窓と扉に手をかける (もけ)
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プロローグ

にじファンで『インフィニット・ストラトス』と『ゼロの使い魔』で二次創作を書いていたのですが、こちらで新しく『魔法少女リリカルなのは』に挑戦しようと思います。
末永く気長にお付き合いしていただけると幸いです。


 公立の小学校から真っ直ぐ帰って来た、夕暮れにはまだ少し早い時間。

 

 お世話になっている孤児院の裏手、加減の利かない子供たちのうっかり被害から守られた野菜畑の前で日課の練習を始める。

 

「封時結界」

 

 言葉が発せられると同時に世界から音が失われる。

 

 魔法の練習をするためにまず最初に覚えたこの結界魔法は、結界内を隔絶された異世界の様な状態にするもので、この中でどんなに破壊活動をしたとしても現実世界に影響しないという何ともご都合主義な優れもの。

 

 準備ができた所で、今日の練習を始める。

 

「認識阻害結界」

 

 5mくらいのドーム状に展開されたそれを崩れないように慎重に縮小していき、自分の体の周りだけに纏うようにして維持する。

 

 この結界魔法は名前から分かる通り自分の存在を隠すもので、自分の発する音や体温、視線や気配といったものを他人に認知されにくくするものだ。

 

 暗殺者やストーカーに重宝されそうとか思わなくもない。

 

 その状態を30分ほど維持しながら走ったり浮遊魔法を使ったりして魔力消費や感触を確かめる。

 

 最後は誘導性のある光球の攻撃魔法『ディバインシューター』の操作を魔力が続く限り練習して終了。

 

 結界が解け、世界に音が戻ってくる。

 

 日常と非日常の切り替わるこの瞬間が意外と気に入っていたりする。

 

『お疲れさまでした。マスター』

 

「うん、お疲れさま。ニケ」

 

 裏庭に立つ人影は変わらず1人だけ。

 

 少年をマスターと呼ぶ女性の声はするが近くにその姿はない。

 

「結界を二重に維持しながら他の魔法を使うのは今の魔力量だとキツイな」

 

『YES。しかしマスターの魔力量は緩やかな増加傾向にあるので改善されていくと予測されます

 

「将来に期待って事か。結界自体に周辺の魔力を吸収する機能とか付加できたりしないかな」

 

『検討してみます』

 

「お願い」

 

 ニケの声は少年の胸元に下げられている、軍人が付けるような認識票から発せられている。

 

 そう、それはただの認識票ではなく魔法の行使を補助するアイテム『デバイス』。

 

 その中でも人工知能を搭載した『インテリジェントデバイス』と呼ばれるものだ。

 

 ギリシャ神話に登場する勝利の女神『ニケ』の名が付けられたデバイスは、赤子の僕が孤児院の前に捨てられていた際に唯一持たされていた物で、そのおかげで僕の名前が分かった。

 

 加藤(かとう)真(まこと)、AB型、8月10日生まれ

 

 そして現在9歳の小学3年生だ。

 

 ニケに教えてもらって練習している魔法は、そろそろ魔法歴4年。

 

 でも攻撃、防御、拘束、飛行は苦手で見かけ倒しにヘロヘロ飛行、その代わり結界は得意で回復は願望込みで多分そこそこ。

 

 多分の理由は、擦り傷や切り傷くらいしか治した事がないから。

 

 普通に暮らしてたら大怪我とか遭わないって。

 

 わざわざ回復魔法練習するために骨折するのとかは嫌だし。

 

 本末転倒にもほどがある。

 

 後、付け加えて、転移と探査はある事情から破格。

 

 というか、ニケ曰くこれは正確には魔法じゃないらしい。

 

 特殊能力なのかな。

 

 受け継がれた知識で言う所のレアスキルってやつだ。

 

 しかもなぜか「世界の扉(ワールドドア)」と「世界の窓(ワールドウィンドウ)」という恥ずかしい名前が付いている。

 

 中二病くさい。

 

 この中二病という表現もよく分からないが、子供特有の遊び、例えば幼稚園くらいの子供が戦隊ヒーローのマネをするみたいな妄想ごっこをもっと成長してからやっちゃうみたいな場合に使う表現らしい。

 

 『らしい』というのは、又聞きみたいな知識だから正確なのか自信がないからだ。

 

 秘密というわけでもないけど、実は僕には前世の記憶ってやつがある。

 

 珍しい事ではあるんだろうけど、テレビのびっくり人間みたいな番組でたまに同じ様な人がいるからそういうもんだと納得している。

 

 よく知らないけど仏教でも輪廻転生は基本みたいだし。

 

 むしろ問題なのは、前世の記憶がある事じゃなくてその内容。

 

 何て言ったらいいか迷うけど、よく出来た夢と言うか、前世、つまり今より過去の記憶なのになぜかその内容が未来予知に当たると言うか。

 

 記憶にある前の自分は、心臓の不治の病気でずっと病院暮らしをしていて20歳を迎える前に死んじゃったんだけど、ジャグリングや手品を趣味にしていて、加えて2つ上の兄ちゃんの影響でアニメや漫画、それに小説や二次創作をよく見ていた。

 

 その中で特に兄ちゃんに勧められた作品が、普通に暮らしていた小学生の女の子が偶然出会った魔法で世界を守ったり、友達になりたいと言いながら死なないのをいい事にトラウマ必至の超大型砲撃魔法をぶちかましたりするシュールギャグの様な面もある『魔法少女リリカルなのは』。

 

 主人公が小学3年生の『無印』と『A's』、そこからいきなり10年飛んで19歳になった『StrikerS』と続いていく人気の作品。

 

 その作品の舞台の一つが主人公の住む海鳴市。

 

 そう今僕が住んでいるこの街だ。

 

 探してみたら主人公の親が経営する喫茶店翠屋や、通っていた私立聖祥大附属小学校もあった。

 

 そして何よりもファンタジーな空想世界にしかないはずの魔法の存在。

 

 僕にとって運が良かったのは、物心ついた頃の自分が前世の記憶や魔法、ニケの事を周りに話さなかったことだ。

 

 まぁもし話していたとしても、話すだけなら子供の妄想として片付けられていただろうとは思うけど。

 

 もちろん今はこの世界に魔法がないこと、それに地球出身でも出来ればその存在は隠しておいた方がいいことだと分かっている。

 

 魔法世界において立法権、裁判権、警察権を合わせた地球の価値観でいったら大問題な危険を孕んだ組織『時空管理局』が管理外世界、魔法の存在しない世界での魔法使用を禁止してる事を抜きにしても、いきなり魔法なんて使ったらどんな組織に捕まるか分かったものじゃない。

 

 第二次世界大戦の時は軍隊で真面目に超能力の研究してたらしいし、そこまでじゃないにしても何だかんだと研究対象にされるのは確実じゃないかなと思う。

 

 話を戻そう。

 

 集めた情報と記憶を照らし合わせると、かなりの点でこの世界と前世での『魔法少女リリカルなのは』の世界は似ている。

 

 『世界の窓』で調べたところ、高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずか、八神はやても住んでいるようだし。

 

 ちなみに『世界の窓』は、魔力を使ってないから正確には魔法じゃないんだけど、分かり易く言うとすっごい探査魔法。

 

 個人から特定の物まで思い描くだけでその場所が分かるもので、詳しく知っていればいるほど精度が上がって、反面知らないものは曖昧になる。

 

 その基準は知識だったり映像だったり自分との距離だったり他にも色々なんだけど、実際に彼女たちを探した時はアニメでの映像や声を想像したら探知はできたけど海鳴市の何丁目辺りにいるか分かるくらいの精度だった。

 

 多分、現実と二次元は違うという事なんだと思う。

 

 そう、この二次元との違いというやつがまた問題なんだ。

 

 仮にこの世界を『魔法少女リリカルなのは』の世界だとすると、僕は限られた未来ではあるけど、いくつかの未来を知っている状態にある。

 

 でもそれは『かもしれない』でしかない。

 

 何かの要因で未来が変わるかもしれない。

 

 例えば、ユーノ・スクライアが高町なのはに助けられる前に死んでしまい、ジェエルシードが各地で暴走。

 

 フェイト・テスタロッサが奮闘するも返り討ちに遭い、見かねたプレシア・テスタロッサが海鳴市ごと次元震を起こし地球消滅。

 

 とか、あるかもしれない。

 

 ネガティブな妄想だけど、うっかりありそうで怖い。

 

 確認する術がない以上、どうしたって未来は不確定だからね。

 

 だから僕にどんな知識があろうと実際やれる事は至って普通の事しかない。

 

 自分の中で優先順位を決めて、目標を設定。

 

 それに向けて準備をしておくだけ。

 

 まぁ、当たり前の事だね。

 

 とりあえず、今のところ魔法やレアスキルを活かした生活を目標にしてる。

 

 探査の『世界の窓』を使って探偵とか、転移の『世界の扉』を使って手品師とか。

 

 中学出たら働くつもりだから高学歴なのは無理というわけで、今の所この2つが候補になってる。

 

 ズルだろうと何だろうと生活できればいいのですよ。

 

 ちなみに努力目標ではあるけど、人助けはできる範囲でしたいと思ってる。

 

 孤児院出身者としては、近い境遇の人には思い入れがあるので、それ関係。

 

 まぁ努力目標だからどうなるかは分からないけど、とりあえずジュエルシードは横から掻っ攫う気満々です。

 

 まぁ、降ってくればだけど。

 

 それまでは地道に魔法の練習と…………奥の手の用意かな。

 

 




1行ずつ空いているのは、僕が個人的にその方が読みやすいと思っているからなので変更はなしの方向で失礼します。

行が詰まってるの、縦書きなら平気なんですが横書きはどうにも慣れなくて……。

ちなみに原作開始は大分先です。


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海沿いの大きな公園にて

原作の公園のサイズが分かりませんが、海沿いに大きな公園があるってことでここは一つ……。


 学校が休みの土曜日と日曜日、僕は趣味と実益を兼ねた活動をしている。

 

 人の集まる大きな公園での大道芸だ。

 

 輪っかでのジャグリング、ディアボロ、シガーボックス、シャボン玉などなど、小学生の大道芸は珍しいから集客も良くて結構な額のおひねりがもらえる。

 

 具体的な数字をあげるのは品がないから、多い日で万を越える事もあるとだけ言っておこうかな。

 

 ちなみに、この時魔法の修行も兼ねてこっそり身体強化の魔法を使ってるんだけど、苦手なためあんまり効果がなく、でもそれがかえって常識の範囲内な動きになってて丁度良かったりする。

 

 うん、嬉しいやら悲しいやら複雑だ。

 

 それで、その稼いだお金を本当なら園長先生に渡して孤児院のために使って欲しいんだけど、園長先生は『自分のために使いなさい』と子供からお金を受け取ってくれない人なので、代わりにみんなにオヤツを買っていったり、欲しがってる物をプレゼントしたりしている。

 

 孤児というだけでも負い目があるんだ。

 

 せめて普通に欲しい物を欲しいと言える環境でいたいし、他のみんなにもいて欲しいと思う。

 

 ちなみに僕はお金を稼ぐ手段があってそういうサプライズの役回りをしてるけど、もちろん他のみんなも各自で孤児院の生活の助けになる事をしている。

 

 中学生陣は特別に許された先でアルバイトをさせてもらい、その中から出し合って子供全員が会議を開いて使い道を決める子供基金を作ったり、小学生以下は炊事に洗濯、掃除にお使い、野菜畑の世話なんかの園長先生の手伝いをしている。

 

 こうやってみんなが協力して家族として生活するのがうちの孤児院の流儀なのだ。

 

 と、そんなわけで今日も午前中から人の集まる海沿いの大きな公園に来ていて、既に1回パフォーマンスを終えた所なんだけど、人だかりが散っていく中、小学校に上がるかどうかくらいの女の子が1人でポツンといるのが目に留まった。

 

 最初は迷子なのかなと思って困っているようなら声をかけようと目で追っていると、近くのベンチに座ってお弁当を広げ始めた。

 

 どうやら迷子の心配はないみたいだけど、1人でお弁当を食べる姿が寂しそうに見えて、何となく放っておけなくなってしまった。

 

 これも孤児院での生活のせいかな。

 

「こんにちは」

 

 思い立ったが即行動。

 

 近付いて正面から声をかける。

 

「っ!? こ、こんにちは」

 

 女の子は話しかけられたのが余程予想外だったのかびっくりした顔をしている。

 

「初めまして、僕は加藤真。さっき僕のパフォーマンス見てくれてたよね。ありがとう」

 

 そう言って握手を求めて手を出すと、おっかなびっくりといった感じで握り返して

 

「た、高町なのはです。凄く楽しかったです」

 

 と、言ってくれた。

 

 うん、しっかりした良い子だな。

 

 決して褒めてくれたからそう思ったわけじゃないので勘違いしないように。

 

「良かったらお昼一緒に食べてもいいかな」

 

「あっ、えっと、ど、どうぞ」

 

 体をずらして場所を空けてくれたので隣に座り自分のお弁当を広げる。

 

 中学1年生、4つ上の律姉のお手製サンドイッチ弁当だ。

 

 玉子サンドを手に取り一口。

 

 うん、美味しい。

 

 なのはちゃんのお弁当を見てみると、俵型の小ぶりなオニギリにから揚げ、ソースのかかった温野菜にフライドポテト、玉子焼きと並んでいる。

 

 色味も綺麗で手の込んだお弁当みたいだ。

 

「美味しそうなお弁当だね」

 

 見たまま褒めると、なぜかビクッとした後

 

「お母さんが作ってくれたの」

 

 と、俯き加減でボソボソとお返事。

 

 手の込んだお弁当なのに、その作ってくれたお母さんがいなくて、この反応。

 

 遊びに行く予定だったのに急用でも出来たのかな。

 

「お母さん、忙しいの?」

 

 そう聞くとさっきよりも大きく体を震わせ、たっぷり10秒ほど沈黙してから

 

「お父さん怪我で入院してて、お店、お母さんだけで、お兄ちゃんとお姉ちゃんが手伝ってて、みんな忙しくて、でも私、まだ何もお手伝い出来なくて」

 

 泣きそうな顔で事情を教えてくれた。

 

 あ~~~~、うん、駄目だ。

 

 こういう子は放っておけない。

 

 みんな忙しくて、自分だけ除け者で、寂しさから逃れるためだとしても、家族のために何かしたいと言うなら応援してあげよう。

 

「なのはちゃん、お店は何やってるのかな」

 

「え? えっと、喫茶店です。ケーキのお持ち帰りも」

 

 それは好都合だ。

 

 呉服屋とかじゃなくて良かった。

 

 まぁ、それならそれでやりようはあるけど。

 

 さておき、

 

「そっか、じゃあなのはちゃん、お店の売り上げに貢献したくないかい」

 

「売り上げに、貢献?」

 

 貢献って表現がまだ分からないのかな。

 

「そう、お店の事は手伝えないかもしれないけど、お父さんが入院中にお店が潰れないようにお客さをたくさん呼ぶお手伝いならなのはちゃんにも出来るかもしれないよ」

 

 そう提案すると

 

「やりますっ!! やらせくださいっ!!」

 

「うおっ」

 

 身を乗り出して凄い勢いで食い付いてきた。

 

「じゃ、じゃあ、まずは僕のパフォーマンスを手伝ってもらうから、ご飯食べ終わったら少し練習しようか」

 

「はいっ!!」

 

 元気いっぱいのお返事、大変よろしい。

 

 それが終わったら律姉に確認取って、それからお店か家にお邪魔させてもらってお話だな。

 

 やっぱり閉店後がいいよね。

 

 喫茶店て何時に閉まるか分からないけど、明日の仕込みとかもあるだろうし、まぁこっちが合わせればいいか。

 

 眠くなる前だといいな。

 

 9歳の子供らしく21時には眠くなるんだよね。

 

 夜更かしは、身長伸ばしたいからしませんよ。

 

 将来的に175くらい欲しい。

 

 そんな益体もない事に思考が流れていると

 

「真さん、早く食べて練習しようなの」

 

「おぉ、ごめんごめん」

 

 やる気満々のなのはちゃんに怒られてしまった。

 

 まぁ、元気になったみたいで良かったよ。

 




小学校入学前のなのはとの遭遇でした。

あと3話くらい続きます。


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孤児院にて

名前考えるの苦手なんですが、孤児院という設定上多数のオリキャラを出さなくちゃいけなくて考えるの大変でした。とりあえず7人考えてある。全員出せるかは謎……。


「……いっぱいなの」

 

「なのはちゃんが手伝ってくれたおかげだよ」

 

「そ、そんな事ないです。真さんが上手だから」

 

「ううん、さっきやった時より断然多いもん。なのはちゃんが集めてくれたからだよ」

 

「そ、それなら、嬉しい、です」

 

 真っ赤になって照れるなのはちゃん。

 

 パフォーマンスが終わり、おひねりを集めて回ったなのはちゃんの持った帽子の中には午前中の倍近い額の金額が集まっていた。

 

 ちなみになのはちゃんにはおひねり回収係以外にもパフォーマンス中の道具の投げ渡しも手伝ってもらった。

 

 運動は苦手だと言ってたけど、空間の把握が得意なのか投げ渡しはちょっと練習したら問題なく出来るようになった。

 

 いい助手を手に入れたかもしれない。

 

「いつもなら後1、2回してくとこだけど、今日は色々やる事もあるから移動するよ。なのはちゃん」

 

「は、はい」

 

 荷物を片付けて、一旦孤児院に引き返す。

 

 道すがら、なのはちゃんの事やお店の話をする。

 

「へぇ~~、なのはちゃん6歳なんだ。じゃあ来年は小学校だね ―――――― そういえばお店はどの辺にあるの? ―――――― ふぅ~~ん、名前は? ―――――― 翠屋? ―――――― ………… ―――――― えっと、確かなのはちゃんの名字って高町って言ってたよね? ―――――― そっか、そうだよね。ごめんごめん」

 

 『高町なのは』に『翠屋』か~~~~、うん、『魔法少女リリカルなのは』の主人公じゃんっ!!!!

 

 いや、全力でボケじゃないです。

 

 アニメの絵と現実の生身だと違い過ぎるって。

 

 しかも私服だし、まだ6歳だし。

 

 これだけ違えば『世界の窓』が上手く反応しないのも納得だよ。

 

 あ~~、こんな出会い方は予想外過ぎる。

 

 うろ覚えだけど、なのはが1人でたそがれてる公園って、もっと近所の小さい公園じゃなかったっけ? 

 

 自分で言ってた事だけど、確かに未来は不確定だわ。

 

 まぁ、かと言ってこのままサヨナラなんて出来るわけないし、するつもりもないけど、どうするかね。

 

 いっそ、魔法について先に話しちゃうのもアリかも。

 

 そこは、うん、まぁ、上手くいけるかな。

 

 なのはちゃんとの会話は続けながら、ポーカーフェイスで大混乱を落ち着かせているうちに孤児院に到着。

 

「さぁ、なのはちゃん。ようこそ、我が家へ」

 

「え、ここって……」

 

「そ、孤児院。みんないるかもだけど、気にせず入って」

 

「は、はい。お邪魔します」

 

 微妙な反応のなのはちゃん。

 

 まぁ、自宅に招待していきなり孤児院だったらそりゃあびっくりするよね。

 

 本人は気にしてないんだけど。

 

 なのはちゃんを連れてとりあえず自分の部屋に通す。

 

「飲み物持ってくるついでに少し話してくるからちょっと待っててね」

 

「えっと、お構いなく?」

 

「うん、合ってる合ってる」

 

 私立の小学校に通う事になるだけあって礼儀正しい子だ。

 

 本人の気質と親の教育がいいんだな。

 

 感心しながら2つ隣りの律姉の部屋をノックする。

 

「律姉いる?」

 

「真?入っていいよ」

 

 部屋に入ると、律姉は机に向かっていた。

 

 勉強でもしてたのかな。

 

 律姉は中学1年生の13歳、O型、細身でそこそこ身長があり、髪は後ろで1つにまとめている。

 

 みんなのお姉さん的存在で、真面目で厳しい委員長タイプだけど、その裏にちゃんと優しさがあるのでみんなに好かれている。

 

「どうしたのこんな時間に。いつもならまだ公園だよね?」

 

「うん、ちょっとお節介焼きたい子がいてさ」

 

「女の子?」

 

「どういう意図で聞いてるか知らないけど、うん、高町なのはちゃん、6歳」

 

「迷子だ」

 

「ハズレ、それよりも厄介。それで律姉に協力して欲しい事があるんだけど」

 

 そこで律姉の顔が悪戯を思い付いた顔になる。

 

「私、美味しいケーキが食べたいな~~」

 

「それなら問題なし。てか、問題がそれ」

 

 後でお店に行ってみるつもりだしお土産に丁度いい。

 

「よく分かんないけど、とりあえず話してみて」

 

「うん、なのはちゃんの家が翠屋っていう喫茶店をしてるんだけど、お父さんが入院しちゃってね。パティシエのお母さん、高校生のお兄さん、中学生のお姉さんが何とか切り盛りしてるらしいんだ。で、まだお手伝いできないなのはちゃんは1人ぼっちというわけ」

 

「ふんふん、それで?」

 

「なのはちゃんは何とか家族の役に立ちたいって言ってて、だから応援してあげようと思ってさ。僕のパフォーマンスに混ぜてお店の広報活動をさせてあげようと思うんだ」

 

 そのために今日はとりあえず体験してもらったのだ。

 

「うん、いいんじゃない?でもそれだと私関係なくない?」

 

「うん、律姉に頼みたいのはその先の話で、もし広報活動が上手くいけば今よりも忙しくなるわけで、それは嬉しい悲鳴なんだろうけど、負担が増えるのも確実で、まだ先方と話してはないんだけど、こっちからの提案として臨時のアルバイトを雇ってもえないかと考えてるんだ」

 

「平日なら別だけど、私は土日は無理だよ?」

 

 律姉は中学に上がってから、知り合いの本屋さんで土日アルバイトさせてもらっている。

 

「うん、知ってる。だから友達に暇してて喫茶店で短期のアルバイトしてみたい子がいないか聞いてみてもらえないかと思ってさ」

 

「あぁ、なるほどね。うん、いいよ。聞いてみる。すぐ?」

 

「うん、できたら5時か6時までに」

 

「了解」

 

「ありがと、律姉。待遇とか、そもそも雇えるかは先方に聞いてみないと分からないけど、こっちは提案する側だからね。少しでも情報まとめておきたいんだ」

 

「じゃあ、返信まとめたら送っとくね」

 

「よろしく」

 

 うちの孤児院では小学生以上はみんな携帯を持っている。

 

「そっちもケーキよろしくね」

 

「うん、後で行ってくるよ」

 

 これでOKかな。

 

 一仕事終えた気分でキッチンに向かい、ジュースを持って部屋に戻る。

 

「お待たせ」

 

 声をかけながら扉を開けると、輪っかのジャグリングをしていたなのはちゃんは驚いて落としてしまった。

 

 3個か、いきなりで上手いもんだな。

 

 

「ごめんさない。勝手に」

 

「いいよ、気にしないで。興味あるの?」

 

「えっと、はい、楽しいです」

 

「そっか」

 

 興味を持つのはいい事だ。

 

 ジュースで喉を潤してから本題に移る。

 

「それでは、なのはちゃん。今日の夜にお母さんとお話させてもらおうと思ってるんだけど」

 

「お母さんとお話するんですかっ!?」

 

 なぜにそこで驚くかな。

 

 O・Ha・Na・Shiじゃないよ?

 

「うん、そりゃあね。なのはちゃんがお店をアピールする手段とか決めないといけないからね」

 

「そ、そうですか」

 

 何か引っかかる感じだな。

 

「何か気になるの?」

 

「いえ、あの、迷惑にならないかなって」

 

「お母さんに?」

 

「……はい」

 

 何て言うか、この時点でもうかなりネガティブになっちゃてるんだな。

 

「大丈夫だよ。なのはちゃんが家族のために何かしたいって言ったら喜んでくれると思うよ」

 

「そうかな」

 

「そうだよ」

 

「そうだといいな」

 

 少しは吹っ切れたみたい……かな?

 

 とりあえず進めよう。

 

「でね、今日やったパフォーマンスの最後にチラシを配ったり、宣伝タイムを挟もうと思ってるんだけど、とりあえず帰るまでまだ時間があるから、これからなのはちゃんにはチラシの原案を作ってもらおうと思います」

 

「は、はい。頑張ります」

 

「じゃあ、とりあえずノートに何個か適当に書いてみようか」

 

 しかし、これがいきなり難航した。

 

 なのはちゃんはこういう感性が潔いというか、勇ましいというか、とりあえず女の子らしくないのだ。

 

 シンプルイズベストみたいな。

 

 分かり易いけど、ケーキが売りの喫茶店がこれではいかんだろうという事で、助っ人を頼む事にした。

 

「えっと、佐々木マトです。初めまして、なのはちゃん」

 

 読書中だった小学5年生で2個上のマト姉を部屋から拉致ってきました。

 

 マト姉は引っ込み思案というわけではないんだけど自己主張が弱く大人しい感じで周りに置いてかれるタイプだけど、そっと手を差し伸べてくれたり気付いたら手伝ってくれてたりとそよ風の様な優しさを持った人だ。

 

 B型、身長も体型も平均くらいで、最近胸が成長し出したらしい。

 

 髪は三つ編みにしてる事が多いけど、気分で日によって変わる。

 

 小物とか女の子らしい可愛い物が好きで、律姉曰くセンスがいいそうだ。

 

 つまり助っ人には最適。

 

 最初こそ緊張してたなのはちゃんだけど、マト姉の柔らかい雰囲気にそれもすぐ解け、男の入れないキャッキャウフフな女の子特有の雰囲気を作り出してチラシ作りをしていた。

 

 暇だった僕は後をマト姉に任せ、なのはちゃんを加えたパフォーマンスの構想に取りかかる。

 

 せっかく助手がいるんだから1人じゃ出来ない奴がやりたいよね。

 

 それで見栄えがして、なのはちゃんが目立てるもの。

 

 うん、こんな感じかな。

 

 よし、設計図を書いてっと。

 

 携帯を取り出し、

 

「あ、京兄? ―――――― 幸兄もいる? ―――――― 明日時間あるかな? ―――――― ちょっと個人的なアルバイトお願いしたいんだけど ―――――― うん、そう ―――――― OK、ありがと。夜にでもまた詳しい話するよ ―――――― うん、それじゃあ」

 

 当日運ぶのは、高町家のお兄様にお願いしよう。

 

 ところで、ここが『魔法少女リリカルなのは』に類似した世界なのは分かってるけど、恭也さんはどん性格なんだろう。

 

 バトルマニアとか、重度のシスコンとかのネタがあったと思うけど、原作は違ったような……。

 

 まぁ、一人の人間として、なるべく変な先入観を持たないように気を付けよう。

 

 ここは現実世界なんだから。

 

 でも、永全不動八門一派と御神真刀流小太刀二刀術の使い手なのかどうかは気になるところだな。

 

 僕自身が稽古つけてもらいたいとかは全く微塵も思わないけど、もしなのはちゃんが魔導師になることになったら、その時は護身のために基本的な事だけでも教えてもらえるようにお願いしたいからね。

 

 原作通りならなのはちゃんは砲撃魔導師。

 

 でも近付かれた時の用心も大事だと思うんだ。

 

 素人の自己流じゃ限界があるだろうし。

 

 まぁ、その辺の事はなのはちゃんがもう少し大きくなってからだけどね。

 

 




自分で想像してみてもアニメの絵と実写はなかなか一致しないだろうと思っての展開だったのですが、先日『タイガー&バニー』の舞台のライブビューイングを見に行った際にこの考えは変わりました。ネーサン、マジでネーサンだった。他の出演者も演出も凄くて、とりあえずDVDは買います。


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高町家にて

 17時の時点で1度翠屋にケーキを買いに行って、その際にアポイントメントを取った。

 

 そして20時、高町家のリビング。

 

 テーブルを囲むのは高町家の面々。

 

 なぜかニコニコしてる母の桃子さん、ピリピリした空気で眼光鋭い兄の恭也さん、それに苦笑しながらも興味深そうな視線を僕に向ける姉の美由希さん、それに不安そうななのはちゃんと僕だ。

 

 出された紅茶で舌を湿らせてから話を始める。

 

「それでは改めて自己紹介を。加藤真です。家は孤児院で上に4人、下に3人の真ん中で、海鳴市立第一小学校3年生です。趣味は実益も兼ねたジャグリングと手品」

 

 孤児院の件で相手方の表情に反応が出る。

 

 まぁ事実として両親がいなく社会的にもハンデだけど、僕としては隠す事でもない。

 

 壁や偏見は困るけど、同情や気遣いなら有り難くいただく。

 

 実際問題として寄付や援助なしに立ち行かない問題なわけだし。

 

 お土産にケーキとか大歓迎ですよ?

 

「土日は大きな公園で大道芸を披露して稼いでるんですけど、そこで今日なのはちゃんに知り合って、午後のパフォーマンスに協力してもらったんですよ」

 

「まぁ♪」

 

「凄いじゃない、なのは」

 

「そ、そんな事ないよ。ちょっとお手伝いしただけだし」

 

 喜ぶ桃子さんと美由希さんに慌てて照れるなのはちゃん。

 

「それで仲良くなって聞いてみれば、お父さんが入院してしまって、お店の事で家族みんなが大変なのに自分は何も出来ないと酷く落ち込んでまして」

 

「ま、真さんっ!?」

 

 さっきとは違った意味で慌てるなのはちゃん。

 

「なのはちゃん、我慢するのもいいけど、言わなくちゃいけない事も家族にはあるんだよ」

 

 前世の記憶が頭を過ぎる。

 

 いつ死ぬかもしれない不安を抱えた自分とそれを支える家族。

 

 色々あったけど、結果だけで見ればやっぱり本音でぶつかるのが正解だった。

 

「まぁ、それは後で家族だけの時にやってもらうとして」

 

 高町家の視線がなのはちゃんに集まり、なのはちゃんも観念した表情になった。

 

「なのはちゃん、ノート出してくれる?」

 

 なのはちゃんがマト姉と書いたチラシの原案が数点書かれたノートを広げる。

 

「これは?」

 

 代表して桃子さんが聞いてくる。

 

「なのはちゃんが考えた翠屋のチラシです。これを僕となのはちゃんのパフォーマンス後に配ったり、パフォーマンス中に宣伝を入れたりしようと考えてます」

 

 3人がノートを見終わるのを待ってから

 

「それで質問とか提案になるんですが、」

 

 桃子さんを正面から見て

 

「そもそもの話になるんですが、喫茶店の売り上げはどうですか?宣伝は必要ですか?」

 

「ちょっと黒字ってくらいかしらね。だから宣伝してくれるなら有り難いわ」

 

 子供の前では答え難い質問だろうと思ってたら、即答された。

 

 何となく負けた気分だ。

 

 まぁ、答えてもらわないと始まらないわけだからいいんだけど。

 

「実際にチラシを配るとして、持ち帰りの看板商品を割引するとか、そういう割引券の要素を入れるのはアリですか?」

 

「いいかもしれないけど少し考えてみたいし、とりあえず保留でいいかしら」

 

 仕入とか作る量とかあるんだろう。

 

 よどみない返答だけど、さすがに内容は慎重だった。

 

「これはさらに余計なお世話かもしれないですけど、お店と看病、慣れない仕事とみなさんお疲れでしょうし、なのはちゃんも1人で寂しそうですし、良かったら中学生の女の子を臨時の短期バイトで雇う気はありませんか?姉の伝手で何人かやってみたいという人がいるんですが」

 

 3人ほど色よい返事が返ってきている。

 

「それは……後でみんなで話し合ってみるわ」

 

 先ほどまでとは違い、答えに詰まる。

 

 やっぱり母親としてなのはちゃんを放っておいてる現状に思う所があるみたいだな。

 

 前世の知識でもそうだったけど、しっかりと愛されてるんだよね。

 

「最後はかなり趣味に走った内容なんですけど、夜に予約制でマジックショーとかやってみませんか?もちろん、なのはちゃんにも協力してもらって」

 

「わ、私もっ!?」

 

 驚いて声を上げるなのはちゃん。

 

「それは素敵ね♪」

 

「うん、私もいいと思う」

 

「お母さんっ、お姉ちゃんまでっ」

 

 少し暗くなっていた表情が一気に明るくなる桃子さんと美由希さん。

 

 この家の女性陣はなのはちゃんをイジルのが好きみたいだな。

 

「じゃあ、これについては前向きに検討するということで」

 

 それに僕も乗っかると、なのはちゃんが口をとがらせ

 

「真さんて実は意地悪なの」

 

 言い掛かりです。

 

 目指せ看板娘だよ。

 

 そして将来的にはチャイナ服とか着て美人アシスタントとかどうだろう。

 

 なんて事を企んでいると、ずっと黙っている恭也さんが気になったので

 

「とりあえず公園の方の話に戻りますけど、なのはちゃんには脱出系のパフォーマンスをしてもらおうと考えてるんですけど、その際、恭也さんに道具を運んでもらいたいんですが」

 

 話を振ってみると、ようやくといった感じで重い口を開いて

 

「加藤真君と言ったね」

 

「はい」

 

「なのはの事はどう思ってるんだい?」

 

「はい?」

 

 いきなりシスコン発言してきた。

 

「恭ちゃん、何言ってるのっ!?」

 

「だってな、美由希。おかしいだろ。今日たまたま会っただけなのにこんなに親切にしてくれるなんて。これはなのはを狙ってるとしか」

 

「お、お兄ちゃんっ」

 

「止めるな、なのは。父さんが倒れている以上、俺は長男としてなのはの相手を見定める義務があってだな」

 

 暴走する恭也さんに慌てる美由希さんとなのはちゃん。

 

 僕も呆気にとられたけど、よく見ると恭也さんの口元が悪戯に成功した子供の様に上がっているみたいだった。

 

 『これは冗談でしょうか?』という意味を込めて桃子さんに目を向けると

 

「どうなの?真君」

 

 満面の笑みで質問を返された。

 

 分かってて乗っかってますね?

 

 いい性格してんな、この人。

 

 というか、いくら前世の記憶と生い立ちのせいで周りより精神年齢高いと言ってもまだ僕9歳ですから。

 

 正直恋愛とかよく分かりませんよ。

 

 それにこのチビッ子、もといランドセルもまだな幼女相手にどうしろって言うんですか。

 

「そんな気はありませんし、ただのお節介です。孤児院で生活してると1人ぼっちで寂しがってるのに敏感になるんですよ。だから放っておけなくてですね」

 

 軽く答えたつもりだったのに、最初の布石が効いてるのか、一瞬で浮ついた空気が凍りついた。

 

 そして深々と頭を下げる恭也さん。

 

「すまなかった」

 

「いえ、お構いなく」

 

 誠実な恭也さんの態度にちょっと後ろめたい気分になり、何でもない様に軽く返す。

 

 せっかくの明るい空気を……冗談で返せばよかった。

 

 失敗したな。

 

「それで、どうですか」

 

「うむ、いくらでも協力しよう」

 

「ありがとうございます」

 

 落ち込んでても仕方ない。

 

 気分を切り替えてまとめよう。

 

「じゃあ、後はご家族でよく話し合ってみてください。別に全部なかった事になっても構いませんので。なのはちゃん、遠慮しないで本当の気持ちを言った方がいいよ」

 

「…………うん、頑張ってみるの」

 

 これもいわゆる原作ブレイクというやつになるのかな?

 

 まぁ後悔も反省もしないけど。

 

 この言い回しちょっと好きだな。

 

「これ僕の携帯番号とメールアドレス、話が決まったら連絡して」

 

 前に友達とゲームセンターで遊びで作った名刺を渡す。

 

「ありがとなの」

 

「明日は今日と違う場所でパフォーマンスするから、もし手伝ってくれるならその時も連絡してね」

 

「いいの?」

 

「何が?」

 

「お手伝いして」

 

「もちろんだよ。なのはちゃんが手伝ってくれた方がお客さん受けいいからね。お家の事がなくても助手として今後も手伝ってもらいたいと思ってるんだけど」

 

 言い終わっても固まって反応のないなのはちゃん。

 

 不審に思って声をかけようと思ったら、その頬に一筋の涙が流れる。

 

「な、なのはちゃんっ!?」

 

「あ、あれ、おかしいな。嬉しいはずなのに涙が勝手に」

 

「なのは」

 

「お母さん…………う、うわぁぁぁぁぁぁん」

 

 桃子さんに抱かれると関を切ったように号泣するなのはちゃん。

 

「えっと……。」

 

 よ、よく分からないけど、感動のシーンなのか?

 

 嬉しいって言ってたからネガティブな涙ではないだろうし、恭也さんと美由希さんも何か優しい表情してるから大丈夫か……な?

 

 明らかに部外者の僕が空気だけど、さっき失敗したから今回は空気読もう。

 

 でもそろそろ帰って寝たいんだけど。

 

 




うちの恭也さんは過度なバトルマニアでも重度のシスコンでもないのですよ。
ベタなギャグは回避しました。


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なのはパフォーマンスデビュー

脱出マジック、転移のレアスキルでズルしようかと思ってたんですが、なのはに頑張ってもらうことにしました。
その方がなのはにとってもいいだろうし……。


 高町家にお邪魔した翌日、ちょっと目を腫らしたなのはちゃんと一緒に隣町まで遠征してパフォーマンスをしてきた。

 

 お弁当を食べてる時に昨夜の話を聞いてみると、

 

「なのはちゃん、今日はお目めがウサギさんだね」

 

「えっ?」

 

「真っ赤ってこと」

 

「あ……」

 

「ちゃんとお話しはできた?」

 

「えっと、はい。お母さんたち、いっぱい泣いて困らせちゃったけど、ちゃんとお話しできました」

 

「そう、良かったね」

 

「うん♪」

 

 とのこと。

 

 せっかくの家族なんだから多少ぶつかったって本音で接する方がいいよね。

 

 もちろん親しき仲にも礼儀ありだし、むやみに傷つけていいわけじゃないけど、変に我慢して一人でこっそり泣くくらいならちょっとくらい我儘になってもいいと思うんだ。

 

 まぁ何事も加減が大事ということで。

 

 なのはちゃんはその加減が苦手そうだけど、改善されていく事を祈ろう。

 

 ちなみに、午前1回、午後3回で一万円ちょっと集まったおひねりをなのはちゃんと分けようとしたら受け取れないと拒否されてしまったので、その分帰りに翠屋でケーキを買って帰った。

 

 直接的な売り上げ貢献だし、うちのお土産にもなるし、これはこれでOKかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の月曜日。

 

 学校が終わってから真っ直ぐ高町家に行き、なのはちゃんを連れて孤児院へ。

 

 日曜日に京兄と幸兄に作ってもらった大道具を前にして、

 

「では、なのはちゃん。これから脱出マジックの練習に入ります」

 

「はいっ!!」

 

 気合十分のなのはちゃん。

 

 大道具は、学校の教室にある掃除用具入れのようなサイズの木製のロッカーと、1mくらいの階段。

 

 もちろんただのロッカーと階段じゃない。

 

 ロッカーの扉は、田んぼの田の字を想像してもらって、下半分、それをさらに縦に半分にした部分が押し入れるようになっていて、その継ぎ目をカモフラージュするためにペンキで白黒チェックに塗られている。

 

 階段も同様に白黒チェックで、壁面がスライドして中に入れるようになっている。

 

 これに加えて、小道具としてカーテンの付いた直径1.5mくらいのフラフープ。

 

「まずは簡単に流れの説明ね。僕がカーテンでなのはちゃんを隠すから、なのはちゃんはギャラリーにバレないようにロッカーのこの部分から中のエプロンを取って、すぐさま階段のここをスライドさせて中に入って隠れる。そこで狭いだろうけどエプロンを装着。そうしたら僕がカーテンを落として、ロッカーの中にもいない事をギャラリーにアピールして、それからもう一度カーテンを持ち上げるから、そしたらまた階段からカーテンに戻ってもらうと。分かった?」

 

「た、多分……」

 

 随分と自信なさげな反応ですね。

 

「難しかった?」

 

「えっと、分かんないんじゃなくて、私、あんまり運動とか得意じゃないからちょっと心配で……」

 

 しょんぼりしてしまったなのはちゃん。

 

 うん、ここは年長者らしく励ましてあげないとな。

 

「大丈夫だよ。なのはちゃん」

 

 肩に手を置いて笑顔を向ける。

 

 それに釣られてなのはちゃんも顔を上げ、安心したような表情になり

 

「やると決めたからには出来るまで練習させるから♪」

 

 そのままピシっと固まった。

 

「土曜日にお披露目予定だから、それまで毎日しっかり練習しようね」

 

「が、頑張るの……」

 

 僕のサムズアップに、引き攣った笑みを返すなのはちゃん。

 

 うん、とりあえず笑顔になったんだからフォロー成功だな。

 

 なんて、もちろんわざとですよ?

 

 お客さんに見てもらってお金をもらうわけだからその辺の妥協はできません。

 

 それにこういう姿勢はパティシエの桃子さんにも通じるものだから、なのはちゃんも実感として理解できた方がいいと思うんだ。

 

 そんな感じで夕飯の時間まで練習をしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 孤児院のメンバーにも見てもらいながらの猛特訓を経て、なんとか及第点をもらえたなのはちゃん。

 

 それと並行してチラシの内容を桃子さんと相談して、お持ち帰りシュークリームの十円引きか、喫茶のケーキセット百円引きかを選べる感じで落ち着いた。

 

 アルバイトについてはとりあえず却下で、家族だけでもう少し頑張ってみるとのこと。

 

 今まで一人でお留守番してたなのはちゃんにやる事ができたのも一因みたい。

 

 ディナーのマジックショーは現時点では却下だけど、入院中の士郎さんが退院してから相談するということで保留という形になった。

 

 一応お酒の取り扱いの免許はあるそうなのでディナー自体は問題ないんだけど、そうすると逆に給仕に未成年を使いづらくなってしまって、士郎さんがいないと回せないとのこと。

 

 美由希さんは中学2年生、恭也さんは高校1年生だから仕方ない。

 

 ちなみにお酒なしは利益が薄いので問題外です。

 

 と、そんな感じで話はまとまり、土曜日。

 

 いよいよなのはちゃんのパフォーマンスデビューの日となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 晴れ渡る青空に天高く舞い上がったディアボロを2本のスティックをつなぐ糸で見事キャッチし、決めポーズ。

 

 ワッと沸き上がる歓声と拍手。

 

 それにうやうやしく一礼してから、なのはちゃんに目配せをする。

 

 緊張した面持ちで頷きを返すなのはちゃん。

 

 ロッカーや階段はすでに配置してある。

 

「それでは最後に、本邦初公開となる脱出マジックを披露いたします」

 

 ジャグリングでボルテージが温まっているギャラリーの表情に興味の色が浮かぶ。

 

 なのはちゃんがロッカーを開け、その横に立ち、僕は彼女が見えやすい様に少し横にはける。

 

「まずはアシスタントのなのはちゃん、自己紹介をどうぞ」

 

 みんなの視線が彼女に集まる。

 

「高町なのはです。家は駅前の商店街で翠屋という喫茶店をやってます。看板商品のシュークリームに美味しいケーキ、自家焙煎珈琲が自慢です」

 

 緊張しながらも無事つっかえずに言い切れた。

 

 なのはちゃん、本番に強いんだな。

 

「お店の宣伝までするとは、その年でしっかり者だね。なのはちゃん」

 

「にゃはは、宣伝だけじゃなくて割引券にもなるチラシも用意してあるんだよ」

 

 ロッカーの中にかけてあるエプロンのポケットからチラシを取り出すなのはちゃんを見て、ギャラリーに笑いが広がる。

 

「じゃあ、それはマジックが成功したら配らせてあげよう」

 

「お店のために頑張るのっ!!」

 

 彼女の愛くるしさもあって反応は上々だ。

 

「それではお集まりの皆さん。この演目で最後となります。お付き合いありがとうございました。無事マジックが成功したあかつきには、可愛いエプロン姿の『喫茶翠屋』未来の看板娘が皆さんの前をチラシを配りながら回りますので、よろしければお心づけをお願いいたします」

 

 タイミングを合わせ、なのはちゃんと一緒にお辞儀をする。

 

「それでは、ショータイム」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄いじゃない、なのは。あれ、どうやってるのっ」

 

 今日のパフォーマンスを撮っていたビデオを見て興奮ぎみの美由希さん。

 

 夜、夕食をご馳走になってからなのはちゃんの記念すべきデビュー映像の鑑賞会をしたのだ。

 

「にゃはは」

 

 恥ずかしそうに照れ笑いをするなのはちゃん。

 

「なのは……」

 

 それを優しく抱きしめる桃子さんに

 

「頑張ったわね」

 

 なのはちゃんは

 

「うん…………うんっ♪」

 

 満面の笑顔で応えた。

 

 その光景を邪魔しないように見ながら

 

「良かったね。なのはちゃん」

 

 そっと呟く。

 

 士郎さんが退院するまで大変なのは変わらないだろうけど、これでなのはちゃんは寂しくても家族に疎外感を感じることはなくなるだろう。

 

 我慢や成果のない事ではなく、家族のために自分の出来る事をしているのだから。

 

 寂しさに関しても、孤児院に通っているうちに、うちの家族とも仲良くなったしね。

 

 特に同い年という事もあって、オシャマな双子姉妹ランとルンと仲がいい。

 

 律姉とマト姉ともそれなりだけど、少し年が離れてるせいで、どうしても姉と妹みたいな感じで友達って感じじゃない。

 

 まぁ可愛がられてることには違いないから問題ないけどね。

 

 そんな事を考えていると家族の輪から外れた恭也さんがこちらにやってきて

 

「真君、本当にありがとう」

 

 手を差し伸べられたので

 

「いえ、そんな」

 

 恐縮しながら握手をする。

 

「父さんが入院してから長男の俺が頑張らないとと思ってがむしゃらにやってきたが、そこには家族の笑顔がなかった。でも君のおかげで、なのはも俺たち家族もみんなが笑顔になれた。感謝してもしきれない」

 

 ここまで言われて謙遜しては逆に相手に失礼だと思うけど、さすがに照れくさい。

 

「じゃあ、士郎さんが退院して落ち着いたらお願いしたい事があるのでいいですか」

 

「あぁ、俺に出来る事なら何でもしよう」

 

「ありがとうございます」

 

 うちの京兄と幸兄も頼れるけど、ちょっとハッチャケ過ぎてるというか落ち着きがないので、恭也さんみたいな大人な感じの兄さんもいいな。

 

 なんて思いながら男同士、楽しく談笑した。

 

 釣りはまだしも盆栽が趣味とか渋すぎるよ、恭也さん。

 




「ショータイムだ」

シャバドゥビタッチヘーンシーン、シャバドゥビタッチヘーンシーン

フレイム

プリーズ

火ー 火ー 火火火ー


あれは衝撃だった…………いや、笑撃だったwwww


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下校時、暑さに負けてコンビニに寄ってみれば

原作開始の3年前継続中。

もうちょっとお待ちを……。


 ジメジメした梅雨が明け、夏休みまでもうすぐという7月頭。

 

 下校途中、15時を過ぎても一向に弱くならない日差しに負け、コンビニに避難でもしようと寄り道をする。

 

 漫画雑誌を汗が引くまで立ち読みし、けれど何も買わないで涼んだだけという罪悪感に勝てない小市民的な発想からアイスを選んでいると、栗色の髪をショートカットにしたなのはちゃんと同じくらいの年の女の子が温めたお弁当を受け取るのが目に入った。

 

 この暑いのにお弁当か……僕だったら蕎麦とか素麺がいいな。

 

 なんて取り留めもない事を考えながら何となくそのまま目で追っていると、お弁当とは逆の手で持っていたリッターサイズのペットボトルが重いのか少しよろけている。

 

 『大丈夫かな』『家が近いといいけど』と思っていると、

 

「あっ」

 

 つまづいて転んでしまった。

 

 そして夏場のアスファルトは熱いだろうになかなか立ち上がらない。

 

 足でも捻ってしまったのかと心配になって、コンビニを出て駆け寄る。

 

「君、大丈夫? 立てる?」

 

「えっ、あ、だ、大丈夫です」

 

 この辺では珍しい関西弁のイントネーションで返事をし、立ち上がろうとした女の子は、しかしバランスを崩してよろけてしまう。

 

「おっと」

 

 それを体ごと受け止めて支える。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ううん、いいよ。それより足でも捻った? それとも熱中症かな? 水分補給はちゃんとしてる?」

 

「えっと、足が痺れて……」

 

 そう言って足に手をやる。

 

 顔も赤くないし、意識もしっかりしてる。

 

 熱中症ではないみたいだな。

 

 でも歩いてて足が痺れるって……。

 

「とりあえず、日陰で休もうか」

 

 疑問は一旦脇に置き、コンビニの屋根の下まで連れて行って座らせ、道端に置き去りになっている彼女のレジ袋を回収してから

 

「ちょっと待っててね」

 

 コンビニでスポーツドリンクを買って戻る。

 

「どうぞ。念のために水分補給」

 

「あ、ありがとう」

 

 表情に戸惑いは見えるけど、とりあえず一口。

 

 喉が渇いていたのか、そのままゴクゴクといい音をさせながら半分くらいまで一気に流し込み

 

「ぷはぁぁぁぁ、生き返るわ」

 

 いい笑顔で口元を拭う。

 

 うん、幼女に言うのはどうかと思うけど

 

「オヤジ臭い」

 

「お父ちゃんのマネやねん」

 

「知らないよ」

 

「つれないな、兄ちゃん」

 

「とりあえず女の子がマネするもんじゃないと思うよ」

 

「それ、お母ちゃんにも言われたわ」

 

「なら止めとこうよ」

 

「でも2人とも笑ってくれてん」

 

「あぁ、関西の人って自分とか身内を落として笑いにするよね」

 

「そうなんか?」

 

「自覚ないんだ」

 

「そんな残念な人を見るような目で見んといてぇぇぇぇ」

 

 幼女、頭を抱えて左右に振りながら絶叫。

 

 とりあえずこれだけ叫べれば元気って事でいいよね。

 

「それで足の調子はどう?」

 

 漫才のような会話を打ち切り質問すると、幼女の動きがパタッと止まり

 

「あっ、もう終わりなん? 人と話すの久しぶりやったから楽しかったのに」

 

 素に戻る。

 

 ノリがいいと言うか何と言うか……って、

 

「久しぶりってど……」

 

 つい疑問から反復してしまったけど、イジメにでも遭っているなら聞かれたくないだろうと思い途中で言葉を止めるが

 

「私、一人暮らしなんよ」

 

 予想外の言葉が返って来た。

 

 驚きが顔に出ていたのだろう。

 

 そのまま補足説明を入れてくれた。

 

「えっと、お父ちゃんとお母ちゃんが事故で死んでもうて、私一人ぼっちやねん。お父ちゃんの友達って人が世話してくれてるんやけど、その人外国に住んでて、しかも家に滅多に帰れないくらい忙しい人らしくてな。私はそばにいてあげられないし、言葉も通じない知らない場所で暮らすより家族の思い出のある家で暮らす方がいいだろうって、お金の心配はしなくていいって言ってくれてな。だからこの年で一人暮らしやねん」

 

 久しぶりに人と話せたのが嬉しいのか笑顔で一気に捲し立てる幼女だったが、その内容は重かった。

 

 でも同時に孤児院で暮らす僕にとっては馴染みのある話でもあった。

 

 そしてこの境遇と幼女の話し方から一つの心当たりが浮上する。

 

 この幼女『八神はやて』か?

 

 車椅子ではないし、名前も聞いてないけど、これだけ分かり易いキーワードだ。

 

 その確率は高いだろう。

 

 でも、それを確認する前に言わなくちゃいけない事がある。

 

「君もして欲しくないだろうし、君の境遇に変な同情はしない。僕も似たようなものだから」

 

 そう前置きしてから

 

「でももし一人暮らしが寂しいって言うなら、良かったらうちの孤児院に来なよ」

 

「えっ……」

 

 いきなりの申し出に固まる幼女。

 

 そりゃそうだ。

 

 自分でも唐突だったと思う。

 

 だけど、同じ天涯孤独な身としては放って置く事はできない。

 

 目の前の幼女が誰であれ、未来に何が待っていようと、今この時に彼女が一人ぼっちの寂しさに晒されているのは事実なのだ。

 

 できればどうにかしてあげたい。

 

「まぁ、いきなりそんな事言われても困るよね」

 

「う、うん」

 

 なんとか頷きを返してくれる。

 

「そうだな~~、よし、まずは自己紹介をしよっか。僕は加藤真、9歳。家は孤児院。海鳴市立第一小学校の三年生。よろしくね」

 

 そう言って握手を求めると

 

「や、八神はやて。6歳です」

 

 慌てて自己紹介して手を出してくれる。

 

 やっぱりかと思いつつ、その可愛らしいリアクションにクスリと笑みをこぼしてから

 

「この後暇だったら、良かったらうちに遊びに来ない?」

 

 軽い感じに誘ってみた。

 

 まだ小学校に上がる前の幼女が、即断即決で決められる事じゃないのは分かってる。

 

 家のこと、お金の援助をしてくれているお父さんの友達のこと、僕もよく知らないけど法律のことだってあるだろう。

 

 その辺の難しい事はこの際一旦横に置いてといて、とりあえず一度来てもらって人との触れ合いを取り戻してもらいたい。

 

 だからまずは友達として招待しよう。

 

 はやてちゃんはそんな僕の顔をまじまじと見つめてから

 

「なんかナンパみたいやな」

 

 と不届きな事を言った。

 

 うん、まぁ否定しづらいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけでうちに遊びに来るようになったはやてちゃんは、最初のうちこそ昼過ぎに来て夕飯前に帰っていたけど、すぐにご飯を一緒に食べるようになり、誘われるままにお泊りするなど順調に打ち解けて行った。

 

 そして夏休みも終わりに差し掛かる頃、孤児院に自分の部屋を持つことになった。

 

 ただし、正式に引き取られたわけではなく生活基盤をこちらに置くだけという中途半端なもので、書類上は未だに一人暮らしとなっている。

 

 その経緯は大雑把にまとめると、孤児院に入れるのを渋るはやてちゃんの後見人という人物を園長先生があの手この手で脅は……もとい説得したらしい。

 

 日本で上手くいくかは分からないけど、育児放棄で訴えるとかなんとか……。

 

 さすが園長先生。

 

 これで晴れてはやてちゃんはうちの家族の一員になった。

 

 恥ずかしそうに『真お兄ちゃん』て呼んでくれたしっ!!

 

 僕からの呼び方も幼女相手の『はやてちゃん』から妹相手の『はやて』に変更。

 

 書類上とか関係ないね。

 

 というか、6歳で一人暮らしとか行政の方は大丈夫なんだろうかと疑問に思うんだが、わざわざそんなチェックなんてしないんだろうな。

 

 または、一応葬式やら遺産相続やらは代理人としてその人がやってくれたみたいだし、もしかしたらその人と住んでる事になっているのかもしれない。

 

 ちなみに、機を見てはやてに突っ込んで聞いてみたところ、そのお父さんの友達というのは前世の知識通り『ギル・グレアム』その人だった。

 

 という事は、まだ確認してないけど、あるんだろうな『闇の書』。

 

 はやての足の麻痺も徐々にではあるけどその兆候が出てきてるし。

 

 闇の書事件か……。

 

 一応の解決策は前世の知識にあるけど、楽観視はできない。

 

 前世の知識には僕と言う存在はいないし、ここは現実で、未来は不確定だ。

 

 同じように解決できるかは分からない。

 

 でもはやては僕たちの家族だ。

 

 みすみす死なせたり、ましてや闇の書ごと封印なんて絶対にさせない。

 

 これは決定事項だ。

 

 前世の知識を過信するのではなく参考にしながら、自分でも解決策を、または少しでもいい状態を作れるような方法を考えよう。

 




主人公の背景から、話のテーマに家族や生い立ちがあるので、こういう展開になりました。
別にフラグとかハーレムとかではありません。
ヒロインはまだ未定ですし(一応候補はいますが)ポジションとしては兄を想定していますので。


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僕は魔法使いだ

 夏の終わりにはやてが僕たちの家族になってから3か月が過ぎ、クリスマスがもうすぐという季節にはやての足は動かなくなった。

 

 出会った時にはもう痺れが出ていたし、夏から秋、秋から冬へと気温が下がっていくにつれその頻度も増し、病院で検査するも原因不明。

 

 そうやって少しずつ覚悟していったせいか、完全に麻痺した時も取り乱したりはしなかった。

 

 ただそれでショックじゃなかったかと言えばそれは別問題で。

 

 だから笑顔を浮かべていてもその表情に諦めが滲むはやてを見ていられなくて、僕は話すことにした。

 

 魔法と闇の書、ヴォルケンリッターについて。

 

「はやて、ちょっといい」

 

「どうぞ、鍵はかかってないで」

 

 何かあった時のためにはやての部屋には鍵がかけられていない。

 

 だからこれは彼女なりの皮肉なのだ。

 

 深読みかもしれないが、そう思うとやり切れない気持ちが胸に広がる。

 

「お邪魔するよ」

 

「こんばんは、はやてちゃん」

 

「真お兄ちゃんに……なのはちゃん?どうしたんや、二人して」

 

 魔法の話をするなら、どうせなら一緒にとなのはちゃんも呼んだのだ。

 

「これから二人に大事な話があってね。一緒に来てもらったんだ」

 

「そうなん?」

 

「うん、私もまだ何の話かは聞いてないんだけどね」

 

「じゃあ、とりあえず移動しようか」

 

「話ならここでええんやないの?」

 

「ん、百聞は一見にしかずって言うだろ。とりあえず見てもらってからの方が話が早いから」

 

 そう言ってはやてにコートを着せ車椅子に移動させて、部屋を出る。

 

 向かうのはいつも魔法の訓練をしている建物の裏手だ。

 

「さっむいなーー。真お兄ちゃん、わざわざ外連れ出して何を見せてくれるん?新しいマジックとかか?」

 

 12月の寒空、それも夜だ。

 

 風邪をひかないように、もったいぶらずさっさと進めた方がいいだろう。

 

「マジックと言えばマジックだけど、これから見せるのは本当の魔法だよ」

 

 一瞬キョトンとする二人だが、やはりと言うか新作マジックだと勘違いしたようだ。

 

 まぁ、さっさと見せて暖かい部屋に戻ろう。

 

「ニケ、セットアップだ」

 

『YES』

 

 首元の認識票が白く発光すると、次いで僕の全身も白い光りに包まれる。

 

「「きゃっ」」

 

 可愛く悲鳴を上げた二人が目を開くと、目の前にはさっきまでと違いタキシード姿の僕。

 

「わぁ、すごーーい」

 

 素直に歓声を上げるなのはちゃんと

 

「きっとコートの下にあらかじめ着てたんやね」

 

 タネを推理するはやて。

 

 じゃあそのコートはどこに行ったとツッコミたい所だけど、今は放置。

 

 このタキシードが僕のバリアジャケット。

 

 うん、まぁ、どう見てもマジシャンにしか見えないよね。

 

 狙ってやってるから別にいいんだけどさ。

 

 さっ、次行こ、次。

 

「封時結界」

 

『YES、封時結界展開』

 

 その瞬間世界から音がなくなり、僕は浮遊魔法で10mほど飛び上がる。

 

 戦闘に使うような高速の飛行魔法は使えないけど、普通に飛ぶだけなら問題ない。

 

「続いて、ディバインシューターセット」

 

『YES、ディバインシューター』

 

 僕の魔力光の色で白く輝く掌より二回りほど大きい光球を5つ展開し、

 

「シュート」

 

 自分の周りを旋回させる。

 

 そして

 

「ブレイク」

 

 号令と同時に弾けさせる。

 

 僕の唯一と言っていい攻撃魔法『ディバインシューター』。

 

 残念な事にどんなに訓練しても威力は全く上がらず軽く叩く程度にしかならなかったけど、その分操作性は頑張って向上させ、そして最後の『ブレイク』で目くらましに使えるようにした。

 

「こんなもんでいいかな」

 

 そのまま降りて行ってもいいんだけど、せっかくだからと二人の前に転移のレアスキル『世界の扉』で転移する。

 

「「きゃっ」」

 

 再度、可愛い悲鳴を上げる二人。

 

「どうだった?二人とも」

 

 さすがにこれは手品では無理だろうと感想を訪ねると

 

「真さんって魔法使いだったんですねっ!!」

 

 両手を胸の前で握りしめ、目をキラキラさせて飛び跳ねそうな勢いのなのはちゃんに対して、

 

「真お兄ちゃん、どうやったんやっ!!凄い手品やなっ!!これならTV出て有名になれんでっ!!」

 

 同じようにテンションは高いが内容が正反対のはやて。

 

「はやて……」

 

 おまえ、なんて夢のない幼女なんだ。

 

 残念過ぎるぞ。

 

 はやてに可哀想な子を見る目を向けてから、なのはちゃんに笑顔を向けて

 

「なのはちゃん、僕の妹にならないかい?」

 

 頭を撫でる。

 

「ふえぇぇぇぇ!?」

 

「私、いらない子なんっ!?」

 

 二人ともいいリアクションするな。

 

 とりあえず見せるものは見せたので、暖かい部屋に戻ろう。

 

 そして改めて、

 

「さっきの実演で分かってくれたと思うけど、僕は魔法使いだ」

 

 よっぽど魔法がお気に召したのかキラキラ目継続中で元気よく頷くなのはちゃんと、まだ疑っているのか渋々ながら頷くはやて。

 

「この世界には魔法がある。それを踏まえた上で聞いて欲しい」

 

 こちらは真剣なのだと示すために真面目な表情をはやてに向ける。

 

 はやても僕の変化に気付いたのか表情が引き締まる。

 

「はやて、おまえの足の麻痺は魔法が原因だ。だから現代医療じゃ原因が分からなかったんだ。そして魔法使いの僕にはその解決策に心当たりがある」

 

 一気に言い切りはやての反応を待つ。

 

 なのはちゃんもはやての事で心を痛めてくれていたので、急な話の転換に驚きつつも真剣な眼差しをはやてに送っている。

 

 そしてはやては

 

「えっと、な、何を言ってるや。真お兄ちゃん」

 

 事態を飲み込めずにいた。

 

「冗談にしては性質が悪いで」

 

 確かにいきなりこんなこと言われても信じられないのは分かる。

 

 僕にある前世の記憶の僕だって、『おまえの病気は魔法のせいで、でも治る見込みがあるんだ』って急に言われても到底信じられることではなかっただろう。

 

 そんなご都合主義な展開、そうあるもんじゃない。

 

 でも、今回はそうじゃないんだ。

 

 自然とはやての両肩に手がいき、至近距離から目を合わせ言い聞かせる。

 

「冗談なんかじゃない。クリアしなくちゃいけない事の難易度は高いけど、はやての足はまた動く可能性がちゃんとあるんだ」

 

 最後まで合っていた目は一旦外され、俯いた顔が再度上げられた時には

 

「私、ホンマにまた歩けるようになるん?」

 

 頬を涙で濡らしていた。

 

「あぁ、僕一人だけの力じゃ無理だけど、はやて自身の頑張りと」

 

 出来るかと視線で問うと、まだ少し戸惑いながらもしっかりと頷く。

 

「なのはちゃんの協力と」

 

 横に立つなのはちゃんに視線を送ると

 

「私に出来る事な全力全開で協力するよっ!!」

 

「なのはちゃん……ありがとうな」

 

 元気いっぱいの返事にまた涙がこぼれるはやて。

 

「そしてこれから出会う事になるみんなの力を合わせれば必ずまた歩けるようになるから」

 

 うん、うん、と泣きながら何度も頷くはやて。

 

「だから今は不自由で、何で自分ばっかりと悲しくなったり周りに当たり散らしたくなったり、本当に治るのか不安になったりするかもしれないけど、愚痴ったり、泣いたり、時には喧嘩してもいいから」

 

 決意が伝わる様にしっかりと瞳を見つめて告げる。

 

「一緒に頑張って行こう」

 

「真お兄ちゃんっ!!」

 

 言い終わると同時にはやては車椅子を倒す勢いで僕の首にすがり付いた。

 

「私……私……」

 

 形にはならないけど、いっぱい言葉にしたい事があるんだろう。

 

 まだ小学校に上がる前の子供が、温かかった両親をなくし、家事なんてお手伝いくらいしかした事ないというのに一人暮らしを余儀なくされ、なんとか孤独から解放されたと思ったら今度は足が動かなくなるなんて、自分は神様に嫌われているんじゃないかと絶望してもおかしくはない。

 

 前向きで頑張り屋さんなはやて。

 

 周りを気遣って弱音を見せないはやて。

 

 でも、辛くないわけじゃない。

 

 悲しくないわけじゃない。

 

 だから素直に泣けるこんな時くらいは、目一杯泣けばいいさ。

 

 まだ話せていない闇の書とヴォルケンリッターについては、それはまた落ち着いてからという事で。

 

 僕も今は腕の中で泣いている妹を愛でるのに忙しいからね。

 

 




原作設定を確認がてら記述しておきます。

・はやては闇の書にリンカーコアを浸食され魔力不足に陥っているため魔法は使えない。麻痺の原因でもある。

・ユーノを見れば分かる通り、デバイスはなくても魔法は使える。ただし術式を自分で組まなければいけないため大変ではある。

・なのはの魔力の初期値はAAAランク。

・なのはのレアスキルは魔力収束。


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闇の書について

アニメを見直したら、闇の書の見た目って茶色なんですね。
てっきり黒なのかと思ってたからちょっと驚きでした。
元々の名前も夜天の書で夜空だから黒でいいと思うんだけど……。
まぁ何色でも困りませんけどね。
派手な色の時はお手製のブックカバーでも作ってかけとけばいいですし。


 あの後泣き疲れたはやてがそのまま寝てしまったため、なのはちゃんには悪いけど詳しい話は翌日に持ち越しとなった。

 

 泣くと言う行為は意外とエネルギーを使うものだし、ため込んでた分余計に疲れたんだろう。

 

 出会ったから約半年、はやては徐々に進行していく足の麻痺にも涙見せなかったからね。

 

 まぁ悲しくて泣くんじゃなくて、嬉しくて泣く辺りが実にはやてらしい。

 

 辛いのは我慢すればやり過ごせるけど、嬉しいのを抑えるってのは普通やらないから抵抗値低いんだろうね。

 

 これを機にもう少し頑張り過ぎない様になってくれたらいいんだけど、それはそれで美点だから難しいところかな。

 

 何かはやてが遠慮しないで、しかも気軽に息抜きできる手段でも考えよう。

 

 それはさておき、まずはきちんと中断しちゃった続きの話をしておかないとね。

 

 という事で翌土曜日。

 

 いつもなら公園に行ってジャグリングや手品のパフォーマンスをしに行く所だけど、今日はお休みして八神家で問題の闇の書を確認しつつ昨日の続きを話すことにした。

 

「お邪魔します、はやてちゃん」

 

「いらっしゃい、なのはちゃん。ゆっくりしてってな」

 

「はやてちゃんのお家ってマイホームって感じで可愛いお家だね」

 

「それは暗に小ちゃいって言われてる気するな」

 

「ち、違うよっ!?」

 

「なのはちゃんの家は道場とかあって凄いもんな。あれと比べたらウチなんて」

 

「そ、そんなこと」

 

「いやいや、皆まで言わんと分かってるで。なのはちゃんの基準は道場のあるなしやって」

 

「誤解なのーーっ!!」

 

 まだ玄関先だと言うのにさっそくなのはちゃんイジリに精を出すはやて。

 

 昨日泣いた事の照れ隠しの様な気もするけど、とりあえず楽しそうだったので放置して先に中に入る。

 

 はやてが孤児院で生活している事で実質空き家状態の八神邸だけど、はやてが孤児院のメンバーを連れて定期的に空気の入れ替えや掃除をしているので部屋は汚れていない。

 

 今日もなのはちゃんを迎えに行く前に、僕と先に来て換気とお茶の準備なんかしている。

 

 はやて、6歳にして既にしっかり者だな。

 

 今度お墓詣りに行った時にご両親にちゃんと報告してあげよう。

 

 お墓は、お盆の時の掃除と、はやてがうちの家族になる際に園長先生と子供たちを代表して僕が一度挨拶に行っている。

 

 さておき、

 

 先に中に入った僕は、リビングとキッチンの状態を確認してから、はやての部屋に向かう。

 

 はやての部屋は二階にあるため、車椅子のはやてでは闇の書を取りに行けないのでその代わりだ。

 

 勝手に入ってしまうのはこの際目をつぶってもらおう。

 

 ドアを開け、部屋に入る。

 

 小物なんかを孤児院の部屋に持って行ってしまっているために生活感がない。

 

 気にせず、本棚の前にかがむ。

 

 空いたスペースが目立つ本棚の下の段にそれはあった。

 

 茶色の装丁に金色の模様、中心にクロスが描かれ、それに重なる様に十字に鎖で封印されている。

 

「これが闇の書か……」

 

 見た目も前世の記憶と一致する。

 

 はやての足も現代医療では原因の分からない麻痺を起している。

 

 レアスキルの探査魔法『世界の窓』もこれが僕の前世の知識を基準にして探した場合の闇の書だと言っている。

 

 だけど、それがイコールで前世の知識通りの未来を約束してくれるわけじゃない。

 

 ここが肝心だ。

 

 現段階での楽観視は危険。

 

 僕がいるいないの話ではなく、単純に判断するには情報不足。

 

 せめて、ミッドチルダで図書館に行くなりデータベースにアクセスするなりして過去の事件が本当に起こっているか。

 

 起こっているなら、それは前世の知識通りなのかの確認。

 

 その上で、実際にヴォルケンリッターが出てきて、やっと一安心という所だろう。

 

 それでも未来が確定するわけじゃないから油断はできないけど……。

 

 そんな事を考えていると階下から僕を呼ぶ声が聞こえた。

 

 どうやら玄関での漫才は終わったみたいだな。

 

 闇の書を手にリビングに戻る。

 

「上で何しとったん?」

 

「ん? これ取ってきた」

 

 質問するはやてに闇の書を掲げて見せる。

 

「それって私の本棚にあった……って、真お兄ちゃん。私に断りもなく乙女の部屋に入ったんかっ!?」

 

「え、うん、まぁ」

 

「真さん、それは駄目なの」

 

 はやてならまだしも、なのはちゃんから駄目出しが……。

 

「なのはちゃん、私、私、汚されてしもうた。もうお嫁に行けへん」

 

「にゃっ!? は、はやてちゃん」

 

 横に立つなのはちゃんに泣き真似をしながらすがり付くはやてに、びっくりしながらも抱きしめてあげるなのはちゃん。

 

「もうこれは真お兄ちゃんに責任取ってもらわな」

 

「責任って……」

 

 お嫁にでももらえって?

 

「翠屋のケーキ。一人三つ」

 

「えらく具体的だなっ!!」

 

「なのはちゃん、今月のおススメはなんやったっけ?」

 

「え? えっと、今月のおススメは甘酸っぱいフランボワーズと甘みを抑えた大人のチョコレートのケーキになります」

 

 空気を読んだのか、営業スマイルになるなのはちゃん。

 

 パフォーマンスで助手をするようになってからこの手の質問はよくされるから慣れたもんだ。

 

「まぁ、冗談はさておき」

 

「それは私の台詞やっ!!」

 

 はやて、ツッコミも淀みないな。

 

 せっかく切り替えようと思ったのに。

 

「じゃあ、将来もらい手がいなかったら結婚してあげるから」

 

「それもうフラグやんっ!! てか、なに? 私恋人できひんのっ?」

 

 イヤイヤと頭を抱えて暴れるはやてに

 

「は、はやてちゃんっ」

 

 なにやらやる気溢れる感じで話しかけたなのはちゃんだけど

 

「なのはちゃん?」

 

「ウェディングケーキと二次会の会場は任せて。私頑張るからっ!!」

 

「裏切られたっ!?」

 

 天然な追い打ちが炸裂。

 

 あの子、たまにズレてるんだよね。

 

 まぁそんなアホな会話をしばらく続け、一段落ついた所でリビングに腰を落ち着ける。

 

 テーブルの上には問題の闇の書。

 

「それじゃあ昨日の話の続きを始めよう」

 

 さっきとは違い二人とも真面目な表情になっている。

 

「改めて、はやて、君の足の麻痺は魔法が原因だ。具体的にはこの本のせいで」

 

 闇の書をはやての前に押し出す。

 

「この本のせいで私の足は……」

 

 はやての目に攻撃的な色が差すが慌てて止める。

 

「はやて、ストップ。原因は確かにこの本だけど、この本もしたくてしてるわけじゃない。むしろ無理矢理やらされている被害者でもあるんだ」

 

「どういうこと?」

 

「いい? これはまだ憶測の話で、これが真実ってわけじゃないんだけど」

 

 違う可能性を捨てきれないための前置き。

 

「この本は『夜天の書』。朝昼夜の夜に天空の天で、夜空って意味ね。最初は魔法を研究、保存するために作られた魔導書で、分かり易く言うと自分で作る魔法の図鑑みたいなものだったらしい。でも持ち主が変わるうちに少しずつ改造されていって、そのせいで壊れてしまった。今では持ち主に無理矢理魔力を集めさせて、集まったら暴走。持ち主ごと周りを壊しまくって、本自体は再生して次の持ち主の所に飛んでいくっていう性質の悪いものになっちゃってるんだ」

 

 二人にも分かり易いように、なるべく難しい言葉を使わないで説明する。

 

「この本の中には管制人格って言う……なんて言えばいいかな?図書館の受付みたいな……合ってるかな?とりあえず使い方を教えてくれる人がいて、でもシステムが壊れちゃってるからその人にもどうしようもなくて、でも本は勝手に動いて止まってくれない。そうだな。例えばはやてが料理を作ろうと思って包丁を持ったら、勝手に包丁が動いて孤児院のみんなを傷つけ出して、でも包丁を持ってるはやてには止められなくて……。そんな事になったらはやてはどう感じる?」

 

 はやては視線を落とし、僕の例え話を真剣に考えてから答える。

 

「怖いし、悲しいし、きっと耐えられないと思う」

 

「そうだね。僕も耐えられないと思う。でもこの本の中にいる人はそんな気持ちを何回も何回も味わってるんだ。だからはやてのためだけじゃなく、この人のためにも今回でこんな悲しい事は終わりにさせたいと僕は思ってる」

 

 暗い表情のはやても涙目のなのはちゃんも頷いてくれる。

 

「でもね、悪い話だけじゃないだ。もし問題が上手く解決できたら、はやてには新しい家族が増える事になる」

 

「家族が増える?」

 

 まぁ、これだけじゃ分からないよね。

 

「この本には守護騎士システムっていうのがあって、守護騎士っていうのは本の持ち主を敵から守ってくれる人の事ね。それが多分はやてが9歳の誕生日くらいに4人、本から出てくるんだ。彼らははやてのためだけの存在で、はやての気持ち次第で、はやての大切な家族になってくれるはずだ」

 

 ここで家族になるのが5人と言えない事に後ろめたさを感じる。

 

「それは素敵やな」

 

 暗かった表情が少しだけ明るくなる。

 

「それで、彼らにもはやての麻痺を治す手伝いをしてもらう予定。というか、むしろメインかな。本から出てきた時は、はやての世話をするために外国から来たグレアムさんの親戚とでも言っておけばいいよ。孤児院で暮らすかこの家に戻るかは園長先生次第かな。大人の女性2人にちびっこ1人、それに大型犬1頭だと思うから手伝ってくれるなら孤児院的にはウェルカムな感じだと思うけど」

 

 そんなこと言いつつ、ファーストコンタクト、召喚された時に上手く説得できるか激しく心配なんだけどね。

 

 はやての家族だって言えばいきなり斬られる事はないだろうけど、証明できるように写真とか用意しといた方がいいかもしれない。

 

 闇の書の間違った知識も訂正しなくちゃいけないし、情報集めしなくちゃな。

 

 そのためには時空管理局のある第一管理世界ミッドチルダに行かないといけない。

 

 前世の知識通りのタイムテーブルなら問題ないんだけど、そうじゃなかった場合は……。

 

 あれこれ考えながら冷めてしまった紅茶を飲み干し、気分を変えようと全員分の紅茶を入れ直して一息入れる。

 

 はやてとなのはちゃんはお茶菓子を摘まみながらヴォルケンリッターがどんな子たちなのか想像しながら楽しそうに話している。

 

 それを眺めながら、この妹と妹分の笑顔のためならちょっとくらいの無茶なら十分割に合うだろうと浸ってみたりして。

 

 僕って兄バカかな?

 

 まぁそれにはやてにとって家族って事は、ヴォルケンリッターは僕にとっても家族って事になるから余計に頑張らないとな。

 




2話使って、まだなのはちゃんに魔法の話ができてないっ!!

次こそはその話と、それだけじゃ足りないから練習風景とかかな。

ところでまだ小学校入学前なんですよね。

展開遅くて申し訳ないです。


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魔法について

何か前半は設定の説明みたいになっちゃいました。

一応、原作トレースのつもりなんですが、違う所があるかもしれません。



 さてと、闇の書とヴォルケンリッターの話は終わったから、後は魔法についてだな。

 

 この話をしないとなのはちゃんを呼んだ意味がないからね。

 

 僕のインテリジェントデバイス『ニケ』によると前世の知識通り彼女の潜在的な魔力値はアホみたいに大きいらしい。

 

 魔力値はSSS・SS・S・AAA・AA・A・B・C・D・E・Fのクラスがあって、細分化する場合は+・-を付けて表し、体の成長や訓練によって多少伸びる余地はあるけど、基本的には先天的な才能に依存している。

 

 目安としてはAあれば士官クラスで、Sオーバーは全体の1%もおらず、SSSに至っては理論値であり該当者はいない。

 

 ちなみに士官ていうのは階級だと三尉以上を指して…………って言っても分からないだろうから、上から言っていくと、元帥・大中少将・一二三佐・一二三尉・准尉・曹長・曹・一二三士・研修生となっている。

 

 んで、なのはちゃんの魔力値はなんと推定AAAランク。

 

 魔法の存在しない世界でこんな高魔力値を持って生まれてくるなんて皮肉というか、それはもう突然変異レベルだろう。

 

 別に化物扱いするつもりはないけど、先天的な能力という事は、それは遺伝に依るという事で、普通は魔力のない親から魔力のある子供は生まれない。

 

 だからって浮気や何やというわけではなくて、問題をややこしくする要因なんだけど、魔法を使えるかどうかは体内にリンカーコアを持っているかどうかに完璧に依存していて、でもこのリンカーコアは臓器というわけではなくて、実体がない。

 

 観測するにしても放出されている魔力を観測できているだけであり、感覚としても何となく心臓の辺りに丸い感じのものがあるくらいの認識でしかなく、その情報は遺伝子にもない。

 

 そのくせ遺伝にはある程度の法則を持って現れていて、そうかと言うとなのはちゃんみたいなイレギュラーな現れ方もする。

 

 まぁ程度の差こそあれ、僕もそのイレギュラーなんだけどね。

 

 ちなみに僕の魔力値は、魔法の訓練を始めた頃はB-だったけど、4年経った今はB+ってところ。

 

 ニケによるとまだ伸びて行ってるらしいからA、できたらAAまでいけたらいいななんて夢見てるけど、まともに使えるのが結界魔法と回復魔法しかないからあまり意味はないかもしれない。

 

 どうも魔法には適正ってものがあって、飛行を始め砲撃や幻術なんかは使える使えないがはっきりしているらしい。

 

 そう考えると、早く飛べなくても飛行魔法の適正があって良かったと思う。

 

 やっぱり魔法のイメージって、空を自由に飛ぶ姿だと思うんだよね。

 

 適正ついては他にも少し思う所があって、多分その人の願望やあり方が関係してるんじゃないかと僕は考えてる。

 

 まぁ鶏が先か卵が先かの話なような気もするけど、僕の場合は結界に回復、それと飛行。

 

 これらはおそらく前世の状況が色濃く反映されてる。

 

 病気によって隔絶された空間で過ごし、回復を望み、飛び立つ事を夢見る。

 

 病室での生活が心象風景として一番強く、切実な願いとしての回復、そして信じきれなかった夢。

 

 探査の『世界の窓』と転移の『世界の扉』も同じ理屈だろう。

 

 窓の外の世界に思いを馳せて、扉を開けて知らない世界に行きたかった。

 

 裏返して射撃や防御魔法がうまく使えないのは、斬ったり撃ったり守ったりなんて戦いはお話の中だけで、自分に当てはめるなんて出来なかったからじゃないかな。

 

 それは妄想するだけで、現状に対するもろ刃の刃だったから…………。

 

 前世の僕と今の僕は違う人間だけど、記憶がある以上やっぱりアイデンティティはどこか似通ってしまう。

 

 まぁ外の世界に行きたいという願望は、中学を卒業したら孤児院を出て行く僕にとっては好都合ではあるんだけどね。

 

 『孤独に負けない力になるっ!!』

 

 なんてキャッチフレーズみたいだけど、物心ついてからずっと孤児院暮らしで、大人数の中で生活してたから1人だけって状況にやっぱり不安と寂しさを感じるわけで…………。

 

 まだ先の話だけどね。

 

 と言っても、後6年しかないけど。

 

 これが『も』なのか『しか』なのかは難しい所で、判断する時のメンタル次第。

 

 ちなみに今はちょっと『しか』の方に傾いてるかな。

 

 はやての事で家族を強く意識してるせいかも。

 

 まぁ、なるようにしかならないから焦っても仕方ないとは分かっているんだけど、気持ちは理屈じゃないからそれこそ仕方がない。

 

「真お兄ちゃん? どないしたん?」

 

「ん?」

 

 はやての声で我に返る。

 

 取り留めもない事を考えながらぼ~~っとしていたら、流れではやての事を見つめていたらしい。

 

「もしかして、私の美貌に見蕩れていたん?」

 

 明らかに冗談と分かるドヤ顔をするはやて。

 

 こいつのこういう所が面白くて楽しくて、そして可愛らしい。

 

 うん、どうやら僕の兄バカモードは絶賛継続中みたいだな。

 

「はやて」

 

「なんや?」

 

 僕の優しい声色に、ボケに乗って来ないのかと切り替えたはやてだけど

 

「可愛いよ」

 

「なっ!?」

 

 不意打ちで返され、驚いた後に真っ赤になって大慌て。

 

「ななななにいきなり言うとるんっ!! アホちゃうかっ!!」

 

 うん、こういうリアクションも可愛いけど、このくらいの返しを受け流せないとはまだまだだな。

 

「良かったね。はやてちゃん」

 

「なにがっ!? 何も良い事なんかないわっ!!」

 

 追い打ちをかけるなのはちゃんに絶叫で返すはやて。

 

 なのはちゃん、さっきもだけど意外と乗っかって来るよね。

 

 素なのかワザとなのか判断に迷う。

 

 まぁ、雑談もこの辺にして、そろそろ魔法の話に移ろうかな。

 

「さて、なのはちゃん。はやてが可愛いのは世界中が認めてるからいいとして、魔法について話したいんだけどいいかな?」

 

「は、はい。お願いします」

 

 はやての「私そんなワールドワイドなんっ!?」というボケかツッコミか分からない発言は無視する。

 

「これだけ話してたら流れで想像ついてるかもしれないけど、なのはちゃんも魔法の才能があるんだ。それも僕なんか比べ物にならないくらいの大きな才能が」

 

「本当ですかっ!!」

 

 身を乗り出す勢いのなのはちゃん。

 

 昨日から魔法への食い付きが良過ぎるな。

 

 まぁ小学校に上がる前の女の子にしてみたらこれが普通なのかな。

 

 最近の魔法少女ってプリキュアだっけ?

 

 初代はやけに肉弾戦してたパワフルなイメージだけど、最新のはどうなんだろ?

 

「うん、魔法使いの中でもトップクラスの才能があるよ。それで、」

 

 一度言葉を切って真面目な表情を作り

 

「その力を僕とはやてに貸して欲しいんだ」

 

 昨日なのはちゃんの気持ちは聞いているけど、改めてお願いする。

 

「はい。はやてちゃんの足を治すのに協力させてください」

 

 それに元気いっぱいの返事を返してくれたなのはちゃんに嬉しくなり

 

「ありがとう」

 

 お礼と一緒に握手をすると、そこにもう一つの手が重なる。

 

「なのはちゃん、ありがとうな」

 

「ううん、友達のためだもん。当たり前だよ」

 

「私もなのはちゃんが何か困った事あったら全力で助けるからな」

 

「うん、その時はよろしくね」

 

「任しときっ!!」

 

 二人の友情に眩しいものを感じ、目を細める。

 

 状況によるんだろうけど、僕にはこういう友達いないな。

 

 いや、友達がいないわけじゃなくて、テンションが違うっていうか、まだ小3の男子って本当に子供っていうか、僕も同い年なわけなんだけどそこは前世の記憶のせいで一人だけ精神年齢が高くてある意味で付いて行けないっていうか、まぁこんな非日常な状況がまず有り得ないから比べる事がそもそも間違いなんだろうけど、正直ちょっと羨ましい。

 

 でも男同士でこれだと暑苦しいかな。

 

 さておき、話を戻そう。

 

「じゃあ、なのはちゃんにはこれから魔法の訓練をしていってもらうね。ちなみに先生は僕じゃなくて彼女が担当する」

 

 そう言って首から認識票を外し、なのはちゃんの前に置く。

 

「これ?」

 

『初めまして、なのは』

 

「にゃっ!?」

 

「しゃべったっ!?」

 

 驚くなのはちゃんとはやて。

 

 まぁ無機物がいきなりしゃべったら普通そうなるよね。

 

「彼女はニケ。魔法を使う際に補助してくれる機械をデバイスって言うんだけど、その中でも人工知能、AIを積んだものをインテリジェントデバイスって言うんだ。見た目は人とは違うけど、ちゃんと個人としての人格があるから普通に接してくれると有り難いな。ちなみに僕の魔法の先生でもある」

 

 「へぇ~~」「ほぉ~~」と感心した二人は、思い出したかのように揃って自己紹介。

 

「えっと、高町なのはです。よろしくお願いします」

 

「八神はやてです。よろしくお願いします」

 

『こちらこそ、よろしくお願いします。気軽にニケとお呼びください』

 

 ニケはやや機械的ではあるけど、丁寧で従者タイプのスタンスをしている。

 

 一番近いイメージはメイドさんかな。

 

 いや、実際に会話したことないけど、そんな感じという事で。

 

「ニケ、一旦君をなのはちゃんに預けるからゲスト登録して練習見てあげてくれるかな」

 

『YES、マスター』

 

「いいんですかっ!?」

 

 驚くなのはちゃんだけど、その表情に歓喜の色が窺える。

 

 はやての事を抜きにしても魔法に興味津々なんだな。

 

 まぁ、いいんだけどね。

 

「うん、僕は学校が終わってからなのはちゃんと合流して訓練するから、なのはちゃんがニケと一緒にいた方が効率的だからね」

 

「じゃ、じゃあ」

 

 なのはちゃんは大きな期待とちょっとの不安が入り混じった表情で認識票に手を伸ばし、ぎこちない動作で首にかける。

 

「よろしくね、ニケ」

 

『YES、よろしくお願いします、なのは』

 

 そしてニケの返事にほころぶ様な笑顔を浮かべた。

 

「なぁ、真お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「私にも何か出来る事ないか?」

 

「あ~~~~っと」

 

 なのはちゃんとニケを見て、自分の事なのに他人任せなのが心苦しいだろうはやてだけど、

 

「残念な事に魔法関連だとないな。むしろはやてが魔法を使おうとすると多分予定より早く書が覚醒して取り返しのつかない事になる」

 

「そうか…………」

 

 期待はずれな答えにしょんぼりしてしまった。

 

 それが見ていられなくて、

 

「はやて」

 

「なんや?」

 

「月並みかもしれないけど、貰った優しさの分、はやてが周りに優しく出来るようになればいいと思うよ」

 

 はやては言われた言葉を噛み締める様に数瞬視線を下げてから

 

「うん、ありがとう。真お兄ちゃん」

 

 もうちょっと気の利いた事が言えたら良かったんだけど、それでも少しだけ笑ってくれた。

 

 よし、もう一押ししよう。

 

「とりあえず今分かってるのは、はやてには今まで辛い思いをしてきた守護騎士たちに家族の温もりを教えてあげるっていう重大な任務があるって事かな」

 

 少しおどけて言うと

 

「そっちはバッチリや。家族としてウザがられるくらい大事にしたる」

 

「いや、ウザがられちゃ駄目だろ」

 

「そんな事あらへん。家族っていうのはそのくらいが丁度いいんや」

 

「そうなのか?」

 

 孤児院育ちの僕にはその辺のさじ加減はよく分からないですよ。

 

 まぁはやてに元気が出たから良しとするかな。

 

 なのはちゃんはなのはちゃんでニケと魔法の事や訓練の事を楽しそうに話してるし、後はまったり過ごすか。

 

「はやて、ゲーム機ってある?」

 

「あるで。勝負するか?」

 

「おぅ、兄の偉大さを見してやるぜ」

 

「ふん、返り討ちにしたる」

 

 結果、格ゲーでは僅差で負けたけど、落ちもの系では圧勝しましたとさ。

 

 

 




結局、あんまりなのはと魔法の話はしませんでしたね。

文字数的に足りたので練習風景も書かなかったし。

後書きで予告とかするもんじゃないな。

と言いつつ、次話はやっとなのは達が小学校に入学します。

いきなり小三まで飛ばす事はしませんが、小一小二はあんまり書くこと思い付いてないんですよね。

なにせ、主人公が違う学校ですから。

そして主人公の一人称視点は崩さない方針なので。

まぁ、何とかしてみます。


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なのはとはやてが小学校に入学

後半に個人的な宗教観が出てきますが、特定の宗教を批判するものではなく、あくまでも宗教の自由が認められている日本でのそれも一個人の考えですので、そういう考えの人もいるというレベルで納得していただければと思います。


 何を当たり前のことをと言われるかもしれないけど、僕を始め孤児院のみんなは当然の様に公立の小学校や中学校に通っている。

 

 僕は捨てられた時にニケ以外の所持品が何もなかったから論外なんだけど、親が事故死などして親戚がいなかった事から預けられた子にはそれ相当の財産があるわけなんだけど、孤児院を出た後の進学にかかる費用や部屋を借りる際の頭金、将来まとまった金額が必要になった時のために無駄使いせず貯めておくというのが園長先生の方針だ。

 

 かくいう僕もパフォーマンスで稼いだお金をちびちび貯め込んでいる。

 

 お金と言うものはそれだけで幸せにはなれないけど、幸せになるために必要な場合が多々あるものだからね。

 

 さて、なんでこんな話をするかと言うと、はやての進学の話に繋がる。

 

 はやてが孤児院に来た当初はみんなと同じ様に公立の小学校に行かせる予定だったんだけど、足の麻痺が悪化し車椅子の生活を余儀なくされた事によってそれは事実上不可能になった。

 

 車椅子に乗るはやてにとって絶対条件となるバリアフリーが公立の学校ではまだ進んでいなかったからだ。

 

 それじゃあとこの近辺でバリアフリー設備のある学校を探してみるとヒットしたのは一件だけ。

 

 私立聖祥大附属小学校しかなかった。

 

 選択肢が他になかった事もあるけど、後見人のグレアムさんがお金の心配はするなと言ってくれ、加えてなのはちゃんも元々同じ所を受験する事になっていた事がはやての不安を取り除く後押しをした。

 

 そして二人とも見事合格。

 

 膝下まである白いロングのワンピースに同じ色のミニ丈のジャケットを重ねた可愛らしい制服を着て、四月から仲良く一緒に通っている。

 

 最初の一週間は車椅子の事ではやてがからかわれたりイジメられたりしないかと不安だったけど、それは僕の杞憂に終わった。

 

 はやての明るい性格となのはちゃんのサポートもあって問題なく馴染めたらしい。

 

 もしそんな事になっていたら殴り込みに、いや、魔法を使う事も辞さない覚悟だったから、色んな意味で良かったと思う。

 

 結界魔法と転移のレアスキル『世界の扉』を使えば完全犯罪とか余裕ですよ?

 

 まぁそうは言ってもそんなに酷い事はしません。

 

 むしろ考えようによっては喜ばれるかもしれない。

 

 夕日の沈むグランドキャニオンに1時間放置とか、普段着のままで南極のペンギンに会いに行くとか……。

 

 自然の素晴らしさを知るのは情操教育に良いって言いますよね。

 

 まぁそんな黒い話はさておき、というか黒くないですし、当然ですよ。

 

 身内と他人なら100%身内を優先します。

 

 家族と世界ならノータイムで家族を取りますが何か?

 

 ん? 結局黒いのか?

 

 まぁいいや、話を進めよう。

 

 孤児院や魔法の練習の合間に二人から学校での事を聞いていると、出てくるトピックスは大まかに言って三つ。

 

 ①はやて談、なのはちゃんについて。

 

「なのはちゃん、自己紹介から凄い人気でな。真お兄ちゃんとの大道芸を見て顔覚えてた子がいっぱいいたみたいでな。なのはちゃん可愛いし、あれは何年かしたら絶対ファンクラブとか出来るわ。今から写真撮っといて、お宝写真として売り出せば……」

 

 はやて、その歳でもう商魂たくましいのは関西弁のせいか?

 

 でもおまえって生まれも育ちもこっちが地元のエセ関西人だよな。

 

 親御さんが商売でもしてたか?

 

 さておき、その話を聞いた次の日になのはちゃんをその事で称賛したら、全力で謙遜して両手をパタパタ振りながら真っ赤になってとても恥ずかしそうにしていた。

 

 パフォーマーとしてはぜひパフォーマンスで評価してもらいたい所だけど、それも見てもらわなければ始まらないわけで、だから顔と名前が売れるのは良い事だ。

 

 だけどファンクラブまではいいとして、ストーカー紛いのが出てこない事を祈ろう。

 

 ちなみに祈るのは、ストーカーの命に対してだけどね。

 

 家族を大事にしているのは僕だけじゃないって事だ。

 

 ②なのはちゃん談、友達。

 

「―――― 友達? ―――― できました♪アリサちゃんとすずかちゃん。アリサちゃんは綺麗な金髪のカッコイイ子で、私が教室で質問責めにあってる所を助けてくれたの。それでアリサちゃんも私のことを見たことあるらしくって「また見せてね」って言ってくれて。すずかちゃんははやてちゃんが先に仲良くなった子で、紫がかった不思議な色の髪をした落ち着いた大人っぽい子なの。はやてちゃんが図書室で本を探してる時に、手の届かない本を取ってくれたのがきっかけなんだって教えてくれたの。ちょっと運命的で羨ましいかも。 ―――― え? ―――― そう言われてみると確かにアリサちゃんは私にとって王子様……なのかな?でもそんなこと言ってらきっと怒られちゃう」

 

 うん、流れはちょっと違うけど、前世の知識通りにあの二人と友達になったみたいで安心した。

 

 でもこれってどう判断したらいいんだろう。

 

 創作物であった前世の『魔法少女リリカルなのは』と、僕たちが今を生きる現実との齟齬。

 

 僕のせいだって言うのは簡単だけど、それでも出会い、友達になった4人。

 

 運命って言葉で納得するべきなのかな。

 

 ちょっと違うけど、前世からの導きによりとか……電波過ぎるか。

 

 でも僕に前世の記憶があるのは証明は難しいけど僕の中の真実ではあるわけで、それを考えたら運命とか奇跡とかもあながち間違いじゃないかもしれない。

 

 とりあえず、末永くその友情が続きますように……。

 

 ③二人より、クラスメイトやその周辺について。

 

「男子はゲームとかアニメの話、後は校庭でサッカーとかしてるな」

 

「そうだね。あんまり話す機会ないよね」

 

「そんで女子はテレビの話とか休みの日に家族でどこ行ったとかの話が中心やな」

 

「新しく始まったドラマの話とか盛り上がってるよね」

 

「後は完璧超人の話やな」

 

「はやてちゃん、完璧超人って……」

 

「名前なんやったっけ」

 

「とりあえず隣りのクラスの子なの」

 

「そうそう、何回かうちのクラスにも顔出してたけど、あの外見は反則やわ」

 

「髪も肌も白くて、眼が赤くって、」

 

「ああいう色が薄い人をアルビノって言うんやって。生まれつきの体質らしいわ。目立つのが嫌な性格やったら可哀想やな。私もそういう所ちょっと分かるし」

 

「はやてちゃん……」

 

「そんな目で見んと、大丈夫や。私にはなのはちゃんにすずかちゃん、アリサちゃんもおるし心配あらへんよ」

 

「うん」

 

「話戻すけど、あの子、男子と一緒にサッカーしてたみたいやし、女子はアイドル扱いで仲良くなりたいみたいやし、そんな心配はいらへんのかもな」

 

「そうだね。運動も勉強も優秀だって言ってたもんね」

 

「そんで爽やかイケメンときてる。まさに完璧超人やな」

 

「はやてちゃん、そのあだ名気に入ってるの?」

 

「ちょっとな」

 

「もう」

 

「いや、一応褒め言葉やで」

 

「一応って言ったの」

 

「遠目から見る分にはいいけど、近くにいたいとは思わへんもん」

 

「あ、それは私もなの」

 

「何て言うか、嘘っこいっていうか、爽やか過ぎんねん」

 

「やっぱり無理してるのかな」

 

「そうかもしれんな。あの外見で暗かったりしたら間違いなくイジメられるやろうし」

 

「ちょっと可哀想だね」

 

「まぁ、そうと決まったわけやないけどな。自分大好きナルシストの可能性もあるし」

 

「そ、それは」

 

「ないと思う?」

 

「う、う~~ん、どうだろう」

 

「まぁ、まだ名前も知らんわけやし、とりあえずは保留やな」

 

「賛成なの」

 

 この話を聞いた時、少し引っかかるものがあったんだけど、二人に倣って保留にしておいた。

 

 特にはやて達に実害がある様子じゃないし、アルビノという先天性異常は実際にあるわけだから、前世の知識にあるトンデモ設定と結びつけるよりは常識の範疇に落ち着けた方が現実的だと思ったからだ。

 

 いくら僕に前世の記憶があって、次元世界なんてSFと魔法なんてファンタジーが実在したとしても、神様はないよ。

 

 いや、ユダヤ教もキリスト教もイスラム教も仏教もその他数多ある宗教も否定する気はないし、信じたい人は信じればいいと思うけど、現代日本人の僕としてはそれは難しいと言わざるを得ない。

 

 現代日本は科学という名の宗教が一般的だからね。

 

 どのくらい浸透してるかと言うと、科学は万能だと言う言葉に疑問を抱かないくらいに。

 

 科学の定義は再現可能な法則を指すけど、物凄く根幹的な所で、実は法則の仕組みが解明されていない。

 

 例えば、万有引力がなぜ働くかとかね。

 

 同じ工程を繰り返し、同じ結果が出たから、これはそういう法則の基に成り立っているんだという客観性のある経験則であって、当てはめた数式がこじつけである可能性は捨てきれない。

 

 実は見えない妖精さんが頑張ってるかもっ!!

 

 なんてのは冗談だけど。

 

 僕の結論としては、見たこともない神様を信じるくらいなら、ブラックボックスがあるけれど目に見えて結果の出る科学を信じるよ。

 

 だから前世で読んでいた二次創作のようなテンプレの神様転生なんてものはない。

 

 よって、二人の話に出てきた彼は、僕と同じように現実の今を生きる一人の人間だ。

 

 僕の前世の記憶がある事については、リンカーコアという実体のないものが存在している事から、魂だってあって不思議はないだろうと仮定して、僕以外にも前世の記憶を持っている人がいる事実を考えればギリギリ納得できる。

 

 法則を表す数式にだって必ず例外となる特別解があるんだから、記憶を引き継ぐ魂にそれを当てはめてもいいだろう。

 

 …………必死になって自分を誤魔化している自覚はちょっとはあるけど、自覚したからって答えは変わらない。

 

 お決まりになってきた台詞だけど、未来は不確定だ。

 

 その都度、その場で対処する。

 

 味方なら協力するし、敵なら妥協点を探すか排除する。

 

 一般人なら被害が及ばないようにする。

 

 そんな所だね。

 

 




ちょっとした疑問なんですが、人間で白蛇みたいなレベルの色素異常ってあるんですかね?

白人でならいそうかな?

ちなみに彼は踏み台転生者や魔導師として敵や味方になったりはしませんのであしからず。

じゃあ何で出したって言われそうですが、それは次話にて……。


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訓練ちゃんとやってます

久しぶりの更新です。

無印突入前の最後の話なわけですが、説明回みたいで面白みがないですが良かったらお付き合いください。



 はやてとなのはちゃんが小学校に上がってから2回目の冬。

 

 この2年の間に起こった事と言えば、なのはちゃんのパパさんが無事退院したり、訓練を始めて早々に魔法の事が高町家の面々となのはちゃんの友達にバレれたくらいで、後は特に大きな問題もなく平々凡々……とは言わないけど、まぁ比較的平和に修行の毎日を送っています。

 

 え? 魔法がバレた事に対する扱いが軽いですか?

 

 まぁ最初と言っている事が違う自覚はあるんですが、ぶっちゃけた話バレちゃったもんは仕方ないです。

 

 別に管理局に入っているわけでもなく、こちとら管理外世界の現地住民ですからね。

 

 秘匿するかどうかは個人の自由ですよ。

 

 バレた相手も信用できる人達ですし、そのおかげで訓練し易くなったのも事実ですしね。

 

 気にしない事にしてます。

 

 さて修行の内容ですが、朝、放課後、夕食後と時間帯によって内容を分けていて、朝は僕となのはちゃんが一緒にやっている操作性を重視した魔法訓練です。

 

 早起きしてランニングがてら海沿いの公園で落ち合い、空き缶を地面に落とさないように誘導弾で打ち上げ続ける空き缶リフティングをウォーミングアップとして、そこから缶を複数用意しての交互での打ち上げ合いや陣地を決めてのバレーボールみたいな勝負形式での訓練を1時間くらいかけて行っている。

 

 これまで威力がないため操作性を重視して鍛えてきた僕の方が経験の差で最初こそ勝っていたけど、半年くらいであっさりと差がなくなり、今では物量(制御できる誘導弾の数)に圧されて負け越している始末。

 

 なんたって僕の5個に対してあっちは12個と倍以上だからね。

 

 魔力量はもちろん、マルチタスクの数でも完敗ですよ。

 

放課後はフィジカルトレーニングと格闘訓練のセットで、これはなのはちゃんの友達、月村すずかちゃん(お金持ち)にお願いして専門のトレーナーさんにメニューを組んでもらって、年齢に合った無理のないプログラムを行っている……のはいいんだけど、なぜかすずかちゃんのお姉さんの忍さんが凄い乗り気で月村邸の庭、というか山にアスレチックの巨大コースまで作ってしまい正直何を目指してるのか分からないレベルになっている。

 

 塾や習い事がない日はすずかちゃんともう一人の友達アリサ・バニングスちゃん(やっぱりお金持ち)も加わり、さらにコースを作るのにアドバイザーとして忍さんに強制参加させられていた恭也さんと、なぜかそれに引っ付いて来る形で美由希さんも頻繁に訓練に参加したりしている。

 

 妹達の手前、特にそういった発言はないけど、忍さんと美由希さんの間で恭也さんを巡る恋の火花が飛び交っている様に見えるのは僕の気のせいではないだろう。

 

 これが『リア充爆発しろ』って状況か。

 

 ちなみに高町家の血筋だけど、恭也さんとなのはちゃんは母親違いで、美由希さんは養子でイトコに当たる。

 

 つまり美由希さんと恭也さんが結ばれてもイトコだから問題なし……なのかな?

 

 確かイトコ同士は結婚できたはずだけど、養子を解除しないといけない気もする。

 

 まぁこちらに被害がなければ他人の恋路なんて正直どうでもいいんだけどね。

 

 羨ましいとは思うけど、まだ別に好きな子とかいないしな。

 

 話を戻そう。

 

 格闘訓練については、将来的に魔法の杖レイジングハートが手に入ると仮定して、棒術をチョイスした。

 

 まぁ僕の場合、そもそもニケの形態が棒、というか30cmから2mくらいまで伸びる伸縮性のあるステッキだからちょうど良かった面もある。

 

 ちなみに、恭也さんと美由希さんは別格として、幼少メンバーだと僕を含め一番強いのはすずかちゃんだ。

 

 何と言うかパワーが違う。

 

 前世の知識通りやっぱり吸血鬼なんだろうか。

 

 まぁ、本人から言わない限りわざわざ踏み込む事もないだろうから別にいいけど。

 

 それで次に肉体的に勝っている僕が強く、なのはちゃんとアリサちゃんはいい勝負をしている。

 

 その際、もちろん身体強化魔法は使っていない。

 

 自力を上げないと意味がないからね。

 

 とは言っても、そっちの方も慣れておかないといけないから恭也さんや美由希さんに相手をしてもらっているんだけど、『永全不動八門一派御神真刀流小太刀二刀術』本当にあったんだな。

 

 身体強化しても全く歯が立たない。

 

 パワーやスピードで拮抗したからこそ、余計に経験に裏打ちされた技術で差を付けられる。

 

 なんて言えばそれらしく聞こえるけど、ただ単に御神流が化物の使う剣術だと言う事だ。

 

 命と人生をかけても修められるか分からない様な技術に、普通の武術、しかもたかだか2年しか齧っていない素人が敵うわけがない。

 

 魔法が全てOKの試合形式ならとりあえず空に逃げて、後はなのはちゃんなら射撃や砲撃、僕なら大量の瓦礫なんかを転移させて落とせば勝てるかもしれないけど、暗殺剣としての面もある御神流にルール無用で挑まれたら気配を消した不意打ちで一発で終わるだろう。

 

 とりあえず要鍛錬という事だな。

 

 夕食後の訓練は、なのはちゃんをあまり遅い時間まで出歩かせるわけにはいかない関係で高町家の庭で、少し実践的な魔法の訓練を行っている。

 

 出だしはお決まりになっていて、安全と隠蔽のために最初に僕が結界を張ると、待ってましたと言わんばかりになのはちゃんは飛行魔法で空を飛び回る。

 

 空を飛ぶ事はなのはちゃんが魔法を覚えてからの一番のお気に入りだ。

 

 ちなみにこの結界のせいで高町家に魔法の事がバレました。

 

 空間に対する違和感と、いきなり気配が消えた事を不審に思ったとか何とか……。

 

 剣術家って凄いんだな。

 

 さておき、なのはちゃんが気の済むまで飛び回ってからは直射弾をできるだけ多く展開して弾幕を張る訓練や、誘導弾を絡めたコンビネーション、足を止めての砲撃魔法、周りに散らばった魔力を集めて再利用する収束魔法なんかの訓練を行う。

 

 僕が使っても役に立たないせいもあって、ニケの中の高速飛行、射撃、砲撃の魔法はすっかりなのはちゃん専用に調節されている。

 

 僕がデバイスを必要とするのはより緻密な回復魔法と各種結界魔法くらいかな。

 

 それも一番頻度の高い封時結界なら融通は利かないけど術式丸暗記で使える様になったし、朝練の誘導射撃魔法、歩くくらいのスピードしか出ない飛行魔法、とりあえず自然治癒力を上げるだけの回復魔法、レアスキルと使い分けるために覚えた転移魔法なら自力で何とかなるし、レアスキルの探査の『世界の窓(ワールドウインドウ)』と転移の『世界の扉(ワールドドア)』は魔法陣を必要としないから問題ない。

 

 そんな僕が訓練中何をしているかと言うと、不本意ながら動く的をしている。

 

 一応回避だけじゃなく反撃もするから模擬戦と言えなくもないけど、射撃魔法の雨や視界がピンク一色になる容赦のない砲撃魔法ばかり撃たれてたら気持ち的には完全に的だ。

 

 飛行魔法で浮いてはいるけど基本回避はショート転移で逃げ回り、たまになのはちゃんの直射の射撃魔法を『世界の扉』で反撃に使ったりしてはいるけど、バリアジャケットがないから命中イコール気絶なので背中に冷や汗流しながら割と必死に逃げ回っている。

 

 そんな夕食後の訓練は日によって一時間から二時間くらい。

 

 僕は公立のヌルい学校だから問題ないんだけど、有名私立のなのはちゃんの方は学校の宿題が割と出るので22時までには寝る事にしている手前、逆算して訓練を早く切り上げる事もある。

 

 マルチタスクがいくら使えてもそれで頭が良くなるわけじゃないから分からない問題はやっぱり分からないし、目も手も二つしかないからスピードは変わらないからね。

 

 僕となのはちゃんの話はこれくらいにして、はやては何をしているかと言うと、中三の律姉を受験勉強に専念させてあげるために中一のマト姉と家事を分担して取り仕切ってくれている。

 

 はやては姉御気質なのかみんなを使うのが上手く、ついつい自分で全部やってしまうマト姉とは対照的だ。

 

 家事のない暇な日は一緒に月村家に来て訓練を応援しながら紅茶片手に優雅に読書を楽しんでいたり、月村家のしっかりした方のメイドさんのノエルさんに教えてもらいながら一緒に料理をしていたり、訓練のない日はゲームなんかでみんなで遊んだりしている。

 

 問題のはやての足の麻痺の原因でもある闇の書、夜天の書ははやてが魔法に関わっていないせいか未だ沈黙を守っている。

 

 前世の知識だと9歳の誕生日、6月4日に闇の書が覚醒し、徐々に広がる麻痺のせいで11月ないし12月には入院、とりあえずクリスマスまでは生存していた。

 

 つまり短く見て、闇の書の解決までの猶予は覚醒から半年。

 

 今考えている解決策にはジュエルシードが必要なので、彼女らが小三の5月から逆算して最悪小二の11月を無事に越えられるかがポイントだった。

 

 期日が近づく今年の夏頃から内心ではビクビク、胃はキリキリしてたけど、そんなストレスからも解放されて今は少し気が抜けて炬燵で丸くなっている。

 

 後は計画を推敲しながら、ジュエルシードが降ってくるのを願うだけだ。

 

 来なかったら来なかったで一応想定した考えもあるけど、これは時空管理局と敵対する流れになるので出来れば避けたい。

 

 ジュエルシードが降って来なければフェイト・テスタロッサとは出会わないし、時空管理局とも接触しない。

 

 そしてはやてを助けるために僕となのはちゃんはヴォルケンリッター側に付く事になる。

 

 しかもジュエルシード事件があったからこそ良識ある管理局員のリンディ提督とクロノ執務官が乗る次元航行船アースラが闇の書事件を担当したとも考えられ、それがなかったらはやてごと闇の書の封印を企んでいるグレアム提督の息のかかった部隊が担当する可能性もある。

 

 そうなってくると、最初から降参して名指しでリンディ提督か聖王教会のカリムにはやての保護を求めるか、全面抗戦しか道はなくなってくる。

 

 まぁ色んなケースを考えておいて損はないから無い知恵絞って考えておこう。

 

 とりあえず近況報告としてそのくらいかな?

 

 ……あっ、忘れてた。

 

 どうでもいい事かもしれないんだけど、僕の中の一つの懸案事項として、はやて達の同級生にいた完璧超人のアルビノの少年だけど、どうやら転校してしまったそうだ。

 

 なんでもファッション誌のモデルにスカウトされ、そのまま芸能界デビューするために事務所のある東京に引っ越したのだとか。

 

 試しに彼が載っている雑誌を見せてもらったけど、これだけの浮世離れした外見なら芸能界入りも納得といった感じだった。

 

 あの外見は男でも見蕩れるレベルだな。

 

 どっかのプレイボーイが『薔薇はみんなで愛でるものなのさ』とか言っていたけど、確かに彼ほどの美貌なら放って置くのはもったいない。

 

 まぁ液晶ディスプレイの向こうから陰ながら応援しているとしよう。

 

 さてと、今度こそ報告はこのくらいにして、お正月に向けて和の大道芸の練習でもしようかな。

 

 三が日の稼ぎでみんなへのお年玉の額が変わるから頑張らないと。

 

 今年はなのはちゃんだけでなく、はやて、すずかちゃん、アリサちゃんも着物で手伝ってくれるからきっと凄い稼ぎになるぞ。

 




芸能界デビュー、こういう転生者がいてもいいと思うんですよね。
命の危険もないし、美人もいっぱいいるし。
まぁ魔法は使えませんがね。


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ジュエルシードが降ってきた

やっと……やっと無印突入です。

ジュエルシード探索、レアスキルの本領発揮ですよっ!!

ただ地味なんでそこはサラッと流しますが……。


 探査のレアスキル『世界の窓』。

 

 この能力は、対象に対して有している知識や自分との距離などに応じて精度が変わる。

 

 例えば、なのはちゃんの居場所なら「あっ、家にいるな」とかなり正確に分かる反面、名前しか知らず他次元にいるであろうクロノ・ハラオウンの居場所を探そうとしてもぼんやりとしたイメージが浮かぶだけだ。

 

 でもこの不確かな情報こそが今回のケースでは有効に働く。

 

 なぜなら探査に反応があるという事はジュエルシードが存在している事の証明であり、不確かな反応はジュエルシードがまだ海鳴に落ちて来ていない事を示しているからだ。

 

 と言うわけで、四月になってから毎晩と言わず暇を見つけては日に何度も『世界の窓』を使ってジュエルシードの動向を調べていた。

 

 一日一日と動きがない事に気をはやらせること十数日、

 

「…………来たっ!!」

 

 今までただ漠然と一塊にその存在を感じていたものが、今は正確な位置までは分からないまでもここから十数kmの範囲内に点在しているのが感じられる。

 

 部屋着から運動用のジャージに着替え、その上にウィンドブレーカーを重ね着する。

 

 時計を見ると時刻は夜の十時を回ったところだ。

 

「まだこの時間だと人目があるか」

 

 飛べば目撃される危険があり、かと言って徒歩ではランニングに見せかけてもお巡りさんに職質ないし補導される可能性がある。

 

 ならば、

 

「ニケ、認識阻害結界」

 

『Yes、認識阻害結界Standby』

 

 自分で纏う分だけの魔力を流し、速度は変わらなくても障害物を無視できる分だけ効率の良い飛行魔法で捜索に出る。

 

「まずは神社だな」

 

 前世の知識にあるジュエルシードが暴走する場所の中で一番場所の特定がし易くかつ移動が楽なのが神社だ。

 

 月村邸の庭、と言うか山も候補の一つではあるけど、あそこは無断で侵入したら警報とか鳴りそうだから日が出てから堂々と正面から訪問させてもらうつもりだ。

 

 そんな後の流れを考えているうちに神社に到着。

 

「さてと、じゃあサクサク行きま……って、マジか」

 

 『世界の窓』を使うまでもなく社をくぐった参道のド真ん中に堂々と月明かりを反射し青く光る宝石が鎮座していた。

 

「ま、まぁ手間が省けたと言う事でOKかな。うん、一つ目のジュエルシード確保っと」

 

 僕の資質と魔力量じゃジュエルシードを封印なんて出来るわけもないので、そのままニケの中に収納する。

 

 よく分からないけど、デバイスの形態変化にしても収納力にしても量子変換レベルと言うか、異次元に繋がってると言うか、まぁ通常空間でない事は確実なのでそこにある分には安全だろう。

 

 そこからはジュエルシードを直に見た事で精度の上がった『世界の窓』と転移の『世界の扉』でチャッチャと集めていく。

 

 しかしその途中で探査に引っ掛かっていたジュエルシードの一つがロスト……とまでは言わないけど酷く曖昧なものに変化した。

 

 これはと思い試しにユーノ・スクライアで探査をかけると漠然とだけど同じ様な範囲に反応があったためジュエルシードが暴走し状態が変化、戦闘に入ったものと判断する。

 

 ちなみに僕は戦闘なんてまっぴらごめんなので『世界の窓』で注意しながらユーノを探す。

 

「確か下校中のなのはちゃん達が塾に向かう途中の公園か何かだったはずだから」

 

 と当たりを付けてフラフラすること十数分、歩道から分け入った茂みの奥で倒れているフェレット擬きを何とか発見。

 

「ニケ、バイタルチェックお願い」

 

『Yes、呼吸脈拍共に安定、体温も正常範囲内です』

 

「そう」

 

 ふぅと安堵の息を吐いてから、出血している外傷を治癒魔法で治していく。

 

「さすがにこのまま放置……はないか」

 

 さっきのジュエルシードの暴走体や野犬にでも襲われたらひとたまりもない。

 

 しょうがないから一旦家に連れて帰り、治療と保護の駄賃としてレイジングハートを回収した上で部屋に放り込んでおく。

 

 この時点で時刻は日付をまたいだ。

 

 明日の朝練は休ませてもらうとしても代わりに月村邸に行く事を考えると睡眠時間がヤバい事になるので、急いで残りのジュエルシードを回収して回る。

 

 そして何とか暴走体と月村邸以外のジュエルシードを確保し終え、布団に入ったのは午前二時。

 

「睡眠時間三時間か、明日は辛いな」

 

 ボヤキながらもまずはジュエルシードがちゃんと降ってきた事、それを無事に確保できた事に安堵しながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無情なる目覚ましの音で意識が浮上する。

 

 夢なんて微塵も見ない眠り。

 

「うぅぅ、眠い」

 

 習慣で目は覚めるけど睡眠不足で頭がクラクラする。

 

 このコンディションで念話は無理っぽいと携帯に手を伸ばす。

 

 『なのはちゃんへ。今日は朝練休みます。ごめんなさい。放課後会わせたいフェレット擬きがいるんだけど予定大丈夫かな?』っと。

 

 ついでにユーノのお色気写真を送付しておこう。

 

 まぁただ丸まって寝てるだけだけど。

 

 あ~~、とりあえず昨日は帰って来てそのまま寝ちゃったから潮風も浴びたしシャワー浴びよ。

 

 (シャワーシーン?誰得ですか?)

 

 熱いシャワーのおかげでとりあえず目は覚めたけど、走るのは面倒だしバスを待つのもな……うん、『世界の扉』で転移してしまおう。

 

 思い立ったが即行動。

 

 能力の発動と同時に家の何の変哲もない玄関の扉が、左右に延々と壁の続く豪邸の門に変わる。

 

 転移してからもっと人目を気にした方が良かったかなと思ったけど後の祭りなのでスルー。

 

 インターフォンを押し、急に下がった外気に頭の芯が冴えてくるのを感じながら待っていると朝から元気いっぱいの月村家ドジっ娘メイドのファリンさんが応対してくれた。

 

「おはようございます、真君。こんな朝早くにどうしたの?」

 

「おはようございます、ファリンさん。多分なんですけど訓練場に落とし物しちゃったみたいで学校前にちょっと探したいな~~なんて思いまして」

 

「真君が私みたいな事するなんて珍しいね。手伝う?」

 

「いえいえ、自分だけで大丈夫なんで、入れてもらっていいですか」

 

「あっ、ごめんね。はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「真君、朝食はもう食べた?良かったら準備しておくから探し物の後にでもどう?」

 

「ぜひ、お願いします」

 

 出会った当初はメイドとして年下の僕にも様付けで話してくれてたファリンさんだけど、根っからの庶民の僕には居心地がよろしくなかったので「お友達からお願いします」と勢いで友達になってもらった。

 

 ちなみにしっかりした方のメイドさん、ノエルさんの懐柔には失敗。

 

 メイドと言う職業にプライドがあるそうな。

 

 まぁそれはさておき、ジュエルシードの方は10分程の捜索で無事確保。

 

 巨大にゃんこでもふもふの夢は非情に、ひっじょぉぉぉぉに残念だけど断腸の思いで断念しました。

 

 封印のために攻撃されるのは可哀想だからね。

 

 にゃんこは愛でるものですよ。

 

 ちなみに僕は犬派か猫派と聞かれれば断然猫派だ。

 

 ちょっとつれない時もあるけど甘える時のあの可愛さと言ったらもうたまりません。

 

 奴らは絶対確信犯だ。

 

 だが、そこがいい。

 

 さておき、

 

「んじゃ、ブルジョア階級の朝食をご馳走になりに行こうかな」

 

 部屋数がいくつあるか分からない冗談みたいなサイズの洋館の月村邸。重厚な扉を開け足音のしない毛の深い絨毯を進み二年間も通っているため勝手知ったる何とやらでお手洗いで手を洗ってから食堂に入る。

 

「おはようございます、忍さん、ノエルさん」

 

「おはようございます、加藤様」

 

「あら、おはよう、真君。こんな時間にどうしたの?」

 

 十人が一緒に食事を取れる歴史を感じさせる木製の長テーブルの一番奥の家長席で英字新聞を広げながら優雅に紅茶を飲んでいる忍さんとその側で一歩引いて控えているノエルさんという映画のワンシーンの様な絵図等。

 

 何て言うかこれだけで雰囲気に圧倒されるな。

 

 ちなみに忍さんとすずかちゃんのご両親は既に他界されていて、忍さんは18歳にして月村家の現当主をしている。

 

 一見冷たい印象を受ける美貌に紫がかった長い髪と抜群のプロポーション。

 

 でも話してみるとお茶目で悪戯好きだったり、趣味がゲームに機械いじりと意外と親しみやすい人だ。

 

「ちょっと訓練場に落とし物しちゃって登校前に探させてもらってたんですよ」

 

「わざわざ?」

 

「えぇ、わざわざ」

 

「……危険物?」

 

「そうですね」

 

「魔法関係?」

 

「みんなには内緒で」

 

「高くつくわよ?」

 

「出世払いでお願いします」

 

「あら、ニケを分解させ――――」

 

「ダメです」

 

「それは残念」

 

 今のやり取りで分かる通り、すずかちゃんだけでなく月村家の面々にも魔法について話してある。

 

 大所帯のアリサちゃんのバニングス家と違って月村家は忍さん、すずかちゃん、ノエルさん、ファリンさんの4人しかいないし、多分だけど吸血鬼2人に自動人形2体と、ある意味魔法使いよりよっぽど特殊だ。

 

 しかも将来的になのはちゃんの義理の姉妹になるかもしれないと言う事で話してしまった。

 

 まぁ恭也さんもなのはちゃんも内緒事に向かない性格してるから遅いか早いかの違いだったろうけどね。

 

 ただ今回はユーノに知られずにジュエルシードを確保していたかったので、隠し事が下手ななのはちゃんに伝わらない様に周りにもなるべく秘密にしておく。

 

「真君、お待たせしました」

 

 席に着くとすぐにファリンさんがカートを押して食事を持ってきてくれた。

 

 トレーじゃない事に安心したのは内緒だ。

 

「ファリンさん、ありがとうございます。では、いただきます」

 

 さてさて期待に胸膨らませるブルジョアジーな朝食はと言うと、クロワッサンにバターロール、ふわふわなスクランブルエッグにコーンスープ、グリーンサラダにフルーツと絵に描いた用な洋風ブレックファースト。

 

 意外と普通だなと思ったけど、うん、一つ一つのクオリティが家庭のそれじゃなかった。

 

 きっとスーパーで売ってる6個入りの丸パンとかインスタントのスープとか食べたことないんだろうな。

 

 そんな事を考えながら舌鼓を打っていると、

 

「ふあ~~、みんなおはよ~~」

 

 薄い灰色に水色の水玉、スウェットタイプのパジャマ姿でまだ半分寝ていそうなすずかちゃんが登場。

 

「おはようございます、すずかお嬢様」

 

「おはようございます、すずかちゃん」

 

「おはよう、すずかちゃん」

 

「おはよう、すずか」

 

 とっさに忍さんと目配せして、口々に何食わぬ顔で普段通りに挨拶する。

 

 すずかちゃん付きのファリンさんは椅子を引いてあげてから朝食を取りに、忍さんは新聞の続きを、ノエルさんは自己主張少なに紅茶を入れ直し、僕は食事を継続。

 

 僕に気付かず船をこいでるすずかちゃん。

 

「お待たせしました。さぁすずかちゃん起きてください」

 

「うん、いただきます」

 

 食事を持ってきたファリンさんに肩を揺すられ少しだけ覚醒したすずかちゃんは可愛く手を合わせてからリスの様にパンをもきゅもきゅしだす。

 

 うん、微笑ましい光景だな。

 

「ご馳走様でした、ファリンさん。凄い美味しかったです」

 

「お粗末様でした。食後の飲み物は何がいい?」

 

「じゃあ、紅茶を」

 

「了解、了解」

 

 ドジっ娘を発動させないファリンさんにちょっと感心しながらその背を見送っていると

 

「忍様、そろそろご準備を」

 

「そうね。すずか、ちゃんと目を覚まして遅刻しないようにね」

 

 頭を振るだけでコクコクと返事を返す寝坊助さん。

 

 それを「仕方ないわね」と一つ苦笑して席を立った忍さんは食堂を出る所で振り返り、悪戯っ子の微笑みを浮かべて

 

「そのままだと真君に笑われちゃうわよ」

 

 爆弾を投下して行った。

 

「…………………………え?」

 

 時間をかけて現状を理解したすずかちゃんと正面から目が合う。

 

「真君、紅茶お待――――」

 

「えぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「きゃっ!?」

 

 絶叫するすずかちゃん、それに驚いて躓きトレーを投げ出すファリンさん、とっさに『世界の扉』でトレーごと転移させてキャッチする僕。

 

 危うく大惨事だったな。

 

 さすがファリンさんだ。

 

 このドキドキ感がたまらない。

 

「ま、真君、大丈夫だった?」

 

「えぇ、ギリギリセーフでした」

 

「良かった~~。ありがとう、真君」

 

「いえいえ、ファリンさんこそ大丈夫でした?」

 

「うん、私は頑丈に出来てるからね。このくらいへっちゃらさ」

 

「つまり転けること前提で頑丈に出来ていると」

 

「そんなことなっ……いよね?」

 

「聞いちゃった!!」

 

「えへへ~~」

 

 うん、ファリンさん可愛いな。

 

 ドジっ娘は危ないから直して欲しいけど、ハニカんでるメイド姿は百点満点だね。

 

 いつかご主人様と呼ばれてみたいかも。

 

「なんで真さんが普通にウチで食事してるんですかっ!?」

 

 おっと、フリーズ&放置のすずかちゃんが再起動したみたいだ。

 

「ちょっと訓練場に落とし物しちゃってさ。取りに来たらファリンさんにお呼ばれしてね」

 

 横でうんうんと頷くファリンさん。

 

「そ、そうですか……」

 

「ところで、すずかちゃん」

 

「な、なんですか?」

 

 慌ててパジャマの裾を伸ばしたり髪に手櫛を入れているすずかちゃんに対して、僕はテーブルの上で手を組み若干下から伺うようにして真面目な雰囲気を出してからフッと笑顔を作り

 

「意外と朝弱いんだね」

 

「っ!?」

 

「パジャマ姿も可愛いよ」

 

 衝撃を受けたすずかちゃんに追撃。

 

 すずかちゃんは段々と視線が下がって行き俯いた所でプルプルと振動を始め絞り出すようにして

 

「ま」

 

「ま?」

 

「真さんのイジワルぅぅぅぅぅぅ」

 

 全力で逃げ出した。

 

 その子供らしい振る舞いにファリンさんと微笑み合ってから

 

「じゃあ、私はすずかちゃんのフォローに行ってきますね」

 

「僕はせっかくだから紅茶一杯飲んでからお暇させてもらうのでお構いなく」

 

「はい。じゃあ、行ってらっしゃい、真君」

 

「行ってきます、ファリンさん」

 

 その辺のティーパックじゃ出せない香りを楽しんでから学校に向かう。

 

 何か通いたくなっちゃうな、月村邸。

 




現在12歳の主人公は、3つ年上15歳のファリンさんのメイド姿に萌えております。

別にヒロインってわけじゃないんですけどね。


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魔法少女リリカルなのは誕生

もうちょっとサクッと書けると思ってたのに、気が付けば7000オーバー。
内容は厚くないのになぜ……。


 月村邸で20個目のジュエルシードを確保した日の放課後、翠屋でなのはちゃんと落ち合い、昨夜から何も食べていないだろうフェレット擬きへとシンプルなバタークッキーを購入してから帰宅する。

 

 道すがらなのはちゃんに昨夜変な夢を見なかったか聞いてみると「何で知ってるんですかっ!?」と驚かれた。

 

 適当になだめつつ先を促すと「えっと、ファンタジーのRPGに出てきそうな格好した私くらいの男の子が、大きな黒い煙りのモンスターにこう「ジュエルシード封印」て感じて赤い宝石を使って魔法で倒そうとするんですけど逃げられちゃって、男の子はそこで力尽きて倒れちゃうって夢でした」と身振り手振りを交えて教えてくれた。

 

 のはいいんだけど、道端でポーズ決めたりするのは止めとこうか。

 

 ほら、井戸端会議中のおばちゃん達から生温かい目を頂戴してるからね。

 

 「にゃはは」て照れ笑いは可愛いけど耳まで赤くなってるよ?

 

 結果、小走りに逃げ帰ったためいつもより少しだけ早く帰れた。

 

 うん、なのはちゃん、ドンマイ。

 

 孤児院に着き、小動物でも飲みやすいようにフチが低く底が平らで安定している皿を二つ用意して牛乳とオレンジジュースを注ぎ、部屋に向かう。

 

 自室という事もありノックせずに扉を開けると、音に反応したのか勉強机の上に置かれたタオルを敷き詰めた籠の中で顔を上げたフェレット擬きと目が合った。

 

「おぉ、目が覚めたのか。調子はどうだい?」

 

 当然の様に返ってくる返事はないが、気にせず続ける。

 

「先に状況だけ説明しておこうか。怪我して倒れてた君を保護して治療したのは僕。そしてここは僕の部屋。でも礼は言わなくていい。ギブ&テイク、報酬は勝手にもらってある」

 

 そう言ってポケットから赤い宝石、インテリジェントデバイス『レイジングハート』を取り出して光を通す様に目の前に掲げて見せると、フェレット擬きは目を大きく開き、何か言いたそうに口をパクパクさせ、指差す様に肉球の付いた丸い手をこちらに向けてくるが、追い討ちとばかりに

 

「命が助かったんだ。安いもんだろう?」

 

 と口元だけを皮肉っぽく上げてみせる。

 

「真さん?」

 

 そんな端から見たら動物に対して一人で語っているアレな僕に対してなのはちゃんは、犬屋敷のアリサちゃんや猫屋敷のすずかちゃんで慣れているのか可哀想なものを見る瞳ではなく純粋に「どうしたの?」と疑問の目を向けてくる。

 

「なのはちゃんは昨日変な夢見たって言ってたよね?」

 

「にゃ? う、うん」

 

「実は僕にも変な事があったんだ」

 

 突然の話題転換になのはちゃんの表情が戸惑ったものに変わる。

 

「それはね。この辺には僕となのはちゃんしか魔法使いはいないはずなのに、誰とも知れない男の子の声で助けを求める念話が聞こえたんだよ」

 

「それって、私達以外にも魔法使いがいるって事ですよね? ううん、そんな事よりその子は大丈夫だったんですか」

 

「これ」

 

 簡潔なセリフと共にフェレット擬きを指差すが、その意味を測りかね、なのはちゃんの顔にはクエッションマークが張り付く。

 

 人差し指を顎に当て小首をかしげるポーズが凄くキュートだ。

 

 若干天然さん入ったなのはちゃんはこういうのを狙わずに素でやるから凄い。

 

 まぁいつまでもこのままって訳にはいかないから補足を入れよう。

 

「その声の主がこのフェレット擬きだと思われる」

 

「え? えっと……」

 

 僕とフェレット擬きを数回交互に見てから、

 

「この子が念話を使ったって事は、この子は魔法使いって事なの?」

 

「そうだね。しかも喋れる」

 

 動物と話ができると聞いて目を輝かせるなのはちゃん。

 

 うん、その気持ちはよく分かる。

 

 もしも魔法の力と動物と話せる超能力とどちらか一方を貰えるとしたら、僕だったら後者を選ぶもん。

 

 そんな事を考えていると

 

「えっと、私、高町なのは。小学校三年生。家族とか仲良しの友達はなのはって呼ぶよ。あなたは?」

 

「ぼ、僕はユーノ・スクライア。スクライアは部族名だからユーノが名前です」

 

「わぁ、本当にお話できるんだ。ユーノ君か、可愛い名前だね」

 

「あ、ありがとう」

 

 二人の自己紹介が終わっていた。

 

「あぁ~~フェレット擬き君、今度はそっちの事情を説明してくれるかな」

 

「あっ、は、はい」

 

 ファーストコンタクトのイメージのせいか、僕には少し怯えた態度なんだな。

 

 まぁその方が都合が良いからいいけど。

 

「僕はある探し物のためにここではない世界から来ました。探し物の名前はジュエルシード。ロストロギアと呼ばれる僕らの世界の古代遺産です。本来は手にした者の願いを叶える魔法の石だったはずなんですが、力の発現が不安定で単体で暴走して使用者を求めて周囲に危害を加える場合もあれば、たまたま見つけた人や動物が間違って使用してしまってそれを取り込んで暴走する事もあります。僕は故郷で遺跡発掘を仕事にしているんですが、ある日古い遺跡の中でアレを発見して、調査団に依頼して保管してもらったんですけど、運んでいた時空間船が事故か何らかの人為的災害に遭ってしまい21個のジュエルシードがこの世界に散らばってしまったんです。僕らの世界の治安維持組織『時空管理局』にすぐ通報はしましたが大きな組織だし、ここは管理外世界だから到着までに時間がかかると思って僕だけでもと先行して来たんですけど……」

 

「あえなく暴走体に返り討ちと」

 

「……はい」

 

 バッサリ斬られしょんぼりとうなだれるフェレット擬き。

 

「あれ、でもちょっと待って。話を聞く限りではジュエルシードが散らばっちゃったのって別に全然ユーノ君のせいじゃないんじゃ」

 

「だけどあれを見つけてしまったのは僕だから。全部見つけて、ちゃんとあるべき場所に返さないとダメだから」

 

「なんとなく……なんとなくだけど、ユーノ君の気持ち分かるかもしれない。真面目なんだね、ユーノ君は」

 

 責任感が強いのは良い事だけど、自分の身の安全を疎かにするのはどうかと思う。

 

 もちろん誰かがやらなくちゃいけない事だし、放置は論外として、でも出来もしない事に命をかけるくらいなら少しでも成功確率の高い方法を模索するべきだ。

 

 だから今回の彼の行動は、結果から見ると、無謀か見通しが甘かったかのどちらになる。

 

 でもその心意気は嫌いじゃない。

 

「でも、僕一人の力では思いを遂げられないのは昨日で分かりました。だから迷惑だと分かってはいるんですが、資質を持った人に協力して欲しくて。お礼はします。必ずします。ジュエルシードを封印するのを手伝ってもらえないでしょうか」

 

 真摯な態度で頭を下げるフェレット擬きを見て、なのはちゃんが「手伝いましょう」と僕に視線を送ってくるけど、それを手で制し

 

「具体的にお礼は何をしてもらえるのかな」

 

 交渉に移る。

 

「えっと……」

 

「命を張るんだ。それ相当の報酬はもらわないと」

 

「真さんっ!!」

 

「そう……ですね」

 

 嘘ではないだろうけど勢いで言ったために言葉に詰まっているフェレット擬きと、僕の態度に不満の声を上げるなのはちゃん。

 

 放置すると後が怖いから先に説得かな。

 

「いいかい、なのはちゃん。困っている人を助けるのは良い事だけど、今回は道案内や荷物を持ってあげるのとはわけが違う。僕も実感はないけど、一生残る様な怪我をしたり、最悪命の危険もある。そんな危ない橋を渡るのにただ親切だけで付き合う、付き合わせるというのは、付き合う側には甘えを、付き合わせる側には多大なストレスを与えるものなんだ。なのはちゃんだって友達に何かしてもらった時に「ありがとう」以外に「申し訳ない」て感じる事があるでしょ?あれの拡大版だと思ってみてよ」

 

 一旦言葉を切り、なのはちゃんの理解が追い付いたのを確認する。

 

「だから、労働に対する報酬を決めて契約という形にするんだ。ただ「手伝って」てお願いするより「後でジュース奢るから手伝って」てお願いする方が言いやすいでしょ?契約という形は、付き合う側のモチベーションの維持と、報酬という言い訳がある事で付き合わせる側のストレスの軽減が見込めるんだ。OK?」

 

「……OKなの」

 

 頭で納得はしてるみたいだけど、心はそうもいかないみたいだな。

 

「大丈夫。ちゃんとなのはちゃんも納得できような条件考えてあるから」

 

 フォローのつもりで、なるべく優しい笑顔を作って頭を撫でてあげると

 

「真さん……」

 

 戸惑いの表情から、少し安心したものに変わり、頷いてくれた。

 

 さて、言ってしまった手前、彼にこっちから条件を提示しなくちゃな。

 

「フェレット擬き君、世界が違うということは金銭は通貨も違えば貴金属のレートも違うだろうから、ここは君の無償労働券10枚を二人分でどうだろう」

 

「無償労働ですか?」

 

 なのはちゃんも一緒に首をかしげる。

 

「そう。例えば、ある事柄について調べてきてもらう『情報提供』とか、どこかへ連れて行ってもらう『道案内』とか、ある物を入手してきてもらう『おつかい』とか」

 

 提示された条件を吟味する様に腕組みをし首を傾げるフェレット擬き。

 

 なかなか可愛らしく面白い絵図等だな。

 

 横を見ると、なのはちゃんも「うんうん」と納得のご様子だ。

 

「グレーゾーンは攻めてもらうけど、犯罪をしろとは言わないし、拒否権はもちろんアリで。どうかな?」

 

「それなら……まぁ、大丈夫……かな?」

 

「OK?」

 

「はい。それでお願いします」

 

 よし、話はまとまった。

 

「じゃあ、さっさく具体的な対策を話し合おう。なのはちゃんもそれでいいね」

 

「はいっ」

 

 いいお返事だね。

 

 やる気満々だ。

 

「とりあえずこちらの手札を話しておくと、僕は結界に転移と回復、なのはちゃんは飛行に射撃と砲撃が得意だね。さっき封印って言ってたけど、それは射撃や砲撃に分類されるのかな?」

 

「はい、そうなります」

 

「じゃあ、なのはちゃん、手出して」

 

「にゃ?」

 

 なのはちゃんの手にレイジングハートを載せる。

 

「これは?」

 

「ニケと同じデバイスだよ。とりあえず当面のなのはちゃんの相棒として貸しとくね」

 

「いいんですか?」

 

「僕にはニケがいるからね」

 

 胸元のニケを軽く指で撫でると、少し震えた気がした。

 

「そうじゃなくて……」

 

 チラチラとフェレット擬きに視線を送っている。

 

 あぁ、そういうことね。

 

「フェレット擬き君」

 

「は、はい」

 

 別段大きな声を出してるわけでもないのに、いちいち過剰反応だな。

 

「これを保護と治療の対価としてもらう事に問題はあるかい? ちなみにこの後なのはちゃんには主戦力として動いてもらうつもりだけど」

 

「それなら……問題ないです」

 

 本人がいいって言ってるんだからいいんだろうけど、確かインテリジェントデバイスって凄い高いんじゃなかったっけ?

 

 まぁ脅迫みたいな形で奪った僕が心配することじゃないけど。

 

「だって」

 

「じゃ、じゃあ」

 

 まだ少し抵抗があるみたいだけど、何だかんだ言って自分だけのデバイスが嬉しいのか、両手で大事そうにレイジングハートを包み、笑みがこぼれている。

 

「このデバイスに封印術式が入ってるんだよね?」

 

「はい」

 

「じゃあ起動ワードを教えてあげてよ」

 

「はい。じゃあ、なのはさん」

 

「あ、なのはでいいよ。ユーノ君」

 

「えと……」

 

「なのは」

 

「な、なのは」

 

「うん」

 

 ご機嫌ななのはちゃんと、フェレット形態で分かりにくいがきっと顔を赤くしているであろうユーノ。

 

 正直早くして欲しいが、まぁ急かすのも野暮と言うものだろう。

 

 この二人が将来結婚したりしたら、このシーンは回想で絶対入ってくる場面だからな。

 

 もちろんニケには部屋に入ってからの全てを録画してもらっている。

 

 いや、結婚式云々は冗談として、交渉するんだから記録は大事でしょ?

 

 他意はない――――――こともない。

 

「じゃ、じゃあ目を閉じて、心をすませて、僕の言った通りに繰り返して」

 

「うん」

 

 二人の間の緩んでいた空気が緊張感漂うものに変わる。

 

「我、使命を受けし者なり」「我、使命を受けし者なり」

 

「契約の下、その力を解き放て」「契約の下、その力を解き放て」

 

「風は空に、星は天に」「風は空に、星は天に」

 

「そして不屈の心は」「そして不屈の心は」

 

「「この胸にっ!!」」

 

 輪唱だった詠唱が重なる。

 

「「この手に魔法を。レイジングハート、セットアップーーッ!!」」

 

『stand by ready set up』

 

 レイジングハートから機械音ぽい女性の声がすると同時に、なのはちゃんを中心に部屋が桃色の光りに埋め尽くされる。

 

 うん、起動ワード中にこっそり結界張っておいて良かった。

 

 まだ日が出てるからって、これだけの光量が窓から漏れてたら不審がられるからね。

 

「落ち着いてイメージして、君の魔法を制御する魔法の杖の姿を、そして君の身を守る強い衣服の姿を」

 

「うん、それはもう考えてあるんだ。レイジングハートお願い」

 

 そう言ってレイジングハートになのはちゃんが口付けすると、なのはちゃんの体が宙に浮かび服、キャミソール、下着が順に消え一糸まとわぬ姿になり、次にコアを核として1m50cmくらいのメタルチックな杖が出現。

 

 それを掴むとそこから広がるようにバリアジャケットが展開され、杖を振り回し最後にポーズを決めて着地した。

 

 呆気にとられて数秒フリーズ。

 

 まさか魔法少女の生変身シーンを拝める日が来ようとは……。

 

 まぁその感動は一旦置いておいて、言わなくちゃいけない事がある。

 

「あ~~なのはちゃん、なのはちゃん」

 

「あ、どうですか、真さん? このバリアジャケット」

 

 なのはちゃんのバリアジャケットは基本的に白地に青いラインが入ったデザインで、上下がくっついたスパッツタイプのインナーに丈の短い長袖のジャケットを羽織り、両足の前に二本のスリットの入った足首丈のスカート、ニーハイソックスで絶対領域を出している。

 

「え? う、うん、凄く可愛いし、動きやすそうでいいね」

 

「そうなんですよ。最初は制服みたいなワンピースタイプにしようと思ったんですけど、キックが出しにくそうだし下着が見えちゃいますから、スパッツにしてスリットを入れてみたんです」

 

 バリアジャケットの出来に自画自賛でご満悦ななのはちゃんだけど、言ってあげる方が親切だろう。

 

「なのはちゃん」

 

「はい?」

 

「バリアジャケットで下着が見えない様に配慮した点は女の子として偉いけど、バリアジャケットを展開する過程で、その、裸が丸見えになってたよ」

 

「…………………………え?」

 

 あ、固まった。

 

 と思ったら、おぉ一気にトマトみたいに真っ赤になったぞ。

 

「にゃぁぁぁぁっ!! なななななんでっ、どうしてっ、レ、レイジングハート、どういうことっ!?」

 

『This is by design (仕様です)』

 

「にゃぁぁぁぁっ!! そんなアニメみたいな仕様ダメなの。か、変えてっ!! 変えられるよね!? アニメだって中盤以降は省略するんだし。ねぇ、レイジングハート、お願い」

 

『I'll do my best (善処します)』

 

「善処じゃダメなのっ!! 普段なら部屋で着替えればいいけど、もし外で急に着替えることになったら変態さんになっちゃうの」

 

『Don't worry (気にしないで)』

 

「気にするよっ!!」

 

 なんかレイハさん、なのはちゃんイジって遊んでないか?

 

 いや、真面目なレイハさんに限ってそれはないか。

 

 まぁ、あれだけいい反応されたらイジりたくなるのも納得だけどね。

 

 でも、話が進まないからこの辺で止めておこう。

 

「ニケ、レイジングハートの説得よろしく」

 

『Yes Master』

 

 この後、二機の間でピコピコと点滅しながらデータのやり取りが行われ、無事にお色気サービスの省略がなされた。

 

 安心したなのはちゃんと、目を合わせられない挙動不審なフェレット擬きと、この現状に呆れ顔の僕という微妙な空気も誰か直してくれないかな。

 

 あぁ、もちろん変身シーンも録画してありますよ。

 

 ただしオートでモザイクの光線が入ってますけどね。




レイハさん、ちょっとだけイジリキャラにしてみました。
なのははイジられてこそ光ると思う。

次回はテンプレのような暴走体とのバトルですが、なのはは魔法を覚えて既に丸二年が経過しているので楽勝予定です。
フェイトが出てくるは次回か次々回ですね。


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なのは無双

気分転換にH×HのSS書き始めたので、こっちの更新は二週間ぶりですね。

あっちは三人称視点で書いてるんですが、やっぱり一人称視点の方が書きやすいです。

そういえば前話にちょっとだけ書き加えたんですが、確認するのが面倒くさい人のために → なのはとユーノの良いシーン&なのはの変身シーンをニケにて録画。理由は、もし二人が結婚した時のためのネタ映像のため。


 部屋での話し合いの後、

 

「暴走しちゃってるなら早く退治した方がいいんだよね?」

 

 と言う、なのはちゃんの鶴の一声でさっそく暴走体の捜索に乗り出す事になった。

 

 結界担当は僕。

 

 実戦担当はなのはちゃん。

 

 ユーノは回復魔法で怪我は治したけど、地球の魔力素が合わないらしく本調子には程遠いとの事なのでお留守番――――――と言いたい所だったんだけど、本人たっての希望で暴走体の目撃者として同行している。

 

 責任感の塊みたいな奴だな。

 

 その横で何食わぬ顔でジュエルシードを隠し持ってる僕は他人から見たら極悪人?

 

 ま、それも悪くない。

 

 パフォーマーだから演じるのは好きなんだ。

 

 さておき、

 

 ジュエルシードの事も僕のレアスキルについても今はまだ秘密にしておきたいから、捜索は地道に行う。

 

 まずは、ユーノを発見した場所に行き、普通の探査魔法を展開。

 

「魔力反応なし」

 

「移動しちゃったのかな?」

 

「僕の魔法で、封印はできなかったけどダメージは与えたはずだから、どこかで身を潜めて回復するのを待っているのかも」

 

「その暴走体は魔力を隠したりとかできそう?」

 

「そうですね。出来ると思います」

 

「じゃあ、探査魔法は意味なしと」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 ユーノのこういう態度にもそろそろ慣れてきたな。

 

 と思いながら、次の魔法を展開っと。

 

「え……結界?」

 

「うん、結界魔法なら中のものを選別できるから、もし範囲内に入れば隠れてても関係ないかなって。思い付きだけど」

 

 悪くない考えだと思うんだけど、どうだろ?

 

「どうなんだろう?」

 

「どうなんでしょう?」

 

 揃って首を傾げるの図。

 

「ま、この中なら何を壊しても問題ないから、手当たり次第やっちゃってよ。なのはちゃん」

 

「了解なの。レイジングハート」

 

『Standby Ready』

 

 一瞬の閃光の後、なのはちゃんはバリアジャケット姿になり、空に上がる。

 

「巻き添えはごめんだからね。ニケ」

 

『Yes Master』

 

 まだ自力で飛べないユーノを掴み、自分も空に退避。

 

 その直後、

 

「ディバインシューター。シューーーートッ!!」

 

 桃色の光球による蹂躙が眼下で繰り広げられた。

 

「「……………………」」

 

 言葉をなくす男二人。

 

 その圧倒的魔力と、躊躇の無さに恐怖しか覚えないよっ!!

 

「怒らせないようにしよう」

 

「そ、そうですね」

 

 ユーノもそう思うか。

 

 あれ? でも何かいつもより弾の数が多いような……。

 

 イ~チ、ニ~、サ~ンって、早いし多いし数えられんっ!!

 

「ニケ、なのはちゃんのシューター、何個飛んでる?」

 

 こういう時は他人任せ。

 

『20です。新記録ですね』

 

「鬼に金棒。なのはちゃんにレイジングハートか」

 

 本当に言葉もない。

 

 何かあればフォローでもと思ってた自分が恥ずかしい。

 

『Master、MasterはMasterのできる事を成せばいいかと』

 

「そう……だね。ありがとう。ニケ」

 

『いえ、私のMasterはアナタだけですから』

 

「うん」

 

 なのはちゃんと魔法の訓練をするようになってから貸してる事が多かったからな。

 

 これからはずっと首から下げていよう。

 

 ちなみに待機状態のニケは軍人が付けるような認識タグだけど、バリアジャケットの時は杖の根元、グリップの下に付いている。

 

 先端の方にあると、打撃とか気になって全力出せないからね。

 

「真さん」

 

「ん? あ、終わった?」

 

「はい♪」

 

 下は…………見ない方がいいな。うん。

 

「じゃあ、結界の位置をずらしながら、しらみつぶしに殺って行こうか(誤字に非ず)」

 

「はいっ」

 

 元気いっぱいなのは良い事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから3つの焦土を作った後、やっと当たりを引いた――――――――――んだけど、

 

「リリカルマジカル ジュエルシードシリアル21 封印」

 

『Receipt Number XXI』

 

 瞬殺だった。

 

 なのはちゃんのディバインシューターにいぶり出された暴走体が破れかぶれで突貫してきたのをプロテクションで弾き返し、間合いが空いた所に回避不可能、全方位からの光球の集中砲火。

 

 爆散してコアとなるジュエルシードが露出している所に封印術式と、何とも手際のいい殺り口でした。

 

「凄い……」

 

 圧倒されているユーノ。

 

「お疲れさま、なのはちゃん。お見事。圧巻の勝利だね」

 

「にゃははは」

 

 照れ笑いは本当に可愛いのに、さっきまでの無双を思い出すと素直に思えないよ。

 

「とりあえず、もう夕飯の時間だし今日は帰ろうか」

 

「うん♪ もうお腹ぺこぺこなの」

 

「フェレット擬き君はとりあえず僕のとこね」

 

「は、はい」

 

「うちは食べ物屋だからな~~ちょっと残念」

 

「いや、自宅と翠屋って別だから大丈夫じゃない?」

 

「本当ですかっ!?」

 

「多分ね。帰ったら聞いてみなよ。OKだったらメールして」

 

「はい♪」

 

「フェレット擬き君もそれでいい?」

 

「はい、僕は厄介になる側ですからどちらでも」

 

 殊勝な態度だね。

 

 9歳とは思えない。

 

 いくら社会に早く出る魔法文化圏だからって、脳の発達速度は同じだと……違うのか?

 

 まぁ、いいか。

 

 なのはちゃんは完璧にフェレットだと思ってるし、ラッキースケベでも楽しんでください。

 

「あ、なのはちゃん。ちょっとレイハさん貸してくれる?」

 

「レイハさん?」

 

「うん、レイハさん」

 

 指差して言葉を重ねる。

 

「なんで、さん付けなの?」

 

「何となく?」

 

 とりあえず貸してもらった。

 

「レイハさん、お願いが」

 

『なんでしょう?』

 

「良かったら、出来る範囲でいいんで、なのはちゃんとユーノが一緒にいる所を録画しておいてもらえませんか」

 

『構いませんが、理由を聞いても?』

 

「ユーノはこの世界の人間ではないでしょう? つまりこの事件が終わったら自分の世界に帰ってしまう。 そしてもしかしたら二度と会えないかもしれない。 だから思い出を記録として残しておいてあげたいんですよ」

 

『そういう事なら。サンキュー、マコト』

 

「いえいえ、こちらこそ」

 

 半分は結婚式云々とイジリネタですからね。

 

「なのはちゃん、ありがとう。はい」

 

「うん、もういいの?」

 

「うん。じゃあ、帰ろうか」

 

「はい」

 

 さて、これでジュエルシードは全部集まったから暴走云々の心配はなくなった。

 

 捜索に関してもこのまま見つからなければ違う場所か、そもそも違う次元に落ちたと思うしかないだろうけど、当てもなく探すのは不可能だから諦めるしかない。

 

 まぁこちらの用事が済めば話しても構わないだろうけど、それはその時考えよう。

 

 問題はこの後来るであろうフェイト・テスタロッサとその使い魔のアルフ。

 

 そしてその背後にいるプレシア・テスタロッサ。

 

 うまく丸め込んで、平和に事が運ぶと良いんだけど……。

 

 とりあえずは、また『世界の窓』で地球に来たかチェックの日々だな。

 

 目途は……確か来週末くらいだったか?

 

 イレギュラーに注意しようにも出たとこ勝負しか出来ないわけだし、まぁやるだけやりましょうかね。

 




次回は満を持してフェイト登場です。

ここからは(も?)オリジナル展開爆走予定。

上手く書けるかは……頑張りますww


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フェイト、ファーストコンタクト

書いては書き直し、書いては書き直し、なかなか決まらなかったフェイトとのファーストコンタクト。
奇襲で鎮圧して拘束、バルディッシュを人質にとっての尋問と脅迫なんて考えたんですけど、こんな感じに落ち着きました。


 暴走の可能性が高く、単体で次元震を引き起こす程のエネルギーを内包したロストロギア『ジュエルシード』。

 

 その捜索を今まで訓練に当てていた時間で行うにあたって、その相談と危険性を事前にみんなに説明しようと暴走体を封印した翌朝になのはちゃんと話し合い、放課後に月村邸に集まってもらった。

 

「ジュエルシードねぇ~?」

 

 魔法の存在は既知であり、目の前でフェレットが喋り、本体である青い結晶を見せられても、やはりどこか半信半疑な一同を代表してアリサちゃんが懐疑的な声を漏らす。

 

「これが暴走すると地球どころか次元そのものが崩壊するって言われても、いまいちピンと来ないわね」

 

「で、でもアリサちゃんっ」

 

「あ~あ~分かってるわよ、なのは。 何もそこの喋るフェレット、ユーノだっけ? の言う事を疑ってるわけじゃないの。 ただ実感がわかないって言うか想像がつかないってだけよ」

 

「うん、私も正直……」

 

「いきなり地球滅亡の危機言われてもなぁ?」

 

 いや、はやて。オマエがそれ言っちゃ駄目だろ。

 

「実際問題として、なのは、その暴走体とやらと戦ってみてどうだったんだ? 怪我は特にしてないようだが」

 

「うん。楽勝だったよ」

 

「楽勝って」

 

「真君、詳しく」

 

「実際見て貰った方が早いですね。ニケ」

 

『Yes Master』

 

 みんなに見えるように空間ディスプレイを出す。

 

「「「……」」」

 

 そして繰り広げられるなのはちゃんの自然破壊とワンサイドゲームに一同唖然。

 

「なのは」

 

「なに? アリサちゃん」

 

「あんたの方がジュエルシードなんかより百倍危険よっ!!」

 

「えぇぇぇぇっ!?」

 

 予想だにしない指摘に絶叫するなのはちゃんだが、あの映像を見てフォローしようとする者はいなかった。

 

「なぁ、真兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「私ももしかしたらなのはちゃんにあんなんや(殺?)られるんやろか」

 

「…………はやて」

 

 怯えるはやての肩に優しく手を置き、はやての表情に安堵が広がる瞬間

 

「あれ以上だ」

 

「いややぁぁぁぁっ!!」

 

 こちらも絶叫。

 

 すずかちゃんは仲裁に忙しそうだし、恭也さんと忍さんは呆れて二人の世界に旅立った。

 

 何て言うか、カオスと言うか、いつも通りと言うか……。

 

「なぁ、フェレット擬き君」

 

「えっと、はい」

 

「緊張感なくて悪いね」

 

「ははは……」

 

 まぁ実際には危険はないわけだから許して欲しい。

 

 そんな感じで和気あいあいと進められた話し合いの結論は、封印はなのはちゃん頼り。

 

 ジュエルシードの暴走が感知された場合は、魔法使いの近くならば各個に対処。

 

 離れている場合は、なのはちゃんは所定の位置で待機し、ユーノが転移魔法で回収しながら現場へ向かう。

 

 捜索は手の空いている時に必ず二人以上で行い、発見しても手に取らずなのはちゃんを呼ぶ。

 

 そんな感じに決まった。

 

 僕? 僕は良く言えば遊撃隊。

 

 結局の所、封印はなのはちゃんにしか出来ないし、転移と結界のサポートは一人でいい。

 

 だから僕は別行動で先に到着した時の時間稼ぎが主な役割。

 

 まぁ影でこそこそ動くわけだし、その方が都合がいい。

 

 そうして始まったジュエルシード探索だけど、なのはちゃんが暴走体を圧倒的な力量差で蹂躙した映像が思いのほか効いたらしく当初から捜索に緊張感はあまりなかった。

 

 そのおかげで僕も自由に姿をくらませられたわけなんだけど、暴走もしなければ探せど探せど一個も見つからない現状が一週間も続くと、もはや捜索は散歩気分で、ユーノですらここ周辺にはないのではと疑い出す始末。

 

 諦めるのは早いにしても探し方に方向転換は必要だろうと、明日は作戦会議を兼ねたお茶会を開こうという話になって解散したというメールが金曜日の夜に届いた。

 

 そして明けて土曜日の朝、起き抜けにベットの上で日課となっている『世界の窓』を展開すると

 

「…………っ!? ようやくお出ましか」

 

 昨夜までは「存在は感じられるけど居場所はただ漠然としか分からない」という結果だったフェイトとアルフの反応が、今は近くに感じられる。

 

 でもこれは海鳴から外れてる?

 

 とりあえず方角くらいは分かるし、朝ご飯食べたらさっそく行ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『世界の窓』と探査魔法を駆使して無防備に空を飛んでいる金髪ツインテールの少女、フェイト・テスタロッサを見付けたのはいいんだけど、何て言うか、うん、知ってた。 知ってたよ? 知ってたんだけどさ。 知っててなお格好がアレだ。

 

 黒いレオタードに同色のニーハイソックスで対照的に雪の様な真っ白い肌の絶対領域を強調、革製の太めのベルトに白いスカートの様な布地が付いているがなぜか前面が空いていて丸見え、そこに唯一魔法使いらしい黒色のマントを羽織り、デバイスは身長よりも高い黒い杖。

 

 何かのコスプレなのかとツッコミたい。

 

 恥ずかしくないんだろうか?

 

 なんて思いながら近付いて行ったら声をかける前からバリバリに警戒されてデバイス向けられた。

 

 「誘拐とか心配だし、知らない人に対して警戒するのは良い事だよね」と自分に言い聞かせて何とか平常心を保つのが精一杯ですよ。

 

 いや、こういうのは最初が肝心だ。

 

 なるべくフレンドリーに行こう。

 

「はじめまして、異国か異界のお嬢さん。ようこそ海鳴市へ」

 

「…………」

 

「僕は加藤真。海鳴生まれの海鳴育ち。この辺だと数名しかいない魔法使いの内の一人だよ。よろしくね」

 

「…………」

 

「良かったら名前と、ここに立ち寄った理由を教えてもらいたいんだけど」

 

「…………」

 

 沈黙が痛いです。

 

 最近では防犯のために電話の対応も「はい、○○ですけど」とは言わず、ただ「はい、もしもし」て出るのが良いらしいんだけど、せめて名前はいいから挨拶だけでも返して欲しい。

 

 仕方ないからこっちから話題を振ろう。

 

「もしかしてだけど、この前降ってきた魔力結晶体と何か関係があったり――――――」

 

「もし持っているならジュエルシードをこちらに渡してください」

 

 食い付いてきたーーっ!!

 

 言い切る前に食い付いてきたーーっ!!

 

 しかもデバイスから金色の刃が出て死神の鎌みたくなったよ。

 

 この少女、好戦的過ぎる。

 

「『返して』じゃなく『渡して』て言うくらいだからアレは君の物ではない。なのに一方的に渡せと」

 

「…………」

 

 おぉ、ツッコんだらさらに表情が険しくなった。

 

 デバイスを握る手にも力が入っている模様。

 

 ちょっと怖い。

 

「そ、そうだな。こっちのお願いを二つ聞いてくれたら確保してる結晶体を一つあげる。条件によってはその後の協力もOK。どうかな」

 

「交渉の余地はありません。大人しく渡してもらえないのなら力ずくで奪うだけです」

 

 問答無用かよっ!!

 

 この歳で強盗行為に躊躇がなさ過ぎるとか、どうなのよ。

 

「仕方ない。こうなったら――――――」

 

 少女の雰囲気が張りつめる。

 

「逃げる」

 

「…………………………えっ?」

 

 少女が戸惑ってる隙に転移魔法の連続ショートジャンプで距離を稼ぎ、死角に逃げ込んでから改めて月村邸の訓練場に転移する。

 

 そのまま周囲を警戒して、10秒、20秒、

 

「ふぅ~~」

 

 1分が過ぎた所で緊張を解いてホッと一息。

 

 うん、あれは無理だ。

 

 できたら協力者として彼女の母親、プレシアさんに紹介して欲しかったんだけど、あそこまで盲目的で視野狭窄に陥ってるのを軟化させるのは正直難しい。

 

 まぁ顔も声も確認できたし、プレシアさんに報告に戻る所を『世界の窓』で尾行すればいいか。

 

 少女をストーキング…………犯罪臭がプンプンするな。

 

 しかしここは――――――――

 

「汚名をかぶる勇気っ!!」

 

 語尾に『勇気』と付けるだけで、本当はそんな事したくないのにやむにやまれぬ事情があって仕方なくストーキングをしている様に聞こえる。

 

 本当はただ少女をストーキングしているだけなのにっ!!

 

 ……いや、本当はちゃんとした理由があるからね?

 

 ジュエルシードこっそり集めたのだってそのためなんだから。

 

 でも次善の策も考えとかないとな。

 

 もしフェイトが…………。

 

「あ、真さん。おはようございます」

 

「ん? あぁ、すずかちゃん。おはよう」

 

 おっと、自分の世界に入り過ぎてたな。

 

 声かけられるまで気付かないとは……気配とか消してないよね?

 

 すずかちゃんならあり得るから怖い。

 

 て言うか、不法侵入だな、僕。

 

「どうしたんですか、こんなに早く。お茶会は2時からですよ?」

 

「すずかちゃんはトレーニングかい?」

 

「はい、最近動いてなかったから一汗流そうかなって」

 

「そうだね。ここ一週間は探索ばっかりだったからね」

 

「真さんもバリアジャケット着てるって事は一緒ですか?」

 

 おぉ、解除するの忘れてた。

 

「あ、あぁ、そうだね。良かったら一緒にどうだい」

 

「はい、お手柔らかにお願いします」

 

「いやいやいや、こっちの台詞だから」

 

 アスレチックのタイムトライアルでも組手でも負けまくりですから。

 

「でも、私相手に魔法使わないじゃないですか」

 

「そりゃあフェアじゃないし、そもそも地力を上げないと意味ないし」

 

 基本的に身体強化の魔法は恭也さんと美由希さんとの組手の時にしか使わない。

 

「でもそれって真さんの能力全部使った全力じゃないって事ですよね?」

 

「ま、まぁ」

 

「私は全力なのに手加減されてる気がして、所詮妹のはやてちゃんの友達としか見られていない気がしてちょっと寂しいです」

 

 え、ちょっ、そんな事言って俯かないでよ。

 

 うわ、何だこれ。

 

 僕が苛めてるみたいじゃないか。

 

「す、すずかちゃん。あのさ、えっと、そういうんじゃなくて、魔法抜きなのはむしろ同じ土俵で競いたいって言うか、対等な関係って言うか」

 

「ちゃんと一人の女の子として見てくれてますか?」

 

「うん、うん、もちろん見てるよ」

 

「ちゃんと恋愛対象として見てくれてますか?」

 

「そりゃあもう、すずかちゃんみたいに可愛い子ならこっちからお願いしたいくら――――――」

 

「「「えぇぇぇぇぇぇっ!!」」」

 

「うわっ!?」

 

 背後からの急な絶叫に振り返ると

 

「ちょっとアンタ、すずかに手出したらタダじゃおかないわよっ!!」

 

「玉の輿とはやるな~~真兄ちゃん」

 

「ま、真さんとすずかちゃんって、そ、そうだったんだ」

 

 怒って詰め寄ってくるアリサちゃん、夢のない事を言ってサムズアップのはやて、顔を赤くしてアワアワするなのはちゃんがいた。

 

「えっと、いや、どうして」

 

「みんな考える事は一緒って事です」

 

 さっきまでの雰囲気はどこへやら、ケロッとしているすずかちゃん。

 

 くっ、ハメられた。

 

 こうなったら――――――

 

「逃げる」

 

 本日二回目の連続ショートジャンプ。

 

「あっ、こら、待ちなさーーーーい!!」

 

 アリサちゃんの声をフェードアウトさせながら屋敷の中に避難した。

 

「ふぅ~~」

 

 これも二度目。

 

 さっきのアレは、この前の朝食の仕返しなのかな?

 

 小六の僕だってそういうのはまだよく分からないのに、あっちはまだ小三だしな。

 

 冗談か背伸び、どっちにしろお遊びだよね。

 

 でも、

 

 お金持ちアリサちゃん。

 

 魔法使いなのはちゃん。

 

 まだ覚醒はしていないが同じく魔法使いでありながら、両親を早くに亡くし、しかも車椅子のハンデを持つはやて。

 

 同じく両親を早くに亡くし、お金持ちではあるが遺伝的に他人に言えないハンデを持つすずかちゃん。

 

 前二人はまだしも後ろ二人は早熟なのにも納得なんだよね。

 

 まぁ自分も大概だけど。

 

 さておき、とりあえず避難も兼ねてファリンさんにお茶でもお願いしようかな。

 

 お茶会までに考えときたい事もいっぱいあるし。

 




はやての感覚は完璧に兄妹で、なのはも兄の様に慕っている。
アリサは友達の兄ってだけで、すずかは……さて、どうなのでしょう?
でも主人公とすずかが結婚したら、アリサ以外の三人は義理の姉妹になるんですよね。
ちょっと面白い。
あっ、フェイト忘れてた。


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作戦会議と言う名のお茶会

一旦休憩、みたいな飛ばしても平気な話です。




 すずかちゃんの奸計(かんけい→悪巧みのこと)にかかりフェイト・テスタロッサに続きアリサちゃんからも戦略的撤退を余儀なくされた後、ファリンさんに客間で匿ってもらってお昼をご馳走になったりしながら今後の事についてアレコレと考えを巡らせていると、

 

『Master、時間です』

 

「ん? あぁ、もうそんな時間か。ありがとう、ニケ」

 

 14時5分前、お茶会に行く時間になっていた。

 

「ん~~、ニケ、認識阻害結界」

 

『? Yes,認識阻害結界 Standby』

 

 アリサちゃんが面倒いけどサボると余計怒りそうだし影を薄くして行こ。

 

 抜き足差し足忍び足~~っと。

 

 いや、結界敷いた時点で意味はないんだけど、こういう気分って大事だよね。

 

 この結界は、周囲を透過する様に映し出す事で結果的に自分の身を隠し、結界の内側の音を逆波長で打消し、結界境面で温度変化を調整、匂いを遮断、赤外線などのセンサー光を迂回させている。

 

 もちろん人間だけじゃなく監視カメラやサーモグラフィなんかの計器類も誤魔化せる。

 

 誤魔化せない重量センサーは飛行魔法で回避。

 

 よって、よっぽど近くで注意して見るか、物理的に接触するかしないとまず気付けない。

 

 そう、「No Touch」なのですっ!!

 

 いや、言ってみたかっただけで特に意味はない。

 

 要はリアル透明人間だね。

 

 コンビニとかの自動ドアは他人に便乗するか、こっそり落ち葉でも使ってセンサー誤魔化さないと通れないのが難点と言えば難点かな。

 

 将来探偵になった時は尾行に使えるし、手品師になった時は転移魔法と合わせて消失系は完璧。

 

 なんて講釈を垂れてる間にテラスに到着した。

 

「(ちょっとごめんなさいね~~っと)」

 

 猫を踏まない様に進み、少女4人とフェレットに気付かれない様に椅子に座……ろうとしたら、椅子に子猫が丸くなっていて座れない。

 

 仕方ないので子猫を結界に入れ、そっと膝に乗せる。

 

「(ん~~良い子、良い子。オマエは温かいな。隠れている以上、紅茶は我慢だけどまぁいい…………か?)」

 

 子猫、テーブル、楽しくおしゃべりしてる彼女たちと視線を上げて行くと、なぜかすずかちゃんと目が合った気がした。

 

 と言うか、ガン見されてる。

 

「(気付かれてる?)」

 

 と緊張すると、おもむろにすずかちゃんが側に置いてあった猫じゃらしをテーブルの下で振り、

 

「にゃ~~ん」

 

「(あっ)」

 

 止める間もなく膝の子猫が結界から出てそれに飛びつきに行ってしまった。

 

 固まる僕。

 

 微笑むすずかちゃん。

 

「それにしてもアイツ遅いわね」

 

「そうだね。真さんどこ行っちゃったんだろう」

 

「アリサちゃんが怖ぁて逃げてるんやないか?」

 

「ふん、年下のこんな可憐な女の子のどこが怖いって言うのよ」

 

「怒り易い所とか」

 

「気ぃ短い所やな」

 

「なのはぁ~~、はやてぇ~~」

 

「そういう所なの」

 

「まさにやな」

 

「ぐぬぬぬぬ」

 

 そんな微笑ましい会話をよそに、すずかちゃんは席を立つ。

 

「思い当たる所があるから、私ちょっと真さん探してくるね」

 

「すずかちゃん? あ、私も」

 

「私も行こか?」

 

「そんなの行く必要ないわよっ」

 

「ううん、すぐだからみんなは待ってて」

 

 そして僕にチラリと流し目を寄越してから部屋を出て行く。

 

「(付いて行くしかないよな)」

 

 その無言の脅迫に屈する僕。

 

 すずかちゃんは近くの部屋に入り、ドアを開け放したままにして待っている。

 

 観念して後を追ってドアを閉め、結界を解除すると、

 

「ふふ、真さんみぃ~つっけたっ♪」

 

 普段見せない様な悪戯っ子の笑顔に迎え撃たれた。

 

 その可愛さに思わず胸がドキッとする。

 

 取り繕うために(動揺したのはバレてそうだけど)降参のポーズで首を振って誤魔化す。

 

「どうして気付いたの?」

 

「一つは、視界の端にいたはずのハッチーが急にいなくなったからです」

 

「ハッチー?」

 

「椅子の上で寝ていた子の名前です」

 

「あぁ」

 

 何匹いるか分からないくらい猫天国の月村邸だが、もちろん全部の猫に名前が付いている……らしい。

 

 なぜ「らしい」かと言うと、全部の名前を覚えているのはすずかちゃんとノエルさんしかいないからだ。

 

 しかも生んだり、拾ったり、貰ったり、あげたりで常に数が増減している。

 

 全部の猫の首に名前の入ったプラカードでもぶら下げない限り僕には覚えられそうにない。

 

「もう一つは」

 

「うん」

 

「女の子の勘です」

 

 ぐはっ!?

 

 ちょっと上目使いで、ウインクに、口元に当てる人差し指。

 

 ベタだけど、だからこそ破壊力が凄い。

 

 くっ、この歳でここまで出来るとは末恐ろしい。

 

 忍さんの入れ時恵だろうか。

 

「さっ、みんな待ってますし、行きましょ」

 

 動揺してる僕に満足したのかご機嫌な様子のすずかちゃんは僕の腕を取って部屋から連れ出す。

 

 うん、年下でもやっぱり女の子には勝てないな。

 

「お待たせ~~」

 

 僕と腕を組んで登場したすずかちゃんを見たリアクションは三者三様。

 

「おぉ」「わぁ」「なっ」

 

 前から、感心するはやて、羨ましがるなのはちゃん、驚愕のアリサちゃん。

 

 ユーノ? ユーノはアリサちゃんの前でグッタリしている。

 

 大方また可愛がると言う名の振り回しの刑にで――――――

 

「ちょっと、すずかから離れなさいよっ!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「危なっ」

 

「避けるなっ!!」

 

「避けるわっ!!」

 

 アリサちゃんの手で投てき武器と化したユーノは、僕ことターゲットに躱され、憐れ壁に真っ赤な華を咲か――――――

 

「し、死んでないからね」

 

「ちっ」

 

「舌打ちっ!?」

 

「ユ、ユーノ君、大丈夫?」

 

「なのは…………僕の味方はなのはだけだよ」

 

「え、う、うん、私がちゃんと守ってあげるからね」

 

「なんやユーノ君はお姫様ポジションやな」

 

「じゃあ、私が勇者?」

 

「そやね。んで、魔王はアリサちゃん」

 

「ぬぅわぁんですってぇぇぇぇ!!」

 

「ぴぃっ!?」

 

「大丈夫、安心してユーノ姫。勇者なのはが魔王アリサちゃんの手から必ず守ってみせるのっ!!」

 

「加勢するで、勇者なのは」

 

「ありがとう、はやてちゃん。ちなみにはやてちゃんの職業は?」

 

「商人?」

 

「まさかの戦力外っ!?」

 

「いや~~、やっぱりキャラは大切にしとかんと」

 

「ぬわぁ~のぉ~はぁ~」

 

「くっ、こうなったら、ここは私に任せてユーノ姫を」

 

「あかん、それは死亡フラグや」

 

「な、なのはぁぁぁぁぁぁ」

 

 カオスだ。

 

 ごっこ遊びって言うか、ただの悪ノリだな。

 

 はやてが振って、なのはちゃんが乗っかり、イジられるのはアリサちゃんっと。

 

 ユーノは…………小道具?

 

 そんな状況に呆れていると、そっと腕を引かれる。

 

 目を向けると、もちろんそこにはカオスの発端であるすずかちゃんが。

 

「真さん、ここは騒がしいから私の部屋に行きませんか?」

 

「え、あ、う、うん」

 

 まぁ、なんだ。 すまん、ユーノ。 骨は拾ってやるからな。

 

 一時間後にアリサちゃんが突入してくるまで、のんびりと紅茶とクッキーをいただきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ジュエルシードが全然見つからないんだけどこれからどうしたらいいかみんなで話し合おう会議』を始めます」

 

「長いわっ!!」

 

「じゃあ『他のジュエルシードが落ちた世界の番号をサイコロを振って当てようゲーーーーム』」

 

「『じゃあ』ってなんやっ!! ゲームってなんやっ!! てか、趣旨変わっとるわっ!!」

 

「良いツッコミだが、はやて。文句だけなら猿でも出来る。人間様なら代替え案を出せ」

 

「『GW、みんなジュエルシードどこに探し行こうか会議』」

 

「遊ぶ気満々だろっ!! いい加減にしなさい」

 

「「ありがとうございました」」

 

 ぱちぱちぱちぱち、なのはちゃんとすずかちゃんが笑顔で拍手をしてくれる。

 

 他二人は、ふくれてるのと、諦めてるのだけど気にしない。

 

「さて場も温まった事だし、とりあえず依頼主であるフェレット擬き君に進展しない現状への意見を聞こうか」

 

「はい。えっと、確かにあれ以来暴走もなく、また発見も出来ていませんが、それでもまだ一週間です。捜索範囲を広げるのは賛成ですが、僕としては最低でも1ヶ月くらいは経過観察をしたいと思っています」

 

 椅子にクッションを重ねて高さ調節した上に立って、真面目に答えるユーノ。

 

「可能性の問題なんだけど、他の地域、例えば北海道とか沖縄って言っても分からないよね。この国の端っこの方で暴走してて、たまたまなのはちゃんや真さんみたいな魔法使いがいて、もう封印されちゃってるって事はないの?」

 

「ちなみに東京から北海道までは約1000km、沖縄までは約2000kmだ」

 

 すずかちゃんの疑問に、ユーノにも分かる様に補足を加える。

 

「管理外世界であるこの星にそう何人も魔導師がいるとは思えないんだけど実際に目の前にいるからこれは保留として、でも暴走体を封印できる程の魔導師は管理世界にだってそう多くない事、複雑な封印術式をサポートしてくれるデバイスがこの世界にはない事から可能性はかなり低いと思う。じゃあ暴走体が放って置かれてるかと言えば、それもまだ平気みたい。魔法文化のない世界であんなのが暴れてたら大騒ぎになるからね。この星の情報ネットワークは優秀だからすぐ分かると思うんだ」

 

「じゃあジュエルシードが地球にあるって考えたら、運良くまだ暴走してない。実はそもそも暴走しにくい。意外にも平和的に使いこなされてる。可能性は少ないけど誰かほかの人が封印した。こんな所なのかしら」

 

「暴走のし易さとか、普通に使えるとか、その辺は分かっとるんか?」

 

「文献から『ジュエルシードは不安定な高エネルギー体で暴走事故を起こしやすい』てくらいしか……。 言い訳になるけど、そもそもロストロギアは過去に失われた超技術で作られたものだから詳しくは分からないんだよ」

 

「だから危ないから封印しちゃおうって言うんだよね?」

 

「うん、そう。制御できないならせめて封印、管理しようって言うのが時空管理局の方針なんだ」

 

「悪用するよりはいいわね」

 

「地球なら絶対戦争に使われるやろな」

 

「あぁ、でもロストロギアだからって全部が危ない物ってわけじゃないんだよ? ただ今の技術じゃ作れないってだけで、美術品とかはオークションに出品されたりもするって言うし」

 

「へぇ~」

 

「そうなんだ」

 

「ちょっと見てみたいかも」

 

 この後、ユーノの部族であるスクライア一族が過去にどんな物を発掘した事があるかと言う話題で盛り上がり、作戦会議に話が戻る事はなかった。

 

 それでいいのか、ユーノよ。

 




はやてと小学校入る前から付き合ってるせいで、なのはの性格が若干変わってますね。
魅せたり、ノセたりするパフォーマンスの影響もあるかもしれません。
アリサの主人公に対する当たりがキツイのは、まぁ友達大好きの裏返しって事で。


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今度こそフェイトとコンタクト

今話は場面転換が多いので、あまり良い方法ではないですが線で区切ってみました。
お見苦しくて申し訳ないです。


「尾行に、監視に、不法侵入か。これじゃあこっちが犯罪者だよね」

 

 住宅街が主体の海鳴市とは違い、高層ビルが立ち並ぶお隣の遠見市中心街。

 

 その中でもひときわ目を惹く高級高層マンションの最上階の一室。

 

 本来ならセレブと呼ばれる階層の人が住むはずのその場所は、現在わずか9歳の黒衣の露出魔法少女フェイト・テスタロッサとその使い魔アルフ(素体である大型の狼形態、または人形態なら16歳くらいのグラマーな野性的美女)が潜伏場所、現地拠点として使用していた。

 

 二人がジュエルシード探索に出かけたのを見計らって侵入し、テーブルの上にミッド語で書いた手紙と重石代わりにプリペイド携帯を載せて、一人ごちる。

 

 交渉の余地なしと切って捨てられた露出魔法少女とのファーストコンタクトから一週間、当初のストーキング案は破棄し、どうせなら協力者、せめて交渉人として同行できる様に手を打つ事にした結果、やっている事はやっぱりストーキングであったという不思議。

 

 どうせなら毒を喰らわば皿までと開き直り、探偵の真似事で寝室、クローゼット、キッチン、冷蔵庫、脱衣所、お風呂場、ゴミ箱を調べる。

 

「料理はしてても食べてなさそうだな」

 

「ドックフードは使い魔か……狼じゃなくて実は犬?」

 

「医療行為の形跡は無しっと」

 

「シャンプー、リンス、洗顔フォーム、ボディソープはミッドチルダの市販品か。使用感とかちょっと気になる」

 

「洗濯機と乾燥機は日本製みたいだけど、ちゃんと使えてるのかな? 取説とか読めないだろう」

 

 などと独り言を言いながらも、匂いを残さないために認識阻害結界を展開しつつ、ブッキングしないようにワールドウィンドウでターゲットの現在位置の確認も忘れない。

 

 にわか探偵による家宅捜査の収穫は

 

「これがプレシア・テスタロッサ……」

 

 写真立てからプレシアの人相が分かった事くらいだが、試しにワールドウィンドウで調べた結果は芳しくなかった。

 

「古い顔写真だけじゃ情報不足か」

 

 一緒に写っているのがアリシア・テスタロッサだとするなら、これは26年前に起きた例の事故よりも前の写真と言う事になる。

 

 ジュエルシード探索をサボってミッドチルダで調べて来た資料によれば現在のプレシアは59歳。

 

 幸せな生活から一転、狂気と妄念に憑りつかれた半生でどれだけ変わっている事か……。

 

「でもまぁ、とりあえずはこんな所かな」

 

 そんなにすぐ帰って来るとは思えないから、一旦帰って、後はワールドウィンドウで監視してよう。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【置き手紙の内容】

 

 突然の手紙で失礼する。

 

 我は7日前に貴様が会った現地の魔法使いを従えている者だ。

 

 ここでは便宜上『白い悪魔』と名乗っておこう。

 

 この7日間、ジュエルシードの探索に精を出していたと思うが成果はいかほどのものだった?

 

 などと持って回った言い方をしているが聞かなくても分かっている。

 

 1個も見つからなかった。

 

 そうであろう?

 

 それもそのはず、7日前に使いをやった時点で既に落ちているジュエルシードはなかったのだからな。

 

 つまりこの7日間の貴様等の活動は完全に無意味なものだったと言うわけだ。

 

 おっと、ただし勘違いはしてくれるなよ?

 

 7日前にこちらは交渉を持ち掛けているのだ。

 

 それをにべもなく断ったのは貴様だ。

 

 つまり責任の所在は貴様自身にあり、その原因は貴様の短慮に帰結すると言うわけだ。

 

 猛省し、付き合わされた使い魔に謝罪するがいい。

 

 その際は、言葉と一緒に特上の生肉を詫びの印として与えるのが良かろう。

 

 さておき、それを踏まえた上で、こちらからもう一度だけ交渉のテーブルを用意しよう。

 

 手紙と一緒に置いてある機械はこの世界の通信端末だ。

 

 交渉に応じるつもりがあるのなら別紙のマニュアルに従って、今夜ないし明日の21時に連絡をして来い。

 

 貴様も使い魔を統べるマスターなら、それに相応しい思慮と度量の深さを示してみよ。

 

 最後に手間をかけぬために事前に釘を刺しておくが、使いの者を人質に取ったとしても人質交換には応じぬので予め断っておく。

 

 手駒が減るのは惜しいが、さすがにロストロギアほどの価値はないのでな。

 

 付け加えて、使いの者に危害を加えた時点で交渉は中止。

 

 以後そちらを敵と識別し、二度と歩み寄る事はないと肝に銘じておいてもらおう。

 

 お互いにとって有益なる判断が下される事を期待している。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「どうするんだい、フェイト」

 

「応じて、みようと思う」

 

「いいのかい」

 

「うん。この7日間、暴走もなければ広域探査に引っ掛からなかったのもこれで納得した。もう白い悪魔に全部集められちゃってるんだ」

 

「そうだね」

 

「それにここにこの手紙があるって事は、私達が気付かない間に監視されてた……ううん、今も監視されてるかもしれない」

 

「今もかいっ!?」

 

「うん、だから状況はこちらが圧倒的に不利。ジュエルシードも全部抑えられた。拠点もバレた。行動も監視されてる。正直、交渉に乗るしか手がない」

 

「アイツ、鬼婆に連絡しなくていいのかい」

 

「母さんには、相手の出方が分かってからにしようと思う。もし相手の要求が私の出来る範囲の事ならそれで大丈夫だから」

 

「でも、もし無茶な要求でもされたら」

 

「私が出来る事なら何でもやってみせるよ」

 

「何でもって、フェイト」

 

「大丈夫、アルフ。心配してくれてありがとう。母さんはジュエルシードを必要としている。私は何としても母さんの役に立ちたいんだ。そうしたらきっと前みたいに笑ってくれると思うから」

 

「フェイト……」

 

「21時までまだ時間があるし、ご飯でも食べてゆっくりしようか」

 

「うん。それがいいよ。こっち来てからずっと休んでなかったからね」

 

「それにアルフには特上のお肉をプレゼントしなさいって手紙にも書いてあったし」

 

「肉っ♪」

 

「ふふ、アルフはお肉大好きだね」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「断られたらどうしようかと思ってたけど、大丈夫そうだね」

 

 高層マンションの屋上で夜景を眺めながらひと安心と胸をなで下ろし、耳からイヤホンを外す。

 

 え? イヤホン? もちろん盗聴してましたが、何か?

 

 魔法文化圏の相手に機械による盗聴って盲点だと思うんだ。

 

 なんて、それっぽく言ってみたけど、実際は盗聴する魔法を知らないだけなんだけどね。

 

「とりあえず僕も帰って夕飯食べよ」

 

 増えた罪状には気付かない事にして、ワールドドアで自室に転移した。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 21時ジャスト、僕の方のプリペイド携帯にフェイト・テスタロッサに渡した携帯から呼び出しがかかる。

 

「時間ぴったりだね。一応確認しておくけど、交渉に応じるって事でいいのかな?」

 

「はい」

 

「分かった。それじゃあ」

 

 僕が言葉を切った直後、受話器の向こう側からインターホンの音が聞こえる。

 

「……」

 

「……」

 

「出ないの?」

 

「出ません」

 

「いや、えっと」

 

「今、私にはこの会話以上に重要な事はないので」

 

「そ、そう」

 

「はい」

 

「……」

 

「……」

 

 演出失敗。

 

 諦めて、何事もなかった様に転移魔法でリビングに飛ぶ。

 

「お邪魔するよ」

 

「何者だいっ!!」

 

「っ!? どうぞ」

 

 僕と面識のないアルフ(人型)は一気に警戒態勢に入るが、ご主人様であるフェイトがバリアジャケットも纏わず平然としているせいか、飛びかかっては来ない。

 

 きっと念話で止めてくれてるんだろう。

 

 アルフが露骨に目配せ、と言うか顔ごと動いてるし。

 

「まずは改めて自己紹介から。僕は加藤真。現地の魔法使いで、白い悪魔の使いって事になってる」

 

「私はフェイト・テスタロッサ。この子は私の使い魔でアルフ」

 

「フェイトとアルフね。そっちも僕の事は気軽にマコトって呼んでくれていいから」

 

 アルフは相変わらず鋭い目つきで睨んで来るけど、フェイトは頷きを返してくれる。

 

「じゃあ、交渉を始める前にいくつか質問をしたいんだけどいいかな? もちろん答えたくないものは黙秘や拒否でいいから」

 

 返事は再度の頷き。

 

「最初の質問から一番気になってた事なんだけど、フェイトはどうしてこの星のこの場所にジュエルシードがあるって知ってたのかな?」

 

「それは……」

 

「それは?」

 

「……」

 

 黙秘か、まぁそう簡単には答えてくれないよね。

 

「この星は管理局の言う所の管理外世界、魔法文化のない世界だ。本来ならジュエルシードなんてロストロギアがあるわけがない。今回のこれは完全にイレギュラーで、運搬中の事故が原因だと当事者から話を聞いている。被害者側に他に回収を主導する立場の人間はいない。たまたま事故を観測してた第三者がいたとしても、その場合はジュエルシードの事を知る事はできない。じゃあフェイトは誰から聞いたんだろう。どんな立場の人間ならジュエルシードが管理外世界であるこの星にある事を知れたんだろう」

 

 一旦言葉を切りフェイトの様子を窺うと、良くない事に気付いた様な驚きと戸惑いの表情を浮かべる。

 

「そう、今フェイトが考えている通りだと思うよ」

 

 揺れ動いていたフェイトと目が合う。

 

「それは加害者。ジュエルシード運搬中の輸送船に攻撃か何らかの工作をした人物だけが、知る事が出来るんだ」

 

 図星かな? フェイトの表情がこわばった。

 

「フェイトやアルフが僕より優れた魔法使いって事は分かるけど、今回のそれはさすがに荷が勝ち過ぎてる。だからフェイトにジュエルシードを探させている人物がいるはずだ。それが誰か教えて欲しい」

 

 しかし返ってくるのは沈黙。

 

 まぁ、予想通りな反応だけどね。

 

 なら、こっちも考えておいた揺さぶりをかけよう。

 

「このままだと、フェイトが輸送船を襲撃した上に危険なロストロギアを管理外世界にバラまいた凶悪犯って事になるんだけど、それでもいいのかな?」

 

「違うよっ!! フェイトはあの鬼婆に言われて探しに来ただけで――――――」

 

「アルフっ!!」

 

「だって、フェイト」

 

「黙って」

 

「わ、分かったよ」

 

 耳も尻尾もペタンと倒れるアルフ。

 

 不謹慎だけど、ちょっと可愛いじゃないか。

 

「鬼婆……鬼婆、ね。つまりフェイトの母親が黒幕って事?」

 

「ち、違うっ!! 母さんはそんな人じゃないっ!!」

 

「そんな人って、じゃあどんな人?」

 

「ど、どんな?」

 

「子供を右も左も分からない世界に送り込んで、命の危険もあるロストロギア回収を指示する様な?」

 

「それは、アルフもいるし、」

 

「使い魔がいなかったら行かせられなかったと思う?」

 

「で、でも、それは私を信頼してくれて」

 

「信頼?」

 

「そう、だから私は母さんの信頼に応えないといけないの」

 

「よく分からないな。フェイトと一心同体である使い魔のアルフは鬼婆とまで言ってたけど」

 

「それは、アルフと母さんがちょっと上手く仲良くできてないだけで」

 

「じゃあ、娘であるフェイトの視点からお母さんの話を聞かせてよ」

 

「え……?」

 

「このままだと状況証拠とアルフの印象だけで、こっちのイメージが出来ちゃうからさ。それはフェイトにして見れば不本意でしょ?」

 

「う、うん、じゃあ――――――」

 

 フェイトの話は温かい思い出話から始まり、途中からアルフも語りに加わるがどんどん雲行きが怪しくなって、最後は自分を騙すかの様にフォローを入れながらのものになった。

 

 二人暮らしで一緒にいられる時間は多くなかったけど温かった生活、ピクニックに行ったこと、引っ越しと共に厳しく笑わなくなった母、リニスという先生であり姉のような使い魔のこと、アルフとの出会い、訓練の日々、リニスとの別れ、母から頼まれる様になった危険なおつかい……。

 

 何て言うか、孤児院で育ってきた僕にとっては「そんなに珍しい展開じゃないな~」と言うのが正直な印象。

 

 親がいて生活ができればいいって問題じゃないケースってくらいかな。

 

 母性の強い山猫から作った家政婦兼教師の使い魔リニスを付けた辺りはむしろ好ポイントだし、体罰以外の育児の他人任せと子供の私物化に関しては、お金持ちや伝統ある家だとわりかし普通のレベルじゃないかと思う。

 

 別に食事や服、ベッドを与えられなかったわけじゃないし、雪が降る中に放置されるとか命の危険があったわけでもない。

 

 体罰は見てないから何とも言えないけど、お尻を叩くとかゲンコツを落とすくらいの常識的な範囲でなら賛成派なんだけど、アルフが言うには鞭らしいからな。

 

 その点は完全に幼児虐待でアウトだ。

 

 と言うか、わざわざ鞭と言うチョイスに恐怖を覚えるよ。

 

 よっぽどの嗜虐心がない限り、その選択肢はない。

 

 人間は素手で殴られただけでも当たり所が悪ければ死ぬ。

 

 でも鞭にそういう事はない。

 

 鞭は表面を浅く傷付けるだけで、骨折もさせず、大量の出血もさせず、障害も残さず、ただただ痛みを与える事だけに特化した最もシンプルな拷問器具だ。

 

 同じ人間にそれを振い続けられる神経が僕には理解できない。

 

 そういう意味で、僕はプレシア・テスタロッサが怖い。

 

 でも、前世の知識からも、調べた資料からも、僕はプレシア・テスタロッサに肩入れしたいと思っている。

 

 だから出来るだけ頑張ろう。

 

 だから、まずは目の前の二人を言い含めないとな。

 




手紙の『白い悪魔』はもちろんなのはですが、なぜか口調はディアーチェと言う不思議。
いや、特に意味はないんですが、悪魔っぽいかな~と思いまして。

探偵には尾行も監視も盗聴も家宅侵入も仕事の内なんだよっ!!
もちろん言い訳です。


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フェイトと交渉

途中、オリジナル設定が出てきます。
wiki見たら、プレシアさんて59歳なんですね。
逆算して色々考えてみました。
それにしても59歳であの美貌とプロポーション&露出はあり得ませんw

そういえば、今回は行間を不必要に空けずに書いてみました。
みなさんはどっちが読みやすいんでしょう?
私、気になりますっ!!
エルちゃん可愛いw


 フェイトからプレシアの話を聞き終わり

 

「話を聞く限り、フェイトがお母さん大好きって事は分かった」

「う、うん」

「でもアルフは、フェイトに酷い事ばかりする鬼婆が嫌い」

「そうだよ」

「理由を聞いた事はないの?」

「はんっ、そんなのあの鬼婆が答えるわけないじゃないさ」

 

 ごもっともですが

 

「想いは見えない。考えは聞こえない。しかも口から出た言葉が真実とは限らない」

「何、言ってんだい?」

「いや、昔読んだ小説に載ってた台詞なんだけどね。要するに相手の表面上だけ見ても理解なんて出来ないんだよ~って話。精神リンク全開の使い魔だってマスターの感情は読めても何考えてるかまでは分からないわけじゃない? だから知る努力が必要になってくるわけなんだけど」

 

 アルフからフェイトに視線を移す。

 

「プレシアの生まれは? 家族は? どういう教育を受けてきた? その土地の宗教は? その社会の常識は? 価値観は? 美徳は? 友人は? 恋人は? 結婚は? 出産は? 離婚は? 仕事は? その時々で何を感じ、何を考えてきた? 何が好きで、何が嫌いで、何が嬉しくて、何が悲しい? 夢は? 希望は? 諦めたものは? 後悔は? 今に満足してるのか? それとも不満なのか? それは解消できるのか? 手伝えるのか? 見守るしかないのか?」

 

 散々捲し立ててから一拍空け

 

「フェイトは大好きなお母さんの何をどれくらい知ってる?」

 

 突き付けられたら質問に少なからぬショックを受けた様子のフェイトは、視線を落としただ首を横に振る。

 

「あんたっ」

「責めてるわけじゃないよ。それに虐待を正当化するつもりもない。誰が聞いたってやり過ぎ。鞭で折檻なんてもうそれはただの拷問だよ」

「そう、その通りだよっ!! 分かってるじゃないか」

「でも、ないとは思うけど、もしかしたらプレシアが生まれた家や地域では子供の躾に鞭を使うのが普通だったかもしれない。プレシアもそうやって育てられたかもしれない。知らないとそれは否定できない」

「だからって」

「それに、虐待されて育った子供は自分が大人になって子育する時に虐待してしまう確率が高いっていうデータがある。もしかしたらプレシアもそうだったかもしれない。可能性の話だけどね」

「くっ」

「だから、好きな相手ならより理解するために。嫌いな相手なら余計な誤解がないように。相手をよく知った方がいい」

「そんな事言ったって、あの鬼婆が素直に話すわけないじゃないさ」

「そこは、まぁ、そうなんだけど、とりあえず記録として残ってる情報から手を着けるのはアリだと思うんだ」

 

 ニケの拡張領域からわざわざプリントアウトした紙の資料を取り出す。

 

「これはミッドチルダの図書館と時空管理局の情報端末から集めてきたプレシア・テスタロッサの資料」

 

 「違法にね」と胸中で付け足す。

 それに対して、大人しくなっていたフェイトが「私、気になります」と言わんばかりに身を乗り出してくるけど

 

「さて、交渉だけど、この情報にフェイトは何を出せる?」

「え……あ……何も……」

 

 一度上げてから下げたせいで余計にシュンとして見える。

 イジメてるわけじゃないのに罪悪感を煽られる光景だ。

 そういう趣味があるわけじゃないけど、交渉だから仕方ない。

 

「じゃあ、対価として一つお願いを聞いてくれないかな」

「お願い?」

「そう、僕の妹たちの友達になって欲しいんだ」

「友、達」

「みんなフェイトと同い年くらいの女の子で、魔法使いが2人に一般人が2人」

 

 フェレット擬きは含みません。

 

「……」

「気が進まない?」

「えっと、そうじゃなくて、私、今まで家族としかいた事ないから、友達ってどういうのかよく分からなくて」

「大丈夫。その気持ちをそのまま伝えて、色々教えてもらえばいいよ」

「……頑張ってみます」

 

 なのはちゃんとアリサちゃんが嬉々として教えてくれる姿が目に浮かぶ様だよ。

 

「フェイトも一人じゃ不安だろうし、出来たらアルフも一緒に遊んであげてくれない? 狼フォームで背中に乗せてあげるとか」

「あぁ、構わないよ」

「よし、交渉成立だね」

 

 二人と握手を交わし、「じゃあ読むよ」と前置きしてから始める。

 

「プレシア・テスタロッサは第3管理世界グリステンの出身。グリステンは技術開発が盛んな世界で、その魔法科学技術は次元世界随一。そのため宗教は信仰心が薄い所かナンセンスとされる風潮があって、合理主義、結果重視、絶対評価とシビアな世界らしい。そんな中、プレシアの両親は揃って技術者で、年の離れた兄が親の跡を継いでいる。プレシアは子供の頃から優秀だったらしくジュニアスクール、ハイスクールを飛び級で卒業後、12歳で大学に入り、そこで次元航行に関する研究を始める。17歳までは研究室に籠もりっぱなしだったが、当時発表した論文が管理局の目に留まりヘッドハンティングされて技術開発部第十一研究室に入局。研究室は違うが、7歳年上の研究員と20歳で結婚。22歳の時、専門にしている次元間航行船のエネルギー系の技術と本人の資質の結果、条件付きSSランクの魔導師と認定される。その後も順風満帆だったプレシアだけど、25歳で突然の離婚。離婚理由は、夫の研究員としての嫉妬。自分はなかなか思うように研究が進まないのに対して、どんどん功績をあげていく妻に耐えられなかったのだとか。これにはプレシアも愛想が尽きたのか離婚自体は特にこじれず成立したんだけど、問題だったのは後から発覚したプレシアの妊娠。プレシアはいい機会と思ったのか育児休暇を申請してそのまま辞めるつもりだったそうだけど、管理局の引き留め工作が功をそうして、出産から2年後、28歳で第十三研究室室長に就任。ベビーシッターと家政婦を雇って、忙しいながら育児に研究にと奔走する。しかし今から26年前、当時33歳のプレシアは自らの関わった研究の暴走事故で6歳だった娘を亡くしてしまう。プレシアはその実験に反対していたんだけど、上層部からの圧力に周囲の研究員が勝手に推し進めた結果の事故だった。しかし娘を亡くしたショックでプレシアが忘我状態だったのをいい事に周りはプレシアに全責任を押し付けて、降格と謹慎の処分を下した。その経緯は後の権力争いで暴露されているけど、ここでは余談だね。さて、愛娘の死と言う人生最大の悲劇に見回れたプレシアは、これ以降悪魔にでも取り憑かれたかの様にある研究に打ち込む事になる。その研究の目的は、死者蘇生と使い魔以上の生命体を生み出すこと。プロジェクト名は『プロジェクト・フェイト』」

「えっ……私の……名前?」

「プレシアはその研究にある程度の目途が付いた時点で、と言うより合法で出来る範囲をやり尽くしたため管理局を去り、それ以降現在に至るまでの20年間、行方不明となっていた……と。補足だけど、先進的なグリステンには当然鞭打ちの習慣はなかったよ。残念だけど、そこはプレシアが嗜虐趣味の変態だと言う事で諦めて欲しい。まぁ背景から推測すると、自虐の八つ当たりと、でも大怪我は負わせたくないって言う葛藤の末の結果、後は保険……なんだろうな。まぁ、どちらにせよ、やり過ぎには変わりないからアルフは怒っていいと思うよ。さて、何か質問はあるかい? と聞いといて何だけど、当然あるだろうね。むしろ、ない方がおかしい。そうだよね? フェイト」

「……プロジェクト・フェイト。私の名前が付いてるこの研究について詳しく教えてください」

「いいよ……と言いたい所だけど、それは極秘情報だからね。追加の対価が必要だ。どうする?」

「私に出来る事なら何でも」

「それは体を差し出せって言われてもいいって事かな?」

「この件が終わった後でなら」

「フェイトっ!? ちょっとアンタ、そんな事は私が許さないよ」

「いや、まさか僕も同意されるとは……『何でも』なんて軽々しく言っちゃ駄目だよって話に持って行きたかったんだけど」

「そ、そうかい」

「アルフ、後で君のご主人様に女性の慎みや貞操観念について説教しといてくれない?」

「了解だよ」

「フェイトの今後の人生がかかってるから甘い顔せずにしっかり頼むよ」

「任せておくれよ。最低でも一時間は正座させるよ」

「え? え?」

 

 元が獣に難しい注文かと思うけど、ご主人様の将来のためにぜひ頑張って欲しい。

 

「フェイト」

「は、はい」

「体は要求しないけど、『何でも』と言ったからにはそれ相当の事をしてもらう」

 

 フェイトが表情を引き締めて頷いたのを確認してから

 

「プレシアの健康状態と生活の管理をお願いしたい」

 

 爆弾投下。

 

「そ、それは」

「無理?」

「えっと」

「アンタっ、そんなの無茶振りにも程があるよっ」

「そんなに?」

「……はい」

 

 プレシアさん、酷い言われようですね。

 

「そう。でも無理矢理にでもしないと死んじゃうんじゃない?」

「「えっ」」

「プレシアももう60になる。娘さんを亡くしてから四半世紀、研究研究で食事も睡眠も適当でしょ? 体、ボロボロだと思うんだけど」

「で、でも、あんなに鞭振るって」

「隠れて血とか吐いてたりして」

「「……」」

 

 その沈黙は思い当たる事があるって事ですかね?

 

「まぁ、色々上手くいけば僕も協力するし、そこは頑張って行こう。フェイトだってお母さんともっと一緒にいたいでしょ?」

「それは、もちろん」

「私はさっさとおっ死んでくれた方が嬉しいけどね」

「アルフっ」

「だってさ」

「言い過ぎだよ」

「フェイト第一のアルフの気持ちも分かるけど、さっき言った『色々』にはそういうのも含まれてるから」

「どういう事だい?」

「プレシアのフェイトへの態度の軟化」

「そんな事できるのかい?」

「それがプレシアに持ちかける交渉の対価の一つだからね」

「なんで、そんな事してくれるんですか?」

 

 フェイトが上目使いで恐る恐るといった感じに聞いてくる。

 天然で可愛いな。

 

「もちろんフェイトのため」

「えっ」

「でも、それ以上にプレシアのため」

「母さんの?」

「そして、妹のためでもあり、僕のためでもある」

「よく、分かりません」

 

 そりゃそうだ。

 

「要するに僕は僕の幸せのためにプレシアの研究とフェイトが幸せになる手伝いをしたいって事だよ。利害が一致してるんだ。見返りを求めないで変に親切な人間より信用できると思うんだけど」

「そう、ですね」

「私の幸せは入ってないのかい?」

「使い魔の鏡であるアルフは、フェイトが幸せで、後はお肉があればいいんでしょ?」

「ふふん、よく分かってるじゃないか」

 

 このくらいシンプルな方が、人生幸せだと思う。

 人じゃないけどね。

 純粋な生物でもないし。

 使い魔の分類って難しいな。

 

「じゃあ、聞きたかった質問に答えよう」

 

 場が再度引き締まる。

 

「プロジェクト・フェイトは、プレシアが死んでしまった一人娘アリシア・テスタロッサを蘇らせるために立ち上げた研究だ。しかし、さすがに死者蘇生は出来なかったため途中から路線を変更して、アリシアのクローンを作る事にした。でも、遺伝子が同じというだけでは話にならない。だから次に記憶を転写する事にした。実験は成功し、アリシアのクローン体にアリシアの記憶が正しく転写された。しかし、ここで誤算が生じる。記憶を引き継いでも、同じ成長を遂げるわけじゃなかったんだ」

 

 説明を聞いている内に暗い表情になっていくフェイトに問いかける。

 

「ここまで言えばもう分かるよね?」

 

 フェイトはビクッと体を震わせてから、おずおずと答える。

 

「それが、私……」

 

 さっきの資料から一枚抜き出して見せる。

 

「これはアリシアが死亡した事故の新聞記事。写真を見てみて」

「あ……」

 

 そこには目の前のフェイトを少し幼くした顔が載っている。

 

「あそこに飾ってある写真立ての写真は、時期から見てこの事故のちょっと前に撮られたものだと思う」

 

 フェイトは写真立てに近付こうと一歩、二歩と足を動かすが、それ以上は進めずその場で崩れ落ちる。

 

「フェイトっ」

 

 アルフがすぐさま駆け寄り肩を抱く。

 

「なんだよっ、なんなんだよっ、それじゃあフェイトはあいつの娘の代わりで、でも同じじゃないからって理由で酷い仕打ちをされてきたってのかい」

「それには裏もあれば、そのさらに裏もあるんだろうけど、表向きはそういう事だね」

「私……私は……」

 

 フェイトは泣けない程の強いショック状態に見える。

 カンフル剤が必要だな。

 

「フェイト、君は生まれ方はどうあれ、アリシアの双子の妹だ」

「…………………………え?」

 

 脳みそは付いて来てないみたいだけど、とりあえず顔は上がった。

 

「一卵性双生児は遺伝子的に同じ存在なのに違う成長をする。アリシアとフェイトはまさにその関係にある」

「で、でも」

「別にお腹を痛めた子供じゃなくたって、プレシアが生み出した事に変わりはない」

「でも」

「それに僕の実体験だけど、一緒に生活して気持ちを通わしたらそれはもう立派な家族だよ」

「でもっ」

 

 癇癪を起した子供みたいになかなか受け入れられないフェイトに近付き、抱きしめる。

 

「大丈夫、フェイトがプレシアを母親だと思えるなら、フェイトさえ諦めなければ、ちゃんと家族でいられるから。フェイトには支えてくれるアルフがいる。僕も及ばずながら手を貸す。大丈夫、まだ何も失ってないから。手遅れじゃないから。まだフェイトの手はプレシアに届くから」

 

 そう言いながら背中を撫でててあげると、フェイトは関を切ったように声を上げて泣き出した。

 アルフも心配そうに寄り添う。

 色々我慢してきた緊張がさっきので一気に膨れ上がって切れちゃったんだろうな。

 フェイトにはプレシアを支えてもらわないといけないから、ここで全部吐き出して、しっかりと立ち直ってもらわないと。

 とりあえず泣き止むまで撫でていてあげよう。

 




二話使って、まだジュエルシードについて何も交渉出来ていない件についてw
そこは飛ばして、次は時の庭園に行っちゃおうか悩みます。
自分で書いてて何ですが、展開遅いんですよね。
ついつい細かい所を書きたくなってしまう。


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フェイトと作戦会議

昨日はコミケの初日でしたね。
僕は行かなかったのですが、連れが行ってきて天気も良くて大盛況だったとか。
タイバニの全年齢対象のギャグ本を15冊買ってきてました。
腐女子に大人気なタイバニだけど、男が見ても面白いですよ?
僕が行くとしたら明日かな。
買えるならツン研さんの総集編本が欲しいかもですw
それにしても、二日目の今日はジャンプ系を好きな人には散々ですね。
天気悪いし、某バスケ漫画はアホな脅迫のせいで販売中止だし。
犯人、早く逮捕されないかな。
と、本編とは関係ない呟きでした。



 泣き崩れたフェイトを抱きしめ、あやすように背中を撫でること十数分、ようやく泣き止んでくれたと思ったら泣き疲れてそのまま寝息を立て始めてしまったので後の事はアルフに任せ、明日昼過ぎに改めて来訪する旨を告げてその場を辞した。

 

 翌日、昨日のリベンジにと玄関から普通に入れてもらい、アルフに促されるままリビングに足を踏み入れると

 

「昨日はごめんなさい」

 

 開口一番、赤い顔のフェイトに頭を下げられた。

 

 一瞬呆気にとられるが、真っ直ぐな良い子なんだなと納得すると同時に悪戯心がくすぐられ、謝罪に対して両手を広げて見せる。

 

「?」

 

 まぁ、分からないよね。

 

「これからずっと、会った時と別れる時にハグをしてくれるなら許そう」

 

「う、うん」

 

「(あれ?)」

 

 予想していたリアクションと違い、フェイトは赤い顔のまま近付き、胸に顔を埋め腰に手を回して軽くギュッとしてきた。

 

 その愛くるしさに自然と頬がゆるみ、目論見は外れたけど「ま、いいか」という気分になる。

 

 軽くハグを返してから、背中をポンポンと叩いて体を離す。

 

「ありがとう」

 

「ど、どういたしまして」

 

 照れ隠しで「エヘヘ」と笑うフェイトがまた可愛らしいのなんのって。

 

 フェイト、マジ天使だな。

 

 ぜひ妹になって欲しい。

 

 叶うならシスコンの誹りも甘んじて受けよう。

 

 ただし、ロリコンではない。

 

 あくまで兄として妹を愛でたいのだ。

 

 そこには海よりも深く山よりも高い差があってだな……って、誰に熱弁してるんだろ?

 

 そもそも3歳しか違わないんだからロリコンには当たらないはず。

 

 まぁ、いいや。

 

「ところでアルフ」

 

「ん、なんだい」

 

「昨日頼んだ説教は?」

 

「……あっ」

 

 はい、忘れてました~~。

 

 まぁ想定の範囲内だけどね。

 

 アルフのうっかりじゃなくても、あんな終わり方じゃ説教する方が難しいだろうし。

 

 じゃあ、代わりに言っとかないとな。

 

 このまま育ったら将来が心配で仕方がない。

 

「いいかい、フェイト」

 

「?」

 

 うん、小首傾げるポーズもキュートだね。

 

「同性とならいくらでもいいけど、異性と簡単に肉体的接触をしては駄目だ。さすがに握手を断れとは言わないけど、最低限に留め、パーソナルスペースを守るように」

 

「パーソナルスペース?」

 

「心の壁とでも言えばいいかな。人によってその距離はマチマチだけど、他人に近寄られるとストレスを感じる距離の事だね。これは異性間では特に強く働くから注意が必要だ。他人、知り合い、友達、恋人と関係性によっても変わる。これを間違えるとどんな弊害があるかと言うと、一般的に女性は軽々しく近付いて来る男性を嫌う。しかしパーソナルスペースの範囲が狭かったり無警戒な女性がいた場合、男性の方は相手が気を許したと勘違いして、より馴れ馴れしい態度を取ってきたりする。しかし女性側からして見たらそういう気はないわけで、この男性に対して『馴れ馴れしい勘違い男』というレッテルを貼ってしまい二人の関係はすれ違ったまま破綻してしまう事になる。だから、自分のためにも相手のためにもパーソナルスペースを守る事は大事なんだ。分かった?」

 

「う、うん。……多分」

 

「とりあえず慣れるまでは自分の手の届く範囲に異性が入らないようにしたらいいんじゃないかな。もちろんバトル中や、医療行為、街中、道ですれ違う時、公共交通機関に乗ってる時なんかは別だよ? フェイトに対してコミュニケーションを取ろうとした相手に対して気にすればいい。ただしそれはパーソナルスペースの話であって、理由もなく、ここ重要だから2回言うけど、理由もなく肉体的接触をして来ようとする相手からは逃げるか撃退するように。それは痴漢か変態か、とりあえずいかがわしい目的を持ってるから」

 

「えっと、じゃあさっきのハグはいいって事、だよね?」

 

「いや、アウトだ。あれは昨日するはずだったアルフの説教の効果を試そうと思ってした事で、交渉事でも軽々しく肉体的接触を許容しては駄目だ。いいかい? どんなに気心が知れた間柄でも、フェイトが恋人になりたい、結婚したいと思う相手以外には体を許しちゃいけない。そうしないといざという時に必ず後悔するからね」

 

「分かった」

 

 実際は半分も分かってないだろうけど、とりあえず何をしては駄目かは覚えてくれたみたいだな。

 

「よし、じゃあそろそろ本題に入ろうか」

 

「っ、うん」

 

 フェイトの表情が引き締まる。

 

「改めて言うけど、僕は僕の幸せのためにプレシアの研究、つまりアリシア復活とフェイトが幸せになる手伝いがしたい。プレシアの目的はアリシアの復活だから問題ないけど、フェイトが目指す幸せの形をフェイトの口から聞かせてもらえるかな」

 

 フェイトは一度深く息を吐いてから

 

「私はアリシアのクローンかもしれないけど、それでも母さんの娘で、アリシアの妹だから、私が二人を守りたい。アリシアを生き返らせて「お姉ちゃん」て呼びたい。母さんに昔みたいにまた笑って欲しい。その輪の中に入って私も一緒に笑いたい」

 

 言い切ったフェイトの瞳には強い意思の光りが見て取れた。

 

「それがフェイトの幸せの形なんだね?」

 

「うん」

 

「そう。じゃあ、目的は二つ。アリシアの復活と、プレシアにフェイトを受け入れてもらうこと。そのための手段は考えてあるけど、フェイトの協力が不可欠なんだ。やってくれるかい?」

 

「うん。それが母さんとアリシア、私自身のためでもあるから」

 

「よし、いい答えだ。フェイトにお願いしたい事は3つある。 まず1つ目、プレシアに僕を引き合わせてもらう。これは事実をそのまま伝えれば問題ない。フェイトが地球に来た時には既にジュエルシードは全て集められてしまっていて、その大半を手中に収めた組織が交渉を持ちかけてきたとでも言ってもらえればいい。 次に2つ目、交渉の際に一緒にプレシアを説得してもらう。と言っても、さっきみたいに思ってる事を素直に伝えればいいだけだ。気を付けるポイントはもしプレシアに拒絶されても絶対に引き下がらないこと。大事なのは不屈の心。絶対に自分の夢を叶えるんだって言う強い想いが大切だ。 最後3つ目は、僕の考えが正しければプレシアとの交渉が上手く行った後に武力行使が必要なミッションが発生するからその時は力を貸して欲しい。ここまではいい?」

 

「うん、分かった」

 

 フェイトは力強く頷き、「不屈の心」「絶対に夢を叶える」など確認するように呟いている。

 

 その様子に笑みを浮かべてから、視線を写す。

 

「アルフにもお願いが」

 

「なんだい?」

 

「まずプレシアの見方を変えて欲しい」

 

「小難しいのは苦手だよ。分かり易く言いな」

 

「プレシアはSSランクの大魔導師だけど、その実やってる事は自分の我儘が通らないからって癇癪を起して周りに当たり散らしてる子供と一緒なんだ」

 

「はっ、あの鬼婆がガキだってのかい?」

 

「そうさ。寂しさを我慢して頑張り続けるフェイトよりずっと子供なんだ。だからプレシアには受け入れてもらうって言う下手なスタンスじゃなくて、こっちから受け入れてあげるって言う上から目線のスタンスで接しないと駄目なんだ」

 

「なんだいそりゃあ」

 

「倫理観や常識、他人の迷惑も顧みず、自分の我儘な目的のために脇目も振らずひたすら突き進む人なんだよ。子供っぽいでしょ?」

 

「フェイトにした事は許せないけど、そう言われると何か力が抜けるね」

 

「アリシアが復活したら、プレシアがしてきた事をアリシアに暴露して説教してもらおうと思ってるんだけど、それを手伝ってくれない?」

 

「お、それはいいね。フェイトにした悪行の数々残らず暴露してやるよ」

 

「ア、アルフ」

 

「いいんだよ、フェイト。親だからって何しても許されるってわけじゃないんだ。反省する所はしっかりと反省してもらわないと」

 

「で、でも……」

 

 オロオロするフェイトにはさっきまでの覇気が見る影もない。

 

「それに詳しくは知らないけど時空管理局の法律に触れる事けっこうやってるでしょ。逮捕させる気はサラサラないけど、アリシアとフェイトの教育上誰かが叱ってやらないと示しがつかないと思うんだ」

 

「そう、なのかな」

 

「そうそう」

 

 ま、それもフェイトに話しちゃってる時点で失敗なんだけどね。

 

「させと、あと確認しとくのはプレシアに取り次いでもらうタイミングだけど、フェイトが報告に戻る日取りとかってあるのかな?」

 

「うん、明後日に一度戻る事になってるよ」

 

「明後日ね。時間は?」

 

「お昼過ぎに」

 

「了解。じゃあ昼前に迎えに来るから外でランチでも食べて、ついでにプレシアにお土産でも買ってから向かおうか」

 

「分かった」

 

 アルフはお肉一択だろうからランチはファミレスか洋食屋さんだな。

 

 お土産は……やっぱりベタに翠屋でしょ。

 

 平日だからなのはちゃん達に会うなんてアクシデントもないだろうし。

 

 僕の学校はいいのかって?

 

 明日届け出を出して、しばらくお休みする予定です。

 

 学校側は家庭の事情で通るだろうし、園長先生の説得は考えてある。

 

 プレシアとの交渉次第だけど、成功したら色々やらなくちゃいけない事が出てくるからね。

 

 プレシアやフェイトだけでなく、僕やはやてにとってもここが正念場だから気合入れて頑張らないと。

 




今回はキリが良かったのでちょっと短めでした。
次回はいよいよプレシアさんとご対面。
なんですが、先にお断りを入れさせていただきますと、ジュエルシードはご都合主義で使われます。
ただし、アリシア復活にではありません。
神様転生のタグが入っているからには、そこには転生特典があるわけで、主人公にその記憶がなくても関係ありません。
レアスキルとリンカーコア、デバイスがいい証拠です。
という言い訳を残して、後書きはこの辺で。
皆さま、良いお年を。


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プレシア in 時の庭園

新年あけましておめでとうございます。
昨年末の話ですが、冬コミ3日目行ってきました。
混んでたけど、やっぱりコミケって楽しいですね。
漫画が書けたら自分も参加したりしてたのかなってちょっと思います。
まぁ、買う側の方が気楽ですがw
さておき、
本編ではようやくプレシアさんの登場です。
いやぁ、ここまで長かった。
無印はジュエルシードが集まっちゃってる関係で、区切りはアリシア復活を目安にと考えています。
まぁ、そのままA'sに突入しちゃうんですけどね。
さておき、さておき、
それではどうぞ。


 時の庭園、大広間。

 

 フェイトが先に話を通しに行き、後から呼ばれる形でプレシアの前に通されたわけなんだけど、

 

「御託はいいわ。命が惜しかったらさっさとジュエルシードをこちらに渡しなさい」

 

 いきなり杖を突き付けられました、まる。

 

 って、作文してる場合じゃないよっ!!

 

 フェイトさーーん、いったいどういう説明したらこうなるんですかっ!?

 

 助けを求めてフェイトに視線を向けると、当のフェイトはお母様の乱心に綺麗なお目々と可愛いお口を真ん丸に開けて絶賛フリーズ中。

 

 くっ、自分の力だけで切り抜けるしかないか。

 

 て言うか、これ、完璧にナメられてるよね?

 

 まぁ、確かに? あっちは59、こっちは12でざっくり5倍の人生経験があるわけだけど、交渉する上でイニシアチブを取られる所か、聞く耳持たずはさすがに論外。

 

 ここは一つ、態度だけでも張り合える様に横柄に、パフォーマンスで鍛えた演技力を発揮するしかないっ!!

 

 まずは軽くジャブから

 

「ふん、フェイトと行動パターンが一緒だな。さすが親子と言った所か」

「どうやら死にたい様ね」

 

 ちょっ!? 短気過ぎるよ、プレシアさんっ!!

 

 フォローする間もなく、プレシアの杖から容赦のない電撃魔法が放たれる――――――が、

 

「ワールドドア」

 

 なのはちゃんとの訓練の賜物、とっさの反応で自分の前に右手をかざして入口を開き、出口をプレシアに向けて反射に見せかけて打ち返す。

 

「なっ!? くっ」

 

 慌ててプロテクションを張って防ぐプレシア。

 

「ふっ、そんなものか」

 

 前に突き出した右手を戻し、髪をかき上げ、相手を見下す。

 

 でも内心は背中に冷や汗をかきながら、反応できた自分に心の中でガッツポーズ。

 

「か、母さん」

「何をしているの、フェイト。あなたも手伝いなさい」

「で、でも」

 

 プレシアは戸惑いを見せるフェイトに舌打ち一つで見切りを付け、再度杖をこちらに向けてくる。

 

「フェイトよ」

「な、なに、マコト。って、それよりその話し方」

 

 そこはスルーしてください。

 

「我が主『白い悪魔』の教えに『話を聞くのはぶっ飛ばしてから』というものがある」

 

 それでこその魔砲少女(誤字にあらず)。

 

「ジュエルシードはこちらが抑えている。そして力でも適わないと分かれば、後はこちらの話に乗るしかあるまい。我が計画とお前の協力があれば必ずプレシアの、ひいてはテスタロッサ家の幸せが得られる。だから今は我に任せて離れているがいい」

「…………うんっ」

「合い言葉は」

「「テスタロッサのために」」

 

 よし、決まった♪

 

 事前に合い言葉決めて軽く練習しといて良かった。

 

 こういうのは仕込みが大事だよね。

 

「茶番はもうお終いかしら」

 

 フェイトが部屋から出たタイミングで声がかかる。

 

「わざわざ待っているとは随分と余裕を見せてくれるではないか。その大物振り、恥の上塗りになるぞ?」

「その言葉、そっくりそのままお返しするわ」

「先に断っておくが、俺は正義を気取る気など毛の先程もないのでな。どんな卑怯な手段を使ってで――――――」

「消えなさい」

 

 最後まで言わせてくれよっ!!

 

 僕の嘆きも虚しく10を越える光の矢が杖の一振りで一斉に襲いかかって来る――――――が、

 

「ワールドドア」

 

 その直後、プレシアの左後方で爆発音が鳴り響く。

 

「っ!? ア、アリシアっ」

 

 プレシアは振り返ると血相を変え、先程までの余裕な態度などかなぐり捨てて破壊された扉の中に飛び込む。

 

 その後を追って部屋の入口から中を覗くと、プレシアがフェイトを幾分幼くした少女が浮かぶ巨大ポッドにすがりついていた。

 

 よし、精神攻撃は成功だな。

 

 後は言葉で誘導して――――――

 

「どうした、プレシア。戦いは始まったばかりだぞ。さぁ、続きをしようじゃないか」

 

 こちらの声に反応し、とっさに杖を向けてくるが、

 

「いいのか? その魔法を撃てば次は貴様が大事に大事に守っている後ろの少女に間違って当たってしまうかもしれないぞ」

 

 遠距離魔法を封じる。

 

「アリシアに、アリシアに手を出す事は許さないっ!!」

 

 叫ぶと同時に一瞬にして視界からプレシアが消えるが、その動きは想定内だ。

 

 消えたと同時に背後にワールドドアを開き、後ろに回り込んで来たプレシアをポッドの前に出す。

 

「っ!?」

 

 目の前の相手が変わっている事に気付き、慌てて振り下ろそうとした杖を止めるプレシアだが勢いを殺しきれず、杖と接触したポッドがカツンと高い音を響かせる。

 

「驚いたな。今、自分の手でアリシアの入ったポッドを叩き割ろうとしたのか」

「ち、違っ、何を言って」

「何が違うと言うのだ。その手に持った杖が何よりの証拠だろう」

「違うっ!! 違うのよ、アリシア。母さん、そんなつもりじゃ」

 

 チャ~~ンス♪

 

 待機状態に戻したのか持っていた杖が消え、ポッドの中で静かにたゆたう少女に対して弁解しようとこちらから視線が逸れた機を見逃さず、隠し持っていた改造スタンガンをワールドドアを通して首筋に押し当て

 

「あ゛っ」

 

 意識を刈り取る。

 

 四肢の力が抜け、そのまま倒れ伏すプレシア。

 

「さてと」

 

 一応警戒してスタンガンを押し当てながら近付き、反応がない事を確認してからニケに教えてもらってデバイスを回収。

 

 身体強化魔法をかけてプレシアを大広間まで担いで行き、椅子に座らせてから両手両足を別々に犯人拘束用の結束バンドで固定する。

 

「終わったぞ」

「母さんっ!?」

 

 扉越しに念話を送るとフェイトが飛び込んできた。

 

「心配するな。電気ショックで気絶させただけだ」

「そう、良かった」

 

 仮にも女性の肌だし、火傷は後で回復魔法かけておこう。

 

「アンタ凄いね。あの鬼婆に勝っちまうなんて」

 

 フェイトの後からアルフも部屋に入ってくる。

 

「俺にとっては雑作もない事だ」

「謙遜する事ないよ。いったいどうやったんだい」

「人質を利用して、後は誘導して罠に嵌めた。簡単だったぞ」

「「……」」

「なんだ」

「いや、えっと」

「涼しい顔してやる事がえげつないねぇ」

「命がかかってる以上、勝つためには手段は選ばん。当然だろう」

「ハハハ……」

「まぁ、そうだけどさ」

 

 呆れられようと、直接戦闘に向かない僕にとって取れる選択肢は多くない。

 

 殺人が許容できるならやりようもあるけど、僕には誰かを殺す覚悟はないし、そんな覚悟持ちたいとも思わない。

 

 自分か大事な人の命が今まさに窮地に立たされているって絶体絶命な状況なら殺れるかもしれないけど、それ以外はちょっと無理。

 

 と言うか、絶対無理。

 

 前世に続き二代に渡って平和ボケした筋金入りの日本人の僕に、そんな高いハードルは飛べません。

 

 前世の僕にとって死と言うものは身近なものだったけど、だからこそより忌避する対象で、自分の手でそれを目の前の相手に与える事に大きな抵抗を感じると言うのもあるのかもしれない。

 

 テレビの中で知らない人が何人死のうが何も感じないのにおかしな話だと思う。

 

 現実感とかじゃなくて、基本的に自分と大事な人たち以外はどうでもいいと思ってるのかもしれない。

 

 …………うん、思ってるな。

 

 僕の中で優先順位ははっきりしている。

 

 その点、プレシアとは分かり合えそうだ。

 

 さておき、

 

「フェイト、プレシアが意識を取り戻したら話し合いを始めるられる様にテーブルと椅子、ティーセットを用意してくれ」

「うん、分かった。アルフ」

「あいよ」

 

 さて、じゃあ僕はプレシアの火傷の治療でもしておきますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ううん…………はっ、アリシアっ」

「第一声がそれか。親馬鹿が」

「まったくだね」

「ふ、二人とも」

 

 食堂から運ばれたテーブルに着き、紅茶を飲んでプレシアの復活を待っていた僕たち。

 

 ちなみに僕とプレシア、フェイトとアルフが対面だ。

 

 フェイトが10分に1度くらいの割合でプレシアの拘束を解いて欲しいとお願いしてきたが全て却下しておいた。

 

「まだ自己紹介もしていなかったな。我が名はダークフレイムマ、ではなく、マコトだ」

 

 うっかり演技の元ネタが。

 

「まずは、これを見ろ」

 

 懐からグリップの先端にボタンが付いた物を取り出す。

 

「これはアリシアの入っている生体ポッドに取り付けた爆弾の起爆スイッチだ」

「なっ」

「デバイスは取り上げてあるが、おかしなマネはするなよ? 押すつもりはないが、うっかりと言う事もあるかもしれん」

「…………」

「返事がないな」

「くっ、分かったわ」

 

 いや、脅しといて何だけど、爆弾なんてただのハッタリですよ?

 

 一応それっぽいギミックは貼り付けておいたけど。

 

「では脅迫、もとい交渉を始めよう」

「アンタ、本音が漏れてるよ」

「気のせいだ」

「くっくっくっ、そうかい」

 

 アルフはプレシアがやり込められているのが楽しくて仕方がない様子だ。

 

「俺とフェイトはある目的のために手を組んだ。その目的は、俺の妹の命を守る事と」

「私の遺伝子親でもあるお姉ちゃん、アリシア・テスタロッサの復活」

「なんですって」

 

 こちらをずっと睨んでいたプレシアの視線がフェイトに向かう。

 

「母さんにとって、私はアリシアの遺伝子から作られたアリシアの失敗作だって事は知っています」

「そうよ。アナタはアリシアの失敗作。慰み物のお人形。アリシアはもっと」

「でもっ!!」

 

 フェイトは大声でプレシアの言葉を遮る。

 

「私はアリシアを蘇らせて『お姉ちゃん』て呼びたい。母さんがお腹を痛めて生んでくれたわけじゃないけど、私が母さんに生み出された事は変わらない。そして遺伝子が同じなアリシアは一卵性双生児の私のお姉ちゃん」

「そんな暴論」

「もちろん母さんにも娘として認めて欲しいけど、私を妹と呼んでくれるかどうかはアリシアが決める事で母さんには関係ない」

 

 こんな強気なフェイトを見た事がないのか、絶句するプレシア。

 

「私の願いはテスタロッサ家の幸せ。私は母さんとアリシアとアルフとみんなで一緒に幸せになりたい」

 

 フェイトの熱のこもった視線に、プレシアは視線を逸らす事しか出来ない。

 

 このまま放って置くのも一興だけど、話を進めよう。

 

「さて、俺の方の目的だが、俺の妹はロストロギア『闇の書』の現マスターでな」

「闇の書?」

 

 話を逸らしたいのか、すぐ食い付いてきた。

 

「あぁ、知っているのか?」

「えぇ、転生システムに興味があって調べた事があるわ」

「それなら話が早い。このままだと書に魔力を吸い尽くされて妹は遠くない未来、命を落とすだろう。それを助ける手伝いを頼みたい」

「頼む? ふん、これは脅迫なのでしょう?」

「その代わりに俺もアリシア復活に手を貸そう」

「いらないわ」

「強がるのはよせ。無様に拘束されたお前にジュエルシードを手にする事は出来ない」

「なら、他の手段を探すまでよ」

「お前にそれだけの時間が残されているのならな」

「なんですって」

 

 ワールドウインドウ応用編その1、直接触れる事で対象の情報を調べる事が出来る。

 

 でも、調べられたのは病巣の有無まで。

 

 知識のない僕にはそれを評価する事が出来なかった。

 

 でも、この反応はどうやら当たりの様だね。

 

「治らないんだろう? そしてタイムリミットは目の前だ」

「なぜそれを」

「お前が気絶している間に何もしていなかったと思うとは随分とおめでたい様だな」

「くっ」

「母さん…………本当、なの」

 

 だが、この話はプレシアよりフェイトの方にダメージが大きかった。

 

「アナタには関係ないわ」

「あるよっ!! 私は母さんの」

「アナタはただのお人形っ!! アリシアの失敗作っ」

「なら、アリシアはどうするのっ」

「それはっ!! それは……」

「管理局を辞めて、違法研究に手を染めて、輸送船まで襲って、管理外世界に魔導師の私を送り込んで、そこまでして出来ませんでしたで諦めるのっ」

「知ったような口をっ」

「知らないよっ!! だって母さん、何も話してくれないじゃないっ!! それなのに分かるわけないよっ!! 教えてよ、母さんの事。母さんはどうしたいの。教えてくれたら私、手伝うから。頑張って手伝うからっ」

「アナタ……」

「母さんが死んじゃうのは嫌。アリシアに会えないのも嫌。このまま終わるのは絶対に嫌だっ!!」

 

 フェイトの瞳には涙があふれていた。

 

 アルフがテーブルを回り込み、フェイトの肩に手を置くと、緊張が切れたのかアルフに抱きつき声を殺して泣き出した。

 

 それを一瞥してから視線を下げ、考え込む様に瞳を閉じたプレシア。

 

 そのまま誰も声を発しない時間が流れ、

 

「マコトと言ったわね」

 

 沈黙を破ったのはプレシア。

 

 その声にピクッとフェイトの肩が上がる。

 

「あぁ」

「アリシアの事、アナタの妹の事、具体的にどうするつもりなのか詳細を話しなさい。協力するかどうかはそれからよ」

「母さんっ」

「勘違いしないで頂戴。私はただアリシアを生き返らせたいだけ。それを優先させるだけの事よ」

「うん、うん」

「ふんっ」

 

 そっぽを向くプレシアと、涙目のままだが頷きながら嬉しそうに笑みを浮かべるフェイト。

 

 とりあえず、無事に説得完了だね。

 

 無性に「ツンデレですね。分かります」とか言いたくなるけど、ここは我慢しておこう。

 

 てか、59歳でツンデレって誰得なんだろう。

 




新年一発目、どうだったでしょう。
バトルは基本こんな感じです。
正面からとか戦いませんよ?
転移のレアスキルでどうにかするのが本作バトルの基本骨子なんで。
そして質量兵器バンザイです。
攻撃魔法? あぁ、この前コンビニで売ってました。298円で。
ファミマ見た? ネタ、分かりますかね?
フェイトはかなり印象を変えてみました。
こういう素直な感情の発露がフェイトにもプレシアにも必要だったんじゃないかなと。
次こそはジュエルシードを使おう。
それとも使った後の描写からスタートかな。
それではまた次回。


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