《完結》テイルズ オブ デスティニー〜七人目のソーディアンマスター〜 (灰猫ジジ)
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序章 運命を解き放つ出会い
第一話


テイルズオブシリーズの投稿を開始しました。
基本PS2版ですが、PS版で出てきたりするモンスターなども出てきます。



「ふわぁぁぁ〜! 平和だなぁ」

 

 セインガルド王国一般兵のエドワード・シュリンプ十八歳。彼は王都ダリルシェイドで警備兵を務めている新米兵士である。

 まだ二年目だが、毎日ダリルシェイドを見回っているだけの仕事に嫌気が差してきていた。

 

「おい、エド! そんなこと言ってると先輩達にドヤされちゃうぜ! もっとしっかりしろ!」

「分かってるんだけどさぁ。どうせ相手するのってスリとか酔っ払いとかだろ? そんなんじゃ物足りないよ」

 

 エドワードの気の抜けた声を嗜める同僚。だが、憧れていた仕事とのギャップにエドワードは不満を隠せず文句を言ってしまう。

 同僚も同じ気持ちではあるのだ。憧れていたセインガルドの兵士がこんな退屈な仕事でいいのかと思ってしまっている。

 だが、自分たちがやることがないというのは平和の証だということなのも自覚しているので、文句を言っているエドワードも決して先輩達の前では不満を見せないようにしている。

 

「それにしても聞いたか? ついにあのオベロン社の息子が王国客員剣士になるそうだぞ」

「ああ、聞いたよ。確か……名前はリオン・マグナスだっけ?」

 

 “様”を付けろと同僚に叱られるエドワードだが、そこら辺が少し緩めの人間のため同僚の言葉を無視して話を続ける。

 

「で、その王国客員剣士ってどれくらい強いの?」

「それが将来の七将軍の一人って言われるくらいで、現時点でも七将軍よりも強いと言われているぞ」

「……まじかよ。俺らよりも年下だったよな?」

「ああ。三歳下だって話だ」

 

 エドワードはそんなリオンと戦ってみたいと思っていた。彼は同僚の中でも剣の腕前がずば抜けており、先輩の中でもエドワードに勝てる人間は少なかった。

 強さに自信のあったエドワードはセインガルドの兵士になって、強者との訓練に明け暮れたいと門戸を叩いたのであったのだ。

 だが、周りは自分よりも強くない人が多く、しかも普段は見回りばかりなので不満が出てしまっても仕方がないのであろう。

 

 だが、エドワードは腐ることなく訓練を積み、いずれは己の剣の腕前で七将軍になってみせると思っている。

 そのために日々の業務も退屈ではあるが真面目にこなしているのであった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

『……俺の声が聞こえるのか!? 頼む! 助けてくれ! 俺はここだ!』

 

 その夜、エドワードは夢を見ていた。

 そして、いつも自分に助けを呼ぶ声がする夢を見るのだ。

 

(また、この夢か……)

 

 そして、その夢のあとは必ず同じ場面に飛ぶ。

 

 

 

 

『じゃからと言ってそれで己の道を過つとは……』

『それでもソーディアンマスターか!』

『なんとでも……言うがいい……。僕は……自分のしたことに一片の後悔もない』

 

 

 

 ──たとえ何度生まれ変わっても、必ず同じ道を選ぶ。

 

 

 

 

 

そして、さらに場面は飛び、

 

 

『それとスタン。お前は僕を友達呼ばわりするが、僕はそんなもの受け入れた覚えはない。

僕はお前のように能天気で、図々しくて、馴れ馴れしい奴が……大嫌いだ……』

 

 

 

 ──だから……あとは任せた。

 

 

 

 洞窟に水が入り込み、座りながら水に沈んでいく黒髪の少年を見る。

 その場面を最後に夢から醒めるのであった。

 

(なんで毎日この夢を見るんだ……? 妙にリアル過ぎて実際に起こったことなのではないかと思っちゃうじゃないか)

 

 毎日見るこの夢をなぜか本当に起こったことなのではと不安に思ってしまうエドワード。

 黒髪の少年は誰なのか。そして彼と対峙していた人たちは誰なのか。

 ──最後に自分を呼ぶ声はなんなのか。

 分からないことばかりでモヤモヤしながら毎日を過ごすエドワードであった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

(でも……初めの頃に比べて、かなりはっきりと見えるようになってきたな)

 

 夢を見始めていた頃は、助けてくれと呼ぶ声もほとんど聞こえず、黒髪の少年たちの顔すらぼやけていた。

 だが、今では声もはっきり聞こえるどころか、その声がする場所にも心当たりが出るくらいはっきりとわかる。

 そして黒髪の少年たちの顔も声もはっきりと分かるので、会えば絶対に気付くことが出来るであろうと感じていた。

 

「隙あり!!」

「……ぐっ!?」

 

 エドワードの左腕に衝撃が加わる。

 左腕を抑えて、そのまま蹲るエドワード。そして首元に木剣が添えられるのであった。

 

「そこまで!」

 

 エドワードは現在城の訓練場で模擬戦の最中であった。

 考え事をしていたため、対戦相手に隙を突かれ負けてしまった。

 

「おい、エドワード。大丈夫か? 模擬戦の最中に考え事なんて珍しいが、集中力を切らすと死ぬぞ」

「す、すみません……」

「……もういい。今日は端っこで見学してろ。集中していない奴に怪我されても困るからな」

 

 審判をしていた先輩に叱られ、トボトボと訓練場の端っこに歩いていく。

 壁を背もたれにして座り込むエドワード。しかし夢の内容が気になって仕方がないので、さらに考え込むのであった。

 

「エド。何か悩んでいるのか? 俺でよかったら話を聞くぞ?」

 

 仲の良い同僚が心配して話しかけてくれるが、エドワードは「心配ない」と笑いかけて話を終えようとする。

 だが、いつもと全く違うエドワードをそのままにしておけなかった同僚は先輩に見学する許可を取り、エドワードの横に座り込む。

 

「そんな顔して心配ないって言われても、放っておけるわけないだろ」

「フリック…」

「話せる範囲でいいから言ってみろよ。話すだけでも案外スッキリすることだってあるんだぜ?」

 

 そう言う同僚(フリック)にエドワードは話すことを決める。

 

「夢を、見るんだ……」

「……夢?」

「そう、夢。俺に”助けてくれ”って言うんだ。初めは場所も分からなかったんだが、今ではどこなのかもはっきりと分かるようになった」

「……そうか。それでそこに行ってみたいってことか?」

「…………うん」

 

 フリックは考え込む。セインガルドの兵士は休みが少ない。週に一度あるが、まとまって休みを取ることが出来ないのだ。

 だからエドワードが行きたいと悩んでいる場所は一日の休みで行ける距離では無いのかもしれないと察した。

 

「……よし。分かった。じゃあそこに行ってこいよ」

「ああ、やっぱりそんなところに行く時間もないし……え?」

「だからそこまで気になるなら行ってこいって言ったんだよ」

「……でも休みなんてそんなに簡単に取れないじゃないか」

 

 そこは俺に任せろと言って、訓練後に上司の元へと行くフリックを見送る。

 ──数日後、エドワードに一週間の長期休暇の許可が下りたのであった。

 

 

 そのまた何日か後にエドワード別の同僚から、「フリックは上司に自分(フリック)の休みは当分いらないし、エドの休んでいる間の仕事やフォローは全て問題なくやるので許可をして欲しい」と交渉したと聞いた。

 親友(フリック)の優しさと行動力に心を打たれて、今後は何があってもフリックを裏切らないようにしようと心に決めるエドワードであった。

 

 

 

 

 そして運命の日が訪れる。

 




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第二話

 一週間の休暇を貰ったエドワードは、休みの前日の仕事が終わってから準備をして当日を迎えていた。

 道具屋でアップルグミを大量に買い込み、少し高いがパナシーアボトルも買っている。

 食料もきちんと用意して、不測の事態が起きても対処できるようにしていた。

 

「よし。これで大丈夫かな。地図も城から借りてきたし、まぁなんとかなるだろう」

 

 細かい地図は城で管理していて販売はされていないため、きちんと許可を取って借りてきていた。

 今回行くところはクレスタの街の南で、ダリルシェイドからは一日〜二日くらいで着く場所にある。

 ダリルシェイドを出たエドワードは、油断することなく進んでいく。

 

(いつもは演習で外に行くことはあっても、今回は一人だからな。モンスターとの戦い方もだが、いつも以上に気を張っていくことにしよう)

 

 とはいえ、出てくるモンスターはアウルやウルフなどといったエドワードからすると取るに足らないモンスターばかりである。

 通常の二年目の新米兵士でも協力すれば問題なく倒せるモンスターなので、雑魚と言ってもいいくらいなのだ。

 モンスターを倒したあとは、”レンズ”という欠片を体内から取り出すことも忘れない。

 

 ”レンズ”というのは、およそ千年前に地球に衝突した巨大彗星の核の欠片である。

 特有の特殊エネルギーを含有しており、レンズから引き出したエネルギーは機械の原動力や医薬品など様々な形で利用されている。

 エドワードは詳しいことは分かっていないが、”オベロン社”というレンズエネルギーを使って日常生活などに役立てている会社もあり、そこで買い取っているので小遣い稼ぎも兼ねて、忘れずに回収することにしている。

 

 疲れたら休憩をして、また歩く。夜になったら深く寝入らないように気を張りつつ休むことで、モンスターからの夜襲にも即座に対応できるようにしていた。

 そしてダリルシェイドを出てから一日半が経った。

 

「ここか……」

 

 森の中をかき分けていった先に小さな洞窟を発見した。

 森の場所は分かっており、洞窟までの行き方も夢の中で何回も見ていたため、エドワードは迷うことなく進むことが出来ていた。

 しかし洞窟を見つけるまでは夢自体も半信半疑であり、むしろ何も無いことでがっかりするのではないかとも思っていた。

 

(ここに洞窟があるってことは、この先に助けを求める誰かが……いるのか……?)

 

 洞窟を発見したことで、夢が正夢だったのだと期待を膨らませるが、まだ洞窟があっただけだと思い直して中に入るために周辺の様子を探ることにした。

 いきなり中に入ってもいいのだが、何か罠があったり、大型動物やモンスターの巣だったりもするからである。

 

(周りには罠はなさそうだな。入り口も見てみたが、何かが出入りした形跡も特にはない)

 

 少し不安を覚えるが、それ以上に好奇心が勝り、洞窟内に入ってみようと決心する。

 中に入ると、全くの闇になっていたので松明に火を灯し、慎重に進んでいく。

 

(洞窟内も夢で見たとおりだな。だが油断しないように進もう)

 

 いつもは少しユルい感じの性格をしているエドワードだが、それは周りに人がいて頼っているからであり、そういった状況でないときの彼はユルさを一切見せない真面目な少年なのである。

 

(確か……この辺だな)

 

 洞窟を一時間ほど進み、少し広めの部屋に到着する。

 夢の中ではここでいつも助けを呼ぶ声がしているが、周りを見ても助けを求めている声の主を見つけることが出来ないのである。

 夢と同じようにエドワードは辺りを見回す。

 

「……声は聞こえないな。やはり夢は夢だったのか……?」

 

 三十分ほど周りを捜索してみるが、何も発見できずに地面に腰を掛けるエドワード。

 夢で見た森を発見して、夢で見た洞窟を発見して、洞窟内も夢で見たとおり。

 

(やっぱり夢かぁ。まぁ可能性として夢で終わるというのが、一番高かったけどさ)

 

 残念な気持ちになってため息を吐くエドワード。

 そこで気を抜いてしまったのが、彼の最大の不覚であった。

 突然、エドワードは身体に衝撃を受けて三メートルほど吹き飛ばされる。

 

「な、なんだ!?」

 

 きちんと訓練を積んできた彼は、咄嗟に受け身を取って体勢を立て直す。

 目の前には熊のようなモンスターがよだれを垂らしながら立っていた。

 

(カ……カンバラーベア!? いや、しかし毛の色が違う。もしかして”亜種”か!?)

 

 モンスターの中には他のモンスターを襲って、レンズごと体内に溜め込み元々の種類よりも強くなるケースがあった。

 それが”亜種”と呼ばれて、一般的には見た目の色が赤くなる。

 強さはレンズの溜め込み具合によって変わるが、大体三倍から十倍以上になるケースもあった。

 

 

【亜種を相手にする場合は最低十人以上で連携をして倒せ】

 

 

 こういった訓示がされるほどに警戒をしなければならない相手なのである。

 エドワードは咄嗟に腰に手をやり、剣を抜こうとするが、

 

(……しまった! 剣が無い!)

 

 エドワードが吹き飛ばされた際に剣を落としてしまっており、剣はカンバラーベア・亜種の足元に落ちていたのであった。

 

(ちっ。なんとか剣を取り戻さないと話にならないぞ)

 

 そんなことを考えているうちにカンバラーベア・亜種が叫びながら襲ってきた。

 エドワードは突進してくるカンバラーベア・亜種に対して右に避けて、そのまま剣のところまでダッシュする。

 剣を拾い上げて、鞘から抜いて構える。

 

「よし。剣があればこっちのもんだ」

 

 カンバラーベア・亜種は避けられたことに怒り狂って、さらに激しさを増して襲いかかってくる。

 突進を剣で受け流し、そのまま横薙ぎにカンバラーベア・亜種の腰を斬りつける。

 

(硬い……! 亜種になるとここまで防御力も増すのか!)

 

 バックステップをして距離を取り、体勢を整えるエドワード。

 しかし、今度はカンバラーベア・亜種はゆっくりと近づいてくる。

 

(俺の攻撃が通らないのが分かって、じわじわと(なぶ)るつもりか……?)

 

 エドワードの前まできたカンバラーベア・亜種は右の前脚を上げて、振り下ろしてくる。

 そのスピードに避けきれないと分かり、剣を使って再度受け流そうとする。

 しかし、受け流されるのが分かっていたのか、カンバラーベア・亜種は途中で攻撃を止めて、左の前脚で横になぎ払いをしてきた。

 エドワードはしゃがむことでギリギリ躱す。

 

(フ、フェイントだと……? モンスターのくせに頭を使ってくるのか!?)

 

 それから数分の間、エドワードは攻撃を躱し続ける。

 避けられない時は剣を使って受け流し、そのまま攻撃を加えたりもするがカンバラーベア・亜種の身体には一切傷が付かない。

 そして、ついに限界がやってきた。激しい音とともに、エドワードが使っていた剣が根元から折れてしまったのだ。

 

(くそ! 剣が折られたか! 支給品の剣だと耐久性に問題があったか……?)

 

 セインガルド王国の兵士には全員に武器が支給される。数打ちの剣ではあるが、そこそこ良い剣ではあった。

 しかし、あくまで”そこそこ”なだけで、剣の腕が上がった兵士はお金を貯めてさらに良い剣を購入するという習慣があったのだ。

 エドワードはまだ二年目のため、剣の腕前は良いがお金がなかったので支給品を愛用していたのだ。

 

(剣が折られたなら、勝ち目はないからもう逃げるしかないな……だが、逃げ切れるのか?)

 

 このままだとジリ貧でやられてしまうのが目に見えている。

 隙をついて逃げることを考えていたが…それが仇となってしまった。

 

「ぐおっ!!」

 

 カンバラーベア・亜種はさらにスピードを増して攻撃してきたのだ。

 急にスピードが上がったことでエドワードは反応しきれずに吹き飛ばされてしまう。

 受け身も取れず壁に激突してしまい、痛みで起き上がることが出来ない。

 

(くそ……これでやられちまうのか……)

 

 夢を確かめにきたのがきっかけで死んでしまうことになる自身に後悔しながらも、今も自分のために休みなしで働いている親友(フリック)のことを思い出す。

 今死んでしまったら彼にも後悔させてしまうと思い、諦めずに立ち上がろうとするが、体に力が入らない。

 カンバラーベア・亜種はそんなエドワードを上から目線で眺めている様子だった。

 

(あの、野郎……め……!)

 

『……を……け!』

 

(なんか……幻聴までしてきたな……俺はここで死んでしまうのか……?)

 

 壁にもたれかかりながら、心が折れかけていた。

 カンバラーベア・亜種に対し怒りはあるが、起き上がることが出来ず、起き上がっても剣も無いため対抗する手段がないのだ。

 誰でも諦めてしまうことは仕方がないといった状況である。

 

『俺を……け!』

 

(な、なんだ?……幻聴が……さっきよりもはっきり……と聞こえてきた……気が……する)

 

『俺を抜け! 早く! 声が聞こえているんだろう!』

「……俺って……誰……だよ」

『お前の右手のところにあるだろうが! 早くしろ! 死にたいのか!』

 

(み……右手……?)

 

 意識も薄れてきた状況で、右手に視線を落としてみる。

 そこには”剣の柄”のような形の石があった。

 

「こ、これ……か……?」

『そうだ! 俺を持て!』

 

 エドワードは意識が朦朧をしながらも”剣の柄の形をした石”を持ち、剣を抜くような仕草をする。

 石だから抜けるわけがないと思っていた”柄”はすんなりと抜けて、右薙ぎのような形で振り切る。

 振り切ったあと、エドワードは意識が落ちていくのを感じた。

 

(くそ……もう……だめだ……)

 

 視界が暗くなっていく中、余裕を持ってエドワードを眺めていたカンバラーベア・亜種の首がゆっくりと落ちていくのが見えていた。

 だが考えることすらほとんどできなくなっていたエドワードは、目の前の出来事を何も認識出来ないまま気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

────その場には『良くやった!』と褒め称える謎の声だけが響いていた。

 




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第三話

「ん……? あれ……ここは……?」

 

 エドワードは硬い地面に寝心地の悪さを感じながらも目を覚ました。

 そして徐々に自分がなぜここにいるのかを思い出していた。

 

(そうだ……! 俺はここでカンバラーベア・亜種と戦ったが、剣を折られて死にかけていたんだった……でもなんで俺は生きているんだ……?)

 

 身体に痛みを感じるが、それはカンバラーベア・亜種に攻撃されたからではなく、硬い床で寝たときに感じる痛みだった。

 ゆっくりと起き上がり、辺りを見回すとそこには首が胴体と離れた状態で倒れているカンバラーベア・亜種がいた。

 そして、少しずつ思い出していく。

 

「そうだ……頭の中で声が聞こえて……石を抜いたと思ったら、カンバラーベア・亜種の首が切れて……俺はそのまま意識を失ったんだった……」

『そうだ。ようやく目を覚ましたか』

「……え!? だ、誰だ!?」

 

 慌てて周りを見回すが、誰もいないのはさっき確認したばかりである。

 頭の中に声が響いてくるので、これが気絶する前に聞こえた声だと確信する。

 そしてエドワードは自分の右手に収まっている不思議な形をした剣を見るのであった。

 

『そうだよ。お前が持っている”刀”が”俺”だよ』

「か……かたな?」

『あー……なんて言えばいいかな? 東の国で作られている剣のことだと思えばいい』

「東ってことは、シデン領とかのことか?」

『そうだ。実際に作られたのは違うけどな。そういう認識でいてくれ』

 

 エドワードはいきなりのことで混乱しており、頭が働いていない。

 それもそのはずだ。”話す剣”など見たことがないし、そんなのが実在するはずがないと思っている。

 

「俺を毎晩夢で呼んでいたのは……君? なのか……?」

『ん? 俺は助けてくれと叫んではいたが、誰かの夢に入り込むことなんて出来ないぞ? あと、俺には”時雨(しぐれ)”という名前がある』

「し、しぐれ……? あ、俺の名前はエドワード・シュリンプだ」

『エドワードか。よろしくな、俺の()()()()よ』

「……マスター?」

 

 エドワードはさらに混乱する。いきなり話す刀に”マスター”と言われても、なんのことか分からない。

 時雨(しぐれ)はエドワードが混乱するのは承知しているようで、ゆっくりと丁寧に説明していく。

 

『ああ、マスターだ。俺の声を聞くことができて、俺を抜くことが出来る者はなかなかいなくてな。

そんな奴に俺を使ってもらえたら嬉しいんだが……幸か不幸かエドワードの剣も折れてしまっただろ?』

 

 時雨(しぐれ)に言われて、カンバラーベア・亜種に折られた剣を思い出す。

 床に転がっている折れた剣を見て── 一年と少し愛用していたため──少し寂しい気持ちになった。

 

(まぁ確かにこの刀のお陰で助かったんだし、今使える武器も無いから別に構わないか)

 

「分かった。これからよろしくな。それと、礼を言い忘れていたよ。俺を助けてくれてありがとう、時雨(しぐれ)

『気にするな。俺も新しいマスターを見つけることが出来たし、お互いに良い出会いができたと思っておこう』

「そうだな。ところでカンバラーベア・亜種はどうやって倒したんだ? あと、俺は傷が無いのはなんでだ?」

『ああ、それはな──』

 

 時雨(しぐれ)はカンバラーベア・亜種を倒したときのことを説明し始めた。

 マスターになった際に使える特技や術などがあること。今回使ったのは〈魔神剣〉という剣撃を飛ばす特技を時雨(しぐれ)のサポートで放ったということ。

 傷が無いことに関しては、時雨(しぐれ)のマスターになった場合、レベルが上がると全回復するということなどだ。

 

「れ、レベル……?」

『ああ、レベルというのは”強さの質”だと思ってくれればいい。あいつを倒して以前よりも強くなった気がしないか?』

 

 時雨(しぐれ)に言われて、身体に力を入れたりして調子を確かめるエドワード。

 たしかにここにくる前よりも力強くなっていたり、身体が軽くなっている感じがしていた。

 

「たしかにその通りかもしれない……」

『それが”レベルアップ”という現象なんだ。モンスターを倒したときに”経験値”を吸収して強くなるんだ。俺のマスターになった特典だと思ってもらっていい』

「そうなのか。じゃあモンスターを倒しまくれば、さらに強くなるのかな?」

『まぁ簡単に言うとそうだな。でも本人の技術が向上しないと、力に振り回されるだけになるからそこは気を付けろよ』

 

 色々と説明を受けて頭がパンクしそうなエドワードだったが、考えるのを諦めて全て受け入れることにした。

 それよりも今はここを離れた方が良いと感じた。

 エドワードは時雨(しぐれ)を仕舞おうと一緒に落ちていた鞘を拾うが、改めて時雨(しぐれ)を見てみるとその美しさに見惚れた。

 

(柄は白なんだな。(つば)が丸いのはなぜだか分からないが、それはまあいい。刀身自体は細長くて先が()っている片刃か。

今までは両刃だったから、そこには慣れないといけないな。それにしても……本当に綺麗だな)

 

『……ん? どうした?』

「いや……時雨(しぐれ)ってめちゃくちゃ綺麗な刀なんだなと思ってな」

『おう! それか! そうだろう? 俺がそのように望んだんだから、もっと見惚れてもらわないと困るぞ!』

 

 笑いながら、褒められたことに満更でもない様子の時雨(しぐれ)

 エドワードは苦笑いをしながら、鞘に時雨(しぐれ)を納めて、荷物を持って洞窟から出る準備をする。

 そして、洞窟から出たときにはちょうど朝日が登ったところであった。

 

「俺って結構な時間気絶していたんだな」

『そうだな! 何回声掛けても起きないから死んだかと焦ったよ』

 

 「出会ったばかりのマスターが死んだら笑えるよな」と笑いながら話す時雨(しぐれ)

 不吉なことをさらっと言う時雨(しぐれ)にまた苦笑いで返すが、ある意味付き合いやすそうで良かったと感じていた。

 

(まぁ性格も合いそうだし、良い相棒になりそうだな)

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 ダリルシェイドに戻ったエドワードは、街に入る前に時雨(しぐれ)から注意を受けていた。

 

『人がいるところで俺に話しかけるなよ。俺の声を聞こえるやつは、周りには”ほとんど”いないからな』

「”ほとんど”? ……ってことは聞こえる人もいるってことか?」

『ああ。俺のように話す剣を持っているやつには聞こえるし、会話もできる』

「……待て待て! 時雨(しぐれ)みたいな刀が他にもいるってことなのか!?」

『俺以外は刀じゃなくて”剣”だけどな。あと六本あるぞ。まぁその辺はおいおい話すよ』

 

 時雨(しぐれ)に会ってから、新しいこと、聞きたいこと、不思議なことが満載になっているが、エドワードは少しずつ慣れていた。

 それでも時雨(しぐれ)以外に六本も話す剣がいる事実には驚きを隠せなかった。

 

(色々と聞きたいことはあるが……まぁ後で話してくれるって言っているし、今は一旦家に戻ってからフリックに戻ったことの報告をしに行こう)

 

 街に戻ったことで本来のユルさが戻ってきたエドワードは、いつもの調子に戻りつつ自宅に帰った。

 数日ぶりの自宅は特に何も変わったことはなく、軽く荷物の整理をしてから城に向かうことにした。

 時雨(しぐれ)は腰に差している。これは万が一盗まれたらということと、時雨(しぐれ)本人もついていくことを希望したためだ。

 

(今の時間なら……フリックは訓練場にいるはずだ)

 

 ちょうど訓練の時間帯だったので、訓練場に向かったエドワードは衝撃的な光景を目にした。

そこで見た光景は、セインガルドの兵士が全員倒れている姿と、唯一立っていた”黒髪の少年”の姿だった。

 

(こ、これは一体どうなってるんだ? なんで全員倒れているんだ……? しかもあそこに立っている少年は夢で見た……)

 

『……ちっ。厄介なやつがいたな』

 

 時雨(しぐれ)の声がしたと思ったら、黒髪の少年が勢いよくエドワードの方を向き、驚いた顔をする。

 手には護拳(ガード)の付いた曲刀を持っていた。

 少年はエドワードに対して話しかける。

 

「……お前は何者だ?」

 




まだまだ原作前です。
エドがレベルという言葉を知らないのは、一般人にはあまり知られていないという認識でいてください。

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第四話

「……お前は何者だ?」

 

 エドワードに話しかける黒髪の少年は明らかに警戒している。

 

「何者と言われても……俺はセインガルドの兵士ですけど」

「兵士がなぜ私服でうろうろしている?」

「今日は休みなので。それで同僚に用事があってここに来たら、この光景ですよ」

 

 エドワードは肩を竦めて少年の質問に答えるが、その仕草が少年のカンに触ったようで手に持った曲刀を向けてくる。

 

「……そうか。じゃあ一般兵がなぜその刀を持っているんだ?」

「なぜって……」

『エドワード、気を付けろ。……()()()()()()()()()()()()()()だ』

 

(え……マジかよ。じゃああの曲刀も喋る剣ってことか。ほとんどいない一人にすぐに会うってどんな偶然だよ)

 

「まぁいい。その刀を抜いてかかってこい。お前も相手してやる」

「え……嫌ですけど」

「……なんだと?」

 

 さらっと勝負を断るエドワードに対し、少年は眉間にシワを寄せる。

 そのやり取りを聞いていた時雨(しぐれ)は大笑いしていた。

 

『はっはっは! エド! お前、面白いよ! やばいな、お前のその空気の読まなさ具合!』

 

(だって今日休みじゃん。なんで知らない少年と戦わないといけないんだよ。しかも真剣って怪我するじゃん)

 

()()()、お前も自分のマスターに諦めるように伝えろよ。久々に会って話したいことはあったが、また次回に預けておこうぜ』

『……まったく。時雨(しぐれ)は相変わらずですね。坊っちゃん、今日のところは引いておきましょう』

「……ちっ」

 

 舌打ちをした少年は”シャル”と呼ばれた喋る曲刀を鞘にしまい、マントを翻して訓練場から去っていった。

 

(何なんだあいつは? 危ないやつだな)

 

 ちょっと生意気な少年を警戒しつつ、倒れている兵士たちの手当てをし始めるエドワード。

 フリックの手当てをしているときに、黒髪の少年について尋ねてみた。

 

「なぁフリック。あの少年は誰だったんだ?」

「……いてて。彼は少し前に王国客員剣士になった”リオン・マグナス様”だよ。兵士の何人かが陰口を言っていたらしくてな。腕を見てやると言って訓練場に乗り込んできたんだ」

 

(そ、そんな理由で……それってただのわがままな戦闘狂じゃんよ)

 

 エドワードは理由を聞いてドン引きする。新しい王国客員剣士には関わらない方がいいのかと思いながら、兵士全員の手当てをして家に帰る。

 多少のゴタゴタはあったものの、フリックにも帰還報告出来たので良しとすることにしていた。

 

「……というわけで、色々と説明してもらいたいわけなんだが」

『まぁ……そうなるよな』

 

 エドワードは夕ご飯を済ませた後、時雨(しぐれ)に対して質問をしようとしていた。

 時雨(しぐれ)もある程度は予測していたようで、質問に答えるつもりではある様子だった。

 

「まず、お前たちは何なんだ? なぜ剣や刀が話すことが出来るんだ?」

『そうだな……俺たちは”ソーディアン”という特殊な武器なんだ。詳しく話すとややこしくなるが、高密度のレンズを使って作られた剣なんだよ。

そこに人間の記憶や人格を投射することで”意思を持つ剣”として生まれたのが俺たちだ』

 

 そこからソーディアンが天地戦争時代に作られたこと。そして天地戦争後に封印されていたが、現代で続々と封印が解けていることなどを聞く。

 しかし時雨(しぐれ)は、ソーディアンとは歴史上六本を指すことも話す。

 

『"ディムロス”、”アトワイト”、”シャルティエ”、“クレメンテ”、“イクティノス”、“ベルセリオス”の六本が天地戦争時代に作られたソーディアンとして知られている』

「ん? 時雨(しぐれ)はソーディアンではないのか?」

『いや、間違いなくソーディアンだよ。さっきもシャルと話していただろ?』

「じゃあなんで──」

『……。悪いが……今はそれを話すことは出来ない』

 

 時雨(しぐれ)はエドワードが深く突っ込んでこようとしたときに話すのを拒否する。

 エドワードが気になってさらに聞いてくると思いきや、「そっか、それならいいや」と話を終わらせる。

 

『話さなくて……いいのか?』

「別にいいよ。時雨(しぐれ)が話したくないんだろ? だったら無理に話す必要なんてないし、聞くつもりもないからな。

それよりも時雨(しぐれ)のマスターになった時に出来るようになったことの確認をしたい」

 

 あまりにもあっさりとしていたので時雨(しぐれ)は少し困惑するが、微かに笑い、『ありがとう』と小さな声で礼を言った。

 それは間近にいるエドワードにも聞こえないほど小さな声だったが、時雨(しぐれ)は確かに救われていたのだ。

 

(エドワード……こいつがマスターになって良かったのかもしれないな。神様から貰った転生特典で、ソーディアンとして生まれ変わって良かったのかもしれない)

 

 心の中でもエドワードに感謝をしつつ、先ほどの内容について話していく。

 

『そうだな。まずは”固有特技”というものが使えるようになる』

「”固有特技”?」

『ああ。カンバラーベア・亜種との戦いで出した〈魔神剣〉がそうだな。他にもエドワードが強くなっていけば、俺の力も解放されて色々と使えるようになるぞ』

 

(ああいった技が使えるようになるのであればデカいな。俺はさらに強くなれるのかもしれない)

 

『次に”晶術”という術が使えるようになる』

「”晶術”?」

『ああ。ソーディアンは各々(おのおの)に属性を持っていてな。その属性に合わせた魔法みたいなものが使えると思えばいい。

さっき会ったシャルは地属性を得意としている。ちなみに俺は時・元素属性が得意だぞ』

「ふーん。そうなんだ」

 

 固有特技の時と違い、晶術にはあまり興味を示さないエドワード。

 のちに聞いた理由は「よく分からないから」とのことだった。

 

「それで他には何かないの?」

『それでって……まぁいいんだけどさ。あとはエドワードの剣術全般の技術力が大きく向上するくらいかな。

ま、こんなのオマケみたいなのうりょ──』

「えっ!! マジでか!! それが一番すごい能力じゃないか! なんでそれを初めに言ってくれないんだよ!

ただの喋る刀って思っちゃうところだったじゃないか!」

『え……あ、う、うん』

 

 時雨(しぐれ)は、おまけみたいに付けてもらった能力を一番喜ばれてしまい複雑そうな声を出す。

 なぜなら技術なんてものは時間が経てばほとんどの人が上手くなるからだ。

 元人間なのに、人間の寿命については無頓着になっていた時雨(しぐれ)であった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 それから休みも終わり、仕事に復帰したエドワードは訓練で負けなしの実力を発揮し、一般兵レベルでは相手にならないくらいの技術を身に付けていた。

 初めは時雨(しぐれ)を持ったときにしか向上しなかった剣術が逆に仇となり、木刀──時雨(しぐれ)と出会ってからは木剣ではなく、木刀を使うようにしていた──を使った訓練で自身の技術のギャップを埋められずに苦労した。

 しかし、才能もあり強くなるための努力も大好きなエドワードは、二週間ほどで時雨(しぐれ)を持ったときの技術を”素”の状態で得ることが出来た。

 しかも時雨(しぐれ)を持てばさらに技術が向上しており、都度ギャップを埋めるために訓練をするといった良い循環を生んでいた。

 

(まさか……ついでに貰った能力がここまでチート能力につながるとは。エドワードの才能と努力ありきだが、流石に俺も驚いたな)

 

 時雨(しぐれ)は、日々目に見えて強くなっていくエドワードを見て、驚きつつも嬉しそうにしていた。

 そして時雨(しぐれ)とエドワードが出会ってから、二ヶ月ほど経ったある日――

 

「ニコラス将軍、お呼びでしょうか?」

「おお、来たか。今日はお主に話があってな」

 

 七将軍長老であるニコラス・ルウェインに呼び出されたエドワード。

 何回か訓練で会ったことはあるが直接的な面識はなく、なぜ呼び出されたのかすら分かっていなかった。

 そこでニコラスより”セインガルド王国武術大会”の話を聞く。

 

「武術大会……ですか?」

「そうじゃ。毎年七将軍が推薦を出した兵士で誰が一番優秀かを競う大会でな。それに儂の推薦として出て欲しいのだよ」

「それは願ってもないことではありますが、なぜ私なのでしょうか?」

「ああ、以前君の上司からの強い勧めもあって、何回か君の模擬戦を見たことがあったのだよ。それで今回は君なら優勝出来るのではないかと思ってな」

 

 エドワードは納得した。模擬戦を見ているのであれば、あの中で最近負けなしの自分を推薦するのもなんとなく分かった。

 自身としてもさらに強い人と戦えるのであれば訓練になるし、願ったりなのである。

 

「かしこまりました。セインガルド王国武術大会への参加、謹んでお受けします」

「そうか! それなら良かった。日程はちょうど二週間後じゃから、それまで油断せずにしっかりと腕を磨いておけよ」

「はい。それでは失礼いたします」

 

 武術大会へ参加することが決まり、ワクワクしたまま部屋を出るエドワード。

 

 

 

(いつかは出てみたいと思っていたが、まさかこんな新人のときにチャンスを貰えるとは……)

 

 ”セインガルド王国武術大会”は兵士であれば推薦がもらえれば誰でも出場ができる大会である。

 しかしながら、七将軍の推薦を貰わなければならないため、その倍率は激しいことになっていたのだった。

 

『良かったな、エド!』

「ああ! これも時雨(しぐれ)と出会えたおかげだよ! せっかく出場するなら優勝出来るように頑張らないとな!」

「……優勝か。それは不可能な話だな」

 

 時雨(しぐれ)とエドワードが話しているときに、後ろから割って入ってくる声が聞こえる。

 エドワードが後ろを振り向くと、そこには黒髪の生意気少年(リオン・マグナス)がいた。

 

「……なぜですか?」

「決まっているだろう。僕も出場するからだよ。僕が出場する限り、他のやつの優勝はあり得ないからね」

 

 言いたいことだけを言って、そのまま去っていくリオン。

 エドワードはその後ろ姿を見て、疑問を持っていた。

 

「ん? 彼はなんでわざわざそんなことを言いに来たんだろ?」

『え……分からないのか?』

「うん」

『エドって意外と……まぁいい。多分だが同じソーディアンマスターを意識しての発言だと思うぞ』

「ああ……そういうことか。やっぱり彼って強いのかな?」

『相当ね。今のエドでも勝てるかどうか分からないレベルだぞ』

 

 時雨(しぐれ)の発言を聞いて、笑みを浮かべるエドワード。

 生意気だとは思っていても、強者と戦えるのは嬉しいので楽しみに思っているのだ。

 

 

 

 

 リオンに負けないように訓練に励みつつ、二週間後。

 ”セインガルド王国武術大会”が城内で開催されるのであった。

 




転生者は時雨くんでした!
そして、エド君は強者と戦うのは好きだけど、理不尽に戦うのは好きじゃないのです。
だから初めのリオンとの戦いも断りました。

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第五話

 七将軍長老であるニコラス・ルウェインに”セインガルド王国武術大会”の参加の打診をされてから二週間後。

 ついに武術大会が開催されることになった。

 場所は城内の訓練場で行われる。この大会はセインガルド王が自ら観戦に来ることもあり、参加者は気合十分で臨むのである。

 

 優勝すれば、セインガルド王から直接言葉を頂くことができ、場合によっては昇進も夢ではなく、過去には近衛兵に昇格した人もいた。

 そして、過去優勝者は次回から参加することが出来ないため、次回参加者にも優勝希望が見えるのと、前年の大会よりも質を下げないように訓練にも励む人たちが多い。

 だからこそセインガルド王国は、ファンダリア王国と並んで二大強国と呼ばれるだけの質の高い兵力を有しているのである。

 

「それでは、これよりセインガルド王国武術大会を開催致します! まずは開会の挨拶としまして、陛下よりお言葉を頂戴いたします」

 

 八人の参加者が訓練場の真ん中に並ぶ中、その前にセインガルド王が歩いてやってくる。

 

「今回も質が高い兵士を推薦したと七将軍から聞いておる。前回同様のフェアな戦いを期待する。

それと、今回はヒューゴからの推薦もあり、王国客員剣士のリオン・マグナスも参加することになった。

リオンよ、客員剣士として恥じない戦いを見せてみよ」

「……はっ」

 

 リオンは頭を下げて、セインガルド王の言葉に頷く。

 そして頭を上げたときに、エドワードを軽く睨み付ける。

 

(うげ、こっちを睨んできたよ。俺何もしてないのに……)

 

 エドワードはため息を吐きそうになるが、国王の前なのでなんとか我慢して平静を保つ。

 そしてトーナメント表が貼り出され、第一試合が始まろうとしていた。

 

「俺は……Aブロックの二試合目か」

『リオンはBブロックだから、戦うとしても決勝だな』

「どうなることやらだけど……まぁ全力で戦うだけだな」

 

 エドワードはこの二週間で剣術だけでなく、ソーディアンマスターとしての戦いも練習していた。

 休みの日はもちろんだが、勤務が終わった後にダリルシェイド付近でモンスターと戦い、晶術を交えた戦いもするようになっていた。

 しかし、まだ晶術は慣れていないので今回の大会では使わないように決めている。

 

「それでは第一試合を始めます! マット選手とクーガー選手は中央へ来てください」

 

 この試合に勝った方がエドワードの次の対戦相手になるため、時雨(しぐれ)と一緒にじっくりと観戦することにしていた。

 マットは身長が170cmくらいの高さで体型はガッチリしている。

 クーガーは190cmくらいの長身だが細身でひょろっとした印象をエドワードは感じていた。

 

 (マットは斧を使うのか……対してクーガーはレイピアを使っているな。お互いに体型に合った装備を選んでいる感じだ)

 

 この武術大会は真剣を使っての勝負で、得物も自分の持っている武器を使う。

 貸し出しもしているが、余程のことがない限り借りることはない。

 愛用の武器を使った方が戦いやすいからだ。

 

「では……はじめ!」

 

 開始の合図と同時にクーガーが突っ込んでいく。

 マットは待ち構えるようだ。斧を構えたまま動かない。

 

「きえええええーーい!」

「ぐっ…」

 

 クーガーは叫びながら高速で突きを連発していく。

 マットは少し苦しそうに防御をしているが、躱すことが出来ずに攻撃を受け続けている。

 

「おおっと! こりゃマットの負けだな」

「だな。完全に止まっちまって、攻撃を避けることも出来てないじゃん」

 

 周りで観戦している兵士達が劣勢に見えるマットに対して負けが確定だと話している。

 エドワードはその言葉を聞いて、ため息を吐く。

 

(あれを見てどこがマットの負けなんだよ)

 

『ありゃあだめだな……クーガーとかいう兵士の負けだ』

 

 時雨(しぐれ)の言葉に返事をせずに頷くエドワード。

 その間にもクーガーの連続突きは止まらない。

 そして────

 

 

「これで止めだ!」

 

 クーガーが少し距離を取ったと思ったら、再度向かっていき、マットの身体目掛けて全力の突きを放つ。

 マットは目を見開き、斧を胸に構えて斧腹をクーガーに向けた。

 

「むううん!」

「しまっ……!」

 

 クーガーが気付いたときにはすでに遅く、マットはレイピアを斧腹で弾くことで武器を奪い、そのままクーガーを殴りつける。

 前に全力で向かってきていたクーガーは避けることもできず、マットの攻撃がカウンターとなり数メートル吹っ飛ぶ。

 そしてそのまま気絶してしまった。

 

「クーガー選手は……気絶していますね。それではマット選手の勝ちです!」

「おおおお! 大番狂わせだ!」

「あの状態からマットが勝つとは……」

 

(あれは完全にカウンター狙いだったでしょ)

 

 エドワードは観戦している兵士達の言葉を聞いて、再度ため息を吐く。

 カウンター狙いだったマットは見れば分かるもんなんじゃないかと思っていたが、そうではなかったことが残念だった。

 

『いやいや、でもあれはある程度の実力がないと気付けないと思うぞ。エドだから分かることでもあるってことさ』

「そんなもんかねぇ……」

『それよりも次は俺たちの番だ。気持ちも含めて準備は大丈夫か?』

「……ふー。ああ、大丈夫そうだ」

 

 エドワードは一回深呼吸をして、自分の状態を確かめる。

 少し緊張はしているが、それが逆に戦意を高めてくれているため、特に問題はなさそうだった。

 

「それではAブロックの第二試合を始めます! エドワード選手とミグ選手は中央に来てください!」

 

 エドワードは審判に呼ばれたので、訓練場の中央に向かう。

 対戦相手のミグも同じく中央に向かっている。

 エドワードは身長が180cmで細めだが筋肉がしっかりついている体型に対し、ミグはエドワードよりも少し小さい175cmほどでポッチャリ体型である。

 

(得物は……ハンマーか。一撃が強そうだな。当たる前に仕留めるか……)

 

「それでは……はじめ!」

 

 ミグは先ほどのマットのようにカウンター狙いで待ち構えているようで、自分から動こうとしていなかった。

 ミグ自身も先ほどのマットの戦いを参考にしており、自分に合った戦い方に持ち込もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

────しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然目の前からエドワードが消え、その直後大きな音を立ててミグが前のめりに倒れた。

 ミグが立っていた場所には手刀の構えをしたエドワードが立っていた。

 

「しょ、勝者エドワード選手!」

 

 審判はミグが気絶しているのを確認後にエドワードの勝利を告げ、その言葉を聞いてそのまま訓練場の端まで戻っていくエドワード。

 訓練場内はあまりの光景に静まり返っていた。

 

『こいつ、俺を抜かないで終わらせたよ……』

「まぁさっきみたいにカウンターを狙っているのが分かったからね。だからスピード重視で回り込んで、手刀の一撃で十分かなって」

 

 ミグの一瞬の隙をついて背後に回り、首元に手刀で攻撃をしたという単純な流れである。

 ただし、これは相当な実力差がないと回り込む段階で気付かれるし、気付かれると避けられるのだ。

 少しでもズレれば、意識を飛ばすことは無理なので、エドワードとミグにはそれほどの実力差があったのであった。

 

 

 

 Bブロックの第三試合は特に面白みもない戦いで、淡々と試合は終わった。

 第一、第二試合の内容が良かったため、比べられてしまうとお粗末なものに見えてしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、Bブロック第四試合、ついにリオン・マグナスの試合が始まるのであった。

 




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第六話

「Bブロック第四試合を始めます! リオン選手とリヴッツ選手は中央に来てください」

 

 リオンとリヴッツが中央に歩いてくる。

 160cmに満たない小柄なリオンとエドワードと同じくらいの身長であるリヴッツ。

 もちろんリオンが持っているのは”シャルティエ”、リヴッツはロングソードを持っていた。

 

「それでは……はじめ!」

 

 審判の試合開始の合図でリヴッツは構える。

 しかしリオンはシャルティエを抜いてはいるが、一切構えようとしない。

 構えることすら無駄だと言わんばかりに、シャルティエを持ってその場にただ立っているだけだった。

 

(な、舐めてるのか……? 俺はこれでも前回の準優勝者なんだぞ)

 

 リヴッツはリオンの舐めた態度に苛立ちを覚えるが、さすが実力者なだけであって不用意には動こうとしていなかった。

 一、二分ほどそのままの状態が続いた頃、リオンがため息を吐いてシャルティエを構える。

 

「おい、時間の無駄だ。さっさとかかって来い」

「な……!? なんだ──」

「──時間の無駄だと言ったんだ。そちらから来ないのであれば、こちらから行くぞ」

 

 その直後、リオンが真っ直ぐ突っ込んでいく。

 スピードには乗っているが、リヴッツが対応できないほどの速さではなかった。

 リヴッツはロングソードを正眼にして待ち構える。

 

「……え?」

 

 リオンはリヴッツを通り過ぎて止まり、シャルティエを鞘にしまう。

 リオンは何もしていなかった。ただ突っ込んできただけで、何もしていなかったのだ。

 リヴッツには──回りにいるほとんどの人にもだが──そう見えていた。

 

「う、うおおおお!」

 

 訳は分かっていないが、チャンスだと思ったリヴッツは背後を振り返り、持っていたロングソードで後ろを向いているリオンに右切り上げをする。

 これで勝った! と思ったリヴッツであったが、リオンには当たることなくそのまま振り切ってしまった。

 

「なっ、なん……だと……?」

 

 リヴッツが剣の先を見ると根元から刀身がなくなっており、思わず顔を青くしてしまう。

 リオンが振り返り、「……まだやるのか?」と睨みつける。

 

「ま、まいった」

「……ふん」

 

 リヴッツが降参をして、リオンの勝利となった。

 リオンは当然とばかりに喜びもせず、そのまま訓練場の端に行き壁に寄りかかる。

 腕を組んで俯きながら目を瞑っている様子が、リオンの余裕の証でもあった。

 

『今の……見えたか?』

「ああ。わずかにだけどね」

 

 リオンはリヴッツの(そば)まで来たあと、ものすごいスピードでシャルティエを抜き、ロングソードを”切り裂いて”納刀したのであった。

 そう、”切り裂いた”のだ。叩き切るだけであれば、腕に覚えがある人であれば出来る。

 だがロングソードを切り裂くことができるのは誰にでも出来る芸当ではなかった。

 

(しかもアレをほとんどの人に見えないスピードで行うとか……あいつ本当に十五歳かよ)

 

 エドワードは自分の三歳下のリオンの実力にわずかながら恐怖したのであった。

 しかし、これから準決勝が始まるので、エドワードは気持ちを切り替えてそちらに集中することにする。

 

「これからAブロック第五試合を始めます! マット選手とエドワード選手は中央に来てください」

 

 審判に呼ばれたエドワードは先ほどと同じく中央に向かう。

 リオンはエドワードの名前を聞いて、俯いていた顔を上げて試合を観戦する様子であった。

 ただ、親の仇のようにエドワードに殺気を放っているので、さすがのエドワードも苦笑いをしていた。

 

(だから俺はそんなに恨まれることはしてないっての! ……っとまずは目の前の戦いに集中しよう)

 

 エドワードは時雨(しぐれ)を抜き、構える。

 マットは斧を構えつつも、意外な顔をする。

 

「私には抜くんだな」

「そうですね。あなたは強敵なので」

 

 お互いに微かに笑いながら向き合う。

 そして、審判の開始の合図があったところで、両者が突っ込み武器を撃ち合った。

 金属がぶつかり合う音が大きく鳴り響き、すぐに距離を取り合う。

 

(……この人、やっぱり強いな。それなら俺も”アレ”を試してみようか)

 

 エドワードは時雨(しぐれ)を鞘に納めて左の腰に差す。

 そして、やや前傾姿勢になり、右足を前に出して右手は柄の前に持ってくるという構えを取り出す。

 

『おま! それって抜刀術(ばっとうじゅつ)の構えじゃないか! どこでそれを習ったんだ!?』

 

 

 抜刀術(ばっとうじゅつ)。それは刀を鞘に収めた状態で帯刀し、鞘から抜き放つ動作で一撃を加える。もしくは相手の攻撃を受け流し、二の太刀で相手にとどめを刺す形、技術を中心に構成された武術である。

 

 

 エドワードは時雨(しぐれ)を持って訓練をしているうちに、より洗練された方法は無いかと考えるようになっていた。

 今まで使っていた剣は、”叩き切る”ような使い方であったが、刀はそうではなく”引き切る”といった使い方だと感じていた。

 使う得物が違うのであれば、構えから攻撃の仕方まで違うであろうということだ。

 だからこそ、抜刀術の構えは常に最適な攻撃の仕方を模索していたエドワードが到達した一つの答えであった。

 

(俺が出来る技では、これが一番合っていると思う。あとはタイミングだけだ)

 

 マットも初めて見るエドワードの構えに警戒をして動かない。

 エドワードもタイミングを計っているのか、構えたまま動かない。

 観客も異様な雰囲気を感じて、押し黙ってしまっていた。

 

 

 

 マットが空気に耐えられず動き出すのに三十秒も掛からなかった。

 それに合わせてエドワードも納刀したまま突っ込む。

 

(武器を抜かずに突っ込んでくるだと!?)

 

「な、舐めるなぁぁぁぁ!!!」

 

 マットは斧を両手で持ち、近づいてきたエドワードに上段から振り下ろすようにして斧で攻撃する。

 斧が当たる瞬間でさえも、刀を抜く仕草を見せないエドワードにマットは「勝った」と思い、そのまま振り下ろすが、その瞬間エドワードが消えて斧は大きな音を立てて地面に突き刺さる。

 マットはエドワードが消えたことに少し慌て、すぐに斧を抜いて周りを見渡すと、自身の後方やや先に刀を抜いて左切り上げで何かを切った後の構えをしたエドワードを見つけた。

 そしてそのまま時雨(しぐれ)を仕舞うエドワードに、「まだ勝負は終わっていないぞ」と言いながら斧を構えるが、

 

「いえ、もう勝負はつきました」

 

 そう言って時雨(しぐれ)を鞘に納めきった瞬間、マットが持っていた斧の柄が二つに割れて斧が地面に落ちた。

 マットは一瞬何が起こったのか理解が出来なかったのだが、彼も実力者のため、すぐに自身の斧が先ほどの攻撃──”抜刀術(ばっとうじゅつ)”──によって切り裂かれたのだと理解した。

 

「……そうだな。俺の負けだ」

 

 マットが負けを認めたところで、エドワードの勝利と決勝戦進出が決まった。

 観客の兵士達はよく分かっていない者が多かったが、二戦連続で相手の武器を切り落とす芸当を見せた二人(リオンとエドワード)に対して歓声を上げた。

 

『エド。あの構えはどこかで知っていて使っていたのか?』

「んー、知識として持っていたわけではないけど、元々頭の中での考えにはあったんだよ。実戦で使うのは初めてだったから、成功して良かった」

 

 初めて使う抜刀術であそこまでの精度を出したエドワードに、時雨(しぐれ)はかなり驚いたが、彼の素質が高いのは感じていたため当たり前かと思い直した。

 それよりも今はまだまだ拙い抜刀術を必殺技にまで昇華させることが出来れば、エドワードが”ソーディアンチーム”に入っても遜色ない実力を発揮することが出来るはずだと思っていた。

 

 

 

 

 

 

『坊っちゃん。今のはどうでしたか?』

「…ふん。僕なら簡単に見切れた」

『ですね! あの程度の実力なら坊っちゃんなら楽勝ですよ! 優勝も間違いなしですね!』

「ああ。そうだな」

 

 リオンはシャルティエを話しながら、準決勝を戦うために中央まで歩いていく。

 対戦相手は先ほどのリオンの戦いを見ているため、心なしか震えている。

 お互いが目を合わせたところで、リオンはあることに気が付く。

 

「あれ? お前は僕のことを()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと陰で言っていたやつじゃないか。どれ程のものなのか楽しみだな」

「……ひぃぃ!!! 参りました! 私の負けです!!」

 

 リオンが笑みを浮かべて皮肉を言うと、対戦相手の男は恐怖で身が竦んでしまい、開始の合図がある前に降参をしてしまった。

 これには審判だけでなくセインガルド王ですらも呆れてしまうのだが、この後の決勝戦を見た後に記憶に残しているものはほとんどいなかった。

 そのため処罰も一切無く、運が良く助かった一人である。

 

「えー、それではリオン選手の決勝進出ですね。決勝は一時間後に行いますので、それまで休憩とさせていただきます!」

 

 リオンは審判の言葉を聞いて、訓練場から出ていく。

 エドワードも気持ちを落ち着けるために用意された控え室に戻ることにした。

 

『エド、決勝の相手はリオン・マグナスだ。勝てる見込みはあるか?』

「それは俺が時雨(しぐれ)に聞きたいね。勝てるかね?」

 

 お互いに勝算を聞いた後、ため息を吐く。一回戦を見る限り、明らかな差を感じていたのだ。

 このままだと確実に負けると分かったエドワードと時雨(しぐれ)は晶術の解禁をするか悩んでいた。

 

『まぁアレは使えないわけではないんだろ?』

「そうだね。ただいきなり対人戦で使ったことないから自信がないだけでね」

『そこはお前に任せるよ。俺はソーディアンとしてエドが勝てる方法を模索していくだけだ』

 

 結局晶術を使うかどうかはうやむやなまま一時間が経ってしまい、対策も浮かばないまま決勝戦が始まることとなった。

 




名前もない男の人、ちょっとかわいそうですね(笑)

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第七話

「それではこれよりセインガルド王国武術大会の決勝を始めます! エドワード選手とリオン選手は中央に来てください」

 

 エドワードとリオンは中央に歩いていき、お互いのソーディアンを抜いて構える。

 リオンは準決勝までには持っていなかった短剣を逆手に持っていた。

 

『リオンはおそらく全力で来るはずだ。こっちもいくぞ』

「ああ。負けられないな」

 

 エドワードは正眼に構え、どんな攻撃でも対応できるようにした。

 時雨(しぐれ)からはリオンの戦闘スタイルを聞いているとはいえ、それが本当か分からないので、まずは様子を見ようと思っていた。

 

「それでは決勝戦! はじめ!」

 

 開始合図とともにリオンが突っ込んでくる。

 エドワードですら微かに見えるレベルのスピードでくるので、観客の兵士達にはほぼ見えていない。

 リオンがシャルティエを横薙ぎにして攻撃してくるので、時雨(しぐれ)で受け流す。

 

 しかしその勢いのまま短剣で追撃してくるリオン。

 エドワードも躱しきれずに左腕を浅く切られてしまう。

 

「ぐっ!」

『エド! 大丈夫か!?』

「ああ!」

 

 その後もリオンの追撃は止まらない。

 シャルティエと短剣を使った連続攻撃にエドワードは防御するしかできない。

 

「ふん、この程度か」

「なに!?」

 

 リオンはエドワードの防御の隙を突いて、腹に思い切り蹴りを加える。

 攻撃を受けたエドワードは思いっきり吹き飛ぶが、そのままバク宙をして地面に着地をする。

 

「……刀を盾にしたか」

「あ、あぶな!」

 

 今の攻撃を食らっていたら、確実に終わっていたと思うエドワード。

 周りはあまりの光景に黙ってしまっているが、どちらが優勢なのかは最後のシーンを見て予測出来た。

 

「やっぱり客員剣士って肩書きは伊達じゃないんだな」

「ああ、これじゃあエドワードは勝てないかもな」

 

(……余計なお世話だっつの! 俺だって分かってるさ! 仕方ない……使()()())

 

 エドワードが時雨(しぐれ)を構えながら、昌術の詠唱に入る。

 ある程度距離があるのと、この晶術であれば詠唱も短いので使えると判断したのだ。

 

『坊っちゃん! 晶術の詠唱です!』

「ちっ! 分かっている!」

「もう遅い! ──”加速(アクセル)”!」

 

 エドワードが唱えると、自身を光が淡く包み出す。

 そしてリオンが再度突撃してくるが、攻撃した先にエドワードはいなく──

 

「遅い!」

「……何!?」

 

 ──リオンの後ろから声が聞こえたと思ったら、背中を時雨(しぐれ)によって切られる。

 後ろを向くが、すでにエドワードの姿はなく、今度は横から切られるのであった。

 

「……ちっ!」

時雨(しぐれ)の得意な晶術です! 対象の素早さを増幅しています!』

「分かっている! ……そこだ!」

 

 再度エドワードが攻撃を仕掛けるが、リオンはエドワードの攻撃を見切りシャルティエで防御する。

 攻撃を防がれたエドワードはバックステップですぐに離れる。

 

「へぇ。俺の場所がよく分かったね」

「ふん。その晶術……まだ使い慣れていないだろう? 先ほどとは違って、動きに無駄がありすぎる。だから読まれるんだ」

 

(……ちっ。気付かれたか。さてどうするかね)

(いる場所はわかるが、こちらとしても攻撃に移ることが出来ないな。しかも……さっきよりもキレが増しているのか……?)

 

 時雨(しぐれ)の効果で持ち主の剣の技術が上がっているのもあるが、試合を重ねるごとに徐々に本人の技術も上達し、さらに時雨(しぐれ)の効果で剣の技術が上がるという効果がエドワードにはとても良い循環をもたらしていた。

 さらにリオンと戦っていて技術を盗んでいるのもあり、戦いながら上達しているのだった。

 

(このままだと埒が明かないな。だがこれ以上身体に負担をかけるのはまずい)

 

 加速(アクセル)という晶術は時雨(しぐれ)が転生時に神様から貰ったオリジナル晶術であるが、慣れていないと身体に相当負担が掛かるというデメリットもある。

 まだ慣れていないエドワードには相当の負荷がかかっていたため、短期決戦に持ち込みたいのであった。

 そのため、エドワードは時雨(しぐれ)を納めて、抜刀術の構えを取る。

 

(これで仕留めきれなければ、俺の負けだ)

 

 リオンも最後の攻撃が来ると察して、迎え撃つように構えを取った。

 そして、両者が突っ込んでいった────

 

「失礼します!! 恐れながらご報告いたします! アルメイダの村がモンスターの襲撃に遭っている模様です!」

「な、なんだと!?」

 

 エドワードとリオンは兵士が乱入してきたので、剣がぶつかる寸前でお互いの武器を止めていた。

 セインガルド王が驚き、七将軍に確認を取らせるが、事実のようだったので急いで討伐隊を組む必要があった。

 

「陛下、恐れながらご提案がございます」

「なんだ、ニコラス?」

「ここにいるリオンとエドワードを先遣隊としてアルメイダに向かわせるのはいかがでしょうか? 実力も今見た通りで申し分ないかと」

「……ふむ」

 

 セインガルド王は少し考えた後に、「そうだな。一旦武術大会は中止として、リオン、エドワード両名は先遣隊としてすぐにアルメイダに迎え」と指示を出す。

 断ることが出来ない二人は跪いて「かしこまりました」と言い、その場を去っていく。

 

 

 

 

 

 王城を出るまでの道すがら、リオンとエドワードは準備について話し始める。

 

「試合は途中で終わってしまったけど、とりあえずアルメイダに向かおうか。準備は大丈夫か?」

「誰に言っている? このまま向かっても大丈夫だ」

「いやいや、ダメでしょ。じゃあ準備して、一時間後にダリルシェイドの入り口に集合で」

「……」

 

 何も言わずに去っていくリオンに対し、不安を覚えるエドワードであったが、すぐに準備を開始するために自宅へ戻ったのであった。

 




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第八話

 自宅に戻り、軽く準備をしたあとダリルシェイドの門に向かうと、そこにはリオンと一台の馬車があった。

 ニコラス・ルウェイン将軍が馬車の手配をしてくれていた。

 

(おお、まさかたかが()()()()の俺がこんな豪華な馬車に乗れるとは……)

 

 感動しているエドワードに対し、リオンが待ちくたびれたかのように話しかけてくる。

 

「ようやく来たか。さっさと行くぞ。馬車に乗れ」

「お、おお。でも先遣隊って……俺ら二人だけなのか?」

「……陛下がそう言っていただろう」

「いや、でも通常何人かの兵士の付き添いはあるでしょうに」

「それがお前だけになったというだけの話だ。他に無いなら行くぞ」

 

 リオンはさっさと馬車に乗り込み、酔いづらい席を確保していた。

 エドワードも馬車に乗ると、時雨(しぐれ)を横に立て掛け、席につく。

 二人が馬車内に入ったのを確認した御者は、馬に指示を出して発進する。

 

(さて……アルメイダまではこの馬車だと数時間って言っていたが、結局何時間掛かるんだ?)

 

 急なことで混乱しているエドワードであったが、今はアルメイダの村を救うことが先決だと思い、頭を切り替えた。

 リオンはその様子を見て、エドワードに話しかける。

 

「……もっと慌てると思ったのだが、意外に冷静なんだな」

「まぁ慌てても仕方ないでしょ。今は着いたときに一人でも多く救うためにどうするかと、後発の兵士達が来るまで生き延びる方法を考えないとだからね」

『エドワードさんは凄いですね! 坊っちゃんとも渡り合っていましたし!』

「ふん、あのままやり合っていれば負けることはなかった」

 

 シャルティエの言葉に対して反発するように話すリオン。

 エドワードはそれを見て、うっすらと笑っていた。

 

「それよりも聞きたいことがある」

「ん? なんだ?」

「お前じゃない。そこの刀だ」

『……あー、俺のことね』

「お前は何者だ? ソーディアンなのか?」

『まぁそうなるな。シャルティエから聞いてないのか?』

 

 リオンの問い掛けに素直に答える時雨(しぐれ)

 シャルティエは何も話していなかったようで、時雨(しぐれ)は『それは仕方ないか』と呟く。

 

「本来ソーディアンとは六本で、その中に時雨(しぐれ)という名前はなかった。なぜ()()()()()()()()?」

『あーっと……なんて言えばいいのかね? 世の中には知られていない歴史もあるってことだな』

「……どういうことだ?」

「あ、それは俺も知りたいな」

時雨(しぐれ)……話しすぎですよ』

『あー、悪い悪い。まだ話せないんだ……今はね』

 

 リオンは話すことができないという時雨(しぐれ)に対して舌打ちをしたが、特に追及するつもりもないようだ。

 エドワードもリオンがそれ以上言わないので、黙っていた。

 少し気まずい雰囲気を和らげようと、シャルティエが時雨(しぐれ)に話しかける。

 

『あ、そういえば時雨(しぐれ)は今までどこにいたんですか?』

『あーっと、クレスタの南にある洞窟に埋まってた』

『埋まってたって……偶然エドワードさんと会ったってことですかね?』

『まぁそんな感じかな?』

「俺のことはエドって呼んでよ、シャルティエ。時雨(しぐれ)には俺がモンスターの亜種にやられそうになっていたときに助けてもらったんだよ」

『エドですね! それにしても……時雨(しぐれ)が人助けですか…』

 

 少しからかうような言い方をするシャルティエに対して、時雨(しぐれ)は『マスターになるやつだから助けただけだ』と言っていたが、それが照れ隠しだと分かったのか、シャルティエはニヤニヤしているのが分かる話し方であった。

 リオンはやり取りを聞いてはいたが、アルメイダに着くまでは口を開くことはなかった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「もうすぐアルメイダの村に到着します」

「……分かった」

 

 御者の声で準備を始めるリオンとエドワード。

 道中のモンスターはいつもよりも多く、襲いかかってくるモンスターを都度倒していたので少し時間が掛かっていた。

 

 アルメイダに到着したとき、周りにモンスターはいなかった。

 念のため村の中の様子を見ることになり、馬車で村の中に入ろうとしたところで入り口にいる兵士に止められた。

 

「止まれ! 誰の馬車だ!?」

「セインガルド王国客員剣士様の馬車です。国王陛下のご命令により、アルメイダ救出のために先遣隊として参りました」

「え……はっ! 大変失礼いたしました! どうぞお通りください!」

 

 馬車が村の乗り付け場所に到着し、リオンとエドワードは馬車を降りる。

 軽く伸びをしたエドワードは、この後の流れをリオンに確認する。

 

「えっと、このあとは責任者に会って、状況を確認するでOK?」

「ああ。……というか馴れ馴れしく話しかけるな。お前は一般兵だろう」

「あ、そういうのを気にしちゃうタイプ? ……大変失礼いたしました、()()()()()()()()()()()()()()()

「……ちっ」

 

 リオンはエドワードに舌打ちをした後に、御者に責任者のいる場所を聞き、一人で歩いて行ってしまう。

 エドワードは軽くため息を吐いて、リオンの後をついていく。

 そのまま責任者である村長の家に行ったところで、家の前でリオンが止まる。

 

「え? 入らないんですか? 王国客員剣士リオン・マグナス様?」

「ちっ……まずは一般兵のお前が確認するのだろうが」

「ああ、そういうことでしたか。かしこまりました。王国客員剣士リオン・マグナス様」

『ぶふっ!』

『あっはっは!』

 

 エドワードの慇懃無礼な話し方に、シャルティエと時雨(しぐれ)は我慢できずに笑い出してしまう。

 シャルティエを軽く睨むリオンにまずいと思ったのか、コソコソと笑っている。

 エドワードは村長の家の入り口の扉をノックした。すると、老人が出てきた。

 

「はい、どちら様かな?」

「突然申し訳ございません。私はセインガルド王国から先遣隊として参りましたエドワード・シュリンプと申します。村長様はいらっしゃいますでしょうか?」

「ああ、兵士さんでしたか。村長は私ですよ」

「村長様、実はアルメイダの村がモンスターに襲われたとお聞きしまして、詳しいお話をお伺いしたいのですがよろしいでしょうか?」

「はいはい。大丈夫ですよ。わざわざダリルシェイドからお越しくださってありがとうございます。それではまずはうちへお入りください」

 

 村長がリオン達を家の中に招き入れ、客間で座って話をする。

 エドワードが座らずにリオンの後ろに立ったときに、村長から「座ってください」と伝えられるが、「いえ、自分は()()()ですので、()()()()()()()()()()()()()()()と同じ席に着くなどできません!」と断りを入れる。

 リオンが再度舌打ちをして、詳細を話すように伝える。

 

「じ、実は私達にも詳しいことはまだ分かっていないのです。今分かっているのは、モンスターが急に襲ってきたこととリオン様方が来られる少し前に突然撤退していったということです」

「……被害はどうなっている?」

「幸い自警団が少し怪我したくらいで、特に問題ございませぬ。民家にも被害はない状態です」

 

 リオンは少し考えるような素振りを見せるが、「一旦は様子見だ」と言って村長の家を出る。

 村長が宿を確保してくれるとのことなので、少し時間を潰すために村の中を見回っていく。

 

「特に被害はないですね〜」

「……ふぅ。もういい。普通に話せ」

「え、だって王国客員剣士リ──」

「──いいから普通に話せ」

「分かったよ。これだけ被害が少ないと逆に怪しく思うな」

「ああ」

 

 そして宿の準備が出来たとのことなので、宿に向かい各自部屋で休むこととなった。

 次の日、二人は轟音によって起こされるのであった。

 




わざとやっているコントみたいなものなので、許してやってください(笑)

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第九話

 まだ夜が明けていない深夜に轟音が鳴り響いた直後、エドワードは時雨(しぐれ)を持ち、部屋を飛び出していた。

 

時雨(しぐれ)! 何があった!?」

『俺にも分からん! 村の入り口の方から音がしたぞ!』

「とりあえずリオンのところに行くぞ!」

 

 エドワードが隣の部屋にいるリオンの部屋の扉をノックしようとしたとき、扉が開きリオンが出て来た。

 シャルティエを持ち、完全に臨戦態勢であった。

 

「何があった?」

「俺にも分からない。時雨(しぐれ)が村の入り口の方から音がしたと言っていた」

「とりあえず行ってみるぞ」

 

 リオンとエドワードは全力で村の入り口に走っていき、到着した時には驚きで一瞬動きが止まってしまった。

 そこには数十体ほどのモンスターが一堂(いちどう)(かい)していたのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

『な、なんてこった……』

 

 時雨(しぐれ)は想像していなかった光景に目を疑っていた。

 それはリオンもシャルティエも……エドワードも同じであった。

 

「お、おい。これは一体どういうことなんだよ……」

「知るか。僕に聞くな」

 

 リオンはエドワードに問いに対して冷たく答えながら、シャルティエを抜く。

 エドワードも時雨(しぐれ)を抜いて構えるが、明らかに動揺をしていた。

 

(これは……さすがに勝てないんじゃないか……?)

 

 エドワードは冷や汗をかきながら、半ば諦めたかのような表情をしていた。

 そこに一体のモンスターが歩いてくる。獣人のような見た目であったが、明らかにモンスターの瞳をしていた。

 

「グ、グブブブ……コ、コノムラ、アケワタセ。サ、サモナイト、ミ、ミナゴロシダ」

「じ、人語を解するモンスターだと!?」

()()はおそらくバーバリアンの亜種モンスターだな』

 

 人間が話す言葉を使うモンスターに対し驚くエドワードと、それを冷静に分析する時雨(しぐれ)

 その横でリオンは黙ったままだったが、急に前に出た。

 

「ふん。たかがモンスターの分際で人間の言葉を話すとはな。だが雑魚を何体連れてこようと僕の敵ではない」

「ソ、ソレナラ、マズハ、オマエラカラチマツリニアゲテヤル! イケ!」

「え、いや、俺は何も言ってないんですけど!」

「来るぞ!!」

 

 バーバリアン・亜種は率いていたモンスターに指示を出すと、そこから五体ほどが襲ってきた。

 しかしこの周辺で出現するモンスターのため、リオンとエドワードの敵ではなく五体程度では瞬殺されてしまう。

 

「ふん、所詮何体集まろうが、雑魚は雑魚だ」

「キ、キサマ! ユルサンゾ! イケ!!」

「だからリオン! なんでそんな挑発するようなことを!」

 

 今度は十体が襲ってきた。エドワードは不思議に思いながらもモンスターをちょうど半分倒す。

 リオンを見ると、既に周りにはモンスターが倒れており、リオン自身には汚れすら付いていなかった。

 

(このモンスター……なんかおかしいな)

 

 エドワードは不思議に思ったまま、しかしモンスターからは目を離さないようにしている。

 

「この程度か。まぁ貴様程度の実力ではこのレベルのモンスターを操るくらいしか出来ないのだろうがな」

「グ、グヌヌヌヌ……ツギイケ!」

 

 今度も十体のモンスターが襲ってきたところで、エドワードはある一つの仮説に至る。

 それはバーバリアン・亜種は十体までのモンスターしか一度に操れないのではないか? ということである。

 

(おそらく配下に加えて進軍するくらいまでなら数十体でも可能だが、複雑な命令になればなるほどモンスターの操る数は少なくなるとみた)

 

 現に十体のモンスターは単純な攻撃しかしてこず、避けるなどの行動は一切してこないため、楽に倒せているのである。

 エドワードは少し安堵しつつも、そのことを顔には出さないように気を引き締めていた。

 残りのモンスターに暴走でもされたら厄介だからである。

 

「ふん、これでおしまいか。自分自身でかかってこない時点で貴様も雑魚確定だがな」

「そうだな。そうではないと言うならお前自身でかかってきてはどうだ?」

 

 エドワードは自分の考えがまとまったときに、リオンの考えにも気付いた。

 あえて挑発をして自分自身に敵意を向けていたのである。そうすることで村への意識を薄くして、モンスターの数を減らすことができるからだ。

 そこに気付いたので、リオンに合わせて挑発をするとバーバリアン・亜種は地団駄を踏みながら叫び出した。

 

「グヌヌヌヌ!! ソコマデイワレテハ、オレモユルセン! オレサマミズカラ、アイテシテヤロウ!!」

 

 そうしてバーバリアン・亜種との戦いが始まった。

 エドワードは加速(アクセル)を自身に唱え、迎え撃つ。

 しかし、勝負は一瞬で着いたのであった。

 

 バーバリアン・亜種が向かってくる直前にリオンが消えたかと思うと、バーバリアン・亜種の首が無数に切り刻まれ、そのまま倒れる。

 リオンはシャルティエに付いた血を一度振って払うと、鞘にしまう。

 そしてそのまま村に戻って行ってしまったのである。

 あまりの光景にエドワードは固まっていたが、時雨(しぐれ)がすぐに声を出す。

 

『エド! 今のうちに残りのモンスターを倒すぞ! バーバリアン・亜種に操られたままの状態でまだ正気に戻っていないから、楽に倒せるはずだ!』

「え……? お、おう」

 

 少し腑に落ちない様子のエドワードであったが、モンスターの残党も動かずにいてくれたので時雨(しぐれ)でどんどん倒していく。

 残りは二十五体ほどだったので、バーバリアン・亜種は合計で五十体率いるくらいの実力はあったのだとエドワードは理解する。

 

(いや、というか……俺はバーバリアン・亜種と戦っていないから……まぁいいんだけどさ。勝手に帰るとかひどくね?)

 

 五十体のモンスターを倒したあとは、アルメイダの村人達の迷惑にならないようにモンスターの処理作業が残っている。

 太陽が昇って、村人が起きてくる少し前に処理作業が終わったエドワードは疲れを身体に感じながら宿に戻って行った。

 

(レンズは絶対俺の物にするし……これくらい貰ってもバチは当たらないでしょ……)

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 宿に戻ってから少しだけ仮眠をしたエドワードは、リオンに起こされて準備をした後にそのまま村長の家に向かう。

 昨夜の段階でリオンがモンスターを倒したと報告していたため、村を出る挨拶をするだけであった。

 

(あー、そういえば昨日のうちに報告しないと村人も不安だったよね……完全に抜けてた……)

 

 眠気を堪えながら村長の話を聞いているエドワード。

 

「では僕たちはこれでダリルシェイドに戻るぞ」

「は、はい! 本当にありがとうございました。……こ、これは少ないのですが……」

 

 そう言って村長が拳大の袋にいっぱい詰まったガルドらしきものを渡してこようとする。

 しかしリオンは「こんなものはいらん」と突っぱねる。

 

「し、しかし……! いつも兵士様に助けていただいたあとは必ずお渡しするようにと言われているのですが……」

「いらない物はいらない。お金が欲しくてやっていたわけではないからな」

「そうです。私たちは王命で救援に来たのです。すでに給料は陛下から頂いておりますので、これ以上貰うのは不敬に当たります」

「そういうことだ。それよりもお金を渡すように言った兵士の名前を教えろ。僕から陛下に告げておく」

「あ、ありがとうございます! リオン様、エドワード様!」

 

 賄賂を要求していた兵士の名前を聞いた二人は「陛下に報告して、担当も変えてもらうように言っておく」と話し、村長の家を出ようとする。

 そこでリオンが不意にエドワードの方を向く。

 

「そうだ。僕としたことが忘れていた。確かモンスターからレンズが出ていたはずだが、それはどうした?」

「え……」

「回収したのだろう? この村も少なからず被害が出ているはずだ。今回のレンズはその補填にするぞ」

「え……え……?」

「確かお前は言っていたな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

レンズも同じだ。それともお前は先ほどのクズと同類だということか?」

「い、いえ……や、やだなぁ〜! 忘れていただけですって! そ、村長。少ないですが、これを復興の足しにしてください」

「よ、良いのですか!? あ、ありがとうございます! このご恩は決して忘れませぬぞ!」

 

 せっかく回収したレンズもリオンの一言で村に置いていくこととなり、エドワードは少し引きつった顔でレンズの入った袋を村長に渡した。

 ニヤリとした顔でエドワードを嵌めたリオンを軽く睨みながら、馬車に乗りアルメイダの村を出て、ダリルシェイドに向かうのであった。

 




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第十話

(くそ〜、リオンめ!)

 

 エドワードは本来なら自分のものにしたかったであろうレンズを村の復興の名目で寄付してしまったことを悲しんでいた。

 そしてそれ以上にそのきっかけを与えたリオンに怒りを持っていた。

 

「……なんだ? ジロジロ見るな」

 

 リオンはなぜ見られているのか分かっていてその発言をしている。

 なぜなら微かに笑っているからだ。

 その態度もエドワードの機嫌を損ねる理由の一つとなっていた。

 

『それにしてもモンスターを操る能力を持ったモンスターか』

『そうですね。今回は坊っちゃんがいたから瞬殺でしたけど、通常ならあれだけのモンスターに囲まれたら戦意喪失してしまいますよね』

 

 時雨(しぐれ)とシャルティエは今回の襲撃について話し合っていた。

 亜種が出ることはあっても、全員の記憶の中でモンスターを統率して操るといった能力を持ったモンスターはいなかったからだ。

 

『何かの前触れでなければいいのだがね』

「今回のことは陛下に報告しておく。どうするか考えるのはそれからだな」

『というか、エドはいつまでそんな顔をしているんですか。村の復興に使えたのであればいいでしょう』

「まぁ……そうなんだけど……そこは仕方ないんだけど。リオンに言われて出すのがとても嫌だった!」

「……子供か、お前は」

 

 エドワードの理由を聞いたリオンはため息をつき、それ以降ダリルシェイドに着くまで口を開くことはなかった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「王国客員剣士リオン・マグナス様、セインガルド王国兵士エドワード・シュリンプの入場です」

 

 ダリルシェイドに着いた一行は、セインガルド王に報告をするため城に向かった。

 エドワードは一般兵なので報告はリオンだけにして欲しいといったのだが、その要望は受け入れられず、リオンの後ろをとぼとぼとついて行ったのである。

 そして謁見の間の扉が開かれ、セインガルド王の前まで行き跪くリオンとエドワード。

 

(おもて)を上げよ」

 

 セインガルド王に言われ、顔をあげるリオンとエドワード。

 

「今回は良くやった。まさか先遣隊だけでモンスターの襲撃を退けてしまうとは」

「はっ。ありがたきお言葉」

 

 セインガルド王の言葉に代表してリオンが答える。

 そもそもエドワードは一般兵のため、こういった場でも上位のものが許可をしない限り、ほぼ発言権はない。

 リオンは詳細を報告している間、緊張しつつも周りを見ていた。

 

(おーおー、お偉いさんがたくさんいるね。まぁ今回の手柄はリオンだからね。俺は黙って聞いているとしましょうか)

 

「……以上がアルメイダ襲撃に関しての報告となります」

「うむ。詳細は分かった。さすが王国客員剣士といったところだな。のう、ヒューゴよ」

「ええ、そうですな」

「……なんだ。それだけか? 息子が活躍したのだぞ、もっと誇っても良いだろうに」

「いえ、リオンであればこの程度のことはできて当たり前ですから。今回はそれが周知されただけで満足でございます」

 

 今回の襲撃に関して、先遣隊がリオンとエドワードだけになってしまったのには理由があった。

 まず、すぐに兵士が動くことができないということ。これは王都の守備が疎かになってしまう可能性があるので、きちんとした準備が必要だったのだ。

 

 次にリオンの王国客員剣士としての実績を積ませること。なぜなら十五歳という若さで王国客員剣士になったことで、周りから嫉妬にあうのは分かりきっていたのである。

 そこで元々は武術大会で実力を示すことから始めようとしていたのだが、良きタイミング──村からすると最悪なのだが──での襲撃があったので、リオンに任せようとなったのだった。

 エドワードに関しては、単純にその場に決勝戦としており、実力もある程度高いと分かっている状態だったのでリオンの側付きの名目で同行させたのだ。

 

「……そうだ。エドワード・シュリンプよ。そなたも今回活躍したそうじゃな。武術大会の戦いも見事じゃったぞ。後で辞令を出すゆえ、楽しみにしておくとよい」

「ははっ!」

 

 セインガルド王への報告が終わり、謁見の間を出る二人。

 今回の件で昇進が決まったであろうと予想しているエドワードはかなりご機嫌だった。

 

「……なんだ、気持ち悪い。ニヤニヤするな」

「いやぁ〜、だってさ、俺たぶん今回の件で昇進だよ! これを喜ばないでいられますかいって!」

「そうか。それはよかったな。じゃあ僕はもう行く」

「え……もう行くの? 祝勝会はしないのか?」

「なぜ僕がお前とそんなことをしなくてはいけないんだ。……それよりも剣の腕を上げておけ。次は完勝するからな」

 

 そう言うとリオンはその場を去っていった。

 エドワードは少し残念そうではあったが、リオンの性格を考えると仕方ないと諦めて自宅に帰ることにした。

 幸いにも今日は休みを貰うことができたので、家でのんびりしようと思っていたのだ。

 

『武術大会でのリオンは強かったな。もちろんバーバリアン・亜種との戦いは言うまでもないが』

「……そうだな。俺、結構強くなったと思っていたんだけどな。まだまだ未熟だってことか」

『それは仕方ないぞ。リオンは桁違いの強さだったからな。これからもっと強くなっていかないとダメだということだ』

「ああ、分かってる。次は絶対に負けない!」

 

 エドワードと時雨(しぐれ)はリオンよりも強くなるべく、修行をしようと心に決めていたのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「……え?」

 

 エドワードは混乱していた。

 セインガルド王への報告をした次の日、昇進辞令を期待してスキップで城に向かったエドワードは辞令の張り出しを見て言葉が上手く出せなかった。

 

 

 

 

 ──────エドワード・シュリンプ、セインガルド王国兵士の職を解き、セインガルド王国客員剣士とする──────

 




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第十一話

 ──────エドワード・シュリンプ、セインガルド王国兵士の職を解き、セインガルド王国客員剣士とする──────

 

 この辞令を見たとき、エドワードは思わず二度見をした。

 兵士として出世を狙っていたエドワードにとって、客員剣士になるとは思っていなかったからだ。

 確かに立場としてはかなり上がったようだが、兵士ではない以上、どうしても不安が残る。

 

「これって……俺は何をすればいいんだろ……?」

 

 エドワードは生活面の安定もだが、そもそも王国客員剣士が何をするのかを分かっていなかった。

 

「おう、来たか。エドワード・シュリンプよ」

「え……ニコラス将軍!?」

 

 後ろから話しかけられたので振り向くと、そこにはセインガルド七将軍の一人であるニコラス・ルウェインがいた。

 今日は驚きの連続である。まさかわざわざニコラスがエドワードのために来るとは思っていなかったからだ。

 

「その辞令を見たか?」

「は、はい! 先ほど確認しました!」

「そうかそうか。実はそのことで話があってな。儂の部屋に来てもらおうか」

 

 そう言うとニコラスはそのまま歩いていってしまう。エドワードは慌ててニコラスについていく。

 部屋に着くと、ソファーに座るように促されたため、座ってニコラスの言葉を待つ。

 

「あの辞令の話の前に……武術大会は見事じゃったの。お主を推薦して良かったわい」

「あ、ありがとうございます!」

「リオン・マグナス一強(いっきょう)で圧勝となると言われていたからな。ほぼ互角の勝負が出来ていたのは、儂としても鼻が高かったわ」

「は、はぁ」

 

 笑いながらエドワードを褒めるニコラス。だが、それよりも今は辞令についての話を聞きたいので、中途半端な返事しか出来なかった。 

 ニコラスはすぐにそれに気付き、本題に入る。

 

「悪いの。歳を取ると話が長くなっての。それで今回の辞令じゃが、あれは七将軍全員からの推薦で決まったことじゃ」

「そ、そうだったのですか!?」

 

 エドワードは七将軍全員からの推薦で王国客員剣士となったことを聞かされて驚いた。

 本当であれば昇進するだけで終わっていたのだが、実は他にも理由があった。

 

「まぁ……実は他にも理由があっての。お主の持つ刀を見て、オベロン社総帥のヒューゴ殿がぜひにと話題に上げたのがきっかけなのじゃよ」

「ヒューゴ……様が? 」

「そうじゃ。お主の刀はソーディアンなのではないか?」

「……!?」

 

 ヒューゴに対し、なんて呼べばいいのか分からずに()を付けてみたエドワードだが、そのあとのニコラスの問い掛けに対し言葉として返すことが出来なかった。

 ニコラスは「あぁ、別に取り上げたりせんから気にするな」と言うが、答えていいものか分からなかった。

 

『エド、別に答えてもいいぞ。王家であれば、()()()()()()()()()の存在は知っていてもおかしくはないからな。セインガルド王からでも聞いたんだろう』

「……はい、時雨(しぐれ)という銘の刀で……ソーディアンです」

「やはりそうじゃったか。ヒューゴ殿がどこから知ったのか、第七のソーディアンのことを話題にしたとき、陛下が他言無用とのことでその存在があることを教えてくださったのじゃ。

それでソーディアンマスターであるならば、一般兵ではなく客員剣士として迎え入れたほうが何かと都合が良いということになったのが一番の理由じゃ」

 

 七将軍からの推薦は名目上として行われたことであり、今日この時点から王国客員剣士となることを命じられたのであった。

 しかし、何をすれば良いのかなど一切分かっていないエドワードは、ニコラスに正直に話した。

 

「ふむ……王国客員剣士とはセインガルドの兵士とは違って、従軍義務や日々の活動に制限がないのじゃよ。

その代わり、王族に剣術を教えたり、依頼があって様々なことを行うこともある。それ以外は訓練したりなど基本は自由じゃ」

 

 つまり、普段は自由にしていて構わないが、困ったときは働きなさいという便利屋扱いになる。

 その代わり、地位としては七将軍に次ぐほどの権限が与えられ、場合によっては兵士に対しての命令権なども持つ。

 エドワードとしても、修行の時間が増えるのであれば悪くない──むしろ良い──と考えた。

 

『エド、これは良い条件だな。何かあったときに動かないといけないのは面倒だが、今回みたいなことであればどっちにしても率先して動いてただろ?』

「……ありがとうございます。王国客員剣士として恥ずかしくない働きをしていきます」

「そうか! それなら儂も推薦した甲斐があったというものじゃ!」

 

 ニコラスは「儂が引退したときは七将軍の地位を譲ってやるぞ!」と笑いながら話していたが、エドワードは冗談と受け止めて、「まだお若いじゃないですか。色々とご指導をよろしくお願いいたします」と躱した。

 

(よし、じゃあ色々とあるけど、まずはリオンのところにでも行ってみるかな)

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「えっと……確かヒューゴ邸はここらへん……あ! あった!」

『でっかいなー!!』

 

 同じ王国客員剣士となったリオンに報告と挨拶を兼ねて訪ねてみることにしたエドワード。

 オベロン社総帥のヒューゴ・ジルクリストの息子ということなので、ヒューゴ邸に住んでいると聞き、地図を頼りに場所を探す。

 そして、見つけた先にあった家は、エドワードが住んでいる古い家と違って大きな屋敷であった。

 ヒューゴ邸に入ろうとしたところで、

 

「おい、ここはヒューゴ様のお屋敷だぞ。何の用だ?」

「あ……っと、私はエドワード・シュリンプと申しますが、リオンさんはいらっしゃいますでしょうか?」

「リオン様に……だと? アポイントは取っているのか?」

「え……アポイントは取っていないのですが、エドワードが来たと言ってもらえれば分かります」

「お前のような奴は聞いたことないわ! そんな怪しいやつをリオン様に会わせるわけにはいかぬ! 帰れ!」

 

 案の定、門前払いを食らうエドワード。警備としても当たり前の対応であった。

 口は悪いが、正しく仕事をしているのでエドワードも何も言えず引き下がる。

 

『え、帰っちゃうの?せっかく来たのに……』

「だって仕方ないだろ。警備の人をこれ以上困らせるわけにはいかないし」

 

 とりあえず警備の人にエドワードが来たことだけの伝言をお願いして帰ることにした。

 家に着き、これからやらなきゃいけないことをまとめることにした。

 

「まずは剣術の修行は変わらずやっていこう」

『あとは晶術の訓練もしないといけないな。……せっかくだからモンスターを狩りつつ、レベルも上げていくか!』

「だな……あーっと、それにやらないといけないことがあったわ」

 

 他の修行と同じくらいやらなくてはいけないこととは、()()であった。

 エドワードは馬に乗れないのだ。そのせいで今回の騒動では馬車を使うことになってしまっていた。

 馬車の中でも速く走れるものを用意してもらったのだが、これからはきちんと乗れるようにならないといけないと思っていた。

 

(よし。これからは自由に色々なことができるから、強くなるために頑張るぞ!まずは打倒リオンだ!)

(……上手い具合に時間が作れそうでよかった…原作開始まであと一年くらいか。これでエドがどこまで強くなれるかだな)

 

 原作開始まで残り一年。それぞれの思惑はすでに動き始めていた。

 




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第十二話

 アルメイダ襲撃事件から数ヶ月経っていた。

 この数ヶ月、エドワードは剣術・晶術の修行に加えて、モンスター討伐を繰り返しレベル上げにも勤しんでいた。

 リオンとも手合わせをする機会が増え、会話もそこそこ出来るようになっていたのであった。

 

「よし、今日は俺の勝ちだな」

「くっ。体調が万全であれば、僕は負けていなかった」

「リオンは負けるといつもそうだよな」

 

 毎回同じ負けた言い訳をするリオンに対し、苦笑いで返すエドワード。

 シャルティエも時雨(しぐれ)ももう慣れてしまったので、反応せずにスルーする。

 

「これで七十一勝六十八敗で俺が勝ち越してるな」

「……次は負けない」

 

 そう言って立ち去っていくリオン。

 初めのうちはリオンが勝ち越していたのだが、エドワードと時雨(しぐれ)の相性が良いのか、剣術向上が進んでいき徐々に互角になっていった。

 そして今はギリギリだが三連勝出来ていた。

 

『エドもかなり強くなったな。まさかこんなに早くリオンに追いつくとは思っていなかったぞ』

「俺もだよ。武術大会の時はあのままやっていたら負けていたからな」

 

 武術大会の時点では加速(アクセル)を使っても互角にはまだまだ届いていなかった。

 しかしながら、あれから数ヶ月経った現在では加速(アクセル)を使うことなく今の戦績を保っている。

 

『でも油断は禁物だぞ。あいつ(リオン)、負けるたびに強くなってるぞ。……サイヤ人かよ』

「さいや……? ああ、それは俺も感じている。時雨(しぐれ)の特性を活かしてこの状態なんだもんな。目標は時雨(しぐれ)の特性なしでリオンに勝つことだ」

 

 時雨(しぐれ)にはマスターの剣術を大幅に向上させるという能力がある。

 エドワードはこれを活かして、時雨(しぐれ)を持ったときの技術と時雨(しぐれ)を持っていないときの技術の差の溝を埋める作業をすることで、さらに強くなっていた。

 それでも現段階だと時雨(しぐれ)を持っていないとリオンに勝つことは出来ないのであった。

 

「じゃあ俺らも帰るか」

『ああ、そうだな』

「ほ、報告します!!」

 

 エドワードが帰宅しようとしたとき、一人の兵士が訓練場にやってきた。

 そこにはエドワードしかいなかったため、自分に報告があるとすぐに気付く。

 

「ん? どうしました?」

「そ……それがまた被害者が……」

「……また出たんですか」

 

 最近ダリルシェイドで『通り魔』が頻発していた。

 時間帯も分からず、どこに現れるのかも分からない。

 それでも近隣の街や村には出現せずに、王都ダリルシェイドに被害は集中しているのだ。

 

 今回で被害件数は六件目。

 人気(ひとけ)の無いところには行かないこと、一人では行動しないこと、女子供は無闇に出歩かないこと。

 セインガルド王は以上のように布告するも、被害は増えていったのであった。

 

 今回のことを重く見た国家は、布告とともに対策本部を設置。

 先日そのリーダーとして、セインガルド王国客員剣士であるエドワード・シュリンプが選ばれていた。

 エドワードもなんとかしないといけないと思っているが、解決策は見出せていなかった。

 

「被害者の特徴は?」

「はい……今回は二十四歳女性で、主婦の方です」

 

(なるほど……今回は女性か)

 

 夫と出かけていたが、たまたま一人になってしまったところを襲われてしまったということだった。

 エドワードは夫の話を聞きにいくことにした。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「あなたが被害者の旦那様ですか?」

「は、はい……客員剣士様」

 

 旦那の名前はジェームズという名前で、被害者の名前はサラという名前だった。

 ジェームズは終始泣いており、現時点で情報を得ることは難しいようであった。

 といっても、目を離した隙にいなくなっていたということなので、有力な情報を得ることは出来ないと思っていた。

 

「むう……なんだろうな、この感じ」

『エド、どうしたんだ?』

「いやね、目撃者が一人もいないってのがすごい気になるんだよね」

 

 今までの被害には目撃者が一切いないのである。

 そして被害者にも共通点がほぼ無いということもただの通り魔なのか分からなくさせていた。

 ジェームズに話を聞いたあとは、リオンのいるヒューゴ邸に向かうエドワード。

 

「ご、ご苦労様です!」

「ああ、お疲れ様です」

 

 ヒューゴ邸の入り口で話しかけてきたのは、数ヶ月前にエドワードを門前払いした門兵だった。

 あのあと、律儀な門兵はリオンに報告し、エドワードが本物の王国客員剣士だということを知って顔を青ざめさせていた。

 だが、リオンからは「あいつのことなんか気にするな」と興味ない素振りなのか、門兵を慰めたのか分からない言葉を貰っていた。

 しかしそれ以降、エドワードが訪問した際は顔パスとなり、すぐに執事が迎えに来る体制が整っていた。

 

「何の用だ、エドワード」

「ああ、()()()でまた被害者が出てね」

「……それなら僕の方にも報告は入っている。被害者の夫からは話を聞いてきたのか?」

 

 エドワードは話を聞いたが、有益な情報を得ることが出来なかったと話した。

 リオンも期待をしていなかったのか、「そうか」と返事をするだけだった。

 

「やっぱりあれかな。囮作戦でもしてみた方が良いのかな?」

「まぁ、それも悪くはあるまい。現状は何も進展がないわけだからな。お前の担当になって初の被害者だが、被害者が続出すると周りに何を言われるか分からないぞ」

「……そうだなぁ。ま、それならすぐにでも囮作戦をしてみようか。共通点がないとはいえ、やっぱり襲いやすそうな女子供が良さそうなんだよねぇ」

 

 そう言ってリオンのことを見るエドワード。

 

「な、なんだ! 僕はそんなことやらないぞ!」

「いや、だって見た目も年齢もバッチリじゃないか。俺がふらふら歩くよりも有意義だと思うけどね」

「うるさい、僕を子供扱いするな」

「あらあら、大きな声が聞こえてきましたが、どうしたのですか?」

 

 リオンが囮になるのを嫌がっていると、そこに一人の女性が現れた。

 

「マリアン!」

「エミリオ、囮くらい引き受けてあげなさいよ」

「……」

「そうですよね、マリアンさん! リオンが最適なんだよ!」

 

 事情を聞いたマリアンがリオンに対して囮になるように促す。

 マリアンはリオンが小さい頃に亡くなった母と似た顔をしており、リオンが唯一懐いている女性でもあった。

 そしてメイドとしてヒューゴ邸に雇われているのだが、唯一リオンのことを元の名前である()()()()()()()()()()()()()だったのだ。

 

 エドワードが冗談で「エミリオ」と呼んだ際は、激昂してシャルティエを抜いて襲ってきたほどである。

 何とか逃げ切ったが、それ以降は恐ろしくて絶対にその名を呼ばないようにしている。

 

「エミリオがやらないのなら、私がやっちゃおうかなぁ〜」

「……え!?」

「マリアン、それはダメだ!」

「だって今のままだと解決しないんでしょ? 何かあってもエミリオとエドワードさんが守ってくれるなら別に良いじゃない」

「いや、流石にそれは俺もOKとは言わないですよ……」

「……分かった。僕がやる」

「え?」

「囮役は僕がやると言ったんだ。ただし、僕を参加させるからには最速で事件を片付けるぞ」

 

 まさかこんなにすんなりと囮役を引き受けてくれると思っていなかったエドワードは、流石に驚く。

 そしてマリアンを見ると、悪戯が成功したような笑顔でエドワードにウインクをした。

 

(そうか……マリアンさんが上手くリオンを誘導したんだな。というかリオン……チョロすぎでしょ)

 

 心の中で苦笑いをしつつも、気が変わらないうちにさっさと仕事に取り掛かろうと打ち合わせを開始するエドワードであった。

 




謎の通り魔事件。リオンとエドワードのタッグで果たして解決ができるのでしょうか。
そしてマリアンのリオンの誘導が本当に上手だなと思いました。
多分自分のことを好きだって分かっていますよね、いや絶対。

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第十三話

 その日の夜から作戦は始まった。

 リオンがダリルシェイド──時には人気がないところなど──を歩き回り、通り魔が襲ってくるように隙を見せている。

 少し離れたところでエドワードは時雨(しぐれ)とシャルティエを持ち、すぐに助けられるように待機していた。

 しかし一晩中歩き回った成果は出ずに、朝方となってしまう。

 

「んー、今日はここまでかな」

『だな。まぁ初日からすぐに成果は出ないもんだ』

『坊っちゃんもやる気になっていますし、大丈夫ですよ!』

 

 時雨(しぐれ)とシャルティエに励まされながら、リオンの後ろをついていきヒューゴ邸まで帰る。

 

「今日は何の収穫もなかったな」

「ふん、それなら明日またやるだけだ」

 

 リオンがやる気になっているのは、マリアンから応援されているからだというのは全員分かっている。

 このやる気さえ保てているのであれば、当分は大丈夫だと思っていた。

 そして、各自家に帰って寝ることにした。

 

 

 

 起きてからも修行は一時中断し、リオンと作戦会議をしている。

 昼間でも被害者が出ているので、油断はできないが警備兵に巡回を強化してもらうことで少しでも被害を減らそうと頑張っていた。

 

 そして……数日後の日の夜のことだった。

 

 

 

 その日もいつもと同じように囮作戦を行なっていた。

 しかしながら数日成果が出ていなかったことで、二人の中に油断が生まれていたのかもしれない。

 

「ブルゥァァァ! こんなところで一人で何をしているのかなぁぁぁ?」

「……出たか」

 

 目の前に筋肉隆々の青色の長髪をした男が立っていた。

 手には斧を持っており、明らかに残虐そうな見た目をしていた。

 

「よし! 出たみたいだな!いくぞ!!!」

 

 エドワードがリオンのもとに走っていき、シャルティエを渡す。

 その時、シャルティエと時雨(しぐれ)が驚いたような声を出す。

 

『おいおいおい、何でお前がいるんだよ』

『……本当ですね。確か死んだはずでは?』

「お前らは時雨(しぐれ)とシャルティエかぁぁ? とりあえず久しぶりと言っておこうかぁぁぁ!!」

「……何だ、お前らこいつと知り合いなのか?」

 

 エドワードは時雨(しぐれ)とシャルティエに質問するが、「ちょっとな……」としか返事が来なかった。

 しかしエドワードは答えを期待していなかった。

 通り魔の男がかなり強いと感じ、無駄話をしている余裕が無いのである。

 

「ふん……誰が相手だろうと、僕の前には敵はいない」

「ソーディアンを持った程度で強くなったと錯覚している程度では俺には勝てないぞぉぉ」

「……ちっ」

 

(てか何でこんなところにこいつがいるんだよ! いつの時代のかは分からないが……どちらにせよ……強敵だ)

 

 時雨(しぐれ)は目の前にいる男に最大限の警戒をしていた。

 なぜなら……本来であれば歴史の闇に葬られたはずの男だったからだ。

 リオンとエドワードは男に対し、二対一でいくことを決めていた。

 王国客員剣士としてのプライドもあるが、ここで負けるわけにはいかないのだ。

 

「来ないのかぁぁ? それならばこちらから行くぞぉぉ!」

 

 男は巨大な身体からは想像も出来ないようなスピードで突っ込んできた。

 リオンの前に来ると、斧を振り回してリオンを吹き飛ばす。

 幸い、リオンはシャルティエを盾にしつつ自ら横に飛んだため、攻撃によるダメージはそこまで受けていない。

 

(なんなんだこいつは……。僕ですらギリギリ反応できるレベルでのスピードなのに、見た目以上の力を持っている)

 

「リオン! 大丈夫か!?」

「……ああ。大丈夫だ」

「そんな仲間のことを気遣う余裕があるのかなぁぁぁ!?」

 

 次に男はエドワードの対し、突っ込んできた。

 エドワードは攻撃が直線的であるのを読んで、時雨(しぐれ)を使って受け流す。

 男の攻撃のバリエーションで時雨(しぐれ)はいつの時代の()なのかに気付く。

 

『お前……もしかして()()()()直後から来たのか……?』

 

 時雨(しぐれ)に見抜かれて一瞬驚くが、男は気付かれたところでどうにかなるわけではないと思い直し時雨(しぐれ)に答える。

 

「よく気付いたなぁぁ! しかし気付いたところで、かつてのソーディアンメンバーもいない、そして()()()()もいないのでは俺様に勝てるわけがないのさぁぁ!!」

「……一つ聞きたい。お前がソーディアンと知り合いだったのは分かった。そんなことよりもなぜダリルシェイドの罪もない市民を狙った?」

 

 エドワードは必ず聞こうと思っていたことを、このタイミングで聞いていていた。

 意外な質問だったため、男は一瞬答えあぐねたが、すぐに回答を出す。

 

「はっはぁぁ! 実はこの斧を新しく貰ったんでなぁ! 試し斬りにちょうどいいから雑魚どもを狙っていただけだぁぁ!

だがそろそろそれにも飽きていてなぁ……強いやつを探していたところでソーディアンマスターに出会えるとは俺も幸運だったってことだぁぁ!」

「……下衆野郎が。本当に幸運なのか試してみやがれ! ──加速(アクセル)!!」

 

 エドワードが晶術を唱えると、淡く光り身体が軽くなる感覚になる。

 この数ヶ月、晶術と剣術を使った訓練をこなしていたので、加速(アクセル)に関しては使いこなしていた。

 すぐさまエドワードは男に突っ込んでいき、横薙ぎをする。

 

「ぬぅぅぅぅ!!! 小癪(こしゃく)なぁぁぁ!!!」

 

 男もエドワードの攻撃を防いだ後、すぐに反撃をするがそこにはエドワードはいなかった。

 加速(アクセル)で速くなったエドワードに攻撃を与えることはできない。

 それに気付いたエドワードは、ヒット&アウェイで徐々に男を追い詰めていく。

 

「おのれぇぇい! ちょこまかとうるさいやつめぇぇ!!」

 

 エドワードの攻撃に痺れを切らした男は、大振りの攻撃をエドワードにしかける。

 しかし、エドワードにその攻撃が当たることがなく、地面に斧が刺さる。

 

「リオン! 今だ!」

「──グレイブ!!」

 

 リオンの放った晶術で、地面から複数の岩の槍が生えてきて男に襲いかかる。

 男は斧を手放し、岩槍を素手で破壊する。

 

「この程度の攻撃が……俺様に効くかぁぁーーーー!!!!」

 

 しかし、それですら囮でしか無かった。

 エドワードはグレイブを素手で弾いたせいで無防備になった男の目の前に現れた。

 そして右手のみで時雨(しぐれ)を持ち、それを地面と水平に保って腰を深く落とす。

 そして左手を切っ先に添えた状態から一気に間合いをつめ、突撃していく。

 

絶空(ぜっくう)・壱式!!」

 

 エドワードから放たれた渾身の突きが男の胸を貫く。

 男は時雨(しぐれ)を胸に刺され、口からも血を吐く。

 エドワードは時雨(しぐれ)を男から抜き、少し間合いを取って様子を見る。

 

「ぐ、ぐふ……」

「もうこれまでだな……。大人しく捕まってもらおうか」

 

 そう言って、男を捕らえようとするエドワード。

 しかしながら、そこに油断は一切なかった。それでも男は笑いながら話し出す。

 

「……ふはははは! これだ! これこそ俺が求めていた戦いだ! ソーディアンマスターども! 貴様らの顔は覚えたぞ!

必ず!必ずお前らを八つ裂きにしてやる!」

 

 そう言って、男の周りがぼやけ出し、そのまま消えてしまった。

 そこには男が残していった斧と、戦いの跡だけが残っていた。

 




この男は誰でしょう?
あと、エドくんに新しい技が増えました。
ええ、アレですよ。アレ。がと…ゲフンゲフン。

もう少ししたら原作開始しますので、お待ちを!

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第十四話

 男を追い払った──逃げられたとも言う──エドワードは、一息付くと警備兵を呼びに行った。

 そして警備兵に残りを託し、リオンと一緒にヒューゴ邸に戻る。

 ダイニングで紅茶を入れてもらい、先ほどの戦いについて振り返る。

 

「あの男、凄まじく強かったな」

「……ああ。シャル、あいつは何者だ?」

『えっと……時雨(しぐれ)、話しても良いんですかね?』

『ああ、仕方ないだろう。あいつの名前はバルバトス。天地戦争時代の頃、地上軍の将官を務めていた男だ。

だが、戦いを求めるあまりに……地上軍を裏切り、天上側に付いたんだ』

『そこで当時のソーディアンマスター達が倒したんですけどね。なぜか生きていて、この時代に来ていたというわけです』

 

 エドワードはダイニングの隅に置いてあるバルバトスの斧を見た。

 持ってきたのはエドワードなのだが、かなりの重量があり、あれを片手で軽々と振り回す力を恐ろしいと思っていた。

 

「それで……一旦解決したということで良いのか?」

「そうだな。次の標的も僕らに決まったようだし、今回みたいな通り魔事件は無くなるだろう。

念のため少しの間は警備をこのままにしておけば良いだろう」

 

 セインガルド王への報告は明日行うことに決まり、今夜は解散となった。

 帰り道でエドワードが時雨(しぐれ)に語りかける。

 

「なぁ時雨(しぐれ)

『ん? どうした?』

「あのバルバトスというやつ、なんでこの時代に来ることが出来たんだ?」

『……なぜだろうな。もしかしたらアイツの裏にそういう能力を持っている奴が出てきたのかもしれないな』

「バルバトス本人がその能力に目覚めたという可能性はないのか?」

『ああ、理由は言えないが、それだけはあり得ない』

「そうか……」

 

(いつかはエドに本当のことを話さないといけないんだよな。それまでにもっと強くなってもらわないと……)

時雨(しぐれ)は何か隠してるんだよなぁ……まぁいつか話してくれるだろ! それまで俺はもっと強くなっておかないとだ)

 

 時雨(しぐれ)はエドワードを思いやり、エドワードは時雨(しぐれ)を思いやる。

 そして、お互いに強くなろうという気持ちが偶然一致したのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 次の日、セインガルド王に報告するために城に行くエドワード。

 

「セインガルド王国客員剣士、エドワード・シュリンプ様の入場です」

 

 謁見の間の扉が開かれ、セインガルド王の前まで行き跪くエドワード。

 

(おもて)を上げよ」

 

 セインガルド王に言われ、顔をあげるエドワード。

 

「通り魔事件について、報告があるそうだな」

「はっ。先日通り魔と遭遇しまして、撃退をしました」

 

 バルバトスと出会ったこと、リオンと協力して撃退したこと、通り魔の目的は新しい武器の試し斬りがしたかったということ。

 そして撃退したことで、これからはエドワードとリオンを狙う可能性があるので、一般人に対しての被害の可能性は減ったなどである。

 

「うむ、分かった。そのバルバトスとやらに狙われることについては……問題ないのか?」

「はい、油断をしなければ問題ないかと。これからも精進して技術の向上をしてまいります」

「そうか。分かったぞ。よくやった、エドワードよ。下がって良いぞ」

「はっ」

 

 謁見の間を出たエドワードは深呼吸をした。

 セインガルド王に謁見する機会はそこまで多いわけではないのだが、何回経験しても慣れないものだなと思うエドワード。

 精神的な疲労もあったが、一度ヒューゴ邸に行くことにした。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「何の用だ。僕は忙しいんだ」

 

 リオン・マグナスとダイニングにてセインガルド王へ報告をしたという話をする。

 忙しいと言いつつ、毎回エドワードが来るたびにきちんと迎え入れてマリアンに紅茶を入れてもらう辺りは歓迎されているようにしか見えないのだが、リオンの性格はそういうものなのだと気にしないことにしたエドワードであった。

 

「……ふぅ。今日の紅茶も美味しいな、マリアン」

「あら、ありがとうエミリオ。……ってお客様の前でしたね。失礼しました」

「こいつの前では構わない。前にもう見せてしまっているしな」

「そうだったわね。それならいいか。それにしてもエドワードさんとエミリオ、大活躍だったそうじゃない」

 

 マリアンに褒められてすごい嬉しそうな顔をしたリオンは、すぐにエドワードがニヤついているのに気付き、表情を元に戻す。

 そしてエドワードに聞きそびれていたことについて質問をするのであった。

 

「そういえばあの男、バルバトスといったか。アイツに最後に放った技はなんだ?」

「ああ、絶空(ぜっくう)のことかな?」

「僕はあの技を見たことがないぞ」

「そりゃあ対リオン用にとっておいた技だからね。あの場で使うことになるとは思っていなかったけど」

『あの技って時雨(しぐれ)が元々使っていた技ですよね?』

『ああ。エドに合いそうだから教えたんだ』

 

 絶空(ぜっくう)についてあれこれと話すエドワード達。

 他の技についても練習中だが、晶術を使いつつレベル上げにも勤しんでいると話すと、「僕もこれからやる」と言って一緒にやりたいのか、同じメニューをこなすだけなのかが分からないが、リオンは明らかに強くなることについて貪欲になり始めていた。

 それはエドワードにも勝ちたい気持ちが強そうだが、今後マリアンを守る力にもなればいいと思う時雨(しぐれ)であった。

 

 

 家に戻り、エドワードは時雨(しぐれ)と話す。

 

「これからもっと強くなりたいな……バルバトスが襲ってきたときに一人でも勝てるようにしないとだ」

『……ああ! そうだな! 俺も協力するから、一緒に強くなっていこう!』

「おう! ありがとう! まずはリオンに完勝することからだな!」

 

 

 これからエドワードは今まで以上に修行へ明け暮れることになる。

 そして時雨(しぐれ)と出会ってから一年が経ち……運命を解き放つ物語が始まるのであった。

 




次話から原作開始できると思います!

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第一章 原作開始(第一部)
第十五話


本話から原作開始となります。




(ごめん……じっちゃん、リリス。俺はどうしてもセインガルドへ行きたいんだ)

 

 金髪の青年は夜中にこっそりと自宅を出て、飛行竜がいるというセインガルド軍駐留地へと向かう。

 兵士によって警戒はされていたが、青年は普段から走り回っている道なので、兵士がいなさそうなポイントを探しつつ飛行竜へと近付く。

 

(よし、今なら誰もいないな。ここから入ろう)

 

 青年は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ため、容易に侵入することができた。

 そして出発するまで隠れていようと貨物倉庫に身を隠すことにした。

 

「ふぅ……ここに隠れていれば問題無いだろう。後はセインガルドに着いたら仕官して、俺も兵士になるんだ!」

 

 安心した青年は、夜も遅かったのもありそのまま疲れて寝入ってしまった。

 

 

「よし、じゃあ荷物も積み込んだな?」

「はい!」

「例の()()も大丈夫か?」

「はい、確かに積み込みました!」

「分かった。それではこれから王都ダリルシェイドに帰還する! 飛行竜、発進!」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 飛行竜が飛び立ち、軌道も安定して来た頃である。

 兵士達は仕事である見回りしていた。

 

「見回りは退屈だね〜」

「おい、そんなこと言うなって! 上官に聞かれたら大目玉だぞ!」

「そんなこと言ったって出発するまで厳重に監視していたのに、ネズミ一匹だって入れるわけないじゃないか」

「確かにそうだ……」

 

 目の前を一匹のネズミが通っていく。

 

「ゴ、ゴホン! と、とにかく! さっさと見回りを済ませるぞ!」

「へいへい。……って何か聞こえないか?」

「え……? 確かに……これは……いびき?」

「もしかしてこの先にサボって寝ている奴がいるんじゃないか? 起こしてやろうぜ」

「お、おい!」

「こら! なにサボって……コイツ誰だ?」

 

 兵士達の目の前にいたのは、いびきをかいて寝ている髪の長い金髪の青年だった。

 侵入者と疑うが、それにしても警戒心がなさすぎるので毒気が抜かれていた。

 

「ど、どうするよ?」

「とりあえず起こすしかないだろ。おい! 起きろ!」

 

 そう言って兵士が青年を蹴る。しかし青年は全く起きる気配がない。

 もっと強く蹴るが、それでも起きなかった。

 

「はあはあ……この野郎、全く起きやがらねぇ!」

「……ん? ほえ? リリスか〜? もう少し寝かせてくれよ〜」

「寝ぼけてんじゃねぇっての!!」

 

 兵士が再度青年を蹴ると、むくっと起き出した。

 まだ寝ぼけているようであったが、徐々に覚醒し出して自分の状況を理解し始める青年。

 

「君は……誰なんだい?」

「え……えっと、俺はスタン・エルロンといいます」

 

 名前を聞かれ、素直に答えるスタン。

 

「なんでここにいるんだ?」

「あの、俺、セインガルドに行って兵士になりたいと思ってたんです!」

「……ああ、それで飛行竜に忍び込んだってわけね」

「は、はい」

 

 目的を素直に話したスタンに兵士達は困惑していた。

 スタンが聞こえない小さな声で相談し始める二人。

 

「おい、どうするよ?」

「一旦、上官に報告するしかないだろう。俺が行ってくるから、ちょっと待ってろ」

 

 そう言って、一人の兵士が倉庫から出ていく。

 残されたスタンと兵士は気まずいながらも無言で過ごすしかなかった。

 

 

 少しして上官と一緒に戻ってきた兵士。

 上官はスタンを見て「飛行竜に乗り込んだ目的を言え」と言う。

 スタンとしても素直に答えるしかないので、先ほどと同じ答えを話す。

 

「そうか……それなら仕方ないな」

「え……じゃあ──」

「──ああ、ちょっと私についてきたまえ」

 

 そう言って、スタンを飛行竜のデッキまで連れていく。

 デッキまで素直についてきたスタンを兵士二人と上官が囲み、剣を抜く。

 そしてこれから何をされるのかに気付いたスタンは、後退りをする。

 

「よせ、やめろ……! やめてくれ……どうして俺がこんな目に!」

「機密保持のためだ。悪く思うな」

「俺はただ、セインガルドへ行きたかっただけなのに!」

 

 にじりよる兵士に対し、「そんな……待ってくれよ!」と懇願するスタン。

 しかし上官はため息を吐き、諦めたように話し出す。

 

()()を運んでいる時でなければ、これほどの目には遭わなかっただろうが。……仕方がないのだ」

 

 そして兵士がスタンに斬りかかろうとしたところで、何かが飛んできて兵士の手に当たる。

 兵士は思わず剣を落としてしまい、慌てて拾いながらスタンに詰め寄る。

 

「く……誰だ!? ……貴様。さては他に仲間がいるな?」

「し……知らない!」

 

 スタンが両手を上げて知らないと言った直後、大きな振動とともに警報が鳴る。

 

「な、何事だ!」

 

 上官が叫んだところで、船員がデッキに上がってきて報告をする。

 

「前方より、モンスターの大群が襲来! すごい数です!」

「馬鹿な! モンスターが飛行竜を襲うなどあり得んはずだ!」

「ご命令を!」

「総員、第一級戦闘配備! 中に入れさせてはならん!」

「はっ!」

 

 そして上官は船員と船内へ戻って行き、兵士はデッキに現れたモンスターの対処に向かった。

 

「よし、今のうちに!」

 

 スタンも逃げようと船内の入ろうとするが、そこにモンスターがやってきて攻撃を加えようとする。

 間一髪避けたスタンはそのまま船内に戻って行った。

 

(このままじゃやられる! どこかに武器はないのか!?)

 

 スタンは船内を探すが、武器が見当たらず困っていた。

 そして、先ほど居眠りをしていた倉庫に近付いたときだった。

 すでに侵入していたモンスターが目の前に立ち塞がり、後ろに逃げようとするも後ろにもモンスターが道を塞いでいた。

 

「しまった……!」

 

 スタンは挟まれてしまい、逃げ道を探したときに階段を登った先にある扉を見つけてそこに逃げ込む。

 そして扉の鍵を掛けて、一安心するがモンスターは扉を破ろうと体当たりをしている。

 

「じっちゃん! リリス! ……嫌だ! こんなところで死にたくない!」

 

 だが、徐々にモンスターが扉を破壊していくのが見え、万事休すかと思ったそのとき、

 

『そこのお前』

「え?」

 

 何者かの声が聞こえ、辺りを見回すスタン。

 

『ほう、我の声が聞こえるようだな。素質はあるということか』

「だ、誰だ!?」

 

 声はすれど姿は見えぬといった状態に、さすがのスタンも警戒心を(あらわ)にする。

 

『知りたいか? ならば奥まで来るがいい』

「奥…?」

 

 声に従ってスタンが奥を見ると、何かが光ったのが見える。

 そして光った先に向かうが、そこには誰もいなかった。

 代わりにそこにあったのは、壁に丁寧に掛けられている一振りの剣だった。

 




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第十六話

「これは……剣? 変わった形をしているけど、使えるのか……?」

 

 その瞬間、モンスターが扉を破り中に入ってくる。

 形を気にしている場合じゃないとスタンは剣を掴み、モンスターに戦いを挑む。

 

 狼型のモンスターだが、スタンは普段から戦っているので苦戦することもなく倒す。

 スタンはそれよりも妙に手に馴染む剣に驚いていた。

 

 さらに揺れる飛行竜に外の様子が気になるので倉庫の外に出た。

 船内にはモンスターがたくさんいて、すぐ目の前にも現れていた。

 

「くっ、またか!」

 

 剣を構えたところで、横から黒髪の女性がモンスターを瞬殺する。

 急に現れた女性に対して警戒するスタン。

 黒髪の女性はスタンが持っている剣を見て、スタンに話し出す。

 

「ちょっと! どうしてあんたがそれを持ってるの! その剣よこしなさいよ! あんたが手にする物じゃないわ!」

 

 急に現れて剣をよこせと要求する黒髪の女性に困惑するスタン。

 その間にまたモンスターが出てくる。

 

「ああもう! どうしてこう次から次へと! まさか……こいつらも剣を狙ってるんじゃないでしょうね!?」

「このままじゃキリがない!」

 

 スタンと黒髪の女性はモンスターを倒そうと剣を構えた。

 その直後、モンスターの背後から斧を持った乗組員の格好の人が現れて、一撃でなぎ払う。

 

「大丈夫か!? 乗組員が全滅した。このままでは墜落する!」

「全滅!?」

 

 〝全滅〟という言葉にスタンが驚きの声を上げる。

 しかし、スタンの言葉を無視して、話を続けていく。

 

「すぐに脱出するぞ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ! まだ肝心の剣が!」

「時間がない!」

 

 黒髪の女性はスタンの持っている剣を手に入れてないとゴネていたが、反抗も虚しく引きずられていってしまった。

 

(た、大変だ……! 俺も早く脱出しないと!)

 

 スタンは全力で走り、先ほど兵士達に追い詰められたデッキへと急ぐ。

 デッキに着くと、一つの脱出ポッドがちょうど発進したところだった。

 スタンは焦るが、もう一つ脱出ポッドがあることに気付く。

 

(しめた! アレを使って脱出しよう!!)

 

 ポッドに乗ろうと試みるが目の前には複数のモンスターがいて、なかなか前に進ませてくれない。

 スタンが行動をためらっていると、モンスターが一斉に襲いかかってくる。

 今がチャンスだと思ったスタンは、襲いかかるモンスターを躱し、そのまま脱出ポッドへと乗り込む。

 

「えっと……多分これだよな! 急げ!!」

 

 発進スイッチを見つけたので急ぎ押すと、ポッドの扉が閉まり、発進し始める。

 先ほど避けたモンスターが、スタンを追いかけてくる。

 

(急げ……急げ……!! 早く!!)

 

 スタンの祈りが通じたのか、モンスターが到着する前にポッドは脱出する。

 しかし、空を飛ぶモンスター ──ワイバーン──が炎を吐き、脱出ポッドに攻撃を加えたせいで、ポッドに煙が湧いてくる。

 これ以上はモンスターもスタンも何も出来ず、脱出ポッドは勢い良く飛行竜から飛び出し、そのまま地上へと落ちていった。

 

「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 脱出ポッドが落ちていく圧力に耐えながら、スタンは必死に助かるように祈る。

 先ほど出会ったばかりの剣を腕に抱きながら。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「な、なんだと!? 飛行竜がモンスターの襲撃で奪われたというのか!? ()()の所在はどうなっておる!?」

「そ、それが……行方が分からずとなっております」

 

 伝令兵の報告でうろたえるセインガルド王。

 しかし横にいたヒューゴ・ジルクリストは慌てずにセインガルド王に話し出す。

 

「陛下。一大事ではありますが、まずは七将軍と王国客員剣士を招集することが優先かと……」

「う、うむ。……そうだな。すぐに七将軍と王国客員剣士を謁見の間に集めよ」

「はっ!」

 

 伝令兵と近くにいた兵士達が謁見の間から出ていく。

 

()()が乗っている時に飛行竜がモンスターの群れに襲われるとは……まさかモンスターに意図があって襲ったというのか……?」

「その可能性はありましょうな。すぐにでも捜索部隊を編成するのが良いかと思います」

「うむ」

 

 セインガルド王は頷いた後、七将軍とリオン、エドワードが集まるまで一言も話すことはなかった。

 

 

 

 

(何が一体、どうなっているんだ?)

 

 エドワードは緊急で呼び出されたこと以外の詳細は何も分かっていないため、自分が何かやらかしたのかと不安にもなっていた。

 そして謁見の間に到着した時、そこには七将軍とリオンもいたことに少し安堵する。

 だが、ただ事ではない雰囲気を察知して、すぐに自身の立つ位置に向かった。

 

「陛下がいらっしゃいます。各自控えてください」

 

 その言葉とともに全員が跪き、セインガルド王の到着を待つ。

 セインガルド王が自身の席につき、「(おもて)を上げよ」と言い、全員が立ち上がる。

 

「皆の者、突然の呼び出しによく集まってくれた。今回緊急事態が起きたのだ。

我が国が所有している”飛行竜”が……モンスターの襲撃に遭い、奪われた」

「「「「……!?」」」」

 

 全員が驚き、言葉を失った。

 もちろんエドワードもである。リオンですら動揺を隠せていないのである。

 

「へ、陛下、それはいつのことでしょうか?」

「うむ、つい数時間前のことだ。通信機にモンスター襲撃の報告があり、音声が途切れたあと……飛行竜も消えてしまったのだ。

それですぐに捜索隊を編成しなくてはならない。ロベルト、アシュレイ、ブルームよ。この会議の後、直ちに兵をまとめ出陣するのだ!」

「「「はっ!」」」

「それと……まだ報告がある。飛行竜にはソーディアンを乗せて運搬中だったのだ……その探索も忘れるな。以上だ」

 

 セインガルド王の言葉で七将軍のロベルト、アシュレイ、ブルームが出陣の準備のため、早々に謁見の間を出ていく。

 エドワードは最後の言葉が気になり、謁見の間を出た後、リオンに話し掛ける。

 

「ソーディアンが奪われたのか?」

「……おそらくな。僕にも詳細は分からない。だが奪われたソーディアンが敵になった時、僕らの出番がくるだろう。ソーディアン相手には、同じソーディアンでないと対抗できないからな」

『そうですね。どのソーディアンかはまだ分かりませんが、準備は怠らないようにしましょう!』

 

 リオンはいつでも出陣できるように準備をすると言ってヒューゴ邸に帰っていった。

 そしてエドワードも準備をしないとと思い、最近補充していなかったグミの買い足しに走るのであった。

 




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第十七話

 飛行竜襲撃事件から少しの時間が経った。

 依然として飛行竜、ソーディアン共に消息不明のままになっているが、王都ダリルシェイドは変わらぬ賑やかさであった。

 それもそのはずだ。飛行竜襲撃に関しての発表は伏せられており、それは通り魔(バルバトス)事件の騒ぎがようやく落ち着いてきたところで民へ無用な不安を募らせたくないという王国政府の考えでもあったのだ。

 

 そんな中、セインガルド王へ一つの情報がもたらされる。

 

「報告します。遺跡盗掘などで指名手配者されていたルーティ・カトレットとマリー・エージェントが現れたということです」

「ふむ……それでは兵を派遣して捕まえ──」

「──お待ちください、陛下。今回はリオンに任せてみてはいかがでしょうか?」

 

 ヒューゴがセインガルド国王の言葉を遮り、リオンに任せるように進言する。

 その言葉にセインガルド国王も(いぶか)しげな表情を見せる。

 

「……リオンにか? 盗掘者ごときに客員剣士など不要であろう」

「いえ、私独自の情報によるとルーティ・カトレットは()()()()()()を持っているかもしれないのです」

 

 ソーディアンを持っているかもしれないという情報に、セインガルド国王も動揺を隠せない。

 

「ソーディアンを!? ……ううむ、それではリオンに任せるが良いか」

「はっ。念のためエドワード・シュリンプにも同行させましょう」

「それでは……いや、良い。そちに任せる」

「はっ! 今の話を聞いていたな! 至急リオンとエドワードにこのことを伝えるのだ!」

 

 セインガルド国王はヒューゴに任せると言い、その言葉を聞いたヒューゴは近くにいた兵士にリオンとエドワードの二人にこの話をするように指示を出すのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

子供の頃、見上げるといつも彼女は優しく微笑んでくれた。

時が過ぎ、成長するにつれ、その笑顔を見上げる必要はなくなっていった。

ただ、同じ目線になるにはまだ少し足りなかった。

 

父は僕に無関心だった。

だから僕は早く父に頼らなくても生きていける大人になりたかった。

 

僕の望むものは、ただ二つ。

全ては……彼女と対等になるために──

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「マリアン」

 

 リオンがダイニングに入るとヒューゴ邸のメイドをしているマリアンが窓から外を眺めていた。

 マリアンはリオンに呼ばれ、ハッとして振り向く。

 

「あ、エミリオ。ごめんなさい。近頃暖かくなってきたせいか……つい」

「ぼんやりしていたというのかい? それなら僕は邪魔しないよ」

 

 リオンは笑顔を見せながらマリアンへと語りかける。

 からかわれていると気付いたマリアンは、頬を膨らませて怒っていますというポーズを取る。

 

「もう、エミリオったら! いじめないでちょうだい。今日はお勤めなの?」

「いや、今日は任務なしだ。だから、(うち)でのんびりしようと思ってね」

 

 マリアンと一緒に──という言葉を飲み込んだリオン。

 そんな言葉が暗に含まれているとは気付いていないマリアンは、リオンを嗜めるように口を開く。

 

「ダメよ、私よりもお若い方がそのようにだらしのないことを言っては」

「何を言うんだ。僕とマリアンじゃそれほど歳も変わらないじゃないか!」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、歳の差ばかりは縮まらないでしょ?」

「けど──」

 

 リオンがマリアンに反論をしようと思ったときに、突然兵士が「失礼します」と入ってきた。

 振り向くと、どうやらリオンに緊急の任務を伝えにきたと言うことだった。

 リオンはマリアンとの楽しい時間を邪魔されたことに少し腹が立っていた。

 

「お前、緊急とはいえ、誰の許可を得て屋敷の中まで入って来たんだ」

「も、申し訳ありません……しかし……」

「言い訳などいい。さっさと任務の話をしろ」

 

 少し不機嫌そうに兵士へ当たったリオンは、マリアンが席を外そうとしているのを見て「すまない、マリアン」とだけ話した。

 マリアンは軽く笑って兵士にバレないようにウインクをすると、そのままダイニングから出て行った。

 

「指名手配されていた盗掘者を発見したと通報がありました」

「盗掘者ごときにどうして僕が出向かなければならない。お前達だけでどうにでもなるだろう」

「陛下もそう仰っていたのですが……ヒューゴ様がリオン様にお伝えしろと」

「ヒューゴ様が!?」

「ええ。そして指名手配犯の名前はルーティ・カトレットとマリー・エージェントというものです」

「ルーティ……カトレット?」

 

 この名前を聞いた途端にリオンの顔が変わった。ルーティ・カトレットと名乗る人は世界広しといえどもそこまで多くはないであろう。

 つまり、リオンの知っている人物でほぼ間違いはないということだ。

 

「実は、今までも散々逃げられていたのですが、ルーティ・カトレットは何やら不思議な剣を使うようなのです。

それに今回はその二名の他にもう一人加わっているとのことでしたので、エドワード様と二人で行くようにとのことでした」

 

 兵士の言葉を聞いてリオンはある一つの確信へと至る。

 

「不思議な剣……なるほど、そういうことか。分かった。場所はどこだ?」

「ハーメンツの村です。先遣隊は先ほど出発しましたので、お急ぎください」

 

 兵士はエドワードにも伝えなくてはいけないとのことで去っていった。

 エドワードと一緒に行った方がいいと判断したリオンは、ダリルシェイドの入り口で待ち合わせようという伝言を兵士にお願いした。

 

「……聞いたか、シャル」

『ええ、ちゃんと聞いていましたよ、坊っちゃん。話にあった不思議な剣って……多分ソーディアンでしょうね』

「シャルと時雨(しぐれ)以外で飛行竜のソーディアン、そして指名手配犯のルーティ・カトレットの持つソーディアンか……だいぶ増えてきたな」

『でも確か……ルーティって坊っちゃんの生き別れたお姉さんだったんじゃ?』

「いや、まだ決まったわけじゃない。なんせ僕もまだ会ったことはないからな。

どちらにせよ兵士達では手に負えないかもしれない。エドワードと合流してハーメンツの村に向かうぞ」

『はい、坊っちゃん』

 

 リオンが入り口に到着して数分後にエドワードもやって来た。

 今回は馬が用意されていたため、それに乗ってハーメンツの村まで向かう。

 この一年でエドワードも馬に乗れるようになっていたのであった。

 

 ハーメンツの村に向かいながら、エドワードとリオンは今回の指名手配犯について話す。

 

「ルーティ・カトレットとマリー・エージェント……それにもう一人いるということだったな」

「ああ、恐らくだがルーティ・カトレットはソーディアン所持者だ」

 

 なぜ王国客員剣士が呼ばれたのか疑問に思っていたのだが、エドワードは合点がいったようだった。

 しかし、まだ疑問は残る。

 

「それで俺らが向かうことになったのか……でも二人もいるのか?」

「いや、いらないとは思うが万が一を考えてだろう」

「万が一?」

 

 エドワードはリオンの言葉を繰り返す。

 その疑問に答えたのは時雨(しぐれ)であった。

 

『ソーディアンが二本あったら……どうする?』

『そういうことですね』

「……そうだ。普段二人で組んでいたルーティ・カトレットがもう一人仲間に加えているんだ。その可能性はあり得る」

 

 エドワードは全員の話していることに納得をする。確かにソーディアンマスターがもう一人いてもおかしくないし、そうでなくても手練れの可能性が高い。

 もしリオンとエドワードのどちらか一人だけで捕縛に行き、やられてしまってソーディアンが奪われたら国家として大損失になってしまうからだ。

 

『それにしても次は誰かねぇ』

『……そ、そうですね』

「なんだシャル。旧友に会えるかもしれないのに嬉しくないのか?」

 

 リオンはシャルティエが微妙な反応をしていることに気付き、質問をする。

 シャルティエは答えづらそうにしながらも、リオンの質問に答える。

 

『……ソーディアンの中じゃ僕が一番若いから……どうも一緒にいると気疲れしちゃって…』

『まぁあの中にいるとそうなるよなぁ……』

「いや、お前もソーディアンでしょうに」

『あ、時雨(しぐれ)は別なんですよ。……詳しくは話せませんけど』

 

 やはり時雨(しぐれ)の秘密については頑なに話そうとしない二人(時雨とシャルティエ)

 もう慣れてしまっているのでそこまで気にしていないし、いずれ話してくれるだろうと思っている。

 

 

 

 そしてハーメンツの村に着くと、そこには驚くべき光景が広がっていた。

 




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第十八話

不定期投稿…?



 ハーメンツの村に着いたエドワードとリオンは入り口を塞いでいる兵士二人を見つけた。

 

「お疲れ様です。指名手配犯がいると聞いてきたんですけど、どうなりました?」

「……エドワード様!?」

「おやおや、王国客員剣士様でしたか。まさかこのように早々……むぐっ!」

「お前……見たことないけど新人か?」

 

 エドワードが生意気な口調で話しかけてきた兵士の顔を掴むと、少し力を込めて握り出した。

 リオンもだが、王国客員剣士は兵士への評判が悪かった。

 だが、この一年でエドワードが注力したお陰でかなり改善されていたのである。

 

 それもエドワードが元王国兵士だったということと、任務も協力して行い、剣の指導もしたりもしていたからだ。

 リオンに関してもエドワードが仲介に入ることで兵士に対してそこまで悪態付くこともなくなり、同じように信頼され始めていた。

 それでも中には悪い感情をまだ持っている人であったり、その人に影響を受けた新人もいたりもする。

 

 そういう人物を発見したら必ずエドワードは毅然とした態度で対処をしていた。

 もちろん人に応じて優しくするなど態度を変えてはいるが、今の兵士に関しては力で黙らせる方が適切だと感じたためそのようにしていた。

 

「い、いだだだだだ!!!!」

「お前、丁寧に話しかけてくる人に対してそんな口調で話していいって誰から習った?」

「な、なんだ……いでぇーーー!! ご、ごめんなさい!!」

「うむ、それでよいのだ! はっはっは!」

 

 エドワードは謝罪をした兵士を離し、一人笑い出す。

 この光景に慣れているリオンは、エドワードを無視してもう一人の兵士に様子を聞く。

 

「それで、状況を聞かせてくれないか?」

「先ほど宿から出てきた盗掘者達を我が軍の精鋭達が取り囲んでいます」

「そうか……じゃあ中に入るから」

「え!? あ、はい」

 

 エドワードとリオンは盗掘者がいる宿の前まで歩いて行く。

 そこには金髪の青年、黒髪の女性、赤髪の女性の三人が兵士十人ほどに囲まれていた。

 

『ああ! あの剣は!』

『確実にあの二人だな』

「え……やっぱり知り合いなの?」

『ええ…多分()()()()()()()()()()です』

「やはりソーディアンマスターが二人いたか。こちらもエドワードと二人で来て正解だったな」

『はぁ……まいったなぁ。僕昔からディムロス(あの人)苦手なんですよ』

 

 エドワード達が話しながら様子を見ていると、兵士達と揉め出し、兵士全員が剣を抜く。

 兵士が襲い掛かるが、三人相手に返り討ちに遭う。

 

「あらら……兵士全員やられちゃったね」

「ふん、行くぞ」

 

 リオンが先に行き、エドワードがついて行く。

 そこでは金髪の青年が隊長に何かを話しかけている。

 エドワードとリオンがその場に来ると、三人はリオン達の方を見た。

 

「リ、リオン様、エドワード様」

「大丈夫か? 全員立てるようなら、一旦下がっていてくれないか?」

「は、はい!」

 

 兵士達は手加減されていたのかは分からないが、立ち上がって歩くくらいなら出来るようであった。

 

「な、なんだ! 新手か!?」

「君さ……誰に手を出したか分かっているの? セインガルド王国の兵士だよ?」

「え!? ……だって……襲ってくるから」

「うちの兵士が何もしていない一般市民に襲い掛かるような野蛮人だと思っているの?」

「……」

 

 エドワードの言葉に金髪の青年が黙る。

 リオンは叩きのめせばいいといった雰囲気だが、話が通じそうなので事情を聞くことにした。

 そこで黒髪の女性が割り込んでくる。

 

「ちょっとスタン! 何やってるのよ!」

「いや、だってさぁ……」

「君は指名手配犯のルーティ・カトレットだね? このスタンという青年を騙くらかしてるの?」

「ちょっと! 失礼ね!」

「無許可の盗掘を国が許してないのを知っているでしょ? 一旦剣を納めて話をしないか?」

「……分かったわよ。た・だ・し! 私達は()()()()()()()よ! ただの盗掘者と一緒にしないでよね!」

 

 そう言ってルーティは剣を仕舞った。

 

「スタン君と……君はマリー・エージェントだね。君らも武器を仕舞ってくれないか? この通り俺も武器を出していないだろ?」

「わ、分かった──」

『──お前! 時雨(しぐれ)ではないか!』

『おお、久しぶりだね。ディムロスと……アトワイト。そこにシャルティエもいるよ』

『シャルティエ! あなたもいたのね!』

『……ええ、お久しぶりですね』

 

 武器を仕舞ったスタンとマリーに時雨(しぐれ)を見せたら、案の定ディムロスが気付く。

 二人の会話にアトワイトとシャルティエも加わる。

 

「え、何!? あんた達知り合いなの!?」

『同じソーディアンよ。こんなところでソーディアンが四本も集まるなんて……』

『何かが起きる前兆なのかもしれんな』

 

 アトワイトとディムロスはソーディアンが集まったことを何かの前触れだと不安がっているが、話に全くついていけないスタンとソーディアンの声すら聞こえないマリーは少し困惑していた。

 

「ちょ、ディムロス! どういうことだよ! 説明しろよ!」

「んー、とりあえずさ……場所変えない? こんなところで立っていても仕方ないし。できれば王都に来てもらえると助かるんだけど。

ソーディアンマスター同士、争うのは良くないと思うんだよね」

「……」

 

 リオンはまどろっこしいとは思いつつも、話が上手く纏まりそうなので黙っていた。

 自身が手を出さずに終えることが出来るなら、力づくでなくても良いのである。

 ソーディアン同士の本気の戦いは常日頃からエドワードと行っているため、スタンやルーティと戦うことにそこまで興味を持っていなかったのも要因の一つではあった。

 

「はぁ。分かったわよ。このままやっても私達じゃ勝てなさそうだし。流石にあんた達レベルの手練れが二人もいたら、勝てないもん」

「ありがとう。じゃあ馬車に乗って。道すがら色々と話も聞きたいし、ソーディアン同士で懐かしんだりもしたいでしょ?

ディムロスとアトワイトもそれでいいかな?」

『ああ、我はそれで構わないぞ』

『私も大丈夫よ』

 

 話が上手く纏まり、争いを避けてスタン達を連行することが出来たエドワード。

 ダリルシェイドに向かいながら、自己紹介をする。

 

「あっと、そういえば名乗っていなかったね。俺の名前はエドワード・シュリンプ。そこにいる無愛想なやつが……」

「誰が無愛想だ! 僕の名前はリオン・マグナスだ」

「そっか! 俺はスタン・エルロン! よろしく! エドワード、リオン!」

「……ちっ」

 

 リオンは馴れ馴れしく話しかけてくるスタンに少し不快感を覚えたが、エドワードで慣れたのか何も言わなかった。

 自己紹介している間にソーディアン同士も再会を喜び合っていた。

 

「そういえばさ、なんで神殿の盗掘なんてしていたの?」

「盗掘って言わないでよね! ……依頼で引き受けたのよ。ハーメンツの村のウォルトって男に」

「ウォルト? ……って確か」

「ああ、今回の件を僕らに通報してきた奴の名前だな」

「な! なんですってぇ!! あの男、絶対に許さないんだから!」

 

(んー……なんかリオンとルーティって似てるな。もしかして……)

 

 うっすらと二人の関係性を疑いながら、エドワード達はダリルシェイドへと向かうのであった。

 




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第十九話

「へー! ここが王都ダリルシェイドかー!」

 

 スタンが馬車から顔を出して呑気な声を出している。

 エドワードは多分罪人として連れてこられている自覚がないんだろうなと少し呆れた顔をする。

 馬車はそのままセインガルド城へと進んでいく。

 

「王国客員剣士エドワード・シュリンプとリオン・マグナスです。指名手配犯の捕縛任務を完了し、帰還しました」

「はっ! 任務ご苦労様です!」

 

 城の入り口にいる兵士に話し、中庭でスタン達を降ろす。

 スタン達に聞こえないように話したので、捕縛名目で連れて来られていると気付いていないスタン達。

 

「ここがセインガルド城だ。これから話をする場所に移動したいんだが、一般市民は武器の携帯が出来ないので一旦預けてもらえるか?」

「え……ディムロスを預けるのか?」

「ああ、頼む」

 

 渋々全員が武器を預け、そのまま城内にある客間に移動する。

 

(最終的な判断は陛下にお願いするとして、捕まえるとなったときに武器があると面倒だからね)

 

 エドワードはソーディアンマスターの希少性を分かっているため、もしセインガルド王が許可するのであれば釈放もあり得ると思っていた。

 そのため、スタン達に悪感情を持たれないように客間に通し、先にセインガルド王に報告を兼ねて謁見する予定だった。

 リオンも同じことを考えているようで、特に反対もされなかった。

 

「わぁ! こんなとこで待ってていいのか!?」

「ああ、大丈夫だよ。これからお茶とお菓子を持ってくるから、ゆっくりくつろいでくれ」

「なんか悪いわね! こんなにもてなしてもらっちゃって!」

「花がきれい」

 

 スタンは客間の豪華さに驚き、ルーティももてなされていると感じて、機嫌は悪くないようだった。

 そしてマリーは飾ってある花を見て、喜んでいるようだった。

 

「では、俺とリオンはちょっと席を外すから、あとは何かあればここにいる侍女に言ってくれ」

 

 そう言って、客間から出てセインガルド王のいる謁見の間へと向かう。

 その途中でヒューゴ・ジルクリストが待っていた。

 

「今戻ったのか。思いの外、時間が掛かったな」

「申し訳ございません、ヒューゴ様」

 

 エドワードがヒューゴに返事をしようとしたところ、リオンが前に出てきて代わりに話す。

 ヒューゴ曰く、ソーディアンを二本回収したことなども既にセインガルド王の耳に入っているとのことだった。

 そこでヒューゴが驚くべきことを言い出した。

 

「捕らえた罪人を連れ、陛下のもとへ来い」

「ただの盗掘者を陛下のもとへ……?」

「あの者達には余罪の疑いがある」

「しかし……余罪と言っても恐喝やその程度と聞いていますが……」

 

 リオンはただの盗掘者だと思っていた彼らをわざわざ国王の前にまで連れてこいと言ったヒューゴの意見に疑問を持つ。

 

「お前も覚えているであろう、先日の飛行竜の件を」

「……まさか、その犯人だと?」

「そうだ。そのことで陛下とドライデン閣下が、あの者達を直接尋問なさる」

「しかし、飛行竜の事件はモンス──」

「──かしこまりました。すぐに連れていきます」

「……早く連れてくるのだぞ」

 

 ヒューゴは話に割り込んできたエドワードを一瞥すると早く連れてくるように伝えて、謁見の間へと戻って行った。

 

「リオン……どうしたんだ。あそこまで言う必要はないだろう」

「いや……別に」

「もしかしてルーティが原因だったりするのか?」

「……! お前、気付いていたのか!」

「まぁ、似ているなという印象だけだったんだがな」

 

 リオンはため息をつくと、誰にも言わないように強く言ってから話し出した。

 ヒューゴ・ジルクリストにはクリス・カトレットという妻がいたこと。

 その間にルーティとリオンが生まれたこと。そして、リオンの物心がつく前にクリスはルーティを連れて出ていってしまったということ。

 だからルーティとは初対面と言ってもいいくらいだから、もしかしたらルーティ本人もリオンを知らないであろうこと。

 

「なるほどな。……でも今回の件、多分だがスタンとルーティが特にヤバい気がするぞ」

「なぜだ?」

「お前は気付かなかったのか? 飛行竜にはソーディアンがあったんだぞ」

 

 エドワードが話したヒントである程度の事情を悟ったリオン。

 

「……ま、まさかソーディアンを盗んだとでもいうのか?」

「ああ、そのまさかだ。どちらかのソーディアンが関わっていても不思議じゃない。

そしてどちらかが関わっていたとしたら、一緒に行動している時点で共犯確定だ」

「……ぐっ」

「だが、ソーディアンマスターは一定以上の資質が無いとなれないのはお前も知っているだろ?

そこを考慮してもらえるのであれば、もしかしたら助かる可能性もある。まずは早く謁見の前に連れて行こう」

 

 エドワードはリオンが姉であるルーティを心配していることに少し喜びを感じたが、それでも危機的状況になっていることには不安を隠せなかった。

 一旦客間に戻り、スタン達に事情を話すことにした。

 

「え!? 王様に会えるのか!?」

「いや、まぁ……そうなんだが……ちょっと事情が複雑でな。その前にスタンとルーティに聞きたいんだが…」

「何よ?」

「お前らのソーディアンってどこで手に入れたんだ?」

「はぁ? 何急に? あたしのは母の形見よ」

「えっと、俺はね……」

「……もしかして飛行竜にあったって言わないよな?」

「ど、どうしてそれを!?」

 

 スタンが分かりやすい反応をしたので、ソーディアンを盗んだ犯人はスタンだと確定する。

 あまり時間はないが、事情を簡単に聞くと飛行竜に忍び込んだ先でモンスターに襲われたらしいということ。

 倉庫に逃げ込んだ先にディムロスがいたということだった。

 

 スタンがそんな高度な嘘を演技込みで出来る訳がないと短い時間だが分かっていたので事実だと理解するエドワード。

 その上で、エドワードの推測──ディムロスを盗んだこと──を話して尋問される覚悟をしておけと伝える。

 

「なんであたしまで一緒に行かなきゃいけないのよ!」

「お前は指名手配されてる盗掘者でしょうに……」

「だからあたしは()()()()()()()だって!」

「分かったよ! とりあえずあまり陛下を待たせるとまずいから、さっさと行くぞ!」

 

 話の通じないルーティを無視して、さっさと謁見の間に連れていくことにしたエドワード。

 リオンはそばで見ていてため息をついていた。

 

 謁見の間に入るとすでにセインガルド王、七将軍のグスタフ・ドライデン、オベロン社総裁のヒューゴ・ジルクリストがいた。

 スタンは礼儀を知らないのか、謁見の間を見て「うわあ、すげえ豪華!」とはしゃいでいた。

 トライデンがその様子を見て苛立ちを隠さずに強めに言葉を発する。

 

「国王陛下の御前である。全員、控えよ!」

 

 エドワードとリオンは端で立っており、スタンとマリーはルーティの真似をして跪いていた。

 そこにディムロスとアトワイトが持ってこられて、セインガルド王の前に置かれる。

 

「貴様達がなぜこの場に引き立てられたかわかるか?」

「……」

「王国管理下の遺跡を荒らし、街中で暴れる、恐喝、余罪はまだまだあるぞ!

それと……そこの男!」

「あ、はい」

「貴様が持っていたディムロスは、本来我が国が回収するはずだった物。それをなぜ貴様が持っている!?」

 

 スタンは事前にエドワードに話を聞かされていたので、経緯をたどたどしくだが話す。

 しかしドライデンには信用してもらえなかった。

 

「とぼけおって。いつまでもシラを切れると思うなよ!

飛行竜消失の件と併せて、たっぷりと話を聞かせてもらうぞ!」

「まずい……このままだとあたし達、確実に犯罪者にされちゃうわ!」

 

(いやいや、そもそも犯罪者だから……)

 

 ルーティのひとり言を心の中で突っ込むエドワード。

 犯罪者確定になりそうな状況で、ある男が声を上げたのであった。

 




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第二十話

「お待ちくださいませ」

「どうした、ヒューゴ」

 

 ドライデンの尋問を途中で遮ったヒューゴに対し、セインガルド王が反応する。

 

「あの者達は、まがりなりにもソーディアンを扱える身。貴重な素質の持ち主です。闇雲に処断するのは早計かと」

 

(……ヒューゴ。お前は何を考えている?)

 

 リオンは先ほどの態度と違うヒューゴに対し、警戒心を抱く。

 それはエドワードも同じであり、時雨(しぐれ)はただ黙っているだけだった。

 だが、ドライデンはヒューゴの意見に「しかしこのままでは示しがつかぬ!」と反論する。

 

 

 そして、そこに一人の兵士が飛び込んでくるのであった。

 

 

「も、申し上げます!」

「何事だ! 陛下の御前であるぞ!」

「ストレイライズ神殿が、何者かに襲われたとのことです!」

「ストレイライズ神殿だと!?」

「どうなさったのです、陛下。随分な驚かれようですが」

 

 ストレイライズ神殿が襲われたという報告にセインガルド王が椅子から立ち上がり驚く。

 その驚きようにヒューゴが反応を示す。

 しかし、セインガルド王は「むう……」と返事をするだけだった。

 

「ストレイライズ神殿のことがそれほど気になるのですか?」

「それは……実はあの神殿には極めて重大な遺物が隠されているのだ。それにもしものことがあったら……」

「その遺物とは……もしや()()()のことですかな?」

 

 ()()()という言葉が出てきた時に、セインガルド王は反応した。

 そしてディムロス、アトワイト、シャルティエも驚いていたのであった。

 

「ディムロス達、何を驚いているんだ?」

「さあ?」

 

 スタンとルーティはディムロス達がなぜ驚いていたのか分かっていなかった。

 その言葉を無視して、セインガルド王がヒューゴに話しかける。

 

「ヒューゴ……知っておったのか?」

「私は元々考古学に携わっていた身。それ故、推察したまでですが……当たっていたみたいですな」

「神の眼というのは、それほど大層なものなのですか?」

「はるか昔、世界をとてつもない災厄に巻き込んだ元凶だと伝えられている。

『神の眼を二度と表に出すことなかれ』と、王家の戒めにも残っているほどなのだ」

「ならばすぐに調査隊を派遣しましょう。指揮は私めが」

 

 そう言って行動を開始しようとするドライデン。

 それを「国の重鎮(ドライデン将軍閣下)が軽はずみに動いては民が動揺する」と言って止める。

 

「ではどうしろと言うのだ」

「せめて他の七将軍……おっと、今は全員任務の最中でしたな」

「ええい、この場に適任者はおらぬのか!」

「あの…だったらそ──」

「──陛下。その任務、私にお任せいただけませんでしょうか?」

 

 急に話し出したスタンの言葉を遮り、エドワードが跪いて進言する。

 

(マジであのアホ(スタン)は、この空気の中で話すとか何を考えてるんだ! おかげで俺が行かなきゃいけなくなっちゃったじゃんか!)

 

「うむ、エドワードか。そなたなら客員剣士としての実績も十分だ。では兵士を率いて調査に赴くがよい」

「はっ!」

「陛下、それであればこの者達にも行かせると言うのはどうでしょうか?」

 

 エドワードが上手くまとめようとしたところで、ヒューゴが横槍を挟む。

 内心舌打ちをするが、顔には出さずに真顔でヒューゴを見るエドワード。

 ドライデンはヒューゴの提案に対し、感情を露わにして反対する。

 

「な! この者達は罪人だぞ!」

「それで先ほどの話に戻るのです。まがりなりにもソーディアンを扱える素質を持っているのであれば、早計な処断はせずにこの結果次第で減刑をするのも悪くないかと。

神の眼はソーディアンが作られた時にあった遺物と聞きます。その能力が何かの役に立つやもしれませぬ」

「しかしエドワードだけで監視が出来るというのか!」

「万一に備え、あの三人には囚人監視用の措置も施しましょう。そして、リオンも一緒に同行させれば確実かと……」

「よかろう。非常事態につき、今回はヒューゴの案を採用する。

リオン・マグナス、エドワード・シュリンプよ!」

「「はっ!」」

「その者達を引き連れ神殿に向かえ! 万一神の眼に何かあったときは全力でこれを確保するのだ!」

「「かしこまりました」」

 

 そして謁見の間から出てきた一行は、その先で待ち構えていたヒューゴと会う。

 ルーティが出てきて、ヒューゴに話しかける。

 

「随分と王様に信頼されているようね。あんた何者?」

「オベロン社総帥、ヒューゴ・ジルクリストだ。よろしく頼むよ。元気なお嬢さん」

「オ、オベロン社総帥!?」

 

 ルーティが思わぬ大物がいたことで驚いていると白衣を着た青年が歩いて来る。

 

「やあやあお待たせしました!」

「いつも元気だな、レイノルズ」

「囚人監視装置のご用命でしたね。二つタイプがありますけど。

一つは可愛くてえげつない。もう一つは硬くてえげつない」

 

 「どっちも一緒じゃないのよ」と突っ込むルーティを無視し、レイノルズはどちらを付けるか聞く。

 マリーは即答で可愛いのが良いという。

 レイノルズはその要望に従い、三人にティアラタイプの監視装置をつける。

 

「準備OKっと! あとはこのスイッチを押してみてよ」

 

 そう言ってリオンにスイッチを渡すレイノルズ。

 リオンがスイッチを押すと、スタンが震えながら叫び出して倒れる。

 

「これでいつでも、好きな時に、好きな場所で電撃をお見舞い出来るって寸法さ」

「冗談じゃないわ! 物騒なものを付けないでくれる!」

 

 そう言ってティアラを外そうとした瞬間、スタンと同じくルーティも震えながら叫び、倒れる。

 

「無理に外そうとすればこの通り! 発信器付きで居場所もすぐ判明! どうです? 便利でしょ?」

「ふむ。使えそうだな」

「それじゃ、僕は実験に戻るよ! 報告を楽しみにしてるから!」

 

 「何が報告よ! 冗談じゃないわ!」と言いながら、痺れからようやく解放されて立ち上がるスタンとルーティ。

 ヒューゴはその様子を見てから話し出す。

 

「さて、二人のソーディアンは私の屋敷に届けられる手筈だ。取りに来なさい。私は一足先に戻っていよう」

「街で一番大きな屋敷だから、すぐわかる。ついて来い」

 

 一行は、リオンが先導してヒューゴ邸に向かうのであった。

 




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第二十一話

 ヒューゴ邸に着いた一行を出迎えたのは執事と思しき白髪の老人であった。

 老人は深々と頭を下げるとリオンに向かって挨拶をする。

 

「お帰りなさいませ、坊ちゃん」

「レンブラント爺か。ヒューゴ様は?」

「旦那様なら一階にいらっしゃいますぞ」

 

 そう言ってヒューゴの執務室まで案内をするレンブラント。

 レンブラントは階段を登りながらリオンに話しかける。

 

「新たなお役目を仰せつかったそうで。近頃とみにご活躍ですな、坊ちゃん」

「坊ちゃんはやめろ。僕はもう子供じゃない」

「ふーん……坊ちゃんねぇ。さすがオベロン社の御曹司様はお育ちがよろしいことですこと」

 

 リオンをからかうように話しかけるルーティに対し、リオンは監視装置のスイッチを押そうとする。

 しかしそれはエドワードの手によって阻止される。

 

「何をする」

「まぁまぁ! 子供じゃないならこの程度のからかいなんて気にする必要ないでしょうに」

「……ちっ、余計なことを」

 

 リオンは舌打ちをすると監視装置のスイッチをしまい、そのままヒューゴの執務室に入ろうとしたところでちょうどヒューゴが出てきたのであった。

 レンブラントはヒューゴに一礼をし、ヒューゴは「来たのか。ここで立ち話もなんだ、広間へ行こう」と言って、一階に降りていく。

 

(結局下に行くんかい!)

 

 エドワードの心の声は誰にも届くことなく、静かに通り過ぎていくのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「マリアン、例の物を」

 

 ヒューゴがメイドであるマリアンに指示を出し、布に包まれていたディムロスとアトワイトを広間のテーブルに丁寧に載せた。

 布が解かれるとディムロスが怒りの声を上げる。

 

『遅い! 何をぐずぐずしていた!』

「なんだよ、その言い草は」

『ディムロス、少し落ち着いて。みんなは事情を知らないのだから』

『む……』

 

 アトワイトにたしなめられて黙るディムロスの声は聞こえないのか、ヒューゴが話し出す。

 

「文献によれば、ソーディアンは全部で六本あったという。……なぜか知られていないソーディアンがあるのかは置いておいて、そのうちの半分がここに揃ったのは考えてみればすごいことだな」

 

 ヒューゴはちらりとエドワードの方を見て、すぐに視線を戻す。

 

「へぇ! ソーディアンって他にまだ三本もあるのか! ……知られてないソーディアンってなんだ?」

「スタン、いいから黙っててくれ。話を先に進めたいから」

 

 広間の横に立っているエドワードにたしなめられて黙るスタン。

 ソーディアンとソーディアンマスターはある意味似るのかな? と思いつつ、それを口にしたらディムロスが怒ることは予測できるので黙っていた。

 続きをヒューゴが話す。

 

「さて、諸君に改めて任務を伝えよう」

「王都ダリルシェイドの北にある、ストレイライズ神殿へ向かってほしい。馬車はこちらで用意しておく。

神の眼が無事かどうかを確認し、無かった場合は奪還も視野に入れてくれ」

 

 だがそこでルーティが口を挟む。

 

「あたしはやるなんて言ってないわ。勝手に話を進めないでくれる?

誰かに飼われるのなんて真っ平だわ。ルーティ様をなめないで欲しいわね」

「……じゃあお前は極刑になるけど、それでいいのか?」

「……え? な、なんでそうなるのよ!」

「陛下のところでの話を聞いてなかったのか? 今回は()()()()()()()()()()()ということだったはずだ。

……まぁルーティが依頼をするのが嫌なら仕方がない。俺が今から城に──」

「──あー!! あー!! ちょっと待って!」

 

 ルーティはようやく事の重大さに気付いたのか、焦りだす。

 それを見たヒューゴが軽く笑いながら、ルーティに提案をする。

 

「二十万ガルドでどうかね?」

「……え?」

「任務達成の暁に支払う報酬だよ。仕事と考えれば、納得できんかね?」

「……も、もう一声」

「ヒューゴ様、やはりこいつは私が牢にぶち込んで──」

「──じょ、冗談よ! ちょっと言ってみただけじゃない! 二十万ガルドね、決まりだわ!」

 

 さすがにムカついたエドワードがルーティを牢屋に入れる提案をしようとしたが、すぐにルーティに遮られて、報酬は二十万ガルドで決定した。

 リオンはその様子を見てため息をつくが、概ね予定通りだと無理やり納得することにした。

 「スタン君の士官に関しても、私から陛下にとりなしてあげよう」というヒューゴの言葉に喜ぶスタン。

 

「まぁ、何もともあれ()()を出してくれたまえ。諸君らには期待しているよ」

 

 そう言って広間から出ていくヒューゴ。

 スタンは「じゃあそのなんとか神殿に行くか!」と言って、ディムロスから『ストレイライズ神殿だ。名前くらい覚えんか』と突っ込まれていた。

 その話の横で時雨(しぐれ)がエドワードに話しかける。

 

『エド』

「ん? どうした?」

『今回の任務……エドだけ先にストレイライズ神殿へ行くこととかって出来たりするのか?』

「……何か訳ありか?」

『ああ、今は詳しく話せないのだが……』

「そうか。でもあいつらの監視があるか──」

「──いいぞ」

「え?」

「行ってこいと言ったんだ。確かに先に様子を見に行く者がいたほうが何かあったときに対処しやすい。大人数だと行軍スピードも下がるからな」

 

 リオンが会話を聞いていたのか、監視を含めて自分だけで大丈夫だということだったので、エドワードはストレイライズ神殿へ先に行くことにした。

 馬を使って、馬車よりもかなり早く到着することで様子を見に行くという名目だった。

 

「じゃあ先に行ってくる」

「無理すんなよ!」

「……お前もな」

 

 スタンに無理をするなと言われて、飛行竜に密航したお前にだけは言われたくないと思ったエドワードだが、言葉を飲み込んで出発することにしたのであった。

 




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第二十二話

「用事を思い出した。少しここで待っていろ」

 

 リオンがそう言って屋敷へと戻る。

 先ほど全員がいたダイニングの広間に行くと、そこにはマリアンがいた。

 

「マリアン!」

「リオン様。どうなさいました?」

 

 他人行儀な話し方をするマリアンに対し、リオンは寂しそうな顔をする。

 

「そんな呼び方やめてくれ。ここには誰もいないんだ」

「そうね。ごめんなさい、エミリオ。でもあなた、出かけたのではなかったの?」

「マリアンに……またしばらく会えなくなると思ってね。挨拶するのを忘れていた」

 

 リオンの言葉にマリアンはポカンとした表情を浮かべる。

 

「それだけのために?」

「寂しくなるんでね……」

「仕方のない子ね。そんなではヒューゴ様に叱られるわよ」

 

 微笑みながら冗談を言うマリアン。

 しかし今のリオンにとっては、ヒューゴは名前すら出してほしくない人物となっていた。

 

「あんな奴のことなんか口にしないでくれ…」

「エミリオ……そんなことを言うものじゃありませんよ」

「ごめん、マリアン……僕が悪かったよ……」

「分かってくれればいいわ」

 

 マリアンに(たしな)められ、素直に謝罪するリオン。

 そこで少し気まずい雰囲気となってしまったのだが、そろそろ行かなくてはいけない時間が迫っていた。

 

「それじゃあ行ってくるよ」

「エミリオ……気を付けてお行きなさい」

「大丈夫だ……心配ないよ。あいつも……エドワードもいるしね」

 

 リオンはそう言って屋敷を出た。

 マリアンは寂しそうにしているリオンを見て少し困った顔をしていたが、そのまま仕事に戻るのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 馬に跨り、北に向かって走り出すエドワード。

 

「なあ時雨(しぐれ)

『どうした?』

「そろそろなんで先に行くように言ったのか教えてもらえないか?」

『……ああ、そうだな。正直どうなるかは俺もまだ分からないんだが、もしかしたら()()()()()()()()()()と思ってな』

「……間に合う?」

『ああ。リオン達と同じペースで行くと、ほぼ確実に間に合わない。神の眼は奪われているんだ』

「なぜそんなことを言い切れるんだ?」

『俺には分かるんだ……この先何が起こるかが()()だけどな……』

 

 そう言ってそのまま黙ってしまう時雨(しぐれ)

 エドワードはもっと深く聞こうとしたが、ストレイライズ神殿へ向かう途中の森に着いたので馬を走らせることに集中することにした。

 森の中を馬で走らせる行為自体が危険だし、駆け抜けるにはかなりの集中力がいるからだ。

 

 そうして出てきたモンスターを馬上から一閃にしつつ、森の奥へと進んでいく。

 森を抜けた先に出てきたのはかなり大きな神殿だった。

 

「着いたか!」

『ああ、なるべく急いでくれ!』

「分かった!」

 

 神殿の入口に馬を付けるとそのまま中に入っていく。

 エドワードは人気が全く無いことに違和感を覚えた。

 

「全然人がいないな……」

『ああ、多分奥の間に閉じ込められているんだろう』

「助けたほうがいいか?」

『いや、それはリオン達に任せて俺らは大聖堂へ行くぞ』

「……分かった」

 

 エドワードは大聖堂へ向かう。

 扉を開けるとそこには荘厳な部屋があり、奥には光に反射しているステンドグラスと女神像があった。

 時雨(しぐれ)はエドワードに女神像の前に向かうように指示をして、女神像の前で呪文を唱え始めた。

 

『天にまします我らが神よ。森羅万象を司る我らが心理。

暗き静寂の中よりいでし、暁の大海の守護者……。

我は命ずる。女神アタモニの名において、我らに道を示し給え』

 

 時雨(しぐれ)が呪文を唱え終えると、女神像が輝き始める。

 光が収まると目の前の隠し扉が開き、地下に続く階段が出てきた。

 

『よし。先に進むぞ』

「ああ。この先に神の眼があるんだな?」

『そうだ。だが油断するな。多分戦闘になるかもしれん』

 

 地下に進んでいくと、ボロボロになった通路があり、なにか争ったような形跡があったためエドワードが急ぐことにした。

 奥まで走っていくと、何か言い争う声が聞こえた。

 

「フィリア……私と来るのを拒むというのか?」

「……はい。私は──」

「──そうか。お前には失望した。この場で石と化すがいい!」

 

 男の声が響き渡り、何かが光るのが見えた。

 エドワードはまずいと感じ、奥の広間へと入っていく。

 そこには数人の神官と思われる男と一人の女性、そして巨大なレンズがあった。

 

『間に合ったか! アレが神の眼だ!』

「よし! 男達が敵か!?」

『そうだ! ……まずい!男が神の眼に触れてモンスターを出しやがった! まずはそいつらを倒すぞ!』

 

 エドワードは現れたモンスターを魔神剣で吹き飛ばすと、フィリアと呼ばれていた女性の前に立った。

 

「き……貴様! 何者だ!?」

「どうやってここまで入ってきた!?」

 

(五人いるが……ヤバそうなのは二人だけだな。俺が時間を稼げばリオン達が来てくれるはずだが…)

 

「……俺の名はセインガルド王国客員剣士エドワード・シュリンプだ」

「王国客員剣士だと!?」

「なぜこんなところにいるんだ!」

 

 エドワードは時雨(しぐれ)を仕舞い、抜刀術の構えを取る。

 武器を仕舞ったのを見た何人かは、争うつもりがないのかとホッとしたが、エドワードが消えた次の瞬間には気絶していた。

 避けたのは二人の男。灰色の髪の毛を逆立てたもみあげの長い男とメガネを掛けた男だった。

 

「大司祭様、バティスタ! もうやめてください!」

 

 フィリアは二人の名前を呼ぶが、一瞬見ただけですぐにエドワードに視線を戻した。

 エドワードは相手が少しでも油断すればすぐにでも攻撃を仕掛けるつもりだったが、隙が無かったため心の中で舌打ちをした。

 

(やばいな……このレベルに二対一はきついかもしれん……)

 

「グレバム様。ここは私にお任せを」

「分かった。それでは私はこの者たちを起こして神の眼を運ぶことにしよう」

 

 そう言って気絶した人にライフボトルらしきものを使おうとする。

 エドワードは「そうはさせるか!」と言ってグレバムと呼ばれた男に攻撃を仕掛けるが、メガネを掛けた男が目の前に現れ攻撃を防ぐ。

 両腕には大型の爪を装着しており、時雨(しぐれ)の攻撃を問題なく防ぐのであった。

 

「ここは通さないぞ……」

「ちっ……。時間がないってのに」

 

 エドワードは若干の焦りを出しながらも、リオン達が早く来てくれることを祈るのであった。

 




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第二十三話

 エドワードとバティスタの攻防の後ろで、一人、また一人と意識を取り戻していく。

 意識を取り戻した者へ大司祭グレバムが指示を出し、神の眼を運んでいこうとしていた。

 

(これはちょっとまずいな……)

 

「オラオラオラオラぁぁ!! 俺の攻撃を防げるのかぁ!?」

 

 バティスタが時間稼ぎも兼ねてエドワードに連続攻撃を仕掛けてくる。

 しかし、右手の爪でエドワードを攻撃した瞬間にエドワードはそこから消えてしまっていた。

 

「な……!? ど、どこ行きやがった!?」

 

 バティスタは動揺して周りを見渡したが、エドワードの姿が見えず、気が付いたときには背中に衝撃を受けて飛ばされていた。

 エドワードの周りが淡く光っており、先ほどとは雰囲気も違っていたのだ。

 

「お前に手加減している場合じゃなくなったんでな。これで終わりにしてやる」

 

 エドワードは倒れているバティスタを右肩から斜めに時雨(しぐれ)で切ったあと、バティスタの右の太ももに思い切り刺した。

 苦悶の表情のあとにバティスタは気絶する。

 エドワードが時雨(しぐれ)を引き抜くと身体や太ももから血が溢れ出てくるが、あとで道具を使えば一命は取り留めると思い無視したのであった。

 

 時雨(しぐれ)を右手に持ったまま振り返ると、グレバム達が神の眼を丁寧に運び出そうとしているところであった。

 

「大司祭様! おやめください!」

「ええい! フィリア! うるさいぞ!」

「きゃあ!」

 

 グレバムが、止めようとしたフィリアを殴りとばす。

 その勢いでフィリアは気絶してしまう。

 

「おいおい。神殿で女性に手を上げちゃ駄目だって習わなかったのか?」

「ちっ。バティスタを()ったのか……」

「……まだ生きてるよ。これから尋問しないといけないんでな」

「……お前らはこれを運び出せ。ここは私に任せろ」

「は、はっ!」

 

 グレバムが立ち塞がったため、エドワードが突撃した。

 時雨(しぐれ)による突きが届く瞬間に何かに弾かれた音が鳴り、エドワードは吹き飛ばされる。

 

「ようやく見つけたぞぉぉぉ!!! ソーディアンマスタァァァ!!!」

『こんなときになぜお前がここにいるんだ! バルバトス!!』

時雨(しぐれ)かぁぁ? そんなの決まっているじゃないかぁぁ! お前達と戦いたいからだよぉぉ!!」

 

 エドワードとグレバムの間に出てきたのは、バルバトス・ゲーティアであった。

 以前よりも力を増している様子に、エドワードは心の中で舌打ちをした。

 

(ちっ! こんなところでこいつが来るとは。しかも前回よりも明らかに強くなってやがる……)

 

 グレバムはよく分からないが、突如現れた男が自分を攻撃するつもりがないと知るとそそくさと逃げていった。

 エドワードと時雨(しぐれ)はその様子を見ていたが、目の前にいるバルバトスを倒さないと先には追いかけられないと思い、戦闘態勢に入った。

 

『今度の貴様はいつの時代のやつなんだ?』

「さてなぁ? 知りたかったら俺を倒してみるんだなぁ!」

 

 そう言いつつもバルバトスが斧を持って突っ込んでくる。

 エドワードは斧を受け流しつつ、左に流れて反撃するもバルバトスの右腕にかすかに傷を付けただけだった。

 

「なんだあいつ……全く傷付かない!」

「ははははぁ! その程度の攻撃が俺に効くわけがないだろうがぁ!」

 

 バルバトスはエドワードの攻撃が自分にほとんど傷を付けることが出来ないと理解した途端に、防御無視で突っ込んでくる。

 左腕に持った斧を大きく振り下ろし、それを左に避けるエドワード。

 しかしそれを読んでいたかのように斧を途中で止め、右足でエドワードを蹴り飛ばす。

 エドワードは吹き飛んだあと、そのまま壁に激突する。

 

「ぐっ……あいつ……フェイントなんて前に使えたか……?」

『いや、そんな器用なやつではなかったはずだ。どうする? このままやられるか?』

「そんなわけないでしょ。……ったく、いつもアイツのときに新技のお披露目をしているな」

 

 よろよろと立ち上がるエドワード。

 バルバトスはその姿を笑いながら見つめている。

 

「………」

 

 エドワードが晶術を唱えようと詠唱を開始する。

 

「今更悪あがきしたところで無駄だぁ!」

 

 バルバトスは晶術の詠唱を止めさせようと再度突っ込み、斧を振るう。

 しかし、そこにエドワードの姿はなかった。

 

「ぐう……またしてもあのときの術か!」

「……似てるけど、違うんだよ」

 

 エドワードはバルバトスの後ろに現れ、背中を攻撃する。

 わずかに傷が付く。バルバトスが攻撃されたことに気が付き、後ろを振り返るがそこにエドワードはいなかった。

 そこからはエドワードが現れて僅かに傷を付け、消えるを繰り返していく。

 

 本当にかすかな傷だが、無数に付けられてはバルバトスの怒りも頂点に達する寸前だった。

 

「チマチマ、やってんじゃねぇぇぇ!!!」

 

バルバトスが周囲全体を攻撃しようとしたところで、背後にエドワードが現れる。

 

「この時を待っていたよ」

「な…なんだとぉぉぉ!?」

 

 エドワードはバルバトスの背中に対し、上半身のバネのみを使い、猛烈な威力の突きを放つ。

 零距離から放たれた突きは威力を一切殺すことなく、バルバトスの身体を突き抜け、時雨(しぐれ)を刺したままその巨体を吹き飛ばすのであった。

 

「奥義……絶空(ぜっくう)・零式」

 

 エドワードがバルバトスや他の強敵と出会ったときにと用意しておいた奥義である。

 まだ完璧に使いこなしてはいないのだが、時雨(しぐれ)が得意としていた奥義の一つでもあった。

 

 バルバトスは背中に時雨(しぐれ)を刺したまま、立ち上がれないようであった。

 

「ぐ……ぐぅぅ。ま、またしても貴様にやられるとは……だが俺はまだ負けていないぞぉぉ!

覚えていろ! ソーディアンマスタァァァ!!!」

 

 そう言い残し、消えていった。

 バルバトスが消えた直後、時雨(しぐれ)が地面に落ちる音が鳴り、戦闘が終了したことが分かった。

 

「よ、ようやく終わったな」

 

 時雨(しぐれ)を拾い、一息つくエドワード。

 だが、そこには安堵ではなく厳しい顔が浮かんでいた。

 

『グレバムには……逃げられてしまったか』

「ああ。あいつらはこれからどこに行くのかを調べないといけないな」

『その前にバティスタを拘束して、フィリアを介抱しよう』

「……おっと、そうだった。バティスタもこのままだと死んでしまうかもしれないからな」

 

 そう言って、エドワードはバティスタを拘束後、応急処置をするのであった。

 




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第二十四話

「な、ない! ここにあった神の眼が!」

『遅かったか……!』

 

 地位の高そうな服を着た神官がリオン達と一緒に神の眼が安置されている広間に来たのは、エドワードがフィリアを介抱しているときだった。

 ディムロスは神官がうろたえているのを見て、間に合わなかったことを悔やむ。

 

「おう、遅かったな」

「……何があった?」

 

 エドワードがリオンに事情を話す。

 その話を聞いて、リオンは苦虫を噛み潰したような顔をするのであった。

 

『バルバトスがいたの……!?』

『バルバトスがいただと!? 時雨(しぐれ)、一体どういうことだ!』

『まあ話せば長くなるから、また後で話そう。今は神の眼を追うことが先決だろ?』

 

 バルバトスがいたことに対してアトワイトとディムロスが驚き、時雨(しぐれ)に詳細を話すように詰め寄るが、今は神の眼を優先するように言われ何も言えなくなる。

 ルーティは神の眼が置いてあった台座の大きさに対してかなり驚いていた。

 

「う……うううん……」

「あ、目を覚ますぞ」

「フィリア、大丈夫かね……?」

「あ、アイルツ司教様……はっ! 私……大司祭様を止めることが出来ず……とんでもないことをしてしまいました……」

「ここで何があったのか教えてもらえるか?」

「はい。あの、でも……」

「この方達はセインガルド国王の使者だ。気にせずに、さあ」

 

 フィリアは大司祭であるグレバムとともに大聖堂に向かい、命じられるまま謎の物体が安置されている広間へ繋がる封印を解いてしまったこと。

 グレバムがバティスタ達に命じて謎の物体を運ぼうとしていたこと。止めようとしたらモンスターが現れて襲われたこと。

 その直後にエドワードが乱入してきて、フィリアが気絶するまでの内容などを話した。

 

「司教様……あの物体は一体……?」

「神の眼だ」

「ええ……!? まさか……あの天地戦争を引き起こす原因になったあの神の眼ですか?

どうしてそんな物がこの神殿に? 本当に、本物の神の眼なのですか?」

「ああ、そうだ」

 

 フィリアは神の眼がストレイライズ神殿に安置されていたことにショックを受けているようだった。

 リオンは気にせずエドワードに質問をする。

 

「エドワード。グレバムがどこに神の眼を運んだか分かるか?」

「いや──」

『──ダリルシェイド港だ。今なら間に合うかもしれない』

時雨(しぐれ)……? なぜ分かるんだ?」

『エド、今は俺を信じてくれ。早くしないと間に合わなくなる!』

『エド、時雨(しぐれ)の言葉は信じても大丈夫ですよ』

『ああ、詳しくは話せないが、こういうときの時雨(しぐれ)の言葉は従っておいて問題ない』

「……分かった。リオンもそれでいいか?」

「ああ……。だが、()()()も連れていくぞ? 尋問にかけてやる」

 

 拘束されているバティスタを見てフィリアは絶句したが、反対はしなかった。

 リオン達が気絶しているバティスタを担いで運ぼうとしているときに、フィリアが声を出す。

 

「あ、あの……私も連れて行ってくださいませんか……!?」

「……なぜだ?」

「私は知らず知らずとはいえ、大司祭様に加担してしまいました。

神の眼の封印を解き放った責任を取らなくては……」

「ちっ……。足手まと──」

「──分かった。じゃあよろしくな。俺はエドワード・シュリンプだ」

「フィリア・フィリスと申します。どうかよろしくお願いいたします」

 

 同行したいというフィリアの申し出に対して、リオンが余計なことを言おうとしたのでエドワードが話を遮り受け入れる。

 リオンは舌打ちをして、そのまま広間を出ていく。

 

「あいつは人見知りなだけだから気にしなくて大丈夫だよ」

「は、はい……」

 

 そしてフィリアを連れてストレイライズ神殿を出て、ダリルシェイドに戻る一行。

 今回に関しては、エドワードの馬のスピードに合わせて馬車も走る必要があった。

 かなり無理をさせているので本来であれば良くないのであるが、船の出港時間もあるので、今回は例外だった。

 

 馬車の中では軽く自己紹介をしただけで、全員が黙っていた。

 深刻な状況で雑談などしている余裕もなかったのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 ダリルシェイドに着いた一行はすぐに港へ向かう。

 

「よし! 着いたぞ! どの船だ!?」

『神の眼を運ぶなら、かなり大きな船でないと難しい。直近で出る船は……』

「あれだ! カルバレイス行きの船だ!」

「やばい! もうすぐ出発してしまうぞ!」

 

 全員が全力で走る。ただ、バティスタがいるのでエドワードだけが念の為港の入口で待機していた。

 

「む……むぐぐぐ」

「なんだ、もう起きたのか?」

「むぐぐぐ!」

「ん? 何言ってるかわからないぞ?」

「むぐ! むぐぐぐ!!」

「このむぐむぐ野郎が! ちゃんと言葉を話せ!」

『おい、エド……さすがにこの状況でふざけるのは良くないと思うぞ……』

「あ、そうだったな。待っているだけでは暇だったからつい……」

 

 時雨(しぐれ)にたしなめられて反省をしたエドワードは、バティスタを無視してリオン達の帰りを待った。

 そのまま乗っていったのであれば、次の便で追いかければいいだけだからだ。

 

 しかし、残念ながらあと一歩及ばず船は出港してしまった。

 リオン達がうなだれながら戻ってくる。

 

「ダメだったか……?」

「ああ。だが、港の人間に話を聞いたところ、今出港した船に大きな荷物を搬入したと聞いた。まずカルバレイスに向かったので間違いないだろう」

「よし、じゃあ後を追う前に陛下に報告に行くぞ。こいつ(バティスタ)も引き渡さないといけないからな」

 

 そう言って全員で城に向かうことにした。

 

『アトワイト。カルバレイスとはかつての第二大陸のことか?』

『ええ、そうよ』

『それなら船だと、例の場所の近くを通るのではないか?』

『私も同じことを考えていたの。あの方がまだあの場に残っているなら、ぜひ合流したいわ』

『え、あの偏屈爺さんのこと?』

時雨(しぐれ)! あの方にそんな言い方をするのではない!』

 

 時雨(しぐれ)がディムロスに怒られているときに、ちょうど城に入るところだった。

 そして、城の入り口ではなぜかヒューゴが待機していたのであった。

 

「ヒ、ヒューゴ様!?」

「ほう、その様子だとストレイライズ神殿でなにかあったとみえるな」

 

 あまり会いたくない相手だったが、事情を話すことにしたリオン。

 その話を聞いてヒューゴは軽く笑った。

 

「犯人に逃げられてしまったのか。まったく恥をかかせてくれたな」

「何……!?」

「リオン、抑えろ。……申し訳ございません。すぐにカルバレイス行きの船を出してもらうために陛下に謁見をしないといけないのです」

「……では私が陛下に取り合って、すぐにでも船を用意してもらおう」

 

 ヒューゴがここで助け舟を出そうとする。

 しかし、リオンはその申し出をきっぱりと断る。

 

「結構です。私とエドワードが直接陛下へ申し上げます」

「任務に失敗したお前達が参上したところで陛下は何を思われるか……。

さらに、事態はセインガルド国内だけの問題ではなくなっている」

「いえ、私とエドワードで陛下を説得してみせます!」

「……それであれば構わないが……。本当に私の助けは……」

「何度言わせ──」

「──ヒューゴ様。お気遣いありがとうございます。ことは急を要するので、これで失礼してもよろしいでしょうか?」

「ふむ……。分かった」

 

 ヒューゴはその場をどき、道を開ける。

 そのまま謁見の間へ行き、リオンとエドワードだけで報告することとなった。

 

 セインガルド王はグレバムに神の眼を奪われたことに対して、ヒューゴを信じたのが間違っていたと怒りを露わにする。

 任務をドライデンに引き継がせようとしたところで、エドワードが口を開く。

 

「陛下」

「なんだ! 今はお前の弁解を聞いている暇はない!」

「陛下」

「だからなんだと言っている!」

 

 セインガルド国王は激高しているが、エドワードは努めて冷静に口を開く。

 

「陛下は仰いました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と」

「それがどうした」

「これからその確保に動こうとしています。今、グレバムはカルバレイスに向かっています。

そして私達は今、グレバムの犯行を目撃していた人物も掌握しています」

「む、むう」

 

 エドワードの言葉に、徐々にまだ可能性があるのだと気付かされてしまうセインガルド国王。

 

「さらにグレバムの部下の者も捕縛しております。こちらは陛下とドライデン閣下が尋問されれば、さらに効率は上がるかと思います」

「陛下が船をご用意してくだされば、私とエドワードで必ず神の眼を取り戻します!」

「……そこまで言うのであれば分かった。余の船を用意させよう。尋問も任せるが良い。

ただし、船は少し時間がかかるがそれで良いのか?」

 

 セインガルド国王はついに船を出すことを認める。しかし、時間が掛かってしまうということに対して、時雨(しぐれ)が待ったをかける。

 

『エド、それではダメだ。少しでも早く出せる船を用意してもらえ!』

「……陛下。恐れながら、事態は急を要しております。それでは間に合わない可能性があります。

民間の船を接収する許可をください」

「む……そうか。分かった。それではリオン・マグナス、エドワード・シュリンプ! 二人に接収する船は任せるゆえ、自由に使うが良い!」

「「はっ!」」

 

 リオンとエドワードは謁見の間から出て、スタンたちと合流する。

 バティスタは兵士に引き渡し、再度ダリルシェイド港へ向かうのであった。

 

 偶然港に着いたばかりで、ほぼ時間を置かずにすぐに出港できる状態になっている船を二隻接収することができ、カルバレイスに向けて出発の準備をするのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「おかえりなさいませ。お早いお帰りですね」

「いや、まだ任務の途中なんだ」

 

 すぐに出なくてはいけないが、屋敷に帰ってきたリオンにメイドのマリアンは不思議な顔をした。

 そして周りを見て、誰もいないことを確認したあと、リオンの頭に手を乗せて微笑むマリアン。

 

「何かあったのね、エミリオ。お父様のこと?」

「……な、何を言うんだ……そんなんじゃ……」

 

 図星を当てられてしまい、動揺するリオン。

 マリアンは優しく微笑みながらリオンへと語りかける。

 

「ヒューゴ様……お父様の名前が大きすぎて嫌な思いもたくさんしてきたのだろうけど……それでもあなたはあなたよ」

「マリアン……でも僕は……」

「エミリオ、あなたはずっと苦しんできたのを知っているわ。でも今はあなたを認めて隣にいてくれる人がいるでしょ?」

「べ、別にエドワードはそんなやつでは!」

「ふふふ。私もよ、エミリオ」

「……マリアン」

 

 リオンにもう少し周りを見るようにと話すマリアン。

 ヒューゴばかりに拘る必要などないのだと。

 

「あなたは一人ではないわ。エドワードさんのお陰かもしれないけど、あなたは随分変わったわ。それも良い方にね」

「……」

「それでいいのよ。私は今の貴方のほうが好きだわ。もっと人を信頼なさい。あなたならもっと大きな人間になれるわ」

 

 少しずつ呪縛から解き放たれようとしているリオン。

 マリアンの言葉に笑顔を見せて答える。

 

「マリアン……ありがとう。僕は、僕のやるべきことを思い出せたよ。小さいことにこだわっている暇はないんだな」

「そうよ。今出来ることを精一杯やってきなさい」

「ああ! じゃあ行ってくるよ!」

「はい、いってらっしゃい」

 

 リオンはヒューゴ邸を出て港へ向かう。

 ヒューゴに会ったあと、エドワードに言われて接収はこちらでやるから、ヒューゴ邸でマリアンに会ってくるように言われていた。

 いつ戻ってくるか分からない任務で、ヒューゴのことで悩んでいるリオンに対してのエドワードなりの気遣いだった。

 

 結果、リオンはエドワードの言うとおりにして正解だと思っていた。

 決して口には出さないけれど、エドワードは分かってくれる。リオンはそんな気がしていた。

 そしてスタン達と合流して、カルバレイスに向けて出発するのであった。

 




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第二十五話

『いやー! 海は広くて気持ちがいいですねー!

船の旅っていうのも久々ですし、坊ちゃんも楽しみましょうよ!』

「シャル、物見遊山の旅じゃないんだ。僕たちは何が何でも神の眼を取り戻さなきゃならない。それを忘れないでくれ」

「まぁそんなに力を入れても仕方ないだろう。力の入れどころと抜きどころを間違えないほうがいいぞ」

 

 シャルティエとリオンが話しているところに、エドワードが現れる。

 

「……うるさい」

「ま、そう言うなって。……ところで一つ聞いてもいいか?」

「……なんだ?」

「ルーティに自分が実の弟だと伝えないのか?」

「……僕はあいつのことが好きじゃない。だから伝える必要もない」

「んー、そんなもんか? でもいずれは言うんだろ? そのときにタイミング逃して、()()()()()()()()ってことだけはやめとけよ。

言えるタイミングで言うのが一番だからな」

「……」

『あれ? ディムロスが呼んでいるな。船室に戻るぞ』

 

 時雨(しぐれ)に促され、二人は船室内に戻る。

 戻ると各々が座ってくつろいでいた。エドワード達が戻ると全員が集まる。

 

「呼んでいたみたいだけど、どうした?」

『これからグレバムを追跡するにあたり、お前達に一つ提案がある』

『相手が神の眼を持っている以上、こちらも戦力を強化すべきだと思うの』

『実はこの近くの海域に、もう一本ソーディアンの眠る場所があるんです』

『正確には第二大陸近くの海中に沈んだ大昔の輸送船の中ね』

『ソーディアンの名前はクレメンテだ。変態爺さんだが、役には立つぞ』

『こら時雨(しぐれ)! クレメンテ老に対してそういうことを言うな!』

 

 回収しようという提案に対して、「ふむ……」と悩むリオン。

 

「いいじゃない、回収していきましょうよ。せっかくの機会だもの。……今度こそ、売り飛ばすって手もあるしね」

 

 ルーティが冗談なのか本気なのか分からないことを言い出したので、全員で無視をすることにする。

 

「その輸送艦とやらが沈んでいる場所の正確な位置はわかるか?」

『分かる』

「よし、ならば向かおう」

「……ちょっと待て。本当にそれでいいのか?」

 

 クレメンテ回収に関して、エドワードが待ったを掛ける。

 全員がエドワードを見たので、自身が思っていることを口に出す。

 

「前回のストレイライズ神殿のとき……こっちがもっと早く着いていれば神の眼は奪われることは無かった。

クレメンテというソーディアンが強力なのは分かるが……本当に全員で行ってもいいのか?」

『しかし……今は少しでも戦力を揃えておかねばならないだろう』

「ああ、取りに行くのはOKだ。でもそれなら二手に分かれないか?

クレメンテ回収チームが回収している間に、もう一チームはカルビオラで情報収集をするんだ。

これで無駄な時間を過ごさずに済むだろ?」

 

 エドワードの疑問に対してディムロスが反論するが、エドワードが妥協案を出す。

 二手に分かれる提案は、一時的に戦力は落ちるが行動量が二倍になるため、こういうときは策として悪くはない。

 

「……そうだな。そうしようか」

「リオンが言うなら、俺も大丈夫だぞ!」

「馴れ馴れしく近付くな」

「なんだよー! 別にいいじゃんかよ!」

 

 リオンに冷たくあしらわれて少し拗ねるスタン。

 それを無視して、どういうチーム分けにするかを話し出すリオン。

 

「チーム分けはどうする?」

『エドとスタンとフィリアが回収チームで、リオンとルーティとマリーが情報収集チームでいいでしょ?』

 

 時雨(しぐれ)が唐突にチームに関して提案する。

 

時雨(しぐれ)……もしかして、また()()か?』

『んー、そんな感じだね。フィリアは回収チームに入れる。あとは危険度と戦力バランスを考えた結果だな』

「僕はそれでいいぞ。エドワードもいいか?」

「ああ、大丈夫だ。早めに戻るから、情報収集を頼んだ」

 

 チーム分けに関してディムロスは不服そうだったが、時雨(しぐれ)が言い出したことに何故か反対をしなかった。

 回収チームのエドワード、スタン、フィリアがデッキに出て、もう一隻の船に乗り換える。

 情報収集チームはそのままカルビオラに向かって進んでいった。

 

「そういえば取りに行くのはいいんだが、海の底にどうやって取りに行くんだ?」

「あれ? 泳いでいくんじゃないのか?」

『エド、スタン。ソーディアンを海に掲げてくれ』

 

 エドワードとスタンは、時雨(しぐれ)とディムロスを海に掲げる。

 するとソーディアンが光りだす。

 

「うお! なんか光りだした!」

「何が起こるんだ……?」

 

 スタンとエドワードが驚いていると、急に船の前方の海面が震えだす。

 海鳥が逃げていくのが見え、エドワードは警戒する。

 その瞬間、海が思い切り吹き上がり、海面とともに船が大きく揺れる。

 

「きゃあ!」

「フィリア! 俺に掴まれ!」

 

 スタンが手を差し伸べるがフィリアが掴みそこねる。

 そのまま飛ばされるとフィリアが思った瞬間、エドワードの手がフィリアを掴み引き寄せる。

 

「……大丈夫か?」

「え……あ、は、はい。ありがとうございます……」

 

 抱き締めるような格好になっていたので、フィリアは思わず顔を赤くしていた。

 エドワードはそれに気付き、「あ、失礼」と言ってすぐに離すが、フィリアは顔を赤くしたままだった。

 

「な、なんだこの化け物は!!」

 

 スタンが叫んだ先を全員が見てみると、そこには船よりも大きな首の長い生き物がいたのであった。

 

『慌てるな、海竜だ! 飛行竜に似たものだと思えば良い』

「これも乗り物!? すげえ!」

『俺達の呼びかけに応じて、クレメンテが送ってきてくれたんだ』

「よし、じゃあ行くぞ」

 

 海竜に乗り込もうとする一行。

 その時、かすかにフィリアだけには、自身を呼ぶ声が聞こえていた。

 

「今……誰かが私を呼んだ……?」

 




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第二十六話

 海竜に乗り込んだ一行。

 すると海竜は勢い良く海の中に潜っていき、もの凄いスピードで海底奥深くに到達した。

 輸送艦に接続した海竜は、先程とは打って変わって大人しくなっていたのであった。

 

「つ、着いたのか……?」

『ああ。ここを出るとクレメンテが安置されている輸送艦”ラディスロウ”の中に入る』

「フィリアは危ないから残っていてくれ」

「え……」

 

 エドワードと時雨(しぐれ)が話をしている横で、スタンがフィリアに海竜へと残るように伝える。

 フィリアはスタンの提案に対し、あまり受け入れたくないようであった。

 

「だって何があるかわからない。だから危険を避けるためにも──」

「──ちょっと待て、スタン。勝手に決めるな」

「だってフィリアにもしものことがあったら危ないだろ!」

「だからそれを勝手に決めるなって言ってるんだって。時雨(しぐれ)がわざわざ連れて行こうといったのには理由があるはずだ」

『ああ、そうだ。フィリアはこのまま一緒に行ってもらう』

「もし何かあったらどうするんだよ!」

「そうならないように、俺とお前がいるんだろ? 俺らでフィリアを守ってあげればいい」

 

 エドワードと時雨(しぐれ)の説得に受け入れたく無さそうだったが、渋々受け入れた。

 フィリアは少し考えていたようだったが、顔を上げると連れて行ってほしいと伝える。

 

「フィ、フィリア……?」

「わ、私もなにかお役に立ちたいんです! スタンさんが心配してくださるのも嬉しいです。

で、でも私はいつも足手まといだとか役立たずだとか言われていて……そんな自分を変えたいのです!」

「……いい心掛けだ。その気持ちがあるだけで十分だ」

「エドワードさん……」

 

 フィリアの申し出にスタンは困惑するが、エドワードは微笑み、そして受け入れる。

 エドワードの微笑みを見て、フィリアは少し顔を赤らめるが、すぐに真顔になって「先を急ぎましょう」と伝える。

 

 そして三人は薄暗い輸送艦(ラディスロウ)の中を進んでいく。

 二個目の扉を開けたときだった。フィリアが急に立ち止まる。

 

「フィリア……どうしたの?」

「こ、声が……なにか……声が聞こえるんです」

 

 フィリアは声に耳を傾ける。

 エドワードとスタンには声が届いていないようであった。

 

『フィリア……フィリアよ……儂の元へ来るんじゃ』

「この声は……」

 

 声がする方向へふらふらと歩いていく。

 スタンはフィリアを黙ってみていたが、エドワードは周りに不穏な気配がするのを感じていた。

 ふらふらと歩いていくフィリアは、自分に水滴が落ちるのを感じた。

 

 そしてふと上を向いてみると、そこにはうねうねとした緑色の触手を持ったモンスターが天井に張り付いていた。

 フィリアが見た瞬間、モンスターは触手を伸ばしてフィリアを捕えようとする。

 

「きゃああ!」

「フィリア! 危ない!!」

 

 スタンがフィリアを助けようとディムロスを抜いて駆け出すが、触手の方が早くフィリアに届きそうであった。

 間に合わないとスタンが思ったそのとき、横から何かが通り、その余波で風が舞い上がった。

 そして、その何かがモンスターを突き刺し、そのままトドメを刺す。

 

「……絶空(ぜっくう)・参式」

 

 ()()()()()。エドワードの対空迎撃用の技である。

 モンスターを倒したエドワードは、驚きで座り込んでいるフィリアに手を差し伸べる。

 

「フィリア、大丈夫か?」

「は、はい。ありがとうございます……」

 

 エドワードの手を取って立ち上がるフィリア。

 薄暗くて誰も見ていなかったが、その顔は薄く赤みがかっていた。

 

「フィリア! 大丈夫か!?」

「はい、スタンさん。ありがとうございます」

「ほらだから言っただろ! フィリアは海竜のところにいてもらったほうが良かったんだって!」

 

 スタンが勢いよくエドワードに詰め寄る。

 しかしエドワードは呆れた顔をしてため息を吐いた。

 

「スタン……お前本気で言っているのか?」

「……な、なんだよ?」

「今のはモンスターの気配に気付けなかったお前が悪いんだろうが。それをフィリアがここにいるせいにするのはおかしいだろ?」

「べ、別に俺はそんなこと……」

「俺はもちろん、ディムロスも時雨(しぐれ)も気付いていたぞ。

この場の戦闘要員で気付いていなかったのは……スタン、お前だけだ」

『ああ、確かに我も気付いていた』

『まぁ薄暗かったから、慣れていないと難しいだろうけどね』

 

 時雨(しぐれ)がフォローするが、その言葉を聞いてスタンは気付き始めた。

 

「……気付いたか? ()()()()()()()()()()()()()()()

ソーディアンは確かに強い。兵器と言ってもいいくらいの存在だ。

だからといって、それを持ったからお前自身が強くなるわけじゃない。

それはソーディアンの力なんだ。その力を自分の力だと思わないように気を付けるんだ」

「……。ごめん、俺が悪かった。フィリアもごめんな」

 

 スタンは自分が間違っていたことに気付き、すぐに謝罪した。

 フィリアはフォローするように気にしていないと言っていて、エドワードはその様子を静かに見ていた。

 

「ま、そういうことでフィリアも油断しないようにな。

なにかの声が聞こえたっていうのも、多分奥に行けば分かるだろうから」

「は、はい! それと声が導いてくれているので、どちらに行けばいいのか……多分分かります」

 

 フィリアの指示通りに奥にどんどん進んでいくことにした三人。

 スタンもエドワードに説教をされてから、周りに気を配るようになりモンスターを見逃すことが減っていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「あ! 剣がある!」

『あれがクレメンテだ』

 

 輸送艦(ラディスロウ)の一番奥に着くと、一本の剣が台座の中心に浮いていた。

 三人は油断せずに台座まで歩いていく。

 

『選ばれし勇者たちよ、よくぞここまで来た……』

「え、勇者!? ……俺のことかなぁ?」

 

 老人の声がしたと思ったら、スタンが自分が勇者だと言い始める。

 エドワードがそれはないだろうと心の中でツッコミを入れるが、口には出さずにいた。

 

『クレメンテ老、悪ふざけは大概にしてもらおう』

『そうだよ。爺さんがそんなことを言い出すと、単純なやつ(スタン)が信じちゃうだろ』

『なんじゃ、久しぶりに会ったのに。ディムロスは頭が固いのう。

……っと、お主もおったか。時雨(しぐれ)よ』

『今はここにはいないが、アトワイトとシャルティエもいるよ』

『なんじゃ、そんなに勢揃いで。……もしかして何かあったのじゃな?』

 

 クレメンテに神の眼が奪われたことについてディムロスが説明をする。

 悪い予感がしていたのか、あっさりとクレメンテは受け入れた。

 

『それじゃあ儂ものんびり眠っている場合ではないのぅ』

『そうしてもらえると助かる……それで爺さんのマスター候補を連れてきた』

『ほうほう! やはりお主の仕業じゃったか、時雨(しぐれ)よ。また()()というわけじゃな……?』

『まあ……ね』

 

 ソーディアンだけでどんどん話が進んでいくため、エドワード達三人は話についていくことが出来ていなかった。

 そこでエドワードが口を挟む。

 

「話がよく分からないんだが、クレメンテのマスター候補を連れてきたというのはもしかして……」

『そうじゃ。こちらに来なさい……フィリアや』

 

 いきなり名前を呼ばれたフィリアは驚きで言葉を発することが出来なかった。

 

『そう固くなることはない。儂が選んだマスターじゃ……嫌でなければ受け入れて欲しいのだがの?』

「私で……本当にいいのですか?」

『ああ、お主のその純粋さはもちろんじゃが……フィリアよ、お主には儂を欲する意志があった。

強くなりたいと願う、ひたむきな意志がな。故に、儂の声が聞こえたのじゃ。だから儂はお主に力を授けることが出来る』

 

 フィリアはクレメンテの言葉に対し、心が揺れる。

 今まで周りからは足手まといや役立たずと言われてきた。

 今回、グレバムに神の眼を奪われたときも、自分自身に戦う力があればエドワードと一緒に戦うことが出来た。

 

 神の眼の奪還チームに付いていくことを決意したが、ここまでの道のりであまりの力の無さに絶望しかけたほどだった。

 そんな自分を変えたい。フィリアはそう願っていたのであった。

 

『あとは最後の決断だけじゃ。フィリア・フィリスよ』

 

 フィリアは考えた。力を持つことは決して良いことだけではない。

 だが自分自身にとって、今選ぶべき選択肢は分かっていた。

 

「私は大司祭……いえ、グレバムから神の眼を取り戻してみせます。

何があっても、どんなことをしても……。それが私の責任、私の義務ですから」

 

 そしてクレメンテを手に取り、両手で上に掲げるフィリア。

 

「あなたと共に戦います。私に力を……クレメンテ!!」

 

 フィリアの声に呼応するかのようにクレメンテがまばゆく輝き出す。

 その光は目を開けていられないほどであり、エドワードとスタンは腕で顔を隠しながらその様子を見守っていた。

 

 

 光が徐々に収まっていくと、フィリアはクレメンテを下げて少し嬉しそうな顔をしていた。

 エドワードとスタンがフィリアに近付いていく。

 

「やったな、フィリア!」

「はい! スタンさん、ありがとうございます」

時雨(しぐれ)は……このことが分かっていたんだな」

『……ああ。そうなるな』

「あ! もしかしてこの声が時雨(しぐれ)さんですか?」

『そうだ。時雨(しぐれ)だ、よろしくなフィリア』

『我がディムロスだ。よろしく』

「はい! 時雨(しぐれ)さん、ディムロスさん……よろしくお願いします!」

「よし、じゃあすぐにでもカルビオラに向かおう! リオン達が情報収集しているとは思うが、早く着くことに越したことはないからな」

 

 エドワード達は海竜に戻っていくのであった。

 




ディムロス…気付いていたならスタンに教えてあげればいいのに。
これも修行なんですかね?

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間話 それぞれの修行

「フィリア、クレメンテのマスターになって何か変わったか?」

「えっと……まだそこまで実感は湧いていないです」

「そうだろうね。剣術に関しては今から少しずつ学んでいくしかないからな。

多分見た感じだが……クレメンテの切れ味はあまり良くないだろう?」

『なんじゃ、エドワード。そんなにすぐに分かるのかの?』

「ああ。それなら晶術を中心にしつつ、防御の仕方を覚えたほうが効率いいな」

 

 輸送艦(ラディスロウ)の中で出てくるモンスターを相手にしながら、エドワードが戦い方を教えていく。

 フィリアは力が強くないため、敵の攻撃を受けるよりも受け流す方に特化して教えていた。

 

「よし! そんな感じだ!」

「はい! ありがとうございます! ……ライトニング!」

 

 攻撃を受け流した後、晶術を唱えるフィリア。

 モンスターの頭上から光が発生し、いかずちが落ちる。

 ライトニングを受けて、モンスターは黒焦げになっていた。

 

「次はスタン、お前だ。スタンは猪突猛進なところがあるから、フィリアが晶術で敵を倒すのに集中できるように守る練習だ」

「ちょとちゅもうちん……?」

「あー……馬鹿みたいに突っ込むなってことだよ。できるよな?」

「ああ、そういうことかぁ! 分かった!」

 

 ちょうどよくモンスターが二体現れて、戦闘が始まる。

 

「スタン! 適度に敵を引きつけろ! モンスターのヘイトを稼いで、自分に集中するようにするんだ!」

「分かった!」

 

 モンスターが後ろに行かないように、敵を引きつける。

 隙を与えないように細かく攻撃を加えることで、ヘイトを上手く稼いでいた。

 

「……行きます! ライトニング!」

 

 モンスターが二体まとめて黒焦げになる。

 スタンが上手く立ち回り、フィリアがライトニングを唱える直前に二体が一箇所にまとまるようにしたのだ。

 

(こいつ(スタン)……やっぱり才能(センス)はあるんだよな。今のも多分無意識にやっていただろうし。……バカじゃなければなぁ)

 

 心の中でため息を吐くエドワード。

 だが、スタンの純粋さがなくなってしまうと彼本来の魅力も失われるような気がしていて、完全な否定は出来ないのであった。

 

「うん、そんな感じだ! いいぞ!」

 

 その声にスタンとフィリアは嬉しそうな顔をしてハイタッチをする。

 とりあえず褒めて伸ばすことにしたエドワードだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「そういえばクレメンテはなんでフィリアをマスターにしたんだっけ? マリーさんだって良かったんじゃないのか?」

 

 スタンが素朴な疑問を投げかける。

 クレメンテは少し考えた後に答える。

 

『マリーというのは、もう一人の仲間かな? おそらくじゃが、その娘にはソーディアンを扱う素質がなかったのじゃ』

「素質?」

『そうじゃ。我らの声を聞くことが出来るのが大前提なのじゃが……あとはフィーリングかの?』

「……なんかお見合いみたいだな」

『ふぉっふぉっふぉ。そうじゃのぉ……それに儂もどうせ素質がある新たなマスターを得るのなら、ピチピチの娘の方が良かったからのぉ』

『クレメンテ老……』

『相変わらずのすけべ(じじい)だな』

 

 クレメンテの言葉に苦笑いする一行

 ただ一人、クレメンテだけが笑っていた。

 

 話をしていると、スタンがディムロスを抜き天井に隠れていたモンスターに斬りかかる。

 モンスターはスタンに斬られて、地面に落ちていく。

 

「スタンさん、避けてください!」

 

 フィリアが服の中から何かを取り出したかと思うと、モンスターに投げる。

 モンスターに当たった瞬間、爆発が起き、モンスターは粉々に吹き飛んだ。

 

「え……」

 

 その威力にエドワードとスタンは絶句していた。

 先程まで使っていたライトニング以上の威力だったからだ。

 

「実は……皆さんの足手まといにならないようにと()()の研究していたのです」

「それにしてもすごい威力だな」

『あれだな、爺さんがいなくてもフィリアは十分強かったんじゃないか?』

『む……むぅ……』

 

 フィリアがフラスコを取り出し見せると、エドワードは感心していた。

 そして時雨(しぐれ)の冗談に対して、クレメンテが黙ってしまうのであった。

 

「え、でもクレメンテがいてくれて攻撃の幅が広がったのは助かりますわ!

この爆弾(フィリアボム)は投げられる範囲が狭いので、クレメンテの晶術があると皆様のお役に立てますし」

『そ、そうじゃろう、そうじゃろう! 時雨(しぐれ)も滅多なことを言うでないぞ!』

 

 フィリアのフォローに対して気を良くするクレメンテ。

 単純な爺さんだなと時雨(しぐれ)は思いつつ、内心で苦笑いをしていた。

 

「よし、輸送艦(ラディスロウ)の入り口に着いたぞ」

「これからカルビオラに向けて出発するんだよな?」

「ああ、リオン達に早く追いつこう」

 

 エドワードは急がなくてはいけないと分かっていたのだが、スタンとフィリアのために輸送艦(ラディスロウ)内で少し時間を取っていた。

 それはリオンに対し、少しでも二人が良い印象を持ってもらえるためにしていることでもあり、今後の戦闘が楽になるために必要なことでもあったのだ。

 

(リオンがいるところで急にこれをやったら、「時間の無駄だ」とか言って不機嫌になりそうだからな。少しでも意味があると思わせておこう)

 

 思いがけない収穫(フィリアボム)もあったので、エドワードは心の中で笑いながら海竜に乗り込むのであった。

 そしてフィリアは海竜に乗るときも降りるときも、手を差し伸べてレディーファーストを心掛けてくれるエドワードにかすかなときめきを覚えるのであった。

 




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第二十七話





「カルバレイスに着いたぞ! あっついなー!! でもなんか元気出てきたぁ!」

 

 スタンがカルバレイスに着いたと思いきや、大声を出す。

 エドワードとフィリアはおかしい人を見る目で、スタンを見つめる。

 

「リオンがここにいるのか?」

「多分ね。とりあえず探しに行こうか」

『ここの町にはもういないと思うぞ。首都のカルビオラに向かおう』

「え、なんでそんなのが分かるんだ?」

「……スタン。いい加減に慣れろよ。時雨(しぐれ)、首都カルビオラなんだな?」

『ああ、リオン達に早く合流しよう』

 

 港町チェリクの北にあるというカルバレイスの首都カルビオラ。

 エドワード達は、リオン達を追って急いで向かうのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 道中、モンスターに苦労することもなく進んでいく。

 ラディスロウの中で戦闘訓練をした効果が出てきているようであった。

 エドワードも戦闘に参加しているので、殲滅スピードは更に上がっていた。

 

「いやぁ〜! エドワードは強いよなぁ!」

「まぁ修行をしていたからね」

「今度手合わせしてくれよ!」

「暇になったらね。……っとあそこがカルビオラだな。フィリア、大丈夫か?」

「は、はい……」

「無理するなよ。着いたら一旦休憩をしようか」

「あ、ありがとうございます」

 

 暑い中をずっと歩いているため、フィリアは体力の限界が近付いていた。

 スタンは逆に暑いと元気が出るのか、いつもよりも声も大きくなっていて、その声は二人にとっても少し厄介な存在になっていた。

 だがそれを口に出すことなく黙々と歩き続け、ようやくカルビオラに到着したのであった。

 

 

「とうちゃーく! リオンはどこにいるのかなー?」

「……ん? あんたら旅のもんかい? どこから来たんだい?」

 

 カルビオラに到着したところで、見知らぬ女性が話しかけてくる。

 エドワードは一瞬警戒するが、スタンは気にせずに会話を始める。

 

「俺達チェリクから来たんだ!」

「そうかいそうかい。暑い中ご苦労だったねぇ!」

「ところでちょっと前に俺達のような三人組の旅人が来ませんでしたか?」

「……ああ! そういえば来てたよ。なんでもストレイライズ神殿に行きたいから場所を教えてくれとか言われたねぇ」

「それ多分リオン達だ!」

「神殿は……どこにあるのでしょうか?」

「ああ、街の北さ。その旅人にも言ったんだが、あんまり関わるんじゃないよ。

あんなくだらん物、いくらこさえたって無駄だよ。

あたしらには、あたしらの神がいる。よそ者の神なんぞに用はないからね」

 

 そう言ってその場から立ち去っていく女性。

 あまりにも突然立ち去っていくので、三人は呆然とするのであった。

 そこでフィリアが話し出す。

 

「前にアイルツ司教様から聞いたことがあります。

カルバレイスの住民とは、過去にあった天地戦争での敗者側だったのだと。

だから独自の信仰が根強くて、勝者側が作った宗教は受け入れづらいため、布教に苦労しているのだとか」

「そうだったのか。とりあえずストレイライズ神殿に行くのもいいが、一旦宿を取ろう。

フィリアも休憩をしたほうがいいからね」

「エドワードさん……ありがとうございます」

 

 エドワード達が宿に向かうと、ちょうど宿から出てきたリオンと出くわす。

 リオンはこちらに気付き、近付いてくる。

 

「……エドワード。なぜ僕らがここにいると分かった」

「んー、時雨(しぐれ)が多分首都に向かったんじゃないかと言い出してね。

暑かったから宿で休憩を取ろうとしていたところだったんだ。リオンは何か情報を得られたのか?」

「ああ。とりあえず街を散策しながら、様子を見ようと思っていた」

「お、それなら俺も付き合うよ。スタンとフィリアは宿で休んでいてよ」

「分かった!」

「分かりましたわ」

 

 リオンとエドワードはスタン達と別れて、お互いの近況について報告し合う。

 エドワードはクレメンテ入手から、マスターがフィリアになったこと。そして道中で戦い方などを教えていたことなど。

 

 リオンはチェリクに着いてから、バルック基金に向かったが情報を得られなかったこと、その後に情報屋からカルビオラに何かが持ち込まれたことを聞いたので、カルビオラに向かったこと。

 カルビオラではストレイライズ神殿に大きな荷物が運ばれたことなど。

 

「情報共有はこんなところか?」

「ああ。これからだが……」

「それは宿に戻ってから全員で話すとするか」

「そうだな」

 

 リオンとエドワードは情報共有をし終えて、街の様子を見終えた二人は場所を高台に移す。

 そこでリオンが静かに話し出す。

 

「……なぁエドワード。この国の住人は本当に凄いと思わないか?

こんな砂漠の中でよく生活している。僕だったらとてもじゃないが無理だ」

「まぁ、彼らなりに精一杯生きているのかもしれないな」

「こんな過酷な砂漠で生きていけるなんて、不自然じゃないか。

もしかして……彼らは生きるために足手まといを見捨ててきたんじゃないか?

だからこそ彼らは強い……いや、逆か。強いものしか生き残れない」

「どうしたんだ? リオン」

「……いつか僕もその決断を迫られるような気がするんだ……。その時の決断を間違えたらと考えると、僕は……」

 

 リオンは顔を俯くと、そのまま黙ってしまった。

 エドワードは少し考えるとリオンに話しかける。

 

「リオン。俺さ、人生って選択の連続だと思うんだ」

「……」

「俺もなんだけどさ、今後も選択を間違えることはたくさんあると思う。

だから迷ったら……周りを見てみるといいさ」

「周り……を……?」

「そう。周りをね。シャルティエやマリアンだけじゃなくてさ、リオンの周りには俺やスタン達もいるしね。

一人じゃ弱くて生き残れないような状態だとしても、みんな集まれば生き残れるかもしれないから」

「……」

「……まぁスタンはちょっと頼りないけどな!」

 

 笑いながらスタンのことを言うエドワード。

 リオンは軽く笑い、「ありがとう」と呟く。その声はシャルティエにだけしか聞こえないほど小さな声だった。

 そしてエドワードに向き合う。

 

「僕はああいう能天気で図々しくて馴れ馴れしい奴が大嫌いだ。……だが、少しは考えておいてやらんでもない」

「そうか。じゃあそろそろ戻ろうぜ。あいつらも休憩出来ただろう」

 

 リオンとエドワードは揃って宿へと戻っていくのであった。

 




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第二十八話

 宿に戻ったエドワード達はスタン達と合流した。

 各々休憩を取っており、フィリアも顔色が良くなっていた。

 

「お! リオンとエドワード! 戻ったのか!」

「ああ。これからについて話し合うぞ」

「それについて考えたことがあるのですが……」

 

 宿に戻り、話し合いを始めたところでフィリアから提案があると話してきた。

 

「ストレイライズ神殿に神の眼が運ばれたということでしたら、私が先に入っておきますわ。

裏口の鍵を開けておきますので、夜になったら入ってくるというのはいかがでしょうか?」

「……悪くないな」

「ああ、でもフィリアは大丈夫なのか?」

「ええ、エドワードさん。心配してくださってありがとうございます。では早速行ってまいりますわね」

 

 フィリアは話がまとまると、準備もそこそこに宿から出ていってしまった。

 残りの全員は夜になるまで待機することとなった。

 

 

 

 

 夜になり、宿を出ようとしていたが、スタンだけが全く起きる気配を見せなかった。

 

『スタン、起きろ。そろそろ出発するぞ』

「すかー……」

「こいつ、本当に寝起きが悪いわね」

「リリス……飯まだ……?」

『リオン、この際だ。例の電撃を見舞ってやってくれ』

 

 リオンは呆れるルーティとディムロスにお願いされたので、スイッチを出し電撃のスイッチを押す。

 すると電流がスタンを駆け巡り、大きな声を出して痙攣する。

 少ししてリオンがスイッチを切ると、スタンはむくっと起き上がった。

 

『目が覚めたか、スタン』

「う、うん……さ、覚めた」

「さっさと行くぞ。ストレイライズ神殿の裏口だ」

 

 リオン達は全員でストレイライズ神殿へと向かう。

 裏口らしき場所に着いたとき、鍵が開いているのをエドワードが確認する。

 

「ここが裏口だな……。中は暗いが大丈夫なのか?」

「……エドワードさんですか?今明かりを付けますね」

 

 中に入ろうとすると、フィリアの声がしたあとに明かりが灯る。

 全員が静かに神殿の中に入ると、フィリアは裏口の扉を音を立てずに閉めるのであった。

 

「中の様子はどうだった?」

「グレバムやその一味を見かけることはありませんでした。

ただ……セインガルドの神殿同様、ここにも大聖堂があります。

そこから地下の秘密の間へ通じているかもしれません」

「よし、行ってみるぞ」

「見張りの神官が巡回しています。バレないように隠れていきましょう」

 

 リオンの質問に対し、大聖堂があるので向かってみようと提案するフィリア。

 神官にバレると厄介なことになるので、隠れながら進む一行。

 

「ちょっと止まってください。この先に見張りがいるのですが、このままだと鉢合わせてしまいます」

「……どうするんだ?」

「私に任せてください。皆さんは近くの部屋に隠れていてください」

 

 そう言って、堂々と姿を見せて歩き出すフィリア。

 見張りの神官に見つかると「何をしている?」と質問を受ける。

 

「実は……寝れなくなってしまったものですから、大聖堂へ行って神へ祈りを捧げようと思いまして……」

「そうか。場所はわかるのか?」

「はい。この先を真っ直ぐでよろしいんですよね?」

「ああ。照明があまりないから足元に気を付けるようにな」

 

 見張りの神官は、そのまま歩いて行ってしまった。

 フィリアは安堵のため息をつくと、エドワード達が隠れている部屋に戻った。

 

「皆さん。見張りはなんとかやり過ごせました。この先に大聖堂がありますので、急ぎましょう」

 

 フィリアの後ろについて数分ほど歩くと、大聖堂へと続く扉を見つける。

 扉を開けて中へ進むと、そこにはセインガルドの神殿と同じような構造の大聖堂があった。

 

「ここが大聖堂か。本当に地下へ通じているのかな?」

「調べてみます。私に任せてください」

 

 フィリアはそう言って、女神像の前に行き祈りを捧げ始める。

 すると大聖堂の真ん中に地下へと通じる階段が現れたのであった。

 

「セインガルドの神殿にあった仕掛けと基本的な構造は同じでしたわ」

「よし、下りてみよう」

 

 フィリアの声にスタンが反応し、全員で慎重に階段を下りていく。

 階段を下りていくと、その先に広間があり淡い光を放つ大きな物体と一人の人間がいた。

 

『あれは……神の眼だ!』

『本当ね! じゃああそこにいるのが……』

「ええ、グレバムですわ」

 

 ディムロスとアトワイトの会話にクレメンテを抜きながらフィリアも入り、警戒しながら進んでいく。

 足音に気付いたグレバムが後ろを振り返ると驚いたような顔をする。

 

「何だ貴様ら……どこから入った!? ……む、フィリアか!」

「グレバム! もうやめなさい!」

「誰に向かってそんな口を利く。偉くなったものだな、フィリアよ」

「……もはやお前に逃げ場はない。覚悟しろ」

 

 リオンが話を遮るようにシャルティエを抜き放ち、前に出て構える。

 

「そのソーディアン……! 貴様、リオン・マグナスか!?」

「おっと、俺もいるぞ。おっさん!」

「貴様ぁぁ! 前回の屈辱は忘れておらんぞ!

……だがリオン・マグナスが私を追ってくるとは……そういうことか! すべて飲み込めたぞ!」

「お前何を言っている?」

 

 リオンの質問に対し、グレバムは大きな声を上げて笑い始める。

 全員が更に警戒をする。

 

「まぁいい。そういうことなら、ここからは私の自由にさせてもらおう。

そうとも。何も恐れることはない。神の眼を持っているのは私なのだからな」

「全員構えろ!」

 

 グレバムが神の眼に触れた瞬間、神の眼がまばゆい光を放ち始める。

 エドワードが時雨(しぐれ)を抜き、全員に構えるように言う。

 

 

 

 

 

 

 光が収まると、そこには無数のモンスターが現れたのであった。

 

 

「こいつは……バジリスクだ! 石化攻撃に注意しろ!」

「くははははは! お前らはこいつらの相手でもしているがいい!」

 

 グレバムは別のモンスターを召喚すると、神の眼を運び出しながら悠々と広間から立ち去っていく。

 

「ちょっと! どうするのよ! このままだと逃げられちゃうわよ!」

「流石にまずいな……ここは二手に分かれたほうがいいのでは?」

「マリーさんの言うとおりですわ! グレバムを逃してはいけません!」

 

 バジリスクに囲まれた状態でルーティ、マリー、フィリアの女性陣がすぐに頭を切り替えて二手に分かれる提案をする。

 その声を聞きエドワードはリオンと目を合わせると、お互いに頷きあった。

 

虚空蒼破斬(こくうそうはざん)!!」

 

 エドワードは広間の入り口に向かって、光弾で自身の周囲を守りつつ蒼き斬撃波を放つ。

 その衝撃波にバジリスクが吹っ飛んでいき、道が出来る。

 

「よし! 全員入り口に向かって走るぞ!」

 

 リオンを先頭に入り口に向かって走り出す一行。

 そして、入り口を全員が抜けたところでエドワードだけが立ち止まり、リオン達に背を向ける。

 

「エドワード!? 何してるんだ! 早く行くぞ!」

「……スタン。ここは俺に任せて先にいけ。お前達はグレバムを追うんだ」

 

 エドワードはスタンに対し、グレバムを追うように伝えて殿(しんがり)を務めると話す。

 リオンと目を合わせたときに、どちらかが殿(しんがり)を務めて足止めをして、どちらかがグレバムを追うということを決めていたのであった。

 しかしそれで納得するスタンではなかった。

 

「ダメだ! こんなにたくさんいたらエドワードだって危ない! 俺も残る!」

『スタン! エドワードの気持ちを考えろ! 今の優先は神の眼だろう!』

「ディムロスの言うとおりだ。……リオン、こいつらはまだまだ未熟だがいくらでも強くなる。

いずれ頼れる存在になるはずだから、今は導いてやってくれ」

「ふん。そんなことは分かっている」

「……グレバムを捕まえろよ」

「……ああ」

 

 エドワードはその声を聞くと軽く微笑み、晶術の詠唱を始める。

 

「………エナジーブラスト!」

 

 唱えた先はバジリスクではなく、リオン達とエドワードの間の天井であった。

 小規模な爆発が起こり、天井が崩れていく。

 スタンのエドワードを呼ぶ声だけが一際大きく聞こえるのであった。

 




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第二十九話

 スタンはエドワードを救おうと瓦礫をどかそうとしていたが、ディムロスや他の人達に諭されてグレバムを捕まえることに集中することにしていた。

 リオンが指示を出して先に進む。

 

「おそらくチェリクに向かったはずだ。急ぐぞ」

「わ、分かった……」

 

 走ってチェリクに向かっていく。

 カルビオラの入り口でバルックと出くわす。

 

「リオンじゃないか! やはりカルビオラに来ていたのか。それで……目的のものは見つかったのか?」

「……いや、まだだ。神殿内部で発見したが、隙を突かれて犯人に再び持ち去られてしまった。これからそれを追いに行くところだ」

「そうか……じゃあちょうど良かったかもしれんな」

「どういうことだ?」

「何かあるかと思ってな。私の傭兵部隊を連れてきた」

 

 バルックが援軍に来てくれたのだと分かったリオンは少し考えると、何かを決心したような顔でバルックへと口を開く。

 

「……バルック。頼みがある」

「珍しいな。なんだ?」

「神殿内部に僕の仲間がいる。モンスターに囲まれた僕たちを逃がすために殿(しんがり)を買って出てくれたんだ。

そいつを助けてやってほしい」

「……分かった。それなら私も協力しよう」

 

 リオンはバルックにエドワードを託してグレバムを追うことにした。

 目撃情報で魔物が大きな物体を運んでいるのが分かったとのことだったので、海に出てしまう前に追い付くことが必要であった。

 そして再び走り出そうとしたところで、バルックに呼び止められる。

 

「リオン」

「なんだ? 僕はもう行くぞ」

「……いや。お前が()()という言葉を口に出すとはな」

「うっ……」

「はっはっは! いや、からかったわけじゃないんだ。俺は良いと思うぞ。……絶対に救出してみせるからな」

「……ああ、頼んだ」

 

 リオン達が走り去ったのを見ていたバルックは、リオンの成長を微笑ましく思っていた。

 そしてすぐに部下に指示を出して、傭兵部隊とともに神殿に突撃する。

 

 

 

 

 

 

 しかし、大聖堂の地下に入ったところで見た光景は、大量のモンスターの死骸だけだった。

 リオンが話していた瓦礫も吹き飛んでいた。

 

「な……なんだこれは!? 何があったというのだ……!」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 リオン達はどこにいるかも分からないグレバムを追い、チェリク方面へ向かっていた。

 

『くそ! グレバムはどこにいるのだ!』

『ディムロス、慌てても仕方ないわ。今は急ぐことだけを考えましょう……道を示してくれたエドワードのために』

『……ああ、そうだな。すまない、アトワイト』

『大丈夫よ』

 

(ああ……こんなときにいちゃつかないでもらいたいですよね。昔から周りの空気を気にしないんだから、この二人は……)

 

「あ! あそこに何かいるぞ!」

「グレバムだ! 急いで追うぞ!」

 

 ディムロスとアトワイトがいちゃついているのを心の中でツッコミを入れるシャルティエ。

 それを無視して走り続けていたところでスタンが何かを見つける。

 リオンがすぐにグレバムと判断し、走るスピードを上げていく。

 

「ちっ。もう追ってきおったか。だが、このままのペースなら俺の方が早く海に到達できそうだな」

 

 グレバムは自身が操るモンスターとリオン達の走るスピードを比べて追いつかれる前に海に出ることが出来ると判断した。

 事実、リオンが先に砂浜に到着したとき、数m先をグレバムがモンスターに乗って飛んでいた。

 

「はははははっ! リオン・マグナスよ! 残念だったな! これで俺を追ってくることは出来まい!」

「ちっ! 逃がすか! ──ストーンブラスト!」

「な! ぐあぁぁああ!!」

 

 リオンの苦し紛れに放ったストーンブラストはグレバムの腹と足に当たり、確実に骨を何本か折っていた。

 

「き、貴様ぁ……覚えていろ!」

「待て、グレバム!」

 

 更に追おうとしたのだが、リオンが出来る抵抗もここまでであった。

 スタン達が追いついた頃には、グレバムはすでに手出しが出来ないところを飛んでいってしまっていたのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 明け方。バルックと合流したリオン達は、ストレイライズ神殿で見た光景の、報告を受けていた。

 

「……というわけなんだ。君の仲間とやらの姿は確認できなかった……すまない」

「いや、いいんだバルック。生きている可能性があると分かっただけでも助かる」

「エドワードは生きているのか!?」

「……あくまで可能性だ。だが、あの程度のモンスター相手にやられるほど僕達セインガルド王国客員剣士はやわではないのは確かだ」

「よ、よかったぁぁ!!」

 

 リオンの言葉にスタンが喜びの声を上げる。

 その横でフィリアが隠れてガッツポーズをしていたのをルーティは見逃していなかった。

 

「フィ〜リア!」

「な、なんですか、ルーティさん?」

「エドワード……生きてるって聞いてそんなに嬉しかったのかなぁ?」

「な! ななななななにを仰っているんですか!」

 

 フィリアをからかうように話しかけるルーティに対し、明らかに動揺をしているフィリア。

 これを見て、勘付かない人間はいないだろう。

 

「ん? ルーティ、何を言ってるんだ? エドワードが生きていたら、みんな嬉しいだろ?」

「あ、あんたって本当に鈍いのね…」

 

 ただ一人(スタン)を除いて。

 

「そんなことはどうでもいい。次はどうやってグレバムを追うかだ」

「そうだな。この方角に行ったってことは、おそらくノイシュタット方面に向かったと見て間違いないだろう」

「よし、じゃあカルバレイス港から船を出して向かう。バルック、手配を頼む」

「分かった。私の権限内で出来ることは協力しよう」

「……全員で追うぞ。次こそグレバムに僕達の実力を見せつけてやる。行くぞスタン!」

「おお!」

「待ちなさいよ、あんた達! 慌て過ぎだって!」

 

 リオンとスタンが我先にと港へ向かっていく。

 その様子を見て、ルーティが追いかけていく。

 そしてフィリアとマリーが目を合わせて笑い、全員のあとを追うのであった。

 




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第三十話

 時は少し遡る。

 リオン達にグレバムを追うように伝えたあと、エドワードは大量に現れたバジリスクと戦っていた。

 

『さすがに数が多いな……』

「……だね」

 

 もう何体倒したか自分自身でも分かっていないのだが、それでも目の前には数え切れないほどのバジリスクがいた。

 下手に大技を使うと、隙を付いて石化攻撃を仕掛けて来る可能性もあったため、迂闊な行動はできなかった。

 

(このままだとジリ貧だな……)

 

 時雨(しぐれ)はエドワード以上に危機感を覚えていた。

 このままだとエドワードの体力が尽きるのが先になるからだ。

 

(仕方ないな……()()()()()()使()()()()()()()()んだが……)

 

 時雨(しぐれ)はこっそりと詠唱を始める。

 ソーディアンは基本的に自分自身で晶術を唱えることは出来ないのだが、時雨(しぐれ)だけは例外として使えるスキルがいくつかある。

 エドワードはそれには気付かずにひたすらバジリスクを狩っていた。

 

 

 

「こいつさっきから戦いにくいなと思っていたんだが、斬撃が効きづらいみたいだな……」

 

 バジリスクと戦い始めてどれほどが経ったのか分からない。

 肩で息をし始めたエドワードは、襲いかかってくるバジリスクの攻撃を避けながらカウンターで攻撃をするという方法に切り替えていた。

 幸いなことに連携プレーをしてこないため、少しずつ休息を取りながら戦えていた。

 

 しかし、急にバジリスクが後ろに下がったと思うと、二体同時に襲いかかってきたのである。

 

「うおっ!」

 

 急に攻撃パターンが変わったため、エドワードは少し困惑をしつつ攻撃を避ける。

 しかし一体の攻撃を避けきれず、左腕に攻撃を受けてしまう。

 そして傷口が徐々に石化を始めていたのであった。

 

(くそ……油断した。このままだとまずい……)

 

 エドワードもジリ貧になる未来が明確に見えてきたため、心の中で僅かな焦りが生まれていた。

 その焦りのせいで、今度は右のももに攻撃を受けてしまう。

 

「ぐっ……!」

 

 右足も徐々に石化を始めてしまう。

 避けるのも厳しくなってきたところで、バジリスクが全体的ににじり寄ってくる。

 

(おいおい……急に厭らしい連携攻撃をしてくると思ったら、ここで仕留めに掛かる気か……!?)

 

 追い詰められたエドワードは、今出来る大技で乗り切ろうかどうか考えていたところで、不意に時雨(しぐれ)が声を上げる。

 

「………よし! エド、今から()()()を呼ぶ! どうなっても恨むなよ!!」

「え……!?」

英霊召喚(サモン・エージェント)!!」

 

 時雨(しぐれ)英霊召喚(サモン・エージェント)を唱えた瞬間、エドワードとバジリスクの間に雷のような()が巻き起こる。

 スパークした光は近くにいたバジリスクを灰にした。

 そして更に輝きが増してきたところで不思議な声が聞こえてきた。

 

『……たくっ。こんなときに呼ぶんじゃないわよ! まぁいいわ。いくわよ! ────ディバインセイバー!!』

 

 地面に光の魔法陣が現れ、輝き出す。

 そして上空から雷が降り注ぎ、裁きの刃となってバジリスクに襲いかかる。

 

 

 

 雷が収まり、あまりの眩しさに右腕で目を隠していたエドワードが見たものは、大量のバジリスクの死骸であった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「こ、これは……? 一体何が起こったんだ……?」

 

 エドワードは自分が目にしたものが信じられなかった。

 時雨(しぐれ)()を呼んだかと思うと、その()が急に話し出し、大きな魔法陣とともに雷を放ってバジリスクを一掃したからだ。

 そして雷を放った()が徐々に無くなっていくと、そこから現れたのは赤い髪をした女性だった。

 

 赤髪の女性はエドワードの方を向き、話しかけてくる。

 

「久しぶりね……」

「……え?」

 

 エドワードには何の事か分かっていかなった。

 答えられずに困惑していると、

 

『ああ、久しぶりだな。()()()()

 

 時雨(しぐれ)の知り合いだと理解し、自分の知り合いでなかったことに安心しつつも、勘違いした自分に気恥ずかしさを覚えたエドワード。

 ハロルドと呼ばれた女性は、エドワードに近付いてくる。

 

「あたしを呼んだってことは、結構状況は切羽詰まって来たってこと?」

『いや……まだそこまでじゃないんだけど……』

「……? どういうこと? 説明しなさい!」

 

 時雨(しぐれ)に詰め寄るハロルド。時雨(しぐれ)も珍しくうろたえながらも状況を説明する。

 現状を把握したハロルドは、納得したよう顔をする。

 

「そういうことね。神の眼がついに奪われちゃったのか。相手はやっぱり()()()なの?」

『ああ。今はまだ正体を現していないがな』

「なるほどね……。それなりにまずい状況だと思うのだけれど……これも()()()()()()()なのね?」

『一応はな。だが、ハロルドをここで呼び出すのは流石に予定外だったよ』

「そもそもあたしを呼ぶこと自体が例外だったでしょ? まぁ気持ちは分からないでもないけど」

 

 そう言いながらエドワードを見るハロルド。

 ここまでの会話に一切ついて行くことが出来ていないエドワードは、急にハロルドに見られたのでたじろいだ。

 

「え、あ、その……」

「あんた……エドワードでしょ?」

「な、なんで──」

「──なんで分かるのかって?」

 

 エドワードは自分が言いたいことを当てられて、小刻みに頷いた。

 ハロルドは後ろを向いたかと思うと、数歩歩き、そして振り向いて驚愕の事実を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当たり前じゃない。()()()()()のことくらい分かるわよ」

 




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第三十一話

新作を始めました!
こちらもよろしければご覧くださいませ!

ドラゴンクエストΩ 〜アルテマこそ至高だ!〜
https://syosetu.org/novel/226246/



「当たり前じゃない。()()()()()のことくらい分かるわよ」

『ちょっ! おい、ハロルド!』

 

 ハロルドはあっけらかんとした表情でエドワードの質問に答えていた。

 当の本人(エドワード)は言われたことが飲み込めず、全く理解も出来ていなかった。

 

「あれ? 時雨(しぐれ)、まだ言ってなかったの?」

『お前が今来たばかりなのに言えるわけないだろう!』

「じゃあ……()()()()()()だってことも話してなかったの?」

『おおおおおい! 空気読めば分かっただろうがー!!』

 

 ハロルドは人差し指を口元に当てて、意地の悪そうな笑顔で時雨(しぐれ)に話し出す。

 時雨(しぐれ)は全ての予定が狂ったとばかりにハロルドに詰め寄るが、本人(ハロルド)は嬉しそうな顔をしているだけだった。

 

「まぁ親子の再会を喜びたいのは分かるんだけどね、とりあえず誰かが来る前にここから出たほうが良いわね」

『誰もそんなこと言ってねーわ!! ……でもそのとおりだな。エド、一旦ここから脱出するぞ。……あとでちゃんと話すから』

「お、おお……」

「ここが出入り口よね? 壁壊しちゃうわね! ──デルタレイ!」

 

 光の晶術を放ったハロルドは崩れていた壁を吹き飛ばし、エドワードたちを置いて一人で出ていく。

 ハッとしたエドワードもすぐに追いかけるのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「さ! ここまで来れば大丈夫でしょう」

 

 ふんふんと鼻歌を口ずさみながら宿で部屋を取ったハロルド。

 エドワードは混乱しすぎていて、移動している間ずっと黙ってついていくので精一杯だった。

 

「エド、とりあえず座りなさいよ」

「え、あ、は……はい」

 

 ハロルドに促されて、素直に座るエドワード。

 向かい合っているが、何から話して良いのかが分からない。

 ()()()()()()のだ。急に母親と名乗る人物が現れたら誰しもそうなるであろう。

 しかも父親が信頼していたソーディアンとなるともう何が何だか分からない。

 

 それでもエドワードは取り乱したくなる気持ちを必死に抑えていた。

 ハロルドをじっと見つめている。彼女は胸元まで髪を伸ばし、二十代後半から三十代前半くらいの見た目をしているが、決してエドワードの母親の年齢の見た目ではなかった。

 

(えっと……ハロルドさんは……母親なんだよね? 確かに髪の色は俺と同じ赤い色だし、なんか雰囲気が似ていなくも……ないのか?)

 

「じゃあ何から話そうかしらね。時雨(しぐれ)()()は揃っているの?」

『いや……ま、まだイクティノスと……()()()()()()の了解が取れていない』

「じゃあ残りのソーディアンの了解は取れているのね。あたしがいるから、()()()()()()()()()()ね」

『あ、ああ……そうだな。だが、まさか先に話してしまうとは思わなかったぞ』

「あら、別にいいじゃないの〜。その方が面白いエドの顔が見られたでしょ♪」

 

 時雨(しぐれ)とハロルドの間でどんどん話が進んでいく。

 エドワードは話についていけないのを承知の上で、質問することにした。

 

「あの……ハロルド……さん?」

「そんな他人行儀に言わないで、母さんって呼んでいいのよ〜♪」

「えっと……あなたが俺の母さんというのは本当なのですか? あと時雨(しぐれ)が俺の父親だということも」

「あー……本当はこれまだ話してはいけないんだけど、もうバレてしまったから仕方ないわね。

ええ、そうよ。あなたはあたし達の息子よ。生まれは約千年前ね」

『バラしたのはお前だけどな』

「あら〜、もう今さら過ぎたことを口にするなんて時雨(しぐれ)らしくないわよ! いい加減諦めなさいよ」

 

 話が横道に逸れそうなので、質問を続けるエドワード。

 

「まだ聞きたいことが──」

「──ストップ! 一旦話せるのはここまでよ。あとはさっき話したとおり、イクティノスに会わないとダメなの」

「イクティノスってソーディアンですよね? どこにいるのですか?」

『イクティノスはファンダリア王国にいる。代々王家によって管理されているんだ』

「じゃあ早速行きましょう。あたしも制限を掛けられていると動きづらくて仕方ないわ」

「え……! 神の眼は……!?」

「そんなの今のソーディアンチームに任せておけばいいわよ。どうせ彼らもあとでファンダリア王国に来るんでしょ?」

『ま、まぁそうなんだが……』

 

 エドワード達は首都カルビオラで休むことにし、次の日からファンダリア王国に向けて船で出発することにした。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 次の日、エドワードが目覚めた時はお昼近くになっていた。

 コーヒーを飲みながら、ハロルドと時雨(しぐれ)は色々と話し合っていた。

 

「お、おはようございます。すみません、こんな時間まで寝てしまっていて……」

「あら、エド起きたのね。随分疲れていたみたいだから気にしないでいいのよ。

時雨(しぐれ)とも色々と話せたし、エドの可愛い寝顔も見られたからね♪」

 

 エドワードはまだ母親と認識しきれていないハロルドの一言に照れてしまう。

 距離を測りかねているのだ。

 時雨(しぐれ)からは昨夜、『ハロルドはこういうやつだから諦めろ』と言われていた。

 

「じゃあ昼食を食べたら出発しましょう! まずはチェリクでいいのよね?」

『ああ、チェリクから船に乗って港町スノーフリアに向かうぞ』

 

 出かける準備をして宿を出るエドワードとハロルド。

 カルビオラで食事処を探している間、エドワードはハロルドに腕を組まれていた。

 

「ちょ、ちょっと……恥ずかしいです……」

「いいじゃない、親子なんだし。しばらく家族水入らずの時間を過ごしましょ♪」

 

 やんわりと腕を組むことを拒否したのだが、ハロルドの強引さに押し切られていた。

 そして昼食を食べたエドワード達はチェリクに向かい、そこから船に乗るのであった。

 




この流れだと誰が父親かは分かりますよね。
はい、時雨でした笑

あと、呼び出されたハロルドは少し年齢を重ねている設定にしています。

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『ドラゴンクエストΩ 〜アルテマこそ至高だ!〜』という作品も掲載しておりますので、下記から併せてご覧いただけますと幸いです。
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第三十二話

「やぁ〜っと着いたわねぇ! ……さ、寒い……」

 

 チェリクからスノーフリアに船で移動したエドワード達。

 着いて早々にハロルドが寒いと騒ぎ出したので、まず雑貨屋で毛皮のコートを買いに行くことにした。

 そこでハロルドはまた騒ぎ出す。

 

「え!? このコート高いわよ! なに三千ガルドって!? ボッタクリじゃない!?」

「か……ハロルドさん……ちょっと」

「何言ってるのよ! こんなの五百ガルドが相場ってとこよ!」

「……ちっ。そこまで分かってんじゃあ仕方がない。相場通りで売ってやるよ」

「当たり前でしょ!」

 

 毛皮のコートを合計千ガルドで購入したハロルドは、すぐさまコートを着て外に出る。

 エドワードもハロルドを追いかけて店を出る。

 

『ハロルド……お前……』

「いいじゃない。六千ガルドが1/6になったのよ!」

 

 絶句する時雨(しぐれ)を無視して、またエドワードと腕を組んで歩き出す。

 エドワードは何も言えないので、黙って一緒に歩くことにした。

 

「さて、ここからどうするの?」

『西にあるティルソの森から、サイリルの街に行くぞ。かなり寒いから、準備はしっかりしていこう』

「ああ、分かった」

 

 エドワード達はスノーフリアを出ると、ティルソの森に入る。

 森は雪が降っていて、空気もとても澄んでいる場所であるが、モンスターがたまに出るため油断はできなかった。

 

「魔神剣!」

 

 モンスターを倒し、時雨(しぐれ)を仕舞うエドワード。

 そして奥に進んでいると、道が雪によって塞がれていた。

 

「これじゃあ通れないな」

「ふむ……ちょっと後ろに下がってて」

 

 エドワードを下がらせると、ハロルドは晶術の詠唱を始める。

 その詠唱を聞いて時雨(しぐれ)が声を上げる。

 

『エド! ハロルドを止めろ! 上級晶術を使う気だぞ! ここらへん一体を焼け野原にするつもりか!!』

「え……!? ちょ、ちょっと!!」

 

 エドワードはハロルドを羽交い締めにすると口を塞ぐ。

 口を塞がれたハロルドはすぐに詠唱を止めて、大人しくなる。

 

「あら〜、エドったら大胆なんだから〜! 母さんに欲情しちゃったの?」

「え、あ、え!? ……ご、ごめんなさい!!」

 

 意地の悪い笑みを浮かべて笑うハロルドの声を聞いて、慌てて離れるエドワード。

 ハロルドは「別にまだ抱きしめてていいのにぃ〜」と、自分の身体を抱きしめながら身悶える。

 時雨(しぐれ)はその姿を見て、苦笑いをしていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 ティルソの森を出て、サイリルの街に入ったエドワード達は宿で部屋を取る。

 さすがに数時間も外に出ていると、身体が冷えていたため、部屋の暖炉で二人寄り添うように座る。

 

「ふー、流石に寒かったわねぇ」

「ええ、そうですね」

『それにしてもハロルド、()()()()を持ってるなら、わざわざ上級晶術をぶっ放さなくても良かっただろうが』

「えへへ、忘れてたのよぉ!」

 

 三十歳前後の年齢であるハロルドが、年甲斐もなくテヘペロする。

 そしてすぐに真顔になって話し始める。

 

「それよりも……気付いた?」

『ああ。明らかに外が物々しい雰囲気になっていたな。……やはり早くハイデルベルグに行ったほうが良いな』

 

 サイリルの街は反乱軍がいるため物々しい雰囲気になっており、今にも内乱が勃発してもおかしくない状態だった。

 エドワードは気付いていないが、時雨(しぐれ)はこれがグレバムの仕業であると分かっていた。

 今回はファンダリア王国の国王であるイザークが殺されてしまう前に、イクティノスと接触することが目的であった。

 

(スタン達はまだノイシュタット方面にいるはずだから、時間はあるはずだ。ウッドロウともなんとか会えると良いけどね)

 

「それにしてもお腹空いたわね! 時雨(しぐれ)、ここだと何が美味しいの?」

『あーっと……ボルシチかな? 身体が温まるし、オススメだ』

「じゃあ早速食べに行きましょ! ほら、エドも早く行くわよ!」

 

 エドワードはハロルドと出会ってから、終始そのテンションに押されっぱなしであった。

 だが、少しずつではあるがその温かさに心が癒やされていくのが分かっていた。

 

(この人(ハロルド)って本当に俺の母さん……なんだな……)

 

 そう思うと嬉しさのあまり、軽く笑ってしまう。

 ハロルドはそんな様子のエドワードに気付かないまま、もう一度声を掛ける。

 

「ほら! エドってば! 早く行くわよ!」

「分かったよ……母さん」

 

 その声はハロルドには届かなかったけれども、時雨(しぐれ)にははっきりと聞こえていた。

 そして心の中で時雨(しぐれ)は、ハロルドとの間にエドワードが生まれて良かったと思うのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 サイリルの街で一泊したエドワード達は、そのままハイデルベルグへと向かう。

 首都ハイデルベルグは、サイリルの街から真北に進むだけなので、迷うことなく到着することが出来た。

 

「ようやく着いたわね!」

『ああ。早速ハイデルベルグ城へと──』

「──まずは宿よ! 私達はすっっごい寒い思いをしているんだからね!」

 

 ここでもハロルドの勢いは衰えることはなく、どんどん進んでいく。

 エドワードとしても、ここまで強行軍で来たようなものだったので、ハロルドの体力は心配していた。

 そして部屋で少し休んだ後、アポイントを取るためにハイデルベルグ城へと向かうのであった。

 




『エド、俺のことも"父さん"って呼んでも良いんだぞ。』
「……うるさい。」


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第三十三話

「ここはハイデルベルグ城だ。貴殿らは何の用だ」

「私はセインガルド王国客員剣士のエドワード・シュリンプと申します。火急の件で、陛下への謁見を求めます」

「客員剣士だと……? 来るとは聞いていないぞ」

「ええ、なので()()()()()と申しました」

「どうするかは何用かを聞いてからにしようか」

「えっと……これは最重要機密事項なので、陛下に直接話します」

「なんだそれは? 用件を話せないようなやつを通すわけにはいかんな。帰れ!」

 

 エドワードは兵士のあまりの剣幕にイラッとしてしまうが、これも兵士の仕事だよなぁと思い、どうしようか考えていると、時雨(しぐれ)が話しかけてくる。

 

『エド。ここは一旦退こう。こういうタイプはいつまで問答していても無駄だ』

 

 仕方ないので、時雨(しぐれ)に言われたとおり一旦宿に戻る。そしてこれからどうやって王に謁見するかを全員で考えていた。

 ハロルドは「私の晶術で吹き飛ばすのもいいわね♪」と乱暴なことを言い出したため、エドワードと時雨(しぐれ)は全力で止める。

 

「じゃあどうするのよ。このままだとグレバムとやらが来ちゃうんでしょ?」

『俺に考えがある……この街には王族専用に作られた抜け道用の隠し通路があるんだ。そこから城に入ることが出来る』

「……いやいや、それはただの不法侵入だから! というか、何で知っているんだよ!」

 

 自分の両親は破壊工作や不法侵入やら犯罪行為をしたがる傾向にあるのか? と少し不安になる。

 だが、他に方法が思い付かないため迷っていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 

「はい、どちら様ですか?」

「はっ! 私、先程エドワード殿とお話させていただいた、ファンダリア王国の兵士であります!」

「……え? い、今開けます!」

 

 慌てて部屋のドアを開けると、そこにはつい先程エドワード達を邪険に扱っていた兵士が立っていた。

 ただ、その時とは違い、直立不動で敬礼をしたまま動かなかった。

 

「あ、あの……どうされたんですか?」

「はっ! 陛下から”エドワード・シュリンプ殿を早急に城までご案内するように”と命令がございました!

先程は大変失礼いたしました!」

 

 頭を下げて謝罪をする兵士に対し、エドワードは何がなんだか分かっていなかった。

 それでも国王であるイザークと謁見が出来るということなので、とりあえずついていくことにした。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 ハイデルベルグ城に入ると、セインガルド城とはまた違った趣のある建物と内装にエドワードは息を呑む。

 街を見ていても感じていたが、やはり地域によって文化などの違いがあることが面白いと思っていた。

 謁見の間に入ると、そこでは玉座に座る国王のイザークとその横に似た顔の青年、そして年配の男性が立っていた。

 

 エドワードは玉座の数メートル手前で膝をついて頭を下げる。

 イザークが「面を上げよ」と言ったので、顔を上げて立ち上がる。

 

「セインガルド王国客員剣士のエドワード・シュリンプ殿だな。貴殿とリオン・マグナス殿の噂はファンダリア王国にも届いておるぞ」

「はっ。ありがたきお言葉でございます」

「先程は兵士がすまなかったな。私も()()に言われるまで、まさかそなたが何の先触れもなしに来るとは思わなんだ」

「いえ、彼は兵士として当たり前のことをしたまでで……()()とは……?」

「なんだ、そなたは知らなかったのか?」

 

 そう言ってイザークは一振りの剣を取り出す。それは突くことに重きを置いているであろう、細身の長剣であった。

 その剣を見て、エドワードはすぐに理解した。

 

(あれは……まさか()()()()()()か……!)

 

「気付いたようだな。これはファンダリア王国伝わるソーディアンのイクティノスだ。貴殿の持つ時雨(しぐれ)とは顔見知りだったようだな」

『久しぶりだな、時雨(しぐれ)。さっきお前から声が届いたときは驚いた……ってそこにいるのはまさか……!?』

『ああ、久しぶりだな。……そのまさかだよ』

「あらぁ、イクティノス。あたしには挨拶はないのかしら?」

『い、いや、そんなことはないぞ。ここにいるとは思っていなかったから驚いただけだ。……久しぶりだな、ハロルド』

「ええ、久しぶり……でいいのかしらね」

 

 時雨(しぐれ)とハロルド、イクティノスが久しぶりの再会に言葉を交わしていると、イザークが「話を遮ってしまって申し訳ないが、先に用件を聞こうではないか」と話を促す。

 エドワードは簡潔に今までのことを報告した。

 

「な、何だとっ!? 神の眼がグレバムという神官に奪われたというのか!?」

「はい。今、ソーディアンチームが集まり、対処しているところです」

「貴殿は一緒に追わなくて良かったのか?」

 

 イザークが当然の質問をしてきたので、それについて時雨(しぐれ)が答える。

 

『賢王イザークよ。実はな、今グレバムにそそのかされて、ファンダリア王国の反乱軍がいつ動き出してもおかしくない状態なのだ。

ここで反乱を起こさせないために先に来たというわけだ』

「む……むぅ。にわかには信じられないな」

『イザークよ。時雨(しぐれ)の言うことなら間違いはないぞ。……やはり()()なんだろ?』

『ああ、そうだ。その件についても、あとはお前の許可があれば話せるんだ』

『おお、そうだったのか。それなら今この場で許可を出そう』

 

 時雨(しぐれ)とイクティノスの話が少しずつ逸れていきそうだったため、エドワードが話を戻す。

 

「それで……私達としてはグレバムが来て全てが手遅れになる前になんとかしたいと考えています」

「そうか。分かったぞ。早急に防備を固めつつ、反乱軍への対処をしようではないか」

 

 イザークが横にいる老兵士に指示を出し、準備を始める。

 そこで時雨(しぐれ)が『牢屋に閉じ込められている反乱軍のリーダーに説得してもらったらどうか』と提案をする。

 

「……なに? あやつか……。今出して大丈夫なのかは心配だな」

 

 そう言って、反乱軍のリーダーが投獄された二年前の騒乱について語りだした。

 二年前、サイリルの街を拠点にしていた反乱軍のリーダーであるダリス・ヴィンセントが突如脅しをしてきたとのことだ。

 「イザークが早急に国王を辞任し、国を明け渡さないのであれば、武力行使も辞さない」という内容であった。

 

 当時のイザークとしても、脅しに屈してはならないという周りの意見もあり、国と国民を守るためにどうするべきか苦渋の選択を迫られ、サイリルの街をファンダリア王国軍で囲み、鎮圧したとのことだった。

 結果、ダリスは投獄されて今に至っている。

 

「陛下、時雨(しぐれ)はそう言っていますが、正直に難しいのではないでしょうか?」

「むむぅ。そうであるな。だが、少しでも血を流さない方法を取るのであれば、説得するのが一番なのだが……」

「父上、それは私に任せてくれませんか?」

「ウッドロウか……」

「父上が今行っても、ダリス・ヴィンセントも意固地になる可能性もあるでしょう。それであれば王子として、次世代の者が話したほうが話も通じるかもしれません」

 

 イザークの横にいた、銀髪の青年。賢王の息子であるウッドロウ・ケルヴィンは自分に任せるように話す。

 少し考えたイザークは、「分かった。ウッドロウに任せてみるか」とダリスの説得をウッドロウに託す。

 

「そうだ、エドワード殿。よければ貴殿も一緒に行ってくれまいか?」

「私もですか?」

「ああ。ウッドロウもまだ未熟の身なのでな。フォローをしてやってくれ」

「……かしこまりました」

 

 エドワードは頭を下げると、ウッドロウが近付いてきた。

 そして「それではよろしく頼むよ」と言って握手を求めてきたので、その手を握る。

 これからファンダリア王国のために、エドワードはダリス・ヴィンセントを説得するという大任をうけるのであった。

 




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第三十四話

 ファンダリア王国ハイデルベルク城の地下牢に向かったエドワード、ハロルド。そしてウッドロウ。

 その一番奥の牢屋に閉じ込められていたのは、黒髪で胸くらいまでの長髪をした男であった。

 顔は美形で整っており、どの女性も振り向くであろう見た目を二年閉じ込められていても保っていた。

 

「貴殿がダリス・ヴィンセントだな?」

「……誰だ」

「私はファンダリア王国王位継承権第一位、ウッドロウ・ケルヴィンだ」

「ファンダリア王国の()()()が一体何の用だ?」

 

 王族と分かった途端、敵意を剥き出しにしてウッドロウを睨みつけるダリス。

 ウッドロウはそのプレッシャーを物ともせずに話を続ける。

 

「実はな、貴殿にここ(牢屋)を出てもらおうと思って参ったのだ」

「……反乱を起こしたリーダーの私を牢から出す……だと?」

「ああ、そうだ」

「……なぜだ?」

 

 ウッドロウは理由を聞くダリスに対し、反乱軍が今にも内乱を起こそうとしていること。

 それが神官のグレバムに唆されているため、それを止めてほしいということを簡潔に伝える。

 ダリスはその話を聞いて目を見開くが、少し黙ったあと「断る」とはっきりと伝える。

 

「貴殿は今のままでいいというのか? 我々ファンダリア王国の民が互いに傷つけ合い、殺し合う運命を受け入れるというのか?」

「……俺は王族に利用されるくらいなら死を選ぶ」

「なっ……!? そ、そこまで……」

 

 ウッドロウはここまで決意を固めているダリスを説得できる自信が無くなっていた。

 王族に謀反を起こすのはそれだけの覚悟があったのかと諦めかけていた。

 しかし、そこでエドワードが前に出た。

 

「あの……ダリスさん」

「何だお前は」

「俺はセインガルド王国客員剣士のエドワード・シュリンプといいます」

「……他国の人間がファンダリア王国のことに口を出すな」

「あなたは二年前の反乱をなぜ起こしたのですか……?」

「……そんなこと今は関係な──」

「──いいから教えて下さい。俺が聞きたいんです」

 

 ダリスの言葉を遮り、どうしても聞きたいと話すエドワードに対しため息をつく。

 数分の沈黙の後、ダリスが語りだした。

 

「私は……ファンダリアを新たな方向へ導きたかった……」

 

 一人の王が全てを握るのではなく、国民全員が政治に参加できる国。

 この国を真に発展させるためには人々の権利と、意識の向上が必要であること。

 それは()()()()において、とても進歩的であり、間違っている内容ではなかった。

 

「そう、だからこそ私はそのために()()()のリーダーとして立ったのだ。しかし、イザークはそれを断固として受け入れなかった……」

 

 歯噛みするようにダリスは語っていった。

 三人はその言葉を黙って聞いていた。そして話し終わるとエドワードが話し始める。

 

「……だとしたら、どうして武力で解決しようとしたのですか?」

「……」

「あなたはもう分かっているんですよね……ことを急ぎすぎていたことに」

 

 エドワードの言葉で、今の自分(ダリス)の考えに気付かれているということを悟った。

 そして諦めたかのように()()()()()を話し出す。

 

「……ああ、そうだ。二年前の私は理想の実現で頭がいっぱいになり、権利を主張するだけだったのだ。

それではイザークを説得出来るはずもない。彼にも多くの背負っている物がある。二年前の私は……そこまで考えが及ばなかった……」

「……だから結果的に動乱を引き起こしたということですか」

「全ては私の至らなさが原因だ…。この二年で私の考えは変わった……武力による闘争は……何も生み出しはしないのだ」

 

 エドワードは今のダリスの本心を聞いて安心した。

 これで何も分かっていなかったのであれば、説得しても無駄だと思ったのだが、ダリスは武力闘争による無意味さをきちんと理解していたのだ。

 ウッドロウがそのことを聞いて、ダリスに再び話し掛ける。

 

「それであればなおのこと頼みたい……。グレバムは無意味に我らの国を乱そうとしているのだ。

それは私達(王国側)も貴殿ら()()()側にとっても、何も意味をなさないではないか」

「だが……今更王族になど……」

「いや、今は王族としてではなく、ファンダリア王国のいち国民として貴殿にお願いをしたい。

どうか……ファンダリアにこれ以上の無駄な血を流させないでくれ……」

 

 ウッドロウが頭を下げてダリスに頼む。

 これには一緒にいた兵士だけでなく、頼まれたダリス本人も驚きの顔をした。

 ハロルドは、後ろで微かに笑っていた。

 

「……そうか。賢王イザークの息子は、父を超える傑物だったか……お前が二年前に王であったなら……私は……」

「まだ遅くはない。グレバムの扇動を抑えたあとは存分に戦おうではないか。この国の歩む道を決めるために。

私は父とは違うやり方を取る。決して対話を拒まない」

「……そうか。分かった」

 

 ダリスは薄く笑い、反乱軍の説得をすると了承をする。

 その言葉を聞いたウッドロウは、ダリスを信じて地下牢から出すのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「それにしてもエドワード殿には助けられたな。礼を言う。本当にありがとう」

「いえ、ウッドロウ殿下の気持ちが通じたからですよ。……それにこれからが本番です」

「……ああ、そうだな。グレバムの野望を打ち砕かないと意味がないからな」

 

 ダリスが牢を出て身を清めている間に、三人は応接室で座って待っていた。

 そしてエドワードが時雨(しぐれ)に話しかける。

 

「そういえばイクティノスから()()とやらが出たんだろ? そろそろ話してもいいんじゃないか?」

『ああ、そうだったな。……どこから話せば良いのかわからないから、今このときについてのことを話そう。

詳細は落ち着いてからいくらでも話す。

まず、()()()()()()()()()ということを前提に置いて聞いてくれ』

「み、未来が分かるだって!? な……!」

 

 いきなり信じがたい内容を話されてしまい、困惑するエドワード。

 時雨(しぐれ)もそう言われるのが分かっていたので、冷静に返事をする。

 

『詳細は落ち着いたときに話すって言ったろ? 今は時間が無いんだ』

「あ、ああ……わかった」

『とりあえずこれから起こる内容を話していくと、グレバムが反乱軍を率いてハイデルベルク城を攻めてくる。

そしてその時にイザークがグレバムに討たれ、イクティノスが奪われるのだ』

「な──」

「なんだと!?」

 

 驚くエドワードの声よりも更に大きな声で驚き立ち上がるウッドロウ。

 

『落ち着け。一応の歴史だとそうなっている。だが、今はそうならないように動いているんだ。

まず、()()()()()()()がいること。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この二つで今話した歴史になる可能性はだいぶ減る』

「ちょっと、あたしもいるわよ」

『あ、ああ。ハロルドもいれば万が一のときでもなんとかなる可能性が高いな。

そして、本当であればその後に今ここにいないスタン、リオン、ルーティ、マリーがハイデルベルク城から落ち延びたウッドロウと協力してハイデルベルク城の時計塔の最上階でグレバムを討つんだ』

 

 あまりの内容に対してハロルド以外の二人が絶句する。

 

「そ、それでその後はどうなるんだ?」

『あ、ああ……神の眼は取り戻せたが、後日また奪われてしまうことになるな』

「なんだって!? だ、誰に!?」

『それは──』

 

 時雨(しぐれ)が続きを話そうとしたところでダリスが客間に戻ってくる。

 服も着替え、スッキリした見た目は先程よりも更に男としての魅力を増していた。

 時雨(しぐれ)は『続きは反乱を鎮めたあとで話す』と言って黙ってしまった。

 

「待たせたな……って何かあったのか?」

「い、いや。大丈夫だ。じゃあこれから出発する。場所はサイリルの街でいいんだね?」

「ええ、そこに反乱軍が拠点としているということでした」

 

 ダリスの言葉にウッドロウが誤魔化し、エドワードが質問に答えることで話を逸らす。

 そして全員でサイリルの街を目指すのであった。

 




義勇軍と反乱軍はここでは同じ組織を指しているのですが、あえてその時々に応じて分けて書いています。

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第三十五話

 サイリルの街に到着した一行はダリスを先頭に反乱軍の司令室に入っていく。

 初めはダリルが突然来たことに驚いたが、ダリスの言葉を聞いて反乱軍の全員が納得し武装解除をした。

 そして、グレバムを迎え撃つべく、準備を進める。

 

「それではダリス殿はサイリルの街を中心にして、民を守ってくれ。私達はハイデルベルグの防備を固める。

スノーフリアに関しては、お互いの兵を出し合って守っていくとしようではないか」

 

 ウッドロウの提案にダリスは頷く。

 このままダリスはサイリルの街に残り指揮を取るため、一旦別れてエドワード達はハイデルベルグへ戻ろうとにしたところで、ウッドロウが声を上げる。

 

「な、なんだあれは!?」

 

 上空には飛行竜と大量の魔物が空を飛んでおり、ハイデルベルグを目指していた。

 

「こ、この先はハイデルベルグではないか! 急いで戻らないと!」

「ハロルドさん、時雨(しぐれ)! 行くぞ!」

 

 

 

 

 エドワード達は急いでハイデルベルグに戻る。

 到着したときに見た光景は、街の前でモンスターと兵士が戦う姿であった。

 

「くそ! 父上は! 城の中か!?」

「ウッドロウ殿下! 急ぎましょう!」

 

 街の中にもモンスターが入り込んでおり、エドワード達の行く手を阻む。

 市民が襲われていることもあり、中々先に進めなかった。

 

「どうすれば……」

 

 ウッドロウがモンスターを倒しながら策を考えていると、周りにいるモンスターに大量の矢が降り注ぐ。

 何事かと辺りを見回すと、ピンク色の髪をした少女がウッドロウの方に向かっていくのであった。

 

「ウッドロウ様!」

「おおお! チェルシーじゃないか! どうしてこんなところに!?」

「ウッドロウ様に会いに来たのですが、モンスターに襲われているハイデルベルグを見てすぐに参戦したのです!」

「そうだったのか……すまない、チェルシー」

「儂もおるぞい」

「アルバ先生……!」

「ウッドロウや。ここは儂とチェルシーに任せて、お主は城の中へ急ぐのじゃ!」

「先生……ありがとうございます!」

 

 アルバとチェルシーは弓を構えて襲いかかってくるモンスターを次々と倒していく。

 ウッドロウは二人にあとを任せてエドワード達と城の中に入っていくのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 ハイデルベルグ城の中に入ると、兵士が何人も倒れていた。

 それは謁見の間に続いており、その先に飛行竜に乗っていたグレバムが向かったのが分かる道標(みちしるべ)にもなっていた。

 エドワード達は謁見の間に急ぎ、中に入ったところで対峙するイザークとグレバムの姿を目にした。

 

「ぐっ……き、貴様! 何奴だ!」

「ファンダリア王よ。貴様の持っているソーディアン・イクティノスを戴きに来たのだ」

「貴様なぞにこの剣は扱えぬわ!!」

「それは……何事もやり方次第なのだよ」

 

 グレバムは神の眼を使ってモンスターを呼び出してはイザークに差し向ける。

 イザークも都度応戦しているのだが、さすがに多勢に無勢だった。

 

「ぐあああ!!」

 

 奮闘していたイザークがモンスターの攻撃を受けてしまい、手に持っていたイクティノスを離して吹き飛ばされる。

 グレバムは薄く笑いながらイクティノスを拾う。

 

「ふははははは!! ついに……ついに手に入れたぞ!! これがあればあの小僧たちにも遅れは取らん──」

「──それはどうかな?」

 

 グレバムが油断した隙にエドワードが懐に入り、グレバムの右手を時雨(しぐれ)で攻撃し、持っていたイクティノスを上空に弾き飛ばす。

 「ぐわぁ!」と悲鳴を上げながら、右手を抑えるグレバムを無視し、エドワードは大きくジャンプをしてイクティノスをキャッチする。

 

「ウッドロウ殿下!!」

 

 エドワードは空中で持っていたイクティノスをウッドロウへ投げる。

 ウッドロウは上手くイクティノスを掴み、話しかける。

 

「イクティノス! 無事だったか!」

『ああ……だがイザークが……』

「父上はあの程度でやられるお方ではない! 今は私に力を貸してくれ!」

『ああ!』

 

 そう言うとウッドロウがイクティノスを掲げ、契約の言葉を唱える。

 

「我が身朽ちるまで我とあり、我が力とならんことを……イクティノス!!」

 

 ウッドロウが言葉を唱え終わるとイクティノスから緑色の光が溢れ出し、ウッドロウを包み光り輝く。

 光が徐々に止んでいき、ウッドロウの姿が見えるようになり、ここに新たなソーディアンマスターが誕生したのであった。

 

 

 

 

「ぐぬぬぬ……こうなっては仕方がない! 最後の手段を使うだけだ!」

 

 イクティノスを手中に収めたと思ったが、エドワードに阻まれ取り返されてしまうグレバム。

 追い詰められたグレバムが神の眼に手を掲げる。

 

「神の眼よ! 我に力を! ソーディアンマスターなど簡単に吹き飛ばすだけの力を!!」

 

 すると神の眼が淡く輝きだし、光がグレバムに注がれていく。

 

「ぐ……ぐおおおおおお!!!」

「む、無茶するわね! そんなことやっているとあんた死ぬわよ!」

 

 ハロルドが止めようと声を掛けるも、グレバムには一切届いていなかった。

 グレバムは更に悲鳴を上げながら苦しんでいく。

 

「こ……これは……」

『ああ、グレバムのパワーが……上がっていく』

 

 そしてグレバムに神の眼から(いかずち)が注がれて、まばゆい光が辺りを覆う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が収まると、そこにいたのはグレバムではなく、異形のモンスターであった。

 




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第三十六話

「おい、時雨(しぐれ)! お前の見ていた未来でもあんな()()()とリオン達は戦っていたのか!?」

『い、いや……あんなのはいなかった……。あれではまるで……ダオ……』

 

 時雨(しぐれ)はそれきり黙ってしまい、舌打ちをしたエドワードが構える。

 ウッドロウとハロルドも武器を構えて戦闘態勢に入る。

 

(なんてこった……神の眼の力があそこまでとは……あれは……あれはまるで……()()()()()()()そのものじゃないか!)

 

 時雨(しぐれ)は転生者であるからこそ、相手がどれほど強大な存在になってしまったのかに気付いていた。

 テイルズオブデスティニー。その前作であるテイルズオブファンタジアという作品に出てくる最終ボス”ダオス”。

 ダオスの最終進化形態こそフェザーダオスであり、グレバムは神の眼の力を使い、フェザーダオスそのままの姿に変化していた。

 

 「グ、グ……グァァァァァァ!!!」

 

 グレバムが叫びだし、人間の頭ほどの大きさの火球を四つ呼び出した。

 そして腕を振るうと、エドワード達めがけて放たれていく。

 

「みんな! 避けるんだ!!」

 

 ウッドロウが指示を出し、エドワードとハロルドも回避行動を取る。

 そしてエドワードがそのまま突撃して、攻撃を加える。

 

「行くぞ! 秋沙雨・一閃!」

 

 流れるような無数の突きの後に、横薙ぎ一閃の斬撃を加えていく。

 しかし、グレバムには一切攻撃が通じていなかった。

 グレバムはエドワードを腕で薙ぎ払い、数メートル吹き飛ばす。

 

「ぐ、ぐぁぁ!!」

「エド! よくもやったわね! ────プリズムフラッシャー!!」

 

 ハロルドが十本の光の槍を上空から呼び出し、グレバムに突き立てる。

 グレバムは少し呻くが、すぐに光の槍をかき消す。

 

「な……!?」

「次は私の番だ! 風神剣!!」

 

 ウッドロウが風の衝撃波を放つが、グレバムに片手で防がれてしまい、一切のダメージを与えることが出来なかった。

 グレバムが反撃とばかりに人を飲み込むレベルの大きさのレーザーをウッドロウとハロルドに放つ。

 

「危ない!!」

 

 ウッドロウは咄嗟にハロルドを抱えてギリギリ回避することに成功する。

 しかし、既に二人の顔からは絶望が浮かんでいた。

 

「ぐっ……いってぇな……」

 

 乱暴な口調でエドワードが起き上がる。

 そしてグレバムの放ったレーザーの威力を見て、愕然とする。

 

「おいおい……こんなの勝てるのかよ……」

『いや……恐らく無理だ』

「……時雨(しぐれ)()()()のことを何か知っているのか?」

『見た目だけはな……。もし強さも同じなら……最強最悪の敵だよ。今の俺達では天地がひっくり返っても勝てない相手だ』

「くそ! どうすれば……」

 

 エドワードが諦めかけたとき、そこに数人の足音が聞こえてくるのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「おい、スタン! もう少し速く走れないのか! 置いていくぞ!」

「待ってくれよ、リオン!」

 

 リオン達はハイデルベルグ城に入り、戦いの音がする場所を目指していた。

 街で戦っていたチェルシーと話し、グレバムがハイデルベルグ城にいること、エドワードとウッドロウが先に向かったことなどを聞いたリオンはすぐに駆け出していた。

 その焦り方はエドワードが生きていたことに対しての喜びからなのか、次こそグレバムを逃さないという意思からなのかは本人以外分からない。

 それでも誰よりも速く走るリオンの姿に、全員が頼もしさを感じていた。

 

 城に入ると地震のように床が揺れる。

 リオンは戦いの気配を辿り、休むことなく走り始める。

 スタン、ルーティ、マリー、フィリアも後についていくが、リオンの足の速さに置いていかれていた。

 

 そして玉座の間に辿り着く直前で光とともに更に大きく地面が揺れる。

 フィリアが倒れそうになるが、マリーに支えてもらいなんとか体勢を直す。

 

「全員、この先だ! 戦闘準備!」

 

 リオンの号令で突撃した先に見たものは──絶望を体現した姿だった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「エドワード! 端的に説明しろ!」

「リ、リオンか……。こいつがグレバムだ! 以上!」

「ちっ……」

『坊っちゃん。恐らくですが、神の眼の力を自身に取り込んだんですよ!』

『あやつめ……そんなことをしたら二度と元に戻れないじゃろうに』

 

 状況を把握し、異形と化したグレバムを倒す方法を考えるリオン。

 しかし、エドワードのボロボロになった様子を見て、見た目通りの強さであることを察知し、一歩が踏み出せずにいた。

 

「ディムロス! 何か手はないのか!?」

「そうよ! アトワイト!」

『手段がないわけではない……だが今の時代では不可能だ』

()()()がいてくれたら……』

「え? 手段ならあるじゃない。()()()が神の眼を操作すればいいだけでしょ?」

 

 スタンとルーティが自身のソーディアンと話していたところに、一人の女性の声が割って入った。

 後から入ってきた()()()には彼女が誰なのか分かっていなかった。

 しかし、その姿を見た途端、()()()()()()()が驚きの反応を示す。

 

『お前……ハロルドか!?』

『何でここに!?』

『もしや時雨(しぐれ)のやつに()()()()()()()()!?』

「そうよ。久しぶりね、ディムロス、アトワイト、シャルティエ、クレメンテ。

あたしがいるんだから神の眼の操作に関しては大丈夫。あとは……」

『そうか! 僕達がグレバムを引きつけて時間稼ぎをすればいいのですね!』

「そゆこと♪ さっきまでだとエドとウッドロウしかいなかったから正直難しかったけど、これだけ頭数いればイケるでしょ!」

 

 ハロルドがエドワードのことを()()と親しげに呼んだことに反応した者がいたが、今は誰もそれには気付いていなかった。

 何よりもグレバムをどう押さえつけるかを考える必要があったからだ。

 

「分かったわ! じゃあ、あそこでボロボロになってるエドワードにも手伝ってもらいましょ! ……ヒール!!」

 

 ルーティがヒールを唱えてエドワードを癒やしていく。

 全回復とまではいかないが、体が動くようになったエドワードは袋からグミを取り出して口に突っ込みながら、体勢を整える。

 

「それじゃあ、あんたらは時間稼ぎを頼むわ。連携はリオンを軸にして動きなさい。

エド! ウッドロウ! あんた達はリオン達の連携を邪魔しないように補助に回りなさい!」

「承知した!」

「分かった!」

「な、なんで僕がお前の命令なん──」

「男ならぶつくさ言わない! さっさと指揮を取りなさい!」

「……ちっ。いつも通り、僕とスタンとマリーが前衛でルーティが回復、フィリアが後方から晶術攻撃だ!

エドワードは遊撃として動いて、ウッドロウはフィリアの護衛だ!」

 

 ハロルドの指示の下にリオンが指揮を取る。

 初めは文句を言っていたリオンだったが、ハロルドの強引さに押されてしまい、全員の役割を伝える。

 リオン達は今まで一緒に戦ってきた連携があるので、その邪魔をしないようにエドワードは遊撃として動くようにした。

 それにウッドロウが王子であると気付いていたので、なるべく死ぬ可能性が少ないフィリアの護衛に回るようにしたのであった。

 

「よし! じゃあ神の眼奪還作戦……行くわよ!!!」

「「「「「おうっ!!!」」」」」

 

 ハロルドの号令で全員が動き出すのだった。

 




ウッドロウはイクティノスのマスターになれましたが、強さ的には初めてスタンと出会った頃の強さと同じです。
つまり弱いので、正直に戦力にはなりません。

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第三十七話

「よし!じゃあ神の眼の奪還作戦……行くわよ!!!」

「「「「「おうっ!!!」」」」」

 

 ハロルドの号令で全員が動き出す。

 スタンとリオン、マリーは異形と化したグレバムに突っ込んでいき、ルーティとフィリアはお互いに適度な距離を保ちつつもその場から離れていた。

 

「スタン、マリー! こいつを倒そうと思うな! あの女が神の眼の操作をし終えるまで注意を引きつけておくだけでいい!」

「ああ! 分かった! いくぞ──魔神剣!」

「ああ! こっちもいくぞ! ──剛・魔神剣!」

 

 スタンがやや離れたところから剣による衝撃波を放ち、マリーはスタンよりも近くで斧を地面に叩きつけて衝撃波を放つ。

 グレバムに衝撃波がぶつかるが、仰け反る様子もなくそのままかき消される。

 

「な! 魔神剣が効かないだと!?」

『落ち着けスタン!』

「次は僕の番だ! 幻影刃!」

 

 リオンは技の発動後のスタンとマリーに攻撃されないようにグレバムに突撃する。

 そしてグレバムをすれ違いざまに斬りつける。

 

「グォォォォ!!!」

『坊っちゃん、ダメです! 物理攻撃は効いていますが、闇属性に耐性があるのか威力がいつもよりも出ていません!』

「まだだ! 虎牙破斬!!」

 

 リオンが振り向き、流れるように上下に斬撃を放つ。

 スタンとマリーも同じく虎牙破斬を放ち、囲むようにしてグレバムに追撃を仕掛ける。

 

「皆さん! 離れてください! ──レイ!」

 

 フィリアがクレメンテを上に掲げながら晶術を放つ。

 すると上空から無数の光のレーザーがグレバムに襲いかかる。

 

「まだいくわよ! ──アイストルネード!」

 

 ルーティが晶術を唱えると、大粒の氷が混じった竜巻が発生し、グレバムを切り刻む。

 土埃が舞う中、全員が様子を見守る。

 

「や、やったか!?」

 

 息を切らしながらスタン達は土煙が晴れるのを待つ。

 そして視界が元に戻ったとき、そこには傷一つ付いていないグレバムの姿があった。

 

「なん……だと……」

『スタン! 油断するな!』

 

 グレバムが火球を生み出し、スタンに放つ。

 スタンは急なことで対処ができず、火球に飲み込まれる。

 

「スタン! ……ぐあっ!」

「リオン!」

 

 リオンがスタンに視線を向けた瞬間、グレバムは長い腕でリオンを吹き飛ばす。

 マリーはリオンに声を掛けつつも、自らが攻撃されないように少し距離を取る。

 そして、リオンが壁に激突する瞬間、エドワードがリオンを受け止めるのであった。

 

「リオン、大丈夫か?」

「……ああ。エドワード、助かった」

「気にするな。それよりもスタンだが……」

 

 火球攻撃を受けて倒れたスタンにルーティが駆け寄り、ヒールを唱えている。

 まだ息はあるようだが、すぐに戦線に復帰するのは難しそうであった。

 エドワードがちらりと神の眼のある場所を見ると、ハロルドは解析を続けているのであった。

 

「うふふふ。天地戦争の時はすぐに封印することになってあまり(さわ)れなかったからね。徹底的に解析してやるわよ!」

 

 黒い笑みを浮かべながら、神の眼と向き合っているハロルドに少し不安を覚えつつも、時雨(しぐれ)や他のソーディアンマスターが信頼しているのと、実の母親というのもあり、信用して任せるしかないと判断する。

 

「しかし……今のグレバムには勝てる気がしないな……」

「これは僕も同感だ。セインガルド王国客員剣士の僕らが時間稼ぎしか出来ないとはな」

「もっと修行をしろってことだ。……終わったら更に厳しい訓練をするぞ」

「……ふん。望むところだ。僕とお前なら──」

 

 

 

 ──どこまでも高みに登れる。

 

 

 

 そう言おうとしたが、慌てて口を閉じたリオン。

 エドワードは続きが気になったが、今はグレバムを倒すことが優先だとリオンとともに時雨(しぐれ)を構え直し、攻撃態勢に入る。

 

「マリー、前には僕とエドワードで行く。援護を頼む」

「分かった!」

「いくぞ、エドワード!」

「おう!」

 

 エドワードとリオンは並んでグレバムに突撃する。

 グレバムは薙ぎ払おうとするが、二人は上手く躱し、懐に入って攻撃をしては離れるというヒット&アウェイで少しずつグレバムを削っていく。

 リオンが攻撃を喰らいそうになれば、エドワードがグレバムの攻撃を逸らし、エドワードが攻撃を喰らう前にリオンがグレバムの攻撃を止める。

 その鮮やかな連携にスタンを回復していたルーティが愕然としていた。

 

「な、なんなの!? 元々強いとは分かっていたけど、リオンってあそこまで強かったの!?

私達との連携は……私達に力量を合わせていたってことだったの…?」

 

 ルーティだけでなく、フィリアとマリーも驚きつつ、エドワードとリオンのまるで演舞のような連携攻撃に見入ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 しかし、これも長くは続かなかった。

 少しずつダメージを与えているとはいえ、今のグレバムにとっては虫に刺される程度のダメージしか与えられていない。

 初めは攻撃を防ごうとしていたグレバムだが、ダメージがほぼ無いと理解した途端、エドワードとリオンの攻撃を無視して、リオン達に襲いかかる。

 

 エドワードとリオンは急に攻撃回数が増えたグレバムの猛攻を捌ききれず、距離を取ってしまう。

 その瞬間、グレバムの頭上に()()()()()()が浮かび上がってきた。

 エドワードは瞬時にどういう攻撃かを理解し、全員に声を掛ける。

 

「全員! レーザー攻撃だ! 逃げろ!」

 

 しかし、咄嗟の判断で動けたのはリオンだけで、グレバムがレーザーを放つと、一緒にいたスタンとルーティ、援護をしようと様子を伺っていたマリー、晶術でサポートしていたフィリア達がレーザーに飲み込まれる。

 フィリアに関してはウッドロウがイクティノスを使って風を巻き起こし盾になったため、ほぼ被害はなかったが衝撃で気絶しており、あとの全員もその場で倒れて動かなくなっていた。

 

「くそ! 全員大丈夫か!?」

 

 レーザー攻撃を避けたエドワードが声を掛けるが、リオン以外は反応出来ていなかった。

 そのリオンも直撃は避けられたが、左腕に当たってしまい、血を流した左腕を抑えながらなんとか立ち上がることが出来るレベルだった。

 

 絶望。その言葉がエドワード達の心の中を埋め尽くしていく。

 ボロボロになった全員を見て、エドワードはグレバムには勝てないと悟って俯こうとしたその時、

 

「なにしょぼくれた顔をしてんのよ! ……あんた達のおかげで()()が終わったわ!」

 

 声が聞こえた方向を見ると、満面の笑みを浮かべたハロルドがいたのであった。

 




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第三十八話

「あんた達のおかげで()()()()()()が終わったわ!」

 

 解析を終えたハロルドが神の眼に手を掲げると、神の眼が輝き出す。

 するとグレバムから淡い光のようなものが神の眼に流れ込んでいく。

 

「グゥ? グゥゥゥゥァァァ!」

 

 グレバムは少し苦しそうな素振りを見せ、徐々に縮んでいく。

 そして最後は元の人間のグレバムの姿に戻るのであった。

 

 エドワードとリオンはグレバムに近寄っていき、もはや虫の息であることを確認する。

 時雨(しぐれ)とシャルティエを仕舞う二人に対し、グレバムが顔を上げて話し出す。

 

「結局は……奴の思惑通りか……。さぞ満足だろうな。リオンよ」

「思惑だと? 誰のだ?」

「……くくく……なるほどな。所詮は貴様も私と同じということか」

「お前……なんの話をしている?」

「己が、駒に過ぎないことを……自覚していない……奴は、幸せ、だ……な……」

「グレバム! おい!! ……ちっ。息絶えたか」

『…………』

 

 グレバムが息絶えたのを確認したエドワードとリオンは、ハロルドと三人で倒れている全員を介抱するのであった。

 幸いにもハロルドが”キュア”を唱えられたため、ルーティを回復したあとは手分けをして回復し、全員が生き延びたのを喜んでいた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「神の眼の今後の取り扱いだが……セインガルドへ持ち帰る気かね?」

 

 傷の手当を終えたウッドロウが、エドワードとリオンに話しかける。

 

「それが僕達の使命だからな。グレバムの乗ってきた飛行竜で運ぶつもりだ」

「私も同行するか……神の眼のことはセインガルドだけに任せるわけにも行かないし、父上がまだ完全でない以上、私が名代としていくのが筋であろう」

 

 神の眼の今後についてウッドロウとエドワード、リオンが話していると、フィリアがふとしかめ面をしているスタンを見つける。

 そのことをスタンに問いかけると、スタンが「今この場で神の眼を壊したい」と提案するのであった。

 

「こんな物があるから、多くの人が苦しい目に遭うんだ。いっそ無いほうが良いと思う」

 

 スタンの言葉に全員が真剣に考えるが、ディムロスが『それは無理だ』とバッサリと否定する。

 しかしやってみなければ分からないと言うスタンに対し、ハロルドが話す。

 

「まぁいいんじゃないの〜? こういう単純バカには、やって理解させるしかないんだって。

あたしはああいう単純バカな奴は嫌いじゃないけどね。

人から聞かされた程度で初めから諦めるなんて、科学者としても失格だからね」

「……スタン君、私も協力しよう」

「ハロルドさん! ウッドロウさん……ありがとうございます!」

「神の眼の存在は、国家間の関係に悪影響を及ぼす可能性がある。私は一国の責任者代行として、神の眼の破壊を遂行しよう」

「実は……私もスタンさんと同じことを考えていたんです」

「フィリア……」

「アイルツ司教様に怒られるかもしれませんが、これが正しい選択だと思います」

 

 ウッドロウとフィリアがイクティノスとクレメンテを抜き、構える。

 ルーティも「またどこかのバカに悪用されても困るしね」と言い、アトワイトを抜く。

 マリーも斧を構えて、同じく神の眼を破壊する意思を見せる。

 

「リオンとエドワードはどうする?」

「お前は僕達の任務がなんだったのか忘れたのか?国王陛下のご命令に逆らうことを、僕が許すわけがないだろう」

「リオン……でも……」

 

 それでもごねるスタンに対し、リオンは諦めた顔をして「ふん……やるならさっさとやるぞ」と言ってシャルティエを抜く。

 

「まぁ……俺も付き合うくらいはするよ。これ運ぶの大変そうだし」

「エドがやるっていうなら、私も付き合ってあげるわよ」

「……!?」

 

 エドワードが時雨(しぐれ)を抜き、そのとなりでハロルドが杖を構える。

 フィリアは一瞬だけエドワードとハロルドを見るが、首を振って神の眼を見据える。

 

「よし! ぶっ壊すぞ!!」

 

 スタンの号令の下、全員が全力で奥義を放つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだ……傷一つつかない。どれだけ硬いっていうんだ……」

「まぁ()()()()()()()()だと難しいわよね」

「ハロルドさん……それって……?」

「……だったら仕方ないわね。これ、セインガルドに運びましょ。私達は精一杯やったわ。あとは偉い人がなんとかしてくれる。そうよね、ウッドロウ?」

「ああ、それは約束する」

「だったらもういいじゃない。本来の目的は果たしたんだし」

「……ルーティ。……そうだな。うん、そうだな! 胸を張ってセインガルドへ戻ろう!」

 

 ハロルドの言葉にエドワードが反応するが、ルーティの言葉に遮られてしまい、詳細を聞くことが出来なかった。

 結果、スタンも神の眼は壊せなかったが、ルーティの説得もあり、セインガルドに戻ることを了承する。

 そして慎重に神の眼を飛行竜に乗せたあと、ファンダリアからセインガルドに向けて飛び立つのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 飛行竜の中ではベッドに入って横になっているリオンの姿があった。

 シャルティエに励まされているが、明らかに顔色は悪かった。

 そこにスタンとルーティが部屋に入ってくる。

 

 心配をする二人に対して、邪険に扱うリオンだったが、ルーティがベッドに腰を掛けてリオンの手を取る。

 

「な、なにを!?」

「掌のツボを刺激すると少し楽になるわよ。ほら」

 

 リオンはルーティのマッサージにされるがままになり、そのうちに酔いが和らいでいくのを感じていた。

 ルーティが「どう?」と優しく問いかけると、「ふ、ふん。多少はマシになったかもな」とリオンは強がるしか出来なかった。

 その様子を見て、スタンは気を遣って静かに部屋を出ていく。

 

「そういえばさ、あんたにまだお礼を言ってなかったわね」

「一体何の話だ?」

 

 ルーティのお礼に対して思い浮かぶことがなかったリオンが素直に聞くと、シデンの洞窟で地面が崩れてルーティとスタンが落ちてしまった際に、リオンがロープを借りるために駆け回ったことに対してお礼を言ってなかったと話し、「ありがとうね」と伝えていた。

 リオンは照れ隠しなのか「別に任務だから礼を言われることでもない」と顔をそむける。

 

「ルーティ……お前は……」

「え? 何よ?」

「……いや、何でもない」

「何よ! 気になるじゃない!」

「いずれ話す……かもしれないな」

「何よそれ! まぁいいわ。もうすぐ着くみたいだから、あんたも準備してきなさいよ!」

 

 ルーティは笑いながら部屋を出ていく。

 リオンは出ていくルーティを見て、「……姉さん」と呟くのであった。

 




もうすぐ一部が終わります!

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第三十九話

 セインガルド城 謁見の間。そこでは今回神の眼を奪還したメンバー以外に、セインガルド国王と七将軍筆頭であるグスタフ・ドライデン、そしてオベロン社総帥であるヒューゴ・ジルクリストがいた。

 セインガルド王が立ち上がり、神の眼奪還メンバーに声を掛ける。

 

「この度は神の眼の奪還、誠に大儀であった。さらにウッドロウ殿下におかれては、神の眼の直々のご運搬、感謝する」

「神の眼の保管方法に関して、早急に方針を取りまとめましょう」

「うむ。我ら両国の力を合わせれば、万全の警備体制を敷くことが出来るはずだ」

「喜んでご協力させていただきます」

 

 セインガルド王とウッドロウはお互いに牽制をしつつも、挨拶を交わしていた。

 しかし、一番は神の眼を二度と奪われないことであり、そこに協力体制を敷くことに何も不満はなかった。

 話が終わったあと、セインガルド王がリオンとエドワードに話しかける。

 

「リオン・マグナス、エドワード・シュリンプ」

「「はっ」」

「罪人を率いての難しい任務、よくぞ全うした。その方らの功績は高く評価しよう」

「「ありがとうございます」」

 

 そしてドライデンが前に出て、スタン、ルーティ、マリーに対して、神の眼奪還と飛行竜が戻ったことも評価して無罪放免と宣言する。

 スタンの士官の件に関して話が進むが、スタンはもっと世界を見てみたいと断る。

 セインガルド王は笑いながらも「いつでも席を空けて待っている」と伝え、懐の深さを示していた。

 

「さて……ウッドロウ殿下。すぐにでも神の眼の保管に関して話し合いを始めたいのだが……」

「分かりました。それでは詳しい説明をソーディアン諸君にお願いしましょう」

「──その話し合いにはあたしも参加するわ」

「……そなたは?」

「あたしの名前はハロルド。()()()()()()()()()()()と言えば分かるかしら?」

 

 その名前を聞いた途端、謁見の間全体が騒がしくなった。

 ドライデンの一喝で静かになったが、全員はにわかに信じられなかったのだ。

 

「そなたは……あのハロルド・ベルセリオス博士……というのか?」

「ええ。ソーディアン全員に確認してもらってもいいわよ。間違いないからね」

「し、しかし……ハロルド博士は男性では……?」

「あら? それじゃあ上手くいったのねぇ。私が未来で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その言葉を聞いて、また場が騒がしくなりそうであったが、ドライデンが一睨みを効かせると徐々に静まっていった。

 結果的にハロルドの会議への参加は認められ、ハロルドとソーディアンの意見で、他にはウッドロウとセインガルド王以外は参加できない事になった。

 初めはドライデンが反対し、ヒューゴもそのことを認めつつも、自分だけは参加できるように画策していたが、全てハロルドに丸め込まれて最終決定となったのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ふう。すぐに帰れるかと思ったら、そうもいかなかったな」

「今、ウッドロウさん達が話し合いをしていますからね。それでも王城の客間で休んでいて良いと許可が出ただけ良かったと思いましょう」

「じゃあ私は先に部屋で先に休んでるからね! 話し合いが終わったら呼んで!」

 

 神の眼奪還メンバーの全員は、話し合いが終わるまで王城にある客間を個室で与えられ、城からは出られないが城内であれば自由に行動できることになっていた。

 ルーティとマリーは早々に休むと決めて部屋に入っていく。マリーに関しては、ダリスと会い記憶を取り戻してから早くファンダリア(ダリスの元)に戻りたいと言うようになってしまった。

 それでも今回の報告があるので我慢して無理に付いてきてもらっていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 各自が部屋に入り、各々で時間を潰していく。

 エドワードも今回のことをゆっくりと整理していた。

 

(今回はさすがにやばかったな……。神の眼は今後絶対に世に出してはいけない代物だと思う。 それにしても、まさか今回の任務で実の両親に会うとはね……)

 

 エドワードは義理の両親に育てられて今まで過ごしてきていた。

 城の兵士になる切っ掛けは、その義両親が病気で他界してしまい、生活費も稼がないといけないというところからだった。

 そして実の両親である時雨(しぐれ)とハロルドにはまだ詳しく何も聞けていないのである。

 

(イクティノスにも許可を取って、ようやく話してくれるみたいだからな。色々と分からないことは聞こう……っと誰だ?)

 

 考え事をしていたエドワードは、部屋の入口の扉がノックされる音で立ち上がる。

 そして扉を開けると、そこにいたのはフィリアだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「あれ? フィリア……どうしたの?」

「あの……今よろしいでしょうか?」

「ああ、良いよ」

 

 フィリアを部屋に招き入れるエドワード。

 飲み物を入れてあげ、お互いにテーブル越しにソファーに座る。

 初めは軽い世間話をしていたのだが、何かを聞きに来た様子のフィリアに本題を振ってみる。

 

「……それで、どうしたの?」

「え……!?」

「何か用があったんでしょ?気になることあるなら聞くよ」

「えっと……その……はい……」

 

 俯いた様子で何も言おうとしないフィリア。

 それを見ていて、よほど大切な内容なのだと理解したエドワードは優しく話しかける。

 

「大丈夫だよ。真面目な話なんだろ? 誰にも言わないから」

「え……?」

 

 フィリアは少し誤解しているであろうエドワードの言葉を聞いて、優しい人だなと心の中で思いつつ意を決して聞いてみることにした。

 ずっと気になっていたことだったからだ。

 

「あの……エドワードさんとハロルドさんは恋人関係なのですか!?」

「………え?」

 

 

 

 

 

 

 力が入り過ぎて、大きな声になってしまったフィリアなのであった。

 




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第四十話

「あの……エドワードさんとハロルドさんは恋人関係なのですか!?」

 

 フィリアの突然の質問にエドワードは戸惑う。

 実の母親と伝えるのは簡単だが、見た目と年齢的にも明らかに親子とは違うし、そもそもハロルドは千年前の歴史上の人物である。

 どういう風に説明をしようと悩んでいると、フィリアは何かを察したような表情をする。

 

「あ……ごめんなさい。そうですよね。私ったら……聞かなくても分かることなのに……」

「え、いや……そうじゃなくて……」

「いえ、いいんです! 分かっていますから! ……私、応援していますね!」

「いや、ちょっ!」

 

 半泣き状態のフィリアは言いたいことだけ言うと、エドワードの静止を聞かずに部屋を飛び出した────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ〜っと終わったわよぉ〜! まったく、()()()も余計なものを作るんだから!」

『まぁそれは仕方ないよな。とりあえず目処が立っただけ良かったと──』

「──おっと!」

「きゃっ!」

 

 部屋を飛び出したところで、フィリアは話し合いが終わりエドワードの部屋に入ってきたハロルドにぶつかり、尻もちをついてしまう。

 お尻を押さえながらぶつかった先を見ると、先程まで話題に出していた本人が目の前にいることに気付き、フィリアは慌ててしまう。

 ハロルドはその様子を見て、何かを察したかのような悪い笑みを浮かべていた。

 

「はっは〜ん! エドったら、こんなに可愛い女の子を部屋に連れ込んで泣かすなんて、悪い男に育ったわね!」

「え、いや……俺は何もしていませんよ!!」

「はいはい、言い訳は後で聞くからね。あなた……大丈夫かしら?」

「……は、はい」

 

 フィリアはハロルドから差し伸べられた手を取り立ち上がる。

 そして、身なりを整えると、「失礼します」と言って部屋を出ていこうとして、ハロルドに腕を掴まれる。

 

「おっと! ちょっと待ってね! あなたは……フィリアだったわよね?」

「え、ええ。そうですわ」

「せっかくだから一緒に話をしましょうよ。あなたからも科学者のような匂いがするし」

 

 戸惑いながら返事をするフィリアを強引に座らせて、ハロルド自身はエドワードの隣に座る。

 その様子を見たフィリアは少し苦々しい顔をするが、すぐに表情を元に戻した。

 

「飛行竜では現ソーディアンチームとはほとんど話せなかったから、改めて自己紹介をするわね。

あたしの名前はハロルド・ベルセリオス。一応科学者やっているわ」

「は、はい。存じております。千年前の天地戦争で地上軍の大佐をしてらしたハロルド博士……」

「そうそう! よく知っているわね! ついでに言うと、時雨(こいつ)は私の旦那で、エドはあたしの息子なのよ〜! 良かったら仲良くしてあげてね!」

「は、はい! …………? え? い、今なんと仰いましたか?」

「良かったら仲良くしてあげてね?」

「い、いえ。その前です……エドワードさんの……お、お母様?」

「あ、そうよ。もしエドに変なことをされたらちゃんと言ってね。私がおしおきするから!」

 

 エドワードはすぐに「そんなことしませんってば!」とツッコミを入れるが、ハロルドは悪い笑みを浮かべるだけで、フィリアは顔を真っ赤にして誰にも聞こえないくらい小さな独り言を言いながら、慌てていた。

 

(この子ってやっぱりエドのこと……。ぐふふ、面白くなってきたわね!)

 

 グレバム戦、ハロルドがエドワードの名前を呼んだときに周りとフィリアの反応が違ったことを見ていたため、ハロルドはある程度予測を立てていた。

 そして今さっきのフィリアの半泣きの顔と、その直後のハロルドの顔を見たときの表情、エドワードの隣にハロルドが座ったときの苦々しい顔を見て、ほぼ確信していた。

 

「それで……()()()()()()()()()()()()?」

「「……え!?」」

『ハロルド……お前、それはないだろ』

 

 ハロルドの直球の言葉にエドワードとフィリアはお互いに同じ声を上げ、時雨(しぐれ)に呆れたような声で突っ込まれる。

 

「い、いえ! 私達はまだそんな関係じゃ……!」

()()ってことはいずれそうなるってことでしょ? だったら早いほうがいいじゃない。ね、エド?」

「いやいや……そもそもフィリアは俺のことをそんな風に思っていませんってば」

 

(あれ……? エドってばもしかして超鈍感な子だったりするの?)

 

 自分の息子の鈍感さに呆れた顔を見せたハロルド。

 さすがにここまで露骨な目線やアピールされていれば誰だって気付くのだが──スタンは例外──エドワードは自身のことになるときちんと言葉にされないと伝わらない人間であった。

 

「じゃあエドはどうなのよ? フィリアのことは好きじゃないの?」

「え……そんな急に言われても……」

 

 ちらっとフィリアの顔を見たエドワード。

 フィリアは顔を真っ赤にしてうつむきながらも、眼鏡越しに上目遣いでエドワードのことを見ていた。

 

「ほら! あんたがはっきりしないと何も始まらないでしょ! 好きなの? 嫌いなの?」

「いや、好きか嫌いかって言われたら……もちろん()()ではあるんですけど……」

「じゃあ好きなのね? …だそうよ、フィリア。良かったわね!」

「え!? ……は、はい」!

 

 今のやり取りとフィリアの様子を見て、エドワードはようやくどういうことか気付く。

 そして、自身がフィリアに告白していたということが分かった瞬間、慌てて話し出す。

 

「え……え……? 今のって()()()()()()だったんですか!?」

「エド……あんたようやく分かったの? 時雨(しぐれ)もどういう教育してきたのよ……」

『いやいや、俺らが会ってからまだそんなに期間経ってないからな! こいつが鈍いのはもっと前からだから!』

 

 家族三人で騒がしくしている中、フィリアだけが顔を俯かせたままずっと固まっていたのであった。

 




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第四十一話

「ようやく終わったなあ」

「神の眼が今後どうなるのかを見届けないといけませんでしたからね」

「それにしても現ソーディアンチーム(私達)にまで神の眼の封印場所を教えないだなんて、失礼しちゃうわよね!」

 

 スタンとフィリアが話しているところにルーティが口を挟んでくる。

 しかし、それは仕方がないことだと全員が理解していた。

 

「まぁそれはハロルド殿の意見なので仕方がないことだな。実際にソーディアン諸君だけの助言だと不備があったかもしれなかったからね。ただ、そのお陰で万全の封印設備を作ることが出来たよ。

今後はソーディアンとセインガルド国王、そしてファンダリア国王のみがこの場所を知ることとなる」

「え……ウッドロウさん、それって……」

「ああ、スタン君。先日父上から手紙が来てな。ファンダリア王国に戻り次第、王位に就くことが決まった」

 

 ウッドロウの思わぬカミングアウトに、スタン達は驚き、祝福の声を上げる。

 ひとしきり喜んだあと、クレメンテとディムロスも会話に加わる。

 

『この時代にやれることはすべてやった。あとは信じるしかあるまいて』

『そうだな。ハロルドがいてくれたお陰で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ』

 

 その言葉を聞いて、ルーティは場所を探りたくなる衝動に駆られたが、そのことに気づいたアトワイトにたしなめられていた。

 

 

 

 そして、別れのときが来る。

 

 

 

「それでは私とチェルシー、マリーさんはジェノスを通って帰国するよ」

「皆さん、またファンダリアに遊びに来てくださいね!」

「城にも気軽に立ち寄って欲しい。君たちなら大歓迎だ」

「サイリルにもぜひ遊びに来てくれ。ダリルと二人で歓迎するぞ」

「……マリー」

 

 マリーの言葉を聞いて、ルーティが少し悲しそうな顔をする。

 

「ルーティ……本当にありがとう。記憶を失った私はルーティに助けられていなかったら、ダリルと再会することもなかった。

ルーティと一緒に冒険できたことも本当に楽しかったぞ」

「……私もよ。あなたがいてくれて本当に助かったわ。マリーも私の街に遊びに来てね!」

「ああ!」

 

 二人は笑顔で握手をする。そしてウッドロウ一行はその場から去っていった。

 

「……では私もそろそろ神殿へ戻るといたしますわ」

「フィリア……本当に大変だったね。お疲れさま」

「とんでもありません。終わってみれば、楽しい旅でしたわ。神殿の中しか知らなかった私には、外の世界を知るいい機会になりました。

みなさんがきっかけを下さったからですわ。感謝しております」

「こちらこそ。フィリアのお陰で、本当に助かったよ」

 

 スタンの言葉にフィリアは頭を下げると、エドワードをちらっと見てから「……それでは、ごきげんよう」と言って去っていく。

 エドワードは自分を見た理由が分かっていたが、どうしようか二の足を踏んでいた。

 

『エド、行かなくていいのか?』

「……えっ?」

「そうよ、エド。どんな気持ちであれ、今行かないとでしょ」

「あらら〜、エドワードったらフィリアとどこまで進展しちゃったのかなぁ〜?」

「え? え?……どういうこと?」

「……ふん」

 

 時雨(しぐれ)とハロルドに後押しされるがままにエドワードはフィリアの後を追った。

 「こいつはあたしに任せなさい!」と時雨(しぐれ)を取り上げたハロルドに感謝をしつつ、全力で走るのであった。

 

『どうやら来たようじゃよ』

「……え?」

「フィリア!!」

「……え、エドワードさん!?」

 

 フィリアに追いついたエドワードは、フィリアを呼び止める。

 エドワードの声を聞いて驚いて振り向くが、フィリアは自分の愛しい人の顔を見ることが出来て微笑んでいた。

 

「ごめん、急に呼び止めて」

「いえ……大丈夫ですわ」

 

 そこから二人は目を合わせたまま、黙ってしまっていた。

 フィリアもエドワードもこういうときにどんな話をすればいいのかが分かっていなかったのだ。

 時雨(しぐれ)にこんな恥ずかしい姿を見られなくてよかったと、ハロルド()に感謝をするエドワード。

 

「えっ……と、前に部屋で話したことなんだけどさ……」

「は、はい……」

「俺も急なことで感情が上手くまとまっていないというか……ああ、なんて言えばいいんだ!」

「……ふふっ」

「……フィリア?」

「あ、いえ、ごめんなさい。なんかエドワードさんらしいなって思って」

「そうかな?」

「はい、そんな急に気持ちを整理しなくてもいいと思いますわ。私はそんなエドワードさんが……す、好きなんですもの」

 

 自分の言葉にしてフィリアがエドワードに気持ちを初めて伝えたフィリア。

 その告白を聞いて、エドワードも顔を赤くして直立不動で固まる。

 その姿を見て、恥ずかしそうにしていたフィリアは再び笑みを溢す。

 

「またストレイライズ神殿にも遊びに来てくださいませんか?」

「え、あ、ああ。そうだね。近いうちに遊びに行くよ」

「それと……」

「ん? ど、どうしたの?」

「よかったら……私もエドワードさんのこと、()()()()って呼んでもいいですか?」

「……ああ、それならぜひ」

 

 エドワードの了承を聞いて、嬉しそうに笑うフィリア。その笑顔を見て、エドワードは自身の胸が高鳴るのを感じる。

 そして、それがどういう感情なのかをすぐに知る。

 だがいつまでもこの時間は続かない。もう少しもう少しと話している間にフィリアが戻らなくてはいけない時間になり、お別れすることとなった。

 必ず会いに行くと約束をして、フィリアを見送り、エドワードはスタン達が待つところに戻るのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 エドワードが戻ると、そこにはスタンとリオンとハロルド以外に兵士がいた。

 スタンが兵士にディムロスを返却しているところだった。

 ディムロスは元々セインガルド王国の所有物であり──スタンがマスターとはいえ──返却しなくてはいけなかったのであった。

 返却後、去っていく兵士を横目にスタンがリオンに話しかける。

 

「リオンはこれからどうするんだ?」

「新たな指令を待つだけだ」

「のんびり休んでもいられないか。大変だなあ」

「それが客員剣士たる、僕の責任だ」

「俺、リオンと旅できてよかったよ。色々あったけど、すごく楽しかった」

 

 そしてスタンがリオンに右手を差し出す。

 リオンは怪訝そうな顔をしてその手を見つめる。

 

「……なんだ、この手は?」

「……なんだ、この手は?」

「マネをするな!」

「……なあ、リオン。リオンにとって、俺は今でも対等な関係じゃないのか?」

「それは……」

「俺はリオンのこと、大切な友達だと思っているんだけどな」

「なっ…! …ええい、くだらないことを! いいか、何度も言わせるなよ」

 

 

 

 

 ──僕はお前のように、能天気で、図々しくて、馴れ馴れしい奴が大嫌いだ!──

 

 

 

 

 

 リオンの言葉を聞いて、エドワードの中にフラッシュバックしてくる。

 それは時雨(しぐれ)と出会うよりも前に見ていた夢のことだった。

 

 

 

 

 

 

 ──だから……あとは任せた。

 

 

 

 

 洞窟に水が入り込み、座りながら水に沈んでいく黒髪の少年(リオン)がいたあの夢。

 そこには夢を見ていたときには出会っていなかった現ソーディアンメンバーもいたが、スタンとリオンが握手している姿を見ながら、そんなことが起こるわけがないとエドワードは考えていた。

 そのときエドワードも見知った兵士が歩いてきて、スタンに話しかける。

 

「スタン殿、飛行竜の準備が整いました。いつでも出発できます」

「あ、はい! じゃあ俺行くな! ……ってルーティは? さっきまでいなかった?」

『ルーティならエドが戻ってくる前に城に向かっていったぞ?』

「そっか、探してみるよ。すみません、少し待っててもらえますか?」

「わかりました」

 

 そう言って、スタンはエドとハロルド、時雨(しぐれ)やシャルにも挨拶したあと、兵士とともに城へと向かっていった。

 リオンは城へ急いで向かっていくスタンを呆れた顔で見ながら呟く。

 

「まったく……忙しいやつだな」

『スタンとルーティって、何かあるんでしょうかね?』

「くだらない詮索はよせ」

『でも坊っちゃんのお姉さんのことですよ?気になりませんか?』

「……気にならんな。所詮、僕とルーティは他人だ」

「その言い方は気になっている証拠だぞ、リオン」

「な……!? う、うるさい!! 貴様に何が分かる!?」

「……言うなら早めにな、リオン」

「……」

 

 リオンは黙ってそのまま屋敷へと戻っていった。

 ハロルドはその様子を心配そうに見つめていた。

 

「か……ハロルドさん、リオンは何かあったのですか?」

「ん〜、そろそろ話してもいい頃合いかもね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「え……?」

「それよりもそろそろ()()()って呼んでくれてもいいんじゃないかな〜?」

「う……か……」

「……か?」

「……母さん」

「はい、よく出来ました! エドは可愛い子ねぇ!」

「〜〜〜!!」

 

 上手く誤魔化されてしまい、エドワードは真っ赤になりながらハロルドに撫でられていた。

 しかし、ハロルドの言葉をもっと早く知っておけばよかったとエドワードが後悔するのは、もう少し経ってからのことであった。

 

 

〜第一部 完〜

 




大変遅くなりましたが、これで第一部が完です。
間話を挟んでから、第二部を開始していきます。


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間話 ハロルドと時雨

間話です。いつもは間話を載せるときは2話ずつ載せていましたが、現在文章書くのをリハビリ中なので1話のみとなります。
調子を取り戻したら、2話ずつ載せていこうと思います。



 これはグレバムを倒し、神の眼を封印してから数日後のお話である。

 ハロルドは鼻歌を歌いながらダリルシェイドの街を歩いていた。

 その独特なハーモニーと見た目のギャップから、通行人はぎょっとしては足早に去っていく。

 

「ふんふふ〜ん♪ ふふんふふ〜ん♬」

『お前な……もっと音量を小さくして歌えよ』

「あら? なんで?」

『周りが引いてるからだよ……ってハロルドに言っても無駄か』

「分かってるじゃない! さすが時雨(しぐれ)ね♪」

 

 ハロルドはエドワードに頼み、今日一日だけ時雨(しぐれ)を借りており、ダリルシェイドでデートをすることになっていた。

 相手がソーディアンになってしまっているとはいえ、ハロルドとしては時雨(しぐれ)には変わりない──むしろいくらでも連れ回せる──ので、いつも以上に機嫌が良かったのである。

 

『それで、どこに行くつもりなんだ?』

「ん〜、ちょっとぶらぶらしながら歩いて、そのあとカフェでも行こうかしら?」

『予定決まってなかったのかよ……』

「せっかく神の眼を封印して、一段落したんだからいいじゃない。()()()()()()()()()()()()?」

『……ああ』

「それは絶対起こるの? あの封印はなかなか解けないわよ?」

『ほぼ確実だ。()()()があれくらいで諦めるようなやつじゃないからな』

 

 時雨(しぐれ)はこの後に何が起こるのかを分かっている様子で、その言葉をハロルドや旧ソーディアンチームは信じている。

 もちろんすべてを分かっているわけではなく、()()()()()()()()()といったレベルなのだが、それがまた信憑性を高めていた。

 

『それに……バルバトスのやつが不穏な行動を取ってやがるのが心配でな』

「ああ、あの筋肉だるまね」

『バルバトスが誰に繋がっているか分かれば、まだ対処の仕様もあるんだが……』

「ま! そんなことをいつまでも考えていても仕方ないでしょ! とりあえずエドにもそろそろ話すんでしょ?」

『…………』

「まだ心配してるの? あの子はあたし達の子よ? きっと上手く立ち回ってくれるわ」

『そう……だな』

 

 エドワードのことを心配する時雨(しぐれ)を他所に、ハロルドは楽観的と言ってもいいくらいエドワードのことを信じていた。

 何かがあっても自分達の息子(エドワード)であればなんとかしてくれるという根拠のない信頼ではあったが、自信満々に言うハロルドに対して時雨(しぐれ)は無理矢理にでも納得するしかなかった。

 

「それよりもあたしはあの子の恋愛が心配だわ。フィリアの気持ちにようやく気付いたとはいえ……あんなにニブチンだと、いつまで経っても結婚できないわよ?」

『あ、あれに関しては、俺は悪くないぞ! エドと会ったのだってここ最近の話だし……』

「はぁ……せっかくあたしと時雨(しぐれ)の遺伝子を受け継いでイケメンになってるんだから、もっと遊んでもいいと思うんだけどね〜」

『まぁ、色んな女性を勘違いさせてはいる……な』

「あら? 意外と()()()()()()()はあるのかしらね?」

 

 軽く微笑みながら路地裏に入っていくハロルド。

 そして少し歩いたところで振り返り、誰もいないところに向かって話し出す。

 

「……そろそろ出てきたらどう? あたしが美人だからってこれだけ付きまとわれるとさすがに不愉快なんだけど?」

「…………ちっ、気付かれていたか」

 

 物陰から数人の男が出てきて、ハロルドの前に立つ。

 全員覆面をしており、顔が分からないようになっていた。

 

「それで何の用? あたしをデートに誘いたいならもう少しイケメンになってから来てもらえると嬉しいのだけれど……」

『いやいや、旦那がいる前で堂々と浮気発言するなよ!』

「あら、いいじゃない。あんたもう刀になっちゃったんだし」

『元の世界の俺はまだ生きてるだろ! ……はあ、相変わらずだな』

「それでこそあたしだからね♪ でもあの感じだと覆面を取っても大したことないだろうからあんし──」

「ええい! うるさい! 何をごちゃごちゃと言ってやがる!」

 

 リーダーらしき男がハロルドの言葉を遮る。時雨(しぐれ)の声はその場にいる男たちには聞こえないため、ハロルドが一人言を言っているようにしか見えなかった。

 

「だってあなたが用件を言ってくれないからじゃない。何の用なの? ……はっ! もしかして美人のあたしを誘拐してあんなことやこんなこと──」

「うるさいと言っているだろうが! ……()()の封印場所を教えてもらおうか」

『ああ、刺客か。あれ、どうする?』

「んー、どうせ依頼主のこと知らないでしょうし、面倒だから適当に痛めつけてその辺に放置しておきましょ」

「だから何をごちゃごちゃと言ってやがる! この状況を見て分から…………え?」

 

 リーダーの男がしびれを切らして近付こうとしたとき、ハロルドの足元から魔法陣が浮かび上がる。

 

「ああ、もういいわよ。──『デルタレイ×2』!」

 

 ハロルドは一瞬で詠唱を終えると、六つの光弾が男たちを襲う。

 男たちは悲鳴を上げる暇もないまま光弾を身体に受けて吹き飛び、壁にぶつかってそのまま意識を落としてしまった。

 そのまま裏通りから出ていくハロルド。

 

『あいつらはそのままでいいのか?』

「まぁ大丈夫でしょ。死なない程度に威力を抑えてあげたし」

 

 死ななければ問題ないと、何の興味も無いような風に語るハロルドに時雨(しぐれ)は何も言えなくなったが、これがハロルドだったと無理やり納得することにした。

 その後、デートを満喫したハロルドと時雨(しぐれ)は帰り道でも話が尽きることはなかった。

 

「はぁ〜! 今日は楽しかったわ! 色々と満足できたわね♪」

『それなら良かったが……昼飯食べた後に、よくあれだけ甘いものを食べられるな』

()()()()()()()()()()()()()。……それにもうそろそろだからね」

『そうか……()()()()()()か』

「ええ、だから今のうちにあなたともここでの思い出を作っておきたくて。もちろんエドともね」

『エドにはいつ話すんだ?』

「ん〜、帰ったらすぐ言うわ。時雨(しぐれ)もエドに話せることは話しておきなさいよ」

『…………そうだな』

 

 少し落ち込んでいる声を出した時雨(しぐれ)を見て、ハロルドは薄く笑う。

 時雨(しぐれ)のそういった態度は滅多に見ることが出来ないからだ。

 

「ま! 帰ったらエドをたくさん可愛がってあげないとね〜♪」

『……あんまりやりすぎると嫌われるから気を付けろよな』

「大丈夫よ。エドは私に照れているだけだからね〜」

 

 笑いながらハロルドは鼻歌を歌いながら帰り道を歩いていく。

 その途中で時雨(しぐれ)に呼ばれて立ち止まるハロルド。

 

「なに? 時雨(しぐれ)?」

『…………』

「なによ〜。言いたいことがあるならはっきりと言いなさいよね」

『……いや、その…………あ、ありがとうな。お前が来てくれなかったら、もし最後(結末)が良かったとしても()()()()()()()がもっといたはずだ』

「……いいのよ。本当は()()()()()()()()()()()()()のだけれど、あなたが決めたんでしょ?」

『ああ。俺はそのためにソーディアンになったんだ』

「それならどんなことでもしなくちゃね。それにまだ結果が出ていない状態でお礼を言うのは早いわ。きちんと結果が出たときにまたお礼を言って」

『……そうだな。分かった』

 

 家の前に着いたところで話を止めるハロルドと時雨(しぐれ)

 ここからは親としての二人に変わろうと意識を切り替えてドアノブに手を伸ばして、玄関のドアを開ける。

 ドアを開けた先にはエドワードが座って本を読んでおり、ハロルド達に気付いて視線を上げる。

 

「あ、おかえりなさ──」

「エド! ただいま〜!!」

 

 話の途中にハロルドに突然抱きつかれて困惑するエドワードなのであった。

 その様子を見た時雨(しぐれ)はため息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

『親としてのスキンシップ激しすぎだろう……』

 




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間話 ルーティとマリー

「ほらあんた達! さっさとご飯を食べなさい! こらニコル! ルンのご飯を勝手に食べないの!」

 

 クレスタの街の孤児院。そこには多くの少年少女と院長、そしてルーティが一緒に暮らしていた。

 グレバムを倒した報奨金を貰い、借金を返済することが出来たお陰で孤児院の経営も少しだけ良くなったとはいえ、まだまだお金が必要なことには変わりない。

 ルーティは子供達の面倒も見つつ、レンズハンターとしての仕事をしなくてはいけないと思っていた。

 

「ルーティお姉ちゃん〜! ダンが私のお人形さんを隠した〜!」

「ルーティお姉ちゃん〜! ソフィがぶったぁ〜!」

「ルーティお姉ちゃん〜! トイレ〜!」

「はいはいはい! 分かったわよ!」

 

 孤児の中で年長者のルーティは、院長を支えつつも子供達の支えとして毎日を忙しく過ごしていた。

 そこに一人の来訪者が現れる。

 

「ルーティお姉ちゃん〜! 誰か来たよ〜!」

「今度は何!? ……ってお客さん?」

 

 セインガルド王国領内とはいえ、外れの街(クレスタ)の孤児院に来訪者が来ることなどほとんどない。

 来たとしても知り合いの八百屋のおじさんなど近所の人間であった。

 そしてその場合、子供達はきちんと名前を言ってくれるので、今回は()()()()()()()()()()()()()ことは予測できた。

 

「えっと……誰?」

「私はセインガルド王の使いなのですが、ルーティ・カトレット様はいらっしゃいますでしょうか?」

「はい、私ですけど」

「実は陛下から依頼がありまして……」

 

 とりあえず話を詳しく聞くために、ダイニングへと案内する。孤児院に客間はないため、子供達を外で遊ばせればダイニングが一番話しやすい空間となるのだ。

 席についてもらい、お茶を入れてルーティも席に座る。

 

「それで、依頼って?」

「はい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ん〜、要領を得ないわね。はっきり言って」

「これをファンダリア王国のある人に渡してほしいのです」

 

 そう言って小包を渡してくる男。見た目は完全にセインガルドの兵士なので、そこまで心配はしていないが、問題は()()()()()()()()()()()()()ということである。

 

「……誰に届ければいいの?」

「サイリルの”ダリス・ヴィンセント”という方に。渡せば後はそれで終わりです」

 

 そして別で袋を取り出しながら、「これは報酬と目的地までの路銀です」と言ってテーブルの上に置く。

 中身は確実に大金だと分かるほどの重量感がある音であることはルーティにはすぐに分かった。

 

「分かったわ。ただ一つ聞いてもいい? ()()()()()()?」

「リオン様もエドワード様も任務に出ておりまして……なるべく目立たずに腕の立つソーディアンマスターですと、この近くではルーティ様くらいしかいないというのが陛下のご判断です」

「……なるほどね。分かったわ」

 

 小包を受け取り、明日にでも出掛けると伝えると兵士は去っていった。

 ルーティが一息つくと、後ろから院長が話しかける。

 

「ルーティ、出掛けるのかい?」

「ええ。明日から数日ほど。そうだ、このお金(ガルド)を孤児院の資金にして」

「……いいのかい? 前回もあなたが一生懸命に稼いできた大金を頂いたばかりなのに」

「いいのよ。どうせそんなに貰っても使い道ないし。だったらチビ達のために使ってあげたいじゃない?」

「分かったわ。ありがとう、ルーティ。あなたは周りから”守銭奴”って呼ばれているけれど、本当はこんなに心優しい子なのにねぇ。

周りにもこの優しさを知ってもらえればいつでも嫁に行けるでしょうに──」

「──っていいのよ、私のことは! 今はチビ達がちゃんと育つ環境を作ってあげないと! ただでさえ孤児が増えてきているんだし」

 

 ルーティが優しさを見せる相手は限られている。

 院長としてはその優しさを色んな人にも知ってもらえることで、今のルーティの評判も良くなるのではないかと考えているが、ルーティとしては恥ずかしさだけでなく、今後の仕事にも支障が出るのもあり、周りに知ってもらおうとは一切思っていなかった。

 そして、子供達に明日からルーティがまた数日間いなくなることを告げると、大泣きする子が続出するのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 次の日の早朝。ルーティは身支度をして、孤児院を出る。

 サイリルへは、セインガルド王国とファンダリア王国の国境にあるジェノスという街を通って、ハイデルベルグ経由で南に向かうのが徒歩では最短である。

 

(一人旅も久々ね。マリーと出会ってからはずっと誰かと一緒だったからね)

 

 ルーティはマリーと出会ったときのこと、飛行竜でスタンと出会ったこと、神殿でスタンに助けてもらったこと、そこからハーメンツの村でリオン達と出会ったことなどを思い出しながら歩いていた。

 グレバムを倒すまでには色々な辛いこともあったが、仲間と旅をする楽しさをたくさん知ることが出来たのは、彼女にとってもとても貴重な体験だった。

 

(あいつ……元気でやっているかしら?)

 

 金髪のボサボサ頭の男を思い浮かべて、ルーティは思わず笑みをこぼした。

 いつも朝になっても起きてこない彼をルーティは毎朝起こしていた。

 初めは面倒で仕方がなかったのだが、旅が進むにつれてそれも一種の楽しみになっていたのはルーティ以外の誰も知らないことである。

 

 ジェノスで一泊し、ハイデルベルグで一泊する。

 ウッドロウには流石に気軽に挨拶には行けないので、チェルシーと宿の夕ご飯を一緒に食べるなどをして二度目のハイデルベルグを満喫する。

 後日その話を聞いてウッドロウが少し悲しい顔をしたのは、報告したチェルシーだけが知ることとなる。

 

 ジェノスでもハイデルベルグでもソーディアンチームでの旅で思い出すのはいつも彼のこと。

 ルーティにとっては全員を平等に思い出しているはずなのだが、アトワイトと話す内容も明らかに彼のことが多くなっていた。

 

『ルーティってばスタンのことばかり話しているわね』

「そ、そそそそんな事ないわよ! あんただってディムロスのことばっかり話してるじゃない!」

『はいはい。そうね。それよりももうすぐサイリルに着くわよ』

 

 お(しと)やかに笑うアトワイトにからかわれたことに気付き、少しむくれるルーティ。

 目の前にはサイリルの街が見えていた。

 

 

 

「こんにちはー! マリーいるー?」

 

 サイリルの街に到着したルーティは早速マリーの家のドアをノックする。

 届け先のダリスはマリーと一緒に暮らしているため、そこに行けば会えることは分かっていた。

 

「はいはい、どちら様……ってルーティ!?」

「へへ……ちょっと前ぶりね」

「どうしたんだ? もしかしてもう遊びに来てくれたのか?」

 

 マリーは嬉しそうな笑顔を見せてルーティを歓迎する。

 そして、席についたルーティは訪問しに来た理由をマリーに伝えた。

 

「えっとね、今日はダリスに届け物があって来たの。今はいない?」

「ああ、そうだったのか。ダリスなら外に出ているがもうすぐ帰ってくるぞ」

「あら、そうなの。それなら少し待たせてもらおうかしら」

 

 そう言うと、ルーティとマリーは思い出話に華を咲かせた。

 実際には別れてからそこまで時間は経っていないのだが、二人きりで話すということがなくなっていたので、マリーと話すルーティの顔はとても嬉しそうであった。

 一時間ほど話していると、玄関のドアが開く音が聞こえる。

 

「マリー、今帰ったぞ……って客人か?」

「ダリス! おかえり。ルーティがダリスに用があって来てくれたんだ」

「ルーティさんが?」

「お邪魔してるわよ。てかルーティでいいってば」

「ああ、ルーティ。いらっしゃい。用事ってなんだい?」

 

 ダリスに用事があるというルーティの話に思いつくことがなかったため、率直に聞いた。

 ルーティもすぐに終わらせようとダリスに小包を渡す。

 

「これをセインガルド王から?」

「そうみたいよ。私も中身は知らないけど」

 

 ダリスは早速小包を開けて、中身を開いてみる。

 そこには二通の手紙が入っていた。”ダリス・ヴィンセント様”と書いてある手紙を広げて読むダリス。

 そして、数分ほどで読み終えたあと、静かに笑うのであった。

 

「なに? 何が書いてあったの?」

「ふふふ。()も粋なことをするね。先にマリーが読むといい」

「私が?」

 

 そう言って、マリーに手紙を渡すダリス。少し(いぶか)しながらも手紙を読むマリーだったが、読み終わったあとダリスと同じように微笑む。

 

「だろ?」

「そうだね。()()()()というのがいいのかな? 私にとってはとても嬉しいことなんだが」

「なに!? 二人だけで世界を作らないでよ!」

 

 ルーティだけ仲間外れにされたと思い、中身を知ろうとするが、ダリスから渡されたのは()()()()()()()だった。

 そこには”ルーティ・カトレット様”と書いてあった。

 とりあえず手紙を開いて読み始めるルーティ。

 そこには予想だにしない内容が書いてあったのだった。

 

『ルーティ・カトレット様

 

今回の旅でマリーとなかなか話す時間が取れないと良く嘆いていましたね。お別れのときもそこまで時間が取れなかったと記憶しています。

そしてあなたの性格だと、すぐには自分から会いに行かないと思いましたので、強引ですがこのような手段を取らせていただきました。

私からのグレバム討伐を手伝ってもらったお礼だと思ってください。

よろしければ、親友との再会を楽しんでくださいませ。

 

エドワード・シュリンプ』

 

「な、何よこれ!?」

「エドワード君からの()()()()()というやつみたいだね。このサプライズをするために、わざわざセインガルド王の名前を使う許可を貰っていたそうだよ。

今回のグレバム討伐の報酬はこんな感じで仲間のために使っているようだ」

 

 エドワードはセインガルド王からの報酬を断っていたのだが、どうしても貰わないと周りに示しがつかないという状況になってしまったため、精一杯考えてこの方法を取っていた。

 初めはセインガルド王の名前を使うことは簡単に出来ないと思ってのダメ元での提案だったのだが、理由を知ったセインガルド王が二つ返事でOKを出したため実現したのである。

 エドワードや知人の名前を使った場合、ルーティが依頼を引き受けてはくれない可能性があったためセインガルド王の名前を出していた。

 

 そのことを知ったルーティは初めこそブツブツ言っていたが、なだめるようにマリーがボルシチを作ってくれたため、すぐに機嫌を戻して楽しく再会した一晩を過ごしたのであった。

 

 

「じゃあ、また来るわね」

「ああ、今度は私も会いに行くよ」

孤児院(うち)、来てもチビ達がうるさいわよ?」

「ルーティの育ったところを私も見てみたいんだ。……いいだろ?」

「…………好きにすればいいわよ。とりあえず、()()()!」

 

 次の日、マリーの家を出てクレスタの町に戻ったルーティ。

 エドワードとしてはささやかな恩返しをしたと思っているのかもしれないが、ルーティとしては嬉しいと思いつつも、騙されたという気持ちでいっぱいだった。

 そこは弟と同じく、素直になかなかなれない性格なのであろう。

 

(エドめ、次会ったら覚えておきなさいよ! ただじゃおかないんだから!)

 




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間話 スタンとリリス……とコングマン

 グレバムを倒してから、スタンはフィッツガルドの最北端に位置するリーネ村へと戻っていた。

 戻った当初は自然があふれる故郷にスタンは懐かしみと喜びがあったが、少し経つとそれも退屈な日々へと戻っていった。

 元々兵士になりたいと思い、リーネ村を飛び出したスタンにとっては無理もない話である。

 そして、いつものように惰眠をむさぼっていた。

 

「おにーちゃーん! ご飯出来たわよー!!」

「……むにゃむにゃ。すぴー」

 

 妹のリリスの呼びかけにも応じることなく、お腹を丸出しにしたまま爆睡するスタン。

 一度寝るとなかなか起きないスタンはどこでも変わっておらず、それを起こすのは至難の業なのである。

 現に旅の最中も、孤児院で子供達の扱いに慣れているルーティですら、最初の頃はスタンを起こすことが出来ずにいたのであった。

 しかしここにはベテラン(リリス)がいた。

 

「おにーちゃーんってば! ……ってまだ寝てるの!? いい加減起きなさいよ、まったく!」

 

 スタンの部屋に来たリリスはおたまを片手に持ち、両手を腰に当ててスタンを見ていた。

 そして大きくため息をつくと、おたまを持った右手を振り上げてスタンの頭を目がけて思い切り振り下ろした。

 ガンッ!! という大きな音が鳴り、普通の人では逆にそのまま永遠に眠ってしまうのではないかというレベルの衝撃がスタンを襲っていた。

 しかし、スタンは薄く目を開けると、リリスに向かって笑顔を見せる。

 

「ん〜、あ、リリス。おはよう」

「おはよう、お兄ちゃん! もう朝よ! ご飯出来てるから早く顔洗って来て!」

「ん〜、わかったぁ」

 

 リリスも笑顔でスタンに応えると、そのままキッチンへと向かっていく。

 スタンはまだ寝ぼけていたが、むくっと起き上がると、そのまま顔を洗いに家の外の井戸に向かっていく。

 そして顔を洗って目を覚ましたあとは、リリス、祖父のトーマスと一緒に朝食を食べるのであった。

 朝食後、食器を洗ったリリスは、のんびりしているスタンに話しかける。

 

「お兄ちゃん、()()()一日暇でしょ?」

「ん? ああ、そうだなぁ。今日ものんびりすると思うよ」

「じゃあさ! 今日お出かけしよ!」

 

 リリスの皮肉に全く気付かないスタンは、リリスの提案に対して了承する。

 そして、準備をして家をトーマスに任せて出掛けるのであった。

 

「リリス、出掛けるってどこまで行くんだ?」

「えっとね、ノイシュタットまで行こうと思って!」

「え!? ノイシュタットって日帰りで帰ってこれないぞ!」

「だいじょぶだいじょぶ! おじいちゃんにはちゃんと言ってあるから!」

 

 スタンと腕を組みながら、「わぁい! お兄ちゃんとお泊りデートだぁ!」と小声で喜ぶリリス。

 その様子をリーネ村の住人に見られては「相変わらず仲が良いわねぇ」とからかわれる二人。

 だが、小さい頃から言われ続けているため、もはや慣れっこになっている二人はそれくらいでは動じなかった。

 

(まぁ、いつも苦労かけてばっかりだったからな……たまにはいいか)

 

 スタンはそう思いつつ、リーネ村を出てノイシュタットに向かっていくのであった。

 道中のモンスターも、もはやディムロスを持っていないスタンでも敵ではなく、通常のロングソードで瞬殺だった。

 リリスはスタンの成長ぶりに驚きつつも、スタンをも上回る自らの才能を活かしてモンスターを同じく瞬殺していく。

 そして、半日かけてノイシュタットへ到着するのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ようやく着いたわねぇ!」

「そうだな。リリスはノイシュタットで行きたいところがあったのかい?」

「んー、特にはないんだけど……そうだ! お兄ちゃん案内してよ!」

 

 グレバムを倒す際にノイシュタットに行ったことを話していたため、リリスは道案内をスタンにお願いした。

 デートのエスコートとまでは期待していないが、道案内くらいは出来るであろうという考えである。

 

「案内かぁ〜……あ、そうだ!」

 

 スタンはそこからリリスとノイシュタットを色々と見て回っていた。しかもリリスが完璧だと思えるくらいのエスコートぶりである。

 それもそのはず。そのコースは以前イレーヌと一緒に回ったルートをそのまま使っているからである。

 イレーヌとは、オベロン社フィッツガルド支部の責任者であり、グレバム事件の際にスタン達と知り合い、成り行きでデートをすることになった女性である。

 まさかこんなところでその経験が活きてくるとは思っていなかったスタンである。

 

 そして、他の女性と過去にデートしたルートをそのまま使うなど本当であればありえないことなのではあるが、スタンはそういうことには(うと)いため、リリスが喜んでくれて良かったというレベルにしか考えていなかったのであった。

 そして、アイスキャンディーを食べながら港にある公園を歩いていると、リリスが誰かとぶつかりアイスキャンディーを落としてしまう。

 

「きゃっ!」

「おっと、気を付けな嬢ちゃん!」

 

 リリスとぶつかったのは、筋肉ムキムキでいつも上裸のマイティ・コングマンであった。

 スタンはコングマンを見て、笑顔で話しかける。

 

「おお! コングマンじゃないか! 久しぶりだな!」

「ん? お前はスタンか!」

 

 久しぶりの再会に笑顔で話していると、後ろからなにやら不穏な空気を感じたスタンが振り向き、顔を青くする。

 

「リ、リリス……!?」

「わ、私のアイスキャンディー……お兄ちゃんに買ってもらったのに……」

「ほ、ほら! アイスキャンディーならいくらでも買ってやるから! コングマンも謝って!」

「あ? なんで俺様が謝らないといけないんだ? 弱いやつが悪いんだよ!」

「せっかくお兄ちゃんに買ってもらったのに……」

 

 スタンはもう止められないと顔に手を置いて上を向く。

 リリスは俯いたまま、ぶつぶつと呟いていたが、コングマンの言葉に対して顔を上げてコングマンをにらみつける。

 

「おう、嬢ちゃん。やるってのかい? だがな、俺はチャンピオンだからな!

闘技場以外での闘いは受け付けてねーんだわ!」

 

 そう言って、笑いながら去っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────その日、スタンがその後のリリスをなだめるのに苦労したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、スタンが起きたのはお昼を大分過ぎてからだった。

 いつもであれば朝にリリスが起こしてくれるにも関わらず、この日は起こさなかったのだ。

 スタンが起き上がると同時に部屋のドアが空いて、リリスが入ってくる。

 

「あ、お兄ちゃん! おはよう!」

「うん、おはようリリス」

「このあとご飯食べたら、リーネ村に帰りましょ!」

 

 鼻歌を歌いながら、スタンの支度を手伝うリリス。

 その様子を見てスタンも安心する。

 

(よかった。リリスも機嫌が戻ってくれたんだな)

 

 そして二人はいつものように腕を組んでノイシュタットを後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは、とある日のとある街の午前中の出来事である。

 

『あーーーーっと! まさかチャンピオンのコングマンが瞬殺!?

平凡そうな村娘の格好をした少女にコングマンが破れました!! 新たなチャンピオンの誕生です!!!』

 

 その日、闘技場にて新たなチャンピオンが誕生した。

 コングマンは「おう、お前は昨日の……」と言いかけたところでボコボコにされたのである。

 あまりの悲惨さに、実況以外の観客は静まり返っていたのであった。

 

 少女はコングマンに何事かを呟くと、表彰式を無視してそのまま去っていった。

 そして二度と現れることがなかったため、前チャンピオンのコングマンがそのままチャンピオンとして君臨することになった。

 

「金髪ポニテ怖い……おたま怖い……エプロン怖い……」

 

 コングマンは少しの間、そう言って隅の方で震えることがあったというのは関係者の話である。

 




リリスを思っている以上にブラコンにしてみました。
もっともっとブラコンにしてもいいと思うんですよね!

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間話 リオンとマリアン

「ただいま。マリアン」

「あら、おかえりなさい……エミリオ」

 

 任務を終えてヒューゴ邸に帰ってきたリオンは、真っ先にマリアンのもとに向かっていた。

 いつものことなのでマリアンは苦笑いをしつつ、周囲に人がいないのを確認したのち、リオンの本名であるエミリオの名前を呼ぶ。

 ヒューゴとの確執から自らの名前を”リオン・マグナス”と変えたのだが、大切な人であるマリアンに対しては元の名前で呼ぶようにお願いをしていたのである。

 

「それで今回の任務はどうだったの?」

「ああ。問題なく終わらせたよ。僕にとっては簡単な任務だったさ」

「そう。それは良かったね」

 

 大切な人(マリアン)の前では、いつも以上に強がってしまうリオン。

 その気持ちに気付いているのかは分からないが、マリアンはいつも優しく微笑んでいた。

 マリアンは黙ってリオンを見つめていた。

 

「……どうしたんだい?」

「いえ……エミリオは変わったなと思って」

「そうかい?」

「ええ、変わったわ。昔はもっとヒューゴ様に対して反発心もあったし、周りに対してももっと刺々しい雰囲気だったわ。

まるで抜き身の剣のように危なっかしいところがあったけれど……今はそういったものが薄らいでいるような気がするわ」

「…………」

 

 マリアンに指摘されるより少し前からリオンも自身の内面の変化について感じ取っていた。

 そのきっかけになっているであろう()()()()がリオンの頭に浮かぶ。

 昔のリオンであれば確実に否定をして、「やめてくれ!」とまで言っていたと思うが、その変化を受け入れることが出来るようになっていた。

 むしろ、自身が変わったことに対して喜びさえ感じられるようになっていた。

 

「やっぱりエドワードさんとスタンさんのお陰かな?」

「認めたくはないが……そうだな。僕自身も二人と出会って変わったと思うよ」

「私は今のエミリオの方が好きよ。周りへ優しさを出すことが出来るのは本当に素敵なことだと思うわ」

「……そうだね。マリアン、ありがとう。そう言ってもらえると僕も嬉しいよ」

 

 リオン自身に変化を与えてくれた一人は、同じセインガルド王国客員剣士であるエドワード・シュリンプ。

 彼とリオンが出会ったのは一年以上前。当時客員剣士になったばかりのリオンをバカにしていた兵士に対して、訓練場で実力の違いを見せつけていたときであった。

 当時の彼はまだセインガルド王国の一般兵。それなのに制服ではなく、私服でソーディアンと思しき刀を持って訓練場に現れたため、鬱憤(うっぷん)を晴らそうと刀を抜くように言ったのだが拒否をされたのである。

 

 結局その日は有耶無耶なまま終わり、次に会ったのはセインガルド王国武術大会の決勝であった。

 予選を見る限りだと絶対に負けないと思っていたのだが、問題が発生したため、決着をつけることが出来なかった。

 

 その後、リオンと同じ王国客員剣士になってからは訓練で何度も剣を交えることになる。

 武術大会時には差があった剣術も徐々に縮まっていき、ついにはリオンが負け越すことになるくらいエドワードは成長していったのである。

 それでも自分自身も腕が上がっているのが分かっていたし、本気でやりあえばどちらが勝つか分からないほど実力が拮抗していた。

 

(あれだな。エドワードはいつも僕の周りをうろちょろして他の兵士たちと僕を関わらせようとしていたな)

 

 最初は余計なお世話だとしか思っておらず、兵士の剣を教えるのも嫌々やっていたところもあったリオンだが、エドワードのペースに巻き込まれていくうちに周りからのやっかみが少しずつ減っていったのである。

 そしてリオンを師匠(せんせい)と呼ぶ若手兵士も増えていき、リオン自身もその成長を嬉しく思えるようになっていた。

 リオンにとって、エドワードとは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を教えてくれた人間であった。

 

(それでも僕が本当に信用できる人間は少なかった。マリアンと……エドワードだけだった)

 

 その後、飛行竜襲撃事件をきっかけにリオンに変化を与えてくれたもう一人の人物であるスタンとも出会うことになる。

 リオンの性格上、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が心の底から嫌いであった。

 その嫌いなタイプの人間が、世の中に数少ない──というか、ほぼいない──ソーディアンマスター(スタン)であったことを知り、ある種の絶望を感じた。

 

 しかもディムロス強奪の容疑、セインガルド管轄の神殿への不法侵入など犯罪者紛いの人間だったのである。

 初対面の印象としては最悪であろう。しかしスタンにとってその程度のことは大した問題ではなかった。

 嫌いなタイプの人間(スタン)と距離を取ろうとするリオンに対して、スタンは嫌われているのもお構いなしにグイグイ距離を縮めてくる。

 挙句の果てに”友達”とまで自称し出すのだから、これには流石のリオンも戸惑い、呆れ果てていた。

 

(スタンは邪険に扱われているのに気付いていないただのアホだと思っていたのだが……その通りだったんだよな)

 

 リオンが考える典型的な田舎者。むしろ田舎ですら例外なのではないかと思えるほどのスタンに、グレバムを追うようになってから少しずつ根負けし始める。

 途中でエドワードと離れ離れになったことも良いきっかけになったのであろう。気が付けばリオンにとってスタンとは嫌いな人間ではなくなっていた。

 そして力を合わせてグレバムを倒した頃には、スタンはリオンの中で友人と呼べる存在となっていた。

 リオンにとって、スタンとは()()()()()を教えてくれた大切な人なのであった。

 

 最初はヒューゴ(父親)に対しての反発心があったのだが、エドワードやスタンと関わることで成長し、その反発心ですらも些末なものと思えるようになった。

 今ではヒューゴに対して何か感情を抱くことはなくなっていた。それよりもより高みを目指して成長していくことに注力していきたいと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────しかし、それも全てはリオンの大切な人(マリアン)を守るため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのためであれば、エドワードであろうとスタンであろうと躊躇(ためら)わずその剣(シャルティエ)を向けるであろう。

 全てはマリアンを守るため。自身の愛する者を守るため。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 ある洞窟の地下。そこに黒のマントを頭から被り、仮面をした4名がいた。

 そのうちのリーダーと思われる一人が、三人の前に進み出て話し始める。

 

「失われた神の眼は戻り、再び世界に平和が訪れた。

まずは祝福を捧げよう……だが、気付いているはずだ。それが仮初(かりそ)めの平和に過ぎないことに。

変わらねばならぬ。この世界が真の平和を手にするためには。今や機は熟した。貴公らのその命、私に預けてもらいたい」

 

 その言葉に一人ずつ前に出て返事をする。

 

「元より覚悟の上……」

「この命、喜んで差し出しますぞ」

「あなた様の仰せのままに」

 

 その言葉を聞いて、リーダーと思しき人物が後ろを向いて口を開く。

 

「諸君らには期待している。()()()()()()()()にな……」

 

 そして、自身の計画を話し始めるのであった。

 




次回から原作第2部へ入っていきます。

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第二章 原作開始(第二部)
第四十二話


今話から第二部に入っていきます。

お気に入りが800件超えました!
本当にいつもありがとうございます!
完結まで頑張りますので、これからもよろしくお願いします!



「────というわけで、あたしは明日にでも元の世界に帰るわ」

「……え?」

 

 その日、エドワードの家で向かいに座っているハロルドとエドワード。テーブルの上には時雨(しぐれ)が乗っていた。

 ハロルドはエドワードに自身が元の世界に戻るということを告げた。突然のことに驚くエドワードに対して、時雨(しぐれ)は理由を説明する。

 

『ハロルドは元々俺の英霊召喚(サモン・エージェント)という呪文で呼び出されただけなんだ。その効果がそろそろ切れそうでな。

だからハロルドといられるのも今夜が最後になると思う』

「そ、そんな突然言われても……」

「まあ神の眼を封印するところまで()ったから良しとしましょう」

 

 いつもと違う優しい笑顔を見せるハロルド。だが、エドワードからすると全てが急なことなので、話についていけていないのである。

 実の母(ハロルド)が急に現れて、相棒の時雨(しぐれ)が実の父だと分かり、世界を巻き込む大事件に遭遇し、全てが終わってようやく落ち着いてハロルドや時雨(しぐれ)のことを考えられると思った途端に、ハロルドと会えなくなるという事実を告げられる。

 まだ19歳のエドワードは、叫び出したいのを我慢するので精一杯なのであった。

 

「エドの成長した姿を見られただけでもここに来てよかったわ。本当にありがとうね」

「…………」

「混乱するわよね……でもね、()()()()()()()なのよ」

「本題……?」

 

 ハロルドが優しい顔から急に真面目な顔に変わる。エドワードは今の話以上に重要なことなのだと理解し、深呼吸をして無理やり頭を切り替えた。

 エドワードが話を聞く態勢になったことが分かったハロルドと時雨(しぐれ)は、本題を話し出す。

 

「まずはね、時雨(しぐれ)について本人から話してもらうわ。私も初めて聞いたときはびっくりしたんだから。というわけで、時雨(しぐれ)お願いね」

『分かった。エド、今まで話せなくてすまないな。まず、ソーディアンは歴史上、全部で6()()だという話はしたな?』

「あ、ああ。その時はなぜ時雨(しぐれ)がいるのかについては話せないって言ってたよな」

『そうだ。天地戦争時、実際にはソーディアンは7()()あった。そして、歴史書には()()()()()()()()()()()()6()()()()()んだ』

「なんでそんなことを?」

俺の存在(イレギュラー)を世に広めないためだ』

「イレギュラー?」

『ああ、俺は()()()()()()()()()()()()なんだ』

 

 時雨(しぐれ)が話す内容には信じられないことが多くあり、それをどう理解すればいいのかエドワードは分からずにいた。

 時雨(しぐれ)──ソーディアンになる前の本人──は()()()()()()()()()()()()であり、この世界の元の歴史を知っている人物だった。

 なぜ違う世界の存在である時雨(しぐれ)が歴史を知っているのかについては誰にも話していないため、時雨(しぐれ)本人以外は知らなかったが、天地戦争時代の地上軍の上層部はその事実を信じて受け入れた。

 

「なぜ地上軍は……時雨(しぐれ)の話を信じたんだ?」

「それについては私から話すわね。もちろん初めは嘘だと思われていたわ。でもね、時雨(しぐれ)が未来のことを話して、実際にそのことが何回も起こるとね……私達(上層部)としても信じざるを得なかったのよ」

 

 その後、追い詰められた地上軍は、地上へと亡命した天上人──選民思想を嫌った”ベルクラント開発チーム”──が最新のレンズ技術を提供し、そのサポートを受けてハロルドが最終兵器(ソーディアン)を開発することで天上軍へと勝利するのである。

 そして、そのことすらも時雨(しぐれ)から情報を得ていた地上軍は、事前に”ベルクラント開発チーム”を受け入れる態勢を作り、ソーディアンを作る施設を元の歴史以上に精度高く準備することが出来ていた。

 

「そこでソーディアンを誰の分を作るかというところで、時雨(しぐれ)からも立候補があったってわけ」

『これに関しては、転生のときの()()ってやつなんだ』

「特典?」

 

 時雨(しぐれ)が転生する際、この世界の神であるアタモニ神と転生前の世界の神により”特典”がいくつか与えられていた。

 自身の能力向上に、自身のソーディアン、その能力など様々な特典が与えられていた。

 このことを知っているのは、旧ソーディアンチームと一部の上層部だけである。しかも特典に関してすべて知っているのは、時雨(しぐれ)以外には結婚後にハロルドが聞かされただけであった。

 

『まあここまでの話で、俺がイレギュラーだと言った理由が分かったと思う。そして、俺という存在が歴史上に残ってしまうことで、()()()()()()()()()()()が出てしまうのを防ぎたかったんだ』

「……ここまでは分かった。でもなんで今後の歴史に大きな影響が出るのを防ぎたかったんだ?」

『ああ。それは、今まさにこれから起きるであろう1()()()()を、どうしても止めたいんだ』

「1人の……死?」

『そうだ。そいつはお前も知っている人間だ。そいつの名は────』

 

 エドワードは時雨(しぐれ)からある人物の名前を聞き、驚きのあまり口が開いたままになってしまっていたのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 神の眼事件から2ヶ月ほどが経過した。

 その日、リオンは夜も遅くなってからヒューゴ邸に戻っていた。

 家の中に入ったリオンは、屋敷の中が暗くなっており、出迎えもないことを(いぶか)しんでいた。

 

(どうしたんだ? 誰もいないのか?)

 

『坊っちゃん、何か様子がおかしいですね……』

「マリアン! 戻ったぞ!」

『…………やっぱりおかしいですよ!』

「嫌な予感がする……マリアン……!」

 

 普段であればすぐに現れるであろうマリアンが、呼んでも返事がないことに言いようのない不安に襲われるリオン。

 シャルティエをすぐに抜ける状態にしつつも屋敷内を探す。しかし、いつもマリアンがいそうな場所を探すが見当たらないどころか人の気配も全くしない。

 

 そしてリオンの自室を念の為探し、マリアンがいないことを確認して部屋から出ようとしたとき、扉から4人の人間が現れた。

 4人は同じ仮面を被り、全員頭まで覆う黒いマントを着ていた。

 リオンはシャルティエの柄に左手を置き、「誰だ、貴様ら! どこから入った!?」と叫ぶが、4人は返事をすることもなくリオンを取り囲む。

 その様子を見て、味方ではないと判断しシャルティエを抜くリオン。そこでリオンの正面にいた1人がようやく口を開く。

 

「……私がここにいて悪いのかな?」

「その声は……!」

『ヒューゴ様!?』

 

 仮面を被ったままだが、聞き慣れたその男の声を間違えるはずがないリオンとシャルティエ。

 リオンの目の前にいたのはヒューゴ・ジルクリストであった。リオンはシャルティエを仕舞い、ヒューゴに説明を求める。

 

「その仮面、何のつもりですか? 僕はそのような遊びに付き合うつもりは──」

「──遊びなどではない。お前にはやってもらうことが出来た」

「……やってもらうこと?」

「そうだ。お前には今から()()()()()()()()()()()()

「飛行竜を盗む? 何を言い出すかと思えば……」

 

 リオンはヒューゴがいきなり訳の分からないことを言い出すので、ふざけているのだと思い、肩をすくめる。

 しかし、ヒューゴはいたって真面目であった。

 

「今夜のうちに決行だ。我らも時間がない。急げ」

「…………断ると言ったらどうする?」

「……」

「リオン、言う通りにするんだ」

 

 ヒューゴ以外にいた3人のうちの1人がリオンに話しかける。

 その声の主が誰だか分かったリオンは右を向き、声の主に返事をする。

 

「その声……バルックか。お前までこんな真似を……!」

「我らには崇高なる目的がある。その為に飛行竜が必要なのだ。ヒューゴ様に従え、リオン!」

「……断る!」

「……お前には国へ背くことに思えるかもしれないが──」

「──バルック。お前は勘違いをしている」

「なんだと?」

「飛行竜が欲しければ、自分達でやればいい。止めはしないさ。

ただ、僕はもうお前に従う理由などないだけだ。分かったか、ヒューゴ!」

 

 リオンは腕を組みながらバルックへヒューゴへの恭順(きょうじゅん)を断った理由を話す。

 しかし、ヒューゴは「言いたいことはそれだけか?」とだけ言うと、左手をリオンの方へと伸ばし、()()()()()()()()()()()()()()()

 不意打ち──油断は全くしていなかったのだが──を喰らったリオンは、後ろの壁へと激突して倒れ込む。

 

『坊っちゃん!!』

「まったく強情な奴だ。おとなしく私に従えばいいものを」

 

 倒れながらも「……断る」と告げるリオン。

 リオンに対し、更に攻撃を加えようとするヒューゴに待ったを掛ける声がする。

 

(この声は……レンブラントか)

 

「坊っちゃん。扉の向こうにいる人物が誰か分かりますかな?」

 

 レンブラントが部屋の入口の扉を開ける。

 リオンが起き上がり、開け放たれた入り口の方へ顔を向けると────

 

 

 

 

 

 ──────そこにはリオンの大切な人(マリアン)が縛られて地面に座らされていたのであった。

 




というわけで、ハロルドはさらっといなくなりました!

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第四十三話

「マリアン!!」

「エミリオ、逃げて!!」

 

 リオンが扉の先にいたマリアンの元へ向かおうとしたが、レンブラントによって扉を閉められる。

 レンブラントを忌々しく睨んだリオンは、後ろにいるヒューゴへと振り返る。

 

「お前達……! 彼女に一体何を……!」

「ではゆっくりと、今後の事についてお話いたしましょうか……」

 

 レンブラントの声に、リオンはヒューゴ達に従うしかないと俯くのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「あの野郎……!」

『エド、抑えろ。今はまだダメだ』

 

 時雨(しぐれ)から全てを聞いたエドワードは、ヒューゴ邸でリオン達のやり取りを隠れて見ていた。

 少し動けば簡単にマリアンを救うことが出来る場所にいながら、動くことが出来ない現状をエドワードは歯がゆく思っていた。

 リオンとヒューゴ達の会話をただ盗み聞きしていく。

 

「……飛行竜を盗み出して、その場所まで運べばいいんだな。そうしたら、マリアンを解放すると約束するか!?」

「勘違いするな。約束するのはお前の方だ。確実に飛行竜を盗み出せ。分かったな」

「くっ……」

「それでは坊っちゃん。こちらへ」

 

エドワードは、リオンがレンブラントに連れられて部屋から出て来るのを確認する。

 

「エミリオ、ダメよ……こんなことをしてはダメ!」

「……すまない、マリアン」

 

 マリアンに対して、目を合わせず俯きながら謝るリオン。

 そしてそのままヒューゴ邸を後にするのであった。

 

 

 

 エドワードはリオンが出ていくのを確認した後も、そのままヒューゴ邸に残って隠れていた。

 理由は()()()()()()()()()である。ではなぜリオンがヒューゴ達と話をしているときに救出しなかったのか。

 それは今のエドワードとリオンの実力では、ヒューゴ1人に敵わないからである。

 

 時雨(しぐれ)から聞いた情報だったのだが、その理由──ヒューゴ はミクトランに乗っ取られているということ──を聞いて我慢せざるを得なかった。

 その強さは先に戦ったグレバム以上であり、2人だけでは決して勝てないと理解していた。

 だからこそ今のエドワードに出来ることはなにか。それはマリアンが囚われている場所を突き止め、頃合いを見計らい救出することだけだった。

 

「マリアンはきちんと捕らえておけ。リオンへの人質となるからな」

「かしこまりました」

 

 ヒューゴはそれだけを言うと、部屋から出ていく。

 そしてマリアンはリオンを見送って戻ってきたレンブラントによって連れて行かれるのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「あいつは一体何を企んでいるんだ!?」

 

 リオンが外でひとりごとを言うと、シャルティエが反応をする。

 

『坊っちゃん……さっき僕、とても嫌な感じがしたんです』

「あれがヒューゴの隠された本性なのさ」

『違います……なんと言うか、本当にマズイ気がするんです。そうだ、ディムロスを呼びましょう! それか時雨(しぐれ)を!』

「ディムロスを呼んでも、あいつ(スタン)がいないと意味がないだろう……だが、エドワードなら……」

『そうです! エドなら絶対に助けてくれますよ!』

「そう……だな……」

 

(あいつなら僕のことを助けてくれるかもしれない……)

 

 淡い期待を抱きながらエドワードの家に向かうリオン。

 しかしながら、その期待は裏切られてしまうのであった。

 

『エド……いないですね。時雨(しぐれ)も一緒に、こんな時間にどこにいるんですか!』

「……いないものは仕方がないだろう」

 

 シャルティエの文句に対して、諦めのような声で話すリオン。

 しかしシャルティエはまだ諦めていなかった。ルーティやフィリアを頼ろうとリオンを説得する。

 

「……あいつらを待っていたら、マリアンはどうなる。彼女は人質にとられているんだぞ。

マリアンに何かあったら……僕は……!」

 

 そうして俯くリオンにシャルティエは何も言えなくなっていたのであった。

 

「シャル、頼む。協力してくれ。僕はマリアンを助けたいんだ。……今は言うことを聞くが、タイミングを見てマリアンを助け出してやる」

『分かりました。坊っちゃんが僕を信じてくれているように、僕も坊っちゃんを信じます。そして2人でマリアンを助け出しましょう!』

「ああ! とりあえずこのままセインガルド城に潜入して、飛行竜を奪うぞ」

 

 リオンはセインガルド城へと向かうのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ご苦労だった、リオン」

「さあ、約束は果たしたぞ。マリアンを……!」

「ひとつ聞こう。お前はマリアンを取り戻してどうするつもりだ?」

「……? 何が言いたい」

「お前はこの最高軍事機密を盗み出した。どこにも帰る場所などないのだぞ?」

「黙れ。それはお前が……!」

 

 飛行竜を盗み出したリオンは指定された場所まで向かい、ヒューゴ達と合流する。

 しかしその場で話をするヒューゴの言い分に、感情を顕にしてシャルティエを抜くリオン。

 その様子を見てもヒューゴには一切の動揺が見られない。

 

「しかし、そのままではあまりにもお前が哀れだ」

「……!?」

 

 ヒューゴは後ろを向き、両手を広げて「私は一切抵抗しない。好きなようにやれ」とリオンに言い放つ。

 リオンはそのあまりにも堂々たる態度に動揺してしまっていた。

 

「さあ、お前の好きなようにしてくれ…………ただし、マリアンは返ってこないがな」

「き、貴様……!」

 

 早くやれと言葉で詰め寄るヒューゴにリオンは一歩も動くことが出来なかった。

 そして、シャルティエを構えていた腕を下ろし、俯くのであった。

 ヒューゴはリオンの方へと振り向き、不敵に笑う。

 

「くくくっ。情けない男だ。それで一人前を気取るつもりか? まあいい。早速だが次の任務だ」

「次だと!?」

「我々は神の眼を()()()()に向かう」

『……!』

「神の眼だと……バカな! 一体、何を考えているんだ!」

 

 更に動揺するリオンにヒューゴはカードサイズの機械を渡す。そして、「神の眼を確保したら、これで連絡しろ」と言う。

 

「確保!? まさか僕にやれというのか……?」

「そのつもりだが、やるかやらないかは選ばせてやる。在り処は私には分からないが、シャルティエに聞けば教えてくれるだろう?」

「貴様……!」

『…………くっ』

 

 ヒューゴは悔しがる様子のリオンを見て、高らかに笑っていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

『マリアン……こんなところに閉じ込められていたのか』

 

 これはリオンが飛行竜を奪う少し前の出来事である。

 時雨(しぐれ)とエドワードは、レンブラントのあとをつけてセインガルド港にあるオベロン社の倉庫の1つへと潜入していた。

 

「精々おとなしくしておけよ、マリアン」

「…………」

 

 レンブラントはそのまま倉庫から出ていった。

 マリアンは、手は縛られていたが、足や口は縛られていなかった。

 そして自身がリオンの人質になっていることを改めて自覚すると、涙で顔を濡らすのであった。

 

(エミリオの足を引っ張るしか出来ないなんて……それであればいっそのこと……)

 

 マリアンが自身の命を絶とうと決心した瞬間に、自身の名前を呼ばれて驚きのあまり「きゃっ!」と軽く叫んで、跳ね上がる。

 

「驚かせてしまってすみません。俺です、エドワードです」

「え……エドワードさん!?」

「ええ、助けに来ました」

 

 それだけ言うとエドワードはマリアンを縛っていた縄を解く。

 「なんでこの場所が……?」と言うマリアンに答えることをせずに逃げるように話すエドワード。

 

「とりあえずここを脱出しますよ。それからすべてが終わるまである場所に匿うので、そこで隠れていてください」

「で、でもエミリオは!? エミリオにこのことを伝えないと、あの子は……!」

「そこらへんも全部俺に任せてください。……俺はリオンと同じ()()()()()()()()()()()()ですよ」

 

 エドワードは軽く笑って、マリアンを和ませようとする。

 その意図が伝わったのか、マリアンは一度俯くが顔を上げてエドワードを見た後に、頭を下げるのであった。

 

「分かりました。どうかエミリオを……あの子をお願いします」

 

 エドワードは微笑むと、「ええ。任されました」と言って、マリアンと一緒に倉庫から脱出するのであった。

 




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第四十四話

 飛行竜が盗まれてから数日後。セインガルド城の謁見の間には、ソーディアンチームがいた。

 しかしそこには前回のソーディアンマスターの全員ではなく、スタン、ルーティ、フィリア、ウッドロウの4人だけ──それ以外はマリー、チェルシー、コングマンも同席している──であった。

 話はセインガルド国王の謝罪から始まった。

 

「この度はいきなり呼び出してしまい、すまなかった」

「いえ……それよりも()()()は本当なのですか?」

「ああ、本当だ。数日前、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そして、同日に()()()()()()()()()()()()

 

 集まる前に聞いていたとはいえ、あまりの衝撃的な内容に受け答えしていたウッドロウだけでなく、その場にいる全員が絶句していた。

 スタンがそこで口を開く。

 

「で、ですが、リオンが神の眼を奪ったと決まったわけではないんですよね!?」

「スタンか……いや、余の考えが正しければ、神の眼を奪ったのもリオン・マグナスであろうと思っておる」

「な、なんでそんなことが──」

「──スタン君、状況的にリオン君が犯人の可能性が一番高いということだよ」

 

 ウッドロウはスタンになぜそのように考えられるかを説明する。

 まず、()()()()()()という行為について、余程の理由がなければ王国客員剣士ともあろう者がそのようなことをしないということ。

 次に、同日に神の眼が奪われているという事実。神の眼はハロルドの提案により、旧ソーディアンチームによって極秘裏に封印されており、その場所へは飛行竜を除けば船でも数日は掛かる場所にある。

 その場所は、旧ソーディアンチームとセインガルド国王、ファンダリア国王しか知らないところに封印されている。

 また、封印が解かれると、封印場所を知っている全員に知らせがいくという機能がハロルドによって開発されていたため、同日に起きた出来事だということも分かっていた。

 

 最後に──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 この全ての条件に当てはまり、その日以降の行方が分からなくなっているのがリオン・マグナスただ一人だった。

 ここまでの状況証拠が揃ってしまっては、誰であってもリオンを疑う他なかった。

 

「で、ですが! 何か理由が! リオンにも何か大切な理由があったはず──」

『──ええい、落ち着けスタン!』

「ディ、ディムロス……」

『どんな理由があれ、我々に黙って神の眼を持ち出したのだ! ソーディアンマスターとしてそれはやってはならないことだ!』

「で、でも……」

『理由を聞きたいなら、本人に聞けばよかろう。それか時雨(しぐれ)に……おい、時雨(しぐれ)とエドワードはどこにいる?』

 

 目覚めたばかりのディムロスが時雨(しぐれ)を呼ぶが、マスターのエドワードも含め謁見の間にはいなかった。

 そのことについても全員が苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「……エドワードもいないんだ」

『なんだと?』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 リオンが飛行竜を奪った日を境にエドワードも姿を消していた。それはマリアンを匿うためというのもあるが、裏で動くためには姿を消してしまった方が何かと都合が良いという考えからだった。

 もし、姿を隠していなかった場合、確実にこの場に呼ばれ、セインガルド王国代表として神の眼奪還チームの一員に組み込まれていたに違いない。

 そして、時雨(しぐれ)の特性を知っている旧ソーディアンチームから質問攻めに遭うのが目に見えていた。

 ディムロスも先程そのつもりで時雨(しぐれ)を探していたのだったから。

 

「我が王国の客員剣士が2人揃って姿を消すとは嘆かわしい」

 

 苛立ちを隠せないセインガルド国王の言葉に何も言えなくなる一同。

 何よりもフィリアの姿の気丈に振る舞う姿を見てしまっては、何も言えないのであった。

 そこにセインガルド国王の隣に立っていたドライデンが追加の情報を伝える。

 

「……追加の情報なのだが、時期を同じくして、オベロン社総帥のヒューゴも姿が見えなくなった。

我々はヒューゴとリオンが結託していると見ている。エドワードについては、まだなんとも言えないがな」

「それって、オベロン社も絡むってこと? 妙な話になってきたわね……」

 

 ルーティが難しい顔をして、腕を組む。

 ウッドロウが飛行竜の行き先に心当たりが無いかを聞くと、セインガルド国王が答える。

 

「それについてだが……実はこのような手紙が届いてな」

 

 セインガルド国王は懐から1枚の手紙を取り出すと、そこに書いてある内容を読み出す。

 

 

 

 

 ──飛行竜、および神の眼は北東の小島にあるオベロン社秘密工場にある

 

 

 

 

「その一文だけが書かれていた手紙が余宛で届いたのだ。筆跡を調べてみたところ、()()()()()()()()()()()可能性が高かった」

「エドさん!?」

 

 フィリアが後ろから突然大きな声でエドワードの名前を呼んだため、全員が驚く。

 その様子を見て「し、失礼しました……」と、顔を真っ赤にして俯くフィリア。

 しかしその顔には、先程までにはなかった力強さが宿っていた。

 

「ま、まあなんだ。これを送ってきたのがエドワードの可能性があるので、一概に彼もヒューゴの仲間という結論にはならないのだよ。

むしろ事前に色々と調べて、先に潜入しているということも否めない」

「……それでは我々は──」

「──うむ。諸君に依頼をしたいのは、オベロン社工場への潜入調査だ。

セインガルドやファンダリアの軍を動かしては奴らに気付かれて逃げられる可能性もあるでな。

もし神の眼を発見した場合は、なんとしてもこれを取り戻して欲しい」

 

 セインガルド国王からの依頼に頷く現ソーディアンチームのメンバー。

 ドライデンからは「リオン・マグナスの処遇については、その場の判断に任せる」とだけ伝えられる。

 その言葉にスタンが反応する。

 

「……リオンは大切な仲間です。一緒に散々苦労して、グレバムから神の眼を取り戻した仲間です。

そのリオンが、グレバムと同じことをするはずがありません!

きっとリオンには何か考えがあるはずです。だから俺は、それを確かめるためにオベロン社の工場へ向かいます」

 

 スタンの言葉を聞いて、全員が同じ意志を持った顔をしてセインガルド国王を見る。

 セインガルド国王は1つ息をすると、「神の眼を取り戻すのが第一だ。それだけは忘れてくれるな」と念を押すのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「まさか、地下で? やはり落盤か?」

「はい。神の眼を設置した際の微量のエネルギー漏れが原因です」

「問題はあるか?」

「いえ、そちらに関しては既に対処しました」

「しかし、これで随分と遅れが出るな」

「この遅れが、我々を追跡してくる者たちに猶予を与えてしまいますね」

「それについては問題ない。追手が来たとしても、相手の予想はついている。そのためにリオン(あいつ)がいるのだからな」

「しかし……実は問題が……」

 

 報告をしていたバルックがヒューゴの耳元で囁くと、しかめ面をしたヒューゴだったが、「……まあいい。バレなければよいだけの話だ」と仮面の下で薄く笑う。

 ヒューゴからしてみると()()()()()()()()()()()()()()()であり、大事の前の小事でしかない。

 そのため、現ソーディアンチームが追って来ようとも、自身(ヒューゴ)には決して届かないと考えていた。

 

『……多分マリアンさんを救出したのはバレているな』

「ああ。もうこのままリオンに伝えて、こちら側に来てもらったほうがいいんじゃないか?」

『いや、まだマズイ……前に話した通り、歴史を少し変えるだけで何が起こるかわからないんだ』

 

 マリアンを助けた時雨(しぐれ)とエドワードは、オベロン社の工場へと先に侵入をしていた。

 そして、ヒューゴ達のやり取りを、気配を消して覗いていた。

 

 マリアンを助けた以上、エドワードの言うとおり、リオンは必ずヒューゴを裏切る。

 しかし、時雨(しぐれ)は不用意に歴史を変えることで、不利な状況になることを恐れていた。

 グレバム討伐時にもいくつか史実と違う行動を取った結果、()()()()()()()という恐ろしい怪物が現れてしまったのが最たる例であろう。

 だからこそ、なるべく史実に沿いながらも、ベストなタイミングで介入する必要があったのだ。

 

 エドワードもそれを分かってはいるのだが、友であるリオンの苦しい顔を見るのが耐えられなくなっていた。

 その度に時雨(しぐれ)に抑えるように言われていたのだが、時雨(しぐれ)がいなかったらとっくに飛び出していただろう。

 

『今頃、エドのメモを見てスタン達がこっちに向かっているはずだ。俺達はそれまできちんと休んで、()()を使えるようにしておくぞ。

エドがアレを使えないと、リオンを助けるどころではなくなってしまうからな』

「……分かったよ」

 

 エドワードは更に気配を消し、タイミングを見計らうのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ここがオベロン社の工場だったところですか」

「リオン……本当にこの中にいるのか?」

「とにかく調べてみよう」

 

 スタン達はダリルシェイド港から、オベロン社の工場がある小島へと到着し、工場内へと侵入していた。

 閉鎖したはずの工場だったのだが、明かりがついており、機械による侵入者用の警備やトラップなども作動していた。

 

「廃工場にしては明らかにおかしいわね」

「ええ、本当ですわ。……ところでルーティさん、今回のリオンさんの件はどう考えますか?

私はスタンさんの言うように、何か事情があると信じたい気もしますが」

「……情報が少なすぎて、なんとも言えないわね。ただひとつ、確実なことは……()()()()()()()()()()()()ってこと。

本当にあいつ(リオン)と戦うことになったら、本気を出さないとこっちがやられる。グレバムと戦ったときのリオンを見たでしょ?

私達と一緒にいたときのリオンは全く本気を出していなかった。エドワードと連携しているときのあいつは……悔しいけど、私達全員が束になっても敵わないレベルだったわ」

「…………」

「……エドワードは絶対に大丈夫よ。あの手紙を見たでしょ?」

「…………はい。今は……リオンさんと神の眼を追わないとですね」

 

 ルーティがエドワードの名前を出すと、フィリアは心配そうに俯いてしまう。

 気休めではあるが、エドワードは大丈夫だとフィリアを元気付ける。

 エドワードは裏切っていないとフィリアも思っているが、それでも近くにいないだけで不安になってしまう。

 気持ちを切り替えようと深呼吸をするが、それでも完璧には出来ないのであった。

 

 

 

 

 スタン達はオベロン社工場を進み、エレベーターで下の階へと降りていく。

 機械式警備兵やモンスターが行く手を阻むが──グレバム戦から2ヶ月空いたとはいえ──その連携は衰えてはいなかった。

 ウッドロウはこの2ヶ月でファンダリア国王としての政務もこなしながら、イクティノスを使った戦闘訓練も行っていた。

 そのこともあり、グレバム戦では戦闘力に差があったが、今では実力差も埋まり、徐々にではあるがパーティーとしての連携にも慣れ始めていた。

 

「ふう。結構奥まで進んできましたね」

「ああ。かなり地下までエレベーターで降りたのだが、まさかここまで大規模な工場を作っていたとは驚きだな。しかもモンスターまで大量にいるとは……」

『神の眼を使って召喚したのだろう。これでここに神の眼がある可能性は高まってきたな』

 

 スタンとウッドロウ、ディムロスはモンスターを倒した後、神の眼がここにある可能性が高いということについて話していた。

 エドワードが教えてくれたということを聞いて、初めから疑っていなかったスタンだったが、ここに来て全員が確信に変わりつつあった。

 そして更に奥に進んでいくと、地下へ進むエレベーターがある大広間に着いたのであった。

 

「まだ先があるのですね」

『仕方がないじゃろう……しかしこれはまさか……』

『クレメンテ老も気付きましたか?』

『どういうこと──そうか……!』

『だから神の眼を奪ったのか!』

 

 フィリアの言葉にクレメンテが答えるが、あまりにも地下へ進むことに対して違和感を覚えてきていた。

 そしてクレメンテと同時にアトワイト、ディムロスやイクティノスも気付き、声に焦りが見え始めていた。

 

「ディムロス、一体どういうことだよ! 俺達にも説明しろよ!」

『あ……ああ。もしかしてなのだ──』

「──おやァァァァ? こんなところで仲良くお喋りかいィィィ?」

 

 ディムロスの声を遮り、スタン達の前に斧を持った大柄の男が現れる。

 

『な……!?』

『バルバトスじゃとぉ!?』

「ディムロスにクレメンテかぁ? 久しぶりだなぁぁ。アトワイトにイクティノスまでいるのかぁぁぁ!」

『な、なんであなたがここに!?』

 

 気配なく突然現れたバルバトスに動揺が隠せないディムロス達ソーディアン。

 時雨(しぐれ)からバルバトスが現れたことは聞いていたが、まさかこの場に現れるとは誰も思っていなかった。

 

「なあディムロス、この人誰だ?」

『構えろスタン! コイツの名はバルバトス・ゲーティア。天地戦争時代に地上軍から天上軍に寝返った裏切り者だ!』

「お前がディムロスの新しいマスターかァァァ!? お前も俺を楽しませてくれるんだろうなぁぁ!!!」

 

 ディムロスに言われて全員が戦闘態勢に入る。しかし、突撃してきたバルバトスの攻撃を受け止めきれずに吹き飛ばされるスタン。

 

「スタン!! ……ヒール!」

「スタン君! 風神──」

「──おおおっとぉぉぉ!! そのレベルじゃあ俺には勝てないぜェェェ!!」

「ぐっ!!」

「ウッドロウ様!! よくも! 疾風(はやて)!!」

 

 吹き飛ばされたスタンに向かって、ルーティがヒールを唱える。それを見たウッドロウがイクティノスを構えて攻撃をしようとするが、その前にバルバトスの攻撃を受けて壁に激突する。

 すぐさまフォローに入ったチェルシーが弓を使って牽制をし、コングマンとマリーが前衛でバルバトスを押さえる。

 その隙にフィリアが晶術を唱えるために、詠唱を始めるのであった。

 

「コングマンさん、マリーさん! 離れてください! ……レイ!!」

 

 上空から無数のビーム状の閃光が発し、バルバトスに襲いかかる。

 レイの光は確実にバルバトスに命中し、土煙の中全員が様子を伺っていた。

 

「や……やったのか、おい!?」

「…………!? いや、まだだ!! 全員退避するんだ!!」

 

 コングマンの言葉に、壁際でルーティの回復を受けていたウッドロウが攻撃の気配を感じて全員に退避するように叫ぶ。

 しかしその直後、土煙の中から赤い光が発せられる。

 

「ワールドォォォ……デストロイヤァァァァァ!!!!」

 

 バルバトスの言葉とともに闘気の爆発が起き、全員が防ぐことも避けることも出来ずに吹き飛ばされる。

 土煙が晴れたときにその場に立っていたのは、バルバトスだけだった。

 

(な、なんて奴だ……こんな奴がいるなんて……)

 

 ウッドロウは意識が朦朧としながらも、バルバトスを見つめていた。

 バルバトスは地面に這いつくばっている現ソーディアンチームを一瞥すると、溜まった鬱憤を晴らすかのように喚き散らす。

 

「これで……これでおしまいだとぉぉぉ!? 貴様らはどれだけ雑魚なんだぁぁぁぁ!!」

『ぐっ! スタン! おいスタン起きろ!!』

「ディムロスよぉぉ! 新しいソーディアンマスターは腑抜けばかりだなぁぁ!!」

 

 バルバトスの攻撃に全員が倒れて動けなくなっていた。しかし、コングマンが盾になってくれたお陰で一番被害の少なかったフィリアが道具袋からライフボトルを取り出す。

 近くにいるコングマンに使うために少しずつにじり寄る。

 そして、もう少しでコングマンのところに到着するところで────

 

 

 

 

 

 

 ────ライフボトルを持っていたフィリアの左手がバルバトスによって踏みつけられる。

 

「……くうぅ!」

「なぁぁぁぁにをしているのかなぁぁぁ?」

「フィ……フィリア……!」

 

 ライフボトルを踏み割られ、そのまま左手を掴まれてしまい右手で持ち上げられるフィリア。

 バルバトスのもう片方の手には、斧が握られていた。

 ルーティは力なくフィリアを呼ぶが、動くことが出来ずにその場で声を出すしか出来ない。

 

「…………アイテムなんぞぉぉぉぉ!!!」

 

(……エドさん。わ、私……)

 

「────使ってんじゃねぇぇぇ!!!!!!」

 

 バルバトスはフィリアの胴体目がけて、左手に持った斧を水平にして横一文字に薙ぐ。

 フィリアは己の最期を覚悟して目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────しかし、バルバトスの斧は誰にも当たることはなく、空を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつまでも攻撃による痛みや衝撃がないことを不思議に思ったフィリアはゆっくりと目を開ける。

 すると、目の前には彼女の愛しい人(エドワード)の顔があるのであった。

 

 

 

「フィリア……待たせたね」

 




「や、やったか!?」はこの場で1番やっちゃいけないフラグでしょう!

実は徐々に文字数を増やしてます。
間話以外での一話平均を5,000〜6,000文字以上は書けるようにしたいんですよね。
その分、誤字脱字が増えそうで困りますけど、評価が高い小説って最低でもこれくらいは文字数あるので私も真似できるようにしていきます。

それと今までの話の……や──の部分含めて、小説を書く上での基礎部分を修正しました。
ドラクエΩも終わって、今はMAJORを少しずつ直しています。

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第四十五話

2日間でお気に入り件数が100人くらい増えてびっくりしました。
もうすぐ1,000人いきますね。

本当にありがとうございます!



「フィリア……待たせたね」

「エ、エドさん……! ほ、本当に……?」

「ああ。でも今はやらなきゃいけないことがあるだろうから、再会の挨拶はまた後でだ」

 

 エドワードは抱き上げていたフィリアを下ろすと、グミを取り出して食べさせる。

 そして、全員の回復をするように伝える。

 

「……ここは俺に任せて全員でこの先に進むんだ」

「で、でも! いくらエドさんでも1人では──」

「──大丈夫。……君らにはもっとやらなくてはならないことがあるはずだよ」

「ですが……い、いえ。分かりました」

 

 食い下がろうとするフィリアだったが、エドワードの目を見て説得は無理だと思い、全員を回復するためにまずはルーティのところへ向かうのであった。

 その様子を見て安心したエドワードは、バルバトスを睨みつける。

 

「おい、そこの筋肉だるま。……よくもやってくれたなぁぁ!」

「おおおおお!!! エドワード・シュリンプゥゥゥゥ!!! お前を待っていたぞォォ!」

「俺はお前なんぞ待っちゃいないけどな……時雨(しぐれ)、コイツは()()()()()()()なんだよな?」

『ああ……というか、コイツがまさかこんなところに出てくるなんて思っていなかったぞ!』

 

 先に侵入していたエドワードと時雨(しぐれ)は、海底洞窟のところまでヒューゴ達の後をつけていた。

 そして大体の構造を把握したところで、上の階で大きな音がしたため念の為様子を見に来ていたのであった。

 エドワードがあと数秒遅ければ、フィリアがバルバトスの手によって両断されてしまっていたことに彼は怒りを覚えていた。

 

「ルーティさん、これを……」

 

 フィリアがルーティにライフボトルを使い、回復させる。しかし、先程()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()は一切反応を見せていなかった。

 エドワードが現れた時点で、それ以外のメンバーは眼中になかったのだ。今もエドワードの方を見て嬉しそうに笑っていた。

 

(全員が回復して、先に進むまでは時間稼ぎをしないとな)

 

 バルバトスとエドワードが本気でやりあえば、周りにどれだけの被害が出るかわからない。

 そのときにまだ回復していない人がいると、庇いながら戦うことになるため、不利になるのは否めなかった。

 どうしようかと考えているエドワードに対し、バルバトスは軽く笑いながら話しかけてくる。

 

「エドワァァドォォォ!! 安心するがいい! 思い切り殺り合えるように雑魚どもがいなくなるまでは手を出さないでいてやるぞぉぉぉ!!」

「……ちっ。何もかもお見通しってか。まぁこちらとしてはありがたいけどね……」

 

 バルバトスに意識を向けたまま、ソーディアンチームの回復状況をちらりと確認する。

 フィリアがアイテムを、ルーティが回復晶術を使って全員の傷を癒やしている。

 起き上がれるようになったメンバーも同じように残りのメンバーを助けたりしているため、少しずつ回復する速度は上がっていた。

 

『エドワード、時雨(しぐれ)。お前達は……』

『ディムロス……クレメンテの爺さんたちも遅くなってすまない。色々とやらないといけないことがあってな』

時雨(しぐれ)、本当にお前さん達だけでバルバトスとやり合うつもりか? あやつ……昔よりも確実に強くなっておるぞ?』

『ああ、バルバトスは俺とエドに任せてくれ。みんなは下に進んで、やれることをやってくれ』

 

 ソーディアン達は回復が終わるまで、それぞれ情報交換を含めて話し合っていた。

 クレメンテはバルバトスと戦うのがエドワードと時雨(しぐれ)だけというのが心配ではあったが、この場にいるソーディアンマスターは明らかに未熟であり、ここで残っても足手まといにしかならないとソーディアン達は気付いていた。

 それだけ今のリオンやエドワードと、残りのメンバーの実力差はかけ離れていたのである。

 

 ある程度の回復が終わったところで、全員が地下に向かうエレベーターへと乗り込む。

 エレベーターに乗り込んだタイミングで、フィリアが振り向いたエドワードと目が合う。

 エドワードは優しく微笑むと、バルバトスの方に向き直り、時雨(しぐれ)を抜くのであった。

 

「……待たせたな」

「俺は、俺はお前を待っていたんだァァ! ガッカリさせてくれるなよぉぉぉ!!」

 

 バルバトスはそう叫ぶと同時にエドワードに突進してくる。先程スタンを吹き飛ばした攻撃だ。

 その突進を右に軽く躱し、背後に時雨(しぐれ)を叩きつけるエドワード。

 しかし、それを読んでいたのか、バルバトスは斧を背中に持ってきて攻撃を防ぐ。少しの間、刀と斧での競り合いがあったが、お互いに距離を取り合うと再度向き合うのであった。

 

「……その攻撃、舐めてんのか?」

「はっはぁぁぁ!! 小手調べさぁぁ! ディムロスのマスターは()()でやられてしまったがなぁぁぁ!!」

 

(スタンか……まだまだ未熟だな、アイツも)

 

「次はコレだァァァ!!!」

 

 バルバトスは斧をエドワードに向けると、闘気を集束させていく。赤い光が徐々に集まっていくが、その量は明らかに尋常ではなかった。

 流石にやばいと思ったエドワードは、自身に晶術である"加速(アクセル)"を重ねがけする。

 

「避けられるかなぁぁ!? くらえぇぇい! ジェノサイドォォォブレイバァァァ!!!!」

『アレはまずい! エド! 避けるんだ!!』

 

 バルバトスの斧から赤い光線がエドワードに向かって放出される。

 赤い光は一瞬で彼がいたところを飲み込み、背後の壁の一角を破壊し尽くす。

 

「まさかコレで終わりじゃないよなぁぁ? エドワードぉぉぉ!!」

 

 甲高く笑いながら、エドワードが立っていたところを見ているバルバトス。

 土煙で全く見えなくなっているため、気配を感じ取るしかないがエドワードの気配は全くなかった。

 しかし、これで終わるはずがないと分かっているバルバトスは挑発をしつつも、全く油断はしていなかった。

 

「あぶね! お前あんな大技をこんなところで使ってんじゃねえよ!」

 

 バルバトスの背後に現れたエドワードは、口の中に入った土煙をペッと吐き出していた。

 その声を聞き、やはり自分の勘は間違っていなかったと喜びの笑みを浮かべながら振り返るバルバトス。

 

「やっぱりアイツも強くなってんな」

『ああ。以前の俺らだったら……確実にやられていたな』

「だな。でも次はこっちの番だ」

 

 エドワードは時雨(しぐれ)を右肩に担いで、右足のつま先を地面にトントンとすると、「じゃあ5歩手前からだな」と呟きながら、上下に軽くステップを踏み始める。

 その言葉の意味が分からなかったバルバトスだったが、エドワードが消えたことで斧を構える。

 

「──遅えよ」

 

 バルバトスが構え終わる前にエドワードはバルバトスの右肩に切りつけていた。

 そして、先程の位置に戻り、先程と同じく上下にステップを踏む。

 

「き、貴様ァァ! 今、な、何を──」

「──4歩手前」

 

 バルバトスが話し終える前に再度消えるエドワード。

 今度は身構える前に左肩と左脇腹を2回、切りつけられていた。

 

「ぐ、ぐぅぅぅ!!」

 

 また同じところに戻ると、今度は「3歩手前」と呟き、再度目の前から消える。

 そしてそのままバルバトスの全身を切り刻み続けるのであった。

 

(ぬ……ぬぅぅぅぅ!!! な、何だこれは……!)

 

「何なんだこれはぁぁぁぁ!!!!」

 

 バルバトスが叫ぶのもお構いなしにより深く、より鋭く身体に無数の刀傷を付けていくエドワード。

 そして10秒も経たないうちに、バルバトスは立ち上がることすら出来なくなるくらいのダメージを追うのであった。

 

「が……あ……う……」

 

 バルバトスは両膝をつき、全身が血まみれになっていた。

 もはや動くことすらも厳しい状況だったが、目の前に影が見えたため、俯いていた顔を上げる。

 そこには汗一つかいていないエドワードがいたのであった。

 

「バルバトス……お前もこれで終わりだ」

「き、貴様……な、なぜこのような力を……」

「お前とは訓練の質も量も違うんだよ」

 

 そう言うと時雨(しぐれ)を上段に構える。

 バルバトスは広間の光に反射した時雨(しぐれ)の刀身を見て、自身の最後を理解していた。

 そしてエドワードはそのまま刀を振り下ろす────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────しかし、時雨(しぐれ)が切ったのは、地面の石床だった。

 

 

 

 

 

 

『な……! バルバトスは……!?』

 

 突然のことに時雨(しぐれ)もエドワードも困惑していたが、()()()()()()()

 彼が時雨(しぐれ)を振り下ろして、バルバトスに届く瞬間に姿が消えてしまっていた。

 そして頭の中に声が響くのであった。

 

()にはまだまだやってもらうことがあるのです。ですので、一旦こちらで預からせていただきますね』

「だ、誰だ!?」

『いずれまた相見まえることもあるでしょう。それでは、またそのときに』

 

 頭に響いた声は聞こえなくなり、その場にはエドワードと時雨(しぐれ)だけが残っていたのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「あそこにいるのは……」

「リオン!!」

 

 エドワードに救われたスタン達は、地下エレベーターに乗った後、海底洞窟に繋がっていた入り口からヒューゴ達を追っていた。

 そして、先頭を走っていたウッドロウとスタンが、黒ずくめの4人と一緒に歩いているリオンを発見するのであった。

 声を聞いたリオン達は立ち止まり、スタン達に振り返る。

 

「ここまで追ってくるとはな」

『この声……!』

「あんたの正体、もうバレているわよ。悪趣味な仮面、取ったら?」

 

 ルーティに言われ、「勇ましいお嬢さんだ」と言いながら男の1人が、仮面とマントを取る。

 そこにはオベロン社総帥であるヒューゴ・ジルクリストの姿があった。

 

「ヒューゴさん……」

「あなたが黒幕だったんですね。神の眼をどうするつもりですか?」

 

 スタンはヒューゴの正体を知って驚きの声を上げ、フィリアは神の眼を強奪した真意を尋ねる。

 そして、「グレバムみたいにモンスターの親玉でも気取るつもり?」というルーティの言葉に返事をする。

 

「モンスターを操るなど、神の眼の本質からするとただの余録だ。ふふふ……全てが最初から仕組まれていたとしたら、どうするかね?

グレバムをそそのかし、神の眼を奪わせたのも! その後、世界各地を回らせたのも! 全ては私の計画通りだとしたら?」

「なんだって……!」

「どうせグレバムは用が済んだら始末するつもりだった。

私の手を煩わせずに済んだというわけだ。君達には感謝しているよ」

 

 ヒューゴが笑いながら説明している姿に対して、ルーティは怒りを滲ませながら「あんたのためにやったんじゃないわ。調子に乗らないでほしいわね」と話す。

 その怒った顔をヒューゴは懐かしんでいた。

 

「そうやって怒った顔が、()()()()()()()()()()……」

「え……?」

「さて、私には時間がない。名残惜しいがそろそろお別れだ」

 

 立ち去ろうとするヒューゴ達に対し、リオンへ向かってスタンがヒューゴを止めるように叫ぶ。

 しかしリオンは無表情でスタンの顔を見ていた。

 

「リオン、俺分かってたよ! 何か策があって、こうしていたんだろ?

俺達よりも先に来ていたエドワードと一緒に何か考えていたんだろ? ……なあ、そうなんだろ? リオン!」

「エドワードが……?」

 

 リオンはエドワードの名前を聞くと表情を少し変えるが、すぐに元の表情に戻す。

 そして、ため息を1つしたあと、ヒューゴ達の方を向いてシャルティエを抜くのであった。

 

「リオン! やっぱり……!」

「……先に行け。ここは僕が食い止める」

 

 スタンは喜びの声を出すが、リオンはヒューゴ達に先に行くように伝えると、すぐにスタン達の方を向いて戦闘態勢に入る。

 

「リオン……!」

「リオン君、君は……!」

『シャルティエ! おい! 返事をしろ! シャルティエ!』

『…………』

 

 ディムロスの呼びかけにシャルティエは一切答えることはなかった。

 まだ信じられないスタンは、リオンに詰め寄る。

 

「リオン……嘘だろ、こんなの。ただの冗談だろ?」

「あんた、自分が何をやっているか分かっているんでしょうね!」

「分かっているさ。お前達よりよほどな!」

『全員構えるんじゃ! あやつが全力で来たら、儂らでは勝てるか分からんぞ!』

 

 クレメンテの声で全員が武器を抜いて構える。

 そして、リオンとの望まない闘いが始まったのであった。

 




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第四十六話

 セインガルド城謁見の間。

 そこにはセインガルド国王、将軍のドライデン、そして現ソーディアンチームが揃っていた。

 

「……そういうことだったのか」

「はい。それでこれから私達は”ラディスロウ”と呼ばれる地上軍が使っていた基地へと向かいたいと思います」

 

 セインガルド国王に報告をするウッドロウ。

 あのあと、結局ヒューゴ達を捕えることが出来ず、神の眼を取り返すことも出来なかった。

 そして彼らは飛行竜を使って脱出をしていたのであった。

 

「それで……リオンとエドワードは……」

「恐らくあの状況では2人とも助からなかったと思われます」

「そうか……惜しい奴らを亡くしたな」

 

 ドライデンは、王国客員剣士であるリオンとエドワードを亡くしたことを(うつむ)きながら悲しんでいる様子であった。

 エドワードはスタン達を先に進めるために、バルバトスの相手を引き受けた。

 そして、リオンは海水が流れ込んだ海底洞窟の中でスタン達を助けるために、1人残ったのである。

 

 その後、飛行竜で飛び立ったソーディアンチームを待っていたのは、空中に浮かぶ建造物だった。

 それは1,000年前に天上軍が地上軍と戦った際に作った空中都市。

 ヒューゴ達はその空中都市の封印を解くために世界中にオベロン社を作り、グレバムにも世界を周らせていたのだった。

 そして、その主要都市であるダイクロフトから一筋の光が地上へと降り注ぐ。

 

 

 

 ────無差別地殻破砕兵器ベルクラント

 

 

 

 文字通り、地上の破壊を目的とする兵器である。

 そして、破壊した大地を天上に吸い上げ、空中都市を繋ぐ()()()()というものを形成するためにも使われた。

 神の眼は、空中都市を含めた機能を管理するために使われる装置でもあったのだった。

 

 スタンはリオンとエドワードの(かたき)を打つために、飛行竜をダイクロフトへ向けて発進させたのだったが、高度が足りず墜落してしまう。

 もはやスタンの行動は暴走といっても過言ではなかったが、今その行動を諌める人間がいなかったため、結果として飛行竜は破損してしまい、動かなくなってしまっていた。

 

 そしてダリルシェイド近くに墜落したため、セインガルド城へと報告に行く。

 その途中で地上軍の総司令官であったメルクリウス・リトラーがクレメンテのコアクリスタルを通じて現ソーディアンチームに緊急招集をしたため、セインガルド国王へ報告後にラディスロウへと向かうのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 時はさらに(さかのぼ)る。バルバトスを撃退したエドワードは、スタン達を追ってエレベーターで地下へと向かう。

 

(急げ急げ! 早く!)

 

 エドワードは焦っていた。時雨(しぐれ)から話を聞いていたからだけではない。

 ここは、()()()()()()()()()()()()()だったからだ。

 走りながらも、洞窟の反響音を通して戦闘音が響いてくる。その音がエドワードを更に焦らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあはあ、勝ったのか……」

 

 リオンは息を切らしながら、膝をついているスタン達を見下ろす。

 しかし、スタン達はボロボロになりながらも全員が立ち上がろうとする。

 

「くっ! どうして立ち上がる!?」

「バカ野郎……! どうしてこんな事を……!」

 

 スタンも息を切らしてはいたが、その言葉は確かにはっきりリオンへと伝えていた。

 そこに今まで黙っていたシャルティエが口を開く。

 

『坊っちゃんを責めないでください! 坊っちゃんはマリアンを守るためにこうするしかなかったんです!』

『シャルティエ、お前今ごろ……』

「……シャル、お喋りが過ぎるぞ」

 

 リオンはシャルティエに黙るように非難めいた口調で言うが、その言葉は止まらなかった。

 

「マリアンって……」

『皆さんもヒューゴ邸で会ったことがあるでしょう?』

「ディムロスを持ってきた人か! リオン……お前……!」

『つまり彼女を人質に取られたのね?』

『じゃからと言って、それで己の道を過つとは……』

『それでもソーディアンマスターか!』

 

 クレメンテとディムロスに責められるリオン。

 しかし、リオンはシャルティエを構えたまま数歩下がり、全員を見据える。

 

「なんとでも……言うがいい。……僕は自分のした事に一片の後悔もない。

たとえ何度生まれ変わっても、必ず同じ道を選ぶ!」

「リオン!?」

「ここは……通さん……」

 

 フィリアやウッドロウ、他の人達もそこまで意地を張るリオンに言葉を失っていた。

 そんな中、スタンだけは違っていた。シャルティエを構えるリオンに対し、丸腰のまま向かっていく。

 

「このバカ野郎! なんでそんなに頑固なんだよ!

お前、間違ってるよ……! なあリオン! お前間違ってるよ!」

「黙れ……! これは僕が、自分ひとりで、決めたことだ……」

「だからその自分ひとりってのが、間違いだって言ってんだよ! どうしてそれがわからないんだ!?」

 

 スタンは拳を握りしめながら、リオンへと叫ぶ。

 自分の思いが、友へと届かないことへの不甲斐なさを感じながら、それでもスタンは叫び続けた。

 シャルティエの刃先がスタンの首筋へと当たっていても、スタンが止まることはなかった。

 

「来るな……!」

「どうして何も相談してくれなかった! どうして一人でやろうとした!

俺達、仲間だろ、友達だろ! どうして、どうして黙ってたんだ!」

「だから来るなと──」

「一人で抱えて、一人で苦しんで! なんでお前だけ辛い思いするんだよ! なんでお前だけ傷だらけになるんだよ!

友達ってのは、苦しいときに助け合うもんなんだぞ……! どうしてそれがわからないんだよ!」

「……この期に及んで、お前はまだ僕のことを友だちと呼ぶのか」

 

 リオンの呟きに対し、スタンは「当たり前だろう!」と肯定をする。

 

「……なあリオン、今からでも遅くない。俺達と一緒に行こう」

「なんだと……?」

「俺達で全てを取り戻すんだ。神の眼も、そのマリアンって人も!

すぐそこにエドワードもいて、もうすぐここに来る。俺達に出来ないことなんてないさ!」

「お前という奴は……つくづく……呆れ果てた奴だ」

 

 リオンはシャルティエを持っていた腕を下に下ろす。

 その様子を見て、スタンはリオンが分かってくれたのだと嬉しそうな顔をする。

 

「スタン……エドワード……僕は……」

「まずは仲直りの握手だ。ほら!」

 

 仲直りの握手をすると言ったスタンが、リオンに左手を差し出す。

 リオンはスタンの顔と手を驚いたように見つめたあと、ゆっくりと左手を差し出そうとしたが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────その手が握られる前に海底洞窟が大きく揺れるのであった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

『エド! 地震だ!』

「くそ! 間に合わないのか!?」

 

 エドワードは全力で走り続け、ようやく辿り着く。

 そして、全員に合流しようとしたところで時雨(しぐれ)に止められる。

 

『エド、まだダメだ!』

「……くっ! だが早くしないと!」

 

 

 

 

 

 

 

 リオン以外のメンバーが緊急脱出用のリフトに乗り込む。

 そして、リオンだけは少し離れたところにある装置がついていた場所に向かっていた。

 スタンの「リオンも早く乗れ!」という言葉に、リオンは少し(うつむ)いたあと顔を上げて返事をする。

 

「……僕はお前達と一緒には行けない。リフトを動かすには誰かがここでレバーを操作する必要がある」

「リオン、お前何言ってるんだよ!?」

「ルーティ! お前の知りたいことを教えてやろう」

「え……?」

「ヒューゴの死んだ妻の名は……クリス・カトレット。クリスは……僕の母でもある」

「……なんですって?」

「認めたくないことだが、お前と僕には……まったく同じ血が流れているのさ」

「嘘……でしょ……」

 

 リオンの突然の告白にルーティはその場に佇んだまま、何も反応出来なくなる。

 スタンは話を遮り、リフトの方へと来るように何度も言う。

 しかし、リオンはその言葉を無視し、今度はスタンへと話をする。

 

「それとスタン。お前は僕を友達呼ばわりするが、僕はそんなもの受け入れた覚えはない。

僕はお前のように能天気で図々しくて、馴れ馴れしい奴が…………大嫌いだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 ────だから、あとは任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リオンは崩れゆく洞窟の中で、リフトのレバーを力込めて下ろした。

 起動したリフトはそのままスタン達を乗せて地上へと上がっていく。スタンはなんとかリオンを助ける方法がないか探すが、彼に出来ることは何もなかった。

 そして、リオンは上がっていくリフトを見上げながら、後のことを託した親友(スタン)に微笑むのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 リフトが見えなくなり、辺りは暗闇が増していく。

 そして、徐々に海水が流れ込んでくる音が聞こえてくる。

 リオンはレバーを背もたれにして、シャルティエに語りかける。

 

「……ここも間もなく水に飲まれる。付き合わせてすまないな、シャル」

『どこまでもお供しますよ。僕のマスターは……坊っちゃんです』

 

 リオンはその言葉に微笑むと、シャルティエを置いて天井を見上げる。

 

「これで……これで良かったんだろう? マリア──」

「──本当にこれでいいのか? リオン」

「……お前、なぜここに!?」

『え? エドと時雨(しぐれ)!?』

 

 リオンとシャルティエが驚きの声を出した相手は、彼と同じセインガルド王国客員剣士である、エドワード・シュリンプだった。

 エドワードは時雨(しぐれ)を片手に持ちながら、座り込んでいるリオンを見下ろしていた。

 

「……遅くなってすまない」

「そうじゃない! お前もここで死ぬ気なのか!? お前がいると思ったからあとを託したのに……あいつらだけでヒューゴに勝てるとでも!?」

「死ぬ気はないさ。俺はマリアンさんにお願いされて友人(リオン)を助けに来ただけだからな」

「マリアン……? どういうことだ?」

「マリアンさんは俺が助けた。今までお前が苦しい思いをしてきたのも全て知っている。それを承知でお前を助けてあげられず本当にすま──」

「──そんなことはどうでもいい! 答えろ、エドワード! マリアンは、マリアンは無事なんだな!?」

「……ああ。今は隠れ家に匿っているよ。食料も十分にあるし、住み心地も悪くないはずだ」

 

 エドワードの言葉を聞いて、リオンは一度俯いたが、額に手を当てながら大声で笑い出す。

 その行動にはエドワードや時雨(しぐれ)だけでなく、シャルティエも困惑している様子であった。

 

「だ、大丈夫か……?」

「……僕は今まで何をやっていたんだと思うと、全てが馬鹿らしく思えてきてな。つい笑いが止まらなくなってしまった」

 

 落ち着いたリオンに声を掛けると、意外にも冷静な返事が返ってきた。

 このまま話し続けるのも悪くないと思っていたエドワードだが、そろそろ洞窟自体が飲み込まれそうになっていたため、当初の作戦通りに行動を始めることにした。

 

「とりあえずここを脱出するぞ」

「……ふっ。どうやってだ? 海水が流れ込んでいるこの状況で、逃げるところなんてどこに──」

『ああ! 時雨(しぐれ)のアレを使うんですね!?』

『そうだ。俺以外の人間に使いこなせるかは分からなかったが、エドに訓練をさせておいてよかったよ』

 

 シャルティエはすぐに気付いた様子であったが、リオンだけは何も分かっていなかった。

 しかし、脱出できる方法があることだけは分かったため、シャルティエを拾うと立ち上がる。

 

「……それで僕は何をすればいい?」

「とりあえずそこにいてくれ。俺はこれからある晶術の詠唱に入る。だが、脱出したあと、俺は動けなくなるだろうから、あとは頼んだ」

「わかった」

 

 エドワードはリオンに簡単に説明をしたあと、晶術の詠唱に入る。

 時雨(しぐれ)を鞘に入れたまま、横にして目の前に突き出して集中をしていると、エドワードの足元から魔法陣が浮かび上がり、徐々に光を強くしていく。

 海水は徐々に流れ込んでおり、彼らの膝下ほどまで溜まった頃、ようやく詠唱が終わりを告げる。

 

「よし! リオン、俺に掴まれ! 行くぞ……”空間転移(テレポート)”!」

 

 エドワードが晶術を唱えると、その場にいた全員が姿を消した。

 そして、海底洞窟は海水に飲まれて消えていくのであった。

 




私、このシーンを何回見ても泣いている記憶しかないです。

そしてよ、ようやくリオンを助けられました。
ちなみにエドワードの晶術は時雨(しぐれ)さんオリジナルです。
本来は時雨(しぐれ)以外は使うことが出来ないのですが、エドが息子であるので適正がありました。
ただ、エドワードが一度使うと、その後は丸一日動けなくなるくらいの消耗をしてしまうため、気軽には使えない晶術です。


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第四十七話

申し訳ございません!
投稿予約日を間違えてました!
先程気付いたため、本日は12:00投稿しています!

それと、お気に入りが1,000件を超えました!
これも全て皆様のお陰です。
今後も面白いと思ってもらえるように頑張りますので、よろしくお願いします!



「こ、ここは……?」

『どうやら助かったみたいですね』

 

 海底洞窟からエドワードの晶術によって脱出したリオン達。

 転移した先でリオンが辺りを見回してみると、そこは森に囲まれた場所であった。そばには質素だが作りがきちんとしている小屋がある。

 エドワードがそばで気絶をしていたのだが、()()()()()がエドワードに重なって見えたため、リオンは空を見上げる。

 

「なんだ……あれは?」

『あれは……! まさか!?』

『ああ。空中都市だ』

「空中都市だと?」

 

 時雨(しぐれ)とシャルティエがリオンに天地戦争、空中都市やベルクラントについての説明をする。

 そしてそれがヒューゴの目的であったことに気付いたのだが、時雨(しぐれ)はリオン達にそれ以上に驚くべきことを話す。

 

『シャルティエ、リオン。お前達に伝えることがある』

「……なんだ?」

『実はな、お前達は本来の歴史では()()()()()()()()()()のだ』

『…………そうでしょうね。助けに来たのがエドと時雨(しぐれ)であったことからも推測していました』

「どういうことだ? 一から説明しろ!」

『これから話すことは信じられないことかもしれない。だが真実だから受け入れる努力をしろよ』

 

 そう言って、時雨(しぐれ)はリオン達にエドワードに話したことと同じことを伝えた。

 シャルティエが知っている部分もあったが、ヒューゴの正体や今後どういったことがあるのかなどについては天地戦争時には知らされていなかったため、信じがたいことであった。

 

「……簡単に信じろという方が難しいな」

『そうですね。ヒューゴを操っているのがミクトランだとは……奴はあのときに死んだはずでは?』

『いや。ミクトランはあの場では死ななかった。ベルセリオスに付いていた()()()()()()()()()()()()に精神を飛ばしていたんだ』

『…………もしかしてそれも予測してわざわざベルセリオスにだけもう1つ付けたのですか?』

『まぁな。1,000年後の未来がどう変わるのか予測できなかったし、()()()()()()()()()()()()()()()()()からな』

 

 1,000年前。天地戦争の際、史実ではカーレル・ベルセリオス中将はミクトランと相打ちになり死亡したとされている。

 しかし、実際は違っていた。時雨(しぐれ)の介入により死を(まぬが)れていた。

 歴史を簡単に変えてはいけないというカーレルの考えのもと、表向きには死んだとされており、彼が生きているのを知っている者は旧ソーディアンチーム以外にはメルクリウス・リトラーとハロルド・ベルセリオスのみであった。

 そしてカーレルを見殺しにせず、未来にも大きな改変をしてしまわぬように事前にソーディアン・ベルセリオスへコアクリスタルを2つ搭載し、あえてミクトランの精神の逃げ場を作ったのであった。

 

「分かった。それでこれからどうするつもり──」

「──エミリオ……?」

 

 自身の名を。本当の名を。最愛の彼女にしか呼ぶことを許していない名前を呼ばれる。

 助けたとは聞いていた。彼の言うことが嘘ではないことも分かっていた。

 

 

 

 それでも。水に飲まれていくあの洞窟の中で二度と会うことはないと思っていた人。

 その人のことを命を掛けて守ると誓い、そのために友にも剣を向けた。

 

 

 

 

 ゆっくりと振り向いたその先には──マリアン・フュステルが立っていたのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「マ……あ……」

 

 声にならない声がリオンの口から紡がれる。

 手を伸ばすが、数m先にいる彼女にはその手は届かない。

 それは分かっている。それでも、それでも今の彼が出来ることはそれしかなかった。

 

 マリアンは微笑みながらゆっくりと近付き、リオンの左頬に右手を添える。

 その手は冷たかったのだが、そこには確かに人の温もりがあった。

 

「あらあら、ひどい顔ね」

 

 カラカラと笑いながらリオンをからかうマリアン。

 ようやく少し落ち着くことが出来たリオンだったが、そのままゆっくりとマリアンを抱きしめる。

 

「……エミリオ?」

「良かった……本当に良かった……」

 

 消え入りそうな、それでいてしっかりとしたその声に薄く笑みを浮かべたマリアンは、リオンの背中に腕を回す。

 そしてリオンの後頭部を軽く撫でながら「エドワードさんが助けてくれたのよ」と話していく。

 

「彼がね、『リオンなら必ず大丈夫。絶対に助けるから』と言って、閉じ込められていたところから助けてここに匿ってくれたの。

ここは食べ物も飲み物にも困らないし、自然に溢れているからのんびり出来ちゃったわ」

『ぐす……坊っちゃん……本当に良かったですぅぅぅ……!』

『シャルティエ……空気読めよ……てか剣なのに泣けるのか?』

 

 空気を読まないシャルティエと時雨(しぐれ)のお陰もあり、徐々に冷静になっていくリオン。

 少し顔を赤くして照れながらマリアンから離れると、泣きそうだった顔を無理やり笑顔にする。

 

「エミリオ。本当に無事で良かったわ」

「マリアンも。ところでここはどこなんだい?」

「えっと……ストレイライズ神殿の近くとは聞いていたのだけれど、詳しくは分からないの」

「そうか。とりあえずエドを……エドワードを部屋の中で休ませてもいいかい?」

「あら! 気付かなかったわ! 早く運びましょう!」

 

 エドワードを背負ったリオンは、マリアンに案内されて小屋の中へと入る。

 小屋の中は陽の光も入り、清潔感もある過ごしやすそうな空間であった。

 エドワードをベッドに寝かせたリオンはマリアンの待つダイニングへと戻り、彼女の入れてくれた紅茶を飲みながら今までの話をお互いに話し合っていた。

 

「……そうだったのね。あなたに苦労ばかり掛けてしまって──」

「──そんなことはない! 僕は……僕はマリアンを……」

「……そうね。ありがとう。今はお互いに無事だったということを喜びましょう。それでこれからエミリオはどうするの?」

『それについては俺から話そう』

 

 リオンとマリアンの話を遮って、時雨(しぐれ)が話を始める。マリアンはソーディアンの声を聞くことが出来ないため、リオンがかいつまんで話すといった流れだったが、特に問題はなかった。

 

『まずスタン達、現ソーディアンチームの動きから話していこう。彼らはこれからリトラーと一緒にダイクロフトへ乗り込む準備をするはずだ』

 

 現ソーディアンチームには原作通りの動きを取ってもらうと話す時雨(しぐれ)

 ダイクロフトにはベルクラントの防衛のための守護竜や鏡面バリアなどの防備がされているため、それを破るための準備をするために他の空中都市を攻略したり、ソーディアン研究所でさらなる力を得るために行動をするなど、詳細を語っていく。

 

『俺達がするのは()()()()()()()()()()()だ』

「……なんだと?」

 

 リオンから僅かに殺気が漏れる。

 それも仕方がない。ヒューゴは彼にとって仇敵(きゅうてき)となってもおかしくない人物であり、それを助けると言い出す時雨(しぐれ)の言葉が理解出来ないからだ。

 

『言っただろ。ヒューゴはミクトランに()()()()()()()()なのだと。彼の元々の性格は家族思いの優しい人なんだ』

「……そんなこと信じられないな」

『今はそれでも構わない。だが、お前以外にもヒューゴのことで苦しんでいる人物がいるということを忘れるな。()()に実の父親を手に掛けさせるつもりか?』

「…………!!」

 

 ヒューゴの実の娘であり、リオンの実の姉であるルーティ・カトレット。

 原作では彼女の目の前でほぼ死ぬことが確定している状況でその人物(リオン)に実の弟と告げられ、ミクトランに操られていたとはいえ実の父親を手に掛けるという非常に辛い出来事を経験している。

 そのことまで頭が回らなかったリオンは、ルーティの気持ちが分かったのか時雨(しぐれ)の言葉に何も言えなくなる。

 

「……エミリオ。私にはあまりにも大きな出来事過ぎて全てを受け入れることが出来ていないのだけれど、もしエミリオが少しでもエドワードさんに恩を感じているのだったら、手伝ってもらえないかしら?

私も彼に恩を返したいのだけれど……何も出来ないのはとても心苦しいの」

「マリアン…………わかった。お前達にはマリアンを救ってもらったという恩があるからな。それを返すために協力しよう」

 

 時雨(しぐれ)は素直じゃないなと苦笑いをするが、その横で少し悪い笑みを浮かべているマリアンに気付いたシャルティエは、リオンの将来を心配するようになっていた。

 その後も色々と話をしたところで、一旦休むこととなった。エドワードは長距離転移のせいで丸一日は目が覚めないということだったので、リオン自身も体調を整えるために横になって眠る。

 横になった途端に寝息を立て始めたリオンの横でシャルティエ達は話していた。

 

『よほど疲れていたんだな』

『ええ。あのときから坊っちゃんがまともに寝ているのを見たことがなかったです』

『そうか。シャルティエにも心配を掛けてしまってすまないな』

『もういいですよ。坊っちゃんとマリアンを助けてくれたことがなによりです』

『とりあえず……これからだ。ここまで来たからには()()()()()()ぞ』

『ええ。もう誰一人として死なせませんよ』

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ん……」

 

 朝日の眩しさを感じながら目を開けたエドワード。

 ベッドに寝ていることが分かり、”空間転移(テレポート)”が成功したのだと理解し、少しずつ覚醒していく。

 

(俺の晶術がズレていなければ……うん、合っているな)

 

 起き上がったエドワードは辺りを見回し、今いるのがマリアンを匿っている場所だと把握する。

 そしてタイミング良くノックが聞こえたため応えると、扉から入ってきたのはリオンであった。

 

「……起きたか」

「ああ、おはよう。時雨(しぐれ)から詳細は聞いたか?」

「……聞いた。協力もしてやる」

 

 エドワードとリオンはそれきり口を閉ざす。

 少しして気まずい空気に耐えられなくなったリオンが「朝食が出来ているから起きてこい」と言って部屋を出ようとしたところで、

 

「エドワード……助かった。マリアンのこともあ、ありが──」

「──()()って呼んでくれ。それとマリアンさんのことは気にするな。仲間(ツレ)が困っているときに助けるのは当たり前だろ?」

 

 笑いかけながら話すエドワードにリオンは顔を赤らめつつ、それ以上何も言わず部屋を出ていく。

 エドワードは「相変わらず不器用なやつだな」と呟いた後、ベッドから立ち上がってリビングへと向かう。

 

「あら、エドワードさん、おはようございます。もう朝食を出し終えますので、席に座って待っていてください」

「マリアンさん、おはようございます。分かりました」

 

 エドワードは先に座っているリオンの前に座ると、時雨(しぐれ)とシャルティエに話しかける。

 

時雨(しぐれ)、シャルもおはよう」

『おう。体調は大丈夫そうだな』

『エド、おはようございます!』

 

 そうこうしているうちに朝食がテーブルに運ばれ、全員で食べ始める。

 マリアンが作った食事は素材の良さを十分に活かしつつも、思わず「美味しい」とリオンが呟いてしまうほどのものだった。

 

「マリアン、ご馳走様。相変わらず美味しかったよ」

「本当ですね。ご馳走様でした」

「お粗末様です。それじゃあ片付けてしまうわね」

 

 マリアンが片付けを終え、全員が席について改めて今後について話を始める。

 

「これからについてなんだけど、まずはリトラーに会いに行くところから始めようと思う」

『そうだな。それは俺も同意見だ』

 

 地上軍最高司令官メルクリウス・リトラーは、ラディスロウにあるコアクリスタルに自身の人格を投射しており、空中都市が浮かび上がった時点で覚醒していると時雨(しぐれ)は分かっていた。

 現ソーディアンチームがラディスロウを浮上させるために”Rキー”と呼ばれるものを取りに行っている最中のため、エドワード達が本格的に動き出すのはラディスロウが浮上した後であると告げる。

 

『ラディスロウが浮上したあとはダリルシェイドと繋ぐ転移エレベーターが設置されるはずだから、それを使って空中都市に侵入するぞ。』

『スタン達とは合流しなくていいのですか?』

『ああ。あいつらにはあいつらの()()がある。いつまでもエドとリオンに頼っているようでは、この世界を救うことなんて出来ないからな。』

「そして俺達には俺達にしか出来ないことがある……ということか。」

「それが……()()()()()()()()()()()使()()なのかもしれないな。」

 

 エドワードとリオン、本来であればこの世界に存在しない者と既にこの世に存在していないはずだった者。

 その2人が行うことは決して世に語られることはない。

 しかし、それでも救われる何かがあると信じて最後の闘いに向けて動き出すのであった。

 




悪い笑みを浮かべてリオンを手のひらでコロコロするマリアンを思い浮かべるのが面白かったです笑

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第四十八話

先日、投稿日を間違えてしまったお詫びに少し早めに投稿します。
感想もいつもありがとうございます!かなり励みになるので、とても嬉しいのです!

徐々に寒くなってきましたので、気温差で体調を崩さないようにお気を付けくださいませ。

これからもぜひよろしくお願いします!



 ラディスロウが動き出したあと、誰にもバレないようにダリルシェイドに侵入したエドワードとリオンは、設置されていた無重量エレベーターを使ってラディスロウへとワープする。

 誰かが侵入したのを感知したリトラーは警備マシンを放つが、彼らによって瞬殺され中枢部への進行を許してしまう。

 そして時雨(しぐれ)とシャルティエを見て、驚きの声を上げるのであった。

 

『な……時雨(しぐれ)とシャルティエは現マスターと共に死亡したと報告があったのだが……』

『久しぶりなのに随分な挨拶だな』

『本当ですよ。とは言っても、あのままだと僕と坊っちゃんは本当に死んでましたけどね』

「エ、エドワードさんとリオンさん!? 生きていたんですか!?」

「レイノルズもいたのか。ああ、お陰様でな」

「僕はリトラーの助手としてここに来たんですよ。リオンさんって今裏切り者ってなってますよ!?」

「とりあえずここに俺達がいるのは内緒にしておいてくれ」

 

 リトラーとセインガルドの科学者であり、今回本人の強い希望により助手となったレイノルズ。

 その2人に今までの経緯とこれからについて伝えると、疑問をぶつけられる。

 

『……大体の事情は分かった。だが、それならばお前達が現ソーディアンチームに合流してもらえたほうが、作戦も成功に近付くのではないか?』

『まぁそれはその通りだな。だが、それではきっと()()()()()()()()だろう』

『むむぅ……。1,000年前から時雨(しぐれ)は何を考えているのか読めないところがあったが、今も変わらずだな。だが、それは必要なことなのだな?』

『ああ。だから俺達のことはリトラーからも言わないようにしてくれ』

 

 リトラーは渋々了承する。本心では納得していないのであろうが、それは地上軍の最高司令官としての立場があるので仕方がない。

 1,000年前も含めて、今行っていることは戦争なのだ。そこに相手のことを(おもんばか)る余裕など無いし、それが隙になることで作戦が失敗しては意味がないのである。

 時雨(しぐれ)もそれは分かっていた。だからこそ現ソーディアンチームには合流せずに別働隊として動くことで、作戦に支障が無いようにしていたのであった。

 

『スタン達はアンスズーン経由でクラウディスに向かっているんだろ?』

『な、なぜそれを!? ……()()()()か?』

『そういうことだ。俺達もバレないように後を追う。また後で再会しよう』

 

(時雨(しぐれ)の前世の知識は、どこでも()()って言えば通じるんだな)

 

 エドワードはリトラーと時雨(しぐれ)の会話を聞いて、1,000年前にいた人物であればアレで通じることに感心していた。

 それだけ時雨(しぐれ)の知識が信頼されており、1,000年前でも彼らを振り回していたものだったのだ。

 そして挨拶もそこそこにエドワード達は現ソーディアンチームを追って、ラディスロウから外殻大地へと出たのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 空中都市クラウディス。

 ベルクラントを守る守護竜のコントロールルームがある場所であり、その場所へは他の空中都市イグナシーと空中都市アンスズーンを通り、さらに外殻大地へと出てから歩いていく必要がある。

 それはまだ外殻大地の形成が完全ではないため、エドワード達もかなり回り道をして向かった。

 

 スタン達にはイグナシーの途中で追いつき、気配を消して後ろから付いていく。

 現ソーディアンチームの道中での戦闘はまだまだ未熟な部分が多く、口を出したくなる気持ちを抑えて黙っているエドワード。

 彼らは協力しながらも進んでいき、クラウディスの最奥でオベロン社カルバレイス支部を統括しているバルック・ソングラムを打ち倒したのであった。

 

 バルックは1,000年前の天地戦争で敗北した天上軍の子孫であるカルバレイス人であり、苦汁をなめさせられたカルバレイス人の復讐のためにヒューゴに協力していた。

 そのバルックを倒したスタン達は守護竜を停止させることに成功。そしてリトラーの指示により、ラディスロウへと帰還していった。

 

「……これで、私も終わりか」

「無様なものだな、バルック」

「リ、リオン!? お前は海底洞窟で死んだはずでは!?」

「僕がそう簡単に死ぬわけがないだろう。お前達に借りを返すために戻ってきたんだ」

「…………ふっ、そうか。お前にならいいかもな。さぁ、ひと思いにやってくれ!」

 

 バルックは目を瞑り、覚悟を決めてリオンからの一撃を待つ。

 しかしリオンはシャルティエを抜くことはなく、バルックにライフボトルを振りまいたのであった。

 傷が癒えて、身体が軽くなっていくのを感じ、目を開き驚くバルック。

 

「こ、これは何の真似だ」

「ふん。死にたければ勝手に死ね。だがな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……なに?」

「全てを憎んで、全てに絶望して。地上の民は全員本当にそういう奴らだけだったのか?」

「………………」

「天上の民であろうと、地上の民であろうと。良い人間もいれば悪い人間もいる。それが分かっているからこそ、オベロン社のカルバレイス支部で尽力してきたのだろう。

こうして生き延びることが出来たのであれば、一度死んだつもりで残りの人生を全て賭けて足掻いてみせろ。

お前は1人じゃない。……僕にだって()()は出来たんだからな」

 

 リオンはバルックに伝えたいことを伝えると、その場を去ろうとする。

 エドワードは口を開くことなく、リオンについていく。

 リオン達が入り口を出ようとしたところで、バルックがふらふらと起き上がり、リオンを呼び止める。

 

「ま、待て……お前の言うとおりにすれば先が見えるというのか?」

「何を言っている? 誰かの言うとおりに生きているだけの人間が世の中を変えられるわけがないだろう。お前が判断して、お前が動くんだ」

「…………ふふふ。はっはっはっは! そうだな。その通りだよ。()()()()()()()か……そうだな、それなら俺も天上の民とかこだわっている場合ではないな。

まだまだ俺にもやれることがあるなら、救える命があるなら、この人生を賭けてみる価値はあるか。」

 

 バルックはまだ満身創痍の状態ではあったが、その目には輝きが戻っていた。

 その様子を確認したリオンはバルックのところへ戻り、有無を言わさず大量のグミを彼の口に放り込む。

 いきなり口の中がグミでいっぱいになったバルックは驚いて目を見開くが、黙って飲み込むと傷の回復と身体の状態が戻ったのを確認してリオン達の後についていくのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 空中都市ヘルレイオス。

 ベルクラントを守る鏡面バリアーを中和する装置を作るための素材がある場所であり、空中都市イグナシーから空中都市ロディオンを経由して向かうことが出来る都市である。

 時雨(しぐれ)はこの場所にはスタン達よりも早く向かう必要があると伝えていた。

 

 ヘルレイオスを守っていたのは、オベロン社フィッツガルド方面部長のイレーヌ・レンブラント。

 彼女は”誰もが憎しみ合うことなく、笑い合える世界を作りたい”と理想を掲げて活動をしていたが、ノイシュタットの貧富の差は広がり、バルックとは違う意味でこの世界に絶望していた。

 それであれば一度全てを無に帰してからやり直せばよいという結論に至り、ヒューゴに忠誠を誓っていた。

 だがスタン達に破れ、彼の説得も届かずに背後にあった扉から飛び降りて自らの命を絶とうとしていた。

 

 しかし、ここでは時雨(しぐれ)がリトラーに頼み、ラディスロウをヘルレイオスの近くまで移動させていたお陰で落ちてきたイレーヌを救出することに成功する。

 その分、鏡面バリアーの中和装置の作成が少しだけ遅れてしまうことになるのだが、人の命には変えられないとリトラーは納得する。

 

「な、なんで助けたのよ……私は……」

 

 ポツポツと自身の考えを語りだすイレーヌ。その中で理想の追求のためにリオンを利用してしまったことに後悔があるようであったが、自ら選んだ死を邪魔されたことに対しては納得していなかった。

 しかし、エドワードはその行動について理解も納得も出来なかった。

 

(バルックさんもだけど……なんで負けたからって死ぬって選択肢を取るんだ?)

 

「なんだ、お前も死にたがりか。ヒューゴの部下は甘ちゃんばかりだったんだな」

「……なんですって?」

「そうだろう? 『理想を掲げて精一杯やったけど、ノイシュタットの貧富の差は広がる一方だ』だと? そんなの()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

それをなぜ民のせいにする? なぜ自らの過ちを認めない?」

「…………」

 

 リオンの言葉にイレーヌは何も言えなくなる。心の中では分かっていた。

 だがそれを認めてしまうと、今までの努力が全て間違っていたことになる。

 だからこそ、そのことに蓋をして、一度全て無かったことにすればよいというヒューゴの甘い囁きに乗ってしまっていた。

 

「……でも、でも! じゃあどうしろって言うのよ! 私は精一杯やったのよ! それでダメならもうこの手しか……無いじゃない……」

「ふう。バルックもだが、お前もすぐに人に頼るのだな」

「バルック……も? 彼も……生きているの?」

 

 イレーヌがリオンの言葉に気付いたとき、バルックが姿を現す。

 まさかバルックが生きているとは思っていなかったイレーヌ。バルックは彼女に話しかける。

 

「イレーヌ、私は考えを改めることにしたよ。いつまでも誰かに頼っていてはいけない、とね」

「頼っては……いけない?」

「ああ。自分で叶えたい理想なのに、一度ダメだったからと言ってすぐに楽な方へいくべきじゃないという方が正しい言い方かな。

ヒューゴ様のお考えや行動は、確かに私達の理想の実現には最短に近い道のりかもしれない。

だがな、それはあくまで()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。それで成功したところで、胸を張って理想を叶えることが出来たとは口が裂けても言えないとは思わないか?」

 

 イレーヌはバルックの言葉に対して、考え始める。

 

「自らの道は自らの力で切り拓け、ということかしら?」

「そうだ。ダメならまたやり直せばいい。成功するまでやり続ければ、負けることはないのだから」

「…………ふふっ。バルックってば、夢を語る子供みたいな顔しちゃって」

「当たり前だろう。我々の夢は子供が考えることと同じなのだからな」

「そっか……そうよね。失敗したからといってそれで全てを投げ出してしまうのは、それこそ私達が絶望してしまった人間以下だわ。

継続してこそ先がある。だからこそ理想を実現したときは心の底から気持ち良くなるのね」

 

 イレーヌも理想を追い求めていた以前の顔つきに戻り、目には力がこもっていた。

 リオンやエドワードは今のイレーヌの様子を見て、安心した表情を見せるのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 空中都市ミックハイル。

 ベルクラント突入作戦において、浮遊クルーザーを管理している都市。空中都市イグナシーから空中都市シュサイアを経由して向かう。

 そこにはイレーヌの父親であり、ヒューゴ邸の執事をしていたシャイン・レンブラントがスタン達を待ち構えていた。

 

 彼はヒューゴが貧乏な考古学者の頃から世話になっており、誰よりもヒューゴのために行動するということを優先して動いていた。

 それはミクトランに操られて、人が変わったかのような性格になったとしても忠誠心が揺らぐことはなかった。

 そしてスタン達の前に立ち塞がった理由に1つには、()()()()()()()()ということも含まれていた。

 

「イレーヌ……敵を討てず……すま──」

「──お父さん」

「……おおお、イレーヌ。まさか死の間際にお前の姿が見れるとは……迎えに来てくれたのか……」

「いいえ、私は生きているわよ」

「……な、なん……だと……?」

 

 スタン達が浮遊クルーザーに乗っていなくなったところをイレーヌと一緒に現れたエドワード達。

 娘をヘルレイオスにて失ったと思っていたレンブラントは、目の前の出来事が信じられなかった。

 イレーヌはレンブラントにライフボトルを使い、さらにグミを使ってレンブラントの傷を癒やす。

 

「イレーヌ……な、なぜお前が生きているのだ? ヘルレイオスから飛び降りて死んだとばかり……」

「エドワード君達が助けてくれたのよ。説得されてね……一生懸命に生きてみようと思ったの」

「そうか。しかし、私はヒューゴ様を裏切ることは出来ない。イレーヌ、お前だけでも生きてく──」

「──レンブラント」

「ぼ、坊っちゃん!?」

 

 イレーヌを見ていて、リオンが生きていたことに気付いていなかったレンブラントは驚く。

 

「一つ聞くが、お前が今忠誠を誓っている男は()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「な……なにを……」

「ヒューゴは考古学者の頃、誠実で優しく、妻と子を大切にしていた人物であったというが……お前から見てどうだった?」

「…………はい、確かにそうでした。クリス様……それにルーティ様に対していつも優しい笑顔を向けておりました」

「そうか。そして、ある遺跡にて()()()()()()()()()()を発掘した。それからヒューゴは徐々に今の性格となっていった。」

「はい……し、しかしそれをどこで……?」

 

 まるでその場面を見てきたかのようなリオンの言葉にレンブラントは疑問をぶつけるが、それを無視して話を続ける。

 

「おかしいと思わないか? お前の目から見ても変わったと思えるほどの出来事を少しでも不思議に思わなかったのか?」

「……そ、それは」

「もし……もしも()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…………それが本当のことであるならば、私は今のヒューゴ様に仕える必要はありません。しかしそれは何の証拠もないこと。もし私を説得したいのであれば証拠を──」

「証拠ならある。今はまだ出すことは出来ないが、もうすぐ分かるだろう。もしそのときにそれでも納得出来ないようであれば、ヒューゴの息子である僕が──()()()()()()()()()()()がお前に引導を渡してやる」

「……分かりました。そこまで仰るのであれば……そのときまで坊っちゃんに私の命を預けましょう。」

 

 リオンは時雨(しぐれ)から聞いていた知識で、ヒューゴがミクトランに操られていることを知っている。

 彼も今でも本気で信じているわけではない。だが、自身を助けてくれたエドワードと時雨(しぐれ)のために動くと決めているため、そこには何のブレも無かった。

 そして、残るはあと1人────

 




なぜかバルックの口の中に大量のグミを詰め込んでやりたい衝動に駆られました。

空中都市ヘルレイオスは、原作ではイクティノスを直すために向かう場所です。
ただ、この物語ではイクティノスは壊れていないため、中和装置を作る素材が置いてあるという設定にしました。

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第四十九話

「あんなところに神の眼が!」

 

 無差別地殻破砕兵器ベルクラントに突入したスタンが、最奥にて浮かび上がる神秘的な巨大レンズを見つける。

 しかしそれは立体映像に過ぎず、神の眼はこの場にはなかった。

 

「ここまでだ。地上軍よ」

 

 神の眼の立体映像の先からヒューゴが現れる。

 全員が武器を抜いて警戒する。

 

「まさかベルクラントに乗り込んでくるとはな。君達の悪あがきには感服した」

「ヒューゴ、お前の野望もここまでだ。これ以上、好きにはさせん」

「あなたが頼りにしていた側近はもういません。残るはあなただけです」

「覚悟は良いわね?」

「お前に勝ち目はない。天地戦争はこれで終わりだ!」

 

 ウッドロウに続き、フィリアやルーティ、スタンもヒューゴに言葉をぶつけるが、彼は黙ったままだった。

 いや、何も分かっていない者達の言葉に笑いをこらえていたという方が正確であった。

 

「ふふふ……はーっはっはっは! ()()()()()()ときたか!」

「何がおかしいのよ!」

「君達の無邪気さがだよ。リオンから聞かなかったのかね?」

「リオンから……? 何を……?」

「私がどれほどの力を持つかだよ。全く聞かなかったのかね? あの少年剣士が()いつくばり、泣いて私に許しを()うた有様を!」

「リオンを侮辱するな! あいつはそんな事しない!」

「ふふふ……せっかく会ったのだ。ひとつ、相手をしてやろう」

 

 ヒューゴはそう言いながら、一振りの剣を取り出す。

 それは漆黒の刀身に黄金に輝く柄という、その剣の持つ「光」と「闇」の属性を現す姿であった。

 

『あれは……!』

『そんな、まさか……』

『……ベルセリオス!』

『どうしてあそこにあるのじゃ、あれが……!』

 

 ソーディアン・ベルセリオス。1,000年前の天地戦争の際、ミクトランへ(とど)めの一撃を与えたとされる()()()()()()()()()()()での6本目のソーディアン。

 スタン達やセインガルド国王ですら知らなかったことだが、ヒューゴによって発見され保管されていた。

 

『ベルセリオス、本当にお前なのか? 聞こえているなら返事をしろ!?』

『ベルセリオス!』

『…………』

「リオンの時は歯ごたえが無さすぎて、わざわざ出すまでもなかったがな……。

さあ、覚悟は良いか、虫けら共よ。ベルセリオスの刃にかかり、果てるがよい!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

「ぐはっ……」

「これで……終わった……」

 

 スタン達の目の前にはヒューゴが膝をついており、現ソーディアンチームが勝利したことは誰の目から見ても明らかであった。

 

『まさかベルセリオスと渡り合うとは思わなかった──』

「──ちょっと……神の眼の様子、変じゃない?」

 

 ディムロスの称賛の声を遮り、ルーティが神の眼の変化に対して指摘をする。

 神の眼は先程までよりも輝きを増していた。そして、それに呼応するように地面に突き刺さったベルセリオスも光を放ち始める。

 そして、ヒューゴがゆっくりと立ち上がる。

 

「な……!? まだ立ち上がるっていうの!?」

「くくく……これしきの攻撃で、私を倒せるなどと思うな。下賤な民がいくら足掻こうと、至高の存在たる私に敵うものか!

()()()()()()()()()()()()()! 私は無敵だ!」

「…………お前……誰だ?」

 

 スタンがヒューゴの発言に対し、不審がるようにその正体を問う。

 その言葉の真意が分からず、メンバー全員はスタンを見つめる。

 

「さっきから……何か変だ。お前は本当にヒューゴなのか? ……実は別の誰かなんじゃないのか?」

「スタン、あんたさっきから何言ってるの……?」

 

 ルーティがスタンの言っていることが理解出来ずに彼に聞くが、その問いには答えず、ヒューゴへと質問に答えるように詰め寄る。

 初めは目を瞑り、無表情で黙っていたヒューゴだったが、静かに笑い出す。

 

『ふふふ……下賤な地上の民にしては、なかなか良い勘をしている』

『こっ、この声は!』

 

 スタンに答えたその声は、ヒューゴの()()ではなかった。

 そしてその声の主に気付いたディムロスが驚きの声を上げる。

 

『そこまで気付いたからには、我が真の姿を見せてやろう!』

 

 光を放っていたベルセリオスが地面からゆっくりと抜け、ヒューゴに向かっていく。

 その光景を全員が黙って見てい────

 

 

 

 

『──させねーよ』

 

 スタン達にとって聞き覚えのある声がしたと同時に、スタンとヒューゴの間にあったベルセリオスが消える。

 そして、全員のすぐ横に現れた1人の青年の手にそれは握られていたのであった。

 

『な……!?』

「「「「え……エドワード!?」」」」

()()()()()()は任せたぞ!」

 

 エドワードは手に持っていたベルセリオスをスタン達の後ろに投げる。

 そこに現れた人物はベルセリオスを受け取り、そこに()められていた()()()()()()()()()()()()()を全力で引き抜き、壁へと投げつける。

 その隙にエドワードはヒューゴのみぞおちに当て身をして気絶させる。

 

「な……な……!」

「なんだ、スタン。そんな間抜けな顔をしてどうした?」

 

 スタンは想像していなかった出来事がいきなり何度も重なったせいで、口を開けて(ほう)けていた。

 しかし、それはスタンだけではなかった。現ソーディアンチームやディムロス達ソーディアンですらも言葉を失っていたのだった。

 

 

 リオン・マグナスとエドワード・シュリンプ。

 先の海底洞窟の崩落により、死亡したとされていた人物が突然目の前に現れれば、誰しも同じ反応を取る。

 その中で唯一すぐに状況を理解することが出来た──むしろ、それしか出来ていないとも言えるが──ディムロス・ティンバーは、この場にいる現ソーディアンチームの中で誰よりも修羅場を潜った歴戦の戦士なのであろうことが分かる。

 

『な、なぜお前達がこ──』

「──まだだ! 全員油断するな!」

 

 ディムロスの声を、ヒューゴを抱えていたエドワードが遮り、リオンが投げた()()()()()()()を睨みつける。

 その声に咄嗟に反応した全員は武器を構え、同じ方向を見ていた。

 コアクリスタルは沈黙していたが、少しの間ののち、ゆっくりと浮かび上がる。

 

『……いつから気付いていた?』

『初めからだよ……()()()()()!』

 

 時雨(しぐれ)にミクトランと呼ばれたコアクリスタルはある程度の高度を保ち、ふわふわと浮いている。

 天地戦争の際、天上軍を指揮していた天上王ミクトラン。

 まだ何が起こっているのか分かっていない現ソーディアンチームをよそに、話は進んでいく。

 

『貴様……時雨(しぐれ)か』

『へえ、覚えていてくれたなんて光栄だね』

『忘れるものか! 貴様に与えられたあのときの屈辱は忘れんぞ!』

『何でもいいんだが、()()()()でお前が勝てるとでも言うのか?』

 

 ミクトランは宿主(ヒューゴ)を失い、ベルセリオスからも切り離されてしまったため、コアクリスタルとしてだけでその存在を維持していた。

 対して、その目の前には先程まで戦っていた現ソーディアンチームに加え、時雨(しぐれ)のマスターであるエドワードとシャルティエのマスターであるリオンもいた。

 数の利ではミクトランには圧倒的不利であったのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『くくく……はーっはっはっは! 時雨(しぐれ)よ、貴様には分かっているであろう!

貴様とそのマスターはともかく、残りは烏合の衆ではないか! そこにいるリオンですらも私にとっては雑魚でしかないのだよ!』

『……ちっ』

『そこにいる似非(えせ)ソーディアンマスターどものような未熟者では、何人いたところで今のこの私にすら(かな)いはしない。この場で私と対等に勝負がしたいのであれば、ソーディアンの真の持ち主(オリジナルメンバー)を連れてくるんだな!』

 

 現在のソーディアンマスターは、あくまでもソーディアンと精神の波長が合い、ソーディアンの声が聞こえる者というだけでしかない。

 副次的効果として晶術が使用できるといったことはあるが、それはマスターがソーディアンの力を引き出しているというわけではなく、あくまでもソーディアンの力である。

 

 

 

 使い手の精神と完全同調することで、ソーディアンは真の能力(ちから)を発揮する。

 

 

 

 つまり、ディムロス達ソーディアンの真の力を発揮するのは、人格を投影した本人達(オリジナルメンバー)にしか出来ない。

 だからこそミクトランは()()()()()()()()()()()()と言っていたのだった。

 

 しかしエドワードだけは単純に実力(レベル)が違っていた。

 それは彼の才能というのもあったが、時雨(しぐれ)の特典──持ち主の技術力を大きく向上させる──もあり、その実力はオリジナルメンバーのそれを超えていた。

 それに気付いていたのは、ソーディアン達以外にはミクトランとエドワード、そしてリオンだけだった。

 

『どうするのだ? それでも私に掛かってくるのか?』

 

 時雨(しぐれ)はミクトランの言葉に()()()()()

 その様子を何も言い返せないと判断したミクトランは、笑いながら話を続ける。

 

『そんなお前達に素敵なプレゼントをしてやろう』

「……な、なんだ!? 何が起こっているんだ?」

 

 ミクトランの言葉が終わるとともに地面が揺れ始める。

 スタンがその揺れに何が起こったのかと問いかけるが、答えるものは誰もいなかった。

 その時、神の眼が再度輝きを放ちだす。

 

「神の眼が……!」

「な、何が起こるというのだ……?」

『くくく。似非(えせ)ソーディアンマスターどもに分かりやすく説明してやろう。……ここがどこだか分かるかな?』

 

 フィリアとウッドロウが神の眼の異変に気付く。

 宙に浮きながら神の眼の立体映像の前に移動するミクトラン。

 そして映像は神の眼から、その場にいる全員にとって()()()()()()()()に変わっていた。

 

「あ、あそこは!?」

「「「ダリルシェイド!?」」」

『ま、まさか……!』

 

 スタンや残りの現ソーディアンチームも、映像がセインガルド王国の首都ダリルシェイドであることを理解する。

 そしてクレメンテが真っ先にミクトランによって何が行われようとしているのかに気付く。

 

()()()()()()()が何か……と言えば、私が何をしようとしているかが、愚鈍な貴様ら地上人にも理解ができよう?』

『ここにある……そ、そういうことか!!』

「ディムロス! どういうことだよ!?」

『スタン! 全員で今すぐミクトランを止めるんだ!』

「……どういうことよ、ねぇアトワイト!」

『ミクトランは……()()()()()()を……』

『ダ、ダリルシェイドに打ち込むつもりだ……!』

「……それは本当なのか、イクティノス!?」

 

 ソーディアン達の言葉で最悪の状況を理解したスタン達が、ミクトランの人格を投影されたコアクリスタルに向かって突撃を始める。

 

「うおおおおお! 熱波旋風陣(ねっぱせんぷうじん)!」

「いくわよ! ……メイルシュトローム!」

「喰らえ! 空破絶掌撃(くうはぜっしょうげき)!」

「いきます! ……エクステンション!」

 

 自身が持つ最高の攻撃をミクトランに放つスタン達。

 攻撃は全て命中し、確かな手応えを感じた彼らであったのだが、

 

「や……やったか……!?」

『……くくくく。やはり似非(えせ)ソーディアンマスターではこの程度の威力しか出せないか』

 

 土煙が晴れたその先には、障壁に守られたミクトランがいた。

 そして立体映像が2つに分割され、ダリルシェイドとベルクラントの外側の光景が映し出された。

 

『貴様らはゆっくりとダリルシェイドが崩壊する様子を見ているがいい』

「や、やめ……」

 

 ベルクラントの砲身にエネルギーが充填されていく映像が映る。

 ミクトランは絶望的な顔をしている現ソーディアンチームを見て、高笑いをしていた。

 しかし、スタンだけは諦めずにベルクラント発射を止めるべく、ミクトランへと突撃をしていた。

 

「や……やめろぉぉぉぉ!!!」

『ス……スタン……』

 

 攻撃を繰り返すスタン。しかし、ミクトランへは欠片も通らない。

 ルーティ達はその様子を黙って見ていた。いや、既に()()()()()()をしていた。

 先程の攻撃が通らなかった以上、ダリルシェイドを救うために今の自分達が出来ることは何もないと思い知らされてしまったのだ。

 それでもスタンだけは諦めていなかった。

 

「やめろ! やめるんだ! やめろぉぉぉ!!」

『くは、くははははっ! 精々悔しがるがよい。そして目の前で大切な者達が失われるのを見て、己の無力さに打ちひしがれるがいい!』

 

 ベルクラントの砲身全体にエネルギーが溜まり、光は徐々に発射口へと集まっていく。

 誰にも止められないその攻撃を、全員が黙って見ているしか出来なかった。

 

『さあ、これでおしまいだ!!』

 

 

 

 ミクトランの言葉と共にベルクラントがかつてないほどに輝き────そして、一筋の光が発射されるのであった。

 




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第五十話





『ふははははは! どうだ、目の前で全てが失われていく様を見るのは? 何百年生きていても、なかなか体験できないことだぞ!』

 

 ダリルシェイドに向けて発射されたベルクラントの攻撃。

 その光を見て、現ソーディアンチーム全員が膝を折り、俯いてしまった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「嘘…………でしょ……?」

「こんな簡単に……無くなってしまう……なんて……」

「ダリルシェイドの民よ……すまない」

「あ……あああ……くそぉ……くそぉぉぉぉ!!!」

 

 スタンは俯き、泣き叫んでいた。

 力を尽くせば、全てを救えると思っていた。諦めなければ道は開けると思っていた。

 どんな困難ですらも、仲間とであれば乗り越えていけるはずだと。

 

 だが、今目の前で起こったことは、その考えを全て覆すこと。

 ダリルシェイドに向けて、ベルクラントから発射されたという事実──それだけだった。

 

『はーっはっはっはっは! それだ! 貴様らのその絶望に染まったその顔が見たかったのだ! 見よ、このダリルシェイドの様子──』

「──あらあら? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

『なんだと……?』

 

 どこからか声がしたと全員が思ったところで、頭上から()()()()が現れる。

 そして、今まで黙っていた時雨(しぐれ)が話し出す。

 

『待たせたな! ……英霊召喚(サモン・エージェント)!!』

「ようやくあたしの出番ね♪」

 

 光がゆっくりと下りていき、徐々に輝きが収まっていく。

 その光の中から出てきたのは──ハロルド・ベルセリオスであった。

 

 

 

 

 突然現れたハロルドに対して、スタン達は口を開けたままぽかんとしていた。

 

『き、貴様! 一体どこから現れた!?』

「あら? あんたがミクトランね。ゆっくりと挨拶をしたいところなんだけど、先に今の状況を確認したほうがいいのではなくて?」

『な、なんだと!?』

「もう気付いているとは思うけれども、ベルクラントの砲撃は()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 その言葉を聞いて、スタン達が立体映像の方に目線を向けると、ダリルシェイドには何も被害がなく無事な状態であった。

 

『い、一体どうやってそんな真似を!? ここには神の眼はないのだぞ!』

「ああ、それね。グレバムと戦ったときに解析させてもらったんだけど、封印する前に時雨(しぐれ)に言われてちょちょいっとね♪」

『そんなことしていたのか!? 我らも聞いていないぞ!』

「あら、ディムロス。それは単なるお・茶・目・よ♪」

 

 ウインクしながらポーズを取るハロルドに、ディムロスは『む、むうう……』と何も言わなくなる。

 そして、リオンのところまで歩いていくと、手を差し出す。

 

「ベルセリオス、貸して」

「あ、ああ……」

 

 勢いに押されて、ベルセリオスをハロルドに渡してしまうリオン。

 ハロルドがベルセリオスを持った途端、ハロルドを中心に軽い衝撃波が巻き起こる。

 何が起こったのかを察したクレメンテが『そ、それはもしや……』と呟き、ディムロスも疑問を抱く。

 

『その現象は、ソーディアンとオリジナルメンバーが共鳴(シンクロ)したときに起きるもの……だが、ベルセリオスは()()()()()()()を投影したもののはず……!』

「あら? あたしがいつ()()()()()()()()()()()()()()だと言ったのよ?」

『面白いから言わなかっただけだったりして……』

 

 ディムロスの疑問にハロルドが答えると、今まで沈黙していたソーディアン・ベルセリオスも会話に加わる。

 アトワイトとイクティノスもその特徴のある話し方にソーディアン・ベルセリオスの人格が誰なのかに気付く。

 

「そうよ。ソーディアン・ベルセリオスの本当の人格はあ・た・し。時雨(しぐれ)とも相談して、言わないほうが面白いから黙っていたんだけどね♪」

 

 1,000年前の天地戦争の際にソーディアン・ベルセリオスだけは、カーレルの人格ではなく双子の妹であるハロルドの人格を投影していた。

 そして、それはその当時のソーディアンチームにすら打ち明けられていない内容であったのだ。

 しかし、ディムロスはそのことに納得していない様子であった。

 

『だがな──』

「──無駄話はストップ! 今は目の前のこいつ(ミクトラン)をなんとかしないといけないんじゃないの?」

 

 騒ぎの原因であるハロルド本人に諭され、全員が再度ミクトランに向き合う。

 ここまで追い詰められたミクトランは、それでも冷静であった。

 

『……ふん。ベルクラントは使えなくなったようだが、だからといってこれで貴様らが私に勝てる道理などないわ!

1,000年前にオリジナルメンバーが全員揃ってようやく倒せた私に、戦力が1人増えたところで他が雑魚では何の意味も為さぬ!』

「へぇ……案外冷静ね。()()()()()()()()()。今のあたしたちでは、コアクリスタルのままのあんたにすら勝てない」

『それならばどうするというのだ? まさかこの状況で逃げるとでもいうのか?』

「そうね…………()()()()よ! エド!!」

 

 いつの間にかスタン達のところに来ていたエドワードは、陰に隠れてある晶術を詠唱していた。

 ハロルドはエドワードを呼ぶと、リオンと一緒にスタン達のところへ駆け寄る。

 そして、魔法陣がスタン達の下に現れ、エドワードの「”空間転移(テレポート)”!」という言葉とともに、大きな光に包まれてその場にいたミクトラン以外の全員の姿が消え去ったのであった。

 

『……ちっ、逃したか。まぁいい。私は今のうちに元の身体に戻るとしよう。』

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 光が収まり、全員が辺りを見回すとそこはストレイライズ神殿近くの森の中であった。

 ウッドロウが、その場の全員が考えているであろう言葉を口にする。

 

「逃げ切れたのか……?」

「ええ。エドの晶術(テレポート)のおかげでね」

 

 ハロルドが答え、全員が放心しているとスタンが思い出したかのように顔を上げてリオンを見る。

 

「そうだ! リオン!!」

「……なんだ」

「生きて……生きていたんだな!?」

「お前には僕が死んでいるように見えるのか?」

「そうじゃなくて! えっと、エドワードもだけど……生きていてよかった……!」

 

 他のメンバーも安堵した表情を見せる。

 

「勝手に安心するのはいいが……()()()()()()()()()()()をなんとかしたほうがいいんじゃないのか?」

 

 エドワードが気絶しているのを見ると、既にフィリアが膝枕をしていた。

 フィリアが落ち着いている様子から大事はないと安心する一同だったが、()()1()()を見たときにどうすればいいのか迷ってしまっていた。

 エドワードの隣には、ヒューゴ・ジルクリストが横になっていたのだった。

 

「「「…………」」」

『とりあえず近くにエドの隠れ家があるから、そこまで移動しよう。ウッドロウとスタン、エド達を運ぶのを任せてもいいか?』

「……ああ。それでは私がヒューゴを運ぶから、スタン君はエドワード君をお願いしてもいいかな?」

「ええ、分かりました」

 

 エドワードの隠れ家に着いた一同がマリアンを見て再度驚いたというのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「それで時雨(しぐれ)、これからのことなのだが……エドワード君は、丸一日は起きないのだね?」

『ああ。あの晶術(テレポート)は、使い手にかなりの負担を強いるからな』

「それでは今の私達に出来ることから始めよう」

 

 ウッドロウはベッドで寝ているエドワードのいる部屋をちらりと見ながら、時雨(しぐれ)に質問をする。

 そして今後の動きについて全員で相談を始める。

 しかし突然、スタンがディムロスに先程からずっと疑問に思っていたことを口にした。

 

「……なあディムロス」

『なんだスタン?』

似非(えせ)ソーディアンマスターって……どういうことだ?」

「それは私も気になっていましたの。何か大切な意味があるのでは……と」

「どうなんだ、ソーディアンの諸君……?」

 

 スタンの言葉にフィリアとウッドロウも同調する。

 少しの間のあと、クレメンテがその言葉の説明を始める。

 

『……ソーディアンが最大パワーを発揮するのには、必要な条件がある。その条件とは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ』

「それって……」

「あたしがベルセリオスを持ったときに感じたでしょう? ソーディアンとは使い手の精神と完全同調することで、その真の能力を発揮するのよ。

つまり言い方は悪いけど、あんた達はソーディアンの本当の力を全く引き出せていないってわけ」

 

 クレメンテの言葉にフィリアが更に質問をしようとしたため、ハロルドが引き継いで更に詳細な説明をする。

 ウッドロウが納得したような口調で「だからミクトランは私達を偽物呼ばわりしたのか……」と言い、それ以上何も言えずにスタン達は黙ってしまう。

 しかしリオンはため息をつくと、落ち込んでいるスタン達を見て口を開いた。

 

「……ふん、だからどうしたというのだ。ソーディアンの力を発揮できないのであれば、その状態でも旧ソーディアンチームの力を超えればいいだけだ」

『そうだな。全員に足りないのは、単純に力と経験、そして覚悟だけだ』

『そうですよ! それならオリジナルメンバーよりも強くなればいいだけの話です!』

 

 リオンの言葉に時雨(しぐれ)とシャルティエが同調する。

 だが、ルーティが強くなるための方法についての案が浮かばずに全員に質問をする。

 

「でも……そのため私達はどうすればいいのよ?」

『そうよね。何か方法はあるのかしら……?』

「あら、全員忘れてるんじゃないの? あなた達ソーディアンは()()()作られたのよ?」

『……そうか! “ソーディアン研究所”か!』

「そういうこと! あそこなら飛行竜があれば行けるわよ♪」

 

 ハロルドの言葉にディムロスがソーディアン研究所のことを思い出すが、そこに行くための飛行竜をスタンの暴走で壊してしまっていたため、再度振り出しに戻ってしまう。

 

『生体金属のベルセリウムならカルバレイスにあるぞ。それで飛行竜を直せばいい。』

『……時雨(しぐれ)、お前まさか()()()()まで知っていたのか?』

『…………てへぺろ』

『それなら事前に──』

「──ほら! ディムロスもいちいち突っかからないの! とりあえずぱぱっと行って、ささっと取ってきて!」

 

 ハロルドがディムロスと時雨(しぐれ)のやり取りを止めて、飛行竜を直すために必要な素材である生体金属ベルセリウムがあるカルバレイスに行くように指示を出す。

 スタンがカルバレイスへと向かおうと全員に号令をかけたところで、フィリアが話し始める。

 

「あ、あの……」

「ん? どうしたんだい、フィリア?」

「私、ここに残っては……ダメでしょうか……?」

「フィリア……」

 

 リオンだけでなく、エドワードもあの状況では助かっていないであろうと誰もが思っていた。

 フィリアはエドワードを信じたかったのだが、それでも心のどこかでは諦めていた。

 バルバトス戦で自身を助けてくれたエドワード。そして、先の道を切り開いてくれた彼を見殺しにしてしまったのではという罪悪感に(さいな)まれていたのだ。

 

 ベルクラント最奥にて、彼が現れた時は夢ではないのかと思っていた。

 だが、それ以上にフィリアのピンチにはまた現れてくれるのではという期待もあった。

 そして、また助けてくれたのだ。だからこそ、そんなエドワードのためにソーディアンマスターとしての使命よりも、今は少しでも一緒にいたいという気持ちのほうが勝っていた。

 

『だが、今は少しでも早く──』

「──それなら僕が一緒に行けばいいだろう」

 

 ディムロスがフィリアの提案に難色を示したところ、リオンがフィリアの代わりにスタン達に合流して向かうと言う。

 元々誰もがフィリアの気持ちを優先させてあげたいと考えていた。それはディムロスとしても同じである。

 しかし、軍人として今やるべきことをやらなくてはいけないという信念があった。

 

 それは天地戦争時代の彼──ディムロス・ティンバー自身の言動からも読み取れる。

 最愛の人であるアトワイト・エックスがバルバトスにより人質に取られた際、彼はアトワイトを助けるという選択肢を取らず、()()()()()という立場を優先させていた。

 彼は地上軍の全兵士について責任を持っていた。つまり、彼の言動はそれだけの命を預かっているという自覚からゆえのものだった。

 

 そして、リオン・マグナスはディムロス・ティンバーとは違う考えを持っていた。

 彼は最愛の人であるマリアンを人質に取られた際、彼女を守るために世界を危機に晒す陰謀に加担した。

 

 愛する者への気持ちは同じだが、その行動は真逆であった2人。

 それがフィリアへの対応を変えていたのであった。結果として、リオンの案が採用される。

 ディムロスは渋々納得するが、その様子に当時を思い出していたアトワイトは苦笑いをしていた。

 

「ディムロス、あんたの気持ちも分かるけどね。今回は戦力も十分だし、別にいいでしょ。あたしが飛行竜の修理をしている間に、フィリアには念の為ここの護衛をしてもらうわ」

『む、むう。仕方がない。さっさと行くぞ!』

 

 話が終わった段階でクレメンテを通してリトラーへの報告を行い、最終決戦への準備をリトラー側でも行うとのことで作戦開始となった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

(エドさん……私は……)

 

 フィリアはベッドで寝ているエドワードの横に座っていた。

 エドワードを優先したことを後悔しているわけではない。だが、カルバレイスでも自分に出来ることはきっとあった。

 彼女は本当にこの決断で良かったのかを悩んでいたのであった。

 

「フィリア、ちょっといいかしら?」

 

 扉が開けられ、そこから現れたのはハロルド。彼女はフィリアの隣に来ると、寝ているエドワードの髪を愛おしそうに撫でる。

 

「ありがとね。エドワード(この子)のために残ってくれて」

「……え?」

「あたしからするとディムロスとリオンの気持ち、両方とも分かるのよ。ディムロスは1,000年前にリオンと同じ様に恋人であるアトワイトを人質に取られたことがあってね……」

 

 フィリアに1,000年前の出来事を話すハロルド。なぜ急にその話をするのかフィリアには分かっていなかったが、黙って話を聞いていた。

 

「ほんとにディムロス(あいつ)って馬鹿でしょ? 力を貸してくれって言えば、あたし達はいくらでも力を貸したのに。

リオンも同じよ。男ってなんであんなに頑固でプライドが高いのかしらね?」

「……ふふっ。そうですわね」

「でしょー? だからこそちゃんと自分の気持ちを言ってくれたフィリアには嬉しかったのよ。仲間としても、この子の母親としてもね」

 

 笑い合うフィリアとハロルド。その笑顔には含むものは一切なかった。

 

「あたしはさ、エドワード(この子)のためにしてあげられることが少なかった。今回の件が終わったらまた過去に戻ってしまうしね。

だからあなたに言っておきたかったの。エドを、私の大切なこの子のことをよろしくね」

「……はい。こちらこそよろしくお願いします」

 




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第五十一話

 カルバレイスで飛行竜を直すための生体金属ベルセリウムを見つけてきたスタン達一行。

 再会したときにはリオンに対して少なからずわだかまりがあった一同だが、カルバレイスまでの道中で話し合ったのであろう、出発時とは雰囲気があからさまに変わっていた。

 そしてハロルドが飛行竜を修復(魔改造)し、次の目的地はソーディアン研究所となった。

 

「それでは、これからソーディアン全員で向かうのだな」

「いいえ、あたしとエドは行かないわ。あんた達だけで行ってきなさい」

 

 ウッドロウの言葉にハロルドは、彼女とエドワード──スタン達が戻ってくる前に目覚めていた──はソーディアン研究所には向かう必要がないと伝える。

 理由としては、彼女はベルセリオスのオリジナルメンバーであること。そして、時雨(しぐれ)()()()()()()()()()()()からであった。

 

 ソーディアン研究所で行われる強化とは、ソーディアン自身の強化とソーディアンマスターの強化である。

 そうすることでお互いの共鳴度が高まり今よりも強くなるのだが、オリジナルメンバーの場合はこれ以上共鳴度が高まることで人格の相互干渉を引き起こしていまい、オリジナルメンバーの人格崩壊に陥る危険度が増すためであった。

 天地戦争時代、ソーディアンが戦争後に凍結・封印されたのもそのためであった。

 

 そして時雨(しぐれ)は元々与えられていた特典のせいで、これ以上強化できないというデメリットも与えられていたため、エドワード(マスター)が強くなるしかなかった。

 その実力はエドワード個人で既にオリジナルメンバー達に勝るとも劣らない位置にあり、時雨(しぐれ)を持つことで向上する技術も重なり、現ソーディアンチームとはかなりの差があった。

 

 結果として、今回はハロルドとエドワードを除く全員で向かい、終わり次第ラディスロウにて集合ということで話が纏まるのであった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 ラディスロウ中枢部。

 そこにはリトラーとレイモンド以外に、イレーヌとバルック、レイモンドがいた。

 

「ヒューゴ様! よくぞご無事で!」

「レイモンド……随分迷惑を掛けたな……」

 

 先にラディスロウ入りをしていたハロルドとエドワード。そして、ヒューゴ。

 レイモンドが真っ先に駆け寄り、ヒューゴの無事を喜ぶ。

 

「イレーヌ、バルック……お前達にも苦労を掛けてしまった。」

「いえ……そんな……」

「ヒューゴ様がご無事であっただけで……」

 

 時雨(しぐれ)はこの光景を見ていて、ヒューゴがどれだけ慕われている存在だったのかを改めて認識する。

 ミクトランに意識を乗っ取られたとはいえ、それは徐々にであった。もちろんミクトランのカリスマ性があったからこそ、オベロン社創設後も彼らは付いてきていたのもある。

 しかし、ヒューゴのそれまでの積み重ねがなかったとしたら、彼のために命を賭けて動こうとする人はいなかったであろう。

 

 

 そして、彼らのその姿は、スタン達が合流するまで続くのであった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

『それではこれからダイクロフト突入作戦を開始する! これが最後の決戦だ! 全員、気を引き締めて掛かってくれ!』

 

 リトラーの号令のもと、全員が頷く。

 そしてラディスロウが少しずつ空中都市ダイクロフトへ向かって動き出す。

 

「……あんた達は本当に行かなくていいの? ミクトラン(あいつ)に借りがあるんでしょ?」

「ああ、私達ではもう足手まといにしかならないからね。君達に任せるとするよ。……あの子達を頼む」

 

 ハロルドがヒューゴに一緒に行かないのかと尋ねるが、彼は自身やバルック達の力がミクトランには遠く及ばないと分かっていた。

 そして、未だに一言も話すことが出来ていない自分の娘と息子(意地っ張りな2人)を見ながら、優しく微笑む。

 その笑顔には、ミクトランに乗っ取られていたときの面影など一切なかった。

 

「あの2人を子供に持つと苦労するわね。あたしなんてエドが子供で良かったわ。ちょっとニブチンだけど、それもまた可愛いし」

「ふふっ。あれはあれで可愛いものだよ。クリスには本当に苦労を掛けてしまったがな」

「あたしも旦那には迷惑しか掛けてなかったから大丈夫よ。すべてが終わったら、あの子達を奥さんの分まで愛してあげなさいよ」

「……そうだな。私を許してくれるかは分からんが」

「それはきっと大丈夫よ。あの子達は頑固で意地っ張りだけど、根は素直で優しいから。きっと周りの人間に恵まれたのね」

 

 ハロルドの話を聞いて、ヒューゴは「そうだといいな」と少し嬉しそうな顔をした。

 今ヒューゴからルーティ達に声を掛けてしまうと、せっかく集中している彼らの妨げになってしまう可能性がある。

 だからあえて話し掛けていないのだが、彼女たちを見て、そうしていてよかったとヒューゴは感じていたのであった。

 

『それでは気を付けて行ってきてくれ。(みな)の武運を祈る』

「ベルクラントの時はあたしが事前に仕掛けておいたから神の眼の制御は出来ていたけれど、おそらく今はもう()()()()()()()()()()()()()

ミクトラン(あいつ)ももう復活していると思うから、絶対に油断しないようにね」

 

 ラディスロウがダイクロフトの入り口へと到着し、リトラーとハロルドがスタン達に声を掛ける。

 ミクトランが復活したのであろうことは、全員が感じていた。ダイクロフトの方向から禍々しい気配が大きくなっていたからだ。

 そして、スタン達が中枢部からラディスロウの外へ出ようとしたところで、ルーティが立ち止まる。そして目を合わせずヒューゴに話しかける。

 

「あんたが父親だなんてまだ信じられないけど、絶対に生きて帰ってくるから。……そうしたらまた会いに行くわ。

その時は母さんのこと、もう一人の家族(リオン)のこと、ちゃんと聞かせなさいよね」

「…………ああ」

 

 ヒューゴは一言だけ話し、ルーティもまともな返事は期待していなかったのか、そのままスタン達の後を追って行ってしまう。

 その様子を見ていたバルック達は、似たもの親子だと苦笑いをする。

 リオンはスタン達の一番うしろをゆっくりと歩きながらヒューゴとルーティの会話を聞いていたが、一言も話すことはなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 ダイクロフトに突入してからのスタン達は快進撃を続けていた。

 彼らを排除しようと数多のモンスターが出てくるが、苦戦するどころか危なげない戦い方でモンスターを倒していく。

 

『ソーディアン研究所での強化は、ソーディアンとマスターの両方とも上手くいったみたいね』

『ああ。我らもまさかここまで上手くいくとは思っていなかったぞ』

『そうね。私達にもまだこんなに強くなれる要素があったなんて驚きだわ』

『ですね! 坊っちゃんも前よりも鋭くなっていて嬉しいです!』

『たしかにフィリアの晶術も威力がかなり上がったのう』

『ああ。ウッドロウもファンダリア王家でも過去に類を見ない実力を身に付けてくれたからな』

『ま、それでもうちの息子(エド)が一番だけどな!』

 

 ソーディアンの面々が研究所での強化と各マスターについて、()()()()使()()()話していた。

 最後の時雨(しぐれ)の親バカ発言を無視し、本題に入る。

 

『それで……神の眼のコントロールは出来そうなのか?』

『直接見てみないと分からないわね。ミクトランのことだから、操作のロックか何かを掛けている可能性もあるわ』

『ベルセリオス、そうなるとハロルド(あなた)達でも難しくなるのかしら?』

『ええ……時雨(しぐれ)が言っていたのが本当なら、空中都市が落ちるまでに制御権を取り戻すには時間がないわね』

『そうなると、やはり()()しか方法はないということかのう』

『それが俺達ソーディアンとしての宿命なのかもしれないな……』

『……無視かよ。まあ、それ以外にも気を付けなければいけないのがあるぞ。リオンやヒューゴ達を助けてしまったことで、もう何が起こるか分からないからな。

最悪ソーディアンチームが全滅するような強敵が出てくる可能性もある。だからまずはミクトランに確実に勝つことを考えるぞ』

 

 ディムロス達はミクトランに勝利した後の神の眼の処置について話し合っていたが、時雨(しぐれ)だけは自身が起こしてしまった歴史の変化に対して、もはや何が起こるか分からないと警鐘を鳴らしていた。

 それほどグレバム戦のときの出来事が頭に残っていたのだ。イザーク王の命を助けてイクティノスが壊れないようにしただけで、グレバムがフェザーダオスに変化してしまった。

 リオンやシャルティエ、ヒューゴ達を助けたことで、それ以上のことが起こってもおかしくはない。ただ、それでも時雨(しぐれ)は自分のやったことに対して、少しの後悔もしていなかった。

 

(カーレルを助けると決めたときから、俺は覚悟してきたんだ。それならば絶対に全員を救ってみせるさ……)

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 ダイクロフトを進み、後半の第三層に差し掛かっていた。

 ここまで何も問題なく進むことが出来ていたが、スタン達は油断することなく進んでいた。

 そう。()()()()()()()()()

 

「みんな! ()()()!!」

「ブルゥァァァアアア!!!!」

 

 前触れもなく仕掛けられた上空から攻撃を、スタン達は危なげなく躱す。

 そして追撃に備えて全員が武器を構えるのだった。

 

「よぉぉぉく躱したなぁぁあ!!」

「バルバトス!?」

 

 現れた人物が、オベロン社廃工場でソーディアンチームを全滅寸前まで追い込んだバルバトス・ゲーティアであることに驚くスタン。

 バルバトスはゆっくりと地面に刺さった斧を持ち上げると、笑みを浮かべて彼らを見る。

 

「お前達の命運もここまでだァァ!! 更なる強さを手に入れたこの俺様に──」

 

 バルバトスが話している途中に2人の人間が前に進んでいく。

 それはエドワードとリオンであった。

 

「エドワード! リオン!」

「スタン、ここは先に行け」

「コイツには僕も借りがあるんでな。僕たちに任せてもらおう」

「でも……2人で大丈夫なのか!?」

 

 2人でバルバトスと戦うと言い出すエドワードとリオンに心配するスタン。

 ソーディアン研究所で強くなったスタンだからこそ、今のバルバトスが以前のそれとは比べ物にならないほどの強さを身に付けたことに気付いていた。

 そのことは他のメンバーも同じであった。

 

「スタン、お前誰に言っているんだよ」

「ふん。お前達に心配されるほど僕たちは弱くないぞ」

「だけど──」

「──スタン! お前達にはお前達にしか出来ないことがあるだろう! ……それとも俺達をそんなに信用できないか?」

 

 スタンはエドワードの叱責に一瞬俯くが、すぐに顔を上げて「絶対に死ぬなよ!」と言い、他のメンバーと共に走っていく。

 その際にエドワードとフィリアは目を合わせるが、お互いにかすかに笑っただけで言葉を交わすことはなかった。

 そして、後ろに残っている気配を察して声を掛ける。

 

「残ってくれたんですね、()()()

「あら、ついにエドもあたしのことを照れずに母さんって呼んでくれたわね」

「まぁこれだけ一緒にいれば慣れますよ。それよりもスタン達と一緒に行かなくていいんですか?」

「そうね。彼らならもう大丈夫でしょ。それなら可愛い息子(エド)の勇姿をのんびり見ている方がいいわ」

 

 軽口を叩き合う親子には、余裕が感じられていた。

 決して油断はしていなかったが、それでもこの程度の会話をするだけの余裕はまだあったのだ。

 先程自身のセリフを遮られたバルバトスは、黙ってそれを見ていたが、会話が終わったのを確認すると口を開く。

 

「親子の最後の会話は終わったかぁぁ?」

「最後じゃないけどな」

「ついに……ついにお前を倒すときが来たのだァァァ!!! 俺は、俺はお前を倒して、最強の称号を手に入れるのだぁぁ!!」

「そうだな。いい加減、俺もお前の奇行に付き合うのもうんざりしてきたところだ。これで終わりにしようか」

「…………僕を無視するな」

 

 バルバトスは斧を構えて全身に赤い闘気を纏うと、エドワード達目がけて突撃するのであった。

 




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第五十二話

 バルバトスとエドワード、リオンの闘いは激しさを増していた。

 そして、バルバトスの強さは確かに以前とは比べ物にならないほど強くなっていた。

 

灼熱(しゃくねつ)のぉぉぉぉ! バーンストライク!!!」

 

 エドワード達から少しでも距離が取れたと判断すると、中級晶術や上級晶術を無詠唱で連発してくる。

 今も空中から火炎弾を無数に落とし、エドワード達に連携をさせないように動いていた。

 

バルバトス(あいつ)……確かに強くなっているな。戦い方が前よりも上手くなってやがる』

『エド、坊っちゃん! どうするんですか!?』

「ふん、あの程度では僕の敵ではない」

「……の割には苦戦してるけどな!」

 

 火炎弾を避けながら対策を考えるエドワード達。

 バーンストライクの隙間を縫って、バルバトスがリオンに接近をしてくる。

 リオンは舌打ちをしながら体勢を立て直そうとするが、バルバトスの攻撃の方が早く、吹き飛ばされて壁に激突してしまう。

 

「リオン!」

「……おやぁぁ? 他人(ひと)を心配している暇があるのかなァァァ?」

 

 リオンを吹き飛ばしたバルバトスは、すぐさまエドワードに突撃をして斧を横薙ぎして攻撃をする。

 エドワードはしゃがみながらそれを避けるが、それを読んでいたのか、バルバトスは右足で蹴りを放つ。

 それを時雨(しぐれ)で防ぎ、間一髪直撃を避けるが、蹴りの勢いで上空に上げられてしまう。

 

「上空なら避けられまい! 喰らえぇぇ!! クレイズゥゥゥブレイドォォォ!!!!」

 

(やべぇ! これは直撃する(当たる)!)

 

 バルバトスは斧をエドワードへ向けると、斧の先端へ闘気を集中して光線を放つ。

 空中で身動きが取れなくなっていたエドワードは直撃することを確信し、少しでもダメージを減らそうと防御態勢を取る。

 しかし光線が当たる直前でリオンがエドワードを蹴り飛ばし、直撃をなんとか防ぐことに成功したのであった。

 

 エドワードは地面に落ちる直前に受け身を取ってすぐに立ち上がると、時雨(しぐれ)を構えながらバルバトスを見据えた。

 その様子を見たバルバトスは、優越感に浸ったような笑みを浮かべていた。

 

「おやぁぁぁ? 今のは危なかったなぁ?」

「……ちっ」

「そろそろ本気で戦ったらどうだぁ? そして、あのときに見せた技を使ってみたらどうなんだぁぁぁいぃぃ?」

「…………あのときの技? エド、貴様もしかしてまだ僕に隠している技があるのか?」

 

 バルバトスの言葉に反応したのはリオンだった。

 エドワードは、リオンの言葉に苦笑いをする。

 

 エドワードと同じ王国客員剣士として切磋琢磨していたリオンは、気が付くと新技を開発しているのになかなか見せようとしない彼に対していつも苛立(いらだ)ちを覚えていた。

 新技をエドワードが開発しているのは、リオンとの模擬戦に勝つため。なかなか見せようとしなかったのは、一度見せるとすぐにリオンは対応し、更に強くなってくるためであった。

 もちろんリオンもそれは分かっている。だからこそ自身が強くなるために、エドワードの新技を見て技術を盗み、最終的に彼を越える強さを身に付けようと思っていたのだ。

 

「…………ったく。せっかく対リオンのために作った新技だっていうのに。いつもバルバトス(お前)にばかり使っている気がするよ」

 

 エドワードは深呼吸すると、右肩に担いで、右足のつま先を地面にトントンとした。

 そして、上下にステップを踏み出す。

 

「前回は3()()()()までしか見せていなかったな。それとリオン、この場は俺が終わらせてしまうけど……それでもいいか?」

「……ふん。お手並み拝見といこうか。」

 

 リオンはシャルティエを仕舞うと、ハロルドのそばまで歩いていき、腕を組んでエドワードとバルバトスの戦いを見守ることにした。

 バルバトスは前回の続きが出来ることに喜びを隠さなかった。

 

「ついに来たなぁぁ! 前回のようにはいかないぞぉぉぉ!!」

「じゃあ……3歩手前から行こうか」

 

 エドワードが呟いた瞬間、その姿を消す。リオンは目を見開き、エドワードのスピードに驚く。

 しかしバルバトスは笑みを崩さなかった。彼の右横に現れて時雨(しぐれ)で斬りかかるエドワードに対し、右に振り向いたあとに左手に持っていた斧でその攻撃を防ぐ。そのくらいの余裕が今のバルバトスにはあった。

 鍔迫り合いで火花が散るが、バルバトスは手に力を込め、エドワードは反撃が来ると察知して背後に飛び、数mほど後ろに下がる。

 

「……遅いなぁぁ。遅いぞ、エドワァァド・シュリンプゥゥゥ!!」

「ふう。やっぱり3歩手前では防がれるか。次は2歩手前で行くぞ」

 

 バルバトスはエドワードの言葉を前回のやり取りから予測していた。

 5歩手前という言葉から始まり、数字が低くなる度に彼のスピードが格段に速くなっていた。

 そして、5歩手前と4歩手前、4歩手前と3歩手前のスピードの上がり方がほとんど同じだったため、()()()()()()()()()()と思ってしまっていた。

 

「……な!? なんだとぉぉぉ!?」

 

 2歩手前という言葉とともに再度姿を消したエドワード。

 しかし、バルバトスはそのスピードを追い切れていなかった。薄皮一枚で自身の肌が無数に切り刻まれていることに気付いたのは、エドワードが姿を現してからだった。

 

「……今のが見えていなかったのか? よくそれで俺に挑もうと思ったな」

「ぬ、ぬぅぅぅぅぅう!!」

「最後に見せてやるよ。俺の最終奥義(とっておき)をな」

 

 そう言いながら時雨(しぐれ)を鞘に仕舞い、やや前傾姿勢になり、右足を前に出して右手は柄の前に持ってくる。

 そしてその構え(抜刀術)のままバルバトスに向かっていった。

 

「は? ふははははぁぁぁ!!! なんだそのスピードはぁぁ! さっきの方が速いではないかぁぁぁ!?!」

 

 バルバトスは先程よりも遅いスピードで向かってくるエドワードを笑い、斧で薙ぎ払った。

 ────しかし、斧に当たったはずのエドワードは蜃気楼のように消えてしまう。

 

「な……!?」

 

 バルバトスが驚きの声を上げたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 目の前に、エドワードが無数に現れたのだ。いや、目の前だけではない。横や背後、空中にもエドワードが現れ、攻撃をしても残像のように消えてしまう。

 これにはさすがのリオンも驚きを隠せなかった。

 

「エドが()()()()が故に、残像のように見えてしまっているのか……」

「そうね。そしてあれが天地戦争時代、天上軍に最も恐れられた時雨(しぐれ)究極の斬撃奥義(ブラストキャリバー)────」

 

 

 

 

 

 

 ──────爪竜斬光剣・時雨(そうりゅうざんこうけん・しぐれ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 無数に現れたエドワードが青白く光ると、その全てがバルバトスへと向かっていく。

 そして、()()()エドワードがバルバトスの背後に現れると、いつの間にか抜いていた時雨(しぐれ)をゆっくりと鞘に納めてリオン達のところへ歩いていく。

 

「エド、お疲れ様」

「…………エド、もしかしてあれを僕に使おうとしていたのか?」

「よし、先を急ごう」

「おい、答えろ!」

 

 顔を引きつらせているリオンの言葉を無視して、エドワードはハロルドと共に先に向かったスタンに追い付くべく走りだす。

 それを追いかけながらリオンは大声でエドワードを非難するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エドワード達が去ってから少しの時間が経った頃。

 そこには立ち尽くしているバルバトスと、まるで聖女のような光を纏った美しい女性がいた。

 

『この状態では、どうやら蘇生は出来なさそうですね……。エドワード・シュリンプ、まさかここまでとは。

もしこれからの()()の邪魔になるのであれば、その前に消すことも考えておきましょう』

 

 そう言い残し、女性は姿を消す。

 その直後、バルバトスは()()()()()()()()()()()()()()()()の肉片と化した。

 

 

 バルバトス・ゲーティア。天地戦争時代、強さを求めるあまりに地上軍を裏切った狂戦士。

 ディムロスと互角の強さを持ち、アトワイトに恋愛感情を抱いていたこともあり、暴走を繰り返す。

 何かのきっかけがあれば、彼を救うことは出来たのであろうか。

 

 

 

 それは、誰にも分からない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 ダイクロフト最奥。

 そこにはミクトランと現ソーディアンチームが戦っていた。

 

「な……なんだと……。ま、まさかこの私が……」

 

 エドワード達がスタンに追いついたとき、既に勝負は決していた。

 神の眼の力で異形の姿となったミクトランは地面に倒れ、最後の瞬間を迎えていた。

 

「やった……やったぞ……」

「終わったみたいね……」

 

 スタンとルーティの言葉に全員が頷く。

 

「そっちもミクトランを倒したみたいだな」

「エドさん!!」

 

 エドワード達の姿を確認したフィリアは、すぐさま彼のもとに駆け寄り抱きしめる。

 だがすぐに自分の行動に気づいた彼女は「ご、ごめんなさい」と言いながら、恥ずかしそうに離れた。

 

「大丈夫だよ、フィリア。それよりもあとは神の眼を──」

 

 エドワードが神の眼を破壊しようと言おうとしたところで、大きな揺れが起こる。

 

「この揺れは……?」

「きっとダイクロフトが降下を始めているのよ」

 

 ミクトランの意思によって神の眼を通じて浮上していた空中都市。

 彼がいなくなったことで、目的を失い、地上に向かって降下し始めていた。

 

「え! なんとかならないのか!?」

「…………う〜ん、やっぱりミクトランによって()()()()()()されているわね。このままだと降下を止めるのは無理だわ」

 

 神の眼を調べたハロルドは軽い口調でスタンの言葉に返答する。

 このままでは全ての空中都市が重力によって落ちていき、場所によっては地上に甚大な被害を与えてしまう。

 

「一応、ベルクラントの発射は一発のみで抑えたから、形成されている外殻大地が落ちても最悪は避けられるでしょうけどね」

『それでも地上にはかなりの被害が出るじゃろうな』

「それじゃあ元も子もないじゃない! ここまで来た意味がないわよ!」

 

 ハロルドとクレメンテの冷静な分析にルーティは感情をぶつける。

 フィリアも動揺していたが、「なんとかならないのですか?」となるべく平静を保ちつつ質問する。

 

『やっぱりアレしかないか……』

「おい、ディムロス! アレってなんだよ!?」

『…………みんな、話がある。神の眼の前へ行ってくれ』

 

 ディムロスの声に全員が神の眼のところへ向かうのであった。

 




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第五十三話

 ディムロスの指示で全員が神の眼の前に立っていた。

 

「それで何をするんだよ?」

「ここからはあたしが説明するわね。今から()()()()()()()()()。」

「破壊って……元々そうしようとしていたじゃないか!」

「ええ、これからやることはちょっとだけ違うのよ。これからミクトランによってロックされている神の眼を、ソーディアンを使って解除するわ。

そして、神の眼を制御して空中都市と外殻を海底に下ろした後に、()()()()()()()()するわ。」

 

 ハロルドが全員に手順の説明を始める。

 スタン達がやることはソーディアンを神の眼に刺すだけだと話すと、ウッドロウが質問をする。

 

「手順は分かった。だが、ソーディアンを神の眼に刺すだけで本当に制御出来るようになるのかね?」

「ええ。ここにはソーディアンが7本全てあるわ。しかもそのうち5本はソーディアン研究所で強化されている。

そこまでお膳立てされていれば、あとはあたしがやってやるわよ」

「…………それで()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ウッドロウの質問にハロルドを初め、ソーディアン全員が黙ってしまう。

 スタン以外の全員がその態度で何が起こるのかを察するが、まだ状況を把握していないスタンはディムロスに質問する。

 

「なぁディムロス。一体どういうことなんだ?」

『…………。神の眼に我らを刺して神の眼を制御と破壊は出来るであろう。だが、恐らくその影響で()()()()()()()だろう』

『でもそれで地上の被害は食い止められるわ』

「そんな……!」

「あんたたち、まさか最初からその気で……」

「私達の決心を鈍らせないためか……?」

 

 スタンも状況を理解し、ディムロス達があくまでも最後の手段として残していたことだと分かる。

 それでも納得できないスタンは「……そんなのはダメだ」とディムロス達の考えを否定する。

 

「せっかくここまで来たのに、最後の最後でそんなのありかよ! 一緒に元の世界へ帰ろう! 何か他に手はあるはずだ!」

『……ええい! この大馬鹿者が!』

「……!」

『お前が決意を鈍らせることで、地上が滅びるかもしれんのだぞ!』

「でも──」

『──ソーディアンマスターとして、為すべきことを為せ! スタン!』

「くっ……!」

 

 ディムロスの言葉にスタンは何も言えなくなる。

 そして、更に揺れが激しくなっていく。空中都市が地面に落ち始めていたのだった。

 そこで誰も動こうとしなかったのを見かねたウッドロウが「それでは私から行こう」と神の眼の前に立ち、イクティノスを構える。

 

「私との付き合いは短かったが、よく今まで我が王家に仕えてくれた。感謝するぞ、イクティノス」

『ファンダリアに栄光あれ……ウッドロウに幸あれ』

 

 ウッドロウはイクティノスを神の眼に突き刺した。

 その後、フィリア、ルーティと続き、リオンが前に出る。

 

「…………許せ、シャル」

『坊っちゃん……いいんですよ。僕らは長く生きすぎたんです。それに正直言って、坊っちゃんのお守りにも疲れましたし……ね』

「ちょうどいい。僕もお前のお小言に付き合いきれないと思っていたところだ」

『じゃあそういうことで……早いとこ済ませましょう。ああ、それと……』

「なんだ? まだあるのか?」

『坊っちゃんと一緒にいて確かに疲れはしましたけど……結構、楽しかったですよ』

「…………僕もだ。今まで……ありがとう」

 

 リオンはシャルティエを神の眼に刺す。

 スタンもディムロスとの別れを終え、エドワードが前に出る。

 

「……まったく。全部教えてくれたと思ったのに、()()()()隠すなんて酷いやつだな」

『あっはっは! エドは最後まで俺の手のひらで踊っていたな!』

「お前と出会ってから2年も経っていないけど……今までで一番濃い人生だったよ」

『そうか……それは良かったぞ』

「ありがとう……()()()

『ああ。それじゃあな』

 

 エドワードは時雨(しぐれ)を突き刺し、ハロルドを見る。

 ハロルドは何も言わずにベルセリオスを神の眼に刺していた。

 

「じゃああんた達は早いとこラディスロウで脱出しなさい。あとはあたしに任せといて」

「……え?」

「当たり前じゃない。あたしがいなかったら、誰が神の眼を操作するのよ」

 

 驚くエドワードを横目に、ハロルドは晶術で壁に大穴を空ける。

 そして、そこからラディスロウが侵入してくるのであった。

 

「ほら、早くラディスロウに乗りなさい」

「だ、だけど、母さんは神の眼を1人で操作したあとはどうするつも──」

「あたしは大丈夫よ。時雨(しぐれ)英霊召喚(サモン・エージェント)の効果を切ればいいだけだから。そうしたら元の世界へ帰れるからね」

 

 ハロルドは優しく微笑みながら、泣きそうになっているエドワードの頬を撫でる。

 

「ほら、そんな顔しないの。あたしもあなたの成長した顔を見ることが出来て良かったと思っているのよ」

「…………」

「あんたにはあんなに素敵な仲間がいるじゃない。それに素敵な彼女もね♪」

 

 エドワードが後ろを振り返ると、スタン達がラディスロウの前でエドワードを待っていた。

 フィリアは親子の別れに悪いと思いつつも、エドワードの後ろに控えていた。

 そして、ハロルドはフィリアの方を見る。

 

「フィリア」

「……はい」

「あたしの可愛い息子をお願いね。たくさん幸せにしてもらっちゃいなさい」

「…………はい。ありがとうございます」

「ほら、エドもいつまでもそんな顔していないでってば。最後くらいあなたの笑顔を見せてちょうだい」

 

 エドワードは一度俯き、目から溢れ出そうな涙を拭うと、精一杯の笑顔でハロルドに別れを告げる。

 その顔を見たハロルドは頷き、「やっぱりあんたはあたし似のイケメンね♪」と満面の笑みを浮かべた。

 その後、彼女はラディスロウに乗り込んで脱出したエドワード達が見えなくなるまで、黙って見送ったのだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 ソーディアンの力を使い神の眼の制御が出来るようになったハロルドは、大地に少しも影響がないように慎重に空中都市と外殻を海底へと沈めた。

 その際に、ラディスロウが侵入できるように晶術で空けた穴は、神の眼を操作して外殻を使い塞ぐことで海水が流れ込まないようにしていた。

 神の眼を自己破壊するようにプログラムしたハロルドは息をつく。

 

「さてと、これで全部おしまいだわね」

『何から何まですまないな』

「いいわよ。あたしとあなたの仲でしょ? ……っと、そろそろあたしも過去に戻ったほうがよさそうね」

『ああ……』

「なによ、あなたまでそんな顔するの?」

『……俺の顔は分からないだろ』

「何言ってるのよ。あなたがどんな顔をしているかくらい、刀になっていたってあたしには分かるんだから」

『そうか……そうだよな。本当にありがとう』

「だから──」

『──それでも言わせてくれ。向こうに戻っても元気でな……()()()

 

 時雨(しぐれ)は礼を言いながら、英霊召喚(サモン・エージェント)の効果を切る。

 いきなり()()()()()()()()()()は驚いた顔をするが、すぐに笑顔で「さよなら、時雨(しぐれ)……」と言ってゆっくりと消えていった。

 その場には、崩壊を始めている神の眼とソーディアン達が残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……これで終わりじゃないんだろ? 時雨(しぐれ)よ』

『…………ふふふふ。はっはっはっはっは! ディムロス君、よく気付いたな!』

『なんじゃ、まだなにかあるのか?』

『なによ、ディムロスだけ分かっているの?』

『また時雨(しぐれ)()()が始まるのか?』

時雨(しぐれ)はいつもそうですよね……』

『まったく……彼女(エスト)が戻ってようやくまともに喋れるようになったと思ったら、一体何をするのよ?』

 

 ソーディアン達が笑う時雨(しぐれ)に対して、また何かをやるのだろうと呆れた声を出す。

 もちろんそこにはソーディアン・ベルセリオスもいた。

 

『俺は全員を救うためにわざわざ来ているんだからな。それはソーディアンになっても変わらないのさ』

『……一体何をする気なんだ?』

『神の眼を破壊したあと、()()()()()()()()()()()()()する』

『……なっ!? そんなことが可能なのか!?』

 

 想像していなかったことを突然言い出す時雨(しぐれ)に全員が驚く。

 時雨(しぐれ)は、『これが最後の()()なんだ』と言いながら、笑っていた。

 

『でもコアクリスタルだけ転移って……大丈夫なのか?』

『そうよ、変なところに移動しても身動き取れなくて意味なくなるわよ?』

『大丈夫。その辺もきちんと考慮しているから』

『一体、どこに転移するのじゃ?』

『それは…………』

 

 時雨(しぐれ)の言葉が終わる前に神の眼は崩壊を始め、全員(ソーディアン)のコアクリスタルだけがその場から消えるのであった。

 




次話が最終話です。

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最終話

 第二次天地戦争から1年後。スタン達はリーネ村にて集合していた。

 この1年で、スタンは既に寝坊する癖を直しており、妹のリリスにつまらないと言われていた。

 全員がその場に集まって近況を話していると、突然ルーティがスタンの横に行き、話し始める。

 

「はいはーい! それでは私とスタンから報告があります!」

「……え?」

「なによ、1年前に話したことをもう忘れちゃったっての?」

「いや、覚えてるけど……あれから何も返事してくれなかったから……」

 

 グレバムを倒して別れた際、スタンはルーティに「一緒に旅をしよう」と誘っていたのだった。

 そのときは返事を保留にしていたルーティだったが、この場で返事をしようと決めていたのであった。

 

「私、ルーティ・カトレットと横にいるスタン・エルロンは今日から一緒に旅をすることになりました!」

「えええっ!」

「この先どうなるか分かりませんが、今後ともよろしくお願いしまっす!」

 

 急なことに驚く全員に対し、ルーティはスタンにも挨拶するように促す。

 そして挨拶を聞いたあと、祝福の声を貰うのであった。

 

「そういえば! エドワードとフィリアは結婚するんだって?」

「……え!? そうなの!?」

 

 突然のルーティの暴露に全員が更に驚く。

 エドワードはリオンにも話していないことをルーティが知っていることに驚き、フィリアを見る。

 フィリアは両手と首を横に振って、自分が漏らしたわけではないと否定する。

 

「どこでその情報知ったんだよ……まだ誰にも言ってなかったのに」

「別にいいじゃない♪ めでたいことはめでたいってことで!」

 

 高笑いをするルーティ。

 ようやく状況を飲み込んだ全員──コングマンを除く──が、エドワード達にお祝いの言葉を伝え、そのままエルロン家でパーティーをすることとなった。

 スタンはルーティに「今日から旅に行くんじゃないのか?」と尋ねるが、「そんなもの明日からでいいじゃない」と言われ、それもそうかと素直に受け入れる。

 コングマンはずっと家の外で固まっていたが、2人のお祝いパーティーは深夜まで続くのであった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 その数日後、クレスタの町。

 奥にある孤児院には子供達と遊ぶ1人の男性がいた。

 その男性に孤児院の院長が話しかける。

 

「いつもありがとうございます、()()()()()()

「いえいえ、私もここでお世話になっていますし、ルーティもお世話になっていたのでね。当たり前のことをしているだけですよ」

 

 第二次天地戦争の終結後、全員が困ったのはヒューゴ達の処遇だった。

 ミクトランに操られていたとはいえ、世界中で地上の民の裏切り者として知られてしまっていたからだ。

 各国のトップ層は事情を知って受け入れていたが、それを全ての人達に周知して受け入れさせるのは困難である。

 

 そこで、クレスタの孤児院の院長にルーティから事情を話し、そこでほとぼりが冷めるまで過ごすこととなった。

 バルックはつい先日カルバレイスへと去っていったが、イレーヌとレンブラントはその場に残り、クレスタから少しずつ貧富の差を無くしていこうとゆっくりとではあるが動き始めていた。

 

「ヒューゴ様も落ち着いたわね」

「ああ。昔のような優しいお顔に戻ってくれて、わしも嬉しいよ」

「ルーティやリオン君とも少しずつだけど、和解出来てきて良かったわよね」

 

 ヒューゴとルーティ達は和解に時間が掛かっていた。

 それはルーティとリオン側の性格に問題があった。事情が分かっていても、すぐに受け入れるのはどうしても出来なかったのだ。

 もちろんルーティとリオンの姉弟としての間についてもそれは同様であった。

 なにか話そうとするとすぐに喧嘩になってしまうため、むしろヒューゴとのことよりも深刻なのかもしれない。

 

 ただ、それも時間の問題だとイレーヌは思っていた。

 ルーティがスタンと旅に出る際に、リオンとのことをヒューゴに相談しているのを彼女は見ていたからだ。

 そのあとに嬉しそうな顔をしてアドバイスをするヒューゴを思い出して、彼女はふふっと笑ってしまった。

 

(あのとき……そのまま死のうとしなくて良かったな)

 

 イレーヌは笑みを浮かべたまま、晴れた空を見上げていたのであった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 リーネ村での再会から半年後。ダリルシェイドでは結婚式が開かれていた。

 そこでは、エドワード・シュリンプ、フィリア・フィリスの両名が主役となっていた。

 

「いいなぁ……フィリアさん……」

 

 純白のドレスに身を包んだフィリアを羨ましそうな顔で見ていたのはリリス・エルロンだった。

 彼女も年頃の女性であり、結婚に憧れてもおかしくない年齢である。

 普段は田舎娘のような格好をしているが、ドレスを身にまとい、化粧をしている今の彼女は、フィリアにも決して負けないほどの美しさがあった。

 

 実際に結婚式に参加しているエドワードの同僚などからは注目を集めていた。

 だが、彼女は()()()()()()()のため、結婚はまだまだ先であろう。

 

「ねぇ、スタン」

「ん? なんだルーティ?」

「フィリアを見てたら羨ましくなっちゃったわ。……私達も結婚する?」

「え!? なななな!」

「なによ、嫌なの?」

「そうじゃなくて! そんな簡単に決めてもいいことじゃないだろ?」

「別にいいじゃないのよ。私達いつも一緒にいるんだし、もう結婚しているみたいなもんじゃない」

「…………まぁそれもそうかぁ」

 

 リリスとは違う場所でフィリアを眺めていたルーティとスタン。

 まさかのルーティからのプロポーズにスタンは慌てるが、ルーティの説得により一瞬にしてそのプロポーズを受け入れる。

 スタン・エルロン。恐らくこの物語の中で一番チョロい存在であろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 結婚式が終わり、家に帰ってきたリリス・エルロン。

 フィリアの姿を思い出しては、自分も同じくウェディングドレスを着ている姿を想像していたが、それも1ヶ月経つと落ち着いていた。

 今日も買い物を終えたリリスは村の中を散歩していたのだが、彼女は村の人から人気があり、いつも周りの皆から話し掛けられる。

 

「あら、リリスちゃん、いいところに来たわね。実はいいお見合いの話が──」

「──あ、あはは! おばさん、それはまた今度ね!」

 

「リリスちゃん、この果物持っていってよ。今日の食後のデザートにでも使ってくんな!」

「あ! おじさん、いつもありがとう♪」

 

「よ! リリスちゃん! 今日も可愛いねぇ!」

「ありがと♪」

 

「リリスお姉ちゃん! 遊ぼうよぉ!」

「あとでねぇ♪」

 

「あ、リリス〜! ちょっと手を貸してくれない〜? あんただけが頼りなのよぉ〜!」

「もうしょうがないなぁ〜♪ そこまで言われたら断れないじゃない〜!」

 

「お、リリスちゃん! 今夜も君の魅惑のボディを期待してるよ〜!」

「もう! まっかせといてよ♪ 何から何まで余すことなくばーーん! ……って何言わせんのよ!

あ! あなたいつもうちのお風呂を覗いている人ーーーっ!!!」

「えへへ……」

「こら! 待ちなさーーーーい!!! 今日という今日は許さないんだからーー!!」

 

 覗き魔は笑いながら走って逃げていく。

 リリスは怒りながらもその後を追いかけていくのであった。

 

 

 

 村の外まで追いかけていったリリスだが、覗き魔の足は物凄い速く、彼女の足を持ってしても見失ってしまう。

 辺りを見回す彼女だったが、ついに覗き魔を発見することは出来なかった。

 

「はぁ……はぁ……どこに行ったのかしら!? 捕まえたらただじゃおかないんだから…………って()()は何かしら?」

 

 リリスは道の外れに太陽の光に反射して光っている物を発見する。

 そして、そこからは怒鳴り声が聞こえるのであった。

 

『何が俺に任せておけだ! 時雨(しぐれ)はいつもこうじゃないか!』

『あ、あれれ〜?』

『あれれ〜? とか言っている場合じゃないだろ! これからどうするんだ!!』

『本当よね』

『本当じゃな』

『本当だな』

『本当ですよ』

『さすがにこれは酷いわね』

 

 リリスが言い争いをしているレンズと思しき物をじっと眺めていると、その1つがリリスに気付いて話し掛けてくる。

 

『……あ! ほら合ってた! ちゃんとスタンの妹のリリスのところに転移できたじゃないか!』

「あなた達……だれ? お兄ちゃんのこと知っているの?」

『む、むうう。確かにスタンの妹だな。覚えているか? 我はスタンのソーディアンであるディムロスだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え? えぇぇぇええ!?」

 

 

 

 

 

〜fin〜

 




以上で、『テイルズオブデスティニー〜7人目のソーディアンマスター〜』を完結とさせていただきます。
ご愛読、本当にありがとうございました!

いやぁ……ここまでの道のり、なかなか大変でしたね。

時雨(しぐれ)が助けたいと思える人達を助けつつも、上手くハッピーエンドに持っていくまで考えるのは結構時間掛かりました。
話を考えるのもですけど、文章を作ったり、それを何度も読み返して修正したりする作業もなかなか大変でした。
特に修正はもう苦行です。何度も何度も修正していると、泣きたくなってきます。

でもそれも含めてとても楽しかったです!
まぁ中途半端な作品を投稿したくないということもあったので、最低限私が満足出来る内容には仕上げられたかなとは思っています。

一応、最後はテイルズオブファンダムVol.1の『リリス、がんばります!』に繋がるようにしています。
続きはどうしようかなぁ……完結にはしますけど、要望があれば後日談とかここまでの話で描かれていなかった部分を間話で書くかもしれません。


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後日譚 リリス、頑張ります!
第一話 リリス、頑張ります!


番外編、はじめました。
更新は気長にお待ちくださいませ!

数話の短編で終わると思います。



「……え? えぇぇぇええ!?」

 

 リリス・エルロンはいきなりのことにまだ頭が追いついていないようであった。

 兄であるスタン・エルロンからは「ディムロスは世界を救うために犠牲になったんだ……」と言われて俯かれてしまったため、それ以上何があったのかを聞くことは出来ていなかった。

 だから彼女の中ではディムロス達とは二度と会えないものだと思っていたのだ。

 

『おい、聞こえているのか? スタンの妹よ』

「え、あ、うん。聞こえてるけど……本当にディムロスなの?」

『もちろんだ! こんな姿になってしまったが、我は間違いなくディムロスだ』

 

 ディムロスとリリスは、スタンがリーネ村に寄った際に少しだけ一緒にいたことがあったため、顔見知りであった。

 その際、リリスにもソーディアンマスターとしての才能があると知り、スタンは「マスター選びを早まったか……」とディムロスに言われてしまうというエピソードもあった。

 

「ねえねえ、なんでこんなところにいるの?」

 

 リリスは至極当然の質問をした。ダイクロフトでソーディアンが犠牲になったというところまでは知っていたが、それがなぜこんなところにいるのか皆目検討もつかなかったためである。

 ディムロスは事の経緯を彼女に詳しく説明した。

 

「……なるほどねぇ。で、どの子が時雨(しぐれ)なの?」

『どの子って……俺だけど、どうしたんだ?』

 

 全員コアクリスタルのため、判別が付きにくい見た目をしている。そのため時雨(しぐれ)が返事をしたところ、嬉しそうな顔をして時雨(しぐれ)のコアクリスタルを持ち上げる。

 

『お、おっと……』

「あなたが時雨(しぐれ)ね! 惜しかったなぁ! もう少し早ければエドワードさんとフィリアさんの結婚式を見ることが出来たのにー」

『な、なんだって!?』

 

 そしてその声に反応したのは時雨(しぐれ)だけではなかった。

 

『なんと! それはめでたいのう!』

『思ったよりも早い結婚だったわね』

 

 フィリアのソーディアンであるクレメンテと、エドワードの母親であるハロルド──現在はソーディアン・ベルセリオスである。

 

「まぁその辺はおいおい本人達から聞いてもらうとして、みんなはこれからそれぞれのマスターに会いに行くってことでいいの?」

 

 リリスは当然のようにこれからの予定を決めていく。彼女の人の良さはここにも表れており、この場で出会った以上、責任を持って全員のところまで届けるつもりであった。

 そこはエルロン家固有の人の良さなのであろう。しかし、それに難色を示すソーディアンがいた。

 

『あのスタン(馬鹿)に会いに行くの悪くないのだが……このままではな……』

『そうですね。僕もこんな姿で坊っちゃんに会ったらなんて言われるか……』

『私なんてルーティに売られてしまう可能性だってあるわよ……』

 

 ディムロスはスタンにコアクリスタルだけの姿を見られるのが恥ずかしい、シャルティエはリオンに馬鹿にされる、アトワイトはルーティに売られる恐れがあるということをそれぞれ考えていた。

 

「え、別に気にしなくていいじゃない。会ったらきっと喜んでくれるよ!」

『む……だがな……』

 

 リリスの説得にもなかなか応じようとしないディムロス。

 そこに時雨(しぐれ)が笑いながら間に入る。

 

『リリス、勘弁してやってくれ。ディムロスはスタンに格好つけたいだけなんだよ』

時雨(しぐれ)! お前……!』

「あら、そうだったの? んー、だったら()()()()()()()()んじゃない?」

 

 時雨(しぐれ)に図星を突かれ動揺するディムロス。それに対してリリスは思い付いたように提案をする。

 だが、ディムロスからは暗い声が返ってくる。

 

『……それは出来ない』

「え、なんで?」

『今のこの世界の技術力ではソーディアンを鍛えることが出来ないのだ……』

 

 そして、この世界には必要な〝鉱石〟も設備もないと伝えるとリリスは「そっかぁ〜」と落ち込む。

 だが、それに反論をしたのが時雨(しぐれ)とベルセリオスだった。

 

『え? 〝鉱石〟が無いなんて誰が言ったんだ?』

『え? 〝設備〟や技術力が無いなんて誰から聞いたの?』

 

 さすが人間のときに夫婦だったこともあり、息がピッタリであった。

 

『またか……』

『もう慣れっこですよね』

『仕方ないわよね』

『ふぉっふぉっふぉ』

 

 二人の言葉にディムロス以外のソーディアンが半ば諦めたかのような声を出す。

 

時雨(しぐれ)、ベルセリオス……それは一体どういうことだ?』

『こんなこともあろうかと人間だったときに内緒で〝鉱石〟をちょちょいっとね♪』

『こんなこともあろうかと人間だったときに内緒で〝設備〟をちょちょいっとね♪』

 

 詳しく説明を聞くと、天地戦争時代に時雨(しぐれ)は必要な材料を誰にも見つからないところに隠し、ハロルドは彼の入れ知恵でソーディアンを生成する施設を用意して誰にもわからないところに隠したということであった。

 ディムロスはその言葉を聞いて、怒りを爆発させそうになったが、すぐにため息をついて諦めてしまう。

 

『はあ……もういい。じゃああとはそこまでどうやって行くかだな』

 

 必要な〝鉱石〟もある。〝設備〟もある。技術もベルセリオスがいれば問題ない。だが、彼らには最も重要なものが欠けていた。

 それは()()()()()()()ということだ。このままでは確実に詰むのは誰の目から見ても明白であった。

 そのことに気付いたソーディアン達からは暗いの雰囲気が漂っていた。

 

「…………良いこと思い付いた! それ、私が手伝うよ!」

『……な、なんだと?』

 

 なんともしがたい現実を突きつけられたところに、突然明るい声が届く。それは彼らにとってはまさに救世主のような声だったのだが、ディムロスだけは頓珍漢な話をしたと思い、そんなリリスに戸惑っていた。

 

「だから──私がディムロス達を直してあげる♪ あはっ、我ながら素晴らしい思いつき〜♪」

『ば、馬鹿なことを言うな! そんなことさせられるか!』

「なんでよぉー!?」

 

 ディムロスはリリスの提案を即座に否定する。自身の思い付いた良案を否定されたリリスは、ディムロスに詰め寄る。

 

『当たり前だろう!』

「大丈夫よ、私強いもん」

『信用できるか!』

「本当だよー! 私、お兄ちゃんと喧嘩して一度も負けたことないんだからぁ!」

『兄妹喧嘩を比較に出すな!!』

「ふーんだ、もう決めたもん! 絶対、絶対! 一緒に行く!!」

『……お、おい──』

「──行くからね」

 

 リリスの言葉にディムロスも大人気(おとなげ)なく返し、徐々に言い合いがヒートアップする。

 最終的にはリリスが勝手に結論を出し、それに反論しようとしたディムロスに真剣な眼差しで行くとだけ伝える。

 

『はぁ……リリス、なぜだ? そこまでお前がする理由はないだろう……これ以上我らが迷惑を掛けるわけにはいかない』

「…………迷惑なんかじゃないよ」

 

 真剣な顔になったリリスに理由を問うディムロス。彼としては、何が起こるか分からないことに大切な相棒の妹を巻き込むわけにはいかないと思っていた。

 そこから来る親切心で話していたのだが、リリスとは考え方が違っていた。

 

「それに、私にも理由はあるんだから……」

「……なんだと? どういうことだ?」

 

 ボソッと呟くリリスの声を聞き取ったディムロスはどういうことなのかの説明を求める。

 しかし、彼女は顎に人差し指を当てて、一言だけ「ないしょ♪」と満面の笑みを見せるだけであった。

 

『〜〜〜! 言わないのであれば却下だ。お前に何かがあれば、俺はスタンに顔向けができない。』

「ディムロスには絶対に迷惑を掛けないからぁ! 約束する! だから……ね?」

『……しつこいな』

「ね! お願い! リリス、一生のお願いだよぉ〜!!」

 

 理由を言わなければ同行は認めないし、もし言ったとしても連れていくつもりはないと伝えるディムロスに、今度は甘えるような声でお願いを始めるリリス。

 そこにリリスお得意の〝一生のお願い〟も加わると、断れる人のほうが少ない。もちろん違う意味で。

 

(な、なんだ……? リリスはただ笑っているだけなのに、この凄まじいまでの圧迫感はなんだ……? ぐっ、だ、だめだ……跳ね返すことが出来ない……)

 

 ソーディアンであるディムロスもそれに漏れなかったようで、〝一生のお願い〟という()()はディムロスを徐々に追い詰めていく。

 彼女の「ね?」という一言ですら、威圧感が含まれており、これ以上は耐えきれないとディムロスが判断したところで助け舟が入る。

 

『くっくっく……ディムロスよ、これだけお願いしてるんだし認めてあげればいいだろ? 第一、リリスがいなくなったら、俺らの声を聞いてくれる人が通るまでどれくらい待たないといけないんだよ?』

「あ! 時雨(しぐれ)、話が分かるねぇ♪」

 

 そろそろディムロスが耐えきれなくなると判断した時雨(しぐれ)は、笑いを我慢しながらもリリスの味方をする。

 実際にリリスの提案を断るとして、誰にお願いをするのだという話になる。ソーディアンは自分から動くことが出来ない以上、ここを偶然通る誰かに声を掛けるしかない。

 

 しかし、素質がある人間がいつ通るかも分からないし、偶然通ったとしても、喋るレンズの言うことを聞いてくれるお人好しがどこにいるのだという話である。

 エドワードやフィリアであれば喜んで助けてくれるだろうが、今度はそこまで運ぶのは誰が行うのかという話になってくるのである。

 リリスに頼るか、また別の素質のある人が通るまで待つのか。結局堂々巡りになってしまうのであった。

 

『む、むうう…………わ、分かった! 仕方があるまい……』

「えっ、本当!? やったぁぁぁ!!」

 

 ついにディムロスが同行を許可したことで、リリスは飛び跳ねて喜ぶ。彼女には彼女なりの思惑があれど、それでお互いが損をしないのであれば良いのだろうと無理やり納得したディムロス。

 

(うむ、そうなのだ。我がリリスのお願いを聞いてあげたのだ。決して、決して……あの圧力に負けたわけではないのだ!)

 

 〝地上軍中将〟ディムロス・ティンバー。歴戦の戦士である彼ですらも、リリスは追い詰めるだけの素質を持っているのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 リリスとソーディアン一行は、フィッツガルド大陸中央部にある場所に来ていた。

 こうなることが分かっていたエドワードはフィッツガルド大陸に必要な〝鉱石〟や秘密裏に作っていた〝設備〟を隠していた。

 

『あれ? あれれ?』

時雨(しぐれ)、どうしたの?」

 

 施設はすぐに見つかったのだが、ソーディアンを再生させるために必要な〝鉱石〟はいくら探しても見つからなかった。

 

『何が俺に任せておけだ! 時雨(しぐれ)はいつもこうじゃないか!』

『あ、あれれ〜?』

『あれれ〜? とか言っている場合じゃないだろ! これからどうするんだ!!』

『本当よね』

『本当じゃな』

『本当だな』

『本当ですよ』

『さすがにこれはあたしも庇えないわね』

 

 どこかで聞いたようなやり取りがされているのを聞いたリリスは、ソーディアン内での時雨(しぐれ)立ち位置(ポジション)を把握した。

 そして結局修復に必要な〝鉱石〟は見つからず、途方に暮れるのであった。

 

「これじゃあ手詰まりよね」

『う……ご、ごめんなさい』

時雨(しぐれ)は昔からこうだからな……』

時雨(しぐれ)の任せろはたまに失敗しますからね』

『今回は結構期待していただけに、ちょっと残念ね』

『ほっほっほ。時雨(しぐれ)らしいのう』

『まぁ仕方がないだろう。イザークとウッドロウに会うのが少し遅れたが、俺はコアクリスタルのままでも構わないしな』

『……まぁこんなこともあろうかと、別の方法もあるんだけどね♪』

 

 一行はソーディアンの修復を諦めていた。施設があっても必要な〝鉱石〟がない以上、ソーディアンの修復は不可能なのである。

 直らないと分かった以上、元の姿になったまま再会するのは諦めるしかない。

 

「じゃあ……帰ろっか。今日はお兄ちゃんうちにいないから、来ても問題ないだろうし」

『……そうだな。リリス、面倒を掛けてすまない』

「気にしないでよ♪ 剣じゃなくなっても、お兄ちゃん達はきっと喜んでくれるだろうし!」

 

 申し訳無さそうな声を発するディムロスに、慰めるリリス。

 全員は少し落ち込んだまま、リーネ村へと帰っていくのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 リーネ村に到着すると、すでに日が暮れかかっていた。

 リリスは夕飯の支度をしないといけないと、家に戻ってディムロス達を部屋に置いた後、台所へと向かっていってしまった。

 

『むうう……この姿でスタンと会わないといけないのか……』

『私もルーティに会うのが憂鬱だわ』

『僕もですよ……時雨(しぐれ)やベルセリオス、クレメンテ、イクティノス、は良いですね。受け入れてくれそうなマスターで』

『まあ、あたしのマスターはこの時代にはいないから、エドのところに帰るだけだし』

『エドは驚くが、喜んでくれそうだしな』

『ほっほっほ』

『俺も同じだ。イザークとウッドロウであれば、問題なく受け入れてくれ…………ちょっと待て……』

 

 イクティノスは何かの違和感に気付く。

 

『イクティノス、どうしたんですか?』

『いや……俺達は()()()()()()()()()()()?』

 

 正しくは()()()()()()()のであるが、現状違和感として持っているのはイクティノスだけであった。

 

『さっきも似たようなやり取りがあって…………ベルセリオス、お前何か言ってなかったか?』

『え? 何かってなによ?』

『俺達が修復を諦めるという話になったとき……たしか()()()()()()()と聞いた気がするが……?』

 

 イクティノスが徐々に思い出していく。それに対して、ベルセリオスはさらりと認める。

 

『ええ、言ったわよ』

『そうだよな、俺の気のせい……って本当に言ったのか!?』

『だから言ったって言ったじゃない』

 

 まさか本当に自身の記憶が正しかったと思っていなかったイクティノスは、思わず叫んでしまう。

 ベルセリオスはそれを冷静に返すだけだった。

 

『お前……なぜすぐに我らに言わないんだ!』

『え、あたしは言ったわよ? だけど流したのはあんた達じゃない』

『じゃからと言って、そのまま何もなかったことにするとは……』

『それでも元に戻る気があるのか!』

 

 ディムロスとクレメンテに詰められるが、ベルセリオスには何も響いておらず、むしろ話を流したディムロス達が悪いと開き直る。

 その様子に時雨(しぐれ)は苦笑いをしていた。

 

『まぁベルセリオスは元々こういう性格だから仕方ないだろ?』

『あら? 〝鉱石〟の隠し場所を忘れた時雨(しぐれ)には言われたくないわね』

『うっ……』

『そうだ! 元はお前がきちんと覚えていればこんなことには──』

 

 ここでソーディアン達による言い合いが始まる。

 言い合いというよりは、時雨(しぐれ)が一方的に責められているだけだったのだが。

 その声を聞いたリリスが慌てたように部屋に入ってくる。

 

「ちょ、ちょっとどうしたの? 台所にまで声が聞こえてきたわよ?」

 

 リリスに仲裁され大人しくなったソーディアン達。そして彼女にはディムロスが代表して説明をするのであった。

 

『……というわけでな。修復する方法が他にあることがわかった』

「あら、良かったじゃない♪」

 

 話を聞いたリリスは嬉しそうな顔になる。

 

『それで詳しい方法はベルセリオスが知っているのだが……』

『ええ、説明するわね。まず前提としてソーディアンを直す〝鉱石〟は時雨(しぐれ)が失くしてしまったから無いわ』

『それは面目ない……』

『そこはもういいわよ。大事なのはその〝鉱石〟をどこで見つける必要があるかということなんだけど……この世界に無いのであれば、()()()に探しに行けばいいだけよ』

 

 この世界には〝鉱石〟が無いため、単純に別世界へ行けば良いという結論に至った過去のハロルド。ソーディアン達が封印される前にハロルドはベルセリオスと一緒に別世界へ渡る装置を開発していたのであった。

 天地戦争時代。今よりも更に高度な技術があったときですら、ハロルドの天才ぶりは群を抜いていた。

 理論として出来ていたものを、実際に利用できる装置として開発したのは彼女の叡智の賜物なのであろう。

 

「あら、〝別世界〟とか面白そうね♪」

 

 リリスは面白そうなことが起こりそうだと感じ、嬉しそうな声を出す。

 

『それで……その装置がある場所はまさか……』

『ええ、さっき行った施設よ』

『〜〜〜〜!!』

 

 二度手間を食らったと思ったディムロスは声にならない怒りを出していた。

 しかし、これ以上揉めていても仕方がないと判断し、冷静に今後の予定を立てることにした。

 

『はぁ……とりあえず今後の予定を考える必要があるな』

『ええ、まずは〝鉱石〟がある世界に移動しなくてはいけないのだけれど……』

 

 〝鉱石〟を確保するにはその世界に移動する必要がある。しかし、どの世界にあるのかが分からないため、なるべく無駄足にならないようにする必要があった。

 そこでベルセリオスから提案が出た。

 

『私達が生きている世界には〝精霊〟という精神体が存在しているの。それは火や水、土や風など色々なものに含まれているのよ。そして別世界にはそれを司る〝高位精霊〟というのが存在していて、その更に上の〝最高位精霊〟なんてのもいるわ。

人間達の前には滅多に姿を現さないって話だけど、もし会えれば〝鉱石〟がある場所を教えてくれるかもしれないわ』

 

 ベルセリオスの提案で、まずは別世界の〝精霊〟に会いに行くことに決まった一同。

 なぜベルセリオスはここまで別世界について詳しいことを知っているのかは、誰も聞くことはなかった。

 

「おっけー! じゃあ明日の朝から早速出発ね! 今のうちに明日以降のご飯の用意しておかなきゃ♪」

 

 そのまま部屋から出ていくリリス。ディムロス達も修復する目処が立ったことで和やかな雰囲気に戻っていた。

 そこでベルセリオスが時雨(しぐれ)に誰にも聞こえないような声で話し掛ける。

 

『さっきはありがと……』

『ん、ああ、気にすんな』

 

 ベルセリオスが責められそうになっていたとき、自身が身代わりになることでそれを避けた時雨(しぐれ)

 ソーディアンになっても二人の間には温かい特別な感情があるのであった。

 




なんか時雨(しぐれ)とハロルドの二人、好きです……


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第二話 リリス、異世界に行きます!

第二話です!
合計で……あと三話〜四話くらいで終わるかな?と思います!
短いですが、よろしくお願いいたします!



 次の日の朝、リリス達は昨日訪れた施設へと来ていた。

 

『ここに異世界へと渡る装置があるのか?』

『そうよ。リリス、奥にある引き出しを開けてちょうだい』

 

 ディムロスの質問にベルセリオスが頷き、リリスに引き出しを開けるように指示をする。

 

「えっと……ここでいいの?」

 

 リリスがゆっくりと引き出しを開けると、そこには手のひらサイズの長方形の機械が置いてあった。

 

『それが異世界へと渡るための装置よ。』

『随分と小さいのじゃな?』

『当たり前じゃない。帰ってくるときも必要なのだから、大きいと持ち運びが不便なのよ』

 

 リリスは装置を持ち、色々な角度から観察していた。

 ハロルドが作った装置を不用意に触ると危ないのだが、何も知らないリリスにとってどれほど危険な行為なのかということに気付いていなかった。

 

『ちょっと、勝手に色々と触ると危ないわよ』

「えっ! あ、わっ! ……ふう」

 

 ベルセリオスに注意され、驚きのあまり危うく装置を落としそうになったが、リリスは間一髪のところでキャッチした。

 危ないと聞かされていたので、恐る恐る装置を元あった場所へ遠く。

 その間もソーディアン達はこれから向かう世界について話し合っていた。

 

『それで……その装置はどのように使うのだ?』

『使い方は簡単よ。人間が持って、どこの世界に行きたいか念じるだけでいいわ』

『ということは……』

『ええ、リリスが使うことになるわね』

「え!? 私!?」

 

 リリスは装置が危ないものだという認識が出来てしまったため、自身が使うことに戸惑いを見せる。

 そして、先程のリリスの挙動を見たディムロス達は不安を隠すことが出来なかった。

 

『い、今からでもエドワードやフィリアに来てもらったほうが良いのではないか?』

『僕もそう思いますね……』

 

 イクティノスとシャルティエが不安の声を上げ、残りのソーディアン達からそれに反対する声はなかった。

 

「え……ここまで来てそれは嫌よ! ……よし! 私がやるんだから!」

『……心配じゃのう』

 

 急にメンバーチェンジを言い渡されそうになるリリス。

 しかしここまで来た以上、彼女に帰るという選択肢はない。彼女は先程置いた装置にゆっくりと手を伸ばしていく。

 

『──別に持つ分には何の問題もないわよ』

「わっ! ちょ、ちょっと! 急に話しかけて脅かさないでよー!」

 

 ベルセリオスが声を掛けたことに驚き、手を引っ込めるリリス。

 一旦深呼吸をすると、落ち着いたのか今度はあっさりと装置を持ち上げる。

 

「も、持ったわよ。次はどうすればいいの?」

『行きたい世界を念じればいいのだけれど……まずは〝最高位精霊〟がいる世界を念じて欲しいわね』

「〝最高位精霊〟ね……わ、分かったわ」

 

 リリスは再度深呼吸をすると、目を瞑り集中をする。

 行き先は〝最高位精霊〟がいる世界。精霊という存在があまり良く分かっていないのだが、念じれば大丈夫ということだったので、その言葉だけを必死に念じる。

 

(〝最高位精霊〟がいる世界……〝最高位精霊〟がいる世界──)

 

『──あ! ちょっと待った!』

 

 リリスの集中がピークに達しようかというところで、時雨(しぐれ)がストップを掛ける。

 せっかくの集中が途切れてしまったリリスは少し不満げな声を上げる。

 

「こ、今度はなによ〜?」

『どうした時雨(しぐれ)?』

『いやさ、この別世界に渡る装置に名前を付けるのは……と思いまして……いや、その、なんでもな──』

『その程度のことを今の場面で言うのか!』

 

 時雨(しぐれ)からの装置に名前を付けようという案に、今の場面で言うことではないだろうとディムロスが怒る。

 その雰囲気に気付いた時雨(しぐれ)は話の途中でやめようとしたが、既に遅かった。

 その提案に味方をしたのが、ベルセリオスであった。

 

『まぁいいんじゃないの? 装置装置って言うのもなんか味気ないしね』

『で、ですよね! さすがベルセリオスさん! ほら、ディムロス! 作成者がこう言ってるんだから!』

『む……むむう。それなら言い出しっぺの時雨(しぐれ)には案があるんだろうな?』

 

 装置を作成したベルセリオスが賛成したことで、ディムロスが何故か怒るのを止め、そのまま時雨(しぐれ)に名前の案を出すように言う。

 

『う〜ん、そうだなぁ。ここは俺のハイセンスでナイスガイでスーパーな名前付けを──』

『いいから早くしろ』

『……う、分かったよ。じゃあ……〝異世界渡り君DX(デラックス)〟というのはどう──』

『却下だ』

 

 時雨(しぐれ)は名前を付けるのが物凄い下手であった。

 

『ふふ……相変わらずのネーミングセンスよね』

『ソーディアンになっても変わらないのね』

『ふぉっふぉっふぉ』

『エドの名前をハロルドが決めて良かったですね』

時雨(しぐれ)に名付けさせないで良かったな』

 

 全員からネーミングセンスの無さを指摘されていたのだが、時雨(しぐれ)自身としては本当に格好が良いと思っていたので、少しヘコんでいたのはまた別のお話。

 しかし、名前を決めるというのに全員で悩んだものの、これといった案が出てこず、結局〝異世界渡り君DX(デラックス)〟という名前が採用されることになった。

 

「じゃ、じゃあ今度こそ行くわよ……」

 

 リリスはソーディアン達の茶番で緊張がほぐれたのか、今度はすぐに集中することが出来ていた。

 〝最高位精霊〟がいる世界を強く念じたところで、〝異世界渡り君DX(デラックス)〟が輝き始める。

 光がリリス達を包み込み、大きく弾けたとき、そこには誰もいなくなっていた。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 リリスが目を開けると、そこは暗がりの階段の途中であった。

 

「ここは……?」

 

 辺りを見回すが、階段以外は何も見えない。

 

「ちゃんと異世界に……来たのよね?」

『ええ、たぶん大丈夫よ。ここはどこかのお城かしら?』

 

 リリスの問いにベルセリオスが答える。しかし、異世界の城の中に転移した以外の情報は何もなかった。

 すると、階段の下から声が聞こえてくる。

 

「下に誰かいるのかしら?」

『……リリス、多分大丈夫だから行ってみるといい』

 

 突然時雨(しぐれ)がリリスに階段の下に行くように伝える。

 少し戸惑ったリリスであったが、覚悟を決めて階段を降りていく。

 

「あら? 見かけない子だけど、何か用なの?」

「えっと……ここは?」

「ああ、道に迷ったのね。ここはアルヴァニスタの魔法研究所よ」

 

 階段を降りきったところで、入り口にいた女性に話し掛けられる。

 リリスの話し振りから、道に迷った子だと判断され、「出口は逆よ」と伝えられる。

 

「あ、あはは! 失礼しました!」

「ええ…………あら?」

 

 笑いながらリリスが戻ろうとしたところで、女性の持っていた本が淡く光る。

 

「これは……もしかして……」

「え? その本がどうかしたのですか?」

「ええ、これは実は……」

 

 女性が言うには、先程光った本は偶然手に入れたもので、〝呪文書〟と似ているが実は違うのではないだろうかということだった。

 なぜならハーフエルフである自身が会得することが出来ず、そもそも読み解くことすら出来なかったためである。

 

「……というわけなのよ。だからもしかしたらあなたなら会得できるのではないかしら?」

『少しだけ借りてみてはどうだ?』

 

 時雨(しぐれ)の提案を聞き、リリスはハーフエルフの女性へ話し掛ける。

 

「あのー……少しだけ読ませてもらうことって出来ますか?」

「ええ、もちろん構わないわ」

 

 本を受け取り、表紙を見る。

 

「あ、それ表紙の文字すら読めなかったの──」

「〝サンダー…………ソード〟」

 

 急にリリスの雰囲気が変わり、ハーフエルフですら読めなかった文字を解読する。

 そして〝サンダーソード〟という文字を読んだ瞬間、本が(まばゆ)く光り出し、一枚一枚に分割され、リリスの周囲を囲っていく。

 

『な、何が起きているんだ!! 時雨(しぐれ)!!』

『俺にも分からん! でも多分大丈夫だ!』

『分からんのに大丈夫とはどういうことだ!』

 

 ディムロスは時雨(しぐれ)の言葉にツッコミを入れるが、そのツッコミをしても遅かった。

 一枚一枚の紙が目を瞑っているリリスへと吸収されていく。

 そして全ての紙が無くなり、光も消えていくのであった。

 

「な……なに? これ……?」

 

 ハーフエルフの女性は驚いた顔をしており、研究所にいたスタッフ達も全員が驚くか珍しいものを見ることが出来たといった表情をしていた。

 そんな中、リリスはゆっくり目を開ける。

 

「これは……分かるわ……って、ごめんなさい! お借りしていた本を──!」

 

 借りていた本が失くなってしまったことに対し、リリスは謝罪を述べる。

 今現在リリスは無一文のため、お金を請求されたら何も出来なくなる。

 

「いえ、それは良いのだけれど……あなたは……一体……」

「あ、あはは! 私はただの田舎者ですよ! ちょっとこの辺に〝最高位精霊〟はいないかな〜と思っているただの田舎娘です!」

 

 自分が何を言っているのか分からなくなっているリリスは、怪しまれるような発言を繰り返す。

 

「〝最高位精霊〟……?」

『リリス……』

「あ、あははははっ! 私、何を言ってるんですかね……? し、失礼しま──」

 

 勢いに任せて魔法研究所を出ようとしたところで、ハーフエルフの女性に腕を掴まれる。

 

「……ちょっと待ちなさい」

「……え? や、やっぱりダメですよね〜」

 

 勝手にハーフエルフですら解読できなかった呪文書を使用してしまっただけでなく、〝最高位精霊〟を探しに来たという訳の分からないことを話す見た目完全な田舎娘を怪しいと思わないはずがない。

 リリス自身でもそう思っているのだから、周りの人間も怪しがるのが当然である。

 しかし────

 

「〝最高位精霊〟ってオリジンのことよね? 探しているなら無駄よ……エルフの住んでいるユミルの森の最奥にいるのだけれど、人間やハーフエルフは入ることが出来ないから……」

 

 ハーフエルフの女性──名前をシータと名乗っていた──は詳細を説明する。

 エルフは元々人間と暮らしていいたのだが、ある日を境にユミルの森の奥へ一族全員で籠もってしまっていた。

 そしてハーフエルフに対しより敵対的になり、人間とはほぼ交流が無いということであった。

 

アルヴァニスタ(ここ)の王様であれば、ユミルの森に入る通行証を持っているのだけれど……」

 

 そう言いながらリリスを眺める。

 

「あ、あはは。私にはくれそうにないですよね……はぁ」

「ごめんなさいね」

「いえ! オリジンがいるという場所が分かっただけでも助かりました! 本当にありがとうございます!」

 

 お礼を言いつつ、魔法研究所を出るリリス。

 

『まさか人間には入れない場所にあるとはな……』

『こっそり侵入するわけにもいかないわよね』

『アトワイト……ルーティの性格が移ってますよ』

「どうしようかしら……」

 

 アルヴァニスタ城から城下町に向かって歩きながら、途方に暮れる一同。

 しかしそこで時雨(しぐれ)がいつものごとく口を挟む

 

『ちょっといいか?』

『やはりお主には何か案があるんじゃな?』

『俺もそうだと思っていた』

 

 クレメンテとイクティノスが時雨(しぐれ)の言葉に待っていましたとばかりに反応する。

 時雨(しぐれ)は苦笑しながら話を続ける。

 

『……()()()()だと難しいのならば、もしかしたら()()なら何か良くなっているかもしれないぞ。例えば()()()()()とか』

『すごい具体的な数字ね』

 

 時雨(しぐれ)のいつものことだとソーディアン一同はすでに諦めており、せっかくであればその年代へ行こうという雰囲気になる。

 リリスはそこまで具体的な数字が出たのは疑問だったが、解決するのであればよいかと〝異世界渡り君DX(デラックス)〟を取り出す。

 

「じゃあこの世界の未来に行くってことで大丈夫?」

『まぁ時雨(しぐれ)が言うのであれば仕方がない……不本意だが、本当に不本意だがな!』

『あ、あはは……』

 

 渋々認めたディムロスの言葉で最終決定となり、街を出たリリスは人気のないところまで移動する。

 そして〝異世界渡り君DX(デラックス)〟を手に持ち、集中するのであった。

 

(百五十年後の未来へ私達を連れて行って!!)

 

 光がリリス達を包み込み、大きく弾け、リリス達は未来へと旅立つのであった。

 




ここは話自体がオリジナルになります。
サンダーソードっていつ入手したんだろう?と思っていたので、この話を入れたかったのです。
もっと良さそうな話の繋げ方があればお聞きしたいです!


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第三話 リリス、戦います!

約1万字……とても長いので、ゆっくりじっくり読んでください。
これだけ長いと、誤字脱字のチェックがとても大変です(笑)

あと、最後にアンケートを載せたので、良かったら答えていただけると嬉しいです!
この結果次第で、一話分追加するかどうかが変わります。
よろしくお願いします!



「おおぉぉぉおお!!」

〈決まったぁ! クレス勝利ーーっ! 前人未到の八十連勝達成だぁ!!〉

「よしっ! 次っ!」

 

 歓声が鳴り止まぬ中、クレス・アルベインは紫色に輝く時の剣〝エターナルソード〟を振り、次の対戦相手を待つ。

 

〈あの男を止められる者はもはや誰もいないのか!? さて今回のイベント、最後の対戦相手はこいつだっ!〉

「GURAAAAAッ!!」

 

 モンスターが閉じ込められている檻から出てきたのは、長髪の獣人型モンスターであるガルフビースト。

 長い爪が特徴で、クレスは腕試しとして参加しているこの闘技場で何回も倒していた。

 何度も倒しているとはいえ、強敵には違いなく、決して油断はできない相手であった。

 

「よしっ! 行くぞ────」

 

 クレスがガルフビーストに先制攻撃を仕掛けようとしたその時、ガルフビーストの上空に光が現れる。

 

「な、なんだ……!?」

 

 クレスがその上空を見上げた瞬間、光から出てきたのはピンク色のワンピースにエプロン姿の女の子であった。

 

「え、あ……きゃぁぁぁああ!!」

「GARARUUU……!」

 

 女の子は自身が空中にいることを理解し、重力に抗えず地面へと落ちていく。

 そしてモンスター──ガルフビーストが自身の真下にいることに気が付き、咄嗟に〝異世界渡り君DX(デラックス)〟と()()()()()()()()()()()()をガルフビーストの頭に叩きつける。

 ガルフビーストは脳天を攻撃された衝撃で意識を失い、大きな音を立てて倒れるのであった。

 

「な、なんだぁ!?」

「あ、危なかったぁ……」

 

 クレスは突然現れ、ガルフビーストを一撃で倒した少女をポカンとした表情で見つめていた。

 観客からはどよめきが漏れる。

 

〈こ、これはぁ! とんでもないハプニングが起こったぞぉ! な、なんとあのガルフビーストが一撃で倒されてしまったぁ! いきなり現れた少女は一体何者なのか!? しかもあろうことか……手に持っているのは()()()だ!〉

『なにをやっているんだリリス!』

「だ、だって仕方ないじゃない! まさか上空に転移して、真下にこんなに大きな魔物がいるなんて思わなかったんだもん!」

「き、君は一体……!」

 

 リリスは誰かと話しているようであったが、ディムロス達ソーディアンの声をこの場で聞くことが出来るのはリリスだけだったため、ただ独り言を話しているようにしか見えなかった。

 不可思議な様子にクレスだけでなく、彼の応援に来ていた青い長髪を後ろで束ねた青少年や法衣に身を包んだ長い金髪の美少女も警戒していた。

 

「な、なんだあいつ……いきなり現れやがった……!」

「そうですね……チェスターさん、私達もクレスさんのところに行ったほうが良いのでは……!?」

 

 しかしその二人と一緒にいたグレーの髪に全身入れ墨が入った青年とほうきを持ったピンク色の髪の少女は比較的落ち着いていた。

 

「いや、彼女からは嫌な雰囲気を感じない」

「少なくともダオスの手下とかではないんじゃないかなー?」

「だけどクラース、アーチェ! もしアイツがクレスに襲いかかってきたらどうするんだ!?」

 

 チェスターと呼ばれた青少年は、クラースとアーチェの二人に警鐘を鳴らす。

 彼は良くも悪くも警戒心が人一倍高いため、万が一のことを常に考えていたのである。

 それでもクラース達の意見は変わらなかった。

 

「その時はチェスターの矢で牽制して、その間に私の召喚とアーチェの魔法で追撃すればいいさ。怪我をしてもミントであれば治せるしな」

「そうだよぉ! それにあんたはクレスが襲いかかられた程度でやられる実力だと思ってるの? あんたとは違うんだから今は様子見で大丈夫なの!」

「……くっ! ってアーチェ! 俺のことを()()()()すんじゃねぇ!」

「えー? 何のことー? そう聞こえたんだとしたら、何か心当たりがあるのではなくってぇー?」

「ふふふ……お二人は本当に仲が良いのですね」

 

 チェスターとアーチェのやり取りで四人とも和やかな雰囲気になる。

 しかし、闘技場内はそうではなかった。

 

「君は一体何者なんだ……? さっきから誰と話をしている?」

「い、いやぁ……これはそのぉ……」

 

 クレスがリリスに問いかけるが、彼女はなんと答えたら良いのか困ってしまう。

 そのリリスの様子を見たクレスは何かに気付いたようであった。

 

「そうか……! 分かったぞ! さては貴様……()()()()()()だな!?」

「ダオスぅぅぅ?」

 

 リリスは聞いたことがない名前だったためその名を繰り返すが、クレスにとってはそれがより怪しく見えていた。

 

「僕達の邪魔をするつもりなのだろう……そうはさせない!」

〈おおっとぉ! クレスが臨戦態勢に入ったぁ!! このまま謎の少女と戦うつもりだぁ!!〉

 

 クレスはリリスのことをダオスの刺客だと勘違いし、エターナルソードを下段に構え、リリスへ殺気を放つ。

 そしてまだ状況が飲み込めていないリリスへと突撃していく。

 

「はあぁぁぁああ!」

「え!? ちょ、ちょっとぉ!!」

 

 リリスはおたまでエターナルソードを防ぎ、バックステップで後ろに下がる。

 しかしクレスの追撃は止まらない。

 

「喰らえ! 時空蒼破斬(じくうそうはざん)!!」

「きゃあああ!」

 

 クレスは時空剣技の奥義である時空蒼破斬(じくうそうはざん)を放つ。

 エターナルソードから蒼いオーラが現れ、射程が増した上下の攻撃後、そのままの流れで蒼い闘気をリリスに向けて放つ。

 リリスも油断していたのか、その攻撃をまともに喰らい、吹き飛ばされる。

 

「やったか!?」

『リリス!?』

『大丈夫!?』

 

 ディムロスとアトワイトは攻撃を受けたリリスのことが心配で声を掛ける。

 リリスはすぐに「いたたた……」と頭を押さえながら起き上がる。

 

『あの人、いきなり攻撃をしてくるなんて……なんなんですか!?』

『まぁこちらもいきなり現れて怪しさ満点だからのう』

『……確かにそれは否定できないな』

 

 シャルティエはクレスを非難し、クレメンテ、イクティノスは怪しいから仕方がないと呟く。

 

『だけど今は彼をなんとかしないとリリスが危ないわね……』

『アイツはクレス・アルベイン。この世界でいうスタンみたいな立ち位置のやつだな』

 

 ベルセリオスが現状を冷静に分析したところで、時雨(しぐれ)がとんでもないことを言い出す。

 

時雨(しぐれ)! お前……アイツのことを知っているのか!?』

『んー、まぁ……ぼちぼち?』

『ええい、ふざけている場合か! なんとかしないといけないのだ! 少しでもいいから情報を寄越せ!』

 

 ディムロスは時雨(しぐれ)がクレスのことを知っているのに気付き、状況の打破のために情報を寄越せと詰め寄る──実際は動けないので詰め寄ってはいないのだが──と、時雨(しぐれ)はため息をつきながらクレスについて話し出す。

 

『はぁ……仕方ないか。彼の名前はクレス・アルベイン。この世界でダオス……俺達の世界でいうミクトランみたいなやつを倒す〝勇者〟だな。

彼は最高位精霊であるオリジンが創ったエターナルソードを使い、時間と空間を操った剣技を使用してくるぞ。他にも聞きた──』

『いいから全部話せ!』

『えー……まあいいか。さっき言った時空剣技以外にもアルベイン流という流派を修めているから、死ぬほど強いぞ。

ミントっていう巨乳で金髪の美少女のことが好きで、両想いなんだけどなかなかその気持ちを伝えられないという甘酸っぱい青春を送っているリア充やろ──』

『ええい! そんなことはどうでもいい!!!』

 

 ディムロスは余計なことを話しだした時雨(しぐれ)を怒鳴り、『全部話せって言ったのディムロスじゃないか……』と不貞腐れながらも時雨(しぐれ)は黙る。

 ちなみに時雨(しぐれ)がここまで話したのはわざとである。

 

『リリス! ここは一旦〝異世界渡り君DX(デラックス)〟で離脱するぞ!』

「……いや」

『リリス!?』

「いきなり攻撃するなんて酷いわ! もう許さない! 私、怒ったんだから!」

「あの攻撃を喰らって動ける……だと……!?」

 

 時空蒼破斬(じくうそうはざん)を喰らって起き上がると思っていなかったため、クレスは驚き、再度剣を構える。

 

「クレス! その子は悪い子ではないぞ! 剣を引────!」

〈おっとクレス、再度剣を構えたァァ!!〉

 

(クラースさんの声! 皆ももうすぐ応援に駆けつけてきてくれるはずだ!)

 

 クラースの声は観客と実況の声に阻まれて、クレスへ正確に届いていなかった。

 チェスター、ミント、アーチェも次々にクレスに攻撃をやめるように伝えるも、上手く伝わらず、それがクレスにとって都合の良い風に聞こえてしまっていた。

 

「皆のために……僕は勝つ!」

『リリス! 今は引くんだ!』

「……このままやられっぱなしで逃げるなんて出来ないわ! お返しはちゃんとしてあげなきゃ!」

『やめろ! 時雨(しぐれ)も言っていたが、あの剣士は強い! そこらの魔物を倒すのとはわけが違うんだぞ!』

「私だって違うもん! 久しぶりに全力を出させてもらうわ! マギーおばあちゃんに鍛えられた技を見せてあげる!」

『まぁ……リリスを止めようとしたらこうなるよな……』

 

 ディムロスや他のソーディアンもリリスに引くように言うが、時雨(しぐれ)だけは諦めていた。

 リリスの性格上、売られた喧嘩は絶対に買う。そしてそれに勝つだけの強さを持っていたのだ。

 お互いに武器を構えて先程よりも真剣な顔つきになる。

 

「いくぞ! 喰らえ……飛燕連脚!」

「なんの! 飛燕連脚!」

 

 クレスが先に飛燕連脚を放つが、合わせるようにリリスも飛燕連脚を放つ。

 お互いの蹴りが当たり、最後の突きもエターナルソードとおたまで相殺し、お互いにダメージはない。

 

「な、なぜアルベイン流の飛燕連脚が使えるんだ!?」

「マギーおばあちゃんに教わったのよ! そのなんちゃら流なんかじゃないわ!」

「ええい! 次はこれを喰らえ! 獅子戦吼!!」

「こっちもいくわよ! 獅子戦吼!」

 

 お互いに前に踏み込み、腕を前に突き出してそこから闘気を放つ。

 その闘気の形が獅子のようであり、闘気を出した時の音が獅子の咆哮のようであるからこそ付けられた技である。

 

〈おっとぉぉぉ! 再び両者同じ技を放ち、相打ちになる! 両者の腕は互角だぁぁ!!〉

 

 そこからの二人は闘技場を縦横無尽に駆け回り、通常の攻撃から技を繰り出したり、小技で隙を伺うなど一進一退の攻防を見せる。

 クレスが攻撃を加えれば、リリスが反撃をし、リリスがクレスを吹き飛ばせば、同タイミングでクレスの攻撃がリリスに入る。

 観客は二人の戦いに魅せられていた。

 

「あれ? クレスと互角に戦えるなんて、あの子凄いね!」

「いや……僅かな差ではあるが、総合ではクレスのほうが上回っている。このまま長引けばクレスが勝つのは間違いない」

 

 アーチェがリリスを褒めるが、今までの戦いを冷静に見ていたクラースがクレスの方が実力は上だと見抜く。

 スピードはリリスが勝っている。力はクレスの方が上。技はほぼ互角。しかし、今まで積み重ねてきた経験と体力面でクレスが上回っており、それは戦いが長引けば長引くほどリリスが不利になってしまう状況であった。

 

「はぁ……はぁ……レ、レインボーアーチ!」

「魔神剣!!」

 

 リリスの攻撃を魔神剣で相殺するクレス。その戦いを見ていたディムロスは驚いていた。

 

(……まさかリリスにあれほどの実力があったとは……あいつ、素質的にはスタンを凌ぐかもしれん)

 

「ちぇええい!」

「なんのぉ!」

 

(だが悲しいかな我には分かる。あのクレスとかいう剣士の方が総合的には上だ。これまで踏んできた場数の差が圧倒的に違う。それが二人の決定的な差となっているんだ……)

 

「──そこだぁ!!」

「きゃっ!」

 

 クレスの攻撃が確実にヒットし始める。リリスの体力は限界に近付き始めていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「よし、追い詰めたぞ!」

 

 クレスはリリスを闘技場の端へと追い詰めていた。

 

『リリス! もうやめ──』

『はい、ディムロス君、黙ろうね』

「ディムロス! ……時雨(しぐれ)!?」

 

 もはや戦いの結果が見えていたため、ディムロスが止めに入ろうとしたところで時雨(しぐれ)に止められる。

 急に声を出されたことにリリスはディムロスと時雨(しぐれ)の名前を呼ぶ。

 そしてクレスにはリリスがまた独り言を話しているように見えていた。

 

時雨(しぐれ)! なぜリリスを止めないのだ!? 彼女はもう限界だ!』

『……それは本人が負けを認めたの?』

『しかしこのままではいずれリリスはあの剣士に──』

 

 ()()()()()()。その言葉を言おうとしてディムロスは黙る。戦いをしている以上、リリスは戦士だ。その戦士を前にして負けるなどといった言葉を使うことは(はばか)られた。

 

「──負けてしまうってディムロスは言いたいわけ……?」

『そ、それは……』

 

 リリスは文脈で続きの言葉を察する。

 

『ディムロス、お前は今のリリスになんと言って諦めさせるつもりだったんだ? 今戦いを()めても誰も文句は言わないとでも言おうとしてたのか?』

『…………』

 

 図星であった。ディムロスとしては大切な相棒(スタン)の妹であるリリスを、これ以上傷付けたくないと思っての発言だった。

 

『お前がリリスのことを大切に思っているのは分かる。だがな、リリスはスタンの妹である前に、この場では立派な戦士なんだ。それを邪魔するのは俺が許さない』

時雨(しぐれ)…………」

 

 時雨(しぐれ)が珍しく真剣な口調で話す。これにはディムロスも黙ってしまう。

 

『ディムロス、あなたの負けね』

『ええ、これは時雨(しぐれ)が正しいですよ』

『そうじゃな』

『戦士の戦いは邪魔するものではない』

『いつもこうやって真面目だともっと女の子にモテていたのにねぇ……』

 

 他のソーディアンも時雨(しぐれ)の味方につく。

 

「ディムロス……私って……そんなに、そんなに頼りない?」

『……い、いや、そんなことは……』

「ここにいるのが私じゃなくてお兄ちゃんだったら……戦いを止めてた?」

『…………いや、止めていなかった』

「だったら……私のことも止めないで! 私はスタン・エルロンの妹、リリス・エルロンよ! ディムロス……今だけは! 今だけは私の相棒でいてッ!」

 

 その瞬間、ディムロスのコアクリスタルが輝き出し、リリスを包み込む。

 

『こ、これは……マスターとして認められた証……?』

『リリスの強い気持ちにディムロスのコアクリスタルが反応したようじゃのう。一振りのソーディアンの使い手が二人になるとは……珍しいこともあるもんじゃて』

「か、身体から力が溢れてくる……!」

 

 ディムロスにマスターと認められたリリスの体力が回復し、力が流れ込んでくる。

 その力とは、スタンが今までディムロスと歩んできた経験そのものであった。

 

「これなら……ディムロス!」

『ああ、これなら勝てるぞ!』

「な、なんだ!? あの子がいきなり歴戦の戦士のような雰囲気を纏いだした……だと?」

 

 クレスはリリスへの警戒を最大にして、エターナルソードを構えた。

 しかし、今のリリスにとってクレスが警戒していても特に問題はなかった。

 

「行くわよ! ……雷神十連撃! からのぉ……フラッシュバック!」

「ぐ、ぐああああ!」

 

 リリスは身体に雷を纏い、クレスへと華麗な連撃を叩き込む。

 そして、そこからまばゆい閃光を放ち、おたまを使って一瞬でクレスを叩き伏せる。

 

「おいおい……あの嬢ちゃん、動きが変わったぞ……!?」

「ク、クレスさん……!」

 

 チェスターとミントがリリスの動きが格段に良くなり、クレスがやられた様を見て驚く。

 リリスは元々スタン以上の素質を持っていた。その素質をリーネ村にいるマギーに見抜かれ、技の手ほどきを受けていた。

 それだけでも十分強くなっていたのだが、実戦経験が足りないせいで互角以上の実力を持つクレス相手には、それが決定的な差となっていた。

 

 しかし、ディムロスのマスターに認められたことで彼の持つ今までの経験が一時的にリリスへと与えられ、二人の決定的な差は十二分に埋まるどころか、逆にクレスに差をつける結果となった。

 一瞬にして地面に叩きつけられたクレスは唸りながらゆっくりと起き上がる。

 

(な、なんなんだ……? 何かと話していたと思えば、急に動きが変わった……このままではこちらが負けてしまう……)

 

「どう? もうまいったするなら許してあげるわよ?」

「……ふふ。君は面白いことを言うんだね。逆の立場だったら、降参するのかい?」

「──絶対にいや! しないわよ! ……あははっ!」

「はははっ!」

 

 二人の笑い声は静まった闘技場内で響き渡っていた。ひとしきり笑った後、二人とも真剣な顔つきになり、臨戦態勢となる。

 

「これは僕のわがままなのだけれど……次の一撃で勝負を付けるというのはどうだい?」

「え……? いいわよ! 次の一撃で勝負を付けましょう!」

 

 クレスからの提案をリリスは余裕を持って受け入れる。

 お互いに逆の立場だったら、同じ提案をし、必ず受け入れるのが分かっていた。

 そして、クレスにとってリリスはダオスの手下でないことを理解していた。しかし、いち剣士として自分以上の実力者と全力で闘り合いたいという欲求のほうが勝っていたため、ここで戦いをやめるわけにはいかなかった。

 

(これは……父さんに一度見せてもらっただけで、そのあと何度も練習しても出来なかった技だけれど……完成させるなら今このときしかない!)

 

「はあああぁぁぁぁああ!」

「わ、私も! はぁぁぁああ!」

 

 クレスとリリスはお互いに闘気を高めていく。その威圧感はチェスター達戦士だけでなく、他の観客達にも分かるほどであった。

 

〈おおおおっとぉ! クレスと謎の少女が気合を入れていくぅぅぅ! 次の攻撃で勝負を付けるのかぁぁ!?〉

「行くぞ! 僕はアルベイン流、クレス・アルベイン!」

「行くわよ! 私はリーネ村出身、リリス・エルロン!」

 

 最後の必殺技の準備が整ったところで、お互いに名を名乗り合う。

 

「いざ尋常に!」

「勝負!!」

 

 リリスとクレスは前方に突っ込んでいく。お互いを伺いながら、最後の一撃を放つ隙を探していた。

 闘気を溜めているため、大した攻撃を出すことは出来ないが、僅かな隙が命取りになることは分かっていた。

 その時、少し下がったリリスが足元の小石に気付かず踏んでしまう。

 

「し、しまっ──」

「今だ、僕は……僕は負けるものかぁぁぁ!! アルベイン流最終奥義! 冥空(めいくう)ぅぅぅぅ斬翔剣(ざんしょうけん)ーー!」

『リリス! 左にしゃがんで避けるんだ!』

 

 クレスが右上段から袈裟斬りを放つのを察したディムロスが、リリスにしゃがんで避けるように指示を出す。

 反射的に左へしゃがんだリリス。クレスは避けられたことに驚くが、もはや攻撃を止めることは出来ない。

 続いて左上段からの袈裟斬り、そして逆袈裟斬りの一撃でクレスが溜めていた全エネルギーを放つ。

 

 リリスは初めの一撃を避けたことで余裕ができ、二撃目、三撃目も同じように躱す。

 全ての攻撃を避けられたクレスは自らの負けを悟り、リリスを見て微かに笑う。

 リリスもクレスを見て微笑み、自らの身体から雷を発生させる。

 

「それはそれとして☆ とりあえず超奥義!」

 

 連続アッパーでクレスと一緒に上空へと舞い上がる。

 そして両手に雷を放つ高エネルギー体を集め、クレスへ向かって放つ。

 

「サンダーソーーード!!!」

「ぐわぁぁぁああ!!!」

 

 バチバチと雷を伴ったエネルギー波はクレスを飲み込み、全てが終わったときに地面に降り立ったのはリリス・エルロンただ一人であった。

 

「──なんてね♪ ぶいっ!」

 

 左手を腰に当てて、右手でVサインを作り勝利のポーズを取ったリリス。

 その直後、体中から黒い煙を出したクレスが上空から地面へと落ちていくのであった。

 

〈な、なんと! なんとなんと!! ものすごい光が現れたかと思うと、立っていたのは謎の少女だけだァァ! 時空剣士クレス・アルベイン、敗れる!!! 新チャンピオンは謎の少女だぁぁぁ!〉

「わーーーーー!!!!!」

「凄いぞーーー!!」

「強いぞーーーー!!」

「可愛いぞーーーー!!」

「結婚してぇぇ!!」

 

 実況からリリスの勝利宣言が出されると、静まっていた観客から一斉に歓声が沸き上がった。

 リリスは笑顔で観客へポーズを取って、歓声に応えていた。

 

「ぐ……」

「ちょ、ちょっとあなた、まだ立たないほうがいいわよ!」

 

 クレスがエターナルソードを杖代わりにして起き上がる。リリスが止めようとするが、クレスはそれを無視しリリスへと謝罪する。

 

「……す、すまなかった」

「……え?」

「君がダオスの手下でないことは、戦っている途中に分かっていた。君の攻撃には邪なものがまるでなかった。だが、それでも僕は君のような達人とどうしても全力で戦って見たかったんだ……」

「クレスさん……あなた、本当にうちのお兄ちゃんそっくりよ。強くなることにひたむきで、どんな苦労も(いと)わなくて、夢中になって何も目に入らなくなるの。あなたみたいな人には最後までとことん決着を付けないといけないと思っていたのよね」

「ふふ。君のお兄さんに……会って……みたか……」

「クレスさん!!!」

 

 クレスはそのまま倒れ込んでしまうのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「………………オリジン!!」

『我が主よ、何用か?』

 

 闘技場での戦いの後、気絶したクレスを医務室に運び、ミントの法術によって完治させる。

 リリスは気まずさからその場を立ち去ろうとしていたが、時雨(しぐれ)がその場にいるように指示を出したため、クレスの目が覚めるまで留まることになる。

 クレスが目を覚まし、リリスが事情を説明するまではチェスター、ミント、クラース、アーチェの四人からの冷めきった視線で針のむしろ状態となっており、リリスは目に涙を浮かべていた。

 

 最高位精霊であるオリジンを探しに異世界から来たということを説明──時雨(しぐれ)が説明しても大丈夫と許可を出した──したところ、クラースが召喚術師であり、オリジンと既に契約しているということだったので街の外でオリジンを召喚してもらえることとなった。

 

「実はこの子の話を聞いてもらいたいのだが……」

 

 クラースは少し緊張した様子でオリジンに伺いを立てる。

 オリジンの主ではあるが、精霊は気まぐれなところもあり、礼節を弁えない人間を相手にすることは決して無い。

 だからこそ尊敬の念を込めて話す必要があるのであった。

 

『少女よ、何の用だ?』

「あの……実は──」

 

 リリスが事情を説明する。ソーディアンを直したいのだが、素材が自分の世界にはないため、どこにあるのか教えてほしいということを簡潔に話す。

 

『そういうことか……先に言っておくとその者達を直すのに必要な鉱石は、()()()()()()()()

「……そ、そうですか」

『だが、別の世界ならありそうだな……』

「ほ、本当ですか!?」

 

 この世界にないと言われ落ち込むリリス。しかしその後、別の世界であれば見つかると言われ、すぐに元気になるリリス。

 

『ああ。場所は……〝インフェリア〟という世界と〝テルカ・リュミレース〟という世界だな。片方では十分な量が取れないかもしれないので、そのときはもう片方の世界に行くと良い』

「あ、ありがとうございます!!」

 

 リリスはオリジンに深々と頭を下げる。〝異世界渡り君DX(デラックス)〟があれば問題なく行けそうなので、安心していた。

 オリジンは用が済んだとばかりに消えていくが、消える直前に『鉱石を集めたらまた来るが良い。我が創ってやろう』と優しげに話していた。

 クラースもまさかオリジンがそこまでするとは思っていなかったため、最高位精霊(オリジン)に気に入られたリリスを驚いた顔で見ていた。

 

「……それでは私は行きますね!」

「ああ、気を付けてな。戻ってきたら異世界の話を聞かせてくれ」

「リリス、ぜーーーったいまた会いに来てね! 私達、もう友達なんだからね!」

「リリスさん、怪我には気を付けてくださいね」

「リリスさん、良かったらまた手合わせを──」

「おい、クレス! 女の子と戦いたがるだなんて、ミントに愛想尽かされても知らねぇぞぉ?」

 

 チェスターがクレスをからかい、クレスとミントは顔を真っ赤にさせていた。

 リリスは笑いながら〝異世界渡り君DX(デラックス)〟を起動させて、光とともに消えていく。

 その姿をクレス達はいつまでも見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううう…………おたまに負けたなんて……ショックだ……」

「うるさい! 何時だと思っているんだ! クレス、さっさと寝ろ!!」

 

 その日、クラースに怒鳴られるまで悔しさから眠ることが出来ないクレス・アルベイン君、17歳だった。




ファンタジア本編とファンダム、そしてオリジナルを混ぜ込んでいます。
ファンダムでディムロスがリリスに指示を出して闘うシーンがあったんですけど、未来編のクレス相手に声で指示を出してる余裕なんてないですよねとちょっと思ってしまったので、その辺はちょっと独自設定を入れました。

アンケートの回答を良かったらお願いします!
ヴェスペリアの世界にリリスが行くかどうかということです!


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第四話 リリス、料理します!

エターニア編が13,000字超えって……ボリュームがありすぎて読み疲れてしまうと思うので、じっくりゆっくり読んでくださると嬉しいです。

また、これだけ文字数が多いと、誤字脱字も多くなっているかもしれません。
その時は優しく誤字報告をしてくださると嬉しいです。



 インフェリア世界、熱砂の町シャンバール──砂漠地帯に囲まれている場所にありながら、食材の品揃えが非常に良い場所。

 なぜならそこには〝ビストロシャンバール〟という世界で有名なレストランがあるからだ。そこには〝味マスター〟と呼ばれる三人の猛者がおり、世界中の料理人が〝味マスター〟と対決して勝利し、その称号を手にすることを望んでいた。

 

「はぁ〜」

「……どうしました? 味マスター一号(いちごう)?」

 

 ため息をつく女性に、弟子である見習いシェフが話し掛ける。

 しかし、味マスター一号と呼ばれた女性は落ち込みを隠さずに〝味マスター〟という言葉を繰り返す。

 

「味マスター……なんて麗しい言葉の響き……。でももうだめ。もはやその称号は私の物ではない……」

「あの勝負のことなら、お気になさる必要はございません! 自分はマスターが負けたなど、これっぽっちも思っていません。あくまで──」

「裏付けのない慰めはよして。ますます自分が情けなくなる……」

「マスター……」

 

 慰めの言葉を掛ける見習いシェフに、味マスター一号は無用な慰めをしてほしくないと冷たく応える。

 

「……下がりなさい。今は一人にしてほしいの……」

 

 今は一人になりたいという味マスター一号の言葉を尊重し、見習いシェフは無言で頭を下げてその場から立ち去った。

 落ち込みながら一人考えごとをする味マスター一号。

 

(分からない……分からないわ……あの味の秘密がどうしても。味マスターとなって三年。料理界にこの人ありと言われた私が、あんな田舎者丸出しの野蛮な娘に負けるだなんて……!)

 

 考え事をしながら、そのことをブツブツと口に出していた味マスター一号。

 あまりの悔しさから泣き出しそうになったそのとき、前方の上の方に光が発せられる。そしてその光の中からピンク色のワンピースにエプロン姿の女の子が現れた。

 

「な、なに……!? なんな──」

「え? えぇぇぇえええ!?」

 

 光の中から現れた少女にただでさえ狼狽えていた味マスター一号であったが、その少女が地面にそのまま落ちてきたのだ。

 彼女の頭の中は混乱しすぎて、目をパチパチと瞬かせていた。

 

「……いったたたた〜! もうっ! ()()ってなんで毎回転移先が上空なのよっ!」

 

 少女はお尻をさすりながら、何かに対しての不満を漏らしていた。「とりあえず空間移動には成功したのね」と訳の分からないことを言っており、味マスター一号はキョトンとしていた。

 しかし冷静になった味マスター一号は、この場で一番疑問に思っていたことを口にした。

 

「あ、あなたどこから出てきたのよ!? それに一人でぶつぶつ喋って……」

「──ひっ!?」

 

 後ろから急に大声で話しかけられた少女は驚いたような声を上げる。そして、隠し事が見つかった時のような慌てぶりを見せるのだった。

 

「わ、私達……怪しい者じゃないでぇ〜すぅ!」

『……思いっきり怪しいと思うが?』

「あんたは黙ってなさいよ」

 

 少女は猫なで声で怪しくないと言い張るが、それがまた怪しさを醸し出す。

 そして少女は誰も話していないにも関わらず、急に黙れと言い出すのであった。

 

()……()……?」

『リリス、あの女にソーディアン(我ら)の声は聞こえないぞ』

『儂らの声が聞こえるのはリリス(お主)やスタンのように一定の才能を持つものだけじゃよ』

 

 味マスター一号は、少女の()()という言葉にある種の恐怖を感じ始める。

 

「わ、私! 私だけですぅ〜! 私、リリス・エルロン以外は他に誰もいやしませぇ〜ん!」

「──見りゃ分かるわよ! ……はっ!?」

 

 誤魔化そうとするリリスに味マスター一号は突っ込むが、その直後にリリスの腰に目が行く。

 

「ちょっと……その腰に差している刃物は……なに……?」

「え……? あ、その、これですかぁ?」

 

 リリスは動揺しているのか、おもむろに腰に差していた包丁を抜く。

 味マスター一号は急に刃物を抜いたリリスに対し、「ひっ!」と恐怖の声を上げる。

 リリスのその行動にさすがの時雨(しぐれ)も呆れた声を出していた。

 

『いや、なぜにそこで包丁を抜くんだよ……』

「え、えへへっ! 大したものじゃないですよぉ? 包丁(これ)使って、何かしようだなんてぜぇ〜んぜん考えてませんからぁ〜!」

 

 笑い声を上げながら包丁を振り回す様は、異常者そのものである。

 あのベルセリオスですらも、このときのリリスの異常さには驚きを隠せなかったとのちに語っていた。

 急に現れて包丁を振り回す。どう見ても強盗にしか見えなかった。

 

 しかし、味マスター一号もある意味同じくらい異常だったのであろう。

 リリスが抜いた包丁を食い入るように見つめていたのであった。

 

「あは! あは! あははははっ!」

『お、おい! いい加減包丁を振り回すのを止めんか!』

「そ……その手つき……! あ、あなたさては……!」

 

 確実に強盗に間違われてしまった。リリスとソーディアン達はそう確信する。

 そしてこの状況から逃げる方法は唯一(ただひと)つしかないとリリス達が思ったそのとき、味マスター一号は誰もが予想しない言葉を口にした。

 

「味マスターであるこの私に……()()()()()()()()のね!?」

「……………………へ?」

 

 リリスは味マスター一号が発した言葉がどういう意味なのか理解するのにかなりの時間が掛かった。

 いや、理解はしていたのだが、言葉の意味を飲み込むことが出来ていなかったのだ。

 それはソーディアン達も同じであった。しかし、味マスター一号は勝手に納得し、自分の世界で(えつ)()っていた。

 

「分かる。分かるわ、あなたの気持ち……どうしても味マスターになりたかったのね。きっと今まで私を目標にさぞ血の滲むような努力を重ねたのでしょう……」

「いや、別にそんなことないですよ?」

 

 リリスは自分の世界に入っている味マスター一号の言葉を否定する。

 しかし、その言葉は彼女には一切届いていなかった。

 

「でも……ごめんなさい。私も本当は勝負をしてあげたいけど……でも、出来ないの! なぜなら私はもう味マスターではないから!」

「あじ……ますたぁ? なにそれ?」

 

 味マスターという言葉の意味が分からないリリス。

 しかし、その言葉は彼女には一切届いていなかった。

 

「はぁぁ……あのオムライスが分からない……どうやって作ればいいのかしら?」

「オムライスぅぅ? あんなもの作るのなんて簡単じゃない?」

「──ッ! 簡単ですってぇ……!」

 

 オムライスを作ることが出来ないという味マスター一号。

 それを簡単に作れるというリリスの言葉がようやく届くが、それは悪い意味に受け取られていた。

 忌々しそうにリリスを睨みつける味マスター一号。しかしリリスはそのことに気付いていなかった。

 

「だって、オムライスでしょ?」

『リリス、ちょっと待て。なんだか相手を刺激しているようだぞ?』

 

 更に味マスター一号を挑発するような言葉を発するリリス。あまりのことに味マスター一号は怒りで震えていた。

 ディムロスはリリスの言葉が相手を刺激していると伝えるが、それでもリリスはぽかんとしていた。

 

「あなたのその物言い、料理を舐めているわ! 私の前で許せない……! 大口を叩くのなら、実力の程を教えてもらおうじゃないの!」

 

 味マスター一号はリリスの態度についに我慢の限界に達する。

 そしてリリスがその大口を叩くに相応しい実力を持っているのかを確かめるようとする。

 

「しからば問う。オムライスを作るとき、最初に炒める材料は?」

「……え? そんなの玉ねぎに決まってるじゃない!」

 

 何を聞かれるのか身構えていたリリスであったが、あまりの初歩的な質問だったため拍子抜けをしてしまう。

 そのあとの味マスター一号の「むぅ……やるわね……」という言葉に、彼女が何をしたいのかが分からなくなっていた。

 

「ねぇねぇ。あの人、私にオムライスの作り方を聞きたいのかしら?」

『ん〜……』

「その割に態度が偉そうねぇ。この世界ではあれが普通なのかしら?」

 

 実はオムライスの作り方をリリスに聞きたいのではないかと考えたリリス。ソーディアン達に小さな声で問い掛けるも、全員が答えあぐねていた。

 リリスはこの世界の住人が何かを聞きたいときは、ここまで偉そうにするのが普通なのかと疑問に思っていた。

 

「何をごちゃごちゃ言ってるの? 次、行くわよ!」

「え……まだ続けるのぉ!?」

 

 リリスは続けて質問してくる味マスター一号に、やはりオムライスの作り方を聞きたいのだと確信する。

 仕方がないので丁寧にオムライスの作り方を教えてあげることにするのであった。

 

「むぅぅぅ……やるわね……。はぁ……そうよね。これが普通のオムライスの作り方よね……」

「なによぉ! せっかく教えたのに、知ってたのぉ!? だったらわざわざ聞かなくったってぇ──」

 

 作り方を懇切丁寧に教えてあげたリリス。しかし味マスター一号の返答は、「それが普通のオムライスの作り方よね」というものであった。

 作り方を知っているにも関わらず、わざわざ聞いてきた味マスター一号に文句を言おうとしたリリス。

 しかしその言葉は彼女には一切届いておらず、言葉を遮られるのであった。

 

「でも! ダメなの! これだけじゃ()()()は出ないのよ! ()()()()()はこのレシピに更に秘術を加えている。それが分からないことには悔しくて夜も眠れないわ……」

「へぇ! 誰かの作ったオムライスがそんなに美味しかったんだ?」

 

 また自分の世界へと入り、まるで劇を演じているかのようなパフォーマンスで語る味マスター一号。

 自身の言葉を遮られたリリスは更に文句を言おうとしたが、田舎娘が作ったとされるオムライスに興味を持つ。

 その言葉は味マスター一号に届いたようで、「……試しに食べてみる?」と指を鳴らすと、外で待機していた見習いシェフが食べかけのオムライスを持ってくる。

 

「こちらでございます」

「どれどれぇ?」

 

 リリスは添えられていたスプーンでオムライスを掬い、口の中に入れる。目を瞑り、その味を確かめるようにもぐもぐと噛み続ける。

 

「……どう?」

「……うん! 確かに美味しいわ! ()()()が効いていて、全体的にさっぱりしてる!」

「レ、レモン!? レモンが入っているの!?」

 

 リリスでは分からないだろうと思いつつも、淡い期待を持って問い掛ける味マスター一号。

 しかしその期待は良い方向に裏切られ、オムライスに入った隠し味を言い当てたリリス。

 まさかと思い、リリスからスプーンを奪い取る味マスター一号。そして彼女と同じようにオムライスを口に入れる。

 

「た、たしかにレモンが入っているわね。まさかレモンが秘密の正体だったなんて……全然気付かなかったわ。

あの田舎娘、大したものね。私の、私の完敗だわ……はぁ、なんだか肩の荷が下りた気分よ。今はむしろ清々しさすら感じるわ……」

「あ、そうですかぁ……」

 

 オムライスの隠し味の正体が分かった味マスター一号は、再び自分の世界へと入っていく。

 この世界に来てからまだ少ししか経っていないのだが、リリスはこのやり取りに慣れ始めていた。

 味マスター一号は考える素振りを見せた後、何かを決心したような顔でリリスを見つめた。

 

「……決めたわ! 私は今から山に籠もって料理の何たるかを根本から見直すことにするわ! だからあなた……今日から私の代わりに新たな味マスターを名乗りなさい!」

「……え? 何のこと?」

「あなたにはその資格がある。ビストロシャンバールの未来はあなたの手に掛かっ──」

 

 勝手に新しい味マスターを名乗るようにリリスに言う。そしてリリスの言葉を一切聞くことなく話を続けようとしたとき、同じ建物内の別の場所から大きな歓声が聞こえてくる。

 

「え……何かしら?」

 

 これにはさすがの味マスター一号も気付き、話を止める。

 そこにビストロシャンバールのスタッフと思しき人間が慌てながら走ってくる。

 

「た、たたたたたたた大変だっ! 味マスター二号が破れた! 」

 

 スタッフは味マスター一号の前に立つと、息を切らしながら味マスター二号が敗北したことを伝える。

 

「──ッ! な、なんですってぇ!? 相手は!?」

「君のときと同じだ! ラシュアンからやってきた……あの……!」

「な、なんてこと……またあの娘なの……? ()()()()がまたしても勝ったというの……?」

 

 緑の悪魔と形容された娘。先程のオムライスを作った田舎娘と同一人物であろうと察したリリス。

 味マスター一号達はショックのあまり、震えていた。

 

「このままではあの()()()()にビストロシャンバールの名誉と誇りが踏み(にじ)られてしまうわ……一体どうすれば……」

 

 話についていけず、リリスはそろそろ退散しようと思い、最後に一声だけ掛けようと味マスター一号に近寄る。

 

「あの〜……私、そろそろお(いとま)しますね。それでは失礼しま──」

「そうよ! そうだわ! こうなったらあなたしかいないわ! オムライスの秘密に気付いたあなたなら、あの緑の悪魔にも勝てるわ! さぁ行きましょう、味マスター三号!」

「……え? ちょ、ちょっと! 私にはやらなきゃいけないことがあるの!」

「ええ! そうよね! あなたには緑の悪魔を倒さなきゃいけない宿命があるのよ!」

「ちがっ! ちょっと待ってってばーーーっ!!」

 

 リリスは話を聞かない味マスター一号に引きずられながら、その場を後にするのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

〈料理は剣よりも強し。料理を制する者、世界を制す。紳士淑女の皆様、こんにちは。ビストロシャンバールへようこそ! 今日も史上最高の料理対決。たっぷり堪能していただきます!〉

 

 照明が落とされて暗くなった会場の中、司会にスポットライトが当たっていた。

 司会の挨拶の後、会場がライトアップされ、観客からの歓声が響き渡る。

 

〈それでは料理対決をするに当たって、出場者の紹介をさせていただきます! まずは挑戦者! 最果ての村、ラシュアンからやってきた家庭料理の達人! 誰が呼んだか付けられた異名は〝緑の悪魔〟! ファラ・エルステッドさんです!〉

「私に任せなさーい!」

 

 ファラは歓声に手を振ることで応える。観客には知り合いなのかファラの名前を呼ぶ赤髪と青髪の青少年、そして紫髪の少女がいた。

 

〈続きまして、今回の挑戦を受けるのはこの方! 出身も腕前も全てが謎に包まれた美少女! 味マスター三号、リリス・エルロンさんです!〉

「……はぁ。私、なんでここにいるのかしら……?」

『本当だな。というか、そう思うなら断れば良かっただろう』

「仕方がないでしょ! あれだけ頼まれたら断れないじゃない」

『まったくお人好しにも程がある! それがエルロン家の伝統なのか?』

 

 リリスは笑顔で周りに手を振っていたが、陰ではため息を吐きつつ、小さな声でディムロスと話していた。

 無理やり味マスター一号に連れて行かれたリリスだったが、味マスター三号としてファラと対戦をすることが分かった段階で、全力で拒否をしていた。

 しかし、ファラに負けた味マスター一号、二号、そして元三号含むビストロシャンバールスタッフ陣に懇願され、押し切られる形で対決を引き受けることとなった。

 

 ディムロス達を直すという役割がある以上、頑なに断ることも出来た。

 しかしそれが出来ないのがエルロン家の血筋。お人好しの彼女は引き受けるしか選択肢がなかったのであった。

 そしてゲストの紹介後──アナウンサーが質問するも、結局聖職者という職業しか教えてもらえなかった──に、対決する料理名が決められた。

 

〈オーダー入ります! 〝()()()()()()()()()()()〟!!〉

「ペスカ……トーレ……」

 

 リリスは料理名を繰り返す。作ったことがないわけではなく、必要な材料と料理の工程を思い出していたのだった。

 

〈それでは両選手にはこれから食材集めを開始してもらいます。レディー…………ゴー!!〉

 

 司会のスタートの合図で、リリスは会場から飛び出す。

 ファラは先程応援していた青少年達のところへ合流していた。

 

「ペスカトーレかぁ……美味そうだなぁ」

「相手は強敵そうだが大丈夫なのか?」

「ファラ、大丈夫か?」

 

 三人は心配そうな顔をしていた。否、赤髪の青少年だけは自分も食べたいと思っていただけだった。

 

「キールもメルディもなぁに心配そうな顔してんのよ。大丈夫だって! ね、リッド?」

「おうよ! ファラの料理は天下一品だからな! 俺も食いてぇぜ!」

 

 キールと呼ばれた青髪の青少年とメルディと呼ばれた少女はファラの言葉を聞いても少し不安そうだったが、リッドと呼ばれた赤髪の青少年だけは何の心配もしておらず、やはり自分も食べたいと思っていただけであった。

 

「とりあえず材料を揃えに向かいましょ!」

 

 ファラはそう言いながら、四人で会場から外に出るのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 シャンバールの町の食材屋にて、リリスはペスカトーレの材料を探していた。

 

「ペスカトーレ……ペスカトーレ〜♪」

『勝算はあるのか?』

「どうだろ? ま、なんとかなるでしょ! 何度も作ったことあるし。多分特定の食材の選び方が勝敗を左右することになると思うの」

『ほう……』

 

 勝算を聞かれたリリスは少し言葉を濁したが、彼女の話し方からは自信が垣間見えていた。

 そして、今回の勝負は単純にペスカトーレを作ればいいというわけではないとリリスは感じていた。

 

「特に大事なのは……そうね、()()()かしら? ふんだんに入れた海産物の調和を取り、味を整える役割を果たすトマトが一番大切だと思うわ」

『ここに並んだトマトではダメなのか?』

「そうね〜……あら、あなたは……!」

 

 料理対決の勝負を左右する食材をトマトに絞ったリリス。

 ディムロスは料理や食材のことが分かっていないのか、ここにあるトマトで大丈夫なのではないかというのを暗に含ませた質問をする。

 彼からすると、この勝負は自身の身体を取り戻すのに何の意味も持たないため、そこまで拘る必要もないと考えていたために出た言葉であった。

 リリスが店に並んでいるトマトを確かめようとしたところで、店に入ってきたファラに気付く。

 

「あ! 味マスターさん……あの、その、こ、こんにちは」

 

 ファラもリリスに気が付き、お互いに目が合ってしまう。

 無視するわけにもいかず、ファラが挨拶をする。

 

「こ、こんにちは……。お、お買い物、ですか?」

「あ、はい。味マスターさんも……お買い物ですか?」

「……え、ええ」

「そ、そうですか……」

 

 リリスも挨拶を返すも、何から話していいか分からない。

 世間話がてら質問するが、気まずいのはファラも同じだったようで大した返事は来なかった。

 

「…………」

「…………」

「そ、それじゃあ私、この辺で。ご、ごきげんよう〜」

 

 すぐに話すことが無くなり、お互いに黙ってしまう。

 なんとも言えない空気が食材屋を支配し、その空気に耐えられなくなったリリスが店を飛び出していくのだった。

 

「はぁぁぁぁ! 緊張したぁぁ!!」

『あの場で喧嘩しやしないかとヒヤヒヤしたぞ』

「そんなことしないよぉ! 勝負は()()()()で付けるわ!」

 

 店を飛び出したリリスは、食材屋の壁に背をもたれさせて息を吐く。

 ディムロスは冗談交じりで話すが、リリスはそんなことはしないと真面目に答える。

 すると、店の開いた窓からファラ達の声が聞こえてくる。

 

「やはり今度の相手はなんだか手強そうだ……なぁファラ、本当に勝算はあるのか?」

「大丈夫! 自信あるよ! 私には切り札があるんだから! 〝セレスティア〟の()()を使えば、きっと美味しいペスカトーレが作れるよ」

 

 キールが自信満々のファラに勝算はあるのか問い掛けると、〝セレスティア〟のアレを使えば大丈夫だと話す。

 その言葉にリッド、キール、メルディの三人はピンときたのか納得の声を上げる。

 

「……切り札ぁ? 何かしら……気になるわね」

『それで、トマトをどこで調達するつもりだ?』

 

 外から盗み聞きしていたリリスはファラの切り札が何なのか気になっていたが、ディムロスは早くこの勝負を終えて目的を達したいと思っているのか勝負の鍵となるトマトをどこで手に入れるのかをリリスに問う。

 リリスは少し悩んだ後、ソーディアン達に相談を始める。

 

「えっと、みんな。一旦()()()()()に戻ってもいい?」

『どうしたんですか?』

 

 リリスがリーネの村に戻りたいと言い出したことにシャルティエは疑問に思う。

 

「あのね、今回の対決なんだけど、私だけの味で勝負したいの。そのために村で採れた材料が必要なのよ」

『……そこまでして勝負に拘る理由があるのか?』

 

 シャルティエの問いにリリスは自分だけが出せる味で勝負がしたいと話し、そのためにはリーネの村で採れた食材が必要とのことだった。

 しかし、ディムロスはわざわざリーネの村に戻ってまで材料を調達する必要性を感じていなかった。

 それに対し、彼女は息を荒くして答える。

 

「あるわよ! これは名誉の問題よ! リーネいちの料理上手としての……ね! 自分自身、そして村のためにもこの勝負、絶対に負けられないわ!」

『俺は戻っても別にいいと思うがな。やるからには全力を尽くすというのは良い心掛けだと思うぞ』

『ええ、私もそう思うわ。同じ女性として料理対決で負けたくない気持ちは分かるもの』

『イクティノス……アトワイトまで……ええい、仕方がない! それでは一旦リーネの村に戻るぞ!』

 

 リリスの啖呵(たんか)にイクティノスとアトワイトも賛成をし、その二人に賛成をされたディムロスは諦めたかのようにリーネの村に戻ることを了承する。

 

「みんな、ありがと! じゃあ一旦町の外へ行くわね!」

 

 リリスは町の外で〝異世界渡り君DX(デラックス)〟を使い、リーネの村に戻るのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

〈両選手が戦いの場に戻ってまいりました! いよいよ勝負は待ったなし! お二人とも……準備はよろしいですね?〉

「はい!!」

 

 リリスとファラは会場に戻り、会場に設置された調理台の前に立っていた。

 司会から準備は大丈夫かと聞かれ、声を揃えて返事をする。

 

〈それでは! 〝なつかしのペスカトーレ〟対決、始めさせていただきます! 両選手、調理を始めてください!〉

 

 二人は試合開始の鐘の音が鳴り響くと、一斉に材料を取りに行く。

 リリスは最初にアサリの砂抜きを始める。砂抜きをしている間にムール貝の殻の汚れをきちんと取り、その後トマトソース作りを始める。

 

〈ゲストの方にお話をお伺いいたします。なぜ昔の味でなくてはならないのですか?〉

「これだから最近の若いもんは困る! まったく、食べ物に対する敬意が欠けとるから味覚までマヒしてしまうのだ──」

 

 女性アナウンサーが調理の時間を使ってゲストにインタビューを開始するが、初めから怒鳴り口調で説教を始めてしまうゲスト。

 まさか怒られると思っていなかったアナウンサーは、少しビクッとしながらも話に相槌を打つ。

 リリスはまず玉ねぎとにんにくのみじん切りを始めた。そのスピードには、観客も驚きの声を上げるのであった。

 

「あの女……すげーなぁ! あんな速いみじん切り、見たことねぇよぉ!」

「ファラも負けていないぞ! 気合いの入り方は今までで一番だ! それでいて動きには全く無駄がない。紛うごとなき優雅な包丁(さば)きだ!」

「バイバ! ファラ〜、頑張るよ!」

 

 リッドもリリスの包丁(さば)きに驚き、キールはファラも負けていないと冷静に分析する。

 メルディは大声でファラの応援をしていた。

 

 リリスはみじん切りを終えたにんにくとオリーブオイルをフライパンに入れて火を付ける。

 にんにくが少し色付いてきたら、玉ねぎと塩小さじ一杯を入れて弱火から中火で細かく火の調整をしながらも飴色になるまで炒めていく。

 

「のっけから目まぐるしい攻防だぜ……」

 

 リッドは二人の対決に真剣な言葉を放ちながらも会場内に漂ってきた匂いに、垂れそうなよだれを(すす)っていた。

 会場全体が同じような空気になっているとは知らないリリスは玉ねぎを飴色まで炒めたあと、皮を剥いたトマト、水、塩小さじ一杯、バジルを入れて、弱火から中火で煮込み始める。

 

〈ペスカトーレにはどのような思い出があるのですか?〉

「そんなことを知ってどうするつもりだ?」

〈ひっ!〉

「……まぁよい。実は私もこの町の出身なのでな。子供の頃は毎日のように食べておったのだ──」

 

 女性アナウンサーはゲストに次の質問をするも、睨みながら返事をするゲストに対して、泣きそうな顔になる。

 しかしゲスト本人も話したかったのか、はたまた用意していたのか思い出話を流暢に話し始めるのであった。

 

〈ハイレベルの戦いが繰り広げられています! 両選手とも全く引く構えなしです!〉

 

 リリスだけでなく、ファラの手際もかなり良く、二人とも田舎出身で家庭料理をしていただけとは到底思えないほどの腕前をしていた。

 その調理の様子に味マスター一号、二号、元三号も見惚れていた。

 

「これは凄い! 間違いなく歴史に残る一戦だ!」

「どっちが作る料理も美味えんだろうなぁ……想像しただけで腹が鳴りそうだぁ」

 

 トマトソースを煮込んでいる間に、リリスは具材の調理を開始する。イカの胴を約8mm、足は約2cm幅に切り、エビは殻を剥いて背わたを取る。

 そしてトマトソースが煮込み終わったら、荒めのザルで濾していく。

 

「キール、気付いたか? いつの間にか会場内がシーンと静まり返っている」

「ああ。みんなが固唾を飲んで見守っているんだ。()()()()とは、まさにこのことだな」

「いよいよクライマックスか……」

 

 会場内が静まり返る中、リッドとキールは小さな声で話していた。メルディも空気を感じ取っているのか、静かに見守っていた。

 沸かしたお湯にパスタを入れて茹で始めるリリス。その間に再度フライパンにみじん切りにしたにんにくとオリーブオイルを入れ、にんにくが色付いてきた段階で魚介を入れて軽く炒める。

 その後、白ワインを入れてフライパンに蓋をし、アサリが開くまで弱火から中火で蒸す。

 

〈まもなく終了となります! 果たして二人とも間に合うのかぁ!?〉

 

 調理終了時間が迫っていたが、まだ両者は最後の仕上げのために手を動かしていた。

 フライパンの蓋を取ったリリスは、トマトソースを加え、その後茹で上がったパスタとバターを入れて和える。

 最後に塩と胡椒で味を整え、用意されていた皿に盛り付けてパセリを振ったところで終了の鐘が鳴り響いた。

 

〈終了の鐘が鳴らされました! これより試食に移ります!〉

 

 ギリギリ作り終えることが出来たリリスは汗を拭って一息つく。

 スタッフが二人が作った料理をゲストのところへと運んでいく。

 

「どっちが勝ったと思う?」

「分からない。接戦であることは確かだが……」

 

 どっちが勝ったのかを予想して話していたのは、リッドとキールだけではない。

 会場内にいた観客全員が予想を立て、しかし接戦になるであろうと考えていた。

 

〈果たして……栄光を掴むのはどちらか? 味マスターか、それとも挑戦者か? それでは試食をお願いします!!〉

 

 ゲストは先にリリスのペスカトーレから食べ始める。

 フォークでパスタを巻き、ソースの絡みついたそれを恐る恐る口へと含む。

 

〈さあ……どうでしょうか……!?〉

 

 司会がゲストに味はどうかと聞くと、「お……」とだけ呟く。

 よく聞こえなかった司会がもう一度聞こうとしたとき、ゲストが大声で叫びだした。

 

「お…………おおおおおおおいいいいいしぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

 ゲストは目を見開いて叫んだ後、一口、もう一口と食べ進めていく。

 

「……む、昔のままの味だ! あの頃の味だ! 私の母の味だ! いや……それ、以上かも、しれない……ううう……」

 

 ゲストは昔懐かしい母の味を思い出したのか、涙を流しながらリリスの作ったペスカトーレを食べ進めていく。

 二度と味わうことが出来ないと思っていた母の味。それを年老いた自身がまた食べられる日が来るとは思ってもいなかった。

 泣きながら食べるゲストを見て、誰もが勝者を確信した。

 

〈勝者! 味マスタぁぁぁぁぁ!!!!〉

 

 司会者が勝者を宣言する。ファラの料理を食べる前に勝敗を付けて良いのかと思ったリリスが横を向くと、ファラが両手を上げて降参のポーズを取っていた。

 リリスはその瞬間、自身が勝ったことを自覚した。

 

「いやっっっったぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 嬉しさのあまり喜びの声を上げて飛び上がるリリス。それは闘技場でクレスに勝利したときよりも興奮していた。

 会場内は歓声と拍手が響き渡っていた。

 

〈激闘を制したのは味マスター! 味マスターの勝ちです! ビストロシャンバールの最後の牙城が意地を見せました!〉

『やったな、リリス!』

『さすがね』

『すごいですよ』

『ふぉっふぉっふぉ』

『完勝だったな』

『やるわね』

『た……食べてみたかった……』

「ボブおじさんが丹精込めて作ってくれたあのトマトのお陰だよ!」

 

 ソーディアン達もそれぞれリリスに祝福の言葉──時雨(しぐれ)だけは欲望の言葉──を送る。

 リリスが話したとおり、決め手は()()()だった。リーネの村に住んでいるボブから自慢のトマトを貰い受けたお陰で勝つことが出来たのだった。

 喜ぶリリスにファラが近付いてくる。

 

「味マスターさん」

「えっと……たしか、ファラ……さん?」

「おめでとう! 私も自信あったんですけど、敵わなかったみたいです」

 

 ファラは素直に負けを認めて、リリスに祝福の言葉を述べる。

 

「いい勝負だったわ。こんな事言うのはなんだけど……楽しかったわ」

「味マスターさんもそう思いましたか! 実は私もなんです! 奇遇ですね♪」

「そうなんだ! 私達……結構気が合うかもね!」

「うん、そうね! 私もそう思う!」

「私のことはリリスって呼んで♪」

「分かったわ、リリス。また勝負しようね♪」

 

 リリスとファラは意気投合し、握手を交わす。その姿を見て会場内も更に盛り上がる。

 

〈おおっとぉぉ! 戦いを終えた二人の間にどうやら友情が芽生えた模様! なんと美しい光景でしょう! 皆様、どうかこの二人に盛大な拍手を!!〉

 

 拍手が響き渡る会場内。このあと勝利したリリスにスピーチをしてもらおうと司会者が話し始めるのだが──

 

〈それではこれより勝者の栄誉を祝して──〉

「あああ!!!」

 

 司会者の言葉を何かを思い出したリリスが遮る。

 

「そういえばボブおじさんにトマトソースを作って持っていく約束をしていたんだった! 今日のご飯に使うって言っていたから、早く持っていってあげないと! みんな、鉱石のある場所まで急ぐわよ!」

『……それはいいのだが、鉱石がある場所は分かるのか?』

 

 リリスはボブからトマトを貰った際にトマトソースにして渡すと話していたのだった。

 それを今日の食事に使いたいと言っていたことを思い出し、こうしちゃいられないとばかりに会場を出ていくのであった。

 慌てているリリスに、ディムロスの言葉は届いていなかった。

 

〈マ、マスター……? ど、どこへ行くんですか!? 味マスター!!!〉

 

 司会者が呼び止めるも聞かずに去っていったリリス。

 負けてしまったファラは、その様子をリッド達と一緒に見ていたのであった。

 

「……なんだぁ、あの女? まるで台風だな」

「あはは! それいいね! 本当に気持ちの良い人だったな! また会いたいよ!」

 

 リッドが台風と称し、ファラがまた会いたいと思った彼女(リリス)────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あのぉ」

「……へ?」

「私、特殊な鉱石を探しているんだけど……心当たり……ある?」

 

 二人の再会は、思いの(ほか)すぐに訪れるのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 最果ての村、ラシュアンの近くにあるレグルスの丘。

 リリスはファラ達に場所を教えてもらい、その地下洞窟の奥深くまで潜っていた。

 

「ここが一番奥ね……あ! あそこになにか光ってるわ!」

 

 リリスは奥深くに光っている鉱石を発見する。

 

『……うん、これで間違いないわね。来る途中にあった純度の低いものとは違って、これは高純度の鉱石ね』

「オリジンに教わったとおり、この世界にあったのね♪」

 

 鉱石の名前が分からなかったのだが、リッド達は特殊な鉱石だと聞いてすぐに〝リヴァヴィウス鉱石〟だと気付く。

 危険な場所にあるため、ついていこうかと言うファラの提案を断ったリリスは一人で向かっていたのであった。

 

「じゃあこれを持って……って皆を直すのにはどれくらい必要なの?」

時雨(しぐれ)、ベルセリオス。量的にはどうなんだ?』

『うーん、俺には分からん! ベルセリオス、任せた!』

『まったくあんたは……まぁいいわ。正直言うとここにある分だけじゃ足りないわね。やはりオリジンが話していたもう一つの世界(テルカ・リュミレース)に行くしかなさそうね』

 

 〝インフェリア〟で手に入れた分では足りないことが分かり、オリジンが話していた〝テルカ・リュミレース〟という世界へ行く必要があるとベルセリオスは話す。

 

「それじゃあ先にリーネの村に帰りましょ! 忘れないうちにボブおじさんにトマトソースを作ってあげたいもの♪」

『まったく……本当にそそっかしい娘だな……』

 

 ディムロスがリリスのことを()()()()()()と言ったのには理由があった。

 ボブにトマトソースを作る時間が無いと焦っていたリリスだったが、〝異世界渡り君DX(デラックス)〟があれば、使い手の想像次第で()()()()()()()()()()()なのだ。

 そのことをレグルスの丘に向かう途中でベルセリオスから聞かされ、先ほどビストロシャンバールで慌てて飛び出したことを思い出し、それを笑って誤魔化していたリリス。

 

「じゃあ今日はリーネの村に帰って、また明日から行動を開始しましょ♪」

 

 〝異世界渡り君DX(デラックス)〟は光を放ち、リリス達をリーネの村へと運ぶのであった。

 




先程アンケートを締め切りました!
結果は本話のラストに書いたとおり、ヴェスペリア編を書きます!
ファンタジアやエターニアほど長くはならないと思いますが、今しばらくお待ちくださいますようよろしくお願いいたします。

ペスカトーレ。実は本話の通りに作ると、ちゃんと作ることが出来ます。
ただ、材料や調味料の量、トマトソースを煮込む時間などで書いていないものもあるので、そこは注意が必要です。


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第五話 リリス、協力します!

け、結局ヴェスペリア編も小話入れて1万字を越えてしまいました……!
また長いので、ゆっくりじっくりお読みください!

それと本日で『テイルズ オブ デスティニー〜7人目のソーディアンマスター〜』が投稿から一周年になりました。
ここまで続けてこられたのも皆様のお陰です。
本当にありがとうございます!

次回、後日譚の最終話です。
また気長にお待ちくださいませ!



 テルカ・リュミレース世界、望想の地オルニオン──ヒピオニアという大陸の北東部に位置しているその町は、その世界の住人にとってある目的のために作られた町であり、テルカ・リュミレースの命運を賭けた最後の戦いが今まさに始まろうとしているところであった。

 

 日が沈もうとしている夕方。二人と一匹がオルニオンから外へとやってきた。

 一匹の犬は途中で止まり、二人の行方を見守ろうとしていた。

 少し離れた場所で、全身黒い格好をした黒髪長髪の青少年が立ち止まり、青と白を基調とした騎士鎧を身に纏った金髪の青少年へ声を掛ける。

 

「フレン、あらたまってどうしたんだ?」

「君は……このまま行くのか、ユーリ?」

 

 黒髪長髪の青少年(ユーリ)は、質問を質問で返事する金髪の青少年(フレン)にどういう意味なのか分からず、「あん?」と再度聞き返すことしか出来なかった。

 フレンは少し目を瞑ったあと、自らの考えを述べていく。

 

オルニオン(ここ)に世界の指揮をとる人たちが集まってる。……今こそ、君の功績を称えられるときだ」

「またその話か」

 

 フレンの言葉をユーリは鼻で笑うと、興味無さそうな顔をする。

 しかしそういう態度に出るであろうと分かっていたフレンは腐らずに続きを話す。

 

「僕の功績の半分、いやそれ以上が本当は君の──」

「いいじゃねぇか。誰がやったかなんてどうでも」

 

 ユーリはフレンの話を遮り、心底どうでも良いという風に顔を俯かせる。

 

「良くないさ。なぜ自分だけ損な選択をする? どうして辛い部分を全部背負い込もうとする? ……僕には背負えないからか?」

 

 フレンは納得が出来ないとばかりにユーリへと語気を少しだけ強める。

 いつもユーリのやった功績を自分にだけ譲られ、それ以上のことを彼に返すことが出来ていないと思っているフレンは少しだけ不安そうにユーリへと問い掛ける。

 しかしユーリから出てきた言葉は────フレンへの感謝の言葉だった。

 

「……おまえはオレが背負えないもの、背負ってくれてんじゃねえか。オレが好き勝手やれてんのが誰のお陰かってことくらい、分かってるつもりだぜ?」

「──ッ! だけど……!! ……駄目だ、どうも余計な言葉ばかり出てきてしまう」

 

 フレンはもっと自分を頼ってほしいと思っていた。そしてそれ以上にユーリが、自分の親友が世の中に認められてほしいと心の底から思っていた。

 しかし、ユーリと真剣に話そうとするといつも煙に巻かれてしまうか、自分だけが熱くなってしまって話が逸れていってしまう。

 今度こそ真剣に向き合いたいというフレンの気持ち。それが伝わったのか、ユーリは薄く笑うと左手に持っていた鞘から刀を抜く。

 

「フッ、なら……()()()で来いよ」

「ユーリ……!」

「おまえが口でオレに勝てるわけねぇだろ。おまえがオレに勝てるのは……()()()だろ?」

 

 刀をフレンに向け、彼にも抜くように促すユーリ。フレンは一瞬驚いた顔をするが、納得したような顔で笑うと腰に差してある騎士剣に手を掛ける。

 

「そうか……そうだったな。君はいつもそうだ。」

 

 フレンは抜いた剣をユーリの刀に軽く当てる。日没が近いその場には、剣が当たるカキンという音が響き渡る。

 

「思いはすべてこの剣に乗せる!」

「……いいぜ、来な──」

 

 ユーリとフレンの一騎打ちが始まるまさにその時。二人の上空に大きな光が輝き始める。

 

「なっ!?」

「な、なんだぁ!?」

 

 二人は思わず上空を見るが、眩しさで先に何があるかが見えない。

 徐々に光が弱まっていく。

 

「わっ! わわわ……ま、またなのぉ〜〜!?」

 

 光から降ってきたのは、ピンク色のワンピースにエプロン姿の女の子であった。

 

「危ない!!」

「……ちっ!」

 

 上空から現れたのが女の子であると理解したフレンは、咄嗟に剣を地面に刺して少女を受け止める。

 ユーリも何が起こったのか理解はしていたが、このままでは危ないと思い自らの刀を仕舞い、フレンが受け取りそこねた時にカバーできるように瞬時に動いていた。

 

「いったたたた…………ってあれ、痛くない?」

 

 少女は地面に落ちたのだと錯覚していたのだが、痛みがないことに気付き目を開ける。

 

「……大丈夫かい?」

「…………」

 

 フレンは冷静を努めつつ、少女の心配をする。少女は金髪碧眼の整った顔に見惚れていた。

 それも無理はない。フレンの顔は女性が見ればほぼ全員がイケメンと称する程であり、その爽やかさは今までその少女が出会ったことがない部類だったからだ。

 

「……あの、えっと、だ、大丈夫?」

「ふぇ? ……あ、ははははい! だ、大丈夫です!!」

 

 フレンはもはや慣れた女性からのいつもの視線に苦笑いを浮かべていた──ように周りからは見えていた──が、現状を理解した少女は慌てて返事をする。

 ユーリはまた一人フレンに落とされたかと思っていたが、それ以上にいきなり現れた少女に警戒していた。

 

「ユーリ! 今の光って何があったの!?」

「カロル!」

 

 そこに少女が現れた光を見たオルニオンの町の住人が何人か走ってやってきた。

 先頭を走るカロルと呼ばれた茶髪の少年は、その先に見知った人間達と知らない少女がいたのが不思議に思っていた。

 

「ん? ああ、なんでもねーよ。大丈夫だ」

「ユーリ、あんたもしかしてフレンとその女の子に何かしようと──」

「しねーよ!」

「しないよ!」

 

 カロルに返事をしたとき、後ろから追いついてきた茶髪の少女にあらぬ疑いを掛けられそうになったため、フレンと一緒に即座に否定する。

 やけにフレンの語気が強かったのだが、幸いそれに気付く者はいなかった。

 茶髪の少女も冗談で言っていたので、頭につけたゴーグルをいじりながら「まぁそうよね」と笑っていた。

 

「……で、そのお嬢さんは誰なんだい?」

「そうね。もしかしてさっきの()()()()はあなたなのかしら?」

 

 興味津々な様子で黒髪を後ろで結っている軽薄そうな男性と耳が尖っている青髪の女性が問い掛ける。

 話し方は興味本位な感じではあったが、二人の目と雰囲気がユーリと同じく少女を警戒しているようであった。

 フレンから降りた少女は服を整えて自己紹介をする。

 

「あの……えっと……私はリリス・エルロンっていいます。よ、よろしく……お願い……し、します……」

 

 リリスはテルカ・リュミレースに到着するやすぐに囲まれてしまったため、動揺していた。

 しかも全員が明らかに手練だったため、さきほどフレンに抱いた気持ちなど忘れ去ってしまうくらい泣きそうになっていた。

 

「ちょ、ちょっと! ジュディスもレイヴンもそんな目をしてたら駄目だよ! 怖がってるでしょ!」

 

 カロルの言葉に青髪の女性(ジュディス)軽薄そうな男性(レイヴン)はそれ以上何も言わなかったが、警戒を解くつもりはないようであった。

 ため息を吐いたカロルはリリスの方を向いて自己紹介をする。

 

「ボクはカロル・カペル! ギルド〝凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)〟の首領(ドン)だよ!」

「うちはパティなのじゃ!」

 

 カロルの後ろから海賊帽子を被った金髪幼女がひょこっと出てくる。

 パティの出現で周りの空気が少し緩んだかに見えたが、ユーリ、ジュディス、レイヴンは違っていた。

 

「フレン、そこから離れろ」

「え……いきなりどうしたんだ?」

 

 ユーリは仕舞っていた刀を再度抜き、フレンにリリスから離れるように伝える。

 フレンは刀を急に抜いたユーリに驚くが、ジュディスとレイヴンもそれぞれの得物を抜く。

 

「……ユーリの言うとおりだわ。その子は明らかに()()()()()のよ」

「そうだな。()()()()()()()で出てくるなんて、いくら可愛らしいお嬢さんでもおっさん疑っちゃうよ」

「え……えぇぇぇええ!?」

 

 リリスはいきなり三人に武器を向けられ、驚きの声を上げる。しかし、最終決戦前に突然現れた人物を疑うなという方がおかしい。

 それにはディムロス達も仕方がないと頷いていた。

 

『たしかにこんなところに急に現れたら我も確実に疑うぞ』

「ちょっとディムロス! どっちの味方なのよ〜!」

 

 ディムロスに小さな声で反論するリリス。その行為は周りからすると明らかに怪しかった。

 更に警戒するメンバーの前にフレンが立ちふさがる。

 

「フレン!?」

「…………リタ。僕はユーリ達の言うことに納得が出来ない」

 

 茶髪の少女(リタ)がリリスを庇うようにして立つフレンに驚きの声を出すが、彼は頑なな態度を見せていた。

 

「フレン、そこをどけ。その子は最低でも拘束させてもらう」

「ユーリ!? 本当にその子を拘束するの!? フレンもちょっと落ち着こうよ!」

 

 リリスを拘束しようとするユーリに対し、それを阻止しようとするフレン。

 カロルはまさか仲間内で一触即発になるとは思わなかったため、二人を宥めようとする。

 しかしそれは今の二人にとっては無駄であった。

 

「ユーリ、君は言ったね。僕は君には口では勝てない……確かにその通りだ。だから(コレ)で僕の意志を通させてもらう!」

 

 フレンは地面に刺さった剣を抜き、ユーリに斬りかかる。ユーリはそれに気付き、フレンの攻撃を受け流していく。

 突然のことにリリスは困惑を隠しきれない。

 

「え、え……どういうこと? なんでいきなり仲間同士で戦い始めてるの?」

『それはな、美少女リリスを巡ってイケメン達が争っているのさ!』

「えぇぇぇええ!?」

『そ、それは乙女としては激アツな展開ね……』

『アトワイトも天地戦争のときに味わってますもんね』

『ディムロスとバルバトスの戦いのときか……』

『あのときのアトワイトはまさに乙女じゃったのう。ふぉっふぉ』

『ええい! 時雨(しぐれ)、適当なことを言うな! シャルティエもイクティノスもクレメンテ老もふざけないでもらおう!』

『そうね。遊んでいる場合じゃないかもね。リリス、気を付けなさい!』

 

 ユーリとフレンが剣を交えているとき、そのすぐ横でリリスとソーディアン達はふざけ合っていた。

 いや、リリスとディムロス、そして珍しくベルセリオスは真面目であった。

 ベルセリオスの声にリリスが周りを見渡すと、レイヴン、ジュディス、リタ、パティが彼女を拘束するべく距離を縮めていた。

 

「悪いが、お嬢さん。今は大人しくしていてくれよ」

「……嫌よ。私だってやらないといけないことがあるんだから、こんなところで簡単に捕まってはいられないわ!」

 

 リリスはそう言うと、手に持っていた()()()を構えて臨戦態勢を取る。

 内心では人数差の関係もあって不利であると自覚していたリリス。しかし、それを口に出して諦めるのは彼女のプライドが許さなかった。

 

「──くそっ!」

「おっと、ここから先は行かせないぜ? あの子を助けたかったらオレを倒してから行くんだな」

 

 ユーリとフレンはほぼ互角。その隙を突いてレイヴン達がリリスを捕えに行くのは当然の作戦である。

 しかしカロルだけはオロオロしているだけで、どちらの味方にもならなかった。

 

「行くわよ──」

「おっと」

 

 リリスが先手を取ろうと攻撃を仕掛けたのだが、その直前にレイヴンが矢をリリスの足元に放つ。

 それを避けたためリリスは先制を取ることが出来なかった。

 ジュディスは槍で体勢を崩しているリリスへと突撃していく。

 

「くっ!」

「……ふふっ。やるわね」

 

 ジュディスの槍をリリスがおたまで受け、彼女がバックステップで離れると同時にパティがナイフでリリスを攻撃する。そしてすぐさま離れて、もう片方の手に持っていた銃でリリスを狙い撃つ。

 おたまで銃弾を弾いたリリスがパティを狙おうとしたところで、レイヴンが更に矢を放ってきたためリリスは防戦一方で攻撃を仕掛けることが出来ない。

 

「…………行くわよ! ファイアボール!!」

「きゃああ!」

 

 詠唱を終えたリタが魔術を放つと、リリスは避けられずにその火球をまともに受けてしまう。

 あくまで生け捕りを目的にしているため、リタは殺傷力の低い魔術を使っているが、食らった衝撃でリリスは膝をついてしまう。

 

「はぁ……はぁ……」

『リリス、ここは一旦引くぞ! これでは多勢に無勢だ!』

「……い……いや!」

『そんなことを言っている場合か! クレスのときとは違うんだぞ!』

「でもこんなところで逃げていたら……胸を張ってソーディアン()を直したなんてお兄ちゃん達に言えないもん!」

『リリス……しかしだな……!』

 

 リリスとディムロスは問答を繰り返す。身の安全を考えて離れるように言うディムロスと、己のプライドのために逃げたくないと言うリリス。

 だが、このままではリリスは勝てないことは分かっていた。

 

(確かにこのままだとツラいわね……せめて──)

 

()()()()()()()()()()()ってことだよな、リリス!』

「……え?」

 

 リリスが思っていたことを口に出したのは時雨(しぐれ)だった。

 

『ベルセリオス! ちょっと無茶するから、あとは頼んだぞ!』

『はいはい。あなたの()()()()はちょっとだった試しがないんだけどね』

 

 ベルセリオスが苦笑いをした直後、リリスの周りに七つの魔法陣が浮かび上がる。

 

「な、何あの魔法陣は……今まで見たことないわよ!!」

『じゃあ今後のために学んでおくんだな、リタ! ──英霊召喚(サモン・エージェンツ)!!』

 

 そもそも時雨(しぐれ)の声は魔法陣を凝視していたリタには聞こえないのだが、時雨(しぐれ)は気にせず英霊召喚(サモン・エージェンツ)を唱える。

 そしてその魔法陣が大きな光を放つ。

 

「……どこだ、ここは?」

「私達はこれからソーディアンを封印に行くところだったはず……」

「この風景は見たことありませんね」

「ああ、確かに見たことないな」

「なんぞ不可思議なことも起こるもんじゃのう」

「……シグレ、あんたまた何かしたわね?」

「え……俺は何もしてないぞ! いや、今回は本当だって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディムロス・ティンバー

 アトワイト・エックス

 ピエール・ド・シャルティエ

 イクティノス・マイナード

 ラヴィル・クレメンテ

 ハロルド・ベルセリオス

 シグレ・カザハヤ

 

 

 

 

 

 

 魔法陣の光から現れたのは────()()()()()()()()()()の面々であった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 シグレは激怒した。必ず、かの自由奔放の()をなんとかせねばならぬと決意した。

 シグレには訳が分からぬ。シグレは転生者である。テイルズオブデスティニーの天地戦争時代に転生し、色々と悪ふざけをして暮らして来た。

 けれども今回のことに関しては、確実に(自分)のせいであると一瞬で理解したのであった。

 

「ええい! だからきっと、いや絶対にお前のせいなんだろうが!」

「ディ、ディムロス君、それは横暴と言うものだよ」

「お前が私に()付けするときは、大抵何かを誤魔化しているときなんだ!」

 

 周りにいる全員が呆然としていた。いきなり魔法陣から現れた歴戦の戦士とも思える七人の男女。

 しかし、そのうちの二人が現れるなり言い合いを始めてしまったのだ。

 一緒に現れた者達もいつもの光景で慣れてしまっているのか、苦笑いをするだけで何も言わない。

 

「え……? ディムロス、時雨(しぐれ)……って、どういうこと? ねぇディムロス!」

『…………』

「ちょ、ちょっと! なんで無視するのよ、ディムロスってば!」

「……む? そなたはなぜ私の名前を知っているのだ?」

 

 リリスはソーディアン・ディムロスに話し掛けたつもりだったのだが、返事がなく、代わりに返事をしたのはディムロス・ティンバーだった。

 訳が分からなくなっていたリリスは、振り向いたディムロスに一瞬硬直する。

 そこにシグレと呼ばれた男がリリスの前まで歩いてきて、しゃがみながら優しく話し掛ける。

 

「君は……もしかしてリリス・エルロンかな?」

「え、ええ。そうよ。あなたは──」

「俺はシグレ・カザハヤ。…………もしかして君ってソーディアンのコアクリスタルを持っていたりする?」

 

 自己紹介をしたシグレは、後半部分をリリスにしか聞こえないくらい小さな声で話し掛ける。

 小さく頷いたリリスを見て、納得したような顔になったシグレは立ち上がって立っているディムロスの方を向く。

 

「あー…………言いづらいんだが……」

「なんだ?」

()()、やっぱり俺が原因だったみたい! あははははっ!」

 

 後頭部に手をやりながら笑うシグレ。ズッコケそうになる旧ソーディアンチームだったが、「どういうことか事情を説明しろ!」というディムロスに対し、少し考えた素振りをしたシグレが説明を始める。

 

「リリス、もし違ったら都度訂正を加えてくれ」

「わ、分かったわ」

 

 シグレはユーリやフレン、そしてリリスに襲いかかってきていたレイヴン達にも聞こえるように事情を説明する。

 あくまで原作知識と転生特典を考えた上での話のため、リリスから少しだけ訂正はあったのだが、おおよその内容に間違いはなく話は進んでいく。

 

「──というわけで、この世界に飛んできたはいいんだけど、タイミング悪く〝タルカロン〟に向かおうとしていた彼らの前に現れてしまったから誤解されたってところかな?」

 

 シグレは肩をすくめながら「こんなところでどうだい?」と語っていた。リリスはほぼ間違いはないことから受け入れるしか選択肢はなく、ユーリたちはまさか自分達の事情にも詳しいと思っていなかったため心底驚いた顔をしていた。

 

「でも待って……異世界から来たっていうの? いや、でもこの星以外に生命体がいたとしてもそれは不思議なことではないわ。それなら異世界人だって……」

「ま、そういうことだな。リタ・モルディオ……さん……?」

「なんでそこ疑問形なのよ! てかなんであたしやユーリ達の名前を知っているのよ!!」

 

 突拍子もない話を聞いてブツブツと考察を続けるリタに話し掛けるシグレ。

 しかし自分達の名前を知っているのだけは理解が出来なかった。ツッコミを入れるが、ディムロスにとってはもはや慣れたことのため「例のアレか」と言うだけで話が流れていく。

 

「……というわけで、そちらさんとこっちはもう争う理由がないわけなんだが──」

「いいえ、私にはあるわ!」

 

 シグレが上手いこと争いを収めようとしたとき、リリスが話を遮る。

 ゆっくりと立ち上がったリリスはシグレ達の方を向いて話し始める。

 

「このまま負けっぱなしなんて悔しいもの! ディムロス、シグレ……手伝って」

「え──」

「な、なにを──」

「手・伝・っ・て・! 未来のあなた達の剣を直そうとしてるんだもの、まさか断らないわよね?」

 

 さすがのシグレもリリスの突拍子もない発言には言葉を失った。

 しかしそこをフォローするのは、いつも妻であるハロルド・ベルセリオスであった。

 

「なかなか面白そうだわね♪ あたしは参加させてもらうわ」

 

 彼女は武器を持つとリリスの横に立ってウインクをする。

 ウインクをされたリリスは少し嬉しそうな顔をして、ハロルドを見返していた。

 

「……はぁ。まぁ仕方ないか」

 

 シグレは刀を抜いて二人よりも前に出る。

 ハロルドがこうなってしまった場合、ほぼ確実にシグレは追従する。そして逆もまた然り。

 これがお似合い夫婦と呼ばれている所以(ゆえん)であった。

 

「で、うちのリリス(お姫様)はこう言ってますけど、君達はどうするんだい? そちらもエステル(お姫様)を交えて戦ってみるかい?」

 

 シグレはユーリ達を挑発する。エステルの名前を出してはいないが、()()()という単語を使って暗にエステリーゼ・シデス・ヒュラッセインのことを指し示したことで今度はフレンが反応した。

 

「……エステリーゼ様を巻き込むわけにはいかない! そういうことなら僕はユーリ達につかせてもらう」

 

 先程までユーリと争っていたフレンがシグレの挑発に乗り、リリス達へ剣を向けてくる。

 リリスは少し残念そうに、フレンは少し気まずそうにお互いに目を合わせたが、すぐに目を逸らした。

 

「おい! 勝手に決めるな、シグレ!」

「まぁ……でもこの二人がこうなったらもう止められないですよ?」

「そうなのよね。もうこんなところで出さなくてもいいのに……」

「ふぉっふぉっふぉ。まぁこれから最後の決戦に向かおうとしている若人(わこうど)達の壁になってやるのも……また一興かのう?」

「クレメンテ老、あなたは面白がっているだけでしょう?」

 

 旧ソーディアンチームはそれぞれ勝手なことを言っていたが、ディムロス以外が参戦を決めると、ディムロスも「ええい、仕方がない!」とソーディアンを抜いて前に出る。

 シグレはその様子を笑いながら見たあと、再度前を向く。

 

「ユーリ・ローウェル君はどうするんだい? 俺は自分と同じ得物()を使うやつと手合わせしてみたかったんだが、フレン君との勝負が中途半端だって思うなら……やってみないか?」

「……ちっ。オレらが勝ったら更に詳しく説明してもらうからな」

 

 ユーリがフレンの横に立ち、刀をシグレに向ける。

 ジュディスは元々やる気になっており、リタはシグレから「勝てば転移陣の説明を詳しく教えてやる」と言われ、すぐに参戦を決める。

 パティは「面白そうじゃの!」と嬉々としており、その横にはキセルを咥えた犬もいた。

 

「もう! 〝凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)〟の首領(ドン)はボクなんだから、勝手に決めないでよね!」

「わりぃな、カロル。でも……ここまで来たらやるしかねぇだろ?」

「……んー! ズルいよユーリ! ラピードまでやる気になってて、ボクだけ逃げるわけにはいかないでしょ!」

 

 キセルを咥えた犬(ラピード)はカロルの声に遠吠えを上げると、短剣を抜いて臨戦態勢を取る。

 そして旧ソーディアンチーム対凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)の戦いが始まるのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「えっと……これで最後よね?」

「ええ、これだけあれば足りるでしょ♪」

 

 リリスとハロルドはテルカ・リュミレースで取れる〝レアメタル〟と呼ばれる鉱石を採取していた。

 彼女達の世界では既に存在せず、インフェリアではリヴァヴィウス鉱石と呼ばれており、そこでは少量しか採取出来なかったのだが、テルカ・リュミレースでは珍しいがソーディアン達を修復する分の量を確保することが出来た。

 

「いやぁ、これも俺がユーリ君達に教えてもらえたお陰だねぇ♪」

「シグレ……まだ怒られ足りないみたいだな?」

「いや、冗談だって! そんなカリカリしないでくださいよ、ディムロスせんぱぁい!」

 

 自分の手柄にしようと軽く発言したシグレに対し、ディムロスはオルニオンで行われた公開説教が足りなかったと判断し、再度説教を始めようとする。

 その空気を察したシグレは揉み手でディムロスに近付き、冗談だということをアピールしていた。

 

「あなた達って人間のときも同じ関係だったのね」

 

 リリスは呆れた声で二人のやり取りを見ていた。

 凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)との戦いのあと、コアクリスタルのみとなったソーディアン達が反応しなくなってしまった原因をシグレ達に聞いていた。

 ソーディアンはオリジナルがいるときに人格を表出ししてしまうと、オリジナルの人格崩壊に繋がる可能性があるという理由から、安全機能(セーフティー)が掛かるとハロルドが答えていた。

 安全機能(セーフティー)のせいで、ソーディアン同士のテレパシーでの会話以外は話せなくなるためリリスに対して返答ができなくなっていたのであった。

 

「あとは〝最高位精霊〟とやらに直してもらうだけね」

「うん! ありがとう♪」

 

 ハロルドの言葉に笑顔で答えるリリス。

 

「短い間だったけど、本当に助かったわ! 今まではコアクリスタルだったあなた達としか話していなかったから、まだ違和感があるけどね」

「俺達がいなくなればソーディアンの俺達とも会話ができるようになると思うから、あとは彼らに引き継ぐよ」

 

 リリスとシグレ達は握手を交わし、先にリリスが〝異世界渡り君DX(デラックス)〟でリーネの村に帰ることになった。

 〝異世界渡り君DX(デラックス)〟を起動する直前にハロルドからボソッと言われて顔を真っ赤にしたリリスだったが、何を話したのかはその場にいる誰にも分からなかった。

 

「じゃあね♪ 本当にありがとう!」

 

 光に包まれながら消えていくリリス。

 それを旧ソーディアンチームは手を振って見送るのであった。

 

「…………ところで私達はどうやって帰ればいいのだ?」

「あ……」

 

 ディムロス達が自分達の世界に帰ることが出来たのは、時雨(しぐれ)が直って英霊召喚(サモン・エージェンツ)を解除していないのに気付いた後であった。

 元の世界に戻れるまでの間、毎日のようにシグレが怒られていたのは仕方のないことなのであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『て、てへぺろ♪』

 




【小話:凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)

カロル
「負けちゃったね〜」

レイヴン
「いや、あれは負けたってレベルの話じゃなかったとおっさんは思うぞ」

フレン
「…………」

ジュディス
「彼らは最終決戦を乗り越えたかどうかだけの差だとは言っていたけれど……」

リタ
「本当にそれだけの差だったのかしらね……結局、魔法陣の秘密を教えてもらえなかったし!」

フレン
「…………」

パティ
「でもうちは楽しかったのじゃ♪ 特にシグレとハロルドとはまた会いたいのじゃ!」

フレン
「また……会いたい……?」

ユーリ
「あん? フレン、さっきからどうしたんだ?」

エステル
「そうですね、フレンの様子が先程からおかしいですよね」

ラピード
「くぅ〜ん」

フレン
「…………はぁ」

レイヴン
「そういえばリリスっておたまで戦っていた女の子なんだが……〝フライパンとおたまで戦う少女〟という話をどこかで聞いたことがあるような……?」

フレン
「リ、リリス……さん!?」

レイヴン
「ん、なんだ? ……あ! もしかしておっさん、分かってしまったかもしれないぞ!」

カロル
「えっ!? レイヴン、教えてよ!」

レイヴン
「それはな……ごにょごにょ」

ユーリ、カロル、リタ、エステル、パティ
「こ、恋っ!? フレンが!?」

ジュディス
「あらあら! ……ふふっ」

フレン
「また……会いたい……はぁ」


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最終話 リリス、超頑張りました!

後日譚最終話です。
さらっと深夜に投稿しておきますので、もし土曜日がお休みでこの時間にまだ起きている方がいらっしゃれば、その方は運が良い!
ええ、本当に運が良いのです!笑

あとがきの小話の下にも色々と書いてあるので、良かったらお読みくださいませ!
数日間は感想欄を非ログインの方も書き込みできるようにしておきますので、よろしければ感想も書いていただけたら嬉しいです。



『ようやく話せるようになったか!』

「ディムロス! 急に話さなくなったから心配したんだからね!」

『仕方がないだろう。まさか時雨(しぐれ)が我らのオリジナルを呼び出すと思わなかったのでな』

「あ! そうそう、時雨(しぐれ)も先に言ってよね!」

『…………』

「ちょっと! 無視しないでよ、時雨(しぐれ)!」

 

 テルカ・リュミレースより戻ってきたリリス達。ソーディアン達がようやく話せるようになり、これから直しに行こうというところで時雨(しぐれ)の反応が無くなっていた。

 リリスは時雨(しぐれ)に無視されていると思って再度話し掛けるが、もちろん反応はない。

 

「……え、時雨(しぐれ)……?」

『おい時雨(しぐれ)! どうした!?』

『……やっぱりね』

「やっぱり……?」

 

 ディムロスとリリスが声を掛け続けるが、何度話し掛けても返答がなかった。

 そこで納得したような声がベルセリオスから出てくる。

 

『ベルセリオス、どういうことだ?』

『おそらくだけど、英霊召喚(サモン・エージェンツ)を使ったのが原因だと思うわ』

英霊召喚(サモン・エージェンツ)?」

 

 ベルセリオスは推測でしかないが、時雨(しぐれ)が反応しなくなった原因を話していく。

 

『ええ。アレは元々英霊召喚(サモン・エージェント)といって、一人だけを呼び出すことが出来る呪文なのよ。それを七人も呼ぶなんて無茶なことをしたせいでコアクリスタルに限界が来たのだと思うわ』

 

 時雨(しぐれ)がもし完全な状態のソーディアンであれば使うことも出来たかもしれない。しかし、コアクリスタルのみで使ったため、いつも以上に負担が掛かり、機能が最低限の状態になってしまったのだった。

 

「え……じゃあ時雨(しぐれ)はもう元に戻らないの?」

『なんとも言えないわね。ただ今の状態ではあたしが作った施設でも修復は難しいと思ってちょうだい』

時雨(しぐれ)……』

 

 このままでは時雨(しぐれ)だけが元に戻る可能性が低い。その空気を全員が察し、雰囲気が悪くなる。

 ベルセリオスだけは『まったくあの人ったら……相変わらずなんだから』と不満を漏らしていたが、声は寂しそうな様子であった。

 

「で、でもさ! オリジンにお願いすればなんとかるんじゃないの!?」

『それもあくまで可能性の話ね。確実性があることではないわ』

 

 オリジンに頼んだ場合、どこまでのことが出来るのか分からないため時雨(しぐれ)が完全に治るとは限らない。

 しかし、それでも彼女に出来ることはそれだけしかなかった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 アセリア歴4354年。アセリア世界ユークリッドの都にて。

 

「………………オリジン!!」

『我が主よ、何用か──と、聞くまでもないな』

 

 根源の精霊オリジンはリリスを見ると薄く笑った。

 契約をしてからも笑った姿をほとんど見せないオリジンであったが、前回同様リリスに対してだけは優しさを含んだ視線を向けていた。

 

「オリジン、ソーディアンを直す材料を集めてきたわ……でも……」

『みなまで言わずともよい。()()()が直せるかどうかを聞きに来たのであろう?』

 

 オリジンには全てお見通しだったようで、時雨(しぐれ)が前回のときと様子が違っていることに既に気が付いていた。

 

『エターナルソードに選ばれし者よ、時空の剣をここに』

「は、はい……」

 

 クレスはエターナルソードをオリジンの前に置くと、リリスにもコアクリスタルと各世界から集めてきた鉱石を同じく置くように伝える。

 そしてクレスとリリスが離れたのを確認したオリジンは、目を瞑り集中を始めた。

 

「こ、これは……!?」

 

 少しの間の後、オリジンとエターナルソードが光り出すと、コアクリスタルと鉱石が浮かび上がりゆっくりとくっついていく。

 最後にまばゆい光を放ち、その光がやんだところで──

 

「こ、これが……」

「これはすごいですね」

「ああ……エターナルソードに勝るとも劣らない美しさだ……」

「それなのに内包する魔力はとんでもないね……!」

「や、やべえな……」

 

 クレス達の目の前には、()()()()()()()()()()が浮かび上がっていたのであった。

 その美しさや内に秘める魔力、そして見ただけで名剣、名刀だと分かるそれは、剣士であるクレスには言葉には表せないものだった。

 

『リリスよ、これでよいか?』

「え……あ、ありがとう。時雨(しぐれ)、ちゃんと直ってる……?」

 

 オリジンにお礼を言ったリリス。アセリア世界で最高位の精霊であるオリジンに友達のようなお礼を言うなどとは本当であればあり得ないのではあるが、それよりも今は時雨(しぐれ)の方が大切であった。

 そしてオリジンもリリスにそのような態度を取られていても、気にするような素振りを一切見せなかったのも問題にならなかった一因であろう。

 

『…………ん……ここは……?』

時雨(しぐれ)! 元に戻ったのか!?』

『さすがにちょっと心配したわよ』

『そうですね、あなたは飄々としているのが一番なんですから……』

『そうじゃな。話せなくなるまで無茶するのはお主には似合わんぞ』

『本当だ。それはディムロスの役目であろう』

『…………本当に良かったわ』

 

 時雨(しぐれ)が意識を取り戻し、ソーディアン達がそれぞれ声を掛ける。

 リリスも安心したのか座り込んでしまい、それをクレス達は微笑ましそうに見ているのだった。

 

 

 

 

 

 

「これでもう帰ってしまうのか……」

「はい。お兄ちゃんに早くディムロスを届けてあげたいし」

 

 クラースは残念そうな声を出していた。少しだけ話を聞いてはいたのだが、異世界の話をもっと聞きたかったのだ。

 アーチェは目に涙を浮かべていた。

 

「リリス! これで会えなくなっちゃうなんて寂しいよーッ!」

「アーチェ……私も。でも私達、ずっと友達だからね!」

「……ぐすっ。うん!」

 

 クレス、ミント、チェスターともそれぞれお別れの挨拶をしたリリスは、七振りのソーディアンを担ぎ上げて〝異世界渡り君DX(デラックス)〟を起動させる。

 

「皆さん、本当にありがとう! 絶対にこの世界も平和にしてくださいね!」

 

 リリスは光に包まれながら、クレス達の姿が見えなくなるまで手を振り続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行ったか」

「ええ、そうですね」

「なあ……一つ聞いてもいいか?」

 

 クラースとクレスが話しているところに、チェスターが聞きたいことがあると言い出す。

 

「ん? どうしたんだ、チェスター?」

 

 自分から言いだしたのにも関わらず言いづらそうにしていたチェスターであったが、ついに決心をしたのか口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのよ────お前らだったらあの剣を片手で七振りも持って、笑顔で手を振るなんてこと……出来るか?」

 

 

 

 

 

 

 そのことに答える者は誰もいなかった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「ようやく終わったわね!」

 

 リーネの村に戻ってきたリリス達。自分の部屋に剣を置いたリリスはひと仕事を終えたという達成感で胸がいっぱいであった。

 ディムロス達も今回に関しては、リリスの活躍を素直に認めていた。

 

『リリスよ、今回は本当に助かった。我らを直してくれたこと、心より感謝しよう』

『これでルーティに売られずに済むわね……』

『僕も坊っちゃんに馬鹿にされずに済んで良かったです……』

『フィリアに会えるのが楽しみじゃのう』

『俺もイザークとウッドロウに早く会いたいな』

『エドは元気にしてるかね?』

『あんたと違って自由奔放にするタイプじゃないから大丈夫よ』

「ふふっ、みんな良かったわね!」

 

 嬉しそうな顔をするリリス。ようやく()()()()()も達成出来たリリスは笑みが止まらなかった。

 

「これでお兄ちゃんとルーティさんへ()()()()()()を渡せるわ! いやぁ、何にしようか本当に迷っていたのよね♪」

『け、結婚祝いだと!?』

『ちょっと待ちなさい! スタンとルーティが結婚するの!?』

 

 リリスの言葉に驚いたディムロスとアトワイトが口を挟む。

 

「あれ? 言ってなかったっけ? 今度、結婚式をクレスタでやるのよ♪ 今日はそのお祝いでみんながうちに来るから、間に合ってよかったわ!」

『結婚……はともかく、わ、我が祝いの品だと……』

『あら、それは別にいいじゃない? でもあのルーティが結婚できるとはねぇ』

『そうですよ。今はスタンとルーティのことを祝いましょうよ』

 

 結婚祝いのプレゼントとして贈られることにディムロスのプライドはやや傷付いていた。

 アトワイトはルーティが結婚するということに感慨深い気持ちになり、シャルティエも素直に祝うべきだとディムロスを嗜める。

 

『しかしのう……よもや結婚祝いのためにわしらを直すとはのう』

『スタンの妹の行動力は凄いな』

 

 クレメンテとイクティノスはリリスの行動力に驚き、

 

『エドとフィリアはもう子供とかいるのかな? あの二人なら男の子でも女の子でもきっと可愛いぞ!』

『そうねぇ……あたしに似てくれればそれで大丈夫よ♪』

 

 時雨(しぐれ)とベルセリオスはエドワードとフィリアの子供について妄想を膨らませていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 リリスがディムロス達を直して戻ってきた夜。そこにはスタンとルーティ──だけでなく、新ソーディアンチームの全員が揃っていた。

 

「それではお兄ちゃんとルーティさんの結婚を祝して! かんぱーーーい!!」

「リリス、みんなも来てくれてありがとな!」

「まぁ結婚っていっても関係は今までとあまり変わらないんだけどね!」

 

 リリスお手製の豪華な料理をスタン、ルーティ、リオン、ウッドロウ、フィリア、エドワード、コングマン、マリー、チェルシーと祖父であるトーマスと妹のリリスで囲んでいた。

 リーネの村一番の腕前であるリリスの料理は、インフェリアで味マスターの称号を受け継ぐに相応しいほどであり、料理屋を出せば繁盛間違い無しの味であった。

 久しぶりの再会ということもあり、話が途切れることもなく豪華な料理に舌鼓を打つ一同。

 そして良きタイミングを見計らって、リリスは自室へと戻っていく。

 

「みんな、準備はいい?」

『い、いや。やっぱり止めておかないか?』

『ディムロス、またなの? いい加減に腹を括りなさいよ』

『そうですよ。緊張しているのは皆同じなんですから』

『ふぉっふぉっふぉ。なんぞお主は照れておるのか』

『俺は早くウッドロウに会いたいぞ』

『まったくディムロスたんは可愛いんだから〜♪』

『まったくディムロスたんは可愛いんだから〜♪』

『し、時雨(しぐれ)! ベルセリオス! 夫婦揃ってからかうな! ……ええい、ままよ!』

「……あ、あはは。それじゃあ皆を連れて行くわよ?」

 

 緊張して直前になって会いたくないと言い出すディムロスを全員でからかうソーディアン達。

 その様子を苦笑いで見ていたリリスであったが、もう大丈夫だと判断しソーディアン達を持ってリビングへと向かう。

 すぐに持っていくとバレてしまう可能性もあったので、リリスは部屋の入り口でひょこっと顔だけを出した。

 

「あの〜、実はお兄ちゃん達に渡したいものがあるんだけど……」

「ん? リリス、どうしたんだ?」

「えっとね、これなんだけど……」

 

 食事をしているテーブルとはまた違うテーブルに布に包まれた物をゆっくりと置く。

 置いた時の音で、それが金属で出来たものだと全員が分かった。

 全員が注目する中、リリスはソーディアンとスタン達の間に立って話を始める。

 

「えっと、お兄ちゃん。改めてルーティさんとの結婚おめでとう! 今まで寝ぼすけで大食らいのお兄ちゃんがまさか結婚出来るなんて思っていなかったわ」

「それって完全にスタンのこと馬鹿にしてるわね……」

 

 途中でボソッとルーティがツッコミを入れるが、リリスは構わず話す。

 

「結構抜けているお兄ちゃんはきっと誰かに騙されるんじゃないかなって思っていたんだけど、ルーティさんみたいな素敵な方と結婚出来て本当に良かったと思っています」

 

 スタンとルーティ以外の全員が「ルーティと結婚したらお金を騙し取られるのでは」と思ったが、それは敢えて口にしない。

 

「ちょっと寂しいけど……ううん、本当はすごいさみしいよ。でも……私もいつまでもお兄ちゃんと一緒にいるわけには……いかない……もんね……」

「リリス……」

 

 リリスは目に涙を浮かべ、鼻をすすりながら話す。

 スタンはそのリリスを見て、今までの生活を思い返していた。

 

 両親がいないエルロン家は、いつもリリスが切り盛りしていた。

 小さい頃からしっかりしなきゃいけないと兄であるスタンの面倒を見ていたりしていた。

 本当ならもっと甘えたかった。実際に甘えていないわけではない。スタンはいつもリリスを甘やかしてくれていたからだ。

 

 そんな兄が大好きであり、ずっと一緒にいたい、ずっと一緒にいてくれると疑っていなかったのだ。

 だからこそあの日、飛行竜に忍び込んでいなくなってしまった日。リリスはもぬけの殻になったスタンの部屋を見て愕然とした。

 そのときは自分を裏切った兄に怒ったりもしたが、次に会ったときに素直に謝ってくれた兄を許す気持ちにもなれた。

 

 結果として世界を救うという大偉業を成し遂げたスタンは、リリスにとって自慢の最高の兄だった。

 その兄が今度は自分以外の大切な人を見つけ、自分から旅立っていく。

 それを彼女自身のわがままで潰すことなんて、絶対に出来ない、絶対にしたくなかった。

 

「お兄ちゃん、今まで本当にありがとう。大好きなお兄ちゃんに私から結婚のお祝いを贈らせてください」

 

 そう言って、後ろのテーブルに置いてあった布を取る。

 そこに置かれていた物を見て、()()が驚きのあまり立ち上がった。

 

「ディ……ディムロス……?」

「アトワイト……なの?」

「シャル……!?」

「ク、クレメンテ……!」

「イクティノス!」

「と……父さんと母さん……?」

 

 スタン、ルーティ、リオン、フィリア、そしてエドワードがそれぞれ完璧な状態のソーディアンをじっと見つめていた。

 

「実はね、数日前にこの子達のコアクリスタルだけを見つけてね。頑張って直したんだ……」

 

 リリスの声は届いていたのだが、それに返事をする者は誰もいなかった。

 すぐにそれに気付いたリリスはスタン達へテーブルに来るように促すが、誰も動かない。

 

『お、おほん! スタン! 早く我を取りに来ぬか!』

「……あ、ああ!」

 

 ディムロスの声でスタンを皮切りにようやく全員が動き出す。

 

「ディムロス! お前、お前! 本当にディムロスなんだよな!?」

『我がディムロス以外にお前には見えるというのか?』

「あぁ……その言い方は間違いなくディムロスだ! 本当に戻ってきたんだな!」

『まぁな。お前の妹のお陰でもある。あとでちゃんとお礼を言っておくがいい』

 

 スタンとディムロスの横ではルーティとアトワイトも再会を喜んでいた。

 

「よく戻ってきたわね」

『ええ。コアクリスタルのままだと売られかねないと思ったから、リリスにちゃんと直してもらったのよ』

「あら、別にソーディアンの状態だってちゃんと高値で売ることは出来るわよ♪」

『あなたって人は……はぁ、まぁいいわ。とりあえず今は結婚のお祝いを言っておくわ。……ルーティ、結婚おめでとう』

「ええ、ありがとう。アトワイト……」

 

 皮肉を言っていたルーティだったが、母の形見であるアトワイトを見て嬉しそうな顔をしていた。

 

「シャル……」

『あ、あはは。口うるさいって言われていたんですけど……戻ってきちゃいました』

「そうか……」

『坊っちゃん、また会えて嬉しいです』

「ああ、僕もだ」

 

 リオンとシャルティエ。知り合いに久しぶりに会ったときのような微妙な距離感ではあるのだが、二人の再会にはこれ以上の言葉はいらなかった。

 

「クレメンテ、よくご無事で」

『フィリアよ、また会えて良かったぞ』

「ええ、私もです。」

『そういえばエドワードと結婚したそうじゃな』

「は、はい……そうなんです」

『わしもフィリアの綺麗なドレス姿が見たかったのう……』

「もう、クレメンテったらからかわないでください!」

 

 クレメンテとフィリアは最後に別れたときと変わらない自然な再会を果たすことが出来ていた。

 そしてそれはウッドロウとイクティノスも同じであった。

 

『ウッドロウよ、また会えて嬉しいぞ』

「イクティノス……」

『イザークは息災か?』

「ああ、今は王位を引退して悠々自適に暮らしているよ」

『そうか、それならよかった。ところで……』

「ん? どうした?」

『お前はいつ結婚するんだ?』

「…………………………え?」

 

 そして、ソーディアンとはいえ両親と再会をすることが出来たエドワード。

 彼は時雨(しぐれ)とベルセリオスの二振りを持って再会を喜んでいた。

 

「父さん……母さん……」

『また会えたな』

『エド、フィリアと結婚したって聞いたわよ?』

「はい、そうです」

『フィリアを幸せに出来てるの? もう子供は出来たの? 今は何の仕事をしているの?』

『お、おい……そんな急に聞くなよ……』

 

 ベルセリオスはエドワードが答える間もなく矢継ぎ早に質問をし、時雨(しぐれ)に苦笑いをされていた。

 ハロルド時代から息子大好きなのは変わらないのであろう。

 

 

 

 ソーディアンと持ち主達が再会することができ、そのまま再会を祝して二次会が開催されることとなった。

 あまりの嬉しさに子供を除く全員が酔い潰れてしまい、次の日は二日酔いで死ぬほどキツい思いをしたのはご愛嬌であろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

(みんな、再会出来てよかったね!)

 

 

こうしてリリスの小さな冒険は幕を閉じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぁ、ベルセリオス』

『なによ、時雨(しぐれ)?』

『ふと思ったんだが……』

『何よもったいぶって。早く言いなさいよ』

『〝異世界渡り君DX(デラックス)〟があれば、この世界の過去に行って俺が埋めた鉱石を掘り返してくることって……出来たんじゃないか?』

『…………あ』

 

 

 

 

 〜後日譚 リリス、頑張ります! Fin〜

 




【小話:その後】

リリス
「あの……フレン……さん……」

フレン
「リ、リリスさん!? どうしてここに?」

リリス
「どうしてもまたお会いしたくて……来ちゃいました!」

フレン
「そうだったんですか……実は、僕もです。またリリスさんに会いたいって、そう思っていました」

リリス
「え……?」

フレン
「初めて会ったときからあなたのことが忘れられなくて……」

リリス
「フレンさん……私もです」

フレン
「良かったら……この世界で一緒に……い、いやでもリリスさんも自分の世界がありますもんね……」

リリス
「はい……やっぱり自分の世界からいきなりこっちに来るのは難しいです……お兄ちゃんやおじいちゃんもいますし」

フレン
「そ、そうですよね……ごめんなさい、変なことを言ってしまって……」

リリス
「……だから、私が今回みたいにフレンさんに会いに行きます! ()()があればいつでも会いに行けますので……」

フレン
「リリスさん……僕は絶対にあなたのことを大切にします。僕の騎士としての誇りにかけて!」

リリス
「……はい、こちらこそよろしくお願いします」



これで「テイルズ オブ デスティニー〜7人目のソーディアンマスター〜」の投稿はおしまいとなります。
もしかしたらIF形式の短編を何か書くかもしれませんね。

テイルズ オブ デスティニー2をもし書くとしたら、新しい枠で書くことになるんですかね?
プロットは頭の中で色々と出来ているんですけど、書く時間が今は取れなさそうです。

一応説明しておくと、前話の最後にハロルドから言われたセリフは、

「〝異世界渡り君DX(デラックス)〟はあげるから、それでフレンに会いに行きなさいよ。向こうもまんざらではないみたいよ」

といった内容ですね。
それを真に受けたリリスがちゃんとベルセリオスにも許可を取って正式に〝異世界渡り君DX(デラックス)〟を譲り受け、フレンに会いに行くという流れです。

TOD2に出てくる高い剣の技量を持つ少女で、ノイシュタット闘技場の現チャンピオンを務めるリムル・エルロン。
さて、リリスと誰の子供なんですかね?

それでは今まで本作を楽しんでくださった皆様、本当にありがとうございました!
また次回作でお会いしましょう!

他のお話も良かったら御覧くださいね!


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