あつもり日記 (syumasyuma)
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#1

 

○○月××日

 

子供の頃の日記を見つけた。

 

日記のはじめに、この幻想郷で起こるであろう原作知識が書かれていた。

それを見て久しぶりに日記を書いてみようと思う。

 

俺の仕事は決まっておらず、天気が良ければ農家の畑を耕したり、

川で魚釣りをしたり、市場で物を買って売り歩く。

 

雨が降っていれば傘を作ったり、繕い物をするが、

近所の人や知り合いに仕事を頼まれることもよくある。

 

今日は雲ひとつ無い青空、こんな気持ちよい日は魚釣りに限る。

 

魚釣りはいい。

 

なんといっても里で高値で売れるからだ。

 

理由は色々あるが、大きいのは里の外は妖怪がウロウロしており、外を出歩くと襲われる危険があり、魚を釣りに行く人間が少なく、取れる魚の量に限界があることだ。

 

折角、釣れても魚ごと食べられてしまっては意味がない。

 

里の外に行くのは命がけ、これは幻想郷において人間の共通認識なのだ。

 

じゃあなんで俺は魚を釣りにいっているのか?

 

それは気絶すると家の前に戻ってくる妙な能力を持っているからである。

 

持ち物は無くなってしまうものの生きて帰ってこれるというのは、

非常に有用な能力だと思う。

 

この能力を活かすために咄嗟に気絶する技術を会得しているが、

びっくりすると気絶してしまう癖がついてしまった。

 

そのせいで知り合いからはチキン扱いだ。全く遺憾である。

 

さらに俺は魚影を見ることができる。

 

その魚影がどれくらいの大きさで、何処を向いているのか、

釣り餌に惹かれているのかが分かるのだ。

 

だから短時間で多くの魚を釣ることが出来る。

 

欲を言えばもっとカッコイイ能力が欲しかったがしょうがない。

 

これらの能力で魚篭いっぱいに魚を釣った俺は足早に、里へ帰るのであった。

 

 

○○月×△日

 

今日は知り合いに頼まれて里の外へ手紙の配達だ。

 

配達先は魔法の森の近くに古道具屋を開いている森近霖之助という男だ。

 

俺は林を掻き分け、獣道を通り、大変不便な場所にある古道具屋に辿り着いた。

 

古道具屋の入り口をガラガラと開けて中を覗きこむが、

店の中は閑古鳥が鳴いており、店主の姿も見えない。

 

店の中に入り、店主を呼ぶと奥からキシキシと木の軋む音が聞こえる。

 

その音が大きくなると、白髪の男が現れる。

 

「やあ、遅くなって悪いね。誰からかな?」

 

森近さんに手紙を渡すと彼はお礼を言ってから、手紙を読み始めた。

 

俺はその姿を見ながら近くにあった切り株に座る。

 

ふむふむと言いながら手紙を読んでいた森近さんはふと顔を上げると、

眉を潜めてこちらを見た。

 

「おいおい、一応商品だから上に座らないでくれ。今返信を書くからこっちの椅子に座ってくれないか。」

 

森近さんに平謝りをしてから切り株から立ち上がり、

まじまじと切り株を見る。

 

何の変哲も無い切り株に見える。

 

森近さんにこれはどのような道具か聞いてみる。

 

「ああ、そぼくなDIY作業台というもので、道具を作る道具らしいね。」

 

その言葉に驚いた。

 

記憶の片隅に引っかかるものがある。

 

それは前世でやっていたゲームに出てくる道具だったからだ。

 

そのゲーム・・・あつまれどうぶつの森で、

釣竿やスコップ、家具などを作るために必須の道具であり、

俺の能力にまつわる物だと直感的に理解したからだ。

 

森近さんから返信の手紙を預かった後、縁があるなどと適当に言って作業台を二束三文で購入し、足早に人里に戻った。

 

・・・森近さんには扱えなかったようでほぼゴミあつかいだったらしい。

 

俺は久々に、本当に久しぶりに胸を高鳴らせながら、切り株を背負って帰った。

 

里の皆にはアホを見る目で見られたのは、遺憾である。

 

 

○○月×□日

 

なんてことだ。

 

この作業台、全然使えない。

 

・・・いや正確には使えるのだが、道具を作るための材料が無いのである。

 

木の枝を持っても、石ころを持っても、材料としては認識されず、唯一認識されたのは雑草だけだ。

 

雑草を使ってはっぱの傘を作ってみたものの、ショックは計り知れない。

 

作業台に触れれば、作れるものが思い浮かび、材料があれば作ることができる。

 

そこまではいい、しかしだ。

 

雑草だけっ、雑草だけしか!材料と認識されなかったのだ!

 

あまりのショックに家を飛び出し、里を走り、寺子屋に駆け込んだ。

 

そして慧音先生の胸に飛び込み、頭頂部に頭突きを喰らった。

 

その一撃で俺の意識は飛び、強制的に能力で帰宅したのであった。

 

「起きろ!起きて昼間の説明をしろ!」

 

慧音先生の怒声で目を覚ます。

 

板の間で起き上がると、土間に慧音先生がいた。

 

私怒っていますと言わんばかりに仁王立ちしている慧音先生に、事情を話す。

 

俺の能力に進展があったこと、盛大に肩透かししたこと、慧音先生に慰めて貰いたかったこと。

 

もう一度俺に頭突きした後、慧音先生はいくつか助言して帰っていった。

 

俺は慧音先生の背にお礼を言って、助言を元に考えてみることにした。

 

 

○○月×☆日

 

単純な話であった。

 

雑草が地面から取れるから、木の枝も地面に落ちているものを取るとばかりに思っていた。

 

山に芝刈りにいって、拾った木の枝はすべて材料ではなかった。

 

その憤りを近くにあった木にぶつけるように、蹴りつけると蜂の巣が落ちてきた。

 

ハチの羽の音など全く聞こえなかったのに、木がゆれると突然落ちてきたのだ。

 

驚いた俺は硬直し、すぐさま襲い掛かってきたハチに刺されて気絶した。

 

家の前で、近所の人に揺り起こされると、凄い驚かれた。

 

なんと顔が腫れ上がっていたのである。

 

いつも怪我を負っても能力で帰宅すると治っていたのに・・・。

 

はて?と考えると一つ思い当たることがあった。

 

どうぶつの森でハチに刺されたとき、顔が腫れ上がることをだ。

 

ゲームでは一回刺されただけでは気絶しなかったが、多分これは俺の気絶癖のせいだろう。

 

能力が利かなかったのではない。ゲームどおりの効果があったのだ。

 

つまりハチの巣は俺が木を揺らしたから落ちてきたのではないだろうかと。

 

その仮説を確かめるべく、蜂の巣が落ちてきた木にいくと。

 

まだ蜂の巣が落ちていた。

 

周囲にハチはいない。

 

蜂の巣を家に持って帰り、作業台に置いてレシピを確認すると、

 

材料として認識された。

 

蜂の巣と雑草を使い、おくすりを作成すると、震える手で顔に塗る。

 

すると瞬く間に腫れが引いて、治ってしまったのだ。

 

無言になった俺は家の近くの木を揺すり、木の枝が落ちてくる。

 

揺すれば揺するほど木の枝が降ってくる。

 

それらを拾い集めて作業台の上にごろごろと転がし、

 

レシピを確認する。

 

釣竿OK!虫網OK!

 

確認ヨシ!

 

 

○○月×●日

 

今日は昨日作成したしょぼい釣竿を持って、川に繰り出した。

 

今まで見たことも無い大きな魚影を発見した。

 

ドキドキを抑えきれず、魚影の少し前に静かに糸をたらす。

 

するといきなり魚が食いついてきた!

 

餌は同じはずなのにこの食いつき!圧倒的早さ!

 

そして釣竿のすごいしなり!

 

前まで使っていた釣竿ならとっくに折れていただろう大物を、

 

そのまま一本釣りしてしまった。

 

釣り上げた魚をパシリと掴むと、その姿に驚いた。

 

これは・・・・・・。

 

ブラックバス!

 

この川で十年以上釣りをしていたが、

 

ブラックバスを釣ったのは初めてだ。

 

50cmは間違いなくある。

 

生態系は大丈夫なのかと思ったが、

 

しょぼい釣竿を置いて川を見て回ると、大きい魚影は見つからず、

 

逆にしょぼい釣竿をもっていると三割がた大きな魚影を発見するようになった。

 

そして大きい魚影はブラックバスしかでない。

 

とりあえず釣ったブラックバスを逃がさなければ、生態系に影響は無いんじゃないだろうか。

 

そう楽観的に考えるしかなかった。

 

いつも10匹以上の魚をいれている魚篭は、ブラックバス3匹でいっぱいになったため、

今日はこれで帰宅することにした。

 

ご近所さんにブラックバスをおすそ分けしてみたら、異変扱いされてしまった。

 

あとブラックバスはかなり美味しかったです。

 

また釣ろう。



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前回のあらすじ

香霖堂でそぼくなDIY作業台を購入した。
素材 [雑草、木の枝、蜂の巣] GET!
DIY [はっぱの傘、おくすり、釣竿、虫網] 作成!

慧音先生に抱き着いた。


#2

 

○×月△△日

 

作業台を手に入れてから一週間経つが、まだあたらしい素材を得ることができていない。

 

次の素材といえば石や木材なのだが、石を得るには、スコップか斧で岩を叩く必要が、木材を得るには、斧で木を叩く必要がある。

 

だがしかしスコップか斧を作成するには木材か石が必要だ。

 

つまり作るための素材を手に入れることが出来ないということだ。

 

これは詰んだか?

 

 

○×月△●日

 

ブラックバスは里の人たちに実に好評だ。

 

大きいからかなり食いでがあるうえに、身が美味しい。

 

ただイワナやヤマメを好む人もいるから、そちらは普通の釣竿で釣る必要がある。

 

しょぼい釣竿だと、ブラックバス、フナ、ウグイ、ブルーギルくらいしか釣れないからだ。

 

たしかゲームだと、崖の上じゃないとイワナやヤマメは釣れなかった気がする。

 

崖の上かあ・・・。

 

妖怪の山は流石に入りたくないな。

 

 

○×月△□日

 

やっぱり作業台製のスコップか、斧がないと岩を叩いても無駄みたいだ。

 

手で叩いたり、足で蹴っても、近所の人から借りたスコップや斧で叩いてもダメだった。

 

近所の人に頭の心配されるし、散々な一日だった。

 

 

○×月×○日

 

考えが行き詰まってしまったので、魚篭を新しくすることにした。

 

魚篭を新しくするには竹が必要なので、人里から離れて竹林に向かうことにした。

 

この竹林、迷いの竹林とも言うらしく素人が入ると帰ってこれないと言われており、

妖怪の山や魔法の森に次いで里のものは近寄らない危険地帯となっている。

 

この竹林には上質な青竹があるのだが、一部の業者の独占産業になっていて、

非常にお高い代物だ。

 

俺も何度が入った事があるが、出口が全く分からないので上質な竹を持ち帰ったことは無い。

 

じゃあ何で来たのかというと、別に竹林に入らずともその周りにある竹を持って帰ればいいだけのことだ。

 

勿論ろくな竹を取ることはできないが、魚篭を作るだけならほっそい竹でも問題なし。

 

ということで竹をとっていたら、竹林から人影が現れた。

 

「そんな細っこい竹じゃなくて竹林には立派な竹があるよ?」

 

垂れ下がったウサギの耳の付いた少女だ。

 

ピンク色のワンピースを着ており、胸元には人参のペンダント、裸足の可愛らしい少女だ。

 

少女は色々な誘い文句で、竹林に誘ったが、俺はそのことごとくを断りじわじわと後ずさる。

 

その様子を見て可愛らしい少女は諦めたのか、竹林に戻っていった。

 

俺を冷や汗を拭うことなく足早に里に逃げ帰った。

 

顔のいいやつは大体危険。

 

これは里の人間の共通認識である。

 

 

○×月×☆日

 

いっつも足早に逃げ帰ってるなと思いながら、新しい大きな魚篭を持って川釣りへ。

 

さて今日のしょぼい釣竿の第一投は小さめの魚影へ、ブルーギルかな?

 

よし!ヒット!さて何が釣れたかと思ったら、ただの石ころである。

 

ちぇっ、いしころかよっと、舌打ちをして川に投げ込む。

 

全くなんでいしころなんか釣れるんだろうかとブツブツ言ってると、はたと気づく。

 

石やんけ!

 

慌てて川に飛び込んだが、投げた石は見つからず全身ぐしょ濡れになっただけだった。

 

しかもしょぼい釣竿も流されていった。

 

なんてこったい。

 

石は川で釣れるのか・・・。

 

 

○×月×△日

 

昨日はずぶ濡れで帰ったので、ご近所さんに心配されてしまった。

 

川で遊んでいたら河童に尻子玉をとられるぞと言われたので、

河童にズボンを脱がされて気絶した話をしたら笑われた。

 

今日はご近所さんと一緒に神社のある小山で、山菜とりに出かけることにした。

 

途中神社の巫女さんと出会ったので、今度魚を奉納することになってしまった。

 

山菜も半分取られたし、がめつい巫女もいたものだとご近所さんと笑いあった。

 

 

○×月□○日

 

ブラックバス、ウグイ、ドジョウ、ドジョウ、ウグイ、フナ、フナ、ウグイ、空き缶、ブルーギル

 

あれから毎日魚釣りに行っているが、石が全然釣れない。

 

しかし空き缶か・・・多肉植物にでもするか。

 

 

○×月□△日

 

ウグイ、フナ、ウグイ、ドンコ、ドジョウ、長靴、空き缶、ブラックバス、ブラックバス、フナ

 

今日の新顔は長靴だな、もう一つあればリサイクル長靴にできるな。

 

 

○×月□□日

 

ドンコ、ドジョウ、ウグイ、ドジョウ、ウグイ、フナ、ブルーギル、ドンコ、ブラックバス、タイヤ

 

タイヤ!釣り上げるまではそんなに重くなかったけど、くっそおめえな。

 

流石に持ち帰る気がしないので、乾かしてここで椅子として使うか。

 

 

○×月□×日

 

空き缶、ドジョウ、ブルーギル、長靴、ウグイ、ドンコ、ドンコ、ウグイ、フナ、ウグイ

 

お、長靴が揃ったな。これでリサイクル長靴が作れるな。

 

それにしても魚以外が釣れると荷物が嵩張るな。

 

ゲームみたいに20~40の枠にスタックして持ち運べると楽なんだがな。

 

家にも収納の機能も無いし、やっぱり長屋なのがダメなんだろうか?

 

でもゲーム序盤の家くらいの広さはあると思うんだ。

 

あれかな、自分で作るか、たぬきちに作って貰わないとダメなんかね。

 

リサイクル長靴を作ったはいいが、靴下がないと履き心地いまいちだな。

 

バラしてゴム底を再利用して、草履の裏に縫いこんでゴム草履にしたろ。

 

 

○×月□☆日

 

ドジョウ、石

 

石!

 

こぶし大の丸みを帯びた石!

 

すぐさま荷物を持って家に帰宅し、作業台の上に転がす。

 

すると材料として認識される。

 

喜び勇んで直ぐにしょぼい石斧を作成する。

 

できあがった石斧を天にかざして、喜びの舞を踊る。

 

よよいのよいっと景気良く踊っていたら、ご近所さんがやってきて強烈なリバーブローを打ち込んできた。

 

一瞬で気を失い、家の外にリスポーンする俺。

 

落ち着いた俺を見て、ため息を吐いて帰っていくご近所さんに平謝りをして、家の中へ。

 

作業台付近に落ちていた石斧を拾い上げて、里の外へ向かう。

 

野原を見て回り、等身大のそこそこ大きな岩を見つける。

 

これが良いかな?

 

コンコンと、軽く叩いても何も出てこない。

 

カンカンと、少し強く叩いても何も出てこない。

 

ガイーンと、腰を入れて思いっきり叩き込むと、その反動で俺の体は大きくのけぞり、岩から拳大の石がぽろりと落ちる。

 

続けて2,3,4,5,6,7と叩けば、ぽろぽろと石がこぼれる。

 

8回目は何も落ちずに、ただ手がしびれるだけだった。

 

落ちたのは石6個に、粘土1個。

 

鉄鉱石は無く、手の痺れは酷いものだったが、俺は満足感に包まれていた。

 

石の形は川で釣ったのと同じで、間違いなく材料として使えるだろうと確信した。

 

続いて木を探して、石斧を叩き込む。

 

ゴーンと、先ほどと同じく腰を入れて、手がしびれるほど強く叩くと、薪のような木材が落ちた。

 

2,3と叩き、一応4回目も叩いてみたものの、3回目までしか木材は落ちず、

落ちた木材も柔らかいパイン材のようなものや、硬い樫のようなもの、杉のようなものなどが落ちた。

 

多分柔らかい木材に、堅い木材、普通の木材なのだろう。

 

しかし結構この木材大きいな。

 

一種類の木材で一抱えあるので、背負子が必要だな。

 

今日のところは上着を使って運ぶことにする。

 

ホクホク顔で石と木材を持ち帰ることができた。

 

 

○×月□●日

 

今日は気分がいいので、干したブラックバスを持って神社にいってみることにした。

 

しかし神社に行ったことがなかったので、ご近所さんに聞いてみると、

神社まで案内してくれることになった。

 

いつもお世話になってますとお礼を言うと、構わんさと返される。

 

相変わらず男前なひとだな。

 

ご近所さんの誘導にしたがって、山を登る。

 

この神社のある山には山菜を獲るために良く入っていたが、

神社を目指すのは初めてだなと山道を歩く、一向に参道は見当たらない。

 

するすると斜面を登っていくご近所さんを必死に追いかける。

 

はあはあと息を切らせていると、どうやらもう直ぐ付くらしい。

 

獣道を駆け上ると、開けた場所に出た。

 

どうやら神社の裏手に出たらしい。

 

後ろを振り返ると人里が見渡せる。

 

どうやら神社は東向きで、西にある人里に背を向けるように建っているらしい。

 

神社の正面に歩いていくと、そちらには参道らしきものがあったが途中で切れている様だ。

 

その先は森が続いているようで良く見えない。

 

とりあえず参拝してから巫女さんを探しますかと、ご近所さんと話しながら御手洗で手を洗う。

 

ご近所さんに作法を聞きながら、参拝する。

 

やっぱり亀の甲より年の功ですなと、ご近所さんをからかうと、

 

しなやかで強烈なローキックをお見舞いされた。

 

危うく気絶するところだったぜ。

 

 

「あら本当に来たのね。折角だからお賽銭入れていきなさいよ。」

 

脛を抱えて悶えていると、空から巫女さんが降ってきた。

 

俺とご近所さんは巫女さんに挨拶する。

 

賽銭を強請る巫女さんに圧されて予定よりも多く賽銭を入れたが、

あまり金に困った生活は送っていないのでよしとしよう。

 

巫女さんもガッツポーズしてるしな。

 

巫女さんにこの神社の神様や由来を聞いてみたが、よく分からないとのこと。

 

それでいいのかと思ったが、当の巫女さんが気にしていないようなのでほっておく事にした。

 

魚を巫女さんに渡すと、思っていたよりも大きかったようで、少々驚かれた。

 

巫女さんは細くてちっこいから俺が持っているよりも魚が大きく見える。

 

あ、ご近所さんも野菜を渡していた。

 

多目の賽銭と大きな魚に気を良くした巫女さんはなんと、

人里まで空を飛んで送ってくれるとのこと。

 

思わぬ提案に喜んで飛びつき、巫女さんに抱えられて空へ。

 

既に小さく見えるご近所さんに手を振ると、手を振り返してくれる。

 

空から見る幻想郷は新鮮で、何処に何があるか目を凝らしてみる。

 

神社は東にあり、西にちょっと行けば人間の多くが住む人里がある

 

人里の周りには小さな農村が点在し、農村を囲うように畑や田んぼが広がっている。

 

幻想郷は盆地になっていて、山々に囲まれているが北にひと際大きい山があり、妖怪の山と呼ばれている。

 

人里から北にちょいと行けば林があり、そこから川が人里の西側を沿うように南に流れていく、下流を挟むように南西に竹林、南に小高い丘あって、丘の向こうが黄色に染まっていた。

 

北西に魔法の森があり、その手前に豆粒のような古道具屋、西には湖があり、湖畔に赤い屋敷が建っている。

 

もっと眺めていたかったが、あっという間に人里についてしまった。

 

巫女さんに家の場所を聞かれて、里の東側のぼろい長屋だといったところで、ちょっと違和感を覚える。

 

なんだろうかと思っていると、地面に下ろされてまた参拝に来なさいといって巫女さんは帰っていった。

 

そこで気づいた。

 

家の場所を覚えられたと。



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前回のあらすじ

巫女さんに家を覚えられた。
素材 [石ころ、空き缶、長靴、タイヤ、木材、粘土] GET!
DIY [斧] 作成!

巫女さんに抱えられた。


#3

 

 

○△月□□日

 

朝は畑の雑草と虫を取り、昼は岩と木を叩いて周り、ついでに魚篭いっぱいまで魚を釣り、

日が傾く前に里で形のいい魚を売って、里をぶらつく。

 

釣りの効率が増したお陰で日中には里に帰れるようになり、

時間を持て余していたら、ご近所さんからもっと能力の確認をしたほうがよいと助言された。

 

そこで未だに作ってすらいなかったスコップを作ろうと思う。

 

岩を叩く速度はスコップのほうが速いのだが、

素材の持ち運びのことを考えるとなるべく持っていくものを減らしたいので、

石斧があれば事足りると思い作っていなかった。

 

しょぼいスコップを作成し、人里やその周辺を回ってみることにする。

 

さてゲームでは何か埋まっているところには☆のマークのようになっていたが、

実際にはどんな感じなのだろうか。

 

里の中を見回っても特に気になる箇所は無く、

里の人に落し物かと心配されたり、イワナ釣ってくれと頼まれたり、

知り合いの婆さんに漬物を貰ったり、クソガキにズボンを下ろされたりした。

 

あのクソガキめ、俺が慧音先生と話しているときに下着ごと落としやがって、

もし落とし穴の種を見つけたらターゲットにしてやる。

 

と思ったが逃げたクソガキを慧音先生が猛ダッシュで追いかけていったので、

忘れることにした。

 

きっと頭突きと宿題を喰らったことだろう。

 

俺も良く喰らったものだ。

 

懐かしい気分のまま人里を出て、ちょいと西へ。

 

岩がゴロゴロと点在している原っぱへ。

 

岩を叩いて回りつつ地面を見ていると、

土が僅かに浮き上がりひび割れのようになっている箇所を見つけた。

 

さっそく掘ってみると、一発で埋まっているものを掘り当てることができた。

 

まるでプリンを掘っているみたいだぜ!

 

それで出てきたものなんだが、埴輪だった。

 

なんか見たことがあるような気がして、あちこち触ってみるとカラカラと音を鳴らし始めた。

 

小さくて灰色かかった緑色していて、カラカラと音を鳴らす埴輪・・・。

 

なぜはにわが地面に埋まっているのかは、

よく分からないが化石よりもよっぽど俺好みのアイテムだ。

 

しかし音に合わせて動いてしまうので、運び辛いので止めたいのだが・・・。

 

上のぽっちに触ったら動きが止まったな。

 

 

○△月□○日

 

なんとなく埴輪を家の横に置いてみる。

 

ふむ見覚えがあるなと、しげしげと見ていたらこれもどうぶつの森に出てきたアイテムの一つだ。

 

たしかあつ森には登場しなかったと思うのだがと、首をひねっていたらご近所さんがひょいと登場した。

 

ご近所さんの手には竹の容器に入った漬物が、どうやら昨日おばあさんから貰った漬物を分けたお返しらしい。

 

その場で茶色く変色した大根をぱくりと食べる。

 

やっぱりご近所さんの味噌漬けは最高だね!

 

俺がそう絶賛したらご近所さんに、巫女さんのところに持って行けと更に追加で漬物を渡された。

 

ご近所さんも一緒に行かないのかと聞いたら、年だから俺一人で行けと言われた。

 

そうだねと返したら、アームロックを極められてしまった。

 

慌ててご近所さんはお若いです!と叫んだら放してくれた。

 

また余計なことを言う前に退散し、神社へと向かう。

 

道中に埴輪がないか探していると、地面にひび割れを発見!

 

すこし盛り上げっているし、もしかしたらスコップを持っていると地中のものが、

地表まで上がってきているのかなと思いつつ掘り返してみる。

 

出てきたのはゴツゴツとした大きな岩のようなもので、

俺よりも大きく凄く重い。

 

掘り出したはいいものの全く微動だにしない。

 

おそらく化石なんだろうが、見ても分からないし、持ち歩くこともできない。

 

う~ん外れだな。

 

現状はどうしようもないので放置して先に進む。

 

神社についたので、参拝しておく。

 

さて巫女さんはどこだろうと境内を見回してみるが姿は見えず。

 

倉庫の方だろうかと境内をさまようと、地面にひび割れが、巫女さんそっちのけで掘ってみると、

埴輪でも、化石でもない何かを見つけた。

 

石像かな。なにか動物をかたどっているようだが・・・。

 

気になったので神社においてある桶と借りて水洗いしてみる。

 

ふむ?作りがへたくそすぎて何なのか分からないな。

 

「こんなところで何してるのよ?」

 

像を見ていたら巫女さんに話しかけられた。

 

さっきもこんなことあったなと思いつつ、境内に埋まっていたこととなにかの像みたいだと答える。

 

「ふーん?微かに神力を感じるわ。御神体みたいだけど、地面に埋まっているくらいなら分かるのに何で気づかなかったのかしら?」

 

御神体だったのか・・・。

 

巫女さんが言うには、過去に神社で祭られていたものらしいが、力が弱すぎて何の神様か分からないとのこと。

 

信仰がほとんど無いから神としての意識も感じられないらしい。

 

でも信仰が戻ったら何か分かるかもしれないし、丁度いいので神社で祀って様子を見てみるとのこと。

 

真剣な顔でそういって来たので、掘り出した像は巫女さんに任せることになった。

 

味噌漬けを巫女さんに渡したら、また里まで運んでくれることになった。

 

折角なのでちょっと遊覧飛行を頼むと、また参拝にくるならと言われた。

 

空から見る幻想郷はやっぱり雄大で感動する。

 

 

○△月□×日

 

畑を見て、岩と木を叩いて、魚釣って、神社行って、空飛んで帰る。

 

道中では埴輪が無いか地面を注視する。

 

 

○△月□△日

 

今日もいつもの作業を終えて、空を遊覧中だ。

 

巫女さんと小一時間ほど話してみたが、中々大変らしい。

 

巫女さんを継いでから参拝客なんて来ないので、妖怪退治で稼いでいるのだが、

最近は低級、中級妖怪を退治しすぎて仕事が無くなってしまったそうだ。

 

この前喰うに困って森にある草を食べたらお腹を壊してしまっただの、

魚を釣りに行ったら何も釣れなかっただの、

知人から貰ったキノコに似たキノコを食べようとしたら、知人に止められただのと、

色々なエピソードが語られた。

 

 

○△月□☆日

 

今日も今日とていつもの作業を終えて、空を遊覧中だ。

 

巫女さんの知人の話は非常に多く、中々豪胆な人物らしい。

 

自分の目的のために、実家を飛び出て魔女になったらしく、

 

数年前には空を飛び、今ではビームを乱射する。

 

いつも適当にあしらっているのだが、日が経つにつれて腕前を上げてたまにヒヤッとする場面があるらしい。

 

 

○△月□●日

 

今空遊!

 

今日は巫女さんから御神体の経過を聞いた。

 

俺の連日の参拝でちょっとだけ信仰が溜まったみたいで、水を司る神様らしいことが分かった。

 

まだ御神体には神様としての意識は宿っておらず、権能もほとんど無いとのこと。

 

きちんと信仰を得ることができれば、雨乞いや治水なんかもできるとか。

 

二人で信仰を増やすにはどうしたらいいかと考え、

 

とりあえず参道を整備しないと誰も来ないのではと結論がつけられたが、

誰が参道を整備するのかという話には二人とも無言であった。

 

 

○△月△○日

 

遊覧飛行を楽しんでいると、北側から誰かが飛んできた。

 

「よう霊夢!男と逢引か?」

 

「参拝客よ」

 

「あの神社のか?」

 

金色の長い髪を靡かせた魔女っぽい服を着た少女が巫女さんに絡んできた。

 

若干いたたまれない気持ちになったが、その子の顔で誰か気づく。

 

霧雨さんちのマリちゃんだった。

 

あれーマリちゃんじゃん、おひさーと言ったら、顔を引きつらせていた。

 

知り合いなの?と巫女さんが言うので、一緒に慧音先生のスカートを捲った仲だと言った。

 

マリちゃんが赤くなってる。更にマリちゃんとの思い出を語る。

 

マリちゃん家の商品で鍋をしたり、妖精の捕獲作戦をしたり、

退治屋のゲンさんのヅラを盗んだり、慧音先生の頭突きはどれくらいの威力があるのか試したり、

古道具屋の店主の眼鏡をベタベタと触ったり、慧音先生のおっぱいに飛び込んだりなどのエピソードを話した。

 

あの頃は自分が子供であることをいいことに、いろいろなイタズラに精を出したものだ。

 

まあ今でも慧音先生に対するイタズラは止めていないが、

あの人寺子屋卒業してイタズラやめたら調子狂うとか言い出したからな。

 

もはややらされてると言ってもいい。

 

そうだ最近イタズラしてないな。やらなきゃ。

 

あと蹴るのやめてよ。マリちゃん。

 

 

○△月△×日

 

慧音先生が干していた衣服の中に、赤いフンドシを加えてみた。

 

速攻で俺の仕業だとばれた。

 

新品だよ!と言ったが、そういう問題ではないと怒られた。

 

 

○△月△□日

 

夢の中に不定形の何かが現れた。

 

何か言っているな。

 

耳をすませて何を言っているのか聞いてみる。

 

【魚を5匹捧げよ】

 

なんだこいつ



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前回のあらすじ

御神体、埴輪、化石を掘り出した。

素材無し
DIY [スコップ] 作成!

慧音先生赤ふんどし疑惑。


#4

 

 

○△月△●日

 

昨日は変な夢を見た。

 

念のため魚を五匹持って神社に向かうと、巫女さんが賽銭箱の隣で待っていた。

 

いつもは境内を掃除しているか、本殿の奥にいるか、空から現れるので珍しいこともあったものだ。

 

「やっと来たわね。あの石像についてちょっと進展があったわ。」

 

挨拶も早々にそんなことを言ってきた。

 

何でもまだ薄弱な意思ではあるが、疎通が取れたらしい。

 

巫女さんが言うには、石像の本体は人里近くに流れる川であり、

随分前の博霊の巫女によって、勧誘されて祭神になったが、

上手く信仰は集まらず風化したものの成れの果てだそうだ。

 

それを聞きだした後、意思が弱くなったため、信仰の追加を待っていたとのこと。

 

巫女さんの話を聞いて変な夢を見たことを言うと、

夢の通りに魚を供えてみることになった。

 

本殿で巫女さんの簡易的な奉納の儀式をぼへっと見ていると、

奥に安置された石像に見られている気がした。

 

儀式が終わると巫女さんが俺と石像の間に霊的な繋がりが生まれたらしい。

 

頑張んなさいと言われたがどうしろと?

 

 

○△月△★日

 

目の前に不定形のものが見える。

 

それは前よりも少しだけ鮮明になったように感じる。

 

【我が声が聞こえるか縁深きものよ】

 

声も前回よりも聞き取りやすくなっている。

 

聞こえていると返すとウネウネと動き出す。

 

【うむ、しっかりと聞こえておるようじゃな。では早速だが我の信徒として信仰を集めてくると良い。】

 

すっごい偉そうだ。

 

なんでわざわざこいつの信仰を俺が集めねばならんのだ。

 

俺はウネウネに対して男らしく断った。

 

するとウネウネは結論を急ぐなと言って、信仰を集めるメリットを説いてきた。

 

ウネウネと俺は霊的に繋がりが有り、俺の能力に干渉できること。

 

能力を調整したり、追加したり、消したりすることも可能であること。

 

またウネウネの権能を一部使用できるようになること。

 

さらに俺の能力とウネウネの権能を合わせることですごいことができる筈らしい。

 

果たして本当なのか、疑っているとウネウネは簡単な願いを聞くだけで直ぐに俺の要らない能力を消してくれるらしい。

 

俺にいらない能力なんてあったのかと思ったが、よくよく聞いてみると確かにいらないと感じた。

 

実は俺は非常に癖毛で、頭の左右がまるで角のように大きくはねていて、すっごい目立つんだ。

 

簡単な願いを聞くだけでこの癖毛が直るのならお得なのではと思い聞いてみることにした。

 

その願いはウネウネの名前を呼ぶことらしい。

 

あまりにも簡単なことで呆気に取られたが、神や妖怪にとって認識されることが非常に重要だと力説された。

 

認識されないと信仰もあったもんじゃないという。

 

ピンと来なかったが、とりあえず名前で呼ぶことにした。

 

ウネウネがよりうねうねと動いている。

 

目が覚めるといつもの天井が見える。

 

なんとなく頭をさわると、髪質が変わっていた。

 

前はごわごわの癖毛だったのに、さらさらの直毛になっていた。

 

勿論あの角のような癖毛は無くなっている。

 

正夢だったのか。

 

とりあえずウネウネもとい神様に参拝しよう。

 

 

○☆月○○日

 

なんたることだ。

 

さらさら直毛ヘアーの俺が誰だか分からない人が半分くらいいた。

 

確かにあの髪型は特徴的だったが、顔をおぼえていないなんて・・・。

 

ちなみに巫女さんも俺の顔を覚えてなかった。

 

 

○☆月○×日

 

里の女性にやたら髪のことについて聞かれる。

 

私にだけこっそり秘訣を教えておくれって言われても困ったものだ。

 

 

○☆月○△日

 

最近は毎日神様が夢の中にやってきて、あれやってこれやってと言われる。

 

俺が頼まれごとをこなすごとにうねうねする神様を眺めていると、

最近の調子はどうなんじゃと聞かれたので、女性に髪の事を聞かれて困っていると言ったら、

 

少し考え込んだ後、我ならなんとかできると言ってきた。

 

本当ですかいと疑うと、先日俺から消した癖毛の能力を神様が調整して新しい能力にできるそうだ。

 

その名も髪に潤いを与える能力だとか、まあ水の神様だし髪に潤いを与えるくらいは出来そうだ。

 

しかし権能を行使するのにはまだ信仰が足りないので、追加で頼まれごとが増えた。

 

 

○☆月○□日

 

神様からの頼まれごとは石像を作り直すというものだ。

 

この石像、昔の巫女さんが作ったものなんだそうで、

 

今はもうほとんど原型が無い。

 

俺はこういったことがあまり得意ではないと神様に言ったのだが、

こういうのは気持ちが大事で、貴様が信仰したい神の形に彫って見せよと言われた。

 

まあ何度でも石像を作り直してもいいそうなので、今回はお試しで彫ることにした。

 

さてなんの像にしようかと思い、今までの神様を振り返る。

 

偉そうで、のじゃのじゃ言って、ウネウネとした奴か。

 

 

○☆月○☆日

 

今日も夢の中に神様がやってきた。

 

その姿は辛うじて人型の形をしており、なんとなく髪の長い子供のように見えた。

 

顔はわずかに凹凸があるだけで、表情なんてものはない。

 

なんていうことだ。

 

俺にはのじゃロリを作ることはできないのか!

 

【ふっふっふ、我が信徒よ。そう落ち込むでない。むしろ初めてにしてはいい出来じゃ。】

 

神様が髪をうねらせながら慰めの言葉をかけてくる。

 

信仰が少し溜まったそうなので、新しい能力を俺に授けてくれた。

 

髪に潤いを与える能力は、水の櫛を形成して、その櫛で髪をとくことで発動するとのこと。

 

 

○☆月○●日

 

とりあえず自分を実験台にやってみたが、鏡もないので変わったのかよく分からなかった。

 

ご近所さんにも協力を願い出て実験を行う。

 

ご近所さんの背中まで届く長い髪を櫛で梳いていく、

 

結構白髪多いっすねと軽口をたたくと、手を抓られた。

 

なるほどご近所さんのぱっさぱさの髪が潤いのあるまとまった髪に生まれ変わっていく。

 

なんかコンディショナーかなんかのCMにでてそうな感じだ。

 

この結果にはご近所さんもびっくりしている。

 

自分の髪を見て呆然としているご近所さんをほっといて、

 

今度は先生のところに向かう。

 

「おや今日は早いな。今日は日課は行わないのか?」

 

授業前の先生に挨拶をして、新しい能力を貰ったので試させてほしいというと、

めちゃくちゃ警戒された。なぜだ。

 

なんとか先生を説き伏せて、髪を梳かせて貰う。

 

やはり髪が綺麗になっていく、なんというか艶があるように感じる。

 

驚く先生をこれまたほっといて今度は神社へ向かう。

 

もはや連日の参拝で勝手知ったる人の家となった神社の本殿に上がりこみ、

巫女さんを呼ぶと、まだ朝食の最中だったのか、お椀を持ったまま出てきた。

 

襦袢姿の巫女さんはいつもよりも露出が少ない。

 

事情を話すと勝手にやんなさいと言われたので、勝手に髪を梳いていく。

 

巫女さんはかなり若いので二人よりもきめ細かく艶があったが、髪を梳くとやはり綺麗になる。

 

やはり幻想郷では髪のケアが難しいのかな。

 

能力の効果を実感した俺は日課へ赴く。

 

巫女さんは能力のことで神様のところに行くようだ。

 

 

○☆月○★日

 

今日とて日課を終えて神社に赴くと、女性の参拝客がいた。

 

女性の参拝客は参拝後、巫女さんと話して髪を梳いて貰っている。

 

どうやら巫女さんもあの能力が使えるようになったらしい。

 

既に里の女性に髪の話が出回っているのか、ちらほらと参拝客がやってくる。

 

若い女性や年配の女性まで様々だ。

 

一通り人がはけた後、巫女さんと話すと、

 

昨日俺が帰った後に神様と話して信仰を得るのにものすごく役に立つといって、

能力を使わせて欲しいと頼み込んだそうだ。

 

能力を得た後は里を回って神社の新しい神様のことを宣伝して回って、

ついでに足腰の弱った老人を実験台にして大いに能力を見せていったそうだ。

 

そのお陰で自分が神社を継いで以来、一番の参拝者数だといって喜んでいた。

 

今夜は赤飯ね!とスキップして去っていった。

 

とりあえず髪について聞かれることは無くなったと思う。

 

 

○☆月○◎日

 

今度は薄毛に悩む男性から髪について相談された。



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前回のあらすじ

信仰マイル開始。髪に潤いを与える程度の能力GET。

素材無し、DIY無し

慧音先生と巫女さんの髪を触る。


○☆月×○日

 

【なるほどのう・・・。うーむ発毛、うぬぬぬ。】

 

先日薄毛に悩む里の人を見て、神様にどうにかならないか尋ねると

神様も悩み始めた。

できないならそれでいいのではないかと言うと、

神としての沽券にかかわるという。

 

【血流・・・毛根・・・細胞もか】

 

なにやらブツブツ言っている。

しかしこの神様の知識はどこから出てくるのだろうか。

苦悶のウネウネをする神様を見ていると、そこで目が覚める。

今日も1日がんばるぞい!

 

 

 

○☆月××日

 

【我が信徒よ!能力を完成させるには信仰が足りぬ!薄毛の民にそう告げるがよい!】

 

寝たと思ったら直ぐに朝である。 

しかし里の人には朗報だな。

幻想郷には発毛剤や育毛剤なんてないのだ。

 

「どしたよ兄ちゃん。朝から来るなんて何かあったのか?」

 

魚を良く下ろしている商店の店主に、神様のお告げを言って聞かせる。

この店主昔はオールバックだったのだが、今は下ろしている。

つまりはそういうことだ。

 

「なんだって!増毛のご利益がっ!」

 

店主は店をほっぽリ出して神社へ走り去っていった。

あわてて追いかけると店主のほかにも、退治屋のゲンさんや蕎麦屋のマサさん、

里長のヤマ爺さんらが並走していた。

 

その後も続々と里の中年男性や生え際を気にしている若い衆が合流してくる。

朝っぱらから神社に大勢の男性が押しよせて、我先に参拝を始める。

 

明らかに寝起きの巫女さんがその熱量に引いている。

そんな巫女さんに神様のお告げのことを話していると、当の神様から声がかかった。

 

【おおおお!信仰をビンビンに感じるのじゃ!新しい能力を受け取るがよい!】

 

 

夢の中じゃなくても通信できるんだなと思っていると能力を貰った。

神様曰く、生命の水を生み出し、その水を塗りこんだ部分を活性化する能力だとか、

 

早速その能力のことを、説明しつつ店主の手に水を垂らす。

店主は疑いつつも生え際に塗りこんでいく、するとなにやら皮膚がぽかぽかするという。

それを聞いていた周りの人も水をせがんだので、巫女さんにも手伝って貰いつつ捌いていく。

 

 

 

○☆月×△日

 

【我が信徒よ、水の櫛と生命の水を併用することで、なんとヘアメイク機能が使えるぞよ。】

 

通りで能力が作りやすかったわけじゃわいと、神様がウネウネしている。

神様が言うにはどうぶつの森の機能に関する能力を作る際は、

信仰コストと作成難易度が大きく下がるらしい。

おそらく俺の能力が成長すると獲得できるからではないかと考察していた。

 

ふいー調子に乗るところじゃったわいと、呟いている神様。

そもそも能力を作ることがすごい気がすると、俺が言うと。

 

【地下暮らしが長いと権能を弄ることしかやることが無くてのう。】

 

節約とか得意じゃぞ、と悲しいことを言っている神様。

昼間声をかけないのも節約の一環らしい。

 

 

 

○☆月×□日

 

日課を終えて神社に訪れると、神社の屋根に上っている人が何人もいる。

何をしているんだろうと眺めていると、巫女さんが現れる。

その手には複数の湯飲みと、山盛りの握り飯と沢庵が盛られたお盆を持っていた。

それらを本殿の床に置くと、屋根の上の人たちに休憩にしませんかと声を掛けている。

 

巫女さんに何かあったのかと、聞くと満面の笑みで、

大工が格安で屋根の修理をしてくれているそうだ。

巫女さんは格安で!と強調していた。

 

巫女さんの一声で屋根から下りてきた人たちは、みんな里の大工で、

先日神社を訪れた際に、屋根の痛みが気になったそうだ。

 

見ろよこの頭!というので見てみると、つるつる坊主頭に産毛が生えていた。

 

「・・・増毛神社に改名しようかしら?」

 

それは止めておいた方がいいんじゃないかな。

 

 

 

○☆月×☆日

 

【我が信徒の記憶を元に新しい能力を作ったので試すとよいのじゃ】

 

あんだって?詳しく聞いてみると、この神様俺の記憶を覗き見ることができるらしく、

俺が忘れてしまったことも知ることも可能だとか。

どおりで話が合うと思った。

 

今回作成した能力は物に加護を与えて、気絶リスポーン時に一緒に戻ってくるとのこと。

ついに気絶して戻ってきたときに裸じゃなくなるのか!

 

寝起きで早速服と魚篭、釣竿と石斧に加護を与えていく。

 

【むむっ、加護の付き方が違うのう。】

 

違うのか・・・。

確認した結果、DIYで作った物が異様に加護が乗るらしい。

なにやらインスピレーションが刺激されたのか、神様の声は聞こえなくなった。

 

とりあえず加護を試しに行くか。

よし先生のところに向かおう。

 

ターゲット確認。

先生は自宅から寺子屋に通勤中。

 

先生の前に躍り出て、挨拶と同時にスカート捲りを敢行する。

しかし先生の太ももが見えた辺りで、反撃の頭突きを喰らい轟沈。

 

いつものように家の前でご近所さんに起こされる。

服を着ていることに感動する日がくるとは・・・。

 

 

 

○☆月×◎日

 

我が信徒よから始まる今日のお告げは、DIYで作成できる籠系のアイテムを用意すること。

神様のインベントリ欲しいじゃろ?の言葉に、欲しいっすと返して起床。

 

さて籠系のDIYは二種、春の若竹から作れる背負子と竹から作れる竹の籠だ。

今の季節は初夏だから実質竹の籠一択である。

よって竹林に向かおう。

竹林への道中やたら里の人に声を掛けられるようになったので、

オッスオッス言いながらいなしていく。

 

竹林が見えたのでその周辺にある細い竹を石斧で叩いてみるが出て来ない。

やはりというかしっかりとした竹からじゃないと竹の素材は手に入らないようだ。

どうやら竹林の中に入るしかないようだ。

 

竹林に入ってみるとあることに気づく、比較的歩きやすい場所に星のマークがあることに。

触ってみると巧妙に隠された落とし穴だった。

 

なるほどなと周りを見回してみると、大量に罠が設置されているのが見える。

罠を潜り抜け、竹林の奥へと足を運ぶ。

 

辟易するほど罠があるなと思っていると、背後から視線を感じる。

恐る恐る周りを見回すと、なにやら見覚えある兎の耳がある。

 

こちらが気がついたのに、あっちも気づいたのか、ガサガサと竹薮から兎の妖怪が現れる。

近づいてくる兎の妖怪から距離をとるように、後ずさるも状況は非常に悪い。

周囲が罠に囲まれている地点に追い込まれてしまった。

 

後ろに下がらなくなった俺を見て、兎妖怪が手から怪しく輝く光弾を作り出して飛ばしてきた。

光弾は俺の顔の横を通過し、背後にあった太い竹を弾け飛ばし、土煙を上げて着弾した。

 

ヒエ、腕より太い竹が折れてる!

その威力に思わず生唾を飲み込む。

 

 

「もしかして罠見えてる?ここまで深入りするなんて珍しいわね。」

 

 

今日は満腹だから見逃してあげるといって、妖怪兎は去っていった。

兎妖怪が見えなくなると、足に力が入らなくなり尻餅をつく。

 

妖怪に対する恐怖を押し殺し、荒い呼吸を落ち着かせ立ち上がると、

先ほど光弾が通過した辺りを確認する。

不思議と罠が見当たらないことに違和感を覚えていると、立派な青竹が生えていた。

慌てて石斧で叩くと竹素材が手に入る。

 

必要数手に入れ、そのまま足早に竹林から脱出する。

久しぶりに肝が冷えた。

そう思いながら里に駆け込んだ。

 

 



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○☆月×●日

 

竹林でのことを神様に報告しつつ、

作業台に竹を転がし、竹のかごを作成する。

 

【なるほどのう、竹林の兎の妖怪か。まあそれほど怯えることも無いじゃろう。】

 

神様から妖怪の生態について教えられる。

妖怪は人間の恐れから生まれ、恐怖を糧に生きている。

俺のあまりのビビリっぷりがその妖怪を満腹にさせたのだろう。

光弾も当てるつもりはなく、効率よく恐怖させるための手段に過ぎないと。

 

あの妖怪が満腹になった理由に納得したが、

俺はビビリではないことを明言しよう。

 

【無論恐れが足りなければ脅しはエスカレートするのじゃ。】

 

・・・ビビリで良かった。

 

そんなことよりも竹籠に加護を与えて貰うと、

やはりより多くの加護を付与することができるそうだ。

 

効率にして10倍!

 

よく分からんが完成した竹籠には、10枠のアイテム欄があり、

アイテムを30個ずつスタックして収納できるようになった。

アイテムの判定は俺がDIYで作成した石斧及び釣竿、スコップ、虫網で獲得したものになる。

 

やったぜ!インベントリ実装だ!サンキュー神様!

 

【ああ信仰の高まりを感じるのじゃ】

 

早速日課に行かなくちゃな!

 

 

○◎月○○日

 

竹籠には生き物はスタックできなかったぜ。

ゲーム通りであるがちと残念だな。

ちゃんと魚篭も持ってかないとな。

 

それ以外は竹籠に入っているものの重量を感じないので、

実に良好である。

そのうち竹林に行って二つ目の竹籠を作ってもいいかもな。

 

そんなことを神様に言うと、生物がスタックできないことの調整は難しいが、

10枠からさらに増やすことなら信仰が高まれば直ぐにでも可能らしい。

 

マジか、神なのか?と言ったら、

マジで、神じゃぞと返された。

 

 

○◎月○×日

 

今日も日課の釣りをしていると

すごい大きな魚影を発見した。

ブラックバスよりもめちゃくちゃデッケー!

 

興奮して逸る気持ちを抑えつつ魚影に狙い釣り上げる。

なんという強い引き!

かつて無いほど釣竿がしなっている!

 

デヤーと気合を入れて釣り上げると、

全体的に青っぽい格好をした少女だった。

 

混乱している俺の脳を他所に俺の体は、

その少女の奥襟を持ってなんか釣ったぜポーズをしたあと

そのまま竹籠の中にいれてしまった。

 

体に染み付いていた行動をとってしまい暫し硬直したが、

おっかなびっくり竹篭から先ほど釣り上げた少女を取り出してみる。

 

なぜか大きな水槽が出てきた。

 

その水槽の中に少女が浮かんでおり、

やべえ水死体かと思ったが、目が合い甲高い悲鳴を出して驚いてしまう。

少女は困惑し水槽からでようとしても出られないようだ。

 

「えっ!何っ!嘘!」

 

他人が焦っていると見る見るうちに落ち着いてくる。

気絶するところだったな。

 

その少女は人間ではなく河童らしい、

まあ水中で話せる人間はいないよなと思い、

とりあえず水槽から少女を川へ逃がす

 

「すごい人間もいたもんだ。私はにとり宜しくね!」

 

釣られたのなんて初めてだよと照れくさそうにしている河童は、

にとりと名乗り、色々喋り、俺の釣竿や竹籠を弄り始める。

こちらに害意はないが非常に好奇心旺盛なようだ。

 

ああ、うんよろしく

 

 

○◎月○□日

 

「やあ、盟友!釣れてるかい!」

 

日課の釣りを行っていると、川から昨日の河童が出てきた。

河童はひとしきり喋り倒した後、

釣った魚には餌をやるべきなんじゃないかな盟友といってきた。

 

盟友になったつもりはないが襟首捕まえて竹籠に放り込んだ、

というちょっとした罪悪感があるので話を聞くことにした。

 

河童が言うには俺が今座っている黒い物体ことタイヤが欲しいそうだ。

竹籠が出来ていらい釣ったごみも一応回収してはいたが、

特に必要なものではないので了承することにした。

 

とはいえそんなに釣れるものではないので、

釣れた時だけでいいかと聞くとそれでもいいそうだ。

幻想郷には無い素材はそれだけで価値があると言っている。

 

 

○◎月○☆日

 

 

なんとなく釣竿で魚や河童以外にアイテム扱いされるのかと思い里で色々なものを釣ってみた。

 

先生のスカートを釣ったり、ゲンさんのカツラを釣ったり、

ご近所さんを釣ったりしたが、どれも釣ったことにはならなかった。

 

河童以外の妖怪や人間、その辺の雑貨ではダメらしい。

魚影のみに対応しているようだ。

 

 

○◎月○◎日

 

町をぶらついていると貸し本屋の店番に貸している本の貸し出し期限が近いと言われたので、

借りていた本を返すことにする。

ついでに古道具屋で買った古本を貸し本屋に持っていった。

あそこには外から入ってくる本や物など、掘り出し物があるのだが、

あんな僻地にある場所なんぞには誰も行かないので、

小金稼ぎになるのだ。

 

 

○◎月○★日

 

 

日課を行っているとダラダラと汗が流れる季節になった。

もうすっかり夏である。

 

夏にはきゅうりだよ盟友といってくる河童に同調し、

河童が持ってきたきゅうりを貪る。

 

 

○◎月○●日

 

 

日課を終えて巫女さんタクシーを堪能していると、

妖怪の山に日が沈んでいく。

今日の夕日はやけに赤いなと思っていると、

日が沈みきっても微かに赤い。

あれはなんだろうか、

河童が何かやったのだろうか。

 

「忙しくなりそうね」

 

巫女さんが意味深なことを言ってる。

 

 

○◎月×○日

 

【我が信徒よ。妖気を含んだ霧が満ちておる。気をつけよ。】

 

神様が言うに赤い霧が平地を満たしていて、

吸うと体内の霊力が乱れて体調を崩すらしい。

 

簡易的に盛塩で軽減することができるので、

東西南北に鬼門、裏鬼門においておき、

もし盛塩が崩れたなら直ぐに作り直せと言われた。

 

可能なら里の要所に盛塩することもお願いされたが、

それは余裕のある人間に任せるように言いつけられた。

 

起きてみると外が真っ赤に曇って全然見えん。

しかもちょっと体がだるい気がする。

早速盛り塩を作ろうと思ったが、塩を湿らせる水がないな。

まあ能力で出した水でいいかな。

 

塩を円錐状に整え指示のあった場所に置く。

するとなんかちょっと気分が良くなった気がする。

ふむ、効果があったのか、プラシーボ効果なのか分からないが、

ちょっと里の中に設置してくるか。

 

家にあった塩を盛り塩に作り直して配置する。

途中で知り合いとあったので、盛塩の件を伝えて拡散して貰うことにした。

これで多少はマシになったかな。

 

少し霧が薄くなったような、なってないような微妙な感じだ。

 

里の人とこの霧について話していると、

赤い霧をふっ飛ばしながら巫女さんがやってきた。

 

「あら意外に平気そうね。」

 

赤い霧が人里を覆うのを見て急いで来たのか、

巫女さんの声がちょっと上擦っている。

 

巫女さんはこの異変を解決して来るそうで、

体調を崩した里の人がいたらこの札を貼っとけと、

なんか書かれた札を束で渡された。

 

なんでも体内に溜まった妖気を吸い出す札らしい。

急造品で枚数もそれほどないから、今日明日は家から出ないようにと、

強く言った後、霧を吹き飛ばして空に飛んでいった。

 

里の人が巫女さんを拝んでいるのを尻目に、

先生の下へ向かう。

なんかあったら先生に相談、これ里の暗黙のルールね。

 

「おお、お前か。体調は大丈夫か?」

 

寺子屋に行くと先生が老人や子供を集めて匿っていた。

体調を崩している子などもいたので、

これまでの経緯を話しながら札を押し付ける。

 

なにやら巫女さんがこういうことをするのは珍しいらしく少々驚いていた。

 

とりあえず渡すものを渡したので、寺子屋を後にしようと思ったら、

この前俺にイタズラしてきたクソガキが走り回っていた。

 

どうやら先生の手伝いをしていたようだ。

クソガキを呼び止めると、俺だと気づいて慌てていたが、

怒っていないことを伝えて落ち着かせる。

 

俺は懐からあるものを取り出し、クソガキに手渡す。

これは古道具屋で仕入れてきた悪戯用の道具で、

これに座ると屁の音がなる優れものだぞ。

 

クソガキと握手して寺子屋を後にした。

 

 

○◎月××日

 

 

翌朝、外に出てみると赤い霧は晴れており、

青空が広がっていた。

どうやら異変とやらは巫女さんが解決したらしい。

 

里の人が今日は巫女さんのところで宴会だと息巻いていたので、

今日は日課を休んで神社で宴会の準備をすることにした。

 

神社に行くと巫女さんは先ほどまで寝ていたようで、襦袢で出てきた。

寝たりなさそうだったので、まだ寝とけといって布団へ追い返す。

 

境内や本殿の掃除を済ませて、

昼食を作っていると巫女さんが起きてきたので

もう昼食ができるから座敷で待って貰う。

 

昼食を摂りながら昨日の異変について聞く。

へえー霧の湖の先に吸血鬼の館があるんだ。

道中蹴散らした妖精やら妖怪、門番、時を止めるメイド、吸血鬼など、

巫女さんの話はぶっ飛んでいる。

 

途中でマリちゃんにも言及していたがどっか行ったらしい。

あの子は一体何してるんだろうか?

 

こちらからは里には特に大きな被害は出ておらず、

今日の夕暮れから宴会があることを伝える。

目を丸くして驚く巫女さんという珍しいものを見た。

 

 

その後里のご婦人方が続々と神社にやって来て、

炊事場を占拠し色々な料理を作り始める。

男衆も後に続いて神社にやって来て奉納品をどさどさと置いていく、

俵とか樽で置かれる食べ物や酒を見て興味深そうにしている巫女さん。

・・・消費できるのだろうか?

 

宴会は非常に盛り上がった。

俺は巫女さんから聞いた話を爆盛し、

里の人が引いていた二胡とかいう楽器に合わせて歌う。

巫女さんは呆れていたが、里の人は大盛り上がりだ。

 

 

「ちょっとそこの吸血鬼のところを詳しくお願いします!」

 

やたら食いついてきた稗田の嬢ちゃんを、

巫女さんに任せて更に爆盛話を続ける。

 

 

「おいおい!私の活躍が一個も無いぜ!どうなってんだ!」

 

途中参加のマリちゃんが抗議してきたが、

これまた巫女さんに任せて、もう異変関係ない話を語る。

やたらドラマチックに脚色した幻想郷縁起は、

里のちびっ子どもにとても人気がでてしまい、

先生が落ち込んでしまった。

 

とても楽しい宴会だったが、巫女さんの何気ない一言で、

俺の酔いは一気に醒めてしまった。

 

「今度異変の関係者の宴会があるからアンタも出なさいよ」

 

嘘だろ巫女さん



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#7

 

 

○◎月△○日

 

昨夜の宴会は楽しくはあったが、巫女さんがとんでもない爆弾を

 

落としていったので困ったもんだ。

 

巫女さんが言うには神社で宴会を行うので、

この神社の関係者を呼ぶのは当然とのこと。

 

確かに?

 

でも吸血鬼とか妖怪は怖いからと断ろうとしたが、

周りの里の人からその日宴会の酒やつまみは任せとけだの、

子供達からの期待の視線や稗田の嬢ちゃんの私も参加します!

 

宣言の後ではすっかり言い出せなくなってしまった。

 

【我が信徒よ。あの巫女の前ではそうそう危険な目には合うわけ無かろうて。】

 

不安に苛まれ床でゴロゴロしていると神様が声を掛けてきた。

 

神様は巫女さんの異変解決の様子を詳細に知っているようで、

巫女さんが話していなかった細やかな部分まで語る。

 

話を聞いて思うのは巫女さん強すぎではないかということ。

 

というか巫女さん吸血鬼を倒したしか言ってなかったけど、

吸血鬼の妹さんも倒していたのか。

 

まあそれなら巫女さんの前で変なことはできないかな。

 

【我が信徒よ。吸血鬼よりも妖怪の賢者に気をつけよ。】

 

それはどういうことかと聞き返すと、

 

幻想郷の管理者であるならば、神社に入り込んだ人間と神を野放しにしたりはしない。

 

必ずどのような意図を持っているか確認しなければならない。

 

そのため今回の異変解決の宴会の場を利用して接触してくるはずだが、

普段の行いから俺よりも神様に接触してくると思われるので、

 

やっぱり心配する必要はないとのこと。

 

 

○◎月△×日

 

でも心配だったので知り合いに声を掛けて宴会に出てもらうことにした。

 

普段盟友盟友煩い河童と、我らが先生だ。

 

マリちゃんは参加するらしいし、古道具屋の店主には断られた。

 

赤信号皆で渡れば怖くないよ。

 

○◎月△△日

 

 

さて宴会の参加者だが、闇妖怪に、氷妖精、大妖精の野良組に、

吸血鬼姉妹、銀髪メイド、紫魔女とお付の小悪魔の紅魔館組、

俺、神様、巫女さんの神社組、

稗田の嬢ちゃん、マリちゃん、先生、河童、天狗の自由参加組。

 

稗田の嬢ちゃんと天狗は異変の取材だと。

 

参加者を見ながら食器などを配膳していると、

後ろから肩を捕まれた。

 

爪が肉に食い込んで痛い!

 

「貴方は食べてもいい人間?」

 

闇妖怪に食べちゃダメな人間だと毅然とした態度で返した。

 

更に本当に食べちゃダメかと聞かれたので、先生に助けを求める。

 

先生!この子めっちゃ力強いです!肩が取れそうです!

 

これで注目を集めてしまったのか、妖精が近寄ってくる。

 

「おい人間!あたいはさいきょーのチルノ!」

 

「ちょっとチルノちゃん危ないよ。この人妖精攫いだよ。」

 

あっどうも、はあ最強なんですか。凄いですね、惚れ惚れします。

 

大ちゃんさん、妖精を捕獲したのはあそこで飲んでいる金髪魔女で、

 

私は一切そのようなことは企んでおりません。

 

「人間さん、今日はいい月ね。」

 

おお吸血鬼様、本日はお日柄・・・お月柄も良く、今日は存分に楽しまれてください。

 

俺の言葉に何か引っかかったのか紫魔女がやってくる。

 

えーと魔女様はなぜこちらに?へっ?、お日柄はそういう意味じゃないと・・・。

 

さすがは魔女様でございます!正しき知識をお持ちになられる正に賢者!

 

見知らぬ金髪の女性も近づいてくる。

 

ほぇっ?私も賢者と呼ばれていると、えーと貴方は?

 

ヒエ妖怪の賢者様であられますか!

 

あのーそのー・・・河童ぁ!助けろ!

 

・・・なんだこのマイクは?この前の宴会の歌を聞いてみたいだって?

 

一番!歌います!

 

ふう何とかなったぜ。

 

皆マイクの取り合いになってて俺のことをさっぱり忘れてやがる。

 

全くなぜ俺が接待しなければならないのか、

 

巫女さんはマリちゃんと吸血鬼姉と飲んでるし、

 

先生は稗田の嬢ちゃんのところにいるし、

 

河童は歌ってるしとため息を吐いていたら、

 

メイドさんがお酒入りのグラスをくれた。

 

一息で飲むと葡萄の豊かな香りと熟成された酸味と渋みが濃く、

 

非常に飲み辛い・・・これはいい葡萄酒だ!

 

チーズもあるんですか。これはねっとりとして臭い白カビチーズ!

 

売れそうかって?勿論ですとも人里は飲兵衛が多いので、

 

酒の種類が多いとその分喜ばれますよ。

 

酒屋への紹介状出しておきますよ。

 

あれ?妹さんが本殿の中に入って行ったな。

 

あの中には神様の石像しかないけど、探検かな?

 

そんなことより酒が美味い!

 

 

○◎月△☆日

 

【我が信徒よ。一つ仕事を頼まれてはくれないか。】

 

神様からの依頼は神社の裏手にある森を、

 

注連縄を張って人が入らないようにすること。

 

神様が言うには神社の裏にある洞窟などは、

 

地獄やら魔界からの入り口になっているため、

 

里の人が迷い込まないように人払いの結界を張るらしい。

 

面倒臭そうにしている巫女さんと手分けして、

 

裏手にある洞窟や池などを、中心に注連縄を張っていく。

 

作業中地面に星のマークを見つけたので、

 

何が埋まっているのか気になって掘り返すと、

 

やたらめったらお札の貼られた物体が出土した。

 

あからさまに怪しいものだったので見なかったことにしようとしたが、

 

埋める動作の途中でお札が剥がれたのか、

 

封印が解かれ中から何かが出て行ってしまう。

 

それはオレンジを残して注連縄の中心部に飛び去っていった。

 

一体何だったんだろうかと、思いつつ作業を再開する。

 

作業後、巫女さんに良く分からん奴がでちゃったことを報告し、

 

手元にあるオレンジを見せる。

 

「出ちゃったじゃないわよ。まあ妖怪かなんかでしょ。」

 

そのオレンジはくれるのかという巫女さんにその良く分からん奴が残したもので、

 

何か呪い的なものはないのか確認して貰う。

 

特に呪いは無いらしいので、

 

神社の隅っこに植えてみるとすぐに芽が生えた。

 

そういえばゲームにオレンジのなる木があったな。

 

 

○◎月△◎日

 

日課を終え参拝のついでに昨日のオレンジを見に行くと、

 

巫女さんが地面に座っていた。

 

「たまににゅっと伸びて面白いわよ?」

 

 

どうやら急成長しているオレンジの木を観察しているようだ。

 

既に木は50cmほどまで成長している。

 

試しにじょうろで水を掛けてみると、なんとなく元気になった気がする。

 

近くにあったしおれ気味だった花にも水を掛けてみる、ちょっと元気になったようだ。

 

 

○◎月△●日

 

今日もオレンジの様子を見に来たが、

 

なにやら神社の境内でにらみ合う巫女さんと緑髪の女性がいる。

 

巫女さんの重圧に平気な顔をしている時点で、

 

やべーやつなのは確定的に明らかだ。

 

見なかったことにして踵を返すことにした。

 

くわばらくわばら。

 

 

○◎月□○日

 

夜が明ける前に、吸血鬼の妹さんが家にやってきた。

 

「お姉さまって酷いのよ!」

 

姉の愚痴を散々言った後、はっぱの傘を強奪して帰っていった。

 

なんだか分からんがお姉さんとは和解したらしい。

 

妹さんを見送りに外に出るとご近所さんが、

 

腕を組んで壁に寄りかかるという強ムーブをしていた。

 

とりあえず挨拶しておく。

 

子供に手を出すわけが無いでしょ。



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○★月○○日

 

この前はオレンジの木の様子を見れなかったので、

今日こそは様子を見に神社へ向かう。

参拝を終えて木の方へ行くとすっかり成木まで成長していた。

 

木陰に巫女さんが座っており、なぜか植木鉢を持っていた。

オレンジの木は成長が早いですね、その植木鉢はなんですか?

と巫女さんに聞いてみた。

 

「花に好かれる人間なんているのね。」

 

植木鉢をもった花妖怪が現れ、巫女さんに手渡してきたそうだ。

その花妖怪が言うにはこの前水をあげた花が俺のことを好きになったらしく、

一緒にいたいという願いを花妖怪が聞いて植木鉢に入れてあげた。

 

盛大な肩透かしだったわという巫女さんは呆れ顔だった。

植木鉢を受け取って花を見る。

この黄色い花はなんていうだろうか。

 

 

○★月○×日

 

花は家の前に置いておくことにした。

埴輪の隣だ。

そういえば埴輪があれ以降でないが、

埴輪が出る条件はあるのだろうか。

 

日課を終え神社へ向かうと木を眺める巫女さんがいた。

巫女さんは木になっているオレンジが気になっているようだ。

 

「やっと来たわね。さあこの蜜柑?をとるわよ!」

 

元気な巫女さんに圧されてオレンジを採集することにした。

巫女さんは空を飛んで上から、俺は下のほうになっているオレンジを取っていく。

 

オレンジを手に取るごつごつしてしっかりとした重量感があり、

よく育っているが昨日は成ってなかったのにこの木はちょっとおかしいな?

全部で20個ほど手に入った。ゲーム的に考えると取れすぎでは?

 

試しにオレンジを食べてみるとうんまい!

なんか力が溢れるような気がするな。

巫女さんははじめて食べる味に少々驚いているようだ。

 

「これはこれで美味しいわね。あとこの力はなに?」

 

フルーツパワーか、ちょっと試してみよう。

オレンジの木をスコップで回収してみると、

そのまま竹籠の中に収納された。

 

フルーツパワーすげえ!

巫女さんもびっくりの効果だ。

とりあえず木は植え直しておく、

巫女さんは木の植え替えはできないようだ。

 

 

○★月○△日

 

【我が信徒よ。新しい石像を作ってくれ。】

 

神様から新しい石像作成をお願いされる。

使う素材はDIYで作ったよくある庭石を使う、

石工道具を使ってガンガン形を整えていく。

 

前よりは人っぽい見た目になった気がするが、

相変わらず表情や腕や足などは難しい。

下手に削ってしまうと形がおかしくなって、

はじめからやり直しだ。

 

なんとかできたものを神社に持って行き、

巫女さんに新しい石像を渡す。

 

巫女さんの簡易的な奉納の儀を見ながら、

石像を見比べてみると古い石像が若干黒ずんでいるのが分かる。

古い石像も灰色だったはずだが、黒い褐色の石像になっていた。

 

 

○★月○□日

 

今日は蕎麦を啜った後に、貸本屋へ行った。

稗田の嬢ちゃんが書いている縁起に追記があったから、

この前の異変がどう書かれたのか読むためだ。

 

縁起には幻想郷が赤い霧に包まれたことや、発生源が霧の湖の湖畔に立つ赤い館であること、

赤い館の主で異変の首謀者である吸血鬼の話、巫女さんが異変を解決したことが載っており、

巫女さんがどのように異変を解決したのかも描かれている。

 

マリちゃんも異変で動いていたのがちょっとだけ載っていた。

 

里の貸本屋を出たところで紅魔館のメイドさんに出会った。

メイドさんは酒の納品に来ていたようで、酒屋に口利きしたのを改めて感謝された。

早速入荷されたワインを買って帰ろうかと思ったら、本が好きなのかと聞かれた。

 

本は好きでよく読むと答えると、紅魔館に大きな図書館があるので

是非訪れて欲しいといわれる。

 

どうしたものかと考えていると、貸本屋の嬢ちゃんが図書館の事を聞きつけてきた。

嬢ちゃんが図書館の本を貸し本屋に置いて業務提携できないかメイドさんに提案したが、

それについては図書館の主に直接交渉して欲しいと言われる。

 

嬢ちゃんの矛先がこっちに変わり、

業務提携の話を図書館の主にしてきて欲しいとお願いされた。

話だけならいいと安請け合いして後日紅魔館に行くことになった。

 

 

○★月○☆日

 

人里近くの水田を過ぎ、いつも釣りを行っている川を渡り、

霧に包まれた湖の傍に建っている赤い館にたどり着いた。

 

道中では妖精がふよふよと飛びながらピーチクパーチクと、

歌っていてどこかで聞いたような気がしたが、下手糞でよく分からなかった

 

さてメイドさんに招かれ、紅魔館に訪れたわけだがここは既に人間の領域の外、

いつでも気絶する心持で、門の横に立っている門番と話してみる。

 

メイドさんから招待されたことを伝えると、話に聞いていたようで笑顔で応対される。

門番は近くでうろついていた妖精メイドを伝令に出して、

手持ち無沙汰になったので色々と話すことにした。

 

「弾幕勝負は難しいです。直接殴ったほうが手っ取り早いのでなんか歯がゆい感じですね。」

 

大体は異変のことだったが、どうやら門番さんは弾幕勝負は苦手なようだ。

彼女は慣れないといけませんねと素振りを行う、その正拳は風圧で近くの木を揺らす。

 

・・・おっと気絶するところだった。

 

俺たちが雑談していると、メイドさんがやってきた。

メイドさんに愛想よく図書館に案内される。

門番さんはメイドさんをみてぎょっとしている。なんで?

 

でっかい図書館だなぁ。

そんな感想しか出ないほど、ずらりと本が並んでいる。

図書館に呆然としていると、メイドさんに促されて、

図書館の主のところに案内される。

メイドさんはここでさよならみたいだ。

 

宴会にも出ていた紫魔女さんと小悪魔さんだ。

紫魔女さんにはいつでも歓迎することと、本を読むならそこの書見台を使っていいこと、

本を借りて帰るなら小悪魔さんに安全な本か確認してから借りるように言い含められた。

 

図書館で司書している小悪魔さんに案内されながら本を見て回る。

歴史書、技術書、物語・・・奥の方にある魔道書や禁書には触れないように注意してくるが、

別に小悪魔さん的には触ってもいいと言われる。

 

絶対触らないことを誓いつつ、いくつか気になる本を見繕う。

紫魔女が使ってもいいといっていた書見台を利用し本を見る。

気になったのは刊行日新しい歴史書や新聞である。

 

ふーむなるほどなぁ。

 

読んでいる途中、近くで本を読んでいた紫魔女から話しかけられる。

話の多くは好みの本についてで、魔女さんは魔道書や技術書をよく読むそうで、

物語はメジャーなものを暇つぶしに読むくらいらしい。

一応貸本屋からの依頼の件も話してみたが、

依頼主本人と話して決めるとのこと。

 

依頼主にはそう伝えておくので会うだけはお願いした。

善処するわと言っていたが、両者とも出歩く性質ではないので会うことはあるのだろうか。

なにか考えておかないとな。

 

魔女さんとは読書トークで意外と盛り上がった。

最適な読書体勢や叙述トリック小説との出会いかたについて話していると、

メイドさんがやって来て夕食でもいかがですかと聞かれる。

 

メイドさんの案内されて夕食をとらせてもらう、

食堂には吸血鬼姉妹が既にいて一緒に食べることになった。

食事は洋食がメインだったが箸も用意されていたので使わせてもらう。

 

食事会では人里や神社のこと、巫女さんや神様の話をした。

食事会は和やかに進み、出てくる酒や料理も美味い、

お姉さんのほうから何か困ったことがあったら手を貸そうと言われた。

 

これはありがたいと流しつつ、流石に紅魔館組がこちらに友好的過ぎて困惑しかない。

 

帰りは危ないからと妹さんに抱えられて夜の幻想郷を飛んで帰る。

 

妹さんとは神様の話をした。

妹さんは神社に興味があるのかな?

 

 

○★月○◎日

 

【異変を起こした妖怪からの謂れのない好意のう・・・ふむ。】

 

紅魔館からの理由の分からない、不可解な好意を疑問に持ったので

夢の中に現れた神様に相談してみると、どうやら神様の仕業らしい。

 

異変の前に妹さんの夢の中に現れ、異変に関わるようにしたとのこと。

 

なんでそんなことをしたのかと聞くと、恩を売るためらしい。

何かあったときに頼れるものがあるのと無いのとでは違うとのこと。

 

今回は妹さんの狂気の原因を一時的に取り除き、能力を制御しやすくしたのと、

もし妹さんが暴走しても止められる巫女さんがいることを分かりやすく見せたらしい。

 

狂気の原因についてはやたら難しい理論と思想を説明されたので、

一瞬で忘れてしまったよ。

 

お姉さんからの言葉は、ようはこちらも手を貸すから妹さんをよろしくというメッセージだそうだ。

 

最後になんで最初に言い淀んだのかと聞くと、

俺がこのことを知ることで起こるであろう利点と欠点を天秤に掛け、

知っていることのほうがいいと判断したからだそうだ。

 

俺が知っていることで他の妖怪から警戒されるデメリットと、

俺が知らないことで俺から警戒されるデメリット、

どちらが神様にとって不味いかというと圧倒的に後者であるらしい。

 

なんだかよく分からんが、これからも疑問には答えてくれるそうだ。

新しい石像のことを聞くと、悪くないそうだ。

 

 

夢から起きてみると、夏の暑さは既に引き

山は紅葉し始めている。

 

 



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×○月○×日

 

秋が来た。

秋が来たということは、稲刈りをしなければならないということだ。

里が総出になって作業を行うので、普段あまり絡みの無い人が大勢いる。

 

あれこんな人いたっけ?ということもままある。

狭い里なのに不思議なことだ。

 

大体は外から流れてきた人で、普段はひっそりと暮らしており、

人手が必要なこの時期にかり出されることがある。

だから隣で周りをキョロキョロしてる人もそうなのだろうな。

 

どうも!赤い髪がチャーミングですね!

稲刈りははじめてですか?

へえ同じ長屋の人に言われて参加したけど勝手が分からないと、

じゃああそこで偉そうに指示出してるおばちゃんに聞くといいよ!

 

他にもウロウロしていた新人を熟練に任せてひたすら稲を刈る。

うやうやしく頭を垂れる稲穂は豊穣の証!

ご近所さんと今年も秋祭りが楽しみですなと話しながら稲を刈り続ける。

 

里の田んぼの大きさは200反(1反=1000㎡くらい)ほどで、

今年の収穫は800石くらいだそうだ。

貸本屋で借りた本では1反あたり1石の収穫が普通らしいのだが、

豊穣神パワーとやらで4倍の収穫となっております。

 

豊穣神ってすげえな。

そら毎年祭りが開かれるわけだぜ。

 

 

×○月○△日

 

昨日刈った稲穂をひたすら干していく。

刈った稲穂は木を組んで作った稲木に掛けて天日干し、

乾燥したら脱穀だがそれは女衆の仕事なので、

今度は別の畑の収穫だ。

秋に収穫するものは多いのだ。

 

 

×○月×○日

 

収穫が終わったら長屋の近くに小屋が建っていた。

中を見ると何も入っていない。

 

何だろうと思ってご近所さんに聞いたら、

俺の部屋に山積みにされている木材用の薪小屋らしい。

 

ぼやを起こされても敵わないからねというお言葉を頂いた。

あと薪小屋に置いた木は長屋の共有財産ということで、

他の人も使うそうだ。

 

まあ正直消費が追いつかなくて困ってたから逆に助かるな。

 

 

×○月××日

 

何度目かの紅魔館に到着。

いつも通り門番さんに挨拶して中に入る。

 

魔女さんと小悪魔ちゃんにもご挨拶してから、

図書館で借りていた本を返して新しい本を探す。

 

何を借りようかと館内を練り歩いていると、

何かが壊れる音が聞こえた。

 

野次馬根性で現場に行くと、

マリちゃんが魔女さんと弾幕勝負していた。

 

窓が開放感に溢れているのを見ると、

マリちゃんが窓を突き破って進入してきたのを、

怒った魔女さんが懲らしめるべく弾幕勝負に移行したのだろう。

 

しばらく眺めていると魔女さんの持病による時間切れで終了した。

病んでさえいなければという捨て台詞を吐く魔女さんと、

病んで無くても余裕だぜという大口を吐くマリちゃん。

 

感想戦を兼ねたお茶会をしていると妹ちゃんがやって来て、

妹ちゃんとマリちゃんの弾幕勝負が始まった。

 

爆発音をBGMに魔女さんと雑談を楽しむ。

前に借りた本の感想や、マリちゃんが迷惑を掛けていること、

読んだことを忘れて同じ本を読んでしまったことなんかを話した。

 

「あら、何度でも名著を楽しめるなんて素敵なことじゃない?」

 

魔女さんは忘れるということは人間に許された幸福の一つだと言った後、

まあ私は一度読んだ本のことは忘れないけどね、と笑っていた。

 

そういえばこの人、種族魔女だったな。

 

その後はマリちゃんをからかって、

妹ちゃんのおじさま呼びにショックを受けて、

食事会でお姉さんに秋祭りがあるので、

是非参加してくださいと招待した。

 

 

×○月×△日

 

日課帰りに貸本屋に寄って、

図書館の責任者がくるから接待よろしくと、

自称看板娘にぶん投げた。

 

「あ、はい分かりました。・・・ってどういうことですか!?」

 

身を乗り出す嬢ちゃんを手で制して説明する。

 

図書館の責任者は業務提携をするなら、

直接会ってからじゃないと決められないと以前伝えたが、

そもそも図書館への道中は危険だし、

両者とも外を出歩く性質ではないので、

祭りに託けて両者を引き合わせるというお節介を焼かせてもらった。

 

「ありがとうございます。でも心の準備が・・・。」

 

嬢ちゃんをほっといて祭りの準備をすることにした。

 

 

×○月×□日

 

秋祭り前日。

 

DIYパワーを発揮し屋台と丸太のベンチやテーブル、石窯を作成し、

祭りが行われる通りに並べていく。

 

「おっ、中々しっかりとした作りじゃないか。お前が更生してくれて先生は嬉しいぞ。」

 

慧音先生、そりゃないぜ。

俺ほどの好青年はそうはいないよ。

 

笑い飛ばされてしまった。

 

今年はどんな催しをするんだと言われたので、

見ての通りの屋台だよと返すと、

去年の滑稽な踊りも良かったのにと言われる。

 

滑稽とは酷いな、俺の渾身のロボットダンスだったのにな。

今度河童に見せてやろう。

 

 

×○月×☆日

 

秋祭り当日。

 

このときのために練習してきたアレを存分に披露する。

 

これが俺のピザ回しじゃーい!

 

俺が生地をくるくると回すたびに周りのちびっ子から歓声が上がる。

すると周りから注目されてピザが売れる。

ピザを焼くために生地をくるくる回すという、

無限ループに陥った。

 

さすがに手が廻らなくなったので、お手伝いを希望した妹ちゃんに、

生地にソースを塗るのとチーズをトッピングするのを担当して貰っている。

 

「店長トッピングできたよ!」

 

でかした!

妹ちゃんからピザを受け取って石窯に放り込む。

いい感じに焼けたら、カッティングして紙に載せてお客に渡す。

 

それを繰り返していくと客足より先に、

材料が尽きてしまった。

想定よりも早くなくなってしまったな。

 

いやー妹ちゃんがいてくれて助かったよ。

これ少ないけどお駄賃ね。

祭りは他にも出店があるから楽しんでね。

 

テーブルに座ってピザを食べてるお姉さん達に声を掛ける。

妹ちゃん借りてすみませんね。

どうぞ祭りを楽しんでください!

 

「別によろしくてよ。フランも楽しんでいたわ。」

 

懐の深いお姉さんは妹ちゃんとメイドさんを連れて、

人波に紛れていった。

 

俺も屋台を片付けたら祭りを楽しむとしよう。

テーブルは・・・なんか魔女さん、マリちゃん、

貸本屋と稗田の嬢ちゃんが占拠しているので後で回収しようかな。

 

人垣が割れて神輿が現れる。

神輿の上には秋の神様と豊穣の神様が乗っている。

 

神輿は通りの真ん中の主賓席の前に停まり、

二柱の神様が降りてくる。

 

主賓席に座った神様の前で様々な催しが行われ、

祭りを大いに盛り上げ来年の豊穣を祈願する。

 

今年盛り上がったのは特に巫女さんの舞に、

米俵を3俵持ち上げた怪力おじさん、

ちびっ子による大地讃頌あたりだろうか。

 

里長による骨カクカクダンスはやや受けだったな。

やはり俺が踊ったほうがよかったのでは?

 

紅魔館組も里の催しは楽しめたようで、

妹ちゃんが跳ねているのが見える。

 

 

×○月×★日

 

業務提携の話はうまく言ったようで、

貸本屋の嬢ちゃんからお礼を言われた。

 

 

×○月×●日

 

薪小屋に木材を満載してやった。

これで冬の燃料には困らないな。

ご近所さんは呆れていたが、

少ないよりはよっぽどいいだろう。

 

 

×○月△○日

 

積もった落ち葉が木枯らしで飛ばされる。

もう冬が来たようだ。

最近は秋が短くて困るな。

 



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10

××月○○日

 

紅葉も散り

枯れ木が目立ち始めた

木枯らしが身にしみる

 

××月○×日

 

秋頃に寒くなってから実らなくなったオレンジの木を、

雪から保護すべくゴザを巻いて冬囲いをすることした。

 

冬が近づくと里の人は藁を編んでゴザやつぐら、笠、蓑、ワラ靴を作る。

特に婆さんが作るワラ細工は網目が細かく品質が良く、

雪が降っても外を出歩く人には人気がある。

 

俺はよく按摩を頼んでくる婆さん連中から既に確保済みだが、

そうでない人は店に並ぶまで待つ必要がある。

 

これがコネというやつだ。

 

××月○△日

 

冬になると行水がキツイ。

そこで俺はなにか使えるDIYは無いかと考え、

いい物があることを発見した。

 

サウナストーブだ。

 

大工に頼んで俺の考えるサウナ小屋を再現して貰った。

水風呂と外気浴用のベンチも完備だ。

 

早速大工のおっちゃんとサウナを利用する。

 

これはいいものだ。

きっちり整うまで使うと、この感覚を理解したおっちゃんは、

サウナを気に入ったのか、こんな小さな小屋じゃダメだと言って帰っていった。

 

 

××月○□日

 

里にサウナ施設ができるらしい。

そのためサウナストーブを10個作成することになった。

そんなに気に入ったのか大工のおっちゃんよ。

 

 

××月○☆日

 

DIYで囲炉裏を作った。

畳の上にそのまま置けるので便利だ。

撤去も楽だし、これも当たりだ。

 

 

××月○◎日

 

ご近所さんたちとサウナに入っていると、

情報通の男が里の表通りに大きなサウナ施設ができたのを教えてくれた。

 

早いな。

 

もう既に使ったのか内装も詳しく教えてくれる。

男は稗田家内に作られたサウナにも入ってみたいと言っていた。

 

 

××月○★日

 

雪が降ってきたので、雪見しながら風呂と思って、

露天風呂を作ったがすぐに冷えてしまった。

 

湯が沸いているわけじゃないので当たり前だった。

どこかから湯を引いてこないと使えないのか。

 

 

××月○●日

 

【なるほど・・・ええのうサウナ。我も入ってみたいのじゃ。】

 

神様が残念がっている。

そうか神様は実体が無いから、これは可哀そうなことをしてしまったな。

どうにか神様の実体をつくれないだろうか?

信仰を集めればいいのかな。

 

【我が信徒よ。実は実体化に必要な信仰は足りておる。しかし今はそのときではないのじゃ。】

 

足りてるのか・・・。

神様が言うには信仰は足りているが、まだ実体を作るには時期が早すぎるとのこと。

実体を作るのに早いも遅いもあるのかはよく分からんが、

神様がいうならそのとおりなのだろう。

 

俺にできることは無いか聞くと、

神様の実体に相応しい形を作ってほしいらしい。

そういえばまだウネウネする人型の影のようなものでしかなかったな。

里の人が受け入れやすい形を作ることが今後俺がやるべきことらしい。

 

石って彫るの難しいんだよね・・・。

えっ、石じゃなくてもいいの?

石は不変の象徴だから本当は石で作られたほうが望ましいけど、

木造とかでもいいらしい。

そっかー。

 

 

××月×○日

 

「盟友、頭に雪が積もっているよ。」

 

釣りをしていると河童が現れた。

丁度いいので木工に役に立つ道具は無いか聞く。

河童印の木工道具を貰った。

 

「本当は電動工具渡したいんだけど、里には電気供給されてないからね。まっ、頑張りなよ。盟友。」

 

前から思ってたが河童だけ技術水準がおかしいな。

どうやって発電してるのかと聞いたら、地熱発電らしい。

水力じゃないのか。

 

 

××月××日

 

木造ほりほり。

 

 

××月×△日

 

「そこの人間!雪だるまつくろ!」

 

紅魔館に本を借りに行こうとしたら、

氷精に絡まれた。

 

やたら元気だし、近くにいると寒いし、面倒だったが、

一向に離れる気配が無かったので付き合うことに。

 

氷精は歪な雪だるまを作っている。

緑の子はどうしたと聞くと、寒いから家に篭っているらしい。

そういえば今日は妖精がいないな。

 

さてこの生意気な氷精に人間の恐ろしさを見せてやらんとな。

 

遊んでいる氷精を参考に雪像を作っていく。

ものの数時間で1/1の氷精の雪像ができた。

細かい造詣は端折ったが氷精に見える出来だ。

 

「なんじゃこりゃー!」

 

みたか氷精よ。

これが毎年雪像作りに精を出す里の子供技術力だ。

恐れ入ったか。

 

「そんな最強のゆきだるましょくにんのあたいが負けたの?」

 

膝を突く氷精を尻目に高笑いをして紅魔館に向かう。

 

帰りに雪像を見に行ったら無くなっていた。

 

 

××月×□日

 

「人間!来たわよ!」

 

くんじゃねーよ。

日課に行こうとしたら、いきなり戸がガラッと開いて氷精と緑の子が現れた。

なんで家しってんのか聞くと、紅魔館の門番に聞いたらしい。

家の前に埴輪がある家がそうだと。

 

あの門番め。

とりあえず緑の子が寒がっているので家に入れてやる。

 

どうも氷精がリベンジにしに来たらしい。

緑の子は心配になって付いてきた。

 

緑の子に同情したので、婆さんのところに行って子供用の笠と蓑、ワラ靴を貰い、緑の子に装着させる。

ごわごわすると文句を言っていたが、黙殺して氷精の挑戦を突っぱねる。

 

暴れそうになっていると氷精を制し、いきなり王はとれないだろうといって、

里の子供と雪だるま作り勝負に勝ってから出直してこいと告げる。

 

お前王様だったのかと言う氷精を置いて外に出る。

緑の子が小さな声でお礼を言っていたのを無視して日課に行く。

 

日課を終えて帰ってきたら里の子供と雪合戦をしている氷精と緑の子がいた。

 

 

××月△○日

 

毎日毎日スコップで雪をかいて、

里の人の依頼で雪下ろしをする。

 

 

×△月○○日

 

商店の店主たちと氷室用の氷を作る。

氷造り用の池に水を張り何日もかけて凍らせた氷は透明度が高い、

それを鋸で切り出してから氷室に運び込んでおが屑を敷き詰める。

切り出した氷は40キロ以上あるので大変だ。

 

 

×△月×○日

 

家の窓辺に置いた花は散らずに咲いている。

なぜ散らないのだろうか?

毎日じょうろで水をやっているからだろうか。

 

 

×△月△○日

 

DIYで作ったワイルドな丸太のベンチから何回も神様の木像を作ってはいるが、

中々どうして上手くいかないものだ。

石像を彫るよりも楽ではあるがそのぶん拘ってしまう。

そもそも神様の形はどうすればいいのだろうか?

神様は好きに彫っていいと言ったが・・・。

 

 

×□月○○日

 

少女の像、妙齢の女性像、筋骨隆々の男性の像、威厳のある老人の像、

動物を象った像、魚の像、蛇の像、龍の像、どれもがピンとこない。

 

 

×□月×○日

 

気晴らしに仏像や有名なモチーフの像を作る。

河童の工具は素晴らしく手になじむ、今では薄い絹の表現もできなくは無い。

 

 

×□月△○日

 

サウナでご近所さんに悩みがあるのか聞かれ、

中々神様の木像が作れないと答えた。

 

するとご近所さんが作った木像がみたいというので、

部屋に上げて木像を見てもらう。

部屋の中にびっしりと並ぶ木像に引いていた。

 

最初に作った物から最近のものまで全部見たご近所さんは、

材料が悪いと結論づけた。

木像の木目は全て均一で個性が無く、俺の作風も木に合わせたものじゃないので、

歪に見えるそうだ。

 

この木は木像を作るのに適していないとのこと。

確かに材料にしているのはワイルドな丸太のベンチだから座るのに適したものなのかもしれないな。

 

時にご近所さんその手にあるのは?

この小さい木像は良くできてるから助言代に貰っていくと、

まあいいですよ。

 

 

×☆月○○日

 

ご近所さんの助言に従って、材料を替えた。

山から切り出した丸太を大工から貰って試しに彫ってみると、

今までよりも格段に良くなった。

何となく木の木目というか表情が分かるようになってきた。

 

 

×☆月×○日

 

サウナでご近所さんに礼を言うと、そんなことよりもそろそろ暦では春に入るのに、

一向に温かくならないなと言われた。

 

俺の冬が一蹴されたが、確かに長い。

普段なら雪はとっくに降り止んで、早ければ雪解けが始まる時期だ。

たんに長引いているだけか?というご近所さんを見て、

そういえばそんな異変あったなと思った。

 

 

×☆月△○日

 

神社の雪かきと雪下ろしを終えて巫女さんに、

この冬が長引いているのは異変なのではと聞いてみる。

 

「確かにもう桜が咲いてもおかしくないものね。これは異変ね!」

 

威勢はいいが囲炉裏の傍から離れようとしない。

とりあえず調査をお願いして帰ることにした。

わりと気分屋な巫女さんを動かすにはまだ時間が掛かるようだ。

 

 

×◎月○○日

 

「春ですよー!春ですよー!」

 

家に帰ると春告精が散らない花を眺めていた。

夏に咲く花だぞと突っ込んだら、

この花には春度があるらしい。

 

なんだよ春度って。



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11

×◎月○×日

 

今年の冬は長い。

サウナ需要もあり、薪の値段が高騰している。

例年の数倍の値が付くほどだ。

そのため薪の買占めに走るものや、

薪を取りに山に入って帰ってこないものも出た。

 

実際俺も薪の利益を独占しようと持ちかけられた。

流石に今の状況でそんなことをしたら人から恨まれると突っぱねたが、

ちょっと不味いかもしれない。

 

この状況を打破すべく毎日大量に薪を集めている。

俺としてはただで配ってもいいのだが、

今度は高値で売られてしまうかもしれない。

 

そこで俺は閃いた。

俺個人ではなく神社からの配布ということにすれば良いと。

 

早速博麗と描かれた焼印を勝手に作って、

俺が取ってきた薪に焼き付け、里で配った。

神社の焼印を付けた薪を転売するような輩はそういないので、

これで薪の値段も落ち着くだろう。

 

 

×◎月○△日

 

【なるほどのう。焼印付きの薪を配ったことで新たに信仰が増えたのじゃな。】

 

うむうむと納得する神様。

こっちも神社の名前を使ったら信仰も増えるだろうなと納得。

 

今回増えた分の信仰で何かしらの能力を作ってくれるそうなので、

期待して待っておきますといったらちょっと困っていた。

 

 

×◎月○□日

 

「まさかこんな手で急かしてくるなんて、流石はあの神様に見込まれただけはあるわね。」

 

巫女さんが家に来て、開口一番にそんなことを言った。

 

何を言っているのかと思ったのだが、

どうやら薪を買った人が神社にお礼しに行ったらしい。

 

そこで薪不足で里が困っていることを知って、

異変の調査に出ることにしたと。

 

巫女さんてきにはいつもより食料の備蓄が多いし、

薪も俺が勝手に置いていっていたから例年よりもとても良い冬だったそうな。

 

それじゃあ異変の元凶を潰してくるわと言って巫女さんは飛んでいった。

なるほど一石三鳥のアイデアだったのか。

 

 

×◎月○☆日

 

薪を集めるため遠出して普段行かない道を歩いていると、

ふとこの辺にお地蔵様が立っていたことを思い出す。

 

記憶を頼りに雪の中に埋まっていたお地蔵様を掘り当てる。

今年は人の肩ほどまで積もっているからかなり苦労した。

 

雪とお地蔵様で笠地蔵の話を思い出した。

雪の降る日に雪の積もったお地蔵様に笠をあげたら恩返しされたというものだ。

 

童話では笠だったがこの雪の量だと意味が無さそうだったので、

お地蔵様用の小さな祠を作ってみた。

 

 

×◎月○◎日

 

何となく他のお地蔵さまが気になったので、

慧音先生にお地蔵様の場所を聞いて、

祠を建てて廻ることにした。

 

 

×◎月○★日

 

魔法の森のお地蔵様の所に行ったが、見当たらなかった。

もしやと思って古道具屋に行ったが、流石にお地蔵様は売っていなかった。

店主が僕を何だと思っているんだいと言っていたので、

少なくとも商才は無いよねと返しておいた。

 

帰りにすごい福耳の人と出合った。

薄そうなコートを着ていたので、

蓑をあげたらやたら遠慮された。

 

こんなところで何をと聞かれたので、

笠地蔵の話をして、お地蔵様の祠を作りに来たというと、

それにしては荷物が少ないですねと言われた。

 

材料は籠の中ですといって竹籠からワイルドな丸太のベンチを出すと非常に驚かれた。

どうやら納得して貰えたようだ。

 

それじゃ、といって別れようとしたら、

笠地蔵の話を本当に信じてるんですか?と聞かれたので、

神様がいて妖怪がいるならきっとお地蔵様も動くだろうと答えた。

 

今度こそ福耳の女性と別れる。

 

ああ、でもお地蔵様がうちの埴輪みたいに動かれたら笑ってしまうかも知れないな。

 

 

×◎月○●日

 

薪集めとお地蔵様の祠作りのついでに、

木像に相応しいいい感じの木が無いか探しているが、

中々ピンと来る物が無いな。

 

霧の湖近くのお地蔵様に祠を作っていると、

福耳の女性とまた出合った。

 

本当に作っているんですねと言われたので、

本当に作っているんですよと答えた。

 

大変じゃないですかと言われたので、

大変じゃないですよと答えた。

 

欲しい物はないですかと聞かれたので、

欲しい物はないですよと答えそうになったのを堪える。

 

俺はこだまじゃないので、

いい感じの木と答えた。

 

いい感じの木とは何ですかと聞かれたので、

神様の像に相応しいいい感じの木ですと答える。

 

福耳の女性は難しい顔をして、

お金とか女性とか即物的なものは欲しくないですかと聞いてきた。

 

この人は何を言っているんだろうか。

とりあえずいらないと答えると女性は去っていこうとする。

 

なんだったのかと女性を見ると、雪に足をとられて歩きづらそうにしていたので、

ワラ靴とかんじきをあげた。

前と同じく凄い遠慮してきたので押し付ける。

 

なんで泣きそうな顔になっているのだろうか。

流石に迷惑だったのかと、思って平謝りする。

 

・・・なんか凄い顔してる。

 

福耳の女性は頑張りますと言って去っていった。

何だったんだろうか。

 

 

×◎月×○日

 

今日も疲れたなと家に帰ると、

白い髪の女の子が立っていた。

何か人魂が浮いているな。

 

「あっこの家の方でしょうか?」

 

とりあえず寒そうにしていたので、

一旦家に上がってもらう。

 

なんの用だろうと思って話を聞くと、どうも探し物をしているらしい。

そして探し物はこの家にあるとのこと。

 

部屋の中を見回す女の子。

ここには埴輪と木像しかない殺風景な部屋。

 

俺はピンと来た。

入り口の片隅にある釣った長靴だ!

 

これだろうと差し出すと、どうも違うらしい。

なんだろうと思っていると女の子がこれですと、

鉢に入った花を持ち上げる。

 

お花が欲しいなんて女の子らしいな。

ちょっと悩んだけどあげることにした。

 

女の子は喜んだ後、花から何かを取り出して急いで帰っていった。

何かをとられた花が萎れたので、水をあげるとまた元気になった。

 

・・・花いらないの?

 

 

×◎月××日

 

巫女さんがまた家に来た。

どうやら異変の調査は難航しているらしい。

 

囲炉裏の火に当たっている巫女さんは腕を組んで唸っている。

何か変わったことがないかと聞かれ、

 

ちょいと考えてみる。

 

色々と変わったことがあるので巫女さんに教える。

まずマリちゃんが貸し本屋の嬢ちゃんを紅魔館に送迎する仕事を請け負ったこと

 

「へー魔理沙も働いてるのね。」

 

サウナ屋が盛況でまた店舗が増えたこと。

 

「私入ったこと無いけど、そんなにいいものなのかしら?」

 

春妖精が花に春度があると言っていたことと、

昨日女の子が花から何かを持っていったこと。

 

「ふーんあの花がねえ・・・ってそれよ!その人魂女が犯人だわ!」

 

やっと手がかり掴んだわよと不敵に笑う巫女さん。

犯人は現場に戻るということで、家で待ち伏せることになった。

 

俺は巫女さんに留守を任せて日課にでる。

部屋のものを壊さないといいけど・・・。

 

 

×◎月×△日

 

今日も巫女さんに留守を任せた。

 

日課を終えて帰ると、人魂の女の子がまた家の前にいる。

俺を見て笑顔になる女の子を家にあげると、

中で巫女さんが寝ていた。

 

とりあえず人魂の女の子にお茶を出してから、

巫女さんを起こす。

 

起きた巫女さんは花を見て不思議そうな顔をしている人魂の女の子に幣を突きつける。

 

「見つけたわよ!あんたが異変の元凶ね!」

「はっ、貴方は博麗の巫女!くっ、これは罠だったのか!」

 

人魂の女の子も慌ててお茶を置いて、刀に手をかける。

一触即発といっていい空気だが、一つ気になることがある。

 

人魂の女の子の隣に立っている女性は誰だろうか。

 

女性に気づいた人魂の女の子が刀を抜こうとしたが、

その手は女性に掴まれてしまった。

女性はこちらを見ている。

 

「もう二度と誰かにあげちゃ駄目よ。」

 

女性は女の子に膝蹴りを叩き込むと、髪を引っつかんで外に出て行った。

巫女さんも外に飛び出る。

 

女の子は無事だろうか。

というかあの女性は巫女さんに花を渡した人か。

 

花を見ると、なんとなく褒めて欲しそうだったので褒めておいた。

どうやらうちの花にはヤバイケツ持ちがいるみたいだ。

 

 

×◎月×□日

 

巫女さんがやってきた。

 

「異変解決したわよ!」

 

巫女さんから話を聞くと、

昨日の女性・・・花妖怪から人魂の女の子を救出し、

黒幕の元へ案内させたが、途中で氷精と雪女に絡まれて逃げられてしまう。

 

逃げた方向は分かっているので、追跡しているとマリちゃんとメイドさんと遭遇した。

彼女たちと情報を共有し、道中にいた猫妖怪や幽霊を蹴散らして、冥界に突入。

 

人魂の女の子が出張ってきたが、花妖怪にやられた傷が痛むのかへなちょこだった。

冥界の主が出てきて、まあまあ苦戦したけど、私の敵じゃなかった。

 

狐妖怪とスキマ妖怪が出てきたので、メイドさんとマリちゃんに任せて、

冥界の主から異変の目的を聞いていると、突然に苦しみ始めたと思ったら、

でかい桜が動き始めたので、とりあえず封印した。

 

スキマ妖怪が冥界の主の心配をしていたので、洗いざらい吐かせたそうだ。

 

冥界で集めていた春は全て解放したので、じきに春になるそうだ。

これにて一件落着ね!というと巫女さんは帰っていった。

 

外に出てみると空が晴れ渡り、気温もこころなしか温かくなった気がする。

 

 

×◎月×☆日

 

【我が信徒よ。新しい力を授けるのじゃ。】

 

神様が新しい能力をくれるらしい。

なんでも川を作る力らしい。

 

これは・・・島クリエイトの水関係のほうの奴!

すごいんだけど消せないの?と聞いたらどうもできないらしい。

 

【この力を使い川幅を広げるのじゃ。はよせんと雪解け水で川が氾濫をおこすでの。】

 

なんだって?



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12

×◎月×☆日

 

神様のお告げを聞き、起床後直ぐに里長の家に走り出す。

 

てえへんだ!てえへんだ!と里長の家に転がり込むと、

里長はまた何かやらかしたのかと聞いてきた。

 

今日はまだ何もしてないぜと返して、

神様から雪解け水で川が氾濫する話を聞いたことを話す。

 

幸い未然に防ぐための能力と氾濫対策方法と氾濫場所を、

細やかに教えられたがなんとか記憶が薄れないうちに伝えられた。

 

里長から位置関係がわりとふわふわしている地図を借りて、

町を廻って男衆に治水のために人を集めていることを触れ回り、

ついでに土嚢用の麻袋を用意してくれと伝える。

 

一通り触れ回った後は自宅でスコップを大量生産して、

集合場所へ向かう。

 

里の北にある通りを集合場所にはそこそこの人数がおり、

同じ長屋や同じ職同士でグループを作って貰い、

今回の作業内容と作業の割り当てを伝える。

 

俺が貰った能力についてどんなものなのか尋ねられたので、

実演してみると、1メートル四方の池と掘り返した際に出た土の山ができた。

 

神様は色々と不完全な能力になっていると言っていたが、

現在の状況では非常に有効な能力になっている気がする。

 

説明を終え現地入りして早速作業開始。

 

俺はひたすら川幅を広げるために掘りまくり、

若い男衆はひたすら土嚢を作りまくり、

土木作業を行える年季の入った男衆には土嚢積みと川縁の整備を行って貰う。

 

川の里側に土嚢を積み上げ、反対側より高くしている。

これで万一氾濫しても里側に水が流れないようになっている。

 

 

×◎月×◎日

 

今日も土を掘る作業に専念する。

途中麻袋が無くなったり、河童が見学しにきたり、

天狗が写真を撮っていたがひたすら掘り続けた。

 

 

×◎月×★日

 

雪が解け始めているのか。

僅かに水量が増えてきた。

川の上流に狼煙役を立てたが大丈夫だろうか。

 

 

×◎月×●日

 

河童が作業をずっと眺めている。

何が面白くて眺めているのだろうか?

やっぱり人間ショベルカーになった俺が奇妙に映るのだろうな。

 

 

×◎月△○日

 

なんとか川幅を広げる作業は終わった。

連日の作業で疲弊しているが、皆笑顔だ。

昼飯を届けに来た女衆には、獣みたいな匂いがすると

言われてしまったので皆で川で水浴びだ。

 

川の水が冷たすぎる。

 

 

×◎月△○日

 

竹籠に石を詰めた蛇籠というもので護岸整備をしていると、

上流から狼煙があがった。

 

急いで川から離れ様子を窺っていると、

徐々に水量が増し、見る間に水位が上昇する。

 

融雪洪水は起こっているが氾濫まではいたらなかった。

対岸がかなりギリギリまで水位が上がっていたが、

神様の予想通りの水量だったようだ。

 

しばし川を眺めていると見物客が増え、皆で洪水の様子を見ていると、

上流から河童たちが流れていく。

 

河童の川流れが本当に見えるとはな。

 

流されているのに手を振っている奴もいるので、

かなり余裕がありそうだった。

 

 

×◎月△×日

 

とけた雪で道がぬかるんでいてとても歩き辛い。

妖怪には雪解けの被害とか無かったのかと、河童に聞いてみたが、

妖怪は空を飛べるから特に何もなかったようだ。

 

羨ましいこって。

 

 

×◎月△△日

 

雪が無くなったと思ったらもう桜が咲いている。

まだ三分と言ったところだ。

里の連中は慌てて祭りの準備をしている。

 

どうやら異変解決と長らく待ち望んでいた春の訪れを祝う祭りをするらしい。

巫女さんにも参加するように言っておいたので、当日は参加するだろう。

 

 

×◎月△□日

 

桜は五分咲き。

春告精が喜び勇んで、春の訪れを告げている。

 

まあそれは良いとして、男衆が神輿を持ってきた。

なんでも里で祭りを行うにあたって、神社から神様を乗せる用の神輿を冬の間に作っていたらしい。

御神体を神輿に乗せていいか、神様に聞いて欲しいそうだ。

 

神様は喜んで許可していた。

 

 

×◎月△☆日

 

桜は八分咲きだが、里で祭りが始まった。

まずは男衆で神輿を担いで神社から御神体を里に運んでくる。

 

神輿は里中を練り歩き、里の中心辺りにある通りのちょっとした広場に置かれ、

そこを中心として出店が立ち並び、里の人が思い思い食べたり飲んだり踊ったりしている。

 

朱塗りの神輿の近くには貢物が乗った荷車が置かれている。

巫女さんは荷車のチェックをしているようだ。

 

出店を廻っていると、紅魔館組がピザを作って売っていた。

妹ちゃんは今日も楽しそうにピザを作っている。

 

メイドさんに聞いてみるとどうも妹ちゃん発案らしい、

傍で優雅に紅茶を飲んでいるお姉さんに良かったんですかと聞くと、

状態も安定しているから別に構わないとのこと。

 

そっか良かったねと妹ちゃんに言うと、ピザ回しをやってくれとお願いされたので、

派手にでかいのを回して聴衆の度肝を抜いて俺の成長をアッピルする。

デカすぎて石窯に入らないのをメイドさんに怒られたのでそそくさと退散する。

 

里を廻っていると貸本屋に紫魔女と稗田の嬢ちゃんがいた。

なんかその二人に貸本屋の嬢ちゃんが怒られているみたいだ。

何をやったんだろうか?そっとしておこう。

 

露天の女の子から焼いた竹の子を貰ってかぶりつく、

やっぱり春の若竹は溜まりませんなと女の子とちょっと語り合った。

女の子にピザを分けて次の露天へ。

 

行く先々で食べ物を買い、酒を飲まされ、足元が覚束なくなったので、

神輿のところで休憩する。

なんか屋台荒らしが出たらしいが大丈夫だろうか?

 

【我が信徒よ。祭りとはいいものじゃな。】

 

神様が神輿に訪れる里の人の様子を語る。

記憶力がいいのか訪れた里の人の特徴や何を言っていたのか、

服装や髪型、些細な癖なども教えてくれるが、右から左に受け流した。

 

ぼんやりと聞いていると、男衆からアレをやってくれと言われる。

アレってなんだよと返したら前の異変の宴会の時にやっていただろと言われ思い出す。

 

早速通りで楽器を演奏して小遣い稼ぎをしていた人に声を掛けて、

今回の異変を歌い上げる。

 

 

『辺境から暖かさが奪われ、永い冬が訪れた。

白銀の悪魔は幻想郷の人間を黙らせた。

時は経ち、次第に春の香りが訪れる頃になった。

いつもなら、幻想郷は白い吹雪から桜色の吹雪に変わるはずだったのだ。

 

そして春はまだ、来ない。

 

氷精と雪女が跋扈し、冬は深まり、

冥界の使者によって、春は奪われた。

 

しかし我らの博麗の巫女達が氷精と雪女を払い、

冥界の使者を追い詰め、ついには冥界から春を奪いかえしたのだ。』

 

 

聴衆の盛り上がりが非常に良いので、

ここから更に盛りに盛ったら巫女さんに呆れられた。

 

 

×◎月△◎日

 

日課を終えて家に戻ると冬に見た光景があった。

とりあえず人魂の女の子とドリキャスマークの女性を家に上げる。

 

二人から謝罪と菓子折りを貰い、こちらからは神社での宴会のお誘いをした。

二人とも部屋に置かれた花を気にしているようだ。

 

しかし人魂の女の子が少し照れているのはなぜだろうと思って聞いてみる。

 

「次はご期待に沿えるように頑張ります!」

 

どうも祭りで盛りまくった人魂の女の子の活躍に沿えるように頑張るらしい。

巫女さんやマリちゃん、メイドさんの活躍を大げさにするために、

人魂の女の子をめちゃくちゃ強いみたいなことを言っちゃったからな。

 

三人の弾幕に刀一本で対抗するのは無理がある気がする。

まあ本人のやる気に水を差すわけにはいくまい。

 

 

×◎月△★日

 

神社での宴会は割かしスムーズだった。

スキマ妖怪と吸血鬼のお姉さんが鞘当したり、

人魂の女の子と花妖怪の再戦があったが問題は無かった。

 

花妖怪に伸された人魂の女の子を介抱しつつ、

幽霊の演奏をききながら散っていく桜を眺める。

 

春告精がもう春が終わることを嘆いている。

もう暦では初夏に入るからしょうがないと緑の妖精に慰められて、

気を取り直したのか遊び始めた。

妖精たちの中には妹ちゃんと猫が混じっている。

 

雪女は飲みすぎて寝ているし、

ドリキャスの女性はひたすら食べている。

 

俺は狐の女性に尋問されている。

 

神様はそんな大それたことを企んでいないと思います。はい。

 

え?今回の洪水も河童が川底を掘れば何とかなったって?

いやまあそうでしょうけど、ほら神様も里のために何かしたいとかそういうアレですよ。

 

里に対する影響力拡大のための策略じゃないかって?

いやほら、うちの神様って水系だから川の氾濫とか気になっちゃうんじゃないですかね。

 

そんなに力のある神様じゃないし、未だに実体化できていない弱小だし、

そんなに勘ぐらなくでも大丈夫ですよ。

 

そうです。そうですとも!そうそうお酒でも飲んで忘れましょうや!

おお、素晴らしい飲みっぷりですね!

へー、あの猫ちゃんは狐さんのお弟子さんなんですね!

あんなにちっこいのに凄いですね。

へえ、ゆくゆくは八雲の名をですか、早く成長するといいですね。

へっ?それは困る?まだまだ手を離れてほしくない?

もう泣かないでくださいよ。ほらまだまだ大丈夫ですって!

ええ、そうですそうです。大丈夫ですとも!

 

・・・なんとかなった。

 

狐さんも雪女の隣に寝かせておこう。

 

 

×◎月△●日

 

農家の三男坊の梅吉が共同便所の糞を回収しに来た。

やっぱり冬が長かったせいか、めっちゃ溜まっているらしい。

でも全然溜まってなかった長屋もあるんだって、

不思議な話もあるもんだ。

 

 

×◎月□○日

 

また今度宴会をするらしい。

初夏の梅を愛でる宴会だとさ。

まだ春の陽気が残ってんのかね。



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13

×◎月□×日

 

日課を終えて里をぶらぶらしていると、

あっちこっちで花見に託けて宴会をしている。

桜もそろそろ葉桜になろうというのに、

まだまだ春の気分が抜けていないようだ。

 

 

×◎月□△日

 

神社にお参りに来たらこちらでも宴会が開かれている。

人妖入り乱れての酒盛りは中々面白い。

 

 

×◎月□□日

 

甘い物が食べたいと思い立ち、

里の団子茶屋に行くと見知った人たちが目に入る。

 

紅魔館の紫魔女と貸本屋の嬢ちゃん、稗田の嬢ちゃんだ。

最近こいつら良くつるんでいるなと思い声を掛ける。

 

なんの話をしてるんだいと聞いてみると、

どうやらマリちゃんの話のようだ。

マリちゃんが持っていった本が中々戻ってこないだの、

紅魔館への送迎の時間になっても中々こないだの、

異変の編纂をしていたらもっと自分の活躍をのせるように要求してきたそうだ。

 

マリちゃんらしいなと思ったが、ちょっとだけフォローを入れておこう。

 

魔法使いが読むような本は日本語で書かれていないから、

内容を理解するためにまず辞書片手に翻訳作業が必要なので、

魔女さんからすると遅く感じてしまうだろうがもう少しだけ待ってあげてほしいこと。

 

マリちゃんが遅くまで魔道書を読みふけって、翌日に影響を起こしているのには理由があって、

マリちゃんは実家から勘当されており、実家を見返すために努力していて、

親父さんが亡くなるまでに魔女として大成するために色々と無茶をしていること。

 

マリちゃんにとって異変とは自分の実力を示す場であり、

異変解決後に稗田家の文書に名を残すことが彼女の目標の一つであること。

 

その結果三人には迷惑を掛けてしまっているみたいなので、

マリちゃんには俺から注意しておくと伝えて帰った。

 

あっ、団子食べ忘れたな。

 

 

×◎月□☆日

 

 

魔法の森のマリちゃん宅に向かう。

途中古道具屋にいい物が無いか確認したがめぼしい物は無かった。

店主からいい感じの木があったら買い取ると言われたが、

なんだよいい感じの木ってと思いつつ、見つけたら持ってくるよと言って店を出る。

 

マリちゃんの家に着いたのでとりあえずノックする。

すると家の奥から物音があり、中からうめき声と聞こえる。

暫し待つと寝巻き姿のマリちゃんが出てきた。

 

アリスか?なんて言いながら出てくるマリちゃん。

日は既に昇っていてもう朝とは言いがたい。

 

こっちを見てギョッとしているマリちゃんにお説教しにきましたと宣言する。

即座に離脱しようとするマリちゃんの襟を引っつかんで正座させる。

 

小一時間ほど説教した。

 

 

×◎月□◎日

 

里を歩いていたら梅を愛でる宴会に出くわし、

駆けつけ一杯と飲まされる。

 

気分が良くなったのでそのまま宴会に参加し、

おっさん達と話し込んでいると、

稗田の嬢ちゃんが通りがかる。

 

嬢ちゃんにも一杯飲ませたら俺たちの話していることが気になったのか、

宴会に参加してきた。珍しいこともあるもんだ。

 

俺たちが話していたのは怪談話だ。

気を良くしたおっちゃん達が色々と嬢ちゃんに吹き込んでいるのを、

肴に飲んでいると俺も何か無いかと聞かれる。

 

しょうがねえなと語り始める。

俺が見た幻想郷の森で見た不思議な生物を。

 

頭だけで動くみょうちくりんな生首が時には食い物をねだり、

時には話しかけてくること。

 

鼻で歩く奇怪なネズミが樹上を跳ね回る様は、

非常に奇妙で興味深い物があったこと。

 

幻想郷のあちこちで喋る動物がいて、

中には二足歩行で人間のように振舞うものがいること。

 

魔法の森には歩くキノコや喋る植物がいて、

森に住む魔女と共生していることがあること。

 

もっと語れることはあったが日も暮れてきたので解散する。

嬢ちゃんはもっと聞きたそうだったが、また今度にした。

 

 

×◎月□★日

 

いつものように釣りをしていると河童がよっこいせと川から上がってきた。

いつものように元気よく盟友!といってくるかと思ったが、なんだか元気が無い。

どうしたよと聞くと、ラジオの試験放送をしたのだが上手くいかなかったようだ。

 

失敗した原因は不明で、ラジオで幻想郷を支配する計画は頓挫したらしい。

そんな計画頓挫して良かったじゃんというと、何かショックを受けていた。

そこは慰めるところでしょと言われたが、無視して失敗した状況を聞く。

 

どうも混線するとかではなく波長そのものが狂わされているらしく、

何者かに妨害されているのでないかという結論が出たそうだ。

 

妨害ねえ?

 

 

×◎月□●日

 

神社での宴会に参加していると、

巫女さんから最近強い妖気が漂っていることを聞く。

 

何か害はあるんですかと聞くと、特に無いそうだ。

 

 

×★月○○日

 

今日も里を歩いていると宴会をしている集団から声を掛けられた。

駆けつけ一杯はマイ枡に注いで貰い一気に飲み干す。

 

酒を飲んで気が良くなったので通りがかりの人にも声を掛ける。

ちょっと戸惑っていたようだが、じゃあ一杯だけと参加してくれた。

俺たちの怪談話にも付き合ってくれてたが、

首に関係する怪談のときはなぜかそわそわしていた。

飛頭盤とろくろ首が怖いのだろうか?

 

 

×★月○×日

 

今日も大漁大漁とその日の釣果を魚屋に売っていると、

見覚えのある人が通りかかった。

 

その人は花屋のお姉さんに声を掛けている。

ちょっと躊躇したが意を決して声を掛ける。

 

「あら異変ぶりね。息災かしら?」

 

お陰さまですこぶる元気ですと答え、花屋のお姉さんも交えて花トークをする。

あそこのハナミズキがいいやら、そろそろツツジも見ごろだの、

紅魔館ではバラが咲いているだのと、話題は尽きず、

最終的には花屋と花妖怪から花の種を貰い育てることになった。

 

またすることが増えてしまった。

 

 

×★月○△日

 

神社の近くに花壇をつくることにした。

巫女さんは花はお腹にたまらないのよねとだけ言って宴会の準備をしていた。

流石に宴会しすぎじゃねえかな?

 

 

×★月○□日

 

神社の宴会で今度紅魔館で節分大会をするので参加しないか聞かれた。

季節はずれじゃないのかと言うと、タイミングはバッチリだそうだ。

よく分からないが参加することにした。

 

妹ちゃんは芽の出てきた花壇を見ている。

なんの植物の芽なのか聞かれたので、芍薬とポピーに色々だと教える。

 

へーそうなんだと言う妹ちゃんに花に水を上げてみるかいと聞くと、

いいの?と喜んで水を上げ始める。

 

お姉さんにも花に水をあげますかと聞いてみたが、

私は今花を愛でるのに忙しいわと返された。

 

「お姉さま!お花にお水をあげたの!」

 

「ええ、見ていたわ。よかったわね。」

 

「うん!」

 

とても微笑ましい光景だったが、

巫女さんとマリちゃんからすると違和感があるらしく、

異変のときはもう凄かったとのこと。

 

 

×★月×○日

 

紅魔館の大節分大会に参加した。

最初は住民全員で鬼は外ーと投げているだけだったが、

そのうち豆を投げあい、豆は弾幕に変わった。

 

あっちらこっちらで弾幕が飛び交い大騒動になったので、

図書館に逃げ込んで難を逃れた。

 

魔女さんは本を読みながら豆を食べていたので、

俺もそうすることにした。

しばし本を読んでいると、魔女さんから辞書を渡される。

どうやら専門用語を訳しているものらしい。

魔女さんは何も言ってこないが感謝の言葉を返すと、

魔女さんの顔が本で見えなくなった。

 

直接渡せばいいのに。

 

 

×★月××日

 

古道具屋に辞書を持っていく。

店主には事情を話してマリちゃん以外の手に渡らないように気をつけてもらう。

 

直接渡せばいいのではと言われたが、

こういう遊び心が大事なんだよと返した。

店主は良く分かって無さそうだった。

 

そういえば店主は朴念仁だったな。

 

 

×★月×△日

 

神社に行ったら鬼が住み着いていた。

 

異変の宴会?

はははこやつめ!里に酒はもう無いぞ!

 

なんで泣く?

 



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14

×★月×△日

 

メソメソ泣いている小鬼にどうしたものか考えていると、

巫女さんがやってきた。

 

俺は悪くないぞというと、分かってるわよと返される。

さっ片づけするわよと言いながら、小鬼の首根っこを掴んで奥に引っ込んでいった。

 

鬼ですら顎で使うのか。

 

 

×★月×□日

 

昨日あったことを神様に伝えて何とかできないか相談してみる。

 

『我が信徒の頼みならば叶えてやりたいがのう・・・・・・ふぬぬっ』

 

珍しく歯切れの悪い神様だ。

いつもならできるできないはすっぱりと伝えてくれるのだが?

その後あっさりと【水を酒に変える力】をくれたが、

どうにも反応が悪いなにかあるのだろうか。

 

 

×★月×☆日

 

早速水を酒に変えてみる。

水用の甕に手を翳して能力を発動すると、水からアルコールの匂いが漂ってきた。

声を上げて酒だと喜んだが、ここでちょっと違和感をおぼえる。

 

なんとなくできたばかりの酒をちょろりと舐めてみると、

驚くほど無味であった。

しばし反応に困っていると、神様が声を掛けてきて言い訳を始める。

 

『ほら我って実体が無いじゃろう?酒は造れても味までは再現できんのじゃ!そのう・・・すまんかった!』

 

なるほど味覚が無いからか。

 

酒の味は梅の実なんかを漬け込んでしまえばいいし、

アルコールの濃度はかなり自在にコントロールできるので、消毒液にも使えるので実際有能だとフォローする。

 

神様はほっとしたようだ。

 

 

×★月×◎日

 

 

神社で小鬼に神様から能力を頂いたことを自慢する。

喜色満面で喜ぶ小鬼の前で能力の実演をしてみる。

 

まず水を作り出して甕にいれ、甕の水を酒に変える度数は40%ほどだ。

そして下処理をした梅と砂糖をいれる。

できたのかと聞いてくる小鬼に、あと一月掛かると伝えると、

大の字で倒れて泣き声をあげた。

 

「う゛えええ!やっぱり飲めないじゃないかー!」

 

またメソメソしているなと見ていると、小鬼はおもむろに持っていた瓢箪に口を付けてごくごくと喉を鳴らし、飲み始める。

口を離したと思ったら盛大に吐息を出す。

その息は非常に酒臭いし、小鬼の目がとろんとした。

 

その瓢箪は何だと聞くと、酒蟲の入った瓢箪で幾らでも酒が沸いて来るそうだ。

じゃあそれで宴会すればいいのではというと、飲み飽きたと返される。

 

我侭な奴だと思っていると、空から巫女さんとメイドさんがやって来た。

 

二人の手には樽が下がっている。

 

「鬼を泣かせて楽しむ人間なんてあんたくらいね。」

 

樽を地面に置きながら巫女さんがそんなことを言ってくる。

誤解だというと、はいはいと流される。

 

メイドさんに樽のことを聞くと、やっぱり葡萄酒らしい。

昨日巫女さんの依頼で作ったとのこと。

 

時間操作する力ってすごいなと思っていると、

メイドさんから置いてある甕について聞かれたので、

梅酒を造っているところだと返す。

 

ふーんと言いながらメイドさんが甕に手を当てると、

酒が見る間に琥珀色に変わり梅酒ができてしまった。

 

メイドさんが酒の味見をしてかなりキツイわねと零す。

巫女さんも味見して美味しいけどすぐに酔いが回りそうだわと言う。

そら原酒だからね。

 

酒の匂いに釣られた小鬼が起き上がり、甕を抱えて飲み始める。

甕はどんどん傾いていく、ついには水平を越える。

 

「ああ~若いけど美味い!いい水使ってるね!」

 

10リットルはあったはずなんだが、そうか一息で飲み干すのか。

こりゃ葡萄酒1樽じゃ全然足りそうも無いな。

 

同じことをメイドさんも感じたのか、樽の発注があった。

 

 

×★月×★日

 

今日は樽作りに精を出した。

といってもDIYで作成できるからあっという間だったが。

ついでに里の医者に消毒用のアルコールを渡して有効利用してもらう。

 

 

×★月×●日

 

無事異変解決の宴会を行ったが、集まりが悪い。

呼んでもいないのに参加する天狗や河童はいないし、

冥界組や妖精たちはまた宴会するのかと呆れて来なかった。

 

参加したのは小鬼と巫女さんにマリちゃん、人形使いのねえちゃん、吸血鬼のお姉さんに妹ちゃん、

メイドさんに紫魔女さんとスキマ妖怪と狐と猫と稗田の嬢ちゃんだ。

 

小鬼はスキマ妖怪に人望が無いわねと煽られ、憤慨し酒を煽る。

 

マリちゃんと紫魔女と人形使いのねえちゃんは隅でなにやら話している。

どうやら古道具屋で魔法事典を見つけたそうで、その本の素晴らしさをマリちゃんが自慢しているようだ。

 

紫魔女は素知らぬ顔をしているが耳が赤く、人形使いのねえちゃんは本の筆跡で何かを感じたのか紫魔女を見て呆れ、

マリちゃんは著者の目の前でべた褒めしている。

 

妹ちゃんは猫と一緒に狐さんの尻尾に埋まっていて、狐さんはグラスに注いだ葡萄酒を傾けて色を見ている。

 

稗田の嬢ちゃんは巫女さんと吸血鬼のお姉さんから小鬼と対峙した際のことを聞いているようだ。

お姉さんは小鬼よりも巫女さんのほうが鬼のような顔をしていたわと述べて、

巫女さんに頬を摘まれている。

 

俺はメイドさんに牛肉の葡萄酒煮を差し出して、愚痴を聞いている。

また巫女さんとマリちゃんが紅魔館で暴れて修復に時間が掛かっただの、

妖精メイドが仕事を増やしただの、葡萄酒を作るための葡萄を作るための畑を作って草臥れただの、

普段内に潜んでいた文句が濁流のように溢れてくる。

 

しばしメイドさんの愚痴を聞いていると段々と不平不満が少なくなってきたので、

話題を吸血鬼のお姉さんと妹ちゃんにすりかえる。

すると今度はいかにお姉さんと妹ちゃんが可愛いかの話になった。

そのうちに話が支離滅裂になり声が小さくなり、メイドさんは酔って寝てしまった。

 

狐さんに顔を揉まれている猫を横目にしている妹ちゃんが暇そうにしていたので、

酔っ払い用の布団を敷いてもらえるようにお願いする。

 

メイドさんを布団に寝かせて、妹ちゃんにお礼を言う。

ついでに梅酒の余りから作った梅ジャムを渡して、

宴会に戻ると既にグダグダな状態になっていたので帰ることにした。

 

 

×★月△○日

 

釣りをしていると河童が川から上がってきた。

なんか具合が悪そうだったから聞いてみると、

昨夜鬼が山に現れて目に付く妖怪全てに酒を飲ませて廻ったそうだ。

酔って倒れるまで瓢箪から酒を飲まされて、それはそれは酷い目にあったと文句を垂れている。

 

妖怪のアルハラはきつそうだな。

 

 

×★月△×日

 

ちょいと遅めの梅雨が来たそうで、

雨がザーザーと降っている。

そういえば小鬼が宴会をやらせるために雲を散らせていたとか言っていたな。

 

 

×★月△△日

 

今日も強めの雨が降っているので、日課を休んで傘作りの内職を行っていると、

戸を叩く音がする。

 

こんな日に誰かと思ったら妹ちゃんがはっぱの傘をさして立っていた。

とりあえず上がって貰って何の用かと聞くと、ジャムのお礼にパイを持ってきたそうだ。

 

なんのパイかと聞くとブラックバスらしい、本当はニシンにしたかったそうだ。

パイは甘いものみたいな先入観があったが、喰ってみると中々に美味しい。

美味い美味い喰っているとどうやらこのパイは妹ちゃんがお手伝いしたそうで、

とても嬉しそうにしていた。

 

いいお嫁さんになれるというと喜んでいた。

 

 

×★月□○日

 

ずーと雨だ。

まだまだ梅雨は明けそうに無い。

薪が湿気てしまい火の付きが悪く、燃やすとはじけてしまうのは困ったものだ。

 

 

×●月○○日

 

時折晴れ間が見えるが大体雨だ。

 

 

×●月×○日

 

例年に比べて短い梅雨だったが、明けてよかった。

久しぶりの晴天に外を出歩くが道がぬかるんでしょうがない。

しかし毎度のことながら梅雨が明けると一気に気温が上がってしょうがねえな。

 

 

×●月××日

 

釣りをしていると河童が現れる。

盟友盟友煩いので話を聞いてみると、

何やら幻想郷の外から怪しげな通信があったそうだ。

 

どうもラジオ計画を諦めきれていなかった一部の河童が、

通信関係を弄っていると外から通信の感知したので内容を傍受して、

出所を探ったら一つは幻想郷の竹林から一つは月からだそうだ。

 

よく分かったなというと、大したセキュリティを構築してなかったそうで、

相手は恐らく幻想郷の技術力をかなり軽視しているのではと河童は確信しているようだった。

 

なんでもいいけど月からの通信か・・・。

 

 

×●月△○日

 

氷室から取り出した氷を削ったカキ氷が売られている。

かなり高価ではあるがついつい買ってしまう。

 

イチゴ味やレモン味があるが、やはりスイ(砂糖水)が一番よなと、

貸本屋の嬢ちゃんにいったが、一番人気はイチゴだそうだ。

 

 

×●月□○日

 

里を歩いていると風鈴のなる音がする。

音の方向を見ると蕎麦の屋台だ。

丁度いいと屋台に近づくと竹の子の姉ちゃんが座っていた。

軽快に蕎麦を啜る姉ちゃんに声を掛けると、風鈴の音に惹かれたのか?と聞かれる。

 

そうだと答えると単純だねと言われる。

お互い様さと言うと、違いないと笑っている。

気持ちのいい人だな。

 

なんかの縁だと思い蕎麦を奢ると言うと、悪いねと言って更に注文する姉ちゃん。

中々の健啖家のようだ。

 

盛りそばはそこそこの味だった。

 

 

△○月○○日

 

暑かった夏も過ぎ、残暑もそれほどではなく。

そろそろ秋が見えてきた。



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15

△○月○○日

 

夜に本を読んでいると妹ちゃんがやって来た。

部屋に転がっていた水鉄砲のことを聞いてきたので何個か上げた。

 

妹ちゃんは最近イタズラにはまっているようで、

俺に色々相談してくる。

 

被害者は大体お姉さんだとさ。

 

 

△○月○×日

 

神社に行くと裏の池にうごめくものがいた。

何だろうと見に行くと、大きな亀が甲羅に付いた藻を取ろうと苦戦しているところだった。

 

見られていることに気づいた亀が俺に甲羅の掃除を頼んできたので、

ブラシを使って甲羅を磨いてあげた。

 

しかし足がヒレの亀がこんな内陸にいるとは不思議なものだ。

池まで戻るのも難しかろうと思って持ち上げようとしたら、

亀から大丈夫だと断られてしまった。

 

大丈夫なのだろうかと見守っていると、亀が浮き始めて空を泳ぎ始めた。

なるほど海亀ならぬ空亀と言ったところか。

 

亀はお礼をいって池に戻っていった。

 

 

△○月○△日

 

『我が信徒よ。新しい能力を作ったのじゃ。試すが良い。』

 

神様がそんなことを言う。

新しい能力は体調を整えるものらしく、これは俺が持っていた気絶リスポーン能力の気絶したら

怪我や病気が治っている部分から抜き出したらしい。

 

とりあえず日課の最中に疲れた時に使ったら疲れが吹っ飛んだ。

こりゃ便利だ。

 

 

△○月○□日

 

いつもお世話になっている婆さんにマッサージをしていると、

ふと自分以外の体調を整えることができるのか気になって使ってみた。

 

するとマッサージが終わるや否や、

婆さんがすっと立ち上がって体の調子を確かめ始めた。

 

効果覿面だったらしく杖を突かずに動き始めた婆さんは、

俺にちょっと待ってといって外に飛び出していった。

なんだろうと思っていると、ガヤガヤと騒がしくなってきた。

 

気になって外を見たら里の爺と婆が集まっていた。

なんか順番決めをしているようで、

最初に入ってきた里長に聞いてみると、

神の手がどうのこうの言っていた。

 

集まった爺婆全員の体調を整え、マッサージを施すとすっかり夜になってしまった。

 

今日分かったことは体調を整える能力はマッサージとの相乗効果があるということだ。

 

 

△○月○☆日

 

 

神社に行くと池の傍に亀さんがいた。

何をしているのかと聞くと甲羅干しだそうだ。

確かに日光浴には丁度良い天気だ。

 

ふと動物にも体調を整える能力は効果があるのかと思い使ってみる。

使ったら亀さんがこちらを見てきたので体調はどうだと聞いてみる。

とてもいいそうだ。

 

お礼に背に乗せて飛んでくれるそうだ。

亀さんの甲羅は広く思ったよりも乗り心地は悪くない。

 

そのまま暫し飛んでいると神社の裏の森から地響きと破裂音が聞こえた。

そっちを見ると弾幕が飛び交っている。

 

妖精がやっているような緩い弾幕ではなく、

強者が放つ恐ろしいまでの速度と密度の弾幕だ。

 

俺の目では全く見えないが亀さんは見えるらしく、実況してくれる。

 

遣り合っているのは巫女さんと小鬼で、

巫女さんが小鬼の弾幕を薄皮一枚のところで避けて、

小鬼が巫女さんの弾幕を能力で捻じ曲げているらしい。

 

お互い弾幕では勝負が付かないことを察して、

近接で勝負をつけるべく牽制の弾幕を打った後に接近した。

 

先に仕掛けたのは小鬼で背筋が凍りつくような力の篭った拳を巫女さんに放ち、

巫女さんはまたもスレスレで避けてサマーソルトキックを出すも、

小鬼が霧散して回避する。

 

そんな近距離遠距離を織り交ぜた戦いする両者にもビビるが、

淡々と実況する亀さんにも驚きを隠せない。

 

一時間以上に及んだ熾烈な戦いは一瞬の隙を突いた巫女さんが勝利し、

敗者である小鬼は地面に叩きつけられて寝転がっていた。

巫女さんが小鬼に近づくのを見て俺たちも見に行く。

 

「異変の時よりも辛口じゃあないか。手合わせもそっちから誘ってきたし、どういう気まぐれだい?」

 

「調子が良かったから確かめたかったのよ。」

 

「鬼で試すなんて不遜な人間だね。」

 

小鬼から圧力を感じる、妖気が立ち上っているらしい。

第二ラウンドが始まりそうだったので、

今日は亀さんの背に乗って帰ることにした。

 

 

△○月○◎日

 

団子屋でまったりしていると、

人魂の女の子が通ったのでナンパする。

ちょっとキョトンとしていたが快くOKしてくれた。

 

この子と素面で会うのは久しぶりだなと思いながら、

団子屋で茶を飲んで話す。

 

妖夢ちゃんとは存外話が弾み、特に上の人の話が難しくて大体聞き流していることに、

大いに共感した。

 

難しいこと言われると思考停止してご飯のこと考えちゃうよねー。

 

 

△○月○★日

 

神社に行ったら小鬼が掃除していた。

なんでそんなことをしているのかと聞くと、

敗者は勝者に従うもんさと煤けた背中をしていた。

 

・・・負けたのか。

 

巫女さんはどこかに出かけているらしく、

手持ち無沙汰だったので俺も神社を掃除することにした。

埃は小鬼が能力で集めているので、拭き掃除をする。

 

巫女さん掃除サボってんなーと思っていると、

巫女さんとマリちゃんが帰ってきた。

 

なんかマリちゃんがボロボロだったので話を聞いてみると、

巫女さんが弾幕をアホみたいに避けて射撃の精度もアホみたいに精確だったそうだ。

 

巫女さんに能力の事を聞くと、小鬼とマリちゃんを指差してみりゃ分かるでしょと言われた。

 

どういうことなのかマリちゃんに聞かれたので、

神様から新しく体調を整える能力を貰った事を教える。

 

「そんな能力であそこまで強くなるものか?」

 

「途切れぬ集中、尽きぬ体力、冴え渡る直感、毎日が絶好調よ。」

 

そうはならんやろと思っていたが、もしかすると人によって効果量が違うのかもしれないな。

調子が悪い日が多い人だと格段に効果があるのかもしれない。

 

現にマリちゃんは毎日調子がいいのか?なんて巫女さんに聞いている。

 

この二人はいつも騒がしいなと見ていると、

小鬼が酒瓶を持ってきたので飲むことにした。

 

悪酔いにも効くらしい。

 

 

△○月○●日

 

何を食べようかと里をぶらついていると、

退治屋のゲンさんに声を掛けられた。

 

急にどうよ?とポーズを決め始めたので、

頭がおかしくなったのかと聞いたら怒られた。

 

どうも頭は合っていたらしく、良くなったそうだ。

この髪地毛だぞ!と言われたが、カツラと同じ髪型だったので、

とても分かり辛い。

 

そういえば里に毛の薄い人がいなくなったな。

 

 

△○月×○日

 

神社に行ったら吸血鬼姉妹がお参りしていた。

妹ちゃんはちょこちょこお参りに来ていたが、

お姉さんのほうは珍しいな。

 

「姉として妹には負けてられないのよ。」

 

意味が分からない。

 

メイドさんに聞いてみると、妹ちゃんはとっくに神様を信仰していて、

流水が平気になる力と水を操る力を貰っていたそうだ。

 

その力を使い水鉄砲でお姉さんを襲撃したらしい。

そういえば吸血鬼って流水が苦手とかいう話を聞いたな。

 

無事神様から能力を貰ったのか、お姉さんがいそいそと水鉄砲に水を篭めはじめる。

妹ちゃんは既に準備万端だったらしく、準備中のお姉さんに早速水鉄砲をかましている。

 

「やったわね!フラン!」

 

「こっちよお姉様!」

 

なんて言いながら水を掛け合う姉妹。

 

 

△○月××日

 

今日も夢の中に現れた神様と話をする。

丁度吸血鬼姉妹のことが記憶に新しかったので、

吸血姉妹に能力を与えて、マリちゃんには能力を欲しがられても与えなかったのには、

なにか理由があったのだろうかと聞いてみる。

 

『あの姉妹は互いのために己が力を捨てる覚悟があり、捨ててきたのじゃ。』

 

そこから神様の難しい話が続いて聞き流しそうになったがなんとか話をまとめると、

妹ちゃんは周りを傷つけないために引きこもり絶食に近しい状態に自ら追い込み、

お姉さんは西洋の妖怪なのに東洋に拠点を移し、妹ちゃんが外に出られる状況を探していた。

 

結果二人とも妖怪として恐れが足りずに力が弱くなった状態だったようで、

互いのために弱ることを許容する二人に神様は同情したらしい。

 

らしいというのは神様が一々信仰を得るために~みたいなことを言っていたからだ。

途中の妹ちゃんが母体にいた時に魔女狩りへの恐怖や死への恐れ、破壊の残滓を

吸収してああいう能力を得たなんていう長々とした考察は聞き流した。

 

 

△○月×△日

 

月が満ちてきてそろそろあと何日かで満月が来そうだ。

 

 

△○月×□日

 

妖夢ちゃんが俵を担いでいる。

中はもち米が詰まっているらしい。

月見団子を作るんですと言っていた。

 

一俵分も石臼でするの?

 

 

△○月×◎日

 

今日は満月らしいので団子餅をついている。

決して妖夢ちゃんに感化されたわけじゃないよ。

団子屋さんのバイトである。

大量に発注があるからそれのお手伝いだ。

 

団子屋さんが上新粉を水で混ぜたものを蒸して、

臼に入れるので俺はそれを杵でつく。

いい感じになったらまた団子屋さんがそいつを蒸すので、

また俺がついて出来たのを団子屋さんがちょいと焼く。

後はお好みで餡子を乗せてもみたらしを塗ってもいい。

 

バカみたいについて腕が疲れたぜ。

 

おっちゃん達とガヤガヤと集まり満月が昇るのを待っている。

月見団子?・・・男は月見酒よ!

 

フライングで飲み始めて少ししたらお月さんが登ってきた。

今日はでっかくまん丸だなーと飲んでいた。

 

途中居眠りをしたがお月さんは登ったまんまだ。

酒もつまみも無くなったのにお月さんは動かない、

ずっと頭上にいたまんまだ。

 

不思議に思っていると角を生やした先生がやって来て、

月がおかしいから里を隠すらしい。

 

酔った頭を能力で戻してちょっと考える。

月に異変が起こっているみたいだが、あのネボスケな巫女さんが起きているだろうか?

 

・・・起きて無さそうなので俺が巫女さんを起こしてくることになった。

異変が終わるまでは先生が里を隠すので、俺は神社で待つんだぞと言い含められる。

 

先生に子供じゃないんだから分かってるよと返して神社までひとっ走りする。

 

問題なく神社に辿りつき巫女さんを大声で呼ぶと、

完全に寝起きの巫女さんが現れる。

青筋を立てている巫女さんに事情を話すと、

かなりそっけない感じに返事を返された。

 

怒っているのかと思ったが淡々と準備をしているし、

そうでもなさそうだ。

 

準備が終わったら縁側でお茶を飲み始めた。

二人で月を見ながらお茶を飲んでいると、

空からマリちゃんが現れた。

 

「霊夢!異変だ!どっちが先に解決するか勝負だ!」

 

「はいはい、どうせ私が勝つわよ。」

 

「へん!そう言ってられるのも今のうちだ!先に行ってるぜ!」

 

じゃ留守番よろしく~と言って巫女さんは飛んでいった。

 

・・・マリちゃん待ちだったか。

とりあえず二人の無事を祈っていると流れ星が流れた。

 

その後は小鬼と朝まで飲み明かした。

 

 

△○月×★日

 

能力は二日酔いにも良く効くな。



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16

△○月×★日

 

揺り篭のように優しく揺られて起きてと言われて起きる人間はいない。

いつまでも聴いていたくなるような優しい声色でまどろんでいると、

突然腹に鈍痛が襲い掛かる。

 

唸りながら身を起こすとマリちゃんがドヤ顔で妹ちゃんに、

ほら起きた、なんて言っている。

 

教育に悪い奴だ。

頭と腹の鈍痛を体調を整える能力で誤魔化すと、

周りの様子見ると、夜はすっかり明けているようだ。

 

ところどころ包帯の巻かれたマリちゃんが、

巫女さんの肩を借りている。

 

吸血鬼のお姉さんが妹ちゃんやメイドさん、紫魔女を連れて仁王立ちしている。

満面の笑みの妖怪を見ると背筋がぞぞっとするな。

 

「このレミリア=スカーレットの異変解決話を聞く栄誉を与えるわ!」

 

「私もよ!お姉さま!」

 

「そうねフランもとっても頑張ったわね。咲夜、貴方もよ。」

 

「勿体無いお言葉です。」

 

「・・・わたしは?」

 

「パチェも頑張った!」

 

目の前の茶番はなにかと思えば、

俺に語らせる異変解決話の情報提供らしい。

 

お姉さんが喋るたびに周りの人からツッコミが入っているが、

大体の流れは理解した。

 

異変に最初に気づいたのは毎月満月を見ながら茶を飲んでいる紅魔組で、

紫魔女に夜の進行を止めさせて異変解決に乗り出した。

 

メンバーは吸血鬼姉妹にメイドさんだ。

 

異変の原因が分からずウロウロしていると、

同じく異変に感づいた白玉楼組と遭遇したが異変とは関係なさそうだったので、

消耗を避けるためお互い先を急ぐことに。

 

人里に向かうとマリちゃんが慧音先生と弾幕勝負を行っているので、

のんびりと観戦し、勝利したマリちゃんを追跡した。

マリちゃんが神社で巫女さんに勝負を申し込んでいるのを目撃する。

 

その後もマリちゃんを追跡し、消耗を避けていると遠目から弾幕が近づいているの察知する。

怒涛の勢いで猛追してきた巫女さんとそれを引き離すべく速度を上げたマリちゃんのデッドヒートを追いかける。

 

巫女さんとマリちゃんの前に白玉楼組が現れた。

妖夢ちゃんは交戦を避けようとしたが、結局弾幕勝負をすることに。

 

勝負は竹林の上で決着し、怪しげな屋敷を見つけた二人は何となく突入。

奇しくも黒幕がいるところだったらしい。

 

二人が屋敷の中で暴れているのを見て同情していると、

変な服の人が偽の月だの偽の通路だの言って二人と弾幕勝負を開始した。

 

変な服の人が余裕たっぷりにしているのを見て、

お姉さんが妹ちゃんに指示を出して幻術を破壊する。

 

変な服の人の顔が歪んだのを見て満足したお姉さんは、

その場を二人に任せて奥に進む。

 

奥には暇を持て余していた女性が待っており盛大に歓迎されて、一頻り弾幕を楽しんだ後、

巫女さん達の所に戻るとまだ弾幕を打ち合っていたので、女性と観戦したそうだ。

 

変な服の人が手を振る女性を見て肩を落とした所で降伏し、異変は終了。

今回異変を解決したのは漁夫の利をした紅魔館組になったとのこと。

 

とりあえずお姉さんをいやあ策士ですね!と持ち上げて、

全員の労をねぎらって解散した。

 

 

△○月△○日

 

神社で里の人らによる異変解決の宴会があった。

 

主役は紅魔館組なのだが里の人達の宴会に参加して騒動にならないか心配したが、

お姉さんと妹ちゃんが神様の信徒だといった後に、

水芸を披露したらなんか盛り上がって受け入れられた。

 

それでいいのかと里長に聞いたら、

同じ神様を信仰していて、神社の巫女さんが何も言わないなら大丈夫だって?

細かいことを気にしていたら幻想郷では生きていけない?

 

それもそうだ。

 

 

△○月△×日

 

神社で宴会の片づけをしていると妖怪側の宴会は紅魔館で行うことを知らされた。

妖怪の宴会は荒れるから助かるわと巫女さんが言っていた。

 

 

△○月△□日

 

里を歩いていたら稗田の嬢ちゃんに引き止められた。

お姉さんと妹ちゃんが本当に信仰しているのか聞かれる。

 

そうだよって言ったら悩み始めた。

 

「妖怪が神を信仰する・・・そんなことあるんでしょうか?」

 

さあ?でも祈りたくなることはあるんじゃないかな。

 

 

△○月△☆日

 

日課を行っていると神様から呼び出しがあった。

神社ではなく紅魔館に行くと奥まった部屋に通される。

 

中には丸いテーブルが置かれ、お姉さんと長い黒髪が美しい女性と配色がおかしいナース服の女性が座っていた。

お姉さんの横には神様の像が立っており、どうやら話し合いの最中だったようだ。

 

『我が信徒よ。海釣りやってみたいと思わんか?』

 

神様にそう言われて思わずやりたいです!と言ってしまった。

重苦しい沈黙が痛い。

 

『そういうことじゃよ。』

 

どういうことじゃ?

 

「いいんじゃないの。」

 

「姫様!」

 

「別に借りるだけなんだし、貸す判断はあっちに任せちゃえば。」

 

ナース服の女性は少し悩んだ後に手紙を書き始めた。

話に全くついて行けず入り口でぼんやりしていると、

お姉さんと目が合う、親指を立てられた。

 

よく分からんが上手くいったらしい。

 

首を捻っていると今度は髪の長い女性と目が合う、

とりあえず会釈すると、懐かしい感じねと言われた。

 

はて、懐かしいとはどういうことだろう?

 

ナース服の女性が書き終えた手紙をお姉さんに渡すと、

神様が神社に祀られる気は無いかと尋ねた。

ナース服の女性がにべもなく断ると、

話し合いは終了らしく、俺は宴会の準備に借り出された。

 

 

△○月△◎日

 

紅魔館での宴会は自由参加なのか、

異変に係わりのない妖精や妖怪が紛れ込んで騒いでいる。

 

子供くらいの身長の妖精と妖怪が鬼ごっこに興じたり、

魔法使いがたむろって異変について話していたり、

天狗と河童が小鬼に絡まれている。

 

俺は定番となった異変解決語りを終えてフリーになり、

料理と酒に舌鼓を打っていると、声を掛けられた。

 

最初は何匹も参加しているただの妖怪兎だと思って接していたのだが、

どうも大国様の話をしたり、近くにした妖怪兎を顎で使っていたりと、

ただものではない雰囲気を醸し出している。

 

酒に酔った頭でよくよく見てみると、人参のペンダントをしていた。

こいつ、いっつも俺を脅かしていた妖怪だわ。

顔に出さないで満足するまで喋らせてたらどっかにいった。

 

なんとかやり過ごしたと思ったら後ろから、わっと驚かされて尻餅をついてしまった。

けらけら笑ってこれからもよろしくと言われたが、よろしくしたくないな。

 

飲みなおしているとまた声を掛けられる。

警戒して振り向くと慧音先生と竹の子の女の子だった。

 

先生は兎も角女の子は何で参加しているのかと聞いてみると、

ただで美味い物が食えることと、ある人間をからかいに来たそうだ。

 

女の子はお目当ての相手を見つけたのか、そのまま去っていった。

先生はため息を吐いて追いかけていった。

 

忙しないな。

 

「こんばんは。少しよろしいかしら?」

 

弾幕勝負の乱痴気騒ぎをBGMにスキマさんから声を掛けられた。

スキマさんも吸血鬼姉妹が神様を信仰していることについて聞いてきた。

俺は稗田の嬢ちゃんのときと同じように返した。

 

次に昨日の密室での出来事を聞かれた。

といってもよく分からないことだらけだったので、

合祀の話をしたらなにやら考え込んだ。

 

ありがとう参考になったわと言ってスキマさんは消えていった。

なんだったのだろうか?

 

弾幕勝負は巫女さんが参加者全員を伸して優勝したらしい。

 

 

△○月△★日

 

異変解決の宴会は二度としないとお姉さんが宣言したため、

巫女さんがガッカリしている。

 

まあしょうがないんじゃないかな。

屋敷が穴だらけになっていたし。

 

 

△○月□○日

 

貸本屋で幻想郷縁起が加筆されたそうなので、

確認してみると今回の異変の話と永遠亭についての記述が加筆されており、

紅魔館の人間友好度が低から普通に上がっていた。

 

文々。新聞も新しいのが置かれていたので見てみると、

珍品ハンターなる人物が現れたそうだ。

珍品といえば古道具屋の店主だが?

 

 

△×月○○日

 

稲穂が頭を垂れて収穫の時期がやって来た。

金色に色づいた景色を眺めていると、

さぼってんじゃねえべと尻を叩かれる。

 

ちょっとくらいひたらせて欲しいもんだ。



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17

△×月○×日

 

畑で収穫の手伝いをしていたらやたらでかいスイカを見かけた。

隣でかぼちゃを取っている梅吉にスイカのことを聞くと、

でかいだろと自慢された。

 

どうやら何処まで大きくなるか収穫せずに試しているらしい。

すでに腰ほどの大きさまで育っているがどこまで大きくなるのやら。

 

 

△×月○☆日

 

冬でもスイカを成長させるべく、

河童にビニールハウスを作って貰おうとしたら、

なぜか驚かれた。

 

「盟友!どこでその話を聞いたんだい!?」

 

河童の話を聞いていると、秘密裏にハウス栽培を計画しているらしい。

しかしビニールが手に入らないので、木造ハウスで試す予定だそうだ。

 

ビニールが無いなら人里では無理そうだな。

秘密にしてくれと言われたので、はいはいと生返事を返す。

 

 

△×月○◎日

 

収穫も粗方終わり一息ついていると、

一瞬スイカが動いた気がする。

気のせいだろうか?

 

△×月○★日

 

夢の中で神様と話しているとあることに気づいたので、

ちょっと神様に横を向いて貰う。

 

やっぱりだ。いつの間にか口が開いていて、中に歯と舌が見える。

・・・歯というには鋭く尖っていて牙のように見えるし、

舌も細長くてチロチロしているな。

 

『我が信徒は鈍いのう、夏には口が開いておったぞ』

 

これみよがしに口をぱくぱくする神様に、

これからは我のことをもっと見ておくんじゃぞと言われる。

夢の中で無茶をいう。

 

『そうそう此度の異変の首謀者、永遠亭の者たちの人里への繋がりを任せるぞ。』

 

何か丸投げされたので詳しい話を聞くと、

前に永遠亭との話し合いの中で人里との橋渡しを約束していたらしいが、

形だけで大丈夫だという。

 

例え上手くいかなくても橋渡しをやったという結果が大事と言われる。

 

あちらもそれほど期待しておるまいと神様は言っていたが、

仕事を任された以上は全うしたいところだ。

 

 

△×月○●日

 

永遠亭に行く前に里をブラブラしていると、あることに気づいた。

これはいけるかもと思い、里長にある提案をする。

里長は自慢のヒゲをわしゃわしゃと触って考えていたが、

最後には受け入れてくれた。

 

早速作業を進めて貰うことにした。

作業を進めて貰う間、永遠亭に向かうことにした。

 

したのだが永遠亭が何処にあるのか分からず、竹林で迷ったので帰ってきてしまった。

これは不味いと先生に相談すると道案内を用意してくれることになった。

 

道案内はたまに会う気風のいい女性、

長い白髪にもんぺ姿のこの人は腕のいい退治屋であり、

よく竹林で竹の子を取っているそうで、永遠亭にも良く行くそうだ。

 

もんぺさんに案内されて永遠亭に辿り着くと、

妖怪兎があちらこちらにいて遂には囲まれてしまった。

 

口々にまた襲撃に来たのかと言っていたが、

もんぺさんが今日は道案内さというと妖怪兎の一体が家屋の中に入っていった。

 

すると制服姿の珍妙な兎が出てきて中に入れてくれることに、

もんぺさんは門の所で待っているといって引き返していった。

 

奥の座敷に着くとお茶を出されたのでお礼を言って口を付ける。

一息ついていると白髪に変な配色のナース服を着た女医さんが応対してくれた。

早速橋渡しの件の話をすると、女医さんは薬売りをする予定だというので、

里に下ろす薬を見せてもらうことにする。

 

目録と実物を出されたので目録と見比べて過不足ないことを確認し、

その薬を飲んでみると、女医さんが何をしているのかと聞いてきた。

 

里の人が飲んでも大丈夫か治験ですよと、返してちょっと時間を置きながら薬を飲んでいく。

薬の副作用なんかを聞きつつ、塗り薬も試してみる。

とはいっても痛いのは嫌なので肌に塗って異常がでないか位だが、

ちょっと態度が軟化した女医さんと話していると。

 

黒の長髪が綺麗な女性と人参のペンダントをした妖怪兎が現れる。

 

「永遠亭の今後の話なら私も参加するわよ・・・あら病人なの?」

 

「違う違うああやって毒じゃないか調べているのさ。まああんなに色んな薬飲んでも平気かは知らないけど。」

 

永琳の薬なら平気よ!という姫さんに、師匠が止めないならそうなんだろうねという白兎さん。

一気に姦しくなったな。あっ白兎さんはこちらに来ないでね、怖いから。

 

橋渡しの件を再開すると、姫さんから月に係わるものを展示する月都万象展を開こうと思っていると知らされる。

興味があったので何時頃に開くのか聞くと、来年ねと言われる。

そうか来年か、楽しみだ。

 

こちらも近々人里で秋祭りがあるから来て欲しいとお願いする。

どんなことをしているのかと聞かれたので、飲んで騒いで来年の豊穣を祈願する祭りだと教える。

 

妖怪兎も参加していいのかと聞かれ、

バレないように変装して問題を起こさなければ大丈夫だと答える。

いい加減ねと女医さんが言うので、幻想郷はそんな所ですよと返す。

 

 

△×月××日

 

今年の秋祭りも中々の賑わいだ。

今回は色々と忙しかったので見物客として参加だ。

ぶらりと露天を見て廻っていると、人だかりを発見した。

なんだなんだと人ごみに入ると、紅魔館組の屋台だった。

 

「いらっしゃいませー!新発売のソーセージはいかがですかー!」

 

妹ちゃんにそう言われたら買うしかねえな。

串に刺さったこんがりと焼けた腸詰の肉を食べると、

口の中で肉汁が弾ける!こりゃ美味い。

材料は何を使っているのか聞くと、山で取った猪だそうだ。

 

さらに当然ピザもあるが、今回はカプリチョーザだそうだ。

いやあ完全に屋台を物にしてますね、と近くのテーブルに座っているお姉さんに聞いてみる。

 

「当然ね。フランは天才なのよ。」

 

お姉さんも切り分けたソーセージを食べているが、そのソーセージはやけにドス黒い。

なんのソーセージですかと聞いてみると、血の腸詰だそうだ。

一口貰うとレバーみたいな味がする。

妖精メイドさんからワインもいただき、肉系には赤だよなと思っていると、

お姉さんから畑にあるスイカを早く取ったほうがいいと忠告される。

 

スイカのことを気に留めつつ、次の屋台へフラフラ歩いていると、焼き鳥屋があった。

姫さんの後姿が見えたので寄ってみると、もんぺさんが屋台をやっていた。

姫さんはもんぺさんの屋台を冷やかしているようで、

もんぺさんが無視しようと一方的に話しかけている。

 

姫さんに声を掛けてよけて貰って、もんぺさんに何本か焼いて貰う。

火の扱いは手馴れているようで、中々堂に入っている。

美味い美味いと食べていると、姫さんが食べたそうにしているので分けてあげる。

焼き鳥を食べて黙り込んだ姫さんを見て、今度はもんぺさんがからかい始める。

 

悔しそうにしている姫さんを見ていると、女医さんと玉兎さんと白兎さんが、

食べ物を持って現れた。

姫さんがもんぺさんの店を冷やかしている間に色々買い込んでいたようで、

祭りで見られる食べ物を大体網羅していた。

 

玉兎さんと白兎さんは耳を隠すように頭巾と前見たときとは違い着物を着ていたが、

姫さんと女医さんはいつもの装いだった。

聞いてみると二人は妖怪だから変装させたといっている。

 

女医さん浮いてますよという言葉を飲み込んで、

4人をあるところに案内する。

 

祭りの喧騒から離れてちょっとばかし奥まったところに新築の建物がある。

そこに案内するとここはなんだと聞かれるので、新しい診療所だと答える。

突貫で造ってもらった割には丁寧に作られているな。

 

女医さんから疑念の篭った目で見られたので、

祭りの時に何か気づかなかったか尋ねる。

四人とも考え込んでいるが分からなかったようだ。

 

里の女性というヒントを出したら女医さんは直ぐに感づいて室内を確認する。

室内に並べられたベッドとストーブ、奥の部屋にある分娩台を見たところで、

答えに辿り着いたようだ。

 

「他火小屋ね。今年はお産が多いのかしら。」

 

「他火小屋?」

 

姫さんはまだ良く分かっていないようなので、簡単に他火小屋について説明し、

今年は冬が長かった影響か身篭った女性が多く、

そろそろ臨月を迎える人が出てくるのだが、今の産婆さんだけじゃ手が足りないことを伝えて、

手伝って貰えないか聞いてみると、ちょっと考えた後に了解を得られた。

 

永遠亭の橋渡しの件とちょっとしたベビーブームの対策も取れたので、

ガッツポーズをして祭りに戻ると丁度神輿に乗った秋神様達が里にやって来た。

 

永遠亭組はそちらに行くようなので別れて、

露天を冷やかしていると、河童がいた。

 

どうやら風船ヨーヨーの屋台のようだ。

景気はどうよと聞くと、ぼちぼちですなと返ってくる。

何個かヨーヨーを取って近くでうろついていた妖精達に渡すと、

喜んでどっかに飛んでった。

 

河童にいい屋台のアイデアが無いか聞かれたので、

考えておくといってその場を去る。

 

お面屋でひょっとこの面があったので一つ買って、

祭りの中心に行くと丁度巫女さんが神楽舞を魅せていた。

 

次に里長が骨カクカクダンスを踊ろうとしていたのを、

手で制して俺がひょっとこクネクネダンスを披露した。

 

今回もやや受けだったな。

 

 

△×月×☆日

 

秋祭りが終わって直ぐ、お産が相次ぎ、産婆さんの手伝いをするようになった。

妊婦を担架で診療所に運んだり、お湯を沸かしたり、シーツの洗濯をしたり、

汚れた分娩台を掃除した後にアルコール除菌したりと忙しい。

 

 

△×月×◎日

 

永遠亭の人たちも常駐はしないとか言っていたが、

連日診療所に来て産婆の真似事をしている。

 

 

△×月×★日

 

女医さんが逆子の妊婦を見つけたらしい。

 

あとなぜか俺の血液を採取してる。

薬の影響がないか調べている?

へー、俺ってO型なんだ。

 

 

△×月×●日

 

逆子の妊婦は帝王切開して胎児を取り出すらしい。

 

俺は輸血役らしく結構な量を取られてしまった。

能力で無理やり体調を整えつつ手伝いを続ける。

 

 

△×月△○日

 

逆子の妊婦は永遠亭に運ばれていった。

何とかなるといいが・・・。

 

 

△×月△×日

 

何とかなったらしい。

かなり出血があったが、俺の輸血分で賄えたそうだ。

 

 

△×月△△日

 

ぐったりとした様子の永遠亭組みが来たので、

能力で体調を整えてあげると驚かれた。

 

医者要らずねと言われたが、そんなことは無いと返す。

 

 

△×月△□日

 

お産が落ち着いてきたので、産婆さんの手伝いは必要なくなった。

今後は産婆さんと永遠亭組で回すそうだ。

 

久しぶりに神社へ行くと、巫女さんとマリちゃんが木の冬囲いをしていた。

二人とも飛んでいるので梯子を使う必要がなく、

中々のコンビネーションで次々にゴザを巻いていく。

 

感心してみていると手伝いなさいと怒られてしまう。

こりゃ参ったな。

急いで梯子を持ってこないとな。

 

 

△×月△☆日

 

診療所に行くと産婆さん達と話す女医さんと姫さんの姿があった。

大分馴染んできているようだ。

 

 

△×月△◎日

 

橋渡しの件を神様に報告すると、

神様がまさか月人にお産を手伝わせるとはのうと言っていた。

 

なんで唸っているのか聞いてみると、

神様が言うには、出産は穢れが多いため月人は忌み嫌っているそうだ。

 

なるほど永遠亭の人たちは変わり者ってことか。

 

 

△×月△★日

 

日に日に診療所の設備が充実していく。

永遠亭からあれもこれもと持って来ているようで、

当人たちが常駐する気はないといっているが、

毎日誰かしら診療所にいるのを確認している。

 

 

△×月△●日

 

先生が機嫌良さそうに歩いているのを見つける。

機嫌よさそうですねと聞くと、そうかな?とちょっと頬を赤らめている。

 

話を聞くと、どうやらもんぺさんが里によく来るようになったそうだ。

もんぺさんは里にいる永遠亭組が悪さしないか監視しているらしい。

 

なんとなくスカートを捲ってみたが、注意だけで済まされた。

めちゃくちゃ機嫌良いな。

 

 

△×月□○日

 

診療所の様子を見に行ったらもうすっかり落ち着いているようで、

産婆さんの姿が見えず、女医さんと里の薬師の人が意見交換していた。

 

丁度いいから新薬の治験をしないか聞かれて思わず断った。

何度もお願いされてしょうがないからその薬を飲むことになった。

 

胡蝶夢丸という良い夢が見られる薬らしいが・・・。

 

薬を飲んで横になる俺を見て、口々に話している声が聞こえる。

このお人よしっぷりはお爺さんみたいねという姫さんに、

このお人よしっぷりは大国様みたい、大国様のほうがもっと美形だけどねという白兎さん、

お人よしって損よねという玉兎さん。

 

夢は特に見なかったが、起きた時にすごいすっきりした気分になった。

 



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18

△×月□×日

 

秋も中頃、晩秋といったところだろうか。

枯葉が目立ち、落ち葉炊きをしている人が目に付く。

さて季節の変わり目ごとに手紙の配達があり、

古道具屋に行くと店主が悩んでいるので話を聞いてみると、

どうやらまりちゃんを怒らせたらしいが原因が分からないそうだ。

 

店主からすると急に不機嫌になって帰ってしまったらしいが、

・・・まあこの時期ならアレだと思うので適当にアドバイスしておいた。

 

そんな話をしながら手紙の返信を待っていると、

珍しく客がやってきたようだ。

 

客はメイドさんだったので軽く挨拶したところで、

店主が手紙を書き上げたのでお暇することにした。

 

帰り際にメイドさんが何を見ているのか確認すると、

どうやら黒電話をみているようだった。

 

 

△×月□△日

 

さつま芋を持って神社に行くと、ちょうど巫女さんが落ち葉を焼いていた。

濡れた新聞紙で巻いた芋を焚き火に突っ込んで、焼けるのをじっと待つ。

 

焚き火は落ち着きますなと巫女さんと話していると、空からマリちゃんが現れた。

 

「焼き芋に誘われて来たわね。」

 

「私はそんなに食いしん坊じゃないぜ。霊夢こそこいつが来る時に焚き火やってるだろ。」

 

三人集まると姦しいと言うが、二人でも十分賑やかだなと二人のやり取りを眺めていると、

マリちゃんが人形使いみたいなケープを羽織っているのが目に付く、

似合っているソレはどうしたんだと聞くと、人形使いから貰ったそうだ。

 

人から良く物を貰う奴だと思っていると、マリちゃんがうんうんと頷いている。

 

「そうそう、こういう反応を私は待っていたんだ。」

 

「・・・ああ、霖之助さんね。もっと変化がないと気づかないんじゃない?」

 

二人の相談を尻目に芋の様子を確認する。

ふむまだ掛かりそうだな。

 

 

△△月○○日

 

いつも巫女さんが寒そうにしているからと、あるものが入った袋を渡す。

なにかしらと早速袋から取り出した巫女さんの目が細まる。

 

サムズアップしながら女の子はお腹を冷やしたらダメだよと言ってみると、

盛大にため息を吐いて、やられたわーと言って巫女さんは寝転がった。

 

そんな巫女さんに古道具屋に新しい服が入ったそうだよと言って立ち去る。

 

 

△△月○×日

 

神社に行くと巫女さんとマリちゃんが喋っている。

二人とも新しい服を着ておりどこか機嫌が良さそうだ。

 

あったかそうだねと声を掛けるとマリちゃんは嬉しそうに、店主の話をしてくる。

軽く話を流しつつ巫女さんを見ると、悔しそうにあったかいわよと返してくる。

 

あっ腹巻そんなに暖かい?と聞くと腹をぐりぐり押される。

 

「えっ霊夢腹巻してるのか?見せてみろよー。」

 

「ちょっと!捲るんじゃないわよ!」

 

二人はいつも騒がしいな。

 

 

△△月△△日

 

秋が終わり雪がチラつく中、日課に向かおうとしたら、

西瓜畑のほうで騒ぎがあったので、近寄ってみた。

 

するとあの大きな西瓜が縦横無尽に転がっているではないか。

すでに畑には何も無いので、特にこれと言った被害は無い。

畑の持ち主と一緒に西瓜を見守っていると、騒ぎを聞きつけたのか巫女さんがやって来て、

お札を飛ばして西瓜の動きを封じた。

 

巫女さんに近づいて退治できたのか聞いてみると、まだ出来ていないとのこと。

巫女さんが言うには生まれたての下級妖怪にしては力が強いそうだ。

 

「西瓜と南瓜はね。収穫されないままクリスマスを越えると吸血鬼になるのよ」

 

知ってた?と言いながら吸血鬼のお姉さんとメイドさんが現れる。

 

吸血鬼?これがと聞くと、認めたくないけどねと返される。

巫女さんや野次馬は本当に吸血鬼なのか困惑している。

今後はさっさと収穫するのねと言いながら、西瓜を抱えてお姉さんは去っていった。

 

皆、西瓜が吸血鬼ということに気を取られているが、妖怪西瓜泥棒だよ。

 

 

△△月△□日

 

西瓜が気になったので、紅魔館にやって来た。

門番に西瓜のことを聞くと、屋敷裏の酪農場で働くことになったそうだ。

 

そんなものあったのかと思い、案内して貰うと西瓜がいた。

牛の世話をする西瓜と言う奇妙な光景を見ていると、

他にも家畜の世話をしている南瓜を見かけた。

というか妖怪西瓜と妖怪南瓜がゴロゴロいる。

 

ゴロゴロ転がっている妖怪について聞いてみると、

労働力兼食料だそうだ。

 

・・・ここで西瓜と南瓜は食べないようにしよう。

 

 

△△月□○日

 

気温がぐっと下がり雪も増えてきた。

魚釣りをしようと川にやって来たが凍結し始めている。

こりゃ春まで釣りはできんな。

 

 

△△月□×日

 

雪がかなり積もってきたので、地蔵の祠が潰れていないか巡っていると、

魔法の森近くで河童の集団に出くわした。

散々追い掛け回された後、ズボンに手を掛けられたので気絶して帰宅することにした。

 

 

△□月○○日

 

紅魔館から藁の発注があったらしく、配達にいくことになった。

なんで藁なんかと思いながら歩いていると、氷精が一人雪玉を転がしていた。

一人かと聞くと、こくんと頷く。

 

下手糞な雪だるまを作っては壊しを繰り返しているので、

氷精の持っていた雪玉を使って完璧な雪だるまの作り方を教えてやる。

 

いい感じの雪だるまが出来たので、どうだと自慢すると尊敬の眼差しで見られる。

俺の雪だるまを参考に作り始める氷精を見ながら荷物を背負いなおしていると、

雪だるまが話しかけてきて、大きな雪の結晶をくれた。

 

呆気にとられていると突然吹雪いたかと思えば、

直ぐに止み氷精と雪だるまは忽然と消えていた。

 

何だったのかと思いながら藁を納品して、

里に帰ると氷精達が里の子供と雪合戦して遊んでいた。

 

氷精に声を掛けるとひさしぶりね!と言われる。

 

・・・まあ妖精はバカだからな。

 

 

△□月○×日

 

昨日は面倒臭くてで流してしまったが、

明らかにおかしいので降っている雪を眺めてみる。

 

すると肉眼で見えるほどの大きさの雪の結晶が見えた。

その結晶は地面に落ちたり、手で触れるとはじけてしまうが、

網で捕まえることが出来る。

 

雪だるまから貰った大きな雪の結晶よりは小さいが、

肉眼で確認できるのはおかしい。

 

早速作業台に転がしてみるとやっぱり素材だったようだ。

 

とりあえず雪の結晶を集めて、3段雪だるまを作って入り口の横に置いておいた。

春になっても解けなかったら氷精にやるかな。

 

つか雪だるまはともかく氷精もどきはなんだったのだろうか。

 

 

△□月○△日

 

木像を彫っていると、稗田家の女中が家を訪ねてきた。

どうやら稗田のお嬢ちゃんが先日の西瓜の件を聞きたがっているそうだ。

 

お嬢ちゃんはかなり聞き上手なので、西瓜のこと以外の怪異についてもついつい話してしまうな。

河童の行列や喋る雪だるま、氷精もどきに色々だ。

 

紅魔館の中の様子なんかを話すと書き記す手を止めて話に食いついてくる。

困ったわねこれじゃあ縁起が完成しないわねと喜色を感じる悲鳴を上げていた。

 

 

△□月×○日

 

賽銭詐欺を働いている兎に出会った。

声を掛けようとしたら逃げられた。

 

 

△□月××日

 

兎さんのことを巫女さんに話したら里にすっ飛んでいった。

神様にも伝えてみると、最近知らない信仰が増えていると思ったらそういうことじゃったかと言っていた。

 

どういうことかと聞くと幸運にまつわる信仰が増えたそうで、

そのうち人を幸運にする能力を獲得するかも知れないらしい。

 

そのうちってどれくらいの期間かと聞くと、10年後か100年後かも分からんのと言っていた。

多くの人が強く念じれば直ぐにでも獲得できるそうだが、

現状だとかなり時間が掛かるそうだ。

 

ちなみに髪の毛に関する悩みなら大体解決できるようになったらしい。

 

 

△□月×△日

 

白髪染めができるようになったので、最近白髪に悩んでいたご近所さんの髪を染めてあげた。

 

綺麗に白髪染めできることを確認し、先生の元へ向かう。

先生に白髪染めしようというと、地毛だと怒られてしまった。

 

先生と騒いでいるともんぺさんが現れたので、白髪染めどうですかと聞いてみたが断られた。

今更黒髪に戻っても違和感しかないそうだ。

先生はもんぺさんの黒髪がみたいそうで残念がっていた。

 

気を取り直して女医さんのところにいって白髪染めしないかと聞いてみると、

こちらも地毛だそうだ。

でも玉兎さんの髪を染めていいそうなので黒に染めてみた。

 

「師匠!これ戻りますよね!ね!」

 

「鈴仙たら姫様みたいね。」

 

「師匠!?」

 

取り乱して可哀想だったので直ぐに戻してあげた。

割と髪に関しては自由に変更できるそうになったな。

 

キューティクル、増毛、ヘアアレンジ、カラーリングもだ。

まああんまり髪をいじろうと思う人がいないから役に立たないが。

 

 

△□月×□日

 

七色に輝くゲーミングアフロヘアで里を出歩いていたら、

巫女さんにうっかり退治されかけた。

 

気絶帰宅したあと、髪を戻して里を出ると、

新種の妖怪が出たらしいな。

実に恐ろしいことだ。



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19

△□月×☆日

 

道具の手入れをしていたら同じ長屋の彦左衛門が訪ねてきた。

彦左衛門の後ろには幽霊がついており、

どうやら迷子になったらしい。

 

そういえば今年は浮遊霊が多い。

空を見上げればちらほらと見かけるほどである。

 

彦左衛門と幽霊を連れて中有の道の出店を冷やかし、

三途の川まで送ってあげた。

 

 

△□月×●日

 

魔法の森まで木像の材料探しに向かう。

冬のこの時期になると、森の厄介な植物たちも活動を控え、

比較的安全に探索できるからだ。

 

相変わらず良さそうな木も無く、お地蔵様も姿を消したままだ。

ここの木は捻くれているなと思っていると、

小さな洋風の家を見つけた。

 

こんな所に家なんてあったんだなと眺めていると、

家の中から人形が現れ屋根の雪下ろしや周辺の雪かきを始めた。

もの珍しげに見ていると人形と目が合い挨拶をすると、

中から人形使いが現れた。

 

ここは人形使いの家だったのか。

 

人形使いに道に迷ったのかと聞かれ、

探し物の最中だが目当てのものは無さそうだと答えると、

寒いから家の中で温まったらどうかと言われる。

 

言葉に甘えて家の中に入れて貰うと、

そこかしこで人形が働いているのが見える。

 

「またせたわね。紅茶でも飲んでゆっくり温まるといいわ。」

 

紅茶に野イチゴのジャムを入れて頂く、

冷えた体に温かい紅茶が沁みる。

 

人形使いの天気の話からどんどん話を広げて、

人形使いの研究の話をしていると、

すっかり夜になってしまったので、

今日は泊めてもらうことになった。

 

人のいい魔女もいたもんだ。

 

 

△□月×★日

 

「私は完全な自動人形が作りたいのよ。付喪神じゃなくて、感情や魂を魔法で構築したものを!」

 

人形と一緒に拍手しながらアリスさんの演説染みた語りを、

聞いていると外から戸を叩く音が聞こえる。

 

誰かしらと言いながら応対に出たアリスさんが変わった格好の人間を連れてきた。

素性を聞いてみるとどうやら外来人のようで、人形に囲まれて怯えている。

 

外来人がしきりに帰りたがるものだからアリスさんが神社まで送ると言い出した。

外来人は大丈夫ですと言っていたが、このままだと妖怪の餌食になってしまうと、

心配したアリスさんはいいからいいからと外来人の意見を突っぱねる。

 

アリスさんと大量の人形に掴まれた外来人は雪の空に消えていった。

 

帰り際に木を見ていったがやはり良さそうなものは見つからない。

そろそろ神様に相談してみようかな。

 

 

△□月△○日

 

神様に聞いたら森の生きている木には妖精が宿っているから、

その生命力を感じて木像に適していないように見えてしまうそうだ。

 

見るなら切り出された木材だが、木像に適した木材の当てはあるので、

技量を磨くように言われた。

 

当てがあるのか。

どこにあるのかと聞くと俺も良く見ているものらしい。

はて?そんなものあっただろうか。

時が来ればわかるらしいが・・・。

 

 

△□月△×日

 

里から幽霊が消えたのでその後を追うと、

古道具屋に行きついた。

 

中入ると大量の幽霊がいた。

店内は幽霊の影響か非常に寒く、外よりも寒いのではと思ってしまうほどだ。

 

店主は寒い寒いと言いながらも特に困っているように見えない、

夥しい量の幽霊に囲まれながら平然と本を読んでいるのである。

 

こんな事態になったのに店から出るのが億劫で、

幽霊に巫女さんを呼ぶように頼んだそうだ。

 

思わず何やってんと言ってしまっても無理は無いだろう、

店内を見ると幽霊が石油ストーブに群がっているのが見える。

 

「幽霊にも寒がりなのがいるようだね。これは興味深いことで~~」

 

店主の想像薀蓄が始まったので退散することにした。

 

 

△□月△☆日

 

妖夢ちゃんが行灯を持って歩いているので声掛けた。

何やら愚痴を言いたそうな顔をしていたので、

団子でも食べながら聞くことにする。

 

「訳があって道具屋の雪下ろしと雪かきをしたんですが、量が多くて多くて、もっと定期的に雪おろししたほうがいいと思うんですよ。」

 

どうやら物ぐさな店主に一杯食わされたようだ。

一頻り愚痴を言ってスッキリしたのか、

別れ際にやるぞーと言っていたのが聞こえた。

 

 

△☆月○△日

 

徐々に気温が温かくなり春が近づいてきたのか、

雪が段々と解けてきた。

 

今年の水量は・・・例年並みといったところだ。

洪水のこの字もない。

 

 

△☆月×○日

 

花屋に花妖怪がいたのでおそるおそる声を掛ける。

どうやら春の花の種を買っているそうだ。

 

本格的に春が始まる前に蒔いておいて、

楽しむつもりなのだそうだ。

 

一緒に花見でもどうかと言われたので、

ちょっと考えて家の花もそろそろ受粉させてやりたいと思ったので、

見に行きましょうと答えたら家の花は夏の花でしょと笑われた。

 

年中咲いているから忘れてた。

 

 

△☆月△□日

 

ウワバミ二人組の六介と花丸に誘われて、

居酒屋で飲むことにした。

 

店には季節の料理が並び一足先にほろ苦い春を満喫することが出来た。

特にフキノトウと味噌を混ぜたふうきみそが酒に良く合う。

 

しかしこの店は無口な店主のニヒルな笑みと料理しか記憶に残らないな。

店ではもっと色々あったような気がするのだが。

 

 

△◎月○○日

 

幽香さんがそろそろ開花し始めると言うので、

植木鉢を持って西の方へ向かう。

 

幽香さんと植木鉢の花を指して両手に花ねなんて言うくらいに、

ご機嫌な幽香さんと歩いていると前方から春告精が飛んできた。

 

春告精が通った後が一気に開花していくのを見て感動していると、

幽香さんが何かに気がついたようで指を指している。

 

その先には俺の手に持っている花と同種の花が咲いている。

家の花とお見合いさせていると幽香さんがもうこんな時期なのねという、

今年は何十年に一度のあらゆる花が季節関係なく咲く異変らしい。

 

ちなみにこの異変二回目だそうだ。

 

そこかしこで妖精が騒ぎ、人が酒盛りをし、幽香さんが近寄る妖怪を蹴散らしていく。

 

竹の花を見に竹林に行くと巫女さんに絡まれるが、

異変に関係ないと思うや否やどっかに飛んでいった。

 

竹のちーちゃい花を眺めているとマリちゃんが現れる。

彼女も異変解決に赴いているそうだが、

帽子の中に竹の花を入れているのでそうは見えない。

 

異変解決のついでと言ってはいたがどちらがついでなのだろうか?

 

幽香さんが無縁塚の方へ行くというので別れ、

里に戻ると早速花見をやっている酔っ払いに絡まれた。

 

異変と言うにはあまりにも平和だった。

 

 

△◎月○△日

 

異変解決の宴会なのだが、やたら参加人数が少ないな。

妖夢ちゃんに保護者のことを聞いたら今回は見送りらしい。

保護者じゃないですよという声を流しつつ、辺りを見回すと妖怪の参加が少ないことが分かる。

 

スキマ妖怪も小鬼も天狗もいない、河童に聞いてみると何でかなーと言いながら何処かに消えていった。

夜雀や蛍、黒いモヤといった騒がしい連中はいるのだが。

 

新顔の閻魔様にお酌しながらなんでだろうと考えていると、

死神が映姫さまのお説教を恐れてるのさと教えてくれる。

 

おしゃべりな死神の話を聞いていると棒に何かを書いていた閻魔様に、

そこに正座しなさいと言われる。

 

なんだなんだと座ると棒で背中を叩かれる。

ばしーんといい音と芯に響く痛みで呻いていると、

裁判逃れはいけませんよとお説教が始まった。

 

心当たりがあるのでちゃんと聞きつつも閻魔様の杯が空にならない様にお酌をする。

日々のイタズラや、生活態度の長いお説教を受け止める。

 

俺を見て爆笑していたマリちゃんを見て閻魔様がそちらに矛先を向けた。

バッチーンという音と悶絶するマリちゃんを閻魔様のお説教が襲う。

 

誰かがお説教されそれを肴に酒を飲むと言う良く分からない宴会だったが、

中々趣があって面白い。

 

そこにいた全員がお説教されるまで宴会は続いた。

 

 

 

 

 

 



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20

△◎月○□日

 

あざになってるぜというマリちゃんに軟膏を渡していると、

酔うと説教魔になるのよねとスキマさんが現れる。

 

いっつも背後から話しかけてくるので心臓に悪い奴だ。

 

しかも宴会の片付け中だというのにスキマさんが酒を持ってくるものだから

寝起きにも関わらず宴会を再開する連中が出てきた。

 

巫女さんが起きて怒る前に退散するとしよう。

 

 

△◎月○☆日

 

里では百花繚乱とばかりに咲き乱れる花たちが散る前に、

春祭りを実施しようと急ピッチで準備が行われている。

 

俺は催し物に参加してもらう為にある人物を口説き落としている。

 

ああ、そうだ河童にも頼みごとがあったんだった。

何か交換条件になりそうなのはあるだろうか。

 

 

△◎月○●日

 

河童から尻子玉を要求されたがお断りだ。

代わりに興味をそそるような本を渡した。

 

「胡瓜遣?・・・きゅうり関係ないじゃないか!せめてここに書いてある窮理図解もってきなよ!」

 

ぱらぱらと本を捲った後にそんな抗議をしてきたので、

そうかそうか窮理図解が欲しいのかともう一冊の本を手渡す。

 

ぐぅと小さく河童が唸った。

 

 

△◎月×★日

 

予行演習は上手くいった。

 

 

△◎月×△日

 

春祭り当日。

 

祭りの本番といえば夜だ。

ずらりと出店と提灯が並ぶ光景は非日常で心を沸かせるが、

いかんせん薄暗く行えることが限られてしまう。

 

そこで河童に協力をお願いした。

 

河童のライトは行灯や提灯よりも光量が多く、夜でもまばゆく見え、

祭りの中でもアリスさんの人形劇が映える。

 

演目は大結界異変。

 

里の人が花見をしている裏で繰り広げられた一連の騒動を、

人形で再現するという試みは中々に上手くいった。

 

一部の聴衆が私の出番が少ないなどと野次を飛ばしていたが、

もういっぺん閻魔様にしばかれたらいいのに。

 

妹ちゃんの屋台で公演関係者の打ち上げを行う。

参加者はアリスさんと河童のこじんまりとしたものだ。

 

いわずもがなアリスさんが人形使いで、河童が照明、

俺が語り部兼小道具兼脚本を担当した。

 

各々が公演の反省をしながら舌鼓を打つ。

あそこは上手くいっただの、ここでとちっただの思い思いに話していると、

通りがかりの人達から声援を貰う。

 

アリスさんも河童も喜んでいる。

 

 

△◎月×☆日

 

神社でまた花見をしていたので参加した。

今年は例年よりも桜の見ごろが長く、

何回も花見が行われている。

 

最初は小鬼が何かしているんじゃないかと疑っていたが、

ただ巫女さん達が花見が好きなだけだった。

 

花見をしながら次の花見の話をするほどの花見ジャンキーである巫女さん曰く、

そろそろ古道具屋裏の桜が見ごろだそうだ。

 

 

△◎月×●日

 

釣りをしていたらなんか川の中から河童がこちらを見ている。

魚が逃げちまうからさっさと上がって来いと言うと、

黙って川から上がって来る河童。

 

なんかソワソワしているので、どうかしたのかと聞くと、

人形劇の次回公演について聞かれた。

 

予定なんかないというと露骨にがっかりする。

えっ、そんなやるきなの?

 

 

△◎月×★日

 

古道具屋の花見があるとマリちゃんから聞いた。

白い桜が満開であり、連日花見をしている巫女さんから見ても見事だそうだ。

 

神社の桜は赤っぽいもんな。

 

なんでスキマさんが小さいのか気にしていると、

アリスさんが近づいてきてとある人形を見せてきた。

 

吸血鬼姉妹の人形だ。

 

言外に準備できているというメッセージをありありと感じる。

そういえば妖怪というのは自己顕示欲が強いものだと聞いたことがある。

 

秋祭りという言葉を飲み込んで、今度河童と話をしましょうと言うと喜んでいた。

 

 

△◎月△×日

 

日課を終え、里をブラつきながら俺の替わりに、

人形劇に参加する人材を探す。

 

魔女と河童に気後れしない暇な文化人はいるだろうか。

・・・ダメもとで頼んでみようかな。

 

 

△◎月△△日

 

あっさりOKが貰えたので引き合わせて相性を確認すべく、

三者には神社に集まってもらった。

 

もろもろの事情を話して簡単に自己紹介してもらう。

そういえばアリスさんと河童もほぼ初対面だったな。

 

人形使いアリスさん、照明兼小道具河童、語り部をもう一人でやってもらう。

 

「盟友より上手い!」

 

「ええ、引き込まれるわね。」

 

想定以上に話すのが上手い。

俺は脚本に専念するからと、三者の稽古をそのまま見る事にした。

 

 

△◎月△□日

 

巫女さんに神社を追い出された。

今日からはアリスさん宅で稽古を開始する。

 

巫女さんもネタバレなしで劇が見たいそうだ。

 

しかし河童ももう一人もアリスさんところの人形の量には驚いていたな。

 

 

△◎月□○日

 

祭り以来の公演は紅魔館のダンスホールで行うことに、

瓦版で周知していたお陰か里の人も多い。

 

横には女医さんがおり、劇が始まるのを今か今かと待っている。

 

ホールが暗くなり、語り部の声が聞こえ劇が始まる。

演目は吸血鬼異変、公演場所に相応しいものだ。

 

「結界の成立から100余年、突如外来の妖怪による進攻が始まった!」

 

語り部の声を聞いていると隣から姫様・・・と言っているのが聞こえる。

女医さんが姫さんの晴れ姿に感動しているようだ。

 

女医さんのさらに向こうの席にいる玉兎さんは女医さんを見て、

微妙な顔をしている。

 

 

△★月○○日

 

最近はちょっと働きすぎたので、

のんびりと神社の花壇の手入れをする。

 

といっても妹ちゃんがちょくちょく世話をしているのか、

雑草もほとんど無い。

 

今度なんの花の種を植えるか相談しないとな。

 

 

△★月×△日

 

「ねえ、化石って大きくなるとおもう?」

 

神社の石畳のスキマから雑草を抜いていると、

巫女さんが訳の分からないこと言っていた。

 

なんの話かと聞くと、どうも化石を見つけたので古道具屋の店に行ったら、

名前のついていない生物の骨は化石になるのを拒んで成長を続けると言うのだ。

 

とりあえず問題の化石を預かる。

手のひらほどの大きさがある背骨の一部と思われる化石は、

大型の恐竜のもののように思える。

 

しかし骨の一部を見たところでそれが何の骨か分かるはずもなく、

巫女さんに返そうとしたら、いらないからあげるわと言われた。

 

常識的に考えて成長するわけないが、あいにくここは非常識がまかりとおる場所なので、

その話を信じる人が増えればそういう風になるんじゃないかと言葉を返しておいた。

 

巫女さんは納得いっていないようだったが、

妖怪やら神様がいる世界で骨が成長したところでなんだというのか。

たまに現れるがしゃどくろの方が意味分からんと思うがな。

 

「じゃあ貝の化石があったんだけど、あれはどういうことなのかしら?」

 

里で使っている山塩の話を引き合いに出して、

ここが昔海の底だったと答える。

 

この話には得心がいったのか、

また境内の掃除に戻っていった。

 

そういえば前に化石を掘り出したな。

 

 

△★月×□日

 

神様に化石の話をしたら面白そうだから持ってきてくれと頼まれた。

 

記憶を頼りに探すも見つからない。

諦めて降りようと思ったがふとやたら大きい岩があるのに気づく、

自分よりちょっと大きいくらいの化石を探していたが、

もしかしてこれかもしれない。

 

まったく微動だにできないので籠に押し付けたら、なんとか入った。

どうやら化石だったようなので、神社に持っていった。

 

神様から背骨の骨だけでいいと言われたので、小さい方を木像の方に、

大きいのは神社の裏の森に転がしておいた。

 

もっとでっかくなるかもしれないしな。

 

 

△★月×☆日

 

巫女さんと遊覧飛行していたら、

七色に輝く毛玉が飛んでいた。

 

「何かこの前里に出てからたまーに見るようになったのよ。」

 

色違いかー。

 

 

△★月×●日

 

アフロの件を反省して丸坊主にした。

 

ご近所さんに何かあったのと聞かれたが、

聞かないでくれと返した。

 

 

△★月△△日

 

最近、里に髪切りという妖怪が現れたそうだ。

 

 

△★月△□日

 

虹毛玉が里の上空を飛んでいるのが見える。

 



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21

△★月△☆日

 

居酒屋で煮物をつつきながら飲んでいると、

最近の髪切り妖怪の話が聞こえてきた。

 

話では虹色の毛玉をぼうっと見ていると背後からチョキチョキと、

髪を切られてしまうそうだ。

 

 

△★月△●日

 

頭を剃りあげてから子供が寄ってくる。

クソガキはハゲだと馬鹿にしに、

普通の子供は妖怪にやられたのかと聞いてくる。

 

悪いことをしたから反省として髪を切ったんだよと言うと、

納得したのか帰っていった。

 

そういえば里に薄毛の人はいなくなり、

神社に参拝する人も減ってきたと巫女さんが言っていたな。

 

 

△★月△★日

 

噂が一人歩きしているようだ。

なんでも虹色の毛玉が髪切り妖怪になっていて、

悪いことをすると髪を食ってくるという話に変質していた。

 

 

△★月□○日

 

やらかしたかもしれない。

 

虹色の毛玉が里の人を襲い髪を食いちぎっていた。

襲われたのは乱暴者の三九郎という男で、

普段から素行の悪い奴であった。

 

直ぐに巫女さんが飛んできて、毛玉は退治されたが、

白昼堂々妖怪が里で人を襲うというのは生まれて初めてだ。

 

 

△★月□×日

 

『実に恐ろしきは人の想像といったところじゃのう。』

 

しばらく神様のお説教を喰らった後どうすればいいか聞くと、

これ以上噂話が変質してしまう前に、新たに噂話を流せば良いそうだ。

 

ということで巫女さんが毛難除符というお札を作り、

俺は髪を長く伸ばし、ちょいと布で顔を覆う。

 

俺が里でちょっと悪いことをして毛玉に襲われたところで、

巫女さんが退治した後、毛難除符入りのお守りを喧伝する。

 

それを里のあちこちで繰り返した。

 

 

□○月○○日

 

あれから虹毛玉は里で姿に見せなくなり、

神社でお守りを買う参拝客が増えたそうだ。

 

これで一安心といったところか。

 

『我から見ると一連の騒ぎはマッチポンプにしか見えんの』

 

俺はまた坊主にした。

 

 

□△月○△日

 

里を賑わせた毛玉騒動があった夏も過ぎ、

季節はとっくに秋に入った。

 

日課をしばし休み収穫の手伝いをする日々である。

 

そんな中長屋に慧音先生が姿を見せた。

頭を丸めてからイタズラをしなくなった俺を心配して見に来たのだという。

 

家に上がってもらって、ご心配をお掛けしましたと言うと、

先生に丸くなったなと言われる。

 

頭をつるりと撫でながら、へえ見ての通りでというと、

馬鹿者そっちじゃないと笑われる。

 

先生は部屋の中に並んだ木像をしげしげと眺めた後、

懐から一冊の本を取り出して、これの版木を作ってくれないかと言ってきた。

 

構いませんよというと、笑顔になって帰ろうとするので、そっと背中に貼紙をしてしまった。

あの隙だらけの背中を見て、癖とは恐ろしいものだ。

 

惜しむらくは咄嗟だったので貼紙が無地ということだろうか。

 

 

□○月○□日

 

先生の怒りの頭突きをお見舞いされてしまった。

版木はちゃんと作らなくては。

 

 

□○月○☆日

 

先生から渡された本を読んでいると寺子屋で学んでいた時のことが懐かしくなる。

この小難しくてお堅い文章は慧音先生のものだろう。

情報を出来るだけ詰め込もうとするからこんな名前だらけの本になるのだ。

折角なので推敲しておこう。

 

 

□○月×○日

 

稗田さんのところに言って、

幻想郷の歴史書を見せてもらう。

 

先生の教科書を推敲するに当たって、

稗田の歴代の本を読む必要が出てきたからだ。

 

 

□○月×●日

 

今日も稗田さんの書庫で本を読んでいると、嬢ちゃんが現れた。

わざわざここまで訪れて書を読む人は中々いないので興味が沸いたそうだ。

 

嬢ちゃんは先生の本を見て、ふーんとか言っている。

何となく嬢ちゃんが現れた理由が分かったので、歴代の縁起の印象の話をしてから、

嬢ちゃんの書いている新しい縁起の話をしたら、嬢ちゃんが本から顔を上げた。

 

先代の幻想郷縁起に追記された文は当世風で読みやすく、文字も楷書ですっきりとしている。

嬢ちゃんの書く、新しい縁起を読むのが楽しみだと言うと、

そうですかと言って本を置いてささっと書庫から出て行った。

 

貸本屋の嬢ちゃんが幻想郷縁起を良く借りていくのは稗田の嬢ちゃんだと言っていたことから、

薄々思ったがやはりあれは自分の文が受け入れられるか試していたのだろう。

 

 

□○月×★日

 

近々永遠亭で月都万象展覧会が開かれるそうだ。

月の都ゆかりの品々がみれるとあって里で噂になっている。

 

 

□○月△○日

 

版木を彫っていると兎さんが家を訪ねてきた。

どうやら姫さんが今度の展覧会を先行して鑑賞させてくれるそうだ。

 

急ではあったが喜んで見に行くと、廊下や室内にずらりと月に関するものが並んでいた。

空を飛ぶ牛車やら身に纏うと空を飛べる羽衣、玉兎の臼なんかの古そうなものから、

月面探査車や戦車、バルカン砲、なんて物騒なものまでところ狭しと並んでいる。

月都の歴史書などの資料は読めないが、立体映像で操作できるのでSF感を楽しめる。

 

途中で宇宙服を着せて貰ったが重すぎて全く動けなかった。

どうかしらと感想を求められたので、率直に面白かったと言うと喜んでいた。

 

 

□○月△☆日

 

展覧会は大盛況らしい。

姫さんの都合から人形劇も永遠亭を中心に行っているのも相まって、

今幻想郷では月がブームになっている。

 

貸本屋でも月関連の書籍が良く借りられているそうだ。

 

 

□○月□○日

 

性懲りもなくイタズラしてくるガキが逃走中に転んで泣いた。

 

ちゃんと前向いて走るんだなと注意しつつ、傷口を水で洗い、

袖を切って傷口に巻いて止血してやる。

 

女医さんの診療所に連れて行くと、いつかの逆子で苦労した奥さんが受付をやっていた。

 

女医さんにガキを任せて、奥さんの話を聞くといつも受付をやっている玉兎さんは、

展覧会で餅つきをやらされているので、その間は手伝いをしているそうだ。

 

奥さんは女医さんから手ほどきを受けつつ医者を目指しているらしい。

ガキの診療代を払いつつ、止まらない奥さんの自分語りを聞いていると、

奥からガキがこっちを見ている。

 

女医さんにお礼を言って、ガキにも頭を下げさせる。

黙りこくったガキの背中を押して診療所を出ると、日が傾いている。

 

日が暮れる前にちゃんと帰れよとガキの頭をぺしぺしと叩く、

さてととガキに背を向けて飲み屋に行こうとしたら尻を蹴られた。

 

後ろを向くとアホーと言いながらガキが走り去っていく、

ガキの顔は見えなかった。

 

 

□×月○□日

 

秋祭り。

 

もはや妹ちゃんの屋台の活況具合を見ながらお姉さんと話すのが、

恒例となっていたがなにやら見慣れないものがテーブルにある。

 

テーブルの上にある花柄のカバーが可愛らしいフリルの付いた黒電話について、

お姉さんに聞いてみると、受話器を取ってみたら分かるわと言われる。

 

とりあえず取ってみると、屋台の方からジリリリリと音が鳴る。

受話器からもしもしフランです今忙しいから掛けなおしてねと聞こえた後、

ツーツーと電話が切れる。

 

「良いでしょう?私とフランのホットラインよ。」

 

お姉さんはいつものように優雅に紅茶を飲みながら自慢気にそう言った。

 

電話線の繋がっていないのに何で繋がるかと聞いてみたら、

詳しいことはパチェに聞いてと返される。

 

紫魔女さんに聞いてみようと思ったが、彼女は一向に視線を合わせてくれない。

彼女の真ん前に躍り出たが、即座に顔を反らして逃げてしまう。

 

メイドさんは時折眉間に皺を寄せている。

 

先ほどまでアリスさんと笑い転げていたマリちゃんが、

ハンカチを取り出し油をつけて頭を磨いてきた。

 

マリちゃんのなすがままになっている俺を見てメイドさんが歯を食いしばっている。

すこし落ち着いたのかこちらを向いた紫魔女さんが崩れ落ちた。

 

お姉さんにまた今度聞くことにしますと言って立ち上がり、

それじゃあ失礼しますと頭を深々と下げる。

 

魔女はハゲに弱いのだろうか。

 

 

□×月○●日

 

近頃紙の供給が増えて、値段が暴落している。

そのせいか絵や本を書く人が増えているそうだ。

 

作った版木を先生に渡すとそんな話をされた。

来年からは授業内容を書き留めるノートを配布できるかもしれないと先生は喜んでいた。

 

 

□×月×☆日

 

先生に本を推敲したのがばれた。

ぷんぷんしている先生にとりあえず目を通してくれとお願いすると、

非常に複雑な顔をしていた。

 

いやでも・・・とブツブツ言いながら読んでいる先生に、

お茶を出して待っている。

 

読み終わった先生は腕を組んでどうするか悩んでいるようなので、

ドッキリ大成功と書いた紙と推敲していない版木を見せた。

 

当然頭突きされた。

 




小説内の時間軸は現在は120季秋になりますが、
122季夏の風神録まで特に何もイベントが無いため今後は足早に進んでしまうと思います。
何か思いつけば書くとは思いますがご容赦お願いします。

また来週よりしばらく休みが不定期になるため、更新も不定期になると思います。
なるべく更新ペースは落とさないようにします。


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22

□△月○○日

 

里の外れに恨めしそうにこちらを見る女が目撃されるという話があるので、

見に行くことになった。

 

夕暮れになると現れ、こちらが近づくと呻き声をあげて消えていく。

そんな話を梅吉から聞きながら霊の場所に着いた。

 

確かにその女はいた。

長い髪は乱れてボサボサで、髪のスキマから覗く顔は

幽鬼のように青ざめ恐ろしい形相をしている。

 

試しに近づいてみるが、全然消えない。

目の前まで近づいても消える気配が全く無い。

 

聞いていた話と違うと思っていると、

その女に頭を触られる。

 

「髪が無い・・・。」

 

ひどく残念そうな声でそういった。

 

梅吉が近寄ると女は呻き声を上げて消えていった。

唐突に消えていったことに二人して驚いた。

 

なぜ俺が近づいても消えなかったのだろうか。

 

 

□△月○×日

 

女のことが気になったので、今度は一人で行くことにした。

例の場所にやっぱりあの女がいる。

 

近寄ってみても昨日と同じく消えない。

また頭を触られたので、なんとなく髪を伸ばしてみるとすぐさま髪を切られる。

 

切った髪をむしゃむしゃと貪る女。

 

また髪を伸ばしてやると、直ぐに髪を切って直ぐに食う。

しばし椀子蕎麦のように絶えず髪を供給していると、

満足したのか髪を切る手が止まった。

 

乱雑に切られた髪を落として、またつるつるの状態にすると、

貴方も妖怪ですかと聞かれた。

 

人間だと答えると、最近の人間は凄い便利なんですねと言われる。

 

少し血色の良くなった女は髪切りという妖怪で、

最近里の人間の髪を食べられずにひもじい思いをしていたそうだ。

 

剃刀のように鋭く尖った爪をシャキシャキしながら、

俺以外の人間に近づけずに困っているなんて言っているのを見て、

ふと毛難除符のことを思い出す。

 

また俺が原因か。

 

 

□△月○☆日

 

髪切りの前に、木製チェア、素朴な洗面台、木製の姿見を置く。

 

髪切りのボサボサの髪を洗った後、髪を結ってやる。

顔を晒すことに恥ずかしがって抵抗したが、

髪を食いたいなら我慢しろと言ったら渋々したがった。

 

髪切りの毛量が多くまとめにくいので、

適度に髪を梳いて、少し入れ込んでまとめる。

 

姿見とテーブルミラーを使ってどんな感じになったのか見せてやる。

 

これが私なんてコテコテの反応を見せる髪切りに、

ギブソンタックという西洋の編み方だと教えてやる。

 

貸本屋にあった髪結いのカタログと図書館にあったヘアカタログを渡す。

 

今度は俺が椅子に座って髪結いの練習をさせる。

 

 

□△月×○日

 

髪切りの練習をさせていたら、

私も髪を結って貰ってもいいですか?と女性がやって来た。

 

髪切りが女性の髪を結っているのを見てみる。

 

やはり髪に関係する妖怪だけあって、

数日練習しただけで様になっている。

 

女性の髪を結綿に結い上げた手並みは見事と言うほかない。

 

 

□△月××日

 

髪切りのところにいったら既に人が並んで、

大盛況だった。

 

なんでこんなに人が来るの~?と泣き言を言っていた髪切りに、

昨日来た子は大店の娘さんで、毎週神社に通って髪に潤いケアしに来るほどの、

美髪マニアで里の流行の発信源の一つだと教えてやる。

 

ひいひい言っている髪切りを尻目に、

お客さんがゆっくり出来るように椅子とテーブルを設置しておく。

 

もう大丈夫そうだ。

 

 

□△月△○日

 

日課終えて神社に向かったら、道中に床屋が出来ていた。

入ってみると髪切りが女の子の髪を結っている。

 

髪切りの話を聞いてみると大店の娘さんの計らいで、

店を作って貰ったそうだ。

 

丁度娘さんもいたので話を聞くと、神社の帰りに床屋が欲しかったとのお言葉が返ってきた。

それに神様公認の女髪結いなんでしょ?分かってる分かってるとか言ってきた。

 

まあいいか。髪切りも災いじゃなくなったみたいだし。

 

 

□△月△□日

 

冬囲いをした木々に雪が積もり始めた頃、

甘味処で水羊羹を食べていたら、

里の住人が行方不明だという噂を聞いた。

 

行方不明・・・神隠しにあったんだろうか?

 

 

□□月○○日

 

神社への道中で大店の娘さんとすれ違った後、

神社の境内に入ると巫女さんがマリちゃんに絡まれていた。

 

どうしたのかマリちゃんに聞いてみると、

二人で口喧嘩の最中に参拝客が現れるやいなや、

巫女さんがそれまでの喧嘩腰の低い声を改めて、

1オクターブ高い声で愛想の良さを見せたらしい。

 

霊夢も人の子だな、なんてからかうマリちゃんに肘鉄を食らわせて、

巫女さんは神社に引っ込んで行った。

 

マリちゃんは巫女さんを追いかけて神社に走っていった。

多分また喧嘩になるだろうから、今日のところは帰るとしよう。

 

 

□□月○△日

 

酒飲み二人組みにいい屋台があると誘われ、

ほいほいとついていく。

 

人通りの少ない道を歩いていくと急に目が見えなくなった。

するとおっさんから耳を澄ませて歌声の方に行くんだといわれる。

 

「夜の鳥ぃ♪夜の歌ぁ♪人は暗夜に灯を消せぇ♪」

 

変な歌詞だなと近づいていくと、タレの焼けるいい匂いがする。

目が見えない中、手探りで席につくと、若い女将さんから注文を聞かれる。

とりあえず飲兵衛に注文は任せて、この何処かで聞いたことのある声について考えていると、

香ばしい何かを前に置かれる。

 

おっかなびっくり食べてみると濃い味で美味い。

急に目が見えるようになったので、顔をあげると見覚えのある顔だ。

確か異変の宴会の時に来た夜雀じゃないか。

 

「夜の夢ぇ♪夜の紅ぁ♪人は暗夜に礫を喰らえぇ♪」

 

女将さんにこれは何を焼いたんですかと聞くと、

八目鰻だよ、焼き鳥よりも美味しいでしょ?と返される。

うん、こりゃいい、焼き鳥より八目鰻がいいよと言いつつちょいと考える。

 

夜雀の歌に八目鰻ね・・・どうやら一杯食わされたようだ。

毒をくらわば皿までというし、たらふく食べて飲んだ。

 

飲兵衛二人組は女将さんの正体には気づいていないようだな。

 

そのまま三人とも千鳥足で帰った。

 

 

□☆月○○日

 

神社で二年参りを済ませ、

巫女さんの正月祭祀を見守る。

 

無事今年も太陽が明星をかき消したことに胸を撫で下ろし、

初日の出を拝んだ。

 

 

□●月××日

 

稗田の嬢ちゃんから縁起の版木作りを頼まれた。

ドンと積み上がった何十巻もある巻物は中々に、威圧感があるな。

 

 

☆○月○☆日

 

図書館で本を読んでいると、

ふと紫魔女さんのネグリジェっぽいローブドレスが目に入る。

いつもの無地の薄紫のものから縦にストライプの入ったものになっていた。

 

すごい分かりづらいイメチェン?である。

司書さんと相談してもっと色んな服を着るように言っておこう。

 

 

☆×月×△日

 

春祭りも何事もなく終わり、種まきに精を出していると、

ひょっこりとミミズが顔を出し、挨拶するように頭を動かした後、

また土の中に潜っていった。

 

ミミズに挨拶されたのは初めてだな。

 

 

☆☆月○□日

 

今年の蝉はやけにうるさく鳴いている。

特に魔法の森は酷い騒音で、アリスさんが里の診療所に夏の間は厄介になっているそうだ。

マリちゃんは神社と古道具屋を行ったり来たりしているらしい。

 

 

☆☆月×○日

 

神社で暑い夏を避けていると、マリちゃんがやって来て今年の蝉について話し始めた。

 

なんでもこの蝉は11年周期で発生する奇跡の蝉で、

外の世界には13年周期や17年周期の蝉がおり、

そのどれもが素数で他の周期の蝉と被りにくいんだそうだ。

 

それでも100年ほど前に周期が被ってしまい、

競争に負けてしまい、幻想入りしたのが11年周期の蝉らしい。

 

・・・古道具屋の受け売りだろというと、バレたかと言ってマリちゃんは舌を出しておどけた。

 

 

☆●月○☆日

 

神社の裏の森で山菜取りをしていたら外来人を見つけた。

神社に送り外の世界に帰して上げようとしたら、帰りたくないという。

しょうがないので空いている長屋に放り込んで、

世話役の婆さんにいろいろ教えてやってくれと頼んだ。

 

最近は帰ろうとしない外来人が増えたな。

 

 

☆★月××日

 

縁起の版木作りが終わったので、

貸本屋に引き取りに来て貰う。

 

流石に貸本屋の主人と嬢ちゃんだけじゃ運べないので、

長屋で暇そうにしていた外来人の大介も借り出して、

リアカーに積み込んで運ぶ。

 

嬢ちゃんはこれから刷るであろう本の量にげんなりしていた。

 

 

●○月○☆日

 

出来上がった縁起を稗田の嬢ちゃんから貰う。

書かれていた内容は既に知っていたので、

文字や絵に潰れがないか確認して、不備がないことにホッとする。

 

しかし何故か嬢ちゃんは深刻そうな顔をしている。

どうしたのかと聞いてみると、幻想郷の実情として妖怪に取って食われるようなことは無く、

平和になった幻想郷においての縁起の必要性が薄れ、

これ以上阿礼乙女が転生する必要があるのかという重たい内容だった。

 

幻想郷に阿礼乙女は必要不可欠ですよと返しても、

そうですかねと自信なさげだった。

 

根を詰めすぎて疲れ切っている様だったので、

体調を整える能力とマッサージを併用して、

リフレッシュして貰うことにした。

 

マッサージの途中で眠ってしまったが、

若いくせに凝り凝っていたので、もてる技術を総動員してマッサージをする。

 

この子骨がごっきごき鳴って面白いわ。

 

 

●○月○●日

 

俺のマッサージは次の阿礼乙女に残すべきだと、

稗田の嬢ちゃんに力説され、マッサージの取材をされる。

 

体調を整える能力も伝授できないか、神様と交渉するらしい。

 

すっげえ元気になってるじゃん。

 

 



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23

●○月×○日

 

神社の果樹の冬囲いの準備をしていると、

巫女さんが俺の着ている六尺半纏ともんぺに、

興味があるのか触ってきた。

 

なんでこんなにもこもこでフワフワしているのかと、

聞かれたので綿を入れていると教えてあげた。

 

半纏の袖にちょいと穴を開けて、綿を取り出して見せてやる。

綿を受け取った巫女さんはもぞもぞと綿を探り、

これをどこで手に入れたのか聞いてきた。

 

その辺に生えていると言うと驚いていたので、

作業を中断して綿を探すことにした。

 

里の近くの沼のまで運んで貰い、目当てのものを早速見つけた。

これだよと言うと、これが?と返される。

 

巫女さんが茶色いフランクフルトのようなものを触ると、

中から綿がぼわぼわと出て来る。

 

なにこれと言うので、ガマの穂だと教え、

乾かせば薬になるし、服に入れると温かいと言うと、

穂をせっせと集め始めた。

 

 

●○月××日

 

俺が冬囲いをしている間、

巫女さんはいそいそと巫女服にガマの穂綿を入れていた。

 

作業を終えて蔵に梯子を片付けていると、

巫女服を着込んだ巫女さんが現れる。

その姿はもこもことしており、非常に丸っこい。

 

明らかに入れすぎだが、本人はあったかいわ~なんて喜んでいるので、

そいつは良かったとだけ返した。

 

 

●○月×△日

 

神社で巫女さんがマリちゃんに絡まれている。

羽毛布団のように膨れた巫女服をからかっているようだ。

 

お相撲さんになったのか?なんて言いながら巫女さんにベタベタしている。

 

ほら、はっけよーいだぞと地面に手を突いたところで、

巫女さんが怒って張り手を繰り出したが、

マリちゃんに避けられて、がっぷり四つに組まれてしまった。

 

二人の高度なイチャつき、もとい泥仕合を見ていると、

亀が冬眠前の挨拶に来たので来年も宜しくと返す。

 

ガマの穂がこぼれて落ちる千秋楽と言って、

亀さんは神社裏に去っていった。

 

確かに巫女さんの服が破れて、折角入れた穂綿が落ちていっているな。

 

相撲の結果は物言いによる勝負預かりだ。

 

 

●○月×☆日

 

最近、気づいたのだが巫女さんの留守中に、

蛍妖怪が参拝に来ていた。

 

何やら熱心に祈っているが、何の祈願をしているのだろうか?

 

 

●○月△○日

 

行方不明になった男性の奥さんがやって来た。

男性が帰ってくるように、帰ってこなかったらいい男が現れますようにと

縁結びの祈願をして帰っていった。

 

 

●×月☆☆日

 

今日は流星群が来ると言うので、

巫女さんは泊りがけで見に行くそうだ。

俺は巫女さんに留守番を頼まれた。

 

マリちゃんと古道具屋の店主が付いているので、

大丈夫だとは思うが風邪をひかないように気をつけてと送り出した。

 

留守番仲間の小鬼と飲んでいると、

神様からそろそろ流星が降ってくるそうなので、

縁側に場所を移して星見酒と洒落こむ。

 

次々に降る流星に適当に祈りつつ、8度目の乾杯を小鬼としていると、

神様から明日川で星のかけらを探すといいと言われた。

 

そういえばそんな素材があったような気がする。

 

 

●○月☆●日

 

川で星のかけらを探していると河童に絡まれた。

探し物で忙しいからあっちに行けと言うと、

何を探しているのかと聞かれ、星のかけらと答えると、

既に全部回収したと言われる。

 

なんてこったい。

 

粘り強い交渉の結果、相応の対価と引き換えに、

今まで河童が回収してきた星のかけらを譲って貰えることになった。

 

 

●×月○△日

 

神社で参拝していたら、神様から千回記念ということで手袋を貰った。

手に持っているものなら加護が付いていないものでもリスポン時に持って帰ってこれるそうだ。

 

ちなみに生物未対応らしいが、

そのうち対応するとのこと。

 

現状は古道具屋の手紙を早く持って帰れるくらいの利点しかないな。

 

 

●△月×○日

 

年が明けてから少しして、妹ちゃんからお手伝いを頼まれた。

 

どうやら妹ちゃんお手製の注連縄と、

神社の鳥居や本殿にある草臥れた注連縄を交換するのだという。

 

前の注連縄は人の腕くらいの太さだったが、

新しいものは人の胴体よりも太く威圧感がある。

 

よくこんなデカイの作ったねと言うと、

がんばった!という元気な返事が返ってきた。

 

注連縄を丸太に縛りつけ、なんとかこうにか交換作業を行う。

俺が押してもびくともしないものを軽々と持ち上げる妹ちゃんは、

やっぱり妖怪なんだなと再認識した。

 

 

●×月△☆日

 

巫女さんが新しい神事を執り行なうらしいので、

マリちゃんと見学することになった。

 

巫女さんの笛の音色で集まった無数の鳥たち。

鷽(ウソ)という天神様の使いらしいのだが、

なぜかマリちゃんに群がり啄ばんでいる。

 

巫女さんが言うには、その人が今までついた嘘を啄ばんで、

幸福に変えてくれるという鷽替え神事と呼ばれるものだとか。

 

うちの神様って、天神様じゃないけどやってもいいのかと聞いたら、

既に神様から好きにやってよいと許可が出ているそうだ。

 

 

●×月△●日

 

昨日の神事はどうやら誤っていたそうで、

本来は作り物の鷽を使うらしいと、マリちゃんから愚痴られた。

 

彼女は結局丸一日つつかれ損だった。

 

 

●△月○●日

 

里で妙な病気が流行っている。

全身から力が抜けるように気だるくなり、咳が少し出るようだ。

俺は神様の能力で平気だが、うちの長屋の連中もダウンしている。

 

どうしたものかと考えていると、巫女さんが神様の木像を抱えてやってきた。

俺は初耳だったが、神様は病気の神でもあるようで、

神様の手を触ることで病気が良くなるらしい。

 

里の住人が次々に神様の手を触って元気になっていく。

 

巫女さんは何故か古道具屋に飛んでいった。

巫女さんの代わりに木像を抱えて里内を廻っていると、

マリちゃんが巫女さんに連れられてやってきた。

 

フラフラしていたマリちゃんも神様の手に触ると途端に元気になり、

巫女さんに平謝りしている。

 

どうやらこの流行病はマリちゃんが無縁塚で拾った小皿に封印されていたものを、

破ってしまったことで発生したらしい。

 

まあ何にせよ解決してよかった。

 

 

●□月○△日

 

雪が解けて人形劇を再開したアリスさんから、

冬の間に妖精と仲良くなったという話を聞いた。

 

あの時の鷽がアリスさんの家の窓を突き破って、

妖精に襲い掛かるとは良く分からない繋がりあるものだ。

 

 

●☆月×△日

 

神社に行ったら、巫女さんとスキマさんが稽古していた。

 

なんで妖怪が巫女さんに稽古をつけているのか分からないが、

とりあえず巫女さんを応援していると、マリちゃんも合流してきた。

 

最後は巫女さんがどこぞの神様の権能を借りて、

石畳に幻覚の大穴を空けたところで稽古は終了した。

 

三人でスキマさんの稽古の意図について話すが、

皆目見当もつかない。

何のための稽古だったのだろうか?

 

 

●●月○□日

 

日課を終えて里をぶらついていると、

塩問屋の丁稚のマサ坊が巫女っぽい服を着た女の子と話をしている。

 

マサ坊にどうしたのかと聞くと、どうも近くにある神社について聞かれているそうだ。

マサ坊はこの人は巫女なのか疑っており、

巫女っぽい人もなんで自分が疑われているのか分かっていないようだ。

 

しょうがないので外から来たであろう巫女さんに、

幻想郷の巫女のことを教えてやる。

 

巫女さんは腋を出すものだと!

 

「ま、まさかそんな!何故腋を出す必要があるんですか?」

 

伝統という非常に便利な言葉を返し、外の巫女さんを連れて呉服屋に向かう。

外の巫女さんも幻想郷スタイルになって貰った所で事情を聞こう。

 

「うう・・・すーすーしますぅ。え、はい!あの山の上に引っ越してきまして、まずは土着神に挨拶をと!」

 

山の巫女さんは初めが肝心なのだと意気込んでおり、

このまま勢いで宣戦布告しそうな勢いだ。

 

とりあえず神社に行く前に挨拶すべき神様がいるよと、

山の巫女さんを連れて長屋の便所にやって来た。

 

ここですかと、不思議そうな山の巫女さんを尻目に、

便所の戸を叩く、すると中から叩き返されたのを確認してから声を掛ける。

厠神様にお会いしたい人がいると言うと、ちょっと着替えてくるから待てと言われる。

 

山の巫女さんに何方なんですかと聞かれたので、

神様の中で最も徳の高い神様で、右手で大便を、左手で小便を受け止めて

浄化してくださる素晴らしい神様だよ。

 

「ええ・・・。」

 

人間ならば、まずこの方に挨拶しなければ失礼と言うもの。

まあ、最近は忙しいのか埴輪が受け止めているからそのお姿を見ることはほとんど無いが。

 

厠神に挨拶したあとは竈神などの家神と引き合わせ、

里の外の神様たちと合わせた所で日が暮れてきたので、

親御さんを心配させないように帰らせる。

 

また明日!まだまだ神様はいるから!と言ったが、

山の巫女さんは大丈夫ですぅー、と言って帰っていった。

 

何故だ。

 

 

●●月○☆日

 

神社に行ったら巫女さんは不在だった。

 

どこ行ったのかと神様に聞いたら、

山の巫女さんに宣戦布告されたので、とっちめに行ったそうだ。

 

 

●●月○●日

 

『我が信徒よ。見るがいい!』

 

やけにテンションの高い神様が現れたのでよく見ると、

頭頂部に二本の角が生えていた。

 

角が生えていることを聞くと、どうも分御霊を持っている巫女さんが、

滝登りをしたことで格が上がったらしい。

 

ちなみに権能=分御霊なので、俺も持っていることになるとのこと。

そんなの知らなかった。

 

神様からの依頼で角付き木像を急いで作ることになった。

宴会の準備もあるのにな。



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24

●●月○★日

 

巫女さんから神社の境内に山の神の分社を、

作って欲しいとお願いされた。

何回も小さいのでいいからね、と言われたが何だったんだろうか?

 

神様の像と分社と宴会の幹事は流石にこなすのは厳しいので、分社は里の大工に、宴会は巫女さんと里の婦人会に投げた。

 

大工からは気合いの入ったいい返事を貰ったが、婦人会は山の神様たちに興味があるらしく、仲介して欲しいと頼まれた。

 

仕方ないので巫女さんと山の巫女さんを呼んで交流させることにした。

なんか自機組が揃っていたが気にしない、里に馴染むのはいいことだ。

 

 

●●月××日

 

ここ数日日課を休んで神様の像を掘ることに、集中していたが、頼んでいた作業はどうなっているのだろうか。

気になったので神社に行ってみると、宴会というか出店が並ぶ縁日みたいになっていた。

 

どういうことかと、近くで屋台を組み立てていた妖夢ちゃんに聞いてみると。

 

どうも参加予定者がかなり多く、誰かが祭りみたいだなと

言ったことが切っ掛けで、じゃあ祭りにしようとなったらしい。

その誰かはすぐそこでドヤ顔になっているマリちゃんなのだろうな。

 

分社に関しては形は既に出来ており、後は装飾を施せばだいたい出来上がりだとか。

細かいところは今後も細々とやっていくが、完成日と祭りの日を合わせたいので、一旦完成ということにするらしい。

 

まあ大工だって祭りに参加したいよな。

 

分社を作っていたり、山の巫女さんが良く里に来て交流しているため、里では山の神社が話題になっているらしい。

妖怪の山の上にあるため、まだ参拝しにいった猛者はいないが、それがまた想像を掻き立てられるのだろう

そのせいか巫女さんも危機感を煽られたのか、婦人会を通して里との交流を深めようとしていると、ご近所さんに聞いた。

 

これまで博麗の巫女はあまり積極的に里に関わろうとしていなかったためか、

互いにぎこちない交流をしていたが、巫女さんは人妖を惹きつけるものを持っているので、

そのうち仲良くなると思う。

 

 

●●月×△日

 

中々の出来だ。

 

夢に出てくる神様はぼんやりうねうねしていて輪郭くらいしか理解できず、

大部分が想像によるものだが、これは神様だと何故か認識できる。

 

不思議な感覚だ。

 

出来上がった像の出来の余韻に浸るのもそこそこに、

布とむしろを巻いて保護して、背負子に載せて神社に急ぐ。

 

そう既に神社での祭りは始まっているのだ。

 

神社に着くと境内は人でごった返しており、

正面から行くのは難しそうだ。

 

裏から本殿に回ると中には山の神が座っていた。

どうやら山の神社の面々の顔見せはもうすんでおり、

ご高齢の方々に拝まれている最中のようだ。

 

端っこでマリちゃんがお金を数えていたので、タクシーでもやっていたのだろう。

 

本殿の奥の神様のところに行くと、外の喧騒とは違いとても静かな空気が流れていた。

黒く変色してしまった像を新しいものと交換する。

 

こうして見比べると腕の上達が顕著に現れていると、

冗談交じりに何かしたでしょと神様に聴いてみたら。

 

『おや感づいたかのう?』

 

そう返された。何かされていたようだ。

今度は何をしてんですかと問うと。

 

『我が信徒の精神に保護をかけたのじゃよ。日常生活では集中力が増す程度じゃが、その真価は別にある。』

 

「無作法に覗き見されんようになるのじゃ。」

 

目の前の像の口が動く、声帯なんて無いのに声が聞こえる。

 

神様が言うには他者の心の覗き見する能力や技術、精神を汚染する何かから守ることが出来るそうだ。

保護が完全になれば、今までのように夢枕にも立てなくなるとか。

しかしそれでは不便だと言うことであるものを別の信徒に用意させたらしい。

 

「それがこの高機能通信携帯魔道具よ・・・。これは前身となった高機能魔道具の戦闘機能を取り除き、

新たに通信機能を強化したもので・・・。」

 

神様のセリフに合わせたように、紅魔館組が現れ、紫魔女さんが色々説明してくれる。

半分以上聞き流しつつ、スマートフォンっぽいなという感想を抱いた。

 

「通称はマジカルさくやちゃんスターSEよ」

 

「・・・その名前は採用しないって言ったでしょ?」

 

「私の通信機の中にも入っているのよ!ほら見て!」

 

妹ちゃんがそう言いながら何時か見た黒電話のカバーを取ると、

中から星のマークが入った球状の物体が現れた。

お姉さんと紫魔女さんの言い争いをみていると、

メイドさんからマジカルさくやちゃんスターSEを手渡された。

 

携帯しやすいようにネックレスタイプになっており、

神様の像にも掛けられた。

 

【どうじゃ聞こえるかの?】

 

マジカルさくやちゃんスターSEから神様の声が聞こえてくる。

小声で言っているつもりのようだが、直接耳に届いている。

 

そのことは指摘せずに、聞こえてますと言うと神様は喜んでいた。

 

本殿の奥の騒がしさに気づいたのか、

縁日を楽しんでいた酔っ払い達がガヤガヤと近づいてくる。

 

 

●●月×□日

 

山の巫女さんは酒に非常に弱いらしい。

高々一杯の酒で酔ってしまい、一番二日酔いが酷い。

二日酔いに慣れた馬鹿は生きてることを一番実感できることらしいが、

山の巫女さんもそうなのだろうか。

 

ゾンビのような呻き声を上げる山の巫女さんに体調を整える能力を使ってやり、

縁日の後片付けをする。

 

「早苗が世話になったようだね。」

 

落ちているゴミを拾っていると、カエルっぽい帽子を被った女の子に声掛けられる。

山の神の片割れのようだ。

第一印象を良くしようと、おはようございます!と元気良く挨拶したが、

引かれてしまった。何故だ?

 

「ああ、おはよう。君がこの神社の管理人なんだって?」

 

何故か管理人扱いされたが、否定する。

ただの参拝客で、ごく一般的な里の住人だと。

 

「あれー?里の大工に分社の建設指示と今回の祭りの開催指示したんだよね?」

 

全部巫女さんの指示で責任者も巫女さんだと教えると、

カエルの神様は首を捻りながら去っていった。

 

いや山の巫女さん持って帰ってくれよ。

 

 

●●月×☆日

 

神社に見に行ったら山の巫女さんが境内の掃除をしていた。

巫女さんはどこかと聞いたら母屋にいるらしい。

 

母屋に行くと巫女さんと小鬼が茶をしばいていた。

なんで山の巫女さんが掃除をしているのかと聞くと、

神社に二泊させて貰ったお礼なんだとか。

 

「一杯で潰れちゃうとはねー、あたしならいっぱい飲めるのに!」

 

それはお前だけだろと突っ込みつつ、

巫女さんに山の巫女さんを借りていくぞと言う。

 

「ちゃんと返してよね」

 

俺が言うことじゃないが、山の巫女さんは物じゃないんだがな。

 

 

ということで嫌がる山の巫女さんを連れてこの前の続き、

里外の神様巡礼を兼ねて、幻想郷に点在するお地蔵様の掃除に行くことにした。

 

 

秋神様達、厄神様、貧乏神様、疫病神様、なんか良く分からん神様のところを案内した。

特に厄神様、貧乏神様、疫病神様の三柱には直接話しかけると、

取り付かれるのでそっと貢物を渡して厄除け祈願するといいと教えた。

 

途中で貧乏神様に気づかれたが慌てず、ガン無視してから落ち込んで去っていくところで、

さり気なく貢物を渡すテクニックを実演して見せた。

 

良く分からん神様とは遭遇できなかったので、出会うことが多い場所だけ教えた。

何の神様なんですか?と聞かれたが、良く分からんと答えた。

ただねっとりとした雰囲気があるので納豆の神様だと予想していることだけは教えておいた。

 

帰り際に視線を感じたのでうっかり落っことした感じで団子の入った包みを置いておく。

山の巫女さんが落とした包みに気づいたが、気にしないで進むように言い包める。

 

「さっきのは一体?」

 

何かやらないと面倒くさいことしてくる割に、素直に物を受け取らない面倒臭い奴がいたと伝える。

 

「貴方以上に面倒臭い人がいるんですか?」

 

幻想郷はそういう奴のたまり場だと伝えると凄い顔をしていた。

君もその類だとは言えなかった。

 

 

●●月×●日

 

通りの団子屋で一服していると誰かしらに遭遇し、

たかられるものだが、今日は昨日に引き続き山の巫女さんこと、さっちんに出会った。

 

幻想郷に来て日も浅いというのに、持ち前の明るさと人当たりの良さと駆使してすっかり溶け込んでいる。

 

勝手に団子を頼んで緑茶を啜るさっちんに、暮らしに不便は無いか聞くと、

山から里まで距離はあるが、外とは違い空を飛んでも何も言われないし、

毎日驚きが満ちていて新鮮で、楽しいですよと外面の良さを見せた。

 

化けの皮をいたく気に入った店員からサービスのお汁粉を食べるさっちん。

 

まあ大丈夫そうなので安心した。

神社にお参りに行こうとしたら、さっちんも分社の掃除に行くというので、同行することにした。

 

境内と分社を掃除するさっちん。

参拝客に愛想よく挨拶するさっちん。

山の神社をアピールするさっちん。

 

なんか乗っ取られてるな。

 



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25

●★月◯◯日

 

里を歩いているとちびっ子の服から芽が出ていた。

おおかた冬に入れた綿を抜き忘れたのだろう。

 

呼び止めてその事を指摘してやると、

恥ずかしそうにしていた。

 

走り去るちびっ子を微笑ましく見ていると、

去年巫女さんの服に入れた蒲の綿はどうしたのだろうかと気になった。

 

早速神社に向かい巫女さんに確認すると、

血相を変えて母屋に戻る巫女さん。

境内を掃除していたさっちんがどうしたのかと、

聞いてきたので一緒に母屋に向かう。

 

母屋に入ると案の定と言うべきか巫女さんの冬服から芽が出ていた。

さっちんがなんで服から芽が?と不思議がっていたので、

蒲の穂について教えてあげる。

こっちでは服に蒲の穂を入れるんですね。

 

なんて感心するさっちんに乾燥した蒲の穂は蚊取り線香の代わりになるし、蒲の花粉は薬にもなり、蒲の葉で蒲団なんかも作れる優れた植物なのだとドヤ顔で説明する。

 

説明している間、巫女さんはしょんぼりしながら綿を抜いていた。

 

 

●★月○☆日

 

手紙を配達するために香霖堂に入るとメイドさんが難しそうな顔をして店内をうろうろしていた。

店主に手紙を渡しつつ客がいるなんて珍しいこともあるもんだと言うと、

槍が降るより珍しいねと返される。

 

槍が降るのか。

幻想郷の気象について悩んでいると、店主がメイドさんが何を探しているのか教えてくれた。

なんでも月に行くためのロケットあるいはその部品だそうだ。

 

そういえば紅魔館がなにかしているみたいな話を聞いたような気がするな。

人伝だったか新聞だったかは覚えていないが。

 

メイドさんにロケットを探しているんだって?と話しかける。

メイドさんはお嬢様・・・吸血鬼のお姉さんからロケットを作るように言われているらしい。

幻想郷でロケットを作るだなんて無茶振りにもほどがあるなと思ったが、はたと気づく。

 

作れるじゃんと。

 

メイドさんに明日持っていくというと呆れられた目で見られた。

そうですかよろしくお願いしますねというと、メイドさんは部品を探す作業に戻った。

 

全く信じてないな。

 

 

●★月○●日

 

紅魔館を訪れ、衆人環視の中早速庭を借りてロケット作成に入る。

 

作業台で物を作成する時、作業は不思議パワーほぼ一瞬で終わる。

しかし作業内容や完成品の構造などは頭の中に入ってくるので、

直ぐに理解した。

 

あっ、このロケットめっちゃでかいと。

 

ゲームの画面と同じ大きさだと勘違いしていたぜ。

 

物ができあがる僅かな時間を使って竹籠を足で抱え、

出来上がったものが顕現する前に収納する。

 

無理な動きで足が攣ってしまった。

 

万一落としたときにロケットが出てきてしまったら、

門番さんの庭園が壊滅するところだった。

 

冷や汗を拭いつつ、もっと広い場所はないか確認すると、

大図書館の中に案内されたが、まだ狭い。

他に場所はないのかと言うと、どれくらいのスペースが必要なのか聞かれる。

発射時のことを考えた広さを伝えると、広めの体育館くらいあったスペースがめちゃくちゃ広がる。

キロ単位で広がった空間に慄いていると、周りからさっさとロケットを出してみろと急かされる。

 

籠からロケットを取り出して顕現させると出したときの衝撃で館が揺れる。

 

全長110メートル重さ3000トンのデカ物が発射台付きで現れたのだからしょうがない。

 

紅魔館の住人がロケットの周りを飛び回っているのを背景に、

メイドさんと紫魔女さんにロケットの詳細について話合う。

 

「ロケットの代金は36000回払いでよろしいですか?」

 

全くもってよろしくない。

踏み倒す気満々のじゃないか。

3000年ローンは債権者が回収できないので、

紅魔館に対する貸しということになった。

 

 

★○月○×日

 

日課を終えて飲み屋に入ると、既に管を巻いている男がいた。

まだ日が暮れたばかりだというのに早いものだ。

 

一人でグチグチ言っている男を無視して注文しようとしたが、

その独り言の中に興味深いものがあったので、

どうしたんだい?と話を聞いてやることにした。

 

酔っぱらいは、ぽつぽつとした語り口で話し始める。

 

男は里で易者という占いを生業しているもので、

何年か前に行方不明になった人を探すために占いをしたんだが、

その占いを介して外の世界を覗き見ることができるようになったと主張する。

 

外の世界は進んでいて、ここは停滞していると。

 

外の人間は闇夜も冬も妖怪も恐れずに生活していると。

 

俺たちは家畜なのか、妖怪の餌なのかと。

 

男は内心に秘めていた言葉を吐き出し終え、

ふらふらとした足取りで店を出て行った。

 

 

男の言葉を嚙み砕いていると店員さんから、

男の分の勘定をお願いしますと言われた。

 

・・・やられた!

 

 

★○月○□日

 

紅魔館にてロケット完成記念パーティーが開催された。

嫌な予感がしたので参加を見送ろうと思っていたが、

妹ちゃんに攫われてしまった。

 

「このロケットでなんと月に攻め入るのです!」

 

人妖が入り乱れた会場には沢山のテーブルと料理と酒が並べられ、

パーティーに参加したものたちが思い思いに楽しんでいる。

 

そんなものたちを見下ろすように壇上に本日の主催がいた。

 

 

ロケットの模型を見せながら紅魔館の月面侵攻計画を話している吸血鬼のお姉さん。

 

その横で適宜解説をしている紫魔女さん、そして後ろで立っている俺だ。

 

会場に着いて早々に着替えさせられ、壇上に連行された俺は、

ロケットの外装を作った協力者という立場で、ここに立っている。

 

すごく近いところからすごい目で河童が見ている。

 

河童から目をそらすと山の神も興味津々にこっちを見ている。

 

視線を上げて壁を見ようとしていると冷徹な目で見てくる変な服の医者がいる。

 

冷汗が止まらない。

 

 

「そこで!このロケットの愛称を募集したいんだけどー!」

 

お姉さんのキャラ崩壊にも拍車が掛かっている。

いつもは可憐でクールでカリスマに溢れた人じゃなかったかい?

 

どうしてこうなったと天を仰いでいると、ロケットの愛称が決まったらしい。

 

しかしそんなことよりも目の前の視線が痛い。

 

 

 

★○月×△日

 

河童やら天狗やらの執拗な質問攻めを神様の権能ですと、

言い逃れして早数日。

 

ロケットの発射日になった。

 

この日も妹ちゃんに攫われて紅魔館に来た俺は、

なぜかロケットに乗っていた。

 

神様なんで俺がロケットに乗っているのでしょうか?どうか助けてくださいという懇願は、

神様からのお土産期待してるのじゃという言葉で一蹴された。

 

このロケット内装が完全に民家だなーと現実逃避していると、

メインエンジンを務める巫女さんがこのロケットは空飛ぶ神社だと、

言った瞬間ロケットが発射した。

 

凄まじいGに床に叩きつけられる。

俺以外は普通に立っているので、変な目で見られた。

 

窓の外で手を振る妹ちゃんの満面の笑みが嫌に記憶に残った。

 

 

★○月×□日

 

ロケットに乗って二日目。

 

巫女さん、マリちゃん、吸血鬼のお姉さん、メイドさん、妖精メイド二匹という、

女所帯に居心地悪さを覚えつつもなんとかやっている。

 

しかしロケットの一段目を切り離して、

二段目に移動したときに衝撃的な光景を見てしまう。

 

吸血鬼のお姉さんが子供用のテーブル付き椅子に座っているのだ。

思わず突っ込みかけたが、ぐっと堪える。

あの椅子に違和感を覚えているのは俺だけなのだから。

 

巫女さんもマリちゃんもスルーしているし、

メイドさんも・・・なんか笑顔だからあれが子供用だと知っているな。

 

 

★○月×☆日

 

ロケ三日目

 

みんなではめごろしの窓の外を見ている。

 

大気圏を抜けたロケットから見えるその光景は小さな箱庭に生きる者たちには、

とても鮮烈に映った。

 

「地球って丸いのね。お月様みたい。」

 

「しかも青いぜ。」

 

「うちの神社はどこかしら」

 

自分も知ってはいたが、実際に目の当たりにすると圧倒されてしまう。

しばらく見とれていると、巫女さんから三段目に移るように言われる。

 

明日には月に着くそうだ。

 

しかし俺以外の全員が船内を器用に移動するもんだ。

俺はあっちこっちにぶつかりまくりで、

妖精メイドさんに補助されてやっとこさ移動している。

 

 

★○月×●日

 

ロケ四日目

 

「おはようフラン。そっちはどうかしら?」

 

吸血鬼のお姉さんが妹ちゃんと電話している。

いつかの祭りで見たなんちゃら通信機だ。

 

しかしこの旅で気づいたのは、

俺の知っている母性溢れるお姉さんは妹ちゃんの前だけで現れるものだということだ。

 

ロケット内ではマリちゃんと一緒に騒いだり、子供椅子に座ってどや顔で紅茶の催促したりしている。

そこには妹ちゃんに見せる菩薩のような微笑みはなく、見た目相応の行動をする幼女でしかない。

 

「さあ、最後の仕上げよ!何かが起こるわ!」

 

ぼんやりと電話風景を見ていると、巫女さんが立ち上がってそう言った。

 

一体何が起こるのだろうか?と思ったらいきなり船体が傾いて、

月に墜落した。

 

 

打ち寄せる波を見ながら吸血鬼のお姉さんにお礼を言う。

ロケットが墜落する寸前、電光石火の早業で船体に穴を開けて、

そこから俺を助け出してくれたのだ。

 

月の海に墜落したロケットからずぶ濡れになった巫女さんとマリちゃん、

妖精メイドさんが浮かんでくる。

 

メイドさんはいつの間にか吸血鬼のお姉さんに日傘を差していた。

 

 

海で黄昏ている巫女さんとマリちゃんを置いて、

吸血鬼のお姉さん達と月を探検していると、

桃が大量になっていることが分かった。

 

というか砂浜からちょっと上がったら桃の木の森だ。

水分補給に桃を齧りながら見渡すと、遠くにSFチックな都市が見える。

それを眺めていると吸血鬼のお姉さんから封書を貰った。

なんでも神様から預かっていたもので、月の民に渡すように言われているらしい。

 

なんで俺にと思っていると、兎耳の兵士に銃を突き付けられた。

ビビっていると、お姉さんが兵士を追っ払い砂浜の二人の元に戻ると、

どうやら揉めているらしい。

 

なんだかよく分らんがマリちゃんの口車で、地球対月の弾幕勝負をすることになった。

 

まず妖精メイドさんVS兎耳兵士はあっさりと妖精メイドさんの負け。

 

メイドさんVS月のリーダーはメイドさんの弾幕を逆に利用されて負け。

 

マリちゃんVS月のリーダーもマリちゃんの大技ダブルスパークを破られて負け。

 

吸血鬼のお姉さんVS月のリーダーはお姉さんの体術が決まっていたが、天照大神の威光で一発KO負け。

 

巫女さんVS月のリーダーは序盤はいつものように針と札と水を使った弾幕で勝負した巫女さんの劣勢だったが、

中盤で巫女さんが大禍津日神の力を使って、月を人質に取った穢れ弾幕で優勢になり、持久戦になった。

最後は月のリーダーが伊豆能売の力を使い穢れを払い、驚いた巫女さんの隙をつかれて負けてしまう。

 

好勝負に思わず拍手をしていると月のリーダーに名前を呼ばれる。

 

なんで俺の名前を知っているのかと思ったが、彼女が神様の言う月の民に違いないと思い、封書を手渡す。

 

書の内容を確認している彼女を待っている間、近くに転がっていた月のかけらを拾っておく。

ちょっと集めただけで河童からもらった分を優に超えているので、月の家具を揃えることができそうだ。

 

月のかけらを集めていると月のリーダーが綺麗な青い球を二つ持ってきた。

 

月のリーダーが言うには沙伽羅竜王より賜った早珠と満珠という潮の満ち引きを操る宝珠だとか。

 

兎耳兵士が俺の足にロープを縛り付ける。え、なんで縛るの?

 

ちょっと触るだけだぞと言って、先ほどの弾幕勝負の中には無かった威圧感を醸し出してきた彼女から、

宝珠を丁重に預かり触れてみる。とても怖い。

 

しっとりしていて滑らかでいつまでも触っていたくなる魅力を持つ素晴らしいものだ。

しかし材質は何だろうかと思っていると宝珠から懐かしい磯の匂いがしてきた。

月の海にはない生命の香りがする。

 

つい食欲を刺激されて宝珠を舐めてしまった。

 

しまったー!と思った瞬間、凄まじい怒気を感じて、久しぶりに気絶してしまった。

 

 

はっと目が覚めるとそこはいつもの我が家の前で、

手には宝珠がしっかりと握られている。

加護付きの手袋を付けたままだったようだ。

脂汗が止まらない。

 

大事な日に大寝坊した時のような焦りを感じて跳ね起きると、

家の中から妹ちゃんが出てきて神社まで運ばれた。

 

どうやら神様が呼んでいるそうなのだが、

なにやらいつもと神社の雰囲気が違う。

 

巫女さんがいないからかなと思い、神様の前に行くと、

木像の手の上に宝珠を置くように言われた。

 

素直に置いてみると、すぐに月の使者が来るそうで、

そこで座って待ってろと言われた。

 

いつもは胡坐かいているのだが、今日は反省を込めて正座していると、

ほどなくして月の使者が来たようだ。

 

そこでわざわざ来てもらったのにお茶も用意しないのは失礼なのではと思い、

急いで母屋に行ってお茶の準備をする。

 

お茶請けは煎餅で大丈夫だろうかと心配になりつつ、

戻ると何処となく月のリーダーと似ているお嬢様然とした女性と兎耳兵士に、スキマさんと狐さんが、

部屋の前で立ち往生していた。

 

部屋の中には神様の木像と妹ちゃんが蠟燭に照らされてぼんやりと見えているがどうしたのだろうか?

 

 

お茶をご用意いたしましたのでどうぞ中へ!と案内しても、中々入ってこない。

たっぷり時間を掛けて入ってきた月の使者様の顔色は真っ青だ。

兎耳兵士も歯をカチカチ鳴らしているし、体調が悪いのだろうかとオロオロしてしまう。

 

神様と俺は月の使者様に丁寧に謝罪をしたところ。

あっさりと許してくれた。

 

月の使者様は慎重に宝珠を預かった後、

ささっと帰って行ってしまった。

もう夜も遅いし、きっともう寝ている時間だったのかなと思い、

とても申し訳ない気持ちになった。

 

妹ちゃんがお姉さんに通信しているみたいだったので、

通信機を借りる。

お姉さんに月のリーダー様と交代してもらって、

改めて謝罪を行う。

月のリーダー様にも快く許してもらい、

今度菓子折りもって月に行きますと言ったら、

謝罪は受け取ったから来なくてよいと返された。

 

月の人っていい人だと感じ入っていると、

妹ちゃんが部屋にずらっと並べられていた古い木像を外に出していた。

 

部屋が暗くて見えなかったけど、なんで並べていたのだろうか?

妹ちゃんを手伝って木像を運び出した。

 

 

★○月×★日

 

さっちゃんと神社の掃除をしていると、

マリちゃんがやってきた。

 

マリちゃんから巫女さんはまだ月にいるらしいことを聞いた。

 

「霊夢だけ月の都に入れてずるいぜ!」

 

「ほんとに月に行ったんですね。途中で爆発すると思ってました。」

 

マリちゃんと異口同音でひどいとさっちゃんを非難した。

 

 

★○月△〇日

 

【我が信徒よ。喜びに打ち震えるが良いのじゃ!】

 

めちゃくちゃテンションの高い神様の言葉の続きを聞いて、

喜びの余り踊ろうとして、彫っていた木像に足をぶつけた。

 

違う意味で震えてしまったが、その日が待ち遠しい。

 

 

★×月〇〇日

 

 

果樹園と化した神社の木の冬支度をしていると、

巫女さんが帰ってきた。

 

やっぱり神社には巫女さんがいないと締まらないな。

巫女さんが帰ってきたことを聞きつけて、

人妖問わず集まってくるのを見ていると、

やはり巫女さんにはそういう人望があるのだろうなと感じる。

 

 

★×月〇×日

 

木像を背負い川沿いを下る。ひたすら南へ下っていく。

人里を離れて、無名の丘を越え、太陽の畑を通り過ぎた。

途中から花妖怪がどこに行くのかと聞いてきたので、

元気よく海へと答える。

 

頭の心配をされてしまった。

 

心配してついてきた花妖怪にお礼を言いつつ、

人里の川の終点についた。

 

そこは三途の川との合流地点だ。

 

三途の川は幻想郷の北、妖怪の山の裏から西へ流れ、

ぐるっと弧を描いて南、そして谷間を流れて幻想郷の外に流れていく。

 

三途の川は山と川に囲まれた幻想郷の唯一の出口。

 

三途の川は霧に包まれ全く先が見えない。

 

そこに木像を降ろすと、木像の手から青くて丸い珠がごろごろとこぼれ、

川に落ちていく。

 

珠はさらさらと溶けていくと、谷間に流れていくだけの川に異変が起こる。

 

谷間から徐々に波が返ってくるのだ。

 

打ち寄せる小さな波が草地の川べりを叩き、

あっという間に小さな砂浜に変えてしまった。

 

幻想郷の南に小さな海が出来上がり、

その海には確かに魚影が見える。

 

砂浜にはいつのまにか貝殻が落ちている。

 

新しい日課が生まれたようだ。




次回は番外編として主人公以外の視点で書く予定です。


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26話

○◎月○△日

 

多分夕暮れ、騒がしい声で目を覚ますと、部屋の中を彷徨う死霊が増えていた。

 

とりあえずマイケルと名付けてから、まだ起きるには早いので二度寝する。

 

起きたらマイケルがいなくなっていた。

また寝ながら破壊してしまったらしい・・・。

 

この悪癖を何とかしないと、お姉さまが外泊を許してくれない。

しかし生まれてからこの癖が改善される兆しは見えない。

 

私の部屋で大量に蠢く死霊たちを押しのけながら部屋の外に出る。

 

何故私の部屋に死霊は貯まるのだろうか?

何故私には死霊が見えるのか?

 

尽きない謎を解くために、今日も図書館へ向かう。

 

 

○◎月○□日

 

やはり屋敷は風水的に良くない。

基本的に赤いからダメダメね。

 

図書館の隅で本を読んでいると、右手の死霊がやってきた。

 

彼女の手話を読み解く。

どうやらお姉さまがまた何か変なことを始めたようだ。

 

 

○◎月○★日

 

ちょっと欠けていて満月ではない月の光の下で、

屋敷の庭を散歩していると、珍しくお姉さまが夜に活動していた。

 

夜昼逆転している不良吸血鬼に声をかけると、

異変を起こす準備をしているらしい。

 

金目の物を地下にしまい込み、屋敷全体の強化と拡大をしたそうだ。

 

他にも色々仕込んでいるみたいだけど、

多分、日の目を見ることは無いんだろうな。

 

 

○◎月○●日

 

奇妙な夢を見た。

 

蠢く影がお姉さまの異変に参加したほうがよいと淡々と語る夢だ。

 

なるほど、既に戦いは始まっているのね!

 

お姉さまは既に情報戦で敗北していて、私を異変に参加させようとしている。

なんの意図があるのかな?

 

 

○◎月×○日

 

騒音で目が覚める。

また死霊が増えたのかと思ったが、むしろ減っている。

 

二度寝にしゃれ込もうと考えたが、先日の誘いを思い出す。

 

音のする方へ、向かうとお姉さまと侵入者が争っているようだ。

侵入者は人間の巫女のようで、景気よく暴れている。

 

互いに弾幕をばらまいて、鎬を削る様は、まるで花火のように美しい。

 

しばらく観察していたが、お姉さまが追っていたはずなのに、

いつの間にか巫女が背後を取っていたりと、空中戦の巧みさも楽しい。

 

人間の巫女が、お姉さまに直撃を当てて、勝ちを奪い、

次はあんたかと睨みつけてくるのだから体が震えてしまった。

 

びしょ濡れで地面に転がっていたお姉さまからルールを聞き出し、

人間の巫女と弾幕ごっこに興じたものの、

ちょっとしたアクシデントで、あっさりと負けてしまった。

 

人間如きに負けるなんて!

 

 

○◎月××日

 

昨日の敗北の原因は、わたしに掛けられた呪いだ。

 

この呪いは私が能力を使おうとすると、視界を遮る魔法の霧。

幼少の頃、父に掛けられ、今の今まで私に付きまとってきた。

 

実害はほとんどなく、むしろ有益なことが多かった。

 

しかし、それも今日までだ。

 

昔に比べたらとても薄くなった呪いを根絶せんと、

ちまちまと破壊していると、お姉さまから異変解決の宴会に誘われた。

 

気分転換にどう?だって、まるで人間に負けたからむしゃくしゃして、

暴れた子供のみたいな扱いだわ。

 

やはりこの呪い許すまじ!

 

 

○◎月△△日

 

飲めや、歌えや、宴会の中。

 

私はあるものを探していた。

 

神社の本殿に上がり込み、それと対面する。

無数の死霊が群がり縋る中心に、夢の中で私に語り掛けてきた影の本体がいる。

 

嘆き、苦しみ、怨嗟の声を上げる死霊の顔から段々と険しさが消え、

穏やかな表情へと変貌すると、静かに神社から離れていく。

 

『汝も近くに寄ると良い』

 

その声に強く惹かれ石像へ触れると、私から黒いものが像へと流れ込むのが見えた。

黒ずんでいく像を見つめていると、呪いの霧も像に吸い込まれていった。

 

 

○◎月△□日

 

部屋にいた死霊が私に引っ付いてくるようになった。

 

どうやら部屋に死霊が溜まるのは風水的なものではなく、

私が霊媒体質だったのが原因だったようだ。

 

うっとおしくて破壊しかけたが、そこで呪いの霧が出てこないことに、

若干の寂しさを感じて、手を下す。

 

 

○◎月△☆日

 

神様に相談すると、一時的に像を持ち出して良いと言ってくれた。

 

像を持ち出して屋敷に着くと、早速死霊が像に近寄り、

穏やかな表情になると屋敷から出て行った。

 

私の部屋は静かになった。

 

 

○◎月△◎日

 

折角なので屋敷中を巡り、彷徨っている死霊を片っ端から、

浄化していると、右手の死霊がどこかへ案内しようとする。

 

死霊の誘いに応じて、外に出ると門番が管理する庭園に行き着いた。

お姉さまのお気に入りのあずまやから眺められるここに何があるのか。

 

すると地面から染み出るように、微かな塵のようなものが像に吸い込まれていった。

 

右手の死霊を見ると、死霊はまた別の場所に案内しようとする。

 

死霊の後を追ったが、途中でお姉さまと出会ってしまい、思わず逃げてしまった。

 

○◎月△●日

 

なんとなく気まずいのでお姉さまを避けつつ、今日も死霊を集める。

 

 

○◎月△▲日

 

お姉さまが博麗神社に殴り込みに行ったらしい。

 

 

○◎月△■日

 

右手の死霊が最後に案内したのは、お姉さまの部屋だった。

 

ノックしてから扉を開けて、中を覗くとどうやらお姉さまは不在のようだ。

 

死霊は二枚の絵画の前で止まる。

一枚は私の居ない家族の絵、もう一枚は私だけの絵。

 

家族の絵からまた塵が現れて、像に吸い込まれていった。

右手の死霊もまた、像に吸い込まれていった。

 

 

○◎月△★日

 

静かになってしまった部屋。

 

寝つきが悪いので、お姉さまの部屋に行くと、

お姉さまは小鳥の囀りを聞いていた。

 

「おはようフラン」

 

おやすみなさいと返して、お姉さまの棺桶の中に入る。

 

お姉さまの棺桶は新しい土の香りがした。

 

 

○◎月□○日

 

すっかり黒くなった像を神様に返し、

新しい像を取りに行くと、今日は中に人間がいた。

 

ぎょっとしている人間を挨拶して、中に入ると相変わらず、

所狭しと物が並んでいた。

 

変なものが沢山あるので、像を貰うのを忘れて、

ヘンテコな傘を貰って帰ってしまった。

 

 

○★月○○日

 

ヘンテコな傘は近所の妖精達に大人気で、羨望の視線が心地いい。

なんでも生命力がすごいらしい。

 

あとお姉さまから絵を贈られた。

お姉さまの肖像画だ。

 

 

×○月××日

 

おじさまからもうすぐお祭りがあるという話があったので、

紅魔館から出店を出そうという話になった。

 

しかし何の店を出したらいいのか、議論が紛糾したため、

人里に詳しい人材から、何が目立つのかリサーチを行った。

 

その結果、珍しい食材を使い、衆目を集める調理法で、

更に美味しいもの・・・つまりピザを作ることになった。

 

なお、ピザ回し選手権行われた結果、おじさまが上手かったため、店長に就任させた。

 

 

×○月×☆日

 

お祭り当日。私たちの屋台は大盛況!すぐに完売してしまった。

 

おじさまが売上から出店で使える貨幣を取り出し、

お祭りを回ってこいと渡してきた。

 

おじさまの手元には銀銭、銅銭、鉄銭、真鍮銭、陶銭に紙幣と、ごちゃ混ぜになっている。

銅銭でも価値が違うとか、ここの通貨はどうなっているの?

 

・・・お金を食べる人?がいて、その人が価値を決めて両替してるの?

 

変なの。

 

気を取り直して、お祭りを見て回る。

 

謎の置物、変なお面、滑稽な踊りを踊る人、変な髪型の人たちの芝居、

見た目ピザのもちもちした謎の食べ物、河童などの妖怪の屋台、

乞食をやってる貧乏神、デートする疫病神、占いをする魔女や仙人。

 

お祭りは変なのが沢山ね!

 

主賓の神様から貰った葡萄の美味しさに驚き、お姉さまに変なお面を被せ、

巫女の舞に見惚れ、ピザの評判に聞き耳を立てる。

 

戦利品を持って戻ってみれば、パチュリーがまだテーブルに座っていたので、

手を掴んでお祭りに参加させる。

 

しょうがない引きこもりね!

 

 

××月△○日

 

今年の冬は雪が多くて、門番用の小屋が潰れてしまったらしい。

 

寒そうに腕を摩っていたので、近くに火の剣を刺してあげた。

 

 

×◎月○○日

 

幻想郷って、冬が長いのね。

 

盆地だからかしら?と思っていたが、どうやら異変だったらしい。

 

異常気象ってやつね。

 

 

×◎月×☆日

 

急にあったかくなったので、急いで衣替えをする。

 

そして春祭りの話を聞いて、急いで屋台の準備をする。

 

トマトが全然無い・・・。

 

 

×◎月△☆日

 

お祭り当日。ピザはすぐに完売!

 

ホワイトソースで代替したり、鳥の照り焼きを乗せたり、コーンとマヨネーズを使ったり、

変わり種のピザばかりになってしまったけど、評判は上々。

 

むしろ乾燥トマトを使ったライバル店との差別化ができて、

流石元祖みたいになったわ。

 

しかし助言をくれたおじさまはなぜそんな知識があるのかしら?

 

 

×★月×△日

 

門番のホラ話を聞いていると、ナマズが食べたくなった。

 

近くの湖でナマズを捕まえ、ムニエルにする。

お姉さまが美味しいわと言ったので、今日はナマズ記念日。

 

 

△○月○○日

 

おじさまから悪戯の極意を学んだ。

 

お姉さまの健康のため、食卓に納豆を用意した。

しかし思いの外、反応が良く毎日食べるようになり始めた。

 

お姉さまは正気じゃない。

 

 

△○月○△日

 

お姉さまは酒蔵立ち入り禁止になった。

 

 

△○月○□日

 

今度はクサヤなるものを用意したが、お姉さまは食べた。

 

そして気に入った。

 

 

△○月○●日

 

臭ければ何でも良いのではと、今度はニンニクを用意したが、

流石に食べられなかった。

 

良かった。

お姉さまはちゃんと吸血鬼だったのね。

 

 

△○月×○日

 

お姉さまを水鉄砲で攻撃したらめちゃめちゃ効いた。

 

笑ってたら取り上げられて、逆に水鉄砲で攻撃された。

 

だがこんなこともあろうかと神様から流水が平気になる力を貰ってたから大丈夫!

二本目の水鉄砲で、お姉さまを追撃する。

 

ずるいというお姉さまに、じゃあ神様から貰えば良いというと、

少し考えた後に、それもいいかと返ってくる。

 

続きは神社で行うことになった。

 

 

△○月×◎日

 

中秋の名月、またの名を十五夜という。

 

折角なので、月見をしようと準備をしていたが、

なんと偽物の満月が現れた。

 

そしてお姉さまの額に青筋が表れた。

 

パチュリーに無茶ぶりするお姉さまに憤りの理由を尋ねると、

私の満月と明日の十六夜の月を汚されたかららしい。

 

なるほど?

 

下手人を捕まえると、息巻いているお姉さまに同行して、

異変解決に乗り出す。

 

道中、顔見知りが同じく異変解決に動いていたので、

情報交換しながら、元凶を探っていると、

博麗の巫女が怪しげな屋敷に突入した。

 

追ってみると、どうやらここが犯人の根城だと判明。

 

梅雨払いを他の勢力に任せ、結界を破壊しながら、奥へ向かうと、首魁に歓迎された。

 

毒気を抜かれたお姉さまの代わりに、咲夜が弾幕勝負を行い、見事勝利!

 

敗者の蓬莱山の胴を縄で繋ぎ、犬の散歩のように、巫女たちの元へ戻り、

残党(一番強い)を降伏させた。

 

無事、異変を解決した我々は屋敷で、改めて月見を行う。

 

月はとうに沈んでしまったけどね。

 

 

△○月△☆日

 

屋敷に永遠亭勢力が会談をしにやってきたので、

かぐや姫の表紙に蓬莱山にサインを貰った。

 

 

△○月△★日

 

宴会の騒ぎで、お姉さまの部屋が吹っ飛んだ。

 

私の部屋は地下にあって、特に影響なし。

 

 

△□月○×日

 

神様からの依頼で、注連縄を作ることになった。

 

小さい注連縄を作って、最後は大きいサイズにまとめるみたい。

 

妖精メイドが手伝ってくれてるけど、直ぐに遊びだしちゃって、

作業がまるで進まないわ。

 

全くもう!・・・私が作った草鞋はお姉さまにあげよう。

 

□○月△☆日

 

通信機を貰った。

お姉さまとの直通回線だ。

 

ほんとパチュリーは何でも作るわね。

 

 

●△月×○日

 

前に作った注連縄を神社におじさまと取り付ける。

 

う~ん、ちょっと立派すぎない?

神様も見栄っ張りということなのね!

 

 

●☆月×△日

 

お姉さまが月に行くと言い出した。

 

今回は八雲何某に煽られたからだそうだ。

 

何時諦めるか、門番と掛けることにした。

 

 

●★月○●日

 

おじさまがロケットを作り出した。

 

本当に人間なの?

 

 

★○月○×日

 

月への旅行に、当然私も行けると思っていたけど、

お姉さまから留守番を言いつけられた。

 

遊びじゃないし、危険なのよと言い含められる。

 

それでもと食い下がると、じゃあ試してあげると言って、葡萄を持ってきた。

 

お姉さまは葡萄を一粒取ると、皿の上に置いて破壊しなさいと言う。

 

これがなんの試練になるというの?

 

簡単に破壊してみたら、今度は手の上に乗せた。

これもあっさりと、そうしたら次は葡萄を飲み込んで、さあと言ってくる。

 

何を言っているの?

 

しかしお姉さまの冷たい目が、先を促す。

冷汗が止まらない、破壊の瞬間、目を閉じる。

 

恐る恐る目を開けると、お姉さまには掠りもしていなかった。

 

ほっとしたのも束の間、頬を張られる。

 

「もう一度」

 

私にはできないと、泣き言を洩らす。

また頬を張られ、目を閉じるな、集中しろ、と襟を掴まえられる。

 

霧が恋しいと、思ったのはこれが初めて。

 

お姉さまのお腹に触れ、胃の位置を探る。

 

お姉さまの体が強張りを感じ、目を見つめる。

 

お姉さまの目はいつもと同じ、怯えとプライド。

 

お姉さまの右手が、痺れた左頬を撫でる。

 

深呼吸して、葡萄を破壊する。

 

寄りかかるように抱きしめてくるお姉さまを支える。

飲み込んだ音が聞こえた後、ゆっくりと息を吐いた。

 

「じゃあ、留守番よろしくね。」

 

バカをするお姉さまのために、バケツを持ってこないと!

 

 

★○月×□日

 

紅魔館当主代理のフランドール・スカーレット。

 

聞こえはいいが暇である。

 

暇つぶしを兼ねて、神様の手伝いをすることに。

 

神社の裏にある大量の像を、本殿に運び、

壁沿いにずらりと並べると、なんだか既視感を覚える。

 

ああ、少し前までの私の部屋だ。

 

いや死霊がいない分、より穢れた雰囲気を感じる。

 

耐性のないものなら卒倒するかも?

 

 

★○月×●日

 

待ち人来たれり。

 

まずおじさまの家の前で、へたり込むおじさまを回収し、神社へ送る。

 

今度は竹林に向かうと、月の使者とスキマ妖怪が変な遊びをしていたので、

武器と縄を破壊して、神社まで案内する。

 

おじさまがバタバタと来客の準備していて忙しそうなので、神様に話しかける。

プランJ(持ち出したのは事故だよ(・ω≦) テヘペロ)じゃと、小さく言葉が返ってきた。

 

月の使者が全然入ってこない。何だったらスキマ妖怪も一向に入ってくる気配がない。

 

帰ったか?と思ったが、おじさまに促されて渋々ながら入ってきた。

 

様子が明らかにおかしい、顔は青白く、目は虚ろ、吐く息は青く、時折歯の音が鳴る。

 

嫌悪に染まっていた表情は、恐怖に支配されていた。

 

受け答えは最低限で、宝玉を受け取ったら直ぐに、逃げ帰っていった。

 

お姉さまに通信で有り様を伝えていると、おじさまが代わってほしいようだったので、通信機を手渡す。

 

スキマ妖怪と神様の化かしあいを、尻目に並べていた像を元の位置に運ぶ。

 

何事も使いようね。

 

 

★×月〇×日

 

お姉さまと一緒に、神様の像を担いだおじさまを空から追跡する。

 

途中から、花妖怪がおじさまについていったが、刺激しなければ無害なので気にしない。

 

やがて三途の川へ辿り着く、像の手から生命の結晶のような球が転がり落ちると、

川を覆う霧が晴れ、打ち寄せる波により、川べりは砂浜に変貌する。

 

潮の匂いが押し寄せ、山の向こうにはどこまでも続く水平線が見える。

 

お姉さまが狂ったように笑い始める。

 

私は砂浜に降りて、海に足を入れてみる。

 

ひゃっこい!とても入れたものじゃないね。

 

ばしゃーんと、何かが落ちる音が聞こえたので、辺りを見回すと、

神様の像は無く、おじさまが海に落ちるところが見えた。

 

水しぶきを満足そうに見るお姉さまに、何となく水を飛ばすと、

お姉さまが笑顔になる。

 

空に逃れたものの、結局捕まってしまい。

 

姉妹そろって海の中に落ちた。

 

 

★×月〇□日

 

おじさまから私たち姉妹の像を貰った。

 

空中での追いかけっこの様子みたいだが、

とてもよくできている。

 



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27話

#26

 

 

★×月〇△日

 

海上で舞う吸血鬼のお姉さんと妹ちゃんがあまりにも美しかったので、

興が乗り、像として形に残した。

 

中々良い出来だ。

 

今度会った時にでも進呈しよう。

 

 

★×月〇□日

 

海でのことを残しておこう。

 

久しぶりに日記を書こうと思ったが、何処にも日記が見当たらない。

 

一体この狭い部屋の中の何処へ行ったというのか?

 

 

★×月〇☆日

 

日課からの帰り道、稗田家の近くを歩いていると、

道に飛び出てきた猫が馬車に轢かれそうになっていた。

 

こいつはまずいと慌てて飛び出して、猫をつき飛ばし、

そして今までで一番恐ろしかったことを思い出す。

 

良いことしたなと思っていたが、

瓦版に【飛び出し妖怪に注意!】というのが記事載っていた。

 

また妖怪扱いされてる・・・。

 

 

★×月〇●日

 

日課に海釣りが追加されて少し経った。

 

何となく海の魚といったらスズキのイメージを持っていたが、

カレイやカサゴばかり釣れる。

 

竿を替えると、小さいスズキなら釣れる。

いやセイゴといった方が良いのだろう。

 

何でかなー?と思ったが、スズキは夏の魚だったな。

 

 

★×月〇▲日

 

今日も釣りだと、海に来てみたら幽香さんが泳いでいた。

 

何をしているのかと聞いてみると、海の植物と話していると返ってきた。

 

夏には花が咲くそうだから楽しみだわととてもいい笑顔をしている。

 

幽香さんは本当に花見が好きだな。

 

 

★×月〇■日

 

行灯の淡い光の中、木像に表情を付けていると、

通信機から何か声が聞こえてきた。

 

【こんばんわ。神様あわーのお時間なのじゃ。】

 

・・・何か始まった。

 

【ぱーそなりてーは夢枕に立てなくて暇な奴こと我が担当するのじゃ。】

 

一体誰なんだよ。名を名乗れよ。

 

【第一回の放送にも関わらず送られたお便りを返していくのじゃ。】

 

今日が第一回なのになんでお便りが送られてくんのかよ。

 

【ラジオネーム楽園の素敵な巫女さんからなのじゃ。】

【「寝てたのになんなの?」すまんすまん寝てるときには繋げんようにするのじゃ。】

 

巫女さんも聞かされてたのか。

 

【気を取り直して次!ラジオネームやっぱり地下がいい妹さんからなのじゃ。】

【「お姉さまの好きな食べ物はなんですか?」えーっと妹っと】

 

神様も妹ちゃんも何言ってんだ。

 

【続いてラジオネーム最上階こそ一番なお姉さんからなのじゃ。】

【「フランの作るものなら何でも好きよ?」おっ大体正解じゃな!】

 

こいつら家でやれよ。

 

 

★×月○★日

 

折角海が出来たのに、こんなに冷たいんじゃ入れないぜ、

とマリちゃんが言ったので、今日は浜辺でBBQをすることになった。

 

BBQのメインはお姉さんが持ってきた腸詰肉と、河口で釣れた鮭だ。

 

BBQの準備中に何処で聞きつけたのか、ぞろぞろと妖怪がやってくる。

 

スキマさんが持ってきた古酒がとても美味しく、

妖夢ちゃんと西行寺さん、巫女さんの月の土産話は鮮烈で盛り上がった。

 

月はかなり文明が進んでいるみたいだ。

 

途中、神様の分社が月に出来たという下りが出たときに、

ほとんどの人からどういうことだと見られたが、俺は知らんぞ。

 

【月の使者殿に一匹玉兎が付いていたじゃろう?

そいつの夢に出てちょっと話しただけじゃ】

 

神様に通信機で聞いてみたらそんな返答があった。

 

「月と遺恨が残るようなことはしないで欲しいのだけれど?」

 

【いやいや、借りてしまった宝珠の件を改めて謝罪しに行っただけで、

分社を立ててもらったのはあちらの多大な好意があってこそじゃて。】

 

通信機を介してスキマさんと神様が舌戦を始める。

 

巫女さんは博麗神社に分社ができたんだーみたいな反応で、

マリちゃんに自分の神社なのにそれでいいのかと突っ込まれていた。

 

小鬼に古酒を注いでやると、心底幸せそうに酒を呑みやがる。

 

途中で食材が切れたので、追加で魚を釣れば運の良いことにタイが釣れた。

 

酔っ払いのめでたいコールも始まった。

 

 

★×月××日

 

日課を終えて家に着くと、稗田家の使用人が待っていた。

 

話を聞くと最近稗田家の飼い猫がいなくなって、

稗田の嬢ちゃんが落ち込んでいるそうだ。

 

タイとマグロが食いたいと、稗田の嬢ちゃんが洩らしたのを耳にして、

その願いを叶えて元気を取り戻して欲しいが、

海釣りしてくれる漁師はなかなかおらず途方に暮れていたところ、

マリちゃんから俺のことを聞いて足を運んだようだ。

 

なるほど、困ったな。

 

困ったので神様に相談する。

神えもーん!マグロを釣るには桟橋が必要なのに、

自分のレシピには桟橋なんて無いよー!桟橋出してー!

 

と言ったら小鬼に作って貰えばええじゃろと言われた。

 

確かにと思って、その辺に転がっていた小鬼に頼んでみたが首を縦に振ってくれない。

 

どう説得したもんかと悩んだときに、神様の海底熟成というものがあってじゃな、

という言葉に小鬼が釣られた。

 

 

★×月×△日

 

小鬼が一晩で桟橋を作ってくれた。

 

意気揚々と糸を垂らせば、大きい魚影が近づいてくる。

 

一発目からマグロか!と思ったが、魚影は食いつかず桟橋に近寄ってくる。

 

やっべ!と思ったのも束の間、足を掴まれた。

 

海に引きづりこまれ、意識は途切れ、家の前で目が覚める。

 

えぇ・・・。

 

 

★×月×□日

 

警戒しつつ桟橋に着くと、海から女性がこちらを恨めしそうにジッと見てくる。

 

海女房と名乗る妖怪は、食らおうとしたのに消えるなんて卑怯だと、

本当に理不尽な文句を言ってくる。

 

海女房は掛かった魚を食べたり、水をびちゃびちゃ飛ばして邪魔してくる。

 

あっちへ行けと言っても逆に隣に上がり込んで、

なあなあウチに食われん?などとくっ付いてくる。

 

意識を飛ばして撤退しようかと思った時に、救いの手が現れた。

 

「・・・盟友。なんで最近こっちに来ないのかな?」

 

河童が足を掴んでる。

 

その後、河童と海女房が見るに堪えない口喧嘩を始めた隙に、

マグロを何とか釣り上げ、速やかに撤収する。

 

稗田家にマグロを卸し、夕食に相席し寿司や刺身に舌鼓を打つ。

 

久々のマグロはやっぱりうまいなー。

 

依頼主の方を見てると、ちょっと汗をかいていた。

 

なんだろうと、視線の先の嬢ちゃんの方を見てみる。

 

これが守貞漫稿に書かれていた寿司!といって、

嬢ちゃんはコハダや玉子の握りに夢中だった。

 

マグロは?

 

 

★×月×☆日

 

河童の機嫌が悪そうだったので、秘密兵器を持っていつもの川へ。

 

河童やーいと、川面を叩くと下流から完全武装した河童たちが現れた。

 

物々しい出で立ちについて質問すると、一部の河童が海に居ついてしまい、

海女房と組んで海童だと自称し始めたらしい。

 

河童としての自覚が足りないので、活を入れてくると息巻いてる。

 

まあまあ、落ち着いてとマグロの漬けの握りとかっぱ巻きを渡す。

 

これなら河童の自覚を取り戻せるよ!ありがとう盟友!と言って、

河童は川に消えていった。

 

かっぱ巻きだけ手に持って・・・。

 

まあ巫女さんのところに持っていけばいいか。

 

 

★×月×●日

 

今日は不貞寝しようと横になっていると、

外から棒振りの威勢のいい声が聞こえてきた。

 

なっと~なっと~という声が長屋の前で止まったので、

戸を開けてみると、いつかのガキが立っていた。

 

兄ちゃん納豆買わん?などというので納豆代の8文を渡す。

 

刻んだ納豆と菜っ葉が混ざったたたき納豆のようだ。

 

ガキというには身長が伸びた棒振りを見送れば、

なんとなく頑張る気力が湧いてくる。

 

とりあえずご近所さんからご飯とみそ汁を分けて貰おう。

 

 

★×月△〇日

 

迷い猫探しています。ご存知の方は稗田家へ。

 

という立札が立っていた。

 

人相書き・・・猫だから猫相書きを見ると、

尻尾が二股に分かれているらしい、

どっかで見たことがあったような?

 

 

★□月△〇日

 

秋祭りも冬支度もつつがなく終わって、今日は大晦日だ。

 

神社で小鬼と飲み明かし、痛む頭で初日の出を見てから寝ようと、

表に出てみると巫女さんの正月祭祀が佳境を迎えていた。

 

巫女さんが祈り続ける中、日が昇り、明星がかき消え・・・ない?

 

四つん這いになって落ち込んでいる巫女さんに聞いてみると、

苦虫を噛み潰したような顔で、儀式が失敗したことを告げられた。

 

マリちゃんがいい顔で笑っていたので、多分彼女の仕業だと思うが、

参拝客がやって来たために追及しなかった。

 

 

★☆月〇〇日

 

紅魔館の新年会があるというので、ただ酒を飲みに行くと、

やけにお姉さんの機嫌がよかった。

 

どうやら明星が消えなかったので、今年は妖怪にとっていい年になると言っている。

 

逆に言えば人間にとっては良くない年になるが、

まあマリちゃんのイタズラだろうし、平年並みだろうな。

 

 

★■月✕〇日

 

「相変わらず景気が良さそうだな。」

 

雪も解けきり、春の陽気の中、団子屋で小腹を満たしていると、

隣にマリちゃんが座ってきた。

 

ボチボチだよと返すと、わき腹を突かれる。

 

マリちゃんから妖精大戦争の話を聞いた。

まるで見てきたかのように語るので、突っ込んでみると、

どうやらマリちゃんも首を突っ込んでいたらしい。

 

じゃあ情報料なっと言って、皿に置いてあった団子を奪われた。

 

 

★■月✕◎日

 

小鬼がいい酒を持ってきたらしい。

 

そんな話を巫女さんちの縁側で聞いた。

 

らしいというのはその酒に封がしてあって、

出来ごろになるまで飲めないからだ。

 

明日にはいい塩梅になるそうなので、

とても楽しみだ。

 

 

★■月✕▽日

 

巫女さんが小鬼の酒の一口飲み、首をかしげる。

マリちゃんも酒を飲んで、また首をかしげる。

 

俺も飲んでみると、うーん普通!

全然悪くないが、飲兵衛の小鬼が美味いというほどの味じゃないな。

 

そこに小鬼が通りかかり、味を聞いてきたので普通と答えると、

そんなはずはないと小鬼も飲んで、首をかしげる。

 

どうも壺の中には酒虫という酒を造る奴が入っていたそうで、

酒虫の質が悪かったんだろうと結論付けた。

 

 

★■月△〇日

 

人形劇を観賞していると、見に来ていた女医さんから

いい酒が入ったけど飲みに来る?と誘われた。

 

ほいほいと着いていくと、今度は本当にいい酒が出てきた。

 

寄ってきた兎をこねくり回しながら、

何処でこんな酒を手に入れたんですかと聞いてみると、

妖精が持っていた酒虫と交換したらしい。

 

こんな上質な酒虫は鬼の里にしかないので、

とても運がいいわよと言われた。

 

なるほど小鬼が飲ませたかったのも分かる。

 

お土産に一瓶貰って帰ることにした。

とりあえず神様に一回供えるとするかな。

 

 

★★月✕✕日

 

梅雨に入り、雨の中、笠蓑を纏って釣りをしていると、

海に大きな魚影が見えた。

 

これはまさかシーラカンス!と思い、釣り上げると、

ひらひらとフリルのついた服と羽衣を着た美しい女性だった。

 

いつかのように水槽に入った女性に声をかける。

 

永江衣玖と名乗る女性は龍宮の使いで、

この地に地震が起こることを伝えに来たという。

 

「なので決して久々の海にうつつを抜かしていたわけではありませんからね!」

 

なるほど自分では判断が出来ないので、

永江さんを神社へと案内する。

 

すると、神社一帯がくり抜かれた様に晴れており、

神社が倒壊していた。

 

全壊した本殿を前に怒りに震える巫女さんを見つけ話を聞くと、

ちょっと前に神社だけを狙ったかのような大地震が起きて、

本殿も母屋も倉庫も分社も全部倒壊したそうだ。

 

そこに不思議そうな顔をした永江さんが、

大地震の予兆はまだあるのに、神社が既に地震に遭っているのはおかしいと言った。

 

詳しく話を聞くと地震の前兆である緋色の雲の空気を読むことで、

永江さんは地震の発生を予見できるという、

しかし神社に起こった地震を感知できなかったということは、

 

「つまり異変ってことね。なめたことしてくれるじゃないっ!」

 

おお、巫女さんが猛っている。

それはそれとして崩れた神社をどうにかしないといけないな。

瓦礫を隅に運んでいると急に神様から通信が入る。

 

【我が信徒よ。ちょっとそこに埋まってる柱を確保しておくのじゃ。】

 

この神社の地下に埋まっている心御柱こそが神像を作るのに適したものだという。

たっ、確かにすっごい木だ!今すぐ彫りたい!

 

【あと母屋の中で萃香が寝ておるでの。こき使うと良い。】

 

えっ、小鬼まだ寝てるのか。

心御柱を脇に転がした後、まず母屋から小鬼を発掘する。

 

目を覚ました小鬼に事情を伝えると、

気質というのを集めている奴がいる場所が分かるようだ。

 

そこで小鬼が分裂し本体?は巫女さんと犯人捜し、

分身達は俺と神社を片付けることになった。

 

永江さんも神社の片づけを手伝ってくれることになった。

異変なら博麗の巫女がなんとかするよねってことらしい。

あと小さい龍神と話がしたいそうだ。

 

いつもは雲の中にいる龍神様と一緒に飛んでるらしく、

新しい龍神の気配を感じてちょっと浮足立っていた。

 

その後いつもの宴会メンバーが神社を訪れ、

犯人をとっちめに巫女さんを追いかけていった。

 

さっちゃんだけは倒れた分社に悲鳴を上げて、

必死に直していたが。

 

こういうところに性格がでるよね。

 

 

★★月✕△日

 

大工の棟梁、小鬼、スキマさん、狐さん、吸血鬼姉妹と

新しい神社の図面を書いていると、巫女さんが犯人を捕まえてきた。

 

捕まってる子はなんでニヤニヤしてんだろ?

 

ニヤニヤしていた犯人が図面を見て大声が上げる。

 

「あっー!新しい神社を建てるのは私なのにっ!」

 

何かよく分かんないことを言っているので、巫女さんに聞いてみると、

異変を反省した犯人がお詫びに神社を建てると言ったそうだ。

 

何かこの子すっごい怪しいぞ。

 

そこで神様が誘導尋問を始め、比那名居天子の華麗なる

異変計画の全貌を明らかになった。

 

簡単に言うと暇つぶしに異変を起こしたついでに博麗神社を別荘にしよう作戦だ。

 

雑すぎっ!

 

 

★★月✕☆日

 

性格に難が有り過ぎて、天界でも地上でも手を焼いていた

天子ちゃんは今、神様の手で大いに転がされていた。

 

「天界って本当に詰まらないのよ。景色は地上の100倍いいし、

人間もいい人ばっかりで事件なんてないし、

お茶も食べ物も最高に美味しいけど多様性って物がないのよ。」

 

【そうかそうか。のんびりとしてええところじゃのう。】

 

「そうなのよ。まあ、来るなら案内したげるわ。」

 

自慢する孫と全肯定してくれるおばあちゃんみたいな会話をしているが、

実際には瓦礫に置かれた木像と縛られて横たわる女の子なんだよな。

 

地縄を張りながら謎の光景を見ていると、空から珍客が現れた。

 

「見事に更地になってるね~」

 

最近山に越してきた二柱の小さいほうの神様だ。

 

間延びした声でひとしきり作業する跡地を眺めた後、

分社を直しているさっちゃんの方に歩いて行った。

 

分社のしたの地面を触って何かしているようで、

何してるのとさっちゃんに聞いてみる。

 

「諏訪子様は坤を創造する権能を持っているすごい神様なんですよ!」

 

さっちゃんの長い神様自慢が始まったので、

適度に相槌をうちながら話をまとまると、

地の神様が分社の下の地盤改良をしているらしい。

 

確かに地面に耳を当てると、小さく地響きのような音が聞こえる。

 

すっげえ!と感心してめちゃくちゃさっちゃんを羨ましがったら、

条件付きで神社の方も地盤改良してくれることになった。

 

急いで木材を加工している棟梁と砕石を作っている小鬼に報告して、

図面を書き直すことにした。

 

その際いつの間にか書かれていたピザ窯は消去された。

 

 

★★月✕●日

 

諏訪子様のお力でカチカチ地盤を手に入れ、さらに根切りと砕石敷ばかりか、

配筋とコンクリート打設までやってくれた。

 

鉄筋やセメントが手から湧いて出たときは大工たちから歓声が上がり、

セメントと水の割合やコンクリートの仕組みを大工に説いた時は、

大工が拝み始めていた。

 

思わぬ信仰の獲得にホクホク顔で帰っていったさっちゃんと諏訪子様を見送る。

 

さてコンクリートが固くなるまで、一か月は掛かるので、

工事は一旦中断になる。

 

大工は建築素材の確保やらコンクリートのことで忙しく、

小鬼は当座の家を建てて寛いでいる。

 

巫女さんはコンクリートが乾かない様に毎日散水したり、

家具の新調に頭を悩ませている。

 

天子ちゃんは神様を背に乗せて、里を彷徨っているらしい。

 

 

★★月✕▲日

 

心御柱を綺麗に丸洗いして暫く観察してみる。

 

年輪の幅がとても小さく、捻じれのない赤身の柱で、

節が全くなく、もはや芸術品である。

 

まるで誰かが柱を作るために管理したかのようだ。

 

いつまでも眺めていられそうだったが、

心を鬼にして鋸を手に取る。

 

ギコギコと慎重かつ大胆に外形を整える。

 

コツコツと鑿と玄翁で荒削りを行い、

その後はひたすら彫刻刀で表情を生み出していく。

 

 

★◎月△◎日

 

木像の後頭部と背中から内をくり抜いて、

内部に簡素な文様を彫った後、

木像に玉眼を入れてみたがいつもと違いしっくり来ない。

 

何度も玉眼を作り直しても合うものが出来ず、

ほとほと困っていたところ、神様を背負った天子ちゃんが現れた。

 

木像を見て語彙力が無くなった天子ちゃんをほっておいて、

神様に玉眼について相談する。

 

するとどっかで見たような玉を預かる。

 

なるほど人間の目を作ったから合わなかったのか。

 

得心がいったので早速二つに割って加工を施す。

 

はめ込んでみれば、うんしっくりくる。

 

頭部に前髪と角、装飾品を接着し、

更に内刳りを隠すように後ろ髪のパーツを取り付ける。

 

完成品を見て悦に浸っていると、

天子ちゃんから衝撃の一言を聞く。

 

「明日、竣工式だから絶対来なさいって霊夢が言ってたわよ」

 

えっ?もう神社建て終わったの?

 

 

★◎月△▽日

 

久しぶりに神社へ歩いていくと、

何かちゃんとした道が出来てる・・・。

 

「山の神がやってたわよ。」

 

けもの道だった坂道も砂利が敷き詰められてるし、幅も拡張されてる!

 

途中までしかなかった石段もちゃんと下まで伸びてるし、

境内は石畳が敷設されてすごい綺麗だ。

 

分社がデカくなってるし、何か建ってる。

 

【あれは舞殿兼拝殿じゃな】

 

本殿しかなかったのに、なんか色々変わってるな。

 

【よく見てみい・・・すろーぷじゃ】

 

ば、バリアフリーだとっ!

新素材のコンクリートを使いこなしている!

 

「ふふん、この萃香様に掛かればこんなもんさ」

 

酒盛りしている大工集団からぬるっと現れた小鬼が自慢げに言う。

 

すると後ろから大工たちが口々に自分の仕事を自慢して乾杯し始める。

 

すでに出来上がっている酔っ払いに声を掛けて横を通る。

 

真新しい社に入り、本殿に持ってきた木像を安置すると、

木像が謎の発光現象を起こした。

 

グワーッ

 

急に木像が倒れて情けない声を上げる。

 

「いっ、痛いのじゃ。」

 

木像が痛みに震え、ひとしきり悶えた後、

ジタバタし始める。

 

「あれ?どうすれば立てるのじゃ?」

 

立てなくて藻掻いていたらしい。

恐る恐る触ってみると、ふにふにのもちもちの柔らかさだ。

 

「ひっひっひ!・・・こらっ、擽るではない!」

 

脇に手を入れて起こすと、完全に生ものになっていた。

 

あの美しい木目が無くなって、なんかショック・・・。

 

「ぬおっ・・・目が見えるっ!そして特徴のない顔が見える!貴様が我が信徒じゃな!」

 

神様の髪が蠢いて、頬を引っ張ってくる。

手足は上手く動かせないくせに髪はめっちゃ動くな。

 

暫く肩を貸しても歩けそうに無く、

外から盛り上がっている声が聞こえてきた。

 

「くっ、式が始まってしまった!こうなったらこうじゃ!」

 

髪が床まで伸びて、体を支えた!

そのまま歩いて・・・ない!歩いているフリだこれ!

 

ハラハラしながら神様が式典に乱入するのを見守っていたが、

全員酒飲んで酔っ払っていたので特に問題はなかった。

 

むしろちょっと浮いているように見えて盛り上がっていた。

 

 

★◎月△◇日

 

「うーむ・・・立てん!」

 

本殿に敷かれた布団の中でしばらく藻掻いた後、

髪を使って立ち上がる神様。

 

手足を使って動こうとすると、四肢があらぬ方向に向いたまま、

四つん這いで走り回り、思わず気絶してしまった。

 

まるでホラー映画だった。

 

「ひょっひょっよ・・・だから擽るでない!」

 

原因解明のため、神様をまさぐっていると、

後ろ髪に手を突っ込んだときに思ったよりも深く入ってしまった。

 

髪をかき分ければ背中に開いた大きな穴。

 

軽量化とひび割れ防止にくり抜いた穴が開いたままだった。

 

骨もなければ臓器もない。

 

そりゃ上手く動けないのも当たり前というものだ。

 

「なに!空洞は全部胃で、穴は排泄口ではないのじゃ!?」

 

違います。

 

 

★◎月△▼日

 

とりあえず木片から脳みそと臓器を作って持っていったら、

神様が普通に歩いていた。

 

「中身を髪で満たすことで歩行が可能になったのじゃ!我天才なり!」

 

高笑いする神様に作ったものを納めて、

貸本屋から借りた解体新書を神様に手渡す。

 

筋肉はもう髪でいいので、臓器はこんな感じでくっ付けてください。

 

「こんな感じかの?」

 

胃が逆さまです。

 

背面から臓器がくっ付くさまを見るのはとてもグロテスクだ。

 

なかなか上手く配置出来ないようなので、

手を突っ込んで手伝うも中々難しい。

 

視認性が悪いんだよなあ、とぼやくと神様が透け始めた。

 

なんぞこれ?

 

「色というのは光の反射じゃろ?光を反射するものを取り除けばスケスケじゃわい。」

 

なるほど~、でも完全に見えないと困るのでほどほどに反射してください。

 

悪戦苦闘しつつもなんとか配置完了できた。

 

一仕事終えたが神様が人体に無知すぎるため、

そのまま保健体育を行うことにした。

 

 

★◎月△◆日

 

買い過ぎた納豆を持って神社に行くと、

すっかり居付いた天子ちゃんが寝ぼけた神様を母屋に運んでいた。

 

朝食はまだこれかららしいので、巫女さんに納豆を渡す。

 

「くっさ!こんな腐ったものを食べさせようっての!」

「・・・ゴリラ?」

 

納豆の匂いに過敏に反応する天子ちゃんとまだ夢の中にいる神様。

 

巫女さんと小鬼が黙々と納豆を食べるのを見た天子ちゃんは、

謎の対抗意識を見せた。

 

「じょ、上等じゃない!やってやろうじゃないの!」

 

誰も何も言ってないのにこのテンションである。

 

納豆を口に入れ咀嚼して、無理やりみそ汁で飲み込んだ。

 

少し涙目であるが、育ちがいいのかちゃんと全部食べていった。

 

 

★▽月〇△日

 

式典に参加できなかった里の者から、

神様にお会いしたいということで夏祭りが開催された。

 

夏祭りでは神様のお目見えとあって、

これまで以上に盛り上がりを見せた。

 

特に神様を取り合った妹ちゃんと天子ちゃんの弾幕勝負は、

とても鮮やかで祭りを大いに盛り上げていた。

 

まあ、精神年齢が近いのか直ぐに仲良くなっていた。

 

秋祭りが神様たちへの感謝ならば、

春祭りは神様たちへの祈願であるため、

神前での歌唱や舞踊が多く催される。

 

しかしそれは事前に練習期間が必要であり、

今回のような突発的な祭りには間に合わなかった。

 

そこで今回は諏訪子様からのお願いで奉納相撲が執り行われることになった。

 

第一回幻想郷大相撲春場所である。

 

里の若い衆がふんどし一丁でぶつかり合い、

婦女子からの黄色い声援が飛ぶの中、俺は優勝してしまった。

 

土俵で肉体労働者舐めんな!と吠えていたら、

山の神の片割れ加奈子様が乱入してきた。

 

どうやら我慢できなかったらしい。

 

突如始まった軍神との相撲には驚いたが、

こちとら河童とよく取り組んでいる経験分有利と思いたい。

 

加奈子様とがっぷり四つを組んで感じたのは、

巨大な山だった。

 

全く動かん。押しても引いてもびくともしない。

 

そのままじりじりと土俵際まで追い詰められた。

 

「どうした。もう終わりか?」

 

このままではいかんと体勢を変えようと突っ張りを入れたが、

加奈子様の首と小指が強靭過ぎて離れない。

 

加奈子様の腿が内股に掛かる。

 

「ほれ、櫓だぞ。」

 

体が浮かび上がり、投げられそうになった時、

たまたま足を掛けることができたので、

加奈子様の腕を取って空中からの逆とったり(脇固め)を敢行する。

 

しかし恐るべき柔軟性と俊敏な動きで前宙した加奈子様が、

しゃがんだままの姿勢で差し手と足を取って担ぎ、反り上げてきた。

 

体勢を大きく崩してしまい土俵に手がつき、

そのまま背中から落ちてしまう。

 

見事に襷反りを食らってしまった。

 

「中々楽しかったぞ!またやろうじゃないか!」

 

抱き起こされた後、腕を掴まれて健闘を称えられた。

 

翌日から若い衆が相撲に励んだのは言うまでもない。

 

 

★▽月〇☆日

 

空き地で野良相撲をする子供から相撲を教えてくれと頼まれるようになった。

 

とりあえず受け身のやり方と幾つかの技を仕込む。

転がしてやれば子供がコロコロと笑う。

 

怪我をしない様にと監督していたら、

若い衆も教えてくれとやってきたので受け身を教える。

 

 

★▽月✕☆日

 

気が付いたら人が多くやってくるようになり、

かなり手狭になってしまった。

 

しょうがないので川辺の空き地を耕して、

小石を取り除き土俵をあつらえる。

 

混ざってきた河童を投げ飛ばし、稗田の嬢ちゃんに相撲の本の内容を聞いて、

土俵の大きさや禁じ手、細かい規則などを決めていく。

 

相撲の決まり手から危なくない技を抽出して、

子供向けのルールを作りながら、決まり手を若い衆に教える。

 

練習方法を考えて、相撲の諸法度を本にしたためた頃には、

里に複数の相撲部屋が出来ていた。

 

 

★▽月△△日

 

里では大銀杏がブームらしい。

 

相撲は取らないが髪を大銀杏にする若い衆が多いらしいと、

髪切りが教えてくれた。

 

髪結いに使う油が足りないんですよーとも言っていた。

 

他には稗田家がごたごたしているらしい。

なんでも嬢ちゃんの体調が思わしくないそうだ。

 

この前会ったときは元気そうだったんだか・・・。

 

見舞いに行ってみたが門前払いをされてしまう、

どうやら稗田家がごたごたしているというのは本当らしい。

 

 

★▽月△●日

 

貸本屋でちゃんこの本を探していると、

小鈴ちゃんから稗田家の文句を聞いた。

 

どうやら製本した幻想郷縁起を納めに行ったときに、

摘まみだされ本が折れてしまったそうだ。

 

プリプリ起こっている小鈴ちゃんに、稗田の嬢ちゃんのことを聞くと、

少し前会ったときは元気だったと言っている。

 

里で流れている噂では病に倒れただの、頭が可笑しくなっただの、

猫の幻覚を見ているだの、色々言われていたが・・・。

 

 

★▽月△◇日

 

小鈴ちゃんが稗田家に忍び込んだと、マリちゃんが教えてくれた。

 

街路樹から塀に飛び乗り、嬢ちゃんの部屋まで屋根伝いに移動したらしい。

 

忍者かな?

 

忍び込んだ小鈴ちゃんが言うには、嬢ちゃんは元気だったとのこと。

でも猫の幻覚が見えているのと、記憶障害は本当だそうだ。

 

猫ねえ?

 

 

★▽月★彡日

 

相撲で負けてしまった。

どうやら情報のアドバンテージは既に無くなったようだ。

 

次の秋場所では優勝することはないな。

 

良かった良かった。

 

 

★◇月〇□日

 

相撲の監督をしていると、上流から稗田の嬢ちゃんが流れてきた。

 

へっぴり腰で船を漕いでいる稗田の嬢ちゃんを見て、

こりゃいかんと思い、籠から高跳び棒を取り出した。

 

ゆったり流れていく船に飛び乗って、嬢ちゃんに船の漕ぎ方を指導する。

 

暗くなる前に帰って来いよ!

 

 

★◇月〇◎日

 

相撲をやりに来たちびっこから聞いた話だが、

稗田の嬢ちゃんが寺子屋で毎日講義をしているらしい。

 

たまに幻想郷縁起について講義しに来ることがあったが、

毎日来るというのは初めてだそうだ。

 

しかも授業の内容が虚空蔵菩薩に関しての経典らしい。

 

虚空蔵菩薩は八意思兼神だとか、虚空蔵菩薩の真言は、

オン・バサラ・アラタンノウ・オン・タラク・ソワカなんだよと教えてもらった。

 

いまの子供はすごいことを勉強するものだと褒めておいた。

 

 

★◇月〇▼日

 

いい形のスズキが釣れたので、帰りがけに湖の氷精に氷漬けにして貰う。

 

お礼に半身を上げたら喜んでいた。

 

味を占めた氷精が良く釣り場に現れるようになったが、

その場で氷漬けにしてくれるのでありがたいくらいだ。

 

 

★◇月〇◆日

 

稗田家に行って、嬢ちゃんにスズキの洗いとルイベをお見舞いする。

 

さっぱりひんやり美味しいですねと言っている嬢ちゃんを観察する。

 

元気そうでなにより。

 

 

★◇月★彡日

 

稗田の嬢ちゃんによる記憶する能力つまり求聞持の力を

虚空蔵菩薩に感謝する儀式が始まった。

 

嬢ちゃんが問題なく暗唱を行うと、

虚空蔵菩薩が現れて良い感じのことを言って消えていった。

 

となりの女医さんを顔を窺ってみたが笑っていたのでセーフだと思う。

 

一応セーフなのか聞いてみたが、私はただの輝夜の従者よと返された。

 

そういえば神様から祭神に誘われたとき、断っていたな。

 

 

★▼月〇〇日

 

無事に儀式が終わった後、里から嬢ちゃんの体調不良説は払拭された。

 

そしてマリちゃんから色々ネタ晴らしされ、

嬢ちゃんが双子だったことを聞いた。

 

暗唱していたのはその双子の茶屋の看板娘で、

嬢ちゃんは虚空蔵菩薩の真似をしているほうだったそうな。

 

そうかそうか。

 

今度女医さん連れて稗田家に行ってみよ。

 

 

★▼月〇✕日

 

阿求ちゃんの見事な土下座を見学した後、

女医さんの診察により特に問題ないことが分かる。

 

女医さんが言うには肉体的に問題は無く、

あるとすれば精神的なものらしい。

 

双子にはある種の不思議、共時性というものがあるらしく、

片割れに何かあるともう片方にも何かしらの影響が出るとのこと。

 

調べてみないと分からないが双子の存在が、

求聞持の力に不具合を齎した可能性があるとのこと。

 

どうにかならんの?と聞いたら、どうにかするの得意なのがいるでしょと言われた。

 

 

★▼月〇△日

 

ということでどうにかしてと神様に言ってみる。

 

うんうんと悩んでいる。

どうやらかなり難しい様子。

 

しばらく悩んだ後に出した結論は髪切りを呼ぶことだった。

 

別に髪型で悩んでないが、というとアホなこと言ってないで呼んで来いと言われる。

 

里への参道で髪結いを生業にしている髪切り妖怪を、

本殿まで連れてくる。

 

髪切りが可哀そうなほど恐縮していると、おもむろに神様が切り出した。

 

「汝は好いている男がおるな。しかし妖怪と人間ではと諦めておる。」

 

髪切りが驚いて狼狽し、

何故それを知っているのかと慌てふためいている。

 

「人間になりたくないか?」

 

神様の言っている意味が分からず、呆然としている。

 

しばしの沈黙の後、喉を鳴らしてなれるのかと髪切りが尋ねる。

 

「なりたいか、なりたくないか、どっちじゃ?」

 

なりたいです!と髪切りが強く言う。

声が震えているな。

 

それに大きく頷いた神様は、換骨奪胎の法について教えてくれる。

 

人間の骨と臓器を抜き仙人としての骨と臓器を入れることで、

仙人になる術のことらしい。

 

へーと感心していると、神様が近くに寄れと言った。

 

髪切りが恐る恐る近寄ると、肩を掴みそのまま頭から丸呑みしていった。

 

大蛇が鹿を丸呑みした時のことを思い出す早業だ。

 

人一人分あるくらいに太った神様に、髪の毛を要求される。

 

流石に丸呑みは勘弁願いたいと拒否するが、戯けと罵られる。

 

なんでも髪切りを人間にするには、人間の生命原基が必要らしい。

それを効率的に採取するためにまずは髪切りを取り込んだ。

 

そして髪切りの能力を最大限に変質させることで、

髪の毛から生命原基を抽出するそうだ。

 

でかいハサミをジャキジャキしながら言うと説得力と恐ろしさがある。

 

とりあえず髪の毛を伸ばしてみると、伸ばした端から切り取られ、

椀子そばのように食べられる。

 

結構食うな。

 

 

★▼月〇■日

 

神様のお腹は臨月の妊婦よりもでかい。

 

オレンジ食べます?と聞くと、孕んどらんわと言いつつオレンジを食べる。

 

どれくらい掛かるのかと聞くと、分からんがまだまだ掛かりそうじゃと言われる。

 

神社では俺が孕ませたことになっているが、

神様が勝手に孕んだんだが?

 

 

★◆月〇〇日

 

永江さんが総領娘様がお世話になっていますと菓子折りを持ってきた。

 

菓子折りに合うお茶を用意していると、急に神様が声を上げる。

 

「あっ、生まれるのじゃ」

 

どうやら産気づいたらしい。

 

突然のことに周囲が慌てていると、

よっこいせと立ち上がり中腰になる神様。

 

ここで出すのか!?

 

背中からごろりと人間が転がって出てきた。

 

えっ、そこから?と周囲の者たちが驚く。

 

そういえば神様の背中開いたままだったな。

 

全裸でぬめぬめしている髪切りを女性陣に任せて、

永江さんの相手をする。

 

「生まれてきた子も龍神様なのですか?」

 

いいえただの人間です。

 

 

★◆月〇△日

 

髪切りさんが休業していた床屋を再開したそうだ。

 

そういえば休業中に他の床屋を試していたお洒落さん達が押しかけているそうだ。

 

とくに大店の娘さんは一番乗りで並んでいたらしい。

 

 

★◆月〇☆日

 

髪切りさんが好きな男に女が出来ていたと嘆いている。

 

不憫な子・・・。

 

しかし泣きながらも髪を結う手は止まらないな。

 

流石プロだ。今度良い鋏を用意してあげよう。

 

 

★◆月〇●日

 

阿求ちゃんが神様の治療プランを聞いている。

 

その後笑顔でお断りしていた。

 

「なんでじゃ?完璧に直してやろうというのに・・・。」

 

そりゃ、丸呑みした後、全身どろどろに溶かして再構築しますと言われてもなあ。

 

「換骨奪胎の法と完全変態を併用した究極の技法なのにか!?」

 

すごいのは分かるけども・・。




緋想天回であり、人間たちの幻想郷回であり、神様回でした。
あとあつ森要素として高跳び棒をねじ込みました。
人間たちの幻想郷は個人的に好きなので書いていて楽しかったです。
また投稿期間があくと思いますがよろしくお願いします。


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