日輪の子は夜と踊る (凡人EX)
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原作開始前
人物紹介 日輪の子の繋がり、人となり


サブタイ通り、新君の設定です。

原作にはまだ入らないのですが、整理をしておいた方がいいと思って現時点での設定を集めました。

興味が無い方はスルーでも……凡人からでした。


折神 新(おりがみ あらた)

 

 

14歳(原作開始前時点) 男 折神家親衛隊第五席

 

 

身長 168cm 体重 70kg

 

 

誕生日 12月24日

 

 

趣味 独楽、メンコ、囲碁・将棋、双六、篠笛、神社巡り

 

 

特技 マラソン(めっちゃ速いし疲れない)、潜水(最高30分、もっといけるかも)、ヒシン神楽(月の出から日の出まで舞える)、料理(和食は一級品だが、それしか作れない)

 

 

好きな食べ物 味噌汁、夜見の握ったおにぎ……おむすび

 

 

流派

 

ヒシン神楽 新の村に伝わっていた謎の神楽。剣技に転用すると、荒魂を祓う力を得る。全集中の呼吸によって身体能力を強化してから繰り出す。

 

 大晦日の月の出から始まり、日の出まで無休で続けられる舞。その源流は、鬼殺隊なる組織が使っていた剣術にあるという。

 

??? ヒシン神楽以外の新の十八番。本来はヒシン神楽にあったのを自己流に改造し、最高に使いやすくした剣術。

 

??? 新の切り札。2人の師匠直伝の剣術であり、全てを焼き尽くすが如き絶技なんだとか。ヒシン神楽の最後の演目はこれと全く同じだったりする。

 

 

主な装備

 

日輪刀 新も来歴がよく分かっていない。普段黒いのに思いっきり握ると赫くなる不思議な刀。炭治郎が持っている刀と瓜二つ。

 

狐の面 鱗滝という老人に教えて貰って作った木彫りの面。白く塗ってあり、また、川の絵が描いてある。

 

制服 親衛隊共通のデザインを、男子用に変えた服。動きやすいし軽い。

 

羽織 何となく欲しいと思って、親衛隊入隊時に自分で作った。青い彼岸花と太陽の光を模したデザインとなっている。……自分で作った時、何故か懐かしい気持ちになったとか。

 

 

主な交流

 

皐月 夜見(さつき よみ)

 

 同僚兼幼なじみ。どうやら地獄とも思えるような日々を共に過ごした模様。

 

 再会後、自ら荒魂との戦いに身を投じた上、ノロを受け入れたと知り、そのように変えてしまったと自分を責めた。

 しかし彼女の「新の隣に立つ」という想いの強さと、恨まれても仕方ないと思っていた行為も赦してくれたという事実によって自責の念から救われた。

 

 以降は、折神家内で夫婦と形容される程となる。

 ただ、特別ではあるが、自分は相手に相応しくないとお互いに思っているため、付き合うという段階に至っていない模様。

 

 新が自分の命を懸けてでも護りたいと思っている人物。

 

折神 紫(おりがみ ゆかり)

 

 義理の母親。いつの間にか息子にされていた。

 

 交流する時間は殆ど無かったが、その少ない時間で育まれた親子としての絆は固く、お互いの信頼もものすごく厚い。

 

 剣の師匠でもあり、また先達としても尊敬しており、新が目標とする人間その1。

 特に彼女の「家族とは何たるか」という教えは、新の人格形成の一端を担い、深く根付いている。

 

 時々天然なところがある紫に呆れてもいるが、自分にもそれが移っていることを新は気づいていない。

 

燕 結芽(つばくろ ゆめ)

 

 同僚。将来が楽しみな子。

 

 1日1回は手合わせをしており、その度に確実に成長しているので、新は「いつか自分を負かすかもしれない」と目している。

 

 それ以外の点でも妹の様に可愛がっており、結芽も新を兄の様に慕っている。夜見が入ると親子になる。

 

 彼女の秘密については透き通る世界によって知っており、それ故に全集中の呼吸を教えた。

 

獅童 真希(しどう まき)

 

 同僚。頼れる姉御。

 

 親衛隊に早く馴染める様に色々と考えてくれていた。実はかなり感謝している。

 

 鈍感ぶりと比例するイケメンムーブには少々手を焼いている。

 

 何度か手合わせをしたが、その度にその剛剣に驚かされている。しれっと全集中の呼吸を教えた。

 ……どこかその剛剣に見覚えがある様な気もしているらしい。

 

此花 寿々花(このはな すずか)

 

 同僚。参謀お嬢様。

 

 実は結構気が合う。真希や夜見を混じえてよくお茶をしている。

 

 頭の回転の速さと口の上手さは新が舌を巻く程で、心の奥で彼女を裏ボスとして扱っている。

 剣術にもそれが活かされており、それを実現させる技術と相まってやはりよく驚かされている。しれっと全集中の呼吸を教えた。

 

森元 源司(もりもと げんじ)

 

 歳の離れた友人。静かな研究者。

 

 主に荒魂の発生に関する研究を行っている人。実は結構偉い。

 他にも荒魂からの被害を減らすために様々な設備を開発していたりもするオーバーワーカー。しかし、本人の要領の良さかいたってピンピンしている。

 

 全集中の呼吸を上手く使えば、一般人でも荒魂に対処できるのでは無いかと考え、現在新と共に調べている。

 

 

鱗滝 左近次(うろこだき さこんじ)

 

 近所のお爺さん。鱗滝先生とお呼びしたい。

 

 色々あって家を出た新を保護し、諭して家に帰したのだが、その頃から新は興味を持ち、度々訪れるようになった。

 

 剣術道場を開いており、彼自身新を負かした程の剣の腕前を持つ。新の見立てでは全集中の呼吸を使っている。

 

 新にとって人間として大切な事を教えてくれた人であり、新が目標とする人間その2。

 

 ……初めて会った時、非常に驚かれたのだが、それについて聞いてもはぐらかされている。

 

 

竈門 炭治郎(かまど たんじろう)

 

 夢でよく会う人物その1。温かい人。

 

 いつの頃からか隠世に出入りできるようになった新が最初に出会った人物。

 

 実戦によって新の剣の腕を磨く手伝いをした、剣の師匠とも呼べる友。

 人間関係について悩んだ時、鱗滝さんと同じ頻度で頼っている。

 

 なお、新が料理上手になったのも、炭治郎が教えてくれた

 からである(難解ではあったが、何となくわかった)。

 

 ……時々、新を見る目が懐かしむような、辛いような目になる。

 

 

我妻 善逸(あがつま ぜんいつ)

 

 夢でよく会う人物その2。黙ってりゃかっこいいのになと常々思っている。

 

 心配性にして臆病。新が無茶苦茶する度に夢の中で説教まがいの事をしているが、あまり効果がない。

 

 居合の速さは尋常ではなく、彼にコツを教わる事でようやく完成したヒシン神楽の演目もある。

 

 ぞんざいに扱っているが、気の置けない仲である証拠。

 ……新と話していると時々懐かしむような顔になる。

 

 

??? 

 

 夢でよく会う人物その3。ギャップすげぇなと思っている。

 登場していないが、エネルギッシュな野生児……なのだが、というかだからこそ色んな意味で一筋縄ではいかない。

 

 

??? 

 

 夢でよく会う人物その4。別次元の人。

 登場していない新の剣の師匠。最近、本気を出しても相変わらず殆ど手も足も出なかったらしい。

 

 

人物像

 

 普段はよく言って快活、悪く言えば荒々しい。

 過去の経験から、対面した相手の人間性を理解するまでは気づかれない程度の敵意を持って接する癖がある。

 が、ひとたび仲良くなってしまえば、炭治郎に影響された、太陽の様な明るさをもってこちらを元気にさせてくれる少年。

 同時に彼の植物のような、あまりに自然とそこにいるような気配に驚くことだろう。

 

 しかし、剣を握るとそれらは一変する。

 荒魂が相手だろうと人間が相手だろうと、洗練された流麗かつ豪快な剣技を、殺意も敵意も無くただ無慈悲に振るう。

 ただでさえ馬鹿馬鹿しい程高い身体能力を全集中の呼吸によってブーストした攻めは激烈、守りは剛堅と評される。

 更に、透き通る世界なる物を認識しているためか、未来を予知しているかの様に動くため、こちらの攻撃は当たらない、避けようとしたらその前に斬られる、という理不尽なレベルに到達している。

 これを崩そうと思うと、こちらも未来を読むしかない。

 しかし、その剣は主に彼の大切な人を護るために振るわれるので、ところ構わず襲いかかるといった事は決してない。

 なお、荒魂を祓うのもその一環で、彼自身荒魂を憎んでいるとかそういった事は無い。

 

 過去に何があったのかは未だ語られていないが、相当辛いものだったらしい。上記の癖は過去という土台の上で、紫や鱗滝といった人達に教えられた事を活かしたもの。

 また、彼が夜見を特別に思っているのもそこかららしく、夜見の事になると非常に過保護になる。

 

 総じて、太陽の様な明るさ、誰かを導く灯火の様な温かみ、何もかもを見通した様な、あまりにも落ち着いた植物の様な精神を持つ少年であると言える。

 

 ……彼自身、何かを忘れているような気がしているが、それが一体何なのかは分かっていない。夜見を見る度に、そして産まれた時からあるらしい痣を見る度に思い出しそうになるのだが……?




この設定集は、原作に入るまでに何度か改訂し、原作開始と共にまた新しく作る予定です。

主に???となっている部分を物語の進歩にあわせて追記するかと思いますので、よろしくお願いします。

あ、他にも新君について知りたい事があれば、感想に書いていただければ追加します。


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全ての始まり

この作品は作者が
(刀使ノ巫女に鬼滅要素入れたら面白そう)
(親衛隊も幸せな感じにしたいな)
という軽い気持ちで書き始めた駄文です。
ご了承ください。


 

 

 

──走る、走る、走る、走る。

 

 

……まだだ、もっと、もっと速く

 

 

──走る、走る、跳ぶ、走る。

 

 

……今は、考えるな。ただ、()()()を、運ばないと

 

 

──走る、滑る、跳ぶ、走る。

 

 

……呼吸を続けろ。感覚を研ぎ澄ませろ。人の気配はあるか

 

 

──走る、走る、走る、走る。

 

 

……あった! 家だ! 人もいる!

 

 

──走る、走る、走る、止まる。

 

 

……まだ息はある。だが、こんな寒さでは、襤褸一枚纏っただけでは長くは持たないだろう

 

 

──深呼吸、降ろす、……泣く。

 

 

 襤褸を纏った少年は、涙を流し呟く。

 

「……ちくしょう」

 

 何で、何で、俺達が、こんな目に

 

「俺達が何をしたってんだよ……」

 

 思い出すのは、侮蔑と憎悪、そして恐怖の入り交じった視線。傍らで震える少女。自分達に向かってくる拳。

 六歳の子供には、耐えられないような仕打ちの数々を、鮮明に思い出した。

 

「……ごめんな

 

 そして、そんな人々を殺して回った、化け物を思い出す。

 ……その化け物が“荒魂”と呼ばれていることは、今の少年には知る由もない。

 

 頭に流れ込んできた技をもって、化け物の群れを一掃した少年は、しかし、何よりも大切な人が傷ついていることに気づいていなかった。

 

「……何が、守ってやるだ……何も出来なかったクセに」

 

『……私を……守って、くれますか? 』

『勿論! ずっと一緒にいてやるさ』

 

「……約束も、守れそうにないや」

 

 何よりも信じられない、“人間”に頼るしかない

 

 その事が、この少年にとって一番の不安だった。

 

 ……でも! こうしないと、この子は助からないんだ!

 

 直感的に、これが最善だと何となくわかっているのも事実だ。

 

(ああ、クソ)

 

(いるかもわかんねぇし、いたとしても俺達を助けることもなかった神様、今度こそ)

 

 約束を破った自分が、居やしないと思い込んでいる存在に対して願うなど、馬鹿げている。

 少年は、わかっているのだ。そのような事。しかし、祈らずにはいられたかった。願わずにはいられなかった。

 

(……この子を、危ない目、怖い目に遭わせないでください。俺の事を忘れさせてやってください。……)

 

「幸せに、してやってください」

 

 雪降る夜空を見上げ、悲痛な声で、弱々しく洩らした。

 

 そして民家の扉を全力で殴った。綺麗な風穴が空いた。これならすぐ気づいてくれるだろう。

 

「……ありがとう」

 

 元来た道を、走る、走る、走る、走る。

 

 その後、少女はその家に引き取られ、“皐月”の娘として可愛がられた。

 

 

 

 

 

 ──同時刻、とある山奥の村

 

「……何が、起こったのかしら」

 

 高校生程の少女が呆然と言葉を紡ぐ。

 

 この少女、“刀使”と呼ばれる荒魂専門の役職に就いており、今回この村に訪れたのもその任の一環だった。

 のだが

 

「……生存者は無し。荒魂も、もう斬られてる」

 副隊長らしい少女が現状を整理する。

 

 彼女の言う通り、生存者はいない。村民と思しき人々は既に物言わぬ屍となってしまっている。

 

 そして、この事態を引き起こしたであろう荒魂も、ノロへと変化していた。

 

「私たちが来る前に刀使がいたってことですか? 」

 

 中学生程の少女が、そこから考えられる考察を述べるが、隊長格の少女が首を横に振る。

 

「そう考えることも出来なさそうね。これほどの量のノロよ? 荒魂も相応に強かったか、数が多かったんじゃないかしら? とても1人で抑えられないほどね」

 

「……なのに、戦った痕跡がない。周りに人が立ち去ったような痕跡もない。御刀も見つからない。不自然ね」

 

「じゃあ、どうして……」

 

「……何もわからないけど、とりあえず報告しないと」

 

「わかったわ、一度戻りましょう」

 

 そうして彼女達は、村の人達に黙祷を捧げ、報告とノロの回収のため村を後にした。

 

 この事が悲劇として広く知れ渡ることになったのは言うまでもないだろう。



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皐月夜見はかく語りき

ヒロインを夜見さんにしようとしたのはいいけど、この人の設定がよくわからなくて結局オリ設定をぶち込むしかなくなった凡人の作品です。


──あの子が行ってしまってから、多分1ヶ月。

 

 私は、皐月さんというお家にいます。

 大怪我をしていた私をお医者さんに連れて行ってくれたんです。そしてそのまま、このお家でお世話になっています。

 

 まだこの人達は怖くない。大丈夫。

 

 最初の内は逃げてばっかりでしたが、段々と、逃げなくても大丈夫だとわかりました。この人達は、私を殴らない、と思う。

 

 この人達の家の子になりました。ずっと前から子どもが欲しかったそうです。

 

 

 夜になると、私はあの村の方を見ます。あの子を見つけるために。

 

 ある日、お父さんがそれを見て、私の名前を“夜見”にしたことは、忘れることは無いでしょう。

 

 私とは違って、独りでも生きていける彼。名前のない彼。

 

……私は、彼の傍にいられなくなりました。彼を置いて、自分だけ、幸せになろうとしている。

 

 彼は、今の私を見てどう思うでしょうか。軽蔑? 嫉妬?

 

……嫉妬は無いかもしれませんが、いい感情を持たれないことは確かでしょう。

 

……でも。

 

……彼に許されなかったとしても、私は彼にもう一度、会いたい。

 

 会って、ありがとうと伝えたい。

 

 何様のつもりだろうかと、自分でも思う。

 

 こんなの自己満足でしかないというのに。

 

 それでも、伝えたい。話がしたい。

 

 だから私は、今日も彼を探して夜闇を見るんです。

 

……彼の面影を探して

 

 

 

 

 

 

 数年の月日が経ちました。その間に私は“刀使”となりました。

 

 刀使……正式には“特別祭祀機動隊”。

 

 警視庁の特別刀剣類管理局に所属する機動隊で、御刀の持つ神性を引き出し、荒魂という人を脅かす怪異を祓う神薙の巫女。

 

 そして、私はその中でも折神家親衛隊の第三席として活動しています。

 

 折神家とは、古くより朝廷から荒魂の元となる物質、“ノロ”と御刀の管理を任されてきた一族。全ての刀使の頂点として存在する一族。

 

 親衛隊とは、その折神家の御当主である折神紫様をお守りするために結成されたものです。勿論、腕利きの刀使がこの役を任されます。

 

……私自身、まともな経緯でなったとは言えませんが。

 

 刀使としての適性を見出され、故郷の皆の期待を背負い、刀使の養成学校である鎌府女学院に入学しました。

 

 刀使になれば彼に並べると、今度は彼を守れるだろうと、そう思ったから。

 

 しかし、私がどれほど努力しても、剣術の才能が無かったようで。

 

 刀使になるには御刀に認められなければいけませんが、その点が原因で、私は御刀に認められることがありませんでした。

 

……やはり、私には彼を守ることが出来ないのだろうか。

 

 そう感じていたとき、高津学長が私にある才能を見出しててくださり、そのおかげで今、私はここにいます。

 

 

 

 

 

 

 学院に通っていた頃から、僅かな暇を見つけては、あの村に(今思えば、村と言うにも小さいですが)行っていました。彼を探すために、何度も。

 

 しかし、彼はいなかった。

 

 一瞬、最悪の想像が頭をよぎりました。

 

 すぐに、それは無いと切り捨てました。

 

 何となく感じるんです。彼は生きている。

 

 私と同じように、誰かに拾われたのだろう。そう結論付けました。

 

 証拠なんてありませんが、確信だけはありました。

 

 

……ああ、そういえば。

 

 薄れる意識の中で、彼が怪物を……いえ、荒魂を木の枝で切り捨てていたのを確かに見ました。

 

 私もどこかで見たことがある動きで。

 

 それを応用して、件の村と鎌倉を往復していましたが、刀使となるための教育を受けた今ならわかります。

 

 あの動きは、恐らく剣術に転用できる。

 

 それを覚えている限り我流で練習しても終ぞ御刀に選ばれることはありませんでしたが。

 

 とにかく、彼はそれを使って助けてくれました。

 

……何てことを言ったら、私はいい笑いものでしょう。

 

 御刀も無しに、というか、刀使でもない、なることもできないただの男の子が、何の変哲もない木の枝で、荒魂を斬り祓うなど。

 

 実際、高津学長に私の生い立ちを全て話したとき、そう指摘されました。

 

 正直私もおかしいと思います。しかし事実なのです。

 

 だから余計に、彼がその程度で死んでしまうとは思えない。

 

 

 

 

 

 

 親衛隊となって早いもので、もう半年が経とうとしています。

 

 今日、新しく親衛隊に入る人がいるそうです。

 

 彼に関することを少しでも知りたくて、様々な人に聞いてきましたが、あまり進歩はありませんでした。

 

 唯一、紫様が気になる反応をしていましたが……結局、わからずじまいでした。

 

 

 

 新しく親衛隊第五席になる人にも聞いてみましょう。

 

何故か、今回は何かわかる気がします。




口調とかも安定しないですね。
それでもオリジナル小説より圧倒的に書きやすいですが。


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折神紫はかく語りき

紫様の回想です。


 私がその子供を見つけたのは、8年前の話だった。

 

 前から荒魂がいるという情報があったので、何度か刀使を調査に向かわせていたのだが、誰もその荒魂を祓うことができず、被害が増える一方だった。

 

 このまま放っておくわけにはいかず、私が直々に出撃したのだ。

 

 秋田県のとある山の奥地。そこを中心として人型の荒魂が人を襲っているという情報を元に、ノロの回収班を待機させ、様々な場所を探し回っていると、更に上の方から金属音が聞こえた。

 

 音のした方へ向かい、数分ほど斜面を登っていると、視界が開けた。見る限り、そこは廃村だった。

 

 ボロボロに崩れた家屋がいくつもあった。

 

 しかし、それ以上に目を引いたのは、

 

──刀を振り下ろす襤褸を纏った少年と、それを刀で防ぐ人型の荒魂だった。

 

 先程の金属音の正体はこの衝突だった。

 

 人型の荒魂が刀を持っているというのは既に報告されていたことだった。

 

 が、問題は、ひと目でわかるほどに荒魂が圧倒されていたことだ。

 

 曲がりにも刀使達を返り討ちにしてきた荒魂がだ。

 

 しかし、少年は荒魂の攻撃を難なく防ぎ、躱し、時に弾き返し、鋭く荒魂の首を落とそうとする。

 

 確かに、荒魂の剣術は荒削りで、多少の弱点はあった。しかし多少だ。すぐに見抜けるようなものでもない。

 

 それでも、油断さえしなければ、或いはすぐに斬り祓えただろう。

 

……戦いに慣れているのか。あの歳で。

 

「くっ、なんなんだお前! なぜ、刀使でもないのに俺と張り合える!?」

 

 荒魂がそんなことを言っていた。しかし、それを意に介さず、少年は刀を振り続ける。

 

 この彼のような戦い方は見たことがなかった。舞うかのように一撃一撃が繋がっている剣閃。身体捌きも舞のそれだった。

 

 そして、程なくして荒魂は細切れにされ、ノロに還った。

 

「……はぁ。最近よく変な生き物が出てくるが、人型が出てくるなんてな」

 

 などと悪態をつく少年の声は、思ったより幼かった。

 

「どいつもこいつも人がのんびり暮らしてるとこに突然襲撃してきやがって。せめて食えるやつが来ねぇかな?」

 

 どうやら彼はこの廃村で、野生の動物を食べて過ごしているようだ。

 

 それにしても……

 

──口調が随分と荒いな

 

 小学校に入れるかどうかの少年は、悪い意味で幼さを感じない。

 

「……はぁ〜、あんたもこいつと同類な感じか?」

 

 こちらを見てため息をつく少年。そこそこ距離があったのだが、どうやら気づいていたらしい。

 

 私は少年に近づく。

 

「いや、私は君が先程戦っていたものを倒しにきた。もう必要ないだろうが」

 

「ああそう」

 

 興味なさげにそっぽを向いてしまう。が、すぐこちらを向き、

 

「んで? 何もんだよあんた。こんなとこまで来た人間は初めてだ」

 

 と聞いてきた。

 

──正直に答えても良さそうだな。理解できるかは別として。

 

「特別刀剣類管理局の局長、折神紫という」

 

「特別……なんちゃらっつーのは知らんが、何か偉いやつ? なのはよくわかった」

 

「……刀使というのを知らないか?」

 

「知るか」

 

「さっきみたいな怪物を倒すのが仕事だ。私は彼女達の管理をしている」

 

「偉い人か」

 

「偉い人だな」

 

 私の事は話した。さて──

 

「逆に聞くが、君は何者だ? この村に住んでいるのか?」

 

「……間違いではないな」

 

「他の人は?」

 

「コレみたいなやつに皆殺しされた。何か獣みたいな奴だったけどな」

 

 そう言ってノロを指さす。人型がもう一度この村を襲ったのはなくなったな。

 

「いつの話だ?」

 

「知るか」

 

「……そうだな。では、何回夜が来た?」

 

「あー? 七、八回ぐらいじゃねーの?」

 

 そう言われて、頭の隅にあった報告を思い出していた。

 

 一週間前、山の奥地の村にて、大量の荒魂が発生したと聞き、部隊を送ったのだが、既に村は壊滅していたと言う。

 

 しかし、奇妙なことに、荒魂は既にノロになっていたそうだ。

 

 生存者もなく、周りに人がいるような気配もなかったというのがその部隊の報告だった。

 

 話を聞くに、ここがその村だと思われる。

 

……彼の家族も恐らくそれで死んでしまったのだろう。

 

「その荒魂はどうした?」

 

「荒魂? ……あの怪物か、全部斬った」

 

「やはり……」

 

 にわかには信じがたいが、先程の動きを見るに嘘ではないだろう。なぜ、刀使が行った時にいなかったのかは不思議だが。

 

「それで、さっきの動きはなんだ? 私が知る限り、あのような流派はなかったはずだが」

 

「流派? んだそりゃ。俺は適当に斬ってただけだ」

 

 嘘だな。どう見てもデタラメな動きではなかった。

 

 教えてくれる気は……無さそうだ。

 

「その刀は?」

 

「漁ってたら見つけた」

 

……御刀か? こんな所に? 確かに私達の手を離れている御刀はいくつかあるが、刀使もいなかっただろうに不自然だ。

 

 

──神性を感じない。御刀では無いな。

 

 意識の奥でそんな声が聞こえた。

 

……御刀でないのに荒魂を祓った? 

 

 本来御刀の神性によって斬ることで荒魂はノロに戻せる。

 

 しかし、現にノロは再統合していない。

 

──わからないことだらけだな。

 

「おい、もういいか? 俺はそろそろ狩りに行くぞ?」

 

「まあ待て。君、身寄りは? 親戚はいないのか?」

 

「知らんわ。そも、俺を預かりたいやつなぞいるわけが無いだろう」

 

「では、とりあえず私の家に来るか?」

 

 少年は固まった。私も固まった。

 

──何を口走っているんだ? 私は。

 

 唐突にも程がある提案に、少年は

 

「ふざけてんの? バカなの? どっち?」

 

 辛辣な言葉が帰ってきた。

 

 しかし、子供を一人にする訳にも行かないので、ようやく来たノロの回収班にも事情を説明しよう。

 

 寒さの厳しい冬の夜が明けようとしていた。

 

 これからどうしたものかと、昇る朝日を見ながら頭を悩ませたのを覚えている。




やっぱり口調が難しいです。

特に威厳がある感じが出しにくくてしかたないです。


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少年、■■■の回想

主人公の一人称視点による話です。

色々端折っていますがご了承ください。


 色々あった。

 

 それはもう大変だった。

 

 アイツを避難させて1週間程は、俺ものんびり暮らしてた。

 

「おじゃましま〜す、死ね!!」

 

 野生動物(冬眠してる熊とか)を仕留めて食わせてもらったり、

 

「なんだこれ、美味そう」

 

 適当な木の実を見つけて食ったり(草とか葉っぱとかも食ったけど腹を下したからしばらくやめた)、

 

(こんなもんを一晩ぶっ通しでやれってか! キッツ!)

 

 頭に流れ込んでくる踊りを練習したり、まあ色々やった。

 

 そこまでは良かった。俺の暮らしが変わったのは人型の荒魂を殺った後だ。

 

 その日、俺は刀があったとこに埋まってた本を頑張って読もうとしていた。当時は字が読めず、悪戦苦闘とかもできずうんうん唸ってただけだったが。

 

 3周目に入ろうとした時、前に村を襲ったやつと同じ気配を感じた。

 

 こっち来るなよとか思うも虚しく、即座に刀で突いてきやがった。

 

 刀を逆手に持って受け流すと、そいつは俺から距離をとって話しかけてきた。

 

「素晴らしい。殺すつもりで突いたが、まさか受け流されるとは。今までのやつらよりは楽しめそうだな」

 

「うっせー、こちとら読めん紙を読もうとしてんだ邪魔すんな」

 

「読めぬのならば読む意味があるまい。それより俺に付き合え、俺の糧となれ」

 

「せめて聞く耳持てやクソッタレが!!」

 

 悪態をつく俺を無視し、急接近して今度は上段に斬りかかってくる仮称田中。

 

 話を聞きそうにないのでとりあえずバラバラにすることにした俺は、呼吸を変え、心を無に落とした。

 

 雑音が消え、自分の気配が透き通り、血が、筋肉が、感じ取れる。

 

 時間の流れが遅くなり、全てが透けて見えてくる。まあ、田中の中身は妙にドロドロした何かしかなかったが。

 

 そこまで来たら後は殺すだけだ。

 

 雷の様に速く、水の様に流れ、風の様に暴れ、炎の様に強く、岩の様に頑強に、花の様にたおやかに、獣の様に食らいつき、そして死神の様に静かに。

 

 途中から気配が増えたり、何か田中が喚いてきたが、煩わしいのでその隙にとっとと切り捨てた。

 

 一息ついて、気配が全く離れないことに気づく。

 

 妙だ。コイツらと同じ気配がする。のに、人間臭い。

 

 声をかけたら跳んできた。跳躍力すげぇなとか思ったわ。

 

 まあ、それが折神紫との出会いだった。

 

 そこからはお互いに質問だった。よくもまあそんな事が出来たものだと、自分でも思う。気配が田中に似てたからか? 人間は嫌いだったはずだが。今もまあそうではある。

 

 その質問が終わった後、いきなり家に来いとか言ってきた。流石に頭おかしいと思った。何言ってんだろコイツと。

 

 ふざけてるのかバカなのか。どっちもだったんだろう。結果的には助かったが。

 

 

「んで、結局連れてこられた訳だが」

 

「文句は言わないでくれ。君のような子供を一人で置いておく訳には行かないんだ」

 

「いや、文句っつーか……家だよな? これ。長老の家よかでけーぞ?」

 

 もう色々面倒だったので無抵抗になった俺が連れてこられたのは、クソでかい屋敷だった。いや、でかいってか広い。そりゃ山よりは狭いがアレと比べるのは違うだろうと、小さい頃でもわかった。

 

 家に入って座らせられる。使用人が全てわかっているように動いていたが、もう皆俺が来ることを知っていたらしい。今更ながら、紫の手際が良かったのだろう。

 

「さて、男の子用の服なぞないが、どうしたものか……」

 

「俺これでいいんだけど」

 

 俺の当時の服装はモコモコしたジャンパーとズボン。もうこれだけで良かった。今までの服よかはマシだからな。後、刀と本は持ってきた。

 

「それ以外にも着るものがあった方がいい。一日中それでは服が臭くなるからな」

 

「それは勘弁だ。また服屋に連れてってくれよ」

 

「そうしたいが、いい加減職務に戻らないといけないんだ」

 

「終わってからでいい。俺はどうせやることないんだろ?」

 

「ああ。色々な手続きが終わるまではこの家で大人しくしておいてくれ」

 

 そっから俺の怠惰な生活が1年ほど続いた。家事の手伝いぐらいはしたが。後は紫に付き合って試合したこともあったな。

 

 戦績? 一本も取れなかったわチクショウ。月日が経つにつれて一本も取られないように立ち回れるようにはなったがな。

 

 まあ、そんなある日。

 

「学校行くか?」

 

「行く」

 

 即決で小学校に通うことになった。保護者は紫だ。いつの間にやりやがったアイツとか思った。なんせ、紫が俺の母になったんだからな。

 

 戸籍がない俺を息子として引き取ったことを知ったのは小学校卒業頃だった。なぜもっと早く気づかなかったのか。

 知った時に「俺お前の息子だったのか!?」と本気でビビった。

 

 そして、中学からは学校の関係で少し遠くに住むことになり、それ以来あの家には帰ってない。

 

 ……正直、紫から徐々に人間の匂いが薄くなってきていて、そろそろヤバイかなって頃だったってのがある。

 

 まあ、仕送りなんかはしてくれてたし、連絡はしていたから、特に仲が悪くなったとかではない……はず。

 

 

 小学、中学と過ごしてきたが、人間は千差万別だと知った。

 

 村のヤツらと根っこが同じやつもいれば、善性に偏ったヤツもいた。

 

 いいヤツがいるのはわかった。しかし、それでも……

 

 ──アイツにゃ敵わんな

 

 アイツは……なんだろうか。透明だった。どこまでも透き通っていて、純粋だった。長いこと一緒にいてわかった。

 

 羨ましかった。それと同時に、可愛そうで仕方なかった。クソどもにいたぶられ続け、自分を閉ざしたアイツが……

 

 いや、何を上から目線に語ってんだ。

 

 何にせよ、アイツが心を開いてくれることを祈るばかりだ。世界は綺麗だと気づいてくれることを願うばかりだ。

 

 

 現在、中学三年生の俺。今まで特に友達を作らず(いるっちゃいるが少ない)、それでもクラスで浮くことがないという位置をキープしている部活無所属の少年となっている。

 

 ──な〜んか、嫌な予感がするんだよなぁ。不思議

 

 そして今は休日。集合住宅でボーッとしている俺の第六感が危険を教えてくれている。

 

 なんなんだろうかこの予感。俺何かしたっけ? 何もしてないよな? 

 

 最近ひったくりを見つけたんで手刀で気絶させて警察に突き出した程度だ。

 

 ……あれ、それじゃね? いやないな。あれはいい事の部類のはずだ。確かに人を殴ったことに変わりはないが、いい事のはずだ。

 

 それなのに嫌な予感がするのはおかしい。

 

 などと考えを巡らせていると、携帯がなった。紫からだ。即座に電話に出る。

 

「あい、もしもし?」

 

『新。今何をしている?』

 

「別に何も? 学校休みだから家に引きこもってるが」

 

『そうか。時間はありそうだな、少しいいか』

 

「スゲー嫌な予感するけどいいぜ」

 

『ありがとう。では、私が最近、実力のある刀使を集めて折神家親衛隊を組織し始めていることは知っているか?』

 

「ああ、時々話題に出るな。それが?」

 

『単刀直入に言おう。お前も入れ』

 

「断る」

 

 即時対応は大事。親衛隊の話をし始めた時点で怪しいと思ってたんだよ! 

 

「何が悲しくて刀使の中に入らにゃならんのだ」

 

『実力のある刀使を、と言っただろう。お前、私と何度か試合して互角じゃないか』

 

「今もそうとは限らんだろ! 確かに神楽は続けてっけどさぁ!?そもそも俺刀使でもねえし!」

 

『実力があれば問題ない。まあまずは帰ってこい。そこで今の実力を見る』

 

「……はぁ、わーったよ。アンタと試合すりゃいいんだな?」

 

『先に言うが手を抜くなよ? そんな事をしたら……わかるな?』

 

「怖ぇよヤメロ!」

 

 お見通しらしい。くそぅ。

 

 まあ、いくらなんでもそんなに戦えるはずもない。きっと大丈夫だ。……大丈夫だよな? 

 

 




主人公の名前→折神新
新たな人生を歩みたいという彼自身の希望による名前。
戸籍上、折神紫の息子である。
赤い目に白みがかった緋色の髪を持つ。
若干五歳にて透き通る世界に入門したかなりの化け物。
紫と出会った頃には使いこなしている。

そんな新が親衛隊になるまで、後三週間。


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日輪の子は噂される

新君がやってくるまでの折神家の混乱です。


──三週間後、新しく親衛隊に配属される者がいる。

 

 この報せは、折神家を騒がせるのに充分だった。

 

 

 事の発端は一週間前。

 

「ゆかりさま〜、あーそーぼー」

 

 幼い声で紫を呼ぶ少女。彼女は燕結芽。親衛隊の第四席である。

 

 彼女は戦闘力がずば抜けて高く、選りすぐりの実力者である親衛隊の中で一番強いという才能の持ち主である。しかもこれで11歳という神童である。

 

 ちなみに、親衛隊第一席の獅童真希は全国の刀使が集まり、剣術を競い合う折神家御前試合にて二年連続で優勝、第二席の此花寿々花は準優勝している。

 

 彼女達を差し置いて親衛隊最強、さらに言えば、二十年ほど前から実力が変わらず今も尚全刀使の中で最強である紫とまともに戦えるのだ。

 

 そんな彼女だが、親衛隊としての仕事を与えられることはほとんどない。

 

 戦闘力に極振りしている上に飽き性な結芽は、真希や寿々花の様に隊を指揮することに絶望的に向いておらず、更に彼女自身楽しくなってくると暴走するという悪癖があるので、そのせいで被害が拡大する可能性もあり、周囲が彼女を前線に行かせることが少ないのだ。

 

 そんな結芽は暇つぶしとして、紫や他の刀使に喧嘩をふっかけるという暴挙を働くことがある。今回もその一環である。

 

「すまないが、今は忙しい。後にしてくれ」

 

「えー、皆忙しいじゃん。つまんなーい」

 

 結芽を見て、紫の脳裏にある考えが浮かんだ。

 

 ズバリ、新を連れてきたら結芽が皆の邪魔をすることが少なくなるのでは? ということである。

 

──それに、彼奴をこちらに引き入れておくこともできれば、親衛隊の戦力の増加にもなるだろう

 

 筆を走らせながら紫は結芽に声をかける。

 

「ふむ……結芽、お前の遊び相手に心当たりがある」

 

「え!? 誰!?」

 

「まあ落ち着け。今度その子を説得しにいく。それまで我慢できるな?」

 

「うん、頑張る!」

 

 燕結芽、根はとても素直でいい子ではある。

 

……一日も持たず他の刀使を襲ったのは内緒。

 

 ともかく、誰も知らないが発端はこれである。

 

 

 それから一週間後、冒頭の報せが折神家中を駆け巡った。

 

「……新しく配属される刀使。一体どんな子だろうね」

 

「さあ? 流石に情報が少ししかない今、予想を立てることなんてできませんわ」

 

「……それもそうか」

 

 この二人、真希と寿々花も浮き足立っている。

 

 そも、折神家に仕えるものたちというのは、ざっくりと超エリートと表せる人達である。そんな人達が浮き足立つほど、この報せは衝撃的なものなのである。

 

 なお、寿々花の言う情報だが、現時点でわかる情報は二つ。

 

 まずその人物は紫が直々にスカウトしたということ。そして、

 

「紫様と互角以上の実力を持つ……か」

 

 ということである。

 

 本人の語るところによると、

 

『改めて実力を試すために立ち合ったが、お互いに本気ではなかったとはいえ、私は一本も取れなかった。そればかりか、少し押される始末だ』

 

 老いたものだと自嘲していたが、先程も説明したとおり、紫は刀使の頂点に立つ実力者である。そんな紫が少し押されるほど。相当な実力者であることに間違いはない。ない、のだが。

 

「本当に、そんな人がいるとは思えませんわ」

 

「紫様が冗談を言うようなお方ではないのは知っているだろう?」

 

「あら、では真希さんは素直に信じられると?」

 

「……なるほど」

 

「ええ、そういうことですのよ」

 

 ぶっちゃけ皆信じられていないのだ。

 

 

 折神紫。1998年9月の相模湾にて起こった、「相模湾大災厄」にて発生した大荒魂を封じた特務隊を率いた人物にして最大の功労者。

 

 大切なことなので何度も言うが、その時から実力が変わらず、最強の刀使として語られる英雄である。

 

 そんな彼女と互角というのは、何十年に一度かレベルの認識であり、やはりにわかには信じ難く、皆疑念を抱いていることも仕方のないことなのだ。

 

 唯一、結芽は疑うことなく楽しみにしているようだが。曰く、

 

『そんなに強い人なら、勝てば私の凄さがわかるよね』

 

との事。

 

「まあ、後三週間もすればわかる事だ。それまでのお楽しみということにしておこう」

 

「……ええ、そうですわね。今日も忙しいことですし」

 

 無駄話もそこそこに、二人は職務に戻る。忙殺されそうなほどに、親衛隊の仕事も山積みなのだ。

 

 

 

 ──とある中学校

 

「エッキショイ!!」

 

「うわ汚ねぇ、せめて手で抑えろや!!」

 

「あーあ、ほらティッシュ」

 

「新、お前最近くしゃみ多いな。風邪か?」

 

「チーン……ああ、多分そう。あ、ティッシュサンキュな」

 

「どういたしまして」

 

「風邪じゃなくて噂されてるとかじゃねえ? コイツ何かと有名だし」

 

「……なるほど、ありえなくはない」

 

「否定してくれ、俺は普通の男子中学生だろうが」

 

「ごめん新君、それは無理がある」

 

「普通の男子中学生は手刀で人を気絶させたりしないし、そもそも体育の成績からして化け物じゃないか」

 

「まあ、そういうこった」

 

「化け物とは失礼な。俺は一般人だっつの」

 

 渦中の新とその友達が談笑している。

 

 皆は知らない。彼が折神紫の義理の息子で、近いうちに親衛隊となることを。

 

 ──ホントに……やっちまったなぁ……

 

 話しながら、頭の中にはあの時の光景が映っている。

 

 いつもの容量で木刀を振り、紫と打ち合っていた光景が。

 

 手加減はしていない。本気を出していないだけ。それはお互い一緒だった。

 

 しかし、立ち合いは平行線になり、決着がつかなかった。

 

 その後、これからよろしくと言ってきた時には怒りが湧き、仕事があるからと走っていった後ろ姿には流石に同情した。自分が同じように忙しい日々を送ることになるのは考えない。

 

 ──何にせよ、こいつらともすぐお別れか

 

 数少ない友人と離れることに少し抵抗があるが、仕方ないと割り切る新。

 

 

 親衛隊になるまで、後三週間。



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日輪の子は訪れる・前

新君がやってきたお話です。
先に言いますが、紫様は不在です。


 世話になった人達にお礼する機会として与えられた三週間が過ぎ、いよいよ初出勤となった新。

 

 彼は今、折神家の前で立ち往生していた。

 

「……何か、バカバカしいぐらいに広いなぁ」

 

 その敷地の広さに既に圧倒されている。新が紫に連れてこられた家というのが、言うなれば折神家所有の家の一つに過ぎないと知ったのは最近だ。後で知って驚くことが多い少年、それが折神新である。

 

「帰りてぇ……」

 

 彼の頭によぎる、数々の思い出。今まで時を過ごしてきた学友達の顔が思い浮かぶ。転校すると告げた時、友達の女子やいつの間にかできてた舎弟達がギャン泣きして非常に申し訳ない気持ちになった。

 

 そんな平穏な日々に別れを告げ、ここまでやって来たが、もとより目立つことを全力で避けたい少年。“折神家”の“親衛隊”というネームバリューのとんでもない所に、“男性初”の“刀使”として“働く”のだ。

 

 こんな責任と注目を集める要素が豊富な中に突っ込みたくなかった。何ならお近付きにすらなりたくない。

 

 が、紫の押しに負けたのは自分だ。というか折神家の関係者である時点で割り切るしかない。

 

 意を決して門をくぐった。

 

 

 

 数分で迷った。

 

「……ココドコー?」

 

 流石に広い。鎌府女学院が敷地内にあるだけあり、広大だ。中には入ったが、警備の刀使に捕まりかけた。

 

「新しくここで働くことになったんですが」

 

 の一言で一応何とかなったが、その時に道を聞いておけばよかったと後悔する。

 

 

 余談だが、本来ならここで親衛隊の誰かが迎えることになっていたのだが、昨日遠方で荒魂が発生し、親衛隊が全員出払ってしまい、まだ帰って来ていないのだ。

 

 新が早く来すぎたというのもあるが。

 

 あれ? 紫様警護はどうしたんすか? と思ったあなた。

 

 その心配はない。鎌府女学院の学長が、自らの刀使を警護に派遣している。

 

 

 それより、先程から職員と思しき人達からの視線が痛い。が、躊躇っていては進展しない。

 

 よって、

 

「……あの、紫様に挨拶に来たんですけれど」

 

 とりあえず助けを求めた。

 

 

「すっかり日をまたいでしまったね」

 

「あの程度なら他に任せても良かったでしょうにね」

 

「私は動けて楽しかったな~。弱くてつまんなかったけど」

 

 親衛隊の四人が帰ってきた。昨晩東北地方に荒魂が現れたので、緊急で出撃した彼女たち。ついでに少しだが休みを貰い、今こうして帰ってきたわけである。

 

「そういえば! 今日だよね、夜見おねーさん! 新しい子が来るのって!」

 

「はい、そう聞いています」

 

「昨日準備はしておいたけど、途中で切り上げてしまったからね、帰ったら改めて歓迎会の準備だ」

 

「ええ……どのような方なのでしょうね」

 

「聞いた話には、私と同じ歳なのだとか」

 

「へぇー」

 

「結芽、最初から手合わせ、なんてことはないようにしてくれ。確か東海地方から来るという話だ。疲れてるだろうから、少なくとも今日はやめておけ」

 

「えー、紫様が遊び相手で連れてくるって行ってたのに~」

 

「いつの間にそんな話を?」

 

 親衛隊四人揃って仲良く歩いているが、一人暗い表情をしている。

 

「夜見、どうしたんだ? そんなに暗い顔をして」

 

「……いえ、少し考え事を」

 

 夜見だ。一人だけ沈鬱な表情で少し俯いている。真希や寿々花が心配して声をかける。

 

「あまり無理はなさらないように」

 

「もちろんです」

 

「もしかして夜見おねーさん、初恋の人のこと考えてた?」

 

 その中で結芽はニヤつきながら言った。夜見の表情は変わらない。

 

「初恋……ああ、あの初めて会った時に聞いてきた?」

 

「うんそう。その人のことになると夜見おねーさんすごく嬉しそうなんだよ!」

 

「……そうでしょうか」

 

「そうだよ!! だって夜見おねーさんその人の話してるといつも無表情なのに見てわかるぐらいに笑顔なんだよ!!」

 

 これには二人も驚いた。結芽の言う通り、夜見は全く表情が変わらない。ポーカーをやったら十中八九圧勝できるほどに無表情なのだ。いや、感情はある。だが、その機微が一切顔に出ないのだ。

 

「……」

 

「まあ、なんにせよ、だ。今日来る子が何か知っていたらいいね」

 

「はい」

 

「夜見さんの大切な人ですもの、私達も応援しますわ」

 

「ありがとうございます」

 

 暗い表情が消え、前を向く夜見。この時、夜見の耳が赤くなっていることに気づいたのは、寿々花ただ一人だった。しつこく絡む結芽は真希に怒られた。

 

 

「紫様の押しに負けたか……お前さん苦労人だな」

 

「よく言われますね。どうも俺は厄介事が舞い込む星のもとに生まれたらしいんで」

 

 一方、新は研究員と話していた。

 

 ここに来て初めて声をかけたのがこの研究員、主に刀使の装備を開発する部署の主任、森元さんである。

 

 声をかけた瞬間、新と森元さんは瞬時にお互いを同類だと認識した。二十歳離れた友達ができた。

 

 そして新は今、自分がここにやってきた経緯を話したところである。

 

「しかし、男が御刀もなく荒魂を祓えるのか……にわかには信じ難いな」

 

「俺は寧ろそれが普通じゃないことに驚きました。ってか刀使の存在を知りもしなかったし」

 

「ほーう、じゃあ自分でそれがなんでかってのはわかってんのか?」

 

「目星はついてるが、確証がない。この本におおよそ書いてあるんだろうとは思うんですが、所々破れてて読めんのです」

 

「見せてくれるか?」

 

 新は頷いて本を手渡す。森元さんはパラパラとめくって読むが、

 

「……随分と古い本だな。全く読めん」

 

「でしょうね」

 

 ちっともわかりやしない。本自体がボロボロな上、字が汚いのだ。新自身も未だ読めていない箇所が多い。

 

「まあ、コツがいることは確かですな」

 

「……ふーむ。まあ、機会があれば見せてくれや。一般人が荒魂に対応出来るヒントがあるかもしれんしな」

 

「ウッス……それじゃ俺もそろそろ行きますね」

 

「おう、頑張れ……俺も助手にどやされる前に戻ろうかね」

 

 

 と、二人が立ち上がったとき、新が何かに反応したように一点を見つめていた。彼に数秒前の軽さはおろか、感情も感じられない。

 

「どうしたんだ?」

 

「……荒魂が出た」

 

「何だと!?」

 

 数拍遅れて、刀使が新の向く方角に行くのが見えた。

 

「まさか、本当に……」

 

「俺も行きます、また会いましょう」

 

 そう言い、新は居合の構えをとる。するとどこからか、シイィィィ……という音が聞こえてきた。

 

 それが止んだかと思えば、

 

ダァン!!!! 
 

 

 新が先程までいた場所に、クレーターのようなものができ、新の姿はなかった。

 

「……何、なんだ……これ……」

 

 クレーターを見て呟く森元さんの声は、澄んだ青空に消えていった。




森元さんは森元さんであり、それ以上でもそれ以下でもありません。


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日輪の子は訪れる・中

初戦闘シーン。
勝手がわからない。
どうしようもない。
拙いところは目を瞑っていただければ幸いです。


 親衛隊達も、荒魂が現れたことを知った。荒魂探知に使われるスペクトラムファインダー。それは今、四方向ほどに荒魂がいることを示していた。

 

「しかし、見事にバラバラに現れたものだな」

 

「私達も、四手に別れた方がいいでしょう。幸い既に現場に向かっている刀使もいるようですので」

 

「りょーかい! それじゃ、私あっちね!」

 

 そう言って結芽は北の方角に向かって行った。

 

「あっ、こら! ……全く、結芽の単独行動には困ったものだな」

 

「でも、今はそれぐらいがいいでしょう。私達も別れましょう」

 

「わかった。僕は向こうを担当する。寿々花は南西、夜見は南東方向を頼む」

 

「「了解(ですわ)」」

 

 三人もまた別れ、それぞれ荒魂討伐に向かった。

 

 

「どっんなあっらだ〜まい〜るのっかなあ♪」

 

 上機嫌で直進していく結芽。刀使の特殊能力である“迅移”を駆使し、いち早く荒魂のいる場所に向かっている。

 

「……みぃつけた!」

 

 獰猛な笑みを浮かべる結芽。スピードを落として、改めて荒魂と対峙する。10メートル程の、獣のような四足歩行の荒魂が、見たところ5体。

 

 しかし、それでもなおこの燕結芽という少女は余裕を崩さない。

 

「さぁ〜てと、簡単にやられちゃ、嫌だからね!」

 

 この幼い少女は規格外の戦闘能力を持つ。故の余裕。故のこの言葉。それを皮切りに、結芽は荒魂に果敢に飛びかかっていった。

 

 

 

ダァン!!!!
 

 

 

 刹那、雷鳴の如き轟音がその場を支配した。そして、結芽が手始めにと向かっていった荒魂は、

 

 真っ二つになっていた。

 

「……え?」

 

 数瞬遅れて、起きたことを把握した結芽。着地し、荒魂が周りにいるのにも関わらず、硬直してしまう。

 

 だが、荒魂もそれは同じだった。何せ、

 

 結芽や荒魂の目線の先には、緋色の髪を持つ少年が、居合の構えで佇んでいるからだ。

 

 

(……あの子は刀使か。幼いが相当な強者。放置していても大丈夫そうだ)

 

 冴え渡った頭で考察する緋色の髪の少年こと、新。周りを見ても、自分と少女以外に人はいない。ならば、

 

(そこそこ暴れても大丈夫そうだな)

 

 なお、建物への被害は考えないものとする。

 

「──森羅万象示す神々、我らが信ずるは秘となる神々」

 

 先程収めた刀をもう一度抜く。右手に刀を持ち、自然体になる。

 

「秘となるなれば、我らが紡がん、人なる我ら、神話を語らん」

 

 荒魂が襲いかかってくるのを感じる。しかし、避ける必要も無い。時間の流れが遅いのだ。余裕がある。

 

「此処に現す秘となる神楽、いざや収め奉る──」

 

 目を開く。眼前に荒魂が迫っていた。ならば、

 

「ヒシン神楽・演目・水の弐──」

 

 迎え撃とう。

 

(さざなみ)

 

 荒魂の腕に対し、細かい連撃。刀を振るう度に、その威力は増していく。この荒魂は十回目までもった。

 

 倒れたならば次だ。

 

「演目・岩の参・金剛砕(こんごうくだ)き」

 

 先の荒魂の斜め後ろにいる荒魂に向かって跳び、刀を全力で振り下ろす。荒魂の頭を斬り、なお勢いが死なずに道路にクレーターを作った。

 

 着地を狙ってか、真横から荒魂の攻撃。新を喰らおうとしているようだ。

 

 即座に横跳びで近くのビルの壁に足を着ける。張り付くことは出来ないので、地上3メートルから落ちる前に壁を蹴る。ちょっと壊れたが、まあ仕方ない。

 

「演目・風の壱・春一番(はるいちばん)

 

 再び荒魂を横に真っ二つにし、遅れて風の刃で細切れにされる荒魂。新は更に奥にいる荒魂に向かって走っていく。

 

「演目・炎の壱・火火天焼(かかてんしょう)

 

 荒魂の下に潜り込み、上に跳びながら高密度の連撃。荒魂が倒れ伏し、その上に着地する。此処はこれで終わりらしい。ここまでの時間、約40秒。

 

 

「さて、と。次どこ行こうか」

 

 まだ荒魂の気配はある。同時に刀使の気配もあるが、手助けするぐらいならいいだろう。そう思って刀を鞘に収め、居合の構えをとろうとした瞬間、

 

「えい!」

 

「うおぉ!?」

 

 さっき見つけた刀使っぽい子に斬りかかられた。

 

(掛け声可愛らしいのに殺気が尋常じゃねえ! 防いでなかったら脳天割られてるわこんなもん! ってか何か怒ってらっしゃる?)

 

「もぉ〜!! 何で全部倒しちゃうの!? 私もやりたかったのに!!」

 

「おっま、バトルジャンキーかよ!! 混ざりたきゃ混ざりゃ良かったのに!」

 

「だっておにーさん凄く綺麗な戦い方だったんだもん!!」

 

「嬉しいねぇ、でもそれで俺のせいにされんのは勘弁願いたいなおい!!」

 

「うるさい!! 責任取って私と勝負して!!」

 

「嫌、です、けどぉ!?」

 

 新が下の鍔迫り合い。刀使の能力と、軽いとはいえ体重をかけられているため、かなり苦しい。

 

「つかまだいんだろ荒魂なら!! ほか行けばいいじゃねーか!!」

 

「いーやーだー!! もうおにーさんと勝負するって決めたもん!!」

 

「俺嫌っつったろうが!!」

 

「じゃあこのまま潰れちゃえ!!」

 

「嫌に決まってんだろ!!」

 

「ワガママ!!」

 

「どっちがだ!!」

 

 物騒な言葉や、刀を持っていることを考えなければ、まるで兄妹喧嘩である。

 

 結芽からしてみれば、買ってもらったばかりの玩具を目の前で横取りされ、壊されたようなものである。それに対する怒りもあるが、転校初日に遊ぼうと声をかけられたような心境もあるのだ。

 

(せっかくの獲物を横取りされたんだもん。これぐらいいいよね!)

 

 嗚呼複雑也乙女心。新からしたらいい迷惑である。というか、一応新は刀使ですらないのだが、結芽は興奮でそこまで頭が回らないらしい。

 

 そこから膠着状態(とレスバトル)が続き、5分ほどしたところで寿々花に止められた。

 



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日輪の子は訪れる・後

UA3000越え、お気に入り34人……夢だろうか?
本当にありがとうございます!
これからもゆっくり更新していきますのでよろしくお願いします!


「本当にごめんなさい!!」

 

「……ごめんなさい」

 

「お、おぉ」

 

 寿々花は今、めちゃくちゃ謝っている。

 

 なぜこうなったか、というのは簡単だ。自分が行った場所の荒魂を退治し、一度真希と夜見と合流。真希と夜見は後始末を、寿々花は電話に出ない結芽を探しに来た。

 

 そこで見つけたのが鍔迫り合いしている少年と結芽だった。それは即ち、一般人に刀使が襲いかかっているという構図になる。

 

 だから特大の雷を落とし、今は体が折れ曲がらないか心配になるほどに頭を下げているのだ。こっぴどく叱られた結芽も不服そうだが謝っている。

 

「(親子かコイツら)まあ、怪我はないし別にいい」

 

「本当にごめんなさい、まさか一般人を襲うなんて」

 

「……寿々花おねーさん」

 

「はい?」

 

「この人一般人じゃないと思うよ? だって荒魂倒してたもん」

 

「失礼な、一般人だぞ俺は……多分」

 

「……はい?」

 

 思わず高い声が出た寿々花だが、一瞬の思考の末に一つ、違和感に気づいた。

 

「……なぜ御刀を?」

 

「今気づいたのか?」

 

 一般人が刀を持っているはずがないのに、目の前の男はなぜ持っているのか。というか、普通に犯罪である。

 

「んな事言われてもな……」

 

「ねぇ、それ御刀なの?」

 

「ぶっちゃけ俺にもわからん。“日輪刀”と呼ばれてたって事しかわからん」

 

「ん〜、でもこの人凄く強いんだよ! ここにいた荒魂を全部倒しちゃったんだもん!」

 

「……ということは、貴方がこの惨状を?」

 

 寿々花の言う惨状とは、ノロが道路のあちこちに溜まり、道路や建物にいくつかのクレーターがある状態のことである。

 

「それに関しては是だ。まあ、荒魂を倒せる一般人だっているだろ多分。俺はその一人ってだけだよ」

 

「そんな一般人がいてたまるものですか」

 

「あんな炎とか水とか出すなんて、刀使でもできないよ!」

 

「炎? 水? 何の話ですの?」

 

「この人が刀を振る度に何か水がドバーってなったり風がビューってなったり火柱がゴォーってなったりしてたの!」

 

「……はぁ」

 

「そんな助けを求める様な目で俺を見るな。ただの幻覚だ……てか、俺もう行っていいか?」

 

「ダメ! 私と勝負して!!」

 

「嫌だね、誰が好き好んで命懸けで戦うってんだ」

 

「いえ、あなたにはそれ以上に聞きたいことが……」

 

「後で聞くから。いい加減行かねーと集合に遅れるから行く。そういう事にしとく。じゃあな」

 

 そう言った次の瞬間。少年の姿が忽然と消えた。比喩誇張なく本当にいなくなった。気配すらも消えたのだ。結芽も同じく、彼を見失ったらしい。

 

「えっ? 寿々花おねーさん、おにーさん消えちゃったよ!?」

 

「……とりあえず、ノロの回収をしませんと」

 

 

 

「そんなことがあったのか……いや、にわかには信じ難いな」

 

 数分後、真希、夜見と合流した寿々花、結芽。先程起こった事を説明すると、やはりというか、真希も非常に困惑した。

 

「……目の前で消えた、というのでしたら、幽霊か何か、だったのかもしれませんね」

 

「ちょっと、怖いこと言わないでください!」

 

「それはないと思うけどね~。だっておにーさんちゃんと生きてる感じしてたもん」

 

「だとしたら随分活き活きした幽霊だったんだろうね」

 

「もう、真希おねーさんまで怖いこと言わないでっ!!」

 

「と、とにかく早く戻りましょう? 新しいこの歓迎会を開きませんと」

 

「そうだね、後はノロを回収するだけだし、早く戻ろう」

 

 四人は折神家に帰る。ただ、夜見には一つ気になることが。

 

(……荒魂を祓える少年に、緋色の髪。……まさか)

 

 

 折神家に到着した四人。先程会議から帰ってきた紫に呼ばれ、局長室にいる。

 

 夜見が淹れた紅茶を飲みながら、新しい親衛隊のメンバーを待っている。

 

「……紫様、そろそろ約束の時間ですよね?」

 

「……うむ、遅いな。彼奴は約束の十分前には集合場所に来るようなやつだが」

 

「……? 紫様は、新しい人とは個人的な繋がりが?」

 

「ん? ああ、繋がりというか、息子だ」

 

 紫のその一言に、局長室は一度静まり返った。

 

 数分置いて、親衛隊の驚愕の声が折神家中に響いた。

 

「どっ、どど、どういうことですの!?」

 

「紫様に……息子? あれ? 息子ってことは……」

 

「待って紫様!! 新しく来る人って男の人なの!?」

 

「おや、言っていなかったか?」

 

「絶対誰も聞いてないよ!!」

 

 それはそれは驚いている親衛隊。

 

 真希はショックが大きかったのか、考え込んでしまっていて、寿々花は挙動不審に陥っている。

 夜見は目を見開いてフリーズ、結芽もかなりパニックを起こしてしまっている。

 

 紫は、自分に義理の息子がいることを隠していたわけではない。聞かれなかったから答えなかった、というだけなのだ。

 

 つまり、この情報を折神家の関係者で知ったのは、森元さん以外では彼女達が初めてなのだ。

 

 紫の親族……特に妹の朱音は勿論知っているが。というか、紫が不在の時、よく新の遊び相手になっていたのが朱音だったりする。

 

「勿論血が繋がっている訳では無い。色々込み入った事情があって預かることにしたんだ」

 

「……なるほど」

 

 現実に戻ってきた真希はかろうじてそう返す。それとほぼ同時に扉をノックする音が。

 

「来たようだな。入れ」

 

『失礼します』

 

 その声に反応する寿々花と結芽……そして夜見。扉が開けられる。

 

「新しく折神家親衛隊に入ることになりました、折神新です。色々文句はあるでしょうが、これからよろしくお願いいします」

 

 かなり粗暴な態度で挨拶する少年。そして、寿々花と結芽の方を見て、

 

「な? 後で聞くっつったろ?」

 

 悪戯が成功した子供の様な、屈託の無い笑みを浮かべた。




遂にやってきた新君。
夜見さんの、そして新君の心境やいかに。


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日輪の子は質問される

新君の一人称で進みます。
おかしなところがあったらごめんなさい。


「……さて、渡す物は全て渡した。今日はお前の仕事はない。ゆっくり体を休めるといい」

 

「了解」

 

「お前達も今日の業務はないな? 新しい仲間を案内してやれ」

 

「「「「了解」」」」

 

 俺が局長室に入って数分。親衛隊の四人を紹介され、親衛隊になるにあたって必要な物を紫から手渡された。

 

 色々なショックから何とか脱出したらしい四人に、局長室を出てから話しかける。

 

「んで、俺はこっから暇なんだよな? どうすりゃいいんだ?」

 

「とりあえず、歓迎会の準備をしていたんだ。といっても、ケーキなんかを用意しただけだけどね。話はそこでしよう」

 

「オッケ、案内頼む」

 

「こちらですわ」

 

 

 歩き始めた俺たちだが。

 

 歩いている内に職員らしき人間とすれ違ったが、不思議なものを見るような目で会釈された。

 

 ……うむ。

 

「……やっぱいずれぇなこの空間。なんでわざわざ俺を……」

 

 あれだ。動物園のパンダになった気分だ。日本初のパンダってこんな気持ちだったんだろうかね。

 

「そこら辺は慣れるしかないね」

 

「無理。女性集団に男一人だぜ? ハーレムか何かですか? 俺は勘弁願いたいね」

 

「あら、そんな状況なら選り取りみどりではなくて?」

 

「肩身が狭くてそれどころじゃねーっつの……」

 

 ふと、前に通ってた学校の女友達を思い出す。アイツも要は紅一点か……よく平気だったな。

 

「ねぇねぇ、おにーさんってどこから来たの?」

 

 後ろを歩くバーサーカーにそんな事を聞かれる。

 

「岐阜。美濃関が近かったな」

 

「じゃあ美濃関に通ってたのか?」

 

「今は美濃関に所属してることになるんじゃね? 知らんけど。まあ元々はごく普通の中学校だが」

 

 ……本当に俺どうなってんだろうかその辺。義務教育を受けなきゃならん年齢だよな? 無頓着なのも考えものだなホントに。

 

「じゃあ紫様と戦って互角だっていう話は!? 」

 

「え、何? そんなことまで話されてるの? クソ嫌なんだけど」

 

「既に折神家中に広まってますね。残念ながら」

 

「嘘だろ……」

 

「もうみんな知ってるし、観念した方がいいよ……ここだね」

 

 

 折神家、親衛隊専用スペースにて。

 

 テーブルの真ん中にはホールケーキが一つ。美味しそうないちごのケーキだ。

 

 ケーキを切り分け、簡単な歓迎の言葉を親衛隊の実質的なリーダーであるイケメン……真希が述べ、夜見の淹れた紅茶を合わせていただく。

 

 やってもらってばっかだな。なんか……モヤっとする。モヤっと。

 

「……んで? 俺と紫様が互角で戦えるのかって話だっけか」

 

「そうですわね。貴方の実力が如何程かというのは、全国が注目することになりますわよ?」

 

 お嬢、ケーキ食ってるところにそんな事を言ってくれるな。胃が痛い。

 

「……まあ、そうだな。迅移を使われると流石にキツくなるが、何とか食らいつけてる」

 

「……待ってください、貴方、迅移も使う紫様と互角なんですの?」

 

「? その通りだが、何かおかしいか?」

 

「おにーさんって写シを使えるの?」

 

「無理に決まってんだろ」

 

「さも当然とでも言うような目はやめてくれ……」

 

「そこまでいくと流石に人間か怪しいですわね……」

 

「行く先々で人外認定を受けにゃならんのか俺は」

 

 ……心外ではあるが、まあこの反応も無理はないか。

 

 写シや迅移とは刀使の特殊能力だ。

 

 写シは体を質量のある霊体に変えることで精神的疲労と引き換えに物理的なダメージを無効化するもの。刀使達はこれにより致命傷を避けてる。

 

 迅移は高速移動を可能にするもの。これを使うとビデオの早送りの様な動きになる。

 

 勿論、俺は刀使じゃないからそんなもんは使えない。

 

 刀使は普段普通の少女達だが、御刀からそんな不可思議能力を引き出し、荒魂という化け物と戦っている。

 

 そんな刀使だから、並のと互角というだけでも、既に人間を卒業していることになる。

 

「まあ、俺の戦闘能力がどこから来てるのかは俺にも謎だ。荒魂を祓える理由も合わせてマジでわからん」

 

「ふむ……謎だらけ、ということか?」

 

「謎だらけだ。せいぜいわかってるのは、コイツが御刀とはまた違うってことだけだ」

 

 そう言って腰の刀を軽く叩く。炎を象ったような鍔が特徴的な、昔掘り出した刀だ。結構な年季が入っている。

 

「見せてもらっても?」

 

「おうよ」

 

 鞘ごとお嬢こと寿々花に渡す。抜いてみれば、刃元に“滅”と刻まれた漆黒の刀身。こんなデザインは今までこれ以外に見たことがない。

 

「……漆黒の刀か。今まで聞いたことがなかったな」

 

「構造は特におかしい訳ではなく、変わっているのは色だけですね」

 

「確かに、このような御刀があるとは、少し考えにくいですわね」

 

 思い思いの感想を言う真希、夜見、寿々花。と、ここで結芽が不思議そうな顔をした。

 

「……あれ? おにーさん、色が違くない?」

 

「色? ……ああ、そういう事か。ちょっと返してくれ」

 

 寿々花から手渡された刀の鞘を握ると、刀身が赫く染まった。四人とも目を見開いていらっしゃる。……驚いてばっかだな。

 

「思いっきり握ると何故かこうなる。この刀の特性だろうな」

 

「すごい! これどうやってやるの!?」

 

「俺は握っただけでこうなるが、他はこうはならなかった。なぜかは俺もわからん」

 

「なーんだ」

 

 ちょっと不貞腐れる結芽。しかし、思い出したように身を乗り出す。俺の中で嫌な予感センサーが反応してるぜ! 

 

「そうだ、おにーさん!! ケーキ食べたら試合しようよ試合!!」

 

「やっぱりな……嫌に決まってんだろが」

 

「何で!? いーじゃん一回ぐらい!」

 

「結芽、俺はもう疲れてるんだよ。慣れない電車に揺られーの、着いたら着いたで荒魂出てきーの、流石にキツいわ」

 

「あと一回ぐらいいけるでしょおにーさんなら!」

 

「こら結芽、あまり新を困らせるな」

 

「いけるかもしれんが全力は無理。本気出せない相手と戦って楽しいかお前は」

 

 この言葉に黙る結芽。結芽から不機嫌そうな唸り声が聞こえる。戦闘民族は本気で戦ってなんぼという思考は共通しているらしい。

 

「……はぁ、明日ならいいぞ。ただ今日は休ませてくれ」

 

「……絶対だよ? 約束だよ?」

 

「わーってるよ」

 

「……すまないな。結芽が迷惑をかけて」

 

「何、戦闘狂の相手は慣れたもんだ」

 

「一体向こうでどんな生活をしていたのやら……」

 

 ……住んでたとこの近くの剣道場にいたバーサーカーを思い出す。いや、ベクトルは違うか? アイツは純粋に勝負や剣術が好きな感じだったが、結芽は……やめよ。俺の脳はそろそろ疲れてきてる。

 

「まあ、歓迎会はここいらでお開きにしようか。部屋はわかるか?」

 

「知らん」

 

「では、私が案内します」

 

「……おう、それじゃあ頼むわ」

 

 夜見に連れられ、部屋から出ていく。

 

「珍しいですわね……夜見さんが自分から案内を申し出るなんて」

 

 寿々花の声が閉められた扉の向こうから聞こえる。耳がいいのも考えものだな。

 

 

 連れられて数分。俺に与えられた部屋の前に来たが……いい加減だんまりはやめてほしいところだ。

 

「……で? 何か言いたいことでもあるのか」

 

「……」

 

「それとも聞きたいことか? どっちでもいいか」

 

「……あなたは」

 

 言葉を切る夜見。俺は何を言うでもなく、ただ次の言葉を待つ。

 

「……」

 

「……あなたは、私を覚えていますか?」

 

 そう問う夜見の顔は、どこか縋るようにも見えた。

 

 ……わかってて聞いてるな。

 

 今の今まで、局長室で見た時から考えないようにしていたが、限界か。

 

「……誤魔化せねぇよなぁ。お前、昔っからやけに鋭いし」

 

「……やはり、そう、なんですね」

 

「そうか、皐月夜見か。いい名前じゃないか」

 

「……ありがとうございます」

 

 はにかんだような笑み。やっぱ変わらんな。

 

 そんな懐かしさに加えて、苛立ちが募るのを感じている。黒い感情が出てきそうなのを抑えるが、漏れた分が怨嗟として出てきた。

 

「あの、ずっと「なんでお前がこんなとこにいやがる」……え?」

 

「ああ、クソ、なんでお前が戦ってんだよ……」

 

「……新、さん」

 

 ……また泣かせるのか? 俺は。

 

 だが、こんな形で会いたくなかった。そもそも、会いたくなかった。

 

 そんな顔をしてんだろうな、俺。多分、結構な拒絶の念が出てんだろうな。

 

 夜見も泣きそうな顔になってる……こんなに弱かったか俺は。

 

「その、私、は……」

 

「……すまん。言いたい事があるんだろ? ……今はやめてくれ、気が狂いそうだ」

 

「……っ、はい」

 

「……俺も色々話したいことがあるが、無理だ。そんな気持ちじゃない」

 

「……」

 

「勝手なこと言ってんのはわかってる。だが、俺は……」

 

「……いつか」

 

「あ?」

 

「いつか、お話できますか?」

 

「……気長に待っててくれ」

 

「……それだけで十分です」

 

 泣きそうな顔で無理やり笑顔を作ろうとする夜見。できてねーけどな。

 

 ……なあ、いつの間にそんな強くなったんだお前は。……なんでこんなに弱いんだ俺は。

 

 やっぱ、眩しいな。

 

「……ありがとな。俺はちょいと寝ると思う」

 

「わかりました、それでは……ああ、制服に袖を通しておいてくださいね?」

 

「大丈夫だ。そんぐらいやっとくさ」

 

 それだけ聞いた夜見は、目は赤いが真顔に戻り、去っていった。……後で追及されんだろうな? 

 

 ……ああ、やっぱり。

 

「弱いもんだな、俺」




新君はものすごく複雑なのです。


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日輪の子は呼び出される

最初は夜見さん視点、後で新君視点に変わります。


 ──ああ、やっと会えた。

 

 ずっと、ずっと会いたかった。

 

 ずっと、伝えたかったことが、ようやく……

 

「あの、ずっと「なんでお前がこんなとこにいやがる」……え?」

 

 

 その言葉で、その顔で私の思考は止まった。

 

 何もかもを恨むような、そんな顔だった。

 

 この世の全てを憎むような、そんな声だった。

 

 彼の声以外、何も聞こえなくなった。

 

「ああ、クソ、なんでお前が戦ってんだよ……」

 

「……新、さん」

 

 かろうじて言葉を紡ぐ。届かないだろうと思っていても、それ以外に何もできない。

 

 ──何故、こうなったのでしょうか。

 

 そんな疑問が頭の中をぐるぐる回る。

 

 私が何故戦うのか。彼はそう言いました。

 

 私が戦うのは、私を拾ってくださったあの方のため、そして何より……

 

「その、私、は……」

 

「……すまん。言いたい事があるんだろ? ……今はやめてくれ、気が狂いそうだ」

 

 ……言わせてくれないんですね。

 

 覚悟はしていましたが、つらい、ですね。

 

「……っ、はい」

 

「……俺も色々話したいことがあるが、無理だ。そんな気持ちじゃない」

 

 貴方は悪くない。

 

「……」

 

「勝手なこと言ってんのはわかってる。だが、俺は……」

 

 貴方は悪くない。勝手なのは私だ。

 

 貴方に並びたい。貴方を守りたい。

 

 何より、貴方に会いたい。

 

 貴方への迷惑を考えず戦ってきた私が、全部悪いんです。

 

「……いつか」

 

 そう思っているのに、

 

「いつか、お話できますか?」

 

 今度こそ、貴方の傍にいたいと思ってしまう。

 

「……気長に待っててくれ」

 

 

 ……ああ。

 

 やっぱり、貴方は……

 

 ずっと私を照らしてくれるのですね。

 

 本当に、ごめんなさい──

 

 

 

 

 

「……いやなんでだよ」

 

 気がつくと木漏れ日降り注ぐ山の中だった。

 

 マジでなんでや。

 

 アイツに案内してもらった部屋で寝落ちしたまでは覚えてるんだがなあ。

 

 いや、だとすれば、ここは……

 

「……行くか」

 

 夢の中であることを理解した俺は、久方ぶりに友人、もしくは師匠のところに向かう。

 

 2人とも元気だろうか、いや、この世界で元気もクソもないだろうけど。

 

 

 

「案外近かったな。落ちたところが良かったか」

 

 歩き始めて数分もせずに、家があった。俺の目的地だ。

 

 生き物がいないくせして、ここはいつも炭の匂いがする。

 

 代々炭焼きを営んでいた家系の家なだけある。

 

「おーい、誰かいるか?」

 

「今行く! 」

 

 試しに呼んでみたら、快活な声が返ってきた。

 

 この分だと師匠はいなさそうだな。

 

 稽古でもつけてもらおうと思ったが。

 

 ドタドタと音がし、やってきたのは赤が混じった目と髪、そして左の額に炎の様な痣を持つ少年。

 

「よう、久しぶりだな、炭治郎」

 

「ああ、久しぶりだな、新! 」

 

 夢の中の友人、竈門炭治郎だった。

 

 

 

「まずは入隊、おめでとう! 」

 

「別に望んで入ったわけではないと思うが」

 

「いやいや、それでも凄いことなんだろう? だったらお祝いはしなくちゃ! 」

 

「時間の概念がない世界とはいえ、本当に変わらんなお前」

 

 こちらの事情をいつも把握している炭治郎は、俺の親衛隊の入隊を祝ってくれた。

 

 お茶のひとつも出せなくてすまないとも。

 

 いつも思うが情報源はどこなのだろうか。

 

 今自分が見ている景色を夢とは言ったが、実の所は全く違う。

 

 隠世。人間を含む全生物が生きる、物理法則の成り立つ世界とはまた違う世界。

 

 刀使達が使う写シを始めとした特殊能力は、御刀を媒体として、この隠世から引っ張り出しているとされている。

 

 俺が今いるのは、そんな無限に等しい広さの世界。

 

 何故そんなところにポツンと一軒家があるのか。

 

 炭治郎曰く、「想いが形になったんだと思う」との事。この家は山を含めて炭治郎の生家だったそうな。

 

 話が逸れたが、要は炭治郎が俺の現状を知る手段がない筈だという事だ。

 

 聞けばいいのにって? 昔本人に聞いてみたが、自分で辿り着いて欲しいとの事。

 

 まあ、俺が調べられる範囲に炭治郎がいるという事だろう。

 

 ……誰に向かって話してるんだ俺。

 

「そういや師匠は?」

 

「お兄さんを探しに出ていったばかりだ」

 

「いつものか」

 

 こんなだだっ広い世界でいるかもわからん人を探す……奥さんは見つけたんだっけか。

 

 師匠の化け物ぶりはとどまるところを知らないからな。

 

 具体的には大木を紙程の薄さに斬れるぐらい。

 

 これが本当の紙技って自分で言っちゃったけどな。天然か。

 

 

 炭治郎と話しているうちに気になった事があるので、切り出してみる。

 

「ところで炭治郎」

 

「なんだ?」

 

「俺を呼んだのはお祝いのためだけか?」

 

 そう聞くと炭治郎は少し難しい顔をした。

 

 

 前提として、俺から隠世に来ることはできない。

 

 大体炭治郎か、師匠か、後アイツが俺をこの世界に呼ぶ。

 

 呼ぶという事はそれなりの理由があるはずで、ただお祝いするために炭治郎が呼ぶとは考えにくい。

 

 確かに炭治郎は律儀だ。でもそれ以上に慈悲深い。

 

 俺の事情を把握しているならおそらく……

 

「……新はあれで良かったのか?」

 

「何が」

 

「あの、夜見って子のことだよ。久しぶりに会ったんだろう? 家族みたいに大切だって言ってたじゃないか」

 

 ……やっぱそうだよな。

 

「それなのにあんなふうに突き放す様なことを……」

 

「……ダメなんだろうがな」

 

「へ?」

 

「自分でもあの言い方はないと思った。だが、炭治郎も何となくわかってんだろ」

 

「あの子が無理をしていることか」

 

「ああ。それ見て無性に腹が立ってつい」

 

「うーん、気持ちは分かるけど、もう少しこう、言い方というか……」

 

「無理無理。炭治郎も妹さんの無茶を叱ったことあるだろ? そんときの気持ちを思い出せよ」

 

「なるほど」

 

 納得させられたようだ。

 

 だが、と炭治郎は話し出す。

 

「それでも怒りに任せてっていうのはダメだぞ! 次はちゃんと話し合うんだ」

 

 ……う〜む。

 

「炭治郎の話は聞かなきゃいかんという気になるな。不思議なもんだ」

 

「長男だからな!!」

 

「出た長男力。どっから出てくるんだよその自信」

 

「弟や妹に注意するのは長男の役目だからな」

 

「ハッ、そうかよ」

 

 兄弟なんぞいた事ないからわからんが。

 

 ……ゆっくり話し合えると良いんだが。

 

「あ、新! そろそろ戻らないと」

 

「もうそんな時間か」

 

 この世界にいられる時間は決まっている。丁度帰る時が来たらしい。

 

「んじゃな炭治郎。頑張ってみるよ」

 

「ああ、新ならできるさ! 頑張れ!!」

 

 長男の激励を受けて家を出る。

 

 ……悪い気はしないな。

 

 炭治郎は本当、太陽の様なやつだ。

 

 

 

 目を覚ましたら夜の7時程。

 

 ……腹減ったな。何食おうか。食堂とか開いてるかね。

 

「……あ、そうだ」

 

 せっかくなので親衛隊の制服を着てみる。

 

 アイツにも袖を通しておけと言われたしな。

 

 全体的に茶色い制服。あの4人とは違って流石にズボンだが。

 

「……ふはっ、似合わねー」

 

 思わず笑ってしまう。いや、本当に似合わん。

 

「ま、仕方ないよなっと」

 

 とりあえず飯食いに行こう。

 

 そう思って、俺は広い部屋を出た。




ええ、炭治郎君もいますとも。
師匠は誰かって?そりゃまあ、ね?


活動報告の方、更新しました。よろしければ見てください。


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日輪の子と燕

戦闘回と日常パートです。

先に言います、ごめんなさい。


 ──折神家・中庭

 

「えい!!」

 

「……」

 

 刀の擦れる音と鈴の音。発生源には2人分の影。

 

 片方の振り下ろした刀を、もう片方は軽く受け流す。

 

 休憩に入ったらしき職員たちも見守る中、昼近くのこの時間に試合をしているのは、新と結芽である。

 

 数分前に始まった2人の試合だが、戦況は一方的なものであった。

 

(あーもう! ぜんっぜん入らない!)

 

 結芽が一方的に攻めているのだが、その悉くを新は受け流している。

 

 赫刀の角度を変え、また体の向きを変え、後ろからの突きだろうと、左からの逆袈裟だろうと赫刀の峰で滑らせて受け流す新。

 

 それを崩そうと結芽はフェイントを混ぜたり、ちょこまかと動きまわったりとしているが、全てを赫刀で流される。

 

 結芽にとってこのようなことは初めてである。

 

 結芽のトリッキー過ぎる動きに着いてこれる刀使はそうはいなかったためだ。

 

 真希や寿々花は着いてくるが、最終的にはその苛烈な攻めに押されるというのが大体。

 

 つまるところ、結芽は守りを崩せないという事が初めてなのだ。

 

 更に言うなら、新に斬りかかっても全く手応えがない。まるで水を斬ろうとしているような、そんな錯覚をしてしまう。

 

 崩すビジョンが全く見えてこないのだ。

 

(おにーさんが水の上に立ってるみたいに見えるし、本当にわけわかんない!)

 

 そう思う結芽の視界には、凪いだ水面に映る月、その上に立つ新が見えた。

 

 

 

 

(……速く鋭い。なるほど、親衛隊で一番強いと自信満々に言うだけはある)

 

 一方の新は、冷静に結芽の剣を分析していた。

 

 透き通った世界とそれによる直感によって、今のところ全て捌いているが、それでもいつ限界が来るかなどは分からない。

 

(気になる部分はあるが……まあいいか。()()もいつか崩れるかもしれんし、結芽には悪いが早く終わらせてしまおう)

 

 次が最後、新はそう決めた。

 

 

 

 

 守りが崩せず一向に攻めきれないため、結芽は一度体勢を立て直そうと離れる。

 

 

 

 

 瞬間、異常な程の寒気が背筋を這った。

 

 その場の空気が凍った。

 

 見物していた周りの職員たちも顔を恐怖に凍りつかせ、遠くの鳥たちも一斉に逃げるように飛び立った。

 

 その場を支配するのは、圧倒的な死の気配である。

 

 結芽は本能的に更に後ろに飛び、防御の姿勢をとる。

 

「ヒシン神楽・演目・(けがれ)ノ弐──」

 

 新の声が途中で切れ、瞬きの間に新の姿が消えた。

 

 次の瞬きで、新は結芽の目の前に迫っていた。

 

 その全てを飲み込むかのごとき眼差しに喉が一気に乾く。

 

 心臓を冷たい手で鷲掴みされているみたいだ。

 

「──彼岸一閃(ひがんいっせん)

 

 結芽の首を狙って赫刀が煌めく。

 

(──あ)

 

 もうダメだ、そう思った結芽。目をぎゅっと瞑って痛みに備える。

 

 

 

 

 しかし、一向に斬られる感触がない。

 

 新が首を斬る前に、結芽の写シが解けていたのだ。

 

 写シを維持するのは刀使の精神力。

 

 いくら刀使が常に死と隣り合わせとはいえ、11歳の女の子が死の恐怖に耐えられるような精神力を持ち合わせているわけもない。

 

 あまりにも大きいプレッシャーを真正面からぶつけられた結果、結芽の写シは解けたのだ。

 

 それに気づいた新は、首を刎ねる前に何とか止まった。

 

「あっぶねぇ」

 

 右からそんなやけに明瞭な呟きが聞こえた途端、止まっていた時間が動き出したかのように、結芽はペタンと地面に座りこんでしまった。

 

 心臓が鳴り止まず、肺が空気を求め、頭が、心が、体が、生の実感を取り戻した。

 

「……あ〜、結芽?」

 

 いつの間にか前で屈んでいた新。先程の冷たい声から一転、ものすごく申し訳なさそうな声になっている。

 

「その、大丈夫か?」

 

 そう言われて結芽は

 

「……ぅ」

 

「ん?」

 

「うぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 ガチ泣きした。

 

「え、ちょ、どーしよこれ……」

 

「うわぁぁぁ、こ゛わ゛か゛っ゛た゛ぁぁぁ!!」

 

「あぁあぁごめんごめん、悪かった、怖かったよなぁ」

 

 とりあえず結芽の頭を撫でる新。

 

 職員たちはポカンとその光景を見て口を開けるばかりだった。

 

 

 

「本当に死んじゃうかと思った……」

 

「いや、マジですまん。紫様はあれでも平気で続けるし、結芽もそんぐらいいけるかと……」

 

 泣き止んだ結芽を連れて食堂にやってきた新。

 

 いちご大福ネコなるもののグッズを買うことを約束させられたが、仕方ないと割り切る。

 

 席について、2人で食事を取りながらさっきの試合を振り返る。

 

「しかし……結芽って強いのな」

 

「……凄かった?」

 

「ああ、マジで凄かった。まだ伸び代もあるし、いつか追い抜かれるなこりゃ」

 

「そうでしょ! 私が一番凄いんだよ!」

 

「俺を倒してから言え」

 

「む、絶対おにーさんより強くなるもん。それまで待っててよね!」

 

「……」

 

 新は確かに本心から褒めたのだが、随分と単純である。

 

 結芽という少女が、自身の強さを誇示することに執着していることを新は知らない。

 

 凄いと言われた事が余程嬉しかったのか、打って変わって元気になる結芽。

 

 しかし、新は結芽の待っててという言葉を聞いて、その顔に影を落としたが、

 

「そうだな。いくらでも待っててやるさ」

 

 一瞬でその影を取り払い、ニカッと笑ってそう言った。

 

 

 

 話は変わり、結芽は新に、先程から疑問に思っていた事を聞く。

 

「ねぇおにーさん」

 

「なんだ」

 

「よく刀使の動きについてこれるよね」

 

 やはり疑問なのはこの点。新はなぜ刀使の動きについてこれるのか。

 

 刀使同士の試合だと、無関係な人間から見れば文字通り目にも留まらない速さで剣技の応酬を繰り広げるわけだ。

 

 なぜ()使()()()()()()ついていける動きに、新は普通に対応できているのか。

 

「……呼吸や体の動かし方か? 見ればわかるのもあるが」

 

「体の動かし方はまだわかるけど、呼吸?」

 

「そう、呼吸。この辺の詳しい話は追々皆にも話すつもりだが、簡単に言うと酸素を多く取り込んで、一時的に身体能力を増強させているんだ」

 

 俺も実はよくわかってないけどなと心の中で付け加える新。この話は炭治郎や師匠に聞いた理論であるため、実感はない。

 

 やはりというか、結芽もよくわからなかったようだ。

 

「よくわかんないけど、それって私にもできる?」

 

「……本人の資質によるところが大きいらしいからなぁ。出来るかもしれんし、出来んかもしれん。俺には分からん」

 

「おにーさん教えられないの?」

 

「できないことは無いが、長ーい時間がかかるんだよ。1、2年ぐらいな」

 

「やっぱりいい」

 

 時間がかかると聞いてすぐにそう答える結芽。彼女にとっては時間は非常に惜しいのだ。

 

 一息つく新。ふと、ちょっとした考えを閃く。

 

「まあまだまだあるが、そうだな……この後研究棟に行くつもりなんだが、結芽、お前暇だろ」

 

「うん、出撃もお仕事も何も無いよ?」

 

「じゃあ一緒に来い。そこで俺がわかってる限りのことを話すつもりだ」

 

「……それって私行っていいの?」

 

「邪魔さえしなければな」

 

「……うん、行く」

 

「よし、さっさと飯食って行こうか。森元さんも首を長くして待ってるだろうし」

 

 うんと頷き、そうと決まればと言ったふうにご飯をかきこむ新。

 

 日はまだ傾かない。




Q.何を謝ったのか?

A.戦闘描写の拙さと結芽ちゃんを泣かせたこと。結芽ちゃんのキャラがブレまくってます。

Q.鈴の音とはなんぞや?

A.新君は右手首に常に10個の色違いの小さい鈴を巻き付けてます。

Q.全体的に雑じゃねーか!いい加減にしろ!

A.凡人の力量不足でございます。本当に申し訳ありません……


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日輪の子はわかってない

説明回を作ったら長ったらしくなってしまう凡人の小説です。

今回いつもより非常に長いです。ご了承ください。


 昼食を食べ終えて、研究棟へと向かう新と結芽。

 

 何人かとすれ違っているのだが……

 

「なんでこんな怖がられてるんですかね」

 

 挨拶はあるにはあるのだが、先程の試合の噂がもう広まったのか、はたまた別の要因か。

 

 とにかく、すれ違う人々に怯えた目を向けられる。

 

「おにーさんの殺意? 殺気? が強かったもん。皆怖いに決まってるじゃん」

 

「そんなにかよ……紫が異常なのかね」

 

「紫様と何回も試合してるの?」

 

「仕事が無い日にはな。そんな日は滅多になかったが」

 

「じゃあ紫様にずっと鍛えられてたんだ」

 

「自分でも特訓してたけどな」

 

 主に隠世で、と心の中で付け加える。

 

 現実世界でも毎日2回の演舞を欠かさず行っているが、時々呼ばれる隠世にて、新が師匠と呼ぶ青年と、炭治郎と実戦形式の修練を重ねている。

 

 その成果もあり、彼は呼吸による身体能力強化の一点においては2人を超えるレベルに達したのだが、まあそれは置いておこう。

 

 

 

「……と、ここだったか? こんちわー」

 

「お邪魔しま〜す」

 

「おお、来たな。第四席も一緒か?」

 

 伝えられていた研究室に入ると、黒縁メガネと白衣の組み合わせが良く似合う30代のオッサンこと、森元さんがいた。

 

「さっきまで試合してたんですよ」

 

「負けちゃったけどね」

 

「……あの尋常じゃない寒気はさてはお前か。つーか第四席負かすってお前……」

 

「ここまで届くのか、あそこから200メートルぐらい離れてたはずなんだが」

 

「まあ、それも含めて話を聞きたい。今後の研究の参考になればいいがな。ほら、第四席も座りな、コイツとの試合についても聞きたい」

 

 そう言って2人分の椅子を用意する森元さん。気の利く人である。

 

「了解。と言っても、こっちが教えられることは少ないんで、質問してください。結芽もな」

 

 新の言葉に目を見合わせる2人。先に結芽が質問する。

 

「じゃあ、さっきの話に出てきた呼吸について詳しく教えて?」

 

「呼吸?」

 

「さっき結芽には説明したんですが、俺が刀使と互角なのは、一つに特殊な呼吸法を使っているからなんです」

 

「ほう」

 

「この呼吸法の仕組みは単純で、空気を多く取り込んで、体内に酸素をより多く巡らせる。それによって一瞬、瞬間的に身体能力を爆上げすることができるんですね」

 

「随分と単純だな」

 

「……待っておにーさん。あの試合では瞬間的にって感じじゃ無かったじゃん。もしそうなら私の攻撃を防げないと思うんだけど?」

 

「ああ、その事か。少々語弊があったか? この呼吸法、全集中の呼吸って言うらしいが、慣れたら日常的に使えるんだ。それこそごく普通の呼吸と同じように。これを常中と呼ぶとか」

 

「じゃあ、おにーさんは今もその、全集中の呼吸って言うのを使ってるの?」

 

「ああ。ま、酸欠になったらお終いなんだが。呼吸である以上、空気がないと使えないしな」

 

「身体能力の強化はどれほどだ?」

 

「……その気になれば素手で猛スピードで突っ込んでくる車を片手で止められるぐらい?」

 

 その発言を聞いた2人は流石に唖然とした。

 

 生身の人間が車を片手で止められる。しかも聞いている限りかなり余裕そうだ。

 

 いや、刀使もそれぐらいは出来るだろう。

 

 刀使の能力として八幡力というものがある。これは神力によって一時的に馬鹿力を発揮するものだ。それを使えばまあ出来るだろう。

 

 それが無ければ刀使であろうと轢かれるだけだが。

 

「全力で走れば音を置いていく事もあるし、落石から人庇ったら岩の方が砕けたし、目や鼻に意識を向けりゃセンサー並だし。……便利だな全集中の呼吸」

 

「……身体能力の強化は五感にも及ぶのか?」

 

「少なくとも目は10キロ先の鳥の動きが余裕で」

 

「……刀使の動きにもついてこれるよそれは」

 

 結芽は呆れてしまった。

 

 逆に昨日の時点で垣間見た新の異常性をよく理解した森元さんは、納得のいった表情で続けて質問する。

 

「待て、それが理由の一つ? まだあるってことか?」

 

「確かにもう一つあります」

 

「それについては教えてくれるか?」

 

「いいですけど……結芽、引くなよ?」

 

「? うん」

 

 謎の前置きを一つ。しかし、彼の経験上必要と判断されるものなのだ。

 

「……俺は、透き通る世界という物を認識できるんです」

 

「……透き通る、世界?」

 

「はい、視界に入るものが全て透けて見える状態の事で、生物相手なら筋肉や内臓、骨格に至るまでを見抜けるんです」

 

「……それは、また、なんだろうか」

 

「……それと私が引くことの何が関係あるの?」

 

「いや、昔このことを友達に話したことがあってだな。その時にいた女子に、『私の裸見たの?』とか怒られた」

 

「ああ……確かに怒られるわな」

 

「……」

 

 そっと胸を隠す仕草をする結芽。表情が険しく赤くなってしまっている。

 

「うん、話聞かずに怒鳴られるよりはマシだな。安心しろ、常に透き通る世界を見てる訳でもないし、そもそもそんな風に調節出来ないから」

 

「……本当に?」

 

「本当だよ。飯食ってる時に人体模型と食うわけないだろ?」

 

「それは、気持ち悪いね」

 

「だろ?」

 

 嘘である。実は調節できるのだ。常に透き通る世界を見ている訳では無いのは本当ではある。つまり、その気になれば裸体ぐらいは見れる。

 

 新自身その辺の事については冷めていて、見たところで何の感情も抱くことはないが。

 

「とにかく、新はレントゲン写真の様な世界を見ているって訳か?」

 

「いえ、それだけじゃなく、こう……頭がスッキリすると言うか、回転が早くなるというか?」

 

「思考も冴えるのか、研究者としては羨ましいな」

 

「大変そうですもんね、研究業。中学校のテストは普通に全部満点になる程度には記憶力も良くなると思います」

 

「えー、それいいなぁー」

 

「残念ながらこれはちょっと教えられない。俺がどうやって透き通る世界に入ったのかを覚えていないからな」

 

「むー」

 

「……筋肉や骨格の動きで先読みする、とかもできるのか?」

 

 黙っていた森元さんの突然のこの言葉に新は驚く。

 

「鋭いですね。戦闘時はいつもそうしてます」

 

「だからおにーさん、私がどこに攻めるかってわかってたんだ! 全部お見通しーみたいな感じで防がれてたもん!」

 

「紫の動きに対応できるぐらいだからな、そう易々と突破させんよ」

 

 そう笑う新。次に質問したのは結芽。

 

「おにーさん、流派は? 決まった型みたいなのはあるみたいだけど」

 

 剣術の流派についての質問である。

 

「……流派か。俺の場合、流派と呼べるのかも疑問だな」

 

「なんで?」

 

「俺の剣技は正確には神楽として伝わっているものだ」

 

「……神楽だと?」

 

 新は頷く。

 

「ヒシン神楽。何らかの理由で秘匿され、この世に伝わることなく、それでも確かに神として存在している神々。その存在への畏敬を込めて奉納する舞。森羅万象に宿るその神々の偉大さを、理解出来ぬとも奉る、という神楽です。ただ、何故そんなものが剣術に応用できるのかは分からないんですが」

 

「ヒシン、ヒシン……なるほど、秘められた神か」

 

「一応、私も聞いたことあるよ! おにーさんが言った通りのことだけだけど」

 

 2人の反応に、今度は満足そうに頷く。今まで友達に話しても理解を得られることかなかった分、嬉しいのだ。

 

「森羅万象に宿るが故、神楽もまた森羅万象を現す。本来なら大晦日の月の出から年を越して日の出まで、何度も何度も舞うもので、そこに全集中の呼吸が必要になってくるっていうことです」

 

「うわぁー、大変そう」

 

「慣れればそうでも無いぞ? というか冬には雪が積もる俺の故郷で伝わってた神楽だ。そんな中でぶっ通しでやるのはやっぱ慣れがいる」

 

「どんな体力だよ、お前もお前の故郷の人達も」

 

 故郷、と聞いて渋い顔をする新。不味かったかと森元さんも思い直すが、

 

「……さて、どうだったか。まあ、みんなが素手で熊と殺り合える程度かな」

 

「化け物の里かよ、素手でってか」

 

「ま? あの……アイツらは全員ヤバいやつらだったから」

 

 このように普通に返してくれたので安堵した。

 

「……神楽が剣技に、か。神楽を舞っているから荒魂を滅する力を得られるのか?」

 

「正しい呼吸、正しい動き、そして正しい心。この3つの整が静を生み、邪を祓う」

 

「何それ?」

 

「神楽について書かれてた本の一節だ。多分森元さんの考えと同じことだと」

 

 そこまで聞いて、森元さんは降参と言ったように両手を挙げた。

 

「ダメだ、理解はできるがなんか後一歩が解らねぇ……いや、聞いてはいたが不明瞭な部分が多いなやっぱ。調べたくても今日は設備を整えていないんだよなぁ。今度もまた来て貰っていいか?」

 

「勿論、俺も知りたいので是非お願いします。あ、何なら健康法程度ですけど、呼吸教えましょうか? 結芽もどうだ?」

 

「あ、私やりたい!」

 

「そんなんもあんのか? あぁいや、身体能力を強化できるんだ、代謝や免疫力を高められるのも有り得るか。教えてくれ」

 

「よし、それじゃまずは……」

 

 

 

 

「……いや、体が妙に熱いな」

 

「媚薬でも飲んだんですか? キモイですよ博士」

 

「何故そういう解釈になる。色ボケでもしたか?」

 

「冗談です」

 

 新と結芽が立ち去って数時間。月が見える森元さんの研究室では、森元さんとその助手、桜木さんのいつもの漫才が繰り広げられていた。

 

 漫才が一段落し、一転して心配そうな声音で話しかける桜木さん。美人なのに能面のように表情が変わらないのが少し怖い。夜見の方がまだ変わるレベルである。

 

「熱でも出たんですか? 夏風邪が流行ってきているそうですが」

 

「いや、そんなんじゃないさ。ほら、昨日第五席の少年がやって来たろ?」

 

「ああ、紫様のご子息という噂の。そういえば今日ここに来ていたんですよね?」

 

「え、マジ? アイツ紫様のご子息? ヤバくね?」

 

「あくまで噂です。それで、彼がどうかしたんですか?」

 

「話を聞かせて貰ってな。主に何故刀使と渡り合えるのか、な。知ってるか? 第四席を負かしたらしいぜ」

 

 第四席と戦って勝利した。その情報は桜木さんの能面を崩すのには十分だった。と言っても目を見開いた程度だが。

 

「第四席といえば神童と謳われている燕結芽じゃないですか。あの娘に勝ったんですか?」

 

「俺は見てなかったが、第四席も認めてた。……なあ、元刀使としてどう見る?」

 

「信じられませんね。彼女の天才ぶりは私もよく見てきました。そんな娘を……」

 

「だよなぁ」

 

 久しぶりに見る助手の狼狽えぶりに、愉快に笑う森元さん。それに気づいて、桜木さんは咳払いをした。

 

「……それで、彼がどうかしたんですか?」

 

「彼の強さは呼吸の仕方によるもの、そのほんの一部を教えてくれたんだよ」

 

「……呼吸?」

 

「自分が使っているものは才能が関わってくるし、何より結構な時間を使うことになるんだと。そこで、すぐにでもできる健康法として呼吸を教えてくれた。それ使うと体が熱を持ってきてね」

 

「大丈夫なんですか? それ」

 

「続けるのは非常に疲れるな。だが元気になるのもまた事実だ」

 

 溜息をつき、手元にあった棒付き飴を咥える森元さん。

 

「しっかし、恐ろしいよなぁ」

 

「何がです?」

 

「第五席……新は、自分がどれほど異質かを分かってねぇ。紫様と殺り合える剣技、出処が分からない荒魂を祓える異能、何より異常に高い身体能力。特に最後のはまだまだ成長するだろう」

 

「……その全てが異常だと思っていないと?」

 

 桜木さんの言葉にキョトンとした顔の森元さん。すぐにお互いの勘違いを理解して続ける。

 

「いや? あいつは自分の力はヤバいもんだと思ってるぞ」

 

「……はあ? では、どういう意味で、彼が自分の異質さを分かっていないと言ったんです?」

 

「……あいつ、自分より強いヤツがいくらでもいると思ってやがる。そうでなくとも、いつかは自分を越える人間が表れるんだとよ」

 

「……」

 

「お前はまだ見てないから知らないだろうが、アレは人類最高峰、じゃ片付かねぇ。荒魂だって言われた方がまだ信じられるぐらいだ」

 

 そう言って森元さんは飴を噛み砕く。それっきり2人の間に会話が無くなった。

 

 月が雲に隠れる。これは、この先の暗示か、それとも……




戦国の世に生まれた神の子もまた、人間だったんです。


補足説明

鬼滅世界と刀使ノ巫女世界の登場人物達のおおよその力関係。

この小説だけの独自設定です。

一般鬼殺隊士、一般刀使≒小型の荒魂、十二鬼月以外の鬼<下弦、中型の荒魂<エレンや薫等実力のある一部の刀使、終盤のかまぼこ隊、柱≦上弦≦悲鳴嶼さん、紫、結芽、可奈美等や猗窩座以上の上弦、現在の新≦無惨様、大荒魂<<<<越えられない壁<<<<縁壱さん

正直、縁壱さんレベルの刀使がいたら大荒魂の単独討伐ぐらい余裕だと思います。

なお、これはあくまで目安です。刀使も鬼殺隊もピンキリなので、総合的に見た結果の話です。

新君は更に強くなる予定です。


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日輪の子は腹を括る

UA9220、お気に入り登録107件(2020年5月8日午前2時42分現在)……だと……

鬼滅が凄いのか刀使ノ巫女が凄いのか……

これは期待されているということか!?張り切らねば!



なんてやってたらシリアス&長文になってしまいました。

少ないとはいえ、今まで書いた小説の中で1番長くなってしまった凡人です。

変な部分が多いですが、ご了承ください。


「おにーさんって夜見おねーさんのこと嫌いなの?」

 

「なんだ藪から棒に……」

 

 新がここにやって来て一週間程、ここの仕事にも慣れてきた頃。

 

 毎度の事ながら結芽に付き合い、一緒に昼食を食べていると、結芽が唐突にこんな事を言ってきた。

 

「何をもってそう考えたんだよ。俺がアイツの事嫌いとか」

 

「だっておにーさん、夜見おねーさんと全く喋らないし、顔も合わせようとしないじゃん」

 

「……俺そんなに露骨に避けてた?」

 

「うん」

 

 結芽のこの指摘は的確である。

 

 新の仕事は基本紫の執務の補佐。そのため、紫の身辺警護等を務める夜見とは大抵同じ部屋にいるのだが、この2人の会話は本当に少ない。紫が心配するほどにコミュニケーションがない。最低限の事務連絡のみである。

 

 新自身も指摘されるまで気づいていなかった。それほど無意識に避けていたのかもしれない。突き放すような事を言ってしまったから……だろうか。

 

「それだけじゃなくて、夜見おねーさんを名前で呼ぼうとしないし。真希おねーさんも寿々花おねーさんも呼び捨てなのに」

 

「マジか。それは自分でも分からなかったわ」

 

 ちなみに、新は真希の事を『真希の姉御』と、寿々花の事を『寿々花お嬢』と呼んでいる。結芽は結芽である。夜見の事は基本呼びかけるだけで終わる。

 

「……いやまあ、気まずいのは確かだな」

 

「なんで?」

 

「……なんでだろ。今度ゆっくりお話でもしてみようかね」

 

「そうしたほうがいいよ絶対。気まずいままお仕事出来ないでしょ?」

 

「全くその通りですねハイ」

 

 ヤケに鋭い結芽に若干恐怖する新。しかし、このままでは気まずいままなのも事実。

 

 この辺りが頃合だと、新はいつもよりしょっぱい気がする味噌汁を飲みながら腹を括った。

 

 

 

 ──昼食終了

 

 

 

 そのチャンスは存外早く巡ってきた。紫は真希と寿々花を連れて国会へ、結芽は昼食を食べ終えて散歩に、夜見と新が今いるこの休憩スペースは親衛隊以外が来ることは滅多にない。

 

 夜見に話があると引き止めたら、察してくれたようで今は紅茶を淹れてくれている。

 

「……おっそろしいぐらいに事態が好転してんな。炭治郎の仕業か?」

 

「何か言いましたか?」

 

「んにゃ、なんでもねぇ」

 

「そうですか」

 

 トントン拍子に都合よく事が運んでいるので、炭治郎の干渉を疑ってしまう新。新の中では非常にお人好しな炭治郎。何かしら動いていると思っても無理はない。

 

「どうぞ」

 

「あ、ああ。すまねぇな」

 

「いえ……」

 

 向かい合ったソファに座る2人。共に紅茶を一口。

 

「……美味いな。淹れるの上手だな。紅茶はよく分からんけど、それだけは分かる」

 

「それなりにこだわっていますから」

 

「へえ、それはなんだ、親の影響か何かか?」

 

「……そうですね」

 

 

 

 ──新の心中

 

 

 

(……………………会話続かねぇ。え、どうしよこれ。何を言ったらいい? 義理の親の話から持ってこうとしたのに……助けて炭治郎……! もう貴方しかいないわ!)

 

(……やべぇやべぇやべぇやべぇやべぇ。割とマジで助けて欲しい。初対面の時に遠慮なく話しかけてきた炭治郎よ、お前のコミュ力を分けてくれ。気まずい雰囲気でも明るく出来そうなコミュ力をくれ頼むから……!!)

 

 

 

 ──その一方、夜見

 

 

 

(……………………会話が、続かない、ですね。どうしたらいいんでしょうか。話したいことは山ほどあるのに、いざ面と向かって話すとなると……! ああ、お父さんの話題から何とか広げれば良かった……)

 

(……助けてください栗花落さん、どうやって人と話せるようになったんですか? 昔は何も自分で決められなかったと言っていたではないですか……! どうやったらそんなににこやかにお話ができるんですか……!! 心は人の原動力だと言っていましたが、私の今のこのもどかしさは原動力に出来そうにありません……)

 

 

 

「「あ、あの……」」

 

「あ、えっと、どうした?」

 

「い、いえ、お先にどうぞ」

 

「いや、俺のは大したことなくて……」

 

「私の話も、そこまで重要ではありませんから……」

 

「「……(気まずい……)」」

 

 

 

 ──以上、肝心なところでコミュ障を発揮する2人の図

 

 ──沈黙から数分後

 

 

 

 気まずいまま、紅茶を飲んでいた2人だったが、

 

「……やめだ」

 

 新が唐突に口を開いた。

 

「っ! ……どうしたんですか?」

 

「当たり障りの無さそうな会話から入ろうとするのはやめだ。んなんじゃお互い全く話せねぇ、違うか?」

 

「……いえ、おっしゃる通りです。私も、同じことを考えていました」

 

 夜見のこの言葉を合図に、ティーカップを置く2人。新は少し困ったように両手を組む。

 

「……どこから聞こうかね。お前を拾ってくれた人ってどんな人らだ?」

 

「たまたまその診療所で寝泊まりしていた、医者と看護師の夫婦でした。ちょうどあの日、集落へとやってきて、吹雪が酷かったのでそのまま泊まっていたそうです」

 

「医者だったのか?それはまた運が良かったというか、なんというか……」

 

「新さんが扉を壊した音で起き、様子を見に行ったら私が寝ていたそうです。私が起きたのはその4日後でした」

 

「……傷が深かったしな。スマン」

 

「そんなことは……」

 

「いや、俺がもっとお前の近くにいれば、気づけたんだ。あんな怪我を負わせることは無かったんだ……謝って済むことですらねぇよ」

 

「……大丈夫です。私は、今生きていますから。気に病まないでください」

 

「……そうも、いかねぇだろう」

 

「……お願いです。気にしないでください。もう大丈夫なんですから」

 

 前のめりに俯いてしまった新の頭を撫でる夜見。そのまま話を変えようとする。

 

「……新さんは、私が、その……」

 

「ん?」

 

「…………新さんは紫様の息子という話ですが、どういった経緯でそうなったんですか?」

 

 が、咄嗟に出そうとした話題は、答えを聞くのをはばかられるようなものだった。故に、それを隠して別の質問を出した。

 

(なぜ置いて行ったのか、なんて、この状況で聞けるはずないじゃないですか……新さんを更に困らせてどうするんですか私……)

 

「……ああ、まあ、お前を預けて? 元の村に帰ってしばらく暮らしてたら、何か、拾われた……」

 

「……よく分からないのですが」

 

「俺も分からん。あれよあれよという間に折神家に連れてこられ、あっという間に折神姓をつけられ、うんと言うまもなく折神新になっちまった。別に嫌って訳ではないけれども」

 

「そうですか」

 

 説明が分かりそうで分からない絶妙な加減を保っている。しかし、新自身理解しようとしていないため、これが限界である。夜見も曖昧なまま返事した。

 

「……では、荒魂を祓う力は?」

 

「それは多分お前の考えている通りだ。お前も覚えているだろ? ヒシン神楽」

 

「やはり」

 

 今度は納得がいった。同時に、夜見の中ではあの日に新が木の枝で荒魂を祓ったという記憶に裏付けができた。

 

 木の枝で荒魂と戦うということ自体異常ではあるが、この際置いておく。

 

「……私にも扱えるでしょうか」

 

「舞と呼吸が正しければ多分な。お前も逃げるために練習してただろ?」

 

「はい……そういえば、ヒシン神楽に関して気になる事があるんです」

 

「あ?」

 

「今でも少し練習するのですが、舞を始めると写シが解けるんです。唐突に」

 

「……はあ? 舞を始めるとってのは……呼吸を使うだけじゃなくて、型を使うと解けるってことか?」

 

「はい。新さんは何かご存知ですか?」

 

「いやいや、知るわけねぇだろうが。俺男。御刀を使えない男子中学生。OK?」

 

「……ごめんなさい」

 

「…………心当たりはある。ヒシン神楽は曰く、神をその身に宿す技だとか。御刀の神性と何らかの形で反発するのかもしれんな」

 

「……納得はいきますが、何処でそんなことを?」

 

「村を漁ってたら日輪刀と一緒に古ーい本を見つけてな。それに書いてあった。日輪刀や全集中の呼吸のこと、ヒシン神楽の意義に……鬼なる存在のこと」

 

「鬼、ですか? 昔話に出てくるあの、赤や青の」

 

「いや、読む限り、どっちかって言うと吸血鬼に近いな。かつて、人を喰らい、己の力とする鬼がいたらしい。血鬼術なるものを操る個体がいたとか、首領が人を鬼に変えていたとか」

 

「……世の中に存在していた、というのですか? そんな鬼が」

 

「ああ、大正時代に産屋敷家によって鬼の首領が倒され滅んだらしいが」

 

「産屋敷」

 

「正確には産屋敷家を中心とした、鬼を斃す組織があったらしい。その組織が日輪刀を用いて鬼を斬っていたそうだ」

 

「……………………何故、その組織が使っていた刀が、あの村に?」

 

「何か関係があるのかも知れないが、如何せん解読が難しくてな。俺もよく分からんのだ」

 

「今度私にも見せてください」

 

「勿論だ。当事者の方が何か分かるだろう」

 

「「……」」

 

 お互いの情報交換を終えて、再び場に沈黙が流れる。しかし、その時間は短かった。

 

「あの、ずっと言いたかったんです」

 

「ん? お、おう」

 

「あの日まで、ずっと守ってくれて、ありがとうって、ずっと言いたかったんです。新さんはそう言うと困るかもしれませんが、私はずっと貴方に助けられていたんです。刀使になったのも、今度は貴方を守れるかもって、守りたいって思って、ここまでやってきたんです」

 

「……」

 

 堰を切ったように涙が止まらない夜見。しかし、そんなことはお構い無しに言葉を続ける。

 

 新は夜見の隣に座り、頭を撫でながら静かに聞く。

 

「ずっと、ずっと、会いたかった。また貴方に会いたかった。非力な私を支えてくれたお返しを、貴方にしたかった。迷惑になるかもしれない、そう思っても、貴方を支えたかった。私はっ……」

 

 ここまで言って、言葉が詰まり、その代わりと言わんばかりに泣きじゃくる夜見。今ここにいるのは、常に無表情な親衛隊第三席ではなく、情緒豊かな、ただの皐月夜見という少女だ。

 

 新はただ隣にいる。何を言うでもなく、ただ隣にいる。

 

(……こりゃあ、随分と不安にさせちまったんだなぁ)

 

 

 

「……その、ごめんなさい」

 

「別にいいさ。これぐらいはさせてくれ」

 

 夜見は泣き止んだ後、恥ずかしいのか新と目を合わせようとしない。

 

 が、新はそのままでいいと前置き、自分の心を話し始める。

 

「なぁ夜見。お前は俺に助けられてたって言ってたが、そいつは俺のセリフなんだよ。お前がいたから、アイツらの仕打ちに耐えることができたんだ。いつかお前と外に出るんだ、ずっと一緒にって約束したお前に、どっかにある綺麗な物を見せてやりたいってな」

 

「新さん……」

 

「でも、そうする前に荒魂が来て、お前は大怪我して、嫌になったんだ。今までも守れないでいたってのに、俺は大切な1人すら守れないのかってさ。そんで、お前がいなくなるのが急に怖くなって……俺の事を忘れて欲しかったんだ、俺は」

 

「……何で、そんな」

 

「待て、最後まで言わせてくれ。……一緒にいて危険な目に遭わせるよりは、俺の事を忘れてどっかで幸せになってて欲しかったんだ。それで、あの家に置いて行ったんだよ」

 

「……忘れるわけないじゃないですか」

 

「……ああ」

 

「何があっても一緒にいた貴方を、忘れられるわけないじゃないですか。私が弱いから、約束を破って置いていかれたんだと、ずっと思っていました」

 

「……本当に勝手な事した。スマン」

 

「……謝らないでください。知ることができただけで十分です」

 

「……そうか、それで強くなろうとしたのか。親衛隊になるほどまで」

 

「はい」

 

「荒魂……いや、ノロか。そんなものを打ってまで?」

 

「はい……え?」

 

「気づかないとでも思ったか? 俺以外の親衛隊から荒魂のような気配がするんだよ。匂いも音も、荒魂が混ざってるんだ」

 

「……」

 

「大方お前の場合、御刀への適性が低かったんだろ? それでも刀使として強くなるために」

 

「……このことは、その」

 

「後で紫を問いただす以外何もしねぇよ。……原因が言えた口じゃねぇがよ、無茶せんでくれ。自分を傷つけるような真似はやめてくれ」

 

「……」

 

「……ふぅ、すぐには変えられんってことでいいな?」

 

「……ごめんな「謝らないでくれ、これに関しちゃ俺が全面的に悪い」……」

 

「……まあ、何だ。今度は絶対に、()()()()()()お前の隣に帰ってくる。信用しなくてもいいが、約束する。代わりに、なるべく自分の身を削る戦い方はやめてくれ」

 

「……必ず、守ります」

 

「……生きててくれて、ありがとうな。夜見」

 

「お話できて良かったです。……また会ってくれてありがとうございます。新さん」

 

 

 

「さて、そろそろ紫達が帰ってくるだろ。出迎えに行こうや」

 

「そうですね」

 

「改めてよろしくな」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

 

 日輪は夜を想い西へ沈み、夜は日輪を想い空を白く染める。この2人の蟠りは解け、交わることはなかれども心は再び重なる。

 

 重なるまでの過去、重なってからの未来。この2つに、彼ら2人がどう関わるか。

 

 それはまた、後の話。




最終回っぽいけど最終回じゃない。

この小説の夜見さんは、そこそこ感情豊かで高津学長への忠誠が低いです。全ては新君に会うため。感謝はしていますけどね。

この2人の過去編はまたいつか、何話か使ってやろうと思っています。

今回はターニングポイントとなる話を早いこと回収して、後を円滑に進めたいがために書きました。

2人がさっさとイチャつけるようにお膳立てしたという事ですねハイ。

前書きにもありますが、お気に入り登録100件突破!
本当にありがとうございます!

これからも、『日輪の子は夜と踊る』を何卒、よろしくお願いします!



日輪コソコソ話。

新君は夜見さんのおむすびが密かに好き。
前に差し入れてくれた時に完全に気に入ったらしい。


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日輪も夜も夢で語らう

彼らは、幸せになれなかった。

次こそはと約束した。

これは、その2人の為の物語。

本筋から外れた、御伽噺の続き。


 新と話し合った後、普段と変わらず仕事を終え、自室にて就寝したはずなのに、目が覚めると明らかに雰囲気が違う。

 

 故に、皐月夜見はすぐに理解した。

 

(夢ですね)

 

 彼女たち親衛隊が折神家において当てられた部屋は広い洋室。

 

 親衛隊含む折神家の重役達は基本、そんな部屋で寝泊まりする。

 

 荒魂は休むことがなく、それ故に何時出撃要請が出てもいいように本部の近くにいる必要があるからである。

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

 夜見が目覚めた場所は、和室だった。これまた広い屋敷の一室と思われる。

 

 しかし、この屋敷に来るのは今まで何度もあったこと。

 

 早速起き上がり、この屋敷の主人達に会うことにした。

 

 

 

(……今日は誰が居るのでしょう)

 

 屋敷の縁側を歩く夜見。月がよく見える。

 

(……この様な世界でも、月は見えるものなのですね)

 

 昔に会った青年が思い浮かぶ。彼は月が好きだったと思う。太陽になれないなら、せめて月として夜を照らしたいとも言っていた。

 

(あの人は居るのでしょうか。……是非、新さんにも会って欲しいですね)

 

「夜見」

 

 ふと、誰かに呼ばれた。辺りを見回すと、庭に1人の少女が。

 

 蝶の髪飾りで髪をサイドテールに纏めている、藤色の瞳の少女。

 

「栗花落さん」

 

 栗花落カナヲがそこにいた。

 

 

 

 縁側に腰掛ける2人。お互い何も言わず月を眺める。夜見とカナヲが会った時は決まってそうするのだ。

 

「……お話しできてよかったね」

 

 唐突に話しかけるカナヲ。これもいつも通りだ。

 

「……はい」

 

「ずっと……言いたかったって、言ってたもんね」

 

「……そうですね。本当によかったです」

 

「……今日は姉さん達もアオイもいないけど、皆、おめでとうって言ってた」

 

「……ありがとう、ございます」

 

 皆から祝福されていることを知り、目頭が熱くなる夜見。

 

 ……こうした夢に近い時間の中だけとはいえ、家族のように接してくれていた、恩人達。その1人からのこの言葉だ。つい泣いてしまうのも無理からぬ話だろう。

 

「……ふふっ」

 

「……?」

 

「あ、ごめんね。ちょっと昔のことを思い出して」

 

「昔、と言いますと?」

 

「……夜見が初めてここに来た時の話。あの時の夜見って、私に似てたなぁって」

 

「……その話は何度も聞きましたね。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 

「いいの、カナエ姉さんもしのぶ姉さんも、アオイも私も……きっと、巌勝さんも。迷惑だなんて思ってないよ」

 

「……その、本当に、ありがとうございます」

 

「どういたしまして。……でも、夜見って昔の私みたいに、何も感じない、なんてことは無かったよね」

 

「……新さんのおかげでしょうね」

 

「……うん。多分、新がいてくれたから、夜見は大丈夫だったんだね。……私も、炭治郎に会ってから変わったって、皆に言われたから。同じ事なのかな」

 

「炭治郎……確か、栗花落さんの旦那様になった人ですよね?」

 

「うん。凄く……なんだろ、太陽みたいに暖かかったんだ……あ、だからなのかな?」

 

 納得いったように笑みをより深くするカナヲ。その真意が見えない夜見は首を傾げる。

 

「新と炭治郎って、凄くそっくりなんだ。細かく見ると違うけど、多分根っこは一緒だと思う」

 

「……そうですね。新さんは、昔から太陽のような人でした。どれだけ辛くても、あの人が笑ってくれると、全部忘れられるような気がしたんです。勿論、今も」

 

「……話してるだけで元気を貰えるもんね。本当に凄いよ」

 

「ええ、本当に」

 

 そう言って微笑む2人が思い浮かべる顔は言うまでもなく。

 

 その後は、淡々と惚気とも取れるような会話が続いた。

 

 

 

 

「夜見ちゃんってさあ」

 

「急になんだ張り倒すぞ善逸」

 

「え、俺への当たり強すぎない? 泣いちゃうよ?」

 

「………………冗談だ」

 

「今の間何!? すっごい怖いんだけど!! いや、え、あ、そういう事!? ごめんねうるさくて!?」

 

「黙れ」

 

「はい……」

 

 一方、竈門家にやってきた新もまた、夢の中にて友と話をしていた。

 

 雷に打たれてから黄色くなったという髪が特徴的な少年、我妻善逸。

 

 炭治郎と仲の良い彼もまた、時々炭治郎の家にいる。

 

 なんでも、色々あった後、身寄りが無かった善逸が炭治郎のすすめでもう1人と共に転がり込み、しばらく過ごしたことでここに縁ができたという。

 

 ちなみに、新が善逸に対して辛辣なのは、反応が面白いからである。

 

「……んで、何だっけ? 夜見がどうした?」

 

「ん? いや、夜見ちゃんってカナヲちゃんに似てるんだよねって話」

 

「カナヲ……ああ、炭治郎の嫁さんになったって子?」

 

「そうそう、その子。なんて言うかさ、音がそっくり」

 

「……相当なトラウマ持ちだなそれなら。何があったとかは聞く気もないがな」

 

「カナヲちゃんに関しては俺も細かくは知らないんだよね。炭治郎なら全部知ってるかもだけど」

 

「その炭治郎はお出かけ中、と。お前ら忙しねぇな?」

 

「あんまり何も無いから、暇になるんだよ」

 

「……だろうな」

 

 2人してため息をつく。

 

 しばらくして、善逸が話しだす。

 

「まあ、さっきも言ったけど、よかったな新」

 

「ありがとう……腹割って話すのってキッツイのな。炭治郎のコミュ力が羨ましいわ」

 

「あ〜、わかる、わかるよ。でもアレ炭治郎にしか出来ない芸当だよな」

 

「良くも悪くも馬鹿正直、表裏無しに、思ったことを包み隠さず言う誠実さ。禰豆子もそうだし、竈門家って何なんだ?」

 

「しばらく一緒にここに住んでたけど、ついぞわからずじまいだった」

 

「うーん、謎」

 

「……新も似たようなもんだと思うけどな」

 

「俺が? 無い無い、俺隠し事ばっかよ」

 

「ああ、いや、そうじゃなくて。なんて言うかさ、こう、分け隔て無く皆と接するっていうところ?」

 

「……」

 

「そしてその上で皆を元気にするっていうか……何だろ、ごめん、上手く言えない」

 

「…………あの塵共とは違うからな。俺は」

 

「……」

 

「いや、しかしそうか、似ているか、俺と炭治郎」

 

「えっ、あ、うん」

 

「……あの聖人と俺を一緒にしないでくれ。何かむず痒い」

 

「うーん、でも事実だしなあ」

 

 会話が途切れ、新が耐えきれなくなったように立ち上がる。

 

「あ〜、ダメだダメだ。悪ぃ善逸、もういい時間だし帰るわ」

 

「……え、早くない? 日は昇りかけてるけど」

 

「いや、いつもこんぐらいの時間に起きてるぞ俺」

 

「健康的すぎない?」

 

「ヒシン神楽の練習を日課にしてるからな」

 

「……ああ、なるほど」

 

「んじゃな善逸。皆にもよろしく言っといてくれ」

 

「わかった、それじゃ」

 

 善逸の言葉を聞き届け、即座に駆ける新。午前5時頃、夜明けは近い。

 

 

───────────────────────

 

 

 蝶屋敷にて。

 

 夜見を見送り、縁側に一人残ったカナヲは、その背中を思い出して呟く。

 

「……鬼の居ない世界で、()()様と幸せになってくださいね、()()様」

 

 

 

 竈門家にて。

 

 善逸は一人、ぼんやりと、かつて鬼狩りだった頃の記憶を、最終決戦の時を思い出す。

 

 毛先の黒い白髪の少女が泣いている。

 

 その腕の中には、緋色の髪をした血だらけの少年が、穏やかに微笑み、その手を少女の頬に添えている。

 

 

「……はぁ、やっぱり、本っっっ当に変わんないな……千夜(ちよ)さんの事も早く思い出せよ全く……」

 

 

 

 

 それは、本来は無かった鬼退治の話。

 

 その命を賭して未来を守った少年と、寄り添い続けた少女の話。




書きたいことが山ほどあるけど、やるべき事も山ほどあって雁字搦めな凡人の作品です。
(かなり前に)活動報告更新したので、よろしければ見てやってください。

今後の執筆活動についても書いてあるので。


……善逸とカナヲの口調おかしくないよね……?


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日輪の子は懐かしむ

ようやく投稿出来ました。いや、忙しいっすね本当。

他もゆっくり投稿していくので、よろしくお願いします。

以上、忙殺されそうな凡人からでした。


「……あぁー」

 

「……その、大丈夫、ですの?」

 

「これが大丈夫に見えんなら目ぇ腐ってるぜお嬢。眼科行くことをおすすめする」

 

「新がここまで疲れているのを見るのは初めてかもしれないな」

 

「全国飛び回るより辛いね。ああ辛いとも……はぁ〜」

 

 折神家、親衛隊専用休憩スペースにて。

 

 新は、ぐったりとしていた。

 

 それはもうぐったりしている。かの卵を模したぐったりキャラクターもびっくりのぐったり具合だ。

 

 何故こうなったのか、それを説明するには、刀使の事情についても語らねばならない。

 

 

 ───────────────────────

 

 

 刀使というのは、これまでも説明してきた通り、荒魂を祓う役目をもつ巫女、要は少女達。

 

 荒魂を倒すため、うら若き乙女達は日夜頑張っているわけである。

 

 ところが近年、少子化につれて刀使となりうる者がかなり少なくなってきている。

 

 そもそもが、荒魂と戦うという危険な仕事。我が子をそんな戦場に出したくないという親御さんも多い。

 

 というか実際、シャレにならない被害が何度も出ている。後に残る程の大怪我をした者もいる。

 

 それらの理由も合わさり、徐々に刀使の絶対数は減っているのだ。

 

 しかし、相手は災害とも呼べるもの。人間の都合に合わせてくれる相手ではない。

 

 抑える者がいなけりゃ被害は増えるばかりである。

 

 こりゃいかんということで、刀剣類管理局は常々刀使を増やそうと頑張っている。

 

 そして、新がやってきて約数ヶ月経ったこの日。

 

 夏も過ぎ、木の葉が色付いてきた頃。

 

 親衛隊に与えられた任務は雑誌の取材に応じることだった。

 

 

 刀使への取材を通して憧れやなりたいという希望を持ってもらおうという刀剣類管理局の思惑と、話題に事欠かぬ刀使を取材したいという出版社の思惑が上手く合致した結果、こういう事がよくあるようになった。

 

 親衛隊以外にも各五箇伝の代表とも言える刀使はよく取材されていたりする。

 

 が、親衛隊の宣伝効果は飛び抜けて凄まじいものがある。

 

 第二席の此花寿々花。彼女の気品溢れる立ち振る舞いに憧れを持つ者がいる。

 

 第三席の皐月夜見。彼女のミステリアスな雰囲気に惹かれる者がいる。

 

 第四席の燕結芽。彼女の強さと元気な笑顔のギャップが可愛いという者がいる。

 

 そして何より、第一席の獅童真希。彼女の紳士的な言動は、男女問わず心を鷲掴みにしてしまう。

 

 新が真希の事を「姉御」と呼ぶのはこのためである。曰く、

 

「ヘタなイケメンよりイケメンしてるよな、あの人」

 

 との事。

 

 ……紫は、この自分の義理の息子に目を付けた。

 

 第五席の折神新。この少年、正統派のイケメンである。非常に整った顔立ちをしている上、170に届く背丈があり、その身体は無駄なく鍛えられているのだ。

 

 前に通っていた中学校にて、バレンタインの日に本命と思しきチョコをかなりの数貰っていた、というか実際何度か告白されたという実績もある。

 

 この事を知った夜見がしばらく不機嫌になり、新が困惑したのは別の話である。

 

 ともかく、彼がいればかなりの効果が見込めるのでは無いかと思ったのだ。

 

 出版社側としても、新を取材できるのは願ってもない事である。

 

 新は、紫の采配で突然親衛隊入りした謎多き少年として、刀使のみならず一般の人々の間でも噂になっている。

 

 “謎多き”というのも、彼が素性を明らかにしていないのが原因となる訳だが。

 

 新は五感や第六感を活かした探知能力を買われ、機動部隊の指揮権は無いが、代わりに荒魂討伐における単独行動を許されている。

 

 つまり、彼と任務にあたる人間はいないのだ。いて結芽や夜見ぐらいである。

 

 それに加え、彼の仕事の速さ、出撃時には狐の面を着けていることから、それらしき人物を見かける事もないし、素顔も分からない。

 

 その代わり、緋色の髪、狐の面、青い彼岸花と太陽をあしらった羽織、右腕の鈴に赫い刀という特徴はよく知られており、その扱いはもはや都市伝説に近い。

 

 そんな少年の素性を1番最初に取材することができるこの機会を逃すわけがない。

 

 そうして、取材を受けて来て(この長い説明を終えて)、冒頭に戻る。

 

 

 ───────────────────────

 

 

「想像はできてた。わかってた。けど、あそこまでマシンガンで聞いてくること無くない? 元から人と話すのは苦手な部類なんだよ俺は」

 

「お疲れ様でした」

 

「全くだぜ。姉御1人でいいだろうが、こういうのは。実質リーダーなんだしよ」

 

 長々と話したが要するに、新のぐったりは単なる取材疲れである。

 

 今は夜見の膝枕で英気を養っている。

 

 ……夜見の膝枕である。

 

 この2人、例の1件以降距離感がやたら近いのだ。

 

 話し合った次の日から一気に近くなり、肩を寄せ合って眠る姿や、新の胡座の中に夜見が収まっている姿がよく目撃されている。

 

 その姿はまるで恋人……を通り越して、最早夫婦であり、間接的に原因を作った結芽ですら、この変わりように開いた口が塞がらなかった。

 

 余談だが、この2人は付き合っていない。寿々花がそれとなく聞いたところ、口を揃えて否定していた。

 

 何度か真希や寿々花、果てには森元さんが苦言を呈したり鎌府女学院の学長が嫌味を言ったりしていたが、まるで変化がない。

 

 紫はこころなしか嬉しそうである。

 

 ただ、2人とも業務に支障がなく、何なら効率が上がったので、放置状態となっている。諦めたとも言う。

 

 まあなんにせよ、2人が揃えば(特に夜見が)人が変わったようにイチャつくということだ。

 

「でも、新おにーさんの事大分分かってきたと思ったけど、そんなこと無かったね」

 

「……確かに。炊事が得意っていうのは知っていたけどね」

 

「時々食堂で料理を作っていますものね。その日は決まって和食ですし、何より凄く美味しいですわ」

 

 結夢の言葉に同意する真希と寿々花。

 

 新の料理上手は炭治郎にコツを教わったからだったりする。

 

「逆に和食以外は作れん。カレー作ろうとすると何故か肉じゃがになるし……」

 

「何かの呪いじゃありませんの? それは」

 

「他もかなり……なんだろうか、日本人的、というか……」

 

「趣味は篠笛、独楽に囲碁、将棋。独楽は毎日持ち歩いてる……どんだけ独楽が好きなのさ」

 

「独楽の上に独楽乗せられる程度には上手いつもりだ」

 

「篠笛は……時々聴こえますわね。裏山の方から」

 

「あれ新だったのか。最近天狗でも住み着いたのかって噂なってたんだ」

 

「毎朝ヒシン神楽を舞っているからな。ついでに吹いてる」

 

「将棋は紫様の影響で始めたのですか?」

 

「おお。時々対局してたよ。囲碁はついでにやってみたら存外面白くて、今でも続けてるよ」

 

「新おにーさんって遊ぶの好きだよね? 部屋に結構遊び道具あるもん」

 

「そりゃ好きだとも。独楽とか以外にも双六、花札、その他諸々な。チビん時に鱗滝って人に教えて貰ってた……元気かね、あの爺様」

 

 ぼんやりと思いを馳せる新。少々変わっていたが、とても人の良い老人だったと覚えている。同い歳のお孫さんと、その妹とよく遊んでいたとも。

 

 頭を撫でていた夜見が、思い出した様に口を開いた。

 

「……都市伝説になっているというのは、流石に笑ってしまいそうでした」

 

「フフ、ああ、僕らは本人を知っているだけに尚更だ」

 

「……狐の面、外そうかな……あ〜、でもなぁ」

 

「お気に入りのやつだったりするの?」

 

「さっきの鱗滝さん、何か厳しい天狗の面を着けててな……あっ、カッコイイな、俺も欲しいなって思って、教わりながら彫ったんだ」

 

「随分と慕っていらしたのですね?」

 

「まぁな。紫は昔からああだし、朱音も忙しいしってな感じだったからな。よく遊び相手になって貰ってたんだ。……最初見た時、不思議とこの人には逆らえないな、って思ったんだよな」

 

「へぇ〜」

 

 新の昔話に場の空気が和んだ。人の楽しい思い出を聞くのも、また楽しい事である。

 

 

 

「ところで、皆この後の予定どうなってんだっけ?」

 

「僕と寿々花は荒魂の調査があるね」

 

「私は研究のお手伝い!」

 

「新さんも私も、紫様の補佐を」

 

「だな。んじゃあ残った仕事も頑張りますかっと。あ、膝ありがとな夜見」

 

「いえいえ、これくらいなら何時でも」

 

「それでは、私達も行きますわね。結芽、ご迷惑をおかけしないように」

 

「もー! 寿々花おねーさんいっつも子供扱いしてくるじゃん! やめてよね!」

 

「いやいや、結芽僕らにとってはまだ子供だよ」

 

「あ、ひどーい! 自分達もまだ子供じゃん! 新おにーさんも何か言ってよ!」

 

「ハッ、子供扱いに怒ってる内はまだ子供だよ。違ぇってんならしっかり手伝ってこい」

 

「おにーさんまで……いいもん、お仕事頑張って見返すもん!」

 

 子供扱いに怒り、新に煽られて走り去って行く結芽。

 

 その背中を微笑ましく見守り、残った4人も気合いを入れ直す。

 

 こうして彼等の日常は過ぎていくのだ。




日輪コソコソ噂話

新君は告白された時、皆に

「忘れられない子がいるんだ」

って答えていたよ。誰の事だろうね。

新君の容姿は、髪を下ろした炭治郎に義勇さん成分が入っている感じでイメージしています。


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番外ノ壱・日輪と夜は共に微睡む

お久しぶりのとじみこです。

新君と夜見ちゃんの関係に焦点を当てています。

それでは、よろしくお願いいたします。


「ふあ〜ぁ……」

 

 月の明るい、誰もが寝静まった夜。少女の可愛らしい欠伸が屋敷の中で聞こえた。

 

(ん〜……変に目が覚めちゃった……どうしよう)

 

 燕結芽。どうやら、夜風にでも当たろうと歩いていたらしい。

 

 ちなみにだが、彼女含めた親衛隊は、それぞれ折神家の屋敷の部屋を与えられており、半ば寮生活の様になっている。つまり、結芽が今歩いているのは、折神家の屋敷の廊下ということになる。

 

(最近よくあるよね……なんでだろ)

 

 この問いの答えは、ただ単純に昼寝のしすぎというだけなのだが……彼女本人は気がついていないかもしれない。

 

 

 ただトコトコと、再び眠気が出てくるまで歩いていようとしている結芽だったが。

 

「……足音?」

 

 自分以外の誰かの、少し急いでいるような足音が聞こえた。何となく気になるので探してみる。

 

「……夜見おねーさん?」

 

 音のする方から、浴衣姿の夜見が走ってきた。走っていると言っても小走り程度だが。しかし、結芽が気になったのはそこではなく、

 

(……悲しそう?)

 

 その切羽詰まった表情である。

 

 反射的に物陰に隠れた結芽に気づいた様子もなく、夜見はどこかへ走り去って行った。

 

「どこ行くんだろ?」

 

 結芽は、普段と違う夜見の様子に好奇心を刺激されたのか、こっそり後をついて行った。

 

 

───────────────────────

 

 親衛隊第三席、皐月夜見。しかし、そこに至るまでの、刀使としての経歴(大会の戦績など)は一切不明。それどころか、幼少期の一定の期間の詳細すらも不明な少女。

 

 正確には、彼女はいつ、何処で、どんな環境で産まれたのかが不明。すなわち、出生時の一切合切が分からないのだ。誕生日はおろか、年齢すらも定かではないと言うことになるが、本人は12月24日生まれの14歳であると語っている。

 

 義理の両親と共に秋田県に住んでいたのはわかっている。しかし、彼女と同じ様に刀使となるべく秋田からやって来た幼なじみとも呼べる少女、稲河暁(彼女は美濃関学院へと入学)によると、「小学校入りたての頃ぐらいに、いつの間にか転入していた」らしい。

 

 ちなみに、両親すらも、皐月夜見という少女に関しては一切口を割らなかったという。夜見の事を記事にしようとしたマスコミに対しても、黙りを決め込んだそうだ。

 

 

 そこに更に謎を広げたのが、折神新の存在だった。

 

 というのも、夜見と新の不自然なまでの仲の良さは既に色んな所に知れ渡っているのだ。親衛隊に新が加わった際の取材でも、インタビュアーが驚く程、何ならちょっと引く程にべったりだった。

 

 カメラを向ければこちらが何も言わない限り、必ずどちらも写る。休憩に入った途端、驚きのスピードでくっつき、おむすびを食べさせ合う。他の親衛隊曰く、「仕事中な分まだマシな方」だと言うのだから恐ろしい。

 

「プライベートで二人が一緒にいないのは見た事が無いな」

 

 と、獅童真希は語っていた。風紀的にどうかと何度か注意したが、「これの何が悪いんだ?」とでも言いたげな顔で無言を貫かれた。今では誰も何も言わなくなった。微笑ましいからなのか、バカバカしくなったからなのか……

 

 ただ、何よりも驚きなのは、新といる時の夜見は、感情を表情に出すという事だ。

 

 皐月夜見という少女は、笑わなかった。とにかく笑わなかった。人間なのか疑わしいほどに笑わなかった。

 

 本人曰くちゃんと笑っているそうなのだが、まあ分からない。はたから見たら常に無口無表情な少女だった。感情表現が下手にも程があった。

 

 ところが新と引っつけてみると一転、花が咲くように笑うのだ。満開の花畑を幻視できるレベルで、それはそれは満面の笑顔になるのだ。それでは飽き足らず、表情が別人の様にコロコロ変わる。しかも新の方も普段より楽しげときた。

 

 これにはあの折神紫も心底驚いていたらしい。初めて見た際の動揺が凄かったそうな。夜見の無表情が崩れたからか、息子がそれを成したからなのかは定かではない。

 

 勿論これが気にならないマスコミでは無かった。それとなく聞いてみたところ。

 

「赤ん坊の頃から知っているからな、お互い」

 

 曰く、色々あってしばらく離れていて、新の親衛隊入隊で偶然再開した。しばらくギスギスしていたが、何とか仲直りした。という情報が得られた。(誕生日も12月24日で、自分と被っているとか何とか)

 

 双子なのかと聞いてみたが、ただの幼なじみであると言う。新は謎だらけの夜見の素性を知っている。ならばと色々詮索しようとしたのだが。

 

「それを知ってどうするつもりだ?」

 

 表情が抜け落ちた能面の様な顔、そしてドスの効いた声だった。殺気を感じないのに、めちゃくちゃ怖かったという。それ以上何も聞けなかった。

 

 とまあ、結局二人の事に関しても、二人の関係についても、何も分からないまま終わったのだ。何やら不穏な何かがあるのは確実なのだが……好奇心は、時折死地へとその人を運ぶのだ。

 

 

───────────────────────

 

 そんな彼女が、夜分遅くに走っていた理由。彼女の向かった先は、部屋。夜見が扉を2、3回ノックしたその部屋は。

 

「新おにーさんの部屋だ……」

 

 正真正銘、折神新の部屋である。他の親衛隊の部屋とは少し離れているのだが、これは新が紫に直談判して、部屋を移して貰ったという裏話があったりする。要は前はもっと近かったのだ。

 

『嫁入り前の女子と思春期の男子だぜ? 何かあったらどうすんだ』

 

 という様な事を言っていた。その辺、やたら古風で固い新である。ちなみに紫は、その辺の心配を一切していなかったらしい。新の実績ありきとはいえ、何とも奔放な御仁である。

 

 少しすると、部屋からこれまた浴衣姿の新が出てきた。二人共やけに和服が似合っている。余談だが、二人共制服以外で洋服を着ないらしい。普段着は和服だけだとか。

 

 途端、夜見は新に抱きついた。それに対し、新は何かを察した様な顔になると、すぐに抱きしめ返し、夜見の頭を撫でた。

 

 気づかれることの無いまま尾行していた結芽は、その様子を廊下の角に身を隠し、頭だけを覗かせてその様子を見ている。廊下の窓から射し込む月明かりが、新が慈しむような顔で夜見の頭を撫でているのを照らしている。

 

(す、凄いの見ちゃったかも……)

 

 皆が寝静まった夜の、二人の逢瀬。しかも結芽にとっては兄や姉の様な二人だ。そんな二人の、普段とはまた違う甘い雰囲気に当てられ、結芽はわけもわからずドキドキしていた。しかし、そのドキドキはすぐに別の物へと変わる。

 

「──っ!」

 

 声を上げかけた。新の視線が結芽を突き刺した。勘違いなどではなく、確かに気配を消していた結芽を見たのだ。しかし新は、すぐに夜見を見てその手を離し、自分の部屋に招きいれた。その一瞬で見えた夜見は、泣いているようにも見えた。

 

 そして新も、部屋へと消えていった。

 

 その後、結芽は色々な想いでぐちゃぐちゃになりながら部屋に戻り、ベッドへと潜り込んだ。冬もそろそろだというのに、体が熱くてたまらない。

 

 ベッドの中で悶々とあれこれ考えた結芽だったが、数分もしないうちに夢の世界へと旅立った。

 

 

───────────────────────

 

 新の部屋。部屋の主である新と、訪問者の夜見が、ベッドの上で向かい合って座っていた。外聞相応と言うべきか、親衛隊に与えられた部屋は無駄に広く(新の談)、それに応じてベッドもまた大きい。それこそ、中高生が二人座っても何ら問題ない程に大きい。

 

 しばらくお互いに沈黙を保っていたが、しびれを切らした様に新が口を開く。

 

「んで」

 

「はい」

 

「今日も、なんだな?」

 

「……はい」

 

「そっぽを向くな、せめて俺の目を見てくれ」

 

「すみません」

 

 実は、仲直りをしたあの日から、夜見は毎晩新の部屋を訪れている。目的は一つ。

 

「その、今日も……一緒に寝ていただけませんか?」

 

「……もはや拒否権ねぇよなぁ」

 

 と、そういうことである。一切の含み無く、夜見は純粋に新と眠りたいのだ。口では面倒そうにしている新も、夜見用の枕を置いているので何をかいわんや。

 

「結芽には後で口止めしとかねぇとな……」

 

「その、それに関しては本当に」

 

「ああ〜、いいよ別に。謝んな」

 

「……」

 

「………………」

 

「…………………………」

 

「……………………………………寝るか」

 

「……はい」

 

 

 

 布団に入り、向き合ったまま何も言わずにお互いを抱きしめる。これもいつも通りである。

 

「……殆ど癖みたいなもんだな」

 

「……新さんが」

 

「おう」

 

「貴方がここにいてくれると思うだけで、私は……」

 

「……そうだな……一日が終わって、お互いにちゃんと生きてるって確かめあってたんだよな、俺達」

 

「……その度に、幸せだと感じていた私は、おかしいでしょうか……貴方と共にいられるだけで、幸せだと思える私は、単純なのでしょうか……」

 

「……それが聞けて嬉しい俺も……随分と単純なんだろうよ……ああ、俺も幸せだ」

 

 語り合う二人は、見つめ合っていた目を閉じて、ゆっくりと微睡みに落ちていく。

 

 

「……新……さん……」

 

「……ん……何だ……?」

 

「…………もう……離しません………………離れません……から……」

 

「……そうか…………もう……離れらんねぇのか………………嬉しいねぇ……」

 

「……ええ……ずっと…………いつか来る……………………終わりの……時、までは…………」

 

「…………なに……俺も……絶対に……離しはせんさ……」

 

 

 それっきり、その日は何も話すことは無く。それでも夢うつつにて出した言葉が現実のものとなったかの様に、固く抱きしめ合っていた。

 

 

 

 

 翌日、結芽に根掘り葉掘り聞かれたのは、想像にかたくないだろう。




目指していたところと随分離れたような……何故だ。

ただまあ、二人は一筋縄ではいかないと思っていただければ幸いです。


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