第4十刃が異世界に来るそうですよ? (安全第一)
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原作一巻
1.虚無、異世界にて蘇る


やってしまったorz
仕方無かったんや……

注意
この話のウルキオラは心を悟っているので少々性格が変わっていると思います。
「こんなのウルキオラじゃない!」と思われた読者様はどうかお許し下さい。
その時な作者の限界という事で諦めて下さい……(泣)


  ーーー(ようや)く、お前達人間に少し興味が出て来た所だったんだがな。

 

  後悔する様に心中を吐露した彼、ウルキオラの命は風前の灯であった。

  完全虚化を遂げた黒崎一護との激戦の末、敗れた彼に残っている力は微塵も残されていなかった。

  霊力を使い果たした今、その力の最たるものである再生も不可能である為、 超速再生など最早意味を成さない。

  そう、消滅を食い止める手段が無い以上彼はこのまま死を待つだけとなってしまったのだ。残された時間は極めて短い。

 

  だからこそ問う、井上織姫に。

 

  あの時、虚夜宮(ラス・ノーチェス)にて彼女に問い(ただ)した様に。

  ウルキオラの黒く細い腕が彼女に差し出される。それは何処か、答えを求め彷徨っている様にも見えた。

 

 

  ーーー俺が、恐いか? 女。

 

  ーーーこわくないよ。

 

 

  彼女の答え。それはあの時と同じく変わる事は無かった。それは言葉だけでは無い。表情も感情もーーー

 

  いや、()だけは違った。

  その瞳には彼女特有の優しさが溢れている。だが、今の彼女の瞳は優しさの中に悲しみが込められていた。

  それは彼女が彼、ウルキオラという『虚無』の中に存在する彼にすら気付く事の無い『苦しみ』を理解したからかもしれない。

  だからだろう。彼の中には『何か』が生まれていた。

 

 

  ーーー……そうか。

 

 

  差し出された彼の掌に井上が触れる寸前、それは霧散して行く。その行為が否定されるかの様に。

  しかし、彼は掌の中に確かなものを感じていた。

 

  暖かい、『何か』

 

  正体が解る事の無いもの。

  だからと言って感情という単語だけで収まる様なものでも無い。

 

 

  ーーーこの掌の中に有る暖かいもの

 

 

  彼はこの時を持って理解した。虚へと堕ちた瞬間から失っていた大切なパズルのピース。

  それが今、欠けていた部分へと収まって行く感覚がした。

  人と人との触れ合いの中に有るもの。これがーーー

 

 

  ーーーこれが、『心』か。

 

 

  彼の身体が全て塵へと霧散し意識が暗闇に葬られる中、『第4十刃』ウルキオラ・シファーは何処か満足感を感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

  それは突然だった。

 

  暗闇の中に漂うウルキオラに突如として前方から光が差し込んで来たのは。

  その光は暗闇を浄化するかの如く照らして行き、その光に飲み込まれて行く。

  瞬間、浮遊感が襲い彼の目の前に空が現れたのだ。

 

 

「うおっ!」

「わっ!?」

「きゃっ」

「………!」

 

 

  その時、ウルキオラでは無い他人の声が聞こえた。少年一人に少女二人。

  そしてウルキオラは驚愕していた。決して他三人の声などでは無く、自分自身の状況に。

 

 

(……一体どうなっている?)

 

 

  確かに自分はあの時、斬魄刀での止めを刺されず、塵へと霧散し世界から去った筈だ。何故、生きているのか理解が追い付かなかった。

  だが、幾ら動揺していても埒が明かない。咄嗟に切り替え、冷静になり瞬時に自分の状態を確認する。そこには消滅した筈の身体が五体満足で健在していた。

  どうやら刀剣解放(レスレクシオン)の状態は解除されているらしく、白いコート状の破面死覇装に戻っていた。腰にはしっかりと彼の力を封じてある斬魄刀が挿さっている。

  黒崎一護との戦闘で使い果たした霊力も全快まで戻っている様だ。

  ここまでの確認をほんの僅か数秒で行い、次は周りを確認する。そこで彼は、景色の中に妙なものを発見する。

 

 

(……光の柱、か? どうやらあの柱を中心にしてこの世界は出来ている様だが)

 

 

  彼の目に飛び込んで来たのは巨大な光の柱。一瞬、世界は柱を支えにして作られているという古代の説が存在する事を記憶の隅から引き出したが、今は関係無いとばかりに何処かに放り投げた。

  そして地面の有る方向へと顔を向ける。その先には小さな湖に幾つもの川や滝が存在し、周りは森林等の自然が覆っていた。

  見るからに落下している自分達が行き着くのは湖。このままでは着水し、ずぶ濡れになるのは確定だろう。しかし他の三人は兎も角、ウルキオラは濡れてやる気など毛頭無い。

  霊子を操作し足場を作り、その上に踏み止まる。そして、階段を降りる様に地上へ降りて行く。

  その間にウルキオラを除く他の三人は抵抗する暇も無く湖へと音を立てて墜落した。

 

 

「………」

 

 

  その様子を彼が見届ける事など無く顎に手を掛け、見えない階段を降りて行きながら自分の状況を整理していた。

  まず、自分は何故生きているのか。真っ先に出た疑問は此れだ。

  とはいえ、この疑問に対して解決の余地は無い。余りにも情報が少な過ぎるのだ。先程、湖に墜落した三人の仕業という可能性も考慮したが、井上織姫の様な存在は希少の中の希少とも言える。恐らく、あの三人も何かしらの能力は保有しているだろう。だが、少なくともあの三人からは井上の様な能力の類は感じられない。故に皆無と判断した。

 

  この疑問は後回しにしておこう。本当に埒が明かなくなる。

  次に上がった疑問はこの世界だ。

  この世界にはどうやら霊子が存在している。だが、霊子の他にも特殊な力の気配を感じ取れる。探査回路(ペスキス)を使わなくても解る程に。

  しかし、この世界がウルキオラの住んでいた世界であると問われた場合、それはNOだろう。この世界の中心に(そび)え立っていた巨大な光の柱が何よりの証拠だ。あの様な光の柱は現世、尸魂界(ソウル・ソサエティ)虚圏(ウェコムンド)を幾ら探し回っても存在しない。それ以前に、上記でも延べていたが斬魄刀による止めを刺されずに消滅した。これは世界から完全に消滅した事と同義であるからだ。

  となれば、この世界は完全なる異世界となる。それでもウルキオラは冷静だった。

 

 

(俺は元々あの世界から消え去った身。ならば、異世界に漂着する可能性も無くは無い。俄かに信じられんが現に俺は生きている。今はそれだけで良い)

 

 

  冷静だからこそ、ここまでの判断が下せると言えよう。この性格で無ければ多少は混乱していたというもの。この時ばかりはこの冷静沈着さに感謝するウルキオラだった。

  そして、状況を整理している間に地上へと降り立ったウルキオラは思考を止め、湖の方向へ顔を向ける。そこには不機嫌全開の三人が居た。どうやら、自分が状況を整理している間に湖から這い上がっていたらしい。今は会話をしながら服を絞ったりしている。

 

 

「し、信じられないわ! まさか問答無用で引き摺り込んだ挙句、空に放り出すなんて!」

「右に同じだクソッタレ。 場合によっちゃあゲームオーバーコースだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだマシだぞ」

「……いえ、石の中に呼び出されたら動けないでしょう?」

「俺は問題ない」

「そう。身勝手ね」

 

 

  その様な会話が聞こえて来る。特に会話に興味が無いウルキオラは再び顎に手を当て、この世界での自分の目的について思考し始めた。

 

 

(……大体の整理は終えた。状況がどう有れ、俺が生きている事は間違いない。だが、目的が無い)

 

 

  彼は特にこの世界での用は無い。寧ろ、消滅した自分が再び復活した今、自分の主である藍染の下へ馳せ参じるのが普通だろう。

  普通ならば、の話だが。

 

 

(復活した今、藍染様の下へ馳せ参じるのが妥当だと言える。だが馳せ参じた所で意味など無い。黒崎一護に敗北し、虚夜宮(ラス・ノーチェス)を守り切れなかったこの体たらく……藍染様はお許しになる筈など無い)

 

 

  そう、彼の主である藍染惣右介に躊躇などと言う単語は存在しない。受け入れるものは受け入れ、斬り捨てるものは容赦無く斬り捨てる。絶対なる存在である彼に『赦しを乞う』など烏滸(おこ)がましいにも程が有るのだ。それに、此処が異世界ならば元の世界に帰る事すら怪しい。

  だが何よりも、ウルキオラの心中には主の下へ馳せ参じるという選択をする気が無かった。

 

 

(……心、か)

 

 

  彼は死に際に『心』を悟った。だが悟っても尚、『心』という全てを理解した訳では無い。

  そして、『心』を全て理解する為のまたと無いチャンスを得たのだ。

  ウルキオラは『心』を悟ったその先へ進みたいと少なからず思っていた。人間というものの可能性を見てみようとも思った。

 

 

(……無駄というヤツか。そう、その無駄で俺は奴に敗北したのだ)

 

 

  そこで思い出されるのは黒崎一護が圧倒的な力を見せつけられようとも最後まで棄てなかった『無駄』

  その『無駄』こそが心を知る鍵に成り得るだろう。

 

 

(……試してみるか。その無駄とやらを)

 

 

  それはいつ成し遂げられるのかは全て自分次第。相当な時間が掛かる事は間違いないだろう。だからこそ成し遂げようとする意味が有る。彼はそう思い、己の目的を定めた。

  ウルキオラはそこで思考を切ると、先程の会話が聞こえて来た。

 

 

「で、そこの真っ白で無表情の貴方は?」

 

 

  不意に高飛車なお嬢様からの質問が聞こえて来た。そしてウルキオラは驚愕する。

 

  ()()()()()()()()()()()質問している事に。

 

「……俺が見えているのか?」

「当たり前よ。どうしたのかしら?」

「何だ? その言い様だと幽霊だったような物言いだな」

「幽霊? ……何だか不思議」

 

 

  三者三様、反応は違うが見えているらしい。元々、死神や虚と言った存在は基本的に普通の人間では目視する事は不可能である。人間の身でそれが可能なのは死神に成る前の黒崎一護の様に高い霊力や霊感を持つ者に限られる。

  だが、こうして目視出来ていると言う事はこの三人は高い霊力を持っていると言う事か。若しくはこの世界での『何か』が働いているという可能性が有るのか。

  元々住んでいた世界とこの世界では常識も違えばルールも違うだろう。ならば、元々の世界の例外がこの世界では常識と言うのも(あなが)ち間違いでは無いだろう。

  ウルキオラはそう判断を下し、切り捨てる。こういうややこしい事に関しては切り捨てるのが上策である。

 

 

「……ウルキオラ・シファーだ。先程の事は忘れろ」

「そう、よろしくウルキオラさん」

「へぇ、面白いなオマエ」

 

 

 ウルキオラの素っ気ない返事にお嬢様は特に気に留めなかった。金髪の方はウルキオラ独特のその出で立ちに興味を持った様だ。

  心を悟る以前のウルキオラなら「俺に質問などするな、塵が」とか「黙れ、屑」などと言い、問答無用で消し飛ばしたであろう。

  だが、今のウルキオラは心を悟った為、僅かに丸くなっている。それに加え、この追いつかない状況に周囲の状況まで気を回す余念が無い。この問題児達は有る意味命拾いしたと言っても良いだろう。

 

 

「で、呼び出されたは良いが何で誰もいねえんだよ」

「そうね、何の説明も無ければ、動きようが無いもの」

「……この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」

「……」

 

 

  全くです。とか言うツッコミが何処からか飛んで来た気がするが、無視に限る。

  すると、学ランを着たヘッドホンが特徴である金髪の少年が溜息交じりに呟く。

 

 

「仕方ねえな。さっきからそこに隠れている奴にでも聞くか?」

 

 

  瞬間、何処かの誰かが驚愕し慌てて隠れ直した。図星を突かれたのだろう。

  だが、この四人に対して隠れるという行為は無駄に等しい。戦いという名の殺し合いの世界にどっぷりと浸かっていたウルキオラは特にそうだ。

 

 

「あら? 貴方も気付いていたの?」

「当然、かくれんぼじゃ負け無しだぜ? そっちの猫を抱えている奴やウルキオラも気付いてたんだろ?」

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

「……何故、あの程度が隠れていると認識している?」

「……へぇ、()()()面白いなお前等」

 

 

  口数の少ない少女とウルキオラの物言いに金髪は爛々とした視線を向ける。主にウルキオラの方に。

  対してウルキオラは金髪に興味など無く、その爛々とした視線を向けられようとも無視を決め込んでいた。

 

  すると、茂みの奥からウサミミが特徴である少女がビビりながらひょこっと現れる。その際、ウルキオラが此方に目線を移した事で更に怯むも、負けじと口を開いた。

 

 

「や、やだなぁ御四人様。そんな飢えた狼さんみたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ。古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱なハートに免じて、ここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

「断る」

「却下」

「お断りします」

「興味無い」

「あっは♪ もう取り付くシマも無いですね♪」

 

 

  四人の見事なまでの否定っぷりにウサミミ少女はバンザーイ、と降参のポーズを取る。

  しかし、その目は四人を冷静に値踏みしていたのだった。

 

 

(肝っ玉は及第点です。とは言っても扱いにくいのは難点ですけど。ただ……)

 

 

  ウサミミ少女はそう思いながら、ちらとウルキオラを見る。

  彼の病的なまでの白。それ以上に彼からは次元が違う程の力を感じる。

 

 

(ウルキオラさん、でしたっけ? あの御方だけは違う。召喚されたのは()()()()()だけだった筈。あの御方はイレギュラーと考えた方が良いですね。ですが、戦力は多いに越した事は有りませんから問題ないでしょう)

 

 

  彼女のウルキオラに対する評価を上方修正すると同時に、値踏みの視線を強める。

  だが、彼女は一つ間違いを侵している。それは彼を他の問題児三人同様に()()()()()と慢心している時点で既に間違っているのだが。

  その冷静沈着さと機転の良さはこのヘッドホンを頭に付けている金髪少年、逆廻十六夜すらも上回る。知識の豊富さならば十六夜が勝っているだろう。だが、それ以前に力の差が有り過ぎる。

 

  彼女は知る由もない。

  この破面がどれ程の圧倒的な力を有しているのかも。

 

  それはそれとして、だ。

 

  ウサミミ少女及び黒ウサギはウルキオラに視点を移したままだったが故に気付く事は無かった。

 

 

  むぎゅ

 

 

  問題児である三人の魔の手が黒ウサギのウサミミにロックオンしていた事に。

  口数の少ない少女、春日部耀は真っ先にウサミミを掴み、

 

「フギャ!」

 

  それを力いっぱい引っ張る。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!? 初対面でいきなり黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですかぁっ!? 」

 

  流石に自分のシンボルとも言えるウサミミを力いっぱい引っ張られるという奇想天外な行動に対してかなりの抵抗があるのが普通だ。当然、黒ウサギは抵抗したのだが……

 

「ふーん、このウサミミは本物なのか?」

「じゃあ私も」

 

 

  ライトとレフトからの挟撃が黒ウサギを襲う!!

 

 

「え? ちょ、まっーーー!」

 

 

 ウサミミを引っ張られる事に対して耐性の無い黒ウサギであるが故、挟撃に耐えられる事など有る筈が無い。黒ウサギは言葉にならない絶叫を上げ、それは見事なまでに近隣に木霊したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……煩い奴らだ」

 

 

  ウルキオラは一人、そう呟く。先程から彼女が気付かれない様にしていた値踏みの視線は既にバレバレだ。そこからこの黒ウサギの組織の状況すらも読めてしまう。

 

 

(この俺を欺こうとするとは舐めた真似をしてくれる……。だが、この世界の情報が欲しい所だ。これからどうするかはもう少し様子見をして決めるか)

 

 

  ウルキオラは空を見上げ、虚圏にあった偽物の空では無く本物の空と太陽を見据え、己のするべき指針を考えて行くのであった。




誤字脱字が有りましたらお願いします。


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2.虚無、箱庭の外門を潜る。

やっと投稿出来ました……

今回は説明会なのでちょっと進展が無いかもです。


「ゼェ、ゼェ……あ、有り得ないのですよ。まさか話を聞いてもらう為に小一時間も消費してしまうとは。が、学級崩壊とはこの様な状況に違いないのデス」

「いいからさっさと話せ」

「はい……」

 

  あれから問題児三人は小一時間程、黒ウサギのウサミミを彼女が精根尽き果てかけるまで弄られた。その間、ウルキオラは自身の力の深部の隅々まで確認を行っており、黒ウサギの助けなど耳に入っていなかったのだった。哀れ黒ウサギ。

 

  まず最初に気付いたのは、自身の持つ霊力や膂力、その他全般の力が飛躍的に上昇していた事だった。

  ウルキオラ自身、信じ難い事であったが気に留めておく必要は無かった。やはり最初の自身が生きている事実を突き付けられていたが故に既に耐性が付いていたのだろう。その臨機応変さは伊達では無い。

 

  そして、次に気付いたのは己の斬魄刀。この事がまだ記憶に新しい存在である彼を引っ張り出す切っ掛けになった。

 

 

(……黒崎一護)

 

 

  そう、彼の卍解した時の斬魄刀である『天鎖斬月』

  その斬魄刀が鞘に納められた状態でウルキオラの腰に挿さっていたのだ。

  カラーリングこそ彼の象徴である黒とは真逆の白であったが、刀の鍔の部分が卍の形を模していたのが何よりの証拠だ。

  当然、ウルキオラの力の核たる『黒翼大魔(ムルシエラゴ)』に何ら支障は無い。だが、その他に別次元の力が込められていたのだ。

  原因は一切不明。ただ、ウルキオラ自身に思い当たる事が有った。

 

 

『お前が俺に近づいたからかも知れねえな』

 

(戯言だと思っていたが、まさかな……)

 

 

  それはウルキオラが『心』というものを悟った故の影響か。はたまた彼が破面の身で『人』に近づいた為の影響か。それは知る由も無い。

  だが『心』を悟った為、ウルキオラ自身に変化が有るのは紛れもない事実である。兎も角、本人がそれに気付いているのかどうかで言えばまだNOである。彼はつい最近になって『心』を悟ったのだ。これで気付いていると言う方がはっきり言って異常であろう。

 

  それはさておき、その別次元の力が齎された事によって己の斬魄刀の変化や自身の力が飛躍的に上昇した原因であろうと推測した。

  ウルキオラ自身、力が飛躍的に上昇しようが何も問題無い。力の制御は完璧でありその精度も遜色ない。

  元々ウルキオラはノイトラやグリムジョーの様に執拗に戦いを求めている様な戦闘狂では無い。必要な時にだけ戦う為である他に、自衛の手段として用いているだけに過ぎないのだ。故に全体的に力が飛躍的に上昇した今回も、己の手札が幾つか増えたという程度の認識でしかない。

  確認の次いで、問題児達三人が黒ウサギのウサミミを弄くっている間にその変化した斬魄刀の柄を掴み鞘から抜刀したのだが、不思議と手に馴染んでいた。

  その事にウルキオラは少々感心しつつ、再び納刀した。そのお陰(?)で問題児三人の興味はウサミミから彼の斬魄刀に移り、解放された。そして現在に至る訳である。

 

  その後、黒ウサギがこの世界をアピールしながらこの世界についてのルールと常識を説明した。

  先ず、この世界は箱庭と呼ばれる世界である事。

  箱庭たるこの世界は様々な修羅神仏や悪魔、精霊等から与えられた『恩恵(ギフト)』と呼ばれる力を持つ者達が跋扈している。そして、その特異な力を用いて『ギフトゲーム』なるもので競い合うゲームが存在しているらしい。

 

 つまり、人を超えた者達が参加する事が出来る神魔の遊戯、『ギフトゲーム』でこの世界が成り立っていると言う事だ。法と例えても過言では無い。

 

 ギフトゲームの構造は至ってシンプル。そのギフトゲームの勝者は“主催者(ホスト)”が提示した賞品を手に入れる事が出来る。

 だが高がギフトゲームと言えど、唯のゲームでは無い。このゲームはシンプル且つ奥が深い。“主催者”によるが、暇を持て余した修羅神仏が人を試す為の試練と称して開催されるものも有れば、団体である『コミュニティ』の力を誇示する為に独自開催するケースも有る。

 勿論、ギフトゲームによる難易度は此れも“主催者”によって左右されるが、凶悪且つ難解なものも有れば、簡単なクジ引きまで多種多様に存在している。

 主に難易度の高いギフトゲームには死の危険が付き纏い、リスクも相当高い。但しその分の見返りは大きく、新たな『恩恵』を手にする事が出来るのも夢では無い。

 

 次に、この箱庭で生活するに至って数多と存在する団体、『コミュニティ』に必ず属する事である。

 先程も述べた様に、主にギフトゲームを主催する為には団体である事が重要視される。個人としてギフトゲームを主催する事は例外では無い。だが、それを行えるのは暇を持て余した修羅神仏のみである。

 ギフトゲームを主催するコミュニティは少なからず箱庭に名を連ねている。即ちネームバリューと言う名声が必ず存在するのだ。名声が無いコミュニティがギフトゲームを主催しても参加者など来る筈も無く、それはゲームとして成り立たない唯のギフトゲーム“ごっこ”で終わってしまう。

 故にこの世界では少なからず名声が必要となり、自然と団体が出来るのだ。言わせれば『個人としての力では達成は不可能だが、団体として力を合わせれば目的を達成する事が可能だ』と言う様な具合である。

 

 その様な理由でこの箱庭には数多のコミュニティが存在している。それを踏まえて黒ウサギが所属しているコミュニティへ属する事になった。その時に十六夜が断ったが、黒ウサギが断固としてそれを否定した。

 

 この時点でウルキオラは黒ウサギが必死になっている事を見抜いていた。先程からその兆候は有ったのだが、この様子でそれは確信に変わる事になった。

 だが、ウルキオラはそれを察していながら断る事をしなかった。群れる事は好まないが、それが断る理由にはならない。それにウルキオラの目的はその様な神魔の遊戯をする為では無く、『心』を完全に理解する事。些細な事に対して興味も関心も持たないウルキオラは黒ウサギの所属するコミュニティの状況がどう有れ、関係の無い事なのだ。

 それに、個人で行動するか団体で行動をするのかと言う中でのメリットを天秤に掛けるとすれば、それは後者に傾くだろう。

 まずコミュニティと言う時点で本拠地、つまり拠点が有る事は事実明白。ウルキオラは破面故に、睡眠や食事等の行為は必要性が皆無である。しかし、新たなる力を手にしてからそれは否定される事になった。

 

 

 新たなる力、それは『完全なる死神』へと至る力である。

 

 

 破面と言えども、虚である面影が残っている。虚閃や虚弾を放てる事が何よりの証拠だ。

 つまり、破面とは虚としての力が半分、死神としての力が半分と両立している存在である。

 そして新たな力である完全なる死神化。その影響で食事や睡眠が必須になったのである。

 

 だがウルキオラはこの事実に不満など何も無かった。

『心』を完全に理解する為にはその様な『無駄』が必要になって来るからだと、この世界に来た当初から決め込んでいたからだ。

 何よりも『この様な事も偶には悪くない』と自然に思っていた事が大きな要因となっていた。

 以下の理由から拠点の確保という名目でウルキオラは黒ウサギのコミュニティに属する事を決めたのだった。

 

 箱庭については大体の情報を得た。途中、黒ウサギが四人を挑発する様な発言が有ったものの、それは全く通用していない。これも無駄というものだが全くの別物だ。

 

 最後に、十六夜が質問する。その質問はルールやゲームについてのものでは無かった。

 

「そんなのはどうでも良い。腹の底からどうでも良いぜ黒ウサギ。ここでお前に向かってルールやゲームについて問い質した所で何かが変わる訳じゃねえ。世界のルールを変えるのは主に革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえよ。俺が聞きたい事はたった一つ、手紙に書いてある事だけだ」

 

 十六夜は視線を黒ウサギから外し、他の三人を見回す。そして青空と太陽によって照らされる都市に向けて一言、

 

 

「この世界は、面白いか(・・・・)?」

 

 

 ウルキオラはその言葉に何も思わなかった。この少年は好戦的な部類だが、流石に戦闘狂では無い。そんな奴らは同じ十刃であるノイトラやグリムジョーで十分だ。

 

 ただ、その発言は何処から来ているのか気になった。十六夜は見た目から好戦的ではあるが、常に戦いを欲する様な雰囲気では無い。

 では何故、その様な質問をするのか。それがウルキオラには分からなかった。

 

 

(この餓鬼の発言も、『心』有るが故の発言なのか……?)

 

 

 此れも、心を持つ人間だからこそこの様な発言が出来るのか。

 やはり心と言うものは奥が深い。先程説明されたギフトゲームの奥の深さとは明らかに段違いだ。

 

 

(……心とは非常に複雑だ。悟ってもなお、まだ理解の外だーーー)

 

 

 心の理解は容易では無い。それは凶悪且つ難解であるギフトゲームよりも難解だろう。

 だが、もしも心が単純なもので有ったならばそれは理解する価値など無い。

 

 

(ーーーしかし、『心』とはそうでなくてはならないのかもしれん)

 

 

 心の理解の一歩目を踏み出したウルキオラ。それは彼の中で不思議と清々しいものがあったのだった。

 

 

 

 

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 その後、黒ウサギの案内により四人は森の中を歩いていた。その際に十六夜は不意に何処かへと姿を消したが、他三人は気に留めずに進み続けた。

 

 

 その結果がこれである。

 

 箱庭の外門の前で待機していた緑髪の幼い少年の前に辿り着くや否や後ろを振り向いた瞬間カチン、と固まってしまう黒ウサギであった。

 

「あ、あれ? もう一人いませんでしたっけ? 何か“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が……」

「ああ、十六夜君の事? 彼なら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”とか言って駆け出して行ったわよ?」

 

 飛鳥が指差す視線の先は空に放り出された際、上空4000mから見えた断崖絶壁である。

 

「何で止めてくれなかったんですか!」

「止めてくれるなよ、と言われたもの」

「どうして黒ウサギに知らせてくれなかったんですか!」

「黒ウサギには言うなよ、と言われたから」

「う、嘘です! 絶対嘘です! 実は面倒臭かっただけでしょう!」

「「うん」」

「oh……」

 

 二人の一糸乱れぬ物言いに黒ウサギは言葉を失い、項垂れる。そして顔を上げ、ウルキオラの方向に視線を移す。

 

「ウ、ウルキオラさんもです! 何で一言も声を掛けてくれなかったんですか!」

「……何だと?」

「ッ……!」

 

 黒ウサギの発言にウルキオラの鋭い視線が彼女に突き刺さる。その視線に黒ウサギは軽く怯んでしまった。

 

「俺は知らんが、この餓鬼共を箱庭へ呼び出したのは他でも無い貴様だ。ならば餓鬼共を管理する義務が貴様に有るのは当然だ」

「で、ですが……」

「言い訳を口に出す時点で、この餓鬼共を管理し切れていない貴様が悪い。それとも、その頭に付いている耳は唯の飾りか?」

「うぅっ……」

 

 呆気なくウルキオラに言い負かされた黒ウサギは再び項垂れる。これは仕方の無い事である。その良く聞こえそうなウサミミが有るにも関わらず、十六夜の行動に気が付けなかったのだ。非は完全に黒ウサギに有るだろう。

 そんな黒ウサギとは対照的に、緑髪の少年は断崖絶壁の方向に視線を向け蒼白になっていた。

 

「た、大変です! 世界の果てには確か……」

「分かっておりますジン坊っちゃん。その代わり、御三人様のご案内をお願いします。私はその問題児様を捕まえに参りますので!」

 

 ジンと呼ばれる少年がそう呟くと、ゆらりと黒ウサギが立ち上がり、その艶の有る黒髪を淡い緋色へと染め上げた。

 そして一気に走り出し、弾丸の速度を持ってあっという間に四人の視界から消え去って行った。その様子を飛鳥が感心した様に呟く。

 

「へぇ、箱庭の兎は随分と速く跳べるのね」

「はい、ウサギ達は箱庭の創始者の眷属ですから」

 

(……あの程度の速度が速い、か)

 

 二人がその様な会話をしている中、ウルキオラは先程の黒ウサギの弾丸の速度で駆け出して行く姿を見ていたが、彼の中では速いと言う程の速度では無いと思っていた。あの程度の速度なら卍解をした状態の黒崎一護の繰り出す速度の方が断然速い。そしてその速度を容易く上回るウルキオラの目には“遅くは無くとも速くは無い”という風に映っていたのだった。

 

「あ、僕はコミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。それで三人のお名前は?」

「私は久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えている人と真っ白で無表情な人が」

「春日部耀。よろしく」

「……ウルキオラ・シファーだ」

「では自己紹介も済んだ所で、箱庭の中をご案内致します」

 

 軽い自己紹介の後、四人は箱庭の外門を潜って行く。その間、ウルキオラはこの幼い少年がリーダーを務めている事に、黒ウサギのコミュニティの評価を下方修正していた。

 

(……この様な餓鬼が組織を纏める者とは、世も末だと言う事か)

 

 この少年がコミュニティのリーダーとは何とも哀れな事か。彼の主であった藍染惣右介の足下にも及ばない上に次元が違う。それ以前に比べる価値も無し、と判断していた。

 だが、このジン=ラッセルはあのヘッドホンを頭に付けた金髪の少年、逆廻十六夜がどうにかしてくれるだろう。何故かウルキオラはその様な予感を抱きながら外門の中を歩き続けて行ったのだった。




ウルキオラの判明した情報

:ウルキオラの斬魄刀が天鎖斬月(?)に変化
※『黒翼大魔』そのものには影響無し。

:新たな力(完全なる死神化)が宿った。
※判明しただけで詳細は不明。

:新たな力の影響で少なくとも睡眠と食事が必須となった。

:ウルキオラの霊力、膂力、その他全般の力が飛躍的に上昇。
※本人はさして重要視していない。



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3.『全てを、話せ』

この作品、『第4十刃が異世界に来るそうですよ?』ですが、昨日偶々日間ランキングを見てみると、一位になっていました! 嬉しいです!
これも読者様方の応援が有ってこそです! 有難うございます!
これからもよろしくお願いします!



今回のガルドと邂逅する時のシーンは意外と苦手だったりします。

難産かも知れませんが、よろしければどうぞ。


 ーーー箱庭2105380外門・内壁

 

 飛鳥、耀、ジン、三毛猫、そしてウルキオラの四人と一匹は石造りの通路を潜り、箱庭の幕下へと出た。其処には先程の日の光が降り注ぎ、空を覆う天幕が飛び込んで来た。

 

『お、お嬢! これは凄いで! 外から天幕の中に入った筈なのに、御天道様が見えとる!』

「……本当だ。空から見た時は箱庭の内側なんて見えなかったのに」

 

(……ほう、これは大層な仕掛けだ)

 

 確かに箱庭の上空から見た時は、この様な街並みは目視する事は出来なかった。しかし、箱庭の内側から入れば空には太陽が姿を現している。

 これは驚愕せざるを得ない。流石は神魔の遊戯を行うステージだと言う事か。彼の主である藍染や十刃の本拠地であった虚夜宮(ラス・ノーチェス)も様々な仕掛けは存在していた。だが、この様な大規模な程の仕掛けは無い。この事にウルキオラは箱庭のこの仕掛けに少し興味を持ったのだった。

 

「箱庭を覆う天幕は内側から入ると不可視になるんです。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族の為に設置されていますから」

 

 ジンがそう説明すると、飛鳥は訝しげな表情を作り皮肉げに言った。

 

「あら、この箱庭には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」

「え? そうですけど……」

「……そう」

 

 幾分複雑な表情を作る飛鳥。だが無理もない。吸血鬼という種族は元々架空の種族であり、どの様な生態なのか不明なのだ。それに加え、この箱庭で住む事が出来る様な種とは思えなかったのだ。

 一方ウルキオラはその話を隣で聞いていたが、この箱庭の大規模な仕掛け程の興味を持つ事は無かった。此方は元を辿れば霊そのものなのだから吸血鬼と比べると明らかに(たち)が悪い。

 

「わあ、獣人達がいっぱい……」

「はい、この箱庭には人間や獣人は勿論、修羅神仏や精霊、悪魔等様々な種族が住んでいます。先程の吸血鬼も同じですね」

「箱庭って本当に凄いわね」

 

 耀がそう呟くその周囲には頭に獣の耳を生やした獣人達が大勢とその街並みを賑わせていた。特に東区画と呼ばれるこの付近は農耕地帯となっており、その気性は穏やかである。

 

「まだ皆さんは箱庭に召喚されてばかりで落ち着かないでしょう。この後の説明は軽く食事をしながらでもどうですか?」

「そうね。そうさせて貰うわ」

 

 ジンの案内にて噴水広場に有る近くのカフェテラスで軽く食事を取る事になった。そのカフェテラスには“六本傷”の旗が掲げられていた。ウルキオラはその旗印が気になり、視線をジンに向け質問する。

 

「おい、餓鬼」

「はっはい、何でしょう?」

 

 ウルキオラのその鋭い視線に黒ウサギと同様に軽く怯みながら返事をする。餓鬼と呼ばれた事に関しては言い返せる様な相手では無いので素直に質問に答えるだけに徹した。

 ウルキオラはジンに向けていた視線を“六本傷”の旗に移す。ジンもそれに合わせる様に視線を移した。

 

「……あの旗印は何だ? コミュニティとやらの象徴と言う奴か」

「は、はい。ウルキオラさんの言う通りでコミュニティを主張する為には欠かせないものです」

 

 そう、前回も説明したがギフトゲームを主催するコミュニティには少なからず箱庭の中で名声を持っている。とはいえ、ただ名声を持っているだけではそれは意味を成さないのだ。

 

 コミュニティに最も重要不可欠なもの、それは名と旗印である。

 

 この箱庭で活動する為には、そのコミュニティの名と旗印を申告しなければならない。そうしなければコミュニティと言う『団体』が認められないからだ。

 名と旗印が存在しないコミュニティは『ノーネーム』や『名無し』等と呼ばれ、他のコミュニティからは差別の対象とされる。とはいえ、コミュニティと言われればコミュニティである。しかし、そのコミュニティが幾ら功績を挙げても、それは殆ど無駄な行為で終わってしまう。

 

 では何故、『ノーネーム』や『名無し』と呼称されるコミュニティはその様な扱いを受けるのか。

 

 簡単に例えるとして、子供達が秘密基地を作ったとしよう。「ここが俺達の国だ!」と宣言した所で、それが国や政府に認められる筈が無い。結局はその程度の価値観にしかならないのだ。

『ノーネーム』や『名無し』呼ばわりされる組織はそう言う存在なのである。差別の対象にされる事は当然とまで言った方が良い。

 

「……そうか、もう良い」

「? は、はい……」

 

 ウルキオラはそれだけを聞くと、質問を切り上げた。ジンは訝しげな表情をしたが、ウルキオラの真意は分からず仕舞いであった。

 その後はカフェテラスに座り、それぞれの注文を取っていた。因みにウルキオラは紅茶だけだ。

 

「えーと、紅茶を三つと緑茶を一つ。後は……」

『ネコマンマを!』

「はいはーい。ティーセット四つにネコマンマですね〜」

 

 店員である猫耳の少女がそう言うと、ウルキオラを除く三人が不可解そうに首を傾げた。そして最も驚愕していたのは春日部耀であった。彼女は信じられないものを見る様な目で店員の少女に問い質す。

 

「三毛猫の言葉が分かるの?」

「そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから」

『ねぇちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やなぁ。今度機会が有ったら甘噛みしに行くわぁ』

「やだもーお客さんったらお上手なんだから〜♪」

 

 三毛猫の褒め言葉に店員の少女は上機嫌で店内に戻って行った。

 その様子を見た耀は三毛猫の頭を撫でて言う。

 

「……箱庭って凄いね。私以外に三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」

『来て良かったなお嬢』

「ちょ、ちょっと待って! 貴方まさか猫の言っている事が分かるの!?」

 

 耀の自分は動物と話す事が出来るかの物言いに、飛鳥が身を乗り出して質問する。ジンも同じ様に興味深そうに質問した。

 

「もしかして猫以外の動物とも会話は可能ですか?」

「うん。生きているなら誰とでも会話出来る」

「それは素敵ね。じゃあそこに飛び交う野鳥とも会話が?」

「うん、きっと出来……る? ええと、確か鳥で話した事があるのは雀や鷺や不如帰ぐらいだけど……ペンギンがいけたからきっとだいじょ」

「「ペンギン!?」」

「う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカ達とも友達」

「た、確かにそれは心強いギフトですね。この箱庭では幻獣との言語の壁というのはとても大きいですから」

 

 勿論、この箱庭には幻獣も住んでおり、神格を持った幻獣ならば大抵の言語の壁はクリア可能だ。だが、それ以下の幻獣ではそれが不可能に近いので、この様な全ての動物と会話出来るギフトというものはこの箱庭では希少だったりする。

 因みにウルキオラが驚愕しなかった理由は、彼は動物とは話せない代わりに会話は愚か、目視すら不可能である魂魄や霊と通じる事が出来るからだ。此方も此方で壁は高い。

 

「そう、春日部さんは素敵な力が有るのね。羨ましいわ」

「そうかな? 久遠さんは」

「飛鳥で良いわ。よろしくね春日部さん」

「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」

「私? 私の力は……まあ酷いものよ。だって」

「おやおや? 誰かと思えば東区画の最底辺コミュニティ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

 突然、飛鳥の言葉を遮り椅子に腰を下ろしたピチピチのタキシードを身に纏った2m超えの身長を持つ奇妙な男が現れた。ジンはその姿を見て顔を顰め、その男に返事をする。

 

「……ガルド」

「あら、貴方は一体誰なのかしら?」

「おおっとこれは失礼お嬢様方。私はコミュニティ“フォレス・ガロ”のリーダー、ガルド=ガスパー。以後、お見知り置きを」

 

 己の名とコミュニティを自己紹介しながらジンを除いた三人に愛想笑いを向ける。当然ながら二人は冷ややかな態度で返したが。紳士の格好をしているが、所詮似非紳士と言う事だ。因みにウルキオラは完全に無視を決め込んでいるが故に、知った事では無い。

 

「……貴方の同席を認めた覚えは有りませんよ。ガルド=ガスパー」

「黙れ。用があるのはお前じゃ無え。ここにいるお嬢様方だ」

「私達?」

「ええそうです。単刀直入に言います。よろしければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに入りませんか?」

「な、なにを言い出すんですガルド=ガスパー!?」

 

 ガルドから突然の勧誘。余計な建前などは省き、直接本題へ持ち込むその言葉にジンは怒り、テーブルを叩いて抗議する。

 

「黙れ、ジン=ラッセル。この過去の栄華に縋る亡霊が。自分のコミュニティがどういう状況に置かれてるのか理解出来てんのか?」

「そ、それは……」

「はい、ちょっとストッ」

 

 

「おい」

 

 

 過去の亡霊。その発言にジンの怒りは萎縮してしまい、言い淀む。そこに間を遮る様に手を上げようとした飛鳥だが、それよりも早くウルキオラが発言した。そして、ウルキオラがその一言を発しただけで周りの四人は静まり返った。

 その雰囲気が続いていたが、暫くしてジンが僅かながら口を開いた。

 

「……な、何でしょうか?」

 

 一言。たった一言を言葉にするだけで相当な時間を使ってしまう。それだけの重苦しい威圧感がウルキオラから発せられていた。それに加え、ウルキオラ独特の翠色をした双眼がジンに突き刺さっている事がよりジンにプレッシャーを与えていた。その様子を翠色の双眼に映していたウルキオラは静かに口を開く。

 

「……話せ」

「……え?」

「……俺は既に察している。躊躇するな。貴様のコミュニティの現状を全て話せ」

「ッ!!」

 

 それはジンにとってあまりにも唐突過ぎる宣告。動揺を隠し切れないその様子に飛鳥が質問する。

 

「ウルキオラさん、それは一体どう言う意味なのかしら?」

「そのままの意味だ。それはこの餓鬼の口から(じか)に分かる」

 

 その質問に対し、不要だと言わんばかりに切り捨てるウルキオラ。説得力の有る台詞では無いが、ウルキオラがそれを発言すれば妙に説得力の有るものに変わる。飛鳥はそれだけを聞くと、視線をジンの方向へと向ける。耀も同じ様に視線をジンへと向けた。

 

「……貴様はコミュニティのリーダーと名乗った。ならばあの兎の女と同様に、この世界に呼び出したこいつらに貴様のコミュニティの状況を説明する義務が有る。違うか?」

「……はい」

 

 それを見ていたガルドはこれこそ此方へ引き入れるチャンスと感じ、以前のジンのコミュニティを語ろうと含みの有る笑顔と上品ぶった声音で話し掛けた。

 

「ジェントルメン。貴方の言う通りだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。しかし彼は頑なにそれを拒むでしょう。よろしければ」

「黙れ、塵が。俺は今、この餓鬼と話をしている。塵の出る幕など有りはしない。塵は塵らしく引っ込んでいろ」

 

 しかし、それはウルキオラにとって逆効果である。自分は今、目の前の人間と話をしているのにも関わらず、それに横槍を入れられるのだ。ウルキオラにとってこの上無く鬱陶しいものである。

 ガルドはウルキオラのその言葉に僅かに青筋が浮かぶものの、自称紳士で通っている今は我慢する他なかった。

 そしてウルキオラはガルドを見下した態度で侮蔑しようとも、視線をジンから捉えて離さなかった。

 

「貴様がどれ程過去を語る事を拒もうが関係無い。これは命令であり、貴様の義務だ」

「……」

「もう一度言う。話せ」

 

 ジンはカフェテラスに座る前に“六本傷”の旗印の事でウルキオラに問われた。

 そう、この時点で彼は既に察していたのだ。だが、ジンはそれに気付く事は無かった。

 本当はあの時点でジンは察するべきであった。そうすれば、この様な事態には陥らなかった。

 

 嘘を吐き、欺いた上で新たな人材を引き入れる真似さえしなければ。

 

 だが、どうにもならなかった。弱小コミュニティである以上、嘘を吐く他に新たな人材を引き入れる術が無かったのだ。

 そして、ウルキオラはそれを既に看破していた。彼は実際に遠回しでこの様な事を言っているだろう。

 

 

『この俺が、見え透いた嘘如きで欺けるとでも思うな』

 

 

 ウルキオラの言葉に威圧感が込められているのは無理も無い。彼等を騙したのは此方側だ。非も責任も完全に此方側に有る。

 

 だからこそ、話さなくてはならない。

 

 

「……分かりました、話します。僕らのコミュニティの現状を」

 

 

 ジンは意を決して話し始めた。過去のコミュニティの話を。

 

 当時のリーダーは自分と比べ物にならない程に別格だった事。

 

 ギフトゲームにおける戦績で人類最高の記録を持ち東区画最強のコミュニティだった事。

 

 東区画だけで無く南北の主軸コミュニティとも深い親交が有り、南区画の幻獣王格や北区画の悪鬼羅刹が認め、箱庭上層に食い込む程のコミュニティだった事。

 

 そして、“人間”の立ち上げたコミュニティで輝かしい数々の栄華を築いたコミュニティがーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー箱庭最悪の天災、『魔王』と呼ばれる者にたった一夜にして壊滅させられた事を。




と言う事で、ウルキオラがぶっちぎってジンにコミュニティの現状を話させました。

ウルキオラはこういう余計な建前は嫌いですからね。原作ではそう言う要素が有ったのでこの作品では省きました。アニメみたいな感じで。


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4.彼等の選択

投稿が遅れました。

今回は少々長いです。

それではどうぞ。


 ーーートリトニスの滝周辺の森

 

 それは、ウルキオラ達がカフェテラスで以前のコミュニティが壊滅させられた話をジンから聞いている同時刻であった。

 世界の果てに行くと言って姿を消した問題児、逆廻十六夜はその言葉通り、世界の果てにいた。その際に、付近を縄張りとしていた蛇神にギフトゲームを挑まれたが、『正体不明(コード・アンノウン)』の力を持って圧倒し、勝利した。

 そしてその後を追って来た黒ウサギは十六夜から自分達のコミュニティの現状が如何なるものなのかを看破されたのだ。

 ウルキオラは最初の黒ウサギの値踏みの視線で察していたが、それはウルキオラに限った事では無い。十六夜も同様に感づいていたのだ。ただ、それが確信として変わったタイミングが違うだけである。

 それ以前に黒ウサギの様子からそれを察する事は容易であったのだ。値踏みの視線もそうだが、十六夜がコミュニティに入る事を拒否した時、断固としてそれを否定した時点でヒントとなっていた。とはいえ、少なくとも黒ウサギは欺く事やそれを隠す事は下手な部類である事は間違いないだろう。

 十六夜に虚を衝かれた黒ウサギは動揺を隠せず、黙る他無かった。遂には観念し、今のコミュニティの状況を話した。リスクこそ大きいものの、黙ったままでは十六夜という強力な戦力を手放してしまう恐れがある為、腹を括って話したのだ。

 

「ーーーへえ、その魔王ってのが以前のコミュニティを壊滅させた訳か」

「……Yes」

 

 十六夜は、『魔王』と言う単語に興味を持ちながらその話を聞いていた。

 

『魔王』とは俗に、“主催者権限(ホストマスター)”と言うこの箱庭の世界における特権階級を持つ修羅神仏の中で、悪用している者達の事を指す。

 “主催者権限”の特徴はその権限を持つ者からギフトゲームを挑まれると如何なる理由が有っても断る事が出来ないと言うものだ。言うなれば、強制参加だ。

 そして『魔王』とのギフトゲームは必ずと言って良い程、魔王側に有利な条件が課せられている。その中でペナルティ条項が設けられ、その数や凶悪性はその主催者側の勝利条件に反比例している。

 基本的に『魔王』の主催するギフトゲームの勝利条件は『魔王を倒してクリア』か『魔王を無力化してクリア』の二つに分けられている。もしも三つ以上の勝利条件が記載されている場合は、ペナルティルールが書かれている若しくは隠されている。

 前者の勝利条件である魔王を倒すだけならば、困難を極める事は無い。だが、後者である魔王を無力化する場合は違う。

 魔王を無力化してクリアする場合は謎解きの要素が強い。例えば、その主催者側の魔王に関する伝承等だ。

 そしてその無理難題を押し付けるゲームにおいて、参加者側の知識不足や能力不足は全く考慮しない。そして参加者側でそれを補える者がいない場合、そのゲームは『無理ゲー』となり、クリア不可能となる訳だ。

 

 

 つまり、出来ない場合は出来ない本人が悪いと言う事なのだ。

 

 

 理不尽では有るが、現実は甘くない。ギフトゲームとは『クリア出来るゲーム』でなければならないのが原則であり、よく言えば『知識と力さえ有ればクリア出来るゲーム』なのだ。

 そして、黒ウサギの以前のコミュニティは『魔王』のギフトゲームに参加させられ、たった一夜にして壊滅させられたのだった。

 

「名と旗印を奪われ、中核を成す仲間達は一人も残ってはいません。ゲームに参加出来るのは、現リーダーであるジン坊っちゃんと黒ウサギだけ。後は一二○人余りの十歳以下の子供達ばかりなのですヨ」

「もう崖っぷちだな!」

「ホントですねー♪」

 

 十六夜の冷静な言葉に黒ウサギは笑いながらガクリと項垂れる。最早末期であるコミュニティでよく三年も持ち堪えたなーと不意に思ってしまうのだった。

 

「それでも皆、必死で生きています。遠くの川まで水を汲みに行き、住む所以外は皆死んだ土地だと言うのに……」

「ふーん。それならいっそ潰して、新しくコミュニティを作っちまえば良いじゃねぇか」

「だ、駄目です!!」

「何でだよ?」

「私達は、仲間達が帰って来る場所を守りたいのです! そして何時の日か魔王から名と旗印を取り戻し、コミュニティを再建したいのです!」

 

 黒ウサギが必死になり口にした言葉、それは彼女の紛れもない本心である。

 十六夜の言う通り、コミュニティを新しく作ると言う方法は最も手っ取り早いものである。だが、それはコミュニティの完全解散を意味する。それをしてしまえば最後、以前の仲間達が居た場所を失う事になるのだ。

 

 だからこそ、黒ウサギは仲間達の場所を守ると誓ったのだ。

 

 それは周囲のコミュニティから蔑まれる事になる。ノーネームや名無しは他のコミュニティから差別の対象とされるのだから。だが彼女達はそれを耐え抜き、そして今日、ウルキオラを除く三人の強力な戦力を召喚したのだ。

 

 今此処で言わなければ、彼等を召喚した意味が無くなってしまう。

 

「その為には十六夜さん達の様な強力な力を持つプレイヤーに頼る他有りません! お願いします! 私達に力を貸して下さい!」

「ふぅん。魔王を相手にコミュニティの再建ねぇ……」

 

 黒ウサギは深く頭を下げ懇願した。しかし対する十六夜は気の無い返事だ。彼女はその反応に不安で仕方ない。彼等は黒ウサギのコミュニティにとってたった一つの希望なのだ。此処で断られたら最後、黒ウサギのコミュニティは解散するしか無い。彼女は頭を下げたまま泣きそうな表情をしていた。

 

(ここで断られたら……私達は……!)

 

 この時、彼女は後悔していた。リスクなんて考えずに初めから話せば良かった、と。

 そして暫く黙り込んでいた十六夜の口が開く。それはーーー

 

 

 

「……いいな、それ」

 

 ーーー希望となって、返って来た。

 

 

 

「え……?」

「え? じゃねえよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ」

「で、ですが……」

「魔王を相手に旗と旗印を取り戻し、コミュニティを再建する。ああ、そいつは浪漫が有る。協力する理由にしては上等な部類だ。精々期待してろよ黒ウサギ」

 

 立ち上がりながら十六夜はそう言った。黒ウサギは最初は戸惑ったものの、その言葉を聞いた途端、その艶の有る髪を緋色に染めながら嬉しそうな表情をした。

 

「有難う、ございます……!」

「おう、感謝しまくれ黒ウサギ。まあそれは置いておくとして、後は周辺の滝と世界の果てを見に行くか」

「は、はい!」

「あ、そう言えば」

「? 何でございましょうか?」

 

 十六夜はそう言うとそのまま滝の有った方角へと歩き出し、黒ウサギも慌ててそれを追って駆け出した。その際に十六夜が何かを思い出した様な顔をして、黒ウサギがそれを訝しげに見ながら質問した。

 

「多分だけどな、お前のコミュニティの現状について俺よりも逸早く察したのはウルキオラだと思うぜ?」

「え? ウルキオラさんでございますか?」

 

 十六夜のその言葉に黒ウサギは驚いた表情をする。それを見ていた十六夜はポケットに手を入れ、歩きながら面白そうな表情で話を続ける。

 

「ああ。俺がアイツの出で立ちを見た時、そこに全く隙が無かった。もしかすると、とんでもねえ世界にいたのかもな」

「確かに、あのお方からは唯ならぬ雰囲気が出ているのは私も感じました。ですが、それがどう繋がるのでございますか?」

「最初にこの世界へと飛ばされた時、俺達の中で最も冷静に状況に対応していたのはアイツだ。そこから相当な冷静沈着さが伺える」

「そうですね……。あのお方は湖に落ちる前に空中に立って落下を回避していましたから」

「そう言う事だ。後は俺がお前のコミュニティに入る事を拒否してそれに対して本気で怒った時があっただろ」

「は、はい。あの時は必死だったものですから……」

「あの時にな、アイツが顔を少しだけ顰めた所を見たのさ」

「え?」

 

 その事実に黒ウサギは驚愕の色を隠せない。十六夜は構わず、続けて言う。

 

「あれは何らかの組織にでも所属してなければ出来ない表情だ。恐らく以前の世界じゃあその何らかの組織に所属してたんだろうな。そしてこの時点で察していたに違いない」

「そ、そんな……」

 

 十六夜が看破する前からウルキオラによって既にバレていた。その衝撃の事実に黒ウサギは焦る。知識面は兎も角、実力では十六夜を大きく上回るであろう強大な戦力が他のコミュニティに渡ってしまう事を恐れての焦りであった。だが十六夜は焦りの一つも見せずに黒ウサギを落ち着つかせる。

 

「まあそんなに焦るなよ。アイツはホイホイ他所のコミュニティに渡る様な器じゃねえよ。もしかしたらお前の言うジン坊っちゃんにコミュニティの現状を直接言わせているかも知れねえし」

「……た、確かに、十六夜さんの言う通りかも知れないデスね。あの人、容赦無く何でも言いそうですから。というか私言われちゃいましたし……」

「……御愁傷様」

「同情しないで下さいっ!」

 

 フシャー!と怒る黒ウサギ。その彼女の中に有る不安は既に払拭されていたのだった。

 

 

 

 

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 話の舞台は此方に戻り、ウルキオラの催促によって全てを語ったジンは悲痛な面持ちでその話を終えた。

 

「ーーーこれが、今の僕達のコミュニティの現状です」

「成る程ね。貴方が言いたいのはつまり、何のメリットも無い彼のコミュニティに入るくらいなら、此方のコミュニティに入らないかと。そう言う事ね?」

「そうです。私のコミュニティ、フォレス=ガロはコミュニティの旗印を賭けたゲームに連戦連勝。今やこの地域を治める程になっています。とはいえ、このカフェテラス自体は本拠が南区間に有るので手出しは出来ませんが」

 

 ガルドが得意気に話をする中、ジンは黒ウサギと同様に後悔していた。強力な戦力を持つ彼等に、真実を語る事無く欺けると思ってしまった自分を殴りたくなる気分だった。

 ウルキオラの催促で話してくれる展開に持って行ってくれたものの、彼がそうしなかったらそのまま黙るしか無かっただろう。そしてガルド=ガスパーに言われるがままとなっていたであろう。

 結局は彼が切っ掛けを作ってくれたからに他ならない。ジンだけでは真実を語ろうとする勇気すら無く、その一歩すら踏み出せなかっただろう。

 ジンはその後悔に苛まれ、項垂れてしまった。こんなに後悔するのなら、初めから話せば良かったと。彼もまた、黒ウサギと同様な事で後悔していた。

 

「ジン=ラッセルのコミュニティと何方(どちら)が裕福かなんて比べものにならないでしょう。もう一度言います、黒ウサギ共々私のコミュニティに入りまーーー」

「結構よ。ジン君のコミュニティで間に合ってるもの」

「……え?」

「は?」

 

 飛鳥の言葉にジンは顔を上げ、ガルドは笑顔のまま固まり、お互いに飛鳥の顔を窺った。

 彼女は何でも無い様な表情のまま、耀に顔を向ける。

 

「春日部さんはどうするの?」

「……私はこの世界に友達を作りに来ただけだから」

「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補してもいいかしら? 私達って正反対だけど、意外と仲良くやっていけそうな気がするの」

「……うん。飛鳥は私の知る女の子とちょっと違うから大丈夫かも」

「そう、よろしくね春日部さん」

『良かったなお嬢……お嬢に友達が出来てワシも嬉しいわ』

 

 女子二人の中に友情ムードが広がる。何故、こうも女子同士は仲良くなれるのか。それは分からないが、彼女達の中で共感するものが有ったのだろう。

 そんな中、ウルキオラは何事も無く紅茶を飲みながらそれを静観していた。友達と言う単語に反応したが、彼はそう仲良しこよしをするつもりは無い為、特に興味は無い。

 

「それで、ウルキオラさんは?」

「……俺が塵の率いるコミュニティの傘下に下るとでも思っているのか?」

「成る程ね、理由としては上等な部類だわ」

 

 飛鳥も自分の目から見て、ウルキオラは相当な強者である事は分かっている。そんな強者がホイホイと他所のコミュニティに率いられるがままの者なら、それは強者としての器では無い。彼女はウルキオラのその言葉を上等な部類として納得した。

 その様子にガルドは頬を引きつらせながら質問した。

 

「……何故、そのような結論に至ったのか教えて頂けますか?」

「だから間に合ってるのよ。春日部さんは聞いての通り友達を作りに来ただけ。ウルキオラさんは貴方のコミュニティに入る気は更々無い。そうよね?」

「うん」

「愚問だ」

「そして私、久遠飛鳥はーーー裕福だった家も、約束された将来も、全てを捨ててこの世界に来たのよ。今更恵まれた環境に入れられて、喜ぶとでも思う?」

 

 飛鳥はそうピシャリと言い切る。それに対してガルドは身を乗り出して反論しようとしてーーー

 

「し、しかしーーー」

黙りなさい(・・・・・)

 

 ーーー出来なかった。

 飛鳥が命じたと同時にガチン! とガルドの口が勢い良く塞がり黙り込んだ。

 その事実にガルドは混乱してしまう。口を開こうとしているが、開く気配は全く無く、声すら出ない。

 

「!?………っ!?」

「そういえば私、少し気になっている事が有るの。貴方はそこに座って、私の質問に答え続けなさい(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 再び飛鳥が命じる。すると先程と同じ様に命令通りとなり、今度は勢い良く椅子に座り込んだ。

 こうなればガルドはパニックに陥る事は必然、抵抗すら出来なくなっていた。

 

(……ほう、此れは大した力だ。言葉で相手を支配するとはな)

 

 飛鳥の放つ、その理解不能の力を目にしたウルキオラはその能力に興味を持った。

 この様な力はウルキオラの世界でもそうはいない。相手を乗っ取り支配する術ならば同じ十刃であるゾマリ=ルルーの『(アモール)』が存在する。他には彼の主である藍染惣右介の相手の五感を支配する『鏡花水月』もそうだ。

 だが、目の前にいる少女は言葉だけで相手を支配している。

 とはいえ、此れは相手の霊格によって効果が左右される為、藍染やゾマリの様に確実な効果を齎す訳では無い。相手の霊格が自分より上の場合、それは意味を成さない。

 そのウルキオラの興味を他所に、飛鳥達の中で話し合いは続いて行く。

 

「ねえジン君。ブランド名にも等しいコミュニティの旗印を賭けたゲームはそうそう有るものなのかしら?」

「や、止むを得ない状況なら稀に。しかし、コミュニティの存続を賭けたゲームはかなりのレアケースですから」

「そうよね。此処に来た私達でもそれぐらい分かるもの。ギフトゲームに強制力を持たせる事によって“主催者権限”を持つ者は魔王として恐れられている筈。その魔王でもない貴方がどうして強制的にコミュニティを賭け合う様な大勝負を続けられるのかしら。教えてくださる(・・・・・・・)?」

 

 そして飛鳥の言霊がガルドに再び飛び、ガルドの抵抗とは関係無くその口は開き言葉を紡ぐ。

 

「き、強制させる方法は様々だ。一番手っ取り早いのは相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫し、ゲームに乗らざるを得ない状況に持って行く事だ」

「あら野蛮。でも、そんな方法で組織を吸収しても彼等は従順に貴方の下で働くかしら?」

「す、既に各コミュニティから数人の女子供の人質を取ってある」

「な……!」

「……それで、その人質は何処に?」

 

 

「もう殺した」

 

 

 その事実に、周りが凍り付いた。

 

 飛鳥、耀、ジンの三人は目を開き、思考を停止させる。その中でウルキオラだけは動じる事は無かった。既に殺し殺されの世界にいた事で、その程度の事実など驚愕するに値しないからだ。

 ガルドは言葉を紡ぐ事を止めず、飛鳥の命令通りに続ける。

 

「初めてガキ共を連れて来た日、鳴き声が頭にきて思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、苛々は止まらずまた殺した。それからは連れて来たガキ共は全部纏めてその日の内に始末する事にした。だが身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。そして始末したガキ共の遺体は証拠が残らないよう腹心の部下に食わせーーー」

 

黙れっ(・・・)!!」

 

 ガチン!! とガルドの言葉の紡ぎは飛鳥の凄味を増した怒鳴り声で黙らせた。その飛鳥の表情には怒気が含まれていた。

 

「素晴らしいわ。ここまで絵に描いた様な外道とはそうそう出会えなくてよ。似非紳士さん」

 

 パチン、と飛鳥が指を鳴らし、それを合図にガルドを支配していた力が霧が晴れたかの様に解ける。混乱から脱出したガルドは怒り狂い、カフェテラスのテーブルを勢い良く叩き砕くと、

 

「こ……この小娘がァァァァァァァァァァッ!!」

 

 怒りの雄叫びと同時にその体を変化させた。元からピチピチのタキシードを着用していたそれは弾け飛び、黒と黄色のストラップ模様の虎へと姿を変えた。

 ガルドのギフトはワータイガーと呼ばれる混血種。人狼などに近しい種族である。

 

 そのワータイガーへと姿を変えたガルドはその丸太の様な太い剛腕を振り上げ、飛鳥に襲い掛かるーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー筈だった。

 

「喚くな、塵が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、ウルキオラの霊圧によって強制的に中断させられる事になった。

 ウルキオラはほんの僅かな霊圧を発し、ガルドにぶつけただけだ。

 そう、ただそれだけの行為でガルドの中に有る本能は危険信号という悲鳴を上げ、恐怖によってその体を無理矢理止めているのだ。

 ガルドの脚はガタガタと大きく震え、それは徐々に酷くなって行く。先程の怒りは恐怖によって塗り潰されてしまった。目の前の小娘を殺す事などどうでも良いと無意識で思ってしまう程に。

 

「先程の話など俺にとってはどうでも良い事だ。塵が取る手段など高が知れている。俺が口を挟むまでも無い。だが、敢えて言おうーーー」

 

 

 

 

 

「ーーー俺の周りで塵が喚くな。目障りだ」

 

 

 

 

 

 静かなる言霊を発するウルキオラ。それはガルドにとって死刑宣告にも等しい言葉となって聞こえて来る。冷や汗が流れ、それが止まる気配は一切無い。

 ウルキオラの僅かな霊圧と言葉。ただ此れだけの要素でカフェテラスの周りの四人は兎も角、周囲にいた無関係の者達まで1人残らず静まり返ってしまった。

 

 

 

 現在、街中で言葉を発する者は誰一人としていない。

 

 

 

 ウルキオラはガルドを一瞥する事すらせず、飛鳥に視線を向ける。その表情は呆れ返ったものであった。

 

「……おい」

「何かしら?」

「……俺はこの事に関わる気は無い。この塵をどうするかはお前が決めろ。俺が言える事はそれだけだ」

「あら、元からそのつもりよ」

 

 その素っ気無いウルキオラの言葉に飛鳥は不敵な笑みを浮かべ、椅子から立ち上がる。どうやら、飛鳥と耀はウルキオラの霊圧に当てられても特に影響は無かった様だ。とはいえ、当然と言えば当然なのだが。

 飛鳥はそのまま震え上がったままのガルドに歩み寄り、悪戯っぽい笑顔で話しかけて来た。

 

「無様ねガルドさん。そんなに震え上がってしまうなんていい気味だわ。でもね、貴方の様な外道はこれ以上にズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ。ーーーそこで皆に提案なのだけれど」

 

 飛鳥のその言葉に固まっていたジンや周りの者達は我に返り、飛鳥を見上げて首を傾げる。飛鳥は細長い綺麗な手を逆さにしてガルドを指差し、

 

「私達とギフトゲームをしましょう。貴方の“フォレス=ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね」

 

 彼女は高らかにそれを宣言した。

 




安全第一のどーでもいい妄想


神のみぞ知る

↓濁音を抜くと

神のみそ知る=神のみそしる


……神の味噌汁って何でしょうか?
美味しいのかな?


以上、安全第一のどーでもいい妄想でした。


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5.白と白・虚無と白夜

やっと出来ました……!
取り敢えず今回は一万文字超えを目標としてやりました!
次回は多分平均五千文字に戻りますのでご了承ください。


 それは、十六夜と黒ウサギが噴水広場に合流した時の事である。

 

「フ、フォレス=ガロとゲームをするうううぅぅ!?」

 

「な、何であの短時間にフォレス=ガロのリーダーと接触して更に喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備している暇も有りません!」「一体どういうつもりなのですか!」「というか聞いているのですか四人とも!!」

 

「聞く必要が無い」

「「「ムシャクシャしてやった。今も反省していない」」」

 

「騙らっしゃい!!」

 

 スパァーン! と黒ウサギのハリセンが三人の頭に直撃する。ウルキオラだけは軽く体を逸らして躱したが。寧ろ怒りの矛先が此方にも来た事に対して不快感を示していた。

 ウルキオラはこの騒動の中にいたとはいえ、余り深くは関わっていない。このギフトゲームに置いても彼は参加していないし、するつもりも無い。

 まずそれ以前にこの騒動に幕を引いた他でも無いウルキオラだ。このギフトゲームは飛鳥がそう宣言したものであってウルキオラ本人は一切関わっていない。

 黒ウサギは生憎、現場にいなかったので言伝(ことづて)だけで全てを把握してはいないという事も有る。だがそれだけでハリセンを此方にまで向けようなど、ウルキオラにとって迷惑千万なのである。一層の事、あのハリセンを斬魄刀で一刀両断してやろうかという思いが頭を過ぎり斬魄刀に手を掛けたが、更に面倒臭くなるだろうと思い却下した。

 その四人の様子をニヤニヤと笑って見ていた十六夜が止めに入る。

 

「まあ良いじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売った訳じゃねえし許してやれよ。それにウルキオラがお前のハリセンを斬ろうとしていたから考え無しでツッコミを入れるの止めておいた方が良いぞ」

「うぅ、それは黒ウサギが悪いと思います。でもこのゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ? この“契約書類(ギアスロール)”を見て下さい」

 

 黒ウサギはそう言いながら“契約書類”を十六夜に見せる。

 “契約書類”とは“主催者権限”を持たない者達が“主催者”となってゲームを開催する為に必要となるギフトである。

 そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品などが書かれており、これに主催するコミュニティのリーダーが署名することでゲームが成立する。そして、その“契約書類”に記されていた賞品の内容はこうであった。

 

「“参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する”ーーーまあ、確かに自己満足だな。時間を掛ければ立証出来るものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだしな」

 

 これが、今回のギフトゲームに置いての賞品の内容だった。ノーネームとなり、衰退した状態での初のギフトゲームにしてはあまり華が無いだろう。“相手は罪を認め法の下で裁かれ、コミュニティを解散する事”に対して此方側は“罪を黙認する”というものだ。この様な内容は箱庭のギフトゲームでも有る意味レアケースものだろう。華が無いとか地味などと言われても仕方が無い事である。

 

「確かにそうですけど時間さえ掛ければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は……その……」

 

 黒ウサギも流石にフォレス=ガロがそこまで酷い状態であった事は思いもしなかったのであろう。最後の方で言い淀む。

 

「その通りよ。人質は既にこの世にいないわ。まあその点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそこには少々時間が掛かる事も事実よ。あの外道を裁くのに無駄な時間を掛けたくないの」

 

 箱庭の法の有効範囲は箱庭都市内のみ。外は箱庭の管轄外であり、様々な種族のコミュニティが各々独自の法を敷いて生活している。其処へ逃げ込まれたら最後、箱庭の法で裁く事は不可能となる。

 

「それにね黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲内で野放しにされる事が許せないの。此処で逃がしてしまえば、また必ず狙って来るに違いないもの」

「そ、それはまあ……逃がせば厄介かも知れませんけれど」

「僕もガルドを逃がしたくないと思ってる。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

 飛鳥の言にジンも同調する姿勢を見せる。それに対し黒ウサギは諦めた様子を示し頷いた。

 

「はぁ〜、仕方が無い人達です。まあ良いデス。黒ウサギも腹立たしいのは同じですし。フォレス=ガロ程度なら十六夜さんかウルキオラさんがいればーーー」

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

「参加する気など毛頭無い」

「HA?」

「当たり前よ。貴方達は参加させないわ」

 

 黒ウサギが言いかけた時に参加をきっぱりと拒否する二人。その事に黒ウサギは唖然となり、慌てて食って掛かる。

 

「だ、駄目ですよ! 御二人様はコミュニティの仲間なのですからちゃんと協力しないと」

「そういう事じゃねえよ黒ウサギ」

 

 だがそこで十六夜が真剣な表情となり、黒ウサギを説き伏せる。

 

「いいか? この喧嘩はコイツらが売った。そしてヤツらが買った。そこに俺達が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ。まあ俺は兎も角、ウルキオラはこの事に関与する気は更々無えみてえだし、説得しても無駄だぜ?」

「……その通りだ」

「あら、分かっているじゃない」

「……もう好きにして下さい〜」

 

 彼等に振り回された黒ウサギには既に言い返す気力すら残っていない。もうどうにでもなれとばかりに投げやりになり肩を落とすのであった。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

「“サウザンドアイズ”?」

「Yes!“サウザンドアイズ” は特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティなのですヨ!」

 

 あれから暫くして、黒ウサギ達一行は明日のギフトゲームに備えて召喚された四人のギフト鑑定をするべく、その目的地へと歩を進めていた。因みにジンは先にコミュニティへと帰って行った。

 その中で“サウザンドアイズ”と呼ばれるコミュニティは黒ウサギの言った通り、箱庭全体に精通する超巨大商業コミュニティである。

 だが商業コミュニティと言えど侮るなかれ、その幹部クラスに置いては箱庭の天災と恐れられる魔王級の実力を持つ者達ばかりだ。嘗めて掛かれば、そのコミュニティが軽く崩壊しかねないのである。

 

「ギフトの鑑定というのは?」

「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。それに皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」

 

 黒ウサギがそう言い、十六夜・飛鳥・耀の三人は複雑な表情を作る。だがウルキオラはそう深く考える程の事では無かった。

 元々、ウルキオラの力はギフトとは言い難い。新たに発現した『天鎖斬月(?)』は兎も角、『黒翼大魔』は虚から破面へと昇華した際に進化の過程として得たものだ。

 自らの進化の壁を突き破り新たな次元へと足を踏み入れ、強大な力を得るのだから其処に修羅神仏からの恩恵など欠片も無いのだ。まず自分の力の出処など既に知れているので然程興味を持つ事も無い。

 

 それはさて置き、黒ウサギを除く四人は興味深そうにその街並みを眺めていた。

 ペリベッド通りと呼ばれる此処は石造で綺麗に整備されており、その両脇は桜に似た街路樹で埋め尽くされている。その街路樹から桃色の花を見事に散らせており、新芽と青葉が生え始めていた。

 

「……ほう、此れは大したものだ。現世の桜とやらもこういうものだったのだろうか……」

「でもこれ、桜の木……ではないわよね? 花弁の形がまるで違うし、何より真夏になっても咲き続けている筈が無いもの」

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ? まだ気合の入った桜が残っていても可笑しくないだろ」

「……あれ? 今は秋だったと思うけど」

 

 其処でウルキオラを除く三人は噛み合わないと気付き顔を見上げる。ウルキオラに関しては虚圏(ウェコムンド)に季節は存在していなかった為、その辺りは不明だ。

 その様子を黒ウサギはクスリ、と笑って説明する。

 

「皆さんは其々違う世界から召喚されているのデスよ。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系などにも所々異なる箇所が有る筈ですよ?」

「へぇ? それはパラレルワールドってヤツか?」

「近いですね。正しくは立体交差並行世界論というものなのですけれど、これを説明すると一日二日では足りないので割愛という事で……」

 

 そう言いつつ黒ウサギが足を止める。どうやら“サウザンドアイズ”の支店に到着した様だ。“サウザンドアイズ”の旗印は蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。これは『創世(アルファ)』と『終末(オメガ)』の双女神を意味するのだが、これはまた後の話としておこう。

 

 支店の前には割烹着を着た女性店員が看板を下げようとしていた。そこへ黒ウサギが滑り込みでストップを掛けようとしてーーー

 

「まっ」

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

 ーーー掛ける事すら出来なかった。そこには隙が全く見当たらない。容赦が無いとはこの事であろう。

 

「あら、なんて商売っ気の無い店なのかしら」

「ま、全くです! 閉店時間五分前に客を店から締め出すなんて!」

「文句が有るなら他所でどうぞ好きにやって下さい。あなた方の今後一切の出入りを禁止します。出禁です」

「で、出禁!? たったこれだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」

 

 そこへ更に追いうちを掛ける女性店員。本当に容赦のよの字も有りはしない。

 

「成る程、“箱庭の貴族”と呼ばれるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名をよろしいでしょうか?」

「……ぅ」

「俺達はノーネームってコミュニティなんだが」

「ほほう。では何処のノーネーム様でしょうか? よろしければ旗印を確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 コミュニティの確認を迫る女性店員に十六夜が何の躊躇いも無く名乗る。だが、“名”と“旗印”が無いコミュニティでは何の示しようも無い。故に黙り込む他無かった。

 

 この光景を目の当たりにしたら普通は理不尽だと思う筈だ。しかし、世界が違えば常識も違う。

 この光景こそ、箱庭では有り触れた常識とも言えるものなのだ。決して理不尽などでは無く当たり前の事である。

 ネームバリューも無ければそれを示す旗印も無い。そんな何も価値の無いコミュニティを超巨大商業コミュニティが易々と信用する筈が無い。それは“サウザンドアイズ”に限った事では無く、様々なコミュニティでも同様の事である。超巨大なコミュニティである彼らだからこそ客を選ぶのだ。信用出来ないコミュニティなど無下に扱うのも同然の事であった。

 その箱庭の常識に対してウルキオラ本人は寧ろ納得していた。弱い者は強い者に取り合える筈も無いし、以前の世界に置いても黒崎一護に敗北した自分に意味など無くなった様に、この世界でも弱肉強食の摂理が存在するのは変わりない。

 まあ女性店員の態度が気に食わない部分は有るだろうが、それはウルキオラには関係の無い事だ。

 

 流石に黒ウサギと言えども限界だった様だ。彼女は心底悔しそうな表情を作り、小さく呟いた。

 

「その……あの……私達に、旗は有りま」

「いぃぃぃやっっっほおぉぉぉぉぉぉぉ!! 久しぶりだ黒ウサギイィィィィィ!!」

 

 その直後、黒ウサギは店内から爆走して来る着物服を着た雪の様に真っ白な髪をした少女にフライングボディーアタックされ、街道の浅い水路まで吹き飛んだ。

 

「きゃあーーーー…………」

 

 そしてボチャン、という音と共に悲鳴が遠くなる。これには目を丸くするしか無い。ウルキオラは呆れた表情で見ていたが。

 

「……おい店員。この店にはドッキリサービスでもあるのか? なら俺も別バージョンで是非」

「ありません」

「なんなら有料でも」

「やりません」

 

 この騒ぎの中、二人はお互いに真剣に言っていた。そして女性店員は頭を抱えている。自分のコミュニティには律儀ではあるが、上司がこの様な有様では示しがつかないのだろう。非常に困り果てている様子であった。

 それを他所に黒ウサギを強襲した白い幼女は、彼女のたわわな胸に顔を埋めてなすり付けていた。一方の黒ウサギは驚愕した表情を現していた。

 

「し、白夜叉様!? 何故貴女がこんな下層に!?」

「それは私の黒ウサギハイパーセンサーにおんしの反応をキャッチしたからに決まっておる! いやぁやっぱり黒ウサギは触り心地が違うのう! ほれ、ここが良いかここが良いか!」

「し、白夜叉様! いい加減に離れて下さいっ!」

 

 スリスリスリ、となすり付けを止めるどころか更に加速させて行く白夜叉と呼ばれる幼女。流石に黒ウサギも耐えられなかった様で、無理矢理引き剥がして投げ付けた。投げられたソレはウルキオラの横を通り過ぎ十六夜に向かって来たのだが、十六夜はそれを足で受け止めた。手荒い扱いである。

 

「てい」

「ゴバァ!? コ、コラおんし! 飛んで来た初対面の美少女を足で受け止めるとは何様じゃ!」

「十六夜様だぜ。以後ヨロシク和装ロリ」

 

(……本当に騒がしい連中だ)

 

 珍光景とも言えるものを目にしたウルキオラの心中はその様なものだった。十刃ではこの光景は一切無く、張り詰めた緊張感だけが支配していたものだ。有るとすれば普段やる気の無いスタークにリリネットが何時も通り説教していた事だけか。あの二人だけはマイペースであったが故に、今の光景はその時と余り変わりないものだと思っていたのだった。

 ウルキオラがそう思っている間に今まで呆然としていた飛鳥だったが我に返り、白夜叉に話し掛けた。

 

「貴女はこの店の人?」

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢の割りに発育の良い胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」

 

 先程まで頭を抱えていた女性店員が冷静に釘を刺す。だが心中ではまだ頭を抱えているに違いない。

 そこへ、濡れた服を絞りながら水路から上がって来た黒ウサギは心の中で泣きながら呟く。

 

「うぅ……まさか私まで濡れる事になろうとは……」

「因果応報……かな?」

『お嬢の言う通りや』

 

 耀と三毛猫に言われ、肩を落としながら服を絞る。その姿には哀愁が垣間見られた。哀れ黒ウサギ。

 それと反対に白夜叉は召喚された四人を見てニヤリと笑う。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新たな同士か。と言う事は遂に黒ウサギが私のペットに」

「なりません! 何処からそんな起承転結が来てそうなるのですか!」

 

 先程の哀愁は何処へやら、ウサミミを逆立てて怒り始める黒ウサギ。正直、何処までが本気のラインなのかが分からないのでこう言う事に関しては必ずツッコミを入れると決めている。

 

「まあ良いだろう。取り敢えず入るが良い。要件は後から聞こう。」

 

 白夜叉がそう言いながら店内へ案内する。黒ウサギは自分達がノーネームである為、戸惑う。しかし、白夜叉は「ノーネームだと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ」と笑って言った。その事に女性店員はムスッと顔を顰めるが、彼女はルールを遵守しただけなのだから気を悪くするのは仕方の無い事だろう。

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

 白夜叉がそう言いながら案内されたのはやや広めの和室であった。個室というにはいささか広いものである。

 そこに全員が腰を降ろし、改めて本題を切り出した。

 

「さて、もう一度紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本題を構えている“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女である」

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

 黒ウサギが投げやりで言葉を受け流していると、耀が小首を傾げて質問する。

 

「ねえ、その外門って何?」

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若い程都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

 箱庭の外門は1桁から7桁まで7つの層に分かれ、1〜4桁が上層、5桁が中層、6・7桁が下層と言われ、それぞれを区切る外門には数字が与えられている。若番の層ほど修羅神仏の猛者が集まり、1桁の差ながらも上層と中層の実力差は天と地の差がある。

 上1桁が住所のようなもので、東が1~3 北が4~6南が7~9となっているのだ。

 そして、黒ウサギから伝えられたその箱庭の図を見た十六夜、飛鳥、耀と言えば、

 

「……超巨大タマネギ?」

「いえ、どちらかと言えばバウムクーヘンではないかしら?」

「そうだな。どちらかと言えばバウムクーヘンだな」

 

 その身も蓋もない言葉に、黒ウサギは肩を落とし項垂れる。とはいえ、簡潔な例えとしてはその様な感じだろう。一々小難しい例えでは埒が明かない。

 

「ふふ、上手い事例える。その例なら今いる七桁の外門はバウムクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。そして外門のすぐ外は世界の果てと向かい合う場所となっている。そこにはコミュニティに所属していないが、強力なギフトを持った者達が棲んでいるぞ。その水樹の持ち主などな」

 

 白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持っている水樹の苗に視線を向ける。十六夜と黒ウサギ以外の者達は状況だけを聞いただけで全てを知っている訳では無いが、十六夜が蛇神に勝利した事は間違いではなかった。

 

「して、一体誰がどのようなゲームで勝ったのだ? 知恵比べか? それとも勇気を試したか?」

「いえいえ。この水樹は十六夜さんが此処に来る前に、蛇神様を素手で直接叩きのめして来たのですよ」

「なんと!? クリアでは無く直接倒したとは! ならその童は神格持ちの神童か?」

「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格持ちなら一目で分かる筈ですし」

「む、それもそうか。しかし神格持ちを倒すには同じ神格持ちか、お互いに余程崩れたパワーバランスがある時だけの筈。種族の力ならば、蛇と人ではどんぐりの背比べだぞ」

 

 神格とは、神仏が眷属や武具に与える、種の最高位にまで体と力を変幻させるギフトのことである。

 これを持つことで他のギフトも強化され、強大な力を持つようになるのだ。

 神格を倒せるのは白夜叉が述べた通り同じく神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけである。

 そしてより高位の種族ほど、神格を与えられたときの能力が上昇する幅が大きい。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

「いや知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

 カカカ、と笑う白夜叉の言葉に十六夜は瞳を爛々と輝かせて問う。

 

「へえ? じゃあお前はあのヘビよりも強いのか?」

「当然だ。私は東側の“階層支配者(フロアマスター)”だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者だからの」

 

 最強。その言葉に問題児達三人は一斉に立ち上がり、その瞳を更に爛々と輝かせている。

 

「そう、ふふ。それはつまり、貴女のゲームをクリア出切れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

「まあ、そうなるのう」

「ヤハハ、そりゃ景気の良い話だ。探す手間が省けた」

 

 三人はその闘争心を燃やしながら白夜叉を見る。このままでは問題児達三人vs白夜叉という構造が出来上がりそうな雰囲気へとなっている。

 

(……何とも愚直なまでに蛮勇な餓鬼共だ)

 

 ウルキオラはその三人をその様な心境で見つめていた。弱い者が強い者へと戦いを挑む事は決して悪い事では無い。

 だが、それは相手の実力差を目の当たりにしてからする事。自分と戦った黒崎一護の場合は『負けられない戦い』だったからこそ、強大な相手と対峙し続けた。

 しかし、強大な相手の実力を知らず気構えもなしに挑むなど愚の骨頂である。正にこの問題児達三人はそれであり、これは無謀とも呼べるものだ。

 

 勇敢ではなく、蛮勇だ。

 

 ウルキオラが己の心境をそう思ったのはこの様な理由からだった。案の定、この問題児達三人は直ぐに相手との実力差を思い知る事になる。

 

 

 

 おんしらが望むのは“挑戦”か?

 

 ーーーもしくは“決闘”か?

 

 

 

「なっ……!?」

 

 景色の反転。それと同時に齎されたのは問題児達の驚愕であった。

 

 そこは白い雪原と凍る湖畔。そして水平に太陽が廻る世界。

 

 それは世界を創りだした奇跡の顕現。それは言葉などで例えられるものでは無い。

 

 

 

「今一度問おう。私は“白き夜の魔王”そして太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への“挑戦”か? それとも対等な“決闘”か?」

 

 

 

 その言霊は星霊、白夜叉によるもの。“与える側”の存在である彼女には其れ相応の殺気と覇気が篭っていた。

 

「水平に廻る太陽と……そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽やこの土地は、お前を表現しているってことか」

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

「なっ!? これだけの莫大な土地が、ただのゲーム盤……!?」

「如何にも。して、おんしらの返答は? “挑戦”ならば手慰み程度にあそんでやる。ーーーだがしかし“決闘”を望むのならば話は別。魔王として、命と誇りの限り戦おうではないか」

「………っ」

 

 白夜叉のその強大な力を前に、三人の問題児達は返答に躊躇ってしまう。

 此処までとは思いもしなかった。明らかに実力差が違う。勝ち目など有りはしない。

三人が沈黙する中、それは暫しの間続きーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無論、決闘だ」

 

 ーーー不意に、それは辺りへと響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……!?」

「ほう……?」

 

 それは、他でも無いウルキオラからの返答だった。その表情には迷いの一点すら見当たらない。問題児達三人は兎も角、黒ウサギも驚愕した。

 

「ちょ、ちょっとお待ちをウルキオラさん! 相手はあの白夜叉様です! 勝ち目など万に一つも有りません!」

「黒ウサギの言う通りだぜウルキオラ。相手は最強クラスの星霊で魔王サマの白夜叉なんだぜ?」

「無論だと言っている。この程度の芸当など、驚愕するに値しない」

「ほう、これを“この程度”だと……」

 

 ウルキオラのその言葉に白夜叉の視線は鋭くなり、ウルキオラを見据える。対してウルキオラもその翠の双眼で白夜叉を鋭い視線で捉えている。

 

「おんしはこれをこの程度の芸当と言った。その理由は如何に?」

「簡単な事だ。貴様がこの世界を容易く創れる様に、俺がこの世界を破壊する事など容易いからだ」

 

 さも当たり前の様にそう言ったウルキオラ。それに白夜叉は口元を僅かに釣り上げた。

 

「ほう、そこまで大胆に発言するか。だがのーーー」

 

 

 

 

 

「ーーー余り調子に乗るなよ。小僧」

 

 刹那、殺気が世界を包む。

 

 

 

 

 

「ーーーッ!!」

 

 否、それは殺気という次元では無い。ウルキオラを除く、問題児達や黒ウサギはその重圧に思わず片膝を着かされてしまう。

 

 それは、星の殺意。

 

 最早殺気とは呼ばなくなったそれを、ウルキオラへと直接ぶつける。問題児達すら思わず片膝を着いてしまう程の重圧を一点にぶつけられているウルキオラ。

 だが、それでもウルキオラは揺るがない。彼はそれを、

 

 

 

 

 

「所詮、その程度だ」

 

 己の霊圧で押し返した。

 

 

 

 

 

「!」

 

 星の殺意ともいえるこの重圧をいとも容易く霊圧で押し返された事実に目を見開く。

 星霊である自分の重圧がまさか押し返されるとは夢にも思うまい。白夜叉は白き死神に僅かながら焦燥感を抱いていた。

 

(まさか私の重圧を押し返すとは……此奴の霊格は私と同格の最強種か?)

 

 白夜叉が考えるこの白き死神の力。星霊である自分と此処まで渡り合えるなど、そうはいない。ならば、自然とこの箱庭でいう最強種の可能性を頭から引き出す。

 

(間違いなく此奴は神格持ちだ。星霊では無いものの、神霊と言えばそのカテゴリーに当て嵌まる。だが最強種の神霊は“生来の神霊”だけの筈。ならば、純粋に己の霊格が飛び抜けているという可能性の方が高いだろう)

 

 最強種の神霊は生来の神霊。生まれつき神霊であった者だけが最強種なのだ。ウルキオラの場合、それに当て嵌まらない。そうなると最後は彼の力が星霊並に飛び抜けて強いという結論に行き着くのである。

 ならばもう余計な憶測など無用。対等な決闘を繰り広げようではないか。

 

「ふふ、出来れば他の小僧達の返答も聞きたかったのだがの。それは後で良いだろう。まずは小僧よ、“白き夜の魔王”であるこの白夜叉が命と誇りの限り相手になろうではないか!」

 

 バッ、と扇子を広げ高らかに宣言する白夜叉。

 そこに先程の焦燥感は既に無い。有るのはかつて魔王であった頃の誇りと覇気だけ。

 

「……良いだろう。力の差を教えてやる」

 

 白き死神は静かに波紋一つ立たぬ水面(みなも)の様に、腰に挿さっている斬魄刀の柄を掴み鞘から引き抜く。その構えに寸分の隙など存在しない。

 

 その双方の対峙に、間を挟む者などいない。挟めば最後、それが自らの死へと直接繋がるからだ。

 

 白夜叉が扇子を扇ぎ、煉獄の灼熱を生み出す。それは白夜の湖畔と雪原を覆い、駆逐していく。

 

 対してウルキオラは、それを黙って見つめ一歩も動かない。翠の双眼でそれを捉えるのみ。

 

 

 

 

 

 今此処に、虚無と白夜が激突するーーー

 

 

 




次回、ウルキオラが白夜叉と対決します! お楽しみに!




今回の安全第一のどーでもいい妄想

前回の神の味噌汁にて

今回のお題:神の味噌汁の正体

・女神様が入浴した湯で作ったもの

・神が転生者に振る舞う最初で最後のO☆MO☆TE☆NA☆SI☆

・味は神のみぞ知る



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6.第4十刃VS白き夜の魔王

いよいよウルキオラと白夜叉の対決です!
どうぞ!


 黒ウサギは戦慄していた。

 

(ま、まさかウルキオラさんがあの白夜叉様と同格の存在だなんて……)

 

 白夜叉から発せられる星の殺意すら意に返さず、それを容易く押し返す。その様な事が出来るのは最低で四桁以上の魔王だけだ。

 彼はそれを軽くやってのけた。それがどれ程の力が彼の中に有るのか黒ウサギには理解出来た。それは四桁の魔王級の実力を持ち、尚且つ最強種である星霊の白夜叉と同じ次元に立っているという事だ。

 

(ウルキオラさん、貴方は一体何者なのですか……?)

 

 理解と同時に感じる恐怖。

 

 何故、恐怖が感じられたのか彼女は知らない。

 

 それは、彼女が思っていた以上に彼の存在が強大過ぎた為か。

 

 はたまた、何も感じ取る事の無い彼の感情を理解出来ない為か。

 

 それとも、彼の姿が最悪の天災“魔王”に似つかわしいと僅かながら頭に過ってしまった為か。

 

 

 それは、誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界を覆う煉獄の灼熱。それの温度は太陽のプロミネンスに匹敵する。

 白夜叉は扇子を扇いだだけでそれを発現させた。星霊の力ならばこの程度など小手先の手段にしかならないだろう。

 まずは牽制を兼ねた小手調べ。

 相手はそれを双眼に捉えたまま一歩も動く事は無い。避けるまでも無いという事だろう。

 

 ならば好都合だ。

 

「はっ!」

 

 白夜叉の発声と共に、煉獄の灼熱がウルキオラを呑み込まんとばかりに覆い尽くす。

 牽制を兼ねた小手調べとはいえ、この攻撃が直撃すれば無傷では済まない。それに加え、この攻撃は回避は愚か防ぐ事すら容易では無い。

 

(さて、それをどう対処するか)

 

 白夜叉は煉獄の灼熱に包まれるウルキオラの様子を見ながら、そう思っていた。

 しかし、その思惑は直ぐに崩れて行く事になる。

 

 

「……その程度か?」

 

 

 腕の一振り。たったそれだけで煉獄の灼熱は幻想の如く、儚く散り消えていった。

 ウルキオラは斬魄刀を持っていない方の腕で薙ぎ払う様に振るっただけ。

 

 防ぐ事は愚か、躱す事すらしなかった。

 

「!」

 

 その事実に、白夜叉は目を見張る。予想の斜め上を行く結果に驚愕していた。

 

(先の攻撃は牽制とはいえ、それなりに威力を込めて放ったのだがな……)

 

 それをたった腕の一振りで掻き消すか。益々強大さを増していくウルキオラに、白夜叉は嬉々とした視線をウルキオラに向ける。

 

 しかし、それと同時にウルキオラも少々驚愕していた。そして、振り払った自分の腕を見る。

 傷は一つも付いていない。服も焼けておらず、煉獄の灼熱による焦げ跡が残っている訳でも無い。だがウルキオラは驚愕のまま、手の部分を見つめていた。

 

(この俺の鋼皮(イエロ)を焦がすとは……)

 

 “鋼皮”とはウルキオラ達“破面”が持つ特性の一つで、自身を守る鎧の様なものだ。その硬度は己の霊圧に比例する。

 ウルキオラの元々の鋼皮も相当硬いものであったが、全ての能力が大幅に向上している今、その硬度は以前よりも強化されている。

 だが、更に硬くなったその鋼皮を焦がす程の威力を持つ攻撃を白夜叉は繰り出した。星霊の側面を持つ彼女の攻撃は、幾ら牽制だったとはいえそれ相応の威力が込められていたのだ。

 お互いに驚愕し、双方は同じ事を心中に刻み込んだであろう。

 

 

 

 油断すべき、相手では無いと。

 

 

 

 双方、心中にそれを留め次の手を打って行く。

 次に仕掛けたのはウルキオラ。傍から見れば、刀を手にしている姿を連想して接近戦タイプだと想定するであろう。

 だが、ウルキオラはその予想の斜め上を行く。

 

「何と!?」

 

 白夜叉はその攻撃に目を見開く。ウルキオラから繰り出されたのは接近戦を展開するものでは無い。

 

 剣圧による斬撃であった。

 

 白夜叉は驚愕しつつも、慌てずにその攻撃に対応する。放たれたのは三つの斬撃。

 一つを横へ回避し、その間に迫って来た二つの斬撃を電撃の盾を発生させ相殺する。

 その後も油断せず、隙を見せない。だが、内心で失態だと自分を叱責していた。

 

 ウルキオラを接近戦タイプだと見誤ってはならない。彼はどの様な状況に置いても完璧に対処出来るオールラウンダータイプだ。

 

「逃がしはしない」

 

 立て続けにウルキオラの追撃が白夜叉を襲う。先程灼熱を振り払った手で全ての指先に少しの霊力を収束させ、それを放つ。

 

「“虚弾(バラ)”」

 

 指先から放たれた五つの弾丸。その速度は第三宇宙速度に匹敵していた。

 虚弾自体に然程の威力は無い。拳銃と同様で相手を牽制する為の技であり、十刃達がそこまで多用する様な技では無い。

 しかし高が弾丸程度の威力と侮るなかれ、十刃が放つ虚弾は十分な威力を伴っている。それも第三宇宙速度を誇る速度だ。

 その馬鹿げた速度を伴えば幾ら虚弾と言えど、高威力へと変換される。

 

「っ!」

 

 白夜叉はその小柄な身体を利用し三つの弾丸を避け、残り二つの弾丸を扇子を用いて反射的な速度で弾き、軌道を逸らした。

 軌道が逸れた二つの弾丸は高く聳え立つ巨大な氷山の方向へと飛んで行き、一つは空の彼方へ、もう一つは氷山へと迫りーーー

 

 

 

 

 

 ーーー氷山の大部分を粉々に打ち砕いた。

 

 

 

 

 

「な……!」

 

 その声は白夜叉か、又は問題児達から発せられたものか。たった一つの弾丸が山河を砕く一撃を秘めるなど見た事も聞いた事も無い。氷山が崩落する中、彼等は戦慄した。

 しかしウルキオラの追撃は終わらない。もう一度五つの虚弾を放ちその上で斬撃を織り交ぜ、攻撃と攻撃の間を埋め尽くす。

 

「厄介な……」

 

 そう愚痴り、白夜叉は雷神にも勝るとも劣らない雷撃を前方に放ち五つの虚弾を相殺する。残る斬撃は最小限の動きで躱した。それは自分の体格のメリットを大いに理解し使いこなせている証拠だ。

 

「お返しだの」

 

 躱しながらそう言いつつ、そのまま反撃へと転じる。愛用の扇子を広げ、ウルキオラに向けて縦に大きく振るう。

 

「!」

 

 その攻撃動作を危険だと判断したか、ウルキオラは“響転(ソニード)”を発動させ、一瞬でその場から消え去る。

 

 

 

 刹那、大地が大きく二つに引き裂かれた。

 

 

 

 その一閃は勢いを止める事無く炎と雷を伴った閃光と化し、辺りの地形を地獄絵図へと崩壊させる。

 電撃が辺りへと迸り、灼熱は地形そのものを駆逐して行く。その規格外の威力に観戦していた問題児達は冷や汗をかく。最強種である星霊の一撃が此処までのものだとは思いもしなかったのだろう。

 

「おいおいマジかよ……アレをモロに喰らっていたら存在そのものが蒸発していたぞ」

 

 特に十六夜は星霊とは何たるかを理解していた為、他の二人の問題児達よりも驚愕は大きいものだった。ウルキオラの一撃も規格外だが、白夜叉の一撃もまた規格外であると。

 

「ふふ、コレを避けてばかりでは私には勝てんぞ?」

 

 もう一撃。そう言わんばかりに白夜叉は再び扇子をウルキオラの方向へと向け一閃を放とうとした。

 だが、

 

 

 

「そんなもので俺の動揺を誘えるとでも思ったか?ーーー」

 

 

 

「ッ!」

 

 その声が響いた直後、白夜叉は本能から危険を察知した。

 

 アレを喰らえば拙い、と。

 

 ウルキオラの人差し指から莫大な霊力が収束していくのを察知した白夜叉は、自らが放つ次の一撃の威力を咄嗟に高め、それをウルキオラへと振るった。

 

 

 

「ーーー嘗めるな」

 

 直後に放たれる強大な翠の閃光、“虚閃(セロ)

 

 

 

 一閃と一閃がお互いに衝突し、辺りに衝撃波を発生させる。その一撃同士の余波で地獄絵図だった地形を更に破壊していく。

 最後はお互いの一撃が爆発し、ゲーム盤の空間に亀裂を入れながら相殺する形となった。

 

「きゃあ!」

「うおっ!」

「うぅっ……!」

「くうっ……!」

 

 問題児達と黒ウサギは悲鳴を上げながら己の身体が吹き飛ばされない様に身を屈めて耐え切る。その際に十六夜は両隣にいた飛鳥と耀の肩を掴み、無理矢理の形で伏せさせた。彼なりの配慮だったのだろう。

 一撃どうしが衝突し合った場所は爆発の影響で炎の海と煙幕が発生しており、ウルキオラと白夜叉の双方の姿が伺えない。

 その中で、白夜叉は冷や汗をかきながらウルキオラの放った一撃を思い出していた。

 

(霊力を一点に収束させる事によって放たれる一撃か。彼奴は力の操作までも完璧なのか……)

 

 虚閃といえど、霊力の違いによって威力は変動するが、それだけでは無い。

 霊力を操作する技術を備えていれば、それ以上の威力を放つ事が可能である。その技術が細部まで行き届いていればいる程、それは更に進化する。

 ウルキオラの放った一撃は正にそれの極地であった。もしもあの一撃を相殺せず直撃していればどうなっていたか。少なくとも無事ではいられないだろう。

 

「……さて、仕切り直しと行こうかの!」

 

 白夜叉はそう言い、柏手を一回打つ。すると、白夜叉の辺りに四つの光る球体が出現した。

 

 “牛”、“虎”、“戌”、“猪”

 

 其々の球体にその様な文字が現れ、燦々とした輝きを放ち始め、白夜叉の辺りを飛び回る。それは圧倒的な存在感を放っており、並の恩恵では無いと全員が瞬時に悟る。

 

「……ほう」

 

 対してウルキオラもその恩恵に並々ならぬ雰囲気を感じ取ったのか、如何にも納得した様な表情を作る。

 

「四つの球体に干支が印されている文字……まさか白夜叉の使い魔か?」

 

 十六夜がそう呟き、四つの球体を見る。

 実際に十六夜の推測は的を射ており、この球体達は一つ一つに星霊並の力が宿っているものであり、超は五つは付く超々級の使い魔である。要はそれ程の力を持つ人智を超えたギフトだ。

 すると、それを見据えていたウルキオラから大地を揺るがす程の霊圧が発せられる。

 

「……成る程、それが貴様の奥の手の一つという事か」

「無論、そうじゃの」

「そうかーーー」

 

 ウルキオラから発せられる霊圧は徐々に強大なものへと膨れ上がって行く。ウルキオラは翠の双眼で白夜叉を捉えたまま、呟いた。

 

 

 

 

 

「ーーー漸く、手を抜かずに戦う事が出来る」

 

 刹那、白夜叉の頭上には彼の斬魄刀が振り下ろされていたーーー

 

 

 

 

 

「!!!」

 

 衝撃、そして反射的な防御。だが間に合わず、僅かに肩を斬られてしまう。星霊並の恩恵が四つ有るにも関わらず、だ。

 その恩恵は超高速などの物理的なものではなく、一瞬にして相手を屠る事が出来る。もしもウルキオラの実力が高が知れる程度のものであれば瞬殺出来たであろう。

 だが、それはウルキオラも同じ事。“響転”を持つ彼にとって超高速などただ走っている速度に過ぎない。

 白夜叉の奥の手とウルキオラの今の状態(・・・・)での本気。これは両者にとって然程差異が変動する様なものでは無かった。強いて言えば、ウルキオラが若干優勢になった所か。

 

(まさか、アレで手を抜いていたとでも言うのか……? 信じられんっ……!)

 

 速過ぎるウルキオラの攻撃回転速度。今は四つの球体達が己の身体を守っているが、その一撃一撃は間を縫って来るものばかりであった。

 球体の一つが攻撃を防いだと思えば正反対の方向から突如として攻撃が浴びせられる。超高速という次元を超えている球体達の攻撃速度も速過ぎるが、ウルキオラはそれすらも上回っていた。

 

「ぐっ……!」

 

 肩の次は腕を斬られ、距離を取って体制を立て直す。それを追撃するウルキオラ。迎撃する四つの球体。

 四つの球体から発せられる一閃の威力は先の白夜叉が見せた一撃と変わりない。喰らえば唯では済まないソレを紙一重で躱して行くウルキオラ。その間から彼の放つ虚弾が白夜叉を襲い、彼女も紙一重で躱す。

 

 しかし、白夜叉の真横に瞬間的に移動していたウルキオラは既に虚閃を放つ準備を終えていた。

 

「終わりだ」

「何だとっ……!?」

 

 そして至近距離からの翠の一撃。それは白夜叉を覆い尽くし、滅ぼさんと襲い掛かる。その後、辺りは再び煙幕に覆われた。

 だが、星霊とはそう容易に攻略出来る存在では無い。

 

 突如として、煙幕の中から閃光が二つウルキオラへと襲い掛かって行った。それも至近距離の為、“響転”が間に合わない。

 

「……ッ」

 

 ウルキオラの右脚と左腕に閃光が掠り、鋼皮を焦がし尽くし出血を伴わせた。

 その張本人である煙幕の奥、白夜叉は咄嗟に防御に回した二つの球体にて直撃を免れたものの、無傷では無かった。服は所々破け、額からは少々血が滴り落ちている。

 

「はぁ、はぁ……あれは危なかったぞ。被害を最小限に抑えなければ今頃私は消し炭になっていたであろうな」

「……賢明な判断だ」

 

 だが、白夜叉はただ防御に徹した訳では無い。あれだけの至近距離から虚閃を放たれたのだ。無傷で相殺出来る方が可笑しいだろう。

 白夜叉はダメージを覚悟でわざと(・・・)二つの球体で防御し、残り二つの球体で反撃に転じたのだ。有る意味博打だろう。

 結果的にそのダメージ覚悟の博打は成功し、ウルキオラにも傷を負わせる事が出来た。

 

「ま、お互いにどっこいどっこいと言う所だの」

「………」

 

 白夜叉の不敵な笑みから零れた言葉。それにウルキオラは何も言わず、己の出血をした箇所を見ていた。

 

「……そうか」

「……何?」

 

 あれだけ高密度だったウルキオラの霊圧が更に重く濃くなって行く。まだ本気の中に更に奥の手を潜ませていると言う事か。

 白夜叉は身構え、ウルキオラの次の攻撃に備える。勿論、此方の攻撃準備も終えている。

 

 

 

「やはり、俺は貴様を見誤っていた様だ」

 

 ーーー突如、彼とその斬魄刀から翠の掛かった黒い霊力が発現した。

 

 

 

(……次は一体何をする気だ? いや、あれは彼奴の刀に己の霊力を喰わせている(・・・・・・)?)

 

 ウルキオラの次なる一撃への動作に白夜叉は訝しむ。

先程の指先に霊力を収束させて放つ一撃とはまた違う、別次元の一撃。

 翠に包まれた黒い霊力はウルキオラの辺りを飛び回り、徐々にそれは斬魄刀へと凝縮されて行く。

 ウルキオラが斬魄刀を振るう為に横薙ぎの構えを取り、正確に狙いを定める様に翠の双眼で白夜叉を捉える。そして不意に彼は呟く。

 

 この技が代名詞でもあった彼を真似る様に。

 

 

 

「“月牙ーーー」

(ッ! 拙いっ!)

 

 

 

 再び本能による警告のアラートが悲鳴を上げる。白夜叉は四つの球体達を白夜叉の前方に置き、完璧な防御体制を作る。

 だが、それはかの技に対して無意味な事であったーーー

 

 

 

 

 

「ーーー天衝”」

 

 

 

 

 

 横薙ぎによる絶対的な一撃。

 翠の掛かった黒い霊力が放つ一撃に完璧な防御体制は容易く崩れ、白夜叉の身体を横に切り裂く。

 

「ガッ、ハァ……ッ!」

 

 白夜叉は口から吐血し、大きく吹き飛ばされる。だが、その身が横に真っ二つになる事は無かった。

 ウルキオラから放たれた“月牙天衝”が直撃する寸前に、僅かに後方へと退いたのだ。そうしなければ今頃白夜叉の身体は文字通り、横へ真っ二つになっていたであろう。

 

「……ほう、あの一撃を僅かに退く事で致命傷を避けるか。英断だ」

「……ゴホッ、恐ろしい一撃だったぞ。直撃していれば消し炭どころか死んでいたの」

 

 口から吐血している中、戦慄による冷や汗をかきながら体制を整える白夜叉。あの一撃は規格外どころかそれを上回っている。アレを連発で使わされていたら恐らく自分は敗北の二文字を喫していたであろう。

 

 そんな白夜叉の心中を他所に、ウルキオラの内心は驚愕の一色に塗り潰されている、何て事は無かった。

 彼自身、何故“月牙天衝”を放つ事が出来たのかは分からない。だが、彼には“月牙天衝”という技が自然と身に染み付いている様であった。

 

 まるで『最初から知っていて、今の今まで思い出せなかった記憶』の様に。

 

(……黒崎一護、此れはお前の仕業なのか……?)

 

 ウルキオラは記憶の中に存在している彼に問う。しかし、その彼からの返答は無い。する訳が無い。

 

 そして、自身の持つ斬魄刀の“名”も“月牙天衝”の発動と同時に彼の記憶に刻み込まれていた。

 

 

 

(……この斬魄刀の名は“天月”)

 

 

 

 “天月”それはまるで黒崎一護の卍解である“天鎖斬月”を捩った様な名前であった。

 そして、彼の斬魄刀である“天月”は既に始解の状態であると言う事。これも常時解放型である黒崎一護の始解“斬月”と同様であった。

 

 この斬魄刀については後から対処しておこう。そう思い自己完結したウルキオラは視線を白夜叉に向ける。

 

「……この一撃に対しても貴様は生き延びた。ならば礼として見せてやらねばならんな」

 

 ウルキオラの指先を斬魄刀で少し切り付け、指先からは血が流れ出る。

 それをウルキオラは白夜叉に対して向け、莫大な霊力を収束させて行った。

 

(先程の一撃の後は何だ……? アレよりも更に嫌な予感がするのは気のせいか?)

 

 白夜叉のその予感は直ぐに悪寒へと変わる。今までの戦いの中で最も酷い警告音を本能から察知出来たからだ。

 ウルキオラの指先からは超が付く程の莫大な霊力が指先に収束して行く。規格外の霊力の収束に腕から翠の電流の様なものすら迸っている。その中で、ウルキオラの口から懐かしむ様に言葉が発せられた。

 

「かつて、俺達十刃には虚夜宮(ラス・ノーチェス)の天蓋の下で禁じられていた事が二つ有った」

 

 

 

 一つは、【十刃の為に存在する虚閃】

 

 もう一つは、【第4十刃以上の帰刃】

 

 

 

「……まさか」

「そうだ。俺が今から放つのは【十刃の為に存在する虚閃】だ」

 

 白夜叉の嫌な予感の原因はこれである。ウルキオラから放たれた翠の閃光はただでさえ白夜叉すら下手をすれば致命傷を与える代物だ。それを上回る閃光など白夜叉の想像では到底追い付かないだろう。白夜叉からは青褪めた顔しか伺えなかった。

 

 白夜叉の感じたソレは先程の“月牙天衝”の比では無い。

 

(ッ! 迎撃するしか無い! せめて相殺せねば!)

 

 最早回避や防御は不可能と判断したのか、白夜叉と四つの球体の其々の強大な一撃の威力を最大まで増大させる為、霊力を一点に集中させた。

 

 そしてお互いにそれを収束し終えーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“四色の超速閃光(フォース・オーバー・レイ)”」

 

「“王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー絶対破壊の閃光を打ち出したーーー

 

 

 

 




ウルキオラの判明した情報

:ウルキオラが月牙天衝を放てる事

:ウルキオラの斬魄刀の名は“天月”
※解号不明、常時解放型。ウルキオラは何故か名を知っていた。例外の中の例外。






安全第一のどーでもいい妄想

今回のお題:ポケモンの金銀版に出て来るレッドが強すぎる件

捕まえたてのホウオウ(Lv70)でレッドのピカチュウ(Lv81)に挑んだら、10まんボルトで「こうかはばつぐんだ!」と「きゅうしょにあたった!」で一撃で沈められてしまった思い出がある(震え声)


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7.決闘後

更新が遅れて申し訳ありません。
大学の合宿の最中でしたので、これからも不定期更新となります。
こんな駄作者ですが、お許し下さい。


「い、幾ら何でもやり過ぎなのですよおぉーーーッ!!!」

 

 黒ウサギが叫び、彼女の持つハリセンがウルキオラの頭を捉えようとした。

 

「煩い」

 

 サクッ、という軽い音と共に彼の斬魄刀の刃先がハリセンに突き刺さる。そしてそれを横に斬る事でハリセンを真一文字に斬り裂いた。

 

 ハリセン一号が犠牲になった瞬間である。

 

「く、黒ウサギのハリセンが……」

 

 自身のツッコミが迎撃されハリセンが犠牲になった事実に両手と両膝を地に付けて落ち込む黒ウサギ。そして見事なまでにツッコミ迎撃スキルを発揮したウルキオラはそれを冷たい目で見据えていた。

 

「な、だから言ったろ? ウルキオラに対して考え無しでツッコミを入れるなって」

「……はい」

 

 黒ウサギの落ち込む姿をニヤニヤと笑みを浮かべながら十六夜が言う。その言葉に全く反論出来ない黒ウサギは唯々肯定するしか無かったのであった。

 

「まあ、黒ウサギの気持ちは分からなくはないな。何せさっきの一撃でゲーム盤が崩壊したんだからな。正直死ぬかと思ったぜ」

「ええ、十六夜君の言う通りよ」

「うん」

 

 その十六夜のフォローに便乗する飛鳥と耀。表情に出さずとも、その声音は少々不機嫌な感情が込められていた。

 

 

 

 ウルキオラと白夜叉が放った閃光は(まさ)しく星を砕く一撃。その閃光がお互いに衝突した時の余波にゲーム盤自体が耐えられる筈もなく、空間に次々と亀裂が入り崩壊した。ゲーム盤が崩壊した事により決闘は強制中断、結果的に引き分けという形に終わった。

 ウルキオラはその事に関して不満を漏らす事は無かった。決闘に関してはウルキオラが終始圧倒していた事は誰から見ても揺らぐ事は無い。それに彼は勝敗に囚われる様な戦闘狂(バトルジャンキー)では無いのは間違い無いし、彼が勝敗として捉えていたのは黒崎一護との戦いだけだ。

 それよりも彼の頭の中に浮かんだ疑問はこの斬魄刀“天月”と“月牙天衝”だ。

 何故この技が撃てるのかは一切不明だ。だがウルキオラにはその証拠を掴む手掛かりを知っていた。

 

 斬魄刀が始解や卍解を解放する為には己の精神世界に入り、自身の斬魄刀との対話をする必要がある。卍解は兎も角、始解はその対話によって“名”を聞き出す事は必要不可欠だ。しかし、ウルキオラの斬魄刀は既に始解に目覚めており、彼自身も斬魄刀の“名”を知っている。

 思考すればする程、益々謎が浮かんでしまう現状にウルキオラは内心で舌打ちをしていた。だがそれを解決する方法が有るだけまだマシな部類だと思い、思考を打ち切った。

 

 今は目の前の問題に視点を移さねばならない、と。

 

「して、私とおんしの決闘は中断となった訳だが……その力の出処を是非とも知りたいものだの」

「黒ウサギも同じでごさいます!」

「ああ、あれ程とんでもねえ力が何処から来ているのかは俺も知りたいな」

「あら、それは私も同じよ」

「うんうん」

 

「………」

 再び白夜叉の私室に戻った部屋で、ウルキオラは一対五の状態で問い詰められていた。その鬱陶しい五人の視線にウルキオラは不快な表情を作り、訊き返す。

 

「……何故知る必要が有る?」

「ふふ、あの決闘の時におんしは十刃やら虚夜宮(ラス・ノーチェス)やらと不思議な単語を言っておっただろう? それが気になっただけだの」

「まあ、俺はウルキオラが何らかの組織に所属していた事は予想していた。その組織の事を是非とも教えて貰いたいな」

 

 迂闊だ、とウルキオラは内心で舌打ちを打つ。十六夜は兎も角、白夜叉との決闘で余計な事を口から零すべきでは無かったと思っていた。それもこの様な面倒臭い事になるなら尚更だ。

 

「断る」

「それは何故?」

「態々教える必要が無い。例え貴様らが知ったとして得な事など一つも無い」

 

 ウルキオラはそれを断固として断った。理由を聞かれても以上の理由から話そうとしない。

 そしてそれを見ていた飛鳥は我慢がならず、思わず立ち上がりウルキオラに命令した。

 

「〜〜〜もう! 焦れったいわね! つべこべ言わずに教えなさい(・・・・・・・・・・・・・)!」

 

 飛鳥から発せられた言霊はウルキオラに響き、その固い口を開かせて喋らせる。

 

 筈だった。

 

「……所詮はその程度の力だ。俺には通じん」

「!? そんな!」

 

 ウルキオラの口から喋らせるつもりであったソレは彼に対して全く通用しなかった。初めて自身の力が通じなかった事に飛鳥は驚愕する。

 第一、ウルキオラは星霊に匹敵する力を有しているのだから、通じない事は必然である。

 

「……私の力が通じなかったのは貴方が初めてよ」

「……見た所、その力はお前の霊格に比例している。お前より格下の相手ならば幾らでも通じるが、格上の場合それは意味を成さない。精々、相手を見誤らない事だ」

「………」

 

 ウルキオラの忠告に冷水を浴びせられた様な感覚を得た飛鳥は黙り込み無言で座る。

 それを見たウルキオラは視線を白夜叉に向ける。その目には呆れていると言う感情が籠っていた。

 

「……癪な話だが、有る程度の範囲ならば教えてやる」

 

 ウルキオラは諦めたかのような声で了承する。正直、この情報から自身に不利益を齎す事はしたくない。だが、此方側が妥協しなければこの五人は永遠にしつこく聞いて来るだろう。常に付き纏われるよりも有る程度の餌を与えて離れさせる事の方がメリットが有る。これがウルキオラの妥協案であった。

 

「お、話してくれるのか?」

「……話すよりも、此方の方が手っ取り早い」

 

 すると、ウルキオラは自らの左目に手を掛け、如何にも抉り出そうとする仕草を取った。その突然の行為に、問題児達はギョッとする。

 

「ちょ、ちょっと何をするつもりなの!?」

「……嫌ならば見るな」

「取り敢えずお嬢様と春日部は見ない方が良いな。黒ウサギも目を閉じとけ」

「は、はい」

 

 そう言いながらウルキオラのその行為は止まらない。空気を読んだ十六夜は、両端の飛鳥と耀の目を塞ぐ。一応、黒ウサギにも注意しておく。白夜叉は「私は問題無いぞ」と言い平然としていた。

 そして、左目を抉り出したウルキオラはその眼球を握り潰した。

 

「“共眼界(ソリタ・ヴィスタ)”」

 

 ウルキオラがそう呟くと、目の前に映像が現れる。その映像には仮面が特徴の怪物が映っていた。その怪物に飛鳥が訝しげに問う。

 

「この怪物は何?」

「……こいつは(ホロウ)(プラス)であった魂魄が堕ちた姿だ」

「魂魄と言う事は悪霊の様なもの?」

「大まかに言えばそうだ。そして、こいつらは餌として人間の魂魄を喰らう」

「なっ……!?」

 

 映像と共にウルキオラが簡単な説明をする。しかし、主食として人間の魂魄を喰らうという事実に驚きを隠せない問題児達。だがウルキオラは更に説明して行く。

 魂魄は基本的に外部からの影響が無い限り、数ヶ月、数年の時を経て胸に孔が開き霊子が霧散し再構成の後に虚へと堕ちる。

 記憶や知能は残り、他者との会話も可能ではあるが心を失っている為、捕食や戦闘時のみ残っている知能を駆使しているだけに過ぎない。当然、例外は存在するが虚の大半は皆が同じなのである。

 

 ウルキオラの簡単な説明が終わり、虚の姿を映している映像が切り替わる。次に映った映像は特徴である仮面は付けているものの、普通の虚とは一際違う姿の虚が映し出された。

 

「……さっきのと雰囲気が違う」

「……魂魄を捕食する欲が強い虚は同じ虚の魂魄を欲し共食いを行う。そして最終的に生き残った虚は“大虚(メノスグランデ)”となる」

「この虚ってのは共食いまでするのか。まあ同じものを喰っていたら飽きるのが普通だしな。ある程度はこういうのも予想出来た」

 

 大虚には3階級が存在する。大型のギリアン、中型のアジューカス、小型のヴァストローデである。

 ギリアンは大虚の中で最下層。数も多く姿も全て同じである。記憶は失い、知能も獣並みである。動きは緩慢で簡単に的になり易いものだが、その力は普通の虚と比べ物にならない。

 アジューカスはギリアンの中で特に強い力を有し、明確な自我を持つ変異種で仮面も異なる。そのギリアンが共食いを続けた結果、アジューカスへと進化する。

 数もギリアンと比べて少なく、その戦闘力はギリアンよりも非常に高いが、その霊力を保つ為に同じアジューカスを喰らわなければならない。それを怠ると再びギリアンへと退化してしまい、確固たる自我を失ってしまうデリケートな存在である。

 ヴァストローデは人間程度の小型の存在。数は極めて少なく、数体しか存在していない。そしてその戦闘力はアジューカスを大きく上回り、護廷十三隊隊長格の死神をも凌ぐ程に強大である。

 

「じゃあウルキオラさんはこの中では最上級のヴァストローデという事でございますか?」

「無論だ」

「つまりその大虚ってのは生存競争を生き抜いた成れの果てと言う事だな」

「……強ち間違いでは無い」

 

 十六夜の皮肉にウルキオラは軽く受け答える。ウルキオラ自身、生き残る為には手段を選ばない事であると自覚しているからだろう。

 そして更に映像が切り替わり、虚とは一線を画するその姿が映し出される。個人としての確固たる姿を得ているそれは存在感が圧倒的に違う。

 

「そして、俺の様に虚の仮面を外し死神の力を手に入れた虚が“破面(アランカル)”だ」

「ほほう、種としての限界と次元を超える事で死神の力を手に入れ、その先の領域に踏み入った者達と言う事だの。どうりでおんしが神格を得ている訳だ」

 

 破面は死神の力を手に入れた一団。破面の特徴は割れた仮面とウルキオラの様に白い死覇装を身に纏っており、自らの真の力と能力を刀状に封印した“斬魄刀”を腰に携えている。その戦闘力は大虚の比では無い。だが、強大な力と引き換えに虚時に保有していた“超速再生能力”を失うデメリットも存在している。

 

「へえ、超速再生能力なんて便利なものを失ってまで力を手に入れるのかよ。破面ってのは利己主義な奴ばかりなんだな」

「……そうでもしなければ生存競争で生き残る事など出来ん」

「そう言えば、破面になったらその超速再生能力を失うのよね? ならウルキオラさんはいつの間に白夜叉との決闘の時の傷が治っているのかしら?」

 

 飛鳥が言うそれは確かに気になる。白夜叉は再生のギフトを所持していた為、決闘後は服も傷も全て治している。だが破面であるウルキオラは再生の能力など無い筈だ。しかしウルキオラには傷が一つも見当たらず、死覇装も全て元通りである。

 するとウルキオラが見せている映像がうっすらと消え、完全に見えなくなった所で、抉り出した筈の左目が一瞬で再生した。その現象に皆が目を見開いて驚愕する。

 

「……強大な力と引き換えに超速再生能力を失う破面達の中で、唯一俺だけが脳と臓器以外の全ての体構造を超速再生出来る」

「なっ……!?」

「おいおい、星霊と同格の力を持ちながら一瞬で再生する能力まで持ってるとは、もう反則級だなこりゃ。ヤハハ」

 

 正直な所、此方側の世界の情報は兎も角、個人の情報は漏らしたく無いのがウルキオラの本音だ。しかし超速再生能力は直ぐに明らかにされるだろうと予想していた為、これは余り痛手となるものでは無かった。

 皆が驚愕している中、十六夜は愉快に笑い面白いと言わんばかりの目で見ていた。その額には冷や汗がうっすらと流れている。もしも敵に回せば生きて帰れるかどうかすら分からない。

 

「なあウルキオラ。お前の世界で所属していた組織ってのは決闘の最中でお前が言っていた十刃ってヤツか? エスパーダはスペイン語で“剣”という意味だが」

「……良いだろう。少しだけ教えてやる」

 

 そう言いながらウルキオラは語りだす。十刃はウルキオラの主である藍染惣右介が選抜した上位十名の事を指し、彼等は破面の中でも隔絶とした強さを持つ。特に、第4十刃以上からは余りの強さ故に藍染達の本拠地である虚夜宮(ラス・ノーチェス)の天蓋の下での帰刃を禁じられている程だ。

 そして十刃までとは行かないものの、数字持ち(ヌメロス)や十刃から落ちた元十刃、十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)など、確かな実力を持っている破面達が山ほどいる。

 

「それはとんでもねえ話だな。お前と同格の存在が十人もいるのかよ。それに帰刃っていうのも気になるな」

「言っただろう、有る程度の範囲だけだと。これ以上は教えん」

「ハッ、随分とケチなんだな」

「お前は自分の切り札を態々曝す程、莫迦では無いと踏んでいるんだが」

「……チッ」

(コイツ、俺が持つ切り札の存在に気付いてやがる)

 

 ウルキオラの言葉に十六夜は舌打ちして黙る。実際に隠している切り札が有ると言えば有る。それを隠し事と言えば可愛いものだが、十六夜の切り札はそんな可愛いらしさは欠片も無い。何せ星を砕く一撃なのだからそう易々(やすやす)と見せる訳にはいかないのだ。ウルキオラの放った“王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)”も星を砕く一撃と同然だった。しかし、ウルキオラはそれを隠す素振りを見せずに放ったのであれば、それは切り札とは言わない。精々奥の手の一つと言う所か。ならばウルキオラの切り札とは何なのか、それが十六夜には分からなかった。聞き出そうにもこの状態なのだから最早意味は無い。

 そこで、十六夜はある事を質問した。

 

「ならウルキオラ。その十刃の中でお前の強さの順位はどれ位なんだ? 流石に最下位は有り得ないし、実力からして第1十刃ぐらいだと思うんだが」

「確かに、私もそれは気になる所だの」

 

 ウルキオラの十刃内の強さの順位。これは一番聞きたい質問だ。それにウルキオラが話しても問題の無い情報だ。そこからウルキオラ自身の情報を探る事は出来ない。だがどうしても黒ウサギや白夜叉、問題児達は知りたかった。そしてウルキオラもその様子に感づいていた。

 

「……面倒だが、(つい)でに教えてやろう」

 

 億劫そうに答え、胸元の死覇装を開く。そして、彼等は今日一番と言える驚愕を味わう事になる。

 開かれた胸元には虚の特徴である孔が首元に存在し、それよりも目を奪われたのが左胸の刻印。

 

 

 

 

 

 

 

 

『4』

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……!?」

「まさか……」

「有り得ないのですよ……!?」

「は……?」

「……4……だと……!?」

 

 その事実に全員が其々の驚愕の色を表す。あの無類の強さを発揮したウルキオラが一番上では無いという事実に。

 

「そうだーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー十刃での強さの序列は、四番目だ」

 

 

 




……4……だと……!?
これ出してみたかった(笑





安全第一のどーでもいい妄想

この小説で癒し(ロリ)がいないと思うのは私だけ?
出来ればオリキャラとして登場させたいなー、と思います。
勿論、『原作沿い、原作を崩壊させない』をモットーで。


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8.彼等のギフト

今回はギフトの説明回です。

注意:ウルキオラのギフトには私の独自解釈がございます。


(……不快だ)

 

 現在、ウルキオラの心中はあまり良いものでは無かった。寧ろ、不愉快に他ならない。

 有る程度の範囲として破面に関する情報だけを公開した。死神や現世、尸魂界(ソウル・ソサエティ)等は公開するつもりは無かったとはいえ、ここまで情報を曝すつもりはなかった。だが、そこで思い出される黒崎一護の言葉。

 

 

 

 ーーーウルキオラ、意外と喋るんだなお前。もっと無口な奴だと思ってたぜ。

 

 

 

 彼の言う通り、現にこうして余計な情報まで話している自分がいる。それがウルキオラにとって不快でならなかった。

 特にあの少年、逆廻十六夜は自分に対して高圧的な態度を取っている。あくまでも自分が上だという主張を示している。

 普段の彼であれば、その様な愚者は問答無用で消し飛ばす対象だ。だが、今のウルキオラには何故かそれが哀れな行為にしか映らなかった。

 逆廻十六夜は理解している。ウルキオラと己の力の差を。白夜叉との決闘に対して、返答に躊躇した自分と即答したウルキオラ。この時点で何方が強者など高が知れている。

 そう、逆廻十六夜は強がっているだけなのだ。実力の差を認めたく無いが為に。

 以前のウルキオラならば、理解の外であっただろう。しかし、心を悟った現在の彼は少なからず理解出来た。だからこそ、哀れな行為にしか映らなかったのだ。

 

(……虚勢を張るなど弱者のする行為だ。これこそ無駄というものだ)

 

 十六夜の無駄を目の当たりにしてウルキオラはそう思っていた。その様な無駄をした所で、意味など無い。

 だが、ウルキオラの心中には引っ掛かるものがあった。

 

 

 

 ーーーならば、余計な情報まで話している俺の行為は無駄なものとして意味が有るのか?

 

 

 

 果たしてどうであろうか。少なくとも無駄な行為ではある。しかし、その無駄な行為には意味が有ると問われれば、それは分からない。理解の外だ。

 そしてもう一つ引っ掛かるものがあった。

 

 

 

 ーーーこの人間、逆廻十六夜の無駄は黒崎一護が棄てなかった無駄と同価値なのか?

 

 

 

 否、であろう。分かる、理解出来る。

 黒崎一護と逆廻十六夜は違う。それこそ同じ人間であるが、根本的に違いがある。

 ウルキオラの決戦の中、彼は圧倒的なチカラを見せつけられても尚、折れる事は無かった。それは、『仲間を護りたい』という強い信念を持っているからだ。『勝たなければならないから戦っている』という覚悟はその信念から来ている。彼の無駄は十分に価値が有る。

 対して逆廻十六夜の無駄は所詮、子供騙しに過ぎない。その場凌ぎの価値の無い無駄だ。彼も彼なりの信念は持っているだろうが、黒崎一護とは比べるまでも無い。

 

 

 

 逆廻十六夜は黒崎一護に劣る。この構造は必然であると、そう思っていた。

 

(……ならば何故、意味も価値も無い無駄な行為をする?)

 

 

 

 ウルキオラはそれが理解出来なかった。黒ウサギによる箱庭の説明の時もそうだ。

 彼は何故、この世界は面白いのかなどと言う質問したのだろうか。それがウルキオラにとって理解し難いのだ。

 まだだ。まだ黒崎一護との優劣を付けるには早計過ぎる。それを理解するまでは優劣を付けるべきでは無い。

 

(……あの時の質問と言い、今の無駄と言い、奴の行動理念は全くもって理解出来ん)

 

 分からない。

 

 心有るが故に分からない。

 

 心を悟っても尚、理解に苦しむ。

 

 心を悟っているから、理解し難いものがある。

 

 それがウルキオラを不快にさせている原因であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『心』を完全に理解するには、まだ果てしない道程である。

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 ウルキオラの衝撃の事実に驚きの色を隠せず呆然とする五人であったが、暫くすると皆が我に帰っていった。

 今日一番の驚愕を味わった事により、これ以上の質問をする気が失せ、ウルキオラへの質問はこれで終了とした。ウルキオラもこれ以上質問しようとすれば容赦無く消し飛ばす気でいたので、丁度良い具合であった。

 

 その後は問題児達が白夜叉に試される側として試練を受ける事となった。ウルキオラと白夜叉の決闘を見ていた問題児達は決闘を選択する気は無く、試練を選んだのだ。まあ言うまでもなく、あの次元の決闘を問題児達が展開出来る訳がない。間接的にだが白夜叉の実力を引き出したウルキオラのお陰で命拾いしたのだ。もしも決闘を選んでいたら死へと真っ逆さまであっただろう。幾ら問題児達とはいえ命を捨てる判断はしない。敗北を受け入れる事は不本意であったが今回ばかりは仕様が無かった。

 その際にステージとしてウルキオラと決闘を行ったゲーム盤を出現させた。どうやらゲーム盤が崩壊してもそのギフトは破壊されない様で、直ぐに再構築出来るらしい。

 そして、問題児達に与えられた試練はこのようなものであった。

 

 

『ギフトゲーム名“鷲獅子の手綱”

 

・プレイヤー一覧

 逆廻 十六夜

 久遠 飛鳥

 春日部 耀

 

・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。“サウザンドアイズ”印』

 

 そのギアスロールが出現したと同時に山脈から現れたのは鳥の王にして獣の王、グリフォンであった。

 このギフトゲームのクリア条件はグリフォンに認められる事である。その方法は二つ。

 

 

 一つは、力比べや知恵比べで勝利する事で屈服させ、その背に跨る事。

 

 二つ目は、その心を認められる事。王であると共に誇り高い彼らに認められて跨る方法である。

 

 

 この試練に真っ先に挙手したのは耀であった。父から聞かされていたグリフォンの勇姿、それを間近で見る事が出来た彼女が挑戦しない手は無かった。しかもこの試練の相手は幻獣。その言語の壁を唯一クリアする事が出来て、尚且つコミュニケーションが取れる彼女はこのギフトゲームには打って付けであった。

 そこで彼女が持ち掛けたのは自らをグリフォンの背に乗せ、誇りを賭けて勝負する事だった。

 内容はこうである。グリフォンが現れた山脈を白夜の地形から時計回りに大きく迂回し、湖畔を終着点とする。グリフォンはそのルートを駆け抜け、耀を振るい落とせば勝ち、耀は背に乗っていられれば勝ちというものだ。

 誇りを賭けて勝負するグリフォンに、その対価として耀は命を賭けると即答した。余りにも突飛な返答に黒ウサギと飛鳥は驚きの声が上がり反対したが、白夜叉と十六夜に止められた。黒ウサギはウルキオラに頼み込む様な視線を送るが、一瞥すらされずに無視された。元々ウルキオラはこの事に口を挟むつもりは無く、唯それを傍観するだけであった。

 今のウルキオラの心中は、人間である問題児達三人がどの様な可能性を持っているのかどうか、それを見極めたかった。流石に黒崎一護と同格の可能性を持っているという高望みはしていない。だが、それなりの可能性を問題児達は秘めているとウルキオラは踏んでいた。

 そうでなければ、この世界に召喚された意味が無い。心持つが故の人間、可能性を持つが故の人間。それは異世界の人間も変わらない。ウルキオラは僅かながらそう信じていた。

 

 『心』を悟った彼の、心境の僅かながらな変化だった。

 

 

 

 

 

 その後のギフトゲームは結果的に耀が勝利した。

 グリフォンの走りは音速を超える。人間の肉体では到底耐えられない負荷が掛かる筈だ。それに加えてゲーム盤であるこの白夜の地形は気温が低く、山脈付近では更に気温が低くなる。そこに音速を超える飛行で駆け抜ける事はそれ以上に体感気温が低くなり、およそ氷点下マイナス数十度となる。それを小柄で華奢な体格である耀が絶えられる筈も無い。

 だが、耀はその負荷に耐え切った。そこで忘れてはいけない要素に気付くだろう。

 

 彼女もまた、人類最高クラスのギフトを保有している事を。

 

 極め付けに終着点を駆け抜けた際、グリフォンの背から手綱を放し落ちて行き、グリフォンのギフトを使う事で宙を階段を降りる様にして舞い降りたのだ。その現象に誰もが絶句した。あのウルキオラすら僅かに目を見開いた程だ。十六夜は他の生き物の特性を手に入れる類だと言っていたが、耀はそれを否定し、友達になった証だと言った。

 ウルキオラの読みは的を射た。やはり、人間はこうでなくてはならない。そう思い人間に対する興味を深めて行った。

 

 ウルキオラがそうしている間に耀のギフトの事で、素晴らしいギフトだと褒め称え、買い取りたい程だと白夜叉が言っていたが、断固として耀は断っていた。そこで黒ウサギがギフト鑑定をお願いしようと頼んだのだが、白夜叉は気まずそうな顔になる。そしてギフト鑑定に関しては専門外どころか無関係だと言った。どうやらゲームの賞品として依頼を無償で引き受けるつもりだったのだろう。

 そこで、白夜叉は問題児達とウルキオラに己のギフトの力をどの程度に把握しているのかを聞いてみた。

 その質問に四人の答えは、

 

「企業秘密」

「右に同じ」

「以下同文」

俺自身の力(・・・・・)ならば全てだ」

 

 こんなものであった。

 

「うおおおおい? ま、まあ私と戦ったウルキオラは兎も角、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それでは話が進まんだろうに」

「別に値段なんていらねえよ。人に値札貼られるのは趣味じゃないしな」

 

 まあ十六夜の言葉には一理ある。それは飛鳥と耀も同じで、ウルキオラもまたそうだった。

 因みにウルキオラが自身の力なら全てと言っていたのは、新たに宿っている別次元の力の正体がまだはっきりしていないからだ。分からないものは分からない。それを理解する為の術はあるので問題無いが。

 すると、妙案が浮かんだのか白夜叉がニヤリと笑う。

 

「ふむ、何にせよ“主催者”として、星霊の端くれとして、試練をクリアしたおんしらには“恩恵”を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」

 

 そう言い、パンパンと柏手を打つ。その音と共に四人の目前に光輝くカードが現れた。

 そこに記述されていたのは、己のギフトを表すネームであった。

 

 

 

 コバルトブルーのカードに、

 逆廻十六夜

 ギフトネーム“正体不明(コード・アンノウン)

 

 ワインレッドのカードに、

 久遠飛鳥

 ギフトネーム“威光(いこう)

 

 パールエメラルドのカードに、

 春日部耀

 ギフトネーム“生命の目録(ゲノム・ツリー)” “ノーフォーマー”

 

 ホワイトブラックのカードに、

 ウルキオラ・シファー

 ギフトネーム“??”

 

 

 

 突如として出現したカードに黒ウサギは興奮したような顔でそのカードを注視した。

 

「ギフトカード!」

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「ち、違います! というか何で皆さんそんなに息が合っているのですか!? 」

 

 そのギフトカードという単語に身も蓋もない返事をする問題児達。息も合っている彼等には問題児として何かしら通じるものがあるのだろう。

 そんな中、ウルキオラだけは己のギフトカードに記述されているギフトネームを見て思っていた。

 

(……成る程、この“??”は恐らく斬魄刀の“名”。だが“名”だけしか記述されていないと言う事は俺の帰刃はギフトでは無いと言う事か……?)

 

 ウルキオラのギフトネームには己の斬魄刀の“天月”(“??”と表示されているが)しか記述されておらず、ウルキオラの帰刃である『黒翼大魔』がギフトネームに記されていない。

 

 何故『黒翼大魔』がギフトとしてカウントされてないのかについてはウルキオラに一つの考察があった。

 元々、『恩恵(ギフト)』は様々な修羅神仏から与えられるもの。人々の信仰から得る恩恵もあれば、星そのものから恩恵を授かる場合もある。

 しかし、虚という存在は恩恵を授かる側では無く、己の力を自ら発現させる側だ。そう、『恩恵』では無く『己の力』だ。

 魂魄と魂魄の喰い合い(殺し合い)、それによる自己の進化、進化によって齎される力。そして破面化する事によって死神の力(神格)を得る。彼ら虚とはその様なプロセスで成り立っている。そこに、修羅神仏からの恩恵など微塵も無い。これがウルキオラの考えていた考察だ。

 だがこの考察には穴がある。それは破面化する際に介したものがある。それは藍染惣右介が手に入れていた“崩玉”の存在である。

 ウルキオラは“崩玉”を介した破面化を行う以前から不完全ながら破面化していた。その後は“崩玉”を介して完全に破面化した。つまり、破面化に関しては“崩玉”から『与えられたもの』なのだ。ならば『黒翼大魔』がギフトの対象となっても可笑しくは無い。

 そこでウルキオラが目にしたのが彼の斬魄刀である“天月”。この存在が『黒翼大魔』をギフトの対象とされていない原因だと考えた。

 実際に、ウルキオラの考察は大体の的を射ていた。

 

 

 

 “天月”の能力の一つ、それは無効化能力(ギフトキャンセル)である。

 

 その能力の影響で『黒翼大魔』はギフトの対象として判別されていない。(正確に言えば阻害されている)

 

 

 

 しかし、新たな力である別次元の力、“天月”は正真正銘与えられたものである為、ギフトとしてカウント(無効化能力の影響で“??”と表示されているが)される。その辺はウルキオラも理解していた。

 この事に関してウルキオラは都合が良かった。ギフトネームの書かれているギフトカードは自らの手札を曝しているのも同然。下手をすればこのギフトカードの所為で己の手の内が発覚してしまう恐れがあるからだ。

 前の世界ならある程度の実力を曝していたので仕方が無かっただろう。しかし現在は全くの異世界に存在している。その全くの異世界で己の手の内を曝すのは愚行というもの。黒崎一護との決戦でこそ全力を出し尽くしてしまっていたが、ウルキオラは基本的に実力を隠すタイプである。だから格下の相手には素手で戦い、同格の相手には初めて斬魄刀を抜く。白夜叉とは圧倒こそしたものの、同格の相手であった故、斬魄刀を抜いた。

 この世界で自分より格上の相手が存在しても可笑しくは無い。それまでは切り札や奥の手を隠しておく。それがウルキオラのこの世界に来てからのプランの一つであった。

 

 ギフトカードを見つめている四人。そこで十六夜がニヤリと不敵な笑みを零しながら呟いた。

 

「成る程な。じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」

「何?」

 

 その言葉に白夜叉が十六夜のギフトカードを覗き込み、驚愕する。そこにあったのは十六夜のギフトネーム“正体不明”。白夜叉は十六夜のギフトネームを見つめ呟く。

 

「……いや、そんな馬鹿な。“正体不明”だと……? いいやありえん、全知である“ラプラスの紙片”がエラーを起こすなど」

「ま、何にせよ鑑定は出来なかったって事だ。俺的にはこの方がありがたいさ」

 

 ヤハハ、と笑う十六夜。その様子を怪訝な瞳で白夜叉が睨む。全知ほどの存在がエラーを起こす事は想定外だったのだ。

 

「ウルキオラ、おんしのはどんなものだ? ギフトカードを借りたい」

「……好きにしろ」

 

 ならばウルキオラはどうだ、と彼のギフトカードを借りる。ウルキオラにしてはあっさり貸したと思っていたが、それは直ぐに分かった。

 

 ギフトネーム“??”

 

「……こちらもこちらで分からん。どういう事だ? こちらも表示こそされているがギフトネームすら不明だとは……」

 

 十六夜のギフトといい、ウルキオラのギフトといい、想定外の事に益々混乱する白夜叉。だが、最終的に“ラプラスの紙片”のエラーと言う事で落ち着いた。

 

 最後に白夜叉の店から出る際に、彼女へリベンジする(むね)を伝えた。白夜叉も受けて立つつもりであった。

 そして、白夜叉からコミュニティの状況を把握しているのかどうかの確認と、魔王と何れ戦わなくてはならないと言う忠告を送る。

 

「まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰れば分かるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが……そこの小娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」

 

 東区画の階層支配者にして最強格の魔王であった白夜叉の忠告。二人は一瞬言い返そうとしたが、彼女の忠告は物を言わさぬ威圧感が込められていた。故に言い返す事など出来なかった。

 

「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。まあウルキオラは全く問題ないだろう。十六夜の小僧は不安要素があるが及第点は超えている。しかし、小娘二人の力は魔王のゲームを生き残れん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだからの」

「……そう、ご忠告ありがと。肝に銘じておくわ。でも次は貴女の本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」

「ふふ、望むところだの」

 

 そして、ノーネーム一行は本拠地へと戻って行った。それを見届ける白夜叉は独り呟いた。

 

「……さて、今のノーネームの惨状を見てどの様な反応をするのだろうか見ものだの。魔王が残した傷跡を見て彼奴らがどう思うか……」

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 白夜叉の店を後にして本拠地に向かったノーネーム一行。彼等を待ち受けていた光景は想像を遥かに絶するものだった。

 

「……ほう、これは中々のものだ」

「っ、これは……!?」

「……おい、黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのはーーー今から何百年前の話だ(・・・・・・・)?」

「……僅か三年前でございます」

「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった街並みが三年前だと(・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーそこは魔王が付けた傷跡という名の死んだ土地と廃墟であったのだから。

 

 

 




序盤で十六夜と一護では一護が上だという描写がありますが、これは現在のウルキオラが心中でそう認識をしているだけで、十六夜も一護と同等の信念を持っています。
その中でウルキオラはまだ心を完全に理解していないので、この様な心理描写となっています。
どうかご容赦を。





安全第一のどーでもいい妄想

明日から大学生です。頑張ります!
そして問題児の新刊が発売。昨日購入して読み終わりました。
内容は見てのお楽しみです!


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9.その瞳は……

一ヶ月ぶりの更新……
本当に遅くなり申し訳ありませんでした。

では、どうぞ。



 それは、本拠と言うには余りにも壮絶なものだった。本拠だった(・・・)というのが正確だろう。

 その光景に、ノーネーム一同は嫌でも反応せざるを得なかった。ウルキオラですら、僅かに眉を顰める程だ。それ程までに、魔王が残した爪痕は大きいものだった。

 しかし、その魔王が残した爪痕にしては余りにも不自然な点が有った。

 

 

 

 ーーー到底、三年前に滅ぼされた光景には見えないからだ。

 

 

 

「……断言するぜ。どう考えても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間を掛けて自然崩壊した様にしか見えない。完全に物理法則を無視してやがる」

 

 そう言いながら、冷や汗をかく十六夜。それも心地よい冷や汗だが。

 飛鳥と耀も風化しきった街並を散策しながら言葉を漏らす。

 

「ベランダのティーセットがそのまま出ているわ。これじゃあ、まるでそこにいた人間がふっと消えたみたいじゃない」

「……生き物の気配が全く感じられない。整備されずに放ってある人家なのに獣が全く寄って来ないなんて……」

 

 その二人の感想は、十六夜よりも重いものだった。黒ウサギは辛い表情で廃墟から目を逸らしていた。

 

「……魔王とのゲームはそれ程までに未知なものでした。恐らく、彼等がこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼等は力を持つ人間が現れると遊び心でゲームに挑み、二度と逆らえない様に屈服させます。僅かに残った仲間達も皆心を折られ……コミュニティから、箱庭から去って行きました」

 

 魔王の力は強大無比なものである。ウルキオラとの決闘にて、白夜叉がゲーム盤を用意したのはこの様な被害を考慮しての事である。もしもゲーム盤の用意などを考慮せずウルキオラとの決闘を繰り広げられていた場合、その周囲は愚か、東区画全域が危機的状況に陥っていただろう。

 黒ウサギはその言葉を紡いでいく内に、その瞳から雫が流れていた。彼女からすれば、あの出来事は心を抉る辛いものだったのだ。それを見ていた飛鳥や耀が気まずそうに顔を背ける。以前のコミュニティの状況を知る訳も無い彼女達に慰めの言葉をかける事など出来ないからだ。ましては今日の内にこの世界に呼び出された彼女達に黒ウサギに声をかける道理など有りはしない。

 しかし、十六夜とウルキオラだけは違った。

 

「魔王……ねぇ。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白くなりそうじゃねえか……!」

 

 魔王が残した爪痕を見て、尚その闘志を燃やす十六夜は手に持っていた手頃な石を握り潰し、その目を爛々と輝かせ、不敵に笑い呟いていた。

 そして、ノーネーム一同の中で最も反応が薄かったウルキオラといえば、

 

 

 

(……成る程、この程度の爪痕しか残せぬとは、随分と底が知れた魔王だ)

 

 ーーー失望していた。

 

 

 

 そう、この様な爪痕を残す類のギフトは大抵『時間操作』系のギフトであろうとウルキオラは予測していた。看破した訳では無いが、大まかに言えばその類のギフトであると分かっていた。

 そして何より、ウルキオラ自身には少なくともその類のギフトを使う存在を知っているからだ。

 

 

 

 

 

 ーーー第2十刃、バラガン・ルイゼンバーン

 

 司る死の形:老い

 

 かつて、ウルキオラの世界に存在した虚圏(ウェコムンド)を支配していた暴君である。

 

 

 

 

 

 そして、彼の持つ能力はあらゆる事象や物体に干渉し、劣化を促進させて彼に接近する動きをスロー化させ、意志を持って触れた物には一瞬で老化、崩壊させる悍ましいものである。

 彼がその気になれば、この程度の光景を作り出す事など造作も無い。いや、それ以上の地獄を作り出す事だろう。それこそ、一夜という程度では無く、ものの数分でこの惨状を上回る結果を残す事だろう。その能力は、護廷十三隊屈指の速さを誇る砕蜂ですら逃れられなかったのだから。

 

 そして、この惨状を『この程度』と称し失望していたウルキオラだが、彼はそれよりも今、目の前に映る光景に対し、疑問を抱いていた。

 

 

 

(……あの女は、何を泣いている?)

 

 黒ウサギが涙を流している光景に。

 

 

 

 ウルキオラには分からなかった。彼女が涙を流してまで、この惨状を残してまで、名無しのコミュニティを守り続けた理由が。それ程目視するのが辛い光景を、彼女は棄てなかった理由が。

 分かる。

 悲しみ、怒り、虚しさ。彼女の心の色はその様な色で染め上げられている。

 理解出来る。

 力が有りながらそれを振るえない、己の無力さと虚しさが彼女の心中に有る事を。

 

 だが、それは理屈だけだ。

 

 ウルキオラには、それがどの様な感情なのか分からない。いや、置き忘れられたと言った方が良いだろう。魂魄となる以前は有ったのかも知れない。だが虚へと堕ちて以来、それは失われてしまった。以降、体験も実感もしたことの無い彼には、理屈を超えたその本質(・・)を理解し、感じ取る事が出来なかった。

 

「………」

 

 ウルキオラが黒ウサギに向かい歩き出す。どう思い、その行動に出たのかは彼にしか分からない。

 彼の心中には黒ウサギを励ますなどと言う甘い考えは微塵も持ち合わせていない。

 

「……何故、涙を流す必要が有る?」

「……え?」

 

 ウルキオラの言葉に、黒ウサギが顔を上げる。その頬には、涙によって濡らされていた。

 

「魔王とやらの脅威を見せつける為ならば結構だ。だが、少なくともここにいる者達は貴様の同情をする為に此処に来た訳では無い」

「……っ」

 

 ウルキオラの冷たい言葉が、彼女に突き刺さる。彼女の表情に影が差し始めていた。そして、黒ウサギ自身にもその言葉の意味は分かっている事だ。

 

「その様な下らん感情を持ち合わせている暇が有るのなら、さっさと本拠に案内しろ。時間の無駄だ」

「……は、ぃ」

「……ちょっと、ウルキオラさん。幾ら何でも言葉の限度というものが有るわ」

「ちょっと言い過ぎだよ、ウルキオラ」

 

 ウルキオラの更に辛辣な言葉に、黒ウサギの声は弱々しく窄んで行き、顔を俯かせる。それに対し、飛鳥と耀が怒るものの、ウルキオラはそれを意に返さず踵を返して歩き出す。

 その際に、こう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それに、今貴様がする事は後ろを見る事では無い筈だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 その呟きに、黒ウサギが再度顔を上げる。だが、背を向けているウルキオラは言葉を紡いで行く。

 

「……後ろを見るな、とは言わん。だが、貴様の掲げるべきものはそんな下らんものでは無かった筈だ」

「!」

 

 ウルキオラのその言葉に、黒ウサギは思い出す。彼女の掲げている目標は何だったのかと。それは、『後ろを見る事』で有っただろうかと。

 

 

 

 否、『コミュニティの再建』であった筈だ。

 

 

 

「貴様は何の為に餓鬼共をこの世界に召喚した? 貴様の掲げるべきものの為だろうが」

「あ……」

「ならば、今の貴様に後ろを見る余裕など無い筈だ」

「……」

 

 そうであった。ウルキオラを除いた三人の問題児達を召喚するギフトを与えた“主催者”は何と言っていたであろうか。

 

 

 

(彼ら三人は、人類最高クラスのギフト所持者だ)

 

 

 

 そう、その言葉に狂いは無かった。三人には、壊滅したこのコミュニティを再建する優れた技量と手腕を持っている。ウルキオラもこの問題児達を遥かに上回る能力を持っている。

 

 そして彼等には、『希望』という名の可能性を持っている。

 

 影が差していた黒ウサギの顔は少しずつ晴れて行く。そして、最後にウルキオラはこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵は未知数、だが貴様は一人では無い。

何を畏れる必要がある?

恐怖を捨てろ、前を見ろ。

進め、決して立ち止まるな……

 

退けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ。

 

それを、忘れるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルキオラはそう言い、ノーネーム本拠の方角へと静かに歩き出す。

 

「……ウルキオラさん」

 

 ウルキオラは先程の言葉を残して、彼女に何を伝えたかったのだろう。それは、ウルキオラのみぞ知る。

 しかし、少なくとも黒ウサギには届いていた。励ましというものでは無いが、その言葉が彼女にとって何よりも心に響いた。それを彼女が理解した頃には、既に影は綺麗に晴れていた。

 

「へえ、アイツからあんな言葉が出るとはな」

「正直、不思議ね」

「オサレポエム……」

 

 問題児達も、ウルキオラの意外な言葉に不思議そうな顔をしていた。耀が何か言っていた様だが、気にしない。

 そして、肝心の黒ウサギと言えば、

 

 

 

「……有難うございます。ウルキオラさん……」

 

 

 

 ふっと微笑み、ウルキオラの背中を見ていた。

 そう、今の彼女に後ろを見ている暇など無い。コミュニティ再建の為に、前を見よう。

 

「御三方ー! 黒ウサギが本拠へとご案内します! 今度は寄り道せずにちゃんとついて来て下さいよー!」

 

 黒ウサギは笑顔を振りまき、問題児達を誘導する。その様子に問題児達はお互いに顔を見合わせ、微笑む。そして彼女の後を歩きながら追って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーノーネーム・居住区画、水門前。

 その後、彼等ノーネーム一行は廃墟を抜ける。そしてそのまま居住区を素通りし、十六夜がギフトゲームで勝利した戦利品である水樹の苗を設置する為に貯水池に来ていた。そこでは既に、リーダーであるジンとコミュニティの子供達が水路を掃除していた。すると、子供達の中の一人が黒ウサギに気付く。

 

「あ! 黒ウサのねーちゃんお帰り!」

「ホントだ!」

「お帰りー!」

 

 その声に、子供達はワイワイと騒ぎながら黒ウサギの元に群がる。

 

「眠たいけどお掃除頑張ったよ!」

「ねえねえ、新しい人達ってどんな人!?」

「強い!? カッコイイ!?」

「Yes! とても強くて可愛い人達ですよ! では皆に紹介するから一例に並んで下さいね」

 

 

 そこで黒ウサギがパチン、と指を鳴らすと、子供達は一糸乱れぬ動きで横一列に並ぶ。コミュニティに居る子供達の数は全員で一二○人。その内、約六分の一である二○人前後がこの場に居た。その中には人間だけで無く、猫耳や狐耳の恐らく獣人であろう少年少女も居た。

 

(おお、マジでガキばっかだな。半数は人間以外のガキって所か?)

(じ、実際に目の当たりにすると想像以上ね。これで六分の一ですって?)

(……むぅ。私、子供嫌いなのに大丈夫かなぁ……)

 

 問題児達は三者三様の感想を心中に呟く。コミュニティの一員になる以上、彼等と共に生活しなければならないのだ。子供嫌いだろうが何だろうが、それは個人の問題だ。早々に改善するのが筋と言うものだ。

 黒ウサギがコホン、と咳払いし彼等四人を紹介する。

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、ウルキオラ・シファーさんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるギフトプレイヤーです。ギフトゲームに参加出来ない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼等の為に身を粉にして尽くさねばなりません」

「あら、そんなのは別に良いわよ? もっとフランクにしてくれても」

「駄目です。それでは組織は成り立ちません」

 

 そこまでの気遣いは無用だと飛鳥が申し出るが、それを黒ウサギが厳しい声音で断じる。今日一日で一番真剣なのかも知れない。

 

「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼等の齎す恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きて行く以上、避ける事が出来ない掟なのです。子供の内から甘やかせばこの子達の将来の為になりません。子供達もそれを重々承知していますから」

「……そう、分かったわ」

 

 やはり、コミュニティが崩壊して以降、今日までの三年間たった一人で支えて来たものが言わせるのだろう。このコミュニティで余裕と言える余裕など無かったのだから、必然的にこのコミュニティのルールもそうなったのだろう。

 そしてプレイヤーに課せられた責任は、想像を超える重さだと言う事だ。

 

「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言いつける時はこの子達を使って下さいな。皆も、それでいいですね?」

 

「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」

 

 黒ウサギの言葉に子供達は耳鳴りがする程の大声で返事をする。その元気良さが伺える大声の返事に、四人は音波兵器を受けた感覚がしたのだった。

 

「ヤハハ、元気が良いじゃねえか」

「え、ええ。そうね」

(……うぅ、本当にやって行けるかなぁ、私)

 

 問題児達の中で笑うのは十六夜だけであり、他の二人はなんとも言えなさそうな複雑とした表情をしていた。

 そして、その三人の反応を他所に、ウルキオラは目の前の子供達を見て、不思議に思っていた。

 

(……この餓鬼共、瞳から絶望を感じさせられない……。何故だ?)

 

 ウルキオラが子供達の瞳を見て分かった事、それは子供達の中で誰一人として、絶望していないと言うことだった。

 

(幾ら餓鬼とは言え、感情が乏しい訳が無い。何かしら感情というものに影響がある筈だ……)

 

 彼等には親が居ない。少なくとも、親が居ない彼等子供達が何も感じない等と言う事は有り得ない。

 そして三年前に、魔王の襲来にて親を失った。そのショックは、十分絶望に値するものである筈なのだ。しかしこの子供達を見る限り、絶望している節が無い。

 

(……理解の外だ。だが……)

 

 

 

 ーーーこの瞳から、奴の姿を重ねたのは何故だろうか。

 

 

 

 黒崎一護。

 奴の瞳は常に強く有り続けていた。例え絶望の状況下に置かれても、奴は絶望しなかった。『無駄』を棄てなかった。

 

 ーーーいや、もう一人いた。

 

 井上織姫。

 黒崎一護という希望が居たことで強く有り続けた人物。それは脆く儚いが、強い。

 何よりも、彼女はウルキオラに『心』というものを教えてくれた人物だ。

 

(……この餓鬼共の瞳は、奴らと同じ色をしている)

 

 強く有り続けようとしている者と、『希望』が有ることで強く有り続けられる者。この子供達からは、その様な瞳をしていた。

 彼等は限り無く不安である事に間違い無い。だが、黒ウサギという保護者を筆頭に、コミュニティのリーダーであるジン、そして問題児達とウルキオラ。彼等という『希望』が有るからこそ強く有り続けられる。

 

 

 

 孤独(ひとり)では、無い。

 

 

 

(……勝たなければならぬ為に戦う。奴はそう言っていた。そしてーーー、)

 

 『護る』、という行為にどれだけの意味が有るのかは分からない。その為に戦った事など無かったウルキオラにはそれがどれだけの実感が有るのかも分からない。

 

「それでは苗の紐を解いて根を張りますので、十六夜さんは屋敷への水門を開けて下さい!」

「あいよー」

 

 黒崎一護が何故自らの身を削り、護るべきものの為に戦い続けたのか。何故、護るべきものの為に『無駄』を棄てなかったのか。

 

「ちょ、オイ! 少しはマテやゴラァ!! 流石に今日はこれ以上濡れたくねぇぞ!」

「うわお! この子は想像以上に元気ですね♪」

「あははは! 十六夜のにーちゃんびしょ濡れだー!」

「びっしょびしょだー!」

「あははは!」

 

 

 

 その答えは、この子供達を護り続けた先に有るのかも知れない。

 

 

 

(ーーー『護る』、か)

 

 

 

 これは明確な道筋を見出した訳では無い。何も見えない暗闇の中で、手探りで探し当てる様なものだ。その中で、答えは掴めるのか。それとも、掴めずに徒労に終わるのか。

 

(……試すしかあるまい。その『無駄』を……)

 

 ウルキオラは進み続ける。『心』という本質(こたえ)をその(てのひら)で掴む為にーーー。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 ーーーそして、その日の夜。ノーネーム本拠の中で、ウルキオラの姿を見たものは居なかった。唯一、ウルキオラが決めたであろう部屋には、書き置きが残されてあった。内容はーーー、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【三日三晩は帰らん】

 

 ーーーこう、書かれてあったのだった。

 

 




ウルキオラの口から斬月のオッサンの名ゼリフ言わせたかった……
という作者の欲望が現れた今回の話でした。
そして、謎の失踪(笑
とは言っても、ウルキオラが何をしに消えたのかは分かるかと思います(汗



更新が大幅に遅れた理由としては、大学に入学して以降、授業に加えクラブの試合とスケジュールが次々と立て込み、執筆に全く専念出来なかった、という所です。
授業には慣れて来たものの、クラブの試合が憂鬱でした。
まあ、相手がとんでもない先輩だったもので……(震え声
ええ、秒殺されましたとも(白目、震え声

さて、それは置いといて……

現在はゴールデンウィークなので、ゆっくりダラダラしております(笑
深夜アニメ見放題です(笑
そして出来れば、その間にもう一話更新したいものです……
では、次回にて会いましょう。


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10.天月の正体、そして黒き仮面

今回は私の独自解釈がございます。
その点だけを踏まえてお読み下さい。

では、どうぞ


 とある山奥。人気の無い場所にて、一人斬魄刀の両端を両手で添え座禅を組み瞑想している者がいた。

 

 第4十刃、ウルキオラ・シファーである。

 

 何故、彼がこの様な人気の無い山奥に来ているのか。それは、斬魄刀『天月』と対話をする為であった。

 

 ウルキオラの復活、異世界移動、全体的能力の飛躍的上昇、斬魄刀の変化、斬魄刀の始解、斬魄刀の名、その現象はウルキオラでは原因を掴められる要素が一切無い。

 唯一、この現象の原因を知るのは己の斬魄刀だけだと判断したウルキオラはノーネーム本拠から抜け出し、遠く離れた人気の無い山奥へとやって来たのだ。その際に書き置きを残していたので、幾らかは大丈夫だろう。本来、書き置きなどする筈が無いウルキオラだが、これも『無駄』の一環としてやった事だ。

 明日に控えているギフトゲームならば問題は無いだろう。雑魚同然の敵に、飛鳥、耀、ジンの三人ならば苦戦を強いられるこそすれ、負ける事は無い筈だ。

 ジンは元々非戦闘員故に仕方が無い。耀と飛鳥は強力なギフトによるアドバンテージがあるものの、まだ戦闘経験の薄いとなると幾ら相手が雑魚(ガルド)とは言え圧勝など出来る筈が無い。最低でも誰か一人は脱落するだろう。しかし、負けはしない。それがウルキオラの見解だった。

 そしてその間に、斬魄刀との対話をしておくべきだとウルキオラは考え、この山奥へと足を踏み入れていたのだ。この場所ならば、誰にも邪魔されることは無い。念の為に探査回路(ペスキス)を使用したが、ウルキオラ以外の霊圧の反応は無かった。

 そして斬魄刀を添えて座禅を組んで瞑想しているウルキオラは、既に己の精神世界へと赴いていたのだった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 ーーー精神世界

 

「……ほう、初めて精神世界に来たが、寄りにも寄ってこの場所とはな」

 

 その誰も居ない世界の様子を見て、ウルキオラは一人呟いていた。

 その場所は、仮初めの天蓋に浮かぶ三日月の光が白黒の空間を照らし、ドーム型の巨大な建物にその周りは砂丘が広がっていた。

 

 ーーーその世界は、虚夜宮(ラス・ノーチェス)の天蓋の上であった。

 

 此処はウルキオラは絶望的な力の差で黒崎一護を圧倒し、そして彼の完全虚化にて圧倒され、敗北した場所。

 

 そして完全に消滅する間際に、心を悟った場所でもあった。

 

 その因縁深い場所が、ウルキオラの精神世界の舞台であった。その事実に、ウルキオラは複雑な面持ちであったのだった。

 

「………」

 

 ウルキオラは腰に挿さっている斬魄刀を一瞥する。この斬魄刀は一体何を知っているのか。そして、一体何を語るのか。それはこの斬魄刀にしか分からない。

 

「……出て来たらどうだ?」

 

 突然、ウルキオラがそう呟く。普通の者から見れば何を一人で呟いているのか、と思うだろう。しかし、ウルキオラは既に感じ取っているからだ。

 

 彼の斬魄刀の気配を。

 

「久方振り……いや、初めましてと言うべきだな」

 

 不意にウルキオラの後方から声が聞こえた。それを聞き、ウルキオラは静かに後ろを振り返る。

 そこには黒いコートを纏い、フードでその表情ごと覆っている青年の姿が居た。フードを覆っている所為でその表情は伺えない。

 

「……成る程、貴様が天月か」

「その通りだ。俺の名は天月、黒崎一護とお前の力によって生まれた斬魄刀だ」

 

 ウルキオラの問いに青年、天月は肯定と共に自己紹介をした。その雰囲気、霊圧はウルキオラですら強大なものだと認識する程だった。

 

「……俺がこの世界に来た理由は承知の筈だ」

「無論だ。お前が何故、黒崎一護の力を携えこの異世界へとやって来たのか。それを俺は知っている」

「……ほう」

 

 天月のその言葉に、ウルキオラは眉を顰める。どうやら天月は事実を隠す素振りは愚か、自ら話そうとする姿勢を取っていた。天月からすれば、余り重要な事実では無いのかも知れない。

 そこで天月が、ウルキオラに提案をする。

 

「教えてやっても良いが、その代わりに俺の頼みを聞いてくれるか?」

「……内容によれば、聞いてやろう」

「なら良い。まあ頼みと言っても、これはお前にとって無益なものじゃないって事だけは言える」

 

 天月は口元に不敵な笑みを作りながらそう言う。何を企んでいるのかは不明だが、その時はウルキオラが直々に対処すれば良いだけの事だ。

 

「じゃあ、先ずは順を辿って教えてやる。最初は何故お前が復活した大本(おおもと)の理由からだ」

「………」

「まずお前はこの精神世界の舞台でもある虚夜宮(ラス・ノーチェス)の天蓋の上にて、完全虚化した黒崎一護に敗北し、止めを刺されずにそのまま消滅した」

「……その時点で、俺はあの世界から完全に消え去った筈だ」

「いいや、違うな」

「……何だと?」

 

 以前の世界からの完全なる消滅。それはウルキオラ自身分かっていた事だが、それを天月が否定した。その事にウルキオラは少しだけ目を見開き、訝しげな表情を作る。

 

「確かにお前の存在は消滅した。だがそれだけだ(・・・・・)

「……どういう意味だ?」

「あの世界にはまだお前そのもの(・・・・)は消滅していなかった、と言う事だ」

「!」

 

 それはウルキオラにすら知ることの無かった事実であった。ウルキオラはその事実に僅かながらに驚愕する。

 

「お前そのもの、と言っても残留思念程度のものしか残っていなかったが」

「……そうか」

「そして、お前の残留思念がある場所に流れ着く前に、現世の空座町ではお前達十刃を率いていた藍染惣右介が侵攻していた。という事は知っているな? まあ浦原喜助の転界結柱によって本物の空座町は尸魂界へと隔離されていたが」

「無論だ」

「話を長くするのは好きでは無いから割合するが、藍染惣右介は崩玉の覚醒と融合に至り、更なる次元へと進化した」

「……藍染様が」

 

 ウルキオラは虚夜宮の守護を任されており、現世への侵攻の状況などは知る由も無かったが、崩玉を覚醒させた事に関してはウルキオラも驚愕せざるを得ない。

 

「そして、その超越した力を持って相対していた護廷十三隊達を退け、本物の空座町が隔離されてある尸魂界へと侵攻した」

「………」

「その際に断界を渡り、『拘突』を破壊した」

「……まさか」

「そう、お前の残留思念はいつの間にか断界内に漂着していた」

 

 断界とは、現世と尸魂界の間にある空間の事である。そしてそれは虚などの外敵を防ぐ為に『拘流』という霊体を絡め取る気流で満たされ、更に7日に一度『拘突』という強力な侵入者排除気流が現れる。外界よりも濃密な時間軸が働いている為、外界との時間差は2000倍にも及ぶのである。

 

「お前の残留思念が漂着した時期は、丁度黒崎一護がその断界にて修行を終え、藍染との決着を着けた直後だ」

「……修行だと?」

「そう。お前と戦った後、黒崎一護は現世へと移動し藍染を迎え撃った。

だがお前との戦い以降、虚化の性能が低下していた一護は十分に戦えず、藍染の部下である市丸ギンに見逃された」

「……奴も、少なからず絶望していたという事か」

「その通りだ。今の一護では、崩玉の覚醒と融合に至った藍染を倒す事など不可能だった。しかし、一護には最後の可能性が残されていた」

「……崩玉と融合した藍染様をも圧倒する可能性を、か?」

「そう、『最後の月牙天衝』だ」

「……最後の、月牙天衝……」

 

 崩玉と融合した藍染を殺す事はほぼ不可能となり、打つ手が無くなったと思われた矢先に一護の父である黒崎一心が伝えた可能性。それが『最後の月牙天衝』である。その習得を可能にしたのは藍染が断界の『拘突』を破壊し、『拘流』を一心が食い止めていたからだ。

 

「そして、『最後の月牙天衝』を会得した一護は崩玉と融合した藍染すらも上回る圧倒的な力を手にした」

「……奴が、藍染様を上回ったのか……」

「どうした? 黒崎一護が藍染惣右介を上回った事が、不思議に思えるか?」

「……いや。奴ならば、藍染様を超える存在になり得るかも知れんと思っていなかった訳では無い」

 

 ウルキオラ自身考えていた訳では無かったが、無意識に頭の何処かで僅かにそう思っていたのだ。護る為に戦い続けた奴が、『無駄』を棄てなかった奴が、ウルキオラの主である藍染惣右介を超えるかも知れないと。

 そして天月からの話ではあるが、黒崎一護は藍染惣右介を超えた。何故かウルキオラには、自然にその事実を受け入れられる余裕があったのだ。此れも、『心』を悟った影響なのだろうか。不思議なものだ。

 

「その後、一護はその『最後の月牙天衝』を放ち、藍染をこれ以上に無い程に追い詰めた。そして最後は戦いの際に打ち込んでおいた浦原喜助による封印の鬼道が発動し、藍染自身も崩玉により力を奪われ封印された」

「……藍染様の最後は、その様なものだったか……」

「まあ、あくまで封印だ。その後は二万年の間、『無間』にて投獄される羽目になったが。だが、話の視点はそこでは無かったな」

「……構わん」

 

 己の主である藍染が黒崎一護との戦いを繰り広げたという事実もウルキオラにとっては収穫があるものだった。それ故に、ウルキオラは話の脱線を気にする事は無かった。

 

「さて、その『最後の月牙天衝』だが、その威力は余りにも規格外だった。それを踏まえる前に、その時の断界は『拘突』を藍染に破壊され、断界内に二○○○時間ものタイムラグが生じていたのは分かっているな?」

「……無論だ。だが貴様の話を聞く限り、俺の残留思念はその戦いが終わった直後だと言う。『拘流』を食い止めた事によって黒崎一護の修行が実現したと言っていたが、再び『拘流』が発生した断界に俺の残留思念が漂着出来る筈が無い」

 

 ウルキオラは破面故に、死神の特性も持っている。その死神の特性を持っている為、この事に関する知識も持っているのは当たり前である。それ故に藍染が断界内にて『拘突』を破壊したことによる二○○○時間のタイムラグが生じる事も知っていた。

 そしてウルキオラが言う通り、断界には虚などの外敵を防ぐ為に『拘流』という霊体を絡め取る気流がある。『拘突』を破壊したからとは言え、『拘流』がまだ存在しているのならばウルキオラの残留思念が漂着する可能性など零に等しい。

 

「そう。タイムラグはまだ残っていたが、再び『拘流』が発生した断界では、お前の残留思念が漂着出来る訳が無い」

「……成る程、そこで『最後の月牙天衝』か……」

「その通り。一護の放った『最後の月牙天衝』の斬撃はあらゆる空間を引き裂き、断界にすら届いた。その時に『拘流』ごと消し飛ばしたのだ。

極め付けに、余りにも規格外な威力だったものだから、丸々二週間は『拘流』が発生しなくなった」

「……その間に、俺の残留思念が漂着したのか」

「そう言う事だ」

 

 これでウルキオラが復活に至る大本の理由が判明した。だが、これだけでは無い。まだ黒崎一護の力が宿っている理由と異世界にやって来た理由が残っているのだから。

 

「さて、次にお前が何故、黒崎一護の力を宿していたか、という理由だったな」

「……だが、その断界の状況で大体は察することが出来る」

「それはそうだ。何せ断界を守る為の役割を担う『拘突』と『拘流』が消え去っているんだからな」

「恐らく、俺が黒崎一護の力を宿しているのは『最後の月牙天衝』の霊圧と霊力が断界内に集束し、俺という残留思念に引き寄せられ、融合したからだろう」

「流石は第4十刃、明答だ」

「……幾ら分散していったものとは言え、藍染様すらも上回る霊圧と霊力が集束し、俺という残留思念と融合すれば、残留思念から元の魂魄へと再構築出来る事など容易い」

「追加補足しておくと、一護の修行に丸々二○○○時間を使った訳じゃ無い。あの時点で、残り二週間分の時間が余っていた。二週間もあれば、魂魄から元の超高密度の霊体へと再構築する事も余裕で可能だ。

それに、分散した『最後の月牙天衝』の霊圧と霊力の8割方が断界内に集束していたものだから全体的なポテンシャルの上昇にも繋がり、俺という斬魄刀も生まれた訳だ」

 

 二つ目の理由であるウルキオラが黒崎一護の力を宿していた事に関してはあっさりと解決した。そして、最後は何故この世界にやって来たのか、と言うものなのだがこれに関しては天月は神妙な表情をしていた。表情は見えないが。

 

「三つ目の事なんだが、これは正直俺にも不明瞭な部分が多い」

「……何?」

「お前の霊体の再構築が完了して三時間程経過した後だった。断界内に突如として奇妙な空間の裂け目が発生した。何らかの術式が施されていたが、鬼道でも縛道でも無かった。どちらかと言えば、穿界門や黒腔に似通っていたが」

「……異世界と異世界を繋ぐ穴の様なものか」

「その裂け目を不思議に思っていた俺だったが、その時点からお前の意識が目覚め始めていた。そして、お前の意識が覚醒すると同時に、あの裂け目に吸い込まれたと言う事だ」

「……それが、俺がこの世界にやって来た原因という訳か」

 

 三つ目はどうやら天月も分かり切っていない。だが、三つ目の異世界にやって来た理由は正直知ろうが知るまいがどうでも良かったのだ。重要なのは一つ目と二つ目の理由だけだ。

 そして、話を終えた天月がウルキオラを見据え、予め言っておいた頼み事を提示する為に口を開いた。

 

「話も終わった事だが、改めてお前に頼みたい事がある。何、小難しい事じゃない」

「……言ってみろ」

「お前にはとある奴を屈服させ、習得して貰いたいものがある」

「……何だ?」

 

 

 

 

 

「ーーー『卍解』だ」

 

 

 

 

 

「何だと?」

 

 卍解の習得。それは斬魄刀を実体化させ、直接戦い屈服させる事で習得出来る。

 だが此処は精神世界。少なくとも始解の習得なら可能だろうが、卍解の習得など不可能であった筈だ。

 

「生憎と、俺は例外の存在でな。一段階目(・・・・)の『卍解』なら精神世界での屈服でも習得出来るんだよ。

不思議とは思わなかったか? 対話をした事など無い筈なのに、斬魄刀が始解の状態だと言う事に」

「………」

 

 成る程、対話もした事が無い斬魄刀が最初から始解の状態という謎も、どうやらこの斬魄刀の例外が働いているらしい。

 この世界でもいつウルキオラを倒せる存在が現れても可笑しくは無い。ならばその想定外の事態に備えを増やす事も吝かでは無い。

 

「……良いだろう。だが、一つ聞く」

「何だ?」

「卍解を習得する。その事に意味は有るのか?」

 

 ウルキオラの問い、それはこれが意味の成す『無駄』なのだろうか。それとも意味の成さない『無駄』なのか。唯それだけであった。

 天月はその問いに、不敵な笑みを浮かべて答える。

 

「無論だ。この世界にはちと厄介な存在がいる」

「………」

「今此処で言ってやっても良いんだが、そろそろお出ましの様だ」

「!」

 

 天月が不敵な笑みと共にそう言った瞬間、ウルキオラの背後から突如として強大な霊圧を感じ取った。そして、ウルキオラはその霊圧を知っていた。

 

(……この霊圧、あの時の……。まさか……)

 

 感じ取った覚えのある霊圧。それはウルキオラの感覚からすればつい最近のもの。

 

 

 

 

 

『……よォ。久しぶりって所だなァ、ウルキオラァ……』

 

 

 

 

 

 響き渡るその言葉に、ウルキオラは静かに後方を向いた。

 

 

 

 【白】

 

 それは肌と死覇装。ウルキオラと同じ白い肌と死覇装。

 

 【黒】

 

 それは仮面。深淵の闇から落とされ、闇を裂く白いラインが入った黒き仮面。

 

 【双角】

 

 それは双角。歪に突き出した双角のフォルム。

 

 【長髪】

 

 それは白き長髪。穢れ無き美しき白の長髪。

 

 

 

 それを彷彿とさせるものは唯一つ。

 

 

 

 ーーー『完全虚化』

 

 

 

「……!」

 

 ウルキオラは目を見開く。そして今日一番の驚愕かも知れない。それ程までの、圧倒的存在。先程戦った白夜叉など可愛く見える。

 

 魔王など、生温い。

 

『折角呼び出されたんだァ……。テメェが俺達の卍解の使用者に相応しいか、見せて貰おうじゃねぇかァ!!!』

 

 

 

 

 

 瞬間、何かが弾けた。

 

 




やっちゃった……(震え声
とんでもないヤツ呼び出しちゃったよ!(錯乱

さて、ウルキオラはどうなってしまうのか!?
次回に続く!


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11.第4十刃VS完全虚化

いよいよ今作のラスボス(!?)である完全虚化の白一護との戦闘です。

※今回の注意点
完全虚化は『白一護』と表記します。


では、どうぞ。


 弾けたのは、お互いの地面。

 

 完全虚化ーーー白一護がその手に持っていた斬魄刀であろう黒い天月と、ウルキオラの白い天月が鍔迫り合いになったのは、刹那の時であった。鍔迫り合いによって、暴風の如き風圧が虚夜宮の天蓋の上全体に吹き荒れる。

 

『クハッ!!』

「………」

 

 反転した黒い瞳が、ウルキオラを捉える。それを、翠の瞳で眺めるウルキオラ。

 今此処に、幕を下ろした筈であろう戦いの火蓋が切られようとしていた。

 

 

 

 

 

 ーーー再戦、開始ーーー

 

 

 

 

 

『オラァ!!!』

「ッ……」

 

 鍔迫り合いが長く続く事は無かった。以前の戦いでウルキオラの切り札である刀剣解放・第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)を上回った完全虚化の膂力は計り知れない。ウルキオラは吹き飛ばされる形で相手との距離を取った。

 

『ヒャッハァァァァァァ!!』

「!」

 

 白一護の奇声と共にその斬魄刀から迸る赤を纏った黒い月牙。響転を使わずに、唯の脚力によって一瞬でウルキオラとの間を詰めた白一護はその勢いのまま、黒い天月を振り落とす。

 それに対抗する為、ウルキオラは天月から翠を纏った黒い月牙を迸らせ、再び鍔迫り合いとなる。その後は、ウルキオラと白一護による響転を織り交ぜて姿を消し合う超高速の打ち合いが始まった。

 基本スペックは全て完全虚化状態の白一護にアドバンテージがある為、ウルキオラは一合一合の打ち合いにて全てを受け流しで対応するしか方法が無い。数十合打ち合った後、最後は最初と同じ鍔迫り合いで止まったが、形勢は若干ウルキオラの不利となっていた。

 

『オイオイ、こんなモンかァ!?』

「……ちっ」

 

 その最中、白一護の呆れた様な発言と共に膂力によって再び吹き飛ばされるウルキオラ。此方側の形勢が不利である事を悟っている彼は僅かに舌打ちする。

 そして、着地しながら白一護の様子を伺ったウルキオラは僅かに目を開く。

 

 

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

 

 天に向かっての咆哮。

 それは、莫大な霊圧による咆哮。

 

 その咆哮だけで、白一護を中心とした地形が破壊されて行く。

 何より、ウルキオラは知っている。完全虚化した相手に何者と問い、その返答がこの咆哮だった事に。

 

 そしてこの咆哮こそが、アレ(・・)の予備動作である事に。

 

「……!」

 

 それを悟ったウルキオラは即座に虚閃を放つ為、指先に莫大な霊力を収束させて行く。

 ウルキオラの放つ虚閃は、星霊である白夜叉の放つ閃光を相殺出来る程に威力が高い。二、三流程度の死神なら、この砲撃で駆逐出来るだろう。

 

 

 

 相手がその程度であれば、の話だが。

 

 

 

『ーーーーー』

 

 やがて、天に向かった咆哮を終えた白一護は、その黒い仮面をウルキオラへと向ける。

 それと同時に、双角へと莫大な霊力が収束された。

 

 逸早くそれを察知し、先に虚閃を放つ準備を終えていたウルキオラは、白一護よりも先に虚閃を放つ。

 しかし、計り知れない膂力と共に霊子操作も速い白一護相手では、僅かの誤差でしか無かった。

 

 

 

 ーーー【虚閃】

 

 刹那、紅を纏う白の閃光が翠の閃光を埋め尽くした。

 

 

 

 拮抗は無い。翠は抵抗虚しく紅白へと呑み込まれ、そのままウルキオラを呑み込まんと迫り来る。

 だが、ウルキオラはその場から一歩も動かなかった。目の前に紅白の閃光が迫って来ているのにも関わらず。

 

 

 

 ウルキオラには分かっていた。

 

 「………」

 

 紅白の閃光が、直ぐ横を通り過ぎる(・・・・・・・・・)事に。

 

 

 

 逸らしていた(・・・・・・)

 以前の戦いにおいて、刀剣解放・第二階層の状態であるウルキオラの黒虚閃(セロ・オスキュラス)を消し飛ばした完全虚化の虚閃に、幾ら大幅強化された通常状態のウルキオラの虚閃であろうと到底太刀打ち出来る筈が無い。

 だがウルキオラはそれを見越した上での行動を取っていた。

 以前の戦いにおいての相手の行動パターンをある程度読み、こちら側から先に仕掛ける。相手が幾ら霊子操作において速かろうが、僅か一瞬でもこちらから先制出来ればそれで良い。

 

 虚閃の対抗策は、『初動』であるからだ。

 

 『動作』の最も弱い部分は『初動』だ。同時に、『動作』に置いて最も重要な部分である。

 走る事に置いても、『初動』が遅ければ加速が遅れ、スタートダッシュが出来ない。『初動』を潰されると、それ以降の行動が全て崩され何も出来なくなる。

 攻撃においてもそう。刀を振る時の『初動』が遅ければ、相手に読まれ容易く躱されてしまう。『初動』を潰せば、それは致命的な隙となる。

 

 要はその原理だ。

 

 ウルキオラが先に逸らす角度から虚閃を放ち、白一護が放つ虚閃の『初動』を潰したのだ。

 威力、攻撃力共に通常のウルキオラを遥かに上回る故、『初動』を潰していても消し飛ばす事は愚か、此方が逆に消し飛ばされる事は自明の理。しかし、それはウルキオラにとって予想の範囲内だ。

 

 ウルキオラの狙いは、初めから『軌道を逸らす事だけ』だったのだから。

 

 そして狙い通り、虚閃は逸らせた。その隙をウルキオラは確実に突いて行く。

 ウルキオラは掌を中心(・・・・)に虚閃を意識しながら霊力と霊圧を収束させ、その霊力の形は斬魄刀程の質量を持った剣の形へと変化する。

 

 迅速に、尚且つ的確に。

 

 直様ウルキオラは響転を発動させ、白一護の遥か後方へと移動する。その様子を白一護は動く事無く、唯それを見ているだけ。

 ウルキオラはそのまま、掌に収束させた霊力の剣を投げ付けた。

 

 

 

剣虚閃(グラディウス・セロ)

 

 

 

 その霊力の剣は第三宇宙速度の速さで音を置き去りにし、白一護へと肉薄する。斬魄刀と同等の質量を持った霊力の剣が白一護へと衝突する寸前ーーー

 

 

 

 ーーー翠の火柱が辺りを焼き尽くした。

 

 

 

 その翠の火柱は、打刀の切先から物打までの部分のように見えた。かつて山本元柳斎重國が放った『破道の九十六・一刀火葬』を彷彿とさせるそれは広範囲かつ高威力であった。

 以前のウルキオラならば、工夫を加えた虚閃など思い付く筈も、ましてはそれを使う事など無かっただろう。

 

 

 

 ーーー浅知恵を効かせたつもりだろうが、無駄な事だ。

 

 

 

(……その浅知恵を、俺が効かせる事になるとは……

これは心を悟っただけでは無く、奴への敗北の影響なのかも知れん)

 

 そう言っていた己が、まさかその浅知恵(無駄)を効かせるなど、思いもしなかった事だ。弱者(黒崎一護)強者(ウルキオラ・シファー)に勝つ為の策を、今度は敗者(ウルキオラ・シファー)勝者(完全虚化)へ勝つ為に練っているのだから。

 しかし、完全虚化という存在(規格外)はこの程度の浅知恵(無駄)では傷一つ付かないだろうとウルキオラは察していた。

 

 ならば、ここで畳み掛けるのみ。

 

 間髪入れずに天月から翠の月牙を迸らせ、月牙天衝を放つ。それによって何かしらの行動を取るであろう白一護へ、今度は月牙天衝と『剣虚閃(グラディウス・セロ)』を織り交ぜて隙を作り、止めを刺す。これがウルキオラの作戦プランであった。

 以前の戦いにおいて、ウルキオラは完全虚化の唯一の弱点を見出していた。

 

 それは仮面の双角のどちらかを斬り落とす事。

 

 あの時、ウルキオラの捨て身の攻撃によって双角を斬り落とされた一護は完全虚化の状態が解除され、超速再生によって胸の孔が塞がった。それが内なる虚である白一護ではどうなるのかは分からないが、どちらにせよその一撃で勝敗を決する事になる。

 ウルキオラは天月から月牙を迸らせ、月牙天衝を放とうと横薙ぎの構えを取るーーー

 

 

 

 

 

『おい』

 

 ーーー事は無かった。

 

 

 

 

 

「!」

 

 響転。探査回路(ペスキス)をすり抜けるそれはウルキオラの眼前へと一瞬で肉薄していた。

 

 ーーー速過ぎる。

 

 経験はしていたとは言え、やはり筆舌に尽くし難く、この一言だけでしか表現出来ない。

 

 

 

『何だァ? そのチマチマした攻撃はよォ!!!』

 

 ーーー【一閃月牙】

 

 

 

 一撃に特化した月牙天衝の威力を保ちつつ簡略化したそれを白一護がウルキオラへと振るう。

 

「……ちっ」

 

 対するウルキオラは舌打ちと共に反射的に攻撃を中断(キャンセル)し、月牙を出す事によって防いだ。

 

 だが、それが悪かった。

 

『悪手だなそれはァ!!!』

「……ッ」

 

 白一護は斬魄刀を持っていない方の手で、ウルキオラの斬魄刀を持っている手首を捕らえる。これで距離を取る事も斬魄刀で攻撃する手段も封じられた。

 ウルキオラはこれも反射的に反対側の手で『剣虚閃(グラディウス・セロ)』を作り出す。

 

 

『ヒャハッ!!』

「ぐ……」

 

 

 だがその手すら、白一護の斬魄刀によって手首を突き刺され封じられてしまう。白一護の言う通り、月牙での防御は悪手であったのだ。

 

『ほらよ、オマケだァ!』

「!」

 

 そして双角へ莫大な霊力の収束。打つ手が無いだけで無く、零距離。

 

 ウルキオラは白一護の『一閃月牙』での攻撃に対して月牙での防御では無く、そのまま月牙天衝を放たなければならなかった。そうしていれば、力負けしようとも距離が取れる手段が残り、判断する一瞬の間が取れたのだ。

 これは、ウルキオラの失策であった。

 

 ーーー【虚閃】

 

 その結果、ウルキオラは紅白の閃光へ呑み込まれて行くーーー

 

 

 

盾虚閃(エスクード・セロ)

 

 

 

 ーーー直前でウルキオラは封じられたまま、それを放った。

 

 巻き起こる盾の形状をした翠の閃光と紅白の閃光。先程の虚閃同士の拮抗が無きものとは違い、紅白の閃光に押されながらも相殺した。その場に、両者の姿は居ない。

 

 

 

 

 

 再戦開始から、三十六秒間の出来事である。

 

 

 

 

 

「……」

 

 ウルキオラは響転で柱の上へと移動していた。そして、己の失態に対し内心で舌打ちする。

 

(……この俺が、まさか失態を犯すとは)

 

 咄嗟の判断により、虚閃の性質を剣から盾へと変換して放つ事によって難を逃れた。

 『盾虚閃(エスクード・セロ)』は完全虚化の放つ虚閃を防ぐというコンセプトで開発した防御及び緊急回避型の虚閃である。

 元々、『剣虚閃(グラディウス・セロ)』と『盾虚閃(エスクード・セロ)』はウルキオラが精神世界へと赴く前に万が一の可能性を考慮し、その備えとして開発していたものだった。急造品である故に完成とは程遠いが、その急造品は完全虚化状態の白一護との戦闘で大いに役立つ事になった。

 以前のウルキオラであれば、この特殊な虚閃を開発する事は出来なかった。この二つの虚閃を開発し扱う為には、繊細かつ複雑な霊子操作技術と複数処理能力(マルチタスク)が備わっていなければならないという前提条件が有った。しかし、此度の全体的能力の大幅強化は霊子操作技術と複数処理能力の両方が大幅に向上する事にも繋がり、二つの虚閃を可能にした。

 

 

 恐らく、それによってウルキオラは油断していたのかも知れない。

 

 油断、それはこの上なく無駄なものだ。

 

 

(……幾ら無駄であろうと、油断は完全な無駄(・・・・・)だ。黒崎一護は無駄こそあれ、油断はしなかった)

 

 ウルキオラは目を閉じ、己の中に有る油断を完全に払拭した。冷静かつ的確な切り替えこそ、油断を払拭する確実は手段なのだから。

 

 ウルキオラには、この戦いを通して今の状態で何処までやれるのかを試していた。ただ、その試す為の台が星霊である白夜叉に、現在対峙している完全虚化状態の白一護というある意味豪華な面子である事に間違いは無いが。

 どうやらこの状態であろうと、大体の大立ち回りは出来るらしい。この通常状態の為、圧倒こそされたものの、咄嗟の判断と機転で倒される迄には行かなかった。

 

 この状態での検証は終わった。

 

「………」

 

 ウルキオラの向かい側、相対している柱に黒き仮面と双角が象徴の白一護の姿がそこにあった。戦いを求めている彼は、今の状態のウルキオラでは物足りない筈だ。

 しかし、この通常状態でここまで善戦したウルキオラが帰刃の状態になれば、恐らく勝てるだろう。

 

 既に、この戦いの結末は決まっているのだ。

 

 それでも白一護がウルキオラへ戦いを挑むのは、その(さが)なのだろう。結末など関係無く、本能のまま戦いに赴きたいという(さが)が。

 ウルキオラは本能のまま戦いを興じる事を好まない。彼は破面であり、唯の虚では無いのだから。理性を持ち、冷静かつ的確に相手を翻弄するのがウルキオラの戦闘スタイルだ。それは彼が虚の時代から身に染み付いていた鉄則とも言える。

 

 

 

 ならば己の鉄則に従い、その本能に応えよう。

 

 

 

 ウルキオラは天月を波紋無き水面の如く静かに構え、斬魄刀の(きっさき)を白一護へと向ける。

 

 そして静かに、解号を唱えたーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー(とざ)せ、黒翼大魔(ムルシエラゴ)

 

 

 




※ウルキオラの開発した新たな虚閃。
これには繊細かつ複雑な霊子操作技術と複数処理能力が必要となる。

『剣虚閃(グラディウス・セロ)』
掌に霊力と霊圧を収束させて斬魄刀と同等の形状をした剣を作り上げる。
破道の九十六・『一刀火葬』と同等の威力を誇る。
近接武器としても使用可能。

『盾虚閃(エスクード・セロ)』
掌に霊力と霊圧を収束させて使用する防御及び緊急回避型の虚閃。
完全虚化の虚閃を防ぐ程の耐久力を持つ。
星を砕く威力の攻撃にすら耐えられる為、重宝される事になる。






という訳で、次回は帰刃状態のウルキオラと完全虚化状態の白一護の決着となります。



最近思っていること。
ウルキオラをブラック・ブレットの世界とクロスさせたいなー、という妄想が浮かんでいます(笑
なんとなくプロットまで作成してしまっていました(笑
問題児が有る程度更新されれば、此方を書く可能性もアリです。
まあ、あくまで予定は未定ですが(汗

では、次回にて。


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12.黒翼大魔

よし出来た!

いよいよウルキオラと白一護の完全決着です。
ではどうぞ。


 ーーー(とざ)せ、黒翼大魔(ムルシエラゴ)

 

 

 

 その解号と共に黒い雲が空を覆い尽くし、翠を纏った黒い霊圧の雨が降り注ぐ。それはまるで虚無を象徴するかの様に悲しみに濡れ、泣いている様だった。

 そして、空を覆い尽くしていた黒い雲が晴れると同時に現れるその姿。

 

 まず目に付くは黒き翼。それは片翼だけで三mを超える巨大さであり、堕天使の如く美しい。

 次に、仮面の名残である兜の欠片が四本角の兜へと変容している。帰刃の影響で元に戻ったと言っても過言では無い。それに応じて仮面紋も大きく変わっていた。

 そして服装。通常のものと大きく変わり、下部がスカート状のものに変わっている。

 最後は虚としての孔。その位置は変わらないが、そこから一直線に血が流れている様に見える。

 

 

 

 『黒翼大魔』

 それは、麗しき白の堕天使。

 

 ーーー黒き髑髏の仮面を被りし死神に応えんと、虚夜宮の天蓋の上にてその姿、降臨せんーーー

 

 

 

『ハッ、漸くお出ましかよ』

 

 白き堕天使の降臨に、歪な双角の形をした黒き仮面を被った死神、白一護が鼻で笑いながら迎え入れた。仮面の下は凶悪な笑みに染められ、潜む獣の如き本能が煮えたぎっている事が感じ取れる。

 

「………」

 

 その凶暴性を目の当たりにしながらも白き堕天使、ウルキオラは翠の双眼で静かに見据えていた。

 

 相対するそれは、まるで『激流』と『静水』

 

『ウォーミングアップは済ませたんだァ。まだ本気すら出してねぇ俺に、テメェがそうでなきゃあこちとらつまらねぇんだよ』

 

 白一護は仮面の下に凶悪な笑みを浮かべつつ、そう語る。それは虚勢では無く、実際に白一護は完全に力を出し切っていない。寧ろ此方から合わせていた(・・・・・・・・・・)程だ。

 しかしウルキオラが帰刃したことにより、その必要性が皆無になった。これで漸く己のペース(本能)で戦うことが出来る。

 

「……そうか」

 

 ウルキオラはそれに静かに返答した。そこに動揺など無い。

 完全虚化がこの程度である筈が無い。もしもそうであれば、興醒めにも程があるというもの。『剣虚閃』や『盾虚閃』といった対策も立てていないだろう。

 

『ケッ、抑揚の無え返事だなァ。まあ、確かにお喋りはここまでだなーーー』

 

 

 

 ーーーじゃあさっさと殺り合うか。

 

 

 

 その言葉を皮切りに両者からの霊圧解放。それだけで大抵の雑魚を屠れる凶悪かつ冷酷な霊圧。

 空の上に海が有るかの様な重圧と深き深淵の闇の如き重圧。死と死がぶつかりせめぎ合うそれは世界の終焉を告げている様にしか感じ取れない。

 白一護は自然体のまま構えない。黒い天月も下げている状態であり、次の動作が窺えない。

 対してウルキオラは右手に霊力と霊圧で光の槍『フルゴール』を形成する。ウルキオラもまた、自然体。

 

 両者が大きく一歩を踏み出す。その足音は終焉をカウントダウンする音。

 一歩、二歩、三歩、四歩、五歩と歩きーーー

 

 

 

 ーーー五歩目で両者の姿が掻き消えた。

 

 

 

 刹那、両者の居た柱が粉々に砕け散る。だがそれだけで無く、辺りに有った柱まで粉々に砕け散って行く。それに加え、刹那の応酬故に依然として両者の姿が視認出来ない。

 だが、それであっても互いによる刹那の応酬は止まらない。どちらか片方が武器を振るえば大地が大きく裂け、凄まじい揺れが起きる。互いの武器がぶつかり合えば暴風が吹き荒れ、空間を歪める。

 常識を遥かに超えた次元の戦闘に箱庭の有数の実力者、白夜叉がそれを目撃すれば(たちま)ちこう言い、卒倒するだろう。

 

 

 ーーー二桁以上の魔王同士の戦いを見ている様だとーーー

 

 

『ヒャッハアアアアアァァァ!!』

「………」

 

 刹那の応酬の中、白一護は本能のまま戦う事に喜びを感じ奇声を上げる。それでもウルキオラは一言も発さずに戦闘継続だけに集中する。

 

 しかし、刹那の応酬は永遠に続く訳では無い。

 状況に僅かな動きが有った。そう、ほんの僅か。

 そのほんの僅かだが、押していたのだ。

 

 ウルキオラ・シファーが。

 

 此度の大幅強化、敗北の影響にて彼は大きく成長した。それは帰刃にも然り。

 現在のウルキオラの帰刃状態は、以前の刀剣解放・第二階層のスペックを大きく上回っていた。一護の力を得た今、それは以前より比較にならない程に強化されていた。何よりも、敗北の影響で浅知恵などの勝つ為の対策を立てていた事が大きい。そのアドバンテージは直ぐに現れる事になる。

 

 やがて鍔迫り合いによって刹那の応酬が終わり、漸く両者の姿を視認出来る様になった。

 だが、刹那の応酬を終えたこの時点でまだ十秒も経っていない。それ程までの超高速戦闘であり、より上位の次元の戦闘へとなっていた。

 

 鍔迫り合いの状態のまま両者は響転を発動し、距離を取る。

 その距離を取った一瞬でウルキオラは指先に、白一護は仮面の双角に、両者は虚閃を撃つ準備を既に終えていた。

 

 

 ーーー【虚閃(セロ)

 ーーー『黒虚閃(セロ・オスキュラス)

 

 

 同時に放たれる巨大な閃光。紅を纏った白き閃光と翠を纏う黒き閃光が衝突し、お互いを喰い尽くさんと拮抗する。以前は紅白の閃光が勝利し、翠を纏う黒き閃光を呑み込んでいた。

 

 だが、今回は違った。

 

 勝る筈で有った紅白の閃光は相手の閃光を呑み込めないでいた。逆に翠を纏う黒き閃光が紅白の閃光を呑み込まんとしていたのだ。

 そして僅かに紅白を呑み込んだ翠を纏う黒き閃光は火柱と化し、辺りを火の海へと変貌させる。

 そこから白一護が現れ、響転で距離を取り様子を見ていた。そのまま膠着状態が続くかに思われた。

 

 

 

 ーーー『剣黒虚閃(グラディウス・セロ・オスキュラス)

 

 

 

 火の海から突如として飛び出して来た斬魄刀程の霊力の剣。その色は『黒虚閃』と同じ翠と纏う黒。それが第三宇宙速度で白一護へと迫り来る。対して白一護は何を思ったのか、左の掌を黒き剣へと(かざ)した。

 

 

 ーーーそして起こる。剣先の形をした黒き火柱が辺りを呑み込み喰い尽くす。

 その範囲、威力共に『剣虚閃(グラディウス・セロ)』を二回り程上回っていた。

 

 

「………」

 

 ウルキオラは黒き火柱より離れた空中へ響転で移動してその姿を窺っていた。当然ながら、これで仕留めたとは微塵も思ってはいない。だが、以前の『雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)』の威力を上回っていた『剣黒虚閃』を喰らっていて尚無傷であれば、また降り出しに戻る事になる。そうなれば最後、対策の一つとして開発していた『アレ(・・)』を使う他に勝つ方法は無い。

 徐々に黒き火柱が晴れて行き、様子を窺う事が出来る様になる。そこに姿が露わになった白一護の様子を確認したウルキオラは僅かに眉を顰めた。

 

 

 

 白一護が翳した左手の皮膚が僅かに焦げている以外、ほぼ無傷であった。

 

 

 

 やはり規格外は規格外か。攻撃性能の高さもそうだが、以前の戦いで『雷霆の槍』を素手で握り潰した事だけは有る。その防御性能も尋常では無い。

 

 やはり『アレ(・・)』を使う他あるまい。

 

 ウルキオラはそう判断し、己の体内にて幾つもの霊力の塊を作り出すべく収束し始める。この虚閃は発動までに多少の時間を要する為、その間は攻撃を凌ぐ防戦一方になる。

 

『クハッ! 帰刃でこの程度かァ!? 温いなァ!!』

 

 当然白一護がそのチャンスを逃す筈も無く、響転にてウルキオラへと肉薄し、再び武器同士の鍔迫り合いとなる。そして互いが響転を使う刹那の応酬へと再び発展する。

 

 姿が視認出来ない超高速戦闘は先程よりも過激さを増していた。

 白一護がたった一振りで幾つもの【一閃月牙】を作り出し、ウルキオラへと襲い掛かる。それをウルキオラは三mと巨大な黒き翼を羽ばたかせる事で掻き消して行く。

 一方でウルキオラは白一護が動くであろうポイントを先読みし、響転で死角から『フルゴール』を振るう事で防戦でありながら押される気配を感じさせない。

 

『今と言いさっきと言い相変わらずチマチマした攻撃だなァ!!!』

 

 その戦法が気に入らないのか、白一護は凶暴な笑みでその攻撃を巧みに躱して行く。獣の様な動きでありながら無駄の無いその動きは何処か美しさすら感じさせられる程だ。

 

『オラァァッ!!!』

「………」

 

 白一護の怒号と共に黒き天月が振り下ろされ、ウルキオラごと『フルゴール』を吹き飛ばす。これによって距離が空き、二度目の刹那の応酬は終わりを告げる。

 

『ーーーーー』

 

 そして続け様に白一護が虚閃を撃つ準備を終え、ウルキオラに向かって放たれる。丁度動きを止めたウルキオラがその閃光を認識した時には既に目の前にまで迫っていた。

 

 ウルキオラはそのまま紅白の閃光に呑まれて行った。

 

 以前の戦いの時は止めとして放たれ、内臓を全て消し飛ばされて重傷を負った。それが原因となりウルキオラの霊力は底を尽き、消滅していったのだ。

 ウルキオラに多大な打撃を与えた虚閃が再び直撃してしまう事になった今、どれ程の傷を負うのかは分からない。

 そして紅白の閃光が徐々に消え、ウルキオラの姿が露わになって行きーーー

 

 

 

 

 

「………」

 

 ーーーその場には無傷(・・)のウルキオラが立っていた。

 

 

 

 

 

 黒き翼を用いた防御。(かつ)ての戦いで、虚化した黒崎一護の月牙天衝を難なく受け止めたそれは、此度の戦いにおいて完全虚化の虚閃を無傷で受け止められる程の強度に増していた。

 

『……無傷だァ?』

 

 その結果に白一護は仮面の下の凶暴な笑みを崩し、訝しむ様な表情へと変わる。星を砕く威力を持った閃光が無傷で防がれたのだ。これで表情を崩さないのであれば、それは異常だ。

 そこでウルキオラが静かに言葉を発する。

 

「……この戦いの結末は既に貴様も悟っている筈だ。

貴様の虚閃を俺が無傷で防ぐ事も、貴様にとっては予想の範囲内だろう」

『……』

 

 ウルキオラの言葉に、白一護は何も言わない。否、言う必要が無い。

 

 彼は本能で戦いながらも、相手が己よりも上回っている事など既に悟っているのだから。

 

 例え白一護が天月でウルキオラを直接切り裂こうとしても、それは僅かに斬った程度でしかならないだろう。それ程までにウルキオラの全体的性能は上昇していた。

 規格外(完全虚化)には、それを上回る規格外(黒翼大魔)で対応するしか方法は無い。通常状態のウルキオラですら規格外であったが、完全虚化という格上の規格外と対峙すれば敵わないのと同じ。

 だが、やはり完全虚化は本当に規格外であった。『雷霆の槍』を上回る威力を持った『剣黒虚閃』を僅かに皮膚を焦がすだけで凌ぎ切ったのだ。冷静であったとはいえ、思わず眉を顰めてしまう程のものであった。

 

「……だが、やはり貴様は紛れもない強者だ。この俺ですら一度は敗北したのだ。強者と認めない道理が無い」

『……ケッ、ご丁寧なお世辞をどーも』

 

 ウルキオラは嘘偽り無く白一護を称賛する。ウルキオラを超えた強者であったからこその敬意でもある。白一護は半ばやけ気味に応えていたが。

 

「そして、強者である貴様に勝つ為に生み出した虚閃の一つを、敬意を持って貴様に撃たなければなるまい」

『ハッ、そうかよ。なら見せて貰おうじゃねえか』

 

 ウルキオラの勝利宣言とも取れるその台詞に、白一護は嘲笑しながらその場を動かない。受け止める気である。

 

 その様子を見たウルキオラは、指先を白一護へと向け、莫大な霊力を収束させーーー

 

 

 

 ーーーウルキオラの周りに数百もの莫大な黒い霊力の塊が出現した(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 ウルキオラが『アレ(・・)』を放つ為には少々の間、莫大な霊力を収束させての数百もの数の塊を作る必要があった。その間は虚閃での砲撃が出来なくなるというデメリットが存在し、一度にウルキオラの霊力の約半分を消費する為に非効率的であった。

 

 それ故に、絶大な威力を誇る。

 

 嘗て、尸魂界に八代目『剣八』を襲名した死神がいた。そして、護廷十三隊の十一番隊隊長の座についていた。

 彼は鬼道に長けた貴族の出身であり、鬼道を主とした戦闘を得意とし九十番台の鬼道すらも使い熟す腕前であった。

 

 その彼が編み出した技が『九十番台の鬼道の数十〜数百発同時発動』である。

 

 義骸を操り一斉発動することによって可能となるその技は余りにも悍ましく、彼にしか扱えないものであった。

 ウルキオラはそれを知ってか知らずか、完全虚化に通用する為の虚閃は『一撃必殺』ではなく『一撃必殺の一斉掃射』しか無いと、考え抜いた末に出した結論だった。

 

 そして今、規格外(完全虚化)を打ち破る虚閃が放たれるーーー

 

 

 

 

 

 ーーー『多重黒虚閃(マルチプル・セロ・オスキュラス)

 

 

 

 

 

 白一護へと一斉掃射された数百もの『黒虚閃』。 それは絶大な威力という範疇を超えた虚閃であった。

 星を砕く一撃が数百という数の暴力で蹂躙して来るのだ。範疇を超えても可笑しくは無い。

 

『……ケッ、何だよ。結局は数の暴力じゃねえか』

 

 白一護がそう言葉を漏らす。だが、白一護にはそれに対応する手段が何一つとして無かった。

 

 即ち敗北、である。

 

『まァ良いかァ、こちとら楽しませて貰ったんだァ。認めてやるよォ! 卍解に相応しいヤツとしてなァ!!!』

 

 数の暴力である黒き閃光が白一護へと迫る。その中で、彼はウルキオラを卍解の使用者として認めた。その際に、白一護がその手に持っていた黒い天月をウルキオラへ投擲する。

 ウルキオラは此方へ飛んで来た黒い天月を掴み取り、その翠の双眼を持って白一護へ向き合った。

 

『また機会が有ったら殺り合おうぜェ! ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!』

 

 数の暴力に呑み込まれる寸前、白一護がウルキオラにそう言い放ち、奇声を上げる。それは断末魔などでは無く、獣の本能のまま愉しんだ彼の満足感によるものであった。

 

 

 

 ーーーそして、規格外(完全虚化)は数の暴力へと呑み込まれ、姿を消した。

 

 

 

「………」

 

 ウルキオラは静かにその最後を見届け、投げ渡されたその黒い天月を手に翠の双眼で映し出すのであったーーー

 

 

 




ウルキオラの開発した新たな虚閃

『剣黒虚閃(グラディウス・セロ・オスキュラス)』
『剣虚閃』と同じ扱いだが、剣の色は翠を纏った黒となっており、威力と攻撃範囲が二回りほど上昇している。

『多重虚閃(マルチプル・セロ)』
完全虚化を打ち破る方法を考え抜いた末に『一撃必殺の一斉掃射』という結論を出したウルキオラが開発した恐らくこの作品中最強の虚閃。
虚閃を数十〜数百発同時に撃つコンセプトで開発され、内側で一度に数十〜数百発分もの虚閃を撃てる霊力・霊圧を作り出し、全方位もしくは一方向へ一斉掃射する。これは虚閃だけに限らず、『王虚の閃光』や過去に開発した虚閃であっても可能。
但し、一度に全体の約二分の一の霊力を消費する為、効率は非常に悪い。
帰刃状態だと『黒虚閃』を一斉掃射する凶悪なものへと変わる。




とゆー事で完全決着ですハイ。
まあいささか急展開だったのかも知れません(汗

因みに『多重虚閃(マルチプル・セロ)』の元となったのはこの話でも出て来ていた八代目『剣八』痣城剣八の義骸を用いての『九十番台の鬼道の数十〜数百発同時発動』です。
小説版に登場するキャラクターなのですが、とんでもないチート死神です(白目

ブラック・ブレットとのクロスについてはプロットを作成している途中です。それに応じて小説全巻買いました。あと漫画も。
とはいってもまだ一話目の一文字すら書いていないんですけどね(汗
ブラブレとのクロスは本当に(予定は未定を却下して)やるつもりなので、投稿する時まで待っていてくれれば幸いです。

では、次回にて。


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13.新たな事実

どうもです、安全第一です。
また更新が大幅に遅れてしまい申し訳ありませんでした。
ブラック・ブレット編の執筆も兼ねてこちらの更新に手を付けておりませんでした。
後はモチベーションが低かった事ですね(汗

これからも不定期更新となります。
こんなダメダメな作者ですが、よろしくお願いします(土下座

今回の注意事項は、天月本人の場合は『天月』、斬魄刀の場合は天月となります。
本人と斬魄刀がごちゃ混ぜにならない為です。

では、どうぞ。


※卍解の解号を変更しました。
これもある人からのアイディアです。本当にありがとうございます。
そしてネーミングセンスの無さにうちひしがれる私ェ……orz


「見事だ。ウルキオラ・シファー」

 

 完全虚化を倒し、彼から得た黒い天月を翠の双眼で映していたウルキオラは、背後から声を掛けられた。

 

「………」

 

 ウルキオラは何も言わず、そのまま後ろを振り返ると、其処には黒いロングコートにフードで素顔を隠している青年、『天月』がいた。

 後ろを振り返ったウルキオラは『黒翼大魔(ムルシエラゴ)』の状態を解除し、元の姿へと戻りながら言う。

 

「……成る程、これが卍解か」

 

 ウルキオラは手にしたその黒い天月から直に伝わって来る力に関心を持っていた。帰刃とはまた違う次元の力というものに惹かれているからであろう。

 

「そう、斬魄刀を屈服させその真髄を得る。それが卍解だ」

 

 恐らく不敵な笑みをしているであろう『天月』が言う。そこでウルキオラがふと思った事があった。

 

 

 何故卍解を会得する為に屈服させた相手が『天月』ではなくあの完全虚化だったのか。

 

 

「……この卍解は貴様自身では無い筈だ。何故貴様よりも先にあの虚を屈服させる必要があった?」

「良いだろう。卍解習得の前祝いとしてその質問に答えるとしよう」

 

 その問いに答えるべく、『天月』はゆっくりと歩きながら語り始めた。

 

「まず、お前の持っている斬魄刀は死神の持っている斬魄刀とは違う事は分かっているか?」

「……ああ」

 

 『天月』の言う通り、死神の斬魄刀と破面の斬魄刀は似て非なるものだ。破面の斬魄刀は虚としての肉体と能力の「核」を刀状にして封印したもの。死神の斬魄刀は所持者自身の魂を元として型作られているもの。破面は『帰刃』で、死神は『卍解』を行使する事で自らの力を解放する。

 

「そして、お前の斬魄刀には三つの力が統合されている」

「……混ざっている訳では無いのか?」

「ああ、あくまで統合されているだけ(・・・・・・・・・・・・・)だ。その証拠に帰刃を行使しても影響が無かっただろう?」

「………」

 

 実際にその通りであり、帰刃状態となった時に黒崎一護の力は影響しなかった。この世界に蘇り問題児達とやって来た際に確認した通り、『黒翼大魔』には何ら影響は無かったのだ。それは一つに統合されながらも別々に区別されているという証拠でもある。

 

「そして、お前が手にした卍解は虚の力を持った死神の力(・・・・・・・・・・・)だ」

「……俺が感じたのは貴様の力では無い(・・・・・・・・)という事か?」

「その通り。先程お前が屈服させたのは死神の力を持った斬魄刀。そしてあの虚の力は斬魄刀の付属品(オプション)に過ぎない」

「……成程。そういう事か」

 

 実を言えばあの完全虚化との戦いの最中、相対していたウルキオラは完全虚化から不自然な力を感じ取っていた。

 

 何故、虚の力よりも死神の力が強く感じられたのか。

 

 その疑問は戦いの最中であった為、中断せざるを得なかったのだが、先程の『天月』が話した答えに合点がいった様だ。

 だが、ウルキオラにはもう一つ気になっていた事が有った。

 先程、ウルキオラが屈服させた斬魄刀が虚の力を持った死神なら彼の目の前にいる青年、『天月』の力の正体は一体何なのか。そして、屈服させた死神の力は『天月』では無いのか。ウルキオラにはその疑問を解決の余地が何一つとして無かった。

 故に、『天月』に再び問う。

 

「……ならば、貴様は一体何だ? 少なくとも、俺には解らん謎だ」

「成程、俺が何者か……」

 

 『天月』はウルキオラの問いに素顔が伺えないまま、不敵に笑う。ただ、その不敵な笑みが黒崎一護に何処と無く似ているようでならない。

 

「そうだな、強いて言えば俺はお前であり、黒崎一護であり、天月でもある」

「………」

「ただ、一つだけ確実に言える事が有る。それは───」

 

 

 ───俺の力は『滅却師(クインシー)』の力だと言う事だ。

 

 

「……滅却師だと?」

 『天月』のその発言に、ウルキオラは眉を顰めて訝しげにそう言った。

 だが、思い当たる事は有った。それは黒崎一護の霊圧はいつも不安定だったと言う事。

 死神も破面も、感情によって霊圧は多少なりとも揺らぐ事は有る。だがその揺れ幅は微々たるものであり、戦闘に支障を来す程では無い。それは破面であるウルキオラも知っている常識だ。

 しかし、黒崎一護だけは毎回と言って良い程その霊圧の幅が揺れていた。時には己の霊圧を上回る事もあれば、逆に下回る事も有った。加えて、虚化という力を行使した黒崎一護の霊圧の質は虚のそれへと変化する事すら有った。

 そう、それを踏まえてよく考えてみれば、それは黒崎一護本来の力だったのかすら怪しいものだった。

 そこで『天月』の発言である滅却師の力。そしてその黒崎一護の強大な霊力と霊圧を得て復活したウルキオラ。

 

 

 まさか、と思った。

 

「……まさか、今まで奴が使っていた力は死神の力では無かったと言う事か……!」

 

 

 ならば何故、あの時点で滅却師の力だと認識出来なかったのか。天月の発言を訊いた後では、これも直ぐに解ってしまった。

 

 ───黒崎一護の斬魄刀、『斬月』。

 

 あれは斬魄刀では無い。斬魄刀のフリをしているだけだ。だからこそ気付けなかった。認識出来なかった。

 

 斬魄刀のフリをする事で死神の力だと偽装していたのだ。

 

 故に黒崎一護は斬月を斬魄刀として振るう事が出来、始解と卍解も扱う事が出来たのだ。故に黒崎一護の力は常時不安定だったのだ。

 

 斬魄刀とは本来、浅打という刀によって選ばれる事でその形を成す。その使用者の起源(ルーツ)を知る事によって浅打は斬魄刀と化す。

 つまり斬魄刀とは己の心を映す鏡の様なものなのだ。

 

 その例外が黒崎一護ただ一人。

 

 浅打に選ばれず、斬魄刀を振るうという事はどれほどの事なのか、彼は解っていない。だからこそ彼は己の起源(ルーツ)を知らない。

 

 故に不安定。

 

 後にその事実を『見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)』という組織が尸魂界に侵攻した際に王族特務・零番隊による修行によって知る事になるが、それはまた別の話である。

 

 ウルキオラがその事実に気付くと、『天月』は関心したかの様に言った。

 

「ほう、そこまで解ったとは流石だな」

「……俺は黒崎一護の力によって蘇った身だ。貴様から得た情報で多少なりとも気付く」

「フフ、ならばこの事にも気付いた筈だろう?」

 

 そう言う『天月』はいつの間にか、ウルキオラと同じ天月を手にしていた。その天月はウルキオラの白や完全虚化の黒では無く、それを混ぜ合わせた鈍色をしていた。その色を見たウルキオラ知っていたかの様に呟く。

 

「……俺が手にした卍解も使えると言う事か」

「御名答。俺はお前の斬魄刀であり、お前の『真の卍解』でもある。一段階目の卍解を扱える事など何の造作も無い」

 

 『天月』のその言葉を聞きその意味を理解したウルキオラは黒の天月を右手に持ったまま彼と相対する。

 

「……どうやら卍解の使い方は貴様が直接指南してくれる様だ」

「ああ。卍解は帰刃とは扱い方が違う。帰刃の感覚で扱えば卍解は使い熟せない。だから俺が直に指南する訳だ」

 

 そう言い『天月』は鈍色の天月をウルキオラへと向け、ウルキオラもそれと合わせる様に黒の天月を『天月』へと向ける。

 

 そしてお互いに卍解の解号を口にした。

 

 

 

 

 

 ───“斬り開闢(ひら)け”───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───“ノーネーム”本拠

 

 

 青が掛かった長髪の少女、黒ウサギは本拠の廊下を歩きながらそわそわしていた。

 その原因は問題児たちと一緒にこの箱庭へとやって来た人物にあった。

 

 ウルキオラ・シファー

 

 その実力は問題児たちを上回り、あの最強格の元・魔王である白夜叉と互角以上の戦いを繰り広げた。

 容赦の無い性格だが、悲しみに暮れていた黒ウサギに前を向かせると言う優しさが垣間見えた事も有った。

 それ以来、黒ウサギはウルキオラを意識すると何故か胸が熱くなる様な感覚がした。黒ウサギにはその正体が解らなかったが、少なくとも自分がウルキオラを意識している事は気付いていた。

 

 そして、ウルキオラはガルドとのギフトゲームの前夜に忽然と姿を消した。

 

 その際に書き置きが残されていた為、パニックになる事は無く問題児たちも心配はしていなかったが、黒ウサギだけは違った。

 彼女は不安だった。このままウルキオラが“ノーネーム”を脱退してしまわないかと。彼が黒ウサギの元から離れて行ってしまわないかと。

 黒ウサギにとって既にウルキオラはこの“ノーネーム”に無くてはならない存在となっていたのだ。それはウルキオラを戦力として見ているのでは無く、ただ一人の存在として。それ故に飛鳥や耀、ジンがガルドとのギフトゲームを行っている最中でもウルキオラの事を心配し続けていた。

 唯一参加しなかった十六夜はそれに気付いていたが、そわそわしている様子を見て敢えて気付かないフリをしていた。恐らくその健気な様子を面白く思ったのだろう。時折ニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 

 ガルド戦から三日後が経った今でもその様子は変わること無くそわそわしている。ウルキオラの帰りを今か今かと待っていた。

 

「……ウルキオラさん」

「おいおい、そんなに焦る必要はねえぜ? アイツなら書き置き通りに帰って来るだろ」

 

 そんな黒ウサギを十六夜は落ち着かせようとする。幾ら面白そうとはいえ、流石に心配し過ぎだろうと思っていた。因みに飛鳥も黒ウサギの様子に気付いていたが、ガルドとの戦闘で負傷した耀を看ている為、此処には居ない。

 

「それで、黒ウサギの仲間が出品されているギフトゲームまでは少し猶予が有る。ウルキオラも今日の内に帰って来るだろ」

「しかし、ウルキオラさんにはその事を知らされていないのですが……」

「問題ねえよ。アイツでも流石に頼みを無闇に断る事はしねぇだろうさ」

 

 黒ウサギの心配を他所に、十六夜は不敵な笑みを浮かべる。

 ガルドとのギフトゲームに勝利した今、ジンとの約束通りかつての仲間が出品されていると言うギフトゲームに参加する事にした十六夜。そこで十六夜はそのギフトゲームにウルキオラも参加させようとしていた。

 とはいえ、十六夜の実力が有ればそのギフトゲームは容易にクリア出来るだろう。しかし十六夜はそれを良しとしない。

 何せこのギフトゲームにはあの“サウザンドアイズ”が主催するのだ。歴戦の猛者が参加しても可笑しくは無い。そして出品されるその仲間は元・魔王だとか。それも魔王と戦い勝利した経験を持つ強者。これは是が非でも手にしなければならない。打倒・魔王を掲げる“ノーネーム”の戦力を確実に上げる為にも自分だけでなくウルキオラも参加させようと十六夜は考えていた。

 

「アイツの実力は白夜叉に匹敵している。俺一人でも十分だが万が一の事が有るからな。ここは確実性を上げるのが懸命だろ?」

「そ、そうですね」

「……お、噂をすれば何とやらだ」

「!」

 

 十六夜がその気配を察知すると廊下の奥へと視線を向ける。黒ウサギも釣られてその方向へ顔を向けた。

 

 その奥から現れたのは白の装束を纏った死神だった。

 そして黒ウサギが帰りを待っていた人物でもあった。

 

「ウルキオラさんっ!」

 

 黒ウサギはその姿を見ると、思わず白の装束の人物、ウルキオラに駆け寄って行った。

 

「一体何処に行っていたんですか!? 心配したんですよっ!」

「……卍解の習得をしていた」

「バ、バンカイ? 何ですかそれ?」

「……いずれ分かる」

「ど、どういう事ですか〜っ!?」

 

 黒ウサギの知らない単語をウルキオラから聞かされ、何と無くはぐらかされた黒ウサギはウルキオラの胸をポカポカと叩いていた。子どもの様な反応をした黒ウサギにウルキオラは特に何も思わなかった。ただ勝手に姿を消したのは此方であり非があるのも此方。黒ウサギは終始それを心配してくれていた様なのでこれで手打ちをすることにした。

 

「……え?」

 

 突然、黒ウサギの頭にウルキオラの手が置かれた。そしてそのまま左右に撫でられる。

 

「ふぁ……」

 

 いきなりの事で混乱していたが、撫でられた事による気持ち良さに思わず声を上げる黒ウサギ。病的にまで白肌の手で冷たいイメージが有ったが、意外と暖かかった。このままずっと撫でられていたい───

 

「あっ……」

 

 するとウルキオラが彼女の頭から手を離す。黒ウサギは残念そうな顔をしていたが、ウルキオラはこれ以上するつもりは無く、無言のまま自室へ向かおうとする。

 

「ちょっといいか?」

 

 そこで十六夜がウルキオラに声を掛ける。その呼び掛けにウルキオラは足を止め顔だけを十六夜に向ける。

 

「……何の要件だ?」

「まあちょっとした頼みだ。あるギフトゲームで黒ウサギの仲間が出品されているっていう内容のな」

「……そのギフトゲームに参加しろという事か?」

「まあお前だけじゃなく俺も参加するがな。お前は察していただろうが、このノーネームは打倒・魔王を掲げている」

「……ほう」

「で、その打倒・魔王の為の戦力増強にかつてのお仲間さんって奴を取り戻す訳だ」

「……俺を参加させるのはそのギフトゲームに確実に勝つ為と言う事か」

「そういうこった。まあ強制じゃねえからどっちでも良いが……」

「……良いだろう。参加してやる」

 

 十六夜の頼みに対し、ウルキオラはそう言うと自室へと歩き出して行った。その事に十六夜は不敵な笑みを再び浮かべる。黒ウサギは頭を撫でられた事から解放されておらず、今だ呆然としていた。

 

「よし、これでかつてのお仲間さんを取り戻せる事は確実になったな……。おい、黒ウサギ?」

「……ふぁっ!? は、はいっ!? な、何でしょうかっ!?」

「……さっきの話聞いてなかったなこの駄ウサギ」

「ちょっ!? 何でウサミミを引っ張るのですかー!? 痛い痛い!! 痛いですっ!!」

 

 その呆然としていた黒ウサギに十六夜は青筋を浮かばせながらそのウサミミを掴んで引っ張る。これは重要な話を聞いていなかった黒ウサギが悪いのだろうが、その状態にさせたのは他でも無いウルキオラである為、どちらが悪いのやら。

 十六夜は黒ウサギのウサミミを離すともう一度彼女に説明する。

 

「いいか、そのウサミミをかっぽじって聞けよ? お前の仲間が出品されているギフトゲームに俺とウルキオラが参加する手筈になった」

「え? そ、それって……」

「ウルキオラも参加するって事だ。まあ俺とアイツでやりゃあ確実に勝てるだろ」

「ホ、ホントですか!? あ、ありがとうございます!」

「おいおい、礼はそのお仲間を取り戻してから言えよ。後俺だけじゃなくウルキオラにもな」

「はいっ!」

 

 まだ喜ぶには早過ぎだろ、と十六夜は思ったがそれは敢えて言わなかった。ギフトゲームの内容にもよるが、強者の部類に入るウルキオラと人類最高のギフト保有者である十六夜の二人ならば大抵の内容ならクリア出来るだろう。知識面なら十六夜が、力比べならウルキオラで補えば良いのだから。とはいえ力比べの場合、十六夜も四桁の実力を持っている為、ウルキオラの手を煩わせるまでも無いだろう。あくまでウルキオラは十六夜以上の実力者が現れた時の保険だ。

 

(……それはそうと)

 

 廊下でぴょんぴょんとはしゃぐ黒ウサギを尻目に十六夜はウルキオラが去って行った方向を見て冷や汗をかいていた。

 

(アイツ、三日前よりも格が上がっている……だと……? どういうことだ……?)

 

 そう、十六夜はウルキオラから感じるほんの僅かな霊圧に戦々恐々としていた。そこでウルキオラがある単語を話していた事を思い出す。

 

(……卍解、だったか?)

 

 卍解、その単語に十六夜は引っ掛かりを覚える。博識の十六夜ですらも思い当たる事が無いその単語に興味を持った。

 

(恐らくあの単語からしてアイツはまだ力を隠している……。 あの状態で白夜叉と互角にやり合っていたってのに卍解ってのを使えばもっとヤバくなるって訳だ……)

 

 力を解放したウルキオラがどれほどの実力を有しているのか。それは十六夜ですら解らない。恐らくその力は魔王を屠る悍ましきものとなるだろう。

 

(……いいぜいいぜいいなオイ。魔王よりも面白くなりそうじゃねえか……!)

 

 だからこそ十六夜は冷や汗をかきながらもその闘志を燃やしていた。

 

 少年、逆廻十六夜はこの日から密かにコミュニティ再建とは別の目標を立てた。

 

 

 

 

 

 ───ウルキオラ・シファーを超える、と。

 

 

 

 

 




新たに判明した情報。

・卍解の正体は死神の力
・完全虚化の力は死神の力の付属品
・天月の正体は滅却師の力であり、ウルキオラの『真の卍解』


という事でガルド戦は完全にスルーという方向になりました(笑
哀れガルド君(笑
次はペルセウスとの接触となります。そしてあの金髪ロリの吸血鬼も登場します。
お楽しみに。

ブラック・ブレット編についてはウルキオラのイニシエーターの話にしようと思っていますが、まだ完成しておりません。
そちらもお楽しみに。



-追記-
先程、感想にて卍解の解号はすべからく「卍解」であり、詠唱のような解号が必要なのは始解だけ。
卍解をする為に「卍解」以外の解号を必要とする斬魄刀は存在しないとのご指摘を受けました。
なので、説明していなかった事を詫びると共にご説明します。
確かに卍解を解放するに至って必要な解号は基本的に総じて「卍解」なのですが、卍解にも解号は存在します。
ただ、卍解の解号を口にしたのが市丸ギンただ一人だけだったので、誤解を招かれる事も有るかと思います。
因みに市丸ギンの卍解の解号は「殺せ『神殺槍』」です。このシーンは藍染の崩玉を奪った際に使っています。
ここでご指摘下さった虚気様に感謝の言葉を述べ、同時に私の説明不足だった事をお詫び申し上げます。


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14.吸血鬼

およそ二ヶ月半ぶりの更新……
今まで待っていて下さった読者様方、申し訳ないです……m(_ _)m


「ゲームが延期?」

 

 その報を聞いたのは、ウルキオラが卍解を習得し“ノーネーム”本拠へ帰って来た次の日の事だった。

 どうやら黒ウサギが申請に行った先で知ったらしい。このまま中止の線もあるらしく、彼女は泣きそうな顔をしていた。それを証拠にウサ耳が萎れてしまっている。

 十六夜は面白くないとばかりにソファーに寝そべった。その場に居合わせていたウルキオラは特に何も思ってはいない。ゲームに参加するとはいえ、そこまで重要視していなかった。

 

「なんてつまらない事をしてくれるんだ。白夜叉に言ってどうにかならないのか?」

「どうにもならないでしょう。どうやら巨額の買い手が付いてしまったそうですから」

 

 それを聞き、十六夜の表情は不快なものに変わる。別に人の売り買いに対する不満では無く、ゲームの景品として出されたものを大金で買ったからと言って取り下げるのはホストとしてベストではないからだ。十六夜は盛大な舌打ちまでした。

 

「チッ、所詮は売買組織ってことかよ。エンターテイナーとしちゃ五流もいいところだ。“サウザンドアイズ”は巨大なコミュニティじゃなかったのか? プライドはねぇのかよ」

「仕方がないですよ。“サウザンドアイズ”は群体コミュニティです。白夜叉様のように直轄の幹部が半分、傘下のコミュニティが半分です。今回の主催は“サウザンドアイズ”の傘下コミュニティの幹部、“ペルセウス”。双女神の看板に傷が付く事も気にならないほどのお金やギフトを得れば、ゲームの撤回ぐらいやるでしょう」

 

 曰く、ゲームの景品となっている仲間を所有しているのは“ペルセウス”というコミュニティらしい。達観した物言いの黒ウサギだが、恐らく十六夜の何倍も悔しさを感じている。

 だが幾ら理不尽だと喚いても仲間は戻らない。この世界は箱庭であり、ギフトゲームは絶対の法律だからだ。日本の様に裁判所に直訴など出来るはずも無ければ、第三者が高が“ノーネーム”の為に動く事も無い。仲間を取り戻したければ箱庭の法律であるギフトゲームでしか方法は無いのだ。今回は純粋に運が無かったのだと諦めるしかない。

 

「ま、次を期待するか。ところでその仲間ってのはどんな奴なんだ?」

「そうですね………一言でいえば、スーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、湯浴みの時に濡れた髪が星の光でキラキラするのですよ!」

「へえ、よく分からんが見応えはありそうだな」

 

 嘗て同じコミュニティに属していた仲間をそう誇らしげに語る黒ウサギ。余程彼女の憧れとして存在していたのだろう。誇らしげに語る黒ウサギは嬉しそうな表情でもあった。十六夜もその仲間に興味を抱いた様だ。

 その二人の会話の中で、ウルキオラはもう一人誰かが居る事に気が付いていた。なのだが、霊圧としてはそこまで大きくないものだった。

 

「黒ウサギより先輩で三年前のコミュニティだった時もとても可愛がってくれました。せめてギフトゲーム前にでも一度お話したかったのですけれど……」

「その必要は無い」

「……え?」

 

 若干後悔した表情で言う黒ウサギをウルキオラがそう言った。彼の言葉に黒ウサギの頭の上には疑問符が浮かび上がっていたが、それは直ぐに解消される。

 

「ふふ、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」

 

 突如として女性の声が黒ウサギのウサミミに聴こえて来る。女性というよりも幼い少女の様な声だったが、黒ウサギはその声の主が誰なのか直ぐに解った。

 窓の外を見ると、コンコンと叩く硝子の向こうでにこやかに金髪の少女が浮いていた。その事に黒ウサギは飛び上がって驚き、急いで窓に駆け寄った。

 

「レ、レティシア様!」

「様はよせ。今の私は他人に所有される身分。“箱庭の貴族”ともあろう者が、モノに敬意を払っていては笑われるぞ」

 

 黒ウサギが窓の錠を開ける。その開いた窓からレティシアと呼ばれた金髪の少女は苦笑しつつ談話室に入った。

 その姿は、美麗な金の髪を特注のリボンで結び、紅いレザージャケットに拘束具を彷彿させるロングスカートを着ていた。しかし体型が小さいその身体は黒ウサギの先輩と呼ぶには些か幼く見えた。

 

「いきなりとはいえ、こんな場所からの入室で済まない。ジンに見つからずに黒ウサギと会いたかったんだ」

「そ、そうでしたか。あ、直ぐにお茶を淹れるので少々お待ち下さい!」

 

 久方ぶりに仲間と会えたのが嬉しかったのか、黒ウサギは小躍りするようなステップで茶室に向かって行った。

  そしてレティシアは十六夜とウルキオラの存在に気付く。ウルキオラは此方に見向きもしていないが、十六夜は自分に奇妙な視線を向けており、レティシアは小首を傾げる。

 

「どうした? 私の顔に何か付いているか?」

「いいや別に。前評判通りの美人……いや、美少女だと思ってな。目の保養に観賞してた」

 

 そんな台詞とは裏腹に真剣に回答する十六夜が可笑しかったのか、レティシアは心底楽しそうな笑い声で返した。そして口元を押さえながら笑いを噛み殺し、上品に装って席に着いた。

 

「ふふ、成る程。君が十六夜か。白夜叉の話通りに歯に衣着せぬ男だな。それと隣の者は……」

「ああ、俺の隣に居るのはウルキオラだ。俺を含めて、ノーネームに新しく入った四人の中で最も強いぜ?」

「ほう、君が白夜叉の言っていたウルキオラ・シファーか。元・魔王の白夜叉にただ一人決闘を申し込み互角以上の戦いを繰り広げたと聞いているよ」

「……そうか」

 

 レティシアが微笑を浮かべ、ウルキオラを見る。そしてウルキオラのその病的にまで白い肌を見て興味を抱いた。

 

(凄いな。私の肌もそれなりに白いのだが、彼はそれ以上だな。白色とは正に彼の為にあるようだ……)

 

 箱庭を長い間生きて来たが、ここまで白色の肌を持った者は見た事が無かった。出来ればもっと近くで観賞していたい程にそれは美しかった。

 

「どうした? ウルキオラに見惚れたのか?」

「む、しまった私としたことが……。 いやなに、彼の肌の白さは今迄見た事が無くてな。つい凝視してしまった」

「皆さーん、紅茶を淹れる準備が終わりました〜」

 

 どうやら自分は長いこと見続けていたらしい。我に返り、ウルキオラから視線を外した。そこに紅茶のティーセットを持って黒ウサギが戻り、一つずつ紅茶を淹れ始める。

 

「まあ、俺もあんなに白い肌をしたヤツを見た事が無いからな。観賞したくなるのも無理は無いだろ」

「しかし観賞するなら黒ウサギも負けてないと思うぞ。あれは私やウルキオラとは違う方向性で見る価値が有ると思うが」

「いやいや、あれは愛玩動物なんだから観賞するより弄ってナンボだろ。主にメイド服を着せるとか」

「確かに、それは否定しない。メイド姿も普通に似合うだろうな」

「否定してください! それとメイド服も着ませんっ!」

 

 そんな会話に紅茶を淹れながら黒ウサギが口を尖らせて怒る。しかも怒りながら正確に紅茶を淹れているという器用さを発揮している辺り、普通にメイドも似合いそうである。

 

「全くもう……。そ、それでですがレティシア様、どのようなご用件ですか?」

 

 紅茶を淹れ終え話題を戻す。自身でも言っていたが、レティシアは他人に所有される身分。その彼女が此処に来たという事は、恐らく自分の意志で此処に来たという意味だ。それに主の命も無く来ているのだから、それ相応のリスクを負っている筈だ。

 そして会いに来たのがリーダーのジンではなく黒ウサギ。何かしらジンに聞かれては拙い話なのだろう。レティシアは苦笑して首を振った。

 

「用件というほどのものじゃないさ。新生コミュニティがどの程度の力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたくないというのは合わせる顔が無いからだよ。お前達の仲間を傷付ける結果になってしまったからな」

 

 ウルキオラも昨夜知った事だが、ガルドとのギフトゲームにて、耀が負傷している。幸いにも命に別状はないものの、今もベッドの上だ。とはいえ、あと一日経てば全快という所まで来ているので問題無いだろう。

 そして一通り話を聞く限り、レティシアはどうやら吸血鬼の純血らしい。この箱庭では吸血鬼は“箱庭の騎士”と称されている様で、あまり数はいないそうだ。

 

「吸血鬼? ああ成る程、だから美人設定なのか」

「は?」

「え?」

「……」

「いや、独り言だ。続けてくれ」

 

 話を聞いている途中でこんな会話もあったとか。

 

 

 

「実は黒ウサギ達が“ノーネーム”としてコミュニティの再建を掲げたと聞いた時、私は憤っていたんだ。それがどれだけ愚かな真似で、どれだけ茨の道かお前が分かっていないとは思えなかったからな」

「……レティシア様」

「コミュニティを解散するよう説得する為、漸くお前達と接触するチャンスを得た時、看過出来ぬ話を耳にした。神格級のギフト保持者や、星霊級並みに強大な力を持った者が黒ウサギ達の同志としてコミュニティに参加したとな」

 

 黒ウサギの視線が十六夜とウルキオラに移る。恐らく白夜叉にでも聞いたのだろう。

 実を言うと、四桁に本拠を持つ“階層支配者”の白夜叉が最下層である七桁の外門に足を運んでいた理由は、秘密裏にレティシアを此処まで連れてくる為だったりする。

 

「そこで私は一つ試してみたくなった。その新人達がコミュニティを救えるだけの力を秘めているのかどうかを」

「結果は?」

 

 黒ウサギが真剣な眼差しで問う。しかしレティシアは苦笑しつつ首を振った。

 

「生憎だが、ガルド程度では当て馬にもならなかったよ。ゲームに参加した彼女達はまだまだ青い果実で判断に困る。唯一分かっているのはウルキオラが白夜叉並みの実力者という事だけだ。それだけでも安心しているのだが、さて。私はお前達に何と声を掛ければ良いのか……」

 

 またもや苦笑するレティシア。彼女の胸に去来しているのは黒ウサギ達に対しての心配や申し訳なさ、そして後悔でもあり様々な感情が渦巻いていた。

 それをウルキオラは興味深そうに見ていた。

 

(……奴隷の身になっても尚、嘗ての仲間を気に掛ける。此れもまた、『心』有るが故のものなのか───……)

 

 ウルキオラが嘗ていた組織である十刃では、仲間などという言葉は無い。全てが仮初めの仲間であり、唯一仲間という傾向が有ったのは第1十刃であるスタークとその従属官のリリネットぐらいだ。あれは仲間というより家族の様なものだったが、それはウルキオラには解らないものだ。

 ウルキオラが自らの思考に入っている間にも話は続く。

 

「違うね。アンタは言葉を掛けたくて此処に足を運んだんじゃない。黒ウサギや俺達が今後、自立した組織としてやっていける姿を見て、安心したかっただけだろ?」

「……ああ、そうかもしれないな」

 

 レティシアは十六夜の言葉に首肯する。しかしガルドを仕向けたものの、彼女の目的は果たされずに終わった。飛鳥や耀は十六夜ほど力が有る訳では無いが、ずば抜けた才能が有る。だが彼女達の才能はまだ原石のまま。それでは及第点とは行かず、今後のコミュニティを任せるには至らない。しかしコミュニティを解体して新しく作らせようと諭す段階は既に過ぎてしまったのだ。“フォレス・ガロ”を打倒した時点でもう手遅れなのだから。何もかも中途半端となってしまった彼女の目的は最早行き先が分からない途切れたレールだ。

 自嘲が今だに拭えないレティシア。そこに十六夜が軽薄な声で提案をする。

 

「だがその不安、払う方法が一つだけ有るぜ」

「何?」

「ああ、実に簡単な話だ。アンタは新しく立ち上げた新生“ノーネーム”が魔王を相手に戦えるか不安で仕方ない。それならその身で、その力で試せば良い。───どうだい、元・魔王様?」

 

 そう提案し、十六夜は立ち上がる。レティシアはその言葉の意味を理解すると一瞬唖然となるが、直ぐにそれは笑い声へと変わった。

 

「ふふ……そうか、成る程。それは思いつかなんだ。実に分かりやすい。下手な策を弄さず、初めからそうしていればよかったなぁ」

「だろ?」

「ちょ、ちょっと御二人様?」

 

 黒ウサギの制止も聞かず、十六夜と同様にレティシアも立ち上がる。そしてそのまま笑みを交わした二人は窓から中庭へと飛び出してしまった。

 

「あーもう! 一体何なのですか!」

 

 黒ウサギも二人の後を追う形で中庭へと飛び出す。

 

「……単純な奴らだ」

 

 丁度自らの思考から離れたウルキオラはそれを見て溜息を吐いた。勿論ウルキオラも窓から出て後を追ったが、飛び出す事はせず普通に歩きながらゆっくりと後を追った。

 

 

 ウルキオラが中庭へ着く頃には、十六夜とレティシアが対峙する形で向かい合っていた。

 近くに居た黒ウサギの話によると、これから力試しをする様だ。ルールはシンプルで、双方が共に一撃ずつ撃ち合い、そしてそれを受け合うらしい。要するに最後まで地に足を着けて立っていた者の勝ちという訳だ。

 

「だ、大丈夫なんでしょうか……」

「………」

 

 黒ウサギが心配するのも仕方が無いだろう。なんせ黒ウサギの先輩であるレティシアは魔王との戦いで勝利した経験の有る実力者だ。この箱庭に召喚されたばかりの十六夜では勝つ見込みは薄いだろう。

 だが、ウルキオラはレティシアの力の雰囲気に違和感を感じていた。黒ウサギが語るレティシアは元・魔王という事もあって神格持ちなのは明白だ。しかし当の本人からはその様な神性を感じ取れなかったのだ。隠している可能性も有るだろうが、探査回路(ペスキス)を使っても感じられなかったのでそれは低いとウルキオラは踏んでいた。

 

 お互いに身構える二人。黒い翼を展開したレティシアが制空権を支配する。そしてレティシアがギフトカードを取り出し、そこから長柄の武具、つまりランスが現れた。

 

(……矢張りそうか)

 

 その時点でウルキオラがレティシアから感じていた違和感は明らかになった。

 

 ランスから特別何かを感じさせるものが無かったからだ。

 

(……奴隷の身に成り下がっている奴の事だ。恐らく此処に来る際に何かを犠牲にしている筈だ。だとすれば奴の保有しているギフトの大半が失われている可能性も無くはないか)

 

 先程も述べていた様に、レティシアは此処に来る際に何かしらリスクを負っている。それが此れだ。

 実際に神格を失っているレティシアが十六夜を倒す事は無い。何故なら十六夜はその身で神格持ちを倒したからだ。

 当然、吸血鬼という種族だから並外れた膂力を持っている。それも“箱庭の騎士”と謳われたレティシアは並みの吸血鬼よりもずっと強い。投擲用とはいえ、何のギフトも付加されていないランスをただ投げ放っただけで空気中に視認出来る程の巨大な波紋が広がるぐらいには。

 

「ふっ───! ハァア!!!」

 

 怒号と共に放たれた流星の如き一撃が十六夜に迫る。

 だが目の前にいる少年、逆廻十六夜には程度が知れるものだった。

 

「ハッ───しゃらくせえ!」

 

 ───殴りつけた(・・・・・)、唯それだけだった。

 

「「───なっ……!?」」

「……ほう」

 

 素っ頓狂な声を上げる黒ウサギとレティシア。ウルキオラだけは関心していた。まさか殴って迎撃するとは思わなかったのだ。

 それも十六夜の一撃は山河を砕く威力。当然ながら唯のランスが耐えられる筈も無くひしゃげて鉄塊と化していた。加えて第三宇宙速度で散弾銃の様に凶器となってレティシアに迫るのだからたまったものでは無い。

 

(ま、拙い……!)

 

 散弾銃と化したそれを回避しようとするレティシア。だが身体が思考に追いつかない。

 

(こ……これ程とはな……)

 

 目の前で体験した十六夜の才能は噂通り、いや噂以上だった。実際に対峙したレティシアだから解った。新しく加入した十六夜達ならば、新生ノーネームを任せられると。同時に安堵した彼女は血みどろとなって落ちる覚悟を決めた。しかしそれを許さない者が居た。

 

「レティシア様ッ!」

 

 限々(ぎりぎり)まで迫った鉄塊を黒ウサギが一瞬でレティシアに肉薄するとそれをすべて叩き落し、レティシアを抱きかかえる。

 

「く、黒ウサギ! 何をする!」

 

 レティシアが声を上げる。だが黒ウサギがレティシアを抱きかかえる事に対してでは無く、別の事に対してだった。

 黒ウサギが手に持っているのはレティシアのギフトカード。そこに浮かんでいる文字を見つめる黒ウサギは悲しげな表情を浮かべた。

 

「ギフトネーム・“純潔の吸血鬼(ロード・オブ・ヴァンパイア)”………やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残っていない」

「っ……!」

 

 その事実に顔を背けるレティシア。成る程な、と十六夜はそう言いながら呆れた様に肩を竦める。

 

「どうりで手応えが無かった筈だぜ。あの滝に居た白ヘビの方がもう少し派手だったからな。そういや元・魔王様のギフトって吸血鬼のギフトしか残されてねえの?」

「……はい。先程の様に武具は多少残しているものの、レティシア様自身に宿る恩恵は……」

 

 黒ウサギが弱々しい声で十六夜の質問に答える。レティシアが此処に来たリスクがそれ程までに大きかったとは思わなかった彼女は少しショックを受けていた。

 十六夜はウルキオラの方に視線を移し、問い掛ける。

 

「まあウルキオラは初めから気付いてたんだろ?」

「……当然だ。最初の気配で既に察していた」

 

 そう答えたウルキオラは何故か屋敷とは別の方向へと歩き始めた。

 

「おい、どうした?」

「……お前は気付いていないのか?」

「は?」

 

 十六夜が訝しげに言った瞬間、ウルキオラは空の方向へ指を向ける。

 

 

 

 ───そして莫大な霊力の収束が始まった。

 

 

 

「ウ、ウルキオラさん!?」

「……何をしようとしてんだ?」

「……な、何だあれは……!」

 

 ウルキオラを除いた三人が彼の突然の行動に驚きを隠せなかった。但しレティシアだけは違った。

 魔王と戦いを経験したからこそ解る。ウルキオラが放つ力の雰囲気は間違いなく星霊級のものだ。そこにレティシアは驚いたのだ。

 

(この力の奔流……! まるであのアジ=ダカーハがそこに居るかの様だ……!)

 

 嘗て対峙した最強の魔王を思い出す。それ程までにウルキオラの力は強大なものだった。

 

「! あれは!」

 

 黒ウサギが声を上げる。三人が空の方向へ顔を向けると遠方から褐色の光が射し込んだ。レティシアはハッとして叫ぶ。

 

「あの光は……ゴーゴンの威光!? もう見つかったのか!」

 

 射し込んだ褐色の光はそのまま四人を襲おうと迫り来る。レティシアはせめて三人だけは、と自らを盾にしようと駆け出そうとした。

 

 

 だがそれよりも先に───

 

 

虚閃(セロ)

 

 

 ───翠が褐色を呑み込んだ。

 

 

 それは呆気なかった。拮抗すら無く翠が一面を覆い、余波が地を震わせる。

 

 そして翠の閃光が徐々に小さくなり、消えて行く。そこにはゴーゴンの威光など後欠片も無く消滅していた。

 

「馬鹿な……、ゴーゴンの威光は石化の類だぞ……。なのにそれを無効化して更に消し飛ばしただと……!」

 

 レティシアは目の前の現実に戦慄した。あのゴーゴンのギフトをいとも容易く打ち消すなど安易では無い。

 彼女は此方に向いているウルキオラの背を見る。一瞬だけ、その姿が最強の魔王と重なった。

 

(……下手をするとその魔王すらも超えかねないな、彼は)

 

 レティシアの額から冷や汗が一筋だけ流れる。それにレティシアが気付く事は無かった。

 

「………」

 

 レティシアを戦慄させた張本人であるウルキオラは先程ゴーゴンの威光が発せられた場所の地を見ていた。

 そこには兵士の風貌をした者達が虫の息の状態で倒れ伏していた。

 

「おい、こりゃあ何だ?」

「……恐らくあの吸血鬼を所有している者の差し金だ」

「……いつから気付いてたんだ?」

「……貴様と吸血鬼が力比べを始めた頃からだ」

「……!」

 

 既にあの時から此処に侵入していたとは思わなかった十六夜は驚愕する。だが兵士が此処にいつ侵入したかという事では無く、ウルキオラがその時点で既に気付いていたという事実に。

 

「……この塵共が持つギフトは姿を消す類のものだ。特殊な技術でも無い限り、此方が気付く事は困難だろう」

「……そうかよ」

 

 またウルキオラにしてやられたと感じ、内心で痛烈な舌打ちを打つ十六夜。人並み以上の五感を持った十六夜ですら気付かなかったのだ。流石に屈辱感などは無いが、多少なりとも悔しく思っていた。

 

(クソッ、こいつを超えると言う目標を立てておきながらいきなりこれかよ。こりゃあ想像以上に険しい道のりになりそうだぜ……)

 

 だが幾ら悔しく思っても仕方が無い。今は目の前に倒れ伏している兵士達をどうするか考えるのだった。

 

 

 




オリジナルの話を作るのってこんなに難しかっただろうか?
ブラブレでウルキオラのイニシエーターの話にここまで行き詰まるとは……(汗
4000文字ぐらい書いてボツにしたネタが既にニ、三個。
唯一完成している話でさえ15000文字以上という過去最長の話。
大丈夫なんだろうか私……(気絶寸前


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15.ペルセウス

やっと更新出来た……!
8000文字はキツイです(汗



変更点があります。
原作ではペルセウスは挑戦権を受け付けるギフトゲームを開催していましたが、ここではルイオスの代になってすぐに廃止されたという点です。


 “サウザンドアイズ”ニ一○五三八○外門支店

 

 その中は一人の破面の放つ強大な霊圧で支配されていた。

 

「カハッ……!? ァ、ガ……!」

 

 その霊圧の前に呼吸困難に陥っている亜麻色の髪に蛇皮の上着を着た線の細い男。彼は現在、あまりの重圧に押し潰されその身体は床に這いつくばっていた。それと共に身体の自由を全て奪われ、心臓を鷲掴みされているかの様な感覚に襲われている。それは彼だけでは無く、他の者達も同じ事が言えた。

 どうやら霊圧の対象をコントロール出来るのか流石にルイオスほどでは無かったが、皆一様に呼吸が上手く続かない状態だった。唯一対応出来ている白夜叉ですら冷や汗が止まらない状態にあった。

 

 破面、ウルキオラ・シファーが放つ強大な霊圧にひれ伏している亜麻色の髪の男“ペルセウス”のリーダー、ルイオス・ペルセウスは戦慄し恐怖していた。

 

 何故、この様な状況になったのか。それは現在の状況になる前の話へと遡る───

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 “ノーネーム”本拠に侵入した兵士達を翠の閃光で再起不能にしたウルキオラと十六夜達は、一先ず“サウザンドアイズ”の支店へと赴く事になった。

 レティシアの話によると、この兵士達はコミュニティ“ペルセウス”に所属している者らしい。その“ペルセウス”も“サウザンドアイズ”に属しているコミュニティだとか。そしてレティシアはその“ペルセウス”に所有物として囚われているらしい。

 だったら話は早いと十六夜が言い、サウザンドアイズの支店に乗り込んでやろうと言う事になったのだ。レティシアを回収する目論見こそ失敗したが、ペルセウスはノーネームに何かしら言いたい事が有る筈であり、それはノーネームも同じであった。その際に十六夜の計らいで飛鳥とジンも同伴させた。ただジンは耀の看病の為に残ると言い、飛鳥だけが着いて行く事になったが。

 

 そして四人は現在、サウザンドアイズの門前に到着していた。その支店の前にはあの無愛想な女性店員が待っており、どうやら事情は把握済みの様だった。

 

「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです」

「黒ウサギ達が来る事は承知の上、ということですか? あれだけの無礼を働いておきながらよくも『お待ちしておりました』なんて言えたものデス」

「……事の詳細は聞き及んでおりません。中でルイオス様からお聞き下さい」

 

 店員の定例文にも似た言葉を聞き憤慨しそうになる黒ウサギだが、ここは我慢だ。店員に文句を言っても仕方が無いし、何よりレティシアはこちら側に匿ってある。ノーネームの敷地に勝手に侵入した“ペルセウス”の兵士達はウルキオラによって全て撃退されたものだから、怒りも半減している。それでも仲間に手を掛けようとしたペルセウスに対しての怒りは収まらないのだが、この文句はペルセウスのリーダーであるルイオスとやらにぶつけよう。そう思いながら店内に入り、中庭を抜けて離れの家屋に向かう。

 そして中で迎えたルイオスは黒ウサギを見て盛大に歓声を上げた。

 

「うわお、ウサギじゃん! 初めて実物見たし! 噂には聞いていたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった! つうかミニスカにガーターソックスって随分エロいんだな! ねーねー君、ウチのコミュニティに来いよ。 三食首輪付きで毎晩可愛がるぜ? 」

 

 地の性格を隠す素振りもせず、黒ウサギの全身を舐め回すように視姦するルイオス。それに嫌悪感を抱いた黒ウサギは脚を両手で隠し、飛鳥が壁になるよう前に出た。

 

「ふぅん、随分と分かりやすい外道ね。でも残念、先に断っておくけど、この美脚は私達のものよ」

「そうですそうです! 黒ウサギの脚は、って何を言っているのですか飛鳥さん!?」

 

 ズバリと言い放った飛鳥の黒ウサギ美脚所有宣言。堂々過ぎて一瞬肯定しそうになる黒ウサギ。

 それを見ていた十六夜は呆れながらもため息をついて言う。

 

「そうだぜお嬢様。この美脚は俺達のものだ」

「そうですそうですこの脚は、って黙らっしゃい!」

 

 黒ウサギ美脚所有宣言に十六夜も賛同し、またもや肯定しそうになる……訳が無いか。

 しかし二度ある事は三度あると言い……

 

「よかろう、ならば黒ウサギの脚を言い値で」

「売・り・ま・せ・ん! あーもう、真面目な話をしに来たのに話が進まないじゃないですか! いい加減にしないと黒ウサギも本気で怒りますよ!」

「おいおい馬鹿だな黒ウサギ。怒らせてんだよ」

「うぅううぅうぅう〜!!! こんのおバカ様ああぁあぁあぁあぁあああぁあぁあぁあぁああッッッ!!!」

 

 涙目になりながらハリセンで一閃。心労がマッハで襲い掛かって来る(主に胃に)。その内、胃潰瘍にでもなるのかも知れない。哀れ黒ウサギ。

 そんなやり取りの一部始終を見ていたルイオスは突然大笑いし始めた。

 

「あっははははははは! え、何? “ノーネーム”っていう芸人コミュニティなの君ら。もしそうならまとめてこっちに来いってマジで。道楽には好きなだけ金をかけるのが性分だからね。生涯面倒見るよ? 勿論、その美脚は僕のベッドで毎夜毎晩好きなだけ開かせてもらうけど」

「お断りでございます。黒ウサギは礼節も知らぬ殿方に肌を見せるつもりはありません」

 

 そう嫌悪感を吐き捨てる黒ウサギなのだが、彼女の着ている衣装を見る限り説得力は低い。

 

「へえ? 俺はてっきり見せる為に着てるのかと思ったが?」

「ち、違います! これは白夜叉様が開催するゲームの審判をさせてもらう時、この格好を常備すれば賃金を三割増しにすると言われて嫌々……」

「ほう? 嫌々そんな服を着させられてたのかよ。……おい白夜叉」

「何だ小僧」

 

 キッと白夜叉を睨み付ける十六夜。そのまま両者は凄んで睨み合う。そして十六夜が右手を掲げると、

 

「超グッジョブ」

「うむ」

 

 見事なまでの意思疎通。両者とも良い笑顔をしている辺り、八割方悪意全開なのは間違いない。

 

「うぅ〜……、話が全然進みましぇん……」

 

 ウサミミをペタリと萎れさせながら項垂れる黒ウサギ。ますます心労がマッハで進む一方である。

 それを見兼ねたウルキオラは静かに口を開く。

 

「……おい餓鬼共、俺達は此処へ話をする為に来た。巫山戯に来た訳では無い。さっさと場所を移せ。話はそれからだ」

 

 ウルキオラの言葉にお巫山戯ムードだった空気が一瞬にして霧散する。十六夜が肩を竦めて仕方ないなと言った表情をした。

 

「あー、分かったよ。全くこれから黒ウサギを弄りに弄りまくる予定だったんだがな。おい白夜叉、場所を移すぞ」

「うむ、仕方ない。そろそろ来客も増えて来た所だ。此処で話し合っては周りの迷惑になるからな」

 

 一度仕切り直しとして、部屋を客間に移す一同。手に負えなかった空気を一瞬にして変えたウルキオラに、黒ウサギは感謝の念が絶えなかった。主に心労面で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 客間に場所を移した一同。ノーネームの四人はサウザンドアイズの幹部二人と向かい合う形で座る。その間にもルイオスは黒ウサギを舐め回すような視線で見続けていた。

 その視線に悪寒を感じつつも、黒ウサギは白夜叉に事情を説明した。

 

「───ペルセウスが私達に対する無礼を振るったのは以上の内容です。ご理解いただけましたでしょうか?」

「う、うむ。ペルセウスの所有物・ヴァンパイアが身勝手にノーネームの敷地に踏み込んで荒らした事。それらを捕獲する際における石化のギフトによる無差別の攻撃。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」

「結構です。ギフトゲームも無しにノーネームのメンバーごとお構いなしに攻撃するなど、無礼にも程が有ります。ペルセウスに受けた屈辱は両コミュニティの決闘をもって決着をつけるべきかと」

 

 黒ウサギの台詞を聞けば分かる通り、彼女の狙いは両コミュニティの直接対決だ。

 当然ながら、レティシアが敷地内で暴れ回ったというのは捏造だ。しかし彼女を取り戻す為にはこれぐらいの事をしないとなりふり構っていられないのだ。使える手段は全て使わねばならなかった。レティシア自身もそれを承認しているから問題ないだろう。

 

「サウザンドアイズにはその仲介をお願いしたくて参りました。もしペルセウスが拒むようであれば主催者権限な名の下に」

「いやだ」

 

 ルイオスが唐突に口を開き、そう言った。

 

「……それはどう言ったおつもりで?」

「だからいやだって言ってるんだ。ついでに聞くけど、あの吸血鬼はともかく、僕の兵士が其処で暴れ回った証拠があるの?」

 

 だがルイオスもコミュニティの長。若いながらもその座に着いた彼は少なくともコミュニティを纏める能力があり、話し合いにしてもこちらを有利に進める交渉術も持ち合わせている。

 話し合いの中で最も重要なのは第三者である。裁判においても加害者が被害者に犯罪行為を加えた瞬間を第三者が目撃していれば、それは決定的な証拠となる。第三者が嘘を吐いている可能性も捨てきれないのだが、ありのままの事実を話す割合が高いのも第三者であるのだ。それに加えて証拠品まで揃えば完全に加害者が敗訴となるだろう。

 ルイオスは黒ウサギの話に嘘が混じっている事を看破していた。実際に吸血鬼にノーネームを襲えなどと言う命令は下していないし、兵士達には吸血鬼を捕縛しろとしか言っていない。

 だが兵士達がそこで暴れ回ったとなれば話は別だ。それが紛れもない事実で黒ウサギ達ノーネームに晒されているのならば仕方のない事だろう。

 だがルイオス本人は兵士達が黒ウサギ達を襲った瞬間を見ていない。従って兵士達がそこで暴れ回ったという証拠には確実性が無いのだ。

 ルイオスはそこを衝き、黒ウサギを黙らせ逆に此方に引き込む手段を頭の中で確立していた。黒ウサギを引き込む手段としてレティシアと交換する等が有る。絶対的有利は此方に有ると思っていた。

 

 だが黒ウサギ達にはその証拠が揃っていた事をルイオスは知らなかった。

 

「証拠ならあります」

「……なんだって?」

「これがその証拠です。ウルキオラさん」

「……ああ」

 

 ───解空(デスコレール)

 

 ウルキオラの指に触れた空間に裂け目が現れ、其処から雪崩れ込む様にして兵士達が現れたのだ。

 その光景にルイオスは驚愕した。

 

「な、何……!?」

「これだけではありません。この石は石化のギフトで石にされた土と彼等が持っていた旗印です」

 

 そう言って黒ウサギの懐から取り出したのは灰色の石とゴーゴンの首を掲げた旗印。それは石化のギフトで一部を石にされた土を削ったものと、ウルキオラによって戦闘不能に追い込まれた兵士達が掲げていた旗印を拝借したものだ。

 そして第三者である白夜叉は星霊。この灰色の石を見れば、どのギフトで石化されたのかぐらい簡単に判別出来る。それが理由で石化された石を態々削り取って持って来たのだ。

 

「これは……確かにゴーゴンの威光のギフトで石化された石だの」

「その通りです。そしてこれだけの証拠が揃っています。これでも貴方のコミュニティの兵士達が暴れ回った証拠が無いとでも仰るつもりですか?」

 

 黒ウサギはハッキリとルイオスに言い放つ。レティシアが暴れ回ったという捏造もルイオスがこの問い掛けをして来るだろうと踏んで巡らせた策だった。つまりルイオスはまんまとその策に乗せられたのだ。

 だがルイオスはそれでも余裕の笑みを崩さなかった。

 

「ハハハ……成る程ね。ここまで証拠が揃っちゃあ何とも言えないね。参った参った」

「ならば私達とのギフトゲームを受けるという事ですか?」

「うーん、君達が必死に証拠を集めたのは褒めてあげるよう。だけどそれでも言っておくよ。───いやだ」

「なっ……!」

 

 ルイオスは露骨にノーネームとの決闘を拒否した。その言葉に黒ウサギは憤りそうになる。

 

「あの吸血鬼は既に箱庭の外のコミュニティに売り払うって決めているんだ。そのコミュニティと既に契約を終えているのに、吸血鬼を賭けてギフトゲームを「ハイします」って言う馬鹿はいないんだよ」

「あ、貴方という人は……!」

 

 黒ウサギはウサ耳を逆立てて叫ぶ。だが黒ウサギにはそれを咎める事が出来なかった。

 基本的にギフトゲームはお互いの承認で始まる。それは逆に言えば片方が承認しなければいつまで経ってもギフトゲームが始まらないのだ。そのコミュニティのギフトゲームに挑む挑戦権を用意しているギフトゲームをクリアされたのならば何を言おうとその挑戦を受けなければならないのだが、生憎ペルセウスはそのギフトゲームを最近廃止したばかりだ。故に黒ウサギにはペルセウスにギフトゲームを挑む為の手段が無いのだ。

 それが理由で、こうしてお互いに会談を開いたのだが、話は平行線のままになってしまっていた。そしてルイオスはある話を持ち掛ける。

 

「そうだねぇ、レティシアを取り返したければ取引をしよう」

「……何ですか」

 

 黒ウサギがそれを聞き、ルイオスはとんでもない事を言い出す。

 

「なに、簡単な事さ。吸血鬼をノーネームに戻してやる代わりに君が僕のものになれば良いのさ」

「なっ、」

「僕は君が欲しいし、君を隷属させたい。ま、一種の一目惚れって奴? それに箱庭の貴族という箔も欲しいしね」

 

 その条件を聞き、黒ウサギは絶句する。飛鳥もこれには堪らず長机を叩いて怒鳴り声を上げた。

 

「外道とは思っていたけど、此処までとは思わなかったわ! もう行きましょう黒ウサギ! こんな奴の話を聞く必要は無いわ!」

「ま、待ってください飛鳥さん!」

 

 飛鳥は黒ウサギの手を握ってさっさと出て行こうとする。だが黒ウサギは座敷を出なかった。その瞳には困惑の色が混ざっていた。この申し出に彼女は悩んでいるのだ。

 

「ほらほら、君は“月の兎”だろ? 仲間の為に煉獄の炎に焼かれるのが本望だろ? 君達にとって自己犠牲って奴は本能だもんなあ?」

「………っ」

「ねえ、どうしたの? ウサギは義理とか人情とかそういうのが好きなんだろ? 安っぽい命を安っぽい自己犠牲ヨロシクで帝釈天に売り込んだんだろ!? 箱庭に招かれた理由が献身なら、種の本能に従って安い喧嘩を安く買っちまうのが筋だよな!? ホラどうなんだよ黒ウサギ

黙りなさい(・・・・・)!」

 

 我慢の限界が来た飛鳥が叫ぶ。

 ガチン! とルイオスの下顎が閉じ、困惑した。飛鳥の威光の力だ。

 

「っ……!? ………!!?」

「貴方は不快だわ。そのまま地に頭を伏せてなさい(・・・・・・・・・・)!」

 

 混乱しているルイオスを追い込むように体が勝手に前のめりに歪む。

 だがルイオスは命令に逆らって強引に体を起こす。飛鳥のギフトを理解した彼は閉じられた口を強引に開いて言葉を紡いだ。

 

「おい、メスガキ。そんなのが、通じるのは格下だけだ、───馬鹿が!!」

 

 激怒したルイオスは懐からギフトカードを取り出し、光と共に現れた鎌を柄を掴み、それを飛鳥に向けて振り下ろす。

 十六夜はそれを見て飛鳥の前に立ちそれを受け止めようとした。

 

 

 

 

 

 ───だが、その前に“死”がルイオスを押し潰した。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 そして現在に戻る。

 今まで目を閉じて静かにしていたウルキオラの口が開く。

 

「……貴様は受ける必要の無い勝負を態々受ける莫迦はいないと言っていたな」

「……ッ!?」

「ならば此方からも言わせて貰おう」

 

 閉じていた目を開き、翠の双眼の視線がルイオスに突き刺さり、恐怖感を助長する。それは正に蛇に睨まれた蛙だ。

 

 

「───相手が勝負を受けないと解っていて何もしない莫迦はいない」

 

 

 その言葉の後に、ルイオスの目の前にギアスロールが出現する。

 だが、そのギアスロールは唯のギアスロールではなかった。

 

 

 

 黒。

 

 

 

『!!!?』

 

 ウルキオラの除くこの場に居た者達が全員驚愕する。特に白夜叉や黒ウサギ、ルイオスが驚愕していた。

 この三人はそのギアスロールについて良く知っている。

 

 白夜叉は過去に自身が掲げていた。

 

 黒ウサギは三年前にそれを見た。

 

 ルイオスはある者を隷属している故に知っている。

 

 そう、その黒いギアスロールは正しくある者達が持つ権限だった。

 

 

 

 ───魔王。

 

 

 

 そしてその内容はこうだった。

 

 

 

『ギフトゲーム名 “???”(故に“ペルセウス”のギフトゲームを名を借り『FAIRYTALE in PERSEUS』とします)

 

・プレイヤー一覧

 逆廻 十六夜

 久遠 飛鳥

 春日部 耀

 ウルキオラ・シファー(ゲスト扱い)

 

・"ノーネーム"ゲームマスター ジン=ラッセル

・“ペルセウス”ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

・主催者兼開催者 ウルキオラ・シファー

 

・クリア条件 ホスト側のメンバー全員の打倒

・敗北条件 プレイヤー側の降伏、及び戦闘不能

 

・舞台詳細、ルール

*始めに、このギフトゲームは“ペルセウス”が行うルールに乗っ取って行われる。

*ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。

*ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。

*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない(・・・・・・・・・・・)

*姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦権を失う。

*失格となったプレイヤーは挑戦権を失うだけでゲームを続行する事はできる。

*このゲームの主催者兼開催者であるウルキオラ・シファーはノーネーム側のプレイヤーとしてゲスト参加する。

*ウルキオラ・シファーは“ペルセウス”ゲームマスターであるルイオス=ペルセウスへの挑戦権を得る事は出来ない。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”と“ペルセウス”はギフトゲームに参加します。

 

“”印』

 

 

 

 その内容はノーネームとペルセウスを戦わせる為のものだった。ウルキオラは主催者権限を使う事でお互いを戦わせる場を与えたのだ。

 主催者権限は基本、自身のコミュニティと他のコミュニティが戦う為にあるものだ。だが『他のコミュニティ同士を戦わせる事は出来ない』とは言っていない。

 ウルキオラは主催者権限の特徴を逆手に取り、ノーネームとペルセウスを戦わせる事に成功した。

 

「なっ……!? おんし、まさか“主催者権限(ホストマスター)”を所持しておるのか!?」

「ああ」

 

 白夜叉はウルキオラが主催者権限を持っていた事実に驚愕する。そしてウルキオラが白夜叉に向けて言う。

 

「……この餓鬼が勝負を受けない姿勢を取り続けていたから強行手段を取ったまでだ」

「……じゃがおんし。これではおんしは魔王となってしまうぞ」

「……問題ない。お前が“サウザンドアイズ”としてこのギフトゲームを取り持てば、このギフトゲームは正式なものとして扱われる。最後の印に何も書かれていないのはその為だ」

「……まさか主催者権限を行使してお互いのコミュニティを戦わせるとは……。そういう使い方をしたのはおんしが初めてだ」

「……そうか」

 

 ウルキオラが白夜叉と会話をしている間、黒ウサギはただ絶句していた。まさかウルキオラが主催者権限を、魔王としての資格があるとは思っていなかったのだ。

 

「……ウルキオラ、さん……?」

「……おい」

「!」

 

 ウルキオラの視線が黒ウサギを捉える。ビクリ、と黒ウサギが震える。

 

「……お前の自己犠牲など俺にとってはどうでも良い。それはお前が勝手に決めて、勝手に犠牲になるがいい」

「うぅ……」

「……だが、それはお前が今まで護って来たノーネームというコミュニティを裏切ると同義だと肝に銘じておけ」

「……!」

 

 ウルキオラの言葉にドクン、と黒ウサギの心音が高鳴る。そう、自己犠牲をするという事は今まで黒ウサギが世話になったコミュニティを裏切るのだ。その事実を黒ウサギは失念していた。

 ウルキオラの強大な霊圧が解かれる。圧迫感と重圧感から解放され、ウルキオラと白夜叉を除く者達は咳き込んだり、その場から動けずにいた。特にルイオスは酷く、霊圧が解かれた瞬間に解放されたからか泡を吹いて気絶していた。これではギフトゲームどころでは無い。そこで白夜叉がウルキオラに提案する。

 

「……二日後にギフトゲームを開催する。それなら良いだろう? 今はこの有様じゃからな」

「……俺は別に構わん」

 

 ウルキオラも特にそれを拒否する理由は無い。ギフトゲームは強制的に成立した。ルイオスはもう逃げ隠れする事は出来ない。それで十分だ。

 

 

 

 

 

 こうして二日後、ノーネームとペルセウスはウルキオラ主催・サウザンドアイズ公認の下、対峙する事になった。

 

 

 




次の更新は戦闘シーンなので割と早いかも(早めに更新するとは言ってない


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16.ノーネームvsペルセウス

( ゚д゚) < ………

( ゚д゚) < 予想以上に速く書けた。


16.ノーネームvsペルセウス

 

『ギフトゲーム名 “???”(故に“ペルセウス”のギフトゲームを名を借り『FAIRYTALE in PERSEUS』とします)

 

・プレイヤー一覧

 逆廻 十六夜

 久遠 飛鳥

 春日部 耀

 ウルキオラ・シファー(ゲスト扱い)

 

・"ノーネーム"ゲームマスター ジン=ラッセル

・“ペルセウス”ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

・主催者兼開催者 ウルキオラ・シファー

 

・クリア条件 ホスト側のメンバー全員の打倒

・敗北条件 プレイヤー側の降伏、及び戦闘不能

 

・舞台詳細、ルール

*始めに、このギフトゲームは“ペルセウス”が行うルールに乗っ取って行われる。

*ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。

*ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。

*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない(・・・・・・・・・・・)

*姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦権を失う。

*失格となったプレイヤーは挑戦権を失うだけでゲームを続行する事はできる。

*このゲームの主催者兼開催者であるウルキオラ・シファーはノーネーム側のプレイヤーとしてゲスト参加する。

*ウルキオラ・シファーは“ペルセウス”ゲームマスターであるルイオス=ペルセウスへの挑戦権を得る事は出来ない。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”と“ペルセウス”はギフトゲームに参加します。

 

“サウザンドアイズ”印』

 

 二日後となり、ギフトゲームによる決闘を開始したノーネームとペルセウス。

 燿の怪我も完治し戦力が揃ったノーネーム一同は現在、白亜の宮殿の門前に立っていた。ペルセウスはこの奥で待ち構えている。

 周りの空間は白亜の宮殿と切り離されており、未知の空間と化していた。箱庭であって、箱庭でない場所なのだろう。

 

「んで、ルールを見る限り姿を見られれば失格になる訳だ。つまりペルセウスを暗殺しろってことか?」

 

 開始一番に口を開いた十六夜は白亜の宮殿を見上げ、胸を踊らせるような声音で呟く。その呟きにジンが応える。

 

「それならルイオスも伝説に倣って睡眠中だという事になりますよ。流石にそこまで甘くは無いと思いますが」

「YES。そのルイオスは最奥で待ち構えている筈デス。それにまずはこの宮殿の攻略が最優先でございます。伝説のペルセウスと違い、黒ウサギ達はハデスのギフトを所持しておりません。不可視のギフトを持たない黒ウサギ達には綿密な作戦が必要です」

「ま、そうだろうな」

 

 好戦的な笑みを浮かべてそう言う十六夜。二日前、ウルキオラの霊圧の巻き添えを喰らい不機嫌になっていたが、ウルキオラからある提案によってそれは霧散した。

 

『このギフトゲームに勝利したら俺と手合わせする機会ぐらいはくれてやろう』

 

 その提案に十六夜が乗らない筈は無かった。ウルキオラを超えるという目標を建てている十六夜からすれば願ったり叶ったりだ。当然、喜々としてそれを承諾した。

 それにこのギフトゲームではウルキオラがルイオスを倒す事は出来ない。元々このルールはウルキオラが思案したものなのだが、これにはノーネームの現時点での実力を測るという理由があった。

 要するに「この程度の難関を乗り越えなければ打倒魔王など夢のまた夢」という訳だ。ウルキオラがまだ問題児三人を認めていないという事もあってこのままではいられなかった。そして飛鳥と燿も同じ手で乗せられており、やる気満々である。

 

「じゃ、知ってるかも知れねえが言っておくぜ。このギフトゲームはギリシャ神話に出てくるペルセウスの伝説を一部倣ったものだ。さっき言ったが、見つかったらゲームマスターへの挑戦権を失うって事だな」

「ええ、見つかった者はゲームマスターへの挑戦資格を失ってしまう。同じく私達のゲームマスター───つまりジン君が最奥に辿り着けずに失格の場合、プレイヤー側の敗北。ノーネーム一番の戦力であるウルキオラさんは最初からゲームマスターへの挑戦資格が無い。なら大きく分けて三つの役割分担が必要になるわ」

 

 飛鳥の言葉に燿が頷く。本来このギフトゲームは百人、少なくても十人単位で挑み、その一部がゲームマスターにやっと辿り着けるという難易度の高いゲームだ。

 そんなゲームを彼等ノーネームは五人、ウルキオラを除いて四人で挑まなければならない。役割分担は必須だった。

 

「うん。まず、ジン君と一緒にゲームマスターを倒す役割。次に索敵、見えない敵を感知して撃退する役割。最後に、失格覚悟で囮と露払いをする役割。ただウルキオラさんは遊撃役で決定」

「そうだな、俺もそいつに賛成だ。それに春日部は鼻が効く。耳も眼もいい。ウルキオラも普通に敵を察知出来るが遊撃役だからな。不可視の敵は春日部に任せるぜ」

 

 十六夜の提案に黒ウサギが続く。何かを配慮しての事だ。

 

「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加することが出来ません。ウルキオラさんも最初からゲームマスターに挑めないハンデを背負ってます。ですからゲームマスターを倒す役割は十六夜さんにお願いします」

「あら、じゃあ私は囮と露払い役なのかしら?」

 

 黒ウサギの提案に飛鳥は少し不満そうな声を漏らす。

 だが飛鳥のギフトがルイオスを倒すに至らない事は既知の事実だ。それに飛鳥のギフトは一対一よりも不特定多数を相手に取る方がより力を発揮出来る。それが分かっていて尚、不満なものは不満なのだ。しかしそれ以上不満を言える程、飛鳥は傲慢では無かった。

 

『……所詮はその程度の力だ。俺には通じん』

『……見た所、その力はお前の霊格に比例している。お前より格下の相手ならば幾らでも通じるが、格上の場合それは意味を成さない。精々、相手を見誤らない事だ』

 

 ウルキオラから指摘された己のギフトの弱点がルイオスという相手を通じて浮き彫りになったのだ。挙句の果てにルイオスにすら指摘されていたというのにこれでも不満を漏らすようであれば、それは唯の愚か者だ。

 だが飛鳥は愚か者などでは無い。故に己を自制し、今回のギフトゲームは十六夜に譲る姿勢でいた。

 

「悪いなお嬢様。俺も譲ってやりたいのは山々だが、勝負は勝たなきゃ意味がねぇ。あの野郎の相手はどう考えても俺が適してる。ウルキオラや黒ウサギ、春日部だってそう思ってる筈さ」

「……ふん、いいわ。今回は譲ってあげる。けど、負けたら承知しないから」

「ま、勝てるように善処するぜ」

 

 飄々と肩を竦める十六夜だが、黒ウサギはやや神妙な表情で不安を口にする。

 

「残念ですが、必ず勝てるとは限りません。ウルキオラさんがゲームマスターに挑めるのならば話は別でしたが、非常に厳しい戦いになると思います。それこそ油断している内に倒さないといけません」

 

 黒ウサギが口にした言葉にウルキオラを除いた四人の姿勢が黒ウサギに集中し、飛鳥がやや緊張した面持ちで問う。

 

「……あの外道はそれ程までに強いの?」

「いえ、ルイオスさんご自身の力は然程。問題は彼が所持しているギフトなのです。もし黒ウサギの推測が外れていなければ、彼のギフトは───」

「隷属させた元・魔王、だな」

「そう、元・魔王の……え?」

 

 十六夜が口にした補足に黒ウサギは一瞬だけ言葉を失い、十六夜を見た。当の十六夜はそのまま続ける。

 

「もしもペルセウスの神話通りなら、ゴーゴンの生首がこの世界にある筈が無い。あれは戦神に献上されている筈だからな。それにも関わらず、奴等は石化のギフトを使っている。───星座としてまねかれたのが、箱庭の“ペルセウス”。なら差し詰め、奴の首にぶら下がっているのは、アルゴルの悪魔って所か?」

「……アルゴルの悪魔?」

 

 飛鳥達は十六夜の話を理解出来ず、お互いに見合わせ小首を傾げる。

 ただウルキオラは既に理解している様子であり、黒ウサギは十六夜の話に驚愕していた。何故なら彼女はこの答えに帰結する事の異常さに気付いていたからだ。

 

「い、十六夜さん……まさか、箱庭の星々の秘密に……?」

「まあな。この前星を見上げた時に推測して、ルイオスを見た時にほぼ確信した。後は手が空いている時にアルゴルの星を観測して、答えを固めたって所だ。まあ、時間は二日もあったし、機材は白夜叉が貸してくれたから難なく調べる事が出来たぜ」

 

 そう自慢げに笑う十六夜。主にウルキオラの方を見て言っていたので、対抗心を燃やしていたのだろう。黒ウサギはそれを見て十六夜がウルキオラをライバル視している事に気が付き、含み笑いを滲ませる。

 

「十六夜さんって意外と知能派でございますね」

「何を今更。おれは生粋の知能派だぞ。ウルキオラも知能派だと知ったら俺も負けていられねえよ」

「負けず嫌いなんですね」

「そりゃあな。あいつが主催者権限を保有している事にも驚いたが、それを逆手に利用するとは俺でも予想出来なかった。お陰でノーネームとペルセウスが決闘出来る状況に持ち込んでくれたんだ。そうなりゃあ、此方も知能で応えるしかないよな」

「確かにそうでございますね」

 

 そう言いながらお互いに笑い合い、視線を門前へと向ける。

 

「そんじゃ、一発派手にやって行くとするか!」

「え、まさか十六夜さん!?」

「おうよ! 開戦の号砲代りだ!!」

 

 十六夜が好戦的な笑みで白亜の宮殿の門を蹴破り、轟音と共に門が破壊される。

 

 ノーネームとペルセウスの対決が始まった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 白亜の宮殿の最奥の大広間で玉座に腰掛けているルイオスは、二日前の悪夢を思い出し内心冷や汗をかきながらも、既に勝った気でいた。何故ならこのギフトゲームではあの悪夢の根源である破面は此処へ辿り着く事が出来ないからだ。

 再びギアスロールを目に通し、ルール事項に破面、ウルキオラ・シファーはゲームマスターであるルイオス=ペルセウスに挑む事が出来ないと書かれている箇所を見て落ち着く。この二日間はずっとそれの繰り返しだった。

 

(あの化物が何故こんな低い階層にいるのか全く分からない。……今思い出しただけでも身体が震える。だが、このギフトゲームで奴が此処に辿り着く事は無い。なら問題無いだろうさ。奴がいないノーネームなんぞ唯の雑魚同然さ)

 

 再び震え始めた身体に自分からそう言い聞かせる事で再度精神を落ち着かせる。

 此方の勝利条件はノーネームのプレイヤーを全て見つけるだけ。そしてノーネーム側のゲームマスターを見つければそれで終わりだ。

 今回のギフトゲームは旗印がかかった戦いだ。もしもウルキオラにゲームマスターへの挑戦権が与えられていたら、ルイオスも本腰を上げて全力でノーネームを潰しに掛かっただろう。だがそうではない事実にルイオスは安堵していたのだ。

 

「絶対に名無し共を見つけ出せ。もしも見つけられなければ全員粛清だ」

「はっ」

 

 部下にそう命じ、自分は玉座の背にもたれ掛かる。はあ、と一息吐きながら目を閉じる。

 

(全く、あの化物は何なんだ? この下層で白夜叉を上回る奴なんぞ聞いた事も無い。……まあいいさ、このギフトゲームに勝てばあいつを黒ウサギ共々隷属させてこき使ってやるさ)

 

 そう思いながら、このゲームに勝った後の予定を考える。

 

 ───だがルイオスは知る由もなかった。雑魚同然だと認識していた者達こそ、名立たる英傑達にも劣らない、世界屈指の最凶問題児集団だという事を。

 

 そして───

 

「ッ!! 報告! 報告!」

「……何だ? もう見つけたの?」

 

 拍子抜けだな、とルイオスは思ったが、それは次の言葉で間違いであると認識させられる。

 

 

 

「いえ、違います! 東西南全ての階段を封鎖していた部隊が次々と全滅して行きます!」

「……は?」

 

 

 

 ───そんな、馬鹿な。

 

 有り得ない。

 “ペルセウス”の兵士は精鋭だ。

 余程の手練れでなければ倒せない者達ばかりなのだ。

 ギフトゲームが開始してまだ一刻も経っていないのにあっさりと全滅する筈が無い。

 それこそ魔王でなければ───

 

 ───まさか、“奴”が……?

 

 いや、そんな筈はない。

 幾ら“奴”であろうとそれ程の力量が有る筈が───……

 

 

 

 

 

「全滅させた相手はたったの一人! このギフトゲームを主催している者です!!」

 

 

 

 

 

「う、嘘、だろ?

 

 ……ば、馬鹿な。馬鹿な馬鹿な!!

 

 そんな馬鹿な事が在るか!!? 何なんだアイツは!!?

 

 何でこんな下層に居る!?

 

 あんな化物が、何でこんな下層に居るんだッッッ!!!??

 

 直に恐ろしさを知ったから解るんだ!!

 

 星霊? 神霊? 最強種? 魔王?

 

 アイツはそんなもんじゃない、そんな甘い次元じゃない!!!

 

 

 

 何で箱庭はあんな化物を招き寄せたんだあぁあああぁぁああぁあああぁぁあッッッ!!!???」

 

 

 

 余りの衝撃の事実に取り乱すルイオス。彼の全身から冷や汗が溢れ出る。

 そうだ、奴が此処に辿り着けないだけで、何かが変わった訳では無い。何も終わっていない。そう、何も、何も、何も。何も終わらない。

 

 

 

 

 

 ───白い死神による悪夢は終わらない。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「………」

 

 ウルキオラはただ一人、回廊地帯を歩いていた。そして目の前にはペルセウスの兵士達。

 

「と、止めろおおぉおおぉお!! 何としてでも止めるんだッ!!」

「うおおぉおおぉおおおッ!!!」

 

 兵士達がお互いを鼓舞し、その士気を高めて行く。まず一人がウルキオラに向かって駆け出した。

 

「くたばれえぇえぇえエエェエェエエエエッッッ!!!」

 

 槍を右手に、盾を左手に。鉄壁の守りを発揮しながら攻撃する。それこそ古い時代の鉄板な戦い方だ。

 

 そしてウルキオラと交錯する。

 

「………」

 

 ウルキオラは斬魄刀を抜いていない。即ち攻撃する手段は皆無であり、無防備の状態。兵士の攻撃は当たる筈だった。

 

 だが、

 

「ぐあぁあぁああッ!!?」

 

 逆に兵士の槍と盾が砕け、両腕が肩から丸ごと消えていた。同時に血飛沫が辺りに飛び散る。

 

「い、いつの間に攻撃したんだ!?」

「全く見えない……だと……!?」

 

 在り得ない現象に兵士達が驚愕する。だがウルキオラは尚、歩みを止めない。

 

「……くっ!? 数の暴力で圧倒しろ! 一斉に飛び掛かれぇ!!!」

『おぉおおぉおおおおおぉおおぉおおおおおぉおおぉおおおおッッッ!!!!!』

 

 一対一では絶対に勝てないと悟った部隊長は、全員で攻撃を仕掛けるよう指示を出した。その指示に雄叫びを上げながら突撃する兵士達。

 

「………」

 

 大勢の兵士達が突撃していようとも、何も動じないウルキオラ。

 

 そしてウルキオラと兵士達がぶつかり合った。

 

 その兵士達の攻撃をウルキオラは糸を縫うように次々と躱しながら思う。

 

(……遅い。まだ遅い)

 

 先程の一撃は余りにも速過ぎる一撃だった。だが、ウルキオラはそれすら遅いと認識していた。この程度の速度では、藍染惣右介や黒崎一護相手なら容易く反応されてしまう。精神世界で戦った完全虚化や天月相手にも響転に頼り切りだった。

 

(速く、まだ速く、更に速く)

 

 兵士達の攻撃を歩くように軽々と躱しながらその速度を上げて行く。まだ遅い、まだ遅いと。

 

(……違う。速いだけでは遅い(・・)速度に囚われては永遠に遅いままだ(・・・・・・・・・・・・・・・・))

 

 

 

 ───速くするな(・・・・・)

 

 ───速さを無くせ(・・・・・・)

 

 ───速度の概念から離れろ(・・・・・・・・・・)

 

 ───過程を省略しろ(・・・・・・・)

 

 ───結果のみを残せ(・・・・・・・)

 

 

 

 その時ウルキオラの身体は速度の概念を超えた。

 その手刀の攻撃は時間停止すら超越した。

 その攻撃は結果だけを残す一撃へと昇華した。

 

 

 ───兵士達は何も感じる事無く身体を赤く粉微塵にされた。

 

 

 大量の赤い液体が壁に、床に、天井に彩られる。

 肌色の肉片は彩られた赤い液体をより鮮やかにさせるように付着し。

 千切られ斬り裂かれた臓腑はそれを美術品へと昇華させ。

 砕かれた人骨はより一層それを際立たせた。

 

 

「……な、なん……だと……」

 

 一人残された部隊長は理解出来なかった。理解出来る筈も無かった。

 

 いつの間にか其処に居て。

 

 いつの間にか兵士達が死んでいた。

 

 それは音速とか光速とか神速とか。そういう次元では無かった。

 

「……安心しろ」

「ッ!?」

 

 ふとウルキオラから声が掛けられ、部隊長は金縛りに掛かったかのような感覚に陥る。

 

「……このギフトゲームが終われば全ては元に戻る。此処での死は一時的な死であり、本当に死ぬ訳では無い」

「ひ、ひぃッ!!」

「故に───」

 

 

 

 ───安心して死ね。

 

 

 

「ひぃいぃいいやぁぁああぁあああぁぁああぁあああぁぁああぁあああぁぁあぁぁああぁあああぁぁああぁあああぁぁあッッッ!!!!!」

 

 兵士達を斬り裂き粉微塵にしたその血塗れの手刀を見て、恐怖の余り甲高い断末魔の悲鳴を上げた。

 

 その断末魔の悲鳴は宮殿中に響き渡り、誰もがその悲鳴を聞き取ったのだった。

 

 




アニメ『結城友奈は勇者である』の展開が重過ぎて泣けて来た(´;ω;`)
みんな良い子過ぎて辛い(´;ω;`)

-追記-
少し修正・追加しました。


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17.決着へ

どうもです。
今回でペルセウス戦は終わりです。
ウルキオラさんの戦闘シーンはあまり無いけど……
まあペルセウス戦とペスト戦は問題児達のレベルアップの為だと思って下さい。
ウルキオラの帰刃や卍解は巨龍召喚以降になると思います。


 ウルキオラが兵士達相手に一方的な蹂躙を繰り広げていたと同時刻。

 耀の活躍によってハデスの兜を手に入れた十六夜とジンは姿を消して兵士達の目を潜り抜け、現在はルイオスの居る最上階への階段を駆け登っていた。

 

「しかし案外何とかなるもんだな。ここまで来たが、誰も居ないのは助かったぜ。罠の気配もなさそうだ」

「ですが、広場から回廊を渡って階段まで誰も居ないのもおかしいと思いますけど……」

 

 その直後、絶叫が響き渡る。

 

『ひぃいぃいいやぁぁああぁあああぁぁああぁあああぁぁああぁあああぁぁあぁぁああぁあああぁぁああぁあああぁぁあッッッ!!!!!』

 

「!」

「え……?」

 

 絶叫を聞いた二人は階段を登る足を止める。十六夜は訝しげに、ジンは戸惑いを隠せなかった。思わずジンが十六夜に問い掛ける。

 

「十六夜さん、これって……」

「……成る程な、そういう事か」

「?」

 

 思い至った十六夜は一人舌打ちをする。その行為に意味が分からないジンは頭に疑問符を浮かべた。

 

「どういう事ですか?」

「どうもこうも、あれはウルキオラの仕業だ。此処まで誰も居なかったのもウルキオラが全滅させたんだろうさ」

「は……!? そんな、有り得ません! 此方側もそうでしたが、相手側だって万全の状態だったんですよ!? その万全の状態であるペルセウスの兵士達を全滅させるなんて信じられません!」

「確かに信じられねえが、あいつはペルセウスを一人で全滅させられるだけの力がある。おチビ様には言ってなかったが、ウルキオラは白夜叉と互角以上の実力を有してるぜ」

「な……!?」

 

 ジンは今までウルキオラの実力を知らなかった。初めてその事実を聞き、驚愕する。

 

「な、何でその事を僕に言ってくれなかったんですか!?」

「言ったら確実に調子に乗るだろうと思ったからだ。星霊級の戦力が手に入れば大抵の奴は慢心するに違いない。地道にコミュニティを再建しようとした甘い考えを持つおチビ様なら尚更な」

「う……」

 

 正にその通りであった。ジンがもしその事を聞いていたら図に乗るだろう。もしかすると、更に甘い考えを持った可能性もある。十六夜が打倒魔王の目標に向かって大胆かつ明確な道筋を示していなかったらどうなっていたか。ジンは正論であるそれに反論出来なかった。

 

「それにしても派手にやりやがる。あいつは数の暴力すら鼻で笑うぐらいの強さがあるから余計にタチが悪い」

「………」

 

 ウルキオラの居る所では一体どれだけの惨劇が繰り広げられているのだろうか。ジンはそれを考えただけで背筋が凍る感覚を覚えた。

 

「ま、俺達は俺達で出来る事をやってやろうぜ」

「はい……」

 

 十六夜そう言いジンが応えると、二人は再び階段を駆け登り始めたのだった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 一方、正面の階段前広間は飛鳥の奮戦によって大混戦が続いていた。十六夜達を捕らえようとした兵士達を飛鳥が水樹のギフトによって阻んでいた。

 

「まとめて吹き飛ばしなさい!」

 

 水樹からウォーターカッターの様な鋭く発射された高圧縮の水で、空を駆ける靴のギフトを履いている兵士達を撃墜し、地上に立っている者達を吹き飛ばす。

 

(それにしてもさっきの悲鳴。もしかしなくても十中八九ウルキオラさんの仕業ね。全くえげつない事をするわ。そして───)

 

 飛鳥は心中そのような事を思っていた。この大広間にやって来ている兵士達も飛鳥の予想に反して少なかったようで、恐らくだが大半以上の兵士達がウルキオラの餌食になったのだろう。飛鳥は単体でペルセウスの兵士達を全滅させられるその戦闘能力に心底呆れていた。

 

(───そのウルキオラさんもこっちに来ている)

 

 それと同時に飛鳥はウルキオラが此方に有り得ない速度でやって来ている事を感じ取った。気配等の感知は耀の方が優れているのだが、彼女でも知覚出来る程の強大な霊圧がウルキオラから発せられていた。実を言えばこれでも抑えている方なのだが、恐らくこれがいつものウルキオラなのだろう。

 

(そろそろかしら?)

「水樹よ、攻撃を止めなさい!」

 

 頃合いだと感じ、飛鳥が水樹による攻撃を止める。それを見た兵士達が好機だと言わんばかりに飛鳥に襲い掛かろうとしていた。

 

 

 だがそれよりも前に───

 

『あ、ぐぉ………!?』

 

 ───白い死神が全てを屠っていた。

 

 

 武器はへし折られ、防具は砕け散り、兵士達の意識は全て断たれていた。おまけに広間を水没させる程の大量の水すら消え去っていた。

 その瞬間は誰も知覚出来ず、速度を超越した技術で兵士達全員の意識を刈り取ったのだ。

 因みにこの兵士達は意識を断たれただけで死んでいない。先程までは自分と兵士達しかいなかった為に血生臭い戦闘を行っていたが、此処には飛鳥がいる。故にスプラッタなシーンは彼女には到底耐えられないだろうと判断し、配慮したまでだ。

 

「……これで最後か」

「あらウルキオラさん、遊撃ご苦労様」

「……ああ」

 

 破面死覇装に付いた僅かな汚れを手で叩き落としながら飛鳥の労いの言葉に淡々と応える。

 

「これで最後って事は全員を倒して来たの?」

「……この宮殿全域の雑魚共は粗方始末した。残っているのは最上階にいる餓鬼だけだろう」

「それはまた……、とんでもない事を仕出かしてくれるわね」

 

 ペルセウスの兵士達は皆が皆、屈強な者達であり、飛鳥のギフトである水樹による攻撃では兵士一人すら倒し切れなかった。その兵士達を先程のようにいつの間にか軽く屠っているウルキオラに冷や汗混じりのため息を吐いた飛鳥。このギフトゲームが終われば十六夜や燿と同じくウルキオラと手合わせ出来る権利を得られるのだが、己のギフトが効かなかった第一号であるウルキオラ相手に勝てるヴィジョンが全く浮かばない事に頭を痛めるのだった。

 

「それにさっきのあれは? 全く見えなかったんだけど」

「……雑魚共を片付けている間に、過程を省略する技術を完成させただけだ」

「なんて出鱈目なのかしら……」

 

 そしてウルキオラが有り得ない技術を身に付けたという現在進行形の進化に更に頭を痛める。益々勝てるヴィジョンが無くなり、十六夜でも勝てないのではないだろうかと思い始めた。白夜叉が見たら卒倒するのではないだろうか。

 

「もう貴方の強さに関して考えない事にするわ……」

「……そうしておけ」

 

 故に飛鳥は考える事を止めた。そうした方が良いと本能で感じた。ウルキオラは別にどうでも良いと思っているが、幾らギフトを持っている飛鳥といえど基本的に人間なので、黒崎一護でも無い限り理解が追いつかないだろうから本人もそちらを勧めた。

 

「……十六夜君はあの外道に勝てるかしら?」

 

 一段落着き、このギフトゲームの勝算について考えた飛鳥はウルキオラに問う。問い掛けられたウルキオラは天井を一瞥して口を開く。

 

「……逆廻十六夜ならば問題無い。如何にアルゴルの悪魔と言えど、今の頭首であるあの餓鬼程度がアルゴルの悪魔を扱い切れる道理は無い」

「黒ウサギは勝てるどうか分からないと言っていたけど?」

「……奴は逆廻十六夜の強さを全て理解し切れていないだけだ。故にそう判断せざるを得なかっただけに過ぎん」

「そう、じゃあ勝ったつもりでいても良いのね?」

「……好きにしろ」

 

 ウルキオラがそう言ったとはいえ勝てるという保証は無いのだが、少なくとも十六夜がアルゴルの悪魔に敗北する事は無いだろうと踏んでいた。

 

「ん、到着」

 

 そこに一人の影が現れ、ウルキオラ達に向かう。だがウルキオラ達は警戒の色を示さなかった。それもその筈、問題児の一人である春日部耀であった。

 

「あら、春日部さんもお疲れ様」

「ありがとう飛鳥」

 

 到着した耀に、ウルキオラと同じように飛鳥が労いの言葉をかける。耀はそれに応えると、辺りを見渡し最後は天井を見上げた。

 

「大丈夫かな、十六夜」

「大丈夫よ春日部さん。十六夜君は勝つわ。何せウルキオラさんのお墨付きですもの」

「……保証はしていないがな」

 

 

 

 突如として、それは響き渡った。

 

『ra……Ra、GEEEEEEEEEEYAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

 

 

「!? ……これは……!?」

「何……? この嫌な声……」

「………」

 

 その声は最早、人の理解出来る言語では無かった。

 最初の冒頭こそ謳うような声であったが、それ以降は何かを狂わせるような不協和音だった。

 

「……アルゴルの悪魔。いや、星霊・アルゴールか」

「星霊……ですって?」

「それって白夜叉と同じって事じゃ……」

 

 “アルゴル”とはアラビア語でラス・アル・グルを語源とする、“悪魔の頭”という意味を持つ星の事であると同時に“ゴーゴンの首”に位置する恒星でもあった。

 一つの星の名を背負う大悪魔であり、箱庭最強種の一角でもある“星霊”こそがペルセウスの切り札なのだ。

 ゴーゴンの魔力である石化のギフトを備えているのはそういう経緯がある。

 

 それはつまり───

 

「ッ! あの光は!」

「拙いと思う……」

 

 ペルセウスの宮殿全体にゴーゴンの石化の威光が降り注ぐ。

 兵士達は忽ち石と化してしまい、壁や装飾品すら全て石に変えていく。

 そしてそのゴーゴンの威光はウルキオラ達にも迫り、降り注ごうとしていた。

 

 

 

「下らん」

 

 

 

 しかし、ウルキオラがそれを一蹴した。

 白夜叉との決闘でプロミネンスと同等の灼熱を掻き消した時と同様、腕の一振りでそれを無効化して破壊したのだ。

 

「!」

「凄い……」

 

 幸いにもウルキオラのすぐ背後にいた飛鳥と耀の二人は石化を免れ、容易にゴーゴンの威光を無効化したその力を間近で見て改めて驚愕していた。

 しかし、二人が驚愕に浸っている暇は無かった。

 

 

 ───宮殿全域に大きな揺れが起こる。

 

 

「きゃっ」

「わっ……」

 

 宮殿全域に起こった大規模な揺れにより、身体を大きく揺さぶられ体勢を崩す飛鳥と耀。ウルキオラだけが平然としており、天井を見つめている。

 

「一体何が起こっているの?」

「……どうやら逆廻十六夜が圧倒しているようだ」

「え?」

 

 その耀の声を掻き消すように轟音が響き、更に宮殿の揺れを大きくしていく。

 

(……やはりあの餓鬼とアルゴルの悪魔では相手にすらならなかったか。

 ……まあいい。取り敢えずこの餓鬼共の力に対してある程度認めてやるとしよう)

 

 ウルキオラはそう思い、このギフトゲームはノーネームの勝利を確信したと共に、問題児三人に及第点を与えるのだった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「GYAAAAAAaaaaaa!!!」

「ヤハハ! どうした元・魔王様! 今のは本物の悲鳴みたいだったぞ!」

 

 十六夜が獰猛な笑みを浮かべて幾度も踏み付ける。尋常外の膂力を誇る十六夜は足踏みだけで闘技場全体に亀裂を発生させ、白亜の宮殿を砕くほどの力があった。

 

「図に乗るな!」

「テメェがな!」

 

 “星霊殺し”のギフト、ハルパーを片手に空を駆ける靴のギフトで疾駆し、十六夜の背後から襲い掛かる。だが十六夜はそれに対応し、下半身を捻った勢いで蹴り上げ、その攻撃に辛うじてハルパーの柄で受け止めるルイオス。だが山河を砕く威力を誇るそれは余りにも重い一撃であり、それを受け止めたルイオスは強烈な衝撃に耐えられず激しい嘔吐感を感じながら空へと吹き飛ばされる。

 その第三宇宙速度より更に速い速度で吹き飛ばされたルイオスに、十六夜は跳躍して瞬く間に追いついた。

 

「どうしたよ? 翼があるのに不便そうだな?」

「き、貴様……!」

 

 十六夜の挑発に怒ったルイオスはハルパーを振りかざす。

 だが十六夜はそれに難なく反応して受け止め、今度は地面に向かって投げ飛ばした。

 同じく第三宇宙速度で投げ飛ばされたルイオスは闘技場で昏倒しているアルゴールの上に重なるように叩きつけられる。

 

「ガハッ!」

「Gya‥……!?」

 

 叩きつけられた衝撃で二人は呻き声を上げ、丁度着地した十六夜は心底つまらなさそうな表情をしていた。

 

「おいおい、あんまりガッカリさせんなよ。俺には超えなきゃならねえヤツがいるんだ。この程度じゃあアイツに一撃入れるには程遠いんだよ。精々俺の力を引き出す練習台ぐらいになってもらわなきゃ困るぜ」

 

 その余裕とも言える発言に痛みを感じていたからか、怒る前にその言葉に疑問を持つルイオス。思わずルイオスは十六夜に問い掛けた。

 

「な、何だよそれは! 貴様よりも強い人間がいるとでもいうのか!?」

「何言ってやがる。人間も何も、ソイツは最近お前にトラウマを与えてやったヤツだぜ?」

「───ッ!?」

 

 ゾクリ、とルイオスの背筋が凍る。

 あのウルキオラ(化物)に、この逆廻十六夜は挑もうとでも言うのか。

 逆廻十六夜もあの場にいた。故にその恐ろしさは十分に承知している筈だ。

 

「き……貴様、本当にあの化物を超えると豪語するのか!? 貴様のその自信はどこから来ている!?」

「そんなの単純で良いだろ。アイツが強いからだ。だから俺はアイツを超えたいってだけに過ぎねぇ」

「な……!」

 

 ルイオスは十六夜のその理由に驚愕した。

 普通の人間はそう言う事は言わない。豪語出来る筈もない。人間とは基本的に弱肉強食の世界であり、弱者は強者によって駆逐される。それは戦争の時代から変わらず、争いが無くなった現代の社会でも存在している。

 

 だがこの少年、逆廻十六夜はそれに逆らおうと言うのか。

 

(こ、こいつ……本当に人間なのか!?)

 

 ルイオスは目の前にいる十六夜が到底人間だとは思えなかった。ウルキオラの霊圧は全力でないのにも関わらずルイオスを恐怖させた。この逆廻十六夜も間近でそれを受けている筈だ。なのに恐怖せず、寧ろ虎視眈々と絶望の権化であるウルキオラを超えようとしている。正にその姿は───

 

 

 

 ───GIANT KILLING(人間本質の体現者)

 

 

 

「さあて、続けようぜゲームマスター。まだ全力を出し尽くしていないんだろ?」

「……当然だ。まだ終わっていない!

 アルゴール! 宮殿の悪魔化を許可する! 同時に石化のギフトも解放! 全力で奴を殺せ!!」

「RaAAaaaaaa!! LaAAAAA!!」

 

 アルゴールから謳うような不協和音が世界に響く。すると白亜の宮殿は黒く染まり、壁は生き物のように脈を打つ。黒く染まった染みから蛇の形を模した石柱が数多と襲い掛かる。

 それだけではなく、アルゴールは褐色の光を放つ。それこそアルゴールが魔王と知らしめた力である石化のギフトだ。

 十六夜は回避しながらそれを見て呟く。

 

「ああ、そういえばゴーゴンにはそんなのもあったな」

 

 そう、ゴーゴンは様々な魔獣を生み出した伝説がある。アルゴールは星霊であり、ギフトを与える側の種なのだ。これぐらい出来て当然だろう。

 

(成る程な、俺がこの石柱を回避している間に石化のギフトでトドメを刺そうってか)

 

 ニヤリ、と十六夜が再び獰猛な笑みを浮かべ、好戦的な表情へと変貌させる。

 

「いいぜいいぜいいなオイ! クライマックスっぽくなって来たじゃねえか!!!」

 

 ゴーゴンの威光が十六夜に迫る。対して十六夜は無造作に拳を振り上げる。

 

「もっと俺を楽しませろゲームマスター!!」

 

 そう言い、山河を砕く威力を誇る拳を振り下ろした。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 本来の星霊の力を持ったアルゴールならば、十六夜を超える力を持ち合わせている筈であった。

 しかし、ルイオス=ペルセウスには星霊・アルゴールを支配するには未熟過ぎたのだ。故にアルゴールの霊格は本来より低下してしまっており、その結果逆廻十六夜に敗れ去った。

 そして当の逆廻十六夜はペルセウスが負ければその旗印を賞品として頂くという残酷な宣告をした。コミュニティとは名と旗印で成り立っている。それらを全て奪われれば、何もかもが消えて無くなってしまう。故に十六夜の宣告を聞いたルイオスの顔は一気に血が引いた。

 

 逆廻十六夜は徹底して貶める気なのだ。ペルセウスが箱庭で永遠に活動出来ないように名も、旗印も、全て奪い尽くす。例えペルセウスの者達が怒ろうが泣こうが喚こうが、コミュニティの存続そのものが出来ないほど徹底的に。そう、徹底的に。

 

 故にルイオスは引くに引けない状況に陥ってしまった。十六夜に敗北すれば旗印を奪われ、ペルセウスは決闘を断ることが出来なくなり、更に奪われてしまうのだ。

 変わらない。ウルキオラが強制的にノーネームとペルセウスを戦わせたあの時と同じ感覚を感じたルイオスはウルキオラに対して更に恐怖してしまう。

 

 

 

 そう、白い死神による恐怖は終わっていないのだ。

 

 

 

 もうルイオスにはどうしようも無かった。自らのコミュニティが崩壊の危機に見舞われている事を自覚した時にはもう既に遅すぎたのだ。

 そしてルイオスは覚悟を決めるしかなかった。コミュニティの為に、敗北覚悟で十六夜に挑まなければならないと。

 覚悟を決め、ルイオスが十六夜に向かって駆け出し、十六夜は獰猛な笑みでそれを迎え撃ったのだった。

 

 

 

 

 

 ウルキオラ達ノーネームの手元にギアスロールが現れたのはその数分後である。

 そこにはノーネーム側の勝利と記されていた。

 

 

 




よし、ペルセウス戦終わり〜
多分一話挟んでから二巻に突入するか、その前にウルキオラvs十六夜をやろうかと思います。
ウルキオラvs十六夜はペルセウス戦じゃなくペスト戦の後に行う可能性もあるので悪しからず。


-追記-
少しだけ改稿しました。


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18.変化

長らくお待たせしました。
いつも更新が遅くて申し訳ありませんm(_ _)m

今回は約5500文字程度なので今までと比べると短めですかね。
あとはウルキオラのオリジナル設定が出ます。超絶チートです(白目
ですが、設定だけでその超越チートが直接出る事は有りません。

ではどうぞ。


 “ペルセウス”との決闘から三日後。

 

 ペルセウスとの決闘にて勝利し、仲間であったレティシアを取り戻したノーネーム内には少しずつだが活気が戻りつつあった。因みにレティシアの所有権は問題児三人が等分して3:3:4という事になった様だ。ウルキオラは最初から所有権などに興味が無かった為、それを放棄し問題児達に譲ったらしい。問題児三人は多少不服そうだったが、所有権を放棄した時には既に姿を消した後であった為、仕方なく三人で等分したのだった。

 後はレティシアがメイドになった事だろうか。レティシア自身はそれを承認したので問題児からもそれ以上の追求は無かった。特に飛鳥が金髪の使用人に憧れていたようで大層喜んでいたそうな。

 

「えーそれでは! 新たな同士を迎えた“ノーネーム”の歓迎会を始めます!」

 

 そして現在、子供達を含めたノーネーム一同は水樹の貯水池付近に集まり、歓迎会を開いていた。

 ワッと子供達が歓声を上げ、長机の上にささやかながら並んでいる料理に有り付き始める。ノーネームの九割は殆ど子供達だったので子供だらけの歓迎会となっていたが、問題児やウルキオラも悪い気はしていなかった。

 

「だけどどうして屋外の歓迎会なのかしら?」

「うん。私も思った」

「黒ウサギなりに精一杯のサプライズって所じゃねえか?」

「………」

 

 問題児達やウルキオラはノーネームの惨状を見ていた為に気付いていたが、ノーネームの財政は彼等の想像以上に悪い。下手をすれば一週間と持たずに金蔵が底をつく程に。

 例え問題児三人が本格的に活動した所でたかが知れており、百人以上の子供達を支えるのはほぼ不可能な状態だろう。ウルキオラがその気になって辺りの魔王を滅ぼし回ればまた話が変わって来るが、それでも財政が潤う状態になるにはかなりの時間が掛かってしまうに違いない。

 だが以前のノーネームが魔王によって滅ぼされてから三年もの間、子供達は耐えて来たのだ。それによるストレスを感じてしまう子供もいるだろう。そういう意味でも、召喚された問題児達やウルキオラは英雄と言えた。ペルセウスという格上のコミュニティやフォレス・ガロとの戦いを制したのだから、当然と言えば当然なのだが。

 実際、食事を多少多くしても贅沢だと認識してしまう程に彼ら子供達は耐えていたのだ。

 なら今まで我慢に我慢を積み重ねて来た子供達に騒ぎながらお腹いっぱい飲み食いする、という贅沢を与えても罰は当たらないだろう。そういった惨状を知っている飛鳥は、苦笑しながらため息を吐いた。

 

「無理しなくて良いって言ったのに……馬鹿な子ね」

「そうだね」

 

 飛鳥の言葉に耀も苦笑で返す。すると、黒ウサギが大きな声を上げて注目を促す。

 

「それでは本日の大イベントが始まります! 皆さん、箱庭の天幕に注目して下さい!」

 

 問題児達やウルキオラを含めたノーネーム一同の全員が空を見上げ、箱庭の天幕に注目する。

 箱庭の夜は満天の星空であった。空に輝く星々は今日も燦然と輝きを放っている。

 その数秒後、箱庭の星空に異変が起きた。

 

「………あっ」

 

 その異変に気付いたノーネーム一同の誰かが声を上げた。

 最初の異変が起きたのを皮切りに、次々と連続して星が流れる。コミュニティの誰もがそれを流星群だと気が付き、口々に歓声を上げた。

 そして黒ウサギが十六夜達や子供達に聞かせるような口調で語る。

 

「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界からの四人がこの流星群のきっかけを作ったのです」

「え?」

「……」

 

 子供達の歓声の裏で、十六夜達が驚きの声を上げる。しかし黒ウサギは構わず話を続けて行く。

 

「箱庭の世界は天動説のように、全てのルールが此処、箱庭の都市を中心に回っております。先日、同士が倒したペルセウスのコミュニティは、敗北の為にサウザンドアイズを追放されたのです。そして彼らは、あの星々からも旗を降ろす事になりました」

 

 その事実に問題児達三人は驚愕し、完全に絶句した。ウルキオラも驚きこそしなかったが、多少の興味を持つ程であった。

 

「───……なっ……まさか、あの星空から星座を無くすというの……!?」

「……ほう」

 

 刹那、一際大きな光が星空を満たす。

 そして、そこにあったはずのペルセウス座は、流星群と共に跡形もなく消滅していた。

 それはこの箱庭に召喚されてから最も奇跡の度合いが違うものだった。

 思わず言葉を失う問題児達とは裏腹に、黒ウサギは進行を続ける。

 

「今夜の流星群はサウザンドアイズからノーネームへの、コミュニティ再出発に対する祝福も兼ねております。星に願いを掛けるのも良し、皆で観賞するも良し、今日は一杯騒ぎましょう♪」

 

 そう言い嬉々として盃を掲げる黒ウサギと子供達。そしてそれどころでは無い問題児達三人。未だに満天の星空を眺めているウルキオラ。

 ウルキオラは手に持っていた料理の一つに口をつけ、それを食す。咀嚼する毎に料理の味がウルキオラの味覚を満たしていく。

 

(……元々破面の性質故に、食事をする事など無かったが……)

 

 中々に美味だと、そう感じたウルキオラ。

 彼は思う。

 

 

 ───これも、心が在る故に感じるものの一つなのか、と。

 

 ───人間達はこう言ったものを毎日食し、会話をし、心を通わせ合っているのか、と。

 

 

 中々に理解し難いものだ。だが同時に、これも悪くないとも思っていた。

 人と人との触れ合いの中に在るものこそが『心』だ。今ノーネーム一同がこうして食事をして会話をし、心を通わせ合っている。それが子供達が笑顔になっている理由の一つでも有るのだ。その光景を眺めている故に、悪くないものだとウルキオラはそう思った。

 

(……騒がしいのは、俺としては好まないのだがな……───)

 

 ウルキオラは星空を眺める。

 この箱庭の世界にやって来て、新鮮な体験ばかりだ。

 

 虚夜宮のような偽物の日の光ではなく、本物の日の光。

 

 虚圏の夜空には無い、煌めく無数の星々。

 

 十刃とはまた違う毛色の仲間。

 

 今ある子供達の純粋な笑顔と心。

 

 そのどれもが自身の世界では知らず得る事も無かったものばかりである。

 だが、何よりもウルキオラ自身が少しずつではあるが変わって来ている。己の思考も、その在り方も。

 これも井上織姫から学び得た『心』有るが故なのだろう。生憎と、ウルキオラ自身はそれに気付いていないが。

 

 

 

(───……それはそうとして、だ)

 

 

 

 ウルキオラは視線を星空から自身の掌へと移す。そして掌を握っては開き二度、三度とその動作を繰り返す。

 

(……やはり、か)

 

 どこか納得したかのようにウルキオラは再認識する。やはり、これは錯覚では無かったのだと。

 

 

 

 ───己の力が、現在進行形で上昇し続けている。

 

 

 

 その原因は箱庭の世界に来た直後の出来事ではなく、つい最近起きた出来事であった。

 

 卍解の習得。

 

 完全虚化と戦い、勝利した故に得た力。確かに卍解を得た後は、己の霊格が更に格段に上昇していた。そこまでは良い。

 だが卍解を得て以降、霊格の上昇が止まらないのだ。但しその上昇速度が急速ではないものの、ゆるりとした速度でも無い。たった一日で元の世界にいた頃のウルキオラ一人分、と言った所か。流石に帰刃状態のウルキオラ一人分ではないが、通常状態ですら虚化した黒崎一護に多少劣る程度である為、その強大さは説明するまでも無い。

 

(……成程、天月が言っていたのはこう言う事か)

 

 それを理解したウルキオラは、まだ最近である過去を掘り起こし、思い出していた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「……成程、卍解の使い方は大体解った」

 

 そう言い卍解状態を解除して元の通常状態へと戻るウルキオラ。対する天月も姿こそ変わらずフードで顔を隠しているものの、卍解を解除した。

 

「まあ三日間も卍解を使い続けていれば感覚を得られる。かく言う黒崎一護も三日間掛けて卍解を習得したのだからな」

「……そうか」

 

 卍の形を模る鍔が特徴である斬魄刀、天月を鞘に納める。

 

「そろそろ戻った方が良いだろう。今頃、お前の仲間がギフトゲームをクリアしているだろう。詳細は逆廻十六夜にでも聞くと良い」

「……解った」

 

 そう返事をしたウルキオラは踵を返し、歩き始める。そしてそのまま精神世界から脱出しようとした。

 

「ああ、一つだけ言っていなかった事が有る」

「……何だ?」

 

 『天月』が何かを思い出したかのような表情(顔は隠れて見えないが)をし、ウルキオラを呼び止める。ウルキオラもそれに応じて足を止めた。

 

「お前の今の力は星霊級だが、その程度の枠に収まるほどお前の力は安くは無い。黒崎一護の霊圧を得た故の全体的な能力の大幅上昇も、それとは逆で本来の力が戻りつつある(・・・・・・・・・・・)と言った認識の方が正しい」

「……何だと?」

 

 表情こそ変えないものの、興味を誘うその言葉にウルキオラは訊き返す。どういう意味だ、と。

 

「今のお前の力はたったほんの一部だ。お前の元々の力は破面や死神と言った枠組みでは無いからな(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「……何?」

 

 その言葉にウルキオラは少し驚愕する。破面や死神の枠組みでは無いなどと、直ぐに信じられるものではない。

 

「お前は元々『虚無』から生まれた存在だからだ。つまり『無』そのものを極限まで縮小化したものがウルキオラ・シファーという存在だった」

「………」

「おかしいとは思わなかったか? 強大な力と引き換えに超速再生能力の大半を失う破面達の中でお前だけが脳と臓器以外の全ての体構造を超速再生出来る事に。

 疑問とは思わなかったか? 崩玉を介してやらなければ誰も出来なかった破面化を、お前は不完全ながらも自力で成し遂げた事に。

 不思議とは思わなかったか? お前だけが、帰刃の第二階層という領域に辿り着けた事に」

「……!」

 

 確かにおかしいとは思った事は無い事は無い。だが疑問と言えるものでも無かった為、深くは考えなかった。

 だが、そうなった理由が自らの出生に関わっているならば、是非とも聞きたいものだ。

 

「ふむ、今更隠しても別に不都合は無いからな。今ここで言ってやろう。お前の正体は───」

 

 

 

 

 

 ───『絶対無』だ。

 

 

 

 

 

「何……!?」

「いわば有りと凡ゆる総ての『無』そのもの、と言えば良いだろう。『無の総体』と言っても良い」

 

 その事実に、今度こそウルキオラは驚愕した。自身が『虚無』である訳には、己自身が『無』そのものであるなど思いも寄らなかったのだ。

 

「何故『絶対無』であるお前が態々格を限り無く落としてまで生まれ落ちたのかは解らないが、大方そうする事で何かを得たかったのだろうな。

 そして何かを得た後、再び『絶対無』に戻ろうと細工したに違いない。その『絶対無』に戻る鍵となるのが、“究極の領域に到達した黒崎一護の霊圧そのもの”だったという訳だ」

 

 しかし絶対なる無が何かを得たかったとは皮肉な話だがな、と最後に付け加える。

 

「だが『心』以外の何かを得た所で何も変わらなかっただろう。『心』でなければならなかったのだ。『絶対無』が最も求めていたものとは『無限の可能性』である『人の心』だっただろうからな」

「……心、か」

 

 ウルキオラは自身の胸に手を当てる。破面にも内臓がある為、正常に動いているその鼓動が感じられる。その中には、新しく『心』というものも存在していた。

 だがウルキオラ自身はそれを得たばかりである故に、まだ『心』というものを完全に理解し切れていない。理解しなければならない。それが自身の使命だと無意識のレベルでそう刻み込んでいたから。

 

「お前本来の力が戻るにはお前の内に在る“四つの扉”を開く必要がある。だが、その内既に二つは開かれている」

「……“黒崎一護の霊圧を得る事”と、“卍解の習得”か」

「ご名答。そして“第三の扉”を開けるには『真の卍解』を習得する必要がある。だが今はお前本来の力を馴染ませた方が良い」

「……ああ。その方が良さそうだ」

「最後の“第四の扉”を開ける条件だが……まあこれは『真の卍解』を得た後でも遅くは無いか。お前も解っているようだしな」

「……執拗に聞く程、俺は知りたがりでは無い。『心』の理解については別だがな」

「お前がそれで良いなら別に構わない。さて、最後に言っておくが良いか?」

「……何だ?」

 

 心なしか力が入っている様な感じがするその声に、ウルキオラは翠の双眼を『天月』に向けて言葉を待つ。

 

「『絶対無』そのものはあまりにも強大だ。寧ろ強大などという表現すら間違っている。何せ無量大数を超越したその更に先の領域だからな。お前の持っている今の力など塵芥に過ぎない。それ程までに強大過ぎる力だ」

「……ああ」

「だからこそ言っておく。

 

 『絶対無』へと戻るまでには『心』を理解しておけ」

 

 

 

 ───そうしなければ、恐らくお前は後悔するだろうからな。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「………」

 ウルキオラは再び満天の星空を見上げる。その光景は正に神秘的である。

 そして思う。『天月』の言っていた『後悔』も心有るが故に感じるものなのだろうかと。

 ならば是非ともそれを感じたいものだが、それに似たものは過去に感じた事があった。

 

 

 ───ようやくお前達人間に、少し興味が出て来た所だったんだがな。

 

 

 恐らく、あれが『後悔』というものなのだろう。人間の心に興味を持ち始めた所で自身の消滅。確かに悔やまれるものだった。

 だが今はこうして別世界で『心』を理解しようとしている。そして、それを理解する前に『絶対無』に戻れば再び後悔すると言う。

 あれは何度も感じたくはないものだ。幾ら『心』の理解を求めていようと、それが全て水の泡となってしまえば元も子もない。

 ならば『絶対無』に戻る前に『心』を理解するだけだ。『天月』の言う“第四の扉”が開かない限り、ウルキオラが『絶対無』へと戻る事は無い。そう、時間は幾らでもあるのだ。じっくりと時間を掛けて少しずつ理解していけば良い。

 

 

 

 黒崎一護。

 

 井上織姫。

 

「……何時かは、お前達の様な心を持った人間になれるのだろうか」

 

 

 

 ウルキオラは一人、そう呟く。

 

 変化はあれども、心はまだ理解の外。

 




ウルキオラの超越チートは他の作品である『藍原延珠が転生(という名のやり直し)をして里見蓮太郎の正妻になる為に色々と頑張るお話』でちょっとだけ出てきます。
はっきりいって反則にも程があるぐらいの超越チートですのでご注意下さい。
強さで言えば神座シリーズの第六天波旬といえば分かりやすいですかね?
それと同等、またはそれ以上なのでオッソロシイDeath(白目

あ、それとウルキオラvs十六夜はいつ見たいですか?
バトルシーンだけは執筆速いので恐らく三日以内に出来上がります(笑
わたしでは決め切れなかったので二択で選んで欲しいです。

①:次回

②:ペスト戦後

活動報告で集めてますのでよろしくお願いしますm(_ _)m
感想欄の方にやっちゃダメよ〜ダメダメ♡


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原作二巻
19.火龍誕生祭招待


ようやく書けた……
では更新します。


 ペルセウスとのギフトゲームから更に一ヶ月が過ぎた。その一ヶ月の間、問題児達は此処二一○五三八○外門のコミュニティとそれぞれ戦い、生計を立てノーネームのリーダー、ジン・ラッセルの名を広めていた。

 しかし二一○五三八○外門のコミュニティに問題児達の敵は無く、難なくクリアしていくものばかり。結果、問題児達が満足するギフトゲームは無かった。ペルセウスという本来格上のコミュニティとのギフトゲームで味を占めたのかも知れない。

 だが問題児達は人類最高クラスのギフト保持者。七桁の外門では間違いなく最強クラスであり、格上の六桁や更に強力な力を持った五桁の中層のコミュニティと張り合えるだけのものがある。十六夜なら四桁ともやり合えるだろう。ただ耀や飛鳥は自身の持つギフトそのものの力に目覚めていない為、精々六桁止まりだ。ウルキオラは言うまでもなく全能領域(箱庭三桁)以上と戦える次元である。卍解や帰刃を解放すれば尚更だ。

 そんなウルキオラだが、ペルセウスとのギフトゲーム以降、一度も他のギフトゲームに参加していない。何せ彼の目的はノーネーム復興ではなく『心』を完全に理解する事。形式上仲間ではあるが、矮小なコミュニティと逐一ギフトゲームをしてやるほど暇ではない。大規模なギフトゲームならば参加してやらないでもないのだが、彼の力に依存すればジンよりもウルキオラの顔が立ってしまう。つまりノーネーム=ウルキオラという認識で広まってしまう危険性があるのだ。確かに財政難は解消されるだろうが、それでは今までの苦労が水の泡となる。

 故にウルキオラはギフトゲームに参加しない。それはジンや黒ウサギ、そして問題児達も承知の上である。とはいえ、問題児達がウルキオラの力に依存するなど有り得ないし、何より己のプライドがそれを許さない。その所為かウルキオラへの対抗心を燃やしながら問題児達はそれぞれのギフトゲームに挑み、破竹の勢いで連戦連勝をもぎ取っていた。

 

 さて、そのウルキオラは現在、箱庭の外へと足を運んでいた。辺りはまだ薄暗く静謐としており、街道を歩く足音のみが辺りに響く。

 

「……」

 

 ウルキオラが向かうは見晴らしの良い場所。彼はこの一ヶ月の間、毎日こうしてやって来ている。他人にとっては意味の無い行為と捉えるだろうが、ウルキオラ本人にとっては重要な事であった。

 そして見晴らしの良い場所へと到着する。あとは待つだけ。

 

「……そろそろか」

 

 ウルキオラが呟き、しばらくすると辺りの薄暗さが消える。その代わりに淡い明るさが世界を包んで行く。

 

 日の出、つまり朝日である。

 

「……美しい」

 

 ウルキオラの白い肌に日の光が照らす。彼が歩いて来た街道やその辺りに生えていた雑木林、箱庭も日の光に照らされる。

 彼がいる此処は丘であり、一面に照らされた光景が広がっている。莫大な水量が流れているトリトニスの滝に虹が映り、生き物が活動を始める。

 そこに一陣の風が吹き渡りウルキオラの髪を、死覇装を揺らした。

 

「……この光景も、虚夜宮(ラス・ノーチェス)虚圏(ウェコムンド)には存在しない」

 

 虚の住む世界である虚圏に朝は永遠に来ない。死者の魂から悪霊として堕ちた彼等に日の光を拝む資格などないからだ。特殊な出生であるウルキオラも同義である。

 そんなウルキオラでも今この瞬間を『生きている』。この世界で蘇ったからこそ日の光を拝む事が出来るのだ。

 

「感動とやらも、心あるからこそ生み出されるようだが……」

 

 まだ、自分には解らない。美しい光景だとは思ったものの、それが感動とやらなのかはっきりしない。不確定要素が多過ぎてそれを理解し切れない。あぁ、やはり『心』とは複雑なものだ。

 しかし、ウルキオラは無自覚かつ無意識であるが、感動というものを覚えていた。実感出来ていないが、『心』の理解に新たなる一歩を踏み出している。その原因は紛れもなくウルキオラを含めた世界全てを照らしているこの朝日だ。

 ペルセウス戦の後に行われた歓迎会に見た星々煌めく夜空が神秘的だとすれば、この朝日は幻想的と言えよう。

 この幻想的な光景がウルキオラの成長を促しているのだ。感受性が乏しいウルキオラですらこれなのだから、自然の景色に秘められた力の強大さは推して知るべしである。

 

「……戻るか」

 

 朝日が高くなって来た。ウルキオラは踵を返し、ノーネーム本拠へと足を向ける。

 彼はこれからも幻想的な光景を拝む為に同じ事を繰り返す。一ヶ月という期間で、ウルキオラの中でこれは欠かせない日課となっていた。その積み重ねがいつか『心』を理解すると信じて。

 

 数時間後、ノーネーム本拠へと引き返したウルキオラの前に待っていたのは───

 

「な、───……何を言っちゃってんですかあの問題児様方ああああああああああ───!!!」

 

 ───髪色を緋色に変色させた黒ウサギが手紙を持つ手をわなわなと震わせながら悲鳴のような声を上げていた。

 早朝から黒ウサギの絶叫が辺り一帯に響き渡り、彼女の側にいた狐耳の幼い少女がびくりと身体を震わせる。もう一人黒ウサギの側にいたレティシアも苦笑と共に溜息を吐いていた。

 

 

 

 ノーネームは今日も平常運転である。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 数分後。

 

「……一体何の騒ぎだ」

「あっ、ウルキオラさんっ」

 

 黒ウサギが絶叫した原因を知るべく尋ねるウルキオラ。その声を聞き黒ウサギが振り返った。そして黒ウサギが事の発端を伝える。

 黒ウサギ曰く、問題児達からリリを伝ってこんな手紙が渡されたようだ。

 

『黒ウサギへ。

  北側の四○○○○○○と東側の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。

  貴女も後から必ず来ること。あ、あとレティシアとウルキオラさんもね。

  私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合三人ともコミュニティを脱退します(・・・・・・・・・・・・・・・・)。死ぬ気で捜してね。応援しているわ。

  P/S ジン君は道案内に連れて行きます』

 

「……餓鬼共が」

 

 図に乗りすぎだ。ウルキオラは内心で舌打ちする。サウザンドアイズと言った大規模コミュニティならば戦力の一つや二つが抜けようとも問題無いが、この弱小コミュニティでは一つの戦力が抜けるだけで超が付く大打撃である。それに加え、このコミュニティは彼ら問題児達が要なのだ。サボタージュするのならまだしも、脱退など以ての外。黒ウサギが怒り心頭なのも当たり前である。

 

「……餓鬼共もそうだが、貴様にも非があるのは確かだ」

「えっ」

 

 ウルキオラの鋭利な視線が向けられ、間の抜けた表情になる黒ウサギ。しかし黒ウサギには一体何が悪いのか察しがついていた。

 

「……このコミュニティに資金が無いからとはいえ、火龍誕生祭招待の件を餓鬼共に内密にしている貴様も悪い。餓鬼共が図に乗るのも当然だ」

「……はい。出来れば問題児様方には気付かれず穏便に済ませたかったのですが……」

「否が応でも餓鬼共は付いて来る。それとも貴様にあの餓鬼共を掻い潜って事を穏便に運ぶ自信があるのか?」

「それは……ありましぇん……」

 

 黒ウサギが項垂れる。よくよく思い返してみれば、いつも出し抜かれているのは彼女の方だ。そんな黒ウサギが彼等問題児達を出し抜いたり、事を何時までも内密にしておけるなど出来る訳がない。まず第一に、黒ウサギは嘘が下手である。余程の阿呆でなければ黒ウサギの嘘は通じないだろう。

 

「……まあいい。此処に餓鬼共は居ない様だな」

「はい……。子ども達も捜索を手伝ってくれましたが、居ないみたいです」

 

 手紙を読んで絶叫した後の黒ウサギとレティシアの行動は迅速だった。二人は農園跡地から戻り十六夜達がコミュニティの領地内にいないかを確認。最後に鍵を持って下りた黒ウサギは資金が入ってある宝物庫へ。レティシアと年長組の子ども達は建物内の捜索を行った。ウルキオラはその様子を見ているだけ。

 しかし結果は発見ならず。益々心労が増した黒ウサギの所へウルキオラがやって来たのである。そして黒ウサギが事情を説明するにまで至る。

 

「……資金を使われた形跡は?」

「それも有りませんでした。ですが、皆さんの自腹で境界壁(アストラルゲート)まで向かえる筈がございません! 上手くすれば外門付近で捕まえる事が可能かも知れません!」

「なら黒ウサギは先に外門へ急げ。万一捕まえられずとも、“箱庭の貴族”であるお前なら境界門の起動に金は掛からない。私とウルキオラは後で追う。招待状を出したのが白夜叉ならば、サウザンドアイズの支店に行けば無償で北の境界壁まで送り届ける可能性もあるからな」

 

 やり取りを終え、黒ウサギとレティシアは行動を確認し合い、頷く。

 特に黒ウサギの瞳には、かつて無い程の怒りの火花が散っていた。

 

「あの問題児様方……! 今度という今度は絶対に!! 絶対に許さないのですよーーーッ!!!」

 

 緋色の髪に染まった黒ウサギの周りは怒りのオーラで満ち、本拠に出るや否や、今までとは遥かに違う速度で爆走して行った。

 その様子を見届け、レティシアがサウザンドアイズの支店へと足を向ける。

 

「それじゃあ、私達もサウザンドアイズの支店に」

「待て」

「……ん? どうした?」

 

 しかしそれをウルキオラが止める。何かあるのかとレティシアが訊いた。

 

「もうじき昼になる。此処にいる餓鬼共に食事を作らなければならん。……行くぞ」

「あっ、はい!」

 

 そう言うとウルキオラは割烹着を着た狐耳の少女であるリリを一瞥し居住区画へと向かう。そこへリリがウルキオラの横に並んで歩いて行った。

 

「……ふむ、いつの間にあんな仲になったのだろうか?」

 

 それを見ていたレティシアは何とも不思議そうな表情で呟いた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「はわ……凄く美味しいです!」

「……そうか」

 

 ひょコン! と狐耳を立てて喜ぶリリ。ただの味見なのだが、それだけでも美味いと言わせるものがある。そしてリリはウルキオラの料理の腕に憧れを抱いていた。

 

「作ってるのは同じシチューなのに、ここまで味が違うなんて……」

「……混ぜる回数や野菜の質、調味料の分量によって味は大きく左右される。お前がやるにはまだ経験が足りん」

「はうぅ……。でも、ウルキオラ様のような料理をいつか作ってみたいです!」

 

 だが無理もない。元の世界にて主であった藍染の食事を一任されていたウルキオラの調理の腕は一級品である。

 藍染が求める至高の味、至高の素材、至高の調理器具。それらを揃え、藍染が満足するに足りる料理を来る日も来る日も作って来たのだ。自然と料理の腕が上がるのも当然。今のウルキオラは例えるなら五つ星レストランのシェフの様なものだ。

 そんなウルキオラが普通に料理を作れば、たかがシチューと言えど味が一級品になるのは相場が決まっている。リリがウルキオラの料理の腕を憧れを抱くのも当たり前なのだ。

 

「……だが、俺の作る料理はお前達の舌には合わんだろう」

 

 しかし、ウルキオラは少なくとも自身の作る料理が子ども達には規格に合わないと察し、否定する。同時にリリの作る料理の腕を心中で賞賛していた。

 

「えっ、なんでですか?」

「……俺にあってお前に無いものがあれば、お前にあって俺に無いものがある。それだけだ」

 

 リリが不思議に思いウルキオラに訊ねるが、彼は淡々とそう言って締め括る。

 さて、五つ星や三つ星などの高級レストランが作る料理と庶民的な料理は同じ料理であって違う。『人に食べてもらう』という根本的なコンセプトは皆同じなのだが、そこから先の質と量で変化して来るのだ。

 そしてウルキオラの作る料理は質を極めたもの。あらゆる者から認められる至高の料理。

 一方でリリの作る料理はウルキオラと比べれば劣る。人によっては可もなく不可もなしだろう。庶民的な味と言えば良い。

 一般的に捉えれば、ウルキオラとリリには圧倒的な差が生じている。誰もがウルキオラに軍配を挙げるだろう。

 しかしウルキオラは悟っている。リリの作る庶民的な、そう言った有り触れた料理を作る事が出来ないと。一般的な料理ですら一級品と化す質を極めた腕では有り触れたものすら作る事が出来ないと。

 その面だけならば軍配はリリに挙がる。それが決定的な差だ。その時点でウルキオラはリリに敵わない。リリもまたウルキオラに敵わない矛盾が生じるが、五分五分という事だろう。

 だが何よりも決定的なのは料理に込める『愛』だ。ウルキオラは心を理解しきれていない為に『愛』を知らない。それが何なのか、一体どこから来るのか、無知であるウルキオラは真心を込めて腕を振るう事が出来ないのだ。

 リリはその真逆。純粋無垢な彼女が作る真心と言う名の『愛』を込めた料理だからこそノーネームの子ども達は皆が笑顔で食卓を囲めるのだ。

 ウルキオラにはそれが出来ない。だから知りたいのだ。リリの料理に対する姿勢とはどんなものなのかを。

 

「でも、ウルキオラ様は凄いです。こんなに美味しい料理を作る事なんて私には出来ませんから」

「……お前がそう言うのならそれで良いだろう」

「……ウルキオラ様」

「……何だ?」

「これからも美味しい料理の作り方を教えてくれますか?」

「……構わん。好きにしろ」

 

 そしてこの一ヶ月で、少しだけ解ったような気がした。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「……待たせた様だな」

「いや、問題ない。それよりも君の作る料理は美味いものだな」

「……そうとは限らん。俺よりもこの餓鬼の方がよく出来ている」

「?」

 

 ウルキオラが側にいたリリの頭に手を乗せる。リリの方は何が何だか分からず疑問符が付いていたが気に留めず頭から直ぐに手を離した。するとリリが不安気な顔で言う。

 

「あの……本当に私も付いて行って良いのですか?」

「……一人や二人多くなっても問題ない」

「大丈夫だろう。それに“サラマンドラ”にはサンドラがいるだろうから会いに行くと良い」

「はい! ありがとうございます!」

 

 二人がそう言い、一転して心底嬉しそうな表情のリリ。幼馴染みと会えるからだろうか、二尾をパタパタと振るわせている。

 

「黒ウサギ達はもう北にいるだろう。私達も急いで追うぞ」

「……ならば態々白夜叉の支店に行く必要はない」

「……なんだと?」

 

 ウルキオラの発言に怪訝な表情をしているレティシアの横を通り抜け、目の前の空間に手を翳す。

 

 ───解空(デスコレール)

 

 手を伸ばした先の空間が裂け、次元の狭間を創り出した。

 

「わわ……!」

「これは?」

「……直ぐに分かる」

 

 レティシアとリリがその現象に驚きながらもウルキオラに訊く。ウルキオラは二人に一瞥すらせずにその空間へと入って行った。

 

「レティシア様……」

「行くしかないだろう。この先がどうなっているのか知りたいしな」

 

 会話を交わし、すかさず二人も空間に入りウルキオラの後を追う。空間の中は暗闇だったが、そう遠くない先の場所に光が差さっており、それに向けて真っ直ぐ歩いて行く。

 そして二人が光を潜った先に待っていた光景は───

 

 

 

「ふ、ふふ、フフフフ………! ようぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方………!」

 

 緋色の長髪を戦慄かせ、怒りのオーラ全開の黒ウサギがいた。

 

 

 

 そして彼女の怒りの鉾先には問題児達。危機を感じ取った三人は逃走を図る。

 

「逃げるぞッ!!」

「逃がすかッ!!」

「え、ちょっと、」

 

 十六夜は隣にいた飛鳥を抱きかかえ、展望台から跳躍して飛び降りる。耀も旋風を巻き上げて空に逃げようとしたがそれを逃がす黒ウサギではない。大ジャンプで耀に一瞬で肉薄し彼女のブーツを握り締めた。

 

「わ、わわ……!」

「耀さん、捕まえたのです!! もう逃がしません!!!」

 

 すると黒ウサギが耀を引き寄せ、胸の中で強く抱きしめ、彼女の耳元で何かを囁いた。

 

「りょ、了解」

 

 何を聞いたのかは知らないが、顔を青褪めさせて頷く耀。彼女がここまで青褪める今日の黒ウサギはぶっ壊れ気味であった。

 着地した黒ウサギは白夜叉に向かって耀を投げ付ける。扱いが雑になっているので、やはり今日の黒ウサギはぶっ壊れ気味である。

 

「きゃ!」

「グボハァ!? お、おいコラ黒ウサギ! 最近のおんしは些か礼儀を欠いておらんか!? コレでも私は東側のフロアマスター───!」

「耀さんの事をお願い致します! 黒ウサギは他の問題児様を捕まえに参りますので!」

 

 白夜叉に全く聞く耳、いやウサ耳を持たずに叫ぶ黒ウサギ。その迫力と勢いに負けた白夜叉は思わず頷くしかなかった。

 

「そ、そうか。よく分からんが頑張れ黒ウサギ」

「はい!」

 

 威勢良く返事をすると十六夜達を追う為に展望台から跳躍する黒ウサギ。跳躍した衝撃が風となってウルキオラ達を通り抜ける。

 

「………」

「はは……」

「ふえぇ……」

 

 その一部始終を見ていたウルキオラ達は呆気に取られていたのだった。

 

 

 




今回はウルキオラとリリがメインの話。

ウルキオラの料理の腕は完璧です。
しかし完璧故にリリのような庶民的な料理を作る事が出来ない欠点を持っています。
なのでウルキオラの完璧は矛盾され、破綻する。
だから凡人程度の料理しか作れないリリに敵わないのです。

この話は別の面でのウルキオラの『敗北』と『完璧の存在否定』をテーマにしています。


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20.甘美なる刹那

お待たせしました……
くぅ、何故モチベーションが続かんのだ……(絶望)

久しぶりに書いたから書き方が変わっているかも……(汗


 ウルキオラすら呆気に取られた問題児達と黒ウサギによる逃走劇は後半戦にもつれ込み、そろそろ終盤へ向かい始めた頃。

 最初に捕まってしまった耀と後からやって来たウルキオラとリリは“サウザンドアイズ”の支店でお茶を啜っていた。レティシアは黒ウサギ達を追っており此処にはいない。

 今回は突然の出来事という訳で事の経緯(いきさつ)を知らない白夜叉は耀とウルキオラ達に詳細を聞き、笑みを浮かべる。

 

「ふふ、なるほどのぅ。おんし達らしい悪戯だ。しかし“脱退”とは穏やかではない。ちょいと悪質だとは思わなんだのか?」

「それは……うん。少しだけ私も思った。だ、だけど、黒ウサギだって悪い。お金が無い事を説明してくれれば、私達だってこんな強硬手段に出たりしないもの」

「普段の行いが裏目に出た、とは考えられんかの?」

「それは……そ、そうだけど。それを含めて信頼の無い証拠。少し焦ればいい」

 

 珍しく拗ねた様に言う耀。笑みを浮かべている白夜叉はちらりと隣に座っているウルキオラ達を見た。

 

「おんし達は此奴達の行いをどう思う?」

「……所詮は餓鬼共の戯れだ。俺が口を挟むまでもない」

「えっと、そ、その……。どちら共悪いとは言えないですけど、十六夜様達に非があるかな……と」

「うっ……」

 

 ウルキオラは興味が無さそうに、リリは小さな声でそう答える。それを聞いて内心後ずさる耀。

 

「くく。理由はどうあれ、どうやら多少なりとも反省しなければならんようだぞ?」

「むぅ、分かった……」

 

 不服そうに頬を膨らませる。十六夜なら気楽に受け流したり反論したりするのだろう。しかし生憎、耀にはそう言ったものを持ち合わせていない(十六夜が異常なだけだが)。故に不服ながら渋々と受け入れた。

 すると白夜叉が何かを思い出したようにウルキオラに問い掛ける。

 

「そういえばウルキオラよ。おんしは先程、空間を操作して此処に来た様だが、あれは一体どういうギフトだ? 980000kmもの距離を短縮する空間跳躍のギフトは滅多に無くての。是非とも教えて貰いたいものだ」

「あれはリリもびっくりしたのです!」

 

 二尾をパタパタとはためかせ、やや興奮気味にリリが言う。生来、空間跳躍の類のギフトを目の当たりにしていなかったからこその反応であろう。

 この箱庭で空間転移や空間跳躍と言ったギフトを所持する者はそう多くはない。しかしその有用性は広く知られている。

 例えば箱庭の住人において重要なギフトである境界門(アストラル・ゲート)。これは恒星級の広大さを誇る箱庭にて、最も適切な移動手段として用いられている。だがこれを起動するにはサウザンドアイズ発行の金貨が一枚分必要であり、北から南に移動する際には五○○%増というぼったくり価格となっている。その為、これを通常利用する時は主に行商を目的としたコミュニティが一斉に集まって来るのだ。

 代表的な空間転移のギフトはこういった大勢の者が利用するものであるが、それだけには収まらない。

 有名どころのコミュニティでは“ウィル・オ・ウィスプ”のリーダーである『蒼炎の悪魔』や、マクスウェルの悪魔などもこういった空間跳躍の類のギフトを扱っている。

 

 因みに。

 

 この二人の仲は疎遠であり、マクスウェル(変態)ストーキング(求愛)にドン引きした『蒼炎の悪魔』が「キモい!」とまで言っている程。これは後ほど詳しく語るとしよう。

 

 閑話休題。

 

 ウルキオラ自身としては、『解空(デスコレール)』に関しての情報は晒しても特に問題ないと考えている。元々、『解空』は『破面』に限らず虚にも備わっている能力である。現世と虚圏を繋ぐ通路である『黒腔』行き来する為に使うものであり、“生と死の境界”を操作する能力と捉えても良い。

 しかし『解空』を扱える存在はこの広大な箱庭を探し回ってもウルキオラしかいないだろう。その希少性を考慮して、ウルキオラは全てを晒さず、ある程度の情報のみを白夜叉に教える事にした。

 

「……簡単な事だ。この箱庭全域に俺の持つ知覚能力の範囲を拡げ、お前達の霊格を捕捉した位置に境界を操作するギフトを使っただけに過ぎん」

「……!?」

 

 分かりやすく要約すると。

 ウルキオラの持つ『探査回路(ペスキス)』の効果範囲を箱庭全域に広げ、十六夜達の霊格を捕捉した位置を目標に『解空』を使用。故に的確な場所に転移出来たのである。方法のみを伝えたが、その際に使用するギフトまでは晒さない。破面や虚独自の技術ではあるが、それが悪用される可能性は否めない故の措置である為、この判断は懸命とも言えよう。

 

 しかしウルキオラは知らない。

 

 恒星級の広大さを誇るこの箱庭全域に探査回路を容易く拡げられるという事がどれほど荒唐無稽な事実であるのか。

 白夜叉はその異常さを知っていた為、内心卒倒しそうになった。

 

「……もうおんしの荒唐無稽さには驚きを通り越して呆れるしかないのぅ……」

「「?」」

 

 白夜叉とは反対にその異常さを知らない耀やリリは疑問符を浮かべるだけだった。いや、これは知らない方が幸せであろう。ウルキオラのそれは、その気になれば何処に誰が潜んでいるのかすら知覚出来てしまうギフト。つまり殺し合いにおいてウルキオラに臆して逃げようとも逃げられないという事。『魔王からは逃げられない』という言葉がそのまま当て嵌まるという訳だ。加え、現在のウルキオラは破面という種を逸脱してしまっている。特性はそのままに、徐々に『絶対無』へと戻りつつある彼に敵う者は数えるほどしか存在しない。下手をすれば存在しないかも知れない。

 

 余談ではあるが。

 

 『絶対無』における“扉”の第二までを解放しているウルキオラは、それを“三割”まで引き出せる。

 無量大数を超越する『絶対無』の“三割”とはどれほどのものであるか。

 

 少なくとも、理解の範疇を超える代物であるのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 所変わって境界壁の自由区画。

 飛鳥がレティシアによって捕まり、最後の一人となった十六夜と鬼と化している黒ウサギは建造物の頭部にて一つのギフトゲームを展開していた。

 

 

 

『ギフトゲーム名“月の兎と十六夜の月”

 

 ・ルール説明

 

 ・ゲーム開始のコールはコイントス。

 ・参加者がもう一人の参加者を、“手の平で”捕まえたら決着。

 ・敗者は勝者の命令を一度だけ強制される。

 

 宣誓 上記のルールに則り、“黒ウサギ” “十六夜”の両名はギフトゲームを行います。』

 

 

 

「オイコラ黒ウサギ! スカートの中が見えそうで見えねえぞ! どういう事だ!?」

「あやや、怒る所はそこなのですか?」

 

 黒ウサギはスカートの裾を押さえながら、下から追ってくる十六夜に笑いかける。黒ウサギのガーターとミニスカートには視覚を惑わすギフトが施されていたりする。

 

 さて。この状況から察せるであろうが、既に開始のコール(合図)は為されている。スタートダッシュは同時。走力が互角である二人における差は現状、均衡を保っていた。

 だが油断は出来ない。黒ウサギはその素敵耳を備えており、十六夜は人間にはあるまじき凄まじい膂力がある。しかしこのギフトゲームに力比べは不要。十六夜に有利な要素は皆無である。それ故に、このギフトゲームでは黒ウサギが圧倒的に有利であった。

 そして十六夜が勝利する必要な条件の一つ。“黒ウサギを見失わない”事である。プレイヤー時において黒ウサギのウサ耳の効果範囲は1km。つまりある程度の距離を離されてしまえば、後は黒ウサギによるワンサイドゲームとなる。二人の走力が互角の時点で、ウルキオラの様な『過程を無視し結果のみを残す戦闘技術』でもなければ追い付く事は不可能なのだ。

 

(チッ、こりゃあルールを変えておくべきだったか……?)

 

 十六夜は内心で舌打ちする。長期戦に持ち込まれれば敗北するのは自分。短期決戦に持ち込もうとしても身体的なポテンシャルで互角である二人では堂々巡りとなる。そう、これは長期戦必至なのだ。

 

 ならばここで降参するか?

 

(いや───)

 

 否。断じて否。逆廻十六夜の辞書に諦めの文字は無い。何より今は超えるべき存在(ウルキオラ)がいる。この程度のギフトゲーム、乗り越えなくして何が打倒ウルキオラか。

 

(この逆境を覆してこその逆廻十六夜だよなぁッッ!!)

 

 十六夜の内の炎が燃え上がる。口元が吊りあがり、笑ってしまう。あぁ楽しい。笑いが止まらない。ウルキオラという存在がいるだけでここまで己の世界が変わるとは思いも寄らなかった。

 

「ヤハハハハハハハハハッ!!!」

 

 吼える。自然と笑い声が上がる。楽しくて愉しくて仕方がない。生きているという感覚が身体を支配している。

 

 素晴らしい。

 

 素晴らしき(かな)我が人生ッ!!

 

「オラァッッッ!!」

 

 今までにない力を込めて踏み込み、黒ウサギへ肉薄する。その刹那、十六夜は黒ウサギの速度を上回った。

 

「ッ!?」

 

 黒ウサギはそれに驚愕し、咄嗟に回避する。これは全力で回避しなければならないものだと本能で知覚した為か。

 運良く免れた黒ウサギは十六夜が僅かに失速した瞬間を狙い距離を取り停止する。十六夜も同じく停止し均衡は未だ変わらず。

 

(い、今のは……!?)

 

 額から冷や汗が流れる。十六夜の先ほどのアレ(・・)は一体何だったのか。それを直接見た黒ウサギだからこそ本能を以って恐怖した。

 十六夜はどうやら気付いていない様だ。となれば、あれは偶然か。それとも十六夜の持つ『正体不明』の一部なのか。

 

 

 

 知る由も無い。黒ウサギに肉薄したあの刹那。ほんの一瞬だけであるが。

 十六夜の身体が星辰(アストラル)体になっていた事実には───

 

 

 

「どうしたよ黒ウサギ? ボサッとしてるとスカートに頭突っ込むとか胸揉んだりするぞ?」

「だ、黙らっしゃいこのお馬鹿様!!!」

 

 フシャー! と唸る黒ウサギ。先程の恐怖はいつの間にか払拭されていた。十六夜が黒ウサギの感情に気付いたかどうかは本人しか分からないが、こういう所が彼の良い所の一つなのではないか。

 兎に角。このギフトゲームもそろそろ終わりにしなければならない。あのお馬鹿様には説教の一つでも据えないと気が済まないのだ。

 だが、何故だろうか。このギフトゲームを続けていたいという気持ちは何処から来るのであろうか。

 先程の恐怖はあれど、既に払拭されている。アレが偶然の産物ならば別に気にする程でも無い。最早黒ウサギの心中には“楽しい”という感情しか無かった。

 思えば生まれてこの方二百年。月の兎として審判権限(ジャッジマスター)を持ち、プレイヤー側として参加する事が少なかった。プレイヤー側としてギフトゲームに参戦した事もあるが、心底楽しめるには至らず。

 

 この気持ちは何なのだろうか。

 この溢れる感情は何なのだろうか。

 逸る心を押さえ切れない。

 

 生来、心の底から楽しいと感じるゲームはこれが初めてではないだろうか。

 

「そんな破廉恥な行為をしようとする十六夜さんにはお灸を据えなければいけませんねっ!!」

 

 駆ける。彼女は駆ける。あるがままの自分(黒ウサギ)として駆けて行く。

 全力で。全開で。逆廻十六夜とこのギフトゲームを楽しむ為に。

 

「ヤハハハハハッッ!!! イイぜイイぜ黒ウサギ!! もっと俺に逆境を与えろよ! 何度でも覆してやるぜ!!」

 

 走る。走る。あるがままの自分(逆廻十六夜)として走り抜ける。

 全力で。全開で。黒ウサギとこのギフトゲームを愉しむ為に。

 

 互いが全力疾走でこの街を駆けて行く。心が満たされるまで。何時までも。何時までも。何時までも。

 

 

 

「大人しく捕まれこの駄ウサギィィィィィィィィッ!!!」

「それは此方の台詞なのでございますよォォォォォォォォッ!!!」

 

 

 

 かくして逃走劇は最高潮(クライマックス)を迎える。

 互いが心から楽しんでいる/愉しんでいる笑みであり。それを止める者はいない。誰もがそれに魅入られており、誰もが共感出来るものであったが故に。

 

 

 

 

 

 あぁ。この甘美なる刹那が永遠に続いて行けば良いのに。

 そう願わずにはいられなかった。

 

 

 




・『絶対無』の“三割”
つまり波旬の三割の力と考えればよろし(白目

・十六夜の星辰体化
これは原作の十六夜と剥離するきっかけになります。
要するに、アマッカス精神をちょっとだけインストールされた感じ(白目
なお、更に酷くなる模様(白目

・黒ウサギ
このウサギ、ノリノリである(笑)



因みに十六夜の星辰体化の設定はオリジナルですが、アストラル体とは元々人間および動物のみに備わり、精神活動における感情を司る身体とあるので、「まあこれもアリなんじゃないかな」と思った次第です。
恐らく、ここの十六夜ちゃんはアジさんと相対してもブーストで更に強化されて一人で倒せそう(白目
つまるところスーパー鋼メンタル。これもウルキオラさんのお陰だよやったね!(錯乱


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21.画策

どうも、安全第一です。
約束通り、12月31日に更新しました。
因みにこの話は五時間で書き上げたので抜けている所があるかもです。

ではどうぞ。


 十六夜と黒ウサギによるギフトゲームが開始されてから数十分。

 その後、ギフトゲームを中断するかの様に二人の周りには炎の龍紋を掲げ、蜥蜴の鱗を肌に持つ集団が集っていた。つまる所、北側の“階層支配者”である“サラマンドラ”のコミュニティだった。騒ぎを聞き付け、沈静化を図る為にやって来たのである。

 肝心のギフトゲームは都合の良いタイミングだったのか、両者がお互いの腕を掴み取り引き分けの結果となっていた。

 お互いにギフトゲームに夢中となり、熱が入っていた状態だったが、終了直後にサラマンドラの介入で急速に冷めていく。黒ウサギは自らの失態に気が付き、頭を抱えながらも両手を上げて降参の意を示したのだった。

 

 そして現在、ウルキオラ達は。

 

 

 

 ───境界壁・舞台区画。“火龍誕生祭”運営本陣営。

 十六夜達がサラマンドラに連行されて運営本部まで来ていたのと同時、火龍誕生祭で開催されているギフトゲーム最後の決勝枠が争われていた。

 

『お嬢おおおおおおお!! そこや! そこやで! 後ろに回って蹴飛ばしたれえええええええ!!』

 

 ウルキオラ達について来た三毛猫がセコンドで叫ぶ。舞台で戦っているのはノーネームの春日部耀と、“ロックイーター”のコミュニティに属する石垣の巨人、自動人形(オートマター)だった。

 鷲獅子から受け取ったギフトで旋風を操る耀は順調に駒を進めて来ている。決勝枠を争うこの戦いもそれらを十全に駆使し、相手の攻撃を飛翔しつつ躱していた。

 そして巨人の後頭部を蹴り崩し、瞬時に自身の体重を“象”へと変幻させ、落下の力と共に巨人を押し倒した。それと同時に辺りからは割れる様な歓声が起こった。

 

『お嬢おおおおおおおお! うおおおおおおおおお! お嬢おおおおおおおおお!』

 

 耀の雄姿に雄叫びあげる三毛猫。他人からはニャーニャー言っているだけにしか聞こえないのだが、ギフトを持つ耀には三毛猫の言葉がはっきりと聞き分けられていた。三毛猫の方に目配せと片手を向け、微笑を見せる。

 

「………」

 

 その姿を三毛猫より離れた出場者が入場する門で眺めるウルキオラとリリ。彼はサウザンドアイズの支店での出来事を思い返していた。

 

 

 

「そういえば、大きなギフトゲームがあるって言っていたけど、ホント?」

「本当だとも。特に、おんしには是非とも出場して欲しいゲームがある」

「私に?」

 

 和菓子を頰へリスの様に膨らませている耀に、白夜叉は着物の袖からチラシを取り出して見せた。

 

『ギフトゲーム名“創造主達の決闘”

 

・参加資格、及び概要

 ・参加者は創作系のギフトを所持。

 ・サポートとして、一名までの同伴を許可。

 ・決闘内容はその都度変化。

 ・ギフト保持者は創作系のギフト以外の使用を一部禁ず。

 

・授与される恩恵に関して

 “階層支配者”の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

“サウザンドアイズ”印

“サラマンドラ”印』

 

 その内容を見た耀は首を傾げる。

 

「……? 創作系のギフト?」

「うむ、人造・霊造・神造・星造を問わず、製作者が存在するギフトの事だ。北では、過酷な環境に耐え忍ぶ為に恒久的に使える創作系のギフトが重宝されておってな。その技術や美術を競い合う為のゲームがしばしば行われるのだ。そこでおんしが父から譲り受けたギフト、“生命の目録(ゲノムツリー)”は技術・美術共に優れておる。人造とは思えん程にな。展示会に出しても良かったのだが、そちらは出場期限が切れておるしの。その木彫りに宿る恩恵ならば、力試しのゲームも勝ち抜けると思うのだが………」

「そう、なのかな?」

「うむ。幸いな事にサポート役としてジンもおる。ウルキオラ……は過剰戦力だの。それは兎も角、本件とは別に、祭りを盛り上げる為に一役買って欲しいのだ。勝者の恩恵も強力なものを用意する予定だが……どうかの?」

「うーん……」

 

 白夜叉からの誘いに、あまり気乗りしない様子の耀。なのだが、ふっと思い立った様に質問する。

 

「ね、白夜叉」

「何かな?」

「その恩恵で……黒ウサギと仲直り出来るかな?」

 

 その言葉にやや驚きの表情を見せる白夜叉。だがすぐに優しく温かい笑みで頷いた。

 

「出来るとも。おんしにそのつもりがあるのならの」

「そっか。それなら、出場してみる」

 

 コクリと頷いて縁側から立ち上がる耀。“創造主達の決闘”への参加が決定した。

 

 

 

「……」

 

 ウルキオラは雄叫びを上げている三毛猫とは正反対で、何か物思いにふけていた。

 あの時、耀と白夜叉の様子から見てすれば、微笑ましい光景に思える。違和感など何も感じはしないだろう。

 しかし、ウルキオラだけは違和感を感じ取っていた。その違和感こそ微々たるものであり、耀本人ですら気付かないほんの僅かな違和感。

 

(……焦燥、か?)

 

 ウルキオラは耀を見て、焦燥を抱いていると感じ取っていたのだ。だがおかしい、とウルキオラは疑問に思う。

 ウルキオラは心を理解し始め、相手の感情がどのようなものなのかを少しではあるが理解出来るようになった。しかしその本人ですら気が付かないような感情のごく僅かな変化を感じ取れる程、ウルキオラは成長していないのだ。

 では何故、あの時の耀の感情に気が付けたのか。

 

「………」

 

 ウルキオラは周りの観衆を見る。そして意識を集中させた。

 見える。伝わって来る。観衆一人一人の感情がどういうものなのかが朧げながらも伝わって来るのだ。興奮、嫉妬、失意、期待。様々な感情がウルキオラには『視』えた。

 

(……『眼』か?)

 

 違和感の正体を掴み、自身の左眼を手で覆う。そして側にいるリリに気付かれない様に抉り出した。

 抉り出した眼球を見る。翠色の眼から今までに見た映像や情報を残った右眼で『視』た。

 

「……成程。そう云う事か」

 

 ぼそりと呟き、確信する。藍染惣右介に仕えていた頃、現世の調査の報告として良く使用していた『共眼界(ソリタ・ヴィスタ)』に変化が起こっていると。

 ウルキオラはこの眼を「全てを見通す目」と言っていた。しかし、何故この眼が全てを見通す目だと言っていたのかが自分でもよく分からなかったのだ。ただこの眼が全てを見通す力を持つという事実のみが残っていただけで。

 だが黒崎一護の霊圧を得て、『絶対無』へと戻る“扉”の内二つ開けた事で、ウルキオラ自身の霊圧は日々強大となっている。それ故にウルキオラの『眼』も本来の能力を取り戻し始めているのだ。

 

 名を『境眼界(オキュロス・ヴィデント)

 

 凡ゆる境界を見通し、その深奥をも見通す力。相手がどのような歴史を持っているか、どのような感情を抱いているか、どのような力を持っているかが一目で解るものだ。

 『境眼界』の能力が完全に戻れば、森羅万象すらも一目で完全に理解してしまう程である。

 この情報を『境眼界』から得たウルキオラ。どうやら『境眼界』を『境眼界』で『視』た場合だと、自分の能力だからか『境眼界』の情報が事細かく伝わって来る様だ。

 そして用は済んだとばかりに眼球を握り潰す。再び開かれた手の平には潰された眼球の姿は無く、超速再生によって瞬く間に左眼が再生されていった。

 ウルキオラは顔を上げ、白夜叉がいる方角へ視線を移す。丁度白夜叉が柏手を打ち、観衆の声を静止させていた。

 

「最後の勝者は“ノーネーム”出身の春日部耀に決定した。これにて最後の決勝枠が用意されたかの。決勝のゲームは明日以降の日取りとなっておる。明日以降のゲームルールは……ふむ。ルールはもう一人の主催者にして、今回の祭典の主賓から説明願おう」

 

 白夜叉が振り返る。そこから現れたのは深紅の髪を装飾で丁寧に束まれ、色彩鮮やかな衣装を幾重にも纏った幼い少女であった。

 彼女こそ龍の純血種、星海竜王の龍角を継承した新たな“階層支配者”であり、サラマンドラの頭首でもあるサンドラである。

 凛とした姿ではあったものの、幼いからか緊張した面持ちであるサンドラ。大きく深呼吸をし、鈴の音の様な声音で挨拶した。

 

「ご紹介に預かりました、北のマスター・サンドラ=ドルトレイクです。東と北の共同祭典・火龍誕生祭の日程も、今日で中日を迎える事が出来ました。然したる事故も無く、進行に協力下さった東のコミュニティと北のコミュニティの皆様にはこの場を借りて御礼の言葉を申し上げます」

「……あの餓鬼と立場は同じか」

 

 ありきたりな挨拶ではあるが、真摯に声を発するサンドラの姿。ウルキオラにはそれがジン=ラッセルと重なって見えた。

 逆廻十六夜に感化されたのか、彼のどこか弱々しい雰囲気は消え始めている。率いる立場としての頭角は既に現れ始めている様だ。

 問題児達の支援があってこそではあるが、“ノーネーム”は息を吹き返し勢力を少しずつ拡大していっている。かつて“フォレス・ガロ”に乗っ取られていた“ルル・リエー”もノーネームの実質勢力下に入っている状態だ。子どもであるジンの言葉に対し反対する者は誰一人としていなかった。

 それはノーネームに名と旗を取り戻して貰った恩義がある事と、小規模のコミュニティだからだ。これからもルル・リエーはノーネームに手を貸してくれるコミュニティとなるだろう。

 だが、このサラマンドラは話が違う。五桁に本拠地を置き、更には“階層支配者”でもある大規模のコミュニティなのだ。とはいえ、流石にサウザンドアイズともなれば箱庭全体の超がつく大規模となる故にそれらとは比べてはならない。

 そのサラマンドラで齢十一で頭首となったサンドラに対し、負の感情を向ける者は必ず存在する。幼い権力者を快く思わない者が何かを企む可能性は高い。

 

「………」

 

 そしてウルキオラは『境眼界』でそれら負の感情を感じ取っていた。

 加えて、サラマンドラが本拠地としているこの場所に訪れる際に箱庭全体を覆う規模で使用した『探査回路(ペスキス)』の中で一つ察知したものがある。

 

 “魔王”

 

 この境界壁の付近にその霊圧を感じ取っていたウルキオラは思案を巡らせる。

 『境眼界』で感じ取る負の感情。この境界壁付近に感じる魔王の霊圧。幼い階層支配者。これらを合わせて考えられる事は一つ。

 

(この火龍誕生祭。恐らくあの階層支配者である餓鬼を試そうとする何かがある───)

 

 これは十中八九的中してしまう未来の予想だが。

 今回開催される火龍誕生祭は魔王を撃退する事で幼い階層支配者を快く思わない者達の考えを改めさせる大きな舞台装置なのではないかと。

 これも予想だが、相手の魔王もサンドラと同じ様にルーキーの魔王なのだろう。『絶対無』の影響で箱庭の法則から逸脱しつつあるウルキオラが直接戦えば一捻りで終わるだろう雑魚に過ぎない。

 故にウルキオラは一人画策する。

 

(───良いだろう。このギフトゲームや魔王との戦いが予定調和ならば、利用してやろう)

 

 画策とはいえ、その内容は至極単純。問題児達のレベルアップだ。

 春日部耀、久遠飛鳥は今のままでは論外。飛鳥は遅咲きの花だが、その花が咲いた時に大きな躍進が出来る様に。春日部耀に関しては今でなくても良いだろう。『探査回路』で感じ取った霊圧のイメージを『境眼界』で見て判明した魔王のギフトであるのならば、彼女はそのギフトに無力化されるに違いない。明日のギフトゲームで何かを得られればそれで良し。

 そして逆廻十六夜。この者だけは別格なのだが、未だに奥の手を使ってはいない。魔王を倒すには星を砕く威力の力が必要となる。十六夜が持っていない筈がない。

 しかし十六夜が切り札を切らないのは仕方のない事だ。星を砕く力を使えば辺りにも大きな被害が及ぶ。白夜叉と戦ったウルキオラもただの虚閃ですら星を砕く威力となっていたが故に、最後の王虚の虚閃と白夜叉の大技の相殺で空間崩壊を起こしてしまった。

 とはいえ、魔王はルーキー。その程度の相手に十六夜が切り札を切るのなら拍子抜けというもの。山河を砕く威力の徒手空拳でどれほど戦えるかが見ものだ。

 魔王への止めは黒ウサギの持つギフトでどうにかするだろう。彼女が帝釈天の眷属である玉兎だと言う事を既にウルキオラは知っているのだから。

 それらを踏まえ、ルーキーの魔王は今の問題児達やサンドラには丁度良い相手になるだろう。

 

 だがそれではもの足りない(・・・・・・)

 

 ウルキオラが画策する内容は問題児達の強化という単純なものである。

 

 しかし、だ。

 

 その難易度がどれほど困難なものになるかはウルキオラ次第。

 

 故に。

 

 

 

(精々足掻くが良い、餓鬼共)

 

 

 

 予定調和であった筈の魔王との戦いがウルキオラの一手であっさりと崩れ去るのを今は誰も知らない。

 

 

 




つまりペスト戦の難易度がノーマルからベリーハードになる訳です。
ウルキオラさんの鬼畜な一手が問題児達&その他大勢を襲う!!





では皆様、良いお年をお迎え下さい!


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22.遭遇

うーむ、この休み中に何話か更新したいなぁ。
あと、『天龍に憑依した求道者』も書き始めようかな。

ではどうぞ。


 ギフトゲーム“創造主達の決闘”の決勝枠を決める戦いが終わり、騒ぎを起こした十六夜達は運営本陣営の謁見の間まで連れて来られていた。

 

「あ、皆さん!」

 

 そしてそこにはぽつりとリリがいた。彼女は十六夜達を見るや、彼等の元に駆け寄る。それを見た十六夜は同伴している筈であるウルキオラが居ない事に違和感を感じ、訝しげに問う。

 

「おい、ウルキオラはどうしたんだ?」

「あ、ウルキオラ様なら先程何処かに行かれました。『ここに居ろ。程なくして逆廻十六夜達と合流出来るだろう』と言っていましたので、リリはここに待機していました」

「成程な。行き先は聞いてないのか?」

「はい、そこまでは……」

 

 まあそこまで気にする程でもないか、と十六夜は気にする事なく思考を打ち切った。ウルキオラは単独行動を好んでいる傾向があり、問題児達も基本的に好き勝手やっている為、その動向を深く知るような真似はしない。

 ノーネームがこの火龍誕生祭に招待されたのには必ず理由がある。本当ならノーネーム内で最も実力がある為、その場に居て欲しかったのだが致し方の無い事だろう。それにサラマンドラから頼まれるであろう依頼の詳細は後ほど伝えても問題ない。

 

「なら行こうぜ。人数が少し増えた所で何も問題ないしな」

 

 その前に一悶着ありそうだが、と独りごちる。しかしそれが脅威になる事はまず無いだろう。いざとなれば黒ウサギとどうにかすれば良い。

 少々楽観視しているが、油断はしない。見下す事があろうと、決して油断はしないのが逆廻十六夜なのだ。万が一の可能性としてサラマンドラから奇襲を受けた場合の対処も考えてある。

 

 だが、ウルキオラがこの先の予定調和を崩す一石を投じている事へは微塵も考えが及ばなかったのだった。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 白き死神が歩く。

 そこは人気のない街道。火龍誕生祭で賑わっている筈の街が嘘の様に静寂としている。あまりにも静寂すぎて返って不気味な印象を抱いてしまう程だ。

 

「………」

 

 その不気味な静寂に何一つ感情を抱く事なく歩き続けるウルキオラ。そして突如として立ち止まった。

 

「……この地点で良いだろう」

 

 そして呟き、手の平から剣虚閃(グラディウス・セロ)を精製し、その剣虚閃を真下へ突き刺した。すると地面に突き刺した剣虚閃は吸い込まれる様にして消えて行く。だがこれで目的を達成した訳ではなく。

 

「次だ」

 

 次の目的地への方向に視線を向け、響転でその場から消え去る。そして瞬く間に次の目的地へ到着した。

 先程と同様に剣虚閃を精製し、再び真下に向けて突き刺す。これもまた同じく地面に吸収されていく剣虚閃。そして脇目も振らず、さらなる目的地へ響転を使い移動する。

 これがウルキオラが打つ布石。サラマンドラの長であるサンドラやノーネーム達が魔王を打ち破るであろう予定調和を崩す一手。ありきたりな筋書きを改変し、どのような結果に転ぶか分からない博打へと変貌させる。

 それ故に、死者がどれほど出るかも分からない。もしかするとサンドラが死ぬ未来であるし、もしかすると逆廻十六夜が、久遠飛鳥が、春日部耀が、黒ウサギが死ぬ未来なのかも知れない。あるいは誰も死なない未来であるかも知れないし、はたまた全滅する未来である可能性もある。

 だがこれぐらいしなければ意味が無い。ノーネーム達の強化は必須だ。布石を打つ直前に箱庭全体に境眼界(オキュロス・ヴィデント)を使用して漸く判明した事だが、彼等はいずれ『人類最終試練(ラスト・エンブリオ)』なるものに挑まなければならない。未来の英雄となる人類代表の逆廻十六夜が召喚されているのが何よりの証拠だ。

 対してウルキオラは『絶対無』に目覚め、箱庭の法則から逸脱しかけている。あと一ヶ月と待たず、ウルキオラは箱庭の法則を完全無視した存在となる。元々絶対無は存在論を超越し、無は宇宙論の原初となっている故に宇宙論の上位存在なのだ。終末論などの人類最終試練を含めた宇宙論では絶対無を揺るがす事は不可能であり、そもそも倒すようなものではない。

 こういった事により、ウルキオラが人類最終試練に挑む事はない。例え対立したとしても箱庭の法則を完全無視している絶対無に人類最終試練は適応しない為、逆に絶対無によって箱庭諸共消し飛ばされてしまう。第三観測宇宙にとってその法則を完全無視している絶対無は恐ろしいものだ。抑止力などは全く役に立たない為に対抗手段も無く、箱庭そのものが絶対無に対して『鬩ぎ合いを回避する』という意思となり、『絶対無と箱庭の衝突が発生しない』という結果に帰結する。

 だがあくまで絶対無に対してのみであり、ウルキオラが独自に持つ神格面ならば挑む事も可能だ。問題としてはその神格面も絶対無の影響を受けている故に箱庭の法則から逸脱している事でウルキオラ側が有利な状況となる事だが。

 しかし人類最終試練の際、ウルキオラは傍観者として立ち会うつもりだ。もしかするとそれによって心の理解を深められるかも知れない。人と神の戦いは壮絶故に、必ず大きな事が起こるからだ。何より人である黒崎一護と戦ったウルキオラが心を知り、理解したいと思った事が証拠だ。

 だが、今のままでは人類最終試練に対し逆廻十六夜も含めて到底太刀打ち出来ないだろう。それではいけない。その未来だけは必ず回避しなければならない。ならば人類の勝利の為に手を打とう。試練は困難であればあるほど人は強くなれるのだから。

 

「……手段は講じた」

 

 最後であろう地点に剣虚閃を突き刺す。最後の剣虚閃も抵抗なく地面へ吸収された。

 それを見届けたウルキオラは顔を上げ、街道の先を見据えた。

 

「居るのは解っている。出て来い」

 

 まるで最初から分かっていたかのような物言いで語りかける。そして街道の先、正確には街角から濃密な死の気配が溢れ出る。

 そこから現れたのは斑模様のワンピースを着た少女と、黒い軍服を着込み同身長はあろう大きな笛を肩に抱える男性の姿だった。

 

「貴方ね。先程から色々と動いている、白夜叉以上の神格を持つ人は」

「成程、直接見りゃヤベエ感じがヒシヒシと伝わって来てんな」

 

 少女は冷静に、男性は飄々とした物言いだが、内心では想定外の事態だと焦燥を抱いていた。そして相対するウルキオラは二人を瞳に移し、口を開く。

 

「……ほう。お前達が“幻想魔道書群”、否、“グリムグリモワール・ハーメルン”か。

 貴様が黒死病の化身、八千万の死の功績を持つ“黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”。そして本物のハーメルンの笛吹き(・・・・・・・・・・・・)。……“ネズミ捕りの道化(ラッテンフェンガー)”は此処に居ない様だが、まあいい」

「何?」

「……何処でそれを?」

 

 既に相手の正体を知っているウルキオラに、あくまで冷静ながらも計画の支障に悩まされる黒死病の化身、ペスト。それを傍目で見ながらウルキオラに敵意を抱く男性、ヴェーザー。

 だがウルキオラはそれを受け流し、更に言葉を紡ぐ。

 

「成程、お前達がこれから仕掛けるギフトゲームはさしずめ“ハーメルンの笛吹き”の伝承に沿ったものだろう。まあ、そこのハーメルンの笛吹き以外は全て偽者だが、年代は近い。少なくともフェイクにはなるだろう。白夜叉を封印出来るルールも都合良くあるようだからな」

「………」

 

 無言となるペスト。この男、ウルキオラはギフトゲームが始まる前から既にギフトゲームの内容と答えを知っている。そして最大の障害となる白夜叉を封印出来るルールすらも。

 本来なら始まる前から躓く事など無かった筈だ。しかしウルキオラ・シファーというイレギュラーによって前提が大きく崩れた。白夜叉以上の神格を持つウルキオラに相手取られては勝ち目は無い。逆転の兆しすら掴めず、敗北する。

 ならば、不意打ち且つ悪手ではあるが無防備の彼を今ここで始末しなければなるまい。そう思い、身構え、それを見たヴェーザーも臨戦態勢を取った。

 

 だが。

 

「ごふっ……!?」

「ガッ……!」

 

 いざ殺戮を行おうとした彼女らは腹に強い衝撃を受けて街道の奥の壁へと叩きつけられる。二人はウルキオラが何をしたのか微塵も理解出来なかった。

 ウルキオラがした事は至極単純。神域の戦闘技術を以って二人に肉薄し、二人の腹に一発ずつ拳を直撃させただけ。

 あまりにも重い一撃。その一撃は逆廻十六夜の山河を砕く一撃を遥かに凌駕している。正に星を砕く威力を持った拳だ。証拠に二人は口から血を流している。

 

「ぐ……ぅ」

「ハッ……こりゃシャレになんねぇぜ……」

 

 混濁する意識を何とか保ち、立ち上がるペストとヴェーザー。だがこれでは到底ウルキオラに勝ち目は無くなった。相手は無手、腰に刀を差しているが抜刀する素振りすら見せない。加えて武人が夢見る境地である神域の戦闘技術を有し、切り札すら全く切っていない。

 この二人に状況を覆す策など無く、最早あの男にギフトゲームは意味を成さない。現時点でウルキオラは自らの意思次第でギフトゲームを完全無視出来るだけの存在となっているからだ。

 

 だが、その状況をあっさり覆したのは他でも無いウルキオラだった。

 

「安心しろ。今更お前達をどうこうする意思は無い。俺が倒してしまっては意味が無い。……寧ろ、明日仕掛けるだろう貴様等の勝算を上げる為にこの地に細工をした」

「……何ですって?」

 

 怪訝とした表情で聞き返すペスト。ヴェーザーは黙りつつウルキオラを睨みながら言葉を待つ。

 

「端的に言う。貴様等はどう足掻こうとギフトゲームに敗れる」

「何っ……!」

 

 その言葉に憤怒の表情を浮かべ、睨みつけるペスト。殺意に溢れ、死の威容が現れる。

 

「待って下さい、マスター」

 

 だがそれを止めたのはヴェーザーだった。

 

「ヴェーザー……」

「全力で歯向かった所で、アイツには勝てません。それを一番分かっているのは他ならぬマスターでしょうに。悔しいのは分かる。だが、俺たちが成し遂げなければならないのはアイツを倒すことじゃねぇ」

 

 ペストは見る。ヴェーザー本人の瞳にはペストよりも遥かに悔しさの色に染まっていた。それでも止めるのは親愛なるマスターであるペストを守る為。彼にとっての第一とは、ウルキオラを倒す事ではなく、悲願の成就でもなく、ペストであった。

 彼の瞳には、ペストを何としてでも守り通し、彼女の意思を尊重する覚悟が映っている。もしもウルキオラがペストを殺す気であれば、躊躇なく我が身を盾にして彼女を逃すだろう。それだけの確固たる信念がヴェーザーにはあった。

 それを一番理解しているのは他ならぬペスト。彼のその姿勢には好感を抱いているし、今ではラッテンも含め、大事な家族だと思っている。そんな彼の諌言を無視する程、ペストは愚かでは無かった。

 ペストは憤怒の感情を抑え込み、再び冷静な表情へと切り替える。

 

「……続けて頂戴」

「良いだろう。……大方、貴様等を招き入れたのはサラマンドラだろう。ならば、招き入れた奴らに勝算が無いとでも思っていたのか?」

「それは……」

「貴様等に対して勝算が在るからこそサラマンドラは招き入れたのだ。舞台装置を敷き、起こり得るだろう展開を予め脚本し、結末までも全てが奴らの掌の上。それをより確実にする為に無名のコミュニティ(ノーネーム)までもが招待された」

 

 その事実に気付く者は逆廻十六夜のみだろう。最も、判明されるのは終盤になってからであろうが。その事実を聞かされ、ペストは歯噛みする。我らの悲願すら舞台措置として利用されるのか、そう思えば思うほど悔しさが募る。

 

「だからこそ、その下らん脚本を諸共崩す一手を俺が打った」

「!」

 

 その言葉を聞いたペストを目を見開く。それは敵に塩を送る行為と同義だ。何故ウルキオラがそのような事をするのか理解出来ない。

 

「……一体何を目論んでいるの?」

「大した目的はない。ただ貴様等のギフトゲームを相応の試練へと改竄しただけに過ぎん」

 

 そう言うと踵を返し、この場から去ろうとする。すると立ち止まり、ペスト達へ顔を向けた。

 

「……貴様等に俺の力を貸そう。精々、驕り昂る事なく悲願とやらを成就して見せろ」

 

 貴様等の意志でな、と告げ、響転によって姿を消した。

 その姿を目を反らす事なく見届けたペストは口元と血を袖で拭き、ウルキオラがいた場所を睨みつける。

 

「やって見せるわよ。貴方に言われなくてもね。その力、遠慮なく貸してもらうわ」

 

 そしてペストはヴェーザーに向き直る。その瞳には真摯なまでの色が込められていた。

 

「ヴェーザー、改めて言うわ。お願い、力を貸して。私の家族を守り通す為に。悲願の成就の為に」

Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みとあらば)

 

 ペストの命にヴェーザーは巨大な笛を片手に跪き、肯定の言葉を述べる。

 マスターの為ならば、幾らでも力を貸そう。この身が朽ち果てるまで。それまでは、貴女を必ず護り通して見せよう。

 

「ま、これはラッテンにも言わなきゃね。茶化して来るかも知れないけど……」

「……フッ、その時はその時で拗ねてやりゃ良いんですよ。俺達はいつもそうだったじゃないですか」

「……そうね、そうだったわね。フフッ」

 

 お互いに微笑み、二人を黒い霧が包む。

 

「勝つのは私達よ。我等が悲願の贄となれ」

 

 白き死神に力を貸して貰う事には不満だが、使えるものは全て使う。決してその力に驕り昂らずに。我等が意志を以って敵を打ち破る。その先に必ず悲願が待っている。

 そして黒い霧が晴れた場所に二人の姿は消えていた。

 彼女達は確固たる意志と覚悟でサラマンドラに挑む。

 

 絶対に勝つ。

 

 

 

 勝つのは、我等だ。




さて、ペストちゃん率いるグリムグリモワール・ハーメルンが原作とは違う感じに。
絶対無に関してはWikiを見た上での独自解釈or独自設定なのでツッコミは無しで。
あと、開示する必要性はないが、現時点のウルキオラの戦闘技術は天魔・大嶽より少し下くらい。剣の技量も天魔・悪路より少し下。



ペスト:ヴェーザーやラッテンを大事な家族と思っている。二人を守る為に悲願は必ず成就させる。若干改変した感じ。ゲームメイクの甘さはそのままである。だが決して驕り昂る事はしない。

ヴェーザー:こいつが最も改変されている。ペストとラッテンを家族と思い、特にペストには親愛の情を持ち、護るべき者だと認識しており、悲願よりも彼女の事を最優先する。正に騎士そのもの。
言葉遣いも原作と少々異なり、ペストに対しては緩め。
彼に関しては、ペストを何よりも最優先する為、ペストの事になれば自らの霊格を超えた力を発揮する。そして尚且つグリムグリモワール・ハーメルン内で最も冷静で、的確な判断を下せる。ペストの為ならば、絶対に勝てない相手(ウルキオラ)に怒りに身を任せて挑みかかりそうになるペストを諌める事すらする。どこで勝たなければならないのかを考え、必要のない戦いは回避している姿勢にはウルキオラも多少なりとも評価している。
ぶっちゃけ、この後の展開は十六夜ちゃんとヴェーザーの殴り合いがメインとなる。一番魅せて行きたい所。

ラッテン:唯一登場しなかった人。まあ、ウルキオラとペスト&ヴェーザーが遭遇した同時刻に飛鳥の胸に収まったメルンをネズミを使って追い掛け回していたからしょうがないね。
グリムグリモワール・ハーメルン内のムードメーカー。ペストはお気に入り、ヴェーザーは戦友といった所か。
この話の後、ペストちゃんに真摯にお願いされた彼女は内心狂喜乱舞し、アクセル全開となった。勿論、外側は真面目にやったよ。内側がふざけているだけで。



勝率はグリムグリモワール・ハーメルンが7、サラマンドラやノーネーム達が3といった所。
ウルキオラからの補正に加え、覚悟の差が違うからこうなった。


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