仮面ライダーアベンジ (辰ノ命)
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登場人物・ライダー・怪人・アイテム


仮面ライダーアベンジの設定です。
※キャラが抜けてる等のミスがございましたらお気軽にお申しつけください。質問等も構いません

なんか纏めていけそうな気がする…しない?

4/26
・ライダー 仮面ライダーエース 追加
・ジェスター バートン 追加
・アイテム エースドライバー、エースガモスボウ 追加
5/3
・ライダー 仮面ライダーアベンジ フライウエポン 追加
・ライダー ダッシュウエポンの能力忘れてました。申し訳ない。
・ジェスター ウィンプジェスター 追加
5/18
・ライダー 仮面ライダーアベンジ ダイブウエポン 追加
5/20
・登場人物 青葉 楓 追加
6/10
・登場人物 班目 響斗 追加
・ライダー 仮面ライダーエース パワードウエポン 追加
・ジェスター スイム、スピーダ、ウェイト追加
7/20
・ライダー 仮面ライダーアベンジ トリニティウェポン 追加
・ライダー 仮面ライダージャック 追加
・ジェスター キメイラ、ファング 追加
8/30
・ライダー 仮面ライダークイン ハートウェポン 追加
・ライダー 仮面ライダーエース スーパーハードウェポン 追加
・アイテム ポーカドライバー 追加
9/27
・ライダー 仮面ライダーエースリーダー 追加
・ジェスター 首領 追加
・アイテム クインハーツェ 追加
・アイテム 改良型エースドライバー 追加
10/5
・ライダー 仮面ライダーアベンジ リジェクトウェポン 追加
10/8
・アイテム トランプレイカード 追加
10/24
・ライダー 仮面ライダーエース マスタースペイドウェポン 追加
10/31
・ライダー 仮面ライダーキング クラブウェポン 追加
11/28
・ライダー 仮面ライダーアベンジ エスポワールジャンプウェポン 追加
12/2
・ライダー 仮面ライダーキング ロイヤルエックスウェポン 追加


プロフィール

イナゴ / 稲森(いなもり) 性別:男 人間年齢:約22歳

職業・身分:フリーター

 

説明

仮面ライダーアベンジの変身者。イナゴのジェスター。とある事がきっかけでアベンジドライバーを手に入れ、陽奈に反逆者と思われてしまい、人間と怪人の戦いに巻き込まれてしまう。本人は基本平和主義者であり攻撃的ではないが、誰かを守ると決めた時はスイッチが入る。実は根性があったりする。

イナゴな為、元々のジャンプ力は高い。

 

 

羽畑 陽奈(はばた ひな) 性別:女 年齢:25歳

職業・身分:仮面ライダー

 

説明

仮面ライダーエースの変身者。初代エースの月火の娘であり、エースドライバーを受け継いで二代目となる。反逆者であるジェスターは必ず始末するという中々に危険な香りがを漂わせる女性だが、人間限定では優しい模様。

 

 

青葉 楓(あおば かえで) 性別:女 年齢:25歳

職業・身分:一般人

 

説明

陽奈の唯一無二の親友。彼女がエースである事を尊敬しており憧れてもいる。過去にジェスターによって両親を殺されており、ジェスターに対する恨みが強い。

 

 

モグロウ 性別:男 人間年齢:約22歳

職業・身分:現在は無職

 

説明

土竜のジェスター。稲森の親友であり、良き理解者。稲森が仮面ライダーとなり、反逆者となった事を知るが、彼を裏切らず何度も助けてくれる良き相棒ポジ。

土竜の為、地面に穴を開ける事も可能。怪人としての手を使えばコンクリートも掘れる。

 

 

班目 響斗(まだらめ ひびと) 性別:男 年齢:37歳

職業・身分:研究員

 

説明

エースドライバーの生みの親。月火とは友人関係にあった。基本的に何を考えているか分からないため、現エースである陽奈も苦手な模様。何かと怪しい素振りを見せる。

 

 

羽畑 月火(はばた げっか) 性別:男 享年:34歳

職業・身分:仮面ライダー

 

説明

元・仮面ライダーエースの変身者。ジェスターの首領との壮絶な戦いで命を落としてしまった。これを予想してか、既に娘の陽奈に受け継がせるべく遺言書を書いていた。理不尽な条約もこれに書かれていたことを見て、お偉いさんが実現したものである。

 

 

 

 

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ライダー

仮面ライダーアベンジ ジャンプウェポン

身長 198.8cm

体重 93kg

パンチ力 5t

キック力 12t

ジャンプ力 ひと跳び20m(能力発動時80m)

走力 100mを4.8秒

 

差込時音「『Welcome!!』 ジャンプ!!」

変身音「『START!! アベンジ!!』」

必殺音「『GOODBYE!!アベンジタイム!!』」

※『』の部分は各フォーム共通。

※変身音の前の「Tasty!!」も共通。

 

説明

仮面ライダーアベンジの基本形態。ジャンプ力が非常に高く、それを活かして敵の攻撃をかわしたり、降下する勢いで強烈な一撃を叩き込む。

 

能力

・すっごいジャンプ力。

 

 

仮面ライダーアベンジ フライウェポン

身長 198.5cm

体重 91.3kg

パンチ力 5t

キック力 6t

ジャンプ力 ひと跳び15m

走力 100mを6秒

 

差込時音「『Welcome!!』 フライ!!」

変身音「The sky is mine『START!!』フライ『 アベンジ!!』」

必殺音「『GOODBYE!!』フライ『アベンジタイム!!』」

 

説明

仮面ライダーアベンジの別形態。背中のパックを展開することで空を自由に飛び回ることができるようになった。ダッシュウエポンよりは遅いが、それでもかなりの速度で飛行可能。

 

能力

・空を飛べる。

・翼はよく切れるナイフの様だ。

 

 

仮面ライダーアベンジ ダイブウェポン

身長 199cm

体重 92.4kg

パンチ力 6t

キック力 7t

ジャンプ力 ひと跳び12m

走力 100mを7秒

 

差込時音「『Welcome!!』 ダイブ!!」

変身音「Sleep on the seabed『START!!』ダイブ『 アベンジ!!』」

必殺音「『GOODBYE!!』ダイブ『アベンジタイム!!』」

 

説明

仮面ライダーアベンジの別形態。水中特化であり、両脚に着いている機械を使用することでジェット噴射ができる。両腕には発射可能な毒針と伸縮性のある鞭がある。水中でなくともある程度はこれにより対応可能。

 

能力

・水中で呼吸できる。

・相手の能力を防いでしまう毒針と伸縮性のある鞭。

 

 

仮面ライダーアベンジ トリニティウェポン

身長 199cm

体重 96kg

パンチ力 16t

キック力 25t

ジャンプ力 ひと跳び37m(能力発動時97m)

走力 100mを4秒

 

差込時音「『Welcome!!』 トリニティ!!」

変身音「Complete, my counterattack starts here!!『START!!』トリニティ『 アベンジ!!』」

必殺音「『GOODBYE!!』トリニティ『アベンジタイム!!』」

 

説明

仮面ライダーアベンジのてんこ盛り形態。陸海空全ての力を使用することができる。スペックも3つの力が作用されており、詰めてはいるがその強さはまさに陸海空を統べるもの。

 

能力

・ジャンプ、フライ、ダイブの能力が使える。又、全能力を倍の力で扱うことも可能。

 

 

仮面ライダーアベンジ トランスウェポン

身長 199.3cm

体重 93.7kg

パンチ力 25t

キック力 35t

ジャンプ力 ひと跳び25m

走力 100mを3.5秒

 

差込時音「『Welcome!!』 トランス!!」

変身音「The war begins again, we're the last to laugh!!『START!!』トランス『 アベンジ!!』」

必殺音「『GOODBYE!!』トランス『アベンジタイム!!』」

 

説明

仮面ライダーアベンジの強化形態。本来ならアベンジドライバーは閉じると怪獣の横顔のようになる仕様だが、この形態に関してはそのまま差し込んで上部を押す事で変身する。ジャンプウェポンのような見た目で色は霞み、目立った変化はない。「溜め込む」という能力があり、自分の力や受けたダメージを一箇所に溜める事で、スペック以上の力を発揮する。(場合によっては100tを超える)

 

能力

・溜め込んだダメージ等を一箇所に溜めて吐き出すことができる。

 

 

仮面ライダーアベンジ リジェクトウエポン

身長 199.5cm

体重 96kg

パンチ力 50t

キック力 55t

ジャンプ力 ひと跳び50m

走力 100mを2秒

 

差込時音「『Welcome!!』 リジェクト!!」

待機音「Ambition comes true because of sacrifice」

変身音「Put a flag on the mountain of sacrifice, I'm an avenge world revenge『START!!』リジェクト『 アベンジ!!』」

必殺音「『GOODBYE!!』リジェクト『アベンジタイム!!』」

 

説明

仮面ライダーアベンジの強化形態2。トランスフィードとリジェクトフィードを合体させ、アベンジドライバーに装着する事で変身可能となる。その力は犠牲によるパワーアップで、対象者は犠牲となってしまった人ならば誰でもいい(その際、背中からイナゴの群れを出して吸収させる)。トランスの溜めるという能力により、己の身体に負担がかからず吸収できている。ただしトランスの溜めてから放つ能力は使えない。

 

能力

・犠牲者が増えるほどパワーアップ(縁が深ければより強くなる)

 

 

仮面ライダーアベンジ エスポワールジャンプウエポン

身長 200.4cm

体重 104kg

パンチ力 52.4t

キック力 62.4t(能力発動時187.2t)

ジャンプ力 ひと跳び142m(能力発動時426m)

走力 100mを1秒

 

差込時音「『Welcome!!』 エスポワール!!」

変身音「Jump over the wall of fate! I am an avenge, a person who keeps hope『START!!』エスポワール『 アベンジ!!』」

必殺音「『GOODBYE!!』エスポワール『アベンジタイム!!』」

 

説明

仮面ライダーアベンジの最終形態。基本形態に白く輝く装甲を身に纏い、いかにも最終形態と思わせるスマートではあるが盛っている見た目。見た目相応に能力はシンプルながらスペックをキック力・ジャンプ力を3倍に引き上げるといったもので、もう一つは仲間との絆、変身者を想う気持ちに呼応し更に力を増幅させるという機能も備わっている。まさに稲森に託された名の通りの希望である。

 

能力

・基本スペックの驚異的な上昇(キック・ジャンプ力3倍)

・無限空中ジャンプ

・人の想いに呼応しパワーアップ

 

 

仮面ライダーエース ダッシュウェポン

身長 185.6cm

体重 88.5kg

パンチ力 10t

キック力 15.2t

ジャンプ力 ひと跳び24.3m

走力 100mを4.2秒(能力発動時3秒)

 

差込時音「ダッシュ!!『Open!!』」

変身音「『Let's try エース!!』」

必殺音「『Thank you!! エースライド!!』」

※変身音の前の「Come on!!」も共通。

 

説明

仮面ライダーエースの基本形態。走力が非常に速く、背中のパックを展開するとエネルギーが噴出し、4枚の羽のようになって飛ぶ事も可能。もちろん飛行速度もかなり速く、最高速度は普通に走るより速い。

 

能力

・高速走行と飛行

 

 

仮面ライダーエース パワードウェポン

身長 186.7cm

体重 95.8kg

パンチ力 13.2t(能力発動時23t)

キック力 16.5t(能力発動時26t)

ジャンプ力 ひと跳び10.3m

走力 100mを7.5秒

 

差込時音「パワード!!『Open!!』」

変身音「『Let's try 』パワード『エース!!』」

必殺音「『Thank you!!』パワード『エースライド!!』」

 

説明

仮面ライダーエースの別形態。攻撃力、防御力共に大幅に強化され、まさに動く要塞と化したが、その代わりにスピードが大幅に低下されている。身体中にミサイル等の銃火器も装備されている為、ある程度の距離は対処可能。

 

能力

・超攻撃力と防御力。

 

 

仮面ライダーエース スーパーハードウェポン

身長 186.1cm

体重 89.2kg

パンチ力 22.9t

キック力 23.4t

ジャンプ力 ひと跳び33.3m

走力 100mを3.2秒

 

起動音「大・暴・走!!」

差込時音『スーパーハード!!『Open!!』」

変身音「『Let's try 』スーパーハード・ハード・ハード!!『エース!!』」

必殺音「『Thank you!!』スーパーハード『エースライド!!』」

 

説明

仮面ライダーエースの強化形態。見た目はダッシュウェポンに近いが、禍々しくなっている。純粋に全体的なスペックの強化だけで特に能力などはないが、暴走状態となり、自我を失う事で見境がなくなる。つまり力の制限や躊躇がなくなった事でスペック以上の力を有する事が可能となった。ただし説明の通り暴走なので自ら変身を解く事ができず、一度変身すると、後は暴れ回るのみである。

 

能力

・暴走によるスペック以上の力の発揮。

 

 

仮面ライダーエース マスタースペイドウエポン

身長 187cm

体重 91.8kg

パンチ力 53t

キック力 57.6t

ジャンプ力 ひと跳び72m

走力 100mを1.1秒

 

起動音「ビバ!! マスター!!」

差込時音「マスター!! スペード!! Open bet!!」

変身音「『Let's try 』 Let's call!! ビバ!! マスタースペイド『エース!!』」

必殺音「『Thank you!!』マスタースペイド『エースライド!!』」

 

説明

仮面ライダーエースの最終形態。ポーカドライバーに使用するデータをエースドライバーにも使えるように調整したもの。その力はポーカドライバー以上の力を発揮し、エースの才能を限界まで引き上げる反面、元々エースドライバー用に開発などされていない為、それなりの負荷が変身者にかかる仕様となっている。

 

能力

・腕から手に掛けて内蔵されている重力変換装置による重力操作。

・背中のマントを広げ飛行を可能とし、他にも攻撃や防御にも用いる事も可能。

 

 

仮面ライダージャック ダイヤウェポン

身長 200.5cm

体重 102.3kg

パンチ力 46t

キック力 59.2t

ジャンプ力 ひと跳び53.1m

走力 100mを2.3秒

 

差込音「ダイヤ!!『べット!!』」

変身音「『Let's call!!』ダイヤジャック!!」

必殺音「『 RAISE!!』ジャック『ドロップ!!』」

 

説明

仮面ライダージャック。変身者は班目であり、最新の技術が使われたポーカドライバーの使用で変身可能。そのスペックは今までのライダーと比較にならないほどの強さを誇り、ダイヤウェポンはその中でも防御に優れている。その防御力は100t以下の攻撃は通さない。

 

能力

・圧倒的な防御力(100t以下無効)

 

 

仮面ライダークイン ハートウェポン

身長 189.4cm

体重 100kg

パンチ力 40.6t

キック力 45.2t

ジャンプ力 ひと跳び43.8m

走力 100mを4秒

 

差込音「ハート!!『ベット!!』」

変身音「『Let's call!!』ハートクイン!!」

必殺音「『 RAISE!!』クイン『ドロップ!!』」

 

説明

仮面ライダークインで変身者は楓。ジャックに続いて圧倒的なスペックだが、防御力は今ひとつなのところがある。しかし回復性能が飛び抜けており、ちょっとやそっとのダメージではすぐさま回復できてしまう。他にも魔法のような攻撃を得意とし、エネルギーが続く限り強力な攻撃が可能。

 

能力

・超回復機能。

・エネルギー系の攻撃により遠距離に対応可能。

 

 

仮面ライダーキング クラブウェポン

身長 203.6cm

体重 115kg

パンチ力 60.5t

キック力 69.4t

ジャンプ力 ひと跳び78.2m

走力 100mを1.2秒

 

差込音「クラブ!!『ベット!!』」

変身音「『Let's call!!』クラブキング!!」

必殺音「『 RAISE!!』キング『ドロップ!!』」

 

説明

仮面ライダーキング。変身者はファング。走力以外全てのライダーの上回っており、リジェクトやマスタースペイドすらその力の前では無力となる。見た目はおなじポーカドライバーだが、中身は大幅な調整と強化を行われており、ジャックとクインの能力を使用でき、更にはその能力すら上回るという性能を誇る。

 

能力

・クイン以上の超回復(傷ついた部位を数秒で回復できる)

・ジャック以上の防御力(150t以下無効)

 

 

仮面ライダーキング ロイヤルエックスウェポン

身長 203.6cm

体重 120kg

パンチ力 70t

キック力 81.8t

ジャンプ力 ひと跳び108.2m

走力 100mを0.9秒

 

差込音「ロイヤルエックス!! スペイドハートクラブダイヤ!!『ベット!!』」

変身音「『Let's call!!』ロイヤルエックス!! ジャック!! クイン!!キング!! エース!!」

必殺音「『 RAISE!!』ロイヤルエックス『ドロップ!!』」

 

説明

仮面ライダーキング。変身者は班目となる。今まで出てきたポーカライダー達とそのシステムを輸入したエースのマスタースペイドの能力も組み合わせた形態。キングの能力を完全に上回った上位互換であり、更に新たな能力も追加されている。変身者が班目という事もあってか、他のライダーの力を無駄にするかの如く性能を大幅にあげ全ライダー屈指の強さを誇る。

 

能力

・傷が付いた瞬間に秒で回復

・180t以下無効

・重力操作(やろうと思えば隕石を落とせる)

・テレポート(自分や相手を好きな場所に移動できる。対象の大きさは100m程度なら簡単にテレポート可能)

 

 

仮面ライダーエースリーダー

身長 200cm

体重 96kg

パンチ力 50t

キック力 55.2t

ジャンプ力 ひと跳び64.3m

走力 100mを1.2秒

 

※変身音等なし

 

説明

変身者はジェスター首領。仮面ライダーエースのエースドライバーから、更に首領専用(初代エース)の改良を重ねた結果、本来のエースが持つ力を大幅に凌駕する事になった。ダッシュフィードを使ってはいるものの、全くの別物として扱われている為、フォーム名は存在しない。

 

能力

・全てのジェスターの能力。

 

 

 

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ジェスターとは

 

説明

この世界に蔓延る怪人で、かつては首領と共に世界を滅ぼしかけまではしたのだが、仮面ライダーエースの手により倒されてしまい、今ではすっかり衰退して一先ずは静かではある。稲森とモグロウもこの種。

ただし反逆者はいる為、人間たちは静かに暮らせない様子。

 

 

ウィンプジェスター

 

説明・能力

人工的に作り出されたジェスター。他のジェスターと違って見た目が同じで、目に生気はなく、同種族も引くほど。

能力はない。超弱いが数で押すという感じ。

 

 

ライナー

 

説明・能力

犀のジェスター。人間で言うならペットのような存在で体格もかなり大きめ。そして普通のジェスターより遥かに強い種である為、一度暴れだすと手のつけようがなくなる。

能力は特にないが、単純な力とタフさが強み。

 

 

バートン

 

説明・能力

カモメのジェスター。かつてジェスターの首領と共に世界を収めようとしていたが、元祖エースに敗北してしまった為、暫く大人しくしていた。今では反逆者の1人として人間を滅ぼそうと目論む。モグロウとは知り合いらしいが…?

能力は空を飛び、翼から爆発する羽をばら撒く。その翼も鋭い刃物のよう。

 

 

スイム

 

説明・能力

イルカのジェスター。上に同じで現在はリゲインの幹部として人間を滅ぼそうとしている。落ち着きがあるようにしてはいるが、熱が入ると荒くなったりもする。

能力は水中での高い機動性や液状化。

 

 

スピーダ

 

説明・能力

馬のジェスター。オネェである。これも上に同じではあるが、人間は嫌いではあるが、認めた相手には生かしておくなど少し変わった所がある。普段は大人しいが、一度怒らせると非常に荒々しい戦い方へと変化する。

能力は四足歩行形態で、通常形態でも凄まじい速さを誇るが、この形態へ変化する事で更なる速さを手に入れる。

 

 

ウェイト

 

説明・能力

熊のジェスター。これも上に同じである。基本的に無口な方ではあり、喋ってもボソボソとした感じで聞きにくい。

能力は力とタフさ。ライナーのものとは比べものにならない。

 

 

キメイラ

 

説明・能力

バートン、スイム、スピーダ、ウェイトの4幹部の細胞から作り出された怪人。その力はこの4人も凌ぐほど強力なものとなっている。

能力は幹部たちの能力を使用可能。

 

 

ファング

 

説明・能力

ライオンのジェスター。元首領の右腕であり、現在はリゲインや他怪人を指揮する立場にいる。本気を出さずとも幹部たちやライダーたちを圧倒するほどの力があり、まさに百獣の王といった所であろう。

能力は頑丈で鋭利な爪と牙。剛腕。

 

 

首領

 

説明・能力

ジェスターの首領。なんの怪人なのかは不明。怪人に対しては基本的には自由を与え、多少の事であれば融通が効く。ただし裏切り者に関しては容赦がなく、それが今まで自分に付き従っていた仲間であったとしても、厳しい判断を下す冷酷さも持つ。

能力は全てのジェスターの能力を使用可能。基本スペックも高いが、復活後の力は前よりも劣る。

 

 

 

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アベンジドライバー

 

説明

仮面ライダーアベンジに変身するためのキーアイテム。アビリティズフィードから装甲とその能力のモチーフとなる生物を発現させる。

 

 

アビリティズフィード

 

説明

仮面ライダーアベンジに変身するためのもう一つのキーアイテム。様々な生き物の力を宿しており、アベンジドライバーに読み込ませる事で発言可能となる(個々で呼ぶ場合はジャンプフィードやダッシュフィード等になる)

 

 

エースドライバー

 

説明

仮面ライダーエースに変身する為のキーアイテム。アビリティズフィードを使う事でその能力を発現可能にする。

 

 

ポーカドライバー

 

説明

仮面ライダージャック・クインに変身する為のキーアイテム。アビリティズフィードを介さずともドライバー自体に搭載されている為、今までのドライバーのスペックを遥かに凌ぐ性能がある。

 

 

トランプレイカード

 

説明

仮面ライダージャック等のライダーに変身する為のもう1つのキーアイテム。アビリティズフィードの代わりに、それぞれの能力がデータ化されて仕込まれており、ポーカドライバーに差し込む事でその能力を具現化できる。

 

 

改良型エースドライバー

 

説明

仮面ライダーエースリーダーに変身する為のキーアイテム。エースドライバーの改良型であり、その性能はエースドライバーよりも段違いに高い。

 

 

エースガモスボウ

 

説明

仮面ライダーエースの専用アイテム。見た目はクロスボウであり、パッと見はでっかい蛾のよう。引き金を引けば撃てるようになっており、アビリティズフィードをセットしてクロスボウのように弦のようなを引く事で、必殺の矢を放つ事ができる。

必殺音「ガ・モス・ダッシュアロー!!」(ダッシュフィードの場合)

 

 

クインハーツェ

 

説明

仮面ライダークインの専用アイテム。見た目は杖で、尖端部分に状況に応じた様々なエネルギーを溜め込む核がある。本人の感情によって、技の爆発力が変わるので、取り扱いには冷静さを保つ必要がある。




以上


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ジェスター編
第1話「開始のアベンジ」


皆さんご無沙汰しております。悶絶小説調教師の辰ノ命と申します。

今回、調教する小説は「仮面ライダーアベンジ」

怪人と人間の価値観の違いや存在する意味。
2つの種族が混じるこの世界は果たして平和なのか。どちらが真の悪なのか。

皆さんは私の小説に耐えきる事ができるでしょうか?
新たなライダーが歴史にその名を刻む瞬間を、それではどうぞご覧ください。


 栄須(えいす)市。ここには仮面ライダーがいる。

 みんなご存知の通り、仮面ライダーっていうのは正義の味方だ。悪い奴らをやっつけてくれる希望の光。

 

── 20年前、世界はジェスターと言う怪人が集まった組織によって、地獄のような日々を送る事になった。人々は毎日、夜もまともに眠れないまま強制労働され、死者も数人、数十人と数を増やしていた。

 そんなある時、1人の男。それが「羽畑 月火(はばた げっか)」。この地獄を終わらせた救世主であり「仮面ライダーエース」である。

 長い戦いの末、組織の首領は月火により敗れ、月火もまた戦いには勝利したものの、激しい戦いにより重傷を負い、力尽きて死んでしまった。

 

… と、ここまでは月火は英雄であり、言わずもがな人々にとって希望であり絶対的な正義だ。

 僕も確かにそう思うんだけど、でもこれは人間にとってはの話。

 僕たち怪人にとっては────。

 

 

 

 

 

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「いらっしゃいませ。温めますか?」

 

 

 コンビニでアルバイトをしている青年。この青年は普通の人間ではない。そもそも人間でもない。ジェスターと呼ばれる怪人である。

 人間ネームは「稲森(いなもり)」で、怪人ネームは「イナゴ」。ここでは彼を稲森を呼ばせてもらおう。

 怪人はここでは人間の姿であらなくてはいけない。だから稲森も見た目は青年そのものなのだが、名残として触覚と瞳孔が鋭いのだ。他にも怪人は……

 

 

「…… おい、あんちゃん」

 

「あ、はい?」

 

「箸つけ忘れとんぞこらぁ!!!」

 

「ももも申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

── 稲森はバイトが終わると、いつものようにボロボロなアパートへの帰路を歩く。見た目も中身も酷いけど、それでも稲森にとっては最高の我が家である。そしてとても安心できる。

 この道中、人目のつかない路地裏やガラス越しの店の中に怪人たちがいたが、表情はそれぞれ違うけれど、心情は苦しんでいるのだろう。

 ここで先程の怪人にとってはという事についてなのだが、首領はこの世界を手に入れる事が目的だった。しかし絶対的な者が敗北すると、誰も仮面ライダーエースに対抗する事ができない。だから彼は次の首領とまで呼ばれた怪人と条約を結ぶ。それは怪人にとってあまりに理不尽な内容だった。

 

 

「怪人の癖に俺たちに手ぇ出してんじゃねーぞ!! エースにぶっ殺してもらうぞ!!?」

 

「ご、ごめんなさい!! ごめんなさい!!」

 

「ごめんなさいで済んだらライダー要らねーんだよ!!」

 

「ひぃぃぃぃ…!!!」

 

 

 今、1人の怪人が近くで暴力を振られているようだ。

… そう。その条約は怪人が人間に手を出すことを一切禁止するのだ。もし怪人が手を出す事があれば、現仮面ライダーエースに倒される。

 暴力はいけないことだが、ジェスターがしてきたと事は確かに最低だし、こうなってしまっても仕方のない事だと思う。

 しかし、ジェスターだって争いが嫌いな奴もいるし、誰も傷つかない平等な平和が来てくれればと願っている。

 

 

「このバイトもいつまでかな……」

 

 

 そう呟いて稲森はアパートの自室へと向かう──。

 

 

 

 

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 今日もまたコンビニのバイトで品物を棚に並べている。

 そんな時、後ろから声がかけられた。いつものように人間の客からのクレームかなと思い、はいと返事をして後ろを振り返ってみると、そこにいたのは自分と同じジェスターであった。もちろん人間の姿であるが、鼻だけが伸びている。彼は土竜のジェスターなのだ。

 

 

「おぉ、モグロウ! 久しぶりだね!」

 

「久しぶりってお前、会ったの3日前くらいだろ? んで、バイトの方どうよ」

 

「ボチボチかな… モグロウの方は仕事見つかった?」

 

「仕事もバイトも見つかるは見つかるが… まぁ俺たちジェスターを受け入れてくれるところなんてほとんどないさ」

 

「そうなんだ… 僕が店長に頼んでみようか?」

 

「やめとけ。人間様に意見しようなんてろくな事にならねーぞ」

 

「モグロウ、そんなこと言うのやめなよ。ここの店長は僕を受け入れてくれた凄く良い人なんだ。きっと大丈夫だって!」

 

「俺はいいよ。お前はこの日常を崩すなよ… それじゃあな。買って帰るわ。会計頼むぜ」

 

「まいどあり!」

 

「なんだそれ」

 

 

 2人は笑いながら手を振って別れると、店内は静まり返った。ジェスターが喋っていたからではなく、ただ単にここへ人があまり来ないのだ。

 そして裏から店長が出て来ると、稲森を手招きする。稲森はバックヤードに入ると、店長が椅子に腰掛け、稲森も店長に言われて座る。

 

 

「えっと… どうされました店長?」

 

「明日でここ潰れるから」

 

「へ? え、えぇぇぇ!!!? ど、どうして急に!!?」

 

「前から決まっていたんだけどね。言わなかったんだよ」

 

「一体どうして…」

 

「稲森くんもわかってるだろ? この店には客が来ない。もうこの時点で利益が怪しかったんだ。そこで稲森くん。ジェスターを雇ってから更に客足は激減。こうなってもおかしくはないよ」

 

「それなら僕のせいで… 何故雇ったんですか?」

 

「怪人が今、大変な事はわかっている。でも面接に来た時、君はとてもいい怪人だと思ったんだ。他とは違うってね? 残念だけどそういう事だから」

 

「…… そうだったんですか… 今までありがとうございました。店長さんには感謝の言葉しかありません!」

 

「私も君を雇って失敗だったとは思わないよ。よく働いてくれるし、時間より早く来て作業に入ってくれるし、本当に助かった。こちらからも礼を言うよ。ありがとう」

 

「て、店長…!!」

 

 

 店長の暖かさに思わず涙が出そうになる稲森。そこはグッと堪え、店内の方へ戻ると何やら外が騒がしい。気になって少し外へ顔を出すと、怪人態のままのジェスターのデモ隊が何処かへと向かっているようだった。

 この光景はよくある日常的なものである。やはり理不尽な条約を受け入れられないジェスターたちが、あのようにライダーに対抗するように数を作る。だから人間にとっては危険なのだ。言葉を変えれば反逆者たち。条約を完全に無視している為、いつ仮面ライダーに倒されても文句は言えない。

 

 

「うわぁ…… は、早く店に戻ろっと…」

 

 

 しかし、店に戻ろうとした稲森の襟を誰かが掴み、そのまま列の中へと入れられる。抵抗しようと思ったが、ジェスター同士と言えどあちらは反逆者。人間に味方するとなればこちらも何をされるか分からない。

 

 

「あ、あの〜 僕は仕事中なので戻らなければならなくて…」

 

「お前ジェスターだろ? だったら来い!! 今日は人間… ライダーの終わりが見える日なんだからな」

 

「ライダーの… 終わり? 一体何があるって…おわっ!!?」

 

「着いて来ればわかる。さっさと来い!!」

 

「えぇ……」

 

 

 稲森が連れてこられたのは、全く人気のない何処かの廃棄された工場の倉庫。今にも風で飛んでいきそうな薄い板がめくり上がり、薄暗くてとても不気味な場所である。

 そこには別のところから来た反逆者の集団もおり、その中には大人2人分くらいの高さの犀のジェスターがいる。この大きめなジェスターは人間で言うペットのようなものだ。ただしその力は通常のジェスターを超えており、もし暴れ出したりしたら、ここの集団が飛びかかっても止める事は難しいだろう。

 

 

「皆さん!! お集まりいただきありがとうございます!! これより我が最高傑作の発表を行わせていただきます!!」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!!」

 

 

 倉庫の真ん中にフードを被った謎の男が現れ、彼の言葉にジェスターたちが沸く。よく見ると机があり、その上にテーブルクロスがかけられているが、その内側に何か入ってるようでぷっくりと膨らんでいる。

 稲森は何か恐ろしい事に巻き込まれたんじゃないかと身震いしていると、フードの男は話し始めた。

 

 

「我々は人間の理不尽な条約により自由を奪われた。もし仮面ライダーエースがいなければ我々はこの世界を征服していた… 我々こそが人間よりも上の存在ではないのか? 我々こそが! 世界を動かす生き物ではないのか!?」

 

「そうだそうだ!!」

「その通りだぜ!!」

 

「── だが、今日。この場においてその歴史は変わる。人間の支配はこれにて終了だ… 私が持ってきたジェスターの未来を変えるを可能にする兵器。我々の夢!! 希望!! 人間に報復することができる──── アベンジドライバーだッッッ!!!」

 

「…… お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!!」

 

 

 テーブルクロスが取られ、そこに現れたのは牙のようにギザギザとしたものが付いており、エースが装着しているドライバーとは対照的な見た目である。そしてその隣にはそれに取り付けるであろうアイテムが置かれていた。

 稲森はここにいてはいけないと、ゆっくりと後ろへ下がろうとするが、興奮したジェスターたちによって逃げる隙間がない。

 

 

「ライダーの力にはライダーの力で対抗する!! そしてエースの最後をライダーで終わったという皮肉な終わり方にしてあげましょう!!」

 

「あれで一体なにを……」

 

「それでは皆さん1人1人にこれを装着して頂きます。装着するまでは簡単ですが、変身した後その身が耐え切れるかどうか。この力を制御した時、あなた方は人間に報復する事ができるでしょう!!!」

 

 

 そして次々にアベンジドライバーへと群がるジェスターたち。

 全員が変身しようとするが、姿が変わる前に彼らの身体をとてつもないエネルギーが駆け巡り、誰もまともに装甲を纏うことすらできない。

 それを見ているフードの男の顔がチラリと見える。先ほどまで笑っていただろう顔は全くの無表情。この結果を分かりきっていたかのような印象も受ける。

 ほぼここにいたジェスターたちは皆が変身できず、その殆どもその光景を見て遠慮している。

 するとフードの男の目と稲森の目がちょうど良くあってしまった。

 

 

「あ、えっと… 僕も遠慮します。多分僕じゃ変身できません。絶対できません!!」

 

「…ふっ、それはどうでしょう? 君は試した訳でもないのにできないというのですか?」

 

「そ、それは確かに… ですけど僕は……」

 

「君はできます… 何せジェスターに反逆する者ですからね」

 

「え? それってどういう──」

 

 

 稲森が意味深な言葉のことを聞こうとしたその瞬間。ジェスターたちの悲鳴声が工場内に響き渡る。

 そして凄まじい咆哮と共にガラスが割れ、工場の板も剥がれて落ちてきた。

 この元凶はどうやら先程の犀のジェスターのようだ。

 

 

「きゅ、急に暴れ出した…?」

 

「やめろ『ライナー』!! 落ち着けっ… ゲハァッ…!!?」

 

 

 犀のジェスターをライナーと呼ぶその怪人は飼い主であろう。主の静止もままならず、腹を巨大な角で貫かれて絶命してしまった。

 それからライナーは暴れ回って工場を破壊してしまうと、何処かへと走り出し行く。

 稲森はその方角を見て気づく、栄須市の方へと向かっているようだ。このままでは街が破壊されてしまう。あそこに住む人々が危険だ。

 

 

「だけどあそこにはエースがいる。きっとみんな大丈夫な筈だ……」

 

「── エースは来ませんよ?」

 

「エ、エースが来ない? 何を言っているんですか?」

 

「彼女は別の仕事で迎えるかどうか… このままでは栄須市は破壊されてしまいますね」

 

「そんな…!! じゃあ、あそこにいる人たちはみんな助からないかもしれないじゃないですか!!!」

 

「その為にこれを使うんですよ」

 

「…… アベンジドライバー」

 

「そうです!!… どうしますか? あのジェスターに対抗できる力が目の前にあるのに、使えるかわからないだけで逃げますか?」

 

「……ッ」

 

「まぁやらないのであれば構いませんけど… これは持ち帰らせて───」

 

「── やります」

 

「お?」

 

「やってみます… このまま逃げたら後悔しそうなんです。あそこにいるモグロウ… 店長… これで守れるならやってみます!」

 

「…… 意外と… いや、だと思いましたよ」

 

「え?」

 

「さぁ、行ってください。これはあなたにお譲り致します」

 

 

 稲森はアベンジドライバーともう一つのアイテムを震えた手で受け取ると、急いでライナーが向かった方へと走り出す。

 フードの男はその背中を暫し見てから、何処かへと消えるように去ってしまった───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>

 

「そんな街が…!!」

 

 

 街は破壊され、稲森のバイトをしていたコンビニも無残に潰されていた。稲森は走り崩れた瓦礫を退かす。無我夢中で探した末、店長を見つけた。どうやら足を折ってしまったようで歩けないらしい。

 

 

「店長!!」

 

「お、おぉ… 稲森。どこへ行ってたんだ?」

 

「すみません。デモ隊に拐われてしまって…… 店長に怪我を負わせてしまいました…!!」

 

「お前のせいじゃない… うっ!」

 

「大丈夫です。運びます」

 

 

 それから稲森は店長を救助隊に預け、すぐさま走り出した。向かう場所はもちろんライナーの元である。

 ジェスターとしては下の部類と言ってもいいが、ジャンプ力だけならどのジェスターよりも負けてはいない。高く跳びながらライナーの行方を追うと、爆発音が聞こえ、そこへと向かう。

 

 

「いた…!!」

 

 

 ライナーは今にも人を襲おうとしている時だった。

 稲森は瓦礫の陰から石を投げてぶつけて気を逸らそうとしたが、どうやら逆効果だったらしく再び暴れ始めた。

 

 

「まずい!! 危なっ…!!」

 

 

 そしてライナーが人を踏みつける。稲森は余計なことをしたせいで殺してしまったという自分に対しての怒りが込み上げる。

 だが、よく見ればライナーの足の下に穴が見えた。その穴が何なのかと身を乗り上げようとすると、足元から声が聞こえた。

 

 

「こ、この声は… モグロウか!!?」

 

「しーっ!!安心しろ。俺があの子を救っておいたぜ」

 

「本当!? あ、ありがとうモグロウ…」

 

「… それよりお前手に持ってるそれなんだよ」

 

「これ? えっとこれは……」

 

「…ッ!!? 伏せろ!! イナゴッ!!」

 

 

 陰に隠れているのが見つかってしまい、ライナーが突進してきた。稲森は間に合わずモグロウだけでもと押そうとしたが、逆に彼が稲森を押し出して代わりにその突進を喰らってしまった。

 

 

「モ… モグロォォォォォォ!!!!!」

 

 

 地面を転がったモグロウはニカッと笑うとそのまま気を失ってしまった。

 最悪である。昔からの親友が自分を守る為に傷つけられ、自分が怪人でも受け入れてくれた店長も骨折してしまう怪我を負ってしまった。

 

 

「…… 怖い。怖い…」

 

「グオォォォォォッッッ!!!!!」

 

 

 ライナーはモグロウの元へと向かう。生物の本能か、トドメを刺そうというのだろうか。

 稲森の手に力が入る。アベンジドライバーを握りゆっくりと立ち上がる。

 

 

「怖い怖い怖い…… 怖いけど… 今のこの恐怖は親友を失ってしまうという怖いだ。そしてその怖さより、親友を殺そうとするお前に対しての怒りが優ってきた…!!!」

 

 

 そして稲森はアベンジドライバーを腰に巻きつける。《アベンジドライバー》という音声が流れた。

 先程の変身手順を見ていたので、もう一つのアイテムである、イナゴの絵が描かれた《アビリティズフィード》をドライバーの右側に差し込む。

 

 

《Welcome!! ジャンプ!!》

 

 

 ドライバーに差し込んだ瞬間、あの試しの時には鳴らなかったはずの音声がなり、まるで悪者なんじゃないかという待機音が鳴り始める。

 

 

「え、さっき鳴らなかったはずじゃ…」

 

「グオォォォォォッッッ!!!」

 

 

 この音に気づいたライナーがモグロウから離れ、足を地面に擦り、稲森に向かって凄まじい速度で突進を行ってきた。

 それに焦った稲森は左手を鉤爪のようして右頬まで持っていき、右手をドライバーの左側を掴む。

 

 

「えと、えっ、あ、あぁ変身ッ!!!」

 

 

 左から右へと折りたたむと再び音声が流れ、アビリティズフィード「ジャンプフィード」を喰らうが如く、ドライバーは怪物の横顔のような見た目へと変わる。

 その瞬間パッとスーツが装着され、装甲になり得る部分に光るイナゴが引っ付いて装甲へと変わってく。

 そしてそのイナゴたちは装甲になろうとする度に、稲森の身体を噛みついてくるので、本人は地味に痛い。

 

 

《Tasty!!》

 

「痛ッ!! イタタタッ!!!」

 

《START!! アベンジ!!》

 

 

 ライナーの角が当たりそうになった瞬間。その場から稲森が消える。ライナーは消えた彼を探しているがどこにも見当たらない。

 何故なら彼は真上にいるからだ。突進が当たりそうになった時、脚に力を込めると素のジャンプ力を遥かに超え、天高く舞い上がったのだ。

 

 

「す、凄い…!! 何なんだこの力!!… これなら!!」

 

 

 そのまま稲森… 否、仮面ライダーアベンジへと変身した彼は上空より勢いの乗った飛び蹴りを放つと、あの巨大なライナーを地面にめり込ませたのだ。

 まだ慣れないアベンジはその衝撃と共にゴロゴロとモグロウのところまで転がり、ちょうどよく彼の所だったのでそのまま安全な場所まで運び、ライナーの元まで跳んで戻ってくる。

 

 

「あのフードの怪人が言ってたけど、本当にこの力さえあれば人類に報復できる……」

 

「グゥゥゥ…… ォォォォ…ッッッ!!!!」

 

「── 僕はそんな事しない。僕は争いを無くす。この世界が怪人と人間が平和に暮らせるようにするんだ!!」

 

「グゥゥゥオォォォォォォォォッッッ!!!!!」

 

 

 そしてアベンジは再び突進してきたライナーをジャンプで躱し、側頭部蹴り飛ばす。あの巨体がいとも簡単に吹き飛び、追い討ちで更に両脚で飛び蹴りを放つと、角がボキリと折れてしまう。

 

 

「ライナー。お前はモグロウと店長… それから街の人々を傷つけたんだ。その報いだけは受けてもらう!!!」

 

「グガァァァァァッッッ!!!!!」

 

「──── みんなに代わって、逆襲だッ!!!」

 

 アベンジドライバーの右側を上から拳で叩くと、脚がイナゴのような形状へと変わり、再びライナーの届かない場所まで高く跳び上がる。空中で一回転をし、勢いに乗ったままライナーに向かってエネルギーを浴びた飛び蹴りを放つ。

 

《GOODBYE!! アベンジタイム!!》

「ハアァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」

 

「グオォォォォォォォォォッッッ────」

 

 

 そしてアベンジの蹴りはライナーの身体を貫通し、牙のようなエフェクトが出る。最後にその牙がガブリとライナーに噛みつくと、同時に大爆発を引き起こして消滅した。

 

 

「ハァ… ハァ…… これが仮面ライダーの…」

 

 

 アベンジはそこにいた筈のライナーを見る。感情のままに倒してしまったが、冷静になると本当にこれで良かったのだろうかと思ってしまう。

 絶対的な力を手に入れた自分はいつも通りでいられるのか。何かを拍子に人を襲ってしまうのではないかと、先ほど感じなかったドライバーへの恐怖が現れ始めた。

 

 

「── そこの… 仮面ライダー…!!? 一体どういう事なの!!?」

 

「え…?」

 

 

 そこには1人の女性が立っていた。アベンジはこの女性を知っている。いや、彼だけではなく誰もが知っている。

 

 

「仮面ライダーエース……『羽畑 陽奈(はばた ひな) 』さん…!!?」

 

「あなた人間…… いや、怪人ね。最近噂を聞いていたのよ。反逆者たちが武力を上げようと父のドライバーを真似て、仮面ライダーの力を我が物にしようっていうね… どうやら本当だったらしいわ」

 

「ま、待ってください!! 確かに僕は怪人ですけど、みんなを助けて──!!」

 

「言い訳なら聞きたくないわ。散々、街を破壊しておいてよくそんなことが言えたものね。まぁ、今あなたがジェスターだってことが確定してホッとしたわ」

 

「ホッとした…?」

 

「これで心置きなく… あなたを倒せるってことよね?」

 

「……ッ!!!?」

 

 

 父の月火のドライバーを引き継ぎ、そしてそれを託された1人娘。

 陽奈は現仮面ライダーエースである。

 

 

「ジェスター。あなたを倒す」

 

 

 そして彼女は「エースドライバー」を装着した───。




1話にしては短い方かなと思います…?
ではでは、第1話如何だったでしょうか?また怪人主人公となりますが… まぁあっちは人間なので一応…一応は…。

今作は時系列的には2作目という位置付けです。
という事で新ライダーアベンジの活躍をお見逃しなく!
最後まずいことになったけれども……

次回、第2話「正義はエース」

次回もよろしくお願いします!


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第2話「正義はエース」

皆さんご無沙汰しております。

前回、稲森/イナゴはアベンジドライバーを手に入れ、仮面ライダーアベンジへと変身した。街で暴れる犀のジェスター、ライナーを倒し、一件落着かと思ったのも束の間、仮面ライダーエース/羽畑 陽奈に出会ってしまい……

それではどうぞご覧ください。


「だから待ってくださいよ!! 僕だって事情があって──!!」

 

「事情もこうもあなたがこの街を破壊した。その証拠に囮のジェスターを私に差し向けるなんて…… こんな都合がいいやり方ある?」

 

「それは僕じゃなくて!!」

 

「言い訳は結構」

 

 

 陽奈は蛾のアビリティズフィード「ダッシュフィード」を取り出すと、装着したエースドライバーの中央部に差し込むと、音声と待機音が流れ始める。そして右手でドライバーの突き出た側面に手を当て、左手を握り顔の左側へ持っていく。

 

 

《ダッシュ!! Open!!》

 

「── 変身ッ!!!」

 

 

 それから側面を押し込むと再び音声が流れ、周りに蛾が現れて陽奈を囲む。それらは各部位の装甲変化し、彼女に装着される。

 

 

《Come on!!》

《Let's try エース!!》

「ジェスター… この世から再び消えなさい」

 

「ま、まずい…!!」

 

 

 そう思ったアベンジは咄嗟に飛び跳ねると、その瞬間、自分の真下に一筋の光が通り過ぎたのがわかった。

 アベンジは着地して、エースの方を見る。その手には蛾を模したクロスボウ「エースガモスボウ」が握られており、今の攻撃はそこから放たれたらしい。

 

 

「よく避けたわね。まぁ二度目はないけど」

 

「無理だ… あのエースなんかに勝てっこない…!」

 

 

 ジェスター達にとって、エースという存在はどれほど恐ろしく脅威であるか。先代エースが首領を倒したあの日からずっとだ。普通喧嘩を売ろうなんて馬鹿な奴はいない。それは誰しもが勝てないとわかっているからである。

 そしてアベンジは後ろに跳んで距離を取ろうとしたが、エースは先ほどとは違い、的確に照準を合わせてエネルギーで出来た矢を放ってきた。

 

 

「うわぁッ!!?」

 

 

 当然ながら避けられるはずもなく、撃たれてしまい地上へと落ちる。

 再び立ち上がって逃げようとするが、すでにエースはアベンジの目の前おり、頭に銃口を向けられる。

 

 

「…… あなた本当に反逆者? まるで1度も喧嘩をしたことがない奴みたい…」

 

「…っ!? そ、そうです!! 僕は本当に反逆者ではなく、寧ろみんなを救おうとしてこの姿になったんです!!」

 

「へぇ〜…」

 

「話せば長くなるんですけど……… なら、このドライバーを陽奈さんにお渡しします!!」

 

 

 そういう稲森はゆっくりとアベンジドライバーの口を開け、ジャンプフィードを抜き取って変身を解いた。

 そしてドライバーを外して地面に置くと、そのままゆっくりと後退する。自分はそれを使って抵抗しないという意思表示をする為に。

 

 

「… 気安くしたの名前で呼ばないでくれる?」

 

「す、すすすみません!!」

 

「まぁいいわ。今回は見逃してあげる」

 

「本当ですか!? では、僕は友人の様子を見に行かなければならないので──」

 

「── 誰が逃すって言ったの?」

 

 

 エースはエースガモスボウで稲森の足元を撃ち、彼をその場から動かさないようにした。稲森は訳がわからず問おうとしたが、彼女の顔を見るなり、すぐに手を挙げて膝をつける。

 

 

「あなたが仮に反逆者じゃないとして、何故こんなものを持っているのか。入手先があるはずよね?」

 

「それはフードの男からいきなり渡されて…」

 

「なるほど。なら、そのフードの男の所まで案内してもらおうかしら?」

 

「…… 場所はわからないです。多分もうあの場所にはいないと思います…」

 

「もういいわ。あなたが重要怪人である事は確か。ついて来てもらうから」

 

「そんな…!! ま、待ってください!! 僕の友人が怪我をしてるんです!!」

 

「友人ってジェスターでしょ? ジェスターなんてどうでもいいのよ!! いいから早く来なさい!!」

 

「…ッ!!?…… どうでもいいだって?… すみません羽畑さん。あなたと行く事はできません」

 

「何よ?」

 

「あなたはどうでも良くても、僕にとっては大切な友人なんです。だから彼を助ける為に絶対行きません!!」

 

「あっそ… なら力づくで!!」

 

 

 クロスボウを向けられた瞬間、稲森は怪人としての脚力を活かしてアベンジドライバーを取り返すと、すぐさまアビリティズフィードをセットして変身する。

 エースはそんなアベンジを撃ち抜こうとしたが、「すみません」という謝りの言葉と共に蹴り飛ばされる。体勢を立て直して再び構えると、アベンジの姿は見当たらなくなっていた───。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>

 

「─── モグロウ? 大丈夫?」

 

「… ん? あぁ、イナゴか。ここはどこだ? あの犀はどうなったんだ?」

 

「ここは僕の家。ライナーなら僕が倒したよ」

 

「倒したってお前… あいつは普通のジェスターじゃ太刀打ちできないんだぞ? しかもお前みたいな喧嘩した事ないやろうじゃ……」

 

「僕は… 仮面ライダーになったんだよ」

 

「仮面ライダー!!? 一体どういう事だ!!?」

 

「まぁ色々あってさ… 僕は仮面ライダーエースの羽畑 陽奈さんにもあって今じゃ反逆者扱いだよ。いや、彼女に歯向かったから、更に状況悪化したかな? さっき逃げて来たんだ。困ったなこれは… ははっ…」

 

「…… なんだ。色々あり過ぎてよく分からないが、理由は聞かないことにするぜ。何はともあれ、お前がそうまでして俺を助けてくれたって事は事実だ。とにかくお前は大人しくしてろよ? 何かあったらすぐ知らせるからな」

 

「え? ダ、ダメだよモグロウ!! そんな事したら君も反逆者に…!!」

 

「俺を見捨てなかったお前を、俺が見捨てる訳ないだろ?」

 

「モグロウ… ありがとう。じゃあ、モグロウも気をつけて」

 

 

 それからモグロウは稲森の住むアパートから出ていく。

 稲森はモグロウを見送った後、アベンジドライバーを押し入れの奥にしまう。またこの力を使うことがないようにと。

 

 

「でも……」

 

 

 このままでいいのだろうか? 先ほどモグロウを助け出せたのも、喧嘩の一つもしたことがない自分がライナーを倒すことができたのも、全てこのドライバー。仮面ライダーの力があったこそである。

 稲森は再びアベンジドライバーを取り出してじっくりと見る。本当はダメだとわかっているのだが、ドライバーをしまう事はせず、そのまま机の上に置く。

 

 

「怪人の為に人間に報復するか… 人間の為に怪人から守るか…… 僕はどっちを選べばいいんだろう…」

 

 

 そんな事をしていたら外が真っ暗になっていた。

 そして稲森は寝る支度を済ませると、布団に潜る。いつもの布団の中のはずなのに、今日はやけに心地がいい。その心地よさから一気に睡魔がやってきた。

 

 

「明日… 店長に連絡取ってみよう…… かな───」

 

 

 店長の心配をしながら、稲森は糸が切れたように深い眠りについた──。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>

 

「── 店長、大丈夫でしたか?」

 

『あぁ、あの時は助かったよ。大変だったなお互い』

 

「僕はジェスターですので… あ、店長。長い間ありがとうございました」

 

『ん? そういえばそうだったな… 次はもっと良いところを見つけろよ?』

 

「いえそんな… すみません。本当にありがとうございました」

 

『…… お前は優しい。誰かを思い遣るその気持ちを大切にしろよ? それがお前の良さなんだ』

 

「店長…」

 

『もう店長じゃない。身体に気を付けろよ。それじゃあお疲れさん。ありがとうな』

 

 

 稲森は電話を切ると、窓の外を見る。特に何かある訳でもないが、しばらく何も考えずただボーッと景色を眺めていた。

 その時、ドアをバンバン叩く音が聞こえ、すぐ玄関へと向かいドアを開けると、そこには血相を変えたモグロウが息を切らして立っていた。

 

 

「ど、どうしたの!!?」

 

「ぜー… ぜー… 病院が襲われててよ。人手が足りないんだ。お前の脚力なんとかできると思ってな。昨日大人しくしてろっつったけど頼む!! 何があっても俺が盾になる!!」

 

「病院ってまさか店長のいる…!!? よし、行こう!! みんなを救うんだ!!」

 

 

 すぐに病院へと向かおうとする稲森だったが、机の上にあるアベンジドライバーを手に取る。どうしようかと考えると、後ろからモグロウの声が聞こえそのまま懐に入れて病院へと向かう──。

 

── 病院に着くと、周りは消防車やパトカー等のサイレンの音が響き渡っていた。火の手が上がり、窓から助けを求めている人々がいる。

 稲森は近くにあった水を被ると消防隊を飛び越え、助けを求める人々の元へと跳んでいく。

 

 

「もう大丈夫ですよ。さぁ!!」

 

「は、はい…」

 

 

 時間がかかる。それは仕方のない事だった。ジェスターである彼らを恐れる者は数知れず。ここに入院している人の中にはジェスターによって傷つけられた人たちだっている。

 こうして何十人と助けて来たが、とある一室に入った時、恐れていた事態が起きた。

 

 

「さぁ早く!! 大丈夫だよ!!」

 

「や… やだぁ…!! 来ないで!!」

 

 

 その一室には腕に包帯を巻いた少女が1人取り残されていた。この反応から見るに、ジェスターの被害者である事は間違いない。

 稲森は手を差し出すが、全く近寄って来ようとはしない。無理やり抱えて連れて行こうにも、少女のいる場所は瓦礫の向こう側。大人は入れない隙間だ。

 

 

「僕は君の味方だよ!! お母さんお父さんの所へ行こう!!」

 

「やだやだっ!!」

 

「ど、どうしよう……」

 

 

 瞬間、外から爆発音が聞こえ、後ろを振り向くと、空に両腕が翼となっているジェスターが飛んでいた。考えるまでもないが、きっと彼がこの惨事を起こした犯人だろう。

 すると、その鳥のジェスターは病院に向かって来ている。嫌な予感がした稲森は少女の方に手を伸ばそうとすると、その予感が見事に的中した。爆発音と共に病院が揺れる。

 

 

「ま、まさか…!!」

 

 

 どうやら鳥のジェスターは翼を羽ばたかせ、爆発する羽をこの病院に向かって飛ばしているのだ。

 もう一刻の猶予もない。稲森は必死になって少女に手を伸ばす。

 

 

「こ、こないで…!!」

 

「…… 僕は君を助けたい。君をお母さんとお父さんの元へ届けたい! 君をここで死なせたくない!!」

 

「… うぅ」

 

「大丈夫。必ず僕が君を守るよ」

 

 

 稲森は恐怖という感情を押し殺しながら、とても優しく声をかけ、少女に笑って見せた。

 少女は稲森の手を見ると、震えていることに気づく。それを見た少女はゆっくりと彼の手を掴む。

 

 

「よ、よし!! これで──っ!!」

 

 

 そして少女を抱えた瞬間、病院が崩れようとしているのがわかった。咄嗟に逃げようとした稲森であったが、天井が崩れ落ちてきてしまい、少女と共に生き埋めとなってしまう。

 だが、稲森は瞬間にイナゴの怪人の姿となる。見た目は不気味で少女は怖がっている。本来この姿は条例違反であり、見つかれば即エースによって消されてしまうだろう。

 けれどそれで構わない。彼女を守ると約束したのだから。

 

 

「絶対守る…!! 絶対にぃ…!!!」

 

 

 いくら怪人の姿になって瓦礫の山くらい耐えたといえど、上からの攻撃の嵐には対応できない。次第に身体は瓦礫を抑えるのにも限界が来ようとしていた。

 その時、稲森はアベンジドライバーを巻きつけ、すぐさまイナゴのアビリティズフィードをセットする。

 

 

「変身ッ!!!」

 

 

 そして病院は崩壊する──。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>

 

「イナゴォォォォッッッ!!!」

 

 

 モグロウは瓦礫の山となった病院に向けて稲森の名を呼ぶ。後ろには少女の両親であろう2人が絶望した形相で病院を見つめている。

 すると鳥のジェスターはそんな彼らの元へとやってきた。

 

 

「おやおや〜、どうしたのかな? もしかして自分の子供が生き埋めになった? それは残念だったな〜?」

 

「お、お前は『バートン』か!!?」

 

「ん〜? その声はモグロウだな? お前もいつまで人間側にいるつもりなんだ?」

 

「それは俺の勝手だろ!! いいかバートン!! この2人には手を出すなよ!!?」

 

「いやいや… 出すに決まってるじゃん。人間だぜ? さっさと殺さなきゃよぉ〜?」

 

「こ、このカモメ野郎…!!」

 

 

 このバートンと呼ばれるカモメジェスターは、かつての首領と共に先代エースと戦った1人である。ただ今は首領が倒されて大人しくなったかと思えば、どうやら反逆者の1人として戦っているらしい。

 

 

「ま、とにかくそこを退けよ。俺はそいつらを殺したらさっさと家に帰るんだよ〜?」

 

「やめろ!! それ以上近づいたら…」

 

「悪いけど昔の馴染みで手加減〜なんて甘い事はしないぜ? 俺の目の前に現れるなら…… お前諸共消すまでだ!!!」

 

 

 バートンは翼を広げ、モグロウたちの元へと降下していく。彼の羽が爆弾であるなら、翼は刀だ。その斬れ味はいとも簡単にモグロウを真っ二つにしてしまうだろう。

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ…!!!」

 

 

 バートンがモグロウに近づいたその時であった。バートンの身体はくの字に曲がってそのまま建物の壁に激突する。

 何が起こったのかわからないモグロウだったが、目の前に仮面の戦士が現れた事で状況を理解できた。ただその仮面の戦士はエースではない。

 

 

「大丈夫? モグロウ?」

 

「お前… イナゴか!!?」

 

 

 その変身者が稲森であるとわかると、目を丸くして驚きを隠せないモグロウを過ぎ、抱えていた少女を両親の元へと近づいて降す。

 少女は両親の元へ駆け出し、抱きしめ合い、そして大声をあげて泣いた。両親がアベンジに向かって頭を下げると、少女は振り返り一緒になって頭を下げる。

 

 

「ありがとう…… 怪人のお兄ちゃん」

 

「約束は守ったよ。さ、その子を連れて早く逃げてください!! ここは僕がなんとかします!!」

 

「あ、ありがとうございます…!!」

 

 

 親子を逃したアベンジは、モグロウの肩に手を置き、それから親子の方を指を差す。

 

 

「あの人たちを頼むよ。親友」

 

「お前…」

 

「ここは僕に任せて」

 

「…… へっ、立派になりやがってよ!! 頼んだぜ親友っ!!」

 

「うん!!」

 

 

 それからアベンジは壁から抜け出し、空を飛ぶバートンに向き直る。

 いきなりの奇襲に少々怒りのボルテージが上がったのか、首を回して頭に血管が浮き出ているのがわかる。

 

 

「仮面ライダー… ッ!! エースとは違うなぁ〜??? お前誰だぁ? なぁこらぁっ…!!!!」

 

「僕は…… わかりません」

 

「わからない?」

 

「この力が怪人の為なのか人間の為なのかよくわからないけど、もう決める事にしました」

 

「は…?」

 

「怪人も人間も困っているなら助けるッ!!! この力は報復する為の物じゃない!!! みんなを守る為にある力なんだッ!!!」

 

「さ、さっきからなに言ってんだお前〜…?」

 

「バートンさん。僕はあなたを止めます。このライダーの力を使って!!」

 

「まぁ理由はなんであれ俺を邪魔するんなら…… 容赦はしねーぜ!!!」

 

「行きますよバートンさん!! あの子に代わって、逆襲だッ!!!」

 

 

そしてアベンジはバートンに向かって跳び出した。




まさかの戦闘シーン冒頭のみ。
作品毎に違った感じにしたいというのがありましてね。この勢いが失速しないようにしなければ…(使命感)

では次回、第3話「飛行がペリカン」

次回もよろしくお願いします!!
※今回誤字多くて申し訳ありません。


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第3話「飛行がペリカン」

皆さんご無沙汰しております。

前回、陽奈から逃げて完全に反逆者の一人として見られてしまった稲森。そんな状況で病院が襲われているとモグロウに言われ救助の応援に駆けつける。そこで少女を助ける為、アベンジへと変身し、この事件の犯人であるバートンと対峙する事に……

それではどうぞご覧ください。


 アベンジは飛んでいるバートンの元へと、強靭な脚力でジャンプし彼を蹴り飛ばした。

 この蹴りをくらってしまったバートンであったが、地面に落下する直前に態勢を立て直して再び空へと舞い上がる。

 

 

「まーたくらっちまったぜ畜生…!! お前はなんなんだぁ?」

 

「… 僕はジェスターです。今は仮面ライダーですけど!!」

 

「ジェスターだと…!!? いや待てよ… 前に反逆軍の技術の野郎がライダーシステムを奪っただかなんだか話していたなぁ…… まさかお前が?」

 

「残念ですが僕は違います。反逆者でもなんでもない… ただの平和主義者です!!」

 

「ちっ、訳わかんねーなぁ? まぁいい。邪魔をするなら消すだけだ!!」

 

 

 それからバートンはアベンジが着地する前に、彼に攻撃を与えようと翼を畳んで急降下を行う。

 しかしアベンジはそれをギリギリの所でかわして見せると、そのままバートンを掴んで地面に激突させる。その衝撃を利用してアベンジは十分な距離まで後退して身構えた。

 

 

「… お前素人じゃねーなぁ? 戦い方がわかってるって言うか知っている感じだ」

 

「仮面ライダーになったのつい最近なので、それまで本気で殴り合いというか、そもそも人や怪人殴ったことないというか…」

 

「はぁ??? そんなんであの攻撃が避けられる訳ねーだろうが!! ホント色々訳わからねー野郎だなぁ!!」

 

 

 するとバートンは再び飛び立ち、アベンジの真上まで来ると翼を大きく広げて羽ばたかせる。爆発する羽が雨のように降り注ぎ、流石にアベンジもこれには対応できず、まるでイナゴように四つん這いになって必死に避ける始末だ。

 

 

「うわぁ!!? で、でもあの高さなら届くぞ!!」

 

 

 その脚力を活かしてバートンの元へと跳び上がる。腕を伸ばして掴める位置まで来たが、バートンがちょいと脚を挙げると、あと一歩のところで届かずに落下してしまう。

 アベンジは周りの壁を蹴って避けようとしたが、災難な事に届く壁がなかった。

 そしてアベンジはバートンによる羽の爆弾で追撃され、何もできずにそのまま地面へと落下してしまったのだ。それでも尚、彼の追撃は止むことはない。

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!!!」

 

「はぁっ!! そう何度もくらうかってーの!! それにお前は虫。俺は鳥! 弱肉強食の世界においてお前は俺より格下! 勝てる訳ねーんだよ!!」

 

 

 どこにも突破口がない状態。無理やりジャンプして避けようと考えたが、立つ事すらままならない。

 あの爆発が収まるまで待つか? と、考えたりもしたが、それまでこのアーマーは耐え切れるのか。或いは壊れてしまって殺されてしまうのか。

 必死に考えていたその時、バートンの元へと1本の矢が放たれる。不意打ちであったので、バートンはその攻撃により地面へと落下してしまった。

 

 

「こ、この矢は…!!」

 

「まさかあなたがいるとはね… ちょっと好都合かも」

 

 

 そこにいたのは変身した陽奈の姿があった。どうやらエースの持つエースガモスボウにより、バートンは撃ち落とされたようだった。

 しかしアベンジには安堵する暇もない。何故なら自分は狙われる立場。しかも彼女は好都合と言った。どちらにしろ危険な状況なのだ。

 

 

「は、羽畑さん!! 今は争ってる暇は…!!」

 

「えぇ、だからあの鳥を倒したら次はあなたよ。だから助かったとか思わないで」

 

「…… でも助かりました。ありがとうございます」

 

「とりあえず邪魔しない事。いいわね?」

 

「あ、はい…」

 

 

 エースは返事を聞いてから背中のパックを開けて4枚の大小2枚ずつ羽を広げる。まるで蛾のような羽で凄まじい速度で飛び立った。

 バートンの元へと向かうと、それを見た彼もまた飛び上がる。上空で2人は凄まじい速度で戦っているが、速度でならエースの方が勝っているだろう。

 

 

「これもう任せておけば良さそうだなぁ… この隙に避難が遅れた人がいないか探してみよう」

 

 

 それからアベンジは逃げ遅れた人の有無を確認する為、その場を離れようとしたがエースの声が聞こえて立ち止まる。声が聞こえただけならば別になんともないのだが、それが悲鳴であるなら話は別だ。

 アベンジは上空を見てみると、エースが上空で()()に纏わり付かれて落下してきている。

 

 

「羽畑さん!!? なんなんだあいつらは…!!」

 

 

 その()()とは明らかに人間ではない。怪人である事は明らかなのだが、あの一瞬で数十体もの怪人呼び出せるのだろうか。そもそもこれがジェスターであるかも怪しい。

 何故ならそれらは全て同じ容姿をしており、目は正気を感じられないほど真っ白である。言葉も発する事なく、ギギギと言いながらエースの羽に噛み付いている。

 

 

「あんなジェスター見た事ない… 助けなきゃ…!!」

 

 

 エースに邪魔をするなとは言われたが、あんな得体の知れないモノを見せられたら助けない訳がない。

 そしてアベンジはエースの元へと跳び上がったが、横からバートンが刃のような翼で切り裂いてきた。空中で避けることができるはずなく、そのまま当然のように地面へと落下していく。

 

 

「お前は退いてろ!! これで終わらせてやる仮面ライダーエース!! 首領の為にここで散りな!!」

 

 

 それからバートンは落下するエースに向かって、周りのジェスターだと思われる怪人諸共、爆発する羽をばら撒く。

 それをくらって苦しむエースを助けようと近づこうとするが、自分が爆発に巻き込まれたら二の舞になる。まず飛んでいるバートンをどうにかしなければならない。

 だが、周りにはあの高さに届くような場所がない。アベンジにとって完全に為す術がない状況だ。

 

 

「どうすればいいんだ… このままじゃ羽畑さんが…」

 

「── おやおや、お困りのようですね。仮面ライダーアベンジとしての力を使えば、バートンをどうにかできるというのに……」

 

「あ、あなたは…!!?」

 

「お久しぶりです。イナゴ…… いや、稲森さん」

 

 

 そこにいたのは稲森が仮面ライダーになるきっかけを作ったフードの男が立っていた。この激しい戦いの最中、一体どこから現れたのか見当もつかない。

 

 

「ど、どうして僕の名前を!!? あ、じゃなくて… それよりもアベンジとしての力ってなんですか?」

 

「… アベンジには陸・海・空の力を使うことができる機能が備わっています。あのバートンに対抗するならば、お分かりの通り空の力が必要です。だからこれをあなたに──」

 

 

 フードの男はポケットからアビリティズフィードを取り出し、アベンジの手にそれを置く。手に取って見てみると、それは自らが持つイナゴの絵柄が描かれたものでなく、空の力であることがわかる鳥が描かれていた。

 

 

「これが空の…… あなたは何者ですか? 僕と関係ありましたっけ…?」

 

「関係があるようで実はありません。ですが、ジェスターの中でなら関係あるかも知れませんね… 首領とか」

 

「首領… 首領? え、えぇ!!? どういうことなんですかちょっと!!?」

 

「ほら早くしないとエースが危ないですよ」

 

「と、とりあえずありがとうございます」

 

「いえいえ… では、私はこの辺で失礼しますよ───」

 

 

 フードの男はそう言うと、何処かへと消えていってしまった。

 そしてアベンジは急いでドライバーからジャンプフィードを取り出し、貰ったアビリティズフィード「フライフィード」を差し込んだ。

 

 

《Welcome!フライ!》

 

 

 フライフィードの音声が流れた後、アベンジドライバーの口を閉じてフライフィードを挟み込む。《Tasty》という音と共に周りに鳥が群がると思っていたが、鳥の群れどころか姿が見えない。

 

 

「あ、あれ? おかしいな… 一体何処に…… えぇっ!!?」

 

 

 後ろを振り向くと、そこには大口を開けたペリカンが1匹アベンジの後ろにおり、次の瞬間ばくりと噛まれる。ペリカンの口内で悲鳴を上げるアベンジの身体に、別の装甲が形成されていく。

 それに気づいたバートンは、一度攻撃をやめてアベンジの方に身体を向ける。

 

 

《Tasty!!》《The sky is mine!!》

《START!! フライアベンジ!》

「ぎゃぁぁぁぁ…!!! あ? 姿が変わってる…?」

 

「なんだそりゃ? 今度はお前の方だぜ裏切り者がよ!!」

 

 

 バートンはアベンジ目掛けて爆弾を降らす。

 だが、その瞬間に背中についているバックパックから翼を出し、空へと飛び立って攻撃をかわした。エースまでとはいかないが、素早い動きでバートンへと近づいてその翼ですれ違い様に斬り裂く。

 

 

「ぐはぁっ…!!? 空が食べるようになったのか!?」

 

「よし!! これならやれるっ!!」

 

 

 アベンジはその鋭い翼でバートンを切り裂いていくが、ただやられたままの彼ではない。同じくバートンも自らの翼を使い、空中で2人は翼をぶつけ合う。

 空中戦ではやはり上手か。バートンの方が次第に優勢になっていく。

 

 

「空中が初めてな奴に俺が負けるわけねーよなぁ?」

 

 

 続いてバートンはアベンジの周りを旋回し、隙を見つけてタイミングよく爆弾を降らせる。籠の中の鳥とはまさにこの事だろうか。アベンジはバートンの動きについていくことができずに、ただその身に攻撃を受けている。

 

 

「こ、こんな展開ありッ… ぐぅ!!」

 

「ほらほらどうした!!? 何もしないなら…… ここで決めてやるよ!!」

 

 

 ここで確実に終わらせるらしい。翼を広げて爆撃する準備をしている。

 しかしアベンジはその瞬間を見逃さなかった。バートンが羽を広げた時、ほんの少し動きが止まり隙が生まれるのだ。

 それからアベンジは急上昇してバートンの上を取り、アベンジドライバーの上部を叩く。

 

 

「なんだとっ…!!?」

 

「これで終わらせますッ!!!」

 

 

 アベンジの脚がまるでペリカンの大きな口のようになり、その口を大きく開いてパクリとバートンを飲み込む。そうして自分を軸にしてグルグルと回転し遠心力を与え、思いっきり地面に向けて吐き出す。

 

 

《GOODBYE!! フライアベンジタイム!!》

「はぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 そしてバートンは地面に無様に倒れる。どうやらこれで本当に終わったようである。誰も死なせずに勝利を掴めた事をアベンジは嬉しく思う。

 

 

「や、やった… でもこのままだとバートンは羽畑さんにトドメを刺される… どうしよう…」

 

 

 その時、後ろからアベンジの顔スレスレに矢が飛んできた。後ろをゆっくり振り向くと、そこにはエースが立ち上がってこちらを狙っている。

 最悪な事態。最悪な選択がアベンジに向けられる。エースを倒してバートンを連れて逃げるか。バートンを見捨てて自分は逃げるか。

 

 

「あなたからでもいいんだけど? そうね… その鳥怪人を渡したら今日は見逃してあげてもいいかもね」

 

「無事でよかったです。でも彼は渡せません」

 

「… そう。それが答えね」

 

「だからと言って僕もあなたと戦う気はありませんよ」

 

「え? どういう意味──」

 

 

 そしてアベンジは地面を抉るように蹴って、エースの視界を遮ると、バートンを抱えて飛び立った。

 急いで追おうとするエースであったが、その時すでに射程外におり、今飛んで追ったとしても追いつかないだろう。

 

 

「…… まぁいいわ。次は必ず倒すだけだから」

 

 

 そう言ってエースは周りに巻き込まれた人がいないか探す事にする──。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>

 

 

「さて、この方をどうしようかモグロウ?」

 

「それ俺に聞くかよ…… どうするもこうするも縛り付けておくしかねーだろ…」

 

 

 とある建物の中で稲森とモグロウは、バートンを柱に括り付けて話し合いをしていた。連れてきたのはいいが、その後の事を何も考えていなかった稲森に対し、モグロウは深いため息をつく。

 

 

「お前がどのジェスターよりも優しいのはわかる。もちろん殺そうとかは思わないそうだろう?」

 

「… 僕はアベンジになってからライナー… ジェスターの1人を殺してしまったんだ。だからもう2度と仲間を傷つけたくないんだ」

 

「わかってはいるんだがよ? こいつは反逆者で俺たちを殺そうとしたんだぞ? お前がやりたくないってのもわかるが…… まぁ、そうだな。俺の言い方が悪かった。で、問題はこいつをどうするかだな」

 

 

 2人は頭を抱えて暫く話し合うと、1つの結論に辿り着いた。とりあえずバートンが起きたら真剣に話し合ってみようという事だ。

 そしてバートンは目を覚ます。暴れるバートンをなんとか宥めて話に入る。

 

 

「…… それで俺をどうするつもり?」

 

「率直に言えば、もうこのまま大人しくしていてもらいたいんです」

 

「お前それ本気で言ってんの? 無理な話だよ。俺はエースが来たら倒すつもりでいたし… 逆に死ぬつもりもあったさ。半端な覚悟であいつとやり合えるかっての。つまりはあいつを倒す為なら俺は再び立ち向かうって事」

 

「そんな… あ、そういえば羽畑さんに何か付いてましたけど… あれは何ですか? ジェスターなんでしょうけど、あんな気味が悪いもの見たことありません」

 

「それもそのはずだ。あれは『ウィンプジェスター』。捨て駒みたいなもんだ」

 

「ウィンプジェスター…?」

 

「この際だから教えてやるよ。どーせバレるんだからな…… あれが今日実戦で初めて使った。特殊なカプセルを割る事で一個に付き一体現れる。()()()()()ってやつか?」

 

「人工生命体!!? 造られたモノってことですか!!?」

 

「あぁ、もう何百個と量産されているはずだ。いくらエースが足掻こうと結局数で負けるさ。それが俺たち反逆者… 『リゲイン』の科学力ってやつだ!」

 

「反逆者リゲイン… そんなチームが……」

 

「選りすぐりの奴ら… 俺も含めてそういう奴らが集う。他の反逆者共より格上、謂わば幹部みたいなもんだ。そして俺たちはある奴の命令で動いている…」

 

「ある奴…?」

 

「かつて首領の側近だったそのジェスター……」

 

 

 その発言にモグロウは顔を青ざめた。稲森はよくわからなかったが、モグロウの怯えようからただ事ではないと察しがついた。

 そしてバートンからその名が告げられる。

 

 

「その名は──── 『ファング』だ」




バートンの言うファングとは……?

次回、第4話「大嫌いなジェスター」

それでは次回も逆襲しましょう!よろしくお願いします!


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第4話「大嫌いなジェスター」

皆さんご無沙汰しております。

前回、アベンジは新たな力フライウエポンによって、見事バートンを倒した。その後、彼を連れてとある建物で話を聞くと、ファングというジェスターの名前が出てきた……

それではどうぞご覧ください。


「ファング… だって!!?」

 

「ファング…? モグロウ何か知ってるの?」

 

「知ってるも何もお前ッ!! 知らない奴なんていねーぞ!!? 首領の側近でいただろ!!? あのライオン野郎だよ!!」

 

「あーあの… え? えぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!?」

 

 

 ファングというジェスターは首領の側近であった怪人だ。その強さは首領に近き存在とされており、数いる部下のジェスター達から恐れられ、讃えられていた。

 そんな彼が反逆組織リゲインを率いているとするならば、この状況は笑えないどころか絶望的と言えるだろう。

 稲森とモグロウは事の重大さにようやく気づいた。

 

 

「で、でもエースがいるからなんとかなりそう…?」

 

「…… そう思うのは勝手だが、今日のウィンプジェスター達の群れに手も足も羽も出せなかったエースが勝てるかな? どう考えても無理だと思うけどね」

 

「勝てますよ! 仮面ライダーエースは戦争を止めてくれたんですから!」

 

「馬鹿かお前は!!!」

 

「…っ!!?」

 

「ジェスターは人間の尻に敷かれて生きているんだぞ!? お前もその1人のはずだ!! なのに何故、人間の肩を持つんだ!? 人間に奴隷の様に扱われる事が俺たちの生きる道だっていうのか!!?」

 

「うっ…… でも… それもこれもあなた達が戦争なんて事を引き起こしたのがそもそもの間違いでしょう!! 奴隷の様に扱ってきたのはこっちだってそうです!! なのに今更、自分たちが弱い立場になったからってそんな事を言うのは間違ってますよ!!」

 

「お前… それは首領に対する冒涜だぞ!!」

 

 

 バートンは縛られながらも首領を侮辱した稲森に対して怒りを露わにし、今にも縄を千切らんとばかりに暴れている。

 それから稲森を遠くへ離し、モグロウがバートンを落ち着かせると、落ち着きを取り戻したバートンが彼に質問を投げかける。

 

 

「なぁ、モグロウ。お前はなんで人間側についている?」

 

「… その質問されると思った」

 

「なら答えろよ。どうして人間側につく」

 

「俺は償いたいんだよ。自分の罪を」

 

「人間にか?」

 

「あぁ、そうだ。俺たちジェスターがこういう扱いをされるのは無理もない。イナゴの奴の言い分がわかる… ただ、お前たちリゲインの言い分もわからないわけじゃない。そりゃ俺も怪人だからよ…… でもそれじゃ意味がない気がする。暴力的に解決するなんて事がそもそも間違っているんだ」

 

「…… けっ、お前も変わっちまったって所か」

 

「生きているうちはみんな変わるもんだ。俺たちジェスターも人間もな」

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>

 

 栄須市のとある噴水前に、陽奈はスマホを弄りながら誰かを待っている。

 すると、向こう側から陽奈の元へと走ってくる女性が1人。かなり待たせていたのか手を合わせて何度も頭を下げている。

 

 

「遅いわよ。楓」

 

「ほんとごめんね〜… でも10分くらいでしょ?」

 

「残念20分よ」

 

「そんな〜…」

 

 

 少しおっとりとした感じの彼女は陽奈の親友である「青葉 楓」という。陽奈の学生時代からの友人であり、性格とその容姿も正反対の2人だが、何故かとても気が合うのだ。まさに運命的な出会いだった。

 

 

「今日は買い物って言ってたけどどこ行くの?」

 

「そういえば言ってなかったわね… 服よ。服を買いに行くの」

 

「やった〜! 私も丁度新しい服欲しかったんだ!」

 

「それなら決まりね。行くわよ」

 

「うん!」

 

 

 2人は服を買う為にショッピングモールの中へ入り、中々高そうな所へと足を運ぶ。どれもこれも目を輝かせながら選ぶ陽奈が、あのエースだとは一度見ただけでは気がつかないだろう。

 

 

「ねぇねぇ陽奈これ似合う〜?」

 

「えぇ、似合っているわ。こっちも合うんじゃない?」

 

 

 側から見たらただの仲が良い女性たちのショッピングだと思うのかもしれないが、片方はこの世界を守り、怪人から恐れられている紛う事なきエースだ。

 陽奈は次に服を試着しようとした時、突然スマホに電話がかかって来た。楓に待ってもらい電話に出ると、その内容に彼女はため息を吐く。

 それから電話を切り、楓に少し用事ができたと告げる。

 

 

「ごめんね。私ちょっと用事できたから」

 

「…… またジェスター?」

 

「本当にごめんね? すぐ終わらせてくるから…」

 

「ジェスターなんか大っ嫌い…!!」

 

「楓… 今からその悪いジェスター倒しに行くんだから待っててよ」

 

「… うん。ジェスターだけは倒してね!! 陽奈!! 私から全部奪っていくあいつらに!!」

 

「え、えぇ… わかってるわ」

 

 

 楓が取り乱したのは仕方のない事だと陽奈は思う。

 何故なら楓がまだ幼かった頃、ジェスターによって両親を目の前で殺された挙げ句、暫くの間、ジェスターに捕まって奴隷のように働かされていたのだ。この事から、彼女のジェスターという種族に対する恨みは度を超えて強く、少しでも名前が出ただけでもこうして反応してしまう。

 その後、陽奈は反逆者が暴れているという情報を聞き、現場へと駆けつける。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>

 

 陽奈が向かったそこは栄須市にある結構広めな川で、ジェスターを目撃したという情報があったが、それらしい姿はどこにも見当たらない。

 強いて見つけたとしたら、反逆者と思われる例の男の姿があるくらいか。

 

 

「…… あなたがここにいるとはね… えっと…」

 

「僕は稲森です」

 

「稲森ね… 人間みたいな名前を付けたわね。まぁそれが今の主流なんだけど」

 

「あのー… 羽畑さんもジェスターが出たという情報を受けてここへ?」

 

「まさかあなたも? 一体どういう──」

 

 

 すると突然、川に渦が出現し始め、その中央部から大きな魚が飛び出してきた。魚はそのまま陽奈の元へと突撃していく。

 陽奈は間一髪のところで躱し、腰にエースドライバーを装着して、ダッシュフィードを差し込む。それに合わせるように稲森もアベンジドライバーを巻いて、ジャンプフィードを差し込んだ。

 

 

《Welcome!! ジャンプ!!》

《ダッシュ!! Open!!》

 

「「変身ッッッ!!!」」

 

《Tasty!!》

《START!! アベンジ!!》

 

《Come on!!》

《Let's try エース!!》

 

 

 2人はそれぞれドライバーを閉じると、身体に装甲を身に纏っていく。

 そして巨大な魚の方を向いて構える。その魚は見ての通りだが、普通のものではない。もちろん誰がどう見ても怪人である。

 

 

「来たな、エース。そしてジェスターの身でありながら、ジェスターを敵に回す愚か者のアベンジか」

 

「あなたもリゲインの1人ですよね? 何故かそんな気がするんです」

 

「いかにも私はリゲインの1人。名を『スイム』という」

 

 

 エースは2人の会話の内容を聞き、最初はわからなかったが、前にチラリと聞いた話を思い出した。リゲインのという反逆者の中で選りすぐりの者たちが集う組織があるという事を。

 そこでエースはスイムに向かってある質問をぶつける。

 

 

「へぇ〜、あなたが例のリゲインのメンバーね。なら話が早いわ…… あなた達の現在のトップは一体だ───」

 

「ファングってジェスターですよ。羽畑さん」

 

「…… ファング?… はぁ!!?」

 

 

 アベンジが割って入りその名を告げると、エースはいつもの冷静さを感じないほど驚いているようだった。

 それほどファングという存在はジェスターだけでなく、人間にとっても知らない者はいないほど脅威なのだ。

 

 

「まさか生きていたとはね… それならこの魚から居場所を聞くまでよ。無理やりね!」

 

「私は魚ではなく、イルカだ」

 

 

 そしてエースはそのスピードを活かして、一気に懐へと潜ろうとしたが、目の前に不意打ちで苦しめられたウィンプジェスターがズラリと並ぶ。

 しかしそこはエースであり、2度の手は通用しないと、エースガモスボウで撃ちながら縫うようにしてスイムの元へと近づく。

 

 

「さすがはエースと言ったところ。褒めてやろう」

 

「ジェスターに褒められても嬉しくないんだけど!!」

 

 

 スイムは突っ込んできたエースに、自らの口が裂けるほど開いて噛みつこうとしてきた。エースを丸々呑み込んでしまうほど大きな口だが、ギリギリの所で避けて横から腹部を蹴りつける。

 

 

「うぐっ!!?」

 

「遅いわよ……!!? もう邪魔よ!!」

 

 

 続いて攻め込もうとしたエースだったが、ウィンプジェスターがそれを邪魔して攻撃ができない。

 ウィンプジェスター達が彼女の周りを囲もうとすると、アベンジが触れさせないようにこれらを蹴り飛ばす。

 

 

「さぁ、僕は良いのでスイムさんの方へ!!」

 

「… これで別にあなたの罪が軽くなるわけじゃないわよ?」

 

「そんな事で助けた訳じゃありませんよ」

 

「…… 変なジェスターね」

 

 

 仮面では見えないが、アベンジは笑顔で答えていた。それを感じ取っているエースは、彼がしている事が全く理解ができない。

 エースは理解できないまま、スイムの元へと走る。

 

 

「これでもくらってさっさと消えなさい!!」

 

「ほう?」

 

 

 それからエースはドライバーの側面を押し込んで、バックパックから羽を出して空へと舞い上がる。空中で大きく縦に回りその勢いのままスイムに向かって飛び蹴りを放つ。

 

 

《Thank you!! エースライド!!》

 

 

 その音声と共に必殺のキックはスイムを捉える。まともにくらってしまったスイムは苦しそうな声をあげながら地面にめり込んでいく。

 このままスイムは倒されてしまうだろうと思われた時だった。

 

 

「ガッ…!! 後ろが留守だぞ。エースよ」

 

「えっ…!?」

 

 

 スイムは両手から水泡を出し、それを空に投げると破裂し、矢のようになってエースに降り注いだ。がら空きであった背中をやられたエースバランスを崩してしまう。

 その隙をついてスイムは川の方へと潜り、更にそこから巨大な水泡を作り出して破裂させる。

 アベンジはまるでマシンガンのように飛ぶ水の弾を躱しながら、エースを抱えて高く跳んで回避する。

 

 

「… やはり2人は分が悪い。ここは一時撤退とさせてもらおう」

 

 

 そしてスイムは川の中へと潜っていき、そのまま姿を消してしまった。

 アベンジはスイムがいなくなったことを確認し、エースをゆっくりと降す。咄嗟であったので特に何も言われなかったが、降ろした途端にエースが声を荒げて怒鳴る。

 

 

「勝手なことしないでくれる!!?」

 

「そうは言われても危なかったじゃないですか…」

 

「あんなの別に平気よ!!嘗めないで!!」

 

「うーん…… 一応ごめんなさい」

 

「一応って何よ… まぁあのジェスターがいなくなったらあんただから」

 

 

 エースガモスボウを握る手に力が入ったことを確認したアベンジは、すぐさま高く跳び上がり、エースから離れていく。

 エースも追おうとはしたが、楓を待たせてしまっているので、一度戻る事にした───。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>

 

「ごめん! 遅くなった…?」

 

 

 そこには楓の姿が見えなかった。帰ってしまったのだろうかと思うかもしれないが、彼女の性格上それはないのだ。きっとトイレにでも行っているのだろうと陽奈は思っていた。

 そして暫く時間が経過する。

 

 

「…… 既読もつかない… 何してるのかしら?」

 

 

 あれから1時間。彼女にメールをするが、全く返事が返ってこない。それどころか読んですらいない。流石の陽奈も何かがおかしいと感づいていた。

 それも最悪な事態の方を想定している。

 

 

「楓ッ…!!」

 

 

 陽奈は楓のスマホを探知し、その場所へと急いで向かう。色々な事態を想定しまい、気持ちもかなり焦っていた。

 そしてその場所は辿り着いた陽奈であったが、眉を釣り上げ怒りを露わにする。

 

 

「あいつ…!!!」

 

 

 その場所には楓の水に濡れたスマホが落ちていた──。




以上です。最後どうなったんや…!

では次回、第5劇「水泳でエイ」

次回もよろしくお願いします!!


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第5話「水泳でエイ」

皆さんご無沙汰しております。

前回、新たな登場したリゲインの幹部スイム。なんやかんやあり取り逃がしてしまいまして、陽奈は楓のところへ戻ると……

それではどうぞご覧ください。


「…… バートンは?」

 

「それが、俺の知らぬ間にいなくなってた」

 

 

 稲森は縛り付けてあるバートンの元へと戻ったが、モグロウが少し目を離した隙に何処かへといなくなっていたらしい。

 あの程度の拘束では逃げられるとは思っていたので、それほど悔しいとかそんな感情は湧いてこない。

 

 

「まぁ仕方ないよね。多分リゲインの方に戻ったのかな?」

 

「そうだろうな。お前の事は確実に報告されるだろうよ… 最初からバレてるけど」

 

「… という事はファングにも話しが行くはずだから… 僕どうなっちゃうんだろう…」

 

「安心しろとは言えないが、すぐに攻めては来ないはずだ。お前が反逆側の脅威となるって確定したらだろうな」

 

「うっ…!」

 

 

 モグロウは平然として言っているが、その内容は絶望的なものである。

 今の稲森の状況は、2つの勢力に目をつけられているという事。片方はライダー。もう片方はリゲイン。1人でまともにやり合えるとは思えない力の差がある。

 

 

「とにかくもっと力をつけなきゃね」

 

「力をつけるって当てはあるのか?」

 

「… 今回逃したスイムが厄介になりそうなんだ。アベンジの力をもう一つ解放させて、あいつを倒してリゲインの場所を聞くよ」

 

「あースイムか。確かにあいつは…… いや、待てよ。お前今なんつった?」

 

「アベンジの力をもう一つ解放──」

 

「そこじゃねぇ!! その後だ!!」

 

「リゲインの場所を聞く」

 

「そこだ!! イナゴ、お前本気で言ってんのかよ!!?」

 

「… そりゃ怖いし、無謀だと思うけど… 人間も怪人も平和になるには、まずは自分の種族から止めないと!」

 

「イ、イナゴ…… ホントに変わったなぁおい… まぁお前がその気なら協力するぜ! なら、早速その力とやらを解放しようじゃねーか!!」

 

「ありがとう、モグロウ!! よし、それならまずはあの男に会うしかない───」

 

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>

 

 陽奈は楓のスマホを握りしめ、栄須市にある全ての水辺を探して回っていた。

 楓のスマホと共にあった水。あれはきっとスイムの行動によるものだと推測していた。あのすぐ近くには水辺がある。それに何者かの濡れた足跡が微かだが残っており、その足跡は水がある方へと続いていたからだ。

 

 

「楓… 無事でいて!!」

 

 

 どこを探してもそれらしき姿はない。スイムすらも。

 あの時、自分が離れていなければ…と、何度も自分を責めた。だからこそ諦めずに必死に探し、何時間と経ってから陽奈は海にまで来ていた。

 

 

「…… 海か…」

 

 

 こんな広々とした場所にいるわけないと、近くのフェンスに手をかけた。遠方を眺めながら、一旦落ち着きを取り戻す。

 それから次の場所へ移ろうとした次の瞬間、陽奈の腕は何者かの濡れた手に掴まれ、そのまま海に引きずられそうになる。

 

 

「なっ…!!?」

 

 

 陽奈はなんとかその手を蹴り飛ばし、間一髪の所でフェンスを掴んで海へ落下をせずに済んだ。

 そしてこれにより陽奈は、相手が誰であるのかがわかった。

 

 

「あんたでしょ… スイムッ!!」

 

 

 そう名前を呼ぶと、水面に泡が立ち始め、そこからイルカの怪人スイムが姿を現した。何かありそうな不敵な笑みを浮かべながら、陽奈の元へと近づいていく。

 

 

「エース。こんな所に態々来るとは… 一体なんのつもりだ?」

 

「… 恍けないでくれる? 私があんたと話す意味なんてないけど、私の親友がどこに行ったのか聞く事には意味があるわ。だから言いなさい。私の親友… 楓はどこなの?」

 

「楓… はて、誰のことだろうか」

 

「これだからジェスターは嫌いなのよ!! 変身ッ!!」

《Come on!!》

《Let's try エース!!》

 

 

 陽奈はフェンスから飛び降りながらドライバーとダッシュフィードを装着しエースへと変身する。

 そして水面に落ちる前に羽を展開し、一度有利な上空へ飛び立ち、エースガモスボウを構えて質問の続きを行う。

 

 

「もう一度聞くわ。楓はどこなの?」

 

「教えて欲しいのなら変身を解け」

 

「やっぱり知ってるのね… なら力づくでも教えてもらうから!!」

 

 

 それからエースはダッシュの超スピードでスイムの周りを旋回しながら、エースガモスボウで的確に撃ち込んでいく。

 スイムは堪らず水の中に入るが、エースは続けて上からデタラメに撃ち込む。水の中に入られると、どこにいるのか見当がつかなくなる。

 

 

「あいつどこに…」

 

 

 すると、エースの周りに水柱が立ち始め、彼女は何かを察してそれらを掻い潜ろうとしたのだが、行く先々に水柱が現れ、遂には完全に囲まれてしまったのだ。

 

 

「くっ…!!」

 

 

 上空へと逃げようとしたエースであったが、水柱はそれすらもさせないよう曲がってドーム状へと変化し、彼女を包み込んでしまった。

 

 

「これで終わりのようだ。エースよ」

 

「こいつッ!!」

 

 

 スイムは開いた掌をギュッと結んで拳にすると、ドームは一気に収縮して大爆発を引き起こした。

 水飛沫と共にエースも吹き飛び、先程いた地面へと転がる。変身が解けてしまったが、また立ち上がり再度変身しようと構える。

 そんな彼女の姿を見て、スイムは水面から身体を出す。

 

 

「これが仮面ライダーエース…… やはりな」

 

「やはり? どういうことよ!!」

 

「初代エースの強さは私たちの領域を超えていた。通常のジェスターより強力な私たちでさえも敵わないほどにな。そして唯一奴に対抗できたのは首領だけだった。強と強の戦いの果ては互角であり、この世から2つの頂点が消え、ジェスターたちは逆に好機と動こうとしたのだが…… その時、お前が現れた」

 

「つまり… 何が言いたいのよ」

 

「二代目であるお前の強さに何人もの同胞が消されていったか…… 反逆者を集めお前を消そうと考えていた。が、今ようやくわかった。お前は私たちよりも弱いと」

 

「ふ、ふざけるんじゃないわよ…!!」

 

「現にお前が一度地に伏せたことが証拠だ… バートンが言っていた通りだな。今の脅威はアベンジであると」

 

「アベンジってあのライダー…」

 

「お喋りはここまでだ。ここで終わりにしてやろう。お前の時代はここで終わりだ仮面ライダーエース───」

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>

 

 稲森たちはフードの男を探していたが、当然のことながら全然見つからない。何故なら2人ともその男何者なのかすら、ましてや何処にいるのかさえも知らないのだから。

 

 

「とりあえず人気のない路地裏に来たけどさ」

 

「あぁ、どこなんだろうな」

 

「フード被ってから絶対ここだと思ったんだけどなぁ…」

 

「何故そんな考えになった…?」

 

「いや、だってさ? フードを被ってるって事は暗い感じの所が似合わない?」

 

「… ん?あー…… ん? まぁわかるぞ」

 

「さすがモグロウ。わかってくれると思ったよ」

 

「お、おぉ── と、イナゴ。例のやろうが来たぜ」

 

 

 なんと稲森の言った通り、路地裏にそのフードの男は現れたのだ。

 フードの男は要件が分かっているのか、その手には何かが握られているのがわかる。

 

 

「えっとフードさん……」

 

「わかっていますよ。これが欲しいんですよね?」

 

 

 するとフードの男はその手に持っていたアビリティズフィードを見せてつけてくる。

 イナゴはそれに手を伸ばすが、その寸前で手を止める。

 

 

「……」

 

「ん? これが欲しいから私を求めていたのではないんですか?」

 

「あ、いえ… ありがとうございます」

 

 

 一度は止めた手であるが、アビリティズフィードをフードの男から受け取る稲森。今更ではあるが怪しく思ったという事ではなく、ただ単純にこの人は何故自分に優しくしてくれるのだろうと思ったのだ。

 

 

「私は君の味方でもあり敵でもあると思っておいた方がいい」

 

「え?」

 

「君はアベンジドライバーを使えるという事、誇りに思った方がいい… その力は報復するための力だ」

 

「おい!! 手を貸してくれるのは嬉しいけど、イナゴには手を出すなよ!! 許さねーからな!!」

 

 

 フードの男とは初めてのモグロウは当たりが強い。警戒心が稲森はなさ過ぎるというのもある為、代わりにモグロウが盾になってくれているのかもしれない。

 

 

「よし、これでスイムに逆襲できる」

 

「そしてようやく陸海空が揃いましたね」

 

「揃うとなにかあります? その… 三位一体とか!?」

 

「…… それはまたいつか作っておきますよ」

 

「え、本当ですか!?」

 

「それではまた───」

 

 

 いつもの如く用事が済んだフードの男は何処かへと消えていってしまった。新たなアビリティズフィードを手に入れた稲森たちは、スイムがいそうな水辺を探し始める。

 そして海へと行き着くと、そこには陽奈の姿があった───。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>

 

「大丈夫ですか羽畑さん!!?」

 

「…っ… あんたは稲森?」

 

「怪我は…」

 

「バカっ!! 罠よ!!」

 

「えっ… うわっ!?」

 

 

 その瞬間、水の槍が稲森に降り注ぐが、これでは陽奈も危険に晒すため、彼女をその範囲から押し出す。

 

 

「はっ…!?」

 

「ここから先は僕が逆襲しますよ!!」

 

 

 そしてアベンジは一瞬にしてドライバーを巻き、新たに手に入れた「ダイブフィード」をセットすると《Welcome!! ダイブ!!》という音声が流れた。

 もうすぐで槍が稲森に突き刺さろうとした瞬間、アベンジドライバーの口を閉じて叫ぶ。

 

《Tasty!!》

「変身ッ!!!」

 

 

 そこにはエイが現れ、槍を尻尾の針を打ち出して相殺させてから、針を稲森の胸へと突き刺して、ヒレで彼を包み込む。

 

 

「うぎゃぁぁぁあ!!?」

《Sleep on the seabed!!》

《START!! ダイブアベンジ!!》

 

 

 アベンジは変身の度にこの苦痛を味わうのは勘弁して欲しいと思う。

 そしてダイブウエポンへと変身を遂げると、同時に海中からスイムの姿が現れた。スイムを見つけたアベンジは早速海の方へとダイブする。

 

 

「モグロウ!! そっちは任せたよ!!」

 

「おう!!」

 

 

 ダイブウエポンで海へと潜り呼吸をしてみる。思った通り水中でもこの姿なら呼吸を行う事ができるようだ。

 アベンジは水中のどこかにいるスイムを探す。海の底は暗く、この姿でも見えない。

 

 

「どこへ行ったんだ…?」

 

 

 その時、再び槍がどこからともなくアベンジの方へと飛んできた。ギリギリの所で躱したが、なにも見えない所からとてつもない速さで向かってきている為、反撃のしようがない。

 

 

「ぐぅっ…!! 一体どこから……」

 

 

 そしてアベンジは避けながら自分の腕に何か射出できそうなものを見つける。両腕を飛んでくる方に目掛けて伸ばしてみると、腕から鞭のようなものが飛び出し何かを掴む感覚があった。

 

 

「よくわかんないけど… よしっ!!」

 

「ぬぐぅ…!!?」

 

 

 やはりスイムを捕まえていた。そのまま水中でぐるぐると回してスイムを水面へとぶん投げる。

 アベンジは無意識に脚に力を込めると、その両脚の横にについているパーツからジェット噴射させて一気に水面へと飛び上がった。

 

 

「これでっ!!」

 

「…… 甘いな」

 

 

 鞭でスイムを叩きつけようとしたが、鞭はズブリと彼の身体を貫通してしまい、そのまま真っ二つに引き裂いてしまったのだ。

 

 

「や、や、やっちゃったぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 同胞を殺してしまったと嘆こうとしたアベンジであったが、スイムの身体は一息に元へ戻り、アベンジを蹴り飛ばして再び水中へと戻る。

 

 

「ど、どういうことだ!?」

 

「私は水のように溶けることができる。だからお前がいくら攻撃しようと、私を倒す事はできない!!」

 

 

 スイムは手を掻き回して水中で渦を作ると、それにアベンジは耐え切れずに飲み込まれてしまった。

 水中で息はできるからと言っても、この渦の中に長時間い続けるのも危険である。

 

 

「このまま槍で突き刺して終わりにしてやろう!!」

 

「…… 甘いのはそっちですよ!!」

 

「なにっ…!?」

 

 

 渦の中から針が飛んできて、不意の攻撃に溶ける事ができずに喰らってしまった。攻撃をくらうと共に渦が解除され、アベンジは外へと抜け出した。

 

 

「な、なんだ…… ッ!! これはぁ!!」

 

 

 なんとその針をくらってから溶ける事ができなくなっていた。それもそのはずである。この針には毒が仕込まれており、これに刺されたものはどんな生物だろうと能力が使えなくなってしまう。

 これを好機と見たアベンジはドライバーの上部を叩いてスイムに近づく。

 

 

「これで逆襲完了だッ!!」

 

「しまった…!!」

 

 

 アベンジの両腕はまるでエイの尾のようになり、それをスイムへと巻きつけて上空へと放り投げる。

 海から空へ投げ出されたスイムは毒により何もできず、アベンジの両腕から生えた針に挟み込まれるように刺される。

 

 

《GOODBYE!! ダイブアベンジタイム!!》

「おりゃぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 そしてスイムは力なくして水中へと落ちると、彼の身体から楓が姿を現し、アベンジはその子を捕まえて陽奈の元へと向かう。

 

 

「羽畑さん… この方は知り合いだったりします?」

 

「え、楓ッ…!!」

 

「…… あれ? 陽奈? どうしてこんなところに……?」

 

 

 どうやら楓は無事のようだった。

 アベンジはホッと一息つきたいところではあったが、陽奈に何されるのかわからない為、とりあえずモグロウに合図を送って逃した。

 それから海へと潜り、スイムを探すついでにアベンジ自身もその場から逃げていった。

 

 

「…… 今のは?」

 

「怪人よ」

 

「えっ!? 怪人に仮面ライダーなんていたの!!?」

 

「そうみたいね… いつか倒すけど」

 

「でも陽奈」

 

「ん? なによ」

 

「助けられちゃったのかな? 怪人に?」

 

「はぁ?…… 信じたくないけどこればっかりはそうかもしれないわね」

 

「… 怪人って意外と良い人いたりするのかもね」

 

「逆に私が意外よ。あんたが怪人を認めるなんて……」

 

「認めたわけじゃないよ… ただあの仮面ライダーね? 仮面の下からは見えなかったけど、凄く良い笑顔してたと思うの」

 

「… 稲森、か。今日だけは見逃してあげるわよ… 親友に免じてね」

 

 

 夕日が海へと沈み、今日という1日が終わろうとしていた。




はい、陸海空揃いました。
もうね終わりからの方はおわかりですよ…!

次回、第6話「速度やスピード」

次回もよろしくお願いします!!


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第6話「速度やスピード」

皆さんご無沙汰しております。

前回、リゲインの幹部の1人であるスイムをアベンジの新たなフォーム、ダイブウエポン退けまして、連れ去られた陽奈の親友、楓も無事に助かりまして…

それではどうぞご覧ください。


 稲森はスイムを見事撃破したが、海へと消えていった奴を追うことは困難であり、そのまま見失ってしまった。

 それから渋々帰宅をし、部屋にある大量のヘローワークから仕事を探し始める。稲森もここ最近忙しかったもので、貯金が底を尽きて来ており、今すぐにでも金が必要な状況なのだ。

 

 

「ど、どうしよう… 金がない。モグロウに相談しようにも、あいつも今探し中だからなぁ……」

 

 

 再び稲森は頭を抱えて悩み出す。

 仮面ライダーという戦士が仕事であるなら良かったのに…と、思っていると、玄関からドアを叩く音が聞こえる。チャイムが壊れしまっていた為に仕方がないことだが、それにしても音が激しい。

 

 

「今、行きますよ! そんなに叩いたらドア壊れちゃいますって!!」

 

 

 そしてドンドンと激しく叩かれているドアを開けると、そこにはバックを持った1人の人間がいた。全身を見ても擬態している怪人ではない事や感覚なんかですぐにわかる。

 しかし、妙である。このアパートに来るのは宅配かモグロウくらいであり、普通の人間がまず立ち寄る事はほぼないのだ。

 そう普通の人間は──。

 

 

「あ、あ、あなたは誰ですかぁっ!!!?」

 

「まぁまぁ落ち着いてください」

 

「普通の人間じゃない事は察し付きますし、そもそもあんな狂ったようにドアを叩く人を前にして普通に対応できる訳ないじゃないですかぁ!!!」

 

「私、こういう者です──」

 

 

 その人間。男から渡されたのは名刺であった。名刺には「班目 響斗(まだらめ ひびと)」と書かれているだけで、他は何一つ書かれていない不思議なものであった。

 

 

「班目さん…… で、何をされてる方なんですか? というか何用でしょうか?」

 

「質問が多いですねぇ… まぁまず1つ申し上げるならば、私は仮面ライダーエース事、月火さん… 今は陽奈さんのドライバーを開発したものでしてね? あなたの()()にも興味が湧きまして…」

 

「それ…?」

 

 

 班目と名乗るその男が見ているのは、稲森の部屋のテーブルに置かれているアベンジドライバー。

 これにより稲森は何かを察して反射的に後ろへと跳ねてドライバーを抱える。どう考えてもこの男は陽奈の仲間であり、自分を殺しに来たのだと思ったのだ。

 

 

「まさか僕を… まずは話しを聞いてください!!」

 

「話しをするから今日ここへ来たんですよ。仮面ライダーアベンジ… 稲森さん」

 

「へぇ…?」

 

「まぁ立ち話をなんですし、座りましょうか」

 

「えぇ、はい…(僕の部屋なんだけど…)」

 

 

 そして班目はズカズカと部屋に入り込み、テーブルの向かい側に座る。

 その間にもアベンジドライバーを見続けている。やはりこのドライバーの件であることは間違いない。

 

 

「それで─── 用件は…?」

 

「まずは安心して欲しい。私は陽奈さんから言われてここは出向いたわけではないということです」

 

「あ、はい」

 

「そして用件の方なんですが、そのアベンジドライバーを調べさせてもらおうと思いましてね?」

 

「アベンジドライバーをですか?」

 

「ここも安心してください。エースドライバーの開発者として、君のドライバーに興味が湧いたってだけです。データを見ようとも君のドライバーに細工なんかしませんよ」

 

 

 稲森は怪しくは思ったが、とりあえずアベンジドライバーを班目に渡してみる。

 ドライバーを受け取った班目はバックの中からノートパソコンを取り出し、ドライバーのデータを解析し始める。ニッコリと笑ったまま表情は全く変えずに、データを隅から隅まで見ること数分。

 班目はノートパソコンを閉じてバックに入れ、アベンジドライバーを稲森へと素直に返した。

 

 

「いやぁ、素晴らしい! まさかここまでのプログラムが組み込まれているとは… 良いものを見せてもらいましたよ」

 

「それは良かったです…?」

 

「さて、私は早速帰って彼女に新たなアビリティズフィードを制作しなければならないので失礼しますよ」

 

「あ、はい… お疲れ様です…」

 

 

 それから班目は特に何を言わずにさっさと帰ってしまった。

 まるで風のように去っていってしまったけれど本当に何だったんだろうか。また1人敵とは言わないが、危ない人が知り合いにできた。

 

 

「…… そろそろ出かけようかな」

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>

 

 

「今日からもやし生活だなぁ…」

 

 

 先程の変な研究員班目といい、金は無くなり、もう今日はいい事が起きないような気がしてきた。

 栄須市にあるショッピングモールにて食材(もやし)を買おうと食材コーナーを歩いていると、そこでバッタリとある人物に遭遇する。

 

 

「あ、あなたは…」

 

「ん? どこかでお会いしましたっけ〜?」

 

 

 稲森は何か言おうとしたが、すぐにその口を閉じて考える。

 目の前にいるのは陽奈と共にいた女性は楓であり、稲森がアベンジであるという事は知らない。

 

 

「あなた… 怪人…」

 

「そうですね… ははっ。急に話しかけちゃってすみません」

 

「…… なんか雰囲気が似てますね」

 

「え? 誰とですか?」

 

「前に会った怪人の仮面ライダーです」

 

「…!?」

 

 

 ジェスターに対しての彼女は普段のおっとりとした態度が薄れてしまうが、稲森を前にするとあの仮面ライダーと似ているからか。お互い長々と話すつもりはなかったが、段々と打ち解けあって会話するようになっていた。

 

 

「── あ、すみません。長々と話してしまって」

 

「私も稲森さんのお陰で少し気が楽になりました… ジェスターも悪い人だらけではないんですね」

 

「僕みたいな争いが嫌いなジェスターは沢山いますよ。いつか平和な世の中が来てくれればいいんですけど…」

 

「稲森さん。もし例の仮面ライダーに会ったらお礼を言っておいてもらえますか?」

 

「ぼ、僕がですか?」

 

「何故かあなたと彼は同じ感じがするので、私よりあなたの方が出会えるんじゃないかなって思いまして〜」

 

「そうですか… わかりました。伝えておきますね」

 

「ありがとうございま〜す! それでは──」

 

 

 2人がその場を後にしようとした時、外から悲鳴が聞こえてきた。

 当然、稲森は咄嗟にモールから外へと飛び出していく。その後ろ姿を見た楓は何を思ったか彼の跡をついて行った。

 

 それから稲森が外へ出ると、そこには馬のジェスターがおり人々を襲っていた。クネクネとした気持ちの悪い歩き方をしながら、そこら辺にいた女を1人掴み上げ、拳で顔面を叩き割ろうとする。

 

 

「やめてください!!」

 

「…… あら? あなたもジェスターじゃな〜い。なにかしら?」

 

「その女の人を離してください!!」

 

「いやねー… 人類は滅ぶべき存在。今ここで1人でも多く叩き殺してあげなきゃ、でしょ?」

 

「そんなのダメに決まってるじゃないですか!!… 変身ッ!!」

 

 

 そして稲森はアベンジドライバーを腰に巻いてジャンプフィードを差し込む。ドライバーの口を閉じると、イナゴの群れが馬のジェスターを襲い、女の人を助け、それから稲森はアベンジへと変身する。

 

 

《START!! アベンジ!!》

「みんなに代わって逆襲だ!!」

 

「まぁ! あなたが噂のアベンジなのね… いいわ殺してあげる!! この『スピーダ』お姉さん直々に!!」

 

 

 スピーダと名乗ったジェスターはアベンジへと突進しもの凄い勢いで吹き飛ばすと、凄まじいスピードで追いついて背中にラリアットをくらわせた。

 アベンジは吹き飛ばされた向きとは真逆からの攻撃の威力が相まって、一瞬呼吸ができないほど衝撃が走る。

 

 

「かはっ…!!」

 

 

 どうやらこのスピーダは素早さが持ち味らしい。流石にこのスピードにはついていけないが、好きにやられている訳にもいかない。

 するとアベンジはジャンプウエポンの力で高く跳び上がり、ドライバーからジャンプフィードを抜いてフライフィードを差し込む。口を閉じてフライウエポンへと変身する。

 

 

《The sky is mine!!》

《START!! フライアベンジ!!》

「上空からならどうだッ!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 

 スピーダの隙を狙って上空より降下し、アベンジは鋭い刃のような翼で斬りつける。いくら素早いスピーダとて、空からの攻撃は対応できないらしく苦戦しているようだ。

 

 

「まだまだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 更に斬りつける速度を加速させ、このままトドメにまで持っていこうとしていた。

 だが、スピーダの身体がワナワナとし始め、呼吸も荒くなってきている。苦しんでいるのか?と思ったアベンジであったが、すぐにそれは間違いだと気付かされた。

 

 

「…めぇ…… てめぇよ…」

 

「ん?」

 

「いい加減にしやがれぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」

 

「うわぁっ!!?」

 

 

 その瞬間、野太い男の声となったスピーダはアベンジが向かってくるタイミングと合わせて殴り飛ばす。

 アベンジはなんとか受け身を取り、スピーダの方を向いて固まった。あまりの切り返しの速さに驚いたのではなく、その野太い声を聞く前に彼女… いや、彼の事を女だと勘違いしていたのだ。

 

 

「あ、あなっ、あなた男ですかッ!!?」

 

「お・ん・な!! もう私を表面上傷つけた挙句、中身まで… 許さないわよ!!」

 

 

 アベンジの純粋さが起こした勘違いであるが、これが火に油を注ぐと言うもの。口調は戻ってはいるが、怒っているのは確実である。

 それからスピーダはカプセルを取り出して、それを何個がばら撒くと、カプセルが落ちた場所から例のウィンプジェスターが出現する。

 

 

「ウィンプジェスター!!?」

 

「あらあら知っているようね。なら、この子たちの恐ろしさはわかっているはずよ」

 

「…これは1人じゃ不利だ」

 

 

 瞬く間にウィンプジェスターたちはアベンジの周りを取り囲み、逃げ場を塞ごうとしていた。

 ただし、こちらは空を飛んで逃げることができる。反撃のチャンスはまだあるのだが、それをスピーダが許してくれるかわからない。

 

 

「でも… やるしかない!!」

 

「行きなさい!! アベンジを殺すのよ!!」

 

 

 スピーダの命令で一斉に飛びかかってきたウィンプジェスターであったが、1人、また1人と何者かによって撃ち抜かれ、その場から消滅してしまった。

 

 

「だ、誰なの!!?」

 

 

 アベンジは後ろを振り向くと、そこにいたのはエースガモスボウを構えた仮面ライダーエースであった。助かったと言っていいのか、それとも第二波が来たと言うべきなのか。

 そんな心配をしていたが、エースはこちらに近づくと横へ並び立つ。なんの冗談かと思ったが、エースの変身者の陽奈の名を呼ぶ女性が遠くの方から手を振っている。

 

 

「あれは… 楓さん?」

 

「… 不本意だけどあの子からの頼み事よ。今日は手伝わせてあげる」

 

「どういうことですか…?」

 

「あの子から連絡をもらったのよ。稲森を助けてあげてってね。あんた正体バレてるわよ」

 

「まさかあの時ついて来て…… でも、ありがとうございます。こんな僕を助けに来てくれて」

 

「楓に言われたからよ。それに色んな人にバレたっていうのに呑気なものね?」

 

「いいんです。バレてもバレなくても仮面ライダーのやる事は変わりませんから」

 

「…… あっそ。お喋りはここまで行くわよ」

 

「はい!!」

 

 

 いざ、スピーダとウィンプジェスターを倒そうとしたその時である。背後から凄まじい勢いで上空より飛来したものが地面に降り立つ。

 2人は振り向くと、そこにはガタイがいい熊のジェスターが立っていた。

 

 

「手を貸すぞ… スピーダ…」

 

「あら〜! 『ウェイト』ちゃん来てくれたのね!」

 

「貴様だけに任せては置けない…」

 

「ふふふっ、恥ずかしがっちゃって…… じゃあぶっ殺すわよ」

 

 

 2人のライダーの元にリゲインの幹部が並び立つ。




以上です!!
今回は新たなキャラクターが登場!!

では次回、第7話「力にストロング」

次回もよろしくお願いします!!


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第7話「力にストロング」

皆さんご無沙汰しております。

前回、リゲインのスピーダと名乗る幹部が現れ、更にそこへ幹部のウェイトまで現れた。アベンジとエースは利害の一致故に共闘する事となる…

それではどうぞご覧ください。


 2人のライダー。アベンジとエースがようやく並び立ったわけであるが、果たしてこれは有利になるのであろうか。

 相手のジェスターもスピーダとウェイトの2人だけであり、人数的には五分五分のように見える。

 

 

「ちょっと! 前に立たないでよ!」

 

「でも僕、武器ないんですって…!!?」

 

「ちぃっ…!!」

 

 

 しかしその場で初めて共闘し、性格、戦闘方法もまるで違うような2人がまずうまくやれるはずがない。

 一方のスピーダとウェイトはライダー2人の攻撃を避けつつ、それぞれの特徴を活かしながら的確に攻めていく。

 スピーダの高速移動によって翻弄され、ウェイトの超怪力で力負けして手も足も出ない。おまけにタフさもあちらの方が強いときた。

 

 

「私が指示するから、あんたはそれに従って!!」

 

「わ、わかりました!!」

 

「なら、前に出てウェイトの方をなんとかして!! スピードなら私の方が上だから!!」

 

「了解です!!」

 

 

 アベンジは指示された通りにウェイトに向かいながら、ドライバーからフライフィードを取り出して、ダイブフィードを差し込む。

 そしてドライバーの口を閉じて、フォームをダイブウエポンへと姿を変え、両腕の針をウェイトに向かって放つ。あのスイムの特殊能力を無効化させた毒が内蔵されている。奴のタフさと言えど毒に侵されればどうする事もできないはずだ。

 

 

「毒針か……」

 

「これで少しは…!!?」

 

 

 その行為はどういうことなのか。

 なんとウェイトは毒針が向かってきているにも関わらず、両腕を広げて仁王立ちする。これでは確実に毒針が刺さってしまう。もちろん避けることもしない。彼の目はただ真っ直ぐに針を見つめているだけである。

 

 

「ふんっ!!」

 

 

 そして毒針はウェイトの腹を突き刺した… ように見えたが、針はカランと地面に落ちてしまい、彼の腹は全くと言っていいほど傷がついていなかった。

 ウェイトのタフさというものは、どうやら外殻にまで及んでいるらしい。その硬い鎧にはちょっとやそっとの攻撃ではビクともしないようだ。

 

 

「貫けない…!!」

 

「お前如きの攻撃など、俺の身体を突き抜けるどころかかすり傷にもならん…」

 

「かすり傷?… ならなくてもいいんですよ」

 

「ん…?」

 

「僕はあなたをどうにかするだけですから!!」

 

 

 するとアベンジはウェイトの身体に両腕から射出した鞭を巻きつける。

 ウェイトの力の前にはこの鞭は無意味なものとなってしまうだろう。両者その事は理解していた。だからこそこの巻きつけた瞬間だけ、ほんの僅かな時間だけ動かせれば良い。

 つまり反撃される前にスピーダとの距離を離す事が重要なのだ。

 

 

「羽畑さんお願いしますね!!」

 

「お願いされるまでもないわよ!!」

 

 

 アベンジは巻きつけたウェイトをグルグルと回して、遠心力を利用し、彼をスピーダから遠ざける。

 一方のエースはその間にスピーダの動きを把握し、且つ隙を見つつ攻撃を行う。

 

 

「どうしたの? 私のスピードの方が上かしら?」

 

「何言ってるのよ。あなたの為に遅くしてあげてるの」

 

「… あなた自分の状況わかってる?」

 

 

 凄まじい速度での攻防戦の中、明らかにエースの方がスピーダよりも速く、それでいて全く隙というものを見せていない。

 これは他から見ても明らかであるのだが、スピーダはそれを否定する。

 

 

「エース。スピード勝負というのは、どちらかが相手の懐に入れば勝ちなのよ」

 

「全くその通りだわ。だけど私はあなたの懐に入り込んでいるし、あなたは私に攻撃すらまともにしていないじゃないの」

 

「そうよ。私はしていないのよ? させてあげてはいたけどね、お馬鹿さん」

 

「…っ!」

 

 

 その時、スピーダの脚が4本になった。さながらケンタウロスのようになった脚は今まで以上に速くなり、エースのダッシュウェポンですら追い付かないほどになっている。

 スピーダの背後に回り込んだエースはそのまま蹴りを入れようと足を上げたが、彼は後ろ足を持ち上げて思いっきりエースを蹴り飛ばす。

 

 

「うっ…!!」

 

 

 馬の後ろに立たなとはこの事か。

 この威力は馬のそれとは比にならない。スピーダは馬のジェスターであるだけで馬ではない。怪人である。

 アベンジはその光景を目にし、援護に向かおうと考えたが、彼の目の前にはウェイトが立ち塞がった。

 

 

「行かせると思うか?」

 

「羽畑さん…!!」

 

 

 そんなエースは痛みを堪えながら立ち上がり、エースガモスボウを構えてスピーダに向き直る。

 だが、体勢を立て直した時にはスピーダの姿はなかった。既に何処かへと移動している。これがスピーダの本気、本来の動きなのだろう。

 

 

「最初から… 完全に私は追いついていなかったわけか…」

 

「そりゃもう当たり前よ。あなたのような虎の威を借る狐ちゃんがまさか私に勝っていたーなんて思ってたのがお笑いよ」

 

「黙りなさい…!!」

 

 

 スピーダの動きは見えない。エース自身全くその動きの先がどこに行くのかさえわかっていない。

 そして立場は逆転し、エースはスピーダからの猛攻に手も足も出せずにただやられるばかりだ。

 

 

「否定はしないの? それもそうよね? 聞いたわよ〜あなた、幹部の2人に連続して負けているそうね。初代エースは私たちにとって脅威だったわ… だけどあなたの代に変わったお陰で、私たちは攻めることができたの。ずっとこの時を待ってね? 随分調子に乗って好き勝手暴れていたみたいだけど、あなたもここで終わりよ。あなたは弱い」

 

「私は… 違うっ!! あんた達をこの手で倒す!!」

 

「今までビクビクしていたのがバカみたい。それじゃあ… 死んでいった仲間の仇でも打つとしようかしら。初代も残念ね〜… こんな女が継承者だなんて。これがエースだなんて名前貰ってるんだから… 全く、あなたはこの世界に居てもいなくても一緒なのよ──」

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」

 

 

 この叫び声はエースによるものではない。

 その声はアベンジが発したのだ。いつもの彼とは思えない程の声の張りや気迫、まるで別のものと言ってもいい。

 

 

「あなたに何がわかるって言うんですか!!? 陽奈さんは今まで一生懸命頑張って世界を救ってきたんです!! いるいらないじゃない!! 陽奈さんはこの世界になくてはいけない人なんです!!」

 

「あなたもジェスターならわかるはずよ。この世界でジェスターは… 同胞は何人死んでいったと思う? 指なんかじゃ数え切れないほどよ? 人は私たちを拒み、そして蔑んだ。これでも救う価値はあると言うの?」

 

「そもそもの発端は僕たちジェスターでしょう!!」

 

「…!!」

 

「争いは争いしか生まない。だけどやらなきゃ止まらない。こんなのおかしいじゃないですか!!? なんで皆、手を取り合おうとしないんですか…? そもそもが間違っているんだ!!」

 

「確かに私たちは負けて降伏したわ!! だけどこんな仕打ちをされてあなたは耐えられるの? いくら善良なジェスターだろうと否定されるのよ!!? あなたが1番よくわかっているでしょう!!?」

 

「わからない!! だって人間も怪人も命がある事に変わりない!! だからその命を救う事が僕はライダーとしての務めだと思っている!! 分け隔てなく、全部を守る!!」

 

 

 この言葉にエースは父の遺言書を思い出した。

「人も怪人も命ある事に変わりはない。お前が変えてくれ。お前が決めてくれ。この世界を本当の意味での平和を…頼んだぞ」

 エースは立ち上がり、エースドライバーのダッシュフィードを抜いて、別のアビリティズフィードを差し込んだ。

 

 

「… なら、変えてやるわよ。そして決めたわ。まずあんた達はこの私がぶっ潰してあげるから…!!!」

 

 

 ドライバーに装着されたのは新たなアビリティズフィード「パワードフィード」である。まだ班目が調整をほぼ行っていない時に無理やり持って来たものだ。

 

 

《パワード!!》《Open!!》

「来なさい怪人!! もう負けないから!!」

 

 

 そしてエースドライバーの側面を押し込むと、象が出現し、スピーダとウェイトを蹴散らし、象が徐々に装甲へと変化していく。

 その姿はまさに要塞と言っていいほどガッチリとしており、彼女の細身の身体を完全に隠してしまっている。

 

 

《Let's try パワードエース!!》

「…… 再びこの世から消えなさい。ジェスター!!!」

 

 

 そういうと重りが付いたかのようにゆっくりと重厚感のある歩き方で進んでいく。

 見ての通りスピードは失われてしまっている為、スピーダは油断した。速攻で近づき後ろ蹴りをくらわせた所まではよかったのだが、その攻撃がまずかったのだ。

 

 

「あ、あらぁ!!? 全然ビクともしない…!!?」

 

「仮面ライダー舐めるんじゃないわよ… このオカマ馬面!!!」

 

 

 なんとスピーダのその攻撃は全くの無意味に終わったのだ。

 エースは両足を掴み、凄まじい握力で持ち上げて回転し始める。その回転の勢いがついたまま、ウェイトに向かってスピーダを大砲のように投げつけた。

 

 

「ちょ、ウェイトちゃんどいて!!」

 

「こんなもの…」

 

 

 ウェイトが受け止める態勢に入ったが、その瞬間アベンジはジャンプウェポンに戻って、アベンジドライバーの口を閉じて必殺技を発動させる。

 守りと隙がガバガバになった脚を蹴り飛ばし、宙に浮かんだところでスピーダに向かって思いっきり蹴り飛ばした。

 

 

「ぐぬぅっ…!!」

 

「これで最後よッ!!」

 

 

 そしてエースはドライバーの側面をもう一度押し込み、2人に向かって両肩から象の牙を伸ばして突き刺すと、全身の装甲が開いてミサイルがずらりと並ぶ。

 

 

「これでぇ…… トドメだぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

「陽奈さん待って…!!」

 

 

 そのミサイルは2人のジェスターを包み込んで大爆発を引き起こした。

 アベンジは2人の死を目の当たりにしてしまい、エースに向かって何か言おうとしたのだが、何も言えずにただその爆発を見ていた。

 

 

「… 陽奈って呼ぶなって言わなかった?」

 

「す、すみません… 羽畑さん。あの2人は…」

 

「死んでないわよ」

 

「…え?」

 

「よく見なさい」

 

 

 ドサリと落ちて来た2人は流石にボロボロではあったが、生きているようだ。

 あの爆発の中でどうやって生き残れたのかと疑問に思っていると、陽奈が喋り始める。

 

 

「爆破させたのは周りよ。着弾させないようにミサイル同士を手前でぶつけてね」

 

「でもどうして…」

 

「さぁね。私もわからない…… ただ色々こいつらから聞けると思ったのよ。リゲインの事とかね」

 

「陽奈さん… ありがとうございます!!」

 

「なんで礼を言われなきゃいけないのかしら… それと呼ぶなって言わなかった?」

 

「す、すみません…」

 

 

 スピーダとウェイトの元へと近づくエース。

 しかし突如、ウィンプジェスターが現れ道を塞いでしまう。更にその奥にはバートンがおり、2人をきつそうに持ち上げて飛び立つ。

 

 

「バートン!!?」

 

「よう、アベンジ。悪いが話して暇ないんでね。じゃあな〜」

 

 

 バートンを追おうとしたエースであったが、急に身体の力が入らなくなる。

 先程の戦いでかなりのダメージを負っており、気づかずそのまま戦い過ぎたのが要因だ。

 エースに迫るウィンプジェスターに、そこへアベンジが蹴りを入れて凄まじい速さで殲滅してしまう。

 

 

「大丈夫ですか…?」

 

「… あなたはいつか絶対倒す」

 

「え…?」

 

「今日は早くどっかへ行きなさい。私の気が変わる前にね」

 

「また見逃してくれるんですね。ありがとうございます」

 

「消すわよ」

 

「は、はいぃ!!!」

 

 

 エースの仮面の下からでもわかる威圧にさっさと逃げてしまうアベンジ。

 不思議と今日はアベンジに対しての闘争心が起きなかった。確かにこのダメージで動けないというのもあるが、それとはまた別の感情である。

 そんな彼女の元へと楓が近づいて来るのがわかり、変身を解いて地面へと座る。

 

 

「お疲れ様〜。あのライダーさんを逃したのはわかるけど、どうしてあの2人を殺さなかったの?」

 

「… 聞き出そうと残したわ… だけど、わからないの。それ以外に変な思いが込み上げて来ちゃってね」

 

「稲森さんは確かにいい人だけど、あいつらは違うでしょ? なら倒さなきゃ!!」

 

「楓… わかってるわ。次は必ず倒すから」

 

 

 楓の表情は眉が釣り上がり、いかにも怒っているという感じではあるが、その心情は表情よりもかなり怒りで煮えくりかえっているのだろう。

 この何年と付き合ってきた陽奈だからこそ察する事ができる。彼女もまた稲森を認めたというだけで怪人に対しての憎悪は消えてはいない。

 

 

「必ず… この手で倒す」

 

 

 今は理解できない感情を胸に、陽奈は再びジェスターを倒す事を決意したのであった──。




以上です。
陽奈さん揺らいで来ているようですが、いつになることやら…

さて次回、第8話「疑いのミステリー」

次はイナゴの何かがわかる!!次回もよろしくお願いします!!


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第8話「疑いのミステリー」

皆さんご無沙汰しております。

前回、リゲインの幹部スピーダとウェイトを退けた仮面ライダーのお二人でしたが、陽奈の方は何かが揺らいだようで…

それではどうぞご覧ください。


 陽奈はとある研究室を訪れていた。

 目的は班目という男に新たなアビリティズフィードを制作してもらう為である。日に日に現れるリゲインの幹部に対抗するには、それ相応の武器というものは必要不可欠。

 しかし陽奈は班目という男をあまり好いてはいない。理由は簡単であり、あの性格とどうも合わないらしい。頭はいいが、常人とは思考が違うというのが大きい。

 

 

「班目。入るわよ」

 

 

 しかし、班目の姿はそこにはいない。

 いつも通りであるならば研究室内におり、滅多な事では外には出ない引きこもりなような男である。

 

 

「…… 全く面倒ね。ひとまず帰って少ししたらまた来ようかしら…?」

 

 

 ふと見た場所に見たことのないアビリティズフィードが置かれているのに陽奈は気がついた。

 今迄のものとは少し見た目が違うようではあるが、まだ試作段階なのだろう。色はグレーであり、如何にもこれ以上進められていないという感じである。

 

 

「また変な物作ってるし… まぁいいわ。帰ろ」

 

 

 陽奈はさっさと帰ってしまうと、彼女も知らないどこかにある監視カメラがしっかりと彼女を捉えていた───。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>

 

「── おやおや陽奈さんが私の研究所に訪れたようですね。申し訳ないですが、私は別件があるので」

 

「別件で何故、僕の自宅に来ているんですかね… 班目さん?」

 

 

 稲森の住むアパートに再びやって来たのはお分かりの通り、班目という怪しさ満載の男である。前と同じく押しかけて来たので渋々、嫌々入れてあげたのだ。

 そんなわけで稲森は残り少ない茶葉を入れた急須に入れて、湯呑みに注いで差し出す。

 

 

「いやはや君の活躍には流石の一言に尽きますよ。リゲインの幹部相手にあそこまでやれるとは… やはり君自身やアベンジドライバーは素晴らしい能力を秘めているようです」

 

「はぁ…?」

 

「… さて、今日私が訪れた理由ですが、少しあなたとお話をしたく思いまして」

 

「話しですか? 日常という訳でもありませんよね?」

 

「もちろん。まぁ1人の研究者としてアベンジドライバーはかつてないほどの性能に興味を抱くのは仕方のない事。いやぁ、ジェスターも本気を出せばこれくらいの事はやって見せるんですね… 関心関心」

 

「えっと… それから?」

 

「稲森さん。君のアベンジドライバーを私に預けてはくれませんか?」

 

「えっ…!?」

 

「ただでとは言いませんよ。それ相応の物はお渡しする事を約束します」

 

 

 班目の突然の言葉に驚いた稲森は、アベンジドライバーを懐から少しでも出さないように服の上からガッチリと掴む。

 この男が何を考えているのかもわからなければ、そもそも知り合って1日そこらで気を許せる仲になるわけがない。

 それに渡した所でこちらのメリットはそれ相応の何か。あまりにもデメリットが過ぎるのではないだろうかと稲森は考えた。

 

 

「こ、これだけは渡せませんよ」

 

「… ま、そうですよね。だと思いました」

 

「なら──」

 

「── 君が何故アベンジドライバーを使用できるのか… 知りたくはありませんか?」

 

「……どういうことですか?」

 

「アベンジドライバーのエネルギーは通常のジェスターであるならばまず耐えられない。ましてや稲森さんのように戦闘を好まない平和なジェスターが何のリスクもなしに使えたのか。不思議じゃありませんか?」

 

「確かに思いますけど、あなたは一体…」

 

「その答えが知りたいのであれば、とある倉庫に行ってみて下さい。もちろんアベンジドライバーも持ってですよ?」

 

「とある倉庫… あっ」

 

「この場所です。では──」

 

 

 それから班目は帰る際に、稲森にとある倉庫への道が書かれた紙を渡される。

 これについて詳しく聞こうとと思ったが、行けばわかると言って班目はそそくさと帰ってしまった。

 彼が一体何を考えているのかは定かではないが、とにかくこの場所に行けばわかる。稲森はすぐに支度を済ませアパートを後にする───。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>

 

 とある倉庫へ向かった稲森はこの場所が初めてアベンジドライバーを手にした場所だという事に気がついた。

 ここでフードの男からドライバーを渡された事で全てが始まった。仮面ライダーとしての道が開けた場所だ。

 

 

「ここから全てが始まったんだっけ……っ」

 

 

 稲森は背後に気配を感じて振り返ると、なんとなく予想はついていたが例のフードの男が姿を現した。

 

 

「… 何故、あなたがここに?」

 

「久しぶりですね。どうです? アベンジドライバーの調子は?」

 

「アベンジとしては良いですけど、僕の質問にも答えて下さい」

 

「いいでしょう。私がここにいるのはとある事情で来たからです」

 

「え?」

 

「君が何故、アベンジに変身する事ができたのかをね」

 

 

 本来であるなら班目から聞く予定であったその理由。

 この場所も班目に言われて来た場所だったが、何故かフードの男が出てくるとなんとなくだが予想はついていた。

 懐かしい場所であると同時に、あの2人には近いものを感じていたのかもしれない。

 

 

「それも聞きたいですけど、あなたと班目さんの関係は?」

 

「それに関しては後々ご紹介しましょう。今は1番知りたい事を聞くべきだと思いますよ」

 

「…… では、お願いします」

 

「… ジェスター首領が動き出す前の話し。首領にはまずやらなければならない事があり、怪人の中の怪人による噛みつき。反逆。それを指揮する怪人を消さなければいけなかった」

 

「指揮する怪人? 確か聞いたことありますね。僕が産まれる前の話ですよね? それって…」

 

「しかし首領はその怪人を倒す為にあらゆる事をしたそうですが、その怪人はあまりに強く、首領と言えども無事では済まない程のダメージを与えらたそうです。そんな同種類の怪人が数十人といるんです。ファングすら敵わない。そんな怪人たちが首領に牙を向けば… 後はわかりますよね?」

 

「そ、そんな怪人がいたら今の首領は何ですか!? ファングですら敵わないってなると…」

 

「そもそも首領に噛みつくその怪人たちは、首領の意に反した者たち。つまり首領の支配という自分勝手な考えに背いた者。君のような平和を愛する戦闘民族だったんですよ。あらゆる怪人の中でも史上最強のね」

 

「そんな種族がいただなんて… でもこの話を聞く限りだとその怪人たちはもう… 何故ですか? そんな最強の種族が何故()()を?」

 

「これを知る者は今じゃ私くらいしかいませんよ… では、そんな最強の種族の最後はたった1人の人質の為の全滅だったなんて」

 

「人質…!?」

 

「その人質はまだ赤ん坊だった。一族はその子を救う為に条件を呑んでしまった。その条件は── 一族全てが首領の下に敷かれる事。もちろん従わなければならないのだからその命も… という風に呆気なく全員その命を奪われた訳です」

 

「… その赤ちゃんはそれからどうなったんですか?」

 

()()()()()()()()と思いますよ」

 

「目の前…… って、僕ですかッ!!!??」

 

「そうです」

 

「ぼ、僕がその生き残り!!? 最強の種族の… こんな僕が…… じゃあそれって……」

 

 

 稲森は当然この事実に驚いたが、それ以上に胸が苦しくなる事があった。一族の全滅。それはつまり両親も何もかも失ってしまったという事である。

 

── 幼少期の稲森、基イナゴは優しい怪人夫婦の元で育てられる。どんな時でも笑顔のイナゴはそれはそれは可愛がられ、すくすくと成長していった。

 モグロウという友人ができ、平和ボケを繰り返す毎日であったイナゴであったが、それは突然起きてしまう。

 夫婦はこの世に駆り出され、戦いを強いられる事となった。その後、彼らがイナゴの元に帰ってくる事はない。

 何もかも失ったイナゴを待っていたのは、人間による怪人の拘束だった。つまり今の条約の事。当然それは首領が負けてしまったという事。

 怪人にはこの頃から既に自由などなくなっていた。ひと時の平和とはまさにこの事だったのである。

 

 

「稲森さん。アベンジになれたと言うことに関しては、元々あのアベンジドライバーはファングさんの為に作られた代物です。そのパワーも性能も桁違いだ。一応私が無断で反逆者たちを集めてテストをしましたが… やはりダメだったようです」

 

「… 待ってください。テストってどういうことですか?」

 

「おっと誤解をしないでください。あくまでファングさんの為に作ったものですけど、使える者が現れたのなら最初から譲るつもりでした。それが偶々君だけだったんですよ。まぁ君の姿を見て絶対に使えると私は判断しましたがね。あの一族の最後の1人の君であるなら」

 

「つまりあなたの目的は何ですか? 素直にファングに渡していればよかっんじゃないんですか?」

 

「まぁまぁ落ち着いてください。私はどちらかと言えば中立の存在です。敵でもなければ味方でもない。私はただ見守るだけです。この世界がどちらに転ぶのかをね」

 

「…… わかりました。ありがとうございます。でも…」

 

「ん?」

 

「ますますあなたが怪しく感じられましたよ」

 

「それはそれは… では、私はこの辺でー…… あーそうです。例のアビリティズフィードが完成しそうなのでまた今度お渡ししますよ」

 

「例の?」

 

「陸海空の力ですよ。では───」

 

 

 フードの男がその場からいなくなった瞬間、周りにウィンプジェスターの群れが現れた。

 これのお陰で稲森の信用ゲージが更に下がった。だが、今はそんな事を考えている余裕はない。

 

 

「全く… 最後まで訳のわからない人ですよ!!」

《START!! アベンジ!!》

 

 

 アベンジドライバーにジャンプフィードを差し込んで、アベンジへと変身した稲森はウィンプジェスターに向かって走り出す──。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>

 

 その頃、誰も知らないとある場所ではリゲインの幹部たちが集められていた。

 真ん中にある大きな丸い机を囲うような形で座り、その1つが空席となっている。

 

 

「またファングが来てないの? 頭が呼んだのにその頭が来なきゃ意味ないだろ…」

 

「黙れバートン。頭であるからこそ多忙。こうして集まり情報を交換し、後に伝えればいいこと」

 

「さすがスイムちゃんね!! 惚れちゃうわ!! だけど私は早くあの小娘をギッチョンギッチョンのメチョメチョにしてあげたくてしょうがないの!!… 絶対許さないんだから!!」

 

「俺もエースには仮はあるが…… それ以上にアベンジにも仮がある… あの裏切り者… 只者ではない…」

 

 

 バートン・スイム・スピーダ・ウェイトの幹部たちが情報を交換し合っていると、そこへズシリと重い足音が聞こえる。

 その音を聞いた4人は先ほどまでの騒ぎをやめてスッと静かになった。

 

 

「あら? やっと来たのねファングちゃん!!」

 

 

 最後の空席に座ったのは、他4人とは比べ物にならないほどの圧を放っているライオンのジェスター。このリゲインと反逆者たちのリーダー… ファングである。

 

 

「… 今日、ここへと集めさせたのは例の実験の成功を報告する為だ」

 

「例の実験って… まさか本当にできたのか!?」

 

「仲間には命を、裏切り者には死を… これで仮面ライダー共と人間を皆殺しにする」

 

 

 ファングが指を鳴らすと、その後ろから例のフードの男が姿を現した。

 フードの男は実験の成果を持っていたパッドに映して、リゲイン全員に見せる。

 

 

「… わかっているな? 貴様のやった事は裏切り行為に等しい事を… 今回の実験の結果次第では──」

 

「わかっていますよファングさん。アベンジやエースに対抗できる手段がこれです。敗北するのは非常に考えにくい」

 

「その言葉が現実となるようにする事だ」

 

「もちろんです。幹部たちの細胞を組み込んだこの── 『キメイラ』であるなら必ず」

 

 

 そのパッドに映っていたのは、バートン・スイム・スピーダ・ウェイトの4人が融合したような恐ろしい見た目をした何かであった───。




今日お話しがあり過ぎて戦闘描写がなさ過ぎる(戒め)
次はあるからお兄さん許して…

次回、第9話「四位一体はキメラ」

次回もよろしくお願いします!!


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第9話「四位一体はキメラ」

皆さんご無沙汰しております。お待たせしました!

前回、戦闘描写が毛ほどもありませんでしたが、稲森の過去やアベンジドライバーの秘密が明かされ今に至ります。それを聞いた稲森は…

それではどうぞご覧ください。


「これで最後だッ!!」

 

「……!!」

 

 

 アベンジドライバーの口を閉じ、天高く飛び上がったアベンジは、脚全体にグッと力を入れてウィンプジェスターたちに必殺の蹴りを放つ。

 大量にいたウィンプジェスターであったが、これにより一瞬にして消し炭と化してしまった。

 稲森は変身を解除すると、ふとフードの男に言われた過去について思い出す。

 

 

「はぁ…… いきなり生き残りだなんて言われても… 僕は何もわからないよ」

 

 

 最強の種族であり、平和主義の反逆者。そしてその一族の最後の1人が自分であると聞かされ、唐突な事であったので悲しむどころか困惑した。

 両親や親戚すらいないのはおかしいと思っていた。きっと死んでしまったのだろう。そう思って必要以上に稲森を育ててくれた親に聞く事はしなかった。

 

 

「… いや、みんながやっていたように僕も抗わなきゃ。今はいい。先を見よう」

 

 

 今は考えるだけ無駄である。

 そう考えた稲森は自分に出来ることをやる為、倉庫を後にしようとすると、突然地面が盛り上がり、そこから頭だけひょっこり出したモグロウが現れる。

 あまりに驚いた稲森は思わず尻餅をついてしまい、その絶妙な痛さに苦しんだ。

 

 

「いてて… な、何だよってモグロウ!!?」

 

「あ、悪い。お前を追って来たらここについてよ。なんかあったのか?」

 

「いや…」

 

「何だよ。親友の俺にも話せないほどの事か?」

 

「そうじゃないんだ。ただ…… そうだね、ごめん。実は──」

 

 

 稲森は親友であるモグロウに全てを話した。当然驚かれたが、すぐにモグロウは笑ってみせる。

 それから稲森の肩に手を回して倉庫から外へと出す。辺りはすっかり暗くなっていたようだ。ウィンプジェスターと戦っていたから全く気がつかなかった。

 

 

「とりあえずお前には何もなくて良かったぜ。さ、かなり暗くなっちまった。さっさと帰ろう」

 

「お前には…?」

 

「… 気にすんな。とにかくまた変なのが現れたら面倒だからよ。班目やフードの男… それからファング。お前もかなり危険な所まで足踏み入れてるな」

 

「最初からそのつもりだったよ… まぁ怖いけど、誰かの為に戦えるって凄く気持ちがいいなって思うようになったんだ」

 

「ほんと変わったな…… 親友としちゃ嬉しい話だがよ」

 

 

 2人は笑いながら家路につく。

 その笑顔の後ろにフードを被った男が不敵な笑みを浮かべ、2人の背後からスッと闇へと消えていった。

 

 

「期待してますよ。稲森さん──」

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>

 

 次の日、稲森はいつもと変わらない栄須市の街中を歩いていると、ある女性と鉢合わせすることになる。

 ここで1番会いたくない人物ではあるが、口に出して言う訳がない。視線を感じる。とても嫌な視線というか殺意というか。

 

 

「奇遇ね」

 

「ど、どうも羽畑さん… おはようございます」

 

 

 陽奈とは未だに誤解、というよりも稲森を理解してくれない。無理もないのかもしれないが、そろそろ心を開いてくれても罰は当たらないと思う。

「それでは…」と陽奈の横を通ろうとするが、右手を伸ばされ止められる。わかってはいた。絶対に戦う事になる。

 

 

「羽畑さん。流石にここでは…」

 

「する訳ないでしょ。人気のない所に行くわ」

 

「でも僕、あなたとはそういう関係になりたくないので…」

 

「もうそういう関係よ。今日こそ終わらせるわよ」

 

 

 そこに居合わせた楓は何故か頬を赤らめ周りを気にしている。

 陽奈はどういう事か分からず、楓に聞いてみると、全くもって訳の分からない勘違いをしていた。

 その話を聞いた陽奈も少々赤くなっているようだ。

 

 

「え? どうしました?」

 

「なんでもないわよ!! もう頭に来た!! 今すぐここで消してやる……っ!!」

 

 

 物凄い形相でエースドライバーを取り出したその時、近くから爆発音が聞こえ、それと同時に瓦礫が3人に降り注ぐ。

 稲森は咄嗟に脚に力を込めて、瓦礫を蹴り飛ばした。たった一瞬ではあったものの、今まで以上の脚力で蹴り込めていたように感じる。これも最強のジェスターの生き残りとしての力が覚醒しつつあるのだろうか?

 だが、今はそんな事はどうでもいい話だろう。

 

 

「… 感謝しないから」

 

「そう言ってくれるだけで十分ですよ! 今はあそこにいる… な、なんだあれ!?」

 

 

 砂煙の中から現れたそれはジェスターである事は間違いない。ウィンプジェスターのような不気味さも持ち合わせている。何処かで会ったことがあるやつな不思議な感覚がある。

 それはまるでリゲインのバートン・スイム・スピーダ・ウェイトがその場に居合わせているような感じだ。

 

 

「なんだろう… リゲインの4人の幹部と似ている気がする…」

 

「似てる? あの気持ち悪い見た目のやつが?」

 

 

 頭はスイム。背中はバートン。脚はスピーダ。全身の筋肉はウェイトであろうか。確信はないが、所々が似ているような気がする。

 とにかくこの異様なジェスターを倒す以外の理由はない。人に危害を加えるのなら尚更である。

 

 

「気をつけて行きましょう。羽畑さん」

 

「私に指図しないでくれる」

 

「ただの励ましですよ!」

 

「… ふんっ」

 

 

 2人は同時にドライバーを巻いてそれぞれジャンプフィード、ダッシュフィードを差し込んでからキメラだと思われるジェスターに向かって走り出す。

 

 

「「変身ッ!!!」」

 

 

 仮面ライダーアベンジ、エースへと変身した彼らはキメラへと走り出す。

 まずエースはエースガモスボウによる先制攻撃を行い、それに続いてアベンジがキメラに凄まじい脚力で蹴りを放った。

 

 

「いっ…!!」

 

 

 アベンジの脚に痛みと衝撃が響く。

 一方の蹴られたキメラは全く効いていない様で、そもそもピクリともその場から動かない。この硬さは以前にも感じた事がある。まるでウェイトの様な筋肉の硬さだ。やはりそうなのか。

 そしてキメラはアベンジを掴み、エースに向かって投げ飛ばした。2人は互いに吹き飛ばされるが、素早く体勢を立て直して構える。

 

 

「私まで巻き添え喰らっちゃったじゃない!!」

 

「わ、わざとじゃないですよ!!… でもこれって一体…」

 

 

 しかしキメラは追撃はして来ない。急に動きを止めてしまったのだ。

 すると、その後ろからフードの男が姿を現した。どうやらこの化け物を作り出した犯人が見えてきた。

 

 

「あなたは…!!」

 

「どうもアベンジさんにエースさん。お久しぶりです」

 

「… この生命体を作り出したのはあなたなんでしょう?」

 

「よくわかりましたね! そうです。この『キメイラ』を作り出したのは私です」

 

「キメイラ… 見た所、幹部たちの特徴を引き継いでいるように見えるんですが…」

 

「えぇ、このキメイラは幹部たちの細胞を繋ぎ合わせて作られたキメラ。即ちキメイラです」

 

「… そろそろあなたが何者か話してもいいんじゃないですか? こんな化け物まで作り出してしまう。あなたは一体なんですか」

 

「んー… そうですね。いいでしょう。わたしの名は『マダラメ』。リゲインでは研究員として務めさせてもらっています」

 

「マダラメ…!」

 

 

 マダラメという名前に仮面ライダーの2人は驚く。

 ただ班目とマダラメという名が同じだけであっただけで、何がどうなるというわけではない。同じ名前なんて何人といる。

 

 

「ある男と同じ名前で驚きました? それついてはこのキメイラを倒したら教えてあげますよ」

 

「ま、待ってくだ…っ!!」

 

 

 マダラメが背を向けた瞬間、キメイラがアベンジの目の前に現れた。あの距離を一気に詰めてきた。これはスピーダの力だろう。

 目にも止まらぬスピードを活かし、アベンジは腹部を殴られくの字に曲がる。

 

 

「ガハッ…!!」

 

「何やってるのよ!!」

 

 

 その隙にエースがキメイラの背後に回り込んで蹴りを浴びせようとするが、キメイラの姿がそこからいなくなっていた。

 なんとあの一瞬で既にエースの背後へと回り込み、筋肉を膨張させて殴りかかろうとしていたのだ。

 

 

「しまった…!!」

 

 

 エースに迫りくる拳。避けようにも間に合わない。

 だが、アベンジはなんとか腕を伸ばしてエースの足を掴んで投げ飛ばす。まさに紙一重といったところだ。

 それからアベンジはドライバーからジャンプフィードを取り出し、フライフィードを差し込み、フライウェポンへと姿を変える。

 

 

《START!! フライアベンジ!》

「なんて厄介なんだ… でも!!」

 

 

 フライウェポンにより上空へ舞い上がると、そこでフライフィードをダイブフィードと取り替えて仮面ライダーアベンジ ダイブウェポンへと姿を変えた。

 上空から毒針を発射して牽制してみようという作戦であったが、いざ毒針を発射するとその考えはすぐに吹き飛んだ。

 毒針は当たるどころかキメイラの身体を貫通している。スイムの液状化能力だ。

 

 

「そんな!!?」

 

 

 気づいた時にはキメイラがアベンジの背後にいた。翼を羽ばたかせて飛んでいる。

 全ての幹部たちの力を取り込んでいるキメイラ。その力はただ単純に奪っただけではなく、完全に我がものとしている。それぞれの能力の扱いが非常にうまい。

 

 

「これじゃ勝てない…!!」

 

 

 アベンジは胸の前で腕をクロスさせてキメイラの攻撃に備えるが、そんなものはただの飾りと言わんばかしの一撃を叩き込まれた。

 単純な拳での殴りによるものだが、その勢いと凄まじさは異常だ。

 

 

「うわぁぁぁぁッッッ!!!!」

 

 

 上空から地面へと叩きつけられ、周りには大きなヒビが入る。

 稲森はそれと共に変身が解けてしまい、全身に力を入れることさえできない。

 

 

「く、くそっ……!! この状況はまずい…!!」

 

 

 キメイラは本能的にトドメを指そうと、稲森に向かって降下してきた。

 このままでは本当に殺されてしまう。再びアベンジに変身しようにもドライバーにアビリティズフィードを差し込む力さえない。

 

 

「うぅ…!!」

 

 

 間に合わないと思われた。

 しかし横から重い足音が地面を伝って聞こえ、気づいた時にはキメイラの顔がメキリと音を立てて潰れている。

 これはエースのパワードウェポンの渾身の殴りによるものだ。彼女はこれを狙っていたらしく、雄叫びと共に殴り抜けた。

 

 

「ギリギリだったわね」

 

「ど、どうして僕を…」

 

「… 借りを作らせておいて私が何もしないって言うのが気に入らなかっただけよ。勘違いしないでくれる?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「あんたはもう使えないからどっか行きなさい。ここは私1人で十分よ」

 

「でも…」

 

「仮面ライダーは怪人を倒すの。あんたも含めてね… だけど怪人みたいで怪人じゃない訳わかんない奴はもうどっちだっていいわ。あんたはそれよ。訳わかんないからさっさとどっか行ってくれる!? 邪魔よ!!」

 

「羽畑さん…… わかりました。だけど僕、動かなくて…」

 

 

 するとそこへエンジンの音が聞こえたかと思うと、何者かが稲森の腕を掴んで何か乗せる。

 一瞬の出来事で何が起こったのかわからない。ただ乗っているものはバイクであり、それを運転しているのは稲森がよく知る人物であった。

 

 

「モグロウ!? で、これはどういう…」

 

「全く世話が焼けるやろうだぜ。俺もよくわからないけど、このバイクが突然俺のところへ来てよ? 試しに乗ってみたらお前の所まで来たって訳だ」

 

「…… 誰か察しついたかも」

 

「え、マジか?」

 

「多分このまま乗っていればいいと思う。行き先はなんとなくわかるんだ」

 

 

 稲森とモグロウを乗せたバイクは何処かへと向かって行った。

 その場に残ったエースは深呼吸をし、目の前にいるキメイラを睨みつける。あんな事を言っては見たものの勝ち筋が見つからない。無謀な戦いになるかもしれない。

 だが、彼女は怖いというわけではない。寧ろ勝つつもりで残ったのだ。

 

 

「── さ、行くわよ。仮面ライダーエースに誓って、あんたを絶対消してやるから」

 

 

 エースは拳を握りしめ、キメイラへと飛びかかった──。




キメイラとかいうてんこ盛り。だから次回も同じく…

次回、第10話「陸海空はトリニティ」

次回もよろしくお願いします!!
遅くなってしまい申し訳ありません!!


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第10話「陸海空はトリニティ」

皆さんご無沙汰しております。

前回、幹部の力を有しているキメイラという化け物に対しまったく有効打がない状況。そんな中、陽奈が1人残り、稲森はモグロウの乗ってきたバイクに連れられ何処かへと向かうのであった…

それではどうぞご覧ください。


 このバイクは一体何処へと連れて行こうというのだろう。

 稲森は何処へ行くのか察しがついているとは言っていたが、モグロウにはそれがわからなかった。とにかく乗ってきてみればアベンジとエースはごちゃ混ぜになった化け物に負けているし、突然の事で今でも少し混乱している。

 

 

「なぁ、イナゴよ。お前はわかるって言ってたけど適当に言ってるんじゃないよな? もしかしたら敵の罠って可能性もあるぜ?」

 

「… かもしれないね。だけど罠は罠でもなんだか違う気がするんだ」

 

「違う? 何が違うってんだよ」

 

「それはきっとこのバイクが知ってるよ」

 

 

 稲森はニカッと笑って見せたが、この笑顔の安心感と来たら。

 それにしてもこのバイクはアベンジと似ている気がする。所々のパーツや色等比例してる部分が多い。

 モグロウ自身も察しがついてきた。酷似している点と不自然なバイクの挙動。誰が作ったのか、誰が導いているのか。

 

 

「おっとと… 着いたっぽい」

 

「なんだぁ? 着いたって何にもない森の中じゃねーかよ!!」

 

 

 2人が行き着いた場所はなんの変哲もない森の中。山を登ればありそうな草木が覆い茂っているだけの森である。

 バイクから降りた2人は辺りを見渡す。森の奥は暗闇に包まれ、まるで何も見えない。

 暫くその場を動ずにいると突然、風が吹き抜ける。

 

 

「── やっと来ましたか。待ちくたびれましたよ」

 

「マダラメさん…!?」

 

「そう警戒しないでくださいよ。あれは上の命令で仕方がなくやってしまった事なんです。これでも一応敵同士という関係ですので大目に見てください」

 

 

 マダラメの言う通り稲森たちは敵同士。ただあれは仕方がなかったでは済まされる事ではないが、助けて貰っていると言うのも事実である為、複雑な気持ちである。

 しかし彼が何故、敵であるマダラメが助けてくれているのかわからない。

 

 

「今回僕をここに呼び出したのは…」

 

「そうお分かりの通り、前に稲森さんが言っていた物が完成したので渡そうと思いまして」

 

「前に言っていた物?」

 

「それにしてもどうですか? アベンジ専用バイクの『マシンアベンジャー』。気に入って頂きました?」

 

「あ、確かにかっこいいですね。専用バイクなんて嬉しいです!」

 

「イナゴッ!! 話しがズラされてるぞ!!」

 

 

 モグロウの一言でハッとなり、軽く咳払いをした稲森はマダラメに向き直る。

 するとマダラメは懐から何かを取り出すと、それを稲森に手渡した。それはアビリティズフィードのようだが、少し形が違うようであり、表面の絵柄はジャンプ・フライ・ダイブが合わさったなんとも不自然な絵になっている。

 

 

「これはなんですか?」

 

「前に言いませんでした? 陸海空全ての力が合わさったアビリティズフィードを作ってくれと… 『トリニティフィード』です。これならばキメイラに勝てるかも知れませんね」

 

「そんな感じの事を確か言ってましたね… ありがとうございます。でもなんで僕なんかに」

 

「…… 言ったでしょう? キメイラを倒したら教えてあげますと。答えというのはすぐに求めてはいけません。そこまでに行く過程が大切なんです。それではいい報告待ってますよ──」

 

 

 そういうとマダラメは闇の中へと消えて行った。

 トリニティフィードを受け取った稲森は、それをポケットに仕舞い込むとマシンアベンジャーへと戻る。

 

 

「さ、行こうモグロウ!!」

 

「あいつバイク作って、アビリティズフィード作って、こっちが有利になる事しかしてねーし… 怪し過ぎるだろ」

 

「とにかくキメイラに勝てば全部わかるはず! 今はこのトリニティフィードでなんとかしてみよう!」

 

「まぁ確かにそうだ。やってやろうぜイナゴ!!」

 

「うん! 逆襲だ!」

 

 

 そして2人はバイクに跨り、キメイラのいる場所へと向かう──。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>

 

 キメイラの力は異常である。エース自身もそれを理解していた。

 パワードウェポンの能力を解放することにより約2倍の力を得ることができる。2倍もだ。ウェイトでさえこれには勝てなかった。

 しかしどうだろうか。目の前にいる合成獣はその力と同等である。

 

 

「この化け物ォォォォ…!!!」

 

 

 エースは必死に押さえ込もうと、力一杯に地面へと叩きつけ、馬乗りになって殴りかかる。

 それも無駄な攻撃だとわかる。やっても意味がない。何故なら、先ほども同じような戦い方をしていたからだ。

 

 

「…っ!! こいつ…!!」

 

 

 そしてキメイラはエースの両腕を掴み、そのまま上空へと飛んで見せた。

 高く飛び上がったキメイラは彼女を掴んだまま地面へと降下する。このまま地面に叩きつけてしまおうというのだろう。

 

 

「パワードならこの高さは…いやダメ! ダメージは入る!」

 

 

 エースはキメイラを引き剥がそうと何度も顔面殴りつけるが、表情すらわからないそれは降下のスピードを落とすことはない。

 このまま無駄な事ばかりでダメージすらまともに通らないのだろうか。

 ただエースも何もせずに倒れるなどしたくはない。彼女は彼女なりの覚悟を決める。

 

 

「この近距離… 私も相当堪えるだろうけど、あんたに1発だけでも有効打与えられるならやってやるわよッ!!!」

 

 

 それからエースはキメイラを離さないように掴みながら、エースドライバーの側面を押し込む。

 全身のアーマーが展開され、そこからミサイルが現れる。この近距離で放てばただでは済まないだろう。

 

 

「── 消えなさい!!」

 

 

 ミサイルが放たれ、光が見えると共に2人の身体は光に包まれ爆発する。

 空中から落下する2つの影。

 エースは地面に落下すると同時に変身が解除される。一方のキメイラはピクリとも動こうとしない。

 

 

「ザマァ見なさい… この化け物…」

 

 

 動かないキメイラにエースは勝ちを確信していた。

 自らの捨て身の攻撃は効いている。流石のキメイラでもこれには堪えたはずだ。例え生きていたとしても立ち上がる事なんてできやしない。

 

 

「… だから」

 

 

 キメイラはゆっくりと立ち上がる。何の前振りもなく平然と。

 

 

「立ち上がるなって…!!」

 

 

 その化け物は立ち上がってしまった。陽奈の攻撃は最悪な結果を引き出してしまったようだ。

 攻撃を加えた本人が1番ダメージをくらい、加えられた方はこうも平然と立たれては絶望しかない。

 

 

「なんでよ!! もうっ!!」

 

 

 陽奈は悔しさのあまり地面殴る。

 そして逆に立ち上がることのできない自分に苛立ち始めた。

 

 

「こんな所で…!!」

 

 

 キメイラは陽奈に向かって行く。

 もうダメかと思われたその時、後ろからエンジン音が聞こえて来た。音はだんだんと近づいていき、次の瞬間、陽奈の上を通過したバイクの前輪がキメイラを捉える。

 

 

「ハァッ!!」

 

 

 そのままバイクでキメイラを吹き飛ばし、稲森はバイクから降りる。どうやらギリギリな所で間に合ったようだ。

 陽奈も突然の事に目を丸くしているようだが、何を言われるか分からないのでモグロウの方にそちらは任せるとしよう。

 

 

「キメイラッ!! これ以上誰も傷つけさせないぞ!!… この新しい力でお前を倒す!!」

 

 

 稲森はアベンジドライバーを腰に巻くと、マダラメからもらったトリニティフィードを早速取り出して装着する。

 

 

《Welcome!! トリニティ!!》

「うっ… 凄い力だ。これが陸海空… 全ての力っ!! 変身ッ!!!」

 

 

 掛け声と共にアベンジドライバーの口を閉じると、イナゴ・ペリカン・エイが現れ、それぞれ稲森の全身に噛みつき、突き刺す。

 全身に激しい痛みが駆け巡る。ただでさえ単体でもかなりの痛みが走ったが、それが3匹、イナゴに至っては数匹もの群れが噛み付いてくるのだ。その苦痛は計り知れない。

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!! うぅッ…!!!」

 

「イナゴッ!!」

 

「だ、大丈夫…ッ!! こんな痛み!! 皆んなが喰らうなら僕が喰らってやる…!! 僕は仮面ライダーだ!!」

 

 

 稲森の身体にアーマーが形成されていく。

 ジャンプ・フライ・ダイブ。陸海空。全ての力がアーマーとなり、更なる力を呼び覚ます。

 

 

《Tasty!!》 《Complete, my counterattack starts here!!》

《START!! トリニティアベンジ!!》

 

「── 三位一体で逆襲だッ!!!」

 

 

 仮面ライダーアベンジはトリニティウェポンと姿を変えると、キメイラに向かって駆け出す。

 そしてアベンジとキメイラはガッチリと掴み合い、このまま押し切ってしまおうと思っていた。だが、不思議な事にトリニティは少しばかりかキメイラに押されている。

 

 

「あ、あれ!?」

 

 

 やはりそうだ。押されてしまっている。

 キメイラの力の方がトリニティより上という事だ。

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!? 普通ここは勝てる展開じゃないのぉ!!?」

 

 

 徐々に押されていくアベンジ。トリニティの力ですら敵わないというのだろうか。

 しかしアベンジ… 稲森という男はそこで諦める男ではない。脚にグッと力を入れキメイラを押し返す。

 

 

「負ぁけるかぁぁぁぁぁぁ…!!!!」

 

 

 すると次の瞬間アベンジは空にいた。先ほどいた地面はもうそこにはない。

 ジャンプウェポンの力である事は確かだが、明らかにそれ以上だ。

 

 

「トリニティ… 全ての力が合わさっただけじゃない。1つ1つが強化されているんだ!」

 

 

 トリニティは陸海空、全ての力が混ざり合ったフォーム。

 ただしそれだけではない。確かにスペック自体は三体の力を掛け合わせた物。これだけなら単純なものだが、その本質は個々の能力の向上。

 それがトリニティウェポンである。

 

 

「さすがマダラメさんって感じ… よし!!」

 

 

 キメイラは咄嗟にスイムの液状化を使って逃げようとしたが、アベンジはそれを見逃さない。

 ダイブウェポンの毒針を瞬時に突き刺して無力化させ、腕の鞭で捉えてぐるぐると回転しながら地面へと叩きつける。

 当然能力は強化されている為、毒針の毒もその強さを増している。キメイラは立てる事は立てるがフラフラとしていた。

 

 

「これで決めてやる!!」

 

 

 アベンジはドライバーを上から叩くと、翼を出してキメイラを鞭で捕まえて上空へ高く舞い上がる。抵抗しないよう毒針を発射しながら、縦にキメイラを回す。

 そして鞭を引っ張りながら翼を開き、アベンジは必殺のキックをキメイラの懐へと叩き込む。

 

 

《GOODBYE!! トリニティアベンジタイム!!》

「ハァァァ… ハァァァァァァァァッッッ!!!!!」

 

 

 アベンジのキックはキメイラの身体を貫通し、地上へと優雅に降り立つ。

 上空でキメイラは断末魔をあげながら、その身体を爆散させる。塵一つ残さずこの世から消え去った。

 

 

「… この世に生まれちゃいけない命なんてない… だけどキメイラ。君は生き物ですらなかった… こうするしかなかった…」

 

 

 キメイラは確かに化け物ではあったが、命があった事に変わりはない。

 それにキメイラを倒す事でマダラメの真実を聞くことができる。その為に倒したと考えてしまうと複雑な気持ちなる。そうは思わずとも結局は倒してしまった事に変わりはない。

 

 

「そうだ。羽畑さんは…?」

 

「安心しろイナゴ。彼女は夢の中よ」

 

「そっか… また何か言われると思った」

 

「だよな。これで助けた気にならないでくれる!とか言いそうだもんな」

 

 

 モグロウの裏声の毛ほども似てない物真似にアベンジは思わず吹き出した。絶対バレたら殺される。

 

 

「とにかく羽畑さんを病院へ運ぼうか。マダラメさんから聞くのはその後でいいよ」

 

「それもそうだな。よしさっさと運ぼうぜ」

 

 

 辺りを確認してから、2人は陽奈を連れて病院へと向かうことする───。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>

 

「マダラメ。これはどういう事だ?」

 

「……」

 

「何故、奴にアビリティズフィードを渡した」

 

「確かにあれは元々()()()()()として開発しましたが… あれはもう彼の物です」

 

「俺の質問が返ってきていないのだが?」

 

「彼には才能がある。それを無駄にしてはなりません… それに」

 

「それに?」

 

「強く育った方がアベンジドライバーの精度も良くなりますよ?」

 

「…… 貴様の裏切り行為は無視できない。が、だからと言って今貴様を失うのはこちら側としても厄介だ」

 

「あなたのお役に立てるよう、このマダラメ。心身共にあなたに捧げましょう」

 

「ならば、もう少し命令を忠実に行う事だ」

 

「これはこれは… 承知致しました」

 

 

 マダラメは頭を下げながらファングの元を去る。

 そして彼は外へと出ると空を見上げて、フードを外す。空はすっかり暗くなり三日月が見えていた。

 

 

「そろそろ陽奈さんにも作って差し上げますかね。アベンジ贔屓ではいつ私の研究所に乗り込んでくるかわからない…」

 

 

 月明かりに照らされたマダラメ… いや、()()の姿がそこにはあった──。




もう皆様ご察しでしたね!そうです。こういう事です。

では次回、第11話「菱形でジャック」

次回もよろしくお願いします!!


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第11話「菱形でジャック」

皆さんご無沙汰しております。

前回、キメイラをマダラメから渡された新アイテム。トリニティフィードを使用して手に入れた新たなフォーム。トリニティウェポンの力を使い、見事に倒した稲森。しかし彼らは知らない。マダラメは班目であったのだと…

それではどうぞご覧ください。


 ここは班目の研究所。相変わらずよくわからない機械がズラリと並び、そしてよくわからない発明をしている。

 静かな空間で班目が何かをいじっていると、突然ドアが開かれ静寂が終わりを告げた。

 

 

「…… どうされました?」

 

 

 無作法にも程があるほど、突然、乱暴にドアが開き、班目もため息を吐く。

 ドアを開けたのは陽奈であった。ズカズカと入り込んできた彼女は班目近くまで行くと、作業台を叩いて真剣な眼差しで班目を見る。

 班目には陽奈が何を言いたいかがよくわかる。彼女の戦績を見てみればはっきりするだろう。今のままでは勝てるものも勝てやしない。

 だから次に言う言葉これだ。

 

 

「新しいアビリティズフィード…ですよね? それも強力なやつでしょう?」

 

 

 何か言おうとしていた陽奈であったが、発言にする前に全く同じ事を言い当てられてしまったので驚いた様子だ。

 当たり前だ。顔に出過ぎている。先の戦いでキメイラに打点を与えられなかった時点で、彼女のプライドに傷がついている事は確か。

 

 

「なら、話しは早いわね」

 

「なんでも作りますよ。さぁ何が欲しいんですか? ご要望通りの物を作って見せましょう」

 

「単純な話よ。エースの強化」

 

 

 単純な話し過ぎる。ただ間違ってはいない。

 はっきりと言ってしまえば、アベンジの性能よりもエースの性能の方が上回っている。必然的にね。

 しかし稲森の場合は元々最強の種族の生き残りであり、今までの成長ぶりからして性能以上の力を引き出している。

 一方の陽奈は実力こそあるが、彼女自身の精神に何らかの引っ掛かりが生じて、成長できる場面でもできないというのが事実。

 

 

「…… 強化で無理やりにでもあげようという事ですか」

 

「無理やり? 何か問題でもあるの?」

 

「いやいや別に問題なんてありませんよ。ただ一口に強化と言われても、流石にパパッとやって完成とはいきませんからね。少し時間をください。陽奈さんの期待に添える様な素晴らしいアビリティズフィードを完成させましょう」

 

「頼んだわよ。それじゃあ私はこの後、用事あるから」

 

「ほほう? それは?」

 

 

 陽奈は一旦研究所のドアを開け外へ出ると、そこから顔をひょこっと出して班目の問いに答える。

 

 

「デート」

 

 

 それから研究所のドアは閉まり、辺りは再び静寂が戻ってきた。

 班目は再び作業に戻る。先程陽奈が入ってきた為、途中でやめてしまったが、あと少しで完成なのである。

 完成しようとする物。それはもちろんエースの強化アイテムである。

 

 

「言われなくてもわかってますよ。何せ私は班目であり──── マダラメなのだから」

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>

 

「楓。今日は何処に行くの?」

 

「えっとね〜… とりあえず歩いて回ろ〜」

 

「はいはい」

 

 

 陽奈のデートの相手はもちろん楓。

 彼女に対して好意を寄せる男は確かにいるが、アプローチを仕掛けようとする輩は多分この世界にはいない。否、あるわけがない。

 そう陽奈は世間にとっては高嶺の花であり、更に世界を救った娘と来たら、やはり誰も手を出すわけにもいかないだろう。

 

 

「…… ねぇ、陽奈」

 

「なに?」

 

「怪人嫌いだよね」

 

「え?… あ、うん」

 

「…… あの時、何で逃したのかなって思った…」

 

「楓… あの時は手が回らなかったのよ。次は必ず倒すわ」

 

 

 急にあの事を振り返した楓であるが、彼女の怪人に対する怒りは計り知れない。彼女人生全てを奪ったと言っていいからだ。

 ただ1人だけを除いて、彼女がこれから怪人に対しての怒りや憎悪を消し去る事はないだろう。

 陽奈自身怪人が嫌いかどうかと聞かれたら、はっきり言えばどちらでもないとなる。父が死んでしまった事への怒りとかはないと言えば嘘になるが、父は首領を倒して逝った。自分の為すべきをして見せた。

 仮面ライダーとしての道を真っ直ぐに。

 

 

「… なんか最近変な気分」

 

「ん?」

 

「心臓が握られてる様な感じ」

 

「… 私のせい?」

 

「違うわ。私の問題よ」

 

 

 稲森という人物に会ってから、陽奈の怪人に対する気持ちが揺らいできていた。陽奈自身もそれはよくわかっていた。

 だが、素直にその気持ちを解放していいという訳がない。今更、怪人にもいい奴はいるからやり方変えますだなんて、世間が許してくれるはずもない。

 そもそもこれが仮面ライダーとしての務めだ。

 私はなにも間違った事はしていない。

 仮面ライダーとして…。

 

 

「───…… 陽奈っ!!!」

 

「え、なにっ?」

 

「ジェスターが!!」

 

「えっ!!?」

 

 

 楓の言葉に我に返った陽奈は、彼女が指を示す先を見ると、そこには何処から現れたのかウィンプジェスターの群れが人々を襲っていた。

 陽奈はアベンジドライバーを腰に巻いて走り出す。

 

 

「なんなのよ急に… みんな逃げてッ!!─── 変身ッ!!!」

 

 

 ダッシュフィードをセットして側面を押し込み、エースへと変身すると、能力を発動させて一気に群れの中へと飛び込む。

 人を助けながら、群れをエースガモスボウで打ち抜いていく。

 

 

「やっぱり雑魚ね。全く何処から湧いたのかしら」

 

 

 やはりウィンプジェスターは弱い。

 急に出現して理由はわからないが、とにかく人々の救助を優先しよう。でなければ弱いと言えど、この数をまともに捌くことはできない。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

「しまった…!!」

 

 

 市民にウィンプジェスターが襲い掛かろうとした瞬間、バイクのエンジン音と共にジェスターは吹き飛ばされる。

 それはエースが今とても会いたくはなかった人物。仮面ライダーアベンジである。

 

 

「… 別に来なくてよかったんだけど」

 

「まぁまぁ… 人手は多い方がいいでしょう?」

 

「生意気」

 

「僕が救助を優先するので、羽畑さんはウィンプジェスターの方をお願いします!!」

 

「言われなくてもわかってるわよ!!」

 

 

 アベンジはジャンプウェポンからダイブウェポンへと姿を変えると、両腕の鞭を使ってウィンプジェスターを倒しながら、市民を遠くの方へと運ぶ。

 一方のエースはその間に大量のウィンプジェスターを次々に爆散させていく。

 

 

「救助完了しました!!」

 

「あっそ!! なら、一気に蹴りつける!!」

 

 

 2人はそれぞれドライバーの上部と側面を叩くと、アベンジは両腕をエイの尾へと変化させ、エースは高く舞い上がって飛び蹴りの態勢に入る。

 

 

《GOODBYE!! ダイブアベンジタイム!!》

《Thank you!! エースライド!!》

 

 

 ダイブウェポンの両腕で怪人たちを蹴散らし、最後にエースが上空より必殺の一撃を喰らわせると群れは一息に全滅する。

 これで終わりかと一旦胸を撫でおろそうとしたのも束の間、再びウィンプジェスターがどこからともなく出現し始めた。

 

 

「はぁ!? 冗談でしょ!?」

 

「一体どこからこんな量が…!!」

 

「ジェスターはめんどくさいわねホント!!…… ん?」

 

 

 エースは溢れ出たジェスターに怒りをあらわにしたが、女性の悲鳴を聞きすぐに我に返る。

 この声は楓のものだ。

 

 

「楓ッ!!?」

 

「ご、ごめん陽奈… 捕まっちゃった…!!」

 

「ジェスター… 楓を話しなさい!!」

 

 

 そのジェスターは楓の首に鋭い翼を突きつけてせせら笑う。

 アベンジとエースはそのジェスターを知っている。カモメの怪人バートンである。

 

 

「人質ってことかしら…!!」

 

「まぁな。ただしあんたがこちらの条件を飲んでくれりゃ話は別だぜ?」

 

「… 言いなさい」

 

「エースドライバーを渡せ。んで、ついでにアベンジドライバーも渡しな」

 

「…… できるわけないでしょ!!」

 

「なら、この女の命はどうなってもいいと?」

 

 

 更にナイフの様な翼を楓の首に押し当てると、楓の首からツーと血が流れ落ちる。

 その光景を見たエースは近づけないどころか、一歩も動くことができなくなり、言葉も発することがままならない。かなり動揺してしまってある様だった。

 

 

「大丈夫よ陽奈っ!! 私の事は構わずにこいつを殺して!!」

 

「できるわけないでしょ…… なに言ってるのよ!!」

 

「いいからやってよ!! 私との約束忘れたの!!?」

 

「……っ!! でも…」

 

 

 エースが手を出せず、ただ拳を握りしめるだけ。

 それを読んでいたのかバートンは更にせせら笑う。完全にこちら側が1番手を出せない方法を知っているかの様だ。

 アベンジもどうにかしようと考えてはいるのだが、この範囲からの攻撃で果たして倒せるのだろうか。現状2人の持っているアビリティズフィードで対処できるのか。いや、まずフォームチェンジできる隙がない。

 

 

「早く渡せよ。マジにやるよ? 俺は?」

 

 

 再び翼を首元に押し当てようとしたその時、上空からハンマーが飛来する。

 ハンマーは真っ直ぐにバートンの顔面捉えて弾き飛ばすと、その隙にエースは楓を抱えて後退する。

 一体なにがあったのか。周りを見渡したアベンジたちの前に上空から仮面の戦士が現れた。

 

 

「…… てめぇは… なんだ!!」

 

「喋らなくてもいいですよ。最も退いてくれるならなにもしません」

 

「このやろう…!!」

 

 

 バートンはすぐに体勢を立て直し、翼をギラつかせて爆発する羽をその戦士に向けて放つ。

 しかし驚いた事に戦士は違うとはしない。凄まじい爆発音の中、戦士の姿が見えなくなり、誰もが終わったと思うであろう。

 

 

「──…… この程度ですかね? まぁいいでしょう。さっさと終わらせてあげますよ」

 

「なっ…!!?」

 

 

 なんとバートンの羽を大量に食らって傷一つ付かないどころか、微動だにしていないのだ。

 その場の全員が唖然となっていると、その戦士はドライバーの側面を押し込むとバートンに向かって走っていく。

 

 

「このアーマーの硬さは… あなたの羽如きでは崩せませんよ」

 

「こいつ…!!」

 

 

 戦士のエネルギーを纏った蹴りが、凄まじい威力と共にバートンの腹部を貫く。エネルギーはバートンの全身を駆け巡り爆発する。

 

 

「そ、そんな…!! この俺がァァァァァッッッ!!!」

 

 

 バートンはそのまま跡形もなく消えてなくなった。

 あまりに突然。そしてあまりに早く、バートンは見るも無残に爆発した。

 

 

「あなたは…… 一体…?」

 

「…… では、行きましょうか。アベンジさん」

 

「へぇ? ちょ、待ってくださぁぁぁぁ……────」

 

 

 謎の戦士に一瞬にして担ぎ上げられたアベンジはそのまま何処かへと連れ去られてしまった。本人も抵抗しようとはしたが、その力の強さに耐えきれずブラブラと抱えられたままだ。

 陽奈は変身を解くと、楓に近づいて呼びかける。彼女は首に少し傷がついたくらいで他に支障はない。

 

 

「よかった……」

 

「陽奈。どうしてやらなかったの?」

 

「やれる訳ないでしょ… 1番の親友なんだもの…」

 

「その言葉凄く嬉しいよ。だけど躊躇してたらいつまでもこの世に蔓延る怪人は消えない。消さなきゃいけないんだよ」

 

「… 楓? 一体どうしたって言うの?」

 

「なんでもないよ… ただ凄くやらなきゃいけないと思う。やらないと安心できない…」

 

「………」

 

 

 楓の様子がおかしいと感じながらも、陽奈はとりあえず警察に電話をかけてその場を任せる事にした───。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>

 

 稲森は変身を解き、謎の戦士を警戒してはいるが、隙を見せない様に佇む。

 そんな謎の戦士はドライバーを外し、こちらを振り向くとその姿に稲森は驚愕した。

 その人物は稲森も陽奈もよく知る人物だったからである。

 

 

「やぁ、稲森さん。驚きましたか?」

 

「班目さん!? どうしてあなたが仮面ライダーに!?」

 

「まぁまぁ落ち着いてください。それに… あなたには約束事があったので伝えにきたんですよ」

 

「や、約束事? 僕何か約束しました?」

 

「言いましたよ? キメイラを倒したら教えて差し上げますと」

 

「なにを… 行っているんですか?」

 

「私がマダラメであり、班目だと言いたいんですよ」

 

「え…!!?」

 

 

 班目がマダラメであると言われ、流石に驚きを隠せなかった稲森。

 ただしこの人は冗談を言う人だからなとは言いたいが、この場合信じなければならない気がする。

 

 

「… 敵でも味方でもないとはそういうことだったんですね」

 

「そうですね。ただ逆に私はリゲインの味方でもなければ敵でもありません。あ、そうそう。どうですかあの『仮面ライダージャック』。素晴らしいでしょう?」

 

「なにが目的なんですか?」

 

「…… 答えを求めますね。まぁ約束ですから仕方ない… 私はファングを倒そうと思ってます」

 

「…っ!!?」

 

「その為にはまず敵地に潜入し、そして仲間である信用を勝ち取らなければならなかった」

 

「それが事実だとしても、だからって人を巻き込むのはおかしいです…!!」

 

「そうでもしなければならない状況なんですよ」

 

「え?」

 

「ファングは力をつけている。それは同時に()()()()も進行している事になる。私はそれをさせないが為にあらゆる手を加えた。それが人を傷つけてしまう事だとしてもです」

 

()()()()…?」

 

 

 班目はいつもとは違うとても真っ直ぐな瞳で稲森を見ると、その計画とやらを伝える。

 ただこの計画を聞いた稲森は最初頭の整理が追いつかなかったが、整理がつくと同時に膝を落としてしまった。

 その計画とは……

 

 

「ジェスター首領の復活です」




遅くなりました(涙)すみません。

次回、第12話「牙がライオン」

次回もよろしくお願いします!!


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第12話「牙がライオン」

皆さんご無沙汰しております。

前回、新たなライダー 仮面ライダージャックの登場。そして稲森には班目がマダラメであった事実が伝えられた。班目のやり方を良しとは思うはずのない稲森が問いただすと彼の口からとんでもない一言が……

それではどうぞご覧ください。


「首領の復活…? それってジェスターの首領って事ですか…!!?」

 

「はい、その通りです」

 

 

 班目の口から発せられた衝撃の一言。首領の復活。

 それは全人類にとって悪夢、黒歴史と言わざるを得ない事をやって見せたジェスターの頭である。

 ジェスターとしても首領は恐れられ、誰も彼に逆らう事などまずあり得ないだろう。いやまずその考えに至るはずがない。

 

 

「… そ、その計画って何処まで事が進んでるんですか?」

 

「………」

 

「もう復活間近まで来ているって事ですか? 教えてくれるんですよね…?」

 

 

 稲森は班目を真剣な眼差しで見つめるが、彼は表情を和らげいつも通りの何を考えているのかわからない嫌な笑みを溢す。

 

 

「ジェスターの首領は数年前に初代エースに敗北し、この世から消え失せたというのはご存知ですよね?」

 

「はい。その後、今の状態が保たれているという結果に落ち着いてます…」

 

「ジェスターは世界に嫌われている。それはまた人間と同じ。怪人と人間。その嫌われ者たちが共に歩む事などできると思いますか? 結果は無理です。この状況で察しです」

 

「だからファングは首領を復活させて、またこの世界を壊してジェスターが君臨すると言うんですか? そんなの結果は同じじゃないですか!」

 

「えぇ、勿論そうです。ですが、それが生き物の欲深いところ。一度足を踏み入れたらもう後戻りなどできません。欲しくて欲しくてたまらない物ほど更に…… あ、話が逸れましたね。首領はまだ復活はしませんのでご安心」

 

「そうですか… それが聞けただけでも良かったです」

 

「ただ安心はできませんよ? まだと言えど1年や2年待ってくれる程、ファングはゆっくりとした亀ではありません」

 

「と、すると?」

 

「獲物を捕らえるまで後… 2.3週間と言ったところでしょか」

 

「2.3週間って… そんな短い日数なんですか!!?」

 

「まだ1と言わなかっただけ良かったと思ってください。あくまで現状この段階での推測ですがね…… 消えたと思われた首領の細胞をファングがどういった行動を取ったのか知りませんが手に入れています。そのボディ自体はほぼ出来上がってるといっていいでしょう」

 

 

 たった2.3週間のうちに首領が復活してしまう。

 その事実を聞いた稲森は心臓が握り潰されそうな感覚に襲われる。怪人の稲森だからこそわかる首領の強さと恐ろしさ。

 もし首領が復活したら自分はどちら側に立っているのだろうか? 今はまだわからない。だが、近いうちに選ばなければならない。

 

 

「…… わかりました。教えて頂いてありがとうございました。ですが、班目さん。これ以上ジェスターに手を貸さないで頂きたいです」

 

「それはできませんねー… 私には私なりの正義と考えがある故。それにゆっくりとはしてられませんよ? でしたら尚更の事だと思いませんか? ただ私のライダーシステム、ジャックでは幹部は倒せたとしても、やはりファングがありますので」

 

「─── 僕がなんとかします」

 

「お?」

 

「なんとかすると言っても… 本当は怖いし、逃げ出したい気持ちもない訳じゃないんです。でもここで逃げたり引いたりしたらそれこそダメだと思うんです。僕が思う仮面ライダーは誰かの為に必死になって戦う戦士を言うんじゃないかって…」

 

「…… 変わりましたねぇ… さすが最強の怪人たちの生き残りです。まぁ私も裏で出来る限りの事はしてみましょう。あなたの覚悟を称賛して」

 

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

「ではそろそろ… 私もやる事があるので」

 

「そうですね。では失礼します」

 

 

 それから稲森はバイクに跨りもう一度軽く頭を下げてから自宅まで走らせる。

 その背中を見る班目の微笑んでいた顔はスッと真顔になった。ため息を吐き頭を掻きながら何処かへと消えていく。

 

 

「全く。ファングさんもとんでもない人に喧嘩を売ったものです…… これは面白くなりそうです」

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>

 

 栄須市にある大きなショッピングモール。

 またここで陽奈は楓を待っている。いつもの如く楓はやってこない。

 

 

「… また遅刻かしら。前もあったけど…」

 

 

 楓はいつも来るのが遅い。先に来た事なんてあっただろうか? いや一度たりともなかった気がする。

 最高6時間は遅れた事がある。まぁあの時はあの時で彼女の都合があったから仕方がない。

 しかし今回ばかりはその都合がある方なのかも知れない。現在2時間は経過している。何度もメールをしたり電話かけたりとしているが、この2時間の間で全く連絡が送られてこない。

 

 

「おかしいわね… なんかあったのかしら。でも遅れたらすぐに連絡してくれる子だし…」

 

 

 もう一度連絡をかけようとスマホを操作していると、目の前をスーッと明らかに駆け足になった男が通った。

 陽奈はその男に声をかける。

 

 

「ちょっとそこの怪人止まりなさい」

 

「え? なんですか…?」

 

「なんで私から逃げようとしたのかしら?」

 

「それは… 僕は争いたくないですし…」

 

「…… 私は会いたくなかったけど丁度いいわ。稲森、あなた楓知らない?」

 

「楓さんですか? なんでまた僕に?」

 

 

 その男は稲森であった。一応、彼には心を開いている楓。あまり期待してはいないが、聞かないよりはマシだろう。

 

 

「いいから答えなさい」

 

「今日はまだ会ってませんよ? 楓さん… 何かあったんですか?」

 

「別に。プライベートの事」

 

「あ、そうですか… 何か困った事があったら言ってください。いつでも僕で良ければ力を貸しますから!」

 

「いらない」

 

「うっ……」

 

 

 この一言は意外と傷つく。予想はついていたが、やはり面と向かって言われるとかなり精神的に来る。

 ショッピングモールへ買い物に来ただけの稲森は、そのまま陽奈に別れを告げて中へ入って行か事にした。

 だが、また彼を止める嫌な気配がひしひしと伝わる。振り向かなくともわかるこの気配… いや、殺意という奴か。ここまで背中に氷を背負わされてるかのような感覚は始めてだ。

 特に何もされていない市民たちでさえ、悲鳴を上げて逃げて行くのがわかってしまう。

 

 

「な、なんだ… この気配…!」

 

「稲森!! 手伝いなさい!!…… 力貸してくれるんでしょ? 貸してあげるわよ。というか貸さないとお互いにまずいわ」

 

 

 陽奈にここまで言わせる程なのか。

 それからゴクリと唾を飲み込み、稲森はゆっくりと振り返る。後悔する。振り向いただけでこんなに大きく見えるのだろうか。

 

 

「まさか……!!」

 

 

 その気配の大きさで目の前にいるジェスターが何者であるのか察しがついた。確実にそうである。奴こそがリゲイン、そして反逆者の怪人たちの頭────。

 

 

「─── ファング…!!」

 

「貴様がアベンジか。そして… エースと来たか。丁度いい。今ここで貴様らを試してやろう」

 

「え? 試す?」

 

「バートンがやられた。貴様らが俺の計画に支障を来す様なレベルなのか。俺自身が直々に試してやろうというのだ」

 

 

 

 ただ当然のことなのだが、試すだけではなくあわよくば殺すつもりだ。

 1番目を引く両腕の鋭く大きく太い爪に、何者の攻撃も寄せ付けない程の頑丈で分厚い身体という鎧。上から下まで全てに隙がない。

 ライダーを2人はそれぞれ腰にドライバーを巻き、アビリティズフィードを取り出す。

 

 

「「変身ッ!!!」」

 

 

 会話は交わすことなく、同時にジャンプ・ダッシュフィードをセットして、それぞれがドライバーを叩くと変身する。

 そして即座に構えを取る。

 

 

「行きましょう!! 羽畑さん!!」

 

「合わせてみなさい稲森!!」

 

 

 2人は一斉にファングへと飛びかかる。キメイラの時もあるが、とにかくまずは攻めてみて様子見だ。

 と、思った次の瞬間であった。2人は気づけば壁に激突していた。

 

 

「なっ…!!?」

 

 

 何があったのかわからないほど素早い攻撃。胸に3本の爪痕がくっきりと残っている。あの一瞬で切りつけていたようだが、この目では全く視認ができなかった。

 2人は次に何をするか考えられない。考えている時間がないわけではない。考えてどうこうなる相手ではないと、本能的にそれを察した。

 全身に火花が飛び、ライダーシステムはたった一度の攻撃で限界寸前まで追い込まれてしまったのだ。

 

 

「嘘でしょ…?」

 

「強い… たった一撃で装甲が…」

 

 

 ファングは爪を地面に這わせながら2人に近づく。

 アベンジはとにかく陽奈だけでも逃がそうと、トリニティフィードを使用してトリニティウェポンの姿へとフォームチェンジを行う。

 これが打点になるとは思わないが、時間くらいは稼いでみせる。

 

 

「くらえッ!!!」

 

 

 とてつもない脚力で高く跳び、翼を展開して宙へと舞い上がり、両腕から鞭を伸ばして毒針を発射する。

 真上からのアベンジの持つ陸海空のウェポンの能力を一斉に使っての、一瞬のうちでのコンボ技。

 単純な攻撃ではあるが、真上からの攻撃を防げるはずがない。それも一瞬のうちの動作だ。きっと攻撃は通るだろう。

 

 

「俺は1つわかった事がある。そして謝らなければならない」

 

「…?」

 

「─── お前たちは弱く脆く、試す以前の問題だった。俺は過大評価をし過ぎたようだ」

 

「はっ…!!!?」

 

 

 アベンジの能力の嵐は片手の爪を振るった程度で全てが無駄に終わった。

 爪を振るった時に生じた衝撃波は、真っ直ぐにアベンジの元へ飛んでいき、そしてその胸を切り裂いた。

 装甲を破って肉をも断ち、隙間から赤い液体が飛び出す。

 

 

「カハッ…!!」

 

「稲森…!!」

 

 

 油断したエースも瞬く間にファングの爪によって切り裂かれる。

 2人は変身が解け地面へと力無くして倒れてしまう。

 

 

 

「こんなものか… 安心しろ。命だけは助けてやろう。お前たち如きでは俺の計画の邪魔にはならないと判断する。せいぜいそこら中の同士たちと無駄な戦いを繰り広げていればいい。勝つのはやはり俺たちのような怪人だ」

 

 

 ファングはそう吐き捨て、満足したのか何処かへと姿を消してしまった。

 2人は気を失う直前誰かによって運ばれたのを覚えている。それが誰なのかはわからなかったがとにかく助かっただけでも良しとしよう。

 次に目覚めた時、彼、彼女は何を思うのだろうか。強大な敵の存在を再確認し、そして味わった。

 暫くは動かず身体を休ませよう。今はそうするしかないのだから。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>

 

「… 私に何をしようと言うんですか?」

 

「落ち着け。俺は別にお前を食おうなどという脳のないライオンとは違う」

 

 

 アベンジとエースが敗北してから3時間が経過した。

 その頃、楓はスイムの手によりまたも拉致されてしまったのだ。ただ今回は乱暴に扱うどころか非常に丁寧に運ばれた。まるでセレブになった気分である。

 

 

「俺はお前を救おうと思っている」

 

「は…? どういう事ですか?」

 

「お前は怪人が嫌い。そして俺は人間が嫌いだ」

 

「………」

 

「俺たちは謂わば似たもの同士という訳だ。勿論違う事は確かだが、嫌いなものは類似しているとは思わないか?」

 

「だからなんだって言うんですか? 私を拉致してどうこうしようとも何も話すつもりはありませんし、陽奈の戦意を削ごうだなんて考えはやめたほうがいいですよ?」

 

「そんな事をするわけがない。いや、するまでもない。とにかく俺が言いたいのはお前に力を貸してやろうと思う」

 

「力を?」

 

「あぁ、楓。親を殺したジェスターが憎いのだろう? それなら自分の手で天誅を下せばいい。だが、無理な話しだと思っている。わかっている。だから俺はお前に力を与えてやる」

 

「… 仮に断ったとしたらどうなるの?」

 

「断れるのか?」

 

「断れるわ」

 

「そうか… なら、1度こうすればわかりやすいと思うがな」

 

「え……っ!!」

 

 

 その光景にファングはニタリと微笑んだ。




以上です!ホントにサボり癖ついちゃって申し訳ないです!

スイッチ入ると連続投稿できるのですが…なんとも申し訳ないです(2回目)

次回、第13話「過去やマッドネス」

次回もよろしくお願いします!!


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第13話「過去やマッドネス」

皆さんご無沙汰しております。最近ゆっくり気味な辰です。

前回、リゲインのボスであり、元首領の右腕ファングが登場してアベンジ・エースは手も足も出ずにやられてしまいました。その場はなんとか見逃してもらえましたが、一方でリゲインのアジトでは楓が攫われてしまっていた……

それではどうぞご覧ください。


『ポーカドライバー』

 班目が仮面ライダージャックへと変身する為のドライバーの名である。

 アベンジとエース。2人の仮面ライダーとは一線を画す程の能力、それに加えて変身者は開発者自身である。

 このドライバーの製作には相当な時間を掛けたが、彼に悔いはないだろう。悔いはないというのは世界を平和にする為に、一歩前進したから嬉しいという訳ではない。

 班目の目指す計画にまた一歩近づいたから嬉しいのだ。

 

 

「あなたも乱暴ですね。ファングさん」

 

「バートンが消された… 新たな仮面ライダーによってな」

 

「えぇ」

 

 

 これは少し前の時間になる。あれは仮面ライダージャックが初めて現れたときの話しだ。

 ジャック… つまり班目の手によりバートンは始末された。もちろんファングはその正体や動向も知らない。完全に班目個人で行った。

 

 

「貴様以外にあのドライバーを作れる奴がいる」

 

「… そうですね。そうなります」

 

「とぼけるな」

 

「はい?」

 

 

 始まった。

 ファングは確信を持たず適当に聞いてくるのは、班目の心情を探ろうとしてきている。今までの行動自体が怪しいものばかりなので、疑われない方がおかしいと言えよう。

 とりあえず班目はわざとらしく眉間にシワを寄せ、親指でその間をグッと押しながら上を向いて唸る。

 我ながら馬鹿げていると班目は思う。

 

 

「…… もし貴様が裏切っていると確信に変わった時… わかっているな? 貴様には貴様が思う以上の処分をさせてもらうぞ」

 

「承知いたしました。人間があなたのような偉大なジェスターに手を出す事など馬鹿でもしませんからね」

 

「その馬鹿にならないようにする事だ」

 

 

 それからファングは班目を背に何処かへと行ってしまった。きっとあそこへ向かったのだろう。

 班目はニヤリと笑う。計画が順調進む事が嬉しいからだ。

 

 

「さて、私もそろそろ戻らなければなりませんね…」

 

 

 その頃、陽奈が班目を訪ねて来ているようだった。

 それもわかっている。誰かを探している事くらいわかっている───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「えぇ!? それって本当なのモグロウッ!?」

 

「あぁ、間違いねぇよ」

 

 

 モグロウから告げられたのは、数日前から楓が行方不明になっており、現在捜索中との事だった。

 それを聞いた稲森はすぐにジェスターによるものだと予測を立てた。前のスイムの件もあるからだ。

 

 

「多分だけどリゲインが一枚噛んでると思うんだけど…」

 

「おう… って、多分だけどだけどってなんだよ。自信なさ過ぎるだろ」

 

「ただね。楓さんを誘拐する理由が全くわからないんだ。羽畑さんの戦意を削ぐという理由でスイムは誘拐してたでしょ? だけど今回はファングからの命令だとしても、ファング自身が僕らを邪魔にならない奴って判断したんだよ?」

 

「… 確かにな。お前の話しからするにファングはイナゴたちの事を脅威とならないと判断したわけだ。だから楓を捉えたってなると偶々にしても出来過ぎてるからな」

 

「本当になんの目的があって…… とにかく羽畑さんは困ってるはずだ。僕らも手を貸そう!」

 

「お前もホントこりねーな。エースの所に今行ったらまーた襲われんぞ?」

 

「さすがに行かないよ」

 

「じゃあどうするんだ?」

 

「…… 陸から見つけにくいなら空ってね!」

 

 

 ── 稲森たちはその後、モグロウは地上を捜索し、稲森はアベンジ フライウェポンへと変身して飛び回っていた。

 しかし、数日かかって捜索しているのに全く見つからない人を、そう易々と見つけられるはずがない。

 アベンジは上空から、少しでも怪しい動きをしているジェスターはいないか隈なく探す。それがリゲインの誰かであるなら尚更いいのだが。

 

 

「モグロウの方は大丈夫かなー…」

 

 

 すると、背後から風を切る音が聞こえて来た。

 自らの翼で発せられる音ではなく、明らかに別の者が近づいているようだ。

 

 

「誰だっ!?」

 

 

 アベンジは翼を開き、抵抗力を増して一気にその者の背後へと回り込んだ。

 そしてアベンジはその姿を見るなり戦闘体制を解いた。何故なら目の前にいるのは仮面ライダージャック事、班目であるのだから。

 

 

「ま、班目さん!!?」

 

「おぉー、そんなに警戒しないでくださいよ」

 

「班目さんも楓さんを探して?」

 

「ん? あーそうですね」

 

 

 ジャックの適当に答えだろう言葉に違和感を感じながらも、目的が同じである事がわかり安心する。

 

 

「空からお探しですか? でも見つからなくて困ってると言った所でしょう」

 

「そ、その通りです…」

 

「ふむ… 言ってしまえば、この犯人はファングですよ」

 

「え、はい…… え? えぇぇぇぇぇ!!? 急に言いましたね!?」

 

「当然です。隠す理由もありません。あくまで私は中立なので… あなたに会ったのでついでと言うこともありますが」

 

「… 羽畑さんは知ってるんですか?」

 

「知りませんよ。どちらの意味でも」

 

「えっと… 班目さんが仮面ライダーだって事… ですよね?」

 

「そうですそうです。あ、それと楓さんの場所なんですが、これは私にもわかりません。ちょっと遊び過ぎたお陰で目をつけられてしまして、場所まで教えてくれないんですよ」

 

「そうですか… でも、ありがとうございます。それだけでも十分です」

 

「では、私はこれで失礼しますね。他の用で忙しいですから」

 

 

 全てを話し終えたジャックは凄まじいスピードで飛び去っていった。

 楓のいる場所はわからないが、これでリゲインの仕業である事は確定した。後は場所さえわかれば万々歳ではあるが。

 

 

「… ん?」

 

 

 ジャックが飛び去った後、すぐ前方に黒い何かがアベンジに向かって飛んできているのに気がつく。

 飛行を続けながら、目を細めてよく見てみると、それはウィンプジェスターたちの群れだとわかった。数は大体50くらいだろうか。1人で相手にするのはかなり骨が折れそうだ。

 

 

「あれ? こいつら飛んでないか…?」

 

 

 今までとは違った光景が見えている。

 ウィンプジェスターに翼はなく、ただ地面を這いずるような、そんな動きをする怪人である。弱いからこそ、作られてしまったからこその宿命なのだろうか。特徴なんてジェスターとは思えないグロテスクで生気を感じない瞳だけ。

 しかし、今回のウィンプジェスターはどうだろう。その背中には虫のような透き通った羽を持ち、器用に使って空を飛びまわっている。

 

 

「班目さん… 今度は何しでかしたんだよもぉ!!!」

 

 

 アベンジは心の声に留めておきたかったが、ウィンプジェスターが陸だけではなく空にまで順応していくとは思わなかった。もしかしたら海も行けるのかもしれない。

 そんな事は今は考えなくても良い。状況は最悪である事に変わりなし。

 

 

「なんとかするしかない!」

 

 

 翼を水平にし、一気にウィンプジェスターの群れの中へと飛び込んで、鋭い刃のような翼で切りつけていく。

 思った通りアベンジの方が飛行能力に長けている。相手は完全に自分のものとしていないらしい。反応速度もアベンジが上である。

 

 

「初めての事は苦戦するからね! 僕もそうだから!」

 

 

 アベンジドライバーの上部を叩き、翼にエネルギーを集中する。

 凄まじいエネルギーを帯びた翼は、更に大きな翼へと変化させると、ウィンプジェスターに向かって両翼を使い十字に切りつける。

 

 

《GOODBYE!! フライアベンジタイム!!》

「はぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 ウィンプジェスターはアベンジの必殺技を受けて瞬く間に消滅した。

 相手がまだ進化途中であったから勝てたものの、完全に使いこなした時、あの数と戦うのは避けたい。全くとんでもない化け物を生み出すものだ。班目のせいであるのは確実である。

 そんな事を思いながら空を飛んでいると、人気がないところにスピーダが怪しい動きをしていた。まるで周辺を警戒しているような、そんな感じだ。

 

 

「…… 話を聞いてみよう」

 

 

 それからアベンジはスピーダの方へと降下する───。

 

 

 

 

 

※※※※※

 

「パパ! ママ! 私、大きくなったらパテシェになるよ!」

 

「そっか。パティシエか… いい夢だな!」

 

「ふふっ、本当はただ自分が食べたいだけなんじゃないの?」

 

 

 この笑顔はなんだろう。あぁ、そうだ。この人たちはお父さんとお母さんだ。

 だけど2人はジェスターに殺された。食べられた。

 10年前くらいだったかな。楽しい会話をずっとしていたのに、それが夢みたいにすぐに終わっちゃったか。後先を考えず夢を言ってられた日々がすごく懐かしい。

 私の家族を奪ったジェスターはみんなみんな滅びればいいんだ。私の夢も未来も奪ったあいつらを許さない。

 

 

「大丈夫!! ジェスターは絶対に私のパパが倒してくれるから!!」

 

 

 … って、陽奈が言ってくれてたっけ。陽奈ありがとう。

 

 

「大丈夫よ。あなたは私が守るし、最低なジェスターはこの私が倒すから。楓が安心できる世界にするからね」

 

 

 親友の為に頑張る陽奈が本当に大好きだったし、とても憧れを感じてた。

 仮面ライダーは怪人を倒すヒーローなんだ。私のヒーローなんだよ。

 

 

「私にもしもの事があっても、陽奈は躊躇しないでよ!」

 

「…… でも、そうなった時、私は多分何もできないと思うわ」

 

「陽奈お願い。約束して。私の… 親友の頼み」

 

「本当に… いつもおバカなのに、こういう時だけ引き締まるのね」

 

「おバカってなーにもう!!」

 

「わかったわよ。ごめんなさい… 約束するわ。ジェスターを倒すのは私の務めだから」

 

 

 約束したよね? 約束した筈だよね? 私、馬鹿だけどそれだけは覚えてるよ?

 

 

「陽奈? 今度は躊躇わないでね? 陽奈の気持ちもわかるけど、ジェスターは悪なんだよ。私1人より皆んなの命がかかってるんだから!」

 

「… そうだけど… 待って楓。ちょっと時間を頂戴」

 

 

 陽奈、お願いだから。あいつらを… あいつらだけは許せないの。

 なんで? なんでよ? なんで倒してくれないの? 陽奈?

 

 

「─── お前の手で変えればいい」

 

 

 そうだ。陽奈はジェスターの手によって毒されたのかもしれない。

 稲森さん。確かにあなたは良い人だけど、あなたが陽奈を変えてしまったんだ。あなたというジェスターがいたから。良いジェスターだから。

 ジェスターは悪。

 ジェスターは滅びるべき存在。

 

※※※※※

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「あなたにこれを託しましょう」

 

 

 班目は楓にある物を渡した。

 ここは班目の研究室。楓は研究室のベッドで少々眠っていたようだ。

 

 

「………」

 

「おや? 寝起きで頭が回っていないようですね? 少々… いや、数日眠っていたようですから」

 

 

 楓は頭を押さえ、数日前のことを思い出す。

 あの時、ファングから何か話しを持ちかけられていた。力がどうとか話していた。

 この渡された物が力だとでもいうのだろうか。

 

 

「私は知ってますよね? そうです班目です。あそこにいたフードの男です」

 

「…… 私はなにをすれば良いんですか?」

 

「あなたが自由に決めてください。それがあればなんだって思いのままです」

 

「…………」

 

「ジェスターから力を借りたと思いますか? 違いますよ。これは確かにファングに頼まれて作った物ですが、私があなたの為に作った物でもあります」

 

「どういうことですか…?」

 

「ジェスターを許さないし、陽奈さんを呪縛から解き放ちたい… ですよね?」

 

「…っ!」

 

「困った事があればどうぞ言ってください。私はファングとは違います。あくまで私は中立で、人間よりの班目ですから」

 

 

 楓は礼を言い研究室から出ると、陽奈に電話をかけた。思った通り、陽奈は心配してくれていた。

 だが、陽奈を救う為にはまずやらなければならない。

 

 

「…… うん。会おっか。いつもの所ね」

 

 

 電話を切ると、楓は渡された何かを腰に装着した。

()()()()()()()()を巻き付けたのだ。




これマジ?
さぁ、エース編となっていますが、ジェスター編に変更しました。
何故ならここからがエース編の本題なのです(本当は章自体が決まってませんでした…)
という事で次がエース編です。

では次回、第14話「心がクイーン」

じかいもよろしくお願いします!!


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エース編
第14話「心がクイーン」


皆さんご無沙汰しております。

前回… って書いたほうがええのか? と思っておるんですが、ぶっちゃけいらないんやないか…? と思ってきたこの頃です。いらねーよって方は是非言って下さいね!!
暫くは書きませぬ…!

それではどうぞご覧ください。


「…… 楓。また遅いわね」

 

 

 陽奈は楓から連絡が来てから、栄須市にあるいつものショッピングモールの外で待っていた。

 何度もメールを見返したり、着信が来ているか否かを一々確認したりと、落ち着きが見られない。

 それも仕方がない事だ。楓は暫く連絡も何もよこさず、それから突然返事が送られてきたのだから、陽奈としては嬉しく思い、逆にとても心配だった。

 

 

「ん…?」

 

 

 楓を待つ陽奈から人々が離れていく。

 不思議に思った陽奈はスマホから目を離し、何かの視線を感じてそちらを見る。何者かがコツコツと音を鳴らしながら近づいてきている。

 その見た目はまさに仮面ライダーと言えよう。腰にドライバーを巻き付け、右手には杖を握っている。

 杖が地面に触れる度にコツコツと鳴り、その音は彼女の前に来るとピタリと止まる。

 

 

「誰よあんた。仮面ライダー…? いや、リゲインの誰か? 何でもいいけど、ここでふざけた事するなら容赦しないわよ」

 

 

 仮面ライダーは何も発する事はない。

 まるで女王のような威厳を感じさせる冷たく重い空気が、陽奈の全身に纏わりついてきた。

 

 

「ちょっと、黙ってないで何か言ったら?」

 

「………っ!!」

 

 

 すると仮面ライダーは杖を振り上げ、思いっきり陽奈へと振り下ろした。

 突然の事だったが、既に警戒していた陽奈はサッと避けて、腰にエースドライバーを巻き付けてダッシュフィードを差し込んだ。

 

 

「わかったわよ… 上等じゃない!!」

 

 

 ドライバーの側面を押し込んで仮面ライダーエースへと変身すると、ダッシュウェポンの素早さを活かして、謎の仮面ライダーの背後に周って飛び蹴りを放つ。

 だが、エースの攻撃は謎の仮面ライダーを吹き飛ばす事は出来なかった。その場から1ミリたりとも動いてはいない。

 

 

「かたっ…!!」

 

 

 謎の仮面ライダーは杖を掲げると、杖の先から赤いエネルギーが収束し、巨大な赤きエネルギーの球が完成する。

 それをエースへと向けて躊躇なく発射し、エースはエネルギー弾を避けられずにまともに食らってしまった。

 

 

「きゃあっ!!?」

 

 

 ただエースも負けじと、すぐに体勢を立て直して凄まじいスピードで飛び回る。相手を翻弄すると言うのもあるが、隙を伺う為でもある。

 一方の謎のライダーは特に手を出す訳でもなく、黙ってその場に立っている。

 このまま懐に潜り込んで必殺技を浴びせればいいのではないか。と、エースは思ったが、飛び回っている最中に気付いてしまう。

 

 

「… まさか目で追っているなんて事ないでしょうね?」

 

 

 まさかではあるが、謎のライダーはしっかりとエースの動きを見ていた。

 その場で黙って立っているのではなく、動く必要も無いほどのスピードだとでも言いたいのだろうか。

 エースはこれに少々苛立ち、更に加速を掛けてから一気に懐へ潜り込んで、ドライバーの側面を押し込む。

 

 

「これでも食らって倒れなさい!!」

《Thank you!! エースライド!!》

 

 

 エースの強烈な蹴りが謎のライダーの腹部を捉えた。完全に決まり、装甲も少々ではあるが傷がついたようだ。

 流石の謎のライダーも必殺の一撃には吹き飛ばされてしまい、地面をゴロゴロと転がってしまう。

 しかし、すぐに立ち上がったかと思うと、杖を掲げてから、先の方にエネルギーを込め始める。

 今度は緑色のエネルギーであり、それが膨らんで破裂すると謎のライダーの身体から傷一つ無くなってしまう。

 

 

「えっ…!?」

 

 

 そもそも傷一つ付いた程度ではあったので、効果自体は然程でもなかったはずだ。

 けれどこの回復能力を見てしまった以上、更に勝つという見込みがなくなってしまったのも事実。

 エースはそれならとパワードフィードを取り出して、ダッシュフィードと交換しようとしたが、再び謎のライダーから赤いエネルギー弾が飛ばされる。

 赤いエネルギー弾は先ほどのような為で放つタイプのものではなく、追尾性のある小さな球を何個も飛ばす技であった。

 

 

「避けられない…っ……!!! きゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 

 エネルギー弾の嵐がエースへと炸裂すると、余りの負荷に耐えきれずに、変身が解除されてしまう。

 変身解除してしまった陽奈は地面へ倒れ込み、謎のライダーを見上げる。

 表情は見えないのだが、何故かそのライダーからは悲しみと怒りの感情が伝わってきた。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「─── おやぁ? これは流石の陽奈さん… 仮面ライダーエースでもどうにもなりませんね」

 

 

 そのすぐ近くの建物の屋上から2人の戦いを見下ろす班目。

 とても楽しそうにニヤニヤと笑い、ノートパソコンを開いて実験データを書き加えているようだ。

 そして班目の背後にはファングの姿があった。

 

 

「… 班目。アレは何だ?」

 

「おぉっと、ファングさんじゃないですか」

 

「アレは何だと聞いた。例のジャックと似たようなドライバーだな?」

 

「…… もうそこまでお調べになられたんですね。流石です。流石は首領の右腕だったファングさんです」

 

 

 ファングは班目の首を突然掴み上げ、足場のない方へと突き出す。

 班目は苦しそうではあるが、その笑顔を消す事はない。

 

 

「貴様… 一体何を企んでいる?」

 

「ぐ、ぐるしいですよ… 喋るものもっ…これじゃあ喋れませんって…!!」

 

 

 そう言うと、ファングは荒めに建物の屋上へと班目を投げ捨てる。

 咳き込みながらも真っ直ぐにファングを見ると、笑顔を崩さずに淡々と喋り始める。

 

 

「私には私なりの考えがあり、あなたには黙秘して作業をしておりました。それが仮面ライダージャックとあの『仮面ライダークイン』です」

 

「仮面ライダージャックは概ね貴様だろう? 何故、バートンを殺した」

 

「バートンはファングさんに対しては逆らう事はありませんでした。無論、あなたに喧嘩を売るような馬鹿はリゲインや反逆者のジェスターにはいませんよ。もちろん一般のジェスターたちも。ですが、彼は違う。あなたを裏切ろうとしていた」

 

「馬鹿な。何を言うかと思えば貴様…」

 

「いえいえ待ってください。あなたは確かに凄いお方だ。しかし、いくらあなたとて全てを見通す力は持ってはいない。そうでしょう?」

 

「貴様何が言いたい?」

 

 

 班目の言葉に、ファングの怒りは更に煮えたぎり、鋭い爪を班目の首へと近づける。

 後は余計な事を言ってしまえば、簡単に生首の完成である。

 

 

「別にファングさんを甘くみている訳ではありません。断じてそれはないと言えます。けれど、どんなに優れた方でもバートンの策までは読み取れなかったでしょう」

 

「…… 聞かせろ」

 

「バートンはあなたを裏切ろうとしていた。そう彼が私に言ってきたのです」

 

「根拠は何だ?」

 

「私の技術力と私のようなどっち側に転びそうな怪しい人物は、少し何かすればコロリと落ちるとでも思ったのでしょう。それはそれはあの手この手で私を駒として使おうとしたようです… が、そんな甘い汁をこの私が簡単にすすると思いますか? 幾ら良い条件が揃おうと私の心はリゲインの為。ジェスターの為にあります。人間ではありますが、その心だけはあなたに… 否、胸を張ってジェスター側の1人と言えます。どうか信じてください」

 

 

 班目は膝を付き、頭を深々と下げる。

 いつものような笑顔はその時だけは見せず、真剣にファングへと訴えかけた。

 

 

「………… ふん、顔を上げろ」

 

「おや?」

 

「信じたと思うな? これは最後の慈悲だ。貴様がジェスター側だと言うのならば行動で示してみろ。話しはそれからだ」

 

「はい。承知致しました」

 

「… そしてあのクイン… あれは例の人間か?」

 

「はい。例の人間… 楓さんです」

 

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 仮面ライダークインはジャックと同じ技術が取り込まれており、その力はアベンジやエースといった2つの力をいとも簡単に倒せてしまう程の力を有している。

 ジャックのような硬度はないものの、あらゆるモノの傷を一瞬にして癒してしまう回復能力が備わっており、杖による攻撃はどんな相手だろうと防ぐ事はまず不可能に近い。

 それほどポーカドライバーは強大な力と技術が込められているのである。

 

 

「何なのよ… うぐっ…!!!」

 

 

 クインは陽奈の目の前まで来てしゃがむ。

 そして今まで何も話さなかったその口から言葉が発せられる事となる。

 

 

「── 陽奈」

 

「え?」

 

「もう… 大丈夫だからね? ほら、私もこの力を手に入れたんだ」

 

「…… うそっ… あなたまさか…」

 

「ごめんね。攻撃したのはあなたを落ち着かせる為なの。変身解除に追い込めば暫く再変身できないんでしょ? 陽奈が言ってたよね?」

 

「どうして… 何でよ…」

 

「聞いて。私は陽奈を救う為に仮面ライダーになったの。だけどもう大丈夫。これからは陽奈と一緒にジェスター共を1匹残らず殺せるから」

 

「何言ってるの?」

 

「何… 言ってるのって?」

 

「あなたそれ誰から? あなたが戦う必要なんかないのよ? 全部私に任せてくれれば…」

 

「陽奈1人じゃ何もできないでしょ?」

 

「え…?」

 

「あの時もそう。ジェスターに何の肩入れしてるの? ジェスターは人類の敵なんだよ? どうして取り逃がしたり、楽しくやっちゃってさ… ね?」

 

「楓… ねぇどうしたの!!? いつものあなたじゃないわよ!!?」

 

「いつもの私だよ… それじゃあ陽奈。まずは私と一緒に行こうか」

 

「行くって… どこに?」

 

「そんなの決まってるよ… ジェスターを滅ぼす為にだよ───」

 

 

 すると、クインは杖の先を陽奈に近づけて怪しい光を発する。

 それを見た陽奈の目は光が徐々に失われていき、身体の自由が効かなくなり、ボーッとしてきた。

 

 

「陽奈は私が救うから……っ!!」

 

 

 しかし、クインは後少しのところで何者かによって蹴り飛ばされた。

 陽奈は杖の呪縛から解けると、頭をぶんぶんと振り、立ち上がってクインから離れていく。

 クインはすぐに立ち上がり、陽奈の方へと手を伸ばすが、蹴り飛ばしてきた人物へと切り替え杖を構える。

 

 

「すみません羽畑さん。大丈夫ですか?」

 

 

 そこには仮面ライダーアベンジの姿があった。ギリギリの所で彼が駆けつけたお陰で術中にハマらずに済んだらしい。

 陽奈はこの状況の整理が追いつかず、何度もクインを見ては頭を抱える。

 

 

「…… あの羽畑さん? どうかしました…?」

 

「黙ってて!!!…… 楓ッ!!」

 

「楓…? 楓さんがどうしたんですか?」

 

 

 アベンジは今の状況の整理を行い、そして結論をつけた。

 この陽奈の慌てぶりと、彼女が言う楓という人物が、今まさにアベンジへと攻撃してこようという仮面ライダーの事だと理解した。

 結論付けたの良いが、全く信じられないことが起こっている。

 

 

「何故こんな事にっ!?」

 

「知らないわよ!! もう…!!」

 

 

 そしてクインは杖からエネルギー弾をアベンジに目掛けて何発も発射する。

 ダッシュフィードでも避けられなかった球を、アベンジのジャンプウェポンでは逃げる事は当然できずに全弾命中してしまった。

 何とか耐えたが、装甲が悲鳴を上げているのがわかる。強さは確実に今までの幹部たちとは比にならない。ファングの時のように何もできずに終わってしまいそうである。

 

 

「ぐっ…!! 流石にこれはまずい!!」

 

 

 クインが再びアベンジへと杖を向けるが、そこへ突然目の前にジャックが現れクインを静止させる。

 勿論、見知らぬ人物のこの行動は許される訳がない。クインの逆鱗に触れかける事となる。

 

 

「どいて!!」

 

「どきませんよ。これ以上暴れるとなると、あなたの野望も叶えられず終わりますよ?」

 

「どういう事…?」

 

「ここは一旦落ち着きましょう。そして次に備えるのです。先へ急いでも、あなたの求めるものがすぐ手に入ります」

 

「…… 誰なのかわからないけど、わかったわ」

 

 

 ジャックの言葉にクインは陽奈たちを背に何処かへと消えていってしまった。

 それを見届けたジャックはアベンジに向けて礼をすると、彼もまた何処かへと去っていった。

 その場は何事もなかったかのように静寂に包まれ、陽奈は膝を着き、涙も出ず、言葉も出ない。そんな行き場のない感情を内側で暴れさせていた。

 

 

「羽畑さっ…… 僕はこれで失礼します。一応、警察へ連絡や被害者がいないか見てきます」

 

 

 アベンジもそう言うと、陽奈の元から離れる。今の彼女に声を掛けるのは、彼女を苦しませる事に繋がってしまうと思ったからだ。

 その判断は正しいか正しくないかはわからないが、陽奈自身にとってはそれが1番良い判断だと思う。

 

 

「楓…!!」

 

 

 楓が遠くへ行ってしまったように感じる。

 再び彼女と手を取り合う事はできないのだろうか。

 色々な負の感情が全身を巡り、陽奈は声にならない叫びを挙げた。




はい。今回でエース編始まり始まり。
ここから陽奈さんに更なる苦難が待ち受ける。
そして主人公の稲森は暫く主人公交代か…?そんな事はさせませんぞ!

次回、第15話「人生はスーパーハード」

次回もよろしくお願いします!!


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第15話「人生はスーパーハード」

皆さんご無沙汰しております。

それではいつも通りに決めていきましょう!
前回、楓と連絡がついた陽奈はいつものショッピングモールで待ち合わせをしていた。その時、謎の仮面ライダー。クインが現れ、エースに変身して戦うが、簡単に倒されてしまう。駆けつけたアベンジですら相手にならない程の力を有するその正体は楓であった……

それではどうぞご覧ください。


「班目ッッッ!!! いるんでしょ!!? 出てきなさい!!」

 

 

 研究室のドアをバンバンと叩く陽奈。用件はお分かりの通り、彼女の親友である楓の事についてである。

 あのようなドライバーを作れる技術者といえば、この世において1人しかいない。ジャックを班目だとは気付いてないが、それでも彼を怪しいと思うのは当然の事だろう。

 

 

「おやおや… 騒がしいですね。陽奈さん」

 

「班目… アレは一体何のつもりよ!!」

 

「アレ? アレとは何でしょうか?」

 

「楓に何したのよ!!」

 

 

 陽奈は班目襟を掴んで壁に押し付ける。彼女の目は釣り上がり、間違った答えを言うのであれば、相手がどんな奴だろうと容赦はしないだろう。つまり本気で殴りにかかってくるはずだ。

 そんな圧にも平然としている班目は両手を前に突き出して、陽奈の怒りを鎮めようと試みる。

 こんな事で治ればいいのだが、彼女が鎮まるはずなく、更に強めに押しつけられる。

 

 

「答えて!!!」

 

「そもそも私の所へ来るとはどういうことですか? どの話しをしているのかよくわからないのですが…」

 

「… 楓が仮面ライダーに変身したのよ」

 

「ほう? それは興味深いですね」

 

「あなたがやったんでしょ?」

 

「何を根拠に?」

 

「そうなった経緯はわからないわ。だけど、あなた以外にドライバーを造れる人物なんて、私は知らないし聞いた事もない」

 

「それで私に… ですか?」

 

「アベンジドライバーもあなたでしょ? 最初はジェスター側の技術者が造ったのかと思ったけど…… 気づいていないようだから教えてあげるけど、あなたと稲森が裏で通じている事は知っているわ。証拠なら持ってるけど見る?」

 

「……… わかりました。あなたの勝ちです。私が何言っても陽奈さんは曲げないでしょうし」

 

「なら、答えなさい楓の事()全部ね」

 

()? 他に何を聞きたいと?」

 

「決まってるでしょ? あなたの黙っている事の全てよ────」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「楓さん… 一体どうしちゃったんだろう…」

 

「まぁ、どう考えてもどっかのリゲインがマインドコントロールだかしてんだろ。幾らなんでも急過ぎる。その楓がいなくなっていた時期やあのジャックの野郎となんか関係あるとすりゃもうほぼ確定じゃねーか?」

 

 

 稲森たちは自宅で、別人へと変わってしまった楓の事について話していた。

 ジャックの正体が班目であるというのは、モグロウにはまだ話してはいない。話した所で考え方は変わらないはずだ。班目自身がこちら側であり、リゲイン側でもある、まさに彼が言う中立のような存在。

 楓のことについては絶対にわからないと言うことはないだろう。そもそもベルト自体が同じなのだから言い訳すらできない。お得意のすっとぼけた感じを出すのが目に見える。

 

 

「あーモグロウ?」

 

「なんだ?」

 

「ジャックの事なんだけどさ」

 

「おう」

 

「あれさ…… 班目さんなんだ」

 

「は〜ん… え? マジ?」

 

「うん」

 

「…… やっぱりなぁ」

 

「やっぱりって、えぇ!!? 何その反応!!」

 

「な、なんだよ!! 急にびっくりするじゃねーか…」

 

「だって普通なら『えぇ!!? うそぉ!!? 信じられない!!』とか言わない!!?」

 

「だってもこうも喋り方から何から似過ぎてるし、それに見てたら大体わかると思うけど?」

 

 

 確かにモグロウの言う事には一理ある。

 ただ稲森という怪人は非常に正直者であり、簡単に人を信じてしまうような男。何も不思議に思わなかったのも自然である。

 

 

「… それより楓さんをどうにかしてあげないと」

 

「リゲインの方にいるだろうから、もし場所を見つけたとしてお前勝てないだろ?」

 

「うっ…」

 

 

 幹部たちにはなんとか勝てる程度ではあるが、問題はそこではない。その組織を動かし、指揮する者に勝てる要素があるか否か。今はないと言えよう。

 稲森と陽奈が2人がかりで挑んだファング戦。無意味となってしまった。

 上に立つ存在の力の差を感じさせられ、そして首領の強さと偉大さが改めて実感できた瞬間だった。

 

 

「現状だけど、ジャックとクインは僕と羽畑さんより強い。性能差がまるで違うんだ。ファングがそれ以上とするなら、今の僕の力じゃ対抗策はないと思う」

 

「だから班目に力を借りるしかないと?」

 

「それしかないよ」

 

「あいつの力を借りるしかねーってか… それも仕方ねーか」

 

「トリニティを… 陸海空の三つを超える力…」

 

 

 その時、大きな爆発音が聞こえ、2人はすぐさま外へと飛び出すと、街から火の手が上がっているのに気がついた。

 2人は顔を見合わせて頷き、煙の上がる方へと駆け出していく。

 

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 現場に着いた稲森とモグロウは市民を逃がしながら、この爆発の大元の方へと向かう。

 段々と近づくにつれて、爆発音が大きくなっていき、モグロウに周囲を任せてそれの前へと着いた。

 それは稲森たちを苦しめ、トリニティのデビュー戦時の相手でもあるキメイラであった。

 

 

「キメイラ…!? どうしてここに!?」

 

 

 班目は再びこの化け物を生み出したのか。何が正義だ。街の人々を巻き込んでどういうつもりだ。

 稲森にしては珍しく怒りの表情を浮かべながら、腰にアベンジドライバーを装着し、トリニティウェポンを装填する。

 

 

「班目さん。あなたのやり方はやっぱり間違ってますよ…… だって私利私欲のために誰かを傷つけるのは正義なんかじゃない!! 変身ッ!!!」

 

 

 アベンジドライバーの口を閉じてトリニティウェポンを挟み込み、仮面ライダーアベンジへと姿を変える。

 相手はキメイラ。前にも一度戦いそして勝利している。

 ただアベンジは再び戦うこととなる怪人に何かの違和感を感じていた。強敵であるというのもそうだが、班目が一度負けた自分の作品を、そのままのレベルの状態で復活させるとも思えない。

 

 

「動きを封じるッ!!」

 

 

 両腕についている強力な毒が内蔵されている針をキメイラに向かって放つ。

 この毒針に触れることは自殺行為にも等しい。非常に強力な毒により、特殊な能力を使う事ができなくなり動きも鈍くなってしまう。

 しかし、キメイラは飛んでくる毒針を避けようとはしない。いや、避ける準備をしているようだ。キメイラの目はしっかりと毒針を見ており、一度たりとも目を離さず、それからスッと冷静に毒針を避ける。

 

 

「な、なに!?」

 

 

 キメイラには心というものがない。

 怪人よりも化け物と、怪人たちの中でも屈指の強さを誇る幹部たちの細胞から造られた謂わばクローンのようなもの。クローンとは少し違うが、混ぜ合わされて生まれてしまった怪人のような生物。

 感情も知恵も何もなかったはずの本能で生きる生物からここで初めて言葉を聞かされる事となる。

 

 

「─── 死ヲ」

 

「ん…?」

 

「オマエヲ殺ス」

 

「喋った……ッ!!?」

 

 

 突然その口から人語を話され、一瞬困惑してしまったアベンジに向けてキメイラの拳が浴びせられる。

 咄嗟に腕を出してガードしようとしたが、弾かれてしまいそのまま直撃をくらわされてしまった。

 前のキメイラであるならトリニティウェポンであるならそれなりには耐え切れたが、今回のこの一撃はどうやら全く違う。ミシミシと装甲が音を立てて殴り飛ばされてしまった。

 

 

「ぐぅっ…!!」

 

 

 やはり班目は悪い意味で抜かりがない男と言えよう。

 一度潰されてしまった作品を、改良して更なる強さを身につけさせてしまった。基礎的な部分が大幅に上がっているのが、アベンジはその身に受けた事でよく理解できた。

 

 

「確かに強くはなったんだろうけど、僕もここで引くわけにはいかない」

 

「オマエノ、命ハ、ココデ尽キル。死ダ」

 

「終わらないよ。ここでお前に躓いてたら大事な命を守れなくなる。僕はその大事な物を守る為に仮面ライダーになったんだ!」

 

「ヤッテミロ」

 

「やってやるさ!!」

 

 

 それからアベンジはキメイラに向かって走り出す────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 一方その頃、陽奈は班目の研究室を出てから、とある場所へと向かっていた。その場所は現在、アベンジがキメイラと戦っている最中の場所である。

 班目から全ての事を聞いたわけではない。きっと聞いた話しは所々嘘が混ざっている。

 最初からあの男を信用しているわけではない。父と知り合いであったからと言っても昔からあの男だけはいけ好かない。

 何にせよ。班目がジャックであり、リゲインに侵入していることがわかった。

 この事実がわかった時、陽奈の怒りのボルテージが限界突破し、班目を思いっきり殴った。当然の報いとして、班目も何もせずにいつもの表情で謝ってきた。色々言っていたがそれを聞かずに研究所を出てきたというわけだ。

 

 

「楓… 私が必ずあなたを迎えに行くから」

 

 

 陽奈の手には少々大きめなアビリティズフィードが握られていた。他のアビリティズフィードと比べたら大きさの違いや形で新しいアイテムだと気づくだろう。

 それは班目から託された物であった。出て行く瞬間に班目が強引に彼女の手に持たせた。

 もう顔も見たくなかった陽奈はとりあえず受け取ってその場を後にした。彼は何も言わなかったが、とにかくエースのパワーアップアイテムである事は、彼女が直感で理解した。

 

 

「── あれは」

 

 

 陽奈はアベンジの元へと辿り着いたのだが、そこで目の色を変えた。復活したキメイラにではなく、もちろんもう1人の方である。

 後から来たであろうその1人は仮面ライダークイン。楓だ。

 一時はキメイラを押していたアベンジであったが、突如として現れ、キメイラをも吹き飛ばしてアベンジと対峙していた。もちろんその力には遠く及ばないアベンジが劣勢である。

 

 

「楓ッ!!」

 

「…… 陽奈?」

 

 

 倒れたアベンジへの追撃を行おうとしたクインの後ろから、陽奈が声を掛けると彼女はピタリと静止しそちらを見る。

 きっとわかってはくれないだろう。話すだけではきっと彼女を止める事はできない。

 

 

「どうしたの陽奈? まさかだと思うけど…」

 

「違うわ。別にそっちのジェスターがどうなろうと構わない。トドメも刺したっていい… だけどね」

 

「ん〜? じゃあどうして─── そんなに怖い顔してるの?」

 

「…… あなたを止めたいの」

 

「止める? 何を?」

 

「そいつがどうでもいいみたいには言ったけど… 規則は守ってほしいだけ。ジェスターは悪だとしても、命は命。無闇に殺そうだなんてそんなのおかしい」

 

「変なこと言うね〜。陽奈のお父さんを殺してのは誰? 陽奈だって言ってたじゃん。ジェスターに人権なんてない。悪だとわかったら理由が正当であっても許さないって」

 

「違う… 違うのよ楓」

 

「わかったよ。陽奈は私が救うから。だから今は大人しくしてて」

 

「楓ッ…!」

 

 

 すると、倒れていたキメイラが起き上がり、クインの背後から殴り付けようとしていた。クインは気づいていない。陽奈も手が出せない。

 ただ1人は手が届いた。アベンジは全身を使ってその攻撃を受け止めて見せた。

 

 

「え…?」

 

「楓さん。命はみんな平等なんです。大きくても小さくても命の重さは変わらない。僕自身が怪人だからとかじゃないんです。みんな同じなんです!!」

 

「同じ…? なら、なんで… 私のお母さん… お父さんは…… うぅ…!!!!」

 

 

 クインは頭を抱えながら杖を振り上げ、天に向かって叫ぶと、杖の先から電気エネルギーが放出されてアベンジとキメイラごとくらわせる。

 

 

「楓ッ!!!」

 

 

 陽奈は無意識のうちにエースドライバーを腰に巻き付けると、クインに向かって走り出していた。

 その手に持っていた新たなアビリティズフィード「スーパーハードフィード」のスイッチを押すと《大・暴・走!!》の音声が鳴り響く。

 それからスーパーハードフィードをドライバーにセットする。

 

 

《スーパーハード!! Open!!》

 

「変身ッ!!!」

 

 

 ドライバーの側面を押し込んだ瞬間、全身を潰されるような感覚に襲われる。

 目の前が真っ暗になり、まるで蛹から成虫になるときのように、背中のアーマー部分が割れて行く。

 そこからはドス黒い霧のようなものとともに、禍々しく変わったエースの姿が露わになった。

 

 

《Come on!!》

《Let's try スーパーハード・ハード・ハード!! エース!!》

 

 

 変身を終えたエースの記憶はそこで消えていた。その後の事は覚えてない。

 エースはもう止まらない。




はい!……本当に申し訳ございません!!
スイッチを入れる場所が中々見つからずでかなり遅め投稿に…申し訳ない…!

次回こそ必ず土曜投稿します!!
では次回、第16話「心情のチェンジ」

次回もよろしくお願いします!!


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第16話「心情のチェンジ」

皆さんご無沙汰しております。

前回、班目から全て(大嘘)を聞き出した陽奈は怒り、憎悪し、ある場所へと向かう。その場所は稲森が復活したキメイラと戦闘最中…の筈であったが、そこにはキメイラ以外にクイン、楓の姿があった。楓を止める為、班目から渡されたスーパーハードフィードを使い、仮面ライダーエース スーパーハードウェポンへと変身するが…

それではどうぞご覧ください。


「羽畑さん…?」

 

「……………」

 

 

 明らかに様子がおかしいエースに、アベンジが声を掛けるが、彼女からの返答はない。変身した直後から一言も発さず、一歩たりとも動かなかった。

 クインも動かない彼女を心配そうに見つめている。

 

 

「陽奈? 何か喋ってよ?」

 

「……………」

 

「ねぇ陽奈ッ───」

 

 

 その瞬間、エースの拳がクインの顔面を捉える。突然の事でクインは攻撃を防ぐことが出来ず、躊躇なしの本気の打撃をくらってしまった。

 強烈な一撃をくらわせたクインは地面に倒れると、すぐさま馬乗りとなったエースが何度もクインの顔面を殴りつける。

 

 

「楓さん!!… 羽畑さん何してるんですか!!?」

 

 

 アベンジは暴走するエースの背後から近づき、羽交い締めにして何とか引き剥がそうと試みた。

 だが、想像以上にエースの力は強く、トリニティウェポンの力をあっさりと跳ね除け、アベンジを吹き飛ばす。

 このまま暴れさせていたら周りもそうだが、陽奈自身も危険だ。

 

 

「楓さん!! ここは一旦羽畑さんを止める為に休戦しましょう!!」

 

「……… わかりました…」

 

 

 エースの事になればクインは動く。

 そのアベンジの予想通り、クインはエースを止める為に杖にエネルギーを溜め始める。

 エネルギーを溜める隙を無くす為、アベンジはエースの身体を両腕の鞭で固定させた。先ほどの力の差から長くは持たないだろう。

 でも、十分である。

 

 

「陽奈ッ!!!」

 

「…………」

 

 

 エースはブチブチと鞭を力ずくで引きちぎると、2人のライダーに向かって走り出した。

 それからクインは溜まったエネルギーを火球にして一気に放出する。

 

 

「………ッ」

 

 

 凄まじい熱を浴びた火球はエースの腹部に直撃し、見事に後方へ大きく吹き飛ばす。

 すぐさまアベンジはエースドライバーからスーパーハードフィードを引き抜くと、陽奈の変身が解ける。変身が解けると、糸が切れたようにぐったりとしてしまった。

 

 

「ふぅ…… 何とかなったぞ」

 

「これっきり… これっきりだから……… 陽奈を早く連れて行ってください」

 

 

 するとクイーンは再び杖にエネルギーを溜めてアベンジの方へと向ける。まさかこの状況で殺そうとでも言うのか。

 放出されたエネルギーはアベンジの顔スレスレを通り、背後から襲おうとしてきたキメイラに当たった。

 クインの攻撃によりキメイラは爆散し、それを見届けると何も言わずに何処かへと姿を消してしまった。

 

 

「楓さん…」

 

 

 それからアベンジは気絶してしまった陽奈を抱えて病院へと向かうのであった─────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 あれから陽奈はベッドの上で目が覚める。ここが病院だと気づいたのは目覚めてから周りを見渡して直ぐだった。

 部屋は個室で陽奈だけがおり、他はは誰1人と来てはいないようだ。

 

 

「─── はぁ…」

 

 

 自分が何をしたのか覚えてはいない。が、覚えておらずとも、班目から渡されたあのスーパーハードフィードが原因でこうなった事はなんとなくわかる。

 楓を止める為にと具体的な理由はないまま、ただ班目から渡されたそれを使い変身した。

 周りへの被害は? 結局楓はどうなったのか?

 陽奈は額に手を置き、何も考えぬままただぼーっと天井を眺める。

 

 

「──…… 失礼しまーす」

 

「ん…?」

 

 

 誰かが入ってきたようだ。看護師ではなく医師だろうか。男の声がする。

 それは心配で見にきた稲森であった。

 ただそれが陽奈にとって今一番会いたくない人物でもある。彼が来たことで、自分を運んだのは稲森であるという事が確定した。また借りを作ってしまったからだ。

 稲森は果物が入った籠を持っている。バナナしかないが。

 

 

「…… 何の用?」

 

「あ、いや… 心配で様子を見に来たんです」

 

「私は別に大丈夫よ」

 

「はい。医者の方も特にこれといった怪我もないから、今日中には退院できると言ってましたよ」

 

「… あっそ」

 

「………」

 

「…… ねぇ」

 

「はい? なんです?」

 

「あなたにとっての正義ってなに」

 

 

 急な質問が陽奈から浴びせられた。それもあの仮面ライダーエースからである。

 稲森からすれば一生聞かれることも、そもそも彼女が質問すること自体があり得ないと思っていた。

 目も合わせてはくれない彼女に暫く悩んだ末に、ようやく稲森は陽奈の質問に答える。

 

 

「人間も怪人も仲良く笑えるように頑張る… ですかね?」

 

「なによそれ。まるで根拠ないじゃない。そもそもそれ目標」

 

「うっ… まぁでも誰かが泣いてたり、苦しんでいるのは見てられないんです。そんな人たちにスッと手を差し伸べられる。そんな当たり前な事ができるのが正義だと思ってます」

 

「それが人間でも?」

 

「もちろんです! 誰とか関係ありません!」

 

「…… 怪人と仲良くなんて無理に決まってるでしょ。あなたあの頃の悲劇を覚えてないの? ジェスター首領のせいで、どれだけの被害とトラウマを植え付けられたか」

 

「覚えています。僕は戦えずに後ろからずっと見てました。何もできずにただずっと… だけど今は違います。このアベンジの力… 仮面ライダーの力でちょっとずつ変えていきたいんだす。それが先の見えない未来だとしても、僕にできることをただまっすぐにやっていきます」

 

「… そう。じゃあ早く出てって」

 

「えぇ… 分かりました」

 

「バナナは置いて」

 

「え、あ、はいどうぞ」

 

 

 それから稲森は「失礼しました〜」と言って、病室から出ていった。

 彼が出ていった所を確認し、陽奈はもらったバナナを手に取り、剥いて食べ始める。

 

 

「…… 悪いのは怪人よ。昔から… ずっと───」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 稲森は病院を出た後、ふらふらと街中を1人歩いていた。

 家に帰るまで何も考えずに歩いている最中、後ろから肩を叩かれそちらに振り返ると、フード姿の班目が立っていた。

 

 

「班目さん!?」

 

「どうも稲森さん。お元気そうで」

 

「…… あなたに聞きたい事があるんです」

 

「あなたは質問が多いですね。嫌という訳ではありませんが、いいでしょう。場所を変えて話しますか」

 

 

 ─── 場所はもちろん目立たない路地裏である。すぐ近くでいい場所がここしかなかった。

 班目は相変わらず何も考えているのかわからない表情を浮かべ、こちらの表情を窺っているようだった。

 

 

「それで何を聞きたいんですか?」

 

「羽畑さんに渡したあのアビリティズフィード… アレはなんですか?」

 

「あー……… あぁ! 私が最近渡したものですね。アレがどうかなさいました?」

 

「使った瞬間から羽畑さんは我を失い、目に映るもの全てを見境なく攻撃していました。今回はなんともありませんでしたが、人の自我すら失わせてしまうアレはまるで兵器です。何の為にあんな物を造ったんですか? 酷いとかそんなレベルじゃありませんよ!!」

 

「彼女が望んだから渡したのです。それだけの事」

 

「望んだ?」

 

「陽奈さんは楓さんを救いたい。楓さんもまた陽奈さんを救いたい。ですが、クインの力は、今のエースの力では到底太刀打ちできる相手ではない。そこで開発したのがスーパーハードフィード」

 

「スーパーハードフィード…」

 

「まぁこれでもクインとはスペックが離れているのですが、自我を失わせる事で躊躇という情がなくなり、最大限の力で攻撃が可能となるのです。素晴らしいでしょう? これによりスペック差はほぼ無いも同然となり戦えるのです」

 

「ふ、ふざけないでないでくださいよ…!!」

 

「ふざけてませんよ。もちろん真面目です」

 

「2人とも望まない戦いをしているじゃないですか!! 楓さんも陽奈さんも… あなたは2人に何をしたいんですか!!? あなたの造るライダーシステムは何を目指しているんですかッッッ!!! 人を変えてまでする事が重要なんですかッッッ!!!!!」

 

 

 ついには稲森の優しさにも限界が来ていた。

 班目の訳のわからぬ奇行のせいで、何人もの人が犠牲となり、挙句には仲間であるはずの陽奈までも、その親友までも班目の計画の中で踊らされている。

 その計画を実行する事は大切なのか? 他人を利用した先に何かが変わるとでも言いたいのか?

 理由はどうあれ、稲森の班目に対する怒りは更に増していく。

 

 

「おっと… そう怒らないでくださいよ。そうそう、私もあなたに用事があったんです」

 

「え…?」

 

「こちらです」

 

 

 班目から渡されたのはトリニティフィードよりも更に大きいアビリティズフィードであった。

 ジャンプウェポンと同じようにイナゴの絵柄ではあるが、少し豪華な色合いになっており、金と黒で構成されている。

 

 

「何なんですこれ…」

 

「それはトランスフィード。こちらもクインや私ことジャック。スペック的には及びませんが、対抗できる能力は備わってますよ」

 

「ありがとうございま…… じゃなくて!! あなたの目的はなんなんですか!! これ以上隠しておく必要があるんですか?」

 

「…… ここでタネを明かしてしまったら、私の計画は散々なものになってしまいます。ですが、これだけは伝えておきます」

 

「………」

 

「あなた方の力は、私の力でもあります」

 

「それって…?」

 

「私も私の為に、皆さんは私の為に人力を尽くしてください。では、また」

 

「ちょ、ちょっと!!」

 

 

 そういうと班目は姿を消してしまった。

 つまりどういうことだろうか。班目の言い分が冗談でなければ、自分たちは班目の掌で踊らされているということになる。

 それは稲森たちだけではない。ジェスターたちやリゲインの幹部たちまでもだ。

 

 

「班目さん… あなたは……」

 

 

 やはりその先にある事までは教えてはくれない。

 今はただ班目の計画とやらに利用されないよう、なんらかの手段を取るしかないのだ。

 その手段すらも彼の手の内だとしたら。悪い考えが浮かんできてしまう。

 稲森はモグロウに相談する為、急いで帰宅しようとすると───。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「う、うわあぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 すると突然、人の悲鳴声を聞き、稲森は路地裏から出てくると、そこにいたのはスイムであった。

 スイムは次々と人を襲い、男性の喉を掻っ切らんとする手前であった。

 

 

「やめてくださいスイムッ!!! 変身ッ!!!」

《Sleep on the seabed!!》

《START!! ダイブアベンジ!!》

 

 

 稲森は腰にアベンジドライバーを巻き付け、ダイブフィードを差し込んでドライバーの口を閉じる。

 仮面ライダーアベンジ ダイブウェポンへと変身した稲森は、すぐさま両腕の触手を伸ばして男性を救出した。

 スイムもアベンジに気づいたのか構えを取る。

 

 

「アベンジか。また私の邪魔をする気か?」

 

「これ以上はやめてください!! 人を殺すなんて無意味です!!」

 

「無意味? お前は本当にジェスターか? まぁいいだろう。お前もここで人間たちと同じようにするまでだ!!」

 

「なら… みんなに代わって、逆襲だっ!!!」

 

 

 こうして再びアベンジとスイムの戦いが始まった。

 その頃、リゲインの拠点では────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「…… さて、もうすぐですよ。ファングさん」

 

「あぁ、そうだな」

 

 

 そこには班目とファングの姿があった。スピーダとウェイトもその後ろで何かを見つめていた。

 目の前には液体の入った透明なガラスケースの中に、何かがボコボコと空気を吐いていた。

 

 

「私ワクワクしちゃうわ!! 久しぶりのあの方の姿が見えるとなると…!! もう我慢できないわぁん!!!!!」

 

「…… すぐに始まる」

 

 

 ファングは笑う。目の前の光景が素晴らしく、どれほどこの時を待ち焦がれたか。

 今まさに最悪が復活を遂げようとしていた。

 

 

「お待ちしておりました… 我が首領」




投稿するの忘れてました!! こんな時間で申し訳ない!!

首領復活間近…もうだめだ…おしまいだぁ…
それでは次回、第17話「変化でトランス」

次回もよろしくお願いします!!


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第17話「変化でトランス」

皆さんご無沙汰しております。

前回、仮面ライダーエースの新フォーム。スーパーハードウェポンの使用で暴走状態となり、動くもの全てを見境なく攻撃し始める。アベンジはクインとのその場限りの連携で陽奈を変身解除させることに成功し、ついでにキメイラも倒す事ができた。その頃リゲインの拠点では首領復活が目前にまで迫っていた…

それではどうぞご覧ください


「ぐぅ…!!」

 

「どうしたアベンジ? 前と動きが違うな」

 

「あなたが変わったんですよ…ッ!!!」

 

 

 現在、アベンジはダイブウェポンへと変身し、スイムと戦闘を行なっていた。

 一度戦い勝利しているアベンジは、ダイブウェポンでスイムを倒そうと試みているのだが、2度目ということもあり、アベンジの攻撃があまり通っていない。

 流石に対策を練ってきたであろう。あちらはそもそもリゲインの幹部という位置。強い以前に頭も回る。

 両腕からの毒針攻撃も、スイムの液状化能力によりすり抜けてしまう。

 

 

「液状化のタイミングから精度まで上がってる!!」

 

「当たり前だ。一度敗北し、対策を練らない方が愚者というもの。私に二度の敗北などない!!」

 

「だったらッ!!」

《Welcome!! トリニティ!!》

 

 

 アベンジドライバーからダイブフィードを抜き、トリニティフィードを差し込むと音声が流れる。

 それからドライバーの口を閉じ、トリニティウェポンへとフォームチェンジを行う。

 

 

《Tasty!!》 《Complete, my counterattack starts here!!》

《START!! トリニティアベンジ!!》

「これならどうだ!!」

 

 

 ダイブウェポンの能力が強化されたトリニティウェポンにより、今まで有意な位置に立っていたスイムを捉え、液状化する前に触手で弾き飛ばす。

 後は液状化する前に後は毒針を打ち込めば、スイムの能力を無効化させる事が可能となる。

 

 

「くっ… 流石にその姿は私よりも上手か…!!」

 

「このまま一気にッ!!」

 

「…… ならば、お前にこれでもくれてやろう」

 

 

 そしてアベンジは翼を広げ、上空高く舞い上がってから毒針を発射する。

 液状化によって毒針の連射を避け続けようとしたが、やはり限界というものがある。見事に食らってしまった。

 

 

「これでいい…!!」

 

 

 しかし、それはスイムの罠でもあった。限界が来てしまったのは事実。ただし食らうまでが彼の導き出した最後。

 そんな事を知らないアベンジはドライバーの上部を押し、上空から勢いよく降下して飛び蹴りを放つ。

 スイムは避けようとせずに、なんとアベンジの元へと駆け出す。

 

 

「えっ…!!!?」

 

「2度目の敗北などするならば──── お前の心に傷をつけて散ってやろうッ!!!」

 

「スイムダメだッ!!! やめろぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」

 

 

 もう止められない必殺のキックは、スイムの胸部にめり込んでから後方へ大きく吹き飛ばした。

 ゴロゴロと無残に転がるスイムは血反吐を吐き、アベンジに向かって、彼が絶対にしないだろう口角が限界にまで上がった微笑みを向ける。

 

 

「ス、スイム…ッ!!」

 

「最後は…… ガッ…ッ!! 首領の姿をこの目で今一度見たかったが… くくくっ… これで…ッ仕事は果たした…!!! アベンジ… お前に植え付けたぞ……… 一生消えることのない苦しみをッ!!!」

 

「あ… あぁ……!!」

 

 

 そしてスイムは喋り終わると、彼の身体はその場で大爆発を引き起こした。絶命したのだ。

 アベンジは言葉が出ず、まるで赤子のように「あ」という一文字だけがずっと続く。

 目の前にあった命は、自分の攻撃により簡単に消えてしまった。自分が守ろうとしていた命をその手で殺めてしまった。

 

 

「あぁぁぁ……ッ!!!!!」

 

 

 その光景を後ろから見る班目の姿があった。スイムは良くやってくれたと、内心とても喜んでいるようだ。

 そんな彼の手には見た事ないアビリティズフィードが握られている。とても禍々しい気を放つが、それはまだ未完成品のようで色はない。

 

 

「これがふさわしいジェスターになれるように、頑張ってくださいよ稲森さん。あなたは()()()()なのだから───」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「………… はぁ」

 

 

 陽奈はため息をつきながら、楓と何度も来ていたショッピングモールから出てきた。

 周りからは声掛けてもらったり、サインを求められたり、仮面ライダーとして… いや、父の影響力もあるだろう。

 最近よくわからない。仮面ライダーの定義や怪人は本当に悪なのかとか。

 だが、これを否定してしまえば、父がやってきた事が無駄になる気がする。楓も裏切る事になってしまう。

 

 

「………ん?」

 

 

 ふと横を見ると、女の子の怪人が3人の子供に突かれていた。人間が怪人を虐めていたのだ。

 これは普通の光景と言えば普通なのである。昔からそうだったから。

 

 

「こらっ、もうやめなさい」

 

「… あれ? 仮面ライダーの姉ちゃん? なんの用?」

 

「男3人で女の子虐めちゃダメでしょ」

 

「えー? でもこいつ怪人なんだよ? それにさっきこいつさ。睨んできたんだぜ?」

 

「いいから。世の中にはもっと危ない怪人だっているの。ほらもうあっち行きなさい」

 

「…… 変なのー。行こうぜみんな」

 

 

 何故かわからないが、見て見ぬ振りができなかった。

 今までの自分であったのなら見て見ぬ振りをしただろう。それが怪人たちにとっての報いだと思っていたから。陽奈はそう信じていた。

 その場から立ち去ろうとすると、誰かにズボンを引っ張られる。

 

 

「なに?」

 

 

 それは助けられた女の子の怪人である。口をモゴモゴとして何かを言いたげなのだが、見た目通りの性格だろう。とてもオドオドとした子だ。きっと感謝の言葉を言いたいのだ。

 陽奈は女の子の頭にポンッと手を置き、その子の目線と一緒になるように座る。

 

 

「言いたい事があるならはっきり言いなさい」

 

「… あ…… ありがと……」

 

「別にいいのよ。流石に怪人と言えど、女の子が虐められてるんだから助けるのは当然」

 

「うん… ねぇ、お姉さんは仮面ライダーの人?」

 

「そうだけど?」

 

「そうなんだ… えへへっ」

 

「な、なに? 急に笑ったりなんかして」

 

「やっぱり仮面ライダーって正義の味方なんだね」

 

「…… もちろんよ」

 

「パパとママはね… 仮面ライダー嫌いって言うけど、私は好きなんだ」

 

「どうして…?」

 

「だってみんなの為に戦ってるんだよ…? 私たちができないような事できるんだもん。凄くかっこいいの」

 

「…っ」

 

「正義のヒーローだよ」

 

 

 何だろう。とても胸が締め付けられる思いに襲われた。

 正義のヒーローってなに? こんな小さな女の子も怪人であるなら放っておいたこの私が? 今更何をしているの?

 陽奈は立ち上がると、その女の子の顔を見ずに、早足でその場を後にする。

 

 

「もう訳わかんない…!!」

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 スイムを倒した稲森もまた1人で街を歩いていた。

 絶対やらないと、言葉でも、心の中でも決めてていた事をやってしまった。スイムの命を奪ってしまったのだ。

 仮面ライダーになってまだ日は浅い。陽奈から自分が思う正義を聞かれた時には、それなりの自信を持って言えていた。

 ただ今は、その正義すらも守れなかった自分がいる。わざとじゃない。自分からではない。悪いのはあいつだ。

 どうすれば逃げられるのか。そんな犯罪じみた考えが何度も頭を過る。

 

 

「…… モグロウ」

 

 

 こんな時は頼れる親友を探す。

 そういえば最近、モグロウと会っていないような気がする。彼は一体どこへ行ったのだろう。

 モグロウを探す彼の元へ1人の男が近づいてきた。今1番会いたくない相手でもある。

 

 

「──── 班目さん…」

 

「これはこれは稲森さん。奇遇ですねぇ…… おや? 顔色が優れませんが、どうされましたか?」

 

「…… スイムを… 殺してしまったんです…」

 

「ほう、それはなんとも… ですが、これで良かったんです」

 

「… え?」

 

「彼はこの世界の害です。あなたもわかっているでしょう? このままでは世界がリゲインによって占領されてしまいます。それを止める為にもまずは幹部を倒す。何がいけないんですか?」

 

「僕はそれでも殺したくありませんでした… 僕は…… 同族の命を奪ってしまった…」

 

「弱肉強食の世界でそんな事は言ってられません。彼もあなたも命をかけて戦った。結果として待っているのは何か?…… そう、生きるか死ぬかです。あなたは間違ってなんかない」

 

「…… あなたにはわかりませんよ。だって班目さんは平気で人も怪人も… どちらの命も奪っていく。そんなあなたに奪ったものと奪われたものの気持ちがわかりますか?」

 

「えー…… まぁ、そうですね。わかりますよ。だからと言って、私の計画が変えませんよ。それが全ての生き物の安全に繋がり、救いになる」

 

「班目さんの計画ってなんなんですか? 前に言っていたあの言葉の意味は?」

 

「あーあの… 言葉通りの意味です。私はあなたの力であり、あなたは私の力なのです。つまり私が言いたいのは、あなた達ライダーの力を使い、この世界を変えようと思うんです」

 

「世界を… 変える?」

 

「人間とジェスター。交わる事がなかったそれらは結局共に生きる事を決めた。ですが、それはジェスターにとっては地獄。共に生きる? どこがです? こんな理不尽な世界、訳がわからないでしょう? だから一度戻すんです。元の状態に」

 

「元の状態…… 元の状態ってなんですか」

 

「元は元ですよ。()()()()()()()()()()()()()()

 

「そんな…!!?」

 

 

 この班目の言う事が正しければ、もう一度10年前の怪人と人間の戦争を引き起こすという意味になる。

 ありえない。じゃあ今までの班目とマダラメは、どちらの姿も、どちらの勢力もこの男の手の内で転がされていたという事。

 

 

「…… 最悪だ」

 

「ん?」

 

「最悪で最低ですよ…!!! あなたはッ!!!」

 

「よく言われるんです。悪とか低とか… それであなたはこの話しを聞いてどう出るんです?」

 

「あなたを止めます」

 

「どうやって?」

 

「力ずくでッ!!!」

《アベンジドライバー》

 

「… ははっ、そう来ましたか。いや、そう来ると思ってましたよ」

《ポーカドライバー》

 

 

 班目はポーカドライバーを腰に巻き付けると、ダイヤのマークが描かれたカードを取り出し、それをドライバーの上部から差し込むと《ダイヤ!! ベット!!》という音声が流れ、メタリックな音楽が流れる。

 顔の横で指を弾いて音を鳴らして「変身」と呟き、ポーカドライバーの両サイドを引っ張ると、真ん中にダイヤのマークが出現し、彼の身体をダイヤが包み込む。

 やがてそれらはアーマーを形成し終えると、割れて、仮面ライダーが姿を表す。

 

 

《Let's call!! ダイヤジャック!!》

「仮面ライダージャック。人前では初変身ですね」

 

「あなただけは絶対に…!!」

 

「おっと、トリニティをお使いに? やめておいた方がいいですよ?」

 

「… トランスを使えって言うんですよね?」

 

「で、なければ私に勝つ事は不可能。最もそのトランスすら私のスペックには及びませんが」

 

「……… なら、使います。どうせこれも、あなたの予想通りなんでしょうから」

 

「おやおや?…… 頭がよろしいですね」

 

 

 それから稲森は腰に巻いたアベンジドライバーに、トランスフィードを差し込む。《Welcome!! トランス!!》と音声が鳴るが、あまりの大きさに、ちょうどドライバーの口が閉じないようになってしまっている。ドライバーの半分を埋め尽くしていた。

 しかし、稲森は班目に聞くことはせず、そのままトランスフィードの上部を叩くと、《tasty!!》という音声と共に、ジャンプウェポンと同じようにイナゴがアーマーと化す。ただ色は霞んでおり、本来の色が明るいのであれば、こちらは対照的に暗いイメージだ。

 いつも通り噛み付かれ、痛みに耐えながらアーマーが形成されたアベンジの新たな姿が露わになる。

 

 

《The war begins again, we're the last to laugh》

《START!! トランスアベンジ!!》

 

 

 身体に異常はない。特に暴走といったような事はなく、普通に相手が誰であるか、自分が何者であるか認識はできている。自我はある。

 特に変わった様子もないが、班目が何かを仕込んでいるのは間違いない。

 この力を使い、班目にわからせてやるのだ。命を待て遊ぶ彼に裁きを下す。

 

 

「班目さん。覚悟してくださいよ…… 逆襲だッ!!!」

 

「ふふふっ… さぁ、来てください!! 私に私の!! あなたの力を見せてください!!」

 

 

 そしてアベンジの拳が、ジャックへと放たれる──。




アベンジvsジャック。どちらが勝つのでしょうか!
初手で負ける新フォームさんにはならないで。

次回、第18話「お前がビトレイ」

次回もよろしくお願いします!!


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第18話「お前がビトレイ」

皆さんご無沙汰しております。

前回、怪人の子供を助けた陽奈。その子から仮面ライダーは正義のヒーローと言われ、自分の正義について疑問を抱く。一方で稲森は、スイムを殺してしまった過ちに苦しみながら街を歩いていると、班目と出会した。命を軽んじる班目に怒り、彼と対峙するために、仮面ライダーアベンジ トランスウェポンとなって仮面ライダージャックと戦うのであった…

それではどうぞご覧ください。


 攻撃は最大の防御とは言うが、防御無くして攻めることは、あまりにも無謀と言えるのもまた事実。

 そして今、アベンジが戦う相手は班目が変身する「仮面ライダージャック」。ジャックのスペックは現段階で最強と言わざるを得ない性能と、1番飛び抜けているのはその硬さにある。

 100t以下の攻撃力であるなら、彼の装甲を突破することなどできない。それら全てを無効化してしまう頑固さを持つ。

 故に────。

 

 

「くっ…!!」

 

「稲森さん、どうされましたか? 生半可な攻撃では、私の防御は突破できませんよ?」

 

 

 それにしてもなんて硬さだろう。攻撃を加える度にそう実感する。

 何度も何度も殴り、蹴り、ジャックよりも多くの打撃を与えてはいるが、やはりその装甲の前では無力だ。

 

 

「これでッ!!」

 

 

 アベンジは装甲の薄い部分、首元を狙って蹴りを浴びせる。そこでよろけた所をすかさず殴った。

 一瞬の隙もない繋ぎだ。これで少しでもダメージが与えられるなら…。

 最初はそう思っていたが、殴った直後に拳が止められた。本当に多少。ほんの少しのダメージ。

 

 

「これは意味がありませんねぇ?」

 

「まだまだ……ッ!!」

 

 

 それからジャックはアベンジを投げ飛ばし、落ちてきた所を狙って蹴り飛ばす。腹部をしっかり捉えた、重い一撃が入る。

 

 

「かはっ…!!」

 

 

 無様にゴロゴロと地面を転がり、ブレーキを掛けて止まってから、ゆっくりと身を起こす。

 結局レベルが違う。スペック差は埋まらない。こんな戦力さでそもそも勝てるはずがなかった。

 

 

「強い……」

 

「それは当然です。私のライダーシステムの方があなたよりも上なんですから」

 

「じゃあ、このトランスウェポンは無駄って事ですか」

 

「無駄も何も無駄にしているのは、稲森さんです」

 

「… え? 僕が無駄に?」

 

「トランスの力はその程度ではありません。それに気付けるか… ですがね?」

 

 

 トランスの力と言われても、初めて使って初めて動いているのだからわかるはずがない。

 ただ敵と見做した相手に教えをこう、というのも気が引ける。そもそも勝てる可能性が限りなく低い。

 

 

「はぁっ!!!」

 

「またただの攻撃ですか? それでは意味がないんですよ」

 

 

 再びジャックを殴打するアベンジ。無駄な行為である。

 ジャックも呆れてため息を吐き、拳を受け止めると、逆にアベンジを殴り飛ばした。

 

 

「残念ですよ。もはやここまでとは…」

 

「ま、まだです!!」

 

「うーん… トランスの戦闘データを取ろうと思いましたが、今日はやめておきますか」

 

「僕は… まだ…… うおぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

「全く…… では、この一撃でこの場は終わりにしまし……っ…!!!」

 

 

 また殴りかかってきたアベンジに対し、片腕でそれを受け止めようとした。

 だが、ジャックはそうしてしまった自分の判断を間違えた事に気づく。彼を、アベンジを軽く見た。元より警戒しておくべきだったのだ。

 ─── 最強の戦闘部族の生き残りの強さを。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 

 アベンジの身体から凄まじいエネルギーが漏れ出したかと思うと、ジャックの腕のガードを超えて頬に直撃させた。

 ミシミシと音を立てながら、先ほどまで全く不動であったジャックが、後方へとすっ飛んでいく。

 たった1度の、たった1撃のパンチで。

 

 

「ぬぐぅ…!!!?」

 

「こ、これは……? 僕は一体何をしたんだ?」

 

 

 あまりに突然の事に、アベンジ本人でさえ何があったのかよく分からなかった。

 全身から漲るような力を、拳に込めた瞬間、何度やっても倒れようとしなかったジャックが吹き飛ばされていたのだから。

 

 

「──── これはこれは… 警戒はしていたつもりでしたが、やはり()()()ではなく、()()していなければなりませんでした」

 

「トランスの……」

 

「そうです。トランスウェポンは『溜め込む』という能力があります。それは受けたダメージ、あなた自身の力を一点に溜める事で発動する、少々時間の掛かる力ですが、まさか説明もなしにやってみせるとは…… 流石の成長速度。素晴らしい」

 

「…… あなたには真実を話してもらいます。今日ここで。この場で!!」

 

「ふふふっ… いいですねぇ。ならば、その新たな力で私を倒して見てください。まぁ最も、溜めるという隙のあるデメリットで、格上である私を倒せるのならですけど」

 

「やってやりますよ!!!」

 

 

 ジャックの挑発とともに、アベンジが駆け出すと、突然目の前にモグロウが現れた───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 何処かの人知れずの場所。そこにリゲインの本拠地が存在する。

 リゲイン内部は幹部たちが出入りする事だけを許され、他のジェスターたちは傘下であったとしても入ることを許されない。そもそもリゲインの場所は知るものより、知らないものの方が多過ぎる。

 そんな中で、リゲインの内部ではとある計画が完了した。

 

 

「おい、スピーダ。班目はどこだ」

 

「それがねファングちゃん。スイムちゃんも来てないの」

 

「……… 奴め。次はないと言ったはずだがな」

 

「班目ちゃんの始末については後よ。それよりお顔を早く見たいわぁん!!」

 

「いいだろう…… ウェイト、スピーダ。あの方をお連れする。跪け」

 

 

 ウェイト、スピーダの2人は、ファングに言われた通りその場で跪く。

 すると、奥からファングが車椅子を引きながら現れる。車椅子に乗っている人物は顔全体を包帯で巻き、手足もダランとしており、本当に生きているのか怪しいものだった。

 ただ2人は頭を下げる。その人物がどれだけ高い地位なのかわかっているからだ。この世で1番偉いお方。この世の支配者。

 

 

「─── 首領。復活おめでとうございます。我らジェスター一同、心よりお待ちしておりました」

 

 

 そしてファングもまた、2人に続いて首領の前に跪く。

 そう彼こそがジェスターの首領。ジェスターの頂点に立つ怪人の王。

 

 

「…… 顔を上げろ」

 

 

 首領がそう言うと、3人はゆっくり顔を上げる。

 ついにこの日が来た。ファングは内心、この上ない喜びを抑えているのだが、敢えて出さない。いや、首領の右腕として、No.2として出してはならない。

 

 

「現状を話せ」

 

「はっ… 現状─────」

 

 

 それからファングは今まで起きたことを全て、どこも漏らす事なく全てを真実のままに報告した。

 やはり首領は話を聞いて怒りを露わにしている。アベンジドライバーの件や班目という男の身勝手による仲間の死。更には怪人に対する理不尽と、それを良しとして共に平和に暮らす怪人たち。許せるはずがなかった。

 表情こそわからない。ましてや動くこともない。ただ首領の気迫だけは彼ら3人にヒシヒシと伝わってきた。

 

 

「復活直後から、私の機嫌は最悪なものとなった。これが世界の現状か。あまりにも腹の立つ事ではないか? ファングよ」

 

「はい、私もそう思います」

 

「やはり人間は全滅させなければならない生き物のようだ。今回ばかりは誰1人生かしておくわけにはいかない」

 

「はい、我々…… 否、あなた様の為となれば、我々はいつでも動きましょう」

 

「…… まず楓という人間にエースを捕らえさせろ。仮面ライダーエースだけはこの私が殺す。すぐには殺さん。苦痛を与えてから殺そう。地獄を見せてやろう。奴の娘に… なぁ? ()()もそう思うだろう」

 

「では、我らは動きます。失礼致します」

 

 

 首領をウェイトとスピーダに任せ、ファングたちは楓の元へと移動する。

 リゲイン内のとある一室に楓はいる。いつも何かをぶつぶつと言い続けているが、そんなもの興味はない。どうでもいい事。

 全ては首領の意思のまま動くだけ。全ては首領と共にある。

 

 

「楓」

 

「………… あぁ、ファングさんですか。何かご用でしょうか? 私は怪人とはあまり話したくありませんし、寧ろ殺意が湧いてきます。最近止められないんです。ここに居させてもらっていますが、あなたたちを今すぐにでも殺したくて仕方ないんです」

 

「…………」

 

 

 部屋の中は傷だらけであり、1人の女性の部屋ではなく、まるで怪物でも住んでいるかのような酷い有様となっていた。

 徐々に楓の心が変わっていく。楓が楓で無くなってしまう。班目が何をやったかは知らないが、なんと哀れな事だろうか。

 しかしそれも全て計画のうちの1つであるなら、問題などない。彼女はただ一点に集中して貰えればそれでいい。

 

 

「率直に言わせてもらおう─── アベンジを殺せ。そしてエースを連れてこい」

 

「何故? 稲森さんは殺しても構いません…… ですが、陽奈だけは許しません。あなた達は陽奈に何をする気なんですか?」

 

 

 そう返されると、わかっていた質問である。ファングはすぐに答えた。

 全く適当な言葉。偽りを。

 

 

「もう陽奈はダメだ。完全に変わってしまった。あぁなってしまった以上、俺たちの力を使わなければどうしようもならない」

 

「どういうことですか?」

 

「陽奈を呪縛から救える。そして治った後は、お前達が恨んでやまない俺たちを殺せる。俺たちはそれで構わない。リスクはあるが、俺たちはアベンジを殺せるだけでいい。後はお前の好きにするといい」

 

「……… 本来なら私はここでノーと答えます。ただ陽奈がそれで救われるのであれば行きましょう」

 

「あぁ、助かる」

 

 

 こんなに適当であるのにも関わらず、楓は信じてしまった。彼女にはもうどうすることもできない。だから信じるしかない。

 ファングは堪らず表情に出してしまう。普段出す事のない笑みを浮かべ────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「モグロウっ…!!? あぶなっ!!!」

 

 

 急に目の前に飛び出してきたモグロウに、アベンジは地面を蹴って後退する。勢いがついていたので、ブレーキが効かないと考えての行動だ。

 しかし、これによりジャックとの距離が開いてしまった。

 

 

「モグロウ!! 危ないから下がってて!!」

 

「………」

 

「ちょっと聞いてる!!?」

 

「…………」

 

「モグロウ…?」

 

 

 彼の様子が明らかにおかしかった。

 不自然な所でアベンジの前に出てきたり、目の前の光景が幻ではないのなら、モグロウはジャックを庇っているように見える。

 

 

「ねぇ、モグロウ。これはどういうことなの? 最近連絡もくれないから心配してたんだ。何かあったの?」

 

「…………」

 

「答えてよ!! 親友ッ!!!」

 

「──────……… すまん。イナゴ」

 

「え?」

 

「俺はお前を裏切る」

 

 

 すると、モグロウは御法度である怪人態へと姿を変える。

 モグラのような鋭い爪と長い鼻があり、爪は長く鋭い刃が3つに分かれ、鼻はドリル状の物へと変化している。全身は機械のようなアーマーで、コード線が所々に繋がっている。

 稲森はモグロウのその姿に言葉が出なかった。彼の怪人態はあれほど凶暴性のある姿をしていないからだ。

 

 

「いやいや、モグロウさん。その姿はお久しぶりなんじゃないですか?」

 

「… 何を言ってるんですか? 班目さん」

 

「何を言っているもこうもこれがモグロウさんのお姿です」

 

「違います!!! モグロウに何をしたんですか!!!!!」

 

「逆にあなたが何を言っているかわかりませんね。これが本来のモグロウさんですよ。稲森さんは知らないでしょうけど」

 

「は…?」

 

「モグロウさんは自分を偽ってきた。幼少時代からずっとです。あなたにだけは黙っていたんですよ。数十年前のあの戦争の時、何故彼がいなかったかわかります?」

 

「え… え、え…?」

 

 

 数十年前と言えば、ジェスターが人間を家畜同然の扱いをし、まさにジェスターが世界を総ていたそんな時代。

 その時、モグロウは稲森の元からいなくなっていた。完全ではなく、偶にふらっと現れて稲森の事を気にかけてくれていた。前より会う機会が減ったのは、この時仮面ライダーエースが現れて世界を救っていたはず。

 仕方のない事だと思った。何故なら戦いの真っ只中なのだから。

 

 

「モグロウ…… まさか君はッ!!」

 

「……… あぁ、そうだ稲森。お前の想像通りだ」

 

 

 モグロウの口から嘘だと思いたい、偽りの言葉ではなく真実が稲森に伝えられる。

 

 

「─── 俺は首領の傘下だった」




話しの内容が今回てんこ盛りでした!!
それぞれの件についてはまた次回!!

次回、第19話「悲劇のフレンド」

次回もよろしくお願いします!!


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第19話「悲劇のフレンド」

皆さんご無沙汰しております。お陰様で執筆速度が早まってます。

前回、ジャックと対峙したアベンジは、トランスの性能を引き出し、見事にジャックの防御力を突破して見せた。その頃、復活を遂げた首領はエース、現エース陽奈に地獄を見せるため、その親友である楓を使おうと判断する。裏で暗躍が進む最中、アベンジの前にモグロウが現れ…

それではどうぞご覧ください。


「傘下って…… どういう事だよモグロウ!!」

 

「お前には言ってなかったな… いや、俺が言おうとしてても言えなかった」

 

「モグロウ… 話してよ。今から君の事情も知らずに……… 戦うことになるなんて嫌だよ」

 

「俺も本音を言えば、お前と戦い合いたくない… だけど仕方がないんだ。許してくれ…」

 

「なんでそんな急に……」

 

「…… 俺の家系は元々首領の傘下で… あの戦争にも俺は出てた。いや、出るしかなかった。そうしなきゃ俺の命も、一族の命も危なかった───」

 

 

 *****

 

 モグロウの一族は古来より、ジェスター首領に仕える身であった。

 一般的なジェスターも勿論のことだが、モグロウたちはその命すらも首領に捧げる掟があり、彼の下す命令に背く事は許されない。

 ただし、これはモグロウたち一族の掟である。首領は裏切り者は絶対に許さないが、ジェスターという怪人たち、民の自由は与えていた。だからこそ数十年前の戦争時、戦いを好まないジェスターたちには手を出さず、そのまま安全な場所へと暮らさせていた。あくまで本人たちのやる気次第だ。

 しかし、モグロウたちは先人が作った掟を破る事なく、王の意思が強い方へと歩む。例えそれが()()の仕事だったとしてもだ。

 

 幼少時のモグロウも掟のままに従い、いつか下されるであろう命令を待ち続けていた。いざ汚い命令をされても、一族はそれを喜びと感じていたが、ただ1人モグロウにとっては不本意なものだった。

 何故争わなければならないのか? 何故殺さなければならないのか?

 幼くてもその疑問は出てきた。いや、今でもその疑問は晴れる事はない。結局答えは出せない。

 

 

「モグロウ? 何考えてるの?」

 

 

 そんな時、出会ったのがイナゴ(稲森)だった。

 彼は喧嘩もしたことがないという。人を傷付けるのが嫌だからだそうだ。こんな弱っちぃのがそもそも戦えるのか… と、モグロウは思った。

 しかし、何年も何年も共に過ごすうちに、イナゴという男がどれほど強い男なのかよくわかっていった。肉体的な強さじゃない。心が強かった。

 彼だけなんだ。はっきりと首領を否定していたのは。

 心でも、言葉でも────。

 

 ──── 月日は流れ、戦争が終わり、ジェスターたちは負けた。後の条約が完成し、ジェスターたちは今までやってきた重い罪を背負いながら生活している。

 イナゴも相変わらずにやけた面をして、モグロウに話しかけてくる。戦争にも出ていない彼が、なんの罪もない彼がどれだけ苦しいかわかる。

 だから表情に出してくれよ。なんで出してくれないんだ。

 モグロウは彼に会う度にそう思う。だからいつまでもこの生活が変わらなければいいのになと思っていた。

 だが、首領復活が近いという事を聞かされ、モグロウは迷った。

 

 

「どうします? あなたは首領を裏切るんですか?」

 

 

 街中を歩いている時、班目に話しかけられた。

 話を聞く気など毛頭なかったが、首領という名を聞かされ立ち止まってしまった。

 

 

「裏切るつもりはない……」

 

「おや? なら、知っていますよね。首領は裏切り者を嫌います。ましてやあなた達一族は首領に仕える身。命令には絶対に背く事はない。首領が全て…… の掟。ですよね?」

 

「わかってる。いちいち言うんじゃねーよ」

 

「一族の裏切り者は、一族全ての責任。あなただけでなく、あなたの家族やご友人。親しみある人物の命でさえ────」

 

「わかってる!!! 黙ってろ!!!」

 

「おやおや… では、あなたはどうするんですか? 私も一応リゲインの1人ではありますが、首領の復活は止められない。しかし、私はそれを望んでいる… ただ復活してからだと、ファングさんがご報告をしてしまうので、私の地位も危ういことになってしまいます。せっかくの復活支援者も裏切り者として殺す事でしょう」

 

「…… 何が目的だ?」

 

 

 班目は不敵な笑みを浮かべ、モグロウに言う。

 

 *****

 

「僕を首領に献上する…?」

 

 

 アベンジにモグロウの口から伝えられたのは、アベンジ… 稲森を首領に献上する事で一族の命は助かるとの話しだった。

 そう、班目には策があった。こうなる事は予想済みだったので、モグロウの掟とやらを使い、一族の命を助ける為の秘策があると伝える。

 そして稲森たちの一族はかつて首領に歯向かった反逆者。首領にとっては仮面ライダーエースの次に、いや同じと言っていい程の憎しみがある。それの生き残りだとしたら、目の色を変える事だろう。

 つまり、モグロウは稲森の協力者、裏切り者という汚名を晴らせ、首領に認めてもらう事で一族の命を助けられる。

 一方の班目はそれを口実に裏切り者としての罪を軽くし、とある準備を進める時間ができるというもの。

 

 

「イナゴ…… 俺は戦いたくない。でも… 俺の家族も巻き込むわけにはいかない」

 

「…… し、仕方ないよ!」

 

「は…?」

 

「だってさ。家族は大事だし、僕は親友が悲しむ姿見たくないから」

 

「俺は今からお前を…… わかるだろ? 首領に命を渡そうとしてるんだぞ?」

 

「そうだね。だから行くよ… リゲインにさ。それでモグロウの家族が救われるなら…」

 

「やめろ… なんで…… お前どうせ仮面の下で笑ってんだろ? そんな顔しないでくれ…… 頼むからッ!!」

 

 

 見えないはずの仮面の下がどんな表情をしているか。モグロウには痛いほどよくわかった。

 ずっと一緒に過ごしてきた親友だからわかる。こいつはそういうやつなんだ。本当は苦しいのに全くそんな事ない、という風に笑って見せる。

 

 

「モグロウさん。早くしてくださいよ? 首領はもうこの地に復活を遂げているんですよ?」

 

「黙れぇッ!!!」

 

 

 モグロウは地面に穴を開け、そのまま何処かへと消えてしまった。

 首を横に振り、ジャックから変身を解いた班目は、アベンジに背を向けてその場から去ろうとする。

 

 

「待ってください班目さん!!」

 

「やれやれ… どうやらもう少し時間がかかりそうです。ですが、まだ時間はあります。あちらも私の始末より先にエースを標的にするでしょうから」

 

「あなたは命をなんだと思ってるんですか…?」

 

「私にとってはどれも並行です。上でも下でもなくね…… では、また────」

 

 

 班目はそういうと、その場から姿を消した。

 それから変身を解いた稲森は、穴の開いた地面に近づいて触れる。稲森にはしっかり見えていた。モグロウが泣いているところを。

 

 

「僕が必ず助けるよ」

 

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 陽奈は街中にあるベンチで楓を待つ。

 先日、楓から連絡が来て、この場所を指定した。何かの罠であるという事を察してはいたが、そのまま放っておくわけにはいかなかった。

 

 

「楓……」

 

 

 そう呟くと、急に周りの人々の悲鳴が聞こえ、目の前にクインが現れ、陽奈の元へと近づいてきていた。

 

 

「来てくれたんだね」

 

「えぇ、来たわよ。ねぇ、楓?」

 

「なに?」

 

「私は正義がなんのかよく分からなくなってきたの」

 

「やっぱり…… 陽奈、大丈夫。私が救ってあげるから」

 

「だけどね。少しわかったことがあるわ」

 

「………?」

 

「泣いている子にそっと手を差し伸べてあげる。そんな当たり前のことができるのが、正義の味方だってね!!」

《ダッシュ!! Open!!》

 

 

 エースドライバーにダッシュフィードを差し込み、それからエースは構える。

 このままずっと戦わなければならないのなら、今ここで楓を倒し、ポーカドライバーを破壊する。

 

「変身ッ!!!」

《Come on!!》

《Let's try エース!!》

 

「陽奈ッ!!!」

 

「楓ッ!!!」

 

 

 エースはエースガモスボウを取り出し、先制して矢を発射する。

 飛んでくる矢を、クインは杖で弾きながら近づき、杖から炎のエネルギーを放出して纏わせ、エースに炎の一撃を喰らわせる。

 

 

「きゃぁっ!!」

 

「怪人は悪いやつ!! そうでしょ陽奈!!!」

 

 

 真正面からやり合うのは愚策。機動力で翻弄するしかない。

 それからエースは羽を広げ、空に舞い上がり、凄まじいスピードで飛行しながら、エースガモスボウの矢を放つ。

 上から降り注ぐ雨のような矢とダッシュウェポンのスピードに対応できず、まともに被弾してしまったクインは堪らず膝をつく。

 

 

「陽奈ァ……」

 

「っ…!!」

 

 

 クインの悲しげな声を聞き、エースは一瞬躊躇ってしまった。

 その隙をついたクインが上空へ、黄色いエネルギーの球を飛ばす。バチバチと音を鳴らすそれは雷のエネルギー。

 それはエースの元へと辿り着くと、エースの頭上に雷雲を作り出し、強力な雷が彼女へと降り注いだ。

 

 

「あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 

 直撃してしまったエースの羽はボロボロになり、飛行能力を失って地面に落下した。

 エースの元へと近づくクインの身体は、もう既に完治していた。あれだけの矢を浴びせようとこの程度。やはり性能が違う。

 クインは杖を構え、今にもエネルギー弾を撃ち出そうとしている。

 

 

「まず眠っててね陽奈。必ず治してあげるから…」

 

「…… あなたはこれでいいの?」

 

「なにが?」

 

「私たちは親友でしょ?」

 

「うん、もちろん」

 

「親友を訳わかんない奴らに渡してもいいの?」

 

「… なんで知ってるの?」

 

「わかるわよ… あなたと何年親友やってると思ってるのよ。どうせ唆されたんでしょ? 私を連れて行けってリゲインの… ファング? 辺りかしらね。なんの目的かは知らないけど、首領を殺した私の父に復讐でもしたいんでしょ」

 

「………」

 

「あなたはホント騙されやすいからね。お馬鹿よ…… でも、私はそう易々と誘拐なんかされないわ。私には… あなたを救うって使命があるもの」

 

「違う…… 陽奈を救うのは私……… 私なのッ!!!」

 

 

 するとクインは街に雷を降らせ破壊していく。理性の糸が切れてしまったのか。彼女の心も苦しんでいる。助けて欲しいと願っている。

 もう彼女を止めるには、救う為には、この力を使うしか方法はない。

 

 

《大・暴・走》

《スーパーハード!! Open!!》

「お願い…… もうこれ以上、親友を苦しめないで…… その薄汚いドライバーをぶっ壊して…!!!」

 

 

 エースはドライバーにスーパーハードフィードを差し込んで側面を押し込む。

 この力しか彼女に勝つ方法がないから。班目の力に頼るしかないから。

 

 

《Come on!!》

《Let's try スーパーハード・ハード・ハード!! エース!!》

 

 

 再び変身した暴走形態。スーパーハードウェポン。

 彼女に最早理性などない。あるとするなら、目の前に映る全てを破壊し尽くす破壊衝動のみである。

 エースはクインを飛び蹴りし、吹き飛んだ所へすかさず追撃の蹴りを浴びせる。

 

 

「ひ、陽奈…?」

 

 

 名前を呼ぼうが意味はない。声すら届いていない。

 膝をついたクインの首を持ち上げ、何度も地面に叩きつける。何度も何度も何度も何度も。

 クインの仮面にヒビが入り始めると、エースは腹に膝蹴りを喰らわせ、反撃の隙を与えない程の凄まじい拳でのラッシュが叩き込まれる。

 

 

「かはっ…!! やめて……… 陽奈ァ……」

 

「……………」

 

 

 さっきまでのクインとは違い、本当に恐怖した声で彼女の名を呼んだ。

 その掛け声は意味もなく、陽奈は側面を押し込み、必殺技を発動する為のエネルギーを脚部へと溜め始める。

 

 

「助けられなかった…… 陽奈、ごめんね…」

 

 

 クインは覚悟を決めて目を瞑り、必殺のキックをその身で受けようとした。

 しかし、その時であった。エースの後ろから少女の声が聞こえ、エースはそちらを振り向く。

 その声の正体は陽奈が助けた怪人の少女だった。

 

 

「お姉ちゃんダメ!!」

 

「………」

 

 

 するとエースはクインから離れ、少女に向かっていく。

 

 

「お姉ちゃんにね!! ちゃんとお礼してなかったからこれ渡そうと思ってたの!!」

 

 

 少女の手には飴が握られており、それを手を開いて見せた。

 

 

「… お姉ちゃんを探してきたらね。こんな事になってて…… ダメな事はわかってるよ。でも、お姉ちゃん…… お姉ちゃんじゃなくなってたから……」

 

「…………」

 

「仮面ライダーは正義の味方だよ! だから悪いやつをやっつけて! 友達をやっつけちゃダメだよ!」

 

 

 小さな身体から大きな声を必死にあげ、エースを静止しようと何度も声を掛ける。

 だが、それは響くことのない。ただの音に過ぎない。

 そしてついに、エースは右脚に溜め込んだエネルギーを放出した。少女に向かって。

 

 

「え……」

 

「小さい… 怪人…… 陽奈…………ダメだよ… やめて陽奈ッ!!!」

 

《Thank you!! スーパーハードエースライド!!》

 

 

 凄まじい爆音が街に響き渡った。




ファッ!!?
これはまずいですよ…!!タイトル通り友達ということでね……はい。

次回、第20話「過ちのミステイク」

次回もよろしくお願いします!!


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第20話「過ちのミステイク」

皆さんご無沙汰しております。

前回、モグロウの過去を知った稲森。稲森を連れて行けば家族が助かると言われた稲森は迷わずついて行こうとするが、その純粋な心にモグロウは一度その場から逃げ去ってしまった。一方の陽奈は楓と再び戦う事となったが、その強さに手も足も出ない。何としてでも彼女を止める為、スーパーハードウェポンを使用するが、自我を失い暴走。その時、彼女の前に現れたのは助けた少女であった…

それではどうぞご覧ください。


街中に響き渡る爆音。

先ほどまでエースに声を掛けていたクインだったが、目の前に広がる光景に何も言えず、ただ瓦礫や砂煙が立ち込める方をジッと見続けていた。

 

「陽奈……?」

 

「…………」

 

 

砂煙が徐々に消えていくと、怪人の少女の姿が見えて来る。

クインは最初、この怪人は死んでしまったのだろうと思っていた。ただでさえ、スーパーハードの暴走はクインでさえも止める事は厳しい。そしてそれがただの怪人、しかも子供だったとしたら耐え切れるだろうか。

結果は考えずとも無残な姿か、そこから消えて無くなっている事だろう。

 

 

「………嘘」

 

 

だが、それはクインが思っていただけの話しである。

目の前の少女は擦り傷はあるが、その他どうということはなさそうにピンピンしている。本人も何があったのか分からないようで、自分の身体を触ってみていた。

そう、エースの必殺のキックは少女の後ろの建物を潰しただけで、少女自身には大したことはなかったのだ。

あの暴走状態で一体どうしたというのだろうか? 無駄なはず。スーパーハードの暴走は止められないはずだ。

 

 

「…ぅ…っ!!!」

 

 

しかし、エースは耐えて見せた。

これは班目さえも予測できなかったことである。完全なる暴走をテーマに作成されたこれを、いとも簡単に操ることはできない。そもそもそういう設計ではない。

それでもエースは無理やり止めた。通常出来ないことをやって見せた。

 

 

「……うぐぅ…… くっ、あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

それから陽奈はエースドライバーからスーパーハードフィードを引き抜く。

変身が解除され、激しく息を吸っては吐き、酸素を取り込もうとする。それほど今の状態は厳しかった。理性を保てたのは奇跡に近い。

 

 

「お姉ちゃん…? 大丈夫?」

 

「───── えぇ、大丈夫よ。あなたは?」

 

「うん! 大丈夫!」

 

「ごめんね…」

 

「うぅん! 私、全然気にしてないよ! それよりもお姉ちゃんが治ってくれてよかった!」

 

「はぁ…… ホント変な子ね」

 

 

2人の会話を側から見るクイン。怪人と親友が笑い合っている。楽しげな会話をしている。

陽奈が暴走して、少女を殺しそうになって、さすがの楓も彼女を止めようとした。それが楓の良心。一瞬だけ現れた、戻ってきた本当の楓。

だが、2人の笑顔を見ると我慢できなくなった。自分の中にある何かが再び噴火する。してはいけない憎悪が込み上げる。

 

 

「陽奈は…… 陽奈ァ… ダメだよ。怪人と仲良くなんてしたらッ!!!!!」

 

「ん…? 楓────」

 

 

クインの内にあるものと呼応するように、杖へと赤黒いエネルギーがみるみるうちに溜まり、巨大な熱エネルギーの塊となる。

そして怒りや嫉妬、憎悪が陽奈たちに向けて放たれた。

それは大きく逸れて後ろの建物へと当たると、ただでさえエースの一撃で不安定になっていた建物が、クインのエネルギー弾によりバキバキと音を立てて崩れ落ちる。

 

 

「まずい…!!」

 

「お姉ちゃん!!」

 

 

その瞬間、陽奈は少女の全身を使ったタックルを喰らわされ、地面に尻餅をつく。あまりに突然の事で対応しきれなかった。それどころか理性を保つ為に体力を使い過ぎていたこともあり、少女の力でも簡単に押せるほど踏ん張りが効いていなかった。

この行いの意味はなんなんだろう。目の前で少女がニコッと笑った。

 

 

「─── お姉ちゃん。ありがとう」

 

 

そして少女を埋め尽くす程の瓦礫が降り注ぎ、少女の姿は瞬く間もなく瓦礫の山へと沈んだ。

陽奈はあまりにも突然、あまりにも早過ぎる結末に首をゆっくり横に振る。わからない。否、わかりたくない目の前の現実。

 

 

「楓…… 楓ッ!!! あんた自分が何したかわかってるの!!?」

 

「え…? 怪人を殺したんだよ…?」

 

「まだ子供なのに… あの子になんの罪があるのよ!!」

 

「怪人は悪いやつ。そうでしょ? 悪者を倒すのが仮面ライダーの役目でしょ?」

 

「違うわ… 全然違う。それで命を奪っていいって理由にはならない」

 

「私の、陽奈の… いや、この世界のみんなが怪人から大切なものを奪われたんだよ? これくらいの報いは受けてくれないと────」

 

「あなたがやっている事は怪人そのものよ」

 

「………… え?」

 

「ようやくわかったわ。今更過ぎた…… 罪なき命を奪うって私たちもそうじゃない。あなたがやっている事は、昔あなたがされた事をやっているだけ。復讐に過ぎない。そんなのあなたが言う悪い怪人… いや、最低の人間そのものじゃない!!」

 

「なんで……? 陽奈… なんでそんなこと言うの…? やだ… やだ…… やだぁっ!!!」

 

 

するとクインが杖を振ると、彼女の身体にベールを纏わせ、その場から消えてしまった。

陽奈はクインがいなくなると同時に瓦礫の山を退かしていく。見てしまえば彼女は苦しむ。ただしそのままにも出来ない。

まだ助かるというほんの小さな希望。

助けたい。救いたい。

 

 

「お姉ちゃん必ず助けるから!! だからお願い!! 死なないで…!!」

 

 

しかし、現実は簡単に希望など出て来るはずもない。

瓦礫を退かして出てきたのは、希望とはかけ離れた少女の姿があった────。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

敵となってしまったモグロウ。苦しそうな親友の姿。

稲森にとってそれはどれほど苦痛なものなのだろうか。モグロウ自身もそうに違いない。お互いに、お互いの存在が親友を苦しめている。

 

 

「…… また1人か」

 

 

とてつもない孤独感が稲森を襲う。

友達なんかこのご時世できるはずもない。他の怪人なんて、表に出るものはほとんどいない。出ても不遇な扱いを受けるだけ。

もう怪人なんてどこにもいない気までする。

 

 

「誰にも相談できないって、こんなにも苦しんだな……」

 

 

ただぼーっと歩いていた稲森は、病院前まで来ていた。

特に用はないし、何も考えず歩いていたら来ただけ。しかも怪人がこんなところを彷徨いていたら、何を誤解されるかわからない。

稲森がその場から離れようとすると、病院から陽奈が出て来るのを見つける。

 

 

「羽畑さん……」

 

 

陽奈はこちらに気がつくと、何を言うわけでもなく、その場から離れていく。

首を突っ込むのは馬鹿のする事であるが、稲森はどうしても彼女を放ってはおけなかった。

あんな悲しそうな顔をするには理由があるはずだから…。

それから稲森は陽奈の後を追う事にする────。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

そして陽奈は誰かに追われている気配を感じ、後ろを振り向くと、案の定稲森の姿が見える。

誰にも会いたくはなかったのに、ちょうどいい時にこの怪人は現れる。

 

 

「羽畑さん! 待ってください!」

 

「…… 何よ。私は別についてこいなんて一言も言ってないわよ?」

 

「さっき病院から出てきましたけど…… 何かありましたか?」

 

「…っ!」

 

「羽畑さん…?」

 

「うるさいわね!! それ以上なんか喋ったら、ここであなたを倒すわよ!!」

 

「え、いやその… す、すみません!!!」

 

 

この表情と声の圧からして、陽奈に何かあった事は明白。それも尋常ではないほどの事が起こったのだろう。病院にまで発展するような酷いことだ。

 

 

「…… あの」

 

「話し聞いてた…?」

 

「少しお話ししませんか? 僕も話しがしたいんです」

 

「…………… あんたと話すことなんかない」

 

「僕の友人が敵になりました」

 

「は…?」

 

 

一瞬、陽奈は楓の事について言われていると思った。だが、彼が言うには彼もまた親友が敵にまわったという事実。

陽奈は自分の今置かれている状況と重ね合わせてしまった。

 

 

「─── わかった」

 

「え?」

 

「少しだけなら聞いてあげる。あそこのベンチでいい?」

 

「は、はい!!」

 

 

──── 2人は街中にあるベンチに座り、今の状況を話し始めた。

今までならばあり得ない事だ。互いの話しをし、互いに話し合うというごく当たり前な事を今まで一度たりともやってはこなかった。

こうして話しをしてみれば、互いに親友への責任を感じている事がわかった。

親友がこれから罪を犯すとわかっていながら、何もできない自分たち。どうする事もできない自分たちのやるせなさ。

 

 

「あんたも苦労してんのね…」

 

「羽畑さんもやはりと言っていいのか…… それにしても、その子生きていて本当によかったですね」

 

「えぇ… まぁね」

 

 

あの後、怪人の少女を瓦礫から救い出し、急いで病院に連れたいった。

少女は重傷で助からないだろうと思ってしまっていた。だが、蓋を開けて見れば少女は生きていたのだ。

諦めないと思っていても、どうしてもその目で、その現実を見てしまったら誰しも無理なんだろうと揺らいでしまう。信じた奇跡を諦めてしまう。

それでも陽奈は病院へと運んだ。それが普通とかではない。心の奥底に、ないと思っていた奇跡を信じ、行動に移したのだから。

 

 

「親友がもう少しで殺人を犯すところだったわ… まぁ、楓もきっと何かあるんだろうけど、あの子があぁなったのが、私のせいなのは変わらない。楓がもし誰かを殺してしまったらそれこそ私の責任よ」

 

「…… だとしたら、僕も責任を取らなきゃいけませんね」

 

「あなたの場合はモグロウ? だか言うジェスターの掟のせいでしょ? あなた自身に責任って…」

 

「羽畑さんと同じ、と言ってしまうのは違いますね。僕もモグロウには幼い頃から救ってもらっていたんです。楽しいこと、苦しいことも、どんな時でも一緒に過ごせた。親がいない僕がこうして笑っていられるのも、モグロウという親友がいたからです…… だから僕は親友を解放したい。例え無理難題だろうと、今度は僕が親友の希望になりたいんです」

 

「… 私も同じような感じかしら…… 人も怪人も、もしかしたら分かり合える日が来るのかもね」

 

「羽畑さん……」

 

「今は違うけど、まぁ考えてあげなくもないわ…… 父さんには逆らってしまうけどね…」

 

「羽畑さんのお父さん…… 初代エース」

 

「こうした平和があるのは父さんのおかげ、ただそれが本当に正しいかなんてわからなかった。今も怪人に対しては嫌悪感はある。けど、あなたみたいなのもいるってわかったし、あの子もヒーローを望んでいるから…」

 

「はい! それならとても嬉しいです!… 今日はありがとうございました」

 

「私もスッキリした…… もし、何かあったら言いなさい。お互いの敵はどうやら同じっぽいし。協力はしてあげる。一時休戦? もうなんでもいいわ。とりあえず私たちはこれから協力体制。いいわね?」

 

「も、もちろんですよ! 凄く嬉しいです!」

 

「はいはい。じゃあ、私はもう行くから────」

 

「─── 羽畑さん。協力ということであれば、早速なんですけどお願いできますか?」

 

「……… なるほど。別にお願いされてあげてもいいわ」

 

 

2人は同時にドライバーを腰に巻きつける。

すると、2人に車椅子に乗った人物が近づいて来る。顔は包帯で巻かれ、その素顔は何も見えない。

ただ言える事は尋常じゃないほどの重い空気と威圧感。全身が強張るのがわかるほどの恐ろしい何か。

 

 

「誰ですか… あなたは?」

 

「……… 私が態々出向いた。連れてこいと部下に命令していた何も関わらずだ」

 

「……?」

 

「それはなぜか? それを1番わかっているのは、エース。お前のはずだ」

 

「私?」

 

「ファング。ここからは私がやる。手を出すな」

 

 

そういうとそこにあった気迫の一つが薄くなった気がした。

ただそれがファングだったとするなら、今目の前にいる人物はそれ以上に強大な力を感じる。

 

 

「あんたはなんなの…」

 

「察しているはずだ。エース。初代の娘」

 

「……… まさかっ…!!」

 

「そう、私はジェスター首領。今、再びこの地に舞い戻った!!」

 

 

2人はそこにいるものが首領だと発言した瞬間、脳裏に今からどう対処するかと、何通りも考えた。信じたくはなかったが、信じるしかなかったのだ。

稲森はこの日であってもおかしくないと思えていた。話しに聞いた通りになっている。

 

 

「首領… もう復活しただなんて…」

 

「アベンジか。裏切り者め。お前の始末は後だ。だが、安心しろ。今はエースに用がある。黙って見ているのであれば、お前の始末は考えてやってもいいが?」

 

 

しかし、稲森は前に出るとトランスフィードを構える。

この行為が許される行為でない事は承知済み。これが稲森の答えだ。

 

 

「……… そうか。わかった。それがお前の答えと言うのだな」

 

「すみません… あなたは怖い。だけどそれ以上にここで何もしないのはもっと怖いです」

 

「私より怖い… か。いいだろう。エースもろとも消してやろう」

 

 

そういうと首領は後ろに手を回し、包帯を取っていく。

包帯を取り終わると、首領の顔が露わになった。その顔はとても見覚えのある顔であった。

 

 

「現エースよ。この顔に見覚えはないか? いや、ないわけがない。お前がよく知る顔だからな」

 

「…… 嘘よ。なんで…… なんで、同じ顔なのよ…!!!」

 

 

首領の顔は陽奈にとって、とても大切な人。とても大切でかけがえのない家族。世界を救った英雄。

陽奈の父親であり、初代エース。

 

 

「─── お前の父親。羽畑 月火の身体だ」




エース編終了(唐突)
今度は親友奪還編始まります。

次回、第21話「初代がファーザー」

次回もよろしくお願いします!!


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親友奪還編
第21話「初代がファーザー」


皆さんご無沙汰しております。

前回、怪人の少女の声を聞き、スーパーハードウェポンを抑えて変身を解除した陽奈。仲良く話す親友と怪人。その姿に憎悪が込み上げ、感情のままに攻撃を行い、建物が崩れ落ちて2人を飲み込んだ… かに思えたが、少女の手により陽奈は救われる。そしてその後、稲森と陽奈は出会い軽い和解をし、協力関係を結ぶが、2人の前に首領が現れ…

それではどうぞご覧ください。


「父さん…?」

 

「くっ、ふふふっ…… あぁ、そうだ。お前の父。初代仮面ライダーエースである羽畑 月火だ」

 

 

 首領が包帯を外して出てきた素顔は、今は亡き現エース羽畑 陽奈の父親。羽畑月火そのものだった。

 骨格から何まで… いや、そうではない。素顔を見た陽奈の脳裏には父との思い出の数々が蘇る。鮮明に覚えている父の顔。

 既に身体がそれが誰であるのか察した。間違いない。あれは父だ。

 

 

「… でも、でも嘘よッ!! 父はジェスター首領との戦いで死んじゃって… 遺体も見当たらなくて…… そんな、誰。あんたは誰なの!!?」

 

「何を言うか。私も、お前も今言ったはずだ。私が首領であり、この身体は羽畑 月火()()()()だとな」

 

()()()()? 何言ってるのよ…… じゃあ何? あんたは父さんを乗っ取ったとでも言いたいの!!?」

 

「あぁ、そうだ」

 

 

 たった一言だけでその場の空気が一気に変わったのを稲森は感じた。

 先ほどまでの陽奈の微かな笑顔は消え失せ、そこにあるのは絶望した表情。完全に戦意喪失と言える。闘争心ならぬ逃走心。今の彼女は現実から目を背けたい気持ちで心が一杯なのだろう。

 目の前にいるのは父の見た目をし、包帯でわからなかったが父の声をし、父のような偉大さを持つ。

 この偉大さを感じるのも、首領のせいであるのだろうけれど、それでも誰がなんと言おうと目の前にいるのは死んでしまったはずの陽奈の父親だ。

 

 

「どういうこと…!! 説明しなさいよ!!」

 

「…… 数十年前の怪人と人間の間で起こした戦争。我々は理想の為、お前たちは現実の為に戦った。我々の軍勢は人間より遥かに強く、個々としても普通の人間では簡単に地に伏せる…… 弱い。弱過ぎる。そんな弱者の人間どもに憎きエースが姿を現した」

 

「そしてあなたを殺したはず…」

 

「知っての通り、私は殺された。初代エースの手によってな…… だが、私を殺す手前で、初代エースは1つ大きなミスを犯した」

 

「ミス……?」

 

「その身を完全に抹消しなかった事だ」

 

「… 相討ち。膨大なエネルギー同士のぶつかり合いで、あなたの身体… 私の父さんの身体も飲み込まれて死んだと言われてるわ。だから消えるではなく、消えていたのよ。なんで父さんの身体が残っているの? そんなのおかしいわ!!」

 

「私も消えるとは思った。肉体もエースとの戦いにより限界が来ていたからな。だからこそ私は乗り移ることにした」

 

「乗り移る…?」

 

「初代エースの肉体を器とし、私の魂だけを器に移す。本来であるなら私共々消滅してしまう。大きな賭けではあったが… 賭けは私の勝ちだった。1つとなった事で原型は無くなってしまった代わりに、初代エースの遺伝子と私の遺伝子はその場に残り、こうしてとある研究者によって復活を遂げられた」

 

「…っ班目…!!」

 

「裏切り者ではあるが、その腕は確かなものと信頼がある。それだけは認めておきたい所だな──── さて、話しが逸れたな。これからお前たち仮面ライダーに絶望を与えてやろう。私の苦しみを、私の怒りを、その身で存分に味わうといい」

 

 

 すると、首領は懐から見たことのあるドライバーを取り出し、それを自らの腰に巻きつける。見たことがあるのは当然だ。目の前にいるのは首領であるが、身体は初代エースそのもの。

 首領はまだ2人と真正面から戦える程の力まで回復はしていない。戦う為には強さを手に入れられ、更に変身者への負担が掛からない装甲を見に纏わなければならない。

 だからこそこのドライバー。エースドライバーを元に設計された、首領の為の改良型エースドライバー。

 それから首領は懐から、蛾のアビリティズフィード。元の色とは異なるダッシュフィードを取り出してドライバーに差し込む。

 

 

「変身」

 

 

 仮面ライダーエースのように、ドライバーの側面を押し込むと、深紅の蛾の群れがヒラヒラと舞いながら首領の身体に留まっていく。

 それらはアーマーへと変化を遂げる。しかし、エースのそれとは違い、赤く禍々しいフォルムの中にどこか美しさを感じる。

 

 

《Let's try エース!!》

 

「なに…… その姿っ!」

 

「お前がよく知る姿だろう。あぁ…… とても楽しみだ。お前が苦痛の声を上げて、私に助けを求める姿を想像すると、復活する前には感じられなかった甘美なる心地よさがこみ上げてくる…!!」

 

「許さない… 許さない……… 死んだはずの父さんを… 役目を終えた父さんをッ!! 許さない!! あんたを絶対倒すッ!!」

 

 

 陽奈も走りながらエースドライバーにダッシュフィードを差し込み、仮面ライダーエース ダッシュウェポンへと変身すると、首領の眉間目掛けてエースガモスボウから矢を放つ。

 しかし、その程度の攻撃は指で簡単に弾かれてしまう。

 

 

「自分の父に対して容赦がないな」

 

「その声で喋るなぁッ!!!」

 

 

 首領に向かって更にエースガモスボウによる攻撃を行う。

 何度も打ち込み続けながら近づいていくが、首領はそれらを難なく指で弾き、近くまで走ってきたエースの首を掴んだ。

 

 

「くっ…!!」

 

「お前の矢はたった1本の指に弾き飛ばされた。そして矢はたったの1本も私の身体には当たっていない。この意味がわかるか? 初代エースの娘よ。お前は武器を使ったとしても、私の指1本にすら勝てないということだ」

 

「私の力は武器だけじゃない────!!」

 

 

 そしてエースの視界は一瞬で地面に向けられ、気づいた時には地面に強く叩きつけられていた。

 見た目は色が変わっただけの仮面ライダーエース。ただしその実態は元のエースの倍以上の力を有している。エースドライバーを作り出した班目による改良なのだから、当然と言えば当然の性能。

 今のままではエースは勝てないと実感する。既に彼女がそう思った時には、その手にスーパーハードフィードが握られていた。

 

 

「どうせこのままやった所で、首領のあなたには勝てないわ。でも、ただで負けるわけにはいかない。少しでも傷つけてやるんだから…!!」

 

「ダメです! 羽畑さん…っ!!」

 

 

 スーパーハードフィードを使おうとするエースを止めようと前に出る稲森。

 だが、ファングの存在を忘れていた。目の前に巨大な爪が振り下ろされ、ギリギリな所でそれを躱す。

 

 

「ファングさん!」

 

「下がっていろ、と命令されたが、今は現エースとの戦いをお楽しみの最中。貴様の出る幕はないと判断した。邪魔をするな」

 

「なら、あなたを倒して羽畑さんを助けます…… 前の僕とは違いますよ。ファングさん」

 

「いいだろう。その力がどれほど成長したか。この俺に見せてみろ!」

 

「──── 変身ッ!!!」

 

 

 稲森は仮面ライダーアベンジ トランスウェポンへと変身し、爪をこちらに構えて挑発するファングに飛びかかる。

 溜めて放つ。トランスウェポンの能力は溜めてから放つ一撃が特徴的であるが、溜めるということは一定時間、隙が生まれる。何かしらのアクションを起こさない限りは、トランスウェポンの素の状態のままとなってしまう。

 今、アベンジがファングを殴ろうが、蹴ろうが、素である状態の他ない。それによる攻撃は効果があるのか。

 

 

「…… こんなものか?」

 

「うわっ…!!」

 

 

 ファングへの単純な攻撃は最早効果などなし。

 その証拠にアベンジは、ファングに蹴りを弾き飛ばされた後、鋭利な爪による引っ掻き攻撃を喰らってしまう。

 ジャンプウェポン等であったのなら、装甲ごと抉られていた筈。胸に浅い傷がつくだけで済んだ。

 

 

「あ、危なかった…」

 

「そのまま胸から腹にかけて大穴を作ってやろうと思ったが… 避ける事だけは上手くなったようだ。だが、それだけだ。それだけのほかない。前と違う部分があるとするなら、見た目が少し変わった程度だろうな」

 

「…… ありがとうございます、ファングさん」

 

「なに?」

 

「この1発が欲しかったんですよ。僕の身体が裂けるくらいの1発。あなたなら出してくれると思ってました」

 

「何を狙っているか知らないが、ここで貴様の始末を完了する!」

 

 

 溜めるのは何も自分から湧き出るエネルギーだけじゃない。受けたダメージその分を、たった一箇所に、右拳に全力で込めて解き放つ。

 その攻撃が強ければ強いほど、蓄積されたエネルギーの爆発的威力の解放は、例えファングであろうと怯むはずだ。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

「なんだ…… ぐっ!!」

 

 

 ファングは咄嗟に胸前で腕をクロスさせて拳を防ごうとする。

 しかし、溜められた強力な一撃は、ファングの攻撃ダメージ+アベンジ自身のエネルギーから放たれた一撃。

 最早、あのファングでさえもその破壊力には敵わなかった。防御は砕かれ、まともに食らうはずもない顔面へと、拳がめり込むように入る。

 あまりの衝撃ファングは吹き飛ばされ、アベンジは手を痛そうに振るう。全力で放ち、その分殴った衝撃が腕に響く。流石首領の右腕と言わんばかしの硬さと強さだ。

 現に殴られて吹き飛ばされたが、すぐに受け身を取ってから何事もなかったように平然と立ち上がる。

 

 

「やっぱりダメなのか…!!」

 

「班目から渡されたアビリティズフィードはその程度らしいな。それでも俺には敵わない。いくらお前が強くなろうとも、俺を超えることはできない」

 

「まだですッ!!」

 

 

 まだ諦めきれないアベンジは、アベンジドライバーに装着されたトランスフィードの上部を押し、天高く飛び上がる。右脚に全エネルギーを集中させ、ファングの胸部目掛けて降下する。

 

 

《GOODBYE!! トランスアベンジタイム!!》

 

 

 ファングもそれを向かい打つべく、両腕の爪に黒いエネルギーを纏わせ、巨大な爪に変化させると、突き刺すような形で前に出す。

 2人の必殺技はぶつかり合い、その場に凄まじい爆発が引き起こされた。

 

 

「ぐはぁっ……!!」

 

「… ふん。手間をかけさせてくれたな………っ」

 

 

 稲森の変身は解け、全ての力を使いきってしまったのか地面へと倒れてしまう。

 一方のファングには、それほどのダメージは入っておらず平然としている…… ように見えたが、ただの我慢であった。アベンジの溜めて放った一撃により、やはり多少のダメージは入っていたようだ。

 しかし、その次の必殺技の時に、ファングの方が強さは上だったようで弾き飛ばされた。いや、彼の緊急回避手段であったのだ。あのまま何もせずに真正面で受け止めていたら、いずれ直撃は避けられなかった。

 アベンジはあの状況の中、ファングの油断で与えた腕へのダメージを見過ごしてはいなかった。胸部を狙えば、必然的にファングは爪を駆使して対処すると思ったからだ。そうすれば爪を砕いて突破できる推測していた。

 

 

「……… だが、私にはまだまだ及ばなかったようだ」

 

「うぅっ…!」

 

「終わりだ」

 

 

 爪を振り上げて、稲森の首を切断しようとしたその時、変身の解けた陽奈が稲森の隣に投げ飛ばされる。

 首領はファングの横に並び立つと、振り上げた爪を下ろすように促す。

 

 

「陽奈さん!!」

 

「イナゴよ。最強の一族の生き残り。私はお前たちにどれほどの傷を負わされたか思い出したくもない。それほどお前たちは強かった。だからこそ、ここで始末しておくことが重要だ……… しかし、お前たちを助けてやろうと思う」

 

「… 助ける?」

 

「条件を聞け。なに簡単な話しだ」

 

 

 首領の掌を返したような言い方に、稲盛は戸惑う。

 しかしその条件とは、稲盛にとって最悪な事に変わらない。再び最悪な結末へと向かう一歩だった────。

 

 

「───── イナゴ。お前はその女… 陽奈を殺し、そしてモグロウを殺せ。その2つを成し遂げて見せれば、お前を始末する事だけはやめてやろう」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 班目はモグロウと共に、研究室にいた。ただモグロウはその場にいるだけであり、作業をしているのは班目だけである。

 彼がなにを造っているのか定かではないが、モグロウはなんとなく察しができてしまう。また親友にとっての地獄なのだと。

 

 

「モグロウさん。どうしました? 悲しそうな顔をして」

 

「当たり前だろうが、くそっ! 今度はそれでなにを企んでやがる? 俺の親友に指一本でも出したら許さねーぞ!!」

 

「またそれですか…… あなたこそ、あなた自身の大親友を殺そうとしてるじゃないですか」

 

「…っ!! そ、それは……」

 

「全く嫌な掟ですね〜。私だったら気でも狂ってしまいそうです」

 

「思ってもない事いいやがって───!!」

 

「─── はい、できました。いや〜、少々時間がかかってしまいましたが、間に合いました。いや、間に合ってるかわかりませんが、まぁ大丈夫でしょう」

 

「…… なんだよ。そのアビリティズフィード…」

 

 

 モグロウは班目の手に握られたアビリティズフィードに、全身が鳥肌になりそうな寒気を感じた。これはダメだと、生物的本能がそう伝えてきたかのようだ。

 そんな班目は、いつも通りのニヤニヤとした顔つきで、嫌な気が強いアビリティズフィードの説明を始める。

 

 

「このアビリティズフィードは、元々トランスフィードと合わせる事で真価を発揮する物でした…… が、少し稲森さんの成長具合が今ひとつ足らなかったので、渡しませんでしたけどね。まぁお陰で完全に調整できたので良しとします」

 

「おい!!」

 

「はいはい、わかってますよ… トランスフィードと合わせる事で真価を発揮すると言いましたが、それなりの条件はあります。強大な力にはデメリットがつきものですからね」

 

「デメリット?…… お前まさかイナゴを実験台にしようってんじゃ…」

 

「いや、違います。私的にはデメリットかどうかわかりませんが、本人は簡単にパワーアップできて、身体にもなにも影響はありません。私の中では最強の形態です…… 私の予想ではファングさんは軽く凌ぎます」

 

「なんだって…!!? 待てよ…… そのデメリットってなんだ。お前自身の話しをしてるんじゃないだろ? イナゴには何かあるんだろ?」

 

「えぇ、ありますよ。この『リジェクトフィード』は犠牲。人の犠牲により得る力──── 命を犠牲にするほど力を増す能力です」




すみません!遅れてしまいました!
今回こんな感じなんですけど、まぁいつもの如くオチを……はい。

では次回、第22話「友にペイン」

次回もよろしくお願いします!!


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第22話「友にペイン」

皆さんご無沙汰しております。

前回、父の見た目をした首領との戦いをした陽奈であったが、その力の前には及ばず倒れてしまった。稲森もファングとの戦いにより1度はダメージを与えるものの、決定打とはならずに敗れる。そんな稲森は首領に助かる条件を出されてしまった一方、彼にはまた一つ最悪な結末への切符が作られてしまった…

それではどうぞご覧ください。


稲森が助かる為に課せられた条件。陽奈とモグロウの殺害。

そんな条件が呑めるはずがない。ただあの時はどちらにしても、あぁする他の方法はなかった。

これは一昨日の話だ。首領とファングに囲まれ、絶体絶命の大ピンチの時、稲森に与えられた命令のようなもの。

 

 

「─── そ、そんな条件呑めるはず…!!」

 

「素直に従えばいい。そうすればお前は助かる。それの何がいけないんだ?」

 

「首領… 僕は誰も殺したくありません…」

 

「忘れたか? お前は私を裏切った。私は裏切り者が嫌いだ。殺意を抱くほどにな。今すぐにでも、お前のその首をへし折ってやりたい…… が、私も復活してから多少の慈悲深い心が芽生えたようだ。そんなお前を救ってやろうという慈悲がな」

 

「………」

 

「モグロウは、私に一度も会いには来ないが、奴は掟がある。奴にとって掟を破る事、それ即ち一族の命を差し出すという事。今は班目に唆されて計画を練っている最中なのだろうが、奴はたった1度私を裏切った。結局は裏切ったのだ。たかが1度の失敗だろう。しかし、その失敗は私に意に背き、掟を破るまでに至っている」

 

「だから… 殺すんですか?」

 

「当たり前だ。一族もろともな」

 

「…………」

 

「…… 時間をやろう」

 

「…っ!」

 

「3日だ。3日以内に私にモグロウとエースの首を渡せ。当然、今奪っても構わない。お前がそれでも私に従わないというのなら、話しは別だがな」

 

「……… わかりました… 首領」

 

 

稲森にはそう返事をするしかなかった。これ以外に自分も陽奈も救われる道はなかったから。

そして約束の時間は刻一刻と迫っていた。たった3日という中での決断を強いられ、もう後1日。時間が過ぎるのを、ここまで実感できるのはいつの日以来なのだろうか。

稲森は自宅で、この状況を打破する為の考えを見出そうとしていた。病院にいる陽奈は未だに動けそうにない。何をするにも相談相手がいない。

 

 

「モグロウ…… また話したいよ…」

 

 

ボロボロになったアパートで、1人静かに涙を流す────。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

それから稲森は、気分を変えようとアパートから街へと駆り出した。

頭がいっぱいでどうしようもない時は、こうやって外へと出てリフレッシュした方が良い。最も、稲森の置かれている状況では、ほとんど何の意味もなさないのだが。

 

 

「─── イナゴ」

 

「… ん? あっ……」

 

 

急に話しかけられたと思ったら、その人物はモグロウであった。

彼がどうしてこんな所にいるのかわからない。ただ会えただけでも、こんな嬉しくなるとは思わなかった。自然と涙が溢れる。

モグロウもそんな稲森に少々驚いたのか、稲森の背中をさすりながら、公園へと足を運ぶ。

稲森をベンチに座らせ、隣に置いてある自動販売機でジュースを買い、それを稲森に優しく渡す。

 

 

「久しぶり… だな」

 

「久しぶりでもないよ」

 

「あ、あぁ…… そうだったな。身体の調子はどうだ?」

 

「全然平気さ」

 

「おう… そりゃ良かったぜ…」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

いつもなら続く親友同士での会話も、今置かれている状況から何も答えられないし、何も聞かなかった。

2人にできてしまった大きな溝。掟や条件。この2つがある限り、当たり前のように楽しい会話などできるはずがないのだ。

暫くだんまりが続いたが、ここでようやくモグロウの口から言葉が発せられた。それは謝りの言葉だった。

 

 

「─── 悪かったな。イナゴ」

 

「急にどうしたの?」

 

「掟だ、なんだで、お前の事を傷つけちまった…… 親友なのに情けねぇよ」

 

「何言ってるんだよ。掟だったんだから仕方ないさ」

 

「それでもだ! 俺は… 俺は…… 大事な親友の命を奪おうとしたんだ」

 

「家族が大切なのはよくわかる。僕は生まれた時から家族いないけど、なんとなくだけどわかるんだ。それに親友が苦しんでる顔見るの辛いし」

 

「…… お前って奴はほんとに優しいよな。その優しさがお前のいい所だぜ」

 

「僕は優しくなんかない…… なにせ、君を殺す事を命じられたんだから」

 

「……っ!!? お、おいそれどういう事だ!!」

 

 

それは首領の条件だと、モグロウに一言一句何があったか細かく伝える稲森。

話しを聞いたモグロウはベンチに座り直し、頭を抱え、怒りなのか哀しみなのか、ふるふると身体が震えている。

 

 

「お前はその条件を…… いや、言わなくていい。やるしかなかったんだもんな。陽奈の奴も、お前も、その場から逃げる為には仕方なかった」

 

「それでも僕は親友を盾にした。一時とはいえ、首領の言いなりになったのは事実さ。これから… どうしようかなぁって」

 

「たった3日でどうするってんだよ… 俺かお前か…… イナゴ」

 

「なに?」

 

「俺は結果的に死の運命にある。お前が条件呑もうが呑まないが、俺は殺される。それならいっその事こと、お前にはあの首領に一泡吹かせて欲しいんだ」

 

「な、なに言ってんだよ… モグロウ?」

 

「俺を犠牲にしろ、イナゴ────」

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

数時間前、班目の研究所では新たなアビリティズフィードが開発されていた。

その名は「リジェクトフィード」。拒絶という意味があるそれは、人の犠牲が増えれば増えるほどその力を増していくという、まるで殺人鬼であり、悪魔のような恐ろしいアビリティズフィード。

モグロウはそのリジェクトフィードを見て、思わず言葉が出てこなかった。

 

 

「犠牲… だと?」

 

「はい。トランスフィードは『溜め込む』という力があります。それは自らの内に秘めている力だったり、外部から受けたダメージなんかも…… この特性を活かし、リジェクトフィードには『犠牲』。人の持つ秘めたる命を溜める事で最大限の力を発揮します。その命がその者によって大きければ大きいほど…」

 

「つまり… 家族のような縁が強い場合、リジェクトフィードの力が更に強まると?」

 

「素晴らしい! 全くその通りです!」

 

「… ってめぇ!!!」

 

 

モグロウは怒りのままに怪人態へと変化すると、班目の首を掴み上げ、研究所の壁にぶつける。

そして班目は苦しそうに片手を掴まれている首に当て、もう片方の手で静止するよう仰ぐ。

 

 

「イナゴをなんだと思ってやがるッ…!!!」

 

「… でも稲森さんとはぴったりな能力だと思いませんか? 稲森さんは命を大事にしている。人と人との縁を大切にする善人だ。そんな彼が、もし人を犠牲にしてみてください。恐ろしいほどの力を発揮します…… よっ!!?」

 

「お前それでも人間かぁッ!!!!!」

 

「全く…… 戦争に参加していたあなたがよく言いますねぇ…」

 

「はっ…!」

 

 

その一言を言われたモグロウはほんの少し手を緩めてしまった。

一瞬の隙をつき、班目はモグロウを蹴って首の拘束を外すと、すかさず腰にポーカドライバーを巻きつけ、ダイヤの描かれたカードを差し込む。

 

《ダイヤ!! ベット!!》

「変身」

 

 

ドライバーの両サイドを引っ張ると、アーマーが形成され、班目は仮面ライダージャック ダイヤウェポンへと姿を変える。

 

 

《Let's call!! ダイヤジャック!!》

「さぁ、思う存分私を殴っていただいて構いませんよ」

 

「あぁ、殴りがいがありそうで安心したぜ!!」

 

 

当然、100t以下の攻撃を無効化する装甲を持つジャックには、単純な物理攻撃では傷一つ負わせることはできない。

知ってか知らぬか、モグロウは無謀にもジャックを力の限りを尽くして殴る。ガキンという鉄と鉄がぶつかり合ったような音が響く。その間にもジャックは一歩もその場から動こうとはしない。否、動かすこともできない。

 

 

「くそっ…!!」

 

「あなたの怒るのも無理はないと思いますが、これしか首領を倒す方法はないんです。そうすればあなたの命も助かるんですから、万々歳じゃありませんか? 大元を倒すわけですから」

 

「そういう問題じゃねーだろ!! このマッドサイエンティストがッ!!」

 

「マッドサイエンティスト…… 聞こえはあまりよく感じられませんね」

 

「当然だろうが…… ッ!!?」

 

 

その時、ジャックの渾身の右ストレートが、モグロウの顔面に直撃する。

ミシミシと音を立てながら、モグロウは研究所の端からは端へと、いとも簡単に殴り飛ばされてしまった。

 

 

「がはっ…!!」

 

「私はあまり戦闘は得意じゃないんです。今日はこれで落ち着いてくださいね」

 

「て、てめぇ……」

 

「明日、稲森さんにでも会いに行って、この事を伝えていただいて構いません。モグロウさん。あなたのその親友を思う気持ちに免じて、今回は彼の意思でこのリジェクトフィードを渡しましょう。要らないのであれば捨てます。もったいないですけど」

 

「………──────」

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「そんな事が…… だからってモグロウが犠牲になる事ないじゃん!!」

 

「お前が否定するって事もわかった。だけど、これは3日後なにも変わらなければ、そうしなければいけないという策だ。嫌な話しだが、奴の造るそれは嘘偽りない。本当にあれは首領を倒せるかもしれない」

 

「だからって……」

 

「わかってくれ、イナゴ。親友のお前にしか頼めないんだ。死んじまうくらいなら裏切っちまった親友、家族の為にこの命を使いたい!! お前ならわかってくれるはずだ!!」

 

「モグロウ……」

 

 

モグロウは本気で言っている。嘘ではなく、覚悟した目で稲森をジッと見つけてきた。

わかっている。稲森自身にもモグロウの気持ちはよくわかる。裏切り者は必ず死。与えられた選択は最早、死という一本道だけ。どちらにしても底のない穴へと真っ逆さま。

それなら、いっそ死ぬ運命にあるならばと、モグロウは本気で覚悟を決めた。リジェクトフィードと呼ばれる悪魔に、その命を捧げるという。

 

 

「やだよ」

 

「イナゴ…!!」

 

「そんなの、はいそうですかって、簡単に受け止めるわけないだろ!! 僕は親友を救う!! 陽奈さんだって誰だって、僕が救ってみせる!! 誰かを犠牲にして生きるなんて僕にはできない!!」

 

「………… お前って奴は本当馬鹿だぜ… そういう所が良い所だ。イナゴはな」

 

「へへっ…」

 

「─── あらあら? お二人ちゃんでなーに仲良しごっこしてるのかしらぁん?」

 

 

2人の間に入るように現れたのはスピーダ。リゲインの幹部の1人である。

稲森とモグロウはベンチから立ち上がり、稲森は腰にアベンジドライバーを装着し、モグロウはいつでも怪人態へと姿を変化できるよう構える。

スピーダは首を横に振りながら前へ出ると、その後ろからウェイトも姿を見せた。

 

 

「ウェイトさんにスピーダさん… どうしてここに?」

 

「どうしてって、もちろん決まってるでしょ? 経過確認よ。それでどうなの? 見たところモグロウちゃんはピンピンしてるけど?」

 

「僕は誰も傷つけたくないし、誰かを殺すなんてもってのほかです!」

 

「じゃあつまりは… 首領を裏切るって事で良いのかしら?」

 

「裏切るもなにも、元々意に反してました。今更な話しですよ」

 

「あっそぅ…… なら、明日になるまでもないって事で良いわね。首領も確実ならやって良いって言ってたし… ウェイトちゃん。殺しましょん!!」

 

 

スピーダは稲森とモグロウの後ろに回り込み、いつでも殺せる体制を整える。ウェイトもスピーダに合わせ、徐々に2人に詰め寄っていく。

稲森たちは背中合わせになると、お互いの背中で語る。これからどうすれば良いのかと。これからすべきことはなんだと。

 

 

「─── わかってるよな。イナゴ」

 

「わかってるよ。僕たちがやるべき事」

 

「俺たちの絆ってもんをッ──!!」

 

「見せてやろうッ!!」

 

「「変身ッ!!!!!」」

 

 

アベンジドライバーにジャンプウェポンを差し込み、ドライバーの口を閉める。閉じると怪物のような顔になったそれは、周りからイナゴの群れを作り出し、稲森の身体に噛み付いていく。一つ一つがアーマーに変化し、稲森は仮面ライダーアベンジ ジャンプウェポンへと変身する。

モグロウはモグラのような鋭い爪と長い鼻。爪は長く鋭い刃が3つに分かれ、鼻はドリル状の物へと変化し、全身は機械のようなアーマー態に変化する。

 

 

《The war begins again, we're the last to laugh》

《START!! トランスアベンジ!!》

「行くよモグロウ!!」

 

「あぁ!! イナゴに代わってッ!!」

 

「モグロウに代わってッ!!」

 

「「──── 逆襲だッ!!!!!」」




アベンジ・モグロウvsスピーダ・ウェイト!
勝つのは果たしてどちらなのか!?

次回、第23話「手段でノットセレクト」

次回もよろしくお願いします!!


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第23話「手段でノットセレクト」

皆さんご無沙汰しております。

前回、最悪な条件を突きつけられた稲森。期限まで残り1日となって、焦りを見せながら、気分を少しでも変えようと街へ駆り出す。その時、親友モグロウと出会い、再び真正面から話しをし、2人の大きかった溝は埋まり、実質的な仲直りを行うも、そんな中、2人の前に現れたのはスピーダとウェイトだった…

それではどうぞご覧ください。


「なにが逆襲よ!! 蹴散らすわよ、ウェイトちゃん!!」

 

「ふん…!!」

 

 

 アベンジとモグロウを挟み込む形で、スピーダとウェイトは鬼気迫る表情で近づいてきた。

 2対2で行われる戦い。1対1の戦いとは違い、仲間との連携を求められる。双方はもちろん連携であるならば、言葉を介さずとも、自然と相手の考えている事がわかり、すぐにそれを実行してみせるだろう。

 

 

「モグロウ!! 頼んだよ!!」

 

「任せろ!!」

 

 

 モグロウが地面に穴を掘り、穴の中へと入り込む。一方のアベンジは2人が近づいてくる瞬間に高く跳び、2人の能力では到底捉えることのできない高さまで到達する。

 能力による最高度まで到達するアベンジに対し、ウェイトは地面に手を突っ込んでコンクリートの塊を持ち上げる。

 それをアベンジ目掛けて投げつけようとするが、ウェイトの足元が急になくなり、バランスを崩して穴にズッポリとハマってしまった。

 

 

「ちょっとウェイトちゃん! なにしてるのよ!」

 

「─── おい、よそ見すんなよ!!」

 

 

 また穴が開いたと思えば、今度はスピーダがその穴にハマり、自慢の機動力が無力化されてしまった。

 

 

「ナイス、モグロウッ!!」

 

 

 そしてアベンジはスピーダに向けて急降下し、最大高度からの飛び蹴りを放つと、勢いの乗った蹴りによってスピーダは後頭部から地面にめり込む。

 そのスピーダを踏み台として、再び上空でくるりと一回転を決め、ウェイトの顔面に蹴りを浴びせようとした。

 しかし、ウェイトの超パワーにより、蹴りが当たるより一瞬早く穴から投げ出して、両腕をクロスさせてアベンジの攻撃を防いで見せた。

 

 

「くっ…!!」

 

「…… 無駄だッ!!」

 

 

 それからアベンジは脚を掴まれ、地面に叩きつけられ、凄まじく振り回された後に投げられる。まるで弾丸のようなスピードで壁に激突し、建物がガラガラと崩れて、瓦礫の下敷きとなってしまう。

 すぐに助けに向かおうとするモグロウ。だが、いつの間にか抜け出してきたスピーダに、目に見えないほどのスピードで、四方八方から攻撃を受けてしまった。全く身動きが取れない状況となってしまった。

 

 

「むぐぅ…!!!」

 

「ほらほらどうしたの? モグロウちゃん!!」

 

 

 やがて、スピーダの攻撃が終わったと思えば、目の前にウェイトの太く逞しい腕が現れ、モグロウの首に強力なラリアットが炸裂した。

 吹き飛ばされたモグロウではあるが、何かのロープが彼の身体に絡みつく。

 そのまま彼を繋いだロープは、彼を投げられた勢いのままに上空へと投げ飛ばす。

 

 

「ウェイトちゃん!!」

 

「…… わかっている…!!」

 

 

 また地面からコンクリートをくり抜こうとするウェイトだが、ロープはウェイトとスピーダの脚に絡みつき、2人は不意を突かれ引っ張られてしまい倒れてしまう。

 そのロープの正体はアベンジのダイブウェポンに搭載されている両腕の武器。両腕から放たれた鞭は、2人の脚に絡みつき、捕らえたまま全く離さない。

 

 

「むきぃーーーッ!!! もう許さねぇぞごらぁ!!!」

 

「…… こんなもの、引きちぎってくれる!!!」

 

 

 すると、上空からドリルの様に回転したモグロウが急降下をしてきているのが見える。まともに喰らえば、例えウェイトの頑固な装甲だろうとダメージを受けるのは免れない。

 ウェイトはダイブウェポンの鞭を引きちぎると、モグロウを迎え撃とうと身構える。

 だが、その瞬間、ウェイトに何か大きなものが投げられバランスを崩してしまう。大きなもの。それはスピーダである。

 

 

「… スピーダッ…!?」

 

「がはっ…!!」

 

 

 ダイブウェポンの鞭を引きちぎられた瞬間、トランスウェポンに変身したアベンジはスピーダを蹴り飛ばし、モグロウに気が向いているウェイトに喰らわせたのだ。

 

 

「モグロウッ!! これで決めよう!!」

 

「おうよ!!」

 

 

 アベンジはトランスフィードの上部を押し、モグロウが2人に到達するタイミングに合わせて水平に必殺の飛び蹴りを放つ。

 

 

《GOODBYE!! トランスアベンジタイム!!》

「これでぇ!!」

 

「最後だッ!!」

 

「「はぁぁぁ……… はあぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」」

 

 

 親友同士から放たれる最高の攻撃は、ウェイトとスピーダを纏めて吹き飛ばし、凄まじいダメージを与えられた彼らは、受け身も取れずに地面へと転がる。

 

 

「あ、ありえない…!! なんなのよあんた達ィ!!」

 

「当たり前ですよ。ね、モグロウ」

 

「…… おう!! 当たり前だぜ!!」

 

 

 2人は親友。例え言葉を介さずとも、自然と身体が動いてしまう。既に2人の絆は、掟や過去に縛られないほど強く、絶対のものなのだ。

 違う道を歩もうと、違う場所へ移ろうと、もう誰にも、何者にも砕く事はできない。

 

 

「いいの2人とも? イナゴちゃんとモグロウちゃんは、二度も首領を裏切ることになるのよ? 完全に逃げる事ができなくなるわ。あなた達がこの世で生きている限りね!」

 

「だからこそやるべき事は1つです」

 

 

 アベンジはモグロウに顔を向け、お互い無言で頷き合い、スピーダの方に向き直す。

 もう覚悟は決まった。やるべき事はただ1つだけ───。

 

 

「─── 僕は首領を止めます!!」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 この男に情などあるのか。いや、「ない」という方が適切だろう。

 彼にとっての命は、自分の欲を満たすためだけの実験材料。別の言葉で表現するなら玩具と言った方が適切だ。

 これまで手を貸してきた彼だが、それもこれも全ては計画のうち。

 あの人間側の英雄、初代エース羽畑 月火。あの怪人側の首領までも、彼にとっては一つの布石。

 

 

「あぁ……… 早く見たいです。人間側のライダーと怪人側のライダーの覚醒…… 早くリジェクトフィードを渡さなくてはいけませんね」

 

 

 班目はニヤリと笑い、研究所から外へ行こうとすると、急に背後から冷たい空気が流れた事に気がつく。

 ヒヤリとしたそれにゆっくりと振り向き、粗方予想はついてたが、やはりそうだったと自分の勘の良さを心の中で褒める。

 ジェスター首領がおいでになったようだ。

 

 

「どこへ行く? 班目よ」

 

「これはこれは首領。散歩へ行こうかと思いましてね? ずっと中で開発を進めていると、どうも腰が痛くなってしまいますので、日でも浴びようかと考え───」

 

「くだらない冗談はよせ。お前ならば、なぜ私がここへ来たのか察しがつくだろう」

 

「…… 始末をしに来た。ですよね?」

 

「当たり前だ。私が裏切り者を許さないという事は、ファングやその他のジェスター達から聞いているはずだ」

 

「それは許してもらえないでしょうかね?」

 

「貴様……」

 

 

 目の前に首領が立ち、今にも殺してしまいそうな勢いにも関わらず、班目はいつも通りの冷静さで向かい合っていた。

 これが普通のジェスターならまずありえない事だ。人間だろうと、それはありえない。

 班目自身はなんの血の混ざりもない、純粋な人間である。なのにこれだ。側から見れば、これを人間というのは奇妙であり、何より恐ろしく不気味なものである。

 

 

「首領、お忘れではありませんか?」

 

「… なに?」

 

「私があなたを治し、私が復活させ、その肉体と首領に見合うエースドライバーを改良しました。復活直後のあなたの負担を軽減しようと、試行錯誤して僅か数日でエースドライバーを仕上げ、あなたの身体を戦闘可能な状態にまで修復したのです」

 

「その件については感謝はしよう。だか、その事と裏切りについては別だ。お前にはここで死んでもらうぞ」

 

「………… 命を握っていたとしても?」

 

「……? 一体何を言ってる?」

 

「あなたの命が、私の手元にあるとしたら? どうします?」

 

「貴様… それがどういう意味であるかわかっているのか?」

 

「わかるも何も事実を述べたまでですよ。首領」

 

「私に何をしたッ…!!!」

 

 

 首領が班目の言う嘘のような話しにイラつき、先ほどまで極力抑えていた殺意が風船が割れたように弾け出した。

 その周辺は淀んだ空気が張り詰め、リゲインの幹部達でさえこの場にいれば、すぐにでも気を失って倒れてしまうだろう。それぐらいの空気なのだ。

 ただ、この男 班目は、平然としているではないか。全く表情を崩さず、いつも通りのニヤリとした憎たらしい顔で首領を見つめる。

 

 

「いや〜、流石に許しを乞う作戦は無理な方が99.9%くらいだったんですよね。そんな残りの成功確率が雀の涙の涙を掬うのでしたら、いっその事あなたの身体に細工しておいた方が手っ取り早いと思いました」

 

「何をしたと聞いているのだッ!!!!!」

 

「心臓部分に人工知能カプセルを埋め込んでます。私がポンッと手を叩けば、中に内蔵されている分離システムが、あなたの肉体と月火さんの肉体を分離させます。おぉっと、すぐに取り出さない方がいいですよ。少しでもそういう素振りを見せた瞬間から起動するようになってますから」

 

「貴様ァ…!!!!!」

 

「まぁまぁ、私はあくまで研究好きの一般人です。もう少しくらい長生きさせてくださいよ。そうした方がお互い……… ねぇ? 首領?」

 

 

 ここまでが予想通りの展開。自分の才能が素晴らしく、この上なく恐ろしいと感じる。

 そしてもう一つ。班目には首領以外にも手玉に取っている人物がいた。

 人間と怪人のを、自分の手に委ねられているという、まるで支配者にでもなったかのような気分だ。

 まぁ、彼にはそんな支配者と神だとかは一切興味ない。

 

 

「さぁて、そろそろ頃合いになりましたよ…… ただもう喋れませんよね」

 

「…………」

 

「人間も怪人もとても面白い。価値観が違うだけで争うことができる。こんな単純明白な素晴らしい生き物がいますか? モグロウさんが失敗したからこそ、あなたには頑張ってもらいたいんです。期待してますよ─────」

 

 

 もう何も喋らず、ただ主に従う事しかできなくなった人形。人というのは簡単に弄れるし、簡単に壊せる。

 それが彼女であり、そこに彼女はもういない。

 

 

「─── 楓さん」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 アベンジとモグロウは、スピーダとウェイトの2人が反撃できないうちにロープか何かで縛ろうとしていたが無理だと判断した。

 なにせウェイトのパワーがあれば、簡単に引きちぎられてしまうという事実。鎖やら頑丈なものがあるなら少しは変わるだろう。結局の所ところ、手元にそんなものがなくて縛る事さえできない。

 

 

「モグロウ。どうしようか」

 

「いや、俺に聞かれてもよー…」

 

 

 するとその時、背後から殺意を感じ、2人はそちらの方へ反射的に振り向くと、そこへ仮面ライダークインとファングが同時に現れた。

 ファングの方は相変わらずの気迫であり、一方のクインの方はどこか冷たい。まるで何もない空っぽの箱のようだ。

 

 

「な、なんだろうな… 楓の方、いつもと違う気がするぜ…?」

 

「うん。前あった時と何かが……」

 

 

 2人が戸惑っていると、急にファングが手を挙げる。手を挙げたと同時にクインは杖の先端からエネルギー弾を連続して発射した。

 唐突な攻撃に反応しきれず、2人はそのまま被弾してしまう。

 

 

「………」

 

 

 それから土煙が止むと、なんとそこには誰もいなかった。

 流石の不意打ちの攻撃では十分なエネルギーは溜まってない。だから消し飛ぶくらいの威力はないはずだ。だが、さっきまでいたはずの2人は、亡骸どころかその存在すらどこにも見当たらない。

 

 

「──── 全く、あんた達は何してんのよ」

 

「す、すみません。羽畑さん……」

 

 

 クイン達は上空から声が聞こえて上を見ると、アベンジ達を重そうに抱えて飛んでいる仮面ライダーエース ダッシュウェポンの姿があった。

 そして2人分の重さに耐えきれず、徐々に降下して投げるように地面へ捨てる。

 

 

「ありがとうございます。羽畑さん」

 

「別に礼はいいわ。それより……」

 

 

 どうやら陽奈も楓に何かあったと察しがついているようだ。

 それならやるしかないと、エースは前に出る。2人もその横に並ぶようにして構える。

 

 

「… スピーダ、ウェイト。貴様らはそこで寝ていろ。こいつらの始末は俺がやる」

 

「ファングちゃんなら3人相手でもどうって事ないでしょうね! いやん、かっこいいわ!」

 

「黙れ… では、行くぞ。貴様らをここで始末する。ここで殺す!!」

 

 

 連戦となるが仕方がない。ここでやらなきゃやられるだけだ。

 意を決して、アベンジ達はファングに立ち向かう。




班目お前なんなんや。
そして次回めためたに言っていた新フォームです。また次回の次回になったり…ならなかったり…タイトル詐欺とか言わないで!!

次回、第24話「恐怖はリジェクト」

次回もよろしくお願いします!!


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第24話「恐怖はリジェクト」

皆さんご無沙汰しております。

前回、スピーダとウェイトをアベンジとモグロウコンビが見事に撃破し、その場をなんとか終えたが、追撃をするかのようにファングとクインが姿を表す。それに合わせてかエースも参戦し、現場はライダー怪人入り混じる戦いとなる。班目が何か考えているようだが、その詳細は未だに不明のまま。とにかく今はファングをどうにかするしかない…

それではどうぞご覧ください。


 この世で最も恐ろしい生物は何かと聞かれれば、ここであるなら怪人のどれかになる事はまず間違いない。

 そこらにいる蜘蛛や蛾など嫌いな人もいるだろう。ただ、怪人を目の当たりにして、その容姿を見れば恐怖しない他ない。

 しかしだ。普段の生活に怪人がいたら、それはそれで慣れというものが起き、結局は怪人がどれほど恐ろしい見た目や声を発していても、慣れてしまえばどうってことはなくなる。ましてや人間に手を出せば殺される、なんで世界がここである。自分たちより格下がそこにいるという事実があるだけで、人間たちは皆強がり、怪人達を蔑んできた。

 

 

「さっきまでの威勢はどうした? 3人がかりでもこの程度とは… 冗談が過ぎる」

 

 

 人間達が恐れ慄き、怪人達ですら恐れる存在。

 それこそこのジェスター首領の右腕と呼ばれた怪人。全体的に見れば、特化した能力もなかったが、それを潰すかの如き豪腕、鋼のような肉体と、どんな装甲も切り裂く爪。

 そして1番は威厳ある姿。誰しも一眼見て感じることが出来る強さの証────。

 

 

「これが…… ファングか…」

 

「モグロウ。貴様は我らを裏切り、血族の誇りまでも裏切った。貴様もその血族もその意味がわかっているはずだ」

 

「うっ…… そ、それでも… それでも俺は───!!」

 

「イナゴを取るという訳か。同族を天秤にかけてまで、そいつと地獄を見ようと言うのか?」

 

「イナゴは俺にとって家族だッ!!! 天秤? 知るかよ!!! 命を天秤にかけるなんてものは、そもそもおかしいんだよ!!! 俺にとって全部大切だッ!!! イナゴも… 俺の家族は、俺が守るッ!!!」」

 

「心意気だけで守れると思うな? 貴様が何をしようと、貴様の過去は変わらない。命が大切だというのなら、貴様はなぜあの時から首領を裏切らなかった? 笑わせるな。お前は口だけだ。口だけならいくらでも言える」

 

「それは……」

 

 

 すると、モグロウの頭上を通り、ファングへと渾身の蹴りを浴びせる男が1人。

 それは怒りに身を任せたキックだった。全体重を乗せ、確実に相手を倒そうとする彼の意思。アベンジの… 稲森の本気の一撃である。

 流石のファングもこの衝撃を全て受け止めきれず、思わず苦痛の表情を浮かべてしまった。

 

 

「イナゴッ…!!」

 

「これ以上親友を侮辱することだけは許さない!!」

 

「事実を述べたまでだろう? 奴は戦争に参加している。それで何人もの命を奪った。それが今更人間を守るだと? これが笑わずにいられるか」

 

「確かにモグロウは参加してた。本当にそれは… ダメなことで、仕方がないと済む問題じゃない……… だけど、人間も怪人もやり直せる。生きている限り何回だって、何度だってやり直せるんだ!!」

 

「戯言を… この裏切り者どもがッ!!」

 

「だからモグロウ… もう犠牲になるとか、自分の命を捨てようなんて思わないでよ…… 生きて僕と償おう!!」

 

 

 そう言ってアベンジはモグロウに手を差し伸べる。

 親友の言葉を、稲森の言葉を聞いたモグロウは、彼の手をガシッと力強く握った後、アベンジの横へと並び立つ。

 

 

「悪いな親友…… ありがとうよ!!」

 

「いいって!! それじゃあ改めて行くよモグロ────!!?」

 

 

 まるで歯が立たないファングに対し、2人が友情を更に固めあった直後、目の前に火球が放たれて吹き飛ばされた。

 この間にもう1人の存在を忘れかけていたのに気づく。クインの存在だ。

 いつの間にかファングは合図をしていたらしく、アベンジ達はそれに気づかずに攻撃を受けてしまったようだ。

 

 

「いてて……」

 

「何いい空気になってんのよ!! 相手は1人じゃないでしょう!? 気を緩めないで!!」

 

「…… ごめんなさい」

 

「とりあえずあんた達はファング。私は楓。いいわね?」

 

「わかりました!!」

 

 

 再びクインによる火球が放たれ、アベンジ達はエースの言う通りにそれを避けてファングの元へと走り出す。

 そんなエースはクインの攻撃を避けた同時に、スーパーハードフィードを取り出してエースドライバーにセットする。

 また暴走してしまうのか。アベンジはエースを止めようとするが、彼女はなぜか余裕そうであった。

 

 

「心配は無用よ…… 楓。あなたを助けるために、私頑張るから!!」

《Come on!!》

《Let's try スーパーハード・ハード・ハード!! エース!!》

 

 

 全身が軋む─── だけどもう大丈夫。

 スーパーハードウェポンへとフォームチェンジしたエースだったが、この場合暴走してしまい、動くもの全てを破壊しようとするだろう。

 しかし、楓を助けたいという気持ち、そして怪人の少女のような罪なき人を助けたいという想いが、あの暴走形態 スーパーハードウェポンを抑えつける。

 

 

「ぐぅぅぅぅッ!! あぁぁぁぁ…!!!!」

 

 

 ただし、抑える負担は今までの倍にかかってくる。

 元々このフォームは暴走させる為に造られた姿であり、通常抑えるどころか前のように暴走状態となるのが正常なのだ。

 それでもエースはクインに向かう。軋む身体に更なる鞭を打ってでも、親友を救うために。

 

 

「楓ッ!!!」

 

「………─────」

 

 

 ──── 一方のアベンジたちは、ファングと2vs1という一見数で押す形ではあるが、実際には1vs1ですらない。

 ファングにとってアベンジたちは餌。ただ動くだけの餌。ただの餌が百獣の王と呼ばれるライオンに勝てる訳がない。戦力差は彼らが1番理解できている。

 

 

「でも引くわけには…!!」

 

「いかねーよなぁ!!」

 

 

 アベンジとモグロウによる左右からのダブルキック。

 それを平然と手で受け止めて見せ、2人は軽く投げられると、ファングは爪で空を裂いて衝撃波を飛ばす。

 ただの衝撃波のはずだが、ファングレベルになれば、これだけでもかなりのダメージが入る。

 

 

「うぐっ…!!」

 

「かはっ…!!?」

 

 

 3人でも歯が立たなかったのに、2人だけとなったらただの遊び道具と化しているんじゃないだろうか。今のも本気ではなかったようだ。

 倒れた2人にファングが近づいてきているのがわかる。トランスウェポンと言えど、もう流石に限界がきている。このままでは本当に始末されてしまう。

 

 

「ま、まずい…… 早く立たなきゃ……ッ!!!」

 

「そうは言ってもよ…… くそっ!!」

 

 

 連戦による疲労もあってか、2人の身体には限界が来ていた。追い討ちのようにファングという規格外の人物が登場。

 もうダメかと、内心思い始めてしまった時であった────。

 

 

「…… 何の用だ。班目ッ!!」

 

「あら、どうしましたか? ファングさん?」

 

 

 アベンジたちの目の前に立っていたのは、仮面ライダージャックへと変身した班目であり、それを認識した頃にはジャックが2人を担いでいた。

 まるで意味がわからない行動に、ファングはジャックに対して怒鳴り声をあげる。

 

 

「貴様ッ…… これがどういう事かわかってのことだろうな!!」

 

「わかってますよ。えぇ、とても」

 

「裏切り者共をどうするつもりだッ!!」

 

「本当は稲森さんだけでいいのですが…… まぁモグロウさんは稲森さんにとって必要なので連れて行きます」

 

「何故だと聞いているのだ班目ッ!!」

 

「理由? ()()()()()()()ですが何か問題があります?」

 

「班目ェ!!!」

 

 

 ファングが爪を掲げた瞬間、ジャックはアベンジたちを連れて、どこかへと消えていってしまった。

 その行動が首領を裏切り… 侮辱していると取ったファングは、はらわたが煮えくり返る程の怒りのままにクインに命令する。

 

 

「エースを捕まえろ!! そして首領にお渡しするのだッ!! 俺は──── 奴らを殺すッ…!!!!!」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「─── 班目さん…」

 

「あぁ、その通りです。ファングを倒す為の力をあなたに授けましょう」

 

「あのリジェクトフィードを渡すつもりなんだろ…」

 

「ん? やけに素直ですねモグロウさん? ファングは強いですから、そうなるのも仕方ない。これに頼るのは必然的と言えるでしょう」

 

 

 ここは懐かしい廃工場。稲森が初めてアベンジドライバーを渡された場所である。

 変身を解いた3人はここへ集まり、班目が早速リジェクトフィードを稲森に渡そうというところだ。

 このアビリティズフィードに関しては、否定的だったり後ろ向きに考えていたモグロウではあるが、ファングとの戦いでもうこれに頼る以外に勝ち筋がないと思ったのだ。

 

 

「これが話しに聞いていた……」

 

「やはりモグロウさんから聞いてましたか。なら話しは早いです。リジェクトフィードは『犠牲』による強さ。誰でも構いませんが、縁が深い程、その力の大きさは計り知れないものとなってきます。まさに最強のアビリティズフィードです」

 

「…… 誰1人も『犠牲』にはしませんよ」

 

「あ…… まぁそれもいいですね。リジェクトの素の強さも今までの比ではありません。最も凶悪であり、最も凶暴。それがリジェクトウェポン。もう誰もあなたを止める事はできません…… 多分ですけど」

 

「多分って…」

 

「私も保障しかねます。なにぶん研究に終わりはないもので…… もしかしたらそれ以上のものが出来る… のかも、しれませんがね」

 

 

 いつものようにニヤリと笑う班目を気味が悪く思いながらも、稲森達は再びファングの元へと戻ろうとすると、班目がマシンアベンジャーを呼び出す。

 気が利いているのか… いや、班目は早く見たいのだろう。自分の開発したアビリティズフィードの性能を。ついでにファングが倒されるその姿を。

 

 

「では、健闘を祈りますよ」

 

「ありがとうございます─── あの」

 

「はい?」

 

「あなたは人間なんですか?」

 

「…… 酷い事を言いますね。私は人間ですよ? 今も昔も変わらずにね」

 

「あ、そうですか… すみません。では、行きます」

 

 

 それから稲森は自動操縦でここまでやってきたマシンアベンジャーに跨り、ファングの元へと走り出す。

 班目はその背中に軽く手を振ると、再びニヤリと笑い出す。今度は分かりやすいほどの不敵な笑顔を浮かべ。

 

 

「やれやれ。ついにそう聞かれてしまうとは…… ですが、あながち間違ってはいませんよ稲森さん。私は人間であり、()()なのですから────」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 凄まじい爆発音が街に響き渡り、現場へとアクセルを全開にしてたどり着いた稲森たち。

 その光景はまさに酷いものであった。街は壊れて瓦礫の山と化し、人々は倒れ、苦しみ助けを呼び、思わず耳を塞いでしまおうと思うくらいである。

 そして中心にはファングが立っていた。目があった途端に、今までとは比べ物にならないほどの殺意が身体を突き抜ける。

 

 

「モグロウ。街の人の避難と救出をお願い」

 

「わかってるぜ、イナゴ…… 無理すんなよ」

 

「無理はしないよ。無茶はするけどね」

 

「…… ったく、ほんとに気を付けろよな!!」

 

「うん!!」

 

 

 モグロウに手を振って分かれた稲森は、ファングにゆっくりと近づいていく。

 近づく度にピリピリとする感覚を受けつつも、歩むを止める事なく、深く息を吸ってファングの前へと立ち塞がる。

 ある程度の距離まで来ると、気迫からかファングの姿がより大きく感じ、気を緩めでもしたら気を失ってしまいそうだ。

 

 

「来たか…… イナゴ…!!」

 

「スー…… ハー……… はい、来ました」

 

「貴様らは首領に背いただけでなく、今度は首領を倒すだと…? 舐めた口もいい加減にしろ。まずは貴様だ、イナゴ。貴様から始末するッ!!!」

 

「…… きっと大丈夫。大丈夫なはずだ!!」

 

 

 それから稲森はアベンジドライバーを巻き付けてから、リジェクトフィードを取り出すと、続いてトランスフィードを取り出して合体させる。2つのアビリティズフィードを合体させた状態は、まるで怪獣が牙を剥き出して、正面を向いているかような造形をしている。

 アベンジドライバーに合体させたリジェクト・トランスフィードを装着すると《Welcome!! リジェクト!!》という音声と共に待機音が鳴り始めた。

 

 

《Ambition comes true because of sacrifice!!》

 

 

 アベンジドライバーを飲む混むかの如きリジェクトフィード。

 稲森は右腕をトランス同様に、リジェクトフィードの上部のスイッチに手を置き、左腕を自分の顔の右横まで伸ばす。

 

 

「─── 変身ッッッ!!!!!」

《Tasty!!》

 

 

 変身の掛け声の後、上部のスイッチを押し腕を開く。

 すると、トランスと同じ霞んだイナゴの群れが出現し、アーマーを形成していくのかと思いきや、イナゴの群れはそこら中に力を失い倒れた人々の所へと飛んでいく。

 1人1人に群れで止まると、群れが1匹の大きなイナゴへと変化して、倒れている人々のエネルギーを吸い始めた。

 そして吸い取り続けるイナゴたちの身体から管が出現し、稲森の身体中に突き刺さる。

 いつもなら痛みを生むはずのこの行為が、今回の場合はとても心地よく感じてしまった。身体に流れ込むエネルギーにうっとりとしてしまいそうになる程、それはとても暖かく安心ができるものであった。

 それからイナゴの群れは鋭利な棘が身体中にびっしりと付いたアーマーを形成し、ついにアベンジは新たな力を宿す。

 

 

《Put a flag on the mountain of sacrifice, I'm an avenge world revenge!!》

《START!! リジェクトアベンジ!!》

 

 

 仮面ライダーアベンジ リジェクトウェポンがここに誕生した。




ほんとすみません。ほんとすみません。
新フォーム先延ばしはわざとじゃないんです!!信じてくださいぃぃぃぃぃぃ!!!

次回、第25話「犠牲がビター」

次回もよろしくお願いします!!


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第25話「犠牲がビター」

皆さんご無沙汰しております。

前回、ファングの出現により苦戦するアベンジたち。エースがクインを抑えてはいるが、アベンジたちの方は連戦ということもあり体力も限界であったその時、ジャックが現れその場から逃げ去ることに成功。それから班目よりリジェクトフィードを渡された稲森は再びファングの元へ。仮面ライダーアベンジ リジェクトウェポンへと変身し戦うのであった…

それではどうぞご覧ください。


「すごい…… 力が溢れてくる!!」

 

「班目の言う俺を倒す為の力というやつか? それがどうした。貴様を殺せばどうという事はない!!」

 

 

 ファングはアベンジに近づき、爪で彼の身体を引き裂こうと振り被り、右肩から胴にかけて真っ二つに切り裂いた。

 ─── はずだった。

 しかし、ファングの爪は人体を切り裂くどころか、右肩にピタリと止まったままである。

 あり得ない。あの一撃は本気でこいつの身体を切り裂いてしまおう放った一撃。奴の全フォームで先程の一撃を何もせずに受けてみろ。豆腐を切るかの如く簡単に切れるはずだ。

 そう思っていたファングだったが、現実はこうである。アベンジのアーマー強度は、ファングの力より硬く強いという事。

 

 

「な、なんだッ…!!? 俺の爪が通らないだとッ!!?」

 

「すごい…!!─── これなら行けるッ!!!」

 

 

 そしてアベンジは爪を弾き飛ばすと、否、弾き飛ばしただけで爪を割って見せたのだ。とても鋭利で硬いあのファングの爪を。

 これには流石のファングも驚き、状況を呑めずに只々頭の中が真っ白くなるだけだった。

 

 

「馬鹿なッ!!!」

 

「はぁっ!!!」

 

 

 アベンジの放った右ストレートが決まる。

 なんという軽さだろう。あのファングが自ら放ったパンチで軽々と持ち上げ、いとも簡単に吹き飛ばした。

 初代エースにこそ地面に転がされたファングだったが、たったそれ一度だけの事だ。初代以外には、今まで一度足りとも地面に転がった事はない。

 だが、どうだ。今、目の前で不思議なことが起きている。

 

 

「まだまだぁ!!!」

 

 

 無様に転がったファングを追撃と、もう一撃顔面にパンチを捻じり込むようにして放つアベンジ。

 2人… いや、3人でも歯が立たないほどの強者だったファング。

 それも今は過去形だ。彼はこうして自分より格下だと思っていた相手に、無様に地面へと転がり、追い討ちを喰らい、何もできずにニ撃も喰らわされた。

 たったそれだけの攻撃に、ファングは既に自分の身体の限界を感じている。

 

 

「こんな……ッ!!! こんな格下にッ!!! こんな格下に負けるのか俺はぁッ!!!!!」

 

 

 止まらない。止められない。

 アベンジはこのリジェクトフィードを使えば、身体のどこかしらに大きな損害が発生するんじゃないかと思っていた。

 しかし、それはただの思い過ごしに過ぎなかった。不思議と心地よい。身体のどこにも異常はなく、それどころか気持ちがいいのだ。

 

 

「………ッ!!!」

 

 

 ── 力が溢れる。力が漏れ出す。

 リジェクトウェポンになってから、妙だが心が安らいでいくのがわかる。

 何故こんなにも心地が良く、とても清々しいのだろうか。生物を殴り、蹴り、それをただ思うがままにやるだけで、こんなに晴れ晴れとした気分になるんだろう。

 

 

「ははっ…」

 

 

 不思議なほど笑顔になる。顔が引き攣る。楽しい。

 そう思っていないはず… そう思っている。思ってしまっている。暴力を楽しんでしまっている。

 

 

「ちっ…!!」

 

 

 すると、ファングは折れてない方の爪にエネルギーを全集中させ、アベンジ殺意を込めて切り裂いた。

 この一撃により少しだが、隙と間合いを取ることに成功し、一時距離を取る。

 

 

「班目… 余計な事を…… これが俺を倒す為の力? ふん、確かにそうだな。だが、ここで俺がそう簡単に終わると思うか? 無駄だっ!! 俺は首領の右腕として貴様を… アベンジッ!!! 貴様を殺す!!!」

 

「殺す……」

 

「……ッなんだ… この虫は…… どこから出てきた…?」

 

 

 辺りを見れば、先程変身時に出てきたイナゴの群れが、アベンジの背中から這い出てきている。

 そのイナゴはファングの爪で簡単に切り裂ける。あのリジェクトウェポンから出たモノとは思えないほど脆い。

 それらは群れとなし、そこら中に命尽きて倒れてしまっている人の元へと飛び乗り、身体中を覆い尽くすほど密集する。

 まるで獲物を喰らうかの如くわらわらと蠢き、養分を吸収し終えると、それらは纏まって管を創り、アベンジへと戻っていく。

 

 

「… 何をする気だ」

 

 

 イナゴ達が戻ってくると、アベンジの身体は満足感に浸された。

 また取り込みたい。また吸いたい。もっと欲しい。

 

 

「─── ファング……」

 

「…ッ!」

 

 

 あぁ、そうだ。こいつを喰えばもっと強くなれる────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「ふぅ… まぁ避難はこれくらいでいいか?」

 

 

 一方、モグロウは逃げ遅れた人々を助けつつ、陽奈の様子を見に行こうとしていたところであった。

 後ろで大きな爆発音が聞こえるが、きっとあれはリジェクトウェポンを使っているイナゴなんだろうと思う。心配なのは副作用。班目はそのままの事しか言っていないだろうけど、如何にもこうにもあいつを信じることはできない。

 とにかく、ファングを倒せるのは稲森しかいない。

 モグロウは戦闘する陽奈の元へと駆けつける────。

 

 ─── 身体が潰れそうになる。暴走する身体を抑えられるのも、そろそろ限界に近いと感じる。

 親友を力強く殴るのが、ほんとに嫌になる。こんな事なかったのに… いつからだろうね。

 

 

「もうやめなさいッ!! 楓ッ!!」

 

「………」

 

 

 エースは近距離重視の攻撃を行い、クインは遠距離重視の攻撃を行う。

 お互い攻撃手段が近距離と遠距離しか存在しない。エースガモスボウで対応してもいいのだが、火力が違い過ぎる。

 だからこうして親友を直接殴りにいくしかないのだ。

 

 

「黙ってないでなんか言いなさいよ!! 馬鹿ッ!!!」

 

 

 そしてエースはクインを再び殴ろうと、一気にその距離を縮める。

 しかし、既に杖にエネルギーを溜めていたクインは、近づいてきた瞬間、至近距離で火球を放つ。

 凄まじい爆発の中からエースは飛び出して地面に着地するも、身体がギチギチと締め付けられる。ここにきて限界か。

 

 

「はぁ… はぁ…… (このままだとまた暴走する。もう動けない… 楓を止められないまま終わるの…?)」

 

 

 少し気を緩めてしまったのが失敗だった。気張って耐えた暴走も疲労によって、変身を解く前にふっと記憶が無くなる。

 その瞬間、モグロウがエースのスーパーハードフィードを引き抜いた。様子がおかしいと思い、穴を掘って地面から不意に登場して外したのだ。

 変身が解けた陽奈は気を失い、モグロウにもたれ掛かる。クインはこちらに標準を合わせている。状況は最悪だ。

 

 

「あぁ、くそっ!! あとちょっと待てっ!! 2人分は掘れてないんだよ!!」

 

 

 クインが火球を発射する10秒前、モグロウの頬に冷たいものが流れてきた。

 これは自分のものではないと、一瞬でわかった。上から落ちてきたのだから雨かと思う。

 だが、それは雨ではない。涙である。陽奈は泣いていた。気を失ってはいるが、ずっと気を張っていた。ずっと親友を殴っていた。どれだけ苦しかったのだろう。

 その時、モグロウは目の色を変えて地面に爪を突き立てる。

 

 

「…………」

 

 

 そして、火球が発射された。そこに火柱が立ち、辺りを赤く照らす。

 光が収まると、そこにはモグロウの姿はなかった。大きな穴がぽっかりと空いており、陽奈諸共焼かれてしまったのだろうか───。

 

 

「─── ったく、危ねーよなぁ」

 

 

 しかし、モグロウは生きていた。もちろん陽奈も担ぎながら、片手で2人分の穴を掘って見事あの火球から逃れたのだ。

 

 

「女の涙見せられて、そんままそこで諦めてられるかよッ!!!」

 

 

 それからモグロウは全力で掘り進め、戦場からなんとか逃げて見せた。

 クインは仕留めたと思ったのか。それ以上の攻撃をせずにその場で待機する。まるで本当の人形になったかのような姿。

 その後ろからゆらりと現れる1つの影。もちろん言わずもがな班目である。

 

 

「やぁ、どうも。楓さんはお元気でしょうか?」

 

「…………」

 

「まぁ当然ですか… しかし、あなたも簡単に堕ちてしまいましたね。陽奈さんがあの日、怪人を逃した頃ですかね。そこからあなたの心は揺らいだ。揺らいだ心はそう簡単には戻らない」

 

「…………」

 

「後は簡単です。あなたのポーカドライバーに搭載した電波を、変身するたびに流せばこの通り… 洗脳することは容易い。お陰で素晴らしいほど良く聞き、言われた事は必ずこなす…… あなたに託して正解でした。さて、ここからですね。さっさとファングさんと首領をあの2人が痛めつけてくれれば、そうすれば全て上手くいくんです」

 

 

 班目は不敵な笑みを浮かべながら、声に出して笑う。

 素晴らしいほど事が上手く進む。自分の才能に惚れてしまいそうになる。いや、既に惚れている。だから上手くいく。

 

 

「あぁ… 早く見てみたい─── 怪人と人間の生き残りをかけた戦争を……───」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 アベンジの拳が何度もファングの身体にめり込む。

 あり得ないほど強い。あり得ないほど恐ろしい。ファングにとってあり得ない現実が襲いかかる。

 

 

「…… 何が最強の民族だ!! この裏切り者がぁ…!!!

 

 

 なんて酷い現実だろう。とても痛い。とても苦しい。

 気づけば拳が目の前にある。次の瞬間には吹き飛ばされ、また再び前を見れば、そこにあるのは拳。

 

 

「…… はぁ…… はぁー………… ちっ!!」

 

 

 再びアベンジの背中からイナゴの群れが飛び出した。

 そこら中に倒れている人を包み込み、触手を生み出し、アベンジの元へと吸収される。

 

 

「…… なるほど。俺でも虫唾が走る能力だ……」

 

 

 戦いの中で犠牲となった人々。命を失ってしまった人たちが、僅かに残した生きていた頃の生命のエネルギー。

 そのエネルギーを啜るのがリジェクトウェポン。生きる為に誰もが持っている生命への執着。

 あらゆる犠牲を生む事で生み出される力。自らが生み出し、他人が生み出し、この世に必ず付き纏う犠牲。

 より強い力を求めるのであれば、それ相応の犠牲がつきものである。対価を支払う事。

 

 

「ファング…!!!」

 

 

 もっと強くなりたい。もっと誰かをぶちのめしたい。

 もっともっと犠牲を生みたい。犠牲は僕の力となって、犠牲は僕を更なる高みへと導いてくれる。

 ファングを殺して、喰らって、僕はもっと強くなる。

 

 

「ぐあぁぁぁあっ…… ぐぅッッ!!!!」

 

 

 ── 楽しい。楽しい。楽しい。

 

 

「これで!!!」

 

 

 これで犠牲者が増える。僕は強くなる。もっと強くなる。

 犠牲を増やそう。そうすればみんな救える。今より多くの人の命を救えるんだ。

 だからもっと犠牲を増やさなきゃいけない。僕が強くなる為に───────。

 

 

「─── え…?」

 

 

 ─── …… 僕は一体何を言ってるんだ?

 そう思ったアベンジはほんの少しの隙を見せた。ほんの少しの隙ではあったものの、そこはファング。隙を見逃さなかった。

 僅かに残った爪で、自分の中にあるエネルギーを全放出させてアベンジを吹き飛ばした。

 気がつけばそこにファングの姿はなく、そこら中にファングによって命を絶たれた人々が倒れている。

 そしてアベンジは思い出す。この人たちに自分が何をしていたのか。自分は一体何を口走っていたのか。

 

 

「う、うぅ…!!!」

 

 

 稲森はリジェクトフィードを引き抜いて、地面に膝をつき、頭を抱えて涙を溢す。

 自らが殺した訳ではない。それはわかっている。わかってはいるが、そうではない。自分はこの人たちを使()()()自らの力に変換していた。命を使()()()のだ。

 そして自分は何を思い、何を言っていたのか。暴力に快感を得ていた。楽しかった。こんなの自分ではない。

 

 

「何してるんだ僕はッ……!!!!!」

 

 

 リジェクトウェポン。それは最も容易く力を持つ事ができる強力な武器。

 ただしそれは、犠牲の上に成り立つ最強の力なのだ。




さぁもう25話目です。
この調子でいけば45話くらいで完結できそうです(またです)。

では次回、第26話「決意のエース」

次回もよろしくお願いします!!


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第26話「決意のエース」

皆さんご無沙汰しております。

前回、稲森はリジェクトウェポンの使用により最強の力を手に入れるが、その力は思考回路をもおかしくしてしまう。あのファングが手も足も出せぬほど完膚なきまでに倒される。が、自我を取り戻した稲森の隙をつき、ファングはその場から逃走した。楓も元に戻る気配もなく、班目の企みは進んでいく…

それではどうぞご覧ください。


「楓にとってのヒーローって何?」

 

「なに〜? 陽奈は急に変なこと聞くね」

 

「ただ気になっただけ。特に深い意味なんてないわよ」

 

「う〜ん…… 陽奈みたいな人のことを言うんじゃないかな?」

 

「私? あなたが思うほど大したことはしてないと思うけど…」

 

「…… 陽奈ってさ。大体そういう変なこと言う時って悩みがある時だよね〜」

 

「悩み… まぁ、ないとは言わないわ…」

 

「ヒーローって悩み事が多いと思う。だってそれくらい抱え込んでるんだもん」

 

「それで?」

 

「だーかーら〜… 私にとってのヒーローはいつだって陽奈なの! もし私が悪い奴に絡まれたらすぐに助けてよ!」

 

「はいはい。こんな危なっかしい子を1人にしちゃいけないからね」

 

「なにそれー!もー!」

 

「ふふふっ───」

 

「ねぇ───……… どうして私を裏切ったの?」

 

「……えっ───」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 ──── ここはどこだろう? 前にも来た事があるような…。

 陽奈はベットから起き上がり周りを見渡す。どうやらここは病院のベットのようだ。机の横にはバナナが置かれている。

 こうして変な夢を見る前、自分に何が起きたのかは粗方予想はつく。

 

 

「…… はぁ」

 

 

 またベットの上でこうして眠り、今どれだけの時間が経過したのだろう。

 スーパーハードウェポンに変身し、楓と戦い、その後の事がどうにも思い出せないが、きっと稲森かモグロウ辺りだ。

 それから陽奈はベットの横にあるバナナを一房千切り、剥いて食べ始めた。甘い。前食べたのと同じだ。

 しばらくすると、病室に誰かが入ってきた。

 

 

「どうも羽畑さん」

 

「稲森…… あんたも暇ね」

 

「ははっ、でも暇じゃないですよ。お金が無くて、そろそろ大家さんに追い出されそうで… 今は働く余裕もないほど戦う事ばかり。こうして少し時間が作れただけでも癒しです」

 

「なら、家で休んでなさいよ。私の見舞いになんか来ないで」

 

「そうは行きませんよ! 羽畑さんにはお世話になってるんですから、これくらいの事はやらないと!」

 

「…… ほんとバカね。あなたは…… で、私を運んできたのは稲森?」

 

「いえ、羽畑さんを運んだのはモグロウです」

 

「あのモグラ怪人が……」

 

「結構ギリギリだったそうですよ。スーパーハードウェポンが暴走仕掛けたところで駆けつけたって」

 

「………」

 

 

 そこまでの記憶はある。自分でもこのままでは暴走すると思っていた。あの状況で少し気を抜いてしまったのが間違いだった。

 それ以上の記憶は微塵も覚えていないが、どうやらモグロウに助けられ、その場からは何とか逃げられたようだ。大事ではなく本当に良かったと思ってる。

 しかし、稲盛の様子が先ほどから変である。

 陽奈は稲森の様子が不自然に感じ、それについて聞いてみた。

 

 

「ねぇ、あなた。何でさっきから笑ってないの?」

 

「え? いや、笑ってますよ…」

 

「顔が引き攣ってるし、元気を感じられない。あなたの方もなんかあったんでしょ?」

 

「……… えっと、実は────」

 

 

 稲森はあの裏側で何があったのか全てを話した。

 新たに使用したリジェクトウェポンによる影響で思考回路がおかしくなり、色んな人の犠牲から与えられる力。ファングには勝利したものの、そこで再認識した。戦う事への恐怖を。

 

 

「また同じように使用すれば、僕はどれだけの犠牲を払うのか…… 思考がぐちゃぐちゃになって殺戮を楽しむような… そんな奴になったんです。アベンジドライバーを見る度に怖くなるんです。あの時、生きている人たちが周りにいたら、僕は一体その人たちに何をしていたのかって……」

 

「班目もまたとんでもないの造ったわね… ホント何がしたいんだか。それで? もう変身したくないって言うの?」

 

「い、いえ、そんな事……」

 

「でも、あなたは再認識しちゃった訳でしょ? これが殺す為の道具であるって事」

 

「………」

 

「…… 私も最初は怪人なんて消えちゃえばいいって思ってた。この世から1匹残らずね。その為に私たちライダーがいるんだって…… でも、それは私たちがそう思っていただけで、実際はこうして倒さなくてもいい怪人もいる。誰よりも命を大切にするし、困ってる人がいたらそれが人でも助ける。そんな怪人もいる訳だし」

 

「羽畑さん…」

 

「父さんのやり方が全部が全部悪いとは言わない。実際、怪人は何もできない私たちに何をしたと思う? 奴隷よ? 家畜同然に扱われたのよ? 何人も死んだわ。それで許せる? 私だったら許せない」

 

「…… 確かにそう思います」

 

「─── だけどね? それは一部なのよ。一部がそうしただけで、他は何もしてないの。怪人は許さないわ。だけど全部なんて言ってたらいつまでも終わらない。こんなバカみたいな人間と怪人のいざこざもうごめんよ…… こんな条約が無ければいい」

 

「羽畑さん… それって」

 

「条約なんてものを撤廃するわ。これ以上… 犠牲は出したくない───」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 陽奈が条約を撤廃すると言って1週間、特に世界は変わったかと言われれば何も変わってはいない。

 そもそも陽奈が仮面ライダーだからと言って、世界を動かす程の大きさを持っているのかどうかだ。答えはないと言った方が適切だ。

 何故なら、それは初代エースとその時の状況が影響したのが大きい。条約は確かに初代エース月火が作り出したもの。

 ただ影響を与えた月火はこの世にはいないし、既にこの世界が条約に慣れてしまっているのが原因でもある。

 陽奈から連絡は来ないが、きっと失敗しているのだろう。一度始まったものは、そう簡単に切り替えられるはずがない。

 

 

「─── で、お前は最近不調でどうしたんだって言いたいけど… まぁ、わかってる。あれのせいだろ…」

 

 

 モグロウは申し訳なさそうに言っているが、モグロウは何も悪い事はしていない。

 あれリジェクトウェポンの事であり、稲森がリジェクトウェポンに変身してから、全くと言っていいほど仮面ライダーに変身していないのだ。

 当然だ。陽奈の元で勘づかれるほど、彼の精神はズタズタになっていた。

 ここまで戦い続けてきた疲労。同族を殺してしまった過ち。そして罪なき犠牲者を己の糧とする恐怖。

 

 

「ごめんね、モグロウ」

 

「おぉ、おい。謝んなよ。謝るのは俺の方さ…… お前がこうなるなんてわかってたのに、俺はあの時自分を犠牲にしろなんて言っちまって…… すまん」

 

「いや、いいんだよ。迷惑かけてるのは僕さ…… アベンジに変身するのが怖くなったなんて…」

 

「今はリゲインの方も、反逆側のジェスターも大人しいし、この1週間久々の休暇だと思えばいい。それにお前は戦わなくていいんだ。今は陽奈の奴が何とかしてくれてる。これが上手くいけば、少しは楽になると思うぜ」

 

「…… ホントにごめん。モグロウ…」

 

「イナゴ……」

 

 

 この休暇は稲森にとって心安まる事なんてないのは、モグロウもよくわかってはいるが、こう言うしかないのが現状だった。

 1週間どころか、彼は自分の為にも人の為に怪人の為に、何度自分を酷使し続けたのか考えただけでも心が痛む。

 

 

「… あー、しかしよ。リゲインの方はあんなにわちゃわちゃしてやがったのに、急に表に目立たなくなったよな? 一体何があったんだ…?」

 

「わからない。でも多分だけど、首領は待ってるんだと思う」

 

「待ってる? 何を?」

 

「この1週間は前置きだ。もうすぐ始まると思う。僕達が… いや、世界が気を抜いた瞬間が奴らの狙い目だ───」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 稲森の言う通り、リゲインは反逆者のジェスター達を森の中の開けた場所に集め、首領による命令を今か今かと待っていた。

 そして首領が用意された台の上に立つと、この1週間待ち続けていた理由を話す。

 

 

「皆、よく集まってくれた。我々はこの1週間、どれほど待ち続けただろう!! ついに我々は明日の明朝ッ!! 人間どもに裁きを下すのだッ!!」

 

「「「オォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!」」」

 

「では、諸君。準備を進めるように…」

 

 

 それから首領は台から降りると、ファングや幹部2人がその後ろをついていく。

 そして少し歩くと、その横で待っていたフードの男の手前で首領はピタリと止まる。

 男がフードを取ると、それが全員班目だと言う事を認識する。

 

 

「素晴らしい演説でしたよ、首領」

 

 

 パチパチとわざとらしく手を叩く班目に、首領は怒りを込み上げながらもグッと堪える。

 

 

「これでいいのだろう?」

 

「えぇ、1週間という期間は短いようで長いものです。その期間我々が何しなければ、油断というものが生まれてしまう。人間はそこら辺、退化しましたよ。危機感が全くない」

 

「…… お前の目的は何だ?」

 

「私の目的ですか? 前にも話したでしょう。人間と怪人の戦争ですよ」

 

「それがお前に何の利点がある? お前はどちらの側だ」

 

「どちらでもないです。私はただ見たいんですよ…… 月火さんも生きているなら止めたでしょうね。私を… ですが、もういない。とにかく私は見たい。どちらがこの世界に相応しいのか。その最後を」

 

「…………」

 

 

 特に何も言わないまま首領は幹部達を連れて消え去る。

 が、その場に1人ファングだけが残る。ファングは班目に何か言いたそうに睨みつけていたが、言っても無駄かとその場を後にした。

 そこに誰もいなくなると、班目は後ろにいた楓に静かに命令を下す。

 

 

「…… さて、そろそろ陽奈さんにも頑張っていただきますかね… 楓さん。陽奈さんを殺してください。この世界がどういう結末を迎えるのか… ふふっ、楽しみです」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 この国は変わらない。過去、ジェスターによって何人の命が犠牲となり、苦しんできたか。

 それはこの国を指揮する者も犠牲者の1人に該当するからである。父、月火が何を考えていたのか、その想いを聞く前に彼は逝ってしまったから陽奈にはわからない。

 でも、これだけはわかる。父は国を… 世界を人間とっての平和を常に考えていたという事。

 だけどそれは怪人にとっては人権なんてない。自分たちがされていたように、相手にも仕返しにとやっていたら、いつまで経っても平行線上のままである。

 

 

「私が変えなきゃ…」

 

 

 陽奈は世界を変えると決意を固め、正面に向き直る。彼女の前に立ちはだかるのは、彼女の親友である楓。

 周りは先の戦いで瓦礫があちらこちらに残っており、いつも親友と通っていたショッピングモールも今は静かに佇んでいるだけ。人はいない。いるのは陽奈と楓の2人のみ。

 

 

「あなたならここに来ると思ってたわ… このショッピングモール学生時代から来てたもんね。懐かしい」

 

「………」

 

「私が楓の服選んであげてる時、楓はお腹が空いた〜とか甘いの食べた〜いとか、全く食い意地張ってるって思った。最近はそんな事なくなったけど、大人になったってことかしらねー…… また行きたいわ。2人で一緒に」

 

「………」

《ポーカドライバー》

 

「今の楓に聞こえてるかわからない。だけど言わせて、ごめんね楓。あなたとの約束守れなくて…… でも、私は決めた。ジェスターのしてきた事はホントどうしようもないほど最低最悪よ。その最悪最低な事を、なんの罪もない善良なジェスターにまで仕返しする人間も最低最悪!! だから私はみんなを守る!! みんなが楽しく笑える明日を作る!! それがヒーロー…… 仮面ライダーとしての務めよ!!!」

《エースドライバー》

《大・暴・走!!》《スーパーハード!! Open!!》

 

《ハート!! ベット!!》

 

 

 2人はそれぞれ対応するアビリティズフィードとカードを差し込む。

 決意を込めたエースにはもう迷いはない。楓を救う為、世界を変える為、仮面ライダーエース。羽畑 陽奈は戦う。

 みんなのヒーローとして、仮面ライダーとして。

 

 

「変身ッッッ!!!!!」

《Come on!!》

《Let's try スーパーハード・ハード・ハード!! エース!!》

 

「………」

《Let's call!! ハートクイン!!》

 

「帰るわよ楓… 私と一緒にッ!!」

 

 

 いざ、親友を取り戻せ───!!




これで半分くらいです。
残すはもう半分。みんなの運命はいかに…!

次回、第27話「親友とゴーホーム」

次回もよろしくお願いします!!


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第27話「親友とゴーホーム」

皆さんご無沙汰しております。

前回、リジェクトの一件から変身に対して恐怖や拒絶を起こし、アベンジドライバーからしばらく離れていた。一方の陽奈は世界の条約を変える為、1人奮闘していると、そこに楓が現れる。楓を救う為、世界を救う為、陽奈は決意を固めて親友との戦いに挑む…

それではどうぞご覧ください。


 仮面ライダーエース 羽畑 陽奈の今の気分は最高に良く、そしてこの上なく最悪な気分である。

 スーパーハードウェポンの暴走の気配は不思議な事にまるでない。その気分で見るなら最高だ。暴走フォームを克服したというのだろう。多少ぴりりとするくらいで、それ以外には異常なし。

 ただ、エースが最悪な気分となっているのはそこではない。

 

 

「……ッ!!!」

 

 

 理由はなんであれ、唯一無二の親友。仮面ライダークイン 青葉 楓を殴りつけている。これほど最悪な気分があるだろうか。

 こんなに力一杯に殴りつけている。自分の意思でこうやって。

 

 

「楓ッ!!!」

 

 

 これなら暴走していた方がマシと思えてきた。少なくともそちらの方が何倍もマシというだけで、自分のこの手で傷つけていることに変わりない。

 そしてエースの拳がもう一度顔面を捉えようとすると、クインの杖から火球が放たれる。至近距離なわけだから、まともに喰らい、エースの身体は炎に包まれて吹き飛ばされた。

 

 

「うぅ…!! この……!! やったわね!!!」

 

 

 近づいてくるエースに対し、クインは上空に杖を掲げると雷雲を作り出す。

 そこから一斉に雷が落ち、エースを何度も感電させて動きを封じつつダメージを与えていく。

 ただし、そんなものでエースが止まるはずがない。今のエースは暴走状態。ライダーとしてではなく、変身する陽奈の覚悟が突き動かす。

 エースは雷に打たれながらも、クインに近づいて杖を掴むと、当然雷に打たれている訳なのだから、必然的にクインも感電する。

 

 

「どぉ!? 痛いでしょ!? これ本当に凄く痛いんだからね!!」

 

 

 杖の取り合いが始まった。スペック上はクインの方が高い数値を叩き出してはいるが、エースの馬鹿力の前に杖を取り戻せない。

 クインは雷を消すと、エースを蹴り飛ばす為に杖を持ったまま蹴り飛ばす。いや、蹴り飛ばすことはできなかった。全く微動だにしない。

 

 

「まだまだ甘いわよ。力じゃ私には勝てなかったでしょ!!」

 

 

 そしてエースは杖を持ちながら、今度は逆に彼女を思いっきり蹴り飛ばした。腹部に大きな衝撃を喰らい、思わず手に持っていた杖を離してしまう。

 それからエースはその杖を遠くの方までぶん投げ、取り返そうとするクインの胸辺りにパンチで一撃喰らわせる。

 

 

「人形みたいになったあなたの動き本当に単調。全くそれが私のエースドライバーより性能が上? 班目も失敗したわね。私の方が断然強いじゃない」

 

「………」

 

「黙ってないでなんか言って。それくらいできるでしょ?」

 

「………」

 

 

 クインは向かっていく。武器もなにもないが、とにかくエースに向かう。

 

 

「楓」

 

 

 エースはクインを突き飛ばす。もちろん彼女は攻撃をして来ようとしていた。

 けれど、その攻撃はとてもわかりやすく、こうして簡単に避けて軽く突き飛ばせてしまう。

 そして何度も立ち上がる。

 

 

「もういいでしょ、楓」

 

 

 何度も何度も何度も。何回も何回も何回も。

 敵と見做した者を襲うだけの人形。違う。これは楓だ。

 

 

「楓ッ…!」

 

 

 そして再び立ち上がって襲いかかってきた時、エースの渾身の一撃がクインの左頬にめり込んだ。

 仮面が割れるほどの衝撃を与え、クインは吹き飛ばされてしまう。仮面割れしてしまうほどの威力で放ったパンチを受けたら、いくら回復の早いクインと言えどすぐには飛びかかってはこないはず。

 しかし、それは人間であったらの話しだ。クインは… 今の楓はただ動くだけ。どんな損傷を与えられようとも。

 

 

「…… 嫌」

 

「………」

 

「これ以上… あなたを傷つけるのは嫌ッ!!!」

 

 

 すると、なにを思ったのか。陽奈は彼女の前で変身を解いたのだ。

 それから陽奈は手を広げて彼女に近づいていく。この行為は異常であり、目の前にいるのは殺人も厭わない人形である。

 

 

「楓。私の事わからないの? あなたの親友よ」

 

「………」

 

「私たちずっと一緒だったじゃない!! どんな時でも一緒って約束したわよね!!? あなたを守るって!!?」

 

「………」

 

「楓ッ!!!」

 

「─────…… ナンデ」

 

「… え?」

 

「ナンデ、私ヲ裏切ッタッ……!!!」

 

「きゃぁっ!!」

 

 

 クインは手を爪のように見立てて陽奈を引っ掻いた。陽奈の左頬には引っ掻き傷ができて血が垂れる。

 それでも陽奈は割れた仮面の下の楓を見つめ直し、再び距離を縮める。

 

 

「あなたとの約束はもう1つ。悪い怪人を1人残らず倒す事。楓にもう2度と怖い思いをさせたくない。小さい頃にした約束、今だったら守れるの!!」

 

「……… 怪人ハ、私カラ全テ奪ッタ… アナタハ、私トノ約束ヲ破ッタ…」

 

「楓… 怪人はいい人だっている。あなただってわかってるはずよ。稲森やモグロウ、あの子だって怪人だけど人間の為に頑張ってる。こんな仕打ちをされてと復讐しないで、私たちを助けてくれてるわ」

 

「………」

 

「復讐は復讐しか生まない。争い合ってたらいつまで経っても終わらないわ。ジェスターだけじゃない。私たちも変わらなきゃいけないの。未来へ進まなきゃいけないのよ!!」

 

「… 許サナイ…… 怪人モ……ミンナミンナ…!!」

 

「…… ごめんね、楓。私の事、本当に腹が立つし、ムカつくでしょ? でも、私はこれ以上あなたと戦うのは嫌。もう争い合うなんて嫌よ……!!… 楓と戦う事なんて…… 楓と一緒に行けない未来なんて嫌だ……」

 

 

 そしてクインは両手で陽奈の首を掴む。

 割れた仮面の下から睨みつけながら、徐々にその手に力を込める。

 

 

「あなたが決めて…… 私は楓に対して本当に酷いことをしたわ。約束は破るし、話しは聞かないし、最低な女。どうするのか… 楓が決めて…?」

 

「─────……… モウ戻レナイ……」

 

「えっ…」

 

「私ハ、陽奈ト帰レナイ所マデ来チャッタ……」

 

「楓… あなた自我が…!!」

 

「私ハ、結局黙サレタ…… 怪人ジャナクテ人間ニモ…… ソレニ私ハ殺シタ… アノ女ノ子モ……」

 

「あなたは殺してない!! だってジェスターの子は生きてるわ!!」

 

「エ…?」

 

「ちょっと前に目を覚ましたの。あんなに怖い思いしたあの子がなんて言ったと思う? 私の心配と楓の心配よ?」

 

「私ノ…」

 

「私たちはあんな子まで悪者扱いしてた…… 本当に酷いわ。もうジェスターとか人間とか関係ないの!! 善も悪もあるのが生き物よ!!」

 

「デモ…」

 

「お願い楓ッ!! 過去はどうやっても変えられない。けど、今から私たちが… 仮面ライダーなら変えられる!! 私たちで平和な世界を取り戻そう? 争いのないそんな世界を2人で!!」

 

「ウゥ…!!!」

 

 

 更にクインの手に力が入り、陽奈の首を締め上げていく。

 

 

「がはっ…!! あなたもわかるでしょ…? 殴るよりも、蹴るよりも、もっと痛くなる部分……」

 

「………ッッッ!!!」

 

「心が痛い… もう1人で苦しまないで…… 親友の私がいるから…!!! 楓…… 帰ろう… 一緒に…!!!」

 

 

 *****

 

「陽奈、これ美味しいね!」

「陽奈、どこ行く?」

「陽奈、この服とかどう?」

「陽奈、すっごい可愛いよねそれ!」

「約束だよ陽奈! 私たちどんな事があっても一緒だからね!」

 

「楓、食べ過ぎよ」

「楓、今日はここ行きましょ」

「楓、似合うわよ」

「楓、私もそう思う」

「約束よ楓。私はどんな事があってもあなたを守るから」

 

「陽奈は私の大親友だよ!」

 

「楓は私の大親友ね」

 

「喧嘩なんかした事ないもん!」

 

「あるわよ。たくさん」

 

「でも、暴力は振るった事ないよ」

 

「私も」

 

「もしそうなったら?」

 

「もしそうでもやりたくない」

 

「私もやだ」

 

「私も嫌」

 

「じゃあ…… もうやめよっか」

 

「そうね。もうやめましょ」

 

「…… ねぇ、陽奈」

 

「ん? なーに?」

 

「私の本当の約束、覚えてる?」

 

「あー… うん。覚えてる」

 

「もうこっちが正解だよね」

 

「そっちの方がいいわ」

 

「うん! じゃあこっちで!」

 

「えぇ、私もそっち───」

 

 

 *****

 

 

「──── 陽奈…」

 

「うん、帰ろう。本当の約束守らなきゃ…」

 

 

 いつしか楓の手は緩まり、陽奈に優しく抱きついていた。陽奈も彼女を優しく包む。

 2人の頬に涙が伝う。苦しい。悲しい。悔しい。

 そんな感情がぐるぐると頭の中を周っていた。だけど今は違う。今だけは違うのだ。

 

 

「『世界の平和を守る仮面ライダー』。誰1人も犠牲なんかしない真のヒーロー。それが私、仮面ライダーエース。羽畑 陽奈が約束した事」

 

「ごめんね…… ごめんね……!!」

 

「私もごめんね…… 楓の気持ちをよくわかった気になって… 楓をこんなに傷つけて…」

 

「私も陽奈を傷つけて…… こんなにボロボロにして…!!」

 

「…… はい! もう泣かない! これからやる事たくさんあるんだから!」

 

「… でも、陽奈泣いてるよ…?」

 

「あっ…… う、うるさい! 楓はいつもそういう所ばかり見るんだから!」

 

「えへへっ…」

 

「全く… ふふっ」

 

「じゃあ… 帰る?」

 

「さ、帰りましょ。あなたも仮面ライダーになったんだから、しっかり働いてもらうわよ!」

 

「えぇー!!」

 

「えぇーじゃない!!」

 

 

 2人の顔から、心の底からの自然な笑顔が溢れる。

 そうして2人は互いに担ぎ担がれながら、その場を後にし、病院へと向かうのであった─────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 そして次の日、陽奈はボロボロではあったものの目立った怪我はなく、楓の方は時間は掛かったが、クインの自動回復能力のお陰もあってか。元の綺麗な状態へと戻っていた。

 他には楓のポーカドライバーに搭載されていた洗脳チップは何故か消えて無くなっていた。中身を知るはずない彼女たちにとってはその真相を知る事はないが、とにかくこれで洗脳による操作はなくなった。

 

 

「ごめんなさい!ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい…? やっぱりごめんなさい!」

 

「いいってもう… 俺も…… つーか俺があんな事しなけりゃ今頃……」

 

「でも、モグロウさんのせいじゃないです! それだけはわかります!…… ね〜陽奈」

 

「えぇ、まぁそうね…… お互いに悪いことしちゃった訳だし…」

 

「とにかく楓さんが戻ってきてくれてよかったです!」

 

 

 わちゃわちゃとしているが、病室には陽奈と楓の他に、稲森とモグロウも駆けつけていた。

 陽奈から連絡があると思えば、楓が帰ってきたと聞いて飛んできたのだ。稲森とモグロウは急いで病院へと駆けつけ、2人の様子を見にきた。

 お互い誤解や過ちを、直し、許し、これから最善の方法を見つけようとしている状態である。

 

 

「…… ごめんなさい、稲森」

 

「もういいですよ。モグロウの方はまだ言われてますけど…」

 

「あの子なりの反省よ…… でも、いくら謝っても足りないわ。何度も命を助けられて、楓も助けてもらって… 本当に謝罪と感謝でいっぱい」

 

「いや〜そんな事ないですよ。みんな無事でよかったですよ羽畑さん」

 

「─── で、いいわよ」

 

「え?」

 

「陽奈でいいわよ。特別に」

 

「…ッ! 陽奈さん!!」

 

「な、何よ。嬉しそうに… 気持ち悪いわね」

 

「やっと言えたので、嬉しくてつい…」

 

「…… 馬鹿じゃないの」

 

 

 ただ純粋に名前を言う稲森に対し、いや、その天然な感じが陽奈を照れさせた。下の名前を言われるだけでドキッと来るとは思わなかった。

 しかし、こうしている時間はない。陽奈は切り替えて本題へと入る。

 

 

「はいはい! 楓もモグロウもこっち向きなさい!」

 

「「はい」」

 

「…… 稲森はさっき話してわかってるだろうけど、この1週間ね。楓が来た以外、全くリゲインどころか、反逆側のジェスターまで動かないの。おかしいと思わない?」

 

「うん! 確かに思う!」

 

「楓はリゲインにいた時の記憶がないらしいから断定はできないけど……」

 

「ごめんね〜…」

 

「気にしないで…… で、私が思ってるのはリゲイン側はジェスターを動かして近いうちに人間側を襲うと思うの」

 

「…… つまりそれは簡単に言っちまうと──」

 

「戦争よ」

 

 

 病室内の空気が先ほどのポカポカとした温度が、とても低く寒くなったのを感じる。

「戦争」という言葉だけで、これから何が起こるのか予想がつく。

 

 

「陽奈さん。僕たちにできる事はただ一つです」

 

「えぇ、戦うしかない… それしか方法はないわ。1番最善で最優先。被害が1番出ない方法よ…… 大丈夫なの?」

 

「え? あぁ…… 僕は平気です」

 

「平気って顔じゃないけどね」

 

「とにかく大丈夫です!! やれます!!」

 

「無理しないでよ…… それじゃあそろそろ準備しないと。いつ来るかもわからないし──────」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 いつ来るはわからない。そう誰も未来なんてわからない。

 だから明日でも明後日でもない。今となる。今からが戦いの始まりなのだ。

 

 

「皆、行くぞ。我々の… ジェスターの力を人類に見せつけてやるのだッ!!!」

 

「「「「「オォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!」」」」」

 

 

 と、いう事らしいので、稲森さん。陽奈さん。それから楓さんにモグロウさん。怪人と人間が入り混じる異質なチームでどういう結末を見せてくれるのでしょうか?

 怪人とジェスター。果たして勝つのは怪人か。人間か。

 

 

「戦争の始まりですねぇ…!!」




親友奪還編は以上となります…!!
そして次回より「戦争編」スタートです!!

次回、第28話「戦争のスタート」

次回もよろしくお願いします!!


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戦争編
第28話「戦争のスタート」


皆さんご無沙汰しております。

前回、ついに楓を助けた陽奈。その後、稲森とモグロウの誤解や互いのやるべき事を見つけ、共に協力して戦う事を決断する4人。しかし、その背後では人間と怪人の戦争が始まろうとしていたのだ…

それではどうぞご覧ください。


 ここは栄須市の1番賑わっている街あり、怪人達が多く暮らす場所でもある。

 そしてもう1つは初代エースと首領が散った場所でもある。因縁深い場所。今でも鮮明に思い出せてしまうほどの、全身に耐え難い痛みと仮面ライダーに対する憎しみ。

 

 

「あの日の痛みが甦る…… ここで私が散り、奴も散った場所」

 

「… 存じております」

 

「ファングよ。何故我々は人間に従ったのだろうか」

 

「やはり初代エースの力が強大であったものと思われます。同時に首領の下の者達は弱く、私も含め動ける状態ではないほど甚大な被害を出しました」

 

「そして… お前の指揮の下、全てのジェスターは条約により今の状態にまだ落ちた」

 

「…… お恥ずかしい限りで、情けない自分が許せません。首領には何とお詫びをしたら良いか…」

 

「お前は私を裏切った訳ではない。こうして罪を滅ぼしをし、私についてきてくれている。さすが右腕という枠では収まらん男よ」

 

「勿体ないお言葉」

 

「では、行くぞ。今日で我々が奴らを超える。否、元々我々は超えていたのだ!! 今こそ人間どもに復讐する時ッ!!」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 この光景は少し前であるならば、誰がどう見ても非常事態であり、冗談でもあり得ない事であろう。

 稲森、モグロウ、陽奈、楓。怪人と人間。一緒にいるだけでも異常だが、まだここは目を瞑ろう。ただ4人が仲良くカフェでお茶をしながら会議というのは流石に誰もがおかしいと思うし、敵対していた者たちが手を組み、お互いの未来の為に戦おうとしているのは本当に異常事態だ。

 

 

「─── とまぁ、楓は記憶ないからどうにも攻められないわね。いったいどこに隠れているんだか」

 

「ごめんね〜…」

 

「だから謝らないの!」

 

 

 陽奈は楓の頭をポコっと叩き、あんまり痛くはないようにしたのだが、楓は大袈裟に頭を摩る。

 すると、陽奈の眼はコーヒーを啜る稲森に視線がいく。視線が合うと稲森はすぐに飲むのをやめて姿勢を正した。

 やはり慣れない。この鋭い眼光だけは。

 

 

「別に飲んでても特に言わないわよ…… まぁ後、問題は班目のやつよ。あいつの動向が不明な点が多過ぎるわ」

 

「そうですね… 強いて言うなら、班目さんは僕に渡したリジェクトフィードに何か仕込んでいる可能性があります」

 

「前に言った奴ね。暴走とはまた違うような感じだけど」

 

「はい。人を殴る度に、蹴る度に、心の底から怖いほど嬉しくなる。楽しくて仕方がなくて、早くこいつらの力を貪りたいという欲求が強まるんです。ファングの時は自我を何とか取り戻せましたけど、次の戦いの時、僕は正気でいられるのかと…」

 

「…… 私だって暴走は克服したわよ。ホント最初は厳しかったけど、案外慣れると楽なものよ。大切なものを守りたいって気持ちが強ければできるはずよ。だから頑張りなさい。今は私1人でどうにもできないんだから」

 

「陽奈さん… ありがとうございます。僕、頑張ります!」

 

「でも、無理はしないでよね」

 

「えぇ、それはもちろ───」

 

 

 その時、外から爆発音が聞こえ、店のガラスを吹き飛ばすほどの衝撃が走る。

 そんな中で稲森と陽奈は近くにいたモグロウと楓を庇う。見事に2人を庇い、ガラスも服のおかげで少し切れた程度で他は何ともない。

 

 

「まさか今なの…!?」

 

「そうみたいですね。陽奈さん! 楓さん! モグロウ!」

 

「行くわよ。覚悟決めなさい!」

 

 

 ───── 稲森たちが向かった先には、既に瓦礫と化した建物だったものが積まれ、その奥に禍々しい気を放った首領とファング、それから反逆軍の怪人たちがズラリと後ろに並んでいた。

 陽奈に覚悟を決めろと言われたが、あまりの多さに思わず後退りをしてしまう稲森。当然、稲森だけではなく陽奈たちもその多さに驚いているようであった。

 すると、首領は一旦手を挙げて全員をその場に留め、1人前へと歩み出る。

 

 

「どうやらお前たちも気付いていたようだな。我々がこの1週間何をしていたかまでは想像はつくだろう。だが、それももう遅い。そこの女は時間稼ぎにはなった。我々は準備を進め、1人でも多く同士を… 数を増やした。見ろ!! 私についてきてくれるジェスター達を!!」

 

「…… 首領」

 

「イナゴ… 裏切り者め。いや、忌々しいあの部族の生き残りめ。お前達は私が滅ぼしたと思っていたのだが、まさか数十年という時を超えてこうなろうとは誰が思うか」

 

「首領。僕は… 僕はあなたを止めます。そして、この世界の人も怪人も、争う事のない笑顔の世界にしたいんです」

 

「ふん。ふざけた事を抜かす」

 

 

 そして陽奈、楓、モグロウと稲森の横に並び立ち、全員戦闘態勢に入る。ライダードライバーを持つ者は腰に装着し、それぞれの変身アイテムを取り出す。

 ただし、モグロウのみないのでどうすればいいのか困っていた。

 

 

「お、おいイナゴ」

 

「… わかってる。僕は大丈夫だよ」

 

「いや、そうじゃなくてよ。いやまぁ心配なんだけどよ?」

 

「え? どうしたの?」

 

「俺だけベルトがないからどうすればいいかと… ここ合わせる所だろ?」

 

「…… うーん…… とりあえずその場の空気に合わせて!」

 

「えっ!?」

 

 

 陽奈はため息を吐くと、楓はそれを見て笑う。何がおかしいのだろうと疑問が浮かび、どうしたんだと楓に聞く。

 

 

「あなたも何よ。笑ったりして」

 

「んーん。でも、嬉しくなったんだ。陽奈とこうして一緒に戦えるって!」

 

「… 馬鹿ね。足引っ張らないようにして!」

 

「大丈夫! 足にしがみつくから!」

 

「それは邪魔!! 全く…… ほら、あんた達!! 行くわよ!!!」

 

 

 稲森はトランスとリジェクトを合体させてドライバーに装着し、陽奈はスーパーハードを起動させてドライバーへと装着。そして楓はハートの描かれたカードをドライバーの真ん中へ差し込み、モグロウはとりあえず皆に合わせて構える。

 

 

《Ambition comes true because of sacrifice!!》

《スーパーハード!! Open!!》

《ハート!! べット!!》

「………」

 

「「「変身ッッッ!!!!!」」」

「えっと変身ッ!!」

 

 

 モグロウは怪人態へと姿を変え、稲森達はアーマーを纏う。リジェクトウェポン。スーパーハードウェポン。ハートウェポン。

 ここに3人の仮面ライダー… と、1人の同時変身が実現する。

 

 

《Put a flag on the mountain of sacrifice, I'm an avenge world revenge!!》

《START!! リジェクトアベンジ!!》

《Let's try スーパーハード・ハード・ハード!! エース!!》

《Let's call!! ハートクイン!!》

 

「行くわよッ!!!」

 

「やれッ!! 皆殺しだッ!!!」

 

 

 エースと首領の掛け声により、各自雄叫びをあげて走り出す。

 数で言えば多勢に無勢。アベンジ達の方が圧倒的不利な状況で、本人達も震え上がっていたのだからわかっているはずだ。

 だが、ここで引くわけにもいかない。引けば人間も怪人も後戻りができなくなるから。もう戦争がないようにしたいから。争う事のない未来を実現するために。

 

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

 

 リジェクトウェポンはやはり強い。どれだけの数が押し寄せようとまるで止まる気配がない。いや、数が多いほどそれでいい。多ければ多いほど犠牲が生まれ、その犠牲はリジェクトウェポンの糧となって、強大な力を生むのだ。

 そして怪人達を圧倒的力でねじ伏せ、早々に首領の目の前にまで辿り着いてみせる。

 

 

「やはり来たか!!」

 

「来ましたッ!!!」

 

 

 瞬時に首領は改良型エースドライバーを装着して変身し、仮面ライダーエースリーダーとなってリジェクトのパンチを受け止める。

 力は五分五分といった所だろう。お互い一歩も引く事なく、力と力のぶつかり合いで双方の地面が割れる。

 その凄まじさにファングは一歩も近づく事ができず、ただ首領とアベンジを見ることしかできない。

 

 

「首領ッ…!!!」

 

「来るなファングッ!!! これは私とあの一族との決着をつける時だ!!! 邪魔をする事は許さんッ!!!」

 

 

 ── まただ。

 首領の声が段々と遠のいていく。確かに聞こえてはいるのだが、聞くまでもないという感情が込み上げてくるのだ。聞いたところで大した事にはならないし何の問題もない。

 何故なのかと、理由ははっきりしているじゃないか。

 

 

「……ッ!!?」

 

 

 その時、首領の受け止めていた手を弾いてアベンジの拳が胸部にめり込んだ。

 後方へと吹き飛ばされた首領はすぐさま態勢を立て直し、何が起こったのかわからないままアベンジの方を見る。

 彼は凄まじい圧を放ち、それでいて鋭い気迫で首領を見つめていた。睨みつけているではない。仮面越しでもわかる程、まるで子猫でも見るかのような目でこちらを見てきている。

 

 

「何だその目は…… 私を何だと思っている」

 

 

 首領にはわからないだろう。そんな目をされた事は人生の中で一度足りともなかった。

 慈悲や憐れみ。他者から受けるのは圧倒的賞賛と絶対的服従。今までも、そしてこれからもそうだった。そうであるべくして生まれたはずだ。

 だが、首領は更にわからないだろう事が1つある。それをファングはわかっている。実際に戦い、そうした立場にもあるから当然の事だ。

 

 

「あの目は違う…… あれは慈悲でも憐れみでもなんでもない。あれは─── 獲物と認識した時の野獣の目だ」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「合わせて楓ッ!!」

 

「任せて陽奈ッ!!」

 

 

 まずエースが前に出てジェスターたちを一箇所に集めていき、ある程度の数が密集した所をクインの杖による火炎弾で火柱と化す。

 尚、黒焦げにするだけで殺す事は絶対にしない。殺傷するのは今ではない。いや、今も未来もない。傷つけ合うことが正しいはずないから。

 

 

「ジェスターたちも大分大人しくなってきたわね…」

 

 

 エース達による息の合った攻撃を喰らったジェスター達は、全員同じように地面へと呻き声を上げて倒れている。もう立ち上がる事はできないだろう。ここら辺は一旦片付いたと見ていい。

 

 

「戦争なんか絶対させない! もう… 私みたいな人がいないようにするから!」

 

「楓…… えぇ。負の連鎖はさせちゃダメ。私たちは私たちにできる事を精一杯やるだけよ」

 

「もちろん!…… あれ? それはそうと、さっきまで一緒に戦ってたモグロウさんの姿がない…?」

 

「モグロウ? 確かにそうね… どこ行ったのかしら───!!?」

 

「な、なにっ!!?」

 

 

 アベンジが戦っている方から巨大な爆発音と建物が崩れる音が一緒になって響いてきた。

 首領と戦っているのだから当然と言えば当然だ。これくらいの災害は覚悟して戦いに挑んだはずだったが、エースは別に嫌な考えが頭を過ぎる。

 

 

「リジェクトウェポン…… まさかだと思うけど…」

 

「どうしたの陽奈? あっちって稲森さんが戦ってる…」

 

「楓、急いで行くわよ。嫌な予感がするの」

 

「嫌な予感…?」

 

「私の第六感。急ぐわよ!!─────」

 

 

 ──── エース達がアベンジの方へ向かっている最中、その前に1人早々に走り出した親友がいた。

 それはモグロウの稲森の親友としての繋がりだろうか。全身が急いで稲森を止めろと言っている。どんな手を使っても止めてやれと。

 このまま行けば取り返しのつかない事態に発展するはずだ。

 

 

「─── イナゴォォォォォォッッッ!!!」

 

 

 そして急いで現場へと駆けつけたモグロウの目の前には悲惨な光景が広がっていた。あり得ない現実。見たくもなかった事実。こうなる事くらいわかっていたのに対策できなかった。

 亡き人間たちの上にアベンジから飛び出た気味が悪いイナゴの群れが覆い被さり、その命の絞りカスを吸っている。

 ここまではリジェクトの能力だ。だが、問題はそこではない。これを誰がやっているか、誰がやったのかが問題なのだ。

 

 

「冗談よせよ… イナゴッ!!」

 

 

 再び向こう側から爆発音が聞こえ、モグロウは脇目も振らずにただ稲森の元へと走り出す。

 やめてくれとただ願う。親友が遠くへと行ってしまう。取り返しのつかない一線を超えてしまう。

 

 

「…… 嘘だろ」

 

 

 モグロウが目にしたものは更地と化した場所に、首領の頭を掴み今にもトドメをさそうとしているアベンジ。

 周りには人々が… ジェスターたちも倒れ、まさにこの世の地獄絵図だった。それに混ざり、ファングも巻き込まれたのか参戦したのか定かではないが、今まで見たこともないくらいボロボロにされて倒れていた。

 

 

「やめろイナゴ……」

 

「… これで終わりだ…」

 

「やめろォォォォォォッッッ!!!!!」

 

 

 アベンジの殺意のこもった鉄拳が首領に振り下ろされた───。




どうもお話し調整してました…(震え声)
もうリジェクトウェポンで大元倒せるから全てが終わり!…とはならない模様…。

次回、第29話「首領はフューリアス」

次回もよろしくお願いします!!


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第29話「首領はフューリアス」

皆さんご無沙汰しております。

前回、戦争が本格的になる前に食い止めようと、アベンジたちは力を合わせ、進軍してきたリゲインや反逆者のジェスターたちと対峙する。そんな中で首領と戦う事になったアベンジはリジェクトウェポンを使用。やはり感情が抑えられなくなり暴走し、首領を殺す寸前に…

それではどうぞご覧ください。


 その場はとても静かだった。静か過ぎた。

 モグロウはその静かな場所で親友を見つめている。

 

 

「イ、イナゴ……」

 

「………」

 

 

 アベンジの渾身の一撃が首領の頭を潰し、殺してしまったかに思えた。

 しかし、アベンジの拳は首領の顔の横を捉え、その部分の地面が大きくヒビ割れただけである。

 

 

「─── い、やだっ!!」

 

「イナゴッ…!!」

 

「僕は… 誰も殺したくなんか、ないっ!!!」

 

 

 殺人も厭わない、寧ろそれを楽しんでやるようなリジェクトの能力を、アベンジは微かな理性だけで必死に耐える。

 そして隙を見せたアベンジを首領は残った力で蹴り飛ばし、ありったけの声でファングに引くように命じた。

 その声を聞いたファングは飛び起きてジェスターたちに引くように命じ、自分も動くだけでも精一杯なのだが、首領を抱えてその場を後にしようとする。

 

 

「…… イナゴ。お前は決して何も救えない。お前がしてきた事は全て無駄となる」

 

「え…?」

 

「近いうちに理由がわかる。私がここへ来たもう一つの狙いがそこにあるからな」

 

 

 首領はそう告げると、ファングに抱えられながらその姿を消した。

 そうして稲森は変身を解き、周りをぐるりと見渡す。その光景は散々な者であり、自分がやったのだと意識がおかしくなっていたとしてもわかる。

 それもそのはず。やったのは自分の意思なのだから。

 

 

「おい…」

 

「わかってるさモグロウ…… それにもう一つわかったことがあるんだ…」

 

「なんだよ…?」

 

「僕のせいだ。僕のせいで始まっちゃうんだ…」

 

「… 何が始まるんだよ! お前は人の為に戦って……!!」

 

「取り返しのつかない事をしたんだ… もう僕は守る事なんてできない… 最低な怪人だよ!!」

 

「この惨事もあいつらのせいだ!! お前は必死に戦った!! それを俺が1番よくわかってる!!」

 

「そうだけど違うんだ!!…… 僕は…… 何もわかってなかった!!」

 

「だからどうしたって──!!」

 

「僕のせいで戦争が始まるんだッ!!!────」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「んー…… これはかなりの痛手を負いましたね?」

 

「……ッ」

 

 

 何も言えないし、何も言い返すことができなかった。

 首領が引き連れた仲間のジェスターたちは壊滅的なダメージを与えられた。幹部であるスピーダやウェイトも手も足も出せない状態で、仲間たちはほぼ全滅と言っても過言ではない。

 班目はいつも通り笑っているが、彼の作り出したウィンプジェスターも戦闘では数の暴力という言葉がないほど、一瞬にして全滅させられてしまった。

 

 

「でも、これでいいんですよ。これで一応、私が言った通りの展開になりますから…… それはそれとして、まさかここまでのダメージを貰うとは思いませんでした。さすが稲森さんですね」

 

「……ッッッ!!!」

 

「おやおや…」

 

 

 班目は手を挙げて首領から少し距離を置く。当然だ。首領はここまでコケにされる程の痛手を負わされ、何もできないままに帰ってきた。

 この場で図星をつかれる事は、まさに自殺行為と言っていいだろう。彼の怒りのボルテージを上げるだけである。

 

 

「ですが、この調子で行くので有れば首領も動きやすいはずです」

 

「奴らは許さん… 確実に殺してくれよう…!!」

 

 

 あの時までは冷静でいられた首領ではあるが、やはり痛い所を突かれれば、流石の彼とて怒りを露わにするのは頷ける。

 そんな姿を見るファングの心情は悲しく辛いものがあった。自分を信じてくれる首領に何もできない自分に怒りも湧いた。

 

 

「…… おや」

 

 

 ファングの表情が濁っているのを見つけた班目は、これは頃合いだと思い、首領から離れてファングの元へと歩み寄る。

 近づくや否や、強烈な圧が班目に降りかかった。首領に対して無礼を働いているのだから当然である。

 

 

「何の用だ貴様ッ…!!!」

 

「そんなに怖い顔しないでもらえますか、ファングさん?」

 

「貴様と喋る事などない。失せろ」

 

「…… 首領のお役に立ちたいのではないですか?」

 

「貴様には関係の無いことだ」

 

「また、あのアベンジに負けますよ」

 

「───ッ!!!」

 

 

 まだ完全に再生できていない爪を班目の喉元に宛てがう。

 今にも殺す勢いのファングを気にも留めずに班目は淡々と話す。

 

 

「あなたには負けないで欲しいんですよ。その為なら私はこの知恵を使いましょう。力を授けます。それだけであなたは誰よりも強くなれる」

 

「くだらない事を…!!」

 

「このままでいいのなら、それで構いません。ですが、もし私の力が必要というのであれば、研究所にいらして下さい。それだけであなたは『百獣の王』となれる」

 

 

 そう言うと班目は何処かへと立ち去っていく。つくづく訳のわからない奴だ。

 ファングはその言葉を聞いて最初は馬鹿馬鹿しいと思っていた。だが、首領の為と思えば思うほど、不本意だが班目に頼るしかないのだと思ってしまう。

 

 

「… ふん」

 

 

 そしてファングは首領に一礼をすると、何かを決めたように何処かへと向かうのであった──。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 3日後、陽奈と楓は戦争を辞めるようにと人間側に説得を続けていた。

 あの一件以来、稲森がアベンジドライバーを手放してしまい、自室に引きこもってしまったのだ。陽奈たちが駆けつけた時には、既に彼は気を失って倒れていた。

 人も、怪人も自分の手で殺してしまったという事実。誰であろうと耐えられない。明確な殺意を持っていた訳でもなく、ただ楽しんでやってしまった。それが1番の原因でもある。

 更に人間たちはそれを見てしまった。怪人たちもそれを見た。自分たちだけの問題ではなくなってしまったのだ。

 

 

「…… もうなんのよ…」

 

「陽奈…」

 

「もし戦争なんて始めてみなさい。人間は全滅するわ。またあの悲劇が起こるだけ。繰り返すだけよ!!」

 

「稲森さんもあの状態だし… 私たち一体どうすればいいの……?」

 

「わからない… けど、何かしないと…!!」

 

「何か…… あれ?」

 

 

 突然、陽奈たちの前に何者かがふらりと現れた。

 陽奈はその者を見た瞬間、溜まっていた怒りが一気に溢れ出し、その者に掴みかかる。

 流石に楓がそこを必死に止めると何とかその場は落ち着いた。

 

 

「いきなり掴みかかってくるなんて… 陽奈さんも酷い人です」

 

「酷いのは誰よ!! あんたの顔なんて見たくもなかったわ!! 班目ッ!!!」

 

「落ち着いて下さいよ。私はあなたにこれを渡したくて」

 

 

 班目の手にはスペードのマークが描かれた大きめのアビリティズフィードが握られていた。

 それを渡そうとしてくるが、陽奈は班目の手を弾いてアビリティズフィードを地面に落とす。落とした物を班目が冷静に拾い上げ埃を払う。

 

 

「もう騙されないわよ」

 

「私も信用がなくなってしまったようですねぇ…」

 

「当たり前でしょ!! なんなのよそれ!! 今度はどんな副作用よ。また暴走とか!!? ふざけんじゃないわよ!!」

 

「まぁ待って下さい。今回は正真正銘何もありません」

 

「信じられる訳ないでしょ」

 

「困りましたねぇ…… これが無ければ今のあなたは戦力になりませんよ?」

 

「なんですって…!!」

 

「スーパーハードウェポンは暴走してこそ力を発揮した。ですが、今のあなたは想定外の克服をしてしまった。それでは本来の性能が発揮されません。だからもう、今のあなたに上はないんです。エースドライバーを造った私だからこそわかるんです」

 

「…… だから? それで私をどう利用するって訳?」

 

「ふむ… もう信じてはくれないでしょう。なら、私に考えがあります」

 

「何よ」

 

「─── 首領をここへ連れて来て差し上げますよ」

 

「は…? 何言ってるのあなた…」

 

「あなたの仇でもある彼を連れてくれば一時ではありますが信じてくれますよね?」

 

「馬鹿じゃないの? あなたみたいなの信用を失ってるはず!! 連れて来られる訳ないじゃない!!」

 

「では、また明日。あなたがこれを使ってくれると信じてますよ───」

 

 

 そう告げてから班目はその場から姿を消してしまった。

 陽奈は呆れたと首を振り、再び楓を連れて市民たちを説得し始める───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「おーい、イナゴ。飯買ってきたぜ」

 

「…… ありがとう…」

 

 

 モグロウが稲森の住むアパートまで足を運び、買ってきたコンビニの弁当をテーブルに置く。

 今ではほとんど知れ渡ってしまった怪人の残虐性。アベンジの凶悪性。怪人はおちおち買い物できやしない。

 だからモグロウはフードを深く被り、見た目は怪しいが何とか買い物できるようにはしていた。偶にバレて暴力も振るわれた事もある。

 

 

「ごめん… モグロウ。僕がこんな風にならなかったら、君に迷惑を掛けずに済ませられたのに…」

 

「何言ってんだ。お前はもう十分やってくれただろう。陽奈も楓もそう言ってたぜ? とにかくイナゴ、お前はゆっくり休んで後は仮面ライダーに任せておけよ」

 

「…… 僕も仮面ライダーだったんだ」

 

「…っ」

 

 

 これはやってしまったとモグロウは思った。

 稲森が仮面ライダーとして戦ったのは成り行きとはいえ、何をやってきたかという本質だけは、まさに彼の目標にする仮面ライダーそのものであったからだ。

 それがあのような悲劇を生むなんて想像もつかなかっただろう。いや、想像こそついていたが、この行動で戦争の引き金になるとは思わなかったはずだ。

 

 

「べ、別にお前が全部悪いなんて事はない。悪いのはリゲインの奴らだ。だろ?」

 

「リジェクトウェポンの副作用をわかっていながら使用した。この僕に責任がある。でも…… 僕はその罪をどうしたらいいかわからないんだ。どう償えばいいのかわからないんだ。もう戦争を止める手段がないかもしれない…」

 

「…… んなもんやってみなきゃわかんねーだろ!!? ダメだって決めつけて、なんの行動もしなかったらそれこそダメだろ!!?」

 

「でも…」

 

「でももこうもあるかよ!! お前は怪人だ。だけど、お前は人よりも誰よりも痛みがわかる男だ!! イナゴよ。俺はお前を信じてるから言ってるんだぜ。今、何をすべきかってのは俺もお前も最初からわかってる。やりたくもねぇ戦争を止めるんだ。俺だけじゃない皆んなでだ!!」

 

「できるのかな… 本当に…」

 

「できるさ。俺とイナゴならな」

 

「……… もう少し時間が欲しい」

 

「わかったよ。無理にとは言わねーさ。お前が考えられるくらいの時間を俺が作ってやる────」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 それから後日、首領は怪人たちを引き連れ、栄須市に大量の軍勢で攻めてきたのだった。

 班目の言うことが確かだったとは言い難い。ただ、班目の言った通り明日のこの場所に首領が来たのは紛れもない事実。

 陽奈と楓はたった2人で首領たちの前へと立ちはだかる。

 

 

「首領。本当に来るとは思わなかったわ」

 

「思わなかった? 私の事を聞いて…… 班目ッ…!! 奴は私の怒りを買う事が得意らしい。だが、それは正しい行いだったと思うぞ… こうして因縁である仮面ライダーエースの子を殺す事ができるのだからなッ!!!」

 

「へぇ〜… 怪人のトップが班目の言いなりになってるなんて、首領って名も小汚くなったわね」

 

「なんだと…?」

 

「聞こえなかった? 私はあなたを汚いと言ったのよ。戦争なんて馬鹿みたいな事して、結局あなたは同じことの繰り返し。仮面ライダーに負けて終わるのよ」

 

「この小娘が…!!! いいだろう。殺してくれよう。貴様が泣き叫ぶところを私に見せろッ!!!」

 

「やってやるわよ見てなさいッ!!!」

 

「──── 待って陽奈ッ!!」

 

 

 首領と戦うと言ったところで楓が陽奈を静止する。

 流石の陽奈も楓の行動に腹が立ったのか怒鳴ろうとしたが、楓が震えて指を差した方向を見ると、その考えは吹き飛んで一気に顔が青ざめた。

 

 

「嘘でしょ……?」

 

「陽奈ァ……」

 

 

 その時、首領は大声で笑い始めた。

 これが班目の狙い通りなのだ。一度始まった事はもう止める事など不可能。

 

 

「人間というのは何と愚かなっ!! お前たちこそ誠の愚か者どもだ!!」

 

 

 陽奈たちの後ろにいるのは大勢の人間たち。

 各々が武器とは言えぬ武器を持ち、ジリジリと怪人たちの方へと歩み寄っていた。あまりにも無謀過ぎる装備。死に行くようなものである。

 陽奈は必死に静止させようと声を大にして説得に入った。が、それを聞く者は誰一人としていなかった。

 

 

「待って!! お願い、ダメッ!! これ以上行ったら皆んな死ぬのよッ!!?」

 

「もうごめんだッ!!! 俺たちは怪人を殺すッ!!」

「怪人なんてそもそもこの世に必要ないんだッ!!!」

「家族を殺された人間の力を思い知れぇ!!!」

「人間を舐めるな!!!」

「怪人どもぉぉぉぉ!!!!!」

 

「全員皆殺しだッ!!! 皆の者!!! 人間どもを殺せッ!!!」

 

 

 首領の声と共に怪人たちも、人間たちも走り出す。

 もう始まってしまった。もう誰にも止めることなんてできない。

 

 

「───…… あぁ、待ってましたよ。無謀過ぎる頭の悪い者たちの戦い…… さて、陽奈さん。あなたは私に何を見せてくれるんですかね?」

 

 

 ビルの屋上で班目は静かに笑い、フェンスを飛び越え陽奈たちの元へと落ちていく────。




戦争編本格的にスタートです。
怪人と人間の未来は……

次回、第30話「私がマスター」

次回もよろしくお願いします!!


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第30話「私がマスター」

皆さんご無沙汰しております。

前回、大きな痛手を負わされた首領と怪人たち。そして心に大きな傷を受けてしまった稲森。人間たちに戦争をやめるよう説得する陽奈と楓。しかし、戦争は始まってしまった。人間と怪人。生き残るのは…

それではどうぞご覧ください。


 あぁ、なんて事だろう。なんて無謀なんだろう。本当に愚かな人間だ。

 人間というのはどうしてこうも負けるとわかっていながら進んでくるのだろうか。こんなもの自ら死を選んでいるだけだ。馬鹿馬鹿しい。愚か過ぎる。

 首領はこの乱戦の中で何度もそう思う。怪人と人間の過去の強さなど、人間どもがわかっての通り、殴られれば肉体を貫通し、蹴られれば真っ二つにされる。力関係はこのように大きく離れている。

 もしも人間どもが限界まで鍛えたところで、怪人側からすれば肉に肉がついた程度。ただの肉の塊に過ぎない。

 結局こちら側が打撃を与えれば、骨は粉々となって内臓に突き刺さり致命傷だ。

 

 

「やめて皆んなッ!!」

 

「陽奈… もう止められないよ…!!」

 

 

 陽奈が叫ぼうが、楓が叫ぼうが、どちらにせよ人間側が止まるという事はない。

 もう既に人間と怪人は衝突し、この数秒という短い時間の中で何人もの犠牲者が出てしまったのだろうか。数なんて数えたくない。あまりにも悲惨過ぎる。

 変身すれば数人の命は救えるだろう。否、救う事は難しい。救えないと言った方が正しいのだ。

 

 

「…… うっ」

 

「ライダーにはさせんぞ… エースの娘よ」

 

 

 たった数秒の中で首領は陽奈たちの目の前に立ちはだかり、背後には班目がドライバーを腰に装着し、双方ドライバーを装着し終えた状態であった。

 何かの拍子ですぐにでも陽奈たちも首領たちも戦える。ただ少しでもタイミングがズレればやられてしまう。

 

 

「戦争なんてして意味があるの? こんなのただ犠牲を生むだけよ!!」

 

「… 聞いていた頃とは全くの別人となったな。だがな、罪なき怪人を殺そうとした挙句、次は怪人も人間も守るだと? 都合がいいにも程がある!! お前がしてきた罪が変わる訳ではない。それを忘れて正当化しているのか?」

 

「確かに私は怪人たちに酷い事をしてきた… 仮面ライダーとしての正しい行いだと思った。仮面ライダーは人間の味方でありヒーローなんだって…… けどね? 私は大事な事を忘れてたわ。仮面ライダーは人間だろうと怪人だろうと、泣いている誰かがいたら手を差し伸べてあげるって。そういうものなんだって」

 

「だからどうした? お前の罪が消える訳ではない」

 

「永遠に罪は背負うし償っていくわ。私はもう失いたくない… 誰であろうと守って、あんたみたいな仲間を簡単に殺すような怪人はぶっ飛ばすだけよ!!!」

 

「馬鹿め。お前がいくら贖罪しようが決めるのは奴らだ。お前に決定権はない」

 

「それでいいから言ってるのよ。私はもう迷わない。私がすべき事を、私の越えるべき壁を潰して前へ行くわ!!」

 

 

 すると、背後からパチパチという拍手が聞こえ、振り向くとヌッと陽奈の後ろから班目が現れて例のアビリティズフィードを握らせる。

 班目に無理矢理渡されてしまったが、それを地面に叩きつけようということはせず、陽奈は首領の方へと向き直った。

 

 

「おや? 意外に素直ですね?」

 

「どうせこれもあんたの策略か何かでしょ? だったら逆にそれを利用させてもらうわ」

 

「ほう?」

 

「今の私のままじゃ勝てない。リスク承知で使わなきゃ私は父を越えられない」

 

「陽奈さん。前にも述べましたが、ここで詳しい事を言っておきましょう。そのアビリティズフィードの名は『マスタースペイドフィード』。ポーカドライバーに使用するデータを組み込んだ現在のエースの最高の最終形態です。ちなみにエースドライバーにはポーカドライバーの負荷に耐えられる様な機能は付けてないのでそれなりに負荷が掛かります」

 

「それがどうしたの? 今更負荷が掛かるなんて事、気にしてたらスーパーハードウェポンが泣くわ……… じゃあ、そろそろ準備いいわね」

 

 

 そして陽奈はマスタースペイドフィードを顔の横で構える。

 首領がそれを防ごうと変身して一気に距離を縮めようとしたが、そこへ班目が割って入り近づくことを許さない。

 

 

「退け班目ッ!!」

 

「そのような口を聞いて大丈夫なんですかね?」

 

「ぐっ…!!!」

 

 

 この状況に困惑しながらも、陽奈はマスタースペイドフィードの上部を押す。

 すると、マスタースペイドフィードから《ビバ!! マスター!!》という音声が流れた後、陽奈はエースドライバーにそれを差し込んでスライドさせると、ドライバーの真ん中にスペードのマークが露わとなる。

 

 

《マスター!! スペード!! Open bet!!》

「変身ッッッ!!!!!」

 

 

 陽奈は掛け声と共にエースドライバーの側面を押し込んで、腕をクロスさせると、彼女の全身を白い糸が包み込む。

 やがてそれは霞んでしまい、まるで蛹の様に変化する。ピクリとも動かなくなった蛹がピキピキと背中から音を立てて割れ始め、そこから巨大で美しい羽が光り輝いて現れる。

 その羽は蛹を包み込んで見えなくなった途端に、蛹から光が溢れ出し、新たに煌びやかな装甲を纏った仮面ライダーエース マスタースペイドウェポンが姿を現す。

 

 

《Let's try!! Let's call!! ビバ!! マスタースペイドエース!!》

「── この戦いは私が止めるッ!!」

 

 

 マントの様な羽をバサリとはためかせ、ゆっくりと首領の元へと歩みを進める。

 まさにマスターといった貫禄を見せつけるその姿に、流石の首領も息を呑んだ。一歩も動けないほど威圧を肌で感じる。

 首領は班目を押し除け、姿が変わったエースの元に一気に近づいて渾身の蹴りの一撃を浴びせる。

 

 

「なん…だとっ!!?」

 

「全然効かないわよ… こんなダメキック!!」

 

 

 今度はエースの蹴りをまともに喰らった首領だが、あまりの強さに一瞬息ができぬまま後方へ大きく吹き飛ばされた。

 そして吹き飛ばされ首領を見た者たちは皆が唖然とし、戦っていた者たちもその動きを一時的に止める。

 

 

「楓。今のうちにお願い」

 

「あ、うん!!」

 

 

 楓は仮面ライダークインへと変身し、まだ微かに息のある人々や怪人たちを回復させる。ただし、怪人たちの方は中途半端に回復させ、再び襲ってこない様に調整を行いながら隅へと運び出す。

 クインがそうしている間、エースは一気に首領の目の前まで跳んで行く。

 

 

「どうかしら?」

 

「小娘ッ…!!!」

 

「父さんの蹴りはこんなものじゃなかったわよ」

 

「…ッッッ!!!」

 

 

 全てのジェスターの能力が使えるはずの首領の力を持ってさえ、マスターの前ではまるで赤子同然なのだ。

 今、殴りかかってきた首領のパンチを軽く捌き、棒立ちの状態で顔面に裏拳を喰らわせる。メキリと音を立てて吹き飛ばされた首領に走って追い付くと、再び裏拳で殴り飛ばす。

 

 

「うっぐぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 

 何とか体勢を立て直す首領。無駄だと知りながらも当然のように突っ込んできた。

 すると、エースは首領に向けて手を翳し人差し指を下に向ける。驚いた事に首領はエースの指した方角に向けて全身を地面に着けた。

 

 

「う、動けん…ッ!!!」

 

 

 この光景は明らかに何かの能力が作用されていると思う首領。当然、マスタースペイドの能力によるものだ。

 みるみるうちに首領は地面へとめり込んでいく。エースが近づくにつれて、更に上から押さえつけられる様な感覚が強まっている。

 

 

「なるほどね… マスタースペイドウェポンは重力操作ってことかしら。なら、都合がいいわ!!」

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

 

 地面は大きくヒビ割れ、首領の仮面もバキバキと音を立てて割れる。

 チラリと覗く首領の顔… それは陽奈の父、月火の顔である。苦しそうな父の顔を見た陽奈は思わず重力操作を切ってしまった。

 その隙に首領はエースとの距離を取り、一度呼吸を整える。

 

 

「…… この顔か。お前も慈悲深い小娘だ。中身は私であるというのに」

 

「違うわよ!! ただ………」

 

「都合がいいのはこちらだった様だな。いいだろう。この顔を利用させてもらうとしよう。精々私の為に戦ってくれるよな… 月火よ」

 

「あんたッ…… ホントに最ッッッ…… 低ねッ!!!」

 

「なんとでも言うがいい。私がお前を殺す事に代わらないからな」

 

「くっ…」

 

 

 2人のやり取りを少し見た班目はニヤリと微笑み、何処かへと姿を消していく────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「さて、ここで私は言うんです。戦争を止めさせはしないと…… ふふっ、当然ですよね。私は楽しみたいのだから」

 

 

 班目は今までにない以上に口角を釣り上げてニタリと微笑む。

 何と言う事だろうか。陽奈たちのやったことが台無しになる現実が班目の目の前に広がっている。

 人間と怪人の戦争は一部だけに留まるはずなんかなかったのだ。

 人間たちの怒りや憎しみ。怪人たちの憎しみや怒り。両者の想いは同じであり、それは大きな憎悪となって街中へと広がった。

 戦争は既に栄須市全体で発生したいた。もう止める事はできない。やがてこれは大きくなっていく。収集などつかないほどにより大きく広がるだろう。

 

 

「醜い。何とも醜い。ですが、私はこの醜い戦いがとても好きなんです。いやぁ… まさか月火さんの代で終わりだろうと思ってたんですがねぇ……」

 

 

 ─── 数十年前、私はこんな人生がつまらないと思っていた。

 私は自分で言うのもなんですが、頭は良く、勘も効く。まさに天才と言うべき存在だったんです。

 何でもできてしまう私の力は誰もが欲しがり、そして誰からも信頼され、好かれ、讃えられ、それはそれは楽しい日々でしたよ… と、皮肉を言ってみます。

 実際のところは毛ほども楽しくなんかありませんでしたね。何の刺激も得られなかった。

 なら、何がいいんだと問われれば、唯一私に刺激を与えてくれたライダーシステムの開発ですかね。

 あれは楽しかったんです。自分の発明が人間では到底動かすことのできない大きなものを動かしてしまったんですから。

 でも、それもすぐに飽きてしまいましたよ。人間は脆い。首領との戦いで彼らは共に散り、私は再びつまらない人生へと逆戻りした。とても腹立たしかった。

 

 

「陽奈よ。あなたがエースドライバーを開発した人?」

 

 

 ─── あぁ、希望が1人現れてくれた。自分をつまらない人生から救ってくれる正義のヒーローが。

 だから私はそんなヒーローの為に大きなシナリオを考えました。

 まず、ファングさんの傘下へと入り首領を月火の身体を糧に復活させて、陽奈さんには今と変わらずの援助を、親友さんは陽奈さんの覚醒のトリガーで操って…… そして1番いいネタがありましたよ。それが稲森さんです。あの最強の一族の生き残りなんですからねー… いやぁ嬉しいです。彼にも親友がいましたから覚醒のトリガーとさせていただきましょう。

 全部混ぜ合わせてできたものがこちらです────。

 

 

「怪人を皆殺しにしろぉぉぉぉぉっ!!!!!」

「怪人を1匹残らず殺せッ!!!!!」

「奴らの好きにさせるな!!! ここは俺たちの国だッ!!!」

 

「人間どもを皆殺しだぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

「人間など下等な生物を生かすなッ!!!!!」

「この世界は俺たちジェスターのモノだッ!!!」

 

「「「「「「殺せッ!!!!!」」」」」

 

 

 人間側と怪人側のツートップが争えば、後は勝手にこうなってくれるんです。

 この生き物の醜さが私は堪らなく好きなんです。随分と長生きすると、こうしていい事はありますね。

 

 

「稲森さんがいい仕事をしてくれなお陰です。お礼の品はありませんが、最後の仕上げとするなら…… ねぇ?」

 

「………」

 

「あなたにはお約束通り力を与えました。試しでやるなら今ですよ。どちら側に参加するかはあなた次第です」

 

 

 大きな巨体にその身を包み込んだその姿。どこかで見たことがあるその風貌はまさに仮面ライダーと言える。

 

 

「では、どうぞ───── ファングさん」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 あれから悲惨なニュースが流れ、ある一部で大虐殺が行われたという情報があちらこちらに飛んできた。

 人も怪人も関係なく皆殺しにされ、辺りは吐き気が耐えられない程に悲惨な状況となっていたらしい。

 モグロウはそれを稲森に伝えると、流石の彼も目の色を変えた。

 

 

「わかってると思うが、これはお前じゃねーぞ」

 

「うん…… でも、こんなの誰が…」

 

「陽奈の奴から連絡が来てねぇからわからん。とにかく今は待つしかない」

 

「…… 僕も行かなきゃ…」

 

「そんな震えた手でか?」

 

「これは……!」

 

 

 やはり手が震えている。手だけではない全身が戦いを拒んでいる。

 

 

「まずは陽奈の連絡が来るまではジッとしてろ!」

 

「…… ごめん」

 

「謝んなよ… ったく…… ん?」

 

 

 モグロウは携帯が鳴り始め、それに出ると、話しの内容からして相手が陽奈だとすぐにわかる。

 そして暫く話していると、モグロウが表情を変えて「本当か!?」と、何度も陽奈聞き返している様だった。話し終えたモグロウが通話を切ると、稲森に真剣な眼差しで彼に告げる。

 

 

「イナゴ。とんでもない事になったぜ」

 

「とんでもない事…?」

 

「─── 陽奈が首領を倒しただとよ」




久々の新フォームそのままお披露目回でした。
ですが、嬉しくない内容が……。

次回、第31話「本物をオーバー」

次回もよろしくお願いします!!


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第31話「本物をオーバー」

皆さんご無沙汰しております。

前回、陽奈は仮面ライダーエース マスタースペイドウェポンへと新たな変身を遂げて首領を押していたが、父の顔を見た陽奈は思わず手を止めてしまう。一方で班目は自分の計画が順調に進んだ事への喜びを噛み締めながら、仕上げの一手間とファングを連れていた。そして稲森は未だに立ち直れぬまま、一緒に居合わせたモグロウの元に一本の電話が入る…

それではどうぞご覧ください。


 陽奈から連絡が来た時は、稲森もモグロウもお互いに目を合わせて暫く状況の整理をしていた。

 その後、陽奈から「首領を倒した」という言葉をもう1度聞いた事によって、ようやく「あぁ、そうか」と理解はしたものの、2人は喜べずに顔を何度も見合わせる。

 何故なら相手は内側は首領であるにしろ、外側は陽奈の父親そのものなのだから。

 

 

「わ、わかった。その…… 」

 

「--- 心配するだとか、同情するのはやめて。そう思ってくれるだけで嬉しいわ。でも、今は落ち込む事に時間は使いたくないの。今の状況わかってるでしょ?」

 

「あぁ、わかってる。だけどよ…!」

 

「--- 確かに父さんよ。だけど、あれは父さんの見た目っていうだけの別の何か。もうこの世に父さんはいない。それをわかってるから勝てたの。もう過去に戻らない。私はとにかく仮面ライダーとしてみんなを守るだけ」

 

「陽奈…… すまねぇ。お前の方がよっぽどわかってたらしいな。なら、変に同情したりはしねーよ。だから俺たちはお前に手を貸すぜ。どうしようもない時は駆けつけるからな」

 

「--- えぇ、ありがと。そろそろ切るわね」

 

「おう。またな」

 

 

 モグロウが通話を切ると、稲森は声を震わせながら涙を溢していた。

 確かに素直に喜べないというのもあるが、一体何に泣いているんだと、モグロウは稲森の背中を摩りながら聞く。

 

 

「おいおいどうした。確かに喜べないのはあるが、何に泣いてるんだよ」

 

「…… ごめん。でも、苦しんだ」

 

「苦しい…?」

 

「僕は本当に何をしてるだって… このままでいいのかなって……」

 

「お前は十分やったって言ったろ? 今は休むしかないんだ。今だけは陽奈たちに任せろ」

 

「アベンジの力は命を簡単に殺して奪う力…… それがもう怖くてたまらないんだ。でも、誰かの助けになりたい。僕どうすればいいんだろう…… 僕は一体何になればいいんだ……!!」

 

「イナゴ…… とにかくしっかりしろ。俺はお前が… その…… 苦しんでいる姿は見たくない。親友として」

 

「…… ありがとう」

 

「いいんだ気にすんな。俺にはお前がいて、お前には俺がいる。助け合うのが親友ってもんだぜ」

 

 

 親友とのちょっとした会話が稲森にとってどれだけ心の支えだろうか。

 しかし、最悪な状況は続く。

 稲森の住むアパートが突然大きな音を立てた。地震かと思われたその発生源が扉を引き剥がして現れる。

 

 

「あらあら? お2人さんお取り込み中だったかしら?」

 

 

 それはリゲインの幹部、スピーダとウェイトであった────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 これは陽奈たちが首領と戦っている時間まで遡る。

 首領が自らの見た目を利用して、エースの動きを止めていた。攻撃をしようものなら、この身体がただでは済まないぞと言うのだ。

 

 

「きっっ…… たない奴ね!! ホントにッ!!!」

 

「なんとでも言うがいい… 私は貴様に勝てばいいのだ」

 

 

 もう既に首領の威厳やプライドはそこには残ってなどいない。何をしてでもエースを倒し、そしてこの戦争にも勝ち、全てにおいて頂点であろうという我儘だけが残ったもの。

 まさに勝つ為には手段を選ばなくなった哀れなトップの終着点とも言えるだろう。

 

 

「死ぬがいいッ!! エースッ!!!」

 

 

 首領がノーガードで突っ込んでくると、エースは咄嗟に手を翳して重力を操作し、首領の動きを封じようとした。

 しかし、首領は父の顔でとても苦しそうで悲しそうな顔をエースに見せつける。目はジッと彼女を見つめる。

 そんな目を見せられ、エースは重力を解いてしまい、至近距離まで一息に詰められてしまった。完全に懐まで入られた。

 

 

「しまった…!!!」

 

「ふんっ!!!」

 

 

 流石のマスタースペイドの防御力と言えど、首領が能力発動させ、装甲の薄い場所に渾身の一撃を喰らわされてはダメージは通ってしまう。

 エースはマントの羽を広げ、空中で受け身を取りつつ首領から距離を離そうと試みる。

 ただ、首領は全てのジェスターの能力を使えるという力を持ち合わせている。飛んで逃げようとしても、彼は翼を生やしてエースを追う。

 

 

「どうして逃げるエースよッ!! 私を止めるのではなかったか!!?」

 

「うるさいわねッ!! 黙ってなさいよッ!!!」

 

「── 父さんから助けてくれないのか?」

 

「え…?」

 

 

 首領の声は父親そのもの。いつも陽奈に声を掛けてくれていた父の優しい声。不意に父の声のする方へと向いてしまった。

 瞬間、エースの死角から首領が姿を現し、防御も間に合わず再び渾身のキックを喰らって地面に向かって落下していく。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

「この一撃に私の全てを賭けてやろうッ!!! これが本当に私の最後の一撃だッ!!! 数十年に渡った私の恨みはここで晴らされるッ!!!!!」

 

 

 父が拳を最大限に肥大化させてオーラを纏い、こちらに向かってくる。

 陽奈は父の顔を見ながら、昔のことを思い出す────。

 

 

 

 *****

 

「─── 陽奈。お前は俺をどう思う?」

 

「… どうって?」

 

 

 まだ幼い陽奈には父が何を言っているかわからなかった。

 今日のこの質問もそうだ。父はいつも自分について唐突に質問してくる。

 

 

「俺はいつもここには戻って来れない。ジェスター首領を倒さなければ、人間に明日はないからな。こうして陽奈と居られる時間も限られてしまっている…… だから聞きたい。お前は俺をどう思う?」

 

「うーん…… パパは大好き。仮面ライダーは凄いし、みんなパパのお陰で嬉しそう」

 

「そうか」

 

「…… でも」

 

「でも?」

 

「パパはいつも悲しそう」

 

 

 小さい頃の私からしても、父の顔は何度も見る度に悲しそうな顔をしていた。

 私はそれを見る度にどうしてそんなに悲しい顔をしているのと、父の質問と同じように何度も質問した。

 

 

「陽奈もいつも同じだな」

 

「だってパパが悲しそうなんだもん」

 

「…… 俺は辛いんだよ。人がこうして苦しんでいるのが… でも、それだけじゃない」

 

「???」

 

「怪人を倒してしまうのも辛いんだ」

 

 

 もう私の頭には疑問しか浮かんでこなかった。怪人を倒す父はそれが当たり前であり、仮面ライダーは怪人を倒す役目だと思っていたからだ。

 だからそこに命について言われた時、まだ私にはその大きさがわからなかったから「どうして?」という疑問しか出てこない訳である。

 

 

「みんな生き物なんだ。それを倒してしまうのは辛いだろう? 同じ命を奪う行為だからな」

 

「…? でも、パパはやっつけないとダメなんでしょ?」

 

「あぁ、それが俺の役目だからな……… 陽奈」

 

「なーに?」

 

「パパがもし陽奈に仮面ライダーを任せる時になったら、パパのお願いを聞いてくれるか?」

 

「それって?」

 

「それはな──────」

 

 

 ──── 父が首領との戦いで死んでしまい、私は父との約束と生前残した遺言書により、二代目仮面ライダーエースとして引き継いだ。

 その時、班目の元へと向かってエースドライバーとアビリティズフィードを貰いに行った。

 

 

「陽奈さん。月火さんの事は残念でしたね」

 

「…… そうね」

 

「この国は月火さんの目指したものになる事でしょう。いい条約を結んだそうですから」

 

「『怪人が人間に楯突く事は許さない』とかいう奴でしょ? 当然の報いよね」

 

「月火さんも優しそうではありますが、結構怖い条約を約束してきましたねぇ?」

 

「…… まぁね。ただ…」

 

「ただ?」

 

「何でもないわよ」

 

「あの頃はまだ可愛かった陽奈さんですけど、成長した途端可愛げがなくなりました…」

 

「は?」

 

「何でもありません」

 

 

 班目は父と仲が良く、そして父にエースドライバーを授けて人間の未来を救った凄い科学者だと最初は思ってた。この時はまだね。

 エースドライバー等を持ち、研究所から出ようとして陽奈は足を止めた。班目も作業していた手を止めて声を掛ける。

 

 

「どうしましたか陽奈さん? まだ何か?」

 

「…… 約束はしたわ」

 

「それは月火さんとの?」

 

「えぇ、父さんとの約束… と、言っても。まだよくわからないんだけどね」

 

「よくわからない約束…? 側から聞けば意味のわからない約束ですね…?」

 

「まぁそうよね。だからこれからわかると思うの。これから私が見つけるわ」

 

「聞いてもよろしいですか?」

 

「私が小さい頃約束したのよ。その約束は────」

 

 

 *****

 

「── そうよ。その意味… 今、理解したわ」

 

 

 エースは羽をバッと広げ、突風を起こして首領の体勢を崩させると、地面スレスレで飛行して再び天高く舞い上がる。

 そして首領は何とか地面に着陸し、エースの方へ視線を向ける。

 

 

「くっ… まだ足掻くかエースよッ!!」

 

「思い出したのよ。父さんとの約束」

 

「その約束が何だというのだ。貴様はここで死ぬのだ!!」

 

「私への課題。私だけに残した最後の遺言。その意味がここでようやくわかったわ!!」

 

 

 それからエースはドライバーの側面を押し込むと、羽はエネルギーの放出によって更に大きく広がり、エース1人では収まり切らないほどのサイズへと変化する。

 そのまま首領に向けて手を翳し、重力操作によってその場に固定する。

 

 

「… これがどうした? 貴様は父親を殺すのか? 自らの手で?」

 

「あなたは私の父親じゃないわ。見た目は同じでも中身は最低な怪人。それ以上でもそれ以下でもない!!」

 

「貴様ッ…!!! 本当に殺る気か!!? 父親もろとも!!?」

 

「だから言ってんでしょ!! あんたは私の父親なんかじゃないッ!!!!!」

 

 

 父との約束。それは────。

「陽奈。俺にはもうこの判断しかできなかった。だから引き継いだ後を頼んだぞ。お前の想う未来へ───」

 

 

「──── 父さんの言う言葉じゃなく、私自身の考え!! 私自身の希望ッ!!! 『私が想う世界へ』ッ!!!!!」

 

「貴様ァッ!!!!!」

 

 

 さよなら父さん。さよなら私の過去。

 そしてありがとう…… 父さん。

 私が築く新しい未来へ──────。

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

《Thank you!! マスタースペイドエースライド!!》

 

「こんな… こんな事がッ…!!!私は再びエースにッ… ライダーにぃッ…!!!」

 

 

 エースによる天から下されたライダーキックは首領の胸部を突き抜けた。

 そして貫かれた首領は能力で再生を試みるが、心臓を破られたが為に再生は出来ず全身に火花が飛び散る。

 

 

「馬鹿………な……─────」

 

 

 全身から漏れ出すエネルギーと共に、首領は大爆発を起こして散っていった。

 陽奈は変身を解き、首領がいた場所を哀しげに見ていると、一部の戦争を止めた楓が陽奈の元へと帰ってきた。

 

 

「…… 陽奈、終わったんだね」

 

「えぇ、終わったわ」

 

「何も言うつもりはないよ。でも、お疲れ様って事だけは言わせて」

 

「ふふっ… 楓もね」

 

「うん! あ、そうだ。あっちは終わったよ!」

 

「わかったわ。じゃあ私はモグロウに電話するから周り見ておいてくれる?」

 

 

 これで首領は当然死んでしまったと思われていたが、陽奈たちが気づかないうちに一部だけ残った首領の細胞が何者かによって回収されていた────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 稲森は現在、スピーダとウェイトに場所も聞かされないまま、強制的に連れて行かれていた。

 ── 数時間前のことだ。稲森の住むアパートが急な地震が起きたかと思うと、彼らの前にスピーダとウェイトが現れた。

 

 

「イナゴちゃんもモグロウちゃんもわかってるでしょうね? ここに住む人たちは全員人質。私がちょいとお願いしちゃえば、各部屋にいるウィンプジェスター達が殺しちゃうわよぉん?」

 

「…… 何が目的だスピーダ。イナゴには手を出すな」

 

「残念ね。イナゴちゃんに用事があるのよ。一緒に来てもらうわ」

 

「ふざけんなッ!!」

 

「おっと… いいのかしら?」

 

「…… ちっ!!」

 

 

 アパートの住民が人質に取られているとなると、素直に従っていた方が身のためであり、何より関係ない者たちの命まで巻き込んでしまう。

 モグロウがスピーダと睨み合っていると、後ろから稲森が現れてモグロウの前へと立つ。

 

 

「おい、イナゴッ!!」

 

「いいんだ… 僕を連れて行ってください」

 

「よせっ!! 何考えてんだ馬鹿野郎っ!!」

 

「大丈夫だよモグロウ… お願いだ」

 

「… やめろ」

 

「せめてもの罪滅ぼしをしたいんだ」

 

「ダメだっつってんだろ」

 

「…… 頼みます。スピーダさん」

 

「イナゴッ…!!! うぐっ!!?」

 

 

 そして稲森はスピーダの方へと向かうと、モグロウはそれを止めに入ろうとした。だが、居合わせたウェイトの力にねじ伏せられ、地面に倒され腕を拘束される。

 

 

「やめてくれ…… 頼むからッ!!!」

 

「ごめんよ。でも、モグロウ言ったろ?」

 

「なんだよ…!!」

 

「助け合うのが親友ってさ」

 

「……ッッッ!!!」

 

「それじゃあ、さっさと行くわよぉん!───」

 

 

 ─── それから稲森は見た事もない場所へと行き着く。中へと入ると、薄暗くほとんど何も見えない状況だった。

 暫く進むとどうやら広い場所に出たらしく、そこで全体の明かりが付き、思わず目を瞑ってしまう。

 稲森が目を開けると、そこにいたのは首領の右腕。ファングの姿があった。

 

 

「よく来たな。リゲイン本拠地へ」




稲森全く変身しないやん。という訳で主人公よりヒロイン目立ってる状態です。
大丈夫です!考えてありますので!…ね!!!

次回、第32話「獣牙にキング」

次回もよろしくお願いします!!


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第32話「獣牙にキング」

皆さんご無沙汰しております。もう終盤始まりです。

前回、陽奈は父の姿をした首領に苦戦をしていたが、父との約束。そして過去を飛び越えて首領を見事に撃破成功しました。というのも束の間、その一部が何者かによって取られてしまう。一方の稲森は未だに傷が癒えずにいる所で、そんな中、稲森の所へリゲイン幹部2人が現れ、リゲインの本拠地に連れて行かれるとそこには…。

それではどうぞご覧ください。


「ファングさん……」

 

「ふっ… 少しの間だが、見ないうちに随分と弱々しくなった者だな」

 

「僕に何の用ですか」

 

 

 稲森の目の前に立つファングの外観は前と変わらないはずなのに、この妙な威圧感は一体なんなのだろうか。

 今までのファングとは違い、まるで別人であるかのような雰囲気を醸し出しているのだ。どう言ったところかと具体的には言えないが、ただ確かにそう感じられる。

 

 

「イナゴ。俺はライダーという名を聞くだけで腸が煮えくり返るほど、お前たちに殺意と憎悪が湧いてきた」

 

「……」

 

「… しかし、不本意ではあるが、お前達のおかげで仮面ライダーも良いものなんじゃないかと思い始めてきた。礼を言おう」

 

「あなたは何を企んでるんですか?」

 

「結論を言ってやる。俺は─── 仮面ライダーになった」

 

 

 すると、ファングは自らの姿を変化させ始めた。

 今まで1度足りたとも自分を変えようなどと思わなかっただろう彼だ。更に言えば、怪人として、首領の右腕として、どれだけの誇りと威厳を保とうとしていたか。

 そんなファングが姿を変化させた事にも驚くが、何よりその姿が彼が最も嫌い、彼が最も憎悪する姿だった事に驚いた。

 

 

「…… ()()()姿()…?」

 

 

 先の戦争の戦いにおいてきっかけを作り出したジェスター。

 それを仮面ライダーエースが防ぎ、ジェスター達に絶望を与え、もちろんジェスター達は怒り狂った事だろう。ただその全ての怒りを凌駕する程、怒りを露わにしていたのはファングだ。

 そんな彼が人間の姿をするのは、彼が人間の法に堕ちたと思わざるを得ない。

 

 

「この姿、全く腹が立つ…… と、前の俺ならそういうか。自害を選ぶだろうな」

 

「… 何故、誰よりも人を嫌っていたあなたがその姿に…?」

 

「考え方を改めたと言おう。俺は人間を最底辺の下等生物だと認識していた。だが、それは俺自身が人間という種族を理解しようとしない浅はかな考えから起こった愚かな認識」

 

「なら、今は人間に対して……」

 

「言ったはずだ。不本意ではあるとな。だが、考えを改めたからといって俺の目的が変わるわけではない。俺の目的は人間を殺し、仮面ライダーをも潰す。その為なら手段は選ばん」

 

 

 それからファングは人間の姿のまま、先程言った通り、仮面ライダーのキーアイテムであるドライバーを腰に巻きつける。

 仮面ライダーになったいうのは本当だったようだが、彼の人間やライダーに向けられていた憎悪は、彼のプライドすらをも超え、このような結果となっだろう。

 

 

「変身しろ、イナゴ。俺と戦え。殺し合え」

 

「…… 嫌です」

 

「なに?」

 

「僕はもう変身したくないんです」

 

「何を言うかと思えば… さっさとしろ。お前の意見など聞いていない」

 

「… すみません。できません…」

 

「貴様ッ!!!」

 

 

 うじうじとした態度に腹が立ったファングが稲森の胸ぐらを掴み上げ、スピーダとウェイトに稲森の身体からドライバーを取るよう命じる。

 

 

「おい、早くしろ」

 

「… あら?」

 

「どうしたスピーダ。さっさと取り出せ」

 

「ないのよ」

 

「ないだと?」

 

「…… アベンジドライバーがないのよ!!」

 

 

 アベンジドライバーがないのだと、はっきりと言われたファングは稲森を投げ捨てる。

 そして睨みつけながら、拳に力を込めて稲森の頬を殴りつける。

 

 

「どう言う事だ貴様ッ!!!」

 

「………」

 

 

 敵対する組織に、しかもここまで連れてこられれるのならば、誰しも危険を感じて自分を守る為の道具を持つはずだ。

 そもそも稲森を連れてくる過程でアベンジドライバーの所持を許可はしていていないが、所持する事自体へは何も言ってはいないはず。今日、リゲインへと連れて来たのは稲森と決着をつける為である。だからこそドライバーに関してはスピーダ達に何も言わぬように命令していたのだ。

 

 

「本当に戦わないつもりだったのか…」

 

「僕はもう誰も傷つけたくない…… リジェクトでどれほどの犠牲を出して、どれだけの人を… 怪人を…… だからもう戦いたくないんです。これ以上、悲惨な光景を見たくない!!」

 

「貴様ッ…!!!──── もういい。貴様には失望した。手段を選ばないとは言ったが、俺の目的は貴様をここで殺す事に変わりないからな」

 

 

 そしてファングは、トランプのクラブが描かれたカードを取り出すと、先程巻きつけたドライバー《ポーカドライバー》に差し込む。差し込むと《クラブ!! ベット!!》と言う音声が流れる。

 見た目はポーカドライバーではあるのだが、色合いは黒と緑で彩れたものに変更されており禍々しさが滲み出ていた。

 そのドライバーの右側を掴み、左手の親指を自分に向けて首を切る仕草をする。

 

 

「変身」

 

 

 掛け声と共にドライバーを外側へと引っ張ると、真ん中にクラブの記号が現れ、それと同時に大きなクラブの記号がファングの全身を包み込む。

 そしてクラブは割れ、ファングの身体にアーマーを纏わせ仮面ライダーとしての姿を現した。

 稲森はその姿を見ると、ニュースでやっていた通りの人物である事に気がついた。何故なら、その姿は誰がどう見ても自然と思ってしまうのだ。

 まさしくそれは「王」であると───。

 

 

《let's call!! クラブキング!!》

 

「そ、その姿は…!!」

 

「── キング。仮面ライダーキングだ。俺にこそ相応しい絶対的な力」

 

()()()()…?」

 

 

 今までのファングならば絶対に言わないだろう言葉。首領に誰よりも付き従い、誰よりも信頼されていた男だ。

 今の彼がたったこれだけの事を呟いただけで、彼が彼ではないという訳の分からない考えが込み上げてくる。

 

 

「お前も察しているだろうが、この力を授けたのは班目だ。しかし… 奴が何を考えてようが俺には関係ない。俺はあいつを利用し、あいつは俺を利用する。そして行き着く先はどちらかがくたばるのみ。プライドなど最早どうでもいい。勝てば勝者。負ければ敗者。俺は弱肉強食のこの世界にどんな手を使ってでも勝利する!!!」

 

「ファングさん…」

 

「首領が死んだ事は知っている。最早それも過去の話し…… 今の王は誰だ? 俺こそが王だッ!!!」

 

「…ッ!!?」

 

 

 稲森は殺気を感じると、咄嗟に身体が動いて部屋の隅まで跳んだ。

 その瞬間、部屋全体が大きく揺れたかと思うと、地面が大きく割れ、天井もガラガラと崩れ始めた。

 スピーダとウェイトも思わぬ事態であったのか。焦りながら現在リゲインにいる怪人達に避難命令を下す。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ…!!!」

 

 

 そしてリゲインはそのたった一撃放たれた拳で崩壊し、拠点であったであろうその場所は瓦礫の山が積み重なっていた────。

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「─── うっ… ん…」

 

 

 あの崩壊から何とか怪我は避けられた稲森は、瓦礫を退けて周りを見渡す。

 そこはリゲインであったはずの場所だが、今は形すら残ってはいない。キングのたった一撃の攻撃だけで崩壊してしまった。凄まじい力だった。

 そんなキングは1人瓦礫の山に立っている。山の上に立つその姿は本当に王と呼べるほどの威厳を感じる。百獣の王。今の彼こそそれに相応しい。

 だから稲森は一歩も動けなかった。それ程の威圧感が彼の身体にひしひしと伝わって来ているのだ。

 

 

「生きていたか。流石、最強の一族の1人と呼べるだろう。だが、死んでいた方がマシだったろう。貴様はこれより俺が喰い殺すのだからな」

 

「……(どうしよう… このままじゃ殺される…)」

 

 

 しかし、稲森に後悔などない。今ここで殺されてしまうのは当然の事だからと思ってしまった。

 自分自身の判断でアベンジドライバーを置き、親友であるモグロウにも否定的に対応してしまった。そして何より自分のせいで人も怪人も犠牲者としてしまった。

 だから稲森は今置かれている状況は当然だと思っていたのだ。

 

 

「一度は避けたが、貴様…… 今、避ける気がないな? それどころか先ほどまで見えた怯えすら見えない。何を覚悟した?」

 

「…… 僕は人間と怪人の為に戦った… だけどそれはもう叶わないんです。守ろうとしていたのに、犠牲者を増やして、その犠牲者を餌にして…… こんな怪人にはもう何も守れない… これ以上、犠牲者を増やすのなら僕はもう…」

 

「死ぬ道を選ぶという訳か… ふんっ。それもまたいいだろう。貴様の苦しむ姿を見てやろうと思ったが、それでいいというのなら、貴様の心意気を称賛し一瞬で殺してやろう」

 

 

 モグロウごめんね。僕が弱かったからこうなったんだ。

 親友… また一緒に笑っていたかったよ───。

 

 

「死ね」

 

 

 キングから放たれた強烈なパンチは稲森の胸を貫いた──── かに思えた。

 不思議な事に稲森はそこからいなくなっており、キングの拳は胸を貫くのではなく、何もない空を切っていた。

 キングは背後に気配を感じ、振り向くとそこには稲森を抱えたモグロウが息を荒くして膝をついていた。

 

 

「あっぶねぇ… あと少し遅れてたら俺も死んでだぜ…」

 

「モグロウ…!!? どうしてここに…」

 

「…… よし、イナゴ。ちょっと立てるか? そこに立ってくれ」

 

「え、うん…」

 

 

 すると、モグロウは稲森をしっかりと立たせて深呼吸をし、笑っていた顔が鬼のような形相となって、稲森の頬を思いっきり殴り抜けた。

 そして吹き飛んだ稲森は頬をさすりながら、モグロウの方を見て、頭の中で情報量を整理にする為に口を開けてポカーンと座り込む。

 それから近づいて来たモグロウが胸ぐらを掴み怒鳴りつける。

 

 

「てめぇよッ!!! なに死のうとしてんだこの馬鹿野郎がッ!!!!!」

 

「モグロッ───」

 

「俺がどんだけ心配して、どんだけ我慢してたか知ってるか!!? 知らねぇよなぁ!!? だってこうやって… あいつが何かわからねーけど喰らおうとしてたんだからな!!!」

 

「ご、ごめん…」

 

「ごめんで済むなら仮面ライダーいらねーんだよ!!! お前は俺がいて、俺にはお前がいるそう言ったよな!!? だからよ…… ここでイナゴが死んだら俺はこの先、何をして笑えばいいんだよ…!!!」

 

「モグロウ…」

 

「… お前は俺の親友だ。自暴自棄になってこんな事すんなよ…… 誰よりもお前のことがわかってんのに、勝手に自己完結で終わりにしないでくれ…!!!」

 

「………」

 

「お前が犠牲にした奴らは戻って来ねぇし、全部が全部イナゴが悪い訳じゃねぇ。だからといってそれをあれこれ誰のせいにするのは責任逃れな気がする。だからだ。だから、それを償う為に今ある命を守ろう。俺だって、陽奈だって、楓だって手伝ってやる!! お前は1人じゃない!! 俺たちがついてるんだ!!」

 

「モグロウ…… 僕は────」

 

 

 稲森が言いかけた途端、キングによる一撃がモグロウを襲った。

 一足早く動けたモグロウではあったが、咄嗟に出した右腕で完全に防ぎ切る事は出来ずに、バキバキと嫌な音を鳴らせて吹き飛んだ。

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁっっ…!!!」

 

「モ、モグロォォォォォォッ!!!!」

 

「次は貴様の番だな。望み通り殺してやる」

 

 

 そしてキングは拳にエネルギーを纏い、稲森の前に立ちはだかる。

 

 

「そうだ。僕は何をしていたんだ…… 身勝手過ぎた。身勝手に責任から逃れようとしてた。今やらなきゃいけない事はそうだッ!!! 僕は何だッ!!! 僕は───!!!」

 

「イナゴォォォォォォッッッ!!! 受け取れぇぇぇぇッッッ!!!」

 

 

 モグロウは左腕で懐からアベンジドライバーを取り出すと、それを思いっきり稲森へと投げる。

 それをさせまいとスピーダとウェイトがモグロウの前へと立って防ごうとする。

 だが、稲森は驚異的なジャンプ力で跳び、アベンジドライバーを手に取ったと同時に、モグロウが片手で合体させたリジェクトフィードを投げると、稲森はドライバーの挿入口にリジェクトを差し込んで腰に巻きつけた。

 

 

「僕は──── 仮面ライダーだッ!!! 変身ッ!!!」

 

 

 空中で仮面ライダーアベンジ リジェクトウェポンへと変身し、態勢を整えて着地する。

 

 

《《Put a flag on the mountain of sacrifice, I'm an avenge world revenge!!》

《START!! リジェクトアベンジ!!》

「もう拒絶なんてしない…… 僕は仮面ライダー。みんなを守るんだッ!!!」

 

「貴様…… スピーダ、ウェイト。手を出すな。代わりに貴様らはモグロウを殺れ」

 

 

 キングに命令された2人はモグロウの元へ向かおうとするが、すぐさまアベンジが立ち塞がって2人を蹴り飛ばす。

 誰もが恐れたリジェクト。最強にして最悪な力。だが、今のアベンジのその姿からはそんな負の感情を起こす気にはならない。

 何故ならもうそんな心配はないからだ。

 

 

「ファングさん… いや、ファングッ!!! 僕はもう決めた。お前達を倒してみんなを守るッ!! それが仮面ライダーとしての僕の役目だからッ!!!」

 

「…… やはり撤回だ。仮面ライダーは心底腹が立つ…!!!」

 

「─── 皆んなに代わって逆襲だッ!!!!!」




稲森完全復ッ活!!!
しかしファング… 基キングに勝てるのか…?

次回、第33話「下克上でトップ」

次回もよろしくお願いします!!


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第33話「下克上でトップ」

皆さんご無沙汰しております。

前回、暫く見なかったファングは人間の姿へと変わり、更には仮面ライダーキン クラブウェポンとなって襲いかかってきた。稲森は自分の過ちを重く受け止め、キングに殺されようとするが助けに来たモグロウの喝よって目覚め、再び仮面ライダーアベンジへと変身し、ファングと対峙する事となるが…

それではどうぞご覧ください。


 アベンジとキングは互いに睨み合うその場所には、リゲイン本拠地があったのだが、それも今や形すらなくなっている。

 そこには反逆者の怪人達も居合わせていたおり、そのほとんどが瓦礫の中へと埋められてしまっただろう。

 何人かは自力で這い出て来たものの、瓦礫から出てみればまた地獄のような光景が広がっている。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

 

 1人の怪人が聞いたのは男の咆哮であった。もう片方は何も発してはいないが、何も喋らずとも威圧だけで人を殺してしまいそうな男だ。

 拳を打ちつけ合う両者からは凄まじい衝撃が走り、そこら中が割れ、砕け、軋み、怪人達は幹部含め誰1人として動く事はできずにいた。

 

 

「イナゴッ!!! やっちまえッ!!!」

 

 

 モグロウの声援でアベンジは自分を奮い立たせ、キングを得意のジャンプを織り交ぜた戦法で撹乱して確実に打撃を喰らわせる。

 誰がどう見ても手数で言えばアベンジの方が優っており、一方のキングは偶に弾き飛ばし、隙を見て攻撃を加えるだけで全くその場から動こうとはしていない。

 

 

「機動力なら自分が優っている…… とでも思っていたのか?」

 

「…っ!!?」

 

「貴様が俺に何一つとして優っているものなどない」

 

 

 そしてアベンジが次に蹴りを入れようとした時、タイミングを合わせて掴み上げ地面に叩きつけて投げ捨てる。

 

 

「かはっ…!!」

 

「リジェクト…… それにはどれほど苦痛を与えられたか。思い出したくもない忌々しい記憶が蘇ってくるぞ…!!」

 

「あんなに攻撃したのに…… 全然効いてないなんて…」

 

「ふんっ!!」

 

 

 キングがエネルギーを帯びた拳でアベンジに殴りかかって来た。

 しかし、単純な殴りの動作を覚えたアベンジは、それを紙一重で避けて、すかさずアベンジドライバーの上部を叩き、右脚にエネルギーを集中させる。

 

 

「これならどうだッ!!!」

 

 

 そしてアベンジの必殺のキックは、キングの頬を捉え、メキメキと音を立てて蹴り飛ばした。

 ただし蹴り飛ばしたという表現は誤りだ。両脚が地面から全く浮きもしなければ、ほんの数センチ移動しただけなのである。

 

 

「そんな… !!? リジェクトの一撃でも全く効かないッ…!!?」

 

「言っただろう。貴様は俺に勝てない、とな」

 

 

 少しだけでもダメージはと思ったが、どうやらそれも無理なのかもしれない。

 何故ならキングの能力は、仮面ライダークインと仮面ライダージャックの2つの能力を有するからだ。

 片や自動修復機能と片や絶対的な防御力。いずれの2つもアベンジ達を大いに苦しめた力である。

 しかし、キングの能力はこの2つを使うというだけではない。既存の力を更に増幅させる機能が付いており、自動修復は与えられたダメージを数秒で終了完了し、防御力に至っては150t以下の攻撃全てを無効と化す。

 まさに圧倒的過ぎる力の前に、アベンジは逃げるという選択肢が頭を過ぎる。でも、一体どうやって?

 

 

「…… モグロウ」

 

「どうしたイナゴ?」

 

「これ逃げられるかな」

 

「…… いや、無理だと思うぜ。相手さんは殺す事しか考えちゃいねぇ。俺たちのいた場所もバレてんだ。お前が逃げようってんなら地の果てまで追いかけて来るぞ」

 

 

 すると、キングは冷静になったのか腕を振り上げ、周りにいる怪人達に「イナゴとモグロウを捕らえろ」と、指示する。

 2人の裏切り者を… いや、自分の汚点を排除する為に仲間を使って確実に捉えて、更に痛めつけてから殺してやろうというのだろう。

 

 

「だけどよイナゴ。俺は()逃げられないとは言ってないぜ?」

 

「今?」

 

 

 キングが腕を前に突き出すと同時に、怪人達は一斉にアベンジ達の方へと駆け出した。

 この数を相手にする事はリジェクトならば何とかなるだろうけれど、目の前にキングがいるとなれば確実に負けるだろう。

 

 

「来るッ…!!」

 

 

 その時、アベンジ達を包囲しようとしていた怪人達は1人1人地面に向かって叩きつけられた。叩きつけられたというより埋め込まれたというのだろうか。

 この状況に冷静でいたキングも何があったと周りを見渡すと、その近場に全員よく知る仮面ライダーが立っていた。

 

 

「全く… モグロウから連絡が来たと思えば何この騒ぎ」

 

「陽奈さん…!!? その姿は…」

 

「…… ふっ、あなたも覚悟決めたってわけね」

 

「えっとそれは…?」

 

「その話しも訳も後よ。今は一旦引くわ!!」

 

「あ、はい!!」

 

「─── 楓ッ!!!」

 

 

 エースの掛け声と共に、一緒にいた楓ことクインが空に雷雲を作り出して全体に雷を降り注ぐ。

 その雷の凄まじさに怪人達は為す術もなくただ逃げ惑う。何としてでも捕まえようというのだが、それは叶いそうにもない。

 

 

「ナイス楓ッ!!」

 

「えへへっ」

 

「さっさと逃げるわよ阿保2人!!」

 

 

 4人の背後からキングの咆哮が聞こえてくるが、これでもかと視界を遮り全員無事とは言わないが逃げることに成功した。

 誰1人として捉えられなかった近くの怪人を殴り飛ばすと、再びキングは天に向かって雄叫びをするのであった─────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 その後、ファングから逃げ切った稲森達は陽奈の住む実家にてお互いの情報を整理することにした。

 陽奈はマンションに一人暮らしをする予定であったらしいが、父の死をきっかけに実家に住むことになったという。母親の方は海外へと出ており、しばらく帰っては来ていないそうだ。

 素朴な感じではあるがどこか懐かしい雰囲気を出すこの場所にいると、今までの激戦も忘れてしまいそうな安心感がある。

 

 

「ちょっと。ボーッとしないでくれる?」

 

「あぁ、すみません」

 

 

 稲森、陽奈、楓、モグロウの4人は畳のある部屋で四角いテーブルを囲んで、早速お互いに起きた事柄について話し始めた。

 

 

「まず私たちの方から… 首領は私が倒したわ。班目が新しく造ったアビリティズフィードの力を使ってようやくね。首領が倒れたとそこにいた奴ら、そしてそれを伝えた奴らのおかげで一時的にだけど反逆者達の動きは弱まったわ…… と、思ってたら、イナゴが攫われたーって連絡来たのよ」

 

「そうですか… でも、よく電話ができたねモグロウ。あの時何か言われなかったの? 電話するなとかって」

 

 

 稲森が連れて行かれる時、モグロウはスピーダとウェイトに何か言われていたようだったが、稲森にはその声が聞き取れずこうして連れて行かれてしまった。詳しい内容がわからないのだ。

 

 

「ん? あぁ、電話したらどうなるかわかってるんでしょうねー… みたいな事は言われたけどよ。俺の予想だとお前はリゲインに連れて行かれてファング辺りに殺されそうになってるんじゃねーかと思った。まぁ予想通りファングはお前を殺そうとしてたわけだ」

 

「場所もよくわかったよね?」

 

「場所はあの班目に聞いたんだよ」

 

「… え?」

 

「俺もわからねーけど急に連絡入って来たんだ。訳わかんねーよな…… ただ、こいつのおかげで場所は知れたし、俺はスピーダ達の言葉はハッタリだと気づけた」

 

「ハッタリ?」

 

「ファングはお前を殺そうと考え、そして場所はバレていないからとあいつはスピーダ達に何も言ってないと思ったんだ。目的はそれだけで探すにも時間がかかるからってな。だけどスピーダ達はファングに気を遣ってそう言ったんだろう。余計なこと言ってくれたおかげで安心して陽奈たちに連絡できたって訳」

 

「すごいねモグロウ… そういえばまだ言ってなかったっけ?」

 

「あ? 何をだよ?」

 

「モグロウ。僕に気づかせてくれて本当にありがとう… 陽奈さんも楓さん助けてくれてありがとうございました」

 

 

 その言葉にモグロウは照れたのか頬を掻いて稲森から目を逸らす。陽奈たちも当然という感じで笑って返してくれた。

 

 

「まぁこんな感じで次の… いえ、最後かもしれないけど」

 

「そうですね。最終的に倒さなければならないのは…」

 

「あのファングの強さは異常よ。私たちじゃ多分… というか太刀打ちできないと思うわ。私なら足止めくらいはできるだろうけど、それ以上を求められても無理かもしれない」

 

「…… リジェクトですらファングには及びませんでした… 仮面ライダーの力… ライダーの…? 陽奈さん!」

 

「… 最終目標はファングじゃないのかもしれない。私たちはとんでもない爆弾抱えてたわね」

 

「ライダーシステムを創り出して、それを悪い方向に繋ごうとしている元凶」

 

「全く… 結局あいつを倒さなきゃ話しは終わらないらしいわね」

 

「── 班目さんを止めましょう」

 

「父さんの残した本当の後始末ってわけね。いいわ、やりましょう。私たちで!」

 

 

 4人は互いの手を重ね、各々目を合わせて頷き合う。

 本当の敵を止める為に────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「…… 来てはやったが、貴様が何を考えているのか先に言え」

 

「首領のお役に立ちたいのでしょう? なら、私の言う事はしっかり聞いておいた方がいいですよ?」

 

「貴様… その口を潰してやろうか」

 

「あなたはリジェクトには勝てない。それどころか陽奈さんに渡す予定のマスタースペイドにすら及ばない。あなたは今、雑魚なんですよ」

 

「班目ッ…!!!」

 

「怒らなくてもいいじゃないですか。事実なんですから…… と、冗談はこれくらいにして本題のこちらです」

 

「…… なんだそれは?」

 

「ポーカドライバー… それもあなた専用に調整した最高クラスの代物です。これさえ使えばあなたに敵など最早この世に存在しません」

 

「俺は首領の為に戦い、首領の為にその身を殺す。故に俺より上は存在しない。首領こそが最高の存在だ。それは俺ではなくあの方に捧げるべきだ」

 

「いいんですか? このままでは首領は負け、あなたも負け、全て台無し。それでもいいならあなたは今ここで敗北を認めた方がよろしいです。もし、あなたが首領の為をと思うなら使って頂いた方がよろしいかと」

 

「…… 何を考えてるんだ貴様」

 

「私は見たいんですよ。どちらが滅ぶのかこの目でしかと」

 

「… ふんっ、悪趣味な奴だ。いいだろう。そのドライバーを使用し貴様に見せてやろう。我々が勝つその結末をな」

 

「さすがファングさんですねー… では、早速お試しにどうぞ────」

 

 

 ───と、ここまでのファングさんであるならば、首領に対しての忠誠心は全く消え去ってはいません。寧ろ、忠誠心失くしてファングさんとは呼べないほどに。

 ですがー…… それもポーカドライバーを着けてからというもの、首領よりも自分が王に相応しいと言うようになったじゃありませんか。

 いやはやどういう事かはわかりかねますが、彼がやる気を出してくれたのならそれでいいでしょう。

 班目とファングは現在リゲインだった場所で会話をしていた。

 

 

「… ところでファングさん? 奴らの居場所を聞きたくはありませんか?」

 

「なんだと? 貴様奴らの場所を知っているのか?」

 

「もちろんですとも。私はあなたにそのポーカドライバーを託して良かったと思ってます。あなたは私が想像するよりも素晴らしい力を見せてくれました。ですので、私を今一度あなたの配下に加えてはいただけないでしょうか? もちろんこの命と()の命をあなたに捧げましょう」

 

「ほう? ()()()とお前の命を好きにしていいと?」

 

「はい、今死ねと言われるのであれば今すぐにでも…」

 

「ならば… まず場所を教えろ」

 

 

 班目は命令されるとすぐに稲森達がいる場所を教える。

 

 

「─── わかった。よくやった」

 

「いえいえ、これくらい当然です」

 

「… そういえば貴様、死ねと言われれば死ぬんだったな」

 

「えぇ、もちろんです」

 

「そうか…… なら、死ぬがいい!!」

 

「… はっ……ッ!!!!?」

 

 

 ファングは片腕だけ怪人化させ、その巨大な爪を班目の腹部に突き刺した。

 そして班目は血を吐いて苦しそうにファングの爪を掴む。

 

 

「な…… ぜぇ………」

 

「貴様は自分の犯した罪を自覚していないのか? はなから貴様には愛想など… 信用すらもない。ここでくだばってしまえ」

 

「……かはっ……──────」

 

 

 それから班目はぐったりとし全く動かなくなったところで、ファングは爪を振るって乱暴にそれを捨てる。

 ファングは班目の隣にいた「彼」「あいつ」と呼ばれていた怪人についてからように命じる。

 その怪人はどこか見たことあるような見た目である。いや、誰かにも似ている。人だ。どう見ても人なのだ。

 

 

「では、行くとするか。奴らをこの手で叩き潰す」

 

「………」

 

 

 ファングの横に並ぶ怪人。

 それは死んでしまったはずの()()の姿がそこにはあった。




唐突に班目散る!

次回、第34話「次々とサクリファイス」

次回もよろしくお願いします!!

最終回まで残り──10話


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第34話「次々とサクリファイス」

皆さんご無沙汰しております。

前回、モグロウに諭されたイナゴが仮面ライダーアベンジ リジェクトウェポンに変身し、仮面ライダーキングと戦うがその力の前に何もできずいた。しかし、そこへ陽奈達が駆けつけ、その場から逃走することに成功。陽奈の実家にて本当の敵を再確認した一向。一方で班目はファングにより死に、首領は再び復活するが──。

それではどうぞご覧ください。


 再び戦争が起き始めた。

 急にというかもしれないが、戦争は今に始まったわけではない。人も怪人も関係なく、一度争ったもの同士がそう易々とやめてくれるのだろうか。

 既に犠牲者の数はどちらも含め数百人と出ている。

 ここでやめればいいのにと誰もが思うだろうけれど、片方がやめれば、片方はそれを好機と見るだろう。戦いはいつだってそうなのだ。どこか少し気を抜いただけでいとも簡単に崩れてしまう。

 

 

「陽奈さんッ!! そっちは!!?」

 

「何で止めても止めても争いはじめるのよ!!」

 

「どうしよう…!! これじゃあ永遠の泥沼状態…!!」

 

「でも、止めるしかできねーんだぞ!! あーくそッ!!!」

 

 

 首領を倒したといえど、怪人達にはファングという大きな存在。新たなる王が付いている。

 一方で人間側は仮面ライダーという存在。それと彼らの心に大きな傷をつけたであろう首領が死んだという事なら、黙ってライダーに任せてもいないだろう。

 いくら仮面ライダーが敵を薙ぎ倒そうと、彼らの心に刻まれた傷は深く、誰かがやったではなく自分たちがやったという事実がなければならない。

 基本フォームはと変身したアベンジ、エース、クイン。そして怪人態へと変化したモグロウの4人は、全く止まる気配がない戦争のど真ん中で、人間と怪人達をギリギリ止めている状態だ。

 

 

「稲森ッ!! 私たちは人間なんとかするから怪人側止めなさい!!」

 

「はい!─── モグロウ行くよ!!」

 

 

 アベンジに言われるとモグロウは頷き、怪人達を止めようと試みる。

 だが、その直後にエースの悲鳴が辺りにこだまする。声を聞いてそちらを向けば、エースの上に何者かが馬乗り状態となっていた。

 すぐにアベンジはエースの元へと向かおうとするとしたが、遮るようにキングが現れて道を塞がれてしまう。

 

 

「ファング…!!」

 

「…… エースの元へと向かおうというのか? イナゴ」

 

「陽奈さんの元へは行かせないんでしょう? なら、あなたをここで……」

 

「やめておけ。貴様は俺には敵わない」

 

「…ッ」

 

「それよりも貴様、あれを見てどう思う?」

 

 

 キングはエースの方に指をさしてはいるが、きっとあれというのはエースの乗っている何かを指しているのだろうか。

 

 

「どうって… ただの怪人にしか……」

 

「ただの怪人… か。どうやら俺たちの上に君臨していた男もそれまでの力だったようだな」

 

「俺たちの上…?」

 

「そうだ。あれは─── ジェスター首領だ」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「陽奈ッ!?」

 

「なんなのよこいつッ…!!」

 

 

 エースに跨る何かは、何の怪人で何を掛け合わせたらこんな醜い顔になってしまうのだろうかというほど、その怪人の見た目は非常に恐ろしく奇妙だ。

 

 

「邪魔ッ!!」

 

 

 エースはそれを思いっきり跳ね除けて再び立ち上がり、次の攻撃に備えようとすると何か違和感を覚える。

 その奇妙な生物からは、どことなく懐かしさを感じるのだ。

 

 

「エース……!?」

 

 

 よく見なければわからなかったが、今こうしてまじまじと見るとそれが何者なのかがよくわかった。

 その姿は非常に仮面ライダーエースに似ており、懐かしさの原因は見た目であるということがよくわかる。もう一つは動きだ。何度もこの目で見た動きだからこの化け物が誰であるのかもはっきりして来た。

 信じたくはないが信じるしかない。

 

 

「父さん……」

 

 

 それが何なのかはっきりとわかったエースは悲しむ。悲しんだが、そんな感情はすぐに吹き飛んで逆に怒りが身体の底から火山の噴火の如く爆発した。

 

 

「許さないッ……!!!!!」

 

「陽奈…」

 

「見た目はもう父さんじゃないってわかるわ。これが首領なんだってね。だけど!!! 見た目は違えど、その動きはエース…… 父さんの動きッ!!! 一体命をなんだと思ってるの!!? 父さんをなんだと思ってるのよッ!!! 許さないッ!!! 許さないッ!!!!!」

 

 

 エースは怒りの咆哮と共に、無様な姿となった首領。父に向かって走り出す。

 それと同時に走り出した首領に蹴りを入れ、怯まず反撃をして来ようとも全く攻撃をやめない。最小限の動きと最大限の攻撃をしながら首領を翻弄していく。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 戦闘するエースはそこでハッと気づいた。

 今は戦争中なのだ。感情だけで動いてはいけない。何故ならこの声が人間の悲鳴であり、怪人たちの動きがより活発になって人間たちを食い殺そうとしていた。

 そしてその逆も然り、一部の人間たちは怪人たちを素手で殴り飛ばしていた。ガタイのいい人間に関しては怪人を片手で持ち上げて地面に叩きつけている。

 

 

「え…? 何よこれ…」

 

「─── ッ!!? 陽奈危ないッ!!!」

 

 

 首領から少し目を離したエースは、首領の手刀から放たれるエネルギーを帯びた突きを躱す事ができなかった。

 それを一足先に気づいたクインが受け止め、エースを庇って大きく吹き飛ばされて変身が解ける。

 

 

「かはっ…!!」

 

「か、楓ぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 

 そしてエースたちがその光景を見て驚愕していたのに対し、アベンジとモグロウ。そしてファングでさえも目の前に起きている事柄に驚愕していた───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 あの化け物が首領だとファングから伝えられたアベンジとモグロウだったが、どうやらそれよりも重大な事態が目の前で起きているようだった。

 人間と怪人の戦争が始まり、こうして再び血で血を争う戦いになっている。確かにそうなのだ。そうではあるが違う。

 これはまるで人間が怪人だ。人間が怪人と殴り合えるか? いや、そんな事ができるはずがない。力の差は先ほどの戦いで嫌というほどわかりきっていたはずなのだ。

 

 

「なんだと…? これはどういう事だ……?」

 

 

 あのファングでさえも驚いていた。ファングもこれについては全く知らなかったのだ。

 人間と怪人の戦争という理不尽な争いにファングは勝ちを確信していたに違いない。そうであったのは目に見えてわかる。

 だが、この状況を見てどうだろうか。明らかに人間側が押して来ている。武器も何も持たずに、己の身一つだけで怪人と渡り合っているのだ。

 

 

「これは一体……」

 

「ファングさん。あなたも知らないんですか?」

 

「なんなんだこれは… こんな事があっていいのか? 俺たちの差は歴然だったはずだ」

 

「……… まさかッ!!」

 

「そんなはずはない!!! 班目は俺の手で殺したはずだッ!!!」

 

「ま、班目さんがッ!!? どういう事ですか!!?」

 

「死して尚も邪魔をするかァッ!!!…… 全員一度引けッ!!!」

 

 

 ファングの一声に一部の怪人たちは素直に従おうとしたが、ある一定の部分だけは聞く耳を持とうとせず、人間たちを殺そうと飛びかかっていく。

 人間たちは引くどころか追撃しようと試みている。普通の人間たちすらもだ。

 

 

「そんな…… ファングさん。班目さんを殺したってどういう事ですか。それが本当ならこの状況はなんです?」

 

「黙れ。俺が奴に関してわかることなどない。だが…… ただでは死ななかったというわけだな」

 

「ファングさん。提案があるんです」

 

「提案だと?」

 

 

 アベンジは立ち去ろうとするファングに提案という訳の分からない事を言い出した。

 モグロウもアベンジの言う提案とやらの話しで心当たりはない。一体何をするのだろうか。

 

 

「今、僕たちの目の前を見てください。人は死に、怪人も死に、どちらもただ命を失っていくだけの無駄な争いでしかありません。そして班目さんが死んだと言う事実が本当なら、これは班目さんが残した最後の悪あがきだと思うんです」

 

「…… 何が言いたい?」

 

「僕たちは手を組まなければならないという事です」

 

「貴様…… 馬鹿馬鹿しい。何故貴様と手を取り合うなどという考えを起こさねばならんのだ」

 

 

 モグロウもアベンジを止めようとしたが、アベンジは全く引き下がる様子はない。

 

 

「あなたがどう思っているかはわかりません。ですが、今こうして目の前で起きている事をそのままにするなら、あなたはそれまでの怪人だったというわけですね」

 

「… 貴様、今なんと言った?」

 

「何度でも言います。ファングさん、あなたは目の前にいる同族の命も碌に助けられない愚かな怪人だと言ったんですよ」

 

 

 その瞬間、ファングは硬く握った拳をアベンジに放つが、アベンジはそれを予測してすでに避けており、ギリギリのところで躱す事ができた。

 

 

「殺してやろう」

 

「僕もあなたとはそうならなければいけないと思います。けど、それは今じゃありません。本当に戦うのであれば、この事態を止める事が先決だと思います」

 

「それで俺になんのメリットがある? この戦争は一部の異常となった人間を殺せばいい事。たったそれだけやれば事が終わる。俺たちの勝ちだ」

 

「確かに戦争には勝ちますけど、班目さんには負けますよ」

 

「なに…?」

 

「あの班目さんです。あなたがこれをするあれをするとやっても、あの人は2手3手と先を読んでいるはずです。このまま戦争を続けて勝ったとしても、班目さんは必ず何かを仕掛けて来ていますよ? それを1番よくわかっているのはあなたでしょう!!」

 

「ぐっ…!!」

 

「どうしますか? このまま戦争を続ければファングさんは班目の思い通りに動いてしまう。それでもあなたは戦いますか?」

 

「───……… 条件がある」

 

「… はい」

 

「この戦いが終わった時、俺と1対1で戦え。代表戦だ。お前が負ければこの世界は俺が好きにする。俺が負けた時…… お前は好きにすればいい」

 

「ファングさん…!!」

 

「勘違いはするな。俺はあの班目の思い通りに動きたくはないだけだ。それだけは忘れるなよ」

 

「ありがとうございます!! ファングさん!!」

 

「しばらく俺は話しが聞ける怪人どもをかき集める。あの暴れている奴らは知らん。貴様らがなんとかしろ」

 

 

 ファングは変身を解くと、一部の怪人たちだけを連れて何処かへと消え去った。

 そしてアベンジは胸を押さえて粗い呼吸をし、少しずつ息を整えいく。流石のあの重圧を前にして普通でいられるはずがない。アベンジの必死の叫びだったというわけだ。

 モグロウはアベンジの背中をさすりながら安堵する。

 

 

「はぁーーーー… マジで心臓止まるかと思ったぜ。良くやったよお前。あのファングを丸めやがった」

 

「班目さんの名前を聞いたら流石に受けるかなと思ったけどうまくいってよかったよ…… そして結局戦う事になるのも予想通りだけど、被害は少なくなりそう」

 

「…… だがよ」

 

「うん、休んでなんかいられない。あの人たちを止めないとね」

 

 

 それからアベンジは達は混沌する戦争へと飛び込んでいく────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「完成です」

 

 

 班目は研究所にてとある物を開発していた。見た目からもわかる通りの毒々しい色の液体。

 それを拳くらいの玉の中に注入し、栄須市にある1番高いビルの上へと持っていく。

 

 

「ファングさんはきっと私を殺す事でしょう。全くもって酷いお方だ。首領を使い捨ての兵としてあげても、あの方が私に対する怒りは変わらないでしょう。いっそ死んでしまうのならば最後にとっておきの物を置いていってあげましょうかね」

 

 

 それから班目はその玉を握り潰すと、液体は空気に触れた途端に霧状となり、やがてそれは街全体を包み込むほど広がっていく。

 目に見えないほど細かくなると、班目はニタリと微笑む。

 

 

「人間側が不利… そんな戦争つまらないでしょう? ねぇ、ファングさん…… 稲森さん」

 

 

 ─── そして再び起きた戦争。

 その液体の効力は人間たちに怪人のような力を与え、怪人たちには本能を増幅させるというものであった。

 しかし、これは彼らが戦えば戦うほど、肉体を破壊し、やがては朽ちてしまうという恐ろしい副作用も存在しているのだ────。




再び起きた戦争…!!止める事はできるのか!!?

次回、第35話「微かなホープ」

次回もよろしくお願いします!!

最終回まで残り── 9話


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第35話「微かなホープ」

皆さんご無沙汰しております。
もう最終回が迫っていると思うと本当に早いなーと思ってしまいます。

前回、戦争は止まらないどころか更にその激しさを増していた。最後に班目は死しても尚、この戦争を激化する為に人間には怪人のような力を、怪人には本能を目覚めさせるという薬を作り出して栄須市にばら撒いたのだった。一方のファングと稲森は一時的な休戦という形を取るが未だに問題は山積みである…

それではどうぞご覧ください


「── 稲森がファングに条件持ちかけて、それであいつが了承したのは予想外だったわ。まぁそのお陰でとりあえず怪人側は大人しくなるはずなのだろうけど……」

 

 

 稲森たちはあの後、一旦陽奈の家へと戻った。

 この戦争中にそうのんびりとはしていられないのだが、理由としては楓が変身解除する程のダメージを負ってしまったからだ。

 だからと言って稲森たちに休んでいる時間はない。この戦争が終わってもその先にはファングという王が待っている。

 

 

「陽奈さん、すみません… 何も考えずにやってしまって…」

 

「いいのよ。その何も考えないでやった結果が休戦。あいつに何言ったかは知らないけど、話し合いだけで休戦させたのは凄いことよ」

 

「でも… その代わりに僕が奴と1対1で決着をつけなきゃいけません。もし… もしも僕が負けてしまったらと思うと…」

 

「あんたねー… 自信持ちなさい!!」

 

「…っ!?」

 

「もちろんファングに勝つには今のあなたじゃ絶対無理よ。だけど何もやらずに負ける云々言ってても前には進めないわ。だから、それに向けてまず戦争を止めて、稲森にはリジェクト以上の力を手に入れてもらわなきゃ」

 

「リジェクト以上の…… でも、班目さんはもう…」

 

「班目…… もしかしたら」

 

「… どうしました?」

 

 

 陽奈は懐から数字の書かれた紙とカードキーを取り出すと、それらを稲森に渡す。

 

 

「これは?」

 

「研究所の10桁のパスコードとカードキーよ。あの班目だったら… あなたに何かを残しているかもしれない」

 

「陽奈さん…」

 

「行ってきなさい。戦争の件は私たちに任せて」

 

 

 すると、後ろから肩をポンと叩かれる。

 モグロウはニカッと笑ってから、稲森の背中をバシッと叩く。

 

 

「こっちは任せろ。お前はさっさと班目んとこの研究所行ってこい。偽りのキングをぶっ飛ばすぞ」

 

「モグロウ…!」

 

 

 そして布団を敷いて寝ていた楓も身体を引きずりながら出てきて、親指を突き立てて「任せて」と一言。

 稲森は大きく頷き、班目の研究所へと走り出した────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 栄須市の街中では戦争は更に激化していた。

 人々が怪人に対して引く事なくちぎっては投げの繰り返し。一方の怪人は引くどころかまるで獣のように人間に噛みつき、人間を餌というように貪り食う。

 あまりにも酷い光景に駆けつけた陽奈とモグロウは思わず息を呑む。

 

 

「おいおい… こんなの地獄じゃねーかよ…」

 

「楓がいればまた心強いんだけど… 今は仕方ないわ。とにかく全員止めるわよ!!」

 

「おう!!」

 

「変身ッ!!!」

《Let's try!! Let's call!! ビバ!! マスタースペイドエース!!》

 

 

 陽奈は仮面ライダーエース マスタースペイドウェポンへと変身すると、重力を操作して人間と怪人たちを地面に拘束する。

 マスタースペイドは重力を操作する能力だが、この大多数相手には流石に全てを止める事はできない。

 

 

「モグロウ!! そっち頼んだわよ!!」

 

「もう既に拘束済みだぜ!!」

 

 

 すると、人間と怪人たちの足元に穴が空き、そこへ下半身が綺麗にズッポリとハマってしまって身動きが取れないでいる。

 あの一瞬のうちに掘ったと考えると、かなりの技量と体力を持っているだろう。今までのモグロウとは明らかに動きが違った。

 

 

「… やるじゃない!」

 

「へっ、俺もお前らに置いてかれるのはごめんだ。俺の身体がバラバラになるまでやってやる!! 稲森だけじゃねぇ… 全員が笑っていける未来を取り戻す!!」

 

 

 そしてモグロウが次の穴を掘ろうとした時であった。

 その背後から人間に掴まれ首を締め上げられる。凄まじい握力で締められている為、モグロウの力でさえ全く解く事ができない。

 

 

「かっ……ぁっ…!!!」

 

「モグロウ!!」

 

 

 エースがモグロウの助けに入ろうとするが、怪人たちが彼女の前に立ちはだかる。

 

 

「あぁもう邪魔よッ!!!」

 

 

 皆が入り乱れているがために、モグロウを助けに入るものは誰1人としていない。誰から見ても絶体絶命の危機だ。

 けれどモグロウは誰も助けに来ない事など、とっくに理解はしていた。大乱戦の中で誰かに助けを求めるなんて、ましてや仲間は陽奈1人だけである。だから誰からも助けなど来るはずない。

 

 

「…… 稲森が新しい道作ってくれたんだ…」

 

 

 そしてモグロウは自分の首を掴んでいる両腕を掴み、思いっきり両側へ引っ張る。

 

 

「こんな所でぇ…!! 負けてられるかよぉぉぉぉぉっっっ!!!」

 

 

 それから人間を力一杯に投げ飛ばして他の人間たちもまとめて吹き飛ばした。

 

 

「戦争をやめさせてやるッ!!! それが俺たちの使命だッ!!!」

 

 

 稲森が必ず何かしてくれることを信じ、モグロウは再び乱戦の中に飛び込んでいく────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 稲森は班目の研究所の扉に、陽奈から受け取った10桁のパスワードを入れてカードキーを差し込む。

 研究所の扉が開いて奥へと進むと、当たり前だが部屋の中は真っ暗であり、机があるのだろうけど分からずに蹴ってしまう。

 

 

「電気… 電気……」

 

 

 物を伝いながらスイッチを探していると、何もそれといった物は触っていないはずだが、突然部屋の明かりがパッとついた。

 

 

「な、なんだ…!!?」

 

 

 班目が防犯で何かしら仕掛けてあるのかと思ったが、辺りを見渡してもそれらしい仕掛けはない。

 とりあえず危険はないと判断し、部屋の中を漁り始めた。

 しかし、班目がこの状況においての打開策を用意しているはずがない。現にそれっぽいものが見当たらないのだ。

 

 

「やっぱり班目さんは……」

 

 

 そもそも打開策という事自体がおかしい。

 誰がきっかけで戦争が激化したのか。誰のせいで人間も怪人も本能のままに殺し合いをするようになったのか。

 その原因が班目であるという事は百も承知だ。でも、ライダーシステムを創れるのは他でもない彼しかいないのが現実。

 今は彼に縋るしかないのだ。こんな皮肉な事があるだろうか。未来は彼の手にかかっている。

 

 

「─── あれ?」

 

 

 稲森はふと班目がよく使用していた机の方に目がいった。

 あそこはもう調べてあるはずなのだが、妙な違和感を覚えて机に向かう。

 

 

「……(そういえばここに来た時も変な違和感があったな…)」

 

 

 ここに来るまで当然ながら誰1人としてはいない。人がいないはそうだが、ついでに言えば物もない。

 班目の研究所と言えば片付いてるか片付いてないのか。とりあえず足の踏み場はある状態ではあったが、この場合においてはその物自体があまりにも少ないのだ。

 道具は最低限のものだけがあり、班目の机の上には何も置かれてはいない。以前なら試作品やらが大量に置かれていたはずだ。

 

 

「やっぱり… 机の上には何も───」

 

 

 稲森が机に指を走らせると、突然机の真ん中に模様が浮き出て、青白い光が溢れ出す。

 

 

「うわっ!!?」

 

 

 何かの罠かと思い身構えたが、その光はすぐに消え、机に恐る恐る近づいてみると、何も置かれてはいなかった机に見たこともないアビリティズフィードが置かれていた。

 

 

「これってアビリティズフィード!? 見た事ない形だ…… 班目さんが造ったんだろうけど……」

 

 

 アビリティズフィードにはその能力を模した動物の絵と特有の色で構成されていた。

 だが、このアビリティズフィードには色がなく、合体したリジェクトと同じぐらいの大きさであるにも関わらずとても軽い。

 まるで中身がない試作品かのような感じだ。

 

 

「…… 多分これだ。だけど班目さんはなぜこれを……」

 

 

 今は深く考えていても仕方がない。戦う2人の元は急がなければならない。

 稲森は謎のアビリティズフィードを懐にしまうと、急いで2人の元へと向かうのであった─────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 エースとモグロウは更に激化する戦争の中で戦い続けていたが、その多さから次第に体力も限界に近づいていた。

 

 

「モグロウ… あなたまだ戦える?」

 

「はぁ… はぁ…… 当たり前だ。こんな所で倒れるわけにはいかねーからな!」

 

 

 モグロウは暴れる怪人を捕まえて地面に倒す。

 すると、その怪人はモグロウを蹴り飛ばして罵声を浴びせる。

 

 

「お前怪人だろ!!? なんで人間なんて庇うんだよクソ野郎!!!」

 

「お、おい意識が…!!」

 

 

 全員が本能のまま動いていると思っていたが、どうやら違う奴もいるようだ。

 しかし、彼らの口から放たれる言葉は感謝でもなければ礼でもない。人間への憎しみ、怒り、裏切り者とそればかりだ。

 

 

「人間だけじゃねぇ!! お前ら怪人も庇ったんだよこっちは!!」

 

「知るかよッ!!! 俺は人間に息子を殺された!!! 見た目が違うってだけでよ!!?」

 

「それは人間側も同じ事だッ!!! 確かにあんたの所の息子さんの死は許せねぇ!!! だが、あんたも今それと同じことをしようとしてるんだぞ!!?」

 

「黙れ裏切り者!!!」

 

 

 怪人はモグロウを跳ね除けて再び人間の方へと向かっていく。

 一方のエースも人間たちを抑えつけていると、ある1人が叫ぶと同時に、呼応するように皆がエースに罵声を浴びせた。

 

 

「仮面ライダーのあんたはどっちの味方なんだよ!!? 人間じゃないのか!!?」

 

「人の味方だし、今は怪人の味方でもあるわ」

 

「ふざけんなッ!!! 何が仮面ライダーだっ!!! 何も守れないで正義のヒーローだとかふざけた事言ったんじゃねーよ!!」

 

「落ち着いて────!!!」

 

「落ち着けだと? 家族殺されて落ち着いてる奴がいるか!!! 俺たちは今… 何故だかはわからないけど凄い力を感じる…!!!」

「これで怪人共を殺してやるんだ!!!」

「そうよ!!! 怪人なんてこの世にいちゃいけないのよ!!!」

「そうだ!!! そうだ!!!」

 

 

 もう彼らには仮面ライダーの声すらも届かないのか。

 皆は2人の静止を聞かずに怪人たちと再び血で血を洗い始めた。

 

 

「人間ども!!! 死ねぇッ!!!」

 

「この世から怪人を潰せェェェ!!!」

 

「人間のせいで!!!」

 

「怪人のせいで!!!」

 

「殺せ!!!」

 

「殺せッ!!!」

 

「「「「「皆殺しだッッッ!!!!!」」」」」

 

 

 エースは止められないという現実を突きつけられ、心にあった鎖がついにブツッと千切れた。

 それからエースは膝から崩れ落ち、絶望した顔をしながら頭を抱える。

 

 

「もうダメなの…… 戦争は… 止められなかったの………?」

 

「………」

 

「ごめんね… 父さん… 楓…… 私がしっかりしてればこんな事には…」

 

「………ッ」

 

「私がもっと早く気づいていれば……!」

 

「──── ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああッッッ!!!!!」

 

 

 するとモグロウが天に向かって辺りに響き渡る程の咆哮をし、乱戦する中は1人で飛び込んだ。

 

 

「モグロウッ!!?」

 

 

 そしてモグロウは何を思ったか、その乱戦の中は1人飛び込み、人間が持っていたナイフを腹に受け、怪人が持っていた鋭い爪を腰に受けた。

 鋭い刃が貫通し、口から血を吐き、苦しみながらもその2人の武器をしっかりと握って天高く吠える。

 

 

「てめぇらぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁ!!!!! いい加減にしやがれぇぇぇぇええぇぇぇえぇぇぇッッッ!!!!!」

 

 

 その場にいた全員が一瞬何も聞こえなくなるほどの咆哮を行うと、先ほどまでの争いはピタリと止まり、全員がモグロウの方へと向く。

 息を荒くしながらモグロウはその後も続ける。

 

 

「お前たちはどれくらいの命を無駄にすれば気が済むんだッ!!! これ以上、命を無くす意味はあるのか!!!? ねぇだろッ!!!? 家族を失った奴らの気持ちも大切な奴を目の前で殺されて、殺したくなるほどムカつくのはよくわかるッ!!! だからってお前ら全員が争っても、そいつらは生き返らないし、また同じように大切な奴らを失うだけだッ!!! お前たちだって本当はわかってんだろ!!? 今この戦争中に何人の命を失ったんだ!!? もう何人とかの話じゃねぇ!!! 数えられないほど死んでるんだよッ!!! お前たちはそれでも戦うのか? また失いたいのか? こんなに犠牲になってるのに、それでもお前たちは…… お前たちは戦い続けるのかよぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!!」

 

 

 それはモグロウの魂からの叫びだった。

 全てを言い終えたモグロウは再び血を吐き、目の前が真っ白になって地面に倒れた。

 

 

「嘘でしょ…… モグロウッ…!!!」

 

 

 エースはモグロウへと近づくと、周りの人間や怪人たちは先ほどの血走った目ではなく悲しみの表情を浮かべていた。皆が彼女のために退く。

 そしてエースはモグロウを起こし、腹をみると深く突き刺さり貫通した所から血が流れている。出血多量。段々と力が抜けていくのがわかる。

 

 

「ちょっとしっかりしなさいよ…!!」

 

「はっ…… しっかりすんのはお前の方だ陽奈」

 

「え…?」

 

「しっかりしなきゃいけないんだろ…? だったらしっかり前見て戦争を止めてくれ…… 俺の声がみんなに届いたかは知らねー…… ただ、これで変わらなくてもお前たちがやってくれるはずだ……」

 

「馬鹿……!!」

 

 

 そして稲森もその場にようやく到着すると、モグロウの姿を見て声を抑えて凄まじい跳躍力で彼の元へと跳んだ。

 

 

「モグロウ…!!! やだ… やだよ……!!!」

 

「泣くな馬鹿野郎…… お前も陽奈みたいにしっかりしろよ」

 

「でも… こんなのって…!!!」

 

「大丈夫だ… お前なら…… お前たちならやれる… 後は頼んだぜ」

 

「モグロウ… モグロウ……!!!」

 

「笑ってろイナゴッ!! 親友が最後に残した爪痕…… 無駄にすんなよ────」

 

 

 そしてモグロウは最後に稲森の手を叩くと笑顔のまま力が抜ける。

 稲森はゆっくりと立ち上がり、涙を拭いて皆に言う。

 

 

「僕の大切な親友は馬鹿みたいな戦争で怪我をした…… もうわかるでしょう? これ以上争っても変わりません。こうして大切な人がいなくなる… そんなの皆んな望んでないはずです。だから… もうやめましょう。今の僕たちは手を取り合わなければならない。そうしなきゃ… 誰も笑ってなんかいられない!!!」

 

 

 稲森… そして何よりもモグロウの言葉を聞いた全員が武器を下ろした。

 すると、その場にいた人間と怪人たちの身体から毒素のようなものが抜け、稲森の持っていたアビリティズフィードに注がれる。

 そして取り出してみたが、特に変わった様子もないけれど少なからず悪い感じはしない。

 

 

「皆さん… ありがとうございます」

 

 

 こうして戦争は1人の叫びと共に終わりを告げたのだ────。




戦争が終わりました!!やりましたね!!
……はい。1人ちょっと……うん。
そして次はファングとの決着か…!

次回、第36話「王はエバー」

次回もよろしくお願いします!!

最終回まで残り── 8話


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第36話「王はエバー」

皆さんご無沙汰しております。

前回、人間と怪人の戦争を止める為に各々が必死に戦い続けていたが、班目の策略により戦争は止まるどころか激化してしまう。しかし、モグロウの身を呈した決死の叫びを皆が心の底から聞き入れ、ついに戦争は幕を閉じた。かに思われたが、まだ最後の決着が残っているのだ…

それではどうぞご覧ください。


 ── 今日この日。この日が運命の分かれ道なんだ。

 

 

「今日が… ファングとの最後の戦い……」

 

 

 稲森は現在、自分の住むアパートではなく陽奈の実家にてその身を置いている。

 机に置かれたお茶をグビッと飲み干し、深く大きなため息を吐く。

 

 

「はぁーーー……」

 

 

 モグロウのお陰で人間と怪人の戦争は終わりを迎え、犠牲者は多く出たが最小限に留まらせることはできたと思う。

 ただモグロウは戦争を終わらせる為に、身を挺して説得し重傷を負ってしまった。今は病院で治療を行っており、絶対安静という状態だと医者は言う。

 

 

「ため息なんてついてる余裕ある?」

 

「陽奈さん…」

 

「あなたが人類の運命を背負うって決めたんでしょ? だったら覚悟決めてやってくれなきゃ」

 

「… はい」

 

 

 陽奈の言う事はごもっともなのだが、稲森は別に逃げるつもりも無ければ、負けるつもりなどなかった。

 しかし、相手は仮面ライダーキング。変身者はファングである。

 負けるつもりはないにせよ、負ける確率の方が上である事には変わりない。けれど絶対にこの戦いは勝たねばならない。

 

 

「まぁそれを1人で背負う責任の重大さって本当に苦しくて辛い事なんだろうけど、私たちは全部あなたに託してる。あなたが心で負けたら、今まで流してきた血を無駄にすることになるわ」

 

「…… そうですね。僕がやるって決めたんだからやるしかない… 陽奈さん、僕はファングを倒します」

 

「よく言ったわ!…… 全く父さんもこんな気持ちだったのかしら」

 

「そういえば陽奈さんのお父さんも人類の希望として戦っていましたね… まさか自分がその立場になるなんて思いもしませんでしたよ」

 

「本来なら私の役目なんでしょうけど… 巻き込んでごめんなさいとは言わないわ。同じ仮面ライダーとして、稲森。絶対に倒しなさいよ」

 

「はい!」

 

 

 そして覚悟を決めた稲森と付き添いの陽奈は指定された最後の戦いの場へと出向くのであった───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「ファング様。そろそろお時間です」

 

「わかっている」

 

 

 部下に呼ばれたファングは椅子から立ち上がり、稲森に指定した場所へと出向こうとしていた。

 ファングの心には余裕があった。キングに変身したからというもの、誰も彼に対してまともなダメージを与えた試しがない。試しではなく現にそれを証明して見せている。

 だから誰も自分に指図する事や意見する事はないと確信していた。

 

 

「大丈夫? ファングちゃん」

 

「…… スピーダ」

 

 

 もう誰からも心配される事などと確信していたが、今もこうしてうるさく聞いてくる奴がいる。

 

 

「大丈夫か否かと問う前にわかりきっているはずだ。俺は何者にも倒せない」

 

「そうなんだけどね… 心配しちゃうのよ。私たちは」

 

 

 スピーダの隣にはウェイトが立っており、そちらも心配そうな顔でファングを見つめている。

 この2人は本当に何を心配しているのだろうか。ファングの頭には疑問しか浮かばない。

 

 

「貴様らが何を考えているかは知らんが、俺はこの戦いに勝って世界を手にする。その為にこの力を手に入れたのだ」

 

「えぇ、そうね。その力を手に入れてからファングちゃんは変わっちゃったものね」

 

「変わったとは?」

 

「前のあなたなら首領に対する忠誠心は絶対だったわ。足を舐めろと言われれば舐め、すぐに死ねと言えば死ぬ… 過度な事でも首領の命令とあるなら、ファングちゃんはどんなことがあっても絶対にやり遂げて見せた」

 

「だから何を言いたい」

 

「別に深い意味はないわ… ただ古くからの知り合いだから言っただけよ」

 

「いらない心配だな」

 

 

 そうだ。こんなものいらない心配だ。

 百獣の王に仲間など不要。必要なのは隣に立つ存在ではなく、後ろ若しくは下に立っていればいい部下だけ。

 

 

「俺は奴に勝ち。真の "キング" となる───」

 

 

 決意を胸にファングは決戦の地へと歩む───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 栄須市にある広い競技場の真ん中で稲森と陽奈は、今日の主役であるファングが来るのを待っていた。

 稲森は何も話さないが何度も深呼吸を行っている。

 陽奈もその行為が責任感からの緊張で無意識のうちになっているのだと思い励ましの声を一切掛けなかった。もう既にその事に関しては話しをした。同じ事をまた話すのは無意味だ。

 

 

「── そろそろ時間ね」

 

「はい」

 

 

 そうして予定通りの時間が来ると、周りの空気は急にドッと重くなり、稲森たちは全身に寒気を感じる。

 

 

「予定より早いな、イナゴ」

 

「えぇ、礼儀ですから」

 

 

 やはりファングは人間態の姿のままのようだ。皮肉な事にこちらの姿の方が表情がわかりやすく受け入れやすい。

 そんな見た目と似合わない程の殺気と圧。

 人間と仮面ライダーとなってから更に強くなったのではないだろうか。これもまた皮肉な話しだ。

 

 

「他の奴らはスタンドに上がらせろ。わかっているとは思うが、誰1人としては邪魔をする事は許さん」

 

 

 ファングがひと睨み効かせると、怪人たちは皆スタンド方へと急いで着席する。

 そして陽奈は稲森の肩をポンッと叩いてスタンドへと向かう。

 スタンドには人間たちがおり、テレビのクルーであろうか、カメラを抱えて戦いの一部を収めようとしていた。

 こういう光景を目にしてしまうと、やはり責任感が重くのしかかると稲森は思う。だが、全く後悔はない。

 

 

「稲森さーん!! 頑張ってー!!」

 

 

 スタンドから黄色い声援が聞こえ振り向くとそこには楓がいた。

 実は楓の怪我は既に良くなっており、無理はしない方がいいと稲森と陽奈は言っていたのだが、モグロウの件を聞いてこんな所で寝てる場合ではないと飛び起きたのだ。

 最も今回の戦いが勝てなければ最悪な結末を迎えるのは確か。誰の助けも借りる事は許されない1対1の真剣勝負。

 

 

「頑張りまーす!!」

 

 

 稲森は笑って見せたが、その声は微かに震えていた。

 その震えを楓は察したのか更に大きな声で応援し始める。陽奈も負けじと似合わず大声をあげて稲森を応援し始めた。

 やがてそれは人間たちも巻き込み始め、皆が揃って稲森に期待の声が浴びせられる。

 

 

「…… ありがとう。皆さん」

 

「茶番はそこまでだ。そろそろ始めるぞ」

 

「僕が勝ちますよ」

 

「抜かせ。俺が勝つ」

 

 

 稲森とファングは暫し睨み合った後、両サイドに分かれる。

 すると、スピーダが真ん中に立ち両者に変身を促す。今回の戦いの審判という立ち位置であろう。

 

 

「両者仮面ライダーに変身することを許可するわよぉん!!」

 

 

 それと同時に両者は互いにドライバーを巻き、慣れた手つきでセットアップを完了させる。

 

 

「「変身ッ!!!」」

 

《Put a flag on the mountain of sacrifice, I'm an avenge world revenge!!》

《START!! リジェクトアベンジ!!》

 

《let's call!! クラブキング!!》

 

 

 仮面ライダーアベンジ リジェクトウェポンvs仮面ライダーキングクラブウェポン。

 両者仮面ライダーへと変身し、自分の拳が届く範囲まで歩み寄る。

 

 

「それじゃあ2人とも準備はいいかしら? 世界の命運はあなたたちの手にかかってる!! ファングちゃんに当然勝って欲しいけど… お互いに頑張りなさい!! 試合─────」

 

 

 僕の持つ全てをぶつけるんだ。負けるつもりはない。勝つんだ。

 

 

「絶対に───」

 

「俺が───」

 

 

 スピーダは手を挙げて、その手を勢いよく下げて言い放つ。

 

 

「開始よぉぉぉぉぉぉぉぉんッッ!!!!!」

 

「「勝つッッッ!!!!!」」

 

 

 今、最後の戦いが幕を開けた───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「イナゴの奴…… 大丈夫かな………っ!」

 

 

 モグロウは1人病院の個室で寝転がっていた。

 今日は稲森とファングの最後の戦いの日。本当ならばその戦いを見届けておきたい。

 しかし、こんな身体となってしまっては行こうにも行けない。戦争を止めたのだから後悔はないのだが、親友の決着を見れずにベッドで横になっているのも嫌な気分だ。

 

 

「くそっ…」

 

 

 こんな時にテレビをつけるのはどうかと思ったが、もしかしたら生放送を行っているかも知れないとテレビをつけた。

 すると、最初についたチャンネルにはアベンジとファングが激しい戦いを繰り広げているのが映し出されていた。

 

 

「イナゴ…!!?」

 

 

 稲森の戦う姿を観れた事だけで嬉しいのだが、そこに映し出されていたのはアベンジが着々と負けてしまいそうな程、手も足も出せずにやられてしまっている姿。

 この戦いは凄まじいスピードで行われ、アベンジもあのキング相手にかなり食いついているようだ。

 だが、それもすぐに劣勢になり、結局は手も足も出せないという状況に陥っている。

 

 

「そもそもキングの力が卑怯だろッ!! これじゃあイナゴは勝てな──!!」

 

 

 モグロウはハッとなって口を押さえる。

 今、自分はテレビに映る稲森に対して何で言おうとしていたのだろうか。勝てる勝てると元気付けておいた自分が、稲森がキングに負けると言い放とうとしていた。

 それでもこの光景を前にしてポジティブな意見が出せるだろうか。いや、普通は出せないはずだ。

 稲森は既に負けてしまっている。心は負けていなくとも、リジェクトの装甲は剥がれ落ち、砕け、その隙間から血が滴っている。

 

 

「俺は… 何もできないのかよ…!!」

 

 

 この戦いは稲森とファング以外の参加は不可能。そういう約束をしたからだ。

 陽奈や楓、皆がそれに従っているのだから、誰1人として文句など言えるはずがない。

 仕方がないと言えば仕方ないで済む。でも、1人ではファングには勝てない。

 

 

「すまねぇ… イナゴ」

 

 

 モグロウはシーツをグッと握りしめて唇を噛んだ。

 そんな時、個室のドアが開かれる。

 

 

「あ…?」

 

 

 常識なら部屋に入る時にノックくらいするだろう。

 明らかにこの空気は怪しいと感じ、動かない身体に力が入る。

 

 

「… お前はッ!!?」

 

 

 そこにいたのはモグロウが知る意外な人物であった────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 仮面ライダーキングはまさに王としての名が素晴らしく似合うほど、相応に強大な力を秘めている。

 アベンジが使用するリジェクトウェポンは、その能力から無限に強くなれるはずだ。

 しかし、稲森という誰よりも心優しい人物が使うと、その力は無限ではなく限りあるとものとなってしまう。

 

 

「がはっ…!!」

 

「やはりそんなものか」

 

 

 リジェクトウェポンの力はもうキングには通じない。

 わかりきっていたのにそれでも立ち向かおうとした。

 

 

「リジェクトの力は俺の王の力には最早到底及びはしない。貴様もそれをわかっていたはずだ。どれだけ威勢が良くとも、目の前にある力の差は精神論では追い抜くことなどできん。これで終わりだ。俺の時代が来る」

 

「そんな事…… させる訳ないでしょう!!!」

 

「もうやめろ」

 

 

 キングはアベンジの腹を蹴り、身体をくの字に曲げさせ、更に力強く蹴り抜くと一瞬にしてアベンジはスタジアムの端の壁に激突する。

 スタジアムの壁はその衝撃からかミシミシとヒビ割れをしていき、客席にも大きなヒビが入り始めた。

 

 

「…ァッ!! ガッ……!!!!」

 

 

 リジェクトの割れた装甲の隙間から血が滴る。

 

 

「貴様の身体は限界に近いようだな」

 

「僕はまだ…… 負けてないッ!!!」

 

「認めろ。貴様の目の前にいる奴は何をしている? 吹き飛ばされた貴様の前に堂々と立っている。だが、貴様はどうだイナゴ? 俺に殴られ、蹴られ、投げられ… その過程において貴様は俺に少なからず決定的なダメージを与えたか? 残念だが、俺にその記憶はない」

 

「僕は… こんな所で…!!」

 

「くどいぞイナゴッ!!!」

 

「…ッ!!?」

 

「…… ただ貴様は確かに諦めてはいないのは事実だ。この戦いは俺の勝ちだが… 負けを認めない奴を倒した所で本当の勝利と言えるだろうか?」

 

「何を…」

 

「俺の目的は元から決まっている─── 貴様を殺す」

 

 

 キングはそういうとアベンジの首を左手で掴み、もう片方の手でポーカドライバーを閉じてまた開く。

 右手に自分の持つエネルギーを集中させ、更に左手の握力は増していく。

 

 

「最後に言い残すことはあるか?」

 

 

 アベンジを応援していた周りの人間たちや少数の稲森派の怪人たちは、皆が揃って口を閉じた。

 今、平和が終わろうと来ていることがわかったからだ。先の結果が見えてしまったからだ。

 

 

「稲森ッ…!!!」

 

「稲森さんッ!!!」

 

 

 陽奈と楓が唯一その中でも声掛けをやめようとはしなかった。

 だが、その顔は絶望に満ちていた。

 

 

「見ろ。奴らの顔を」

 

「……ぅ」

 

「貴様に勝手に期待をし、絶望し切った奴らの姿を…… 俺はこの顔が嫌いだ。勝手に期待をし、裏切られたと勘違いするその腐った人間の心。俺はそれが何より腹立たしい…!!! それでも貴様は人間を守ると言いたいか?」

 

「…… はい!! それでも僕は人間を信じます!! 僕は… 僕は皆んなが笑ってられる世界を取り戻す!!! ファングッ!!! 僕はお前に絶対に負けるつもりはないッ!!!」

 

「この減らず口が……!!! いいだろう。一瞬で殺してやろう!!!」

 

 

 そしてキングのエネルギーを纏った拳がアベンジに放たれよあとした瞬間、何者かの叫びにより彼の拳が済んでの所で止まった。

 

 

「イナゴォォォォォォォォォッ!!! 負けんなぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

「負けないでバッタのお兄ちゃぁぁぁぁぁんッ!!!」

 

「君なら勝てるぞ稲森くんッ!!!」

 

 

 その声はなんとも懐かしい人たちの声である。

 

 

「モグロウに… あの時の女の子… それに店長ッ…!!?」

 

 

 そこには親友のモグロウ。そしてバートンに病院を襲われた際に稲森が助けた少女。稲森の元バイト先の店長の姿があった────。




今回最後に登場したのは、1話で登場稲森のかつてのバイト先の店長さん。2話でバートンに襲われた病院に取り残されてしまった少女です。
そして次回のお話は!! 遂に仮面ライダーアベンジの最強の力が目覚めます!!

次回、第37話「僕はエスポワール」

次回もよろしくお願いします!!

最終回まで残り── 7話


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第37話「僕はエスポワール」

皆さんご無沙汰しております。

前回、遂に稲森とファングの最後の決着が行われたが、仮面ライダーキングの圧倒的力を前に歯が立たないアベンジ。リジェクトの力すら及ばない無謀な戦いの最中、病院で安静にしていたモグロウの前にとある人物が現れる。その後、絶対絶命の稲森の前に現れたのはモグロウと稲森がかつて助け、世話になった2人の姿があった…

それではどうぞご覧ください。


「何でここに!?」

 

 

 キングとの戦いの最中、絶対絶命のアベンジの元へと現れたのは元バイト先の店長、それからバートンに襲われ、崩れ行く病院の中から助け出した女の子。寝ているはずのモグロウの姿があった。

 

 

「どうしてモグロウも…ッ!!」

 

「何をよそ見している貴様」

 

 

 そして再びキングの拳が迫るが、アベンジに向けて3人の声援が聞こえる。その声は怪人たちと合わさり微かに聞こえる程度であったけれど、アベンジにはしっかりと聞こえていた。

 アベンジは迫る腕に脚を絡ませて思いっきり身体を捻ると、キングは少し態勢を崩れてしまう。

 その隙にアベンジはキングを踏み台にして大きく距離を取ることに成功した。

 

 

「皆んなどうして……」

 

「話しは後にしようぜ!! ここにいる奴らは皆んなお前を応援しに来たんだよ!!」

 

「お兄ちゃん!! あの時、病院で助けてもらって嬉しかった!! 凄く嬉しかった!! だから今度は私がお兄ちゃんを助ける番!!」

 

 

 少女の放った「助ける」という言葉にキングは笑う。

 

 

「… 何が助ける番だ。貴様らに何ができる? イナゴに全てを託し、傍観する事しかできない貴様らが奴に何を与えられる? 答えは無だ。ただ言葉を送るだけで生物が強くなるとでも? 貴様らは何故そんな根拠もない希望に縋り付くのか… 理解に苦しむな」

 

 

 キングは辛辣に少女を貶すが、少女の瞳は輝きを失わず、目をキッとしてまるで怯まない姿勢を見せる。

 そこで店長が横からキングは言い放つ。

 

 

「君には分からないだろう。私は稲森を雇い、彼の影響で店が潰れてしまったことをはっきりと言える」

 

「怪人のせいか。貴様ら人間はすぐに怪人が全てにおいて悪いと───」

 

「確かに彼のせいで店は潰れた。しかし、私はそれに対して後悔などしていないのだよ」

 

「なに?」

 

「稲森くんにもその時に伝えた。私が彼を雇ったのは彼が他の怪人とは違い、とても優しく澄んだ心を持った怪人だったからだ。私は彼のお陰で怪人の中にも彼のような心を持った怪人がいるんだと学び、考え直された。だから稲森くん。彼を止めてくれ。皆んなが幸せになる世界を作れるのは君しかいないんだ」

 

 

 なんて馬鹿馬鹿しいのだろうか。戯言とはこの事だ。

 しかし、人間たちは顔を見合わせ、何をするべきかと考え始めた。自分たちにできることとは何かと。

 

 

「あなたたち聞きなさい!!」

 

「陽奈…!?」

 

 

 人間たちが鎮まる中で陽奈も彼らに負けじと声を張る。

 

 

「私はみんなに胸を張れるような事は何一つできてないわ… 怪人は敵だと決めつけて今まで何人も何人も倒してきた…… だから!! もうこれ以上誰も失いたくない!! だけど私じゃ何もできない!! お願い!! 最後まで稲森を応援して!! 最後まで希望を捨てないで!!」

 

「陽奈……… 稲森さんは陽奈も私も救ってくれた!! あの人は私たちに希望を与えてくれた!! そんな人を勝手に裏切ったらそれこそ私たち人間が最低よ!! 信じられないのはわかってる… 勝てそうにないっていうのもわかるよ…… だけど目の前でボロボロにされても立ち上がる稲森さんの覚悟を信じて!!」

 

 

 陽奈も楓も声を張り上げ人間たちに声を掛ける。

 それに対してキングは怒りを覚え、地面に向けて拳を振り下ろすと、地は割れてスタジアム全体を震わせた。

 

 

「… 喜べイナゴ。貴様を殺すのは一旦やめにしよう」

 

「え…?」

 

「死よりも恐ろしい苦痛を与え続けて殺してやろう!! 周りの雑魚どもが絶望する顔を見ながら、貴様の最後をこいつらに見せつけてくれる!!!」

 

 

 そう言うと、キングは一瞬でアベンジの懐は潜り込み、顎を殴って身体を宙へと浮かし、アベンジの足首を掴んで地面へと叩きつける。

 

 

「苦しめッ!!!」

 

「うっ…!!!」

 

「貴様らが言う希望はここで断ち切れるッ!!!!!」

 

 

 何度も地面へ叩きつけた後、アベンジの心臓部に渾身の一撃を叩き込んだ。

 

 

「かっ…… ハッ…ッッッ!!!」

 

 

 そして吹き飛んだアベンジは地面を深く抉りながら壁にぶつかる。

 誰もがそれを終わりだと感じた。誰もが絶望した。

 

 

「先ほどからのダメージを合わせれば、貴様の身体は既に限界だ… 人間を守る。怪人も守る。いつまでも夢を見ている貴様に現実を教えてやる!!」

 

 

 だが、それでも諦めないアベンジとそれと同じように諦めない人間たちと親友。

 

 

「これが現実だッ!!!」

 

 

 まだ諦めてはいけないと、アベンジは心の中で強く願う。

 どれだけ力の差があろうと、どれだけ苦痛を与えられようと、今ここで引くわけにはいかない。自分の全てを持って戦う。ここが限界なんかじゃない。

 

 

「うおぉぉぉぉぉっっ!!!!!」

 

 

 アベンジは拳を堅く握りしめ、再びキングへと向かって行こうと一歩踏み出した。

 しかし、踏み出したら前へと進む筈なのに目の前にあったのは地面。地面に向けてアベンジは倒れてしまった。

 どこに力を入れても身体を持ち上げるまでには至らない。

 

 

「う、嘘だッ…!!」

 

「当然だな。貴様の身体は疾うに限界を迎えていた。それが貴様のどこからか湧き出てくる無駄な力がその身体を動かした。つまり、どういうことか。俺の勝ちだという事だ」

 

「うぅ……」

 

「…… なに…?」

 

「ぐぅぅぅ…!!!」

 

 

 それでもアベンジは立ち上がった。

 そこにいた誰もが言葉を失い唖然としている。どこにそんな力が隠されているのか。どうすればそうやって自分に鞭打つことができるのだろうか。

 彼は諦めていない。だからこそ陽奈、楓、モグロウ、稲森を信じる者たちの声が更に大きく響き渡る。

 

 

「稲森ッ!!!」

 

「稲森さんッ!!!」

 

「イナゴォッ!!!」

 

「お兄ちゃん!!!」

 

「稲森くんッ!!!」

 

 

 5人の声援とアベンジの諦めない姿を見て、皆んなの想いが諦めかけていた周りの人々も突き動かした。

 人間たちが皆揃って稲森を応援し始める。それだけではない。怪人側でも少数だが、人間達に続いて稲森を応援し始めたのだ。

 

 

「みんな……」

 

 

 すると、アベンジの持っていたアビリティズフィードから光が漏れ出し始めた。

 

 

「これは… 研究所で見つけたアビリティズフィード…」

 

 

 更にその光は次第に輝きを増していき、色が何もないグレーの状態から金色に色付いていく。

 不思議な事に身体の傷が癒やされていくのに気づいた。なんて暖かいのだろうと思いつつ、アベンジは立ち上がりそれを構える。

 

 

「馬鹿な…… 何なんだこの光は…!! 何だそのアビリティズフィードはッ!!?」

 

「… 班目さんは今度、負の感情を力に変えようとしていた。だけど、それも失敗に終わったらしいです。今、このアビリティズフィードは人間達の諦めない心と善の心で満たされました!!」

 

「何を言っている…!!」

 

「これは皆んなが完成させた誰にも負けない力… 戦いを終わらせるための力です!!」

 

「それを使って戦況が変わるとでも? ならばやって見せろ!! 俺に食らわせろ!! 貴様がどれほどの力を持とうが関係ない!! 俺こそが王だッ!!!」

 

「なら、僕は──── みんなの"希望"となりますッ!!!」

 

 

 アベンジはドライバーからトランス・リジェクトフィードを外し、新たにそれと同等の大きさを持つ「エスポワールジャンプフィード」を差し込むとそれから《Welcome!!エスポワール!!》という音が流れ出す。

 今までの待機音とは別にもう一つ被さるように待機音が流れ始める。それはまるで未来を照らす光の様な明るい音をしていた。

 そしてリジェクト同様にエスポワールジャンプフィードの上部を叩くと《tasty!!》という音と共に、白と金色の混ざったイナゴが何匹も現れ、アベンジの身体にまとわりついていく。

 それはいつもとは違って噛み付くのではなく、ただ静かに止まって白いアーマーを形成していった。

 白く金色に輝くアベンジ。仮面ライダーアベンジ エスポワールジャンプウェポンが誕生した。

 

 

《Jump over the wall of fate!!》

《I am an avenge, a person who keeps hope!!》

《START!! エスポワールアベンジ!!》

「皆んなに代わって── 逆襲だッ!!!」

 

「白色になった程度で───」

 

 

 キングはすぐさまアベンジの懐へと入り込む。

 

 

「何ができるッ!!!」

 

 

 アベンジを殴ったつもりのキングであったが、気がつくと壁にめり込んでいた。

 その一瞬で何が起こったのか理解できず、頭が混乱した。

 

 

「な、何をした…?」

 

「あなたに殴られる前に攻撃したんです」

 

「がはっ… ば、馬鹿なッ……!!!」

 

 

 誰もがその瞬間を目の当たりにし、更に声援は大きくなり、スタジアム全体を包み込む。

 

 

「認めん… こんな簡単に終わるなどッ!!!」

 

 

 キングの装甲は150t以下を必ず無効化する仕様であったはずだ。

 アベンジの何の変哲もない前蹴りを食らっただけにも関わらず、あの頑固な装甲を最も簡単に突き抜けダメージを与えた。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

 今度もただの回し蹴り。これくらいならば腕一本で凌いで見せると、前のキングであったのならそう考えるだろう。

 しかし、この場合に至っては話しは別だ。

 キングは咄嗟に両腕を使ってアベンジの回し蹴りを凌ごうと試みたが、それも無駄なのだと彼の攻撃を受けてよく理解した。

 

 

「なん… だとッ…!!?」

 

 

 そしてキングはただの蹴りによってガードを崩され、その胸でまともに受けてしまった。

 メリメリと音を立てながら、キングの身体は宙へと浮いて観客席まで吹き飛んでいく。受け身を取ろうとしてはいるものの、身体がまるでいう事を聞こうとはしない。

 観客席の怪人達は急いで退き、キングは落下し背中を着いた。

 

 

「ファング…… いえ、ファングさん。これでもう終わりにしましょう」

 

「認めん…!! 俺は、認めない…!!」

 

 

 キングの装甲を見事に破って見せたエスポワールの強さの真髄は脚力にある。

 今までアビリティズフィードの能力を発動する事により、それに対応した場所の威力や性能の上昇が見られるが、エスポワールに至っては発動すれば通常時より3倍の出力が発現可能となる。

 ジャンプウェポンは名の通り跳躍力の向上のみであったが、エスポワールはキック力の向上も能力の一つ。

 つまり、今のアベンジは一旦能力を発動させて仕舞えば、150tを軽く超える一撃を放つ事が可能となるのだ。

 

 

「決めてやれッ!!! イナゴッ!!!」

 

「稲森ッ!!!」

 

「稲森さんッ!!!」

 

「お兄ちゃんッ!!!」

 

「稲森くんッ!!!」

 

 

 皆んなの声援を受け止め、アベンジは強靭的な脚力で空へと飛び跳ね、ドライバーの上部を叩いて片足に膨大なエネルギーを溜め始める。

 キングもドライバーを閉じて開き、両腕にエネルギーを溜め、今までとは比にならない程の巨大な爪を創り出した。

 

 

「これで最後だッッ!!!!!」

 

「最後は貴様だッ!!! イナゴッッッ!!!!!」

 

 

 衝突する凄まじいエネルギーのぶつかり合いに、スタジアム全体に衝撃が響き渡る。

 だが、流石キングと言えよう。更に強化されたアベンジ相手に、腕からバキッと嫌な音を立ててはいるものの耐えて見せている。

 

 

「僕は負けないッ…!! 人間も怪人も皆んなが笑顔になれる時代を創るんだッ!!!!!」

 

「…… ッォォォオォォォォォォッッッ!!!!!」

 

 

 客席からアベンジへのエールが、皆の想いがスタジアム全体に溢れた。

 すると、その想いを受け取るかのように、アベンジの身体が更に光り輝き、脚部のエネルギーが大きく肥大し、キングの巨大な爪を破壊した。

 

 

「なッ…!!!」

 

「はぁぁぁ…… はぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

《GOODBYE!! エスポワールアベンジタイム!!》

 

 

 そしてキングはアベンジの必殺の蹴りの一撃をまともに喰らい、向こうの壁にめり込んで爆発し、変身が解除されて地面へと倒れた。

 

 

「勝った…… 勝ったぞ!! やりやがったぜあの野郎ッ!!!」

 

「ホントよくやってくれたわ… ありがとう、稲森」

 

「稲森さぁぁぁん!! やりましたねぇぇぇぇ!!」

 

「流石お兄ちゃん!!」

 

「君ならきっとやれると信じていたよ」

 

 

 モグロウ、陽奈、楓、あの子や店長、それだけではなくスタジアム全体から稲森への拍手喝采。

 ついにようやく終わるんだと、ようやく全てが終わったんだと思った。

 

 

「皆んな…… ありがとうございます!!!」

 

 

 アベンジは皆に頭を下げると、更にスタジアム全体の声が大きく響き渡った。

 

 

「……? おい!!! イナゴ、後ろだっ!!!」

 

 

 モグロウに言われたアベンジは後ろを振り向くと、腕を挙げてファングがゆっくりとこちらに向かって来ている。

 その姿に戦闘態勢に入るのが普通であるが、アベンジは敢えて構えずにファングに向かう。

 

 

「…… 貴様、本当の馬鹿らしいな… 俺は貴様の不意をついて殺すかもしれんというのに…」

 

「もう終わった… それをあなたはわかってる筈です。だから僕を殺す気はないと踏みました」

 

「信じ過ぎだ…… だが、それもまたいいだろう。貴様の強さというのがその信じる… 優しさが力…… 俺には到底真似できん」

 

「ファングさんもあった筈です。だって昔のファングさんはもっと強かった」

 

「なに…?」

 

「首領に対する強い忠誠心。信じる心がファングさんの中にはありました。でも、今は復讐に囚われ、力に溺れてしまい、あなたは人が変わってしまった」

 

「…… ふん。知ったような口を…… だが、悪い気分ではない。今は不思議と落ち着いている。こんな気分は久方ぶりだ…… イナゴ、貴様がこの先どうしようと敗北した俺たちは何も言わん。もし、人間が再び俺たちを蔑むというのであればその時は… わかっているな」

 

「はい。でも、1人じゃはそんな大掛かりなことはできません… 僕たちで必ず皆んなが笑える世界にします」

 

「… 信じよう」

 

 

 2人は強く握手を交わすとスタジアム全体に拍手が溢れる。

 互いに認め合い、人間と怪人の長きに渡る戦争はこれにて閉幕した───。

 

 

 ── しかし、我々はまだ知らない。

 これは一つの終わりで、次の始まりに過ぎないのだから───。




いつもよりちょっと多くなりましたが、これにて「戦争編」終了です!!
はい、おわかりの通り最終章入ります。やですけどね!

次回、「最後の思惑編」第38話「終了のシグナル」

最後まで頑張りナス!! 次回もよろしくお願いします!!

最終回まで残り── 6話


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最後の思惑編
第38話「終了のシグナル」


皆さんご無沙汰しております。最終章突入です。

前回、キングの強さに手も足も出なかったアベンジだが、稲森を、未来を想う気持ちが一つとなり完成した仮面ライダーアベンジ エスポワールウェポンを使用して見事に勝利。人間と怪人の戦争に完全な終止符が打たれ、これで終わりかと思われていたが…

それではどうぞご覧ください。




 あの日から世界は平和になったと思っている。

 思っているという曖昧な感じではあるのも理由があり、やはり人間と怪人の関係がそう簡単に片付ける事はできないからだ。

 ただ今は怪人も普通の生活を送れているし、差別的な要素も撤廃しているから平和と呼べるのかもしれない。

 

 

「そういえばモグロウってあの時…」

 

「あぁ、あの時か?」

 

 

 稲森とモグロウは変わらず陽奈の実家にて居候させてもらっている。

 陽奈もこの2人の性格からして女1人と男2人でも、別に大スキャンダル的な事にならないと踏んでいた。

 そんな2人の間に入るようにして、陽奈は机にコーヒーの入ったカップを置いて耳を傾ける。

 

 

「俺が入院中で外に出れなかった時、駆けつけた野郎が… その……」

 

「ん? 誰なの?」

 

「いや… まぁ……… 陽奈の父親だよ」

 

 

 その言葉に陽奈は驚き、目を丸くしてモグロウに詳しい話しをするよう催促する。

 

 

「どういう事よ!? あれはもう私の父さんじゃ…!!」

 

「落ち着けって!!… そのなんだ。あの時来た奴は間違いなくお前の父親だった。理由は知らないが… とにかく決戦の地に出向く事ができたのはあいつのおかげだぜ」

 

「父さん… なんで……」

 

 

 モグロウは黙って首を横に振って、これ以上聞いても何も出ないぞと伝える。

 今の話しを信じろと言われても信じることは出来ない。父は死に残ったのは首領。その首領でさえもあんな醜い姿となって生きてしまっている。

 ただの奴隷として──。

 

 

「…… まぁ、いいわ。その件に関してはもう。戦争は終わったし、これから新しい時代が始まるの。あなた達もずっと家にいないでどこか行ったら? 特に稲森なんて世界を救ってから、ここの所ダラダラしてるじゃない」

 

「ははっ… 流石に気が落ち着いたものでゆっくりしたくて」

 

「とんでもない偉業成し遂げたんだから別にいいけどね… 全くお金が無くなって家に住めなくなったとか腑に落ちない救世主」

 

「ずっと戦って戦ってと言った感じで仕事する暇もありませんでしたから。とりあえず目星は付けているので近いうちにまた働けるかと思います」

 

「へーよかったじゃない」

 

「はい…… これでもう仮面ライダーアベンジは必要なくなりましたね」

 

「良かった… と言っていいのかしら。まぁ、平和になったんだから良しとしましょ」

 

「それじゃあ僕たちは出かけますよ」

 

「あんまり遅くならない様にね」

 

「はい。夕方頃には帰ります」

 

 

 そう言って稲森とモグロウは外へと出て行った。

 2人に手を振って送り終えた陽奈は、1人になったのでとりあえずテレビをつけると、良いものがやっていないかとチャンネルを変えていく。

 すると、あるニュース番組に目が止まる。速報らしい。

 

 

「速報?」

 

「--- 只今速報が入りました…っ!? 栄須市の広場にジェスター達が人間を襲っている模様です! 付近の方々はすぐに避難を!」

 

「はぁ!? 嘘でしょ… ファングが諦めてない? いや、あの時誓っていた筈…… もう!! とにかく急がないと!!」

 

 

 陽奈は支度をしながら楓に連絡すると、急いで現場へと向かうのであった───。

 

 

 

 

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「全くよー。このバイクほんと便利だよな。呼べば来るし」

 

「僕もなんでかわからないけど欲しいと思うと来るんだよね。本当にありがたい事だよ」

 

 

 稲森とモグロウはマシンアベンジャーズの乗り、栄須市にある広場まで向かっていた。とりあえず広場でグダグダしたいからだ。

 そんな何も考えていないドライブを楽しんでいると、広場の方から悲鳴と爆発音が響く。

 

 

「え、なにっ!?」

 

「おい、今の爆発音まさか……」

 

「… 行くしかないよ!!」

 

「だなっ!!」

 

 

 バイクを走らせ広場まで行き、バイクから降りて広場の中央を見ると、そこには戦争を終わらせた筈なのに殺気に満ちた怪人たちが蔓延っていた。

 それを見た稲森はすぐさま彼らの前に立ちはだかる。

 

 

「皆さん何をしてるんですか!! やめてください!!」

 

「… やめろだと? やめるわけねーだろ!! 俺たちはな!? 何人も仲間が殺されて黙ってられるほどおおらかじゃねーぞこら!!」

 

「だからって… ファングさんにも言われたはずです!! 戦争は終わりだと!!」

 

「何言ってんだ?」

 

「何って… あの時、ファングさんと戦った僕が戦争を───!!」

 

「そのファング様からの命令なんだよ!!」

 

「え…?」

 

 

 あのファングが約束を破った? 信じられない。

 最後の戦いを制し、ファングは稲森と戦争を終わらせる事を誓い、人間は条約を撤廃して、怪人との新たな時代の幕を開けると両者揃って約束した筈だ。

 なのに、ファングがそれをこうも簡単に破り、部下達に人々を襲わせるなんて事があるのだろうか。

 

 

「う、嘘だっ!!」

 

「嘘じゃねーから言ってんだよ!! 行くぞ!! 人間に加担する怪人を殺せ!!」

 

「くっ…!?」

 

 

 稲森は怪人達の攻撃を掻い潜りながら、腰にアベンジドライバーを巻き付けてジャンプフィードを差し込む。

 

 

《Welcome!! ジャンプ!!》

「変身ッ!!!」

 

 

 アベンジドライバーの口を閉じ、《Tasty!!》という音と共にアーマーが形成され、稲森は仮面ライダーアベンジへと変身する。

 

 

《START!! アベンジ!!》

「ハッ!!」

 

 

 まずアベンジは近くにいた怪人を蹴り飛ばして他の敵を巻き込むと、もう1人近くにいた怪人を軸にして回転し周りを吹き飛ばした後、軸にしていた怪人に膝蹴りを喰らわせる。

 

 

「な、なんだこいつ……!!」

 

「アホ!! 仮面ライダーアベンジだ!! 一筋縄で行くと思うなよ!!」

 

 

 再び怪人達はアベンジの周りに集まり逃げ場を埋める。

 アベンジは囲まれながらも、モグロウに助けを求めず周りの逃げ遅れた人々の避難を頼んだ。

 

 

「モグロウッ!! ここは僕に任せて市民の避難を!!」

 

「おう!! 言われなくてもやってるぜ相棒!!」

 

 

 そしてアベンジとモグロウは互いに頷き合い、アベンジは怪人達を凄まじい脚力を駆使して蹴り飛ばしていく。

 

 

「ファングさんの件、詳しくお話を聞かせていただきますよ」

 

「1人でこの大勢やる気かよ!!? 笑っちまうなぁ!!?」

 

 

 確かに人数は多いが今は自分しかいない。やるしかない。

 アベンジは再び敵陣へと飛び込もうとすると、背後から矢と火の玉が飛んできて顔を掠め怪人達に炸裂する。

 

 

「これって…」

 

「── 全く運がない怪人ね。あなた」

 

「あ、陽奈さん!!」

 

「私もいますよー!!」

 

 

 そこには基本形態に変身したエースとクインの姿があった。

 ニュースを見た陽奈は急いで楓を呼びつけた後、ダッシュウェポンで楓の元まで急いで向かって、そのまま広場まで直行したらしい。

 だが、そんな経緯はどうでもよく、今はとにかく目の前の怪人達を止めなければならない。

 

 

「おっと俺を忘れんなよ!! それと周りの奴らは避難させたぜ、イナゴッ!!」

 

「さすがモグロウ!!…… じゃあ行こう!! 皆さん!!」

 

「おう!!」

「えぇ!!」

「はい!!」

 

 

 そして横一列に揃ったアベンジたちは掛け声と共に走り出し、怪人たちもそれと同時に走り出した。

 互いに遂にぶつかるといった所で、その中央に何者かが飛来する。

 

 

「な、なんだ!!?」

 

 

 中央に降り立った何かに皆が揃って立ち止まる。

 その姿は砂埃が立って見えないが、徐々にその姿が露わになるとアベンジたちは驚く。

 

 

「ファ、ファングさん……!!」

 

「………」

 

 

 そこには再び怪人達に攻撃を仕掛けるよう命令した張本人、ファングの姿があった───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「何故、あなたがこんな所に…… いや、そもそも何故戦争を!!? 僕たちはもう争う必要はない筈です!!」

 

「……… そんな話しがあったなぁ」

 

「え…?」

 

 

 ファングは以前と変わらなく人間態の姿であるが、ユラリと脱力しながらアベンジ達に近づいていく。

 

 

「イナゴ。貴様は戦いをやめるよう俺に言ったな?」

 

「はい…」

 

「俺は… 俺たちは戦争を止め、人間達と幸せに暮らす…… と、決めたな?」

 

「そうです… だからこんなのおかしいですよ!! 僕たちに戦う理由なんてもう───!!」

 

「戦う理由なんて? あるに決まっている。俺たちはあの件に納得いくはずがない。全部演技に決まっているだろう」

 

「そ、そんな…… だってあの時……」

 

 

 そしてファングはニヤリと微笑み、アベンジ達に背中を向けて話し始める。

 

 

「俺たちの戦いは今に始まったわけではないはずだ。エースがまだ生前の頃、どれだけの犠牲を出し、どれだけ血で血を洗う戦いをしていたか貴様らがよく理解しているはずだ」

 

「だから僕たちはその連鎖を止めるために誓いました!! あの時!! あの場所でッ!!」

 

「誓ったからなんだ? 現に我々はかつては条約を結んだが、結局簡単に破ってしまっただろう? 怪人も人間もどちらも愚かな生き物。争わなければ得られないものもある… だろ?」

 

 

 その言葉にアベンジは何かが引っかかった。

 とても聞いた事があり、もう2度と聞くことはないと思っていた誰かが脳裏に浮かんだ。

 

 

「…… なぜ、そう人事に言ってるんですか?」

 

「人事とはなんだ? 俺は自分の主観で言っているだけだが?」

 

「今のファングさんはどうかわかりませんが… 少なくとも彼なら人間を否定するはずです。ですが、あなたはそれを人事のように、まるで自分が別の第三者としての視点で見てきたような言い方です……」

 

「何が言いたい?」

 

「ファングさん…… いや、あなたは一体誰なんですか…?」

 

「…………」

 

 

 ファングは再びニヤリと笑う。

 そうだ。この笑い方もどこか見覚えがある。唯一見たくもない笑顔だ。

 

 

「ちょっと稲森!! あなたさっきから何を言ってるのよ──」

 

「陽奈さん。あれはファングさんなんかじゃない…!!」

 

「は? どう見たってファングでしょ!? あなただってファングなら否定するって……」

 

「そうです。ファングさんならもっと堂々として… それはまるで王のようでした。首領がいなくなってもやって行けると言うほど、とても気高い方です。僕にも何故かはわからないんですけど、心の底から彼に対して恐怖と… 怒りが湧いて来るんです」

 

「どういう事よ…?」

 

「でも、はっきりとわかる事はこの笑顔から嫌な感じがするんです。僕らがよく知る人と全く同じ笑顔なんです!!」

 

「私たちが知ってる? 誰よ? あれがファングじゃないって言うならなんだって言うの!」

 

 

 アベンジは前へと出ると、ファングを睨み付けながら握り拳を作り彼に問う。

 

 

「あなたは一体誰なんですか?」

 

「……… くふふっ」

 

 

 ファングから聞いたこともない含み笑いが聞こえたかと思うと、アベンジの肩をポンと叩いて手を挙げながら天に向かって笑い始めた。

 

 

「な、何がおかしいんだ!!」

 

「はははははっ!!…… いやいや、まさかこうも早くバレてしまうと、私の演技力も観察力も反省点が多いですねぇ?」

 

「…… こ、この喋り方…!!」

 

「おや? 私の喋り方だけでわかってしまいます? 私も随分濃いようですね」

 

 

 その言葉遣いを聞いてクインはわからないようだが、モグロウとエースだけはこのファングが本当は誰なのか察しがつき、身体を震わせて驚きを隠せないようだ。

 

 

「あなたは亡くなってしまったはずです… 何故、あなたがファングさん何ですか!! ファングさんは何処なんですかッ!!!」

 

「おやおや相変わらず質問が多いお方だ。その質問に今からお答えしてあげましょう。私は優しい研究者ですから」

 

「あなたにはもう会いたくもありませんでしたよ… 本当は頼りたくもなかった…… 説明してください!!! ()()さんッ!!!」

 

 

 そしてファングは─── 否、班目はニタリと笑う。




はい! 最終章としては十分でしょう!
… という事で皆さんお察しの通り只今帰還!! 班目!!!
帰って来ないで…来ないで…… 一体どういうことなのか? 次回に続く!!

次回、第39話「暗躍なプラン」

最終回まで残り── 5話


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第39話「暗躍なプラン」

皆さんご無沙汰しております。

前回、少しずつ平和を取り戻す栄須市に再び怪人達が暴れ始め、近くに居合わせた稲森達は現場へと向かう。その怪人達はファングに命令されたと驚きの言葉と共に戦闘を開始する。その後、ニュースを見て駆けつけた陽奈と楓、そして人々の避難を終えたモグロウが揃い、第二ラウンドといった所で現れたのはファングであったが、彼はファングではなかった…

それではどうぞご覧ください。


「説明してください… 班目さん!!」

 

「えぇ、お話ししますよ? それはもう全て」

 

 

 この喋り方と立ち振る舞い方は誰がどう見てもわかる。班目だ。

 しかし、彼はファングの手により殺され、その生涯を終えたはずだった。死んでしまったはずだ。

 なのに、彼はこうして再びアベンジ達の前へと立っている。

 

 

「まず何故殺されたはずの私が生きているのか」

 

「………」

 

「はい。確かに私はあの時死んでしまいました… が、それは私のコピーが死んだまでに過ぎないんです」

 

「コピー…?」

 

「私はファングさんに殺される事なんて最初からわかってたんです。ポーカドライバーに楓さんと同じように、きっかけがあれば簡単に自制が効かなくなる装置を付けておいたんです。理由はお分かりですよね? そうです。戦争を激化させる為です」

 

「じゃあ… 今まで僕たちに協力してきたのってまさか……!!!」

 

「もちろんお気づきでしょうけど、リジェクトは戦争の前触れであり、あなたがエスポワールを手にしたのも想定済みでした。だって開いたでしょう? あなたに反応して私の机がパカっと」

 

「モグロウも… 楓さんも… 陽奈さんも…… そして月火さんも、皆んな、皆んな!! あなたの策略で苦しめられたって事なんですかッ!!!」

 

「えぇ、もちろん」

 

 

 アベンジは班目の襟を掴み上げる。

 その顔は仮面に隠れて見えないが、彼が一生見せないであろう程の怒りの形相であった。

 

 

「ふざけるなッ!!! お前のせいでどれだけの人が苦しんで、その命を失ってしまったか…… 皆んなお前がッ!!! お前がぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

「… 話しを戻しましょう。私のコピーは殺されましたが、本体である私はデータ化し、ファングさんのポーカドライバーに内蔵しました。そこで時が来たらファングさんの身体を乗っ取ろうと考えてしましたよ。これまでの戦いもお話しも全て把握済みです。いやはや、まさかこんなに早く片付くなんて思いませんでしたよ」

 

「何が… 何が目的だッ!!」

 

「変わりません。戦争を行います」

 

 

 アベンジは班目を押して蹴り飛ばし、殴りかかろうとするが、モグロウが羽交締めにして彼を止める。

 

 

「馬鹿野郎落ち着け!! あいつの言葉にノせられんな!!」

 

「… ッッッ!!!」

 

 

 それから班目は服をパッパッと軽く払って立ち上がり、再びニヤリと笑う。

 

 

「全くこの身体はファングさんのものですよ? そんな風に扱ったら彼が死んでしまう…… あ、私もですね」

 

「…… これから戦争を起こすなんて無駄だ。ジェスター達はファングさんの命令で動いたつもりだった。でも、今のあなたはファングさんではなく別人だ。彼らはお前のいうことなんか聞いたりしない!!」

 

「ほう… そうなんですか? 皆さん?」

 

 

 班目が振り向いて怪人達に問うが、誰1人として彼に従おうと言うものはいなかった。

 寧ろその逆でファングを乗っ取った班目に対する怒りが湧いているように見える。

 

 

「おやおや… 私も嫌われ者ですねぇ」

 

「… でも、終わりだ班目。ここにいる皆んなはお前の敵だ。お前の計画は失敗に終わるんだ!! ここにはお前を倒す武器がある!! 勝てるわけない!!」

 

「あー……… まぁ、そうですね。この場合、完全に不利なのは私ですが───」

 

「…?」

 

「稲森さん。私があなたに渡したエスポワール。その意味をご存知で?」

 

「意味って…?」

 

「当然それは私があなたの為に作ったものですが、私はそもそも個人の思惑だけで動いております。故にそれはあなたにとっての希望ではない。私の希望です…… 『希望へ跳ぶ』。本来なら人間や怪人の憎しみを吸い取る力だったんですけど、どうやら別の用途で使われたようなので本当に想定外でした」

 

「あなたはどこまで人を馬鹿にできるんだッ…!!!」

 

「馬鹿にはしてません。私の欲を埋めてくれる大切な存在だと認識してます」

 

「班目ッ…!!!」

 

 

 そして怪人達とアベンジ達は互いに標的を班目へと移す。

 誰がどう見てもこの状況は彼にとって最悪の事態であるはずにも関わらず、彼は至って平然としており余裕と言った感じでニヤリと笑う。

 

 

「─── そうですね。いいでしょう」

 

「ん?」

 

「今から私はあなた達を殺さない程度に倒します」

 

「何を言ってるんだ…?」

 

「戦争をするのを見るのが楽しい。私はそう思ってました… しかし、それは間違った認識なんです。本当の私は戦争をしたかったんです。この身と私が造り出したこの仮面ライダーの力で」

 

「ライダー… 仮面ライダーだって!?」

 

「つまりは私自身が戦う仮面ライダーとなればいい話しだった────怪人の細胞を埋め込んだ私とファングさんの肉体があればそれは可能となります。さぁ、始めましょう。本当の戦いを!! 戦争を!!」

 

 

 班目はそう言うと腰にポーカドライバーを装着する。

 本来ここでカードを挿入するが、それとは別に大きめのアイテム《ロイヤルフィード》を取り出すとそれを2つに分けてドライバーの両側へそれぞれ差し込む。

 すると、ポーカドライバーの待機音の他に禍々しい音が入り込み、まるで地獄をテーマにしたかのような音が流れ始めた。

 

《ロイヤルエックス!! スペイドハートクラブダイヤ!! ベット!!》

「見せてあげましょう。これが私の集大成です」

 

 

 そして班目はポーカドライバーの両側に手を置き構える。

 

 

「─── 変身」

 

 

 ポーカドライバーを開くと、マスタースペイドウェポン・ハートウェポン・クラブウェポン・ダイヤウェポンのアーマーが班目の周りに形成し、それらが入り混じって新たな装甲を彼の身体を覆った。

 班目は仮面ライダーキング ロイヤルエックスウェポンへと変身したのだ。

 

 

《Let's call!! ロイヤルエックス!! ジャック!! クイン!!キング!! エース!!》

「エース、ジャック、クイン、そしてキング。全ての力が混ざり合った最強のライダー。さて、見せてください。皆さんの力を私に」

 

 

 皆がその光景を目の当たりにし、誰1人としてキングに近づこうとするものはいなかった。

 それは目の前の全てが組み合わさった何かに触れる事への本能的な逃避。あれだけは近づいてはいけないと身体が拒んでいる。

 

 

「先ほどまでの威勢はどうしたんです? 何か恐ろしいものを見てしまった… という風な顔をされてますが?」

 

 

 誰1人として動こうとしなかった中、1人の怪人が意を決して飛びかかった。

 

 

「ファング様を… 返せぇぇぇぇッッッ!!!」

 

「…っ!! 待ってください!! それに近づいては───!!!」

 

 

 その一瞬だった。一瞬でその怪人の姿が跡形もなく消し去った。

 キングはただ怪人に触れたように見えた。触れただけで他に小細工をしたようには見えない。

 誰もが目を疑い、驚き、恐怖した。本当に恐ろしい敵は誰だったのかと再認識させられる。

 

 

「な、何をしたんだ……?」

 

「私はただ優しく触れただけです。まぁ、触れずともあの程度なら吹き飛ばせますがね」

 

「… 吹き飛ばす?」

 

「新たなキングはライダー達の既存の能力に加え、そこへロイヤルエックスウェポンの能力も加わりました。その力はテレポート。自分にも応用可能ですが、まだ試験段階でしたのでやめておいたんです。しかし、どうやら成功したようで良かったと言いましょうか」

 

「テレポートって事は… あのジェスターさんをどこへやったッ!!」

 

「宇宙に捨てました。安心してください。どうせ死にます」

 

「班目… お前はどこまで命を侮辱するんだッ…!!!」

 

「尊い命は尊く消える。だからこそ美しく面白い。稲森さん。あなたもそうは思いませんか?」

 

「思う訳ないだろッ!!!」

 

 

 アベンジに続きエース、クイン、モグロウ、それから怪人達までも飛びかかっていったが、キングはそれに対して笑みを浮かべて両手をバッと広げると凄まじい衝撃波が飛んで全員を包み込んだ。

 そして気づいた時には変身が解除され皆が気を失った。

 稲森は気を失う前に最後に見たのは、変身を解除した班目が稲森を見てニヤリと笑った姿である────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 再び陽奈の実家に集まった陽奈、稲森、楓、モグロウの4人であったが、復活というか復元した班目と新たな力を手にした仮面ライダーキング。

 終わったかに思えた班目という課題が浮上し、更にそれは4人の問題ではなく、人間も怪人も関係なく巻き込んでしまう程の規模の話し。たった1人の人間がそれを実現して見せているのだからこれほど恐ろしい事はない

 あれを止める術は他にない。エスポワールだけなのだろうと。

 

 

「とんでもない展開になったわね… 稲森、あなた大丈夫?」

 

「…………… あ、はい?」

 

「全く… 話し聞いてた?」

 

「えぇ、はい…」

 

「どうせ、班目の事でしょう? あいつの言う事一々気にしてたら身が持たないわよ」

 

「… そうじゃないんです」

 

「そうじゃないって…… あなた班目に対して怒ってるんじゃないの?」

 

「班目に対しては強い怒りがあります。今までの自分ではあり得ない程の怒りが込み上げてくるんです。でも、その怒りは班目もそうですけど、自分への怒りでもあるんです」

 

「自分への?」

 

「…… 僕は班目を本気で殺そうと思いました」

 

「…………」

 

 

 稲森の口から発せられたのは、彼が絶対に人に対して使わない言葉であった。

 そんな言葉を使わせてしまうような男が班目。彼こそがこの戦争や皆んなを狂わせた張本人なのだから。

 

 

「班目を止めなきゃならねーな」

 

「そうですよ皆さん! 私たちが力を合わせればどんなに強い敵だって勝てちゃいます!」

 

「おうよ!!…… と、楓に賛同したいのは山々だが、問題なのはあの強化されたキングの力をどうにかしない分にはこっちに勝算がねーよ……」

 

「はうぅ…」

 

 

 モグロウはネガティブな意見を言って長い溜息を吐き、楓は眉毛が垂れ下がり俯いてしまった。

 その状況を見兼ねた陽奈は手をパンッと叩いて、全員を自分の方へと向かせる。

 

 

「ちょっとあなた達なに弱気になってるのよ!! こっちにはあいつがわざわざ残してくれたエスポワールジャンプフィードがあるわ!! これが私たちがあいつに勝つ為の鍵よ!!」

 

「確かにあの時は感情が昂ってしまってエスポワールを使ってなかったです」

 

「でしょ? まだやってもいないのに諦めるとかある? ないわ!! 絶対に私たちで勝ち取らなきゃいけない。私たち以外にやれる人はいない。無駄と決めつけてやらないより、やって無駄って分かった方が何倍もマシでしょ!!」

 

「… はいッ!!」

 

「いい返事ね。それじゃあ次に班目が現れた時まで準備をするわ。堂々と研究所にいるほど馬鹿じゃないと思うし、暫くどこかに身を潜めてあっちも準備するはず! 頑張りましょう! 私たちで本当の戦いを終わらせるの!!」

 

「終わらせましょう… 世界に本当の平和を取り戻す為に!!」

「あぁ!! 全員が笑って何度も明日を迎えられるようにしようぜ!!」

「よ〜し、班目に勝ったら皆んなで鍋パーティーしよう!!」

 

 

 4人はテーブルを中心に右手を前に出し、重ね合わせて互いに頷き合い、班目を止める為の最後の戦いに覚悟を決め合う────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 予想外に班目は自分の研究所にて机に座り、この先の事を考えていた。

 ここまで来るのに随分と長い時を経て、やっと実行に移せたと思ったが、稲森の進化、陽奈の成長、楓の愛、モグロウの決意は予想の遥か上を行き、何もかもが想定外の結果を生んでしまっていた。

 しかし、それも最早布石でしかなかったのだ。このキングの力で再び戦争を引き起こす。

 人間と怪人の戦争ならぬ、1人と大勢の戦い。これほど興奮するものは他にない。

 

 

「いち早く戦いたいものですが… さて、稲森さんがエスポワールの力をどれほど使いこなせるかによって、私との戦いは相当な苦戦… 下手すれば死に繋がります。あなたは一体どれほど私に見せてくれるのでしょうか。楽しみです」

 

 

 班目はニヤリと笑い、研究所を後にした。

 本当に倒すべき相手を見出した今、稲森たちが目指す平和の為に最後の戦いが幕を開ける──。




はい、後たった数話で完結です。
こうして終わりに近づくとやはり寂しいものです。

次回、第40話「笑顔がバック」

次回もよろしくお願いします!!

最終回まで残り── 4話


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第40話「笑顔がバック」

皆さんご無沙汰しております。

前回、班目の復活と語られた真実に怒りを露わにする稲森たち。皆で班目を倒そうと決めるも、班目はポーカドライバーを使用し、仮面ライダーキング ロイヤルエックスウェポンへと変身を遂げる。全員で一斉にかかるも手も足も出ず敗北してしまい絶望するも、陽奈の喝により彼を止める決意を決めたのだった…

それではどうぞご覧ください。


「─── ふぅ、陽奈さん。そっちの方どうですか?」

 

「当然終わったわ」

 

 

 現在、アベンジとエースの2人は班目復活と同時期に街で沸き始めたウィンプジェスターを殲滅した。

 また出現する可能性は大だが、それ以上に気がかかりなのは班目がこの3日間目立った動きがないという事。ウィンプジェスター自体は班目の策略の一つであろう。

 ただそれが何を意味しているのかは不明である。

 

 

「あいつ戦争を再始動させるみたいなこと言ってたけど、あれから3日間ずっとウィンプジェスターと戦いっぱなし」

 

「それにしても妙ですよね」

 

「えぇ、私たちを疲れさせる為にやってるんじゃないかと思ったけどそうじゃないみたい」

 

「班目にはきっと裏があるはずです…… 単純に裏があると言っても、僕たちがどう考えても彼の思考についていく事なんて無理でしょう…」

 

「そうよね。あいつってホント何考えてるのかわからないわ。正真正銘害悪な奴よ」

 

 

 2人はため息を吐き、同時に変身を解除しようとした。

 すると、アベンジの後ろから飛びかかってきた影が見え、それに気づいたエースは咄嗟にエースガモスボウを構えて撃ち放つ。

 影は後方へと吹き飛び、すぐに体勢を立て直してこちらに向く。

 

 

「大丈夫、稲森!?」

 

「あ、はい! まだ生き残りが…!!」

 

 

 ここにいたウィンプジェスターは殲滅したと思っていたが、どうやらまだ1匹残っていたようだ。

 

 

「……… あれ?」

 

 

 その怪人はウィンプジェスターではなく、姿形が全く違う怪人であった。

 アベンジはそれを見て何者なのかよくわからなかったが、エースはそれが誰なのか一瞬でわかったらしい。

 しっかりと目を見開いてよく見ると、どことなく仮面ライダーエースの姿に似ており、それでいて首領のように見えた。

 

 

「ま、まさか…!!」

 

「… 何であなたがここにいるの? 首領…… 父さん」

 

 

 そこに居たのは醜い姿となった首領であり、陽奈の父親である月火の姿があった。

 何故、どうして彼がここにいるのかわからない。だが、班目の差し金で来ている事は明らかであり、あちらはアベンジ達に対して敵意を持っている。

 

 

「どうしますか…?」

 

「どうするってやるしかないでしょ。アレは班目の良いように扱われる人形よ。手加減なんていらないわ」

 

「…… わかりました!」

 

 

 そして今にも攻撃を行いそうな勢いの首領に、アベンジ達は構えてその攻撃に備える。

 しかし、首領は攻撃を仕掛けるどころか唸り声を上げ始める。

 

 

「ん? なんか… 苦しそう…?」

 

 

 それは唸り声ではなく、首領が呻き声をあげているようだ。

 首領は更にとても苦しそうに頭を抱え始め、呻き声もより一層大きなものへと変わっていく。「うぅぅぅ…」という苦しそうな声は首領なのか月火なのかはわからないが、どちらにせよ聞いていて良いものではない。

 

 

「陽奈さん、僕ちょっと行ってきます」

 

「はぁ!? 何言ってるのよ!」

 

「何故かわからないんですけど… 今の彼からは敵意が見られないというか…」

 

「だからって行く意味ないでしょ! 不用意に近づいて不意打ちやられたらどうするつもり!?」

 

「大丈夫です。信じてください」

 

 

 そういうアベンジはゆっくり首領へと近づき、その手前で跪く。

 

 

「あの大丈夫ですか?」

 

 

 この行動は見ての通り全く無謀であり、側から見れば訳の分からない行動である。

 だが、アベンジは何故かわからないが、首領か月火であろう怪人は敵意を見せず、まるで自分の中の何かと戦って苦しんでいるかのように思えたのだ。

 自分の中の敵、それは首領からした月火であるのか。それとも月火からした首領なのか。どちらにせよ2人は死んでいる。ただし可能性がないわけではない。

 

 

「─── 月火さん」

 

 

 そうアベンジがフッと名前を出すと、怪人は目を血走らせ、頭を抱えながら天を見上げて咆哮した。

 その声は首領ともう1人別の声が混ざり合った声で、咆哮し終えた怪人はだらんと両腕を垂れ下げ、先程の状態が嘘のように静かになった。

 

 

「…… 稲森。あなたからどういう事よ…」

 

「僕にも本当にわからないんです。けど… モグロウが言ってたのが正しいのなら、今ここでその名前を出せば反応してくれるんじゃないかって思ったんです」

 

 

 アベンジの言う通り反応はしたようだが、その後全くピクリとも動きを見せない。

 

 

「ちょっとフリーズしちゃってるんだけど。どうにかしなさいよ」

 

「それは僕に言われても分からないです…」

 

「叩けば治るんじゃないの?」

 

「テレビじゃないんですから」

 

 

 そしてアベンジが動かない首領に触れようとすると、突然それは動き出し、アベンジの首の後ろに手を回し、顔を自分の方へと近づかせる。

 

 

「ぐっ…!!?」

 

「稲森ッ!!!」

 

 

 それから最初は抵抗を見せたアベンジだが、急に動きをピタリと止めたかと思うと、首領は彼を離して高く跳びながら何処かへと去っていった。

 一瞬の出来事でわからなかったエースはすぐにアベンジの元へ行き、何があったのかと問いかけた。

 

 

「稲森どうしたの!?」

 

「………」

 

「稲森…?」

 

「───…… あ、はい!!」

 

「あなたも何フリーズしてるのよ。あいつに何されたの?」

 

「いや… 別に何も……」

 

「ん…? 何か隠してるでしょ?」

 

「いえいえ、耳元で訳のわからない事を言われただけです」

 

「訳のわからない事?」

 

「僕にもさっぱり。特に深い意味はないと思いますよ」

 

「… あっそ。それじゃあ楓たちの方に連絡してみるから、あなたは周囲の確認よろしくね」

 

「わかりました」

 

 

 本当は何もない訳なかった。陽奈には言えなかったのだ。

 だからアベンジはエースを呼び止め実行に移す。

 

 

「陽奈さんすみません。僕、今から別行動します───」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「話しがある。栄須市の君が初めてベルトを手にしたあの場所に来てくれ」と、首領に言われて懐かしいあの場所へと足を踏み入れた。

 ここで初めてアベンジドライバーを手にし、自分の人生で仮面ライダーとして戦う事になるなんて夢にも思わなかった。

 だけどこうして様々な困難や苦難の壁を乗り越え、自分は強くなり、仲間も増え、世界を平和にしたのだ。

 そう思ってはいたいが、それも全て班目が仕掛けたもので、彼の予想を超えるような動きをしたけれど、最終的に彼の思い通りの道を歩かされているのかもしれない。

 

 

「……… はぁ」

 

 

 稲森はそんな事を思いながら工場内を見渡していると、背後から何者かがこちらに近づいてきているのがわかり構えた。

 

 

「誰ですか」

 

「ここに君を呼んだのは俺だけだ。他に誰もいない」

 

「…… あなたは首領… じゃないですよね?」

 

「わかってくれて助かる」

 

「もしかしてあなたは───」

 

「あぁ、そうだ。俺は羽畑月火。陽奈の父親だ」

 

 

 最初はこの言葉を疑った。目の前にいるのは首領だ。彼も生前言っていたが、月火自体は完全に死んでしまっており、今あるのは月火という肉体だけがあるのだと。

 だから今、稲森の目の前に立っているのは首領である可能性が高い。

 

 

「信じてもらえないか…… 当然と言えば当然か。こう言っても信じてもらえないか? 俺は班目の命令で来たわけでもなければ、君の腹の内を見ようというわけでもない。ただ俺は君と話しがしたいというだけだ」

 

「………」

 

「そうだな… 例えば、陽奈が昔くしゃみをして鼻の両穴から出た鼻水が床まで垂れ下がった奇跡の話しをしようか」

 

「… へ?」

 

「あれは凄かったぞ。俺の飲んでいたコーヒーの匂いを嗅いだ瞬間だったかな? どれほど奥に溜まっていたんだと大笑いした記憶がある」

 

「…… くふっ」

 

「あの時、コーヒーにかかるのを未然に塞いだ俺も流石仮面ライダーと思ったが、陽奈が笑った拍子に私にベッタリと付いてしまった時は…… 思わず目から涙がほろりと落ちた」

 

「な、なんなんですかその話し!!」

 

「… 笑ったね」

 

「え?」

 

「君のその顔が見たかった。俺も君のような笑顔を守る為に戦ってきたつもりだが… 結果は首領に身体を使われ、陽奈を傷つけ人を傷つけ… 怪人を傷つけた」

 

 

 稲森は確信した。この人は首領ではなく、正真正銘の月火なのだと。

 月火の表情は笑ってはいるものの、とても悲しい気持ちが深く伝わってくる。

 

 

「月火さん… なんですね」

 

「信じてくれるか?」

 

「えぇ… なら、何故僕をこんな所に?」

 

「君をここに呼んだのは、俺に聞きたい事があると思ったからだが?」

 

「あ… じゃあ、あの時モグロウを呼んだ人ってやっぱり…」

 

「俺だ。君がこの世界の命運をかけて戦っていた事は知っていた」

 

「えぇ!? それってどういう事なんですか!? つまり月火さんは…… 何がどういう…?」

 

「俺は一度死んだ筈だった。だが、俺はもう首領の中で生きていたんだ。とはいえ、やはり首領の方が完全体として外に押し出され、俺はただ中から嘆くしかなかった。そんな時、君が首領を倒してくれたおかげで、俺は自分を出す事が可能になったんだ…… 中途半端にな」

 

「中途半端だから度々あの様な事になったんですか?」

 

「…… あぁ、自分の意思とは関係なく、身体が勝手に奴らの命令で動いた。嫌な話しだがな…… しかし、日に日に俺が全面的に前に出れる様になったのはつい最近の事だった。それはそのエスポワールの力でもあるだろうな」

 

「エスポワールが?」

 

「これはただの憶測に過ぎないが、エスポワールの力は俺に少なからず影響を及ぼしたと言っても過言じゃない。現に俺はあのスタジアムに居合わせて、その光を浴びてこうして俺が俺でいれるようになったんだからな」

 

「…… そうですか。それは本当に良かったです!!」

 

「ただ、この身体もそう長くは持たない」

 

「え…?」

 

「こればかりの身体だ。当然の話しだろう。だからせめて、俺がしてきた事を限りある時間の中で償いたい。俺も…… 誰かの笑顔がなくなるのは嫌なんだ」

 

「月火さん…… はい。僕も皆んなの笑顔がなくなる世界なんて嫌です」

 

「仮面ライダーアベンジ、稲森。この世界を… 陽奈を任せたぞ」

 

「月火さんはどうするんですか?」

 

「俺はこのまま裏から班目を止める手立てを考える。と、言ってもこの戦いの勝敗を担うのはそのエスポワールだ。絶対に諦めるな。エスポワールは… 希望は君が諦めない限り必ず見える。陽奈や楓、モグロウと共に最後まで希望を捨てないでくれ」

 

「…… はい!!!」

 

「それじゃあ任せた。仮面ライダー!!」

 

 

 そう言って月火は驚異的なジャンプをして何処かへと去っていく。

 今の話しを聞いた稲森は、この件を陽奈に言わないようにすると決めた。これと言った理由はない。だけど言ってはいけない気がしたのだ。

 

 

「諦めない限り希望はある… か。ははっ、本当に親子ですね…… よし!!」

 

 

 それから稲森はその場所を後にしようと外へと出ると、凄まじい爆音が辺りに響き渡った。

 地面が揺れて思わず尻餅をつくと、そこへ稲森の携帯が鳴り始める。

 

 

「は、はい!! 稲森です!!」

 

「--- 稲森!!? あなた今どこにいるの!!?」

 

 

 その声の主は陽奈であったが、明らかに様子がおかしい。

 先程の爆発音もこの揺れも尋常ではない事態が予測される。きっとその事についてだ。

 

 

「今、工場地帯にいまして…」

 

「--- なんでそんな所? まぁいいわ!! とにかく早く栄須市の中央広場に来て!! 急ぎで!!!」

 

「あ、はい!! わかりました!!」

 

 

 陽奈のこの焦り方からして何やら本当に緊急事態のようだ。

 稲森はマシンアベンジャーを呼び出し、すぐさま中央広場へとバイクを走らせる───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 栄須市の中央広場へと着いた稲森はバイクから降りて広場へと向かう。

 そこにはたくさんの人混みがあり、それをかき分け前へと行くと陽奈、モグロウ、楓が既についており、何があったかと陽奈に問うと目の前のモニターに指を刺す。

 

 

「あれを見て」

 

「えっ…… あれはっ…!!」

 

 

 そこに映っていたのは班目であった。見た目はファングの人間態なので班目ではないのだが、稲森達からすればそれは憎んでも憎みきれない班目そのもので映っている。

 そして班目はマイクのテストと場の空気に似合わない事を言い出し軽く声を通すとニヤリとしながら話し始めた。

 

 

「--- 皆さんどうもおはようございます。ウィンプジェスターの方いかがでしたでしょう? 怒りましたか? それとも怖かったですか? どちらでも構いませんが、とりあえず良い気分とはいかなかったでしょう。あれは深い意味なんてありません」

 

「班目…!!」

 

「--- これをきっと仮面ライダーの方々は観てくれていると思いますが、観ている程で話しを進めます……… 私はこの世界を壊したい。ただ壊したいのではなく、あなた方人間と怪人が争って自分たちで互いの文明を滅ぼす。そんな未来を待ってました…… が、それも仮面ライダー達のおかげで水の泡となってしまいました。私からすれば自分の研究が返ってきているだけなので嬉しいと言えば嬉しかあるのですが…」

 

「なんなのよ… さっきから何が言いたいの?」

 

「--- そうですね。もうまどろっこしい事は抜きに致しましょう──」

 

 

 班目は更に口角を釣り上げた。

 

 

「─── 私は1人とあなた方世界と戦い、全てを滅ぼします」




班目ついに世界破壊宣言。ついに頭イかれてしまったようです。
元々でしたね!

次回、第41話「本当のビギニング」

次回もよろしくお願いします!!

最終回まで残り── 3話


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第41話「本当のビギニング」

皆さんご無沙汰しております。

前回、ウィンプジェスターが大量に出現し処理に追われていた稲森達。そこへ変わり果てた首領が登場し、襲われるかと思いきや稲森を工場へと呼び出す。それは首領ではなく、死んでしまった筈の月火だと判明。彼は稲森達に全てを託し、責務も全うする為に何処かへと去っていった。そして外で爆発音が聞こえ、陽奈からの連絡で中央広場へ向かうとそこのモニターに班目が映っており…

それではどうぞご覧ください。


 班目が世界を壊すと告げた途端、再び街のあちこちが爆発し始めた。

 人がいようが、怪人がいようが全くそれを意に介する事なく、無差別に攻撃し始めたのだ。

 その発生源こそウィンプジェスターだった。ウィンプジェスターの1匹が爆発し始めると、それに続いて次々と爆発の連鎖が行われる。

 

 

「やめろッ!! 班目ッ!!」

 

「---やめろと言われてやめる人だと思いますか? では、私は作業に戻るので皆さん死なないように頑張ってください。応援していますよ」

 

 

 班目がモニターの電源を切ると、稲森達は急いで市民の避難誘導を行いこの場から離れさせようと試みる。

 しかし、ウィンプジェスターの数は今までの比でなく、世界を壊すという言葉そのものの通り、彼らは予告なしに突然光ったかと思うと自爆するのだ。

 

 

「稲森!! 私と楓は市民の避難優先するから、あなたとモグロウはその自爆怪人達をどうにかして!!」

 

「はい!! 陽奈さんも気をつけて!!」

 

 

 稲森と陽奈はその場で別れると、稲森はモグロウを連れてウィンプジェスターが集中している場所へと走り出す。

 

 

「さーて、あのクソ野郎をぶん殴りたいのは山々だが、まずは目の前のものを片付けねーとな」

 

「うん。あいつだけは絶対に僕の手で倒す… 絶対に」

 

「…… あんまり力み過ぎんなよ」

 

「大丈夫! さぁ、行くよ!」

 

「あぁ!」

 

 

 稲森は走りながら腰にアベンジドライバーを巻きつけ、エスポワールジャンプフィードを装填し構える。

 

 

「変身ッ!!!」

《Tasty!!》

 

 

 エスポワールジャンプフィードを上部から叩くと、白く輝くアーマーが形成され、稲森の身体に装着される。

 

 

《Jump over the wall of fate!!》

《I am an avenge, a person who keeps hope!!》

《START!! エスポワールアベンジ!!》

「すぐに終わらせる!!」

 

「ちょ、速っ…!?」

 

 

 アベンジは並行に走っていたモグロウを一瞬で抜き、空中で何度も空を蹴って複雑に動きながらウィンプジェスター達を1人1人確実に蹴り倒していく。

 その速さにウィンプジェスターは何が起こったのかという理解が追いつかずに爆散する。

 どうやらこちらから倒す分には、通常通りの爆散するだけで周りを破壊するほどの威力の爆発はないようだ。

 

 

「俺も負けてられねーなッ!!」

 

 

 モグロウは負けじとウィンプジェスターを両腕の鋭い爪で切り裂き、ずらずらと周りを囲んで来ようものなら、地面に穴を掘って後ろを取り、1人1人を穴に埋めて爪で突き刺す。

 

 

「よっと…!! はぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 そしてアベンジは地面に降り立って両脚にグッと力を入れると、機械を起動したかのような音が鳴り出し始め、次の瞬間アベンジがいた地面が盛り上がり、アベンジの姿が消えている。

 一瞬で見えなくなった彼を追う事は誰もできず、気がついた時には大量のウィンプジェスターが空中を舞っていた。

 

 

「これで決めるっ!!」

 

 

 再び天高く舞い上がるアベンジはエスポワールジャンプフィードの上部を叩き、エネルギーを帯びた足で空を蹴り、凄まじい速さで敵を蹴り飛ばし爆散させていく。

 

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 空中に打ち上げられた大量のウィンプジェスターはアベンジの必殺技により、1匹残らず花火のように爆散した。

 それから地面に着地したアベンジは、モグロウが戦っているところへ乱入し、瞬く間に敵を一掃していく。

 

 

「おいおい俺は必要かよ!?」

 

「必要だよ! いつだって!」

 

 

 そう言ったアベンジは残りのウィンプジェスターに対して、近くにいた1匹をまるでサッカーボールのように蹴り飛ばして一箇所に溜まっていた敵を纏めて粉砕する。

 

 

「…… どの口が言うんだ… ったく。にしても、なんて脚力だ。今までのアベンジの力とは思えねーな」

 

「うん。本当に強いよこれ… これも班目が本来なら戦争に使う為のものだったって思うと、これほど恐ろしいものはないよ」

 

「あいつ本当に才能の無駄遣いってやつをしてやがるな。いい例として辞書に載せてやりたいくらいだ」

 

「確かに…… もうここら辺は大丈夫かな」

 

「とりあえず見た所は大丈夫そうだ。まさかこんな早く片付くなんてよ」

 

「早めに倒さないと市民の避難が落ち着かないからね。それに班目がいつ大きなものを仕掛けてくるかわからないし…」

 

「あいつの言う準備ってのが気になる。最後の仕掛けって奴だろうな… これほどいらないサプライズあるかよ」

 

「とにかく班目の居場所を突き止めて早々に倒したい… 絶対に倒すんだッ!」

 

 

 アベンジが班目を思い浮かべ握り拳を作ると、モグロウはそれを見て無言で頷く。

 それから2人は陽奈たちの方へと向かおうとするが、目の前に再びウィンプジェスター達が音もなく突然に現れた。

 

 

「そんな…!?」

 

「一体どこから湧いて出やがったこいつら…!!」

 

「何度も現れるなら、何度も倒すだけだ────」

 

 

 ───と、アベンジが瞬間にモグロウの目の前から消えていた。

 モグロウは驚いて周りを見渡すもアベンジの姿はどこにも見られなかった。

 

 

「おい!! イナゴどこ行った!!? イナゴッ!!!」

 

 

 名前を呼ぶが彼はどこにもいない。返事すらも返ってはこない。

 先程のスピードで別の場所へと跳んでいったわけがないとするなら、答えは簡単だった。こんな一瞬でこの場から消せるような男がいるじゃないか。

 

 

「班目の野郎ッ…!!!」

 

 

 班目に怒るモグロウを構わず、目の前のウィンプジェスター達は近くにいた仲間を吸収し始め、徐々に巨大な身体を作り出していく。

 

 

「な、なんだよ気持ちわりぃ!!」

 

「ヌルルルルルル」

 

 

 モグロウの言う通りウィンプジェスターの塊はぐちゃぐちゃと気持ちの悪い音と見た目をしながら、肉塊となったその集合体から触手を生やす。

 触手は徐々に人のような手となり足となり、肉塊だったものは人の身体へと変形していった。

 

 

「う、うわぁ…… 最悪だ」

 

 

 ウィンプジェスターは1つの塊となり、それは人型の何かへと変貌を遂げた。

 

 

「お前…… なんだ」

 

「ヌルルルルルルル……」

 

 

 感情が伝わらないのっぺらぼうで、背はモグロウよりも大きい。身長は2mを軽く越えているだろう。常にグネグネとしており落ち着きがない。全く奥底が読めないそれは非常に気持ちの悪い形をしており、それでいて背筋が凍りそうになるほど不気味だ。

 

 

「どうせやるしかねーんだろ。かかってこいよ!! ぶっ倒してやる!!」

 

 

 ─── 「ストログタフジェスター」。ウィンプが集まってできた強者である。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 陽奈たちは市民の避難誘導を行い、もうすぐ全員を安全な場所へと送る事ができるという手前であった。

 これが終われば稲森達の加勢へ行けると思っていたが、どうやらそう都合良くは事が進まないようだ。

 

 

「…… っ!? 陽奈!! あれ見て!!」

 

「何よ楓ッ─── あれは!?」

 

 

 楓が指を刺した方向を見た陽奈は、その方向にいた生物に対して言葉を失った。

 何故なら、その生物というのはキメイラであることは間違いないのだが、全くそれとは違う、それよりも恐ろしく悍ましい姿となっているのだから。

 それらは右肩がスピーダ、左肩がウェイト、右半分がバートン、左半分がスイムで構成されていた。

 

 

「バートン、スイム…… それにスピーダとウェイトまで…!!」

 

「……… あら、仮面ライダーエースじゃない… 元気してたかしらぁん…?」

 

 

 すると、右肩にいるスピーダが苦しそうに口を開けた。

 

 

「あなたスピーダ…? 何でこんな姿に……!!」

 

「あらあら心配…… してくれるの…? 本当ならムカつくけど…… 今はこの姿にしてくれた班目に腹が立つ…!!!」

 

「何があったのよ……」

 

「…… ファングちゃんが班目になってから… 私たちはキメイラを完全なものにする為に… 私達そのものを使い出したの……… 最初は抵抗したんだけど… やっぱり倒されちゃった…… 本当に最悪よね…?」

 

「…… どうすればいいの?」

 

「はい…?」

 

「どうすればあなた達を助けられる!!? 何でも言って!! 絶対に助けてみせるから!!」

 

「えっ…… ふふっ… ホントにあのエースなのかしら…… びっくりよ… いいわ。教えてあげる──── 助ける方法なんてない」

 

「…… え?」

 

「助ける方法なんてないわ… 私たちが助かる道はない…… けど、唯一あなた達にやってもらいたい事があるの…… 私の意識のある内に……!!」

 

「何よ…?」

 

「私たちをあなたの手で…… 殺して欲しい」

 

 

 スピーダの言葉に陽奈は首を横に振った。

 助けられる方法がない?ならば、彼らを殺すしかない?どうしてそんな方法しかないんだと。

 

 

「嫌よ… 何でそんな事しなきゃいけないの!!?」

 

「聞き分けの悪い子ね…… あのエースそっくり……… いいから、早く殺して… じゃないとあなた達がせっかく勝ち取った平和…… 無駄になるわよ?」

 

「そんなのって…!!」

 

「昔のあなたなら考えられないわね…… 全くもう…… いいからやれぇ!!!」

 

「…っ!!?」

 

「私たちはもう持たないのよ…!!! これ以上自我を止めておくのも… この姿で班目の思い通りになるのも嫌なの…!!! だからお願い…… 私たちを楽にしてッッッ!!!!!」

 

 

 すると、スピーダの口が突然に閉じ、キメイラは陽奈達の方へと歩み出した。

 

 

「…… 陽奈」

 

「… うん、わかってるわ。やりましょう」

 

「陽奈1人に背負わせないから。私も一緒に背負っていくからね!!」

 

「ありがとう楓…… あなた達、今私が楽にさせてあげるから…… 仮面ライダーとして────」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「─── ここは一体どこだ…」

 

 

 モグロウと一緒にいた筈のアベンジは知らぬ間に何処かへと飛ばされていた。飛ばされたというよりも移動させられたというのが正しい。

 それよりもこの場所はどこなのだろうか。先程の街並みは全くなく、それどころか周りには何もない。強いて言うならアーチ状の壁?がアベンジの周りを囲んでいる。

 

 

「なんだろうこれ…」

 

 

 壁の向こうには森林が見える。どうやらここは森林内の開けた平地らしいが、それにしても違和感があり過ぎる場所だった。

 すると、何の前触れもなく目の前に突然、キングが姿を現した。

 

 

「どうもこんにちは。稲森さんお元気ですか?」

 

「班目…… 僕をどうするつもりだ」

 

「どうするもこうするもあなたと戦う為です。本当の最終決戦というやつをしましょう」

 

「この場所を用意したのも…」

 

「不恰好ですが、1対1で戦うとするなら十分かと思います… が、あなたのエスポワールの力がどれほどのものか、私自身全く把握ができていない状況です。なので、そうですねー… 私からお願いがあります」

 

「ん?」

 

「どうか簡単に死なないようにお願いします」

《ロイヤルエックス!! スペイドハートクラブダイヤ!! ベット!!》

 

 

 班目はポーカドライバーを装着し、両側にロイヤルエックスのアイテムを装着して構える。

 

 

「変身」

《Let's call!! ロイヤルエックス!! ジャック!! クイン!!キング!! エース!!》

 

「キング…!!」

 

「稲森さんのエスポワールが未知数なのであれば、こちらもロイヤルエックスという名の未知数で対抗させていただきます。私の方の準備は整いました。最後の仕上げはあなたを倒してからじっくりと始めさせていただきましょう」

 

「準備って… お前一体何をする気なんだ!!」

 

「いつも質問が多いですよ。稲森さん!!」

 

「ぐっ…!!」

 

 

 そしてキングは自らをテレポートさせてアベンジの懐は入ろうとしたが、アベンジは咄嗟に肘でそれを捌き、右脚でキングの頭を蹴り飛ばした。

 

 

「……っと、さすがエスポワールの能力。簡単に私の硬度を超えてくる」

 

「班目…… お前は絶対に僕が倒すッ!!!」

 

「やってみてください!! やれるのならばの話しですけど!!!」

 

 

 2人の蹴りがぶつかり合い、凄まじい衝撃波を生み出し地面が割れた。

 ここにアベンジとキングの本当に最後の戦いが幕を開ける───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「かはっ…!!」

 

「ヌルルルルルル」

 

 

 こんな化け物に勝てるのか?とモグロウは思う。

 先ほどから全く手も足も出せず、爪は折られて鼻は曲げられ、怪人態であるのにも関わらずなんて力の差だろう。

 

 

「くそがっ…… こんな所で負けてられねーのによ!!」

 

 

 モグロウは全力で殴りにかかったが、それも見事に弾かれ、その隙を突かれてストログタフジェスターの伸びてしなる腕で地面へと叩きつけられた。

 

 

「ぐわぁっ…!!」

 

「ヌルルルルルル」

 

「ヌルヌル言いやがって… 畜生……」

 

 

 はっきり言ってこのストログタフジェスターはリゲインの幹部達以上の力を持つ。

 1体1体の力は軟弱なものでも、そこへ数百体と融合すれば大きな力へと変化する。謂わば足し算なのだ。

 実質的に100vs1ではあまりにも無謀である。

 

 

「イナゴにだけ重荷を背負わさせたくない… だから強くなろうって思ったのに……」

 

「ヌルルルルルル」

 

「自分のプライド捨ててでも守らなきゃいけない事ってあるよな…!! 今から俺はそれを捨ててやる!!」

 

 

 本当はこんな物を使いたくなかった。だから誰にも言わずに隠してた。

 だけど、この状況でいつまでも駄々をこねていても無様に負けるだけだ。

 

 

「かかってこいよこの野郎…… お前らの主人のお墨付きだぞこらっ!!!」

 

 

 そしてモグロウは人間態へと戻り、腰に"ポーカドライバー"を装着する。

 

 

「──── お前に負けてちゃ皆んなにカッコつかねーからな」




それぞれの戦いが始まり始まり……

次回、第42話「絶望はディザスター」

次回もよろしくお願いします!!

最終回まで残り── 2話


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第42話「絶望はディザスター」

皆さんご無沙汰しております。日曜の最終回まで連続で頑張りナス!!

前回、動き出した班目の策略で混沌とする戦場。モグロウの元にはウィンプジェスターが集合体となった姿ストログタフジェスター。陽奈と楓の元には原体そのものを利用して作り出された正真正銘のキメイラ。稲森は全ての元凶班目と1対1での戦闘を開始した。それぞれの最後の戦いが幕を開ける…

それではどうぞご覧ください。


「お前に負けてちゃ皆んなにカッコつかねーからな!!!」

 

 

 モグロウはそう言うとダイヤの描かれたカードをポーカドライバーに差し込み構える。

 ダイヤのカード。そう、このポーカドライバーはかつて班目が使用していた物だ。何故モグロウの手元にあるのか。

 それはモグロウが入院していた場所へと遡る────。

 

 

 *****

 

 入院最中であったモグロウの元に現れたのは、彼も話していた通り月火である。

 月火はモグロウの為にどういう経緯かは不明だが、裏で手を回してくれたらしく、何とか病院から抜け出す事ができた。

 

 

「…… 何であんた… 首領じゃないのか?」

 

「君が見ているそれこそが現実で、俺が月火だという事も間違ってない」

 

「それにしても何であんたは生きてるんだ? 首領は死んだって……」

 

「元々俺も復活していたさ。だけど、それは本当に中途半端だった。俺の魂はそこら辺に落ちている石ころくらいしかない。だから首領の行動を制限したり、自我を押しだりする事ができなかった」

 

「そりゃ仕方ねーよな… でも、さすが仮面ライダーエースだぜ! こうして這い出て来れたんだからすげーよ」

 

「… 怒らないのか?」

 

「あ? 怒るも何もあんたは何もしてないんだから当然だろ。悪いのはあいつ(首領など)だ」

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

 

 そして2人はスタジアムまで着くと、そこにはあの少女や店長が入り口で待っていた。

 

 

「おっ? 久しぶりだな…… 何であの2人がここに…」

 

「彼の役に立つかと思ってね」

 

「彼?…… あぁ、イナゴか」

 

「それじゃあ俺はここまで。後は任せた」

 

「ちょ、後は任せたって!?」

 

「それは…… あ、そうだ。これを」

 

「…っ!!? おい! これって…!」

 

「ポーカドライバー… 班目の使っていた物だ」

 

 

 当然モグロウは受け取る事を拒否した。

 あの班目が使用していたものなどもらえるかと。寧ろ粉々してやりたいくらいだというのに。

 

 

「あんたに言われようと俺は嫌だ!! あんな奴の… 誰が使うかよ」

 

「頼む。君にしか託さない」

 

「でも……」

 

「時間がないんだ。頼む」

 

「…… わかったよ。ただ絶対使わねーからな」

 

「ありがとう…… じゃあ、後は頼む」

 

 

 そう言って月火は何処かへと跳んでいった。

 以降、モグロウはそれを使おうとはせず、寧ろ破壊しようと企てていたのだ。こんなものに頼らず、稲森、陽奈、楓の隣に立ってやろうと決意した。

 

 

 *****

 

 だが、もうそんな事は言ってはいられない。

 そんなプライドの為だけに、今ここでこのジェスターに負けるわけにはいかないのだ。

 

 

「本当に使う気はなかったけどよ…… お前をぶっ倒せばここにいたウィンプジェスター纏めて潰せるんだ。楽になったぜありがとよ!!!」

 

「ヌルルルルルル」

 

 

 ── 覚悟は決まった。

 

 

「これが俺の変身だッ!!!!!」

 

 

 モグロウはポーカドライバーの両側を引っ張ると、そこからダイヤのマークが現れ、モグロウの身体にアーマーを纏わせる。

 仮面ライダージャックダイヤウェポン。変身者モグロウ。

 

 

《Let's call!! ダイヤジャック!!》

「俺は絶対に倒れねぇぜ… このグネグネ野郎ッ!!!」

 

 

 それからモグロウ…仮面ライダージャックはストログタフジェスターに向かって拳を振るう───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「「変身ッ!!!」」

《Let's try!! Let's call!! ビバ!! マスタースペイドエース!!》

《Let's call!! ハートクイン!!》

 

 

 陽奈と楓はそれぞれマスタースペイドウェポンとハートウェポンへと変身し、悍ましくも哀しい姿へと変貌したキメイラに走り出す。

 

 

「楓っ!! 私が動きを封じるから、あなたはキメイラに攻撃して!!」

 

「うん!!」

 

 

 そしてエースは重力を操作してキメイラを宙へと浮かし、クインは杖を掲げ、先の方に火のエネルギーを溜め始める。

 キメイラも抵抗を見せるが、マスタースペイドの前では身動きを取る事は容易ではなく、ただジタバタと暴れるだけであった。

 

 

「… よし!! エネルギーフルチャージっ!!!」

 

「わかったわ… じゃあお願い!!」

 

「ファイアァァァァッ!!!」

 

 

 杖に溜まった火のエネルギーを火球とし、身動きが取れずに宙へと浮かぶキメイラに向かって発射する。

 その凄まじいエネルギーはキメイラの身体を包み込み、全身を燃やし尽くす。

 

 

「……… さよなら」

 

「うん……─── ん? 陽奈、ちょっと待って」

 

 

 クインが何かに気づいたのかエースはよく目を凝らして見てみると、燃えていた筈のキメイラの身体は炎を吸収していた。

 やがて炎は全てキメイラに吸収され、その吸収した炎を両手に溜め始める。

 

 

「まさかあいつ…!!」

 

 

 その手を天へと向け、クインのものよりも更に巨大な火球を作り出し、それをエース達の方へと有無を言わさず投げつけてきた。

 

 

「まずい!! 楓ッ!!」

 

「あわわわわ…!!!」

 

 

 巨大な火球を避けたエース達であったが、地面に触れた瞬間、凄まじい爆発を引き起こして炎がエース達を包み込む。

 先ほどキメイラにした事とまるで同じ状況を作り出し、エース達はその炎の暑さに苦しまされる。

 

 

「わ、私の火球より火力が… 熱ッ…!!!」

 

「くぅぅぅ…!!!」

 

 

 エースは両手を翳して炎を飛ばし、その場を何とか凌いで見せた。

 だが、まさか奴がエネルギーを吸収する能力を秘めていようとは思わなかった。このまま普通に戦えば敗北は確実だ。

 

 

「エネルギー吸収…… 班目の奴、どこまで私たちを潰したいのかしら」

 

「大丈夫大丈夫!! 陽奈と私ならキメイラを倒せるよ!!…… 倒してあげなくちゃ」

 

「… そうね。行くわよ、楓!! あなた達すぐに楽にしてあげるから…!!」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「うおぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 ジャックの拳がストログタフジェスターを殴り抜ける。

 止まらない拳の連続にこのジェスターも手も足も出せずにいる…と、最初はジャックもそう思ってはいたが、現実はそう簡単にいくはずない。

 

 

「なっ…!!」

 

 

 このストログタフジェスターはウィンプジェスター達の集合体というだけで、内に秘めている特殊能力というのは1つもない。

 しかし、純粋な力と変幻自在な身体はどれほど凄まじい力を持っていた相手だとしても渡り合えるほどの強さを誇る。

 ジェスターは腕を伸ばしてジャックの脚に絡ませると、デタラメにぐるぐるとジャックを振り回し、身動きが取れないほどの遠心力が掛かった状態で地面へと叩きつける。

 

 

「うぐっ…!!」

 

 

 その攻撃を何度も何度も繰り返し、辺り一面がジャックの叩きつけられた時にできた型ができていた。

 これはジャックだからこそ耐えられているものの、それ以外のライダーが受けるものならば装甲は割れ、変身者に多大なダメージを与えただろう。

 

 

「やられてるだけだと思うんじゃねぇ!!」

 

 

 地面に叩きつけられた時にできる一瞬の隙をつき、ジェスターの伸びた腕を掴んで思いっきり引っ張り、逆に地面へと強く叩きつけた。

 それから腕を引きちぎって後退するが、ジェスターはすぐに腕とは別に身体から何本を生やした触手でジャックを捉える。

 

 

「こいつ何でもありかよ…!! おわっ!!?」

 

 

 すると、ジャックは上空へと放り投げられ、次の瞬間とんでもないスピードで向かってきた何かに攻撃される。

 全身に響く衝撃と一瞬でわからなかったが、時間が経つにつれ脇腹に凄まじい痛みを感じた。

 

 

「いっ……!!! な、何だこれッ…!!!」

 

 

 ジャックがわからないのも無理はない。

 ストログタフジェスターはジャックを放り投げる前に、別の触手を遠くまで湾曲させながら伸ばし、放り投げたと同時に凄まじいスピードでそれを撓らせながら戻してきた。

 その威力は凄まじくジャックの装甲を見事に砕いてダメージを与えたのだ。

 

 

「今の一撃をもう一度食らうのはまずい…… がっ…!!!!?」

 

 

 バチンという音と共に再び鞭のようにしなった触手がジャックの身体を捉える。

 

 

「ぐぁぁぁぁああぁぁぁぁぁッッッ……ッッッ!!!!!」

 

 

 再び凄まじい痛みがジャックの全身に響き渡る。

 どれだけ叫ぼうと誰も助けには来ない。ジャックの頭の中には稲森や陽奈や楓、大切な人たちの顔が走馬灯のように巡った。

 

 

「………」

 

 

 そしてまたバチンという音が響く。

 次の瞬間、ジャックの四方八方から触手が見えたかと思うと、止まる事がない無数の触手の鞭が彼の身体を破壊していく。

 やがて彼を叩く音はバチンという音からビシャという液体を叩きつけるような音へと変わり、何度も打撃を与えたのちにその動きはピタリと止まる。

 

 

「………ッ」

 

 

 ジャックは何もできずにただ地面へと無様に落ちる。

 

 

「…… あぁ…… くそっ…」

 

 

 破壊された装甲の間から滴る血。薄らぐ意識。

 半分割れた仮面からストログタフジェスターが近づいてくるのが見えた。

 

 

「ははっ…… 全く俺弱っちぃなぁ… プライド捨ててあいつのお下り使ってよ? それでこうして負けちまったとか笑えねぇよ…」

 

「ヌルルルルルル」

 

 

 こんな所で終わるのか?こんな所で死ぬのか?

 

 

「くそっ…!!」

 

 

 ストログタフジェスターの腕が伸び、ジャックの首に絡まって徐々に力を加えていく。

 きっとこいつは首をへし折る気なのだろう。

 

 

「すまねぇ… イナゴ…… みんな…」

 

 

 結局ここでこいつに勝ったとしてもこの血の量だ。生き残れる可能性は…いや、あんまり期待しない方がいいかもな。

 どちらに転んでも頭の中には死という文字が浮かび上がる。死にたくはないが、死んでしまうと薄々気づいてしまう自分がいた。

 ここでこいつを倒せば辺りにいた全てのウィンプジェスターは失せ、次鋒は当分出てこないだろうという頭だったが、そもそもこいつを倒せない時点でそれは夢で終わってしまった。

 

 

「─── だけど」

 

 

 イナゴがここまで頑張ってきたのに、俺はここで簡単に諦めるのか?

 陽奈も楓も仮面ライダーとしてどれだけ辛い思いをしてきたんだ。俺が諦めてやられてるだけじゃ、あいつらに死んだとしても顔は見せられねぇ。

 無駄死になんてしてたまるか!!みんなの笑顔を守る為に戦ってきた奴らの全部を無駄にしてたまるか!!

 

 

「俺はここで諦めるわけにはいかねーんだよォォォォォォォッッッ!!!!!」

 

 

 ジャックは咆哮を上げて首に絡まりついた腕をどこからか湧き出てくる力で引きちぎった。

 全身から流れ出る血。だが、血は流れてもモグロウの覚悟だけは流れない。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」

 

 

 ジェスターの顔面にジャックの渾身の拳がねじ込まれる。

 先ほどと全く比べ物にならない程の力でストログタフジェスターを殴り飛ばして見せた。

 

 

「イナゴ、陽奈、楓…… 俺は、勝つぜッ!!」

 

 

 例えここで尽きようと、みんなの笑顔を守る為にこいつをぶっ倒す!!

 

 

「俺がみんなに代わって─── 逆襲だッ!!!」

 

 

 そしてジャックはポーカドライバーを閉めて開け、天高くジャンプをし、ストログタフジェスターにエネルギーを浴びた脚を向けながら降下する。

 

 

「はぁぁぁぁ……─── はぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

「ヌルッ────」

 

 

 ストログタフジェスターは触手でガードを行うも、そのガードはジャックの膨大なエネルギーによって蒸発し、胸部へと突き刺さる。

 

 

「…… あばよ。クソ野郎」

 

 

 そして膨大なエネルギーはストログタフジェスターの全身を包み、やがて内から膨れ上がって大爆発を引き起こした。

 砂埃が立ち込めらそこには1人腕を挙げて立っていた。ジャックは、モグロウは勝利したのだ。

 

 

「… かはっ……!!!」

 

 

 モグロウは変身が解け、口から血を吐いて倒れる。

 

 

「はぁ… はぁ…… やっと倒せたぜ…」

 

 

 段々と意識が遠のいていく。もう全身に力が入らない。

 

 

「イナゴ、陽奈、楓…… 俺やってやったぜ… これで俺も仮面ライダーって奴か…?」

 

 

 何故か悪くはない気分だ。意識がゆっくりと遠のいていくが、痛みはもう感じない。

 

 

「みんな……ありがとう。本当に… ありがとう…… 先に悪いな。お前達の活躍天から見てるからよ… 後は任せたぜ…… 仮面ライ… ダ……──────」

 

 

 プツンと意識が途切れ、モグロウは動かなくなってしまった。

 その場に冷たく、静かな風が吹く。とても静かな風である────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「─── モグロウ?」

 

「よそ見はいけませんよ稲森さん!!」

 

「くっ…!!」

 

 

 一方、アベンジとキングはお互い一歩も譲らぬ戦いを繰り広げていた。

 キングの拳がアベンジの顔面を捉えようとするが、それをすかさず蹴り上げて逸らし、腹部へと前蹴りを食らわせて距離を離す。

 

 

「… と、さすが稲森さん。そう簡単に攻撃をさせてはくれませんよね」

 

「…… 何故、テレポート能力を使わない?」

 

「はい?」

 

「僕を移動させて翻弄すれば、お前は僕の隙を作れるはずだ。なのに何故…」

 

「おや? それは気づきませんでした。敵に対して助言とは嬉しいですねぇ」

 

「いいから答えろ!!」

 

「全く…… 別に使うまでもないんですよ」

 

「なんだって?」

 

「既に準備は整ってあります。後は少々の時間が必要なんです」

 

「一体何をするつもりだ…?」

 

「まぁいいじゃないですか。いやでも分かりますよ…… さて、続きを始めましょう。全人類の希望となる事を祈ってます、稲森さん」

 

 

 そして稲森の知らない何処かで班目の言う準備が起動した────。




モグロウ……うせやろ?

次回、第43話「未来へアベンジャー」

次回もよろしくお願いします!!

最終回まで残り──1話


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第43話「未来へアベンジャー」

皆さんご無沙汰しております。

前回、それぞれの戦いが始まり、モグロウはストログタフジェスターと死闘を繰り広げていた。集合体と言えど凄まじい強さを誇るジェスターに大ダメージを与えられ、装甲が割れ出血し、絶体絶命の危機に落ちていた。が、モグロウの決死の覚悟によりストログタフジェスターを見事に撃破。しかし、モグロウはその結果、変身が解け力尽きてしまう。そして一方の班目は準備を開始していた…

それではどうぞご覧ください。


 生物である以上、生きていく為には何かを犠牲にし、また何かを得ていかねばならない。

 だから人間が争うことは当然。なのに何故、人間より優れているというだけで怪人は人類の脅威となったのか。怪人はただ普通に暮らしたかっただけなのに。

 その考えをする怪人も一部というだけで、怪人もまた人類は弱者と見做し、世界を怪人の手によって支配しようとしていた。

 

 

「─── ん? なんだ?」

 

 

 ここにいる1人の人類を味方する怪人はただ一心に世界の平和を見据えて戦ってきた。

 

 

「おや、どうやら起動したようですね───」

 

 

 もう1人はそんな世界を元の争い合っていた形へ戻そうとする者。

 

 

「これはどこから…?」

 

「私が言うよりも見てもらった方が早いかと」

 

 

 すると、アベンジ達がいる地面が揺れ始め段々と盛り上がっていく。

 アベンジは咄嗟にその地面から離れると、そこから見上げるほど巨大な塔が出現し、キングはその光景に手をパチパチと叩く。

 

 

「素晴らしい…!! あぁ、いつ見ても美しいフォルムですねぇ!!」

 

「これは一体……!!?」

 

「稲森さん」

 

「ん────ッ!?」

 

 

 名前を呼ばれたアベンジはそちらの方向を見るが、その場にキングはおらず、気づいた時には背中を蹴られて吹き飛んでいた。

 

 

「うっ…!!」

 

「今は戦闘中です。よそ見をしてはいけません」

 

「くぅ…」

 

 

 別にズルいという訳ではないが、あんな物を見せられて振り向かない奴がいるか。

 それよりも本当にあの塔で一体何をするつもりなのだろう。見た目は何の変哲もない三角錐でこれといった特徴もない。

 

 

「…… ふむ。もう少し時間がかかりそうです」

 

「時間だって?」

 

「仕方がありませんので稲森さんと時間いっぱいまで戦わなければならないようですね。よろしいでしょうか?」

 

「… 何が目的だ」

 

「さぁ、なんでしょうね。見ればわかると言いましたが、これじゃあ見てもわかりませんね。この私にしか」

 

「お前が何をしようと僕が必ずそれを止める。絶対にッ!!」

 

「果たしてそう簡単に行くんでしょうか…」

 

「なんだと!!」

 

「ほら、こうしている間にも時間は迫っていきますよ。私は一向に構いませんけど」

 

「それならこの塔ごとお前を倒すだけだ。それでいいだろう?」

 

「んー… 掻い摘んでその通りです」

 

「なら、やってやるッ!!!」

 

 

 アベンジは深く構え、両脚にエネルギーを集中させキングに向かって跳ぶ────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 一方、エース達は完全となったキメイラ相手に苦戦を強いられ、クインによるエネルギー攻撃が全て吸収され倍にして返されている。

 

 

「ご、ごめん陽奈…… 私の力じゃ役に立たないよ…」

 

「そんなことは……」

 

 

 エースはクインに「そんな事はない」と言いたかったが、これに関しては本当に全ての技がエネルギー主体のクインにとってはかなりの天敵である。

 このキメイラを生み出した班目の策略の一つなのであろう。これが味方であったのならどれほど有能な男だったか。

 

 

「とにかく!! 楓は諦めずにそのまま続けて!!」

 

「でも…!!」

 

「いいからやる!!」

 

「は、はい!!」

 

 

 それからクインはキメイラに杖を向けて小さめの火球を連続で放つ。

 当然、エネルギーを吸収するキメイラの耐性の前に全て無力となって放出される。

 

 

「うっ…!!」

 

 

 キメイラの全身から放出された火は、近づいていたエースを包み込んで全身を燃やした。

 

 

「陽奈ッ!!」

 

「…… ッそこ気にしない!!」

 

 

 こんな炎如きに止められてたまるかと、エースは両手を翳してキメイラを地面に押し潰した。

 とてつもない重力負荷がキメイラに掛かり、指一本も動かせない状態となる。

 

 

「このままぁ…!!」

 

 

 マスタースペイドの前に流石に強化されたキメイラでも無力と化すのか。いや、最初はそう思うだろうなと班目ならば先を読んでいるはずだ。

 クインの対策をしているのであれば、もちろんエースの対策もしてある事は必然的と言えよう。

 

 

「な、なに…!?」

 

「陽奈これって…!!」

 

 

 なんとキメイラは凄まじい負荷を掛けられているのにも関わらず、ゆっくりとその場で立ち上がって見せた。

 当然エースは両手を翳してキメイラだけに集中し、重力をかけているはずだったのだが、そんなものは最初からされていなかったと言わんばかしにキメイラは立ったのだ。

 

 

「班目ね! あいつ本当に余計なことばっかりして!!」

 

「来るよッ!!」

 

 

 キメイラは深く構えたかと思うと、スピーダの脚力を活かして重力の範囲外から抜けエースとクインを蹴り飛ばす。

 

 

「くっ…!!」

 

「きゃぁっ!!」

 

 

 今度はウェイトの能力で両腕を丸太のように太くしてエース達をアッパーで打ち上げ、バートンの翼を背中に生やして空へと飛んだ。

 エースは空中から地面の瓦礫やらを空へと持ち上げ、自分とクインをその瓦礫で包むようにして固定する。

 次の攻撃がどのようなものかはわからないが、多少この即席で作った外壁で抑えられるだろうと思っていた。

 

 

「…… え?」

 

 

 だが、やはり4人の幹部を合成して作られた真のキメイラ。

 スイムの能力を使用して液状化し、簡単に外壁の隙間を通り抜けエース達の目の前に現れ、翼から無数の爆発する羽根を飛ばす。

 

 

「嘘でしょ…!!」

 

 

 至近距離から放たれた羽根を避ける事はできず、大量の羽根に飲まれて爆発し、エース達は空中からグラリと地面に向けて落ちた。

 地面へと落ちた2人は呻きながらもなんとか立ち上がり、キメイラの次の攻撃に備えようと構えたが、再び上空から爆発する羽根が雨のように降り注いできた。

 

 

「止まるって事知らないの!!?」

 

「う、うわわっ!!」

 

 

 エースは咄嗟に両手を空に構え、その一点にだけ集中して羽根を空中で止める事に成功した。

 しかし、留めたと言うだけであって、その後何本もの羽根が降り注いでくる為にキメイラに向けて放つ事ができないのだ。

 

 

「くぅぅぅぅ…!!!」

 

「陽奈……」

 

「大丈夫よ楓… 私がこれ全部返して隙作るから…!!」

 

「………」

 

 

 クインはその言葉を聞いてそれは違うと思った。

 この場合、自分が盾となってキメイラの隙を作れば、爆発する羽根を全てキメイラに向けて放つ事ができるはずだと。

 

 

「…… えっ、ちょっと楓どこに行くのよ!!」

 

 

 いつまでも彼女の背中を追いかけていくだけじゃダメなんだと。

 自分はなんだ?陽奈の後ろを追いかけているだけの奴なのか?いや、そんなわけが無い。今はそんなんじゃ無い。

 今の自分はそうだ────。

 

 

「私が隙を作るから!! 陽奈はそれ全部あいつにぶつけて!!」

 

「無茶よ楓ッ!!」

 

「無茶も承知でやる!! 仮面ライダーならそうするでしょ!!?」

 

「楓……」

 

「だって私──── 仮面ライダーだから!!!」

 

 

 クインはキメイラの攻撃を受けながらも突進し、杖を振り上げて思いっきりキメイラの顔面に振り下ろした。

 だが、その攻撃にもピクリとも動かないキメイラであったが、視界が一瞬遮られたのが失敗だった。

 その一瞬の隙をエースは見逃さず、留めていた羽根を全てキメイラに向けて放つ。

 

 

「いっけぇぇぇぇ!!!」

 

 

 全ての羽根が被弾し、大爆発を引き起こすと、キメイラは煙に紛れて地面へと落下して激突する。

 

 

「はぁ…… はぁ……」

 

 

 その姿を見ると、エースは息を荒くしながら腕を下ろす。

 ようやく終わったとボロボロになったクインがエースの元まで着くと一気に力が抜けて膝をつく。

 エースは急いでクインの元へと駆けつけるが、回復効果もあってかボロボロではあるが、肉体にはそれほどのダメージは入っていないようだった。

 

 

「終わったのかな…?」

 

「いや、まだわからない…」

 

 

 エース達が煙の中をジッと見ていると、その煙の中からユラリと動く影が一つ見えた。

 

 

「… いい加減にしてくれないかしら」

 

「まだ元気だって言うの!?」

 

 

 なんとキメイラはあの攻撃をまともに受けてまだ動いていた。

 所々損傷はあるようだが、それでも余裕で動けるほどの体力は十分にあるようだ。

 

 

「楓」

 

「なに?」

 

「今から全部、自分の持ってるものありったけ使うわよ」

 

「それって?」

 

「全力でぶっ飛ばすって事」

 

「でも、私の攻撃は通用しないし…」

 

「今の攻撃でよーくわかったわ。いい楓? 今からあなたは全力で技を当てて。私は全力であいつを止めるから」

 

「陽奈、どういう事?」

 

「いいからやるわよ!!」

 

「う、うん!!」

 

 

 訳のわからないクインであったが、エースに言われた通り杖から様々な属性を持つエネルギーをキメイラに向かって放ち始める。

 キメイラもそれらを避けるつもりはないのか立ち止まり、全ての攻撃をその身に受け続けた。

 エースはそんなキメイラを重力でその場に固定し、いつ動こうとしても指一本も動かせないようにかなりの負荷をかけ続ける。

 

 

「ひ、陽奈… アレ段々と色変わってない?」

 

「いいから!!」

 

「でも、あのままだととんでもないの来るよ…!!」

 

「わかってるわ… だからそれ以上のものを加えてやりなさい!!」

 

「それ以上の……」

 

 

 その言葉を聞いたクインは更にエネルギー攻撃を続ける。

 段々と赤くなるキメイラに2人はやはり焦ってはいるが、何故か内心はニヤリと笑っていた。

 

 

「もう少し…」

 

 

 更に全身が赤くなってきたキメイラはその場から動こうと試みるも、先程のとは比べ物にならないほどのエースの重力操作により動けないでいた。

 クインはキメイラが全身が赤くなっても攻撃を止めず、自分の限界までエネルギー弾を浴びせ続けた。

 

 

「─── そろそろね!! 楓!! 凄い1発食らわせちゃって!!」

 

「うん!!」

 

 

 エースの合図と共にクインは全エネルギーを杖の先に集め、それをレーザーのようにキメイラに向けて発射する。

 そのエネルギーを全て受け止めるキメイラであったが、全身からバキバキという音が聞こえ始めたかと思うと、様々な場所から今まで貯めたエネルギーがキメイラの意思とは関係なく漏れ出した。

 

 

「許容オーバー… 当然よね。あなたがどれだけエネルギーを吸収できたとしても、それを留めておく場所なんてその身体一つだけ。大量のエネルギーを注ぎ込んだら、あなたの身体は限界を超えて……」

 

「爆発するッ!!!」

 

 

 そしてキメイラの身体は吸収できるエネルギーの許容範囲を超え、ついに爆発した。

 完全に動けなくなったキメイラを見て、エースとクインは互いに目を見て頷き合い、それぞれドライバーの側面と閉じて開き、必殺技の準備を完了させる。

 そして2人は同時に空へと飛び跳ね、互いの右足と左足を合わせてキメイラへと飛び蹴りを浴びせる。

 

《Thank you!! マスタースペイドエースライド!!》

《RAISE!! クインドロップ!!》

「「はぁぁぁぁっっ─── はぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」」

 

 

 キメイラに浴びせられた2つのエネルギーはキメイラの全身を包み込み、やがてそれは大爆発を引き起こす。

 そしてキメイラは強大なエネルギーの中、跡形もなく消し去ったのだ。

 

 

「……… さよなら。あなた達…」

 

「…… やったぁぁぁあ!!…っていうのはダメだね」

 

「いえ、やったでいいのよ。でも、キメイラにはちゃんと… ね?」

 

「うん… 本人達はこんな事望んでなかったのに…… またこんな事が起きないように班目を止めなくちゃ!!」

 

「えぇ、そのつもりよ。ところで稲森とモグロウはどうしたのかしら」

 

「そうだねあの2人はどうしたんだろ」

 

「とりあえずあっちの方に向かってみましょう」

 

「うん!!─────」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「か、硬いッ…!!?」

 

 

 アベンジの蹴りを浴びせた筈の塔は全くと言っていいほど微動だにしなかった。

 先ほどから何発も蹴りを浴びせてはいるのだが、そのどれもが全くの無力と化しているのだ。

 

 

「おやおや、さっき私とこの塔を同時に破壊するとか言っていたような… 言っていなかったような……」

 

「くっ… 黙れ!!」

 

「稲森さんも口が荒くなって来ましたねぇ…… 私にだけ冷たくはありませんか?」

 

「どの口が言うんだ!! お前のせいで一体どれだけの命が亡くなったと思ってるんだ!!」

 

「逆に言えば私のおかげでどれだけの命が救われたんでしょうね?」

 

「うっ… それは……」

 

「元々なにもできなかったあなた方にドライバーを造り譲ったのがこの私です。その間、そのドライバーで何人救いましたか? ファングさんとの決戦までにあなたは何人を笑顔にできました?」

 

「… その事については感謝してます。僕は仮面ライダーになれたから色んな人を救えて来た。それはよくわかってます… だけど!! 人を物のように扱うのは違う!! このドライバーを造ったからと言ってその罪が消える事はない!! そんなの逃げてるだけだ!!」

 

「いや全くその通りなんです。いやはや痛いところをついてくる」

 

「僕は止めるぞ…… 班目ッ!!」

 

「─── と、まぁ時間切れです」

 

「… え?」

 

「では、起動させていただきます」

 

 

 すると、塔の先から光が漏れ出したかと思うと、それは天に向かって射出される。

 やがてそれの周りを雲が螺旋状に回り出し、ゴゴゴという重い音が辺りに響き渡った。

 

 

「こ、これは……」

 

「カウントダウンです」

 

「カウントダウン?」

 

「この状態が続けばやがて地球を守る役割がある膜が剥がれます。その膜が剥がれれば地球は隕石を吸い寄せ…… 後はわかりますよね?」

 

「…ッ!!? お前の目的は戦争じゃないのか!!?」

 

「戦争ですよ。ですが、最も生物は自らの身が危険に晒されるとなれば生き残る為になんでもやります。そうなんでもです… つまりこの世界はどちらにしても滅ぶのです。私の手によるか彼らの手によるかで…」

 

「班目ぇ…!!!」

 

 

 キングは…班目はニヤリと微笑む。それはとても穏やかな顔であった。

 

 

「さぁ、稲森さん始めましょうか。本当に最後の戦いをッ…!!!」




班目による最後の秘策とは地球を破壊する事だった。
世界を守る為、仮面ライダーアベンジイナゴ事稲森の最後の戦いが始まる!!

次回、最終話「平和のピースサイン」

最後までよろしくお願いします!!


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最終話「平和のピースサイン」

皆さんご無沙汰しております。最終話です。

前回、キメイラの吸収能力に苦戦を強いられるエースとクイン。マスタースペイドの重力操作でも動けてしまうキメイラに為す術べなしと思われたが、エースとクインの協力プレイにより、見事にキメイラを打ち破って見せた。そして一方で班目は最後の秘策として地球に隕石を落とすとアベンジに衝撃の言葉をぶつける。一刻の猶予もない状況でアベンジはどうするのか。今、アベンジの、稲森の最後の戦いが始まる…

それではどうぞご覧ください。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

 

 アベンジは絶叫しながらキングに蹴りを浴びせ、そのまま塔に激突させた。

 脚力を3倍にまで引き上げた一撃は、ロイヤルエックスへと進化したキングの装甲を上回るほどの力を発揮する。

 だが、この塔だけは異常なまでの脚力を有していたとしても破壊できないほどの強度を持っていた。

 

 

「おや? このままでは隕石がこの地球に降り注いで皆死んでしまいますよ?」

 

「ぐっ…!!!」

 

 

 こいつに言われなくても絶対に止めてやると誓っているのに、塔の破壊だけはどうしてもできない。かと言ってキングを倒してから壊そうにも、壊す前にタイムリミットが来て終わる。

 どちらにしても絶望しかない状況を班目は予想できていた筈だ。

 

 

「泣いて懇願しても私は止めませんよ。頼んでくれれば難易度は上げてもいいですけど」

 

「どれだけ破壊すれば気が済むんだ… なんで平和に暮らそうとは思わない!!」

 

「私が思う平和は人間と怪人、生物が本能のままに争い合う愚かな光景…!! これほど胸が高鳴る事があるでしょうか? いや、ないですね。私は世界の終わりをこの目で見たい。それを見る為なら死ぬ事など惜しくはありません!!」

 

「お前はどこまで人を捨てるんだっ!! お前に情はないのか!!?」

 

「人を辞めているのだから当然ですよ!!」

 

 

 2人は空中を飛び、激しい打撃の打ち合いが始まる。

 こうしている間にも塔は作動し続け、地球崩壊までの時間は刻一刻と迫っていく。

 アベンジはキングを蹴り飛ばし、標的を塔へと移す。これさえ壊してしまえば後はキングのみ。破壊できるとは断言できないが、とにかく時間制限がある方を優先しなければどうしようもない。

 

 

「そちらを優先… ほう、ですが破壊できますかねぇ?」

 

「─── あれ?」

 

 

 先ほど塔の前にいた筈のアベンジであったが、気づいた時にはキングの目の前にいた。

 

 

「まさか…!!」

 

「そのまさかです」

 

 

 キングは拳を握りしめ、アベンジを地面に殴り飛ばした。

 どうやら班目はテレポートの能力を使用したようだ。たが、今なぜ使用したのか不明である。

 この男が言うには使うまでもないとか時間が掛かるとの理由で使用を拒んでいた。それがなぜ今になって使用する気になったのだろうか。

 

 

「何故、能力を使用したんだこの男は…… と、思っていますね稲森さん」

 

「……ッ!」

 

「別に追い詰められてもいませんし、使う気なんてありませんでしたよ…… ですが、あなたを見ていると無性に使わなければならない気がしましてね?」

 

「何が言いたい」

 

「人の苦しむ顔を見ているのも良いなー…と、思ってしまったんですよ。いやはや、私も頭がおかしくなってしまったようです。私が本当に見たいのは無様に戦う生物の闘争本能だと思っていました。しかし、どうやら稲森さんと戦うにつれてその考えが変わったのです。私が誠に見たかったなものはなんだと… 私が待ち望んでいたのはなんだったのかと…… 答えは簡単でした。すぐ近くにあったんですよ」

 

「班目…… お前は本当に人としても怪人としても最低だ…… 僕はお前を必ず止めると言ったけど、前言撤回だ。倒す… 僕はお前を倒すッ!!!」

 

「倒すなら倒してみてください。あなたは2対2で完全に不利。どうするおつもりで?」

 

 

 そしてアベンジは地面から一瞬にしてキングの元へと跳ぶと、キングを塔に蹴り飛ばし、彼とは思えないほど乱暴に塔に押し当て踏み潰す。

 そう、アベンジは今キングを止める為ではなく、倒す為に戦うことを決めた。こいつを好きにさせておくわけにも、生かしておくわけにもいかないと思ったからだ。

 つまり彼が抱く筈のなかった明確な殺意を持って戦おうと言うのだ。

 

 

「良いキックですねぇ…… 稲森さん!!」

 

 

 すると、アベンジの身体が一気に重くなったかと思うと、その重さに耐えきれず地面へと落下する。

 キングはアベンジへと近づくと、その負荷は更にのし掛かり身動きが取れなくなってしまった。凄まじい圧がアベンジを指一本も動かそうとはしてくれない。

 

 

「こ、これは…!!」

 

「言ったでしょう? 全てのポーカライダーの力… つまり陽奈さんのマスタースペイドさえも私の力です」

 

 

 アベンジは段々と地面にめり込み、完全に身動きが取れなくなってしまった。

 仮面の下からでもわかるキングのニヤリとした微笑み。仮面の下からでもわかるアベンジの恐怖と絶望の表情。

 班目はこれ以上にない微笑みをアベンジに振り撒く。

 

 

「今、どんな気持ちですか? 稲森さん?」

 

「くそっ…… うぅ……!!!」

 

 

 絶望へのカウントダウンが刻一刻と迫る────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 陽奈と楓は稲森とモグロウの元へ向かっていた。

 不可解なのが戦闘音がまるで響いてこないという事。戦闘が終わったのなら静かになるのは当然だが静か過ぎるのだ。あの大量のウィンプジェスターをこうも早く倒せるのだろうか?

 とにかく2人の安否が心配だ。

 

 

「2人は一体どこに……」

 

「…… あ、陽奈。あそこに倒れてるのって…」

 

「ん? あれは──── モグロウッ!!?」

 

 

 陽奈は急いで彼の元へと駆けつけると流れ出る血を見て顔が青ざめた。

 滴るは血液。しかもかなりの量である。

 

 

「モグロウ!! ねぇモグロウってば!! 稲森はどうしたの!!? ここで一体何があったのよ!!!」

 

「そ、そんな… モグロウさん……」

 

 

 それから陽奈は辺りを見渡し状況を把握しようとするが、周りにはウィンプジェスターの気配がなく、それでいて被害も少ない。

 更に言えばモグロウが腰に装着しているのは班目のポーカドライバーである。

 

 

「一体どういう……」

 

「─────……… ひ… な」

 

「え? モグロウ?」

 

「陽奈…… 今、どういう状況だ…?」

 

「よかったモグロウ! 待ってて今すぐ治療を……」

 

 

 陽奈は楓に変身してモグロウの治療をしてと頼むと、モグロウは陽奈の袖を掴み苦しそうに話し始める。

 

 

「あなたはもう喋らないで。これ以上体力を使うのは危険だわ」

 

「へっ… もうこの血の量だ。助かるか助からないかと言われたら… もう助からない可能性高いよな。楓に回復してもらっても血は戻んねぇ」

 

「何言ってるのよあんた!! 稲森が頑張ってるのにあなたが死んだら…… そういえば稲森は…?」

 

「… あいつならきっと班目んとこだよ。空見てみろ」

 

「え…?」

 

 

 モグロウに言われて空を見れば、雲が光の柱を螺旋状に包み込み空を突き抜けている。

 

 

「あれは──」

 

「俺も何かはわからない… けど、きっとあそこでイナゴが戦ってる。俺はここでウィンプジェスターが纏まった野郎ぶっ飛ばしてた… もうこの辺にウィンプジェスターは1人も残っちゃいねーよ」

 

「…… 良くやってくれたわ。ありがとうモグロウ」

 

「俺も仮面ライダーになったんだから当然だろ…… はぁ… 少し眠くなってきたぜ」

 

「ちょっと…!! 楓ッ!!」

 

 

 そして楓はクインに変身し、モグロウの傷を癒す。

 しかし、モグロウの言う通り無くなった血を元に戻すことはできない。

 

 

「絶対に死なないでモグロウさん!! 頑張って!!」

 

「ありがとよ楓、陽奈…… イナゴによろしく頼む」

 

「え…?」

 

 

 そう言うとモグロウは再び目を瞑り、ダランと手が落ちた。

 

 

「ちょっと嘘でしょ… ねぇ!!」

 

「大丈夫… 大丈夫……!! 絶対治すから…!!!」

 

 

 絶対に班目を止めてくれよ…頼むぜイナゴ…親友……──────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 あれから何秒経ったのだろう。あれから何分経ったのだろう。

 アベンジはキングに重力負荷を掛けられ、全く身動きが取れないまま崩壊までの時を過ごしていた。

 

 

「…… もうすぐ時間ですよ。稲森さん」

 

「嫌だッ…… こんなところで終わるなんて…!!」

 

「ですが、終わるんですよ。あなたがいくら騒いでも、あなたがいくら頑張っても無駄なんです。この塔だけは壊させはしません。最もこの塔を壊す方法は内側からの破壊のみです」

 

「内側からの破壊だって…?」

 

「あの塔は内側にある装置を稼働させておく為に周りをキングと同じ装甲を使用し、更に物理等の衝撃を軽減する特殊なコーティングを施しているので、あなたのエスポワールだとしても突破することは不可能。更に言えば私の開発したものなんですから何が対策となるかよくわかっているのは当然でしょう」

 

「このまま好き勝手させてたまるか…!!」

 

「もう無理ですよ。あと数分で終わります。ここであなたを解放したところでどうしようもできないでしょう… 地面に伏せながらよく見ておいてください。世界崩壊の瞬間を…」

 

 

 もう本当にダメなのか?

 ここでこのまま終わってしまう。全てが台無しになる。今までやってきたこと全て無駄になるなんて嫌だ。

 

 

「くそっ…」

 

 

 そんなの絶対に嫌だ。こんな所で終わらせるなんて嫌だ。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

 

 その叫び声を聞くキングは口が裂けてしまう勢いで微笑む。

 だが、その笑顔はすぐに元に戻る事となる。いつもニヤリと微笑む顔を見せてきた班目が初めて笑わなくなった。

 

 

「なんですか…… これ?」

 

「えっ…?」

 

 

 アベンジは塔を見ると、塔から放たれていたレーザーが段々と細くなり、いつしか消えてなくなってしまった。

 この事態に班目の策略の一つなのかと一瞬思ったが、あの班目がたじろいでいる姿を見れば見るほどこの事態が想定していない事だとわかる。

 

 

「一体何が… 何があったんですか!!?」

 

「──── どうやら間に合ったようだ。稲森くん」

 

「あなたは…!!」

 

 

 班目は稲森でない声に反応し、そちらを見て驚愕した。

 そこにいたのは姿こそ醜い化け物であるが、自分が作り出した人形である筈の首領、いや月火がいた。

 

 

「久しぶりだな班目。元気だったか?」

 

「月火さん……? どうしてあなたがこんな所に… いや、そもそもあなたが何故生きているんですか!!? 何故ッ!!?」

 

「そんな事はどうでもいいだろう… そうだな。強いて言うならば奇跡と言おうか」

 

「奇跡…?」

 

「お前には一生わからないだろうな。人はいつ起こるのかもわからない奇跡を信じ、突き進んでいつしか叶えるもの。奇跡とは努力の象徴。奇跡を生み出したいと強く願う人の結晶だ。俺もそれに当てられた…… こうして俺は彼らの意思を伝えられ生きている。人だけじゃない。怪人も皆が生きている限り、お前の野望は奇跡に敗れるんだ!!!」

 

「そんなバカな…… こんな筈ではないんです!!…… ま、まさかこの塔を止めたのも…!!!」

 

「あぁ、俺だ」

 

 

 ── 月火は元より塔の存在を知っており、ここに来る前に班目の目を掻い潜って止まるための準備をしていた。

 彼も班目ほどではないが、そう言った知識は持ち合わせており、塔を破壊する為に探し、こうして見つける事ができ、破壊するにまで至ったのだ。

 これは完全に予想の範囲外は愚か、想定もしていない非常事態である。

 

 

「あぁ…… あぁぁぁぁぁ………」

 

 

 当然、班目もこの事態を受け入れる事ができなかった。

 そして班目は仮面の下でもわかるほど凄まじい殺意をこぼす。

 

 

「──────…… どうやら虫はさっさと始末した方が得策だったようです」

 

 

 そう言うと班目は手を翳す相手を月火に集中し、そのまま四方八方から圧をかけて潰し殺す気である。

 しかし、負荷を解除できたアベンジは班目に向かって両足で蹴りを放って吹き飛ばす。

 

 

「…っ!! すまない稲森くん!!」

 

「いえいえ!!」

 

「…… あとは頼めるか?」

 

「はい!!! ありがとうございました!!!」

 

「いやいや… 頼むよ。仮面ライダーアベンジ!!」

 

 

 そして班目の怒りは頂点にまで達する。

 班目は天に手を翳すと、それと同時に地面が揺れ始まる。

 

 

「な、なんだ…!!?」

 

「これは……」

 

 

 アベンジはふと空を見上げると、その落ちてきたものを見て驚きを隠せなかった。

 どうやら班目は最後のダメ押しと全ての力を使って1つ隕石を宇宙から持ってきたようだ。見ると班目の全身からピキピキという音が鳴っている。キングと言えど流石に許容オーバーのようだが、これほどのものを落として来れるとは流石の一言だ。

 

 

「稲森くん…」

 

「僕は守ります… 人間も怪人も全部ッ!!!」

 

 

 アベンジはドライバーの上部を叩いて飛び上がり、隕石に向かって片脚に全てのエネルギーを集めて激突する。

 隕石は人が小さく見えてしまうほど巨大。凄まじい衝撃と途轍もない熱気がアベンジを襲う。

 

 

「くぅぅぅぅぅ……ッッッ!!!!!」

 

 

 隕石はエスポワールだけでは対処できないほど固く強い。

 こんな大きなものを相手にするわけだから当然と言えば当然だ。

 

 

「稲森さん…!! あなたごと潰して差し上げますよォォォォォォ!!!」

 

「絶対に… 絶対に止めてやるぅぅぅぅぅぅッッッ!!!」

 

 

 すると、アベンジの全身が光り輝き始めた。この反応は前にも起きた事のある現象。

 これはつまり─────。

 

 

「あんただけにいいカッコさせないわよ!! 稲森ッ!!」

 

「陽奈さん…!!」

 

 

 そうだ。これは皆の気持ちが、想いが呼応している。

 それにエースも駆けつけ、マスタースペイドによる重力操作を織り交ぜながら隕石に向かって蹴りを放つ。

 陽奈は楓にモグロウの治療を任し、この隕石を止める為に飛んできてくれたのだ。他にもこの短時間の中で事態を判断し皆に訴えた。

 お陰でエスポワールの力は全開であり、エースも加わった事で、止めておくだけで精一杯だった隕石を押し返して破壊する事ができる火力を手に入れた。

 

 

「── 稲森ッ!!!」

 

「はい!!!」

 

「ぶっ… 壊せぇぇぇぇっっっ!!!!!」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!!」

 

 

 そして遂に隕石は宇宙へと押し戻され、エネルギーを送られたそれは大爆発を引き起こし粉々となった。

 班目はその光景を見て唖然とし、全身が震え、キングの身体もボロボロになって軋んでいた。

 一方のアベンジもエスポワールの力を限界まで引き出してしまった為に自動的にジャンプウェポンの姿に戻ってしまった。

 だが、今の班目相手であればこれで十分だ。

 

 

「さーて、これが最後よ… やって来なさい!! 稲森!!」

 

「行ってきます!! 陽奈さん!!」

 

 

 そしてアベンジは地面に着地し、班目の方を向いて構える。

 

 

「班目、これで終わりだッ!!」

 

「終わり……? 私が…? そんなバカな…… 認めませんよ。私は認めません。あなたを殺せば全て綺麗に片付きますから!!」

 

「人間… 怪人…… この世に生きる全ての者に代わって─── 逆襲だッ!!!」

 

 

 班目はポーカドライバーを閉じて開き、天高く飛び上がる。

 それに続くようにアベンジはドライバーの上部を叩いて飛び上がる。

 

 

「班目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!!」

 

「うがぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

 

 互いの蹴りがぶつかり合い、凄まじい衝撃を生み出しながらどちらも一歩も譲らない。

 そしてキングの身体に異常が起きた。本来なら全く無駄とも言えるアベンジの通常形態でのエネルギーを喰らい、ダメージが蓄積しボロボロの装甲からエネルギーが漏れ出す。

 

 

「そんな… この私が…… 私の… 世界がッ…!!!」

 

「これで最後だ───── はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっっっ……!!!!!」

 

 

 アベンジの蹴りはキングを吹き飛ばし大爆発させる。

 班目は変身が解けると、アベンジはもう一度ドライバーの上部を叩き彼にゆっくりと近づく。

 

 

「おやおや… トドメですか……? いいですねぇ…… これであなたも私と同じだ」

 

「………」

 

「さぁ、トドメを刺してください。私を…… どうぞお好きに…!! ははっ…!! ははははははっ!!」

 

「……………ッッッ!!!」

 

 

 そしてアベンジが班目を蹴り抜こうとした瞬間、何ものかが上空から飛来し、班目に向かって蹴りを放って彼を蒸発させた。

 一体誰かと思ったが、その者は… 陽奈は変身を解き、息を荒くしながら稲森に言う。

 

 

「それは… あなたの役目じゃない」

 

「陽奈さん……」

 

「私たちは仮面ライダー。だけど、そもそもあなたは違う。もう重荷を背負わなくていいの。これは元から私の仕事だったから…」

 

「……… はい、すみません…」

 

「何を謝ってるのよ…… 稲森」

 

「はい?」

 

「その…… ありがとね」

 

「…… はい、こちらこそ!」

 

「も、もう何よその顔!! 少しは恥ずかしがったらどう!?」

 

「え、でも陽奈さんが笑顔だったから自然に……」

 

「全くもう…… ふふっ」

 

「はははっ」

 

 

 こうして班目は陽奈のトドメにて、その生涯を終えたのであった────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 ─── ここは栄須市にある発展した街の中。

 そこに怪人が1人パンを齧りながら歩いていた。

 

 

「… あーあ、お礼としてお金貰ったけど、使い道わからなくてとりあえずパン買って食べて…… うーん」

 

「就職だろ? いや全く平和になっても簡単にゃつけねぇよな」

 

「そっちは決まってるの?──── モグロウ?」

 

「俺は決まってるぜ。狙ってんのはネジ作る所だ── いいだろ、イナゴ?」

 

 

 稲森とモグロウはいつも通り笑いながら仲良く街を歩いていた。

 あの後、モグロウはすぐに病院へと運ばれ、輸血と治療を行った結果、奇跡的に回復したのだ。

 これはクインの能力の回復をしていたのがいい判断だったようで、モグロウはその後も体調は良好でありピンピンとしていた。

 

 

「ネジかぁ…… 怪人の姿で締める感じ?」

 

「は? 締める…?」

 

「いやだってモグロウさ。怪人になると鼻がドリルになるじゃん?」

 

「あぁ、たしかに… はははっ!」

 

「ははっ!」

 

「…って、やかましいわ!!!」

 

 

 モグロウが稲森に大きな声でツッコミを入れると、周りに子供達が集まってきた。

 

 

「ん? なんだお前ら?」

 

「お兄ちゃんっち怪人でしょ?」

 

「あぁ、そうだけど」

 

「鼻引っ張っていい?」

 

「ダメに決まったんだろ!!?」

 

「じゃあ触るだけぇ〜」

 

「いや俺のデリケートなところ触らせるかよ!!」

 

「いいじゃん減るもんじゃないし〜」

 

「減るんだよ俺の中の鼻モラルが!!」

 

「はなもらる…?」

 

 

 稲森は子供達に囲まれているモグロウを見て笑う。

 そんなモグロウは助けを求めていたが、稲森はケラケラと笑っていると、子供が1人近づいてきた。

 

 

「あれ?…… どうしたの?」

 

「お兄ちゃんって仮面ライダー?」

 

「… え?」

 

「だって前に戦ってたから…」

 

 

 前の自分であったらこの質問をされてなんて答えただろうか。

 でも、今はもう迷うことなんてない。はっきりと言えばいいだけさ。

 

 

「── うん。僕は仮面ライダーアベンジだよ」

 

「………」

 

「あ、あれ? どうしたのかな?」

 

「本物だぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「えっ!!?」

 

「みんなこの人やっぱり仮面ライダーだって!!」

「すげぇ!!」

「握手して!!」

「ねぇ、変身して!! 変身!!」

 

「いや待って、えぇ!!?」

 

 

 それを見たモグロウはさっきの仕返しとばかりに大声で笑い始めた。

 だが、子供達に囲まれた2人は身動きが取れずに困っていると、その2人の後ろから女性が近づいてきた。

 

 

「ほーら、みんな離れて。今から私たちは予定があるから邪魔しちゃだめよ」

 

「… あ、陽奈さん! それに楓さん!」

 

「こんにちは! 稲森さんとモグロウさん! 略してイナモさん!!」

 

「いや、それ俺の要素うっすいだろう!!?」

 

 

 稲森たちのところに陽奈と楓が合流した。

 実はこの後、出掛ける予定があり2人と約束の場所まで向かおうとしていたらこうなってしまったのだ。

 

 

「ま、とにかく早く行くわよ。あなた達には荷物運びしてもらうんだから」

 

「えぇ!? 聞いたませんよそんなの!?」

 

「女の子は買うんですよものすごく!!」

 

「おいおい… 俺は病み上がりだぜ? 少しは優しくしてくれても……」

 

「いいから早く行くわよ。時間は待ってくれないんだから!!」

 

 

 稲森とモグロウは同時にため息を吐くと、互いに顔を見合わせ笑い合う。

 

 

「それじゃあ行こうか、モグロウ」

 

「おう、行こうぜ」

 

 

 人間と怪人。滅ぶべきなのはどちらなのかという質問は愚問だ。

 どちらも生があり、どちらもこの星に住まう者たち。

 皆が支え、助け、世界はそうして回り続ける。

 

 誰かが決める未来じゃなく、未来は自分で決めるんだ──。

 

 仮面ライダーアベンジ The end




えー本当に長い間お世話になりました!!ようやく終わりです!!
終わり!!……なのですが、前作仮面ライダートリガーのように特別編2個書かせていただきます!!

次回
前編「仮面ライダーエース」
後編「仮面ライダーアベンジ Jump to tomorrow」

まだまだ終わりませんよ!!
それでは次回もよろしくお願いします!!


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特別編
仮面ライダーエース


皆さんご無沙汰しております。連続投稿して死にかけでした(血涙

あらすじ
世界が平和になり、人間と怪人はお互いを理解し尊重し合い、新たな時代の幕を開けようとしていた。仮面ライダーエース事、羽畑 陽奈はいつも通り楓とのショッピングを楽しんでいると、突然自身の父であり初代エース月火が姿を現す。驚愕する陽奈の前に謎の怪人が現れ、楓はその怪人に身体を乗っ取られてしまった。ほぼ同時に現れた月火と怪人の関係とは…

それでは前編どうぞご覧ください。


 栄須市は今日も平和であり、周りを見ても人間と怪人が言い争ったり暗かったりと、そんな昔の光景が嘘のように笑顔で溢れている。

 そして今日は楓とのデートと、気分は上々の陽奈が向かうのはいつも通りのショッピングモール。

 ここ以外選択肢はないのかと周りからは言われるだろう。否、稲森とモグロウに揃って言われたが、2人にとっては1番ここがお気に入りの場所であり、中には食材や服だけに留まらず、映画館やゲームセンター等時間を潰せるものがたくさんある。

 しかし、2人の目当てはほとんどが服や食べ物で娯楽関係はあまり行ったことがないという、まさに美と食に関してはさすがと言わざるを得ないだろうか。

 

 

「さて、楓はまた遅れて…… あれ?」

 

「…… あ、陽奈ぁ〜」

 

 

 楓は無邪気に手を振るっているが、なんと珍しい事だろう。

 いつまであるなら陽奈が先に来ている事が当たり前で、その後、楓が数分遅れてやってくるという鉄板なのだが、この日ばかりは珍しく先に来ていたのだ。

 

 

「早いわね楓。そんなに今日楽しみだった?」

 

「うんうん! だって今回新作のデザートが出るってなったら居ても立っても居られなくって〜…」

 

「ふーん… なるほどね」

 

 

 だから早かったのか。そういえば前にも食べ物に関しての新作やらは絶対にチェックを入れて先に来ている場合が何回かあったと陽奈は思い出す。

 そして楓は陽奈を引っ張り早く早くと急かした。

 

 

「もうわかったから! 少し待つだけでしょ?」

 

「その少しがダメ! もっと早く行かなきゃ! 今日は陽奈が珍しく早く来たんだから急いで!!」

 

「わかったわよ…… ん? ちょっと! いつもは私の方が早いでしょ!」

 

「細かいことは食べてから! 行こ行こっ!」

 

 

 この子は本当にどこか抜けているというか全部抜けている。だれか蓋を閉めて欲しいと思う。

 陽奈は楓に引っ張られながらお目当てであるカフェに着いた。

 やはり店員に優待席と言われたが流石に断った。あくまで仮面ライダーはオフであり、今は普通の一般女性である。少し待ってようやく席へと案内され着席する。

 そしてメニュー表ともう1つ、1枚だけの期間限定やおすすめなどが書いてあるメニュー表を取り出し楓はお目当ての物に指を刺す。

 

 

「陽奈これこれ! コーヒーゼリームース! 絶対美味しいよねぇ〜」

 

「へぇ〜コーヒーゼリーをムースに… 面白いじゃない」

 

「すみませーん! 注文いいですかー!」

 

 

 楓が店員を呼んで注文すると、彼女は足を揺らしてニコニコしながら待っている。まるで子供である。

 

 

「そんな楽しみだった?」

 

「もちろん! 絶対美味しいもん!」

 

「そ、私も楽しみになってきたわ」

 

 

 暫くして注文したコーヒーゼリームースが到着した。名前の通り見た目はそのままコーヒーゼリームースである。

 陽奈と楓は「いただきます」と会釈をし、スプーンで掬って食べ始める。

 これは思っていた以上の美味しい。コーヒーのほろ苦い味はするが、ほんのり甘さもあって落ち着く香りだ。

 

 

「んー美味しいわね」

 

「あぁ… 来てよかったと切実に思う…!!」

 

「ホント来てよかった。これも楓のお陰かしら」

 

「そう! 私のお陰!」

 

「はいはい… ふふっ───」

 

 

 そして陽奈はふと店の窓を見た。

 すると、一瞬であったが黒い人影が見え顔を顰める。一瞬だったのでわからないが、とても懐かしくそれでいてどこかで見た事がある姿だった。

 

 

「陽奈…? どうかした?」

 

「…… えっ、あ、いや… なんでもないわよ」

 

「ふーん…… あ、そうだ。この後は服見ようよ! ずっと遊び行けないし買い物行けないしでおしゃれに困っちゃって」

 

「いいわよ。付き合うわ」

 

「ふふーん」

 

 

 あれは一体なんだったのだろうか。とりあえずこちらには何も害はないのだからそのままでもいいだろう。

 それから2人は食べ終わってから服屋を点々と巡る。久しぶりの2人きりでコーデを楽しみながら店を回る。

 前に稲森とモグロウを呼んだが、やはり2人はそういう事には乏しかった為、ほぼ2人のコーデに大忙しで自分の物を見る機会が少なかった。

 

 

「ま、これでいいかしら」

 

「似合うと思うよそれ」

 

「でしょ? じゃあ楓はこれを───」

 

 

 楓が似合いそうな服を取り出して身体に合わせようとした陽奈は、また不意に横を見ると謎の黒い影がユラリと通った。

 流石に2回目ともなれば怪しく思う。久々のショッピングをその何かに邪魔されてはたまらない。

 

 

「…… 楓。ちょっといい?」

 

「ん? どこ行くの陽奈?」

 

「少しここで待ってて!」

 

「あ、うん……?」

 

 

 陽奈はその何かが行った方向に走っていくと屋上の駐車場へと出た。

 駐車場には平日という事もあってほとんど車はなく、そこに1人目立つ黒い影が立っていた。

 

 

「あなたね。さっきからチラチラと私の視界に写ってくるのは…… 何が目的?」

 

「………」

 

「黙秘しててもいい事ないわよ。さっさと答えなさい。私はこれでも忙しい身なの」

 

「………」

 

「あっそう、いいわ。なら、その身体に直接聞いてやるだけなんだから────」

 

「── 久しぶりだな陽奈」

 

「えっ…?」

 

 

 その人は陽奈がよく知る人物で誰よりも尊敬する人物だった。

 見た目こそ醜い姿で誰なのかも判別できないが、陽奈にはその声から笑った顔からその人物が父であると気づく。

 だが、そんな訳はないとすぐに身構えて否定する。

 

 

「嘘…… いえ、あなたは首領ね。まさか生きているとは思わなかったわ。何故私についてきたのかは知らないけど、また悪さするようなら私が許さないわよ」

 

「…… 首領だと思うか? 陽奈?」

 

「当然でしょ。声色は確かに父さんだけど、首領は父さんの身体を使って復活した。それなら声だって顔だって何もかも父さんのままに決まってる。私を騙してどうしたいの? 復讐?」

 

「はぁ…… わかった。こうしよう」

 

「え?」

 

「お前が小さい頃お漏らしをした話しをしようか」

 

「は…… はぁッ!!?」

 

「そうだなぁー… 1番面白かったのは父さんの布団で──」

 

「あ、あんた父さんの記憶を読んでわ、わわわ私の動揺した所を、おそ、襲うつもりでしょう!! そうはいかないわよこの変態っ!!!」

 

「… ふっ、ふふふっ…… ははははははっ!!」

 

「な、何がおかしいのよ!!」

 

「ふぅ…… 変わらないな陽奈」

 

「…… そんな… 嘘よ……」

 

 

 父の笑顔を見た陽奈は否定していた筈なのに、何故か目から涙がポロポロと溢れてきた。止まらない涙を服の袖で拭っていると、月火はそっと近づき陽奈を優しく抱きしめる。

 その光景は化け物と人間であるが、彼らをよく知る人物であるなら、ただの父と娘の幸せそうな光景が見えて来る筈だ。

 

 

「父さん…… 会いたかった…!! 本当に… 会いたかった…!!」

 

「お前には辛い思いをさせたな… 悪かった。陽奈がどれほど辛かったのか、この世界が壊れていく様を見て身に染みるほどわかったよ。俺がもう少ししっかりしていればこんな事にはならなかった筈なのに……」

 

「いいのよ父さん。こうして平和になったんだから」

 

「稲森くんやモグロウくん。それに楓ちゃんも、皆んなが陽奈に寄り添ってくれたお陰でお前はお前の道を見つけることができた。本当に皆んなには感謝してしきれないなぁ… ははっ」

 

「うん…… あ、そうだ。父さんはなんで生きてるの? それになんで私の所に来て… 挨拶だけじゃないんでしょ?」

 

「察しがいいな。さすが俺の娘だ」

 

 

 すると、月火は陽奈に背を向け暫く口を閉じた。

 父の寂しそうな背中を見た陽奈はなんとなくそれがただ事ではないと感じ取る。父がこれから言う言葉は絶対に聞きたくはなかった事だ。

 そして月火は陽奈を見て口を開く。

 

 

「俺を消してくれ、陽奈───」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「陽奈、遅いなぁ〜…」

 

 

 一方の楓は陽奈が帰って来るのを30分ほど待っているが、待たされた事があまりない彼女は既にソワソワとし始めていた。

 早く帰ってきて欲しいと願っていたが、流石にもう限界が来たようだ。

 

 

「… よし! じゃあ陽奈を探しに行こう!」

 

 

 我慢できなくなった楓は陽奈が向かったと思われる方向に小走りで向かう。

 ─── それから楓は色んな店を回って探したが、陽奈を見つけることができずに途方に暮れていた。

 

 

「はぁ…… 陽奈どこぉ…」

 

 

 ため息を吐きながらふとショッピングモールの屋上に行く階段を登る。ここだけは見てはいないが、まさかいないだろうという思いで、とりあえず屋上へと登ってみる。

 屋上に近づいて来るにつれて、何かを叩く音が聞こえ始め、駆け足で登ってみるとそこには陽奈がエースに変身し、首領の成れの果てとなった化け物が戦っていたのだ。

 

 

「えぇ!? 陽奈ッ!?… と、首領!?」

 

 

 2人はどうやら楓には気づいていない。状況は飲み込めないが、とりあえず加勢に入った方が良さそうだ。

 楓はポーカドライバーを腰に巻きつけようとすると、何者かが背後から彼女の手を捻ってそれを止める。

 

 

「いたたっ!! あなた誰っ…!!?」

 

 

 その何かは楓が聞いても何も答えない。

 そして口を塞がれ声を出せず、完全に身動きも取れなくなり、楓はその何かによって拘束されてしまった。

 

 

「むぐぅー…!!」

 

「…………」

 

 

 それはニヤッと笑い、陽奈たちの戦いをジッと見物し始めた───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 陽奈は月火が言った言葉が最初何の事かさっぱりわからなかった。

 自分を消してくれ?そう言ったのだろうか?

 

 

「ねぇ、父さん何言ってるの…? 冗談でしょ?」

 

「冗談に聞こえるか? 俺の目を見ろ。俺は本気だ」

 

「… 嫌よ」

 

「なに?」

 

「嫌に決まってるでしょ!!? あの時は首領だったからまだ… 父さんじゃなかったからなんとか出来たけど、今私の前にいるのは父さんなのよ!!? 父さん…… なんだよ?」

 

「そうだ。お前にやって欲しいんだ」

 

「なんで…… そんな……」

 

「俺は元々死んだ身だ。死んだ人間は生き返らない。こうして陽奈の成長を一目見れて、そして会話もできた。俺に思い残す事はない。醜くなった俺を…… 頼む陽奈。お前にしか頼めない事なんだ」

 

「……」

 

「これは俺であって俺じゃない。俺を… 解放してくれ」

 

 

 陽奈は暫く黙っていたが、何かを決意したのか口を開く。

 

 

「─── なら、本気で私と戦って」

 

「戦うだって?」

 

「卒業試験みたいな感じよ。私がこれから本当に仮面ライダーエースとしてやっていけるか見て」

 

「それは構わないが……」

 

「…… 私、父さんと戦うのは嫌よ。だけどなんの抵抗もないまま倒すことなんてできない。だからせめて、父さんと本気で戦って終わらせたいの。まぁその… 私の過去との別れ的な…」

 

「陽奈…… 全く、さすが俺の娘だな。よし、わかった。お前がどれほど強くなったか。思いっきりぶつけてこい!!」

 

「えぇ!! 父さん!!」

 

 

 それから陽奈は腰にエースドライバーを巻き付け、ダッシュフィードを差し込んで構える。

 

 

「変身ッ!!!」

《Come on!!》

《Let's try エース!!》

 

「来いッ!! 陽奈ッ!!」

 

 

 そして2人は同時に走り出し、凄まじい勢いで拳を打ちつけ合う。

 初代エースと現代エースの戦いがここにて始まった。

 

 

「はぁぁぁっ!!」

 

「ふんっ!!」

 

 

 エースは巧みに月火の攻撃を躱しながらエースガモスボウを取り出して、矢を放って距離を取り、背中から羽を展開して大空へと舞う。

 空に行くと月火が追ってこない事に気づく。どうやら見た目こそエースに近いが飛ぶ機能は備わってはいないらしい。

 これは好機とエースは上空から矢を放つ。

 

 

「やれやれ… ()()()()からといって、()()()()わけじゃないぞ」

 

 

 すると、月火は矢を紙一重で躱して脚部に力を込めていく。

 次の瞬間、月火の脚が赤く染まったかと思うと、エースの目の前にまで跳躍して見せた。

 

 

「う、嘘でしょ…!?」

 

「俺の方がやはり身体能力は上のようだな!!」

 

「しまっ…!!」

 

 

 そしてエースに向かって月火の強力なキックが浴びせられる。

 あまりにも突然の事にエースは防御もできないまま食らってしまい、そのまま地面へと落下する。

 

 

「…… いったぁ… さすが父さんね」

 

「まだまだ現役で行けるな」

 

「ふふっ…… でも、負けないわよ!!」

 

 

 エースと月火の激しい攻防戦の最中、急にパチパチと手を叩く音が聞こえ、2人は振り返る。

 そういえばここが駐車場だという事を忘れていた。一般人が来てしまったのかと思ったがどうやら違うらしい。

 

 

「あなたは… って楓ッ!!?」

 

 

 そこには楓が何者かに拘束され、拘束を解こうと抵抗している姿が見えた。

 

 

「あなたは一体誰よ!! 楓に何をするつもり!?」

 

「…… くくっ、いやはや面白い事になってますねぇ! 初代エースと現代エース。なんともスペシャルなマッチングではありませんか!」

 

「さっさと答えなさい!! じゃないと…」

 

「… と、どうなります? もしあなた方のどちらかでも動いたら、この子の首をちょんと刎ねて殺してしまっても構わないんですけども?」

 

「こいつ…!!」

 

「おっと申し遅れました。私の名は『ヴォルペ』。班目さんの実験体第1号でございます」

 

「班目の?」

 

「はい、班目さんの実験体でございます。第1号と言っても私しかいませんがね」

 

「その1号さんが何の用よ」

 

「班目さんは私に素晴らしいお力を授けてくれました。しかし… 彼は死んでしまった。彼の願いを叶える為、私は今一度戦争を引き起こそうと思うのです!!」

 

「は…?」

 

「その為には…… この方をいただきます」

 

 

 すると、ヴォルペは拘束していた楓の口から身体を液体にようにしてぐにゅりと中に入っていく。

 楓も中に入ってくる異物に苦しそうにもがいている。

 

 

「まずい…!! 陽奈ッ!!」

 

「わかってるわ!!」

 

 

 これは思っている以上にまずい状況だと2人は判断し、ヴォルペに呑まれそうな楓の元へと走り出す。

 だが、数十m離れた距離では間に合うはずもなく、楓の身体の中にヴォルペは自分を全て入れ終わった。

 楓が自分の首を掴んで苦しそうに枯れた声で何かを言っているが、その声を聞き取る事はできず、次第に彼女は静かになってダランと腕を垂らす。

 

 

「楓…?」

 

「…ッ!! 離れろ陽奈ッ!!」

 

 

 急に大人しくなった楓に、わかってはいるものの不意に近づこうとしてしまったエース。

 何かを察しそれを止めようと月火が動き出した瞬間、楓の身体から触手のようなものが浮き出てきて2人を弾き飛ばした。

 

 

「こ、これは…!?」

 

 

 すると、楓はポーカドライバーを取り出し腰に装着する。その時カードを取り出すわけだが、本来ハートの絵が描かれているのに対し、楓が取り出したのはハートが真っ二つに割れており、暗い紫色に変わっていたのだ。

 

 

「エースさん。あなたが班目さんにトドメを刺した…… 私は非常に不快に思っていますが、不快でもないんです」

 

「は…? どういうことよ」

 

「私自身が実験体にされた時、それは最早私は怪人としての誇りを捨てる事になります。それに班目さんのような方が何もなしに、私のような貧弱な怪人を弄りたがるはずがない」

 

「だったらどうして…」

 

「どんな理由であれ、彼は了承し私を強くしてくれた。もうヴォルペというジェスターは実験体1号という名になりました。不快点と言えばそこです。私が私でなくなった事…… ですが、そんな事もうどうだっていいんですよ。私はこうして強くなれた。それだけでいい…… では、始めましょうか」

 

 

 そして楓に寄生したヴォルペはそのカードをポーカドライバーに差し込み、ドライバーの両側を持って構える。

 

 

「…… 変身ッ…!!」

 

 

 掛け声と共にポーカドライバーを展開すると、クイン同様目の前にハートの絵柄が現れるが、ハートは真っ二つに割れてヴォルペを挟み込む。バキバキという音を立てながらアーマーが展開され、ヴォルペは新たな仮面ライダークインヘイトハートウェポンへと変身した。

 

 

「紫の… クイン…」

 

「くくくっ…… この姿、たまりませんねぇ」

 

 

 美しさが際立つのクインとは違い、この紫色のクインは禍々しさはあるが、何処となく美がある。人を引き込んでしまいそうな美なのだ。

 ファンタジー世界で悪の女王というのなら、まさにこのクインこそ当てはまる見た目をしている。

 

 

「それではまずは変身解除させましょう」

 

「変身解除…?」

 

 

 その時、クインは杖を取り出し天へと掲げて雷雲を召喚する。

 そして雷雲をとてつもない大きさまで成長させると、杖をクイッと傾けて凄まじい破壊力を持つ雷をエースと月火へと直撃させた。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

 

 ヴォルペの言った通り陽奈は変身解除まで追い込まれてしまった。

 あまりの衝撃に膝をつくと、クインは追撃と杖の先に火球を溜め始める。

 

 

「それではエースさん…… 長い間お勤めご苦労様でした」

 

「くっ…!!」

 

 

 火球が陽奈を簡単に包み込めるほど巨大になると、ヴォルペはニヤリと微笑み発射した。

 陽奈は逃げることができない。どうにかして避けようにも身体に力が入らないし、この距離で避ける事などそもそも不可能だ。

 頭の中で回避手段をその数秒間で考えいるものの、何を考えて間に合うはずがない。もうダメだと目を瞑る。

 

 

「──── え?」

 

 

 そして火球が陽奈を包んで爆発し、ヴォルペはこれで燃え死んだと確信していた。

 しかし、爆炎の中で立つ何かが見えた。先ほどあの女は立つことすらできなかったのにそんな事があるのか。これが人の意思の強さかと思っていたが、どうやらそれは陽奈ではないようだ。

 

 

「がはっ……!!!」

 

「父さん…… 父さんッ!!!」

 

 

 父は自分を庇ったのだ。自分を守る為に父は火球をその身で受け止めた。

 陽奈は父が倒れそうな所を何とか脚に力を入れて受け止める。

 

 

「そんな父さん…!!」

 

「陽奈… 無事か?」

 

 

 あの火球を受けた月火の身体は焼け焦げ、見てわかる通りもう限界だろう。

 ヴォルペはその姿を確認し、陽奈を殺せはしなかったが、それ以上に精神的なダメージを与えられたことに喜んだ。

 

 

「私はこれにて失礼しましょう。私を殺したければ栄須市の近くの森林へおいでください。そこで最終決戦という事で────」

 

 

 そしてヴォルペは闇の中へと消えていった。

 陽奈は月火を再び目線を移し、その姿に涙する。

 

 

「私なんか庇ったから…」

 

「お前の親友に人殺しなどさせてたまるか… それに俺の身体はもう限界だった」

 

「え…? それってどういうこと?」

 

「…… 元々俺の身体はボロボロだった。こんな化け物のような姿はただのツギハギだらけの人形に過ぎない…」

 

「つまり父さんが私の消して欲しいって頼んできたのは…」

 

「娘の手で死にたかった。いや、そもそも死んでいた人間、怪人かどうかもわからない化け物が生きててはいけない。命に対する冒涜だ」

 

「…… 違うわ」

 

「なに?」

 

「父さんは理由はどうあれ生きてた。それでいいじゃない… 生きてちゃダメなんて言わないでよ。私はまだずっと一緒にいたいのに…!!」

 

「陽奈…… ふっ、大きくなった。本当に… お前が俺の最後を見届けてくれるだけでも嬉しい」

 

「父さん……!!!」

 

「今は何故か苦しくないんだ。とても幸せな気持ちだ…… 陽奈。生まれてきてくれてありがとう。お前は俺の自慢の娘だ。だから… お前は今やれるべきことをやれ」

 

 

 すると、月火は自分の身体に手をねじ込み、その身体から異物を取り出した。

 それはマスタースペイドフィードと形は似ているが全く違うアビリティズフィードであった。

 月火は陽奈にそれを託しニカッと笑う。

 

 

「愛してるぞ、陽奈」

 

「ねぇ… 父さん」

 

「なんだ?」

 

「私は仮面ライダーエース。父さんの娘だから」

 

「……… あぁ」

 

「愛してるわ… 父さん」

 

「あぁ、任せたぞ…… 陽奈───────」

 

 

 そして月火の身体は砂のように崩れ、その場から跡形もなく消えてしまった。

 陽奈は立ち上がり涙を拭うと目の色を変えた。それは憎しみの目ではなく、初代から受け取った二代目の意思を感じさせる決意を固めた目であった───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 ここはかつて稲森と班目が死闘を繰り広げた場所である。所々にまだその時の傷跡が残ってはいるが、小さな木々が芽吹き始めているようだった。

 その場にヴォルペは立っていた。

 

 

「……… 来ましたか」

 

 

 ヴォルペは班目のようにニヤリと笑う。

 何処となく奴に似ている。好都合だと陽奈は思う。

 それから陽奈は真っ直ぐな瞳でヴォルペの前に佇む。

 

 

「おや? 自分の父親が死んだので泣き喚いているかと思いましたが… どうやら中々の精神力をお持ちだ!」

 

「黙りなさいこの狐…… あーあ、あんた見てたら虎の威を借る狐ってことわざを思い出したわ。その喋り方は班目のつもりかしら? やめときなさい。あいつは鬼才だったからいいけど、あんたがやるとただの馬鹿にしか見えないわよ」

 

「おやおや? 挑発ですか? 私がその程度で乗っかるとでも?」

 

「あらあら? もう反応しちゃったのかしら? 班目だったら『お褒めいただき光栄です』って簡単に流すわよ。真似するんだったらもう少しあいつの理解深めた方がいいと思うけど? まぁ無理よね。あんたみたい馬鹿じゃ───」

 

「… うるせーよ」

 

「え? なに? 聞こえなわよ〜」

 

「うるせぇって言ったんだよこの餓鬼ゃっ!!! てめぇみてぇな生意気な野郎は初めてだぜっ!!! てめぇが地面に頭を擦り付けて謝ったとしても殺すッ!!! 俺に泣いて詫びたとしても殺すッ!!! つまりてめぇをぶち殺すッ!!!」

 

「相手の優位に立ってる時だけ。語彙力皆無ね全く… ま、本性が出てやりやすくなったわ。楓を返してもらうから」

 

「やってみろこのど阿保が。この女は俺の一部。俺を倒せばこの女も死ぬ。親の次はお友達かお嬢ちゃんよぉ?」

 

「はいはい遠吠えはやめて。なんの勝算もなしに来るわけないじゃない」

 

「何だと?」

 

()()()よ。超強いカードが私の手札に回ってきたのよ」

 

「何言ってんだお前?」

 

「……… 父さん。力を貸して…!!」

 

 

 陽奈は腰にエースドライバーを装着すると、先ほど月火から託されたアビリティズフィード「ジョーカーフィード」を起動させる。

 すると《切り札!! ジョーカー!!》という音声が流れ、それをアベンジドライバーに装着する。

 

 

《ジョーカー!! Open!!》

 

 

 そして陽奈は構える。

 父の残したこの力で楓を救い出す。班目の残したものをこの手で倒す。世界の平和を守る為に。

 想いを胸に陽奈は叫ぶ。

 

 

「変身ッッッ!!!!!」

 

 

 エースドライバーの側面を押し腕を広げると、エースの身体にアーマーが装着されていく。

 見た目はスーパーハードウェポンを白黒にし、禍々しさを強調しているかのように思えるが、この形態ではそう言った禍々しさを感じさせず、パーツは所々に刺々しくはなく、それでいてスマートで女性らしさがある。

 

 

《Come on!!》

《Let's try!! ジョーカーエース!!》

「行くわよ…… どっちがバカか教えてあげる」

 

「黙れッ!!!」

 

 

 エースに突っ込んだヴォルペだったが、気づいた時にはエースに殴られていた。

 

 

「い、いつの前に…!!?」

 

「ほら、遅いわよ」

 

 

 次の攻撃がいつ来てもいいようにと周囲を見渡すヴォルペ。

 だが、そんな事をしようとエースは常に後ろへ立っている。凄まじい速度だ。

 

 

「後ろよ」

 

「えっ…… うぎゃっ!!」

 

 

 エースの回し蹴りを食らわされたヴォルペは思わず地面に膝をつく。

 実はこれはフェイク。ヴォルペはただやられたわけではない。あの攻撃は完全に楓を気にかけてのものだった。どうやらエースは本気で戦っていないらしい。

 これはシメたとヴォルペは無防備にも手を広げてエースの元に歩み寄る。

 

 

「おい、ほらやってみろよ。俺を殺したいんだろ? あ?」

 

「……?」

 

「な、なんだよ。俺をぶっ飛ばしたいんだろ!?」

 

「…………? そうね。確かに」

 

「だけどお前は俺に攻撃はできない… お前が俺にタコ殴りにされるってなら話は別だが…… なっ!!?」

 

 

 全て言い終える前にエースのパンチが顔面を捉えて吹き飛ばす。

 今のは本気で殴ってきた。何なんだこの女は、この女の心配をしているんじゃないのか?とヴォルペは思う。

 

 

「ホントさっきまでのキャラ作りの方がよっぽど良かったわね。今じゃホントに弱いジェスターね」

 

「弱いジェスター…? だと?」

 

「えぇ、私が戦ってきた中でもダントツ」

 

 

 その瞬間、ヴォルペの怒りは爆発した。

 ヴォルペは杖を掲げて雷雲を呼び出した。雷雲は先ほどエース達が受けたものより更に大きい。

 

 

「これで終わりだ… エースゥッ!!! 俺が弱いだとふざけやがって!!! てめぇ絶対に殺してやるからなぁッ!!!!!」

 

「楓、待ってなさい。今からそいつ剥がすから」

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」

 

 

 そしてヴォルペの怒りの雷撃がエースに浴びせられる。

 パッと見ただけでは直撃したであろう攻撃は、エースには何も当たってはおらず、寧ろそれを簡単に避けてヴォルペの元まで向かっていた。

 

 

「な、何だって…!!?」

 

 

 それからエースは再びヴォルペを蹴り飛ばす。蹴り飛ばす瞬間、エースの足元からエネルギーが溢れたかと思うと、楓とヴォルペが2つに分かれてしまったのだ。

 エースは気絶している楓を抱えて後退し、ソッと地面に下ろす。

 

 

「え、いや…… 何だこんなことにっ!!?」

 

「あんたどうせ何したって聞くから言っとくけど、私にもわからないわ」

 

「は…?」

 

「つまりは奇跡の力って奴よ」

 

「ふざけんなッ!!! この野郎調子乗りやがって…… そうだ、戦争を起こしてやる!!! 班目さんがやれなかった事を俺がッ!!!」

 

「あんたみたいな奴にできるわけないでしょ。それにもう…… いいでしょう。終わりよ」

 

「終わりだと? 終わらせてたまるか…… せっかくここまで来たんだ。お前を殺して必ず成功させてやるッ!!!」

 

「こっちのセリフよ。このクソ野郎ッ!!!」

 

 

 それからエースはエースドライバーの側面部を押して上空高くへと舞い上がる。

 ダッシュフィードのように白と黒の美しく巨大な羽を生やし、そのままヴォルペに向かって急降下する。

 

 

《Thank you!! ジョーカーエースライド!!》

「これが正義の一撃だぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

「こんな… うわぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

 

 ヴォルペは腕を前に出し抵抗しようとしたが、その行為は虚しく、エースのライダーキックが胸部に直撃し、ズルズルと押されながら壁に激突して爆散する。

 

 

「班目さんッ…!!! 俺も今そちらに向かいますから…!!!──────」

 

 

 最後までヴォルペは班目の幻影を追い続け消えていった。

 陽奈は変身を解除し、よろよろと地面に倒れ込む。このジョーカーウェポンかなりの力があるようで変身後の反動は息切れを起こす。

 

 

「はぁ… はぁ……… はぁー……」

 

「…… 陽奈」

 

「ん? あ、楓気がついた?」

 

「陽奈、これってどういう…」

 

「えっとね…… まぁ、いいじゃない。ぜーんぶ終わったわ」

 

「全部終わった?」

 

「えぇ、全部…────── やったわ、父さん」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「陽奈ァッ!! 次あっち行こう!!」

 

「はいはい。わかったから待ってなさい」

 

「僕らはまだゆっくりしていてもいいですよ」

 

「あぁ、お前らの買い物長い事くらい知ってるからな」

 

 

 あれから1週間。陽奈と楓、それから稲森とモグロウでショッピングモールで買い物をしていた。

 もちろん男2人は被害者である。ただの荷物持ちだ。

 

 

「… ったくよ。男を何だと思ってるんだか。なぁ、イナゴ?」

 

「まぁまぁ…… でも」

 

「でも?」

 

「なんか陽奈さん凄くいい笑顔だなって」

 

「そうか? いつもと変わらねーだろ?」

 

「そうかな?」

 

「女なんて作れるからな。裏がこえ〜ぞ〜…」

 

「……… モグロウ」

 

「あ…… いってぇ!!?」

 

 

 モグロウは陽奈ぶん殴られた。

 稲森は自然にスッと距離を置く。

 

 

「何処が怖いのかしら?」

 

「全部だよちくしょう…」

 

「ふふっ」

 

 

 そして陽奈は笑い、楓の手の振る方へと歩き出す。

 

 

「陽奈さん」

 

「ん? 何よ稲森」

 

「えっと…… その…」

 

「なによグジグジと… はっきり言いなさい!」

 

「えっ、あ、いや… 笑顔が可愛いですね」

 

「へっ…? あ、何よ急に!!」

 

「いやいや… 陽奈さん、何かありました? 表情が柔らかくなったもので…」

 

「…… んー、まぁ私にも色々あったのよ」

 

「色々?」

 

「そんなのどーでもいいでしょ! さ、次行くわよ次。楓が待ってるわ」

 

「はーい」

 

 

 誰にでも忘れられない過去。引きずってしまう過去はある。

 だけどいつまでもそれを想っていては前へは進めない。再び歩く為に一歩別の道へと進んでみればいい。

 また新しい未来が待っている───。

 

 

「── 楽しく行きましょ。ね?」

 

 

 そう言って陽奈はとびきりの笑顔を見せた───。

 

 

 仮面ライダーエース The end




今回登場したヴォルペ。彼は名の通り狐のジェスターですが、ジェスターの中でもひ弱でした。同じ反逆者の怪人達からもお前は弱いなぁと罵倒の嵐。そんな中、班目に出会って彼は懇願します。自分を改造でもなんでもいいから強くしてくれと。班目はそれを了承し、彼に寄生する能力を埋め込むのでした。
そしてジョーカーウェポン。これどストレートに分離させる力を持ってます。こんなどストレートでいいのかって話ですけど、これも言ってしまえば月火の想いが創り出した奇跡の産物って訳です。
…という補足です。後書きって補足とかする時に使えばいいんじゃ…?(3作終わってからの悟り)

という事で次回は本当の最終回です!!
最後もよろしくお願いします!!


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仮面ライダーアベンジ Jump to tomorrow

皆さんご無沙汰しております。

あらすじ
ヴォルペの思惑も陽奈の活躍により阻止され、再び世界に平和が訪れたかに思えた。稲森達の耳に入ったのは、ジェスター達が暴れているという情報。平和になっと言えど反逆する怪人が全員いなくなったわけではない。急いでその場に駆けつけると、そこにいたのは怪人で人間のハーフであった。そして稲森はその怪人からライダーに変身する力を奪われてしまい…

それでは後編で本当に最後の仮面ライダーアベンジをどうぞご覧ください。


 もう1ヶ月、いや2ヶ月か。あれから数ヶ月は経っているだろう。

 この世界に平和が訪れて、長いようで短い月日が流れていた。たった数ヶ月と言えど、戦争からそれ以上前の怪人と人間のいざこざが絶えないあの日と比べれば、今となってはありえない光景だろう。

 それを差し向けたのが、1人の男によってなんて信じられるだろうか。

 そんな平和となった世界で、人間と怪人たちを平和へ導いた男がまた1人、街をぶらぶらと友を連れて歩いていた。

 

 

「陽奈さんの例の話聞いた? モグロウ」

 

「突然どうしたイナゴ。例の話ってなんだよ」

 

「あれだよ。狐の怪人の」

 

「あぁ、あれな。ねちっこい反逆者共の1人だろ? 確か名前は…… ヴォルペだ。全くやっぱりなって感じでねちっこい反逆者共が未だにイライラしてらっしゃるようだ。平和になってもそういう奴らは1人や2人いるもんだな」

 

「でも日常ってこんな感じじゃない?」

 

「日常たってお前と俺は条約撤廃前だから差別的な仕打ち受けてたぞ」

 

「もうモグロウもねちっこい事言って」

 

「お、俺は違うぞ断じて!」

 

 

 こんな感じで稲森とモグロウの2人は怪人も表立って出れるようになった平和な街を特に予定もないまま歩いていた。

 

 

「あーあ、仕事も入れたはいいものの遊べる時間が無くなるなぁ…」

 

「まぁまぁ、こうしてたまの休日を楽しめるんだからいいじゃない」

 

「確かにそうだけどさ… って、お前はまたコンビニか?」

 

「あ、うん。店長さん本部の人になったらしくて、僕の事を聞いてまた入れてくれたんだ」

 

「栄須市に最近できたあそこのコンビニだろ? 開店して間もないってのもあるが、人の量スゲェよなぁ…… まぁイナゴがいるからなんだろうがな」

 

「え? 僕?」

 

「今じゃ仮面ライダーって言えば、陽奈とお前がアホみたいに目立ってるんだ。そりゃイナゴ目当てに来店してくるガチなファンがいるだろ」

 

「へーそうなんだ」

 

「…… 自覚なしかよ」

 

「自覚はないよ。だってそんな風に見えなかったし」

 

「あー… 例えば?」

 

「握手して下さいとかサイン下さいとかそれから───」

 

「… 無性に腹が立ってくるのは俺だけなのか…?」

 

 

 それをファンだと気づかない稲森にため息を吐くモグロウ。

 そんな稲森の元に突然連絡が入る。

 

 

「ん? 携帯鳴ってんぞ」

 

「あ、うん。誰だろ」

 

 

 稲森は電話に出ると、その電話の相手は陽奈であった。彼女はとても急いでいるようで電話越しからも焦りが見える。

 

 

「--- 稲森!? あなた今どこにいるの!?」

 

「今は適当にそこら辺を…… それよりどうしたんですか!?」

 

「--- 栄須市の大きなビルあるでしょ? あなたから見えるくらい大きいやつ!」

 

「…… あ、はい! 見えます!」

 

「--- そこでジェスターたちが暴れてるって話しなの! すぐに向かえる!?」

 

「はい! 陽奈さん達は?」

 

「--- 私たちはもう向かってるから現場で合流しましょ!」

 

「わかりました!」

 

 

 それから電話を切ると、稲森はマシンアベンジャーを呼び出してそれに跨り、モグロウにも乗るように促す。

 

 

「陽奈の奴はなんて?」

 

「あのビルでジェスター達が暴れてるらしいから手を貸してだって!」

 

「了解! んじゃ行くとするか!」

 

「飛ばすよモグロウ!」

 

「おう!」

 

 

 2人はバイクに乗って急ぎビルへと向かう───。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 現場に着いた稲森とモグロウはバイクを止め、ビルの入り口まで近づくとそこには大勢の野次馬がいた。

 その奥の玄関口に陽奈と楓が警察と話しているのが見えた。

 

 

「陽奈さーん!」

 

「… あ、稲森。やっと来たわね」

 

「どうなってますか?」

 

「今は静かだけどこれは私たちを誘ってるかも」

 

「誘ってる?」

 

「えぇ、中にはまだ人や怪人がたくさんいるわ。何とか逃げてきたジェスター達でも太刀打ちできなかったって。あそこを見て」

 

 

 陽奈の指差す方向を見る稲森はジェスター達のボロボロになった姿を見て驚いた。

 救急車も来ているが、被害者が多いようでまだ乗れてないものもいるようだ。

 

 

「ジェスターまで…… 相手はかなり強いみたいですね」

 

「複数いるって話しだけど… それでも5人くらいって話よ。全くどうなってるんだか」

 

「…… とにかく行きましょう。まだ中にいる人たちを助けないと!」

 

「もちろんよ。みんな行くわよ!」

 

 

 稲森、モグロウ、陽奈、楓の4人は階段を登りジェスター達がいるという会議室まで向かう。

 その途中で人の悲鳴が聞こえ、4人は慎重に進んでいたが一気に駆け上り目的の場所へと到達する。

 

 

「…… ここね」

 

 

 4人が会議室の前まで来ると、陽奈が前へと歩み出て扉を開く。

 中に入ると数人が縛られて身動きが取れない状態にあり、外のものから聞いた情報通り相手は5人程度である。

 そのリーダー格であろう男が1人前へと出る。

 

 

「ふっ、やっと来たか」

 

「あなた達がこのビルを襲った怪人ですか?」

 

「その通りだが? 見てわからないのか?」

 

「見てって…」

 

 

 稲森はそのリーダー格の男の発言に違和感を持って仕方がなかった。

 何故ならそいつは話しに聞いていた怪人ではなく、どこをどう見ても人間にしか見えないのだ。

 

 

「何言ってるの稲森。あいつは怪人でしょ」

 

「… 何か違うんです」

 

「え? 人間に擬態してるだけでしょ? あなただってそうじゃない」

 

「違うんです陽奈さん…… あの人は()()()()()()()()()()んですよ」

 

「人間過ぎるって?」

 

「僕たちジェスターは確かに人間に擬態できます。でも、それは完全ではないんですよ。どこかしらに怪人の時の特徴が浮き出るんです。僕なら見ての通り触覚。モグロウなら鼻。ファングさんに至っても完璧ではありませんでした…… ここまで人間に近い形を出せるなんてあり得ないんです」

 

 

 その話しを聞いてリーダーの男は笑い首を回して懐に手を入れる。

 

 

「くくくっ、察しがいいな。お前の言う通り俺は怪人であって怪人じゃない」

 

「じゃあ何だって言うんですか…?」

 

「俺はハイブリッドなんだよ。あの班目と同じでな」

 

「班目と…… っ!? つまりあなたは人間のっ!?」

 

「人間の細胞の細胞を取り込んだ怪人…… いや、もっと細かく言うなら人間と怪人の間にできた生物と言ったところだな。まぁ班目よりかは血が濃いな」

 

「人間と怪人のハーフ……」

 

 

 今は人間と怪人の結婚に関しては改正されたと言えど、昔はそんな事を許されなかった。見つかったらその人間と怪人は殺され、子供がいればその子供ごと殺されてしまう。

 今でも結婚する事についてはなんの問題もないが、子供を作るということに関しては未だに議論が続いている。

 本当ならタブーなのだ。

 

 

「── 俺の親は殺された」

 

「…っ!!」

 

「お前達も知っての通り、昔も今も人間と怪人の間で子を授かることはタブーだ。それでも俺の親はそれでも愛し合ってしまった。どれだけ世間が苦い顔をしようが関係なく、2人の愛は決して切れるものではなかった…… だが、そのお陰で2人は殺された。まだ小さい俺を残してな」

 

「そんなあんまりだ…」

 

「同情してくれるのか? やめろ。俺は別に同情されたい訳じゃない」

 

「でも……」

 

「だから俺は許さない。俺の両親を殺ったこの世界を。何が平和だ。今更平和になって何になる? それをやっても俺の親が帰っては来ない」

 

「だからってこのビルを襲ったんですか?」

 

「お前は言うだろうな。憎しみは憎しみしか生まないと。悲劇の連鎖だと… それがどうした。それでも俺は納得がいかない。世間が勝手に平和になっただけで、俺たちのようなジェスターは今尚な事苦しんでいるんだよ…!!」

 

「苦しんでいるのはみんな同じです!! 確かにあなたの言い分もわかります!! だけど、今度はあなたが両親にされた事をやっているだけになるんですよ!? あなたもその人たちと同じ様になってしまうんですよ!?」

 

「… 黙れ。お前達には一生わからない。いや、それでもわからせてやる。俺の絶望を… 怒りをな!!」

 

 

 すると、その男は懐からドライバーを取り出して腰に装着する。

 

 

「そ、そのドライバーは!!?」

 

《リベンジドライバー》

「俺の名は『リザルド』。この世界に復讐する男だ」

 

 

 それからリザルドはもう一つ懐からアビリティズフィードを取り出す。

 アベンジドライバーに似たリベンジドライバーに、そのアビリティズフィード「ヘイトリッドフィード」を差し込み構える。

 

 

「変身ッ…!!」

 

 

 一言そう言うと、アベンジドライバー同様にリベンジドライバーの口を閉じて変身する。

 

 

《Tasty!!》

《 I'm an revenge world revenge!!》

《START!! リベンジ!!》

「─── お前の力を貰うぞ」

 

 

 仮面ライダーリベンジへと変身したリザルドは、変身と同時に生成された剣を握り稲森に振り下ろす。

 稲森はそれをなんとか避けながらアベンジドライバーを腰に巻きつけ、ジャンプフィードを差し込む。

 

 

「変身ッ!!」

《START!! アベンジ!!》

 

 仮面ライダーアベンジジャンプウェポンへと変身する稲森。

 剣を脚で受け止めてリベンジを蹴り飛ばす。

 

 

「僕の力を貰うって一体…」

 

「やるなアベンジ…… だからこそその力が必要だッ!!」

 

 

 そしてリベンジは再びアベンジに剣を振り回し、今度は隙のない剣捌きで追い詰めていく。

 

 

「全く何してるのよ!! 楓!! モグロウ!!」

 

「わかってるよ陽奈ッ!!」

 

「待ってろイナゴ!! 加勢するぜ!!」

 

 

 3人はそれぞれ腰にドライバーを巻き付け変身シークエンスを行い、仮面ライダーへと変身し、アベンジを助けようと前へと飛び出るが、仲間の4人が怪人態となりそれを邪魔する。

 

 

「邪魔よ!!」

 

 

 会議室内で激しい戦闘が行われ、ついには壁を破壊しビルの上から全員飛び降りる。

 すぐさま着地して戦闘を再開する双方。アベンジはリベンジの剣を真剣白刃取りし、受け止めるものの力の差はリベンジに軍配が上がる。

 

 

「ぐぅ…!!」

 

「そんな力じゃ俺には勝てないぞ!!」

 

「ならッ…!!」

 

 

 アベンジは力を抜いて力を入れていたリベンジのバランスを崩してから蹴り飛ばし、エスポワールジャンプフィードを取り出した。

 

 

「それだ… それを待っていた!!」

 

 

 それからアベンジはジャンプフィードを抜いて、新たにエスポワールジャンプフィードを差し込み上部を叩く。

 アベンジがエスポワールへと姿を変え、リベンジに向かって強力なキックを直撃させる。

 

 

「がはっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

 

 リベンジが全く手を出さないほどの連続キック。アベンジの脚力は彼の数倍とあるだろう。通常では彼には絶対に勝てない。

 やはりこの勝負もすぐに終わってしまうかに思えた。

 

 

「…… はっ」

 

「ん?」

 

「ここまで近くに来てくれたのは助かる…」

 

「なに? 一体どういう事で───」

 

 

 突然、リベンジはアベンジのキックを全身を使って掴み、アベンジは片足を封じられてしまった。

 しかしこれだけではもう一本の脚で蹴りを見舞われてしまうのだが、リベンジからしたらこれでいいのだ。

 

 

「ようやくだ。ようやく俺の計画は満たされる」

 

「な、なんだッ…!? 力が…!!」

 

 

 すると、アベンジは段々と力が抜けていき、リベンジの身体を徐々に赤くしていく。

 そしてついには稲森の変身が解けてしまい、地面へと倒れてしまった。

 

 

「稲森ッ!!」

 

「稲森さん!!?」

 

「おいマジかよイナゴッ!!」

 

 

 それを見て驚いたエースたちはその隙を突かれて他の怪人達から放たれたエネルギー波によって吹き飛ばされて変身が解除してしまう。

 

 

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」」」

 

 

 全員が倒れた所でリベンジは陽奈の元へ近づき、彼女の頭に手を当てる。

 

 

「これで良い… これでな」

 

 

 リベンジは稲森同様に陽奈からもエネルギーを吸い取っている。

 どうやら彼が触れると対象のものからエネルギーを吸収するという能力が備わっているらしい。

 ある程度吸収し終えると、リザルドは変身を解いてニヤリと笑う。

 

 

「… 終わりだ。お前達はお前達のライダーの力により崩壊する」

 

「まさか僕の力を……」

 

「アベンジから半分。エースからも半分。半々の力を融合させる事によって、俺は新たな力を手に入れる。そしてこの腐りきった世界を破滅させる」

 

「そんな事させる… かっ!!」

 

「やめておけ。半分と言えど力を失ったお前は変身できない。力を取り戻すにはそれなりの時間が必要だが… 果たして俺はそう待ってはくれるかな?」

 

 

 高笑いをしながらリザルドは何処かへと消えていった────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 翌日、陽奈の実家にて消えたリザルドの行方を追う為、疲労や痛みに耐えて情報を掻き集めていた。

 皆が怪我を負う中での作業なので辛いものだが、奴らの目的を阻止しなければならない。

 稲森と陽奈はまず何故奴らがあのビルを最初に襲ったのかを考えた。

 

 

「リザルドなんであのビルを襲ったんでしょうか。確かにあのビルは栄須市でもかなり目立つビルですし… 現に僕も度々見た事がありました。自分たちの存在を知らしめる為なら十分な効果が期待できます」

 

「そして私たちの力を奪ったのは世界に復讐する為…… 誘い込まれたのはわかってるんだけど、それ以前に何を理由にあそこを襲ったのかよ。あのビルにあいつらが欲しい物なんて………… あっ」

 

 

 その時、陽奈はそのビルの噂を思い出し、稲森の方はリザルドの持っていた謎のドライバーを思い出した。

 

 

「そうだ! リベンジドライバー!」

 

「… そういえばあのビル前からリゲインの誰かが出入りしてるって噂が立ってたのよ。本拠地以外の別の場所があったとするなら… ちょっと調べてみる必要があるみたいね」

 

「奴らの手がかりも掴めるかも知れませんね!」

 

「行くわよ稲森。あいつらの野望をぶっ壊してやるんだから!────」

 

 

 ─── 楓を家に待機させ、稲森と陽奈は例のビルへと足を踏み入れる。一方のモグロウは外で見張りをしてくれている。

 中には人はいない。陽奈が手を回してくれたおかげで誰もその場には近づけず、中にいるのは稲森と陽奈の2人のみである。

 2人はビルの中を探索し始め、壁や床に仕掛けがないかこと細かに見て回る。

 

 

「なんかあった?」

 

「… いえ、こっちには何も」

 

「はぁ… まぁそうよね。そう簡単に見つかる場所に隠してるわけないし…」

 

「………… 陽奈さん」

 

「なに?」

 

「僕、ここら辺を破壊してみます」

 

「… え? あなた何言ってるの? ライダーの力が有ればどうにでもなるけど、今のあなたじゃ…」

 

「陽奈さん。僕の種族忘れていませんか?」

 

「… あっ、ごめんなさい。忘れてたわ」

 

「忘れてたって… でも、なんか嬉しいです」

 

 

 稲森の身体は徐々に変化していき、みるみるうちに怪人の姿へ変身する。見た目はあの稲森からは想像つかないほど生物みがあり恐ろしいが、不思議と陽奈にはそう言った怖いという感情は出てこなかった。

 

 

「一気にやっちゃいなさい」

 

「はい」

 

 

 そして怪人態の稲森は両足に力を込めて縦横無尽にビルの中を飛び回りながら壁や床を破壊していく。

 とてつもない音が外に響き渡りモグロウも何があったと驚いているようではあるが、稲森は気にせず次々と破壊し続けた。

 

 

「…… これは弁償以前の問題だけど、この状況なんだから許してくれるわよね」

 

「─── っ! 陽奈さん! ここに何かありますよ!」

 

「良くやったわ稲森ッ!」

 

 

 稲森が破壊した壁の中からいかにもという階段が出てきた。どうやら地下に続いているようだ。

 それから稲森は人間態へと戻り、陽奈と共に階段を降りて行く────。

 

 ──── 暫くして小さな空間に辿り着いた。周りは暗く何も見えない為、壁を叩いながら歩いていると、手にこの部屋のスイッチだろうものが当たり稲森は押してみる。

 すると、部屋に灯りがつき部屋の全貌が明らかとなった。

 そこにはどこにも繋がって部屋が一つあり、そのままの状態で埃まみれとなった機械類が置いてあった。

 

 

「リゲインのアジトって言うよりは研究室みたいですよね… ここってまさか──」

 

「班目辺りが使ってたやつかもね…… 電気も通ってる事だし、パソコンもあるし、ちょっと見てみようかしら」

 

 

 陽奈は部屋にあったパソコンを弄り、何か情報がないかと探っていると、とあるファイルに目が止まり、開いて中を確認する。

 

 

「稲森」

 

「はい?」

 

「リベンジドライバーについて載っているわ」

 

「えっ!? 本当ですか!?」

 

「…… 『リベンジドライバーとはアベンジドライバーの前に制作された試作品。これに改良を加えて完成品にしようとした所、まるでそのドライバーは生き物のように装着者を喰らい尽くした』」

 

「装着者を… 食った? どういう事なんですか?」

 

「えっとね… 装着したものの魂を喰らうって書いてあるわね。詳しい事は載ってないけど、あのドライバーとんでもない欠陥品じゃない」

 

「あの吸収能力についてはありますか?」

 

「あれは純粋にリザルド自身の能力なんじゃない? だけどあそこまでってなるとこのドライバーが力を増幅させた可能性もあるわね…」

 

「リベンジへの対抗手段とかって?」

 

「リベンジ自体はエスポワールに劣るといっても、吸収能力が厄介だからどうしようも………… ん? もしかしてこれって…」

 

「陽奈さん?───」

 

 

 その瞬間、ビルが揺れ始め2人は思わず倒れてしまう。

 

 

「な、何があったの!?」

 

「この揺れは……」

 

 

 稲森たちは状況が理解できない中で、稲森の携帯に着信が入る。電話に出ると声の主はモグロウだった。

 

 

「どうしたのモグロウ!? 外でなにかあった!?」

 

「--- あぁ、やべぇぞ!! あのリザルドの野郎どもが動き出した!! 今、外はパニックで市民の救助中─── ぐっ…!!」

 

「モグロウ!!?」

 

「--- 大丈夫だ畜生!! そっちはどうだ!?」

 

「こっちは……」

 

 

 その事態を稲森の表情から察した陽奈は送り出そうとするが、その前に彼を引き止める。

 

 

「ん? どうしました?」

 

「ジャンプフィード貸してもらえる?」

 

「ジャンプフィードを? どうして…」

 

「どうせ今使ったところで意味ないでしょ。それに私がただで貸してって言うと思うの?」

 

「… わかりました陽奈さん!」

 

「はいはい。じゃあ暫く頼んだわよ!」

 

 

 稲森は頷き、再び怪人態へと姿を変え、外へと飛び出した────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 モグロウは仮面ライダージャックへと変身し、街の崩壊から市民の盾として動いていた。

 街の方はリザルドの仲間である4人の怪人が、市民がいようか同士である怪人だろうが関係なく襲っている。

 

 

「くそっ!! あいつらッ!!」

 

 

 あちらは4人で一般的な怪人であるにも関わらず、抵抗を見せる怪人達すら圧倒的な力でねじ伏せている。数十人で取り囲んでいるのになんて強さなのだろう。

 

 

「やべぇ… このままだと犠牲者が増えて行く一方に…!!」

 

 

 すると、頭上が急に暗くなり始め、ジャックは何事だと空を見上げる。

 空には真っ黒な雲が出現し、ゴロゴロと雷の音が鈍く響き渡る。一部だけこんな天候になるのはおかしいと思うがそれもその筈だ。

 これはクインが作り出したエネルギーの塊なのだから。

 

 

「楓か!?」

 

「ごめんなさいモグロウさん!! 私の方もようやく怪我をした人たちの軽い治療とかしてたから遅くなっちゃいました!!」

 

「いや、来てくれて助かるぜ!!…… んじゃあ、でかいの1発頼むぜッ!!」

 

「ガッテンです!!」

 

 

 そしてクインは杖を手下の怪人達へと振るうと、雷雲が黄色に光り輝き、次の瞬間にはとてつもない威力を持った雷撃が怪人達を包み込む。

 

 

「ナイス!! よし、これでトドメと行かせてもらうぜぇ!!」

《RAISE!! ジャックドロップ!!》

 

 

 ジャックはポーカドライバーを閉じて開き、両足で天高く飛び上がると、アベンジのキックを真似るように右脚にエネルギーを纏ってライダーキックを放つ。

 

 

「おらぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 

 手下の怪人達はその場から逃げようとしたが、身体が痺れて思うように動けず、ジャックのライダーキックを避ける事ができずに纏めて食らってしまった。

 凄まじい爆発を引き起こすが、怪人達は死んではおらず瀕死状態となって全員倒れてしまう。

 

 

「…… よっしゃ!! これで後はリザルドの野郎1人だけだ!!」

 

「お疲れ様ですモグロウさん!」

 

「助かったぜ楓… にしても、イナゴの奴は大丈夫なのか…?」

 

「え? 稲森さんはどこに?」

 

「リザルドの所に向かった」

 

「…… えぇ!!? 変身できないんですよ!!? これじゃあサンドバッグになっちゃいますって!!」

 

「俺もそう言ったんだけどな…… まぁ、あいつならやってくれるだろうよ」

 

「ライダーの力なしにですか…?」

 

「俺はライダーが云々なったばかりだからなんとも言えないけどよ… イナゴは仮面なんか被らなくても仮面ライダーだと思うんだ」

 

「…?」

 

「わからなくていい。俺もよくわからなくて言ったからな。つーか陽奈はどこに行ったんだ? さっきから連絡つかねーんだけど」

 

「私も陽奈がどうしてるかわからなくて… もう一度電話して───」

 

 

 その時、突然どこからともなく周りからウィンプジェスターの群れが現れ始めた。

 ウィンプジェスター達はジャックとクインを取り囲み、逃げる隙間をなくしている。明らかに支持されて動いているようだ。

 

 

「おいおいウィンプジェスターってマジかよ!!? 班目が消えたからもうないんじゃないのか!!?」

 

「隠し持ってたみたいですね… これ」

 

「さてよー… どうしたもんか」

 

 

 2人にジリジリと近づくウィンプジェスター達。

 数は多くともポーカライダーの2人ならば造作もないと、足に力を入れて構える。

 そしてウィンプジェスターの1人が飛びかかってきたが、その1人が何者かによって狙撃され地面を転がる。

 

 

「な、なんだ?」

 

「…… 敵が多いわね。楓かモグロウのどっちでもいいから私の護衛頼める?」

 

 

 それはエースガモスボウを持った陽奈であった。

 陽奈はもう片方の手にジャンプフィードを持っており、更にはそれと一緒にノートパソコンも持っていた。

 

 

「あ? なんだそれ。イナゴのやつじゃねーか」

 

「この揺れのせいで、とある事情でボコボコになった壁が崩れて来たのよ。あそこはもうダメね。とりあえず最後の秘策を持って来たから。これでリザルドに対抗できる」

 

「対抗するってもジャンプフィードで…」

 

「まだこれは完成してないの! さっき言ったでしょ崩れて来たって!…… とにかくこれを稲森に届けなきゃ行けない。あいつならきっとやれる筈だから」

 

「…… へっ、ならここは俺がなんとかする。楓は陽奈に着いて行ってやってくれ」

 

「モグロウさん…… はい! わかりました頑張ります! 行こう陽奈ッ!!」

 

 

 ここをジャックに任せ、陽奈たちは稲森が戦っている場所へと走り出す。

 

 

「… 何回も言いたいよな。ここは俺に任せろってよ。かっこいいだろ?」

 

 

 ジャックは指をポキポキと鳴らし、ウィンプジェスター達に突っ込んでいく─────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「待ってください!! リザルドさん!!」

 

「待ってくれと俺が頼んでも誰も待ってはくれなかった。そして両親は死んだんだ… こんなクソみたいな世界、俺がこの手で潰してくれる…!!」

 

 

 稲森は仮面ライダーリベンジに変身したリザルドを後ろから追いかけていた。

 しかし、スピード違いを見せつけられ圧倒的に距離を離されてしまう。

 

 

「リザルドさん!! あなたのやり方は間違ってます!! 今からでも遅くない!! やめてください!!」

 

「… 黙れ」

 

「リザルドさん!!」

 

「黙れと言っているッ!!!」

 

「しまっ……!!? うわぁっ!!!」

 

 

 リベンジを追う稲森だったが、リベンジの空を蹴った時に発生した衝撃波を喰らって吹き飛ばされてしまった。

 もう追ったとしても追いつかない。だが、彼が行く場所は分かっている。きっとあそこに向かう筈だ。

 

 

「…… 一旦、解こう……」

 

 

 そして稲森は怪人態から人間態へと戻り、深呼吸をして呼吸を正常に戻す。

 これは稲森が特殊という訳ではなく、人間の姿での生活が長かった為か、本来の姿である筈の怪人態よりも人間の姿の方が楽だという。

 暫く呼吸を整えていた稲森であったが、その時、背後から何者かの気配を察知して咄嗟に避ける。

 

 

「な、なんだ!?……… え?」

 

 

 その何かはジェスター… ではなく、全く違う何かであった。

 

 

「ジェスターじゃない…? お前達は一体なんだ…!?」

 

 

 何かはコウモリのような翼を広げ空へと舞い、上空から稲森を殺そうと襲いかかって来た。

 その攻撃を避け続けていた稲森だったが、途中数が増えていることに気づいた。

 

 

「え、そんなっ!!?」

 

 

 それらはケラケラと稲森を笑い始める。嘲笑うその表情と見た目からまるで"悪魔"のようだ。

 

 

「くっ…!!」

 

 

 やるしかないのかと構えたその時、再び背後から何者かが姿を現す。

 それは身体中に鍵穴のようなアーマーをつけ、禍々しい姿でありながら、稲森はそれが不思議と仮面ライダーに見えた。

 

 

「僕の後ろ取られ過ぎ… というか、あなたは…?」

 

「…………」

 

「あ、あの〜…」

 

「─── 俺は仮面ライダーメレフ」

 

「メレフ?」

 

 

 メレフは稲森を通り過ぎて、首だけ向けて言い放つ。

 

 

「悪魔の王だ」

 

 

 すると、悪魔のような怪人達はメレフ目掛けて飛びかかってくるが、メレフはそれを巧みにかわして殴り飛ばしていく。

 

 

「か、かっこいい…!!」

 

 

 次に手を空に翳すとそこに剣が召喚され、その剣で群がる怪人達を切り裂き、貫き、一網打尽にしていった。

 ファングは王としての風格を見せていたが、こちらも口で言ったとおり王という名に相応しい姿だ。

 

 

「終わらせるぞエイル」

 

「承知致しました。メレフ様」

 

 

 一瞬、女性の声が聞こえたかと思うと、メレフは腰に巻かれたドライバーの右側に付けられた鍵のような場所を捻り、剣にエネルギーを集中させる。

 

 

「─── 眠れ。悲しき悪魔よ」

 

 

 そして剣を振るうと一瞬にして怪人達の群れがその場から消滅した。

 あまりにも凄まじい光景に稲森は何も言えずに口を開けていると、メレフと名乗るその仮面ライダーは稲森に近づいてくる。

 

 

「な、なんでしょう!!?」

 

「この辺りにデモンティアが潜んでいる可能性がある。ここは任せてお前は目的を果たしに行け」

 

「デモンティア…? 今の怪人ですか?」

 

「さっさと行けと言ったぞ?」

 

「は、はい!! すみません!!…… あっ、ありがとうございました!!… また何処かで!!」

 

「… ふん」

 

 

 稲森は頭をこれでもかと深々と下げ、リベンジが向かってあろう場所まで飛び跳ねて行った。

 メレフはそんな姿を見送った後、大きなため息を吐く。

 

 

「メレフ様!? ど、どうかなされたのですか!?」

 

「い、いや、なんでもない。気にするな」

 

「あなた様にもしもの事があったらと思うと私は… 私は…!!!」

 

「わかったわかった… はぁ…」

 

「メレフ様…?」

 

「…… あぁ、エイルすまない。とにかくここを調査後、来た道を戻るぞ。いいな?」

 

「はい… 我が愛しの王────」

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「ここだ」

 

 

 稲森が辿り着いた場所は栄須市の端の方にある大きな塔だ。その形状はなんと因果か班目が製作したものと酷使していた。

 その塔の頂点にはリベンジが何か作業を進めている。

 

 

「リザルドさんッ!!」

 

「…… 来たか」

 

「もうこんな事やめてください!! あなたにならわかる筈です!! リザルドさんと同じように親を亡くした子達もいます。その子達はジェスター首領の戦争に巻き込まれたんです。あなたはそんな罪もない子達まで犠牲にするような方なんですか? 憎しみだけで簡単に他人の命を奪ってしまうんですか!!?」

 

「お前がいくら俺を止めようともう無駄だッ!! 俺はもう止まらない… ここまで来て止まることだけは絶対にしてはならない……!!! 俺に着いて来てくれたあいつらの為にもやらなければならない!!!」

 

 

 そしてリベンジは一瞬で稲森の元へと飛び、彼を掴み上げて近くの建物に投げ飛ばす。

 稲森は瞬間的に怪人態へと姿を変えるが、あまりの勢いに態勢を立て直す事ができずに直撃してしまう。

 

 

「うぐぅ…!!」

 

「悪には悪で対抗するしかない。俺はそう世間から学んだ。俺の考えはお前がどう諭そうと変わることはないッ!!!」

 

「… いつまでも過去を引きずって、それで他人を犠牲にしてもいいと? そんなのわがままだッ!!!」

 

「なにぃ…!!?」

 

「もう死んだ人は帰ってこない!! 皆んながそれをわかっているから命は大切なんだ!! リザルドさんが家族を殺されて許せないのはわかります。だけど、大切な命を今度はあなたの手で奪えば本当に次こそ戻れないんですよ? あなたはまだ戻れる位置なんです」

 

「俺はもう戻れない… 憎しみだけだ俺は動く!! 世界に俺の痛みを思い知らせてやる!!」

 

「じゃあ何故あの時、ビルの人たちを殺さなかったんですか?」

 

「…っ!!……… それは…」

 

「リザルドさんにだってある筈です。誰かを想う気持ちが… あなたがなりたくない自分にならない為の心がある筈です!!」

 

「…… 俺は…!!」

 

「リザルドさん… もう辞めましょう? 僕はあなたと争いたくない…!!」

 

「………」

 

 

 それからリザルドは暫く口を閉し、拳を握り締めて稲森に背を向けた。

 何が正しくて何が間違っているのか。そんな事、世間の誰もが教えてはくれなかった。

 だが、この稲森の話しを聞き、心から彼の言葉を聞き入れた。だから答えはもう出ている筈だ。

 

 

「… 名前は?」

 

「イナゴ…… いえ、稲森です」

 

「そうか…… 稲森。俺の答えは出た」

 

「リザルドさん…!!」

 

「ふっ───」

 

 

 その瞬間、稲森はくの字に曲がり吹き飛ばされ、建物を次々に崩壊させ、最後にぶつかった建物を貫通して地面に転がる。

 

 

「な… んで……」

 

「きひひひひ…… あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「え…!?」

 

 

 稲森は陽奈が言っていた言葉を思い出す。

 リベンジドライバーは装着者の魂を喰らう。これは誰がどう見てもわかる。リザルドはリベンジドライバーに喰われてしまったのだ。

 

 

「嘘だ… そんなっ!!」

 

 

 それからリベンジは塔の頂点まで再び登ると、何かのスイッチを起動させる。

 すると、空へとレーザーの様なものが放たれる。この光景は見た事がある。班目が隕石を落とした時と同じものだ。

 あの塔は酷使していたのではなく、最初からそうする為に作られていた。

 

 

「このままだと隕石が…!!…… どうすれば…」

 

 

 そしてふらふらとしながら立ち上がった稲森だが、やはり身体の力が思う様に入らず倒れてしまいそうになる。

 しかし、ちょうどそこへ陽奈がやってきて稲森を支えた。

 

 

「陽奈さん…!!」

 

「大丈夫? こんなゴツゴツしてるのに、流石にあの攻撃は効いたみたいね」

 

「…… すみません陽奈さん。リザルドさんはもう……」

 

「なーに諦めてるのよ。ほら、これ使って助けに行って来なさい」

 

「… これは?」

 

「ジャンプフィード改。またの名を『エースジャンプフィード』よ」

 

「エースジャンプフィード…… という事はまさか!!?」

 

「そう、私の力を入れてあるわ」

 

「でも、そんな事したら陽奈さんが…!!」

 

「… はぁ… リベンジ倒せば済む話でしょ? それに今はあなただけが頼りなのよ? しっかりしなさい!!」

 

「は、はい!!」

 

「…… 全くもう。さっさと行きなさい。私の力… 託したわよ!!! 仮面ライダーアベンジッ!!!」

 

「─── はい!!!」

 

 

 稲森は人間態に戻り、持っていたアベンジドライバーを腰に巻き付ける。

 それから陽奈から託された力「エースジャンプフィード」をドライバーに差し込むと《Welcome!! エースジャンプ!!》という音声が響く。

 待機音が流れると稲森はアベンジドライバーの口を掴み構える。

 

 

「お借りします陽奈さん─── 変身ッッッ!!!」

 

 

 そして稲森はアベンジドライバーの口を閉じる。

 

 

《Tasty!!》

《I save the world by two power, We are Kamen Rider!!》

《Let's try START!! エースアベンジ!!》

 

 

 仮面ライダーアベンジと仮面ライダーエースが融合したその力で地面を蹴って、一瞬にしてリベンジの目の前に辿り着く。

 

 

「助けます!!… リザルドさん!!」

 

 

 アベンジは攻撃をしてくるリベンジをいなし、両足を揃えて蹴り飛ばす。

 空中を蹴りながら吹き飛ばされたリベンジの後ろへと回り込み、上空へと打ち上げ、更に追撃して地面へと叩きつけた。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 

 しかし、再び追撃しようとしたアベンジはリベンジの身体から伸びた謎の触手に両腕両脚を固定され、そのまま塔に叩きつけられた。

 

 

「なに…!?」

 

 

 この塔は班目のものそっくりではあるが、どうやらその強度自体も同じらしい。今の衝撃は2つの力を持つこの力でも内側にまで浸透してくる。

 リベンジは理性がない様に見えて本当は考えている。この相手はどう痛めつければいいのか。次はどうして苦しめてやろうと。

 

 

「待っててくださいリザルドさん…!!」

 

 

 そして再び塔に叩きつけようとしたリベンジだったが、その瞬間アベンジは身体を思いっきり捻って触手を弛ませ、弛んだ所を両手で掴んでリベンジを持ち上げる。

 

 

「…… あなたが班目じゃなくて良かったですよ… 本当に!!!」

 

 

 そして遠心力がついた状態でリベンジを塔の頂点にあるスイッチへと叩きつけた。

 すると、頑固な外装と打って変わってそこだけは耐久性はなかったのかリベンジは自分というハンマーによってスイッチを破壊されてしまう。

 あの時は班目であったから苦戦を強いられたが、これは班目が作ったものではない。必ず何処かに弱点というものがあるのだ。

 塔はレーザーの放射が止まり、エネルギー供給ができなくなったのか完全に停止してしまった。

 

 

「これで終わらせる…… 行くぞ!! 陽奈さんと逆襲だッ!!!」

 

 

 それからアベンジはドライバーの上部を叩き上空へと舞い上がる。

 そしてエースの巨大な羽を背中に生やし、両脚をイナゴの様な形状へと変化させ、両脚を揃えた状態で降下する。

 

 

「これが僕たちの力だぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

「…ッ!!!」

 

 

 リベンジから触手が放たれるが、上空で蝶の様にヒラリと躱し、2つの力が融合したライダーキックをリベンジのドライバーへと食らわせた。

 

 

《Goodbye!! Thank you!! エースアベンジタイム!!》

 

「きひゃぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁッッッ!!!!!──────」

 

 

 そしてアベンジは地面に着地し、握った拳を天高く突き出して勝利を掲げた─────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 あの後、世界には再び平和が訪れた。

 リザルドやその仲間たちは罪を深く反省し、稲森に礼を言って連行されて行った。本人達はこれからどう変わっていくのかわからないけど、きっと次に会う時はいい笑顔で迎えられる筈だ。

 そしてエースジャンプフィードはあの戦いの後に粉々になってしまった。無理やりスペックを引き上げていた様で、陽奈はわかっていたが合わなかったらしい。暫くジャンプフィードは使い物にならないけれど、陽奈が言うには必ず直すだそうだ。

 とにかく世界は今日も平和だ。何もなくただ日常が過ぎていく。

 

 

「さて、モグロウ。今日は休みだけどどこに行こうか?」

 

「あ? いつも通りぶらぶらしようぜ。そんな急ぎでもないんだからよ」

 

「それもそうだね」

 

「なぁ、イナゴ。お前確かアパートまたあそこにするんだろ? 綺麗になっただろうけど今のお前ならもう少しでかい所に…」

 

「いいんだよモグロウ。僕はあそこがいいんだ」

 

「え?」

 

「何も変わらないあそこがいいんだ。何も変わらない…… いつも通りの日常が送れればいい。こうしてモグロウや陽奈さんに楓さん。色んな人たちと毎日変わらない日々を送れればさ」

 

「…… ったく、本当に欲がない野郎だぜ… まぁそういう所がイナゴなんだけどよ!」

 

 

 モグロウは稲森の肩に腕を巻き付け高笑いしている。大声でこちらが恥ずかしいが嫌ではない。

 

 

「あ、そうだ!」

 

「ん?」

 

「今から陽奈さん達と出かけようよ。多分、僕のジャンプフィードの事で頭がパンクしてるだろうし」

 

「おぉ、いいねぇ…… で、どこ行くんだ?」

 

「そうだなぁ… じゃあ、適当で行こう!」

 

「はっ、やっぱり適当か」

 

「もちろん! 何も考えずにさ。楽しく行こう」

 

「… おうよ。楽しくな!」

 

 

 いつもと変わらない日々こそ1番幸せだ。

 何もなく、何も考えず、ただぶらぶらと友達と共に過ごす日々、それだけでいいんだ。難しい事なんかない。ただ笑っていよう。

 未来に報復し、今を精一杯に生きる。

 

 

「さぁ! 遊びの逆襲だッ!」

 

「どういう事だよ!!?」

 

 

 仮面ライダーアベンジ Jump to tomorrow The end

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「…………」(手を銃の形にしている

 

「だからそれまたやるんですか?」

 

「ふむ、どうやら俺たちが呼ばれたのはそういう事らしいな」

 

「…… まぁな。テロスの野郎のせいかと思ってたがどうやら違うみたいだぜ」

 

「僕もよくわからないんですけど… とにかく今はやるしかありませんね」

 

「任せておけ…… この王にな」

 

「なら、お願いしますよ。あなたにならできます」

 

 仮面ライダーアベンジ To be continued…




仮面ライダーリベンジは正式には「仮面ライダーリベンジ ヘイトリッドウェポン」です。能力は力の吸収。と、エスポワールの能力です!(憎しみでパワーアップ)。
「仮面ライダーアベンジ エースジャンプウェポン」
アベンジとエースの力が融合した形態です。スペックは基本フォームを足した数値で、能力を解放すると全部5倍になります。かなり出力ですのでああいう感じでぶっ壊れたんですなぁ…。
そして今回登場したリザルドは今まで本編に出てこなかった人間と怪人のハーフです… はい、この設定本編でやろうと思ってたんですが完全に忘れてましたすみません。でもお陰で特別編の敵役として頑張っていただけましたありがとう!

はい!!という事で「仮面ライダーアベンジ」!!これにて閉幕となります!!
今までありがとうございました!!(フラグ
いつかまたある日を楽しみにしております!!(フラグ
それではまたーー!!!!!














まーた流れが変わったなぁ……














1000年の長き封印から放たれし72体の悪魔「デモンティア」

現世へと蘇ったデモンティア達は人間の心を揺さぶり魂を喰らう。

ごく一般的な高校生…だった「大神 恭也」はある日「デモンドライバー」を拾い、72体のデモンティアの1人「エイル・ワン」と出会う。

エイルの力「デモンティアイズキー」を使用して恭也は「仮面ライダーメレフ」へ変身し、全ての悪魔を封印する為に剣を振るう!!

闇を払え!!封印せよ!!

─── 悪を使役し悪魔の王となれ

新連載!! 仮面ライダーメレフ!!

これからもよろしくお願いします!!


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