を動かす方法を考えていると緑谷くんからメールが届く。なんでも上鳴くんと峰田くんの二人が雄英のプールを使って体力強化を行うとの事、事前に申請もしているらしく用意周到だ。現地集合と書いてあったのでもちろん行くとメールを返し、気分でプールに行くので目のつく範囲に用意してあった学校指定の水着とまだ使える定期、財布にスマホを外出用のカバンに入れていると。

 

 〈プールは楽しみー〉〈水の中をスイスイー〉〈泳いでないけどねー〉

 (みんなは干渉できないからね・・・、それでも俺よりいいんじゃない?)

 〈獣狼のはー〉〈特例過ぎてー〉〈なんともいえぬー〉

 (こればっかりは、しょうがないし・・・)

 

 水の中と言う、陸の上とは違う光景が楽しめる行事に精霊たちは喜んでいるが、流石に俺のは特例だとわかる様で。しかしだからと言って俺がプールを嫌いと言う訳でもなく、水の中で行動するには中々力がいるので少し全力を出せたりして楽しかったりもする。

 

 まぁとりあえず、緑谷くんのお陰でタダでプールを使えるというのは喜ばしい事で、お母さんに雄英でプールに行ってくると伝えれば鍵を持ったか確認をされ、玄関まで見送ってもらい雄英高校に向かう為に駅に向かって歩き出した。

 

 

~~~~~

 

 

 雄英高校に到着後、上鳴くんと峰田くんが事前に申請しているとはいえ学校施設を使うので職員室に顔を出せば、相澤先生が対応してくれて簡潔に利用する場所などの説明された後、退出しプールへと向かった。

 

 水着に着替えて更衣室を出て、転ぶと危ないので歩いて行けばスイムキャップとスイムゴーグルを付けた恐らくは声からして飯田くんだろう人物に脇の下に腕を回されて捕縛されている上鳴くんと峰田くん、しかし真面目な水泳スタイルと高い身長、筋肉質な体の影響でちょっと不審者に見えてしまったのは内緒。

 

 「あ、回精くんも来てくれたんだね」

 「うん、同伴、させて、貰った、よ」

 「回精・・・何度か見えていたからわかっちゃいたが、お前なんでそんなに筋肉ついてないんだ・・・?」

 「峰田と同じくらい・・・いや少し上か?」

 「・・・体質、としか・・・」

 「いやだってよぉ、言っちゃ悪いが近接戦をしない常闇ですら筋肉は付いてるんだぜ?バリバリの近接戦のお前が筋肉ついてないって不思議過ぎるわ」

 「・・・ふんっ!・・・だめかぁ・・・」

 「いや、お前がそんな力こぶ作る動作したって出ないだろ・・・」

 

 こればっかりはしょうがない、鍛えても筋肉がつかないのだもの。そう考えると割と不思議な体してるよな、こんな子供っぽい体なのに力だけに関しては恐らくここにに居る全員より上なのだから。話し込んでいたら何時の間にか捕まえた二人を開放し、真面目な行事だからか飯田くんが委員長モードになってA組男子を主導していた。

 

 「では諸君!水泳の前に準備運動は必要だ!準備運動も一通り覚えているので俺に合わせてみんなも体操をしてくれ!!」

 「「「「覚えているのかよッ!?」」」」

 「安心したまえ!何かあった時の為にラジオ体操も全て暗記している!!」

 ((((そこじゃねぇ!!))))

 

 微妙に何かが噛み合っていない会話があったものの、飯田くんの掛け声とともに準備運動を開始する。実際こういったお手本があるとやり易く、自己流でやるよりも効率が良いものだった。そして男子よりも前に集まっていた女子は準備運動を終えていたらしく、プールに入りボールで遊んでいたが・・・。まぁ上鳴くんと峰田くんの二名の名前が上がった段階で察せたのでスルーする、他の男子たちも何となくそんな予感がしていたからか誰もその話題を口に出さない。

 

 しかし意外だったのが快心さんもそこに混じっているのだ、A組では無いのに何故・・・。と思ったが何だかんだクラスが別なのに昼休みや放課後やらで何度も会っている仲だった、こういった事に誘わない訳が無いか。

 

 「よし!無事に準備運動も終わったところで何名かに分かれて泳ごう!女子と協議しプールの半分を使う事になった!これならばローテーションも出来るだろう!」

 「あ、飯田、くん。良い?」

 「ん?どうしたんだ回精くん、何か質問でも?」

 「ううん、俺、泳げ、無いから、分かれ、られない」

 

 俺の発言が相当驚きに溢れたものだったのか、男子以外にもボール遊びをしていた女子もこちらを見て固まっている。快心さんは事情を知っているために苦笑していたが。

 

 「え?嘘だろお前THE・身体能力マンじゃねぇか」

 「体質、がね・・・。ちょっと、水中、と、合わなく、て」

 「動物の中には水に濡れるのを嫌う種類もいるが、そう言うのか?」

 「ううん、そう言う、のじゃ、無いけど・・・」

 「もしや純粋に泳げないのか!?なら俺が泳げるよう手伝おう!!」

 「うーん、見せた、方が、早いね」

 

 論より証拠、泳げない事を証明するためにプールの縁に腰掛けた。

 

 

─────

 

 

 「ねぇ、快心って回精とは中学からの友達なんでしょ?なんか知ってる?」

 

 響香ちゃんの声で獣狼くんから目を離せばA組女子達の気になると言った顔がこちらを見ていた、良くも悪くも獣狼くんが泳げないって、ギャップが凄いからねぇ・・・。

 

 「そうだね・・・、とりあえず獣狼くんが実践してくれるみたいだし、説明はその後かなー」

 

 視線を戻せば獣狼くんがプールの縁に座り、足から徐々にゆっくりとプールに入っていた。そういえば獣狼くん濡れた後のブラシ忘れてないかな・・・?百ちゃんに頼めばブラシ作ってくれるかなー。なんて思っていれば獣狼くんがプールの中に入って、()()()()()()()()()()()

 

 「・・・ねぇ快心ちゃん、回精ちゃんのアレは大丈夫なの?」

 「大丈夫だよ?だってアレが何時もの獣狼くんだもん」

 「え?何時ものって・・・」

 

 男子たちが獣狼くんの居たプールサイドに集まって慌てた様子で水中を覗き込んでいる。まぁ私も最初見たときにはビックリしちゃったけど、今じゃもう慣れっこだ。

 

 「うん、獣狼くんって見た目に反して体がすっごーく重いの。だから水に浮けないんだよね」

 「え!?それってやばくない!?」

 「大丈夫だよ、獣狼くんは頭ならそこまで重くないし直接膝の上とかに乗せなきゃ平気だよ。それに膝の間に座らせてあげれば耳と尻尾が───」

 「いやそこちゃうし!ってか何やっとるん!?」

 

 説明しているとお茶子ちゃんのツッコミで中断させられ、その間にプール底を歩いたのか入った場所とは離れた位置から獣狼くんが跳び出してくる。少し勢いがあった為か軽い波が発生したけど、みんな平気だったのはヒーロー科は伊達じゃないという事かな。

 

 「え?出てきた場所が違いますわ・・・」

 「プール底を歩いて来たんだね。多分男子が集まるってわかってたから移動したんだと思うよ」

 「・・・ねぇ、もしかして回精が泳げないって言ったのって・・・」

 「うん、水に浮けないからそもそも泳げないし、歩いちゃえるからって意味だよ」

 

 二つの意味でね?

 

 

─────

 

 

 「なるほど・・・、身体能力が高い分それを支える筋肉や骨の密度も高い事で体重が重いのか・・・」

 「そういう、事。だから、ごめんね?こっちで、勝手に、鍛え、ちゃうね」

 「別に構わねぇって、言っちゃ悪りぃが十三人で人数的にちょっとアレだなーって思ってたしよ」

 「そう、言って、貰える、と、助かる、よ」

 「そういう事ならば仕方がないな・・・、では回精くんを抜いて四人三チームで別れよう!別れ方は出席番号でいいだろうか?」

 「「「異議なし!」」」

 

 飯田くんの提案に男子全員が返事を返す、この辺りは流石と言うべきスピードで決まって行き早速最初の四人とその後ろに二人ずつ並ぶ。俺は邪魔しない様に遠回りで女子達に端っこでいいから使わせてもらえないか聞いてみると、快心さんから俺が泳げない事を聞いたのか、すんなりと端っこを借りる事が出来た。

 

 さて、端っこも無事借りることも出来たがあくまで借りているだけ、あんまり強く動いて女子達に迷惑をかけるのは良くないと思い何度か息継ぎの為に縁に上がりつつも水によって抵抗が強い中、水底を走りプールの壁に向かってジャンプ、壁を蹴って三角飛びの要領で向きを変え、体全体を使って方向転換しまた壁に向かう。

 

 全部同じではつまらなかったので手を変え品を変えと動いて何度目かになる息継ぎでプールから上がれば、飯田くんがジュースを差し入れに持って来てくれたらしいので有難くいただく事に。流石に結構な時間を泳いだからかA組水泳チームはそれなりに疲弊しているようだ。

 

 「しっかしよぉ回精、お前泳げねぇってもしも水に落ちたらどうすんだよ?」

 「歩ける、よ?」

 「いや川なら大丈夫だろうが、海だと深すぎて歩くも何もないだろ?」

 「あー・・・ちょっと、実践、するね?」

 

 丁度女子も飯田くんのジュースを受け取って休憩にしていたのでプールには誰もいない、横断すればそこまで被害は無いかな?

 

 「じゃ、行くよー。せーのっ」

 

 掛け声と共にプールに向かって走り水面を()()()()()、そして走った勢いのまま前に進み次の足で水面を踏む、歩数にして三歩で対岸に到着しプールは強い衝撃でそこそこ波が立ってしまっている。流石に水面を踏みしめた音やプールの異変でみんなの注目が集まる中、歩いてみんなのところへ戻る。

 

 「ね?歩ける」

 「もしかして・・・足が沈む前に次の足で水面を踏めばいいとかそういうか・・・?」

 「そそ、これなら、海も、平気」

 「・・・脳筋過ぎんだろよぉ・・・」

 「でも、多分、緑谷、くん、も、出来る、よ?」

 「えっ!?僕も!?」

 「出力、上がれば、恐らく、は?」

 

 尾白くんの今やった事の解説と峰田くんの脳筋発言、だがこれに関しては個性で脚力とかを強化すれば出来る様な代物なので緑谷くんにバトンタッチ、俺の発言に緑谷くんが少しワクワクしながら全身に力を入れて水面を歩こうとするが。

 

 「うわっぷ!?」

 「力、足りない、みたい、だね」

 「・・・力が足りないって事は、後は個性を制御するだけで水面歩き出来るのか・・・」

 「恐らく、ね?多分、今の、倍とか?」

 

 尾白くんが俺の呟きに反応し、それに答えていると緑谷くんがプールから上がる。流石に一回で成功するとは思っていなかったもののやはり何度も泳いでいた疲れか、ぐったりしていると緑谷くんを気にかけた飯田くんがジュースを渡し二人で話し始めた。内容的に入っていくのは不味そうだなとプールサイドの適当な場所に座り、空を眺めつつちびちびとジュースを飲んでいるとひたひたと歩く音が聞こえた為に視線を向ければ快心さんがジュース片手に歩いて来ていた。

 

 「獣狼くん、隣いい?」

 「いいけど、どうし、たの?」

 「クラスに馴染めてるかと思ったら一人で空を見てて気になっちゃって」

 「・・・流石に、まだ、みんなで、会話、してる、ところへ、行くの、には、慣れて、無い、から」

 「ふふふっ」

 「・・・笑う、のは、失礼、だと、思う、よ?」

 

 どうやら一人でいる事を気にしたようで、その事で答えれば今度は笑われてしまう。流石に失礼なので苦言を呈せば快心さんは謝りつつも人の頬をぐにぐにと遊び始める。

 

 「ごめんね?ほら、笑顔笑顔」

 「にゃに(なに)しゅるの(するの)

 「だって、口を尖らせてるんだもん。可愛くってついね?」

 「うー・・・」

 「拗ねないで、でも獣狼くんって雄英に入ってから色々あって変わっちゃったなぁーって思ってたんだよ?でも案外変わってなくてつい嬉しくて」

 「人は、変わる、よ?」

 「でもほら、弟が知らず知らずの内に変わってたら少し寂しいじゃない?」

 「・・・それ、実の、弟、の、話?」

 「獣狼くんが良いならお姉ちゃんになってあげるよ?」

 「遠慮、しておく」

 「気が変わったら何時でも言ってね?」

 

 まるで人を弟の様に扱ってくるので僅かな可能性を持って快睡(かいすい)くんの事かと聞けば、未だ諦めていなかった俺の姉になろうとしていて、断ってもまだ諦めてはくれなさそう。そんな話をしていると爆豪くんの怒鳴り声と切島くんの声がする、どうやら切島くんは爆豪くんを連れてくるために遅れたそうだ。

 

 爆豪くんの負けず嫌いな発言から飯田くんの提案でプールの訓練からA組男子の中で誰が一番早く泳げるかの競争が始まる。ルールは個性使用アリの自由形、人や物に危害を加えないで行うという事で。

 

 「・・・飯田、せんせー、危害を、加える、ので、審判、しまーす・・・」

 「泳げないんだったな、確かに水面を歩かれては他の泳ぐメンバーが危険か・・・。ならばお願いする」

 「はーい、じゃ、ゴールで、誰が、最初か、ジャッジ、するよ」

 

 獣人種の動体視力があれば判断もしやすいだろう、スタートの合図は八百万さんが受け持ってくれるようなので途中で交代と言う心配もない。プールの角で見逃さない様意識を集中するが。

 

 「どォーだクソモブども!!」

 「泳いでねぇじゃねぇか!!」

 「自由形っつっただろうがァ!!」

 「・・・」

 「だから泳げって!!」

 

 以上、個性を使って泳がずにクリアした(爆豪くんと轟くんの)二名がぶっちぎりなために若干俺の居る意味ってあったのだろうかと思っていたら、緑谷くんと飯田くんの二人による一位争いが始まりギリギリのところで普通に泳いだ緑谷くんが一位。しかし僅差とかではなかった為にここまでは審判の練習と割り切った、最後の三人ならば僅差の戦いも起きるだろうと期待するが、視線を感じ目を向ければそこには保須事件の関係者たち。

 

 何かを思い出している表情で、しかし決意のこもった目線で轟くんを見た後にこちらも見る飯田くん。誰も言葉にしない、否、出来ない中でも伝わる意思。「自分の目指した最高のヒーローになる」、その決意のこもった目線はくすぐったくも嬉しいものでつい口元が緩む。だがこれで俺の意思が伝わったのか三人も笑顔で返してくれた。

 

 そして最後の爆豪くん、緑谷くん、轟くんの対決、一瞬も見逃せないと集中を始める、飯田くんの合図が始まり各々が個性を使う体制を整えスタートの合図が出され全員が一斉に跳び出す、が。

 

 「17時、プールの使用時間はたった今終わった。とっとと家に帰れ」

 「そんな!せっかく良い所なのに!」

 「なんか言ったか?」

 「「「「なんでもありません!!」」」」

 「ねぇ、これがA組の何時ものなの?」

 「うん、面白、い、でしょ?」

 

 相澤先生が個性を封じ、プール使用終了を伝えに来たために誰が一番早いかは決めそこなってしまう。この光景を始めてみた快心さんは小声で聞いてきたので、答えると少し苦笑していた。

 

 ほぼ全員と校門で別れ、この時間だと歩いた方が早いという事でブラシをもって俺の髪を手入れする快心さん。と言うか歩きながら器用だなーって思っていると唐突に。

 

 「A組のみんなは良い人達ばっかりだね」

 「どうした、の?突然」

 「だってそうでしょ?他クラスの私も仲がいいからって誘ってくれたんだよ?」

 「・・・そういう、ものじゃ、ないの?」

 「ただの仲の良い友達ならね。でもみんなヒーロー科だよ?科の違う私も誘ってくれるって中々出来ないと思うんだ」

 「まぁ、みんな、優しい、し」

 「だから獣狼くんも変わっちゃったり?」

 「・・・まぁ、ね」

 

 俺自身の変化は良い事なのだろう、だがそうやって指摘されると、その、少し恥ずかしい。その後は言葉少なく歩いていたがまたも唐突に。

 

 「ねぇ、獣狼くん。私ヒーロー科の林間合宿に参加する事にしたんだ」

 「・・・快心、さんが?」

 「うん、経営科って別に事務仕事とかヒーローをどうやって目立たせるだけじゃないんだよ?私みたいにヒーローをケアするって人も少なからずいるんだ。だからその予行演習で参加するの」

 「そっか、個性、凄い、もんね」

 「・・・私の中で一番凄い獣狼くんに褒めてもらえるのは嬉しいなぁ」

 

 声に隠し切れない嬉しさを感じながらも俺もまた快心さんの中で評価が予想以上に高かった事に嬉しく思っている。A組のみんなですら耳と尻尾の動きである程度、感情がバレて居たりするのだからすぐ後ろにいる付き合いの短いようで長い快心さんにはバレバレなのだろう。

 

 「ふふふっ、林間合宿でも獣狼くんのお世話をしてあげよっかなぁー?」

 「むぅ・・・、あんまり、変な、事は、しない、でね?」

 「・・・ホント、変わったね獣狼くん、勿論良い意味でだよ?」

 〈どんなに変わってもー〉〈獣狼は獣狼ー〉〈そこに何の違いもありゃしないー〉

 「・・・・・・ありがと」

 

 快心さんの言葉の後、精霊たちが気を使ってくれたのか慰めてくれる。その心遣いが嬉しいからこそ、みんなに聞こえるように口に出して感謝の言葉を伝えればみんなは笑顔で返してくれる。嬉し恥しな気持ちの中、快心さんのブラシで髪を僅かに引っ張られながらも帰路を歩んで行った。




 何やってんだコイツ、と思ったでしょうがこれが快心さんなんです。これで平常運転なんです。

 水面走りはノゲノラ外伝でやってそれで魚を捕まえていますが、獣狼は流石に魚を捕まえる程の余裕はありません。


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第五十話:林間合宿と強行突破

 僕アカ観てたら次に次にと進んで結構見入ってしまいました、やっぱり僕アカ面白いですね!!はいごめんなさい。

 ちなみに言い忘れていましたが、経営科のヒーローのケアについては独自設定です。ホント言い忘れ過ぎだよ。前話の前書きも更新して注意書きしときます。


 夏と言う事で朝方と言うのに強い日差しの中、雄英高校の駐車スペースでA組のみんなと相澤先生の林間合宿についての話を聞く。流石にこの程度の日差しで問題になるような生徒は居ないようで全員平然としているが、少し気になる事もあるのか一部の生徒がちらちらとそちらの方を見ている。そして相澤先生の話が終わり、ついに先生の()()()()()()()快心さんの説明が入った。

 

 「そして今回、経営科からヒーローのケアを実地で学ぶという事で、1-Jから微睡 快心が君たちのサポートをすることになった、が。まぁ挨拶とかは抜きでいいだろ、何度も1-Aに入り浸っているようだしな。以上!」

 

 相澤先生が話を終えたとほぼ同時に各々で何人かに分かれて話し始める、良く一緒になる者や友人と、そして丁度隣だったから話をする者もいる。

 

 「まさか微睡が参加するとはなー、1-Jって言ってるけどプールの時も一緒にいたし準1-Aみてぇな事になってんな」

 「そういう意味なら首無もかな。でも二人もちゃんと1-Jで交流があるようだし、人脈って意味なら見習わないと」

 「二人、とも、コミュ力、高い、から、ね」

 「だがなぁ、正直微睡が参加するのはちょっと不安なんだよな。主に今近づいて行ってるアレで」

 「・・・俺も不安になって来たな・・・、主にクラスメイトから犯罪者が出ないかって」

 「だいじょぶ、快心、さん、強い、から」

 

 砂藤くんが指さすので見てみれば快心さんにジリジリと近づく峰田くん、何か彼の琴線に触れる出来事か言葉があったのか、少し離れたここからでも何やら悪い気配が峰田くんからにじみ出ている。尾白くんがそれを見て不安に陥るが、快心さんは大丈夫と言えば二人して疑惑の目でこちらを見る。そんな話をしていると向こうでは峰田くんが快心さんに話しかけていた。

 

 「な、なぁ微睡よぉ・・・、ヒーローのケアとかサポートをしてくれるんだよなぁ・・・」

 「うん、私そのつもりでここに入ったからね。有名なヒーローを輩出している雄英ならそういうのも充実してるかなーって」

 「なら林間合宿でオイラのケアもしてくれるって事だよなぁ・・・!だったらぁ───すやぁ・・・」

 「うわっ、完全に寝てるよ・・・。快心何したの?」

 「うふふふ、個性でちょっとね?相手を眠らせるのには慣れてるの」

 

 快心さんが屈んで峰田くんのおでこに触れて個性を発動、そして峰田くんは受け身も取らずにそのまま地面とキスをした。あまりの早業に周りがついて行けず、すぐさま動いた耳郎さんがイヤホンジャックで峰田くんが寝ている事を確認し快心さんに聞けば上品に笑いながらも個性使用をほのめかす。

 

 「・・・なぁ回精よぉ、俺は微睡の個性知らねぇから教えてくんねぇか?」

 「安眠、触れた、相手を、好きな、時間、眠ら、せる。起きると、スッキリ、する」

 「リカバリーガールとは違う方面だが回復系の個性か?確かにこれから厳しい林間合宿でいてくれると助かるな」

 「ついでに、触れるだけなら変な事をしようとした奴をその場ですぐ無力化、ってか」

 「そういう、こと」

 

 そんな話をしていればB組の挨拶と変なこと(物間)もあったが、忠告を聞いてくれた拳藤さんがすぐさま止めてくれたために気にしない事とする。そして何時の間にか起きていた峰田くんの擁護出来ない発言に真顔で忠告する切島くんに飯田くんの委員長モードと怒涛の展開、流石の快心さんも苦笑いが隠せなかったようだ。

 

 結局バスの席は中の良い人同士で座る事になった、みんなの「合宿とは言え、こういう特別な時は席順とは関係なく座りたい」と言う意見に委員長モードの飯田くんも一理あると折れる事になったのだ。そうして窓側を狙って座ろうとしたが二人席は全部埋まっていて、仕方なく一番後ろの五人席に座れば快心さんが当たり前の様に隣へ座る。

 

 ちらりと快心さんを見れば笑顔で自分の膝をポンポンと叩いて要求してくるので、大人しく尻尾を膝の上に乗せれば流石にバスの中なのでブラシは取り出さないが、手でゆっくりと流れに沿うように撫でられる。バスの冷房でそこそこに快適な空間になっているのも相まって珍しく欠伸が出そうになるのを噛み殺しながら、流れる外の景色をぼんやりと眺めていた。

 

 

~~~~~

 

 

 「獣狼くん、起きて」

 

 外の景色を眺めていたつもりがいつの間にか眠ってしまっていたようで、快心さんの声で目を開ければ横になってバスの席を眺めている事からやっぱり快心さんに膝枕をされていたようだ。そのまま起き上がるのではなく引き抜くように膝から離れれば快心さんの満足だけどちょっと残念そうな顔。

 

 「個性、使った?」

 「使ってないよ?ただ獣狼くんが寝ちゃったから勝手に膝枕をしただけだよ?」

 「んー・・・わかった、あり、がと」

 「ふふふ、どういたしまして。みんな降りてるから私たちも降りよ?」

 

 親切心からやってくれた事には文句も言えず、若干の気恥しさもあるもののお礼を言ってからバスを降りる。珍しく体が完全に起きていないのか欠伸と共に体を伸ばしていると、視線を感じた為にそちらを向く。一部の女子と男子がこちらを見てニヤニヤしているが何故そんな表情をされているかわからず、首をかしげていると。

 

 「よし、全員降りたな。なんの目的もなくってのもどうかと思ってな」

 「よう、イレイザー!久しぶりだな!」

 「ご無沙汰してます」

 「煌めく眼でロックオン!」「キュートにキャットにスティンガー!」

 「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 「今回お世話になるプロヒーロー、プッシーキャッツの皆さんだ」

 

 戦隊ものを彷彿とさせる名乗りと共に現れ、正体を知るや否や緑谷くんが興奮気味に語りだす。しかしヒーロー歴を語ったところで水色の人に頭を掴まれ、無理やり訂正させられていた。一連の流れが終わったと判断したのか、相澤先生によってクラス全員が二人の女性に挨拶をする。

 

 しかしこんな何もないところで合流するのはどうしてだろうと思っていると、赤色の人が森の向こうを指さしながら目的地は山の麓と言う。しかしここからではギリギリ何か建築物があるな程度しか見えない為に、全員が声を揃えて驚愕していた。そして今明かされた目的地、バスを止め全員で降ろされる、いきなり突拍子もない事をやらされて変に察しが良くなってしまったみんなは声を震えさせながら、自らが思い至った恐ろしい考えを否定しバスに戻ろうとするが、個人的にはもう諦めた方が良いと思う。

 

 「今は午前9時30分、早ければぁ~12時前後かしらぁ?」

 「ダメだ・・・おい!バスに戻れェ!!」

 「12時半までかかったキティはお昼抜きねー」

 「悪いね、諸君。合宿はもう、始まっている

 

 みんなが走り出している中、ちゃっかり知っていたのかA組から離れた位置にいる快心さん。あ、こっちに気づいて笑顔で手を振ってる。ため息をついているとバスに戻ろうとしたみんなの方から個性が発動する感覚、ちらりと見れば水色の人がみんなとバスの間に立ちふさがって地面に手を付いている。

 

 次の瞬間に地面が盛り上がり雪崩の様にみんなを飲み込んでいる、恐らくこの攻撃はゲームで言う所の回避不能のギミック攻撃なんだろうなぁ。でも出来れば耳の中に砂が入るのは遠慮したいので、発動から猶予があったためにさらっと赤色の人の近くでやり過ごそうとするが。赤色の人が気づいて個性を発動したので警戒していると、後ろから片足を取られ逆さまに吊り下げられる。

 

 「うそっ!?」

 「逃げようなんてそうはいかないわよ?」

 「・・・降りる、ので、足の、これ、外して、もらえ、ません、か?」

 「うん、素直でよろしい。ピクシーボブ、離していいわよ」

 「えー?でもこのまま落としちゃった方が───って砕かれた!?」

 「それじゃ、いってき、ます」

 

 地面を操作してみんなを下に落としつつも、それに紛れて見えないはずの俺を土のロープで掴まえる。技術(アイテム)か個性かそれとも頭のパーツか、しかし考えるのは後にしよう。空いた片足で足首の拘束を蹴って砕き、落ちたところを腕の力で柵の上に着地、みんなが居るところに落ちない様にと飛び降りる。この高さなら特にこれと言った技術も必要なく着地するが。

 

 「オイ回精!降りるならちゃんと衝撃をどうにかしろ!口の中に砂入った!!」

 「あ、ごめん・・・」

 「おーい!私有地につき、個性の使用は自由だよー。今から3時間、自分の足で施設までおいでませー。この、魔獣の森を抜けて!」

 「魔獣の森・・・?」

 「雄英こういうの多くない・・・?」

 

 みんながファンタジー溢れる名称に首を傾げながらも森の中を進む決心をしていると、峰田くんが猛スピードで森の中に突入していた。しかしその先には魔獣と言える四足歩行のナニかが待ち構えており、あまりの事態に動けない峰田くん・・・いや違う、あー・・・ご愁傷様としか・・・。ともかく魔獣が腕を振り下ろそうとしたので、口田くんが個性で止めようとするも止まらず、間一髪緑谷くんが魔獣の攻撃から峰田くんを抱えて助け出す。

 

 膠着状態に陥ったが、緑谷くんと一緒に修羅場を潜り抜けた二人と元々向上心が高い一人が真っ先に加勢に向かったので、これ以上は過剰だろう、という事で様子見に徹する。予想通りあっという間に魔獣を撃破する四人、みんなが四人を褒め称えるが、目の前の土から魔獣が発生したために一気に周囲を警戒する事に。逃げるという提案も出たが、お昼抜きは全員が厳しいようで八百万さんの案である最短路を進む事になった。

 

 中衛に索敵が得意な者を配置し全員に伝え、前衛は足を止める役と撃破役で組み順調に魔獣を撃破していく。しかし数で押された場合は個人戦力の高い飯田くん、轟くん、緑谷くん、爆豪くんの四人が迅速に倒していく。その間、俺はと言えば。

 

 「上鳴、くん、運んで、来たよ」

 「ありがとうございます。・・・確かに救護も力がある人が居れば助かりますが、あちらの四人に加わらなくてよいのですか?」

 「正直、過剰、かな、って。それに、強化、合宿、だし、何より、ここ、得意、過ぎて、ちょっと」

 「得意、と言うと?」

 「山の、中は、経験、あり、なんです。だから、経験、無い、人に、譲ろう、と。なので、救護、の、経験、譲って、ください」

 「・・・わかりました、何かあったらガンガン頼らせていただきますわね」

 「うん、任せて」

 

 と言う事で、行動不能になった人や一時休憩が必要になった人を後衛である八百万さんのところまで連れてくる係兼護衛役を買って出た。本格的に休む事は出来ないが、移動だけに専念する事である程度は休めるだろうし場合によっては手伝うつもりだ。その後も個性のデメリット故に上鳴くんと砂藤くん、飯田くんに青山くん、そして麗日さんを引き連れては戦闘から離し、その度に組み合わせを変え、時々やってくる魔獣を倒しつつ回復したらまた戦闘に向かってもらい、目的地に向かって確実に前進していた。




 ぶっちゃけここに関しては獣狼との相性やら適正やらが高すぎてやべーです、なのであえて後ろに下がってみんなのサポートをして回っています。


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第五十一話:束の間の休息

 オラァ!前向きに書いていくぞおらァ!オイラァ!!・・・あちゅい・・・。


 木々の隙間から夕日が辺りを照らし始めたころ、四人を主力に一部のデメリットで行動不能組をローテーションで行動させ、個性に限度のある八百万さんを温存しながらも相澤先生とプッシーキャッツ、そして快心さんと男の子が出迎える建物───恐らく今回の合宿場だろう───に到着した。

 

 全員がボロボロになっており、特に個性の関係で体の一部を酷使した者はその部位にダメージが入っているようで、手で押さえながらも建物前まで歩いていた。みんなよりは元気だけど、お昼抜きでここまでは少し辛い。流石に動物を捕まえてその場で食らうという事は一部の生徒たち(主に口田くん)に刺激が強すぎるので出来ないし、救護にまわったのは正解だったかな。

 

 全員がしばらく歩き、もう動けないと地面に座る。建物付近で魔獣を出す事も無いのはわかってはいたものの、雄英だし(除籍宣告)プロヒーローだし(さっきの土の津波)で若干気を張り詰め過ぎていたようだ。担いでいた()()を地面に優しく降ろす、この大砲は八百万さんが最初の方で作り出したもので勿体ないので持って来ていた。そうすれば後は鉄球と撃ちだす火薬を創造するだけで強力な遠距離攻撃にもなるし、近づかれてもこれでぶん殴ればいいというお得な武器だ。

 

 「なにが3時間ですかぁ!」

 「それ、私たちならって意味、悪いね。でも想像よりずっと早かったじゃない」

 「実力差自慢かよぉ、やらしいぜ・・・」

 「腹減ったァ、死ぬぅ!」

 

 赤色の人からお褒めの言葉を貰うが、誰一人として喜ぶ者はいない。だって結局お昼抜きだったし。ピクシーボブさんが独特な笑い声の後にクラスの評価を下す、魔獣を適切に対処し思ったより簡単に突破され予想以上の早さで到着したと。その中でもやはり個人戦力の大きい四人が褒められているが、魔獣と何らかの方法で繋がって居たりするのだろうか。と考えていると唐突に指さされる。

 

 「ところで?なんで君戦わなかったの?君だってこの四人くらいには戦えたでしょ?」

 「山中、で、戦闘、経験、が、あった、のと、救護の、経験、が、欲し、かった、んです」

 「へぇ?もしかして魔獣じゃヌルいってわけかな?」

 「誰かが、救護に、まわった、方が、良いと、判断、しました」

 

 実際に思っていた事を伝える、あの時クラスのみんなは手早く何人かのチームを組んで魔獣に対処していたが、全員が攻撃役と足止め役ではバランスが悪いと思い救護と言う支援役を務める事にしたのだ。・・・若干、考えがファンタジーゲームのパーティー編成チックになっているのは、魔獣の森と聞いたみんなの発言に少し引っ張られてるからだろう。

 

 俺の発言に再び独特な笑い声を出す、反応からして俺の判断は間違いではなかったのだろう。

 

 「ネコネコネコネコ!その判断力に免じてヌルい扱いした事は目を瞑りましょう。フフフ・・・期待できる五人、三年後が楽しみィ!!唾付けとこぉ!!

 「うわっ!?汚ねぇ!!」「何を!?」「や、やめろ!」

 「・・・それじゃ」

 「逃がすかァ!!」

 

 うわっ、こっち来た。だがプロと言ってもあくまで発動系個性、異形型と増強型の複合である俺に純粋なスピードで敵う訳もなく、諦めて再び四人のところへ戻る。

 

 「チッ!救護に回ってたせいで体力がまだ残ってるか・・・。なら先にこっちよ!!」

 「オイクソ犬ゥ!もっとコレ引き付けてどっか行けやァ!!」

 「無茶、言わない、で」

 「あっ!適齢期といえb「と言えばってぇ?」ずっと、気になっていたんですが、その子はどなたのお子さんで?」

 

 緑谷くんが指さしたのはこの場には明らかに場違いな小さな子供、小学生くらいだろうか?赤色の人に洸汰と呼ばれた子供は挨拶するように言われるも、こちらを睨みつけるだけで何も言わない。緑谷くんが自己紹介をし握手を求めるも急所を殴って立ち去ろうとする。しかし咄嗟に倒れる緑谷くんを支えた飯田くんに呼び止められるが「ヒーローを目指す奴とつるむ気はない」と爆豪くんの様なセリフを言い残しその場から立ち去ってしまう。

 

 話が終わったと判断した相澤先生の指示で、バスの荷物を運ぶ際に比較的体力の残っていた障子くんと一緒に動けない人の荷物を運んでいる、他の人より最後に移動し始めたので前の方で何人かは居るが実質二人きりだ。そう言えば障子くんと初めて一緒に行動しているのではなかろうか?教室ではちょくちょく話していたし、彼は聞くのも話すのも上手だ。

 

 「嬉しそうだな、回精」

 「うん、そこそこ、話す、仲、だけど、一緒に、何か、やるって、初めて、だな、って」

 「そういえばそうだったな、ヒーロー基礎学でも個性が近しいせいか一緒に組むという事も無いしな」

 「うん、だから、少し、嬉しく、て」

 「・・・お前は時々、物事を直球で言うな」

 「気に、障った?」

 「いや、だがそうやって好意を直接言われるのは慣れてなくてな。少し反応に困る」

 「くくく、じゃあ、慣れない、とね」

 

 その後も雑談しながら移動していると同じく直球で言う繋がりで話題が轟くんの話に。そしてそんな話をしていると本人が名前を呼ばれたと会話に参加してきて更に話が広がって他のクラスメイトが話題に上がれば、その人が参加してと二人増えた辺りで部屋に到着。流石に会話よりも荷物を置いて早く晩御飯にしたかったらしい、みんなは荷物を部屋に置いてすぐさま移動していたので、おいて行かれない様に俺たちも部屋を後にした。

 

 「いただきます!!」「いただ、きます」

 

 一部の人は空腹に耐えられずに食事を始めていたが、隣の尾白くんも食事始めの挨拶はするようで、しかしその後はドンドン食べ進んでいた。俺は救護だったのもあってお昼抜き以外は厳しいがそこまででもなかったので、何時もなら頼まないメニューも並んで精霊たちが気になった物をお皿にとっては味覚を明け渡して食事をしていた。

 

 ゆっくり食べていると配膳をしていた快心さんに心配されるというハプニングもあったものの、みんなの分を取ったら悪いから最後に残ったものを食べると言ったら納得してくれた。事実食べ終わった人がちらほら出ていたが、テーブルの上にはおかずが残っていたので快心さんに頼んで持って来てもらい、精霊たちも粗方食べて満足したらしくちゃんと味わって食べる事が出来た。

 

 そしてお風呂・・・と言うより露天風呂か?和風な作りで旅館によくありそうなお風呂だが俺は入れない、別に入るなと言われているわけではないが、気になって前に中学の修学旅行で一人部屋になった事を妖目に聞いたところ。

 

 「いやだって、獣狼がお風呂入ると尻尾の毛が浮くでしょー?だから、そういう人用の部屋を用意してもらったってワケ」

 

 と言われてしまった。お陰で謎が解けたのと同時に公共のお風呂が使えなくなってしまったが、今回は尻尾についた土をかき出すのと汗を流す程度なのでシャワーで問題ないだろう、それに元々お風呂が好きと言う訳でもない。

 

 みんながお風呂に入りだした辺りで尻尾の土は恐らくだが全て取り除けたので、チャチャっと髪と尻尾、体を洗えば峰田くんが仕切りの方をガン見しながら何か言っていたが、まぁ何時ものだろうと誰かが対処すると判断して脱衣所に戻る。今なら快心さんもお風呂だろうし途中で捕まる事を警戒しなくてもいいだろう、寝間着の洋服に着替えて一度食堂によって水を飲んでから男子部屋に戻る。

 

 部屋に戻ればやっぱり誰もいない、寝間着を取りに来た時に荷物の位置が整えられて壁際にあるくらいか?お陰で中央が広く使えるけどあまり関係なかったり。特にやる事も無いので尻尾と髪にブラシを通す、5分にも満たずにちょっと面倒になり、これでいいやとブラシを辞め寝っ転がるとノックも無しに部屋の扉が開くと、お風呂から上がった男子がぞろぞろと入ってくる。

 

 「いないと思ってたら部屋にいたのか」

 「早めに、上がった、からね」

 「みんなには風呂で言ったが、この後女子も部屋に来るってよ。なのでぇ、こんな事もあろうかとトランプを持ってきましたァ!」

 「あ、俺UNO持って来てるから貸すぞ」

 

 瀬呂くんの遊ぼう発言で他にも持ち運びやすいパーティーゲーム、主にトランプなどの紙で出来たものがドンドン出てくるが、常闇くんがまさかの花札を持ってきたところに驚きだった。ワイワイと遊ぶ準備をしていると扉がノックされ女子が入ってくる、参加しなさそうな八百万さんも来ていたのは驚きだが、こうやって遊ぶのが楽しみだったのだろうか?

 

 俺もこういった事は無かったので参加しようとトランプの組に加わっていたが、後ろに誰かが座ったと思ったら尻尾が捕まれる。後ろを振り向けば快心さんが俺の荷物の上に置いてきたブラシをもって片手で尻尾を掴んでいた。

 

 「・・・ブラシ、したよ?」

 「適当に済ませたでしょ?だからちゃんとやってあげるね」

 「・・・・・・お願い、します・・・」

 「よろしい」

 

 ちゃんとやったと言いたいところだが、ブラシをもって尻尾を掴まれた時点でもう逃げ場は無いだろう。諦めて尻尾に入れてた力を抜けば満足そうに頷く快心さん。こうなると快心さんには毎度勝てないんだよなぁ、と前を向けば耳郎さんと葉隠さんもトランプに参加するようだ。

 

 最初はルールのわかりやすいババ抜きから始まって、七並べ、ブラックジャック、そして現在ダウトをやっている中、ふと気になり後ろを向かずに快心さんに聞いてみる。

 

 「ところで、サポート、って、何、するの?」

 「個性で疲労が激しい人を眠らせたり、雑用とかかな?一部は自分たちでやらせるからって手伝わなくていいみたい」

 「ふーん。あ、ダウト」

 「ぎゃー!?なんで回精くんそんな当ててくるのー!?」

 「さて、なんで、だろう、ね?」

 「くーやーしーいー!!」

 「後半になってドンドン当ててくるよね・・・、個性とか使ってるの?」

 「企業、秘密、です」

 「お前それ、殆ど使ってるって言ってるじゃねぇか・・・」

 

 流石に嘘を察知するのはかなり難しい、だけどこう何度も嘘を見せられ更に同じ時を過ごしたクラスメイトだからこそ、ギリギリだがわかってしまう。だが流石にこれはズルいので別の遊びに変わった。・・・大富豪?アレは地域によってルールが違いすぎて統一するのに時間がかかるので却下になった。

 

 19時から遊んでいたが、21時に来た相澤先生の一言で女子は部屋に戻り、男子だけで遊ぶことに。だがそれも22時までと事前に言われていたので時刻が近づけば飯田くんによって強制終了、そして全員が布団を敷いて寝る準備が完了すると、お昼の疲れからかすぐさま寝息が聞こえてくる。俺も何時もよりちょっと寝る時間が遅いので目を閉じて横になって、しばらくすれば心地よい眠気と共に意識が遠のいていった。




 うーむ、飛ばせるところは飛ばした方が良いのだろうけど、こういった戦闘とは関係ない日常的なところも筆が進んで書いてしまっている・・・。


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第五十二話:個性を鍛えるという事

 修行タイムぱーと2です、と言っても詳しく書く技量も無いので大まかー、ですが。


 合宿二日目の朝が来た、朝5時は一部の人には早い時間らしく眠そうだ。しかし相澤先生の話と、その後に行われた爆豪くんの個性アリのボール投げで全員の目が覚める。爆破の音や衝撃もそうだが、何より相澤先生の告げた記録が前回の記録と数メートルしか距離が伸びていない事による驚きが強いだろう。

 

 「君たちは確かに成長している。だがそれは精神面や技術面、少しの体力と言ったところで個性に関してはそこまで成長していない」

 「だから今日から君らの個性を伸ばす。死ぬほどキツイが、くれぐれも死なない様に」

 「そして今回、彼女らの協力で君たちの個性を伸ばす。二人にはもうあったろうが、残りの二人にも挨拶しろ」

 「「「「よろしくお願いします!!」」」」

 「煌めく眼でロックオン!」「猫の手、手助けやってくる!」「どこからともなくやってくる」「キュートにキャットにスティンガー!」

 「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!フルバージョン!!」

 

 登場の名乗りも終わり、紹介されるワイプシ───緑谷くんから愛称を教わった───の残りのメンバー、黄色で目を見開いているラグドールさんと筋骨隆々の茶色の虎さん。個性で各々の訓練に合った場所を作りアドバイスをするという事で、相澤先生から個性を伸ばすメニューを聞き、実行していった。

 

 「回精、お前の個性は結局のところ体がメインだ。なので増強型と近い事をやってもらう。今から昼まで森の中を全力で走れ、そんで昼になったら虎さんと組手だ。何かあったらマンダレイのテレパスで伝える」

 「わかり、ました。行ってき、ます」

 

 と言う事で俺の訓練は最初は森の中を全力で走るという事らしい。全力で走り続けるなんて久々だ、親類たちが集まった時に山の中で子供たちと一緒に走り回った時以来か?

 しかしみんなが集まると大半が動物の個性を、哺乳類が多いのでちょっとした動物園気分になれる。しかしその場合展示されるのは俺達か、みんな優しいのでどんな猛獣でも触れ合い放題の動物園。快心さん大喜びじゃない?なんて変な事を考えつつも時々テレパスで方向転換を指示されつつ、森の中を走っていった。

 

 

─────

 

 

 「うわ、あのケモミミの子はっやーい!この子は1時間半くらい?エンジンの子も慣れたら1時間くらいで落とした場所からここまでこれちゃうんじゃない?」

 「え?ほんとに?エンジンの子はともかくあの子そこまで足が速いようには見えなかったけど」

 「うん!あちきも見た目でそう思った!でも意外や意外!虎以上の力の持ち主だよ!」

 「ほう?我以上とは中々腕がなるではないか・・・」

 「回精は身体能力は良いですが、経験がありません。そしてアイツ自身がやって覚える派らしいので、思いっきりやっていただいて結構です」

 「なるほど、了解した」

 

 どうやら回精は言われた通りに走ってるみたいだ、アイツは年齢にしてはかなり落ち着いているし素直だ。朝はラグドールさんとマンダレイさん、昼からは虎さんに任せっきりで問題ないだろ。虎さんに回精の事で伝えるべき事は伝えたので、他の無茶しそうな生徒のところへ行こうとすると後ろから呼び止められた。

 

 「ちょっと待ちなよ、イレイザーヘッド!」

 「なんですか?ラグドールさん。俺も生徒の見回りに行きたいのですが・・・」

 「うん!その生徒の事、あのケモミミの子について!」

 「・・・回精がどうかしましたか?」

 「あの子、あんな不安定な状態で良いの?あちきの個性で見てわかったんだけど、はっきり言ってかなり変な事になってる!」

 「えぇ、大丈夫です。その事に関しては既に()()()()()()()()

 「そうなの?ならそれも織り込み済みって事で良いのかな?」

 「はい、お陰で訓練を途中で考え直す事になりましたが」

 「あはははは!織り込み済みならいいや!」

 

 そういうとラグドールさんは持ち場に戻るために背中を向け歩き出す、それを見て俺も生徒のところへと移動を始めつつも回精の事で考える。

 

 あいつの個性はそんなに珍しいって程じゃない、結局のところ轟と同じく両親の個性を受け継いだというだけだ。そしてそれが轟と同じく戦闘能力に秀でている、それだけだ。

 しかし問題は夏休み前に校長伝手で雄英と専属契約を結んでいるトライスターの個性研究所から、アイツの個性に関して簡易的な検査結果が届いたという事だ。まぁそれだけなら親の伝手で受けたんだろう程度しか思わない、だが結果が問題だった。

 

 内容を簡潔に言えば中学生時代に調べた時と比べ、個性が()()()()()()()と言う事。詳しく言えば回精の個性である精霊が回精の身体強化を使うと一気に不安定となる。そしてまだ二回しかデータが無いが、このままだと最後には何が起きるかわからず、最悪も想定した方が良いとも書かれてあった。

 

 幸い大きな外的要因も無ければ今すぐと言う事もなく、回精の身内に精霊のスペシャリストが居るので改善が見られなければ、最悪精霊を消して対処するという具体案も資料に書いてあった。正直に言えばそんな爆弾を抱えたくは無いが、身体強化を抜きにしても回精に素質があると判断したのと具体案に免じて残す事にしたし、今回の合宿にも連れて来た。

 

 今年の一年は一部不安な連中もいるがかなり期待できる、だからだろう。

 

 「回精、お前の個性と言う大きな壁、乗り越えて見せろよ」

 

 俺が、こんな柄にもない事を呟いてしまうのは。

 

 

─────

 

 

 途中に休憩を挟み、現在お昼。プロヒーローでは束先生以来の虎さんと組手をしていた。

 

 「どうしたどうしたァ!攻撃が単調だぞもっと考えて攻撃をしろぉ!!」

 「イエッ、サー!」

 「守りばかり硬くてどうする!お前はヴィラン相手のサンドバックになるつもりか?もっと攻撃して来い!」

 「イエッ、サー!!」

 「守りが甘いッ!!両立しろォ!!」

 「イエッ、サァー!!」

 

 リーチが短い為に虎さんの攻撃をかいくぐって入ろうとするも、堅実な戦闘方法で中々入り込めない。単調な攻撃をした瞬間隙をついて蹴りが飛んでくるのでちゃんとガードしなければ危ないし、無理に突破しようとすれば軟体によって力の上がったパンチで後退させられる、そして虎さん自身も束先生レベルに素手戦闘の経験があるので経験の少ない俺には厳しい相手となっていた。

 

 「ぐぅっ!!」

 「ほう?良いのが入ったと思ったが、腕を間に入れ間一髪で防いだか」

 「そしてすぐさま突撃、悪くはない」

 

 蹴りを避けられずにギリギリ腕を間に入れて防ぐものの吹っ飛ばされる、だが腕は痛いが思ったよりダメージは無いのですぐさま立ち上がり再び接近。徐々になれたのか虎さんの腕や脚を逸らす事で少しではあるが近づき始めた、が。

 

 「む、アラートが鳴ってしまったな・・・。他の連中の相手をするのでその間に水分補給を忘れるなよ」

 「ふぅ・・・ふぅ・・・イエッ、サー!」

 

 そうして虎さんが他の増強型生徒の相手をしている間に、個性訓練で沢山食べなければならない砂藤くんと八百万さんの近くに止まっているトラックからスポーツ飲料のペットボトルを取り出す。今は夏場で昼過ぎ、熱中症なども気にしなければいけないのだろう。飲み干したら空のペットボトルをゴミ箱に入れ、組手をしていた場所で虎さんが戻ってくるまで待機。戻ってきたら再び組手と日が沈むまでそれを繰り返した。

 

 

~~~~~

 

 

 「さぁ!昨日言った通り面倒見るのはもうおしまいだよ!」

 「己の食らう飯くらい、己で作れぇ~!今晩はカレェーー!!」

 

 全員が疲労困憊の中で晩御飯を作らなければならない事に真っ白になっていると、それを見たラグドールさんが爆笑し、雑に済ませるのはダメと釘を刺されてしまった。しかし飯田くんはこの晩御飯作りを災害時の料理訓練と思い、一気に委員長モードへ突入、みんなを率先し始めた。

 

 さて料理かぁ、台所に身長が会わないから中々に大変だけど、嫌いではないんだよな。だって足りなかったら自分で作らなきゃいけないし。なので手伝おうと思ったが、火を使う所は身長が足りないので断念。しかし食材を切り分ける組が手が足らないという事なのでそちらを手伝う。

 

 大体生徒の数が42人だから、大まかに人参と玉ねぎが14個でジャガイモが28個かな?でもみんなお腹空いてるだろうしもっと必要だろうなぁ。と必要数を考えつつも、とりあえず目の前にあるもの全部やっちゃえばいいかと考えを投げて、黙々と野菜にお肉を一口サイズに切っていった。

 

 カレーが出来上がる頃には辺りもすっかり暗くなり、しかしお昼抜きではなかったからか、初日の晩御飯ほどみんなががっつくという事もなく食事が進む。やはりと言うべきか大目に作られたカレーも残すことなく完食された。その後は初日と同じくA組とB組で順番にお風呂に入り、就寝まで何しようというところでノックの後、扉を開けた相澤先生から無慈悲な宣告が下された。

 

 「さて、上鳴、切島、砂藤、瀬呂はこれから補習だ。みっちりやっていくから覚悟しておけ」

 

 言われた四人は真っ白になりつつも相澤先生の言葉に従い筆記用具とノートをもって準備をしていく、ちらりと見えた芦戸さんもあまり表情が優れてはいなかった。

 

 「昨日は言い忘れたが、こちらの判断で疲労が激しい生徒には微睡の個性を使って回復させる。そして補習組は何度もお世話になるだろうから、後でちゃんと感謝しておけよ?態々お前たちに付き合ってもらうんだからな」

 

 それは遠回しに回復してもらえるという事で、それを聞いた補習組は先ほどよりかは気力を持ち直し、部屋から出て行った。そして残された男子はと言うと、流石に疲れている人もいたのでみんなで全員分の布団を敷き、やる気のある人だけで静かに時間が来るまで遊んでいた。虎さんが他の増強型を相手にしている間に休めた俺は、結局誰かが起きていれば話し声とかで眠れなさそうだったのでUNOを楽しむ事にした。

 

 「はい、ドロー、2」

 「ではこちらもドロー2だ」

 「悪いな、ドロー4で上乗せさせるぞ」

 「これだしゃいいのか?」

 「うん、ドロー、4、ね。口田、くん、出せる?」

 「む、無理・・・」

 「それじゃ、12、枚、引いて、ね」

 

 俺の言葉に頷き山札から引いていく口田くん。どうやら彼は内気な性格をどうにかするのも特訓に入っているらしく、今回のUNOでも無理のない程度に喋って特訓しようとしているが、やはりまだ恥ずかしさが上回るようで、それでも一言喋れるのは前進していると言っても過言ではないだろう。

 

 「気になってたんだが、回精は微睡とは同じ中学だよな?」

 「うん、そうだね。あっ、リバース、で」

 「微睡の個性ってどんな感じだ?・・・これは出せるのか?」

 「気持ち、良い、かな?うん、最初、が、同じ、色で、後が、同じ、数字、だから、出せる、よ」

 「安眠・・・、確かに惹かれるものが多い個性だ」

 「だがそういった事ではないのだろう?轟が知りたいのは。黄色にするぞ」

 「うーん、短い、睡眠、時間、でも、長く、眠れた、感じ?無いから、引く、ね」

 「なるほどな、確かに今回の合宿もだが今のヒーロー社会に重宝される個性だ。ドロー2で」

 

 轟くんは聞きたい事を聞けて満足したようでドロー2を出した後は口を閉ざした。その後もUNOは進んでいき隣の口田くんが残り一枚にUNO宣言はちゃんと行っていた状況、常闇くんと障子くんがドロー2を重ねていき、隣の口田くんが焦った表情と視線を此方に向けてくる中俺は───。

 

 「ごめん、無いです・・・」

 「あっあがり・・・」

 

 どうやら今日は、勝負運の無い日らしい。

 

 

~~~~~

 

 

 合宿三日目、午前の走り回りも終わり、お昼の組手が始まる頃。前日の経験とアドバイスを踏まえて新しい戦い方を試したいと虎さんに相談すると、まずはどんな戦い方なのか聞かれたので考えていた方法を伝えるとしばらく考えた後に。

 

 「ふむ、相手は攻撃し辛く、こちらは攻撃がしやすい。腕力が必要になるが・・・問題は無いだろう。お前の体形に合った良い方法だ、では実際にやるとしよう」

 

 組手でお互いに力や体の動きをそれなりに理解していたからこそ、すぐさま実戦形式で戦い方を形にしていくことになる。俺としてもこの戦い方は前例なんて無いだろうから、経験を積むしかないのは承知済みだ。

 

 「お願い、します!」

 「うむ、来いッ!」

 

 虎さんが構え、早速こちらに拳を突き出すがそのスピードはそこまで速くはない、恐らく練習と言う事で加減をしてくれているのだろう。なのですぐさま姿勢を低くし片手を()()()()()()、姿勢の変化で相手の攻撃が空振りし、腕が伸び切るという隙を晒しているので地面に付けた腕を支柱にお腹に向けて回し蹴りを繰り出す。始めてやる事なので勿論虎さんには受け止められるが、しかしその表情はニヤリと笑うもので、俺の考えは悪くないと言ったところだろう。

 

 「もっと手間取ると思ったが、中々良い動きだな。試した感想は?」

 「やり、辛さは、あまり、感じ、ないです」

 「いいだろう、これからはそのスタイル習得の訓練も行うぞ。だがそのスタイル一辺倒では問題もある、故にそのスタイルと直立の両方鍛える、さすれば幅広い状況に対応できるだろう」

 「イエッ、サー!!」

 

 俺の新しい戦闘方法、虎さんが他の生徒の様子を見に行った時に俺よりキレのあるパンチを出していたことから、相手の身長差があればあるほど攻撃はし辛くなるのでは?と思い考え付いたスタイル。やはり虎さんも地面スレスレまで伏せる俺を殴るのは慣れていないようで、やり辛そうにしている。

 

 この戦い方ならば、獲物を失った時でもある程度は戦えそうだと虎さんの組手で多用する、が。

 

 「甘いぞッ!!」

 「あぶっ!?」

 「姿勢を低くすれば攻撃が当たりにくいが、蹴りは普通に当てられるどころか、機動力が下がったままなら当てやすいぞ、機動力を上げろ!」

 「イエッ、サー!!」

 

 直立、伏せ───名前が決まっていないので仮称であるが───での戦闘を繰り返す。しかし伏せの方は体勢になれていないのか機動力が下がるので、今日は直立での戦闘を行い、明日の午前からは伏せの状態で森の中を走り込み機動力アップを図るという事になった。機動力が上がるまでは伏せの戦闘はお預けだが、仕方ないだろう。

 

 そうして前日よりもちょっとついていける位にはなったところでその日の訓練が終わる。晩御飯も済ませ、夜になったので朝に言っていた夏のレクリエーション兼飴と鞭の飴である、クラス対抗の肝試しが始まった。




 カレーの具材の量は大体です、ツッコまないでください。

 次から肝試しですね!ドキドキですよ!主に叩かれないか不安で!!ある程度投稿するのに慣れたって言っても、この辺りは全然慣れませんね!!


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第五十三話:望まれない来客、足りない生徒

 丁度区切りが良いので短めですが、投稿します。


 ワイプシの案内で到着した肝試しのスタート地点、一部生徒の上がり切ったテンションが担任の無慈悲な一言(これから補習)によって一気に急降下。彼らの救いを求める声に応えたかったのだが、幾らヒーローと言えど救えないものも多いと担任の手で実感させられてしまった。

 

 しかしそんな事は関係ねぇとばかりに今回の肝試しルールが説明されているのだが、こういった状況で珍しく精霊たちに話しかけられた。

 

 〈ねぇ獣狼ー〉〈肝試しってー〉〈なんぞやー?〉

 (そういえば初めてだっけ?脅かしてくる人たちがいるから精神を強く保って決められたルートを進む・・・。遊びかな?)

 〈変な遊びー〉〈森の中で肝試しー?〉〈獣狼に脅かしが通用するのー?〉

 (うーん・・・、そればっかりは風向きとか隠れてる人の技量かなぁ・・・)

 〈まぁいいやー〉〈ありがとね獣狼ー〉〈また何か気になったら聞くよー〉

 (うん、答えられるものなら答えるよ)

 〈〈〈ばいばーい〉〉〉

 

 

 肝試しについて知らなかった精霊たちに説明すると、そこまで楽しそうな物じゃないと判断したのかアッサリと興味を失い、会話を切られてしまう。これに関してはお母さん曰く、ただ悪気が無く子供っぽいだけ、らしい。

 

 実際久々ではあったが、精霊たちが目覚めてからはアレは何?コレは何?と質問攻めにされて大変だったことがある。だがしばらくしたら満足したらしく、それ以降興味を持たなければ外だと向こうからはほぼ話かけられなくなった。

 ただ精霊たちが気を使ってくれているのか、家に帰って周りに気にしなくてもいい環境になると気になった事で質問攻めが始まる。しかし正直なところ、外で説明するのも大変だったしで助かったのは否定できなかったり。

 

 そうこうしている間に肝試しの説明も終わり、くじ引きでパートナーを選ぶ事に。・・・あれ?でもA組って五人が補習でしょ?快心さんもこの場にはいるから22人から奇数が引かれれば一人、余るんじゃ・・・。

 

 「はい、ピクシー、ボブ、さん」

 「ん、どうしたのかなー?もしかしてもう怖いとかー?」

 「奇数、で、一人、あまり、そう、なんです、けど」

 「あぁ、それなら一人で行かせるわよ?流石に三人だと安心感が出ちゃうからね」

 

 マジか・・・、俺一人だと多分脅かす側が上手くなければ凄くつまらない結果になりそうなんだけど・・・。クジを確認すれば数字の7が書かれており、ペアは九組出来るので一人の人を探していると緑谷くんが一人佇んでいる。もしかしてと思い近づこうとするが後ろから呼び止められてしまった。

 

 「獣狼くん、ペアは決まった?」

 「ううん、まだ、快心、さんは?」

 「私は7のペアなんだけど、獣狼くんは?」

 「7、なの?じゃあ、緑谷、くんは・・・」

 

 周りを見渡す、もう既に他の人たちがペア同士近くにいる中、たった一人で佇む緑谷くん。嫌な予感が的中してしまい、緑谷くんもその残酷な事実に気づいてしまったのか、虚空を見つめつつブツブツと呟いていた。その異常な姿に気づいた尾白くんがフォローするも彼には届いていない。

 

 「獣狼くん、どうしたの・・・?」

 「ううん、残酷、だな、って・・・」

 「あっ、獣狼くんも7なんだ!やったー!」

 〈快心がペアーだー〉〈二人組作ってー?〉〈緑谷ぼっちー?〉

 「やめよう?やめろ」

 「え?どうしたの?」

 「ううん、なんでも、無い」

 〈怒られたー〉〈でも二人組はー〉〈うっ頭がー〉

 「回精ィィィィィ!!オイラぁ、オイラとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 「・・・闇の饗宴」

 「あぁぁぁもう!ペア変更禁止!!さっさと一組目行きなさい!!!」

 

 ピクシーボブさんの鶴の一声により闇の饗宴は一部揉め事もあったが、無事開始された。

 

 

~~~~~

 

 

 五組目の梅雨ちゃん&麗日さんペアが出発する、先ほどから女子の甲高い叫び声が聞こえるので雰囲気バッチリだ。快心さんも雰囲気につられたのか、何時もよりも落ち着きが無くなってしまっている。

 

 「大丈夫だよ、獣狼くん。私がついてるからね!」

 「・・・肝、試し、平気、だよ?俺」

 「えっ?でも妖目くんが獣狼くんはビビりだって・・・」

 「・・・色々、あるん、だよ?」

 「えぇー・・・、せっかく可愛い獣狼くんが見れると思ったのに・・・」

 

 快心さんは一体俺をなんだと思っているのだろうか・・・、ペットか弟?・・・反応的に弟だろうなぁ・・・。

 

 そんな事を思っていると焦げ臭さを感じるが、周りは気づいていないので小規模、と言う事は爆豪くんか轟くんだろうか?一応ピクシーボブさんにも伝えたものの、俺の考えと一緒で個性的にあの二人が何かしただろうが、轟くんがすぐさま消火出来るだろうし問題ないでしょと流される。

 

 しばらくすると他の人も焦げ臭さを感じ、ピクシーボブさんも流石に異常と感じたのか警戒を始める。森の方を確認していた人が黒煙が立ち上っているのを確認し、山火事が発生しているのではと場が一気に緊張感に包まれる。その為にピクシーボブさんの叫びに反応が遅れ、視界に入れたときは猛スピードで森の方へ飛んでいく姿。

 

 全員がそちらに視線を向けると、白い布に包まれた大きな棒状の何かを持った男に頭を殴られ、地面と大きな棒に頭を挟まれ身動きが取れないピクシーボブさん。明らかなヴィランの襲撃、山火事とは別の緊張感に包まれるもマンダレイがすぐさまテレパスで状況を伝える。お互いに相手の一挙一動を見逃さない様に警戒していると、緑色の鱗を持ったトカゲの様なヴィランが大声で話し始めた。

 

 「ご機嫌よろしゅう雄英高校!我らヴィラン連合開闢行動隊!!」

 「ヴィラン連合!?なんでここに・・・!」

 「ねぇねぇ、この子の頭、このまま砕いちゃってもいいかしらぁ?ねぇ、どう思う?」

 「させぬわこのっ「待て待て、早まるなマグネ。虎もだ、落ち着け」・・・」

 

 まさかのトカゲのヴィランがヒーローとヴィランを抑えるという、あまりにも奇妙な光景に虎さんも構えを解いて話を聞く姿勢になると、トカゲのヴィランが語りだす。生殺与奪は全てステインの主張に沿うか否か、と。典型的なステインの信奉者に飯田くんが反応する、トカゲのヴィラン───スピナーはどうやら飯田くんをステインの終焉を招いたとして殺しに来たようで数多の刀剣を束ねた不格好な両手剣を構えながら自らを彼の夢を紡ぐものと自己紹介をする。

 

 場は最早戦闘は免れぬ状況になり、マンダレイさんの指示で飯田くんの引率の元、施設へ逃げ込むよう指示を出す。突然のヴィランの襲撃に動けないでいる快心さんの手を引いて走り出すが、緑谷くんが来ていない。

 

 「飯田くんたちは先に行ってて!マンダレイ、僕知っています。洸汰くんの居場所を!!」

 「・・・飯田、くん。快心、さんを、お願い」

 「回精くん!?何をするつもりだ!?」

 「緑谷、くん、俺も、行くよ。一人、より、二人、でしょ?」

 「・・・ごめん、お願い出来る?」

 「待って!獣狼くん!!」

 

 俺の提案に緑谷くんが頷いてくれたところで快心さんの叫ぶような声が聞こえた、快心さんの方へ向けばあの時の様な表情で、俺の身を案じる快心さん。なので心配ないと伝える為にあの時の様に笑顔で伝える。

 

 「だいじょぶ、必ず、戻るよ」

 「獣狼、くん・・・」

 「回精くん、行こう」

 「うん、案内、よろしく」

 「ッ~~~!良い!?洸汰の救出を任せるだけで、ヴィランとの戦闘は絶対しちゃだめだからね!!」

 「「はいっ!!」」

 

 時間は止まってはくれない、緑谷くんは洸汰くんが心配の様で多少なりとも焦っていた、なので手短に案内を伝えれば全身強化で走り出すのを追って俺も走り出す。その後ろからマンダレイさんに釘を刺されたが、緑谷くんも最初から逃げるつもりの様で一緒に返事をする。そうして俺たちは一気に森の中を走り抜けていった。

 

 

─────

 

 

 「行こう、微睡くん。二人はクラスの実力者で移動力もある、子供を救出してヴィランから逃げるだけなら心配はない」

 「・・・うん・・・」

 

 残った生徒たちは飯田の後を追い走り出す、少なくともバラバラで移動するよりは固まって移動した方が襲撃されても対処がしやすい分、都合が良いからだ。走り出す飯田、尾白、峰田、口田に少し遅れてついていく微睡、あくまで彼女はヒーローのサポートでヒーローとして特訓はしていない、四人についてこれるだけでも十分体力がある方だ。四人もヴィランの襲撃と言う事で何時自分たちが襲撃されないか気を取られていた、だからだろう。

 

 「先生、今のは!?」

 「あれ?微睡さんは?」

 「何ッ!?はぐれてしまったのか!?先生!微睡くんが居ません!!」

 「なんだと!?途中までは一緒だったのか!!」

 「はいッ!ですが今は影も形も見当たりません!!」

 「チッ・・・わかった、お前たちは中で待機しろ!」

 

 一人、居なくなってしまったのに気づけなかったのは純粋に彼らの経験が足りないという、こればかりは仕方のない出来事だった。




 ハッピーエンドを略すとハピエンですが、バットエンドを略すとバトエンですかね?主に五角形と六角形が使われそうですね、削り過ぎて効果が分からなくなったり、キャップで装備して・・・。
 え?知らない?あっ・・・。


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第五十四話:足を止め、絡めとられる

 冒頭の時間軸は分かれた後すぐですね。


 肝試しのスタート地点から離れ、緑谷くんと森の中を移動する。どうやら俺の伝えた方法に独自のアレンジを加えているようで、時々地面を走るだけでなく木を蹴って更に加速している。置いて行かれない様に出来る限り足を取られないよう木を蹴って移動し緑谷くんに尋ねる。

 

 「後、どの、くらい?」

 「まだ先!あの辺りの見晴らしのいい崖沿いに洞窟があって、そこが洸汰くんの秘密基地になってるんだ!」

 「わかった、急ごう」

 「うん!」

 

 緑谷くんの返事の後、更に加速すれば彼も全力ではなかったのかこちらに追いつく。しばらく移動し、ようやく残り半分と言ったところで風切り音と小さいけれどモーター音が徐々にこちらに近づいてくる、緑谷くんを掴んで跳び上がるとその下を月の光で照らされ、刃がチェーンソーの様に回転する何かが通り過ぎる。いきなり掴まれた緑谷くんも通り過ぎた物が枝を落として暗闇に消えて行った事で危険物と分かり、着地と同時に周囲を警戒する。

 

 「クソ・・・!こんな時にヴィランの奇襲だなんて・・・!」

 「恐らく、ディスク、射出、型の、アイテム」

 「このままじゃヴィランを連れて洸汰くんの所に行く羽目になる!でも急がないと洸汰くんが危ない・・・!」

 

 緑谷くんの言う通りで、このままではジリ貧だ。なのでマンダレイさんの約束を破る事になるが、仕方がない。

 

 「緑谷、くん、行って、ここは、足止め、する」

 「でも!「それに、場所、詳しく、知らない、し、洸汰、くんと、話した、事、無いよ」・・・っ」

 「知ってる、人が、行けば、安心、でしょ?それに、さっきの、なら、幾ら、でも、避けれる」

 「・・・ゴメン・・・」

 「良いよ、ほら、行って!!」

 

 話すと同時に先ほどのディスクが飛んできた方向に向かう、すると再び風切り音とモーター音が目の前からやってくるので、木から木へと飛び移りディスクを避けて行けば人影が見えてくる、相手も流石に不味いと判断したのか逃げ始めるので、緑谷くんの方へ行かせないために付かず離れずの距離で追跡を行う。

 

 しばらく追跡をしていると、相手は戦闘を行えるだけの木々の無い広場に出た。ワイプシの訓練所スペースの一つか?Tシャツジーパンのドレッドヘアーの男、両腕には長方形の、恐らく先ほどのディスクを射出する装置か?腰にはベルトの様な物に、ディスク状の縁に細かい刃がついている物がむき出しでぶら下がっている。

 

 流石に広場へ出る訳にもいかず、草木の中で相手の出方を見極める為に隠れていると。

 

 「出てこいよ、どうせその辺りに隠れているんだろう?じゃなきゃさっきの緑髪をここに呼ぶ事になるがどうする?」

 「・・・何用、だ」

 「おっ、やっぱ居たか。おーい!連れてきてやったぞ陰険野郎!」

 

 ・・・こちらの話は無視か。でも今の流れから俺か緑谷くん、どちらかをここにおびき寄せるのが目的で、少なくとも二人で手を組んでいるヴィラン・・・。コイツがこの場所へおびき寄せた、という事は陰険野郎は体を動かすのが苦手なのか?そうなら緑谷くんが洸汰くんを連れて施設に戻れば、もしくは時間を稼いだ後逃げればそれで十分だろう。

 

 「・・・ヒヒッ、どうやらお前みたいなバカでも、お使いはちゃんと出来る様だな?」

 「ハッ!お前の案は許可されて上から手伝ってやれと指示された。一人じゃなんも出来ない能無しを手伝ってやってるんだ、感謝しろよ?」

 「喧嘩をするな、面倒くさい。俺たちの作戦は順調、しばらくこの状況を維持できれば俺たちの勝ちで、それで帰れるんだ」

 

 相手の位置が風下、ニオイでわからない訳だ。一人目の恐らく陰険野郎と言われたヴィランはこの森にいる衣装としては似つかわしくない、普段着の上から白衣を着る研究者と言った姿をした短髪の男性、白衣の分を加味しても全体的に細く、顔も痩せこけている事から荒事には向かないだろう。その後ろから大男がやってくる、スキンヘッドに動きやすさ重視でタンクトップに短パン、全身が鍛えられている事から近距離戦が得意なのだろう、しかし背中には黒く長いケースを背負っており警戒が必要だ。

 

 それに白衣の男、アレは俺が嫌なタイプの人間かもしれない。ここからでもわかるあの独特な嫌な気配、大人でこれでは最早救いようのないと言っても過言ではないだろう。一体何をしたらこんな気配を出せるんだ・・・。

 

 「それもそうだな、つーわけでとりあえず雄英生徒クン?悪いけどぶっ倒されてくれよ!!」

 「ヒヒッ、殺すなよ?また見つけるのは面倒なんだからな?」

 

 腕の装置を此方に向けてディスクを射出する男、当たるものかと広場の外周を移動して避けようとするがディスクは俺を追いかけるように此方へ方向を変える。

 

 「面倒、なっ」

 

 足を止め反対方向に移動するもそれすら追いかけられる、何らかの方法で追尾していると判断していいだろう。しかし追尾能力はそこまで高くないのでギリギリなら避けられると、当たる直前でしゃがむ事で頭上をディスクが飛んでいく。上手く避けられたとヴィラン達の方へ注目するも()()()()()()

 

 「おっ、上手に避けたな?それじゃこの位置からならどうだ?」

 「後ろッ!?」

 「反応いいな、じゃあ次は倍で行くぞ?」

 

 唐突に後ろに現れた男が至近距離でディスクを放つもしゃがんだ状態からそのまま横へ跳ぶ、ディスクは地面に突き刺さりそこから追尾するという事はなさそうだが、男は俺に向かって今度は両腕を向ける。ここで後ろに下がるのは不味いと判断し男に向かい一気に近づいて行けば男は楽しそうに笑う。

 

 「いいねぇ、ほらっ!避けなきゃあぶねぇぞ!!」

 

 時間差でディスクが二枚、こちらに飛んでくるも一枚目を伏せる様に避け、それを追尾し下に向かって行く二枚目を起き上がる勢いで跳び超える。ここまでアッサリと攻略されるとは思っていなかったのか、驚いて立ち止まっている男に更に近づき頭に回し蹴りを行う、が途中で目の前から消えてしまう。

 

 「残念でしたっと、ただ速いだけの攻撃なんて俺には当たらねぇよ」

 「どう、やって・・・」

 「ま、どうやらこっちの攻撃もお前にゃ当たらんみてぇだが」

 

 口笛のする方を向けば今度は二人の近くに現れるドレッドヘアーの男、どうやら移動に関する個性らしい。お喋りと共に射出した一枚のディスクを難なく避ければどうやらダメ元で射出しただけのようだが、早く個性を突き止めなければ下手をすれば逃げ切れなくなる。

 

 「お?その顔、俺の個性気になっちゃう?まぁ割と単純だよ、俺が身に着けていた物と場所を入れ替えるっつーちょっと悪用出来るくらいの個性さ」

 「・・・自分の個性についてペラペラと口に出すか、救いようがないな」

 「全く、これだから引きこもり陰キャは困るぜ。駆け引きのかの字すら頭に入ってない頭でっかちなんだからよ」

 「やめろお前ら、何かあれば止められなかった俺が怒られるんだ。俺の面倒事は避けろ」

 

 ドレッドヘアーの男が自らの個性を語ってくれたお陰である程度は戦いようがあると思ったが、これは違うな。向こうが会話している間に相手を視界に入れつつ、地面を確認すればキーホルダーらしきものが幾つか地面に置いてある。まず間違いなくドレッドヘアーの男が移動できるポイントと考えていいだろう。

 

 「はいはい、マキナの言う通り言う通りっと。さぁて?キツネっ子も周囲に警戒し始めたところで、続きと行こうか?」

 「面倒だが仕方ない、俺も戦闘に加わるぞ。サイエンス、貴様の細腕でもこれを支えるくらいは出来るだろう?ヴァンデルンだけでは逃げられる可能性がある」

 「・・・チッ、この俺に肉体労働をさせるな」

 

 マキナと言われた大男が背中のケースを降ろし、サイエンスと呼ばれた細身の男に渡せば文句を言いつつもそれを倒れない様に支える。何か重要な物なのか?しかし大男が軽くストレッチし、臨戦態勢に入ったところで何かが崩れる大きな音、まさか緑谷くんか?

 

 「おいおい、もしかしなくても筋肉達磨か?巻き込まれるのはゴメンだぜ?」

 「・・・流石に、脳筋で救いようのないバカでも作戦くらいは理解しているだろ」

 「それもそうか・・・。まっとりあえず、マキナも参戦するようだし何時も通り錯乱で良いよな?」

 「構わん、さっさとやれ」

 「はいはいわかりましたよっと」

 

 どうやら相手方にも似たような事を出来るヴィランが居るようだ、音の方角からして無事だと良いのだが・・・。そこまで考えたところでドレッドヘアーのヴァンデルンと呼ばれた男が再びディスクを射出する、しかし先ほどと同様一枚だけでけん制か何かかと思ったが他二人は動かない。警戒しつつも次の動きに移れるように最小限の動きで当たる直前でディスクを避ける。

 

 「綺麗に避けるやがるな全く、でもなキツネっ子。()()()()()

 

 ヴァンデルンが此方を───正確には後ろを指さす。それと同時に後ろからディスクの音が消える、何かが不味いと横へ跳ぼうとする前に()()()()()()()()()()()()()。突然の衝撃と側頭部を殴られたために意識が混濁するが、なんとか殴られた勢いのままその場を離れる。しかし着地と同時に力が抜け、膝をついて隙を晒してしまう。

 

 「くぅっ・・・」

 〈獣狼ー〉〈意識をしっかりー〉〈倒れたら不味いー〉

 「おいヴァンデルン、奇襲は完璧だが相手に警告してどうする」

 「マキナに頭ぶん殴られたら下手すりゃ死んじまうだろ?それにコイツ、さっきからサイエンスばっか気にしてるしそん位の親切心はあっていいだろ?」

 「ふん、一撃で意識を失う程度に加減はしている。最も、次は上方修正するがな」

 

 どうやら相手は、俺の隙をついて攻撃しようとは思っていないらしい。もしくは俺に攻撃を当てる位問題ない、の二択かな。精霊たちの声に従い、倒れない様に意識を保ちながら足に力を入れ立ち上がる。さっき居た場所にヴァンデルンの物は置いてなかったはずだ、しかしそれでもマキナは現れた。だとすると射出されたディスク、アレも物を入れ替える座標に出来ると考えていいだろう。

 

 そうなるとヴァンデルンの個性は自分以外の物も移動でき、そしてディスクの射出は攻撃と共に移動を兼ね揃えた物になる。そして地面にばら撒かれたヴァンデルンの物と思わしきキーホルダー、これは本当に不味いかもしれない。さっきの音からしても緑谷くんが全力を出すレベルの相手、こちらも合流しなければ・・・。

 

 「どうやら、君たちも作戦通りに順調のようだな?」

 「・・・コンプレスか、お前の首尾はどうなっている」

 「俺かい?俺は半分、と言ったところかな?そして君たちのお手伝いに来たのさ」

 「おっ?マキナ戻すぞー、こっちもやる事やったし、戦闘もねぇだろうしな?」

 

 仮面にシルクハット、オレンジに近い黄色のコートを着た奇抜な恰好の男が森の中から姿を現す。コンプレスと呼ばれた男は親しげにサイエンスに話しかける、話の内容からしてさっきから言っていたこいつらの作戦らしいが、詳細を口に出してはくれないらしい。

 

 ヴァンデルンがマキナを自分たちのところへ戻したのは気になるが、それよりも戦闘が無いという発言の方が気になるが・・・、ならもう逃げてしまってもいいだろう。丁度相手はすぐさまこちらに攻撃が出来る距離ではない、と考えたところで相手から釘を刺される。

 

 「逃げようとするなよキツネっ子、コイツが来たって事はお前はもう終わりだ」

 「どう、だか?そんなに、速そう、には、見えない、けど?」

 「おおっと、どうやら足に自信があるようだな?だが安心してくれ、君は逃げられないんじゃない、()()()()んだ」

 「獣狼・・・くん・・・」

 「・・・!」

 

 コンプレスは喋りながらも懐から水色のビー玉の様な物を取り出す、そして逃げないという言葉を強調しながら指を鳴らせばビー玉は肥大化し、そこから快心さんが表れる。確かにこれじゃ逃げられない、どうにかして取り戻そうとしてもここからでは間に合わない可能性が高い。

 

 「手品ではよく偽物が用意されるが、こいつは本物だぜ?何せ君たちが分かれてから、真面目そうな眼鏡くんの後を追って捕まえたんだからな」

 「・・・態々、丁寧、に、どうも」

 「ま、とりあえずお前は逃げるな。逃げたらこの女の子がどうなるか・・・わかるよな?」

 「要件、は、なんだ」

 

 ヴァンデルンが両腕を快心さんに向ける、ヒーロー科なら避けられるだろうが、経営科の女子が避けられるものではない。快心さんも何か言おうとするがマキナと呼ばれた男に口を塞がれ、動けないように捕まってしまう。ここまでするという事は何か要件があるのだろう、俺か緑谷くんのどちらかを殺すのではなく、無力化したい要件が。

 

 「・・・ヒヒッ、このバカよりは頭の良いガキだな?そして要件は簡単だ。お前、この拳銃で撃たれろ」

 「・・・撃た、れれば、快心、さんを、解放、し、手を、出さない、か?」

 「良いだろう、それで俺たちの作戦は終わりだからな」

 「つまんねぇけど、こういう作戦だしなぁ」

 「この後のショーも気になるが、俺はまだやる事が残っていてね。この辺りで失礼させてもらうよ」

 「あいよー、協力感謝するぜコンプレス」

 

 撃たれろと言われた瞬間、快心さんが暴れるがマキナと言う男はびくともしない。遠目から見てもそこまで銃口の大きい物ではないし、急所に当たらなければ耐えられるものだろう。しかし一番の懸念事項はこの男、サイエンスと呼ばれた男が用意した拳銃だ。それだけであまりいい感じがしないし、若干足が震えているのはさっき殴られた影響だけではないだろう。

 

 「・・・そこじゃ当てられん、良いというまで近づけ・・・そうだ・・・そこで止まれ」

 「外すなよ陰険性悪根暗野郎、数もそんなに用意してねぇんだろ?」

 「・・・脳足りんのお前と違って用意周到なんでな、ちゃんと1マガジン分用意してある」

 「ハッ!その労力があんなら、マキナに任せりゃいいだろって事が伝わんねぇのかねぇ?」

 「やめろヴァンデルン、サイエンスもさっさと撃て」

 

 撃てと言われ、快心さんが泣きそうな目で此方を見る。そんな泣きそうな顔しなくてもいいのに、しょうがないと快心さんの目を見て笑ってあげると同時に。

 

 乾いた炸裂音と共に衝撃で後ろに倒れる。頭よりかはマシだがそれでもそこは無いだろ、とじくじくと痛む胸を見る。胸の中心に穴が開いており、じわじわと赤い血が服を染めていく。心臓を貫かれてなければいいけど、と思っていると。

 

 「獣狼くん!!」

 「さっき、ぶり、快心、さん」

 「話しちゃダメ!胸に当たったんでしょ!?」

 「へーき、へーき、体は、じょう、ぶ」

 「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!早く止血しないと・・・!」

 

 持っていたハンカチで銃で撃たれた部分を抑える快心さん。しかしあのヴィラン達も素直に開放するんだな、と視線を向ければ悪意に満ちた目でこちらを見ている。その目は一気にこちらの警戒度を上昇させる、なんだ?混濁する意識の中考えようとすると何かが聞こえる。

 

 〈■■■■■■■〉〈■■■■■■■■■〉〈■■■■■■■■■〉

 (なに・・・?)

 「がふっ」

 「え・・・?獣狼、くん?」

 

 精霊たちが何かを言ったと思ったら口から血を吐く、撃たれたところから熱が広がっていくのを薄れた意識で感じながらも。

 

 (あぁ、快心さん大丈夫かな。それにみんなはなんて───)

 

 ぼやける視界に遠くなる音、恐らくは快心さんが呼び掛けているんだろうけれど、全然返事出来ないや。そのまま喉から上がってくる血を再び吐いて、意識を失った。

 

 

─────

 

 

 「獣狼くん!?獣狼くんしっかりして!!」

 

 意識を失った獣狼くんに呼び掛けるも反応が無い、さっきまで脈もあったのに血を吐いてから弱くなり始めて、弱っていく獣狼くんを見て考えがまとまらなくなる。この状況はどうすればいいの?銃創の対処方法なんて知らない、止血しようにも場所は心臓の上で、ハンカチで押さえてはいるがこれ以上力を籠めるのは危険だろう。息は辛うじてしているようだけれどこのままじゃ危ないのはわかる。

 

 「おいおい、ちょっと血を吐き過ぎじゃねぇの?当たり所も不味いし陰険野郎のせいで実験失敗じゃね?」

 「・・・チッ、使えん奴め・・・、異形型なら少しは耐えろと言うのだ」

 「実験って・・・あなた達獣狼くんに何をしたの!!」

 「ただの薬物実験だ、だがそれを見る限り失敗の様だがな」

 「薬物実験って・・・それじゃ、獣狼くんは・・・」

 

 ヴィランの言う通りならば、これは薬物的な何かで弱っていっている。つまり外傷の対処しか学んでいない私には何もできない事で、このまま弱っていく獣狼くんを見ているだけという事で、ここでは私は役に立たないという事で、力が抜けてしまう。

 

 「・・・失敗なら失敗で構わん、結果的に生徒が死ねばいいのだからな」

 「あーあ、この無能野郎のせいで約束破りになっちまったよ」

 「結局、あの子供が実験に失敗した時点でこうなる事はわかっていただろう」

 

 ごめんね、ごめんね。君を助けたくて雄英に入ったのに助けるどころか足を引っ張っちゃって、個性で眠らせてあげようとしても集中が出来ない今じゃ発動すらしない。口からこぼれた血を拭ってあげようとすると呼吸を感じない、こんな時は人工呼吸だっけ。気道を確保して、鼻をつまんで、口から息を吹き込むけれど、胸が上がらないので気道の確保を再び行う。

 

 「痛ましいねぇ、健気に延命させようとするなんてさ。オイ無能野郎、さっさと終わらせてやれよ」

 「・・・お前の指示に従うようで業腹だが、被験者は数多い方が良いのは確かか」

 

 気道の確保を再び行い、息を吹き込もうとしたところで乾いた炸裂音が再び鳴った。




 〈獣狼ごめんねー〉〈でも今しか無いのー〉〈今しか正せないのー〉


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第五十五話:生きたいと願ってしまった罪

 近い時間に二つ投稿しました、しおりの場所と比較して順番にお楽しみください。


 部屋の中に一人、小さな子供がいる。頭頂部から二つの獣の様な耳と腰辺りから同じく獣の様な尻尾を生やした子供。

 

 『ねぇ、だれか、いるの?』

 

 小さな子供は周りを見渡しながら居るであろう誰かに尋ねる、しかし誰もいなかったのか首をかしげていると。

 

 『おれの、なか?たすけて、ほしいの?』

 

 どうやら誰かは小さな子供の中で助けを求めているらしい、しかし小さな子供では対処出来なかったのだろう。必死に悩んでいると。

 

 『みんなは、なんて、いうの?』

 『せいれい?せいれい、なの?』

 

 小さな子供は自分の中に居る誰かに名を尋ねると、想定外の回答に驚きつつも。

 

 『そっか、せいれい、で、この、みため、なら、できる、かな』

 

 その想定外の回答故に、解決方法を見出したようで。

 

 『んー、んんん?んーーー・・・。あ、これ、かな?うん、わかった』

 『すぅー・・・はぁー・・・。よしっ、けっかい

 

 そうして、小さな子供は血の様に赤く染まっていく。幼い体に血の様に赤い獣を模した模様に、同じ色に染まる髪の毛と耳、尻尾。

 

 そこまで見て思い出す、これは初めて血壊を使ったあの日だと、そしてこれを見せているのは恐らく。

 

 ───みんな居るんでしょ?

 

 

~~~~~

 

 

 景色が流れていく、何時もの頭の中の会話の様に尋ねればこれだ。一体どう言う事なんだろうと思っていると、流れていた景色が止まる。足元も室内から草原に変わっており、いつの間にか靴も履いていた。

 

 辺りを見回せば何処か見覚えのある景色、しかし木々が生えている一定以上から先が真っ黒に染まっているから行けないという事だろう。なら行くべき場所は見えているあの丘かな、そう思って歩いていく。

 

 丘を登っていくと、先ほどは無かったはずの木が見える。枯れているのだろうか?花も葉も無い木は何処か寂しい雰囲気がある。とりあえずあの木を目指して歩いていくと、だんだんと既視感が強くなってきた。この既視感もあの木に関係するのだろうか?更に歩みを進めれば何時の間にか雪も降ってきた、という事はここには冬に来た?

 

 先ほどから雪は止まず、かといって降り積もる訳でもない不思議な雪だ。まぁ積もったら足がとられて面倒なので有難い、そうして丘の頂上へとたどり着く、寂しい木───桜の木の根元にはカラフルなレジャーシートが敷いてあり、ここから見える景色はどの季節でもとっても綺麗なんだってお爺ちゃんから教わったんだっけ。

 

 ───話があるんでしょ?じゃなきゃこんなところにみんなは呼ばないもんね。

 

 今度は景色が切り替わる。表と裏が入れ替わる様に、丘の周りが白く染まり桜の木も満開に咲き誇る、しかし雪だけは黒に染まってしまっていた景色がとても綺麗で見惚れていると。

 

 〈覚えてくれてたー〉〈やっぱり獣狼だねー〉〈ちょっと抜けてるけどー〉

 ───忘れないよ、ちょっと遅かったけど中学生最後の春と冬にみんなでここを見に来た。

 

 精霊たちの求める答えを言えたらしく、レジャーシートの上に現れた精霊たちがクスクスと笑いだす。ここまでくれば段々と思い出す、俺は林間合宿でヴィランと相対していた事も。最後に快心さんの俺を心配する声も。

 

 〈まずは説明ー〉〈と言ってもー〉〈獣狼に何が起きているかー〉

 ───ヴィランに撃たれたアレ、やっぱりなんか仕込まれてたの?

 〈簡単にはー〉〈個性が暴走する何かー〉〈お陰でしっちゃかめっちゃかー〉

 ───・・・個性が暴走しただけで、俺ってあんなに死にかけるの?

 

 そう尋ねれば、精霊たちはたちどころに口を閉ざす。まるで悪い事をしてしまった子供の様な表情で俯いてしまっていたので、元気づける為にも励まそうとするが。

 

 〈ううんー〉〈甘えちゃだめー〉〈これが我らのけじめー〉

 ───ケジメ?・・・もしかして、あの小さい頃に何かあったの?

 〈何かあったというよりー〉〈我らがしてしまったー〉〈それを謝らなきゃいけないのー〉

 

 そうして精霊たちは語りだす、あの時の真実を。

 

 〈我らは本来消えるべきものー〉〈でもあの時消えたくないと願ってしまったー〉〈そして獣狼にそれが届いてしまったー〉

 ───消えるべきモノって・・・どうして?みんなは悪い事してないでしょ?

 〈我ら精霊は一度宿主の為に再構築されるー〉〈自我が無いから問題ないはずなのにー〉〈我らは自我をもってしまい消えるのが怖くなったー〉

 〈怖くなった我らは助けを求めたー〉〈そしてそれが原因でー〉〈獣狼が外れてしまったー〉

 ───・・・外れた?

 〈獣狼の血壊で我らは生き延びたー〉〈あの場で精霊の力を強くする必要があったー〉〈でもそのせいで獣狼のバランスは崩れたー〉

 〈崩れたバランスでも獣狼は平気だったー〉〈でも崩れて成長してしまい徐々に外れて行ったー〉〈そして外れた影響が今になって出てきたー〉

 ───・・・つまり、俺の今は本来あるべき姿から外れてしまっている?その影響がヴィランの銃弾で悪化した?

 

 精霊たちは静かに頷く、とりあえず言いたいことはわかった。俺が瀕死になってしまったのは精霊たちのせいだという事、ため息と共に精霊たちに手を伸ばせば何かされると思ったのか震えだす、流石にそれは酷いと思うぞ?

 

 ───おー、ここならみんなに触れるんだねー。

 〈・・・獣狼怒ってないー?〉

 ───怒るもんか、確かに友達以上家族未満の付き合いの長さだよ?でも、それでも俺にとってはどれとも形容出来ないけど、家族なんだよ?

 

 そう言いつつ、初めて触る精霊たちの感触を楽しむ。耳ちゃんと反発して面白いなー、尻尾もふわっふわで自分の触るより気持ちいいかも。そうやって触っていると他の二人も撫でて撫でてと頭を手にこすりつけるので撫でる。

 

 〈おほぉー〉〈これが触れあいー〉〈楽しいー〉

 ───そうだよ?楽しいんだ、だからみんなが居て悪い事なんて無いんだよ。

 〈それじゃー〉〈我らも触っていいー?〉〈寧ろ触るー〉

 ───いいよ、ほらおいで?

 

 それからしばらく、お互いに触れ合ったりニオイを嗅いだり、舐められたりと今まで精霊たちが出来なかった五感の内、触覚、味覚、嗅覚を始めて楽しむ様に体感していった。

 

 〈ちょっとしょっぱいー?〉〈獣狼いいにおいー〉〈耳硬いー〉

 ───しょっぱいのは汗かな、ニオイに関してはノーコメント。

 〈我らがこうやって楽しむなんてー〉〈出来ないと思ってたー〉〈何があるかわからないねー〉

 ───もしかして、俺が外れたからみんなが何も能力持ってなかったりしたの?

 〈そこは我らのー〉〈自業自得ー〉〈寂しいけど不満は無しー〉

 ───そんな事言わないでよ、今ならちゃーんとみんなと触れ合えるでしょ?

 

 寂しいという言葉を紛らわせるために言ったのに、反応が無い。なんだろうと思っていると精霊たちが離れて行った。

 

 〈じゃあ獣狼ー〉〈打開策を提示しましょー〉〈転んでもただでは起きないー〉

 ───打開策?それって現状の?

 〈現状でもあるしー〉〈我らの事でもあるしー〉〈獣狼の事でもあるー〉

 〈今は獣狼の獣の部分が暴走してるのー〉〈小さい時に精霊を上げ過ぎて元に戻そうとする反動ー〉〈だから精霊の部分を上げてあげればいいんだけどー〉

 ───だけど?

 〈それじゃあ前と変わらないー〉〈でもある程度成長出来た我らならー〉〈完璧ではないけど元に戻せそうー〉

 

 おぉ、拍手し凄いと褒めれば精霊たちが照れているのだろう、恥ずかしそうに笑っている。

 

 ───じゃあ前と同じで血壊をすればいいの?

 〈それじゃだめー〉〈前と変わらないよー〉〈獣狼は脳筋ー〉

 ───ぐっ・・・じゃあどうすればいいっていうのさ。

 〈拗ねないのー〉〈だから可愛いって言われるー〉〈快心さんの餌食ー〉

 ───ほら、早く打開策を言って!

 〈しょうがないなー〉〈打開策は簡単だよー〉〈我らを()()()()()ー〉

 ───・・・え?

 

 精霊たちが聞きなれない言葉を聞いて血が止まってしまったのかの様に寒気がする、しかしそんな俺の状況なんて知らないとばかりに精霊たちは話を続ける。

 

 〈まず最初の間違いが我らの生存ー〉〈だったらそれを正してしまえばー〉〈崩れた部分も戻って外れた分も治せるー〉

 ───待って。

 〈だから我らを殺すー〉〈正確には取り込むー〉〈そうすれば精霊の部分が上がるー〉

 ───待ってよ。

 〈我らは獣狼の精霊であって違う存在ー〉〈元々カウントされていないイレギュラー〉〈ならそれを取り込めばいいって事よー〉

 ───待ってよ!?なんでみんなを殺さなきゃいけないの!?それに外れたままだって平気だったんだからみんなが居なくなる必要もないでしょ!?

 

 いきなり声を荒げるとは思っていなかったのだろう、精霊たちの話が一旦止まり悲しそうに現実を告げる。

 

 〈・・・もう時間が無いのー〉〈獣狼が血壊を使いすぎてー〉〈幼児退行したでしょー?〉

 ───・・・うん、したって聞いた。

 〈あれは本当は違うのー〉〈意思のない精霊による精神汚染ー〉〈まだ幼児退行で済んでるってだけー〉

 ───・・・精神汚染って事は・・・。

 〈いつかは獣狼の精神がー〉〈滅茶苦茶になるかー〉〈それとも消えるかー〉

 ───じゃあ、血壊が勝手に発動しだしたのは。

 〈ここ最近になってー〉〈体のダメージが増えすぎたー〉〈ドンドン進行していったー〉

 〈でもステインとの戦闘でー〉〈我らが血壊を制御して止められたー〉〈つまり精霊も制御が出来る様になったー〉

 ───それで進行を止める事は出来ないの・・・?

 〈言ったでしょー?〉〈我らはイレギュラー故に力が少ないー〉〈止められた出来ただけでも奇跡ー〉

 

 他に、精霊たちを止める言葉無いのか、案は無いのだろうか。しかしそれを見越していた精霊たちによって止められてしまった。

 

 〈それにね獣狼ー〉〈もうやっちゃってたりー〉〈その為にこの場所を選んでいるんだよー?〉

 ───・・・それは・・・。

 〈うふふー〉〈獣狼は我らのヒーローだからねー〉〈今度は我らが助けたいのさー〉

 ───俺は・・・、ヒーローなんて柄じゃないよ・・・。ただ助けを求める手を取りたかっただけで・・・。

 〈それがヒーローなんだよー〉〈ほらほら最後位笑って笑ってー〉〈獣狼の泣き顔でお別れは嫌だよー?〉

 ───・・・うん、そうだね。泣き別れより笑ってお別れ、したいよね。

 〈そーそー!〉〈んじゃ座ってー〉〈語り合おうではないかー〉

 

 靴を脱いでレジャーシートに座れば、遠くは見えなくとも桜吹雪と黒い雪のコントラストはとても神秘的で、幻想的だった。みんなは俺の膝の上や頭の上など好きな場所に座って話す姿勢を取っている。

 

 〈初めて目を覚ました時はー〉〈とってもおいしかったよねー〉〈さてなんでしょうー!〉

 ───えーっと確か・・・何時も家にある赤い箱のクッキー?

 〈〈〈正解ー!!〉〉〉

 〈割とあのクッキー〉〈我らの好物だったりー〉〈知ってたー?〉

 ───そこまでは知らなかったなぁ・・・。みんな次はアレ食べたいコレ食べたいだもん。

 〈ねぇ知ってたんだよー?〉〈獣狼が味覚を感じていなかったのー〉〈だって我らはイレギュラーだけど一心同体だよー〉

 ───そっか、気を使って言わなかったのに気を使われてたんだ・・・。

 〈でねでねー〉〈その後みんなで行ったー〉〈桜が綺麗だったんだー〉

 ───そうなの?てっきり花より団子かと思ってた。

 〈ちゃーんと桜を楽しんでましたー〉〈冬の桜も綺麗だったねー〉〈桜の花の雪化粧が見れないのは残念だったー〉

 ───中々そういうのはタイミングが大事だからねぇ・・・。

 

 

 〈初めての修学旅行ー〉〈何コレ何アレで一杯いっぱいー!〉

 ───あの時は大変だったよ、みんなが聞いてくるから修学旅行先の事がちっとも頭に入らなかったよ?

 〈だって初めて見るものなんだもんー〉〈楽しませてよー〉

 ───全くもう・・・。・・・そういえばある日を境に聞かなくなったのってもしかして。

 〈迷惑かけてごめんねー?〉〈私たちもある程度自重する事にしましたのですー〉

 ───そっか、ありがとう。

 〈文化祭も楽しかったー!〉〈獣狼の女装がいっちばーんー!!〉

 ───アレは、その・・・快心さんに押し切られて・・・。

 〈でも獣狼も楽しんでたでしょー?〉〈体は正直よのぉー?〉

 ───ぐっ・・・、何時もと違う恰好は楽しんでました!

 〈素直でよろしー〉〈最近の獣狼って素直でいいよー〉

 

 

 〈雄英高校はまだ半年も居ないけど大変だよねー〉

 ───そうだね、ヴィランにもう二回も襲撃されてるんだもん。

 〈でも毎日が新しい事で一杯って楽しいんだよー?特にヒーロー基礎学ー!〉

 ───そう言ってもらえると頑張ってきた甲斐があったかな?

 〈それによく体力を使うから食べ放題にも行ったしねー〉

 ───お陰でトライスターの人たちにお小遣いまた貰わなきゃいけないよ。

 〈うふふふ、食べ放題と言えばスイーツバイキング行けなかったねー〉

 ───そう、だね。

 〈でも快心と一緒に行ったのとっても楽しくて嬉しかったんだよー?〉

 ───そうなの?

 〈うん、だって名前を決めてもらえるなんて嬉しい事でしょー〉

 ───あれ?ならなんで断ったの?

 〈だって獣狼、名前決めちゃったらお別れの時に泣いちゃうでしょー?〉

 ───・・・態々、気にしなくてもよかったのに。

 

 

 〈ねぇ獣狼ー〉

 ───なに?

 〈そろそろ、さよならだよ〉

 ───・・・そっか。

 〈ねぇ獣狼、獣狼だから僕たちは手を貸すんだよ。大好きな獣狼だから僕たちは消えてもいいって思えたんだよ〉

 〈だから獣狼、お願い。なりたいものになって。僕たちはそれを、それだけを獣狼に願うよ〉

 〈転生とか、獣人(ワービースト)とか、何も関係ない。獣狼は獣狼なんだから、素っ気無くて、でも困った人は見過ごせない優しい獣狼なんだよ?だから獣狼、僕たちの後輩と一緒に───〉

 

 黒い雪・・・精霊の死骸である霊骸と桜の花弁が降り続ける。やっぱりみんな、俺が前世の記憶持ってるの気づいてたんだ、だから時々変なタイミングでネタに走ってたんだね、寂しくない様にって。みんなが消えたって事は、つまり俺が取り込んだという事で、みんなの言う通りならこれでもう俺のバランスはとれたという事だ。

 

 「最後、まで、笑えた、かな」

 

 俺のつぶやきに応えるものは居ない、当然だ。俺がみんなを取り込んだ、それが俺の責任とは思わない。だっていつかはこうなる運命で、みんなも俺に責任が無いというだろう。

 

 でも、この運命を早めた者が居るのは事実だ。この際主義主張なんてどうでもいい、今わかっているのはただ一つ、アイツらがこのまま、逃げ切るのが許せない、誰かの手で捕まるのが許せないだけだ、だから。

 

 「だから、さっさと、戻る」

 

 立ち上がり、桜の木に近づく。みんなを取り込んだからわかる、これが要なんだろう、これを破壊すれば戻れると。

 

 「あいつ等、全員、捕まえ、てやる」

 

 何時もよりスムーズに行われる血壊、そして俺の“腕”を振るえば桜の木は何の抵抗もなく砕け散る。この空間の終わりなのだろう、全体が形を崩していく中、俺の意識は暗い闇の中から浮上していった。




 回精獣狼ゥ!
 何故君が勝手に血壊を発動させてしまうのか。
 何故精霊たちに血壊を止められたのか。
 何故胸の模様と精霊が一致しないのくわァ!
 その答えはただ一つ・・・。
 アハァー・・・♡
 回精獣狼ゥ!
 君の個性が、間違った方向に進んでいるからだァァァァァァァァ!!


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第五十六話:回精獣狼:リブート

 鬼滅の長男の様に頑張れ俺!!って自分を励ましてきましたが、コレ元ネタ的にパワハラ上司に何とかまた振り向いて貰う為に頑張る太鼓を鳴らす鬼になってしまうのでは?

 Q.前回の最後なんだよ
 A.ふざけなきゃ書いてられねぇんだよ(涙)


 目を覚ます。目の前に口の周りを血で汚した快心さんの顔があった事には驚いたが、それよりも殺気を感じた為に快心さんごと覆う様に“腕”を動かせば、銃声と何かを掴んだ感触。

 

 「おいおい、今更になって外すなんて無しだぜ陰険野郎」

 「まて、構えろヴァンデルン」

 「・・・お前の目は節穴か、防がれた事すらわからんのか?」

 「あ?防がれ・・・花びら?」

 

 あぁ、お前たちはそこに居るんだな?快心さんの肩を掴み退かせば、ビクリと体を跳ねさせ驚く快心さん。しばらくして涙をこぼしながらも謝られる。

 

 「獣狼、くん。ごめんなさい、私のせいで呼吸、止まっちゃって」

 「全部、アイツら、が、悪い、気に、しないで」

 

 どうやら気を失っている最中に意識の混濁は治っているらしい、スムーズに起き上がり両腕を脱力させながらも、今まで意識して向けなかった目を向ける。三人のヴィランを───特にサイエンスを目にした途端、本能が獲物を───怨敵を屠れ敵を取れと両腕に力を入れるが、理性でアイツらは刑務所に叩き込むと抑える。

 

 視界には季節外れの桜の花弁が舞っているが、これが先ほどから感じる“腕”なのだろう、みんなからもらった精霊の力。その力を使い胸に埋まっている銃弾を掴んで取り出す。多少痛いが浅い部分、肋骨に当たったのだろうか?しかし痛むという事は折れているのだろう。

 

 「おいサイエンス、こりゃどういう事だ?お前の改造した薬は個性のブーストよりも理性を弱める方に力を入れたって話だが?」

 「・・・明らかに何かが変質している、これだから意思のある個性という不確定要素は嫌いだ」

 「泣き言、は、終わりか?なら、さっさと、倒され、ろ」

 「いいや、悪いがこのまま逃げ切らせてもらう」

 

 マキナがケースの中身を取り出し人間にはありえない速度で組み立て、こちらに銃口を向ける。ちらりと金色に反射した銃弾の大きさとその長い銃身から、この世界で発展した大型のライフルと考えていいだろう。

 

 「そのまま死ね」

 「っ!獣狼く───」

 「血壊

 

 血壊を発動と同時に全身を焼く様な熱さが発生したが、それを無視し花弁が血の様に真っ赤に染まった“腕”を前方に重ねる。それとほぼ同時に拳銃の銃声なんて目じゃない程の大きな炸裂音が二度三度と続く、“腕”に当たる衝撃で周囲に砂埃が舞い視界を悪くするがもう()()()()()。恐らくこれが向こうのとっておきだろう、“腕”の中心部まで撃ち抜かれたが、その程度か───その程度でッ・・・!

 

 怒りに染まる思考を落ち着かせつつ、砂埃の中から“腕”を伸す。何かを掴む感触と共に握れば、金属が拉げ何かが砕け散る音がした。しかし感触には生身が含まれていなかった、つまり腕を潰せなかったという事で反応が良いのか、それに先ほどの組み立てからしてそういった個性なのだろう。

 

 「ハハハッ、トライアル段階とはいえ増強系や異形型を一撃でぶっ殺す為の銃弾を防ぐとか、どんなバケモンだよ」

 「・・・我々が対処できる域を大幅に超えている、撤退が必要だ」

 「ッヴァンデルン!逃げろ!!」

 「は?がァ───ッ!!?」

 「逃がすと、思うか?全員、ここで、沈め」

 

 逃がすものかとヴァンデルンの気配に“腕”を伸ばせば、腕か脚を掴んだために握れば何かが連続で折れる音。距離によって“腕”の力は変わるのか?そのままヴァンデルンを引き摺りながらこちらに引き寄せ、徐々に力を込めて圧迫していけば。

 

 「アァァァァァァ!!?がぁぁッ!?っーーー!!ーーーーッ!!?」

 「騒ぐな、黙れ」

 

 少し力を込めただけでコレか、脚を掴まれ逆さまになっているヴァンデルンの口を“腕”で塞ぎ、しばらく力を維持すれば白目をむいて気絶する。気絶したならもういいので適当に投げ、べちゃりと言う湿った音と共に砂埃が晴れていく。

 

 「サイエンス、この状況どう見る?」

 「・・・獣の部分が活性化し代謝を早め、精霊の部分があの花弁の正体だろう。しかしブーストを抑えたのに何故ここまで・・・」

 「あぁ、髪の毛、伸びた、のか。それに、色も、桜、色」

 

 風が吹いて視界の隅に映った物を掴めば。それは自分の髪の毛で、みんなが最後に選ぶほど大好きな場所にあった桜と同じ色で、まるでみんなが一緒に居るようで───。

 

 「どうにかして逃げるしかないな、生憎俺も命が惜しい」

 「・・・ヴァンデルンがやられた状況でどうやって逃げると?」

 「黒霧が来るまで耐えるか、僅かな希望にかけて逃げるかの二択だな」

 「・・・実質一択ではないか・・・クソッ、役立たずめ・・・!」

 「終わった、のなら、こちら、から、行くぞ」

 「・・・!」

 

 マキナが此方に構え、戦闘準備をした途端。乾いた───拳銃の銃声が鳴り響く、マキナは困惑した表情で後ろを振り向き拳銃を構えたサイエンスに問い詰める。

 

 「サイエンスゥ・・・!何故だ、何故俺を撃った・・・!」

 「・・・悪いね、お前の様な奴が戦ったところでアレに勝てる見込みがない。ならば僅かでも見込みを出すために暴走させるのは当然だろう?」

 「グっ、あがががぁぁぁぁぁあああ・・・!!」

 「・・・ヒヒッ、マキナが暴れている間に俺は逃走させてもらおう、チームプレイだ。頑張れよ?」

 「最低、だな、お前は」

 「ヒヒヒッ!お前と言うイレギュラーが悪いんだぞ?出なければこんな事はしない。マキナにはお前と違って個性のブーストを強めた物を投与した。それではな、獣畜生め」

 

 捨て台詞を吐き走り去っていくサイエンス、追いたいのは山々だが暴走したマキナは全身を歪に変形させていく。ヴァンデルンが人をバケモノ呼ばわりしたが、今のマキナの方がよっぽどバケモノ染みているぞ。

 

 「あ、あぁ、あああああ■■■■■■■■■■■■■ーーーーー!!!」

 「人の、言葉、すら、交わせ、ないか」

 

 大男の右腕は肥大化しその肘には円柱状の装置が生えていた、逆に必要ないと左腕は僅かばかりの小さなものになってしまっている。両目は赤く輝き、体の至る所を金属が侵食しているかのように鈍色に光を反射する、下半身もそのむき出しの足は機械の様になってしまっている。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーー!!!」

 

 マキナは声とも呼べない何かを叫びつつ、右腕を突き出し機械の足で走り出す。明らかに人間を越えた速度に“腕”で真正面から迎撃するも。

 

 「■■■■■■■■ッ!!!」

 

 何かを叫んだと同時に右肘からジェットエンジンの様な排気音、まさかと思えば突然大幅な加速をし“腕”を弾いて突破された。まさか桜の花弁しか見えない“腕”を正確に弾かれるとは思ってもいなかった。

 

 このままでは後ろの快心さんも危ない、幾ら自分の個性で意思のない者達と言っても亡骸を使うのは嫌だが仕方がない。考えが正しければコイツを止める事も出来るだろうと、体の中に存在する精霊から()()に力を切り替える。桜の花弁は全てを呑み込む黒に染まり、髪の毛もそれにつられ黒く染まった。そして黒に染まった“腕”をマキナにぶつければ。

 

 「■■■■■!!■■■■■■■ーーーーー!!!」

 

 右肘のジェットエンジンが止まり足も動かせなくなって転がりながらも、泣き叫ぶかのような声を出すマキナ。しばらくすれば糸が切れたかのように止まる、呼吸もしているので生きてはいるだろう。

 

 霊骸は全ての生物にとって猛毒、しかし俺の霊骸は個性因子によって作られた存在が死んで発生した物。ならこの霊骸は個性を妨害する事の出来るだろうと思って使ってみたが、かなり有効だった。しかしそれでも、みんなとは違うとはいえ精霊の亡骸を進んでは使いたくはない。

 

 すぐさま霊骸から精霊に切り替えれば桜は再び血に染まり、髪の毛は桜の色に染まった。それで後は一人だけ、そしてそいつは逃げ切れたと思っているのか立ち止まっている。

 

 「逃がす、わけ、無い、だろう」

 

 血壊で広がった知覚の中で立ち止まるサイエンス、疲れているのなら此方に引っ張ってやる。“腕”を伸ばす、伸ばして伸ばして伸ばして・・・()()()()

 

 思いっきり引っ張り、弧を描くように自分たちの居る広間に叩きつける。その際に握っている場所から折れる感触がしたが、そんな事知った事ではないと引き寄せる。森の中で引っ張った際、枝にぶつかったのか皮膚が出ている場所は切り傷だらけで、全身は叩きつけられた衝撃と引きずられた事でボロボロだ。

 

 「くそっ!お前の、お前のせいだ。お前のせいで俺はぁぁぁぁぁ!!」

 「・・・言いたい、事は、それだけ、か?」

 「ぎぃ───ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 「わめくな、お前が、一番、怪我、してない」

 「───ッ!────ッ!?」

 

 此方を見て、まるで自分が悪くないお前が全て悪いんだ。と言う様な叫びと共に銃を乱射されるも全て“腕”で防ぐ、弾が切れた後も引き金を引く姿は無様としか言いようがない。拳銃ごと手を潰せば三人の中で一番煩く叫ぶので口を“腕”で塞ぐ。

 

 「不思議、だよ。お前に、嫌な、気配を、感じて、恐怖、していた、のが、嘘の、様だ」

 「──────────!!!!」

 

 脚を踏みつぶせば目を見開き叫ぼうとするも、口を押えられてくぐもった叫びにしかならない。あぁ、本当に不思議だ。コイツは一番怖かったはずなのに今じゃ()()()()感じない。靄がかかり纏まらない考えの中、そう結論付ける。

 

 「どうした?お前の、個性、使って、みろよ。状況、が、打開、される、かもだぞ」

 「───────、──────」

 「それじゃ、わから、ないぞ」

 「─────ッ」

 

 必死に首を横に振るが、何を伝えたいのかがわからないので腕を蹴れば乾いた枝を折るかのようにアッサリと折れる。痛みに麻痺したのか叫ばなくなったのは良い事だ。

 

 「くくくっ、このまま、殺して、しまう、のも、いいかも、な?」

 「──────!─────!!」

 

 あぁ、それもいいかもしれない。コイツはみんなを殺した元凶で、今はヴィランに襲撃されている状況、力加減を失敗して殺したって問題ないんじゃないか?俺の考えに反応したのか“腕”がサイエンスの体を抑え、顔を潰そうと徐々に近づいて行く、サイエンスも状況を理解したのか顔を青くしながらもがく、だがお前の力じゃ抜け出せるわけないだろう?

 

 「くくくくくくっ、悪い、事、したんだ、こんな、末路も、あって、当然、だろ?」

 「─────っ!!─────────・・・」

 

 気絶したが、別に構わないだろう。どうせ殺すんだと“腕”を動かそうとすれば、周りが見えていなかった為に。後ろから抱きしめられるまで気づけなかった。

 

 「だめだよ、獣狼くん・・・。ヒーロー、目指すんでしょ?」

 「快心、さん・・・?」

 「殺しちゃダメ、ヒーローになりたいんでしょ?なりたいものになってよ、ヒーローが人を殺しちゃだめだよ」

 ───だから獣狼、お願い。なりたいものになって。

 ───あいつ等、全員、捕まえ、てやる。

 

 快心さんの言葉で思考の靄が晴れ、みんなとの約束を思い出す。徐々に視界が歪んでいき、血に染まった桜は色を取り戻していった。

 

 「・・・ごめん、ごめん、快心、さん」

 「・・・よかった、何時もの獣狼くんだね」

 「ごめん、みんな、居なく、なって、平気、だった、のに、周りが、見えなく、なって」

 「うん、とりあえず移動しよっか」

 

 快心さんに手を引かれて俺が倒れていた場所まで戻る。そこで震える声で、歪む視界を手で拭いつつも何があったのかを包み隠さず快心さんに話すと。

 

 「・・・よし、思いっきり泣いちゃおう?」

 「え・・・?」

 「獣狼くんは抱え込み過ぎたんだよ。それに思いっきり泣いちゃおう?」

 「・・・良いの、かな・・・」

 「うん、良いんだよ。獣狼くんは悪くないよ」

 

 その言葉と共に蓋をしていた悲しさが溢れ出し再確認してしまった、みんなが居なくなっちゃったんだ、と。そうなってしまったらもう涙が止まらない、声を出すつもりが無くても自然と声が出てしまう。まるでキツネが甘えるときの声だな、なんて頭の片隅で考えていると、快心さんに引き寄せられ抵抗も出来ずに胸に収まってしまう。

 

 「ほら、泣いていいんだよ。悲しかったんでしょ?辛かったんでしょ?なら泣いて良いんだよ」

 

 抱きしめられ、頭をゆっくり撫でられる。声も抑えきれず、もう会えないみんなを想い笑顔で見送った分、月の光が辺りを包む中で産まれて初めて大きな声で泣いた。




 弁明というか、獣狼がどうなっているのか、どうなっていたのかは次のお話でします。なので深く追求するのは許して。


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第五十七話:夜は明け、そして

 まずは遅れてごめんなさい、温度変化の気持ち悪さとか涙の出し過ぎで頭痛とかと戦ってました。でもちょこちょこと書いていてよかったです、想像より早めに出来ました。

 やっぱりこの話も独自設定、独自解釈の強い話です。ごめんなさい。

 感想+誤字報告ありがとうございます。


 合宿がヴィランに襲撃され早くも三日が経った。あの後俺は眠ってしまったらしく、銃声を聞いた相澤先生によって救出されたらしい。その後は通報を受けた救急によって入院、胸の銃創と胸骨と言う心臓の真上にある骨にヒビが入っている以外外傷は問題ないとの診断を受けた。

 

 そう、外傷は、だ。俺は銃弾で薬物を投与されており、更には現場に残っていた拳銃の弾頭とヴィランの所持していた拳銃の弾倉に入っていた弾を一部分解、そうして手に入れた薬物から分析したところ、禁止薬物に指定されている通称トリガーと呼ばれる物を改造した物と判明。前者はトリガーとしての性質を強化したもの、後者は個性のブーストを抑え理性を弱くする効力を高めた物で快心さんの証言から俺は後者を撃ち込まれていたらしい。

 

 お陰で二日目で目が覚めたものの、精神に異常が無いかの確認で精神科医の先生に色々な検査をされたり、カウンセラーの先生と話をした結果。問題ないと診断されたものの、状況が状況なので外部との連絡は控える事になった。

 

 そうして二日目が終わり、三日目になると今度は個性の検査を行われる事になった。何故そうなったかと言えば俺があの場で倒したヴィラン達、その全員が()()()()()で握られて骨が折れたり全身に圧迫された跡があったりと、明らかに薬物の影響でお前の個性何か変わってるだろ、という事で馴染みの深いトライスターの個性研究所に再びお世話になる事となった。

 

 

~~~~~

 

 

 そして現在、お父さんの案内で以前に行った物より詳細に調べている最中に事件が起きた。厳密には事件と言うほど切迫した状況ではないものの、俺の胸から出てきた存在によって個性の検査を一時中断する事になってしまっている。

 

 「〈キャーウ、キャウキャゥン〉」

 『・・・獣狼ちゃーん、そろそろ良いかしらー?』

 「ちょ、やめ、まっ、話せ、な、離、んっ」

 

 ガラスの向こうからマイクでお母さんに声をかけられるが、黒がメインで両脚の先と尻尾の先が茶色い毛のキツネに押し倒された後、顔を舐められ続けて返事を返せない。無理に引き離そうとすると、馴染みのある悲しそうな気配がキツネから感じる、まさか・・・。

 

 「君が、みんなの、後輩?」

 「〈キャゥ!キャゥン〉」

 「・・・そっか」

 

 キツネからの返答にみんなが好きなあの場所を思い出す、みんなとお別れしたあの場所を。そして一つの後悔も思い出し、キツネの翡翠色の目を見て考える。黒・・・キツネ・・・精霊・・・?

 

 「ねぇ、君の、名前、決めた、よ。君の、名前は、夜桜(よざくら)。夜の、様な、毛並み、と、みんなの、好きな、木の、名前、どうかな?」

 

 自分の名前と理解したのだろう、目を見開き驚いたかの様な表情をし、涙を一粒流して変化が始まった。足の先端から植物の蔦の様に赤いラインが伸びていく、肩辺りまで来た蔦はそこで止まり円を描き止まる。顔にも変化が表れ、まるで化粧の様に上瞼に赤いラインが引かれ、額には花弁が四枚しかない赤い桜が描かれる。

 

 「〈ワン!〉」

 「くくくっ、気に入った?」

 「〈キューン!〉」

 「よかった、じゃあ、みんなに、紹介、しないと、ね?」

 

 夜桜に言いたい事が伝わったのか、大人しく離れてくれる。体を起こして立ち上がると、何かを期待するかのように前足でアピールする夜桜。そんなアピールしなくても伝わるのに、若干みんなより幼いのかな?両手で抱えてあげれば、嬉しそうに鳴く夜桜をひと撫でしてお母さんたちのところへ向かう。

 

 「それで獣狼ちゃん、その子も精霊のようだけれど説明してくれるのよね?」

 「うん、でも、まずは、みんな、が。精霊、たち、が、どう、なった、のか、説明、するね」

 

 そうして、あの夜に起きた事だけを話す。みんなとの会話も、あの景色も、最後の時間も、俺の胸に仕舞っておく必要があると感じたから。かいつまんでみんなのお陰で不安定だったものが取り除けた事、そうして本来の力を取り戻した事、そのせいでみんなを俺が取り込み、消えてしまった事を話す。話を聞いたお母さんは悲しそうな顔をし、しかし次の瞬間には決心した顔になる。

 

 「獣狼ちゃん・・・、ごめんなさい」

 「・・・どうして、お母さん、謝る、の?」

 「私ね、てっきりあの子たちが獣狼ちゃんに悪さしていると思って脅したりしたのよ、でも違った」

 「私は息子を助けてくれた子たちを敵視していた、だからこれはその謝罪よ」

 

 そう言って深々と頭を下げるお母さん。・・・自分の事なのに、気付いてなかったのは俺だけだったのか・・・。

 

 「お母さん、みんなは、言わな、かった、でしょ?」

 「・・・えぇ、脅してもはぐらかすだけだったわ」

 「なら、みんなは、許し、てるよ。だって、消える、間際、まで、ずっと、俺の、心配、してた、んだよ?お母さん、に、話し、たら、心配、させる、でしょ?だから、誤魔化し、たんだよ」

 「・・・私、獣狼ちゃんの精霊に心配されてたのね・・・。これならもっと優しくしてあげればよかったなぁ・・・」

 

 お母さんの声に反応したのか、腕の中の夜桜はお母さんの方へ行きたいと訴える。なので床に降ろしてあげればトコトコとお母さんの方へ歩いて行く。

 

 「〈キュー、キュー〉」

 「その子、みんなの、後輩、名前は、夜桜。元気、出して、だって」

 「・・・そうね、こんな小さな子に心配させちゃダメよね」

 

 お母さんが足元の夜桜を持ち上げ、頭を撫でてあげれば嬉しそうに目を細める。いや、実際に嬉しいようだ。しかしこの状況についていけない人もいる訳で。

 

 「あー・・・そろそろお父さんに説明してもらっても?」

 「簡単に言っちゃえば、獣狼ちゃんの子供みたいなものよ」

 「・・・え、もしかして私もうお爺ちゃん・・・?」

 「多分、違う、と、思う」

 「あの・・・そろそろ時間が押してきているので検査に戻って貰ってもいいですか・・・?」

 「あ、はーい。今、行きます」

 「では私の方では獣狼の精霊を検査しておこう、夜桜くんは良いかね?」

 「〈キャゥ〉」

 

 元気よく返事をし、夜桜はお父さんの後を付いていく。俺も先ほどから中断されていた検査の続きを研究員の指示に従い手早く行う、幾ら俺の為に貸し切りとは言え、時間厳守なのは変わらなかった。

 

 

~~~~~

 

 

 検査も全て終わり、今は精霊の専門家であるお母さんの話を椅子に座って聞いていた。だがこの話は夜桜には退屈なようで、俺の膝の上でお腹を上にして撫でろと催促してくる。話を聞きながら流れ作業で撫でていると、お母さんの考えていた事と大きく違ったようで。

 

 「うーん、獣狼ちゃんの精霊ってかなり特別よね」

 「特別?例え、ば?」

 「私の精霊って、色々な事が出来たでしょ?アレって私が命令して、精霊たちがその命令に沿うように色々やってるのよ」

 「・・・色々、って?」

 「実は私でも把握しきれてないのよね、その手の本職には負けるけど扱えるーって感じよ」

 「万能、だね」

 「その分デメリットも酷いけどね。それで獣狼ちゃんの精霊だけど、夜桜ちゃん以外の彼らは獣狼ちゃんに動かされてるだけなのよね」

 

 俺に動かされているだけ・・・?何かが引っかかり考え込んでいると、お母さんはペットボトルを取り出し床に置く。

 

 「それじゃあ獣狼ちゃん、精霊の腕を使って持ち上げてくれる?」

 「うん、ほら、おいで」

 「〈キャゥー〉」

 

 夜桜は身をよじってひっくり返り、俺の胸に飛び込んで()()()()()()()()()()()()()。その光景はまるでみんなの様で、でもこの子はこの子だ、みんなじゃない。ふと思ってしまった事を断ち切り、みんなのお陰で扱える“腕”でペットボトルを掴み持ち上げる。

 

 「これで、良い?」

 「・・・やっぱり、綺麗な目ね」

 「・・・茶化、さない、で」

 「ふふふ、ごめんね?それで今獣狼ちゃんが持ち上げてくれたけど、何か命令を出した?それにどうやって持ち上げた?」

 「特に、何も。ただ、横から、掴んで・・・あっ」

 「気づいたかしら?私の精霊は命令を受けて、ペットボトルの何処かを持ち上げるの。そしてここからが問題よ」

 「獣狼ちゃんの精霊ね、多分だけど何かを持ったり、掴んだりしか出来ないと思う」

 

 “腕”を試す必要もなくなったので夜桜が胸から顔を出し、それと同時に力が弱まり“腕”の中で舞っている花弁も減る。あの、それちょっと変な感じするからやめて欲しいんだけど・・・。上手く伝わってくれたのか、そのまま出て来てくれる。そして再び膝の上で今度は背中を撫でて、と催促されたので撫でると。

 

 「獣狼ちゃん?お母さんの話を聞いてくれないと拗ねちゃうわよー?」

 「あ、ちゃんと、聞く、よ」

 「全くもう・・・、いい?獣狼ちゃんが動かすって事は、獣狼ちゃん自身が私の精霊がやってる色々をやらなきゃいけないのよ?」

 「あー・・・、確かに、出来ない、ね」

 「でも、あの子たちのお陰で精霊の腕を使えるようになったんだし、大丈夫よ」

 

 何時までも名前が無いのは不便だったので、精霊の力で出来た腕、という事で精霊の腕と呼んでいる。あの時からずっと、何となく腕と言う認識はあったが、精霊の腕は自分の腕からではなく、体から出ているらしいので不思議である。しかしお母さんは優し気な顔から一転、少し険しい顔をしながら警告してくる。

 

 「でもね、獣狼ちゃんの言う霊骸の力は使うな、とは言わないけど気を付けなさい。アレはそもそもが在りえない物、獣狼ちゃん達はそれに適応しちゃって大丈夫だけど、他の人は大丈夫とも言い切れないわ」

 「・・・うん、だいじょぶ、霊骸、を、使う気は、ないよ」

 

 そう言って検査の報告書に目を通す、そこには前回調べたときと比べとても安定し、更に“腕”が扱える事以外にも血壊状態についても書かれていた、しかし知りたい事は書いていなかったのでページをめくっていけば欲しい情報、夜桜と融合した場合について書かれている部分を見つけた。

 

 夜桜はみんなと同じく俺と融合する事が出来た、厳密には違うらしいがまぁみんなを引き継いだという事で融合にした。そこには融合した場合の特徴が写真付きで解説されており、“腕”の出力上昇の他に両目の虹彩に四枚の桜の花弁がバツ印を描いている事も拡大した写真付きで解説されていた。これに関しては新しい家族との証、と思えば気にならない。

 

 他にも融合した血壊状態と融合しない血壊状態を比べた画像も乗っている、そこには髪の毛と尻尾、耳を桜色に変え“腕”にある桜も真紅に染まり身体能力に比例するかのように出力が大きく上がっていた。そうして次のページに目を向ければ霊骸について書かれていた。

 この力を使う事に忌避感はあったものの、お父さんの説得で霊骸の検査を行う事になった。そのページには桜色になった部分と“腕”の桜を黒く染めた写真が載っていた、しかしそこではなく霊骸の分析結果を探せば見つけた。

 

 そこには唯一霊骸と触れたマキナと言うヴィランの診断も乗っており、簡単にまとめるのなら「霊骸に触れた個性因子の流れを滅茶苦茶にし、そこが体の場合苦痛を伴う。だがこれは場合によって変わる可能性がある」と言ったもの。ただ霊骸自体は付着などしないで力を解けばすぐさま俺の中に引っ込むらしく、安心した。

 

 霊骸になった彼らは、恐らくは薬物で個性のバランスが崩れた際に死んでしまった意思のない精霊たちだろう。獣の力が強まり死んでしまい、そして精霊の力が強まって今いる新しい精霊たちが産まれた。しかし俺に悪影響を及ぼしていたとは言え、家族の親族と言っても過言ではないだろう存在の亡骸を、その辺りに放置しなくていいという事は喜ぶべきだろう。

 

 「さて、検査も終わって伝えたい事も伝え終わった。なら後は帰りましょっか?」

 「うん、みんなと、連絡、取りたい」

 「でも薬物の話は伏せるのよ?流石にヒーローを目指しているとはいえ、今の子たちには刺激が強いもの」

 「・・・快心、さん、言って、なきゃ、良いけど」

 「大丈夫よ、快心ちゃんには早めに釘を刺したって警察の方が言っていたわ」

 「なら、平気、だね」

 

 そう言って、荷物を纏め夜桜を抱えながらお母さんと一緒に会社を後にする。辺りはもうすっかり暗くなっているが、ちゃんと街灯が道を照らしてくれる。

 

 「そういえば獣狼ちゃん、みんなが居なくなったけど大丈夫?」

 「・・・うん、もう、乗り越え、た、から」

 

 うん、あの晩に沢山泣いた。初めて悲しくて泣いた、快心さんに抱きしめられながら───。と考えた辺りで気づいてしまう、俺結構恥ずかしい事をしてしまった?幾ら仲がいいからって女子の胸の中でわんわん泣くって結構・・・いやかなり恥ずかしい!?余計な事に気づいてしまい顔がどんどんと熱くなっていく、そしてそれに気づかないお母さんではない。

 

 「あら?どうしたの赤くなっちゃって、もしかして快心ちゃんと何かあっちゃった!?」

 「気に、しないで、うん、追及、しないで」

 「ふーん、わかったわ。獣狼ちゃんの頼みだもの、快心ちゃんに直接聞くから

 「やめてよ!?」

 「〈キューン・・・〉」

 

 スマホを取り出し快心さんに事情を聞こうとするお母さんを何とか止める事に成功したものの、代わりに俺が快心さんと話す事に。俺の無事を伝えれば喜んでくれたものの、何処から声に緊張がある。心配してその事を聞けばはぐらかされ、女の子には色々あるから!、と言われてしまえば引き下がるしかない。その後も今まで何があったかを話して通話は終了、しかしお母さんにスマホを渡せば、快心さんにまた連絡を取りそうなので没収していると。

 

 「あ、そう言えば夜桜ちゃんって寝るところやお手洗いどうするの?」

 「・・・あ」

 「〈キュゥッ〉」

 「お手、洗い、は、平気、だって」

 「なら寝るところね、ペット用のベッドで良いかしら?」

 「〈キュゥー・・・キャゥ〉」

 「気に、入ったら?って」

 「なら決まりね、帰る前に寄っていきましょ?」

 

 夜と言えど、ペットショップがまだやっていてよかった。夜桜は穴から入るタイプと普通のベッドを模して造られたタイプで悩んでいたが、狭い所が良い時は獣狼ちゃんのベッドに入れば?の一言で普通のベッドを模したタイプになった。

 そうして買い物を済ませ、興味深々の夜桜を落ち着かせつつ電車で移動、やっと家に帰ってこれた。でも今日は検査で血壊に霊骸も使って疲れた、明日みんなに連絡してもいいよね?と晩御飯も早々に済ませ、夜桜のベッドを自室の空いているスペースへと組み立てて設置する、初めての事で大はしゃぎする夜桜とお風呂を済ませた後、何時もより早い時間に眠りについた。

 

 そうしてみんなに連絡を取ろうとした朝にやっと気づく、オールマイト引退の報道に。




 やっぱり作者の言い訳が長くなりそうなので活動報告に獣狼くんの個性について、作者視点の考えを書いておきました。良ければご覧ください、「別にかまへんかまへん!」という方は大丈夫です。


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第五十八話:全てが終わり、次が始まる

 獣狼くんの活躍が見たくて林間合宿だけじゃなくて、仮免取得まで続けちゃおうかなーなんて思っている私です。これが思い付き、これが初投稿故の無計画さよ・・・!

 実はタイトル変えるーって言っておきながら、獣狼くんの強化に関しては書く直前までずっと悩んで、それで今の形に決まったので案外変えなくてもよかったりー、なんて思ったりしてます。


 早朝、その日にどんな予定が入っていても、早く起きて何時ものコレをやらないと気が済まない体になってしまった。何時も一緒に起きる夜桜もこの散歩の様な物に参加しており、前までは公園で遊具やらベンチやらを障害物に見立てたパルクール擬きで遊んでいたが、今では夜桜との鬼ごっこに変わっていた。

 

 最初は鬼ばっかりだった夜桜も、段々と体の動かし方をわかって来たのか四足歩行を生かした戦法を取るようになった。今では鬼決めのコイントスの後、俺が鬼なら夜桜の小回りにどうやって追いつくか、夜桜なら俺の速度にどうやって追いつくか。そして鬼が切り替わったら先ほどとは逆の戦いが始まる。即ち鬼の小回りにどうやって逃げ切るか、鬼の速度からどうやって逃げるかの戦い。

 

 そうして、何度か鬼を交代し追って逃げてを繰り返した後、スマホにセットしていたアラームが終了を告げる。それと同時に夜桜の悔しそうな鳴き声、特に勝敗で何かするとか決めている訳ではないが、夜桜は結構負けず嫌いだ。

 

 「ほら、お家、帰ろう?」

 「〈キュゥー・・・〉」

 「毛に、砂とか、入って、嫌でしょ?洗って、あげる、から、ね?」

 「〈キャーゥ・・・〉」

 

 どうやら今回負けたのがよっぽど悔しいらしい、確かに最近は夜桜が俺に触れられる頻度も上がってきたし、今回も危うく触れられる場面もあった。だけど最近体の動かし方をわかってきた夜桜にまだまだ負けてあげられない。

 

 家に帰れば夜桜を抱っこしたままお風呂場に向かい、一緒に汗と砂を落とす為にシャワーで軽く流す。お風呂から上がれば髪の毛を乾かす為にドライヤーを使う、髪の毛は前髪をある程度整えただけで実は長いままだったりする。理由が若干女々しいかもしれないが、みんなとの約束通り頑張るという願掛けの様な物だ。

 

 髪を乾かし終えれば、次はタオルにくるまって巻き寿司かロールケーキかに成り果てた夜桜を転がしながらタオルをはぎ取り、ドライヤーで毛を乾かす。夜桜はドライヤーが気に入ったのか、はたまた濡れた毛が嫌なのか凄く大人しい。あ、両方なんだね・・・。

 

 リビングでは既に朝食が出来上がっており、珍しくお父さんもお母さんもそろっているので俺達で最後だ。

 

 「良いか獣狼、共同生活というのはちゃんとルールを守らなければ大変な目に合うんだぞ」

 「はいはい、獣狼ちゃんなら大丈夫ってあなた昨晩言ったばかりじゃない」

 「むぅ・・・だが、やはり心配で・・・」

 「なんで向かう人より不安になってるのかしらねぇ・・・」

 「一番、生活、能力、ないから、かな?」

 「いや生活能力が無いわけではないぞ!?ただちょっと大雑把にだな・・・」

 「それが生活能力が無いというのよ、諦めなさい」

 「それより、食べて、良い?夜桜、食べたい、って」

 「良いわよー、それにあんまり長いと遅れちゃうかもね」

 「・・・獣狼もドンドン扱いが悪くなってきた・・・これが成長か・・・。この少し人に刺さる言葉、昔のお母さんグホォ!?」

 

 お母さんの精霊によって物理的に口止めされたお父さんを無視し、何時もよりちょっと豪華な朝食を取る。ちょっと豪華と言っても俺の好きな品が一つ二つ増えたり、量が増えたりとしているだけだが十分嬉しい。

 

 「〈キュー!キャァーウ!!〉」

 「夜桜、も、豪華、だね」

 「〈キャーウ〉」

 

 嬉しさのあまり俺に自慢したかったらしい、満足しておすわりの姿勢でお皿に盛られた()()()()を食べていく。いやお前それでいいのか?確かに何時もよりお肉と野菜の比率が多いけど・・・。まぁ夜桜が満足しているのならそれでいいか?その後も復活したお父さんが色々と不安がるも、俺とお母さんの言葉によって不安は解消されたらしく、その後は静かな朝食となった。

 

 朝食が終わり、制服に着替えて事前に準備していた荷物を肩に下げる。出る前に自分の部屋を見渡せば、一部の物以外は寮に送られており、若干寂しさを感じてしまう。でも休日とかに帰ってこれると自分に言い聞かせ、部屋を後にした。玄関では夜桜が準備万端で待っており、やっぱり見送りをしてくれるのかお父さんとお母さんも居る。

 

 「ではな、獣狼。寮生活も楽しんで来い」

 「寂しくなったら何時でも帰ってきて良いのよ?でもー、快心ちゃんがいるから大丈夫かしら?」

 「うん、頑張る。そこは、ノー、コメント、で」

 「〈キャァウ、キュー〉」

 「うん、それじゃ、いってき、ます」

 「元気でな、獣狼」

 「行ってらっしゃい、獣狼ちゃん」

 

 お父さんとお母さんの見送りを背に、二人の待つ駅へと向かう。この姿になって友達や親友に見せるのは初めてだ、それに夜桜も・・・まぁ快心さんだから平気か、寧ろ夜桜の方が大丈夫か?思いが伝わってしまったのか、隣を歩く夜桜から抗議がやってくるものの、俺と同じ道を歩むんだと諦めて欲しい。

 

 

~~~~~

 

 

 駅で二人と合流した際、妖目と快心さんは夜桜に驚き、パニックになったのか快心さんは。

 

 「獣狼くん、その子・・・誰との子?」

 「ブホォ!?」

 「待って、話、変な、方へ、飛躍、し過ぎ。後、妖目、覚え、てろ」

 

 事情説明もかねて、夜桜が俺の胸へと跳び込みそのまま入っていく。流石にこの光景で正気に戻ったのか、快心さんは話を聞いて誤解も解けたようだが。子供ってどうしてそんな風に勘違いしたんだ・・・。しかしそうなるとやっぱり目の事が気になるようで、しかし夜桜と融合しているから、と答えれば珍しそうに見てくるものの、すんなりと納得してくれたようだ。

 

 とりあえず夜桜はこのまま待機、雄英高校へ向かう電車に乗り今まで何をしていたのかや、取り留めのない会話を楽しむ。あっという間に降りる駅に到着し、駅から出た辺りで夜桜も出てきた。俺の中は居心地が良いが、自分で動けないので出てきて良い時は出来る限り出ておきたいらしい。

 

 そうしてバス停にて雄英高校前に止まるバス待ちをするのだが、この待ち時間は快心さんが好きに撫でてくる時間でもある。決して悪いという訳ではないが、俺がまだ合宿の事を引きずって恥ずかしい。

 だが今回は夜桜が居る、快心さんも直接動物に触れ合える方が喜ぶはずだ。それに夜桜は言ってしまえば個性、快心さんの懸念もなく楽しめるだろう。と思っていると、後ろから抱きしめられる。

 

 「・・・あの、快心、さん。夜桜、は、いい、ので?」

 「えっと、ダメかな・・・?」

 「・・・お好きに、ドウゾ・・・」

 「えへへー、獣狼くーん・・・」

 「・・・解せぬ」

 「ひっー、ひっー、諦めなよ獣狼。もう快心さんは獣狼にメロメロだよ?」

 

 夜桜も俺と同じ道を歩むと思っていた時期が俺にもありました、でも蓋を開ければ快心さんは夜桜よりも俺と言う始末。妖目も腹を抱えながらも笑って乱れた息を整え、訳知り顔で告げてくるので睨むが。

 

 「獣狼ってば、そんな赤くなった顔で睨まれても怖くないよー?」

 「・・・どう、やって、知った」

 「うーん、まぁ色々と相談される立場って事さ。個人的には“頑張れ”としか言いようがないけどねぇ?」

 「この、性悪、め」

 「その顔で言われても可愛いキツネの遠吠えにしか聞こえないなぁ?」

 

 畜生コイツ、合宿であった(泣いた)事を知ってやがる!だから俺が睨んだ時もああやってサラっと流して俺の現状で楽しんで笑ってられるんだ・・・!後で絶対何か奢らせる・・・それも高い奴だ!

 

 

~~~~~

 

 

 校門前で二人と分かれ、1-Aの教室へ走って向かう。正直バスの中でも離してくれないとは思わなかった、お陰で顔は赤いまま、妖目はずっとその様子を見て楽しんでいたので容赦しない、絶対に。

 体を動かす事で、顔の赤さを少しでも誤魔化せないかと浅知恵を働かせるが、校舎内を走るのは不味いのではという考えもあったので若干早歩きに変えた。

 

 玄関辺りで出てきた夜桜を連れ、1-Aの教室の前まで到着すれば中から何名かの賑やかな声が聞こえる。検査から次の日、誘拐された生徒を救い出したと朝のニュースで見て心配になり、みんなに安否確認をしたら逆に心配されてしまった。三日間も音信不通だったのだから無理もない、原因をぼかしながらも無事と報告すれば、耳郎さんと葉隠さんが未だ意識が戻らない以外は全員無事との事。

 

 その耳郎さんと葉隠さんも、家庭訪問前には目を覚まして無事と連絡を貰ったので1-A全員無事と言っても過言ではない。しかし長く考え込み過ぎていたのか、誰かが歩いてくる音と共に声を掛けられる。

 

 「おい回精」

 「あ、おはよう、ござい、ます。相澤、先生」

 「はいおはよう。お前に渡す物がある」

 

 そういうと紙の束を取り出して渡してくる一番上の紙には“意思を持った個性について”の文字。

 

 「お前の個性についてはこちらでも把握している、その紙は今後お前の個性を校舎内で出歩かせるのに必要な事が書かれているから、しっかりと目を通すように。後で知らなかったは通じんぞ」

 「とりあえず今日はしまっとけ、読む前に知らず知らずで違反するのも馬鹿らしい」

 「はい、おいで、夜桜」

 「〈・・・キャーゥ〉」

 

 大人しくいう事を聞いて胸の中へ入ってくる夜桜、時間にはまだ早いものの、相澤先生が来たという事は寮への案内が始まるのだろう。教室に入れば相澤先生の声が聞こえたのか、みんなが静かに着席していた。しかし入ってきたのが俺と分かり、一部のクラスメイトが相澤先生ではない事に気が抜けた次の瞬間。

 

 「おはよう諸君、早速だが寮へ案内する。しっかりついてくるように」

 「「「「はい!!」」」」

 

 相澤先生が来た時点で薄々感づいていたが、クラスのみんなと話す事になるのはまだ先の事になりそうだった。

 

 

~~~~~

 

 

 相澤先生の案内で、校舎からすぐの場所に見えていた新しい建物の一つに案内される。1-Aと建物の正面にでかでかと書かれ、看板にはALLIANCEの文字。配られた資料にはハイツアライアンスと書いてあったが、学生寮で通じるだろう。ここって他クラスの人が出入りできるのかな・・・?

 

 「とりあえず1年A組、無事に全員集まれて何よりだ」

 

 相澤先生の言葉にクラスみんながお互い集まれたことに加え、先生も集まれた事を喜び合う。特に最近まで意識不明だった耳郎さんに葉隠さんはその筆頭だ、直接的な原因で無いとは言え、自分の子供がヴィランによって重体の危機にあったのだ、説得にはかなり苦労しただろう。俺の両親は・・・まぁ、お父さんの発言によって色々と台無しだったな、とだけ。

 

 「回精も無事に集まれてよかった、連絡が取れなかった時はひやひやしたぞ」

 「ごめん、ね。スマホ、近くに、なくて」

 「みんなでお見舞いに行こうにも、受付の人に聞いても分からないって言われちまったしよ」

 「おい、そろそろ説明をはじめっぞ」

 

 これ以上は長くなると判断したのか、相澤先生が手を叩いて注目を集める。正直これ以上、俺の事を話していいかわからなかった為に助かった。入院していた時、A組だけでクラスメイト二人が意識不明に一人が誘拐、その中で更にヴィランに禁止薬物を撃ち込まれた、という情報は不安に思っている生徒たちに余計な心配をさせてしまう。

 でも今はみんな無事だからその辺りどうなんだろう?相澤先生がちょっと強引に話を切ってくれたが、その辺りも聞く必要がありそう。

 

 相澤先生が寮の説明をする・・・前に、ヴィランの襲撃で台無しになった仮免取得に向けて動くそうだ。色々あって忘れてた、と口に出す人もいたが正直俺も個性やらなんやらで忘れてた。

 

 しかしそこで唐突に、相澤先生の雰囲気が変わり五名のクラスメイトの名前を上げ。

 

 「この五人はあの晩、あの場所へ爆豪の救出に向かったな?」

 

 クラス全員の雰囲気が変わる。そんな話聞いていない、それに飯田くんに八百万さんまで?飯田くんは視線を相澤先生に向けたまま微動だにせず、八百万さんは不安そうな表情をしていた。つまり今相澤先生が言った事は、本当の事・・・。

 

 「その様子だと、一部を除き行くそぶりはみんなも知っていたようだな」

 「色々棚上げした上で言わせてもらうよ、オールマイト引退が無けりゃ俺は」

 「爆豪、耳郎、葉隠、回精を除く全員、除籍処分にしている

 

 数にして17名、一気に除籍処分にすると口に出した相澤先生。前置きが無ければ、本当にA組を4名だけにするという意思を感じられた。俺の様に相手の感情に敏感でなくとも、それが伝わったこの場の全員に緊張が走る。

 

 「行った五人は勿論、理由はどうあれ把握していながら止められなかった12人も俺たちの信頼を裏切った事に変わりはない」

 「正規の手続きをふみ、正規の活躍をして信頼を取り戻してくれるとありがたい」

 「以上、さぁ中に入るぞ。元気に行こー」

 「「いや、待って、行けないです・・・」」

 

 先ほどまでの緊張感は一気に霧散したものの、全員が多かれ少なかれ後悔で動けないでいる。当たり前だ、自分の行動でみんなを、自分が止められなかったからみんなを退学にしかけたのだから。しかしそんな中で、ある意味空気を読まない者もいる。爆豪くんは上鳴くんをみんなから死角へ連れ込み、放電させて頭をショート(アホに)させ。切島くんに近づくと。

 

 「切島ァ」

 「んぉ?えっ怖何!?カツアゲッ!?

 「ちげぇ!!俺が下した金だ、小遣いはたいたんだろ」

 

 どうやら、救出の際に大金を使った様で爆豪くんはそれを返すつもりらしい。上鳴くんが騒ぐ中、しかしそれよりも、思い詰めた雰囲気で()()()()()()()()()()事が気になり、近づいて手を握る。

 

 「梅雨、ちゃん、だいじょぶ・・・?」

 「・・・回精ちゃん、大丈夫。今、少し気分が良くないの・・・」

 「・・・何時でも、相談、に、乗るよ?」

 「・・・ありがとう、でも、ごめんなさい・・・」

 

 みんなが上鳴くんや、切島くんの言葉で盛り上がり寮へと向かう中、何時もなら誰かとよくいるのに、一人で寮へと向かう梅雨ちゃんが心配で不安だった。




 獣狼くんの部屋どうしよっか・・・。まぁ・・・うん、とりあえず獣狼くんっぽさを頑張って出そう・・・だします。


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幕間:私の、隠せなくなった想い

 最初は五十八話の後書きに書こうかなーって書いてたら長くなって、そのまま本文の後に書こうかなーって思ったら更に長くなって、結局幕間になりました!バカじゃねぇのお前。

 という訳で本日二つ目の投稿です、この幕間の前に話が一つ、更新されているのでお気をつけて。


 バスを降り、彼が玄関に向かって走り去っていく後ろ姿を眺める。うん、今日触れ合った事で相談した事の答えが出た。

 

 最初は可愛らしい姿の彼に触れたかった。ヴィランの襲撃で怯える彼の不安を取り除きたくなって抱きしめた。逃げている最中、手を離されて振り返った時に見た優しい笑顔を見て、このままじゃ何処か遠くへ行ってしまいそうだと思って離れて欲しくないと思った。この日から私は、三つ全ての条件を熟せる彼のお姉ちゃんになろうと思って動き出した。

 ・・・今思うと、この時からなんだろうなぁ・・・。

 

 その後の中学生活は楽しかった、彼は本当に嫌でなければ断らないし、嫌だった時の変化も分かりやすい。だからこそ線引きも簡単にできた為に、どんどん彼の内側に入れたと思う。

 

 高校に入ってからは喜びと心配の連続だ、同じ高校に入った事を当日に知って拗ねる可愛い彼。ヴィランから襲撃を受けたと聞いて心配したが、次の日には一緒にお出かけして彼の秘密・・・の様な物を知れた。

 

 体育祭で初めて競争心を刺激されたのだろう、何時もの優しくて可愛い目から、獲物を逃さないという肉食獣の様な鋭い目、新たな彼の一面を見れて嬉しくなった。

 職場体験でヒーロー殺しに襲われて入院した、と聞いた時は不安だったけど、すぐに連絡が来て安心した。

 

 林間合宿で先生から指名を受けた際にどうしようかと悩んだ、でも1-Aのみんなと遊んでみんなの為になるなら、って思って参加する事にした。合宿へ向かうバスの中、彼が珍しく寝ている事に気づき、そっと膝枕をしてあげれば頬ずりしてくる彼がとても可愛かった、でもみんなに見られるとは思わなかったな。

 

 合宿の最中もワイプシのお手伝いをしながら彼を目で追っていた。虎さんに格闘を挑み、けれど吹っ飛ばされるもまた接近する彼。合間の休憩で汗をぬぐう為のタオルや水分補給のためのスポーツ飲料を渡せば嬉しそうにお礼を言ってくれる彼を見て、私も合宿に来た甲斐があったと思ってしまった。

 

 合宿も三日目の夜、突然ヴィランの襲撃に会った。そこで再びあの時の様な優しい笑顔をしてくれたから、また大丈夫だって、戻ってきてくれるって思ってしまった。

 でも、私がヴィランに捕まって、彼はどうしようもなくなって、そして彼はヴィランに撃たれた。私はパニックになりながらも、弱っていく彼の延命をしようとして、間違った方法で人工呼吸をしちゃって。

 

 そこからいきなり彼が目を覚ましたと思ったら、何時もより鋭い、まるで獲物を探す様な目をしていた、そして初めて彼が怒っている事に気づいた。あまりの出来事に驚いていると、ヴィランが大きな銃を構えて彼に逃げて、と伝える前に砂埃で見えなくなる。彼が無事か不安だった、けど大きな金属音とヴィランの声で彼が生きている事を喜んだ。でも次の瞬間、耳を塞ぎたくなるようなナニかが潰れる音と、悲鳴、そして感情をなくしてしまったかの様な彼の声。

 

 そこからの彼はとても淡々とヴィランを倒していった、でも最後のヴィランになった途端、まるで人が変わったかのように、その顔は冷たい笑みを浮かべていた。そして、彼の口から殺す、と出た時、私は彼を止める為に走り強く抱きしめた。

 

 彼は止まってくれた、けどその表情がまるで夜に道に迷った子供の様で、でも事情を聴くには血生臭いので移動して話を聞いた。彼に起きた変化を、大切な家族の死を。そんな彼はまるで泣きそうな顔で、でも泣けないと言った雰囲気があった。だから私は思いっきり泣かせてあげる事にした、思っている事を、出来る限り優しく。

 

 それを聞いた彼は泣き始めた、でも私はその彼の鳴き声をとても寂しく感じて、胸を貸してあげる事にした。どうやらそれは正しかったようで、彼は私の胸の中で、くぐもった獣の様な声で泣き続けた。

 

 泣き疲れて、眠ってしまった彼をそのまま抱きしめながらも、私は自分の中にお姉ちゃんになろうとは違う、この暖かい感情になんて名前を付けて良いのかわからなかった。

 

 事件が終わり、妖目くんにこの感情の事で相談をした。妖目くんは最初から最後まで聞いて、この感情を教えてくれた後私に伝える。

 

 「もしも次、彼と触れ合った時にその感情があるのなら、それはもう」

 

 そこまで考えたところで、何時も笑っている顔を今日は少し引き締めた妖目くんに声を掛けられる。

 

 「どう?もう最初っから答えなんてわかりきってたけど、答え合わせする?」

 

 最初は撫でるだけで満足できていたのに、最近になってよく彼を抱きしめるのも、今思えば私が彼との触れ合いに満足できなくなったんだと気づいてしまった。ごめんね、でももうお姉ちゃんという言い訳だけじゃ、この感情を我慢できそうにないや。

 

 「うん、私ね、獣狼くんの事が」

 

 ───好きになっちゃった。




 あーあ、コイツ出来るはずないって言ってた事を始めちゃったよ。でも、獣狼くんが一番感情を見せてるのって快心さんなんですよね・・・。

 ・・・妖目は幼馴染、つまり負けヒロイン。などという訳のわからない事を思いついてしまうのは、恐らく私が疲れているだけでしょう。気にしないでください。とりあえずBでLな展開は絶対にないです。

 私個人としては、幼馴染は正統派ヒロインと言えるでしょう。近すぎる距離感をどうにかするという必要があるものの(以下自主規制)


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第五十九話:初めましての自己紹介

 書いては消して、書いては消して、書いては消して・・・。多分もう三話分か四話分書いては、こっちの方が良いんじゃない?ここ抜いてもいいのでは?ここもうちょっと詳しくしない?と思いついてしまい、迷い迷ったこの期間。

 つまり、遅れてごめんなさい。


 梅雨ちゃんの事が気になるものの、本人が話してくれないなら無理に聞き出すことは出来ない。時間が経つのを待つか、何等かの方法で解消してくれるのを待つしかないのは、少しもどかしいが仕方がない。

 

 後を追う様に寮に入れば、中は外観通りにとても広いものになっていた。大きい長方形の建物の中央には中庭もあるのでガーデニングやお昼寝、家庭菜園など色々と楽しめそうだ。相澤先生の寮に関する説明も終わり、気になっていた他クラスの人が入れるかを聞けば、門限を守るならとやかく言わない、との事だったので妖目も快心さんも遊びに来られるだろう。

 俺からも行ければいいんだけど、正直自分のクラスメイトに慣れてきたばかりで他クラスの人とも、なんて俺には無理だしあっちも分かってるからか、その事は話題に上げない。

 

 だがまぁ、とりあえずは。

 

 「荷ほどき、だよね」

 「〈キャーウ!〉」

 「・・・夜桜、物を、持てない、じゃん」

 「〈キュゥー・・・〉」

 「・・・仕方、無い、ちょっと、ズルい、けど、“腕”、使おう?」

 「〈!キャーゥ、キューゥ!〉」

 

 荷ほどき、と言っても自分の部屋から持ってきたものはあんまりないし、すぐ済むよね。頼んでいた物も流石に一人じゃ無理と判断されたのか、設置されているみたいだし。

 

 

~~~~~

 

 

 一度お昼を挟んだとはいえ想像以上に荷ほどきが早く終わり、次いでとばかりに掃除と食材の買い物をしてもまだ夕方。夜桜を部屋の中で煩くしない事と物を荒らさない事を条件に自由にさせる間、1階の共同スペースにあるキッチンで自分用の料理を作っていた。背が低いので台が必要だったりと中々に大変だったが、少し大きめの鍋でカレーを、フライパンできんぴらごぼうの二品を作り終え、そろそろご飯も炊ける頃、問題が発生して悩んでいた。

 

 冷蔵庫に入れる為に冷やしたいのだが、そこそこ大きいので冷えるのに時間がかかる。この大きさの鍋だと氷水で冷やそうとしても時間がかかるだろう。でも夏の暑い季節で冷やすのに時間をかけていたら、細菌が繁殖して大変な事は目に見えている。出来ればこう、内外から冷やしたいが・・・。あ、出来る人いるじゃん、轟くんに冷やしてもらおう。ついでにお昼を食べれなかった夜桜にも持って行ってあげるか。

 

 「と、いう訳、で、助けて、ください」

 「・・・そんなに食う量が必要なのか?」

 「お昼、は、抑えて、いたから、ね。普段は、朝と、夜に、ガッツリ、と」

 「大変なんだな。・・・冷やすのは良いが、料理を少しもらってもいいか?」

 「良いけど、なんで?」

 「時間が時間だろ、腹減ったし焼肉以外も食いてぇ」

 「あー、切島、くん、言ってた、ね・・・。二品、と、ご飯、しか、無いけど、いい?」

 「正直今から作るのは面倒だ、文句はねぇよ」

 

 ちなみに夜桜に焼肉はどうするか聞いたところ、肉もいいけど甘いの頂戴と返された。・・・砂藤くんなら何か持ってそうだな・・・譲ってもらおうかな?

 

 夜桜の好みはともかく、先にきんぴらごぼうの方だけでも冷やしておいてよかった。この手の料理は冷えた方が味がしみ込んで美味しいからね。1階の共有スペースに到着すると、男子を中心に中庭へテーブルと七輪を運び、女子がお皿や箸等の準備をしていた。

 

 「おっ!轟に回精じゃん!」

 「七輪って本格的だな、よくあったなそんなの」

 「先生に聞いてみたら、ランチラッシュが持って来てくれたんだよねー!」

 「おぉ、凄い、という、事は、炭も?」

 「もっちろん!バケツも用意したし、今回は雰囲気重視で中庭焼肉パーティーだ!!」

 

 かなり本格的な焼肉にテンションが上がっていく芦戸さん、なら邪魔にならない為に早く用事を済ませた方が良いなとキッチンへ向かう。

 だがキッチンには鍋が無かった、いやカレーだけじゃない、水で冷やしていたきんぴらごぼうの入った容器も炊飯器もなくなっている。おかしい、なんで?辺りをキョロキョロと探していると。

 

 「あら?回精さんどうされましたか?」

 「八百万、さん。ここに、あった、鍋、知らない?」

 「あぁ、あちらでしたらホラ。中庭に移しておきましたわ」

 

 八百万さんの指さす方には鍋敷きの上に乗った俺の探していた鍋と、その隣にかなり見覚えのある容器と炊飯器。あー・・・確かに、この時間に大きな鍋をおきっぱならそう思っちゃうもんね・・・。

 

 「もしかして回精さんが作ってくれたんですの?」

 「・・・うん、まぁ・・・」

 「やっぱり!キッチンに台があったのでもしかしてと思いましたの!でも回精さんのお陰で滞りなく焼肉パーティーを始められそうですわ、ありがとうございます!」

 「あはは・・・、どう、いたし、まして・・・」

 

 では、私も中庭のお手伝いに行ってきますの。そう言って立ち去っていく八百万さん、まぁ普通そう思っちゃうよね、アレを一人用と思う人はそうそう居ないもんね・・・。僅かながら・・・いやそれなりに落ち込んでいると、肩に手を置かれる。

 

 「回精、ドンマイ」

 「えー、まぁ、約束、は、果たせ、そう、だよ・・・」

 

 とりあえず、今回の材料分は共有スペースから後で自分用に抜き取ろう。・・・許されるよね?

 

 

~~~~~

 

 

 焼肉パーティーも終わり、自分の食べる量を減らして夜桜分の焼肉を無事確保、4階の自室に待つ夜桜へ届けていた。みんなが片づけをしている最中にこっそりと脱け出したし、お皿は紙皿にラップで再利用可能にしているが・・・、まぁ捨ててもいいだろう。

 

 「〈キュー、キャゥ〉」

 「後で、聞いて、見るから。でも、ダメ、だったら、我慢、してね?」

 「〈キャウ〉」

 

 甘いものを欲しがる夜桜を部屋に残し、お風呂の準備をして1階に下りれば男子は荷ほどきが終わって談笑中の様だ。

 

 「あ、回精くんはこれからお風呂?」

 「うん、何時も、お風呂、早い、から」

 「早い時間に寝てるって言ってたもんな」

 「そそ、それじゃ、お先」

 「あいよー」

 

 お風呂場では室内の大浴場、と言った雰囲気の大きいお風呂だ。ただまぁ惜しむらくは、一番最初に入った俺がお風呂を使えないという点か。お風呂に入りたければ一番最後に入るしかなさそうだしなぁ、まぁそこまで気にしても仕方ないか、別にシャワーでも平気だしね。シャワーから流れるお湯を受けつつ、手だけはキッチリと次の準備のために動いている。最初は手こずっていた長い髪の手入れも、今じゃ慣れたものだ。

 

 お風呂から上がれば、タオルで水気を取りそのままドライヤーで髪と尻尾を乾かす。まだ誰も来る気配はないからゆっくりと乾かせる。ただ、流石にブラシまでは脱衣所でやるのは気が引ける、髪の毛ならともかく尻尾の毛は不味いだろう。

 

 とりあえずブラシは髪も含めて部屋の中でやればいいかな、夜桜には申し訳ないけどドライシャンプーで我慢してもらおう。

 共有スペースに戻ると、みんなが居ない事が気になったが寮の左側───つまり男子側から騒ぐ声が聞こえるので、部屋に集まってパーティーでもしているのかな?今回はやる事があるので参加出来ないのが寂しいが、夜桜の為だ。

 

 

─────

 

 

 お部屋訪問から始まった部屋王決定戦。クラスメイトの部屋を見て回るという現状にテンションの上がった女子二人と、こういったイベントに目が無い男子により、一部クラスメイトを除いた全員がみんなの部屋を見て回る事となっていた。

 

 そして現在、4階は今いる切島、障子の部屋を訪問し終わりエレベーターで5階に移動しようとボタンを押そうとしたところで。

 

 「あれ?エレベーターが動いてる?」

 「でも男子で今居ないのって、回精だけじゃ・・・」

 「つまり、ここで待てば回精の部屋が見れる・・・?」

 

 先に部屋で寝てしまった爆豪や、部屋からにじみ出る邪悪なオーラでそもそも訪問したくない峰田。しかし回精に関してはタイミングが合わず、お風呂に行ってしまった。ならタイミングが合えば?同じクラスの友人、更にはクラスでも上から数えた方が早い実力者であるが。

 

 「そーいやアイツの私生活って俺には想像できねぇな」

 「確かに合宿の時も朝すっげぇ早く起きたり、夜も早く寝てるもんな」

 「そんで見た目とは裏腹に大食いで」

 「すっごく可愛い!」

 「それ、絶対落ち込むだろうから本人には言わない方が良いよ・・・?」

 

 彼の特徴について今上げただけでもこれだ、更に上げようと思えば時間はかかるだろうが、まだ出てくるだろう。そんな個性的な同級生に、一部を除きクラスの思いが一つとなる、即ち───部屋めっちゃ気になる。

 

 一部の思いが一つになったところで、エレベーターが4階で止まる。中からは合宿でも見たゆったりとしたパジャマに着替え、その手にはお風呂やお風呂上りに使う道具を持った回精が出てくる。なので早速と言わんばかりに芦戸と葉隠が回精に詰め寄った。

 

 「ねぇねぇ!今お部屋訪問してるんだけど!」

 「回精くんのお部屋も見てみたいなーって!!」

 「えっ、面白い、物、とか、ないよ?それに、まだ、見せ、られる、状態、じゃない、し」

 

 お部屋訪問をやんわりと断る回精、しかし一部の者達は気づく。回精の尻尾がぴんと立ち緊張していた、つまり今部屋を見せたくない何かがある。それを察しすぐさま回精の肩を掴んで動きを止める芦戸と葉隠。

 

 「えー、何々?見せられない物でもあんのー?」

 「私たちすっごーく気になるんだけどぉー?」

 「まさか回精、お前もエロいもn・・・あ何でもないです、スイマセン・・・」

 

 肩を掴まれ、頬の柔らかさを楽しむ様に左右から指で押されるも慣れてしまっているのか、少しの間上の空になっていた。しかし峰田の、まるで自分と同じという様な発言を無言で睨みつけて黙らせた後、少しの間何か考える様に目を閉じ、ため息と共に。

 

 「それじゃ、見る、だけだよ?」

 「「ぃやったぁー!!」」

 「・・・ところで、離して、ほしい。逃げない、から」

 「あぁ、ごめんごめん!触り心地よくってついつい」

 「あんまり、人で、遊ばない、でね」

 

 とは言いつつも、尻尾は緩やかに揺れているので、本人も人との───クラスメイトとの触れ合いは満更ではないのだろう。

 回精が歩き出せばそれにつられ、全員が歩き出す。そうして扉の前に到着すれば回精は最終確認をするかのように全員に尋ねる。

 

 「本当、に、何も、無いけど、良いの?」

 「いいのいいのー!さぁ早く早くー!」

 

 葉隠の言葉にため息を吐くが、諦めたのかドアノブに手をかけそのまま扉を開く。

 

 「うわぁー、家具ちっちゃい!」

 「身長、に、合わせ、たら、こうなる、からね」

 「家具が小さい分、部屋が広く感じるな・・・」

 「おぉぉぉー・・・、なんかおっきくなった気持ちになるね・・・!」

 

 部屋の中は明るさを抑えた緑をメインに茶色をサブとしたカラーリング、葉や蔦と言った模様の壁紙に似たような装飾の施された家具。全体的な色合いや装飾から森の中、もしくは林の中と言った印象を受ける。

 

 回精の身長に合わせたからか、全ての家具が全員から見ても小さいものになっていた。部屋の中には椅子が無く、中央にクッションと机があるので床に座る事がメインになるのだろう。

 だが部屋の中に入れば、外からは見えなかった異質なものも見えてくる。

 

 「うぉ!?でっけぇ冷蔵庫!」

 「沢山、食べる、からね」

 「中は・・・まぁそんなに入ってねぇよな。調味料はあるっぽいが」

 「今日、使い、始めた、からね」

 

 部屋の中にある大型のメタリックブラウンの冷蔵庫、業務用冷蔵庫と言われても通用する様なソレには、マグネットのデフォルメされた可愛らしい昆虫や葉などが上から下まで点々と取り付けられ、回精の身長程の高さにはホワイトボードとそれに書き込む為のペンも取り付けらていた。

 

 特にめぼしい物も無く、しかし自然の中の様な部屋という他にはない特徴に興味の無かった者以外の好奇心が満たされる。・・・約一名、何かエロい物がないか物色している者が居るが、誤差だろう。

 ()()()()()、興味の無かった者の声は良く通った。

 

 「なぁ、この皿どうしたんだ?」

 

 轟が指さす先には、そこを探そうとしなければ死角となる場所に隠されたお皿が置いてある。全員が再び好奇心を刺激されるが。

 

 「自作、カレー、ライスの、摘まみ、食い、だよ」

 「食べる為の道具も無しに、か?」

 

 なんともない風に答える回精、しかし轟はその言葉に続けるように回精を追い詰める一言を発する。この言葉には回精は何も言い返せず、それに、と言葉を続けた。

 

 「この皿、カレー食ったにしちゃ綺麗すぎだろ?舐めたって線もあるだろうが、割としっかり者のお前がそんな事するとは考えづれぇしな」

 「・・・割と、は、余計、だよ。でも、舐める、かもよ?だって、キツネ、だし」

 

 若干間が開いたものの、回精の言い分はわからなくもない。しかしどうあがいても苦しい言い訳にしか聞こえない、少なくともこの場にいるほぼ全ての人がそう感じている。

 

 ───では、そう感じていない人はというと。

 

 「ベッドの下に紙の束!間違いねぇ・・・エロ本だァ!!!」

 

 全く話を聞いていなかったようだ。しかし彼の発言は回精のポーカーフェイスを崩すには十分だったようで、一瞬ではあるが体が反応してしまう。

 

 「峰田、くん?勝手に、部屋を、漁る、のは、よく、ないよ?」

 「へっへっへ・・・エロ本はもうオイラの手の中ぁ・・・!」

 「聞いて、ないなら、力、づくで───」

 

 すぐさま取り繕い正論で止めようとしても、峰田は血走った目でベッドの下に腕を突っ込み、話すら聞いていない。仕方なく、回精は強行策を取って止めようとするが。

 

 「えー?回精エロ本持って来てんのー?」

 「そもそも、無い、けど?」

 「ならいいじゃねぇか、それともやっぱりそういうのだったり?」

 「・・・対処、に、困る。だから、見せたく、無い」

 「対処に困る・・・まさか常闇みたく黒歴史なノートとか!?」

 「黙れ・・・!」

 「それで回精、お前この部屋に何を隠してるんだ?」

 「・・・・・・・・・」

 

 芦戸と瀬呂に捕まれ動きを止められてしまった。彼らの言葉を否定するも、ニヤニヤとした表情が「面白そうだから」と物語っている。上鳴の不要な発言で常闇に飛び火してしまい、轟の確信を持った発言には沈黙するしかない回精。真面目な者達も回精を信じているが、もし本当にそういった物を持ち込んでいたら?と、僅かな疑惑のせいで二の足を踏んでいた。

 

 「ぐぐぐ・・・なんかに引っかかってんのか・・・?だが後少し、後少しでおタカラがぁ・・・!」

 「っ、待って!」

 「おぉっと、悪いが止めさせてもらうぜ?これも寮内の風紀の為だからな?」

 「そーそー!そういうのはもっと大人になってから、ね!」

 「風紀、なら、そこに、一番、乱し、てる、のが、居る、けど!?」

 「ハッ!?確かに回精くんの言う通りだ!峰田くん!他人の部屋よりも、まず君の部屋を改める必要があるのではないか!?」

 「よっしゃぁ!取れ───」

 

 回精の説得に芦戸と瀬呂はそろって目を逸らす、しかし捕まえた手を放すつもりはないらしい。しかし飯田にはその説得が通じたようで、未だ見ていない峰田の部屋には学生には相応しくない物があるとほぼ断定しているが、日頃の行いの結果だろう。だがそれでも間に合わなかったようで、峰田がベッドの下から紙の束を引き出す。

 

 ()()()()、紙と一緒に黒いナニかがベッドの下から引き釣り出された。黒いナニかは黒の毛であり、紙に噛みついている犬科の頭と緑色の瞳、峰田に胴体まで引き釣り出された為にのっそりと下半身もベッドから現れる。よく見れば上瞼に化粧の様に赤い線が入り、額には四枚しか花弁がない赤い桜。両前足には肩まで蔦の様に赤い線が枝分かれしつつ伸びており、肩で円を描いていた。

 立ち上がれば隠れていた尻尾も露わになり、特徴的な尻尾から狐と分かるが、それにしては大きい。狐の横で腰を抜かして尻餅をついた峰田よりも体長が長そうだ。

 

 あまりにも予想外な存在に、ほぼ全員が固まってしまう。回精は緩んだ拘束から脱け出し、疲れたようにため息を吐き。轟はというと、意外な事にあまり驚いた様子はない。誰もが驚きで動けない中、ただ一匹はすぐ隣の峰田を恨みがましくジト目で睨み。

 

 「〈ギャゥ〉」

 「ぐぺぇっ」

 「「「み、峰田ぁぁぁぁぁぁ!?」」」

 

 器用に前足で頬を叩いた、爪を立てなかったのは慈悲であろう。しかし幾ら肉球だけとはいえ、それでも叩かれれば痛い物は痛い。一撃でノックアウト、そのまま倒れる峰田に一部の男子から叫び声。しかしそれでも状況が動いた事に変わりなく、故に。

 

 「わぁー!おっきい狐!」

 「ウサギもいいけど、この子も可愛い!!」

 「もー!これなら早く言ってよー!変な勘違いしちゃったじゃん!」

 

 葉隠さんに麗日さん、芦戸さんの動物好きが一気に狐に触れようと無警戒に近づく、高さを合わせる為にしゃがんだ次の瞬間。

 

 「〈ギャゥッ〉」

 「へ?わっ、わわわっわぷっ!?」

 「跳んだぁ!?」

 「うわっ、こっち来たぁ!?」

 

 狐が大きく跳び上がり、芦戸さんの後ろに着地する前に後ろ脚で背中を押す、その勢いで体が倒れるもベッドに突っ込んだ形になった為、怪我は無いだろう。その後一直線に回精の方へ向かって行く、驚いた瀬呂によってテープが射出されるが、まるでテープ自体が避けているかのように狐は止まる事無く突き進む。そして大きく跳び上がり。

 

 「うぉっ!?とっとと!」

 「〈キャゥ〉」

 「はい、ありがと。でも、ちょっと、悪戯、し過ぎ」

 「んで?そいつの説明はしてくれるよな?」

 

 瀬呂の肩に着地し、回精に飛びついた勢いで瀬呂は体勢を崩すもそこはヒーロー科、持ち直し飛びつかれた回精に目を向ければ、狐は回精の腕を足場に器用にバランスを取り、口に咥えた紙の束を回精に渡していた。それだけで回精の関係と分かり、轟の追求に回精は諦めたように告げた。

 

 「ホント、なら、明日、に、紹介、する、予定、なんだよ?まだ、これも、読み、終えて、ないし」

 

 その言葉と同時に、夜桜と呼ばれた狐は回精の胸に飛び込みそのまま入っていく。まるで幽霊が壁を通り抜ける様な光景は、その場に居た全員を唖然とさせる。しかし回精の変化にも目をむいた、回精の瞳には桜の花弁が四枚、バツ印を描いていた。

 

 「それじゃ、みんな、には、初め、まして、だね。この子は、夜桜。俺の、個性で、新たな、家族、だよ」

 

 あまりの変化に、連絡が取れなかった間に何があったのか、どうしてそうなったのか、クラスメイトの質問が殺到した。




 料理のチョイスにはかなり作者の趣味が入っています、が気にしなくていいでしょう。

 うーん、もっと短く済むと思ったのに長くなる。でも投稿出来たのでヨシ!

 そろそろキャラ設定も本格的にまとめようかなー、なんて。また時間がかかりそう・・・。


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第六十話:まだ、ふれてほしくなくて

 話が思い浮かばないのではなく、思い浮かび過ぎて困る悩み。全部採用したら絶対大変な文字数か、4話くらい学生寮の初日になりそうという恐怖。・・・だけどアニメだと1話で済む話を3話に伸ばしてる時点でもう、って感じはあります。

 最後にアンケートがあります、良かったら投票していってください。


 あの後、みんなを説得しお部屋訪問を続けさせ、逃げられないように1階の共有スペースで相澤先生からもらった紙の束を読み進め、男子部屋から女子部屋へみんなが移動するのを横目で確認し、そして今やっと読み終わったところだった。

 

 詳しい所は省くとして、大体が「良識をもってキチンとしてれば問題ないよ!」と言ったものだ。何気に食堂とかも入れる事には驚いたが、もし規制でもしようものなら根津校長が黙って居ないだろう。夜桜と違って根津校長は普通に動物だからね。

 ただ、やっぱり制限もある訳で、一番気を付けるべき制限と言えば「一部状況を除く5m以上離れちゃだめだよ!」だろうか?その一部状況も、寮内や体育館などの運動施設では問題ないみたいだが。

 

 ・・・所々、デフォルメされた根津校長が描かれているのは執筆者が根津校長だからかな?何気に言い回しも根津校長っぽいし、少なくとも寮の家庭訪問とかで先生は忙しそうだったし、根津校長がこれを作成しててもおかしくない。

 

 読み終えた紙束を机に置き、ソファーに伏せている夜桜を枕にしようと寝っ転がる。向こうも俺が枕にしようと思った時点で、お腹側が頭にくるように横になってくれている。

 

 「〈キャゥー〉」

 「あ、ゴメン、聞き、そびれた」

 「〈キューゥ、キャーゥン〉」

 「ごめん、って、今日が、ダメでも、明日、甘いの、用意、するから、ね?」

 「〈キュー・・・キャゥ〉」

 「くくっ、欲張り、さんめ」

 「〈キューゥ・・・〉」

 

 寝転がった姿勢のまま、顎をかいてあげれば気持ちよさそうに、いや、本当に気持ちいいのだろう。目を細め顎を指に押し付けてくるのでちょっと強めにかいてあげれば、次はこっちと言わんばかりにうなじ辺りを押し付けてくる。

 

 そうして夜桜の顎から始まり、うなじ、耳の付け根、背中、お腹とかいていると、女子側のエレベーターが降りてくる音、つまりはみんなに説明する時が来た。

 

 

─────

 

 

 「まぁ、特に、隠す、訳で、なく、個性が、変質、した、だけ、だよ」

 

 夜桜と呼ばれた狐とソファーに座ったまま正面から抱き合い、背中をゆっくりと撫でている。各々が話を聞ける位置で、どんな秘密があるのだろうかと期待していたが、回精がアッサリと答えてしまうのである意味拍子抜け、と言った雰囲気になってしまったが。

 

 「変質?それがその狐と関係しているのか?」

 「・・・流石に、全部、答え、られる、訳じゃ、ないよ?」

 「えー!?もっとしーりーたーいー!」

 「あたしも知りたいかもー!特にその子の触り心地とか!!」

 

 轟の質問に回精は答えられないと返せば、すっかり回精の個性に好奇心を刺激された芦戸と、滅多に見れない大きさの狐にテンションの上がる葉隠。他の人たちも口では言わないが、視線や表情から二人と同じ気持ちなのだろう。───回精の言葉によって、考え込んでいる轟を除いて。

 

 「・・・轟さん?」

 「なぁ、回精。二つ良いか?」

 「んー、内容、に、よる、かな」

 「一つ目だ、お前は個性の変質を把握しているのか?」

 「うん、してる、よ」

 「なら二つ目だ。お前、()()()()のか?それとも()()()()()()のか?」

 

 轟の言葉に回精は無言で夜桜を再び胸に入れる、突然の事だが気にする者はいない。先ほども見ているし、何より男性とも女性ともとれる回精の中性的で整った顔、口は笑っているのに目が一欠けらも笑っていない。そんな整った顔で行われる冷酷と言える表情は暴力的であり、全員が突然の事に息を呑んでいるからだ。

 

 「はは、流石、轟、くん。そうだよ、答え、られない。口止め、されて、いるし、何より、そこまで、踏み、込ませる、気は、ないよ?」

 

 突然の変貌、何時もニコニコは言い過ぎかもしれないが、滅多に怒らない級友の答えられないし、答えないという明確な拒絶。全員がこの級友の心の広さに甘え、無遠慮に踏み込み過ぎたと後悔や反省をしていた時。

 

 「それで、今の、表情、どう、だった?」

 「へ?」

 「まさか・・・回精、お前今の演技だってのか?」

 「うん、ちょっと、した、仕返し」

 

 舌をちろりと出し、ウィンクも決めて一気に場の雰囲気をぶち壊したキツネモドキ(回精)。あまりの落差に何名かが一気に力が抜けたと言わんばかりに脱力、ソファーに座っている者も背もたれに体を預けていた。

 

 「お前よぉぉぉ!?顔が良い奴がその表情するとマジで威圧感とかあるからやめろよなぁ!?」

 「うぅー・・・ホンマに悪い事してしもたと思うて冷汗かいちゃった・・・」

 「しかし意外だ、回精がそうやって演技をする奴だとは思わなかったぞ」

 「まぁね、でも、その分、ビックリ、した、でしょ?」

 「あぁ、中々に真に迫ったいい演技だった。お陰でこちらも本当にやり過ぎたと思ってしまったぞ」

 

 障子の称賛に満足そうに体を揺らす回精、しかし何か思い出したかのように声を上げる。

 

 「あ、でも、峰田、くん、芦戸、さん、瀬呂、くん、後で、奢って、貰うね?」

 「「「え゛」」」

 「他人の、秘密を、暴いた、罪は、重い、よ?特に、峰田、くん?」

 

 にっこりと、しかし確実に逃さないという雰囲気で三人を見る回精。三人は回精の大食いを知っている、その回精に奢るというのは確実に財布の危機だ。どうにかして回避しようとする三人、しかし八百万が逃げ道を塞ぐ。

 

 「・・・確かに今回は回精さんが相手でしたので、本当に嫌なら力づくで阻止すると思い傍観に徹しましたが、もしこれが他の方で本当に見られたくない物だと、人間関係に致命的なヒビが入る事態でしたからね・・・」

 「安心、して?妖目、は、もう、両手の、指、以上、やってる、伝統、ある、罰、ゲーム、だよ?」

 「・・・ちなみにだが、お幾らくらいで・・・?」

 「うーん・・・、今回、は、事が、事だし、手加減、で、瀬呂、くんと、芦戸、さんの、二人で、パフェ、一つ、で、良いよ」

 

 手加減、という発言の通り二人でパフェ一つならば、一人辺り500円くらいで済むだろう。それを聞いた二人はホッと胸をなでおろしたが。

 

 「ふ、二人で?お、オイラは?」

 「お昼、一品、奢って、貰う、よ?」

 「Nooooooooooooo!?」

 「自業自得だろ」

 「あははは・・・」

 

 お昼の一品、回精の食べる量ならば一品だけでも1000円で済めば良い方だ、色々付随した場合は二倍三倍と膨れ上がるだろう。雄英生とは言え高校生、この出費は痛い。・・・峰田の場合、かなり特別(エロ方面)な出費が予想されるためにこの面子の中でも特に痛いだろう。

 

 「ま、待てよ!轟だって回精の秘密を暴く原因になってんじゃねぇか!?オイラだけってのは納得いかねぇよ!!」

 「轟、くんは、遠因、だし、もしも、気にする、なら、菓子パン、でも、奢って、貰うよ」

 「納得いかねぇ・・・納得いかねぇよぉ・・・!」

 「いやアンタが止まってればよかった話じゃん」

 

 峰田は轟も巻き込もうとするが、轟は部屋で気になった事を聞いただけで実際に秘密を暴く原因となったのは、峰田とそれを止めようとした回精を面白がって妨害した芦戸と瀬呂だけである。本人も分かって口にしたのだろうが、耳郎の無慈悲な一言で膝をついて項垂れてしまった。

 

 「あ、そうだ、砂藤、くん、甘いの、もって、ない?」

 「あ、甘いの?いやぁ・・・今はねぇかなぁ・・・」

 「〈キューン・・・〉」

 「約束、通り、明日、ね?」

 「〈キャゥ〉」

 

 甘いものが無いと聞いて落ち込んだ声と共に現れる夜桜、しかし回精の約束という言葉に機嫌を持ち直したのか、鳴き声と表情で自らの嬉しさを表現する。

 

 「くぁぁ・・・、んー・・・」

 「おー、犬歯尖ってるねー」

 「・・・あんまり、見ないで、ほしい」

 「なんだ回精、もしかしてもう眠かったりとかか?」

 「何時も、大体、この、時間、だよ」

 「あれ?でも合宿じゃ消灯まで起きてたよね?」

 「物音、で、眠れ、ない、からね」

 

 口を手で隠しながら欠伸をしていたが、それでも隙間から見えてしまったのだろう。葉隠にジトっとした目で苦情を一言伝え、クラスメイトとの会話を続けるも目に見えて集中しきれていない。瞼に至っては半分閉じられ、夜桜の頭に顎を乗せて居なければ舟をこいでいただろう。

 

 「あー・・・、ゴメン、部屋に、戻る」

 「まー、ねみぃならしょーがねぇか」

 「うん、また、明日」

 「おやすみー」

 「おや、すみー・・・」

 

 若干足取りが覚束なく、不安に思うが隣を歩く夜桜を支えにしてからはある程度安定し始めたので問題は無いだろう。そのままエレベーターに向かう途中、何かを思い出したかのように声を上げ、クラスメイトの方へ振り返り。

 

 「明日、誰の、部屋が、よかった、か、教えて、ね?」

 「あ!誰が部屋王なのか決めてなかった!!」

 

 部屋王、その一言で一気に騒がしくなる。どうやって決めるか、大まかなルールと言った事を相談する声に紛れるかのように、回精はエレベーターの中へと姿を消した。

 

 

─────

 

 

 夜桜とエレベーターで二人きりになり、演技の必要もなくなり楽にしていると。

 

 「〈キャゥ〉」

 「だね、結構、練習、したのに」

 

 撮影のために練習した演技、それを少なく見積もって二人、多くても四人に気づかれたと思った方が良いだろう。出来る限り自然な流れで話題を切り、そこから更に別の話題を上げる事で、こちらから意識を逸らしたつもりだけど、逆にそれが違和感に繋がったのだろう。

 

 経験か、観察力か、それとも勘か。しかしあの場で追及が無かった、という事は少なくとも、こちらに気を使ってくれているという事だ。

 

 「〈キュー・・・〉」

 「ずっと、じゃない、よ。機会が、あれば、話す、つもり」

 「〈キャゥ?〉」

 「多分、だけど、何時か、授業で、関わる、だろうし、それに」

 「〈キュウ?〉」

 「・・・んーん、なんでも、ない」

 

 それに、その時は相澤先生が話すんじゃないかな。その言葉は言わないでおく、ただの予想だし、相澤先生ならタイミングを間違えたりはしないだろう。エレベーターから出て、自分の部屋へと戻る、使い慣れた家具だが部屋のニオイが違うので若干新鮮だ。

 

 「〈キャゥ、キュゥー〉」

 「そう、だね、実は、そこは、半分、演技、でも、なかった、り」

 「〈キューン〉」

 「じゃ、一緒に、寝よっか」

 「〈キャゥ!〉」

 

 明かりを全て消し窓を開ける、ベッドに入れば後に続くように夜桜も器用にベッドに入ってくる。何気に自分のベッドがあるのにも関わらず、結構俺のベッドに侵入してくるんだよね。思いが伝わったのか、鼻先をペロリと舐める事で誤魔化そうとしてくる。

 

 「別に、悪い、とは、言って、ないよ?」

 「〈キュゥ・・・?〉」

 「ほんと、だよ。・・・それじゃ、寝よ、っか」

 「〈キャァゥゥ〉」

 「うん、おやすみ」

 

 明日からは仮免取得の為に本格的に忙しくなるだろう、それに俺も練習内容を考えた方が良いかもしれない。・・・そんな事を考えるのも明日で良いかと瞼を閉じれば、しばらくして眠りについた。

 

 

~~後日談~~

 

 

 「ちょっといいか?」

 「ん、どしたの?」

 「これ、詫びだ」

 「詫び・・・、あぁ!隠し、事の?」

 「あぁ、家でよく贔屓にしてるとこの菓子パンだ」

 「・・・箱・・・結構、大きい、ね・・・?」

 「欲張りセットだってよ、沢山食うだろ?」

 「・・・・・・ねぇ、この、菓子パン、幾ら?」

 「?3000幾らとかだったか?悪い、細かい数字は覚えてねぇ」

 「「「「高すぎだよ(高すぎ、だよ)!!!!」」」」

 

 かるーい気持ちで俺は菓子パンと言った、しかし轟くんにとっては菓子パンとはこの箱の中身の様で、とりあえずこの場にいる全員で俺たちにとっての菓子パンを教える事になった。・・・後から、お嬢様な八百万さんにも教える事となったのは蛇足だろう。

 

 更に蛇足、菓子パンはとっても美味しかった。サクサクのクロワッサン、フワフワの蒸しパン、サクフワのデニッシュ、予想外に甘口なカレーパンにetc...全てが全て、初めて感じる美味しさと一口でわかる上質さに驚きと感動で一杯だった。刺激物が苦手な俺や夜桜でも楽しめる逸品には感謝と満足感しかない。

 

 みんなにもこの気持ちを分かち合いたいと味見を提案したけど、全員優しそうな顔で全部食べて良いって言ってくれる。今この瞬間程、クラス全員の優しさが身に染みる出来事は無いと言い切れる程、とても幸せな出来事だった。




 ちょっとくらい、轟くんと八百万さんのセレブっぷり、というかそういったネタを仕込みたかった。反省はしない。

 今回のアンケートは最近多くしている三人称について、です。基本獣狼の一人称、時々誰かの一人称で進めてましたが、三人称も演出的に良いのでは?という事でこのまま一人称と三人称を行ったり来たりするのはアリかナシかのアンケートです。


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IF番外:もしも、盤上の世界だったら

 頭から離れないんですよね、もしも獣狼くんがディスボードに産まれていたらと言うIFが。なので書きました(唐突)

 本当に勢いでしか書いてません、色々荒だらけなのでご注意ください。そして口の悪さはほぼ正常です、スペック差も正常です、安心してください。

 ノゲノラ程、原作知識が意味ない世界も中々無いですよね。結局本人の才能や特技が無ければ、ただ搾取されるだけで終わりますから。

 なんかどんどん書きたい事が増えていくので、きりが良さそうなこれで終わらせて投稿します。


 森精種(エルフ)の国であるエルヴン・ガルド、とある森精種の貴族領地。まるで自らの権力を誇示するかのように広い敷地と巨大な植物で出来た邸宅。しかしその邸宅から迷路の様な庭を隔てた先、そこには管理の行き届いていない小屋(しょうおく)がぽつんと、まるで隔離されているかのように寂しく建っていた。

 そこは人類種(イマニティ)を中心に獣人種(ワービースト)吸血種(ダンピール)地精種(ドワーフ)、違法である同族の森精種ですらその小屋へ押し込められていた。この小屋の中に住む全ての種族は全員同じだ。

 ある者は勝負で負け、ある者は脅され、ある者は騙され。そんな手段を択ばず奴隷として集められた者がここに住まわされる、ここに居る全ての種族は平等に一人の森精種に全てを奪われた奴隷だ。

 

 その小屋にある地下室、そこは捕まえたは良いがまだ十の盟約によって“全てを奪えていない”者を、十の盟約の裏を突き逆に悪用する事で捕えておく場所。檻の前で質の良い服を着た森精種の男が、檻の中で天窓から入ってくる月の光に照らされ、横たわる獣人種の子供を睨みつけ、しかし生きていると確信をもって告げる。

 

 「いい加減諦めたらどうかね?十の盟約により君は力づくでここから出る事は叶わず、“盟約に誓って”全てを捧げてもらわねば私もここから出すつもりも、ましてやエサを与えるつもりも、エサを分け与えるペットを見逃すつもりもない。今日で10日目、君はもう限界だ。早くしなければ本当に死んでしまうぞ?」

 「・・・・・・・・・」

 「ふっ、精々強がると良い。また明日返事を聞こう、しかし早く決めなければ本当に死んでしまうぞ?だが安心すると良い、君が死んだらそのままはく製にする、君の様に狐の獣人種は珍しいのでね」

 

 男は既に勝利を確信しているのだろう、狐の獣人種を隷属させるか、はく製にするか。どちらに転んでも悪くない、隷属させてもはく製にしても他の貴族達に自慢が出来る。男は上機嫌に地下の階段を上っていく、残された子供は横になりながら地下室の寒さに加え、冷え込む夜を耐える為に足を抱える。

 しかし男が言った通り、もう限界だ。獣人種は他の種族よりも肉体を維持するためのエネルギーが必要で、そのために人類種と比べ非常に多く食べる必要がある。その獣人種を子供とは言え10日間、何も食事を与えないというのは何時餓死してもおかしくはない状態。自らその選択をしたとは言え、想像を絶する苦痛だろう。

 

 「・・・生きて、生きて、生きて、やる・・・」

 〈へぇ?もうすぐ死ぬのに?〉

 「それ、でも・・・、生きる」

 〈・・・現実的じゃないね、何?生きてやりたい事でもあるの?〉

 「・・・」

 〈まさか・・・、やりたい事無いのにそんな意気込んでるの?〉

 「・・・まだ、この、世界を、見て、ない・・・。この、世界を、見たい。まだ・・・、終われ、ない」

 

 奴隷用の服と思われる胴体を隠せる機能しかないボロボロの布切れに、餓死寸前なために痩せこけた体。その見た目に生気を感じる事は出来ず、横になりながら虚空を見つめる姿は死体と言われた方が納得できてしまうだろう。しかしその目は諦められない、こんなところで死ねないと力強く光を宿していた。

 

 〈ックク、ハハハハハァッ!いいね、死に際でそこまで大口叩ける奴なんて中々いないよ〉

 「うる、さい・・・、幻聴、が、わめく、な」

 〈私を幻聴扱い・・・いや、現状じゃ仕方ない、か・・・。なぁ君、生きたくないか?〉

 「・・・生きたい、に、決まって、る」

 「〈ふふ、だよなぁ?なら私と契約ようぜ?なぁに簡単だ、お前に生きる力をやる、だからお前の体に居座らせろ〉」

 

 子供の目に違う光が宿る、それは確信と疑心。先ほどまでは頭に響く声だったが、今では耳が声を捉えていた、つまり意志ある存在の声だと。そしてこの声の提案は今の状況を打開するのに必要なものだが、それを死にかけの子供に行う理由がわからない。

 

 「・・・何が、目的、だ・・・」

 「〈暇つぶしだよ、異常な結果の為に異常な行動は当たり前、異常な結果の為に普通の行動をするのはただの無能、普通な結果の為に普通な行動なんて面白くない、論外さ。だが時々お前みたいに、普通な結果の為に異常な行動をとる愉快なバカが出てくる、ソイツに力を与えてどこまで行けるか楽しむんだよ〉」

 「悪趣味、な、幻聴、だ・・・。その、力で、普通が、遠のく、だろ」

 「〈いいね、物分かりの良いバカは好きだよ?それでお前はどうする?力を得ず普通に近づく(死ぬ)か、力を得て普通から遠ざかる(生きる)か。さっきから話し続けてるけどさ、もう限界だろ?さぁ、手を取るなら早くしな〉」

 

 子供も分かっている、このままでは明日にでもあのいけ好かない展示品の一つになるだろう。そしてこの幻聴は、恐らく子供が死ぬ間際になるまで待っていた、幻聴との契約を断れないタイミングを。

 

 「ホント・・・、いやな、やつ」

 「〈言ったろ?暇つぶしだって、断られちゃ拙いんだよ〉」

 

 子供は餓えて細くなってしまった腕を伸ばし何かを掴もうとするも、筋力が衰えてしまっている為に大きく揺れる腕では何も掴めないだろう。故に、唐突に揺れが収まり真っ直ぐ伸ばされた腕は。

 

 〈フフ、フハハハハハッ!契約成立だ、私の狐。あぁ、もうお前を死なせたりはしない、あれから数百年、やっと見つけたんだ。お前はもう、私のモノだ〉

 

 誰かが手を取ってくれたのだろう、例えそれが()()()()()()()()()()()、今は子供の救いであることに間違いはない。

 

 

~~~~~

 

 

 「ほう?やっと私の物になる決心がついたのかね?」

 「勝った、方が、相手の、全て、手に、入れる、そして、負けた、側は、ゲームの、出来事、内容、を、()()、する」

 「・・・よかろう、どうせ私が勝つのだからな」

 「ゲーム、の、内容、は、トランプ、を、山札、から、一枚、表に、して、次、めくる、カードの、数字が、大きい、か、小さい、か、当てる。当てたら、得点、となり、外し、たら、相手の、得点、に、なり、相手の、番。山札、が、尽きた、時、得点、多い、人の、勝ち」

 「単調なゲームだな、学のない獣風情なら精一杯考えた結果なのだろうがな」

 

 男は既に勝利を確信していた、相手は衰弱死寸前まで弱った子供、身体能力が活かしきれない上に相手は魔法探知は得意ではあるが、そんなの隠蔽する術は持っている。でなければ他の獣人種を奴隷に出来ないし、森精種にとってはありふれた技法だ。

 男は細工のが無いか入念にトランプを調べる子供の姿に、笑いを堪えつつも平静を装う。健気にも必死に考えた策だ、今笑ってやるのは可哀想だろう?と言う傲慢な考えで。

 

 そんな慢心しきった考えで頭が一杯な男。子供の確認に目を向けているようで、その実全く見ていない。見ているのは自分が勝利し、その後に自分の新しいコレクションを他の貴族たちに自慢する光景。

 

 そうして子供の確認が終わり、特に確認もせず男がトランプをシャッフルする。山札から一枚めくられたカードの数字は6。先行は子供に譲った、どうせ二~三回ほど当てたら魔法でカードの数字を変えてしまえばいいからだ。そして自分の番に魔法でカードの数字を変えて得点を稼げばいい。

 

 「では、君の最初で最後のゲームを始めようか?」

 「「“盟約に誓って”(アッシェンテ)」」

 

 慢心、油断、今のこの男を表すならこの二言だろう。何事にも強者が足元をすくわれる原因となる二つ。

 だからこそ、筋力が衰えて震える腕で得点を重ね、山札が無くなるまで当て切った子供に血走った目で睨みつけ、立ち上がり怒鳴りつける男の姿は無様としか言いようがなかった。

 

 「貴様ァ!!不正だ!こんなものは認められない!お前の負けだ!!負けと認めろ!!」

 「認める、訳ない、だろ。やって、ない、事は、認め、られない。それに、不正と、言うが、盟約、の、八。どんな、不正を、したか、言って、みろよ」

 「・・・ッ!このガキィ・・・!」

 

 当然だ、分かる訳がない。子供がトランプを確認している間に仕込んだ細工、それを全く見ていなかった男に証明する方法なんて無い。子供が今回のゲームで借りた力は二つ、五感が正常してもらう事と、魔法を見える様にする、その二つだけ。

 ゲームに勝ったのは全て自分の身体能力と、相手の表情から魔法で変わった数字を予想する観察力。細工の為にトランプに付けた子供ですら微かに感じるニオイは、最初に連続で正解し続ける為の布石だ。その後の読み合いには寧ろ邪魔と言えるだろう、そして焦った男のミスを、見逃す子供でもない。

 目を細め、口元は三日月の様な笑みを浮かべている、それはまるで全てが自分の手のひらの上の出来事で、相手に最後のトドメを指す様な笑みで、実際に相手を追い詰める言葉を発した。

 

 「ところで、これ、なーんだ?」

 

 片手に四枚の3のカードを扇状に広げ、もう片手には同じく扇状に広げた三枚の8のカード、そして()()()()3()()()()()を男に見える様に咥えていた。子供が確認した時にはなかったものであり、子供の服はボロボロの布切れ一枚、隠す場所などなく同じ柄のカードを用意できる環境でもない、正しく魔法を使わなければ在り得ない事態。

 明らかな不正の証に、男はついに膝をついた、最早男に現状を覆す手が無い。これが他の貴族相手ならもっと入念な準備をしていた、しかし弱り切ったと思い込んだ子供相手に態々そんな手間をかけてなどいられないと、準備をせずに適当に魔法で終わらせてしまおうと思ったのが、男の運の尽きだった。

 

 「さぁ、お前の、全部、貰おう、か」

 「ひぃっ!?」

 「奪った、んだ、奪われ、るのも、当然、だろう?」

 

 その日、森精種の一つの貴族領が誰にも気づかれずに陥落した、かといって領民に何か変化が起きたわけでもなく、唯一の変化と言えば領主の支払いが良くなったという事だけだろう。

 そして数年後には、五つの貴族が密かに禁止されている同族を奴隷にし、その中には大貴族とも言える有力者も居るという、特大のスキャンダルが名前付きでエルヴン・ガルド内に広まった。奴隷にされた森精種たちの証言もあり、スキャンダルを止めようにも止められない状況。

 更にその五つの貴族以外にも数名の貴族が誰かの傀儡になっていた事が判明、国を揺るがす大事件の始まりとなった。

 

 

~~~~~

 

 夜、同族を奴隷にしていた貴族の敷地を、領主が逃げられない様に領民である森精種が囲み、魔法や文字の書かれた板を持ってデモを行っている。旗頭に立つのは実際に領主の奴隷になっていた森精種の男、彼の声に合わせて領民も叫んでいるのか、その声が街中に響いていた。

 そして今、旗頭の合図で門が破られた。領主が引きずり出され、然るべき処罰を受けるのも時間の問題だろう。旗頭の男は真っ暗で見えないが、丘の上に居るであろう、恩人であり仲間でもある者達に視線で合図を送る、ここはもう大丈夫だと。

 

 そんな様子を、マントを被った多数の人影が高い丘から眺めていた。自分たちを奴隷にした男の破滅、旗頭の仲間との別れ、それ目に焼き付ける様に。その最前列に座っていた小さな人影が、旗頭の仲間との一方的な別れを済ませ、後ろに並ぶ様々な種族の者達に確認する様に尋ねた。

 

 「それじゃ、みんな、ルールは、覚えた?」

 「一つ」「「「俺達(私達)は同じ地獄を味わった仲間だ!!」」」

 「二つ」「「「嫌うなとは言わない!だが仲間を見捨てるな!!」」」

 「三つ」「「「全員で生きて帰る!その為に各々が出来る事を行う!!」」」

 「うん、それじゃ、他の、街に、居る、仲間、との、合流、地点に、行こうか」

 

 示し合わせたわけでもなく、小さな人影の合図に合わせて全員の声が一つの大きな声となってその先を答える。その言葉に満足したのか、小さな人影は街とは反対方向に歩き出す、人影たちは小さな人影の歩みを邪魔しない様に左右に分かれ、そして全員がその後に続いていく。

 

 「まずは、合流、地点へ。そして、目指すは、東部、連合」

 

 彼らの、長い旅の始まり。食料や体調不良、体質を始めとした様々な苦労があった、時には仲間内での諍いもあった。しかし奇跡的に一人の脱落者も出さずに東部連合の港町に到着し、保護された。その後は面倒な交渉を行ったりしたものの、全員が自分たちの国に戻る事になりハッピーエンドと言えるだろう。

 ただ一つ、彼らを導いた獣人種の子供が何時の間にかいなくなっていた事を除いて。

 

 

~~~~~

 

 

 走る、走る、走る、元は質の良いであろう服をボロボロにし体を所々汚しながら、しかし今は気にしている余裕がないと言わんばかりに、恐怖に引きつった表情の獣人種にしては珍しい、狐の特徴を持った子供。

 

 (自分が何をしたのだろう、悪い事はして・・・無いはず、うん、仲間からは良い事したと言われているから悪い事ではない)

 (ただちょっと人を隷属させようとしてくるファッキンエルフを沢山ハメて多くの奴隷を開放して、みんなで脱出してお互いに励まし合いながら海沿いに進んで、東部連合と思われる獣人種が多く居る港町に押し付けただけなのに)

 (・・・うん!間違いなくコレだね!!でも見捨てられなかったし・・・。)

 〈これはその見捨てられなかった結果だよ?甘受しておけば?〉

 (いいや、俺の考えが正しければ───)

 

 そこまで考えた辺りで、彼の耳が追跡者が迫ってくる事を捉える。

 

 (おっかしいなー!俺も獣人種なのに年下の幼女に追いつかれそうだなー!純粋にスペックの差なんだろうなー!ちくしょー!!)

 〈君、獣人種にしては弱いからね?あーんな小っちゃい女の子に追いつかれるのも無理ないって〉

 (それでも早すぎだっての!)

 〈まー、あの子も多分特別なんだろうよ、君と同じでな?〉

 

 そんな愚痴を頭の中で騒ぎ立てつつ、しかし速度はこれ以上は上がらない為に彼の耳がフェネックの特徴を持った獣人種の幼女の声を拾った。

 

 「待ちやがれ!てめぇ、逃げんなッ、です!」

 「無理ッ!静かに、暮らし、たい!!」

 「往生しやがれ、です!!」

 

 その声と共に跳びかかられるも、ギリギリで避けるが大きく減速、幼女は次の踏み込みに入っており、このままでは次の瞬間に狐の子供が捕まってしまうだろう。()()()

 

 「()()()()!」

 「っ!?てめぇ、ケホ!ずりぃぞ!!ケホケホ!」

 「ゴメン!捕まり、たく、ない!!」

 

 狐の子供が手の平の赤い草花を叩き潰したと同時に、赤い煙が幼女を襲う。その煙は刺激物だったようで目から涙が止まらず、煙を吸い過ぎた為にむせてしまっている。しかし今がチャンスだとばかりに幼女から距離を離していく、が。

 

 「ほほう、どうやら精霊にお願いして扱えるというのは本当の様ですね。この前のサカナモドキと言い中々興味深いです、どうです?ちょっと解剖されてみません?」

 「ーーーっ!!!」

 「あらまぁ、尻尾を巻いて逃げるだなんて。犬畜生には中々お似合いでございますね?ですがマスターからは逃すな、というご命令があったので捕まえ───あら?」

 

 空から羽の生えた天使がすぐ近くに現れる、しかしその目からは神聖さよりも虫に興味を持った子供と言ったモノで、狐の子供はそれを感じ取ったのかすぐさま走り出して逃げる。天使もそれを追おうとするが、狐の子供は陽炎の様に消えてしまった為に天使の表情は驚愕に染まる。

 

 「魔法特有の感覚もなく姿を見失った、やはり魔法ではない?だとしたら魔法よりももっと根源的、それこそ精霊を・・・。ふふ、うふふふふふふふ!楽しくなってまいりましたァ!!必ず捕まえてあーんなところやこーんなところまでじっくりゆっくりねっとり調べ尽くしましょう!!」

 

 最早、人に見せてはいけないだらしない表情で、今が正しく幸福と言った顔。しかし解剖、という一言が事前に出ているせいで狂気的なナニカにしか見えない。そんな彼女は一息で上空へと飛び立ち、再び狐の子供の捜索を始めた。

 

 しばらくして、天使が先ほどまでいた場所では、もぞり、と見えない何かが動き出す。足元から光が離れて行けば、狐の子供が姿を現した。しかしその尻尾は股の間に入り、表情は見なくても分かる程怯えている。

 

 「ありえ、ない。ホント、ありえ、ない。なんで、俺が、追われる、様な、事、「してないのに、ってか?」───」

 「よう?さっきぶりだなぁ、エルヴン・ガルドの反逆者さんよぉ?」

 「・・・諦めて・・・お縄に・・・着く・・・」

 「なん、で・・・さっき、まで、何も、感じ、なかった、のに・・・!」

 「悪いな?こっちには魔法のエキスパートが面白がって手を貸してくれてるからなぁ。獣人種を誤魔化す術式の一つや二つ余裕だってよ」

 「っ!!」

 

 細身の男の言葉を聞きすぐさま走り出す、この場所は不味い、もうここは相手のキルゾーンだ。しかし行動が遅かった・・・いや、この場合は相手が悪かったと言えよう。

 

 「先ほどぶり、でございますね?犬畜生?」

 「ひぃっ!?」

 「あらあら!そんな可愛らしく這いつくばるなんて、中々に愛玩動物として部をわきまえていらっしゃいますね?最もあなたは実験動物も兼任なのですが、まぁ細かい事は気にしない事にしましょう!」

 「やろぉ、もう、逃さねぇぞ、です・・・!」

 

 唐突に虚空から現れ、顔の高さに合わせ腰を曲げた天使。その顔は愉悦に染まっているのにその目は無機物を見るかのように冷たく、その表情を間近で目視してしまった狐の少年は腰が抜けたのか、尻餅をついた状態で腕の力で後ろに下がる。しかし森の中から跳躍した獣人種の幼女が血壊を用いて狐の子供の逃げ場を塞ぐ。その目元には涙がまだあるので刺激物が抜けきっていないのだろう。

 

 「ハハハッ!諦めろって、三食昼寝と首輪付きの好条件だぜ?悪くないだろ?」

 

 細身の男が両手を広げ笑いながら降伏を呼び掛けるも、狐の子供は首を横に振る。当然だ、彼の知識が正しければ、その男は───いや、この兄妹はこの世界にとっての一石を投じるジョーカー、そして同時に諦めた場合には今の平穏が遠ざかる、いや最早平穏が消し飛ばされるという悪魔の札。何より平穏を好む狐の子供にとっては例え袋小路だとしても、諦められないのだ。

 

 「今この状況からでも逃げ出せるってか?───いいぜ、やってみろよ

 「一度だ、たった一度、それも初手でお前は俺たちを欺いた。負けてはいないとは言え・・・俺たちが本気を出すには十分だ

 「・・・  (くうはく)に負けは存在しない・・・そして・・・その可能性のある・・・相手には全力を出す・・・もう・・・逃がさない・・・

 「と、いう訳ですので、マスターが本気を出しているのにその下僕である私が本気を出さない訳がございませんので、覚悟してください?犬モドキ

 「油断すると、何するか、わからねぇ、もう、油断してやんねぇぞ!!

 

 徐々に四人に距離を詰められていく狐の子供、最早その表情は恐怖に歪みよく見れば目元に涙が溜まっている。徐々に追い詰められている状況にパニックになりつつも、打開策が無いのか周りを見渡し、そして四人がどんどん追い詰めてくる状況を改めて理解してしまい更に涙が溜まる。

 

 ・・・その様子を、少し離れていたところで見ていた元王女は哀れみ混じりにこう言った。

 

 「まるでイジメですわ・・・。こうやって、私の仲間(同類)が増えるんですのね・・・」

 

 しかし、仲間(同類)が増えるからと言って元王女は胃痛からは解放されない。帰ったら書類の山とそれに埋もれた老体の獣人種が彼女を出迎えてくれるだろう、世の中は残酷である。




狐の子供:お人好し、ファッキンエルフが慢心している間に記憶が残らないゲームでハメて奴隷を開放していく。が、そろそろヤバイので尻尾を巻いて逃げる。服などはその時にエルフから頂いた。他種族でも関係なく救って東部連合に適当に投げる、その事で存在がバレて目を付けられた。この前に一つ、勝負をしておりその時に「  」を欺き「引き分けならオッケー!」と甘い想定をしたために詰んだ。
 牢屋でナニカと契約した、そのナニカは今も頭の中に響く声で楽しそうに笑っている。

「  」:報告があってなんか使えそうだからとりあえず捕まえとくか感、しかし人間を超える体を持ちながら、人間と同レベルの弱者であったのでかなり良いモン拾った認識、無料ガチャでSSR引いたくらいの感覚。

天使:マスターが喜んでいるのでヨシ、しかし怯えられるのは鬱陶しいのでそろそろ荒療治で慣れさせようと企む。ぶっちゃけ作者はコイツの見下しスマイルを間近で見たら失禁しそう。

幼女:弱いくせして中々捕まんないから気になる相手、その後もちょっかいを出すが相手にされずにキレる。お爺ちゃんもつられてキレた。

謎の声:狐の子供大好き、暇つぶしとか言ったけど実際はこの子目当て。かといってなんでもかんでも助ける訳ではなく、どちらかというと狐の子供の中で色々弄って改造しちゃう系。


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第六十一話:特訓と契約とお手伝いと

 投稿が遅いッ!>( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン

 遅くなって申し訳ありません、この調子で梅雨が続くとまた更新が遅れると思いますが、遅れているときは他の面白い二次創作とかを読みつつ、この二次創作が更新されたら見ていただけると幸いです。


 体育館γ(ガンマ)、そこではセメントスの個性が最大限発揮されるように、一階部分がコンクリートで囲まれ、生徒たちの要望に応えて様々な形を取れる特別な訓練場。今年のヒーロー科1年が、ヒーロー仮免許取得を目標に三日前からこの体育館で個性を使った必殺技を考案する為の特訓を続けていた。・・・ただ一人を除いて。

 

 「・・・セメントス、先生、次、お願い、します」

 「あぁ、しかしそこまでしなくとも良いのではないか・・・?」

 「いいえ、、脆い、のは、いらない、ので」

 「そ、そうか・・・。無理のない様にな・・・」

 

 そうして、セメントスの手によって新たな壁が生みだされる。そしてその壁を獣狼は両手で持った大きな棍棒で思い切り殴りつけ、しかし耐えきれなくなったのか、棍棒の芯が曲がってしまったのだろう。廃棄と書かれた箱に投げ捨てると、新たな武器を手に取り素振りを始めた。

 

 何故獣狼はこんな事をしているのか、説明の為にも時は特訓の初日に戻る。

 

 今回の特訓を包み隠さずに言うならば獣狼には合っていない、何故なら彼の個性は身体能力を強化するタイプ、純粋に必殺技が作り辛い。そういう意味では、砂藤のシュガードープも同じことが言えるが、彼には個性の効果時間とパワーの増幅率を上げると言う課題があるが獣狼にはない。

 それならばとエクトプラズムと模擬戦をするも、一体分では複数でかかっていっても獣狼のパワーに押し負け、それを補う為に余った分身を一つにしたがそれでもパワーは互角、今度は速度で負けてしまった。

 これには流石の教師陣も頭を悩ませた、ミッドナイトは相手を無力化する個性なので特訓に向いておらず、イレイザーも正面からの格闘戦はあまり得意ではない、セメントスは他にも見るべき生徒がいるので候補から外された。

 

 そんな時、タイミング良く雄英と提携しているトライスターから、獣狼宛てに体育館γへと荷物が届いた。雄英の荷物運搬用ロボットが運んできた黒い金属光沢を放つ箱の中には、武器と思われる物の数々。棘のついた鉄球に鎖のついた物から、大太刀だが先端の部分が分厚く重りになっている物まで多種多様。

 雄英の荷物検査を抜けて来たとしても、あまりにも中身が物騒過ぎる。中身を確認していた教師陣もそうだが、荷物に付属されていた手紙を確認した獣狼の、何時もよりも細められた目は酷く冷たい視線を荷物に注いでいた。

 

 「・・・回精、なんて書いてあった?」

 「・・・読んだ、方が、早い、かと」

 

 相澤は回精から手紙を受け取り、速読の要領で瞬く間に読み終わると、酷く疲れた様な表情で眉間を揉んでいる。

 

 「その・・・、手紙の内容は・・・?」

 「・・・簡潔に申しますと、仮免取得の為に試作品送るから気に入ったらそのまま使って良い、ついでに全部使って感想も送ってくれ。他の生徒も使えるなら使って良いよ。ですね・・・」

 「・・・それは・・・」

 「本文はもっと優しく書いてありますが、内容を抽出したならこうなるかと」

 

 あまりにもあんまりな内容に、フォローしようとして何のフォローも出来ないミッドナイト、近くでその話を聞いていたエクトプラズムも思案しているのか、唸るような声を出していた。

 そんな状況を進展させたのは、荷物の受取人である獣狼だった。徐に箱に近づき、無造作に手を突っ込んだと思えば、湾刀(わんとう)と思われる武器を取り出した。

 しかしこの湾刀は刀身が厚く、刃が潰されているので相手を切り裂く事は無いだろうが、その分一点に力が集中するので見た目とは裏腹に高い破壊力を秘めているだろう。更にその厚く曲がった刀身は、重厚な見た目通り守りにも活躍するだろう。

 

 そんな湾刀を獣狼は両手で持ち、そしてそのまま床に()()()()()

 

 唐突の出来事に教師一同唖然とし、あの相澤先生までもが目を見開き驚きを露わにした。幸い他の生徒は自分たちの事で精いっぱいだったのか、こちらを気にしていた一部の者以外は問題はなさそうだ。

 

 「か、回精くん?突然どうしたのかしら?」

 「お試し、です。でも、ダメ、みたい、ですが」

 

 獣狼の手には湾刀の柄しか残っておらず、柄から先の厚い刀身が地面から生えていた。恐らくは獣狼の力に耐えきれずに、比較的に脆い柄の部分から壊れてしまったのだろう。

 よく見れば刀身にもヒビが入っている、試作品と言えば聞こえはいいが、実際は形作っただけのモノ、玉石混交だが石の割合が多いだろう、そう考えると玉である鉄扇を一発で引けたのは運がよかった。

 

 「手早く、済ませる、ので、他のも、使って、良いです、か?」

 「・・・正直、こちらとしてはお前が新しい戦闘方法を身に着ける、と言うのはアリだと思っている。だがこの数を見るとなると、付け焼刃になる可能性の方が高い、出来るか?」

 「そこは、だいじょぶ、です」

 

 箱の中から飛び出ている三日月型の斧を掴み、力任せに引っぱればどうやら柄の部分が長かったらしく、そのまま抜き取るとこちらからも三日月型の斧頭が顔を出した。形状からして一番近いのはバルディッシュと呼ばれるポールウェポンだろうか?

 

 そんな武器を、曲芸の様にくるくると回し始め、バトンの様に右に左に、時に腕や首で回し、回転の勢いが最大に達したところで持ち手を真ん中から端に流れる様に切り替え、更に足腰の捻りも加え凄まじい風切り音と共に横薙ぎを放った。

 今の動作だけでも、初めて握った武器と言う事を考慮すれば十二分と言えた。しかし武器は十分とは言えなかったようで、最後の横薙ぎの後、全体が若干ではあるが歪んでいた。

 

 「大体、は、使え、ますので、使う、道具の、選別、が、メイン、です」

 「良いだろう、今回に限ってはお前の個性にあった訓練が無いからな。だが時間をかけるな、今日を含め四日で終わらせろ。ついでに廃棄用の箱も用意する、ぶっ壊したのはそれに詰めとけ」

 「はいっ」

 

 こうして、獣狼の持つ鉄扇と同じように、獣狼が全力で扱っても壊れない武器を探すこととなった。そして四日目の今日、なんとか午前中に全てを使い切り、一つのアイテムに決まった。

 しかし、予定より早く来てしまったB組がいた出入り口の方へ、本人曰く「()()()()」で最後の壊れたアイテムが飛んでいく事故も起きてしまったが、怪我人も出ていないので問題ないだろう。

 

 

─────

 

 

 相澤先生の判断で午後から休みとなり、お昼を食堂で取る人と寮で自炊する人に分かれていた。俺に関しては出来る限り自炊などして節約しなければ、お小遣いが足りなくなってしまうので自炊側だ。

 

 そうして、飯田くん、麗日さんの何時もの三人から一人が抜け、梅雨ちゃん、口田くんに砂藤くんの自分を含め六人で雑談交じりに寮へと歩いていると。

 

 「おーい!獣狼くーん!」

 「あれ?快心、さん?」

 

 寮の方向から聞き覚えのある声がしたのでそちらを向けば、遠くから手を振りながらこちらにやってくる快心さん、こちらは大きな声を出すのが苦手なので、手を振って返事をしていた。

 勿論、そんな目立つ事をすれば一緒に歩いていた五人も快心さんに気づき、同じく大声で返事をする者、俺と同じく手を振ったりする者で別れた。

 

 「快心、さん。どうした、の?」

 「えへへ、獣狼くんが見えたからつい・・・あっと、それよりみんなはこれからお昼?」

 「えぇ、私たちは寮でこれからお昼よ。今はみんなでお昼の献立を考えていたの」

 「あ、なら私も手伝うよ。最近料理も練習して出来るようになってきたんだから」

 

 その言葉に俺も、周りの表情が固まったのが分かる。何せ快心さんは林間合宿で包丁の両手持ちと言う、滅多に見れないスタイルを披露していたのだから。

 

 「い、いや待って!ちゃんと練習したから!この四日間で友達に教わったから!!」

 「・・・どの、くらい、教わ、ったの?」

 「・・・包丁の握り方に、野菜の皮をピーラーでむくところまでは教わったよ?」

 「あー・・・、なら昨日の晩飯残ってたよな?それに加えてなんか用意すりゃ大丈夫じゃねぇか?」

 「ならご飯を炊いて、スープとサラダを用意すればいいんじゃないかしら?これならそこまで時間もかからないわ」

 「うーん、肉が、足りない、気がする、から、俺の、備蓄を、少し、提供、するよ」

 「あら、ありがとう回精ちゃん。なら───」

 

 「・・・なぁ、飯田くん。うちら口挟めんね・・・」

 「あぁ・・・。これが日頃から料理をする者との差だろう・・・」

 「うちも料理するんやけど・・・、流石にここまではやらんからなぁ・・・」

 「だが、ここまでスラスラと献立が出るというのは、彼らが常に料理を行ってきたという事でもある、俺も精進せねば!」

 「うぅ・・・獣狼くんに家庭力で負けてる・・・」

 

 そんなこんなで、歩きながらお昼の献立を決める。しかし途中で砂藤くんと梅雨ちゃんと俺だけで決めてしまった事に気づき、他の四人に謝罪と確認を取るも、寧ろそれで良いと許してくれた。

 

 

~~~~~

 

 

 「「「「ごちそうさまでした」」」」「〈キューン〉」

 

 快心さんが友達から料理を習ったというのは本当だったようで、前回と比べると一目見た時点でわかるほど、包丁を扱えていた。

 ・・・そう、包丁は。どうやら包丁以外はまだ習っていない様だった、しかし友達の教育方針が一つ一つしっかりやる方向らしく、快心さんの手助けは素直にありがたいものではあった。

 

 「獣狼くん?どうしたの?」

 「快心、さんが、ここまで、包丁、を、上手く、使える、とは、思って、なくて」

 「ふふっ、お陰でこの四日間は時間が空いたら包丁の使い方や、材料の切り方を教わってばっかりだったから。これで上達して無きゃ申し訳ないよ」

 

 何時もより食べる速度が遅くなっていたのに気づいた快心さんに尋ねられる。若干ぼーっとしていた事もあって今思っていた事を素直に話せば、褒められた事が嬉しいのか、にこやかに答えてくれた。

 うん、今日までずっと変な道具を使っていたし、最後の最後でアレだったから、若干気疲れしているんだろう。俺がもう食べないと思ったのか、夜桜が食べると伝えてくるが、君はもう十分食べたでしょ。と言葉でなく行動で、具体的には全部食べ切る事にした。足元からキューキューと抗議と哀愁漂う声が聞こえるが、これは元々俺の分だ。

 

 「なんかさ、夜桜ちゃんって個性っていうより、回精くんの弟か妹みたいだね」

 「間違って、無いかも?接し方、が、麗日、さん、の、言う、通り、だし」

 「〈キューッ!キャァーウ!〉」

 「・・・回精くん、夜桜くんはなんと言ってんだ?」

 「弟、か、妹、と、思って、るなら、もっと、頂戴。って」

 「なんだか、家の弟と妹を思い出すわ。育ち盛りの時は良くおかずをあげたわね」

 「兄弟かぁ・・・、俺ん家は妹がいるからそんな事は無かったなぁ。ただ甘いのをよく強請られたりしたなぁ・・・」

 「うむ!兄弟は良いぞ!俺には自分の目標となる兄がいるからな!」

 

 そこからは兄、弟、妹談義の始まりだった。しかし、一人っ子の数が俺も含め四人と多く、飯田くん、梅雨ちゃん、快心さんの話をメインとなっていた。俺に関しては兄歴が数日と短いので、なんの参考にもならなかったが。

 

 「〈キュー、キュゥー・・・〉」

 「夜桜ちゃん、どうしたの?

 「寂しい、って。ちょっと、ソファーに、行って、くる」

 「うちらも移動しよっか?」

 「だいじょぶ、ちょっと、話、疲れて、きた、ところ、だし、続けて、平気、だよ」

 「そうなのか?ならちょっと待ってろ、確かまだはちみつが部屋に残ってたはずだ。ジュースもあったし溶かせば喉に良いだろ」

 「ありがと、砂藤、くん。夜桜、行こう?」

 

 みんなと話をするのは楽しいが、疲れてきたのも事実だったので、夜桜の提案に乗る形で会話から脱け出す事にした。

 ソファーに座ると、夜桜もソファーの上に乗ってきて伏せの姿勢で膝の上に顎を乗せてくる。そのまま手を下せば、丁度良く夜桜の首元に手を置くことになり、フワフワの毛を指でかいてあげれば、時々夜桜自身が動いて別のところに指を押し付けてくるので、それに逆らわずに指を動かした。

 

 夜桜の気持ちよさげな感情と、砂藤くんの用意してくれたはちみつ入りのアップルティーの心地いい香り、既に別の話題になったみんなの会話が、段々と意味をなさない雑音になっていき───。

 

 

~~~~~

 

 

 安心する匂い、落ち着く、でも耳がくすぐったい。今はやめて、体の向きを変える、ふわふわ、ふにふに、夜桜?違う?まぁいいや、気持ちいい、自然と顔を擦り付ける、撫でられてる?もっと、次はこっちがいい。

 

 「獣狼くん、ここが良いの?」

 「うん、次は、そこ───」

 

 金縛りにあったかのように、ビクリと体の動きが固まる。あっ手が離れ───じゃなくて、待って、俺は今()()()()()()?今すぐ目を開けて確認するべきと言う意思と、まだ目を瞑って微睡んでいたいという本能が天秤を揺らし、謎の警鐘が意思の皿に乗った事で天秤が傾いた。

 

 恐る恐る、目を開ければ寝起き特有の視界がぼやけているが、しっかりと情報を脳に送ってくれる。が、意思と本能で天秤を揺らしていた時から感じていた、嫌な予感が段々と大きくなるばかり。

 こんなところで使うとは思わなかったが、勇気をもって横から上に視界を移せば、普通の姿勢だと()()()()()()()があるので、覗き込む様にこちらを伺う笑顔の快心さんと目が合う。

 

 「おはよ、獣狼くん」

 「・・・オハヨウ、ゴザイ、マス・・・」

 「どうする?まだ寝てたいならこのまま寝ててもいいよ?」

 「いえ、起きます」

 

 何か、このまま寝てしまうと戻れなくなりそうだったので、前回と同じく頭を引き抜くよう起き上がれば、俺の反対側で快心さんの手でスピスピと眠っている夜桜。しかしそれよりも、今は情報を整理する方が大切だ。

 

 寝起きで頭の回転が鈍い中、必死に今の状況を整理した結果、何時の間にか快心さんの膝枕で眠っていて、夜桜と思って俺は快心さんのお腹に顔を擦り付けていたという事だ。

 ・・・めっっっちゃ恥ずかしい!!何してるんだ俺は!?いやそれよりも快心さんに謝るのが先だ、普通に考えて女子にやっていい事じゃない・・・!

 

 「えっと、その、ごめん、快心、さん」

 「え?どうしたの?」

 「だって、お腹に、その・・・」

 「そんな気にしなくていいよ?それに嫌だったら止めてるし」

 「でも・・・」

 「あっ!なら今度のお休みの日に買い物に付き合ってくれる?それを罰にするって事で」

 「・・・別に、罰、じゃなく、ても、一緒に、行くよ?」

 「女の子の買い物は長いんだよ?それに獣狼くんに荷物を持って欲しいから、離れずにずっと一緒だから獣狼くんに自由はありません」

 「・・・わかった、なら、荷物、持ち、頑張る」

 「うん、それじゃ寝起きでまだぼーっとしてるでしょ?はい、獣狼くんのだよ」

 

 そう言って、快心さんはテーブルの上で冷えてしまったものの、未だ甘い匂いを出すはちみつ入りのアップルティーを渡してくれる。それを受け取り、口に含めばりんごの酸味のきいた甘さと、はちみつのスッと消える甘さ・・・これってみかん?凄く美味しい。砂藤くんには感謝しないと、と思い視線を先ほど食事をしていた方へ向けると、A()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「おっ、回精また顔が赤くなってるじゃん」

 「そりゃぁ、みんなに見られてたら赤くもなると思うよ・・・」

 「悪いな回精、盗み見する様な真似になってしまったが、1階の共有スペースでは嫌でも目に入る」

 「ち、な、み、にぃ、僕は獣狼がお昼寝してるって事でお呼ばれされちゃいましたぁ~!」

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーッ!!!!」

 「けろ、峰田ちゃんがまた脱け出そうとしているわ、瀬呂ちゃん、お願い」

 「個人的には、峰田の怒りは最もだし俺も回精が恨めしい、だが俺が止めなきゃ女子にもっと酷い目にあうだろうしなぁ。と言う事で諦めてくれ、峰田」

 「いいよぉ~回精!なんか初々しくてすっごくイイ!!」

 

 その後の事はあんまり覚えてない、だって恥ずかしさのあまりソファーに突っ伏して耳を塞いでいたから。唯一、快心さんが頭を撫でてくれることだけが救いと言えよう。




 ちなみに砂藤くんの妹居る発言はオリジナル要素です、自分の為でもあるけど、食べてくれる妹の為にお菓子作りが上手くなった。とかだと、何か素敵な気がして。

 初々しい恋愛描写は今はガンには効かないが、そのうち効くようになる。ちゃんとそういう描写になっているか、不安ですが。


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第六十二話:血の定め、仮免試験

 時々、この話を読み返すと「あぁ、ここ直そうかなー」「ここもっと激しくしようかなー」と思ったりしますが、自分で決めた終わりがそろそろなので、終わった後に書き直したりすると思います。

 雨が
 つらい。


 国立多古場競技場、ここに1-Aの全員と相澤先生が揃っており、この場所がA組の仮免許取得試験会場になっている。

 不安がるA組のみんなに、相澤先生の激励によって全員が持ち直し、ムードメーカーの切島くんと上鳴くんの二人で雄英の校訓である、PlusUltraの掛け声に合わせ士傑(しけつ)高校の夜嵐(よあらし) イナサくんが乱入する事態もあったが、今目の前に居る知り合いの方が驚きが大きい。

 

 出会ってすぐ、相澤先生に愛の告白をし、すぐさまフラれたMs.ジョーク。彼女が受け持つ傑物(けつぶつ)学園高校2年2組、その中の一人がA組へ自己紹介をしながら外面を整えた挨拶をして回っている真堂(しんどう)と言う、自分たちより一個上の男子。彼から、正確には2年2組関係者全員に、長い期間一緒にいる事で付いているニオイから知り合いがいると分かり、苦い表情になる。

 

 「やめとけ真堂、()()()()()()は一部にバレてんぞ」

 「・・・げー・・・」

 「おいおい、久々に会ってその態度はねぇだろ?獣狼」

 

 身長は先ほどの夜嵐くんと同じくらい、炎の様に赤く所々跳ねた長髪と、頭頂部に並ぶ狐とは違う縦に長い三角形の耳、顔立ちは妖目が爽やか系のイケメンなら、コイツは熱血系のイケメンだろう。腰からは髪の毛と同じ色の、根元から徐々にボリュームを増していく尻尾、そして両腕には、肘から先が赤い毛で覆われ、明らかに手の平が人よりも大きく発達していた。ちなみにズボンで見えないが、両ひざから先も似たような事になっている。

 

 「相変わらずお前はちっこいなぁ、それに涼しそうでいいわ」

 「変わり、無く、暑、苦し、そう、だね」

 「もうホントそれよ、個性柄、毛を剃ってもすぐ生えて来ちまう。お陰で夏は水浴びばっか、指がふやけて大変でよぉ!はっはっはっは!!」

 

 大声で笑う知り合い、と言うより血縁。詳しくいうと面倒だが、概ね従兄でいいだろう。でも、彼がいるって事は・・・。

 

 「安心しろって、ここに炎理(えんり)は居ねぇよ。同じ高校だがな?」

 「・・・よかった」

 「お前うちの妹が苦手だもんなぁ・・・。あ、やべぇニオイでバレるか・・・?いや直接触ってねぇし大丈夫なはず・・・」

 「おい、コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」

 「おっ、アレがお前んとこの担任かぁ、正面きっての戦いは苦手そうだな」

 「まぁね、んじゃ、また」

 「おう!またな!」

 

 A組のみんなが既に歩き出しているので、駆け足で移動する。しかし相澤先生の横を通る一瞬、肩を掴まれたので足を止めた。

 

 「わかってると思うが、霊骸は使うなよ」

 「理由、なく、遺体を、使う、趣味は、ありま、せん」

 「・・・ならいい、引き留めて悪かったな」

 

 確認したい事は終わったらしく、肩の手を放してくれたのでそのままA組に合流する。

 口田くんのそばに夜桜が待機しており、そのまま俺の言う通りに行動してくれるが、事前に話していなかった口田くんは何故夜桜がここに居るかわからず、オロオロと慌てているので、こちらに視線が来た時に両手を合わせ、軽く頭を下げて目立たない様に謝罪する。

 何か感じ取ってくれたのか、これだけで口田くんは慌てるのをやめ、出来る限り平静に歩いてくれる。

 

 「回精くん、あの大きな人とは知り合い?」

 「うん、従兄・・・かな?血縁、だよ」

 「大神(おおかみ) 再理(さいり)、多分、ここに、来てる、誰より、も、面倒、な、相手」

 「回精がそこまで言うって、どんな個性なんだ?」

 「個性は、同じ、獣人。素の、俺、以上の、身体、能力、それに、高い、再生、能力」

 「再生?それって文字通り傷が治ったりすんの?」

 「骨折、なら、十数、秒で、下手、すると、欠損、も、時間が、あれば、元通り」

 「うっわぁー・・・、そんな相手とまともにやりあったら勝ち目無いじゃん・・・」

 

 そう、再理の面倒なところは再起不能のダメージを受けても、時間があれば復活する事。なので、どんなルールでも再理にとって、明確に不利なルールが存在しない。

 

 「でも、再理は、戦闘、好き、1年、より、強い、ところを、狙う。そして、知名度、の、ある、上級、生は」

 「士傑って訳か、相手に背を向けるみたいであんま良い気はしねぇが、今は仮免取得が先決だもんな」

 「そういう、事」

 「・・・チッ!!」

 

 ただ一人、不満がありますと言う顔をしてはいたが、優先順位を間違える程ではなかったらしく、舌打ちだけで済ませてくれたのはありがたかった。何せ再理は、挑まれれば誰でも相手にするし、一度勝負を始めたら白黒つけるまで絶対に逃さない。どんな試験内容であれ、再理を相手にしながら合格を目指すのは、無謀と言えるから。

 

 更衣室でコスチュームに着替え、今までのメタリックな黒一色の鉄扇とは違い、色や模様のある俺専用として新調された双鉄扇、桜花絢爛(おうかけんらん)。試作品の中から選ばれた、持ち手が釣り針の様に折れ曲がっている重量級の仕込み杖。この装備だけで重さが凄まじい事になっているが、そこは俺の個性で誤魔化せるので問題ない。

 

 着替えも終わり、職員の案内の元、説明会の会場へと向かう。若干緊張もしてきたが、問題ないと拳を握る。どんな内容であれ、目指すは合格ただ一つなのだから。

 

 

─────

 

 

 仮免の一次試験は、この場にいる1540人の内、先着100人と言う狭すぎる門。ルールは簡単、ターゲットと呼ばれる円形の的を、見える様に体に三つ取り付け、配られた六つのボールで相手のターゲットに当てれば、ターゲットが赤く光る。三か所目に当てた人が倒したこととなり、三か所当てられると失格、逆に二人を倒せば一次試験通過と言う単純な物。

 

 説明会場が文字通り開き、そこで露わになる広大なステージに様々な環境。説明者曰く、自分の得意なステージで頑張ってくれ。開始までの間に固まって動く者達は同じ所属なのだろう。

 

 雄英高校の彼らもまた一番勝ち筋の大きい学校単位、と言うには他クラスが居ない為、緑谷の意見の元、クラス単位で固まって動こうとしていた。

 しかし、爆豪が真っ先に離脱、それを心配し追いかけた切島も同じく離脱、個性の関係で仲間を巻き込みかねない轟も離脱した。

 

 三人減ったとしても、それでも18人、固まって行動するメリットは大きい。移動しつつ、緑谷の次に起きる“どの学校を狙うか”の説明、それは一番攻略しやすい高校、体育祭で手の内を晒している雄英高校、固まって動いていた全員がその結論に思い至ったと同時に、一次試験開始のブザーとアナウンスが流れる。

 

 と同時に、岩陰に隠れていた者達が一斉に飛び出す、その数は確実に五つ以上の高校が集まっているだろう。その全員から手始めに一つずつボールが投げられる、一人一つとは言え数もそろえば百を超える。

 

 しかし、度重なる唐突な実戦経験と緑谷のお陰で直前とは言え、心構えが出来ていた雄英は個性を使って、各々がボールを迎撃していた。だが、例外もいる、ほぼ全員がボールを迎撃する中、一人だけボールを迎撃せずに、敵陣に走って突っ込んでいく。そうなれば当然、何よりも目立つ。

 

 「回精くん!?」

 「おい!一人突っ込んでくるぞ!アイツを狙え!!」

 

 その言葉と共に、今度は多種多様の個性による攻撃が始まる。蜘蛛の糸らしき物、飛ばされた石、激しい水流、様々な攻撃の中で、獣狼は速度を一切落とさずに右へ左へ、時に飛び跳ねるという、高い身体能力を使った常識外れの回避。防御や迎撃を一切しなかった事は予想外だったらしく、追撃がワンテンポ遅れてしまう。そしてそのワンテンポがあれば、獣狼には十分だった。

 

 何時の間にか両手に持った鉄扇を、腰のパーツと連結、今までは親骨と連結しなければ、地紙との連結が出来なかったが、地紙を鞘に見立てる事で、直接地紙に連結する事を可能にした改良型である。余談ではあるが、これに加え獣狼専用に一から再設計したので、見た目の変化以外にも重量と強度が増している。

 

 そうして、巨大な双鉄扇を閉じたまま構え、先ほどより力強く地面を蹴る事で加速、速度の変化に追いつけず、陣形のど真ん中にまで侵入を許してしまう。そのまま獣狼は、全員が足場にしている小さな岩山を巨大な鉄扇で叩きつける。

 それだけで足場にしていた岩山は崩れ、多くの生徒がバランスを崩しながらも、崩落に巻き込まれない様に移動する。そこから地紙パーツだけを外し、バランスを崩してターゲットが良く見える状態の生徒に、扇子を真ん中から一つだけスライドさせ、投げつける。

 

 「体育祭で知ってたが、なんつーパワー、うおっ!?なんだコレ!?抜けねぇ!!助け」

 「助け、より、俺が、早い、よ?」

 「ひぃ!?」

 

 鉄扇は勢いよく、生徒の両脇へと突き刺さる。突き刺さった場所と鉄扇自体が深く刺さったお陰で動けない、助けを呼ぶも、何時の間にか目の前で両手にボールを構え、とてもイイ笑顔の獣狼より、早いなんてことは無いだろう。

 そのままこれと言った抵抗も出来ず、他の生徒が立て直した時には一人、獣狼の手によって脱落していた。

 

 「よし、この、調子で・・・」

 「アォォォォォォォォォォォォ・・・」

 「再理・・・?こんなに、近く・・・まさかっ」

 

 遠吠えを聞き何かに気づいたのか、すぐさま岩に突き刺さった鉄扇を回収、地紙パーツを取りつけ、周囲を警戒し始める獣狼。その耳が、こちらへと接近する存在を捉える。力強い足音、それに裏打ちされた凄まじいスピード。

 

 「獣狼ゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 「かえ、れッ!!!」

 「いってぇ!!ちょっ、おわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 スピードを生かした跳躍、そのまま片足を突き出した独特なポーズ(ライダーキック)で、獣狼の名前を叫びながら攻撃を仕掛けるが、獣狼は左手の鉄扇を開き上から来る蹴りを表面で滑らせつつも、その勢いを利用し体を軸に回転、通り過ぎた瞬間に右手の鉄扇で突き出された足の膝関節を狙って回転の勢いも加えて強打する。

 

 やはり慣れない感触に獣狼は顔を歪めるも、再理なら治るという信頼で無視し、強打の勢いを使って上へと弾き飛ばす。そのまま右手の鉄扇を地面に突き刺し、背中に背負っていた仕込み杖を持ち、大きく振りかぶる。

 その時点で杖は数多の小さな円柱に分かれ、その円柱を束ねる3本のワイヤーも姿を現す。これが仕込み杖の仕込みの部分であり、製作者本人が意図した使い方ではないが、獣狼単体時の()()使()()()()()にもなっている。

 

 大きく振りかぶった仕込み杖、それを上空へと飛ばされた再理へ向かって振るう。獣狼の高い腕力で振るわれた杖は、上空の再理へと届き、不自然な動きで折れていない脚に絡むと、何も出来ない再理をそのまま崩れた岩山へ叩き込む。

 

 「・・・」

 「おいおい・・・!お前加減しろよ!?アレじゃ死んじまうぞ!!仮免試験で何やってんだよ!?」

 「早く、逃げて、巻き、込まれる、よ」

 「何言って・・・」

 

 仕込み杖は絡まったりせずに獣狼の手元で杖に戻る、獣狼は未だ叩き込んだ衝撃で再理を生き埋めにする岩山を警戒して睨んでいるが、何も事情を知らない者からしたら過剰に攻撃を加えてた様にしか見えない。

 すぐさま状況をいち早く認識した名も知らぬ他校の生徒から批判されるが、獣狼からは逃げろと言われる。訳も分からず、聞き返そうとするが、崩れた岩山が()()()()()()()()()事で、その発言を遮られてしまった。

 

 「いってぇぞ!獣狼!やっぱお前容赦ないわ!!」

 

 賑やかに地面から出てくる再理に、名も知らぬ生徒も驚愕するしかない。彼だって戦闘訓練を受けている、なのであの一瞬、僅かではあるが再理の脚があらぬ方向へ曲がっているのだって目にしていた。

 だというのに彼の、黒をメインに所々赤で色付けされ、肘と膝から先が無い軍服の様な服には汚れしか見当たらず、折れたはずの脚を使ってしっかりと地面から脱け出している。周りの生徒も、正しく言葉が出ない状況と言えるだろう。

 

 「か弱い、からね。最大、効率、で、攻撃、は、基本」

 「うっわー、お前がか弱いとか身体能力だけじゃねぇか。関節にカウンターされたとは言え、普通に折られるとは思わなかったぞ」

 「ここに、士傑は、居ないよ?」

 「無視とかひでぇ!だがそれは知ってるぞ!何せ俺の狙いはお前だからな!!」

 「もしもし?炎理、ちゃん?」

 「妹は流石に卑怯だろ待ってください!?」

 

 流石に、試験会場にはスマホを持ち込んだりはしていないが、そう言うポーズをするだけで両手のひらを見せて止められるのは、兄妹の力関係がはっきりとしているからだろう。獣狼が「冗談」と口にするが、再理の冷汗からは冗談でも肝が冷える思いだったのは、想像に難くない。

 ・・・周りの見知らぬ何人かが、敵同士であるはずなのに同士を見るような視線で、再理を見ているのは何処の家でも似たような事があるのだろう。

 

 「んんっ!獣狼が狙いってのは、お前一度も俺と戦おうとしなかったろ?手合わせしたいんだよ」

 「えー・・・」

 「えー、じゃねぇ!お前今より小さい時からずぅーっと力比べとか、かけっことか、全ッ然戦う事しなかったじゃねぇか!!」

 「だって、子供の、世話で、忙し、かったし」

 「それは手伝えなくてホントゴメン!だがお前も知ってんだろ?俺たちの血筋をよ」

 「・・・触り、程度、なら」

 「ありゃ、あー・・・、そういやお前その辺興味なしだったな。まぁ簡単に言っちまえば、人それぞれで差はあるが、()()()()()()()

 「へー」

 「うわぁー、やっぱ興味ないかー・・・。でも、心当たりあんだろ?体育祭でよ」

 「・・・」

 

 獣狼の一切興味なしと言う反応、しかし再理もそれは想定内だったようで、獣狼の核心を突く言葉で興味を引こうとする。そしてそれは成功する、先ほどまでの面倒な表情から一転、獣狼にしては珍しい、真顔に近い表情と言う変化によって。

 

 「体育祭、見てたぜ。楽しいって思っただろ?わかるよ、俺も強い奴と戦うのが楽しい。勿論ヒーローとしての仕事もするし、人助けだって好きな方だ、しっかりやるぜ。だがコレは言わば趣味だ。趣味だからな、やめらんねぇしやめる気はねぇ」

 「・・・別に、人助け、するなら、何でも、いいんじゃ、ない?」

 「・・・ま、お前ならそういうと思ったよ。んじゃ話を戻そう、獣狼、お前の最後の戦いを見てから冬休みまで待ちきれなくって、ウズウズしてたら今日の試験でバッタリ、だ。悪いが士傑は後回しだし、お前をお仲間から引き離すように頼まれたんだわ」

 

 まるで示し合わせたかのように、地震が岩場ゾーンで発生する。その揺れによって二人の獣人と、状況を見守っていた他十数名が地面の盛り上がりや、ひび割れに巻き込まれる、これによって動けなくなった者や、仲間と分断された者など様々。

 

 しかし二人の獣人だけは、高い身体能力によって大きく変化する地面を苦も無く移動し、また離れる事も無かった。

 再理が言った仲間からの頼みごとを実行しているのだろう。

 

 「と、いう訳だ獣狼。俺はこの一次試験、士傑よりもお前と戦うぜ」

 「どう、しようも、無い、か・・・。ルール、は?」

 「んなもん、本家でやってた奴のまんまでいいだろ。どっちかがぶっ倒れるまで、さァ始めようやァ!!」

 

 その言葉と同時に獣狼は両手に持った双鉄扇を構え、再理は拳を握りながら愚直に直進する。一次試験とはあまり関係のない、戦いが始まった。




 新しいオリキャラの大神 再理くんです、動獣家には色んな人が居るんだよっていうのと、動獣家っていうオリジナルの家系出しといて特に何も出さないなんて、なに考えとるんじゃワレェ。と、その他色々の思惑で出演です。


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第六十三話:規定違反(イレギュラー)

 色々アドバイス貰って色々自分なりに考えた結果、仮免試験終わって一旦区切ってからアドバイス通りに、リメイクと言う形で一から書き直そうと思います。

 かといって、この後の物語を適当に終わらせる、ってわけではないです。しっかりキッチリやっていくつもりです。
 ……まぁ、自分で「ちゃんとやってる!」と思っていたとしても、傍から見れば出来ていないなんて事にならない様に、注意しなければいけませんが。


 「ヒーローになれば個性晒すなんて前提条件、悪いがうちは、他より少し先を見据えている」

 

 少し離れた席に座るMs.ジョークから仮免試験で毎回行われる、体育祭で個性、弱点などの情報が公開されてしまった雄英を真っ先に潰す通称“雄英潰し”。相澤 消太のお気に入りの生徒たちに何故教えなかったのかを問えば、色々と前振りはあったものの答えとしてはこの言葉だった。

 

 その言葉に何を思ったのか、Ms.ジョークは口を閉じる。そして相澤の言葉に反論しようとするが、自らの教え子たちが居る岩山ステージ以外でも巻き起こる激しい戦闘に違和感を覚え、こちらの方が優先順位が高いと判断したのか、話の流れを切り替えた。

 

 「ねぇイレイザー、これ先着100名って事で攻めたもん勝ちみたいな印象受けるけど、これ違うね、違くない?」

 「あぁ、団結と連携、情報力がカギになりそうだが、先着100名って事で焦って取りに行くと、返り討ちに合うぞ」

 「団結と連携、か……。お前んとこの狐っ子が一人で先行し過ぎちまってるけど、良いのか?」

 「あいつのパワーとスピードは守らせるより、今の状況じゃ攻め入らせた方が都合がいいから良いんだよ。あいつもそれをわかってるみたいだしな」

 

 唐突な話題変更にも関わらず、相澤はMs.ジョークの言葉に応える。ヒーロー歴の長い彼らにとって、突如場の流れが変わるというのも何度か経験した事だろうが、昔ヒーロー事務所が近かったというのも、この対応の早さに影響しているだろう。

 

 相澤の視線の先では、獣狼が他校の足場を崩すという力技を行い、崩れた足場によってその周囲の生徒を一時的に無力化、同時に雄英の包囲網に穴を開けるという力自慢ならではの方法を取っていた。

 そして残ったA組に視線を戻せば、傑物学園による個性を使ったボール攻撃を耳郎と芦戸の新しい必殺技によって防ぎ、獣狼の思惑に気づいた緑谷の主導で包囲網の穴から脱出しようと、残った雄英生全員で個性の攻撃を防ぎつつ移動を始めていた。

 

 「んじゃ、そっちの切り込み隊長はあの狐っ子って事か?」

 「どうだろうな、今はその役目の奴が他に居なかったからあいつが行っただけだ。どちらかと言えばオールラウンダーだろう」

 

 そう言いつつ、真っ先に思い出していたのは、一番最初にA組から離脱した爆豪の事だろう。彼の見てから行動できるという凄まじい身体能力、更に自らの動きを最適化していく運動能力、その前二つを最大限発揮させる判断力は天才ともいえる才能を持ち、それに個性が合わさった破壊力、突破力はプロ相手でも真正面からだと並大抵では止める事は不可能だ。

 

 「へぇ?()()()はオールラウンダーなんだ」

 

 Ms.ジョークの発した言葉に、違和感を持った相澤が隣へ視線を向ければ、何時もの馬鹿笑いとは違う、ニヤニヤと言った企みが成功したかのような顔をしたMs.ジョーク。

 まるで回精の同類が居るような物言いに、バスの前で回精と話していた赤毛の背の高い傑物学園の生徒を思い出す。彼の頭には、回精と同じく獣の耳が生えていた、それが指すことは。

 

 「そっち?って事はまさか───」

 「アォォォォォォォォォォォォ……」

 「おっ、おっぱじめたみたいだな!多分イレイザーの思っている通りだぜ?」

 

 相澤の思っている通り、それは即ち動獣の血筋である獣狼の血縁が居るという事。

 相澤は家系で人を判断するつもりは無いが、それでも個人差は在れど、全員が動物の能力と怪力を持つ動獣の名前は知っていた。

 根津校長から話を聞いたのもあるが、個人的に警戒していた家系ではあった。昔、それも自身が生まれる前の超常黎明期に台頭した、ある意味有名なヒーローにはなずにヴィジランテとして扱われた家系。過去の話ではあるが、良くも悪くも、あの家系は大きな影響力があったのだから。

 

 「うちの生徒の中に、体育祭で狐っ子の活躍見てからずぅっとソワソワしててさ、気になったもんだから話を聞いたら従兄弟だっていうじゃん?でも従兄弟だって判明した後が面白っくって───」

 「……世間話なら無視するぞ……」

 「連れないなぁ、ま、そういう所も愛してるぜ?「良いから話せ」はいはい、せっかちだなぁ……」

 「んじゃ話を戻して、大神 再理って言うんだけど、そいつがまたイレイザーんとこの狐っ子とは全ッ然方向性が違くってね。ガンガン行こうぜ!を体現したうちの自慢の切り込み隊長で、そして今、お前んとこの狐っ子と相対している奴がその大神さ」

 

 包囲網を抜け出そうとする雄英、しかしそれを阻もうと他校の生徒たちは妨害を行うが、それでも雄英の守りは硬く、このままでは雄英が包囲網から脱出するのも時間の問題だった。

 傑物はそれを防ぐためにも、個性を使った地震で今いるステージを割る事によって、雄英生を離れ離れにすることで雄英を含む、多くの生徒をこの場に釘付けにした。

 

 『んー、現在は何処も膠着状態……いえ、岩山ステージで大規模な地震がありましたが、通過はゼロ人です。あ、何か進展があればこちらでアナウンスさせて、いただきます』

 

 スピーカーからやる気のない男の声によって近況報告が行われた、流石に仮免試験に受ける者達と言うべきか、脱落者は出ても未だ一次試験を突破した者は居ないようだ。

 

 「うちは他より先を見据えている、か。随分と上から目線じゃないか、イレイザー。ヒーローを目指す子供たちは星の数ほどいて、その志の高さには有名も無名も無いんだぜ。主役面して他を見下してっと、返り討ちに合うのはそっちかもよ」

 

 丁度話が一区切りついたからか、相澤の言葉を繰り返す事で話を戻す事を伝えたMs.ジョークは、真剣な表情でイレイザーの先ほどの発言を、そう言った努力や教育をしているのは雄英だけじゃないぞと言外に否定する。

 

 事実、岩山ステージに居た全受験者が同じ高校のメンバーと離れ、他の高校と会敵している状況は多い。しかし、それでも雄英潰しの影響か初めて会った他校の生徒とも一時的ではあるが、チームを組み散り散りになった雄英生を探している。

 見ず知らずのヒーローとすぐさま共同出来るのは1年と違い、上級生と言う時間的アドバンテージがなせる業。しかもその中には次が無い3年も居る、だとしたら知識、体力、技術、経験など様々な面で狙いやすい1年の、更には情報が公開されている雄英を狙うのは必然だろう。

 

 最初の一回目の攻撃は全員の力を合わせる事で難なく乗り越えた、しかし今は全員が離れ離れになり、自分の穴を埋めてくれる仲間は居ない、もしくは少ないと考えた方が良いだろう。雄英に降りかかる試練は、様々な思惑が絡み合い徐々に激しさを増していった。

 

 

─────

 

 

 真正面から再び再理が突っ込んでくる、お盆や大晦日に集まった時に何度か再理が戦っているところを見たことはあったけど、少し多めに見積もった想定より速い……!

 

 「オラァ!!」

 「ぐぅ……つぅー……!」

 「どうした獣狼ゥ!守るだけじゃ俺に勝てねぇぞ!!」

 「……フェイント、なんて、器用な、事を、するね」

 「攻撃が一直線すぎ、って事で矯正されたんだよ。まぁ、お陰でお前見たいなカウンタータイプにあしらわれる事が減ったから良いっちゃ良いんだがな」

 

 スピードの乗った左フェイントからの右ストレート、受け流すタイミングをずらされたせいで受け流すことが出来ず、咄嗟に鉄扇で防ぐ事は出来たが後ろに跳ばされる事で、再理との距離が開くがこんな距離は有って無いに等しい。鉄扇越しとは思えない衝撃によって痛む手に、思わず呻いてしまうが相手の挑発を流しつつ、会話で再理に有利な流れを一旦遮る。

 

 それに向こうは金属の塊を殴ってたのに全然痛そうじゃない。……いや、骨折させたのに仕込み杖で叩きつけた時に叫ぶ余裕があった、と言う事は少なくとも骨折程度じゃ痛みで怯まないって事か。

 

 視線を再理に固定しつつ、周りの状況を確認する。でも、さっきの地震で障害物が多くてうまく確認も出来ない。これじゃ雄英の誰かと合流するのも一苦労、か……。

 しかし、再理はこちらの事など関係なしと言わんばかりに───実際関係ないのだが───一瞬で間合いを詰めて殴りかかってくる拳を、今度はしっかりと受け流す。

 

 「なぁ、お前の鉄扇って何処で作ってもらったんだ?俺が殴ってもへこまねぇって相当良いモンじゃねぇか?」

 「お父さん、の、勤め、先だよ、っと」

 「獣王さんとこの会社かぁ。いいな、俺にもなんか作ってもらえないか頼んでくれね?」

 「自分で、頼み、なよッ!これの、為に、俺は、契約、も、したし」

 「そこを何とか頼むっ!獣王さん俺には厳しいんだよ……」

 

 世間話をしながらも、再理の攻撃の手を緩めようともしない。避けられる様子見の攻撃は避け、時々混じる本命の攻撃を鉄扇で防ぐ。でも、若干ではあるけど再理の攻撃が雑になり、受け流しやすくなってもいた。

 

 再理は、俺が戦いながら何かを探っている事に気づいているはずだ。だけど身長差から攻撃し辛く、全て防がれるか受け流される。だから会話と戦闘をしながら相手の様子を伺うという、再理でも実行しやすい作戦。

 

 黙って居る方が不味いと一瞬で判断し、返事をしているが中々にたちが悪い。再理を倒す手段を考えている、と思われているならまだしも、仲間と合流するなんて気づかれた時、再理が何をしてくるかわからない。

 しかし、再理がこんな面倒な事をするとは思えない。恐らく、傑物の誰かからの入れ知恵だろう。

 

 ……正直、俺も再理と真っ向から戦うのは避けたいし、ベストは耳郎さんや上鳴くんと言った防ぎたくても防げない攻撃が出来る人、次点で峰田くんや瀬呂くんの相手を拘束───再理相手では厄介な嫌がらせ程度に終わりそうではあるが───が出来る人と合流出来るのならしたい。でも再理がそれを許さない、再理の口ぶりからして恐らく、傑物が雄英をメインで狙っているから。

 

 「わかっちゃいたが、やっぱ攻めあぐねるなぁ」

 「……嫌味?」

 「ちげぇよ、……4割くらいは。待て待て、拗ねるなって。純粋に体格差以外にもお前の技量を褒めてんだよ!俺の見立てじゃ数発は直撃させてるつもりだったんだぜ?」

 「再理が、試合、してる、とこ、何回、か、見てた、から、ね。動きは、ある、程度、予想、してた、よ?」

 「だったらこっちだって、獣狼のやりそうな事はわかってんだぜ?何年従兄弟やってると思ってんだ?」

 「へぇ、じゃあ、なに、やろうと、してるか、わかる?」

 「言ったって答え合わせしてくれるわけじゃねぇだろ?だったら今タイマン出来てる分、別に構わねぇよ」

 

 攻撃が一旦止み、その隙にバックステップで距離を取ると再び会話が始まる。……最初は不愉快だったが、その後の口ぶりからすると、俺が再理を倒す手段を考えている以外の事だとは分かってはいるが、確信を持てていない、と言ったところか……。耳を澄ませて周囲の状況を確認しようにも、時々発生する轟音や遠巻きにこちらの様子を伺う受験者で遮られ、上手く確認できない。

 

 しかし、現状で一番最悪の状況である第三者からの攻撃を回避できていたのは救いではあった。最初の容赦ない攻撃と、それを受けて平然としている再理に周りが危機感を覚えたのか、周囲からは個性を使って攻撃してくる気配がない。恐らくは巻き込まれて大怪我はしたくない、と言ったところだろう。

 それでも遠巻きとは言え、包囲を崩さないのは共倒れもしくは残った方を、と言う思惑もあるだろう。そんな事を狙っても()()()()()()というのに。

 

 そんな、個性の特徴とルールの裏を突いた嫌がらせ染みた事を考えていると、再理が数センチ浮く位の軽いジャンプをしている。その様子はまるでこれから本気を出すぞ、と言わんばかりに。

 

 「んじゃまぁ、こっちも時間が押してきてる訳だしガンガン行かせてもらうぜ」

 「……せっかち、は、嫌われ、るよ?」

 「言ってろ、それに獣狼は他の事を気にしてばっかの様だからな。その余裕すら無くしてやる」

 「“私、だけを、見て!”が、許され、るのは、女性、だけ、だよ?」

 「ハッ!だったら今は、自分の女の事考えるより俺との戦いに集中するんだな!!」

 「えっ、女?ちょっ、何のこ───ッ!?」

 

 突然訳の分からない事を言われ説明を求めようとするが、トップスピードでこちらに突貫してくる再理には届かない。その勢いのまま、器用に空中で一回転分の遠心力が加わった後ろ回し蹴りが、こちらの首を刈り取るかの様な勢いで迫ってくるが後ろに大きくのけ反る事で回避。

 しかし、のけ反った後に再理の両手が組まれ、大きく振りかぶっている事に気づく。

 

 ───後ろ回し蹴りはブラフか!!

 

 大きく横に転がる様な緊急回避、体勢を完全に崩す事になるが元居た場所の地面が、まるで爆発でも起きたかのような轟音と砕けた石が飛び散るさまを見て、選択が間違っていない事を確信する。

 

 しかし、土煙で見えないが両手を組んで地面に叩きつけた事で再理は無防備───()()()()()()()。横に転がった勢いを使って地面に足を付け、そのまま更に再理から離れるように大きく跳ぶ。

 

 果たして、その判断は正しかったのかは、やはり先ほどまで俺が居た場所に突き刺さり、再び地面を爆ぜさせた踵が物語っていた。先ほどから一撃に込められている力が上がっている、ガンガン行くというのは嘘じゃないだろう。

 

 そうなればもう疑問なんて後回しにするしかない、再理が本気を出すという事は戦闘に集中しつつ、合流出来る糸口を見つけなければならないのだから。

 

 「チッ、やっぱやりづれぇわ。普通の奴なら踵落とし食らってるってのに」

 「経験、の、差、じゃない?」

 「ハッ!俺だって1年分のアドバンテージがあるんだぜ?それに追いつける経験なんて早々ねぇよ」

 「いいや、あるさ。命が、生き死に、が、かかった、経験。その有無、大きい、よ?」

 「……そりゃそう、か。獣狼を甘く見てるつもりはなかったんだがなぁ、雄英ってのを甘く見てたみたいだわ」

 

 言い終わると同時に再び真正面から一直線に此方に向かってくる、しかし今回のも合わせ三度目。再理の腕と脚の長さ、そして俺の鉄扇の長さからして、タイミングは……ここッ!

 

 悟られない為に速度重視で鉄扇を突き出す、今まで振り回して鉄扇を扱うところしか見せてなかった分、吸い込まれる様に再理の肩へと向かい()()()()()()()()()()で受け流さ───。

 

 「──し!やっ──発───ァ!!」

 「───ッ」

 

 体に走る衝撃と痛みで霞がかかった頭が少し鮮明になる。クッソ、頭を強打されたのはわかった。自分の体勢と周りの音から岩に埋まる勢いで叩きつけられたのだろう。しかしここからすぐさま脱け出す、未だ体の動きが鈍いとか言ってられない。

 

 「ッ!」

 「チッ」

 

 肘を起点に岩から上半身を抜き、そのまま腕の力で下半身を抜いた後足の力で一気に飛び出す。直後、再び砕けて崩れる音と微かに聞こえた舌打ち。

 ……戦闘中に無防備な姿を晒している相手が居るなら攻撃する、それは当然の事だ。だがこっちは試験を受けに来たのに、突然やってきた再理によって無理やり戦わされ足止めで時間を食っている。そして今この瞬間にも周りは一次試験突破へと駒を進めている。

 

 わかってはいる、これは純粋な八つ当たり、俺だって再理の脚を折った。でも、聞こえて来た舌打ちに、勝手な解釈だろうが侮辱されたみたいで()()()()()()()()。だから、今だけは───。

 

 「ぶっと、ばすッ!!」

 「うぉっとぉ!?ハハッ!やっとやる気になったかぁ!獣狼ゥ!!」

 

 今までのカウンター重視の戦い方を捨て、再理へと鉄扇を振り下ろす。突然の変化に再理は驚いたのか後ろへ下がる事で回避をするが、その変化が自分に好ましい物と分かるとこちらへと再び向かってくる。

 

 「行くぞ、獣狼ゥゥゥゥゥ!!」

 「うる、さい!!」

 

 小細工無し、ただ何かに従う様に鉄扇を振り下ろす。それをなんともないかの様に片腕で防ぎ、反対の脚でローキックを防がれていない鉄扇を叩きつけ、地面にめり込ませる事で防ぐ。これで鉄扇が二つとも攻撃と防御に使われた、対して再理は片腕が残っている。

 

 空いている拳を握りしめ顔面へと一直線に腕を伸ばしてくる。ニヤリと笑う再理の、「これくらい対処して見ろ」と言う挑発、それに応えるために鉄扇と言う最大の武器を手放す。この行動に再理は一瞬目を開いて驚きを表すが、関係ないと言わんばかりに笑みを深める。

 迫りくる拳を、紙一重で避け伸ばされた腕に上から手を伸ばし、そしてそのまま握られた再理の親指を人差し指から小指を使って無理やり解いて掴み、逆上がりの要領で腕を外側に捻じって───。

 

 「がはぁっ!」

 「ぐぅぅ!!」

 

 腕ごと地面に叩きつけられ背中を強打された事で肺から無理やり空気が出る、でも再理も無事ではなかった呻き声が聞こえた。そのまま追撃が来ると思っていたが、意外にも再理は一気に離れる。

 こちらもすぐに起き上がり、鉄扇を回収する頃には再理の方から硬い何かを強く擦り合わせる様な鈍い音が鳴っている。ちらりと見れば、顔を顰めつつ捻じれ歪んだ腕を力技で元の形へと戻そうとしている。

 

 再理に向かって一直線に走る、向こうも腕の捻じれを戻すよりもこちらが早い事に気づいたのだろう、片腕が使えない状態ではあるが戦闘態勢に入っている。鉄扇の一撃は片腕で止められる、逆に言えば片腕を使わなければ止められない。

 それに、捻じれた腕を戻そうとしていたという事は、戻さなければ治らないという事ではないか?腕はまだ手首と親指があらぬ方向で捻じれている。だとすると最初の鈍い音は肘を戻した、と思っていいだろう。このまま押し切って、脚も捻じって逃げられればこっちの勝ち……!

 

 唐突に右から何かが迫ってくる風切り音、前に踏みしめた足を使って大きく後ろに跳べば、黒い球が三つ、そのまま前を通過せずに横一列になってこちらへと迫ってくる。

 個性で軌道制御?ともかく次の動きが読めない以上、鉄扇を開き防ぐしかないと黒い球と自分の間に開いた鉄扇を挟み込み、そして硬質な物同士の炸裂音に近い衝突音と共に後ろに押し込まれて行く。

 

 「っ!?これ、おっも……!」

 

 三つとも抑えているからか、それとも個性による物だからかわからないが、鉄扇越しから伝わってくる力が投げ物にしては尋常じゃないくらい強く、軌道を上に逸らせようと鉄扇に角度をつけても逆に此方が押しつぶされそうになる。

 角度をつけても一切上へと流れる様子はなく、力が衰える様子もない。自分の決めた軌道で強制的に物を飛ばす個性?推測ではあるものの、三つの球が別々に襲ってこないという事はほぼ確定だろう。

 もしも軌道を自由に操れる、もしくはロックオンして相手に向かってホーミングさせる個性なら、真正面から防ぎやすい様に三つ並べて飛ばすより、別方向からバラバラに飛ばした方が防がれにくく相手に当たる確率も高い。ならばと、角度を更につけて倒れる様に球をやり過ごせばそのまま黒い球は飛んできた方向へと戻って行き、赤いマフラーが特徴的な全身黒の生徒の手に収まった。

 

 「態々来てみれば、俺に任せとけって言っておきながら絶賛ピンチじゃんこれ」

 「チッ……もう来たのかよ、射手次郎」

 「折角助けたってのにその反応は無いんじゃない?それに、再理が仕留めきれなければ複数人で仕留めるって作戦だったろ?」

 「だが獣狼は俺が仕留めるって言っただろ!?」

 「それでピンチになってんのは再理の方じゃないか、悪いけどうちの主力前衛を失う訳にはいかないんだよ」

 

 射手次郎、確かバスの時に再理と一緒にいた生徒。不味い、向こうは再理の我儘と彼らの作戦で言い合っているが、最初に決めたって言っていた分恐らくは再理が折れるだろう。

 やっと逃げられる可能性が出て来たのに、余計に逃げられなくなった。再理の脚力に遠距離からの黒い球は厄介が過ぎる、再理ほどではないだろうが脚に直撃したら確実にしばらくは動けないだろう。

 

 なら言い合っている今逃げるか?……いや、射手次郎さんは再理と話しながらずっとこちらを意識している。逃げた途端黒い球が飛んでくるだろう。避けられればいいが、もしも一発でも受けるか防ぐかしたら流石に再理もやってくる。

 では血壊を使って逃走は?ハッキリ言ってしまえば、現在そこまで長くは使えない。そも、短期決戦用の技を一次試験で使うのは早計過ぎるし、恐らく再理はそこから更に追いかけてくるだろう、そしたらまた血壊に頼るのか?一次試験を通らなければ意味が無いのはわかるが、そこで疲れ切ってしまっては意味がない。

 

 「あぁぁぁぁぁぁぁ……!獣狼、すまねぇ!わりぃがこっからは何でもアリって事で!」

 「炎理、ちゃんに、報告、案件」

 「ホント悪いと思ってるからそれだけはやめてくれぇ!?」

 「再理、年下に弱み握られてどうすんのさ……」

 「仕方ねぇだろ!?獣狼はあんなだが他人に弱みを握らせねぇんだよ!私生活でも隙がねぇんだって!」

 「それ、再理が隙だらけってオチじゃないよね?」

 「あー……うん、再理、はー……うん、フォロー、出来ない」

 「いや!?ちゃんとガキンチョと遊んだりしてるだろ!?」

 「遊ぶ、だけ、ね……」

 「はぁー……なんか、従弟くんが可哀想に見えて来たよ。1年とは言え年長者なんだからしっかりしなよ」

 

 想定よりかなり早く再理が折れた、世間話に射手次郎さんを巻き込んで時間稼ぎをしているが打開策は見つからない。非常に不味い───。

 

 「それじゃ、時間稼ぎも終わりにしてさっさと次に行かないとね。真堂たちと合流しなきゃいけないし」

 「気づいて、いたんだ」

 「そりゃね、1年にしちゃ上手く表情を取り繕ってたけど、それだけだ」

 「キツい、なぁ」

 「……二対一の状況でキツい、って言える時点で大物だよ君」

 

 周囲をちらりと確認するも、静観する姿勢を崩さないようで遠巻きにこちらを見てるだけ、もしくは無理だと判断したのか別の場所に移動している者もいる。これじゃあ巻き込んで隙を作ろうとしてもまず巻き込めない、か……。

 

 「んじゃ再理、何時も通りやろうか」

 「あんま気乗りしないが……しょうがねぇ」

 「それじゃ、最初は何時も通りいくよ……フゥー……シュバッ!!!」

 

 独特のモーションの後、掛け声と共に放たれる4つの黒い球、その全てが縦横無尽に飛び回りつつこちらへと迫ってくる。そして再理もまた、黒い球の後を追う様にこちらへと走ってくるが、どちらが先にこちらへと攻撃してくるか、それとも同時攻撃なのか非常にあいまいな攻撃。

 このまま迎え撃つには厳しいと判断し、射手次郎さんを中心に大きく左回りに弧を描く様に走り出す。しかし、俺が動き出したというのに再理は向きも変えずにそのまま真っ直ぐと走り続けていた。何故、と意図を探ろうにも時間もなく、射手次郎さんを直接狙える向きまでやってきた。……ここまで来てしまえば、意図を考える必要も無いだろう。厄介な後衛は先に叩く、良くてそのまま倒して一次試験を通過、悪くても行動不能になった仲間を見捨てる事が出来ずに再理が動けなくなるので、その隙に逃げる。

 

 すぐさま様子見の弧を描く動きから、直接弧の中心に居る射手次郎さんに方向を変える。流石に射手次郎さんはただ突っ立ってるだけではなく、新たな黒い球を握りしめ真っ直ぐに俺から視線を話さず、すぐさま迎撃する為に手に黒い球を持ち両腕を引いて、投げる体勢を整えている。

 手にある黒い球はまた4つ、恐らく一度に投げられる限度が4つなんだろう。すぐに鉄扇で防げるように、腕にも意識を回せば自然と鉄扇を握る手に力が入る。射手次郎さんとの距離は目算だけど後5mも無い、このまま倒せれば───。

 

 突然、右から何か大きなものが此方へとやってくる風切り音。この状況からしてまず間違いなく再理だろう。でもあの距離からでは再理よりも俺が射手次郎さんを殴り飛ばす方が早い、それにこの距離なら投げるには遅すぎる。両手の鉄扇を振りかぶる、相手はヒーローの卵として俺より一年も先を行く先達。後衛と思って油断せず確実に当てて動きを止める。

 

 「───()()()()

 

 射手次郎さんの一言と共に自分が誘われた事に気づく、しかしそれでもこちらが振り下ろす方が早く、彼は両手が塞がり防ぐ手立ても無い。例えダメージを受けたとしても、この攻撃は通すべきだと振り下ろそうとして、突如右から聞こえていた風切り音が大きくなった。

 

 相手から目を離すべきじゃないとか、このタイミングで迷うべきじゃないとか、上げれば色々とあるだろうがそれでも風切り音の方へ目で確認してしまう。そして更に目に入った光景が信じられず、驚愕で動きが一瞬ではあるものの止まってしまった。

 自らの失敗に気づきそして同時にこの攻撃は受けるべきではないと、唯一間に合いそうな右の鉄扇を無理やり相手と自分の間に割り込ませようとする。だが、僅かな希望にかけて左はそのまま鉄扇を振り下ろすが、左の鉄扇が射手次郎さんに直撃するよりも先に、ギリギリ割り込めた鉄扇越しに強い衝撃を感じるとともに弾き飛ばされ、同時に無理な割り込みを行った右腕にも鈍い痛みが走る。

 

 その痛みに顔を顰めながらも、地面に左の鉄扇を突きつけ減速と同時に着地する。ギリギリ右の鉄扇を落とす様な事はしていないが、それでも右腕は痛みによって自由に動かすには厳しいだろう。

 しかし次の攻撃を察知し、すぐさま後ろに跳び回避する。直後、先ほどまで俺がいた空間に4つの黒い球が別々の角度から飛来し、地面に突き刺さると同時に俺の足元から伝わる振動で何かが上がってくる事がわかり、思いっきり横へ跳べば足先ギリギリを黒い球が飛び出し、そのまま空高く上がっていく。

 

 「ギリギリ、ってところかな?これならもっと早めにしてもよかったね」

 「そこらの増強系と同じ風に考えてると痛い目に合うぜ、寧ろやりすぎなくらいが丁度いい」

 「……ホント、君らってとんでもないね」

 

 その声の方へと向けば、空高く上がって行きそのまま真上から落ちて来た4つの黒い球をなんてことも無い様にキャッチした射手次郎さんと、その隣で手に持った1つの黒い球を射手次郎さんに投げ渡す再理。

 これはもう、厄介なんて言葉で片づけていいレベルじゃない。単純な人数的不利だけじゃない、純粋にコンビネーションが上手く、お互いの穴を上手く埋めている。案としては却下したかったが、血壊を使った逃走も視野に入れた方が良さそうだな……。でももし逃走するにしてもこの距離はダメだ、予想が正しければ黒い球の攻撃を避けた後、すぐに再理が到着してしまう。

 

 「さぁて、獣狼にゃ悪いがここまでくりゃ勝ったも同然だな。後はその辺の奴を適当に倒して次に進出、だ」

 「どうかな?俺が、二人を、倒して、次に、行く、かもよ?」

 「ハッ!だったらさっさと奥の手を使うんだな」

 「言われて、はい、使い、ます。なんて、するわけ、無い、でしょ」

 「ちょっと再理、態々相手を煽る様な事しないでほしいんだけど?一番狙われるの僕なんだからね」

 『え~、結構状況動いております。現在通過者ごじゅう……いえ51名、続々出てます』

 「もう半分越えか、モタモタしてらんねぇな」

 「一部、君の我儘なんだけどね?僕たちとしてはさっさと他の奴倒して次行きたいんだけどね」

 「ま、そう言うなって。相手にとって不足は無いだろ?」

 「……君の我儘じゃなければ、ね」

 「そのまま、他へ、行っても、良いよ?寧ろ、推奨」

 「冗談、我儘に付き合って、成果無しは流石にダメでしょ」

 

 まぁ、そうだよなぁ。俺だって流れが良いならそのまま押し込むもん。再び射手次郎さんの投擲モーションが始まる、手に持つ弾は4つ、未だ痛む右腕を気にしつつも次の攻撃へと備えた。




 何を変えたの?と聞かれれば、「・・・」を「……」に変えたり、文字数を今まで四千から六千字だったのを一万字まで増やしたり、お話のスピードが早くて急過ぎと言われたので、今までより遅くしようとしたりとしています。ちゃんと出来ているか、自分では確認できないのが辛いですね。

 プロヒーローの子供が有名なら、動獣家も知る人ぞ知るみたいなノリでもいいですよね?

 PS.室温36度オーバーだと、流石夏!って感じがしますよね。お陰で余計に時間がかかったので何とも言えませんが。恐らく次も時間がかかりそうです、お許しください。


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第六十四話:勝利と敗北の境界

 前回の投稿(8月10日)から約2か月!感想で続きをはよと言う声に嬉しく頑張りましたが、ブランクが激しく上手く書き進められなかったジレンマ。

 とりあえず、遅れて申し訳ありませんでした。

 後、一万字超えるのって中々つらいので5000~7000目安で書きます。個人的に読むならこのくらいが一番丁度いい気がするので押し付けます。(暴論)


 合図も無くほぼ同時に動き出す、俺が後ろに跳び再理がそれを追いかける形になったが、目に見えて距離が縮まってきている。俺が後ろ向きに跳んでいるので何時もより遅い事と、再理の脚力が俺より上と言うのもあるだろう。

 

 再理が追い付くまで時間が無い、防御の為にも左の鉄扇を前に構え両足を地に付けた時点で後二、いや一歩の距離、再理がもう拳を振りかぶっている。一歩を踏み込む勢いも加えた右ストレートを鉄扇で何とか防ぐが勢いを殺しきれず、後ろへとたたらを踏む。そして下がった分だけ再理が数歩分の距離を詰め、再び拳を鉄扇で防ぎその勢いで再びたたらを踏み、後ろへと下がる。

 

 防いで下がり、それを再理が追いかけ殴り、また防ぐ事を繰り返す。でも、さっきまでは両腕で交互に防いでいた攻撃を片腕だけで防ぐ。左腕への負担よりも攻撃を防ぐことに集中しているから防げてはいる、だが一瞬でも気を抜けば再理の攻撃が鉄扇の防御を越えてくるだろう。

 

 けれど、再理の殴りを連続で防いだ影響か、徐々に左腕、特に手が痺れて来た。このままだと最悪押し切られて、……弱気になるな、右腕の痛みは確実に治まってきている。このままいけば今より安定した立ち回りが出来る、さっきのアナウンスから残りの制限時間は短いと見ていいはずだ、再理達が諦めるか、隙を見て再理の足をまたへし折って逃げればいい。

 

 バランスを崩さぬようにひび割れた地面を踏みしめ、再理の次の攻撃を防ぐために意識を集中し。

 

 ───右、頭、直撃。

 

 全ての行動を中断、左の鉄扇を音の位置に向かって振るう。どうして、なんて考える必要はない。攻撃に今まで参加していなかった一人の投擲された球の風切り音だとわかっているから、そんなことより見た目に反した高威力の攻撃を利用する事に集中しろ。

 

 そして、鉄扇を上から叩きつける為に右足を軸に円の軌道で鉄扇に勢いをつけ、視線を投擲物に向けて、その時になってやっと()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

─────

 

 

 再理の従弟である回精獣狼はかなり警戒心が強い。それが再理と合流し戦っているところを観察し、時に手を出して僕が感じたことだ。優れた身体能力、優れた個性、おまけに再理からの話じゃ品行方正で非の打ちどころが無いときた。

 ……再理は、「身体能力は俺より弱い」なんて言っていたけど、僕たちの様な体を強化しない個性からしてみればどっちも“優れた身体能力”なんだよね。

 

 まぁともかく、なにが言いたいかと言えば、驕りや慢心と言った相手の隙ともなる油断が一切ない。

 会場前で出会った雄英生の中には試験よりも自分たちが何故有名なのか気にしない者や、自信があるのか試験で奇襲した際に数名が居なくなっている事から少数に分かれたと思われる者達もいた。

 この者達に共通するのは油断。自らの個性が強力だからと言う過信か、大きな事件を潜り抜けた慢心か、はたまた自分や自分たちなら大丈夫と言う楽観か。どうであれ、相手がそうやって油断してくれる分には構わない。その分こちらが有利になるからね。

 

 でも、回精くんには1年にありがちな油断が無い。一切ないわけではないが、これに関しては1年と2年の戦闘経験の差だろう。そして、その戦闘経験の差で再理を前に大きな隙を晒す事になった。

 勿論これは誘導した事、硬質ゴムボールだけを使って攻撃し、常に四つで攻撃する事で相手は自然と僕の攻撃はボールで四つが限界と認識するが、事実は少し違う。一度に複雑な軌道の物を投げられるのは四つまで、が正解だ。……ボールだと回収しなきゃいけないから連続で投げられないデメリットも存在するけど……。

 

 だけどこれが無くしていい物なら?例えば今、回精くんが鉄扇で叩き割った()()()()()()()()()()()()とか。彼はかなり器用だからボールの反動で再理から離れようとしたんだろうね、でも反動は想定より少なく石も砕け散った。

 

 僕の個性って投げた物の形が大きく崩れたら効果が切れてしまう他にも、投げる軌道に気を付けなきゃ当てたくない者、仲間や人質にだって当たる。故に僕が物を投げるには色々な条件があったりする。

 その条件の中には仲間や人質が居ても心置きなく投げる条件が二つある。一つは今みたいに直撃しても問題ないか回避できる仲間がいる事。けどこれに関しては人質が居たら使えない欠点もあるが、同じ学校のクラスメイト以外全員が競争相手で、人質なんて非道な手段を使う人は居ないはずなので今は関係ない。ただ、回精くんの警戒心と回避能力が高いから今回はもう一つの手段に頼る事にする。再理には事前に伝えてあるから、後は僕がそのタイミングを逃さない様に集中するのみ。

 

 「ふぅー……」

 

 視線の先では再理が隙を晒した回精くんの左腕を掴み、反撃の蹴りを反対の手で掴んで止めて───うっわ、スパァンって。

 そんな音で顎を蹴り上げられたら普通は一発で脳が揺らされて戦闘不能どころか普通に危ないのに、鼻血出しながら笑ってる再理も大概だけど、そんな勢いで蹴る回精くんも再理と従兄弟って実感出来るね……。

 

 っと、そろそろかな。再理の向きと今までの癖から凡その方向を割り出し、目標に届かせる道筋を思い描き、ボールを三つ手に取り全身を使って投げる。力を入れ過ぎず、かといって弱すぎる訳でもない、必要になる力を必要なだけ。そうして、個性で飛ばしたボールは全て思い描いた通り綺麗に飛んでいくから、つい目で追いそうになるのをぐっと堪える。

 

 再びボールの道筋を思い描き、今度は一つのボールを手にさっき投げた三つよりもスピードを出す為に力を込めて投げる。手から離れたボールはさっきの三つよりも速く、綺麗と言うよりも鋭いという印象を与える、けどそれも悪くないなんて思う。

 

 賽は投げられた、ゴムボールは合計八つ持っているからまだ投げられる、でも変に投げて再理の攻撃を邪魔する事になりかねないから、僕の役目はボールが戻ってくるまで見届ける事と周りの攻撃を気にするくらい。それでもまぁ、早めに回精くんが倒せる事を願う事くらいは出来るだろう。

 

 

─────

 

 

 再理の手で上に向かって投げられた。姿勢が悪くて力が入らなかったとは言え、常人なら首の骨をダメにする力で顎を蹴ったのに平然と投げてくるとかどういう鍛え方しているのか。

 

 投げられてすぐにビルの六階くらいの高さに来る、このままだと倍くらいの高さは覚悟した方が良いなと考えていた時、天地がひっくり返った視界に射手次郎さんが投げたボールが三つ、一直線に飛んでくる。その狙いは正確のようで、このままだと数秒もしない内に当たると判断し、左の鉄扇を盾にする為に開き、突如開いた鉄扇に引っ張られる。

 

 それが空気抵抗が増えた影響だと気づいた時にはボールが鉄扇に衝突し押し出される、引っ張られた勢いが加わった俺に向かって一気に鉄扇が迫り。

 

 「がっ───」

 

 最初に胸を鉄扇に強打し肺から空気が押し出され、次に頭をぶつけた事で意識が少し飛び、その間に足もぶつけたようだが痛みもそこまでじゃないから問題ないと無視。右手の鉄扇は手放していないから上出来と思おう。

 

 しかし左の鉄扇はそのまま弾き飛ばされ、俺もその鉄扇にぶつかった影響で空を一望しつつ自由落下の真っ最中。痛む頭と太陽の眩しさで視界が良いとは言えない、けれど首と目を動かしてやっと弾き飛ばされた鉄扇と、個性の影響を失ったのか俺よりも上の方で落下しているボールを近くに二つと遠くに一つ見つけた。

 開いたままの鉄扇はくるくると俺から離れていく、遠近法と形状も相まってアレが金属の塊で重いものなんて思えない。ボールを投擲用に持っていこうかと思ったけど、これは射手次郎さんが使うから真価を発揮するもので、俺が投げてもあまり意味が無い気がする。そしてそんな事を考えている時間ももうない、そろそろ地面に着くころだから。

 

 体を大きく動かしてせめて足から地面に落ちる、足の裏で着地とは行かずに四つん這いの着地だが、寧ろこっちの方がよかったかもしれない。頭を打った反動で少しクラクラするし失った酸素を取り込もうと少し息が荒い。

 

 早く移動しなきゃと思っても少し体が重い、でもこんなところで立ち止まっている訳にもいかない。右手の鉄扇を支えにして無理やりにでも立ち上がる、周囲からは足音と言った誰かが近づいてくる情報は入ってこないが、ここで再理たちが攻撃の手を緩めるとは思わない。何かしらの攻撃をしてくると信じている。

 

 背負っている杖を左手に持ち、周囲を警戒しながらも再理たちの次の手段を考えていた。

 

 再理は最初の攻撃以降、ずっと連撃と隙を見ての重い一撃だが本来の戦闘スタイルは自分へのダメージ無視で相手を殴るノーガード戦法だ。だから今までの戦闘スタイルから考えるより、今の戦闘スタイルに変えた人の事も考慮しなきゃいけない。

 つまり今回で言えばそれは射手次郎さんで、彼のサポートを視野に入れた動きをしていた事から見て半分以上は射手次郎さんが再理の戦闘スタイルを今のものに変えたと見て間違いない。

 

 では、今の状況で射手次郎さんが出来る事は?ボールによる俺への妨害や直接攻撃は無理と考えていいと思う。もし出来るんだったら最初から姿を見せずにやった方が良い、射手が自ら姿を見せるという事は罠か、その範囲じゃないと攻撃が当たらないという事なのだから。

 

 だったら俺以外で誰か影響を与えるのは?そこまで考え付いて、右腕の痛みの原因となった攻撃と空中で三つしか来なかったボールを思い出し、空を見上げる。

 そこには落下していると()()()()ボールを足場として加速しながら、こちらへと斜めに落下してくる再理の姿があった。一直線に向かってくる再理と視線がぶつかる、その目はこれで終わらせると決意に満ちていて、だからこそ絶対に逃さないという力の籠った目。

 

 その速度は俺に何もさせないと言わんばかりの速度で、下手に避けても着地時の余波は爆豪くんの爆発並みと想定していいだろう、そこから切り替えしで押し込まれたら時間切れまで動けなくなる確率が高い。

 

 ……いいよ、これで最後と言うのなら終わらせてやる。ただし、()()()()()()()()()()

 

 杖の連結解除、支柱に複数の隙間が開き仕込まれた三本のワイヤーが姿を見せ杖から鞭へと形状を変える。“腕”を纏わせるようにイメージすれば一度跳ね上がり、鞭全体がまるで蛇の様にジャラジャラと金属同士が擦れる音を立てながら蠢き始める。それを見た再理はまた投げ飛ばされるのではないかと警戒度を上げ、何らかの対処法を考えているはずだ。

 その証拠にさっきから視線が若干ではあるものの、俺よりも俺と鞭の間辺りに固定されている。そしてもう一押しでゆらゆらと蠢いている鞭を一気に伸ばせば、ついに来るかと視線は鞭へと定まった。

 

 と同時に地紙パーツの固定を解除するが、再理はそれに気づかない。何せ鉄扇は再理に対して最初の一回以外は有効打になり得ていない、そしてその一回もすぐ治るという構わないレベルのもの。

 そして再理は打撃による攻撃よりも斬撃や投げ、関節技と言った物を嫌う。何故なら断たれた部位は治るとは言え一時的に動かなくなり、投げや関節技は純粋に筋力などで対処し辛いから。だからこそ、鞭に対して警戒度を上げたことで更に鉄扇に対して警戒心どころか注目すらしなくなる。

 

 故に、右腕の鉄扇を思いっきり振るって地紙を再理に向かって飛ばしてやれば、意識外からの飛来物に目を丸くする。そういえば再理の前でコレが外れるところ見せてなかったよね?だから余計に驚いてくれる。そして振るった勢いを殺さずに一回転し───。

 

 「小賢しい真似を───んなっ」

 

 格上が相手なんだ、小賢しくもなるだろう?再理が飛んできた地紙に気を取られている間に親骨付きの鉄扇を投げた事で、地紙を反らしたら金属の棒ともいえる鉄扇が姿を見せる。()()()聞こえる驚愕の声を無視し、そのまま真下を通って少し進んでから立ち止まる。

 そうしている間に、地紙を反らした時点で無理をしていた再理は鉄扇を弾いた事でバランスを崩して落下している。

 

 「血壊」

 

 掛け声と共に意識を切り替えて血の流れを上げていく、それに伴い一気に広がっていく感覚と視界の隅に映る髪の毛が真紅に染まっていく。

 何かに気づいたのか、再理が目を見開いてこちらを見るが遅い。地面に放射状のひび割れを残して跳び上がり、すれ違いと言うには離れすぎている距離で視線が合う。何か言いたそうだけど、嬉しそうな顔の再理が口を開く前に左の鞭を振るって足首を掴まえる。

 

 さて、ここで問題です。下に向かって動いている点S(再理)に、上に向かって動いている点J()が真横に来た時に()でお互いを繋ぎました。この時、点Sと点Jの動きはどうなりますか?大まかでいいので答えなさい。

 

 まぁ、実際は重さや速度の差で結果が違うのかもしれないけど、お互いの中間を中心にして円運動するよね。

 

 でもそれは、両方の点が何もしなかった場合。だから俺は空気を蹴ってその場で静止、更に腕の力で再理を加速させる。……うわー、ドップラー効果ぁ。

 再理が円運動の上半分を終わらせ、再び空気を蹴って疑似的な足場として下半分に入り、真下に来る直前で鞭を離す。

 

 そうすれば再理は地面に向かって結構な速度で一直線に……あれ?ちょっと角度が深い。……まいっか!再理だし平気だよ、多分!頭をバスケットボールみたく地面に連続で叩きつけられてないし!

 

 ともかく、地面を転がりながら離れていく再理に目を逸らし、手早く地紙と鉄扇を回収して血壊を解除、空中で弾かれた鉄扇は見つからなかったけど、再理がまた来たら嫌なのでさっさとその場を離れる。かなり時間を使った気がするけど、残り一人だし何とかなるでしょ。

 

 

─────

 

 

 「うっわ、盛大にやられちゃってまぁ……。手助けいる?」

 

 従弟に返り討ちにあい、地面に上半身を埋めて下半身を日の下に晒している情けない姿の相棒に声をかける。最初は反応がなかったものの、しばらくすると埋まっている地面から僅かな振動が伝わってくるので、巻き込まれたらかなわないとその場から離れる。

 そして、離れて間もなく噴出したかの様な砂埃が舞いそれと共に石ころがパラパラと周囲に降り注ぐ、その元凶は両手を上げて背を伸ばす様な姿で。

 

 「うがぁぁぁぁぁぁぁ!?あんの腹黒ぉぉ!あのタイミングなら正々堂々の勝負だろぉ!!」

 「第一声がそれって、自分がまず正々堂々を無視した癖に何言ってんだか」

 

 流石に何も言い返せなかったのだろう、ピクリと動きが止まり逆立てていた尻尾や耳が一気に力が抜けたかのように下がっていく。女性が見たら心に響く光景なんだろうけど、男性の僕からすればため息しか出てこない。

 

 「だってよぉ、そう言う作戦なら仕方ねぇだろ」

 「まぁ確かに、僕たちの作戦で不本意な事をやらせたことに関しては謝るしかないよ。でも向こうがそれを汲み取ってくれるとは限らないよ?」

 「うぐぅ……」

 

 言い負かされ意気消沈し項垂れる再理、しかし次の瞬間良い事を思いついたと言わんばかりに顔を上げるが、こういう場合って大抵ろくでもない事を言いだすからなぁ……。

 

 「そうだ!まだ追いかけられるし今から仕留めに行けば」

 「残り時間を考えなよ、再理たちが戦ってる間もアナウンスしてたよ?『えぇー、また一人、突破者が表れましたぁ。これで───』ほらね?もう残りの枠も少ないし、さっさとみんなと合流するべきだよ。再理はともかく、付き合わされた僕は一人も倒して無いんだからね?」

 「……あい」

 

 今度こそ反論の余地が無いと感じたのだろう、大人しくトボトボと歩き始める。その方向から聞こえるだろう音を頼りに。

 

 「ま、あれ以上やっても意味なかったしね」

 「ん?どういう事だよ?」

 「なんでもないよ、一人追うのに二人じゃ釣り合わないなって話」

 

 独り言に反応され、咄嗟に出まかせを言ったけど再理は特に気にせずに歩き出す。

 思い出すは回精くんのターゲット、ずっと相対していたから再理は気づかなかっただろうけど、彼のターゲットは()()()()見つけられなかった。つまり、僕たちが回精くんを倒せても撃破判定は貰えないという事。どうやって一つを隠しているのか、失格になっていないという事は違反はしていない、と言う事だし本当にどうやっているのやら……。

 

 ま、分からない事をずっと悩んでいるより目の前の事を気にしなくちゃ。とりあえずは試験を突破して仮免許を貰わないとね。

 意識を切り替え再理の後を付いていく。どうやら結構近かったらしく、見覚えのある顔が全員揃っている。これなら後は真堂の悪辣な作戦でこの試験は突破できると、良いのか悪いのかわからない信頼と共に。




 なんで身体能力高いのに関節技とか覚えないの?と言う意見がありそうなので先に応えます。簡単に言えば人と言う規格で作られた技を規格から外れた者が使っても技として機能しないから、です。

 Q.獣人族だけじゃなく精霊種と森精種も入ってませんか?
 A.(私の首の骨が折れる音)一応設定とか考えては居るんです、でも披露する機会が無いだけで。

 Q.物間の個性
 A.体育祭の騎馬戦で切島と爆豪の個性を交互に使ってませんでしたっけ……?短時間ならある程度ストック出来ると思ってそうしてましたね、後で確認しなきゃ……。


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第六十五話:大事の前の小休憩

 今書いているものを、アニメで言う3期終了で終わりにしてリメイクすると前に言いました。
 でもリメイク側のネタがポンポン浮きあがって、今に集中出来ないジレンマが発生してます。

 こんな時どうすればいいのか、夕暮れに迎えてくれた海鳥たちは答えてくれない……。


 じゅーろーにお願いされてニオイをたどっていると、お願いされたものをやっと見つけた。あとはこれをもって行けばじゅーろーにほめてもらえるってワクワクしてたのに、すっごく重くってすっごく大きいからあごが疲れてきちゃった。

 

 じゅーろーのお手伝いしたいのに、その前に“しけん”だって言われて来たのは良いけど、手を出しちゃダメってじゅーろーに言われたし、たてものに入ってからはじゅーろーはいそがしそうだし、やっとかまってくれたと思ったらお使いだし……。

 

 「わぅ」

 

 決めた、じゅーろーにあったらもーこーぎしてやる!ぼーぎゃく……じゃないけど、じゃち……でもないけど、ほっとかれていきなり大変なお使いはおんこーな夜桜でもおこっちゃうんだからね!

 

 え?ゴハンあるの?しかもお肉にお野菜?わーい!じゅーろーだーいすき!!

 

 

─────

 

 

 再理たちとの戦闘から逃げ切り、しばらく走っていると他校の生徒に待ち伏せされていたらしく襲撃を受けた。が、視線から隠れると言った事しかしていないので小声のやり取りがバレバレ、そして戦っても数で押せば何とかなると思っていたらしくアッサリ撃退。

 

 二人以上だけど、最初の通過者も多く倒してたみたいだし、このまま他の人へのプレゼントにするのは何か違う気がしたので全員漏れなくターゲットにボールを当てて、無事通過した。

 

 その後、ANTEROOMと書かれた看板の矢印に従って歩いていると、その途中で鉄扇が一つ足りない事に気づき、通過者がウロウロするのもどうかと思って丁度近い場所にいる夜桜にお願いして持って来てもらう事に。

 

 そして今、目の前に置かれた四枚のお皿と水の入ったコップ。平な皿には山盛りのローストチキンと少し底の深い皿には色とりどりのサラダ、残り二枚には抜き取られた骨とお肉のみとなったローストチキン。控室は自動ドアなので夜桜が入れないという事は無いと思う、でも態々お使いをさせて何もなし、なんて事はしたくなかったからありがとうと言う意味と俺の間食用で用意している。

 

 先に来ていた轟くんの話では自由に食べて良いらしいので、半分に分けるとしてもそこそこな量を椅子を机代わりにして分けている。……だって、あの机は身長的に高さが合わないし。

 一応、近くに座っている轟くんには許可は貰っている。まぁ、流石にこんな事を見知らぬ人の近くでやるのは気が引けるっていうのもあるし、事情を知ってる人なら説明も手短に済むという算段もあったけど。

 

 「なぁ、夜桜はキツネなんだし骨は付いたままでいいんじゃねぇのか?」

 「本人、からは、食べ、難い、って。骨の、周りが、美味しい、って、人も、いるけど、夜桜は、味の、付いてる、皮、付近が、良いって」

 「案外、人間っぽい事を言うんだな」

 「好き嫌い、の、無い、素直な、いい子、だよ」

 「まるで親みたいだな」

 「くくっ、俺は、夜桜の、お兄さん、だよ」

 

 その後も、轟くんの気になった夜桜の事についての話が続いた。好き嫌いが無いと言っても好みの差や、どれくらい食べさせて平気なのか。そんな話をしていると、控室のドアが開き周囲が騒めく。

 

 恐らくは誰が入って来たのか、もしくは自分の仲間が入って来たのかを確認するためにドアが開けば視線を向けていたんだろう。しかし、扉の前に居たのは大きな黒いキツネが一匹。

 

 「……なぁ、回精」

 「ん、多分、予想が、付くけど、なに?」

 「夜桜の咥えてるのお前の鉄扇だよな?扉に引っかかって入れないんじゃねぇか?」

 「そう、だね。ちょっと、助けて、来る」

 「おう」

 

 扉では頑張って鉄扇を斜めにして入ろうとしているけれど、角度が足らずに引っかかってしまっている。その様子に木の棒を咥えた犬が扉に引っかかっている動画を思い出したが、見かねた他校の生徒が手助けに来る前に夜桜の下へと駆け寄る。

 

 「おかえり」

 「〈キュゥー!〉」

 「うん、ありがと」

 

 鉄扇を夜桜から受け取り、腰に差す。やっぱり両方あるとしっくりくるというか、バランスが良いというか、ともかく轟くんの……正確には食べ物の方へと急ぐ夜桜を止める。

 

 「先に、お腹の、外そう?」

 「〈キャゥ!〉」

 

 やっぱり、ターゲットが付いているのは違和感があったようで大人しく後を付いてくる。夜桜が控室に入れなかったら不味いと思って俺のターゲットも外さなかったけど、その辺りどういう判定なのかな。

 やっぱり二人で一人扱い?そもそも個性だから関係ないとか?失格とか言われてないから、恐らくはルール違反ではないと思う。ただまぁ、ターゲットの付いている夜桜をずっと体に入れたりとかしたら問答無用で失格だろうけど。

 

 色々と考えていたが、無事にターゲットも外せてボールもケースと一緒に返却出来た。しかし、夜桜からは「早く早く!」と言わんばかりに俺と轟くんの方へと視線が行ったり来たりしている。

 流石にちょっと正直過ぎるけど、夜桜からは大変なお使いの後のご褒美が早く欲しいという感情も伝わってくるから仕方ない、で済まそうとする俺も甘いのかな?なんて思ったり。

 

 「お待たせ、それじゃ、行こっか」

 

 夜桜へと一声かけ歩き出す。俺の隣を付かず離れずの距離で夜桜はついて来てはいるが、待ちきれないのかさっきから少し落ち着きがない。

 それでも外歩きの約束を守ってくれているのを見ると、なんだか他の人に夜桜は良い子なんだぞ!って自慢したくなるけど我慢しよう。その分帰ったら遊んであげないと。

 

 「……顔が緩んでるがなんかあったか?」

 「えっ、ううん、だいじょぶ、だいじょぶ」

 「〈キュー、キュゥー!〉」

 「あぁ、うん、いいよ。それじゃ、座って」

 

 夜桜のささやかなおねだりの為に、椅子に座り膝の上に野菜の乗った皿を置き左手に骨を取り除いたお肉が乗った皿を持つ。夜桜は近くにお座りの姿勢で待機し、ワクワクとした視線でこちらを見ている。

 

 まずはお肉を一つまみし、夜桜の口元へと持っていけば口を開けて受け取り、美味しそうに食べる。

 お肉の次は野菜、キュウリのスライスを一枚と言わずに数枚重ねて摘まむ、丁度何もついていなかったからドレッシングを少量付けて夜桜の口元へ持っていけば、こちらもシャクシャクと美味しそうに食べる。

 

 夜桜が食べている間にお肉に目についた人参とレタスを挟んで自分の口へ入れる。……うん、美味しいけどこれならドレッシングがかかってない方が良いかな?

 

 「〈キュゥ、キュー〉」

 「うん、いいよ」

 

 俺の食べる姿を見ていたからか、夜桜も同じようにお肉で野菜を挟んで食べたいとねだる。片手で肉を挟むのは難しい物もあって中には野菜でお肉を巻いたものになってしまったけど、そっちもそっちで美味しいらしい。

 夜桜のおススメなら、と俺も野菜でお肉を巻いて口に入れる。……うん、こっちもお肉の味より野菜の味が引き立って美味しい。

 

 そうして、食事をしている間も控室の入口は何度も開いていた。そして、その度に俺につられて隣の轟くんも入口へと目を向け、夜桜も俺達につられて入口へと顔を向けるもあまり意味が分かっていないのか、俺に顔を向けて首をかしげている。

 

 「みんな、こないね」

 「あぁ……ってか、先に分かれた俺よりお前の方が知ってるんじゃないか?」

 「俺も、初めの、方で、地割れ、と、従兄に、襲われ、分断、された、から。もし、かして、と、聞いて、みた」

 「じゃあもしもこの後に誰か来ても、他の連中の情報は手に入らないって訳か」

 「不安、それとも、心配?」

 「両方ないって言ったらウソになるが、それでも同じクラスメイトなんだ。気にはなる」

 「……そっか」

 

 轟くんとの会話が終わっても、夜桜に食べさせる手は止まらずに動いて、お皿のお肉が目に見えて減った辺りでまた入口が開く。そこにはさっきから俺達が気にしていた内の四人が立っていた。お皿を椅子に置き手を振ればこっちに気づいた四人が歩いてくる。

 

 「轟さんに回精さんも通過していたんですね!他の方は居ませんの?」

 「ここに来たのは今んところ俺達だけだ、その様子だと八百万たちも他の連中の事はわからないのか」

 「えぇ、と言う事は回精さんも?」

 「地割れの、後、従兄に、分断、されて、ね……」

 「残り三十人、みんな通過できると良いのだけれど……」

 

 予想していたとはいえ、あの地割れの後どうなったのか情報が一切手に入らないというのは中々不安になってしまう。勿論クラスのみんなが大丈夫だとは思いたい、けど周りが二年三年ばかりで幾ら天下の雄英と言っても一年から二年の差は大きい。

 

 知識と経験、その二つがあって初めて大きく前に進める。そういう意味では俺たちのクラスは戦闘に関しては二年と遜色ない程だと思っている。

 

 でも今さっき来たばかりの八百万さんたちは、個人の差はあってもかなり体力を消費してしまっている印象がある。1-Aの中で個人的にだけど、どんな状況でも対応できる人たちの集まりなのに消耗してしまっている。

 

 つまり、それほど厄介な相手に目を付けられたという事。……さて、これは純粋に一年だから狙いやすいという意図か、雄英だから狙われていると考えるべきか。

 まぁ後者だと思う、だって雄英体育祭と言うヒーロー科の個性をテレビで大々的に映す機会があったから。手の内が分からない相手よりも、手の内が分かっている相手の方が対策しやすいし。

 

 みんなが話している間に向けられている良い感情とは言えないモノ、どんな理由であれヒーロー志望が多い中でこういった感情を向けられれば、俺じゃなくても勘の鋭い人なら気づけると思う。

 ちらりとその方向へと目を向ければ、雄英の推薦トップを蹴り士傑へと入った夜嵐くんの姿が。俺が見ている事にも気づいていない、恐らくは今入ってきた人に釣られてその人が目に入りそのまま凝視している、とかかな。そうなると彼の見ている人物は自然と隣に座る轟くんだろう。

 

 「はぁ……」

 「どうしたの?回精がため息なんて珍しいじゃん」

 「いや、みんな、厄介、な人に、目を、付けられた、なって」

 「唐突にどしたのさ?」

 「四人、とも、体力、を、かなり、消耗、してる、でしょ?それだけ、厄介な、相手、だった、のかな、って」

 「あー、そうだね。ウチらのところって如何にもお嬢様とその使用人!って人たちが来てさ、こっちの個性に対策しまくりで全然ウチら三人が手も足も出なくって、しかもヤオモモとの頭脳合戦みたいな事になってたみたいだし」

 「正直、行動全てを事前に潰されて行くのはやり辛くって仕方なかったよ。まぁヤオモモのお陰で助かったんだけどね」

 「大変、だったん、だね」

 

 どうやら相当厄介な人に目を付けられたらしい、その疲れた顔から想像するのは難しくない。そんな耳郎さんを見ていると再理が猪武者で良かったと本当に思う。そんな事を考えていると、耳郎さんの好奇心に満ちた目で見てくる。

 

 「そーいう回精もさ、よく見ると服とかボロボロだよね。なんかあったんじゃないの?」

 「あー……、こっちは、ほぼ、上位、互換、相手に、逃亡、困難、な、ガチ、バトル」

 

 そういうと耳郎さんの表情が硬まる、うん、わかるよ。

 

 「ガチバトルと頭脳戦、どっちがマシなんだろうね……」

 「どっちも、ロクでも、ない、よ?」

 「「……はぁ」」

 

 片や頭脳戦に参加できずに空回りし、片やスペック上位互換相手に不利なガチバトル。両方とも内容は違えど、相手に振り回されたという点では一緒みたいで。

 

 「正直、倒して、無いから、次も、戦闘、あると、キツイ……」

 「うわぁ……、でも戦闘はもうやってるし、流石に二連続は無いと思いたいけど」

 「戦闘、か、それ、以外、か。どちらに、しても、もう、二度と、やりたく、無い」

 

 ゴールの無いマラソンを続ける様な気概はヒーローになる為に必要だと思う、だからと言って実際にゴールの無いマラソンをやれって言われて「はいわかりました」と二つ返事でやる人は居ない。俺にとって、再理との戦闘は正にそれなのだから。

 

 お互いの話が丁度いい区切りを迎えたところで、耳郎さんにまだターゲットの青いランプが灯っている事に気づく。八百万さんは轟くんとまだ話しているようだけど、軽い世間話程度みたいだし、障子くんや梅雨ちゃんが放置気味だ。いけない、ついつい話し込んじゃった。

 

 「ごめん、ターゲット、と、ボール、の、返却、しなきゃ、いけない、のに、足を、止めさせ、てた」

 「あー、マジ?ついつい話し込んじゃったね。回精が気にすることじゃないよ、ちょっと一次試験通過したって事で気が抜けてたみたいだし」

 「ありがと、あっちに、返却、する、ところ、あるよ」

 「サンキュー」

 

 耳郎さんが動き出したのを見て、八百万さんたちも自然に耳郎さんへと合流し返却口へと歩いて行く。……障子くんと梅雨ちゃんにはちょっと悪い事しちゃったな。

 

 あんまり気にしてもしょうがないし、逆に二人の性格なら気にされても気にするなって言うだろうし、気持ちを切り替えていくしかない。

 

 「んじゃ、俺も、お肉を、よそって、来るね」

 「ん?さっき皿に山盛りにして……、かなり減ったな」

 

 かなり減ったと轟くんは言うけど、さっきまで山を作ってたお肉がほぼ無くなっている。更に言えば骨置き場にしてあるお皿に骨が増えている程と言えば、これはもう空と言っても過言ではないと思う。

 

 「うん、みんなが、会話、してる、間に、夜桜、が」

 「〈キュー、キュキュー〉」

 「別に、悪い、訳じゃ、ないよ?ただ、もう、ちょっと、お皿を、綺麗に、食べない、と」

 「〈……キュー〉」

 「それは、俺が、やったら、で、夜桜、は、気に、しなくて、良いよ?」

 「夜桜はなんて言ってるんだ?」

 「前に、お皿、舐めたの、轟、くんに、行儀、悪い、って、言われた、って」

 

 あの時はみんな夜桜の事を知らなかったし、そしたら必然俺がお皿を綺麗に舐めたと思われるわけで、みんなも夜桜ならお皿を舐めるくらい咎めることは無いはず。

 

 「……悪い、気にしてたんだな」

 「〈キュゥー……キャゥ〉」

 「うぉっ……」

 

 轟くんの膝の上に飛び乗った衝撃で驚いた声が出たみたいだけど、まぁヒーロー科の人だしこの程度は問題にもならないはず。被害と言える被害はなく、強いて言えば轟くんの隣に座ってる俺の膝が夜桜の後ろ脚と尻尾で抑えられたくらいかな?

 それでも、夜桜がそういった大胆な事をするとは今までの共同生活で思っていなかったらしく、轟くんは何とも言えない表情でどうすればいいのか、両手を空中に彷徨わせている。

 

 「回精、どうすればいいんだ?」

 「撫でて、あげて。甘えてる、だけ、だから」

 

 俺がそういうと、おっかなびっくりな手つきで夜桜の背中を撫で初める。ゆっくり撫でている為か、夜桜も心地よさそうで、これならこのまま任せても平気だろう。

 夜桜の下半身を持ち上げ、すぐさま椅子から離れてそのまま椅子の上に夜桜を下す。一連の行動に首をかしげる夜桜。

 

 「さっき、お肉、おかわり、するって、言った、でしょ?轟、くん、夜桜、お願い、ね」

 「あぁ……」

 

 あまり動物と触れ合ってこなかったのか、きょとんとした顔で夜桜を触る轟くんの姿は中々面白く、しばらく見て居られそうだけど俺も小腹が空いてしまった。この小休憩も後どのくらい続くのかはわからない、食べられるときに食べておかないと。

 

 ちなみにこの後、戻って来た時にある程度慣れたのか、夜桜の背中を撫でる轟くんの姿が様になり過ぎててちょっと笑ってしまったが、後から来た耳郎さんも笑っていたのでその辺りは共通認識だと思う。




 前は約二か月!今回は一か月以内!半減!半減です!……調子乗りましたスイマセン。段々と感覚を取り戻してきている感じがします、なので次はもっと早く……なると良いなぁ……。

 冒頭の視点は夜桜ですね、ただただ何となく頭パぁ、にして書きたくなりました。

 誤字脱字報告ありがとうございます、ほぼ最初のお話から短期間で一気に五十話辺りまで読み進めてもらってとっても嬉しいです。……それを知れたのが誤字脱字っていうのが喜んで良いのか、悪いのか判断が難しいですね。


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第六十六話:何よりも試される演習

 皆さんは大晦日元気に過ごしていますか?私は元気です。その前がもう大惨事でしたが大晦日は元気なのでノーカウントです、ノーカウント。

 大いに遅れてしまい、本当にごめんなさい。活動報告でも書きましたが、こちらでも謝罪を。

 後三話くらいでこのお話は完結になると思います。完結した時になんて言われるか怖すぎてもう手と胃が震えてきました。


 良い報告と悪い報告。良く使われるフレーズだと思う、でも今回に限っては良い報告と悪い報告、そしてとても良い報告と言うこのフレーズの中でもかなりワクワク出来る物。だって報告する前に“とても”が付くなんてもうウッキウキに浮かれても仕方ない、良いと悪いでプラスマイナスゼロになってもとても良いで全然プラスだもの。

 

 「回精、大丈夫か……?」

 「だいじょぶ、寧ろ、ちょー、気分が、良いよ」

 

 障子くんが何かを心配してか、こちらに気を使ってくれる。やっぱり障子くんは優しいな、でも障子くんに答えた通りでとても気分がいい。少し冷えちゃった肉まんを、さっきまで受験者全員が戦っていた街が爆発によって崩れて行った光景をモニターから眺めつつ、口に入れる。中はまだ温かくて美味しい。

 

 「なぁなぁ轟くん、回精くんなんでさっきまで『もうだめだー!』みたいな雰囲気だしてたのにあんなもうウッキウキなん?」

 「試験が始まる前に回精の従兄が来てただろ?聞こえて来た話じゃ一次試験でその従兄に狙われたらしい。何とか逃げ切ったらしいが、次も戦闘系の試験だと従兄は確実に狙ってくるからって落ち込んでたのに、試験が救助演習ってわかってコレだ」

 「あぁ~……試験とは言え家族で戦うのってあんまり気が進まないもんね……」

 「回精は純粋に勝ち目が無いから戦いたくないって言ってたぞ」

 「えっそっち?」

 

 「〈キュゥー、キャァゥ〉」

 「んー」

 

 食べるだけなら片手でも出来る、空いている手で夜桜の頭を撫でまわし、手に取っていた物を食べ終え、最後の一つに手を伸ばす。

 

 放送では十分後に始まると言っていた、そしてトイレ“等”を済ませろとも。トイレと言われて真っ先に十分間は休憩タイムや次の試験までの猶予だと思う、けどその前に俺達を“仮免取得済みと仮定して”と言ってもいた。

 

 つまり、この十分間は緊急事態として休みのヒーローすら駆り出される非常時の中、ヒーローが現場に到着するまでの時間と考えた方が自然かな。二つ目を手早く口の中に入れてそこそこ噛んでから飲み込む、もし俺の考えが間違っていないなら少なくともクラス内でちゃんとチーム分けをしなきゃいけない。

 

 ……士傑の毛むくじゃらな人が爆豪くんに詫びを入れている、その事で爆豪くんはあまり気にしてないけど、轟くんと夜嵐くんの険呑な様子から二人の相性が最悪みたい。聞こえて来た話じゃ、夜嵐くんの一方的な嫌悪かまたは轟くんが無自覚に何かやらかしちゃったか。

 緑谷くんと士傑の女の人が話しただけで峰田くんと上鳴くんがただならぬ雰囲気で緑谷くんに詰め寄っている。こっちもこっちで緑谷くんは何をやったのやら……、あの二人って事は女性関係か何かか。

 

 うーん……、士傑を仲間に入れるのはアリだと思ったんだけどこの様子じゃ、仲間内でギクシャクしてあんまり良い結果に繋がらなさそう。クラスを理性的に引っぱれる飯田くんはモニターを見て何を思っているのか動かないし、八百万さんは峰田くん達の世話で忙しそう。

 

 こうなったら仕方がない、起点は俺が作るとしよう。幸い近くにみんな揃っている訳だしそこまで大声じゃなくてもいいでしょ。

 

 「雄英、しゅーごー!」

 

 こうやってわかりやすく呼びかければ、クラスのみんなは疑問に思うだろうけどしっかり集まってくれる。大声出したから他校の人もこっちに興味を示したけど、今は外に手を広げるより中を盤石にしなきゃ。

 

 「回精くん、どうかしたのか?君が集合をかけるなんて初めてだろう?」

 「うん、時間が、無いし、ちゃちゃっと、済ませる、ね。まず───」

 『ジリリリリリリリリリリリリ───』

 「〈キュゥー!?〉」

 

 しまった、どうやら他人の事を気にし過ぎた事と想像よりも十分と言うのは短いようで俺も出遅れてしまった。驚いてじたばたと暴れる夜桜の耳を塞ぎつつも後ろから抱っこする様に押さえつければ、おずおずとこちらに目を合わせてくる。目をしっかりと見ながらゆっくりと撫でてあげれば暴れる事も無くなった。

 

 耳障りとも言えるベルが鳴りやみ、放送から演習シナリオが告げられる。

 そのシナリオを百人の受験者は全員集中して静かに聞いている為か、その控室は緊張感に包まれている。

 

 放送の途中で控室の壁と天井が開いていく、もうスタートまでの猶予はあまりないと思っていいだろう。落ち着いた夜桜から手を放し全員の次の行動に備えていれば、開ききった部屋とほぼ同時に演習開始の掛け声と共にブザーが鳴り響き、受験者たちは一斉に走り出しそれにつられる様に集まっていたみんなも走り出す。

 

 こうなったら仕方がない、走りながらでもこういった状況でクラスを引率する人と判断力のある人に話を聞いてもらうしかない。

 

 「飯田、くん、八百万、さん!災害、救助!重要、な、役割、は!?」

 「基本的には障害物を取り除く力と怪我人をその場で診断する判断力と知識、それから要救助者を運ぶスピードだ!」

 「付け加えるのなら、司令塔ともいえる人も必要でしょう!全員がバラバラに動いては救助に時間がかかってしまいますわ!」

 「緑谷、くん!聞こえ、た!?今の、条件。個性を、加味して、チーム分け、出来る?」

 「えっ、うん!ちょっと考える時間を頂戴!」

 

 今の掛け声だけで全員がまだ何も役割を決めていない事に気が付いたのか、一部のクラスメイトは一瞬呼吸が止まっていた。でも驚いている暇はない、既に賽は投げられている。

 

 しかし、その中でもやはり自分で考えて行動できる人は居る訳で。

 

 「チッ!なんでついてくんだクソモブどもォ!」

 「「なんとなくゥ!!」」

 

 爆豪くんはやっぱりと言うべきか、全員が向かっている方向からは“あえて”外した方へと走っていく。更に普段から仲の良い切島くんに上鳴くんがかなり曖昧な理由だけど彼についていく。

 

 これってある意味カリスマの一種と言えるのかもしれない、傲岸不遜なその態度も実績と能力があれば、それは寧ろ折れない一本の柱の様に頼もしくヒーローに必要なリーダーシップともいえるだろう。

 

 ただ、リーダーシップと言うにはついてくる他人に口が悪すぎるのが難点だと思う。アレが無ければきっとクラスのまとめ役にだって夢じゃない。

 

 っと、爆豪くんの評価をしている場合じゃない。

 

 「夜桜、上鳴、くんの、言う事、聞いて、あげて」

 「〈キュゥ?〉」

 「地面の、中に、居る人、助けを、求める、人を、探して、あげて」

 「〈キュー……キャゥ!〉」

 「上鳴、くん!夜桜、お願い、ね!!」

 「お?お、おう!?」

 「救助、犬!犬じゃ、無いけど!!」

 「あっ、なるほどなー。回精、ありがとよー!!」

 

 夜桜は走って上鳴くんに追いつき、彼に付き従う様に隣を走る。上鳴くんも夜桜の理由が分かったからか、大声でお礼を言ってくれる。ただ、ぱっと判断して上鳴くんが一番手の空きそうだったからと言う理由がある分、罪悪感が……。

 

 「っ!泣き声、あっち!」

 「回精くん、他に人の声はするか!?」

 「しない!けど、大声、出して、走った、方が、いいかも!反応、が、あるかも、しれない!後、耳が、良い人、聞き耳、立てて!」

 「うん、わかった!おーい!誰かいませんかー!」

 「助けに来ました!誰かいらっしゃいませんか!」

 

 俺の言葉に全員が走る向きを俺の指さした方向へと固定し、先ほどから一定間隔ごとに大声を出し俺や障子くんが反応が無いか意識を集中させる。

 

 走っていると隣に飯田くんが速度を合わせて並んでくる、どうしてと思う前に走っているからか少し大声で現状ではヒーロー志望が一番やりたい───俺にとっては残酷ともいえる提案だった。

 

 「回精くん、今のところ俺は回精くんがみんなの指揮を執るべきだと───」

 「無理!話す、速度が、遅い、から、速度と、情報、が、大事な、指揮は、俺には、出来ない!」

 「すまない!そこまで考えが及んでいなかった、引き続き俺に任せてくれ!」

 

 飯田くんの提案に被せる様にその言葉を否定し、そのまま俺が出来ない理由を伝える。

 

 普通の人なら数秒で終わる言葉も、俺だと十数秒かかってしまうし、今みたいな状況でも言葉を選んで言わないと俺の口は上手く発音してくれないか、単語の途中で途切れる変な言葉になってしまう。

 

 普段の会話ならともかく、こういった緊急時には大きなデメリットになってしまう。何せさっきの泣き声もどんな声で泣いているか、何を言いながら泣いているか、と言った情報が抜けている。ただ、それを長々と伝えるのも憚られる一刻も争う状況、むやみやたらと話せない。

 

 「あっち、どんどん、近く、なってる!」

 「あぁ、子供の泣き声のようだが叫んでいる声が何かおかしい、それに助けを呼ぶ他に何かを言っているようだ」

 「お爺ちゃん、って、言ってた。多分、他に、居るの、かも」

 「そのお爺ちゃんの声は聞こえないのか?」

 「さっきから聞こえてくるのは子供の泣き声だけだ」

 「と言う事はお爺さんは声が出せない状況なのかもしれない!みんな急ぐぞ!」

 

 新たな要救助者がいるという情報に全員の走る速度が上がる、そうして走っていけば耳が良い人以外にも泣き声が聞こえて来たみたいでちらほらと反応する人も増えて来た。

 

 要救助者まであと少し───っ!

 

 「ちょ、回精何処行くの!?」

 「物が、壊れる、音!確認、してくる!」

 「待っ、って速!もうあんなところまで……」

 「みんなは先に要救助者のところへ行ってくれ!足の速い俺が一緒についていく!」

 

 爆発で発生した瓦礫や衝撃で沈降した足元の中でも走りやすいルートを全速力で走り抜ける。その途中で半壊したビルを見つけたので窓枠を使って一気に登りきる、少し前までなら背の低くめだったと思われるビルも、辺り一帯が瓦礫の山になった場所では背の高い建築物の仲間入りだ。

 

 寧ろ半分とは言え形を保っているのは奇跡に近い、ただこの建物からは人のニオイも音もしないから誰もいないのは試験だから楽な場所にはいない、と少し捻くれた考えが出てくるもそんなことより早くみんなと合流しないと、と言う考えで切り捨てる。

 

 辺り一帯は控室で見た光景の延長線上の様に一面瓦礫と崩れかけた建築物、もしもこれが試験会場ではなく人の往来があった場所ならば、怪我人や親しい人を探す叫び声に炎が何もかもを焼き焦がし、血のニオイが充満する惨状になっていただろう。

 

 「────!」

 

 緑谷くん達が爆豪くんを救う為に向かった神野区、そこでオールマイトが街を守る余裕もなくやっとの思いで勝てたヴィランが居たらしい。

 

 「────!───た──!?回───!」

 

 結局自分の事で忙しかったからあの時テレビは少ししか見れてなかったけど、テレビ越しでもその光景は覚えている。

 

 「回精──!返──して──!─精く─!」

 

 燃え盛る街、ヒーローたちが瓦礫を撤去しながら必死に人々を救っていく、けれども取りこぼしてしまう命。

 

 「回精くん!何があったんだ!?回精くん!」

 「あっ、ごめん、少し、考え、事、してた!」

 「そうか?だが幾ら喋るのが遅いからと言って説明不足で行くのは良くないぞ!」

 「うっ……、ごめん……」

 「まぁ良い、ともかく確認は出来たのか?」

 「うん、あっち、空き地に、なってる。誰かが、瓦礫を、撤去、した、と思う。それに、あの、方角、人が、集め、られてる。多分、怪我人、を、集めてる」

 「恐らくは要救助者に応急手当を行うスペースだろう、良い情報だ回精くん!みんなに伝える為にも俺は先に戻っているぞ!」

 

 そう言いつつ、間髪入れずに後ろを向き来た道を走っていく。俺もビルから飛び降りて地面を砕きつつも飯田くんの後を追いながらも少し考えてしまう。

 

 多分俺は、まだ後を引いているんだと思う。だから命が失われる光景を、そうなり得たかもしれない光景を見て足を止めて考えてしまったんだと思う。でも今は試験の真っ最中だし、似たような事態になってまた足を止める訳にもいかない。

 

 あんまりこういうのは性に合わないけど、とりあえず前に進んでそこから考えるのもいい。流石に文字通り、なんて事はしないけどそういう気持ちも今の俺には大事かもしれない。

 

 とりあえずまず先にすべきことは、変な道にそれて行ってる飯田くんの足止めと腕に抱えた子供にダメ出しされながらも必死に声をかけている緑谷くんに救助スペースの話をすることから始めよう。

 

 飯田くんも全速力じゃないみたいだし、全力で走れば追いつける。緑谷くんも身体強化しているけど、俺と飯田くんにはスピードで劣っているから余裕で追いつける。まずは飯田くんからだな、と脚に更に力を入れてスピードを上げて行った。




 面白いネタを思いついた!早速メモに書かなきゃ!

 メモを開いている間に忘れる。

 どうしてこのバグは修正されないんですか?


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