メッフィー(偽)in SAO (アーロニーロ)
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1話

初投稿です。楽しんで読んで頂ければ幸いです。


 皆さん、「転生」というものをご存知だろうか?

 

一般的に考えられているのは、肉体が生物的な死を迎えた後に魂が違う形態や肉体を得て新しい生活を送っていくということを繰り返し続けるいわばリサイクルの様なものを想像するだろう。

 

しかし、最近では一部の人間の中で全く別の考え方が生まれた。

それは、事故死や病死等の理由で死んだ人間を娯楽や暇つぶしといった

何かしらの理由を付けて特別な力いわゆるチートを授かりゲームや漫画、小説などの異世界で原作ブレイクやらハーレムの作成などするものだ。それがこの様な考え方をする一部の人間「オタク」という。

 

さて、ここまで説明した上で言おう。

 

 

 

 

 

俺、転生しました。

 

 

 

うん、やめてねそんな変人を見る目で見ないでね「え?だから?」みたいな顔もやめてね?

 

そもそも、転生したと気づいた時はほんとに驚いた。

え?なんでって?勉強終わってベッドに飛び込み目が覚めたら赤ん坊だぜ?ついでに言うと全く知らない景色だし、声も出ないから心の中で

「は?」ってなったもん。混乱しまくったもん。

 

ある程度落ち着いた後はじめに考えたのはこの世界が、どの様なところで仮に知ってる世界だったら如何に介入してやろうかというものだった。そして、自分の現状を知った瞬間そんな甘い考えが一瞬でできなくなった。

 

 

理由は単純、俺孤児でした。

 

 

ハハ、笑えねぇよ!!俺の両親が外人で俺の面倒を見切れなかったのか名前が書かれた紙を置いて孤児院の前に捨てられていたらしい。その後数年経った後両親の遠縁にあたる従兄弟に引き取られたんだけど、これがまた酷かった。

 

初めのうちはよかった。

元々転生する前まで高校生をやっていたから大抵のテストは(手を抜いていたが)80以上はとれて義理とはいえ親に褒められて俺も調子に乗ってさらに成績を良くしようと頑張っていた。

 

だけど、中学2年に上がる頃には態度が一変して嫌味を言う様になった。例えばいい点数を取ろうものなら「あてつけ?」やら「面倒だし手間がかかるから見せるな」等と言ってくる。これを聞いた時俺は本気でフリーズした。しかし、嫌味を言われる理由はすぐにわかった。それは義理の両親の子供が理由だった。

 

どうやら義理の両親の子と俺が比較され、自信をなくして鬱になることが多かったらしい。

 

流石にこれを知った時、俺は自分の至らなさに少し恥ずかしくなった為少し自重するようにした。

 

これで終われば俺も酷いと言わずに普通に過ごせたのだろう。だけど、

時を重ねるごとに嫌味から罵倒、罵倒から暴力と最終的に高校生半ばの段階で洒落にならないレベルの虐待を受ける様になっていった。

 

・・・・うん、なんでこんなにも人生がハードなのだろうか?

 

そんなことを思いながら俺は大学に受かった後すぐにアパートを探して別居を開始した。どういう訳か両親は反対してきたが、「今までやってきたこと警察に言おうか?証拠揃ってるよ?」的なことを言ったら親権を手放して関わらなくなった。その後は奨学金をバイト代で返しながら自分の不幸を恨みながらも気楽に生活していった。

 

俺が19歳の誕生日を独りで祝ってた時、前世と変わらない今世のことを考えているとふと自分はどの様なところに転生したのだろうか?と考えた。

              ・・・・

まぁ、見た目や名前からするとあの世界なのではないかと考えられるが

ないと思っている。仮にそうだとしたら本気で運が無いと思わざるをえなかった。

 

しかし、次の日の夜にゲーム関連の雑誌を読んでいると『茅場彰彦』『ナーヴギア』という単語を見た。この時はじめてこの世界がどういう世界なのか理解した。

 

 

 

 

 

「ヒヒヒ、なるほどなるほどワタクシはSAOの世界に転生していたのですかぁ」.

 

なるほどね、今更とはいえ長年の疑問が解けたわ。さて、原作に関わるべきか?でも、問題がいくつかある。

 

一つ目は、やはり金だ。奨学金を払いながら生活している身でゲーム機を買えるだけの余裕はないといってもいい。

 

二つ目は、ゲーム自体だ。確かゲームにゲームオーバーすると人生までゲームオーバーとかいうクソルールがあったはずだ。嫌過ぎる。

それに、やったとしても何も出来ずにモブの様に終わる未来しか見えない。最悪、嫌な方向に原作を変えてしまうかもしれない。

 

だったらやらない方がいい。うん、そうに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・本当にそれでいいのか?

 

 

 

 

 

今までの今世におけるクソの様な人生を振り返ってみる。選択権を奪われてどれもこれも自分の意思を殺して生きてるという死んでるのと何も変わらないこと思い出す。そして、自分が何したいのかよく考える。

 

・・・うん、色々考えてみたけど俺がやりたいことなんて単純だ。原作キャラと関わり楽しく過ごしていきたい、あわよくば彼女つくりたい唯それだけだ。

 

 

「・・・ック・・・クヒヒヒ・・ヒャハハハハハハハハハハハ!!」

 

余りの自分の願いの単純さに笑いがこみ上げてくる。

あぁ、そうだ今まで散々自分を殺してきたんだ何も我慢する必要はない

さぁ、そうと決まれば善は急げナーヴギアを入手しなければ。VR酔いで目をまわしてたら楽しめないしね。

 

え?俺の名前?あぁ名乗ってなかったね。

俺の名前は「メフィスト・ファウスト」かつて好きだったゲームに登場するキャラクターと全く同じ見た目をしているだけの転生者だ。

 

 




誤字脱字やメフィストの言動等の報告はいっぱいしてくださいお願いします。ちなみに表では一人称「私」「ワタクシ」ですが、心の中では「俺」です。


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2話

第二話です。よろしくお願いします。


 

 

「さぁて、始めますか」

 

少々というか割と苦労して手に入れた起動したナーヴギアを被りながらそう言葉をこぼした。

 

視界が暗転して初めに行われたのは視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚、の五感へのリンクだった。

その次に行われたのは言語の選択でこれは日本語で設定した。

その後に、アカウントやパスワードを打ち込み性別を男に設定した。

最後にアバターとネームを登録したら最終確認の画面で『yes』を選択する。その後直ぐに暗闇の奥から『welcome to sword art online』という言葉と共に強い光が差し込んだ。

 

 

強い光を見て閉じていた目をゆっくりと開け、絶句した。

 

「いやはやまさかこれほどとは」

 

目の前に広がる光景に俺は驚きを隠せなかった。ついさっきまでつまらない部屋に居たはずなのにそこには中世ヨーロッパの様な街並みが広がっていたからだ。頬を撫ぜる風や店のガラスに映った自分の顔、握りしめた手の感触などにさらに驚かされた。

 

いや、ごめん茅場さん舐めてたもう少しグレード低いもんだと思ってた。大袈裟かも知んないけどこれ現実だと言われても違和感ないもん。感覚とか本気で違和感を探ってあるかもしれないっていうくらいだもの。

つーか、人多いなぁ。しかも、これほとんどプレイヤーだろ、どんだけ多いんだよ。・・・うん、てゆーか皆なんで既にパーティーを組めてるの?俺、割と早く買えてたから発売されてまだ三十分経ってないはずなんだけどなぁ。まぁ、パーティ組んだとしても自由に動けなそうだし羨ましくはないんだけどね。

一通り感動したり考えたりした後、武器屋や宿屋等を探したりゲームのやり方について悩んでいると、

 

「オーイ、さっきからフラフラとどーしたんダ?」

 

背後から声を掛けられた。うん?だれだ?

 

「どちら様でしょうか?」

 

「にゃははは、そーいや名乗ってなかったなオレっちの名前はアルゴだ。よろしくナ」

 

「こちらこそよろしくアルゴさん。ワタクシ、メフィs「メフィストだロ、名前は目線を左端に寄せればわかるゼ」・・・」

 

言われた通りやってみると確かに視界の左端に緑色のHPバーの様なものと「Argo」というプレイヤーネームが書かれていた。まじか、こうすれば名前わかんのか知らなかったなぁ。

 

「もしかして初心者カ?」

 

「そう、その通り。ワタクシ今ゲームのやり方で頭を回してる真っ最中でして」

 

「フーン」

 

・・・なんか恥ずかしいな、ていうかアルゴって確か原作キャラじゃなかったか?それも重要な立ち位置の。まぁ、今はどうでもいい今の内にレベル上げないと「戦い方教えてやろうカ?」・・・今なんていった?

 

「なぜ?その様なことを?」

 

「ウーン、お前何となく強そうだし今借りを作った方が良さそうダって思ったからかナ?」

 

はぁ?意味がわからん。もしかして強そうってこのピエロ面のこと言ってんのか?

 

「人は見かけによりませんよ?」

 

「そーゆう、ことじゃないんだよナァ。なんて言えばいいんダ?まぁなんとなくだし嫌ならいいゾ?」

 

「・・・・」

 

はっきり言って意味がわからん相手の手を取るべきではないんだろう。

だけど、今は。

 

「・・・よろしくお願いします。アルゴさん、ワタクシのことは気軽にメッフィーと呼んでください」

 

「うん、わかったよろしくナ、メッフィー」

 

一刻も早く強くなるためにも背に腹は変えられない。そう思いながら俺はアルゴの手を取った。

 

そこからは悩んでたことが嘘の様にわかる様になった。初めに買うおすすめの武器や安い宿屋など、一から丁寧に教わった。

 

そして今俺は始まりの街をでて一面の美しい草原のど真ん中にいる。所々に青色の猪やそれらと戦ってる人たちがいた。その光景に目を奪われていると、

 

「オーイ、何してんダ、メッフィー、ソードスキルのやり方教えるんだら集中しろよナ」

 

声を掛けられ、声を掛けられた方向に目を向ける。そこには戦闘態勢に入った猪がいた。

 

「マァ、初期の雑魚敵なんだしミスって攻撃喰らっても大丈夫だ頑張れヨー」

 

その声と共に敵のHPバーが目に入り武器を構えた。さて、戦いを始めるか。俺が選んだ武器は短剣系の「ブロンズ・ダガー」というものだ。

そもそも、なんで短剣にしたのかと言うと俺のステータスは敏捷に極振りだからだ。後、他には目に付いたくらいだろうか。そんなことを考えているとアルゴの説明が始まった。

 

「じゃあ、スキルについて説明するゾ、

まず初めにスキルに合わせて攻撃すると、スピードや威力が上昇する。逆に逆らうと落ちるから気を付けろヨ。

次にスキルにはどんな武器でもダメージボーナスがある。よく覚えとけ

最後に武器は盾にする等、雑に扱うだけじゃなくてパリィとかでも壊れ易くなるから気を付けろヨ。

マァ、こんなもんだな。じゃあ、やってみロ」

 

なるほどね、最後を除けば余り面倒に思わないな。さて、殺すか。

 

物騒なことを考えながら猪目掛け『ラウンド・アクセル』と呼ばれる二連続攻撃を、スキルに合わせて体を動かし放つ。

 

「そぉれっ!」

 

「プギィィィ!!」.

 

お、三割弱か。モーションを合わせたのもあるけど雑魚散らし用の技なのに思いのほか効いてたな。

 

「ウン、問題無さそうだナ」

 

「ええ、ワタクシ感動いたしましたよ!!この借りは必ずかえしましょう」

 

「にゃははは、期待して待ってるゼ。メッフィー」

 

そう言ってアルゴはそのまま何処かへいった。いやぁ、本当に助かったは今度なんかあったら絶対手を貸そう。

 

その後は、ただひたすらにモンスターを狩り続けレベルを上げ続けた。その途中でクリティカルの重要性や使いにくいスキルがあることを知った。

 

そして、数十体ほどモンスターを狩っているとフィールド中に鳴り響く鐘の音と共に体が青いエフェクトで包まれた。

 

 

 




・・・やっぱ、メフィストの口調難しい。


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3話

早くできました


 

 目を開けると、はじまりの街にいた。

どうやら俺は強制的に転移させられたらしい。周りに何千人とプレイヤーが強制的に転移させられたのは俺だけでないようだ。

この光景をみて、俺はようやく原作が始まることに気づいた。

周りの喧騒を聞きながら念のためにメニューを操作してログアウト出来ないことを確認して本当に原作が始まることを確信した。

 

すると、Warningという文字が浮かび上がると同時に空が赤く染まっていくのをみた。それと同時に深紅のローブを纏った巨人が現れた。

 

「どうやら、お出ましのようですね」

 

茅場彰彦。SAO製作者にして、天才粒子物理学者兼今からこの世界の魔王になる男。

 

「ようこそ。私の世界へ」

 

うーん、貫禄あるなぁ。

 

「プレイヤー諸君はすでに、メインメニューからログアウトボタンが消滅してることに気付いていると思う。しかし、それはゲームの不具合ではない。このSAO本来の仕様である」

 

「諸君はこれから城の頂を極めるまで自発的にログアウトすることはできない。また、外部の人間がナーヴギアの解除または停止を実行した場合」

 

「ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊して、生命活動を停止させる」

 

ふむ、なるほど。今のところほとんど覚えてないが原作通りだ、少し安心できる。このまま原作通りがいいなぁ。

 

「この情報は外部世界ではマスコミからすでに告知されている。しかし

それを無視し家族や友人らがナーヴギアの解除を試みた例が少なからずあり、すでに213名のプレイヤー達が現実世界から永久退場している」

 

こーゆう時、独り身でよかったなぁって思えるよ。まぁ、仮にあの家に居たら寝たきりのまま放置されてだろうなぁ。いや、もしかしたら事故死に見せかけてナーヴギアのコンセントを強制的に抜いてたかも。

・・・うん、本当に独り身でよかったわ。つーか、200人以上が死んでたのか意外と多いな。あと、周りがクソうるせぇ。

 

「諸君らが、このゲームから解放される条件はただ一つ。アインクラッドの最終部。百層までたどり着き、そこに待つボスを倒しゲームをクリアすれば良い。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員をログアウトさせることを約束しよう」

 

その言葉と共に周囲がさらに喧しくなる。

 

「ふざけるな!!βテスターでも六層までしか行けなかったって聞いてるぞ!!」

 

え?マジで?βテスター達が何人いてどれくらいやってたか分からないけど、それが本当なら百層までクリアするには相当時間がかかるなぁ。

 

「最後に私からささやかなプレゼントを用意した。この世界が現実だという印だ。アイテムストレージを見たまえ」

 

言われた通りアイテムストレージを確認してみる。中にはいくつかのポーションと初期武器の他に知らない物が入っていた。それは、

 

「手鏡、ですか」

 

オブジェクト化した手鏡で顔を確認すると、そこには薄い紫色の髪と目に不気味なほど白い肌、無駄に整った容姿が写っていた。てゆーか、現実世界の俺だこれ。まぁ、さっきまでのアバターも限りなく現実世界の俺によせてたからあんま変わんないな。

 

「以上でSAOの正式サービスを終了する。諸君等の健闘を祈る」

 

そう言いながら、赤い巨人が崩れ去りながら消えてった。

 

あたりから、悲鳴が鳴り響き阿鼻叫喚の地獄絵図が出来上がった。

その光景に気持ちが昂り、口が少しずつ弧を描きはじめる。

おっといかんいかん、興奮してる場合じゃないな。さてと、アイツは何処だ。お、ラッキー見つけた。俺は相手に向かって駆けつけて。

 

「いやぁ、よかったよかった見た目が余り変わってなくて助かりましたよアルゴサン」

 

俺は、俺に戦い方を教えたフードをかぶった小柄の女に声をかけた。

 

「こんな状況ですし、あの時の借り今返しますよ」

 

 




読んでくれた人達ありがとうございました。

主人公は生きるのに精一杯だったので、原作のことはほとんど忘れてます。キャラの名前とストーリーは若干覚えてるくらいです。
後、主人公はメフィストの精神面を少しだけ引き継いでいます。


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4話

話文が、多くなってしまいました。


「メッフィーお前・・・・・それ、素顔だったのカ」

 

「今言うことですか?それ?」

 

まぁ、確かに信じられない程色白な肌に髪と瞳の色が薄紫とか冗談だと思うのは分かるけど。

 

「つーか、恩を返すって何するつもりなんダ?」

 

「ああ、それはアナタの情報屋としての商売道具集めの手伝いですよ『鼠』サン」

 

そう言うとアルゴは目を見開き驚いていた。意外と可愛いなおい。

そんな事を考えていると目の前の人物の雰囲気が少し変わった。

 

「おやおや、そのよう怖い顔よりも人生腹抱える程笑っていた方がいいですよアルゴサン」

 

「助言ありがとナ、そんな事よりどこでオネーサンが情報屋だと知ったんダ?」

 

「いえ、普通に周りにアルゴという人物を知ってるかと聞いただけですよ?」

 

俺の答えが拍子抜けだったのか少し雰囲気が緩くなり、苦笑いしていた。もちろん周りに聞いたというのは嘘である。喋れば友達がいなくなるレベルでウザい俺が訪ねても挑発してると勘違いされるのが関の山だからだ。

え?じゃあ、なんで分かったかって?答えは単純俺が前世でアルゴという人物について少しだけ思い出したからだ。元々原作キャラだったのはうっすら覚えていたのでデスゲームが始まる前まで戦いながら必死に思い出そうとしていたら思い出した。ただそれだけだ。

 

「確かにオレっちは情報屋をやってるサ。だけど、βテストである程度はSAOの情報を知ってるオレっちに今更情報収集はいらねーと思うんだけどナ」

 

「いえいえ、アナタがその考えを抱くことはないでしょう?」

 

「へー、なんでそう思ったんダ?」

 

「何故って、アナタ状況を把握するや否や真っ先に飛び出そうとしてたじゃないですか。それに『鼠』などと噂されるだけのアナタに限ってあの天才魔王がゲームのイベントの内容を変えてるかもしれないという可能性を思い付かないハズがないのではと考えただけですよぅ」

 

それにマッピングのこともあるしね。そう言うと、アルゴは降参したように手をあげた。読みは当たっていたようだ。

 

「当たりダ、よく分かったナ。オレっち感心したゼ」

 

「いやぁ、ワタクシも当たっててよかったですよ。あんだけ格好つけておきながらはずれてたら一生モンの恥ですからねぇ」

 

俺は警戒を解き力の抜けたアルゴを見て内心ホッとしていた。下手に警戒されてたら今後有益な情報を交換しにくくなる可能性があるからだ。

 

「で、手伝うって何してくれるんダ?」

 

「単純ですよ。ワタクシがクエストやイベントに変化がないか調査したり、マッピングの手伝いをしたりするですかねぇ」

 

「・・・・いいのカ?」

 

「勿論、恩返しですから」

 

少し、考えるような素振りをしていると顔を上げて訪ねてきた。

 

「ちなみに、レベルはいくつなんダ?」

 

「あと少しで9に到達しますねぇ」

 

「早えナ、だけどそれなら問題ねぇナ、じゃあこれからヨロシク頼むゼ、メッフィー」

 

そう言いながら、口元に笑みを浮かべながら決意を込めた目をこちらに向けながら手を差し出してきた。

 

俺は、ニヤリと笑いながら手を取った。よし、とりあえずこれで最前線で戦えて尚且つ有益な情報を得られるようになった。仮に後者の方ができなかったとしても最前線で戦い経験値を多く取れるという利益の方が大きい。よし話は終わり。さて、やらかすか(ゲス顔)。

 

「ハァイ!!カシコマリィィッッ↓、マシタァァァッッ↑!!!では、これよりアルゴ様の忠実な愛玩奴隷として一心不乱に足掻いていく所存デェェス!!」

 

「へ?」

 

握っていた手を解き出来る限り大きくハイテンションに声を上げながら大袈裟に跪く。周りから音が消え直ぐ近くで呆気に取られたような声が聞こえる。少しして、ヒソヒソと囁くような声が辺りから聞こえ、そして直ぐにズザァァという音と共に周りから人の気配が消えていった。

 

「ちょ、何やってんダ、メッフィー!!周り見て見ろドン引きじゃあねぇカ!!」

 

「いえいえ、アルゴ様ワタクシの事はいつもの様に下僕、豚好きなようにお呼び下さい」

 

「んな呼び方したこと一回もネェだろうガァァァ!!!」

 

やっべW、超おもしれぇW。想像以上だW。

 

「いえいえフヒw、お気になさらずにヒハwワタクシは一向に気にしませんのでクヒヒww」

 

「おい!!さっきから言葉の合間に笑い声あげてんの聞こえてるからナ!!ドースンダこれ!!オレっちこのままだと唯の変態だゾ!!」

 

「さぁてW、いっちょ仕事と行きますかぁW。ね、相棒WW」

 

「くたばれクソピエロォォ!!!!!」

 

今後とも、ヨロシクねア・ル・ゴ。クヒヒヒW。

 




はい、やらかしましたね。次回どうしよう・・・。
文章に、違和感がある場合は教えてください。
ちなみに、アルゴがメッフィーをピエロと言ったのは雰囲気からそう感じとったから。
レベルは、はじめた時間やキリトがボス戦で戦うときのレベルを考えた結果こうなりました。


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5話

第5話です。


 

 

「では、行ってきますね。アルゴサン」

 

「おう、逝ってこい逝ってそのまま帰ってくるナ」

 

あの後、ブチ切れたアルゴを何とか話せる程度には宥めた後、半ギレ状態で俺に仕事を言い渡してきた。それは、

 

「アニール・ブレードのクエストに変化がないか実際に受けて確かめれば良いのですね?」

 

「おう、そうダ。わかったらサッサと逝ってこいウザピエロ」

 

うん、全然半ギレじゃないよこれ。マジギレもいいとこだよこれ。

心なしか『行ってこい』が『逝ってこい』に聞こえるし。やり過ぎたかなぁ。まぁ、面白い反応が見れたから反省してないんだけどね。

でも、これじゃ会話しにくいなぁ。・・・仕方ない、アレやってみるか。

 

「アルゴ」

 

「なんダ?オマエのせいで今相当気が立ってるから早く行ったほうが身の為「私は、アナタを愛している」ウニャャァァァァ!!!」

 

おー、顔真っ赤っかどうやら成功したか。ん?何したかって?それは、音も無く近づき耳元で愛を囁いたそれもマジトーンで。まぁ、前世も今世も童貞のボキャブラリーじゃあこれが限界だったけどね。まぁ、俺の声は本気出せばイケボだしね効果はあったみたいだ。それはさて置き、これで気も和らいだで・・しょ・・う。あれ?なんで涙目になってんの?なんで少し睨んでるの?可愛いけど。あれ?もしかしてこれ、

 

「選択間違えましたかネェ?」

 

「シネェェッッ!!クソピエロォォォ!!」

 

「はぁー・・・・なんたるミステイクペダンチック!!」

 

この後、圏内で死ぬ程攻撃された。死んでないけど。

 

「いやぁ、ホントすみません。アルゴサン」

 

「次、さっきと同じことしたら今のじゃすまないからナ」

 

「ハァイ、わっかりましたぁ!!」

 

「はぁ、不安ダ」

 

気持ちの切り替え早いなアルゴ。しかし、これ以上時間食うとあれだし反省しないとね。する気はないけど。と言う事で、

 

「今度こそ行ってきますね。アルゴサン」

 

「行ってらっしゃい。オレっちも別の情報を集めてくる、イイ情報を知れたらさっきのは無かったことにしてやるヨ」

 

「なんと寛容なのでしょう。これは期待に応えないといけませんねぇ」

 

そう言った後、俺とアルゴは別行動をとった。件のクエストがある≪ホルンカ≫という村に到達するまでに猪やら巨大蜂やらが酔いそうになる程いたが、≪索敵≫と≪隠蔽≫を発動させながら相手の背後に近づき≪アーマー・ピアース≫や≪ファッド・エッジ≫等のソードスキルで首や目などクリティカルが出やすい所をよく狙いスニークキルを繰り返していく。中には、逆にスニークキルされかけた時あったが≪索敵≫と諸事情で現実世界で会得していた危機察知能力で反撃したりして進んで行った。道中、空中にいる相手に向けて攻撃する為に空中でソードスキルを発動させ空中移動が出来る様になったりレベルが上がったりすれ違ったプレイヤー達にとある話をしたりしていると、

 

「おやおや、森がありますねぇ。という事は、≪ホルンカ≫まで後少しですか」

 

森に突入した。アルゴの前情報で≪リトルネペント≫と呼ばれる自走捕食植物には≪隠蔽≫が効きにくいと聞いていた。レベルは俺の方が高かったが数もかなりいるとの事だったので出来る限り戦闘は避けた。それでも何度か戦うことになったが見た目が毒々しい紫色のウツボカズラという想像以上にエグい姿にこのモンスターをはじまりの街付近まで誘導させたらどうなるのだろう、と考えられる程度には余裕があった。

そんなことを考えていると≪ホルンカ≫に到着した。民家と商店、合わせて十数練しかない小さな村を、入り口から素早く見回す。

お、カラーカーソルに全てNPCのタグがついてる。ってことは、

 

「あれだけ、ふざけておきながら一番乗りとは運がいいですねぇ。やはり日頃の行いが良いからでしょうか?」

 

そう言いながら俺は武器屋へ向かった。確か、この後はデスゲーム前に集めた素材アイテムと道中で集めた素材アイテムをいくつか売ってそこそこ防御力のあるが、高い茶革のハーフコートを買えばいいんだっけ?わ、ホントだ高い。でも、余裕で買える。一応アルゴの分も買っておくか。あれ程あったアイテムと金が大分減ったが今は命が大切だしね。本当は鎧とか着ようか迷ったけどアルゴ曰く「スピード特化のオマエは軽量の革装備でも必要充分な防御力を得られるからナ。それを選んで損は無いゾ」って言ってたしこれでいいんだよな?

実は、腹いせに俺をはめよう。とか、ないよな?

 

そんな事を思いながら武器屋を出て、歩きながら初期装備の一つである≪スモール・ダガー≫を装備する。攻撃力では今の主武装である≪ブロンズ・ダガー≫の方が上だけどこのクエストではこっちの方が長持ちするんだよな。腐食液に弱いんだっけ?≪ブロンズ・ソード≫。本当に壊れるか確かめて実際に一本壊れてるから間違いないんだろうけど。

 

色々と考えながら歩いていると、目的の村の奥にあった一軒の民家に着き入る。そこには、the村のおかみといった感じのNPCが鍋をかき回していた。俺に気づいたのか振り返り話しかけてきた。

 

「こんばんは、旅の剣士さん。お疲れでしょう、食事を差し上げたいけど、今は何もないの。出せるのは、一杯のお水くらいのもの」

 

「いえいえ、それでいいですよ」

 

改めて思うけどやっぱこのゲームすげぇは、NPCが普通の生きた人にしか見えないもん。おかみさんに感動しているときに奥の方から子供の咳き込む声がした。おかみさんが哀しそうに肩を落とすと、頭上に金色のクエスチョンマークが点灯した。

ん、やっとクエスト発生か。長いよスキップとか出来ねぇのかなぁ。

少し、融通の利かなさにイラッとしたが直ぐに声を掛ける。

 

「何かお困りで?」

 

そう言うと、頭上の≪?≫マークがピコピコと点滅した。そこから、話が長かった。

 

ババア曰く、

娘が病気にかかった。

治そうにも市販の薬じゃ治らない。

直すには西の森の捕食植物の胚珠がいるが危険で取りにいけない。

取ってきてくれたら先祖伝来の武器を渡す。

 

途中で何度かNPCの殺害方法を調べたくなったり、次茅場にあったら膝を入れる。と決心するくらいには殺意が湧いた。

でも、そんな事すればクエストが進行しないしまた一から聞き直さなければいけないとアルゴから聞いていたので必死に耐えた。

 

ようやくクソババアが口を閉じ、視界の左端に表示されたクエストログのタスクが更新された。それを見た瞬間全力で立ち上がり、「行ってきます!!」と言いながらクエストが終わったら攻撃することを心に誓い表に出ようとドアノブを握りドアを開けた直後、誰かとぶつかった。痛、痛くないけどつい言ってしまう、チクショウだれだよ。

聞きたくもない話を延々と聞かされてイライラしながら相手の顔を見る。そこには見慣れた顔があった。いや、正確には前世で見慣れた顔だったな。驚いた、マジでか。

 

「すまない、前見てなかった。大丈夫か?」

 

「いえいえ、こちらこそ大丈夫ですか?」

 

ドアの前にSAOの主人公キリトがいるんだけど。

 

 




はい、読んでいただきありがとうございました。
何で、一番乗りだったかと言うとメッフィーが敏捷極降りだからです。


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6話

6話です。


いやぁ、マジかこんな所で主人公様と出会えるとは感激だなぁ。何でこんな所に?って、思ったけど主人公の主武装は片手剣だしという事はここに来る理由はひとつだけだろう。

 

「アナタは、≪アニール・ブレード≫を手に入れる為にココに?」

 

「あ・・あぁ、そうだけどお前は違うのか?」

 

「ワタクシの目的は、クエストに変化がないかの調査及び情報収集ですよ。それより、さぁどうぞクエストを受けなさいな」

 

「そうさせてもらうよ」

 

そう言って道を譲ると、家に入りクソババアに話しかけに行った。いやぁ、あのクソババア話長いから覚悟しないと現地妻生産機である主人公とてイライラするんじゃないかなぁ。ま、どうでもいいけどさ。

いざ、クエストを達成する為に出発。いや待てよ、いい事思いついた。

 

 

「・・・・何で、まだここにいるんだ?」

 

「単純ですよ。アナタに一つ提案があったので待ってましたぁ。どうですキリトサン、ここは手を組みませんか?」

 

そう、思いついた事とは主人公と手を組み出来るだけ早くクエストを終わらせるという事だ。今の主人公の強さは俺より遥かに弱いが戦闘のセンスは間違いなくこのアインクラッド内ではトップクラスだ。そんなプレイヤーと手を組めばこのクエストも早く終わるだろうしね。

 

「え、・・・でも一人用のクエだったと思うけど」

 

まあ、確かにそうだ。ついでに言うと≪胚珠≫は一匹から一つしかドロップしない。仮にパーティで挑んでもアイテムを人数分集めなければならないから時間がかかると言いたいのですね。い〜い返答ですね。

だけど、この返答は予想通り。

 

「ええ、確かにそうですね。ですが、≪花つき≫はノーマルを狩れば狩るほど出現率が上がります。ならば、二人で手を組み乱獲しまくれば効率が良いのでは?あぁ、パーティは組みたくないのであれば組まなくて結構ですよ」

 

「わ・・・わかった、じゃあそれで・・・」

 

主人公歯切れ悪っ。えぇ、こんなんだったっけ?SAOの主人公。まぁ、相手も納得したようだし。

 

「ハァイでは、しばらくの間ヨロシクお願いしますね。キリトサン。

ワタクシの名前はメフィストでございます」

 

「・・・よろしく、メフィスト」

 

広場中央にある小さな櫓から午後七時を告げる全街共通の時鐘の音色を聞きながら俺と主人公は西の森へと向かった。

 

 

「出ませんねぇ」

 

そう言うと、大きな動作で肩を竦めながら主人公は言った、

 

「もしかしたら、βの時と出現率が変わってるのかもな・・・。レアのドロップレートとかが、正式サービスで下方修正されるのは他のMMOでも聞いた話だし・・・」

 

「ヒヒ、ゲームなのに世知辛いですねぇ」

 

二人で仲良く乱獲すること早一時間一向に花つきが出ない。

いやフザケンナ俺と主人公合わせて大体百体近くは狩ったぞ!未だに一向に出てこないとか運営仕事しろぉ!具体的にはドロップレートをあげるとかスキップ機能を付けるとかさぁ。って、

 

「はぁー・・・まぁた、≪実つき≫ですかぁ」

 

「耐えろ、メフィスト。俺も少しイラついてんだ」

 

いい加減見慣れた顔?に二人揃って苛立ちを憶えていると「ギィィィィ」という鳴き声をあげながら攻撃してきた。うーんあのさ、

 

「もう、アナタの攻撃は見飽きたんですよねぇ」

 

そう言いながら、口から放たれた腐食液を最低限の動きで回避した後突貫しすれ違い様にソードスキルを発動させて弱点である胴体部分を何度も切り裂き、六割ほどHPを削る。

よし、隙ができたな。ということで、

 

「ハァイ、後は任せましたよ。キリトサン」

 

「・・・らぁっ!」

 

気合迸らせながら激しく地面を蹴り、片手剣単発水平斬撃技≪ホリゾンタル≫を弱点である胴体部分に放ち残り四割ほど残っていたHPを吹き飛ばした。あ、主人公レベル上がった。おめでとう。うん、やっぱ強いなぁ主人公それに連携もできてきた。そんなことを考えていると、

 

「なぁ、メフィスト」

 

「ナンですか?キリトサン」

 

「いや、お前レベルいくつなんだ?いくら何でも速すぎんだろ」

 

「そうですなぁ、ここまでの戦闘のおかげでレベルが10になりましたな」

 

「はぁ!?高すぎんだろ」

 

「デスゲーム開始前までモンスター乱獲しまくってましたからねぇ。始まる頃にはおかげ様でレベルが8からスタートでしたよ」

 

おお、主人公歯切れよくなった。よかったよかった少しウザかったから安心したよ。まぁ、主人公関係ないけど一つだけ不満はあるけどね。それはレベルの上がり幅が小さくなってる事だ。確かにここらのモンスターは簡単に倒せるほど強くなった。レベルが上がる速度が遅くなるのもわかる。だけど、いくら何でもレベルが上がる速度遅すぎんだろ。あれかデスゲームスタートと同時にレベルの上がり幅を下方修正されたのか。道中やここに来てのモンスターの討伐数は百体近くは狩ってるのに。現状に苛立ってるとすぐ近くからパンパンという乾いた音が聞こえた。咄嗟に俺とキリトは武器を構えると、

 

「・・・・ご、こめん、脅かして。最初は声を掛けるべきだった」

 

プレイヤーが出てきた。相手が謝ってきたので、

 

「・・・・いや、俺こそ・・・過剰反応してごめん」

 

「いやぁ、驚かせるのが得意なワタクシを驚かせるなんて、アナタ中々やりますねぇ」

 

俺はふざけながら返して、キリトは吃ったように返した。それにしても誰だこいつ原作キャラにいたか?あぁ、クソ。こういう時憶えてたらって思わされるな。

 

「君達も、やってるのかい?≪森の秘薬≫クエ」

 

「ええ、そうですよやってますよ。ワタクシはキリトサンと協力しながらクエストを受けていますよぉ」

 

「なら、僕も入れてからないか?勿論タダでとは言わない。最初と次のキーアイテムは譲ると誓うよ。それに僕自身、君達に協力したいんだ」

 

はい、協力しましょう。って言いたいんだけど主人公が人見知りすぎんだよなぁ。一応確認してみるか。キリトに近づき小声で確認する。

 

「キリトサンどうします?」

 

「お、俺は構わない。お前は?」

 

「ワタクシも構いませんよ」

 

よし、じゃあ決まりだな。

 

「ハァイ、じゃあヨロシクお願いしますね」

 

「あ、あぁ、こちらこそよろしく」

 

そう言いながら俺は手を差し出す。キリトと同じ人見知りなのか少し吃りながら返答してを取った。

 

しかし、それにしても「協力したい」か、いやぁ、あんな目しときながら心にもないこと言うなぁ。あの人。

 

 

 



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7話

第7話です。


「あ、そういえば僕、君達の名前知らないんだけど・・・」

 

「あぁ、そういえばそうですねぇ。ワタクシ達としたことが挨拶がまだではありませんか」

 

確かに、そういえばあいつの名前知らない。もし原作キャラなら名前を聞けば思い出すかも。って事で、

 

「自己紹介はアナタからどうぞ新入りサン」

 

「えーと、僕の名前はコペルだ。改めてよろしく」

 

うむ、知らん。いたっけか?こいつ?まぁ、あんな目をするプレイヤーだ。もしかしたら、原作始まって直ぐ死ぬモブキャラかもな、そんなことを考えていると、次に自己紹介したのは、

 

「・・・・よろしく、俺はキリトだ」

 

なんと、あの人見知りのキリトだ。おお、勇気だしたなぁ。キリトクゥン。お兄さん嬉しいよ。その後直ぐに俺も自己紹介した。

 

「ハァイ、ワタクシの名前はメフィストでございまっす!」

 

いつものように挨拶すると、コペルが目を丸くし、

 

「えっ?メフィストってあのメフィストか?」

 

と言った。おやぁ?もしかして、

 

「えぇ、恐らくそうでしょう」

 

「・・・なぁ、あのって何だ?こいつ何したんだ?」

 

「知らないのかキリト。変態情報屋が引き連れたピエロの様な風貌をした変態従者の噂」

 

「はぁ?何だそれ?」

 

「なんでも、その情報屋が公衆の面前で奴隷呼びしながら従者を跪かせてたらしぞ。しかも、従者の方はとんでもなく嬉しそうな顔をしてたらしい」

 

「ハァ!?何だそれ。気持ち悪っ!え、嘘だろメフィスト」

 

「いぃえ、嘘ではありませんよぉ」

 

いやぁ、よかったよかった。道中でプレイヤー達に広めていった話は上手く広がってるみたいだな。ちなみに内容はコペルがさっき話した通りで一応その情報屋の腕は確かだと言っておいた。これによってアルゴのネームバリューは広がり、俺も愉悦を味わえる。うーん、我ながらなんていい事したんだろう。今頃、アルゴを泣いて喜んでるだろうなぁ。

そんなことを妄想しながら悦に浸ってると、コペルと主人公がドン引きした目でこちらを見てくる。はぁ、やめてくれよ。

 

「お二人共そんな目で見ないでください。そんな目で見られては、股座がいきり勃つではありませんかぁ」

 

「うわぁ、嫌な意味で噂以上だぁ」

 

「うん、これ絶対一部語弊があるしこいつの噂に関しては噂じゃあないだろ。つーか、情報屋ってアルゴか?あいつも災難だな」

 

「いえいえ、そんなことありませんよ。アルゴサンのことです。今頃泣いて喜んでいる頃でしょう」

 

「「いや、それはない」」

 

わぁ、息ピッタリ。本当に初対面?それに全否定とは失礼な。

多分、きっと、恐らく、もしかしたら喜んでいるかも知れないのに。え?自分で言っておきながら信じてなさすぎ?

さぁて、なんのことやら。三人仲良く話していると。すぐ近くから敵が来るのがわかった。どうせ≪実つき≫なのだろうと振り返り確認してみる。そこには≪花つき≫がいた。

 

「ヒャッハー!!≪花つき≫ダァ!!キリトサン絶対仕留めますよ!」

 

「わかってる、メフィスト!当たり前だが絶対ヘマするなよ!?」

 

「うわぁ、テンション高っ。え?そんなにでないの?」

 

相手が攻撃するよりも早く俺が胴体に向けてソードスキルを放ち倒す。

よし、アイテムもドロップした。幸先いいなおい。その後直ぐにもう一体≪花つき≫が出るなど本当に運がいい。因みにこの≪花つき≫はキリトが倒した。

 

「いやぁ、本当についてますなぁ。コペルサァン、アナタ実はモンスターのドロップアイテムのドロップ率を上げるアイテムでもお持ちなのでは?」

 

「ないだろ、仮にあったとしてももっと上の階層だろうよ。でも、確かにすごい現れるな。さっきまでのが嘘みたいだ」

 

「そんなに出なかったの?さっきも出てきた感じ余りポップする確率は高いと思ったんだけど」

 

「さっき、こいつと二人で百体近く狩ったけど一体も出てこなかったんだけど」

 

「うへぇ、マジで?」

 

三人でそんな雑談を交わしながら、狩ること三十分程。すると奥からまた、≪花つき≫が現れた。ただし今回は、

 

「おやおやどうやら今回は≪実つき≫もいますなぁ。しかも二体。お二人共どうします?」

 

「そうだな、≪花つき≫は四体の≪身つき≫二体いるからそれぞれ、二体ずつ相手しよう」

 

「うん、そうだね。じゃあ僕が≪身つき≫二体相手取る。メフィストとキリトは≪花つき≫を頼む」

 

「カシコマリィィッッ、マシタァァァッッ!!」

 

「ああ、わかった」

 

それを合図にそれぞれの相手に向けて突貫した。



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8話

今回本気でシリアスです。


 

決着はすぐについた。

武器のリーチの短い俺は一対一を二度繰り返すことで無傷で勝利し、

逆にキリトは片手剣のリーチの広さを利用して二対一の状況で勝利した。後ろから聞こえる戦闘音からコペルがまだ戦い終わってないことを察する。援護する為に振り返ると、コペルと目が合った。その目には疑心、哀れみなど様々な感情が渦巻いていた。主人公も気づいたのかその目を見て体を硬直させている。そんな俺たちを見ながら短く言った。

 

「ごめん、二人共」

 

そして視線をモンスターに戻すと、右手の剣を大きく頭上に振りかぶった。刀身が薄青く輝くきソードスキルが発動する。あのモーションは道中、主人公からこのソードスキルだけは使わないと実演してみせた単発垂直斬りソードスキルその名も、≪バーチカル≫。

 

「いや・・・ダメだろ、それは・・・」

 

直ぐ近くから主人公の咎める声が聞こえてくる、しかしその注意は届かずソードスキルは発動し、≪実≫へと直撃した。

 

パアァァン!

 

という、凄まじいボリュームの炸裂音が森中に響き渡った。そして、モンスターは呆気なく爆散。それと同時に空気中に鼻につくような薄緑色の瘴気が俺たちを覆った。これを起こしたコペルは煙を避けて森へ向けて大きく飛び退いた。

って、やっぱこうなったか。薄々勘付いていたけど実際に起こすとは。

 

「な・・・なんで・・・・」

 

「そ・れ・は、単純ですよぉ。キリトサァン。コペルサンはわざと≪実≫に向けて剣を叩きつけた。ただそれだけですよぉ」

 

「そ・・・そんなことわかってる。だけど、このままじゃあ」

 

「ええ、このままではワタクシ達は匂いを感じてやって来た≪リトルネペント≫達に数の暴力で殴殺されますねぇ」

 

そう、このクエストのモンスターは≪実≫が爆散すると同時にその匂いを辿り大量にその場所に集まるという性質がある。このクエを知ってる段階でコペルがβテスターであることは逆説的にわかる。ならば、このクエでやってはいけないことも知ってるはずだ。つまり、彼は自分の意思でモンスター・プレイヤー・キル通称MPKを実行したと考えられる。いやぁ、(予想通りすぎて)驚きましたねぇ。

そんな事を考えている内に周りに二十、三十とモンスターが集まってくるのを≪索敵≫で感じる。いやぁ、まいったなぁ。モンスターとのレベル差が三倍以上あるとは言えこの数は流石にまずい。

抜け出す方法は一つだけある。それは、一点に向かって主人公と俺とで連携しながらモンスターを倒し抜け出すという脳筋戦法くらいだ。

 

しかし、コペルのやつどうやってこの状況から抜け出すつもりだ?確か≪隠蔽≫効きにくいだろこのモンスター。なら転移でもするか?

いや、アルゴは転移系のアイテムは下の階層にあるって言ってた。それに仮にあったとしても相当高価だと言っていた。もしかして、知らないのか?・・・・確かめてみるか。

 

「あのぉ、コペルサァン!聞こえてますかぁ。聞こえるなら物音を立ててくださぁい」

 

返答無し、か。ならば

 

「では、これは独り言になりますが、≪リトルネペント≫に≪隠蔽≫が効きにくいことくらい知ってますよねぇ」

 

すると、すぐに森の茂みの方からガサッという音が聞こえた。マジか、知らなかったのか。どうしよう嗤えてきた。まぁ、このまま見捨てるのもありだか、いいこと思い付いてるんだよねぇ。よし、やってみるか。

 

「コペルサァン、今アナタが≪隠蔽≫を解除して出てくるのであればワタクシとキリトサンが協力してアナタをその状況から早くカイホウして差し上げると誓いましょう。ワタクシこんなんでも地元では義理人情に厚いことで有名ですから。ああ、別に信じなくてもよろしいのですよ。ただそうするとアナタはそのまま死を待つだけなのですから。何せそちらにもかなりの数のモンスターがいますからなぁ」

 

そう言って相手の反応を待つと直ぐに気配がした。そして、

 

「頼む!助けてくれ!」

 

うわぁ、一瞬で出てきた。まぁ、命が惜しいのは分かるけどさぁ、もう少し迷おう?ま、言う通りにしたんだからカイホウしなきゃね、

 

「ハァイ、では約束どおり早くカイホウして差し上げましょう」

 

そう言いながら俺は声のした方に向き、

 

アイテムストレージから≪実つき≫の≪リトルネペント≫のドロップアイテムである≪実≫を数個取り出し足元に向けて放った。当然、実は爆ぜてコペルの足元から大量の瘴気が溢れ出る様に出現した。

 

「は?」

 

茂みの向こうから呆気にとられた様な声が聞こえる。隣からは絶句した様な目線を感じる。ん?なにをそんなに驚いてんだ?この二人。

 

「お・・お前、メフィスト」

 

「ハァイ、なんでしょう?」

 

「何してんだ!!」

 

はあ?なに言ってんだ?この主人公?約束を守ってるだけじゃないか。

 

「なにって?単純ですよ。早くカイホウしてやったのです。

 

          恐怖

 

から」

 

おいおい、主人公なんつー間抜けな面してんだこいつは。

 

「は、話が違う!」

 

「ハイィ?」

 

「助けてくれるんじゃあ・・・」

 

はぁ、話聞いてたのか?こいつ。

 

「ワタクシはカイホウしてやると言いましたが、助けるなどとは言った覚えがありませんなぁ」

 

それにさぁ、

 

「義理人情に厚い人間が仲間を裏切る様な相手を許すはずありませんもねぇ」

 

そう言うと怒ったのか顔を真っ赤にしながらこちらに向かって来る。しかし、周りのモンスターの数が三十以上もいる為近づけずどんどんとHPが減っていく。それに合わせて相手の顔も青ざめていくのだから嗤いが止まらない。あぁ、なんとも面白く、美しいことか。

 

「ふふ、ふふ、ふっふふ、ふ!安心して下さい。死は終わりではない。死は消滅ではないのですから」

 

そう言い切ると同時に主人公が助ける為に駆け出す。やらせねぇよ。

すぐさま取り押さえる。ん、意外と力強いな主人公。

 

「離せ!メフィスト!このままじゃあ・・」

 

「ええ、確実に彼は死にますねぇ。しかし、彼が死んでも忘れさえしなければワタクシ達の心の中で生き続けます。ネェ、アナタもそう思いませんか?ラウ・・・いや、クル・・・いや違うなぁ。うーん?

 

 

 

 

いやぁ、すいません。アナタァ、誰でしたっけ?」

 

嗤いながらそう言うと殺されかけてる「誰か」は絶望に染まった様な顔をした。瞬間、モンスターの波に呑まれてアバターが爆散した。

 

主人公は只々その光景を絶句したように見続けて、俺は、

 

「ヒャーハハハハハハハ!!!イーヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」

 

ただひたすらその結末を祝福する様に主人公を押さえるのも忘れて腹を抱えて嗤い続けた。ケタケタとケタケタとケタケタケタケタケタケタ。

 

 

 




読んでくれてありがとうございました。

いやぁ、メフィストらしく狂った様にかけたでしょうか?
一応言っときますが。主人公です。


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9話

シリアスは続く。


 

 

「フフッwww・・・あぁww・・・嗤いwwましたww」 

 

あー、面白かった。初めてかもなこんなに心の底から笑ったのは、本当に前世以来だ。しかし、さっきの奴の最期の顔・・・。ック、ダメだまた嗤えてきた。って、うん?

 

「いやぁwww、キwリwトwサァンww。これは、クヒヒw・・・ふぅ。一体何の真似ですかねぇ。できればやめて欲しいのですがぁ」

 

「黙れ、頭のネジが外れた気狂いが。今の光景を見せられてやめると本気で思っているのか!?」

 

そう言いながら、俺の首元に添えた片手剣を下ろさない。おー、凄い。反応が完全に主人公のそれだ。うーん、何て言うか。

 

「キリトサァン覚悟も無いのにこんな事するの辞めといた方がイイですよぉ〜」

 

「ッ」

 

主人公は内心を見透かされて動揺したのか、片手剣の剣先が少しブレた。うん、後もう一押しだな。

 

「それにぃ、イイのですか?このままではワタクシ達も先程の人と同じ運命を辿りそうですよ?」

 

周りに何十体もの≪リトルネペント≫を指差しながら告げると、

 

「ッ、クソ!一先ずここを抜け出すぞ!一点に向かって攻撃しろ!そうすれば抜け出せるかもしれない!」

 

「ハァイ、カシコマリィィッッ、マシタァァッッ!キリトサァン突っ込んでください上手く合わせますよぉ」

 

皮肉にもこの時が一番連携が上手くいっていた。二人でおおよそ二十体近く倒した頃にふと、主人公の方を見た。そして、それを見た時俺は驚愕してまた、嗤った。

あぁ、マジか。見た。見てしまった。正しい正しい主人公の内なる獣性を。アルゴにココに送りつけたことに感謝しなくては。今日は実にいい日だ。あぁ、今の主人公の何と美しく何と面白いことか。あぁ、本当に可笑しくて堪らない。そんなことを思いながらまた、敵の方に意識を向けた。

 

 

「ハァッ、ハァッ」

 

「いやぁ、疲れましたねぇ。キリトサン」

 

あの後互いに戦いながらレベルを上げ強くなったことで狩るスピードが上がり、何とか抜け出すことができた。さぁて、イイもん見れたしクエスト終わらせて帰ろ。そう思いながら、クソババアの元へ向かおうとする。すると、いきなり主人公に押し倒されて首筋に片手剣が添えられた。

 

「おやおや、キリトサァン。ワタクシ、こういう趣味はないのですが」

 

「黙れ、お前には幾つか言いたいことがある。だが、逃げられては困るからこういう風にしているんだ」

 

ああ、なるほどね。主人公にそういう趣味があって俺はそれに付き合わされてるって訳じゃあないのね。よし、わかった。

 

「イイですよぉ〜。ワタクシ今のとても気分が良いので」

 

「じゃあ、聞け。憎かったからってもう人の死を嗤うな」

 

「ハイィ?」

 

は?何言ってんのこいつ。あ、もしかして

 

「ああ、なるほど。ワタクシが裏切りが憎かったからこの様なことを起こした、そう言いたいのですね。一応言っときますが誤解です憎くありませんでしたよ」

 

「は?」

 

「寧ろ、道中のアナタ方の雑談は楽しいものだと感じるくらいでしたから」

 

主人公は信じられないって顔してるけど事実だ。道中の雑談や話している時の相手の反応は面白いものだった。だけど、

 

「あの時、彼自らの計画が破綻した時の嘆きや恐怖!そして、ワタクシ達を裏切ったという悔恨!そこからワタクシが差し伸べた希望を見せて『死にたいくない、生きたい』と立ち上がり叫ぶ獣性!さらに、その願いすらも破綻したことに対する絶望!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最ッッ高に面白かった!!!!」

 

そう、そんなもんだった俺があの男を嘲笑ったのは。只々、愉悦を味わいたいそんな望みのために俺はあの男を見殺しにした。そして、その光景を嗤いな続けながら見ていた。只々それだけだ、

 

「いやぁ、ワタクシだけではアレ程のものは見れなかったでしょう。アナタの協力もあったが故に「黙れ」・・・ヒヒッ、冗談ですよ冗談」

 

いやぁ、怖い怖い。このままじゃ主人公が一線超えそうだわ。しかし、

 

「ワタクシはアナタがそこまで怒る理由がわからない。ワタクシと同類のアナタが」

 

「ッ、俺とお前が同類だと!ふざけるのも大概にしろ!俺はアイツのコペルの死を嗤っていない!確かに裏切られたことには驚いたしショックだった。それでもアイツを嗤うことだけはしなかった!お前と違ってなあ!!」

 

「ああ、言葉が足りませんでしたね。アナタはワタクシとは違うベクトルの同類だと言いたかった」

 

「は?」

 

・・・・もしかして自覚していないのか?まぁ、今から説明するんだけどね。

 

「アナタァ、文字通り生きるか死ぬかの瀬戸際の時本当に楽しそうに嗤ってましたよ」

 

「・・・そんな訳ない。仮にそうだとしても楽しんでただけだ」

 

「それが変なんですよぉ。だって、つい先程お仲間が死んだのにも関わらず楽しむというのは妙だとは思いませんか?」

 

「ッ、それはそうだが」

 

生まれた隙を使い逆に押し倒し、頬を撫でながら告げる。

 

「ましてや、今このSAOはゲームであれど遊びでは無い。このゲーム内での死は現実での死と同義なのだから。普通の人は死を直面すれば、体は固まり身動きが取れなくなるもの」

 

前世の俺の様に、

 

「なのにぃ、あの時のアナタは固まるどころか寧ろ嗤いながらモンスターを屠り続けたではありませんか」

 

今世の俺の様に、

 

「あの時のアナタの嗤いは確かに愉悦故に生まれた嗤いでしたぁ。ワタクシが言うのです間違いありません。そしてそれは、ワタクシも同類である何よりの証明なのですよぉ!!キリトサァン」

 

あの時あの笑みを見た俺は嗤いながら確かに確信した。闘争こそが主人公であるキリトの獣性なのだと。そして、全く違うベクトルの俺との同類なのだと。

 

「まぁ、理由はこんなもんですよ。反論も否定も受け付けますよ」

 

「・・・」

 

上体を起こして押し倒す形を解くと少し俯きながら押し黙ったままの主人公をみてそう言った。

 

「さて、ワタクシはクエストを終わらせに行きます。アナタも早めに動いた方がいい。でないと、せっかく拾った命無駄にしますよ」

 

「・・・」

 

「それじゃ、お先に。また会えたらその時はパーティーでも組みましょうね」

 

そう言いながら仰向けの状態の主人公を置いてその場を去った。

 

 

「ありがとうございます。これで娘のアガサの病気も治ります」

 

「いえいえ、気にしないで下さいよぉ」

 

んな事どうでもいいからとっとと武器よこせや。そんな事を思っていると

 

「では、この中からお選び下さい。旅の剣士さん」

 

そう言いながら片手剣を筆頭に槍、細剣、斧、棍、短剣等沢山の武器を出してきた。

え?確かこのクエは貰えるのって片手剣だけじゃあねぇの?もしかして、クエストの内容が変更したのか?だとしたら、本当にありがたいし受けた甲斐があるというものだ。あの後帰り道で≪花つき≫を二体も倒したからアルゴの分も貰えるな。よし、

 

「では、短剣を二つ頂けますかぁ?」

 

「ええ、どうぞ。あなたの旅が良いものである事を私は祈っています」

 

そりゃ、どーも。

 

その後、手に入れた≪アニール・ダガー≫を二本とも最大値まで強化して帰ろうとしたが、一本を最大値まで強化してもう一本が半ばまでしか強化したところで強化素材である≪リトルネペント≫の≪実≫が尽きてしまった。なのでもう一度森に入り≪実つき≫を狩りまくった。

そして、その≪実≫を使い限界まで強化した後アルゴに今回の事を報告する為にはじまりの街へ帰還した。

 

 

「ナァ、オレッちさぁ情報を周りに売り込もうとしたらさぁ、すげえことがあったんダ。聞いてくんねぇカ?」

 

「ほうほう、気になりますねぇ。一体全体何があったというのですか」

 

「いやぁさ、オレッちが情報売って名前を教えたらサ。『うわぁ!噂の変態主従の主だあ!お・・お願いします!金は提示された倍払いますのでどうか見逃して下さい!!』って言われたんダ」

 

「はぁー、それまた大変でしたねぇ」

 

「ウン、オレッちも誰がこんな根も葉もない噂広めたのか調べたんダ。そしたらサァ、薄紫色の瞳と髪をした驚くほど白い肌をした男が噂の出所らしいんだよナァ」

 

「はぁー、それはまた大変かもですねぇ」

 

「なぁ、メッフィー」

 

「ハイ、何でしょう?」

 

「言い残すことはあるカ?」

 

「もう少し発育に良いもの食べた方がイイですよ。アルゴ」

 

そう言った瞬間、アルゴの中段突きが鳩尾に突き刺さった。

 

 




読んで頂きありがとうございました。


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10話

長くなりました。


 アルゴの借りている宿に入り互いに知った情報を報告する。

 

「で?≪アニール・ブレード≫のクエストに変化はあったカ?もしくは何かいい情報でもいいゾ」

 

「ああ、≪森の秘薬≫クエのことですね。それでしたら≪花つき≫の出現確率が大幅に下方修正されてましたよぉ」

 

「やっぱそうなってたカ、因みにどれくらいダ?」

 

「ええっとですねぇ、協力しながら二百体近く狩ってようやく一、二体ってとこでしょうか」

 

「ウェッ!?冗談ダロ?」

 

いやぁ、今思い出すだけでもあれは本当にキツかった。狩っても狩っても終わらないなんて無限地獄と変わらないもの。アルゴの前情報の五十体狩れば何体か出てくるって言う話も実は気休めだったのではないか本気で疑ったくらいだ。

 

「わかった、その事はちゃんと情報として売り捌くからナ。安心しろヨ。他にはないのカ?」

 

「ああ、後≪アニール・ブレード≫だけでなく、他の武器も貰える様になってましたよぉ」

 

「ナニ!?マジでカ!?」

 

「ええ、マジです。ホラ、これが何よりの証拠」

 

そう言いながら、アイテムストレージに収納している≪アニール・ダガー≫を取り出す。するとアルゴは目を輝かせながら

 

「ヨシ!よくやったメッフィー!これは本当にいい情報ダ!これであの時やらかしたことはチャラにしてヤル!」

 

「おやおや、それは嬉しいですねぇ」

うむ、可愛い。あんなにはしゃいじゃってさぁ。あ、そうだ。

 

「ハァイ、アルゴサン」

 

「ん?何でオレッちに≪アニール・ダガー≫と茶革のコートを差し出してんダ?」

 

「察しが悪いですねぇ。アナタの分ですよアルゴサン。態々苦労して貰ってきたんですから感謝してくださいねぇ」

 

「お・・おう、そ・・そのなんだ、あ・・ありがとうナ。メッフィー」

 

ヤダ、顔真っ赤だ。可愛い。つーか、意外だもっとこう「あんだけの事したんダ。渡して当然だナ」とか言いながら武器を持ってくと思ってたんだけどな。照れすぎっていうか、ちょろすぎんだろアルゴ。

 

「アルゴサァン、ワタクシ、アナタが将来悪い男に騙されそうで不安ですよぉ〜」

 

「タチの悪い男と行動してる段階で色々手遅れだけどナ」

 

「はて?タチの悪い男?メッフィー、誰のことだかわ〜か〜ん〜な〜い〜」

 

「・・・・ウゼェ」

 

何かボソッと聞こえたが無視する。そう「ウゼェ」なんて聞こえてなかった。いいね。さてと、じゃあ。

 

「次の仕事を言ってくださいな。アルゴ」

 

「え?いいのカ?今回の件だけでも相当苦労した、というかさせたつもりだったんだけどナァ。何かいい事あったのカ?」

 

「ええ、とびっきりのいい事がありましてねぇ。その一つはワタクシのレベルが12になって次のクエに行けば13に上がるかもしれないと言うところですかねぇ」

 

「ハァ!?流石に冗談ダロ!いくら何でも早過ぎル!」

 

「いえいえ、本当ですとも。なんなら確認してみてはいかがですか?」

 

俺のレベルを確認して嘘を言っていないのがわかったのか絶句している。うーん、大袈裟だなぁ。そこまで上がるの早いか?俺は唯ひたすらモンスターを倒しているだけなのになぁ。てゆーか、アルゴ今言った言葉忘れねぇからな。今度お前でも涙目になる様なことしてやるからな。そんな不穏なことを心に決めて尋ねる

 

「で?どうします?」

 

「あ・・・ああ、じゃあ一つだけダンジョンがあるから内部が変化してないか調査を頼めるカ?ああ、ただ少し休んでけよ?疲労したことが理由でくたばったら元も子もないからナ」

 

「カシコマリィィッッ、マシタァァァッッ!!でーは、アルゴサァンこれ貸し一つですからねぇ」

 

「へ?ちょ、ちょっと待テ。今のセリフどういうことダ?お前が言うと不穏過ぎんダロ!!」

 

「さぁて、何して遊ぼっかなぁ」

 

「ヤ、ヤメロォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

後ろから聞こえる絶叫をBGMにしながら俺にとっての日常に戻ってきたことを実感した。

 

 

三日程休んだ後、泣きながら「あの時の言葉は取り消させてクレ」と言いながら死んだ魚の目で足に縋り付いてくるアルゴをガン無視しながらダンジョンへと向かった。それにしても、アルゴすげぇな。第一層とは言え五分の一はマッピングしたっていうんだから。アルゴの仕事ぶりと道中のモンスターが最早ワンパンで倒せる様になっている事に驚いていると、

 

「おやぁ、今回はそこまで遠くありませんでしたねぇ。安心しました」

 

ぶっちゃけ、これで遠かったら如何してやろうか考えるところだったしな。命拾いしたなアイツ。そう思いながらダンジョンへ入ると、パリィィン、というアバターが爆ける音がした。音のする方に≪隠蔽≫を発動させながら近づくと、そこには一人の女のプレイヤーがいた。それを見た時少しだけ俺は驚いた。

元々、女のアバターを使う男が多いため「女の子だと思った?残念!男でしたぁ!」っていうのが大半を占める。というか、仮に俺が女のアバターを使うのであれば口説き落とした後そうする。

それにしても、

 

「いやはや、見目麗しいですねぇ。男受けが良さそうだ」

 

実際、今戦ってる女の容姿は本当に美しい。栗色の髪にきめ細かい肌、服越しからもわかる凹凸のしっかりとした体、極め付けは十人中十人は振り返りそうな顔立ち。え?アルゴ?あれは可愛い枠だから。年近いらしいけどさ。

いやぁ、綺麗だなぁ。だけど、

 

「何処かで見た顔ですねぇ。というか、ソードスキルは使わないのでしょうか?」

 

まず、見たことあるって段階で原作キャラ。それも思い出すのが早い段階で出てくる回数の多いキャラだろう。つーか、本当にソードスキル使わねぇな。大丈夫か?一応HP確認したけど少しやばいぞ。

そう思っていると、女の背後から現れたモンスターが女目掛け攻撃しようとしているのが見えた。しかも、女は気付いていない。うん、原作キャラ(かもしれない)が死ぬのはやばいな助けないとな。

瞬間、俺はモンスター目掛け突貫しながら新しく覚えた単発短剣ソードスキル≪ラピッド・バイト≫をすれ違い様に喰らわせた。すると、レベル差も相まってモンスターのHPが九割以上削れた為残りのHPは素の技量で削りきった。女のほうを確認すると多少危うげだったが目の前の相手を倒していた。流石に俺の存在に気づいたのか目を見開きながら尋ねてきた、

 

「アナタ、誰?」

 

「ハァイ、ワタクシの名前はメフィストと申します。アナタ様のお名前は?」

 

「私は・・・結城明日奈」

 

ん?今本名言わなかった?ていうかうわぁ、マジか主人公の次はメインヒロインかよ。

 

「あのぉ、すみませんが今本名言いませんでしたかぁ?」

 

「?、ええ、そうだけど・・・・」

 

「ゲーム内で個人情報を教えるの良くないですよぉ〜。教えるのであればプレイヤー名の方が良いですよぉ」

 

「え?そ、そうなの?」

 

マジでかこの娘、ゲーム内で個人情報明かすのはまずいこと知らないのか?致命的すぎるぞ。

 

「まぁ、今のは聞かなかった事にしますけどぉ。アナタァ、なぜソードスキルを使わなかったのですかぁ。そんな無茶な戦い方しては身が持ちませんよぉ?」

 

「初対面の貴方にとやかく言われる筋合いはないでしょう。それに何?ソードスキルって?」

 

「ハイィ?」

 

・・・・・今何つったこの小娘。

 

「今何と?」

 

「ソードスキルって何なのかって聞いてるの」

 

嘘でしょう。ソードスキルを知らないって初心者どころの騒ぎじゃあない。始めた頃の俺より酷いじゃないの。てゆーか、よく今まで生きていたな。

 

「はぁ、いいですか。ソードスキルって言うのはですねぇ」

 

そこから色々なことを教えた。ソードスキルのことステータスの振り方のことポーションのこと武器の補充をすること等、アルゴから習ったこと全てを教えた。

初めは面倒くさそうにしていたアスナも話を聞いてくうちに真面目に聞くようになっていった。そして、現在。

 

「では、細剣のソードスキル≪リニアー≫を発動させて見ましょうか」

 

「ええ・・・わかったわ」

 

そう言いながらアスナは攻撃を全て回避して相手に向けて流星の様な≪リニアー≫を放った。うわぁ、マジで速いな。

 

「ハァイ、ソードスキル発動おめでとうアスナサン」

 

「・・・すごい。あの、その教えてくれて、あ・・ありがとう」

 

「いえいえ、問題ありませんよぉ。互いに助け合っていきましょうねぇ。後、先程も言いましたが。武器の補充ついでに一日くらい休んでおいた方がよいのでは?」

 

そう告げると、少し考える素振りを見せる、

 

「・・・・ええ、そうさせて貰うわ」

 

「では、お達者で。ああ、後本当に困ったことがあればアルゴという情報屋を訪ねるといいですよぉ〜」

 

そう言うと俺とアスナは真逆の方向へ向かっていった。あーあ、やっと終わった。今回話してみてわかったことは俺はあの女苦手だってことだ。あの諦めを享受した目、鏡でも見せられてる気分だった。あーイライラする。

その後、ダンジョンの奥地まで入り途中でレベルが上がることで気分を直しながらマッピングをした後アルゴに報告する為に戻った。

 

 




主人公は『今』のアスナのことは嫌いです。


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11話

11話です。


 

 

 原作のメインヒロインに戦い方を教えてから早一か月。約2000人と全体の五分の一もの人が死んでいるのにも関わらず未だに第一階層もクリアされないままそれ程の月日が流れていた。

この一か月、唯ひたすらに最前線で情報を集めるついでに鍛え続けた俺のレベルは今や17と現段階ではトップの強さになった。どれくらい強いのかと言うとアルゴ曰く「お前一人でボス戦の前線を張れるレベル」らしい。ああ、後、試しに細剣も使ってみたら意外と便利だった。

まぁ、敏捷特化の俺は出来てヒットアンドアウェイの戦法で撹乱することぐらいだけどね。まあ、勿論唯戦うだけじゃなくて情報を集めたりマッピングしたり、素材を集めアルゴに売り捌いて貰ったり、情報を買いに来た主人公と出くわし睨まれたりアルゴを揶揄ったり特に変わりばえのない日常を退屈しながら送っていると、アルゴからいきなり命令された。

 

「ナァ、明日の夕方、迷宮区最寄りの≪トールバーナ≫の町で、一回目の≪第一層フロアボス攻略会議≫があるのは知ってるナ?」

 

「えぇ、勿論知ってますよ、アルゴサン。それがどうしたのですか?」

 

「オレッちと一緒に参加シロ、コレ決定事項ナ」

 

はぁ?命令だなんてらしくないなぁアルゴ、何があったのかなぁ。

 

「何か良くない情報でもありましたかぁ?アルゴサン?」

 

「ん、悪りぃ言葉足らずだった。オレッちと行動してんだから知ってると思うがここ最近アインクラッドの攻略を諦めている奴等がいるの知ってるカ?」

 

「えぇ、知ってますよ」

 

そうなのだ、アルゴの言う通り今や攻略を行っているのは俺とアルゴを含めても極少数なのだ。それは、情報を集めの際色々な所で知らされている。でも、俺はこの状況好きかなぁ。え?なんでって?

形だけの平和の状態だからだ。壊れる時は一瞬だしね。

それよりもなんでアルゴがこんなこと言い出したのかだけど、

あぁ、なるほど。そういうことね。

 

「現状打破の為、ワタクシに一層クリアの為の手伝いをしてこいと言いたいのですね。アルゴサン」

 

「まぁ、そう言う事ダ。オレッちは集会には集まるガ、攻略には協力できねぇしナ。頼めるカ?」

 

「勿論ですとも、ワタクシもいい加減この階層に飽きてきたころですからねぇ」

 

そう言いながら、立ち上がり集会へ向かう為の準備を始める。

あ、そうだ。

 

「アルゴサァン、ワタクシ先程麻婆豆腐作ったので食べてくださいねぇ。いやぁ、料理スキルのレベルが上がったので自信作なんですよぉ」

 

「嫌に決まってんだろうガァァァ!!お前、以前何も知らないオレッちに食わせた麻婆の味まだ覚えてんだからナ!!辛いもの好きのキー坊が悶絶しながらのたうち回るレベルってヤバすぎんダロ!!」

 

今料理スキルも鍛えてんだけど本当不思議なことにどれだけ頑張ってもラー油と唐辛子を百年間くらい煮込んで合体事故の挙句、『オレ、外道マーボー今後トモヨロシク』みたいな見た目になるんだよなぁ。あの時のアルゴの涙目、可愛かったなぁ。また、見てみたいんだけどなぁ。

そんな事を考えながら気休めでしかないレベル上げをやった後に寝た。

 

 

次の日の昼頃にアルゴと共に家を出て≪トールバーナ≫へと向かった。≪トールバーナ≫には何の問題も無く既にいた開催者と思われる青い髪の男を除けば一番に着くくらいには余裕だった。

それからしばらく寝ながら待っていて目を覚ますと辺りには四十人程のプレイヤー達が集まっていた。

へぇ、意外と多いなぁ。もっと少ないと思ってたんだけど。

辺りを見渡すと俺を見て顔を顰めたキリトとフードを深めに被ったアスナが居た。

コレまた意外だなぁ。あの二人は参加しないと思ってたんだけど、参加したんだ。

そんな事を思っていると、

 

「はーい!それじゃ、五分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます!みんな、もうちょっと前に・・・そこ、あと三歩こっちに来ようか!」

 

一番初めに居た青髪の男が堂々と喋っていた。お、助走抜きで噴水の縁まで飛び乗れるのかぁ。しかも、あの装備で。筋力と敏捷共に高いなぁ。つーか、あの顔もしかして、ディアベルって奴か?人集めてるって情報の。もしかしなくともこの為に集めてたのか?そんな事を考えている間に男は爽やかな笑顔を浮かべながら言った。

 

「今日は、オレの呼びかけに応じてくれてありがとう!知っている人も居ると思うけど、改めて自己紹介しとくな!オレは≪ディアベル≫、職業は気持ち的に≪ナイト≫やってます!」

 

すると、噴水近くの一団からどっと沸き、口笛や拍手に混じって「ほんとは、≪勇者≫ってーんだろ!」など言う声が飛ぶ。

 

うん、どこが面白いの?全く笑いどころがわかんねぇ、マジレスすると職業なんてないしな。

 

「・・・今日、オレたちのパーティーがあの道の最上階に続く階段を発見した。つまり、明日か明後日にはたどり着くってことだ。第一層のボス部屋に!」

 

どよどよ、とプレイヤー達がざわめく。はい、ダウト。アルゴのマッピングデータを高値で買い取ってた奴がディアベルのパーティーにいたからな。もしかして、知らないのか?

 

「一ヵ月。ここまで、1ヶ月もかかったけど・・・それでもオレたちは示さなきゃならない。ボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームそのものもいつかきっとクリアできるんだってことを、はじまりの街で待っているみんなに伝えなきゃならない。それが、今この場所にいるオレ達トッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、皆んな!」

 

再びの喝采。今度はディアベルの仲間以外も手を叩いている者が多い様だ。

え?なにこれ、アイツ主人公?SAOの主人公ってディアベルだったか?バラバラだった最前線の住人達を纏める姿は最早主人公のそれなんだけど。

そんな事を考えていると

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん」 

 

そんな声が低く流れた。歓声がピタリと止まり、前方の人垣が二つに割れる。そして、その中央には小柄だがガッチリとした体格の男がいた。しかし、俺が今一番気になっているのはなんで盛り上がりを沈めたのでは無く。サボテンの様な髪型に興味をしめしていた。

え?どうなってんの?アレ。まさか現実世界でもああなの?いや、仮にそうだとしたらどんな風にセットしてんの?そんな考えで頭の中がいっぱいになっていると。男は名乗った。

 

「ワイは≪キバオウ≫っていうもんや」

 

キバオウ?ああ、思い出した。キリトの≪アニール・ブレード≫欲しがってる原作で噛ませ犬のあの人か。

 

「こん中に、五人か十人、ワビィ入れなあかん奴らがおるはずや」

 

はぁー、始まった始まった。そーだった、あの人アンチだったよ。どーせ、βテスター達に対する愚痴だろ?聞き飽きてんだよコッチは。

そこからは予想通り、キバオウがβテスター達に対する文句を言い始めた。

 

曰く、βテスター達は情報を独占めしている。

 

曰く、そいつらは土下座させなければならない。

 

曰く、貯め込んだ金やアイテムを負担しろ。

 

っといった感じだ。いやぁ、驚きましたねぇ。まさか最後は金寄越せとはいやぁ、キバオウさん流石っす!

まぁ、下らない話を聞いて割と本気でイライラしてきたので、

 

「あのぉ、よろしいでしょうかぁ」

 

「発言、いいか?」

 

言いたい事を言おうとしたら他にも誰か同時に手を挙げたん?誰だ?そう思いながら目を向けるとそこには両手用戦斧を持った身長が百九十ほどありそうな筋骨隆々のスキンヘッドの男がいた。

まぁ、それはともかく。

 

「先、よろしいですか?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「ありがとうございす。ボブサン」

 

「はは、俺はボブじゃなくてエギルだ」

 

うむ、快活な人だボブサン。好きになりそうだぜ。

それはさて置き、

 

「ワタクシの名前はメフィスト、以後お見知りおきを。さて、キバオウさん、アナタの話をまとめると元βテスターが面倒を見なかったからビギナー達がたくさん死んだので謝罪と賠償しろ、ということですね?」

 

「そ・・・そうや」

 

聞き返されるのは想定外だったのか、少し吃った様に答えるキバオウ。しかし、すぐに前傾姿勢を取り戻すと、ギラついた小さな目で此方を睨め付け、叫んだ。

 

「アイツらが見捨てへんかったら、死なずに済んだ二千人や!しかもただの二千ちゃうでほとんど全部が、他のMMOじゃトップ張ってたベテランやったんやぞ!アホテスター連中が、ちゃんと情報やらアイテムやら金やら分け合うとったら、今頃ここにはこの十倍の人数が・・・・ちゃう、今頃は二層やら三層まで突破できとったn「スバラシイィィ!!ワタクシ、アナタの意見に大変心突き動かされましよぉ〜。キバオウサァン!」・・・へ?」

 

ん?なんだ?意見に同調したのになんだ?その間抜け面?

ああ、もしかして。

 

「ワタクシが否定するとでも?」

 

「あ・・・当たり前やろ。その為に意見したんやろ?」

 

「ハァイ、確かにそのつもりでした。しかし、アナタの言葉や考えを聞き意見を考えざるを得なくなった。ただそれだけですよ」

 

そう言うとキバオウは気分良さそうにしていた。

 

「ああ、そうやろ。だかr「ええ!!ですのでβテスターの皆様の身包みを剥いだあと皆殺しにしましょう!!」・・は?」

 

快活な笑顔と共に提案すると同時に周りの空気が凍りつく。驚愕を含めた視線を浴びながら俺は、自ら考えたアイデアを自画自賛する。

ん?ちょっと待て、なんでキバオウまで絶句してんだ?




読んで頂きありがとうございました。
因みに主人公とアルゴは同棲しています。


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12話

「い・・・今、なんて言ったんや自分?」

 

「?ええ、ですから元βテスターの皆様の身包みを剥いだ後皆殺しにしましょうといったのですが。聞こえませんでしたかぁ?」

 

んー、わかんないなぁ。周りは兎も角、なんでキバオウまで絶句してんだ?お前が望んでいる事だと言うのに。

 

「どうかなさいましたか?キバオウサン。鳩が豆鉄砲くらった様な顔して。中々、笑えますよ」

 

「じ・・・自分、それ本気で言っとんのか?」

 

「?また奇異な事仰る方ダァ。アナタの望んでいる事でしょう?」

 

「ッ!ンな訳あるかぁ!死んで欲しいなんて誰も言っとらんやろ!」

 

「いえいえ、ワタクシが賛同し、尚且つアナタが望んでいる事はβテスターを断罪すべきだということですよ」 

 

ああ、なるほどね。確かにそれだったらそんな事望んでないって否定するは。俺もするもの。

だけど、

 

「アナタの目には元βテスターが人を見捨てるクズに映っているのでしょう?」

 

そう、確かにキバオウは皆の前でそう言っていた。元βテスターが見捨てなければ死なずに済んだ。と、

 

「ならばこそ死んで逝った二千人の同胞達への手向として見捨てたクズ共を捧げるのです!!」

 

「そこまでする必要ないやろ!!」

 

はぁ?何言ってんだこいつ?

 

「当然の報いでは?何せ、救いを求めるビギナー達を見捨てて自分達は保身の為に情報を独占する。その様な事をすれば被害者が出るというのに何もせずただのうのうと暮らしているのですよぉ〜?」

 

ならば、

 

「そんな、卑劣で愚劣な卑怯者は消すに限るに決まってるではありませんかぁ」

 

「ンな事、誰も望んでおらへん!」

 

「ならば、身包みを剥ぐことは皆が望むことなのですかぁ?」

 

「なっ!?ち、違うワイが言いたいのはそうゆうことやない!」

 

「救いをせずに周りを惑わす者には死を与えるべきなのです!」

 

キバオウの訂正を無視してこう締めくくる。

 

「だって、元βテスター達は二千人もの人々を見殺しにした大量殺人鬼なのだから!」

 

大仰な身振り手振りでそう言うと、今度こそキバオウは口をパクパクと開けながら完全に黙った。

 

「例え、三百人ものβテスターが亡くなっていようとも!

例え、元βテスターの死亡率が40%を越えようとも!

例え、自らの保有する情報に過信したβテスターがすぐ隣にいた仲間の死に耐えきれず心が壊れた者がいたとしても!

断罪せねばならない!

だってそうでしょう、彼らは二千人ものビギナー達を皆殺しにしたのだから!!」

 

そう言い切った後、完全に死に絶えた空気の中キバオウを見ると沈痛そうな顔を下に向けているのがわかる。なので、さらに追撃をかけるべく言葉を重ねようとすると、

 

「そこまでにしてやれ」

 

ガングロボブさんに止められた。

 

「あんたが、βテスター達のことをなじられて苛立っているのはわかったが少しやり過ぎだ。辞めてやんな」

 

やだ、何このボブ。イケメンすぎでしょ。ボブのイケメン振りに驚嘆していると。キバオウのほうへ向き、

 

「なあ、キバオウさん。金やアイテムは兎も角情報はあったと思うぜ」

 

レザーアーマーの腰につけた大型ポーチから、羊皮紙を綴じた簡易な本を取り出しながら優しく諭す様にそう告げた。

って、それ。俺とアルゴが作った攻略本じゃないの。守銭奴なアイツが無料配布するって言って驚かされたから良く覚えてる。

 

「このガイドブック、あんただって貰っただろう。ホルンカやメダイの道具屋で無料配布されてるからな」」

 

「貰たで。それが何や?」

 

苛立ってるのか刺々しい声で答える。

・・・・野郎、ボブさんになんて口の聞き方してんだ。もう一度言葉の暴力で泣かしてやろうか。

それでも、怒らないエギルは腕組みしながら言った。

 

「このガイドブックは、オレが行く先々の道具屋に置いてあった。あんたもそうだったろ。情報が早すぎる、とは思わなかったのかい?」

 

「せやから、早かったから何やっちゅうんや!」

 

「このガイドブックのデータを情報屋に提出したのはβテスター以外有り得ないってことだ」

 

周りで聴いてたプレイヤー達が一斉にざわめいた。キバオウがぐっと口を閉じ、その後ろで職業ナイトのディアベルが頷く。

エギルが視線を集団に向けると、よく通るバリトンを振り上げた。

 

「いいか、情報はあったんだ。なのに、たくさんのプレイヤーが死んだ。その理由は、彼らがベテランのMMOプレイヤーだったからだと考えている。このゲームを他のゲームと同じ物差しで計り、引くべきポイントを見誤った。だが、今はその責任を追及してる場合じゃあない。そうだろ?オレたち自身がそうなるかどうか、この会議で左右されると、オレは思ってるんだかな」

 

エギルさん、マジカッケェェ!!!!うわあ、マジですごいなあ、周りの雰囲気を崩さず味方をつけながら堂々とした態度でキバオウを論破した。

一応キバオウの方向を確認してみると憎々しげにエギルと俺を見ていた。

うん、別に「そんなこと言うお前らこそ元βテスターなんだろ」的なこと言ってきたら自殺に追い込むレベルで罵倒しよう。

無言で対峙する三人の後ろで、噴水の縁に立ったままのディアベルが、夕陽を背に受けた影響で紫色に染まりつつある長髪を揺らし頷く。

 

「キバオウさん、君の言うことも理解できるよ。オレだって右も左もわからないフィールドを、何度も死にそうになりながらここまで辿り着いた訳だしさ。でも、今はいや今だからこそ元βテスター達の戦力がいるんじゃないか。彼らを排除して攻略が失敗したら元も子もないじゃないか」

 

おい、ナイト(笑)対応遅いぞ。まあ、だけどナイトを自称しるだけあって爽やかで如何にもって感じの弁舌だな。聴衆の中にも頷いている人いるし。そしてナイト(爆)は言葉を続ける。

 

「みんな、それぞれ思うところはあるだろうけど、今だけはこの一層を突破する為に力を合わせてくれ。チームワークが何より大事だからさ」

 

ぐるりて一同を見渡したナイト様は、最後にキバオウを真顔で見つめた。笑える髪型の持ち主はしばらく受け止めていたが、盛大に鼻を鳴らすと押し殺す様な声で言った。

 

「・・・ええわ、ここはあんさんに従うといたる。でもな、ボス戦が終わったら、キッチリ白黒つけさしてもらうで」

 

振り向き、スケイルメイルを鳴らしながら列に戻った。俺も戻ろうとすると、エギルが

 

「なぁ、あんた。メフィストだったか?今後は言葉のほう気遣った方が良いぞ。後から恨みを買って後ろから刺されたら笑えないからな」

 

「ヒヒ、御忠告ありがとうございます。エギルサン」

 

いやぁ、さっきあんなことやらかした俺に忠告とか優しすぎだろエギルさん。女だったら危なかったよほんと。

んー、でもあの時のナイト様の顔色がわるくて目線がぶれまくってたなぁ。何か動揺してたのか?

まさか、元βテスターか?帰ったら調べてみるか。

 

そう思いながらアルゴがちょこんと座っている場所へ戻ろうとするといなくなっていた。

 

・・・・あの女帰ったら覚えとけよ。麻婆を口に無理矢理突っ込んでやるからな。

 

その日の夜、はじまりの街で涙に濡れた女の絶叫が響き渡った。



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13話

13話です。


 

 

 無理矢理外道麻婆を食わせてアルゴを泣かせた後、アルゴの仕事を手伝った。そして少しだけ眠り、第二回目の攻略集会に集まった。因みにアルゴは今回は参加しなかった。そして会議が始まりディアベルが状況報告をした。ナイトを名乗ったのはどうやら口だけではなかったようで、驚くべきことにボス部屋の扉を開けて中の住人達の顔を拝んできたということを誇らしげに語っていた。

ボスの特徴は身の丈二メートル以上の巨大なコボルトで名前は≪インファング・ザ・コボルトロード≫、武器は曲刀カテゴリ。取り巻きに、金属鎧を着込み斧槍を携えた≪ルインコボルト・センチネル≫が三匹いたらしい。

ここまではアルゴから前もって聞いていたβテスター時代の時と何も変わらない。さらに付け加えるとHPバーが一本減るごとに再度ポップして合計で十二匹を倒さねばならないらしいが、言う必要はなかった。

 

なぜなら、夜、アルゴと共にデータをまとめた後、深夜帯に俺がこの広場の隅に店を広げていたNPC露天商にアルゴの羊皮紙三枚を綴じたパンフレットの様なβテスター時代の第一層のボスモンスターの攻略本を設置しといたからだ。因みに、0コル。

勿論会議は一時中断され、参加者全員がNPCから攻略本を貰い中身を熟読した。俺は内容は全て記憶してるが一応読んで置いた。

そして、最後に赤字で書かれている文を読んだ。

 

曰く、

 

【情報はSAOβテスト時のものです。現行版では変更されている可能性があります】

 

というものだった。いやぁ、改めて思うけど大胆なことするなぁ、アルゴの奴。だって下手打てば≪誰とも知れない元βテスターから情報を買ってるだけの情報屋≫という立ち位置を崩す可能性が有るだけでなく、これを読んだほぼ全員が、証拠はないが鼠自身が元βテスターではないかという疑いを抱きかねない。そんな事になれば、ビギナーとの確執がこれまで以上に広がった時、真っ先に吊し上げの対象になりかねない。

まぁ、それでもこの攻略本が、偵察戦を省いているのも事実なのだ。読み終えた全員がどう反応すべきかを預ける様に、青髪のナイト様を見やった。何か考えている様に顔を伏している。

なに、考えてるんだろう?もしかして、自分が元βテスターだと明かすつもりなのかなぁ?

数十秒後、サッと姿勢を正すと張りのある声で叫んだ。

 

「みんな、今はこの情報に感謝しよう!」

 

あ、違ったのね。聴衆がさわさわと揺れるのを聞きながらそう考える。でもその発言、大丈夫?遠回しに元βテスターとは対立ではなく融和を選んだ様にもとれるけど。

あの人型サボテンが面倒臭いこと言うのではないか確かめてみると今は踏みとどまっている。

 

「出所は兎も角、このガイドのお陰で、二、三日掛かるはずだった偵察戦を省略できるんだ。正直、スッゲー有り難いと俺は思っている。だって、一番死人がでるのが偵察戦だったからさ」

 

広場のあちこちで、色とりどりの頭が縦に頷く。

 

「こいつが正しければ、ボスの数値的なステータスは、そこまでヤバい感じじゃない。もし、SAOが普通のMMOなら、全員のレベルが平均より三いや五低くても充分倒せたと思う。だから、キッチリ戦術を練って、回復薬を大量に持って挑めば、死人なしで倒すのも不可能じゃない。や、悪い、違うな。絶対に死人ゼロにする。それは、オレが誇りに賭けて約束しよう!」

 

よっ、ナイト様!というような掛け声が飛び、盛大な拍手が続いた。

ばらけた皆をまとめたり場を盛り上げるすることができるのを見て少し不服だが、ディアベルが中々のリーダーシップの持ち主であると認めた。いつかギルドとか作れそうだ。少し、感心したよ。

続いたディアベルの発言に俺はすぐさま掌を返した。

 

「それじゃ、早速で悪いんだけど、これから攻略作戦会議を始めたいと思う!何はともあれ、レイドの形を作らないと役割分担もできないからね。みんな!まずは仲間や近くにいる人と、パーティを組んでくれ!」

 

ぶち○すぞ、クソベル。なんて酷いことを言いやがるんだ、あの騎士様は。ヤバいぞ、この人数だとワンパーティー六人として七パーティ作れば三人余ってしまう。

そんな事を考えていると一分足らずで、七組の六人パーティが出来上がっていた。

 

うん、クソベルには仲間がいるから秒で作れるのは予想通りだけどキバオウが作れたのは予想外すぎる!そもそも、俺は第一回の時でやらかしてるから話しかけてくる奴がいない。

SAOをやり始めて訪れた予想外の苦難に頭を悩ませていると、

 

「ね、ねぇ、私と組まない?」

 

「おやぁ?」

 

俺に声を掛けてくるフードを深めに被った変人が現れた。というかメインヒロインのアスナだった。

 

「なんでまたワタクシの様な変人と?」

 

「別に、アブれてたから声をかけただけ」

 

うわぁ、アスナかぁ。俺嫌いなんだけどなぁ。でも、今は背に腹は変えられないし。

 

「ではでは、ご好意に甘えてヨロシクお願いしますね、アスナサン」

 

「勘違いしないで、あの時の恩を今返しただけよ」

 

少し顔を赤くしながらアスナはそう答えた。わぁ、ツンデレかぁ初めて見たなぁ。どうでもいいけどさ。

俺はアスナに向けてパーティ参加申請を出すと相手は素っ気なくOKを押す。すると、視界にやや小さめのHPゲージが出現する。

おお、まさかアルゴ以外とパーティを組む日が来るとは驚きだ。

まあ、それはさて置き、

 

「もう一人欲しいところですネェ…。アスナサン、他に知り合いは?」

 

「いるしあてもある。あそこでアブれてる人よ」

 

「おやぁ?誰ですか?」

 

「ほら、あそこよ」

 

そう言いながら指を刺した方向に目を向けると、頭を抱えた主人公がいた。あぁ、知り合いって主人公のことだったのね。初めて知ったよ。

まぁ、でもあいつなら実力もあるし申し分ないな。

 

「では、お願いできますかぁ?アスナサン」

 

「ええ、わかったわ。あなたじゃ驚かしてしまいそうだし…」

 

キリトの奴、どんだけ肝っ玉小さいと思われたんだ。まぁ、わかるけど

少し待つとアスナがキリトを連れてこちらに向かって来た。おー、上手くいったっぽいな。キリトは俺を見て一瞬固まって、すぐさま立ち直りアスナの後を追った。

 

「紹介するわ。彼の名前は「いえいえ、自己紹介は不要ですよアスナサン。ワタクシは彼の事を知ってますから」・・・そうなの?」

 

自己紹介を遮りそう言うと、少し目を見開きながらキリトのほうを向く。キリトは忌々しそうに此方を見ながらこう告げた。

 

「久しぶりだな。クソピエロ」

 

「お久しぶりですねぇ、キリトサァン。変わらずで何よりですよぉ」

 

毒を吐いてきた為、俺は皮肉で返した。

はー、そんな顔しなくてもいいのにさ。アルゴとの情報交換の時、よく顔合わせんだから。

まぁ、だけども

 

「今はお互いにいがみ合うのは辞めましょう、キリトサン。アルゴサンも相当の覚悟で挑んでいるのです。ワタクシもこの攻略には割と本気なのですよ?」

 

そうだ、あれ程徹底した秘密主義のアルゴが自分の立場を危うくしてまで動いたんだ。この時、本気にならずして何時本気になると言うのだ。少なくともあの日アルゴから色々と教わってなかったら命をほぼ確実に落としていた。恩は必ず返すもの。俺はそう考えている。

俺の発言が予想外だったのかキリトは目を大きく見開いている。そして少し目を閉じて覚悟を秘めながら目を見開いた。

 

「俺はお前が嫌いだ」

 

「ええ、知っていますとも」

 

「だけど、攻略の間はこの感情をすみに置いて全力で挑む。だから、お前も全力で協力しろメフィスト」

 

「ええ、言われずとも分かっていますよ。キリトサン」

 

そして、俺は視界に表示されている相手のカラーパーソルに触れるとパーティ参加申請を出した。相手がそれを受託すると、三つ目のHPゲージが出現する。こうして、人が通常より半分しかいないが実力ではなによりも強いパーティが出来上がった。

 

 




読んで頂きありがとうございました。


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14話

 クソベルことディアベルの指揮能力は、弁舌だけでなく実務面でもなかなかのものだった。

腹立つことにあの男は、出来上がった7つの六人パーティを検分し、最小限の人数を入れ替えただけでその七つを目的別の部隊へと編成したのだ。壁部隊が二つ。高機動高火力の攻撃部隊が三つ。長物装備の支援部隊が二つ。

壁隊二つはボスのコボルトロードのタゲを交互に受け持つ。火力隊は二つがボス攻撃専門、残りの一つが取り巻き殲滅優先。支援隊は長柄武器に多く設定されている行動遅延スキルをメインに使い、ボスや取り巻きの攻撃を可能な限り阻害する。

シンプルだが、それゆえに破綻しにくい、いい作戦だ。いい作戦を考案したクソベルに少しイラッとしていると、ナイト様は最後の余り物の三人パーティの前にやってきて、しばし考え込む様子を見せてから、中指立てたくなるほど爽やかに言った。

 

「君達は、取り巻きの潰し残しが出ないように、E隊のサポートをお願いしていいかな?」

 

まあ、通常より半分しかいないパーティを見れば妥当な判断だな。隣にいるアスナが何か言い出しそうな予感がした為、キリトに止めさせて、ニヤリと笑いながら答えた。

 

「ええ、わかりました。重要な役目ですねぇ、任せておいて下さいねぇ」

 

「あ…ああ、頼んだよ」

 

第一回の元βテスター皆殺し発言をした俺が受け答えたからか、少し顔をこわばらせながら吃った様に答えた。いや、今吃ったのは案外あの時の発言が理由じゃないのかな?そう考えている間にナイト様は噴水のほうに戻っていった。すると、すぐ後ろから剣呑な響きを孕んだ声が聞こえた。

 

「……何処が重要な役目よ。ボスに一度も攻撃出来ずに終わっちゃうじゃない」

 

「し、仕方ないだろ、三人しかいないんだから」

 

「ええ、それではスイッチやPOTローテするにも時間が足りないかもしれませんしねぇ」

 

「……スイッチ?ポット?」

 

………ああ、そういえばそこまで教えてなかったなぁ。

 

「キリトサァン、仲良いのでしょう?後の説明頼みますよぉ〜」

 

「仲良いかどうかはわからんが、ああ、わかってる。後で、全部詳しく説明する。この場で立ち話じゃとても終わらないからな」

 

キリトがアスナにそう言うと、数秒間だけ沈黙した後、極微細な動きで頷いた。

 

二回目のボス攻略会議の内容をまとめるとAからGまでナンバリングされた各部隊リーダーの挨拶とボス戦でドロップしたコルやアイテムの分配方針についての確認で終了した。俺たち余り物トリオはキバオウの手伝いということになった。これを知った時クソベルに再度中指を立てたくなった。

ドロップ分配のほうは、コルに関してはレイドを構成する四十五人で自動均等割り、アイテムはゲットした人のものという単純なルールが採択された。普段のMMOではサイコロ転がしで取り合うのが一般的なのに対してSAOはこの辺りは前時代的で、アイテムはいきなり誰かのストレージにドロップし、しかもそれを他人が知ることはできないらしい。仮にボスの出したアイテムは改めてダイスロールというルールを設定した場合だと自己申告しなければならない。申告しなければギスギスした空気で解散することも少なくない。恐らく、それを避ける為にドロップした人の物といったルールにしたのだろう。

…………腹立つが気の利くナイト様だなぁ、おい。

それはさて置き、

 

「後の説明は任せましたよ、キリトサァン。ではワタクシはこれにて」

 

そう言いながらサッサと帰ろうとすると

 

「待て、メフィスト。明日の攻略の為にも話し合う必要があるから今日は残れ」

 

ど正論を言って俺を引き止めてきた。まあ、確かに明日第一層の攻略をやる訳だし話し合う必要あるわな。そう考えていると、

 

「………で?説明って、何処でするの?」

 

後ろからアスナに声を掛けられた。って、そうだった。

 

「キリトサァン」

 

「あ、ああ……俺はどこでもいいけど、その辺の酒場にするか?」

 

「嫌。誰かに見られたくない」

 

それは俺達と一緒にいるところを?それとも男プレイヤー全般と一緒にいるのを?

 

「ならば、どこかのNPCハウスはどうでしょう」

 

「いや、それじゃあ誰か入ってくる。でも、どっちかの宿屋の個室なら鍵がかかるけど、それもナシだよなぁ」

 

「当たり前だわ」

 

ええ、面倒くさっ。いいじゃん別に女子かお前は。女子だったよ。つーか、見られるのが嫌っていうけど今更じゃん俺達が一緒に行動するのを見られてんの。アスナの発言にイラッとしていると。アスナがため息混じりに続けた。

 

「だいたい、この世界の宿屋の個室なんて、部屋とも呼べないのばっかりじゃない。六畳もない一間にベッドとテーブルがあるだけで、それで一晩五十コルも取るなんて。食事とかはどうでもいいけど、睡眠は本物なんだから、もう少しいい部屋で寝たいわ」

 

「え・・・・?」

 

「ハイィ??」

 

え?どゆこと?俺、アルゴと同棲してるけど結構広いし風呂までついてるぞ?

 

「探せばいいとこあるだろ」

 

「ええ、確かに。まぁ、多少は値は張りますがねぇ」

 

「探すっていっても、この町に宿屋は三軒しかないじゃない。どこも部屋は同じようなものだったわ」

 

ああ、なるほどそういうことね。話を聞いてようやく得心がゆく。

 

「アスナサァン、アナタ【INN】と書かれた看板の出てる店しかチェックしていないでしょう」

 

「だってINNって宿屋って意味でしょう?」

 

「ええですが、この世界の低層フロアでは最安値でとりあえず寝泊まりできる店って意味なんですよぉ。コルを払って借りれる部屋は宿屋以外でも結構ありますよ」

 

そう言った途端、アスナの口がぽかんと丸くなった。うむ、面白い。

 

「な…そ、それを早く言いなさいよ…」

 

いやぁ、驚いた顔初めて見たなぁ。高飛車な奴だったから見れないもんかと思ってたよ。隣を見るとキリトかニヤリと笑いながら自らの部屋自慢を始めた。

 

「俺が借りてるのは、農家の二階で一晩八十コルだけど、二部屋着ってミルク飲み放題のおまけ付き。ベッドもデカいし眺めもいいしんだ」

 

「おや、それは羨ましいですねぇ。ワタクシが借りてる部屋にはミルクの飲み放題はありませんから。ああ、でも風呂はありますねぇ」

 

「ふふ、俺の部屋にもついてるぜ」

 

調子に乗っているのかいつになく流暢に話しているキリトと部屋の自慢をしあっていると。神速で伸びたアスナの右手がキリトの灰色コートの襟元を左手で俺の紫色コートの襟元を犯罪防止コードすれすれの勢いでがっしりと掴んでいた。続いて低く掠れた声が迫力たっぷりと響いた。

 

「・・・・・なんですって?」

 

 



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15話

15話です。


 

 

 

 怖っ。アスナの反応を見てまず思ったことがこれだ。仕方ないだろ。誰だって胸ぐら掴まれながら掠れた声で問いただされたらそう思うだろう。

なんだって、メインヒロイン様はこんな反応してるんだ?

予想立てながら考えていると、キリトが先ほどの言葉を復唱していく。

 

「ミ、ミルク飲み放題?」

 

「その後」

 

「ベッドがデカくていい眺めでは?」

 

「その後」

 

あ、もしかして。

 

「「風呂つき」」

 

計らずとも二人同時に答えるとアスナはハーフコートの襟元を解放してから、急き込む様に続ける。

 

「あなた達の部屋、一泊いくらくらいだったっけ?」

 

「え、えっと八十コル」

 

「ワタクシも同じく」

 

「その宿、あと何部屋空いてるの?場所はどこ?私も借りるから案内して」

 

ああ、やっぱりね。キリトもようやく状況を理解した様で一つ咳込んだ後、妙にしかつめらしい顔になり言った。

 

「あー、俺さっき、農家の二階を借りてるって言ったよな」

 

「言ったわ」

 

「それって、丸ごと借りてるって意味なんだ。だから、空き部屋はゼロ。因みに一階に貸し部屋はなかった」

「なっ………ち、因みにあなたは……」

 

「ワタクシの場合は一階しかありませんし、キリトサンと同じく部屋を丸ごと借りてる状況ですね。ついでに言っときますけどワタクシ、部屋を十日程前払いしているので、キャンセルは不可ですねぇ。恐らく、キリトサンも同じなのでは?」

 

「なっ……う、嘘………」

 

アスナは崩れ落ちかけながら目線をキリトに向ける。すると、キリトは気まずそうに頷いた。

ヤベェ、アスナの反応が面白れぇ。まあ、俺の部屋を借りれないってのは嘘なんだけどね。アルゴが身バレしないようにする為にも教えられないんだよね。仮に教えることができても教えないけどさ。

そんな事を考えているとアスナが相手にギリギリ聞こえる程の大きさの声でキリトに提案した。

 

「…………あなたのとこで、お風呂、貸して」

 

 

 キリトの借りている部屋のある場所はトールバーナの町の東に広がる小さな牧草地帯という俺と真逆の位置に存在していた。予想よりも大きく現実世界の下手な豪邸よりも大きいのかもしれない。

 敷地の脇には小川が流れ、設置された小さな水車がのどかな音を立てている。二階建ての母屋は、一階にNPCの農家の一家が暮らしていて、玄関をまたいだ俺たちに陽気そうなおかみさんが満面の笑みを向けてきた。暖炉の近くのお婆さんのクエストマークに少し興味が湧いたが無視した。

 階段を登ると突き当たりにドアが一つあった。キリトが触れると自動で鍵が開く音が響く。触ったのが俺たちなら決して開かず、鍵開けスキルも完全無効だ。

 

「……ま、まぁ、どうぞ」

 

キリトはぎこちないジェスチャーで入るよう促した。

 

「ハァイ、お邪魔しまぁす」

 

「…ありがと」

 

俺は陽気に、アスナは小声で礼を言いながら、部屋に入った。へぇー、広さはそこまで変わんないな。そんな事を考えていると、隣から驚いた様な声が聞こえる。

 

「な、なにこれ、広っ………こ、これで私の部屋とたった三十コル差!?や、安すぎるでしょ………」

 

「まぁ、このような部屋は速攻で見つけるのに限りますからねぇ。情報が如何に大切か、こういう時に思い知らされますよねぇ」

 

「確かにそうだな。こういう部屋を手早く見つけるのは、重要なシステム外スキルだと俺は思ってるよ。まぁ、俺の場合は……」

 

うん?なんだ?なんで、今の所で言葉を切った?妙な所で言葉を切ったことに疑問を覚えていると、アスナがいる方から盛大な溜息が聞こえた。恐らく、自分の泊まっている宿との差を実感しているのだろう。

すると、キリトは柔らかそうなソファーに体を沈めると長く伸びをしてから思い出したようにアスナを見て、咳払いをしながら言う。

 

「えー、その、見ればわかると思うけど、風呂場はそこだから……ご、ご自由にどうぞ」

 

「あ…う、うん」

 

まあ、誰かの部屋を訪問して、いきなり風呂に直行するのもどうなのかと思わなくもないけど、遠慮するにしても今更すぎるから早く行けばいいのに。

 

って、そうだ。

 

「アスナサン、ここの風呂は、現実と少し違和感があるので余り期待しすぎないほうがいいですよぉ」

 

「……お湯がたくさんあれば、それ以上は望まないわ」

 

今のは心からの言葉だな、どんだけ風呂に入りたいんだよ。まあ、普通に考えれば約一か月ぶりの風呂だもんな、字面にすると不衛生極まりないけどサッパリしたいか。そう思っている間にアスナはバスルームへと向かった。

 

さてと、

 

「さぁて、キリトサァン。アスナサンが風呂から出てくるまでの間、ワタクシと作戦会議と洒落込みましょうかねぇ」

 

「それもいいが、少し待ってくれ。そろそろ来るはずなんだ」

 

「はて?誰がですか?」

 

すると、外廊下に繋がる扉が小刻みにコン、コココン、というノック音が鳴った。

 

ん?誰だ?

 

そう思いながらキリトのほうを見ると全身をすくませながら、恐る恐る扉のほうを向いた。少ししてから廊下側のドアに歩み寄ると、意を決した様に引き開けた。なぜ、そんな反応するのか疑問に思っていると、そこにはフードを被った小柄な体と顔にトレードマークのおヒゲが特徴的なアルゴが立っていた。

ああ、なるほどね。そりゃあ、あんな反応もするわな。先程の反応に納得していると、

 

「珍しいな、あんたがわざわざ部屋まで来るなんて」

 

キリトはまるで、予め準備したかの様な台詞を口にした。アルゴも今の言葉に疑問を覚えたのか、顔を一瞬怪訝そうに傾けたが、すぐに肩を竦めて応じた。

 

「まあナ。クライアントが、どうしても今日中に返事を聞いてこいっていうもんだからサ。って、なんでメッフィーがいいんだヨ」

 

そのまま、アルゴは平然とした足取りで部屋に入る。すると、ソファに足を組みながら座っている俺を見ると少し顔を顰めた。

オイオイ、なんつー失礼な態度だよ。

 

「そんな反応しないで下さいよぉ、アルゴサァン。メッフィー悲しい」

 

「おう、そうか。よかったナ」

 

「おやおや、そんなに怒って。一体誰がこんなに彼女を怒らせたのでしょうか?」

 

「それが聞いてくれヨ。実は、ピエロみたいなふざけた奴に激辛麻婆を無理矢理食べさせられてナ。朝っぱらから激痛にのたうちまわってたんダ」 

 

「うわぁ、誰がそんな酷いことをしたのでしょう。ワタクシ、その人と出会ったら注意しておきますねぇ」

 

「オマエが、やったんだろうガァァァァァ!!」

 

うーん、やっぱりアルゴをいじるの楽しいなぁ。そう思っていると、新鮮なミルクを入れたコップを三つ持ったキリトが呆気に取られた顔をしていた。

 

「おやぁ?キリトサァン、どうかしましたかぁ?」

 

「い、いや、アルゴがそんな反応するのはじめて見たからちょっと驚いていたんだ」

 

………そんなに驚くことか?ていうか、そんなに違うのか?

 

「普段はどんな感じなんですか?」

 

「えーと、こっちの言葉をのらりくらりとかわしながら、ちゃっかり情報の料金を値上げしてきたり、自分のこと『オネーサン』って呼んでたりしているな」

 

へー、確かに違うなぁ。いや、初対面の時は似たような態度を取ってたな。そう考えると、だいぶ砕けた態度になったんだなぁ。

ていうか、オネーサンねぇ。

 

「ナ、なんなだヨ。そんなにじーっとオレッちのこと見つめて」

 

俺がアルゴのことを頭から爪先までじっと眺めると、アルゴは少し顔を赤くしながら何か言っていた。ふーん、オネーサンねぇ。

 

「フッw」

 

鼻で笑った。

 

「オイ、今、どこ見て鼻で笑いやがっタ」

 

「いやぁw、とある女性と比べると胸囲の格差社会だなぁ、と思いましてねぇw」

 

「ヤロウ!!ブッコロしてヤル!!」

 

「きゃあ、この相棒殺しぃ!!」

 

掴みかかってくるアルゴから頭を抱えながら逃げ惑う俺を見て、キリトは口をだらしなく開けながら絶句して見ていた。



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16話

16話です。


 

 

 

 

 

 「ま、まあ、話を始めようかアルゴ」 

 

俺とアルゴの追いかけっこがひと段落した時、三つよミルク入りのグラスを俺とアルゴそして自分の前に置き、話を始めるよう促す。

 

「キー坊にしては気が利くナ。ひょっとして、眠り毒入りカ?」

 

「今更カッコつけた所で先程の攻防を見られた段階で手遅れですよ、アルゴ。それに、圏内で眠らせたところで何もできないじゃあありませんか」

 

迷わずミルクを飲んだ俺の指摘に、アルゴはジトっとした目でこっちを見た後、一拍置いてから「まあ、そうだナ」と頷いた。グラスを持ち上げて、一息に飲み干す。

 

「ごちそうサマ。飲み放題の割には上等な味設定だナ」

 

「確かに、そうですねぇ。牛乳好きに瓶詰めにして売ったら高く売れそうですねぇ」

 

「残念ながら、宿から持ち出すと五分で耐久値が全損するんだよな、これが。しかも消えるんじゃなくてゲキマズな液体になるっていう……」

 

「ほー、そりゃ知らなかっタ。タダより怖いものはないナー」

 

「いやぁ、全くですねぇ。ヒヒ、本当に世知辛い」

 

アスナが今風呂場にいる事がバレるのがそんなに嫌なのか、何食わぬ顔で、テーブルに置いてあった攻略本を持ち上げて、ぽんと叩く。

 

「タダといえば、これだよこれ。毎度お世話になっておいて何だけど、俺この本買うのに五百コル出して買ったたんだけど……昨日の会議で、エギルって言う斧使いが、タダで配布してるって言ってたよな」

 

キリトが少し恨みがましい口調でそう言うと、アルゴはニシシと笑った

 

「そりゃあ、キリトや他のフロントランナーが初版で買った売り上げや、メッフィーが集めてきた素材とか売り捌いて産まれた売り上げで、無料の二刷を増刷してるわけだからナ。安心シロ、初版はアルゴ様の直筆サイン入りダ」

 

「おやおや、なるほど。ワタクシが集めたアイテムと売値とで差があったのはそういうことですかぁ。納得がいきました」

 

つまり、無料配布版はアルゴなりの元βテスターとしての責任の取り方って訳だ。生真面目だなぁ、アルゴは。まあ、だからこそ、ついて行ってるんだけどね。

にしても、重いなぁ、この空気。仕方ない、俺が一肌脱ぎますか。

 

「素材の件がわかって何よりです。いやぁ、よかった、よかった。これで、ワタクシはまたアナタの口の中に麻婆を叩き込まずに済みましたよぉ」

 

「フザケンナァァァァ!オレっちのことをどんだけ弄べば気が済むんダァァ!!」

 

「なぁ、メフィスト。やめてやれよ、あの麻婆食べさせるの。前、食ったけど辛いなんてもんじゃなかったぞ、あれ」

 

「そーダ!そーダ!言ってやれキー坊。オレっち達は玩具じゃねぇんダゾ!メッフィー!」

 

オイオイ、こいつらとんだ勘違いしてないか?

 

「おやおや、お二人共。ワタクシがアナタ達の事を玩具だと思っているとでも?」

 

「実際にそうだろうガ」

 

「それはとんだ勘違いですよぉ〜。ワタクシは人のことを玩具と思ったことはありません」

 

「なら、何て思ってるんだ?」

 

「自身の意志で物事を考え、叫んだり喚いたりする実に滑稽な見世物だと思っていますよ」

 

「「うわぁ、倒錯的な変態だぁ」」

 

俺関連になるとみんな息ピッタリだな。アインクラッドの中で何人かがが俺みたいな奴だったら、さぞかし平和だったんだろうな。

 

さて、空気も軽くなったし。

 

「では、お二人共。本題に移ろうじゃあありませんか。因みに、これはワタクシも居ていい話ですか?」

 

「オマエに指摘されんのは納得いかネェけど、時間は有限だしナ。後、それに関してはキー坊に聞ケ」

 

「俺は、別に構わない。聞かれても特に問題ないしな」

 

キリトから一緒に聞く許可を得るたことを確認するとアルゴが話を切り出す。

 

「まあ、依頼人がいるって時点で察しが付いてると思うけどナー。例の、キー坊の剣を買いたいって話……今日中なら、三万九千八百コル出すそーダ」

 

「何と!」

 

「……さ………」

 

は?嘘でしょ?サンキュッパ?いや、あんま考え難いけど、

 

「アナタの腕を疑うわけではありませんが、相手側の冗談か詐欺ではないのですか?」

 

「メフィストの言う通りだ。どう考えても四万コルは間尺に合わないよ。だって、素体の≪アニールブレード≫の相場が、確か今一万五千コルくらいだろ?それに二万足せば、ほぼ完全に+6まで強化できるだけの素材アイテムが買えるはずだ。ちょっと、時間がかかるかもしれないけど、三万五千コルで俺のと同じのが作れる計算だぞ」

 

「オレっちも、依頼人には三回そう言ったんだけどナ!」

 

両手を広げるアルゴの顔にも、≪意味不明≫という表情が浮かんでいた。いや、待てよ。一つだけあるかもだぞ。そいつが得するところ。

まあ、この考えが当たってたら頼んだプレイヤーは相当稚拙だと思うけどな。

 

「アルゴサァン」

 

「ん?なんダ?」

 

「キリトサンの剣を買い取ろうとした人、もしかして、キバオウサンという方では?」

 

そう言うと、表情が変わらないまま、訊ね返してきた。

 

「なんで、そう思ったんダ?」

 

「アナタとワタクシの付き合いからこそわかった、と言いたいところなのですが。キバオウサンがやたらキリトサンの剣に目を向けてたのでなんとなくですよぉ。ああ、目的の面では嫌がらせかもしれないんですよねぇ。ワタクシ、彼に恨みを買ってるので」

 

「んー、二十点」

 

「ああ、やっぱりですか。言っといて何ですが、ワタクシ、主観的すぎる自分の推理に腹抱えて笑ってしまいそうなのですよぉ」

 

まあ、自分で言うのも何だけど。自分の観察するという面には自信があるつもりだけどね。

 

「アルゴ、千五百コルだすからあんたのクライアントの名前を教えてくれ。ついでにそれ以上積み返すか、先方に確認してくれ」

 

「……わかっタ」

 

アルゴは頷き、ウインドウを開くと、見慣れた高速タイピングでインスタントメッセージを飛ばした。

一分後、戻って来た返事を見て片方の眉をピクリと動かし、次いで大きく肩を竦める。

 

「教えて構わないそーダ」

 

「おやおや」

 

「………」

 

何がしたいんだ?そいつ。キリトも同じ心境なのか少し怪訝そうにウインドウを開くと、千五百コルをオブジェクト化して、アルゴの前に積み上げる。

それをひょいっと指先で摘み、一枚ずつ丁寧にストレージ格納した後、頷いてから言ったら、

 

「キー坊は、ソイツの顔と名前を知ってるヨ。昨日の会議で大暴れしたからナ」

 

「おやおや、という事はやはり」

 

「まさか、キバオウ、か?」

 

キリトの囁きに、アルゴははっきりとした動作で頷いた。

 

やっぱり当たりか。となると、何で狙う?……有り得ないと思うけど聞いてみるか。

 

「アルゴサァン、有り得ないと思いますが。まさか、キリトサンの情報を「ないナ」……まあ、でしょうね」

 

即答かよ。ないと思ってたけどさ。じゃあ、

 

「キリトサァン、今までやってきたMMOの中でキバオウサンらしき人物と知り合ったことありますか?もしくは恨みを買った覚えは?」

 

「…………いや、ないはずだ」

 

少し、考え込んだ後、無いと答えた。んー、どうしたもんかねぇ。完全に手詰まりだな。口を閉じて頭を悩ませていると、

 

「今回も、剣の取引は不成立ってことでいいんだナ?」

 

「………ああ」

 

話が進んでいた。まあ、そりゃあそうだよな。こんな、訳のわからん交渉受けようとは思い難いもの。すると、アルゴが音もなく立ち上がる。

 

「それじゃ、オレっちはこれで失礼するヨ。攻略本、役立ててくれヨ。因みにメッフィーはこの後どうするんダ?オレっちと一緒に帰るカ?」

 

「いえ、この後攻略の話し合いがありますので、今日は戻りません。ああ、後攻略本のことに関しては、役立たせてもらいますよぉ、アルゴサン」

 

「ああ…………」

 

「そっか。っと、帰る前に、悪いけど隣の部屋借りるヨ。夜装備に着替えたいカラ」

 

「ああ…………」

 

「ええ、気をつけてくださいねアルゴサン」

 

「おいおい、着替える時に何を気をつければいいんだヨ」

 

俺の言葉を冗談と受け取ったのか、そう言いながらアルゴは隣の部屋に向かっていく。キリトはさっきのことを考えてるのか上の空だ。

仕方ない、指摘してやるか。

 

「キリトサァン、アルゴサンが隣の部屋に向かってしまいましたが、大丈夫ですかぁ?」

 

「ああ…………って、ああ!!」

 

先程とは打って変わってソファから飛び跳ねてアルゴが向かった方向へ目を向ける。その数秒後。

 

「わあァ!?」

 

という驚声と、

 

「きゃあああああああ!!」

 

という凄まじい悲鳴が、屋敷全体を振動させた。直後、ドアから飛び出したアスナがキリトの顔に鋭い一撃を加える光景が広がった。

その光景にゲラゲラと爆笑していると、直ぐに腹に強い衝撃を受けた。

 

その後の記憶はない。

 

 

 




ありがとうございました。


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17話

17話です。


 十二月四日、日曜日、午前十時。

このデスゲームが始まったのが十一月、六日、日曜日、午後一時なので、あと三時間でピッタリ四週間が経過することになる。

正直言って、これ程時間が経っても、一層もクリアできてないことは、茅場も想定外だったのではないのだろうか。

しかし今日の攻略戦の結果次第では、解放までの時間を云々するどころではない状況に叩き落とされる。万が一、今回の攻略で全滅か半壊しようものなら、噂が一瞬で広まり≪SAOは攻略不可能≫という諦念が全プレイヤーに襲いかかるだろう。

一応、今回集まった面子で死人をゼロにするのは難しいことではない。勿論、全員が最後まで冷静であることが条件だが。

ふと、隣に立つプレイヤーを見ると視線に気づいたのかギロリと睨み返してきた。

 

「………何見てるの」

 

かすかだが、しかし迫力のある囁き声が聞こえる。隣にいるもう一人の相方はプルプル首を横に振っている。アスナが朝から不機嫌な理由を追及すると、相方と俺が腐った牛乳を樽一個分飲ませられることが確定している。だが、しかし、

 

「おやおや、アスナサン朝っぱらから不機嫌そうですねぇ。何かありましたか?」

 

あえて、話題に出した。アスナはさらに不機嫌そうな顔をして、キリトは

 

「ちょ、お前。なにしてくれてんの?腐った牛乳を樽一個だぞ?流石に死ぬぞ」

 

「自らの愉悦に命を賭けない人生に何の意味も無いとは思わないませんかねぇ。キリトサァン」

 

そう言うと、キリトは「マジかコイツ」とでも言いたげな顔をしながらこちらを見てきた。すると、

 

「おい」

 

後ろから、友好的とは言い難い声が聞こえ、俺達は振り向いた。

立っていたのは、ついこの間言葉の暴力で一方的にボコボコにしてまった、人型サボテンことキバオウだった。

話しかけられることを予想していなかった為、少し驚いていると、やや低い位置から剣呑極まる目つきで舐め付けてたキバオウは、いっそう低い声で言った。

 

「ええか、今日はずっと後ろに引っ込んどれよ。ジブンらは、ワイのパーティのサポ役なんやからな」

 

「ええ、勿論分かっていますとも。仲良くやらないとパーティが、バラバラになってしまうかもしれませんからねぇ。このタイミングで友好的でない程、ワタクシは馬鹿ではありませんよ」

 

つい、この昨日キリトに四万コルという大金での買い取りをあっさり断られ、しかも代理人を立ててまで隠していた男の態度とは思えず、だいぶ皮肉を込めて返すと顔を少し強張らせながら憎々しげにもう一段階突き出し、吐き捨てる。

 

「大人しく、わいらが狩り漏らした雑魚コバルトの相手だけしとれや」

 

「ハハ、そうさせて頂きましょう」

 

特に応えた様子を見せない俺を見て、忌々しそうに仮想の唾を地面に叩きつけて、のしのしと仲間の方へ戻っていった。

はー、面倒くさ。そんなにかまって欲しいのかなぁ。でも、ちょっと妙だなあ。

 

「メフィスト、受け応えてくれてありがとう。でも、なんなの、あれ」

 

「さ、さあ……。ソロプレイヤーは調子に乗んなってことなのかな?」

 

≪ジブンら≫の片割れ達であるアスナとキリトが互いにキバオウに関しての感想を言い合う。アスナの方は先程よりも三割増して不機嫌だ。

それはそうと、

 

「キリトサァン、妙だと思いません?」

 

「な、なにがだ?」

 

「四万コルも持っているのに、何故、装備品に何の変化もないのでしょうか?」

 

そう言うと、キリトはハッとした顔でキバオウのほうを見やる。いやぁ、本当に疑問だ。いったい、何がしたいんだ?アイツ。

そんなことを考えていると、 

 

「みんな、いきなりだけどありがとう!たった今、全パーティーが一人も欠かずに集まった!」

 

ディアベルがそう言うと、うおおっという歓声が広場を揺らす。次いで、滝のような拍手。周りの喧しさに流石に思考を止めさせられた。

一同を見渡してから、騎士はぐっと右拳を突き出して、叫んだ。

 

「オレ、実は一人でも欠けたら今日の作戦は中止しようって思ってた!でも、そんな心配、みんなへの侮辱だったな!まあ、人数は上限に少し足りて無いけどさ!」

 

笑うもの、口笛を鳴らす者、右手を突き出す者。うーん、少し盛り上げすぎては?緊張しすぎはダメだけど楽観しすぎも油断を生む。過去に各下相手に死にかけた俺がいうのだから間違いない。

皆がひとしきり喚いたところで、ディアベルが両手をあげて歓声を抑えた。

 

「みんな、オレから言えることはたった一つだ!」

 

右手を左腰に走らせ、銀色の長剣を引き抜き、

 

「勝とうぜ!!」

 

沸き起こった巨大な鬨の声は、デスゲームが始まった時に聞いた一万人のプレイヤーの絶叫に少し似ていた。

 

 

あれだけ大口叩いておいて討ち漏らしが多いなあ!おい!ボス部屋に到着して攻略が始まって思ったことがこれだ。悪意を感じるディアベルの指示通りに分断してキバオウのもとで戦うことになった俺達は、即席とは思えない程の精度で連携を繰り返していく。ボスの取り巻きのモンスターは雑魚と呼ばれていたが、純粋な強さではいままで戦ってきた中で一番強く、弱点が喉元にしか存在しない為、一番面倒くさい相手だったが。互いに迎撃と決定打を与える。これをローテーションで繰り返すことで問題なく倒していく。あ、今アスナが二体目を倒した。いやぁ、アスナがいてよかったぁ。今んとこ一番活躍してる気がするもん。え?キバオウ?知らない子ですね。だって、仕方ないじゃん。討ち漏らしがマジで多いんだよ!ぶっちゃけ、三人だけの俺達のほうが活躍してるのって色々とおかしいからね?これで文句言おうもんなら、本気で切れるよ?俺。

 

「アテが外れたやろ。ええ気味や」

 

「なんだって?」

 

三ターン目に湧いたセンチネル三匹をキリトと俺の連携で倒した後、キバオウの声がひそっと響いた。………おい、本気でいい加減にしろよ。

確かに、今俺達が倒したことで次の湧きまでなら会話する隙もあるんだろうけど、今攻略中だからね?

そう思っていると、キリトを舐めつけながら、ややボリュームを上げて吐き捨てた。

 

「下手の芝居すなや、こっちはもう知っとんのや、ジブンがこの攻略部隊に潜り込んだ動機っちゅうやつをな」

 

「何を言ってんだ。ボスを倒す以外に、何があるって言うんだ?」

 

「何や、開き直りかい。まさにそれを狙う取ったんやろうが!」

 

ん?なんだこれ?なんか、話が全然噛み合って無いぞ。

 

「わいは知っとんのや。ちゃーんと聞かされとんのやで……あんたが昔、汚い立ち回りでボスのLAを取りまくっとったことをな!」

 

「な………」

 

は?キリトが?あの殺されかけた相手も助けようとするあのキリトが?いや無い、断言できる。このお人好しがそうゆう打算ありありの様なマネ出来るはずがない。それに、何でコイツはキリトが元βテスターだと知ってるんだ?

 

あ、まさか、そういうことか。確かにそれなら装備品を新調できないわな。いやぁ、まさかキバオウも代理人とはねぇ。だから、平然とキリトに話しかけられたのか。

真の依頼人は他にいる。金の出所はそいつだ。

 

その黒幕は、キバオウにテスター時代の情報を与えて、元テスターへの敵意を煽って操った。単細胞なコイツのことだ、操るのは容易かっただろうなぁ。となると、黒幕の目的は自身の攻撃力の上昇じゃなくて、キリトの戦力を削ぐことか。アルゴ曰くβ時代のキリトは強かったらしいし、弱体化目的だとすれば納得がいく。

 

「キバオウサァン、アナタにその情報を渡した人はどうやってβ時代の情報を入手したと言ってましたかぁ?」

 

「決まっとるやろ。ハイエナを割り出す為に、えろう大金積んで、≪鼠≫からネタを買ったっちゅうとったわ」

 

「ハァイ、ダウト。あり得ませんねぇ。以前、≪鼠≫に十万程積んで元βテスターの情報を買おうとしたのですがぁ、ワタクシ普通に断られてしまいましたよぉ?」

 

そう言うとキバオウは目を見開きながら驚いていた。

何か言おうとしたのかキバオウが口を開くと同時に、前線のほうで、あおおっしゃ!というような歓声が弾けた。ボスの長大な四段HPゲージが最後の一本に突入した。

そちらを見ると、ポールウェポン部隊のF隊とG隊が後退して、代わりに全回復したC隊がボスに向かって突進していくところだった。

 

「ウグルゥオオオオオオ!!」

 

ボスモンスターである≪インファング・ザ・コボルトロード≫が、ひときわ猛々しい雄叫びを放つ。同時に、壁の穴から最後の取り巻き三匹が飛び出してくる。

 

「ま、まあ、ええ。雑魚コボ、もう一匹くれたるわ。あんじょうLA取りや」

 

少し、戸惑いを含めた声でそう告げると、キバオウは仲間の元へと走っていった。何者が黒幕なのか考えながら、二人でアスナの元へと向かう。

 

「何を話してたの?」

 

小声で聞いてくるが今は構ってる暇がない。

 

「いえいえ、特に何も。ねぇ?」

 

「ああ、まずは敵を倒そう」

 

「ええ」

 

こちらに突っ込んでくるセンチネル一匹に意識を向けながら、もう一方向に意識を向けると、ちょうどコボルト王が、持っていた盾と骨斧を同時に捨てるところだった。そして、凶悪なまでに長いタルワールを抜…く……。いや待て、あれタルワールか?どっちかって言うあれは、

 

「来るよ!」

 

アスナの鋭い声に一瞬の思考から脱した。センチネルが振り下ろしたハルバードの側面を叩き、パリィして、

 

「ハァイ、スイッチ!」

 

叫び、飛び退くと、アスナが代わりに前に出た。恐らく黒幕はLAを取りに行くだろうなぁ。そう思いながらボスの方へと目を向けると、ボスの無敵モーションが終了して、再度戦闘が行われるところだった。

そして、それと同時に青髪の騎士が動いた。

 

「下がれ、俺が出る!」

 

武器を持ち替えたコボルト王の正面にディアベルが躍り出る。

は?黒幕ってディアベル?嘘でしょ?何の為に?

そう思っているとすぐ近くから引き攣れた様な声が聞こえた。

 

「あ………ああ……!だ、ためだ、下がれ!!全力で後ろに跳べ!!」

 

しかし、遅かった。瞬間、ボスは床を揺らしながら垂直に跳んだ。空中で体を捻り、武器に威力を溜める。落下すると同時に、蓄積されたパワーが、深紅の輝きを持った竜巻の如く三百六十度全てを吹き飛ばした。

C隊の恐らく全てのプレイヤー達が一気に五割を下回ったると同時に床に倒れ込んだ六人の頭を、回転する朧げな黄色い光が取り巻いている。あれは確か、スタン状態か?

前線のほうで、両手斧使いのエギルと以下の数名が援護に動こうとするが間に合わなかった。

 

「ウグルオッ!!」

 

獣人が吠え、両手に握った野太刀を床スレスレの軌道から高く斬り上げた。狙われたのは、正面に倒れるディアベルだった。薄赤い光の円弧に引っ掛けられたかの様に体が高く宙を舞う。HPはそこまで減らなかったが、コボルト王の動きは止まらない。ニヤリと獰猛に笑うのと同時に目にも止まらぬ上、下の連撃を放ち、一拍溜めての突き。計三連撃技を放った。聞き慣れた音からしてクリティカルらしい。ディアベルがレイドメンバーの頭を越えて、俺達のすぐ近くに落下してきた。HPが面白い様に減っていき真っ赤に染まっていく。正面に迫ったセンチネルを俺が倒した後、キリトがディアベルに向き直る。

予想通り、ディアベルは元βテスターだった。恐らく、先頭に立つ騎士としてレア装備を欲しのだろう。そして、結果はこの様。

蒼い双眸が一瞬歪み、しかし、直ぐに、純粋な光を宿した。唇が震えて、そして、

 

「————」

 

恐らく、キリトにしか聞こえない程の大きさの声で何か言った後、ディアベルのアバターは四散した。

 

 




思った以上に長くなりました。


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18話

18話です。結構キツかった……



 

 

 うわあああ、という悲鳴のような叫び声がボス部屋を満たした。

レイドメンバーのほぼ全員が、自身の武器を縋るように握りしめ、両眼を見開いている。だが、誰も動こうとしない。まあ、流石にそうなるわな。リーダーが真っ先に死ぬという緊急事態じゃあ、判断でなくなるもの。

さぁて、どうしたものか。このまま逃げるのもありだけど、逃げるときに確実に死者が出る。そうなれば間違いなく二度とレイドは組まなくなるから論外。って事で、残る選択肢はただ一つ

 

「キリトサァン」

 

「な、なんだ?」

 

「ワタクシがボスの相手をしている間、そこで絶望している人型サボテン達を立たせてください。ワタクシでは煽ってしまうので」

 

では、任せましたよ。そう言うと俺は周りにいる人を避けながらボス目掛けて全力で突貫した。

 

「イヤッホォォォォォ!!」

 

すると、俺に気づいたコボルト王が両手で持っていた野太刀から左手を離し、左の腰だめに構えている。そして、同時に、ボスの野太刀が緑色に輝き、視認不可能な居合切りが放たれ、耐久値の低いアバターが爆散——、

 

「ッ!」

 

することはなかった。ていうか、コボルト王って驚けるんだな。初めて知ったよ。え?なんで無事かって?答えは簡単、斬撃に合わせて身を回し、衝撃を殺し切って受け流した。ただそれだけだ。

いやぁ、このゲームが限りなく現実に近くてよかった。おかげ様で現実世界で義理の親の攻撃を避ける為に会得した目の良さを生かせる。目がいいってのは利点が多い。相手の目を見れば攻撃の方向が、手や足や関節などの体の動きを見ればタイミングや威力がわかる。今回はそれを人ではなくコボルト王に利用しただけだ。

 

「そぉれっ!」

 

回避した後、放たれた四連撃≪ファッドエッジ≫は、コボルト王の右脇腹に深々と斬り裂いた。すると、四段目のHPゲージが、確かな幅で減少した。うーん、先が遠いなぁ。そう思っていると、コボルト王は両手で野太刀を持ち直す。あの構えはディアベルの体を浮かしたやつだよなぁ。ステータスが平均的なディアベルなら軽傷で済んだけど、あれ俺が喰らったらまずいよなぁ。そう思っているとコボルト王は野太刀を床スレスレの軌道から高く斬り上げてきた。俺はそれを高く跳んで回避したが、コボルト王は俺の行動を見て、ニヤリと笑いながら、野太刀を上段に構えた。

まあ、そりゃあ、さっきの犠牲者と同じ様な状況の相手がいれば笑うわな。でもね、こんな状態からでも回避する方法はあるだよねぇ。

 

「シャアッッ!!」

 

空中で、斜め左下の地面に向けてソードスキルを放つ事で相手の攻撃を無理矢理回避する。因みに、発展させると空中移動も可能だ。

地面に叩きつけられる様に回避した後、すぐに立ち直り。相手の腹に向けて再度攻撃した。

ああ、くそ怖いなぁ。ああ、恐ろしく面白い。ああ、ここに来て本当によかった。

そんなことを考えながら、同じことを繰り返すこと十五、六回、とうとう、それが途切れた。

 

「あ、やばいですねぇ」

 

ミスを悟りながら、発動しかけの≪アーマーピアース≫をキャンセルしようとした。上段と読んでいた刃が、くるりと半円を描いて動き、真下に回った。うわあ、まじかー、化かし合いに負けた。必死に右手のアニールダガーを引き戻したが、ガクンと不快なショックが襲い、動きが止まる。直ぐに、真下から跳ね上がった野太刀が俺の体を正面から捉えた。冷たさを感じさせる、強い衝撃に全身が痺れ、HPバーが四割以上も減る。前を見るとディアベルを殺した三連撃を放つ構えをしている。心の中で辞世の句を読んでいると、

 

「ハァァァァ!!」

 

俺に野太刀が当たる直前、裂帛の勢いと共に放たれたソードスキルが、コボルト王のソードスキルとぶつかり、大きくノックバック。

割って入ったのは、

 

「キリトサァン、随分と遅かったですねぇ」

 

「悪い遅くなった。後、pot飲んだらもう一回こい」

 

「ヒヒ、りょーかい」

 

短く答えると、頭に浮かんだ辞世の句とともに回復ポーションを飲み干した。うむ、まずい。

どうやら、前進したのはキリトだけではない様で、アスナやB隊をメインに数名、傷が浅かった者たちが回復して復帰した。

キリトが大きく息を吸いありったけの声で叫んだ。

 

「ボスの後ろまで囲むと全方位攻撃がくるぞ!技の軌道は俺が言うから、正面の奴が受けてくれ!」

 

「おう!!」

 

野太く響いた声とコボルト王の雄叫びが重なった。

 

壁近くに下がり、低級ポーションの遅々とした回復を待ちながら、思考を巡らせた。

 

とりあえず、要望通りキリトは状況を立て直したっぽいな。いつの間にか投下されてる取り巻きもキバオウ達が相手してるし。この後も取り巻きが湧くことも考えると、持久戦は愚策だな。でも、ボスの方は問題なさそうだな。キリトの指揮もうまいし全体的にバランス取れてるし。

って、あ、あとちょっとで全回復だ。そう思い前を向くと、

 

「………早く動け!」

 

キリトが反射的に叫んだが一歩間に合わなかった。ボスが一際獰猛に吠えた。

巨大が沈むと、全身のバネを使って高く垂直ジャンプ。その軌道上で、肉体を限界まで巻き絞っていく。まわりを見て届く者がいないと知って

 

「ハァ」

 

俺は短くため息をしながら壁際から飛び出した。本来の敏捷とスキルを複合させることで普段は出せない程の速度で軌道を上に向けながら砲弾の様に飛び出す。

短剣突進技≪ラピッドバイト≫は軌道を上空にも向けられる。

右手の短剣が、紫色の光に包まれる。行く先では、力を解放しようとしている。

 

「やらせませんよォォ!」

 

叫びながら、腕を伸ばし、剣を振るった。短剣の切っ先がクリティカルヒットしながらボスの体を捉えた。次の瞬間、ボスの巨体が空中で傾き、床に叩きつけられた。

 

「ぐあうっ!」

 

コボルト王が喚き、立ち上がろうと手足をばたつかせる。

辛くも倒れることなく着地に成功した俺は向き直るや、全力で叫んだ。

 

「皆さぁぁぁぁん!!囲んでリンチにしてくださぁぁぁい!!」

 

「お、オオオオオオ!!」

 

今までの鬱憤を晴らす様にガードを務めていたプレイヤー達も倒れたコボルト王を取り囲み、縦斬り系のソードスキルを同時に発動させる。数々の武器が巨体に降り注ぐ度にHPゲージが、がりがりと削り取られていく。だが、

 

「間に合わないか!!」

 

隣でキリトの押し殺した声をした後、声を張り上げた。

 

「メフィスト!!アスナ!!」

 

「わかってますよぉ〜!」

 

「了解!!」

 

六人の武器がボスの巨体に打ち込まれるも、体を起こす。HPゲージは、後三パーセントほど残っている。周りのプレイヤー達は動けない。対して、コボルト王はスタンもノックバックもせずに、垂直に跳んだ。

 

「ハァァァァ!」

 

「さぁぁぁてっ、御覧あれ!!」

 

「行っ………けぇっ!!」

 

キリトとアスナは同時に地を蹴り、俺はソードスキルを発動させるモーションに移った。先に、アスナの≪リニアー≫が左脇腹に撃ち込まれる。わずかに遅れて、青い光芒を纏ったキリトの剣が、右肩口から左脇腹まで斬り裂いた。HPゲージは残り1ドット。コボルト王の顔が喜悦に歪む。まあ、

 

「予想通りですねぇ」

 

そう言いながら短剣投擲技≪クイックスロー≫を放つ。そして、キリトも全身全霊の勢いとともに、剣を跳ね上がりV字を描く。キリトの≪バーチカルアーク≫を振り切るのと俺の≪クイックスロー≫が当たるのは同時だった。

 

コボルト王の巨体が、後方に揺らめくと同時に、細く高く吠える。無数のヒビが体に入ると、第一層のフロアボス、≪イルファング・ザ・コボルトロード≫は、幾千幾万の硝子片となり四散した。

 




次回どうしよう………


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19話

19話ですよぉ、アハハハ。


 

 

 

 だあー!LAはキリトだったか。まあ、取れればラッキーくらいにしか思ってなかったし、いいか。それより、大丈夫だよね?いきなり、 

 

「ココマデ、オレヲコケニシタオバカサンハ、オマエタチガハジメテダ。フフハハハハハハ、ユ、ユルサン!ユルサンゾ!キサマラ!ジワジワト、ナブリゴロシニシテクレルワー!!」

 

とか言いながら、復活して新しい形態になって襲い掛かってこないね?

そう思いながら立ち上がろうとすると、目の前に【Congratulation!!】という紫色のシステムメッセージが音もなく瞬いた。

は?俺、LA取ってたの?いや、文字が違うし、もしかして、バグなのか?でも、アイテムストレージには見たことない武器が入ってるし、取り敢えず出してみるか。うん、少しだけ、重いな。えーっと何々、≪イビル・ダガー≫?うわあ、形状が禍々しいなぁ。って、総合値がフル強化済みの≪アニール・ダガー≫よりも高い!え!嘘!どゆこと!?

まあ、何にせよこれは、ラッキーで取れたってわけじゃないなぁ。

このドロップアイテム?に関して、思考を巡らせていると聞き慣れた声をかけられた。

 

「お疲れ様」

 

声がした方向を見ると、フードをとったアスナが立っていた。

 

「おやおや、珍しいですねぇ。アナタが顔を隠していないなんて」

 

「まあね、少しだけ息苦しかったから」

 

珍しく、微笑みを見せながらそう言ってきた。あー、なるほどね。さっき、頭に描いた展開は流石に起こらないか。つまり、終わったってことか。まるで、実感したことがきっかけの様に視界に新たなメッセージが流れた。獲得経験値や分配されたコルの額だった。

同じものを見たのか、後ろから大きな歓声が弾けた。

後ろを見てみると、両手を突き上げ叫ぶ者、仲間と抱き合う者、声を出さずに泣く者などが喜びを分かち合っていた。アスナが来た方向から、足音が二つ聞こえた。そっちを見てみると、そこにはキリトとエギルがいた。

 

「まあ、その、なんだ、おめでとさん」

 

「あんたのお陰で前線を立て直すことができた。そしてそれ以上にキリト同様見事な剣技だった。congratulation、この勝利を作り上げられたのはあんた達だ」

 

キリトは少し言葉に迷いながら、エギルは口元に笑みを見せながら途中の英単語を見習いたくなる程の発音で俺を称賛した。

その時だった。

 

「なんでだよ‼︎」

 

突然、半ば裏返った叫び声が後ろから弾けた。ほぼ、泣き叫ぶような響きに、歓声が一瞬で静まりかえる。

声のした方を見ると、軽鎧姿のシミター使いの男が立っていた。

え?誰?

誰なのか疑問に思っているとその答えはすぐに出た。

 

「なんで、ディアベルさんを見殺しにしたんだ‼︎」

 

あー、なるほどね。こいつ、ディアベルとはじめっからパーティ組んでた奴か。後ろにも、泣いてる連中がいるし間違いないな。でも、どういうことだ?

 

「見殺し、とは?」

 

「そうだろ‼︎だってアンタ達は、ボスの使う技を知ってたじゃないか‼︎アンタ達が最初から情報を伝えてれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ‼︎」

 

血を吐くような叫びに、残りのレイドメンバー達がざわめく。「そういえばそうだよな」「なんで?攻略本にも書いてなかったのに」などという声が生まれ、徐々に広がっていく。

その疑問に答えたのは、キバオウではなかった。むしろ、「ち、違うそいつらは」と言いながら放心していた。いやぁ、意外だなぁ。追撃かけるのアンタだと思ってだんだけどなぁ。

しかし、彼の指揮するE隊の一人が走り出し、近くまでやって来ると、右手の人差し指を突きつけて、叫ぶ。

 

「オレ知ってる‼︎こいつら、元βテスターだ‼︎だから、ボスの攻撃パターンとか、うまいクエとか狩場とか、全部知ってんだ‼︎知ってて隠してんだ‼︎」

 

この言葉を聞いた周りの連中の顔に驚きはなかった。流石に、カタナスキルを見切った時点で確信していたのだろう。

かわりに、ディアベルの仲間達はいっそう目に憎しみを滾らせ叫ぼうとした。

それを遮ったのは、エギルと最後まで共に壁役を務めていたメイス使いだった。律儀に手を挙げるところを見た時、「類は友を呼ぶ」という諺が浮かんだ。そんな考えをしていると、冷静な声で言った。

 

「でもさ、昨日配布された攻略本に、ボスの攻撃パターンはβ時代の情報だ、って書いてあっただろ?彼が、本当に元テスターなら、むしろ知識はあの攻略本と同じなんじゃないのか?」

 

「そ、それは」

 

E隊の一人が押し黙る。普段であれば「エギルさんのお仲間、まじカッケェェ!」くらいは思うところだが、今はそれどころじゃない。

必死に衝動を抑えていると、シミター使いが憎悪に溢れる一言を口にした。

 

「あの攻略本が、嘘だったんだ。アルゴって情報屋が嘘を売りつけたんだ。あいつだって元βテスターなんだ、無料で本当のことを教える訳なかったんだ」

 

もう、限界だった。

 

「クヒ、」

 

「ん?どうした?メフィスト?」

 

ああ、おかしい。

 

「ヒヒャハハハ」

 

「お、おい?」

 

おかしくてしょうがない。

 

「アハハハハハハハハ‼︎アハハ‼︎アハ、ウホヘ、グハァ‼︎クヒャハハハハハ‼︎アハハハハ‼︎グフォヘ‼︎」

 

たった一人の一つの言葉で空気をかえる皆がおかしくてしょうがない。自らが当たり散らす為に無理矢理、理由を作るシミター使いが面白くてしょうがない。腹を抱えて、笑う。むせながら、笑う。バランスをとりきれず倒れながら、のたうち回る様に嗤い続ける。全ての目線が俺に移る。絶句した様な目線を大量に浴びる。でも、気にならない。ああ、本当にこの攻略に参加してよかった。

 

「何が、おかしいんだ‼︎」

 

怒りに塗れた声に少しだけ嗤いが止まる。

 

「クヒヒヒw、あーw、ハイ?なんで……ヒヒャハハハw……フゥ。なんでしょうか?なんで、アナタはそんなにお怒りなので?」

 

嗤いを必死に抑えながら問いかけると、相手は顔を真っ赤にしながら答えた。

 

「ふざけるな!人が、ディアベルさんが死んだんだぞ!なんで、お前はそんなに笑えるんだ!」

 

「笑える要素しかないではありませんかぁ。一瞬で雰囲気を変える彼等も、当てどころのない苛立ちを当たり散らす為に無理矢理、理由を作るアナタも、全てがおかしいじゃあありませんかぁ」

 

「理由ならある!」

 

んー、理由って

 

「ワタクシ達が元βテスターだからですか?」

 

「っ!やっぱりお前ら元βテスターだったんだな!」

 

耐えろ、俺。いくら、期待通りの答えを相手が出すからって嗤ってはいけない。さてと、

 

「キバオウサァン」

 

「逃げるな!卑怯者!」

 

「逃げやしませんよぉ。少しだけ、余興を」

 

そう言いながらキバオウに近づき、逃げないよう馴れ馴れしく肩を組みながら問いかける。

 

「キバオウサァン、アナタがキリトサンからアニールブレード+6を四万で買い取るよう命じたの、ディアベルサンですよねぇ」

 

周りがざわついた。「え?」「いやぁ、嘘だろ」「は?どうして?」という声が響く。少しするとキバオウが答えた。

 

「あ、ああ、そうや………」

 

周りがさらにざわめく。流石に元βテスターアンチのキバオウがそうだと答えればざわつくか。

 

「そ、それがどうしたんだよ」

 

「まあだ、わかんないのですかぁ?」

 

そう言いながら、大袈裟な身振りで問いかける。

 

「皆サンは疑問に思いませんか?四万も有れば、アニールブレードを新調してさらに+6まで強化したとしてもお釣りが出るくらいなのに何故、そこまでの大金を払ったのか?と、答えは単純ですよぉ。元βテスター時代のLAをよく取っていたキリトサンの力を削ぎ自らがLAを取る為ですよぉ」

 

周りが騒然とする。

 

「そ、そんな訳ない!ディアベルさんがそんなことする訳ない!」

 

「おやおや、先程の言葉は信じるのに今、ワタクシが口にした言葉は信じないのですかぁ?」

 

そう言うと、一瞬シミター使いは口を紡ぎすぐに反論する。

 

「そ、それはお前が元βテスターだからだ!」

 

「違うでしょう。それはアナタにとって不都合だからでしょう。人は不都合な物事を見ると自らを肯定する為に別の物事を探す癖がありますからねぇ。ああ、後、何故ディアベルサンはキリトサンがよくLAを取っていたのを知っているのかというと、ディアベルサンは元βテスターだからですよぉ。それに、ディアベルサンがこのような行動を取った理由はアナタ方にあるというのに」

 

「な、なんだと?」

 

「気になるのであれば口を閉じてくださいよぉ」

 

今度こそシミター使いは口を閉じた。よし、続けるか。

 

「ディアベルサンはねぇ苦痛だったのですよ。アナタ方からの期待が。だって、そうでしょう?周りが元βテスターを否定する中、自らの過去を隠しながら生きてきた彼は、アナタ方という仲間ができてしまった。自らが元βテスターだと隠さなければならないということと、アナタ方を騙しているという罪悪感に押し潰されそうな毎日を送っていた。

さぞ、辛かったのでしょう。それ故に、彼は毒してしまった。顔は違えどキリトサンがキリトサンだとわかってしまった彼は、β時代の様にLAをとられるのでは?と思ったのです」

 

一拍置いた後、言葉を続ける。

 

「皆さんもご存知の通りフロアボスのドロップアイテムは高性能。それゆえ、手に入れれば戦闘力をアップできる。このゲームがデスゲームとなってから、戦闘力は生存力と同義になってしまった。今後とも先頭に立ち、皆の期待に応える為に、彼はあらゆる手段を講じてボスのドロップアイテムを手に入れようとした。実際、あと少しで彼の計画は成功するところだった。だが、皆を前線から下げたことが仇となった。その後は、皆さんが目撃した通りβ時代のボスと動きが違っていました。それが理由で彼の計画は破綻し、その代償として命を失ってしまった」

 

言い切った後、周りを見渡す。すると、俺のパーティを除いた皆が鎮痛そうな顔をしながら「そんな…」「う、嘘だろ……」などという絶望したような声がボス部屋に充満する。恐らく普段であれば「そんなの、お前の憶測だろ!」という言葉が浮かぶ筈だが、疲れもあってか、そんな疑問が浮かぶ様子もない。

すると、シミター使いが、

 

「な、なんで、ディアベルさんは俺達に自分が元βテスターだと、教えてくれなかったんだ」

 

「そんなの簡単なことですよぉ。アナタ方のことが何一つとして信用出来なかった、ただ、それだけですよぉ」

 

そう言うと、拳を強く握りしめ呻き声を挙げる。それを眺めながら俺は言った。

 

「本当に救いようがありませんねぇ〜、彼は。身の丈に合わぬ願いを抱き、身の丈に合わぬ行動をした挙句。その願いを抱きながら溺死したのですからねぇ。ほんと、嗤えますねぇ」

 

「ッ!ふざけるなぁ‼︎お前が、お前みたいな奴がディアベルさんを嗤うなぁ‼︎」

 

「アハハ、こんなお遊びで本気にして貰っちゃ困りますねぇ!所詮、紛い物ですよ。ああ、いや。実のところ、限りなく本物に近い紛い物ですけど。そもそも、この世界の物事全てが紛い物ならば、アナタが得たものも抱いたものも全て紛い物なのでは?」

 

その言葉が引き金となり、シミター使いは声にならない叫び声と共にソードスキルを発動させながら突貫してきた。俺はそれを回避しながら、すれ違いざまに≪アーマーピアース≫を繰り出す。俺のソードスキルは寸分違わず、シミター使いの鎧の隙間に滑り込み、直撃したと同時に、シミター使いのアバターが爆散した。

 

一瞬、辺りが静まり返った。そして、数秒後、絶叫がボス部屋に響き渡った。

 

「うわぁぁぁ‼︎」「こ、殺した!人を殺しやがった!」

 

そんな声が辺りに響き渡る。それを聞きながら俺は、

 

「アハハハハハハ‼︎クヒヒヒヒヒ、ハハハハハハハハ‼︎」

 

嗤っていた。ああ、楽しいなぁ。このゲームをやって本当に良かった。

 

「わ、笑ってる。アイツ、人を殺して笑ってやがる‼︎」

 

「ア、アイツ、本当に狂ってやがる‼︎」

 

誰かがそう言うのを聞いた。前を見るとエギルもアスナも皆が怯えている。いや、キリトだけは憐みを込めた目でこちらを見てくる。それを見た後、自らのカーソルがオレンジ色に染まっているのを確認すると嗤う。

 

「ヒハハハハ!これをもって、ワタクシのSAOは今、始まった‼︎さあ、皆さんご唱和ください‼︎

 

  イッツ・ショウ・タァァァァァァイム‼︎」

 

親指と中指の先をくっつけた手を天に高く掲げ、指を鳴らす。音はボス部屋に高く、高く響き渡った。

 

この日、SAO史上最悪のプレイヤー。後の≪ジョーカー≫が生まれた。




ハイ、終わりました。文やキャラに違和感がある場合は教えて下さい。


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20話

20話です。


 あの後、スキップしながら歩みを進めて玉座の後ろに設けられた、第二層へと繋がる扉を押し開けた。

気分良く狭い螺旋階段を登ると、再び扉が出現した。

そっと開けると、いきなり途轍もない絶景が眼に飛び込んだ。

 

「いやはや、やはりこの世界は素晴らしい」

 

扉の出口は急角度の断崖の中腹に設けられていた。狭いテラス状の下り階段が岩肌に沿って左に伸びているが、俺はまだ第二層の光景を眺めていた。

様々な地形が複合した第一層と異なり、二層はテーブル状の岩山が端から端まで連なっている。山の上部は緑の草に覆われていて、そこを大型の牛型モンスターが闊歩していた。

第二層の主街区は、眼下のテーブルマウンテンを丸ごとくり抜いたような街だ。因みに俺のカーソルはオレンジな為、街には入れない。

しばらく目の前に広がる絶景を眺めていると、

 

「やはり、アナタが来ましたかぁ。キリトサン」

 

「まあな、それにしてもえらく上機嫌だな、メフィスト」

 

「ヒヒ、当たり前でしょう、あんなことがあったんですから」

 

振り向くとキリトが立っていた。その表情は怒りも悲しみも何も刻まれてはいなくて、ただ、いつも通りの表情だった。

 

「なんだって、あんなことしたんだ?」

 

「おや?わからないのですか?自らの愉悦の為ですよぉ」

 

「その果てに恨まれて殺されたとしてもか?」

 

「以前も言いましたが、自らの悦楽の為に命をかけない人生に何の意味もないとは思いませんかぁ?」

 

そう言うと、キリトは呆れたように笑っていた。

 

「アスナとエギルから伝言だ。『恐れてごめん』だそうだ」

 

「ワタクシ、エギルサンからそう言われるのは嬉しいですが、アスナサンは嫌いなので余り嬉しくないですねぇ」

 

「なんでだ?」

 

「あの、諦めを享受した目が気に入らなかった、ただそれだけですよ」

 

「でも、最後の目は違ったろ?」

 

「……ええ、少しはマシになりましたねぇ。あの調子でしたら、ルックスも相まって惚れそうなのですが」

 

すると、今度は苦笑いをしていた。キリトの奴、今日は妙によく喋るし、表情を変えるなぁ。なんかあったのかなぁ?

 

「メフィスト」

 

「ハァイ、なんでしょう」

 

「やっぱり、俺はお前が嫌いだよ」

 

「そんなこと、あの日アナタの目の前で名を忘れてしまった青年を殺した時から知っていましたよ」

 

二度目の生を受けてから俺はずっと死んでいた。選択権を他人に握らせて、判断も出来ず、生きているか死んでいるのかもわからない状態だった。恐らく、このゲームを始めたことがきっかけなのだろう。ゲームのせいにするのはあれだが、あれがきっかけで俺は名も知らない青年を見殺しにすることできっかけを深めて、ボス部屋の出来事を引き起こした。そこで、初めて俺はこの第二の生で産声を挙げることが出来た。

後悔なんて一切していない。だから、同情は侮辱にしかならない。そう言おうとすると、

 

「一応言っとくが、お前の行動が俺たちを助ける為にやったなんて一つも考えちゃいないさ」

 

「では、何故声をかけたのです?」

 

「不服にもお前に助けられて貸しが一つできたからな。一度だけお前のことを助けてやろうと思ってな」

 

「—————————」

 

は?今なんて言った?助ける?俺を?人殺しの俺を?キリトの言葉を聞き、意味を理解した瞬間、噴き出した。

 

「プッ、アハハハハハハ!ワタクシをw助けるwそうおっしゃいましたか?」

 

「ああ、そう言った。笑われると思ってたが本当に笑われると腹が立つな」

 

これが笑わずにいられるか。ディアベルが主人公に見えていた俺の目が節穴だった。今のキリトの一挙一動全てが主人公のそれじゃないか。

 

「ええ、ええ、確かに言質は取りましたよ、キリトサン。それでは、フレンド交換といたしましょう」

 

「ああ、わかってる」

 

そう言うと互いにフレンドを交換した。いやぁ、主人公は本当に面白い。

 

「では、これにて。ワタクシのカーソルはオレンジなので街には入れません。ですから、次会った時、街の感想を聞かせて下さい」

 

「せいぜい、羨ましがってろよ。メフィスト」

 

そう言うとキリトはその場で座り込んだ。キリトはもう少しだけこの景色を眺めていくつもりらしい。

 

「では、また会いましょう」

 

「ああ、またな」

 

互いに別れを告げて、キリトは景色を眺め、俺は体の向きを変えて階段を降りる為に前へと進んだ。

さらに、上機嫌になった俺は踊りながら階段を降りていると、何度目かの踊り場に到達した時、視界の右側に、小さな手紙のアイコンが点滅した。同じ層にいなくても届くフレンドメッセージだ。そして、フレンド登録しているプレイヤーは二人しかいない。一人はキリト、もう一人はアルゴだ。

どちらが送ってきたのか確認する為、メッセージを開くと後者だとわかった。

 

【とんでもないことしたナ。メッフィー】

 

という書き出しに、思わず笑みが溢れる。続きを読むとこう書いてあった。

 

【そんな気はないのは知ってるガ、迷惑をかけた詫びになんでも一つだけタダで情報を売るヨ】

 

—————ほう。

思わず踊るのをやめて笑みを深めながら、ホロキーボードを出し、素早く返事を打った。

 

【おヒゲの理由を口頭で教えてくださいな】

 

そして送信ボタンを押し、今度はクツクツと声を出しながら笑うと、辿り着いた第二層の大地を踏み締めた。

 

 

探索中に出くわしたモンスターの強さとタフさに驚きながらも問題なく倒していくと、気がつけばウルバスの西側にいた。

しかし、参った。アイテムとかどうしよう。街には入れないし、無理に入ろうもんなら、確かガーディアン?ってのに襲われるらしいし、などと今後の身の振りかたに頭を悩ませていると。見慣れた姿が見たことのない連中に追いかけまわされていた。って、大丈夫か?アルゴの奴、今一人だけど、ここのモンスター達結構強いしタゲられると面倒くさいよ?

そう思っていると追いつかれたアルゴが声を荒げる。

 

「何度も言ってるダロ!この情報だけは、幾ら積まれても売らないんダ!」

 

おー、何だろ。久々に聞いた感じがする。ていうか珍しいな、あいつが情報を売りたくないなんて。つーか、本当に苛立ってんな。そう考えていると、続けて聞こえた声も刺々しい声だった。

 

「情報を独占する気はない。しかし公開するつもりもない。それでは、値段の吊り上げを狙っているとしか思えないでござるよ!」

 

語尾に疑問を抱きながらも相手の言い分も正しいものだと思った。それと同時に俺は壁を登り始めた。え?何でこんなことしてるのかって?まあ、ふざけてる訳じゃなくて理由はちゃんとあるんだけどね。九メートル程登ったところに狭い平面があり、その上をバランスをとりながら進んだ。やり合う声の発生源は、ほぼ真下である。

 

「値段の問題じゃないヨ!オイラは情報を売った挙げ句に恨まれるのはゴメンだって言ってるンダ!」

 

その台詞に対して、二人目の男の声が言い返す。

 

「なぜ拙者たちが貴様を恨むのだ⁉︎言い値で払うし感謝もすると言ったでござる‼︎この層に隠された《エクストラスキル》獲得クエストの情報を売ってくれればな‼︎」

 

…………マジっすか。

 

俺は気配を消しながら驚いた。エクストラスキルとは、言ってしまえば特殊な条件が無ければ会得できない隠しスキルのようなものだ。ああ、なるほどね、それは欲しがるはずだわ。でも、恨まれるってどういうことだ?そう考えていると、男たちの声がいっそう大きくなった。

 

「今日という今日は、絶対に引き下がらないでござる!」

 

「あのエクストラスキルは、拙者たちが完成するのに絶対必要なのでござる!」

 

「わっかんない奴らだナー!何と言われようとあれの情報は売らないでゴザ……じゃない、売らないんダヨ‼︎」

 

頑なだなぁ、どんだけ会得が難しいの?そう考えていると空気の流れが嫌な意味で変わった。それと同時に岩棚から飛び降りた。狙いは外さず、アルゴと男たちの間に二人同時に着地した。

ん?二人?

隣を見てみるとそこにはキリトが立っていた。アルゴの話を聞くのに集中していた為か気づかなかった。お互いに顔を見合わせて驚いていると。

 

「何者でござる⁉︎」

 

「他藩の透波か⁉︎」

 

同時に叫ぶござる口調の格好を見た時、予想通りの格好をしていると思った。男たちの見た目は創作工夫で再現したのか《忍者》に似ていた。

すると、隣からキリトが何か考えながら話しかけた。

 

「えーっと、あんたら確か、フード、じゃなくてフーガでもなくて…」

 

「風魔では?」

 

「その通りでござる‼︎」

 

「ギルド《風魔忍軍》のコタローとイスケとは拙者たちのことでござる‼︎」

 

「そう!それだ!」

 

《風魔忍軍》?初めて聞くな。つーか、赤髪じゃないのにコタロー名乗るな。ぶっ殺すぞ。物騒なことを考えながらアルゴを下がらせていると、調子に乗ったのか、キリトが背中の片手剣に指を走らせながら言った。

 

「公儀の隠密としては、風魔忍者の悪行は見過ごせないな」

 

途端、ニセ忍頭巾の下で、二人の両眼が揃ってびかーんと光った。

 

「「おのれ、きさま伊賀者かッ‼︎」」

 

「は⁉︎」

 

どうやら、キリトが調子に乗ってほざいたセリフは、彼らの重要なスイッチを押したらしい。腹が立つ程完璧に同期した動きで、二人の右手がじりじりと背中の小型のシミターへと伸びる。

 

「おやおやおや、敵対ですか?ワタクシ、平和主義なのですがねぇ」

 

シミター使いは俺に喧嘩売らないと死ぬ病でも患うのか。そう思いながらボス戦で手に入れた、禍々しいダガーを手に取り相対しようとした。

しかし、事態の解決は、思わぬ方向からもたらされた。先程、俺が岩壁を登った理由は必要ない戦闘を避ける為だ。もし、一箇所でぼーっと立ち止まっていれば、いつか必ず起きることがある。

キリトと俺は一歩下がりながら言った。

 

「「後ろ」」

 

「「その手は喰わないでござる‼︎」」

 

「何の手でもないよ、後ろを見ろって」

 

「ええ、その通りですよぉ〜。人の忠告は受け取っとくものですよぉ」

 

俺たちの声に含まれた何が、疑り深い忍者達を動かしたらしい。そろって顔を背後に向けると、軽く飛び上がった。なぜなら、目と鼻の先に、いつの間にか《トランブリングオックス》という肩までの大きさが二メートル以上に達するモンスターが屹立していたからだ。

このモンスターは二度三度戦ったが、タフな上に攻撃力も高いこともさることながら、一度タゲられたらひたすら追いかけ回されるという面倒くさいモンスターなのだ。

 

「ブモォォォォッ‼︎」

 

牛が吠えて、

 

「「ご、ござるうううう‼︎」」

 

忍者達の悲鳴がそれに続いた。直後、牛と忍者のレースが開始した。五秒ほどで地響きと悲鳴が地平線の彼方に消えてった。

あー、面倒くさかった。ていうか、流石に武器以外の装備品を変えたいなぁ、どうしよう。

そんなことを考えていると先程とは比べものにならない予想外の事象が発生した。

背後から伸びてきた小さな見慣れた二つの手が、俺の体をギュッと包み込んだのだ。背中に温かく柔らかい触覚が生まれて、微かな囁き声が聴覚を揺らした。

 

「………カッコつけすぎだヨ、メッフィー」

 

その声は、今まで大人しく沈黙したアルゴのものだった。しかし、含まれる音成分が普段と違った。

 

「そんなことされると、オネーサン、情報屋のオキテ第一条を破りそうになっちゃうじゃないカ」

 

は?オネーサン?情報屋のオキテ?

いや待て、そんなの気にしてる暇はないぞ俺。今世も前世も童貞な俺にこのシュチュエーションは刺激が強すぎる!身も心もキャスターな俺には相性が悪すぎる!不服だが、目線でキリトに助けを求めるが顔を赤くしながら口元を手で覆っている。

ダメだ役に立たない。つーか、なんだその反応は乙女か貴様は。

必死に考えながら、浮かんだ言葉を口にした。

 

「ヒ、ヒヒ、アナタには、一つ貸しがありますからねぇ。おヒゲの理由を聞くまでは、どうにかなっては困りますからねぇ」

 

アルゴの顔には左右のほっぺたに三本ずつ、くっきりと黒いヒゲのフェイスペイントが施されている。それが、鼠というあだ名の由来なのだが、ペイントの理由は誰にもわからない。その情報は二十万コルという値段が付けられているからだ。

先のボス戦が終わりこのフロアへ向かう途中に得た《情報をなんでも一つ無料で売る》というメッセージが届いたので《ヒゲの理由を教えてくれ》と送った。

状況を冗談で紛らすための俺の台詞だったが、それを聞いたアルゴはいっそう強く顔を俺の背中に押しつけ、囁いた。

 

「………いいヨ、教えてあげル。でもちょっと待って、ペイントを取るカラ………」

 

へ?ペイントつまりあのヒゲを取る?そこには何か深慮すべき何かがあるのでは?瞬間的に精神的負荷が危機的に上昇した俺は、アルゴの体が離れる前に言った。

 

「アルゴサァン、やはり変更でお願いします!先程話していたエクストラスキルについて教えて下さいな」

 

俺の背中から離れ、前に回り込んだアルゴの顔には、左右三本ずつのおヒゲが残っていた。離れる直前に、めっふぃーの、いくじなし、という声が聞こえたのは気のせいだろう。




長かった……


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21話

少し、遅くなりました。


 

 

 すっかりいつものふてぶてしい表情に戻った《鼠》は、腕を組みながら言った。

 

「何でも教えるって言ったからには、約束は守るヨ。でも、約束シロ。どんな結果になっても、オイラを恨まない、ってナ!」

 

「先ほどの忍者の方々との会話を聞いて思っていましたが、普段のアナタならば情報料の値上げを行うために粘ることはあれど、情報提供を渋ることは随分と珍しいですねぇ。何か理由がおありで?」

 

俺の問いに、鼠はいつも通りのふてぶてしい笑みを見せる。

 

「そっちの情報は有料だヨ、メッフィー」

 

だよなぁ、仕方ない。ボス戦で得た情報を交換材料にしてみるか。

 

「アルゴサァン、実はワタクシ、ボス戦にて面白いものを手に入れたのですよぉ〜。アナタが提示する情報とワタクシの情報とで交換しませんかねぇ」

 

そう言うと、先ほどとは一転。口元に笑みを残したまま、目が真剣味を帯びた。

 

「へぇ、面白そうダナ。内容次第じゃあ教えてやるヨ」

 

「ええ、そうしましょうか。さて、キリトサァンすみませんが少しの間、二人きりで話したいことがあるので移動してもらっても?」

 

「ああ、わかった。だけど、出来るだけ手短にしたほうがいいぞ。同じところに止まっているとモンスターにタゲられるからな」

 

そう言うと、キリトは声の届かない場所まで移動した。なんていうか素直だなぁ。さてと、

 

「では、アルゴサァン。ワタクシがボス戦で得た情報とはこれです」

 

そう言うと、俺は懐から禍々しいダガーを取り出した。

 

「なんダそれ?スゲー禍々しいナ」

 

「ええ、ワタクシをそう思いましたとも、因みにこの武器の総合値は今ワタクシが保有しているアニールダガーよりも上ですよぉ」

 

「そりゃすごいナ!で、この武器の出所ハ?」

 

「これは、ワタクシがボス戦にて手に入れた武器です」

 

アルゴは少し眉間にシワを寄せながら拍子抜けしたように言った。

 

「つまりお前が言いたいことは、ボスのLAが変化してるってことカ?だったら、それはあまり交換材料としては不十分だゾ」

 

「ええ、確かにその通りだ。しかし、これはボス戦のLAで手に入れた武器ではありません」

 

その言葉とともにアルゴは目を見開いた。その反応を見ながら俺は言葉を続ける。

 

「何故そう言い切れるのかという問いに関しては既にキリトサンがLAをとっていますからねぇ。確認したければ聞きに行ってくださいな」

 

少し、考えるような素振りを見せた後、アルゴはキリトに向けて確認するためなのかメールを送った。少ししてから帰ってきたメールに目を通すと俺に向き直った。

 

「驚いたナ。本当だったとは」

 

「信じてなかったとは酷いデスねぇ」

 

「当たり前ダロ。じゃあ、それはなんなんだヨ」

 

「ワタクシの予想ですが、このデスゲームにはMVPが存在するのではないかと思っているのですよ」

 

すると、アルゴは首を傾げながら疑問を含めながら尋ねてきた。

 

「MVP?どういうことダ?」

 

「単純に言ってしまえば、ボスの討伐の途中までに最も働いたもの又はボスに最も喰らい付いたものに特別なアイテムを渡す、と言ったものだと思うんですよぉ。まあ、詳しい内容は省きますがワタクシ今回のボス戦でボス相手に単騎で何分も前線を維持し続けたのですがぁ、最後の最後でキリトサンにLAをとられてしまったのです。ワタクシ、そのことに少しショックを受けているといきなり目の前に《congratulation》という文字が現れたと同時にストレージにこのダガーが入っていたのです」

 

「なるほどナ、だからMVPカ。確かにこの情報はとても有益ダナ。うし、じゃあ約束通りオレっちも教えるヨ」

 

おお、理解が早いなぁ。いや、ここまで言えば理解できるのか?何にせよ情報交換できて安心したわ。

 

「一応言っておきますが。嘘偽りはやめてくださいねぇ」

 

「んなことするカヨ」

 

「ヒヒ、一応ですよぉ、い・ち・お・う」

 

「その言い方やめろとけヨ、イラッとするからナ。じゃあ、教えるゾ。

クエストで得られるエクストラスキルの名前は《体術》っていうんだけどナ。オレっちがこのクエを教えない訳はナ、習得条件がクソ難しいからなんダ」

 

「ハイ?」

 

え?それだけ?難しいからってだけ?《体術》ってことは武器なしでもソードスキルを発動できるってことだよな。だったら、多少難しくても問題ないんじゃないか。

 

「多少難しくても問題ないって思ってるダロ」

 

「ええ、それほど有益ですからねぇ。《体術》というスキルは」

 

「確かに有益ダナ。だけど習得条件はナ、《破壊不能オブジェクト一歩手前》くらいの強度の岩を素手で割ることダ。しかも、逃げられないよう顔に筆で落書きされるおまけ付き」

 

……今、なんつった?《破壊不能オブジェクト一歩手前》程の強度を持つ岩を素手で破壊する?顔に落書きされる?いや、なんて言うか

 

「なるほど、無理ゲーですねぇ。アナタが教えたくないと思うのも納得できる。そのお顔のペイントはその時のもので?」

 

「お見事!エクセレントな推理だヨ!いやー、得したナ、メッフィー!結果として《おヒゲの理由》と《エクストラスキル》の情報を両方ゲットしたんだからナ!」

 

「それはワタクシも嬉しいことですが、割るのにどれくらいかかると思いマスゥ?」

 

「うーん、メッフィーのステータスやレベルを考えたとしても二日はかかるナ」

 

うわぁ、面倒臭っ!なんか、釣り合ってるのか疑問に思うなそのクエスト。まあ、それはさておき。

 

「アルゴサァン、ひとつだけ質問ですが、よろしいですか?」

 

「ん?内容によるナ」

 

「何故、ワタクシとこうして顔を合わせるような行動をとったので?」

 

メールをもらった時にも思ったことだが、アルゴが殺人を犯した俺につるむことは百害はあれども一利もない。この光景を見られただけでも変な勘違いでもされた日には商売の妨げにもなる。だからこそ疑問に思う。義理やけじめなど生真面目なところはあるが、基本的に損得で動くアルゴがなんだってこんな真似をしてるのか。

 

「お答えできませんか?」

 

「……まぁ、確かにそうだナ。お前と行動すれば情報交換の妨げになるナ」

 

「まさかとは思いますが。あのボス部屋での行動がアナタのためにやったとは思っていませんよねぇ」

 

「当たり前ダロ、お前の性格はこの一か月とちょっとの間で少しは理解できてるつもりなんだからナ」

 

「では?何故?」

 

そう尋ねると少し気恥ずかしそうに頭を掻いた後、答えた。

 

「お前がどう思ったにせよ、あの行動で確かにオレっちは救われたンダ。だから、一度だけお前がどうしようもなく後戻りできなくなった時助けてやろうって思ったンダ」

 

は?助ける?俺を?

 

「こ、こんなこと小っ恥ずかしいから一回しか言わねーゾ」

 

「ええ、なんですか?」

 

アルゴは一度息を吸った後、見惚れそうなほど優しい笑みを見せながら言った。

 

「ありがとう、メッフィー。オレっちを助けてくれて」

 

「————」

 

目を見開き絶句する。ありがとう?今そう言ったのか?誰に?俺に?アルゴの言った言葉を咀嚼して理解すると、

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ‼︎」

 

笑った。

 

「な、なんだヨ。らしくないのは自分でもわかってるけど、笑うことねぇダロ」

 

アルゴは顔を赤くしながら俯いている。おいおい、勘違いしてるな。

 

「ヒヒヒヒ、いえいえ、嗤ってはいませんよ笑ってるだけです」

 

「同じじゃねぇカァァァァァ!」

 

顔を真っ赤にしながら激昂するアルゴを見ながらもう一度笑った。今のセリフを俺が嗤うわけがない。キリトと同じく俺の本質を理解しながら俺を助けたり礼をする奴はあいつらが初めてだからだ。

だから、

 

「ねえ、アルゴ」

 

「なんだヨ、メッフィー」

 

「今後ともワタクシを笑わせてくださいねぇ」

 

「ンなことするカァァァァ‼︎」

 

二人とも最後の最後まで俺を笑わせてくれよ。

 

 

俺の爆笑がひと段落して、モンスターに襲われてるキリトを助けた後、エクストラスキルの習得のためにイベント場所へと向かった。道中にモンスターと戦ったが限界までレベリングした俺とキリトにはさして難敵ではなかった。

二十分程歩いていると。

 

「そういや、メッフィー。お前、街中でなんて呼ばれてるか知ってるカ?」

 

「知りませんねぇ。そもそも、街には入れないのでワタクシが知り得るわけないでしょう」

 

「《クラウン》または《ジョーカー》ダ。お前の見た目が二つ名の由来だろうナ。因みによく呼ばれてるのは《ジョーカー》ダナ」

 

へえ、ジョーカーか悪くないな。男はいつまで経っても厨二病を患うからな。痛くないけどカッコいい二つ名は本当に嬉しい。そう考えているとそわそわしているキリトがアルゴに尋ねた。

 

「な、なぁ、俺にはないのか?メフィストと似たようなの」

 

おおっと、二つ名的なやつが気になるってことはキリトくんも厨二病ですかな?わかるよその気持ち。

 

「ん、キー坊もあるゾ」

 

「本当か!」

 

「元βテスターとチーターを合わせた《ビーター》、後は殺人鬼とつるんでるけど正義なのか悪なのかどっちつかずだからなのか《バット》多分この呼び方はキー坊の見た目にも関係してると思うナ」

 

ビーターはともかくバットって、アメコミファンにぶっ飛ばされそうな名前だな。俺もキリトも。

 

「ヒヒ、永遠のライバルとか言われたらどうします?ねぇ、《バット》」

 

「確かに名前的にも正義の味方と極悪ヴィランだもんなぁ」

 

俺が笑いながらそう言うとキリトは苦笑いしながらそう答えた。そんな雑談をしながら十分程進んでいると、一つの小屋が建っていた。

 

「二人とも着いたゾ」

 

アルゴが躊躇せずに小屋に歩み寄るのを見るとまだ危険ではないらしい。続いた俺たちの目の前で、勢いよく扉を開け放つ。

中には幾つかの家具と、NPCが一人存在した。小柄で細身の初老の男で、髪の色は白く、黒塗りのサングラスのような眼鏡をかけている。俺とキリトが視線で問うと、アルゴはもう一度こくりと頷いた。

 

「アイツが、エクストラスキル《体術》をくれるNPCだヨ。オレっちの提供する情報はここまで。受けるかどうかは二人が決めるんダナ」

 

「た、体術?」

 

ん?ああ、そうか。キリトは知らなかったよな。エクストラスキルの内容。キリトの反応をみてアルゴが説明する。

 

「《体術》は、武器無しの素手で攻撃するためこスキルだと思う。武器を落としたり、壊れた時に有効だろうナ」

 

「おお、確かに使えそうだな。さっきの忍者達がこだわってたのはそういうわけか」   

 

きょとんとした顔のアルゴをみて俺が解説する。

 

「忍者の武器は手裏剣や忍者刀というイメージですが、実際は体術などがメインだったとも言われているのですよぉ」

 

「忍者として完成するには欲しかったんだろうな。ただ、アイツらこの場所は知らないくせに、なんで《体術》スキルの中身とかアルゴがその情報を持ってることとか知ってたんだ?」

 

「………サービスだヨ。βテストの終わりの間際、七層にいたNPCから《二層の体術マスター》の情報が発見されたんダ。オレっちはそのずっと前に、自力で見つけたんだけどナ。あの忍者どもは、β中に七層のNPCに話を聞いたんだろうサ。そんで、本サービスになってからオレっちに、二層のエクストラスキルについての情報を買いにきたってわけダ」

 

「なら、なんであの時『知らない』って言わなかったんだ?そうすりゃ、しつこく付き纏われるこもと……」

 

キリトの当然の疑問に、アルゴはバツの悪そうな顔をする。まあ、なんでそんなことしたのか予想できるけどね。

 

「大方、プライドが邪魔したってところではないでしょうか?ねえ、アルゴサン?」

 

「………まぁ、当たりダ」

 

「ああ、だから『知ってるけど売らない』って言っちゃったわけか」

 

そう言うと二人で座禅を組んでいるNPCを見やり、小屋に踏み込むとNPCの前に立った。赤いチャイナ服のような服を纏ったオッサンは、俺たちを見ると言った。

 

「入門希望者か?」

 

「ええ」 

 

「そうだ」

 

「道のりは長く険しいぞ?」

 

「「望むところ」」

 

短い問答に答えると、頭上のマークがあの時のババアと同じく【!】から【?】に変化して受領ログが流れた。

オッサンが俺たちを連れていったのは、小屋の外、岩壁に囲まれた庭の端にある巨大な岩の前だった。うん、思った以上にでかいな。

 

「お主らの修行はただ一つ。両の拳でこの岩を叩き割る、ただそれだけだ。成し遂げれば、お主らに技の全てを授けよう」

 

「………」

 

「ちょ、ちょっとタンマ」

 

予想外の展開だったのか少し慌てているキリトの声を聞きながら岩の強度を確かめる。……うん、アルゴの情報に間違いはなかったなぁ。そう考えていると、

 

「この岩を叩き割るまで、山を下りることは許さん。お主らには、その後証を立ててもらうぞ」

 

その台詞と同時にいつの間にか右手に握られていた墨をたっぷりと含んだ筆が閃くと同時に俺たちの顔に炸裂。

 

「お、おわああ!」

 

「ハァァ!」

 

筆の衝撃でのけぞった俺と、少し離れたところに立つアルゴの目が合った。アルゴの目には哀しみと共感、そして抑え切れていない喜悦が含まれていた。な、殴りてぇ。白髪のジジイは俺たちをみて頷くと、衝撃的かつ予想できていた台詞を口にした。

 

「その証は、お主らがこの岩を叩き割り、修行を終えるまで消えることはない。信じているぞ、我が弟子よ」

 

そう言うと、移動した。アルゴの目の前に。

 

「へ?オ、オレっちになんの用ダ?」

 

「今から岩を用意するからそれを叩き割れ」

 

「ナ!なんでだヨ!オレっち関係ねえダロ!」

 

「何を言っておる。我が弟子の一人であろう。ワシが刻んだその証が何よりの証拠だ」

 

「ち、ちげぇヨ!」

 

「ほう、そうなのか?あの二人に聞いてみるとしよう」

 

「な、なぁ、二人ともちげぇよナ!」

 

余程トラウマなのか涙目になりながらこちらに同意を求めてくるアルゴ。そんなアルゴに口を開きかけてるキリトの口を押さえて答える。

 

「アナタの弟子です」

 

「やはりな、岩を用意しておくからまっておれ。カカカカ、なぁに心配するな岩なら幾らでもある」

 

「メッフィー、テメェェェェェェェェェ!!」

 

ガチギレしたアルゴが殴りかかってきた。拳を受け止めて笑いながら話しかける。

 

「ヒヒヒヒヒヒ!どうしたのですか?アルゴサァン。手数は多いことに損はないですよぉ〜」

 

「メッフィー!テメェマジでふざけんなヨ!オレっち完全に巻き込まれてんじゃねぇカ!」

 

「お、落ち着けってアルゴ。今争っても何の意味もないだろう」

 

「その通りですよぉ」

 

キリトの言葉に便乗した俺にアルゴが更なる罵倒を言おうとした背後から凄まじい轟音と共に岩が降ってきた。アルゴはぎこちない動きで音のする方を向き涙目になった。

 

「では、期待しているぞ。我が弟子達よ」

 

そう言うと今度こそ自らの家に帰っていった。いやあ、思わぬことが起きたなぁ。ああ、そうだ。

 

「アルゴサァン、ワタクシ達の顔どうなってます?」

 

「メフィえもんとキリえもんって感じだよこの野郎」

 

涙声でそう答えた。

その後、アルゴの岩はβ時代に受けていた状態からスタートだったらしく一日でクリアして見たことない程はしゃぎながら帰っていった。因みに、俺はその次の日に叩き割ることができた。

 

 

ああ、疲れた。肉体的にも精神的にもキツかった。まあ、これで手札が増えて生存率も上がった。しかし、キリトの奴大丈夫か?まあ、後ちょっとだし大丈夫か。それはさておき、なんかつけられてるなぁ。

 

「誰ですかぁ?いるなら返事をしてくださぁい!」

 

そう言うと茂みからナイフが複数本顔に向けて飛んできた。俺はそれを首を傾けることで回避した。その後、茂みに向けて全力で突貫してナイフを投げたと思われるフードを被ったプレイヤーに向けてイビルダガーを振り下ろす。しかし、予測していたのか相手は攻撃を受け止めた。

 

「Great!ナイフを回避した能力も躊躇なく武器を振り下ろしたことどれをとっても素晴らしいな」

 

「アナタァ、誰デスか?どこか出会いましたかねぇ?」

 

「Non、初対面さ。だが、俺はアンタを知っている。大層イカれてることで有名だぜ、《Joker》」

 

「だとしたら、その噂はデマですねぇ。ワタクシは狂っていない。常に最先端を突っ走っているだけですよぉ〜」

 

そう言うとフード被ったプレイヤーは驚愕した雰囲気を出し、笑った。

 

「HAHA!確かにな!噂以上だ!」

 

「あのぉ、いい加減に自己紹介くらいしてくれませんかねぇ。ワタクシ、クエスト終わりでイラついているんですよぉ」

 

そう言いながらダガーに更に力を加える。

 

「sorry、失礼したな。確かに自己紹介がまだだった。だから、これ退けてくんない?」

 

俺のダガーを見ながらそう言う。俺は渋々、ダガーを退けると立ち上がり薄気味悪い笑みを浮かべながら自己紹介を始めた。

 

「俺はPohだよろしくな。単刀直入に言おうジョーカー。お前、俺の仲間にならないか?」

 

フードを被った不審者は意味のわからん提案をしてきた。




長めになりました。


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22話

22話です。


 

 

 名前を聞いて思い出した。PoHって確か初期から登場する重要人物だよな。SAO時代にオレンジカーソルをまとめてたんだっけ?確かギルド名はラフィン・コフィンだったか?まあ、未来の話はともかく。

 

「PoHサンですか、変わったお名前ですねぇ。クリストファーという名前のお友達がいらっしゃるのでは?」

 

「誰が蜂蜜好きの黄色い熊だ。それはさて置き返事は?」

 

「そもそも、仲間を集める理由がわかりませんねぇ。このデスゲームを終わらせることに積極的には見えませんしぃ」

 

「単純だ。お前みたいな狂気に満ちた連中を集めてギルドを作り《デスゲームならば殺して当たり前》という思想の元で好き勝手に暴れ、愉しむ為だ。だってそれが俺たちプレイヤーに唯一与えられた権利なのだからなぁ」

 

はい、論外。お断りさせていただきます。自由に振る舞うのに枠に当て嵌めてちゃあ意味ないでしょ。はー、つまんな。時間を無駄にした気分だ。

断るために口を開こうとした瞬間、ふとアイデアが浮かび上がった。

いや、まてよ、いいこと思いついた。そして、この計画にはこいつの存在が大きく役に立つ。

 

「条件があります」

 

「OK、言ってみろ」

 

「ワタクシが自由に振る舞うことに口を出さないことです」

 

「なんだ、そんなことか。当然受け入れよう」

 

「ヒヒ、では交渉成立ということで?」

 

「ああ、今後ともよろしくな《Joker》」

 

PoHはニヤリと笑うと手を差し出してきた為、俺はその手を取った。ああ、そうだ。

 

「ワタクシ以外にお仲間は?」

 

「ああ、今のところ一人だけだ」

 

「おやおや、先は長いですねぇ」

 

「言ってろ、今からそいつと合流するからついて来い」

 

そう言いながらPoHは俺に背を向けて歩き始めた。さーて、面倒くさいことこの上ないが頑張るか。そう思ったり、道中でPoHから麻痺毒をもらうなどして十分ほど歩くと、そこにはナイフを片手に持ち紙袋を被ったプレイヤーがいた。何あれ気持ち悪っ。ていうか誰だ?あの足元に転がってる奴。って、よく見ればあん時の忍者じゃん。もう一人はどこにいったんだろう?

 

「hey!」

 

「ん?お!遅かったじゃねぇかヘッド!って、そいつ誰?」

 

「かの有名な《Joker》様だ」

 

「おー!マジでか!俺の名前はジョニーブラック。趣味は殺しだよろしくな!」

 

「ええ、よろしくお願いしますねぇ、ジョニーサン。ワタクシはメフィストでごさいます。ところで一つ伺いますが、足元にいる方はどちら様で?」

 

そう言いながら足元に転がっている忍者もどきのことを尋ねる。

 

「ああ、こいつ?それがさぁ、ひでぇんだぜ此奴等!こっちに向かって走ってきたと思ったらいきなりモンスターを押し付けてきたんだぜ!」

 

まあ、確かにひどいな。しかし、

 

「此奴等ということは、二人かそれ以上いたので?」

 

「ああ、二人いたんだけどさぁ。遊んでたら壊れちゃって」

 

なるほどねぇ、要するに殺したわけだ。見たところ麻痺毒で動きを封じられた後嬲り殺しにされたってところか?

そう考えていると。

 

「なあなあ」

 

声をかけられた。

 

「なんです?ジョニーサン」

 

「アンタの殺しを見せてくんない?アンタの噂を聞いた時からずっと気になってたんだぁ」

 

うわぁ、面倒くさっ!なんでわざわざ野郎の性癖を知らされた上にやりたくもないことやらされんだよ。厄日か、今日は。まあ、仕方ないな。全ては目的の為。

そう思いながら忍者もどきに向けて一歩一歩、歩を進めた。

 

「さぁ、どうぞ。ああ、そうだ、麻痺毒は後2、3分で切れるからなぁー」

 

その声を聞きながら屈んで忍者もどきと目線を合わせると。

 

「怖がらなくていいのですよ」

 

安心させるようにニコリと笑った。忍者もどきは目を見開きながら驚くが直ぐに警戒する。しかし、俺は数分間何もしないまま見つめ続けていると麻痺毒の効果が切れた。

 

「立てますか?」

 

「な、なんで?」

 

「そのような無粋なことを聞かないで下さいな。単なる人助けですよぉ〜。さぁ、今すぐここから逃げなさい。周りを見ないで、前だけを見て、自分の足で走るのです。———一人でできますね?」

 

そう言うと先ほどより警戒を緩めながら立ち上がった。

 

「おいおい……」

 

ジョニーブラックが止めようとするが手で制する。そして、忍者もどきが一歩二歩と歩いた後、走るために加速しようとした瞬間。

麻痺毒を付与したナイフを投擲した。

 

「は?」

 

「おやぁ?どうしたのですかぁ?」

 

「な、何をするんだ!逃してくれるんじゃないのか!?」

 

「そんなこと言いましたかねぇ?」

 

惚けるような態度を取ると、忍者もどきは絶句したような顔になった。

 

「ああ、後、先ほどワタクシ達がこの辺りでモンスターと交戦してしまったので何体が近くにいますよぉ?」

 

そう言うと、示し合わせたかのように猛牛型のモンスターが忍者もどきに向けて突進した。忍者もどきの顔が絶望に染まる。

 

「ひぃ!いやだ、やめて、お願い助けて!助けてくださ」

 

そこまで言った瞬間、猛牛の体当たりが忍者もどきに直撃、残り少ないHPバーが一瞬でゼロになりアバターが爆散した。

 

「ワタクシの持論なのですがぁ、恐怖には鮮度があるのですよぉ」

 

見届けた後、ジョニーブラックに語りかける。

 

「怯えれば怯えるほど、感情とは死んでいくものなのです。真の意味での恐怖とは、静的な状態ではなく変化の動態——希望が絶望に入れ替わる、その瞬間のことを言うのです。如何でしたか?瑞々しく新鮮な恐怖と死の味は?」

 

あー、面倒くさかった。前世で読んだ型月作品にあったシーンを思い出しながらやってみたんだけど、どうかなぁ?

そう思いながらジョニーブラックの方を見ると体を震わせている。

あー、不評だったかな?

 

「COOL!最高だ!超COOLだよアンタ!」

 

めちゃくちゃはしゃぎながらこちらの手をとり握手する様にブンブンと手を振った。

よかったよかった、好評みたいだったな。

 

「いやぁ、すまない!試すようなマネをして!噂だけの奴なんじゃないかと心配だったんだ!」

 

「おやぁ?つまり合格、ということで?」

 

「ああ!勿論だ!俺はアンタとヘッドについていくよ!さあ、殺そう!もっともっとCOOLな殺しっぷりで、俺を魅せてくれ!」

 

龍之介かこいつは!確かに俺はジルドレェの真似はしたけどさぁ!え?なんでそんなに覚えてるのかって?ファンだったんだよ。

 

「ああそうだ、ヘッド、俺も新入りつれてきたんだ!」

 

「Hum、誰だ?」

 

「来いよ!ザザ!」

 

ジョニーブラックがそう言うと茂みの方から仮面をつけ細剣を片手に持った男が現れた。って、ザザ?聞いたことある気がするけど、誰だっけ?

 

「どーだったよ!ザザ!」

 

「ああ、確かに、噂、だけの、男、では、ない、ようだ、な」

 

「だろぉー!」

 

ジョニーブラックの奴、ほんとにテンション高いな。なんでそんなに嬉しそうなの?

すると仮面の男、ザザが手を差し出してながら自己紹介をしてきた。

 

「俺の、名前、は、ザザだ。よろしく、頼む。武器は、細剣、だ」

 

「ワタクシはメフィスト。よろしくお願いしますねぇ、ザザ。」 

 

俺は差し出してきた手を取ると同じく自己紹介をした。

うん、分かりにくいけど声のトーン的に此奴からの印象もよさそだな。幸先が良くて安心したよ。

 

「よし、じゃあ全員自己紹介は済ませたな。今ここにギルド《嗤う棺桶》を設立する!異論のある奴は今の内に言っておけ」

 

「ナッシング!」

 

「ありませんねぇ」

 

「同、じく」

 

そう言うと目の前にギルド加入の許可のアイコンが表示される。俺は迷わず《Yes》を押した。すると、自分の視界の左端には手をこまねきながら嗤う棺桶のマークが追加された。

 

 

あー長かった。

あの後、互いの生存確認のためフレンドを交換したのだが、ジョニーブラックが面倒くさい絡みかたをして来た為、連中とつるむ時間が長くなった。解散した後寝る時間を返上して何体かモンスターと交戦してレベルを上げていると、アルゴからメールが送られてきた。内容は、『一度、《体術》クエを受けた場所に集まって欲しい』というものだった。言われた通り、《体術》クエが行われた場所に向かい待つこと数分。

すると、 

 

「オーイ、悪いナ。遅くなっタ」

 

アルゴがやって来た。

いやぁ、アルゴ見てると本当に気が抜けるわ。ていうか、一体何のようだ?

 

「アルゴサン、ワタクシに一体何のようが?」

 

「外じゃ、ポーションとか買えないダロ?だから、オレっちが代わりに買ってきてやったゾ!感謝しろヨナ」

 

そう言うとストレージからかなりの量のポーションを取り出して俺に渡した。

その、何て言うか。

 

「律儀ですねぇ、アルゴサン」

 

「当然、タダじゃあねぇからナ。料金分はモンスターの素材で払ってもらうからナ」

 

「勿論ですとも」

 

そう言うと俺はストレージにあるアイテムをいくつか取り出して渡した。

 

「足りますか?」

 

「おう、足りるナ!武器の強化も必要カ?」

 

「そうですねぇ、では《イビルダガー》の強化をお願いできますかねぇ?」

 

そう言いながら《イビルダガー》をアルゴに手渡す。

 

「わかった。でも、いいのカ?メインウェポンを強化に出してモ?」

 

「街に入らないのでほぼ寝ずにモンスターを狩り続けたワタクシの今のレベルは20ですよ」

 

「高っ!ええ……大丈夫カ?」

 

「ええ、勿論ですとも。ただ、眠れないのは少し不便ですねぇ」

 

「β時代だけど、この階層の迷宮区にモンスターが出ないフロアがあるからそこで寝たらどうダ?」

 

え、マジで?あの迷宮にそんなフロアあったの?流石に俺も眠りたい。そうと決まれば、

 

「では、行ってきますねぇアルゴサン。ワタクシの武器の強化、お願いしますよぉ」

 

「おう、任せトケ。礼は迷宮区のマッピングデータでいいゾ。ああ、そうだメッフィー」

 

その場を去ろうとした時、アルゴから声をかけられた。

 

「はい?なんでしょう?」

 

「死ぬなヨ」

 

「フフ、お互いにね」

 

そう言うと今度こそアルゴは街の方へと向かい、俺は迷宮区へと向かった。

 

 



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23話

魔王カヤバーンが引き入るギルドっていつ頃から設立されましたっけ?
後、できれば今後もSAOの詳しいストーリーや設定を教えて下さい。


 

 

 ハァイ、俺メフィスト。アルゴとわかれて早二十分たった後、今は二パーティが迷宮区の守護者を倒したけど立ち去るまで岩山で隠れている真っ最中だ。だけど、先程と違って今の俺は。

 

「まさか、ワタクシはともかく、アナタ方がこんな早くに迷宮区に向かうとはとは生真面目ですねぇ」

 

「そんな事ないだろ。迷宮区の踏破はレベル上げにもなるし重要だろ」

 

今俺は道中偶然出会ったキリトと話しながら共に行動している。

って、キリトだけじゃあなかったな。

 

「ヒヒ、それもそうですかぁ。ところで、お久しぶりですねぇ、アスナサン」

 

「え、ええ、数日ぶりね。メフィスト」

 

アスナもいるんだよね。しかし、二人仲良くコンビを組んでるのかぁ。アルゴに言えばあいつ幾らぐらいで売り捌くんだろう?それにしても、どうしたんだろうか?少しどもってるのは俺が居るのもあるんだろうけど、

 

「お二人共何かありましたかぁ?」

 

「え?」

 

「いえいえ、何か悩んでいるようにも見えたので」

 

「えっと、実は」

 

キリト曰く、最近になってネズハと呼ばれる鍛治師の強化詐欺が行われているらしく、アスナも危うく引っかかりかけたらしい。時系列的にも先程の二パーティの内の一つである《レジェンドブレイブス》とかいう奴らが主犯の可能性が高いらしい。話を聞いていくうちにアスナの顔が険しくなっていくのを見て本気でキレてるのを理解する。

うん、なんというか。

 

「ワタクシが言うのもなんですが、いい性格してますねぇ。しかし、その詐欺で得られる利益は計り知れないでしょうねぇ」

 

「まぁな、ウインドフルーレやアニールブレード級のしかも強化済みの剣を、一日に一、二本詐取するだけでも普通に狩りで稼げる金額の二十倍はいくな。アスナには言ったけどオルランドたちは、ステータスの低さを、武装の強化で補ってるんだ」

 

「武器スキルの熟練度は戦わないと上がりませんが、武器の強化は詐欺で騙しとった武器を使えば手間が省けるという寸法ですかぁ。ヒヒ、名前も相まってまさしく鍍金の勇者。どこぞのナイト様のようですなぁ。いや、ナイト様は自分なりに抗おうとしたからそれ以上か?鍍金が剥がれ落ちた時の彼等が何をするのか是非とも気になりますねぇ」

 

いやぁ、本当に気になるなぁ。SAOは俺を飽きさせないよなぁ本当。

そう考えていると隣から殺気に似た何かを感じる。目を向けるとそこには綺麗な顔を怒りで歪ませたアスナがいた。眼下の戦場をキッとひと睨みすると勢いよく立ち上がり岩山を下る坂道の方へ向かおうとする。

って、おいおい、行っちゃダメだろ。

 

「アスナサァン落ち着いてくださいよぉ。確たる証拠がない以上、今言いに行っても敵になるのはアナタですよ」

 

「だからって、このまま…………」

 

「ええ、ですので、少なくとも強化詐欺のトリックを見抜いてからでないと」

 

「メフィストの言う通りだ。この世界にGMがいない以上多人数に敵視されるのは危険だ。俺とメフィストは今更だけど、アスナまで悪として扱われる必要は」

 

キリトがそこまで言うとアスナがキリトの口許に人差し指を突きつけ、台詞を中断させた。

 

「それこそ今更な気遣いよ、これから一緒にダンジョンに入ろうっていうのに。でも、言いたいことはわかったわ。確かに証拠どころか仕組みも不明じゃ、ただの言いがかりね」

 

引き戻した右手を、自分のおとがいに持っていく。睫毛をふせ、語気を抑えて続ける。

 

「わたしも、何か考えてみるわ。武器のすり替えのトリックを暴くだけじゃなく、明白な証拠を抑えられるような手を」

 

そう言い切るメインヒロインの瞳は、先程とは別種の炎をめらめらと宿している。うん、なんていうか。メインヒロイン怖いなぁ………

 

 

迷宮区の守護者であるブルバス・バウの討伐に成功した二パーティと三人が、補給とメンテのため一度引き帰っていったタイミングで、俺とキリトとアスナは岩山を降りた。

守護者を失った細い盆地を素早く駆け抜ける。本来ならば、二層南部フィールドに初の足跡をしるす権利はリンドかキバオウなのだろう。しかし、彼等の性格的にボスのLAだけでなく、どちらが先に南エリアに入るかでまたひとモメするに違いない。生憎、それを待つ程の忍耐力は持ち合わせていない。

盆地の奥は曲がりくねった細い谷になっていた。左右の断崖はほとんど垂直で、滑らかな岩肌も相まってよじ登るのは不可能だろう。

mobの出ない谷底を一息に走破した俺とキリトとアスナは、出口の手前で足を止めて目の前に広がる光景を眺めていた。

二段三段のテーブルマウンテンが連なる地形こそ変わらないものの、のんびりとした牧草地だった北部のフィールドと違い、平地が密林で覆われている。山肌にはツル性の植物が這い、濃霧の塊があちこちに存在するため見通しが悪い。

しかし、その奥に屹立するシルエットはしっかりと視認できた。

上空百メートルに広がる次層のそこまで垂直に伸びる、第二層迷宮区タワー。一層のよりも少し細いが、それでも直径二百メートル以上はある。

ん?なんだあれ?なんだあの湾曲突起。なんつーか、牛のツノみたいだな。俺と同じ疑問を抱いたのかアスナが不意に呟いた。

 

「あれ、何?」

 

その疑問にキリトが答える。

 

「牛のツノ」

 

おお、やっぱそうだったか。

 

「え、えっと、牛?」

 

「近くまでいくと、あそこででっかい牛のレリーフが見えるぞ。二層のメインテーマだしね」

 

「おやおや、まだ続くのですか?」

 

「わたし、さっき討伐されたので打ち止めだと思ってたわ」

 

「甘い甘い、二層のモーモー天国はここからが本番だ。と言っても、今後出てくる奴らはウマそうじゃないけどな」

 

「ウシだけに?」

 

俺がそう言うとキリトは咳払いで誤魔化した後、ぽんと両手で叩いた。

 

「さて、そろそろ行こうぜ。南東に一キロちょいのとこに最後の村があって、その先が迷宮区だ。村のクエを一通り受けても、昼前には塔に着けるよ。正面から森に入るより、左側から迂回していったほうが安全だし早い」

 

キリト、マジで詳しいな。β時代の情報か?こういう時は本当に頼もしいな。

そう思っていると隣のアスナが微妙な顔つきでキリトを見ている。そのことに気づいたキリトは首を傾ける。

 

「どうした?」

 

「…………いえ」

 

アスナはこほんと咳払いすると、真面目な表情になって続けた。

 

「これは決して皮肉とか当てこすりじゃなくて、素直な感想なんだけど」

 

「う、うん」

 

「あなた、色々知ってて便利ね。一家に一台欲しい感じ」

 

おやおや、

 

「皮肉でないなら一体全体なんでしょうねぇ?アスナサン」

 

「さ、そろそろ行きましょう。リンドさん達に追いつかれる前にタワーに入りたいわ」

 

まるで俺の質問を誤魔化すように早口で言葉を紡ぎながら迷宮区へと向かった。

 

 

「嫌っ……来ないで……!近づかないで!」

 

両目を恐怖で見開き、震え声を漏らす少女に、のしのしと迫る逞しいシルエット。側から見たら通報案件の事態だが、ここから先の展開からは予想を裏切るものになる。

 

「来ないでって……言ってるでしょ!」

 

少女は怒りの滲む声で叫ぶや否や、後ろではなく前に猛然とダッシュする。大柄な襲撃者がその動きに反応して両手用のハンマーを振りかぶるが、起動が頂点に達するよりも早く、少女の右手が流星のように閃く。無音の気合いと共に放たれた突き技が、襲撃者の胸板を直撃。純白の光芒が炸裂し、ハンマーの速度が鈍る。普通ならばここで一度飛び退いて攻撃を避けるが、少女は更に深く踏み込むと、右手のレイピアを引き戻すと追い打ちを敢行。今度は二連撃が分厚い胸板の上下に決まり、襲撃者が半裸の肉体をぐらりと揺らす。

 

「ブモオオオオオオオオオッ!!」

 

短いツノと金属の鼻輪を備えた頭がのけぞり、断末魔の悲鳴を撒き散らす。ゆっくりと後退していく巨体が停止すると同時に滑らかな筋肉が青い光を放ちながら爆散した。

最初に放たれたソードスキル《リニアー》とその後放たれた二連撃技《パラレル・スティング》によって牛頭人身のモンスターを屠ったレイピア使いはしばらくその場で息を荒げていたが、やがてキッと顔を上げると、こちらを睨みながら叫んだ。

 

「牛じゃないでしょ、あんなの!」

 

俺たち三人が、アインクラッドの第二層迷宮区に、恐らく全プレイヤー中最も早く足を踏み入れてから早二時間。

今頃、キバオウやリンドの部隊が一階で既に開けられている宝箱を見つけて苛立っているはずだろう。

え?譲らないのかって?

いやいや、御生憎と悪のPKプレイヤー、ジョーカーにせっかくの宝箱を譲り渡すという考えはありません。そもそも、アルゴからアイテムを持ってきてもらってるとはいえ街に入れない以上こういうところでアイテムをゲットしないとマジで死にかねない。アルゴから迷宮区に行くならばと、前もって渡されたβ時代のアルゴ直筆のマップ(少し分かりづらい)を読み、更にキリトの道案内のおかげで戦闘をこなしながら宝箱を次々に開けていく。順調に二階まで到達したところで、ついに聞いていたこの塔の主たる住人であるトーラス族と初遭遇したのだが。

 

「確かに牛か人かと問われれば答えにくいですがぁ………」

 

ウマくないと言われた段階で現れるモンスターの容姿を予想していた俺としてはアスナの怒りっぷりに見当がつかない。実際、キリトも隣で頭をかきながら困り顔だ。

 

「だけど、ネトゲのミノタウロスってだいたいこんな感じだし、ミノタウロス系のmobを牛って呼ぶのもお約束っていうか……」

 

「ミノタウロス?それって、ギリシャ神話の?」

 

キリトの言葉にアスナの剣呑な眼光が少し和らぐ。おおっと、アスナさんこういうのに興味があるのかな?仕方ない説明してあげよう。普段は余りというか全く役に立たない知識を明かそうと俺は割とノリノリで話し始めた。

 

「ええ、勇者テセウスに討伐される神話のミノタウロスは《ラビリントス》と呼ばれる地下の迷宮に閉じ込められた怪物です。キャラやストーリー的にもゲームといい感じは合いますからねぇ。昔から小説やゲームなどの定番モンスターなのですよぉ。因みに何故トーラス族と呼ばれているかというとミノを取った上で英語読みをしているからなのです」

 

「取ったのは妥当ね。だってミノタウロスのミノはミノス王のミノでしょ?」

 

「ええ、その通りですよぉ」

 

なんだ、詳しいじゃないの。アスナの博識ぶりに驚いていると、

 

「え?ミノタウロスをミノって略すのは不適当なのか?」

 

キリトがそう尋ねてきた。

 

「ハイ、ミノス王は死後に冥界の裁判官になりましたからねぇ、ミノ呼ばわりすれば怒るのでは?まぁ、ワタクシ的には物語の中で一番悲劇的なのはミノタウロスだと思いますがねぇ」

 

そう言うと、キリトとアスナは驚いたような目でこちらを見てきた。

 

「え?嘘でしょ?なんで、怪物のミノタウロスが悲劇的なの?」

 

「何故って、単純ですよぉ。生まれた瞬間から親であるミノス王に怪物であると断じられ疎まれ《ラビリントス》に幽閉され供物である人間を食わねば生きていけない状態に追い詰められますよねぇ。そして、最後には怪物としての通称『ミノタウロス』ではない、ちゃんとした人間としての名前で呼ばれず悪であると判断されて殺されたのですよぉ。これを悲劇と呼ばずしてなんと呼ぶのでしょう?」

 

「それは………」

 

「お二人共、良いですかぁ?これはワタクシの自論なのですが、人間が善であれるのは周りの取り巻く環境が良いからなのです。常識やモラルとは冗談のようなものです。そんなものはトラブルが起きればすぐに放棄してしまう。周りの状況が常識やモラルを持たせているだけなのですよぉ」

 

「………」

 

「まあ、簡潔に言ってしまえば周りの状況こそが、その人達の信念や決定に影響を与えるのです」

 

そう締めくくるとアスナは考え込んだ後、俺に尋ねてきた。

 

「ねぇ、メフィスト。ミノタウロスの名前ってなんて言うの?」

 

「《雷光(アステリオス)》ですよぉ、アスナサン」

 

「そう………」

 

再び、空気が重く淀む。なんか、自分で言っといてなんだけど雰囲気が暗くなったなぁ。うーん、少しやだなぁこの状態。よし、

 

「ところで、話は変わりますがぁ。アスナサァン先程の悲鳴は可愛いらしかったですよぉ。ワタクシ、ハァハァしてしまいましたぁ」

 

「な!仕方ないでしょう!だってあいつ、その……ほとんど着てないじゃないの!腰のところにちょっと布を巻いてるだけなんて、セクハラもいいところだわ。ハラスメントコードで黒鉄宮送りにしてやりたいくらいよ。今のあなたもよ、メフィスト」

 

そう言いながら、アスナは普段よりも三倍は冷え込んだ目でこちらを見てくる。

 

「おやおや、手厳しいですねぇ!そうは思いませんかぁ?キリトサァン」

 

「いや、お前、アスナ居るんだからその装備はやめとけよ」

 

まあ、なんだってこんな指摘を受けているのかというと。今の俺はトーラス族よりも少しだけ肌を晒していないという状態だ。何故こんな奇行に走ったかというと先程宝箱を開けた際手に入れた《マイティ・ストラップ・オブ・レザー》という防具を手に入れたからだ。この防具は防御力もそこそこある上にかなり嬉しい筋力ボーナスつきなのだが、装備すると上半身が《革帯を各所に巻いただけの半裸》に固定される。それ以外の胴衣や鎧の重ね着も出来ない。

しかし、アスナでこの反応か、アルゴだとどんな反応をするんだろう?気になるなぁ。

それはさて置き。

 

「どうです?我ながら似合ってると思うのですがぁ?」

 

「ええ、腹立たしいことにね」

 

そうなのである今の俺の格好、無駄に似合ってるのである。これのお陰で今のところは黒鉄宮にぶち込まれずに済んでいると言っても過言ではない。後は「装備品の性能が良くないと街に入れない俺にとってはキツイ」的なことを言ったこともあるのだろう。

 

「お前以外にも、似合いそうなのがいるよなぁ、例えばエギルとか」

 

「メフィストは意外だったけど。確かに、彼なら様になりそうね。ああ、昨日の偵察であったわよ」

 

え、まじで?

 

「ほお!しかし、ワタクシの記憶が正しければ本番には参加していなかったはずでは?」

 

「あの人もやっぱり、リンドさんやキバオウさんと気が合わないみたい。それでもフロアボス攻略には参加するって言ってたから、メフィストは無理でもキリト君もそこで会えるでしょ。その時に譲ってあげたら?」

 

「そ、そうだな。で、ミノ……じゃないトーラスの《ナミング・インパクト》は対処できそうか?」

 

「ミノでいいわよ、もう。あと、二、三回見ればなんとかなると思う」

 

「ああ、ワタクシは完全に見切れますよぉ」

 

「そっか。ボスの《ナミング》は範囲が桁違いだけど、タイミングは雑魚ミノと一緒だからな。っつーことで、次のブロック、行ってみますか」

 

キリトの言葉に、俺とアスナは疲労の気配を見せずに頷くと、部屋の出口へと向かった。




今のメフィストの見た目はケープを付けていない色合いが地味な再臨初期段階の腕の袖部分がない状態です。


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24話

お気に入りが1000を超えて嬉しいです。普段から読んでくださってる皆さん本当にありがとうございます。
ところで、アスナとキリトのコンビの解散とかそういう情報はどこで知れますか?できれば教えてください。それとも、オリジナルで通すべきですか?SAOの物語はどの順番で進んでいきますか?


 更に四匹のトーラス族(時間湧きのmobなので、数を狩りたくてもなかなか難しい)を倒し、そのドロップと各所の宝箱から得たアイテムでストレージをいっぱいにした俺とキリトとアスナは、運良く他の前線プレイヤーと鉢合わせることなく迷宮区から出た。

 入り口の近くの安全地帯でメニューのマップタブを開くと、タワー一階二階の空白部分はほぼ完全に埋められている。このマップデータを後で渡す為、アルゴに体術クエの行われる場所でマップデータを渡すむねのインスタントメッセージを飛ばす。窓を閉じた後、ふと空を仰いだ。

 うっそうとした密林の上には、実際には空ではなく第三層の底が覆い被さっている。しかし、今は外周から差し込む夕日がその蓋をオレンジ色に染め上げ、想像以上に美しい眺めになった。

 

「今日は、十二月九日……金曜日。向こう側は、きっともう冬ね」

 

隣でアスナがそう呟くと、キリトが少し考える素振りを見せた後答えた。

 

「前にネットの記事か何かで、アインクラッドも層によって現実の季節を再現するって読んだよ。だから、もう少し登ればここも冬になるかもしれない」

 

「その記事はワタクシも見ましたが、いざ実際にSAOをこの目で見て体験してみると。いやはや、凄まじい技術ですねぇ」

 

「……嬉しいような、嬉しくないような話ね。あ、でも………」

 

そこで言葉が途切れるので、少し疑問に思っていると俺たちの前を歩くアスナが振り返る。その表情は何故か怒ったような照れたような顔で唇を尖らせていた。すると、ぽそっと言った。

 

「別に、ちょっと思っただけよ。もしクリスマスまでに季節がある層に行けたら、雪が積もるかもって」

 

「ええ、確かに、もう十二月ですものねぇ。もし、次の層が夏場だとしたら。ヒヒ、ゲームクリアした頃には季節感が狂ってしまいそうですねぇ。性なる夜まであと十五日。せめて、それまでには第二層はクリアしておきたいですねぇ」

 

「何よ、志が低いわね。あと一週間……いえ、五日で抜けて欲しいわ。牛はもううんざり」

 

「牛だけに?」「牛だけにですかあ?」

 

我慢出来ずに言った俺たちの顔をアスナはぽかんと見たが、数秒後に頰を真っ赤に染めると、器用にダメージが発生するギリギリ手前の強さで俺とキリトの鳩尾を殴った。そのまま村の方向へ去っていくアスナの背中を慌てて追いかけるキリトを俺は見送った。

 

「では、キリトサン。ワタクシはこれにて」

 

「え?どうしたんだメフィスト?ついてこないのか?」

 

「ええ、ワタクシはこの後アルゴサンにマップデータを渡さなければならないので」

 

「ああ、そうか。じゃあ、気をつけろよ!」

 

そう言うとキリトは俺に背を向けて再度アスナを追いかけた。

 

 

「よー、メッフィー。迷宮区の一階二階をマッピングしたんだってナ。相変わらず仕事が早くてオレっちは嬉しいヨ」

 

会って直ぐにアルゴはそう言うと。何やら勝手に嬉し泣きするような素振りを見せた。いや、なんだこれ?テンション高いなぁ。

 

「アルゴサン?何か良いことでもありましたか?」

 

「いやぁ、だって、こんな早く迷宮区のマップデータが手に入るんダゼ?嬉しいに決まってるダロ!」

 

俺の疑問にアルゴはニコニコと笑いながらそう答える。ああ、なるほどね。確かに早いうちに高値で売り捌ける情報を手に入れたら誰だってはしゃぐか。抱いた疑問に対して納得した後、約束通りマップデータを渡した。

 

「ハァイ、これが迷宮区のマップデータですよぉ、アルゴサン」

 

「確かに受け取ったゾ、メッフィー。しかし、β時代とあんま変わってないナ。安心したヨ。ああ、それとマッピングが早かったナ。オレっち本気でびっくりしたゾ。誰か協力してくれたのカ?」

 

アルゴが首を傾げながらそう尋ねてくる。なんていうか、アルゴの奴、勘が鋭いな。

 

「ええ、キリトサンにはお世話になりましたとも」

 

「あー、キー坊が手伝ったのカ。なら納得ダ。まあ、それはさて置きダ。メッフィー」

 

「ハァイ、なんでしょう?」

 

「その……なんて言うかサ……」

 

俺がそう答えるとアルゴは首を傾げるのをやめたと同時に顔を少しだけ赤くしながらもじもじと体を動かしながら言う。あー、ハイハイ、これなんて言うか予想できるぞ。「服、変えない?」だろ?

 

「服、変えないカ?」

 

少し、恥ずかしいそうにそう言った。やっぱり予想通りだ。そりゃそうだろな。変なところでウブなアルゴのことだからそう言うと思ってたよ。まあ、答えは当然だけど。

 

「いやですねぇ」

 

「そ、そこをなんとか出来ないカ?なんつーか、今のメッフィーの布面積が少ないから見てるこっちとしてはすごい恥ずかしいんダ!」

 

「そうですかぁ?でも、似合ってるでしょう?」

 

「無駄にナ!」

 

「この装備はワタクシのような敏捷特化のプレイヤーからしてみたら軽い上に防御力や筋力ボーナスがうまいといういいとこ尽なのですよぉ?街に入れないワタクシにとっても流石に見た目などは気にしていられないのです。まぁ、どうしても変えて欲しいのであれば変えますよぉ?」

 

「う、それを言われると言い返し難いナ。まぁ、いいヨ。確かに現状、街に入れないメッフィーの言い分には納得できるしナ」

 

俺が持論を展開するとアルゴは渋々納得してくれた。相変わらずアルゴは聞き分けが良すぎるだろ。素直か。さてと、それじゃあ。

 

「アルゴサン、ワタクシの短剣の整備が終わった頃だと思うのですが?終わったのであれば返してもらえませんかねぇ?」

 

「おう、そうだったナ。オレっちとしたことが忘れるところだっタ。ほら、約束通り鍛冶屋に整備してもらってきたゾ」

 

「確かに受けとりましたよ、アルゴサン。おやぁ?強化もされていますねぇ」

 

「しばらくは情報をまとめたり自分のレベル上げをしたりしなくちゃいけないからメッフィーとは会えないしナ。ついでに強化してもらったんダ。感謝しろヨ」

 

「ええ、ありがとうアルゴサン。ああ、後、これは情報になるかどうか分かりませんがキリトサン曰く強化詐欺が流行ってるらしいですよ」

 

「強化詐欺?」

 

「おやぁ?知りませんか?実は…」

 

そこから、アルゴにネズハというプレイヤーが方法は分からないが強化詐欺をしていることを話した。他にも《レジェンドブレイブス》というチームにネズハが所属していて主犯はそいつらではないかという話もした。

 

「なるほどナ……。実はこの後キー坊に呼び出されていてナ。多分って言うかほぼ間違いなく」

 

「今、話した話題について質問してくるでしょうねぇ。いやはや、しかし、ラッキーですねぇ。ワタクシも《イビルダガー》が強化詐欺で奪われたと知ったらアルゴサンの穴という穴に麻婆を突っ込んでいましたよぉ」

 

「よ、よかっタ。オレっち、流石にそんなことされたら女というか人として生きていける気がしねぇヨ」

 

俺の言葉に少し引きつった様にアルゴは笑った。それにしても、

 

「では誰が武器の整備と強化をしてくれたのですかぁ?今のところ鍛冶屋は少ない筈なのですが」

 

「ああ、リズベットって言うそばかすの似合う可愛いプレイヤーに鍛えて貰ったんダ。意外と安く済んだ上に中々腕も良かったゾ」

 

ん?リズベット?どっかで聞いた名前だ。誰だっけ?ああ、思い出した。確かキリトのヒロイン枠だけど出番が少ない子だっけ?確か髪の毛の色がピンク色なんだったか?まぁ、何にせよ今の俺じゃあ確認できないな。

俺が色々と考えていると、

 

「なぁ、メッフィー」

 

「ん?何ですか?アルゴサン」

 

「今のメッフィーのレベルはさ現段階で間違いなく全プレイヤーの中でも最大だと思うんダ」

 

「いやいや、大袈裟でしょう」

 

「そんなことねぇヨ。第五層か第六層のクリア可能レベルが大体19か20くらいだからナ」

 

え?嘘でしょ?確かにここに来て五日間一切眠ってないっていうかそもそも眠れてないからひたすらレベルを上げて20まで辿り着いたけどそんなに高いもんなの?今の俺のレベルは?

 

「はあ、自覚してなかったぽいナ」

 

「ええ、おかげでワタクシ今大混乱」

 

「まぁ、なんて言うか仮に今のメッフィーのことを殺せるmobやプレイヤーはまずいないだろうナ。それでもよぉ、メッフィー。あんま無理しないでくれヨ。オレっち、メッフィーに死んで欲しくねぇんダヨ」

 

アルゴは懇願する様な目で俺にそう告げた。その言葉に俺は揶揄う訳でも無く只々困惑した。なんて言うか初めてだった。今世に置いてこんなに心配されるのは。だからなのか違和感やら恥ずかしいやらで頭がごちゃごちゃだ。少し、気分を落ち着けた後口を開いた。

 

「ヒヒ、甘いですねぇアルゴサン。甘ったるくて口の中に砂糖をぶち込まれた気分ですよぉ」

 

「メッフィー、ふざけてるわけじゃねぇんダ」

 

「ええ、知ってますとも。ですが、ワタクシ、頼まれたって死ぬ気はありませんとも。なんせまだまだこの世界を楽しみきれていませんからねぇ」

 

その通りだ。まだ死ねない。楽しんでやるんだ。今まで自分を殺してきた分SAOで好き勝手に暴れて馬鹿みたいに大口開けてゲラゲラと笑い飛ばしてやるって誓ったんだ。だから、このゲームを楽しみきるまでは

 

「絶対に生き続けてやりますよ、アルゴサン」

 

「それは、良かった。オレっち、安心したヨ。ああ、後、この話は誰にも話すなヨ。流石にバレたら小っ恥ずかしいからナ」

 

先程よりも顔を赤く染めながら言うアルゴを見ながら笑った。

 

「ヒヒ、ええ出来れば検討しますとも」

 

「おい!それほとんどバラすって言ってる様なもんだろうガ!」

 

顔を真っ赤にしながら怒るアルゴを見て俺はまた笑った。

 

「では、アルゴサン。また会いましょうねぇ」

 

「ああ、メッフィー。またナ」

 

そう言うと俺はアルゴに背を向けてで走った。少しだけ胸の内が軽くなるのを感じながら俺はさらに加速する為に足に力を込めた。

 




今回は戦闘描写は無しでした。


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25話

25話です。


 

 

 アルゴと分かれた後、俺は特にやることもなくただひたすらmobを狩りまくっていた。え?ギルドメンバーとの会話または連絡を取り合うことはしないのかって?時間の無駄なのでしません。仮にしたところで特に意味もありません。そんなことを考えながら三桁に上るほどのmobを狩り続けていると、

 

「おやぁ?」

 

 遠くでmobに囲まれている全身フルアーマーのプレイヤーがいた。って、おいおいやばくないかあの数。見た感じステータスは耐久よりだろうけど後何発かくらえば死ぬぞあいつ。

 助けるか?いや、それこそ時間の無駄ではないか?いやぁ、でもなぁ。

 うーん。よし、見なかったことにしよう。うん、そうしよう。なんつーか面倒くさいもの。

 つーことで、頑張れ!フルアーマーの人!やれば出来る!諦めたらそこで試合終了だ!俺は応援してるぞ!心の中で!

そう思いながらその場を去ろうとすると、メールが来た。はて?誰だ?そう思いながら差出人を確認すると。それは、PoHだった。因みに内容は。

 

【今から、他のメンバーを勧誘しに行く。暇なら手を貸せ】

 

というものだった。俺はその内容を見た後ニッコリと笑い。

 

【今は、クエストの真っ最中だから無理です】

 

と、返事を送った。それを送って三十秒程すると

 

【OK、ならクエストが終わり次第あの時集合した場所に集まれ】

 

 というメールが来た。それを確認した後すぐさまフルアーマーのプレイヤーの元へ向かった。え?なんで向かうのかって?困ってる人がいるんだ!心の中で応援するだけじゃなくて助けに行くのは当たり前だろ!全く誰だよ!心の中で応援した後その場を去ろうとした奴は!本当に酷い奴だよなぁ!?それに勘違いしないでよね!俺が今からフルアーマーのプレイヤーを助けるのは、良心に従ってるのであってギルドメンバー集めが面倒くさくなった訳じゃないんだからね!行けない理由を無理矢理作ってる訳ではないんだから!

そんなことを考えながら俺はmobに囲まれているプレイヤーに向かって突貫した。

 

 

「た、助けてくれてありがとうございます」

 

「いえいえ、相手が困ってるのであれば救いの手を差し伸べて助けるのは当たり前ですよ」

 

 ふー、危なかった。ぶっちゃけ俺一人かキリトやアスナとパーティを組んで戦うなら全然余裕で突破出来るんだけど、このプレイヤーはキリトやアスナと比べると弱い上に戦い慣れていないのか予想外の展開に弱いなぁ。だから、助けながら戦うのは苦労したよ。それに驚くことに

 

「怪我、というかHPはもう大丈夫ですかぁ?お嬢さん?」

 

「は、はい、もう大丈夫です」

 

 そう、このフルアーマーのプレイヤーは女なのだ。声を聞いた瞬間見た目との差に本気で驚いて噴き出しそうになったけども今は慣れた。それよりもなんつーか最近は女のプレイヤーに出会すことが多いよなぁ。まぁ、そんなことより。

 

「アナタァ、どうしてあのようなところにいたのですかぁ?」

 

「実は、私、防具作成用の鉱石を掘り行こうとしたんです。この辺りに鉱石の取れる洞窟があるって聞いていたので向かっていたらいきなりモンスター達に囲まれてしまって。あの、お礼をさせてくれませんか?私に出来ることならなんでもします」

 

 え?今なんでもするって言った?まあ、冗談だけど。ふーん、なるほどねぇ。そんなのがあるんだぁ。まぁ、ちょうどいいな。

 

「では、アナタの鉱石集めに同行してもよろしいですか?」

 

「え?そんなのでいいんですか?」

 

「ええ、ワタクシも鉱石を集めているのですが、なにぶん中々採取出来ないのですよぉ。ですので、アナタと同行するのはワタクシにとっても都合がいいのですよ。ああ、嫌ならば嫌と言ってくださいな」

 

「い、いえ、むしろ私としても願ったり叶ったりで嬉しいです!あ、あの!」

 

「ハイ、なんでしょう?」

 

「名前を教えてくれませんか?」

 

 あー、そうかそうか。名前を教えなきゃいけないのかー。面倒くせぇなぁ。ここがデスゲームになった時名前はパーティを組まないとわかんない様になったんだよなぁ。まぁ、今となってはその機能はありがたいことだけど。さぁーて、名前名前。えーっと、そうだなぁ。よし、これにしようか。

 

「ああ、そうでしたね。ワタクシとしたことが挨拶がまだでした。ワタクシの名前はファウストです。アナタのお名前は?」

 

「リーテンです。よろしくお願いします。ファウストさん」

 

 OK OKリーテンね。覚えたよぉ。しかし、聞いた感じ知らない名前だなぁ。ってことは、主要メンバーではないな。多分だけど。まぁ、それはさておき。

 

「では、ワタクシはアナタの護衛をしますので道案内はお願いしますね?リーテンサン」

 

「わかりましたファウストさん。よろしくお願いしますね」

 

 こうして俺とリーテンの暇つb、じゃない言いわk、でもなくて鉱石集めが始まった。

 

 

「ほ、本当に強いですね。ファウストさん」

 

「ヒヒ、ありがとうございます。リーテンサン」

 

 いやぁ、下心無しで正面から褒められると照れるなぁ。しかも、無駄に顔が整ってるからなおのこと。それにしても、

 

「リーテンサン、アナタも強いではありませんか。もう少し誇ってもバチは当たらないと思いますよ?」

 

 キリトやアスナと比べたら弱いけれど強いのだ。そもそも、プレイスタイルの相性がいい上に立ち回りがよく素の実力だったらエギルさんよりも上なのでは?そう思わせるくらいには強い。それに向上心もあるように見える。だからこそ疑問もある。

 

「アナタほどの実力ならば攻略組の中でも上位まで食い込めるのでは?」

 

 別に強いのであれば攻略組にいるべきだ、と言うつもりはない。参加する、参加しないは本人次第だし俺自身としてもこの世界を味わい尽くしたいからゲームクリアはもっと遅くても良いくらいだ。

 でも、この女は違う。向上心を持つこういう類のプレイヤーは強くなって誰かを守る守りたいと思える主人公気質の人間なのだ。例に挙げるとしたらディアベルなどはいい例だろう。

 故に疑問が残る。何故第一層の時いなかったのか、そして、何故最前線にいなかったのか、と。レベルが低いというのはあまり考えにくい。共闘してみてわかったことだが、低く見積もってもLv10かLv11くらいはあるはずだからだ。

 そんなことを考えていると俺の疑問に少しリーテンは口をつぐんで話始めた。

 

「私が始まりの街を出たのは半月以上経った頃でした。クリアされるのを街で待ってるだけじゃなくて、自分も攻略組に加わりたいって思ったんです。シバ……ああ、私の知り合いなんですけど彼と比べると随分遅いスタートですが、正式サービス開始直後に《重金属装備》スキルを取ってしまっていたので、防具を揃えるのが大変で……」

 

「なるほどォォ、ということは、初めからタンク志望でしたかぁ」

 

 俺の予想に、リーテンは迷いなく答えた。

 

「はい。それまでのゲームでも、大抵は壁役だったので。……はじまりの街周辺で今までの分を取り戻す為に寝る間も惜しんでレベル上げや装備の為の資金集めのためにイノシシとか植物系のmobとか狩って、なんとか《カッパー・メイル》を手に入れて、これでやっと上を目指せるって思ったんですが……」

 

そう言うと、少し顔を下に向けて先程よりも声を暗くしながら悲しげに話を続けた。

 

「今度は私を入れてくれるパーティがなかなか見つからなくて。こういう状況ですから仕方ないのかもしれないですけど、女のタンクなんか信用できないって何度も言われました……。私も何か言い返せばよかったんですが。こうなったらタンクソロで最前線まで行ってやるって意地になっちゃってそんな時に防具作成用の鉱石が取れる洞窟が沢山とれる洞窟があるって聞いて、レベル上げついでに行こうと思って行ってみたら…」

 

「なるほど、先程の状態になってしまったと」

 

「ええ、笑えますよね、頭に血が上って勇んでソロで挑んでみたらこの様ですから。私、やっとの思いでLv 11まであげたんですけど今までの努力は意味がなかったんじゃないかって思って「アナタァァ、思った以上に馬鹿なんですねぇ」……え?」

 

 リーテンが話している途中で呆れた声で俺がそう言うと目を丸くしながら顔をこちらに向けてきた。……いやまて、なんで俺は今の言葉を否定したんだ?自分の行動に少し疑問を抱きながら話を続ける。

 

「では、質問しますねぇ。何故自らの行動を否定するですかぁ?」

 

「そ、それは、結果もろくにでないから……」

 

「それだけの理由でアナタは今までの自らの積み重ねを否定するのですかぁ?」

 

「ッ、貴方には分からない!強い貴方に私の気持ちは!」

 

「理解してたまるものですか、勝手に苦しんで勝手に落ち込んで勝手に僻んでいるアナタの気持ちなど分かりたくもない。そもそも、ワタクシが初めから強かったとでもォ?ハハ、これはけっさくですねぇ」

 

 見下した様にというか実際に見下しながらそう言うとリーテンは目を晒した。

 

「そ、それは……」

 

「ワタクシはアナタが理解できない。何故、嗤い返してやろうと思えない?何故、一度は憤ったその言葉を受け入れようとする?何故、諦めを享受できる?何故、そんな面白味もない選択ができる?」

 

「……なら、出来るって言うんですか?貴方は私が前に進めるって言い切れるんですか?」

 

 リーテンの目が涙で揺らめいていく。俺はそんなことを気にせず話を続けていく。

 

「そんなこと知りはしませんとも。そもそも、ワタクシはアナタではないのですから知ったこっちゃないですよォ。ですがァ、仮にワタクシがアナタだとしたらぶっ倒れるまでレベルを上げて嗤って来た相手を超えた時、鼻で嗤いながら中指をたててやりますとも」

 

 そう言い切るとリーテンは少し泣きながら笑い言った。

 

「なんですか、それ」

 

「まあ、ワタクシがアナタだったらという、たらればの話ですからねェ。答えはアナタ自身で見つけて下さいな」

 

「ふふ、分かりました。ああ、ファウストさん」

 

「ハイ、なんでしょうか?」

 

「ありがとうございます」

 

 リーテンは微笑みながら俺に感謝を述べてきた。つーか、こっちに来てから感謝されること多いなぁ。

 

「そうですか、では、ちゃっちゃと進みましょうか」

 

「ええ、そうしましょう」

 

 ニコリと笑いながらリーテンは俺の前を歩く。そんな彼女を見ながら俺は先程の疑問の答えを探し出す。なんで、俺はあの時リーテンを励ますような真似をした?普段だったら貶すか興味が失せるかの二つだったのに。そう考えていると、ふと一つの考えが浮かび上がる。しかし、俺はその考えをすぐさま鼻で嗤い否定した。いやいや、あり得ない。というか、有ってはならない。万が一、億が一、兆が一にでも俺がこの女に昔の俺を自己投影したのだとしたら俺は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   自分の気持ち悪さに耐え切れる自信がない。

 




時間がかかってすみません。


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26話

26話です。


 

「いやぁ、やっと着きました。意外と遠かったですねファウストさん」

 

「確かにそうですねェ。これは洞窟から採取できる鉱石に期待したいところですねェ」

 

 いやぁ、遠かった。滅茶苦茶ってほどじゃあないけど案外遠かった。でも、どれほど鉱石がいるのだろうか?あの様子だと全身分作りそうだけど。仮に全身分を作るとしてどれくらい鉱石がいるんだろう?百、二百個くらいかな?よし、聞いてみるか。

 

「あのォ、リーテンサン」

 

「はい、なんですか?ファウストさん?」

 

「鉱石はどれくらい必要なのですかァ?」

 

「えーっと、少なくとも千個以上は欲しいですね」

 

 リーテンが綺麗な笑みでそう答えた瞬間、俺は確かにフリーズした。いや流石に聞き間違いだろ。

 

「今、なんとおっしゃいましたか?」

 

「あはは、千個以上必要と言ったんですよ。ファウストさん」

 

 今度は苦笑いしながら同じセリフを口にしたリーテンを見て聞き間違いではないことを確信した。

 そして、脳内で大声で叫んだ。ハアァァァァ!?いやいやいやいや、ふざけんなよ!なんだそのふざけた量は!え!?千個以上!?モン○ンでもそんなに使わねぇぞ、オイ!仮に使うとして、一パーツに付き二百個!?使いすぎだろ!どんだけ頑丈に作るつもりだよ!え!?この子が騙されてるとかいうオチじゃないの!?いや、でも、セリフからして色んなゲームやってるっぽいし嘘ついてる訳でも騙されてる訳でもないのか!?(この間約0.5秒)

 

「あのぉ、大丈夫ですか?ファウストさん。ていうか流石に驚きすぎですよ」

 

「おや、失礼顔にでてましたか?こういう時はこの世界が不便だと思いますよねェ」

 

「あはは、確かに隠し事がし難いですしね」

 

 リーテンの言葉で現実に戻ってくるのと同時に自分の迂闊さに内心で苦虫を噛み潰したような顔をする。そうだった忘れてたこの世界は心で思ったことがまんま外にでてしまうことを。ある程度は隠せるがさっきみたいに油断すると顔にでてしまう。

 

「いやァ、それにしても多すぎでは?」

 

「うーん、こんなものだよ。他のMMOでもこれくらいかそれ以上は必要だったしね」

 

「因みに一つのスポットで取れる量はいくつですかァ?リーテンサン」

 

「えーっと、多くても十個、少なかったら五、六個くらいかな?」

 

 割に合わなさすぎんだろ。その数だと大体最低でも十箇所は探らないといけないよ?鉱石集めって聖地巡礼かなんかだったの?

 

「いやはや、途方もないですねェ」

 

「うん、だけど頑張るよ!頑張って笑ってきた奴らを見返してやるんだ!」

 

 やだ、不屈すぎません?この子。一体誰がこんなに立派にしたんだろうか?あ、俺か。少し、現実逃避していると、ふとある事を思い出す。

 

「あ、ワタクシ今ピッケルを持ってないのですが」

 

「え!?嘘、壊れちゃったのに買い直してなかったの?」

 

「いやはや、恥ずかしいですねェ」

 

「今から戻るにしても時間が惜しいし。仕方ないから貸してあげるよ。私は二本持ってるし」

 

 勿論嘘である。そもそも採掘自体初挑戦である。だから、今はこの女の好意に甘えさせて貰おう。目の前で差し出された一本のピッケルを持つリーテンから受け取る。

 

「では、お言葉に甘えて。ありがとうございますねェ。リーテンサン」

 

「どういたしましてファウスト」

 

 そう言いながら洞窟に入り作業を開始した。

 

 

「リーテンサン。確か一つのスポットに付き鉱石は多くて十個少なくて五、六個くらいなのですよねェ」

 

「う、うんその筈なんだけど………」

 

「今のワタクシとアナタのとれた鉱石の数がトータルで二百を超えてますよ」

 

 あれから数分経過した。初めは見様見真似で慣れない作業をすることから上手くいかないと思っていたが。やってみると案外簡単にできてやり始めて十秒もしない内に出来るようになった。

 しかし、ここでいい意味で予想外なことが発生した。それはやり始めて直ぐに起こった。

 初めは俺の方でもリーテンの方でも鉱石がゴロゴロと採掘された。互いに運がいいことに喜んでいると十個以上掘れたのにも関わらずまだまだ採掘されたのだ。一分経過する頃には互いに採掘された量が四十を超えてリーテンは困惑しながら俺は興奮しながら採掘を続けているとリーテンに後ろから一度手を止める様声を掛けられて今に至る。

 

「リーテンサン。もしやこれは、当たり鉱山なのでは?ここまで採掘出来るのならば全身分作るのにそこまで苦労しませんよォ」

 

「ううん、ファウストさん。これは多分無限湧きバグだと思います」

 

「無限湧きバグ、ですかァ?」

 

 曰く、モンスターやアイテムが正常な数を超えて出現し続けるプログラムの異常である。ぶっちゃけ、あり得ない話じゃあない。この世界だってゲームなのだからバグの一つや二つ発生してもおかしくはない。リーテンの言動からしてこれほどの量が採掘されるのはおかしいっぽいしね。

 それにしても、バグがあんのかぁ。少し不安になってきたなぁ。こっから先、有利なバグがあんだから自身に対して不利なバグがあってもおかしくないしなぁ。まあ、何にせよ、この機会を逃す理由はないな。そう思いながらピッケルを構えると、

 

「ま、待って!バグを利用すると《グリッチ》って言って、MMOだと運営側にバレてデータを巻き戻されたり、BANされたりすることもあるの!」

 

 なぬ。そんなことがあるのか、危険だなぁ、初めて知ったなぁ。まぁ、どうでもいいんだけどね。そう思いながらピッケルを振り下ろし採掘を続けた。

 

「ちょ、ちょっと!話を聞いてましたか!?」

 

「ええ、聞いていましたとも。要は採掘する前に戻るのですよね?でしたら、採掘した後に巻き戻されたら運が悪かった、巻き戻らなかったら運が良かったでいいではありませんか?」

 

 そう言うとリーテンは口をつぐんだが直ぐに口を開き反論してきた。

 

「で、ですけど、《グリッチ》で手に入れた装備を使ってもいいのでしょうか。それに運営にバレてBANされたらどうしようもないじゃないですか」

 

 こいつ面倒臭っ。そう思いながら手を止めてリーテンと向き合い話す。

 

「はぁ、いいですかァ?リーテンサン。まず初めに《グリッチ》で手に入れた装備を使うことに躊躇いを憶えてるようですが。アナタは宝くじが当たった時も同じ反応をするのですか?第二に運営にバレるバレないの件ですがァ。穴を作ってる運営が悪いのです。それにどうせバレるならやった後にバレなさい。まあ、要はやらずに後悔するよりやって後悔しなさいな」

 

 はい!QED!!反論は受け付けませんよぉ。リーテンさん。

 

「いや、でも……」

 

 未だに渋るリーテン。アアアア!面倒臭ぇ!まだ納得しないのか!仕方ない奥の手だ。

 

「見返してやりたいんでしょう?彼等を」

 

「!」

 

 そう言うと目を見開きながら固まった。フッ、堕ちたな。俺の大勝利だ。いやぁ、話術が得意でよかったぁ。リーテンは少し下を向き考える様な素振りを見せた後直ぐに顔を上げてピッケルを持ち直す。

 

「ファウストさん。続けましょう」

 

「ええ、続けましょうか、リーテンサン」

 

 その後俺たちは三十分間ひたすら掘り続け、採掘できなくなる頃には

俺とリーテン、トータルで四千個以上採掘できた。

 

 

「いやぁ、沢山とれましたね!ファウストさん!これだけ有れば全身分作っても余りますよ!」

 

「ええ、まさしく運がいいとしか言いようがありませんねェ」

 

 やや、興奮した様に話すリーテンを見ながら俺も上機嫌な声で返した。いやぁ、本当にラッキーだ。こんだけゲットできたんだからさぁ。

 しかし、まぁ、なんだ。

 

「まさか、出た瞬間崩れてしまうとは残念ですねェ」

 

 無限湧きバグに運営側が気づいたのか出た瞬間に洞窟が倒壊したのだ。流石にあの時はビビった。仮にあのままいたらどうなってたんだろう?まあ、ろくな終わり方じゃあないだろうな。

 

「あ、あのぉ、ファウストさん」

 

「ハァイ、なんでしょうか。リーテンサン?」

 

「あの、ファウストさんで良ければフレンド交換しませんか?」

 

 あー、フレンドの交換かぁ。まあ、答えは一つだけだよね。

 

「すみませんが、お断りします」

 

「え?なんでですか?」

 

 リーテンは少し凹みながら質問してきた。そんな顔するなよ。うーん、なんて言おうか?まあ、こんなんでいっか。

 

「まぁ単純にワタクシは余程親しくない限りフレンドを交換しないのですよォ」

 

「そ、そうですか。それは残念です」

 

 そうそう、残念だねぇー。よし、会話は終了したな。

 

「では、ワタクシはこれにて」

 

 全力でその場から離れてアルゴに鉱石で武器を作ってきて貰う様に頼もうとウィンドウを開こうとすると。

 

「あ、あの、ファウストさん」

 

「ハァイ、なんでしょうか?」

 

 後ろから声をかけられた。もう、なんだよ。早くレベル上げさせてくれよ。街に入れない以上強くないといけないんだよ。

 

「気をつけてくださいね?」

 

「?ええ、お互いに」

 

 そう言うとリーテンは早足でその場を離れた。え?それだけ?しょうもなっ!えー、まぁ、いっか。偶然と言えど無限湧きバグで沢山利益が得られたし。さてと、アルゴ呼び出そー!あの時仕事があるからしばらく会うことは無理とか言ってたけど一時間以上たったし流石にそろそろ暇でしょ!

 

【アルゴさん、一つ頼みたいことがあるので体術クエの場所まで来ていただけませんか?】

 

 はい、送信。すると、十秒足らずで返事が返ってきた。

 

【おう、いいぞ】

 

 早!って、え?冗談でしょ?忙しいんじゃなかったの?ま、まぁ、いいか。運がいいんだよな?少しだけ、戸惑いながら俺は体術クエの場所に向けて駆けた。

 

 

「おう、遅かったナ!メッフィー!」

 

「……早すぎませんかねぇ?アルゴサン」

 

「ん?そうカ?」

 

 そうカ?じゃねぇよ。早いよ流石に。えぇ、忙しいんじゃねぇの?少しだけ訝しんでいるとアルゴが話し始めた。

 

「それでメッフィー、頼みたいことってなんなんダ?」

 

「ああ、鉱石が大量に手に入ったので武器を製作してきて貰ってもいいですかァ?」

 

「なんだそんなことカ。全然いいゾ」

 

 どうしたアルゴ。優しすぎるぞ。人肌が恋しすぎておかしくなったのか?なんか罪悪感湧くからやめてほしいなぁ。

 

「流石にすみませんねェ。何度も何度も呼び出して。代わりにアナタの分の武器も作ってきてもいいですよォ」

 

「オレっちの分も?オイオイ、馬鹿言っちゃあいけねぇヨ、メッフィー。いいカ?武器を作んのに鉱石って二百個くらいいるんだからナ。流石にメッフィーといえど分かれて一時間で四百個も集められてないダロ?」

 

「先程無限湧きバグに当たりましてねェ。鉱石が二千個ほと手に入ったのですよォ」

 

「ちょ、その話詳しく」

 

 おー!食いついた食いついた!いつものアルゴだ!よかったぁ。らしくなさすぎて不安だったんだ。

 

「残念ですがァ、採掘後に倒壊してしまいましたァ」

 

「そっかー、それは残念だナァ」

 

 アルゴは先程のテンションとは打って変わってしょぼくれた。うむ、可愛い。でも、なんだってこんなに早く俺の頼みに食いついたんだ?頼みたいことでもあるのかなぁ?まぁ、聞いてみるか。

 

「ワタクシの頼みを聞いてくれるのは嬉しいのですが。忙しいのではないのですかァ?アルゴサン」

 

「あー、実はサァ。お願いがあるんだけどナ……」

 

 おー!当たった当たった!最近勘が冴えてるのかなぁ!?よく当たるよ!いやぁ、しかし、頼みたいことってなんだ?ここまで言葉を濁してるってことはそれだけの厄介ごとか?なんつーか、アルゴも遠慮って言葉を覚えたんだなぁ。俺、今すごく感動してるよ。でも、無限湧きバグで思わぬ収入のあった俺の前ではどんな頼み事も些事だと言えるとも。

 だから、

 

「話してくださいよォ。アルゴサン。今のワタクシは機嫌がいいのでどんな頼み事も受け入れますよォ」

 

「メッフィー……うん、わかっタ!確かに黙ったまんまとかオレっちらしくねぇもんナ!」

 

 そう言うと快活に笑いながら俺に頼み事というか依頼をしてきた。

 

「メッフィー!今からボスと一対一で戦ってきてくれヨ!」

 

 俺は先程の言葉を撤回してどうやってアルゴを泣かせるか思考を巡らせた。

 




次回も早めに投稿します。


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27話

27話です。


『今からボスと一対一で戦ってきてくれヨ!』

 

 先程アルゴが口にした遠回しの殺害宣告を聞きながらどうアルゴを泣かせるか思考を巡らせていると俺の様子がおかしいことに気づいたのかアルゴが声をかけてきた。

 

「お、おい、メッフィー。大丈夫カ?」

 

「大丈夫ですよ。ところでアルゴサン」

 

「お、おう、なんダ?」

 

「麻婆は口と尻どちらから食べる派ですかァ?」

 

「今の話を聞いてどうしてそうなるんダァァァァ!!」

 

 アルゴが絶叫した。むしろ俺が聞きたい。今の頼みを聞いて素面でいられるプレイヤーがいるのだろうか?少なくとも俺は見たことない。

 

「あの日、ワタクシに死なないで欲しいと願ったアナタのあの言葉は嘘だったんですねェ!」

 

「ちょ!馬鹿!やめろ!あの時の言葉を掘り返すナ!思い出すで体がムズムズするくらいには小っ恥ずかしいんダ!」

 

 顔を赤くしながら止めてくるアルゴ。当たり前だけどやめません。ていうか、なんだってそんな無茶振りをするんだ?アルゴは。いや、確かに第一層の時は一人で前線が立て直すまでの間はずっと一人で戦ってましたよ。アルゴ曰く俺のレベルは現段階ではSAO内最強だからいけるんじゃないかと思って言ったのかもしんないけどさぁ。いくらなんでも一対一でボスとバトルはキツすぎるよ。だって、あの時俺が善戦できたのは相手の動きに慣れるまで時間があったからなんだよ。だから、

 

「流石に無茶振りが過ぎますよォ、アルゴサン」

 

「前もってボスの戦闘スタイルの情報は教えル!それに万が一やばくなった時にメッフィーを回収する為にオレっちもついて行くから!ダメカ?」

 

 まあ、流石に前もって情報を教えるのは当たり前として。アルゴもく来るのかぁ。んーと、

 

「アルゴサァン、アナタのレベルはおいくつで?」

 

「フフン、レベルは15ダ!」

 

 俺の質問にアルゴは胸を張りながら答えた。うーん!レベルが6つも離れてるのかぁ。少し不安だなぁ。まぁ、この際レベルは置いといて。一番気になるのは、

 

「ワタクシを回収すると言いましたがどのようにして回収するのですかァ?」

 

 そう仮に死にかけたとしてどうやってアルゴは俺を回収するつもりなのか?ボス戦ってほぼ間違いなく混戦状態になるから俺を助ける暇なんてないから助けようものなら巻き込まれて共倒れするのがオチだよ?

 

「まあ、確かにメッフィーの疑問ももっともダナ。だけど、そんな問題を解決できるアイテムがあるんダ!それがこの《ロープ・オブ・アリアドネ》ダ!」

 

 自信満々にそう言いながらアルゴがアイテムストレージから出したのは少しだけ古びているだけの普通のロープだった。ん?これだけ?えーっと、実はこれはハードなギャグとかいうオチじゃあないの?そんな事を考えながらアルゴの顔を見てみると。自信満々という言葉が似合う見事な笑みを浮かべていた。うむ、殴りたいその笑顔。

 

 って、おっとダメだぞメフィスト・ファウストいくらなんの説明もなく対策が古びたロープ一本って言われて苛立ちを覚えるのはよくわかる。でも、今は抑えろ落ち着け。平和主義の俺らしくないぞ。俺は内心で少し深呼吸をした後に話し始めた。

 

「アルゴサァン」

 

「ん?なんダ?メッフィー?」

 

「遺言はそれだけでよろしいでしょうかァ?」

 

「ハァァ!?」

 

 おっと、ダメだな抑えきれなかった。いかんぞ俺自制できない者は未熟な証拠だ。そう思いながら笑い顔の状態で目をうっすらと開く。すると、それを見たアルゴが何を勘違いしたのか顔を真っ青にして必死に弁明を始めた。

 

「い、いや、違うからナ!メッフィー!これはふざけてる訳じゃあないんダ!」

 

「ほうほう、ではどのようにしてそのロープを使うのですかァ?」

 

「いいカ?まず初めにこのロープをオレっちとメッフィーの体に括り付けるんダ!」

 

 はい、ふざけてますねぇ。俺はそう確信した瞬間背を向けて帰ろうとする。

 

「いや、まてまて!メッフィー待ってクレ!いいカ!このアイテムは少し特殊で、括り付けられた相手以外からは視認出来なくなるんダ!」

 

「ハイィ?」

 

 俺は歩みを止めてアルゴと向き直る。えーっと、つまりどういうこと?

 

 そこからアルゴは身振り手振りでロープの能力について説明を始めた。曰く先程説明した通りこのロープは体に括り付けられた相手以外から視認出来なくなるらしく。それ以外にも括り付けている相手以外からはロープを干渉することが出来なくなるというものらしい。因みに不可視及び不干渉状態はONOFFがしっかりとできるらしい。うんなんつーか、

 

「随分とまぁ、都合の良いと言うか優れた代物ですねェ。これ以上疑いたくないですがその効力は本物なのですかァ?」

 

「まぁ、流石に信じて貰えないよナ。仕方ない実演するゾ」

 

 そう言った瞬間アルゴが持っているロープが少しずつ消えていくのをはっきりと目にした。この現象に驚きを隠せないが本当に干渉できないのか確かめてみる為にロープを握っていたアルゴの手に手を伸ばした。

すると、ロープに触れずアルゴの手を握り締めるという結果になった。

 

 いやぁ、マジで?でも、目の前で起きてる以上嘘じゃあないんだよなぁ。アルゴの手を握り締めながらまじまじと見ていると。

 

「あー、メッフィーそろそろ離してくれねぇカ?」

 

 アルゴは顔を赤くしながら手を離すように言ってきた。

 

「おやおや、これは失礼しました。しかし、こんな古びたロープにこんな魔法のような効果があるとは」

 

「良いヨ、オレっちも初めは半信半疑だったからナ!」

 

 優しいなぁ、オイ。そして今回の一件で身にしみてわかったことだけど人の話は最後まで聞くべきだな。確かにこの案ならいけないこともないのか?まあ、なんにせよ一度だけでもやってみるか。

 

「ええ、いいでしょう。アルゴサンその案に乗りましょう」

 

「いいのカ!?じゃあいつ実行する?」

 

「今すぐにでも」

 

「言うと思ったヨ!」

 

 そう言いながら俺とアルゴは迷宮区へと足を運んだ。

 

 

 俺たちは今やたら厳格そうな巨大な扉の前で作戦会議をしている。

 

「いいか?まずは撤退するまでの条件についてなんだガ。ボスのHPバーを二段目まで削った後に三十秒ほど戦ってクレ。そうすれば相手の攻撃のパターンは大体わかるからナ。一応β時代の情報は道中で話したけど覚えるカ?」

 

「ええ、第二層ボスのタウロスの攻撃で気をつけるべきなのはデバフ付きソードスキルの《ナミング・インパクト》と麻痺ブレスですねェ」

 

「さっきも言ったがボスの《ナミング・インパクト》は広範囲だから気を付けロ。それに取り巻きもいるからなおのことダ」

 

「わかりました。では、ワタクシから質問なのですが。仮にボス自体が違った場合はどうするのですかァ?」

 

「悪いけど1分程戦った後に逃げてクレ」

 

「カシコマリィィッッ、マシタァァァァ!!」

 

「うし、じゃあ行って来イ!オレっちも出来る限り援護スル!」

 

 その言葉を聞きながら俺は目の前の扉を開けた。そこには王冠を被り歪曲した大きなツノを頭から生やした巨大な青いタウロスがそこにはいた。トーラス王は俺を視認すると、息を大きく吸い込み。

 

「ヴゥゥヴォオオオオオオオ———————ッ!!」

 

 天高く吠えた。それ自体が遠隔攻撃だと錯覚するほどの声が空気を震わせる。その咆哮と同時に俺はボスに向けて突貫した。

 

 

「ガァァァァァァ—————ッ!!」

 

 戦い始めて5分後俺は青いタウロスの断末魔を聞きながら呆然と立ち尽くしていた。正直言ってなんの苦戦もしなかった。HPバーも少なくアルゴの前情報の取り巻きも現れることもなかった上に範囲攻撃はあったけどデバフ有りの《ナミング・インパクト》もなかった。念の為アルゴの方を見るとぽかんと口を開けながら絶句していた。うん、アルゴも予想外ぽかったらしい。えー、終わり?ンな訳ないよな?いくらなんでも呆気なさすぎるだろ。そう思いながら警戒していると天から赤いタウロスが突然降ってきた。俺に向かって。

 

「おっとォォォォ!!」

 

 危なっ!!俺は降ってきた赤いタウロスを回避しながらソードスキルを放った。すると、先程よりもHP量は変わらないが与えられたダメージの量が少なかったことに気づいた。

 

「おやおや、思いのほか効いていませんねェ。HP量が変わらないのは救いでしょうか?」

 

 さてと、どうしようか?効きにくいってことは単純に強くなったか、もしくは先程の青いタウロスとは効く属性が違う可能性がある可能性がある。

 

 この世界に魔法はないが属性という概念は存在する。例えば、短剣や片手剣などは斬属性、両手斧や棍などの打属性、槍や細剣などの突属性の三種類である。中には火など属性を持った剣などが存在するがこれほどの上層で属性持ちの武器はない為、説明は割愛させてもらう。

 それはさて置き、他の武器も試してみるか。そう思いながらストレージから一本の《アニール・レイピア》を取り出し相手の出方を窺う。

 

 え?なんでレイピアを持ってるのかって?第一層でレベル上げの為にひたすらホルンカで植物型モンスターの《リトルネペント》を乱獲しまくってたら花もちの《リトルネペント》と何度も戦闘することになって結果的にダガーだけじゃなくてアニールシリーズを全部手に入ったんだよね。そんな事を考えていると、赤いタウロスは手に持ったハンマーを掲げた。

 

「避けロ!!メッフィー!!」

 

「わかってますよォォ!!」

 

 赤いタウロスに背を向けて全力回避。すると、すぐ後ろからバリバリという音と共に大量の紫電が迸った。なるほどねぇ、範囲は見たとこは半径五メートルくらいか?突然放たれても回避出来ないってほどじゃないな。さてと、殺るか。

 

 俺は赤いタウロスに向かって突貫した。すると、俺に気づいた赤いタウロスは体を引き絞った後ハンマーを横に薙いだ。その攻撃を俺は跳ねることで回避しながら赤いタウロスに向けてリニアーを放った。って、通るダメージ量が少ないなぁ、おい。つまり、弱点は突属性じゃないな。仕方ないじゃあ次はこれだな。

 

 俺は赤いタウロスの攻撃を回避しながらストレージから出したのは《アニール・ハンマー》だった。本当だったら両手斧を使おうと思ったんだけど敏捷特化の俺が自分の速度を下げるような真似をしたら自殺と変わらないからね。しかし、麻痺ブレスがこないなぁ。まあ、来ないなら来ないで楽でいいんだけどさ。打属性の武器は慣れないけど頑張りますか。

 

「では、雄牛サン♪行きますよォォォ!!」

 

 全力で踏み込み俺は赤いタウロスの後ろに回り込みながらソードスキル《パワー・ストライク》を放つ。おお!ダメージの減りが早いなぁ!ってことは、打属性が弱点か!青いタウロスが斬属性に弱くて赤いタウロスは打属性に弱いのか。なるほどね納得したわ。それに、こいつはそこまで強くはない。青いタウロスよりは技が豊富だけど、これなら俺一人でもいけるな。

 

 赤いタウロスの放った《ナミング・インパクト》を回避しながら思考を巡らせて《パワー・ストライク》を放つ。すると、また赤いタウロスはハンマーを上に掲げた。ああ、雷攻撃ね。モーションがわかりやすいから回避しやすいなぁ。バックステップで回避しながら俺はサブウェポンの投剣を取り出し赤いタウロスの眉間に向けて《シングルシュート》を三発放ち寸分違わず着弾してHPを削る。これを十度繰り返していると。お、HPが後一割切った。うーん、弱くはないけど少し手応えがないなぁ。これは三体目もあり得るかな?そう考えながら止めに下から二連続で振り上げ最後に一撃を上から叩きつける《トライスブロウ》を放ち止めを刺した。すると、地面が少し揺れ動いたかと思うと床板がズレた。ああ、やっぱりね。よっしゃあ、秒殺してやりますよォ!

 

 しかし、その考えはすぐさま消え失せた。理由は床下から出てきた三体目のタウロス《アステリオス・ザ・トーラスキング》が現れ表示されたHPバーの量だった。青いタウロスと赤いタウロスのHPバーは一本だけだった。だが、このタウロスは。

 

「なんでHPバーが三本もあるんですかねェ」

 

 単純計算で先程の三倍はタフということになる。フザケンナ!さっきよりも難易度上がりすぎたろ!さらに悪夢は続く。《アステリオス・ザ・トラースキング》が天高く吠えた瞬間すぐ近くの壁から通常のトーラス族ほどの大きさのタウロスが現れた。いやいや、茅場さんやいくらなんでも難易度あげすぎだろクレームがくるぞ。ていうかあのボスはどの属性が弱いんだ?流れ的に突属性か斬属性か?一応両方用意しとくか。そう思いながら俺は左手に細剣を右手に短剣を持ち構えると取り巻きを無視してボスに向けて《リニアー》を放った。しかし、

 

「硬すぎませんかねェ?」

 

 弱点じゃないのはわかったけど赤いタウロスでももう少し通ったよ?すぐ様右手に持った短剣で《ラピッド・バイト》を放つすると、目に見える程度にはダメージを与えられることができた。なるほどね弱点は斬属性か。弱点を理解すると、アステリオスが武器を天高く掲げた。おっと、このモーションは雷攻撃だな。すぐにバックステップで攻撃の範囲内からした。しかし、

 

「ガッ」

 

 上から叩きつけられたような衝撃が全身を駆け巡った。は?いや、回避したはずだ。確かに範囲内から出たはずだなのになんで三割もHPを削られている?てかやばい。麻痺った。麻痺して動けない俺目掛けてアステリオスはハンマーを叩きつけた。俺は紙切れのようにフロアの端まで飛んだ。

 

「ちょっと、これは不味いですねェ!」

 

 ヤバイもうHPが残り5割になった。このままじゃあ確実に死ぬ!って、なんであいつは武器を下ろしてんだ?すると、アステリオスの目が赤く光り輝くと口を大きく開いた。あ、ヤバイあれ麻痺ブレスだ。ヤバイ!ヤバイ!流石にあれをモロにくらったら死ぬ!って、ああ麻痺が解けた!でも回避しきれない!あ!そうだこうしよう!

 俺はすぐに床に向けて体術スキル《閃打》を放ち無理矢理体を麻痺ブレスの射線からズラす。しかし、完全に回避することが出来ず両足が消失した。あ、ヤバイ死んだ。そう確信した瞬間。

 

「メッフィー!」

 

 焦ったようなアルゴの声が聞こえたのと同時に体が大きく引っ張られる様にアルゴの方へ動いた。いや、マジで助かった!

 

「ヒヒ、助かりましたァ。ありがとうございますねェ、アルゴサン」

 

「ハイハイ、どういたしまして!ボスの動きは充分に見れて情報も得られタ!サッサと逃げるゾ!」

 

 そう言いながらアルゴは俺を抱えて全力でボス部屋から脱出した。




思いの外長くなりました。


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28話

 
 遅くなってすみません!好きだったハーメルンの小説がいきなり消えていて創作意欲が失せていました。なので今回は大分長めに書きました。どうぞ28話です。


 

——いい?——

 

 仰向けのまま動けない俺の上にまたがりながら手を掛けて問いかけてくる。誰なのか顔を見るも顔には黒いモヤのようなものが覆っていてわからない。声もまるでノイズが混じったような感じでわかりにくい。ただ、体の肉付きから女だということはわかる。そんなことを考えていると女は言葉を進めていく。

 

——世の中には二つの種類の人間がいるの———

 

——一つは怪物のふりをした人間。そしてもう一つは———

 

 その言葉と共に首にかかる手の力が強くなっていく。呼吸が阻害されて少しずつ息が出来なくなる。咄嗟に抵抗しようにも体がピクリとも動かない。時間が経つにつれて体が寒くなり血液の音が煩く感じて視界が点滅したようになる。少しずつ意識が遠のいていくと同時に声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——貴方の様な人間のふりをした怪物よ——

 

 

「—い!おい!聞こえるカ!?メッフィー!」

 

 ………誰だ?声からしてアルゴか?だとしたらなんでこんなに慌ててるんだ?覚醒して間もない意識をフルで稼働させて思考を回す。……ああ、思い出した、思い出した。確か、二層のフロアボスに挑んでボロ負けしたんだっけか?それにしても一番強いボスなんだから攻撃の範囲が広がってることくらい考えとけよ俺。あー恥ずかしい。「いやァ、情けないとこ見せましたねェェ!」そう言おうとアルゴの顔を見ると。

 

 何というかボロボロだった。別に殴られたというわけではなく涙やら鼻水やらでとにかくボロボロだった。普段の可愛らしい顔をあまりにも見事に汚らしい顔へと変貌させてみせたアルゴに思わず。

 

「汚っ」

 

 と、言ってしまった。この言葉にアルゴは一瞬時が止まったかの様に動きを止めた。すると、数秒後、俺の言葉の意味を正確に捉えたのか顔を真っ赤にしながら大きく息を吸い込み、そして。

 

「フザケンナァァァァァァ!!!!!」

 

 マジギレした。本気で怒り狂っているのかすぐに「いやァ、冗談ですよォ〜。じょ・う・だ・ん♡」と茶化したがまるで意に返さずに言葉を続けた。

 

「オ、オレっちがどんだけ心配したと思ってんダ!!あれから一日中眠ったまんまだったから、このまま死ぬんじゃないかと気が気じゃなかったんダ!!」

 

「ちょっと待ってくださいアルゴサン。あれから丸一日経過してたんですかァ?だとしたら不味いですよォ!経験値稼gじゃなくてボス戦が間に合わなくなってしまいますよォ!?」

 

「ンなこと今どうでもいいだろうガァァ!!ツーカ今、経験値稼ぎって言おうとしたよナァァ!!」

 

「ハ、ハァ」

 

 め、面倒臭ぇ。なんつーか、話の長いNPCとは違うベクトルで面倒臭ぇ。そんなことを考えていると俺の気の抜けたような返事が燃料となったのかさらに苛烈になり説教は軽く三十分に及んだ。

 

 

「つーことダ!わかったナ!」

 

「ハァイ、わかりましたよォ」

 

 お、終わった。あの後、死なないようにプレイすることの重要性を長々と語られた。長かったというかキツかった。正座しながら数十分近く説教は精神的にもくるなぁ。それはさて置き、ないと思うけど。

 

「アルゴサァン。当たり前ですけど、あの日のボスのモーションの変更などは全部まとめて冊子にしましたよねェ」

 

「ア」

 

 ……おい。冗談だよな?

 

「アルゴサァン?」

 

「し、仕方ないダロ!メッフィーの介護に忙しくて情報をまとめるとかする暇がなかったんダ!」

 

 ほーほーほーほー、つまりあれか?アルゴは今、俺が一日意識を失ってまで得た情報を無駄にしたってことか?ハハハハハハ!そうかそうか。なるほどねェ。俺はストレージから《イビル・ダガー》を取り出した。

 

「ちょ、ちょっと待テ!待ってクレ!メッフィー!」

 

「なるほどォ、それがアナタの遺言ですかァ」

 

「そーじゃねぇヨ!!つーか、恩着せがましいかもしんねぇケド。メッフィーこそ命を助けてもらったんだからありがとうくらいは言えよナ!」

 

「ああ、そうでしたね。アルゴサン命を助けてくれてありがとうございました。お礼に殺して差し上げますねェ」

 

「確かに命はって情報を集めて貰ったのに纏めず無駄にしたのは謝るケド怒り過ぎだロ!って、危ネェェ!!」

 

 ちぃ!避けやがったか!まぁ、いいだろう。怒りのあまり我を忘れてたけど確かに少し大人気なかったしな。仕方ない。

 

「これでチャラにしますよォ。アルゴサン」

 

「なんか釈然しねぇケド。ありがとヨ、メッフィー」

 

 さてと、じゃあ。

 

「行きますか」

 

「お、おい?本当に大丈夫なのカ?」

 

「ええ、レベル上げのためにもあのボスを倒す必要がありますし。それに」

 

「それに?」

 

「ワタクシ、意外と根に持つタイプなので」

 

 そう言うと、アルゴはキョトンとした顔をしたかと思うとすぐに吹き出したように笑った。ん?どゆこと?

 

「ワタクシが寝ている間に何か面白いことでも?」

 

「い、いや、メッフィーも意外とそういうところがあんだナァーって思ってナ」

 

「ハ、ハァ」

 

 俺の問いにアルゴは腹を抱えながら答えた。ん?本当にどゆこと?まぁ、今はボス部屋に急ぐか。アルゴのだせる最高速度に合わせながら走っているとアルゴがたずねてきた。

 

「そーいやぁ、メッフィー」

 

「なんですかァ?アルゴサァン?」

 

「あん時どんな夢見てたんダ?」

 

「まるで、ワタクシが夢を見ていた前提で話が進んでますが、どうしてそのような質問を?」

 

「なんでって、寝てる時のメッフィーがサァ。スゲェー幸せそうに笑ってたからどんな夢見たんだろうナァって」

 

 寝ながら幸せそうに笑ってた?なんだそれ気持ち悪っ。それにしても夢かぁ。確かにあの時、なーんか懐かしい感じがしたけど。

 

「覚えてませんねェ」

 

 忘れちゃったし。まぁ、いっかぁ。俺は何十通も届いたPoHからのメールを返しながらボス部屋に向かった。

 

 

 ボス部屋に到着したと同時に入ってみるとそこには満身創痍のプレイヤーや麻痺って動けないプレイヤーたちで溢れかえっていた。って、三体目のボスかぁ。早いなぁ。いや、一、二体は弱かったし当然か?あ、麻痺ブレス放ちそう。あの近くにいるプレイヤー大丈夫か?装備からして紙装甲だけど。俺はぼーっと近くのプレイヤーを眺めていると。

 

「避けろ!!」

 

 すぐ隣から大きな声が聞こえた。いったい!!耳がぁー!!

 

「アルゴサァン、大声出すなら一声かけてくださいな」

 

「んなもん。ぼーっとしてたお前が悪イ」

 

 ごもっともな返事をありがとう。って、あれはキリトか?おー、麻痺ってる。珍しいなぁ。俺みたく慢心してたのか?そう思いながらふと隣を見てみるとアスナも転がっていた。あー、なるほどねアスナを守ったわけだ。そんなことを考えながら俺とアルゴはキリトに駆け寄った。

 

「ブレスを吐く時、ボスの目が光るんですよォ〜。知ってましたァ?」

 

 床にへたり込んでいるキリトに声を掛けると口をぽかんと開けて驚いていた。いいねぇ、その顔。まぁ、それはさて置き。

 

「どうしたのですかァ?キリトサァン。麻痺、とっくに解けてますよォ?」

 

 俺が指摘するとようやく気づいたのかバネ仕掛けようにはね起き、何故か遠くにあるアニールブレードとウインドフルーレを回収して回復の為か壁際まで駆け寄りアスナも回復させた。それを見届けるとアルゴはキバオウのところに俺はリンドの元に向かった。

 

「お久しぶりですねェ!リンドサァン!アナタが今や皆を率いる側とは驚きですよォ〜!」

 

 煽った。割と本気で煽った。面白さ8割どんな反応を見せるのか興味2割の気持ちで煽った。すると、

 

「言いたいことはそれだけか?悪いが煽る為に来たのなら帰ってくれないか?お前がいるだけで足並みが崩れるんだ」

 

 言い過ぎだろ!っと思ったが周りの雰囲気からして大袈裟に言ったのではないと確信する。いや、嫌われ過ぎだろ俺。

 

「いやいや、煽る為に来たなんてとんでもない!ワタクシは純粋に戦いに来ただけですよォ〜。そ・れ・に、アナタ様の大人な対応にメッフィー、涙が抑えられないほどですよォォ〜!」

 

 よよ〜っと、泣き真似をするように答える。実際、殴りかかるか最悪切りかかるぐらいは覚悟してたんだけどなぁ。まぁ、それでも。

 

「その嫌悪感を隠せてたら百点満点をプレゼント出来たのですがねェ」

 

「お前っ!」

 

「まぁ、それはさて置き。どうします?作戦を続け「続けるに決まってるだろ」……なるほど、なるほど。では、ワタクシの問いに即答した礼としてボスの弱点やモーションについて教えようじゃあありませんか」

 

「何?」

 

 おー、驚いてる驚いてる。

 

「何処で知った?」

 

「単純に《鼠》からいい値で買い取っただけですよォ。嘘だと思うなら無視しても構いませんよォ?」

 

 そう言うとリンドは本気で嫌そうな顔をしながら俺の話に耳を傾けた。

 

 

 俺とアルゴが二分程時間をかけてそれぞれ情報を伝達すると、リンドが剣を抜き叫んだ。

 

「よし……攻撃、始めるぞ!A隊D隊、前進!」

 

 リンドの指示に従い、重装甲の壁部隊がアステリオス王に突っ込んでいく。彼らの攻撃を受けた瞬間タゲが軽装のプレイヤーから外れる。つーか、俺たちが説明している間、ずっと一人でボスの相手をしてたのかすごいなぁ。それにしても、なんだあのパーティ。なんで、ボスのナミングをモロに喰らってもスタンしないの?

 

 …まさか、キリトの言ってた《レジェンドブレイブス》とか言う連中か?そう思いながらキリトの方を見てみると複雑そうな顔でG隊を見ていた。という事は間違いない例のギルドだ。ハハ!マジか!なんつー偶然だ!もしこの場でこいつらの悪行を話せばどうなるんだ!ああ、やってみたいなぁ!でも、俺の言葉じゃあ信用ならないだろうしどうしよう?ああ、誰かバラしてくんねぇかなぁ。そんなことを考えていると。

 

「E隊、後退準備!H隊、前進準備!」

 

 お、出番か。采配も平等だし私情も挟まないところをみると中々いい指揮官なんだなぁ、リンドは。

 

「よし、行くぞ……ゴー!」

 

 キリトの声を合図に全力で加速した。結果的に移動途中に後ろから飛んできたチャクラムのようなものを除けば誰よりも早くボスに近づきボスの王冠目掛けて右手で《ラピッドバイト》を放った後、左手で《ファッドエッジ》を放った。瞬間、ボスの王冠が粉々に砕けて、次いでに、アステリオス王の巨体も砕け散った。

 

 

「ヒャッハー!ボスのLAとったどー!!」

 

 どーだ!見たか!アステリオスくぅ〜ん、あん時のリベンジになったぞ!あ!ごっめーん!死んじゃったから見れないんだよね!オニィさん言い間違えちゃった♡ごめーんね♡あー、スッキリした!そう思いながら振り向いてみると半泣きのアルゴと殺意のこもった目線をこちらに向けてくるプレイヤー達がそこにはいた。

 

「おやァ?ワタクシ、なにかしてしまったのでしょうか?」

 

「ふ、ふざけんな!遅れてきた分際でLA取るとか何様のつもりだ!」

 

「これまた失礼なことを言うかたですねェ。LAが誰がとるかは暗黙の了解では?」

 

 そう言うと名も知らないプレイヤーは口をつぐみながら悔しそうに下がっていった。はー、面倒くさっ。さーてと、帰るか。俺は次の階層に向けて足を進めようとすると。

 

「あんた……何日か前まで、ウルバスやタランで営業してた鍛冶屋だよな」

 

「……はい」

 

「なんでいきなり戦闘職に転向したんだ?しかも、そんなレア武器まで手に入れて……それ、ドロップオンリーだろ?そんなに儲かったのか?」

 

 俺はこの会話を聞いた瞬間、足を止めてすぐ様振り向いた。

 

 え?もしかして?ワンチャンある?そう期待を込めながら会話している主達を見てみる。そこには(名前は確か)ネズハと思われる少年を名も知らないプレイヤーは疑っている光景が広がっていた。おー!いいぞ、いいぞこの空気!恐らくあのチャクラムは高価なのだろうもし仮にそうじゃなかったとしても尋ねた男の疑念は消えないだろう。一番の不確定要素のキリトを見ると苦悩したような顔で二人を見ているキリトがいた。よし!よし!いい調子だぞ!大方、口を挟もうにも口を挟む権利があるのかという気持ちで苦しんでるんだろ!アスナも同じような顔をしているあたり同じ気持ちなのだろう。後は、ネズハ少年次第だ。そう思いながら目を向けると同時にチャクラムを床にそっと置くと、その隣に両膝を突く。続けて手を床に押し当てて、深く頭を垂れて。

 

「……僕が、シヴァタさんと、そちらのお二人の剣を、強化直前にエンド品にすり替えて騙しとりました」

 

 ボス戦での戦闘よりも張り詰めた、重い静寂がコロシアムを満たした。

 

 き、きたー♪───O(≧∇≦)O────♪!よし!よし!よく言った!ネズハくん!対するシヴァタさんは?おーおー、張り詰めてますねぇ。SAOプレイヤーのアバターは凄まじい精度で再現してるけど。喜怒哀楽の感情表現に関しては大味すぎるらしい。仮に悲しめば涙が出るし、楽しい時はくっきりと笑みが浮かび、怒れば青筋が浮かび上がる。

 

 だから、ネズハの告白を聞いた騙されたプレイヤー達の表情は気の弱い人たちが見ればガチ泣きするほどの激発寸前という顔つきだが、皆がギリギリ自分の怒りを抑えている。

 

 念のためにキリトとアスナを見てみるといつも以上に青白かった。よし、これなら口も挟まないだろう。

 

 しんとした沈黙を破ったのは、シヴァタの嗄れた声だった。

 

「…騙し取った武器は、まだ持っているのか」

 

 その質問にネズハは首を左右に振る。

 

「いえ……。もう、お金に替えてしまいました……」

 

 か細い声が流れた途端、シヴァタは一瞬強く目を閉じて、短く「そうか」とだけ言った。なんつーか我慢強いなぁ。

 

「なら、金で弁償できるか?」

 

 俺はその質問を聞いた瞬間、ギルメンを横目で見ながら出来るわけがないと心の中で鼻で笑った。ボスのスタン攻撃をモロに喰らってもスタンしないだけの鎧を持っているのだ出来るわけがない。仮に払う手段があるとするのならばギルメンの装備を売り払わなければならない。今さっき活躍した彼らが、力の大半を占める武器や防具を手放すか?いや、手放すわけがない。さあさあ!どうする?ネズハ少年!?嘘を通して卑怯者になって生きながらえるか?はたまた、正直に話して愚者になるか?どっちを選んでも地獄だぞ!?

 

 緊迫した空気の中、土下座をしている小柄な元鍛冶屋は。

 

「いえ……弁償も、もうできません。お金は全部、高級レストランの飲み食いとかで全部残らず使ってしまいました」

 

 愚者になる道を選んだ。

 

 ああ!素晴らしい!素晴らしいよ!ネズハ少年!これほどの空気の中自ら勇気を出して真実を明かし仲間を庇うとは!感服した!鍍金などと言って悪かった!君は本物だよ!そんな君に礼を言おう!泣けたよ!嗤える三文芝居をありがとう!

 

 当然の如く、ネズハの告白は騙されたプレイヤー達の忍耐の限界を容易く超えた。

 

「お前……お前、お前ェェェ!!」

 

 きつく握った拳を振りかざし、何度も床を踏みつける。

 

「お前、解ってるのか!!俺たちが、大事に育てた剣壊されて、どんだけ苦しい思いをしたか!!なのに、俺たちの武器売った金で、美味いもん食っただぁ!?高い部屋に寝泊まりしただぁ!?挙句に、残りの武器でレアもん買って、ヒーロー気取りかよ!!」

 

 続けて、左側のキバオウ隊のメンバーも裏返った声で叫んだ。

 

「俺だって、剣なくなって、もう前線で戦えないと思ってたんだぞ!そしたら、仲間がカンパしてくれて、素材集めも手伝ってくれて……お前は、俺たちだけじゃない、あいつらも、攻略プレイヤーも全員裏切ったんだ!!」

 

 二人の絶叫を皮切りに騙されたプレイヤー達が激怒した。口々に叫ぶ数十人の声が合わさり、轟音となって部屋を震わせる。いやぁー、テーマパークに来た気分だ。テンション上がるなぁ!ふと、ブレイブスのメンバーに視線を送ると五人で何か囁き合ってる。流石に聞き取れないがあの様子だと割り込まないだろ。

 

 ある程度してから、怒りの声が少なくなった頃、あの一層のボス部屋で俺を糾弾したシミター使いのリンドが口を開いた。

 

「まず、名前を教えてくれるか」

 

 おっと、邪魔が入ったか?リンドのこの場の捌き次第では……

 

「……ネズハ、です」

 

「そうか。ネズハ、お前のカーソルはグリーンのままだが…だからこそ、お前の罪は重い。システムに規定された犯罪でオレンジになったなら、カルマ回復クエストでグリーンに戻ることも出来るが、お前の罪はどんなクエストでも雪げない。その上、弁償ももうできないというなら……他の方法で償ってもらうしかない」

 

 お!これは期待してもいいのかな?

 

「お前がシヴァタから奪ったのは、剣だけ彼らがその剣に注ぎ込んだ長い、長い時間もだ。だから、お前は……」

 

 はい、クソですね。信じた俺がアホでした。つーか、ディアベルに似てきたなアイツ。仕方ない、一肌脱ぎますか。

 

「あ〜、なるほど。そう言うことですかァ」

 

 俺の言葉を聞いてリンドが振り向いた。

 

「なるほど、とは?なんのことだ?メフィスト」

 

 反応してくれてありがとうリンド。おかげで大半のプレイヤーの意識がこっちに向いた。俺は声がなるべく響くように答えた。

 

「いやァ〜、最近、プレイヤーの死亡が多い理由は彼にあったのだと勝手に納得しただけですよォ」

 

 瞬間、空気が凍った。

 

「……どういうことだ?」

 

「ほら〜ワタクシ街に入らないじゃあないですかァ。ですので、よくプレイヤーを見るんですよォ。その時、昨日は倒せていたはずのmobを倒せずに逆に殺されたプレイヤーを見かけたんですよォ」

 

 再度、大広間が静まり返った。数秒後、掠れた声で呟いたのは、シヴァタの隣に立つ青メンバーだった。

 

「……し、死人が出たんなら……こいつもう、詐欺師じゃねぇだろ……ピッ…ピ…」

 

 中々最後まで言おうとして言わないので代わりに俺が代弁した。

 

「ええ、ワタクシと同じPKですねェ。いやァ、お仲間が出来てメッフィー大感激!」

 

 周りがざわめく。それと同時に痩せたダガー使いがネズハを指差して叫んだ。

 

「土下座くれーで、PKが許されるわけねぇぜ!どんだけ謝っても、金積もうが、死んだ奴は戻ってこねぇんだ!どーすんだよ!どー責任取るんだよ!言ってみろよぉ!!」

 

 ん?この声聞き覚えあるなぁ。第一層の時も似たようなこと言ってたなぁ。それにこいつの言葉には断罪じゃなくて相手を舐る悪意しか感じないなぁ。

 

 ダガー使いの糾弾を受け止めたネズハは、敷石の上でぎゅっと両手を握ると震えた声で言った。

 

「……皆さんの、どんな裁きにも、従います」

 

「そうですかァ!アナタにはそれほどの覚悟があるのですかァ!」

 

 ありがとうネズハ少年、その言葉を待っていた。俺はネズハの言葉にすぐに割り込み提案した。

 

「皆さん、ここはワタクシが彼を殺すでしまいにしませんかァ?」

 

 周りが押し黙る。すると、一人のプレイヤーが前に出てきて尋ねた。

 

「つまり、どう言うことだ?」

 

「ですから、PKの始末はPKがするということですよォ♪」

 

 俺は楽しげに提案した。これは割と博打に近い。良心的な奴がすぐ様止めれば見逃されるで終わるが逆に怒りに浮かされた奴が殺すよう言えばネズハは死ぬ。ある意味、この瞬間ネズハの命は俺ではなく皆が握って居ることになる。すると、

 

「そうだ」

 

 ごく短い一言が部屋に響いた。しかし、普段ならあまり意味を持たない一言は限界まで膨らんだ不満を爆発させるには十分だった。

 

 途端に部屋いっぱいに声が広がった。それは、プレイヤー達の叫び声だ。「そうだ、責任取れ!」「死んだ奴に、ちゃんと謝ってこい!」「PKならPKらしく終われ!」徐々にボルテージが上がり最後には

 

「命で償えよ、詐欺師!」

 

「死んでケジメをつけろ!」

 

「惨たらしく殺されろ!クズはクズに殺されちまえ!!」

 

 嗤いが止まらなかった。お前らの言うクズの台詞をあっさりと信じて場に流されるコイツらのことがおかしくてしょうがない。まともな筈のネズハが糾弾されて場を楽しむ俺を一部の人間は讃えてすらいる。おかしくてしょうがない。しかし、同時に俺は起きるべくして起きたことだと思っている。理由は彼らを見ればわかる彼らの怒りには詐欺行為だけでなく閉じ込められた現状にすら含んでいるのだから。そして、今回それが炸裂した。ただ、それだけの話なのだ。

 

 念のために周りを見渡す。リンドもキバオウもキリトもアスナもブレイブスのメンバーも皆俯いている。さて、フィナーレといこう。

 

「さて、皆に質問なのだが。君達は、たった一人で最前線に立つプレイヤーの装備品の金を使い切ることは出来るますかねェ?」

 

 

 ところでネズハ君、僕は君に敬意を評したい。自ら犯罪を犯していることを話すのは容易なことではないのだから。だから、

 

「ワタクシの予想が正しければ彼の協力者がいるのでは?」

 

 俺は君の庇おうと努力したものを踏みにじろうと思うんだ。下を見ると唖然とした顔のネズハがいた。俺の言葉をきっかけに周りのプレイヤーの怒りのボルテージが上昇しようとした瞬間。

 

「待ってくれ!!」

 

 大広間に声が響いた。は?誰?そう思い目を向けると。そこには鎧を脱いだブレイブスのメンバーがいた。は?あり得ない。あり得るはずがない。だって、こいつらは鍍金だ。足掻けるはずがない。俺の思考がフリーズしていると。

 

「ごめんなぁ、本当にごめんなぁ、ネズハ」

 

 おい、止めろ。舞台を壊すな。折角できた舞台を壊すな。ブレイブスのメンバーが膝をつく。すると、俺の意思に反して周りの空気が鎮まり、怒りが萎えていった。

 

 ふざけるな。キリトならわかる。あの英雄様に邪魔されるならわかる。アスナも予想できた。だが、お前らが舞台を壊す?ダメだダメだ!鍍金如きが舞台を壊していいはずないだろ!

 

 やがて、真ん中の男がわなないているが毅然とした声がコロシアム中に響いた。

 

「……ネズハは俺たちの仲間です。ネズハに強化詐欺をやらせてたのは俺たちです」

 

 この言葉と共に俺の描いた脚本は確かに崩れ去った。

 

 

「hey!久しぶりだな《ジョーカー》」

 

「……ええ、久しぶりですねェ。PoH」

 

「おいおい、どうした?不機嫌そうだなぁ。なんかあったか?」

 

 ええ、ありましたとも。鍍金ごときに邪魔されるというこの上なく腹立たしいことが。あー(怒)腹が立つ。思い通りにいかないことがこうも腹が立つとは。ある意味で初体験だ。

 

「知ってるくせに尋ねるとは性格が悪いですねェ」

 

「what?どういう意味だ?」

 

「あの一層の時に叫んだプレイヤーはあなたの手駒でしょう?」

 

 そう尋ねるとPoHはキョトンとした顔をしたと思うとニヤリと笑った。うえ、こんな嬉しくない笑顔初めてだ。まあ、何にせよ。

 

「次は成功してやりますとも」

 

「HAHA!そん時はオレも笑わせろよ」

 

「おこぼれでよければ。ああ、そうでしたPoH」

 

「なんだ?」

 

「強化詐欺危うく騙されるところでしたよ」

 

「Oh Sorry!Next time、I will try not to get out!」

 

 PoHの返答を鼻で嗤いながら背を向けて第三層へと歩を進める。騙しきれなかった悔しさを噛みしめながら俺は次の舞台へと足を進めた。




次の投稿も長くなりそうです


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29話

29話です。


 第二層での出来事が失敗した後、多少不機嫌になりながらも俺はすぐさまいつものように第三層へと向かった。いや、いつも通りではなかった。え?何故かって?

 

「はぁ」

 

「なあ、どうしたんだよ旦那〜。そんなに不機嫌そうな顔してよ」

 

「第二層での出来事はPoHから聞いているでしょう」

 

「なんだその事かよ!大丈夫だって旦那!次に生かしていこうぜ!」

 

「勿論そのつもりですとも。ところで何故アナタはワタクシのことを『旦那』と呼んでいるのですかァ?ジョニーサン」

 

 ギルメンのジョニーブラックと一緒だからだよ。

 あの後、PoHと別れたのだがすぐさま呼び戻された。これには流石に苛立ちを覚えたので少々喧嘩腰で何故呼び戻したのか問い詰めると。

 

「お前は一人での行動が多いから、メンバーのことをよく知らないだろうから知っておく為にも今回はパーティを組んでもらうことにする」

 

 とのことだった。俺はすぐに反論しようとしたがアルゴのことがバレると面倒くさそうだと思い反論しようとするのをやめて、その案を受け入れた。流石にパーティを組む相手は選ばせてもらい。ギルメンの中でもPoHを除いてまともに会話をしたジョニーブラックを選んだ。そして、現在にいたる。

 

「そりゃあ勿論俺なりの敬称だとも!どう?中々似合ってると思わねぇか?旦那!」

 

 人懐っこいなぁ、コイツは。なんつーか、アルゴが小型犬だとするならコイツに関しては大型犬を相手にしてる気分だ。すげぇ目がキラキラしてるもん。前世と今世を合わせてもここまで敬われたことはないよ。

 

「理解に苦しみますねェ。ワタクシがアナタにそこまで影響を与えるようなことをしましたかァ?」

 

「おいおい、旦那〜忘れちまったのかよ!あの日、俺に魅せてくれたあの出来事を!」

 

 ……まさか、あれのことか?あの忍者擬きを殺したことを言ってるのか?

 

「俺さ!あの出来事以来おかげでインスピレーションの幅が広がったんだぁ!今度旦那にも魅せてあげるよ!」

 

「いえ、結構です」

 

 何が悲しくてお前の趣味に付き合わねばならないのだろうか。面倒くさい上に非常につまらないだろうよ。そう言うと、少ししょんぼりとしながら。「そっかー」と言った。なんだこのあからさまな落ち込んでるアピールは男の凹む姿を見ても何も思わないし寧ろ気持ち悪いぞ。どうせならザザを選ぶんだったと本気で後悔していると。

 

「そーいえばさぁ、旦那」

 

「ハイ、なんでしょう?」

 

「旦那はなんで、あの土下座してた奴を殺さなかったんだ?」

 

 と、問いかけてきた。あー、なるほどね。ジョニーブラックからしてみたらあの時俺が殺してないのは不思議なことこの上ないのか。まあ、理由を話すくらいならいいか。

 

「ああ、それなら単純ですよ。ワタクシが見たかったのは発狂し、絶望に浸った末の醜い破滅なのですよォ。ただの暴力で殺したところで……何が面白いというのですかァァ⁉︎」

 

 おっと、最後は昂ってしまった。まあ、結局はそんなところだ。だから、俺はジョニーブラックが嫌いだ。ただひたすらに人を殺すだけで非生産的すぎる。合わなさすぎる。多分というか殺しだけが好きなだんかで確実にザザやPoHのことも苦手だし嫌いだ。しかし、ジョニーブラックは違ったようでキョトンとした顔をしたかと思うとすぐに笑い出した。

 

「ハハハハ!!旦那って性格が屈折しすぎだろ〜!」

 

 そう言いながら腹を抱えて大笑いした。うわぁ、ウゼェ。なんつーか黙ってくんねぇかなぁ?ジョニーブラックを殺すことを視野に入れながらふと気になったことを尋ねる。

 

「ジョニーサン、アナタのレベルはお幾つで?」

 

「んーと、大体14かなぁ」

 

 うーん、何て言うか。低すぎないけどさぁ。えー、どうしよう今すぐにパーティを解約したい。

 

「因みに旦那は?」

 

「23ですよォ」

 

「レベル高っ!!」

 

 第二層で情報収集の為に一体目と二体目のボスを単独で倒して第二層のボス攻略の際、最後に三体目のボスを倒したからなぁ。まぁ、それでも個人的にはもっと上がって欲しかったなぁ。

 

「個人的にはひとりで動いていた方が楽なのですよォ」

 

「ま、まあ、そんだけ強けりゃそうなるよなあ。うわ、俺足手まといにならねぇ様に頑張るよ、旦那!」

 

 前向きだなぁ。まあ、快楽主義者という面では俺と似てるしうまく連携できるか?道中で何回か戦ってるところを見る限り戦い方は俺と同じでジョニーブラックは強いか弱いかで言ったら強いがキリトやアスナと比べると少し弱いくらいの強さは持っているように見えたし。上から目線になるが多少は期待してもよさそうだな。連携が良くなってくる程度には戦っていると。遠くからキンッという音が聞こえた。ん?この音は。

 

「旦那〜」

 

「ええ、言わずとも分かりますよ、ジョニーサン。今のは剣の音ですねェ」

 

 耳をすまさないでも聞こえるってことは結構近いな。PVPか?

 

「旦那、旦那!行ってみない!?」

 

「ええ、そうですねェ。ワタクシも気になりますしィ、行ってみますかァ」

 

「そうこなくっちゃ!!」

 

 そう言うと俺とジョニーブラックは音のした方へと向かった。すると、そこには激しく戦う三つのシルエットがあった。

 

 一方は(二人は)、きらびやかな金色と緑色の軽装鎧に固めた長身の男。右手のロングソードや左手のバックラーも一見してハイレベル品だとわかる。後頭部で結われた髪は見事なプラチナブランド、ハリウッド俳優を連想させる北欧系のイケメンだ。

 

 もう一人は、対照的に黒と紫の軽装鎧を纏っている。緩く弧を描くサーベルと、小型のカイトシールドも黒色だが、装備のランクは同じく高い。スモールパープルの髪は短めで、やや浅黒い肌の横顔はSAO内で出会ったどのプレイヤー達よりも美しい顔立ち。艶やかに赤い唇と、わずかに隆起したブレストプレートが、黒い剣士が女性であることを示している。

 

「ハアッ!」

 

「シッ!」

 

 金髪の男達が、猛々しい気合いとともに剣を振り下ろした。

 

「シャッ!」

 

 それを、紫髪の女がサーベルで迎撃する。キイィィン!と澄んだ金属音が響き、発生したライトエフェクトが深い森を一瞬明るく照らし出す。

 

「うっわ、メッチャ綺麗だなぁ。もしかして、三人ともNPCなのかなぁ旦那」

 

「恐らくそうでしょうねェ。ですがァ、あそこまで全身の動きや表情を再現できるとはこの世界はワタクシを驚かせてばかりですねェ」

 

「確かにびっくりだ。三人の頭の上のクエマークを見えるし、もしかしてさぁ、片方側にしか加勢出来ない感じかなぁ」

 

「十中八九そうでしょうねェ。因みにジョニーサンでしたらどちらを選びます?もっとも、大体予想つきますけどねェ」

 

「へぇ、じゃあ言ってみてよ旦那」

 

「黒髪の女エルフを助ける」

 

「その心は?」

 

「金髪のほうも黒髪のほうも質は変わりませんし、後は量ではないかと思いましてねェ」

 

「大当たり!!流石だよ!旦那ぁ!」

 

 そう言うと同時に俺たちは空き地に飛び込んだ。戦うエルフたちが同時にこちらを見るや、大きく後ろに飛んで距離をとると、三人の頭上のマークが変化する。

 

「人族がこの森で何をしている!」と金髪エルフの男達。

 

「邪魔だて無用!今すぐに立たされ!」と黒髪エルフの美女。

 

 いつもならここで小言を挟みながら煽るのだが今はそれどころじゃなかった。なんでって?目の前にキリトとアスナのペアがいるからだよ。案の定二人も驚いているのか目を見開きながらこちらを見ている。何にせよこれは好都合。

 

「キリトサァン!」

 

 俺は叫びながらキリトに向けてパーティの要請をした。すると、キリトは少し苦虫を噛み潰したような顔をした後。

 

「言いたいことは山ほどあるが、了解した!因みに助けるのは!?」

 

「黒髪ィ!!」

 

 そう言うとキリトはパーティの申請を受託した。確認のため自分のHPバーを確認する。そこには、ジョニーブラック以外にキリトとアスナの名前があった。確認した後四人揃って剣を抜き金髪エルフの胸甲へと向けた。

 

 すると、整った顔立ちがみるみる険しくなる。mobのカラーカーソルに、敵対したことへの移行を警告する赤い枠が点滅する。

 

「愚かな……ダークエルフ如きに加勢して、我が正義の前に露と消えるか」

 

「そ……」

 

「ハッ、正義とおっしゃいましたかァ!女相手に二人がかりで剣を振るうことを正義と言うとは、なwるwほwどw、最近のエルフの正義とは一風変わってますなァァ!!」

 

 キリトが何か言おうとしたので全力で遮りながら煽ると、険しい顔をさらに歪ませた。おーおー、怖い怖い。そんなことを思っていると金髪エルフ達は歪んだ顔のまま笑みを浮かべる。

 

「よかろう、ならば貴様から始末してやろう、道化風情が!」

 

 構えられたロングソードに意識を集中させていると。

 

「いいな、ガード専念だぞ!」

 

 え?何故?もしかして此奴等強いの?まあ、それはそれで。

 

「楽しくなってきたァァァァ!!では、行きますよォォ、ジョニーサァン!アベンジャーズ!!」

 

「アッセンブr「言わせねぇよ!?」」

 

「男三人!ふざけてないで集中して!」

 

 三人仲良くアスナに怒られながら、戦いが始まった。

 

 

 十分後。

 

「ば…馬鹿な……」

 

 そんなありきたりなセリフを吐きながら金髪エルフ達は倒れた。あれ?なんか弱くね?一応キリトのほうを見ると。

 

「ば…バカな……」

 

 金髪エルフ達と同じセリフを吐きながら呆然と立ち尽くしていた。ふむ、反応から察するに前はこうはいかなかったのか?まあ、それはさて置き。俺は視線をダークエルフの美女に向ける。そこには黒いサーベルを片手に、無言で敵の骸を見下ろす姿があった。

 

「大丈夫ですかァ?」

 

「あ、ああ、ありがとう、助かった」

 

 俺が声をかけるとダークエルフの美女はオニキスのような瞳に戸惑いや驚きをまぜながら礼を言った。



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30話

30話です。


 さて、どうしたものか。金髪のエルフ達を倒し、ダークエルフに安否の確認をし終わった俺が真っ先に思ったことはこれだった。何故って?何で言うかさぁ、キリトは呆然としながら立ち尽くしてるしアスナも無言だからなにをすればいいのかわからないからだよ。そんなことを思っていると少し離れた場所で、金髪エルフ達の死体がささやかな破裂音とともに消滅した。かなりの経験値とコルが加算され、いくつかレアそうなアイテムもドロップした。あ、レベルが上がったなぁ、と思いながら次の行動を考えていると。

 

「え、えーと………な、なんだろう、これ」

 

 キリトが大分わざとらしいセリフを口にしだした。何を言ってるんだコイツはと思いながら訝しげにキリトを見るとそれを聞いたアスナが当たり前のようにドロップアイテムを拾おうとした。すると、どういう訳かキリトはケープを引っ張ってアイテムを回収しようとしたアスナを止めた。当然、アスナは苛立ちキリトを睨んだ。本気でなにをやっているのか疑問に思っているとダークエルフの美女が反応した、

 

 腰を屈め、黒い革手袋に包まれた両手で大切そうに袋を拾うと、そっと胸に抱き、安堵したように長々と息を吐いた。

 

「……これでひとまず聖堂は守られる」

 

 ひそやかな声で呟くと、袋を腰のポーチにしまい、騎士は姿勢を正して俺たちを見た。オニキスにような瞳には厳しさが蘇り、それが迷うように揺れる様は、とてもNPCには思えなかった。

 

「……礼を言わねばなるまいな」

 

 黒と紫の鎧をがしゃっと鳴らして一礼し、ダークエルフは言葉を続けた。

 

「そなたらのお陰で第一の秘鍵は守られた。助力に感謝する。我らの司令からも褒賞があろう、野営地まで私に同行するがいい」

 

 ここで再び、彼女の頭上にクエストの進展を知らせる【?】マークが点灯。キリトは何やら悩んでいるが俺はこの申し出を断る理由もないので。

 

「では、よろしくお願いしますねェ」

 

「んじゃ、よろしくなぁー」

 

「それじゃ、お言葉に甘えて」

 

「……」

 

 ふと、返答の返答の仕方を間違えたかと俺は疑問に思った。何故ならアルゴ曰く、NPCへの受け答えは、イエスもしくはノーの意味が明確でないと正しく反応しないとのことだ。返答の仕方をミスってしまったことに反省しながら「OK、では行きましょうかァ」と言おうとした。

 

 しかし、それよりも早く女騎士は軽く頷き、身を翻した。

 

「よかろう。野営地は森を南に抜けた先だ」

 

 クエストログが進行し、騎士の頭上の【?】マークが緩やかに消滅。代わりに、視界の左側に五人目のパーティメンバーを告げるメッセージが流れ、新たなHPバーが追加表示される。因みにダークエルフの名前は読んだ感じキズメルというらしい。

 

 颯爽と歩き始めるキズメルの後に、これまた軽やかな足取りでアスナとジョニーブラックが付いていく。俺も付いていこうとしたがキリトが棒立ちになっていることに気付き声をかけた。

 

「キリトサァン気持ちはわかりますが、三人とも行ってしまいますよォ?」

 

 そう言うとキリトは慌てて三人の後を追った。まあ、考え込みすぎて棒立ちしたくなる気持ちもわかるけどね。だって、キズメルは俺たちの言葉にイエスのニュアンスを汲み取ったのだ。言ってしまえばNPCがプレイヤーと会話を成立させることができたのだ。誰だって驚く。ていうか、俺も驚いている。以前アルゴが言っていたがNPCにはそこまでの会話能力が備わっていないらしい。仮にこのデスゲームが始まった際に、NPCの自動応答プログラム用データベースが拡充されたとしてもキズメルの口調や表情はプレイヤーのそれに近すぎるのだ。案外中に生身の運営スタッフがはいってるのかなぁなどと思いながら俺は歩み続けた。

 

 

 濃霧にまかれたこの森では道に迷うのではと心配していたが。モンスターに関してはエンカウントするそばからキズメルのサーベルがばっさばっさと斬り倒してくれたし、慣れているからなのか一切迷うことはなかった。効率第一の俺としては、一度クエストを保留して、キズメルをパーティに入れたままmobを狩りまくる選択肢にかなりの魅力を感じたというかそれを言おうとしたがどういう訳かキリトに止められた。

 

 そんなこんなで、深い霧の中で翻る何本もの黒い旗が視界に入ったのは、移動を開始してからわずか十五分後のことだった。

 

「けっこうあっさり着いちゃったわね」

 

「ええ、少々呆気なく感じますねェ」

 

 隣でアスナが言うので、俺もその言葉を肯定した。すると前を行くキズメルも足を止めて振り向き、少し自慢そうに言った。

 

「野営地全体に《森沈みのまじない》が掛けられてあるゆえ、そなたらだけではこうも容易く見つけられはしなかったぞ」

 

「へえ、……おまじないって魔法のこと?でもこの世界に魔法はないんじゃないの?」

 

 割と物怖じとは無縁のアスナがタメ口でそんな質問を発するので、言葉遣いについて言おうとしたが、普段の俺自身の態度を思い出し直ぐに口をつぐんだ。それはさて置き、一定以上の反応しかできないはずのNPCがアスナの言葉を理解できないのでは?

 

「あのなアスナ、それは……」

 

 キリトがキズメルに助け舟を出すつもりで、裏事情を説明しようとした。しかし、キリトのフォローはまたしても綺麗に空振った。

 

「………我らのまじないは、とうてい魔法と呼ばぬものだ」

 

 と、キズメルが長い睫毛を伏せて呟いた。

 

「言わば、古の偉大なる魔法の残り香……。大地から切り離されたその時より、我らリュースラの民は、あらゆる魔法を失ってしまった」

 

 ……へえ。キズメルの答えに俺は少し興味を持った。

 

 大地から切り離されたから、魔法を失った。

 

 その言葉は、SAOというゲームに魔法スキルが存在しない理由だけでなく。浮遊城アインクラッドが存在する理由にまで繋がるのではないか。思い返してみると現在に至るまでSAOの設定については何も知らなかった。興味がなかったのもあるが《世界がそこに至るまでの物語》はシステムと同じくらい重要だ。茅場晶彦が全て設定したかと言われたらその可能性は薄いだろう。何故なら、あの男の望みはこのデスゲームであってこのゲームの設定が希薄になるのも無理はないのだ。

 

 憶測の領域を出ないが、外れているとも思っていない。仮にそうだったとしたらキズメルを動かしているSAOシステムの《言葉》は茅場の意図すらも超えたもの、ということになる。俺はそんな可能性があることに胸を躍らせながら騎士の後ろを歩いた。

 

 

 濃霧の奥に翻る漆黒の旗に近づいていくと、あるところで霧が嘘のように晴れて、視界がクリアになった。もう森の南端にほど近いらしく、切り立った山肌が左右に続いている。その一箇所に幅五メートルほどの谷間が口を開けていて、左右に細長い柱が立つ。目印になっていた、黒地に角笛の片刃刀が染め抜かれた旗が微風にたなびく。

 

 そして、二本の柱の前には、キズメルよりもやや重武装のダークエルフの傭兵達がいた。細身の薙刀をこれ見よがしに立てる彼らに向けてキズメルはすたすたと歩み寄っている。すると、アスナが。

 

「……まさかと思うけど、この野営地で戦闘になったりはしないのよね」

 

「ヒヒ、流石にないでしょう。まあ、ワタクシ達のほうから切り掛かったらよくて追放、最悪の場合殺されかねないですねェ。ああ、気になるのであれば試してみましょうか?」

 

「絶対にやめてよね」

 

 軽くこちらを睨んでからアスナは意を決してように足を早めた。幸いにも傭兵達は、胡散臭そうな視線を向けてきたが、何も言わずに俺たちを通してくれた。狭い谷は急激に広がり、直径五十メートルほどの円形の空間を作っている。そこに黒紫の天幕が大小合わせて二十近くも張られて、優美な外見のダークエルフ達が行き交う様は、中々に見事な眺めだ。

 

「へえ、β時代の時より、大きいな……」

 

 キリトがキズメルに聞こえないほどの大きさで呟くと、アスナが訝しげにキリトを見た。

 

「前と場所が違ってるの?」

 

「ああ。でもそれは異常なことじゃなくて、こういうキャンペーンクエスト関連のスポットは大抵一時的マップだから……」

 

「いんす……たんす……?」

 

 まあ、アスナにはわからないか。だって、初対面の相手に自分のリアルでの本名を明かすくらいだもの。仕方ない説明するか。

 

「いいですかァ?一時的マップとは言ってしまえばクエストを受けているパーティごとに、一時的に形成される空間のことです。まあ、ワタクシ達がこれからダークエルフの司令官と話してクエストを進行させる訳ですがァ、そこに同じクエを受けてる他のプレイヤーが来たら具合が悪いでしょう?」

 

「ん、んん……つまり、私たちはいま、三層のマップからは一時的に消滅してこの野営地に転移してる状態、ってこと?」

 

 相変わらず理解が早いなぁ。俺は感心しながら頷いた。

 

「ええ、その通り」

 

 すると、アスナは胡散臭さい目つきになりつつ、すかさず言った。

 

「いつでも出られるんでしょうね?」

 

 

 

 ダークエルフの司令官との面談は、平穏な雰囲気のうちに無事終了した。司令官はキズメルの生還と翡翠製の鍵の奪還を大いに喜び、俺たちに結構な額のクエスト報酬と中々の性能の装備アイテムをくれた。しかも装備は選択肢から選べるという親切しようだった。因みに、キリトが選んだのは筋力値が1上がる指輪、アスナは敏捷値が1上がるイヤリング、俺とジョニーブラックは器用値が1上がる腕輪にした。 

 

 最後に司令官から、第二幕となる新たなクエストを受けて、俺たちは天幕を後にした。空代わりの次層の底はいつの間に夕暮れ色に染まっていた。キズメルは実に自然な動きで大きく伸びをすると、俺たちに向き直り、ごく仄かではあったが微笑のにじむ唇を動かした。

 

「人族の剣士達よ、そなたらの助力に私からも改めて礼を言おう。次の作戦もよろしく頼むぞ」

 

「いやァ、こちらこそ」

 

「改めて考えてみれば、まだ名前も聞いていなかったな。何というのだ?因みに私のことはキズメルと呼んでくれ」

 

 なんつーか、こいつは本当にNPCなのか?反応や態度がプレイヤーのそれだぞ?まあ、なんにせよ自己紹介は大切だな。

 

「では、ワタクシから。ワタクシの名前はメフィスト。気軽にメッフィーでもいいですよォ?」

 

「ふむ、人族の名は発音が難しいな。ミ○フィーでいいのか?」

 

 おい、まてコラ。誰が可愛いうさちゃんだ。そんなことを思っていると後ろから『ブフォ!』という吹き出したような音が聞こえた。振り返ってみると。キリトとアスナは顔を背けて、ジョニーブラックに至ってはゲラゲラと笑っていた。

 

「はあ、メフィストでいいですよ」

 

「メフィスト」

 

「ええ、完璧ですとも。ああ、キズメルサン。少しだけ目を瞑って耳を塞いでくれませんかァ?」

 

「む?わからんが了解した」

 

 そう言うとキズメルは目を瞑った後、耳を塞いだ。さてと。俺は後ろを振り返りゲラゲラと笑っているジョニーブラックの元に向かった。

 

「ジョニーサァン」

 

「な、なんだい?旦那ぁ」

 

「何か言い残すことは?」

 

「バニーコスあったら貸そうか?」

 

 俺の拳は寸分違わずジョニーブラックの顔にめり込み、ジョニーブラックの体は宙を舞った。

 

 

 ジョニーブラックを殴り飛ばした後、キズメルと今後の話を始めた。

 

「それでは、作戦に出発する時刻はそなたらに伝えよう。一度人族の街に戻りたいなら近くまでまじないで送り届けるが、この野営地の天幕で休んでも構わん」

 

「そ、それじゃ、お言葉に甘えて天幕をお借りします。お気遣いありがとう」

 

「礼には及ばぬ、なぜならば予備がない故、私の天幕で寝てもらわねばならんからな。五人では少々手狭だが我慢してくれ」

 

「いえ、ありがたく使わせていただき……五人?」

 

 そこでアスナの動きがピタリと止まった。まさか、こうなること予想してなかったのか?無用心だなぁ。キズメルは言葉の続きを待っているので俺が後を引き継いだ。

 

「では、遠慮なく使わせていただきますねェ」

 

「うむ。私はこの野営地内にいるので、用が有ればいつでも呼び止めてくれ。それでは、しばし失礼」

 

 そして、キズメルは一礼すると、食堂の方へと向かった。アスナはそこから数秒ほどフリーズしていたが、やがて体ごと俺達に向き直ると表情を三パターンほど変えてから言った。

 

「さっきの取り消して、主街区までおまじないで転送させてもらうのは可能?」

 

 その質問は俺とジョニーブラックでは答えることが出来ない何故ならこのイベントは当たり前だが初見だからだ。だから俺達はキリトを見て答えを待つとキリトが口を開きこう言った。

 

「えっと……もうムリ」

 

 



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