霧雨の弟 (ぐろさん)
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第1話

ここは博麗神社、人里離れたこの寂れた神社を1人掃除する巫女がいた。

 

彼女は博麗霊夢。この神社の巫女にして幻想郷の調停者である。

 

「ふぅ、こんなに綺麗にしたんだから今日こそは参拝客が来るはず!…きたらいいなぁ」

 

少女の口からこぼれたように人里離れたこの神社には参拝客など居なかった。

 

ただでさえ人里から離れており、道中も整備されてはいない、あまつさえ妖怪に襲われる危険を起こしてまで参拝しに来る者はいなかった。

 

「今日はなんだか参拝客が来そうな気がしたのに…時間の無駄ね」

 

そんな勘を頼って掃除するあたり、この巫女、かなりの暇人である。

 

「疲れたし、お茶でも飲もうかしら…あら?」

 

箒を片付けて母屋に向かおうとすると、階段を登ってくる小さな足音が聞こえてきた。

 

(うそ!?ほんとにきちゃった!)

 

期待を胸に出迎えの準備をする霊夢、その足音が階段を登り切るとき

 

「ようこそ!博麗神社へ、素敵な賽銭箱はそこ…よ?」

 

 とびきりの笑顔で迎えたはずが最後には困惑の表情に変わってしまった。

 

そこには、太陽の光に反射する美しいブロンド髪の子供が肩で息をするように立っていた。

 

(子ども?こんなところに1人で?)

 

おかしい、この子供は人里離れたこの神社までたった1人でたどり着いたというのだ。道も整備されていないというのに

 

なにより妖怪からの脅威から逃れられるはずもないこの子供は一体…

 

「ねぇ…」

 

そんなことを考えていた霊夢におずおずと話しかける子供

 

「ここでお願いすればなんでも叶う?」

 

「えっ?そ、そうね!ここでちゃんとお賽銭入れて願えば叶うわよ!…たぶん」

 

そんなご利益は存在しないだろうに、ついつい調子の良いことを言ってしまう霊夢。ちゃんとお賽銭を入れるように言う辺り、がめつい巫女である。

 

「ホントに!?じゃあお願いする!」

 

その言葉に表情を輝かせ、頬を緩める子供。

 

その表情を見たがめつい巫女はと言うと

 

(可愛い!何この子天使!?)

 

何故かメロメロであった。

 

(綺麗な髪ね…女の子かしら?)

 

「ねぇちょっと」

 

「なぁに?お姉ちゃん」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

なんと破壊力のある言葉であろうか。ずっと1人で神社で過ごしていた霊夢には効果は抜群だった。

 

「どうしたの?お姉ちゃん?」

 

小首を傾げ、それでいて笑顔で問いかけてくる

 

(何この天使、やばいわ)

 

「んんっ、ねぇ、あなた人里から来たの?親は?」

 

「そうだよ」

 

「1人で?」

 

「んー、1人ではなかったよ」

 

それを聞いて安心する霊夢

 

「そう、あ、私は博麗霊夢。ここの巫女よ」

 

「れーむ?れーむお姉ちゃん!」

 

(ぐふぅ!?)

 

本日2度目の萌え攻撃。耐性のない霊夢には効きすぎた。

 

「あ、あなたの名前は?」

 

「ボクは雅貴だよ。よろしくね、れーむお姉ちゃん!」

   

そう綺麗なブロンドの少年ははにかんだ。

 

(可愛すぎる!?…え?ボクってことは男の子?うそぉ!?)

 

てっきり女の子と思っていた霊夢は驚きを隠せないまま、目の前の少年の笑顔に見惚れていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

私は眼を奪われていた。たった1人の少年に。ついさっき初めて会ったばかりだと言うのに…。

 

その理由は分からないけれど、彼を見ているととても不思議な感覚に襲われる。

 

なにか、こう、母性をくすぐられると言うのだろうか、大事にしたい、守ってあげたいと自然に思えてきてしまった。

 

「ねぇ、霊夢お姉ちゃん」

 

「なぁに?」

 

『お姉ちゃん』と呼ばれているだけなのに顔が熱くなってしまう。どうしたのよ私は…

 

「お参りの仕方、教えて」

 

「良いわよ、まずはこうやって」

 

そういいながら私は作法を思い出す。自分でお参りすることはないが、最低限のことは覚えてないといけない。

 

ニ礼二拍手一礼の動作を雅貴に教える。

 

「ありがと、霊夢お姉ちゃん」

 

「どういたしまして」

 

しかし、まだ幼い筈なのに礼儀作法を気にするなんて、とても几帳面なのかしら?どこかの誰かさんと大違いね。あら?噂をすれば…

 

箒に跨る白黒が近づいてくるのが見える。

 

「おーい、霊夢!」

 

「どうしたのよ、お賽銭なら向こう「お姉ちゃん!」よ?」

 

お姉ちゃん?私のことかしら?

 

「どうしたの?まさ「まぁぼぉ!?」た…え?」

 

まぁぼぉって誰よ、なんて思っていると雅貴が魔理沙に抱きついていた。羨ましい。

 

「お姉ちゃん、会いたかった!」

 

「私もだぜまぁぼぉ!いやーでかくなったな!」

 

完全に置いてけぼりの私である。しかし何故だろう、雅貴に抱きつかれている魔理沙が、見たこともないとても幸せそうな顔をしているのは。

 

「魔理沙、その子とどうゆう関係なの?」

 

「私たちは姉弟だぜ」

 

「ええ!?あんた弟いたの!?」

 

今日2度目の驚きである。

 

「ところでまぁぼぉ、なんでこんな貧乏神社にいるんだ?」

 

「お願いしてたの!お姉ちゃんに会いたいって、そしたら会えたんだ!」

 

すると雅貴は今度は私に抱きついてきた。

 

「霊夢お姉ちゃんの言ってたこと、本当だったんだね!すごいね!」

 

なんだろう、すごいポカポカする。子供の体温って高いのね。すごい暖かな気持ちになれるわ。

小さな身体でギュッと抱きしめてくるあたりがもうなんともたまらん!

 

抱きしめ返したい衝動に駆られていると魔理沙から冷めた眼で見られていた。

 

「…お前、まぁぼぉに変なこと吹き込んでないよな?」

 

「失礼ね!この神社でお願いすれば願いが叶うって言っただけよ」

 

実際に叶ったのだから嘘ではない…はず。

 

「お姉ちゃん、一緒に帰ろうよ」

 

いつのまにか抱きついていた雅貴が離れ、魔理沙の方へ寄っていく。ちょっと残念。

 

「…悪りぃがそれはできねぇんだ」

 

「なんで?」

 

「なんでも、だぜ。大丈夫、ここに来たらいつでも姉ちゃんに会えるぞ」

 

ナイスよ魔理沙!これなら毎日彼に会えるわ。

 

「…約束」

 

そういうと雅貴は魔理沙に小指を立てる。それを見て魔理沙も小指を絡める。

 

「ああ、約束だ」

 

そうして2人は小指を重ねて誓いを立てる。

なんとも微笑ましい光景だった。

 



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第2話

今日も博麗神社に向かう雅貴。優しい巫女と最愛の姉に会うために。

 

しかし、毎日参拝し続けているが、ここは幻想郷。人里から一歩外に踏み出せばそこは人外共が巣食う危険地帯。

 

そんなところを1人の子供がどうやって行き来しているのだろうか…

 

「あー!雅貴みっけー!」

 

背中に氷のような羽をつけた妖精が雅貴を呼ぶ。氷の妖精で自称最強のチルノである。

 

「あ、チルノちゃんやっほー」

 

「今日もお寺に行くの?」

 

「お寺じゃなくて神社だよ」

 

「そうなの?ま、サイキョーのあたいには関係ないことね!」

 

「さすがチルノちゃんサイキョーだね!」

 

「雅貴わかってるじゃん!今日も特別に送っていってあげるよ。あたしはサイキョーだからね!」

 

「ありがとうチルノちゃん」

 

そう、毎日博麗神社に参拝する中で雅貴は妖精や妖怪と一緒に石段までやって来ていたのだった。本来なら襲い襲われる立場同士なのだが…

 

「そういえば今日、大ちゃん達と霧の湖で遊ぶけど来る?」

 

「ホントに?行く行く!」

 

「じゃあ後でだれか迎えに行くからね」

 

「ありがとう!またねー」

 

一緒に遊ぶほど仲良しである。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「霊夢お姉ちゃん、来たよー」

 

「いらっしゃい、まー君、よく来たわね」

 

今日もやってきたまー君を笑顔で出迎える。あれから毎日欠かさず来てくれて、更にちゃんとお参りもしてくれている。

 

そんな彼を私は『まー君』と呼んでいた。

 

「霊夢お姉ちゃん、お姉ちゃんは?」

 

「魔理沙ならまだ来てないわよ」

 

まー君が毎日来るように、魔理沙も毎日顔を出していた。そしていつもいつも幼かった時の話を聞かされるのだ。

 

その時の魔理沙ときたら、まあテンションは高いし、にやけ顔が腹立つし羨ましいし…

 

そんな彼女がまだ神社に来ていないのだ。

 

「心配しなくても大丈夫よ、すぐ来るわ」

 

不安そうに魔理沙がやってくる方向を見ているまー君をそっと後ろから抱きしめる。

 

本当はまー君を安心させようと思って取った行動だったのだけどこれが不味かった。

 

なにこの子めっちゃ柔らかいい香り柔らかいんだけど!えっえっえっ、ホントに男の子よね?なんでこんなにも柔らかくていい匂いなの!?

 

なにより、この心がポカポカと暖かくなる感じ、これが人肌に触れるということなのだろう

 

「…霊夢お姉ちゃん、くすぐったいよぉ」

 

目を細めながら私の腕の中で少しだけ身体を揺すって抵抗するまー君。愛らし過ぎて辛い…

 

「でも懐かしいな、良くお姉ちゃんもこうしてくれた」

 

なん…だと?

 

この至福をいつでも味わっていたというのか魔理沙は…羨まけしからん!

 

「ならもう少し、こうしていましょ」

 

「うん!」

 

魔理沙が感じていたであろう温もりを、少しでも長く体感していたい。ただそれだけの為に私はまー君を抱きしめ直した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

空から何か聞こえてくる。それは少しずつ近づいてきていた。

 

「まぁぼぉ!」

 

箒から飛び降りた魔理沙は転けそうになりながら弟の名前を呼んだ。まー君なら少し前に用事があるからと帰ってしまった。

 

「遅かったわね魔理沙、今日は来ないかと思ったわよ」

 

「それよりまぁぼぉは?来てないのか?」

 

「ちゃんと来てたわよ、でも今日は用事があるとかで…なによ?」

 

説明しようとすると何故だが魔理沙がどんどん近寄ってくる。

 

「霊夢の服からまぁぼぉの匂いがする」

 

「な、なに言ってるのよ?来てたんだから匂いくらいするわ」

 

言えない、その後も縁側で膝にまー君を乗せたまま後ろから抱きついていたなんて

 

というかまー君の匂いって…いや確かにいい匂いだったよ?でもそれがわかる魔理沙って一体…

 

「霊夢、まぁぼぉにへんなことしてないだろうな」

 

「す、するわけないじゃない!」

 

「じゃあなんでお前からまぁぼぉの匂いがする説明をしてもらおうか?」

 

仕方ない。別にやましいことをしたわけでもないし、ちゃんと説明してやろう。

 

「あんたが来ないから、まー君が不安がってたの。だから慰めようと「後ろから抱きついたってか」…なんでわかったの」

 

驚愕である。これが姉の力か!

 

「…ちゃんと来てたんならそれでいい。だがまぁぼぉ成分は補給させてもらうぜ」

 

そういうと魔理沙は私に抱きついてって、ええ!?

 

「ちょっと!離れなさいよ!」

 

「いやだぜ!私がいないうちにまぁぼぉに抱きついたんだからな、私で上書きしてやるぜ」

 

「やめなさいってば!やめ、やめろぉ!」

 

折角のまー君臭がぁ、温もりがぁ〜!!



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第3話

「さあ、準備は整ったわ」

 

紅い洋館の主人はそう呟く。

 

「あの子を連れてきなさい。あの子によって運命は動き出すわ」

 

背後に立たずむ従者にそう告げる。

 

「かしこまりました。お嬢様」

 

そう返事した従者は主人の背後から姿を消していた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「全く、やれやれですわ」

 

そう言いたくもなる。まさか人の子を拐ってこいと言われるなんて思ってもいなかったから。ともあれお嬢様の命令である。完全で瀟洒なパーフェクトメイドの私がやるしかあるまい。

 

お嬢様の言われた通りに霧の湖へやってきた。連れてくるように言われた子供はブロンドの可愛い男の子らしく、今日この場所に訪れるという。

 

少し湖の辺りを歩いていると笑い声が聴こえてきた。恐らく件の少年がいるのだろう。

 

作戦はパチェリー様が魔法で夕立を降らせ、そこに私が雨宿りさせるために紅魔館へ誘い込むというものだ。

 

とりあえず遠目からターゲットを確認することにしよう。妖精が2人に1人は妖怪ね。もう1人は…

 

…おかしいわね、男の子を攫ってくるように言われたけれど、あの子はどこからどう見ても女の子よね?

 

聞き間違いかしら?いいえ、ありえない。この完全で瀟洒な私が聞き間違えるなんてありえないわ。きっとお嬢様が言い間違えたのよ。そうに違いない。

 

「僕、もう帰らなきゃ」

 

「じゃあね、雅貴!」

 

「うん、みんなバイバーイ!」

 

ターゲットが1人になる…これは好都合ですわ。

 

さてと、あとは雨が…降ってきたわね。流石パチェリー様、さすパチェですわ。

 

あの子は…木の下で雨宿りしてるわね。三角座りで蹲っちゃって…見てられないわ。

 

「こんにちは」

 

声をかけてみるとその子はこちらを向いた。警戒されて無いかしら?

 

「こんにちは、お姉さん」

 

おぉ、なんだか新鮮な感じだわ、お姉さんだなんて。

 

「こんなところでどうしたの?お名前は?」

 

どうしたもなにもその原因を知っているのにこんな質問をしなくては行けないなんて、なんだか物凄く罪悪感を感じるわ。

 

「僕は雅貴、雨が止むの待ってるの。お姉さんは?」

 

僕?ああ、そういえば前に小悪魔が持ってた本にあったわね、女の子なのに一人称が僕って言う娘。

 

「私は十六夜咲夜、この先の館でメイドをしているわ。今はその館に帰る途中なの」

 

さて、ここからよ。上手く紅魔館へお連れしなければ

 

「此処じゃ雨に濡れるわ。良ければ館に来ない?」

 

「でも…」クシュン

 

「ほら、このままだと風邪ひいちゃうわ」

 

そう言って傘の中に入るように誘導する。

 

「うん、ありがとう咲夜お姉さん」

 

よし、いい感じだわ。

 

「それじゃ行きましょうか」

 

「ちょっと待って」

 

「…どうしたの?」

 

まさか勘付かれたか!?焦ってはダメよ私、ここは平常心。クールに、

 

「手…繋いでもいい?」

 

「………」

 

「お姉さん?」

 

「え、ええ、良いわよもちろん」

 

なに今の、可愛すぎるんですけど。上目遣いからのそんなお願いされたら断れるわけないじゃない!

 

それにしても見れば見るほど可愛いわ。将来が楽しみね。

 

下手をすればお嬢様よりもずっと魅力的…あぁ、ダメよ私、私はお嬢様一筋なの…

 

そんな私の手を小さな手が包み込む。そして私を見て微笑みながら言う。

 

「じゃあ行こ?」

 

お嬢様、薄情な私をどうかお許しください…悪魔の従者として使えてきましたが、天使には勝てませんでした。

 

この子の手、とても柔らかい。そして、なんだか温かいわ。

 

「では、こちらです。雅貴ちゃん」

 

人肌の暖かさを感じられるのはとても懐かしい気がするけれど、今はエスコートに集中しよう。



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第4話

私達はお喋りを楽しみながら紅魔館まで歩いてきた。ここまでの道のりがあっという間と思えるほど楽しんでいたのは間違い無いだろう。

 

「ようこそ、紅魔館へ」

 

私は門の前まで来ると、一度繋いでた手を離し、恭しく礼をする。客人を招き入れる為の当然の作法だ。

 

「お、お邪魔します」

 

そんな私の態度に緊張したのか、辿々しく返事を返してきた。可愛い。

 

「咲夜さん、あの人は?」

 

そう言って門の方に指を向ける。そこには

 

「…」zzz

 

傘をさしたまま器用に立って眠る我らが門番殿、紅美鈴がいた。

 

コイツ…客人が来ると伝えていたのに。

 

いつもなら直ぐに粛清するところであるが、客人の前だ。面白い、お前は最後にしてやる。

 

「気にしなくて良いわ、というか気にしないで」

 

「立って寝る人初めて見た。凄いね」

 

それはそうだろう、私だって彼女以外に立って寝る人…妖怪は見たことない。気を取り直して案内を開始する。

 

「では建物の中へ、お嬢様のもとへお連れしますわ」

 

「お嬢様?」

 

「私の主人であり、この館の主人よ」

 

「どんな人?」

 

「それは会ってからのお楽しみ」

 

そうはぐらかして、雅貴ちゃんを連れてお嬢様の待つお部屋へ歩いていく。

 

「あっ、まっちゃん!」

 

1人のメイド妖精が声をかけてきた。その声を聞いた他の妖精メイド達も集まってくる。

 

「なにしにきたのー?」

「今から遊ぼうよ!」

「仕事手伝ってー」

「…好き」

「愛してるぞー」

「結婚してー」

 

急に騒がしくなってしまった。というか最後の方おかしくないかしら?

 

「あなた達、今から客人をお嬢様のところに連れて行くから後になさい」

 

私がそう言うとみんな仕事に戻っていく。

 

「へぇ、みんなここで暮らしているんだ」

 

「雅貴ちゃん、彼女達とどこで?」

 

「いろんなところ!」

 

よく妖精メイド達はどこかへサボりに行ってしまうものだから、どこかで会うみたいね。とりあえずお嬢様のところへ連れて行かなければ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「失礼します。お嬢様、雅貴様をお連れしました。」

 

そう言ってお嬢様の待つ部屋へ入る

 

「ご苦労様、咲夜。その子が…ね。それにしてもまぁ、仲がいいのね」

 

なんのことかわからなかったが、直ぐに気がついた。ここまでずっと手を繋いだままだ。

 

直ぐ手を離し、お嬢様の後ろへ着こうと思ったのだが、

 

「咲夜さん…」

 

と子犬が捨てられそうな目で私を見ながら繋いだ手を離さないとばかり体全体で抱きついてきた。

 

ここまでされて手を振り解くなど、出来るはずもない。むしろこのまま居たいと思っている自分がいる。

 

「咲夜、そのままでいいわ、こんにちは小さなお客さん。私はレミリア、レミリア・スカーレットよ。あなたの名前は?」

 

「…こんにちは、僕は雅貴です。本日は急な雨の中、困っているところを咲夜さんに助けていただきました。ありがとうございます」

 

緊張しながらも自己紹介をし、さらには丁寧な言葉使いでお礼まで言った。私の腕に抱きついたままだけれど。

 

「これはご丁寧にどうも。見た目の割に紳士的じゃない」

 

そう言うとお嬢様は雅貴ちゃんに近づいていて握手を求める。

 

その手をおずおずと握り返す雅貴ちゃんを見ながらお嬢様は満面の笑みでこう言った。

 

「歓迎するわ。あと、私はこう見えて500歳の吸血鬼なの、よろしくね」

 

逃げられないように握手しながら人外宣言だなんて、流石お嬢様。小さい子にも容赦がない。あんな至近距離で妖怪だなんて言われては発狂ものね。

 

そうなったら雅貴ちゃんを落ち着かせないといけないわね。やっぱりここはだきしめて安心させるべきなのでは…

 

「僕、吸血鬼とお友達になれるの!?やったー!」

 

ズルっとお嬢様も私もずっこけそうになった。

 

「咲夜さんも吸血鬼なの?」

 

「いいえ、私は普通の人間ですわ」

 

お嬢様からは普通ではないだろ!と言いたげな視線を感じるが無視だ。デキる従者は時に主人を無視するものだ。

 

「レミリアちゃん、よろしくね!」

 

眩しい笑顔で言う雅貴ちゃん。こう見ているとお嬢様に弟ができたみたいだ。あと、その笑顔を私にも下さい。

 

「あなた、ほんとに…いえ、なんでもないわ、ゆっくりしていきなさい」

 

お嬢様は天使スマイルから逃げるように顔を背ける。あ、照れてるな。顔が少し赤い。流石のお嬢様もこの天使に向けられる笑顔には勝てなかったようだ。

 

「雅貴、少し濡れてるじゃない。咲夜、直ぐお風呂の準備をなさい」

 

「既に完了しておりますわ」

 

「…そう、じゃあお願いね」

 

「かしこまりました。雅貴ちゃん、こっちへ」

 

そう言って手を差し伸べると自然と握ってくれる雅貴ちゃん。こうやって握ってくれるだけで心がポカポカしてくるわ。

 

お風呂も一緒に入ってしまおう。まだ勤務中だけどいいわよね?私も雨の中歩いてきたんだもの。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1人部屋に残った私は先ほどまでここにいた小さな訪問者のことを考えていた。

 

めちゃくちゃ可愛いんですけどぉぉぉ!!

 

なにあの笑顔、あんな笑顔向けられたら誘拐した罪悪感に押しつぶされそうじゃない!

 

咲夜もずっと手を繋いでたし、本人は気づいていないかもしれないけれど、顔がゆるゆるだったわ。

 

そういえば雅貴は男の子のはずよね?全然そうは見えないけれど。咲夜はずっと『雅貴ちゃん』って呼んでたけど女の子と勘違いしてるのかしら?でも行く前にちゃんと伝えたし…まあ、いいか。

 

それにしても綺麗な金髪だったわね。それこそあの子にそっくり…

 

もし弟がいればあんな感じだったのだろうか

 

「あの子がきっと貴女を自由にしてくれるわ。だからもう少しだけ我慢してね、フラン」

 

そういいながら私は地下室に閉じ込めたままの最愛の妹を想うのだった。



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第5話

この話を投稿していいものかどうか、かなり悩みましたがもういいかなって思いました。
もしかしたら無くすかもしれません。ご了承下さい。


「はい、じゃあ雅貴ちゃんばんざいして?」

 

「うん、バンザーイ!」

 

そうやって元気よくばんざいした雅貴ちゃんの服を脱がしていく。今から雨に濡れた子猫ちゃんをキレイにするのだ。

 

「咲夜さんも一緒に入るの?」

 

「ええ、もちろん」

 

ささっとズボンも下ろしてパンツも下ろ…

 

その時、私の中で時が止まった。いや、無意識に能力を使っていた。

 

「お、男の子!?」

 

時が止まった中、私の驚愕の声だけが響き渡った。どうしよう、お嬢様の言い間違いなんかじゃなかった。

 

本物の男の子だ。一人称が『僕』なのは当たり前だろう。いやしかしこの可愛さで男の子だなんて誰が信じれるだろう。いや、そんな人などどこにもいない。

 

とにかく時を元に戻そう。…パンツとズボンは元に戻しておこう。

 

「んん、下は自分でできるよね?」

 

「あれ?さっき咲夜さん脱がしてくれなかった?」

 

「いいえ、私はなにもしてないわ」

 

「そう?まぁいいや。それじゃあ早く一緒に入ろ!」

 

そう言って私の着替えを急かす雅貴ちゃん…もとい、雅貴くん。

 

「いや、それはちょっと…」

 

しまった。さっき一緒に入ると言ってしまったのだった。

 

「さっき入るって言ったのに」

 

そう言ってしゅんとしてしまう雅貴くん。そんな目で私を見ないで!

 

「さ、先に入っててちょうだい」

 

「うん、わかった」

 

そう言って脱衣室から浴室へと入っていった。

 

「はぁ…どうしようかしら」

 

小さい子とはいえ殿方とお風呂に入ることになるとは…とりあえずタオル巻いておこ。それからそれから…

 

着替えに必要以上に時間をかけ、意を決して、浴室へと足を運ばずのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「咲夜さん、遅〜い」

 

と少し頬を膨らませてこちらを見ている雅貴くん。可愛いなぁ。

 

身体は既に洗ったようで既に湯船に浸かっていた。さっそく私も身体を洗うことにする。

 

「咲夜さん、背中流してあげる」

 

「え?」

 

「いつもお姉ちゃんと洗いっこしたよ?」

 

なるほどそういうことか。この子が異性との入浴をなんとも思わないのは姉と入っていたからなのね。

 

私も小さい頃は美鈴とよく入っていたいたし、たまには人に背中を流してもらおうかしら。

 

「じゃあお願いね」

 

「うん!」

 

そうして私は背中を彼に向ける。すると彼は手にいっぱいの泡を作って私の背中に押し当てた。

 

「ひゃあ!?」

 

その手のくすぐったさに小さな悲鳴を上げてしまった。恥ずかしい。しかし、彼は気付いていないようで丁寧に背中を洗ってくれる。

 

「咲夜さん、肌綺麗」

 

そう言ってゆっくり背中を小さな手で撫でるように洗っていく雅貴くん。

 

とても気持ちいい。美鈴に洗ってもらっていた時はこんなこと感じなかったのに。彼の少し冷たく柔らかい手が、指が背中を舐め回すかのようにゆっくり撫でる。

 

いけない…なんだか変な気分になってきてしまった。少しだけ息も上がっている。どうしてこんな気分になってしまったのかわからないが、彼の手が背中を撫で回すたびに、もっと彼に体の隅々まで洗って欲しいと思ってしまう。

 

「じゃあ流すよー」

 

そう言ってお湯を背中にかけられて我にかえる。私は一体なにを考えていたのだろうか。

 

「気持ちよかった?」

 

鏡越しに無邪気な笑顔で聞いてくる彼。

 

「ええ、とても…今度は私が洗ってあげるわ」

 

「僕、もう洗ったよ?」

 

「いいじゃない。さあ座って」

 

「う、うん」

 

気持ちよくしてもらったのだから、仕返し…御返しをするのはメイドとして当たり前だわ。

 

「いくわよ」

 

そうして私は彼の背中に自分の胸を押し当てた。

 

「さ、咲夜さん!?」

 

焦ったような、照れてるような顔を浮かべる雅貴君。初めて見るその顔は、とても愛らしく、嗜虐心をくすぐるものだった。

 

「どうかした?」

 

出来るだけ冷静を装って聞き返す。私もかなり恥ずかしいことをしているがそんなことはどうでもいい。今はもっと彼を見ていたい。

 

「いや、あの、えっと…そのぉ…」

 

だんだんと声が小さくなり、ついには顔を真っ赤にしてしまう彼。ああ、可愛すぎる!

 

すると彼の身体が揺れた。というより私の方へ身体を委ねてきた。

 

「雅貴くん?」

 

体を揺すっても返事がない。どうやら刺激が強すぎてのぼせてしまったみたい。

 

「ちょっとやり過ぎちゃったかしら?」

 

そんな彼の頭を膝の上に置いて体のほうに目をやる。

 

「…気を失っても体は元気というか正直というか」

 

まあこんな見た目でもやっぱり男の子ということだろう。しかしこういうことになってしまったのは自分の責任だ。

 

ここで私は状況を整理する。目の前には気を失ってしまって無防備を晒している美少年。周りには自分だけ。

 

これはあれね、据え膳食わぬは女の恥ってやつよね。これは仕方ないわ、彼から入浴を誘ってきたんだもの。

 

…先っぽだけならいいよね?ね?

 

そう思いながら、私は膝枕していた彼の頭を下ろし、そっと彼の体に跨るのだった。

 



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第6話

私はパチュリー・ノーレッジ。ここ、紅魔館の図書館の司書にして七曜の魔女である。

 

今日もいつものように小悪魔の入れてくれた紅茶とクッキーを食べながら読書に勤しんでいる。

 

今日は客人が見えるということで待っているのだがなかなか訪れない。

 

「パチェ、いる?」

 

「ええ、レミィ。ずっとここにいるわよ」

 

客人が来たかと思えばこの館の主人のレミィである。付き合いの長い親友だ。

 

「咲夜と雅貴は来ていないの?」

 

「いえ、まだ来ていないわ。雅貴っていう人が今日の客人?」

 

「ええ、そうよ。雨に濡れちゃってたから咲夜にお風呂を用意させたんだけど…」

 

「2人仲良く入ってるんじゃない?」

 

「まぁ、小さい子だし一緒に入ってもおかしくはないわね」

 

そう話していると扉を開けて入ってくる気配が2人。噂をすればってやつね。

 

「遅くなり誠に申し訳ありません。雅貴様をお連れしました」

 

そこにはなぜか肌の艶々した咲夜と、お風呂で身体が温まり、少し眠そうな可愛い女の子がいた。

 

「随分遅かったのね。まぁいいわ、紹介するわ雅貴。彼女はパチュリー・ノーレッジ。この図書館の司書で魔女よ」

 

「初めまして、この図書館の本を管理しているわ」

 

「初めまして。僕は雅貴。お姉さん魔女なの?お姉ちゃんと同じ!」

 

姉が魔女?この子は人間よね?だけど身体からほんの少し魔力を感じるわね。

 

「失礼だけど、あなたは人間よね?」

 

「そうだよ」

 

ということは人間から魔女になったのが彼の姉ということか。並大抵の努力ではないはず。少し彼女の姉に興味を持っていると咲夜そっと耳打ちして来た。

 

「彼は男の子ですので、お間違えのなき様」

 

「え?」

 

咄嗟に聞き返してしまった。

 

目の前にいる可愛い客人は男の子?ウソダドンドコドン。

 

「パチュリーさん?」

こちらを様子を伺うように小首を傾ける彼女…彼?どちらにしても可愛い仕草である。

 

「…質問ばかりで申し訳ないけど、あなたは女の子よね?」

 

「ううん、僕は男だよ?」

 

…こんなこともあるのだな。まさかこんなに可愛い子が男の子なんて。これは実に興味深いわ。

 

「お姉さんは誰?」

 

そう言っていつの間にいたのか、私の後ろに佇んでいた小悪魔に声をかけた。

 

「私は小悪魔です雅貴くん。こあとお呼びくださいませ」

 

「よろしくね、こあちゃん」

 

そう言って笑顔で小悪魔と握手する彼。小悪魔は顔がゆるゆるになっている。

 

「きゃー可愛い!これが本物の男の娘!」

 

そう言うと彼を抱きしめたり、抱っこしたりやりたい放題の小悪魔である。

 

「こあちゃん、くすぐった〜い」

 

ここは図書館なのだから静かにしてほしいのだけれど、彼の笑顔を見ているとそんなことを言う気もそがれていく。逆に心がけて穏やかになっていくようだ。

 

「小悪魔、彼はお客様よ」

 

咲夜がとても怖〜い笑顔で小悪魔に言う。その顔を見て小悪魔も竦みあがり、すぐに彼を離した。

 

「も、申し訳ありません!」

 

あらあら、小悪魔が縮こまっちゃったわ。

 

「咲夜、あまりいじめてあげるな。と言うことでパチェ、彼にも読めるような本はない?」

 

「…その本は少し端の方に置いてあるから、小悪魔に案内させるわ」

 

そう言うと小悪魔が彼の手を引いて連れて行く。彼の姿が見えなくなってから親友に問う。

 

「…彼が本当に運命を変える?」

 

「大丈夫よ、そう運命が定めているから」

 

レミリアは確信しているようだ。自分が観た運命の行く末を。

 

「本当に彼は大丈夫なのでしょうか」

 

咲夜は心配そうにしている。そんな彼女を見るのは珍しい。

 

「咲夜までどうしたのよ。私も少し不安だったけど、彼と少し話すだけでわかるでしょう?あのなんとも言えない、不思議とこちらを穏やかにさせてくれる笑顔や仕草」

 

「ですが…」

 

「彼だけなの、彼だけが希望よ」

 

そうレミィが言うと咲夜も折れるように黙った。相当彼がお気に入りなのだろう。

 

「パチェ、例のものは?」

 

「出来てるわよ」

 

頼まれていた指輪をレミィと咲夜に渡す。

 

「これは?」

 

「彼にもしものことが起こり得る可能性があった場合、その指輪が紅く光るわ」

 

「もし、その指輪が光ったら貴女が能力で彼を救いなさい」

 

もしものことが起こる前に彼を助けられるのは咲夜しかいない。

 

「まあ、そんなことにはならないから、仕事に戻りなさい。あ、あと今日のディナーはとびっきりのやつでお願いね。何たって特別な日なんだから」

 

「かしこまりました」

 

そういい、咲夜は姿を消した。

 

「あの子にしては随分心配してるわね」

 

「そうね、心配させられるほど彼が魅力的なのよ。私も心配してなければこんな物用意しないわ。それに…」

 

「それに?」

 

「いえ、なんでも無いわ。それじゃまた後で」

 

そう言うとレミィは図書館を出て行った。なにを言いかけたのかは分からないが、まあいいだろう。知らない方がいいことだってあるのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

図書館を出て自室に戻った私は、もし雅貴の身に何かあったときの運命をもう一度観る。

 

そんなことはありえないと思うが、全く無視できないことだったから。

 

そこには、雅貴だったナニか、そして、狂ったように家族を嬲り殺す紅白と白黒の2人組の姿だった。



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第7話

評価バーに色が付いて驚いています。
とても嬉しいです。拙い文ではございますが、
これからもよろしくお願いいたします。


つまらない。もう1人遊びには飽きてしまった。もう随分と長くこの部屋に居る。部屋の中には壊れてしまった物ばかり。

 

人形、クッション、グラスにお皿。全て壊した。壊せば壊すほど楽しいのに胸が痛かった。心とかじゃなく右側が。

 

壊し続けていたら治っていた。痛かったことも忘れていた。全てを壊し尽くして、疲れて眠ると何故か元に戻っていた。人形は補修され、砕け散ったグラスや皿の破片は綺麗に掃除され、まるでなにもなかったかのように食事が並んでる。

 

『壊さなきゃ』

 

まただ、また壊さなきゃ。これを全部壊しきらなきゃ。そうすればもうー

 

もう壊すことはないから。

 

そう思いながらいつものように掌に眼を集めようとした。すると階段の方から足音が聞こえてきた。

 

いつも料理を運んできてくれる足音ではない。その足音は扉の前で止まり、数回のノックの後、扉は開かれた。

 

人間かな?本で見たことがある。多分女の子だろう。

 

「貴女はだぁれ?」

 

「僕は雅貴。君は?」

 

「私はフラン。フランドール・スカーレット」

 

「フランちゃんだね、よろしくね!」

 

そう言うと彼女は右手を差し出してきた。しかし右手を差し出されても私はどう返したらいいかわからない。すると彼女は私の右手を握って笑った。

 

初めて自分ではない体温を感じた。それはとても暖かくて、言葉には言い表せない物だった。

 

「貴女は人間?」

 

「そうだよ。フランちゃんは吸血鬼なの?」

 

「そうだけど、なんで?」

 

「とっても綺麗な羽が生えてるから」

 

そういいながら私の後ろに回り、羽を見始めた。今まで人と話したことがなかったから、どういう風に接すればいいか分からない。

 

「綺麗な羽に真っ白な肌。お人形さんみたい」

 

「そう…かな?」

 

そんなに見られると恥ずかしいが、嫌な気分にはならなかった。なんだろう、ただ一言二言会話しただけなのに、心が温かくなる。

 

『壊さないの?』

 

頭の中にいつもの声が聞こえてきた。だけどいつものような感じではない。

 

初めて壊したくないと思えた。これは、この子は、壊したくない!

 

『じゃあ、もう壊さなくていいね?』

 

うん、私はもう、壊さなくても…いい。

 

『じゃあ、バイバイ』

 

スーッと頭の中に聴こえてた声が消えていった。

 

「どうしたの?」

 

彼女が驚いたようにこちらを見ている。

 

「なんで泣いてるの?」

 

「え?」

 

足下を濡らして行く滴。その出所は私の眼だった。

 

「どこかいたいの?つらいの?」

 

心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

 

「違うの、でも、分からないの。痛いのか辛いのか、わからないの」

 

わからない、頬を伝って落ちた滴がどこからきたものなのか。痛くもない。辛くもない。なのに涙は止まらない。

 

不意に彼女に身体を抱きしめられた。

 

「もう大丈夫。きっと大丈夫だよ」

 

そう耳元でささやいてくれる。その言葉だけで救われた気がした。さっき初めて会った彼女の胸の中で泣きじゃくった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…もう大丈夫、ありがと」

 

泣いている間も彼女、雅貴はずっと抱きしめてくれていた。

 

「えへへ、元気出た?」

 

そう笑顔で聞いてくる彼女に頷いて見せる。そうすると彼女も嬉しそうな顔をする。可愛い。こんなにも可愛い生物がこの世にいたのかと、私は思った。

 

「ねえ、どうしてこんなところに居るの?」

 

「それは…」

 

言葉に詰まる。狂ってるから閉じ込められてるなんて言えないし、狂ってるなんて知られたくない。

 

「ここが私の部屋だから」

 

間違いではないはず。一応私の部屋だ。部屋というより牢獄だが。扉には術式が込められており、触れることはできず、眼を集めることもできない。壁や床や天井も同じよう術式がこめられており、破壊できないから出ていけない。

 

食事は毎回決まった時間に運ばれてくる。とても美味しい。特にデザートのプリンは絶品だ。前にプリンだけ食べて他の料理を残したらプリン抜きになってしまったのは苦い思い出だ。

 

「ねぇフランちゃん、遊ぼうよ」

 

「え?」

 

思わず聞き返してしまった。遊ぶ?私と?今まで1人でしか遊んだことがないからなにをして遊べばいいんだろう?

 

「ねぇ、これやってみたい!」

 

彼女が目をつけたものは机の上に置いてあったチェスだった。いつも一人で指していたがまぁ勝ち負けなどつくはずもなく飽きてそのままだった。

 

とりあえず席について駒を並べていく。

 

「やり方わかる?」

 

「わかんない。だから教えて!」

 

一瞬申し訳なさそうな顔をするが、すぐに笑顔でやり方を聞いてくる。可愛いなぁ。妹ができたみたい。

 

「じゃあ駒の動き方からね」

 

初めて1人以外で遊ぶ楽しさを、私は精一杯噛みしめながら遊んだ。タイムリミットなど来るはずがないと思いながら。



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第8話

どれくらいの時間が経っただろう。私と雅貴はひたすらにチェスに打ち込んだ。最初は簡単に勝てていたのだが、彼の飲み込みの良さからか途中から買ったり負けたりを繰り返している。

 

チェスを打ちながらいろんな話もした。彼が男の子だと知ったときは勢いよく席を立ったせいで盤面をぐちゃぐちゃにしてしまった。それくらい衝撃的だった。

 

楽しい。誰かとこうして遊ぶのがこんなに楽しいものなんて知らなかった。その楽しさに夢中になっていたから、扉の方からの足音に気付けなかった。

 

数回のノックのうちに扉が開かれる。そこには

 

「あら、ずいぶんとお楽しみのようね」

 

「…お姉様」

 

最愛の姉の姿があった。

 

「レミリアちゃん!」

 

姉の方にトテトテと寄っていく彼。その姿さえも愛らしい。むぅ、なんだかお姉様に雅貴をとられた気分。なんだろう、心がムカムカする。物を壊したい時とは別の感情だ。

 

それになぜお姉様がわざわざここまできたんだろう?その意図がわからない。

 

「もう外は暗いから、今日は泊まって行きなさい。食事の用意もできているわ」

 

「いいの?ありがとう!」

 

あ、抱き付かれてる。羨ましい。というかお姉様ちょっと照れてる?顔が赤いような気もする。

 

「それじゃ、上に上がりましょうか」

 

「うん!あ、ちょっと待って」

 

そう言ってお姉様から私の方へ近づいてくる雅貴。そして急に手をとってきた。

 

「フランちゃんも行こ?」

 

「えっと、私は…」

 

私も一緒に連れて行ってくれようとしてくれるのはすごく嬉しい。だけど私はここから出られない。出ては行けないのだ。お姉様の方を見る。きっとこう言われるのだ。『貴女はここにいなさい』と。そしてまた1人で過ごすのだ。

 

「フランも一緒にいらっしゃい」

 

……?えっ?出ていいの?

 

「なにぼーっとしてるのよ。行くわよ」

 

そういうとお姉様も私の手をとる。右がお姉様で左が雅貴だ。お姉様の顔が赤い。まださっきの雅貴に抱きつかれたのを気にしているのだろうか?

 

ゆっくりと部屋の入り口まで来た。ドアは既に開いている。あと一歩で部屋の外だ。でも何故か足が出ない。

 

するとお姉様と雅貴は扉の外へ出てしまった。手は繋いだまま此方を見ている。

 

「行くわよフラン」

 

「行こうよフランちゃん」

 

手を引っ張ることもせず待ってくれている。私が自分で踏み出すことを。でも怖い。ずっと1人で過ごしてきた。1人でも平気な世界しか知らない。ここから先は知らないことしか知らない。

 

この一歩を踏み出せば、きっと二度とこの部屋に戻ることはできないだろう。根拠はないがそう思えた。

 

「フランちゃん」

 

すると雅貴が両手で左手を包み込んでくれた。暖かい。その温もりが恐怖心を拭い去っていく。

 

右手からも別の温もりを感じた。お姉様も同じように両手で手を握ってくれている。

 

ここまでしてくれているんだ。もう迷ってはいられない。私は目をギュッと瞑り飛び出した。

 

暗い深い地下から眩しい外の世界へと。

 

「えい!」

 

「うわ!?」「ちょっと!?」

 

余りにも勢いをつけて飛び出したからか、目を開けたら3人で床に転げていた。お互いの顔を見回していたら自然と笑いが溢れた。

 

「なにしてるのよフランったら」

 

「びっくりしちゃった」

 

「ごめんなさい、勢いつけすぎちゃって」

 

流石に気合入れすぎちゃったなと思いながら、飛び出した部屋の方を見る。

 

そこに部屋はなく、ただ壁があるだけだった。



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第9話

前回は短かったので、少し頑張ってみました。


地下室から出てきて大きな図書館を通ってきた。途中あのなくなった部屋のことをお姉様に聞いてみたのだが、「後でゆっくり話しましょう」とはぐらかされた。

 

そして、1つの部屋の前に着いた。

 

「フラン、開けてみなさい」

 

先行していたお姉様が前を譲ってくれる。

 

「う、うん」

 

戸惑ったけどそれも一瞬の事だった。ゆっくりと扉を開けていく。

 

「「「妹様、おめでとうございます!」」」

 

…なにこれ?お姉様の方を振り向く。

 

「おめでとう、フラン」

 

お姉様、お前もか!なにを祝ってくれてるのか全く分からない。雅貴の方を向いてみる。

 

「おめでとう?フランちゃん」

 

この子もわかってないな。小首を傾げながらも笑顔で空気を読んで祝ってくれてる。可愛いなぁもう。

 

「今日は貴女の誕生日よ」

 

「えっ?」

 

誕生日?私の?知らなかった。物心つく前からあの部屋にいたから。

 

「さあ主役は早く席に着きなさい」

 

そうお姉様に急かされ、椅子を引こうとすると、銀髪の綺麗なお姉さんに席を引かれた。

 

「お掛けください、妹様」

 

「あ、ありがと」

 

座ると恭しく一礼し、一瞬でお姉様のもとへ戻っていった。びっくりした。人間って瞬間移動が出来るんだろうか?雅貴に聞いてみようっと。それと、あのお姉さんの匂い、なんだか嗅ぎ慣れている気がする。

 

みんなが席に着く中、あのお姉さんだけお姉様の後ろから動かない。

 

「咲夜さんは一緒に食べないの?」

 

雅貴が聞く。私も気になった。

 

「咲夜、貴女も掛けなさい」

 

「私はメイドでございます。従者が主人と同じ席に着くわけには参りません」

 

メイドさんなんだ。もしかして、地下で食事の準備とかしてくれてたんだろうか。部屋が綺麗になった時に残ってる匂いのと同じ気がする。

 

「咲夜さんは僕と一緒にご飯食べるの…いや?」

 

いつの間にかメイドさん…咲夜の横に雅貴が詰め寄っている。ちょっと泣きそうな顔でせがまれてる。あんなの見てたら断れないだろうなぁ。あ、落ちたな。

 

「咲夜、そのまま上目遣い攻撃で沈む前に席についた方がいいんじゃないかしら?」

 

お姉様が顔を茹でたこのように紅くしてしまった咲夜へ揶揄うように言う。

 

「はい…お言葉に甘えて」

 

そうしてみんなが席に着いた。

 

「誕生祝いをする前に、みんなのことをフランに紹介しないとね」

 

お姉様がそう言うと紫の髪をした女の人とその隣の赤髪の女の人が席を立つ。片方は悪魔かな?

 

「私の親友にして、さっきの図書館の司書で魔女のパチェよ」

 

「初めまして妹様。パチュリー・ノーレッジよ。知りたい事が有ればいつでも図書館に来なさい。歓迎するわ」

 

「パチュリー様の身の回りのお世話をしています。小悪魔です。こあとお呼びください」

 

パチュリーに小悪魔ね。あの大きな図書館の本は是非読んでみたい。

 

「うん、よろしくね」

 

次に立ったのが赤髪…と言ってもこあより明るい色をしてる人、すごく大きい、もちろん身長のことだ…ちょっとだけ自分の胸元と見比べてしまった。

 

「初めまして妹様、紅美鈴と申します。門番の任に就いております」

 

「あー!立ったまま寝てた人!」

 

急に雅貴が声を上げる。立ったまま寝てた?そんなこと出来るんだ美鈴って。

 

「あ、あはは、やだなー。あれは寝てたんじゃなくて、瞑想を、って待って待って咲夜さん!その大量のナイフをしまって下さい!」

 

咲夜の方を見ると大量のナイフをその手に持っていた。あれ銀のナイフじゃないよね?なんかあのナイフ見てると身体がゾワゾワしちゃう。

 

「言い訳は終わったかしら?神様にお祈りは?

最期の晩餐を前に命乞いをする準備はOK?」

 

咲夜は冷酷な瞳で美鈴を睨みつけ、美鈴は顔を青くしている。止めないでいいのかなと思ったけど、お姉様はため息をつき、パチュリーは本に目を落としている。こあさえ愛想笑いを浮かべている。

 

これって、もしかしなくてもいつものことなのだろうか?

 

「雅貴くんを招き入れた時に、どれだけ恥ずかしかったか、貴女に理解できるかしら?できないから寝てたのよね?そうよね?」

 

「いや、あの…その…」

 

あちゃー、完全に怒ってるな。もうこれは止められない。さよなら美鈴。貴女のことは忘れないわ。会って数分の関係だけど。

 

「咲夜、その辺にしておきなさい」

 

「…お見苦しいところをお見せしました」

 

あれだけ持っていたナイフを一瞬でしまい、何事もなかったかのように振る舞う咲夜。一体どこにあの量のナイフをしまったんだろ?

 

「メイド長を務めさせていただいております。十六夜咲夜と申します。何かお困り事がございましたら、なんなりとお申し付け下さい。何事も一瞬で解決してご覧にして見せます」

 

「…地下の食事を作ってくれてたり、お人形を元に戻してくれたのは咲夜なの?」

 

「はい、その通りでございます」

 

「あの…いつも美味しい料理をありがと」

 

地下でつまらない生活をしていたが食事だけは別だった。今日はどんな料理なのか心待ちにしていたから。

 

「喜んでいただけたのなら、メイドとしてこれ以上の幸せはございません」

 

「あとデザートのプリン。とっても美味しかった」

 

そう伝えるとなぜか咲夜の顔が引きつった。私、何かまずいことを言っちゃったかな?

 

「…フラン、その話詳しく」

 

お嬢様がいきなり真剣な顔で聞いてきた。

 

「え?毎日デザートでプリンが付いててそれが美味しかったからお礼を言おうと…」

 

私が最後まで言うことなく、お嬢様は両手で机を叩き、勢いよく立ち上がる。

 

「咲夜!なんで私にはないのにフランにはプリンがつくのよ!しかも毎日!」

 

唖然とした。え?お姉様は食べてなかったの?

 

「妹様は、お嬢様と違って残さず食べてくれますので」

 

「貴女が私の嫌いなものばっかり出すからでしょ!」

 

「お嬢様は好き嫌いが多すぎます!ちゃんと食べてくれた時には、お出ししてるではありませんか」

 

…なんだろう、私の姉ってこんなんだったっけ?物心はついていなかったけど、お姉様は優しくてかっこよかったと思うんだけどなぁ。あれはお母様だったのかな?

 

「レミィ、その辺にしなさい」

 

本を読んでいたパチュリーが諭す。

 

「せっかくの料理が冷めちゃうわ、それに、これは誰のなにを祝う為なのかしら?」

 

「…わかったわよ、じゃあみんなの自己紹介も終えたことだし」

 

お姉様がこちらを見る。

 

「フラン、誕生日おめでとう。こうして家族みんなで貴女の誕生日を祝う事ができて私は、本当に嬉しく思うわ」

 

「あ、ありがと」

 

あれだけ咲夜と言い争っていたのに急に真面目にそんなことを言うから、ちょっと返事に戸惑ってしまった。

 

「じゃあフランからも一言お願いね」

 

「え?ええっ!?」

 

そんな!そういう振りをするなら先に言ってよ!えーとえーと…

 

「きょ、今日は私のた「きゅう〜」めに…?」

 

…なんか隣からとても可愛らしい音が聞こえた。みんなも私の隣を見ている。

 

それに釣られてか、私も隣に目を向ける。そこには、恥ずかしそうに顔を赤くした雅貴が、お腹を抑えて俯いていた。

 

きっとみんな同じことを思っているに違いない。

 

       か、可愛すぎる!!

 

「…そ、そろそろ食べましょうか!フラン、乾杯の音頭を」

 

「えっ?あ、乾杯!」

 

「「「「かんぱーい!」」」」

 

「…かんぱい」

 

 楽しい食事が始まったのだった。



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第10話

私は今、お姉様の部屋に来ている。楽しい食事が終わった後に呼び出されたのだ。

 

「今日はどうだったかしら、フラン?」

 

「とっても楽しかったよ、一人で食べるのと違って、みんなで食べるだけなのにこんなに楽しいとは思わなかった」

 

率直に感想を言ったのだが、お姉様は少し辛そうな顔をした。なんでだろう?

 

「貴女にずっと言いたかった事があるの」

 

お姉様は深呼吸をして、私に頭を下げた。え?

 

「ごめんなさい!」

 

え?なんで謝られているんだろう?もしかしてまた地下に戻らないと行けないのだろうか?まあ、別にそれでもいいけど。でも、食事はみんなと食べたいなぁ。

 

「貴女をずっと地下に閉じ込めたままで、ずっと出してあげられなくて、ごめんなさい」

 

「それは私が狂っていたからでしょ?お姉様のせいじゃないよ」

 

「父上が亡くなったから、すぐにでも貴女をだしてあげることもできたのよ。でも、私は貴女が怖かったの。自分が壊されるんじゃないかって」

 

「それはそう思うよ。私だってお姉様と立場が逆だったら同じことしてるよ。それに、出してくれたじゃない」

 

「貴女を外に出したのは私じゃないわ。彼よ」

 

「一緒に部屋から出してくれた。違う?」

 

「違わないけど…」

 

あーもうめんどくさいな!こういう時どうすればいいんだろう。

 

そうだ!あの時のように、雅貴が私にしてくれたように…

 

私はお姉様に抱きついた。

 

「ふ、フラン!?」

 

急に抱きつかれて困惑してるな、お姉様。少し顔が赤い気もするけど。

 

「私は大丈夫、もう大丈夫なの。だからね、お姉様も気にしないで」

 

今の私の気持ちだ。言葉で伝えても伝わるのは言葉だけかもしれないけれど。どうか伝わってほしい。

 

「…私を許してくれる?」

 

「許す許さないじゃないよ、そもそも恨んでないし」

 

「そう…ありがと」

 

「私こそ、暗い地下から出してくれてありがと!」

 

私とお姉様はしばらく抱き合ったままだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お姉様、私の部屋はどこになるの?」

 

あの後、お姉様の匂いを嗅いでいると嫌がられてしまった。むぅ、減るもんじゃないのになぁ。

 

「隣よ、今日からそこで寝なさい」

 

「…今日は一緒に寝てくれない?」

 

「…今日だけよ」

 

「お姉様、だーい好き!」

 

「ちょっと!やめなさいってば」

 

またお姉様に抱きつこうとしたのだが、あしらわれてしまった…でも一緒に寝れるのは嬉しいな。あ、そうだ!

 

「雅貴と3人で寝ましょうよ!」

 

「…彼がいいと言えばね」

 

そういえば彼は何処に行ったんだろう。食事が終わってからすぐここに来たから見てないや。

 

「…フラン、貴女は雅貴のこと、どう思う?」

 

「どう思うって?」

 

「一緒に居たいと思わないかしら?ずっと彼がこの館で生活してくれたら、どれだけ素晴らしいことか」

 

「それは…思う」

 

彼とずっと一緒に生活…悪くない。いやむしろ最高だ。館はずっと笑顔で溢れそうだし、いつでも彼と遊んで、ご飯食べて、一緒に寝て…うふふ。

 

「…何考えてるか知らないけど、顔がニヤけてるわよ」

 

はっ!いけないいけない。

 

「何かいい考えでもあるの?」

 

「ええ、とっておきの…ね」

 

不敵に笑いながら計画について話すお姉様は、とても心強かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「咲夜さん、これは?」

 

「それは机に重ねて置いておいて」

 

私は…私達は厨房で食事の片付けに勤しんでいた。ここにどうして雅貴くんがいるのかと言うと、どうやら後ろをついてきていたみたいだ。

 

客人に片付けの手伝いをさせるなど、言語道断だが、彼の上目遣いには敵わなかった。

 

いや、ほんとにあれは反則だと思う。あんなん断れるわけないやん?

 

そう言うわけで、雅貴くんと共同作業に勤しんでいるわけだ。…いけない、共同作業だなんて、お風呂のこと思い出しちゃう。

 

それにしても小さいのに偉いわ。手際もいいし、普段から家で家事の手伝いをしてるみたいね。妖精メイドと交換したいわ…

 

ん、ちょっと待てよ。雅貴くんにはここで働いて貰えばいいのよ。執事として申し分ない実力も兼ね備えているわ。それに、メイドと執事という関係ならナニしても咎められることもないのでは?

 

そう思い、想像してみる。

 

お嬢様に仕える私、妹様に仕える雅貴くん。一緒にご奉仕して、夜は雅貴くんのご奉仕…あんなところからそんなところまで…うふふ

 

「ねぇ、咲夜さん」

 

「な、何かしら?」

 

びっくりした。気がつけばすぐ近くに雅貴くんがいた。皿も綺麗に重ねられている。

 

「終わったよー」

 

「あ、ありがと。それじゃ次はってきゃあ!?」

 

要らないことを考えていたからだろう。足下に散った泡水に足を滑らすなんて

 

「咲夜さん!?」

 

咄嗟に彼が手を差し伸べてくれた。その手をとる。しかし、小さな子供が女性を支えられるはずもない…

 

今、お前が重いだけだろとか思った奴、倉庫裏にご招待させて頂きますわ。

 

当然ながら彼も一緒に引き倒してしまった。

 

「いたた…大丈夫?まさた…」

 

そこには私の上に倒れ込む雅貴くん。その手は綺麗に私の胸へと見事なトライを決めていた。

 

「うん、大丈夫…ご、ごめんなさい!」

 

すぐに胸から手を退け、慌てて立ち上がろうとする彼。しかし私は逃がさない。すぐに彼の手をそのままわたしの胸に押し付ける。脚もしっかり絡ませる。

 

「ダメじゃない、大人の女性にこんなことしたら」

 

これは完全に雅貴くんがいけないわ。わざわざきっかけを作ってくれたんだから。

 

「ご、ごめんなさい…」

 

恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、申し訳なさそうにする彼の顔を見てると、もう我慢できなかった。

 

「だ〜め〜よ?イケナイしちゃったんだから、ちゃんとお仕置きしないとね?」

 

そうして彼の手を直接下着の中へ滑り込ませようとした時だった。

 

「…随分お楽しみのようね、咲夜」

 

「お、お嬢様!?」

 

「そのお仕置きとやら、私にも見せてもらおうか?参考にさせてもらおう」

 

「いえ、これは、その…」

 

見られていた!?いつから?

 

「まあ、いいわ。雅貴を借りていくわね」

 

そう言ってお嬢様は冷たく私を見下すと、雅貴くんの手を引いて言ってしまった。

 

「雅貴くん…」

 

もう少しのところでお預けを喰らった私は、ただただ自分を慰めるしか無かった。



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第11話

「大丈夫かしら?」

 

「う、うん。平気だよ」

 

咲夜の手伝いで厨房に居ると聞いて、もしやと思ったが、全くうちのメイド長はいつからあんなんになってしまったのか。

 

「雅貴、フランが私と三人で寝たいといってるのだけど、どうかしら?」

 

本当は1人で寝たいのだが、妹からの初めての我儘だ。付き合わないはずもない。だがそこに彼も入ってくるとは思わなかった。

 

まあ、フランを救ってくれたのは彼だし、一緒に寝るのが嫌ってわけじゃないのよ?あんな可愛い子と一緒に寝れるなんて役得…っ、て何考えるのかしら私。まだ彼の返事もきいて

 

「うん!いいよ」

 

…とりあえず、香水でもつけよう。1番いいやつをね。

 

部屋に帰ってすることが決まった私は雅貴と手を繋いで自室に向かっている。こうしていると弟ができたみたいだ。フランと同じ金髪だからだろうか?

 

そんなことを考えていると、部屋まで到着した。扉を開けるとそこには

 

「お姉様、おっそーい!」

 

フランが私のベッドで寝そべっていた。

 

「…なんで私のベッドで寝てるのよ」

 

「え?一緒に寝るって言ったじゃん」

 

まさか私の部屋だとは思わなかった。普通誘った本人のベッドじゃないの?

 

「わぁ、すごい!フカフカだぁ!」

 

「でしょ?このフカフカはたまらないよね」

 

いつのまにか雅貴も私のベッドに入っている。フラン、貴女のベッドも同じはずよ?

 

2人をみながら、わたしはそっと香水をつける。うん、悪くないわ。

 

「お姉様、何してるの?この香りは?」

 

さっきまでベッドで寝転んでいたフランがすぐ側まで来ていた。いや、本当にいつの間に!?

 

「あ、安眠用の香水よ。これを付けるとよく眠れるの」

 

「ふーん、で?本当は?」

 

「え?だから安眠…」

 

「ホントウハ?」

 

フランが掌を開いて聞いてくる。ちょっと!それは反則でしょ!

 

「…彼に、いい匂いがするって思われたかったから、その…」

 

くっ!妹に脅されるなんて。というかフラン、そのニヤニヤをやめなさい!

 

「…へえ、これで誘惑しようと?」

 

「別にそんなつもりじゃないわよ、早く寝ましょう」

 

話を切り上げてベッドに向かう。そして私は気づいてしまった。ベッドを3人で使うには川の字で寝ることになる。問題は誰が真ん中になるか。

 

もし、真ん中がフランだった場合、雅貴とは離れてしまい、香水をつけた意味がなくなってしまうということに。

 

直ぐにフランの方へ振り向く。そこには既に気づいたフランがニヤリとこちらを見ていた。不味い!

 

「じゃあ私が真ん中でねようかなー」

 

そう高らかに宣言するフラン。

 

「じゃ、ジャンケンの方がいいんじゃない?そっちの方が公平よ」

 

そう、ジャンケンなら公平だわ、客観的に見ればね。だが私の能力を持ってすれば

 

「…お姉様、能力使ってずるしそうだからダメ」

 

読まれていたー!…流石フラン、やりよる。だが譲れない。ここでフランに真ん中を譲るわけにわっ!

 

「僕、真ん中じゃダメ?」

 

この吸血鬼姉妹のベッド真ん中争奪戦は、天使の一言で丸く収まってしまったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「雅貴、狭くないかしら?」

 

「う、うん。平気だよ」

 

「雅貴、もっとくっついてもい〜い?」

 

「ふ、フランちゃん。もう十分くっついてるよね?」

 

雅貴の一言で決まった順番で私達は寝ていた。

 

フランが必要以上に彼にくっつこうとするため、寝返りをうつように彼がこちらを向いた。顔が近い。ほんの数センチで鼻が当たりそうな距離だ。それに、彼からとても良い匂いがする。とても柔らかい。温かみのある感じで、それでいて抱きしめたくなる衝動に駆られるような香りだ。

 

こんな匂いにずっと晒されているとおかしくなりそうだった。

 

「レミリアちゃんから、なんか良い匂いがする」

 

そう言って彼は顔の距離を近づ、ち、ちか、ちかすぎぃぃ!!

 

人間は暗いと目がよく見えないらしいが、私達吸血鬼は暗くてもよく見える。彼の整った顔がすぐそこで見える。サラサラとした金髪にそっと鼻腔をくすぐるような香りが漂う。

 

そんな中で、彼は私の胸元へと顔を持ってきてスンスンと匂いを嗅いでいる。ヤバイ。

 

「ちょっと、レディにそういうことをするのはいただけないわよ」

 

なんとか離れさせようと怒ったフリをしてみた。

 

「ごめんなさい、でもとっても良い匂いだったから」

 

そう言って距離をとってくれるが、良い匂いなのはあんたの方よ!やっぱり距離を取らなくてもいいわ!

 

「いけないなぁ雅貴は、イケナイコトした子にはお仕置きしないとねー」

 

そういいながらフランは彼の後ろから首元に自分の歯を、ってやめなさいフラン!

 

「いたっ」

 

そのまま噛み付くかと思ったが、直ぐにフランは離れた。少し犬歯で彼の首筋にキズをつけただけみたい。よかった。そのまま吸血するかと思ったわ。、

 

「もう、ビックリするじゃないフラン。…フラン?」

 

注意しようと思ったのだが、フランの様子がおかしい。急に顔を紅くして目はうつろ、というかトロンとして、息も荒くなっている。

 

「お姉様、やばい。雅貴の血…」

 

そう言って彼女は自分の身体を弄り出している。

 

血?そういえばさっきからとても甘い匂いが漂っている。まさか、彼の血をひと舐めしただけで発情してしまったの!?

 

「お姉様も感じてみる?」

 

「なにをっ!?」

 

フランは私の口に舌をねじ込んできた。口移しに彼の血を無理やり飲み込まされる。ねっとりと妹の舌と一緒に流れてくる甘美な味わい。

 

「へへ〜、どう?お姉様?」

 

フランに問いかけられたが反応できない。

 

どうしようもなく身体が熱い。先ほどまで耐えていた彼の香りが物足りなく感じてしまうほどに。もっと、もっと雅貴を感じたい。

 

「どうかしたの?レミリアちゃん、フランちゃん」

 

少しおどおどしながら聞いてくる彼。その表情は少し怯えているようにも見える。だがそんな彼の表情すら愛おしく感じてしまう。もっといろんな表情を見せて欲しい。

 

「雅貴は寝てていいわよ。私たちが堪能してあげるから」

 

一度飛んでしまった理性は制御できない。それは気高き吸血鬼でも同じことだ。

 

私とフランは彼の身体を求め、貪るだけのだった。



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第12話

作中に一部差別用語が使用されております
予めご了承ください


「やってしまったわね…」

 

カーテンの隙間からの薄日が指す頃、私は目を覚ました。目の前の惨状に頭を抱えながら。

 

裸の男女3人に生臭い匂いが漂っている。これに頭を抱えない奴がいるのなら相当の輩だろう。

 

昨晩、しこたま雅貴の身体を求めて貪り続けてしまった。彼は今はまだぐっすりと眠っている。

 

その隣でも幸せそうにフランも寝息を立てている。正直、私もまだ寝ていたいがそうもいかない。今日は異変を起こす日だ。

 

とりあえずシャワーを浴びる。吸血鬼が流水を浴びるなどと思うかもしれないが、あれは濁流のような量の水の話だ。

 

シャワーを浴び終えて着替えていると扉からノックの音が聞こえる。咲夜だろう。しかしこの状況を見られるのは嫌だな。だが従者をずっと待たすわけにもいかない。

 

「…入りなさい」

 

「失礼します。昨日はお楽しみでしたね」

 

無駄にいい笑顔で言いやがった。部屋の状況を見るまでもなく言い切ったのだ。

 

「…フランと雅貴が起きたら、シャワーを浴びるように言っておいて。それより準備は?」

 

「滞りなく完了しております。あとは、お嬢様の妖力を流すだけとのこと。大広間へお越し下さい」

 

「わかったわ」

 

部屋にフランと雅貴を残して、大広間に急いだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

大広間に入るとパチュリー、美鈴、小悪魔がいた。そしてパチュリーがいの一番に口を開く。

 

「あらレミィ、昨日はお楽しみだったようね」

 

パチェ、お前もか!…しかし、揶揄っているにしては顔が怖い。なんか怒ってる?

 

「…私がなぜ不機嫌なのか分からないと言った感じね、レミリア君」

 

「いや、不機嫌通り越して怒ってるわよね?」

 

君付けで呼んでくるあたり、相当だろう。しかし彼女は続ける。

 

「ねえ知ってる?私、昨日はとっても忙しかったの。親友の頼みでこの幻想郷全体を覆う霧を発生させる術式を一晩中組んでいたから」

 

だんだんと背中に嫌な汗が流れていく。

 

「それでね?私が一晩中頑張っていたのに、その親友はあろうことか姉妹で男の子を嬲っていたそうなの。一晩中。レミリア君はどう思う?」

 

「あー…えっと、その」

 

なんて言えばいい。どうすればここから最悪のシナリオを避けれる。私が助かる運命はないのか!

そうだ!こういう時こそ能力を使うとき…

 

「沈黙ということは何も思わなかったということでいいわよね?」

 

「ち、違うのよ!これには訳が」

 

「このショタコンペドフィリアが!土に帰れ!『日符ロイアルフレア』!」

 

終わった…

 

「お待ちくださいませ」

 

咲夜!ああ、なんと瀟洒なメイドなんだ!

 

「どきなさい。咲夜」

 

「パチュリー様、ここはまずお嬢様の妖力を流して頂きましょう。それさえ終わってしまえば、後は煮るなり焼くなりなんなりと」

 

裏切ったな咲夜ぁ!

 

「それもそうね、さあレミィ、後でしっかり調理してあげるから、早くしなさい」

 

死刑宣告を受け取った私は渋々、妖力を術式にそそぎこむのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目を覚ますと、そこにはもうお姉様の姿はなかった。隣には生まれたままの姿の雅貴。

 

そういえば昨日、悪戯のつもりで彼の首筋にに歯を立てちゃって、そしたらなんかすごい感覚に襲われて…どうなったんだっけ?

 

雅貴は隣でまだ小さな寝息を立てている。この無警戒な寝顔を拝めるなんてとても幸せだなと思った。

 

頭を撫でてみる。サラサラだ。一本一本が艶々している。これで男の子なんだから、おかしな話だ。

 

夢中で頭を撫でていると、彼が身動いた。

 

「んっ…」

 

…なに今の色っぽい声。もっと続けたらもう一度聞けるかな?

 

そう思い、もう一度彼の頭に手を伸ばそうとした時だった。

 

「うーん、おねえちゃん…」

 

「お、おねえちゃん!?」

 

当然、寝言である。彼が私を『おねえちゃん』などと呼ぶはずもないが、私はとても浮かれていた。

 

『おねえちゃん』なんていい響きなんだろう。私にもお姉様がいる。だからみんな私のこと「『妹様』と呼ぶ。

 

私のことを姉と呼ぶ存在なんているはずもない。だからこそ、寝言であってもこれほどまでにときめくのだろう。

 

そろそろ起きないといけない、カーテンの向こう側はなんか不気味に薄暗いけれど、お姉様も起きているみたいだし。

 

「雅貴、起きて」

 

彼の身体を揺さぶってみる

 

「うーん、やぁ」

 

私の手から離れるように身体を私とは反対方向に向ける。

 

なんなんだこの可愛い生物は。

 

仕方ないから私だけ起きよう。そう思っていたらノックが聞こえた。誰だろう。

 

「失礼します、妹様。朝食の準備ができました。それと、昨日はお楽しみでしたね?」

 

昨日?そっか、誕生日会のことか。

 

「うん、すっごく楽しかったよ。またやりたいな〜」

 

そう返すと何故か咲夜はさっきまでの笑顔から一転、顔を赤くしてしまった。なんか変なことを言ったかなぁ?

 

「そ、そうですか…お嬢様から朝食前にシャワーを浴びるようにとのことです」

 

「わかった」

 

私はそのまま浴室へと足を運んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

私は先ほどの妹様の返事にかなり動揺していた。

 

「またヤりたいですって…」

 

それほどまでに激しく姉妹揃って雅貴君を犯し…ゲフンゲフン、致したのかしら?

 

スヤスヤと眠り続ける雅貴くんを見ながら、私は昨晩のお嬢様達の夜遊びを想像するのだった。



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第13話

周りが赤い霧に囲まれても自分の仕事は変わらない。あいも変わらず門番として立ち続けるだけだ。

 

しかし、やっぱりなにもせず立ってるだけなんて退屈で、その退屈を紛らわせる術など持ち合わせているはずもない。

 

だから私は目を閉じるのだ。決して寝てはいない。私の能力ならたとえ寝ていたとしても、侵入者に気付かないはずもない。

 

だから…目を…瞑って…zzz

 

「…りん…。めー…さん」

 

誰かが身体を揺すってくる。誰だろう?私を起こす人なんて…咲夜さん!?

 

「お、起きてます!起きてますよ咲夜さん!」

 

すぐさま意識を覚醒して、気配のする方に頭を下げる。しかし、いつものような衝撃はいつまで経っても訪れない。

 

恐る恐る目を開けてみる。そこには銀髪の冷徹な女性ではなく、金髪の天使のような笑みを浮かべる少女…じゃなくて少年がいた。

 

「めーりんさん、おはよ!」

 

「ええ、おはようございます。雅貴くん」

 

「めーりんさん何してたの?」

 

「お仕事ですよ。こうして門の前で怪しい人が来ないか見張っているんです」

 

そう言うと彼は小首を捻りながら不思議そうな顔をした。うん、かわいいなあ。

 

「寝てたのにできるの?」

 

「寝てないですよ。目を瞑っていただけです」

 

「そうなの?」

 

「そうですとも」

 

これが咲夜さんなら問答無用でお仕置きされるが、彼ならそんなことにはならない。

 

「そういえば、めーりんさんはお庭の手入れをしてるんだよね」

 

そう言って彼は私が手入れしてる花壇を見つめる。

 

「そうですよ。こっちは仕事というより趣味ですけどね」

 

「すごく綺麗だね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

本当は門番の仕事中に、暇つぶしがてらに育てて来た花だったが、今では綺麗に咲いている。たまに妖精メイドの悪戯で荒らされることもあった。あれは辛かったな…

 

それに、綺麗に咲いていても誰にも褒められることもなかった。だから彼の言葉がとても嬉しく思えた。

 

「めーりんさんはお花の匂いがするから、僕は好きだよ」

 

そう言うと彼は私に抱きついて来た。全く、なんて可愛い生き物なのだろう。抱きつきながらこちらを見上げてニコニコしている。

 

「嬉しいこと言ってくれますね。そんな雅貴くんにはこれをあげましょう」

 

私はポケットに入れておいた花の種を彼に渡す。今日植えようと思っていたものだ。

 

「これは?」

 

「向日葵の種です。夏になると綺麗な花を咲かせます。雅貴くんならきっと綺麗な花を咲かせることができます」

 

「ありがとう、めーりんさん」

 

「こちらこそ。さあ、中に戻って下さい」

 

彼は素直に頷いて館の中へ戻っていく。途中、こちらを振り向いて手を振ってくれた。髪色は違うが、小さい頃の咲夜さんのことを思い出す。あの頃は私の後ろをずっとひっついて来たものだ。

 

「…咲夜さんも小さい頃はあんなに素直で可愛かったのに」

 

「悪かったわね、今は素直じゃなくて可愛げがなくて」

 

声のする方を向く。背中に大量の冷や汗をかきながら。

 

「…いつからそこに?」

 

「貴女が雅貴くんに抱きつかれてニヤニヤと気持ち悪い顔をしていたときよ」

 

なかなか辛辣ですね。もしかして…

 

「…嫉妬してます?」

 

咲夜さんの肩がビクッと跳ねた。わかりやすいなぁ。

 

「そ、そんなわけないでしょ。私は昨日から雅貴くんのお世話で一緒にいるのよ?手を繋いだり、一緒にお風呂には入ったり」

 

「でも抱きつかれてはいない?」

 

「…そうよ、羨ましいのよ!ただでさえ仕事せず居眠りしてるくせにズルいじゃない!」

 

そうやって子供っぽく文句を言ってくるあたり、相当羨ましかったらしい。仕方ないなと思いながら、私は咲夜さんを抱きしめてあげる。

 

「…なによ、別に美鈴に抱きしめてほしくなんかないのだけれど?」

 

「まぁまぁ、いいじゃないですか。お裾分けですよ」

 

すっかり大きくなった銀髪を撫でる。

 

「咲夜さんは…いえ、咲夜ちゃんはよく頑張っています」

 

「…バカ」

 

文句を言われながらも、無抵抗なメイド長を久々に甘やかすのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

私は図書館で机の上に突っ伏していた。昨晩から組んでいた術式の疲れのせいだろう。

 

そんななか、図書館の扉を開き、こちらにトコトコと歩いてくる音が聞こえてきた。

 

「パチュリーさん、おはよ」

 

「あら雅貴、おはよう。元気ね」

 

昨晩、吸血鬼姉妹にこってり搾られたはずの雅貴だが意外にも元気そうだ。幼さゆえに元気が有り余っているのだろう。

 

「何かようかしら?」

 

「絵本読んで!」

 

そう言って彼は古ぼけた絵本を私に差し出す。あら?これは…

 

「…これを何処で見つけたの?」

 

「向こうの本棚の隅っこにあったよ」

 

なんとも懐かしい本を引っ張ってきたものだ。これは私がまだ小さい頃に親に読んでもらった本だ。今でも内容はよく覚えている。

 

シンデレラのお話にアレンジが加えられたようなものだ。主人公に魔法をかけたお婆さんは主人公の実の祖母で、それにより主人公が魔女狩りの対象になってしまう。そんな中、王子が国を捨て、身分も捨て、主人公と辺境の地で幸せに暮らす。と言ったものだ。

 

王子の愛の深さに感動した話だ。自分にもそんな相手が居たら…と想っていた時もあったな。

 

「読んでくれる?」

 

本の内容を思い出していると彼が…すごい破壊力ね、彼の上目遣い。椅子に座っていても彼の身長では自然とそうなってしまうのだが、そんな風に見られて断れる人なんていないだろう。

 

「ええ、いいわよ」

 

「やった!じゃあ…失礼しまーす」

 

すると彼は私の膝の上に座った。子供特有の少し高めの体温が膝から伝わり、彼のサラサラの髪が鼻孔をくすぐる。いやちょっと待って欲しい。ドウシテコウナッタ?

 

「雅貴?な、何をしてるの?」

 

「え?こうしないと僕、絵が見えないよ」

 

確かにそうかもしれないが、他にも方法はあるだろう。

 

「…ダメ?」

 

彼は振り向きながら聞いてくる。だがそれが不味かった。

 

よく考えて欲しい。彼は私の膝に乗っている。その状態で私の方を振り向けばどうなるか。超至近距離であの破壊力バツグンの上目遣いになるわけで。

 

「昔むかし、あるところに…」

 

気がつくと私は絵本を読んでいたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そうして幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし…あら?」

 

本を無心で読み終えた私は膝の上の少年に意識を向けた。そこには、すやすやと眠っている天使がいた。

 

「本を読むように頼んでおいて寝るなんて、全く可愛いものね」

 

少し、悪戯心に駆られた私は彼のほっぺたを突っついてみる。その肌はぷにぷにと心地よい弾力が返ってきた。その感触を楽しんでいると、彼は私の膝の上で身動いだ。可愛すぎる。

 

本当に不思議な少年だ。一緒にいるだけでとても穏やかな気持ちになれる。彼のこの不思議な力が、妹様を救ったのだろう。

 

「ふぁ…私もちょっと寝ようかしら」

 

本来なら睡眠など必要ないが、今日はもう疲れたし、目の前の天使が本当によく眠っていて、私を眠りに誘ってくるのだ。その誘いに乗ってもバチは当たらないだろう。

 

そうして私は、彼を膝の上に乗せたまま、意識を手放すのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「パチュリー様〜、この本は何処に…って、あらあら、お邪魔でしたか〜♪」

 

そこには珍しく目を閉じて眠っている知識と日陰の少女と彼女にあすなろ抱きをされて眠る天使の姿があった。

 

後にその姿を親友に見られた彼女が、散々弄られたのは言うまでもないだろう。

 

 

 




話のストックが完全に切れてしまったことと、仕事の忙しくなってしまったので、これからの更新がかなり不定期となってしまいます。ご覧になられてる皆様には申し訳ないですが、気長に待って下さいますと幸いです。


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第14話

ご無沙汰しております。
なかなか筆が進まず、物語を書く難しさを痛感しております。
今後もかなりゆっくりな更新となりますが、
気長にお待ちいただければ幸いです。




「んー、今日は星が綺麗だな」

 

薄暗い森の奥にある自宅で、私は窓から空を見ていた。こんなに綺麗な星空を見ると、ついあの日を思い出す。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まぁぼぉ、準備はいいか?」

 

「バッチリだよ、お姉ちゃん」

 

大人達が寝静まった深夜、私たちは行動を開始する。

 

「まぁぼぉ、そんな大げさな荷物どうするんだ?」

 

「必要なもの、全部詰め込んだ!」

 

まぁぼぉの背中には大きな風呂敷で荷物が背負われていた。

 

「それじゃ、出発だな」

 

「うん!お星様いっぱい見たい」

 

こうして私たちは真夜中に里を出て東へ向かった。目的地は博麗神社だ。

 

どうしてこのようなことになったのかは、今日の午前中まで遡る。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「こーりん、これはなんだぜ?」

 

「なんだぜ?」

 

私とまぁぼぉは目の前にある三脚の筒に興味津々だった。

 

「いらっしゃい魔理沙、雅貴。それは天体望遠鏡といって、星や月を見るための道具みたいだよ」

 

てんたい…?名前はなんか難しいがなかなか面白そうなものだな。

 

「んーっ…何も見えなーい」

 

まぁぼぉが一生懸命に筒の大きな方を覗き込んでいるが何も見えないらしい。

 

「雅貴、反対だよ。こっちの小さい方から見るんだ」

 

そう言われて小さな方から筒を覗く。

 

「やっぱり何も見えないよ?真っ暗!」

 

「え?そんなはずは…ごめんカバーしてたんだった。どちらにせよ、昼間は危ないから使えないよ」

 

「どうして?」

 

「これで太陽を見てしまったら失明してしまうみたいだ。原理はわからないけど、使うのは夜だけみたいだよ」

 

月や星は見ていいのに太陽はダメなのか。不思議な筒だな。

 

「そういえば今日の夜は満月だし、家の前で使ってみるといい」

 

満月をまぁぼぉと…姉弟で眺める…いい。すごくいいと思う。最近はまぁぼぉと2人っきりでのんびりすることもなかったし、丁度いいかもしれない。

 

「本当は博麗神社のような小高い所から見る方がいいらしいけど、人里でも問題はないだろう」

 

博麗神社…確か人里から少し離れたところにある神社だよな。静かな神社でまぁぼぉと星々を眺める。なんてロマンチックなシチュエーションなんだ!

 

最近は父さんからを弟離れしろやらなんやら言われるが、一緒に遊んで、一緒に風呂に入って、一緒に寝るなんて、姉弟なら当たり前のことだろう?なぜそれを止めようとするのか訳がわからない。

 

「楽しみだね、お姉ちゃん!」

 

そう言って無邪気な笑顔を向けて来るまぁぼぉ。その顔を見るだけでさっきまで考えていたことが全てどうでもよく思えてくる。

 

「まぁぼぉ、どうせなら人里じゃなくて博麗神社に行こうぜ。皆んなには内緒でな」

 

私が口元に指を立てると、まぁぼぉも真似をしながら小さく「しぃー」と呟く。

 

まったく、いちいち動作が可愛らしいんだよな。

本当に弟なんだろうか?今からでも妹と言ってもらっても全然信じるぞ。お風呂に一緒に入ってるからそこは確認済みなんだがな。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そんなこんなで人里から出て薄暗い森の入り口まで来た。

 

偶に昼間通ることはあるが、昼と夜では雰囲気が全然違う。暗い闇が口を開けて待っているような、そんな錯覚に陥る不気味さを感じる。

 

こんな時こそ、姉としてまぁぼぉを引っ張っていかなければ!怯える弟を優しく安心させる…これならまぁぼぉの好感度もうなぎ登り間違い無い!

 

まぁ、もう上がりくらないくらい好感を得られているはずだ…うん…

 

暗い闇に呑まれないように、まぁぼぉの手を握ろうとしたその時、

 

パキリ メキッ

 

なんの音だろう?こんな真夜中の森の中に人はいないだろう。そう考えると嫌な予感しかしない。

 

さっきまで聴こえていた虫の鳴き声が聞こえないず、静まりかえった森の中で、枝を踏み締める音だけがやけに聞こえてくる。

 

グルルル…

 

茂みの奥から呻く声が聞こえてくる。しかも1匹なんかじゃない。

 

すぐにまぁぼぉの手を取ってここから逃げないといけないのに、足が石のように重く動かない。手は震える。自分の体が、何かに乗っ取られたかのように全く動かない。

 

前からナニかが近づいてくる。それはゆっくりと、わたしとまぁぼぉの元へ。

 

得体の知れない何かが近づいてくるという恐怖で腰が抜けてしまった私はその場にへたり込んでしまった。

 

あぁ、きっとここで食べられてしまうんだ。ごめんな、まぁぼぉ…私の勝手な思いつきで巻き込んで…でも、まぁぼぉと一緒に死ねるなら…

 

そんなことを思いながら私は目を閉じた。すると、手に暖かみを感じた。

 

「大丈夫だよ、お姉ちゃん」

 

まぁぼぉに声をかけられ、目を開けてみるとそこには信じられない光景が広がっていた。

 

そこにはオオカミのような見た目をした妖怪がまぁぼぉに擦り寄っていた。その近くには小さな個体もいる。

 

そのオオカミ?でいいか、オオカミとその子供たちがまぁぼぉを取り囲んで甘えている。それはまるで飼い慣らされた犬のようだった。

 

「あはは、くすぐったいよぉ」

 

寺子屋や人里の人たちから耳にタコができるぐらい妖怪の怖さ、恐ろしさは聞かされてきた。だかどうだろう。目の前にいるオオカミたちはまぁぼぉに甘えてじゃれついている。

 

ひょっとして、大人たちの脅しだったのだろうか。そう思い、近くにいた1匹に手を差し伸ばす。

 

グルルッ!バウッ!

 

…怖っ!さっきまで猫撫で声でまぁぼぉに擦り寄ってたのに私が手を伸ばした途端に急変したぞ!?眼も紅く血走り、今にも襲ってきそうだ。

 

「ダメ!お姉ちゃんを虐めないで!」

 

オオカミたちの中心にいたまぁぼぉが異変に気付いて私の前に立つ。

 

「お姉ちゃんを虐めたら、君たちのこと嫌いになるからね!」

 

まぁぼぉがそう言うや否や、さっき私に牙を剥き出し吠えついてきた奴が擦り寄り手をぺろぺろと舐めてきた。

 

お前らまぁぼぉに嫌われるのどんだけ嫌なんだ?まぁ私もまぁぼぉに嫌われたら…死ねるな…うん死ぬわ。

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

「あ、ああ、大丈夫だぜ」

 

ぺろぺろと私の手を舐めていたやつに、もういいと頭を撫でてやる。

 

そうすると眼を細め自分から撫でている手に頭を擦り付けてくる。コイツ…オオカミじゃなくてワンコだったか

 

「みんなも一緒に行こうよ」

 

まぁぼぉがそう言うと、オオカミたち返事をするように遠吠えをあげた。

 

「お姉ちゃん、行こ?」

 

未だに地面に腰を抜かしてる私に手を差し伸べてくれる。

 

私が握ろうと思った小さな手は、こんなにも大きかったんだな。

 

そんなことを思いながら、まぁぼぉに起こしてもらい、妖怪(オオカミ×ワンコ○)の群れと共に暗い森を歩くのだった。

 



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第15話

ついに神社までたどり着いた。さっきのワンコたちは石段の下でお別れした。まぁぼぉは連れて行こうとしていたがワンコたちが頑なに拒んだ為、1匹1匹丁寧にモフって森へ返してやった。

 

そして長〜い石段を登りきった時、言葉を失った。

 

「うわぁ、綺麗だねー」

 

「……」

 

「お姉ちゃん?」

 

「あ、ああ、そうだな」

 

目に映るのは星、それも夜空いっぱい広がっている。大きい星も小さい星もそれぞれが精一杯輝いている。そして、その中に浮かぶ大きな満月。

 

いつもより一際大きく見えるのは、見ている場所がいつもより高いからだろうか。

 

隣にいるまぁぼぉは私以上に目を輝かせ、夜空を見入っている。

 

「早速、これでみてみようぜ」

 

「うん!」

 

こーりんから借りたこの…天体望遠鏡だったか?コイツを使って早速…あれ?

 

「…真っ黒で何も見えないぞ」

 

「お姉ちゃん、先のカバーってやつ外してないよ」

 

いけね、そういえばそんなものが付いてたな。これを外せば

 

「わぁすごーい!お星様が近くに見えるよ!」

 

私がカバー外してる隙にまぁぼぉが先に望遠鏡を覗き込んでいた。姉より先に見るなんてけしからん!

 

「なーに私より先に見てるんだ!そんな奴にはお仕置きだ!」

 

望遠鏡を覗くのに夢中になっているまぁぼぉの後ろから脇腹に手をいれ、くすぐる。

 

「あははは、お、お姉ちゃん、たんま!たんま!

あははは」

 

「うーん?なんだって?よく聞こえないなぁ?」

 

抵抗してもお構いなしにくすぐり続ける。

 

「ご、ごめんなあははは、さいいい」

 

姉より先に覗くからだ。くすぐり倒したまぁぼぉをどけ、望遠鏡を覗き込んだ。

 

「す、すげぇ…」

 

暗闇を照らすような微かな光しか出してない星々たちが、レンズを通して見るとその1つ1つが輝いていた。

 

「んー!お姉ちゃん早く替わってよ!」

 

「まぁ待てって、今いいとこなんだから」

 

まぁぼぉが待ちきれないようで急かしてくるが、この光景はまだ見ていたい。今まで頭上で弱々しく光っていた星々が、こんなにも力強く輝いていたなんて知らなかった。

 

そうやって星々を観ることに夢中になっていた私は、背後で悪戯しようとするまぁぼぉに気付けなかった。

 

ふぅ〜っ…

 

「ひゃん!?」

 

急に耳元に吹かれた生暖かい吐息は、私を辱めるには十分だった

 

「お姉ちゃんってやっぱりここ弱いよねー」

 

そう耳元で囁きながら依然私の耳に吐息を吹きかけてくる。

 

「や、やめろってまぁぼぉ、うぅ〜」

 

自分の顔が真っ赤になっていくのがわかる。それと同時に体の力が抜け、吐息が耳にかかるたびに体がビクビクと反応してしまう。

 

抵抗できないから後ろから抱きついているまぁぼぉを振り解くこともできない。

 

「ふふっ、さっきのお返しだよ?」

 

しばらく、私はまぁぼぉにひたすら辱められるだけだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「お姉ちゃん、お月さん見てみようよ」

 

「お、そうだな」

 

なんでも月には兎が住んでいるとかいないとか。コイツで兎が見えたら、大発見だぞ。

 

早速、月に望遠鏡を合わせて覗き込んでみる。…なんだ?兎なんてどこにもないし、灰色でなんか寂しい感じがするな。小さな丸い模様が見える。

 

「お姉ちゃん、どう?ウサギさんいる?」

 

まぁぼぉが目を輝かせて聞いてくるが、その目を曇らせるのも忍びない。

 

「んー、お姉ちゃんには見つけられないけど、まぁぼぉなら見つけられるかもな」

 

そうはぐらかしながらまぁぼぉに望遠鏡を覗かせる。

 

また悪戯してやろうかと思ったけれど、仕返しが恐ろしいからやめておいた。

 

いや、別にまぁぼぉにやられるのは嫌じゃないけど、寧ろ…って何考えてんだ私は!

 

顔が熱くなるのを治めつつ、まぁぼぉが望遠鏡を覗いてる間、ぼんやりと月を眺める。

 

静かだ。2人の間に沈黙が流れる。いつもは2人で(私がまぁぼぉを連れ回しているだけ)わいわい騒いでいて、こんなに静かなのは珍しいが、自然と心地よかった。

 

それにしても熱心に月を見ているな。星と比べてそんなに夢中になれるような光景ではなかったけどな。

 

「どうだ、兎さん見えたか?」

 

「ウサギさんは見えなかったけど、天使さんが見えたよ!」

 

天使?月に?天使って月に住んでるのか…いや、なんかと見間違えたんだろう。

 

「そっかそっか、お姉ちゃんも見たかったな」

 

そう返しつつ空を見上げていた。すると

 

「まぁぼぉ、空見てみろよ!」

 

流れ星だ、それもひとつではない。幾つもの流れ星が現れては消えていく。

 

「わぁ!すごいねお姉ちゃん!」

 

「ああ、こんなの見たことない」

 

「りゅーせーぐん、っていうんだって」

 

まぁぼぉが持ってきていた本見ながら教えてくれた。

 

「あと、流れ星が消える前に願い事を3回繰り返せたら、その願いが叶うんだって!」

 

それはかなり魅力的な話だな。これだけ大量に流れ星があるなら絶対叶うだろ。

 

「まぁぼぉ、一緒にお願いしようぜ!」

 

「うん!」

 

まぁぼぉと一緒に願いを口にしようとした時だった。

 

「お姉ちゃん、あれ見て!」

 

「なんだありゃ!?」

 

無数の流れ星の中に1つ、かなり大きな流れ星が飛んでいた。望遠鏡を使わなくてもかなりはっきりと見える。

 

「あれは…彗星だって!かっこいい名前だな〜。あ、もうひとつ名前があるんだって、箒星」

 

「箒星?」

 

「見た目がそう見えるからだって」

 

確かにそう見えないこともないな。先端から尾にかけて薄く広くなってるところから名前を考えたんだろう。

 

「ねぇねぇ、お姉ちゃん!」

 

「どうした?」

 

「なんでも彗星は何十年に一度しか見られないんだって!そして彗星に願い事をしてもう一度見られた時、その願い事が叶うんだって!」

 

そんなもの、願わないはずもない。私の願いは、ただひとつだ。

 

   ーまぁぼぉと結婚できますようにー

 

 

 

「消えちゃったね」

 

「だな」

 

あれだけ無数にあった流れ星と巨大な彗星は姿を消していた。東の空は薄らと明るい。

 

「ねぇ、お姉ちゃん」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「いつかまた、一緒にあの彗星を見ようね」

 

「ああ、約束だ」

 

そうして私はまぁぼぉと小指を結ぶ。

 

「そういえばお姉ちゃんは、なんでお願いしたの?」

 

まぁぼぉと結婚すること、なんて言えるはずもない。

 

「えーっとあれだ、魔法使いになれますようにってな。まぁぼぉはなんてお願いしたんだ?」

 

「僕?僕はね…」

 

少し照れながらまぁぼぉは言う

 

 

 

 ーお姉ちゃんの願いが叶いますように、だよー

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…んっ、いけね〜寝ちまってたか」

 

星を見て幼き日の頃を思い出していたら、そのままその夢を見るなんてな。

 

あの日から、いやあの日よりずっと前から私はまぁぼぉを弟じゃなく、1人の男として見てたんだなぁ…

 

感慨に浸りながらも、異変に気づく。

 

「なんか薄暗いな…なんだこりゃ!?」

 

そこには見慣れた景色の上を塗り潰すかのように紅い霧が立ち込めていた。

 

「こうしちゃいられねぇ!」

 

私は直ぐに箒に飛び乗った。あの彗星を見つけるための研究は途中だが仕方ない。

 

あの日のことをまぁぼぉは憶えていないかも知れない。それでも私は箒星を今も1人追いかけている。

 




魔理沙と雅貴の絡みがないことに気付き、前回より二話構成で魔理沙と雅貴の過去を描いてみました。
BUMP OF CHICKENの天体観測をモチーフにして見ましたが如何だったでしょうか?

次回からは本編に戻ります。戻りたいな…


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第16話

2ヶ月ぶりの更新となってしまいました…
言い訳をすると間違えて書きかけてたメモを削除しちゃったんですよね…
あとどうやってこの異変を解決するかの構想がなかなかできません。次書くときは異変は抜きで書こうかなぁ



妖精メイドは悪戯好きだ。それは周知の事実である。その悪戯によって自滅したとしてもお構いなしだ。

 

今日も3人の妖精メイドが悪戯を考える。それはさも恐ろしい悪戯を。

 

「ねぇねぇなんかいい案ないのー?」

 

「それなら自分もなんかかんがえなよ」

 

「…同意」

 

「みんな何してるの?」

 

そんなところに雅貴が通りかかった。

 

「あ、まーくん」

 

雅貴は妖精メイド達の中では知らない者はいないアイドルのような存在である。彼の純粋さに心を射止められたものも多いが、容姿に射止められたものも少なくない。

 

仕草なんかもそこら辺の女の子よりも女の子らしい。それ故に今回の獲物にされてしまった。

 

「「「………」」」

 

舐めるように視線を頭から足先まで巡らせる3人。そしてお互いの顔を見て、同時に頷いた。不敵な笑みを浮かべて。

 

「まーくん、ちょっとこっちにいらっしゃい」

 

黒い思考に染まった手が雅貴に迫る。本人はまったく気づいていない。

 

「もっと可愛くしてあげるからね…」

 

「…フヒッ」 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それではお披露目です!じゃーん!」

 

黒を基調としたワンピースにフリルのついた純白のエプロン。そして頭には白いカチューシャ。

 

そこには妖精メイドと同じ格好をした雅貴の姿があった。

 

「ええへ、どうかな?似合ってる?」

 

その場でクルリと一回転しポーズを取る。

 

「可愛いよまーくん!」

 

「やはり私たちの目に狂いはなかった」

 

「…結婚したい」

 

今回の悪戯は雅貴をメイド服に着せ替えることのようだ。

 

「でもこれ足がスースーするの」

 

そう言ってスカートたくし上げる雅貴。その時3人の妖精メイドは見てしまったのだ。スカートの下にあるドロワーズとロングソックスの隙間から覗く白い肌を。

 

「「「ぐはっ!?」」」

 

絶対領域と言われる禁断の花園。それを目にした3人は鼻を押さえつつ倒れ込んだ。

 

「み、みんなどうしたの!?大丈夫?」

 

「だ、大丈夫だよまーくん…」

 

「私たち…見てはならないものを見てしまったようね…」

 

「…尊い」

 

「貴女たち何してるの!」

 

そこへ咲夜が通りかかる。いつものようにサボっている妖精メイドを見回っている途中のようだ。

 

「あ、咲夜さーん」

 

トコトコと咲夜方へ寄っていく雅貴、彼女の前までいくと先ほどと同じようにポーズをして見せた。

 

「どう?似合ってる?」

 

「………」

 

「咲夜…さん?」

 

「…………………」 つー

 

「わあ!?咲夜さん大丈夫!?」

 

そこには無言のまま忠誠心を垂れ流すクールなメイド長がいた。

 

「メイド長がやられた!」

 

「おのれまーくんめ!」

 

「…こうかはばつぐんだ」

 

咲夜がエプロンに赤い染みを作る中、3人の妖精メイドは逃げるようにその場から離れていったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

今日も妖精メイド達がサボっていないか見回りをする。目を光らせていれば普通に働いてくれるのに、見てなかったらすぐサボるんだから。

 

え?そりゃ見られてたら誰でもやるですって?

…それもそうね。

 

っと、いたわね。いつのも悪戯3人組と金髪の……あんな子いたかしら?

 

「貴女たち、何してるの!」

 

「あ、咲夜さーん」

 

1人の妖精メイドが近づいてって…あら?「咲夜さん」?私のことを名前で呼ぶ子なんていない…

まさか……雅貴くん!?

 

「どう?似合ってる?」

 

クルリと一回転してポーズをとってみせる彼。それはもはやメイドなどではなく、何処かの御伽噺の令嬢のようだった。

 

メイド服とは普通仕える者のための礼装だ。しかし雅貴が着れば、そんな概念は吹き飛ばしてしまう。

 

「わー!咲夜大丈夫!?」

 

何故か雅貴くんが慌ててるけど気にすることもないわね。むしろメイド服でいろんな表情を見せてくれる方が嬉しいわ。

 

私が忠誠心を垂れ流していることに気づくのは、暫く経ってからのことだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お嬢様、紅茶をお持ちしました」

 

「ありがとう咲夜」

 

バルコニーで紅茶を嗜む。いつものルーティンだ。だが…

 

「こちらスコーンになります!」

 

見知らぬメイドが、お菓子の用意をしてくれた。いつもは咲夜1人でやっているはずなのだが、今日は金髪のメイドがそばに使えていた。

 

妖精メイド…ではない。人間?いつの間に雇っていたの?それになんだかこの子、どこかで見たことがあるような…

 

「ぼく…こほん、私の顔に何かついていますか?」

 

ジロジロ見ているとなんとも可愛らしい仕草で反応を示してきた。

 

「いえ、なんでもないわ」

 

まぁいいわ、メイド達の管理に関しては咲夜に一任しているし、真面目に働くなら構わないわ。

 

「お姉様、何してるの?」

 

そんなところへフランがやってきた。地下室から出てきて館内を探検中らしい。そんな妹にもお茶を嗜み方と言うものを伝授しなければならないわ、姉として。

 

「ちょうどよかったわ、フラン。貴女も掛けなさい。一緒にお茶しましょう」

 

「うん!」

 

「こちらはどうぞ、フラン様」

 

「ありがと!…ん?んんー?」

 

椅子へ案内する金髪のメイドをじーっと見つめて、なにかを考えているフラン。フランもあのメイドの顔を見たことがあるのかしら?

 

「…雅貴…だよね?なにしてるの?あ、もしかしてメイドさんごっこ?すごい似合ってるね!」

 

なん…だと…?この金髪のメイドが雅貴!?嘘でしょ!?

 

「すごーい、フランちゃんなんでわかったの?」

 

「ふふーん、秘密だよ!」

 

「レミリアちゃんは気づかなかったのにすごいね!」

 

「え?お姉様わからなかったの?」

 

嘲笑するかのようにこちらを、いえ、訂正するわ。嘲笑している顔で…その顔やめろや!

 

「き、気づかないフリをしていただけよ。分かっていても指摘しないのが淑女ってものなのよ」

 

「絶対嘘だよね」

 

「絶対嘘でございますわ」

 

妹にも従者にも馬鹿にされる始末…私ここの主人よね?

 

「そうだ、わたしの専属メイドになってよ!お姉様には咲夜がいて、わたしにはいないのは不公平だもん」

 

そう言って雅貴の腕に絡みつくフラン。しかしそれはダメだ。認められない。

 

「ダメよフラン、雅貴にはわたしの専属メイドになってもらうんだから」

 

「ずるいわお姉様!咲夜だっているじゃん」

 

「…咲夜は貴女にあげるわよ」

 

「いらない!雅貴がいい!」

 

「お嬢様…妹様…」

 

視界の外れで、よよよと嘘泣きに興じる咲夜、しかしそんなのはどうでもいい、今は雅貴をフランの専属にさせるわけにはいかない。私のものになってもらうわ!

 

「雅貴だって私の方がいいよね?お姉様、わがままだし、好き嫌い多いし、苦労するよ?」

 

「フランだってわがままだし、すぐ物を壊すじゃない!雅貴があぶないわ」

 

「お姉様だって!」

 

「フランだって!」

 

一歩も引かないフランとレミリア。そんな中、密かに復讐の炎を燃やしている者がいることを誰も気付いていなかった。



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第17話

「なあ、霊夢。本当に動かないのか?」

 

博麗神社の縁側で、霧雨魔理沙は親友に尋ねていた。訪ねる理由は他でもない。数日前からこの幻想郷に漂っている赤い霧のことだ。

 

「まだ何も被害が出てないから大丈夫よ」

 

「大丈夫って…これはどう見たって異変だろ!?異変解決が博麗の巫女の勤めじゃないのか?」

 

「だからまだ異変って決まったわけじゃないでしょ?まだ動くときじゃないわ」

 

そう言って煎餅をかじりながらお茶を啜る霊夢。

 

「それよりまー君が来ないことが異変よ」

 

「…そりゃこんな赤い霧が立ち込めてたら外に出してもらえるはずもないだろ」

 

「「はぁ…まー君(まぁぼぉ)に会いたい」ぜ」

 

2人してため息を吐く。その時、目の前に銀髪の女性が現れた。なんの前触れもなく。

 

「だっ、誰だお前!?どうやって来た!?」

 

突然現れた女性に声をかける魔理沙。霊夢も驚いたように目を丸くしていた。

 

「お初にお目にかかります。私、紅魔館でメイド長を務めさせて頂いている十六夜咲夜と申しますわ。博麗霊夢様と霧雨魔理沙様ですね?」

 

「あ、ああ、そうだぜ」

 

恭しく一礼し、咲夜は話を続ける。

 

「今日ここへ来たのは他でもありません。我が主人、レミリアスカーレットを退治して欲しいのです」

 

「嫌よ、めんどくさいし」

 

バッサリと断る。

 

「…この赤い霧を出している張本人なのですが」

 

「そう、なら貴女が説得してよ。そっちの方が楽でいいわ」

 

異変の元凶がわかったというのに全く動こうとしない霊夢。しかし、咲夜は不敵に笑うと一言。

 

「雅貴という男の子が囚われている。と言っても動いてくれない「案内しなさい今すぐに!」…」

 

すごい食い付きだった。さっきまでお茶を飲み、だらけていたというのにこの変わりようである。

 

「ど、どうしてまぁぼぉがそこにいるんだ?」

 

「実は…

 

咲夜は雅貴が紅魔館にいる理由を事細かに説明した。所々嘘も交えて。やれ主人が雅貴を玩んでいるやら、酷いことしているやら、途中から嘘の方が多かったかもしれない。

 

ーということでございます」

 

「話は分かったわ、今すぐ出発するわよ!」

 

「おう!絶対助けてやるからなまぁぼぉ!」

 

「では、私についてきてください」

 

(ふふっすべて計画通り…あとはこの2人がお嬢様を倒すのみ)

 

黒い笑みを浮かべつつ、咲夜は2人を紅魔館へと誘うのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一方紅魔館では…

 

「雅貴そのポーズ!それで『うー★』っていうんだよ!」

 

「う、うー?」

 

「きゃー可愛い!これぞカリスマですよね!」

 

「ええ、最高に可愛いわ…私より可愛いのがなっとくいかないけど」

 

レミリアの格好した雅貴がカリスマブレイクしていた。

 

 

 

 

 

 

「それにしても、よく似合ってるわよね」

 

フランと紅茶を嗜みながら、私はメイド服を着た雅貴を見つめていた。メイド服が黒いせいなのか白い肌がより際立って見える。

 

「えへへ、よくお姉ちゃんとお揃いの服を着てたせいかな?」

 

ふむ、どうやら雅貴の姉は弟に女装をさせる変態ということか。もしくは男の子として扱っていなかったのか。

 

どちらにせよ、雅貴の姉には感謝しなければならない。こうしてなんの抵抗もなくメイド服を着ている雅貴を見ることができるのだから。

 

「そうだ!雅貴ちょっと来て!」

 

突然席を立ち、雅貴を連れて行くフラン。

 

「ちょっと、どこ行くのよ?」

 

「すぐ戻るから!行こ雅貴!」

 

「うん」

 

そう言って1人取り残されてしまった…まあ、1人でゆっくりしていようかしら。

 

「咲夜、お茶」

 

空のティーカップをソーサーに置く。しかしいつまで経っても新しいお茶入れられない。

 

「…?咲夜?」

 

さっきまでいたはずだったのだが、そこに従者の姿はない。それどころか名前を呼んでも出てきもしない。

 

「お姉様!」

 

咲夜の不在を不審に思ったがフランたちが戻ってきたようだ。

 

「どうしたのフラ…」

 

そこにはフラン?がいた。しかし違う。何かがおかしい…確かに見た目はフランだ。金髪のサイドテールにおなじみの服装。でも、それ以外がおかしい。翼がない。目の色も違う…

 

「あなた…雅貴なの?」

 

「あはは、すぐ分かっちゃうよね」

 

そう言って微笑を浮かべる雅貴。しかし目の色と翼を除けば瓜二つなのではないだろうか。

 

「どう?お姉様、ビックリした?」

 

そう言って本物のフランが顔を出す。

 

「ええ、ビックリしたわ。妹が2人できたみたいね」

 

「じゃあ私が次女で雅貴が三女ね」

 

「そうなの?じゃあ、えっと…フランお姉様?」

 

「ぐはっ!?」

 

瞬間的にフランが撃沈した。

 

「だっ大丈夫!?フランお姉様!?」

 

「お姉様…私が…雅貴のお姉様…えへへ」

 

フランは妹だから「お姉様」と呼ばれるのに慣れていない。だが私には通用しないわ。

 

「ふん、お姉様と呼ばれたぐらいで悶絶とは、まだまだねフラン、さぁ雅貴、次は私よ」

 

「うん、えっと…レミリアお姉様?」

 

「………」(ガバッ)

 

少し照れ臭そうに私をお姉様呼びする雅貴。そんな彼女(彼)を無意識に抱きしめていた。あっ、すごくいい匂い。

 

「……ナニシテルノカナ、オネエサマ?」

 

「…っ!?なんでもないわよ、ええ」

 

背中から刺されるような視線を感じたためすぐさま雅貴から離れる。くっ、あの視線さえなければもう少し堪能できたのに…

 

「あらあら随分お楽しみのようね?レミィ」

 

いつもは図書館に引きこもってるはずのパチェが珍しくバルコニーまで顔を出しに来た。

 

「珍しいわね、パチェがここまでやってくるなんて」

 

「図書館に来ていた妖精メイドから聞いたのよ、雅貴が面白い格好をしているって」

 

そのためにわざわざ図書館から出てきたことに驚いた。いつもならどんな面白い話をしても「ふーんそうなの」とかつれない反応ばかりなのに。

 

「…もっと面白いものを見たくないかしら?」

 

「見てみたい見てみたい!」

 

間髪を入れずにフランが反応する。もっと面白いもの…私も気になる。

 

「じゃあ場所を図書館へ変えましょうか、もちろん雅貴も来てくれるわよね?」

 

「うん、いいよ」

 

屈託のない笑顔でそう返す雅貴を見ているととても心が穏やかになる。だが、それと同時に黒い感情も芽生えてしまうのはなぜだろう。その笑顔を自分だけに見せてほしいと思ってしまう。

 

「…レミリアちゃん、行かないの?」

 

「え?ええ、行くわ」

 

雅貴に呼ばれて気がつくとみんな図書館へ移動を始めていた。私はさっき芽生えかけた感情を仕舞い込み、雅貴と図書館に向かうのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そうして図書館まできたのだが、今私は雅貴と同じポーズをとっている。私と同じ服を着た雅貴と。

 

「ほらほら、お姉様も全力で『うー』してよ」

 

「なんで私がしなくちゃいけないのよ!?」

 

「いいじゃないのレミィ、別に減るもんでもないでしょ?」

 

「私の威厳が減るわ!」

 

ここにはフランとパチェの他にも小悪魔や美鈴だっている。仕事をするフリをしながらチラチラこちらを見てくる妖精メイドだっているのだ。そんななか全力でこんなポーズを取るなんて恥ずかしすぎる。

 

ふと手に暖かい感触がした。手を見ると雅貴が手を握っていた。

 

「レミリア…お姉様は僕と一緒なのは、いや?」

 

「そう言うわけじゃないのよ…えっと、だからね?これは…うー…」

 

上目遣いでそう聞いてくる雅貴に、私は耐えきれずとうとうカリスマブレイクしてしまった。

 

「あらあら可愛らしいことよ、レミィ?」

 

ニヤニヤと陰湿な魔法使いがこちらを見てくる。いつもは気怠げにしてる癖に、こんな時だけは元気なんだから。

 

そんな時、図書館の扉が物凄い勢いで開かれた。そこには、鬼の形相をした紅白の巫女と白黒の魔女。そして、私の従者である者がニヒルな笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 




お待たせしました。
次回で異変解決したい(願望)


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第18話

「あ、お姉ちゃん!」

 

そう言って金髪の白黒の方へと駆け寄っていく雅貴。それを私は手で遮った。

 

「レミリア…ちゃん?」

 

不安げに私を見つめる雅貴に微笑みながら頭を撫でてやる。

 

「おい!そこの妖怪!まぁぼぉを放せ!そしてそこを替われ!まぁぼぉの頭を撫でるのはは姉である私の特権なんだぞ!」

 

…なんか最後の方がおかしかった気もするがそこはスルーしよう。

 

「嫌に決まっているでしょ?貴女たちだって土足で人の家に上がり込んで、ただで済むとは思っていないわよね?」

 

ここにはパチェにフラン、そしてなぜあの2人の後ろにいるのかは知らないが咲夜がいる。負けることなど、あるはずがない。

 

すると、咲夜が私を指差し言う。

 

「あれこそが今回の異変の首謀者にして雅貴くんを拐い、好き放題弄んでいるレミリア・スカーレットその人です!」

 

「「へぇ…あんた(お前)が」

 

その瞬間、空気が変わった。まわり温度が下がり、紅白と白黒の霊力と魔力がどんどん高まって行くのを感じる。

 

いつのまにか体が震えていることに気がついた。私が怯えている?ただの人間に?

 

いや、これは武者震いだ!人間風情なんかに、怯えるわけがない!

 

「レミリアちゃん…」

 

そっと手を握ってくれる雅貴。素直に嬉しいんだが、あの2人からの威圧感が増した気がする。ちょっとチビりそうかも…

 

「ふん、人間2人で何ができるかしら?こっちは4人もいるのよ!」

 

そう、いくら威圧されようとここには親友と妹と従者がいるじゃない!

 

「あ、私は無関係だから。そこの吸血鬼が全ての元凶よ」

 

「パチェ!?」

 

「私…お姉様に脅されて…それで…」

 

「フラン!?」

 

ここにきていきなりの裏切り、なすり付けである。で、でも私にはまだ咲夜が、完全で瀟洒な自慢のメイドがいるわ!

 

「お嬢様…悔い改めて、どうぞ」

 

「咲夜!?おまえもかぁ!?」

 

とびっきりの笑顔でそう言われた私は、ただただ叫ぶしかなかった。

 

どうする?どうすれば最悪なBADエンドルートを回避できる?落ち着きなさい、私は気高き吸血鬼。夜の帝王レミリア・スカーレット!そして運命を操る程度の能力!この力で絶対に回避してやるんだから!

 

「もういいわよね?」

 

「へっ?」

 

そんなことを考えていた私の目の前にいたのは、大量のお札を構えた巫女と、何やら道具を構える魔女の姿だった。

 

「無双封印!」「マスタースパーク!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

そのあとの事は、よく覚えていない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

まー君を拐った妖怪を退治した私たちはそのまままー君に駆け寄っていた。

 

「無事かまぁぼぉ!?痛いところはないか?何もされてないよな?」

 

「大丈夫だってば。お姉ちゃん心配しすぎだよ」

 

「だってあのメイドが酷いことされてるって!その格好だって、嫌々させられてるんだろ?いや可愛いからいいんだけどよ」

 

あのメイドから聞いてた話と状況が違う。ほんと、なんで女装…しかもさっきの奴と同じ格好をしてるし。

 

「おい、メイド!これは一体どういう…ありゃ?あいつどこ行った?」

 

「さっきの奴を連れて何処かへ行っちゃったわよ」

 

自分の主人って言ってたから、介抱でもするのだろう。あのメイドの鼻息がかなり荒かったような気もしたけど、どうでもいいわ。

 

「それより、あんたたちは?あいつの味方なの?」

 

私はずっと椅子に座ったままの本を読み続けている少女と不思議な翼を持った少女に問いかけた。

 

「親友とその妹よ。私はパチェリー。魔女よ」

 

「私はフランドール。吸血鬼だよ」

 

「要するにさっきの奴の味方なんでしょ?退治するわ」

 

私は と札を構えて臨戦態勢を取る。

 

「降参よ。目の前でレミィが倒されるのを見て戦いを挑むほど馬鹿じゃないわ。それに赤い霧の供給魔力源であるレミィが倒れたことで明日には霧は霧散しているわ。」

 

「なら今回の異変は解決ね。帰りましょうか」

 

「いや、まだだぜ」

 

何を言っているのだろうか魔理沙は。明日には赤い霧は晴れる。なのにまだこの異変は解決していないという。

 

「まぁぼぉ、この館で何をしてたか、お姉ちゃんに教えてくれ」

 

「うん!えーとね、咲夜さんとお風呂に入った!」

 

…今なんて?お風呂?あのメイドとお風呂?

 

「レミリアちゃんとフランちゃんと一緒に寝た!」

 

…あいつもう一回ボコろう。あとフランドールも

 

「美鈴さんにお花のタネをもらった!」

 

…美鈴って誰?

 

「パチェリーさんに絵本を読んでもらった!」

 

…うーん、和むわね

 

「あとあと、メイドさんごっこした!」

 

…あのメイドの仕業ね、今度やってもらおう

 

「そうかそうか…美鈴とパチェリーは白だな」

 

白?いったいどういう意味なのだろう。

 

「レミリア、フラン、咲夜…黒だな」

 

黒?魔理沙が呟いている意味がよくわからない

 

「人の弟を食べちまうような悪い奴はオシオキシナイトナァ?」

 

そう言うと魔理沙はフランドールの元へ駆け出していた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ふふっ、今日もお美しいですわ、お嬢様」

 

ここには私とお嬢様の2人だけ。メイドとして主人の介抱をするのは当然のことだ。

 

あの2人にお嬢様をボコってもらい、気を失ったお嬢様を介抱する。全て計画通り…

 

「今夜はたっぷりと、ご奉仕させていただきますね」

 

気を失っているお嬢様に手を伸ばしたその時だった。

 

「お楽しみのところ、失礼するぜ」

 

振り向くとそこには霧雨魔理沙がいた。

 

「…道に迷ってしまいましたか?よろしければご案内させていただきますが」

 

お楽しみを邪魔されたが問題ない。すぐに門まで送ればいいだけのことだ。

 

「いや、ちょっと野暮用でな。うちの弟に手を出したショタコン吸血鬼と変態メイドを懲らしめるって言うな」

 

彼女が懐から何かを取り出したその瞬間、私は時を止めた。

 

「残念ね、時間さえ止めてしまえばこっちのものなの」

 

折角お嬢様を好きにできると思ったが致し方ない。ここは逃げるとしよう。

 

そうして時を止めた世界の中で、私は彼女の側を通り過ぎようとしたその時、腕に何かが当たる感覚がした。

 

当たったものはどういうわけか私の腕を締め付けてくる。

 

「どこに行くつもりだ?」

 

「なっ!?どうして!?」

 

ありえない…ありえないありえないありえない!!この世界で動けるのは私だけ!私だけの世界なのに!何故彼女は動けるの!?

 

「残念だったな、トリックだよ」

 

彼女の手には魔道具が握られていた。

 

「こいつは優れものでな、どんな能力でも無効化してしまうのさ」

 

「い、いや!離して!」

 

私は恐怖のあまり叫んだ。彼女の顔が、あまりにも恐ろしかったから。

 

「おいおい、人の弟に手を出したんだ。それ相応の報いは受けてもらえぜ」

 

彼女はさっきお嬢様を吹き飛ばした魔道具を懐から取り出して私の顔面に押し当てる。

 

「加減には自信がなくてな。生きててくれよ?」

 

 

 

その数秒後、時の止まった空間にメイド長の叫び声が響き渡った。

 

 



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第19話

今日は異変解決を祝う宴会がここ、博麗神社で執り行われる。対峙する側とされる側が何隔たりなく酒を飲み交わす場である。

 

「あはは!まてまてー!」

 

準備も滞りなく完了し、早く到着したまー君と妖精や妖怪たちとの追いかけっこを魔理沙と縁側に腰掛けながら眺めていた。

 

「和むなぁ」

 

「和むわねぇ」

 

妖怪と子供を遊ばせていいのかと突っ込まれそうだがここは博麗神社。そして博麗の巫女である私の目の前でトラブルをおこすような低俗ではないはず。

 

まぁ、今遊んでいる妖精や妖怪たちはみんなまー君を好いているようだし、その心配もないだろう。ほんと、不思議な子ね。、

 

「おっ、ようやくきたみたいだな」

 

鳥居の方に目をやるとそこには吸血鬼姉妹とその従者達がいた。

 

「レミリアちゃーん!」

 

レミリア達がきたことを知ったまー君がそのままレミリアに近づいていきそのまま抱きつく。

 

「久しぶりね雅貴。元気だったかしら?」

 

「うん!」

 

なんとも羨ましいことだ。異変の首謀者でまー君の誘拐犯なのにあれだけ懐かれている。

 

私とレミリアの目が合う…ッ!こっちを見てまるで勝ち誇ったかのような顔を…あら?急に顔を青くしてる?…それもそうか、私の隣には魔理沙がいる。私に勝ち誇ったかのような顔をすれば当然、魔理沙にも勝ち誇ったかのように見える。

 

私も魔理沙がどんな顔をしているのか気になって見てみると、そこには笑顔の魔理沙がいた。笑顔なのに全く笑顔に見えない。右手には八卦路が握られ、ギシギシと音を立てている。

 

レミリアは急いでまー君から離れるがもう遅いだろう。

 

「久しぶりだね雅貴」

 

「フランちゃん、久しぶり!」

 

フラン…あの子もなかなか油断できない。何やら訳ありのようだが、かなりまー君のことを好いているようだ。

 

レミリアと同じようにまー君とハグして…!?あいつまー君のほっぺにキスしやがった!しかもこっちを見ながら!

 

この間こっぴどく魔理沙にボコられたと言うのに凄い行動力ね。姉とは大違い。

 

これには魔理沙も怖い笑顔に青筋ができていた。

折角の宴会なのに、空気が重いと言うかなんというか…

 

「雅貴くん、久しぶりね」

 

ここで変態メイドの登場か、やばい予感しかしないわね。

 

咲夜はまー君に身長を合わせるようにしゃがみ、レミリア達と同じようにハグをした。そして流れるようにまー君の唇にキスを!!??

 

「マスタースパークッ!!!」

 

とはならなかった。流石魔理沙。針の糸を通すようなコントロールで変態だけを見事に撃ち抜くなんて。さすまり。

 

「さてと、宴会始めようぜ」

 

そして、何もなかったかのように宴会は始まった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

宴会が始まってから随分時間が経った。酔いが回りやすいのか、遊び疲れていたのか、まー君と遊んでいた妖精や妖怪は、既に酔い潰れていた。

 

「ねぇねぇ、霊夢お姉ちゃん達は何を飲んでるの?」

 

「お酒よ。まー君にはまだ早いから飲んではダメ」

 

「あら、いいじゃない。別に飲ましてもバチは当たらないでしょ?」

 

レミリアがそう言って持参してきた…ワイン?だったかしら。それをまー君に飲ませようとする。

 

「いいの?いただきまー「だ、ダメだ!」…お姉ちゃん?」

 

魔理沙が慌てて止めに入る。何をそんなに焦っているのだろう。

 

「なによ、いいじゃない少しぐらい」

 

「だ、だめったらだめだ!まぁぼぉはまだ子供なんだよ」

 

「そんなこと言ったら貴女も似たようなものでしょ」

 

「ぐっ…そ、それはお前ら妖怪目線での話だろ」

 

なんだろう。いつになく魔理沙が必死だ。こんな姿を見るのは初めてかもしれない。

 

「とにかく、飲ませるんじゃないぞ!いいな!絶対だぞ!」

 

そう言うと魔理沙は立ち上がって母屋の方へ行ってしまった。

 

「…さ、雅貴、飲みなさい」

 

いなくなった途端にワインを勧めるレミリア。本当に大丈夫なのかしら?

 

「お姉様いいの?あんなに魔理沙が念を押したのに」

 

「いいのよ。あれは振りと言って『どうぞやってください』って意味なんだから。そうでしょパチェ?」

 

「…確か前に見た本にそう書いてたはずよ」

 

一体どんな本なのか非常に気になるがあれは飲ませろと言う意味だったらしい。それにしては随分慌てていたように見えたけど。

 

「いただきまーす。……酸っぱい!美味しくない!」

 

「あらあら、口に合わなかったかしら」

 

「うー…口の中がやな感じ…」

 

「調理場で咲夜が片付けをしているだろうから、何か飲みものをもらってきなさい」

 

「はーい」

 

まー君は小走りで母屋の方へ駆け出していった。

 

「…おかしいわね。あれだけ盛大に振りをしていたのに何も起きなかったわ」

 

「まぁ、いいじゃない。それよりさっきの話の続きを聞かせなさいよ」

 

魔理沙がなんであんなにも焦っていたのかを、私たちは身をもって知ることになるのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

博麗神社の調理場で、私は1人宴会の片付けに追われていた。ちょっと雅貴くんにスキンシップしようとしただけなのに、魔理沙からマスパを撃たれ、変態メイドとか言う不名誉な2つ名をつけられ、罰として宴会の片付けをしている。

 

「咲夜さーん」

 

そんな時、私の前に天使が、もとい、雅貴くん歩いてきた。頬が少し赤いみたいだけど大丈夫かしら?

 

それに…なんか色っぽいというか、凄く魅力的に見える。いや、普段から魅力的なんだけどね。

 

私のすぐ目の前までやってきて、しゃがむように手を子招いてきたので、しゃがんで雅貴と目線を合わせる。

 

「咲夜さんは偉いよねぇ。偉い偉い」

 

そう言われながら、私は何故が頭を撫でられている…ちょっと待って。ちょっと状況が飲み込めない。

 

「ま、雅貴くん?」

 

「みんなワイワイ騒いでるのに、咲夜だけお片づけしてるんだもん。凄いすご〜い」

 

こんな小さな子に頭を撫でられるなんて考えたこともなかったけど、何故だろう。凄く気持ちがいい。気恥ずかしさもあるが、それを遥かに超える言葉になし得ない幸福感が、私を包み込んでいた。

 

「だから、咲夜さんにはご褒美がないとね」

 

そう言うと、彼は私の頭から手を離す。

 

「あっ…」

 

名残惜しく、思わず感嘆の息が漏れてしまった。もっと撫でて欲しいのに。

 

「目を閉じて?」

 

言われるがまま、目を閉じる。そして数秒の沈黙の後、唇を柔らかい感触が襲った。

 

直ぐに目を開けて、彼の方を見る。彼はイタズラが成功したような顔をしていた。

 

「…みんなにはナイショだよ?」

 

そう言い残して、彼は去っていき、ただただ状況が飲み込めない私だけが、母屋に取り残されてしまった。

 

だって、キス…されてしまったのだ。彼の方から。やばい。やばすぎてやばい。これは既成事実なのでは?(いいえ違います)

 

混乱した私はただただ呆然としゃがみ込むしかなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おーい咲夜、追加の酒を…何やってんだお前」

 

便所からの帰りに酒を持って行ってやろうと調理場に寄ったんだが、そこにはボーっと突っ立っているレミリアご自慢の変態メイドがいた。

 

「魔理沙…いえ、お義姉さん」

 

「あ?お前に義お姉さんと呼ばれる筋合いはねぇぞ」

 

またこいつは訳のわからないことを…もう一回マスパぶちかましてやろうか。

 

「だって雅貴くんの方からキスしてきたんですもの。これは既成事実と言っても過言ではないでしょ?」

 

…こいつ今なんていった?まぁぼぉとキス?

 

「お祈りは済んだか?奥歯をガタガタ振るわせてぶっ飛ばされる準備はOK?」

 

懐から八卦路を取り出して変態の顔面に突きつける。

 

「ちょちょちょ、待ちなさい!」

 

「うるせぇ!私の弟に手を出してタダで済むと思ってんのか?」

 

「だから雅貴くんの方からキスしてきたの!私だって状況が飲み込めてないのよ!」

 

「なんだと…」

 

まぁぼぉが自分からそんなことをするとは思えない。だが…ひとつだけ可能性がある。

 

「なぁ、まぁぼぉの様子はおかしくなかったか?」

 

「え?うーん…ちょっと顔が赤かったかしら。あと凄い甘やかされた?」

 

それを聞いた私はすぐに調理場を飛び出した。

 

「アイツら…あれだけ念を押したのにまじでやりやがったのか!?」

 

まぁぼぉにお酒を飲ませてはいけないのだ。それは幼いとか、そんな理由ではない。

 

「霊夢!無事…か…」

 

宴会場に戻るとそこには、弟にと濃厚なキスをする親友の姿があった。すぐそばにはレミリアやフラン達も転がっていた。みんな、幸せそうな顔を浮かべている。

 

「遅かったか…」

 

まぁぼぉにお酒を飲ませてはいけない理由。それがこれだ。人をひたすらに口説き倒し、キス魔と化す。

 

これは私しか知らなかったことだ。小さい時に興味本位でまぁぼぉとお酒を飲んだ。そして、これでもかと言うぐらいに口説かれ、『恥ずかしがってるお姉ちゃんも可愛い』とかなんとか言われ…これ以上は、思い出したくない。

 

「あっ、お姉ちゃん〜」

 

私に気付いたまぁぼぉガタガタこちらへ寄ってくる。甘ったるい声だ。その声を聞くだけでゾクゾクしてしまう。

 

「ど、どうしたんだまぁぼぉ」

 

「えっとね、その…ね?」

 

上目遣いで赤くなった頬を隠す仕草をしながらそんなことを言われると、こっちの理性が耐えられなくなる。いちいち行動が可愛すぎる。

 

「お姉ちゃん、大好きだよ」

 

不意にそう言われて、唇に柔らかい感触。簡単に崩れゆく理性の中で、私はこの上ないほどの快楽に身を任せるしかなかった。




これにて一旦完結です。かなり不定期な投稿となりましたが、ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

次回からは異変関係なく東方キャラと雅貴の絡みを書いていこうと思います。


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