ガールズバンドの娘達に餌付けする (神楽 光)
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Ⅰ、始めの始め

 初投稿です。宜しくお願いします。( `・ω・´)ノ ヨロシクー


 しとしとと雨が降る。

 

 パトカーと救急車のサイレンが鳴り響く。

 

 数えきれないほどの人の数がそこに立っていた。

 

 ザワザワと騒がしい野次馬が見つめる先には────、

 

 

 

 

 ────血に濡れた、一人の男が横たわっていた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 目を覚ますと、白い天井があった。

 

「知らない天井だ……」

 

 ぽそり、と声が漏れる。

 

「え?」

 

 ベッドに横たわっていた少年は驚きの声を上げた。

 それはまるで、自分の声に驚いているかのような反応だ。

 少年はむくりと体を起き上がらせる。そして、自分の体を見た。

 そこには、白い無地のシャツを着る、齢六歳ぐらいの少年の体があった。

 

「あぁ。そうだった.たしか、()()()に会ったんだっけ」

 

 少年は呟くように言う。

 そんな時、少年のいる部屋の扉からドタバタとした音が聞こえた。さながら、焦っているような。

 少年は扉の方を向く。同時に、扉が開いた。──勢いよく。

 

「音羽.!」

 

 出てきたのは推定二十代の美しい女性。透き通るような銀髪に、吸い込まれそうな蒼い瞳。白魚のような肌に、少し乱れた服。とても扇情的に見える。

 少年が美人の登場に驚いていると、女性は少年に近づき、ガバッと抱き締める。

 

「良かった……っ!」

 

 女性が涙を溢す。

 少年はと言うと、突然の美女の行動に慌てたり、女性が誰なのか疑問に思ったり、思ったより豊満なその果実に嬉しくなったりと、様々な感情と状況に混乱していた。

 

「階段から転げ落ちたって聞いたわよ」

 

(えっ……! 階段から……? うっ!)

 

 目を見開いた後、突然少年は顔を歪めた。

 

「ど、どうしたの!? 大丈夫ッ!?」

 

 顔を歪めた少年に女性は心配そうに聞いた。

 

「だ、大丈夫……です」

 

 少年はたどたどしく答える。

 

「えっ……?」

 

 女性はその少年の返事に驚いた声をあげ、思案するように右手を顎にあてた。

 

「どういうこと.? まるで性格が変わっているわ。前は『お母さん! お母さん!』ってついてきてたのに」

 

 女性は独り言をポソリと漏らす。

 

(え゙……)

 

 実際はそんなことはなく、素っ気ない態度だったのだが、そんなことは少年にはわからない。

 

「あっ……えっと……」

 

 少年が声をあげる。どうしようかと困惑しているのだ。

 

「良いのよ。まだ頭が痛むのでしょう? 休んでなさい」

 

 女性はソッと少年をベッドに寝かしつける。

 

「は、はい……」

 

 少年がその言葉通りにベッドに寝転がり、布団を被ると、女性は「おやすみ」と声をかけて部屋を出ていった。

 そうして少年はまた一人となり、突然の睡魔に抗えず眠りに落ちた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

()()()()()()()()()()10年。僕は高校生になった。今年から共学の花咲川学園というところに通っている。

 僕には前世と言うものがある。それが取り戻した記憶の内容だった。

 何の変哲もない人生。恋人も家族もなく。ただ淡々と生きてきた一人の男。だけど、僕の人生はたった一人を救って終わった。別に悔いはない。山も谷もない人生で誰か一人を救えたのだからこれ以上に良いことはないだろう。しかし、それで終わりじゃなかった。

 僕が死んだ後、いつのまにか白い部屋にいた。目の前には美しい女性が佇んでいた。

 その女性が言うには、女性は女神と呼ばれる存在で、僕にお願いがあって白い部屋に呼んだそうだ。

 そのお願いと言うのが──この世界で前世の音楽を広めること。

 だが、もちろんそれは一筋縄ではいかない。だから、それに関する能力を貰った。それにプラスして、もう一つ能力を貰えることになった。

 一つは音楽の知識と才能。色んな曲や楽譜、楽器の種類等々を能力として知識にする力。そして、色んな楽器を扱えるようになる才能。更にはそれを高められる力。

 そして二つ目が、料理に関する才能。料理の知識共々、音楽と同様の力。

 二つ目の能力は僕が望んだ力だけど、これらの力を使って音楽を浸透させて欲しいらしい。もちろん、僕は引き受けた。

 そして────僕は九重(ここのえ) 音羽(おとは)として生まれ変わった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 パチリと目が覚める。すぐにベッドを抜け、着替える。2階の自分の部屋から出て、キッチンへと向かう。フライパンを取りだし、暖める。冷蔵庫から卵とベーコンを3つづつ取りだし、フライパンで焼く。その間に六枚切りの食パンをオーブンで焼く。

 黄身が半熟ぐらいになったら二つ目玉焼きをとり、焼き上がった食パンにのせる。もう一つは完熟まで焼く。それから同じように食パンにのせる。テーブルを拭き、朝食を並べる。もちろん、一つは塩コショウ、もう一つは醤油をかけてある。

 階段を上り、僕の隣の部屋の扉をノックする。

 

「舞、朝だよ。起きて」

 

 九重 (まい)。僕の一つ下の妹。気立てがよく。(まさ)に理想の女性像────と言うのが表向き。実際はグータラな性格である。甘えたがりとも言えるけど。

 返事がないのでソッと扉を開けて入る。

 特に着替えているということはなく、ベッドで布団を被って寝ていた。

 

「はぁ。もう、起きて」

 

 溜め息を吐きながら、体を優しく揺らす。

 

「う、う~ん」

 

「ほら、もう」

 

 布団を剥がし、覚醒を促す。

 

「あ~。お兄ちゃ~ん。ポンポンして~」

 

 と、舞が抱きついてきた。中学2年生にしては少々大きい胸がムニュリと僕の腰で形を変える。

 

「はぁ~。はいはい」

 

 起き上がった舞の背中を優しく一定のテンポで叩く。

 何故かはわからないが、こうすると舞はすぐに起きる。

 それから数秒経って、舞が急に抱きつくのを止めた。

 

「お、おはよう。お兄ちゃん.」

 

 舞も思春期かな? 

 顔を赤らめながら挨拶をする。

 

「うん。おはよう。それじゃ、朝御飯用意してるから」

 

 笑顔を浮かべながら言う。そしてさっさと部屋を出る。女の子は色々と準備があるからね。

 

「あっ……」

 

 一番の奥の部屋へ向かう。こちらもノックをする。

 

「母さん。朝だよ」

 

 舞の時と同じように返事はなかった。

 

「入るよ?」

 

 言いながらガチャリとドアを開ける。

 

「母さん。起きて」

 

 舞の時と同様に揺する。

 

「──」

 

 だが起きない。ベッドに座り、ポンポンと背中を叩く。

 すると、布団から手がにゅるりと出てきて僕を布団の中へ引き込んだ。

 いつも通りの光景なので、特に驚くわけでもなく抵抗もせず、布団の中へ入る。

 

「母さん.」

 

 呼び掛けると、モゾモゾと動き、こちらに顔を向けた。

 

「ギューってして~」

 

「はいはい」

 

 要望通り抱きつくと、母さんも腕を僕の背中に回した。

 

「ギュ~」

 

「……ギュー」

 

 擬音に合わせて抱き締める。

 

「起きた?」

 

「ん~」

 

 腕を離し、ムクリと起き上がる。

 

「ふぅ。じゃ、早く着替えて降りてきてね、舞は起きてるから」

 

「ふぁ~い」

 

 返事を聞きながらリビングへと行った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「行ってきまーす」

 

「行ってきますのチューは?」

 

 母さんが恥ずかしげもなく言う。

 

「はぁ……わかった。顔寄せて」

 

「やり~!」

 

 とても嬉しそうに顔をこちらに寄せる。ここまで仲の良い家族はいないだろう。行ってきますのキスとか新婚しかしないと思うし。

 頬に軽く唇を触れさせてすぐに離れる。

 

「はい。終わり」

 

「えー。ちゃんと感じれなかった~」

 

 いや、流石に恥ずかしいんだけど。──ところで、舞がずっと僕を見ているんだけど、してほしいのかな? 

 

「──ほら。舞も」

 

 とりあえず、間違っているかも知れないが誘ってみる。

 瞬間、ボッと頬を赤らめさせた。

 

「わ、わわわ、私はべべべ、別に」

 

「そお?」

 

 手を振ってまで否定してきたので、違うみたいだった。まぁ、兄妹でするのもおかしいよね。

 

「それじゃ、行ってきまーす」

 

「行ってらっしゃーい」

 

「ぐっ……ぅぅ」

 

 母さんの声を背に家を出る。舞も後に続きドアを閉めた。──ぶつぶつと言いながら。

 

「それじゃあ気を付けてね」

 

 途中まで一緒に歩き、信号のところで別れる。

 

「うん。お兄ちゃんもね」

 

 今日も妹の笑顔が眩しいね。

 そう思いながら、学校へ歩いていった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ──ドキドキする。

 

 今日は高校の合格発表の日。

 周りは女の子ばっかり。少しだけ男の子もいるけれど、やっぱり女の子が多い。

 私が受験したのは今年から共学校になる元女子高──花咲川学園だ。

 広場で待っていると、先生? が数人出てきた。そして、持っていた白い紙を広げて、壁に張り出した。

 

「私の番号は……私の番号は……」

 

 必死になって自分の番号を探す。それから数十秒経って。

 

「────あっ、た」

 

 見つけた。

 嬉しすぎて涙が出てきた。

 

「やった……やった……!」

 

 頑張った甲斐があった。

 そうやって一人打ち震えていると、誰かが話しかけてきた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「え.?」

 

 見上げると、そこには私より少しだけ背の高い男の子がいた。

 

「どうしたのですか? もしかして────」

 

「あっ、いえ。その、う、嬉しくて」

 

 なにかを勘違いしてそうなので私は慌てて否定する。

 

「……? あぁ、番号があったんですね」

 

 私の様子を一瞬怪訝に見たけれど、すぐに合点がいったように頷いた。

 

「は、はい!」

 

「僕も合格していたので同級生になりますね」

 

 その男の子はそう言いながらフワリと笑った。私はその笑顔に、見惚れた。その笑顔はとても──キラキラドキドキに溢れていた。

 

「同じクラスになれるといいですね。その時はよろしくお願いいたします」

 

「うぇ、あ、はい!」

 

 これが、私──戸山香澄と彼──九重音羽との初めての出会いだった。



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Ⅱ、入学式とバイト

 門の所まで歩くと、幾人かの人が立っていた。腕のところを見ると、風紀と腕章に書かれてあった。

 

「おはようございます」

 

 薄緑の髪の美人な先輩に挨拶をする。別に美人だからと言うわけではない。進行方向の近くに立っていたからだ。

 

「はい。おはようございます」

 

 綺麗な声で返してくれた。

 昇降口まで行き、自分のクラスを見る。

 

「クラスは……1-Aか」

 

 自分の下駄箱に行き、上履きに履き替えて1年A組まで行く。

 扉を開けると、数人が来ていてお喋りをしていた。因みに全員女の子である。

 黒板で自分の席を確認し、自分の席に荷物を下ろす。その間、女の子達はずっとこちらを見ていた。

 あれ? 学校あってるよね? 羽丘女子学園とかに来てないよね? 大丈夫だよね? 

 流石にここまで見られると自分が場違いな所にいる気分になってくる。

 それから数十分する。教室内は人で溢れかえっていた。改めて教室を見渡すと、男子数人だけだった。

 それにしても、見事に男子バラけたなー。

 女の子は男子との関わりが余り無かったのか、男子の所にぽっかり穴が空いている。

 僕はソッと立ち上がり、一番近い男の子の席に近づく。

 

「やぁ。おはよう」

 

「え? お、おう。おはよう」

 

 僕が話しかけると、驚いた顔をした。

 

「先生が来るまでお話しても良いかい?」

 

「おう! 良いぜ! むしろありがたい」

 

「ああ。まぁ、ちょっと気まずいもんね」

 

「そうそう。女子ばっかだからさ。しかも知り合いもいねぇし」

 

 口を尖らせながら男の子は言う。

 

「でもここを受けたんでしょう? そう言えば、僕の名前は音羽。九重音羽。よろしく」

 

 言いながら僕は右手を出す。

 

「おう! 俺は友也(ともや)川越(かわごえ)友也だ。宜しく」

 

 男の子──友也も僕の手に反応し、手を握った。

 

「それで、どうして花咲川を受けたの?」

 

「俺? 俺はまぁ、あれだよ」

 

 あれってなんだろうか。実は女の子目当てで入ったとかだろうか。

 

「つまり?」

 

「言わなきゃ駄目か?」

 

「う~ん。別に良いけど。そこまで重要じゃないし」

 

「そ、そうだよな!」

 

 あんまり言いたくないことなんだね。まぁ別にいいんだけど。

 

「そ、それで九重……くんはどうなんだ?」

 

「音羽で良いよ。これから長い付き合いになると思うし。僕は家から近くてそこまで学費がかからないからかな」

 

「お? それなら俺も友也で良いぜ! 学校から家が近いって良いな。確かにここの学校学費もそこまで高くないし」

 

 と、自分達について話していると、ある程度時間が経っていたのか、先生が教室に入ってきた。

 

「よし。全員いるな。私はこのクラスを担当する川園(かわぞの) 夏帆(かほ)だ。宜しく。さて、早速だが体育館へ移動する」

 

 廊下に並んで体育館へ向かう。

 

『新入生に盛大な拍手をお願いします』

 

 そうして数分して体育館に着き、拍手をされながら席に着いた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

『続きまして、新入生代表の挨拶です』

 

 司会の先生の言葉が聞こえる。

 俺──川越友也は少し緊張していた。と言うのも、周りが女子ばかりだからだ。

 いや、もちろん嫌なわけではない。むしろ良い! ……なわけだが、圧倒的に男子が少なすぎて気後れする。

 まぁ、仕方がないことではあるのだが。

 

 ────ここを選んだ理由が女子に囲まれたいという下心満載理由だからな。

 

 それはともかく、この花咲川学園の新入生代表は、入試で一番の高得点を取った人がするらしい。だから、少し楽しみだ。どんな頭の良い女の子が出てくるのか。

 そうして壇上に上がってきたのは──先程見知った仲となった、九重音羽だった。

 

『春、麗らかな日。このような素晴らしき日に、この度、花咲川学園へ入学できたことを心より嬉しく思います。先輩方、先生方におかれましては、御指導御鞭撻の程宜しくお願い致します。この花咲川学園が共学校となってから初の男子生徒として、新入生代表として規則正しく────』

 

 ────音羽かよッッッ!!!!! 

 

 期待して損した──と言うと音羽に失礼だが、でも言わせて欲しい。

 

 

 ────女子が良かったッッッ!!!! 

 

『────これで挨拶とさせていただきます。御清聴、ありがとうございました。新入生代表、九重音羽』

 

 音羽は綺麗な御辞儀をして、壇を降りていった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 今日は入学式。桜が満開で、とても綺麗だ。

 合格発表の時に会った人は何組かな? もう一度会いたいなー。

 

「あ! A組だって! お父さん! お母さん!」

 

 私は自分の名前が書かれてある場所を指差す。

 

「それじゃあ、行ってくるね!」

 

 お父さん、お母さんと別れ、自分のクラスへ行く。

 教室に着くと、もう大分人が集まっていた。それから数分して、先生が入って来た。

 先生が誘導して、体育館に着く。

 入ったときに拍手があってちょっと吃驚した。席に着いて後ろを振り返ると、遠目に両親と妹が見えた。手を振って前を向く。

 それからは校長先生や在校生の挨拶が長々とあった。

 

『続きまして、新入生代表の挨拶です』

 

 司会の人の声で、起きた。話が長すぎて寝ちゃってたみたいだ。

 ふわぁ~と少し欠伸をして、壇を見上げる。そこには──―私がもう一度会いたいと思っていた人がいた。

 名前は──九重、音羽。どのクラスに入ったんだろう? と言うか、音羽君が新入生代表なんだ。

 音羽君の挨拶が終わった後、校歌を歌って淡々と入学式が終わった。

 

「ふ~。長かった」

 

 教室に入り、自分の席に着く。

 

「皆、席に着いたな。改めて、私は1年A組の担任を勤める、川園夏帆だ。一年間宜しく。さて、まずは配るものがある。それを配り終わった後、多少時間が余るので、自己紹介でもしてもらおう。そして最後に明日の連絡事項を伝える」

 

 先生がそう言って何かを配り始めた。

 それから数十分して、全部配り終えた。

 

「よし。これで全部だな。それじゃあ自己紹介をしてもらおう。そうだな、出席番号1番からにしようか」

 

 そう言って、先生は教卓の隣の椅子に座った。そして、1番の人が立ち上がる。

 

「はい。出席番号一番の──」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 一人、一人と立って、自分の名前、出身校、趣味、特技等々の自己紹介と一言を言っていく。そして、私はその人に心惹かれた。

 

「はい! 出席番号17番の戸山香澄です! 好きなものはキラキラドキドキするものです! 今探してます! 一年間よろしくね!」

 

 その、底抜けに明るく、前向きで、とても魅力的な自己紹介に、引っ込み思案な私は、惹かれた。

 ────戸山さん、か。仲良くなれるかな? 

 仲良くなりたいなぁ。

 私がそう思ってしまうのも無理がないほど彼女は素敵だった。内容はとても簡潔で、要領をえる訳ではないけれど。

 こんなに明るい人が、ポジティブな人がいれば、私でも、今の性格を、臆病で引っ込み思案な自分を変えられるかもしれない。そんな風に考えた。

 ──―ま、まずは第一印象が大事! 笑顔で、話す! ……うぅ、難しいよぉ。ちゃんと話せるか不安。もしかしたら話を聞いてくれないかも。

 そうやって、ずっと悩んでいると、いつの間にか自己紹介の時間が終わっていた。

 

「よし。それじゃあ今日はこれで終わりだ。明日から宜しくな。解散!」

 

 先生がそう言って、教室中がザワザワと騒ぎ出す。

 立ち上がる人もいれば、座ったままの人も、先生に話しかけに行く人もいた。

 私はと言うと、すぐに教室から出て、家族の所へ向かった。一瞬、チラッと教室を見渡すと、戸山さんはもうすでにいなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 入学式が終わり、母さんと舞と帰る。

 

「あ~かっこ良かったわ~!」

 

「た、確かに……かっ、かっこ良かった!」

 

 母さんはニコニコとした笑顔で言い、舞は恥ずかしげに顔を赤らめながら言った。

 

「それは良かった。あぁ、母さん。バイトしてもいい?」

 

 僕がそう言うと、母さんも舞も足を止めて僕を穴が開くほど見つめてきた。

 

「え? ど、どうして? な、何か買いたいものでもあるの? 私が買うわよ?」

 

 母さんは不安気に聞き、舞は青い顔で僕を見てきた。

 

「あ、いや。そうじゃなくて。僕も高校生になったから、少しでも家計の足しになれたらってダメ、かな?」

 

 僕は申し訳ないと思いながらも、母さん達に確認をとる。

 

「────そうだったの。ご免なさいね」

 

 ────母さんは僕に謝ってきた。

 

「──謝ってほしいわけじゃないよ。僕は今、幸せだから」

 

 僕がそう言うと、母さんは泣きそうな顔になり、俯いてしまった。

 

「──良いわよ、バイト。確りやりなさい。だけど、一つ、いいえ二つ条件があるわ」

 

 数十秒俯いていた母さんが僕の目を見て言った。

 

「二つ?」

 

 僕ではなく、舞が母さんに聞く。

 

「そう。貴方もするならこの二つを守ってね。一つ目は稼いだお金は自分の分も残しておくこと。これがどのくらいなのかって言うのは話し合いましょう。もう一つは、時間よ。遅くなるなら遅くなると連絡を入れること。これは絶対よ」

 

 母さんは強く、念押しするように言った。

 

「──わかった」



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Ⅲ、バイトと出会い

 母さんにバイトの話をしてからすぐに、僕は予め決めていたバイトを3つ、母さんと相談して無事にアルバイトできるようになった。

 その内の一つがCiRCLEと言うバンドの為の音楽施設のアルバイトだ。

 面接は既に終わり、指導を受けながら日々働いている。もちろん、勉強や友達作りもしながらだ。

 

「まりなさーん。三番の掃除終わりましたー」

 

「わかったー! じゃあ次は──」

 

 まりなさんは、CiRCLEの従業員(最初は店主だと思ってた)だ。

 お店の利用者が多くなってきて、人手が足りなかったらしく、アルバイトを募集したようだった。

 

「はい。今日もお疲れさま」

 

「はい。お疲れ様でした」

 

 まりなさんは気さくな人で、僕はあまり気負うことなく、仕事ができた。

 

「あぁ、そうだ。まりなさん。何か食べますか?」

 

「え?」

 

 初日なので、お礼も込めて何かつまめる物でも作ろうと考えた。

 

「えーと?」

 

 まりなさんは僕が何を言ったのか理解できない、と言った風に首を傾げていた。

 

「僕、料理が得意なので。初日ですし、お礼も込めて何か作ろうかな、と思いまして。嫌でしたか?」

 

 僕がそう言うと、まりなさんは慌てたように手を振った。

 

「いやいやいや! 別に作らなくて良いわよ! 嫌って言う訳じゃないけど」

 

「じゃあ何か作ります。そうですねー。美味しくて軽くつまめるもの────」

 

 僕が考え始めると、まりなさんがポソリと呟いた。

 

「あの、ほんとに作らなくても良いのよ? お礼を言われることでもないし」

 

「んー。僕がしたいだけなので、食べないと言うのなら作ることはしませんが。小腹が空いているんじゃないかなって思っただけなので」

 

「うっ。な、何で分かったの……?」

 

 僕が言うと、まりなさんは言葉を詰まらせて、何故分かったのかと疑問を浮かべた。

 

「僕の妹がいつも大体これくらいの時間に小腹が空いたって言うので。よし、フルーツタルトでも作りましょうか」

 

 僕は作るものを決めて、早速準備を始めた。

 因みに材料は隣のカフェの余り物を貰った。その代わり作ったものを欲しいとも言われたけど。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「お、おいしぃぃぃ」

 

 私は今、猛烈に感動している。

 最近雇ったアルバイト君──九重音羽君がアルバイト初日の終わりに何かを作ってくれると言った。

 私は丁度その時、疲れを癒して、お腹を満たせるものを求めていた。

 音羽君はそれを見抜き、私の目の前にあるフルーツタルトを作ってくれたのだ。

 これが本当に美味しい。涙が出るほどに。

 上手く説明できないけれど、これを食べてしまえば、もう他の料理は全てが塵芥のごときものであると言っても過言でないほどだ。

 ──もう他の料理食べれない。

 

「えっ……もう、無い」

 

 いつの間にかフルーツタルトは無くなっていた。いや、私が食べたんだけどね。

 

「すみません。もう材料が無くて。でも、お腹一杯ですよね?」

 

 音羽君は申し訳なさそうに言った。確かに音羽君の言う通り、意識すればお腹一杯だった。食べられないことも無いけれど、十分であると言えるほどだ。

 

「ええ。ありがとう。──また今度お願いしてもらっても良いかしら?」

 

「はい。いつでも良いですよ」

 

 私が恥を偲んでお願いすると、音羽君は笑顔で快諾してくれた。

 う~ん。こんな子が来てくれて嬉しいわ! 礼儀正しくて、かっこよくて、紳士で、料理も上手い! ──あら? この子超優良物件? フフ。この子を巡って何かしらの争いが起きそう。うっすらとラブコメの匂いがするわ~! 

 

 まりなの予想はバッチリと当たっていた。いずれ音羽を巡って、5つ以上のガールズバンドが彼と関わり、彼を求める恋愛戦争が勃発するのである。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 バイトの帰り道。その道には、一つの公園がある。夕暮れに染まる世界の中で、その公園には一人として──いや、一人だけベンチに座っている人がいた。

 その人はキラキラと輝く銀髪で、黄色い瞳を持っていた。──美しい。素直にそう感じてしまうほど綺麗だった。

 だが、その女性は見るからに落ち込んでいるようで、とても声が掛けづらかった。

 

「あ、あの」

 

 だけど僕は声を掛けた。それは何故か? 僕自身にもわからないけど、声を掛けなければならないと。そう、感じた。

 

「──なにかしら?」

 

 その黄色の瞳が僕を捉えた。

 

「その、お節介かも知れませんが──どうかされたのですか?」

 

 僕がそう言うと、女性は驚いたように眼を見開いた。

 

「──何故、わかったの」

 

 え? そんな雰囲気を出してたからわかったんだけど。誰にでもわかると思うけど、という言葉は飲み込み、言った。

 

「そんな感じがした、からです」

 

 その言葉を聞いた女性はくすり、と笑った。

 

「あら。そう」

 

「それで、どうしたんですか? 誰かに吐き出した方がスッキリすることもありますよ」

 

「そう、ね。なら、聞いてもらいましょうか」

 

 そう言って女性──湊友希那さんが語り始めた。

 

「私、バンドを組んでいるの。Roseliaって言うんだけど、私はボーカルを担当していてね、作詞もしているの」

 

「それで、ちょっと行き詰まっちゃって。まぁ、初めてだから、とも言えるのだけど。それに、段々とバンド内の雰囲気も悪くなってるし、それは、私が原因な所もあるのだけれど」

 

「そうだったのですか」

 

 僕が何かを言う資格はない。バンド内の雰囲気は自分達で解決しなければならないし、作詞に関してはそれこそ自分で思い付かなければならない。

 

「僕から何かを言うことはできません。バンドの雰囲気はバンド内で解決しなければなりませんし、作詞は自分で作らなければ意味がないと思います」

 

「……っ! そう、よね」

 

「でも、誰かを頼るのは悪いことじゃありません」

 

「──え?」

 

「作詞が難しいなら周りからヒントを得るんです。バンド内の雰囲気が悪ければ、皆で遊んでみるとか、色々なことを試せば良いんです。それは、難しいことではないですよね?」

 

「────」

 

 ニコリと笑い掛けながら言う。湊さんは盲点だった、とでも言うように驚いていた。

 

「そうだ。ご飯、食べませんか?」

 

「────え?」

 

 僕が唐突にご飯に誘うと、理解ができないと言った風に、僕を見つめた。

 

「美味しいご飯を食べれば悩みなんて案外簡単に解決するものですよ。さ、行きましょう」

 

 手を握って無理矢理立たせ、公園を後にする。

 

「あの、え?」

 

 そうして家に着き、既に帰っていた妹に湊さん預けて、着替えをした。舞は突然連れてこられた湊さんに目を丸くしていた。

 母さんに連絡を入れ、料理を始める。

 今日はカレーだね。

 

「あー、突然……たんですね」

 

「そう……わけが……」

 

 リビングから話し声が聞こえてくる。仲良くなっているみたいで、安心だ。

 それから数十分経って、カレーが出来た。

 

「ただいまー」

 

 カレーが出来上がる丁度に母さんが帰ってきた。

 

「お帰り。丁度で出来たよ」

 

「あー。良い匂いがするー!」

 

「さ、着替えてきて」

 

 そうして家族三人に友希那さんを加えた食事が開始された。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「な──に、これ」

 

 私は驚いていた。今目の前にあるカレーに。食欲を無限に沸かせるような香り立つ匂い。いつまでも食べれそうなほど、舌を楽しませる味。幾つでも入りそうなほどの消化のしやすさ。こんなカレーは、初めて食べた。

 お母さんやリサが作る料理とは別格だ。こんなものを食べてしまえば全ての料理が味気なくなってしまう。

 

「? カレーですよ?」

 

 それを作った張本人はさもそれが当たり前のように首を傾げる。

 ────見れば、いえ、匂いを嗅げばわかるわよッ! 

 

「美味しいですよねー。ほんと」

 

 先程知り合った九重舞さんがとびきりの笑顔で言う。

 

「ええ。もうこの子なしでは生きていけないわ~」

 

 舞さんのお母さん──―琴羽さんが頬に手を当てながらふんわりと笑って言う。

 

「あはは。まだまだあるから一杯食べてね」

 

「「「おかわり!」」」

 

「……ぷっ」

 

 おかわりがあると言われて、カレーの無くなった皿を出したらクスクスと笑われてしまった。

 たとえ笑われても、恥を偲んでおかわりする価値が、このカレーにはあるの! ────恥ずかしいけれど。

 

「フフ。こんなに喜んでもらえたなら料理人として嬉しい限りです。また、食べに来てくださいね。相談事でも良いですよ?」

 

 食べ終わった後にお礼を言ったら、そう言われた。流石にそれは、と思い辞退しようとしたら、押しきられてしまった。

 

「──じゃあ、またお邪魔するわね」

 

「はい。送っていきますよ」

 

 そうして、他愛ない話をして、別れた。

 自室に入って一人、ポソリと呟く。

 

「──また、食べたいな──」

 

 彼との出会いは、私────湊友希那に大きな波紋を作った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ねぇ、お兄ちゃん」

 

「ん? どうしたの?」

 

「音楽できるってこと何で言わなかったの? 友希那さんに」

 

「う~ん、そうだなー。何て言うか、僕は苦労せずに得た力よりも、努力した結果で得た力の方が良いと思ったからだよ」

 

「??? どういうこと?」

 

「今はわからなくて良いよ」




 評価:☆9 神威結月様 プロスペシャル様
   ☆6 わっふー様 ☆5 ぼるてる様 ぽん吉様

 評価ありがとうございます!
 また、数々のお気に入り登録ありがとうございます!


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Ⅳ、山吹沙綾と勧誘

 入学してから幾日か経った。友也とは友達になった。クラスの皆ともそれなりに打ち解けてきて、中々楽しい学園生活を送っている。

 

「おはよう」

 

 挨拶をしながら教室に入る。

 

「おっはよー」

 

 返事をしてくれるのは一人だけ。と言っても、他に人がいないからだが。

 返事をしてくれた少女の名は山吹沙綾。焦げ茶のポニテでギャルっぽい見た目の娘。

 

「おはよう。山吹さん。早いね」

 

 自分の席に荷物を置いて挨拶をする。因みに僕の席はど真ん中だ。その左隣が山吹さん。

 

「いやー、今日は家の手伝いが無くてさー」

 

「あぁ、いつも通り起きたけど手伝いが要らなかったんだ?」

 

「そうそう。そうなんだよね。後、宿題でもしとこうかな、と」

 

 苦笑いしながら彼女は言う。

 

「あれ、やってなかったんだ」

 

「うん。ちょっとね。だからお願い! 見せて!」

 

 顔の前で手を合わせて頼み込んでくる。もちろん、答えは決まっている。

 

「んー、宿題は自分でやった方が良いよ?」

 

「うっ……」

 

 僕が窘めるように言うと、苦虫を噛み潰したような顔をする。だけど僕はニコリと笑顔になる。

 

「ま、可愛い女の子にここまで頼まれたんだし、ちゃんと見せるよ」

 

「か、かわ……!?」

 

 ボッと音が出る程の勢いで顔が赤くなった。僕は、はいっと言いながら宿題を彼女の机に出す。

 

「先生が来るまでには返してね」

 

 そう言って自席に戻る。少し待つと続々とクラスメイトが登校してきた。

 

「おはよう。友也」

 

「おう! おはよう、音羽!」

 

 手を挙げて挨拶をする。

 すると、友也は同じ様に手を挙げて応えてくれた。

 友也は僕の左隣の席に腰を下ろし、持ってきた指定鞄を机の横に引っ掻けた。

 

「そういやさ、音羽。ガールズバンドって知ってるか?」

 

「ガールズバンド?」

 

 僕と友也の関係はここ数日間でかなり良くなった。友人と言っても差し支えないほど。

 そんな友也が僕の知らない言葉を発した。

 

「そう。女子だけで構成されたバンドなんだ」

 

「へ~。そんなのがあるんだ。ガールズバンド.」

 

 あれ……? これ使える……? 

 そうだよ! バンド作れば簡単に広げられる! あっでも、メンバーを集めなきゃいけないのか……。

 まずはYou○ubeで弾き語りでも始めてみようかな.? 

 

「────ってことらしい」

 

「えっ?」

 

 友也が何かを話していたが全く聞いていなかった。

 

「おいおい。聞いてなかったのかよ……」

 

「ご、ゴメン。ちょっと考え事してた」

 

「まぁ、良いけどよ」

 

「ありがとう」

 

「九重君! これ、ありがとう!」

 

 と、話していると山吹さんがノートを返しにきた。

 

「ん。これはどうも。ちゃんと先生が来るまでにできたようで何より」

 

「アハハ……今度は借りないようガンバります……」

 

 ノートを受け取り、少し会話する。

 

「────」

 

 振り向くと、友也は呆然としていた。

 

「どうしたの?」

 

「────」

 

「おーい。友也ー?」

 

「川越君?」

 

「────ハッ!?」

 

「おお。戻ってきた」

 

「それじゃ、私はこれで」

 

「うん。また後でね」

 

 山吹さんが友也が戻ってきたのを見て、女の子の塊の方へ向かっていった。

 

「お、おま、音羽!」

 

「え? うん。なに?」

 

 友也がいきなり大声を出したので、少しビックリした。

 

「ど、どういう「お前らー。席に着けー」……うぅ」

 

 友也がなにかを言おうとした途端先生が教室に入ってきた。

 

「また後で聞くから……」

 

 ちょっと可哀想に思えたので後で話を聞くことにした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 放課後。

 日直だったので、最後まで残る。日直は教室の鍵を閉めなければならないのだ。

 今教室にいるのは、幾人かの女子だ。他クラスの娘もいる。

 

「──お願い!」

 

「で、でも──」

 

 猫耳みたいな髪をした女の子がギャルっぽい見た目の娘に手を合わせてお願いしている。その周りにはツインテールのお嬢様のような娘。黒髪ショートの気弱そうな娘。黒髪ロングのマイペースそうな娘がいた。

 そこだけ異質な空間ができあがっている。

 

「────どうかしたの?」

 

「──え?」

 

 全員が振り向いた。その目は居たのか、という思いが込められていた。

 ……気づかれていなかった? 

 

「そ、そっかぁ────」

 

 ちょっと泣きたくなってしまったのは仕方がないと思う。

 ──僕ってそこまで存在感薄いのかな。

 

「あっ、いや、その。き、気づいてなかったとかじゃなくてね──」

 

「だ、大丈夫だよ! 九重君がいたのわかってたから!」

 

 山吹さんと戸山さんが弁明してくる。

 余計にその言葉が僕の心を抉る。

 

「ウグ」

 

 大袈裟に傷ついた仕草をする。

 それを見た五人の少女は慌てた。

 ──ちょっとやり過ぎたかな。

 

「あ、あの、ゴメン!」

 

「だ、大丈夫? その、ごめんなさい」

 

「あー、えっと。その、なんかゴメン」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「いやー。アハハ。ごめんなさい」

 

 皆が一斉に謝ってくる。

 

「……ぷっ」

 

 その焦っている様子に、思わず笑いが込み上げてきた。

 

「……え? 笑った……?」

 

「ゴメンゴメン。フフ。あまりにも必死だったから」

 

「はぁ~……心配して損した」

 

「ちょっ、おま……はぁ……」

 

 五人の内三人は呆れたように溜め息をついた。

 

「よ、良かったです……」

 

「なんだ~。良かったー!」

 

 他二人は安堵する。これぞまさに性格の違いだね。

 

「それで、何の話をしてたの? 異様な雰囲気だったけど……」

 

 僕がそう聞くと、答えてくれたのは戸山さんだった。

 

「あ~……えっとね。私、バンド始めることにしてね。それで今三人集まったんだけどドラムがまだで。それでドラムが出来るっていう、さーやにお願いしてたの」

 

 ほぅ……このクラスでバンドをやろうとする人が……便乗しちゃダメかな? 

 因みにさーやと言うのは山吹さんのことだ。下の名前が沙綾だからさーや。

 

「山吹さんはOKしないの?」

 

「えっと……その……ご、ゴメンね? 一晩考えさせてもらってもいいかな?」

 

 山吹さんは少し翳りのある顔を見せて、そう言った。

 

「全然良いよ! 私、待ってるから!」

 

 戸山さんが元気にそう言う。

 

「う、うん。それじゃあ」

 

 山吹さんはそそくさと教室を後にした。

 

「……」

 

「これは、手応えありかな!?」

 

「いや、どう考えてもないだろ」

 

「何かありそうだったねー」

 

「こ、これで駄目だったら……ど、どうしましょう……」

 

 と、僕が少し思考の海に沈んでいると、教室に残った少女達はそんな話をしていた。

 そう言えば……もうそろそろ閉めなきゃいけない時間だ。バイトもあるし。

 

「さて、皆さんそろそろ閉めるんで出た方が良いですよー」

 

 と呼び掛けて仕事の後片付けをササッと終わらせる。

 

「はーい」

 

「あー。すみません」

 

「わかった」

 

「さ、さようなら!」

 

 少女らはゾロゾロと連れ立って楽しそうに会話しながら教室を去った。

 僕も教室を見回し、鍵を閉めた。




 評価:☆9 ウルポックル様 magane/zero様 ティアナ000782様
 ☆8 冷たい雨様
 また、たくさんのお気に入り登録、ありがとうございます!
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Ⅴ、僕の思いと彼女の想い

 大半が沙綾の話です。
 日間20位でした!ありがとうございます!(5/6時点)
 こんなに早く載るとはおもいませんでした.........。
 誤字報告ありがとうございました!


 三つの内の一つのバイトの帰り道。暗くなりかけの道には公園があった。ふと公園のベンチに座っている、人影を見つけた。

 その後ろ姿はとても見たことがあって、どんよりとした空気を醸し出していた。

 僕はその少女に背中側から近づく。

 

「どうしたんですか? 山吹さん」

 

「えっ……?」

 

 僕が声をかけると、驚いたように立ち上がり、此方を見つめた。

 

「九重……くん?」

 

「はい。そうです」

 

「えっと、どうして此処に?」

 

「バイトの帰り道です。公園に寂しそうな人がいたので声をかけてみました」

 

「あっ……そう、だったんだ.」

 

「はい。なので、どうぞ教えてください。何があったんですか?」

 

 僕は聞く。前にもこういうことがあった。でもその時は無視して帰った。それがいけなかった。その人は数日後に自殺したから。

 だから今度は間違わないように。その人の領域に入り込む。

 

 ────自殺なんてさせない。

 

「あは、別になんでもないよ」

 

「そんなわけないじゃないですか」

 

「えっ……?」

 

 僕が食いぎみに否定すると彼女は目を見開いた。

 

「なんでもないわけないじゃないですか。今にも泣きそうな顔をして、この世界に私は一人ぼっちなんだなんて雰囲気を出しておいて、何でもないわけ、ないじゃないですか!」

 

「────」

 

「そう言う時は、誰かに相談するのが一番なんです。誰かに胸の内を吐き出すだけで幾らか心が軽くなりますから。誰かの迷惑になる、だなんて考えないでください」

 

「……」

 

 一気に捲し立てた後で、気づいた。さっきの言葉は少し刺々しかった。説教染みているとも思った。これは嫌われたかもしれない。

 ──どう弁明しようか。

 

「……ありがとう」

 

 と、自己嫌悪に陥っているとお礼を言われた。

 

「じゃあ、聞いてくれる?」

 

 そう言って彼女はベンチに座り、話し始めた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「前のバンドで上手くいかず、母親は重い病気……ですか」

 

「……うん。そうなの」

 

 母親の病気もバンドで上手くいかなかった原因なのだろうが、彼女はそんなことは言わず、自分の行動と言動が間違っているのだと言った。

 

「────僕はあなたに何かをすることはできません。それは自分で乗り越えるべき壁だからです」

 

「……うん」

 

「でも、アドバイスはできます。手伝いはできます。頼ってもらい、信じることができます」

 

「────」

 

「なので、僕から山吹さんにアドバイスです」

 

「──うん」

 

「『自分の道を突き進め。たとえ道を外れても、誰かがまた直してくれる。それを信じてまた進め』────貴女は一人ではありません」

 

「────っ。うんっ。うんっ!」

 

「えっ。ちょっ。まっ、待って」

 

 山吹さんが泣いた。

 僕は動揺するしかない。

 泣かれるのは駄目なんだ……昔から。

 とりあえず、泣き止むまで僕は傍にいることにした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ただのクラスメートだと思っていた。

 優しくて、気遣いのできる男の子。そんな、何処にでもいそうで、何処にもいない男の子。彼はそんな人だった。

 出会いは友達の紹介。

 最初は雰囲気が大人びていて、少し近寄りがたかった。でも、話してみると子供っぽいところがあって、自然と仲良くなれた。

 

 でも、どこかで線引きをしているようだった。

 

 ある日、私は彼に聞いた。

 

「ねぇ。九重くん」

 

「うん? 何?」

 

 私が呼び掛けると、すぐに反応してくれる。誰にでもそんな対応だけど。

 

「九重くんは……どうして一歩引いてるの?」

 

「……っ。どうして、そう思ったの?」

 

 彼は一瞬目を見開いて、すぐに柔らかい笑顔に戻った。

 

「んー。女の、勘、かな?」

 

 と言うと、彼は呆けた表情をして笑った。

 

「……ぷっ。あは、あはははは」

 

「むぅ。笑うところじゃないぞー」

 

 私は不満げに言う。

 

「ごめんごめん。クスクス」

 

 まだ笑っている。そんなに面白かっただらうか? 

 

「……楽しい?」

 

「……うん。楽しいよ。だから、安心して」

 

 彼は安心させるように、言った。

 

「……そっか」

 

 それから幾日か経って、私は友達からバンドに誘われた。

 楽しそうだと思った。この子と一緒にバンドをするのは。彼女はこのメンバーとするのと言って、私にドラムをやってほしいと言った。

 でも、私はそれに答えられない。

 家の事がある。家族のことがある。──お母さんのことがある。

 それに────また、繰り返すかもしれない。それが怖い。皆も同じようになるかもしれない。怖い。ただ、怖かった。

 

 教室を抜け出し、家に帰れずずっとさ迷い歩き、疲れて何処かの公園のベンチに座った。

 それからずっとボーっと呆けて。暗くなり始めた頃に、彼が来た。

 後ろから呼び掛けられて、何故此処にいるのか聞くと、バイトの帰り道だからと言われる。

 どうしたんだと聞かれた。

 一瞬、何の事かわからなかった。まさか見抜かれているとは思いもしなかったから。

 だから、誤魔化した。でも、彼に誤魔化しは通用しなかった。

 

「なんでもないわけないじゃないですか。今にも泣きそうな顔をして、この世界に私は一人ぼっちなんだなんて雰囲気を出しておいて、何でもないわけ、ないじゃないですか.!」

 

 そう、言われた。

 

 初めてだった。そんな風に心配されて、見抜かれて。化けの皮を剥がされて。

 だから、話してしまった。吐き出してしまった。胸の内に留めておくべき話を。

 そうしたら────、

 

『自分の道を突き進め。たとえ道を外れても、誰かがまた直してくれる。それを信じてまた進め』

 

 ────こんなことを言われた。

 ストンと心に落ちた。その言葉がぐるぐると私の中を巡り、力を与えてくれた。

 

 ──────恐怖を、打ち消してくれた。

 

 かっこいい。素直にそう、思える。私の化けの皮を剥いで、さらに私の思いを見抜く。

 ヒーローみたいだった。

 たとえ私が道を外れそうでも、この人がいる限り外すことはない。この人が、いるから。信じることができるから。私は────。

 

 泣いてしまった。彼の前で、子供のように。それが恥ずかしくて、でも、焦っている彼が可愛くて。優しく、ぎこちない動作で背中を擦ってくれるのが、嬉しかった。

 胸が、暖かくなる。じんわりと。

 

 ────あぁ。私は、恋に、落ちたんだ。

 

 もう。ただのクラスメートじゃない。

 

 彼は────私の、好きな人。

 

「ねぇ、九重くん」

 

 泣き止んで、そう呼び掛けると、すぐに反応してくれる。

 

「ん? どうしたの?」

 

「音羽って呼んでもいい?」

 

「いいよ」

 

 私が聞くと、何でもないように了承する。

 

「じゃあ、私のことは沙綾って呼んで」

 

「ん、わかった」

 

 そう言うと、彼は頷いた。

 

「ね、音羽」

 

 これが、私の最初の一歩。

 

「うん? 何?」

 

「これから、宜しくね」

 

 変わるための、過去から抜け出すための。

 

「うん。宜しく」

 

 ────大事な……一歩だ。




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Ⅵ、甘く、優しい世界

 今回は少しだけシリアスです。
 ...............少しだけ。


 今日はCiRCLE以外のバイト。キグルミのバイトだ。

 そこそこ大きな商店街で何故かキグルミバイトを募集していたので参加。

 その時は思いもよらなかった。

 

 ────キグルミの中がこんなにも暑いなんて。

 

 中は密閉空間だから空気が篭るし、暑いから汗をかく。その汗が更に蒸し暑くさせて、何より、生地がモコモコなので、暑さが逃げない。サウナにいるみたいだ。いや、サウナよりなお暑い。だけど────、

 

「あー! ニャンニャンだー!」

 

『はーい。こんにちわー! ニャンニャンだよー?』

 

 ────子供達の笑顔を見るだけで頑張れる。

 

 だが暑い。蒸し焼きにされる……ん? 

 僕が暑さに耐えながら風船を渡していると、一人ポツンと立っている少女が目の端に映った。

 

『……どうしたのー?』

 

 僕は少女に近づき聞いた。

 

「えっ……」

 

 その子の目は今にも涙を溢しそうだった。

 

『迷子かなー?』

 

「……うん。おかあさんと、はぐれちゃって」

 

『そっかー。じゃあ一緒にニャンニャンと探そうかー!』

 

「────え?」

 

 少女の手を取り、歩き出す。

 

『お母さんはどんな人ー?』

 

「え、えっと、おかあさんは、やさしくて、くろいかみのひと!」

 

『そっかそっかー』

 

 と、少女が退屈しないように話ながら歩き、少女の母親を探す。

 数分経って、何かを必死で探しているような女性が見えた。

 

『あ、あの人が君のお母さんかなー?』

 

 猫なのに人間の手みたいに五本別れている手で指差すと、少女はその先を見て、目をキラキラと輝かせた。

 

「あっ! おかあさーん!」

 

 ダッと母親に向かって駆け出した。

 女性は声を聞き、少女の方に目を向けて抱き締めた。女性の目にも少し涙が溜まっていた。

 女性と少女が何かを話した後、少女がこちらを指差した。女性はこちらを見て、お辞儀をした。

 僕はただ、手を振る。

 少女が手を振り返してくれた。女性は少女と手を繋ぎ、もう一度こちらに軽く頭を下げどこかへと行ってしまった。

 

『あっ……早く戻らないとっ!』

 

 走って元の場所に戻り、風船配りを再開した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 あの一件の翌々日。一昨日の放課後に集まっていた彼女らを見かけた。

 遠目からは大分楽しそうに過ごしていることが窺えた。また今度、話でも聞いてみようかな。

 

「なぁ音羽ー」

 

「うん? どうしたの?」

 

 友也が僕に話しかける。今の時間は昼休み。教室には幾人かが残っている。その他は中庭や屋上、食堂でご飯を食べているはずだ。

 

「お前のその弁当、美味しそうだな」

 

 キラキラと目を輝かせ、僕のお弁当を見ながら言う。

 

「……食べてみる?」

 

 苦笑しながらお弁当を差し出す。

 

「えっ!? 良いのか!?」

 

「うん。全然いいよ」

 

「ヨッシャァ! でも、どれ食べたら良いのかわかんねぇ」

 

 今日の中身は、ご飯とミニトマト、筑前煮、唐揚げ、枝豆とひじきの和え物だ。

 

「じゃあ唐揚げ。自信作だから」

 

 と言うと、すぐさま箸を取りだし唐揚げに手をつけた。

 

「────」

 

 唐揚げを持ち上げて、一口でぱくり。

 ────固まった。

 

「ど、どうかな?」

 

 なんの反応もないので声をかけてみる。

 

「……うまぁ」

 

 ポソリ、と思わず溢れたような言葉だ。

 

「えっと……あ、ありがとう?」

 

 とりあえずお礼を言っておく。

 

「そ、そんなに美味しいの?」

 

 近くにいた女の子が唐揚げの味に浸っている友也を見て、聞いてきた。

 唐揚げは後一つしかない。僕はすでに一通り食べているので別に良いのだが.まぁ、大丈夫かな。

 

「はい。一つしかないけど、どうぞ」

 

 自分の箸で唐揚げを持ち、女の子の方に向ける。

 

「えっ……」

 

 女の子はちょっと戸惑った表情をする。

 

「ん?」

 

 ……何ですぐに食べないんだろう? 

 少し首を傾げる。サラリと髪が右に流れた。

 

「……食べないの?」

 

 いつまで経っても僕と唐揚げを交互の見ていたので、催促する。

 

「……た、食べる。でも、ちょっと待って」

 

 と言うと、女の子は深呼吸を始めた。

 その行動が僕には全くわからなかった。

 数秒して、プルプルと震えながら口を開けた。

 

「あ、あ~……」

 

 スッと口に唐揚げを入れて、すぐに抜く。

 

「どうかな?」

 

「ふぇ、あ、スゴ(……恥ずかしすぎて味わかんにゃい)」

 

「?」

 

 ちょっと女の子の言っている意味がわからない。

 いつのまにか教室中が静まっていた。

 ────あれ? 何でみんなこっちを見てるんだろう? 

 

 皆が皆、此方を穴が開くほど見ていた。少し怖い……いや、かなり怖い。

 

「え、えっと……皆、どうしたの?」

 

 引きぎみになりながら聞いてみた。

 

「私も食べたい!」「あ~んが羨ましい」「それ手作り?」「妬ましい妬ましい……」「私にもやって!」「恋人みたいに!」「oh! ブシドーですね!」「うわ~はぐみにもやってほしいな~」「いいな~」「ねぇ、それ間接キス?」「欲しい欲しい」

 

 一斉に言ってきたので、何を言っているのか聞き取れなかった。

 

「え、えっと~。ご、ゴメンね! 先着二名だから!」

 

 と、とりあえずこの場を乗りきろう……わりと後悔するような言葉を発した気がするけど。

 

 そんな一悶着があったけど、それ以降は何事もなく授業を受けた。

 放課後になり、帰り支度をする。

 

「なぁ、音羽ー」

 

 友也が僕に話しかけてきた。

 

「ん? 何?」

 

「部活とかしねぇの?」

 

「部活かぁ……」

 

 部活。運動部や文化部に分けられていて、この学校は私立な為か、そこそこ部活が多い。全国までは行っていないが、地区大会や県大会には出場しているらしい。

 

「──しないかな。そういう友也はしないの?」

 

 そう言うと、友也は荷物を入れた鞄を肩に掛け、言った。

 

「あ? 俺? 俺はいいんだよ」

 

「え? 何で?」

 

 野球部とかサッカー部にいそうなのに。

 という言葉は呑み込んで、友也の言葉を待った。

 

「んー、まぁ。音羽とクラスメイトと駄弁ってる方が好きだから」

 

「────そっか。なら良かった」

 

 そう言ってくれるなら、仲良くなった甲斐がある。

 少し涙が出そうになった。僕の友達だった人は……()()()()()()()()()()()()()()()から。

 

「うわー。俺メッチャ恥ずいこといっちま──え!? ちょ! 何で泣きそうになってるんだよ!?」

 

「え! 九重君が泣いてる!?」「おい川越! 何してくれてんだ!」「俺のせいじゃ……どうなの?」「どうなのって……」「九重くーん。大丈夫だよー。はぐみはここにいるからー」「oh! まさにブシドー……ですか?」「え、ブシドー?」

 

 また、皆が一斉にしゃべる。ごちゃごちゃ言ってて、あんまり聞き取れないけど……励ましてくれてるのが、よく、わかる。

 これだけでも、転生して良かったと思える。

 

 ────嬉しい。

 

 

 ────楽しい。

 

 ────みんな、ありがとう。

 

 僕、生まれてきて、良かった.

 

 そして、僕はこの先も知ることになる。

 この世界が、甘く、優しい世界であると。

 

 この先、僕は何度も思うだろう。

 

 ────生まれてきて、良かったんだって。

 

 今の僕には知るよしもない。




 この世界はとても甘くて、優しい。

 誰が為の世界なのか。

 それは、神のみぞ、知る。

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Ⅶ、Poppin'Partyと初配信

 すいません。原作知らずの理由は個人的な事情で見れなかったのとプレイできなかったのです。家庭の事情と言い換えてもいいですけど。
 まぁ、そんな訳で原作を知らないというわけです。どうでもいいですよね。見れなかったら見ろって話だし。
 もうこの作品は別物と考えていただければ.........。


 翌日の放課後。僕はある五人に呼び出されていた。

 五人、と言っても一人は不登校ぎみらしいけど。

 その五人と言うのは────、

 

「あ! 来た来たー!」

 

 猫耳みたいな髪がチャームポイントで、キラキラドキドキの探求者、戸山香澄。

 

「おっ。待ってたぞ」

 

 最初はお淑やかなお嬢様を演じてたけど、戸山さんに思わずツッこんでからは取り繕わなくなり、盆栽が趣味でもある市ヶ谷有咲。

 

「あー、来たー」

 

 マイペースでかなりの天然。時折みんなを驚かす行動をとり、どこかのカフェのバイトをしているらしい花園たえ。

 

「あ、あの! ま、待ってました……」

 

 引っ込み思案だけど、心の芯をしっかりと持っていて、人一倍音楽に情熱がある。テンションが上がると関西弁がでる、牛込りみ。

 

「ふふ♪ 待ってたよ」

 

 パン屋の看板娘でありながらも、バンドをやっていて、最近過去を乗り越えられたらしく、笑顔が輝いている親孝行者な少女、山吹沙綾。

 この五人に、重大発表があるとかで、校舎裏に呼び出されました。

 

 ……ちょっとドキドキしてる僕がいます。お、男ならしょうがないでしょう!? 期待しちゃうのは仕方がないと思います! 

 ……誰に説明してるんだ、僕……。

 と、脳内で言い訳していると、戸山さんが話しかけてきた。

 

「で、でね! 音くんに伝えたいことがあって!」

 

「う、うん」

 

「じ、実は────私たち、バンドを組んだの!」

 

「────」

 

 ……お、おう。そ、そっかぁ。そうだよね。うん。そりゃそうだよね。大丈夫だよ? 悲しくなんてないよ? 僕を好きになる人とか変人だから、別に期待なんてしてなかったよ? うん。

 

 ……ゴメンね。戸山さん。僕、最低なこと考えてました。はい。すみせんでした。

 でも言わなければわからない! ……これもよく考えたら最低だなぁ……。

 

「? どうしたの?」

 

「あっ、え、えっと────」

 

 戸山さんに疑問を抱かれ、しどろもどろになる。

 目を泳がせていると、視界の端にニヤニヤと笑っている沙綾が見えた。

 

「フフ。音羽は何を想像してたのかな~」

 

「ウッ」

 

 バレてる!? 何故!? 此処は誤魔化さないと……! 

 

「そ、そうだ! 名前! 名前は何て言うの?」

 

「? 名前? 名前は戸山香澄だよ?」

 

「あ、話逸らした」

 

 コテンと首を傾げる。

 その仕草に、僕の胸はドキリと跳ねた。ついでに沙綾の言葉にもドキリとした。

 

「いや、そうじゃなくて────」

 

「────バンド名、だろ?」

 

 市ヶ谷さんが、後を継ぐように言ってくれる。

 

「そう。バンド名」

 

 僕は頷く。

 

「ふふーん。実はもう決まってるの!」

 

「「「「えっ?」」」」

 

 戸山さんの言葉に、他の四人が疑問の声をあげる。これって.

 

「一応聞いていい?」

 

「うん! えっとね、『キラキラドキドキパラダイス』って「却下で」──えっ!? 何で!?」

 

 市ヶ谷さんが速攻で切り捨てた。

 いや、まぁ、ちょっとその名前はどうかな、と思う。

 あと、メンバーになんの相談もしてなさそう。

 

「あのなぁ、なんでメンバーの意見も聞かずにそんな大事なもん決めてんだよ!? あと名前が恥ずかしいわ!」

 

「アハハー……そ、そうかなぁ?」

 

 市ヶ谷さんが少し頬を赤くしている。本当に恥ずかしいのだろう。僕も気持ちはわかる。

 あれ? でもよく考えたらそこまで悪くないかも……。

 想像してみよう。ステージに五人が上がってきて、戸山さんが真ん中で叫ぶ。

 

『みんな! こんにちわ! キラキラドキドキパラダイスだよ!』

 

 ……うん。普通にいける。

 

「おい、そこ! 何一人でウンウン頷いてるんだ!」

 

 と、市ヶ谷さんに怒られた。

 

「いやぁ、よく考えたらそこまで悪くないなーって」

 

「確かに?」

 

 僕が答えると、花園さんが同意してきた。だよねー。

 

「止めろっ! アタシは絶対嫌だからな!?」

 

 ムリムリと、身振り手振りで拒絶する市ヶ谷さん。

 

「まぁ、そこまで言うんだったらねぇ」

 

 ちょっと笑ってしまう。

 

「んー。でもどうしようか?」

 

「そうだよねー」

 

 皆で輪になって悩む。こう言うのはあんまり出てこないよね.

 

「「「「「「んー」」」」」」

 

 その時、僕の頭にその単語が降ってわいた。

 

「……Poppin'Party」

 

 ポソリと洩らす。あれ? なんでこの名前? が浮かんだんだろう……何だが、そうしないといけないって思って……あれれ? 

 

「ポッピンパーティー?」

 

「へぇ……いいな」

 

「おー。いいの思い付くねー」

 

「へぇ! なんだかすごくピッタリな名前ね」

 

「あ、あの。わ、私もいいんじゃないかなって思います」

 

 戸山さん以外は乗り気なようだ。戸山さんはよくわからないって顔してるけど。

 

「じゃあこの名前でいいの?」

 

「うん! いいんじゃないかな!」

 

 僕が聞くと、戸山さんは考えるのを止めたようで、元気に言った。

 

「じゃあ今から……Poppin'Party結成! 皆、これからよろしくね!」

 

 こうして、一つのガールズバンド『Poppin'Party』が結成された。

 

 

 ……あれ? 僕何でここに来たんだっけ? 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 その日の帰り道。僕は楽器店にいた。理由は、今日から音楽を世界に広めることを始めるからだ。

 スマホでも撮れるらしいので(調べた)、買うのはスマホ専用の三脚と楽器だ。

 因みに、この世界の楽器は割と充実しているが、なぜか曲が少ない。それも、前世では一度も聞いたことがないものだった。忘れてるかもしれないけど、僕には音楽の知識が全て入っている。

 

 と、言うわけで。手に取りましたのはアコースティックギター(アコギ)。茶色い見た目の弾き語りによく使われるギターだ(偏見)。

 知識によると、三万から五万。もしくは五万から八万の価格が初心者向きらしい。あ、ちゃんとお金は卸してきてるよ? 最近全部のバイトの給料日だっから……結構な額でした。

 ついで、チューナー、自分の身長に合うストラップ、おにぎり型でミディアムのピックを2つ。そして、替えの弦、弦替えが便利になるらしいワインダー。工具一式は家にあるので買わなくてよし。後はギタースタンドと譜面台。クロスとケースは付いてくるそうなので買わない。案外多い。でも、そこまで値段が高かったわけでもない。

 

 そして全部購入。あ、家って防音だったかな? 

 

 家に帰り、家事を一通りこなしてから、部屋に籠る。

 そう言えば楽譜書かなきゃ。何が良いかな……初めてだから良いのにしたいな.そうだ! 人によっては賛否が別れるかもだけど、あの曲にしよう! 

 

 ────僕がこの世界に生まれ落ちたのも。

 

 ────僕が女神様によって転生したのも。

 

 ────こうやって友人ができ、誰かと会話することの楽しさを知ったのも。

 

 ────家族に、恵まれたのも。

 

 ────まさに。

 

 

 

 

 

 

 ────『キセキ』。




 本当は普通に載せたいけど無理そうなので諦めます。
 あーでもなんか嫌だなー。メッチャ良いところなんだけどなー。くそぅ.........。

 評価:☆10 ゴー☆太様 ☆9 めう様 Kiriya@Roselia箱推し様
新郷遊佐海様 風見なぎと様 ワン01様
 ☆8 元天パ様 ☆6 zyosui様 ☆5 琥耀様 ☆3 ケチャップの伝道師様 その他お気に入り登録をしてくださった皆様方
 ありがとうございます!

5/29修正 よく見たら名前は別に良いって書いてありました。


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Ⅷ、キセキの反応

 要望と言うか感想にあったので書いてみました。


 ニコニ○動画に早速上げてみた。

 すぐに見てくれる人はやはりいなかったが、一週間後どうなっているのか楽しみだ。Yo○Tubeはまだ自信がないからお預けだ。あ、転載禁止って書いた方が良いのかな……。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 とある二人組。

 

「お? なんだこれ? 新しい投稿?」

 

「どうしたんだ?」

 

「いや、なんか新しい投稿で曲が上がってきてる」

 

「へー? どんなの?」

 

「わからん。でも気になるから聞いてみる」

 

「俺にも聞かせて」

 

「いいぞ。ほれ」

 

「あんがと」

 

「映ってるのはギターの手元だけか.」

 

「アコギじゃん」

 

「お? 始まるぞ」

 

「……」

 

「……」

 

「……なんだ、これ」

 

「……すげぇ」

 

「やべぇ……ヤベェぞ、これ!」

 

「この曲、初めて聞くな。カバーじゃなくて自作か?」

 

「ミスタッチもほとんどないそ……他に曲は無いのか?」

 

「あぁ。これ1つしか載ってない……」

 

「初めてなのか。どれくらいの頻度でやってくれるんだろう?」

 

「……書いてないな。だけど────」

 

「ああ」

 

「「これからが楽しみだ」」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 投稿二日目。

 とある四人の女子高生。

 

「ねね。これ聞いた?」

 

「んー? どれ?」

 

「あ、私聞いたよ!」

 

「……ニコ○コはあんまり見ないから」

 

「スゴい良かったよね!」

 

「ホント、それ! 声が透き通ってるみたいでメッチャキレイ!」

 

「ちょ、ちょっとそれ聞かせて!」

 

「私も……気になる」

 

「いいよ! 皆で聞こ!」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「ふわぁ……スゴッ」

 

「ね! ね! そうでしょ!?」

 

「……いい声」

 

「声もそうだけど歌詞もイイの!」

 

「そうなんだよね! プロポーズの時にこんな歌歌われたい!」

 

「……何十年も……何百年も……何千年も一緒に」

 

「そうそう! あぁ、言われたいなー!」

 

「私、この人のファンになる」

 

「……私も」

 

「だよね!? なりたいって思っちゃうよね!?」

 

「はぁ~。もっと上げてくれないかなー?」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 とある屋敷で。

 

「なぁ琴美」

 

「何ですか?」

 

「歌って……いいものだな」

 

「? はぁ……??」

 

「いや何。少し若者の心を知ろうと思ってなネットサーフィンなるものをしてみたのだよ」

 

「はい」

 

「そしたらな……こんな曲を見つけて、な」

 

「……? これですか?」

 

「ああ。皆も聞くと良い」

 

「「「は、はい」」」

 

「「「「わ、わかりました」」」」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

「……まぁ!」

 

「「「「「「「……す、スゴい」」」」」」」

 

「素晴らしい曲ですわね!」

 

「あぁ。本当に素晴らしい曲だ。何度聞いても飽きが来ない」

 

「どなたがやってらっしゃるのですか?」

 

「ふむ……? えーと、確か.そう、〈羽毛の音(フェザー・サウンド)〉だ」

 

「羽毛の音.良い名前ねぇ。ふふっ」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「皆! 旦那様が笑顔になってるぞ!」

 

「えっ!?」×12

 

「ど、どうゆうこと!?」

 

「そ、そんな────嘘でしょう!?」

 

「実は────この曲をお聞きになったんだ」

 

「どれ!?」×12

 

「じゃあ、今から流すぞ.」

 

「……」×12

 

「……」ホロホロ

 

「……ヒック」

 

「……グス」

 

「……綺麗な歌声ね……」

 

「……ギターも上手いな……」

 

「……これ、他には?」

 

「……残念ながら、ない」

 

「……そっかぁ」

 

 

 

 

 音羽の知らないところで、凄まじい勢いで普及していった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

【曲好きの】掲示板Part12【広める】

 

12:名無しの曲好き

 

 良い曲見つけた! 

 

13:名無しの曲好き

 

 へぇ? どんなの? 

 

14:名無しの曲好き

 

 どうせいつもみたいなつまんないやつだろ? 

 

15:名無しの曲好き

 

 あー曲調がダメダメとか? 

 

16:名無しの曲好き

 

 全っ然そんなんじゃなかった! 

 

17:名無しの曲好き

 

 ほぅ? 

 

18:名無しの曲好き

 

 それは是非とも聞きたいですな

 

19:名無しの曲好き

 

 まぁ、あんたにとってって言う但し書きが無い場合に限るがな

 

20:名無しの曲好き

 

 それな

 

21:名無しの曲好き

 

 それな

 

22:名無しの曲好き

 

 (´・ω・`)? 

 

23:名無しの曲好き

 

 まぁ、まずは聞いてみけれ! はい、URL

 https:www■■■■■■■

 

24:名無しの曲好き

 

 ……上手い

 

25:名無しの曲好き

 

 キレイ

 

26:名無しの曲好き

 

 透き通ってる

 

27:名無しの曲好き

 

 スゴい

 

28:名無しの曲好き

 

 鳥肌立った

 

29:名無しの曲好き

 

 しゅき

 

30:名無しの曲好き

 

 ヤバイ

 

31:名無しの曲好き

 

 あぁ~! もっとー!! 

 

32:名無しの曲好き

 

 スギー

 

33:名無しの曲好き

 

 すきー

 

34:名無しの曲好き

 

 love

 

35:名無しの曲好き

 

 (*≧▽≦)b

 

36:名無しの曲好き

 

 さっきから何なんだこの顔文字は↑

 

37:名無しの曲好き

 

 (・∀・)イイヨイイヨー

 

38:名無しの曲好き

 

 (゚∀゚)アヒャ

 

39:名無しの曲好き

 

 (・∀・)ニヤニヤ

 

40:名無しの曲好き

 

 ( ゚Д゚)ナニカ? 

 

41:名無しの曲好き

 

 一体何なんだ!? 

 

42:名無しの曲好き

 

 これ全部同じ奴か……? 

 

43:名無しの曲好き

 

 ある意味ヤバい

 

44:名無しの曲好き

 

 草しか生えん

 

45:名無しの曲好き

 

 誰か、あの声を聞いて……

 

46:名無しの曲好き

 

 何だ突然

 

47:名無しの曲好き

 

 どしたどした

 

48:名無しの曲好き

 

 ( ・∇・)

 

49:名無しの曲好き

 

 お前もうやめろよ! 

 

50:名無しの曲好き

 

 www

 

51:名無しの曲好き

 

 草

 

 




 次話は音羽君が再生回数を見て驚く話です(盛大なネタバレ)


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Ⅸ、まん丸お山に菓子折を!

 誰がメインでしょうか!
 わかるよね?タイトルで


 今日は三つのアルバイトの最後。ハンバーガー店のアルバイトだ。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 隣に居るのは僕のアルバイトの先輩、丸山彩さんだ。

 ピンクのフワフワ髪で、とても綺麗な顔立ちをしている。綺麗、というよりも可愛い?かな。もう一人バイトの先輩がいるけど、どうやら今日は違うシフトのようだ。

 

「休憩入りまーす」

 

「「「はーい」」」

 

 休憩することを告げると、他の従業員さんが声を返してくれた。

 

「フー..........」

 

 疲れた.........。此処のバイトは何故か.......というか、ほとんどが丸山先輩目当てで来てる人が多い。そのせいで、捌く人の数が多いのだ。まぁ大体は丸山先輩の方に行ってるんだけど。

 

「休憩入りましたー」

 

 水分補給をしていたら、休憩室にの扉が開いて、人が入ってきた。噂をすれば影。まさにその諺の通り。

 

「あ、丸山先輩。お疲れ様です」

 

「あ、音羽君。お疲れー!」

 

「店長に休めとでも言われましたか?」

 

「えっ!?なんでわかったの!?」

 

「それぐらいわかりますよ。一週間以上も一緒に働いてたら」

 

 実は彼女、極度の上がり症なのに人一倍責任感が強く、休めと言われない限りずっとカウンターに立ったままなのだ。だから、毎回店長に言われて休憩室しているらしい。

 

「ぐふー。なにか甘いもの食べたいなー」

 

 机に突っ伏しながら、ゴソゴソと鞄を漁りはじめた。

 

「........あっ。そういえば焦ってほとんど何も持ってきてないんだった........」

 

 と、自分が此処に来る前の状態を思い出したのか、途中で探すのを止め、僕を泣きそうな目で見つめてきた。

 

「音羽君ー。なにか甘いもの持ってない?」

 

「.......良いですよ。たしか.......」

 

 正直、これ目当てで忘れてきたのではないかと考えたけど、この人は素でそんなことをする人だ。因みに、僕はバイト初日に従業員の皆さん(店長含む)に差し入れとしてチョコワッフルを手渡していた。大好評だったようで、その後も作ってくれと皆に頼み込まれた。なので、週一回でお菓子を持ってきているのだ。

 で、この丸山先輩は休憩中はお菓子を食べており、僕のお菓子を食べてからは週一ではなく、ほとんど僕がいる日に頼み込んで来るようになった。その為、ほぼ毎回お菓子を鞄に詰め込んでいた。........大丈夫だろうかこの人。そんなに食べてたら太ると思うんだけど。

 

「.......あ、あった。はい、どうぞ」

 

「わっ!羊羹だ!」

 

 僕が差し出すと、花が咲いたような笑みを浮かべ、早速食べだした。

 

「んん~!!ほいひ~!」

 

 頬に手を当てて幸せそうに丸山先輩は羊羹をたべる。........うん。やっぱりこれだけ美味しそうに食べてくれたら思わず作っちゃうよね。

 

「はぁ~。音羽君のお菓子はやっぱり最高だね!世界一だよ!」

 

「いや、あの。流石に他の人のお菓子を食べずに世界一だと断言するのは本職の人達が可哀相だと思うんですけど.......」

 

「ええー?そうかなー?」

 

「そうです!」

 

 ほんとにもう......。まぁ、嬉しくないわけじゃないけどね。

 

「あ、そういえば。お客さん(丸山先輩目当てじゃない人)のほとんどがずっとイヤホンしていたんですけど.......なんでですかね?」

 

 本来は気にすることじゃない。でも、街の人も、学校の皆もイヤホンをしていたからちょっと気になったんだよね。

 

「ん~........私にはわからないかなー。ゴメンね、力になれなくて」

 

「い、いえ。ただ少し気になっただけなので」

 

 それからはイヤホンの話題を忘れ、丸山先輩と世間話をしたり、バイトに精を出したりした。忙しさは変わらなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 動画を上げてから一週間後。ニ○ニコ動画を開き、再生回数を見て固まった。

 

「...................................え?」

 

 見間違いかと、目をゴシゴシ擦ってもその再生回数は変わらず。

 

「いやいやいや。え?嘘でしょ?アハハハハ、これ夢だ」

 

  と言いながら頬を抓って引っ張って叩いて見ても、変わらず。

 

「痛い............」

 

 僕が上げたキセ○。その再生回数はなんと、一億を超えていた。

 

「うわっ。なんかいっぱい来てるし.........」

 

 コメントやメールにも色々来ている。

 

「えーっと、なになに.......」

 

 読んでみる。

 

『最高!』『めっちゃ好き!』『他のも投稿して!』『歌詞良いですねー』『泣いちゃいました』『最高だった!』『楽譜ください!』『男性ですか?なら友達になりましょう』『どうか、他のも投稿して!』『これ歌いたい!』『テレビに出てみませんか?』etc......

 

 何だ、これ。呆然とするしかない。そのコメント欄やメールには概ね、いや、全部肯定的な言葉が書いてあった。いや、これも正しくない。幾つか寒気がするコメントとテレビ出演の依頼があった。

 

「ネットの人がおかしいのは通常営業として........テレビ、か」

 

 その脳裏に映るのは、前世の自分だった。数多のフラッシュ。大勢の人。疑惑、猜疑、憎悪の視線。そして、その重い空気。泥沼にでも浸かっているかのような、重い重い空気。

 

 怖い。

 

 恐い。

 

「うぷっ.........!」

 

 あの光景を思い出したことで、吐きそうになった。

 

 違う。この世界じゃない。断れば良い。出なくても良い。

 

 そう必死に言い聞かせて、幾分か落ち着いた。

 

「ふぅ...........」

 

 今日は演奏する気になれないな..........。明日にしよう。

 画面を閉じて、電源を落とし、そのまま寝入ってしまった。

 

 

 

 その後、目を覚ましたときには既に20時になっており、お腹を空かせていた母さんと舞に平謝りをしたのは当然の出来事だった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「この人に曲を作ってもらえれば.........きっと」

 

 

「必ず........元に戻してみせる.......壊したままなんかにさせない........絶対に、皆を元に戻す.........」

 

 

 

 

 

 

 

「――――――Roseliaを」




 はい。そういうわけで彩ちゃんに餌付けする(した)回でした。後、音羽君が驚く回。
 次回はどうなるんでしょうね。誰だろうね。最後にしゃべってる人。

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Ⅹ、気分高揚

 さて、バンドリ最初のビッグイベント(適当)であるRoselia解散話だよ!


 今日は5月の第二日曜日。少し湿っている感じがしなくもない快晴です。

 今日は前回気分が乗らなくてできなかった音楽投稿をします。って誰に話してるんだろ、僕.......。

 まぁそれは置いといて、メールで出ないという返事を書いて送った。

 今日演奏する曲は.........〈魔法科高○の劣等生〉のRising Hope。

 テンポが早いけど良い曲だ。ノレる。気分が高揚する曲。でもそもそもアニソンだから、絵があった方がいいんだけど........。────下手だからどうしようもない。.........そうだ! 舞に頼もう! 

 

「舞~ちょっといい?」

 

「んー? なにー?」

 

「ちょっとイラスト書いて欲しいんだ、8人ぐらいの人の絵」

 

「8人?」

 

「そう。男子3人女子5人って感じで......」

 

「うん......うん.......わかった。じゃあ一回書いてみるよ」

 

「うん。お願い」

 

 舞の部屋から出て、早速曲の準備を始め────なかった。思いついた、いや、思い出した。

 

 

 ........そういえば楽器の貸出も、練習もできるところが、あった。

 

 

「────最初からあそこ行けば良かったなぁ.......」

 

 今更感が凄い。が、あそこ以外に最良の所があるだろうか、いや、ない。(反語)

 というわけで早速。CIRCLEへとやってきました。

 

「いらっしゃいませー.....ってあれ? 今日はバイトの日じゃなかった筈だけど.....」

 

 チリンチリンとドアベルが鳴って、まりなさんが来た。

 

「はい。今日はお客さんとして来ました」

 

 今日来た訳を端的に話すと、納得したように頷いた。

 

「あら、そうなのね。じゃあ、はい」

 

 言いながら、僕の手の平にポンッと鍵を置いた。

 

「えっ........いや、あの」

 

 あれ? 先にお金渡してから鍵を貰ってって筈なんだけど。

 

「良いのよ。アルバイトしてもらってるし、..........それに、最高級のおやつも作ってもらってるから

 

 ちょっと最後の方が聞こえなかったけど、一応は納得した。それでもお金を払おうとしたら、そういうことだからって強引に部屋に案内された。う~ん。良いのかなぁ......?

 悩んでいても仕方がないので、帰り際に渡せば良いかと考えて曲を弾く準備にかかった。

 

 数十分かけて念入りに準備をした。ギターを構えて扉が閉まっているかしっかりと確認。

 あ、カーテンが開いてる。閉めなきゃ。

 キセキが社会現象並だったので、僕が弾いてるってバレたら大事になりそうだ。.......後、何処からか話が漏れてテレビ局の人が来たら嫌だし。それだったら家でやった方が良いってなるけど、家は別に防音完備という訳でもないし、住宅街にあるのでわりかし近所迷惑だ。後、危険性なら家の方が高い。あ、家族は僕がキセキを弾いたのは知ってるよ。って誰に説明しているんだ.......。

 

 では、早速。Rising Hope。

 

 ■■■■

 

 曲を引き終わった。此処も防音が完璧という訳では無いので、改めて扉を見る。

 

 ――――。

 

 ......よし。特に聞こえ無いな。

 

 では次の曲。そうだなぁ......アスノヨゾラ哨戒班なんてどうだろうか。確か、何かのカバー曲に使われていたとか何とか。........何でそこだけ知識が抜けてるんだろ。

 まぁ、いいや。

 

 では、アスノヨゾラ哨戒班。

 

 ■■■■

 

「ふぅ.........」

 

 ............目茶苦茶気持ち良かった!

 音楽って凄いね!此処まで気分が高揚するなんて.......。

 ヤバい、楽しい!でもこれ以上は舞と母さんがお腹を空かせるだろうから、やめとかなきゃ。

 サッサと片付けをして、部屋の中を確認。

 立つ鳥跡を濁さずの精神で居ることが大切です。

 

 うん。よし!大丈夫!

 

 ドアを開けて外に出る。

 

「..........?」

 

 あれ?何か見えたような........気のせいかな.......?

 

 少し見回して見ても、誰もいない。

 

 ちょっと不安だけど、わからないから置いておくしかない。

 僕はチラリと見えた茶色の髪を思い出しながら、家路を急いだ。

 

 

 

 因みに、まりなさんに料金を押し付けることはできなかった。くそぅ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「もしかして.......あの人が........?」

 

「ううん。そうじゃなくても、皆に話さなきゃ.......」

 

 音羽が使っていた部屋のすぐ近くの曲がり角にいた少女は、何処かへと去って行った。




 今回はスクイッド様のRisingHopeを使わせていただきました。

 最後の人は一体誰なんでしょうねぇ。

 Roseliaの話書くの難しいと感じているのは私だけでしょうか。

 あ、後。曲名を書くのは良いそうなので普通に書きます。あれって歌詞載せだけなんですね.......。というか見方がわからない(o・ω・o)?

 もう一作品との同時更新です。良かったらどうぞ見てください。
 ........だいぶ毛色が違うけど。


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ⅩⅠ、二回目の反応と遭遇

 間違えて投稿しちゃった.......。


 諦めた(早い)

 あ、「()」は心の中で思ってることです。
 「(■■■)■■■」(■は文字)は声が重なってるとお考えください。


 この前同様にニ○ニコにアップした。もちろん舞が描いた絵を添えてね。

 アップした瞬間に『待ってましたー!』のコメントが付き、再生回数が二桁になった。早い。まぁ、今度もまた一週間後に見よう。

 さて、次はどんな曲を上げようかな~。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 とある二人組。

 

「お! 更新きた!」

 

「え? 何の?」

 

「決まってんだろ! 羽毛の音(フェザー・サウンド)の曲だよ!」

 

「え!? マジか! くぅ~っ! 一週間か!」

 

「そうだな! 一週間で更新してんのかな......」

 

「それよりも早速聴こうぜ!」

 

「お、そうだな。あれ? 二曲上がってるのか?」

 

「あ、ほんとだ。じゃあこれで三曲か.....」

 

「......」

 

「......」

 

「────すげ」

 

「......うわぁ。ヤベェ」

 

「めちゃめちゃ難しそうな歌だけど歌いたい」

 

「わかる! ノリが良いって言うか何て言うか.....」

 

「つかこの絵も凄い上手いよな......」

 

「あぁ、誰が書いてるんだ?」

 

「......妹だそうだ。何だか凄い兄妹? 姉妹? だな」

 

羽毛の音(フェザー・サウンド)は音楽に秀でてて、その妹は絵に秀でてるのか」

 

「凄い.....」

 

「二曲目は......? これ、『しょうかいはん』って読むのか?」

 

「そうじゃないか? まぁ、聞いてみようぜ」

 

「.......」

 

「.......」

 

「........何て言うんだろうな。なんか、こう....」

 

「.......あぁ、グッとくるよな」

 

「うん。なんか、グッと......。ヤバイ歌いたくなってきた」

 

「.....俺も」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 とある四人の女子高生達。

 

「およ? なんか通知来てる」

 

「なんのー?」

 

「ちょっち待って......嘘ぉ!?」

 

「? どしたん?」

 

「........?」

 

「お、何々ー?」

 

「.......新曲、上がってる」

 

「新曲? 誰の?」

 

「......まさかっ!?」

 

「えっ、どうしたの?」

 

「そう、そのまさか.......羽毛の音さんの新曲だよ!」

 

「....きた。遂に来た」

 

「お、おう。凄い乗り気だね」

 

「大好きだもんねー」

 

「......嫌いになるわけがない」

 

「マ、そうだよね」

 

「で、どんな曲?」

 

「皆で一緒に聞こっ」

 

「.......よし」

 

「まずはースピーカーを置いてー」

 

「次にー皆で聴けるように輪になってー」

 

「最後にー動画を開いてー」

 

「.....さぁ、いざ聴かん!」

 

「「「「........」」」」

 

「.....スゴッ」

 

「絵うまっ」

 

「......ヤババ」

 

「.......」

 

「.......あっもう一曲ある」

 

「えっマジ!?」

 

「.......マジ!?」

 

「お、おう。マジ」

 

「......では、早速」

 

「「「「......」」」」

 

「.......ふわぁ」

 

「.......おひゅぅ」

 

「.......私の目には、空から落ちる一人の少女が見えた」

 

「あー、それわかるわー」

 

「何て言うか、一曲目は絵に凄いマッチしてるよね」

 

「......あー、わかるぅ」

 

「(.....あれ? この子ちょっと口調変わってない?)」

 

「んで、二曲目は絵を幻視する」

 

「......そうそう」

 

「(.......気のせいか)」

 

「それでー」

 

「.....何と言っても」

 

「最高なのが!」

 

「「(......)声!」」

 

「ギター!」

 

「(あっ、食い違った)」

 

「「「(.....)えっ?」」」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 とある屋敷で。

 

「........! お、おお!」

 

「.......? どうしましたの?」

 

「いや、何。新曲が上がっていてな」

 

「.......? もしかして────」

 

「あぁ、羽毛の音のだ。ええっと、曲名は.....Rising Hopeとアスノヨゾラ哨戒班、か」

 

「早速聴いてみましょうっ」

 

「あぁ、そうだな! お前達も聴いて良いぞ」

 

「「「「はいっ」」」」

 

「「「「「「.......」」」」」」

 

「.....おぉ」

 

「......今回も素晴らしいですわね」

 

「ああ。それに見ろ。絵があるぞ」

 

「まぁ! ほんと! 綺麗な絵ですわね~」

 

「ああ! これは娘にも聴かせてやらねばな!」

 

「そうですわね! きっとあの娘も素晴らしいと感じる筈ですわ!」

 

「よし。そうと決まれば......お前達! 今すぐ準備を始めろ!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 曲を挙げて二日目。今日はCiRCLEのアルバイトをしていた。実はこのCiRCLE。カフェでもあるらしい。まぁ、メインはバンドの練習場所なので軽いものしか作ってないみたいだけど。まぁそこで、ちょっと腕を振るわせてもらったのだ。まぁ、一品二品だけなんだけど。そしたら、注文が増えたらしい。

 今はそれは置いといて、現在は機材の後片付けや掃除をしているところだ。

 

「ふぅ.....まりなさーん! こっち終わりましたー!」

 

「はーい! じゃあ休憩入って良いよー!」

 

 休憩するために最終確認をして、移動する。

 通路の途中の曲がり角から、話し声がした。

 

「.....だからほんとだって!」

 

「え~? 信じられないな~」

 

 もしかして利用してくれてるお客さんかな? 声からすれば女の子のようだけど。

 

「うぅ~! どうしたら......」

 

 角を曲がって見えたのは────、

 

 ────焦げ茶色の髪のショートの女の子と銀髪ショートの女の子だった。




 はい。もうこれだけでわかるよね。
 後Roseliaの話とか書いてるくせに全く関係ないって言うね。
 でももう少し待ってください!ちょっと難しかったんです.....。


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ⅩⅡ、新しいバンドと身バレ

Roseliaはまだです。


「あっ....!」

 

「「ん?」」

 

 焦げ茶色の髪の子は僕を見た途端、僕を人差し指で差した。対して、銀髪の子は「誰だコイツ」とでも言いそうな顔をした。

 

「誰~?」

 

 言いそうな顔というか言った。

 

「えっと、ここでアルバイトをさせてもらってる九重音羽です。よろしくお願いします」

 

 とりあえず会釈して通り過ぎよう。

 

「あ、あの!」

 

 ────としたら焦げ茶の子に引き留められた。

 

「はい....?」

 

「え、えとえと!」

 

「.......ふふ~ん」

 

 焦げ茶の子は引き留めた後のことを考えていなかったのか、あたふたと慌て出した。対して銀髪の子は何かに気づいたように焦げ茶の子をニヤニヤと見始めた。

 

「あ~え~......と。そ、その。わ、私! はっ、羽沢つぐみって言います! え、えと、こ、この子は────」

 

「青葉モカ~。よろしく~」

 

「は、はい。宜しくお願いします.......?」

 

 唐突に自己紹介をされたため、戸惑ってしまった。

 この後どうしたら良いんだろう......? 

 

「(も、モカちゃん! こ、この後どうすれば良いの!?)」

 

「(えー? そんなの知らないよ~)」

 

「(ど、ど、ど、どうしよう......)」

 

「(仕方ないな~)......九重さ~ん。ちょっとお時間ある~?」

 

「ええ。まぁ、一応休憩時間に入ったので....」

 

「じゃあ、ちょっと付き合ってもらってもいい~?」

 

「はい。いいですよ」

 

 青葉さんに誘われて、羽沢さん達と共にカフェエリアへと向かった。

 お冷やを用意して、適当な席に着く。

 

「ん~とね、今モカちゃん達行き詰まってるんだよね~」

 

「あっ、わ、私たちバンドやってるんです! そ、それでちょっと曲づくりに行き詰まってて......」

 

 青葉さんは要領を得ないしゃべり方なので、何に行き詰まっているのかわからなかったけど、羽沢さんが説明してくれた。

 

「それで誰かに相談したいな~って思ってたところだったんだけど.....」

 

「丁度僕が来た....と」

 

「は、はい! そうです!」

 

 う~ん。でも相談にのれるかな? 前世の曲を教えるのは簡単だけど......。

 

「此処で働いてるからそういう知識もあるんじゃないかな~って」

 

 あっ.......。その発想は無かった.......! これじゃあ白を切ると言う作戦が潰えたことに.......。別にいいんだけどね。そもそも白を切ってどうするんだって話だからね。

 

「ん~。わかった。それなら.......曲のカバーとか良いんじゃないかな?」

 

「曲の、カバー?」

 

「カバーって、誰の?」

 

「う~んと有名な人とかどう?」

 

「え~? でも大体はカバーしてるよ?」

 

「あれ? そうなの?」

 

 ん~。ならどうしようか。

 腕を組ながら考える。

 

「.......あ、あの! ま、まだやってないカバーが、あるよ!」

 

 羽沢さんが手を挙げて言った。

 

「そ、そっか......」

 

「んむぅ~? 何かあったっけ~?」

 

 青葉さんは思い付かなかったようで首を傾げている。

 

「あ、え、えと.....」

 

「........?」

 

 羽沢さんは僕をチラチラと見て言い淀む。

 

「......〈羽毛の音〉さんの......曲」

 

 羽沢さんの言葉にピクリと反応してしまう。

 いやだってこの流れで自分がネットに上げた曲をカバーするとか(言ってないけど)予想できないでしょ!? 

 ........だから誰に言ってるんだ、僕.......。

 

「それって~、個人が出してる曲だから~本人に確認しなきゃ駄目なんじゃないの~?」

 

「あっ.....そ、そうだよね」

 

 チラチラ見ないでっ!!! 許可出したいけど、此処で出したら僕が本人だって公言することになるし......。どうにかできないかな.......? 

 

 ────ハッ! これなら、これなら行ける!! 

 

「そ、それなら僕から確認しとくよ!」

 

「え~? どうゆうこと~?」

 

「え、えとね。僕、その人の収録を手伝ってるからさ、会って確認が取れるんだっ」

 

 そう、僕が思い付いたのは『収録を手伝ってる人』作戦だ! これなら、僕が音だしとかやってても、手伝ってるからって言って誤魔化せる! ........たぶん。

 

「あっ.......そう言えば羽沢さん達のバンド名、聞いてなかったね、何て言うの?」

 

「あ~、そう言えば言ってなったね~」

 

「そ、そうでした!.......お話に夢中で気づかなかった......うぅ」

 

 なぜか羽沢さんが落ち込んでいる。だけど、すぐに持ち直して、二人合わせて口を開いた。

 

「「私たちのバンド名は――――」」

 

「――――Aftergrowよ」

 

「えっ――――」

 

 背後から唐突に声をかけられた。その()()()()()()()()()を辿るように後ろを振り向くと、立っていたのは――――、




 はい。お読みいただきありがとうございます!
 ついにちゃんと名前が出ましたね。
 前話でRoseliaの話してたのにAftergrowって言うね。餌付け要素も皆無だし.......。それで良いのかぁ!?
 まぁ、きっとすぐ始まります。たぶん。maybe
 サブタイの新バンドはアフグロ
 身バレは(未然に防いだ)が前につきますね。
 つぐは......うん。大丈夫。確信は持ってないから。

 さて、最後の女の子はいったい誰なんでしょうね.....?

 評価:☆10 ゼーロー様 ☆9 名も無き理想郷様 氷帝様 格差社会の塵芥様 ユウキ、様 潤夜様 スーパーラッキーボーイ様
 ☆7 風宮若菜様 ☆4 蜂蜜梅様 ☆1 けーん様
 その他お気に入りをしてくださった皆々様!ありがとうございます!


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ⅩⅢ、Aftergrowと湊友希那

 やっとこさ入ります。おまたせすますた。

 今回は短いかも?.......あんまり変わらないかも。


 後ろを振り向いて、声をかけてきた人物を見上げる。

 そこには、紫がかった銀髪を持つ────、

 

 ────湊友希那が立っていた。

 

「あっ湊さんお久しぶりです」

 

「えぇ、久しぶり」

 

 一月ぐらいだろうか? 久しぶりに友希那さんを見た。最初に出会った頃のような悩んでいる風ではなく、何かを我慢するような。押し隠しているような表情を見せている。いや、隠しているんだろうけど隠しきれてない。

 

「え......?」

 

「あ~、言われちゃった~」

 

 羽沢さんは友希那さんが来たことに戸惑い(多分)、青葉さんは湊さんにバンド名を言われたことに落胆した。......そこじゃない、と思うのは僕だけだろうか。

 

「いや、そこじゃないでしょ、モカちゃん!」

 

「え~?」

 

 良かった......。僕だけでなく羽沢さんも同じ感性だった。

 

「友希那さんとおと.......コホン、九重くんが知り合いである所でしょ!?」

 

 いや、そこも違うと......違わない? 

 

「隣、良いかしら」

 

 二人の応酬を見ていると、湊さんが尋ねてきた。

 

「はい。いいですよ、どうぞ」

 

 僕はいいながら左にずれ、湊さんが座れる場所を作る。

 

「うっ.......!」

 

 それを見ていた羽沢さんが言葉を詰まらせた。青葉さんはと言うと、ニマニマと羽沢さんを見ていた。

 

「それで、どうかしたんですか?」

 

「っ!? .......何故、わかったの?」

 

 いや、わかると思うんですが。普通に。

 

「顔を見ればわかりますよ.......?」

 

 誰でも。羽沢さん達は驚いた顔してるけど。

 

「え? わかった? モカちゃん」

 

「いや~。流石にわからないかな~。友希那さんほとんど無表情だし」

 

「だよねー。おと、九重くんって人の表情読むの上手いのかな?」

 

「あ~。無表情の人でも読み取ってるから、私たちの心も読まれてるかも」

 

「嘘.......!?」

 

「ちょっと、ここでは話しにくいわ......。それよりも貴方、何故此処にいるの? 貴方はあまり興味がないと思っていたのだけれど.....」

 

「え? いえいえ。興味ありますよ? むしろ興味津々です」

 

「そ、そう.......。なら手伝ってもらおうかしら........

 

「じゃあ移動しましょうか。すみません。青葉さん、羽沢さん。何かありましたら、また」

 

「えっ、あ、はい」

 

「またね~」

 

 座っていた席から立ち上がり、羽沢さん達に別れを告げる。もうそろそろ再開の時間なので、湊さんにはまた来てもらうように言った。その時に連絡先の交換もした。......強制だったけど。初めてだなぁ、女の子の連絡先なんて。

 

 それから数時間してバイトが終わり、湊さんと近くのカフェで合流した。

 

「それで、バンド関係の悩み事ですよね?」

 

 開口一番に爆弾を放り投げた。こういう話は早い方が良いからね。

 

「.......!?」

 

 湊さんは、口をポカンと開けた。

 

.........だから何でわかるのよ

 

 僕はニコニコと、湊さんが話しはじめるのを待つ。

 

「.....その通りよ。私は今、大きな岐路に立たされているの。それを説明するには、私の身の上話を聞いてもらう必要があるわ。.....聞いてくれる?」

 

「はい。もちろん」

 

 それから湊さんは、俯きながらポツリポツリと語り出した。




 次回は友希那さん視点です。



 シリアスだね!


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ⅩⅣ、湊友希那

 友希那視点です。
 この話でRoselia解散の危機編は終わりです( ゚д゚ )ハヤッ
 今回はちょっと長い。


 私────湊友希那は恵まれていた。お父さんからは目一杯愛されていたし。才能もあった。

 

 

 ────だけど、その幸運はずっと続くわけではなかった。

 

 お父さんのバンドが、突然蒸発した。

 

 原因は詳しくは聞いていないのでわからないけれど、お父さんが凄く悔しそうにしていたのをハッキリと覚えている。

 

 

 ────だから私は、お父さんの為にフェスに出ることを決意した。

 

 そして、幾年か経って、私はRoseliaというバンドを立ち上げた。

 チームメンバーは幼馴染みのリサ。花咲川で風紀委員をしている氷川さん。ゲーム好きの白金さん。中学生の宇田川さん。

 

 活動を開始して、すぐに私たちは有名になった。実力派バンドとして。────そのほとんどがカバーだけれど。

 

 作詞は私の仕事だった。でも、どうしても何も浮かばなかった。私にそんな才能は無いとでも言うように。

 

 だけど、あの日彼と出会ってからは驚くほどスラスラと書けた。それでも一曲だけだったのだけれど。

 ただ、曲の方はどうしても作ることができなかった。私が門外漢だからというだけかもしれないけれど。

 彼と出会ったことで変わったことはそれだけでは無かった。その時、私はバンド内の空気も少し悪くなっていると言った。彼は自分にはできることは少ないと言ったけれど、解決方法を示してくれた。

 それだけのことだけれど、私には思いつかなかった方法だった。だからすぐに実行した。そのおかげで、バンド内の空気は良くなった。

 

 でも、それは今日までだった。

 

 

 私が、Roseliaを踏み台にしようとしていることがバレてしまった。

 

 私がとある女性と話しているのを偶然、宇田川さんと白金さんが聞いてしまったのだ。それを皆が集まっている所で喋った。当然、事情を知らない氷川さんは私を糾弾した。リサは前々から知っていて、庇ってくれたけれど、私は黙るしかなかった。だって、本当のことだから。

 実際、私はフェスに出るためだけに、Roseliaを作りバンドメンバーを集めた。そこに偽りはない。お父さんの為に、努力したのだもの。

 私が説明すると、宇田川さんは泣いてはしりだし、白金さんは沈痛な面持ちで宇田川さんを追いかけ、氷川さんは......私を軽蔑しながら部屋を出た。リサは皆を引き留めようとしたけれど、誰も留まることはなかった。────仕方がない。それ程のことをしたのだもの。

 その日は練習なんてできる雰囲気ではなかった。いえ、もうする気も起きなかった。

 

 どうしてこうなってしまったのだろう。

 

 その言葉がずっと頭の中を巡っていた。

 

 そして、再び出会った。彼────九重音羽に。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 彼に今までのことを話した。言いにくい話なのに何故かスラスラと言葉が出てきて驚いた。......彼は他人の顔を読むのも驚異的だし本当に何者なのだろう。

 

 彼は黙って聞いていた。余計な言葉を話さず、静かに。

 

「.........これで、全部よ」

 

「......そうですね。総評すると全面的に湊さんが悪いです」

 

「うっ......」

 

 痛いところを突く。いや、まさしくその通りなのだ。私はメンバーに本当の目的を隠して接していた。自分自身でも、悪人だということを理解している。それでも────、

 

「......貴方に、私のことを何も知らない貴方に、何がわかるというの!? 私はお父さんの思いを達成したかった! 悔しい思いを打ち消してあげたかった! 無念を晴らしてあげたかった! Roseliaは確かに踏み台だった! でも、私は、あそこを辞めるだなんて思ってない! あそこは良いところなの! 私が悪いのはわかってる! それでもわたしは────」

 

 感情の濁流が流れ出る。こんなこと、彼に言っても意味がないのに。我慢しようとしてもとまることがない。それに言葉も支離滅裂し、いつの間にか目尻に涙が溜まった。

 思っていた以上に、溜め込んでいたらしい。でも、────我慢できなかった。

 

「.......全部、吐き出せましたか?」

 

「.......え.....」

 

 私が言い終わった後に、そういわれた。

 

「僕はその問題を解決できません。当事者ではないので、口を挟めばどうなるかわかりませんから」

 

「────」

 

「────そうですね。今の湊さんにはこの言葉ですね」

 

 そう言って口に出したのは────、

 

「『人は支え合って生きている。だからこそ無意識の内に誰かに頼っている。無意識に頼ってしまう場所は、その人の心の安寧なのだ』────無意識の内に、Roseliaは自分の居場所なんだって言ってましたよ」

 

 優しい顔で諭すように言う。心に、じんわりとその言葉が広がった。

 

「────もう、するべきことはわかっていますよね?」

 

「.......ええ!」

 

 勇気が、活力が沸いてくる。私は、囚われていた。お父さんの悔しい思いを晴らすんだ、と。でも、皆がいなければ、ここまで上り詰めることはできなかった。私はそれを、失念していた。

 

「それに、湊さんのお父上は元々はバンドだったのですよね? なら、バンドで成り上がって何が悪いんでしょう」

 

 ......確かに、そうよね。今まで気付かなかったわ.......。

 

「........ありがとう。貴方のお陰で、私は私の過ちに気づいたわ」

 

 立ち上がってお礼を言う。今までお礼を言うのは気恥ずかしくて全然できなかったのに。この時は、スルリとでた。

 

「ええ。それは良かったです。........元に戻ると良いですね」

 

 彼がフワリと笑った。

 

「ええ、全力を尽くして......っ!? ......?」

 

 その笑顔を見た瞬間二の句が告げられなかった。ドクンッ、と心臓が跳ね上がり、胸が苦しくなる。でも、心の奥底がじんわりと暖まる。

 どうしたのかしら? 心臓の病気......? 

 

「.......? どうかしましたか?」

 

 彼は何かを感じたのか、心配そうに声をかけてきた。

 

「......何でもないわ。これでお暇させてもらうわね」

 

 既に胸の苦しみも、心の暖かさも無くなっていた。それに疑問を感じながらも、帰ることにした。

 

「はい。頑張ってくださいね」

 

 またフワリと笑う。

 ドクドクと鼓動が速くなる。顔が熱くなるのを感じる。

 

 私、どうしたのかしら.....? 何かの病気なら早く病院に行かなきゃ。いえ、それよりも早くバンドを戻さなければ......。

 

 私は考え事をしながら、喫茶店を出た。

 

 

 私がこの病気.....いえ、感情を知ることになるのはもう少し後の話だった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「うぅ~.....。友希那~! どこ行っちゃったの~!」

 

羽毛の音(フェザー・サウンド)さんも見つからないし....友希那も何処かへ行っちゃうし......はぁ」

 

「大丈夫.....大丈夫.....きっとRoseliaは戻るから」

 

 一人、夕暮れの町を歩いていた。




 本来の友希那とは違うかも......。後こじつけが過ぎる。
 アンケートは来週末までです。
 Roseliaがその後どうなったのかは書きません。次は閑話を入れる予定ですので。
 感想いつもありがとうございます!モチベーション上げになってますので今後もドシドシ送ってきてください!(強制ではないです)

 あぁ!誰か!私の手を止めて!そうじゃなきゃ新しい小説を書いてしまいます!防振りの(メイプルが)ヤンデレものを書いてしまいます!ハーレムものを書いてしまいます!(ハーレム好き)
 だれかぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!




 書いても良いなら書きます。そのかわり更新頻度は落ちるけどね。そこはご了承下さいな


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閑話 Ⅰ、家族の反応

 遂に書き上がったぜ!
 そうゆうわけでどうぞ


 これは、一度目の配信の時のお話。

 

 

 

 

 僕はギターやらなんやらを買ってきて、家に帰る。

 

「ただいまー」

 

 玄関を開けて中に入る。

 

「おかえりなさーい」

 

 返ってきた声は舞だけで、母さんはまだ帰ってきてないようだった。

 玄関のすぐ近くにある階段を上り、左に折れる。そこが僕の自室だ。部屋の中に入り、ギターを置くために部屋を見渡した。

 白い壁紙。本棚が出入り口のすぐ右にある。南の窓の近くには机があり、その隣にベッドがある。左の壁には衣装箪笥。少し殺風景に感じてしまう部屋だった。一般的と言えば一般的なのだけれど。

 ギターは机と衣装箪笥の間にギタースタンドを置き、そこに立て掛けた。

 

「ふぅ......」

 

 一息つく。少し重かった。

 

「.......あ。舞ー!」

 

 そう言えば、と思い出す。......家族の誰にも音楽を始めることを教えていなかった。

 

「なーにー?」

 

 間延びした声が聞こえてきた。部屋を出て舞の部屋へ赴く。

 

「あー......その。────僕、音楽始めるんだ」

 

 舞は部屋から顔を出して、廊下で話をすることになった。一瞬、言おうか迷ったが、すぐに考え直して舞にカミングアウトした。

 

「へー........え?」

 

「そう言うことだから、時々絵を頼むかも。その時はお願いするね」

 

「......ん。わかった」

 

 呆然とした舞だけど、僕の意思を汲み取ってそれ以上のことは聞いてこなかった。

 

 ........うん。舞は優しいなー。

 

 それからは母さんが帰ってくるまで、家事をしたり宿題や勉強をしたりした。

 そして午後7時頃。

 

「たっだいまぁー!」

 

 玄関から疲れながらも、大きな声が聞こえてきた。

 

「お帰りなさい」

 

「お帰り~」

 

 僕は玄関まで迎えに行き、舞はソファでテレビを見ている。

 

「うぅ~。音羽ちゃ~ん! お母さん今日も頑張ったよ~!」

 

「はいはい。ご飯はできてるから一緒に食べようか。それとお話ししたいことがあります」

 

 抱きついてきた母さんの背中を撫でながら極力真面目な声を出す。......この状態の母さんを見ると、ついつい甘やかそうとしてしまう。

 

「.......わかったわ。ご飯を食べてからね」

 

 母さんも真面目な雰囲気を察してくれたのか、抱きつくのをやめて真面目な顔をした。

 

 うちの家族は何故こんなにも察しが良いのかな......? 

 

 それからご飯を食べて、母さんと舞を交えて話をする。

 

「母さん。僕、音楽を始めます」

 

 端的に、そう告げる。

 母さんの顔を窺う。にこにことした顔から一転、驚いた表情をしていた。

 

「.......」

 

 舞も僕も母さんも無言の時間が流れる。

 

「.......何で、突然?」

 

 ポツリと母さんは漏らす。

 

「......音楽を、好きになったから」

 

「.......そう」

 

 たった一言、そう呟く。

 バクバクと心臓の音が煩い。手から冷や汗が出てくる。

 

「わかったわ。良いわよ」

 

「え?」

 

 唐突の許可に驚く。

 

「あら。音羽ちゃんはたとえ拒否してもするつもりなのでしょう? 始めますって言ってるし」

 

「うっ.....」

 

 確かに、たとえ否定的な意見が出てきても大丈夫なように既にすると言う意思を込めてそういった。やっぱり母さんには勝てないな......。

 

「ふふ。そんなのお見通しよ。ただし、私も舞も手伝うからね?」

 

「.......うん!」

 

 そうして、僕の音楽活動は家族公認になった。

 

 

 因みに母さんは機械系に強く、編集や撮影は母さんがしていたりする。




 家族公認の理由と音羽くんの部屋


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ⅩⅤ、おもしろおかしな球技大会 前

 餌付けが待ってる。(次回)


 タンッキュッタンッ。

 

 体育館に響く足音とボールの弾む音が響く。

 

「行けー!そこだー!」

 

「頑張れー!」

 

「押せ押せー!」

 

「うわー!すっげ!眼福だー!」

 

 それに伴って端の方から声援が聞こえてくる。後隣からも。

 今現在僕の目の前で行われているのは、球技大会バスケットボール・女子の部だ。今試合をしているのはB組とC組。つまりは市ヶ谷さんが頑張っている。今は、チーム内で一番バスケが上手い人にボールをパスしたところだ。

 

「市ヶ谷さーん!頑張れー!」

 

 勿論僕も応援する。もともと市ヶ谷さんは運動が下手らしいが、それでもこうして頑張っている姿を見ると応援したくなる。

 

「.......市ヶ谷ってあの市ヶ谷か!?」

 

 隣が騒ぎ出したが気にしていられないので、市ヶ谷さんを応援し続ける。

 

 ピピー。

 

「試合終了!」

 

 審判が笛を鳴らし、試合を終わらせる。

 とても白熱した戦いだった。見ていて心が躍る。......次は僕の番だけど。

 どうやらB組の勝利で終わったらしい。市ヶ谷さんが駆け寄ってきた。

 

「音羽ー!勝ったぞ!」

 

「うん。おめでとう!」

 

 そう言うと、顔を赤くしてモジモジし始めた。

 どうしたんだろう?

 

「あー......えっと。その........」

 

「?」

 

 モゴモゴと言いよどむ市ヶ谷さん。

 

「あ、頭!.......な、撫でて欲しいなって......」

 

 頭を?まぁそれぐらいなら御安いご用だけど.......。あぁご褒美が欲しいのか!

 

「うん。わかった」

 

........ま、まぁ別に?いやって言うなら?やらな......え?」

 

 ぼそぼそと何かを言っていた市ヶ谷さんが、(ほう)けた声をあげる。

 

「ほら。頭出して」

 

「え、あ、うん」

 

 頭を突き出した姿勢になる市ヶ谷さん。彼女のサラサラな金髪を撫でる。

 

「よく頑張りました」

 

 ツインテールであんまり撫でる範囲は広くないけれど、しっかりと撫でる。

 ........撫でる方が気持ちいいのは何でだろう?

 

「.........うえへへへ

 

「あっそうだ。今日お弁当作ってきたんだけど食べる?」

 

 顔が隠れていてどんな表情をしているのかわからないが、大分嬉しそうな雰囲気を出していた。

 

「.........うん」

 

「あっ、ついでに他の皆も呼ぼうか」

 

「.........うん」

 

「あっもうそろそろ僕の番だ。応援しに来てね!」

 

「.........うん」

 

「それじゃあね!」

 

「.........うん」

 

 そのまま僕は撫でていた手を下ろして、その場を去った。その後、慟哭が響いたと言うが、僕には届かなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 僕たち男子がする種目はサッカーだ。運動はあんまり得意じゃないので、ゴールキーパーに立候補した。

 .......あんまり動かなくてもいいからね。

 うちのクラスは運動部が多いようで、みんな頑張っている。特に活躍しているのは、友也だ。

 

「おっしゃあー!シュート!」

 

 今も相手ゴールにボールを入れた。それに沸くクラスの皆。うん。よきよき。

 

「友也、お疲れ様」

 

「おう!」

 

 走りよってきた友也を労う。こっちに点数が入ったので、相手からのスタートなのだ。

 友也はすぐにボールを取りに行き、奪った。そのまま誰かにパスをして繋いでいく。

 こうやって段々と点数を取っていって、最後は僕たちの勝利で終わった。

 ........活躍したかったなぁ。




 あれ?いつもこんなに短かったっけ?
 .......2000文字ぐらいは行こうかな。


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ⅩⅥ、おもしろおかしな球技大会 中

 花咲川の異空間、登場。
 お嬢様はやっぱお嬢様なんや.......。


 昼休憩。僕たちはグラウンドの階段前に席を取っていた。此処にいるのは僕、友也、市ヶ谷さん、花園さん、沙綾、戸山さん、牛込さん、若宮さん、北沢さん......あれ? 最後の二人は何でこの場にいるんだろう? 

 

「あ~! 腹へった!」

 

 友也が大声で叫ぶ。この二人に疑問は無いの? ......無いか。女の子大好きだし。う~ん。でもなぁ......お弁当足りるかな? 

 僕はそう考えながら重箱を取り出す。家にあったからこれに敷き詰めてきた。

 

「ふわぁ.......! どれもこれも美味しそうだね!」

 

 戸山さんは涎を垂らしそうな程僕が作ってきたお弁当を見つめる。

 

「くっ.........ダメよ、沙綾。こんなのに負けちゃダメ。負けたら.......女の子としての矜持を保てなくなる!」

 

 何かと格闘している沙綾。

 

「あら、美味しそうね。沙綾、そんなもの捨てて共にイキましょう?」

 

 何処へ? 沙綾に悪魔の甘言を囁く花園さん。

 

「お、美味しそうですね! ........私も今度作ってみようかな」

 

 おどおどと僕に感想を言う牛込さん。......今度教えようか? 

 

「Wow! これがブシド......いえ、オバチャンですね!」

 

 目をキラキラと輝かせながらお弁当を見つめる若宮さん。

 違う! 武士道でもないけどオバチャンじゃない! これは、そう! 主婦だ! 

 

「いや、違うだろ」

 

 友也に速攻で否定された。

 

「フフン! このお肉ははぐみの家のお肉なんだよ!」

 

 なぜか威張る北沢さん。

 うん。そうだね。......お弁当足りるかなぁ? 

 見ていても皆の暴走が激化するだけなので、ここらで手打ち。食べ始めの音頭をとる。

 

「それじゃあ食べようか。手を合わせて────」

 

「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」

 

 皆が僕の音頭に合わせて言う。ちょっと小学生みたいだなと思ってしまった。

 

「おし!俺これっ!」

 

 友也は宣言しながら颯爽と筑前煮を取り、流れるように口に入れた。

 

「ほわぁ........うまっ」

 

 ムシャムシャ食べながら感想を言う。

 そう言ってくれると作った方も嬉しいよ。

 

「.......じゃあ私はこれかな」

 

 沙綾は恐る恐る.......と言うより警戒して、きんぴらごぼうを箸で摘まむ。

 

「くっ.........負けた」

 

 何故か敗北宣言をする沙綾。唐突にどうしたの?

 

「なら私はこれ」

 

 花園さんはだし巻き玉子を取り、パクリと半分まで食べた。

 

「..................................美味しいわ」

 

 大分間を開けて感想を言う。別に強制じゃないよ?感想言うの。

 

「あのあの、なら私はこれを........」

 

 そう言って牛込さんはハンバーグを手に取り、食べる。小動物みたい。

 

「お、美味しいです!冷めているはずなのに肉汁が溢れてきて、このハンバーグの中に一杯美味しさが凝縮.....」

 

「はい。ストップ」

 

 牛込さんの食レポが花園さんにより遮られた。.......食レポ上手いなぁ。

 

「ならはぐみはこれ!」

 

 そう言いながら唐揚げを取る北沢さん。

 

「おおぉ........私の家の肉ってここまで美味しいんだ」

 

 .........うん。まぁ、素材も良いと思うよ?うん。

 

「ならワタシはこれを食べるのです!」

 

 そう言って友也と同じ筑前煮に手を出す若宮さん。

 

「おっおお!ま、まさに..............ブシドーです!」

 

 結局それしか言わないのかよっ。可愛いかよっ。

 と、それぞれの感想を聞いていたけれど、この中で何も言ってない人がいた。..........僕じゃないよ?

 

「どうしたの戸y........」

 

「.................」

 

 僕が戸山さんに声をかけようと見てみると、スゴい勢いでお弁当の中身を食べていた。

 ............喜んでもらえたみたいだ。

 

 そんな風に、僕もたまに摘まみながらわちゃわちゃと話していると、足音と話し声が聞こえてきた。

 

「こっちから美味しそうな匂いがするわ!」

 

 .............増えそうだなぁ。

 そうして出てきたのは金髪の、活発そうな美少女だった。...............後ろに大量の黒服さんを連れた。

 

「あれ?こころちゃん?」

 

「あら?はぐみ?何故ここに?」

 

 どうやら北沢さんのお知り合いのようだった。




 黒服さんも登場。
 りみりんを食レポ係にする。
 うん。2000文字いかなかった........。


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ⅩⅦ、おもしろおかしな球技大会 後


 更新しましたー!もう一作品についてはすみません。皆さんが見やすいようにと、色々変更しました。

 ちょっとシリアス成分があるような感じですね。


 何故か金髪のお嬢様風の女の子とお昼を一緒にすることになった。

 

「えっと.......弦巻こころさん? 僕は九重音羽。よろしく」

 

「そう! 音羽と言うの! 良い名前ね! よろしくね!」

 

 元気一杯と言った風な弦巻さん。僕でも聞いたことのある弦巻財閥の令嬢だ。.......後ろの黒服さんのお陰で凄い裕福なんだろうなぁとは思ってたけど。

 

「お、おお、俺はは! か、かか、川越、と、と友也って言いいますす!」

 

 弦巻さんの美少女っぷりに噛み噛みな挨拶をする友也。周りも美少女なんだけどなぁ。あれ? そう言えば僕にしか話しかけてなかったような......。

 

「と友也って言うのね! わかったわ! よろしくね!」

 

「あ、ち、違っ」

 

 勘違いする弦巻さん。止めてあげて。ただ噛んでただけなんだ........。

 

「弦巻さん。と友也じゃなくて、川越友也って名前なんだ。だから友也って呼んであげて」

 

「あら? そうなの? なら友也ね!」

 

「おぉ.......我が友よ!」

 

 弦巻さんの勘違いを正す。存外に聞き分けのいい子だった。.......伝え聞く噂と比べて。そして友也が感謝のあまり泣きそうになっている。

 .......えぇ? 普通そんなことなる? 

 そんな風に僕らは初対面なので挨拶をしたのだが、どうやらポピパの面々は別なようで。既に顔見知りだったらしい。どうやら僕のバイト先であるCiRCLEで出会ったのだとか。とても嬉しそうに話していた戸山さんが可愛かったです。まる。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 閉会式が終わって、皆が皆帰り支度をする。僕と友也も同様で、片付けをした後、すぐに帰路についた。

 

「楽しかったなぁ!」

 

「そうだねぇ。お弁当足らなかったのはちょっと驚いたけど」

 

 実は弦巻さん。僕たちが食べてるお弁当を見て、「私も食べて良いかしら?」と聞いてきた。もちろん僕は食べてもらっても困ることは無いので了承した。......懸念はあったけどね。皆も特に異論は無く、笑顔で頷いていた。

 すると、一口食べた後。「美味しいわ!」と叫びながら凄い勢いで食べていった。その勢いに皆圧倒されて、呆然としてしまった。────気づいたら重箱一つ分が丸々消えていた。.......彼女の行動は僕の懸念を越えていた。まさか丸々一つ食べるとは.......。

 その後、家の専属料理人にならないか誘われたのだけれど、流石に学業もあるので断った。......音楽もあるしね。

 まぁ、大分口論になったけど(ポピパの面々とハロハピ──弦巻さんや北沢さんが所属するバンドグループ──で)。

 

「ほんっと音羽の料理って美味いよなぁ? どうなってんの?」

 

「一手間加えてるだけだよ。それ以外はほとんど一緒」

 

「えー? ほんとにござるかぁ?」

 

 懐疑的な目を向ける友也。

 

「友人の言葉を信じれない?」

 

 ムッとした顔でからかおうとすると、友也は慌て出した。

 

「いや、違う! そうじゃないんだ!」

 

 ほんとに僕を友人として見てくれていると確信できる慌て様だった。それを見て、心の奥底から嬉しさが沸き上がってくる。

 

「........ぷっ」

 

「え?」

 

 思わず、嬉しさのまま笑い出してしまう。

 

「あははっあはははは!」

 

「お、おま.....からかってたのかよ!?」

 

「ご、ゴメン。でも......ふふふ!」

 

 笑いが堪えられない。嬉しさが後から後から溢れてくる。申し訳ない気持ちになりながらも。どうしても、友人と言う関係に笑みがこぼれる。

 

「........くっくく! あはははは!」

 

 友也も思わずと言った風に笑いだした。

 

 

 共に笑い合う。笑顔で今日のことを話す。

 

 

 これが、僕の望んだものなのだろうか。

 

 

 帰り道を笑いながら歩いていると、ふと、ある曲が思い浮かんだ。

 

 

 そうだ。次はこの曲を流そう。きっと、世界の人は共感を覚えるはずだ。だって、僕でも良い曲だって言えるものだから。

 

 

 

 

 

 

 ねぇ、友也......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この先も────、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────友達でいよう。





 さて、いかがだったでしょうか?最後の曲に関しては予想してみてください。わかると思うけど。と言うかほぼ曲名。

 毎回感想ありがとうございます!もっともっと送ってもらって良いですよ?私としては読めることを楽しみにしているので。短文でも長文でもネタ多目でも対応します!.......ネタに関してはわからないものとかあるかもだけど。
 まぁそう言うわけで!次回は曲!活動報告のコメントに上がってる奴も使うので、こう御期待!


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ⅩⅧ、三回目と謎の勧誘

 今話はちょっと(音羽が)強引になる話だから皆さんの反応に戦々恐々。
 大丈夫かなぁ........。


 土曜日の朝。家事を一通りこなしてから僕はCiRCLEを訪れていた。もう既に営業を開始していて、まりなさんがボーっと立っているのが見える。...仕事...ないのか。

 

 ドアを押して中へと入る。いつも通りのまりなさんの挨拶を聞き、それに返してから料金を支払って鍵を受けとる。そして、指定された部屋へと入り早速楽器の準備をする。肩に下げていたギターを下ろし、カバーから取り出す。ベルトをかけ、音の調子を確かめる。

 

「~♪」

 

 ちょっと口ずさんでキセキを歌う。────OK。

 今日は特殊なことをしてみようと思う。大分時間がかかるけど。あと母さんの負担が少し大きいかな......? 舞にも頑張ってもらわないと。

 

 スマホをスタンドに置き、録音を開始する。

 最初に歌うのは、応援ソングで

 

 ONE OK ROCKより『キミシダイ列車』。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ふぅ......」

 

 歌い終わり、少しため息を吐く。喉を潤すために端に置いておいた水筒を手に取り、二口三口飲む。

 また同じ場所に置いた。そこで気づいた。誰かに見られている、と。熱烈な視線が来る方を見てみると、二つの綺麗な瞳が僕を捉えていた。

 テクテクとスマホに近より、検索エンジンを開ける。

 

「え~と.......。『ピンク 宝石』と.....」

 

 一番上に出てきたサイトを開き、さっきの瞳に似たものを探す。

 

 あっ! これだ! 『パパラチアサファイア』! へー。そんな意味が.......。

 

 スッキリして、もう一度ドアを見ると先程の瞳。パパラチアサファイアのような瞳が未だ僕を見ていた。

 

 バレてないって思ってるのかな.......。

 

 スマホをもとの場所に戻して、ドアに近寄る。

 

「うわぁ!」

 

 引き戸なのでバッと開けると、覗き見していた人が倒れこんだ。

 

「あの.......どうしたんですか?」

 

「えっ.......!?」

 

 改めてその瞳を見ると本当にさっき調べた宝石によく似ていた。綺麗だ。素直にそう思える。

 

「........やってみます?」

 

「...........え?」

 

 僕をじっと見ていたのは、僕と同じようにギターを弾いたりしたいのかと予測した。まぁ、それ以外の可能性もあるけど。なんだか初心者っぽい雰囲気を感じた。

 とりあえず楽譜渡して........それから練習して.......あ、そうだ。確認も取らなきゃ。

 

「あの......ネットに乗るんですけど大丈夫ですか?」

 

「へぁ........? はぁ......」

 

 突然なので大分混乱しているみたいだ。無理もないけど。

 パッパとやること決めてドンドン進めていく。

 

「あ、これどうぞ」

 

「???」

 

 予備で持ってきた楽譜を渡し、準備を進める。

 

「あ、楽器何ができますか?」

 

 そう言えば聞くの忘れてた......。できるよりも何がしたいって聞いた方が良かったかな。

 

「.......ぎ、ギター.......です」

 

 おずおずと女の子が言う。よく見ると、彼女の傍らにはギターケースがあった。

 うん。じゃあ先に渡したやつでいいね。

 

「歌も歌えます?」

 

「は......はい」

 

 緊張でもしているのか、ずっと恐々とした話し方だ。常にキョロキョロと辺りを見ているし、小動物みたいに体を震わせていた。

 ........人見知り、かな? 

 準備を終え、あとは弾くだけとなった。僕が準備していたのは、ドラムだ。この曲はバンドの楽器を使って演奏しようと考えていたので、少女がいたのはある意味幸運だった。.......楽器一つ分が無くなるからね。弾きたくないわけじゃないけど、時間がかかってしまうからね。

 

「よし! じゃあ練習!」

 

「え!? あ、は、はい!」

 

 唐突に練習を開始して、奏でる。

 少女は楽譜を見ながら、いつの間にか取り出していたギターを弾いていた。

 

 おぉ.......。上手い。

 

 素直にそう賞賛できるほどの腕前だった。

 これだったらすぐに本番まで行けそうだ。

 すごい強引だったけど大丈夫かな........。

 

 それから2時間後。大分仕上がって来たので、合わせてみることにした。とてつもなく強引だったので、どう感じてるのか不安だったけど、曲を楽しんでいるみたいなので安心した。........僕がしたことはある意味最低だけどね。何かお詫びしなきゃ。

 音を合わせていて凄く楽しかった。

 

「よし! それじゃあ本番!」

 

 スマホの録音を開始して、バチを4回叩く。ギターが鳴り響き、自分もドラムを叩く。

 

 この曲は友人に送る曲。彼女も四人の友人がいるらしく、いつもお世話になっているらしいので、そういう意味でもちょうどよかった。

 

 

 

 

 いつもありがとう.......友也。この曲を、君に送ろう。

 

 

 

 

 ケツメイシより、『友よ~この先もずっと~』。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

「.......ん~!」

 

 メッチャ楽しい! 特に音を合わせると音が広がって更に綺麗に聞こえる! 強引に誘って良かった~.......。謝らなきゃ。

 

「ありがとうございます。それと、すみません。強引に誘って、ギターも弾いてもらって」

 

 少女の方を向き、頭を下げる。

 

「べ、別に......その。私も楽しかった......ので」

 

「そう言ってくれると嬉しいです!」

 

 恥ずかしそうにしながらも、楽しかったって言ってもらえて嬉しい。

 会話しながら片付けを始める。

 

「あ、えっと.....この録音したもの。ネットに上げるんですけど大丈夫ですか?」

 

 一度聞いたけど、うんともいいえとも言わなかったからね。そこら辺はちゃんとしなきゃ。

 

「.......だ、大丈夫......です。たぶん」

 

 .......たぶん? え? 何? 何が? 

 僕の頭は疑問符で一杯になったけど、踏み込んではいけなさそうなので、一旦忘れることにした。

 

「そうですか。ありがとうございます。手伝ってもらったし.......何か奢りましょうか?」

 

 あんまりお金を使ってないので、僕の懐は暖かいのだ。

 

「あ、大丈夫です。でも.......あの」

 

 何かを言い淀むように口をモゴモゴと動かす。それから数秒、開いたり閉じたりを繰り返した。

 そして意を決したのか、そのパパラチアサファイアの瞳をしっかりと僕に向けた。

 

「あの! わ、私たちのバンドに入りませんか!」

 

 

 

 

「.................え?」

 

 

 

 何故か初対面の女の子にバンドに誘われた。

 

 

 

 

 僕も似たようなことさっきしたから何も言えないけど。




 パパラチアサアファイア。
 実際に『ピンク 宝石』で調べました。
 あ!これだ!って思いましたね。他の容姿を書くと速攻でバレるのでわざと書かないようにしてます。
 意味としても色としても彼女にバッチリなので。性格がわかんないけど。...........ツンデレ?人見知り?どっちもか。


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ⅩⅨ、反応とコーチ就任

 長くなりました。もうキャラが無くなってる。こんなので大丈夫なのかな.......?なんか違うって思ったら言ってください。できるだけ対応したいと思います。
 ツンデレはもっと仲が良くなってから。


「え、えっと.......?」

 

 唐突に言われたことなので、戸惑うしか無かった。

 しかし、女の子の方を見てみると、何故か顔を赤くしてアワアワと慌てていた。

 

「あ、あの、違」

 

「と、とりあえず一旦落ち着きましょう」

 

 深呼吸の仕草を見せて、落ち着かせる。すると幾分か落ち着いたのか、焦った表情は消えた。......そう言えば名前聞いてないなぁ。

 

「ごめんなさい。先に名前言っとかなきゃでしたね。僕の名前は九重音羽。高校一年生です。よろしくお願いします」

 

 言いながら手を差し出す。

 

「あっ、そ、そうでしたね。えっと美竹蘭って言います。私も高校一年です。よろしくお願いします」

 

 赤いメッシュの入った黒髪を揺らして、僕の手を握る美竹さん。

 

「あ、同い年なんですね。タメ口で良いですよ?」

 

「えっ.......でも」

 

 美竹さんは困った顔をして、僕をチラリと見る。本当に良いのかどうか悩んでいるみたいだ。眉間にシワを寄せて必死に考えている。

 

「う~ん....。まぁ、美竹さんが話しやすい話し方で良いですよ。別に引いたりとかしないので」

 

 僕がそう言うと、意を決したのかキリッとした目で僕を見た。

 

「じゃあ......わかった」

 

 眉間のシワを戻して、パパラチアサファイアの瞳を僕に向ける。うん。空気が落ち着いてよかった。

 

「それで、さっきのバンドに入ってって話だけど......」

 

「あっ!そ、それはバンドに入ってって言いたかったんじゃなくて.......。その、コーチをしてほしいなって」

 

 どうやってそれを間違えるんだ........?コーチとバンドに入ることは大分違うけど......?でもここを突っ込んだら大変なことになりそう。

 でも、コーチかぁ......。時間とれるかな?そもそも僕が何を教えられるのかって話だけど。普通にギター上手かったし。

 

「.......教えられることなんて無いと思うけどなぁ。それに、時間も多分そこまでとれないんじゃないかな」

 

 話しにくいけれど、ハッキリとそう言う。言ったのだけれど、美竹さんはへこたれるわけではなく、むしろ前のめりになった。

 

「全っ然大丈夫!教えてほしいのは作詞作曲とかだから!もちろん、楽器の方も教えてもらえるなら教えてほしいけど......それに、いつでもいいから!」

 

 グイグイと押してくる。あれ?こんなに押しが強い娘だっけ.......?数時間しか話してないけど。

 必死にお願いしてくるのが伝わってくる。僕も承諾してあげたいけど。.......作詞作曲かぁ。僕のは、前世のものだからなぁ.......。一応、能力として指導することはできるかも知れないけど.......。

 

「教えたことが無いから、その、どうなるかはわからないよ?それでも、良いの?」

 

「っ!はい!お願いします!」

 

 瞳がキラキラと輝いて、凄いいい笑顔をしながらお辞儀した。

 

「.......うん。わかった。じゃあ、時間が空いたときに連絡したいから.......連絡先聞いてもいい?」

 

 スマホを手に持ちながら聞く。美竹さんはすぐに顔を上げて、嬉しそうに返事をしながらスマホを取りだし、連絡先を交換した。

 その後は、片付けをしながら話をして、更に仲良くなった。

 

 外に出ると、太陽が真上に昇っていた。

 

「それじゃあ。また今度」

 

「うん!またね」

 

 手を振って別れる。ほんとは家まで送りたかったけど、彼女がそこまでしなくても良いと言って固辞したので、諦めた。

 そのまま、家までまっすぐ歩いていった。

 

「(あれ.......?そう言えば、男子と連絡先交換したの......初めてだ!?)」

 

 後日まりなさんから、顔を真っ赤にした女の子がCiRCLEの前で悶えていたことを聞いたが、僕には何のことかわからなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 とある二人組。

 

「お!」

 

「ん?どうした?」

 

「更新来てる!更新!」

 

「マジか!早速聴くぞ!」

 

「今日も二曲か......どっちから聴く?」

 

「そうだなぁ.....なんかこっちから聴いた方がいい気がするからこっちかな」

 

「あ、お前もそう思った?実は俺もなんだよな。じゃあ聴くか。ほれ、イヤホン」

 

「お。サンキュ」

 

「よし。流すぞ『キミシダイ列車』」

 

「........」

 

「........」

 

「......いいな、なんか」

 

「......あぁ。なんつーか応援されてる?って感じがして」

 

「あー!わかる!そうだよな!」

 

「あっ、ここに応援ソングですって書いてある」

 

「ほんとだ。じゃあ何かのイベントの時に歌えるな。練習しとく?」

 

「おう!しようぜ!っとその前に」

 

「もう一曲!」

 

「あれ?今回は助っ人がいるらしい」

 

「へ~どんなのだろ」

 

「よし。流すぞ『友よ~この先もずっと~』」

 

「.........」

 

「.........」

 

「.......やべぇ。涙出てくる」

 

「.......ありがとな。ずっと、友達でいような」

 

「あぁ.......」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 とある四人組の女子高生。

 

「Foooooo!」

 

「と、突然どうした!?」

 

「........いつものこと」

 

「あはは~.......確かに」

 

「ふざけんなよお前ら!ってそんなことよりもっ」

 

「怒ったと思ったらすぐに沈静化した!?」

 

「.......で?どうしたの?」

 

「私のツッコミはスルー!?」

 

「まぁまぁ」

 

「更新!」

 

「.......!Foooooo!」

 

「こ、壊れた......」

 

「壊れたね」

 

「「Foooooo!」」

 

「......これは、どうしたら?」

 

「一緒にやればいいんじゃない?」

 

「よし!聴くぞ!」

 

「......聴く!」

 

「ついていけないよ.......」

 

「普通あの二人がそんなに噛み合うとは思わないよね~。地味娘とギャルだし」

 

「君たち!少し五月蝿いよ!」

 

「あ、先生~」

 

「.....先生も一緒に」

 

「?何をですか?」

 

「よし!先生も来たし早速!」

 

「ちょっと何を.......」

 

「「「「「.........」」」」」

 

「.........元気わいてきた」

 

「ちょっとそこら辺走ってくる」

 

「「待て待て待て待て」」

 

「.....いい曲ね」

 

「「でしょ!?」」

 

「え、えぇ」

 

「はぁ.....」

 

「疲れるね。この二人」

 

「次ー!」

 

「.........もう一曲」

 

「え、えぇ??」

 

「今回も二曲なんだ」

 

「そだね(先生が動揺してる......。珍しいから撮っとこ)」

 

「「「「「..........」」」」」

 

「.......涙出てきた」

 

「.....皆、こんな私と友達でいてくれてありがとう」

 

「ううん。こんな私なんて言わないで!貴女はこの世で一人だけなんだから!」

 

「そぅだよ!ヒック......うぅ.....」

 

「皆......ずっと友達でいようね」

 

「「「うん!」」」

 

「......私も、ちゃんと皆に言わなきゃなぁ」

 

「「「「えっ先生って友達いたの?」」」」

 

「いるわよ!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 とある屋敷で。

 

「おぉ!更新が来ているぞ!」

 

「あら?お父様、どうしたの?」

 

「む?今日はお前もいるのか。なら一緒に聴こうか」

 

「???」

 

「あら、あなた」

 

「おお。来たか。早速聴くか」

 

「「「........」」」

 

「今回も.......どちらもいい曲だな」

 

「えぇ......どちらもいい曲ですが、特に私はこの『キミシダイ列車』と言う曲が好きですね。元気が出てきます」

 

「私は『友よ~この先もずっと~』ね!この曲のお陰で私がどれだけ報われているのかよくわかったわ.......」

 

「ふはは。.......やはり。この者の曲は素晴らしいものが多いな。次も楽しみだ」

 

「ええ、そうね」

 

「私も楽しみだわ!でも、会ってみたいわね!どんな人物なのか.......気になるわ!」

 

「そうだな.......応えてくれるかどうかはわからないが、掛け合ってみるか」

 

「よかったわね。()()()

 

「うん!」




 最後に衝撃の真実を持ってくる。これ楽しい。
 もうそろそろ夏休みが始まりますので更新は......早くなるかも?掲示板は前回と纏めて次回に。

 お気に入りとか感想とか評価とかお願いします!
 誤字報告助かってます!ありがとうございます!


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ⅩⅩ、2回目と3回目の掲示板

 やっと掲示板。面白いのってどうすれば良いんだろうね。


 【めっちゃ】羽毛の音(フェザーサウンド)について語るスレPart1【やばい】

 

1:名無しの音楽好き

めっちゃ気になるから立てた。あらし禁止ね

 

2:名無しの音楽好き

>>1

 

3:名無しの音楽好き

>>1

 

4:名無しの音楽好き

>>1

乙。

ところで羽毛の音(フェザーサウンド)って誰?

 

5:名無しの音楽好き

>>4

おまw知らずに来たのかよw

 

6:名無しの音楽好き

 今羽毛の音(フェザーサウンド)についてわかってること

 ・ギターめっちゃ上手い

 ・歌声も素敵

 ・性別不詳

 ・ニ○ニコ動画で活動中

 ・素晴らしい曲

 

 これぐらい?

 

7:名無しの音楽好き

>>6

あざ

 

8:名無しの音楽好き

わかってること少ないのな

 

9:名無しの音楽好き

あんまり活動してないからね

 

10:名無しの音楽好き

一生聞きたい

 

11:名無しの音楽好き

>>10

わかる

 

12:名無しの音楽好き

>>10

わかる

 

13:名無しの音楽好き

>>10

わかる

 

14:名無しの音楽好き

あ、新曲上がった

 

15:名無しの音楽好き

>>14

え、まじ?

 

16:名無しの音楽好き

《>>15

マジ

 

17:名無しの音楽好き

聞かなきゃ

 

18:名無しの音楽好き

聞かなきゃ

 

19:名無しの音楽好き

聞かなきゃ

 

20:名無しの音楽好き

全員行ってて草

聞いてくる

 

21:名無しの音楽好き

>>20

当たり前だロォ??

 

22:名無しの音楽好き

何かもうすごい

 

23:名無しの音楽好き

歌、歌いたい!

 

24:名無しの音楽好き

>>23

音痴だからやめろ

 

25:名無しの音楽好き

>>23

酷い言われようで草

 

26:名無しの音楽好き

もう一曲も聞いたの?

 

27:名無しの音楽好き

聴いた

よかった

 

28:名無しの音楽好き

小学生並みの感想で草

でもわかる

 

29:名無しの音楽好き

わかんのかよw

 

30:名無しの音楽好き

 

 ◇ ◇ ◇

 

 【曲好きの】掲示板part21【広める】

 

354:名無しの音楽好き

やばい

 

355:名無しの音楽好き

何が?

 

356:名無しの音楽好き

羽毛の音さんの曲

 

357:名無しの音楽好き

あれ?更新来てる?

 

358:名無しの音楽好き

涙出たよ~

 

359:名無しの音楽好き

>>358

どっちの意味で?

 

360:名無しの音楽好き

>>359

どっちも

 

361:名無しの音楽好き

聞いてみるがよろし

 

362:名無しの音楽好き

百聞は一見に如かず

 

363:名無しの音楽好き

聴く方だけどなw

 

364:名無しの音楽好き

百見は一聞に如かず?

 

365:名無しの音楽好き

www

 

366:名無しの音楽好き

 

367:名無しの音楽好き

友達.......

 

368:名無しの音楽好き

大事にしなきゃな

 

369:名無しの音楽好き

友達っているだけで安心する

 

370:名無しの音楽好き

つかこの曲聴くだけで安心する

 

371:名無しの音楽好き

>>370

わかる

 

372:名無しの音楽好き

>>370

わかる

 

373:名無しの音楽好き

>>370

わかる

 

374:名無しの音楽好き

今すぐこの曲友達に聴かせる!

 

375:名無しの音楽好き

おう!そうだな

 

376:名無しの音楽好き

>>374

行け!光よりも速く!

 

377:名無しの音楽好き

>>376

ネタ古いなw

 

378:名無しの音楽好き

>>376

>>377

お前ら音楽の話しろよ

379:名無しの音楽好き

一緒に歌ってる人誰?

 

380:名無しの音楽好き

女であることは間違いない

 

381:名無しの音楽好き

>>380

それは誰でもわかる

 

382:名無しの音楽好き

良いな~一緒に歌いたい.......

 

383:名無しの音楽好き

>>382

やめとけ

足手まといになるだけだから

 

384:名無しの音楽好き

>>383

わかる

次元が違うよね

 

385:名無しの音楽好き

前の絵も凄かったな~

 

386:名無しの音楽好き

あれかな芸術姉妹?兄妹?なんかな

 

387:名無しの音楽好き

知らん

 

388:名無しの音楽好き

とりあえず曲を聴く

 




 こんなので良いのかな......。掲示板を見たことが無いからわからない.......。


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ⅩⅩⅠ、最期の痼

 更新です!お待たせしました!
 燐子さんとの会話がついにできます。ここの話じゃないけど


 僕の家の周辺は静かな住宅地だ。だけど、活気がない訳じゃない。近くには商店街があるし、回覧板を回したりしてご近所付き合いだとかでよく近所の人と話したりする。

 何故僕がこんな話を始めたのかと言うと────、

 

「はい! これ、鶏肉のももとむね肉ね」

 

「ありがとうございます。北沢さんのお肉は新鮮で美味しいから、本当に助かってます」

 

「あらあら。お世辞なんて良いのに。嬉しくなっちゃうわ~」

 

 そう言って手を頬に添える北沢さんのお母さん。お世辞じゃなく、本当に美味しいんだけどな......。

 

「ねぇ音羽くん。はぐみのお婿さんにならない?」

 

「あ、はは....」

 

 北沢さんのその言葉には苦笑いしか出ない。ここでお肉を買う度に言われている言葉だ。

 

「いつでもいいからね! またね!」

 

「はい、それでは」

 

 お茶を濁したまま、精肉店から離れる。次に向かったのは羽沢珈琲店だ。少し一休み入れるためだ。

 

 カランカランと扉を開けると、音が鳴る。店内はシックな感じで落ち着いている。窓際の四人席に向かい、外の景色が見れる窓の方に座った。幾つか四人席があったけど、特に決めていたとかはなく適当に決めた。

 

「いらっしゃいませー」

 

 店内から可愛らしくも、高く綺麗な声が聞こえた。

 パタパタと急いでやって来たのは、ここの制服を着た以前に会話した女の子だった。

 

「あれ? 羽沢さん......あぁ、そう言うことか」

 

「え、ええ!? 九重さん!?」

 

 榛色の瞳を大きく開けた羽沢さんが、焦るような雰囲気を出す。

 突然クルリと反対を向き、懐から手鏡を取りだし身嗜みを整え始めた。

 

うぅ......恥ずかしいよう.......。大丈夫かな? 

 

 小声で何かを言いながらモジモジしだした。

 

「あの~.......注文、良いかな?」

 

 声を掛ける。咎めるつもりはないけれど、店員としての対応をしてほしいです。

 

「あっ。は、はい! すみません!」

 

 謝りながら勢いよく振り返り頭を下げる。

 

「あぁ、別に気にしてないよ。それで、マスターのお好みブレンドを注文したいんだけど良いかな?」

 

「わ、わかりました! マスターのお好みブレンドですね! すぐにお持ちいたします!」

 

 焦るようにカウンターへと走っていく羽沢さん。走らなくても良いと思うんだけど。

 

「あなた......何してるの?」

 

 暇になったので外の景色を眺めていたら、頭上から呆れた声が聞こえた。

 顔を上げると、そこには歌姫と呼ばれつつある湊さんが立っていた。

 

「あっ湊さん。こんにちは」

 

「ええ。こんにちは」

 

 さっきの湊さんの発言をスルーして挨拶する。

 

「それで、何してたの?」

 

 スルーできなかった。

 

「いえ、特に何も」

 

「そんなわけないじゃない。あの娘、凄く赤い顔してたわよ?」

 

 知りません。そんなこと僕に聞かないでください。

 

「ただ注文しただけです。それ以外はしていません」

 

 うん。本当にそれ以外していないの。だから責めないで。僕も羽沢さんも責めないでください。と言うかさらりと僕の前に座らないでください。せめて一言言ってください。

 

「.......ふーん」

 

 何やらつまらなさそうな声が聞こえた。ん? と思って湊の顔を見ると、何とも表現し難い表情をしていた。つまらないとは違う顔。怒っているとも、悲しんでいるともとれる顔。

 

「.......どうかしたんですか?」

 

「え?」

 

 聞いてみるが、何を言われたのか理解できないと言った風な顔をされた。えぇ.....どゆこと? 

 

「......ご注文された品をお持ち致しました~」

 

 何ともか細い声で怖々と、羽沢さんが声を掛けてきた。

 

「うん。ありがとう」

 

 コーヒーが入ったカップとソーサーを手に取り、テーブルに置く。淹れたてなのか、湯気が立ち上っていて熱そうだ。

 冷ますためにもすぐには飲まない。.......何でアニメの中の人は熱々のコーヒーを飲めるのだろうか。

 

「........」

 

「........」

 

「........」

 

 3人とも黙る。えっ。何この空間。と言うか羽沢さんは仕事良いの? 

 

「.........」

 

「.........」

 

「.........」

 

 いや、だから何なんだこの空間は!? 湊さんは僕を見つめてるし羽沢さんも僕を見てるし。え? 何? 何か顔に付いてるの? 

 

「...........あの。羽沢さんはお仕事大丈夫なの?」

 

 堪えきれずにそう聞いた。

 

「はっ! す、すみません!」

 

 やっと気づいたのか、これまた焦るようにどこかへ行ってしまった。

 

「.........何かご用があって来たんですよね?」

 

「.........よくわかるわね」

 

「.......ええ、まぁ」

 

 だから誰でもわかりますって......。そんな聞いてくれオーラ一杯に出してたら何かあったんだなってわかりますよ? 

 

「........まだね、Roseliaには一つの痼......みたいなものがあるのよ」

 

 黙って湊さんの話を聞く。

 

「それが何かは私にはわからないわ。わからないけれど、抱えている人はわかる」

 

「........誰ですか?」

 

 一呼吸おいて、僕の目を見て言った。

 

「........氷川紗夜。あなたの高校の先輩で風紀委員をしているわ」



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ⅩⅩⅡ、風紀委員

 話の大部分がアイドルパイセン。
 活動報告にて曲の募集を行ってます。よろしくお願い致します。


 校門の前でいつも見かける。明るい黄緑の髪を持つ女性。黄緑と言うよりもエメラルドグリーンと言った方があっている気がする。

 見た目の性格は真面目。誰に対しても物怖じしない人。何事にも手を抜かない人と言った風だ。

 ただ、それは僕が彼女を一目見ただけで抱いた感想でしかない。

 

 もしかしたらフワフワのものが好きなのかもしれない。

 もしかしたら甘いものが好きなのかもしれない。

 もしかしたら動物を溺愛しているかもしれない。

 

 彼女と関わらなければ、それらの本当の性格を知ることはできない。

 

 見た目で判断する。それはとても酷いことだ。自分にとっても、相手にとっても。

 

 だから、話しかけたいのだけれど。

 

「おはようございます」

 

「おはようございます。先輩」

 

 何とも話しかけにくい雰囲気を持っていらっしゃる。

 うう~ん。難しい......。現状挨拶しかできていない。

 菓子折りと共に今度話してみるかな......? 

 

 コミュニケーションとは何とも難しいものだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そう言うわけで、コミュニケーションお化けこと丸山先輩にどうすれば良いか聞いてみた。

 

「どういうわけ!?」

 

「え? 何がです?」

 

 目の前のピンク髪を持つ元気一杯の先輩は休憩室の机をダァンッ! と叩いて立ち上がった。

 現在、ハンバーガーショップのアルバイトに来ている。そこそこの数を捌いて、少し疲労が貯まったので休憩に来たのだ。

 

「唐突に話振られても答えることできないよ!? 後私はコミュお化けじゃない!」

 

 ムキー! と言いながら反論する丸山先輩。

 

「まぁまぁ、プリンでも食べて落ち着いてください」

 

 保冷剤が入っている袋からスッとプリンを取りだし、差し出す。

 

「......ま、まぁ? 可愛い後輩の頼みだし? 聞いてあげなくもないよ?」

 

「それはよかったです」

 

 やはり食べ物は偉大なのだ......。

 

「それで、何を聞きたいの?」

 

 プリンをさっき渡したスプーンで食べながら聞いてきた。一口食べる度に顔を綻ばせているのが見ていて楽しい。

 

「仲良くするためにはどうすれば良いですか?」

 

「え......と?」

 

 言っている意味が分からないと言う風に、スプーンを口に咥えながら顔を傾げる丸山先輩。

 

「......ええっとですね。ある人とちょっと会話してみたいなって思ってるんですよ。あ、他意はないですよ? ただ単に仲良くしたいな~って」

 

「...................ほんと?」

 

 丸山先輩がジトッとした目で僕を見つめる。あれかな? 僕がその人を襲うとか考えてるのかな? 

 

「ほんとですよ」

 

 じっと彼女のネオンピンクスピネルの瞳を見つめる。

 う~ん。やっぱり綺麗だな~。と言うか皆の瞳全部綺麗だよね。......あれ? あれれ? え? ほんと? 

 

 僕が丸山先輩の瞳をじっと見つめていると、何故か彼女はそっぽを向いた。頬がほんのり赤みがかっている。

 

「......ええっと。わかったから見つめるのやめてもらえるかな?」

 

「はぁ......まぁ」

 

 とりあえずさっきの疑問は脇に追いやって、丸山先輩の話を聞く。

 

「話す切っ掛けだったよね? 一つ上の先輩か~。そうだね......共通の話題で話しかけるのはどう?」

 

 共通の話題......無いんじゃないかな? 

 

「私はそれぐらいしか思い付かないな~」

 

「そうですか......ありがとうございます。相談にのってくれて」

 

「いいよ~。後輩の相談にのるのも先輩の役目だし」

 

 解決になったかどうかはおいておこう。

 

「あ、聞いて良い?」

 

「何ですか?」

 

 丸山先輩がいつのまにか食べ終えていたプリンの器を差し出しながら、そう言った。

 

「スプーンは洗って返すね。......いつも来るもの拒まず去るもの追わずの姿勢の音羽君が何で今回はその先輩に積極的に関わろうとしてるの?」

 

 何故スプーンだけ......。いや、それよりも。

 

「そう......ですね。何となく......何となく、昔の僕と空気が似ているんですよ。だから、少し気になりました」

 

「ふーん......昔の音羽君ね~。あ、そうだ。その先輩のことについて聞いて良い?」

 

「良いですよ。名前知りませんけど。確かエメラルドグリーンの髪で若葉色? 萌黄色? どっちかは知りませんがそんな色でしたね。丸山先輩みたいに美人でしたよ」

 

 さらりと僕が言うと、大袈裟に驚くような仕草をした。

 

「いや、ええええええ!? なんで知らないの!? 知らないのに関わろうとしてるの!? ってあれ? その容姿って.....」

 

「丸山先輩。もう少し声を小さくしてください」

 

 あまりにも大きな声だったので、小さくするように言う。

 

「あっ、ご、ごめん」

 

 ハッと口を手で塞いで、浮いていた腰を椅子に戻す丸山先輩。しかし、すぐに頭を抱えた。

 

「いや、そうじゃなくて.....」

 

「あ、もう休憩時間終わりですね。じゃあ行ってきます」

 

「あ、ちょっ、ま! ......ううううううっ!」

 

 壁に掛けてある時計を見て、サッとプリンの器を鞄に入れ、表へと戻っていく。唸っている彼女を放置して。

 

 う~ん。やっぱり丸山先輩は揶揄うと面白いな~。

 

 僕が去った後の休憩室では、「あれ? 私美人って言われた?」と言う声が響いていたらしい。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 共通の話題......。一晩考えたけれど、結局相手のことを何も知らないので考えようが無いことが分かった。

 相談相手間違えたかな......? 

 学校に近づき、挨拶の声が聞こえてくる。目の前ではやはりあの先輩が立っていて、話しかけにくい雰囲気を出しながら挨拶をしている。

 

「おはようございます」

 

「おはようございます。先輩」

 

 今日もやはりと言うか、なんと言うか挨拶だけで終わってしまった。

 う~ん。どうすれば......。

 

「ちょっと」

 

「え? はい?」

 

 しかし、今日はそれだけではなかった。あの先輩に話しかけられたのだ。

 突然のことに僕は驚いた。足を止めて振り返る。

 

「貴方確か......CiRCLEで働いてるわよね?」

 

「ええ。はい。そうです」

 

 何で彼女が知っているのか? それは次の会話で分かった。

 

「......うちのリーダーを手助けしてくれて感謝するわ」

 

「うちのリーダー......?」

 

「湊さんよ」

 

「あぁ! ......ってことは、Roseliaの人なんですか?」

 

 手をポンっと叩き、頷く。

 先輩は頷き、頭を下げた。

 

「もう一度言うわ。湊さんを止めてくれて心から感謝しているわ。ありがとう」

 

 そう言う先輩だが、雰囲気が()()変わらない。

 まるで気にしていないと言うような感じだ。

 

「......ええ。わかりました。でも、貴方はどうなのですか?」

 

「は......?」

 

「先輩は何を抱えているんですか?」

 

「何を......?」

 

「それだけ、じゃないんですよね?」

 

「.......貴方に話すことは無いわ」

 

「......そうですか。わかりました。あ、僕の名前は九重音羽って言います。もしかしたらCiRCLEで会うかも知れませんね」

 

 言いながら手を差し出す。先輩はそれを一瞥し、僕の手を握った。

 

「......そうね。私の名前は氷川紗夜。見ての通りこの学校の風紀委員をしているわ」




 切りどころが悪くてちょっと長くなりました。これで少し話が進む.......と良いなぁ。
 早く問題全部片付けて日常会をやりたい。
 いっちゃいちゃは今のところポピパとしかしていない現状。どうすれば良いんだ......。

 まぁそんな感じですけどこれからも宜しくです。
 感想と評価とお気に入り登録待ってます!


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ⅩⅩⅢ、お手伝いとご飯

 実は未だにリサとは出会ってなかったりする。












 ……………志望校に落ちました。


 先輩に話しかけられた放課後。僕はいつも通り、帰宅の用意を始めた。

 今日はどのアルバイトも入っていないから、そのまま直で帰ることができる。

 

「あ、音羽ー!」

 

「ん?」

 

 と、筆箱を鞄に入れ終えたところで、僕を呼ぶ声が聞こえた。

 振り向くと、沙綾が僕を呼んでいた。

 

「今日って何か用事ある?」

 

 不安気に聞いてくる沙綾。カレンダーがついているメモ帳を鞄から取りだし、中を見る。今日の日付の場所を見ても、何も書かれていなかった。

 

「......うん。大丈夫だよ」

 

「やった!」

 

 僕が答えると、可愛らしく跳ねて喜んだ。

 それから気恥ずかしそうにもじもじしながら言ってきた。

 

「え、えっとね。実は.....」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「お買い上げありがとうございました」

 

 また一人、パンを買って行ったお客さんを見送る。それからまたすぐに次の作業へと移る。

 

「音羽。次、これを並べてくれる?」

 

 そう言って沙綾からパンが乗っているプレートを受け取る。

 僕が今居るのは、山吹ベーカリーと言うパン屋さんだ。実はここは沙綾のお家で、今日は両親が居ないから手伝って欲しいと言われたのだ。

 

「うん。わかった」

 

「ごめんね。お母さんが定期検診でお父さんもそれの付き添いでさ。忙しくて」

 

 申し訳なさそうに沙綾は言う。でも、僕は別に不満に思っているわけじゃない。だから。

 

「大丈夫だよ。忙しいのは仕方ないし。僕としては″ごめん″よりも″ありがとう″の方が嬉しいかな」

 

 笑顔を向けてそう言うと、沙綾は目を丸くさせてその後小さく笑った。

 

「......ふふっ。そっか。じゃあ″ありがとう″」

 

「うん!」

 

 それからお客さんを捌きながら、所々で会話して数時間が経過した。

 

「お疲れ様! 本当にありがとう!」

 

「いいよ。″友達″だし」

 

「......そっか。うん。()()()()ね」

 

 ......今はまだ? どう言う意味だろうか。少し考えるが、思い浮かぶものは無い。それほど重要にも思えなかったので、後回しにすることにした。

 

「それじゃあご飯にしよっか! 音羽も食べてってよ!」

 

 快活に笑って、エプロンを着ながら沙綾はそう言った。

 むむ。料理を作るなら僕が────。

 

「あ、手伝わないでね? 私の料理食べて欲しいから」

 

「えっ、あーうん。わかった」

 

 手伝わないでと言われて少し落ち込む。僕のアイデンティティが潰れたも同然だからだ。うう、しかし......。

 

「そうだ。待ってる間純と沙南の相手しててくれない?」

 

「うん。わかった。じゃあ待ってるね」

 

 僕はそう言って沙綾から離れ、遠巻きに僕を見る純くんと沙南ちゃんを手招きした。

 トコトコと二人が近寄ってくる。ただ、二人とも知らない人(僕)がどんな人なのかわからないのか、少々怯えている。

 

「こんにちわ」

 

「......こ、こんにちわ」

 

 挨拶をすると、純くんは恐る恐ると言った風に返してきて、沙南ちゃんは無言でお辞儀をした。ささっと純くんの背中に隠れたけど。

 

「僕の名前は九重音羽。多分これからも来ることになるから仲良くしてくれると嬉しいなぁ」

 

 僕が笑顔を向けながらそう言う。バイトが無い日だったらここを手伝おうと考えているから、この子達とも仲良くなっていた方が良いと思ったのだ。

 

「よ、よろしく.....」

 

 純くんが恐る恐ると言った風に右手を差し出してきた。なので、安心させる意味も込めて確りと握った。

 

「うん。よろしく」

 

 笑顔を向けながら言う。

 どこかの誰かが、笑顔は本来威嚇の意味があると言ったらしい。でも、誰かと心を通わせる為に笑顔は必要だ。だから、笑みというものは幾種類かのものがあるのだと思う。

 誰かが笑えば、また誰かが笑う。そこに威嚇の意味は必要だろうか? 必要な時もあるだろうけど、僕には必要ないと言える。誰かを怖がらせる笑みなんて────僕には、必要ないから。

 

「────うん!」

 

 純くんは、僕に飛びっきりの笑顔で応えてくれた。

 

「沙南ちゃんも、よろしくね?」

 

「.....」

 

 沙南ちゃんに振ると、サッと純くんの後ろに隠れてしまった。人見知りの激しい子なのかな。まぁ、おいおい仲良くなっていければ良いかな。

 

「三人ともー! ちょっと手伝ってー!」

 

 台所の方から沙綾の声が聞こえた。焦っている風ではないので、失敗をしたわけではないらしい。挨拶だけで時間が経っていたのか、それとも沙綾の作った料理が早く出来上がったのかわからないが、とても有意義な時間だった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 沙綾のご飯を食べて、山吹ベーカリーからお暇した。沙綾のご飯は、家庭の味がよくわかるものだった。下準備も確りしているし、味も匂いも申し分ないものだった。何故か沙綾は悔しがっていたけれど。

 別れ際に今度はご両親とも挨拶できたらなと口にしたら、沙綾は顔を紅潮させていた。慌てたように手を振り、もう少しだけ待っていてと言った。

 あれかな? 千紘さんの体調の関係かな? 

 そんな風に先程のことを振り返っていると、急に目の前に黒塗りの車が止まった。

 突然のことに驚き、立ち止まる。それがいけなかった。

 

「九重音羽様ですね? お迎えに上がりました」

 

 車の助手席や、運転席、後部座席から四人の黒服の人たちがゾロゾロと出てきた。

 

「え? あ、はい。そう、ですけど.....」

 

 何がなんだかわからない。何故僕の名前を知っているのか。この人たちはなんなのか。そう言えば何処かで見たことがあるような......。

 と、考えていると流れるような動作で後部座席まで移動させられ、両脇を黒服の方達に挟まれた。

 

「え? え? 何? 何ですか⁇」

 

 もう本当に混乱の極みである。どうやって車の中に入ったのか、座席に座ったのかすらわからない。そもそもこの集団の正体すらわからないのに、何が起きているのかなんてわかるわけもない。正体がわかったところで何をされたのかわかるのか、と言われるとわからないと答えるけど。

 

「それでは行きましょう」

 

 右隣にいる線の細い恐らく女性の黒服の人が言った。

 

「ど、どこに?」

 

 当然、僕は聞き返す。

 

「もちろん......『弦巻家』です。お嬢様がお呼びです」

 

 ────え?



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XXIV、弦巻家

 紗夜さんの話が進まないー。パスパレの話も入れたいー。でも、一番面白いのはハロハピとの絡みだと思う。


 ユラユラと視界が微かに揺れる。気にしなければ無問題な程だけれども。窓の外に視線を向けると、街の景色が流れていく。

 車内はと言うと────無音。無音だった。

 

 うわぁ。すごぉい。高級車ってこんなんなんだ……。

 

 山吹ベーカリーを出てから30分。時々信号で止まりながら、弦巻家へとこの車は向かっていた。

 車内に居るのは僕を除いて4人。……間違えた。黒服さんを入れれば7人。これだけ車内にいてもまだ少し余裕がある。なんだろうこの車。ドアが三列もあるし。あ、僕が座っているのは二列目左の席だ。因みに他の黒服さんは後ろの車に乗ってる。そっちは普通車だった。

 因みに車内に居るのは────、

 

「あれれ? なんでここに音羽がいるの?」

 

 北沢はぐみさん。座っているのは僕の右後ろ。

 

「あー、あんた大丈夫?」

 

 奥沢美咲さん。名前はさっき教えてもらった。心優しい人みたいで今も僕を心配してくれる。大丈夫です。席は僕の隣。

 

「ふええ……。音羽くんが遠い目してるよぉ……」

 

 松原花音先輩。ハンバーガー屋のアルバイトで何度かシフトを同じにしたので、顔見知り程度の関係だ。……今回のことで深く関わりそうだけど。席は僕の後ろ。

 

「唐突に連れてこられて呆然としている子犬ちゃん。あぁ、儚い……。子猫ちゃんでもいけそうだな……

 

 瀬田薫先輩。羽丘女子学園の演劇部に所属していて、女子人気が凄いそうだ。男装すれば男装の麗人になると僕も思う。後、最後に何を言ったんですか。ちょっと寒気がしたんですが。席は僕の前。

 最後列と運転席は黒服さんが座っている。

 

 そんな会話をしながら数十分。豪邸に着きました。

 

 唖然とするとはこのことか…………。

 まず、庭が広い。と言うか、庭を車で移動すると言う意味不明なことをしている。次に家。恐らく三階建てだと思うけれど、窓があり過ぎて正確に把握できない。縦だけじゃなく横も広いけれど。

 

「お待たせいたしました。どうぞ」

 

 黒服さんがドアを開けてくれて、外に出る。

 

「ありがとうございます」

 

 扉が、大きい……! 

 目の前には観音開き風の大きい扉。2、3メートルはありそうだ。

 

「あら、やっと来たのね! 待ちくたびれたわ!」

 

 大きな扉を潜ると(予想した通り観音開きだった)、物凄く広くて長い廊下の先から、弦巻さんがやって来た。

 服装は短パンとTシャツ。それだけなのに物凄くオシャレに見える。

 こっちよ、と弦巻さんに連れられて、僕たち5人は弦巻のお屋敷の中を歩く。何というか……圧巻だ。

 

「お父様! お母様! 皆んなが来たわ!」

 

 とある部屋の前で立ち止まり、扉を開けて弦巻さんが部屋の中に言い放つ。

 弦巻さんの後に続き、部屋の中に入った。中には、50代か40代くらいの男性と女性が椅子に腰掛けていた。

 

「やぁ、よく来てくれた! 私はこころの父だ」

 

 とてもダンディなおじ様だ。

 

「同じく、こころの母です」

 

 とても若々しい奥様だ。姉、と言えば通ってしまいそうなほど。……母さんもそうだけど、何でこんなに若々しいのだろうか。

 

「九重音羽です。本日はお招き頂きありがたく思います。どうぞよろしくお願いします」

 

 と言ってから頭を下げる。他の4人もそれぞれ挨拶をしていた。

 

「うむ。礼儀正しい子たちで何よりだ。だが、そんなに固くならんでもいい」

 

 弦巻さんのお父さんがそう言うが、すぐにリラックスは出来ない。カチコチに固まっているわけでもないけれど。

 

「さて! 皆んなも集まったし、早速始めましょう!」

 

 え、何を…………? 

 と、僕は固まり弦巻さんを見る。逆に弦巻さんも見つめてきた。弦巻さんのお父さんもお母さんも同様に僕を見る。瀬田先輩も松原先輩も奥沢さんも北沢さんも僕を見る。

 え? 何? 何ですか? 

 

「?」

 

 首を傾げながらニコリと弦巻さんに笑顔を返す。

 弦巻さんもニコリと笑って返してくれた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 静かに時が流れる。うん? 何? この時間? 

 

「……えーと、何をするんですか?」

 

 ガタタッ。

 

 耐えきれなくなって聞いてみる。すると見事に僕と黒服さんたち(部屋に入った時からいた)と弦巻さん以外は見事にずっこけた。

 

「あら? 伝えていなかったかしら?」

 

 弦巻さんが頭に疑問符を浮かべる。僕も浮かべたい。

 

「えーと……伝えられてないと言うか、何も知らずに突然此処に招待されたので……」

 

「そうだったわね!」

 

 えぇ……? そこで納得しちゃうの……? 

 

「音羽には料理を作ってもらいたいの! 何でもいいわ! 兎に角美味しいものを作って! 厨房や材料は好きに使ってもらって構わないから! 後、みんなを呼んだのは一緒に食べたいからよ!」

 

 何と言う無茶振り……! だけどできないことは無い…………! 

 

「……うん。わかった。じゃあ作らせて貰います。宜しいですか?」

 

 いつの間にかズッコケた体制から戻っていた弦巻さんのお父さんに聞く。

 

「あぁ、楽しみにしているよ」

 

 頷いて言われる。ニコッと笑った顔が大変弦巻さんに似ていました。

 黒服さんに案内されて厨房に向かう。

 出す料理を考えていると厨房に着き、中に入ると予想通り広かった。何人かの料理人さんもいた。

 料理人さんは味見兼手伝い役として控えているそうだ。

 料理人さんと挨拶を交わし、厨房に立つ。

 

 さて、それじゃあ料理を始めましょうか。




 さぁ!ハロハピへの餌付けが始まりますよ!


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ⅩⅩⅤ、弦巻の力(ご飯事情)

 タイトル通り(一部)


 今回作ろうと思うのは、『肉じゃが』だ。昔から肉じゃがはお嫁さんが作って、姑さんにOKを貰えば上出来嫁入りできるなどと言われている程、料理の腕が試されるものだ。

 そう言うわけで冷蔵庫を……。どこだろうか。

 

「あの、冷蔵庫って」

 

「冷蔵庫ならばこちらに」

 

 近くに控えていた料理人さんに聞く。示されたのは大きな鉄?でできたテレビでしか見たことがない冷蔵庫。こんなに大きくてスペースを余らせてやいないだろうか。と言うかこれほどの大きさのものに詰めていても何に使うのかさっぱり……あ、使用人さん方の為か。

 ガパリと開けて、中から必要なものを取り出す。……高級食材ばっかりなんですが。キャビアとかフォアグラとかトリュフとか、なんで世界三大珍味が揃ってるんですか?あと伊勢海老とか初めて生で見たのですが。いや、ほんと。なんで肉が超高級和牛しかないの?いくら探しても普通の肉が無いんですが……。

 仕方ない、あるもので作るしか……。

 

 用意するのは人参、じゃがいも、糸蒟蒻、サヤエンドウ、牛肉。

 人参、じゃがいもを一口大に切り、糸蒟蒻も食べれる長さに。サヤエンドウはしっかり洗って斜めに切る。

 幾つかの調味料を混ぜ合わせ、鍋に投入。後は煮る。じゃがいもが型崩れしないようにするのが大切だ。

 最後に味見して、味の調整をしてから完成。

 

 周りにいた料理人の方々に味見をしてもらう。

 

「う、うまい………」

 

「あぁ………素晴らしきかな………」

 

「……」(無言で涙を流す)

 

「………」(両手を組んで片膝立ちになり祈りを捧げている)

 

 何ですかこの反応は。え、とても怖いのですが。

 

「あの……持っていっても?」

 

 恐る恐る確認する。と、恐らく一番立場が高い人が答えてくれた。

 

「あぁ、申し訳ございません。私共も手伝わせていただきます」

 

 と、言って部屋にいる人数分よそって持って行った。

 部屋に入ると、いつの間にか大きなテーブルが設置されてあり、それを囲って談笑していた。

 

「肉じゃがお持ちしましたー。お口に合うかどうかは分かりませんが」

 

 と、料理人の方達に手伝ってもらいながら配膳する。

 

「大丈夫よ!あなたの料理は皆んなを笑顔にするのだから自信を持ちなさい!むしろ私の口の方をあなたの料理に合わせるわ!」

 

 天真爛漫なお嬢様が滅茶苦茶かっこいいことを言う。それはむしろ男性が言うセリフじゃないかなぁ?嬉しいけれど。

 

「おおー!美味しそう!」

 

 涎を垂らし、目をキラキラと輝かせる北沢さん。

 

「ふむ。この芳しい香り……まさに、儚いではないか!」

 

 大仰に肉じゃがを褒める瀬田先輩。違うと思います。

 

「お、美味しそうですね……。見てるだけで唾が溢れてきちゃいます」

 

 ジッと肉じゃがを見つめ、時折ゴクリと喉を鳴らす松原先輩。ありがとうございます。

 

「瀬田先輩じゃないですけど、匂いも良いですよね。お腹が空いてきちゃう」

 

 お腹をさすりながら肉じゃがから目を離さない奥沢さん。

 弦巻夫妻はニコニコ笑顔で無言ながらもその目は肉じゃがに釘付けだ。

 配膳が終わり、着席する。

 

「よし。それでは」

 

「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」

 

 8人全員が一斉に唱和する。あ、因みに食材が多く、弦巻夫妻にもどれだけ使ってくれても構わないと言われているので、この屋敷の使用人の人数分は作った。だからこそとても時間がかかったのだけれど。

 肉じゃがに舌鼓を打ちながら窓の外を見ると、夜の帷が下りていた。

 うーん。まさかここまで遅くなるとは………。

 

「む。もう遅い時間だな」

 

「すみません。作るのに遅くなってしまって」

 

「いや、良いさ。私たちも時間を選ばずに連れてきてしまったしな」

 

 因みに僕は既にご飯を食べた後なのでよそった肉じゃがはみんなよりも少ない。

 

「このまま泊まっていくかね?」

 

 弦巻さんのお父さんが僕を含めた5人に聞く。

 

「僕はお暇させていただきます」

 

「私たちは泊まらせていただきます。用意もしてあるので」

 

 代表して瀬田先輩が言う。なんだか様になってるなぁ。とってもカッコイイです。

 

「ふむ。じゃあ音羽くんが帰るのだな?送っていってやってくれ」

 

 弦巻さんのお父さんが黒服さんに向かって言う。

 え。いや、流石にそこまでお世話になるには……。と言おうとしたら遮られた。

 

「遠慮しなくていい。美味しい料理もいただけたし、何よりこころの友達だからな。それに……ちゃんと帰れるのかい?」

 

 最後の言に言葉を詰まらせる。

 うっ……それを言われると……。確かにここまでの道順は覚えきれていない。

 

「………じゃあ、お願いします」

 

「うん。肉じゃが、美味しかったぞ。また作ってくれ」

 

 ふとテーブルを見るといつの間にか肉じゃがが消えていた。あれ。配膳してからこの会話までそこまで時間経ってないよね?いつの間にか僕のも消えてるし。あ、北沢さんが口に手を当ててモグモグしてる……。いや、いいんだけどね。それを見て奥沢さんが怒った。

 

 これでお食事会はお開きとなった。なんだか最後がグダッたような気がしないでもないけど、気にしたら負けだと思う。

 

「それでは、失礼します。ありがとうございました」

 

 ペコリと頭を下げて、お礼の言葉を言う。

 

「うむ。またいつでも来てくれ」

 

「美味しかったわ。またいつでも遊びに来て下さいね」

 

 弦巻さんご夫妻がそう言ってくれる。なんとも心温まる夫婦だ。

 

「音羽!美味しかったわ!また作りに来なさい!」

 

「九重くん。今日は肉じゃがありがとうございました。また会いましょう」

 

「あぁ……こn……子犬ちゃんが離れていく。儚い……。美味しい料理をありがとう」

 

「あー……これからも大変だろうけど、ま、頑張って。後、肉じゃが美味しかったよ」

 

「うぅ……ごめんなさい。でも本当に美味しいの!今度ははぐみのお肉使って!」

 

 5人が5人の挨拶をする。北沢さん。謝らなくても良いですよ。僕は既にご飯食べたので。ついでにその発言は色々とダメだと思います。

 

「あら。なら私も用意するわ!」

 

 乗らないでください。この場が混沌とします。

 黒服さんが運転する黒塗りの車に乗り込み、窓を開けて手を振る。全員が手を振りかえしてくれて、ちょっと嬉しくなった。

 道中は何事もなく家に着き、黒服さんにお礼を言って手を振る。黒服さんも手を振りかえしてくれた。

 

 さて、母さんと舞にご飯作らなきゃ。

 何を作ろうか考えて、僕は家の扉を開けた。




 最近音楽載せてないなーと思ったので次回は音楽載せます。
 後ついでに紗夜さん関連で進展が………あるかも?


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ⅩⅩⅥ、四回目と唐突な……

 久しぶりに評価の項目を見てまいりました。評価10や9が多くて感激です!お気に入り登録者も……え?1500以上?あれ?いつの間にこんなに増えたんだ……。UAも140,000超え……。
 ありがとうございます!これからも頑張って書いていきます!
 感想も貰えたら超嬉しいです!


 今日はCircleにて収録です。明後日が母さんの誕生日なのでそれに見合った曲を弾こうかな、と思っている次第です。

 それは兎も角、今日部屋を借りに来たらまりなさんから「今度ガルパやることになったからよろしくね!」と言われた。ガルパって何ですか? 

 取り敢えずやることとしては参加者達の顔合わせと、音合わせらしい。僕がやるのは裏方だけど。

 

 椅子を用意してギターを一度鳴らす。弦の張りを調整して納得できる音にする。周囲にはドラム、ベース、シンセサイザーを置いている。ベースとギターは持ってきたものだけれど、ドラムとシンセサイザーはここにあったものだ。

 適当に一曲。特に問題もないようなので、他の楽器も試す。

 ふと視線を感じた。なんかこれデジャヴだなぁ……。

 ドアの方を見ると、ペリドットの瞳が二つこちらを見ていた。はい。見たことがある光景です。

 

「えーと……。氷川先輩? 何をしていらっしゃるんですか?」

 

 見ていても恐らく進展がないだけなので問いかける。ペリドットの瞳を持つ目は大きく開いて、ついで目を瞑った。

 氷川先輩は嘆息しながら部屋へと入ってきた。

 

「まさか……バレるだなんて」

 

 いや、わかると思いますよ? 後地味に怖かったです。

 

「貴方……ギターをしているの?」

 

 唐突な話題変換。無かったことにするんですね? 

 

「えぇ、まぁ……」

 

 僕がそう答えると、ふぅっと一度ため息をつき、髪を右耳にかける仕草をした。

 何か頼み事をされそうな雰囲気を感じる……。

 

「私に、ギターを教えてくれないかしら?」

 

 やっぱり……。今でさえ美竹さんの指導をしているのに更にって……。あの時は関わりたい一心だったけどまさかこんなことになるとは…………。

 何かで逸らせられないかな……動画で練習とか……? ニコ○コ……。

 ………………あ。

 

「ええっと、それなら僕よりも動画でも見て学んだ方が良いと思いますよ? ほら、ニ○ニコ動画とかで──ー」

 

「ニコニ◯動画?」

 

 僕の言葉に首を傾げる先輩。サラリと緑の髪が肩から落ちる。

 あ、そうですか。ネット関係は知らない人なんですね……。

 

「えーと、インターネットで調べてみてください。ニコ○コ動画は日本国内限定の動画投稿サイトですので、そこからまたギターの弾き方を調べてみるといいんじゃないでしょうか?」

 

「……そうなの。予習をしてこい、と言うことね」

 

「待ってください」

 

 何故に僕が面倒を見る前提なのでしょうか。これでも忙しい方ですよ? 流石にキャパオーバーしてしまいそうです。…………できることなら手助けしたいんですが。

 

「あら? 違ったかしら?」

 

 不思議そうな目で僕を見ないでください。誰もギターを教えるとは言ってません。そもそも氷川先輩はギター上手いですよね? 教える必要ありますか? 

 因みに、僕が氷川先輩の腕を知っているのは時々バンドで練習しているのを見ているからだ。もちろん直接会話したことは無いのだけれど。

 

「違います。僕は氷川先輩に教えられることはありませんから。そもそも十分な技量を持っていると思いますし」

 

「…………そう」

 

 あれ? 何か触れてはいけないものに触れてしまった? 

 氷川先輩は一気に気分を落として、ドアの方へ向かってしまった。

 

「ごめんなさいね。盗み聞きのようなことをしてしまって」

 

 そう一言言ってから廊下へと出てしまった。

 ──ー何だろうかこの空気。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 曲の収録が終わった後、近場のスーパーで買い物をしてから家に帰ってきた。

 家事をこなしてから宿題や勉強をすると、既に21時を回っていた。

 

「あ、もうこんな時間か〜。インしなきゃ」

 

 部屋にある一世代型落ちしたパソコンを立ち上げる。ブルーライトが僕の顔を照らし、ディスプレイに灯がつく。

 あるサイトを開き、ポチポチとマウスを動かす。

 そして始まるのは──ー今話題のゲーム『NFO』だった。

 

 僕がこのゲームを始めたのは、記憶を取り戻してから1年後の時だ。

 未だ別世界に渡り、また、前世の記憶が抜け切らず唯々諾々と過ごしていた時に母さんがその時の最新機種のパソコンを買ってきてくれて、このゲームを教えてくれた。それからどハマりしてずっと続けてきた。

 NFOと言うゲームは『Neo Fantasy Online』の略称で、ジャンルとしてはMMORPG。ネット上で他者との関わりを大事にするゲームだ。

 プレイヤーは個々人で職業が決められ、スキルなどを取っていき、レベルを上げていく。そしてクエストなどを受けて壮大なメインストーリーにいどんでいくのだ……と言っても、まだメインストーリーはおわっていないけれど。まだ中盤と言ったところかな? 

 また、このゲームにはランキングがあり、戦闘、生産などジャンル別にランキングが存在する。

 僕はそのランキングの中の総合ランキングという全ジャンルを総合的に見たランキングの第1位に3年前から居座り続けている。1位になるのは難しかったが1位を維持する方が難しい。

 

「あ、RinRinさんログインしてる」

 

 旅立ちの村と言う始まりの場所に僕はログインし、フレンドウィンドウを見ると、数少ないフレンドの内の一人であるRinRinさんがログインしているのがわかった。

 RinRinさんは僕が1位になった頃にプレイを始めた人で、僕が直接攻略方法を教えた人だ。初めの頃は人見知り気質であまりチャットをしない人だったけど、NFOの楽しさを知ったのか、段々と自分を曝け出せるようになった。

 ちなみに僕のフレンドの人数は両手の指で数えられる程度です。何でだろうね……。

 

 ナイン:こんばんは〜

 RinRin:こんばんは(^ ^)

 ナイン:今日はどうします? 

 RinRin:ナインさんはどこか行きたいところありますか? 

 ナイン:うーん。そう言われると無いんですよね。あこ姫さんが来てから決めますか? 

 RinRin:そうですね。ちょっと連絡とってみます

 ナイン:お願いします〜(^人^)

 

 あこ姫というのは、プレイヤーネーム:聖堕天使あこ姫の略称で、少しアレな感じの人だけど偶に語彙が足りなくてRinRinさんに頼っている人だ。そんなところが可愛い人だけど。RinRinさんとはリアルの友人らしい。あこ姫さんとはRinRinさんの少し後に会って、今ではこの3人で活動するのがほとんどだ。もちろん、他のフレンドと会ったり、ソロで行ったり、あんまりしないけれど野良なんてこともしたりする。

 

「今晩も楽しくなりそう」

 

 僕は画面を見つめながら、これからのチャットの内容に心躍らせた。




 拙い文章ですが書ききりました……!そしてやっとこさ燐子さんを入れられた……!めっちゃ前にアンケート入れてたのに全然入れられなかったから、挿入できて良かったです。
 これからはちょくちょく入れていきたいと思います。できればの話ですが。
 久々ですが感謝を!(以前にも載せた方がいらっしゃいますがそこはご愛嬌ということで)
 評価:☆10 ルナルティア★様 カイリ21様 霧島 紅夜様 イーリアス様 サタナキア様 CXT様  ドラリオン様 ゼーロー様 黒龍蓮様 ゴー☆太様 りんりん大好きな人様 妖魔 桜様 スクイッド様 
 ☆9 あっちゃんWTマークⅡセカンド様 紺華様 医道様 邪神イリス様 マ田力様 明日のやたからす様 sakura3953様 迅雷 駿河様 帆夢羅様 絶望したカービィ様 いい感じに爆ぜるブラキディオス様 takatti様 ironika様 ディザスダー様 nesuto様 エヌラス様 世紀末敗者寸前様 逆行したら野球がしたい様 アヤナイト様 ELZ様 くろみつ様 サバ味噌缶様 アダムス様 喰鮫様 こーくん様 氷帝様 ユウキ、様 格差社会の塵芥様 真・オタク無双様 スーパーラッキーボーイ様 名も無き理想郷様 むにえる様 松泉 実様 半熟梅様 マーボー神父様 シトリン様 Kiriya@Roselia箱推し様 ワン01様 新郷遊佐海様 風見なぎと様 ポテトヘッダー様 くるみ割り人形様 鯵の素様 智如様 ウルポックル様 megane/zero様 ティアナ000782様 神威結月様 プロスペシャル様
 ☆8 怪猫蜜佳様 Memori様 まっちゃんのポテトMサイズ様 とあるP様 ユー1234様 鵞王様 元天パ様 RtoN様 冷たい雨様
 ☆7 グリグラ様 シフォンケーキ様 鬼縞龍二様 すぐる様 風宮若菜様 元ヒカセン様
 ☆6 アーシェス君様 タイヨー様 ryougetsu様 爆弾様 zyosui様 Vezasu様 わっふー様
 ☆5 蓮兎様 琥耀様 ぽん吉様 ☆4 地底産名無し様 蜂蜜梅様
 ☆3 螇蚸様 IT06様 ケチャップの伝道師様
 ☆1 海老ピラフ様 鶏そぼろん様 目路輪様 けーん様 遠慮は無しだ様 Luzile様 SL20様
 また、お気に入り登録をしてくださった皆々様、ありがとうございます!感想もらえたら嬉しいです!ではまた次回!


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ⅩⅩⅦ、Pastel*Palettes始動

 今回は少し短いです


 ザーザーと雨が降る。

 持っているチラシはビニール袋で雨から守りながらも、私自身は濡れている。

 

 傘なんてさせない。そんなものをさしながらチラシなんて配らない。

 

 なんでこうなったんだろう。

 

 なんでこうなってしまったのだろう。

 

 世の中全て、上手くいくわけがない。そんなのは初めから知っていた筈なのに。

 

 私の近くを多くの人が通り抜けていく。チラシを渡そうにも、一瞥するだけで受け取ってくれる人はいない。

 居たとしても、私やチラシに書かれてある文字を見て紙を捨てる。

 

 今までで、これほど悔しくて、悲しいことなんて無かった。

 泣きたくて、泣きたくて、でも、私だけ泣くなんて許されない。

 皆、頑張っているんだ。耐えているんだ。だから、私が挫けるわけにはいかない。

 

 暴言を吐く人がいた。ヘラヘラと笑いながら目の前でチラシを捨てた人がいた。表面上はにこやかに受け取っても、ゴミ箱に丸めて捨てている人がいた。わざとぶつかって手に持つチラシを地に広げる人がいた。それを踏む人がいた。助けてくれない人がいた。見てくれない人がいた。

 

 あぁ…………私は、何の為に────。

 

「大丈夫ですか? 傘をささないと風邪をひきますよ?」

 

 黒く、大きな傘の中に私を入れる男性。恐らく、同学年の男の子。男の子は私に傘を渡し、地面を見た。

 

「あぁ……チラシが散らばってるんですね。手伝います」

 

 そう言って雨に濡れたチラシを拾い集める。

 

「あっ、あの…………」

 

 この人なら受け取ってくれるだろうか? 来てくれるだろうか? 聴いてくれるだろうか? そんな期待が心の奥底から浮かび上がってくる。

 ダメ。期待してはいけない。私は、何度も期待して、裏切られた。割り切った筈だ。だって、私は子供の頃からそう言うところに身を置いているから。

 期待しない。きっと彼も、私やこのチラシを見て幻滅し、離れていく。

 私は唇をキツく結びながら、無言でチラシを拾った。

 

「これで全部ですかね?」

 

「ええ。ありがとう」

 

 数分もせずに散らばったチラシを回収し、お礼を言う。雨に濡れてしまったチラシはもう使えない。戻って新しいのを取ってこなければ。

 それじゃあ、と傘を返して彼から離れようとした。

 

「これ。この日にやっているんですか?」

 

 そう声をかけられた。一瞬、心臓が止まった。

 違う。違う。彼も同じだ。きっと。だから、期待するな。

 

「ええ。はい。全部チラシに書いてある通りです」

 

 表面上は繕って、淡々と言う。彼に付き合っている暇はない。早く戻ってチラシを配らなきゃ。

 

「じゃあ、聴きに行きますね」

 

 そう言って彼は何処かへと去っていった。いつの間にか雨は止んでいて、雲間から溢れる光が、私のことを照らしていた。

 それはあたかも神から救いの手がさしのべられたような光だった。

 

 

 

 

 

 

 

 あっ、彼、傘忘れてる。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 昨日、母さんの誕生日プレゼントを買いに行った時、凄く綺麗な人が倒れていてビックリした。

 何で周りの人は助けないんだろうと思ったけど、どうやら怪我をしたり何かしら病気があって倒れた訳ではないらしかった。誰かにぶつかったりしたのかな……? 

 雨が降っているのに傘もさしていなかったので、少し心配になり、安否確認をした。この時期は風邪も流行るので傘を持たずにいたことにもまた驚いた。

 どうやら女性はチラシを配っていたらしく、どこかのアルバイトなのか少々派手な服を着ていた。

 散らばったチラシを拾うのを手伝う。その時にチラシの内容が目に入った。

 Pastel*Palettesと言うバンド系アイドル? がライブを開くらしい。チラシには目の前の人も写っているので、この人もこのPastel*Palettesのメンバーなのだろう。

 この世界のバンドは一度も聴いたことがないので、これを機会に行ってみようと思った。コピーが主らしいけど。

 チラシを一枚だけ貰い、少し会話をしてから百貨店に向かった。

 会話している間に雨が上がったのか、お日様が見えていた。

 後はプレゼントを買って、家に帰った。家に着いた時に傘を忘れていたのを思い出して嘆いたりもしたけど。

 

 あ、因みにプレゼントを渡した後に一昨日撮った歌を歌うと滂沱の涙を流しながら喜ばれました。

 ちょっ! 鼻水つけないで!



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ⅩⅩⅧ、四回目の反応

 母親の誕生日の日に投稿した動画の反応






 ………間違えた。出す時間間違えた。


 とある二人組。

 

「おっ、更新来てるぞ!」

 

「マジか! 今回は……?」

 

「HoneyWorksシリーズ? とSAOシリーズか……」

 

「あ、今回はメッセージがある!」

 

「マジだ!」

 

 ──────

 初めまして。羽毛の音(フェザー・サウンド)です。いつも私が上げた曲を聴いてくださり誠にありがとうございます。私が今までここに上げた曲は全て私ではなく他の方が考え作曲し作詞したものです。全て名曲ですがその中でも皆様に聴いて欲しいと思ったものを上げております。そして今回は、先日母に送った曲を上げております。どうか大切な人、愛する人たちに聴かせてあげてください。曲名は「幸せ」。家族を愛し、幸福を感じる曲です。また、他にも名曲を載せておりますので、どうかそちらもよろしくお願いします。ここまで読んでくださりありがとうございました。

 ──────

 

「……へ~。世界にはすごい人たちがまだまだいるんだなぁ」

 

「ま、それでも羽毛の音も凄いと思うけどな」

 

「だよなぁ……!」

 

「うんうん。だって滅茶苦茶澄んだ声だし、ミスなんかしてないし。調音も完璧だし。俺ギター一回やってみたけど歪みとか色々機材があって途中で断念したんだよなぁ……」

 

「マジかよ! お前俺とおんなじこと考えてたのかよw」

 

「え。ってことはお前も?」

 

「俺はギターじゃなくてキーボード。昔ピアノやってたからいけるかなって。久しぶりだったから滅茶苦茶音外したけどな!」

 

「ぶふっ。マジかよw」

 

「お前も一緒だぞ? 途中で断念しやがって」

 

「すまんすまん。でもそうだな……もう一回やってみるかな」

 

「ま、まずは聞かなきゃな!」

 

「おう!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 とある四人組。

 

「…………あっ❤︎」

 

「え? 何? どうしたの⁇」

 

「な、何かあったの?」

 

「……先生呼んできて、ミっちゃん」

 

「りょー」

 

「え? な、なんで?」

 

「……全員、集え!」

 

「またなんかおかしくなった……」

 

「あ、あれ? 皆さんどうしたのですか?」

 

「ん? あれ、まっしー?」

 

「ま、まっしー?」

 

「あー。あまり気にしなくて良いですよ。この娘はいつもこうなので」

 

「で。まっしー。どったの?」

 

「いえ、先生のお手伝いをしていて残っていたら教室から話し声が聞こえまして……あ、それと的場さんはどうされたのですか? 急いで出て行かれましたけれど」

 

「あーあれはユウちゃんが先生呼んでって言ったから」

 

「ユウちゃん……? ってえ────」

 

「まっしーも、聴く?」

 

「え? え? な、え?」

 

「あーはいはい。困ってるからちょっと離れようね」

 

「聴くってことはまさか…………?」

 

「……そう!」

 

「yahooo!」

 

「yahooo!」

 

「えっ。えっ? ええ? え?」

 

「あー大丈夫。大丈夫だから。無視してて良いから。あっそうだ、コノちゃんが来るまでお喋りしようよ」

 

「あっ、そ、そうですね。えっと、コノちゃんって言うのは……?」

 

「あー的場木葉だからコノちゃん。私達幼馴染でさっ。だからめっちゃ仲良いんだ」

 

「そうなんですね……」

 

「あー……私もまっしーって呼んで良いかな?」

 

「え、あ、はい! どうぞ!」

 

「あ、私はユノで良いよ。そうだ、まっしーの好きなものって?」

 

「え? えっとビーフシチュー……ですかね」

 

「へー! ビーフシチュー……! 美味しいよねー。因みに私はねぇ、唐揚げが好き」

 

「唐揚げですか……美味しいですよね!」

 

「うんうん。美味しいよね。家で作るよりも店売りの方が私は好き」

 

「そうなんですか? 私は家で作りますね。好きな味にできるので」

 

「あー。わかるねぇ」

 

「ただいまー。先生連れてきたよー!」

 

「どうしたの? 呼び出して」

 

「……来た! 皆、集まれ!」

 

「さっ、行くよ」

 

「え? え?」

 

「おー」

 

「皆! 輪になって!」

 

「あら? 貴女────()()()()()さん……だったかしら?」

 

「え、あ、はい!」

 

「ふふ。そう固くならなくて良いわよ」

 

「あっ……はい」

 

「それで、どうしたのかしら? 遠藤さん」

 

「…………なんと、羽毛の音(フェザー・サウンド)さんの曲の更新がああああ!」

 

「「「な、なんだってー⁉︎」」」

 

「え、えっと……え? 誰ですか?」

 

「まぁ、聴こうよ。誰かはその後教えるから」

 

「へ? は、はい」

 

「……それじゃあ、聴こうか」




 明けましておめでとうございます!本年もよろしくお願いします!


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ⅩⅩⅨ、四回目の掲示板

 バトルシーンを書きたい。こう、途中で覚醒したりして先の展開が読めないようなバトルシーンを書きたい。どうしようかな……。









 また投稿時間間違えた………( ;∀;)


【凄く】羽毛の音楽(フェザーサウンド)について語るスレPart2【ヤバい】

 

54:名無しの羽毛好き

 

 キタ──────! 

 

55:名無しの羽毛好き

 

 何? 

 

56:名無しの羽毛好き

 

 どした

 

57:名無しの羽毛好き

 

 キタ──────! 

 

58:名無しの羽毛好き

 

 ??? 

 

59:名無しの羽毛好き

 

 キタ──────! 

 

60:名無しの羽毛好き

 

 説明せぇよ! 

 

61:名無しの羽毛好き

 

 更新

 この言葉だけでわかるだろう? 

 

62:名無しの羽毛好き

 

 キタ──────! 

 

63:名無しの羽毛好き

 

 ♪ ───O(≧∇≦)O────♪ 

 

64:名無しの羽毛好き

 

 顔文字がいやがるw

 

65:名無しの羽毛好き

 

 キタ──────! 

 

66:名無しの羽毛好き

 

 ほとんどがキタ──────! で埋まってる

 

67:名無しの羽毛好き

 

 今回はHoneyWorksシリーズ? 

 

68:名無しの羽毛好き

 

 なに、それ? 

 

69:名無しの羽毛好き

 

 さぁ? ʅ(◞‿◟)ʃ

 

70:名無しの羽毛好き

 

 その顔文字ウゼェ

 

71:名無しの羽毛好き

 

 後SAOシリーズだって

 

72:名無しの羽毛好き

 

 曲名は? 

 

73:名無しの羽毛好き

 

 えっとHoneyWorksシリーズの方が『幸せ』って曲

 で、SAOシリーズの方は『crossing field』と『ユメセカイ』の二曲

 

74:名無しの羽毛好き

 

 ホーン

 

75:名無しの羽毛好き

 

 >>74

 何目線? 

 

76:名無しの羽毛好き

 

 まぁちと聴いてみようぜ

 

77:名無しの羽毛好き

 

 >>76

 だから誰(ry

 

78:名無しの羽毛好き

 

 スゲェ名曲ダァ……

 

79:名無しの羽毛好き

 

 もう聴いてきたのか

 

80:名無しの羽毛好き

 

 これは……ちょっと結婚式の時とかに歌いたいな

 

81:名無しの羽毛好き

 

 いやいや、感謝してる時に歌うもんでしょ

 

82:名無しの羽毛好き

 

 1番が親向けで2番が子供か

 

83:名無しの羽毛好き

 

 名曲確定

 

84:名無しの羽毛好き

 

 神曲ダロォ? 

 

85:名無しの羽毛好き

 

 それだ! 

 

86:名無しの羽毛好き

 

 正しく

 

87:名無しの羽毛好き

 

 というか羽毛の音楽の曲は全部神曲

 

88:名無しの羽毛好き

 

 それな

 

89:名無しの羽毛好き

 

 わかるわ

 

90:名無しの好き

 

 わかりみ

 

91:名無しの羽毛好き

 

 段々と曲増えてきたな〜うれぴ

 

 ◇ ◇ ◇

 

【外が】掲示板Part35【騒がしい】

 

289:名無しの音楽好き

 

 羽毛の音楽(フェーザー・サウンド)の更新北

 

290:名無しの音楽好き

 

 え? マジ? 

 

291:名無しの音楽好き

 

 マジだ

 

292:名無しの音楽好き

 

 crossing fieldいいな〜

 

293:名無しの音楽好き

 

 ユメセカイもしっとりした感じで……

 

294:名無しの音楽好き

 

 最後の響いてる〜のところ好き

 

295:名無しの音楽好き

 

 わかる

 

296:名無しの音楽好き

 

 わかる

 

297:名無しの音楽好き

 

 わかる

 

298:名無しの音楽好き

 

 そういやさ

 海外がなんか騒がしいって? 

 

299:名無しの音楽好き

 

 あ〜確かどっかの国が経済破綻したんだっけ? 

 

300:名無しの音楽好き

 

 おいここ音楽のスレだぞ

 

301:名無しの音楽好き

 

 スレチ

 

302:名無しの音楽好き

 

 テレビとかに出ないのかな

 

303:名無しの音楽好き

 

 >>302

 何が? 

 

304:名無しの音楽好き

 

 羽毛の音楽でしょ? 

 

305:名無しの音楽好き

 

 あ〜

 そういえばキセキで一回特集されたね

 

306:名無しの音楽好き

 

 もうそう言う時代になってきたのか

 

307:名無しの音楽好き

 

 バンドとかしてるのかな

 

308:名無しの音楽好き

 

 あーどうだろ

 複数人はいそうだけど

 

309:名無しの音楽好き

 

 ドラマとキーボードとギターとベース? 

 

310:名無しの音楽好き

 

 そう言えば前のやつ女の声入ってたね

 

311:名無しの音楽好き

 

 一時期荒れたやつ? 

 

312:名無しの音楽好き

 

 そもそも羽毛の音楽は男なのか疑惑

 

313:名無しの音楽好き

 

 いや

 男じゃない? 

 

314:名無しの音楽好き

 

 男の娘の可能性も! 

 

315:名無しの音楽好き

 

 変態

 

316:名無しの音楽好き

 

 変態

 

317:名無しの音楽好き

 

 変態

 

318:名無しの音楽好き

 

 HENTAI

 

319:名無しの音楽好き

 

 話題が全部変態に持っていかれてるw

 

320:名無しの音楽好き

 

 ライブとかやってほしいぃぃ! 

 

321:名無しの音楽好き

 

 あーわかる

 

322:名無しの音楽好き

 

 あんたら読んでないの? 

 

323:名無しの音楽好き

 

 ん? 何を? 

 

324:名無しの音楽好き

 

 待って

 ごちゃごちゃしてる

 

325:名無しの音楽好き

 

 メッセージ文みたいなの

 

326:名無しの音楽好き

 

 読んできた

 世界には凄い人たちがいるんだな〜

 

327:名無しの音楽好き

 

 ところでSAOってなんだ

 読みは「さお」? 

 

328:名無しの音楽好き

 

 まんまエスエーオーじゃねぇの? 

 

329:名無しの音楽好き

 

 女性に一票

 

330:名無しの音楽好き

 

 唐突に話ぶった切んなよw

 

331:名無しの音楽好き

 

 訳わかんなくなってきた

 




 大学入学共通テストが終わりましたね。
 この後は一般だァ……_:(´ཀ`」 ∠):

 早くガルパやりたいです……あと艦これも


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ⅩⅩⅩ、更なる仕事

 30話超えましたね。展開おっっっっっそ!



 アニメ見て蜘蛛さんWeb読んでたので遅くなりました。まぁ書いてる途中の奴が消えてモチベが下がったのもありますが。


 スタスタと帰り道を歩く。

 閑静な住宅街で、あまり人がいない。

 私はそんな街中を歩きながら先程のやりとりを思い出していた。

 

 彼でもダメだった。彼も、同じことを言った。

 

『自分に教えられることは、何も無い』と。

 

 何故だろうか。だってこんなにも私と彼らでは"音"が違う。

 弾いている音は同じでも、感じられる"何か"が違う。

 

 どうして彼らには弾けて、私には弾けないのだろうか。

 

 私と彼らに、どんな違いがあるのだろうか。

 

 考えながら歩いているといつの間にか家の前まで来ていた。

 思考を打ち切って扉を開ける。

 

「……ただいま」

 

「あれー? おねーちゃん? おかえりなさい!」

 

 ぽそりと呟くように言うと、耳聡いのか、元気な声がリビングから聞こえてきた。……あまり、聞きたくない声が。

 

「…………ええ、ただいま」

 

 リビングの扉を開けて出てきた妹───日菜に目も合わせずに言うと、足早に自分の部屋へと向かった。

 部屋に入るとすぐさま扉を閉め、入ってこれないようにする。

 

 日菜とこうするようになったのは、いつからだっただろうか。

 日菜は天才だった。やることなすこと全てを瞬時にマスターしていく。努力が必要ないほどの、天才だった。だから、私が劣等感を抱いてしまうのは必然だったと言える。

 双子でも、一足先に生まれたから姉の矜持を見せる為に何かに手を出しては習熟して、日菜に教えていた。

 日菜はそんな私を見て、真似をしたりして成長した。

 だけど、私はそこで格差を知った。

 

 日菜は天才だった。

 真似をし始めたものを短期間でマスターし、更にその上をいってしまうのだ。

 私は先に始めたアドバンテージがあるが、すぐに追い越されてしまう。

 勉強も運動も、果ては芸術まで。

 

 何をしても、すぐに追いつかれ、マスターしてしまう。

 日菜は何も悪くないのに、その才能に嫉妬してしまう。

 

 そんな私が、私は嫌いだった。

 

 勝手に妬んで、嫉んで。日菜は、何も悪くないのに。

 

 私が何かを始めると、真似をして同じことを始める。そしてその才能で私を追い越し、習熟する。私はまた他のことを始めて、また日菜が真似をする。

 

 

 その様はまるで───「太陽」に追い立てられて逃げ惑う「夜」だった。

 

 それに気づいて、私は、私達の名前が嫌いになった。

 

 いつの間にかベッドの上で膝を抱えて蹲っていた。外はもう既に暗く、街灯がポツポツと点き始めていた。

 

「あぁ……そういえば」

 

 私は数時間前のことを思い出し、ベッドから降りて部屋に備え付けられてあるパソコンを立ち上げた。

 彼も同じだった。

 みんな言う。既に技量が高くて教えることがない、と。

 そんな筈は無い。だって日菜だったら軽く超えてくるだろうから。

 だからか、私の音には、何かが足りない。

 動画を見始める。

 他の人の音を聴いて、それがよくわかる。

 

 私には、一体───何が足りないの? 

 

 ◇ ◇ ◇

 

「これ、作ってきた」

 

「うん? じゃあ聴いてみようかな」

 

 髪に赤いメッシュが入った少女───美竹さんからプレーヤーを手渡しで貰い、早速イヤホンを耳につけて音楽を流す。

 今日はCircleでの指導の会で、美竹さんに作曲の作り方を教えている。

 

「うん。いい感じだね」

 

 イヤホンから聴こえてくるのは軽快な音で、悪い、と言えるものでは無かった。元々才能があったのかな? 数週間でマスターするとは。

 

「ほんと? ふふ、やったっ」

 

 満面の笑顔で喜ぶ美竹さん。あんまり笑顔を見せてくれることがないのでとても貴重だ。貴重なんだけど……訂正箇所が幾つかあるんだよね。うん。ごめんね。

 

「うん。でもこことかは───」

 

「えっ、あ、うん」

 

 でもって言った瞬間若干落ち込むけれど、すぐに真剣な顔になって僕の話を聞いてくれる。

 落ち込んだ時に少し心苦しくなるけど、すぐさま真剣になってくれるので、こちらも真剣に対応する。

 

「例えば───」

 

 何処を訂正するのか、どう訂正するのか、最初の一つだけ指摘して他にないかを考えさせる。僕はそんな風に指導していた。

 と言うのも、かの有名な山本五十六の名言「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば人は動かじ」を実践しているのだ。これが中々難しいのだけど。

 

「なら───」

 

 訂正して、聴いてを繰り返して小一時間。

 遂に曲が完成した。まぁ歌詞が無いので音だけなのだけれど。

 因みにこの曲は一から作った奴だ。初めは既にある曲を作って、次にその曲を自分で変えたもの。と言う風に段階的にしていった。

 

「ありがとう!」

 

「どういたしまして」

 

 満面の笑みでお礼を言ってくれるので、僕も釣られて嬉しくなる。

 

「あ、そうだ。あの、お願いがあるんだけど……」

 

 と、何かを思い出したのか美竹さんは不安気な表情で、僕にお願いをしてきた。

 

「その、アフグロのバンドリーダー───上原ひまりにも、歌詞について教えてくれませんか⁉︎」

 

「え? アフグロのバンドリーダーって上原さんだったの⁉︎」

 

「え? うん。そうだけど……」

 

 美竹さんじゃなくて⁉︎うわぁお。マジかー……。

 

「それで……どう?」

 

「え? あ、うん。いいけど……」

 

 衝撃が強すぎて気のない返事をしてしまう。

 

「……よし。早速連絡しなきゃ」

 

 …………あれ? 僕仕事増やした?




 大分蘭ちゃんの性格変わったなぁ……。まぁいいや。
 因みに私も初めは蘭ちゃんがリーダーだと思ってました。ひまりなんだね……。


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ⅩⅩⅩⅠ、挨拶は大事

 挨拶は大事。その日一日は"おはよう"から始まる。


 ステージが暗くなる。スポットライトが消えて、会場が暗闇から解放される。

 私は目を瞑っていた。

 その理由は現実を直視したく無かったからか、はたまた───。

 

 やはり誰もいないのではないだろうか。ステージから見た人影は数人ほどしか居なかった。そして、度々出ていく音が聞こえた。

 なら、当然のように誰もいない筈だ。

 私たちは、ここで終わる。このアイドルバンドは、今日をもって───。

 

 

 ────パチパチパチパチ。

 

 

「───え?」

 

 それは誰があげたのか、私にはわからない。もしかしたら私かもしれないし、イヴちゃんかもしれない。でも、そんなことは今どうでもいい。

 私は俯いていた頭を勢いよく上げ、目の前を見る。

 そこにはたった一人の男性が立っていた。

 その人が、手を叩いていた。

 何処かで見たことのある顔。何処かで見たことのある柔和な表情。

 そして───、

 

「素晴らしかったです」

 

 ───何処かで聞いたことのある、耳心地の良い声だった。

 

「な、んで」

 

 彩ちゃんが声を上げる。その顔は驚愕に染まっていて、ポロポロと涙が溢れていた。

 

「そちらの方に誘ってもらったんです」

 

 そう言って彼は私を手で示した。それだけで何故か私の心は救われた気がした。今まで、こんなことは無かったのに。

 

「と言うか若宮さんもアイドルだったんですね。知りませんでした」

 

 そう言って彼は彩ちゃんに向けていた優しい眼差しを私の背後にいる───イヴちゃんに向けた。

 

「あっ、は、い!」

 

 涙声で、空気を求めるような声で、彼に返事をした。

 どうして彼はここに来たのだろう。どうして彼は最後まで残ってくれたのだろう。疑問が尽きない。

 

「えーと。この後って何かあるんでしょうか?」

 

 私たち全員が黙っていると、困惑した声が聞こえてきた。

 今日はこの後、何かあったかしら? 

 全員が顔を見合わせる。

 皆のその顔はどうしようと言う感情に塗れていた。私も同じ顔をしているかもしれない。

 誰かが残るなんて考えてもいなかったから特に予定とかは無かった筈だ。

 

 でも、このまま帰りたくない。

 その感情は皆一致していた。

 

「そうだ───私たちの、音楽はどうでしたか?」

 

 私は咄嗟に思いついた評価のことを聞く。

 皆の顔に緊張が過ぎる。

 

「うーん。そうですねー」

 

 彼は悩むように言い、一瞬私達をチラリと見た。

 ゴクリと唾を飲み込む。

 何を言われるのだろう。さっきは素晴らしかったと言っていたが、本当はどうなのだろうか。辛辣な言葉を投げ掛けられるのだろうか。それとも甘い甘い嘘を言われるのだろうか。

 どっちにしても────苦しい。

 

「改善点は多くありますが───いい音が出ていて、聴き惚れてしまいました」

 

 それは私が予想したものと、全く違っていた。

 厳しい言葉でもあるが、その本心が伝わってくる言葉でもあった。

 

 ポタポタと手に雫が落ちていく。

 振り返ると皆も彼を見て、泣いていた。

 

 何だろうか、これは。今まで、こんな感情は味わったことが無かった。

 形容し難い。言葉で言い表せない。

 ただただ涙が流れていく。せめて機材や楽器に当たらないように。

 

 私たちはその日から、本格的にバンド活動を始めることになった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「音羽くーん!」

 

 通学路を歩いていると、背後から僕を呼ぶ声が聞こえた。

 振り返ると少し遠くの所にぴょこぴょこ動く猫耳のような髪を揺らし手を振ってくる少女と、人の視線から逃れるように恐々と歩く少女がいた。

 

「戸山さん! 市ヶ谷さん! おはよう」

 

「おはよう!」

 

「……お、おはよ」

 

 戸山さんが元気よく挨拶をし、市ヶ谷さんがぎこちなくもしっかりと挨拶をしてくれる。それだけでちょっと晴れ晴れとした気分になった。

 それから二人と共に歩いて、校門前まで来る。

 

「おー音羽。おはよう」

 

「あ、九重くん! おはよう!」

 

「兎が一匹……兎が二匹……あら? 音羽、ご機嫌麗しゅう」

 

 友也が先に気づき、牛込さんが可愛らしく小さく手を振りながら挨拶をしてくれる。

 

「友也、おはよう。牛込さんもおはよう。花園さん、ご機嫌麗しゅう」

 

 戸山さんと市ヶ谷さんも皆と挨拶をしていく。

 全員で教室に移動し、市ヶ谷さんと別れる。

 

「沙綾。おはよう」

 

「音羽! おはよう!」

 

 沙綾に挨拶をすると、元気な声で応えてくれた。

 

「そうそう。今日はいっぱいご飯作ってきたんだけど……いる?」

 

「「「「「「「いる!」」」」」」」

 

 間髪入れずに叫ぶような声を皆が出す。

 いや待って。ちょっと待って。二人ほど増えてない? 特に銀髪とオレンジ髪の少女! 

 

「あはは……おはよう。若宮さん、北沢さん」

 

 苦笑いしながらいつのまにか話の中に入っていた若宮さんと北沢さんに挨拶をする。

 

「はい! おはようございます!」

 

「うん! おはよう!」

 

 二人とも元気に挨拶してくれる。

 こうして僕の朝の一幕は終わる。朝は挨拶して、昼はみんなで食べて、放課後は"また明日"と言う。こんな何気ない日常を繰り返すことが僕はとても幸せだと思った。────仕事が多くてちょっと危ういけど。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ちょっ! 戸山さん! それは俺の唐揚げだ!」

 

「え? そうだっけ?」

 

「……ッグ。そんな目で見ないでくれ……」

 

「これ……兎の形に似てる!」

 

「いやどこが⁉︎どっからどう見てもただの魚の皮ですけど⁉︎」

 

「あ、これもはぐみの家のお肉。あ、こっちも」

 

「よくわかるなぁ⁉︎と言うか北沢さんの肉使い過ぎだ!」

 

「はうぅ……。塩がいい塩梅でご飯が進む! 皮もパリパリで食感が楽しめて……」

 

「牛込さん! 喋るよりも食べた方が……ってまた! 戸山さぁん!」

 

「おおぅ⁉︎ぶ、ブシドーです!」

 

「それ言いたいだけだろ!」

 

「なぁ音羽。盆栽やらねぇ?」

 

「うーん。暇があったら始めてみよっかな?」

 

「やった! じゃ、じゃあ今度私の家に来いよ! 私が教えてやるから!」

 

「そこ! イチャコラすんじゃねぇ!」

 

「うーん。これは……私もボケた方が良い?」

 

「ごめん……やめて……お願い……」

 

「あはは……切実だねぇ」

 

「ツッコミきれねぇよ……!」

 

「あ、音羽。これの作り方また教えて? ……音羽の家で♡」

 

「だからやめろって……言ってるだろぉぉぉおおおッッッ!!!」

 

「私が…………来たわ!」

 

「呼んでねぇぇぇえええ!!!!」

 

「は?」

 

「ごめんなさい!」

 

 友也が一つ一つのボケ(中には本気)にキッチリつっこむ。

 弦巻さんも乱入して、てんやわんやになった。

 そして最後に友也の謝罪の声が屋上に木霊した。












 イチャコラァ ………ヾ(๑╹◡╹)ノ"


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ⅩⅩⅩⅡ、苦手なもの①

 今回は長い。
 なんか最近前半と後半で分けてたのでもうこれからもこれでいこうと思います。テンプレってやつですね(違う
 子供の頃は触れたのに、大人になってくると触れなくなるものってなーんだ。


 私のお兄ちゃんは凄い。

 何が凄いのかと言うと、ほとんど完璧超人だからだ。

 

 勉強ができて、運動もそれなり。家事は全部できるし、その中の料理なんてお店で出せるようなものだ。

 さらに性格も良く、気配りができる。女にとっては超優良物件だ。まぁ苦手なものも多くある人だけど。……またそこが可愛いんだよね。

 だからか、割と……ううん。とてもモテる。私の中学でも狙っている人がいるくらいには。

 

 悩みを話せば名言と共に道を示してくれるし、落ち込んだ時には元気が湧き出るような言葉をかけてくれる。その時欲しい言葉を言ってくれるのだ。

 また、その料理の腕で私たちを虜にする。

 お兄ちゃんがつくる料理は、この世に二つとないもののように思えるのだ。私とお母さんはもうお兄ちゃんの料理無しでは生きていけない。

 そんな風にいっぱいいっぱい魅力があるから、滅茶苦茶モテる。

 正直、お兄ちゃんには私とお母さんだけを見ていて欲しい。その目が、思考が、誰とも知らない女に向けられるのは堪らなく悔しい。

 でも、そうも言ってられない。だってお兄ちゃんは私のものじゃないから。誰のものでもないから。その考えは、その思いは、お兄ちゃんだけなものだから。私が、私たち家族が、お兄ちゃんを縛るなんてことはあってはならないのだ。

 まぁ、実際は襲いたいと思ったことは何度かある。その度に踏みとどまってきたけど。

 いや、仕方ないの。お兄ちゃんの汗が染み込んだTシャツとかいい匂いがして、思わず肺いっぱいに吸い込んでしまう。吸い込むたびに幸福感が私を満たすのでやめられない。わかってる。私は大分な変態だ。ブラコンを拗らせ過ぎているのも。でもまあお兄ちゃんにバレるまではやめないつもりだ。

 それは兎も角、お兄ちゃんがもしも彼女を連れてきたりしたら、その彼女を私とお母さんが見定めてやるつもりだ。お兄ちゃんが悪い女に引っかかる可能性は限りなく低いが、万が一がある。むしろお兄ちゃんの魅力によって悪い虫がいっぱいついてくるだろう。だから私が、私たちがお兄ちゃんの家族として、お兄ちゃんの彼女を見定めるのだ。……私がお嫁さんに行けたら一番なんだけどね。でも世間体があるしなぁ。

 だから諦めるしかない。まぁでも、今のところそんな雰囲気は無いから安心だ。

 さて、話を戻すと、お兄ちゃんはご近所でも有名である。と言うのも、私たちが住んでいる近辺には女性が多く住んでいる。もちろん男性もいるが、男女比が傾いているのか、フリーの若い男性はあまり見ない。その為か、お兄ちゃんは注目の的になりやすかった。と言うか必然だった。

 だから、今ではお兄ちゃんの顔見知りでそこら中いっぱいだ。女だから噂が広まるのも早いしね……。

 そんなお兄ちゃんは今、元女子校に通っている。此処でも男女比の差が現れたのか、男子は少ない。そもそも元女子校だしね。通ってる男子もきっと少し遠いところから来ているんだろう。お兄ちゃんの中学も少し離れたところだったから。あ、私は近所の女子中学校です。

 まぁ、私が言いたいのは────お兄ちゃん、どうか悪い虫に騙されないでね。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 昼休み、いつものメンバーに弦巻さんと黒服さんを加えて屋上で昼食をとっていた時、ふと友也が僕に言った。

 

「そう言えば音羽って非の打ち所がない人間だよな〜」

 

 それに同調するように周りの女の子達も口々に言う。

 

「わかる! なんだかなんでもできそうな雰囲気があるよ!」

 

 と、猫耳のような髪を動かしながら戸山さんが言った。

 

「うん。兎のような愛らしさがあって、兎のような……」

 

 と、艶やかな黒髪を左右に揺らしながら花園さんが言う。いつの間にか兎談議に内容が変わっているけど。

 

「あー、わかるなー。人の心の機微にも聡いし、その時一番欲しい言葉を投げかけてくれるっていうか」

 

 と、何かを思い出すような、懐かしむような表情をして、僕にベニトアイトのような瞳を向ける沙綾。

 

「あ、私もわかります。なんて言うか包容力があって、言葉にし難いんですけど気遣ってくれてるのが凄く嬉しいです。お料理も美味しいですし」

 

 と、控えめながら恥ずかしそうにはにかむ牛込さん。

 

「あー、うん。私も、その、男らしくてかっこいいところもあるなぁって……その、思う」

 

 そっぽを向いて僕をチラチラと見る。言い切るとものすごく顔を真っ赤にしながらも、俯くだけでその場から逃げようとしない市ヶ谷さん。成長したなぁ……。

 

「はぐみも! はぐみもねー音羽くんみたいな人がお兄ちゃんだったらなーって思う!」

 

 無邪気な笑顔で元気よく言う北沢さん。オレンジの髪が太陽の光に反射して輝いている。

 

「そうですね……いつも私のこと気にかけてくださっているのがよくわかります。更に、あの時のライブにも来てくださいましたし……まさに、ふふっ。まさに現代の大和男ですねっ」

 

 少し潤んだ瞳で僕を見つめ、感謝を込めた言葉で僕に語りかける若宮さん。最後の方、ぶしどーが来るのかと思ったけど大和男に変わってて驚いた。ゴメン、若宮さん。

 

「むー……。私はそこまで音羽と関わっていないからみんなのようには言えないわ……。あ! でも音羽の笑顔は世界一素敵ね! とっても心が満たされるわっ! なんでかしら?」

 

 太陽に負けないくらい輝く髪を横に揺らし、少し不機嫌そうな顔をするも、すぐに太陽と同じくらい輝く笑顔を湛える弦巻さん。

 

「あはは……なんだな恥ずかしいなぁ」

 

 照れ隠しに後頭部をかきながら、少し下を向く。顔がちょっと熱い。ここまで真正面に褒められるのはあんまり経験が無いから、なんとも言えなくなってしまう。

 

「そこで、だ」

 

「うん?」

 

「音羽に聞きたい」

 

「うん。何?」

 

 友也が真剣な顔で人差し指を立てながら口を開いた。

 

「音羽が苦手なものってなんだ?」

 

「それ本人に直接聞く⁉︎」

 

 思わず友也につっこんでしまう。こう言う役割は友也の筈なのに……。

 

「本人しか知らないんだから本人に聞くしかねーだろ。で、どうなんだ?」

 

「うっ。正論だ……。んー、そうだなぁ…………」

 

 顎に手を当てて、天を仰いで考える。

 苦手なもの……苦手なもの……。

 その瞬間、頭の中に()()()()()()の情景が過った。それは違う、と頭を振り、また悩みだす。

 

「…………虫、かな」

 

「「「「「「「「「虫?」」」」」」」」」

 

「うん。特に衛生害虫で英名コックローチって言う奴ね……」

 

「あー。確かに」

 

「アレは、ね」

 

 みんなが同意するように頷く。唯一の例外はこころさんかな? どの虫のことかわかってなさそう。───弦巻家に奴は出るのだろうか。出なさそう。

 

「うーん。虫、ねぇ……なら、コレは?」

 

 そう言って友也が懐から何かを取り出し、僕の胡座をかいていた膝に置く。僕はそれを認識して理解すると、顔から血の気が引いていった。

 

「ヒッ!」

 

 ガタガタと体が震える。触りたく無い。見たくも無い。理解したく無い。

 

「ちょっ! 川越くん! なんてモノを!」

 

「あら? 可愛いわね! 芋虫かしら?」

 

「違います! アレは毛虫です!」

 

 ちょっとバタバタと騒がしくなる屋上。僕は僕で体が固まり、動けないでいた。

 

「すまん。みんながそうなるとは思わなかった。これはただのオモチャだ」

 

「……はやく退けテェ……」

 

「いや、ほんとすまん」

 

 数人が立ち上がり、僕から離れていて、残りの人は微動だにしていなかった。いや、こころさんは近寄ってきてた。

 友也が毛虫のオモチャをヒョイっと取り、また懐に戻した。それを確認すると、体から力が抜け、血の気が戻ってきた。

 

「ふぅ……もう、やめてよ。友也」

 

「いや、ほんとすまん。反応がどうなるのか試してみたかったんだ」

 

「あーもう。まだご飯残ってるのに」

 

「あら。音羽、何か付いてるわよ?」

 

 こころさんに指摘されて、指さされた所を見る。

 

「へ?」

 

 肩に小さな蜘蛛がいた。

 

「フッ……」

 

 僕は小さく息を吐いて気を失った。

 

 その後、蜘蛛は何処かへ行き、みんなは重箱の中身を処理すると保健室へと僕を運んでくれたらしい。感謝しかない。




 答え、虫。
 何ででしょうね。途端にと言うよりも徐々に触れなくなっていくんですよね。あれですかね、触る機会が段々無くなっていったからですかね。
 音羽くんの苦手なものはいっぱいあります。今後はそれをちょこちょこ出していこうかなと思います。だから①。
 今日はここまで!感想送ってくれたら嬉しいです!ではまた次回(未定)!


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ⅩⅩⅩⅢ、氷川姉妹

 お久しぶりです!やっと受験勉強が終わりました(受験が終わったとは言っていない)ので、投稿再開していきます。これからはバンバン書いていきますよ〜!(投稿できるとは言ってない)


 カチカチとクリック音が鳴る。パソコンに繋いだヘッドホンからは、時折音楽が流れる。それは軽快な調子だったり、しっとりと静かな調子だったりと様々だ。ただ、共通しているのは同じ投稿者ということだ。

 そう、私は今部屋でニコニ○動画を見ている。見ているというよりも聴いていると言った方が正しいけれど。

 あの日、彼に他のギタリストを見るように言われてから、私は多くのギターを動画で見るのが日課になっていた。そしてその中で、ネット上でとても有名な曲があるということを知り、それを探して見つけ出したのだ。

 投稿されてあるのは主にギターだが、静止画だったりちょっとしたアニメだったりと様々だ。

 それらはネット上で有名になっており、歌詞検索や楽譜検索をすればすぐさま見ることができる。

 

 何故だろう。何故こんなにも、違うのだろう。『何が』違うのか、それすらもわからない。

 

 私には、向いていないのだろうか。

 

 妹から逃げ続けて。始めたギターも何かが足りず。私には、後何が残っているのだろう。

 

 そんな風に落ち込んでいた時に、新しく挙げられた曲を見つけた。

 一瞬、もう聴きたくない。そう思った。

 羽毛の音(フェザー・サウンド)の挙げている曲はどれも神曲、と呼ばれるものばかりだ。実際、私もそう思う。だからこそ、自分の心を守る為に、もう聴くことは止めにしようと考えた。

 でも、何故だろうか。掴んでいるマウスを動かして、カーソルが自然と再生ボタンへと移動していった。そして、クリックする。

 名前は……『グリーンライツ・セレナーデ』。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 学校が終わってすぐさまCircleに行って、曲を収録してきた。今回は二曲。その後ぱっぱと片付けして買い物を済ませて、帰宅した。家事をして、勉強して、とできることを終わらせていく。

 そして母さんが帰ってきた。仕事で疲れているだろう母さんに申し訳ないが、録音したデータを渡して編集してもらう。

 

「大丈夫よ! なんたって息子の頼みなんだから!」

 

 頼もしい母である。それは兎も角しっかりと休んで欲しい。今日は母さんが好きなものをいっぱい作ったのだから。そう言うと、目を輝かせて曲の編集をし始めた。大丈夫だろうか……。

 

 突然収録したのには、訳があった。

 今日のお昼に、氷川日菜さん……あるアイドルバンドグループの人から連絡があったのだ。

 彼女と出会ったのは、路上でチラシ配りをしていたプラチナブロンドの女性からチラシを貰い、チラシの場所へ向かってそこで出会った。

 彼女たちは大きな失敗をしたせいで人気がだだ下がりして、このままでは大きな傷を残して解散してしまう状況にあったらしく、せめてイメージ回復をする為にとライブをしようとしたらしい。しかし、当然口パク、なんてしていたものだから技術はお粗末ではないにしろ、そこらのミュージシャンの方が上手いぐらいだった。

 ライブに来ていた人たちも多くが冷やかし目的で、僕一人だけが残って聴いていた。

 確かに、楽器の扱いは下手だろう。でも、彼女らは原石だと感じた。石を削って磨いていけば、キラキラと輝く宝石になる。僕はその時そう感じた。まぁ、能力で楽器を弾いてきた僕が言える義理では無いだろうけど。

 ライブ終了後に、帰ろうとした僕をプラチナブロンドの女性───白鷺千聖さんが引き止め、連絡先を交換しようと言ったのだ。そしてそれを見ていたバンドメンバーも便乗し、それぞれと交換した。丸山先輩のは既に持ってたけど。

 その日から僕はPastel*Palettes───略称パスパレの人たちと交流を持つようになった。同じクラスの若宮さんとは今まで以上に距離が近くなったし、丸山先輩も若宮さんと同じだった。白鷺さんは学年が違うようで、しかも有名女優の為に会うことは少ない。しかし、休み時間の度に連絡を取ったりしていた。残り二人は学校が違うようで、直接会うことがほとんどない……わけではなかった。と言うのも、よく近辺で出会うからだ。それは兎も角、氷川さんと連絡を取り合っていた時に、氷川先輩の名前があがった。双子の姉らしく、最近仲が宜しくない、と。

 自分たちで解決するのが一番だ、と彼女もわかっているのだが、デリケートな問題(氷川先輩の真意がわからない)なので、手の出しようが無かった。だから、仲を取り持つだけで良いから、と頼んできたのだ。

 氷川先輩とは少しの関わりがある。だけど、彼女の事情に踏み込める程仲が良いわけではない。僕に出来ることは少ない。だから少し考えた。

 そうだなぁ……。何か……出来るのだろうか。

 人と関わらず、仲を取り持つ……え? 無理じゃない? 

 一瞬だけそう思った。でも、何かが頭に引っかかった。

 …………? なんだろう。何かが引っかかる。何か……何か……。あ。そう言えば氷川先輩……ギターを教えて欲しそうだった。ギター……なんでたろうか。既に実力がある。もちろん伸び代だってあるけれど、それらは自分たちでつけるものだ。僕は指導できない。じゃあ何? 彼女は何を必要としていた? 

 そこから段々と導き出される。

 ギター…………指導…………行き詰まっている……ふむ。確かRoseliaはストイックスタイルで……湊さん達の練習は……あぁ、そうか。

 そして僕は気づいた。氷川先輩の現状を。

 たぶん氷川先輩は、()()()()()()()()()()()()()()

 そして氷川さんは……。

 僕は僕に出来ることを考えた。

 うん。よし、曲を挙げよう。

 氷川先輩は多分○コニコ見てるだろうし。氷川さんには連絡すればいいかな。

 挙げる曲は…………この二曲かな。

 そう言うわけで僕はこの二つの曲を録音したのだ。

 この二曲を聴いて何か変わるなら。何も変わらなくても、心に残るなら。きっと二人の関係は、変わるだろう。




 作者はついにバンドリを始めた模様。そしてストーリーを読んで自作との違いに愕然とした模様。やっぱ、勝手なストーリー解釈はダメだってハッキリわかんだね。
 尚、ストーリーを書き直すかどうかは迷っている。と言うわけでアンケート!
 投票お願いします!







 まぁこのままいけば原作のストーリーを幾つか無視して終わりますけど


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ⅩⅩⅩⅣ、はじまり

 日菜のるんっ♪は楽しいとか面白いとかポジティブな感情の塊なのかなって自己解釈。
 バンドリ四周年ですね。おめでとうございます。始めて一月も経ってないけど。ついでに1日前の話だけど。


 私が彼と初めて出会ったのはあの日、私たちのバンドがライブをした日だった。

 何度かお仕事でライブをしたのだけれど、その頃のライブは全て事前に撮っていたものを流していただけで、実際は"フリ"をしていただけだった。

 私と麻弥ちゃん以外は楽器なんか出来なくて、それは仕方がなかったのだと思う。だけどそれは薄氷の上で踊るようなものだった。

 そして、薄氷が割れた。後は真っ逆さまだった。

 このままじゃいけなかった。せっかく集まって仲良くなったのに、バラバラになって───。お姉ちゃんとの関係にも焦りが出てきて、もう何をすれば良いのかわからなくなった。

 彩ちゃんが諦めず、私たちを導いてくれた。チラシを配ってライブをした。そして、彼に出会った。

 彼は私たちのライブを最後まで聴いていた。他に来てくれた人は様々な暴言を吐いて出ていったけど、彼だけは最後まで残って、尚且つ称賛を送ってくれた。

 なんでだろう。どうしてだろう。そんな疑問が溢れ出てきて、私の脳内は混乱に陥った。私たちは多くの人を騙していた。たとえそのことを知らなくとも、私と麻弥ちゃん以外の楽器の腕は明らかに下手だと言える。

 考えた。いっぱいいっぱい考えた。でも、わからなかった。何故彼は私たちのこのライブに訪れたのだろうか。何故拍手をするのだろうか。答えは出なかった。

 

 彼は言った。『良い音が出ていた』。良い音とはなんだろうか。やっぱりわからなかった。

 私は彼を不思議な人だと思った。わからないことが多くて、少し怖いとも思った。でも、何故だか心が弾んでいた。

 

 ワクワクしている自分がいた。

 

 ドキドキと心臓が高鳴っていた。

 

 ポロポロといつの間にか涙を流していた。

 

 お姉ちゃんと関わりが浅くなって、彩りを失ったこの世界が。

 

 彼のおかげで、色鮮やかなものに変わっていった。

 

 これからいっぱいドキドキするだろう。ワクワクするだろう。

 頭に一瞬お姉ちゃんが浮かんで。

 あぁ、こんな時にお姉ちゃんもいたら、きっと、もっと楽しくなるんだろうなぁ、なんて思った。

 この気持ちを、どう表現したら良いんだろう。

 楽しい、だけじゃ物足りない。可愛くない。ドキドキも。ワクワクも。楽しいも。面白いも。全部含めた言葉。

 ピコンっと閃いた。

 

 

 ───るんっ♪ って来た! 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 Circleでいつものようにアルバイトを終えた後、隣接されてあるカフェで少し手伝いをした後にまりなさんに呼び出された。

 

「あの、まりなさん」

 

 僕が呼びかけると、まりなさんは淹れたて(僕が淹れた)のアールグレイにスティックシュガー一本分を入れると、スプーンでかき混ぜながら少し沈んだ声で返事をした。

 

「なにー?」

 

 僕とまりなさんがいる場所はCircleのカウンターの奥。休憩室のような場所だ。この部屋には簡素なものしか置いていなくて、使う機会も殆どない。テーブルの上にはカフェの手伝いでいただいた材料を元に作った色とりどりのマカロンがある。

 

「もう既に外は夕暮れなんですが」

 

 神妙な顔で僕は言うと、これまた気落ちした声が返ってきた。

 

「オーナーがね……」

 

 僕の質問には答えてくれないんですね。なんて意地悪な言葉が浮かんできたが、すぐに頭の中から消し去り、まりなさんに続きを促した。

 

「Circleの目玉になるようなイベントを開催したいと言うのよ」

 

「はぁ……?」

 

 開催すればいいじゃないですか、と言う意味を込めた視線をまりなさんに送る。

 

「ガールズバンド限定で、加えて多くのお客さんが入ってくるようなライブイベントをってね。オーナーは言ったのよ」

 

「……」

 

 何となく、まりなさんの言いたいことがわかった。

 

「どうすりゃいいのよー!!!」

 

 まりなさんはバンバンと机を叩き、嘆いた。

 

「うーん。バンドは彼女らに頼んで……でも断られる可能性もある、か……ってあれ? そういえばこの前ガルパ? をするって」

 

 どうするかを考えて、ふとある日まりなさんに言われたことを思い出した。

 

「そう! さっき言ったそのイベントの名前がガールズバンドパーティ、略称ガルパなのよ!」

 

 ビシィッ! と立ち上がって僕を指差した。

 

「へ? あ、はぁ」

 

「あの時から相談はされてたんだけどね〜。───今のところ名前しか決まってないんだよね……」

 

 椅子に座り直し紅茶を移動させて、ぐでーと机に自信の体を乗せるまりなさん。紅茶が冷めるので飲んでください。

 

「えぇ……?」

 

「ま、そう言うわけで。音羽くん! 君に指令を言い渡す!」

 

 突然軍人然とした態度で姿勢を正して腕を組むまりなさん。マカロンも美味しく無くなってしまうので食べてください。

 

「このガルパに参加するバンドを呼んできて!」

 

「呼んできてって……えぇ?」

 

「その他の準備は私がするから、お願い!」

 

 手を合わせて拝むように僕を見るまりなさん。

 

「まぁ……わかりました。一応知り合いにバンドがいるので頼んでみます」

 

 うーん。またしても仕事が……せめて、体を壊さないように頑張るか、と僕は決意した。

 

 

 ───そして。

 

 

「……お姉ちゃん」

 

 

 二人の確執が───、

 

 

「……日菜」

 

 

 ───今、消え去ろうとしていた。




 サブタイの『はじまり』はバンドリやってる皆様ならわかりますよね。
 遂に氷川姉妹の話が終わる!長かったなぁ(←長引かせた張本人)

 イベントとかもぶっこみ見たいなぁ。と言うか早く餌付けしなきゃ。
 取り敢えず次回は氷川姉妹の回ですけど。

 どんな料理が良いかなぁ。そこまでレパートリーがあるわけじゃ無いんですよね。活動報告で募集するか。します。なので書いてください。


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ⅩⅩⅩⅤ、太陽と音

 これで次の話に移れる……とでも思った?私は思いました!だけど勘違いでした!日菜の話で丸一話潰れてしもうた!後悔はないけどね!反省はします……。


 あたしは自分の名前が嫌いだった。太陽と夜。決して出会うことがない。そう言われた感じがして。

 

 

 彼に連絡を取った。お姉ちゃんとの仲を取り持って欲しい、と。

 これはあたしたち姉妹の話で、部外者が勝手に踏み入って良い話ではない。でも、あたしには解決できない気がした。あたしとお姉ちゃんの距離が、更に離れていくような感じがしたから。あたしじゃどうすることもできないと思った。

 

 お姉ちゃんと繋がりがあるのは、Roseliaと言う実力派のバンドと花咲川高校の人たちだ。あたしの知り合いはいても頼むことができない人たちばかりだ。だから誰にも頼むことが出来なくて、一年が経過した。あたしとお姉ちゃんの間にある溝は、更に深まっていた。こんな状況を打破できるのは彼しかいなかった。

 彼と連絡先を交換してから、色々な会話をした。そこで知ったのが、彼は花咲川に在籍していて尚且つお姉ちゃんとも多少関わりがあると言うこと。もう彼しかいないじゃん! ってなった。ただ、あたしたちの問題に彼を巻き込んでしまっていいのか悩んだ。姉妹の問題に部外者が、なんてもう考えたりはしない。むしろ彼に負担をかけてしまわないかという感情の方が勝ってしまった。でも、彼は洞察力が優れていた。

 

『……氷川先輩と何かあるんですね?』

 

「……ッ」

 

 ドキリと心臓が跳ねた。何でわかったのか。焦った。言い繕おうとして、やめた。きっと言い繕っても意味がないのだろう。なら、頼んでしまった方が良いのかもしれない。

 あたしは彼にお姉ちゃんとの現状を話した。小さい頃は本当に仲が良かった。でも、いつからかお姉ちゃんは思い詰めたような顔をして、あたしから離れていった。どうしてなのか。離れていってほしくなくて、追いかけて、更にお姉ちゃんは離れていって。追いつきたくて、溝ができてしまった。もうあたしには、何をすれば良いのかわからない。

 懺悔に近い話を終えて、彼は一言呟いた。

 

『……わかりました』

 

「え?」

 

 いつの間にか流していた涙をゴシゴシと拭い、聞き返す。

 

『氷川さん。羽毛の音(フェザー・サウンド)って知ってますか?』

 

 突然、彼はそんなことを聞いてきた。何処かで聞いたような気がする。どこかで、チラリと───あ。

 

「……テレビで"キセキ"って言う曲が社会現象を起こしたとかで、見たことある……かな?」

 

『あぁ……えーと。その人、実はニ○ニコ動画で活動しているんです。そうですね────1週間後に新曲が投稿されると思うので、それ聴いてください』

 

「? なんでそんなこと知ってるの?」

 

 あたしがそう聞くと、スマホから彼の焦ったような声が聞こえてきた。

 

『え? あっ! あー。えーと、ですね……その、友達! そう! 友達なんですよ! だからいち早く知れるんですよね!』

 

 まるで何かを隠そうとするように、上擦った早口で捲し立てた。彼のこんな一面を知ることができるなんて、思いもやらなかったので呆然としてしまう。

 

『あ、あの……氷川、さん?』

 

 恐る恐るといった風に彼は問いかけてきた。

 

「───ぷっ。あ、あははは、あはははは!」

 

 思わず笑いが込み上げてくる。腹の底から。

 

『え? え? 何? 何で笑ってるんですか??』

 

 恐らく彼の頭上にはクエスチョンマークが飛び交っているだろう。その様子を想像すると、更に笑いが込み上げてきた。

 

『ちょっ、あの、氷川さん⁉︎』

 

 少し怒った声音で呼びかけてくる。これ以上笑ったら、電話を切られるかもしれない。でも、彼はそんなことはしないだろう。短い付き合いだけど、その短い付き合いだけで彼がどんな人なのかが凄くわかる。

 

「───日菜で良いよ」

 

 自分の口から思いもよらぬ言葉が出た。それに内心驚きながらも、驚き固まっているだろう電話の向こうの彼に、悟られないよう続きを話す。

 

「氷川って二人いるじゃん? 呼びづらいでしょ?」

 

『────あ、いえ。敬称を分けているので……』

 

「こっちがわかりにくいのー」

 

『ゔっ』

 

 痛いところを突かれた為か、変な声を出す彼。それにまた笑いが込み上げてきて、一人ニヤニヤしながら彼の言葉を待った。

 

『わ、かりました……。じゃあ日菜先輩で』

 

「だめー」

 

『何で⁉︎』

 

 その返しが面白くて、ついつい揶揄ってしまう。クスクス笑いながら、ここまで笑ったのはいつだっただろうかと、思い返した。

 

「先輩じゃあお姉ちゃんと被っちゃうじゃん? だからだめー」

 

『ええー……? 被ってな「被ってるのー」……ぐむ』

 

 あぁ、あれはもっと昔の頃だった。あたしが心の底から笑っていたのは、お姉ちゃんとまだ仲が良かった頃だ。もう、10年くらい前の話だ。

 

『わかりましたよ……日菜さん。これでいいですね?』

 

 諦めたのか、多少投げやりな声で彼はそう言った。それに嬉しくなる自分がいた。心の奥底から、温かい何かが出て、あたしの器を満たした。

 

「───うんっ!」

 

 何だろう。彼に任せて仕舞えば、全てが上手く行く気がしてならない。

 

『じゃあ、ちゃんと聴いてくださいね。曲』

 

 彼はそう言って私との通話を終えた。

 晴々とした気持ちと、少し寂しい気持ちも介在する。

 何故だかわからないけれど、悪い気はしなかった。

 

 そして、挙げられた曲は、二曲。

 

 

 一つは応援曲『グリーンライツ・セレナーデ』

 

 

 もう一つは───、

 

 

『IMAGINARY LIKE THE JUSTICE』




 賛否両論あると思います。はい。でも歌詞的にこれが良いかなーって思った訳です。はい。
 現状の日菜には後押しする系の曲が一番だと思うので。後押しか?と聞かれると口を閉じますが。ま、いいでしょう。
 次回こそはこの確執終わらせる!

 日菜が()()()から笑ったのは久しぶりです。今までは作り笑いって話ですね。あとすみません。普通に花咲川に知り合いいましたね。ただ、その人たちとは関係が深いために頼りたくないと言う心情です。音羽とは連絡ツールで話し合う仲という浅い関係(日菜主観)なので頼ること自体にあまり抵抗はないと言う……感じに、出来たかなぁ?
 あとまだガルパはしてません。


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ⅩⅩⅩⅥ、夜と音

 後悔はない。むしろ高揚している!
 ごめんなさい。感想の返信でも次は終わり、ってあったのにこんなのになって。でも日菜書いたら紗夜も書かなきゃじゃん?書くしかないじゃん?じゃんじゃん?ってな具合で書きました。次は終わる。絶対。


「おはようございます」

 

「ええ、おはようございます」

 

 朝。彼が挨拶をする。ニコニコと笑いながら。

 

「あ、そうだ。見てくれてますか? 動画」

 

 校門の前で、少し世間話をする。これが私の日課になってきている。

 

「ええ、見ていますよ。動画にアップしている人たちは千差万別ですね」

 

「そうですねー。上手い人も下手な人もいて、玉石混交って感じですね」

 

「あら。難しい言葉を知っているのね」

 

「いや、玉石混交くらい知ってますよ……」

 

 少し呆れたような顔で彼は私を見た。それを見て、自然と笑みが溢れる。

 

「あ、そろそろですね。じゃあ失礼します」

 

「ええ」

 

 彼は校舎の時計をチラリと見て、別れの言葉を口にした。そして、校舎へと向かっていく。

 

「あ、そうだ。来週に羽毛の音(フェザー・サウンド)が新曲を挙げるみたいなので、良かったら聴いてくださいね」

 

 彼から発された言葉の中の固有名詞に、心臓がドキリと跳ねる。

 

「…………わかったわ。気が向いたら、ね」

 

 私はそう言って彼と反対の方向へと振り向き、風紀委員の仕事を再開した。

 その態度が相手に失礼だとは分かっていた。しかし、私はどうしようもなく羽毛の音(フェザー・サウンド)を妬んでいたのだ。そんな自分が嫌いで、彼にそんな顔を見せたくなかった。

 口をつぐみ、いつも通りの顔で、いつも通りの口調で、いつも通りの仕事をする。

 そんな、ありふれた日々。

 

 

 家に帰り、宿題をする。授業の復習予習をしてから、私はギターを手に取った。でも、どうしても上手く弾けない。動画の向こう側の人たちと、私との"差"を理解して。嫉妬して、更に自分が嫌いになった。

 血反吐を吐きそうな程練習しても、彼らとの"差"は埋まらない。『何かが足りない。その『何か』すらわからない。

 どうして?? 

 どうして? 

 どうして。

 日菜ならできる。日菜なら理解する。日菜なら…………。

 

 あぁ、嫌いだ。

 

 誰かに嫉妬している自分が。

 

 嫌いで嫌いで仕方ない。

 

 もう、諦めてしまおうか。

 

 私に才能は無く。誰かに嫉妬しながらしか生きていけない。

 そんな自分が嫌いだった。嫌いで嫌いで、憎んでさえいたかもしれない。

 

 初めは小さい頃だった。

 私が何かを始めれば日菜が真似をするように同じものを始め、すぐに私を追い越していった。お姉ちゃんなのに、と私は奮起して様々なものに手を出した。

 勉強も頑張った。運動も頑張った。でも、日菜はそれを軽々と超えてしまった。奮起がいつしか悔しさになり、悔しさから、妬むようになった。

 それに気づいた時、一気に自分が嫌いになった。

 妹を妬むとは何事だ。お前の大事な妹じゃなかったのか。そんな感情と嫉妬の心が暴れ回り、私はギターと出会った。

 日菜がまだ関わっていない分野。私は自然と手に取り、また繰り返すことになった。

 日菜がギターを始めた。アイドルになった。

 悔しくて、嫉妬して、嫌いになって。

 

 もう、諦めてしまいたい───、

 

 

『新曲を挙げるみたいなので、良かったら聴いてくださいね』

 

 

 彼の言葉を、彼の顔を思い出して踏みとどまった。

 

 彼に今まで手助けしてもらったのに、何も返さずに辞めるつもりなの? 

 

 ───結局、彼を頼っても意味がなかったじゃない。

 

 助言をくれた。私自身に探せと言った。

 

 ───言っていない。ただ聴けと言っただけ。

 

 それが暗に"誰かに見つけてもらうのでは無く、自分自身で見つけろと言っていたのでしょう? "

 

 ──────。

 

 そんな彼に何もせずに諦めるつもり? 

 

 ────だけど。

 

 だけどもなにもない。彼は私のために動いてくれている。そんな彼に、嘘をつくの? 

 

 ───嘘じゃ。

 

 ええ。そう。嘘じゃない。嘘になんかさせない。

 

 私はパソコンの前に座り、○コニコ動画を開く。そして必死で、『何か』を探し始めた。




 ここが一番原作と乖離していると思いました。まる。嫌だったらブラウザバックどぞ。合わない人には合わないでしょうから。

 紗夜日菜誕生日おめでとう!(一日前)


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ⅩⅩⅩⅦ、確執の終わり

 テメェ……ゲーム始めたんじゃ無かったのかよ……。ええ、始めましたとも!ストーリー全部読み飛ばしましたがね!(←おい)

 後で見るつもりだったんです。本当です。信じてください。ちょっと時間がなくてスターだけ貰おうとしてました本当にすみません!

 あ、文章注意です。良くない描写が入ってます。読みたくない人は……まぁ読み飛ばしてもらっても……それほど影響は無い、かな?


 ピロリン♪ 

 

 机上に置いたスマホが震え、通知が届いたことを知らせる音が鳴る。

 スマホを開き、何の通知なのかと見てみる。

 通知は────日菜からのメールだった。

 一瞬手が止まるも、通知をタップしてメールを開く。

 

『To 氷川紗夜

 Re お姉ちゃんへ

 お姉ちゃん。私ね、自殺することにした。アイドルバンドも上手くいかなくて、お姉ちゃんとも仲直りできなくて、なんだかどうでもよくなったの。生きてるって何だろうって考えて、将来も暗雲で見えないし、この先どうしようか考えて、何も浮かばなくて。何も、見えなかったの。だから、死ぬことにした。最後にお姉ちゃんと話をしたい。あの川で待ってるね』

 

 意味が理解できなかった。

 何度も読んで、読み返して、咀嚼して、漸くその意味を、理解した。

 血の気が引いた。自分の足元がガラガラと崩れ去っていくような気がした。カタカタと体が震え、止まる気配がない。

 喉がカラカラに渇き、視界がチカチカと明滅する。

 

 グッと歯を食いしばり、お腹に力を入れる。さっきの症状が引いていき、私は飛び出した。

 

 私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。

 同じ言葉が頭の中を支配する。私の背後から絶望が忍び寄ってくる。

 振り払うために、目一杯駆け出した。私たちの家の近くに存在する川へと向かって。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 川へと着いた時、日菜は川に背を向けて橋の手摺に腰掛け、足をぷらぷらと遊ばせていた。

 夕陽が彼女を照らし、幻想的な雰囲気を醸し出している。

 

「日菜!」

 

 ゼーハーと荒い呼吸を整え、大きな声で呼びかける。日菜はやっと来たというような笑顔を浮かべた。

 

「お姉ちゃん!」

 

 ニコニコと屈託のない笑顔。これから自殺するような人間にはまるで見えない。

 

「えへへ〜久しぶりのお姉ちゃんだ〜」

 

「今すぐにやめなさい!」

 

 ユルユルとしている日菜を叱る。死なせないために。体に触れられる距離にまで近づく。

 

「? 何を?」

 

「何って……」

 

 そんなの決まっている。

 

「自殺よ」

 

「あ、それ嘘だよ」

 

 日菜は気にも留めていないという風に軽くそう言った。

 

「─────────────────は?」

 

 私はたっぷりと時間をかけて理解しようとしたが、出来なかった。

 

「こうでもしないとお姉ちゃん来ないでしょ?」

 

「……っ!」

 

 思い当たる節がある。言葉を詰まらせ、下を向く。

 

「やっと面と向かって話せる時間ができたんだもん。いっぱいお話ししよ?」

 

「私は……「ねぇお姉ちゃん」……んむ⁉︎」

 

 真剣な声音の日菜に、私の言葉は掻き消えた。

 グッと両頬を押さえられ、顔を持ち上げられる。

 目に写ったのは、私と同じペリドットの瞳。

 

「お姉ちゃんが何に悩んでるかなんてわからない。でもね───()()()()()()()()

 

 真っ直ぐに私を見つめてくる日菜。強い力で腕を掴まれ、逃れることは出来なさそうだった。

 日菜の言葉で一瞬目を逸らすも、その次の言葉で私は日菜を見た目返した。

 

「うん。そんなの関係無かったんだ。私はお姉ちゃんと離れ離れになるのが怖かった。お姉ちゃんの心に踏み込めば更に遠くへ行っちゃうんじゃないかって。でも、違ったんだ。ううん。違うって言うよりもわかってなかった。私は、私のまま行動すれば良いんだって」

 

 日菜はニコッと輝くような笑みを浮かべた。

 

「私はお姉ちゃんの心の内はわからない。誰かの心なんてわからない。超能力者じゃないんだから分かるはずがない。でも、私には悩んでるなんて関係ない! 私は私がしたいようにする! 『分からないから面白いんだ!』───だから、逃がさないよ? お姉ちゃん」

 

 ゾクっとするような低い声でそう言われた。

 でも、それでも。

 

「お姉ちゃん。私ね、良い曲に出会ったんだ。勇気をくれる曲。英雄になって正義を振り翳せって感じでちょっと厨二っぽいけど。凄く良い曲なんだ。お姉ちゃんは? お姉ちゃんも、あるんでしょう?」

 

 ある。彼に聴いてくれと頼まれた、あの曲。でも、何故日菜がそれを知って───。

 

「あー……えーと。いや、ほらお姉ちゃんずっと引きこもってたでしょ? その時に何度も同じ曲が流れてたから……アハハ」

 

 何かを誤魔化すように頰をかく日菜。両手を手摺に置き、また足をぷらぷらと動かし始めた。

 これを言ってしまったら嫌われてしまうかもしれない。でも、日菜は私に伝えてくれたんだ。日菜の悩みを。それから得られた答えを。なら、私も答えなくてはならない。伝えなくてはならない。

 覚悟を、決める。

 

「……私は、ずっとあなたに嫉妬していたの。ううん。今では多くの人に嫉妬してる。そんな自分が嫌いなの。嫌いで嫌いで、嫉妬してるなんて、日菜に知られたくなかった。私は私を許せなかった。だからあなたと距離をとった。あなたの才能を間近で見ると、また嫉妬してしまうだろうから」

 

 視線を落とし、言い切る。

 静かな時間が流れ、日菜は言った。

 

「……そっか。良かった。嫌われたのかと思った」

 

 少し涙ぐんだ声で、日菜は潤んだ瞳を私に向けた。

 

「……嫌わないわ」

 

 ギュッと体を抱きしめ、日菜から視線を逸らす。後ろめたい気持ちが、増大した。

 

「でもお姉ちゃん。そんなの当たり前なんだよ」

 

「え?」

 

 当たり前? 

 日菜から予想外の言葉が出てきて、日菜に視線を戻す。

 

「私だって誰かに嫉妬するもん。例えば羽毛の音(フェザー・サウンド)とかお姉ちゃんとか」

 

 人差し指を立てて意気揚々と語る日菜。

 天才の日菜がまさか、と言う思いで私は日菜を見つめた。

 

「誰だって嫉妬くらいするよ。だって"嫉妬"って"憧れ"の裏返しなんだよ? なら誰かに嫉妬するってことはその誰かに憧れてるってことでしょ? それの何が悪いの? 全然悪くない! 私はお姉ちゃんに嫉妬してるよ? 可愛いし髪綺麗だし可愛いし努力してるし可愛いし……」

 

 大仰に身振り手振りで話す日菜。

 その動きに、何か温かなものが心の内から溢れ出してきた。

 

「も、もういいから……! ……でも。ふふ。そう。そうだったの」

 

「あっ! お姉ちゃんやっと笑った!」

 

 私は勘違いしていたんだ。誰かに嫉妬するのは誰かに憧れるのと同義だった。難しいことは考えなくて良かったのだ。誰も不幸になど、なりはしないのだから。

 

「ふふっ。さぁ、帰りましょうか」

 

「うんっ!」

 

 太陽のような笑みで日菜は元気よくこたえた。私たちは晴れやかな気持ちで、帰路に着く……その直後。日菜が橋の手摺から降りようとした際、彼女の手が滑り───

 

 

 

 川に、真っ逆さまに落ちていった。

 

 

 

「日菜ーッッッ!!!」




 はい。いかがでしたか?
 本当ならもう少し書く予定だったのですが予定以上に文字数が多くてですね……5,000文字とかになる可能性も。それは私が面倒い。
 なのでまぁいつも通りの文字数できりました。良いところで終わった……!

 早速の料理提供誠にありがとうございます!まんま載せますけど大丈夫ですか?見事に美味しそうな料理ですね!
 曲の方も募集しているのでどしどし書いてくださるとありがたいです!


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ⅩⅩⅩⅧ、主人公

 今ノリに乗ってるからめちゃくちゃ書けてるんですよねー。
 山場だから?山場だからなのか⁉︎つまり毎回山場を書けば更新頻度は……って何その面白くなさそうな小説……。と言うか普通にしんどそう。
 まぁどちらにせよ二つ目の山場は終わりですね!


「日菜ーッッッ!!!」

 

 お姉ちゃんの叫ぶ声が聞こえる。

 泣きそうな顔で、アタシに向かって必死に手を伸ばしていた。

 アタシも同様に手を伸ばす。だけど、それらはひどくゆっくりとしていた。まるで水の中にでもいるかのように、重たかった。

 気がつけば、周囲の景色もゆっくりと動いていた。

 

 お姉ちゃんと私が伸ばした手は、空を切った。

 

 ───死ぬ。

 

 反射的にその言葉が思い浮かんだ。

 そして、今までの思い出が走るように過ぎ去っていく。

 

 ───あぁ、これが走馬灯か。

 

 まるで他人ごとのように思ってしまう。

 ゆっくりとゆっくりと、落ちてゆく。

 

 ───嫌だ。

 

 死にたくない。折角、折角元に戻ったんだ。こんなところで死にたくない。嫌だ。いやだ。誰か、誰か! 

 涙で視界が滲む。お姉ちゃんの顔もぼやけてしまっていた。

 

 バッシャーンッ! 

 

 大きな音を立てて川に落ちる。水深はそこそこ深かったようで、すぐに頭を打つことは無かったが、高いところから落ちた為にこのままでは死んでしまう恐れがあった。

 

「ゴポポ……」

 

 口の中に水が入り、空気が抜けていく。死にたくなくて、必死でもがいて、もがいて。

 

 

 

 

 ────突然、抱き上げられた。

 

 

 

 

「ゲホッ! ゴホッ!」

 

 水を吐き出し、空気を吸い込む。そこまで長いこと水中にいたわけではないはずなのに、久しぶりに呼吸をする感じがした。

 

「……え?」

 

 岸辺に降ろされ、誰が引き上げてくれたのか、と顔を見ると、見知った顔がそこにあった。

 川に浸かったからか、全身がずぶ濡れになっていた。服はお姉ちゃんも同じ制服を着ていた。

 亜麻色の髪を短めにしていて、少し中性的な顔をした少年。栗色の潤んだ瞳で私のことを睨みつけていた。

 

「バカッッッ!!!」

 

 大声で、肩を掴まれてそんなことを言われた。アタシは驚きすぎて何の反応も返せなかった。

 

「バカッッ!! バカッ! バカ! バカ、ばか……」

 

 同じ言葉を繰り返し言って、涙を堪えるように顔を俯かせた。

 肩が震えているのに気がついた。足にポタポタと温かい雫が落ちてきた。

 

「何で、なんでこんなこと……うっ……」

 

 か細い声で彼は───音羽くんはそう言った。

 

「……自殺なんか……ひっぐ……しないでよぉ……」

 

 訴えるように、嘆くように、言う。

 

「僕を……一人に……しないでよ……」

 

「音羽くん……」

 

 アタシは何も言えなかった。何も、言うことができなかった。

 アタシは"自殺"と言う言葉になんら感慨も抱かなかった。死ぬ、と言うことがなんなのかわからなかったのもある。ただ軽いものとしか考えていなかった。元々死ぬつもりは無かったけど。

 だけど、人によっては───いや、親しい人にとっては"死ぬ"というのは耐え難いのだろう。目の前の音羽を見ればわかる。私は彼に、酷いことをしたんだ。

 

 そもそも何故こんなことになったのか思い返して、気づいた。お姉ちゃんと同じ文を音羽くんにも送っていた。

 思い返してもアタシは随分と酷いことをしていた。だとすれば音羽くんがこんな風になるのも頷ける。それにしては落ち込み具合とか必死さとか度が過ぎるとは思うけれど。こんなものなのだろう。そう思うことにした。

 

 ───だけど。何故だろう。音羽くんを見ていると、足元から形容し難い快感が押し寄せてきた。

 

「……ごめん。ごめんね」

 

 音羽くんを抱きしめる。温かい感情が溢れ出てくると共に、最大級の幸福が私を襲った。

 私は快感に酔いしれながら、音羽くんが落ち着くまで抱きしめていた。

 因みにお姉ちゃんも近くに来ていたけど、何を話すでもなくただ私たちを見ていただけだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 音羽くんが落ち着きを取り戻して、事の顛末をお姉ちゃんと一緒に音羽くんに話し、一緒にお礼を言った。

 

「お礼はいらないです。そもそも何もしていませんから……ですが、今後絶っっっ対に嘘でも"自殺する"なんて言わないこと! 書かないこと! 思わないこと! ……イイですね? 日菜先輩」

 

 怒気を滲ませた顔で私を睨む。

 そんな音羽くんの新しい表情を見て、アタシは反省どころか再度襲ってきた快感と幸福感に身を任せていた。表面上は取り繕ったけど。

 

「そうね。もうこんなことは今後してほしくないわね」

 

 お姉ちゃんが音羽くんと同調して追撃を放ってきた。それが何よりも心に刺さり、快感と幸福感は消え去った。

 

「うぐっ……うん。わかった。もうしないよ」

 

「……本当に?」

 

 訝しげに音羽くんはアタシを見た。それだけで再び多幸感が私を支配する。顔がニヤケそうになるのを必死で我慢して、神妙に頷く。

 

「……なら、いいです。……本当、僕が言えることじゃないけど……

 

 少しアタシのことを見つめた後、納得したのかそれ以上何かを言われることは無かった。最後に何か呟いていたようだけど、風の音で聞き取ることはできなかった。

 

「それでは、これで。氷川先輩まt「紗夜よ」……はい?」

 

 音羽くんが『また明日』と言う前に、お姉ちゃんが言葉を被せた。音羽くんは困惑顔でお姉ちゃんを見る。

 お姉ちゃんはと言うと、済ました顔で音羽くんを見ていた。

 少しムッと思うも、お姉ちゃんだからいっかと考え直した。

 

「ええっと……? 氷川先輩の呼び方を変える必要は無いと思いますが……?」

 

「あら? 日菜のことは名前で呼んでいるのに私のことは呼んでくれないの? 不公平……ね?」

 

「うっ」

 

 痛いところを、と言い出しそうな顔で気まずげに目を逸らした。

 手元にカメラかスマホでもあったらなぁ……その顔写真に収まるのに。スマホは水没しちゃったからなぁ。新しいの買いに行かなきゃ。

 

「……………………わかりました」

 

 数秒間お姉ちゃんは音羽くんを見つめて、音羽くんはお姉ちゃんから視線を逸らし続けていた。だけど、根負けしたのか諦観の念を込めたため息を吐いた後、そう言った。───また新しい表情知っちゃった。えへへ♪ 

 

「じゃあ紗夜先輩d「紗夜よ」……紗夜さん、で。これ以上は譲りません」

 

「フフ。強情ね」

 

 お姉ちゃんはクスリと笑い、音羽くんは頬をかいて目を逸らしていた。若干顔が赤い。

 照れてるのかな? 可愛い。

 

「それじゃあ、またね。音羽くん」

 

「また明日」

 

 私とお姉ちゃんは彼にそう言って、踵を返した。

 

「はい。また」

 

 音羽くんも私たちに声をかけて、私たちとは反対方向に向かって歩いて行った。

 音羽くんからある程度離れたところで、私はお姉ちゃんに話しかけた。

 

「ねぇお姉ちゃん」

 

「どうしたの?」

 

 私が呼びかけると、お姉ちゃんはそれに反応してくれる。そんな当たり前が嬉しくて、思わず笑みが溢れる。こんなことができるようになったのも、全部彼のお陰だ。彼が曲を紹介───いや、()()()()()()()()()()お陰だ。

 

「お姉ちゃん。お姉ちゃんもだよね?」

 

 私は知っている。そんな意味を込めて、お姉ちゃんを見た。

 

「……日菜にはお見通しなのね」

 

「ふふーん。お姉ちゃんの双子の妹だからね!」

 

 諦めたようなため息と少し嬉しそうな声。あの頃からお姉ちゃんは大分変わった。こんな一面があるなんて知らなかった。私たちの空白の時間を、これから存分に埋めていこう。それは兎も角。

 

「……ねぇお姉ちゃん。これからいっーぱい───るん♪ ってしようね!」

 

「ふふ……ええ、そうね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな会話をして、私たちは家路を歩いて帰った。

 

 

 

 

 

 そんな二人を後ろから見つめる影があった。オレンジの光が逆光となって、その表情を窺い知ることはできない。

 周囲は静まり返っていた。ポタポタと滴る水が、アスファルトを濡らしている。

 

 影───音羽は、出血するほど強く強く両の手を握りしめた。何かを堪えるかのように。音羽は全てを飲み込むかのような瞳で、遠ざかっていく二人の背を眺めていた。

 

「あぁ、そう言えば」

 

 ポツリと、誰にも聞こえないくらいの小さな声で、何気ない風に。

 

「こういう時によくあう曲があったっけ。確か────」

 

 それは前世。死ぬ前に一度聴いた曲。ある二人組が小説を歌にしたという珍しい曲。その名は───、

 

 

 

 

「───『夜に駆ける』」




 はい!これにて日菜・紗夜編終了となります!
 長かった!(←長引かせた)

 日菜に関しては何でこうなったのか自分でもよくわかってないです。紗夜も日菜双子の姉だからか、日菜の気持ちがよくわかるっぽいし。と言うか二人揃ってヤンデレっぽい……。どうしたらいいっぽい……?

 まぁこれでやっとイチャイチャできるので嬉しい限りです。餌付けもやりたいしなー。
 「夜に駆ける」を聴きながら妄想すると良いかもですね?

 アンケートで候補に氷川姉妹が入ってませんが入れられなかっただけです。なので日菜紗夜の票が同数になれば氷川姉妹ルートということで。宜しくお願いします!期限は4月10日まで!上位三つを採用します。


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ⅩⅩⅩⅨ、風邪と看病①

 他者視点は後に閑話として投稿します。取り敢えず音羽の視点です。


 ───やめて。

 

 ───殺さないで。

 

 ───死なないで。

 

 ───奪わないで。

 

 

 

 

 

 ──────ぼくを、ひとりにしないで。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ゼー…ハー……ゼー…ハー…」

 

 バッと体を起こし、荒い呼吸をする。どうにか落ち着かせようとするが、心臓がバクバクと大きな音を立てているせいか、中々落ち着くことができない。

 

 悪い夢を見た。前世の夢。今まで、夢にみたことも、思い出すことも無かったのに。

 あぁ、そうか。これは、僕の罪で、ただ仕舞い込んでいただけだったんだ。そう、思った。

 頬には涙の跡がある。汗もかいて、とても気持ち悪い。服と布団は雨にでも降られたかのようにビッショリと濡れていた。頭がクラクラして考えが纏まらない。

 

「み、ず……」

 

 まずは水だ。こんなにも汗をかいていたのだから、水分補給しなければ脱水症状を起こしかねない。部屋を出ようと歩き出す。だが。

 体が鉛のように重い。しんどい。足元が覚束ない。視界が揺れている。吐き気もする。気持ち悪い。心臓の音も大きく聞こえる。呼吸が荒い。動け────。

 

 僕は扉の前で倒れ、意識を失った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 おでこに、ヒンヤリとした冷たいものを感じた。気持ちいい。

 

「これで大丈夫かな……」

 

 聞いたことのある声が近くで聞こえる。

 ゆっくりと目を開いて、周りを確認する。僕が寝ているところはベッドの上のようだった。頭の近くには、黒を基調とした赤色の模様が入った服が、ヒラヒラと揺れている。

 黒を基調とした赤の服は、確か美竹さんが好んで着ていた服だ。

 

「あ、……み、たけ……さん」

 

 喉が乾燥しているのか、掠れた声が自身の喉からでる。

 

「あ、起きました?大丈夫ですか?」

 

 予想していた通り、美竹さんだった。

 美竹さんは心配気な表情で、僕を見る。

 

「ご、はん、つくら、なきゃ」

 

 恐らく、ここは僕の部屋だろう。何故ここに美竹さんがいるのか。今は何時なのか。色々と疑問は尽きないが、お客さんが来たのだ。おもてなししなければならないだろう。それに、母さんも舞もまだ朝ごはんを食べていないはずだ。早く、作らなきゃ。

 そう考えて起きあがろうとしたら、美竹さんに押し止められた。

 

「ダメですよ。まだ治ってないんですから。寝ていてください」

 

「で、も……」

 

「でもも何もありません。何か飲めますか?ポカリありますけど」

 

 美竹さんはポカリのペットボトルを取り出して、僕に見せてくる。そこで僕は自身の喉の渇きを意識した。

 体を起こして美竹さんに頷く。美竹さんからボトルを受け取り、キャップを開けて口をつける。

 そのまま飲み続けて一本空けてしまった。

 

「大分喉渇いてたみたいですね」

 

 そう言いながら美竹さんは僕の手からボトルを奪い取り、ご飯は食べれるかどうかを聞いてきた。

 

「食欲が、ないから。ちょっと難しいかな」

 

 水分補給をしたことで喉の掠れが無くなり、普通に喋れるようになった。

 

「そうですか。ならこのゼリーでも食べていてください」

 

 美竹さんから栄養ゼリーを受け取り、飲み始める。その間に美竹さんはボトルを捨てにいったり、新しいボトルを持ってきたりしてくれた。

 

「美竹さん、ありがとう」

 

 ゼリーを食べ終え、美竹さんを見つめて感謝を伝える。

 

「べ、別に……いつもお世話になっているので……」

 

 顔を赤らめて、少しそっぽを向きながら美竹さんはそう言う。

 

「うん。それでもありがとうございます。そう言えば何故ここに美竹さんが?」

 

 もう一度感謝を伝えてから、疑問に思っていたことを聞く。確か美竹さんの家とはそこそこ離れていた筈だ。今日は勉強する日でも無いはずだし。

 

「あぁ、えっと裏乃(りの)さんから連絡があって、看病してくれないかって」

 

 べっとの横にあった椅子に座り、空のゼリーをまたしても僕から奪い取った美竹さんがそう言う。

 裏乃って確か母さんの下の名前だよね……?待って?いつの間に美竹さんの連絡先手に入れてたの⁉︎

 そう言えば今日は母さんは仕事で舞は遊びに行くって話だったよね?と言うことは二人とも朝ごはん食べずに外に?

 

「あ、朝ごはんはコンビニで済ませてあるから心配いらないって言ってました」

 

 僕の行動読まれてる……。心配、させたかな。

 

「舞ちゃんは遊びに行くの止めるって言って外から出ようとしなかったんですけど、流石に失礼だからって裏乃さんが無理矢理行かせてました」

 

 母さんグッジョブ!舞は全然遊びにいったりしないからなぁ……。友達との関係は大事にしてもらいたい。

 

「そうですか。重ね重ねありがとう。さて、じゃあ……」

 

 家族の状況と美竹さんがいる理由もわかったので、おもてなししようとベッドから出ようとする。が、肩をガッと掴まれて無理矢理にベッドに戻された。

 

「何出ようとしてるんですか。ちゃんと休んでいてください。何度も言いますけど、まだ治ってないんですから。今だって辛いですよね?」

 

 ウッと言葉に詰まる。実は彼女が言う通りまだ頭がクラクラとしていて、あまり考えが纏まらない。

 

「休んでいてください。おもてなしとかしなくていいですから」

 

 うぅ……まぁ、美竹さんが言うなら。

 

「ふふ。それじゃあ、集まりがあるのでこれで失礼しますね。ちゃんと休んでいてくださいよ」

 

 そう言って美竹さんはふわりと笑ってから、片付けを始めて僕の部屋から去っていった。

 

「うん。本当に、ありがとう」




 蘭ちゃんお誕生日おめでとう。ギリギリ間に合って良かった……。
 アンケート結果的に実は蘭ちゃんの誕生日狙ってたんじゃないかと疑ってます。
 次回はパスパレ会!……きっと破茶滅茶になる。


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ⅩⅩⅩⅩ、風邪と看病②

 今回はパスパレメンバー
 遅れて申し訳ない……色々、あったんです。


 静かな湖畔を眺めながら、彼と笑い合う。色んな話をして、クスクスと笑い合う。

 話が一旦途切れると、彼は湖へと目を向ける。

 その横顔をこの上なく美しく感じた。

 胸が高鳴り、頬が熱くなる。

 

「ね、ねぇ?」

 

 これからすることに期待して、上擦った声で彼に聞く。

 彼はその顔を私に向けて、うん、と了承した。

 心臓が破裂しそうなくらい鼓動が速くなり、脳がパンクしそうになる。

 彼の顔が段々と近づいてきて────。

 

 〜♪ 

 特徴的な音楽が、近くに置いていた鞄の中から鳴り出した。

 私は夢から醒め、数秒呆けた後その夢を思い出した。顔が熱い。

 そのままベッドの中で悶えること数秒。はたと携帯が鳴っていたことを思い出す。

 私は鞄から携帯を取り出し、表示されている相手の名前を見る。

 彩ちゃんからだった。

 何かあったのかしらと、電話に出る。

 そして───、私は急いで身支度を整えて家を出た。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 寝苦しい。熱い。喉が渇いた。

 目が覚めた時、最初に考えたことはそれだった。

 僕は水を求めてベッドから出て、側にあるポカリのボトルを手に取る。

 ボトルの中身は無かった。

 

「あー……」

 

 がっくりと項垂れてから、ボトルを持って下へと降りる。ボトルを分別して、戸棚からガラスのコップを取り出し、水をそれに注いだ。

 

「っぷは」

 

 勢いよく飲み干し、もう一杯と水を注いでいる時、インターホンが鳴った。

 

 ピンポーン。

 

 今日は日曜日、現在時刻は11時。宅配でも来たのか、と疑問に思う。

 

 ピンポーン。

 

 もう一度鳴った。

 出ないわけにはいかないので、コップをテーブルに置き、ドアまで行く。一応不審者だった可能性を考えて、外の様子がわかる機械を覗く。

 

 そこにいたのはバイト先の先輩の丸山先輩だった。

 

「どうしたんですか!?」

 

 ちょっと驚きながら急いで鍵を開け、ドアを開ける。

 

「こんにちわー」

 

「あ、はい。こんにちわ……ってそうじゃなくて」

 

 一瞬流されそうになるも、問い詰める。

 

「僕、家の場所言いましたっけ? と言うか今日バイトのシフト……は無かったか。でもアイドルの方は……?」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 矢継ぎ早に言っていたのか、丸山先輩が止めてきた。

 

「とりあえず立ち話もなんだし家に入っても良い……?」

 

 少し不安げに僕に聞く。やっぱりコミュニケーションお化けじゃないですか……いや、これくらいが普通なのかな。

 

「ん、まぁ、はい。どうぞ……散らかってるかもですけど」

 

 丸山先輩の提案を了承し、家にあげる。丸山先輩は恐る恐るといった風に小さな声で「お邪魔しま〜す」と言いながら家に入ってきた。

 僕はそのままお茶を出す為にキッチンへと向かう。

 僕についてきてリビングに入ってきた丸山先輩に座るように言い、冷えたお茶を先輩の前に置いた。そして問い詰める。

 

「で、どうしたんですか?」

 

「え、なんで私が問い詰められてる雰囲気が出てるの!?」

 

 刑事ドラマの尋問の場面でも思い出したのだろうか。状況に戸惑い困惑する先輩。

 その様子が面白くて、クスリと笑ってしまう。

 

「も、もう! 揶揄わないでよ〜」

 

 少しむくれながらも、その瞳の内に心配げな思いをチラつかせる先輩。

 うん、優しい。

 僕は先輩の心の内を予想して、ホッコリする。

 

「先輩、ありがとうございます」

 

「え! あ、うん……その、大丈夫?」

 

「はい。少しフラつきますが、現状は」

 

「そっか……大事にならなくて良かった」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 ほっと息を吐いた先輩にお礼を言う。その優しさに、僕は心が満たされた。ただ単純に、嬉しかった。

 と、少し話していると、またインターホンが鳴った。

 今度は誰だろうと疑問に思いながら立ち上がる。

 と、丸山先輩が不意に呟いた。

 

「あ、皆来たのかも」

 

 皆……? 

 その発言に困惑して体の動きを止める。

 

「私が出てくるから座って待ってて」

 

「ちょっ! ……はぁ……」

 

 そう言って止める暇もなく玄関の方へ向かう先輩。

 その様子に僕は諦めのため息をついた。

 先輩が来客の対応をしている内に(先輩も来客の筈だけど)お茶の準備をする。ただ、何人分必要なのか分からないので、すぐに淹れられる準備だけをした。

 

「音羽くーん。上がってもらっても良い?」

 

 先輩が大きな声で聞いてくる。

 

「大丈夫ですよー。因みに何人ですかー?」

 

 こちらも大きな声を出して応答する。

 

「4人だよー」

 

 4人分の茶器を出し、ついでにお茶菓子も出す。お茶を注いで全員が座れる準備をした。

 丁度準備が終わったタイミングで丸山先輩がお客さんを連れてリビングに入ってきた。

 入ってきたのは白鷺千聖さん、日菜先輩、大和麻弥さん、若宮さんだった。




 キリが良いのでここで。
 まさか二つに分かれるとは思わなんだ……。


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ⅩⅩⅩⅩⅠ、風邪と看病③

 書き上がったので投稿しました。
 期間が長くなって申し訳ない……。艦これが面白くって。後ウマ娘も楽しくって。


 コトコト。コトコト。

 いい匂いが漂ってくる。

 ジュウ。じゅわぁ……。

 脂が弾け、肉の焼ける音がする。

 アタシの口の中は既に唾で一杯だ。

 何を作っているのだろうか。それはわからないけど、もの凄くお腹が空いた。

 周りを見ると、みんなも同じような顔をしていた。

 これから出てくる料理が待ち遠しい。そんな顔。

 お腹と背中がくっつきそう……。

 それから数十分をかけて、アタシたちの前に料理が置かれた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 パスパレの方々が家に上がった頃が丁度お昼頃だった。

 なのでリビングで待ってもらい、料理をご馳走することにした。

 みんなには止められたけれど。流石にこればっかりは僕がする。

 そう言って無理矢理席に座らせて、調理の準備を開始する。

 少し深めの圧力鍋を棚から取り出し、有塩バターを冷蔵庫から取り出して、投入する。そしてまんべんなく溶かす。

 次に玉ねぎとマッシュルームを刻み、牛肉も食べやすくして鍋に入れる。

 牛肉に焼きめついた頃に、水を投入し、15分中火で煮込む。もちろんその間に出た灰汁をとって捨てる。

 15分たったので、火を止めてルーをいれて溶かす。そしてそれを弱火で10分煮込む。

 10分経ったらといた卵に牛乳と塩コショウをいれて混ぜる

 有塩バターをフライパンにしき中火でさっきといた卵を半熟になるまで火を通す。

 暖かいご飯に有塩バターと細かく刻んだパセリをいれてバターが溶けるまで混ぜ、皿に盛り付けて半熟まで熱した卵を、盛り付けたご飯に被せてめ皿に盛り付けてビーフシチューに細かく刻んだパセリをかけると完成!

 出来上がった料理をリビングに持っていって各々の目の前に置いた。因みにこの家には6人用のテーブルがあるので全員座れる。まるでこの時のために買っておいたというような感じがする。果たして母さんに先見の明があるのかどうか……。

 

「お、美味しそう……」

 

「シチューの香りが……ゴクリ」

 

「むむむ。初めて見た料理です」

 

「……」

 

「美味しそうだねー!早く食べよ!」

 

 僕が配膳している間、彼女たちの目はビーフオムライスに釘付けだった。そんなにお腹が空いていたのかな。

 配膳をし終えて、席に着く。

 

「「「「「「いただきます」」」」」」

 

 こんなに大人数で食べたことがない……いや、最近あったね。特にお昼頃。

 お昼の時の情景と今の目の前の景色を重ねて、ふふっと笑う。

 

「美味しい!」

 

 花が咲くような笑みで、感想を述べてくれる丸山先輩。

 

「バターが溶けたご飯をビーフシチューと一緒に食べると幸福な味がするわ……さらにルーと一緒に食べると爽やかな風味がしてさらに美味しくなってるわ!」

 

 食レポのように詳しく感想を言ってくれる白鷺さん。

 

「何というか……これは虜になる味っスね……」

 

 料理を堪能しながらそう言う大和さん。

 

「ンー!いつも通り美味しいですね!」

 

 満面の笑みでかなり早いペースでビーフオムライスを食べる若宮さん。

 うん。やっぱり面と向かって感想を言ってもらうのは嬉しいなぁ。

 料理に舌鼓を打ちながら、僕らは世間話を始めた。

 

「最近のアイドルの活動はどうですか?」

 

「んーと。お仕事は増えてきたよ」

 

 アイドル関係の話を聞いたり。

 

「この前の小テストの点数どうでしたか?」

 

「僕はそこそこ良い点だったよ」

 

「本当ですか!今度勉強教えてください!」

 

「話に入れないよー!」

 

 若宮さんと小テストの話をして丸山先輩に拗ねられたり。

 

「そう言えば飲料水のCMに出てましたよね?見ましたよ」

 

「あ、えっと、その。どうでしたか……?」

 

「とっても綺麗でした!CMの飲み物飲んでみたいと思いましたし」

 

「ふふ。それは良かったわ」

 

「私もそんなこと言われてみたい!」

 

 白鷺さんと出演したCMの話をしたり。

 

「この機材がですね……」

 

「へぇ……ふーむ」

 

「ちょっと2人とも!」

 

「食事中にはしたないわよ?」

 

「あ、すみません」

 

「私も入れてよ!」

 

「「彩ちゃん……」」

 

「丸山先輩……」

 

「「彩さん……」」

 

「やめて!私をそんな目で見ないで!」

 

 大和さんと機材の話をして白鷺さんに注意されたり。

 

「ねぇねぇ音羽くん。今度一緒に遊びに行かない?」

 

「遊びに……ですか?」

 

「うん!お姉ちゃんも一緒にさ!」

 

「そうですね……時間があれば」

 

「やった!」

 

「何で……何で私はおち要員に使われてるの……」

 

 日菜先輩と遊びに行く約束をしたり。

 僕は楽しい時間を過ごした。

 

「あら?もうこんな時間なのね」

 

 食事が終わり、片付けをした後。僕たちはリビングで話し込んでいた。そんな時にふと白鷺さんが腕時計を見てそんなことを言った。

 

「もうそろそろお暇した方が良いかな?」

 

「そうね。あまり九重くんに心労をかけるわけにはいかないし」

 

「そっかー。じゃあまた今度だね!」

 

「楽しかったです!また遊びに来ますね!」

 

 彼女たちは立つ鳥跡を濁さずといった風に帰る準備を始め、玄関へと向かった。

 

「はい。また遊びに来てくださいね。その時もまたご馳走しますから」

 

 僕はそう言って彼女たちを見送った。

 

「後白鷺さん」

 

「? 何かしら?」

 

「別に心労にはなっていないのでいつでも来てくださいね」

 

 白鷺さんは目を丸くして、それから綻ぶような笑みを浮かべた。

 

「ふふ。なら、良かったわ。また、遊びに来るわね」

 

 

 

 こうして僕の風邪の一日が───終わることはなかった。

 

 

 

「こ、こんばんは……」

 

「ええ。こんばんは」

 

「どうしたんですか?───湊さん」




 次話で最後!友希那さんでーす!多分お待たせすると思いますが気長に待ってもらえれば嬉しいです。
 後今回初めて料理を載せました。こんな感じにしていくつもりなのでどしどし出してください!


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ⅩⅩⅩⅩⅡ、風邪と看病④

 気がつけば既に40話を超えている……。まぁ1話1話の文字数が少ないですからね。当然と言えば当然?


 とある家で。少女は悩んでいた。

 

「どんな服を着ていけばいいのかしら……悩むわ」

 

 少女には今までこのようなことで悩む経験は皆無と言っていいほど無く、途方に暮れていた。因みに着る服について悩み始めてから既に3時間は経過している。

 

「……リサに聞こうかしら」

 

 結局ファッションに詳しい幼馴染を頼った。

 

 

「何々~デート?」

 

「違うわ」

 

「即答!? しかも食い気味!」

 

「……ねぇリサ」

 

「ん? 何~?」

 

「これ……似合ってるかしら?」

 

「……………うん。それは止めておこうか」

 

「何故?」

 

「……うん。可愛いは可愛いんだけど、ね」

 

 こんな会話があったとかなかったとか。因みに少女の幼馴染である今井リサは猫柄の衣装に心惹かれる少女に、別の服を着させるのに大変骨を折ったのだとか。

 

◇ ◇ ◇

 

 湊さんを家に上がらせ、テーブルに着いて話を聞く。

 

「えっと……」

 

「……」

 

 湊さんは何も話さず僕のことをジッと見つめる。

 なんだかとても気まずい……。

 取り合えず理由を聞こう。

 

「み、湊さん」

 

「何かしら」

 

「あの、どうして此処に?」

 

「あら、用もないのにここに来ては駄目?」

 

「あ、いえ。全然来てもらって大丈夫です」

 

 湊さんからそんな返しが来るとは思ってなかった。

 

「冗談よ」

 

 冗談とか言うんだ……なんて思ったら失礼だろうけど。そう思わずにはいられなかった。

 

「……大丈夫そうね」

 

 その一言で、僕は湊さんが何をしに来たのかを悟った。

 嬉しくなって、思わず笑みがこぼれる。

 

「……ありがとうございます」

 

「当然のことをした……とは言えないわね。私、何もしてないわ」

 

 そう言って微かに落ち込む湊さん。

 

「心配してくれたじゃないですか。それだけで十分ですよ。こうしてお見舞いにも来てくれましたし」

 

「でも……」

 

「もぅ……心遣いって言うのは、そんなに簡単なことじゃないんですよ」

 

 僕は諭すように湊さんに言う。これは、前世からも含めた、僕の経験の話だ。

 

「誰かの為に行動を起こすというのは簡単なことではありません。大抵は自分のことで手一杯ですし、たとえ余裕があったとしても、誰もかれもがそういう心を持っているわけだもありません。また、有難迷惑という言葉のとおり、助けに入っても煙たがられることがあります。それに恐れをなす人が多いんです。迷惑じゃないか、足を引っ張るんじゃないか。そういう風な考えが頭に思い浮かんできて、行動することに制限をかけるんです」

 

「……」

 

「だから誰かの為に行動するって言うのは凄く勇気のいる行動なんです」

 

「……私は、そんな……」

 

「だったら、湊さんは凄く優しいんですよ。誰かのため、が当然のこと───そんな風に考えられるのはその証なんだと僕は思います。あなたの行動のおかげで僕の心は温まりました。それが、湊さんの起こした行動の結果ですよ」

 

「……」

 

 ちょっと説教くさくなってしまったかな。でも、それだけ感謝しているということを伝えたかった。───全部、受け売りだけど。

 

「……わかったわ。あなたが、そういうのなら」

 

「はい。……ところで、湊さんの服、可愛いですね。とっても似合ってます!」

 

「っ!」

 

 可愛い、と言った瞬間顔を真っ赤に染めて俯いた。

 

「突然……卑怯よ……」

 

 何かを言ったみたいだが、小さすぎて聞こえなかった。と、ここで玄関へと続く扉が開いた。

 

「ただいま~……ってあれ。友希那ちゃん?」

 

「あ、お邪魔しています。裏乃さん」

 

「母さん、お帰りなさい」

 

 入ってきたのは母さんで、くたびれたスーツを手に持っていた。

 

「いらっしゃい。ゆっくりしていってね。音羽、ただいま。熱は大丈夫?」

 

「うん。おかげさまで」

 

「ただいま!お兄ちゃん!大丈夫!?」

 

 母さんと今日のことを話していると、扉を蹴破るようにして舞が入ってきた。

 

「だ、大丈夫だから」

 

 慌てて舞を宥めすかす。落ち着くように背中をさする。

 

「うぅ……よかった~」

 

 涙声で安堵する舞。

 

「母さん、舞、湊さん。ご心配をおかけしました」

 

 全員と向き合って、しっかりと告げる。感謝の意を目いっぱい込めて。僕は、こんなにも愛されているんだと、こんなにも幸せなんだと、実感した。

 

「大丈夫よ。心配したのは心配したけど、良くなってよかったわ」

 

「私は、その、まぁ、あなたの為になったのなら」

 

「ほんとはお兄ちゃんに1日中付きっきりになりたかったけど……」

 

 あぁ、本当に、愛されているなぁ……僕はこんなにも幸せでいいのだろうか。

 

「さ、ご飯にしましょ。友希那ちゃんも食べていくよね?」

 

「あ、友希那さんこんばんわ!」

 

「はい。ご相伴に預からせていただきます。舞ちゃんこんばんわ」

 

「ふふっ。よかったわ。じゃあ腕によりをかけて久しぶりに作るわよ!」

 

「待って!お母さん待って!お母さんはご飯作っちゃダメだから!お兄ちゃんも止めるの手伝ってー!」

 

「何よー。私が作ったっていいじゃない」

 

「ふふふ。楽しみですね」

 

 母さんが腕まくりをして、舞が慌ててそれを止めに入って。それを見て湊さんが笑う。

 こんな日常がいつまでもいつまでも続いてほしい。

 目の前の楽し気な光景を眺めて、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 ───だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───ほんの少しだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───怖くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───この幸せが終わって、不幸が、訪れることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───僕は、一抹の不安を、心の奥底に抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「お母さんは手伝わなくていいから!」

 

「あ、湊さん。そこの塩取ってください」

 

「何でよー。私だってたまには作りたいわよ」

 

「わかったわ。これね?」

 

「だったらまずその食器用洗剤を置いてよ!何を洗おうとしてるの!?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「あ、母さん。ちょっと味噌取ってくれない?」

 

「はーい」

 

「まってお母さん!どこに行こうとしてるの!?」

 

「これはどうしたらいいのかしら?」

 

「え?味噌よね?10キロほど買いに行こうかと……」

 

「なんでわざわざ買いに行こうとしてるのよ!家にあるわよ!というかそんなにいらないわよ!」

 

「ああ、これはですね……」

 

 なんとも楽しい時間を過ごしました。舞が異様に疲れていたけど。




 ツッコミ役が舞ちゃんになってしまわれた……。
 最近は涼しいですね。五月晴れとはよく言ったものです。

 さて、これにて風邪編?が終了いたしました。次はー……曲投稿かガルパですかね。時期的にはまだ5月ぐらいだから……いや、6月かもしれないけど。


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ⅩⅩⅩⅩⅢ、心配

 大幅にお待たせしてしまって申し訳ございませんでしたぁ!!

 AfterGrow編……と言う名の蘭編。
 だけど今話はイヴの話。


 とあるカフェに、3人の少女がいた。

 1人はその店の従業員なのか、白のシャツに茶色のベストのような制服を着ている少女。背は中くらいで、真面目そうな雰囲気がある。今は苦笑いしているが。

 もう2人は私服で、客だと言うことがわかる。

 1人は黒いシャツに赤いジャケットを羽織った少女で、もう1人はピンクのカーディガンを着た少女だった。

 

「ねぇ蘭~」

 

「……何」

 

 ピンクの髪を持つ少女───上原ひまりがテーブルに体を乗せてぐでっとした様子で、幼馴染である赤メッシュの少女───美竹蘭に話しかける。

 体をテーブルに乗せているせいで、その豊満な果実がテーブルに押し付けられてぶにゅっと潰れていた。それを見た蘭はイラっとしながらも受け答えをする。

 

「……今からでも止めにしない?」

 

「無理。もう呼んじゃってるし」

 

「だよねー」

 

 彼女ら二人はとある人物を待っていた。ひまりはその人物と会うことにあまり気乗りしない様子だった。

 

「どうしたのひまりちゃん。珍しいね」

 

 ひまりの言葉に対してカフェのオーナの娘でもある羽沢つぐみが聞く。

 それは確かに普段の彼女からすれば大変珍しい光景だった。

 上原ひまりと言う人物は誰とでも、とは言わないまでも人付き合いのいい方だった。彼女らのグループの中ではよくパーティーなどを提案したり、どこかへ行こうと積極性を常に見せているからだ。だからこそ不思議だった。積極性の無いひまりが。

 

「んー……だって今から男の人紹介されるんだよ?緊張しないわけがないし……しかもあの蘭からの紹介だし」

 

「ちょっ!言い方!」

 

「あはは……でも確かにそれも珍しいよね。蘭ちゃんが誰かを紹介するなんて」

 

 こちらも大変珍しいことであった。美竹蘭と言う少女はひまりと比べると、極端に人付き合いが悪い。もちろん問われれば答えるし、買い物の為に外へ出たりだってする。ただ、その目つきのせいで避けられやすいのだ。性格も相まって。

 

「まぁ……その、お世話になってるし……ひまりが悩んでることも解決してくれるだろうし」

 

「うーん……でも私の悩みって言ってもな~」

 

 ストローを加えて上下にピコピコ動かしながらぶーたれるひまり。

 

「ひまりちゃん。お行儀が悪いよ」

 

「あ、ごめんごめん」

 

 つぐみがそれを注意した。ひまりは自覚していたのか、すぐに姿勢を正しストローをコップに入れる。氷に当たってカランという音が鳴った。

 

「ウムムムム……」

 

 唸るひまり。

 別に彼女は蘭が呼んだ人物と会うのが嫌なわけでは無い。ただ、どんな人物か予想がつかないから、少し間を置こうとしているのだ。

 と、彼女たち3人が寄り集まって会話しているとドアベルの高らかな音が店内に響いた。

 その音に3人とも気づかない───と言うよりも意識の外にあった。

 話題の人物が店内に入って来たなどと、3人は考えましていなかった。

 話題の人物はキョロキョロと辺りを見渡す。すると、もう1人の店員である銀髪緑目の少女───若宮イヴが案内をする為にその人物に近づいた。

 

「うーんと……あれ? 若宮さん?」

 

 その声にイヴはその人物をしっかりと見る。

 

「え、あれ。音羽さん!?」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 僕は現在、美竹さんに呼ばれてここ、羽沢コーヒー店に来ている。

 僕が呼ばれた理由は、以前に彼女が言っていた友人に、歌詞の書き方を教えて欲しいということだからだ。

 正直僕から話すことは無いと言ってもいい。それでも、曲がりなりにも美竹さんの先生として彼女に教えている。そんな教え子と言ってもいい彼女からの頼みだったので、断りづらかった。

 そんな少し重い気持ちを持ちながら僕は店内へと入るための扉を開ける。

 カランカランと客が入ってきたことを知らせるドアベルが高らかに鳴る。

 待ち合わせの席は何処だろうかと見まわしていると、とてもよく見たことのある銀髪を揺らしている店員が近づいてきた。

 あれ……若宮さん……?

 

「え、あれ。音羽さん!?」

 

 声に出していたのか、目を真ん丸にして僕を見つめる若宮さん。

 若宮さんがここで働いているとは知らなかった……。ってあれ。待って? 若宮さんって確か兼部してたよね……? それに加えてアイドルバンドもして、ここでも働いてるの……!?

 

「何でこk……へ?」

 

 がっちりと若宮さんの肩を掴む。

 

「若宮さん……しんどくなったらいつでも言うんだよ?」

 

「ふぇ……あ、はい……ありがとうございます……」

 

 何故か赤面しながらモジモジと返答する若宮さん。それに疑問を抱きながらここに来た理由を伝えた。

 

「あ、待ち合わせですね。ならこちらです」

 

 そう言って若宮さんが先導してくれた。いまだ頬が少し赤いけど、気にすることでもないかな。

 そうして僕は、少女3人が集まっている席に連れて行かれた。




 すみませんすみません。今回そんなに話進んでなくて……。
 次!次から本題に入ります!きっと!


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ⅩⅩⅩⅩⅣ、ここから

 遅くなって申し訳ございません……。
 あと短いです。


『……だから、関係ないって言ってるでしょ!』

 

『お前は華道の人間としての自覚が足りん』

 

『……私、継ぐつもりなんてないから』

 

 いつからだったろう。お父さんとこんな会話をし始めたのは。

 

『またバンドか』

 

『……何』

 

『いつまでもお遊びをするな』

 

 いつからだったろう。こんなにも家が嫌いになったのは。

 

 私は、いつからお父さんを避け始めたのだろう。

 反抗がしたいだけ。確かに、そうかもしれない。でも、私は───。

 

◇ ◇ ◇

 

「こんにちは。そして初めまして、九重音羽と申します」

 

「あ、は、はい! 初めまましてて、わ、私は上原ひまりっていいましゅ!」

 

 目の前にはガッチガチに固まったピンクの髪の少女。カジュアル、というのだろうか。柄のあるTシャツを着こなしている。

 

「……なんでそんなに緊張してるの」

 

「え、蘭ちゃんの紹介したい人って音羽さんのことだったの!?」

 

 美竹さんが上原さんにつっこみ、羽沢さんが美竹さんに聞く。何ともカオスな空間が出来上がっていた。

 

「とりあえず僕も何か頼もうかな。ここ、座っても良い?」

 

 美竹さんに確認をとり、許可を得たので隣に座る。そしてメニューを開いた。

 ここ、羽沢コーヒー店のメニューはリーズナブルだけど大変美味しいものが多い。その為、何度かここで休憩したことがある。

 

「うーん……今日はブレンドコーヒーかな」

 

「ブレンドコーヒーですね。承りました」

 

 羽沢さんが確認をとり、厨房へと走っていく。僕は少しの間その後姿を眺め、上原さんに目を向ける。

 

「それで、美竹さんに聞いたのですが歌詞作りに困っているんですか?」

 

「ふぇ、あ、はい! そうでしゅっ!」

 

 まだ緊張しているのか、赤い顔で激しくうなずく上原さん。大丈夫? 首捥げるのかってくらい激しいけど。

 

「うーん。って言っても僕から言えることは無いですよ?」

 

「……え?」

 

 僕の言葉に疑問顔の上原さん。実際に僕から言えることはない。

 

「良い曲を作るんだったらそれこそフィーリング……思い浮かんだ歌詞がいいですから」

 

「そ、うなんですか……」

 

 そう。良い曲というのは発想が大事なのだ。まぁ僕の持論だけど。

 創作というのは、組み立てて作るよりも直感の方が良いものが出来やすい。

 それ故に僕から話せることなんて無いのだ。

 

「でもまぁ……色んなことを体験するのも良い刺激にはなると思いますよ?」

 

 基本、多くの人は刺激を受けて発想を得る。それは才能があるだとかそういう問題では無い。発想力が強いかどうかだ。発想力というのは読書をしていれば自然と培われていくもの。と言うのも、小説を読むことでその場面を想像し、アニメーションのように場面を切り替えていく。これが発想力が培われる仕組みだ。これは才能とかは関係ない。

 

「……ありがとうございます!」

 

 勢いよく頭を下げる上原さん。ちょっとびっくりした。と言うよりも罪悪感が……。僕大したこと言えてないし助けにもなってないのに……。

 

「あー……大したことはしていないので……力にもなれていませんし。そうだ、お詫びに僕の家に来ません?」

 

 いいことを思いついたので家に誘ってみる。そして気づく。

 年頃の女の子がさっき見知った相手の家についてくるわけな「行きます!」えぇ……。この子警戒感薄いよぉ……。

 

「えーと……そうだね、今の時間帯だとお菓子がいいかな。今から行けたりする?」

 

 店内の時計を見て時刻は3時前を指しているのを知る。家に確か作り置きのお菓子があったはずと思いながらコーヒーを飲み干し、お会計の為に席を立つ。そこで気づいた。

 一人は呆然とし、三人が期待の目を込めて僕を見ていることに……いや、なんで?

 上原さんは特になんで呆然としてるの?

 

「あー……えー……来ます?」

 

「行きます」「行きたいです」「いいんですか!?」

 

 美竹さん、羽沢さん、若宮さんの順番に食い気味に言う。美竹さんはまだしも羽沢さんと若宮さんは……お仕事大丈夫?

 聞いたらマスターに「今日は大丈夫だから行ってきなさい」と言われたらしい。早速とばかりに着替えに行った。

 

「九重君……よろしく頼む」

 

「あ、はい……」

 

 深々と頭を下げられたのでこちらも頭を下げる。いいの……? あなたの娘さん男の家に上がるけどいいの……?

 

「ひまりー。再起動しろー」

 

 美竹さんが何故か固まっていた上原さんを起こす。そんなPCじゃないんだから……。



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ⅩⅩⅩⅩⅤ、餌付け

 お久しぶりですー。時間はかかりますがきっちり完結させるのでよろしくお願いします。


『まだやっているのか』

 

『だから、お父さんには関係ないって言ってるでしょ』

 

『いい加減将来のことを考えろ』

 

『……』

 

『またか。()()()()()に時間をかけるな。お前は美竹家の───』

 

『っ!』

 

『蘭! まだ話は───』

 

 ◇ ◆ ◇

 

 美竹さん、上原さん、若宮さん、羽沢さんを家に上げてリビングの席に座ってもらう。反応は二つに分かれた。

 恥ずかしそうに押し黙り、下を向く三人と、物珍しそうに家の中を見渡す若宮さん。若宮さんはわかるけど三人は恥ずかしさが今来た感じなのかな?

 それは兎も角今から作るのはお菓子だ。手ごろですぐにできるもの。クッキーだ。ただ、そのままのクッキーを出すのは面白くない。何が?って言う話なんだけど、そのままでは味気ないと僕は思うんだ。そういうわけで、作るのは『スノーボールクッキー』というものだ。

 白い球体のサクサククッキーで、少し塩気があるがそれが甘さを引き立てている大変美味しいクッキーだ。

 さて、では早速作っていきます。

 まずは無塩バターを用意。これを少々混ぜて、キビ糖を投入します。バターと完全に混ざるまで混ぜます。

 薄力粉をふるいにかけながら投入。その際にアーモンドプードルとココアパウダー、塩も入れて一緒にふるいにかけます。溢さないように気を付けましょう。切るように混ぜます。塊ができるくらいになるまで混ぜます。

 塊ができたら敷いたラップの上に棒状にして置き、ラップで包んで冷蔵庫に入れて一時間以上冷やしましょう。

 待ってる間は四人とお話です。

 

「何作ってるんですか?」

 

「スノーボールクッキーって言う丸くて美味しいクッキーです」

 

「スノーボール……」

 

 冷蔵庫から出して、ラップの包みをはがします。クッキー生地を24分割に切ります。無理だったら適当な大きさでいいです。切った生地を手で丸めていきます。まん丸にできるよう頑張りましょう。できたものを冷凍室にいれ、15分待ちます。その間待っている四人とお喋りです。

 

「苦手なものってあります?」

 

「あー……わたしは……」

 

「蘭はグリンピースだよね!」

 

「ちょっ! ひまり!?」

 

「ひまりが嫌いなのはシイタケだよ」

 

「ちょっと蘭!?」

 

「仕返し」

 

「グッ……私から始めたから言い返せない……」

 

「私は……ブラックコーヒーです……」

 

「あれ、喫茶店の娘じゃ……」

 

「言わないで! わかってるから!」

 

「わ、私は……その、ぬか漬けです……」

 

「あれ、意外だねイヴちゃん」

 

 冷凍庫から出すとオーブンに入れて焼きます。160℃、17分です。焦げないように気を付けてください。くっついてたりするのでしっかりと離しておきましょう。クッキーを袋に入れ、粉糖を入れます。全てのクッキーに付くようにしっかりと混ぜましょう。手もみですよ? あとはお皿に盛って……。

 以上。美味しいスノーボールクッキーの出来上がりです。

 

「と言うわけで出来上がりましたー」

 

「い、いただきます……」

 

「いただきますっ」

 

「おー! 美味しそうです!」

 

「……いただきます」

 

「どうぞー」

 

「くっ……めちゃくちゃ美味しい……」

 

「はふぁ……」

 

「な、にこれ……口の中で溶けてる!?」

 

「これ……お店で出してもいいかな……」

 

「いいですよー」

 

 そんな感じでお菓子は食べ終わり、食休みをしてからみんなが帰ることになった。

 

「また食べたいです!」

 

 と上原さんが言い、他の四人もそれに同調した。

 

「じゃあ時間があったらまたお茶会しましょうか」

 

 苦笑しながら少しふざけてそんな物言いをする。それに何故か頬を紅潮させて食い気味に「はい!」と上原さんが答えていた。

 またね、言い合いながら玄関先で僕たちは別れた。その際、憂いを帯びた美竹さんの表情が気になった。

 家に戻り、室内を見渡す。さっきまで4人と話していたからか、随分と淋しく感じた。

 洗い物をしたり、夕食の用意をしたりしていると、既に外は暗闇に包まれていた。夕食の準備をしている間に舞は帰ってきていて、部屋で宿題をしている。母さんはまだだ。

 玄関の電気を点け、門灯も点ける。

 きっと疲れて帰ってくるだろう。そんな時に笑顔で迎えられたらどう思うだろうか。

 夕食の支度が終わり、日課や課題を終わらせて舞と待つ。

 ガチャリと扉の開く音がして、疲れた「ただいま」の声が響き渡る。

 そそくさと玄関に行き、満面の笑みで言う。

 

「おかえりなさい」




 因みにスノーボールクッキーは私は失敗しました。


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ⅩⅩⅩⅩⅥ、動き出す彼女たち

 お久しぶりです。大変お待たせ致しました……!!!


 チラつく。

 

『───お前は、また───』

 

 頭に過る。

 

『───さっさと───』

 

 どうしたって、あの人の落胆したような顔と、

 

『───いつまで』

 

 失望したような声が、

 

『───遊んでいる気だ』

 

 私の頭の中を、蹂躙する。

 

「───ぁん。蘭。蘭!」

 

「っ。あ、何?」

 

 ひまりに呼ばれて、下に向けていた頭をあげる。

 

「どうしたの? 蘭が集中してないのって珍しいね」

 

「蘭~。どうしたの~?」

 

「おい蘭。大丈夫か? さっきも大分ミスしてたし……」

 

「蘭ちゃん、大丈夫? いったん休もうか?」

 

 みんながみんな心配そうな顔をして声をかけてくる。どうやら私は心配されるような程集中できていなかったらしい。

 

「……いや、大丈夫。次は失敗しないようにするから」

 

「「「「……」」」」

 

 みんなにそう言って、1人先に準備を進める。皆には申し訳ないけど、これは私の家の問題だから。皆を巻き込めないから。

 その後、何度か練習したけれど、結局集中しきれなくて練習を終えた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 ある日のバイト帰りに、青葉さんからメールが届いた。内容的にはどこかで話したいから時間を作れないかということだった。僕はすぐに空いている日を青葉さんに教え、その日に会うことになった。

 学校が終わって、制服のまま商店街に向かう。落ち合う場所が青葉さんから指示されていて、今はそこに向かっている。と言っても、何度か訪れたことのあった場所なので迷うこともないんだけれど。

 その場所と言うのが───山吹ベーカリーだ。

 カランカランとドアベルを鳴らして、店内に入る。ふわりと焼けたパンのいい匂いが僕を包んだ。

 

「いらっしゃ───っておお! 九重くんじゃないか!」

 

 紗綾のお父さんが豪快な笑顔で出迎えてくれた。

 僕は何度か朝ご飯をここで買っていたために顔を覚えられてしまったのだ。そして紗綾から話が伝わったのか感謝までされてしまった。その為、仲良くさせてもらっている。

 

「うーん。どうしよっかな~」

 

 紗綾のお父さんと挨拶を交わしているとすぐ隣から間延びした声が聞こえてきた。

 

「こんにちは、青葉さん」

 

「ううん? やっほ~、九重くん。来てくれてありがとね~」

 

 話しかけると、眠そうな半目で挨拶をしてきた。

 

「ううん、大丈夫だよ。それで、何に悩んでたの?」

 

「いや~、新作に手を出すべきか、安パイに手を出すかで迷っててね~」

 

 と、青葉さんは再び悩みだした。

 

「ふふ……新作は自信があるぞ!」

 

 誇らしげに腕を組みながら紗綾のお父さんが言う。

 

「むむぅ……」

 

 それを聞いてさらに悩み始める青葉さん。

 

「……なら、僕は新作買おうかな。後これとこれも」

 

 僕は青葉さんが決める前に新作のパンを、入り口に置いてあったトレーに載せ、更に他のパンもトレーに載せた。

 

「あれ? そんなに買うの~?」

 

「うん。明日の朝ごはんだからね。青葉さんはもう一つの方取りなよ。僕のと半分こしよう」

 

 そう提案すると、花が咲いたような笑顔で青葉さんは言った。

 

「ありがとう~」

 

 パンを買って店を出ると、今度は羽沢コーヒー店へと向かった。

 店内に入り、席に着く。もちろん向かい合わせで、ただ、青葉さんの隣には羽沢さんもいた。

 

「それで、青葉さんは僕に何を話したいのかな?」

 

「あれ。バレちゃってたか~……」

 

 タハハ……と苦笑しながら青葉さんは頭をかいた。

 まぁ、普段会わない人から突然会おうってなったら何かあるのかなって思ってカマをかけただけなんだけどね……。

 

「んーと、どこから話せばいいのかな〜」

 

 口に人差し指を当てて青葉さんは考える。そこで羽沢さんが手を挙げて名乗り出た。

 

「あっ、それは私から説明するね」

 

 すごく申し訳なさそうな顔をしながら羽沢さんは語った。

 どうやら美竹さんが最近不調らしく、原因は恐らく家のことだろうということだった。

 それで、さり気なく美竹さんに気を遣って欲しいのだとか。

 

「ごめんね。こんなことお願いしちゃって……私たちじゃあ、話を聞いてくれないから」

 

 悲しそうに羽沢さんはそう言った。

 距離が近いがゆえにってことなのかな……。

 まぁ元気がない、ということだし美竹さんの好きなものでも作って持って行ってあげようかな。そう言えば彼女の空いてる日はどこだろう? 好きなものも知らないしなぁ……。

 

 何とかするしか、ないか。




 短くて申し訳ないです。


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