普通のことができない俺が、異世界ではチート並みになんでも出来る無双者!? (HAL)
しおりを挟む

【はじめに】

注意事項はしっかり読みましょうね★
しつこいなぁと思うかもしれませんがね(^v^)


どうも、作者のHALです。

久しぶりの小説です。

そしてまた異世界モノの話を書こうと思ってます。

 

自分の趣味みたいに書いてた

イジメから始まり自殺して異世界では平和に暮らす

そんな感じの話が好きなのですが。

今回は引きこもりニートから交通事故で

神様から授かるチート並みのステータスで無双者に

っていう、僕の中での新しい話の切り口です。

 

愛のない世界から異世界へではなく

愛のある世界だけど異世界へって感じです。

 

本当は愛を持って接しているのに主人公の中では

『こんな自分に愛を注いでも何も返せないのに』と

コンプレックス抱いて今の年齢です。

そんなネガティブに考えなくてもとか思うかも

しれませんが、本人にとっては大事なことです。

 

他人が見ればちっぽけな考えだなぁとか思うことでも、自分の中では大変で大事件ってことです。

主人公はそういったコンプレックスを持っているので、どうか温かい目で見てあげてください。

それから異世界に行った後の主人公の行方も

優しい眼差しで見守ってあげてください。

よろしくお願いします<(_ _)>

 

 

さて次に、注意事項です。

 

毎回書いてますが

前にここのサイトかどこかのサイトで

「普通の恋愛モノかと思ったらBLだった。

ちょっと自分には合わないかなぁ」

というメッセージがありました。

 

一応僕は注意事項はちゃんと書いてます。

その後、見るのは読者の方です。

 

何度何度言いますが

ここは自己満足に書いて自己責任な物語です。

なんでも許せる方にオススメをしています。

1つでも無理だなって思った人はブラウザバック。

 

まだこのページにいるのならちゃんと注意事項を

よく読んでから本編へ進むようにして下さいね?

それと、どの作品でもオリジナルキャラを

使う際は必ず【自己紹介】を挟みます。

主人公には固定概念を持ってますので変更が

あるとすればそれは本編で変わることがあります。

絶対に外したくないっていう固定概念は

どんな物語でもその路線は貫くので大丈夫です。

 

さて、長くなりましたが注意事項を書きます。

もう一度、しつこく言いますが

注意事項をよく読んでからご覧になってください。

 

 

※注意事項※

・ファンタジー寄りだけど恋愛要素有り

・恋愛は基本『BL』\_(・ω・`)ココ重要!!

・これから出てくるキャラによって顔文字有り

・主人公固定概念最強無双型

・女性も少しはいるとも思う

・自己満足と自己責任で構成された物語図

・文の誤字脱字へのコメントはOK

・なんでも許してくれるような優しい人にオススメ

・誹謗中傷はお断り

・性癖カオスでお花畑な状態のポンコツ作者

 

 

最後は自分で罵倒しましたが、非常に亀更新です。

いつ更新するかわからないので期待しない程度に

待ってていただけると幸いです。

 

それでは【自己紹介】に進んだ後、本編です。

ここまで見てくださりありがとうございます。

この先も精進していきますので

今後ともよろしくお願いします<(_ _)>

 

作者のHALでした(。・・)ノ゙



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【自己紹介】

主人公だけ自己紹介します。
他のキャラは本編で紹介します。


【自己紹介】

 

 

名前:黒神 遼(クロガミ ハル)→ハル

 

性別:男→男の娘

 

年齢:25歳→15歳

 

性格

憧れを妄想し理想やハードルが高い夢男子

ネガティブすぎな自己中

シャイボーイを隠したがるクールなツンデレ

本当は寂しがり屋で泣き虫で強がりたいだけの弱虫

 

容姿

25歳:黒いパーカーに黒いズボン、黒いサンダル

髪はボサボサで洗ってなくて臭い黒髪

一重で半目の目つきが悪い黒縁メガネをした黒目

身長は178cm

15歳:異世界での服装(※本編で紹介)

髪はウルフカットのショートヘアで黒髪

一重で半目の眠そうな目つきなオッドアイ

(※左が闇が深そうな紫で右が透き通るような空色)

黒い猫耳と尻尾が生えている

身長は155cm

 

種族:人間→猫獣人(人間寄り)

 

備考

普通のことが出来ないことがコンプレックス。

ずっと実家暮らしで貧乏というわけじゃないし

愛を貰ってない訳じゃないが

自立ができないことに悩む。

 

25歳になってもぬいぐるみが手放せなくて

ずっと持ち歩いてる、名前はクロ。

黒猫でオッドアイで右が黄色で左が水色。

2次元でもオッドアイとかを見ると羨ましがるほど

オッドアイに憧れを持っている。

クロが自分よりも歳が上でも下でも

自分を見てくれるような擬人化とか

してくれないかなとか常に思う。

 

家にいても引きこもりニートでハエが飛んでそうな

くらい髪はボサボサで、たまに外に出てもパーカーを深く被ってコンビニで買い物をしたりと

適度に外には出るが社会不適合者。

 

そんなある日のコンビニ帰りで交通事故に合う。

その時の手持ちはぬいぐるみのクロと買い物袋。

そのまま即死で、でもクロだけは離さなかった。

 

目が覚めた場所は雲の上、神様のちゃぶ台の前。

ぬいぐるみのクロと一緒に2度目の人生を歩む。

 

↑↑現実世界↑↑

↓↓異世界↓↓

 

コミュニケーションは普通。

料理は物さえあればなんでも作れる。

サブジョブで鑑定士を持っていてメインで冒険者。

レベル形式だけどレベルは+9999。

(※スキルは本編で紹介)

 

思考能力や記憶は前世のまま持っている。

事故とか黒歴史等の自分に都合が悪く

忘れたいと思ってる記憶だけは無くなってる。

15歳ではあるが声はショタというより成人男性声。

 

猫獣人は猫になったら猫の言葉がわかるという

憧れの種族なので、絶対になりたいと思っていた。

オッドアイも自分のぬいぐるみや二次元キャラが

そういうデザインだったってことから自分も

オッドアイだったらという憧れを抱いていた。

猫獣人になると人間の耳もあるのかなって

思っていたが、それはないようで本当に

憧れの耳が手に入って嬉しと思ってる。

 

第2の人生がこんなに幸せでいいのかと

正直思ってるが神に感謝しかないと思ってる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【簡単なあらすじ】



ちゃんと要素に触れるように書いてるので悪しからず☆


 

 

 

俺は黒神遼。所謂、引きこもりニートだった。仕事もろくに出来ず実家暮らしで外へも行かない。言っても小遣いでコンビニ行って何か買ってくることくらい。

 

だいたい食べ物だけど…

 

母親も父親も兄貴も別に俺に対して邪魔だとか、もっと働けよとか、自宅警備員とか古すぎワロタとか、そんなことは言ってこない。普通に放置。

 

まあ、内心ではそう思ってんじゃねぇかな…

 

極めつけに俺は『普通のことが何も出来ない』。どういう意味かと言うと、普通の生活ができない。親に何かしてもらわないとできないようなそんな奴。

 

俺自身、発達障害とかあんのかも不明だけど…

 

それに近いかもしれない。普通の子は風呂だって歯磨きだってちゃんとやるのに、俺はその『普通』のことができない。だから社会不適合者。

 

本当は俺なんてこの世に生きる価値なんてない…

 

それでも、俺の唯一の支えはいつも持ち歩いてるコイツ。黒猫でぬいぐるみのオッドアイで、名前はクロ。コイツはゴミ捨て場で捨てられてたぬいぐるみ。最初は捨てられたんだなと思ってスルーしようと思った。でも、俺にだって良心はある。助けたいと思って助けた。親には内緒だったけど次の日にバレた。

 

今では俺の相棒だし大事な家族

 

そんなある日、俺は交通事故にあったらしい。即死レベルに俺の体は変な方向に曲がり、内蔵も骨によってグッサリ。そんな感じだったから俺は事故後に死亡。そして今に至る。

 

その内容を簡単に教えてくれたのが目の前にいる…

 

「そこまで思うなら最後まで言わんか!」

 

神様のようなそうじゃないような神様。

 

「神様じゃ!神様!」

 

ツッコミし続ける神様。しかも俺の中での神様は老人か美人美女。なのに目の前にいるのは老人口調の男が、お茶をすすりながら俺の前にいた。

 

非常に怪しい…

 

「怪しくないわ。それに神様は雲の上に居るという、お前さんの理想は叶っておるじゃろ?」

 

確かに俺の中での神様は雲の上にいる。でも城みたいな豪邸もちょっと期待してたけど、そこは理想とはかけはなれていた。ちゃぶ台の上にお茶せんべい、周りにはタンスやらなんやらしかなかった。貧乏神様。

 

「それ以上、悪口を言うならお前さんの『持っておる』その子を……ホイッ!」

 

「は?」

 

神の指が上を向いてるので上を向くとぬいぐるみのクロがいた。俺は大切な相棒を取られ、取り返そうとするが取れない。

 

「返せよ!俺の相棒を取るな!」

 

「悪口に対して誠心誠意謝るのなら返してやる」

 

面倒臭い神様だった。

 

「面倒臭いなら仕方ないのう?今謝ればお前さんの願いを叶えてやろうと思ったんじゃが」

 

「俺の願い?」

 

俺は首をかしげた。何を言ってるのかイマイチ理解ができなくて、ずっとクロを見ていた。神様は俺の前で何か魔法のようなのを唱えた。すると煙とともに『ボンッ!』という音で周りが見えなくなった。

 

「な、なんだ!?」

 

そこにいるのはぬいぐるみのクロではなく、黒猫耳と尻尾、それからぬいぐるみのクロのチャームポイントであるオッドアイの男の子がそこにいた。

 

「く、クロ…??」

 

「!…ハルしゃん!」

 

思わず噛んでる。しかも裸だ。顔真っ赤にして顔を隠す。呆れた神様がクロに似合う服を着せてくれた。なんというか俺の生きてきた服装とは程遠い、村人A的な服装だった。

 

もう少し動きやすい服装とかなかったのかよ…

 

「注文が多いのう…」

 

指をパチンと鳴らすとクロの服装が変わった。村人Aというような服装よりはいい生地を使った素材のようだ。

 

うん??なんでいい生地ってわかったんだ??

 

「その辺は後で説明するわい」

 

後回しにされた。ひとまず擬人化されたクロの見た目的な身長は150cm。俺よりも低かった。

 

うーん、小学生か中学生……それか高校生になった辺りの年齢層か…?

 

とにかく幼く見えるのでそう思ってしまう。疑問は絶えないが、とりあえずまず神様に確認。

 

「これはクロか?」

 

「そうじゃ」

 

「ぬいぐるみの?」

 

「そうじゃ」

 

「俺の願いって擬人化?」

 

「そうじゃ」

 

「俺の相棒?」

 

「そうじゃ。だが」

 

だが??

 

「クロよ」

 

「はい?」

 

「お前さんの主はワシの悪口ばかり言うんじゃ」

 

へ?

 

「それはいけません!神様に悪くいうなんて!」

 

「い、いや!?そんな悪口言ってないだろ!?」

 

「ああ言っておるが、心の中ではワシを馬鹿にするんじゃよ…。シクシク…」

 

「あー!泣かないで?よしよし」

 

神様がニカッと笑う。俺はイラッとした。そこのポジションは俺なのになんでクソ最低な神様にクロのよしよしを盗られなきゃならんのかとそう思った。

 

「今クソ最低な神様と悪口を言われたのじゃあ!!クロぉ…、ワシはクソ最低な神様に見えるかのう…?」

 

「ううん、見えないよ!むしろボクに命を宿してくれた恩人に対してそんなこと思うなんて、それこそ最低な人だよ!」

 

グサッ!!!

 

うぅ…、それを俺に向けてるわけじゃないのに胸が痛い……。コノヤロウ……

 

「それに神様?」

 

「なんじゃ?」

 

「ハルさんはそんな風に思う人ではないですよ?」

 

「そうなのか?」

 

クロはナイスなフォローを入れようとしていた。俺は今すごく感動している。1度は毒を吐かれたが、クロがそんなこと言うなんてありえないとそう思った。

 

「ハルさんがもし、そんな風に言う人ならボクはハルさんとお外に出るのやめます。ぬいぐるみに戻してください」

 

え??

 

「確かに、時々ボクの知らない所で言ってるかもしれません。それでも、それはハルさんにとって負けたくない人を表してます」

 

うっ…、いや…負けたくないというかなんというか……

 

「ボクに嘘をつかない、なんでも話してくれてとても優しい命の恩人がそんな『汚い言葉』や『汚い行動』を起こすなんて考えたくありません」

 

なんかすごい恥ずかしい…。しかもさらりと胸に突き刺す言葉を言ってくる…

 

「ボクのハルさんがそんな言葉を発するなんて、絶対にありえませんけど、もしそれが本当ならボク…」

 

え??えっ??何??何なの??クロ……??

 

「ボクを燃やしーー」

 

「それはダメだっ!!絶対に許さないぞっ!!」

 

「……こう言っておるが?」

 

「なら、ハルさん」

 

「な、なんだよ…?」

 

「少しでも神様に汚い言葉を言ってたなら神様に謝ってください。ボク達の恩人なんですよ?それなのにそんな言い方したらダメです。せっかくボクのお願いも叶うと思ったのに……」

 

クロの願い…?

 

「ど、どういうことだ…?」

 

「その疑問の答えはハルさんが神様に謝った後に言ってあげます。しないなら言いません!」

 

しかめっ面でプイッと顔を逸らされてしまった。ぬいぐるみに戻されて火で焼かれるなんて見たくない。かと言ってこの神様に謝るのもしたくない。でもクロは本気のようで俺の言葉によって行動を起こす勢いだった。これは絶対に阻止しなければならない。

 

けど、信頼出来る神様……って感じでもないんだよな……。怪しい神様でしかないんだよなぁ……

 

怪しいと言う顔で神様を見ているとクロが追い打ちをかけてきた。

 

「神様、やっぱりボクをぬいぐるみにしてください。ハルさんは全然謝る気はないようです。その後燃やしてください」

 

「えっ、あっ、ちょっ…!!」

 

ま、待ってくれ!!

 

神様がこっちを見てからクロを見た。ため息を吐いてから言った。

 

「仕方ないのう…。お前さんの主は謝る気が本気でないようじゃし、それにワシのことを怪しい神様でしか見てないようじゃしの。ならば」

 

『ボッ』とどこから出したのか知らないが指から炎が灯ってる。つまりそれでクロを焼くつもりなんだとわかった。

 

ダメっ!!ダメだっ!!クロは俺の……俺の相棒なんだっ!!クロが居なくなったら俺は……生きていけない……。……クロ……クロ……クロぉ……

 

俺はクロに対してだけはプライドなどない。俺は強くない。俺は何も出来ない。何もしてこなかった。ただクロと一緒にいただけで、全然生活やらなんやらしてきてない。異世界に行けたとしても俺は今みたいに無力だ。何も出来やしない。それでもクロを失うくらいならと、俺は正座をし頭を下げて神様に謝った。

 

「汚い言葉を並べてずっと神様をけなしました…。お願いです…、クロを焼かないでください……。クロがいなくなったら俺は今二度目の死を迎えてもいい。クロさえそばにいてくれれば俺は幸せです…。でも、そのクロも俺から離れて消えていくならプライドなんてないです…。ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

当初の目的は果たせて神様もクロも俺を許そうとした。でも俺は今まで生きててずっと思ってたことを、コンプレックスだったことを謝り始めた。止まることなく、懺悔のように。

 

「生きててすみません、息をしててすみません。生活も何も出来ないような、社会不適合者でごめんない。俺はいつもいつも人を羨んできました。自分はそれをしようともせずただただ出来ないと括りつけて、行動すればすぐにできるのにそれをしない。そんなカスです…。もっとちゃんとこの歳になるまでに出来たはずなのに、全然やれなくて…。それを家族みんな俺を心配するとか愛をくれます。罵るでなく、暴力振るうでなく、ただ放置してくれるだけ。俺の生きたいように生かせてくれてありがとうございます。こんなカスに愛をくれてありがとうございます。自立ができない社会不適合者な俺をここまで育ててくれてありがとうございます…。ぐす……汚かったクロを捨てないでくれてありがとうございます……。……すごく幸せでした……、本当にありがとう、お母さん…お父さん…兄貴……。……もう、俺みたいな社会不適合者がいなくなって清々してるかもしれないけど、それでも俺を陰ながら見ててくれてありがとう…、……さようなら、みんな……」

 

泣きながら神様にそれを伝えた。いつも思ってたことを全部、いっぺんに。こんなことならちゃんと感謝の気持ちも謝罪の気持ちも全部、言っておけばよかったと今更後悔する。放置だったとしても俺を心配してただろうし、世間に見せたくないと思ってただろうし、なんで生きてるんだって思われてただろうしとたくさん色んなことを思った。もう未練はない。家族がどんな風に思ってても俺は自覚があるから気にならない。クロさえいてくれれば、俺の1番信頼できる相棒がいてくれれば俺は幸せなのだ。下を向いててたからわからなかったが俺をギュッと抱きしめてよしよししてくれた。クロなのか神様なのかわからないけど、俺は泣き喚いて叫び涙を流し続けた。

 

 

 

しばらく泣いた俺は、スッキリしたのか泣き止んだ。顔を上げるとそこに居たのはクロだった。頭をよしよししながら優しく抱きしめてくれた。小さいのにしっかりしてる。俺よりもクロは『出来る子』だった。

 

「そろそろ、お前さんの話をしよう」

 

また俺がネガティブなことを考える前にと、神様が話を切り出した。

 

「お前さんの交通事故の原因は、居眠り運転じゃ。夜中じゃからのう、疲れておったのじゃろうな。そのままお前さんをはねた後、電信柱に激突した。そやつは今病院で手術中だそうじゃ」

 

お茶をすすり終わった神様がこっちを見てそう言った。死因とか気にしてないけど、思ったより在り来りな事故死なのでなんとも言えない。

 

てか、別に忘れてていいことをなぜ思い出させるか…

 

神様はその話から一変して異世界の話をし始めた。

 

「お前さんの行く先はあの世だったのだが、ワシの所に願う猫が来てのう。そやつの願いを叶えるために、お前さんをここに呼んだんじゃ」

 

「願う猫…?」

 

それは一体誰のことなのか、首を傾げると。

 

「ボクだよ、ハルさん」

 

クロが俺の前で正座をして話した。俺はまた首を傾げていると、クロが気にせず話した。

 

「ボクのお願いをね?神様が聞いてくれて叶えてあげるって言ってくれたんだ。だからボクは今ハルさん前にいるんだよ」

 

上手く飲み込めない。それがどうクロに繋がるのか。俺は何も言えずにただ話を聞いていた。ここで遮っても俺自身が分からないだけだからと。

 

「ボクのお願いはね?ハルさんと一緒に生きていきたい。ハルさんをずっと見てて僕が弟でも兄でもどっちでもいいと思ってたけど、ハルさんがいつも寂しそうに見つめてて僕の前では夢いっぱいに楽しく話してる姿しか見せてくれないけど、ボクは知ってるよ?時にハルさんはナルシストのように自分がもし異世界に行ったら強いんだからと豪語するけど、そこには寂しさを感じたんだ。そこにボクがいたらもっと笑って言ってくれるかなって。このまま死んで後悔するくらいならボクと一緒に生きて、後悔のない人生を生きて欲しいって思ったの。ハルさんの言葉から『生きてて楽しい』って、それが聞けたらボクのお願いは叶ったものだから。でもまずはハルさんと一緒に第2の人生を生きたい。それを神様にお願いしたの」

 

上手くまとめれてるように見えて同じことを何度も、意味の似た言葉を並べるクロ。

 

大事な事なので〜的な要素だなぁ…

 

クロの言葉から神様もそれにつられて話し出す。

 

「死ぬまぎ間に、お前さんの大好きな猫がそういう願いをしてきたらからそれに応えてやろうと思ったんじゃよ。それとのう、クロはぬいぐるみじゃろ?お前さんの気持ち次第でこういうことも出来る」

 

『ボンッ!』と音とともに煙が出た。煙の演出はいらなくないかと思いつつ、それがお約束のようなのでしかたない。煙がはけられクロを見るとイケメンになっていた。俺が25歳ならクロは28歳か俺と同じくらいの歳だ。それと俺の身長と変わらない背格好だ。

 

「ハルさん」

 

声もイケボだった。イケボと言っても俺はそこまで声の種類を知らないが、世間が思う声と言うべきだろう。ちゃんと声変わりをした少し低いイケボだと思う。わからんけど。

 

「ハルさん?」

 

でもこう見ると俺だけに見せてくれるこのイケメンを俺だけが独占できると思うと、得だなと思った。俺が優越感に浸っていると、クロが俺の返事を待てずに耳元まで顔を近づけた。

 

「ハルさん」

 

「!!」

 

ビクゥッと肩が跳ねた。耳が弱い訳じゃないが、世の女は耳元までイケメンのイケボを聞くとキュンってすると聞くが、俺も耳を隠すほどにはクロの声は心臓のドキドキが収まらない。顔を赤くなりそうになった。

 

これはヤバいもしれない…

 

「な、なんだ?クロ…」

 

「ずっと話しかけてるのに全然返してくれないから、ハルさんの耳に話しかけなきゃいけなかったんだよ?」

 

「ご、ごめn」

 

「それとも、ハルさんは耳元で話しかけないと僕の話は聞いてくれないのかな?」

 

「っ、…み、耳元で話さなくても…だ、大丈夫だから…っ」

 

肩が跳ねる。これは破壊力がある。25歳の俺でもキュンってしそうになる。耳弱いわけじゃないのに弱くなりそうだ。

 

俺はまだ女の子が好きだ、男を好きになる趣味はない…、…はずだよな…?

 

疑問に思ってしまうほど、クロがすごくカッコイイ。俺なんかよりもかっこよくて羨ましく感じる。

 

俺ももっとこんな風になれたなぁ…、無理か

 

「ふぅ」

 

「ひゃいっ!?」

 

変な声が出た。ただびっくりしただけなのに声が変だった。体が震える、慣れないことされてまるで俺が女になったみたいだった。

 

お、俺……男だよな??

 

疑ってしまうほどにはクロに魅了されてる証拠。イタズラするクロに怒ろうとしたら、体勢を崩してクロに押し倒されてしまった。しかも体勢がヤバい、これはR18モノだ。描写はモザイクかけるが見せたら行けない気がする体勢だった。助けを求めて神様を見るが、お茶を飲んでいた。

 

クソッ…!!

 

「どうしたの?ハルさん」

 

どうしたもこうしたもない!!

 

「く、クロ…!と、とりあえずどいてくれ…!た、頼むから…っ」

 

目の前にはクロが居るだけなのにすごくドキドキする。顔を隠せないのでどいて欲しかった。そこは素直なクロはすんなりどいてくれた。そしてお茶をすすってる神様の胸ぐらを掴み。

 

「今すぐクロをさっきの大きさに戻せ…っ」

 

クロには見せられない黒い顔をして神様に迫ると、神様もこれはと思いクロの背格好を元の大きさに戻した。胸ぐらを掴むのをやめてホッとする。神様がコソコソと。

 

「なんじゃお前さん、クロにドキドキしたのかの?」

 

「ち、違っ…!?」

 

「お前さんの気持ち次第で、ああいうこともできるんじゃよ。弟のように甘えてきたり、兄のように甘えさせてくれるのじゃ。あの背格好で10歳じゃ。そしてさっきの背格好で22歳じゃよ。お前さんの歳よりは下じゃ。上だったらもう少し攻めてたと思うぞ?」

 

確かにと思ってしまうほどクロは大人とは言えない幼さがあった気がする。とはいえ俺は1つ疑問に思った。何か引っかかる言い方をしている。

 

「なんで弟にでもなれて兄にもなれるんだ?」

 

「それはお前さんの次に生まれ変わる体が、15歳のピチピチな背格好になるからじゃよ☆」

 

とてつもなくムカつく声が聞こえたのでとりあえずグリグリしようとしたら、クロに止められた。

 

「ここから出たらその背格好になるからのう。変えることはできん、できるのはクロの背格好が変わるくらいじゃ。次の質問じゃ」

 

質問なんてされた覚えはないがそんなこと言ってると、また話が進まないので黙っておく。

 

「お前さんは何か欲しいステータスはあるのかの?」

 

ステータス、それはRPGならよくあるプロフィールにスキルや技能やらがたくさん書いてあるヤツだ。例えば基本的なものでいうと体力とか筋力とか瞬発力とか色々、小説や漫画でよくそういうことが書いてあって憧れだった。その中でも1番多いのは最初から自分最強が多い。なんでも出来てなんでもチート。俺もそういうのを見てあれが欲しいとかこれがあればとか思ったこともある。でも、何をどう欲しいステータスがあるのかって思うと悩ましいのである。

 

でもチート系なスキルとかチート系な技能とかはやっぱり欲しいよなぁ…

 

神様は俺の心を読めるがあえてそこには触れずに話しかけてきた。

 

「最初こそまだ初心者じゃが、メインジョブは冒険者じゃ。サブとして鑑定士とかどうじゃろう?」

 

鑑定士といえば、見た物を説明とともに教えてくれる、所謂辞書みたいなものだ。

 

「鑑定士はあらゆるものを見通す力がある。魔物から人間から全ての物、そして本物か偽物まで見通すという上位鑑定士じゃ。これから行く異世界の中で1番上と言われる鑑定士ランクが今で言うとお前さんじゃ。お前さんのような鑑定士を欲しがる奴らは山ほどおるじゃろう」

 

「じゃあなんでメインじゃないんだよ」

 

「メインに鑑定士じゃと疑う者や、貴族の奴隷にもなりかねないからじゃ。上位鑑定士といえど、どこの世界にいようと死は隣り合わせじゃ。ましてや、クロもおる。もし奴隷などになったらクロとは離れ離れじゃ。殺されるやもしれん、そうなったら嫌じゃろ?」

 

「そんなことさせない!!絶対にクロは俺が守る!!奴隷になんてなりたくない!!」

 

「じゃからサブじゃ。サブなら言わんで済む。隠しておける。色々な理由を付けても疑惑をかけられんで済む。っといった感じでの、ワシのオススメはサブが良いのではという提案じゃ。決めるのはお前さんじゃよ、ワシはあくまで提案を持ち込んどるだけじゃ」

 

神様は意外と俺の事を思っての提案だった。

 

色々言って本当にごめんなさい、神様…

 

俺は改めてちゃんと考えた。リスクやらなんやらと。やっぱり俺の2度目の人生は良いものにしたいと。クロとこれから一緒に住むと考えると、メインで鑑定士はいろんな人達の名誉があってこその方が安全だろうと思った。それならサブの方が変に思われないで出来ると思うと、そっちの方がクロも俺も安全だ。

 

死ぬよりマシだよな

 

俺は神様の提案に乗った。ニコッと笑った神様は次の提案質問をしてきた。

 

「その他にスキルや技能で欲しいものはあるかの?」

 

その質問に対して俺はこれまで色んな事に対して羨ましく思っていた。こんな人になれたら、あんな人になれたらと自分の身の丈に合わないことをたくさん考えてきた。自分にできないものを考えては消去してきた。だって俺は『出来ない子』だったから。俺は迷うことなくこう言った。それはとても男らしいとは呼べないようなことだ。

 

「今まで生きてて俺のできたことは限られる…。その中でも生活が1番『出来ない子』だった。みんなが出来るようなことを俺はできない。ずっと『出来ない子』だった。お母さんを心配させ、お父さんを失望させ、兄貴を辱めた。出来の悪い弟を、出来の悪い息子を持った家族だったから。ずっとずっと、俺以外に生きる全ての人を羨んだ。普通のことが出来ないってスゲー恥ずかしいことは俺だってわかってた。わかってても行動できない奴だった。だから、次に生まれ変われるなら『出来る子』として生まれ変わりたいって思った。モテたいとかそういうのは持ってない訳じゃないが、まず『出来る子』にならないと見向きもされない。スキルとか技能とか言われてたくさんのことを思い浮かんだ。まさかこの俺が本当に異世界に行けるなんて思わねぇから。でも、やっぱり『出来ない子』な俺には無理な話だ。だから、そこは神様に俺に必要なものを全てくれたらそれでいい。人間完璧だと逆に引かれるからな…。一部の人間には憎まれ、一部の人間には惹かれ、一部の人間には命を狙われ、一部の人間には良いように扱われるくらいなら、そうならないようなモノをくれればいい。もちろん、『なんでも出来る子』とかだったら俺は嬉しいんだけど…」

 

俺はもっと強欲かと思った。あれが欲しいとかこれが欲しいとか言うもんだと思った。けど、違った。ちゃんと現実を見れていた。もしかしたらネガティブすぎてそれこそ引かれるタイプな言い方だったかもしれない。それでも生まれてからずっと俺は周りと違うのを感じてた。三日坊主になるのは誰もが持ってるだろうけど、生活まで三日坊主になるやつはそう居ない。居て引きこもりニートや自宅警備員とかだったら、ありえるかもだが、それでも俺は自覚をしていて出来るやつに憧れもしたからこそ、ちゃんとわかってる。できなくて部屋でうなだれることは度々あったくらいだ。それくらいには俺の心残りになった未練。

 

それをもっとちゃんとしっかりと『出来る子』になれたら、俺は変われるのかな…。変われるなら、変わりたい…。現世では出来なかったことを出来るようになりたい…。もちろん、直ぐにできるとは思えないけど、クロが俺をずっと見ててくれて直すのを手伝ってくれたら、俺は変われる気がする。もっと胸を張れる気がする。もっとちゃんと、お母さんやお父さんや兄貴に感謝や謝罪を、後ろめたい気持ちで言うのではなく堂々とした顔で言いたい。こんなにもできるようになったことや、今まで苦労をかけてごめなさいって謝ることだってできる。そんな風に言えて、そんな風にかっこいい俺になりたい!クロと一緒ならどこまでも行ける、そんな気がするから…!

 

神様は俺の心を読んでフッと笑い、ボソッと「そうか…」と言った。それから神様は俺に最後の提案をしてきた。

 

「お前さんの気持ちはわかったわい。なら、まだその辺は秘密にしておこうかの。アッチに着いたら時に確認するといい。さて、これが最後じゃ。お前さんの2度目の人生の名前はどうするかの?現世の名前で行くか?それとも改めるかの?」

 

名前は重要だ。俺の人生が決まると言っても過言ではない。でも多分、現世とは違って漢字で言っても通じないと思う。だから俺はあえて。

 

「死んだ俺の名前は黒神遼だ。そんで異世界での俺は名前の字から取って、ハルと呼ぶ。だから俺はハルで生きていきたい。簡単でわかりやすくて呼びやすくて言いやすい。現世の頃は『遼』で『リョウ』とも読むから、みんなからリョウ、リョウって言われてきた。アレで『ハル』と読むんだが誰もそれで呼んだやつはいない。当て字みたいな感じだから読めなかったんだろうな?だから、俺も気にしなかったけど違和感だけはあった。家族は『ハル』って呼ぶのに友達は『リョウ』って呼ぶなんて、俺はどっちなんだってなったしな。どっちも俺だけど名前が違うだけで別人だ…。それなら漢字でいるよりカタカナでいる方がいいって思った。それに、クロがすでに俺の事を『ハルさん』って呼んでくれてるし、その名前にする」

 

そう言うと神様はクスッと笑った。そしていつの間にかちゃぶ台やらなんやらが消えていて、神様が立ち上がった瞬間に大きな扉が開かれた。光が眩しくて腕で隠しそうになったが、温かい風が吹いていた。

 

「さあ、ここからお前さんらの旅が始まる。お前さんはお前さんの果たしたい理由と目標に突っ走るが良い。自分のステータスが見たくなったら、声に出して『ステータス』と呼べば出てくるじゃろう。そこに色々と載っておる。何があるかはお前さんの目で確かめるのじゃ。最後に言い残すことはあるかの?」

 

それはクロと俺に言っていた。クロは。

 

「ボクの2度目の人生は、ハルさんと楽しく笑い合いながら時に喧嘩することもあるかもだけど悔いのない人生にしたいと思ってます。その中には神様、ボクの初めてのお兄ちゃんでありお爺ちゃんにも感謝をします。ありがとうございました!天から見守っててくださいね!ボク達の旅路を、よろしくお願いします!」

 

なんだか全部クロに言われてしまった気がするが、俺は俺で素直な気持ちで神様に言った。

 

「最初来た時に胡散臭い神様と思って色々言って悪かった…。でも、今はなんかそう思ってないつーか、カッコイイ神様だって思ってんよ。だいたい、クロに言われちまったけど俺達の旅路を見守っててくれ。……それと、ありがとな爺ちゃん……。またな、神様」

 

ボソッと感謝をして俺とクロは扉の向こうへと歩いていった。俺の耳には聞こえなかったが、神様は一言。

 

「ずっと、見守っておるよ我が息子達よ…。短い間だったが、楽しかったぞ。達者でな、ハルとクロや」

 

 

 

そして扉は閉ざされ、俺達は異世界へと足を踏み入れることとなった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【俺達の第2の人生、まずは…】

 

 

俺は今暗い場所にいた。家族が遠ざかりその代わり新しい光が見えた。それに手を差し伸べた瞬間。

 

「ハルさん!!」

 

聞き覚えのある声に俺はハッと目が覚めた。見渡す限り巨木と言われるような木が1本生えていて、それ以外は草原だった。風が心地いい場所に俺達は居たみたいだった。俺は起きあがりクロの頭を撫でた。まだ寝起きだったってこともあって、頭がまだ覚醒してない。クロと同じ目線あたりに見える。

 

なんか、クロの背が伸びた…??

 

しかも前髪がないのか景色がクリアに良く見える。頭が働いてない状態だと何も思い浮かばない。するとクロがいつの間にか俺の後ろに座り、耳元で話しかけてきた。もう一度言うが俺は、耳は弱くない。

 

「ハルさん、起きてください」

 

「ひうっ!?」

 

神様の所でされた声。つまり今、大人なクロ。目と頭が一気に覚めた。横を見るとニコッと笑ったクロがそこに居た。そして大人びた顔つきだった。顔真っ赤にする俺を見て、クスッと笑ったクロ。

 

「起きましたか?」

 

「お、おおお起きた!!起きたからっ!!も、ももも戻ってくれ…っ、クロぉ!!」

 

ただただびっくりしただけ。そう俺はただびっくりしただけだ。日が当たってるからその暑さのせいで顔が赤いだけ。やましいことはひとつもない。はずだ!

 

クロはまた戻った。煙は最小限に抑えて変わるようだ。そこは神様の配慮だろう。でもこれは少し不便な気もする。誰に見られるかわからないのにこれでいいのかと。うーんと悩んだ末に俺はあることに気がついた。俺の声はさほど生きてた頃の声のままだ。それは問題ではない、ただ俺の顔や背格好があまりにも見えすぎてクロと変わらない。それが不思議に思えた。

 

確か、神様は『ステータス』って言えば出るって…

 

口で言う前に出てきた。ビックリしたがこれは便利だ。言葉にするのではなく頭の中で言えばいいのだ。変に思われなくて済む。開くとブワッと画面が広がった。見やすいが人に見られないのか心配だ。

 

それとも、いろんな異世界モノの漫画を見てきたがご都合主義でこの画面は見えないとかあるのか…?

 

とりあえずプロフィールを見ることにした。

 

「えーっと、何々…?名前はハル、年齢15歳、性別男の娘、身長155cm、職業は冒険者メインの上位鑑定士サブ、種族猫獣人と…………」

 

ん?身長と種族が…あれれ??しかも男の娘って…

 

この際、性別はもうなんか神様の趣味として片付けた俺は1度立ち上がった。クロもつられて立ち上がる。背比べをしてみた。少し俺の方が大きいかもしれないが、微妙な大きさだった。クロは猫だったから猫獣人なのもうなずける。問題は俺だ。

 

「クロ、大人になってみろ」

 

「はい、ハルさん」

 

言われた通り大人になるクロ。煙最小限演出はどうにかならないものかと思いつつ、俺はクロを見上げた。

 

お、おっきい…

 

クロは俺を持ち上げた。ビックリして少し暴れてしまったが、抱きしめられた時には大人しくなっていた。そしてとても居心地が良い。

 

夜一緒に寝るってなったら、日替わりでこういうのもありかもなぁ…

 

脱線しそうになったが、とりあえず身長の件は解決。次は俺の種族だ。

 

「クロ」

 

「はい、なんでしょう?」

 

大人の状態での敬う姿勢なクロはとてつもなくかっこよかった。コロッと惚れそうになる。

 

今は心頭滅却!!

 

「お前がして俺の見た目を教えてくれるか?」

 

クロは1度俺を下ろした。それから舐めるように見つめ、答えを出した。

 

「ハルさんがここに来る前にあった人間の耳はなく、代わりに僕とお揃いの猫耳と尻尾が生えてますよ。多分、人間よりの猫獣人だと思います。人によっては動物よりの人間もいると思いますから。それからボクと同じでオッドアイです。左が紫で右が空色です」

 

クロは丁寧に教えてくれた。猫獣人もそうだが、俺の憧れだったオッドアイと聞いて心の中で興奮した。

 

「なるほどな、ありがとう。それと戻っていいぞ」

 

心臓に悪いからな…

 

「はい」

 

そして元に戻った。また俺はステータスを見た。他に何かないかと探る。そういえばスキルや技能はどうしているのか、気になった。まずは技能から。

 

「こ、これは…!?」

 

「どうしたんですか?ハルさん」

 

「俺が今までできないと思ってたことが、ここに載ってる…!」

 

「どれどれ…?」

 

料理やらの家事全般のレベルがMAX、冒険者なので武器使用の場合でも持てばスキルも同時にレベルMAX。上位鑑定士なので、見る目のレベルもMAX。体力やその他もろもろ全ての数値がMAXだ。魔力と書かれた文字に気になって、タップした。すると説明書きがあって、そこに書いてあるには。

 

『魔力とはこの世界で最も必要なものである。魔法に使うにしても剣技に使うにしても、スキルを使う上で重要視されている。一定以上使うと、魔力切れで意識がもうろうとする。一定量使うと、頭痛を引き起こす。頭痛がしたら予兆である。目安とも言う。魔力を使う時は十分に気をつけることをオススメする』

 

と、書かれていた。わかりやすい説明で頭の整理がしやすかった。そしてあることも気がついた。

 

まず俺の魔力量っていくつなんだ??

 

魔力が見れるとしたらプロフィール画面だろう。しかしどこにも魔力量が書いてない。どこを見たらいいのかわからない。俺が首をかしげていると。

 

「スキル画面にはないのですかね?」

 

「スキル画面……それだ!!」

 

俺は直ぐに技能の横にあったスキル画面にした。そしたら案の定、魔力量が書かれていた。しかし驚くべき数値だった。

 

「こ、これは……」

 

「凄いですね…?」

 

俺もクロも驚いている。そこに書かれている数字は測れない状態になってる。

 

「一、十、百、千、万……………一億!?」

 

一とゼロが8個あって、思わず尻もちついた。

 

「んじゃあ…レベルは??」

 

この世界がレベルで表示されるなら、俺にもあるはずだ。レベルならプロフィールにあるだろうと思い、最初の画面に戻す。そして魔力と同じくらい俺は驚いた。

 

「+9999………ってことは一万以上のレベル!?」

 

俺最強にしてチート無双じゃん!!やっばっ!!

 

このレベルならさっきのレベマもうなずける。技能の所にあったコミュニケーションは普通だった。まあ、流暢に喋る俺もキモイからな。モテはするだろうが、それは俺だけど俺じゃない。クロといる時だけでいい。あらかた俺のことは調べた。次はクロだ。俺はプロフィールのどこかにクロが見れる場所を探した。

 

どこにもないな…

 

「何をお探しで??」

 

「クロのプロフィールを」

 

「ああそれなら、こちらに」

そう言ってクロも「ステータス」と口にして表示させた。俺にも見えるということは他の人間も見れるんじゃないか疑惑か出てくる。ちょっと不安になった。

 

「あ、最初に言うの忘れましたがこのステータス機能はボクとハルさんだけですよ。魔力探知機なるものがこの世界にあるらしいですが、魔力探知機のみなので、このステータスが見られることは無いそうです。ハルさんが寝てる時に神様から聞きました」

 

寝てる時、つまり目覚める前ってことだ。そんな話をしてたのか、俺が寝てる時に。

 

「なので、仲間であってもボクとハルさんのみが見れるみたいです。そこは共有みたいですよ。ボクとしてはお揃いのものが増えるのは嬉しいので、ハルさんも同じならもっと嬉しいです♪」

 

そう言われると神様に対しても悪態よりも、クロの可愛さに負けて、今回はやめた。とりあえず先に進めないので、クロのプロフィールも見てみることにした。

 

「名前はクロ、性別は男の子兼男性、年齢10歳兼22歳、身長150cm兼170cm、職業回復系サポート、種族猫獣人、と。兼多くね??」

 

そりゃあ変わるからってのもあるかもだけど、それにしたって……

 

考えても仕方ないので職業に目を向ける。

 

「回復系サポートって言うと、何を意味すんだ??」

 

「回復系は多分、魔法もそうですが調合もだと思います。ハルさんのような目利きではないので、ハルさんの目利きが重要だと思いますが毒消しやマヒ消し、あとは……眠気防止などだと思います」

 

「なくてはならない存在じゃないか!」

 

魔法は魔力量によるが、調合は俺のを見る限りではなかった。回復系というより戦闘系だったのかもしれない。なのに鑑定士ってって思うが、それは伏せよう。

 

「サポートだとなんだ?」

 

「サポートは主にハルさんの身の回りのお世話だと思います。もちろん、自分でやらせるためのサポートですが、それ以外もあるんじゃないかと思います。例えばメンタルケアとかでしょうか」

 

なるほどな。それは嬉しい話じゃないか

 

ちょっと想像してしまったが大人の方を想像した瞬間、顔を横に振った。大人のクロは考えたらいけない。変なスイッチ入りそうになるというかよくわからない扉を開きそうになった。

 

俺は違う、俺は違う、俺は違う!!

 

クロは俺を見てキョトンとしていたが、俺は深呼吸をしてからまたクロのプロフィールを見た。次に見たのは俺と同じ手順で技能だ。

 

「癒しMAX……は、ヤベーな…。さすがといえばさすがだけどさ…。あとは情報収集?」

 

情報収集ってことは聞き込みってことか??

 

「この部分だけ切り取ると、聞き込みや張り込みも入るかもです。張り込みは止められそうですけど、聞き込みは街の人にってことだと思います。ハルさんの聞にくいことや言いづらいことを、ボクが言うとかでしょうか。特に聞かない方がいいってモノは空気を読んで聞かないようにします。ハルさんが聞いて欲しいと言うことだけ聞きます。その方が安心でしょ?」

 

「そ、そうだな!そうしてくれ」

 

そこら辺はちゃんとしてて良かった…、俺だけだったりクロがやんちゃだと色々問題が起きてたかもだし…

 

他も見てみる。

 

「ん??変身??」

 

何かに変身するのか??

 

「あっ、多分これは動物を例えるなら狐や狸とか『変化』するじゃないですか。それだと思います。ボクの場合は3つあります。1つは今の姿、2つ目は大人の姿、3つ目は猫の姿です。こんな感じに!」

 

『ボンッ』という音と共に猫の姿になったクロ。

 

「こんな感じで変われるってことだと思います!」

 

「猫が喋った!?」

 

「何を言ってるんですか!猫獣人なんだから当たり前ですし、ハルさんは変化できなくてもボクの言葉は分かりますよ!それともにゃーにゃー言ってた方が良いですか?それならボクは二度と話しません!」

 

「あっ、違うクロ!そういう事じゃなくてな!?ただびっくりしただけだから!!クロの動物姿は初めてみるからびっくりしてるんだ!!嫌じゃないから、話さないとか言わないでくれよ……っ」

 

今にも泣きそうな俺にそっぽ向いてたクロが人間の10歳に戻って、ため息を吐きながら頭を撫でた。

 

俺、スゲー今子供っぽくなってんな…

 

体は子供なので間違ってないが、俺は15歳。クロは10歳だ。そう考えると俺の方が兄なのにこの状況。

 

情けねぇな……

 

気を取り直してまだ技能に何かあるか見てみる。『暗視』と書かれた名前があった。

 

これはつまり、夜の暗い場所とかを見る時に周りがよく見えるとかいうアレのことだよな??

 

その下には『敏感性聴覚』と書かれていた。それはよく分からなかったので、タップすると。

 

『敏感性聴覚とは、過敏反応に該当するもの。人の声や動物の鳴き声に関わらず小さな音も金属音も大きな音となると、過敏反応してしまう技能。他にもその影響で触られると体が麻痺したかのように、動けなくなる危険性がある。耳を隠すものがあるとオススメ』

 

神様、なんつーもんをクロに与えてやがる…

 

これも『なんでも出来る』呪いか何かと思った。ある意味弱点と言えば弱点だ。これをされると再起不能になり動けなくなって、さらには戦闘不能にも成りかねないというものだ。クロには何か似合う頭巾みたいなのをつけさせた方がいいかもしれない。

 

気にならないような頭巾なんてあんのか…??

 

まあ、この世界にないなら作ってやればいい。クロのためなら自分のことよりもやろうとする俺なら。自分に対しては無頓着だが、俺の大切なクロになら疎かになんて絶対にしない自信がある。

 

もしこの世界にないなら裁縫頑張ってみるか。一応家事全般できるってあるし

 

俺の想像通りのものが出来ればいいが、とりあえず他にめぼしいものが無いようなのでスキルを見た。

 

「回復系魔法は一通りあるな…。上位回復系もある。職業なだけあるな。それ以外は調合の方がわかりやすいかもしれん…」

 

ポイズンクリアって、つまり毒消しって意味だよな?普通にカタカナじゃなくて日本語でも良くね?分かりづらいし…、麻痺なんてマヒクリーンとか…。いやいや、意味が違ってくるぞ?さては、にわか神様だな…。異世界についてあんまり詳しくないってやつ!……あんまり言うと良くないこと起きそうだから止めよう…

 

それから『子守唄』というスキルがあった。異世界モノのどのラノベにもなかったスキル。これをタップすると、他と同じように説明書きが出た。

 

『子守唄とは、敵全体への眠気攻撃。戦闘時で味方への効果は無効。条件が合うと味方にも効果が発揮するので戦闘時には注意。戦闘以外の使い道は味方へのメンタルケアの際、癒し効果がある』

 

と書かれていた。歌の種類は2つあった。1つは戦闘、もう1つは癒しの歌だ。

 

【死の眠り-デス・スリープ-】

【癒しの眠り-ヒール・スリープ-】

 

とんでもなく中二臭い名前。というかここだけ中二病チックだ。でもわかりやすい。

 

少しは要素をとか思ったのかな、神様は…

 

俺の見ていた異世界モノもだいたいが中二病セリフ待ったナシだから、耐性はある。どちらかと言うとそれを読んでたしそっちの方が見慣れてる。

 

漢字とか当て字とかたくさん並べられてるけど、まんまの意味とかよくあったし。今更って感じだしな

 

ちょっと親近感を湧きつつ、他にクロのスキルや技能にめぼしいものが見当たらなかったので終わった。時間がわからないのは少し不便ではあるが仕方ない。

 

「なあ、クロ」

 

「はい、ハルさん」

 

俺は次にクロに俺からの希望を伝えた。それは。

 

「敬語じゃなくてタメ口でいいぞ?なんかむず痒い…」

 

それは話し方の提案だ。俺としては今の所、歳とか身長とかを考えると俺の方が上だが、大人のクロはそうじゃない。俺は変わらないのでどう足掻いても兄にはなれない。そんな状態で敬語にされると変な感じがする。せめて区別だけはつけて欲しいのが本音だ。

 

「でも、ボクはずっとハルさんにタメ口で考えたことないですよ?」

 

「それはそうかもしれんが、俺がなんだか嫌なんだ…。それに、仮に今の姿では敬語でいたいならそれは許す。歳や身長的に俺の方が上だし弟として見ることが出来る。まあ、百歩譲ってって話だ…。だが、大人のクロはどうだ?年上でも敬語を使うやつはいるかもしれんが、俺の方が逆に敬語にならねぇと示しがつかん。タメ口ならそういう兄弟関係なんだと変に思われなくて済む。なんだかお前が執事か何かになったみたいで、ちょっと………寂しいから………」

 

言い訳では無いが、だんだん恥ずかしくなったのか最後は声が小さくなりボソッと話した。クロは俺を見て折れてくれたのかため息とともに渋々と言った感じで了承してくれた。それから頭を撫でられた。

 

クロはしっかりしてるからな…。俺の方が子供っぽくなっちまうのもしかたねぇんだけど…

 

でも関係的には本当だ。俺は15歳だ。クロは今の姿なら10歳でも通用するが、大人のクロは22歳。つまり身長も年齢もクロの方が上。兄的存在なのに敬語だと、いろいろ語弊を産む。目立ちたくないって理由じゃないが、違う意味で注目を浴びそうで困る。現世と違ってここでは法律とか関係ないかもだが、俺はそこで生きてきた人間。人の目は気になってしまうものだ。

 

なにより、奴隷みたいでなんか嫌だ…

 

「猫の姿と今の姿は敬語でいい。が、大人のクロの時だけタメ口な?違和感しかねぇから…」

 

「………、わかったよ、ハルさん…。まだ慣れないけど、少しずつ直すね?」

 

「おう!ありがとな、クロ!」

 

俺は嬉しそうにクロを見た。クロの目から俺はどう写っているのか、なんだかクロの顔が赤い。

 

「クロ?どうした?熱か??」

 

「ん、ううん!違うよ!………ハルさん、可愛い……」

 

最後の方は小さくて聞き取れなかった。その辺は技能としてだと、クロの方が長けている。聞こえなかったことを聞いても教えてはくれないだろう。

 

俺のスキルとかの詳しくは武器を持った時みたいだし、その辺はどこかの街に行かねぇと…

 

そういえばと、あたりを見ると夕方になっていた。初歩中の初歩を俺は忘れていた。ここは異世界で現世じゃない、飯が自動的に出てくるような場所じゃない。というか宿屋とかはありえるかもしれないが、ここは草原。街ですらないわけだ。今晩の飯がない。携帯食か何かないか『アイテム』と頭の中で言う。

 

本当に頭の中で言う機能があるのは楽だよな…

 

とりあえず神様から多分、一通りもらっているであろうと見たら武器や防具もその中に入っていた。俺は思わずツッコミをしそうになったが、とりあえず心を沈める。武器や防具のことは今飯のことを考えてる俺としては、後回し。その中には『料理』は入ってなかった。が、代わりに材料が入っていた。運良くフライパンとか火を使わない調理器具やらがあったので、それを使って作ることにした。

 

えっと……、パンとリンゴと魚に肉……色々入ってるけど、その中であって良かったって思うのはこの世界でもジャムがあることだな…

 

ジャムならパンに付けて食べれる。たくさんの飯は無くても腹には溜まる。それをクロの分も作ってやる。クロにとっては物珍しいかもしれないが、人間になった以上は食べて慣れてもらう。

 

ぬいぐるみだったら死なないが、弱肉強食の世界だからな。慣れてもらわんといかんな

 

クロには焼くことが出来ないので、普通にイチゴジャムを塗って渡した。自分のも焼けないので、ブルーベリージャムを塗った。まずクロの反応を見た。クロは初めて見る物にキョトンとしていた。恐る恐る食べたクロは目を丸くして顔を赤くしながら。

 

「美味しい!」

 

と言ってくれた。焼いた方がもっと美味しいがここは草原。焼くと火事になるので焼く事が出来ないが、これでも食べれる。反応を見た所で俺も食べる。

 

「うん、いつも食べてる味だな」

 

「ハルさんはいつも、こんな美味しいものを食べているの?ボクは見てるだけだったし、そうなのかな?って…」

 

「そうだな、人間なら誰でも食べてる料理だよ」

 

「そっか。じゃあボクは今、ハルさんから初めてを体験してるだね!」

 

『初めて』と聞くとなんだか嬉しい。やましいことではないが、俺の大切なクロからの言葉は、他の仲間がいてもクロに勝るものはないと思う。あとりんごを剥いて木の皿に入れてあげて、クロの前に差し出す。

 

「これは、りんご?」

 

「そうだよ、よく俺が食べてることあるだろ?シャリシャリしてて美味しいんだ!」

 

クロが言われた通りパクッと一口。甘い所に当たったのか頬を持ち上げて美味しそうに食べる。なんだかホッコリする。

 

「ごちそうさま。よし、それ食べたらテントを張ろう。夜寝る時のためにやっておくとよく眠れるからな。俺はテントを作り始めてるから食べ終えたら手伝ってくれ」

 

「うん!わかった!」

 

「無理に詰め込むなよ?喉に詰まるからな」

 

「はーい」

 

俺は食べ終えたものを『アイテム』にしまい、代わりにテントグッズを出した。ランプのようなものもあったので、それも一緒に置くと表示された。

 

「魔除けランプ?」

 

魔除けランプってことは、モンスターとかを来させないようにするためのヤツ、ってことだよな??

 

とりあえずテントを作りながら、魔除けランプの点け方を見た。そこにクロも来たのでテントの作り方を指示しながら、俺はランプの方を見た。

 

えっと?これは火を使うのか…。うーん、この風だと消されそうだよな…。まあ、なんとか頑張るか…

 

『アイテム』からマッチを取り出しラップの中に火を灯して、カポッと蓋を占める。それを3つ作った。風に煽られて火が消えることはなかったので、スムーズに出来た。あとはこれをテントの三方向に置くだけ。

 

「ハルさん、テント出来たよ!」

 

「おっ、グッドタイミングだな!それじゃあこの1個をこのワイヤーと一緒にあそこの端に付けて欲しい」

 

「わかった!」

 

クロに1個持たせて、俺はクロと同じようにワイヤーを使って固定する。全部付け終えてから寝袋も『アイテム』から出してテントの中に入れる。それからクロの食べた物を片付けて、テントの中に入った。

 

「とりあえず、魔除けランプの説明書きを読むか」

 

「何かあるの?」

 

「いや、どのくらい使えるもんなのかわからんしな。調べておくことは必要だろ?何があるかわからないしな。どのくらいの範囲まで可能なのかも知っておいていいと思うし。俺達を守る役目があるみたいだしな」

 

「なるほど。あっ、でも…」

 

「うん?どうした?」

 

「盗られたりしないのかな…って」

 

「その辺も見とこう」

 

「うん!」

 

俺達は『アイテム』の魔除けランプについての説明書きを見た。そこに書いてあったのは。

 

『魔除けランプとは、自分に対して魔になるものから回避するために使うもの。守る対象である人間に、敵と思われる魔物から守る役割を持つランプ。通常のランプは明かりを灯すもので、魔除けはない。魔除けという付与を行うと、直径10m範囲には入ってこない。また、盗賊や海賊と言った人間を襲う者からも守る』

 

付与…って普通の人間でもできるのか??

 

付与だけを鑑定すると。

 

『付与とは、鍛冶屋等の武器防具を売る者になら備わってる者もいるが、それは神の加護で与えられている者以外は使えない。『神の加護』を持つ者のみ、使えるエンチャント技能』

 

神ってあの神様だよな?スゲーな…

 

そういえば、俺の所にもなんかそれらしいのあったような、なかったような……

 

なんとなく異世界モノを読んでたりすると、見落とすことがある。俺はもう一度自分の『ステータス』を見て、自分の技能をチェックする。そこには『神の加護』と『鑑定眼』、『偽装』というものがあった。

 

『神の加護』はさっきのエンチャント系以外に何かあるのか?

 

『神の加護とは、付与魔法のこと。完全防御付与や、完全治癒付与、全状態異常完全遮断etc.....。等の該当に当てはまる。他にも時と状況と場所と敵によっては、全ての攻撃を無効にすることもできる』

 

な、なんとチートな技能だったんだ!!なんとなくよくある『神の加護』かなって思ったら、ちょっと違ったチートだった!!

 

次に『鑑定眼』を見た。

 

『鑑定眼とは、鑑定士でも上位の者にしか持ち合わせれない技能。神に与えられた者のみが持ちうる技能。通常の鑑定士は与えられない技能。通常の鑑定士と上位鑑定士では、物の価値観が完全に異なる。見極める能力が優れた眼』

 

うわ…、これもヤバい……

 

最後に『偽装』を見た。

 

『偽装とは、主に自分の身分を偽ること。体格や年齢、性別、職業等の相手に対して適した身分に偽ることで、自分の身を守ることが出来る。またこの技能を使っても、元に戻るので何度でも使える』

 

おぉ、これはこれで使えそう…!

 

俺の見た目的にも『俺』ではなく、『僕』が適任だと思う。神様がショタコンだってことが言いたいなんて思ってないが、そういう体格だから『俺』と使うのはなんだか変な感じだ。

 

俺自身、身の丈に合ってない体格してるにも関わらず一人称が変だと違和感を感じるからな

 

クロはすでに疲れて眠っている。朝が来たらまたクロに相談しよう。報連相は大事だから。

 

「おやすみ、クロ」

 

「むにゃ……おやしゅみ、……ハルしゃん……」

 

可愛い、尊い。そう思いながらクロをギュッと抱きしめて俺も眠った。今日一日なにかしてた訳じゃないが、色々ありすぎて頭が疲れたのだ。休息しないと頭がパンクしそうだったのもある。

 

今夜はいい夢を見れますように……





文の長さは偏ると思います。
悪しからず<(_ _)>


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【2日目、街に向かうがそこには…】

 

 

 

夢見ることなく朝を迎えた。俺は起き上がり背を伸ばした。なんだかスッキリ眠れたし、スッキリ起きれた。これもクロの抱き枕があったおかげかもしれない。特別な存在がいるだけでポカポカするからだ。

 

クロは、……まだ寝てるな。起こすのも悪いし朝食の用意をしよう

 

音を立てないようにソッと起きて、『アイテム』からまた火を使わない食材を取り出した。

 

とは言っても昨日食べたパンのヤツだけど…

 

俺としてはもう少し何か手を加えたい。しかし、火や電気で使うことが多いので充実してから考えることにした。やれることと言えば、昨日とはちょっと違うジャムで塗る。それをクッキーのチョコとプレーンのように斜めに塗るという。

 

これもまた物によって相性がいいんだよな♪

 

俺のは昨日のブルーベリージャムと今日はマーマレードを組み合わせた。クロには昨日のイチゴジャムと今日はブルーベリージャムを組み合わせる。美味しいって言ってもらえるかはわからないが、これも焼くと美味い味が出る。食べさせれないのが歯がゆい。

 

まあ、今日は支度したら街に向かってみよう。ここにずっと居ても不便なだけだからな…

 

とりあえずクロが起きてくるまで、朝食の用意を済ませ『地図』を見る。『地図』と頭の中で指示すると、ババンッと目の前に表示された。非常に近い。

 

もう少し見やすくしてくれ…

 

そう思うと少し見やすい位置にススッと動いた。神様の悪戯に違いないと思いつつ、ここから近い街を探した。ここからだとずっと木々が生い茂ってて見えないので、範囲を広げてみた。

 

この辺りには街がないけど、村はあるみたいだな

 

漫画みたいにはいかないようだ。漫画なら少し歩くと街が見える。この世界は現実そのもので、そう簡単には思うように進まない。

 

しょうがない、街に行くための経由で村に寄ってそこから近い街を紹介してもらおう

 

という計画を立てた所で、クロが起きてきた。寝起きなのか、目がしょぼしょぼしてて可愛い。欠伸をしながら俺の横にちょこんと座った。

 

尊き…

 

俺はクロの目の前に、用意した飯を置いた。クロのお腹が鳴ったの合図に、クロはパンを掴んでパクッと食べた。目を見開きはむはむ食べ始めた。いい食いっぷりだなと思いつつ俺も、手を合わせて。

 

「いただきます」

 

と言った。クロはそれを聞いてハッとしたのか、パンを置いて。

 

「いたらきましゅ」

 

口の中にパンが入っていたので、呂律が回らず噛んだような言い方で挨拶してまた再開。俺も言ってからパクッと食べて、美味しく頂いた。しばらくしてデザートも食べた所で、今後の方針をクロと相談した。

 

「クロ」

 

「何?ハルさん」

 

「これから街に向かおうと思うんだけど」

 

「街?」

 

「あぁ。でもこの辺りに街が見当たらないから、近くに村があるんだ。だからそこを経由して街に向かおうと思う。そこで、その村に行くのはいいんだが俺の体格と言葉遣いが一致しないから少し偽装しようと思うんだけど、どうかと思ってな?」

 

「街に行くのはいい提案だと思う。でもなんで偽装?ハルさんはそのままでもいいと思うよ?」

 

まあ、そうなんだけどな

 

俺のこだわりによるものがあるからだが、そこは伏せて話を進める。

 

「生きてきた現世の俺なら、違和感なくこのままでもいいって思ってた。だがここに来て童顔でお前と同じくらいなのに、声が低くて一人称が俺って違和感しかしねぇから、見合ったもんが一番変に思われなくて済む。その方がギャップ好きな奴により、偏見に持つ人間の方が多い所なら共通な声の方が楽だろ?まあ、慣れないタメ口をしてもらってるからこれにも慣れろとは言わないが、その方が助かる」

 

クロはうーんと言いながら考えた。それでもやっぱり違和感が残るようで、首をかしげていた。俺はクロの言葉を待った。

 

「考えすぎってことはないかな??そこまで考えなくても気にする人はいないと思うよ??まず1回、村に行った時にやってみてそのままでやってみて、違和感を感じられた時にやったらスムーズじゃないかな?」

 

確かにクロの意見も理解出来る。俺の焦りもあったかもしれない。1度そのやり方をしてから考えてもいいかもしれない。『偽装』は何もその時にする必要はないわけで、俺はクロの言葉に賛成した。

 

「なら、とりあえず村に向かってみよう。地図を見てみたが名前が載ってないところだったから、聞かなきゃわからないが言って見ればわかる」

 

「うん、じゃあ準備しよう!」

 

とりあえずこのままの服装だと、色々と変に思われるのでクロと同じように服装を変えようと思った。『装備』と言うと、多分服装やらも変えれる画面だと思うが見る限りコスプレにしか見えない。とりあえず、無難にクロと同じように村人っぽい服装をした。職業系は後ででも変えられると思って、旅人のようにマントを付けた。そこにあの魔除けランプを装備する。クロにもマントを付けてあげて、旅人に見えるようにした。いかにもって感じでなんだかワクワクする。

 

一応、これで安心して村にも行けるし街にも行ける。準備万端だな!

 

『地図』を見ながら村がある方に足を進ませた。俺たちの印は緑色の丸。村は資格で白、ここら辺にモンスターは生息してないみたいだが、モンスターは赤らしい。しかし、その赤色の丸はレベル的には多分上級なんじゃないかと思う。俺の予想はだが。

 

その辺も聞かないとわからんよなぁ…

 

しばらく地図上の道案内を見ながら歩いていると、馬車が1台止まっていた。しかし何やら大騒ぎをしているみたいだった。俺達はとりあえず茂みの中に隠れながら、ゆっくり近づいた。回り道するように。

 

「………!!」

 

「………!?」

 

まだ遠いのかもう少し近くに行くとクロに止められた。これくらいの近くならクロの耳に届くみたいだ。俺の耳にはまだ会話すら聞こえないが。やいのやいの騒いでるような感じのだけはわかるくらい微小。

 

「なんだか、揉めてるみたい…。それに盗賊っぽい人達が村人を襲ってるみたいだよ?」

 

「ここからだと狙うにはもう少し近づかないと難しいか…。何か『アイテム』にあるかな??」

 

『アイテム』を一通り見て、めぼしいものを発見した。『投擲』に使えそうな物だ。これは忍者かアサシンなんかが持つスキル。それを使うことにした。

 

これは多分、待ちでないと無さそうなヤツだけど1本使ってみるか

 

俺はダーツでやるあの矢を使って、デカブツを狙い定めて思いっきり投げた。すると思いのほか早くてのを貫いた。俺はとりあえずそこにいる何人かをダーツの矢で倒していき、クロと近くまで行った。グロテスクな状態だったので、クロの目を隠しながら馬車の人に近づいた。するとビクビク震えてる村人は俺を見て、助けて欲しいのか服を掴まれた。

 

「と、とりあえずここから離れましょう?何があるかわかりませんし、ね?」

 

初対面なのでとりあえず敬語で話した。すると馬車の村人は俺達を乗せて、見渡しのいい所まで走ってくれた。話すことが出来ないのは多分、目の前で死んだ盗賊を見てしまったからかもしれない。

 

まあ、そりゃあそうだよな…

 

俺でも現実世界で見たら卒倒する。異世界だからこんなことは慣れなきゃいけないことだから大丈夫だが、クロにはアレは見せられないほどだった。俺は加減をしてない自覚があるので、自業自得である。

 

ああいう盗賊に宝とか持ってそうだけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない

 

今ここを離れたらこの村人が倒れそうだったから。しばらくして林を抜けるとだだっ広い所に来た。やっと村人も落ち着いたのか話し出した。

 

「……オラは、この近くの村に住む住民だ。さっきの人らに色々持っていかれそうになったり、殴られそうになった所を助けられただよ…。中には貴重なモンまであって、それは絶対に取られたくなかっただよ。ありがてぇ、おめえさんら」

 

スゲーなまってる…。わからない言い方はしてないから、会話になるけど…

 

とりあえずクロの目から手を離し、クロが慣れるまで話を聞くことにした。村から街へ行くための行き方や、盗賊に何を取られそうだったのか等、教えて貰った。村人の言葉はこうだった。

 

『街っていうか、王国には通行証が必要で持ってない者は入れないので、近くの村に通行証を作ってもらう必要がある』

 

それから。

 

『盗賊に盗られそうになったのは、貴重な世界で1つしかないアイテム収納バックや、鉱石、本、食材等が荷台に入れていた』

 

との事だった。俺が試しにそのアイテム収納バックを貰えないかと言うと、その村人は助けてもらった恩返しに渡そうと思ってたと言ってくれた。

 

なんだか、断れないイベント話の流れだがあり御託頂いた。それをクロに渡す。

 

「これはクロが使いな」

 

「いいの?」

 

「あぁ、俺は俺で持ってるからお前はお前で持ってた方がいい」

 

「うん、ありがとう!」

 

そう言ってバックをクロの肩にかけてあげた。するとさっきまで大きさから、クロの体格に合わせた大きさに変わった。俺がビックリしてると、村人がドヤ顔して教えてくれた。

 

初めて見るわけじゃないが、目の前で見ると圧巻だ…

 

「それはな!この世にたった一人しかおらん大賢者様がお作りになられた魔法のカバンだ!なんでも入って何個でも収納できて、…とにかく収納出来る代物だ!普通のカバンなら大きさによってでもそんなに入らんが、そのカバンはたとえ魔物でも入っちまうと豪語するほどでな!魔物を入れるヤツなんて見たことたねぇが、俗説によるとそういうことをしてた時もあるって話だ!それが運良くあんたらに回ってきたってことだな、大賢者様に感謝せんとな!」

 

これは思わぬ収穫だ。助けた恩とダメ元で聞いた甲斐があった。貰えるというお約束付きなところは本当にいいところだも思う。

 

現実世界じゃありえないしな

 

しばらくして村に着いた。村の検問所で荷台に乗ってた俺達は、事情を話して中に入れてもらった。それから1番最初に、通行証を作ってもらうために受付場所に案内してもらった。ギルド云々は王国以外に、大きい村とかならあったりするらしい。重要視されるギルドのみ、王国で管理されてるらしい。

 

傭兵系は村で充分なのかもな…

 

案内してもらったところは『冒険者ギルド』とまんまだった。中に入ると人は少ないがそれでも、冒険者と名乗れる程にはいた。みんな各々のことをしていた。俺達は真っ直ぐに向かい受付のお姉さんに声をかけた。もちろん、敬語で。

 

敬語って便利だよなぁ…

 

「あのーすみません。通行証が欲しいんですけど、どうしたらいいか教えてくれませんか?」

 

そう言うと親切に教えてくれた。

 

「通行証ですね?通行証というのは冒険ギルドや商人ギルド、料理ギルド、薬師ギルド等のご自分の職業にあった所で行っております。冒険者だとしても、職業で通行証が違いますので注意が必要なんです。お二方は見た所、旅人のようですがよろしければ教えていだけませんか?」

 

そんなにあるのか、それをここで受け持ってるってことか??それとも俺だけしかできないのか…??

 

「俺は冒険者です。主に戦闘特化した感じです。こっちは」

 

「えっと、ボクも冒険者です。主に回復魔法や調合ができます」

 

クロがそう言うと今までワイワイ話してた周りが、一斉に静まり返った。どこを聞いてかは、ここの代表として受付のお姉さんが教えてくれた。

 

まあ、俺のはありふれてるからな…

 

「調合ができるですか!?」

 

「えっと……」

 

「チート系はなしで話してやれ」

 

小声でクロに伝えると頷いてから説明した。

 

「魔法でも使えたりはするんですが、そっちはヒールとかの回復のみで。調合は毒消しだったり睡眠防止、麻痺直し………えっとつまり、じょ、状態異常系を治す薬の調合ができます」

 

考えながら質問に答えるクロ。ちゃんと説明ができたクロの頭を撫でると、はにかんだ顔で嬉しそうに撫でられた。すると受付のお姉さんが先走るように話し出した。

 

「それなら薬師ギルドがいいと思います。冒険者として動くことが出来なくなってしまいますが、他のパーティーの方をサポートすることも出来ますし、なんでしたらここのギルド専用回復調合師になってくれても……」

 

俺はそれを聞いて。

 

「あの」

 

「あ、はい」

 

俺が声をかけるとあっさりした声で返した。クロに話しかけさせてみた。

 

「あ、あの…」

 

「はい!ないでしょうか!」

 

クロが言うと俺の時と打って変わって元気な声だ。つまり『調合』はそれだけこの世界では、重要視されていることになる。さらに、話しかけたのはこっちなのに何かに気づいたのかまた話し出した。

 

「あ!!あなたの持ってるそれは、かの大賢者様がお作りになられたと言われる魔法のバック、通称アイテム収納バックではありませんか!!調合をする方にはあって損はないと言われる、世界で一つしかないと言われる代物。国宝級のものじゃないですか!!これをどこで!?」

 

これはクロに聞いていた。クロは俺を見て俺は頷いた。

 

「えっと、ボクがしたわけじゃないことを予め言っておきますが、馬車を使ってた村人さんを何人かの盗賊さん達が襲ってたので、倒した時にそのお礼としてもらいました」

 

「そうなんですね!素晴らしいです!それで、誰が倒したのですか?」

 

「えっと、ボクの隣にいるハルさんです」

 

「ハルさん??」

 

前のめりに話してた受付のお姉さんは『ハルさん』という俺の名前を聞いた瞬間、キョロキョロし始めた。周りは頭を振って、そこに居るだろと指を刺した。受付のお姉さんはなんだか期待外れという顔で言った。

 

「そう……なんですね。すごいですね。はい。まあでも、そんな所は重要じゃないのでいいです。そんなことよりも調合もできて、魔法のバックを持ってる方の方が重要視ですよ!素晴らしいです!!ようこそ、冒険者ギルドへ!!」

 

あくまで俺は眼中に無い受付のお姉さん。最初こそはいい人かと思ったが、検討ハズレのようだ。俺は。

 

「クロ、お前だけでもここにとうろ」

 

「お姉さん」

 

「あ、はい!なんでしょう?」

 

俺の言葉を遮ったクロ。受付のお姉さんは呼ばれて返事をした、すごく元気に。

 

「ボクを褒めてくれるのは嬉しいと思ってます。それはありがとうございます。だけど、一つお姉さんに対して思うことがあります」

 

「はい?」

 

受付のお姉さんはキョトンとした顔でクロを見る。俺は少しクロが怖いと感じた。悪寒というか、これから何を言うのかハラハラしていると。

 

「お姉さん。ボクは回復系のサポートしかできることはありません。それに調合するのだって、ただ作るだけじゃ意味がありません。目利きだって必要です。ボクには調合が出来ても目利きまでの技能は持ってません。その品が良いか悪いかがわからないんです。でもボクの隣にいるハルさんにはそれができます。ハルさん無しではボクは無力なんです。なので、ボクを褒めるより村人さんを助けたことや盗賊を倒したハルさんを褒めるべきです。魔法のバックが最高級で国宝品だっていうのは間違いないんでしょうけど。ボクのパーティーでありパートナーであり相棒は、ハルさんだけなんです。ハルさん以外と組む気はありませんし、ここの専属師になる気もありません。ボクはあくまで、ハルさんと共に行く冒険者です。それを履き違えないでくれますか?それと、人を見た目で判断する人は軽蔑します。ここに入れば本当に利益になるんでしょうけど、お姉さんがそういう人ならボクはここで登録することを拒否します。あと、ボク達の身長はあまり大差ないですけどハルさんの方が上ですし歳も上です。こんな体格で疑うのも無理はありませんが。もちろん、お姉さんよりは下ですけどここで通行証を貰うよりも他に行った方がいいと判断しました。それと、ここのギルドの品が損なう態度は改めた方が良いと、アドバイスしておきます。それでは、これで。さようなら」

 

クロが受付のお姉さんに向かってそう言いきって、俺の手を引いてギルドを立ち去った。ギルド内にいる人間らはポカーンとした顔で、立ち尽くしてたがしばらくしてギャーギャーと騒ぎ出した。そんなことを知らない俺達はさっきの馬車に乗ってた村人に会った。

 

「おんや?おめぇさんら通行証は貰えたんか?」

 

「いえ、貰いませんでした」

 

「貰わんと王国には入れんぞ??」

 

「ここのギルドは品定めするような所みたいで、あなたを守ってくれたハルさんのことを褒めず、何もしてないボクやこのバックに対してのみだったんです…」

 

「まあ、戦う人なんどたーくさんおるでなー。おめぇさん方の場合だと重宝されちまうのは、もしかしたらそのバックを持ってるおめぇさんかもしれねぇ…」

 

「そうだったですか…。でもこんな体格でこんな歳の人が冒険者なら、普通は魔物でも盗賊でも怖くて動けないと思います。それに比べて、ハルさんはまだ15歳です。もしかしたら、ここの人達の大人の基準は違うかもしれないですが、そんな人でもやっぱり怖いって思えば子供も関係ない。ボクは何もしてません。まだやったことだってない。なのに、そんな風に言われても複雑なだけです…」

 

クロはさっき起きたことを話した。不服そうな顔をしながらあったことだけを話すと、村人さんも驚いていた。やはり『調合』はこの世界での『チート』なのかもしれない。

 

おい、神様!クロにこんな顔をさせるとはなんて罪な神だ!!そこんとこ、ちゃんと教えてからここに連れて行け!!まったくっ!!

 

俺は自分のことよりクロのことで腹が立っていた。

 

俺も見せた方がいいんじゃ?いやでも、奴隷になったらクロと離れ離れとか考えたくない…。どうしたらいいんだぁっ!!

 

クロは俺に、俺はクロにそれを見て村人さんは大笑いしてきた。俺とクロは大笑いする村人を見て卑下するように見た。いきなり笑うからってのもある。

 

「悪かった、悪かっただ!いやぁ、おめえさんらの熱い絆はそんじょそこらの熟年夫婦よりも分厚い絆を持ってんだなぁって思ってよ!感心してただけだ!」

 

「だからって笑うことは無いと思いますが?」

 

「それはもう悪かったって!そだ!オラの故郷もここと同じくらいの大きさなんだが、馬車だと3Kmはかかるだ。それでもええなら、乗せてくど?」

 

「どうする?ハルさん」

 

まあここはダメなとこだし、印象悪い所には居たくないし出るか

 

「じゃあお願いします。乗せてく条件に護衛もしますよ」

 

「ありがてぇ、ありがてぇ!んだら、もう用は済んだからけぇるかな。あそこをまた通らな行かんと思ってたし、襲われたらたまったもんじゃねぇ。護衛がいてくれるなら、賃金はいらねぇだ!よろしく頼んます」

 

そう言って俺達は馬車の荷台の中に入った。そして馬車が出た所で、俺達は荷台の裾を開けるとさっきの受付のお姉さんと多分ギルドマスターと思われるおじさんが俺達の名前を呼んでいた。俺達はそれを無視して、出ようとしたが村人の馬車がとめられた。

 

「ここで、魔法のバックと戦闘要員を見なかったか?探してるんだが…」

 

村人が後ろを振り返り荷台の方を見た。俺達を探すフリをしながら理由を聞いた。

 

「なんで、その人達を探してるですか?」

 

なまりっぽい敬語で笑いそうになる。それを必死に耐える。クロは俺に釣られて笑いそうになっている。

 

「先程の非礼をしようと思いまして…。後で冒険者の方々に聞いたら15歳で狩りをするのは、親が認めた子にしか与えられないらしく、狩りをしてもいい歳は20歳になるまではしてはいけないと言ってました。それなのに15歳で、そんなことが出来るのはこの世界探してもいないとのことで、私がもう一人の子にしか目もくれなかったことをギルドマスター様に怒られてここまで来た次第です…。もしまだいるのでしたら、謝罪だけでもさせて貰えたらと思いここに来ました。もう、出てしまわれてたらもし会えた時に伝えといてもらえないかと……」

 

そう受付のお姉さんは言った。村人は考えるように腕を組みながら、時間を稼ぐ。俺とクロは頷き合い、荷台から出た。それから何も無かったように。

 

「俺たちに何か用ですか?」

 

と言った。村人は決断するまで待つことにしたみたいだった。しかしここにいても邪魔なだけなので、村の外で待ってもらうことになった。受付のお姉さんは深々とお辞儀をし、謝罪した。90度よりも深くだった。ギルドマスターもお姉さんよりは浅いが謝った。

 

「申し訳ない…、コイツはまだ入ってきたばかりの新人だ。そして色々と分かってない箱入れ娘だ。仕事がないかと入ってきたんでな、受付係を担当になってもらってたんだがこんなことになるとは思わなかった…」

 

「この人が入って何日目ですか?」

 

「まだ3ヶ月だ…」

 

3ヶ月はまだ短いのかもしれない。働いて3年とかならまだ、スタート地点かなとかちょっと自信ついた頃かなとか思えるが、入りたてホヤホヤな状態なら短すぎる。そしてこの印象の悪さだ。

 

まあ、俺のは本当に戦闘系だしな。見た目旅人だし、剣とか持ってないしなぁ…。あぁでも、アイテムの中にはちゃんとそれ一式は持ってたか

 

使ってないだけであるにはある。だが、他の冒険者のように腰につけてたりはしてない。となればそういう態度になってもおかしくないだろう。まだ何か付けてた方が、変に思われなかったと思う。

 

俺にも反省点だな…

 

クロがギルドマスターに話しかけた。俺が頭の中で繰り広げてる気持ちの葛藤に、集中してたので代わりにクロが代理で聞いてくれた。

 

「それでボク達に何か用なんですか?ボク達はその印象の悪いギルドを出たばかりなんですが」

 

トゲのある言い方なクロ。俺もいつかこういうことした時に、クロにそう思われてしまったらと思うと怖くて仕方ない。そう思われないように、自分をちゃんと見つめなくちゃと思った。

 

「それはすまなかった…。ちゃんと適性検査もせずに印象を悪くしたことは、ちゃんと謝る。ごめんなさい…。だが、ここに立ち寄ってくれたならここで登録して欲しいのも、またこちらの願いだ…」

 

「ただ利益が欲しいだけじゃないんですか?それか奴隷のように扱ったりとか、ボクとハルさんを引き裂こうとか。ボクはさっきそういうのを受けたんですよ?それに、ハルさんはわかりませんが少なくともボクは信用していません。物珍しさで自慢げに言うのは良いですが、ボクの時とハルさんの時との反応が違うのもまた印象を悪くすることです。ろくに話も聞かないで、ずっと1人で話すような所に身を任せるのはボク自身は嫌です。ハルさんを危険に晒せたり、態度が悪い所にいてさらに印象が悪い所が見られるなら居ても後悔するだけです」

 

「うぅ…」

 

クロが俺を守るためにと言ってくれてるんだろうけど、目の前にいるのはギルドマスター。ギルドマスターはその名の通り、ギルドの最高位とも言える役職。その人を目の前に芯の通ったクロの言葉に、たじたじなギルドマスターを見て俺は、何か起きないかとヒヤヒヤしている。何となくこういう時のクロを止めてはいけないというか、止めれないというか。そう思ってしまう。そっとクロの手を繋いだ。クロがどこかに行ってしまわないように、俺の自己暗示。

 

「そこの所はどうなんですか?ボクは境遇を優越感に浸るような人間ではありません。かと言って劣等感に浸りたいのも違いますけど。ギルドマスターさんがボク達の信頼を勝ち取れる何かを示してくれたら、ここに残ります。ボクは信用できないところに長居はしたくないので、お早めに検討してください」

 

先陣を切るクロ。クロのコミュニケーション能力が凄すぎて、俺は多分口喧嘩だけで負ける気がする。

 

口喧嘩もするかはまだわからんが、そんな気がする…

 

しばらく考えていると、ギルドマスターはクロにこういう提案をしてきた。ここでできることは限られている。何を提案してくるのかと思ったら。

 

「ここのギルドは比較的に言って特殊だ。他のギルドがどういうもんかは知らないが、ここは適正によってランクが変わる。もちろん、ギルドの掟として皆Fランクから始まるんだがそれは階級なだけだ。通行証とは違う。通行証は名前と職業のみ記載される。まあ、どこでも同じだろう。しかし、それの何が特殊かというと勇者や賢者といった英雄的存在な技能スキル、あるいは職業を持ってる人のみに与えられる銀タグのペンダントがある。これは認められた人間にしか身につけることが出来ないもんだ。今回の話だとお前さんは『調合』ができると言っていたな?その適正検査を行い、本当に作れると認められたら銀タグのペンダントをやる。それは隣にいる相棒さんもしかりだ。これなら公平でかつ認められる話だと思うが?」

 

なるほど、俺の『目利き』も見れてクロの言ってることが証明されるわけだ。悪くない話だな。それに俺の力も見せれるなら、クロと同じ土俵ってもんだ!

 

ただ一つ怖いのが、それで貴族に魅入られて奴隷とかにされないかが心配。守られる保証もないというのに、そこはどうなのか。

 

「それを付けたとして」

 

クロが話し始める。俺はクロの言葉を聞きながら疑問を晴らしていく。

 

「ボク達のメリットはなんですか?デメリットも含まれるなら、嫌ですよ?ボクとハルさんを引き離すようなことにならないかも、わからないのにそれを信じろというのは今信用がない状態では無理な話ですよ?」

 

そうだそうだ!!もっと言ってやれ!!クロー!!

 

とは言えないので、動向を見てる。ギルドマスターはクロの質問にこう返した。

 

「通常の銀タグペンダントなら、貴族に目をつけられやすいし雇おうとする輩もいるだろう。それだけ重宝されてる証拠だからな。それはこの村から出れば管轄外になっちまう。そうなれば手出しは出来ない。これが銀タグペンダントを持つ最大のデメリットだ。だが、これは『通常の銀タグのペンダント』を持ってたらの話だ」

 

強調された『通常の銀タグのペンダント』と、次の言葉を聞いた俺は、目を丸くした。

 

「銀タグペンダントは上というのはない。金だとかプラチナだとかな、そういうのは鉱石でとってこない限りは作れない。銀ならこの近くでも取れる鉱石だ。通常の銀タグは鉄から作られてる。それを銀に見立てて作るから『通常』なんだ。だが、本当の銀で作られた銀タグは国宝品だ。つまり国王陛下が持つ位の高いタグなんだ。それを身につけると『通常』と同じく、目をつけられるんだがここが違う点だ。本当の銀で作った銀タグは光に当てると光るんだ。それこそ太陽に当てたら目が潰れちまう。それと、それを付けてると貴族はお前さん達に危害を加えることも奴隷みたく見下すようなこともできない。それは国王陛下を侮辱すると同じ行いになるからだ。それを身につけていれば、ここの出だって証明にもなる。ちなみに本当の銀を扱ってるのはここだけだ。ここの山にしかないからな。だから、特殊なんだ。どうだ?」

 

ハイレベルな話し合いになってきた。もうこれはクロに委ねるしかないと思ってた。なのにクロは今になって俺に相談してきた。

 

「ハルさんはどう思いますか?この話を聞いて」

 

いやいや、話を進めてたのはクロであって俺じゃねぇよ…。どうするったってスケールのデカすぎる話に、ついて行くのがやっとな俺にどうしろと?

 

そう思いつつ俺の決定で決まる流れになってるみたいなので、俺はとりあえず真面目に考えることにした。

 

うーん、まあ、本当に銀かどうか調べることは可能だし作らせるのか、もう作ってるのかわかんねぇけど、鑑定して偽物ならここで作ってもらうのはやっぱり辞めよう。あ、それか作られちまってるのを身につけるよりちゃんと銀かどうかを確かめてから作らせたら正確だよな?それならとりあえず適性検査は受けて、作るにしても、信用がない所に居たくないクロの気持ちも組めるだろうし、こっちからも条件出すか!

 

俺は頭の中で考えたことをギルドマスターに伝える。条件と一緒に適性検査を受けることを言った。通行証と銀タグペンダントは一緒に渡すことと、もし俺の選んだ銀じゃないやつで作ったらここでの登録はしないという条件をギルドマスターにした。俺も俺でクロが傍にいるって思うと、心強いのか立ち向かえた。ギルドマスターは渋い顔をして考え込んだ。受付のお姉さんはとてつもない空気感の中、頭にハテナを思い浮かびつつ話を聞いていた。どこの家かは知らんが、本当に箱入り娘なんだなと思った。

 

俺もついてくのがやっとだったし、無理もねぇけど…

 

しばらくしてやっと結論が出たのか、渋々と言った表情でギルドマスターが了承した。それを村人に伝えに行った。村人が困った顔をしていると、ギルドマスターが金はいいから宿で泊まってくれと言った。すると村人はそれならと了承してくれた。村人は宿へ、俺達は再び悪品ギルドへ戻った。それからそのまま適性検査室に通された。多分そんな名前ではない。

 

俺が勝手に付けた名前だけどな

 

まず最初にクロの適性検査が始まった。ズラッと並べられた薬草たち。それらから選んで毒消しを作るという検査だった。バラバラに置かれている薬草から的確に、クロへと渡さなくてはいけない。俺は考えてるように見えて、『鑑定眼』を使った。すると上位鑑定士の力が発揮した。見ると名前はよくわからないが、薬草の名前の下に説明書きが書いてあった。毒に効く薬草と書かれたものだけを選んで、それをクロに渡した。クロはそれを見事に『調合』してみせた。

 

鑑定眼の簡単説明書きによると、『調合』は魔法の一種らしく三分クッキングみたいに、説明しながら作るらしい。それが呪文みたいになって、単語の中にその呪文が記されてできるんだって。鑑定眼の説明書きヤベーな…。でもなんで別々なんだろうな?魔法のくせに、なんか意味でもあんのか??

 

そういうことを考えてると。

 

「できました」

 

とクロの言葉が聞こえた。それをギルドマスターが大声で毒になった人を連れてくるようにと、叫んで言っていた。クロは耳を抑えながらビクビクしつつ、俺がそばにいてよしよしと頭を撫でた。怖がってるという設定にすれば、変に思われないと思って勝手にしてる。それを弱点だとわかられたら何するかわからないからだ。信用も信頼もなんもなくなるから。それからしばらくして、重症患者にクロの毒消しを試したところ、みるみるうちに熱が引いていくのを目で見てもわかる。これが『調合』の力のようだ。

 

ふぅ、なんとか成功したようだ…

 

それを見たギルドマスターが合格だと言った。クロは感謝をして、それだけだった。まだ信用してないからだと思う。猫は警戒心が強い性質だからな。そして意外と繊細でもある。次は俺の適性検査だ。

 

魔力計測器なるものを使うのか??よくある異世界シリーズ物語あるあるだが…

 

案の定、球体のような魔力計測器が出てきた。しかもあるある系だった。ギルドマスターの説明によると、この球体に手をかざして色が赤なら『火』、青なら『水』、黄色なら『雷』、緑なら『風』、茶色なら『土』、白なら『光』、紫なら『闇』と言った感じらしい。俺は言われた通り、球体に手をかざした。すると、俺もギルドマスターも目を疑った。

 

「虹……色?」

 

「虹色だと…!?」

 

俺はキョトンとし、ギルドマスターは顔をしかめて考え込む。なにか凄いことなのか、それともダメだったのか。この場合はだいたい良い方に傾くが、ギルドマスターの顔がなんだか忙しない。

 

これはダメな方なんだろうか……

 

シュンとした顔になるとクロが頭よしよししてくれた。その後ギュッと抱きしめてくれた。クロはギルドマスターをキッと睨み、それから窓の外を睨んでいた。神様がいる方向を見てるのかは知らんが、よくある猫の謎行動に似ていた。俺も猫獣人だからわかるのかもしれない。そんな動きとかしてしまいそうで恥ずかしい。(※もうしてる)

 

沈黙が怖い…

 

しばらくしてギルドマスターが受付のお姉さんを部屋から出して、受付場に戻るように指示をした。それから去ったことを確認してから話し出した。とても深刻そうな顔をしている。質問もされた。

 

「お前さんの名前は?」

 

「ハルです…」

 

「お前さんは?」

 

「クロです」

 

「ハルとクロな、わかった。まずはお前さんの適性検査は合格だ。そこから少し質問をしてもいいか?」

 

「……はい」

 

何を質問されるんだ?俺何か悪いことでもしたのか?

 

「まずハルの虹色についてだ。虹色の判定をされることは、この世界を探してもいないだろう。いて、『神クラス』の色だ。つまり神様から授かった色という事だ。譲渡してもらったのか、産まれる前かは知らん。それは人それぞれだ。昔の話では神から授かった者は、転生者と呼ばれている。お前さん達はそれの類かもしれないと、俺は睨んでいる。だからといって悪いことを企んでいると言うわけじゃない。これは保護しなくてはいけない代物だからだ。お前さん達は村々でなら希少価値とは言わない種族だ。だが、王国には人間しかいない。いてもドワーフくらいだろう。それだけ貴重な種族だ。そしてさっき奴隷にされるとかの話は本当だ。現に、王国にそういう冒険者が迎え入れられたが実際はそういうことをされてるらしい。帰ってきたやつはほとんど居ない。幸福なのか不幸なのかはわからんが、色々とされてるらしい。時に実験に使われたりもしてると聞く。あくまで噂にすぎないが、そういう扱いをされてるのは事実だそうだ。俺の村からも何人か連れていかれた。こき使ってるらしい」

 

俺のレベルって『神クラス』だったのか…。そりゃあそういう顔にもなるわな…、俺でも頭を抱える…

 

ギルドマスターの話は続く。

 

「そこでお前さん、ハルに質問だ。答えはハイかイイエで答えて欲しい」

 

「わ、わかりました…」

 

「お前さん、『鑑定眼』を持ってるだろ?」

 

「!!」

 

なんでバレた!?こ、これは正直に答えるべきなのか!?でもバレたってことは何か不自然なことを俺がしたことになる。そうなるとクロが危ない!!

 

俺がどう答えるべきなのかと考えてるとクロがギルドマスターに質問した。

 

「その質問に対して答えた場合、何がありますか?信用も信頼も得てない以上、その説明を聞く権利はありますよね?」

 

警戒心がさらに強くなったクロはギルドマスターを睨みながらそう言った。ギルドマスターはクロの顔を見てため息を吐き、説明した。

 

「この質問はあくまで俺の個人的なものによる。誰かに口外するだとか、国に報告するだとかをするためじゃない。ただハイと答えたことへの忠告をするためだ。これから旅に出たり、王国に向かうならそれなりの心構えは必要だと思ってな。これでいいか?」

 

な、なんだ…。驚かさないでくれよ…。俺が悪いことしてしまったみたいな尋問だったぞ…。疑うのは警察みたいでわかるが、引きこもりニートだった俺には無縁だったんだからな?その点理解しとけや、バカ!!

 

真面目に子供の思考で癇癪を起こす。クロは俺を落ち着かせるために頭をよしよしと撫でながら宥める。それから改めて俺は本当の答えを言う。神様は伏せとけと言っていたが、俺はこの人ならと信じたのだ。

 

「答えは、ハイ」

 

「一つ一つ説明していく。まずこの質問をした意味は、薬草を見る時の目だ。これは玄人の人間にしか見分けがつかない。この世界にも鑑定士はいる。だいたいは王国に住んでるからな、この辺の村にはいない。だが、ここまでの鑑定士はいないだろうな。探してもだ。お前さんしかいないだろう。『鑑定眼』を使うと、目が光るんだ。主に右の目に出る。お前さんの目は、晴れた日の青空のように澄んだ目だ。綺麗な鉱石系の目をしてる。こんな目の鉱石があったら取って見てみたいほどだ。さすがに人の目を取る趣味はねぇから、そこは安心しろ。普通のヤツらには見えない輝きなんだ。そこでさっき説明した、忠告の話しだ。王国には賢者とかいうやつや技能スキルが優れたやつなら、見えるであろうお前さんの目を見たら間違いなく自分の味方にしたくなって、ありとあらゆる力を使ってお前さん達を襲いに来るかもしれない。だから、右目を隠した方がいい。普段はそのままでも綺麗な目をしてるだけで、そこまで重要じゃない。問題は『鑑定眼』をしてるところを見られることだ。それが一番危ない。目を光らせないようにした方がいい。なにか装う技能があれば右目だけはした方がいいだろうな」

 

意外と親切だった。ここまで説明されるとは思わなかった。素直になってよかった気がする。『偽装』を持ってるので、それでなんとかなるだろう。

 

「次の質問だ。お前さん『魔眼』を持っているか?」

 

「魔眼??」

 

それは俺の技能内にはなかったはずだ。昨日もう一度確認した時もなかった。まさか、俺は見落としたのかと思い『ステータス』を開いた。考えながら聞くためにクロに目配せして、クロが聞く。

 

「魔眼ってどういうのなんですか?」

 

「『魔眼』は自分で自覚してる者としてない者に別れるんだが、ハルの場合は後者のようだ。稀に無意識に開眼してる技能なんだ。お前さんの左目は紫だな。普段は普通の目だろうが、魔力を使ってる時に無意識に暴走することがある。『魔眼』には薄く模様が出るんだ。禍々しいものから神秘的なものまで幅広くな。その中で模様が色濃く出てる者は、無双者と呼ばれる。ハルの目はその無双者と呼ばれるほどに濃かった。だから質問した、『魔眼』はあるかと」

 

クロが聞いてくれてる間に見ていると技能の1番下に『魔眼』があった。本当に見落としてた。というか『魔眼』以外にもたくさんなんか持ってた。スライド式とは思わなかったが、今はとりあえず『魔眼』を鑑定することにした。

 

『魔眼とは、大賢者や英雄などが稀に持ってることがある。しかし遺伝子で使えるものでは無い。転生しない限りその眼を使うことは出来ない。さらに、魔眼の特徴は模様が出ること。通常は目の色と同じく、薄く出てくる。しかし、濃く出る色は黒か白に別れる。黒い模様が出た場合、魔王に匹敵するほどの神眼。白い模様が出た場合は無双者と呼ばれる神眼』

 

わわわ、ヤベー技能じゃん!これ!!

 

次は『無双者』を鑑定。

 

『無双者とは、その名の通りなんでも出来る者。剣技、魔法、体術、忍術、弓、槍、回復etc...。戦闘力が高く治癒力も高い。高位魔法や攻囲技などが全て使える。付与もまた、神の加護以外に無双者があるとさらに強力な物が作れる。所謂、最強無敵チート技能』

 

もう最後の方、チートって言っちゃってるよ…。最強無敵まででいいじゃん…。チートって言葉使ったらもう、本当に人類滅亡するじゃん。俺を敵に回したらおしまい展開じゃん…。ここの異世界涙目だ…。ありがとうございます、神様チート様鑑定眼様…

 

心の涙を流しながら『ステータス』を閉じた。それからまた、俺はギルドマスターの質問に答えた。

 

「答えは、ハイ」

 

ハイと答えたら盛大な溜息をつかれた。そして確認のためかもう一度、俺に王国に行きたいかと言われた。

 

「行きたいというか、行ってみたいが本音かもしれないですけど…」

 

「そうか、んじゃあそれを踏まえて説明しよう」

 

忠告とはいえ、なんだか不穏だ。何を言われるのか身構えていると。

 

「正直な気持ちとしては、俺はここにいて欲しいと願ってる。理由は銀タグを付けるにしても、目をつけられるにしても『魔眼』を持つ者を国王が見逃すはずがない。自分の手元に置きたいと思うのが本音だ。この世界で『魔眼』を持つものは、賢者や英雄以外にいないからだ。しかもこんな小さな子供が持ってるなんて、神童と呼ばれる以外ないだろう。『魔眼』を持っていれば国1つ滅ぼせる代物だからな。王国が黙ってないだろう。だから、なにがなんでもお前さん達を雇いたいと言うだろうよ。拒否すれば人質を確保して脅しに来るだろうし、そうでなくとも国から出さないと言うだろう。そんな所にお前さん達を連れていきたくない、というのが理由だ」

 

真剣な目で俺達を見るギルドマスター。これは本気なんだなってのがわかる。ここまで説明をしてくれるのは、親切から来るもんでもスケールがでかい。

 

「『魔眼』を持たなくとも、噂は絶えないような所だ。それでも行きたいか?」

 

行かせたくないという気持ちがすごくわかる。俺はクロを見て、クロの意見を聞きたくなった。やっぱり王国に行くのはやめた方がいいのか、と。

 

「ハルさんがこの話を聞いても、どうしても行きたいと願うならボクはそれに従いました。でも、迷いがあると言うならボクもギルドマスターさんの言葉に賛成です。行って何が起きるかわからないのに、守れない領域に達したらギルドマスターさんは手出しできない。ということはボク達は自分達で自分の身を守らなきゃいけない。でもハルさんはまだそれができない。能力があっても使いこなせていない。どんなに強いスキル技能を持っていても、いざという時に使えなかったら目も当てられません。それならボクはギルドマスターさんの言葉に従います。まだギルドマスターさんしか信じていないので、他の方はどうか知りません。あの受付のお姉さんに対してはもっと信用してません。ハルさんの勇姿を見てないからあんなことが言えるんです。そんな人とこれから立ち会わなきゃ行けないなら、ボクはここに居たくありませんがハルさんの言葉に従います。ハルさんがここがいいと言うならボクは我慢します。だから、ハルさんはハルさんの気持ちをギルドマスターさんに伝えてください。ボクはハルさんの唯一の家族でありパートナーであり、相棒ですから!大丈夫です、ハルさん!」

 

クロに勇気を貰った俺はギルドマスターに言った。

 

「ギルドマスターさんの言う通り、王国に行くのは辞めます。村が街みたいなものなら、ここを拠点したいです。でもやっぱり銀タグは欲しいです。狙われたくないですから。それと……」

 

「ん?なんだ?」

 

「15歳で敬語じゃなくて、タメ口って変ですか?」

 

「……………」

 

沈黙してしまった。変なことを聞いてる自覚はある。でも俺はタメ口の方が慣れすぎてて、敬語は窮屈。もし許して貰えるなら、そうしたい。そう思ってギルドマスターに質問した。するとニカッと笑って。

 

「あぁ、良いとも!それと…って言われた時は『少しでも品が悪かったらすぐ出てく』とか言われんのかと思って、ヒヤヒヤしたぜ…。そうじゃねぇなら大歓迎だ。まあ、人によっては敬語を使わないことに睨みきかす輩もいるだろうが、そこはまあ気にすんな。俺が許したんだ、そいつにどうこう言う権利はねぇ。なんか言われたら俺に報告してくれればいい。うーん、それならこっちにも一応のルールを伝える。本当は受付の奴に言わせるもんだが、今回は特別に俺から説明する」

 

許してくれただけじゃなく、笑い話みたく返された。プラス、クロのために配慮もしてくれた。

 

クロは受付のお姉さんを毛嫌いしてるからな…

 

ギルドマスターのルールを簡単に説明すると。

 

 

1.ギルド内の揉め事は禁止

2.依頼書は1日3つまで

3.自分のランクにあった依頼書を受けること

4.昇格審査を受ける時は必ず受付に言うこと

5.自分のランクより強い魔物が出た時は逃げること

6.何かの招集をかけられた時は必ず参加

7.先輩後輩という優劣はないが見下す行為は禁止

8.仲間は大切な家族

9.仲間の秘密は絶対厳守

10.上記が守れない者はランク格下げ+タダ働き2年

 

 

との事だった。

 

「何か質問はあるか?」

 

「さっきのルールの中に気になることがあったんだが、いいか?」

 

「ん?なんだ?」

 

「聞き間違いじゃなければ、タダ働き2年って言わなかったか?」

 

「あぁ、言ったな」

 

「重たっ!?」

 

「とは言っても、実際は半年くらいだ。よっぽどの事がない限り、2年とかはない。が、万が一があるからな。そこはとりあえず、重たくしてる」

 

「そ、そうか…」

 

中々に温かく、それでいて厳しい。やっぱり信じて答えて正解だった気がする。拠点にするにしても、いい上司じゃないとやっていけない部分はどこの世界も同じだ。ブラックは断固拒否。

 

ここがブラックじゃなくて良かった…

 

それから俺達は適性検査室を出た。ギルドマスターと共に受付のお姉さんの所へ行った。クロは俺の後ろに隠れて何も言わない。ギルドマスターは改めて、受付のお姉さんの紹介をした。

 

「コイツは、アンナ・リスタータ。みんなアンナって呼んでる。どこかの貴族の家柄らしいが、そこら辺は詳しく聞いてない。お嬢様がこんな田舎村に来るなんてとか思ったが、ここでどうしても働きたいって言うんで働かしてる。仲良くは出来ねぇかもしれねぇが、一応紹介した。だが誠意だけはわかってやってほしい。本当に申し訳ないと思ってるらしいからな」

 

「らしいなんて!本当にそう思ってます!何も知らずに口走っていたのは本当ですから…」

 

ギルドマスターの言葉にアンナさんは申し訳ないという顔で、俺の方を見てまた深々と謝罪をした。

 

「この度は、不快な思いをさせてしまったこと深くお詫び申し上げます…。初対面な方にあんなにペラペラと、品が悪いと言われても何も言い返せません。本当に申し訳ありませんでした…!」

 

90度からほぼ垂直と言ってもいいくらいにお辞儀した。体が柔らかくなくちゃできない行為だが、俺はとりあえず大丈夫ですと言った。クロはまだアンナさんのことを信用していないらしい。顔をそむけてフンッとしてしまっている。アンナさんはクロを見てずっと頭を下げた状態だった。俺は見かねて。

 

「クロ、こんなに謝ってるんだ。今だけは許してやれ。あの時のことをちゃんと謝ってるんなら、俺はもう大丈夫だから。それに俺のために怒ってくれたクロのことは誇りに思うが、頑なにそういう態度は誠意を込めて謝ってる人に失礼だ」

 

「わ、私はそんな…!」

 

アンナさんを制止し、俺はクロを見た。クロは俺を見てシュンとし、それからアンナさんに。

 

「まだボクは貴女を信用してません。ですが、貴女がこれからボクに信用に値する努力をしてくれた時に許します。それまでは引きづると思いますが、今だけはハルさんに謝ってくれたので良しとします。なので、頭を上げてください。アンナさん」

 

名前を呼ばれて頭を上げたアンナさん。大声で返事をし笑顔になった。クロはその笑顔を見てまたフンッと顔をそむけてしまったが、とりあえず解決。その後、俺達に銀で作られたタグのペンダントとFランクのギルドカードを貰った。作るつもりでいた通行証は作らなかった。王国に入国する時は必要でも、入国する必要が無い時は作らないでいいそうだ。その2つを貰ってから、俺達は村人のいる宿屋に行き報告した。

 

「そうかぁ、ここに残ることを決めただか…。そうなると、護衛ができんな…。あそこを通らないかんから、喜べたんだがなぁ…」

 

「その事なんだけど、これは他言無用でお願いしたい。あんた、ペラペラ喋っちまう人間かもしれないけどペラペラ喋ると効果が切れちまう魔法のランプがあるんだが、聞くか?」

 

「ペラペラ喋ると効果が切れる魔法のランプ??」

 

魔除けランプの事は鑑定眼で見た時に『神クラス』のもんだって書いてあった。それはもしかしたら、他の人に取られる心配もあるからで守る意味がなくなる。そこで俺は、口が軽そうな人でも簡単に口を固くする嘘を村人に言った。説明はこうだ。

 

「この魔法のランプの名前は、魔除けランプって言うんだ。魔除けだからあらゆる面での魔除けだ。魔物も盗賊も、人間を襲うような敵意の者達を遠ざける役割を持った本当に魔法のランプ。だけど、1つこのランプに欠点があるんだ」

 

「欠点?」

 

「それは、ペラペラ喋ると効果が切れちまうんだ。これに火をつけたのは俺だから、俺は効かない。最初に点けた者が主人だから、主人には逆らえない。つまり、効果が消えることは無い。だが、主人から手渡されてもその効果はずっと続くが主人でもない奴が、他のやつに言うとその効果が切れちまうんだ。切れちまうと、その名の通り効果が切れて使えなくなる。いわゆる、普通のランプになっちまうんだ。そうなったら魔除けランプじゃなくなる。守ってもらえなくなる。そうしたら襲って来るってわかってても、守られない。結果、今日みたいに襲われる。そうなったら、困るのはあんただし、あんたの村だ。そうだろ?」

 

「村のみんなにも言っちゃあダメだか?」

 

「誰が聞いてるかわからない。もしかしたら、別の村に言っちまうかもしれない。そうなったら魔除けランプを盗む輩がいるかもしれない。襲ったり敵意がないと効果がないんじゃ、意味が無いからな。そしたらあんたの村は壊滅、もしくは消滅しちまう。それが嫌なら他人にベラベラ話すのはやめた方がいい」

 

「家族にも言えねぇべか?」

 

「同じだ。誰が聞いてるかもわからない。子供が自慢すれば、妻が自慢すれば。……もう、わかるよな?」

 

村人は自分の家族や自分の村が襲われると思うと青ざめた。絶対に誰にも言えない状況を作れば、自分は助かるし村も家族も守れる。村のシンボルみたいにすれば、村の直径10mは守られる。村一つは確実に守れる。あとの他の村も入るようなら、その村も守れるだろう。村人は固く口を抑えて約束をしてくれた。それから耳打ちで、魔除けランプの効果がどのくらいの範囲かを伝えると、村人はまた驚いた。目を丸くして。

 

「それは、ペラペラ出しちゃあいけねぇ代物だ!俺は口が軽いが、村や家族を守れるんならその方がいい!ありがてぇ、おめぇさん!」

 

感謝した村人は頭を深々とお辞儀し、明日の朝に渡すと伝えた。俺とクロは村人の居るこの宿屋を一晩だけ下宿することにしていた。村人の部屋から2個離れた、ツイーンの部屋。ベッドが2つあればそれぞれで寝れると思い、俺がそうした。

 

「ふぅ、色々ありましたが何とかなりましたね!」

 

「そうだな。けど、クロ」

 

「はい?」

 

「敬語」

 

「あ、ごめん。つい…」

 

「最初に言っただろ?俺への敬語はなしって…」

 

「そうだね…、ごめんね、ハルさん…」

 

「次からは気をつけろよ?」

 

「うん、ハルさん!」

 

クロの頭を撫でてから、今日は疲れたので食事は明日取ることにした。色々ありすぎて疲れてしまったのが本音だ。王国に行ってみたいって気持ちは本当にあったけど、噂が絶えないような危ない橋は渡りたくない。クロと離れ離れになる率が格段に上がる。

 

それならこの決断が1番正しいよな

 

今日はそのままクロと寝た。一緒のベッドではないが、クロも同じくらい疲れて寝てしまった。

 

「おやすみ、クロ…」

 

眠る前にクロにそう言って、俺も寝た。また明日も、クロと元気に活動するために。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【3日目、拠点が決まったところで…】

 

 

 

朝が来た。昨日は寝袋だったけど、今日はベッドの上。やっぱりベッドは気持ちがいい。二度寝したい所だが、それはクロが許してくれなかった。クロがニコッと笑顔で起こしてきて、朝食を取るように催促してきたからだった。あと理由があるとすれば、朝食が終わったら村人はそのまま村に帰るらしい。その前に渡すものを渡さなきゃいけない。なので、二度寝はできない。しばらくして朝食を食べ終えて、チェックアウトはまだせずに村人のいる馬車の方へ行った。するともう荷物を運び終えた村人が、俺達が来るまでずっと待ってくれてた。非常に親切な村人だった。

 

「おぉ!おめぇさんら、早起きだなぁ!昨日の話聞いて、楽しみだっただよ!どんなもん、おめぇさんらから貰えるんか!ランプ言うても見た目は同じだろ?」

 

「あぁ、同じだ。だから、あんまりわからんと思う。でもこの馬車につけたら、ちゃんと街の中心にかざすんだ。そうすれば夜道も、怖がらずに済む」

 

「本当にありがてぇ話だ!けんど、怪しまれないかい?」

 

「その時は神様からの授かり物だって言っておけ。あんたを助けてくれた神様ってことだ」

 

「わかっただ。このランプを信じて信仰すれば村は襲われねぇで済むんなら、おめぇさんの言葉を信じる!そろそろ、行くべ。またどこかで会っだら、その時はよろしく頼んます!」

 

そう言って村人は馬車に乗って去って行った。俺達はまた下宿部屋に戻り、支度する。それと今後の計画を、これからどうするか話し合う。

 

「さてと。街に行くはずが街はなく、代わりに王都があるって話だったよな」

 

「王都じゃなくて、王国だよ。ハルさん」

 

「王都も王国も変わらないだろ?」

 

「そうだけど…」

 

「問題はそこじゃなくてだ。普通にギルドへ行くとして、ギルドの依頼書を見て依頼を受けてソレをこなす。徐々に回数を重ねて慣れてきたらランクが上がったりするわけだ。それはどんな異世界ものでもありふれたシナリオ。それに関しては俺も熟知してる」

 

「それのどこに問題点が?」

 

クロの質問も最もだ。何故なら、どこにも問題点がないから。だけど、昨日の話。ギルドマスターが言ってた忠告の話だ。つまり、名声を上げればそれだけ目につけられて王国に伝わる。伝わるとここの冒険家達のように連れていかれて何されるかわからない。

 

そうなったら、クロを人質にとるかもしれない。そしたら俺が何をするかわからない。もしかしたらこの異世界を破滅か滅亡かそれ以上の結末に導く可能性も…

 

「依頼をこなすのは問題にならないが、名声をどう上げないようにするかだ。それなりに噂が立つのはいい。でも、その後変に噂されて王国にでも目をつけられたらと思うとな…」

 

「あ、昨日の…」

 

「あぁ、そうだ。そうならないための今後のルールを決めようと思う。俺自身のための旅だ、それを誰かのレールに引かれて歩くのは現世でもやってた。でも、ここは違う。同じレールでも意味が違う。良いように奴隷にされるのはごめんだ。だからこそ、クロと一緒にたくさんの経験が欲しいから地道にコツコツとそれでいて目立たないようにしていきたいんだ」

 

決意を言うような目でクロを見つめる。クロも俺の目を見て目を輝かせ、そして。

 

「はい!ボクで良ければお手伝いします!ハルさんのために出来るなら、ボクはどこまでもついて行きますよ!!」

 

「おう!」

 

クロの笑顔は俺の励みであり、俺に勇気をくれる。最高の相棒にして、最高の家族だ。でも。

 

「クロ、敬語」

 

「あ!……ごめんなさい…」

 

シュンとして耳が垂れる。可愛い。少しずつ慣れていくしかないと思い、頭を撫でる。頭を撫でるとクロは嬉しそうに喉を鳴らす。気を取り直して、まずはこれからのルールを決める。

 

異世界もののセオリーとしては、こんなの絶対にないけど俺には必要だからな

 

1.ランクが上がるまでは無理をしない依頼を受ける

2.人がやらないような依頼を受ける

3.魔物退治はこの世界に慣れるまでは行わない

4.魔法や剣技の練習や体力作りは夜に行う

5.日常生活を毎日やること

 

まず、これらをできるようにする。

 

最後の5は普通の人ならできることだが、俺はそれを現世でやれなかったからな。慣れるまではこれもいれておく。そうすればできた頃には習慣になってるだろうし、5以外も両立してできる

 

俺のこの目標はクロにも当てはまる。最後の項目は主に俺のサポートだが、他はまずこの世界に慣れるために必要なルール。この項目が全てできた頃にはランクも上がってると思いたい。

 

いや、そうなるようには頑張ろう

 

ルールが決まったら次は、俺の目の『偽装』をする。目が光るとそれはそれで目立つ。となると、色々制御しなくちゃいけない。なので、色々弄ろうと思う。

 

「まずは、『ステータス』」

 

『ステータス』画面を開いた。それから両目の『偽装』から始める。俺の目は紫と青、それは変わらないがコンタクトをつけてる感覚で変に思われないようにした。試しに魔法や『鑑定眼』を発動させてみてクロに確かめさせた。グッドサインが出たので発動を中止、『偽装』は完了。次に服装を調達しようという話になった。マントと村人服じゃあ、戦力にも替えもない。そうなると、色々と面倒だ。私服も欲しい。

 

「『アイテム』」

 

『アイテム』を開くと、装備一式は揃っていた。替えもあった。が、私服等はなかった。たまには休日も欲しい。そんな時に、私服がなかったら息苦しい。村人服でもいいが、これは新着するしかない。とりあえず残金の確認。ちなみに右下端に書いてある。

 

「神様優しい」

 

「どうしたんですか?」

 

「ここの通貨の名前はわからないが、5万は入ってる。これなら服もそれなりに良いものが買える!」

 

「神様も粋なことをしてくれたね!」

 

「さすが俺達の爺ちゃんだな」

 

「あれ?ハルさん。神様のことお爺ちゃんと認めたの?」

 

「!!…ち、ちがっ!!いや、違くないけど…。な、なんとなくそう言いたかっただけだ!!深い意味は無い!!」

 

「ふふ、そういうことにしくよ♪」

 

まったく、クロは揚げ足を取るのが上手いなぁ…

 

頭を振って顔を冷まし、それから村人服に着替えて準備をした。宿はチェックアウトしようと思ったら、ギルドマスターにしなくていいと言われたらしくここが俺たちの拠点になっていた。ありがたい話だ。それから宿屋の店主に服屋があるかと聞いたら、この宿屋を出てすぐの右側にあると教えてくれた。

 

「結構近くにあったんだな…」

 

「全然気づかなかったね…」

 

「まあ、俺達の体格じゃあわからんかもな」

 

元いた世界の俺の身長と今現在の俺の身長では、首を上げなければ見えないが体格差もあり首を真上に上げなければ看板が見えない。

 

まあ、教えて貰えたから結果オーライだ

 

中に入ると。

 

「いらっしゃーい!!」

 

おそらく店員であろうお姉さんと、獣人だろう店主が待ち構えていた。

 

「何がお探しですか?」

 

「私服を見に来た。お金に余裕があれば買おうかなと思って」

 

「私服と言うと討伐に行く時の気軽な服装ですか?それともただ街を出歩くためだけに使う服装ですか?」

 

「街を歩くため」

 

「では、こちらなどいかがですか?」

 

渡されたのは村人服とはまた違う生地とデザインだった。服の繊維はもしかすると、シルクかもしれない。ただこれだと少し地味。

 

「この生地はすごい上品で、貴族の人達が好まれて使う素材でできた服です。価格はちょっと高めですけど、人気の商品です」

 

シルクだもんな…、そりゃあ好かれるだろうよ

 

「クロはどうする?俺はもう少しだけカッコイイの貰おうと思ってるけど」

 

「ボクは予算があればこれが買いたいです」

 

「ちなみにこれはいくら?」

 

「1200ユールです」

 

えっと………鑑定!

 

『ユールとは、お金の単位のこと。日本円で1200円。万単位で1ユラル、億単位で1ラール。といった具合。村での相場は1000以上のユールがお買い得。高い値段で2000ユールまでが村で出して良いルール』

 

えっと、そうなると俺の持ってる金が5万だから5ユラルってことか?うーん、難しい…。覚えないと…

 

日本円で1200円ならまだ安いかもしれない。村だと高値なのかもしれないが、こっちには5万ある。なのでクロの服はこれで決まりだ。あとはもしものための大人バージョンなクロの服装も買っておこう。一応、これは今の体格のクロには合うが、大人のクロはちょっと幼すぎるところがある。

 

「クロの服はこれでいいとして、俺のはもう少しカッコイイ服がいいな」

 

「それでしたら、こちら等はいかがですか?」

 

渡されたのは魔法使いがよく使うローブのような、足の付け根よりは少し短いジャケット。大人のクロにも合いそうな服。色は黒をベースに白で少し装飾してる。黒にはやっぱり、白が似合う。見栄えする。

 

「これのもう少し大きいのあるか?」

 

「?……お客様が小柄ですからこちらの方が良いのでは?」

 

まあ、見た目はな。大人のクロはまあ兄といえば兄だから、それも良いか

 

「俺には兄がいて、その兄の着る服を探してもいたからこれより少し大きいのが欲しいと思って。あ、色はこれと同じでいいから。俺のはこれの色違いので何かあれば…」

 

クロを見ると自分も何か少しマントみたいなのがあったら、お揃いになれるのにという目をしていた。するとお姉さんがクスッと笑って。

 

「お連れの方はコレとかどう思いますか?」

 

持ってきたのは、服の上から羽織るだけで前が開いてるローブ。装飾は何もしてないが、俺と同じような服装だ。それを見て目を輝かせるクロ。俺はその目に負けて買ってあげることに。それから大人のクロの分と、色違いで俺の分も買った。5500ユールした。

 

ちなみに、俺の色は黒をベースで装飾色は青紫。俺にピッタリの色だ。ちなみにこの街を歩く上でも使えれば、いざ本当に街で戦闘になっても付与魔法が付いてるため防御服にもなってるらしい。優れものだ。クロの羽織りも付与魔法が備わってるので、安心

 

それから服やらは『アイテム』の中にしまい、俺達はもう一度宿屋に行き次は雑貨屋がどこにあるのかを聞いた。すると向かいの店らしい。俺達はそこに行ってみることにした。

 

「雑貨屋では何を買うの?」

 

「とりあえず付与されてるアクセサリーを見ようかと。あとは、ファッションも兼ねて」

 

アッチではそんな金もなければ、容姿自体に興味がなかった。だからずっと地味な格好、どうせ帰ることがないならこっちで色々としたい。

 

それに、今の俺はアッチよりも体格や容姿が可愛くもかっこよくもなれるハイスペックだ。どんなのでも似合う。…って、自分で言うと恥ずかしいなぁ…

 

中に入ると。

 

「いっらしゃい」

 

男の店主が出迎えた。こっちは普通の村人。そして職人って感じの服装をしてた。服屋は獣人でそんなに服にこだわりがあるような感じじゃなかった。どっちかって言うと、店員の方がある気がする。

 

まあ、服を買ってもらうなら店主よりも店員か

 

「何か、捜し物か?」

 

「アクセサリーとか。できれば付与付きのがあれば、買おうかと。それと普通にファッションでも合いそうなヤツかな」

 

「……妙な注文だな?まあいい。付与系のアクセサリーなら、そっちの棚にあるヤツがそうだ。だが鑑定士じゃない奴が見てもわからんよ。付与魔法でどんなのが付いてるかなんてよ」

 

俺が小さい子供だから侮ってやがる。まあ、その方がいいのかもしれねぇけど

 

俺達はどれにするかと時間をかけて見た。ファッションにも合うもんを選びたいと思うと、時間がかかるもんだ。指輪もいい、腕輪もいい、首飾りもと考えてると、じっくり見ていたくなる。するとクロが、俺が考えてる時に自分が欲しいと思った物を指さした。

 

「クロはそれが欲しいのか?」

 

「うん、さっきの服屋で買った服装に合うかなって」

 

クロの選んだアクセサリーは首飾りだった。付与魔法の鑑定を見ると、『物理防御』と『魔法防御』が付いていた。すると、それを見た店主が話しかけてきた。

 

「そいつは、『物理・魔法防御』の付与がかかってるが、不意打ち系はあんまり作用しない。自分に向けてきた攻撃系に反応する。まあ、サポートや回復系の職種持ちならそれで足りるだろう。逆に戦闘系だと少し物足りなさがあるかもだが」

 

親切に教えてくれる店主だった。

 

「それと、その首飾りについてる指輪二つにはいわく付きのもんだ。呪いだとかそういうのじゃねぇが、なんでも結婚?だかの儀式に使用された指輪らしい。そしてそれを教会とかで行ったために『神の加護』として、『天使の祝福』ってのを与えられてるらしい」

 

『天使の祝福』……?

 

鑑定してみることにした。

 

『天使の祝福とは、戦闘不能や気絶などに該当した時に天使によって、1度だけ生き返ることが出来る。魔法や調合では人を生き返らすことは出来ないが、天使の祝福を持つ物にのみ使うことが可能』

 

1度しか使えないのは貴重だな…。でもそれを使わんでも、『物理・魔法防御』が付いてるならそれもアリか

 

「クロはそれが気に入ったか?」

 

「うん、なんとなくだけど。これがいいなって」

 

「うーん、それか…。俺はこの腕輪もクロには合いそうだと思ったんだがな…」

 

「おっ、それは2匹の黒猫が装飾された腕輪だな。そこにもう1つ同じ白猫の腕輪もあるだろう?それはペア腕輪だ。片方ずつそれぞれに付与魔法は違うが、共通付与が『探知』だ。これはその腕輪を付けてる者しか探せない。いわゆる人探しだな。ありえない話でもない、盗賊やらの賊に攫われた時の追跡なんかができる。まあ、それ以外の共通はペア腕輪だけだがな」

 

『探知』は便利かもしれない。特定の人間が付けていれば迷うことなく、そこにありつけれるわけだ。迷子になっても同じこと。それはいいかもしれない。

 

それにクロとペア腕輪ならどんな服装にも合いそうだ

 

クロはそれを聞くとこっちが良いと了承してくれた。多分、『ペア腕輪』って所に反応したんだと思うが、それでもお揃いがあるのは嬉しい。大人のクロにも合うアクセサリーがあって良かった。

 

「んで、それぞれに付いてる付与の説明は必要か?」

 

……うーん、後で調べてもいいがそれだと変に思われるかな?思われなくても聞いて損は無いだろうし、聞いておくか

 

「んじゃ、頼む」

 

「まず、黒猫の腕輪からだ。そっちは戦闘系に特化した付与魔法がかかっている。『物理・魔法攻撃上昇』と『防汚』、それから『暗視』だな。白猫の腕輪はサポートや回復系に特化した付与魔法だ。『物理・魔法防御上昇』と『回復上昇』、それから『魔力吸収』だ。ちなみに、その腕輪は特殊でな。付けてる者にのみ、同じ付与を与えることが出来る。例えば『防汚』、これを白猫の腕輪の奴にも使いたいと思えば戦闘時に自分も使えてその相手にも使える。それは逆も同じで、白猫の腕輪の付与に持つ『魔力吸収』を黒猫の腕輪を持ってる奴に使わせたりすることが出来る。ただ、1つ欠点なのは使ったら1日使えなくなることだ。次の日になれば使えるようになるが、ご利用は計画的にってヤツだな。まあ、特殊付与は早々使うもんじゃないが、いざって時に使うが得だ。『物理魔法防御』や『物理魔法攻撃』系は譲渡することが出来ないから、そこは履き違えるな。あくまでサポートになるものしか特殊付与は使えない。何か質問は?」

 

これだけたくさん教えてもらったなら、これが一番性能がいいアクセサリーだ。異議はない。つまり『暗視』もサポート系に入るのでクロにも使えるという事だ。これはなかなかに使える。首を振って、これを買うのは確定した。後は、クロのための帽子を作るために布を買うことにした。生地は黄色と青が入ったのがいい。クロのチャームポイントである、目の色があったらと思って探す。クロにも、クロがこれがいいと思うやつを探してもらった。クロが好きだって思うやつで帽子を作りたいと思ったからだ。

 

俺が選ぶより、クロが選んだ方が長く使って貰えそうだし

 

「じゃあこれが良いなぁ」

 

クロは黄色と青のチェック柄を選んだ。素材はニット帽とかによく使われる生地。

 

「あと、これ!」

 

あと、黒の無地。

 

「これで、黒猫のバッチを作って欲しい!」

 

…………

 

「ハルさん?」

 

なんと、……なんという可愛さなんだ!!黒猫はクロがぬいぐるみだった時のチャームポイントの1つ!黒猫なんだから当然と言えば当然!!必需品!!

 

「じゃあそれを買おう」

 

何も無かったかのような顔でニコッと笑い、それからバッチを作るためにいくつかの板のような小物を見繕い、それを店主がいる会計場に向かった。

 

「ひーふーみー…………、全部で7点だな。合計4500ユールだ」

 

さっきの服屋の所でも変わらない値段。この数はだいたい腕輪が1500ユールずつ、生地が500ユールずつ、小物系が200と300ユール。って所だった。

 

まあ腕輪の付与があれの中で1番多いし、鑑定でもユールは2000までなら出してもいいって書いてあったし、当然の値段だと俺も思うし

 

そして店から出たら『アイテム』の中に入れて、宿屋に向かった。それから部屋に戻って、ファッションショーをすることにした。クロに買った服を渡す。着替えてくると洗面所へ行き、俺はさっき買った布地の帽子を作るように用意し始めた。しばらくチクチクしていると、クロがババーンと出てきた。

 

「クロ、似合うな」

 

「えへへ♪店員さんの選んでくれた服は僕のサイズにピッタリだったんだ!それに、黒の羽織もなんだか魔法使いになった気分になれて、とっても楽しい♪」

 

「それはなによりだな」

 

「ハルさんはまだ服着ないの?」

 

「俺は今、クロの帽子を作ってるからな。それが終わったらお披露目会をするよ」

 

「うん!わかった、待ってるね!」

 

「あぁ」

 

またチクチクを再開した。技能にも『裁縫』があったので、スムーズに縫えている。この世界にミシンは置いてない。だから、面倒だが自分の手で縫うことになる。

 

まあ、異世界と比べたらいけないか…

 

しばらくして、猫耳ニット帽が完成した。ちゃんとクロの猫耳がどの位置なのかを確認しながらなので、少し遅くなってしまったが、とりあえず着けてもらうことにした。バッチは帽子を着けた後にどこに付けるかを決めるため、必要なこと。

 

「ピッタリ頭にハマった!しかも、伸びるゴムが入ってるから耳がない人でも使えやすいかも!それに、ボクの耳がかさばることも無いからつらくない!」

 

好評価だった。そして気に入ってくれた。それから俺はバッチを付けるための目安を測った。そしてまた、チクチク。クロはニット帽を外して俺の横に。またしばらくして、やっと終わった。

 

「できたー!!」

 

その間寝てたクロは俺の音声に耳を塞いで、ビクビク震えながら起きた。俺はハッとしてクロに駆け寄り。

 

「ご、ごめん…クロ…。わざとじゃない、わざとじゃないからな…?」

 

ギュッと抱きしめ頭をポンポンと撫でた。小さく頷いたクロ。ホッとして、クロに見せるとさっきの震えは嘘のようにはしゃいだ。それから俺は『神の加護』である『付与魔法』が使えることが判明してから、バッチのみに『防音』を付けた。

 

ちなみにどこで判明したかと言うと、あのギルドで適性検査を受けた際に見つけたんだ。下にスライド式なんて聞いてない…って思ったのを覚えてる

 

黒猫バッチを右上に付けて、その斜め下に黒猫バッチよりも小さい星を付けた。もう片方には小さな星のバッチを2つ付けたので、黒猫バッチの方にある星には付与してないが、小さい星の方には付けて完成。

 

『完全防音』なんてしたら俺の声まで聞こえないからな。それに帽子にまで『防音』付けたら、足音が見失う可能性もあった。用心に越したことはないが、ちゃんと付ける所を間違えないようにしないと大事だ

 

クロの帽子が出てきた所で、俺も服を持って洗面所に行き着替える。こういう羽織なら下は、黒無地の七分袖に黒の黒無地のすらっとしたズボン。ベルトを絞めるほどのガリガリでも太ってもいないから、無し。幸いにも、パーカー付きだったようで日焼け対策もバッチリ。それから、洗面所から出て俺のお披露目をするとクロが目を輝かせて好評価してくれた。

 

可愛い体格でカッコイイ服を着こなすハルさんは、やっぱり凄い!……って褒めてくれるのは嬉しいが恥ずかしいな、コレは…

 

そういえばと、頭の中で思い当たり1度クロには服とズボンを脱いでもらった。顔を赤くしながらムッとして俺を見ていた。俺は、俺の羽織をクロに着させて待つように言った。それから付与魔法で『変形自在』を付けた。これはいざ大人のクロになっても、猫の姿になっても服の大きさが変わるだけで破けたりはしないようにした。いつ何があるかわからないので、それを着せれば変に思われなくて済む。ニット帽は多分、この今のクロがつけたいと言い出すだろうから付与魔法は付けなかった。もし、付けた方が良いと判断した場合のみ同じのをつけようと思う。終わったので服とズボンを返した。

 

俺達は男同士なのになんで恥ずかしがるのか…

 

クロも男だし、俺も男だ。風呂に入れば裸の付き合いってなって、恥ずかしがることないのにと思ってるとクロが俺の顔を見てムスッとした。

 

「ハルさんは全然わかってないんだね。どういう意味が教えてあげるよ」

 

そう言ったクロは大人バージョンになった。俺は少しドキッとしながら、大人のクロを見た。それから。

 

「ハルさん、今着てる服とズボン脱いで?僕もここで脱いだから、ハルさんもしてね?」

 

言われた通り俺は脱ごうとした。それから何かに気がついてクロを見ると、視線をずっと俺に向けてた。なんだか恥ずかしくなり、手が止まる。ただ脱ぐだけなのに、どうしてか顔が熱くなる。

 

「まだ?」

 

催促するようにクロが言ってきた。俺はヤケになって脱いだ。

 

「それを僕に渡して?」

 

言われた通り渡した。それから何もしない。ずっとクロが俺を見てるだけ。恥ずかしくて何故か今の姿を隠したくなった。隠そうとした瞬間。

 

「男同士なんだから隠さなくてもいいよね?」

 

俺はその時、ハッと気づいた。クロが俺に伝えたかったこと、それはさっきのクロの気持ち。俺は羽織りを貸してあげたが、もし視線に気づかなかったらこうなってた。俺はクロに羞恥プレイをさせる所だった。

 

いや、もうさせてたかもしれないが…

 

「……、クロ…」

 

「何?」

 

「ごめんなさい…」

 

「うん、わかってくれたならいいよ」

 

顔が真っ赤な俺。服を渡すクロ。俺は服を急いで着た。自分の恥部を隠せるって大きい事なんだなってことが初めて知れた。これが他の人ならそうはいかない。貴族ならもっての他だ。それからクロは大きいまま俺の後ろから抱きしめ腕を掴み、耳元で。

 

「また1つ、知ることが出来たね?」

 

「ひんっ…!!」

 

ビクンッと反応した。俺はもしかするとそういう意味では弱いのかもしれない。耳は1つしかない。人間の耳は俺にはない。しかも拘束されて身動き取れない。

 

「く、ろ…?」

 

「ふぅー」

 

「ひゃうっ!?」

 

かもしれないじゃない、俺の弱点が判明した。受身や構えを取らない限り、耳が弱い。わかってる仕打ちなら耐えられるかもだが、急でビックリした時はパニックになってできない。それを見透かされたら終わり。

 

「……まだ、怒って……?」

 

肩が震える。なのに顔が熱い。

 

「少しね」

 

「うぅ……ひゃっ!!」

 

 

 

散々クロに耳で弄ばれた後、解放された。クロも元の大きさに戻り、俺はぐったりしていた。いろんな意味で激しかった。俺の体験したことの無い体験をしてしまった気がする。

 

いや、まだ一線は超えてない!!……はず

 

とは言え、まだ昼間だ。お腹も空いてきたしランチにしようと思う。自分でも作れるが、料理に使う器具をそんなに持ってないので買えるようになってからしようと思った。とりあえずこの異世界での食を堪能しようと思う。というわけで、また宿屋の店主に聞いてどこか美味しい所はないかと聞いた。すると。

 

「ここを出て、左側沿いに歩いていくと『なんでも料理屋』って店に着く。その料理がこの村で1番旨い料理店だ。本当に名前の通り、なんでもある。行って試しに注文すれば出してくれるよ」

 

「ありがとう」

 

言われた通り俺達はその店に向かった。本当に『なんでも料理屋』と書かれた看板があった。クロと手を繋いで入っていくと、そこに広がっていた光景は俺のいた世界のファミレスみたいだった。配置がそう見えるからかもしれないが、これは本当にすごい。それとクロを見ると、耳を抑えることをしない。ということはちゃんと付与魔法が機能してる証拠。キョロキョロと興味津々に周りを見ている。俺達はカウンターまで歩き、カウンターの前で止まった。

 

「あのー」

 

「ん?あ、いらっしゃい」

 

「宿屋の店主にここを進められたんだが…」

 

「ここは『なんでも料理屋』!東方料理から地方名物料理まで置いてある所さ。東方料理をご所望なら、作り方を教えてくれさえすれば作れる。料理は料理だ、作ったことないなら聞いて作れば料理になる。なら、知らない料理もみんなの知る料理なら私に作れないものはないよ!」

 

本当に『なんでも料理屋』と名乗るだけのことはある

 

「何があるんだ?」

 

「メニューがあるだろ?これを見て決めておくれ」

 

渡されたメニューは地方名物料理が紙1枚分使い、東方料理はそこまでなかった。

 

「クロはこの中で何が食べたい?」

 

「ハルさんと同じのがいい!」

 

「うーん、そっか。俺の今食べたいものは……」

 

俺の今食べたいもの、それはやっぱりオムライス。25歳になっても、母親が昼飯をオムライスにして出してくれてた。そのオムライスが日常だったから、『昼飯=オムライス』みたいな感じのができたわけだ。けど、このメニューには載ってないようなので教えることにした。

 

ここで、料理の知識技能が発動するわけだ!

 

俺はメニューを返して、注文をする。普通に。

 

「オムライスがいい」

 

「おむらいす?」

 

「あぁ、分からないみたいだから今から教える」

 

「あぁ、わかったよ。なら、この紙に書いてくれるかい?材料と作り方を書いてくれさえすれば作ってやる。その、おむらいすってやつを」

 

まあ、わからないから東方料理は全てひらがななんだろうけど…

 

俺は渡された紙にスラスラと書いていく。俺が作ったわけじゃないのに、作った人のように頭の中に知識が流れ込んでくる。オムライスの中身は様々だ。人によるし、家庭による。俺の家で出されるオムライスはチャーハンの具材がオムライスだ。俺はあんまり好き嫌いはないがチャーハンは何故かどうしてもダメだ。

 

もしかすると、量が多いとかそういう理由かもしれねぇけど…。オムライスになるとコンパクトになって量もそこまで入ってる気がしないから、食えるのかも

 

一通り材料と作り方を書いたら、料理屋の店主に渡した。紙を一目で見て親指を立てて、厨房の中へ。俺とクロは近くの空いてる席に座って待つことに。

 

そういえばこの世界に【ケチャップ】って、調味料あんのかな…?ないなら、書いといてやろうかな

 

そう思った俺はペーパー紙にまた書き始めた。料理の知識は俺の思ってる以上に凄かった。俺はケチャップの作り方なんて知らない。知ってるのはトマトが入ってること。トマトケチャップっていうくらいなんだから、トマトは主役なのは知ってる。が、それ以外は知らないしアッチでは普通にある調味料。

 

けど、ここは異世界だ。あるわけないだろうしここのメニュー出るなら教えてあげたらもっと、料理の幅が広がるよな

 

オムライスを待ちながら書いていると、厨房から店主が出てきた。

 

「お前さん」

 

「ん?」

 

「ちょっと聞きたいんだけどね?この、けちゃっぷ?ってなんだい?」

 

やっぱり来た

 

「これは調味料だ。塩とか砂糖とかと、あれと同じ。レシピ書いたから、作ってみてくれ」

 

と言って渡した。用意が良いと褒められた。それからまた中に入り、少し時間がかかったがようやくオムライスが俺とクロの目の前に現れた。見た目はアッチで生きてた時と同じ。写真にあるような見た目だった。

 

すごく美味そう

 

クロを見ても早く食べたいと俺に訴えている。スプーンを取って。

 

「いただきます」

 

「いただきます!」

 

その挨拶をしてから食べ始める。食べた瞬間口に広がったのは、母親の味。誰かの料理なのに何故か母親を思い出した。こんなに上手ではない母親だが、味付けが同じだった。オムライスの具材はなんでもいいのにこんなに再現されてて、俺は思わず涙を零した。クロは美味しそうに食べている。俺は涙を出しながらオムライスを噛み締めた。アッチの世界の人間関係に未練はない。が、俺の生活には未練があった。そしてその生活にはいつも母親も関係してて、25にもなって反抗期をやっていた。母親はすごく心配性で兄貴や父親はほっとけって言っても、ほっとかなかった。俺自身も鬱陶しいと思ったことがあるのは覚えてる。

 

けど、鬱陶しいと思いつつ母さんの作るオムライスだけは逆らえなかった。あれは旨かったから。反抗してた気持ちなんてどっかに捨ててきたかのように、母さんのオムライスが好き。それをここで思い出すなんて…。もう届かねぇが、母さんありがとう。ありがたく食べるから。俺なんかにたくさんの愛をくれて、ありがとう。それから、俺を産んでくれてありがとう。もう俺の世話をしなくて済むから、自由に生きてくれ

 

そう思いながら食べた。顔がぐちゃぐちゃになりながらも、ありがたみを知った俺はゆっくり食べた。しばらくして食べ終わり、会計を済まして去ろうとしたら料理屋の店主に引き留められた。

 

「ちょい、お前さん」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「お前さんのおかげでまた料理の幅が増えた!ありがとね!また何か食べたい時は、いつでもここへ来な!おむらいすも他の料理もまた教えてくれる料理も待ってるからね!それじゃ、またのお越しを!」

 

手を振って俺達は店から出た。それからまた宿屋に向かい、宿屋の店主に薦められた料理店のことを感謝し部屋に戻った。

 

 

 

この時、調味料ケチャップのおかげで料理の幅を広げた店主の料理は、他にも活用出来ることを知り噂が噂を呼んで繁盛するようになったなんて駆け出しの俺には、知らない情報であり後で知ることになった。

 

 

 

一休みを兼ねてベッドに寝そべろうとした瞬間、クロに止められた。理由は口に付いたケチャップを拭うようにと。確かにこのまま寝れば枕についてシミになる。あれは地味に取れないし、この世界にはシミ取りなんてなさそうだ。なので俺は紙で口元を拭きそれをゴミ箱に捨てた。そして口元についてないかを確認した所で、改めてダイブ。同じくクロもダイブ。ぬくぬくしてから、次はどうするかを考える。時刻はアッチの時間で言うと15時だろう。正確な情報なんてこの世界にないが、なんとなくだった。

 

何もする気になれない…。こういう時、いつもゲームとかスマホとか見て時間を潰すのにと思いながら寝返りを打つ。それが日常だがここにはない。本当に暇だ

 

朝早かったのもあって眠い。このまま寝てしまおうかと思い目をつぶると、俺は即夢の世界へダイブしていた。

 

 

夢の中で俺は、俺のお葬式をしていた。母さんも兄貴も父さんも泣いてた。俺の写真はあんまり見えなかったが、それでもみんな泣いてくれていた。母さんに至っては俺の事を本当に愛してくれてたから、崩れていた。俺は体を動かして母さんの元へ。

 

「母さん…」

 

「遼…遼…、不甲斐ないお母さんでごめんなさいね…?もっとあなたを見てあげれば良かったわ…。悩みとか相談とか、もっと聞いてあげればよかった…。そしたら、まだ違ったかもしれないのに…。お父さんやお兄ちゃんがどう思っても、私はあなたの母親…。母親が息子を愛さないなんて、ありえない。でも、この世にもうあなたはいない…。最後にオムライスを食べてくれたのはいつかしら……っ……。あんなにも美味しい美味しいって、言ってくれたのは……いつだったかしら……っ……、遠い昔のように思えてくるわ……っうぅ…。もし、天国でもオムライスが食べれたら私のことを思い出してね…?私も少ししたらそっちに行くわ、そしたらまたオムライスを作ってあげるわね…遼…」

 

最後まで母さんは俺の名前を『はる』と呼んでくれた。他は名前を呼ばないか、『りょう』って呼ぶ中、母さんだけはちゃんと呼んでくれた。その後の葬式は終わり、帰宅した母さんは疲れたのか布団の中に入り眠った。俺は母さんの枕元に行き正座した。

 

「母さん」

 

「ん………、だれ…?」

 

「俺だよ、ハルだよ」

 

「はる…って……遼!?」

 

ガバッと起きたお母さんは俺を見た。そしたらまた母さんは泣いてしまった。夢の世界で会えるなんてと言いながら泣いてる。俺は随分と昔にやってたハグを、25の状態で抱きしめた。母さんも抱きしめ返した。泣きながら俺は母さんに話した。

 

「今日、俺は感謝を言いにここに来たんだ」

 

嘘は言っていない。夢を見てるからとかは言えないが、さっきのお葬式とかを思い出すと感謝したくなったから。そんなこと恥ずかしくて言えない。

 

「お葬式の中、みんな違う名前で呼んでたり名前っすら呼んでくれなかったのに、母さんだけは俺の名前を呼んでくれた。すごく嬉しかった。今まで感じてなかったけど、こんなにも嬉しいって思えるなんてとか思った。母さんのおかげだよ。それと、オムライスはこっちでも食べれてるよ。母さんの味に似たオムライスだった。思わず母さんのことを思い出したよ。てか、テレパシーか何かで見てるんじゃないかってくらい的アタリが良かったのか、ドンピシャだった。やっぱ、母さんってスゲーって思ったよ」

 

自分の言いたいことや話したいことを俺は、包み隠さず話した。母さんはうんうんと言いながら聞いてくれてた。俺はその中で生きてた時の思いを伝えた。

 

「俺さ、ずっと母さんが鬱陶しいって思ってた。心配してくれるのは嬉しいんだけど、心配し過ぎなのはちょっとって思ってた。父さんと兄貴も俺の事放ってたし、俺も放っておいて欲しいとか思ってた。でも、母さんがいつも俺の事を心配してくれるのは、心のどこかで本当は嬉しいって思ってたのかもしれない。鬱陶しいって思う気持ちは全面的に出てたかもしれないけど、そう思ってくれるのは他人の母親じゃなくて実の母親なんだって、今思うのは今更なんだけどそれに気づいた時にはもう、俺は死んでた。そして今、俺はずっとずっと言えなかったことを今から言おうと思う。今言わないと一生後悔する気がするから」

 

母さんは何も言わずにただ頷くだけで聞いてくれてた。聞いてくれることがこんなにも、嬉しいなんて死んで始めて知った。生きてた頃からそうしてくれば良かったとか思ってしまう。

 

「ありがとう、俺のことを見て俺のことを心配して、俺のことを支えてくれて。ありがとう、俺を産んで育てて、ここまでの成長を見守っててくれて。それから、ごめんな?母さんよりも先に死んでしまって、反抗ばっかして、全然手伝えなくて、本当にごめん…。死んでからじゃ遅いのに、こんなにも長く、こんなにも迷惑かけてごめんなさい…」

 

感謝から謝罪へ、頭を下げながら言う。俺も泣きそうになってた。母さんは聞きながらすでに泣いてたけど、それでもただひたすら俺の話を聞いていた。

 

「俺、母さんの子供でよかった。俺、母さんのこと好きだよ。大好き。今日限りかもだけど、母さんに会えて嬉しかった。こんなに語ったのは初めてかもしれないし、久々だったかもしれないけど、母さんとこんなに語れて俺、楽しかった。もう話せないけど、最後に母さんに渡したい物があるんだ。ちょっと俺の部屋に来て欲しい」

 

そう言って母さんを起こし、母さんを俺の部屋に連れてゴソゴソと何かを取り出した。それは25になって初めて母の日に送ろうと思ってた、造形花だった。母さんの好きな色である緑や青、紫などの寒色系。普通は赤とかピンクを送るべきだったと思ったが、他でもない母さんに送るなら母さんの好きな色を渡したいと思っていたから。母の日に送ろうと思ってたのに反抗して渡しそびれたやつ。花は花でも造形、枯れることは無い花。それを母さんに渡した。

 

「これが夢の中ならもしかしたら、手元にないだろうと思うから。位置だけ教えとくね。この造形花はあのダンボールの中にある、あの箱の中に入れてあるよ。捨てようとか思ってた時もあるけど、せっかく送ろうと思った物だから形このままにして置いてあるよ。母さんに渡したかったから、気に入って貰えると嬉しいな。もし、気に食わなかったら捨ててくれて構わないから。でも最後にちゃんと渡せてよかった。反抗した状態で渡すよりもずっと良いから。母さんに感謝を込めて、これを贈るよ」

 

泣きながらニコッと笑うと。母さんは口を開けてやっと言葉を吐く。

 

「ありがとう、遼…。大切にするわ…、私が死ぬ時は棺桶にこれをいれてもらうつもりよ。もう、あなたはいないけれど、これがあなたの代わりになってもずっと愛し続けるわ…。ふふ、こんな贈り物を用意してくれてたなんて、知らなかったわ…?何があってもこれは守るから、安心して行きなさい?最後に本当に、あなたに会えて良かったわ。ありがとう、遼。愛してるわ…」

 

やっぱり俺の母さんは、俺の事を心の底から愛してくれる人だった。俺はもう一度ハグして、それから夢から覚めるとわかった時に離れ、そして。

 

「行ってきます、母さん」

 

「行ってらっしゃい、遼。元気でね」

 

「うん、母さんも。元気で」

 

そう言って俺は、それを最後に夢が覚めた。俺の目からは涙が零れていた。目が覚めて次に気づいたのはクロだった。クロは心配そうに俺を見てた。

 

「おはよう、クロ…」

 

「おはよう、ハルさん…」

 

紙で拭いてくれるクロ。なぜ泣いてたのか、どんな夢を見ていたのかをクロに話した。すると、クロも貰い泣きをしながら聞いてくれた。それからおいおいと泣いてしまった。クロの頭を撫でながら。

 

「ありがとう、クロ」

 

と呟いた。しばらく頭を撫でていると2人してお腹の音が鳴る。窓の外を見ると夜だった。灯りが付いてるということはまだ、お店が開いてるということ。俺とクロは支度して、またあの料理屋へ行くことにした。次はこの異世界の料理を食べてみようと思ったから。

 

 

『なんでも料理屋』の中へ入ると、ほぼ満席だった。とりあえずカウンターの方へ行くと、店主がちょうど出てきた。なんだか忙しそう。

 

「ああ、ごめんよ!今忙しくてね!猫の手も借りたいくらいなんだ!料理をしながら客を回すのがこんなに大変だとは知らなくてね!あの席なら空いてるから、あそこに座って待ってな!」

 

「わかった」

 

クロと一緒に空いてる席に座る。そしてみんなが食べてる料理を見た。そこにはケチャップらしき赤い調味料が料理に乗っていた。俺の見たことのない料理だけど、みんな美味しい美味しい言いながら食べている。

 

俺が教えたケチャップがこんなことになってるなんて、びっくりだ…

 

来たばかりの人が注文したり料理を置きながら注文を取る店主、見ていて手伝いたくなった。冒険者だけど、こうなったのは俺の責任。俺は店主に。

 

「お腹はすいてるけど、何か手伝えるか?」

 

「良いのかい?結構大変だよ?」

 

「困ってる時はお互い様です!ハルさんが手伝うなら、ボクも手伝います!」

 

クロも賛同してくれたので、俺は真剣な目で見つめる。店主もその目に負けて、色々と教えてくれた。それから俺達は冒険家業の前に、お店の手伝いをすることになった。これも経験するべきこと。

 

店主が言うには、頭ではもう何を頼むお客かわかるらしいが手が回らないと料理を作る暇もない。だから注文をお願いしたい、それからもし頼めたら、何番テーブルかも聞いてきてくれると助かる、だったか

 

クロと手分けして紙を四つ折りにして、何かの板に貼り付け注文を聞く。それからまだ来たばかりなので、ここがどのテーブルかも聞きながら、注文を書く。次々と来る注文の半分をクロに任せて、俺はもう半分の接客をする。アッチでは全然体験したことがないから、勝手がよくわからなかったがファミレスに入ったことがあるので、それを見て真似てる。一通り注文の波が終わると俺達は、店主にメモを渡す。親指を立てた店主が、厨房の中へ。それから出来上がった物を俺達に教えながら、客のいるテーブルに置いていく。それを繰り返す。この体型だから動くが25の俺だったら、絶対にバテてる。それくらい大変な作業。

 

これを毎日やってるのかと思うと、凄いな…

 

そして、ひと休みすることなく働きやっと人もまばらになってから、クロと共に席に着いた。息はしてたが息をしてる感覚はなかった。運動不足な体つきはしてないから動けたものの、安請け合いでこんなことを求めるべきではなかった。それでも助け合いはしたいと思ったから動いた。終わった達成感にクロと笑いながら。

 

「大変だったな…」

 

「そうだね…。でも、楽しかったよ!またやりたいかも!もし、時間があってまたこうなってたらさ!」

 

「そうだな…、ただ体力が持たなかったら意味ないから明日からやるぞ?筋トレも含めて色々…」

 

「うん!手伝うね!」

 

「おう、頼んだ…」

 

そういう会話をしていると、厨房から店主が出てきた。時間も時間でもう飯を食べる時間ではないらしい。店じまいを始めていた。俺達も帰った方がいいのではと思ったが、座ってるように言われた。店を閉めた店主が俺たちの方へ来た。

 

「今日は色々とありがとね!おかげでなんとかお客を満足させることが出来た!お前さん達には感謝しかないね!本当にありがとう!」

 

「いえ、元はと言えばケチャップを教えた俺の責任だし。それに、俺自身その責任がなくとも助けたいって思ったので」

 

「その気持ちだけでも嬉しいよ!さて、お前さん達にもちゃんとご褒美をあげないとね!何が食べたい?なんでも作ってやるよ?」

 

店主が感動のあまり目をキラキラしながら感謝していた。それから俺達に注文を聞いてきた。

 

「んじゃあ、今の気分はここのオススメが食べたい」

 

「どれもオススメだよ?」

 

「じゃあその中で人気なのがいいかな」

 

「そうかい!2人分でいいのかい?」

 

「あぁ、それでいい」

 

オススメをって言ったにも関わらず、店主がいくつか質問してきた。

 

「辛いのは食べれるかい?」

 

「いや、できれば甘い方がいいな。クロも同じで」

 

「濃さとしては?」

 

「そこまで濃いのはちょっと…」

 

「ふんふん、だいたいわかった。味付けは塩と醤油だとどっちがいい?」

 

「うーん?何を用意してくれるんだ??」

 

こんなにも質問してくるなんて、変なものでも出す気なのかと思ってしまった。店主は。

 

「この店で1番人気はラーン・マーンだよ」

 

……ラーン・マーン??

 

「麺を使った料理さね。地方料理で、ここに来た人が教えてくれた物さ」

 

うーん、麺料理で塩とか醤油とか使うのは俺らで言う所の【ラーメン】しか思い浮かばない…

 

「とりあえず塩で」

 

「ボクも塩でお願いします!」

 

「あいよ!ちょっと待っててね!」

 

そう言って店主は厨房の中へ入っていた。本当に【ラーメン】なのか、この目で確かめたいが俺は醤油より塩派なのでとりあえずこっちにした。濃さとか辛さとかもラーメンならありえる。時間が経って少ししていると。

 

「お待たせ、ラーン・マーンだよ!」

 

出てきたのは大きなお椀に麺とスープが入った【ラーメン】だった。正真正銘、これは俺達の知るものだった。匂いを嗅ぐと鶏ガラスープ的な感じ。クロと共に手を合わせて。

 

「「いただきます(!)」」

 

と、一言言う。そしてずぞぞーと食べると、まさに塩ラーメンだった。

 

超絶旨い!!ちょっと塩ラーメンにアレンジが加わってるけど、知ってる飯だ!!これはいい!!

 

すぞぞーと食べる俺達は夢中になって食べてた。そしてそんなに時間をかけずに、汁まで飲み干しそして。

 

「「ご馳走様でした!」」

 

と言った。店主は俺達のこの掛け声に疑問を持ったのか質問してきた。

 

「その、いただきますやごちそうさまってのはなんだい??」

 

「えっと……」

 

「これはボク達の故郷の文化で、作ってくれた人に感謝をして食べるための挨拶みたいなものです。このスープに使ってる動物達や、この麺がどうやって作られてきたかの原点などの生産者の方にも感謝をして、『いただきます』。確かそういう意味だったと思います。そしてちゃんと食べ終えました。みんなの分もボク達が背負って生きていきます。本当にありがとうって感じで『ご馳走様でした』と言うんです。ボク達は生きていくために食べなくちゃいけない、その中には犠牲を払ってくれる生き物達に感謝をしなくちゃいけない。だって、ボク達と同じように生きてたんだから。それなのに、なんの感謝もせずにのうのうと生きるなんてそれは許されないことです。だからボク達の故郷ではその感謝を忘れないために、この挨拶をして食べるんです」

 

とてもわかりやすい、丁寧な説明だった。俺にはこんな風に言えない気がする。それを聞いた店主は驚きながら、呟くように。

 

「へぇ!その故郷の挨拶、ここでも使っていいかい?確かにここの料理で使う生き物達は私達と同じで生きていたのは事実。それを感謝もせずに食べるなんて、あっちゃあいけない!これから浸透させることにするよ!お前さん達には本当にいろんなことを教えてくれる!良い子らだよ!」

 

店主の笑顔が眩しかった。本当に嬉しそうだったから。俺達も嬉しくなった、こんなにも感謝されると思わず笑顔になる。すると、何かを思い出すように店主が俺達の名前を聞いてきた。

 

「また助けて欲しい時や、私がお前さん達を助ける時に役に立つかもしれない!お前さん達の名前を聞かせてくれるかい?私はマリサ。マリサ・リンネットさ。みんなからはマリサさんと呼ばれてる。あとは姐さんかしらね。私の地元はここじゃないけど、ここで働いてもう7年は経ってるよ」

 

「俺はハル、こっちは相棒のクロ」

 

「よろしくお願いします」

 

「ハルとクロね!よろしく!」

 

自己紹介が終わって俺達は店から出た。それからまた宿屋に向かい、宿屋の店主から鍵を貰って部屋に行く。それからキツくない服装に変えて、口元を拭きそれからベッドにダイブした。するとクロが俺のベッドの中に入ってきた。どうしたのかと思ったら。

 

「またハルさんが寂しい思いしないように、今日はボクがハルさんと添い寝してあげる。昼みたいに泣いてたら心配しちゃうもん。ハルさんのためにそばに居るって決めたんだから!」

 

そう言ってくれた。俺はクロの頭を撫でながら。

 

「ありがとう。じゃあお願いするよ」

 

「うん!」

 

そう言ってクロは布団の中に入り位置を確認してから。いつものように。

 

「おやすみ、ハルさん」

 

「あぁ。おやすみ、クロ」

 

そして2人で眠った。変な夢も悲しい夢も見ることなくぐっすりと。また明日、元気に活動するために。明日は明日の風が吹く、みたいに。





親に感謝できる時に感謝しましょう!
死んでからでは遅いのです。
言っておけば良かったと後悔しないように!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。