ドラゴンを育てていたら いつのまにか私も強くなっていた (美味ケーキ)
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第1話 始まりの日 ★イラスト有り

 

【挿絵表示】

 

 

のんびり屋の遥は、急いで暗闇に包まれた。

 

「いただきます!」

目を瞑ってルーティーンの感謝の言葉を唱えると、いつものバタートーストと卵を食べ始める。

 

卵を一口に頬張ると、テレビからお気に入りの占いが流れてきた。

「今日1番残念なのは、双子座のあなた。何をやってもやる気が出ず、退屈な1日になってしまうかも。。でも大丈夫、何か新しいことにチャレンジすれば運気が巡ってくるでしょう。」

「はぁ〜、朝からテンション下がる」(テレビの時間に目をやる)

「やば、もう出なくちゃ」

遥は、急いでトーストを口に加えると、パン食い競争でもしているかのように玄関を飛び出した。

 

 

〜〜〜〜授業中〜〜〜〜

(はぁ〜、昨日も退屈、今日も退屈、明日も退屈、、なんで授業ってこんなに退屈なんだろう)

 

そう遥が思っていると、チャイムが鳴った。

 

「よっしゃ、終わり終わり!帰って昨日買ったVRMMOやーろお!」

「お、おまえそれってもしかして、『暁のドラゴンマスター』?」

「そうそう、待ちに待ってたやつ!」

「おー、それならおれも買った、ゲームの中で会おうぜ!」

「よし、フレンドなフレンド!」

「あ、おれもおれも!まっぜろ!まっぜろ!」

 

遥は男子生徒達の会話を聞いて、ふと朝の占いを思い出した。

(でも大丈夫、何か新しいことにチャレンジすれば運気が巡ってくるでしょう…)

 

(これだ!ゲームにはあんまり馴染みはないけど、新しいチャレンジ、、早速学校帰りにタナカ電機寄っていこ!)

遥は1人鼻歌を唄いながら学校を出た。

 

〜〜〜〜タナカ電機〜〜〜〜

「あった!これか男子が話していたゲーム。どんなゲームなんだろ」

パッケージの裏を見ながら、「なになに」

[あなたが体験するのはドラゴンと人間が共生する世界。相棒のドラゴンを育てながら、世界を制する力を持つと言われる『暁のドラゴンマスター』を目指そう!]

「…なんだか、カッコよ!」

 

遥は家に着くと、リビングに脇目も振らず、そのまま階段をかけ上がり、自分の部屋に入った。急いでパッケージを開けると、中に入っていたゴーグルを手に取り、

「うわぁ〜、これが最新のゲームかぁ」

「小さい頃に近所の男の子の家でやらせてもらったけど、今は大分進化してるんだろうなぁ」

遥がゴーグルを付けると、ヘッドホンから自動で音声が流れてきた。「これからあなたが体験する世界はめくるめく冒険の世界。冒険に疲れたら現実世界で休むことも、現実世界に疲れたらいつでもここに戻ってくることができます。さぁ、ゆけ!ドラゴンマスターよ!」

 

ドッシーーーーン!!

 

「いった、いたたたた。な、何何?もう始まったの?」

遥は気付くと、両手に大きな卵を抱えていた。

そして、遥が顔を上げ辺りを見回すと、、

ギャーギャー、ウーキッキッキ、ホーホー、、、

「み、密林ーーーー!?」



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第2話 密林での戦闘

遥は卵を抱えながら、恐る恐る密林を進んでいく。

密林は、葉が異常に大きかったり、蔦のような物がぶら下がっていたり見たこともない植物ばかりだった。

おまけに、常にどこからか鳥なのか猿なのか分からないような動物の鳴き声がしている。

(大丈夫かな、なんか毒蛇とか毒蜘蛛とか、他にも、他にもお化けとか、、そんなの出てこないよね?)

(しかし〜、新しいチャレンジとはいえドキドキするなぁ、でも、、楽しいかも)

(小さい頃にやったゲームは、大抵敵をバジバシ倒して、お金を貰って、よい服買って、ホテルでフカフカのベッドで安眠、、こんなんじゃなかったっけ笑)

すると突然、背後から強烈な衝撃が走った。遥は前のめりに倒れ、卵はコロコロと前方に転がった。

 

「痛った!何何何⁈」

後ろを振り向くとそこには、大きな出っ歯のウサギがニヤニヤしながら佇んでいた。

(何こいつ⁈ もしかして、これがゲームの敵ってやつ?)

遥が出っ歯ウサギを凝視していると、出っ歯ウサギは遥と目を合わせながら、ゆっくり卵の方に視線をやる。

出っ歯ウサギはサッと身を翻すと、たまごの方に跳ねて、オレの物だと言わんばかりに、たまごを頭の上に掲げステップした。

「ちょ!ちょ!ちょ!っと待って!それは、それは多分大事な物!返して!」

すると出っ歯ウサギはまたも遥かに蹴りかかった。

「痛い!」

遥は地面に倒れ、動揺しながらどうしたら倒せるか、何かないか、手で辺りをまさぐった。すると遥の腰に巻かれたベルトに短剣らしき刃物が刺さっていた。

(はっ、こ、これだ!刃物でえい!なんて現実世界では気が引けるけど、ゲームだもんね)

遥は短剣を抜くと、飛びかかってきた出っ歯ウサギを一突きにした。

と、思ったら身をかわしたウサギの蹴りをもう一撃喰らった。

「ちょ!手加減してよね、まだこれゲームの始まりでしょ?」

当然、遥のそんな言葉には聞く耳持たず、飛びかかる出っ歯ウサギ。

遥は一瞬、出っ歯ウサギの眉間が赤く光った気がして、とっさに短剣を眉間に振り下ろした。

出っ歯ウサギはギャッと声を上げ動かなくなった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、た、倒せたじゃん」

遥は服に付いた土埃を叩きながら立ち上がった。

「…ギュルルルゥ〜」

「は、お腹空いたなぁ、家に帰ってそのまま始めたから、うーん、かれこれおやつの時間か」

(お腹空いたけど面白いからこのまま、この卵を…)

じっーー…と遥は両手に掲げた卵を見つめた。

 

ふと、卵越しに行先を見上げると、そこには小さな村らしきものがあった。



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第3話 ハズレの卵

お腹を空かせた遥が、何やら綺麗な植物であしらわれた村のゲートを潜ると、村の中には小さいながらもお店が数店出立ち並んでおり、買い物をしている村人や、辺りを走り回る子供達で、そこそこ賑やかな様子だった。

遥が市場で売られているターキーに目を取られていると、2人の少年達が近づいて来て

「あ、オネェちゃんまだ卵孵化させてないの?」

「おっそーい、オレ達なんて見てよ」

すると2人の少年の間から、青と緑の幼いドラゴンがひょこっと顔を出した。

「わ、わ、何それ!その子達がドラゴンってやつ?」

「あったり前じゃん!ゲーム買った時に必ず1つ付いてくるドラゴンの卵を孵化させると、こうやって自分のお付きのドラゴンになるってわけ」と得意げに話す少年。

「俺のは青い卵から孵化した水属性のドラゴン」

「んで、俺のは風属性の緑ドラゴン」

「これが、ゲームのガチャみたいなもんだよ」

「…あ、でも…オネェちゃんのは真っ白だから…多分…ハズレ」

「ガクッ…て、え、ちょ!ハズレなの?」

「まだ分からないじゃない、物凄く可愛いくて強い子が産まれてくるかも!」

「ま、宿屋に孵化機があるからやってみたらいいじゃん、じゃーねー」といって2人の少年は走り去って行った。

 

(ふぅ〜、何なのよ、とにかくお腹空いたし、一休みしたいなぁ)

遥が辺りを見渡すと、宿屋『ヤドヤン』…(な、なんてストレートな名前!あそこに入って、美味しいもの食べて休も!)

 

「ごめんくださーい…」(チリン、チリン)

遥がドアの隙間から首だけ出してキョロキョロしていると

「あ、いらっしゃい!今日は泊まり?卵の孵化?それともセーブ?」

と話しかけてきたのは自分と同じ歳頃かと思われる少年だった。

「あ、え、えーと、えーと…その…食事を…」

「ははははっ、面白いお客さん!分かった食事ね」

と言って、少年はカウンターの脇の扉から奥に入っていった。

遥は部屋の中をぐるっと見回し微笑んだ。

(なんか楽しい。だってこんな世界って現実には…)

暫くすると、少年は奥から出来立てホックホクのターキーを持ってきてくれた。

「はい、どーぞハラペコさん」

「わぁ、最高!」

遥は抱えていた卵を隣の椅子の上に置いた。

「いっただっきまーす!」

少年はそんな遥をニコニコしながら見ていた。

「あ、君まだ卵孵化してないの?」

「うん、私まだついさっきゲーム始めたばっかりで、何にも分からなくて、これどうしたらいいんだろ?」

「それなら、そのソファーの横にある孵化機の中に置いとくといいよ。暫くしたら卵からかえるからさ」

「ありがとう」

「あ、あと今日はその〜…宿泊もお願いします」

「かしこまりました、ハラペコさん」

「ちょ!何その呼び方!まるで私が食いしん坊みたいじゃない」

「え、違うの?」

「違わなくはないけど、、」

 

「これこれ、ピート。お客様をからかうでない」

「あ、お爺ちゃん、いつからいたのさ!」

先程ピートが立っていた宿のカウンターには、白い髭を胸の辺りまで生やした1人の老人が立っていた。

「どうも、今晩はお世話になります」

「あ、それからピ、ピートさん、お風呂も入れるかしら?」

「かしこまりました、ハラ、」

「遥です。私の名前」

「かしこまりました、遥さん」

3人は顔を見合わせて笑い合った。

 

こうして、初めての宿屋の夜は更けていった。



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第4話 ピート

 

〜〜〜〜翌朝〜〜〜〜

「このパン美味しい!」(ゲームの中でもこんなにリアルに味を感じれるなんてすごいなぁ…)

遥は頬いっぱいにパンを頬ばり、満面の笑みを浮かべた。

 

「美味しそうに食べるなぁ、良かった、たまたま市場で焼き立てが売ってたから」

「焼き立てが売ってるなんて珍しいのぉ」

「お爺ちゃん、おれはいつも買い出しに行ってるから、大体どこの店で、いつ新鮮なものが売られてるかっていうのは把握してるんだ」

「すごい!さすが宿長!」

と遥が言うとピートは

「宿長…はは、まぁ実質そんな感じか」

 

「ところで、ピートさんは…」

「ピートでいいよ」

「ピートは、何でまたそんなに若いのに宿屋の仕事を?お爺ちゃんと2人?」

ピートは食べていた手を止めると、だまったまま、窓から見える木の枝をぼーっと見つめた。

「あ、何か変なこと聞いた?」

「…いや、ちょっと考え事」

「ピートはな…」

「お爺ちゃん!」と睨むと

「…もう腹一杯だ、ドラゴンの様子見てくる」

とそそくさと2階へ行ってしまった。

 

お爺さんは葉巻に火をつけると、ゆっくり話し始めた。

「ピートは、幼い頃に両親を亡くして、それから祖父である私が預かっておるんじゃ」

「私が足を悪くしてからは、この宿の仕事もよくやってくれて大分助かっている。あの子には感謝してもしきれんよ。」

 

「なるほど、そうだったんですね」

遥は少しバツが悪そうに席を立とうとした。

「それから、ずっと待ってるんじゃよ、あの子は」

「待ってる?」「待ってるって何をですか?」

「伝説のドラゴンマスターがこの地を訪れるのをじゃ…」

「伝説のドラゴンマスター?そんな人がいるんですか?」

「ワシにも分からんよ。ただ、昔から言い伝えがある、『伝説のドラゴンマスターは稀代のドラゴンと現れ、地は割れ、空を裂き、一閃の光で悪を断つ』」

「そんないつ来るかも分からんものを待っているのじゃよ、両親のために…」

「おっと、また話過ぎるとあの子に怒られるわい」

お爺さんは人差し指を口元にやると、ウィンクしました。

 

暫くするとピートはドラゴンを連れて、2階から下りて来ました。

ピートが連れているドラゴンは、青い鱗で覆われ、まだあどけなさが残っているが、どこか凛とした感じがするドラゴンだった。

「わぁ、すごい!それがあなたの相棒ね」

「そうさ、おれが大事に育てて来たドラゴン」

「まだ成竜にはなってないけど、色んなことができるんだ」

「お爺ちゃん、少しこいつと散歩に出てくるよ」

といってピートがドアを開けると

「待って、私も行く!」

といって遥はピートに付いていった。



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第5話 仲直り

宿屋を出ると、2人は暫く黙って歩き続けた。

 

「あの〜、さっきはごめんね」

遥はピートの様子を伺うように話始めた。

「あんまり、いきなり人のプライベートなこと聞くもんじゃないよね」

 

「いいよ、俺のほうこそごめん」

「普段はお爺ちゃん以外に喋り相手もいないし、まぁ、その話し相手が増えただけ、楽しいよ」

 

(ホッ、遥は安心して胸を撫で下ろした)

 

「毎日、買出しして、部屋掃除して、料理作って、ラルと戯れて、、少しだけの希望を持って待つ」

「待つって、伝説のドラゴンマスター?」

「ん?なんで知ってるの?」

「…あ、お爺ちゃんのやつめ」

「…ドラゴンマスターっていい奴ばかりじゃなくてさ、おれは両親を悪いドラゴンマスターの奴らに殺されたのさ」

「あ〜、私また変なことを…」

「いいんだ、今度は俺が話したくて話してるんだ」

「だから、待ってるんだ!そいつらを一緒に倒してくれる伝説のドラゴンマスターが現れるのを」

 

「遥の方はどう?」

 

「私は、、、私もおんなじかな」

「毎日代わり映えのない退屈なことを繰り返しながら、、でも何とか諦めないで退屈な日常を変える何かを探してる」

「まぁ、私のはピートが待っているものに比べたらお気楽なもんだけどね…」

「それは違うと思う。みんな、、そういう普通の日常で考えながら、悩みながら、それでも人生を変えるような何かを探しているんじゃないかな。」

「だから、それはそれでお気楽じゃないというか…」

「…ピートって優しいんだね」

 

「あ、そうだ、ラルを運動させに行く前に、市場を案内するよ」

「小さな市場だけど、美味しいものや、たまぁに掘り出し物があったりで、宿で出す食事の買い出しにかこつけて毎日行ってるんだ」

「うん、行ってみたい!」

 

〜〜〜〜村の市場〜〜〜〜

 

「うゎっ、これ何⁈気持ち悪い」

「それは、ゴブリンの眼玉だよ」

「この辺りの地方で、たまに出没するんだけど、珍味だね、スープの出汁に使ったりする」

「おぇっ」

「ちょ!私が来てからこの食材使ってないでしょうね」

「ははははっ、大丈夫、一粒、いや一玉だけにしといたから」

遥がびっくりして目を丸くすると

「嘘嘘、使って無いよ」

「もー!何なの!」

 

「この辺りは骨董品や武器なんかを売ってるお店だね」

「へぇ〜、すごい、あ、あれ見て!物凄く大きな剣!」

「あれは、、大剣だね、よく大柄の屈強な男が持ってるよ。」

「後々でいいけど、この世界では自分で扱う武器というか職種を決めていった方がいいよ」

「そうすることで、人間も成長して相棒のドラゴンの力になることができる」

「へぇ〜、知らない事ばっかりでなんか全てが新鮮」

 

「あ、調度この先が広場になってるから、そこでラルを運動させて行こう」

「ドラゴンの運動…うん!いこ!」



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第6話 襲来

村の外れの広場に着くと、ピートのドラゴンは嬉しそうに走り回ったかと思うと、羽をバタつかせフワッと中に浮き旋回したりした。

 

「ラル、あんまり遠くにいくなよ!」

「ラルって可愛い名前だね」

「そう?俺が付けた名前なんだけど、癒しって意味の名前なんだ。」

「私にもこんなドラゴンの相棒が生まれてくるかと思うと楽しみだなぁ」

「そうだね、遥のドラゴンもじきに孵化すると思うよ」

「そしたら思いっきり可愛がってやるといいよ」

「ドラゴンは、ペット的な感覚で育てる人もいれば、戦闘訓練をして冒険の戦力にする人もいるんだ。」

「いずれにしても、ドラゴンとの信頼関係が大事なんだよ」

「そっか、ドラゴンとの信頼関係が大事なんだね。」

「時間が経つと、幼竜から成竜になって、そこからはそれぞれ色んな能力を身につけて様々なランクに成長していくけど、1匹として同じ個体がないのは人間と一緒さ」

 

「そう言えば、聞いてよ!私この村に来る時、突然出っ歯のウサギに襲われて、何と!この腰にある短剣でやっつけたの。えっへん!」

遥は両手を腰にあて、得意げにしました。

「お、それはすごいな!人間も強くなって、ドラゴンと協力し合うのがこの世界のルールなんだよ。」

「俺も、ピートもまだまだ強くならないといけない…」

 

とその時突然、村の方から、キャーッと悲鳴が聞こえ、火の手が上がるのが見えました。

「何⁈」

遥とピートは急いで村の方に走って戻った。

すると、辺りは木々が燃え、熱さで空気が歪んでいた。

そして、いつかの市場で会った少年達が怯えて指を刺しながら

「あ、お姉ちゃん、あそこ!」「あいつらが急に村に火を放ってきたんだ」

遥が、指差す先を見ると、そこには2人の成竜を連れた男たちが、市場や民家を無茶苦茶に荒らしていた。

 

「ケケケケケ!楽しいなあ!調度レベルアップしたドラゴンの火力を試したかったとこよ」

「こんな小さな村、クソガキが連れる幼竜しか居ないと踏んだが、案の定、成竜はいないみたいだなぁ」

「よ〜し、じゃあ今度は俺のドラゴンちゃんの炎をひと吹だ!いけ!」

ボォォォーーー!!!

炎はピートのドラゴン ラル目掛けて放たれ、ラルはバタっとその場に倒れのたうっている。

「やめろぉぉ!ラルは何も悪いことしてないし、戦闘訓練もまだして無いんだ!」

「ケケケケケ!クソ弱ぇ!」

「これ、炎スキルあと何レベか上げたら、ワンパンじゃね?」

「はっはっは!あるあるだな!」

「くそっ!くそ!」

ピートはラルに覆い被さり、拳を地面に打ち付けている。

遥は、突然起こった惨事に震えて、ただただ立ち尽くすことしかできなかった。

 

とその時、物凄い勢いの炎が男達と成竜を包んだ。

「ギャーーーーー!!」

 

遥とピートはハっと振り返り、炎が放たれたその先をみると、そこには…。



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第7話 ドラゴン

宿屋の上空から、見たこともないピンクの幼竜が炎を吐いていた。

「く、くそぉ〜、な、何だ?何が起こった?」

「あ、あれは幼竜…?あんな色見たことないぞ」

 

「あ、あれはもしかして…」

「え、遥って食パン好きだったりする?」

「うん、大好き!ってこんな時に何聞いてるのよ!」

「やっぱり。いや、ほらあれ、あのピンクの竜のネックリング見てよ」

「食パンのマークが刻印されてる」

「え⁈ え⁈ どういうこと?」

「いや、今は気にしないで、急いで逃げよう!」

ピートはラルを背に担ぐと、遥達に首で宿屋の方に走るよう合図した。

 

「あ、ああ…!おい、あいつまた炎を貯めてやがる、もう一発来るぞ!」

「あの勢いの炎はやばい、逃げろ!早く逃げるんだ!」

と言って男達は急いでドラゴンの手綱を締め、飛び立っていきました。

 

 

宿屋に戻ると、ピンクのドラゴンは、地上に降りてきて、遥かにすり寄る様に近づいた。

「え!っこの子ってもしかして」

「そうだよ、遥のドラゴンが孵化したんだ」

遥はまじまじとドラゴンを見ると…。

グワっと両手でドラゴンを抱きしめた。

「始めまして、私は遥。その、あ、あなたの相棒よ!」

 

 

〜〜〜〜宿屋〜〜〜〜

お爺さんは、遥と戯れ合うドラゴンを見ながら

「しっかし、驚いたのぉ。こんな幼竜があれ程の炎を放つとは」

「ああ、あんなの俺も初めて見た」

「お爺ちゃん、、、これはもしかしてってこともあるかな?」

「ふむ、、、それこそ神のみぞ知る…じゃな。」

 

「あ、そうだ、この子に名前付けてあげなくちゃ」

ピートはすかさず、

「ピンクだからピン!」

「キルト…うんうん、キルト!あなたは今日からキルトね」

「いいね!遥って裁縫好きなの?」

「うぅん、この子の顔を見てたら思い浮かんできたから、きっとこれがいいんだって思って…」

「キルト、これから宜しくね、一緒に色んな所に冒険に行こ!」

キルトは遥に甘えるように持たれかかたった。

 

「あ、そう言えば、私が食パン好きって何で分かったの?」

「だってほら、キルトが首に付けているリングを見てみなよ」

「ネックリングには、持ち主のドラゴンマスターが1番好きな物が刻印されるんだ。それは食べ物かもしれないし、物かもしれない」

「ドラゴンマスターとドラゴンは一身一体という訳じゃよ」

「だからみて、ラルのネックリングには俺が好きなロッドが刻印されているのさ!」

 

〜〜〜翌朝〜〜〜

「さて、そろそろ行こっかな!冒険に!」

ピートは荷造りをしている遥かをじっと見つめると

「俺も、、」

遥はピートの方に振り向くと、ピートの次の言葉を待つかのように動きを止めた。

ピートがお爺さんの方を見ると、お爺さんは

「ピート、おまえの人生を生きなさい。ワシのことは心配せんでも大丈夫じゃ」

「ほれこのとおり!」と力瘤を作って見せた。

ピートは

「俺も、俺も一緒に行きたい!」

 

「もちろん、良いよ!」

遥は元気に応えると

「さーて、私達の冒険の始まりだね!」

と片手で拳を作り高らかに掲げました。

 

(さてと、ここらでセーブっと)遥がそう思うと、遥はブルーのウィンドウをタッチして、ログアウトした。

 

 

〜〜〜現実世界の遥の部屋〜〜〜

 

遥はゆっくりゴーグルを置くと…

「面白い!めっちゃ面白い!すっごく面白い!!」

遥の声は、高らかに夜空に響いた。

 



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第8話 ガリ勉君

〜〜〜〜教室〜〜〜〜

 

休み時間になると、男子生徒達はまたゲームの話をしていた。

遥は自分の席に座ったまま、耳をそば立てずにはいられなかった。

 

「あ、おまえそう言えばまだフレンド申請くれてないじゃん」

「え、だって名前知らんもん。LINEでユーザーID送っといて」

「おけ」

「ところでガリ勉、おまえはどこまで進んだ?」

と勉強も運動もできて、クラスで1番の人気物である隼人は、学校で右に出る物はいないという博識で、仇名はガリ勉と呼ばれているメガネの

田上君に話しかけた。

「私は…やっとドラゴンが孵化してアンドレアって街の図書館に着いたところですね〜」

「ネックリングの刻印は魔術書ですし、何か呪文のスキルでも身に付けようと思ってですね〜」

(あ、ネックリングってあの、、私は食パンのやつか)

(て、スキルとか何とか、あの刻印何かに関係するのかな?

私の食パンって…何のスキル? そして、ガリ勉君の魔術書って笑)

「ほぉ、おまえまだそんな所?おれは数日早く始めてたから、ドラゴンには俊足のスキルを覚えさせて、敵の攻撃も避けるのなんの!」

「それでさ、港町に辿り着いて、隣の大陸に渡ってみようかなって思ってるとこ」

「まぁ、長くプレイして成長していくゲームですから、数日の差なんて何にもならないですよね〜」

「お、何だよおまえ負け惜しみか」

「ま、どこかで落ち合って、一緒のギルド入ろうぜ!」

 

遥はいても立ってもいられなくなって、バンっと両手で机をついて立ち上がったその時、、調度、授業が始まるチャイムが鳴り始めた。

遥は大人しく席に座り直し、授業を聞き始めた。

(はぁ、暁のドラゴンマスターの事が気になって全然先生の話が耳に入ってこない)

(まぁ、ゲームを始める前の、ただ退屈と思いながらウトウト時間を過ごしているよりかはマシか)

遥がもう授業を聞いているのも限界だぁ〜と思ったその時、就業のチャイムが鳴った。

 

 

遥は、ガリ勉が1人になるのを見計らって、ガリ勉の机のほうに行き話しかけた。

「あ、あのぉ〜ガリ勉君さ、、」

「さっきの休み時間話してたのって『暁のドラゴンマスター』のこと?」

「そうですねぇ〜」

「ちょっと聞いてもいい?」

「ん?もしかして、宇多野さんもプレイしてるんですかね〜?」

「誰にも言わないでね。…うん、そう、やってる」

「それで何が知りたいんですかね〜?」

と言われて遥は言葉に詰まった。

(あ、特に聞きたいことなんて考えてなかった、ただこのゲームについて話したかっただけだった)

「あ、あのぉ〜、このゲームってどんな世界なの?」

「…それはまた漠然としていて、それでいて崇高な質問ですね〜」

 

「この世界は、プレイヤー毎に体験するシナリオが全て違っていて、何千、何万もの物語で構成される世界なんですね〜」

「まぁ、その点は人間世界と一緒ですけどね〜」

「それと、シナリオもそうですが、ドラゴンのスキル、ドラゴンマスターのスキル、武器なんかもプレイヤーの数だけ存在するんですね〜。故に無限の可能性を秘めているんですね〜。例えば突然変異が起こったり、人間界では考えられない奇跡が起こったり。」

「私はこのゲームで正にその点が1番好きなんですね〜。て違うか宇多野さんは、好きな所聞いてるんじゃなかったですね〜」

 

「そ、そうなんだ、ありがとう」

「でも、少しでもゲームのこと話せて楽しかった。また今度詳しく聴かせてね!」

と遥が立ち去ろうとすると

「あっ、そうだ宇多野さん、1つだけ、1つだけ気を付けて下さいね〜。常闇のドラゴンマスター達には絶対に近付いたら行けないんですね〜」

「常闇のドラゴンマスター達?…んー…分かった、近付かないようにする、ありがとう!」

 

(さっ、帰ってまた直ぐに続きしよっと!)



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第9話 常闇の者達

〜〜〜〜大陸最北の城〜〜〜〜

  

ドンッ、ドンッ、大理石でできた大広間に衝撃音が響く。

「…ふーん、それで、生まれたての幼竜1匹にやられて戻って来たんだ」

 

「ヒッ、お許しください、俺達も気付いたら炎に巻かれてまして…」

 

「そ、その通りでございます」

 

「言い訳は良いよ。おーい、食べちゃって〜。」

 

その少年が指を鳴らすと同時に、ドスンッ、ドスンッと壁の奥から音がし始めたかと思うと、今まで何も無かった壁から、黒翼の巨大な成竜が現れた。

黒翼の竜はゆっくり2人の男達の方を一瞥すると、足音を鳴らしながら向かっていく。

 

「ヒィ!!お助け下さい!どうかご慈悲を!」

黒翼の竜は、丸呑みにせんばかりの勢いで男に噛み付いた。

1人目の男は、噛まれたがダメージの後は無いようだ。

 

「あ、あれ!?傷は?」

「ははっ、生きてる生きてる!」

 

2人目の男は、噛まれた男を見ながら

「次は俺の番なんだ…みんな消えちまうんだ…」

 

2人目の男も、噛まれた。すると次の瞬間、少年の前に居た2人の大柄な男達は、まるで吹雪のような綺麗な結晶になり、ゲームの世界から跡形もなく消えた。

 

「うんうん、美味しいねぇ、嬉しいねぇ。これでまた昨日より成長できたね。」

「僕はさ、君を成長させる為ならどんな事も厭わないよ」

「それにしても、弱い者は要らないんだけど…『六刻』でも無いし仕方ないのかな。」

 

少年は納得した様な感じでそう言った。

 

「水刻さぁ、念の為その幼竜と持ち主のドラゴマスターの情報を集めといて」

 

すると、少年の前に並んでいた何人かの男の中から1人の男が一歩前に進み応えた。

「かしこまりました。最近はプレイヤーも増えていて、注意して情報網を張っておかないと、どんなアンユージュアルな事が起こるか分かりませんからね。私の軍から誰かを遣わせます」

 

〜〜〜〜城門前〜〜〜〜

城は深い霧の中に荘厳に佇み、城の前には大きな6つの門が立ち並ぶ。どの門も人の背丈の10倍の高さはあるだろうか。

静けさに包まれた城の辺りに、ゆっくりと門が開く音が鳴り響く。

 

「水刻様!水刻部隊、出動準備完了致しました!」

「ああ、ご苦労。適当に近くにいる野良と合流して情報を集めて来い。」

「かしこまりました」

「まぁ、どうせ大した事のない、いつもの偶然だ。こんな雑用ばかりで、どうしたもんだか…」

 

キェーーー!とドラゴンの鳴き声が響いた後、さざ波のようなマークが刻印された門から、数匹のドラゴンとそれに乗った男達が飛び立っていった。



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第10話 武器を求めて

「うわぁ〜気持ちいいね!」

 

遥とピートは晴れ渡った、どこまでも続く草原を歩いていた。

真夏の入道雲のような雲が浮かび、2人の旅の始まりを喜んでいるかのように空は澄み渡っていた。

 

ピートは地図を片手に

「さてさて、何処に行こうか」

「んーそうだなぁ、あ、俺は今まで使っていたロッドを持ってきたんだけど、遥は何か武器って持ってる?」

「私は〜、あ、この短剣ならあるよ」

「短剣かぁ、しかもこれめちゃくちゃ初期装備のやつだなぁ…」

「よし、これからのことを考えたらもっといい武器が必要だ。

街に武器を探しに行くってのはどう?」

「いいね、ワクワクする!」

「そうだなぁ、ここから1番近くて武器が手に入りそうな街は、ロメオの街だなぁ、よし、ここに行こう!」

 

遥は、2人の前を歩きながら戯れ合うラルとキルトを見て

「あ、そう言えば、ドラゴンマスターはドラゴンに乗れるんじゃない?」

「こう何というか、片手で手綱引いて、行け!みたいな感じで」

「はは、そうだね、おれもラルに少しは跨って飛ぶことならできるよ」

「いくよ!見てて!」

というとピートはラルの方に勢いよく駆け寄り、バッとラルの首元に飛び付いた。ラルは後ろに目をやると、少し驚いた様子で勢い良く上昇しようとした。するとバランスを崩し、ピートを引きずるような形で右に曲がりながら突進して行った。

「うわわわわっ!おいおい、どこいくんだよ!まだちゃんと乗ってないぞ!」

 

「ははははっ、全然乗れてないじゃん!」

「それなら、私とキルトの方が上手くいくかも!」

「キルト!お願い!」

と言うと、キルトは遥の後方に旋回して近付くと、遥の股の間から勢い良く首を出した。

「わわわわわっ!」

遥も急なキルトの動きにバランスを崩し、何とか片手で手綱を握りながら、キルトの背中に仰向けになり、空を見ながら進んで行く。

 

「はははははは!遥の方が全然ダメじゃん!」

 

「ダメじゃない!私はそう、空を見たかったのよ!」

「さっ、このまま街までいくよ〜!」

 

「ははははっ!」

「ははははっ!」

 

 

〜〜〜〜ロメオの街〜〜〜〜

 

「うわ〜、なんか大きい!」

(まるでヨーロッパのどこかの国に旅行に来たみたい!)

「これが街ってやつかぁ、俺もずっ〜とあの村で育ってきたから、街に来るのは初めてなんだ」

 

「いらっしゃい!いらっしゃ〜い!」

「さぁ、さぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!今日だけの特売価格!」

「今この大斧を買うと、こっちの剣までついて来ちゃう!」

と、がたいの良い、頭にバンダナを巻いた男が客引きをしている。

 

「うわ、良さそうじゃない!大斧と剣も付いてくるだって」

「いやいや、遥、あっちも見てよ!」

ピートが指差す方をみると店の入り口に大きなロッドが刺さっており、[どんな魔法もあなたのもの]と書いてあった。

 

すると、頭にバンダナを巻いた男は

「おいおい、お姉さんとお兄さん!あんなの嘘っぱちだ!」

「おれの店見てかない?大斧や剣だけじゃなくて、双剣、大剣、魔法のロッドなんだってあるぜ〜」

「それに、店まで来てくれたら特別にいい物見せてあげるよ」

 

2人はどうする?と言わんばかりに顔を見合わせた…

 

 



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第11話 男と大剣

〜〜〜〜男の店〜〜〜〜

 

「さぁ、さぁ!端から端まで見てってよ!」

といって男は両手を広げた。

狭い店内には、まるでお祭りの出店のように、小さい武器から、当たりとも取れる大きな武器までがぎっしりと並んでいた。

 

「すごい品揃え!」

遥は初めてみる沢山の武器に、どの武器がどうと言うよりは、圧倒されてキョロキョロしていた。 

 

「わぁ」

ピートはロッドが並んでいる売場に目を向けた。

「…なんだか…良さそう」

「…でも俺たち…特にこの子はまだゲームを始めたばかりで、どれがいい物なのか判断つかないんだ…」

 

「おうよ!そういうことなら、そうだな、お兄ちゃんはロッド使いか?」

「うん、刻印もロッドだし」

「それならこれはどうだ」

「これはヘッドの部分に、何処かの森の主が落としたとされる風の宝玉が嵌め込まれているんだ。見たところお兄ちゃんは風属性だろう?」

「うん、うん、良さそうだね。でも……そんなにお金を持ってなくて…」

 

「そうか、分かった。俺はなぁ、若けぇのに対しちゃ甘いんだ…出世払いでいいだろう!」

「おまえが、これからバッタバッタと倒すモンスターで何か珍しいものを落としたら、いつかこの店に持ってきてくれ。」

「え…いいの?…でもやっぱりそんな訳には…」

「その風の宝玉以上の物だ!それ以上の品質でもいい、数でもいい。お宝を持ってくることで約束だ」

といってピートの方に小指を突き出した。

「分かった約束するよ…ありがとう!」

といってピートも立てた小指を男の小指に交えた。

 

「あ、そういえば、良い物見せて頂けるって言うのは、そのロッドの事ですか?」

と遥が聞くと

「お、悪りぃ悪りぃ。いやな、実はな…これなんだ…」

と男は勿体ぶって、後ろから何やら大きなものを持ってきて、両手で大事そうに2人の前に置いた。

 

「こ、これは…大剣?」

「そうよ!ご名答!」

「でもよ、これはそんじょそこらの大剣じゃねぇんだ」

「おれの爺さんの、そのまた爺さんの代から打ち続けられ、磨き続けられた名剣さ。」

といって重たそうに鞘からゆっくり剣を抜いた。

「わぁ、すごい光沢!」

「これすごいや!」

 

「これでぶった斬れば、プレイヤーは勿論、どんな硬いモンスターも

一刀両断できるぜ!」

「おぉぉ!」

「でもよ、一つだけ欠点があるんだ…」

遥とピートは声を揃えて

「何…⁈」

 

「……重過ぎて振れねぇんだ…」

 

「これをこおして、グワッ…と何とか持つ事はできる」

「しかし、この柄と剣のバランスなのか、こうやって振ろうとすると…」

「おっとっと!」

といって男はよろめいて倒れそうになった。

「わわわわわ!大丈夫ですかっ⁈」

 

と丁度その時、バタバタバタッと小さい足音がしたかと思うと、3人の子供達が男に駆け寄った

「ねぇねぇ、父ちゃん何やってるの?」

「仕事仕事!このお姉ちゃん達に似合う武器を探してやろうと…」

「わぁ、ドラゴンだ!すごいすごい!」

と言って男の言葉には耳もくれず、ラルとキルトに触り始めた。

「ちぇっ、聞いちゃいねぇ」

 

「お、ドラゴン好きなの?」

3人は声を揃えて

「うん!」

「よーし、分かった!お兄ちゃんが広い所でドラゴンに載せてあげるよ」

「じゃあ、ちょっと俺は行ってくるから、遥はゆっくり武器でも見ててよ」

「うん、分かった」

「悪りぃ〜な、兄ちゃん!頼んだよ!」

 

 

みんなが出ていくと

「はぁ、ちょっと奮発して作り過ぎちまったなぁ…」

「まさか、授かるだけ授かって、嫁が居なくなっちゃうなんて思って無かったからなぁ」

といって男は視線を落とした。

「そ、そうなんですね」

「まあ、しみったれた話は置いといてだ…」

 

とその時

バタバタ、ガッシャン!と店の入口から大きな音がした。

「お、なんだ⁈ やけに帰りが早えぇな」

と2人が店の入口の方に目をやると…

 

「ダハハハのハ!この僕ちんに似合う武器はあるかな〜」

と太ってサングラスを掛けた男が、自分の髭を人差し指と親指で摘んで伸ばしながらニヤ付いていた。

そしてその隣には、青い成竜が今にも噛みつかんとばかりに牙をむいていた。

 



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第12話 遥なるスキル

「お客さん?……」

 

男が

「アン」

といって指をパチンと鳴らすと、隣にいるドラゴンのネックストラップが青白く光った。

「ドゥ」

そして、ドラゴンが大きく口を開けたかと思うと、大量の魚が宙を泳ぐように出てきた。

「トゥロワーー!!」

と男が叫ぶと、その無数の魚が武器屋のマスター目掛けて飛び掛かった。

 

「キャーー!!!」

「うわ!」

ガラガラガッシャン!!

 

「痛ててててて…おい!何しやがるこの魚野郎!離せ!離せ!」

といって両手両足をバタつかせて噛み付いている魚を払う。

遥は慌てて腰に刺してあった短剣を両手で握って前に突き出した。

「あなた何なの⁈」

 

「先程この店からピンクのドラゴンが出てきたのを見て、珍しいなぁと思いましてね〜」

「それと、すみませんねぇ、僕ちんのペットがお腹が空いていたみたいなので」

 

「今度はそっちのお嬢ちゃんに…トゥロワー!!」

魚達は遥の方に方向を変えると、凄い勢いで突進した。

 

「キャーー!!」

ガラガランッ!

 

遥は、周りにあった武器を倒しながら、地面に仰向けになって倒れた。

 

ダンッッ!

その時、ピートがラルとキルトを連れて戻ってきた。

「どうしたんだ⁈」

キルトはスーーッと倒れている遥の方に駆け寄る。

 

「おやおや、ドラゴマスターのお帰りですねぇ」

「ピンクのドラゴンちゃんも…お嬢ちゃんのドラゴンだったんですねぇ」

 

ピートは状況を察し

「くそっ!」と言って、片手でロッドを握り、指を打ち鳴らした。

するとラルのネックストラップが光り、緑色のシールドのようなもので包まれた。

ピートがすかさずロッドを振り上げると同時に

「トゥロワー!!」と男が叫びながらピートの方を指差す。

 

「うわわわっ!」

ピートは無数の魚のアタックを喰らって店の外に飛ばされた。

 

「うーーん、何だかどの方も歯応えがありませんねぇ」

 

男は再びマスターに近付いて

「せめて」

ドスッ!

「僕ちんに似合う」

ボコッ!

「武器を貰えますかねぇ」

ドカッ!

とマスターを殴り、蹴り倒した。

 

「うぐっ…」

マスターは手で口を拭いながら

「俺は、あの子達の為にもこんな所でやられる訳にはいかねぇんだ」

と立ち上がろうとしたが、再び倒れた。

(マスター…)

 

「では、トドメの…」

 

ピートは

「遥!! 指を鳴らして!!」

遥は起き上がりながら

「え⁈ 指⁈」

「そう、こうして打ち鳴らすんだ!!」

 

「分かった!」

 

パチンッ!

 

すると…………………

 

 

 

何も起きなかった。

 

「だ、ダメか…」

 

遥は、慌てて手当たり次第辺りを弄ると、先程の大剣を見つけ、

もうどうにでもなれと大剣の柄を握った。

 

(え⁈……軽い……)

 

遥はそのまま両手で大きく大剣を構えた。

 

「トゥロワー!!!」

 

無数の魚が宙を泳いで遥に迫る。

 

遥は大剣を一振りし、魚達を地面に叩き落し、二振りし、魚を切り掻き分け、両手で大きく振りかぶって男に斬りかかった。

 

 

ドッフンッ!!!

 

 

「え⁈…… ぼ…僕ちんが真っ二つ…に…」

と男は光る粒子になり消えていった。

 

 

「え⁈ …………」

 

 

「これって…………」

 

 

ピートもマスターも、口をあんぐり開けたまま遙を見つめ続けた。

 



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第13話 指鳴らし

〜〜〜〜翌日 街外れの広場〜〜〜〜

 

ピートは木の杭にもたれ掛かり、杭の頭をパンパンと叩きながら

「よし、じゃあまずキルト、この杭目掛けて炎を吐いてみ…」

ボォォォオーーーーー!!

「熱っつ!熱っつ!速いよ!」

 

「あはははははっ!」

「ねぇねぇ、髪の毛真っ黒だよ」

 

ラルは直ぐさまピートに駆け寄り頬を舐める。

 

「クッ…じゃあ、今度は遥、大剣を振ってみて」

 

「大剣を?何をやろうとしてるの?」

と言いながら大剣の柄を握り

 

「うぅぅぅぅ〜」

 

と何とか持ち上げたかと思うと、手の平でステッキのバランスをとる大道芸人の様に右に左にフラフラしている。

 

「何とか持てるけど……振れない!」

 

「じゃあ、一度大剣を置いて、あいつを倒した時みたいに指を鳴らしてみて」

「あ、指パッチン? オッケー、オッケー」

と大剣を置き、周りを見渡しながら

「それ!」

 

パチンッ!

 

 

間も無くキルトのネックストラップが陽の光の中で鈍く光り始めた。

(ここまではいい…)

 

ササササッ!

ピートは木の杭から離れて

「じゃあ、キルト、またここ目掛けて炎を吐いてみて!」

 

 

ボォォォオォオォオーーー!!!

 

 

「ん⁈ 気のせい?なんか炎の勢いが強くなった気がする!」

 

「じゃあ、今度は遥、また大剣を振ってみて」

 

遥が大剣の柄を握ると

「わっ!軽い!軽くなってる!」

 

遥は何度も大剣をブンブンと振り回してみる。

そして、クルクル回りながら仰向けに倒れ、青空を見つめると

「……楽しい!何これ!」

 

「やっぱりか!」

「遥のスキルが分かったよ!何ていう名前のスキルかは分からないけど、遥のスキルは、ドラゴンとドラゴンマスターの力を増強するスキルだよ」

 

「え?パワーアップ!って感じ?」

 

「そうそう、みんなドラゴンマスターは指を鳴らすことで、ドラゴンとドラゴンマスター自身のスキルを発動させるんだ」

 

「スキルはドラゴンマスター毎に千差万別だから、例えば俺のは

風の魔法のスキルが発動して、ラルにはシールドがかかり、自分は風の魔法が使えるようになる」

 

「で、さっきの奴のは、見たことないスキルだけど、何やら魚が操れるスキルだった」

 

「そして、遥のスキルは物理系のパワー増強スキルだと思う」

 

「そっか、じゃあこの大剣は私にぴったりね!」

「あ、でもマスターの大事なやつ…」

「くれてやるよ!」

 

「え⁈…」

と遥が後ろを振り向くと、肩車をしながら両手に子供達を連れたマスターが立っていた。

 

「でもこれ、マスターの大事なものでしょ?」

「その、先祖代々のとか何とか…」

 

「ああ、大事な物だ。俺の宝だ」

「だからこそ、持っていけ」

「俺が持っていても、武器ってのは使えなけりゃ意味ねぇし…何より…俺はあんなスカッとした一撃で敵を倒すやつは初めて見たぜ」

「姉ちゃんなら、この世界の悪をバッタバッタと倒せるかもしれねぇ」

「おれは、姉ちゃんに賭けるぜ!」

「持ってけ泥棒!」

 

遥はゆっくり微笑みながら、大きく頷いた。

 

 

「よし、じゃあ武器も揃ったことだし、今度は仲間を探しに行こうか!」

「仲間?」

「ああ、パーティーメンバーだよ!」

「いいねそれ!すっごい楽しみ!」

 

ピートは顎に指をあてながら

「俺は魔法系で、遥は物理系……」

ポンッ!と手を叩き

「よし、俺達を助けてくれる回復か支援系のメンバーを探しに行くか!」

 

するとそれを聞いていたマスターが

「お、それならガンガルの森を抜けた隣町に有名なプリーストがいるって噂だぜ」

 

遥とピートは顔を見合わせ

「いいね!プリースト!」

「プリーストを探しに出発だ〜!」

と高らかに手を挙げた。

 



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第14話 ガンガルの森と少女

〜〜〜〜ガンガルの森 入口〜〜〜〜

 

「ここ…入るの?」

とピートは目の前に広がる薄暗い森を前に足を止めた。

 

「…うん…行こう」

「じゃあ、せーので…」

「分かった」

 

「せーの」

 

 

キリキリキリキリホーッホーッホーッウッキッキッキッ

「うぅ、やっぱり薄気味悪いね…」

「ね、遥…」

………

「…遥⁈」

とピートが振り返ると、遥はまだ入口にいて笑い転げている。

「おい!せーので行こうって言ったの遥だぞ!」

 

「ゴメン!ゴメン!あぁ〜、可笑しかった。」

「じゃあ、ドラゴン君達はお化けとか怖くないだろうから、せめて前歩いてもらおう」

と言ってキルトとラルの後から恐る恐る森を進んでいく。

 

暫く進むと突然、グゥゥゥ〜。

「ん?」

 

 

「ごめん私、お腹空いてきちゃった…」

 

「私のお腹を満たすフルーツなんかなってないかなぁ〜」

と辺りを見回していると

「あ、あそこ見て!」

「あれは…リンゴ?」

「そうかな? 多分現実世界のより大きいけど。」

フルーツは高い木の上にたわわになっていた。

 

遥はピートの肩に手を置き、制するように

「ここは私に任せて。私小さい頃から木登りは得意なの」

と言って、背負っていた大剣を下ろすと、手と足で交互に

確かめるように枝を握り登り始めた。

 

フルーツまでもう少しといった所だろうか

 

バサバサ、バサバサと羽音がしたかと思うと

「いたいたいたー!こんな所にいたかぁ」

と水色のドラゴンに跨った3人の男達が現れた。

 

「な、なんだお前ら!」

「今、俺たちは食糧確保中だ!邪魔するな!」

 

「知るかそんなこと、丁度いい。あの女が上にいる間に

この男とピンクのドラゴンを殺っちまおうぜ!」

 

ピートはロッドを握り、キルトとラルも身構える。

 

「ピート、待ってて!今直ぐ下りるから!」

「あれ、何か上手く下りれないなぁ…でも急がないとピートが倒されちゃう…」

 

(クソッ、一度に3人相手か!)

ピートの額から一筋の汗が流れる。

 

とその時

「ギャ!」「アガッ!」「ウエッ!」

と3人の男は順にドラゴンから転げ落ち倒れた。

 

ピートが振り返ると、そこには金髪で長い髪をツインテールにした青い眼の少女が、弓を構えていた。

 

少女は上に向かって弓を引くと、遥が取ろうとしていたフルーツを射落とし、落下してきたフルーツを片手で受けクルッと方向転換して歩き始めた。

 

「ちょっと!それ私が先に見つけたフルーツ!」

 

「見つけたのも、手に入れたのも私が先だけど?」

「ついでに言えば育てたのも私ね。じゃっ!」

と後ろを向きながら手を挙げると再び歩き始めた。

 

「ちょ!待って!返して!」

遥は腕をバタバタしながら

「わわわわっ!」

と言ってバランスを崩し、木の上から落ちた。

 

「遥!大丈夫?」

「痛った…」

 

少女は振り返らず、そのまま歩いて見えなくなった…。

 

「それにしても、何なのあの子…」

 

「あ、あれ!」

と遥が指差した先には、森の合間から大きな一つの十字架と、協会の屋根らしき物が見えていた。

 



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第15話 エチカ ★イラスト有り

〜〜〜〜街の広場〜〜〜〜

 

「よーし、着いた着いた」

「お、重い〜、この剣重いよ〜」

「キルト、ちょっと置かせて」

と言ってキルトの背の上に大剣を乗せ、広場を歩き始めた。

「そして、やっぱりもうお腹空いて我慢できない〜」

「ピート、どっかでご飯食べよ」

「そうだね、俺もお腹空いた。ラルとキルトにも

そろそろ何か食べさせないといけないしね」

 

「あ、あれかぁ、森から見えたの」

広場の中央には大きな十字架を掲げた教会があり、

食糧桶を肩から担ぎ売っている人、ドラゴンマスター達、

修道着を来た修道女や巡礼者など、多くの人達で賑わっている。

 

「やっぱり、有名なプリーストが居るくらいだから、心身深い人達が多いのね」

 

「ん?んん!?」

「あそこ見て!教会の入口に座ってる子」

「さっき、森にいたリンゴ泥棒じゃない!?」

「ほんとだ!さっきの子だ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

(それにしても…あの子、なんて綺麗なの…、

 あんな子、現実世界でも見たことない…)

 

するとその子はポケットからリンゴを出して、

それを口に運びかじった。

「わ〜ん、リンゴが〜…」

 

 

〜〜〜〜教会前〜〜〜〜

 

「ねぇ、どこか美味しい物食べれるお店知らない?」

少女はハルカとピートを一瞥すると

「さっきの…」

 

少女は黙って真っ直ぐ前を指差すと

「あの路地の先に数件あるわ」

 

「あ、あの暖簾が出てるとこね」

「ありがとう!」

遥は少女の隣にいるドラゴンのネックストラップに目を止めた。

「え⁈ あなたもしかしてプリーストなの?」

 

「だったら何?」

 

「意外!だってあなたさっき弓矢持ってたじゃない!」

 

「だったら?」

 

「プリーストってこう…神々しい杖みたいな、そんな武器かな〜って」

 

「……あんた達この世界のプリーストのこと何も知らないのね」

「プリーストには回復や再生だけじゃなくて、攻撃を得意とする者もいるの」

「この街のプリーストは特に…」

 

ギュルルルル〜

 

「遥、もう食べに行こっか」

「ごめんごめん。私達もう行くからじゃあね!」

少女は無反応のまま、もう一つポケットからリンゴを

出して齧り付いた。

 

 

〜〜〜〜料理屋のカウンター〜〜〜〜

 

「美味しそう〜!いっただっきまーす!」

 

店主は遥をチラチラ見ながら

「おぉ、姉ちゃん美味しそうに食べてくれるね〜

大剣使いに、魔法使い? ここらじゃ見ない顔だけど

どっから来たのさ」

 

「マルの村ってとこからだよ」

「マルの村?知らねぇなぁ。」

「ここからは結構離れた小さな村だからね」

 

遥は食事をしながら店主に尋ねた

「あのぉ、この街に有名なプリーストが居るって

聞いて来たんですけど、どなたかご存知ですか?」

 

「有名なプリースト? この街には沢山プリーストいるけど…

エチカのことかな?金髪ツインテールで、青い眼の可愛い子なんだけど」

 

ブーーーー!!

遥は思わず口に含んでいた飲み物を吹き出した。

 

 



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第16話 Help me! God!

夕食を食べ終えた遥とピートは、料理屋の並びにある宿屋に泊まることにした。

 

〜〜〜〜宿屋の部屋〜〜〜〜

 

「わぁ、ここのベッドもフッカフカ!現実世界の私のベッドより全然気持ちいい〜」

と遥はベッドに飛び込み、枕を抱きしめながら足をバタバタさせた。

 

「現実世界?…」

「あ、何でもない!現実は世知辛いな〜ってさ、ははっ」

「…変なの、でも宿屋にいた俺からすると、人が用意してくれた

ベッドってだけで、確かにフカフカで気持ちよく感じる。」

と言ってピートはベッドから起き上がり、リュックからさっきの料理屋で貰った残り物を取り出した。

 

「ほら、ラル、キルト、食べな」

ピートが両手に肉を乗せ、同時にラルとキルトの口に近付けると、2匹は一瞬で平らげた。

「いつもいい食べっぷりだね」

 

「そろそろ寝るか…」

「そうだね、お休み」

 

こうして街の夜は老けていった。

 

 

〜〜〜〜夜中〜〜〜〜

 

「くぅーーー…すぴーー…」

 

「がぁーー…むにゃむにゃ」

 

 

ボォ …

 

ボォォ …

 

 

ガシャン

 

「キャーー!」

 

遥は窓の外の音に飛び起きた。

急いでカーテンを開けると、夜空に流れ星のような火の粉が幾重にも流れている。

 

「大変!ピート、起きて!」

「ん?何だよこんな夜中に、まだ眠いんだけど…」

「窓の外!誰かが街に火を放ってる!速く外に出よう!」

「え?わ、分かった!ラル、キルト、起きて!」

 

遥は急いで大剣を背負い、キルトの手綱を引き階段を駆け下りる。

宿屋を出て街の方を見ると、教会を中心に周りの家々は炎に包まれ、沢山の人々が逃げ惑っている。

 

「襲撃だ!逃げろ!」

「キャーー!助けて!」

「おい、あんた達!ここから速く離れるんだ!」

遥とピートは火の手の方に向かいながら、多くの人々とすれ違う。

 

「ダメだ!遥、火の勢いが強過ぎる、俺たちも逃げよう!」

遥は燃えている家々の中心を見ながら

 

「待って!」

 

 

〜〜〜〜炎の中心部〜〜〜〜

 

(ダメだ…身体が動かない…)

(今度襲撃を受けたら、必ず…必ず仇を取るって決めていたのに…)

エチカは燃え盛る炎の中心で、震えながら動けないでいた。

 

「グヘヘヘヘッ、今晩の飯は随分と美味しそうだなぁ」

エチカは片手で側に落ちていた弓を握るが、手が震えて構えることができない。

(これじゃ……お母さんと変わらないじゃない……)

 

「遥!俺が風を送って入口の炎を弾くからその隙に!」

と言ってピートは指を打ち鳴らし、ロッドで風を送りアーチ状の穴を開ける。

遥はすかさず、指を打ち鳴らしながらアーチの中へ走り始める。

キルトが遥を上空から追う。

 

遥は走りながら

「キルト!炎に…炎を吹きかけて!」

 

キルトが炎を吐くと、その勢いは周りの炎を凌駕し、吹きかける度に炎が消し飛ぶ。

遥の行く手を阻むかのように、火の粉が飛び交い、焼けた木材が幾重にも倒れかかる。

 

「な…何あれ!? ライオン?」

(ドラゴンマスターって人間だけじゃないの?)

遥が炎の中で目にしたのは、半獣半人のライオンの様な生き物とドラゴンだった。

 

 

(あれだけ訓練をして、攻撃魔法や弓だって引けるようになった…でもこれじゃ…)

 

 

「キルト!こっち!」

 

 

(あ、あれは……)

エチカは火の粉の中を進む遥を目にした。

 

遥は走りながら、背にある大剣の柄を握る。

 

「ん?何だ?おやおや、こっちにも美味しそうな…」

とゆっくり振り向く半獣半人に向かって、遥は地面を思いっきり蹴り上げ高く飛んだ。

 

 

……ズバッ!

 

 

遥が着地すると、その後ろで真っ二つになった物体が崩れ落ちる。

 

 

エチカは、遥を見つめながら暫く動かなかった。

 

 

〜〜〜〜広場〜〜〜〜

 

遥は顔に付いた煤を片手で拭いながら

「いや〜でもびっくりした。私があんなに剣を振り回せるだなんて」

「そして、ライオンみたいな化け物を倒したのよ!」

(現実世界じゃ考えられない…パンを片手に全速力で登校する普通の女子高生だもん。これをクラスメイトが見たら…ふふ、想像するだけでワクワクしちゃう)

 

「でも、エチカが助かってよかった。遥すごいね」

 

「あ…まぁ…その……ありがと…」

 

遥は少し間をおくと、笑顔で

 

「うん、当然!」

 

「寝るところ無くなっちゃったろうし、今日は俺たちと一緒に宿に泊まろうよ」

「うん、たくさんお話ししよ!」

 

 

〜〜〜〜翌朝〜〜〜〜

 

街の石畳を朝陽が眩しく照らしている。

「よいしょ」

ピートは靴紐を結び、遥は大剣をキルトの背の上に乗せた。

「じゃ、そろそろ出発しよっか」

 

エチカは黙って荷造りをする2人を見ながら

 

「………あのさ」

 

遥は行く先の朝陽を見たまま

「何してんの?早く行くよ!」

 

エチカは一瞬驚いた顔をした後、笑顔で弓を背負った。

 

 

(よし、セーブっと)

 

 

 



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第17話 フレンド

「へぇ、今日のラッキーカラーはイエローかぁ…」

(あ、この目玉焼きの黄身が黄色だ!)

と言いながら遥がフォークで黄身をつつくと、プチッと勢い良く溢れ出した。

 

遥はテレビの時間に目をやり

「やっばい、もうこんな時間! こっちでも出発しますか!」

と慌ててパンを咥え、鞄を抱えると

 

「いってきま〜す!」

 

と全速力で学校に向かった。

 

 

〜〜〜〜下校時〜〜〜〜

 

遥は校門を出ると自然とゲームの世界に思いを巡らせていた。

 

「うーん、次はどこに向かおうかなぁ。取り敢えずまだまだ強くならないといけなさそうだし、エチカとも仲良くなりたいし…」

「武器は手に入れたし、スキルもまだ何回かしか使ってないけどなんとなく覚えてきた……あ、可愛い洋服を揃えるとか?」

 

とその時、遥の後方から何者かが近付く。

遥は電信柱の影からチラチラと付いてくる何者かに気付き、足速に歩き始めた。

(どうしよう…ずっと付いてくる…)

 

 

 

 

「おーい!宇多野さ〜ん!」

 

「ハァ、ハァ…宇多野さん、宇多野さん、歩くのが速いんですねぇ〜…ハァハァ」

 

「わ!なんだ、ガリ勉君かぁ…どうしたの?」

 

「いやいやぁ、宇多野さんはどこまで進んだかなと思ってですねぇ〜」

と肩を上下に揺らし、息を切らせながら汗だくになっている。

 

「あ、私? えーとねぇ、どこまでって言ったらいいんだろう?

取り敢えず2人と…仲間になったよ!パーティーってやつ?」

 

ガリ勉は片手で眼鏡の端を何度か上げながら

「ふ〜ん、なるほどですねぇ〜。私はパーティーという規模を通り越しギルドに加入したんですねぇ〜。しかも、そのギルドのマスターは…なんと暁のドラゴンマスターなんですねぇ〜」

「そして、先日はゲームがスタートした街から思い切ってフィールドに出て、磨き込んだ魔術で出っ歯ウサギを倒したんですねぇ〜」

 

(あ、出っ歯ウサギって私が最初に出会ったやつか…あれ倒せたのって凄かったのかな?)

「そっか、ガリ勉君すごいじゃん!しかも、暁のドラゴンマスターがいるなんてめちゃくちゃ凄そう!……でも、ギルドって何?」

 

「宇多野さんはギルドを知らないんですねぇ〜? まぁ簡単に言えば、同じ目的を持った同志やフレンドが集まり、切磋琢磨する集団といったところですかねぇ〜」

 

「同志や…フレンド…」

 

ガリ勉は急いでポケットからクチャクチャになった紙切れを取り出すと遥に差し出し

「あ、宇多野さん、宜しければフレンドになってもらえると嬉しいんですねぇ〜」

 

「これが私のフレンドコードなんですねぇ〜。フレンドになればお互いにギフトを贈り合えたり、バトルで困った時は協力ができるんですねぇ〜。左上の青いメニューウィンドウを開くと1番下にフレンド欄があるのでそこから登録ができるんですねぇ〜。今度ログインした際に是非見てみて下さいねぇ〜」

 

遥はそっと紙切れを受け取ると、紙を爪で伸ばしながら

「うん、分かった!色々教えてくれてありがとう!帰ったら早速見てみるね」

「じゃあ、またね」

 

とガリ勉と別れると走って家に向かった。

(速く続きやろっと!)

 

 

〜〜〜〜遥の部屋〜〜〜〜

 

遥はそそくさと部屋着に着替えると、もう動かなくていいようにベットの上に転がっていたクッションを背中にフィットさせゴーグルを付けた。

 

「よ〜し、ログイン完了!で、この左上のメニューから…1番下の…あったフレンド欄!ガリ勉君にもらったコードで検索っと」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ユーザーネーム: ガリスタ

ユーザーレベル: 15

コメント: 今日の勉学は、明日の血となり肉となる

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(あ……そういえばガリ勉君のメガネの色って……イエローだ!)

 

 

 



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第18話 刺客

〜〜〜〜水刻の城〜〜〜〜

 

所々に水が揺蕩う薄暗い城内には多くの魚が泳ぎ、木々の上で鳥達が囀っている。

「あのお方は、古に封じたドラゴンの復活を危惧されているが、そこまで気にする存在か? どう思う婆よ?」

 

「ヒッヒッヒッ、最も底辺のドラゴンマスター達とはいえ、無所属の少女と幼竜に一刀両断されたなど、あのお方の耳に入ったら…放っておくべきではないと思うがのぉ」

 

「そうか…ならばおまえが行け。生捕りにしてあのお方へ献上し、この世界からデリートして頂くのだ」

 

「御意」

 

 

〜〜〜〜王都近くの平原〜〜〜〜

 

「王都なんて楽しそ〜、きっと多くの人達と強いドラゴンマスターさん達も集まっているよね!」

 

「ああ、きっとね。おれも田舎の小さな村から出たことなかったから、これまでの街はもちろん、王都なんて想像も付かないよ」

 

「王都タワー!…なんてあったりして!エチカは王都に行ったことある?」

 

「……私もない。お母さんが居なくなってからは、あの街に籠もりきりだったし」

 

「そっかぁ…。あ、でもすっごく多くの人がいるから、お母さんを探すいい手掛かりもあるかもね」

 

「それはどうだろう…十年間も見つかっていないから簡単には見つからないと思う…」

 

とその時、遥達の上空を何かが通り過ぎたかと思うと、目の前に鋭い目つきのドラゴンに跨った紫頭巾の老婆が現れた。

 

「な、何⁉︎ 何⁉︎」

遥は背中の大剣の柄を握り、エチカとピートも武器を構える。

 

「ヒッヒッヒッ、本当にこんなガキと幼竜が…バインド!」

と言って老婆が指を打ち鳴らすと、ドラゴンの首が異様なまでに膨れ上がり、口から黄色いゴムのような輪が現れた。

 

(な、なんなの…気持ち悪い〜〜〜)

 

「オェーーーーーーー!」

とドラゴンは遥たち目掛けていくつもの輪を吐きかけてきた。

 

エチカはドラゴンに向かって構えていた弓を放ち、遥は指を打ち鳴らし「キルト!炎!」と叫びながら大剣を振り下ろす。すごい風圧と共に遥の剣がドラゴンの首元を襲う。

(こ、この風圧は⁈)

ドラゴンは素早く身を翻し、炎と遥の一振りをかわすと再び遥たちに向かって輪を放った。

 

バシッ! バシッ!

まるで浮き輪を付けたかのように無数の輪が遥たちの身体を締め付けた。

 

「な、何これ⁉︎ 身体が動かない!」

「くっ!うぉぉぉー!」

ピートは全力で輪を千切ろうとするがビクともしない。

キルトやラル達も翼ごと締め付けられ動けないでいる。

 

「ヒッヒッヒッ!その輪はドラゴンの胎内で分泌される特殊な物質で生成されたもの。普通の者では解くことはもちろん動くことすらできぬ」

 

「いったいあなた何者で、何が目的なの⁉︎」

 

「細かいことは知らなくていいのじゃ。これからおまえらを無刻様の所へ連れていくからのぅ…」

 

「無刻? 誰だそれ…」

 

「よし、回収じゃ!」

と言って老婆がドラゴンに首で合図したその時。

 

更に巨大な影が遥たちと老婆を覆う。

遥が空を見上げると、見たこともない大きなドラゴンが降下してきた。

 

「神鋭!」

ドラゴンに乗った男が剣を一振りすると、遥たちを締め付けていた輪が弾け切れた。

 

「むっ!あ、あのネックリングは…暁のドラゴンマスター⁉︎

…しまった、ここは王都の近くじゃったか」

 

その男は老婆の方に剣を向けると

「無刻に伝えろ、何があろうと王都民は全力で守るとな」

 

(こ、これが暁のドラゴンマスター…かっこ良い)

 

「くそっ…引くことにするわい!」

老婆はドラゴンの手綱を一振りし、飛び去っていった。

 

 

 



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