翼を失くした少年 (ラグーン)
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第1話 墜落してきたモノ

最近ガンダムSEEDに再熱してまさに勢いで書き上げました((震え声
ISには2度目の挑戦ですので気ままに見てもらえると助かりますっ!それではどうぞっ!


 第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦にて、2機のMSが激しい戦闘を繰り広げていた。『自由』の名を持つフリーダム、『摂理』の名を持つプロヴィデンス。この2機のMSによる、この攻防戦の終局を決める戦いは双方の全てを曝け出すかのようだった。

 

「―――あなたは……! あなただけはっ!」

 

 『自由』の名を持つフリーダムのパイロットである少年、キラ・ヤマトは声を荒げながらプロヴィデンスへとメインブースターを吹かせながら近づいていくが、それを簡単に許すほどプロヴィデンスは優しくはない。プロヴィデンスは最大の武器である無線式全周囲攻防システム『ドラグーン』を使い、フリーダムの接近を妨げる。お互いの機体性能は互角であり、しかし『ドラグーン』を持つプロヴィデンスの方が相性で有利だった。意思を持つかのように自在に動く『ドラグーン』はフリーダムを撃墜しようとするが、フリーダムはそれを避け、『ドラグーン』を逆にビームライフルで撃墜していくものの、『ドラグーン』の数が多く一筋縄ではいかない。

 

「いくら叫ぼうが今更……! これが定めさ! 知りながらも突き進んだ道だろう」

 

「……何をっ!」

 

「正義と信じ、わからぬと逃げ、知らず、聴かず!! その果ての終局だ、最早止める術などない!! そして滅ぶ、人は滅ぶべくしてな!!」

 

 フリーダムはプロヴィデンスに肉薄し、ビームサーベルを振るうがプロヴィデンスも複合兵装防盾システムに内蔵されている大型ビームサーベルで応戦し、お互いのビールサーベルがぶつかり合いつばぜり合いの状態になる。プロヴィデンスのパイロット、ラウ・ル・クルーゼは運命的に人は滅ぶものだと主張する。彼の言葉にキラ・ヤマトは声を張り上げながら否定する。

 

「そんなこと、そんな貴方の理屈っ!」

 

「それが人だよ、キラ君っ!」

 

「違う! 人は……人はそんなものじゃないっ!」

 

「はっ! 何が違う! 何故違う! この憎しみの目と心と、引鉄を引く指しか持たぬ者達の世界で、何を信じる!! 何故信じる!?」

 

「それしか知らない貴方がっ!」

 

「知らぬさ! 所詮人は己の知ることしか知らぬ!

 

 まだ苦しみたいか! いつかは……やがていつかはと、そんな甘い毒に踊らされ、一体どれ程の時を戦い続けてきた!!」

 

 お互いの言葉は平行線でわかり合うことがなかった。キラ・ヤマトとラウ・ル・クルーゼはお互いの言葉を一つ一つ否定をするが、キラ・ヤマトは彼の言葉の一つ一つに思い辺りがあるのか動きが僅かに悪くなる。その隙を逃すほどプロヴィデンスは甘くはなく、フリーダムの右足をビームライフルで撃ち抜いた。

 

「フフフフ……ハハハハハハッ! どの道私の勝ちだ! ヤキンが自爆すればジェネシスは発射される! 最早止める術は無い! 地は焼かれ、涙と悲鳴は新たなる争いの狼煙になるだろう!」

 

「……そんなっ!」

 

「人が数多持つ予言の日だ!」

 

「そんなことっ!」

 

 ラウ・ル・クルーゼの口から告げられた言葉にキラ・ヤマトは絶句し、ドラグーンを使われ被弾するがそれは致命傷になることはなく、すぐに切り替えてプロヴィデンスの左腕をビームライフルを使い破壊するものの、そのお返しと言わんばかりにビームライフルを握っていた右腕を破壊される。

 

「それだけの業! 重ねてきたのは誰だ!? 君とてその一つだろうがっ!」

 

「―――それでもっ! 守りたい世界があるんだっ!!」

 

 ラウ・ル・クルーゼの言葉に声を荒げ叫ぶようにキラ・ヤマトは答えた。フリーダムはビームサーベルの柄同士を連結させ両端からビーム刃を放出し、『アンビデクストラス・ハルバード』形態へと変えそのままプロヴィデンスへと一直線に突貫する。あまりにも無謀なその行動にプロヴィデンスは虚をつかれ、ビームライフルを使うものの反応が遅れた原因でフリーダムには当たらず右腕を切り落とされる。

 

「ちぃ!」

 

「う"ぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 プロヴィデンスはこのままでは危険だと判断して即座にフリーダムから距離をとり、両腕がないため自身の前にドラグーンを展開するもののフリーダムはそれにすら臆することなく、無謀な突貫を続ける。先ほどとは違い、フリーダムは頭部、胸部と被弾するが撃墜はおろか止まることすらなかった。まるで一人の少女の想いが、彼が乗るフリーダムを守るかのように。そしてプロヴィデンスのコックピットにフリーダムのビームサーベルが直撃する。フリーダムとプロヴィデンスの生死をかけた激戦はフリーダムの勝利で決着がついた―――しかし、その決着がついた場所は運悪くジェネシスの射線上であり、ジェネシスのγ線レーザーがプロヴィデンスとフリーダムへと無慈悲にも直撃した。

 

 閃光が晴れればそこには先ほどまで激闘を繰り広げ、全ての決着をつけたフリーダムとプロヴィデンスの姿はなかった。フリーダムのパイロットである、キラ・ヤマトも当然姿はない。

 

 C.E.(コズミック・イラ)71年9月27日に、地球連合とザフト軍の戦争は停戦した。大きな犠牲を払いながらも戦争は終わったのであった―――

 

 

◇◇◇

 

 

「ふひーっ、今日も大変です……」

 

「だろうな。本来あり得ないはずのことが起きればこういった業務に追われるのは当然だろう」

 

 山田先生はそうですけど、と疲れた様子で息を吐く。本来ならば新入生のための業務だけですむのだが、想定外の事態が起きてしまった。私にとっても頭を悩ませたいことではあるが、その不満を疲れている山田先生に漏らすのは彼女への負担になるし、忙しくなった原因が身内である弟だと尚更だ。

 

「男性がISを動かすことになるなんて私思ってもいませんでしたよ。しかも、織斑先生の弟さんがですよっ!」

 

「私としては正直に言えば複雑なんだがな……」

 

 山田先生が興奮して鼻息を荒くするが、私としては気分が憂鬱になる。ISについては私が口煩く、かつ徹底的に弟の一夏へ情報規制を続けていたのだ。一夏がISと無関係でいさせるためとはいえ、我ながら過剰と思える程遮断していたのに、そのやってきたことが一瞬で崩れてしまった。しかもその理由が、試験会場を間違えた、である。

 

「くっ! 普通IS学園と愛越学園を間違えるものなのかっ!? あの馬鹿弟はっ!」

 

「お、落ち着いてください織斑先生!?」

 

 不満が爆発して思わず机を叩いてしまい、それを見てアタフタとしながら山田先生は私を宥める。机に八つ当たりしたのは悪いが、この行き場のない怒りは何かに発散しなければやっていられるわけない。あの腐れ縁であろう、現在逃亡生活をしているメルヘン兎の仕業であるのならばどれほどマシか。制裁を加えられる分、精神的ストレスはある程度は発散できただろうに。

 

「一度休憩をしましょう。根を詰めすぎて身体に悪いですから! 織斑先生、コーヒーいかがですか?」

 

「ああ、いただこう。ブラックでお願いする」

 

「はいっ! 少し待っててくださいね!」

 

 小走りでコーヒーを作りに行く山田先生の背中を見送りながら、椅子に深く座り込む。山田先生が口にしたように、根を詰めすぎていては身体に悪い。ただ、今後のことを考えるとため息の一つで到底終わりそうにない。

 

(男である一夏がISを動かしたことにより、世界中でISの適性検査が行なわれていることだろう。これは報道を見て予想がつくとして……問題は一夏の身の振り方だ。『ブリュンヒルデ』の弟という肩書きはアイツの重石(おもし)になるだろうな)

 

 一夏が簡単に折れることはないのは知っていても、『ブリュンヒルデ』の弟という肩書きが重石になるのは間違いない。アイツには普通に日常を過ごしてほしかったんだが、とまたため息を吐いてしまう。そしてタイミングよくコーヒーを持ってきた山田先生が戻ってきて彼女からコーヒーを受け取り、新入生関連から話を再開する。

 

「この調子ですと、男性の操縦者は織斑先生の弟さんだけになるんですかね?」

 

「その点はわからないとしか言いようがない。ただ一夏以外の男がISを動かしたと言う報告は日本、世界からも今のところ報告されていない。隠蔽しているのならば話は別になるが……まぁ、隠蔽は流石にほぼ不可能に近いからその線はないだろう」

 

「隠蔽する方が、国としてデメリットが大き過ぎますからね。男性操縦者というのはどの国でも喉から手が出るほど欲しいですから」

 

「どちらにしろ私たちがやらないといけないことには変わりはない。ISをファッションの一つや二つと思っている新米共に、その危険性について叩き込むことだからな。性別など関係あるものか」

 

 新しくIS学園に入学してくる以上は、誰であれISについての知識とその危険性を叩き込むことに変わりはない。新たにISを動かした男が現れれば、このIS学園に来ることは確定なため教員の1人としてやることもまた変わりない。女だろうが男だろうが差別することなく、ISというモノがどのようなものかを教えるのが仕事だからな。

 

(……新たに男性操縦者が出るのならば、一夏の精神的にも楽になるかも知れんな)

 

 一夏の今後のことを考えながらコーヒーを口に運ぼうとすると、突如地響きのような音が響いた。気が緩んでいたこともあり、一瞬何が起きたのか事態が飲み込めなかったが即座に頭を切り替える。IS学園が襲撃される、ということは恐らくはないだろうが、もしもの可能性は否定できない……。特に気紛れで襲撃するかもしれないあのメルヘン兎辺りが。

 

「山田先生、先程の音の方角はアリーナだ! アリーナの被害情報はっ!」

 

「は、はいっ! えっと……使用していた生徒はいませんので生徒の怪我人はありませんっ! アリーナの被害情報については遮断シールドを突破されているようですっ!」

 

 山田先生の声には緊張が走っておりそれは無理もないと結論づける。アリーナの遮断シールドを突破されているということは侵入されたのと同義だ。誰がそんな馬鹿なことを、と思うが今は考える時間が惜しい。

 

「山田先生は他の教員を引き連れて、IS装着後にアリーナへ向かうように。もしもの可能性もあるため準備は怠らないようにしてくれ」

 

「織斑先生はどうするつもりですかっ!?」

 

「なに、私は少しばかり先に馬鹿の顔を見に行くだけさ」

 

 山田先生が必死に止める言葉が聞こえてくるものの、無視してアリーナへと直行する。生徒がアリーナにいなかったのは幸運であるが侵入された事実に変わりはなく、すなわち生徒たちが危険な状況下にあるということだ。

 

(……それに、束が暇つぶしにやってきた可能性もある。その時は私1人で何とかすればいいが、どちらにしろ問題事だな)

 

 恐らく私の今の表情は人に見せられないだろうな。と内心で苦笑しながら、目的地であるアリーナへと辿り着く。まずアリーナの遮断シールドの確認のため上を向けば、確かに遮断シールドを貫通しているのだが……その突破方法が襲撃ではなく、たまたま墜落したという感じであり眉を顰める。

 

(……少なくとも束でないとわかったが、まだ情報が少なすぎる。さて、いったいどこの大馬鹿がこんなことをしでかした?)

 

 IS学園に突入してくるという大馬鹿者の顔を見るために晴れない煙へ一歩一歩近づく。すでに移動している可能性を考慮するべきなのだが、アリーナの遮断シールドの破られ方からして侵入者はまだこの煙の中にいる。近付いていくうちに煙は少しづつだが晴れていき、案の定何かが倒れているシルエットが見えてきた。

 

(ISに乗っているのなら、すぐにこちらへ気づくはず。なのに動く気配がないとみると……気絶しているのか?)

 

 その可能性も視野に入れておこう、と心に留めておき、遮断シールドを突破してきた大馬鹿者を、私の視界に入れた時に煙は晴れる。そこには全身装甲(フルスキン)に身を包まれ倒れている人間がいた。

 

全身装甲(フルスキン)タイプか。少なくとも専用機と考えた方が良さそうだな……。しかし、これは本当にISか?」

 

 倒れているISの姿に私は怪訝な視線を向ける。全身装甲(フルスキン)が別に珍しいというわけではないのだが、ISの特徴的な一部である飛行用の翼(カスタム・ウイング)は見当たらないし、装甲は色合いが抜け落ちたかのようなメタリックグレーだ。先程専用機と口にしたものの、少なくとも私の知っている限りこのISを所有していると思われる国、そして人物、全て心当たりがない。

 

「反応がないということは、本当に気絶しているようだな。やれやれ……事情聴取は暫く後になりそうだ」

 

 なぜこのIS学園内アリーナへ墜落したのか、話を聞けるような状況でないことにため息を吐く。少なくとも目を覚ますまでは拘束する必要があるのだが……意識を失ってることを配慮しなければならない。目を覚ますまで私が監視していればいいだろうと結論付けていると、ISがエネルギー切れでも起こしていたのか半強制的に解除され、私は次に姿を見せたISの操縦者に唖然とする。

 

「……これはとんだ空からの落とし物だな。よもや――第2の男性操縦者とは」

 

 未確認のISの中から現れたのは、白を基調に緑寄りの青と黒を配したISスーツのようなものを着用している少年だった。グッタリとした様子で顔色が悪いところを見ると、ただ事でないのがわかる。とりあえずこの気絶している少年を横になれる場所に連れて行こうとすると、ISを身に纏った山田先生が数人の教員を連れてきて合流する。

 

「織斑先生、大丈夫ですかっ!!」

 

「ああ、余計な心配をかけてしまったな山田先生。私は大丈夫だが……思いもよらない空からの落とし物を考えると頭を抱えたくなる」

 

「落し物……?どういう―――って、その倒れている子が遮断シールドを突破した子ですか?……え、えっと、ちょっと待ってください、もしかしてその子……男の子……?」

 

「そのとおりだ、山田先生。どうやら第2のIS男性操縦者が見つかったようだぞ。ここIS学園の校門からではなく、遮断シールドを突き破るというとんだはた迷惑な訪問でな」

 

「え、えぇぇぇぇ!?」

 

 アリーナ中に山田先生と教員たちの驚いた声が響くが無理もあるまい。しかし……今後更に増えるだろう仕事量を考えると益々憂鬱になってくる。いずれにしろ意識を失っている少年から話を聞かなければならないため、私は倒れている少年を自身の背中へと担ぐ。

 

「その子大丈夫なんですか……? 意識を失っているようですし、顔色も悪そうですけど……」

 

「呼吸は安定しているから大丈夫だろう。1、2時間ほど様子を見て起きる気配がなければ病院にでも連れていけばいい。すでに遅いとは思うが生徒たちにバレるわけにはいかないし、隔離する形でこの少年を監視しよう。すまないが手伝ってもらえるか、山田先生」

 

「はいっ! 私で良ければ手伝いますよ!」

 

 山田先生が協力してくれるのは非常に心強い。私より彼女の方が少年を看病するにあたり適任だろう。それにしてもこの少年は少しばかり軽すぎるんじゃないか?年齢はパッと見た限り一夏に近いと思うんだが。すると背負っている少年は魘されるように譫言を口にする。

 

「……ぼく、は……君、を……守れ、なかった……」

 

(……どうやら背負っているものがあるようだな)

 

 本当に拾い物としては厄介ではあるものの、弱っている少年を見捨てるほど私は冷徹な女ではない。この少年がどれほどのモノを背負っているか分からないが……少なくとも今はゆっくりと休ませることにしようと、密かに私は思ったのだった。




次回からキラ君の視点で話を進めていきたいと思います。私はキャラ視点でしか話を書くことができないのだよ……すまない、本当にすまない。それなので独自解釈やらが大きく出るのでその時は許してくださいっ!

次回の更新は未定ですが気長にお待ちください!
(誤字&脱字の報告いつでもお待ちしております)


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第2話 目覚め

昼ぐらいに投稿するのは今回が初めてなんじゃないだろうか……?基本夜や夜中に作品投稿するのが多いので(白目
最近出たフリーダムのプラモデルがほしい、ほしい……でもお金がないから買えない悲しみが……(吐血

こんな私の前書きは無視をして本文にどうぞっ!


「……ここは……?」

 

意識を失っていた僕が目を覚まして最初に視界に入ったのは見たことのない知らない天井だった。アークエンジェルでもなくエターナルでもない見知らぬ天井に困惑しながら上半身を起こして周りを見渡せば、艦内の個室というよりも一軒家の個室のようで、僕の寝ているベットの近くに一つの椅子があった。この少ない情報ではなんとも言えないけど……誰かが僕のことを看病してくれていたというのはわかった。

 

「そう、だ……僕は確か―――っ!!」

 

自分の状態を整理していると自分が意識を失う前の全てを脳裏に思い出す。プロヴィデンスを僕の心に湧き上がった怒りと憎しみで彼を撃ち、プロヴィデンスと共にフリーダム諸共ジェネシスγ線レーザーに直撃したこと、そして僕にとって守りたくて大切だった彼女――フレイ・アルスターを失ったことを。

 

「……守りたい、世界があるんだ……」

 

彼―――ラウ・ル・クルーゼを討つ時に僕自身が口にした言葉を反芻しながら身体を丸める。その言葉を反芻して思い浮かぶのは彼との激闘の最中に口論をしたこと、そして目の前で守れずに、守ることができなかった彼女のことが頭の中で何度も何度もフラッシュバックする……。僕が、守りたかった世界はいったいどんなものなのだろう?そんな自問自答を繰り返して辿り着く答えは決まっているのはわかってるんだ。

 

「……どうして僕は生き残っているのかな」

 

どうして生き残ったのか?そんなことばかりをぐるぐると頭の中で何度も考える。自問自答したって答えを得ることだってできなくて、自分がなぜ生き残ってしまったのかを他者へと聞きたくてもこの部屋には僕以外誰もいない。誰かにこの気持ちを曝け出せば少しは楽になるのかな……?

 

「ほぅ、どうやら無事に目を覚ましたようだな」

 

なにかを行動することも考えることもやめて何もない天井をぼうっと見つめていれば扉が開き女性の声が聞こえた。知り合いの声に少しだけ似ていて声が聞こえた方へと顔だけ向ければ、そこには僕の知らないスーツ姿の女性が立っていた。どうやって話しかければいいのか戸惑っていると、ベットの近くにいる椅子に座り僕の顔を確認するように見てくる。

 

「顔色は拾った時よりもだいぶマシになったようだな。大丈夫だとは思うが身体に痛みなどは感じるか?」

 

「は、はい。特に身体には何も支障はないと思います。えっと、貴方が僕を看病していたんですよね……?」

 

「私ともう1人の2人がかりではあるがな。気絶して2時間ほど経っていたからそれ以上目を覚まさないのなら病院にでも連れて行こうとしていたが……身体にも支障がないのならその必要もないだろう」

 

気絶していたという言葉に僕自身は複雑な心境でしかなかった。そのまま目を覚まさないでいればと口にしたくなるけれど看病をしてもらっていたことを思い出し口を噤む。

 

「……あの、僕のことをわざわざ診てくださってありがとうございます」

 

「礼を言われるほどのことをしていない。そもそもお前を助けることになったのは結果的にそうする必要があったと言うべきなのだろうな。それで?お前はいったいなぜ、ここIS学園のアリーナの遮断シールドを破るようなことをしたんだ。貴様のISを見るからに専用機クラスだと思うんだが」

 

「……アイ、エス?……もしかしてMSのことですか?」

 

「……モビルスーツ?それこそいったいなんの話だ。少なくとも私はそんなものは知らないが」

 

お互いの何かがズレているかのように僕と女性の会話は不自然に止まった。僕がISという意味を理解していなければ、女性もMSという意味を理解できていないからだ。『アイエス』、そんな言葉に僕は心当たりもなくただ困惑してしまう。女性の反応に僕は何かがおかしいと思ってしまい、どうするかと考えるが僕は自分自身のことしか考えていないことを思い出し何かを確認するかのように女性に恐る恐る聞いた。

 

「あの、戦争はどうなったんですか……?無事に戦争は終わったんですか……?」

 

「戦争?なにを言っているんだ、お前は。ここ日本で戦争が起きたことなど何十年も前の話だぞ」

 

「なっ……!?」

 

女性から返ってきた答えに僕はただ絶句した。戦争がない?少なくとも僕が気絶する前はその戦争の最中だったし、彼をこの手で感情のままに討った感触がまだ残っている。戦争はついさっきまで起きてたはずなのに、目の前の女性は戦争など起きていないと断言する。その言葉を信じられず、僕は震える声で再度確認するが答えは同じものだった。

 

「貴様のその確認がなんの意味があるのか悪いが私にはサッパリわからん。それで、お前はいったい何者だ?その動揺を見るにただ事ではないというのはわかるが」

 

「……僕は、キラ・ヤマトです。最後の確認なんですけど……オーブ国、地球連合、プラントという言葉に聞き覚えはありますか……?」

 

「いや、残念ながらその言葉も今お前の口から聞いたのが初めてだ」

 

「……そう、ですか……」

 

予想していた答えではあるけどそれを実際に聞けば想像した以上の衝撃が僕を襲い、呆然としながら返事をするのがやっとだった。じゃあ、僕が今いるここはいったい何処なんだろう……?想像もしていなかったことに頭が真っ白になってうまく考えが纏まらない。

 

「その狼狽を見るにやはり訳ありといったところか。お前が私に聞いてきたその質問の意図に理由があるのは間違いなさそうだ……。それで?キラ・ヤマト、貴様は何者だ。悪いがお前が何者かわかるまで拘束する必要がある」

 

「……わかり、ました。でも、話してもきっと信じてもらえないと思いますよ……僕も実感がありませんし」

 

「そうだとしても私はお前が誰なのかを知る必要がある、その話がどのようなものであれな。その話が嘘か本当かはお前の表情などで判断するつもりだ」

 

自分自身を落ち着かせるように深呼吸をして僕はゆっくりと自分のことを女性に話す。僕がこの世界の人間じゃなくて別世界の人間、僕の世界について、そしてその世界は戦争があったこと、コーディネイターとナチュラルなことや、MSのことなど。嘘だと思われない様に僕自身の知っている範囲ならできる限り女性に全て話し尽くした。

 

「……C.E.(コズミック・イラ)、MSという名を持つ兵器、ナチュラルとコーディネイター、その両者によって起きた戦争……到底信じられない話だが、お前のその表情を見るにその話は全部本当なのだろう」

 

「……はい、全部僕の世界では当たり前の知識ですから」

 

「遺伝子調整により生まれた存在がコーディネイターと呼ばれ、それをせずに生まれた者をナチュラルと呼ぶ。少なくとも私たちの世界はそのような存在はいない……。そして、お前の世界では地球の外、つまり宇宙で生活しているものもいるというのは本当なのか?」

 

「……はい、僕の世界ではプラントやコロニーで宇宙で生活している人もいました。僕もその1人でオーブ連合首長国であるヘリオポリスに住んでましたから……」

 

「私たちの世界では到底考えられないな。地球の外、つまり宇宙に行く技術は持っているが宇宙に移り住む技術を私たちはまだ持っていない……。この話をアイツが聞いたら厄介なことこの上ないな」

 

「え、えっと……」

 

「最後の言葉は気にするな、私のちょっとした独り言にすぎない」

 

女性が呟いた最後の言葉が気になるけど、気にするなと言われてしまえばそれ以上聞くことが僕にはできなかった。女性に説明している最中に自分が本当に自分の知らない世界にいるという実感がふつふつと湧いてきたこともあって、なんとかごちゃごちゃだった頭の中は少しは整理ができたと思う。

 

「お前がこの世界の人間ではないということは私には理解できた。お前の表情や説明を見た限り、嘘や作り話ではないのだろう」

 

「信じてもらえて僕としても助かります……」

 

「信じられる材料がそこにあるのならば疑いはしても否定をするつもりはない。キラ・ヤマト、これは確認だがお前はなぜここに来てしまったのかわからないのか?」

 

「……はい、僕自身もどうしてここにいるのか、そしてなんで生きているのかわからないんです……僕は間違いなくジェネシスのレーザー線に巻き込まれたはずなんですから……」

 

僕は項垂れあの時の光景を再度思い出す。プロヴィデンスのコックピットをビームサーベルで貫き、そこがたまたまジェネシスのレーザー線の射線上でそのままレーザー線は発射されプロヴィデンスもろとも僕が搭乗していたフリーダムに直撃した。その記憶は間違いなくあっているはずで……だからこそ自分が生きているということ、生き残ってしまったということに落胆してしまう。

 

「……お前はどうやら私の想像を絶するほどの過酷な道を歩んでいたんだな」

 

「……その道を選んだのは、僕自身ですから……選んだことについては後悔はするつもりはありません……」

 

「……そうか」

 

「あの……MS、フリーダムはどんな風になっているのか教えてくれませんか?」

 

「お前の世界のいうMSとやらは少なくとも私の視界に入るかぎり存在はなかった。お前が説明したMSのサイズを考えるかぎり近くにあればすぐに気づく」

 

「そう、ですか……」

 

やっぱりフリーダムは大破どころか存在そのものが無くなったのだろう。プロヴィデンスとの激闘で既にフリーダムはボロボロになり、ジェネシスに直撃したことを考えれば大破ではすまないはずだ。フリーダムも失ってしまった喪失感を感じていれば女性はふっと思い出したかのように口にした、

 

「これは伝えそびれていたんだが、私がお前を初めて視界に入れた時はお前の姿は私のよく知るもの、ISに身体を包まれている状態でキラ・ヤマト、お前を発見した……。これは勝手な私の推測ではあるが、お前の搭乗していたMSはISへと姿を変えたのではないか?あくまで推測ではあるし、到底考えられないものであるがな」

 

「……えっと、ISというのはいったいなんですか?」

 

「すまない、お前の話ばかりを聞いていてこちら側の世界の情報を教えることを失念していた。次はこちら側の世界について話そう。お互いの情報共有をすることには損はないはずだ」

 

女性から僕は今いる世界についての説明が始まる。ここが地球、そしてインフニット・ストラトス通常ISという名の持つ兵器、そしてそれが原因でのこの世界で起こっている女尊男卑という世界になっていることに。

 

「これが私たちの世界で基本的な情報だろうな。より詳しく話すとなると更に時間がかかると思うが」

 

「……いえ、これぐらいの情報を貰えれば今のところは充分です。今は僕と貴女の世界が違うということを知るのが優先ですから……。女性限定にしても人のサイズまでに小さくして運用するのはとても凄いことだと思います」

 

「だがそれが原因で女尊男卑社会が生まれてしまったがな……」

 

「僕の世界も似たようなものですから……。いえ、戦争にまで発展した僕の世界の方がもっと酷いと思います」

 

自嘲気味に僕は自分の世界のことを振り返った。人類の存続までの危機に陥った僕の世界の方が差別という意味を考えればもっと酷いだろう……。これ以上考えればあの人の言葉がまたフラッシュバックするかも知れないと思い思考回路を遮断する。

 

「これで一先ずはお互いの世界の違いをわかることができた。だが、今からが本題だ、話を進めるがいいか?」

 

「はい、大丈夫です……僕をどうするかについてですね?」

 

「ああ、理解が早くて助かる。キラ・ヤマト、お前が発見された時についてなんだが、先ほどお前を発見した時はISに身を包まれた状態だった。つまりお前はこの世界ではISを動かした男性操縦者ということになってしまうんだ。この世界でISを動かした男はお前を含めて2人しかいない。そしてその1人であるお前は別世界の人間であり、証明する人もいなければ後ろ盾もいない。今のところお前の情報が外部に漏れてはいないがIS学園に何かが起きたことについては既に世界では一つの情報として認知されている」

 

「……つまり、僕の選択肢は殆どないってことですよね?」

 

「ああ、お前が選ぶ、いや選ばなければならない選択肢は1つだけだ。このIS学園に入学すること、そうすれば少なくとも3年間は生活することには苦労しないだろう」

 

「……もし、入学しなかったらどうなりますか?」

 

「お前は天涯孤独の身だ。その選択肢をとればお前がISを動かせるとバレた場合はその時は私が口にしなくてもわかるだろう?」

 

女性の言葉に僕は何も言えずただ俯く。別に僕はこの世界で図々しく生きていこうとなんて思っていないし、もし叶うのならその逆で今すぐにでも”彼女”のもとにでも行きたいのが本音だ。ISは男が操縦できないと目の前の人に教えられ、この世界で天涯孤独な僕が外に出たら?そんな結果は誰にだってわかるし……それに僕の秘密が他者に知られてしまうのはこの世界でも危険なのは変わりない。僕の選択肢は初めから一つしかなかったんだ。

 

「……わかりました。IS学園には入学します、けど僕からも条件があります……」

 

「構わない、なかば脅しのようなものでお前を入学させようとしているのだからな」

 

「……僕を、ISに乗せないでください。この世界のISと僕の世界のMSが違うのは話を聞いていてわかりました。でももう嫌なんです……どんな形でも誰かに向けて引き金を向けたくないんです……」

 

「……それは難しいな、授業の一環でISを動かすことがある。学校行事についてならある程度フォローはできるが」

 

「……わかりました。授業の時はなんとか乗れるように頑張りますから……それ以外で僕はISに乗る気はありません」

 

「……わかった、その点については今後は私がサポートをしよう」

 

難しい顔をしていたけど授業の時は乗るように努力をすると言えば女性は静かに首を縦に頷いてくれた。条件を飲んでくれたことに僕は安堵する。こんな自分勝手な条件を飲んでくれたこの人はきっと優しい人なんだろうって思う……。けどISに乗りたくないのは本当で、今はただ何もしたくないし何も考えたくないんだ。

 

「……あの、そういえば僕、貴女の名前を知らないんです。よければ教えてくれませんか?」

 

「んっ、そういえば私としたことが自己紹介が遅れたな、私は織斑千冬だ、今後はよろしく頼むぞ、キラ」

 

「は、はい、こちらこそよろしくお願いします……」

 

目の前の女性、織斑さんが手を差し出してきたので僕はその手をおずおずとしながら握る。誰かとこうやって握手をするということが久しぶりなようなそうじゃないような気がするけど……ううん、今はそんなことを考えるのはやめよう。

 

「今日はもう心身共に疲れただろう。今日はもう休め、お前のこの世界の戸籍については私が後で用意しておこう」

 

「……えっと、お願いします」

 

「ではな、また明日に様子を観に来るぞ」

 

(……僕はどうしたらいいんだろう……?)

 

織斑さんはそう言ってこの部屋から退出していった。僕はベットに身体を預けて天井を見上げる。自分が異なる世界にいるという実感はまだわかないけど、生き残っているということに関してだけは真実でそれが堪らなく嫌になってしまう……。今日はもう考えるのは疲れた……織斑さんの言葉に甘えてもう寝よう。起きていたってどうせ考えることは同じなんだから。

 




ISでは基本的に1万を超えることはないと思います。息抜きで書き始めたようなものなので(白目
さて、IS作品なのにさっそくISに乗らないというムーブになりましたがキラ君の精神メンタルはボロボロで廃人の一歩寸前に近いので寛大な心で見てあげてください。乗らないけど、乗せないとは言っていないのでネ!次回から原作開始と言いたいけど後一回オリジナル展開が続きます……多分ですけどネ!

誤字&脱字を見つけたら報告してもらえると助かります!それでは、また次回にお会いしましょう!



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第3話 適性検査

ふっと月日を確認すればもう約四ヶ月も経っていてめちゃくちゃ驚いた作者です。ダメですね、一度書いたら一気に書かないと慢心&サボってしまう。……反省しないと(白目


「この世界に来て数日経ったんだ……」

 

僕がこの世界に来て数日が経過した。この世界の情報について僕を拾ってくれた場所がIS学園という場所というのは幸運だったのは間違い無いんだと思う。……話を聞いたところ僕はIS学園のアリーナである遮断シールドを突破しながら墜落したらしい。その時僕は意識がなくて実感がないけど、話しを聞いたかぎりとても大変なことをしでかしたと言うのは僕でもよくわかった。

 

「……織斑さんも深くは気にするなって言ってたから多分、大丈夫だよね……?」

 

遮断シールドを突破したことに懸念しながら呟いていると扉から三回のノック音が聞こえる。この部屋に僕がいることは2人しか知らないため僕は声を出す。それを合図に扉が開き、そこには織斑さんと山田さんが入室してくる。

 

「どうやら今日は比較的マシな顔なようだな」

 

「もうっ、織斑先生そんな風に言うのは駄目ですよ!今日も元気でなによりです、ヤマト君」

 

厳しそうな雰囲気を纏った織斑さんとは正反対で柔らかい雰囲気を纏い僕を観て微笑んでくれている女性は山田真耶さん。彼女も僕がこの世界の人間ではないと言うことを知っている1人である。初めは僕がこの世界とは異なる人間だと伝えた時は驚いていたけど、その後はこうやって普通に接してくれている。

 

「えっと、いつもありがとうございます……僕なんかの話し相手に付き合ってもらって」

 

「いえいえっ、気にしないで大丈夫ですよ!困っている子供を助けるのは大人として当たり前のことですからっ!」

 

「それにお前をそのまま放置するということにはいかないしな。別世界の人間であるということはISの知識はゼロだろうし、入学する以上はその辺の知識は基礎的なものを身につけていないと困るだろう。……まぁ、お前の場合は仮に別世界の人間ではないにしろISを動かせる時点でIS学園に入学するのは強制だからどちらにしろ変わらないさ」

 

ISの基礎的な知識を覚えてないと入学した後に覚えることが大変との理由でこうやって2人は時間がある時にISを含めてこの世界の情報について色々と教えてもらっている。それにISについて学ぶということ自体は僕は苦ではないし、むしろ興味が湧いているのが正直なところだったりする……ISを乗るかどうかは別になるんだけど。

 

「実はお前に相談があってな。お前に関することでもあるから私や山田先生の独断で決めるわけにはいかない。こればかりはお前の許可が必要だ」

 

「僕の許可ですか……?でも僕なんかに了承を得るようなことはないと思うんですけど……」

 

この世界に来て日が浅い僕に織斑さんと山田さんから僕の了承が必要と言われたけれど心当たりは一つもない。いったいどんなことなのだろうと疑問に思っていると落ち着いた声で山田さんがゆっくりと説明を始めた。

 

「このことはキラ君にとっても大切なことなの。実はね、IS学園に入学するには適性検査というものをする必要があるの。詳しくは長くなるから今日は省くんだけど、実はキラ君にその適性検査を受けてもらいたいって思っているんだけど……どうかな?」

 

「適性検査、ですか……?」

 

「ああ、お前にはISに触れて―――いや、お前に伝わりやすく言うならばISに搭乗してもらうことになる。適性検査をする際にISに搭乗することは避けられない道だ、悪いがこればかりは私も山田先生もどうすることもできん」

 

「……っ、それは……」

 

適性検査をする条件を聞いて僕の身体は硬直する。ISに搭乗すると言われれば頭の中ではMSと違うとわかっているのにあの人の言葉が脳裏によぎる。……今の僕に、MS――いやISに搭乗することができるんだろうか?

 

「……適性検査をする時に戦ったりするんですか?誰かに引き金を向けるようなことがあるのなら僕には、無理です……」

 

「ISには絶対防御があるためお前が考えているようなことが起きる可能性は低いとしてもか?」

 

「……すみません。戦う必要がないのなら誰かに引き金を向けなくていいのならそうしたいんです。……もう戦わなくていいなら戦いたくありませんし……それに今の僕はその引き金を引けるモノがないんです……」

 

もはや見慣れた天井を見上げながら僕は絞り出すような声で呟いた。この世界は僕のいた場所とは大きく違い平和でとても過ごしやすい場所だ。この平和な世界でいったい僕は必要なのか……?何をすればいいのかも未だ見いだせてない。あの時から守りたい人たちがいたから戦った、戦うことが嫌だったけど守りたいものを守るために。

 

「なのですみません……適性検査で誰かと戦うんでしたら遠慮させてもらいます。こんな自分勝手な理由で断ることにはなるんですけど……」

 

「いや、お前が何かしらを抱えている状態なのは初めからわかっていた。あくまで確認のようなものでもあるためお前が断るのはわかりきっていたことだからな」

 

「うん、織斑先生の言う通り、ヤマト君が気に病む必要がないからね。本人が嫌がることを極力無理強いはしたくないのが私たちの本音だもの。それに今のヤマト君に必要なのはきっと心の休息だと思うの」

 

織斑さんと山田さんの優しさはこんな僕に向けられていると思うと申し訳なさと苦しみがこみ上げてしまう。こんな僕に時間を作ってくれること自体にも申し訳ないのに、これ以上2人に甘えている状況は他者から見ても情けないの一言につきる。だったら今の僕がやらないといけないことをやる必要があるんだ。自分の鬩ぎ合う感情を終わらせて深呼吸をしてなんとか声をだし、部屋から退出しようとしていた2人を止める。

 

「あのっ!織斑さん、山田さん、待ってくださいっ!」

 

「どうしたの?ヤマト君」

 

「どうした、ヤマト」

 

「……やっぱりその適性検査をやろうと思います。さっき断っておいてこんなことを言うのはおかしいと思うんですけど」

 

「それは私たちとしては助かるけど……本当に大丈夫なの、ヤマト君?無理しなくていいんだよ」

 

「それでもやりたいと思うんです。……いつまでもお二人に甘えている状況は駄目だと思いますし、お二人の負担を軽減しないとダメだと思うんです。ISとMSの明確な違いを知っておいても損がないのは間違いないですから……」

 

僕自身に無理矢理ISを操縦する理由を作ることで感情を納得させる。ISとMSの違いを把握しておく必要があるのは事実だし、これ以上お二人に甘えていると言うのは情けないの一言に尽きてしまう。それに少しでもいいから2人の負担をせめてでも減らそうとするのが僕にできる恩返しだと思う。

 

「これは最後の確認だが本当にいいんだな?一度やると言った以上は確実にそれを達成してもらうぞ」

 

「僕もやると言った以上は撤回するつもりはありません。……それに僕が纏っていたMS――いえ、ISについても知る必要がありますから」

 

僕が纏っていたと言われているISについて確認したいこともある。フリーダムなのか、それとも別のモノなのかを把握しないと。僕の意思が硬いとわかった織斑さんは山田さんに指示を出し、それを聞いた山田さんは先に部屋を出て行く。

 

「山田先生には先に向かってもらって準備してもらうことにした。とりあえずヤマトは私についてこい。お前にも準備してもらう必要がある。それに渡さないといけないものもあるしな」

 

「えっと、僕はこの部屋から出て大丈夫なんですか?」

 

「その点については心配するな。生徒には秘密にしているが教員全体にはお前の存在はバレている。遮断シールドをぶち破って墜落してきた時点で隠蔽などできるものか。恐らくだが勘のいい生徒も何かがあったというのはわかっているだろうよ。しかしその原因が男性操縦者、しかも異世界からの訪問者とは微塵も想像はできないだろうがな」

 

「あ、あはは……」

 

織斑さんの言葉に僕はただ乾いた笑顔を浮かべるのが精一杯だった。妙な汗が吹き出してしまったのは許してほしい。織斑さんは気にするな、と最後にそう伝え移動するらしく僕はその背後を置いていかれないようについていく。見慣れない風景なため様々なところに視線を移して、再度自分がどんな場所にいるのかを再認識する。

 

「本当に別の世界なんですね……」

 

「私にとっては見慣れた風景の一つだがな。けれどお前にとっては新鮮なもののようだな。……元の世界が恋しいか?」

 

「……そう、ですね。この世界を知って僕の世界が本当にあの人の言う通りだったとしても恋しくはあります。大切な人や友達がいますから……でもこれでいいとも思っているんです。僕はあの世界では存在しないほうがいいですから」

 

元の世界が恋しくないというわけじゃないけれど、あの世界に戻りたいと言われてしまえば首を縦に振るのを躊躇うのもまた事実だ。元の世界にいて僕のスーパーコーディネーターとしての存在と出生がバレてしまえばあの世界が再度どうなるかは想像も出来ない。それに白状すれば率先してあの世界に戻る手段を探そうとも思っていない。もちろん大切な人や友達がいるのは本当のことだ。だけど……その場に彼女はもう何処にもいない。

 

「……今の僕の考えが駄目なのはわかってはいるんです。でも今は今の状況もこの世界のことも元の世界のこととかも、何も考えたくはないんです……」

 

「……私はお前がどのような道を歩んだのかは想像はできん。しかし、お前に今必要なのは休息なのは間違いない。ここ数日間しか付き合いがない私でもわかるほどにだ」

 

一度止まり振り返りながら真っ直ぐに僕を見つめながら織斑さんはそう言った。そうなのだろうか?いや、きっと織斑さんが言うからきっとそうなんだろうと思う。周りのことはおろか自分のことですら正しく把握できていないんだから。

 

「さて、先を急ぐぞ。この場で立ち止まっていれば誰かに見られる可能性が更に高くなるからな」

 

伝えたいことは伝えたと言うこともあり織斑さんはそそくさと歩く。僕は無言で肯定して先ほどと同じように後ろをついていく。体感的に数十分間歩いて目的地らしき扉が視界に入り織斑さんが近づけば自動に開く。その光景を見てアークエンジェルとエターナルを懐かしく思いながら後を続くように僕も入室する。

 

「少しばかり遅くなってしまったな。すまない、山田先生」

 

「いえいえっ!こちらもつい先ほど準備が終わりましたので、ちょうどいいタイミングでした」

 

僕は山田さんと織斑さんの話を聞きながら不自然に思われない程度に周囲を見渡す。2人以外にもこの学園の教員がいるけれど特に僕のことを気にしている様子もなく作業に取り掛かっているようだった。特に嫌な視線を向けられなかったことに安堵していると2人の話が終わったのか山田さんは心配する様子で声をかけてくれる。

 

「キラ君、これが最後の確認になるけど本当にいいんだね?無理にやろうとしているんだったらやらなくていいんだよ?」

 

「……はい、大丈夫です。やらないといけないことをやるだけですから」

 

「うん……だったら私からもう何かを言うことはないかな。はい、これがキラ君のISスーツだよ。更衣室に案内する前に先に渡しておくね。これはキラ君のものでもあるから」

 

「僕のですか……?」

 

僕のものと山田さんに言われるけれど心当たりがない。丁寧に畳まれているモノを受け取ってみるとどこか見たことあるカラーリングだ。いったいっと思っていれば一つだけ心当たりが思い浮かぶ。でも、まさか?っと確信したわけでもないため更衣室にたどり着いて確認した方が良さそうだ。

 

「それじゃあ行こっか。私についてきてくださいね」

 

穏やかに微笑みながら山田さんは先に行く。僕はその後をついていき一度ここから退出をして、歩いてすぐ近くに更衣室がそこにあった。扉の前で待ってるから、と山田さんは言い僕は頷いて更衣室に入る。

 

「更衣室にしてはそれなりに広いんだね……それにモニターもあるんだ」

 

更衣室の内部にどうしてモニターがと思うけどわからない以上は気にする必要は特にないと判断をする。外では山田さんが待っていることもあるし急いで着替えないと。先ほどと渡されたモノを広げて確認すると予想していた通りのもので特に驚きがなかった。

 

「うん……やっぱり僕のパイロットスーツだ」

 

この世界に来る前のことを思い出せば簡単に予測がつくことだし、まず意識を取り戻した時はこれを着ていたじゃないか。色々と頭の中で整理しないといけないことも多かったから存在を忘れていたのは申し訳なく思う。

 

「これが僕の唯一持ってきたモノだと思うと味気ないかな……」

 

トリィでもいてくれればと思うけれど贅沢なことは言ってられない。急いでパイロットスーツに着替え一度鏡の前に立ち変なところがないか確認する。いつもの見慣れた白を基調し緑寄りの青と黒を配したもの。特に変なところはないので僕は更衣室から出て山田さんと合流する。

 

「すみません、遅くなってしまって」

 

「全然大丈夫だよ。むしろ早くて少しびっくりしちゃってるぐらいだから」

 

「……そうなんですか?」

 

僕としては先ほどの着替えは遅い方だと思っていたけれど。アークエンジェルにいた頃は襲撃されることが多かったからパイロットスーツに悠長に着替えている時間なんてなかった。少しでも僕が遅れてしまえば沈められてしまうといったプレッシャーがあったりもしたけれど。きっとそれらが原因なんだろうって自己完結することにする。これ以上考えればまた彼女のことを無意識に思い出しちゃうから。

 

「それでは行きましょう。織斑さんを待たせるわけには行きませんから」

 

「そうだね。織斑先生時間とかには厳しいから、少しでも遅れたらたっぷりとお説教されちゃうしね」

 

織斑さんに怒られている姿を想像しているのか、それともその姿を見たことがあるのか山田さんは少しばかり顔が青ざめている。確かに織斑さん雰囲気がナタルさんに似ていることもあるからその姿が僕も容易に想像ができてしまう。声はミリィに似ている気がしたんだけど……。山田さんとお互いに苦笑いを浮かべて急いで先ほどの場所に2人で戻ることにした。

 

「予想よりも早い帰りだったな、2人とも」

 

 

「そ、それはよかったです……」

 

「あ、あははは……」

 

山田さんがそっと胸を撫で下ろす姿を見て織斑さんは怪訝な表情を浮かべている姿を見て僕は苦笑いを浮かべて誤魔化す。何があったのかを気になっている様子ではあるけれど織斑さんは特に聞いてくることはなく話を続けていく。

 

「まあいい。それよりもヤマト、お前にもう一つ渡さないといけないものがある」

 

「……はい、それが何なのかは分かっています」

 

「察しが良くて助かる。私についてこい、山田先生この場を頼むぞ」

 

「はいっ!わかりましたっ!キラ君、頑張ってねっ!」

 

山田さんから声援を受けながら織斑さんと共に目的の場所まで向かう。織斑さんに案内された場所はもちろん僕が見覚えがある場所なことはなく初めてみる景色だった。けれどどこかアークエンジェルやエターナルのようなカタパルトに似たものがある。

 

「えっと、ここは……?」

 

「ここは第3アリーナ・Aピットだ。まぁ、今後使う可能性のあるかも知れない場所と覚えていてくれれば構わん」

 

「そうしておきます……」

 

「アリーナを貸し切りにできるのも時間の問題のためさっさと本題に入らせてもらうぞ。お前にはこれを渡すためにここに来た」

 

そう言って織斑さんの手元には一つのブレスレットがあった。白を基調として赤と青を配しているもの。そのカラーリングに心当たりがありまさかと思い息を呑みながらそのブレスレットを受け取る。覇気のない声で僕は確認するため織斑さんに聞く。

 

「これが、僕のISなんですか……?」

 

「ああ、それがお前のISだ。今は待機状態になっていてブレスレットに見えるが正真正銘のISだよ。調べたわけではないがおそらくお前のISは既に一時移行(ファースト・シフト)は終わっているだろう。あとはお前が念じれば装着できるはずだ」

 

「……わかりました」

 

装着すると言われても残念ながらそんなイメージは僕にはできない。けれどMSに乗る時を想像しながら瞼を閉じれば何かに包まれる感覚――初めからこの身体の一部のような錯覚に襲われる。けれどそれに違和感よりも一体感を感じ、なにより”誰かに優しく包まれる”ような感じで次に僕が目を開けたその時は既にISを纏っていた。

 

「改めて見ればISというには些か異質だな。背にはカスタム・ウィングらしきものは見当たらない。ヤマト、何かしらの違和感を感じるか?」

 

「……いえ、大丈夫です。確かにMSの時とは違うのには戸惑いはありますけど。それにやっぱりこのMS――いや、ISは君だったんだね……」

 

織斑さんの言葉で僕を今纏っているISの正体が分かった。初めて僕がMSを操縦する理由になり、パイロットになった機体。ある意味で、ううん、きっと僕にとってこのISは良い意味でも悪い意味でも共に歩んだMS。辛いことばかりが押し寄せてきて何度も嫌になりかけていたのにそんな僕を最後に守ってくれた機体。また乗れることができるなんて思っていなくて感情に浸って織斑さんが少しだけ心配した様子で話しかけてくる。

 

「やけに静かだが本当に大丈夫なのか?もし違和感があるのならば遠慮なく言っていいんだぞ」

 

「いえ、そういうわけじゃないんです。ただこの僕が今纏っている機体が懐かしかったんです。僕がパイロットになった理由で、僕が最初に乗ったMSでしたから……」

 

「……そうか、ならば私から言うことは特にない。アリーナに行くのならそこのピット・ゲートに進め。そうすれば出撃できる」

 

「わかりました。ここまで案内してくださってありがとうございます」

 

「気にするな。後に生徒の1人となるのなら当然のことをしているまでだ。そして先に伝えておくが今回は戦闘行為をやるつもりはない。だから安心してISを動かすことについて意識を向けろ」

 

戦闘をする気がないと言われたけれど本来は違うんだってわかる。きっと山田さんと織斑さんが色々と気を使って今日の適性検査を準備したんだ。本当にこんな僕に気を遣ってくれて申し訳なさしかないけれど2人の気遣いを無駄にするわけにはいかないため、今だけは余分なことを考えずISを操縦することだけに意識を向ける。

 

(うん……やっぱりMSを操縦する時と全然違う。操縦すると言うより身体の一部って思った方がいいのかもしれない。まずは歩くことを考えよう)

 

僅かに緊張しながら片足を前に出せば違和感を感じることなく一歩進む。そのことに安堵をしていつものように歩き急ぐことなく着実にピット・ゲートを目指す。ISを纏った印象は搭乗よりも纏っているという感覚に近い。自分の身体の一部だと思った方がきっといいのだろう。ピット・ゲートに身体を預け態勢を整えて一呼吸を置き、昔を懐かしむように以前も口にした口頭を言う。

 

「キラ・ヤマト、ストライク行きますっ!」

 

かつてストライクに搭乗していたのを懐かしみながらスラスターを吹かしつつアリーナへと出撃する。MSとは違う感覚に戸惑いはあるものの危なげなく着地を成功してまずはISとMSの違いを冷静に分析する。

 

「やっぱりコックピットに搭乗した時の感覚と全然違う。それにこのハイパーセンサー、だっけな?これがメインカメラと同じ役割と考えると今後は僕自身の目で補う必要もあるのか……?」

 

実際にどうなんだろうっと深く考え込む前にその考えること自体を破棄する。僕がISに搭乗したのはあくまでMSの時との違いを明確にするためであって戦闘をする前提で乗ったわけじゃない。余分なことを考える必要はないんだと僕自身に言い聞かせていると通信が入り山田さんの声が聞こえてくる。

 

『キラ君、聞こえていたら返事をしてもらって大丈夫かな?』

 

「は、はい。通信は良好ですよ、山田さん」

 

『それならよかった。キラ君の様子は私たちがきちんと見ているからまずは武装確認からしちゃおっか。口にするか想像するかできっと武装確認はできるはずだよ』

 

「わかりました」

 

山田さんの指示に従い僕はストライクの武装確認を始める。MSの時を考えればこれは少しばかり不便かもしれないと思いながらも現在展開可能な一覧が現れてやっぱりっと1人でに納得しながらその武器を展開する。

 

「……ストライクの状態だったから不安だったけどこれがあるからマシなのかな?」

 

最悪アーマーシュナイダーだけだと思っていたけれど予想外の武装があったためそれについては運が良かったと思っている。僕が展開した武装はビームサーベルと対ビームシールドだけだが武装一覧を確認したかぎりアーマーシュナイダー二本、高エネルギービームライフル、ストライクバズーカ、そしてイーゲルシュテルンの弾数も表記されており、想像していた以上に武装については豊富だった。欲を言えばビームサーベルはもう一本ほど欲しかったけど仕方のないことだと諦めよう。

 

『どうだ。武装把握の確認は終わったか、ヤマト』

 

「はい、終わりました。僕の想像してたより多くて驚きましたけど大丈夫です」

 

『んっ、それならば次に移ることにする。まぁ、次に移ると言ってもそう身構えることはない。お前には今から目の前に見えるだろう的を撃って貰うことにする。ハイパーセンサーで見えるだろう?』

 

「はい、確認はできました。でもあれって……ただの本当の的ですよね?

 

『そうだ。適性検査に必要であると判断したため用意した的だ。問題がないのならアレを射撃で撃ち抜いてもらいたいが、大丈夫か?』

 

「……多分、大丈夫だと思います」

 

『そうか。ならば撃つタイミングはお前に任せる』

 

はい、と震えた声で返事をし一度呼吸を落ち着かせる。高エネルギービームライフルを展開をすればズシリと重い感覚を手が感じとり自分が今高エネルギービームライフルを握っているという現実に胸の奥から何かが込み上げそうになるがすんでのところで止めることができた。

 

(……的を撃つことくらいならっ!)

 

ふぅっと息を吐き両手で高エネルギービームライフルを構える。本来は片手で充分だけれど片手だけでは震える腕で支えるのは無理だと判断した。……あくまで的を撃つだけで終わるんだ。でも、撃てるのか……?そう一度でも疑問を浮かべてしまえば引き金にかけていた指が鉛のように重くその指は動かない。

 

(……やると決めたんだったらやり遂げるんだ。自分から言った以上はやり遂げないといけないだろ……っ!)

 

「っ、うわぁぁぁぁぁ!!」

 

自分を鼓舞するには情けない声を出しながら高エネルギービームライフルの引き金を引いた。ただ終わることだけを考えて一心不乱に的を狙い撃ち続ける。全ての的を撃ち終えたのは織斑さんの制止の声で気づいて僕は荒く呼吸をしながらゆっくりと高エネルギービームライフルを下げる。

 

(……撃ったんだ。僕は、撃ち終わったんだ……)

 

やり遂げたという脱力感、そして引き金を引けてしまった自分に憂鬱になる。この場が宇宙であったらそのまま無重力に身を任せて宇宙空間を漂うようにしていただろう。

 

「……すみません。これで適性検査は終わりで大丈夫ですか?」

 

『……ああ、わかった。あとは戻って休んでいてくれ。後で私が様子を見に行く』

 

わかりました、と辛うじて声を出すことができスラスターをふかして指示された場所を目指しおぼつかない着地を成功する。ISを解除して生身の身体に戻ったことを確認して更衣室を目指す。その途中で誰かとすれ違った気がするけれど俯いていたということもありそれが誰かも分からず更衣室へと入り自分の服が入っているロッカーに背を預け力なく座り込む。

 

「……力だけが、僕の全てじゃないんだ……」

 

いまだにズシリと高エネルギーライフルの重みがある両手を見つめそのまま蹲る。あの人の言葉がフラッシュバックをしてる中で僕の口から出た弱々しい否定の言葉は更衣室に響くことはなくかき消えていくだけだった。




はい、次回から多分本編開始ですね!初めから本編かけは私にはできないので許してもらいたい(白目
うーん、正直視点を変更しようかと悩んでいますが変えたら全て書き直さないといけない絶望があるため悩んだいますが……その時はその時デスネ。とりあえずキラ君のメンタルはアバウト状態なのでなるべく戦うことはしないでしょう(フラグ

それでは次回の更新は未定ですが気長にお待ち下さい!誤字&脱字の報告をお待ちしておりますっ!


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第4話 IS学園



今回は妙に書くペースが速くなり我慢できずに投稿しましたっ!よし、これで次回は遅くなっても怒られないはず……((小声


(……なんというか嫌な視線じゃなくて好奇心や興味本位な視線が多いかな?居心地がいいってことではないけど)

 

あの時みんなから向けられていた視線に比べれば今の周りの視線はまだマシだと断言できるけれど居心地が悪いことには変わりない。男性操縦者が物珍しいのはわかるけどもう少し隠してほしいのが本音だ。教室をぐるりと見渡したいけど少し動いただけの行動一つ一つに声を上げられそうで身動ぎができないよ。

 

(……うん、今は下手に動くというより頭の整理をした方がいいかな。これからのこともあるし)

 

周囲の視線から逃れたいという理由もあるからこの世界の僕の現状について整理する。この世界で僕は無事に……と言えるかわからないけど2人目の男性操縦者としてニュースで報道された。世界に自分の名前が報道されるという体験は異なる世界の人間として正直な話心臓に悪かったから2度目は嫌かな。

 

(でも僕がこの世界での生きていくのに必要な戸籍は織斑さんが用意してくれたから解決はしているってことになるのかな……?)

 

僕はこの世界でもキラ・ヤマトという名前で登録されていて、幼い時に両親を亡くして孤児院に引き取られたということになっているらしい。戸籍がないため名前を変えることもできたけど僕にとってはこの名前は特別でもあるためそれはやんわりと断ることにした。そして孤児院というのはもちろん架空のものでその孤児院はもう潰れてしまっているということになっており実質僕は帰る場所がないということだ。通っていた学校云々とかは織斑さん曰くその道の専門家(スペシャリスト)にも手伝ってもらい書類上はそこに居たということにしているらしい。

 

(……うん、本当に僕は織斑さんと山田さんに頼ってばかりだなぁ。ストライクのことも忠告を貰ったわけだし)

 

身体の隅々まで周りの女の子に見られていることもあり、左腕にあるブレスレットをチラリと視線だけで確認する。今ストライクはISでいう待機状態になっており肌身離さずストライクがいるのは不思議な感覚だ。本当にストライクが人と同じサイズにまで小さくなった事には笑えばいいのか驚けばいいのか複雑だけど近くにいてくれるというのはありがたい。ちなみに忠告については織斑さんから『専用機を持っている事は暫く秘密にしていろ。入学初日から持っているとバレれば面倒な事になるぞ』っと言われて最初はピンっとこなかったけど今の状況ならその理由が頷ける。

 

「みなさーん、おはようございます」

 

ガラリと引き戸を開け山田さんが挨拶をしながら入室すれば全ての視線は彼女に集まる。グルリと周りを見渡してこの教室内に僕を含めて生徒が全員いる事を確認をし、全員いる事を確認し終えた彼女は小さく咳払いをして黒板の前にある教卓に立つ。

 

「全員揃っていますね。それじゃあ、SHR(ショートホームルーム)を始めますね。最初にまずは自己紹介をしますね。私はこのクラスの副担任である山田真耶です。皆さん、一年間よろしくお願いしますね」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

副担任である山田さんの挨拶に誰も反応がなく若干狼狽始めている山田さんの姿を見て僕はおずおずと声を出す。あまり人前で目立つ事は好きじゃないけど山田さんには返しきれない恩があるからこれぐらいはしないと。僕が反応したこともあり周りの視線が一斉に僕の方へと向けられるけど山田さんが嬉しそうにニコニコと微笑んでいる姿が見れたのでいいとしよう……好奇心ぐらいなら幾らでも耐えられるからね。

 

「それじゃあ皆さんには自己紹介をしてもらいます。出席番号順にお願いしますね」

 

出席番号順ということは僕よりもこの世界で初の男性操縦者である彼の方が早いだろう。彼の席は運悪く最前列でしかも真ん中といった一番注目が集まりやすい場所なため同情してしまう。僕は後ろの方だからまだマシなんだけど……遠目から見ても余裕がないのがわかる。

 

(後で話しかけてあげたりした方がいいのかな?どうしようか……?)

 

お互いに精神的に疲労が溜まっているのはわかる。こんな状況の中でも意外にもストレスというのは簡単に溜まっていくものだから。アークエンジェルにいた頃に比べてしまえば大分マシだと言えるけれど、それは僕だけであって彼はそうじゃない。僕もそうだけど彼にとっても今回は未知の体験ではあるから精神的疲労はかなり溜まっているだろう。次々と自己紹介が進んでいく中いよいよ彼の番となり名前を山田さんから呼ばれているけど中々気付いておらず数回呼ばれた時に自身が名前を呼ばれていることに気付いて上擦った声で返事をする。

 

「は、はいっ!!」

 

「え、えっと、大丈夫だったら自己紹介をしてもらっていいかな?今織斑君まで順番が回ってきたから……だ、駄目かな?」

 

「い、いえ、大丈夫です。……え、えっと、織斑一夏です。よろしくお願いしますっ!」

 

緊張した様子で立ち上がり一度呼吸を整えて彼―――織斑一夏は自己紹介をして頭を下げる。今このクラスにいる皆んなの視線は全て彼へと向けられている。僕も自己紹介する時にはこうなるのだろうか……?想像するだけで気が滅入りそうでハッキリ言って勘弁してほしい。

 

(うーん、でもどうだろう?確か彼は織斑さんの弟さんなんだよね。それが原因で注目を浴びせられていることもあるから僕の場合はもう少しマシになるかも……?)

 

そうだったらいいかなっと少しだけ希望を見いだせた気がしてると、教室の空気は何というか別の緊張感に包まれていて自己紹介をした彼へと圧を感じる。同じ男子としてこの圧を一身に浴びさせられているのは同情してしまう。……今の僕にできるのは心の中で無事を祈ることぐらいかな。

 

「えっと、以上ですっ!」

 

彼は自己紹介は終えたと判断をしてそう口にすれば更にその圧が彼へと向けられる。自己紹介としては普通に終えたと思うけれど多分名前を知れた程度では物足りないんじゃないかな。……うーん、これって僕の自己紹介の時もこの圧に襲われるってことだよね?それは流石に勘弁してほしいかなぁ。軽く現実逃避を含めて自己紹介について悩んでいるとスパーン!と誰かが叩かれたような音が聞こえたので意識を現実へ戻したら彼の背後には織斑さんがいた。

 

「げぇっ!?関羽っ!?」

 

振り向いて織斑さんの姿を見た第一声はイマイチ僕には理解ができなかったけど少なくとも女性に向かって言う言葉じゃないことなのはわかった。だってまた織斑さんの手に持っている物で頭を叩かれているし……。周りも少しだけ引いている気はするけれどこの光景を見た以上織斑さんを怒らせない方が身のためかな?

 

(あれっ、そう言えば僕は織斑さんと山田さんを今後どうやって呼べばいいんだろうか?今は生徒である以上2人ともやっぱり『先生』と言った方がいいのかな?)

 

保護からここの生徒の1人となった以上は今までのように接するのは流石にマズイよね。織斑さんと山田さんに面識がある理由は幾らでも誤魔化す方法はあるけどそれ以上は流石に嘘を付ける自信はない。

 

「織斑先生、会議は終わられたんですか?」

 

「ああ、先ほどな。クラスへの挨拶を押し付けてしまってすまなかったな」

 

織斑さんが来たことに嬉しそうに声を弾ませる山田さん。保護されていた数日間で2人を見てきたからだけど本当に仲が良いと思う。僕が保護されている時はよく2人で一緒に来ていたのを思い出す。

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たちを一年で使い物になる操縦者に育てるのが私たちの仕事だ。だから、私たちの言うことはよく聴き、理解しろ。出来ないものには出来るようになるまできちんと指導してやる。もし分からないことがあったら分からないままで終わらせず、きちんと私たちに聞きに来るように。いいな?」

 

場の空気は先ほどまでが嘘のようにかき消えて凛とした声が静かな教室に響く。織斑さんの言葉は確かに厳しいけれど逆を言えば生徒を見捨てるようなことはないということだ。厳しいけど本当に優しい人だなって1人で納得していると次の瞬間にこの静寂を破ったのは予想外の声だった。

 

「「キャーーーーーー!!」」

 

「本物よ!本物の千冬様よ!!」

 

「生きていてよかった!本当にっ!!」

 

「ずっと千冬様に会うのが夢でしたっ!!」

 

静寂を破ったのは織斑さんや山田さん、ましては先ほどまで自己紹介をしていた織斑一夏ではなくこのクラスの女子だった。完全に他のことに意識を向けていたこともあってこの突然の黄色い声援は本来よりも倍以上に煩く感じてつい耳を塞いでしまう。……もしかしてカガリやラクスもこんな声を出したりするのだろうか?カガリはありそうと言えばありそうだけど……ラクスはむしろされる方だよねっとつい別のことを考えてしまう。

 

「……はぁ、毎年毎年こんな馬鹿者が集まるな。それとも私のところにだけ集められているのか?」

 

黄色い歓声を上げられた織斑先生といえば心底嫌そうに表情を歪めていた。毎年毎年と本人の口から出た言葉から織斑さんもこの黄色い歓声はうんざりしてるんだなと密かに同情する。でも、毎回この黄色い声援は確かに嫌だよね。……僕としても別のことを思い出して憂鬱になる。

 

「ああ、罵ってくださいまし千冬お姉様!!」

 

「千冬様に躾をされたいっ!」

 

「でもたまには優しく……いえ、更に厳しくしてっ!!」

 

これ以上のことは理解したくなくなったのでそっと視線を自分の机へと向ける。こう、なんというか女子の知ってはいけない欲望を知ったとき僕はどうすればいいんだろうか……?笑えばいいんだろうか……?うん、とりあえず聞こえなかったフリをしよう。この世界に来て一番強い衝撃に襲われて曖昧な表情を浮かべた僕は悪くないと思うな。

 

「それで?お前は挨拶も満足にできないのか」

 

「いや、千冬姉、俺は――――」

 

「織斑先生と呼べ、馬鹿者」

 

「……はい、織斑先生」

 

本日3回目の頭を叩かれる音は割と遠慮を感じない。やっぱりその辺は家族だからなのかな?そうだったら少しだけ羨ましいな。結局カガリとはそういったやりとりをすることもなく別れることになってしまった。2人のやりとりを羨ましそうに見ていたらクラスの女子はヒソヒソと小声で何かを話している。

 

「あれ、もしかして織斑君って千冬様と家族なの?」

 

「織斑君は千冬様の弟さん……?」

 

ヒソヒソと周りの会話を耳にしたらどうやら織斑さんと家族であるのは知らなかったようだ。僕は直接教えてもらったと言うこともあるけどよく見れば2人とも似てると思うけど。……あれ?よく考えれば彼は織斑さんの弟と知られてないであんなに圧をかけられていたんだよね。

 

「織斑先生質問でーす!織斑君は織斑さんの弟さんなんですかー!」

 

「ああ、そうだが。それがなんだ?つまらないことを聞きたいのならそれを聞くつもりはないぞ。そんなことよりもさっさと自己紹介を再開しろ」

 

一応生徒からの質問は答えてるけど有無も言わせない迫力がある。けれど質問した女子はそれだけで満足したようだ。質問の意図はわからないけどすることに意味があった感じかな?そんなことをぼうっと考えていたら自己紹介は再開されいよいよ次は自分の番となり憂鬱になってきた。クラスの視線は僕にへと一点に集まっているのは自意識過剰じゃなくてもわかる。

 

「それではヤマト君お願いします」

 

「は、はい……えっと、キラ・ヤマトです。よ、よろしくお願いします……」

 

ジッと動作の一つ一つでも見るかのように一斉に向けられた視線に戸惑って頭が真っ白になりながらもなんとか自己紹介をする。先ほど同様他になにかないかと圧をかけられる前に頭を下げすぐに椅子へと座る。その瞬間にチャイムが鳴り、山田さんはニコニコと笑顔を浮かべてくれているけれど織斑さんは呆れたようにため息を吐いていた。

 

「全く男共はろくな自己紹介もできんのか……まあいい。SHR(ショートホームルーム)はこれで終わりだ。他の者の自己紹介は1限目の時間を使うことにする。自己紹介が終わり次第、半月でISの基礎知識を覚えてもらうぞ。そしてそのあとは実習だが、基礎動作も半月で体に覚えさせろ。ここに入学した以上はISの基礎知識を知らないで済むことは昨日までと思えよ?」

 

これは想像しているよりも大変な生活になるかな?っとこの後のことを考えるけど、その分ここに居ていいのか?っと疑問も浮かんでしまう。織斑さんには休息が必要だと言われたけど本当にそうなのか?……ううん、今は目の前の問題のことを少しでもいいから減らそう。僕自身のことを悩むことはそれからだ――――

 

 

 

(……うん、やっぱり僕のMSの知識は捨てた方がいいのかも知れない。ISとMSの違いは乗った時に違いは明確にわかっていたつもりだったけど……)

 

1限目による自己紹介とIS基礎知識理論授業が終わって休み時間に入って僕は再度ISとMSの違いについて認識を改める。ISには乗る気がないとしても知識があった方がいいのには変わらない。……時間がある時に織斑さんと山田さんに聞いた方がいいかな?訪ねればきっと教えてはくれるだろうし。今後のことを頭の中で整理していると誰かに話しかけられる。誰かといってもこの教室の空気内では彼1人だと思うけど。

 

「なぁ、確かキラ・ヤマトだったよな……?」

 

「うん、君は確か織斑一夏……だったよね?」

 

「おう、俺のことは気軽に一夏って呼んでくれよ。えっと―――」

 

「僕のことは気軽にキラって呼んでくれて大丈夫だよ。僕も君のことを一夏って呼ぶから」

 

「そうかっ!それじゃあ、よろしくなキラ!」

 

僕に話しかけてきてくれたのはこのクラスで唯一の男子である彼―――織斑一夏だ。屈託なく笑顔を浮かべて手を差し伸べてきてくれたので照れ臭く感じながら僕もその手を握る。どことなく彼の纒う雰囲気がトールに似ているような気がして彼と一瞬重ねそうになるがそれは2人に失礼なことだから直ぐに忘れる。お互いに簡単に自己紹介を終えたら一夏は緊張していたのか安堵する。

 

「いやー!!本当にキラがこの教室に居てくれてよかったっ!!男性操縦者が俺だけだと思っていたら正直やってられなくてさっ!本当にキラが居てくれてよかったっ!!」

 

「僕も同じだよ。一夏が居なかったらこの空気は耐え切れないかな。休み時間ってこともあるから廊下も今人がいるからね……」

 

お互いに苦笑いを浮かべながら決して廊下側へ視線を向けることはない。今休み時間ということもあり廊下には他のクラスからも女子が来ており教室が静かと言うこともあり、なにを話しているかまではわからないが声は聞こえてくる。教室内で僕らは手一杯なのに外もこの教室の空気かと思えば流石に嫌かなぁ。1年間苦楽を共にすることが確定となっていることもあるから彼と色々と雑談をしていれば1人の少女に声をかけられる。

 

「すまない、少しいいだろうか」

 

「んっ?……箒?」

 

「……えっと、確か―――」

 

「篠ノ之箒だ。キラ・ヤマト、悪いが一夏を借りていいだろうか?」

 

「うん。全然大丈夫だよ、一夏も行っておいでよ」

 

一夏と会話をしている時に声を掛けてきたのは篠ノ之箒さんだった。一夏は彼女のことを初対面ではないかのように名前で呼んでいたし、彼女も一夏のことを名前で呼んでいる。多分だけど2人は面識があるんじゃないかと思い僕は彼女に頷く。感謝すると篠ノ之さんはそう口にして一夏と共に廊下へと向かっていく。

 

(……2人がどんな関係かは後で一夏に聞いたら教えてくれるかな?まぁ、今はそれよりも僕はどうしようか……?)

 

このまま立ちっぱなしなのも嫌だから椅子に座る。貴重な話し相手がいなくなったのは痛手だけど篠ノ之さんの方は大切な話をしたそうだったので仕方のないことだ。この休み時間はこの空気に1人で耐えないといけないかなっと苦笑いを浮かべそうになっていると再度誰かに声をかけられる。

 

「えっと、キラ・ヤマト君で間違いないよね?」

 

「そう、だけど……君は、えっと……」

 

「むぅ、自己紹介はしたはずなんだけどな」

 

「ご、ごめん……まとめて頭の中に情報が入ったこともあるから―――」

 

「もう、冗談だよ。突然こんな環境に置かれたらいっぱいいっぱいになるの少しだけわかるから。だからもう一度自己紹介するね。私はシャルロット・デュノア、よろしくね」

 

ニッコリと微笑みながら彼女―――シャルロットさんは再度自己紹介をする。こんな空気の中でなぜ僕に?っと一瞬疑問が浮かんだけど直ぐにそんな疑問をうち消し、戸惑いながらも自己紹介をしようとするとその必要はないよと先に止められる。

 

「気楽に私のことはシャルロットって呼んでくれていいよ。えっと、キラ・ヤマト君のことは私もキラって呼んでいいかな?」

 

「う、うん、大丈夫だよ……」

 

「ありがとう。これからよろしくね、キラ」

 

会って数分しか経っていないのにグイグイと話しかけてくる彼女に戸惑ってしまう。彼女が僕に話しかけたこともあり教室内の雰囲気は良くも悪くも変わりヒソヒソと小声で話しているようだけど残念ながらそれがなんの話なのかはわからない。どうしようと内心で困惑をしていたらタイミングよくチャイムが鳴りそれを惜しむかのようにシャルロットさんは残念そうな表情を浮かべる。

 

「もし授業でわからないことがあったら遠慮なく聞いてきてね。いつでも教えてあげるから」

 

「う、うん。その時はお願いするよ」

 

それじゃっと笑顔を浮かべながら彼女は自分の席へと戻っていく。……言葉で上手く表現はできないけど彼女には周りと違う違和感を感じてしまう。どうだろうかっと拭えない不安を感じながら席へとつけば本日4回目の甲高い音が響いたことに苦笑いを浮かべてしまうのだった。






えっ、このタイミングで出すキャラ間違えてるっている人いるかだって……?いや、ちゃんと意味はあのるで許してください(震え声
いや、原作通りにシャルロットちゃんを介入させてもよかったのですがそれだとちょっとやりたいことをできなくなるというか……だって、キラ君には平和に過ごしてほしいでしょ?ねっ?ねっ?

とりあえず次回で皆さんのお待ちかねの彼女も登場です。あの人が一番個人として書きにくいですが……うん、頑張ろう(白目

誤字&脱字報告はいつでもお待ちしております!そしてコメントも待ったますので是非((吐血


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第5話 代表候補生


もう、僕頑張ったから来月の投稿サボっていいよね?……へへっ、だって、今月3回も投稿したんだもの((


 

 

(うん、やっぱりこの世界でのISの立ち位置は兵器に近いと考えた方が良さそうだ。……ううん、兵器そのものとみた方がいい)

 

山田先生の言葉に耳を傾けながら5冊の中の一冊の教科書のページをめくりながらそう結論づける。専門的な用語は流石に聞かないとわからないけど適性検査が終わったその後に渡されたあの参考書を読んでいて正解だった。今のところはなんとか山田先生の言っている意味がわかる。でも、山田先生や織斑先生に直接教えてもらったこともあるから周りの人より少し――ううん、かなりズルをした気がしなくはないけど元はこの世界の人間じゃないこともあるからそれぐらいは許してほしいかな。

 

(わからないことがあればシャルロットさんに聞けば教えてもらえるとは思うけど……彼女を頼って大丈夫なのかな?)

 

先程の休み時間に声を掛けられたシャルロット・デュノアという少女に頼るのは些か不安になってしまう。山田先生や織斑先生に頼るのは確定で安全だけど、2人に頼ってばかりなのは流石に気が引ける。このクラス内で唯一馴染んでいるわけじゃない僕が織斑先生と山田先生以外に頼れそうなのは消去法で彼女だけになってしまう。

 

「……もう少しだけ様子を見た方がいいのかな」

 

誰にも聞こえない範囲でボソリと独り言を呟く。たった数分しか話したことがない以上は下手に警戒心を露わにしたら彼女に失礼でもあるし……今後このクラスで共に過ごしていくことを考えると率先してクラスの雰囲気を悪くはしたくない。……あの時のようにみんなに距離を取られるみたいな結果になるのは嫌だから。

 

(うん、今はシャルロットさんについてはこれで考えるのはやめよう。……それにしても僕とそれほど変わらない子がISの知識を持って、それを学んでいるのは正直複雑かな)

 

流石にノートを取っている周りの女子が懸命に学んでいるのを邪魔する訳にもいかないのでチラリと見る。ISはこの世界の女性にとっては当たり前なものと聞かされた時は驚愕したのは記憶に新しく、この世界で戦争が起きるというわけではないけど率先して兵器と同等またはそれ以上のISの扱い方を習おうとしている姿を実際に見て思い浮かぶのはただ彼女たちが取り返しがつかない状況にならない事をひっそりと願うことだけだ。

 

「織斑君、ヤマト君。何かわからないところはありますか?」

 

「なんとか大丈夫です」

 

「…………」

 

山田先生が僕たち2人が授業についてこられているかを確認することも含めてかはわからないけど、僕は多少わかっていることを伝えれば『えっ、マジで』っと一夏がギョとした様子で僕を見てくる。……えっと、参考書は確か一夏ももらったはずだと思うから全部と言わなくても少し読んでれば専門用語はともかく少しは分かると思うけど。終始無言だった一夏は何かしらの覚悟を決めたのか山田先生の言葉に口を開いた。

 

「ほとんど全部わかりませんっ!」

 

はっきりと堂々とした物言いには清々しさを感じるけれど一夏の一言で教室内の空気は固まる。一夏が参考書を読んでいるかについては後で考えるけど、一夏の言葉は僕にとっては別に衝撃なことでもない。だって僕も含めて一夏もISが未知な領域であるのは確かであって知っているのが当たり前と思ってるのはちょっと間違いだと思うかな。

 

「……はぁ、入学前に渡された参考書は読まなかったのか、うん?」

 

「古い電話帳と間違えて捨てましたっ!」

 

敬礼をして一種の覚悟を決めた一夏の頭に容赦なく本日で5回目の鉄槌が振り落とされる。……うん、流石の僕もちょっとそれはフォローはできないかな。確かに参考書の分厚さについては僕も同意見だけど。

 

「後日再発行するからそれを1週間以内に覚えろ。……いいな?」

 

「は、はい……喜んでそうさせてもらいます」

 

自身の落ち度ということもあるからかそれとも織斑先生に睨まれたからか、参考書を捨ててしまった罰に一夏は大袈裟に首を縦に振る。けどあの量を1週間で覚えるのは相当大変だろうなっと苦笑いを浮かべてしまい後で手伝ってあげようかなと思う。ちょっと緩んだ空気を引き締めるために織斑先生は咳払いをしてそのまま話を続ける。

 

「いいか、諸君らは知っていると思うがISは機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深くも知らずに軽い気持ちで扱えば必ず事故は起こる。そういったことにならないように事前に防ぐのが基礎知識と訓練だ。理解ができなかろうが覚えろ、そしてそれを守れ。それが規則だ、それを守れない奴がISなど扱えると思うなよ」

 

(……事故か。ヘリオポリスが崩壊したのは確かにザフトが襲撃したこともあるけれど僕にだって責任があるんだ。あの時に訳もわからないでランチャーパックを使ったからっ……)

 

織斑先生の言葉で思い浮かぶのはヘリオポリスの崩壊していく光景だった。ストライクに乗り突然と再度現れたザフトのMSであるシグーに訳もわからずランチャーパックの主力武装であるアグニを深く考えることもなく撃ち、半壊していたヘリオポリスはそれで崩壊という道を歩んでしまった。もしあの時にヘリオポリスが崩壊しないでいればみんな、まして彼女だって戦争に巻き込まれなかったんじゃないのか……?

そんな考えが一度よぎれば頭の中で、そのもしもという話が頭の中でぐるぐると何度もよぎる。

 

「望む望まざるにかかわらず、人は集団の中で生きなくてはならない。それすらも放棄するなら、まずは人であることを辞めるんだな」

 

織斑先生の言葉で僕は現実へと戻される。一夏にも言っていることではあるけれどそれは僕にも言われているような気がして、少しだけその言葉が肩に重くのしかかる。……でも、僕はISに乗る必要はないんだ。ここでは戦争なんか起きない……僕が戦う必要だってないんだ。そんなことばかりが頭の中で何度も繰り返されこの時間の授業はチャイムが鳴るまで頭に入ることはなかった――――

 

 

「……やべぇ、本当に授業の内容がわからねえよ。キラもやっぱりさっきの授業内容は理解してたりするのか……?」

 

「流石に全部ってわけじゃないよ。僕がわかっているのはあくまで初歩的なことかな。ISの基礎知識は僕も全くないし、専門用語とかはサッパリだから。でも、一夏は一週間以内に色々と覚えることができるんじゃないかな?」

 

「ぐおぉ……それ以上は言わないでくれっ!思い出すだけで今すぐ泣きたくなるんだ……!」

 

一週間以内にあの分厚い参考書の内容を暗記しないといけない現実を思い出した一夏は悲鳴に近い声を上げて頭を抱える。勉強なら手助けできなくはないけど暗記は自身との勝負だから手助けできることは少ないかな。一夏の様子をクスクスと笑えばふっと楽しんでいていいのか?っと思えば再度声をかけられる。僕たちはその声の主を聞けば篠ノ之さんでもなければシャルロットさんでもないクラスの人だった。

 

「―――少しよろしくて?」

 

声の方へと振り返れば腰に手を当ててベリーロングの地毛が綺麗な金髪で蒼い瞳がつり上がっていて、彼女はそんな目で僕と一夏を見ていた。同じクラスである人であるのは間違いないけど……名前を思い出せないでいると一夏は少しだけ嫌そうな表情を浮かべていた。

 

「あー、俺たちになんか用でもあるのか?」

 

「そのお返事に些か不満はありますが……まぁ、いいでしょう。ですが、このわたくしが話しかけているというのにその態度はどうかと思いますけれど?」

 

彼女の言葉に更に一夏の表情が険しくなるのを見て、これが織斑先生が言っていた女尊男卑の社会の一つであることに気づく。口頭では説明があったけど実際に目の当たりするとこの世界でもそういったことがあるのだと虚しく感じる。

 

「気を悪くしたんだったら謝るよ。でも、僕と一夏はこれが当たり前なんだ。それについては少しぐらい目を瞑ってもらえると助かるかな」

 

「……はぁ、いいでしょう。多少の無礼でしたら目を瞑ることにしてあげましょう。わたくしは寛大ですから。もちろんお二人ともこのわたくしをご存知ですものね?」

 

胸を張りながら髪を上げる仕草は似合っているなと思うけれど彼女のその視線は僕たちを見下ろしていて、この空気の中流石にそれを口にしてしまえば馬鹿にされていると勘違いされそうだ。……正直に白状したら僕は君が誰なのかを知らないし、一夏に視線を向ければ誰だ? と頭にクエスチョンマークを出している辺り答えは同じだ。

 

「―――イギリスの代表候補生にして、入試首席であるセシリア・オルコットさん、だよね?」

 

「あら、誰かと思えばフランスの代表候補生であるシャルロット・デュノアさんではありませんか」

 

僕と一夏と彼女の会話に割り込むように話に入ってきたのはシャルロットさんだ。そして先程まで話をしていた彼女の名前がセシリア・オルコットだと判明したのはシャルロットさんのファインプレーのおかげだろう。

 

「そんなに高圧的に接したら2人とも話しにくいと思うよ?一年間は同じクラスの一員だから仲良くしたいのにそんな高圧的に接したら仲良くできないよ?」

 

「あら、わたくしは別にそこにいる下々と仲良くなりたいと思ってなど微塵も思っていませんわ。ただそこのお2人はISの知識たる基礎知識の基礎すらも知らない様子、そんな出遅れている下々に手を差し伸べるのは悪いことではないでしょう?」

 

「そうだね、わからないことを教えてあげるのはいいことだと思うよ。でもそうまでして見下すように言う必要はないんじゃないかな?」

 

「あら?フランス代表候補生であるシャルロットさんはそのお2人を擁護するおつもりで?」

 

「それが何か悪いのかな?知らないだけで人を見下すようなことをするよりも遥かにマシだと思うけど」

 

ただ話している中でお互いに火花を散らしているようでとても2人の会話に割り込む勇気は僕にはない。2人は周りの目もお構いなしにヒートアップしていって僕はどうにかして止めないとっと考えていると一夏はポツリと言葉を漏らした。

 

「―――代表候補生ってなんなんだ?」

 

「―――なっ、なっ、あ、貴方はそんなことも知らないんですのっ!?代表候補生ですわよ!代・表・候・補・生っ!貴方は織斑先生の弟さんならばそれぐらい知っているのは当たり前だと思いますけれどっ!?」

 

「今千冬姉の名前は関係ねえだろ。そりゃ、確かに弟だけどそれとこれとは関係ない。それに俺は生まれてこの方ISなんて調べたことはない。知らないものは知らないって答えて何か悪いのか?」

 

そこだけは譲れないっと一夏はセシリアさんをじっと面と向かう。突然と自身を真っ直ぐと見つめてきた一夏にセシリアさんはたじろぐ。けれど流石代表候補生なのかすぐに持ち直して腰に手を当てる。

 

「っ、ただの猿人だと思っていましたが貴方は違うようですわね」

 

「ちなみに代表候補生は国家代表IS操縦者のことを指していてね、その候補生として選出された人のことを代表候補生って言うんだよ。わかりやすく言えばエリートってところかな?」

 

「へー、そうなんだ。説明ありがとうな。えっと、確か……」

 

「シャルロット・デュノアだよ。織斑一夏君とは初めてだからね。うーん、織斑君は織斑先生と被るから一夏って呼んでいいかな?。私のことはシャルロットって気軽に呼んでね」

 

「おう、よろしくな、シャルロット」

 

「きぃぃぃ!!貴方たちは何いつの間にか自己紹介をすませているんですの!?」

 

あー、うん、多分2人はセシリアさんを雑に扱うことにしたんだろうなぁ。けどさっきの一夏の場違いな発言のおかげでシャルロットさんとオルコットさんの険悪の雰囲気は終わったようだし。セシリアさんは息を吐き自分の威厳を保つように再度咳払いをして腰に手を当て髪をかき上げる。

 

「ま、まぁ?わたくしは入試で唯一、唯・一教官を倒したエリート中のエリートですからぁ?もしISのことでわからないことがあれば泣いて頼まれたら教えて差し上げることを考えなくはなくってよ?」

 

「んっ、入試ってアレか?IS動かして戦うってやつ?俺も勝てたぞ?」

 

「わっ、凄いね一夏!キラはどうだったの?」

 

「えっ、僕……?僕は男性操縦者として判明するのが遅かったこともあるから、その教官と戦うことはなかったかな……そういうシャルロットさんはどうだったの?」

 

「私は惜しくも教官に負けちゃった。ここぞって時に気が緩んじゃって、その隙を見逃してくれなくてそのままって感じにね」

 

突然シャルロットさんが前に詰めるように聞いてきたので驚きながらもなんとか答える。彼女にも聞けばシャルロットさんは負けちゃったと苦笑いを浮かべる。だから唯一ってセシリアさんは強調したのか。シャルロットさんも代表候補生だし。けど、シャルロットさんでも勝つことができなかった教官に一夏は勝ったようだけどどうやって勝ったんだろう?シャルロットさんとそれについてお互いに悩んでいると、一夏の衝撃発言によりフリーズしていたセシリアさんは再起動して呆然とした様子で一夏に聞いていた。

 

「きょ、教官を倒したのですか……?わたくしだけと聞いたのですが……」

 

「それって女子ではってオチじゃないのか?」

 

「……そうだとしてもそれを口にしなかった方がいいと思うよ、僕は」

 

「えっ?そうか?でも、アレって倒したって言えばいいのかわかんないんだよなぁ……」

 

「ちょっ、それってどう言う―――」

 

一夏の言葉に誰よりも反応したオルコットさんが一夏へと凄い剣幕で詰め寄る前にタイミングよくチャイムが鳴る。その音を聞いて一夏の言葉の真意を聞けなかった彼女はぐぬぬっと悔しそうに表情を歪めながら自身の席に戻っていく。シャルロットさんもまたねっと僕らに手を振りながら戻っていき、僕は最後に一夏にその言葉の意味を聞けば「いや、勝手に相手が転けた」っという事実にとりあえず僕はセシリアさんに軽く同情することにして、そのことは彼女には伝えない方がいいとアドバイスを送っておく。……うん、セシリアさんが知ったらさっきぐらいじゃすまないだろうなぁ。

 

 

「このまま三限目の授業を開始する、っと言いたいところだがそうもいかなくてな。再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなければならん」

 

教壇に立つ織斑先生は面倒だと思っているのかため息を吐き、山田先生の両手には箱がありなんに使うのかと不思議に思う。それにクラス対抗戦、代表者……?未知の単語に首を捻っていると織斑先生の説明は続いていく。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……わかりやすく言えばクラス長なようなものだ。そしてクラス対抗戦だが、入学時点での各クラスの実力推移を測るもので、今の時点では大した差はないが、競争というものは向上心を生む。ああ、あとこれは注意点だが一度決まったクラス代表者は一年間変更はできないからそのつもりで」

 

これってかなり大事なことだよね。教室がざわついているところを見ると慎重に考えるべきことだ。対抗戦は間違いなくISに乗ることは間違いないだろうし、まず誰かの上に立つことなんて僕には到底できる気はしないのでクラス代表者と言うのは遠慮したいかな。

 

「さて、今回は不正を防ぐこともあり票形式にすることにした。紙を渡すため代表者にしたい人の名前をその紙に書きたまえ。……後々文句を言われるのも面倒なため先に伝えておくが対抗戦で優勝をした場合ご褒美が出る。そのことをふまえて、誰を代表者にするかしっかりと考えて記入するんだな。制限時間は3分だ、その間に書かなかったものの票は無効とさせてもらう」

 

箱の中身はその票で使う予定だろう紙であり、少しの相談もさせないためか一人一人、織斑先生と山田先生が手分けして机の上に置いていく。全員に紙が配られたことを確認したら織斑先生の合図で開始される。

 

(別に白紙として出してもいいんだけど……出すとしたらあの人にだよね)

 

僕は紙にセシリア・オルコットと記入をして周りに見られないように紙を半分におる。さっきの休み時間での話を考えればこのイベントに彼女が代表者になりたいと考えているのは簡単にわかる。それにイギリス代表候補生という肩書きを持つ彼女なら代表者となっても充分にやっていけるはずだ。……性格に難はかなりあるけれど。時間制限である3分が経過し織斑先生と山田先生が紙を箱の中に回収をして教壇に立ち織斑先生がそれを読み上げて山田先生が黒板へと記入していく。

 

「……はぁ、お前たちは私が先ほど言った言葉は覚えていないのか?」

 

頭を抱えてため息を吐く織斑先生は少しだけ新鮮だけど僕も同意見で頭が痛くなる。山田先生もあははっと、苦笑いを浮かべているあたり余程のことだと思うんだけど。

 

「最も多く投票されていたのは織斑一夏、そしてその次にキラ・ヤマト、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア……後ろの2人はわかるがなぜ新米にもなっていない2人にこうも票が入っている」

 

「だって男性操縦者がいるのは私たちのクラスだけじゃないですかー」

 

「ですからそれを有効に活用しない手はないと思うんですっ!」

 

「……これでいいのならば最も票が多い織斑になるが構わないな?」

 

「いや、ちょっと待ってよ、千冬ね―――」

 

「なっっとくがいきませんわっ!!その当選に異議がありましてよ!!」

 

一夏の声を遮るように机を強く叩き、大きく声を出し抗議したのはイギリス代表候補生であるセシリアさんだった。こうなるよねっと半分ほど予期していた事態に僕はため息を吐きたくなったけれどぐっと堪える。

 

「わたくしと同じく代表候補生であるシャルロットさんが選ばれたのでしたら渋々……ええ、本当に悔しい気持ちでいっぱいになりますが大人しく引き下がろうとは思っていました。―――ですが、ISの基礎知識の基礎すらも知らない彼らが代表者になるというのは納得がいきませんっ!それになんなのですかっ!わたくしの票が4票って!わたくしは納得できませんわっ!」

 

 

「我儘のつもりなら話を聞くつもりはない、これは公平で決まった投票だ。イギリス代表候補生であるセシリア、お前が率先してルールを破ってどうする」

 

「っ、ですがクラス代表者として彼が相応しいかと問われればわたくしとしては相応しくないと断言させていただきますっ!いくら彼が織斑先生の弟であろうと簡単には認められませんわっ!ましてやもう一人である彼など―――」

 

「―――おい、このタイミングでキラは関係ないだろうが。クラス代表者として認めることが出来ないのは俺のことなんだろう?千冬姉とキラを巻き込もうとするんじゃねぇ!」

 

ガタリと椅子を倒しながら一夏は立ち上がりセシリアさんを強く睨む。一夏が突然と大きな声を上げたことに周りは驚いていたけれど僕は彼が怒ってくれた理由に驚く。

 

「俺は自分のことをなんて言われようが別にいいけどさ……友達のキラを悪く言うんだったら話は別だ。ようするに俺がアンタの言うクラス代表者に相応しければいいんだろう?」

 

「え、ええ、そうですわっ!貴方がわたくしを差し置いてクラス代表者に相応しいのか示してご覧なさいっ!わたくし、セシリア・オルコットは織斑一夏、貴方個人に決闘を申し込みますっ!織斑先生の弟君であろうと手加減をするつもりはありませんっ!!」

 

「ふんっ、その決闘受けて立つぜ。そして俺が勝ったらキラに謝れよ、いいなっ!」

 

「ふんっ、わたくしが負ければ幾らでも頭を下げて差し上げますわ。そして貴方がわたくしに負ければクラス代表者はわたくしに譲る、これで文句はありませんわよね?」

 

お互いに睨み合う中で織斑先生が手を叩き2人の仲裁に入る。っというか入らないとこのまま更にヒートアップしてお互いになにを口走るのかがわからない。

 

「はぁ、わかった。ならお前たちの要望通りその決闘は一週間後に行うことにする。いいな?その間に余計なことをすれば即座に取り下げるものとする。異論はないな?」

 

「わたくしは構いません」

 

「俺もそれでいい」

 

「今年の新入生は血の気が多いことだ……」

 

一夏とセシリアさんは視線を外すことなく織斑先生の言葉に頷き、その2人の姿を見て織斑先生は肩を竦める。このまま授業をやるぞっ、と織斑先生の言葉で2人は椅子へと座りそのまま授業へと入っていった―――

 

 

「ぬぐぐっ……全然わかんねぇ!!」

 

今日の授業は終わり放課後に入った。一夏は机の上に広げている参考書と教科書を何度も往復して読んだりしているけどその成果はいいとは言いにくい。そんな一夏にこのことを聞くのは気が引けるけれどセシリアさんと本気で決闘をするのか聞く。

 

「ねぇ、一夏は本気でセシリアさんと戦うつもりなの?」

 

「んっー、まあ、そうなるだろうなぁ。クラス代表者になるのは本音を言ったら嫌だけど……キラを巻き込もうとしたのは許せなくてついカッとなったけど後悔はしてない」

 

「……ごめん、僕なんかのせいで」

 

「そんな自分のこと卑下するなって。キラは悪くないし、友達の悪口を言われたら我慢できないのは当たり前だろ?だから気にする必要はないぞ」

 

「……ありがとう、一夏」

 

いいってと爽やかに笑う一夏の姿は僕には少しだけ眩しかった。こんな僕を友達だからという理由で立ち上がってくれたのは正直に言えば嬉しかった。けれど僕がいなければこうならなかったと思うと憂鬱になる。それを気づかせないように彼と話しているとすっかり聞き慣れた少し焦った声で山田先生が声をかけてくる。

 

「よかったぁ。2人ともまだ教室にいたんですね!」

 

「どうしたんですか?山田先生」

 

「2人にはこれを渡さないといけなかったので。はいっ、これが一夏君とヤマト君の部屋の鍵です」

 

ニッコリと微笑みながら僕と一夏に部屋の鍵を渡される。そういえばIS学園は寮生活なんだっけ?僕にとってはこの寮がこの世界の自宅になるけれど。

 

「あれっ、でも俺って一週間は自宅から通うってことになってたと思うんですけど……」

 

「えっと、それについてなんですけど事情が事情なので部屋割りを一時的な処理として無理矢理変更したそうです」

 

その辺りは色々とありましてっと山田先生は申し訳なさそうに表情を暗くする。僕たちが前例のない男性操縦者としてこの学園に入学したこともあり学園側としてもかなり苦労しているんだろうなぁ。そこら辺は本当に申し訳ないと思う。更に僕の場合は異なる世界の人間だし……。

 

「なので2人には申し訳ないんですけど、一ヶ月間は相部屋で我慢してください。一ヶ月後ぐらいには個室も用意できますので」

 

「えっと、それはいいんですけど……俺一度家に戻らないと荷物が―――」

 

「荷物については私が先に手配しておいた。生活必需品だけになるがな。着替えと、携帯電話の充電器……あとは暇つぶしようにトランプをつめておいた。他に必要なものがあれば後で私に言え、時間がある時に取りに行っておいてやる」

 

「いや、千冬姉大雑把だし、多分探してる間に―――ひっ、いえ、ナンデモナイデス」

 

何かを言おうとすればギロリと織斑先生に睨まれた一夏は片言になり目を伏せる。多分、あの様子だと織斑先生は大雑把なんだろうなぁ。そんなことを考えている時に織斑先生は僕へと視線を向けたので思わず背筋に嫌な汗が出る。

 

「ヤマト、お前も相部屋ではあるがその一週間は一人で生活することになる。ある程度自由には生活はしていいがそのことを忘れるなよ?わかったか」

 

「は、はい。わかりました」

 

「わかったのならばいい。お前も生活必需品は部屋に置いてある」

 

「えっ、相部屋ってキラと俺じゃないのっ!?」

 

僕と織斑先生の話でどうやら相部屋をするのは僕と一夏ではなく他の人のようで一夏は驚く。……つまり僕と一夏は女子と相部屋になるってことなのかな?そのことを言えば織斑先生は微妙な表情を浮かべてそうなるなっと呟く。

 

「私たちもどうにかしたかったが上の決定だ。……なるべくお前たちには負担がかからない相手を選んだつもりだ。それについては謝罪する」

 

「い、いや、別にいいって……一ヶ月なら多分大丈夫だと思うから」

 

「え、えっとね!夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってね。えっと、それで大浴場もあるんですけど学年ごとに使える時間は違います。ですけど、その、織斑君とヤマト君は今のところ使えません。その、まだ織斑君とヤマト君が大浴場を使えるように時間調整ができていなくて……当分シャワーになります。ごめんなさい」

 

「シャワーが使えるのなら大丈夫ですよ。一夏もそうだよね?」

 

「まぁ、シャワーがあるんだったら困ることはないかな」

 

一夏は残念そうに肩を落とす。大浴場で入るのが好きだったのかな?……僕にとって今の問題は相部屋の方なんだけど。一夏と相部屋になるのなら大丈夫だとは思うけど他の女子と相部屋になるのは正直断りたい。けれどこれは僕自身の我儘になる。

 

「私たちは今から会議なため、用があるならばその後に職員室へ来い」

 

伝えることは終わったようで織斑先生と山田先生は教室を後にする。その背中を見送って大変なことになりそうだと鍵を見つめる。僕と一夏はお互いに顔を見合わせてとりあえず自分たちの部屋に行こうかと提案をする。さっきの話を聞いて教室内外が騒がしくなってるしね。これじゃあ、一夏が勉強に集中できないから。

 

 

「……ここが僕の部屋か」

 

山田先生に渡された鍵の番号を手掛かりにして同じ部屋番号を見つける。確か織斑先生の話では僕と相部屋をする人はまだいないらしい。それまでは一人で過ごすことと一緒だけど……あまり散らかさないほうがいいよね。散らかすようなものは特にないってのが事実だけど。

 

(ベットは二つあるけどその人が来るまでは使わないほうがいいよね。どっちを使いたいのかわからない以上は)

 

ストライクのコックピットで寝てたこともあるし床で寝るのも大して変わらない。毛布を借りさせてもらうけれど床か壁に寄りかかって寝れば大丈夫かな。

 

(……今日はもう疲れたから少し眠ろうかな)

 

今日一日というより、こんな風に当たり前に自身が生活をしていていいのかと考えてしまう。こうやって皆んなと普通に過ごすことがつらいと感じてしまうし、今すぐにでも僕はここから去るべきなのはわかってる。

 

(……僕はこれからどうすればいいのかわからないよ)

 

壁に背を預けて蹲る。この答えはきっと誰かに求めては駄目なんだろうと思う。けれどその答えを僕自身から見つけることはこの世界に来てから、一度も見つけることができなかった。やがて睡魔に襲われて僕の意識は少しづつ落ちていく。ヘリオポリスで皆んなと過ごしていたことを思い出しながら―――





ははっ、やったぁ!次は多分セシリアさんの独壇場だ!!今のところは予定通りに進んでいる……あとは私が謎にオリジナル回を作らなければ済む話だ((届かぬ願い

えっ?キラ君との相部屋するのは誰かって?……いやね、うん。もうほぼ答え出てるから私はあえて言わないかな。とりあえず登場できるように投下を頑張ります((白目

誤字&脱字報告はいつでもお待ちしておりますっ!それでは次回の更新は未定ですが気長にお待ちください!


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第6話 悪夢


もはやサブタイトルのネタなど殆どなく血反吐吐いてます。だいたいは適当に思い浮かんで書くとか思いつきが殆どなので……うん、とりあえずサブタイトルはこれからもこんな感じでズボラですけど許してください(白目


『コーディネイターでもキラは敵じゃねえよ! さっきの見てなかったのか! どういう頭してんだよ、お前らは!』

 

──夢でとっても懐かしい夢を見ていた。初めてストライクを動かした後に、僕に銃を向けてくる人たちから庇うように前に立ってくれたトールのことを。あの時彼がそうしてくれた時とても嬉しかった。コーディネイターである僕を友達と言ってくれることが。……でも、僕はそんな友達であるトールを守ることができなかったんだ。

 

『えっ……!?』

 

アスランが搭乗するイージスとの戦闘の時にトールが搭乗する一機のスカイグラスパーが援護してきた。それを鬱陶しく思ったアスランはシールドを投擲し、そのシールドはトールへと弧を描くように飛んでいきそのままトールが乗るスカイグラスパーに直撃する。そしてトールは────

 

「──やめろぉぉぉぉ!!」

 

飛び起きて手を伸ばすが空を切り、伸ばした手は何かを掴むことなく力なく落ちていく。呆然としながら肩で息をしてさっきまでの出来事が夢であったことに気づいたのは数分後だった。大量に汗をかいたのか、その汗を吸っただろう服が気持ち悪い。

 

「……夢なら、よかったのに……」

 

虚な瞳で天井を見上げながらボソリと呟く。そうだ、アレは実際に起きた現実なんだ。あの時に僕は彼を守れずにトールは死んだ。僕の大切な友達の一人である彼を僕は守れなかった。……本当ならきっとトールだって生きてこうやって普通な生活に戻れたはずだったのに。今は何も考えなくはないと項垂れていたら扉からノック音が聞こえてくる。

 

「──キラ大丈夫っ!?シャルロットだけどっ!?」

 

(……どうして、シャルロットさんが……?)

 

どうして彼女が?っと疑問が浮かぶけど、そんなことを考えるほどの余裕はなく彼女に大丈夫だと伝えるのも億劫だった。今は動きたくなく考えたくもないっと、思っていれば鍵が開いていることに気づいた彼女が扉を開けて部屋へと入ってくる音が聞こえた。

 

「キラ大丈夫……っ!?」

 

「……大丈夫だよ……嫌な夢を見ただけだから……」

 

「けど、すごく顔色悪いよ……?汗もすごい量だし……それに涙出てるよ?」

 

慌てて近づいてきて項垂れている僕の表情を確認した彼女の言葉で自分が今泣いているということに初めて気づく。自分が今泣いている自覚がないことに戸惑いながらも、自身に言い聞かせるように大丈夫だよっと覇気のない声で言う。納得はしていなさそうだけど彼女は渋々と引き下がる。

 

「一度シャワーを浴びた方がいいよ。汗も凄いし……サッパリすると気分も落ち着くと思うから。まだ時間はあるから、ね?」

 

「……そうするよ。シャルロットさんはゆっくりしてて」

 

「う、うん。そうさせてもらおうかな」

 

シャルロットさんは緊張でもしているのかぎこちない笑顔を浮かべる。けれど僕もそれを気にかける余裕もなくタオルと着替えを持ち、おぼつかない足取りでシャワー室へ向かう。制服を持ってくることを忘れたことに気づくけど、後で着替えれば大丈夫だよねっと思い、シャワー室に入り蛇口をひねり冷水を頭から浴びる。シャワーが冷たいけれど目を覚ますこと、汗による体のベタつきをなくすのにちょうどいいやと割り切る。

 

「えっと、キラ。制服も一緒に置いておくね?忘れていたようだったから……」

 

「あっ、うん……助かるよ」

 

考えることもなくぼうっとシャワーを浴びていたら制服を持ってきてくれたようで、扉越しからシャルロットさんの声が聞こえてくる。ありがとうっと伝えて彼女の気配が消えたのを感じ一度扉を開けタオルだけを取り、そのまま体を拭き制服へと着替える。……髪はまだ少し拭き足りないけどこれぐらいなら大丈夫かな。

 

「ごめん、少し待たせたかな……?」

 

「う、ううんっ!!全然そんなことはないよっ!?えっと、むしろ私が押し掛けてきたしね、うんっ!」

 

シャワー室から出てくるとあたふたとしてシャルロットさんが首を横に振る。どうしたんだろう……?理由はわからないけど僕が原因かな?そんなことを考えれば僕を心配するように顔を見る。

 

「キラ、本当に大丈夫なの?今から一緒に朝食をとろうと思って誘いに来たら凄い声で叫んでたけど……」

 

「僕は大丈夫だよ。嫌な夢を見るのはよくあることだから……」

 

「よくあることって……」

 

「シャルロットさんが気にする必要はないから。……それに、これは僕が見ていないといけないものなんだよ」

 

嫌な夢を──―悪夢を見て魘されるのは別に今日が初めてというわけじゃない。この世界に来てから寝ていれば必ずと言っていいほど夢を見る。それは今日みたいに覚えていることもあれば、覚えていない日だってある。夢の内容だって毎日変わりあの世界で体験してきたことや、夢だとわかる怖いような夢を見ることだってある。けど、どんな夢だって僕が目を逸らしてしまったら駄目なんだ。だってそれは僕があの世界で生き残り、この世界へと来てしまった贖罪だと思うから。……ううん、きっとそう思うこと自体が痴がましいことなんだろうね。

 

「それじゃあ行こっか、シャルロットさん。もしよかったらだけど一夏も誘っていいかな?」

 

「う、うん。私は大丈夫だよ」

 

戸惑いながらもシャルロットさんは頷く。申し訳ないけど彼女と2人きりになるのはできる限り避けたいかな。一夏の部屋はどこにあるのかわからないけど……シャルロットさんは知ってるかな?うーん、食堂に行けば会えるとは思うから食堂に向かうことにしよう。急に押しかけるのは迷惑になると思うしね。

 

「よかった、やっぱり先に食堂にいたんだね。おはよう、一夏」

 

「おはよう、一夏」

 

「おう、2人ともおはよう」

 

食堂にへと行けば一夏は先に居て、そんな彼の隣には篠ノ之さんもいた。一夏と篠ノ之さんの前の席は空いているようだしこのままこの場所に座ってしまおうか?悩んでいれば一夏が一緒に食べようと誘われたので遠慮なく座ることにする。

 

「篠ノ之さんもおはよう」

 

「……ああ、おはよう。確か、シャルロット・デュノアだったか?できれば私のことは名前で呼んでくれ。あまり名字で呼ばれるのは好きではない」

 

「うん、わかったよ。それじゃあ、これからは箒さんって呼ばせてもらうね。私のことは気楽にシャルロットって呼んでくれていいから」

 

コクリと篠ノ之さんは頷きシャルロットさんはそれを見て笑顔を浮かべる。2人の様子を見る限りでは仲良くなるのにはそう時間がかからないかな。シャルロットさんは今僕よりも一夏や篠ノ之さんと話している方が気が楽だと思うしね。

 

「そういえば昨日の夜の時、食堂でキラの姿見なかったけど、どうかしたのか?」

 

「昨日は部屋に戻った後にすぐに寝ちゃったから。起きたのは食堂の使用時間が過ぎた後だからいけなかったんだ。もしかして心配をかけちゃったかな?」

 

「少しな、けどそれならよかった。……なら、それって少し足りないんじゃないか?昨日の夜食べてないなら尚更」

 

「そうかな?特にお腹空いてないから僕はこれぐらいで大丈夫だよ」

 

「まぁ、キラがそれで大丈夫ならいいけどよ……」

 

一夏が心配しているけど僕の朝食は洋食寄りでパンにスープ、そこにサラダといったメニューだ。昨日の夜は確かに食べていないけど元が小食だし、そこまでお腹は減っていないのが本音だ。

 

「まぁ、僕のことよりも一夏は今後どうするの?決闘までは約一週間だけど……」

 

「それなんだけど出来ることをやろうとは思ってる。少しでもISの知識を身につけようかなって思ってんだけど……キラとシャルロットはなんか他にいい案はないか?」

 

「そうだね……私はセシリアさんの情報を集めるべきだと思うかな。セシリアさんはイギリスの代表候補生だから知る人ぞ知る有名人であることには変わりないんだよ。そんな有名な人のISの情報を探す、なんてどうかな?」

 

「僕もシャルロットさんと同じ意見かな。僕と一夏は少なくとも他の人よりも情報が圧倒的に足りていないから、まずはあの人のことを知るべきなんだと思う。相手がどんなISなのか、その武器の特性を知っていれば多少は有利になると思うよ」

 

僕もシャルロットさんと同意見で、一夏の相手であるオルコットさんのISの情報を手に入れることを提案する。実際に彼女とは対峙はしていない以上は彼女がどれほどの実力者かはわからないけど、今の一夏にとっては容易に勝てる相手じゃない。むしろ圧倒的な不利であるのは変わりないから、少しでも勝てる方法を考えたらまず相手を知ることなんだと思う。

 

「休み時間や、昼休み辺りに織斑先生か山田先生に聞いてみるといいんじゃないかな。きっと2人とも教えてくれると思うよ」

 

「うーん、千冬姉が教えてくれる気はしないけど……そうだな、とりあえず今日中には尋ねてみるか」

 

この後の方針が一旦決まったこともあり一夏に少しばかり余裕が生まれたようで安堵する。僕がこれ以上一夏のためにやれることはもうないかな。ISの操縦については僕よりもシャルロットさんに聞くことになるだろうし。朝食は量が多いこともないため僕は先に食べ終わり、みんなが食べ終わるのをゆっくりと待っていると食堂に織斑先生の声が響き渡る。

 

「先に伝えておくが、これから遅刻した者は問答無用で校庭を5周走ることになるため嫌な者はサッサっと朝食をすませるようにしろ。そして、キラ・ヤマトはいるかっ!いるのならば5秒以内に返事をしろっ!」

 

「は、はいっ!」

 

織斑先生から名前を呼ばれたこともあり挙手しながら立ち上がれば、今食堂にいる人たち全員に視線を向けられる。織斑先生に指名されたということは何かしら理由があるんだと思うけど……どうしたんだろうか?

 

「よし、いるな、ヤマト。今からお前は私と職員室へと来い、拒否権はなしだ」

 

「わ、わかりました」

 

「キラ、千冬姉に直接指名されるって……なんか、したのか?」

 

「キラ、食器は私たちが戻しておくからお前は織斑先生と共に職員室へと行ってこい。織斑先生の様子から見るに重要なことみたいだからな」

 

「うん、助かるよ。しの──箒さん」

 

「また、教室でね、キラ」

 

「うん、また後でね、みんな」

 

箒さんの言葉に甘えて僕は織斑先生の元へと向かう。僕の姿を確認した織斑先生はついてこいと短く会話をすませて、僕と織斑先生は職員室へと向かう。職員室へと向かう途中で織斑先生と話をすることもない、けど僕はこの静かな空気は嫌いではなくむしろ好きな方だ。職員室へと辿り着き、織斑先生が事前に用意していたであろう椅子へと座り向かい合う。

 

「入れ、そう身構えなくてもいい。コーヒーは飲めるか?」

 

「は、はい、いただきます。えっと、どうして僕を職員室に呼んだんですか?」

 

「……お前に関することではあるから念のために職員室へと来ただけだ……まぁ、面談だと思え」

 

言葉を選ぶように間があいた答えに不思議に思えば、出来上がったコーヒーを織斑先生から受け取る。少しだけ息を吐きながら冷まして、飲めば味はブラックでその苦味がまだ抜けていない眠気を覚ましてくれる。

 

「さて、時間もないため本題へと入るが昨日の夜はどうしていた?夜の食堂の時間の時にはお前の姿が見えなかったが」

 

「えっと、ですね。僕は昨日は織斑先生と山田先生と別れて部屋ですぐ寝ちゃったんです。起きた時にはすでに食堂の時間を過ぎてしまって、それで昨日の夜は食堂には行きませんでした」

 

「つまり、昨日はただ寝過ごしただけだということか。お前は人よりも少し痩せているようだから3食はきちんと食べろ。お前は食べ過ぎるくらいがちょうどいいだろうからな」

 

「あ、あはは、次からは気をつけます」

 

呆れた顔で溜め息を疲れてしまい僕は苦笑いを浮かべる。これでもきちんと食べている方なんだけど……うーん、せめて織斑先生の言う通り3食きちんと食べた方がいいのだろうか?お互いにコーヒーで一息つきながら織斑先生は少しだけ気まずそうに話を続ける。

 

「……今朝、お前の部屋から叫び声が聞こえたと報告があった。朝にシャルロットがそれを聞いてお前の部屋に入ったと聞いたが本当か?」

 

「……っ、はい、本当です。でも、シャルロットさんは別になにもしていませんよ。全部が僕が悪いんですから」

 

「その原因はなんだ?お前のことだから悪ふざけというわけでもあるまい」

 

「……夢を、見るんです。この世界に来てよく嫌な夢を見るんです……今日の嫌な夢は僕にとって、とっても嫌な夢だったから……止めたくて叫んでしまったんです……」

 

「……それは毎日のようにか?」

 

声に出す気力もない僕は震えながら小さく首を縦に振る。そんな僕の姿をみて表情を歪め織斑先生はそうかと静かに呟く。織斑先生と視線を合わせづらくなり俯きコーヒーが入っているマグカップを持つ両手に力を込める。

 

「次また何か悪夢を見たら私か山田先生の元へと来い。……お前の根本的な解決にはならないだろうが誰にも話をしないよりかはマシだろう」

 

「……考えておきます」

 

期待して待っておくと織斑先生は言葉にするけど、僕の様子を見て相談をすることがないのはなんとなく察しがついていると思う。それに見た夢をそのまま話にすると言うのは躊躇いがあるから、どうにしても誰かに話せるようなものじゃないと思う。

 

「私からの話は以上だ。事前に山田先生にはお前の朝話すことがあると伝えていたから遅刻扱いにはならないはずだ」

 

「わかりました。えっと、突然なんですけど、その、お願いがあるんです。……今日、一夏が織斑先生か山田先生に尋ねてきたらセシリアさんのISについての情報を教えてあげてくれませんか?」

 

「ふむ、それはアイツの行動次第と言っておこうか。一夏が自身から少しでも勝つ意欲があるのならばセシリア・オルコットの専用機の持つ武装等は教えよう。私か山田先生の元へ今日中に来たのならば考えておこう」

 

織斑先生は少しばかり考え込み、そして一夏が来れば考えなくはないとそう口にする。僕としてはその言葉が聞けた時点で目的は達成したようなものだ。この様子だと織斑先生は一夏が尋ねてくればきっと教えてくれるだろう。

 

「はい、それで構いません。僕はそろそろ教室に戻りますね。コーヒー美味しかったです」

 

「ああ、わかった。そして最後に念を押しておくが……何かあるのならば私の元へ相談しにこい、話ぐらいはいくらでも聞いてやる」

 

「……はい、その時はお願いします」

 

最後にぎこちない笑顔で僕は織斑先生の言葉に頷けば、それを痛々しいものを見たかのように表情を歪める。織斑先生がなぜそのような表情を浮かべたのか僕にはわからないけど、きっと僕が何かしらまたやってしまったのだろう。

 

(……今日はいつも以上にちょっと気をつけないといけないかな)

 

職員室を後にして密かにそんなことを思う。僕自身が気分がまいっている自覚は僅かながらある。多分、今日はみんなの前では上手く笑えないだろう。一夏の手伝いをするつもりだったけど……今日はやめた方が良さそうかな。そんなことを考えていれば教室にたどり着いて、少しだけ気まずさもあるけど扉を開ける。もちろん視線は僕に集まり、身体が硬直してしまうが遅れてくる理由を知っている山田先生は穏やかに微笑みながら話す。

 

「ヤマト君、事前に織斑先生から聞いてるので遅刻にはなってないから安心してね。それでは、みなさん授業再開しますよー。ヤマト君は何かわからなかったら遠慮なく私に言ってね」

 

「はい、わかりました。その時はよろしくお願いしますね、山田先生」

 

生徒である僕に頼られることもあるのか山田先生は嬉しそうで僕も少しだけ頰を緩めてしまう。僕が席につくことで授業は再開していく。少しだけ教室の空気がなんとも言えない空気のようだけど……どうしたんだろ?それが気になったけれど授業に集中しよう。そうしたらその時だけは嫌な事も忘れることができるはずだから──―

 

「あー……、疲れた……これで今日まだ午後が残ってるって考えると正直気が気が滅入るぞ……」

 

「いつからお前はそれほどだらしなくなった。もう少しシャッキリしろ、一夏」

 

「昼休みぐらいだらしなくさせてくれよ、箒」

 

疲労を隠しきれない一夏は疲れた様子で息を吐き、そんな一夏を見て箒さんは呆れたような視線を向ける。僕はそんな2人を見て仲がいいんだなっとつい頬を緩めながら眺める。すると耳元で囁くように小声でシャルロットさんは今朝のことを聞いてくる。

 

「ねぇ、朝に織斑先生に呼ばれてたけど……大丈夫だった?」

 

「うん、織斑先生に呼ばれたのは昨日の夜に姿を見なかったことの確認とちょっと朝のことで確認されたぐらいだったから」

 

「そっか……今朝のことは余り言わない方がいいんだよね?」

 

「うん、そうしてもらえると僕としては助かるかな」

 

「んっ?シャルロットとキラは何話してるんだ?」

 

僕とシャルロットさんがコソコソと話していることに不思議に思った一夏が聞いてくれば、ビクリと身体が反応するシャルロットさんを見て僕は苦笑いを浮かべる。この様子だとあまり隠し事とか得意じゃないのかな?僕も余り言えるわけじゃないけれど。

 

「うん、気にするようなことじゃないよ。今朝に織斑先生に呼ばれたことを聞かれただけだから」

 

「あー、それは俺も気になるな。千冬姉に呼ばれるっていったい何をしたんだ?」

 

「一夏、キラは自身から問題を作るというよりも巻き込まれる方が近いだろう。だが、私も少しばかり気になるな」

 

「特に大したことじゃないよ?昨日の夜の食堂の時にどうして姿を見せなかったのか確認されて、少し注意を受けたぐらいだからね」

 

「ちょっと注意されるだけですまされるのは、俺としては羨ましいかぎりだぞ……」

 

「一夏には容赦がないからね、織斑先生。でも、僕としては少しだけ羨ましいかな」

 

そうかぁ?っと首を傾げる一夏に僕はそうだよっと笑いながら答える。そうやって壁もなく遠慮なく接する姿は僕としては羨ましい。きっと今の僕では前のように両親へと接することができる自信はない。……結局話すことなくこの世界に来ちゃったわけだしね。

 

「ねぇ、君が噂の子でしょ?」

 

自分の世界のことを考えていた事もあり、一夏が誰かに話しかけられていることに気づくのが遅れる。誰だろう?っと思い姿を確認すれば僕が知っている人ではなく、同学年というよりも雰囲気は大人びている。リボンの色を確認すれば赤色で3年生のようだ。

 

「えっと、噂って事なら多分俺のことだと思うけど……」

 

「なら、こっちの彼じゃなくて君の方かな?専用機持ちの子と決闘をするって噂を聞いてどんな子かと思って気になっちゃってね。もし、よかったらそれまでの間は私がISについて教えてあげようか?」

 

ISについてと言われ一夏は悩むそぶりをみせ、そんな一夏の様子を見て箒さんは表情は無表情ではあるけれど少しだけ焦ってるように感じる。どうしたんだろう?っと思うけど箒さんと一夏は幼馴染であるのを思い出して、彼女がなぜ焦っているのかが何となく察する。箒さんが何かを言おうと口を開く前にシャルロットさんがそれを遮るように口を開く。

 

「その決闘の日まで一夏は私たちと訓練することになっていますので。先輩のお気持ちは嬉しいですけど、すみません」

 

「あら、そうなの?それは残念ね。それに貴女はフランス代表候補生であるシャルロット・デュノアさんのようだし……織斑一夏君、気が変わったらいつでも声をかけてきてね」

 

箒さんの気持ちを察したのか、シャルロットさんがやんわりと3年生にお断りをし、彼女はシャルロットさんが何者かを知っている事もあり特に何かが起こることなく去っていった。最後に一夏にウインクをしてたところを見ると気が変わったら声をかけては本気そうかな。

 

「……すまない、助かった」

 

「ううん、気にしないで箒さん。私も一夏の特訓には元から付き合うつもりだったから。だから、一夏も特訓のお誘いがあっても今後は自分から先約があることを伝えて断るんだよ?」

 

「お、おう、わかった。シャルロットも代表候補生の1人だから特訓に付き合ってくれるのは正直助かるぜ。だったら今日の放課後に早速お願いできるか?」

 

「うん、もちろんいいよ。キラはどうする?もしよかったらキラも今日の放課後どうかな?」

 

「そうだね……今日は少し遠慮しておくよ。僕にできることは正直なさそうだし、いても邪魔になりそうだからね。それに少し放課後は用事があるから」

 

「俺としてはキラも来てくれると嬉しかったんだけど用事なら仕方ないよなぁ……けど、いつでも来てくれよ?キラなら俺はいつでも歓迎だからさ」

 

一夏の言葉に少しだけ胸が痛くなりながらも僕は頷く。今日の放課後に用事なんてなくもちろん嘘だ。みんなとこうやって過ごすのは楽しいけど、少しだけ1人の時間が欲しいと思うのは自分勝手なんだろうね。

 

「それなら今のうちに一夏に伝えておこうかな。今日の内に放課後に織斑先生か山田先生の元に尋ねたらいいことがあると思うよ」

 

「いいことって……?千冬姉の元に行くだけで正直そんなことがあるなんて想像もできないんだけど……」

 

「悪いが私も少しばかりそれは想像できないな。千冬さんはどちらかといえば一夏をしばく方じゃないか?」

 

「あはは、僕は織斑先生は優しい人だと思うけどね。けど、放課後に行って損は絶対にしないと思うよ。きっと一夏の欲しい情報が手に入るから」

 

「キラ、もしかしてそれって──―」

 

シャルロットさんが答えを口にする前に織斑先生の声が食堂に響き渡る。つまり昼休みの終わりが近いってことかな、僕たちは既に食べ終わっているのでトレーを返却して教室に向かうことにした。

 

「あー、ようやく今日の授業全部が終わった……!!」

 

「喜んでいるところ悪いが早速今から特訓だぞ。決闘となった以上は勝利するつもりで取り掛からなければな」

 

「そんなのわかってるって。うっし、それじゃあ今から行こうぜ2人とも」

 

「その前に織斑先生のところに行こうね。キラの教えてくれたヒントはとっても重要なことだから。あっ、ちゃんとメモできるものとか持っていった方がいいかも」

 

今すぐにでも教室から飛び出そうとしている一夏と箒さんをシャルロットさんが宥める。この様子だとシャルロットさんは少し苦労しそうかな?僕が遠くから見ていることに気づいた彼女は僕の元まで来てそっと耳打ちをする。

 

「今日の夜食にまた誘うね。そして、織斑先生にセシリアさんの情報をもらえるように頼んでくれてありがとう。また後でね、キラ」

 

伝えることを伝えたシャルロットさんはすぐに離れて一夏と箒さんを連れて教室を出て行く。ちなみに彼女が耳打ちをしてきた姿は教室に残っているクラスメイトにはバッチリと見られているわけで、その視線は教室に残っている僕へと向けられているから居心地が悪い。

 

(……うーん、シャルロットさんがワザとやったのかちょっと勘繰りたくなるよ)

 

居心地が悪い事もあるから教室を出てある場所へと向かう。あのまま教室にいたら変に質問をされそうな感じだったしね。廊下ですれ違うごとに視線を向けられるけどさほど気にするほどでもなく、誰かに呼び止められる事もなく目的地にはアッサリと着いた。

 

「……何度見ても空の色だけは僕の世界とは変わらないんだね」

 

僕の世界と変わり映えのない空を眺めながら呟く。僕の向かった場所は学園の屋上で放課後という事もあり誰一人として人はいない。昼休みとかだったら違っただろうけどね。仰向けに倒れて空をただ眺める。この行動に意味があるのか?っと聞かれたら僕には答えられないだろう。手を伸ばしたところでもちろん空に届くわけはない。けれど、それが無意味だと知っていてもそうしたかった。

 

「……空は確かに同じだけど、その先の宇宙には君はいないんだよね」

 

僕の目の前で宇宙の闇へと消えていった彼女をただ想う。許されようと思っていたわけじゃない、ただ彼女に謝りたかったんだ僕は。彼女を傷つけてばかりで、約束も守る事もできなくて、そして最後には守ることもできなくて。

 

「……つらいんだ、みんなと過ごすのがつらいんだよ……僕はどうしたらいいのかな、わからないよ……フレイ……」

 

縋るように彼女の名前を呼ぶけれど彼女の声は聞こえない。押し潰されそうになり、苦しんでいた時に優しく声をかけてくれた彼女の声は聞こえない。立ち上がる気力もなく、伸ばしていた手を力なく下ろして虚ろな目で空を見る。左腕のブレスレットであるストライクに触れれば気のせいかも知れないけれど暖かい温もりを感じた──まるで僕を励ましてくれた彼女のような温もりを。





いつのまにか評価の色が赤になってちょっと驚きましたが、更新遅くなり申し訳ありません。そして先に伝えておきますが次はガッツリとセシリアさんとの決闘回へと持ち込みます。ねれば後1話はオリジナル出せなくはないですが蛇足になりそうなので素直にカットです。ちなみに決闘回も長引かせるつもりはありません、だって視点がね?あとやりたいことの都合上短くなるのは許してください……それでは次回は未定ですが気長にお待ちしてもらえると助かります!

誤字&脱字の報告いつでもお待ちしております!もちろん感想もですよ((ボソッ


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第7話 温もり



今月分はこれでラストです。これ以上は単純にリアルが忙しいので無理そうなのでその辺は許してください……っ!えっ、サブタイトルの意味がわからない?……すまない、ちょっとセシリアさんに頑張ってもらったんです((なお、無関係


「……とうとうこの日が来たか」

 

「ああ、そうだな。だがこの日までにお前は一週間できる限りのことをしたはずだ。あとは自信を持ってやるだけだろう」

 

一夏は緊張して表情が硬っていて、その緊張をほぐすようにいつも通り落ち着いた声で箒さんは話す。実際彼女の言う通りこの一週間の間は彼が今現在できることをずっと頑張ってきたんだ。あとは一夏自身が自信を持って行うだけだと思う。

 

「箒さんの言う通り一夏がこの日まで頑張ってきたのは僕たちは知っている。確かに相手は強いかも知れないけど、挑む前から弱気でいたらできることもできなくなっちゃうよ」

 

「うん、そうだよ。一夏は今日まですっごく頑張ってたんだからきっと大丈夫だよ!だから自信を持って!」

 

「箒、キラ、シャルロット……おう、ありがとう。そうだな!今日までみんなが俺のために手伝ってくれたもんなっ!よしっ、どんだけやれるかわからねえけど、やれる分はやってやるさ!」

 

緊張をほぐすように自身の両頬をたたき一夏は気持ちを入れ替える。少し意気込みすぎてるけど緊張が和らいだのなら大丈夫なのかな?けど、この日になるまで一夏はできる範囲の努力をしたのは確かだ。痛手なのはISに乗ることができなかったことだけど……予約制だったようだから、こればかりはどうしようもないね。

 

「ふふっ、あの様子ですと一夏君は大丈夫そうですね。まだ少し緊張はしているようですけど」

 

「ふんっ、アイツは少し緊張してるぐらいが丁度いい。上手くいけばすぐに調子に乗るところがあるからな」

 

「やっぱり、織斑先生は一夏君のことが大好きなんですねー。私は一人っ子なので少しだけ羨ましいですよ」

 

「山田君、ここに塩入りのコーヒーを作ることができるが一杯どうだ?なに、遠慮することはないぞ」

 

「し、塩入りは無理ですよぉ!流石に冗談ですよね……?」

 

「はて、私は至って真面目な話をしているつもりなんだがな」

 

涙目で後ろに下がっている山田先生にジリジリと詰め寄っていく織斑先生の姿は冗談ではないということが目に見えてわかる。アレは流石に止めないとなっと山田先生が塩入りコーヒーの被害者になる前に僕は織斑先生に話をかけることにする。

 

「織斑先生、えっと、取り込んでいるところ申し訳ないんですけど……僕はここに居て大丈夫なんですか?箒さんやシャルロットさんはともかく」

 

「キ、キラ君……っ!!」

 

「……タイミングを見計らっていたか」

 

山田先生が目をうるうるとしながら見てきたところを見るとベストタイミングだったかな……?織斑先生は多分僕が意図して声をかけてきたのは気づいているはず。織斑先生は一先ず塩入りコーヒーを山田先生に飲ませることを止め、咳払いをして僕からの質問に答える。

 

「そうだな、お前の疑問についてだがその答えはYESだ。まぁ、これは私たちのお節介でもあるがちゃんとした理由もある。お前にはISの戦闘している姿を近くで見せようと思っていてな、ISには搭乗してはいるが直接戦闘をしている姿を見たことはないだろう?」

 

「あれ、でもよ千冬────じゃなくて、織斑先生。入学する前に教官と戦闘することになってなかったけ?」

 

「確かにそうだな。私の時も教官と戦闘の際にISに搭乗することになったな」

 

「もう、一夏覚えてないの?箒さんはあの時いなかったから仕方ないけど、キラは適性検査での発見が遅れたから教官と戦闘することができなかったって言ってたじゃない」

 

「あー、確かそんなこと言ってたなぁ……悪い、完全に忘れてた」

 

シャルロットさんの言葉に思い出したようで一夏は申し訳なさそうに謝る。僕は気にしてないよっと一夏に微笑みながら、セシリアさんが自慢げに教官を倒したと話してくれたのは感謝しないとなっと人知れず安堵する。織斑先生もさっきの会話である程度ではあるけどわかったようで、そのまま流れに乗るように話を続ける。

 

「ヤマト、お前は近いうちに”専用機”持ちになるだろう。一夏は理由はなんであれ、こうやってISで2度目の戦闘となるがお前はそうじゃない。ISでは搭乗は一度しか経験がないからな、そう考えれば少しばかりフェアではないと思いなるべく近い場所で見て、学ばせようと思っただけだ。……お前からすれば少し──いや、かなりのお節介かも知れないが」

 

「いえ、織斑先生の厚意ありがとうございます。……でも、僕は──いえ、やっぱりなんでもありません……」

 

『僕はISでの戦闘はしたくないです』っと言葉が出ようとして、すんでのところで止める。この場にいるのが僕と織斑先生、山田先生だけだったならきっと迷うことなく口に出していたであろう。けど、ここには僕らだけじゃなくてみんながいる。僕がISに搭乗して、戦いたくない理由は僕自身の勝手であり、みんなに聞かせるわけにはいかなかった。それに今日は一夏の決闘の日なんだ、彼の戦意を削ぐような言葉はなるべく口にしちゃいけない。僕が何を言おうとしたのか察している織斑先生はそうかと短く呟く。

 

「ま、まあまあ、ヤマト君も今日はあまり深く考えないで一夏君を応援してください、ね?」

 

「はい、そうしますね……」

 

山田先生も僕のことをわかっているからこそ今の空気を変えるように話を変える。僕自身も一夏のことを応援したい気持ちもあるためその言葉に甘えよう。1人で少し張り詰めていたものが切れて疲労感に襲われるけれど、これぐらいならなんとかなるかな。

 

「だけど、織斑先生の話を聞くかぎりキラも専用機持ちになるんだね。専用機を貰えるってことは凄いことなんだよ!……けど、一夏の専用機はまだ到着しないね、もうそろそろ決闘の時間になっちゃうよ?」

 

「そうなんだよなぁ。流石にあっちを待たせるのは俺も気が引けるんだが……なぁ織斑先生、ISはいつ届くんだ?」

 

「それについては悪いが私にもわからん。この決闘の時間帯には少し遅れると連絡されたぐらいだからな。オルコットにもそれについてはすでに伝えてはいるため、おそらく大丈夫だとは思うが……」

 

僅かに表情を織斑先生は歪め、その様子を一夏はみてそっかと残念そうに肩を落とす。そう、一夏のISはまだこの日まで来ることはなく現にまだ来ていない。第三アリーナ・Aピットで待機してはいるんだけど……僕としてはこのまま中止になってくれた方が安心するんだけどね。だけど、そんな僕の願いは叶うことはなく、山田先生の持つ端末から着信音が鳴り響きそれを素早く取り一度退出していく。そしてその数分後に山田先生は戻ってきて、織斑先生と何かを話し始めているがその2人の表情からある程度の内容は察することができる。

 

「一夏、心の準備をしたほうがいいかも知れないな」

 

「うん、箒さんの言う通り心の準備と軽く体をほぐした方が良さそうかな?私も、もうそろそろだと思うよ」

 

「お、おう?とりあえず箒とシャルロットの言う通りにした方がいいってのはなんとなくわかった」

 

箒さんとシャルロットさんの真剣な眼差しで言ってきたこともあり、2人が何かを察しているのを理解した一夏は言う通りに体をほぐし始める。僕からも本来はこのタイミングで言葉をかけた方がいいのはわかるけど、戦闘ということ自体に僕自身は嫌っている事もあって、とてもそんな気にはなれなかった。

 

「本来ならばフォーマットとフィッティングはやらなければならないが、今日はもう時間がないか……その様子だと準備はできているようだな、一夏」

 

「おう、とりあえず体はほぐしたけど……つまり、俺のISが届いたってことだよな、千冬姉」

 

「だから、織斑先生と呼べ。はぁ、今は時間が惜しいから見逃してやろう、こい一夏」

 

やっぱり定着した呼び名は簡単には訂正ができないようで、織斑先生はため息を吐きながらも一夏を誘導する。すると、鈍い音がなりピット搬入口がゆっくりと開いていくとその先には一つの白いISが、自身の操縦者を待つように佇んでいた。

 

「アレが一夏の専用機か……」

 

「うん、眩しいぐらいな純白だね……」

 

「これが、俺の専用機……」

 

「はい、そうですよ。アレが織斑君の専用IS、名前は『白式』ですっ!」

 

「白式……」

 

山田先生から伝えられたISの名前を一夏は自身に刻むように静かに呟く。この場の誰もが白式へと視線は向かい、僕もその1人だ。一夏は自身に託された専用機の姿に心を奪われている様子だけど、その気持ちは少しだけわかる気がする。僕はラクスにフリーダムを託された時のことを密かに思い出す。自分の世界のことを思い出し少しだけ感傷に浸っていれば一夏が白式へと身を委ね、白式と一夏の体は一体化する。

 

「ISのハイパーセンサーは無事に作動しているようだな。……一夏、気分は悪くなっていないか?」

 

「ああ、大丈夫だよ千冬姉。むしろ、絶好調だ」

 

織斑先生は心配していることを隠すように接しているけど、あの様子だと一夏はきっと気づいてるんだろうなぁ。2人が家族としてお互いに通じ合っている姿は見ていて、とても微笑ましい。ISへと搭乗した一夏はハイパーセンサーで360度全方位が見えているはずだ。

 

「一夏、僕からは特に言うことはないよ……だけど、これだけは伝えるね、頑張ってきてね、一夏」

 

「うん、同じ専用機持ちとしてアドバイスをするなら自分の力を信じて。きっと、一夏なら大丈夫なはずだから!ほら、箒も一夏にエールを送ろ?」

 

「お、押すな、シャルロット……っ!一夏、その、なんだ……頑張ってこい……この日まで頑張ってきたのを私は知っているからな。だから……勝ってこい、一夏」

 

自身の想いを口にするのが恥ずかしく、顔が赤面しながらも箒さんは言葉にする。彼女のあの様子を見ればどれほど一夏のことを想っているのかは僕でもわかるし、シャルロットさんはうんうんと興奮した様子だ。

 

「ああ、任せろ!みんな────行ってくるっ!!」

 

スラスターをふかしアリーナへと向かう一夏の背中を僕らは見送る。一夏のISが届いたと言うのはセシリアさんにも連絡が来ているだろうし、彼女は先にアリーナで待っているはずだ。……それにしても、こうやって誰かを見送るのは新鮮な気持ちだ。いつもは見送るのではなく、見送られる側だったから。

 

「どうしたんだ、キラ?どこか上の空のようだが……」

 

「ううん、気しないで箒さん。少しだけ思うところがあっただけだからね……それじゃ、一夏のこと応援しに行こっか」

 

深く考えてしまっていたのか呆けていたところを箒さんに心配されてしまう。早速余計なことを考えてしまった自分に内心でため息を吐き、一夏を応援するためにモニターの元へと向かう。モニター画面には一夏とセシリアさんがお互いに顔を合わせて佇んでいる状態だ。

 

「あの様子だと2人はプライベート・チャネルで話してる感じかな?……うん、だけどそろそろ始まると思うよ」

 

シャルロットさんの言葉通り数秒後、セシリアさんが一夏へと引き金を引きレーザーが発射されるけど、着弾したのは一夏ではなくそのすぐ横を通り越しアリーナの壁だった。……きっと、あれは外れたんじゃなくて、ワザと外したんだと思う。多分、一夏に降参するように。だけど、それは逆効果だったようで一夏は両手に刀剣の形をした接近武装を展開していて、一夏の選んだ答えはその姿でわかる。

 

「セシリアさんのISは射撃武装がメインに搭載されているから、接近するのは一筋縄ではいかないよ。きっと……」

 

「そう、だな……それにシャルロットが言うアレをまだ使っていないようだしな。一夏、どうするつもりだ……?」

 

箒さんが言葉にしたアレの意味が分からず思わず僕は首を傾げる。セシリアさんが射撃が得意としているのは聞いたけれど彼女のISがどのような武装を持っているのかを詳しくは把握していない。1人だけわからないで首を傾げている僕に気づいたシャルロットさんはそれについて話をする。

 

「あっ、キラは説明した時にはいなかったもんね。箒さんが口にしたアレの意味は──あっ、あれのことだよ、キラ」

 

「────あ、あれは……っ」

 

シャルロットさんがモニターへと指を差し、それにつられるようにモニターへと視線を向ければ僕はその画面を見て漠然とする。セシリアさんが展開したその武装は見覚えがあり、嫌というほど体験をしたモノ。自分が血の気が引いていくのがわかり、体は硬直し呼吸が浅くなっていく。

 

『何が違う!何故違う!この憎しみの目と心と!引き金を引く指しか持たぬ者たちの世界で!何を信じる、何故信じる!』

 

『知らぬさっ!所詮人は己しか知らぬ!!まだ苦しみたいか。いつかは、やがていつかはとっ!そんな甘い毒に踊らされ、一体どれほどの時を戦い続けて来た!』

 

あの人の言葉がフラッシュバックする。あの時の戦いにあの人に問いただされた言葉の一つ一つが今再度問いただされているかのような錯覚に陥る。わかっている、セシリアさんがあの人とは無関係であるのは。けれど、その武装を使っている姿があの人へと重なってしまう。

 

「ち、違う……彼女はあの人じゃない……っ!あの人、なんかじゃないんだ……っ!」

 

「キラ……?」

 

誰かが声を掛けてくれたけど、それに応える余裕なんてなく必死に自分に何度も言い聞かせる。人の目を気にしている余裕なんてなく、何度も何度も言い聞かせているのに聞こえてくるのはあの人の声だけ。人を否定し、世界をも憎み滅ぼそうとしていたあの人の声がフラッシュバックし僕を蝕んでいく。

 

「────マトッ!!返事をしろっ!キラ・ヤマトッ!!」

 

「……おり、むらさん……?」

 

誰かが自分の名前を呼んでいるのがわかり、虚な目でその人を見る。織斑さんが僕の両肩を掴んで必死に呼びかけてくれていることに気がついたけど、今はそのことを気にする暇はないんだ。

 

「そう、だ……僕が、僕があの人を止めないと……っ。フレイを、彼女を殺したあの人を……ッ!」

 

フレイを、彼女を目の前で失うあの時を思い出す。関係のなかった彼女へ躊躇いもなく引き金を引き、あの人は彼女を殺した。次はまた誰かを失うかもしれない、僕の大切な人をこれ以上失いたくない。その一心で体を動かそうとしても、体が言うことを聞かない、麻痺でもしているのか力が上手く入らない。

 

「キラ、目を覚ませ!お前の敵は何処にもいないっ!お前が今いる場所はどこだっ!!」

 

「敵は、いない……?そんな、はずは……だってあの人は──―そう、だ……あの人は僕が、僕が……」

 

敵がいない、その言葉を否定しようとすると僕自身があの人を討った記憶が蘇る。何が正しいのか?何が間違いなのかがわからない。それじゃあ、画面であの兵器を操っているのは……?あの人じゃないなら……誰が操っているんだ?

 

「っ、山田先生!この場はすまないが後は頼むっ!!私はキラを落ち着かせられる場所へと連れて行くっ!」

 

「は、はい!わかりましたっ!」

 

「……僕は、僕は……」

 

自分の意思ではなく誰かによって何処かへと連れて行かれる。……ううん、もう何処に連れて行かれようがどうだっていいんだ。敵がいないのなら、戦わなくていいのなら何処に連れて行かれたっていい……守りたかった彼女はもういないんだから。

 

「キラ、私が誰かわかるか?私が誰かわかるのなら落ち着いて話してみろ」

 

「……おり、むらさんですよね……?僕は、いったい……」

 

「お前は一夏とセシリアの決闘の最中に錯乱し、精神的に混乱をした状態になり、お前を落ち着かせるために今は保険室にいる。なぜ、自分が錯乱したのか自覚はあるか?」

 

「……そう、だ……試合の時にセシリアさんが使った、武装があの人のと似ていたから……」

 

織斑先生の言葉になぜ自分が錯乱したのかをかろうじて思い出す。そうなった理由は彼女の展開した武装とあの人が使っていた武装が酷似していたことを。そのことを思い出せば呼吸が荒くなり動悸が早くなる。

 

「これ以上は思い出す必要はない。落ち着いて深呼吸をして、気分を楽にしろ。……お前が錯乱したタイミングを考えると、ブルー・ティアーズを展開した時か……」

 

「……すみ、ません……僕のせいで……」

 

「そうすぐに自分のせいにするのはやめろ。今回の件はお前が何かを背負っているとわかっていながら軽率な行動をした私の責任だ。……すまなかったな」

 

申し訳なさそうに表情を歪める織斑先生に僕はなんて声をかければいいのかわからず、ただ言葉を詰まらせる。自分の弱さが原因なのに織斑先生が謝る必要なんてないのに。そんな僕を見透かすかのように織斑先生はそっと僕の頬へと手を添えて、いつも気を張っている雰囲気はなく、穏やかに微笑み手間のかかる弟を宥めるように話しかける。

 

「お前は選んだ道を後悔をしないつもりだと言っていた……だがな、溜め込みすぎるのも良くはないんだ。キラ、お前が目の前で大切な人を失くしたのは薄々とわかっていた……だからこそ言おう、泣いていいんだ。つらくて、悲しいのなら泣いたっていいんだ、キラ」

 

「僕は……僕は、守りたかったんですっ……!彼女を、フレイを守りたかったんだ……なのに、彼女を守ることもできなくて……謝ることもできなくて……彼女が無事だったら、僕はそれだけでよかったのに……っ!……アァぁぁぁぁ!!」

 

一度吐き出してしまえば抑えていた気持ちが次々と溢れ出る。泣かないと決めていたのに、そんなことはお構いなしに涙は次々と溢れ嗚咽は止まらず泣き叫ぶ。そんな僕を織斑先生は何も言わずただ抱きしめてくれる。そんな彼女の優しさに僕は甘えるように気が済むまで泣き続けた────





すまない、私はブルー・ティアーズでやりたかったのかはこのトラウマスイッチ発動なんだ……確かに悪いと思ってる、だが私は謝らない((
はい、実はこの世界に来てキラ君初(多分)の号泣です。えっ、早くない?って思うかも知れませんが千冬さん辺りしかキラ君の本音を吐き出させるのは難しいと思ったので……いや、ちゃんと今後のために必要なんですっ!だから彼女への想いを吐き出すのは必要なんですっ!((吐血

はい、なのでとりあえず今月分は投稿しましたので許してください((
来月も投稿はすると思うので気楽にお待ちくださいね。誤字&脱字報告はいつでもお待ちしています。もちろん感想もですよ……?


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第8話 クラス代表決定


よしっ、今年最後の投稿だ!間に合いましたよ、やったね!なお、サブタイトルのガバは許してください((
いやぁ、やっとだよ、やって出せたよ!やっぱ貧乳でツンデレで貧乳で健気で貧乳の彼女がやっと出せたよ!やったね!!あっ、皆さん感想ありがとうございます!感想が温かく涙が出ますヨ……

ごほん、とりあえず本文にどうぞ!!


(……仕方がないと言えばそうだけど、なんというか恥ずかしいところを見られた気がする……)

 

昨日織斑先生に泣きついたことを思い出して、1人で恥ずかしくなり今すぐにでも自室へと引き返したいよ。今日は休めば良かったかも知れないと、ちょっぴり後悔しちゃうけど……流石にそれは申し訳ない。誰かに泣かれるところを見られるというのは初めてというわけではないから……うん、大丈夫なはず。

 

(それに今日行かないと箒さんとシャルロットさんに余分な心配をかけることになるだろうし。彼女たちには事情は話さないにしろ顔ぐらいは出しておかないと……)

 

昨日の決闘の最中に自分が錯乱をしたタイミングについては織斑先生には説明された。セシリアさんが操るビット、それを見た途端様子がおかしくなったと。錯乱をした時の記憶についてははっきり言って曖昧だ。だけど、そうなった理由については心当たりはある。

 

(これ以上そのことついて考えるのはやめよう……多分、また昨日みたいに落ち着かなくなると思うから)

 

また精神的に不安定になるのは周りに迷惑になってしまう。僕1人の時ならともかく、昨日のように周りに人がいる場合の時には頭の中で考えることも注意しないといけない。……僕が思っている以上にあの人が残していった傷は大きいのかも知れない。

 

(――――あっ、そういえば昨日の夜食と今日の分の朝食を食べるの忘れてた。……うーん、これって怒られちゃうよね、間違いなく)

 

昨日は単純に何かを食べるという気が湧かなく、そのまま寝たきりでいたけど今日の朝食については完全に頭の中から抜けていた。昨日のことを自分なりに整理していて、ついつい他のことを後回しにするのは悪い癖なのかなぁ。このまま食べに行っても時間的にも間に合わないだろうし……うん、次からは気をつけよう。とりあえず今は今日の朝に見かけてないと言われた時のことを考えておかないとなぁ――――

 

「……さて、それで?お前が再度朝食の時間の時に顔を出さなかったワケを聞こうか。うん?」

 

「あ、あはは……えっと、ですね……」

 

「昨日の夜についてはお前にも理由があったのはわかっているからこそ目を瞑るつもりだった。だが、今朝については話は別だ。よもや、朝食を食べること自体を忘れていたというわけではあるまいな?」

 

「……えっと、そのぉ……まさかです、はい……」

 

現在朝のSHR(ショートホームルーム)の時間で僕は織斑先生に今朝の朝食の時間に顔を出さなかったことについてコッテリと絞られている。朝食の時に顔を見せなかった理由は織斑先生が冗談まじりに言葉にした通りなので、他の言い訳など思い浮かぶこともないので苦笑いを浮かべながら頷く。

 

「あれ、もしかしてキラ君って割とズボラなのかな……?」

 

「……確かに何度か食事の時は見かけないことがあるもんね。なんか意外かも……」

 

教室内でヒソヒソと話しているようだけど詳しくは流石に聞き取ることができない。織斑先生も冗談で口にしたのが本当だったこともあり、ため息を吐いてるところを見ると呆れているようだった。……うーん、でもたまに食べるのを忘れることもあると思うんだけどなぁ。

 

「お前は当分は誰かと行動をしろ。織斑、同じ男としてのよしみで食事を忘れるコイツの面倒を見てやれ」

 

「おう、わかった千冬――――織斑先生」

 

「……流石に少しは学習してきたようだな。そしてヤマトの姿を見かけなかったら他の者も私に報告しろ。わかったな?」

 

「「はーい!!」」

 

「ヤマト、お前は席に戻れ。さて、貴様たちが待ちに待った一年一組代表についてだが……代表は織斑一夏に決定だ。一応、反論があるものがいるのならば聞くが?」

 

「はいっ!!先生、質問ですっ!!」

 

「なんだ、織斑。言ってみろ」

 

「昨日の試合については記憶が正しければ俺が負けたはずなんですが、なぜクラス代表になっているんでしょうか?」

 

「まぁ、最もな質問だな。お前が負けたというのは映像にも残っているし、それで間違っていない。そうだな、お前のその疑問への回答についてだが……それは本人から伝えてもらおうか。オルコット、説明してやれ」

 

「はい、わかりましたわ。コホン、”一夏さん”の疑問についてですがそれについては単純な話で私、セシリア・オルコットは代表を辞退したからですの。辞退したのは単純な話、今の私はまだ精神的に未熟だと先の試合で痛感したからですの」

 

あれ、セシリアさんの雰囲気が少し――――ううん、かなり変わってるような気がする。それに一夏のことをさん付けしたってことはあの決闘で彼女の中で何か心境の変化があったのだろうか?……突然と雰囲気が変わっちゃってる所は戸惑うけど前よりかは格段に彼女とは話しやすそうかな。

 

「これで、織斑が抱いていた疑問については解消された。その他に何か質問があるものは?ないのならば一年一組の代表は織斑一夏に決定だ。今後、織斑一夏は今まで以上にISの操縦、基礎知識等を精進するようにいいな?それでは今日のSHR(ショートホームルーム)は以上だ。キラ・ヤマトは私と共に職員室へと来い、少しばかりお前に用がある」

 

「は、はい、わかりました」

 

「他のものは次の授業に備えて準備をしておくように。遅刻した時は罰があると思えよ」

 

織斑先生からの呼び出しをくらい視線が集まり少しだけ居心地が悪くなる。このタイミングで呼び出しをする理由の心当たりはなくはないけど……どうなんだろうか?とりあえず織斑先生について行けばなぜ呼ばれたかはわかるだろう。織斑先生の後を追うように僕は教室から逃げるように出て行く。

 

「悪いな、ヤマト。突然と呼び出すような感じにしてしまって。お前としては目立つのは好ましくないだろう」

 

「いえ、これぐらいなら大丈夫ですよ。それに今日は多分一夏がクラス代表になった話題で持ちきりになると思いますから」

 

「おそらく、その話題はクラスだけではなくこの学園全体の話題になりそうだがな。やれやれ、クラス代表に任命された本人よりも周りが盛り上がるのは頭が痛くなりそうな話だ。まぁ、一夏もクラス代表になった以上は手を抜くようなことはしないだろうよ」

 

むしろ手を抜いたら箒さんや織斑先生が一夏にその根性を叩き直し……ううん、絶対に叩き直すだけじゃすまないよ。多分、そんな姿を見せたら最後、一夏はただではすまないんじゃないかなぁ。クラス代表に任命された以上は更に大変になるのが決定した一夏に少しだけ同情してしまう。織斑先生と話しながら移動していれば職員室に付くのはあっという間で、織斑先生と共に職員室へ入る。先生方にとって僕はもはやここに来るのは常連みたいなこともあって、廊下とかですれ違えば多少は話すぐらいにはなっている。

 

「とりあえずお前はコレでも食べていろ。多少は腹の足しにはなるだろ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「感謝するぐらいなら朝食ぐらい食べるようにしろ。次見かけなかったら、お前の部屋まで行って叩き起こし、私が無理矢理食べさせるから覚えておけよ」

 

織斑先生は言えば有言実行する人だから次に僕を見かけなかったら本気で実行をするだろう。織斑先生に無理矢理食べさられる姿を想像して、つい苦笑いを浮かべてしまい織斑先生が怪訝な顔をするけど、このまま僕を呼んだ本題へと入っていく。

 

「お前が頻繁に食事を取らない問題は後に解決するとして、お前を呼んだ理由は少し頼みたいこと、事前に話さなければならないことがあってな。……まぁ、お前にとっては悪い話を先にしよう」

 

「……悪い、話ですか?」

 

「本来ならば昨日の時に話さなければならなかったと思うが……今日からISを使い基礎を習わせる授業が始まる。当分はお前の専用機がまだ届いていないということにし、授業は専用機持ちではない生徒と同じ扱いで受けさせるつもりだ。……それについては大丈夫か?」

 

「大丈夫だとは思います……ただ、セシリアさんが扱うあの武装については、自信はありません……見るだけでも多分、あの時のようになると思います……」

 

「ブルー・ティアーズか……わかった。授業の時はブルー・ティアーズを展開させないように私が誘導をしよう。ISを使用した授業が始まるが今後ともお前のフォローをするつもりだから安心しろ」

 

「……本当にすみません」

 

気にするなと織斑先生は口にするけれど、やっぱりその気遣いに申し訳なさと罪悪感に襲われる。MSとISが完全に別物であるのは頭では理解しているのに感情でどうしても同じモノだと思ってしまう。……わかっているはずなのにこのままでは駄目だってのは。

 

「さて、これで悪い話については終わるとしよう。次についてなんだが……情けない話お前に頼みたいことがある。本来ならば私たちがやらなければならない仕事なんだが……」

 

「僕にですか?僕に出来るんでしたら大丈夫ですけど……」

 

織斑先生には返せないほどの恩があるから、こんな僕でもできる範囲なら引き受けたいと思う。仕事と言っているようだから本来なら教師がやらないといけないことだろうけど。けど、織斑先生が頼み込むと言うことはそれほど大切な仕事なのかな?

 

「……すまないな。今日の夕方辺りに1人の生徒が転入生――っと言っても手続きが遅れた奴がここに到着するため、その時にその生徒を迎えてほしいんだ。本来ならば私がやる予定だったんだが会議が今日の放課後からあるようでな」

 

「転入生ですか……はい、それなら僕でも大丈夫だと思います」

 

「名は凰鈴音(ファンリンイン)、中国の代表候補生だ。彼女のクラスは2組になるが、お前は1ヶ月は彼女と共に同じ部屋で過ごすことになる。口は少しばかり悪いものの、面倒見のいいやつだ仲良くしてやってくれ」

 

「えっと、織斑先生はその子のこと知ってるんですか?」

 

「知ってるも何も一夏とは幼馴染の1人だからな。私と一夏は彼女とその両親によく世話になった身だ……鈴音の方は私に苦手意識を持ってるようだが。それについては置いとくとして、なにか言われたら私に頼まれたと言えば嫌な顔はするが大人しくついてくるだろう。出迎えてくれれば職員室の私の元まで連れてきてくれればそれで大丈夫だ」

 

それは一夏の方がいいのでは?っと疑問を浮かぶけど何かしらの理由があるんだろうっと思いながら頷く。織斑先生はその子と何かを話したいことがあるんだろう。……僕としては今後その子と同じ部屋で過ごすことに不安だけど。

 

「彼女の特徴を上げるなら髪型がツインテールで、そして本人の前では口にするなと先に釘を刺しておくが小柄なことだろう。まぁ、それなりに大きな荷物を持ってくるだろうから大体一目でわかるはずだ」

 

織斑先生の説明って割と大雑把なところがあるよねっと心の中で思う。けど、その子が特徴を聞いているか、聞いていないかでは大きく違うし……織斑先生の上げた特徴をした人を探せば大丈夫だろう。そして釘を刺されたことについては言葉にしないようにしよう……うん。

 

「私からは以上だ。キラ、お前から何か私へと質問があるのならば聞くが……」

 

「いえ、僕からは特にはありません」

 

「んっ、そうか。……そろそろ一限目も始まることもあるしこのまま一緒に向かうとしよう。飯を食べないことについて少しばかりお説教もせねばならないしな」

 

「あ、あはは……お手柔らかにお願いします」

 

そのお説教が長くなるのが直感的にわかり苦笑いを浮かべてしまう。だって現に織斑先生の視線が言い訳なんて不要と訴えてきてるし。自業自得なのは自覚してるからこればかりは逃げようがないかな……うん、これからは気をつけよう

 

◇◇◇

 

「これよりISの基本である実践的な飛行操縦を実践してもらおう。織斑、オルコット、デュノア、試しに飛んでみせろ」

 

IS学園のグラウンドで僕ら一年一組は織斑先生と山田先生によるISの基礎である飛行操縦について授業を受けている。織斑先生に名前を呼ばれた人たちは専用機持ちであるため、まだISにあまり触れることができていない人たちの見本らしい。

 

(あの様子だと一夏は緊張してるようだなぁ。セシリアさんやシャルロットさんは入学する前からISの操縦はすでに身に付けているのは間違いないはず。……うん、頑張って一夏)

 

流石に声に出すのは授業妨害になりかねないので、心の中で一夏に声援を送る。彼女たち2人に比べればISを展開するのは遅いが無事にISを展開をし、一夏の専用である白式を身に纏う。

 

「よし、無事に全員ISを展開したようだな。ならば、オルコット、デュノア、そして最後に織斑の順番で飛べ」

 

「それではシャルロットさん、一夏さん。お先に失礼しますわ」

 

織斑先生の指示された通りセシリアさんは空へと舞う。代表候補生という名の恥じない動きで無駄がなく、その優雅さに僕も含めて生徒たちは釘付けになる。彼女が静止をしたのを確認した織斑先生は次の番であるシャルロットさんに合図をする。

 

「それじゃあ、私も先に行くね。そして最後の一夏にアドバイスだけど、落ち着いて自分が空を飛ぶイメージすればきっと上手くいくはずだよ」

 

シャルロットさんは飛ぶ前に一夏にアドバイスをし空を飛ぶ。彼女も同じ代表候補生であるためスムーズに飛び、同じようにセシリアさんの横へと並び静止する。……うん、なんとなくだけど2人が空中で何かを話しているのはわかるよ。

 

(……けど、こうやって客観的に誰かの操縦を見るっていうのは新鮮かな。いつもはMSに搭乗して無我夢中で戦っていただけだから……)

 

今までは搭乗する側だったから、他のみんなとこうやって誰かの操縦を見て学ぶことは新鮮だ。けど、周りが熱心に興味深そうに一夏たちを観察する姿を見て僕は心苦しくなり目を背けてしまう。この場にいるみんなを騙しているという事実に心が押しつぶされそうになる。

 

(……今は余計なことを考えたら駄目だ。みんなに気を遣わせるわけにはいかない……)

 

一度思考をリセットするために深呼吸を繰り返す。なんとか周りにバレる前に落ち着かせることができ、余計なことを考えないように授業に集中する。僕が呼吸を整えている間に一夏は無事に上昇をしていて次は急降下の練習に入るらしい。先ほどと同じ順番で急降下をするようで、セシリアさん、シャルロットさんの順番で空から陸へと着地していく。やっぱり2人のISの操縦には無駄はなく、操縦技術がとても高度なのがわかる。次に降下してくるのは一夏の番だけど……大丈夫かな?

 

(……あれ?あのままの速度を維持したままだと地面に――――あっ!)

 

次の瞬間にグラウンドで轟音が鳴り響く。何が起きたのかと説明するのなら一夏は降下する速度を維持したまま地面へと衝突したのだ。その光景を呆然としてしまったがすぐ我に返り急いで一夏の元まで駆け寄れば衝突した場所にはクレーターが生まれていた。

 

「一夏っ!!大丈夫!?」

 

「いてて……お、おう、なんとか大丈夫だぞ」

 

白式を身に纏い着地するのを失敗したこともあるのか、気まずそうにしている一夏がいた。彼がどこも怪我をしていないことを直接確認することができて安堵する。ISを身に纏っている以上は絶対防御が守ってくれるのはわかってはいるけど……それでも心配はしてしまう。

 

「一夏が無事でよかったよ……」

 

「ふふっ、キラさんは友達思いな方ですのね。ISには絶対防御がありますからアレほどの衝撃でしたのなら無事に作動しますわ。……流石に私もヒヤリとしましたが」

 

セシリアさんが一夏を心配したと言葉をするということはやっぱり彼女の中で何か大きな変化があったのは間違いない。今の彼女となら仲良くなれるだろうか?そんなことを考えていれば誰かから見られる視線を感じて、そちらの方へと視線を向ければシャルロットさんが僕の顔色を伺うように見ている。彼女と目が合えばあの日のこともあるのか、それともなんと声をかければいいのか悩んでいるのか、彼女は気まずそうに目を背ける。

 

(……シャルロットさんが悪いわけじゃない。悪いのは僕の方だから……彼女がこうなら多分箒さんもなのかな)

 

どれほど自分が混乱してしまったのかは覚えてはいないけど、よく話しかけてくれていた彼女の反応がこれなら箒さんもなのだろう。彼女たちは別になにも悪くはない、悪いのは全部僕だ。守るためだとしても引き金を引いて人を殺した僕がこんな風にまた日常を過ごすことが初めから都合が良すぎる……それなのにまた誰かと仲良くなろうとするだなんて。

 

「?ヤマトさん、なにか難しい表情をしていますが……どうかいたしましたか?」

 

「あっ、いや……なんでもないよ。うん、なんでもないから……」

 

「ヤマト、セシリア。それ以上の私語は慎め。織斑のことを気にかけていたから見逃していたがそれ以上話すのならば話は別だ。……ふむ、ヤマトは山田先生の側に戻れ、次に専用機持ちにさせるのは間近で見せた方がいいだろうからな」

 

顔にでも出ていたのかセシリアさんが不思議そうに聞いてくるがなんとか笑みを浮かべて誤魔化す。最近は誤魔化してばかりだと思いながらも織斑先生に注意を受けたこともありセシリアさんとの会話はとぎれる。僕は織斑先生の指示通りに山田先生の側へと行く。

 

「ヤマト君、昨日は大丈夫だった……?織斑先生からある程度は話は聞いたけど……つらいことがあったら私にも遠慮しないで話していいからね」

 

「……その時はお願いします」

 

「うん、ヤマト君が落ち着いて話せるようになるまで待ってるからね」

 

山田先生の言葉に偽りはなく本心から言っているのは僕でもわかる。こんな僕にもこうやって想いやり、優しく接してくれる山田先生のことを尊敬している。山田先生が困っている時は手伝おう、そう固く心に誓いながら彼女の隣で僕は授業へ集中する。

 

「さて、次は武装展開だ。織斑、展開をしてみろ」

 

「わ、わかった……」

 

「返事ははいだ。次はないぞ」

 

「は、はい」

 

「よし、ならばはじめろ」

 

織斑先生があのタイミングでなぜ僕を山田先生の側に行かせたのかを理解する。武装展開を行わせるためでセシリアさんの時に『もしも』があった時に対処してもらうためだ。……あの時はモニター越しということもあったけど、今は外だし次に『もしも』があればどうなるか想像はつかない。手元には待機状態のISがある以上……最悪のこともあると思う。

 

「ふむ、ISに乗り始めたばかりと考えれば上々のタイムだ。目標は0.5秒だ、わかったな?」

 

「は、はい!」

 

「次はセシリアだ。武装はスターライトmkⅢを展開しろ」

 

「はい」

 

織斑先生が武装展開を指示をした次には瞬きする暇もなく一瞬で彼女の手には指示された武装がその手に握られていた。その武装展開の速さにクラスメイトは感心した声を上げて、織斑先生も流石だと賞賛を送る。……だけどやっぱり武装展開の間にどんなに早くてもラグがあるのはどうにかできないだろうか?

 

「流石の速さだな、代表候補生。セシリアがやった展開の速さが理想的な速さだ。だが、それよりも早く展開できる方法がある。シャルロット、できるな?」

 

「は、はい!大丈夫です!」

 

シャルロットさんは緊張しながらも織斑先生の言葉に頷く。彼女は事前に展開していた武器から一瞬で違う武器が手元にはあった。セシリアさんでも武装展開には僅かなラグがあったはずなのにシャルロットさんはそのラグがなく違う武装を展開している。

 

「シャルロットが先ほどやったのは高速切替(ラピッド・スイッチ)だ。これについてはISの性能ではなく本人が身につけた特技というやつだ。こればかりは簡単に他人が習得するのは難しいだろうな」

 

「「おぉーー」」

 

彼女が先ほど見せた技術は本人の力だと織斑先生の説明がありクラスメイトも彼女が代表候補生の1人だと認識を改める。彼女がその技術を習得するのにどれほどの努力を積み重ねてきたのか想像もできない。……けど、彼女がやってみせた高速切替(ラピッド・スイッチ)は覚えておいて損はしないのは間違いないはずだ。

 

「授業を切り上げるのにちょうどいい時間だな。一夏、そこの穴を埋めておくように。ヤマトも穴を埋めるのを手伝ってやれ」

 

「はい、わかりました」

 

「うっ、悪いなキラ。穴を埋めるの手伝うもらうことになって」

 

「ううん、気にしないで。初めから手伝うつもりだったから」

 

初めから穴を埋めるのを手伝うつもりだったこともあり気にする必要はないよっと伝えば一夏は嬉しそうにありがとうっと笑い僕もそれにつられて微笑む。次の授業の時間に間に合うように少し急がないと――――

 

◇◇◇

 

 

「……今日は結局2人と話すことができなかったな」

 

放課後になるまで結局は箒さんとシャルロットさんと話すことができなかった。このまま気まずい関係を引きずるわけにはいかないのは確かなんだけど……これ以上は僕とは関わらない方がいいことを考えればこの状況はある意味では好機なんだとは思う。けど、ケジメを含めてもあの時に2人に嫌な気持ちにさせたことにはきちんと謝らないと駄目だ。

 

「あっ、もしかして彼女が凰鈴音さんかな?」

 

どうやって彼女たちに謝ろうかと考えていれば織斑先生に教えられた特徴と一致する1人の少女が一枚の紙と睨み合いながらこちらに向かってくる姿を捉える。大きめなボストンバックを持っている所を見るに合っているとは思うけど……とりあえず声をかけようか。

 

「えっと、君が凰鈴音さんかな……?」

 

「それは確かにあたしの名前だけど……アンタ、誰?」

 

突然と知らない人に自分の名前を呼ばれたこともあるのか若干苛立った様子だ。よく見れば睨み合いをしていた紙はくしゃくしゃになっていて苛立ちの原因は多分その紙が関係しているのだろうか?とりあえず声をかけたのはいいけど、どうしよう?っと考えてたら凰鈴音さんはジッと僕の顔を見つめてやがてなにかを思い出したのか僕へと指を指す。

 

「どっかで見たことがあると思えば、アンタってISの男性操縦者で2人目に発見されてたキラ・ヤマトでしょ?」

 

「うん、一応はそうなるのかな……?」

 

「一応ってなんか変な回答ね……まあ、いいわ。そんなアンタがなんであたしの名前を知ってるわけ?初対面なのは間違いないはずなんだけど」

 

ジロジロと怪しい人物を見るかのように視線を向けられて彼女の反応は当然かと納得する。僕は事前に織斑先生に頼まれたから彼女のことを知っているわけで彼女はそうではない。織斑先生に頼まれたことを話せばわかってくれるよね……?

 

「えっと、僕は織斑先生に頼まれて君が来るのを待ってたんだ」

 

「織斑先生って……もしかして千冬さんのこと?」

 

「うん、千冬さんのことだよ。本当なら今日は織斑先生が凰さんをここで迎えるつもりだったらしいけど、急遽会議が入ったらしいからその代わりに僕が頼まれたんだ」

 

「……千冬さんに出迎えられるよりかはアンタの方が確かにまだマシね。まぁ、いいわ。アンタの方も私の名前を知ってるようだけど一応は自己紹介しましょ。アタシは凰鈴音、同じ歳だと思うから気軽に名前で呼んでいいわよ」

 

「うん、よろしくね鈴音さん。えっと、僕はキラ・ヤマト。僕も呼びやすい方を呼んでくれて構わないから」

 

「んっ、それじゃあ、よろしくねキラ」

 

「それじゃあ、僕が案内するよ。織斑先生に職員室まで案内するように頼まれてるから。あっ、荷物は持とうか?」

 

「うげっ、結局千冬さんには会わないといけないの……荷物は自分で持つからいい……はぁ、着いて早々厄日な気がしてきた」

 

鈴音さんはため息を吐いてる所をみると織斑先生に苦手意識を持っているのは本当らしい。でも、織斑先生の方からはそんな気は一切感じなかったんだけどなぁ。それに多分だけど織斑先生としては鈴音さんのことを信頼しているような気がしたんだけど……。

 

「あっ!そういえば大事なことを忘れてたんだけどさ……織斑一夏って知ってるわよね?」

 

「一夏のこと?うん、もちろん知ってるよ。僕にとって大切な友達だしね」

 

「ほんと!?それなら――」

 

先ほどとはガラリと変わって嬉しそうに何かを話そうとする前に少し遠くの方から一夏の声が聞こえてくる。鈴音さんも聞こえたようでピタリと動きは止まり彼女の視線は一夏へと向かう。彼女は予期せぬ再会に少しばかり焦ったようだけど一呼吸を置いて一夏へと声をかけようとする瞬間に僕にとっても聴き慣れた少女の声が聞こえる。

 

「だから、何度も言っているだろう。スパッだ、一夏」

 

「だからよ、そのスパってやつをもう少し具体的に教えてくれって」

 

「……スパッはスパッだ」

 

「だから説明になってねえって!?待てって、箒!」

 

多分いつも通りにISの訓練をしていたんだろうなって2人の様子を見ていたら沈黙を保っている鈴音さんの方から何度か温度が下がったような気がする……。恐る恐る彼女に視線を向ければジッと一夏のことを睨んでいて、彼女が不機嫌になっているのは僕でもわかるほどだ。

 

(……ごめん、あのタイミングに一夏が来たのはちょっと恨むよ……)

 

「――――それじゃあ、さっさっと千冬さんの所まで案内してくんない?ちょっと他にもやること思いついたから」

 

「わ、わかったよ……とりあえず、行こっか……」

 

ニッコリと笑っている鈴音さんだが、それが余計に怖く感じて僕はただ頷く。これはちょっと今後が大変になりそうだなぁ……主に一夏がだけど。

 

「ちなみにさ、一夏ってどのクラスなの?とりあえず本当のことだけ教えてくれればいいから」

 

「い、一夏は僕と同じクラスで一年一組だよ。そして最近クラス代表に――――あっ」

 

「へぇ、クラス代表ねぇ?それって何か詳しく教えてくれない?あたしって来たばかりで全然わからないからさ。あっ、もちろんアンタの知ってる範囲でいいから」

 

しまったと思ったけど鈴音さんはクラス代表という言葉に食いつく。知ってる範囲でいいとは言ってるけど遠回しに嘘や誤魔化しはするなって脅しが入ってるよね、これ……。もちろん僕は彼女に逆らうことができず職員室につくまで根掘り葉掘り一夏について色々と聞かれた。僕はゲンナリとした様子で、鈴音さんはニコニコとした様子で織斑先生の前に立っていた。

 

「……なぜヤマトがやけに疲れ切った顔をしているんだ?」

 

「……いえ、僕は大丈夫なので気にしないでください……」

 

「その本人が大丈夫だというのならそうするとしよう……さて、久しぶりだな鈴音。元気にしていたか?というのはここにいる時点で聞くまでもないか」

 

「ついさっき弟さんのお陰様でとっても元気になりました」

 

どういうことだ?と織斑先生が目で僕に聞いてくるが僕は笑って誤魔化すしかできない。鈴音さんが不機嫌なのは織斑先生もわかってはいるようで一夏が何かしたんだろうっと納得した様子だ。……いや、多分、一夏は悪くはないんです。

 

「まぁ、お前らの恋路に一々首を突っ込む気はないから好きにしろ。ヤマト、ここまで鈴音を案内してくれてすまないな。どうも一夏のクラス代表決定のパーティーをするらしい。場所は寮の食堂だ、私と山田先生は参加しないが後でお前が来ているかどうかの確認はするからな、いいな?」

 

「は、はい……わかりました」

 

「ならばいい。あとは私が引き継ぐから後は戻っていいぞ」

 

返事を聞けたこともあり織斑先生は満足そうにしてるけど……これって参加しないと後で強制的に参加させられるやつだよね。……まぁ、顔出しぐらいは流石にやらないとまずいよね、特に一夏の代表決定パーティーでもあるし。

 

「あっ、ちなみにあたしが来てること一夏には言わないでね。後でサプライズのつもりで驚かせたいから」

 

「……ああ、うん、一夏に言わないようにするよ」

 

「んっ、助かるわ。ここまで案内してくれてありがとね。今度会ったら軽めのものなら奢ってあげる」

 

「別にいいよ、僕は頼まれてやっただけだからさ。気持ちだけ受け取っておくよ。それじゃあね、鈴音さん」

 

職員室を出た後に鈴音さんが僕と相部屋をすることを思い出すけど、その辺の説明は織斑先生がやるつもりなんだろう。……うーん、パーティーだから一夏になんかプレゼントでも送った方がいいのかな?そんなことを考えながら、自室に向かうことにした。





えっ?前書きで私の性癖がダダ漏れだって?大丈夫だ、問題ある。とりあえずやっと鈴ちゃんが本編にして参戦です。そして鈴ちゃんがキラ君の同居人です。同居人に関しては結構悩んでました。原作通り男装シャルさんか鈴ちゃんにするかを。その結果、面倒見が良く千冬さん的に信頼している人物という考え鈴ちゃんになりました!やったね!キラ君!

さーて、今年最後に投稿できて私は満足なので長々しい後書きはこれで終わりにします。次回?そりゃ、もちろん箒さんとシャルさんのワカダマリ解消(?)とみんな大好きな裾ダボダボの子がでるよ!なお、更新は未定です。

誤字&脱字の報告いつでもお待ちしています!それではみなさん、良いお年を!


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第9話 クラス代表決定パーティー


はい!無事に今月の投稿は終わりました!これで今月投稿できなくても大丈夫ですよね!えっ、先月分……?……キタイシナイデマッテタクダサイ((白目


「「織斑一夏君!!クラス代表決定おめでとうーっ!!」」

 

小気味良く、クラッカーが一定のリズムを保つように乱射される。遠目から見守っていれば一夏自身はなんとも言えない表情をしていて今にもプレッシャーで押しつぶされそうだった。実際一夏はISを動かしてまだ一ヶ月も経っていないのにクラス代表という重要責任な立場に就任なのだ。

 

(僕が一夏のためにやれることはなんだろう……?IS以外でできることと言ったら話を聞くことぐらいかな……)

 

今の僕が一夏に何をしてあげられるかを一生懸命に考える。IS学園で男性操縦者は僕と彼と2人だけで、そして男性操縦者として期待を大きく持たれているのは一夏の方だ。僕の方はおまけ程度だろう。……僕ができることは結局いつも通りに彼と話したり過ごしたりすることぐらいだ。自分が彼に対してやれることがあまりにも少ないことに憂鬱になる。

 

「……駄目だな、僕は」

 

盛り上がっているクラスメイト達を見ながらボソリと呟く。パーティーを楽しめない自覚があるからこそ、このまま帰ってしまおうかっと思うが織斑先生が後で様子見を見ると言っていることを思い出してその衝動を堪える。

 

「――――キララン、これどうぞ〜」

 

「えっ、えっと、ありがとう……?」

 

ただ何もすることなく遠くからパーティーを眺めていたらそれに気づいた1人の少女が飲み物を手に取って僕に渡してくれる。予想していなかったことに驚きながらも彼女から飲み物を受け取ればニッコリと嬉しそうに笑う。

 

「キラキラ、ずっと遠くから見てるようで飲み物まだだったでしょうー?キラキラの好きな飲み物わからなかったからお茶だけど……大丈夫だったかな〜?」

 

「うん、お茶で大丈夫だよ。飲み物ありがとう……えっと、布仏さん……だったよね?」

 

「うん!キラキラも気軽にのほほんさんって呼んでいいからねー」

 

おっとりとしてマイペースな布仏さんに戸惑うけど彼女が善意で言っていることはわかる。キラキラって彼女が考えたあだ名なのだろうか?……呼ばれた時は驚いたけど誰かにあだ名で呼ばれたのは初めてな気がする。喉も乾いていたので貰ったお茶に口をつけていればジッと僕の顔を彼女は見つめてくる。

 

「えっと、僕の顔に何かついてたかな……?」

 

「ううん、そんなことないよ〜。えっとね、キラキラは優しい目をしてるなって思ったんだ。キラキラは何かいつも考えているようだったから、ずっとどうしたんだろうって気になってたの」

 

「……そうかな?」

 

「そうだよ〜。だってさっきもキラキラ何か悩んでたよね?……今日のキラキラはいつもよりも悩んでるようだったし、それにおりむーとは話してたけど、デュッチーとモッピーを避けてるようだったから……何かあったの?」

 

おりむーが一夏のことで、デュッチーとモッピーがシャルロットさんと箒さんのことだろう。僕が2人を避けていると言うのはのほほんさんが気づいているということは他の人もわかっているのだろうか?一夏以外に話をよくしていたのは彼女たち2人だから……多分、気づいてるんだろうなぁ。

 

「……うん、ちょっとね。僕が悪いんだけど謝るタイミングを中々掴めなくてさ」

 

「んー?もしかして2人と喧嘩をしたのー?」

 

「喧嘩というより僕が2人に迷惑をかけちゃったからかな。2人に嫌な気持ちをさせるようなことになっちゃったから……」

 

自分が精神を錯乱してしまったことを正直に話すわけにもいかないため内容をぼかす。僕自身から話しかけないといけないのに未だにそれができていないのはそのことから逃げているからだ。再度誰かに拒絶されてしまうと思えばどうしても足が竦んでしまう。誰かと関わらない方がいいと思いながら、人に拒絶されることに怯えている。そんな矛盾した答えを持っている自分に嫌気がさす。

 

「――――うん、それならのほほんさんが一肌脱いじゃおうー!」

 

「そ、それは悪いよ。のほほんさんにまで迷惑をかけるわけにはいかないよ」

 

「迷惑なんかじゃないよー。手伝うと言っても、私はキラキラの背中を押すだけだから、ね?うまーく2人をキラキラのところまで誘導するから。それ以降はキラキラ次第だよ」

 

「……どうして、君は話したばかりの僕にそこまでしてくれるの?」

 

「んー?困った時は助け合いだよー。それにね、キラキラと私はもう友達だからねー。友達を助けるのは当たり前だもん」

 

さも当たり前のように友達と言われたことに唖然とする。彼女と僕はついさっき初めて話したばかりなのに彼女は僕のことを友達と言ってくれた。のほほんさんは2人を僕の元に誘導すると言っていたこともあり2人を探しにクラスメイトの中へと戻っていく。

 

「……友達か」

 

「――――そこの黄昏てる男の子君。お隣空いてるかしら?」

 

「えっ、えっと、はい、大丈夫です……」

 

「そう、ありがとう」

 

ニッコリと微笑み僕の隣に並び片手には飲み物を持っている辺りこのパーティーに参加してるのはわかるけど……少なくともクラスメイトではないはず。彼女が誰だろうと思って記憶を探るもののそれに該当する人はいない。なんというか……個性がなさすぎることに少し違和感を持つ。良くも悪くもIS学園の生徒は個性的な人が多いから……そう思うということは少しはIS学園に慣れてきているということだと思うけど。

 

「あら、そんなにお姉さんのことが気になるの?第二操縦者のキラ・ヤマト君」

 

「あっ、えっと……そんなつもりじゃ……」

 

「ふふっ、ちょっとした冗談よ。……けど、私はそんな君にかなり興味があるわ」

 

「っ、貴方は……いったい……!?」

 

ジッと僕のことを見つめてくるその()()()に体が強ばりその瞳は僕の中を覗き込もうとしている。彼女のその瞳から今すぐ目を逸らそうにもまるで何かに睨まれてそれができない。

 

「たしかに本音ちゃんの言う通り、貴方の目は優しい目をしているわね。……けど、貴方のその優しい瞳のその裏には悲しいものを背負っている瞳よ。職業柄色んな人の目を覗いてきたけど……貴方のような瞳を見たのは初めてだわ。貴方はいったいどんな道を歩んできたのかしら?」

 

「っ……!」

 

「あら、怖がらせるつもりはなかったのよ?あの織斑先生が私に理由も言わないで貸しを作る子だなんて気になったから。……けど、織斑先生が気にかけるのは少しだけわかった気がするわ」

 

僕の感情を機敏に読み取る目の前の人にどうしても警戒を解くことができない。この人がIS学園の関係者なのはわかってはいるんだけど……彼女はいったい誰なんだ?織斑先生が頼み込んだと言った言葉は気になるけど、今この場でそのことを聞けば僕自身に関することを全て暴かれる、そんな気がしてならない。

 

「……貴方は、貴方はいったい誰なんだ……?」

 

「ふふっ、ヤマト君がお姉さんのことに夢中になってくれるのは嬉しいわ。そんなヤマト君に自己紹介をしてあげたいのは山々なんだけど……残念ながら今回のこのパーティーはお忍びだから次に会う時までお預けね」

 

「……貴方がIS学園に関係している人なのは間違いないんですね?」

 

「ええ、なんならわたしってここでは結構大切な役職についてるのよ?次に会った時にわたしが誰かちゃんと自己紹介するからそう警戒しないで、ね?……そろそろキリが良さそうだし今日のお忍びパーティーはここまでね」

 

周囲を警戒するように確認した後に扇子を広げればそこには『残念』っと達筆な文字で書かれていた。なんというか、今のこの人の姿と本来の姿は実は違うんじゃないかと疑いたくなる。

 

「また近いうちに会いましょう、キラ・ヤマト君。その時はわたしもちゃんとした形で自己紹介をするから。それならわたしのことを信用してくれるかしら?」

 

「……なるべく、そうできるように頑張りはします」

 

「んふふっ、なら問題ないわね。それじゃあ、今日のパーティー楽しんでね?あまり辛気臭い顔をしていると可愛い顔が台無しよ?」

 

最後の一言に反論をあげる前にあの人はクスリと笑い去っていく。突然と現れて突然と去っていくあの人を納得しない気持ちで見送ればどっと疲れが押し寄せてくる。……なんというか近いうちに会うと考えると正直遠慮したいかな。一瞬でも気を緩めたらあの人は自分の中にある秘密全てを暴かせそうな気がしてならないから。

 

「え、えっと、……キラ、こんばんは。人と話してたようだけど……今大丈夫かな?」

 

「……うん、大丈夫だよ」

 

僕の顔色をうかがうようにシャルロットさんは声をかけてくれる。しかし、お互いにそれ以上会話が広がることはなく気まずい空気になってしまう。本来なら僕から謝らなければならないのにそれができない自分が嫌になる。

 

「……えっと、箒さんはどうだったかな……?」

 

「……箒はもう少しだけ時間がほしいんだって。まだ整理できてないようだから……」

 

「……そっか……昨日はごめん。僕が昨日取り乱したから嫌な気分にさせちゃったよね……本当にごめん……」

 

僕は昨日のことについて深く頭を下げる。彼女たちの気分を害した罪悪感、そして彼女が今どんな表情を浮かべているのか目視する恐怖に襲われる。本当は今こうやって謝っていることすらも正しいのかわからない。自分の気持ちを楽にするために謝っているだけなのかもしれないと、一度でも考えてしまえば自分が今やっていることさえも間違っているのではないだろうか?……だけど一つだけわかっていることがある。それはシャルロットさんの言葉がどんなものでも受け止めなくちゃいけないことだ。

 

「……キラ、顔を上げてよ」

 

「……うん」

 

シャルロットさんに言われた通りに僕は顔を上げた。顔を上げれば戸惑いながらも彼女は僕の目をしっかりと見つめてくる。本音を言えば今すぐにでも僕は彼女から目を逸らしたかったがそれではダメだと思い止まる。……それじゃあ、僕は何も変わらずただ逃げているだけになってしまう。

 

「昨日のことだけどさ……確かに私も驚いたけど、キラが思っているような気持ちにはなってないよ。今日はどうやって声をかけるか悩んじゃってた私が言っても信用ないかもしれないけどね……」

 

「……シャルロットさんは何も悪くないよ。悪いのは全部僕なんだよ……あの時に取り乱した僕が悪いんだ……」

 

「そんなことないよっ!だってキラは別に悪いことをしたわけじゃない……あんな風になった理由は私にはわからないけど……嫌なことを思い出しちゃったんでしょ?あの時のキラは……凄く苦しそうでつらそうで、悲しそうだったから」

 

まるで自分のことのように悲痛な顔を彼女は浮かべる。やっぱりシャルロットさんは優しくて他人を想いやれる人なのがわかる。拒絶されなかったことに本当なら嬉しいはずなのにそれが堪らなく苦しいのはどうしてなのだろうか……?

 

「やっぱりシャルロットさんは優しいんだね。こんな僕のことも気にしてくれるから……」

 

「誰にも優しいつもりはないよ?……それに私はキラのことが気になってるから」

 

「……どうして僕なんかを?」

 

「キラが無理しているのが、あの日わかったからかな?キラのことが放っておくことができなくなっちゃって。だからね、なにか困ったことがあったら真っ先に私に頼っていいからね?私ができることだったらなんでも手伝うから」

 

「……うん、その時はお願いしようかな」

 

シャルロットさんは嬉しそうに微笑むけど、僕自身の問題については彼女に話すつもりはなく、彼女に頼ることはきっと一夏のISの操縦を任せることだろう。真摯に向き合ってくれている彼女を騙している事実に胸が痛くなる。

 

「はーい、そこでイチャイチャしてる2人に突撃インタビューですっ!!あっ、私は黛薫子。よろしくね!新聞部副部長をやってまーす。はい、名刺どうぞ!」

 

「えっと、ありがとうございます……?」

 

「君が噂の2人目の男性操縦者のキラ・ヤマト君だね。ほうほう、中々可愛い顔をしていますなー。一夏君がカッコいい系ならヤマト君は守りたい系かな。そして貴女はフランスの代表候補生であるシャルロット・デュノアちゃん。2人で話してたところを見るともう2人はそんな仲なのかなぁ?」

 

「ち、違います!キラは大切な友達だけど、まだそんな仲にはなっていません!」

 

「ほぅ、まだってことはつまりゆくゆくはそうなりたいって思ってるのかにゃー?」

 

「そ、それはそのぉ……」

 

「これはこれは本来の目的とは違うけどトップニュースになりそうなネタを手に入れたかも。まぁ、これ以上後輩をイジるのは印象が悪くなりそうなのでやめるとして……それじゃあ、ヤマト君!友である織斑君へとメッセージをどうぞ!」

 

「えっと、メッセージってクラス代表についてですか?」

 

「そうそう!ここはズバッとカッコいい台詞を決めちゃって!」

 

ボイスレコーダーをズイズイっと僕に向けてくるけど、いきなりのことで正直なにも思いつかない。一夏自身が納得してクラス代表になったと言われればそういうわけではないし……けれど、ここで何も言わないのは多分副部長であるこの人が許すわけないし……。

 

「えっと、一夏が困った時はいつでも力になるから相談してね……ですかね?」

 

「うーん、インパクトが薄いけど……まぁ、ヤマト君っぽいからそれでいいかな。はい!それじゃあ、そこで狼狽えてたシャルロットちゃんは……適当に捏造しておくね。ヤマト君に惚れたからでいいよね?」

 

「な、なんで私だけそんな雑なんですかっ!?まず、一夏の応援すら関係ないじゃないですかっ!!」

 

「あっ、大丈夫だよ。セシリアちゃんも大体同じ理由にしておくから。それとも織斑君に惚れたからの方がいいかな?」

 

「そ、そういう問題じゃなくてっ!そもそも捏造するのは大問題ですっ!」

 

「ちぇー、ならインタビューする?インパクトが薄かったら捏造するつもりだけど……」

 

「……もぅ、黛先輩に好きに書いて結構です」

 

疲れ切った表情でシャルロットさんため息を吐いて、黛先輩は言質を取ったこともあり上機嫌に何を捏造しようかと鼻歌を口ずさむ。多分、僕が会った人の中でこの人が一番テンションが高い人かもしれない。

 

「そういえば写真どうしちゃう?今からこのクラスの子からリクエストで集合写真撮ろうとしてたけど……ツーショットはどうする?」

 

「いえ、ツーショットは大丈夫です。黛先輩も忙しそうなので遠慮しておきます」

 

「ありゃりゃ、断られて残念。願わくば撮りたかったけど……うん、今度ヤマト君とシャルロットちゃんのツーショット撮りに来るわね」

 

「……私としても撮りに来るのは遠慮してほしいです」

 

多分シャルロットさんは遠慮でもなく本音なんだろうなぁ。黛さんはそれに気づいて撮りにくる気満々だと思うけど……あくまでツーショットを狙ってるようだから僕が適当に理由を挙げればどうにかなりそうかな?そんなことを考えていれば一年一組の集合写真は無事に撮影される。クラスメイトはそれ以降は個人で話し始め、一夏が一息ついているところを見かけ僕は声をかける。

 

「色々とお疲れ様、一夏。疲れてるところを見るとさっきの副部長さんが原因かな?飲み物はお茶でよかったかな?」

 

「おっ、悪いな。まぁ、疲れたのはそれ以上のこともあるんだけどな。……とりあえず今日が疲れたことには間違ってない」

 

「いきなりクラス代表だもんね。……一夏、本当に嫌だったら断ってもいいと思うよ。今からでも遅く無いと思う、多分セシリアさんに本当に頼んだら今の彼女なら変わってくれるんじゃないかな」

 

僕は一つの意見として一夏にキッパリとそう伝える。状況が大きく違うのは間違いないけれど望んでクラス代表になっていない現状は僕がストライクに搭乗させられた時と少し似ている。だけど一つだけ違う点をあげれば一夏がクラス代表を辞めたとしてもその代わりになってくれる人が少なくとも2人はいることだ。

 

「……確かに考えなくはなかったけどさ。けど、クラスのみんながこうやって祝ってくれたりしてくれることを考えるとクラス代表も悪くはないんじゃないかって思ってる。それにみんながどんな形でも俺に期待してくれてるんなら、その期待に応えたいんだ」

 

「……そっか、一夏は強いんだね」

 

「俺なんか千冬姉やセシリアやシャルロットに比べればまだまだ弱いさ。けど、心配してくれてありがとうな。俺なりに頑張るよ、キラ」

 

一夏は自分のことを弱いと言っているがそれは操縦面のことについて。僕が強いと思ったのは精神面についてだ。……一夏は僕よりもずっとしっかりしていて自分を持っている。それに操縦面だってまだ触れて一月もたっていないんだ。

 

「うん、きっと一夏は強くなるよ。困ったことがあったら力になるからね。僕はそろそろ夜遅いから戻ることにするよ」

 

「え、もうそんな時間なのか?それって俺も戻ったらダメなやつかな……」

 

「主役がいなくなるのは流石にまずいんじゃないかなぁ……」

 

「だよなぁ……そんじゃあ、また明日な!明日はちゃんと朝顔を出せよ?出さなかったら起こしにくるからな」

 

「その時はお願いするよ。僕も起きれる自信はあまりなかったりするからね」

 

本当は睡眠を取れている方が少なかったりするけど余計な心配をかけたくはない。それに多分明日は大人しく朝に朝食は取りに行くはずだ。……それに早く寮に戻らないといけない気がしてならない。なにか大切なことを忘れてる気がする……。

 

(……なにかを忘れていたんだけど思い出せない。そうだ、確か――――)

 

一夏と別れて食堂を後にして寮の自室の扉の前でその忘れていたことをギリギリで思い出す。ドアノブに手をかける寸前で思い出せた自分をこればかりは褒めてもらいたい。何度か深呼吸をしてノックをすれば彼女の声が聞こえてきて扉は内側から開けられる。

 

「あっ、やっと帰ってきたわね。アンタも中々いい性格してるじゃない。あの時に普通まとめて説明するべきでしょ」

 

「ご、ごめん……僕もその時忘れてたんだ……」

 

「別に怒ってるわけじゃないから謝らなくていいわよ。ほら、サッサっと入る。今日までは一夏に私の存在をバレるわけにはいかないんだから」

 

「う、うん……お邪魔します……」

 

「一応はここがアンタの部屋でしょうが……」

 

鈴音さんからなにを言っているんだと呆れた目で見られてしまうが口が滑ってしまったのだから仕方がない。完全に彼女がルームメイトになることを忘れていたこともあって心の準備ができていなかったんだ。

 

「……それで?私のことは一夏に話してないでしょうね?」

 

「う、うん、それについては大丈夫だよ。一夏にそのことは話してないから」

 

「そっ、ならいいわ。……一夏のことはとりあえず置いておくわ。今は私たちのここの部屋の決まり事を作るわよ。最初にキラからの要望を聞くけどなんかある?」

 

「それについては鈴音さんが優先で大丈夫だよ。僕はここにいれるだけで満足してるからね」

 

「そう?後でやっぱりなしは通用しないわよ?……本当に私優先でOK?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

怪訝な目で見られるけど初めからルームメイトになる人に優先的に使ってもらうつもりだったから問題はない。普通にすごす環境としては充分すぎることもあるから不満はなに一つない。

 

「……なんというかあっさり終わって拍子抜け。まぁ、早く終わるに越したことはないんだけど。それじゃあ、そのニなんだけど、どっちのベット使ってたの?なんか片方の毛布は使ってるのはわかったんだけどベットについては流石にわからなかったし……」

 

「ベットはまだ両方とも使ってないよ。鈴音さんがどっちを使うかわからなかったからね」

 

「……使ってないって。それじゃあ、アンタは今までどこで寝てたってわけよ?もしかして……床に寝てたってこと?」

 

「壁に寄りかかって寝ることもあったけど……基本はそんな感じかな」

 

「……アンタ、よく今まで1週間それで寝れたわね」

 

鈴音さんは絶句しているがストライクのコックピットで寝る時もあった時に比べれば横になれるだけ遥かにマシである。けどそんなことを勿論教えるわけにはいかないので苦笑いで誤魔化すことにする。

 

「……なんていうかアンタの様子をちまちま見てほしいってあの千冬さんに頼まれたのが納得いった。まっ、とりあえず今後はよろしくね。常識はありそうだけど、一応は言っておくわ。……アタシに襲いかかってきたらその両腕ポッキリ折ってやるから」

 

「うん、それについては大丈夫だと信用してほしいかな」

 

「……逆にすぐそういった台詞を言うのは約束を破る奴のそれよ。まぁ、確かにアンタって腕っ節は弱そうだし……仮にそんなことはあってもなんとかなるわね」

 

「……うん、まぁ、否定できないかなぁ」

 

実際カガリには腕相撲で負けたわけだし……いや、カガリだからこそ負けた可能性もあるんじゃないかと思ってるけどさ。とりあえずその件についてはサッサっと忘れるのが一番だと開き直ることにする。……負けたことはショックだったし。

 

「さてっと、部屋の決まり事はこれで終わったことだし……次の本題ね!」

 

「次の本題?……えっと、ほかに何かあるのかな?」

 

「そりゃ、もちろん一夏が鼻の下伸ばしてたかどうかのこととよ。特に今日の夕方で一夏が親しそうにしてた子を特に教えてくれるわよね?」

 

「……先に言っておくけど僕もあまり詳しいわけじゃないからね?」

 

目の前の彼女からの威圧感から夕方同様の嘘を言えば僕にも被害が出るやつだと察する。鈴音さんとは仲良くできるかなっと少しだけ不安に思いながらも今日の代表決定パーティーでのことと箒さんについて根掘り葉掘り聞いてくるのであった。





はい、みなさん遅れてすみません。先月投稿できなかったのは割と反省しています。そして某あの人が出ていたような気がしますが気のせいでしょう。扇子持ってるキャラとか沢山いるはずです、一応変装してるんで細かいことは許してぇ……。

まぁ、みなさんもお分かりですが箒さんとは和解できませんでした。はい、てか書いてる途中で速攻和解とか箒ちゃんじゃないと納得が出来なくなり投稿が遅れました。本当に申し訳ない……だって、箒ちゃんってちょっとドロってした感情持ってるじゃん、ね?あっ、シャルロットさんはいつも通りです、はい。……純粋に基本優しいキャラだから差分ががが。ちなみにですがシャルロットさんは空気になるどころか多分鈴音ちゃん登場したから更に存在感出ると思います。……むしろ箒ちゃんの方が危機だよぉ。
はいっ、そしてお分かりですが鈴音ちゃんが次回から本格的に絡んできます。私の性癖はひんぬーなのは間違いないですが贔屓はしないよう頑張りたいですね、はい!

次回の更新は未定ですが気長にお待ちください!誤字&脱字の報告はいつでもお待ちしてます!……もちろん感想もですよ?ただし、評価君はダメだ……逃亡したくなるんだ((吐血


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第10話 2人目の幼なじみ


よしっ、これで先月分の投稿もチャラだ、いいね?えっ、いつもより分量が多いだって……?細かいことはいいんだよっ!よしっ、閉廷!ちょっと私は今からマキオンやるんで……((

みなさんの感想は本当励みになります。むしろこれを書く源だよ……けどね、評価君、君は駄目だ……胃が痛くなる((真顔


「おはよ――――ってキラ大丈夫……?どこかやつれてるようだけど……」

 

「う、うん……大丈夫だよ。これは単純にちょっと疲れているだけだから……」

 

教室でシャルロットさんに心配されるけど別の意味で疲れているだけだから。鈴音さんが悪い人じゃないのはわかってるけど……流石に一夏のことで毎回聞かれるのは堪えるよ。

 

「あっ、キラキラー。おはようー」

 

「うん、おはよう。昨日はありがとうね、のほほんさん」

 

「ううん、私は特に何もしていないよー。デュッチーと仲直りできたのはキラキラ自身の力だよ。……モッピーとはどうだった?」

 

「……箒さんとは仲直りできなかったよ。ごめんね、手伝ってもらったのに」

 

「……そっか。うんっ、キラキラとモッピーが仲直りできるように私も手伝うよー!」

 

「もちろん私も手伝うからね。あの時のことは私にも責任があると思うから」

 

この2人には頭が上がらなくなりそうだなっと昨日から思ってきている。僕自身がどうにかしないといけなかったのにのほほんさんは無関係でありながら手を貸してくれて、シャルロットさんはこんな僕の助けになると言ってくれた。

 

(……けど、やっぱり2人にも僕が違う世界の人間だって教えることはできないよ。それに僕のこの力がバレてしまったら……)

 

彼女たちがどれほど優しいのかわかっていても僕自身のことを打ち明ける勇気はなかった。何かの弾みで僕がこの世界の人間ではないこと、そしてこの力のことを知られればまたあの時のように異端児として見られれてしまえばとても耐えられる自信はない。あの時はストライクのコックピットに逃げ込めばよかった……だけどこの世界ではその逃げ込める場所なんてない。

 

「おっす、キラ。……難しい顔してるけどなんかあったか?」

 

「あっ、うん、特になんでもないよ。一夏こそおはよう」

 

「あら、みなさんごきげんよう。キラさん、今朝はきちんと朝食を取りましたか?昨日も途中でパーティーを抜けたとお聞きしましたので……少しばかり心配いたしましたのよ?」

 

「今日はきちんと朝食を取ったから大丈夫だよ。これ以上は流石に織斑先生に迷惑をかけるわけにはいかないからね」

 

「まぁ、千冬姉の言う通り朝食はきちんと食べた方がいいぞ?キラって結構ぼうっとしてることが多いしな」

 

「そうかな?僕自身はそんなつもりはないんだけどなぁ……」

 

「今回はわたくしも一夏さんに同意しますわ。理由はなんであれどキラさんはもっと自身の自己管理をすべきだと思いますわよ。体は健康が一番なのは間違いないのですから」

 

セシリアさんと一夏の言っていることは正論であるため苦笑いで誤魔化してしまう。けど、当分は少しづつ私生活を改善していくつもりだ。……うん、慌てないで少しづつ変わっていこう、これ以上改善しなかったら織斑先生に出席簿で修正されそうだし。

 

「あっ、そういえばみんな知ってるー?新しい転校生が来たって噂ー」

 

「転校生?そりゃ、またなんで?まだ学校始まって数週間ちょいしか経ったないだろ?」

 

「ええ、わたくしもその噂は耳にしましたわ。あくまで噂ですので信憑性に欠けますが……」

 

「うーん、私も確かに聞いたけど確か二組にだったよね?」

 

(……それって間違いなく鈴音さんのことだよね。まだ、鈴音さんが昨日来たことは一夏に伝えない方が絶対にいいよね……)

 

のほほんさんの一言がきっかけで話が広がっていく中で僕は冷や汗がどっと流れる。昨日の放課後に会ったことに、このタイミングで口が滑ったら鈴音さんに後でタダじゃすまないような気がするので適当な相槌で乗り越えよう……再会することを楽しみにしているのは話していてよくわかったしね。……まぁ、かなり別の方面でも殺気立っていだけど。

 

「……どちらにしろこのクラスに転入してくるわけではあるまい。その噂が事実かどうであれ一夏が気にする必要はないだろう」

 

いつものメンバーが僕の近くで話しているということもあるだろうけど気まずそうではあるが箒さんも会話の輪へと入り込んできてくれる。少しだけ僕と目を合わせてくれたということは拒絶されていないと少しだけ前向きに捉えていいのかな……?

 

「モッピー、おはようー!ほらほら、キラキラも」

 

「う、うん……おはよう、箒さん」

 

「……ああ、おはよう、キラ」

 

のほほんさんの気配りもあって僕と箒さんはぎこちないがお互いに挨拶を返す。まだ完全には拒絶されていないことに僕は内心でほっと安堵する。まだ話をすることができる、それが今の僕にとっては何よりも大きな収穫だ。一夏とセシリアさんは理由を知らないこともあり気にしているようだけど、2人が聞いてくる前にのほほんさんは再度その噂へと話を切り替える。

 

「ふふんー、実は言うとですね。のほほんさんはその噂の転校生の有益な情報を得ているのだよー。なんとー、その転校生は中国の代表候補生らしいんだよー!」

 

「……中国の代表候補生ですか……シャルロットさん」

 

「……うん、その情報が確かならちょっとマズイかも」

 

「えっと、それの何がマズいんだ……?」

 

「――――そんなこと単純な話よ。新しく中国の代表候補になった子は国内で過去最短で代表候補として上り詰めた。それもたったの一年でね。そしてその二組に一年で上り詰めた専用機持ちがクラス代表になったってこと!」

 

「鈴……?お前、鈴か……?」

 

教室内ではなく入り方の方から声が聞こえる。そこには腕を組み入り口を塞ぐように佇む彼女がそこにいた。多分、これがやりたかったんだろうなっとシミジミと思いながらも僕はあくまで知らないふりをする。一夏が驚いているところを見て鈴音さんは満足そうでふふんっと鼻を鳴らす。

 

「そっ、中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ。アタシが二組のクラス代表になった以上はアンタに優勝を諦めてもらうわ」

 

「何カッコつけてるんだ?まったく似合わないぞ」

 

「はぁ!?なんてこと言ってくれんのよ、アンタは!!」

 

(……一夏、流石にその一言は駄目だと思うよ……)

 

なんというか一夏はやっぱり少し鈍いところがあるというか……なんというか。鈴音さんにもう少し他の言葉をかけてあげるべきだったと思うよ。だけどこの二人のやり取りで一夏と鈴音さんが知り合いなのがわかり、そして親しげに話してるところを見て約2名から威圧を感じるのは気のせいだと思いたい。

 

「――――おい」

 

「なによっ!!アタシは今からあの馬鹿を――――」

 

「ほう?あの馬鹿を……なんだ?言ってみろ、鈴音」

 

「ち、千冬さん……え、えっと、そのぉ……」

 

「はぁ、SHRの時間ださっさと自分の教室に戻れ。あと、昨日まではともかく、今日から織斑先生と呼べ。いいな?」

 

「は、はい!わかりました!し、失礼しました!」

 

目の前で鈴音さんが絶対に超えられない壁を目撃した気がする……過去織斑先生になにかされたのだろうか?ちょっと気になるけど流石にプライバシーに関わるからあまり聞かない方がいいだろう。一夏と鈴音さんの関係が気になり教室内がザワザワと騒がしくなる前に織斑先生の一言で静寂がおとずれる。そして今日のISの授業と学習が始まるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……ううっ、少し私も疲れたかも……」

 

「あ、あはは、お疲れ様、シャルロットさん」

 

「もう、キラも2人を宥めるの手伝ってよぉ。私1人だと大変なんだからね……」

 

「そうしたいのは山々だったけど僕だと多分逆効果になる気しかしなくて……」

 

主に口が滑った場合の時とかってそっと目を逸らす。多分今から巻き込まれるのは間違いないから言い訳をするのも諦めてるけどね。時と場合によるけれど諦めることも大切なこともあるんだよ……。

 

「2人とも席を確保してもらって悪いな。キラの分はこれでよかったよな?」

 

「そしてこちらがシャルロットさんの分ですわ。こちらでよろしかったですわよね?」

 

「こちらこそ頼んでごめんね。……それに今日は席確保の方が比較的楽だと思ったからね」

 

「……えっと、今日のキラってなんか悟り開いてない?」

 

悟りを開いたというより諦めていると言った方が正しいかなぁ。一夏から昼食を受け取ってなるべく巻き込まれないことを密かに願っておく。するとお互いに威嚇をしながら箒さんと鈴音さんも席につく。その際に一夏の近くに座ることで一悶着あったけど……。

 

「……それで?一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいんだが」

 

「そうですわっ!先ほどから一夏さんとは親しそうにしていることに断固として説明を求めますわ!」

 

「……あー、キラがどうして悟りを開いてるのかは分かったかも。んー、でも私も一夏とはどんな関係かちょっと気になるかな」

 

「ふふんっ、そんなに知りたい?アタシと一夏の関係」

 

3人からの一夏との関係性を聞かれて自慢げに笑みを浮かべると箒さんとセシリアさんの纏う空気が重くなる。……あっ、このスープ美味しいなぁ、また今度頼んでみようかな?半端現実逃避気味にスープをかき混ぜていたら一夏の一言でその空気は呆気なく消え去る。

 

「?そんなのただの幼なじみだよ。そうだよな?」

 

「……ええ、そうねっ!た・だ・の!幼なじみよ!この馬鹿っ!!」

 

「な、なにをいきなり怒るんだよ……」

 

「……幼なじみ?一夏、どういうことだ?」

 

怪訝そうに一夏のことを睨む箒さんに一夏は鈴音さんとの関係を説明する。要するに箒さんが引っ越していった後に鈴音さんが引っ越してきたらしい。僕の場合はアスランが幼なじみになるのだろう。……アスランは大丈夫だろうか?ううん、カガリが側にいてくれるからきっと大丈夫なはずだ。

 

「ほら、前に鈴にも話しただろ?こっちが箒。小学校からの幼なじみで、俺の通っていた剣道場の娘」

 

「へぇ、アンタがあの箒ねぇ。……初めまして、これからよろしくね?」

 

「……ああ、こちらこそよろしく」

 

目には見えていないはずなのに2人の間には火花が散ってるなぁ。正直予想していた展開だからこそ僕は無言でスープをかき混ぜる。……今すぐ教室に戻ってもいいかな?

 

「このわたくしの存在を忘れるのは困りますわっ!中国代表候補、凰鈴音さん!」

 

「あー、えっと、……確かセシリア・オルコットだっけ?イギリス代表候補の?」

 

「なんなんですのっ!?その如何にも他人から聞きましたみたいな反応っ!?それに絶対わたくしのこと忘れていらっしゃったでしょ!?」

 

「ソンナコトナイワヨー。まぁ、アンタもこれからよろしくってことで。同じ専用機持ち仲良くしていきましょ?」

 

「ぐぬぬぬっ、初めの棒読みが納得はいきませんが……ま、まぁ、わたくしは寛大ですのでそれぐらいは見逃してあげます。ええっ、同じ専用機持ちとして仲良くしていきましょう?」

 

……ごめんね、オルコットさん。その内通者は僕なんだ……鈴音さんに一夏と親しい女性の名前を言えって言われたから。罪悪感に打ちひしがれて何度も無言でスープをかき混ぜる。……僕はどうしてこんなところに来てしまってるんだろうか?

 

「そして、アンタがフランス代表候補のシャルロット・デュノアね。……うん、アンタとは普通に仲良く友達になれそうだわ。気軽に鈴でいいわよ」

 

「なんか私の時は雑じゃないかなぁ……まぁ、いいけどさ。うん、よろしくね、鈴。私もシャルロットで大丈夫だよ」

 

「それでアンタはなにスープを無言でかき混ぜてんのよ」

 

「……気のせいじゃないかな?」

 

「なーにが気のせいよ。アンタが最低限な生活しないとアタシも千冬さんに怒鳴られるんだから。ご飯ぐらいは真面目に食べなさい、いや食べろ」

 

鈴音さんにジロリと睨まれて僕は何度も頷く。そんな僕を見てよしっと納得して彼女は自分の食事に戻る。僕と鈴音さんがまるで面識があるかのようなやりとりに疑問を持ったシャルロットさんが口を開く。

 

「あれ?もしかして鈴とキラって知り合いだったの?」

 

「あくまで昨日からだけど。キラが昨日私を学園で案内してくれたのよ。千冬さんに頼まれたって言ってたのは本当のことだったしね」

 

「へー、だから昨日の放課後キラはすぐに教室から出て行ったのか。んっ、そういえばだけど鈴は何で今転校してきたんだ?」

 

「あー、それね。アタシは正確にいえば転校じゃなくて入学手続きが遅れただけよ。ちょっとお母さんが体調崩したからそれの看病でね」

 

「えっ、お袋さん大丈夫なのか?親父さんはどうしたんだよ?」

 

「お母さんは大丈夫、今はピンピンしてるわよ。……お父さんはちょっとね、その時いなかったから。ほら、アタシの家のことよりアンタな方はどうなのよ?久しぶりに会ったんだからさ、今日の放課後にちょっと話さない?」

 

楽しそうに話していた鈴音さんの表情に一瞬陰りが差すけどすぐに違う話を切り出す。けれど、先ほどよりかは空元気のように見えるけど……それに踏み込めるのはきっと一夏だけだ。

 

「――――悪いが一夏は私とISの特訓をするため放課後は埋まっている」

 

「そうですわ。クラス対抗戦に向けて特訓がありますの。今朝の宣戦布告を忘れたとは言わせませんわよ?それにわたくしは専用機持ちとして一夏の特訓相手として必要な存在ですから」

 

「ほら、キラもきちんと食べないと体がもたないよ?はい、私の分を少しあげるね」

 

「い、いや悪いよ。僕は別にこれで足りてるし……」

 

「そこのお二人はナチュラルに部外者ぶるのをやめてくださいましっ!?」

 

「あはは、私はちょっと今日の放課後は予定があるから一夏の訓練には手伝えないからさ、ごめんね」

 

「僕はISを持っていないから手伝うこともできないからね……」

 

僕とシャルロットさん今日は手伝えないことを伝えれば味方が2人減ったこともあり彼女はぐぬぬっと唸るがこればかりはどうしようもできない。まずIS持ってない僕がアリーナにいても逆に邪魔になるだろうし……。

 

「ふーん、それならその特訓が終わったら行くから、空けといてね。それじゃあね、一夏!」

 

「あっ、待てよ!……ったく、最後まで人の話を聞かないで行きやがった」

 

「……当然だが、一夏は訓練が優先だとわかっているだろうな?」

 

「一夏さん。今日からビシバシ鍛えますのでよろしくお願いしますわね」

 

「……うん、キラが朝からずっと心ここにあらずな理由がよーくわかったよ」

 

「……僕としてはなるべくフォロー入れたいのは山々なんだけど、馬に蹴られたくはないからね」

 

シャルロットさんと共に一夏に強く生きてっと静かに祈ることにする。僕は誰かに肩入れするというより……人に恋路をアドバイス等をする資格はない。そんな僕は一夏に詰め寄るセシリアさんと箒さんをみて苦笑いをする。

 

「……ちなみにキラ、お前にも話があるからな?」

 

「……ええ、キラさん。今は時間は空いていますわよね?」

 

「……うん、とりあえず2人には冷静に僕の言い分も聞いてほしいかな」

 

……やっぱり薄々思ってたけど2人が見逃してくれるわけないよね。僕自身も内通者としての後ろめたさもあって甘んじて2人から鈴音さんに何をリークしたのか根掘り葉掘り問いただされるのだった。

 

「3人とももうアリーナに向かったのかな」

 

「あの様子だと今日の一夏は相当しごかれるんじゃないかな。ちょっと見捨てたのに罪悪感があるけど……」

 

放課後になれば一夏は2人に引きずられるようにアリーナへと連行されていった。うーん、2人の一夏への気持ちは見ていたらわかるんだけど当の本人はそのことに気づいていない。……うーん、薄々思ってたけど一夏って鈍いのかな?

 

「そういえばだけど、キラって専用機はまだ来てないの?そろそろ専用機のオファーは来てもおかしくないと思うけど……」

 

「特にそう言った話は来てないよ。そう言った話があるなら織斑先生か山田先生から話があるはずだしね。それに……僕はISに搭乗したいとは思ってないから……」

 

「……そう、なの?」

 

「うん、僕には必要のないものだから。……あっ、えっと、ごめん……みんなの前では言っちゃいけないのはダメだとわかってたんだけど……」

 

「ううん、気にしないで。……私もさ、ISに乗り続けているのは居場所みたいなものだから」

 

「居場所……?それって――――」

 

シャルロットさんの言葉の意味を確認する前に彼女のポケットから電子音が聞こえてくる。急いでそれを取り出して連絡先を確認した彼女は息を飲みごめんねっと一言だけ伝えて教室を後にする。……携帯を見た時彼女が苦しそうで何かに怯えているように見えたのは気のせいだっただろうか?一瞬だったから僕の見間違いかもしれない。

 

(……どうして彼女はISが居場所だなんて言ったんだ……?)

 

なぜ彼女がそんな風に言ったのかわからない。けれどそれは彼女の本心なのではないんじゃないかってそう思ってしまう。似たような経験があるからこそ彼女のその言葉が僕の思い違いだって信じたい。一抹の不安を感じながら僕も教室を後にして寮の部屋に戻ることにする。とても屋上へと向かう気力はわかなかった。

 

◇◇◇

 

 

(……あれ、僕は何をしていたんだっけ……?)

 

自分がなぜベットで横になっているのか一瞬わからなかったが、授業が終わった後に全てから逃げるように眠りについたのを思い出す。体に気持ち悪いほど汗がベタついた感触があるということはまた何か嫌な夢を見たのだろう。

 

(……今何時だろう……?ううん、別にそんなことはどうでもいいか……)

 

起きてすぐだからなのか嫌な夢を見たのが原因かはわからないけど、目が覚めてもどんな些細なことでも行動する気力がわかない。せめて電気はつけようと酷く気怠げな体に鞭をうち電気をつけ時計を確認すれば八時を過ぎていた。

 

「……夕食の時間過ぎちゃったか……別にいいか、特にお腹が空いたわけじゃないし……」

 

昼食でそこそこ食べたから今日は別に食べる必要はないだろう。それに最近はどうも食べ物の味覚がわからなくなってきている。口に入れても味がわからないこともあって食べることも最近は義務的にやっている気がしてならない。

 

「……また寝ようか。鈴音さんが戻ってきた後にシャワーを浴びれば大丈夫なはずだから……」

 

汗が気持ち悪いけどシャワーを浴びたところでもう一度寝れば汗をかく時点で骨折り損だ。それならまた寝てまとめて洗い流したほうが効率的だ。もう一度ベットの中に潜り込もうとしていると扉が勢いよく開き、いきなりのことで視線をそちらに向ければ泣いている鈴音さんがそこにいた。

 

「……っ……ばかぁ、一夏なんてもう知らないんだから……っ!!」

 

「鈴音さん……?」

 

「……っ!?な、なんでここにアンタがいんのよぉ!!」

 

「……ごめん……」

 

酷く理不尽な怒鳴られ方をされたのはわかっているけどとてもそれを指摘するような雰囲気にはなれない。彼女が目を晴らして泣いていることもあるけど、彼女から怒りと悲しみが感じとれる。けど、流石に彼女のことをこのまま放置するわけにもいかない。

 

「え、えっと、これ使っていいよ。僕は部屋を出るから落ち着いたら呼んでよ」

 

「……別にそこまで気を使わなくていいわよっ……でも、ハンカチはありがと……っ」

 

ハンカチを渡してそれを受け取った彼女はそれで涙を拭き取る。鈴音さんも徐々に落ち着いてきたようで自分の泣いている姿を見られたこともあって居心地が悪そうにしている。

 

「やっぱり僕は出て行こうか?今日ぐらいなら僕は他の場所で過ごすからさ」

 

「……んっ、お願いだから今のアタシに気を遣わないで。あと、さっき理不尽なこと言ってごめん……」

 

「いいよ、アレぐらいは特に気にしてないよ。先にシャワーでも浴びてきなよ、今よりかは頭がスッキリすると思うから」

 

「……そうするわ」

 

鈴音さんは気怠げにシャワー室へと向かう。突然なことに未だに驚いてるけど……多分、一夏となにかあったんだよね?鈴音さんがここに来たのって昨日からで流石に他の人とトラブルを起こしたのは考えにくい。数十分ほど経つとシャワー室から頭にタオルを被せた鈴音さんが出てくる。

 

「えっと、温かい飲み物も用意したけど……飲むかな?レモネードだけど……」

 

「……そうね。もらっとく」

 

「…………」

 

「…………」

 

お互いにまだ知り合って一日しか経っていないこともあって部屋は静寂に包まれる。僕じゃなければ気の利いた言葉を言えたかもしれないけど僕にそんな芸当はできない。数秒か?それとも数分間の静寂を破ったのは僕ではなく鈴音さんだった。

 

「……話とか聞いてこないんだ、アンタ」

 

「……気にならないかって言われたら嘘だけど、誰にだって話したくないことがあるのは僕自身わかっているから」

 

「……そっ、アンタが案外気の利いた奴なのはわかったわ。……あー、グチグチ情けなく泣き喚くのはアタシには合わないわ。キラ、アンタは愚痴くらい付き合ってくれるわよね?」

 

「うん、鈴音さんが少しでも楽になるのなら付き合うよ」

 

気を取り直した鈴音さんの口からなぜ自分が泣いていたのか話す。要するに彼女は一夏と小学生の頃に約束したことがあるけれど一夏はその約束を間違えて覚えたらしい。

 

「――――ってこと。あー!今思い出したら腹立ってきたっ!戻ってもう1発叩いてこようかしらっ!」

 

「お、落ち着いてよ。一夏だってきっと混乱してるはずだからさ」

 

「……わかってるわよっ!!それで?」

 

「えっと、それでってなにがかな……?」

 

「アンタの意見も聞かせろって意味よ」

 

「……正直に言っても怒らないのなら言うけど……」

 

「怒らないから言って。まず部外者のアンタに怒ったらそれこそ八つ当たりじゃない」

 

本当に意見を言っていいのか躊躇ってしまうけど今この場で言わない方が怒られる気しかしない。あまり人の恋路には関わりたくないが流石にこれはしょうがないよね……?

 

「これはあくまでも僕の意見だけど……一夏も確かに悪いとは思うけど鈴音さんにも悪いところはあると思うな。約束を覚え間違えている一夏もだけど……小学生の頃に約束をしたことをきちんと覚えておくのは案外難しいと思うよ」

 

「……わかってるわよ。そりゃ、カッとなって叩いたのはアタシだし……確かに冷静なったら小学生の時に約束したのを覚えとけって言ってるのがめちゃくちゃなのはわかってる。けど、毎日おごってくれるって勘違いすんのは流石に文句の一つや二つは言いたくなるわよっ!!あん時だってそれ言うのがどれほど恥ずかしかったかっ!!」

 

「でも、鈴音さんはそんな一夏のことが好きなんでしょう?」

 

「は、はぁ?べ、別にあんな奴のことなんか……っっ!そうよ、好きよ、文句あんの!?アタシはあの馬鹿一夏のことが好きよっ!」

 

「なら、次はきちんと鈴音さんのその気持ちを真っ直ぐと伝えたらいいと思うよ。一夏はむしろそれぐらいしないと鈴音さんの気持ちに気づかないんじゃないかな。僕よりも付き合いが長い鈴音さんの方が一夏が鈍いのはわかってるでしょ?」

 

「んぐっ……そんなのわかってるわよ。……アイツがどんだけ鈍いのか。けど、告白してさ、それで振られたら一夏とどんな顔で話せばいいのかわからないじゃない……」

 

「……そうだね。僕は結局は部外者だから、必ず成功するって言えない。でも、これだけは覚えていてほしいな。想いを……ううん、なにも伝えることができないで別れる方がよっぽど後悔するってことは。……僕が偉そうに言えることじゃないんだけどね」

 

……なにも伝えることができないで別れることの方が酷く後悔する。僕はフレイに最後に伝えることもできなくて、彼女との約束も最後まで守ることもできなかった。鈴音さんの言葉を借りれば約束を守れない男の方がよっぽど最低だ。

 

「んっ、覚えておく。……答えにくかったら答えなくていいけどさ、アンタはいたの?好きな人」

 

「……うん、いた。僕にとってその人はなによりも大切で守りたい人だった。彼女がいてくれたらそれだけでよかったんだ」

 

「……情けなさそうなアンタが守りたい人ってどんな子だったのよ。けど、そんだけ好きなら告白すればよかったじゃん。今からでも遅くないんじゃない?」

 

「……彼女はもう僕の手の届かないところに行ったから……だから、みんなにはそんな後悔はしてほしくないんだ」

 

「……みんなってことはあの2人もってことね。そこはアタシにはって言う雰囲気でしょうが」

 

「あ、あはは……それについては僕はみんなの中立かな。……あまり個人に加担しすぎると痛い目をみそうだしね」

 

実際今日はその痛い目を見たしね、と昼の時の思い出したくない悪夢がチラつく。鈴音さんはその時にはいなかったからその意味がわかっておらずキョトンとしていたけど。

 

「まっ、愚痴に付き合ってくれてありがと。アンタって結構いい奴なのはわかったわ。てかさー、アンタ今日夕食は食べたの?」

 

「うっ……」

 

「その反応は絶対食べてないやつでしょ。……はぁ、あの千冬さんが頼み込むのも納得がいくやつだわ。さっきの愚痴聞いてくれたお礼でなんか軽めなものなら作ってあげる。……ただ、アタシが泣いたってのは絶対にあの馬鹿にはチクるんじゃないわよ?」

 

「えっと、その理由は?」

 

「そんなのアイツの口から謝らせたいに決まってるじゃん。女の子の涙は安くはないのよ」

 

これは一夏にさりげなくアドバイスするのも無理そうかなぁ。でも、一夏がなぜ鈴音さんが泣いていたのか自力で答えに辿り着けるのかと言われれば目を伏せたくなる。……今回ばかりは僕もフォローができないかなっとキッチンに立つ鈴音さんの背中を見ながら思うのだった。





えっ、詰め込み過ぎだって?いや、ちょっと深夜テンションで書いたらこんなことになりました。後悔はしてないけど、反省はしてます。……いや、ちょっと鈴音ちゃんかけてテンション上がってるのは否定しません。えっ?モッピーとキラ君の和解したの?だって?してませんよ、恋する乙女の力はそんなこと気にする暇はない時があるからね、しょうがないね(白目

けど和解が近いのは先に言っておきます。いつまでもギクシャクさせるわけにもいかないんで。てか、箒さんにも仕事あるんで。えっ、ちょっと1人不穏な空気出してないかって?キノセイダヨー、ホントホント。まぁ、次回は一気に飛ばしてクラス対抗戦やります。ぶっちゃけ書くことはこれで書いちゃったんで((

はい、それではいつもの誤字&脱字報告お待ちしています。訂正がありがたいです……そして、感想も願わくば((
あっ、ただ評価は本当投げないで……胃が痛くなるので((真顔


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第11話 クラス対抗戦


こんな時間帯に投稿する馬鹿(作者)です。へへっ、連続投稿は誰も予想していなかったでしょう。あっ、ほんと次はちょっと投稿は無理だと思います。キリが良かったので投稿したんです……((


(……結局はなにも進展はなかったね。一夏のことを考えると当然かなぁ……)

 

結局はクラス対抗戦まで一夏と鈴音さんの騒動は進展を迎えることはなかった。むしろ、本人同士では悪化したらしくその愚痴を度々聞かされてしまいその喧嘩の真相については誰よりも詳しい自信はある。……一夏は未だに鈴音さんに叩かれた原因に気付いておらず、僕も事前にその騒動の1人である彼女に口止めされているからアドバイスもできなかった。

 

(……まぁ、僕も箒さんに謝ることもできていないから、人のことをどうこう言える資格はないんだけどね)

 

僕自身も箒さんとは和解できておらず、のほほんさんとシャルロットさんのフォローがあっても失敗が続いている。僕から話しかけても避けられてしまって進展がない。僕と箒さんに何かがあったというのは隠すにも限界があり、最近クラスメイトはその件のことと一夏と鈴音さんの騒動の話で持ちきりだ。

 

「――――ラ、キラっ!アンタ、ちゃんとアタシの話聞いてるっ!?」

 

「……うん、ちゃんと話は聞いてるよ。えっと、なんだっけ……?」

 

「忘れてる時点で聞いてないじゃないっ!たくっ、人と話している時に何か考えるのいい加減やめたら?それアンタの悪い癖よ」

 

「……どちらかと言えば鈴音さんの話が大体同じなのが理由だと思うけどなぁ」

 

「ぐっ、一回愚痴を聞いてくれたからいいでしょ。それに朝から毎日叩き起こして上げてるからそれぐらいいいじゃない」

 

鈴音さんが涙を流したところ以降は彼女から遠慮ということがなくなりこうやって朝早く起こされて朝食まで無理矢理連行されることが続いている。本人曰く一夏と口を聞きたくないっと言っているけど、チラチラと一夏の方を見ていることを考えると本音は今すぐにでも話したいんだろうなぁ。

 

「で?アンタはいったい今日のクラス対抗戦はどっち応援するつもりなの?」

 

「両方かな。僕にとって2人は大切な友達だからどちらかを応援するのはできないよ」

 

「まっ、キラらしいと言えばらしい答えね。まぁ、アタシは一夏なんかに負けるつもりは全くないけど」

 

「一夏も訓練は頑張ってたようだから成長しているはずだし油断しない方がいいよ」

 

「……そうね。箒とセシリアと仲良く、とっても楽しい訓練をしてたんでしょうねっ」

 

出す話題を間違えたと気付いたがすでに遅く一気にご機嫌斜めになる。機嫌が悪くなった鈴音さんを宥めるのはかなり時間がかかる。これで負けたと言いがかりはしないとは思うけど……。

 

「あっ、いたいた。2人ともおはよう」

 

鈴音さんの機嫌を直すのどうしようかと頭を悩ませていたら、ちょうどよくシャルロットさんが声をかけてくれる。シャルロットさんのあの時の様子は僕の見間違いじゃなかったのかと思うほどにそれ以外は彼女はいつも通りだった。

 

「んっ、おはよう。シャルロットもよくここに来るわね。アタシが言うのもなんだけどここに来る以上はアタシの愚痴に付き合うことになるわよ」

 

「それについては一夏と恋する乙女が関係する以上はどこも変わらないんだよね。でも、それだとキラは毎朝じゃなくて夕食の時も愚痴を聞いてることになるんじゃ……」

 

「それについてはお互いの利害の一致の末よ。まず、キラって愚痴を吐きやすいし、あと単純に客観的に話してくれるのは素直に助かってるのよ。まっ、織斑先生とも約束しちゃったしね。クラス代表を譲る交渉をする代わりにキラの面倒見ろって」

 

「へー、鈴がクラス代表になれた裏にはそんな話があったんだ」

 

「あと、単純に約束を変な覚え方をしたやつへの当て付け。女の子を泣かせたことと、人のコンプレックスを口にした馬鹿への罰よ」

 

そっちの方が絶対本音だよねっと、口が滑りそうになるがなんとかすんでの所で飲み込む。シャルロットさんもそれを読み取っているからこそ苦笑いを浮かべているようだ。

 

「けど、私も鈴の気持ちはわかるかなー。やっぱり好きな人には喧嘩した後でも気になってほしいもんね」

 

「は、はぁ!?別にアイツが好きとか、そんなんじゃないからっ!そ、そういうアンタはどうなのよ。キラとしょっちゅういるじゃない。こっちに顔を見せてるのも本当はこっち目当てなんでしょー?」

 

「そ、それは気のせいじゃないかな?わ、私は別に毎日キラといるわけじゃないよ?ほら、キラは結構ぼっーとしてることも多いから見ててあげないとなって思ってるだけだからっ!」

 

「僕はそこまで呆けているつもりはないんだけど……」

 

「いや、それは絶対ないから。自分で気づいてないだけでアンタ上の空の時が圧倒的に多いわよ。特に放課後部屋にいる時とか」

 

「うん、悪いけど私も鈴音さんと同じかな。あとそこに授業中も含まれるからね」

 

いつのまにか僕の私生活についての話題へとシフトチェンジされて特に鈴音さんから遠慮なく駄目出しされる。もっと食べることとか、もっと人と話すようにしろとか。僕の交流関係の少なさはいつのまにか知られていて目を逸らすしかなかった。

 

「いい?アンタは自分が想像してる以上に2人目の男性操縦者として注目されてるのいい加減自覚しなさい。専用機をまだ持ってないからわからないのか知らないけど、専用機を手に入れたら覚悟した方がいいわよ」

 

「覚悟がいるほどになるんだったら専用機はやっぱりいらないかなぁ……」

 

「……専用機がいらないって言ってるの多分この学園内じゃアンタ1人よ」

 

「あ、あははは……」

 

実はISは持っていますと口が裂けても言えるわけがない。まずストライクは多分ISとしても未完成なのが現状だ。武装は豊富なんだけどストライカーパックがないのが現実、ISの適性検査の時は闇雲にビームライフルを射っただけでエネルギーがどれほど消費したのかは把握していない。ストライカーパックがない以上はエネルギー消費量については常に気にしなければならないことを考えないといけないだろう。

 

(……別にストライクに乗るわけじゃないのに気にする必要なんてないよ)

 

「ほらっ、すぐそうやってまた上の空になってる。別に考えるのはいいけど人と話してる時はやめなさい。まったく、一夏もそうだけど他の人の話を聞かないわよねぇ」

 

「まあまあ、キラもちょっと疲れてるからさ。鈴は今日のクラス対抗戦のコンディションは大丈夫?」

 

「当たり前じゃない。むしろ一夏が降参するまでボコボコにしてやるわよ」

 

「え、えっと、頑張ってね……?も、もちろん一夏を痛めつけることじゃないからね……?」

 

「流石にそれはわかってるわよ。シャルロットの口からそれを応援されるのを出た時にはよっぽどのことだと思うわよ……そんじゃあ、アタシはそろそろ準備しないといけないから先に行くわ」

 

「うん、頑張ってね、鈴」

 

「僕も鈴音さんのこと応援してるから」

 

「アンタは両方応援するんでしょうが。まっ、ありがたく受け取っておくことにするわ」

 

鈴音さんはクラス対抗戦の準備のために食器を片付けに行く。2人の試合がどうなるかちょっと不安ではあるけど最後には仲直りしてくれるといいなって切に願う。主にこれ以上は彼女からの愚痴に付き合うのは遠慮したいが理由ではあるけど……。

 

「それじゃあ、対抗戦は箒たちと一緒に応援しよっか。キラもそれで大丈夫だよね?」

 

「うん、それでいいよ。僕がいて大丈夫かわからないけど……」

 

「だ、大丈夫だよ!またキラに何かあったら今度は私がちゃんとフォローしてみせるからっ!」

 

「……うん、その時はお願いするよ」

 

セシリアさんが使っていたような武装がでない限りは大丈夫なはずだ。これは争いでもなければあくまでもクラス全体による恒例行事らしいし。……だけど何故か不安を覚えてしまうのは戦場に身を置いてしまったことが原因なのか。いや、今はそんなことを考えるのをやめて2人のことを応援しよう。それが僕のいまできることなのだから。

 

◇◇◇

 

 

「ふぅ、無事に席は確保できましたわね」

 

「朝早くから席確保をしておいて正解だったようだな。……それについては助かった、2人とも」

 

「ううん、気にしないで。私もキラも2人がどんな試合をするのか気になっていたしね。ねっ、キラ」

 

「う、うん。僕も友達を応援しないわけにはいかないよ」

 

やっぱり男性操縦者である一夏がクラス対抗戦に出ることもあるのかアリーナはすぐに満席になった。鈴音さんも中国代表候補ということもありどれほどの実力を持っているのか興味を持つ人がいるのもあるだろうけど。

 

「もう、そろそろで始まりますが一夏さん大丈夫かしら……確かに訓練はこの日までにやれることをやりましたが不安というのはどうしても生まれてしまいますわね……」

 

「簡単に負けてしまえばそれだけだったと言うことだ……だが、一夏ならばそうならないのを信じるしかあるまい」

 

「大丈夫だよ。確かに鈴音さんは強敵なのは間違いない……だけど一夏ならきっと勝利を掴んでくれるはずだよ。だってクラスみんなの期待を背負ってるからね」

 

「……それだけ聞くとカッコよく聞こえますが、みなさんの狙いは優勝賞品である学食デザートの半年フリーパスだと言うのを忘れさせないでくださいまし」

 

「……うむ、それはあくまで結果の末手に入れてしまう物だ。仕方がないと言うことだ」

 

どうやらこのクラス対抗戦で優勝したクラスには学食デザート半年フリーパス券が配られるのを僕は最近知った。どうりでみんな一夏に向ける優勝エールの熱意が凄かったんだと知った日に納得したよ。

 

「まぁ、そのクラス優勝賞品狙いではなく、その2人の実力を純粋に知りたい学生もいるってことも忘れちゃだめよ、そこの一夏君大好きっ子たち」

 

「だ、誰があの大馬鹿者のことなど……!!」

 

「そ、そうですわ!私はあくまでも唯一の特訓相手としてですねっ!!」

 

「ま、まあまあ、2人とも落ち着いて……」

 

「ちょっとしたことで動揺するのは答えを言っているようなものよー?けど、そんなに意地を張っていたらいつか大事な一夏君を誰かに取られるかもしれないわよ?例えばおねーさんみたいな人とかに。ねぇ、キラ・ヤマト君?」

 

「えっと、それは一夏次第としか言えませんよ……それよりも貴女はいったい……?」

 

「もー、あんなに一夜を仲睦まじく話したのに私のこと忘れちゃったの?おねーさんちょっと、ううん、かなーりショックかも……」

 

「あ、えっ、えっと……」

 

「……キラ、その話はちょっと私も気になるかなって」

 

「えっ、シャルロットさん……?」

 

いつもよりもずっとトーンが低い声で彼女から肩を掴まれてなぜか嫌な汗が溢れる。表情は笑顔なはずなのに目が笑っていないのはどうしてだろうか?そんな僕とのやりとりをこうなった原因を作った張本人である水色髪で赤い瞳の人はクスクスと愉快そうに笑う。

 

「ふふっ、冗談よ。確かに話はしたけれど"あの時"はお忍びだったもの。けど、ちょっと意外だわ。フランス代表候補であるシャルロットちゃんがキラ君に心を寄せてるだなんて。てっきり織斑君の方だと思ってたもの。……それとも、他の理由があったりするのかしら?例えば仲良くしやすい方だとか、ね?」

 

「――っ!?な、なんのことですか?私にとってキラと一夏は大切な友達です」

 

「そう。それならお姉さんは安心できるわ。学園に仇なす者はどんな子でも敵になっちゃうから。……それじゃあ、私もこのカードの観戦に戻らせてもらうわね。前に約束した自己紹介はまた後でね、キラ・ヤマト君?」

 

突然と現れてその人は嵐のようにさっていく。そして見えなくなる前に最後に振り向いて僕と視線を合わせれば扇子で口元を隠す。その姿にその人が誰なのかがわかりあっと声を漏らすがその声は周りの声でかき消され、その人は僕が誰なのかを理解したと察したのか人混みの中へと消えた行った。

 

「あの人はまさか……いえ、ですが一夏さんと鈴音さんの試合に興味を持つのは当然ですわね」

 

「……私の記憶が正しければあの人は生徒会長だったはずだ。そんな人がどうして?」

 

「ほ、ほら、今はそんなことよりも一夏と鈴の試合がそろそろ始まるよ。2人を応援しないと」

 

(……僕が間違ってないならあの人はクラス代表パーティーで話した人だ。でも、どうしてあんなシャルロットさんを確かめるようなことを……?)

 

心なしかシャルロットさんも無理に振る舞っているように見える。あの人の言葉とシャルロットさんが何かに怯えていることが気になってしまう。そんな中で2人の試合が始まるブザーが流れる。その瞬間お互いに接近武装を展開して動いた。

 

「一夏さんは武装の都合上接近するしか選択肢がないのが現状、わたくしの時は確かにそれは有効でしたが……やはり彼女の場合はそうもいきませんわね」

 

「だが、逆を言えば接近さえ出来れば一夏にだって勝機はある。……むしろそれしかあるまい」

 

「一夏の武装は『雪片弐型』だけだからね……どうにかして一撃または二撃入れば必ず勝てるけど……その道のりが険しすぎるよ」

 

お互いに激しい攻防をしているが優勢なのは代表候補としての肩書きを背負っている鈴音さんだ。むしろ彼女になんとか喰らい付いている一夏は頑張っている方だ。……だけど戦い、勝負というのは常に自分の有利なフィールドで戦えることなんてのは絶対にない。これ以上の接近戦は分が悪いと判断した一夏は流れを変えるため、一旦引こうとするがそれを読んでいた鈴音さんが肩アーマーを開いた次の瞬間に一夏の体勢が崩される。

 

『そしてこれが本命のぉ!!ファーストブリットぉぉぉ!!』

 

『がっ!!』

 

体勢を崩した一夏に容赦なく、彼女はその手に握る青龍刀を力任せに叩きつける。あの一撃には多分溜まっているものが全て入っていたんだろっと思うぐらいに遠慮はなかった。

 

「さっきのは何が起きたんだ……?」

 

「『衝撃砲』で一夏は体勢を崩されたんだよ。鈴の専用機に搭載されている遠距離武装。一夏はアレを突破しないかぎり彼女には勝てないよ」

 

「……一夏」

 

(……まるでブリッツが使うミラージュコロイドみたいだ……)

 

砲身も砲弾も目に見えないということは一夏が頼りにできるのはISによるハイパーセンサーと空間の歪みによって感じる自身の感覚だけだ。戦況はあまりにも絶望的でこの試合を見ている人は多分誰が勝つのか予測は付いている。

 

(……でも、一夏。僕は君がこの戦いで諦めないのがわかるよ。君は誰よりも心が強くて、きっと立ち向かえる。……僕の知ってる、織斑一夏はそんな人だから)

 

僕は言葉にすることなく心の中で一夏の勝利を願う。彼はきっとどんなことでも諦めることなく立ち上がる強さを持っている。一夏の心がまだ諦めていないのが僕にはわかる。何か思いついた一夏は武器を構えて、迷うことなくただ一直線に突っ込む。鈴音さんも何かがあると武器を構えて、2人がぶつかるその瞬間に大きな衝撃がアリーナ全体に走る。

 

「い、いったい何が……!?」

 

「いったい何が起きたと言うんですかっ!!」

 

「な、何が起きたの……!?」

 

突然襲ってきた衝撃にアリーナにいる全生徒に動揺が現れる。それは僕のそばにいた3人も同様で突然のことに混乱していた。僕はいったい何が起きたのか――――何が降りてきたのかその姿を一瞬だけこの目で捉えることができた。そして声を上げるよりも前に煙越しからレーザーがアリーナで戦闘をしていた2人に発射された。そしていったいこの学園に何が起きたのか理解した会場はパニックになる。我先にへと観客席から出入り口へと向かうがそれはロックされていて開くことはない。

 

「なんで、なんで開かないの……!?」

 

「誰か、誰か開けてよぉ!!」

 

本来ならば機能するはずの扉が全てロックされている。その事実に観客席にいる人へ恐怖は次々と伝染する。僕はそれがいかにまずいことかはヘリオポリスにザフトが襲撃した時から知っている。教員たちも数人いたようだけどそれだけでは到底手が足りていない。

 

「――――みんな、落ち着きなさいっ!!今、余計に混乱してしまったら更に被害が広がるわ!!先生たちが既に対処しているから落ち着いて今は待機しなさい。貴女たちのことは何があっても、生徒会長である私、更識楯無が必ず守るわっ!!」

 

 

――――その言葉でこの場にあった恐怖は大きく和らいだ。この状況でありながら恐怖を見せることなく凛とした佇まいでその人はそこにいた。パーティーの時と試合が始まる前に僕らに話しかけてきたのはこの学園の生徒会長だったこと、そして一言でこの場を静めた彼女のカリスマに唖然とする。

 

「……流石のカリスマ性ですわね。一瞬でこの場を支配しましたわ」

 

「う、うん……でも、これなら一先ずは大丈夫かな?私たちも何か――――って、箒っ!?」

 

「箒さんっ!?」

 

「……あそこにいる一夏がっ、一夏が危ない……っ!!」

 

「っ!?箒さんは僕がどうにかするから2人もなるべくここから離れてっ!!」

 

この場の混乱が収まったこともあるのか冷静になった箒さんは、忽然と現れた襲撃者の存在がアリーナにいる2人を標的にしていると理解した彼女の行動は早かった。突然と箒さんが駆け出したことにシャルロットさんとセシリアさんは困惑するが僕は嫌な予感がして、2人に避難するように言って後を追いかかる。

 

(――――っ、箒さんのあの目は危険だっ!!きっと、危険なことをしようとしてるっ!!)

 

今の彼女は何をやるのかわからない。北アフリカの時にカガリとそのレジスタンスが敵討ちでMS相手に挑んだ時に近い。彼女が運動部に所属していることもあって追いかけるのには一苦労したがなんとか彼女が中継室に入り込むところを捉える。彼女がいったいなにをしようとしているのか理解した瞬間背筋がゾッと凍るような感覚に襲われ急いで中継室に入り込む。そこには彼女以外は人はおらず慌ててこの場から避難した形跡があった。

 

「――――一夏ぁッッ!!」

 

「っ、間に合えっ!!」

 

彼女がスピーカーを使い彼の名を呼ぶ。だけどそれがどれほど危険な行動なのか理解していない、最悪なことになる前に彼女の腕を強引に引き覆い被さる。そしてその瞬間に中継室に轟音が鳴り響いた――――

 

 

 




はい、今回はクラス対抗戦もとい襲撃回でした。ちなみに念を押しておきますがアンチ・ヘイトは私めはやるつもりはありません、これだけは絶対にやりません。アンチ・ヘイトやるぐらいならこの作品消します((タグ付けとこ

多分、みなさんはずっと待ち侘びたことを次回やることを宣言しておきます。ただ、内容についてはあまり期待しないでくださいね?……いや、本当にお願いします((土下座

えっ?モッピーと和解を早くだって……?ガンダムSEEDの醍醐味はちょっと曇ることだと私思ってるんです。だから、もう少し箒さんには頑張ってもらいます。そのあとはほんとちゃんと和解させますので。

いつものように誤字&脱字をお待ちしております!そして報告にいつも助かっております……そして感想はいつもありがとうございます!本当に励みになっています!それでは次回の更新は未定ですが気長にお待ちください!


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第12話 ストライク、出撃



――――待たせたなぁ!!((ドンッ

多分、みなさんが待ちに待ったこの回だと思います。そして先に言っておきますがクオリティは期待しないでください…いや、本当にマジで((吐血

あっ、こんだけ投稿したから二ヶ月はサボってもいいですか……?


「――――数名の教員を中継室に向かわせろっ!!今すぐにだっ!!」

 

「は、はいっ!!」

 

(……お前はっ!お前はいったいなにが目的でこんなことをした束っ!!)

 

ここIS学園のセキリティを突破し、この第二アリーナを一斉にクラッキングできる人物は世界中を探しても織斑千冬の中では彼女しか不可能だと知っている。何の下準備もなしにできるのはこの世界でのただ1人の天災だけだと。篠ノ之箒がただ無事であることを信じる。織斑千冬は対峙している織斑一夏と凰鈴音が無事に戻ってくることを願うことしかできない自分にただ怒りが湧き上がるのだった――――

 

 

 

「――――箒ぃぃぃっっっっ!!」

 

「……うそっ……」

 

第二アリーナで織斑一夏の悲痛な叫び声が響く。凰鈴音は目の前で起きたことを現実と受け止めることが出来ずただ呆然と立ち尽くす。彼らの視点のその先には破壊された中継室があり、とてもその場にいた1人の少女が生存するには絶望的な状況だった。剥き出しのセンサーレンズである赤いモノアイは余分なモノを排除したのち、不気味な音を鳴らしながら元から標的であった彼らへとモノアイを向ける。

 

「てめえぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「ば、馬鹿っ!!真正面から突っ込んだら……っ!!」

 

彼女の言葉はもはや彼には届いておらず怒りという感情に身を任せて一直線に突っ込んでいく。襲撃者は不気味にそして無機質に片腕と一体化しているアームキャノンを織斑一夏へとロックする。本来ならば織斑一夏が距離を詰め凰鈴音が援護するという形でかろうじて成立しているモノだった。しかし、タイミングを合わせることもなく一直線に突っ込むのは自ら的に成りにいっているようなものだ。

 

「一夏あぁっっっっっ!!」

 

自身の援護が間に合わないと本能的に理解した彼女は一夏の名を悲痛に叫ぶ。襲撃者のレーザーが一夏へと直撃する前に緑色の閃光がアームキャノンを直撃して暴発する。突然の第三者による狙撃により織斑一夏、凰鈴音、そして襲撃者の視点はある場所へと一点に集中する。

 

「……あれは、ISなのか……?」

 

「……なんで中継室にISなんて……機体名称は、『ストライク』……?」

 

中継室に突然と現れた身元不詳のISに2人はただ困惑をする。襲撃者とは違い白を基調した青と赤のカラーリングを配しているISはただ一点に襲撃者だけを見ている。そしてその謎のISの正体を知っている2人にもその姿をしっかりと捉えていた。

 

「――――っ!織斑先生、また新たなIS反応ですっ!!……この、反応は『ストライク』……っ!?まさか、キラ君……っ!?」

 

「……っ、そうか、お前はその道を選ぶのか、キラ……」

 

山田真耶は本来ならばあり得ないと思っていたIS反応に驚愕し、織斑千冬はこの学園を入学する際に彼――――キラ・ヤマトと約束したこと思い出す。苦しそうに何かに怯えるようにISに乗せないでくれと懇願された時のことを。

 

(……頼む、キラ。こんな願いをするのは私の勝手だとわかっている。だが……どうか2人を守ってくれ……)

 

ブリュンヒルデという名を持ちながらも、今なにも出来ていない自分が情けなくて仕方がなかった。キラ・ヤマトが本来戦える精神ではないことを彼女は知っている。だが、それでも彼女はそんな彼に希望を託すしかなかった。異なる世界から現れた、たった1人の少年へと――――

 

◇◇◇

 

 

「――――さませっ!目を覚ませ!キラっ!!」

 

酷く体が痛い。僕はなにをしていたんだっけ……?誰かが僕の名前を呼んでいる……?誰の声かハッキリと聞き取れな。目を開けても集点が合わずに誰かわからない。いないとわかっているくせに僕は無意識に彼女のその名を口にする。

 

「……フレ、イ……?」

 

「……っ!!私だ、篠ノ之箒だ!しっかりしてくれ……っ!!」

 

涙ぐんだ声が誰なのかわかったことにより自分の身に何が起きたのかを理解する。直撃は避けたようだけど多分その余波で怪我をしたことを漠然とだけど把握できた。体を起こそうとすればその痛みに襲われるが歯を食いしばる。自分の体のことなんて気にしている暇はない。

 

「……どう、して……どうして君は、こんな危険なことをしたんだっ!!」

 

「……っ!……それ、は……一夏が……」

 

「わかる、けど……箒さんの気持ちはわかるけど……でも、それで君が、こんなことをして危険な身にあったらなんの意味もないじゃないか……っ」

 

「……っ……それはっ……」

 

彼女が一夏のことを想っているのは僕だってわかっている。でも、一夏が心配でそれでこんな危ないことをして、彼女が命を落としたらそれこそ何も残らない。自分が後少しで命を落としていたという事実に彼女は涙を流すがそれでも震えた声ではっきりと言葉にした。

 

「……わかっている……っ……キラが言っていることが正しいのはっ……でも、一夏が、一夏が危険な時に……何もできないなんて……わたしには嫌なんだっ……」

 

それは紛れもない彼女―― 篠ノ之箒の本心だった。確かに彼女の行った行動は褒められることじゃない……だけどその想いは間違いなんかじゃない。大切な人を目の前で失うかもしれないことに恐怖している箒さんの姿に僕はあの時の彼女の姿が重なってしまう。自身の目の前で彼女と父親が乗っていた戦艦がザフト軍に襲撃された時のことを。

 

「……箒さんは、一夏のことが大好きなんだね……」

 

「……好き、だ。……私はアイツがいなくなるぐらいなら死にたくなるぐらいに好きだ……っ」

 

「……うん、なら、箒さんは一夏のことを想っていて……僕も、君が彼のこと想っているのなら……今の僕でも多分大丈夫だから……」

 

「……な、なにをするつもりだお前はっ!!そんな体で無茶をするなっ!!」

 

「……大丈夫、これぐらいの怪我なら、まだ大丈夫だから……」

 

頭のどこかを怪我したのか血が流れていて前は見えにくいし、体は痛みで酷くその中でも左肩は異様に痛む。左肩は多分脱臼か何かをしているのだろう。フラつきながらもなんとか立ち上がる。思い出すのは鈴音さんの一夏への想いと先程言った箒さんの一夏への想い。

 

 ――本音を言えば今すぐにでも逃げ出したかった。今だってこうやって立ち上がる必要がないと訴えている自分がいる。僕がやる必要はない、見て見ぬ振りをすればいい。僕以外にも戦える人はいるんだって。全て他の人に任せてしまえばいいって。今だって戦いたくないと悲鳴をあげている――――

 

「――――けど、僕は知ってるから……友達を、大切な人を失うのが、どれだけつらいのか……もう、嫌なんだ……大切な人を目の前で失うのだけはもう……っ!!」

 

トールやフレイを失った悲しみ、怒り、憎しみを彼女たちに味合わせるわけにはいかない。こんな自分勝手な願いは許されないのかもしれない。でも、もう目の前で誰かを失うことだけは嫌なんだ。僕の気持ちに呼応するかのようにIS――――ストライクはまるで全てを理解しているかのように僕の体を纏う。

 

「……これは、IS……?」

 

呆然とした箒さんの声はハイパーセンサーにより鮮明に聞き取れる。ストライクをただ纏っただけなのに自分の体、そして心が拒絶して悲鳴を上げている。一夏が激昂して襲撃者へと一直線に突き進む姿を捉えた僕は即座に右手にビームライフルを展開する。

 

(……やれるのか?今の僕に……いや、今だけは迷ったらダメなんだっ!)

 

――僕は迷うことなくビームライフルの引き金を引いた。レーザーは無事に相手の腕にある武器に直撃し暴発する。再度戦いに身を投げることに後で後悔するのかもしれない……そんなことが頭によぎるがそれを振り払う。

 

「箒さんは今すぐにこの場から離れて。観客席に戻ればセシリアさんもシャルロットさんもいるはずだから。2人のそばを絶対に離れないで。大丈夫、鈴音さんとそして一夏はどんなことがあっても絶対に守るから」

 

「……っ!……わかった……だが、キラも、お前も無事に戻ってくるのを私は信じているからな……っ」

 

「……ありがとう。――――行こう、ストライク」

 

ビームライフルから対ビームシールドに装備を切り替えてから僕はこの場から離れるためにスラスターを吹かし、アリーナへと着地する。たったそれだけの動作で体が痛むがそれを気にする時間なんてない。ハイパーセンサーで全ての視線が僕に注がれているのは視えている。……体全身を覆うタイプだったのは救いだったかな、そうじゃないと怪我しているのは一瞬でバレていた。

 

『――――そこの身元不詳のISっ!アンタは敵と味方どっちっ!?まず誰が乗ってんのよ!!サッサっと答えなさいっ!!』

 

『それよりも箒は無事なのかっ!?箒は――――』

 

『うん、箒さんは大丈夫。確認したところ大きな怪我はしていないと思うから。けど、後でちゃんとした人に診てもらった方がいいと思うよ』

 

初めはプライベートチャンネルで送られてきた通信に答えるか悩んだけれど一夏の酷く動揺した声に我慢できずに彼女は無事であることを伝える。できるのならストライクに乗っていることが僕だとバレるのは避けたかったけど、そんなことを考えられる状況じゃない。

 

『なっ!?そのISに乗ってるのってキラなのっ!?なんでアンタがISを持ってるのよ!?てか、なんでこんな危険な場所に来ちゃったわけっ!?』

 

『り、鈴っ!お前の言ってることはわかるけど今はアレをどうにかするのが先だろっ!?それにキラだって俺たちのことが心配で――――』

 

『心配してIS乗って来ても、アイツはど素人よっ!?アンタだって箒が後少しでどうなるかはさっき見たでしょうが!!キラっ!!アンタは早く離脱しなさい!!死にたくないんならサッサっと――――』

 

『――――大丈夫。絶対に足手纏いにはならないから……鈴音さん、今だけは僕を信じてくれないかな』

 

『っ!?もう、アンタも勝手にしろっ!!どうなっても責任は持てないからねっ!!』

 

あの様子なら鈴音さんの説得はなんとかできたはずだ。……それにしても不可解なのはあの謎のISだ。プライベート・チャンネルで会話をしている時でも警戒はしていたのに攻撃してくる気配が全くない。それにビームライフルで武装を狙撃した時に反撃してこなかったことも気になる。

 

『……あのISは不気味だ。それに武装が破壊されてるのにそれを取り換えることをしない、どうして?』

 

『キラも違和感を感じるのか……?』

 

『……うん。それにさっきから人が搭乗している気配を感じないんだ。ISが動いてるのは確かなんだけど……』

 

『……なに?アンタもあのISは無人機だって言うの?一夏にもさっき説明したけどISが無人機なのはあり得ないのよ。ISは人が乗らないと絶対に動かない』

 

この場でISの知識を一番持っているのは鈴音さんだ。僕と一夏はまだ教科書の知識を蓄えているだけに過ぎない。……これが経験と言うには酷く抵抗があるけれどあのISから敵意や殺意を感じない以上は人が乗っているとはどうも考えられない。

 

『……だったら僕がそれを確認するよ』

 

『はぁ?確認ってどうや――――』

 

「――――こちらIS学園所属パイロット、キラ・ヤマトです。こちらには貴方と戦闘をする意思はありません、武器を下ろしてください!繰り返します。こちらIS学園所属――――っ!」

 

プライベート・チャンネルからオープン・チャンネルに切り替え応答を呼び掛ければ、破損していない方の片手で先ほどのようにレーザーを発射してくる。いつもならば回避という選択肢を選ぶけど対ビームシールドで受け止める。受け止めれば体が悲鳴を上げ左肩に激痛が走り地面に膝をつく。残りのシールドエネルギー量の警告音声が聞こえてくるものの、そちらを聞き取れる余裕はない。

 

『なにしてるんだ、キラっ!?自分に撃たせるって危ないだろうがっ!!』

 

『アンタ馬鹿っ!?相手が無人機かどうかの確認するならそれ以外にも方法があるでしょうがっ!!』

 

『これが、確かめるには確実だったから……でも、間違いないよ。あのISは操縦している人はいない……敵意も殺意も感じなかったから……っ』

 

無人機であることについては間違いないと断言できる。そしてこれは半分は自分が相手に人が乗っているかどうかの確認も含んでいた。けれど、結果は人は乗っていないのは確実……それなら今の僕でもアレとはまだ戦える。

 

(……無人機ならどうにかできる。でも、僕の今の体じゃ長期戦は無理だ。せめて、シュベルトゲベールとアグニのどちらかがあったら……)

 

その2つのどちらかがあれば一撃であの無人機を戦闘不能へと追い込むことはできた。ストライクの今の武装には相手を一撃で戦闘不能へと追い込むには火力が低すぎる。……ビームサーベルの出力を最大まで上げれば?いや、それだけでは足りない。

 

『なぁ、鈴。相手が無人機ならあの作戦でやっぱりいいんじゃないか……?』

 

『一夏の雪片弐型でぶった斬るって案?そりゃ、それが確実なのはわかるけどアンタ、失敗したら本当に危ないわよ……?』

 

『そ、そんな危険なことはしなくていいよ。アレは僕がどうにかする、だから――――』

 

『このメンツの中じゃ、そのアンタが一番経験不足でしょうがっ!!』

 

『それは……っ』

 

鈴音さんの一喝に僕はなにも言い返すことができない。自分が異なる世界で戦争に参加していたと打ち明ける勇気は僕にはまだなかった。……っ、だけどこのままじゃ駄目だ。指を加えて2人だけを戦わせることなんてできない。

 

『……なら、その作戦を少しでも僕が成功率を上げる。それならいいよね』

 

『成功率って……それは確かに俺としても助かるけど、キラは無理する必要はないんだ』

 

『……大丈夫、僕は大丈夫だから。一夏、僕を信じてくれる?』

 

『……わかった。俺はお前を信じる』

 

『……ありがとう。合図は無人機のもう一つの武器を破壊した時だ、その時に一夏はその作戦を実行して』

 

目の前の無人機に意識を集中させるためプライベート・チャンネルを閉じる。対ビームシールドを前方へと構えてそのままスラスターを使い一直線に突っ込んでいく。無人機はそれに反応して容赦なくレーザーを射ち、シールドに着弾する。絶対防御に衝撃は守られていても着弾するごとに体が痛む。

 

(……勝負は、たったの一瞬だ……っ!相手の射撃に一瞬のラグがあるからそこを狙う……っ!)

 

僕は事前にある武器を脳内で想像する。そして無人機と肉薄する瞬間に対ビームシールドを消滅させる。しかし、無人機はエネルギーの充電が溜まったのかそのエネルギーの塊を射とうとしている。――――ISの武装展開にはどれだけ早くても数秒の時間がかかってしまう。だけど、その数秒のラグを解決するできる方法を僕は知っている。

 

「――――やらせるもんかぁっ!!」

 

高速切替(ラピッド・スイッチ)による武装展開により僕の右手にはアーマーシュナイダーが握られており、それを躊躇いなくエネルギーを放出しようとしていた腕へと突き刺す。爆発に巻き込まれるがアーマーシュナイダーを引き抜き、相手を蹴り上げてそのまま上空にへと飛翔する。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

一夏が咆哮をしながら今までとは違い、圧倒的な速度で肉薄して無人機に『雪片弐型』を右斜めから一刀両断する。機械特有の火花を散らし、襲撃者はモノアイを点滅させながら崩れていく。おとずれたのは静寂で僕はゆっくりと空から地面へと着地する。

 

「――――一夏!キラ!よくやったわ、アンタたち!!」

 

鈴音さんも無人機を撃墜したのを確認して駆け寄ってくる。なんとなく無事に終わったことによりホッと一息使うとした時にゾクリと背筋が凍るほどの悪意を感じた。ISによる警告音により誰に向けてロックを向けているのか気づく。そしてそれは無慈悲にも射たれる。完全に脅威を消し去ることができたと気を緩めていてそれを止められる者は誰もいなかった。

 

(……っ!!無人機を倒した一夏でも、邪魔をした僕でもないっ!!狙いは――――)

 

「――――あっ」

 

「りぃぃぃぃぃんっっっ!!」

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!」

 

無人機から突然感じた人の悪意が誰なのかはわからない。ただ、その人の思い通りにはさせるわけにはいかない。対ビームシールドを展開するのも忘れて無我夢中でそのレーザーを遮る。IS学園の遮断シールドを軽々と突破したレーザーがそのまま直撃する。ストライクからシールドエネルギーが0になった警告音が鳴り響き、意識は朦朧としていく。外から誰か必死に呼びかけてくれるが聞き取れない。

 

(……フレ、イ……僕は、約束を、守ることが、できたよ……だから、僕も――――)

 

"彼女"との約束を守ることができたことに安心して僕は意識を手放した。彼女の元に行けることを願いながら――――

 

 

◇◇◇

 

「はぁぁぁぁ!?なに束さんの攻撃を邪魔しちゃってるのっ!?あのISっ!!」

 

――――モニター越しに最後に映った光景に女性は納得のいかない結末に声を荒げる。頭にうさ耳をつけてメルヘンな服装をしているのはなにを言おうISの生みの親である篠ノ之束だ。

 

「箒ちゃんを助けてくれたことに免じて、今回だけは見逃してあげようかなって思っていたのに最後の最後で邪魔するなんてっ!!これなら初めからあっちを狙っていた方が良かったよ!!」

 

最後に大破していた無人機を操縦して凰鈴音を始末しようとしたのは彼女であった。織斑一夏――いっくんの周りをうろちょろしていたアレにはそろそろ目障りだと思っていた。アレが引っ越した後は会うことはないと思っていたがまさか学園にまで行くだなんて彼女は流石に想定していなかった。

 

「まっ、邪魔者はまた後で始末すればいいか。あの様子だとあのISのパイロットは多分死んだと思うし気にすることはないかなぁ。……ただ、あのISは私も知らないものだった。あんな特徴的ならこの束さんが忘れるだなんてあり得ないんだけどなぁ」

 

クルクルと椅子を回転させながら天才は謎のISについて考える。彼女はISであるのならば専用機から量産型まで全て頭の中に入っているはずなのだ。それなのに彼女の記憶にそれに該当するものはない。

 

「気になると言えば、普通はエネルギーが切れたら待機状態になるのにならないで色が剥がれて、そのまま機能停止した事だよねぇ………日本に戻るのは箒ちゃんの専用機が完成したときにするつもりだったけど、あのISのデータ回収するために戻ることにしようかなぁ。パイロットも大方死んでいるだろうし!うん、あのISは束さんが引き取ってあげないと!!」

 

自身の知らない未知のISの存在に彼女は心を躍らせる。なんたって彼女にとってこの退屈な世界で久々に好奇心を抱いたものなのだから――――






ストライクが出撃、そして颯爽の撃墜回でした。しょうがないね、肉体的負傷&素のストライク。なんならそこに精神的デバフもあるからねっ!キラ君にはもっと頑張ってもらわないと((目逸らし

はい、そしてキラ君がストライクに搭乗したことによりこれから話も少し進んでいきます。専用機持ちであるというのはもはや隠せなくなってしまいましたので。ちなみに先にネタバレしますが当分はキラ君の精神が戦闘した反動でクソみたいにヤバくなります。箒さんと鈴ちゃんの一夏への想いがあってなんとか奮起した感じなので。まぁ、そんな状態でもキラ君にはある少女のために頑張ってもらいましょう!

はい、誤字&脱字はいつでもお待ちしてます。感想もみなさん毎度ありがとうございます……これが人の温もりか((


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第13話  和解



――――お前も、ひんぬー派にならないか?((

なんかあっさりとした回だと思いますが許してぇ……久々のガンブレ3にハマったのは悪くないと思うんです。ガンブレ3を誰か執筆してもいいですよ……?ブルディス機体縛りで((

あ〜、ミサちゃんが可愛いんじゃ。やはり、ひんぬー、ひんぬーは可愛い、控えめに言ってミサちゃんは最高だと思います。Newガンダムブレイカーなんてなかったんだ((

ミサちゃんをいじりたいと思うのは私だけじゃないと思います。ペチャパイだって需要はあるに決まってんだろぉ!!




(……私のせいだ……私のせいでキラは撃墜された……私が原因でアイツは怪我をしたんだ……)

 

――――篠ノ之箒は寮の自室でベットの上で毛布に包まり自責の念に苛まれていた。彼女のことを助け、彼女の想いを聞き戦いへと身を投げた少年は未だ意識不明の重体という結末を迎えた。あの時に自分が彼を止めていれば、いやあんな行動をしなければこんな悲劇は避けられたのだと何度も自分を責める。

 

(……私はキラのことを避けていたのに……それなのにアイツは……っ)

 

篠ノ之箒とキラ・ヤマトは友達ではあったが関係はある一件で亀裂が入った。イギリス代表候補であるセシリア・オルコット、世界で初の男性操縦者である織斑一夏とのクラス代表選の最中にキラ・ヤマトが突然精神錯乱に陥ったことが原因だ。それ以降は彼女は意図的に彼との接触を避けることになった。それはあの時のキラ・ヤマトが人が変わったようになったことか?それは確かに含まれていたのかも知れない。しかし、それだけではなかった。

 

(……あの時のアイツには……確かに怒りと憎しみを感じたんだ……あの時の姉さんと同じように……)

 

『ねぇ、箒ちゃん。こんな世界はね、一度痛い目を見ればいいと私は思うんだー』

 

幼い頃に実の姉である篠ノ之束の怒りと憎しみに支配された瞳に覗かれた。そのことは彼女にとって今でも恐怖していることだった。幼い頃のトラウマを掘り起こされた彼女は再度キラ・ヤマトがかつての姉のようにその瞳で覗かれれば正気でいられる自信がなかった。剣道を続けているのももしかしたら織斑一夏に会えるかも知れないっといった希望、そしてあの瞳に負けない精神を得るために過ぎなかった。

 

(……許されないのはわかっている……ただ、私は謝らないといけない、キラに……)

 

彼が自分に謝りたいと知りながらも拒絶したことに、そして今回の重傷を負わせたことを。そんな彼女に一本の連絡が入る、そしてその通話が終わる時には部屋に彼女の姿はなかった――――

 

◇◇◇

 

 

――――暗い部屋の中で自分のやってしまったことから逃げるようにただ無我夢中に彼女を何度も抱きしめる。"守る"ために引き金を引き、人を殺してしまった恐怖から彼女という身体の温もりを求めた。彼女はそれを拒絶することなく優しく自分の胸に抱き締める。

 

――――大丈夫。私の想いが貴方を守るわ

 

「……夢、か……」

 

目を覚まして視界に入ったのは見慣れた天井だった。虚ろな目でその天井を見上げ、さっきのは夢であると言う事実に心が軋む。夢で見たのは彼女にしてしまった許されないこと、それはかつてアークエンジェルで実際にやってしまったこと。そしてそれと同時に自身がまた生き残ってしまった現実に虚無感に支配される。

 

「目が覚めたようだな。一日意識をなくしていたが……気分はどうだ?」

 

「……織斑、先生……僕は、僕はどうして……また、生き残っているんですか……?」

 

「……っ、キラ、お前は……」

 

織斑先生がなぜ苦しそうに顔を歪めるのか、僕にはわからなかった。この人がここにいるってことはみんなは大丈夫なはずなのに。それなのに、なぜそんな表情をしたのだろうか……?

 

「……その言葉、私以外の前では絶対に口にするなよ」

 

「……わかり、ました……みんなは、大丈夫ですか……?」

 

「……ああ、箒のやつは軽傷で済んでいる。ただ、心の方は重傷だろうな。アイツの口からことの経緯は聞いている。……お前はなぜそんな怪我をしている中でISに乗ったんだ?下手をすればお前は命を落としていたんだぞ」

 

「……一夏たちには、僕のように大切な人を失わせたくなんてなかったんです……それがどれだけつらくて、悲しいことかは僕はよく知っていますから……」

 

僕のこんな命ひとつで一夏たちが守れるのなら安いものなのだ。僕にはもうその手を掴むことができないけど、彼らは違いまだ手を取り合うことができる。みんなには争いには無縁で生きてほしい……そう願うのはきっと自分のエゴだ。

 

「……しばらくの間、お前は絶対安静だ。お前が目を覚ましたら話したいと言っているのが数名ほどいるが……どうする?」

 

「……すみません。もう少しだけ時間をください……いまはまだみんなの前で笑える自信がないんです……」

 

「……わかった。お前が話しても大丈夫だと思ったのならば呼んでくれ。そしてこれは教師である織斑千冬ではなく……私個人、織斑千冬としての言葉だ。……キラ、目を覚ましてくれてありがとう。お前が無事でよかった」

 

それがお世話になっている千冬さんからだからなのか、その言葉はストンっと胸に落ちる。本来ならば存在を許されないはずなのに……そんな僕を心配してくれる人がいる。その事実をどう受け止めればいいのか今の僕には答えを得ることはできなかった。結局僕は誰かと話せることになるのは数時間の時間が必要になった。目を覚まして初めに面会したのは意外にも更識楯無さんだった。

 

「はーい、こんな形で再会するのは少し残念ね。どう?身体の方は大丈夫かしら?観客席にいたから私の名前は知っているだろうけど、もう一度自己紹介するわね。私はIS学園の生徒会長、更識楯無よ。気軽に楯無先輩って呼んでね」

 

「は、はい。よろしくお願いします……怪我の方はこれぐらいなら、まだ大丈夫です」

 

「軽症とはいえ全身打撲で左肩は脱臼、そして頭からの出血は結構重傷よ?そんな状態でISを動かしたのは奇跡に近いとお姉さんは思うなぁ。こほんっ……学園の代表者としてお礼を言います。キラ・ヤマト君、学園に突然と現れた襲撃者の撃墜に尽力してくれてありがとう。貴方のおかげでこちらの被害は最小限に収まったわ」

 

「……僕以外には負傷者はいないんですよね?」

 

「パニックになった時にちょっと怪我した子とかはいるけどね。けど、君のような重傷者は出ていないから安心して」

 

「……そう、ですか……それなら、よかったです……」

 

更識さんからあの場にいた生徒たちも無事だと言われてやっと肩の荷が下りる。観客席の方もずっと不安に駆られていたが襲撃者による被害は出ていなかった。それでも怪我をした人がいることに胸が痛む。……本当ならもっと早く、僕がストライクに搭乗していれば変わっていたのかも知れないから。

 

「その顔、なにかを後悔しているでしょ。少ししか話してない私でもそれぐらいは簡単にわかるのよ?なら、先輩からアドバイス。キラ君は反省や後悔ではなく、今は結果を喜びなさい。もしも、だなんて今の君は考える方が体に毒よ。君はどうも嫌な方向ばかりに考えることが癖になってるようだから」

 

「……努力は、してみます……」

 

「それならよろしい。……本当は君には聞きたいことが沢山あるんだけど今は身体を治すことに専念すること。その後は2人でお茶をしながらキラ君のことをお姉さんに教えてくれると嬉しいわ」

 

それは僕が何者かを確認するためなのだろうか……?更式さんのその赤い瞳は全てを見透かされそうで苦手意識が湧いてしまう。無意識に目を伏せてしまえばあららっと残念そうにしている声が聞こえ咄嗟に違うと否定しようと声に出そうとするが上手くまとまらない。

 

「あっ、えっと、これは……」

 

「ふふっ、冗談よ。君が私に警戒心を持っているのを知っていてわざと言っただけだから。だけど、これだけは信じてちょうだい。君がIS学園の生徒であり、危害を加えないのなら私は貴方の味方だって」

 

「……更識、時間だ」

 

「はーい、わかっていますよ、織斑先生。それじゃあ、近いうちにお話しをしましょう?お姉さんはいつでも待ってるからね。あっ、動けるようになったら本音ちゃんにも声をかけてあげてくれる?あの子、キラ君が怪我をしたことをかなり気にしていたようだから……」

 

「わかりました。のほほんさんにも後で声をかけておきます」

 

「ふふっ、お願いね。それじゃあ、お大事に。……そして、本当にありがとう、キラ君」

 

更識さんは最後に手を振りながらこの部屋を後にする。あの人には未だに苦手意識はあるけれど、最後の言葉は彼女の本心だったと思う。……少しは信用して大丈夫なのだろうか?

 

「キラ、更識のことを疑ってはいると思うが悪い奴ではないことは確かだ。性格に難はあるが……それでもアイツがこの学園を思う気持ちについては疑わないであげてくれ」

 

「……そうなんですか?」

 

「ああ。このIS学園で生徒会長という役職に就くということはそういうことだ。詳しくはアイツの口から聞いた方が早いだろうよ」

 

「……わかりました」

 

「まぁ、アイツにあまり関わらない方がいいのはある意味で正解ではあるだろうな。キラ、悪いが私も少し席を外す。1人になるが大丈夫か?」

 

「はい、大丈夫です。むしろ付き合わせてしまってすみません……」

 

「気にするな。怪我人に付き添うのは当然だろう?それにこれぐらいは大人の責務というやつだ」

 

このIS学園で生徒会長という役職はそれほど特別なことなのだろうか……?織斑先生が悪い人ではないと口にしている以上は信用はしていい人なのかも知れない。織斑先生はそう言いながら席を外す。多分、僕が更識さんを警戒しているのを知っていてこの場にいてくれたのかも知れない。本当に織斑先生には頭が上がらないや。

 

「キラさんが目を覚ましたと聞いてお見舞いにきましたわ。その様子ですとお身体の怪我はともかく、体調は大丈夫そうですわね」

 

「よかった……っ!キラが無事でよかったよ……っ!」

 

「うん……2人とも心配をかけてごめんね」

 

次にお見舞いに来てくれたのはセシリアさんとシャルロットさんだ。2人は僕が箒さんを止めにいったのを間近で見たこともあって、僕らを止められなかったことを後悔しているようで表情は優れない。

 

「……申し訳ありませんわ。あの時に箒さんをわたくしがきちんと止めていればこのようなことは間逃れたと言いますのに」

 

「ううん、今回は誰も悪くはないよ。僕が怪我をしたのだって運が悪かっただけだから、だからセシリアさんが気に病むことはないよ」

 

「お見舞いにきたはずのわたくしが慰まれるのは本末転倒ですわね……ええ、そうですわね。今回のことはこれ以上引きずるのはやめることにしますわ。……それに一番自身を責めているのは彼女であるのは間違いないですの」

 

「あの後箒さんは……?」

 

「……キラが撃墜されてからはずっと部屋にいるみたい。一夏が声をかけても反応はしているけど外に出て来ないらしくて。こんなことになったことを自分のせいだって責め続けていると思う」

 

「……そっか。僕が墜とされたから……後で謝らないと……」

 

中継室で箒さんと約束したことを思い出す。彼女は僕が無事に戻ってきてくれると信じたからこそあの時は止めずに見送ってくれたのだ。それなのに僕はその約束を守ることが出来ずに撃墜された。鈴音さんを庇ったことを言い訳するつもりはない。あの時に油断していた僕が悪いのだから。

 

「……?どうしてキラが箒に謝るの……?」

 

「……箒さんと約束していたんだ。無事に戻ってくるって、でもそれを守ることができなかったのは僕だから。彼女はそれを信じて送ってくれたのに僕がそれを裏切ったんだ」

 

「で、でもキラは最後は鈴を庇って……」

 

「……ううん、それでもだよ。最後に油断をしていたのは事実だから」

 

戦いの中で油断をすれば命取りになるのは嫌というほど理解していたのに。今回は偶々間に合ったから鈴音さんを守ることができた。だけど次からは……?自分の不甲斐なさでまた目の前で大切な友達を失いそうになったこと、そして約束を守ることができなかった自分自身が嫌になる。それが表情に出ていたのかシャルロットさんは僕の右手を優しく両手で包みながら微笑み語りかけてくれる。

 

「キラは何も悪くないよ。さっきキラ自身が言ってたじゃん。今回は誰も悪くないんだって。だから、そんなに自分を責めないで、ね?」

 

「……うん、できる限りそうするよ」

 

「……おかしいですわね。いつの間にか部屋の空気が変わったような気がしますの。……シャルロットさん、ほら帰りますわよ。これ以上はキラさんのお邪魔になるのですから」

 

「もぅ、わかったらから引っ張らないでよ。キラが元気に登校してくるの私、待ってるからね。またね、キラ」

 

「2人ともわざわざごめんね」

 

「キラさん、そこは謝るのではなくありがとう、ですわよ?」

 

「……うん。2人ともありがとう」

 

2人になんとか笑うことができたのか、それを見て満足そうに退出していく。シャルロットさんに握られた右手を僕は見つめる。僕はまた引き金を引く道を選んだ……あの人から言われた言葉を思い出しズシリと身体に重くのしかかり心が痛く感じる。

 

(……だめ、だ。あの人の言葉を今は思い出すな……っ!)

 

いつ誰が来るかわからない以上はこれを見られたら余計な心配をかけてしまう。荒くなった呼吸を落ち着かせるため何度も深呼吸を繰り返す。呼吸が落ち着いたには結局は数分ほど時間がかかってしまった。誰も来なかったことにほっと安堵していれば突然のノック音に一瞬変な声が出てしまう。どうやらそれが痛みによって声を漏らしたことだと勘違いした一夏が扉越しから心配そうに声をかけてくれる。

 

「キラ、大丈夫か?……えっと、無理なら出直してきた方がいいか?」

 

「あっ、うん大丈夫だよ、一夏。さっきのは全然気にしないで」

 

「それなら入るぞ。ほら、鈴も」

 

「……わかってる。はい、お見舞い品持ってきたけど……果物嫌いなものとかないわよね?」

 

「えっ、あっ、うん……別にないけど……」

 

「なら、ここに置いておくわよ」

 

一夏と鈴音さんがお見舞い品を持ってくるのは流石に想定外だったこともあり曖昧な返事をしてしまう。鈴音さんはどこか落ち着きがなさそうで一夏もそれを見て苦笑いを浮かべているところを見ると2人は仲直りしたのだろうか?

 

「えっと、その様子だと2人は仲直りしたのかな?」

 

「……まっ、一応ね。一夏も約束はきちんと思い出したようだからそれでチャラってことにしてあげたの」

 

「キラが大変な時に流石に喧嘩を引きずってるわけにはいかないしな。それに約束は別に忘れてたわけじゃないだろ?」

 

「はぁ!?そうだとしてもあんな勘違いするような言い方する方が悪いでしょうが!!」

 

「いや、だから別の意味があったら教えてくれって昨日も言ったろ?」

 

「あ、アンタ馬鹿っ!?そ、そんなの自分で考えなさいよっ!!今はそのことよりもキラをお見舞いにきたんでしょうがっ!」

 

うん、この2人がこんな風にやりとりをしているという事は無事に仲直りできたようだ。だけどこの様子だと一夏は鈴音さんの言葉の意味までは気づいてないのかな?……うーん、これは鈴音さんが意味を言わないと気づかなさそうだ。

 

「えっと……そのさ……最後はアタシが気を抜いていたせいでごめん……」

 

「ううん、最後のアレは仕方がなかったよ。僕も気を抜いていたから……それに最後は……」

 

最後は無人機ではなかったと口にする前に僕はすんでのところで止まる。あれはあくまでも僕の感じたもので確証があるわけじゃない……それに余分なことを伝えてしまったら余計に混乱させてしまう。

 

(……あの無人機をIS学園に送り込んだ人がいる。でも、いったい誰がなんのために……?)

 

あの無人機の奥に感じた悪意を思い出せば今でも背筋が凍りそうになる。まるであの人と対峙していた時と同じような感覚だった。……それになぜ最後の最後で無人機としてではなく操縦して引き金を引いたのか?僕や一夏ではなく鈴音さんを狙って。

 

「……一夏。鈴音さんのことをちゃんと守るんだよ?君にはきっとそれができると思うから」

 

「……ああ、わかった。鈴も箒もみんなも、それにキラだって守れるようになる」

 

自分は大切な人を守ることができなかったこそ彼らには失ってほしくない。一夏が真剣な顔で頷く姿に僕は安堵しながら一つの決意をする。彼らには僕のように大切な人を絶対に失わせないことを。……結局、僕はあの人の言う通り力だけなのかも知れない。

 

「な、なに2人して話してんのよぉ。そりゃ、最後は油断しちゃったけど次は気をつけるわよ。それに守られるなんてアタシの性に合わないし……と、とりあえず一夏がアタシより強くなったら考えてあげるわよ」

 

「それなら鈴よりも強くならないとな。そしたらいいんだろ?」

 

「あ、あくまでも考えてあげるってだけよっ!と、とりあえずキラは怪我をサッサと治すこと。しばらくは安静にしてなさい、いいわね?」

 

「そんじゃあ、俺たちはそろそろ戻るか。キラ、また後でな」

 

「んっ、そうね。あまり長居するのは邪魔になりそうだし……キラ、あの時は本当にありがと。……アンタのことを頼りない奴とか思ってたけどちょっと見直したわ」

 

鈴音さんは最後に言おうか迷いながらもはっきりと言葉にする。その素直な気持ちを一夏に伝えられればいいのにっと苦笑いを浮かべてしまう。多分、僕が何を考えたのか察した彼女から強く睨まれて僕は慌てて目を逸らす。

 

「……アンタ、怪我治った後覚えてなさいよ」

 

「……それは少し理不尽じゃないかなぁ」

 

怪我が治った後が怖いなっと他人事のように心配しているのは諦めの領域に入り込んでいるからだろう。一夏と鈴音さんの背中を見送りながら、最近は彼女から遠慮がなくなってきたなっと考える。涙を流した姿を見られたことが多分原因の一端であるのは間違いないのかな……?

 

(……織斑先生が戻ってきたら箒さんの元に行けるかどうか相談しよう。少しでも早く謝らないと……)

 

自分が約束を破ってしまったことを彼女には一刻も早く謝らないと……ううん、それだけじゃない。あの時のことだってまだ謝ることもできていないんだ。今すぐにでも行動しなければと焦燥感に駆られていればノック音が聞こえる。

 

「……キラ、起きているか……?」

 

「……うん、起きているよ」

 

「……失礼する」

 

一呼吸を置いて箒さんは扉を開けて入室する。顔色が優れていないのは一眼でわかり、それほど今の彼女が自分を追い詰めているのかがわかった。彼女は僕の容態を視野に入れその表情には陰が入る。そして次の瞬間に彼女は深々と頭を下げた。

 

「……ごめんなさい……っ!……お前が、キラが怪我を負った原因である私が謝っても許されないのはわかってる……だから、お前の気がすむまで私のことを殴っても構わない……っ!だから――――」

 

「そ、そんなことできないよ。それに僕は別に箒さんに怒ってる訳じゃないよ?僕の方こそごめんね……君との約束を守ることができなかった」

 

「……っ、どうしてこんな私にキラが謝るんだ。お前は何も悪くはない……悪いのは私なんだぞ……」

 

「あの時に誰が悪いかだなんて関係ないよ。それを言うなら僕だって君を止めることができなかった」

 

あの時に一番悪いのは多分僕なのだ。箒さんは一夏を強く思ったからこそできた行動だ。状況とその時の行動が問題なだけであり、僕は彼女のその想いが間違いだとは思っていない。それなのに僕はどうだろうか?戦う力を持っていながら襲撃者が現れたさいには何も行動を起こさなかった。……結局僕は鈴音さんと箒さんの一夏の想う気持ちがなければ戦えなかった、一番最低なのは僕なんだよ。

 

「……やっぱり、お前は優しいやつだ。そんなことはわかっていたのにあの日から私は今までお前のことを避けていた……すまなかった……」

 

「……ううん、箒さんは何一つ悪くないよ。僕があんな風に取り乱したのが原因だから。あの時は本当にごめん……」

 

お互い謝り続ければ少しだけそれがおかしくなり一緒に笑ってしまう。この怪我が理由だとしても再度こうやって彼女と笑える日がくるのは嬉しかった。

 

「……箒さん。こんな僕だけどさ、また友達として一緒に話せないかな?」

 

「……ああ、こんな私でよかったらまた友として頼む」

 

「うん、またよろしくね。箒さん」

 

お互いに微笑みながら無事に仲直りすることができた。これでまた前のようにに友達として話し合えることに僕は安堵する。いつまでも引きずってしまってはいつか後悔する日が起こることがあると知っていたのだから――――





はい、あっさりとした和解かも知れませんが許してぇ。なんかこれ以上の展開は蛇足だと判断してスパッと切りました。……そろそろヒロイン未定タグとおさらばの時期のようですねぇ。一応ヒロインは今のところ2人を予定しています。いや、まぁ、多分、感がいい読者のみなさんにはバレてると思っていますが。

そろそろ例の彼女も出ますよっ!鈴ちゃんより圧倒的に早い参戦だね!やったね!!鈴ちゃん出るの遅くない……?あっ、次回からは多分誰の話をメインにするかわかるよね?だから今回の文章短いの許してください((

はい、脱字&誤字の報告お待ちしております!!感想はいつもありがとうございます!!それでは次回の更新は未定ですが気長にお待ちください!


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第14話 動き出す陰謀

最近みなさんに更新頻度を心配されていますが大丈夫です。私にもなぜこんなにも投稿頻度が高いのかわかっていません((白目

はい、どうも作者です。みなさんの感想をニチャァとして笑みを浮かべながら楽しく読ませてもらっています。ちなみにヒロイン候補の件ですがあくまで2人と思っているだけで下手したら増えますのでその時は許してください((原作みつつ

えっ、今回の話はなんだって?私は別に某銀髪ヒロインは次話に出るとは言ってないです((

ちなみに私のサブタイトルは特に期待しないでください。ネーミングセンスは壊滅的なので((吐血


「本当によかったんですかー?彼をこのままにして。本当なら病院に入院させないといけないと思いますよ」

 

「そんなことはとっくにわかっている。だが、それを拒んだのはキラ自身だ。本人が今の状態を良しとするのならば私から強要することはできん」

 

更識楯無は目が覚めた少年――――キラ・ヤマトがどのような状態なのかを知っているからこそ、織斑千冬に提案を出すが表情を歪め彼女は首を横に振る。更識楯無の言っていることはこの場では正論だ、それは織斑千冬も何よりも感じている。クラス代表戦の最中に突如と現れた無人機により彼は負傷をし、その状態のままISを纏い戦闘へと身を投げた。その場にいた織斑一夏、凰鈴音、キラ・ヤマトによる三名によりこちら側の被害は最小限へと抑えられたが最後に凰鈴音を庇い撃墜。本来ならば入院しなければならない怪我なのだが本人はそれを拒絶し、今は意識を回復して彼がIS学園に入学する前に使ったいた部屋で療養中だ。

 

「怪我については当然ですけど……キラ君って精神的にもだいぶ瀬戸際だったりするんじゃないんですか?よく今の生活ができてるんだってあの子には感心します。表面上は当たり前のように日常を謳歌してますけど、その裏ではかなり追い詰められてるっぽいですよ?本来なら無理矢理にでもカウンセリングをさせないといけない精神状態では?」

 

「……PTSDを患っているのは間違いないだろうな」

 

織斑千冬は意識を取り戻した彼が開口した言葉を思い出す。撃墜された自分がなぜ生き残っているのかと問われた際には彼がそれほど精神を追い詰められていたことに絶句した。彼の世界が戦争をしていて、その戦争へと身を投げたというのは彼の口振りから察することはできた。そして彼にとって大切な人を目の前で亡くしたということも。彼が精神的にも不安定なのを気づいていないわけではなかった、それを侮っていたわけでもない。ただ、彼女の想像以上に彼の心は悲鳴を上げていたのだ。

 

「……それは重症にも程がありますよ。尚更、入院させないとマズイじゃありませんか。精神が壊れた後だと手遅れになりますよ?」

 

「……そんなことはわかっている。だが、今目を離してしまえばそれこそキラの精神は壊れてしまうのではないのかと私は思っている。まず、カウンセリングを受けさせたところでアイツが他者に自身のことを打ち明けることは到底考えられん」

 

キラ・ヤマトが異なる世界の人間だと言うのは限られた人間、織斑千冬、山田真耶といったごく僅かな人間しか知らない。本人もそれをバレることを恐れているか定かではないがその2人を除いて自身から他人へと声をかけることは少なくそれは彼と親しい織斑一夏たちにも同様だ。

 

(……それにアイツは私たちには自身の世界のことを話はしたがアイツ自身に関わることはごく僅かしか話していない。自分がナチュラルかコーディネイターのどちらかについてもな)

 

この世界でキラ・ヤマトという少年を一番知っているのは織斑千冬ではあるがそれもほんの一端に過ぎない。だが、織斑千冬にとってはそんなことは些細な問題ではない。キラ・ヤマトがどのような道を辿り、どのような存在であっても彼女は拒絶する気はなかった。傷つきながら誰かを守るために戦いへと再度身を投げた少年を否定することなど。

 

「織斑先生が彼に過保護になってるのはよーくわかりました。私に理由も聞かせないで貸しを作る程ですから。突然彼の戸籍を作ってくれだなんて言われた時には驚きましたよ。それで?……あの襲撃者は誰によって引き起こされたのかわかったんですか?」

 

「お前だってあの無人機による襲撃は誰の手によるものかは薄々わかっているだろう?所属不明であり新たなるIS、そしてそのコアは登録不明ときた。この2つが揃った時点で誰の手によって引き起こされたのか答えは明白だろう」

 

「……現在消息不明のISの生みの親である、篠ノ之束ですか。IS学園のセキリティをなんの下準備もなく掌握できるのは"天災"と呼ばれた彼女ぐらいですもんね。ですが、どうして彼女が襲撃を企てたんですか?大切な妹さんがいたはずなのに」

 

「……さてな、私もアイツとは腐れ縁にも等しいが考えていることを把握しているわけじゃない。それに箒の行動については束も完全に想定外だったろうよ。あの無人機は音に反応するように優先的に設定されていたのだろう。その結果、箒がスピーカーを使ってしまったことによりあのような惨事になった……あくまでも私の憶測だがな」

 

「どうにしろ私には天災と呼ばれている人は考えは理解できませんよ。ただ、個人としては大切な妹さんがいたのに襲撃したことについてはお馬鹿さん、なんじゃないかと思いますけどねぇ?」

 

"天災"がこの場、もとい消息不明をいいことに更識楯無は広げた扇子に達筆な文字で「お馬鹿」と書かれており、織斑千冬は彼女の胆力に呆れを通り越して感心する。仮に本人がこの場で居たら喧嘩程度ではすまなかっただろう。まぁ、彼女がなぜ今回こうも、かの天災に辛辣である理由は大方察している織斑千冬は全力で無視を決め込むことにした。

 

「まぁ、襲撃者については推測で語っても意味はありません。……織斑千冬さん、彼、キラ・ヤマトはいったい何者なんですか?私の記憶が正しければ適性検査を除き、ISの搭乗はアレが初めてなはずですよね?なのに彼は"初心者"としてはあるまじき行動を幾つかしているんですよ。中継室からアリーナへと佇んでいた敵の武器を狙撃、そして破壊。その後は命を落としてもおかしくない状況でありながら、自身が戦闘を行うのはさも当たり前のように介入。さらに足手まといになるどころか無人機の撃墜に至り、戦闘が終わるまでは冷静に最後まで戦ってみせた」

 

「…………」

 

「ああ、あとは途中で何事もなくフランス代表候補である、シャルロット・デュノアの得意技も使っていましたよね?……無人機による被害を必要最小限で抑えてくれたのは感謝していますけど、彼個人のことを警戒することについては別です。やけに戦いに場馴れしていたように感じたのは私の勘違いではすみませんよ?」

 

先ほどとはまるで別人のように冷たい声で更識楯無は赤い瞳を細める。彼女としては彼がこの学園に害をなすものなのかを知る必要がある。一部ではあるが彼女のその裏の顔を知っている織斑千冬ははっきりと口にする。

 

「その違和感は自分で直接確かめろ。私の口からは答えられることは何もない。……だが、これだけは先に念を押しておく。アイツの口から強引に自身のことを喋らせるつもりなら私は黙っているつもりはないぞ」

 

「……それは、一教師としてですか?それとも……1人の大人としてでしょうか?」

 

「それについては答える義務はない。アイツを警戒するなとは言わない、それがお前にとっても必要なことだと理解している。だが、アイツは誰とも変わらない普通の奴だというのを覚えておけ、いいな?」

 

「……ええ、わかりました。心に留めておきます。それでは私はこれで失礼させてもらいますね?あっ、その前に一つ。新しく転校生が来るらしいですけど……それについてはもちろんご存知ですよね?」

 

「……ああ、わかっている。それについては私が全て引き受けるつもりだ」

 

織斑千冬の言葉を聞き満足したのか更識楯無は退出する。元よりその転入生とは彼女にとっても縁が深い1人だ。一年といった短い期間ではあるものの教官として、1人の大人として接したのをよく覚えていた。……だからなのだろうか、彼女はどうしようもなく一抹の不安に駆られるのだった――――

 

 

◇◇◇

 

 

「本当に病院に入院しなくて大丈夫ですか?キラ君の怪我は本来ならば入院しないといけないんですよ?」

 

「お気遣いありがとうございます、山田先生。でも、入院するほどじゃないから大丈夫です。これくらいならまだ何とかなりますから」

 

数日間の休養にて何とか頭の包帯は取れたけど左肩の脱臼はそうもいかず包帯で完全に固定されている。山田先生がこうも心配しているのは、本来は入院しなければならない怪我であるもののそれを拒んだことが原因だ。入院するかどうかについては悩みはしたものの、僕自身の存在が露見する恐れがあるため入院について他に理由を考え断ることには骨が折れたよ……。

 

(……実際イージスの自爆に比べたら軽い方なのは本当だからね。目立った怪我が肩の脱臼ぐらいなのはストライクが僕のことをまた守ってくれたのかな……?それとも……)

 

自分がスーパーコーディネイターだから?そんな考えが脳裏によぎるがすぐに振り払う。きっとストライクが再度守ってくれたんだと自身に何度も言い聞かせる。その様子を怪我がまだ痛んでいるのかと山田先生は慌てるが僕は大丈夫だと何とか笑って誤魔化す。

 

「……本当にごめんね。本来ならあの襲撃に対して私たち教員が対処しないといけない問題だったのに。それなのに対処することもできなくて、そしてキラ君にこんな怪我を負わせてしまった。本当にごめんなさい……っ!」

 

「あ、頭を上げてくださいっ!僕はただやらないといけないことをやっただけなんです。それに戦うことについては僕は馴れていますから」

 

元の世界でMSで身についてしまった技術はこの世界でも遺憾なく発揮された。そして今回で『ストライク』の存在が公になった以上は専用機は持っていないと誤魔化し続けるのは無理だ。怪我が治るまではISを操縦することはできないがそれ以降は無理であろう。

 

(……それにアレが無人機だというのなら、また誰かがそれを使って襲撃してくるのかもしれない。その時は僕が倒さないと……)

 

人が搭乗していない無人機相手ならまだ戦える。最大の欠点である『ストライク』の火力不足の件は早急に解決しないと。本音を言えば『エールストライカー』を最優先にしたいが無人機の装甲を一撃で突破できるのは『アグニ』か『シュベルトゲベール』だけだ。……やっぱりストライカーパックがないのは不便だよ。

 

「明日からはキラ君はいつも通り過ごして大丈夫だけど……怪我が痛むようだったらその時はいつでも言っていいからね?それとなんだけど……うーん、こっちについては鈴音さんと一緒の時がいいかな。それじゃあ、キラ君の部屋まで行こっか」

 

「はい、わかりました」

 

鈴音さんに用事があるようだけどいったいなんだろうか……?彼女はクラスが違うこともあるから一組の副担任である山田先生が用事があるのは珍しいことだ。やっぱり放課後だということもあるのか生徒とすれ違う。……視線が集まってるのは専用機のこともあるんだろうなぁ。

 

「鈴音さん、今大丈夫ですかー?」

 

「はい、大丈夫です。……退院おめでとうっで一応あってるわよね?」

 

「……そうなんじゃないかな?」

 

僕と山田先生を彼女は部屋に迎え入れれば、僕の顔を見て疑問に思いながらもそう口にした。確かに病院へと入院していたわけじゃないし……うーん、細かいところは別にいいんじゃないかな?

 

「鈴音さん、時間を割いてもらってごめんね。でも2人には説明しないといけないことがあって」

 

「まぁ、これぐらいなら別に大丈夫です……けど、アタシとキラに用事ってなんですか?アンタも知らないんでしょ?」

 

「うん、悪いけど心当たりはないかな。山田先生、いったいどういった用件ですか?」

 

「えっとね、今2人は同棲してるけど最近キラ君の部屋が準備できたの……だけどキラ君は今怪我をしている状態だからそれを1人にするにはいかないかなって。だから、鈴音さんがよければキラ君の怪我がもう少し良くなるまで一緒にいてくれないかな?」

 

「僕は1人で大丈夫ですよ。片腕が少し使えないぐらいなら――――」

 

「アンタは怪我人なんだから遠慮しないっ!……わかりました。キラの怪我が治るまではアタシが面倒を見ます」

 

「本当にいいの?嫌だったら断っても大丈夫だからね?」

 

「大丈夫です。それにコイツにはアタシにも貸しがありますから。面倒見るぐらいなら別にいいです」

 

「引き受けてくれてありがとうね。それじゃあ、もう少しの間だけどキラ君のことお願いね、鈴音さん。私はこれからお仕事に戻るからまた明日ね、キラ君」

 

「こちらこそありがとうございました。また明日からお願いします」

 

山田先生は最後に微笑みながら手を振ってこの部屋を後にする。ここ数日間はずっと前に使用していた部屋にいたから少しこの部屋が懐かしいや。前の時よりも綺麗に感じるのは鈴音さんが掃除してくれていたからだろうか?

 

「とりあえずなんか飲む?いつまでも立ってるわけにはいかないし。リクエストあるなら作るけど……」

 

「それなら鈴音さんのオススメでいいよ」

 

「んっ、了解。アンタは椅子に座って待ってなさい」

 

言われた通り椅子に座って待っておくことにする。この部屋に戻ってきても現状やれることは何もない。療養も何かをしていたのかと言われれば特にやっていなかったけど……むしろ、何もやれなかった分余分なことを考えてばかりだった。

 

「はい、とりあえず緑茶にしておいたわ。オススメと言った以上は飲めないはナシだから。まっ、その時は無理矢理にでも飲ませてあげるけど」

 

「熱々のお茶を無理矢理飲ませるのは勘弁かな」

 

鈴音さんから緑茶を受け取り息を吹きかけ冷ましながら口をつける。暑さは感じるけれどやはり味を感じないことに一瞬顔を顰めてしまう。療養中に治ってくれればよかったけど、やっぱり味覚を感じることはない。せっかく作ってもらったお茶を味わえないことに罪悪感に苛まされればジッと彼女は僕の顔を見ていた。

 

「……えっと、僕の顔に何かついてるかな……?」

 

「頭の包帯は取れたんだなって。……まぁ、アタシの気のせいなら別にいいだけど、アンタ少しやつれた?いや、療養してたからやつれるのは当然なんだけどさ。なんというかアンタの場合は他が原因な気がするのよねぇ」

 

「……っ、気のせいなんじゃないかな?僕としてはどちらかと言えば健康に過ごしてたつもりだよ」

 

彼女のまとを得た言葉に一瞬息を呑むが笑って誤魔化す。今までも寝ていれば悪夢は毎日のように見るが、最近はその夢を起きていてもハッキリと覚えていることが多い。そしていつ襲撃者が現れるかもしれない脅威に療養中は寝付ける方が珍しかった。

 

「アンタがそう言ってんならそうなんだろうけど。まっ、とりあえずは今後ともよろしくってことで。ふふんっ、大船に乗ったつもりでいなさいっ!」

 

「……水を差すようになるけど、本当にいいの?あの時のことを気にしてるんだったら別に大丈夫だよ?僕は、僕のやれることをやっただけだから」

 

「ほんっと水を差すタイミングね……ええ、それについては否定しない。キラがアタシを庇って撃墜されたって罪悪感は今でもあるし、なんならそれが主な理由よ」

 

「……それだったら――――」

 

「あー、もうっ!それならこう言えば納得するっ!?アンタの世話役を引き受けたのはアタシ自身のためっ!!あと怪我人は大人しく人の厚意を断るなっ!!いいわねっ!!」

 

「う、うん……」

 

「……納得したならいいわ」

 

ビシリっと指を刺しながら、有無も言わせない彼女の迫力に僕はただ首を縦に振ることしかできなかった。これ以上断れば彼女に油に火を注ぐことになるだろう。

 

「……ごめん」

 

「だからなんでアンタが謝るのよ。そこはありがとう、でしょ?」

 

「……ありがとう」

 

「うん、よろしい。アンタは自分の怪我を治すことだけを考えてなさい。アタシができる範囲なら身の回りはするからさ。とりあえず今からアタシは食堂行くけど、キラはどうするの?」

 

「今日は食堂は遠慮しようかな。どうも視線がちょっとね……」

 

「あー、それは納得。そんならアタシが食堂の人に説明してなんか持ってくるわ。とりあえず和食でいいでしょ?」

 

「うん、お願いするよ」

 

鈴音さんは食堂に向かいこの部屋は僕1人になる。残りのお茶を飲み干して、あとは何をしようかと呆けていれば扉越しから鈴音さんの声が聞こえてくる。

 

「キラー、悪いけど開けてくれない?今両手塞がってるからさー」

 

「う、うん。食堂から戻ってくるの早くないかな……?」

 

「そりゃね。ここで食べるつもりで持ってきたわけだし。1人だけ食べるのは味気ないじゃん。今日はアタシも付き合うわよ。ご飯は大人数で食べた方が美味しいでしょ?」

 

鈴音さんは満面の笑みを浮かべていた。多分、僕を気遣ってわざわざここで食事をとることにしてくれたんだろう。罪悪感に苛まれるがここでまた謝れば彼女の厚意を否定するものだ。

 

「冷める前に食べるわよ。いただきます」

 

「うん。いただきます」

 

僕の夕食は肉じゃが定食で食べやすさを選んでくれたんだろう。彼女は中華料理なのだろうか?それを美味しそうに食べている姿は微笑ましい。味覚を感じていないのはまだ誰にもバレていないのは幸運かな。

 

「ジッと人の食べてる姿を見てなによぉ?一口もあげないわよ」

 

「量としては自分の分で手一杯だから安心してほしいかな」

 

「アンタぐらいの歳なら普通は成長期のはずだと思うんだけど……まあ、いいわ。そういえばだけどさ、アンタっていつ専用機を貰ってたの?」

 

「……つい最近かな?特にみんなから聞かれることもなかったからね」

 

「ふーん」

 

それ以降は興味がなくなったようで鈴音さんは食事に戻る。そんな彼女を見ながら内心でほっと安堵した。『ストライク』のことを聞かれるのはわかっていたけど、完全に気が緩んでいるタイミングだったこともあり答えるのが遅れてしまった。……鈴音さんが興味ないことはとことん無関心なのは運がよかったかも。

 

「ごちそうさまっと。んー、アンタはもう少し食べるのに時間かかりそうだから、先にお風呂行ってきて大丈夫かしら?食べ終わったら適当にそのままにしていていいわよ」

 

「あ、うん、わかったよ」

 

「あと、シャワー浴びることなんだけど、できるだけアタシが部屋にいる時にしてもらえると助かるわ。そこら辺はちょっと目を離している内にされると怖いのよねぇ」

 

「それぐらいなら全然大丈夫だよ。僕としてもそっちの方が助かるしね」

 

「んっ、悪いわね。本当はアタシの方が合わせないといけないのに」

 

「ううん、気にしないで。食堂と浴室の方は時間が指定されているからしょうがないよ」

 

浴室の方はまだ一度も使ったことないけど、食堂と同じように時間が指定されているのは覚えている。そこら辺は大変だなっと他人事のように思ってしまうのは部屋に設置されているシャワー室で足りているからだろうけど。鈴音さんを見送った僕はなんとか夕食を完食して自分のベットに仰向けになる。

 

(……ああ、そういえば長らく空を見てないんだっけ。今から外に出れば夜空が見れるかな……)

 

空を見上げるのは僕にとってはもはや日課だった。放課後は部屋に戻って気絶するように眠るか、遅くなるまで屋上で空を見上げるのどちらかだ。放課後になったら、一夏たちの放課後の訓練に顔を出すほどの意欲と体力は残っていない。空を見上げているのはその時は自身のことや他のことを考える必要がないからといった一種の逃げなのだろう。

 

「今戻ったわよって……もしかして寝てる?」

 

「……あっ、うん、おかえり。ちょっと疲れたから横になってただけだよ」

 

「なんかアタシが部屋に戻ってきた時はキラって寝てるかいないのどちらかよね。いない時はふらっと戻ってきてるし……アタシと同棲する前は食堂でアンタの姿を見かけないのは当たり前だったらしいじゃない。放課後とかどこほっつき歩いてんのよ」

 

「そうでもないよ?多分、探したらすぐわかる場所にいるつもりではあるから」

 

実際一箇所に止まっているだけだからね。放課後になれば屋上は基本的には人がいないのも原因だとは思う。それ以外のことについては特に事実だから否定するつもりはないけど。……そしてこれは多分だけど織斑先生には僕の行動パターンは把握されている気がする。食事のことはともかく、遅くまで空を見上げることについては黙認してくれてるのかな?

 

「それじゃあ、僕もシャワー浴びてくるよ。これ以上遅くなったら本当に寝ちゃいそうだからね」

 

「シャワー浴びる前に寝てる時はアタシが叩き起こしてあげるから安心しなさい」

 

「うん、叩き起こされるのは朝だけにしてほしいかなぁ」

 

鈴音さんは有言実行する性格だから夜の時も叩き起こされるのは避けたい。むしろ、夜の時の方が加減しなさそうだから余計に勘弁したいよ……そんなことを考えながらシャワー室へと行き包帯をなんとか取り冷水を頭から浴びる。お湯の方がいいだろうが結局この行動も事務的にやっていることに過ぎない。

 

(……左肩の脱臼は確か1、2週間ぐらい治るのにかかるんだっけ)

 

左肩を眺めながらぼんやりと完治する期間を思い出す。それまでは鈴音さんに負担をかけてしまうのはやっぱり心苦しい。それに毎日のように悪夢に魘されている以上は彼女の睡眠を妨げているのではないだろうか?……彼女の口からは一度たりともそれについて触れてきていないけれど。

 

(……明日からはまたいつも通りか。上手く笑えればいいけど……)

 

お見舞いに来てもらっている時は上手く笑えていたはずだから明日からも大丈夫なはずだ。ぎこちない笑顔を浮かべなければみんなに心配をかけることはないのだから。シャワー室から出てシャツを着ていれば、再度左肩へ包帯を巻かないといけないことを思い出し、それが少し面倒に感じるけど仕方ないか……。

 

「……はぁ、これなら包帯なしの方がいいかもね。固定するだけなら別に――――」

 

「なに、馬鹿なことを言ってんのよアンタ。ほら、シャツを着たならサッサっとこっちくるっ!」

 

半端強制的に鈴音さんに引っ張られて、椅子へと連行されれば彼女の手には包帯があった。1人でやるにはできないからやってくれることは正直助かるけど……鈴音さんって大雑把な所があるから少し不安になる。

 

「すっごい失礼なことを考えてないでしょうね」

 

「そ、ソンナコトナイヨ……」

 

ギロリと睨まれた僕は明後日の方向に視線を向けて誤魔化す。ほんの少し包帯を巻く力が強くなったのはきっと気のせいだよ……うん。

 

「……庇ってくれて本当にありがとね。あんな偉そうなこと言っててさ、最後は反応できなくて……」

 

「お見舞いに来た時も言ったけどさ、あの時は仕方がないよ」

 

「……ううん、違うの。あの時アンタが庇ってくれた時にホッとした自分がいた。それでもしキラが庇ってくれなくて、あのまま自分に直撃したらって想像したら今でも怖い……直撃してたらあの時アタシは――――」

 

「――――大丈夫、大丈夫だから。どんなことがあっても、何が起きても守るから。君を、鈴音さんを僕が守るから」

 

「な、なに言ってんのよ……きゅ、急にそんなこと……っ、あー、もぅ、はい、終わりぃ!!」

 

「いっつつつ……と、突然叩かなくてもよくないかな……」

 

「あ、アタシは今から食器を戻してくるからサッサと寝てなさいっ!いいわねっ!!」

 

突然と背中を強く叩かれ痛みに悶えてしまう。何かまずいことでも言ってしまったのかと聞く前に鈴音さんは食器を持ってあっという間に部屋を出て行った。……とりあえず大人しく寝てた方がよさそうかなぁ――――

 

◇◇◇

 

『どうやら無事に第2操縦者の餓鬼の方は目を覚ましたらしいぜぇ。アイツからの情報だから確かだろうよ、嘘だった場合にあっちにも確認させるか?』

 

「いいえ、大丈夫よ。仮にそれが嘘だったとしても最終的にはISのデータさえ手に入れればいいもの」

 

『それは違わねぇ。どちらにしたって目を覚ました以上は最低限仕事をするように指示してんだ』

 

「……あまりいじめ過ぎたら駄目よ?偶然とはいえど私たちの存在にまだ気づいていない貴重な情報源なんだから」

 

『ああ、それはわかってるさ。あの餓鬼にはたっぷりと仕事をしてもらうまで使い潰すつもりはねえよ』

 

とある一室で連絡を取りながら端末を触っている1人の女性がおり、長身で豊かな金髪を持ち、その身を纏う赤いドレスは妖艶さを更に際立たせる。彼女が端末を使い見ている記事はIS学園が何者かに襲撃されたことについてでありそれを興味深そうに見ていた。

 

「それにしてもIS学園に堂々と襲撃者が現れるなんてね。これは少しばかり調べた方がいいかしら」

 

『ああ、それについて一応は聞いたが特に目ぼしい情報はなかったぜ。前に報告した通り、第二操縦者の方の専用機を確認した程度だ。無人機については教員どもが回収して、どこに隠されてるかは検討もつかねえってよ』

 

「あの子からの第二操縦者であろう専用機を確認した時点で情報としては充分よ。……でも、知ってる?実はこの襲撃の記事の前にも、一度IS学園に同じようなことが起きてるのよ」

 

『確か学園側は生徒の訓練によって起きたって言ってたやつか?それがどうかしたのかよ?』

 

「私の確かな情報だと、遮断シールドは内側からではなく外側から突破されたらしいわ。それもなんの前触れもなく……そしてその後にこの世界で2人目のIS男性操縦者が現れた。これって偶然かしら……?」

 

通話越しからの声は女性の疑問に対して『確かになぁ』っと呟き疑問が生まれる。その騒動は本当に生徒らの訓練によって起きた事故なのかと。その女性は一度疑問を持ってしまえばその答えを自らの手で解明しなければ気がすまない。

 

『それよりもよぉ、Mはともかくあのクソ野郎も好きに動かしていいのかよ?どう考えたって腹ん中隠してるタイプだろ』

 

「……けど、実力は確かよ。なんたってあのMを正面から完膚なきまでに叩き伏せたのは見ていたでしょ?それが自ら力を貸してくれるのは正直助かるわ」

 

『……ちっ、手を貸すと抜かしながら行動する気配は散々なかったくせに突然行動し始めたからな。なにを企んでるかわかったもんじゃねぇ……あのクソ野郎の企みがわかったら私の手で潰しても構わねえよなぁ?』

 

「ええ、その時は貴女に頼むわ」

 

通話越しからでも感じる殺意には彼女は止めることが無理であろうと判断をする。しかし、彼女がそう思うのも無理もないかもしれない。散々手を貸す素振りを見せなかった"男"はある記事を見た後に嘘のように積極的に動くようになったのだから。

 

「そうね、"フランス"のあの子から男性操縦者の専用機データをどちらか強奪した報告がきたら貴女は戻ってきなさい。そろそろ長い潜入は疲れたでしょ?戻ってくる際は特になにもする必要はないわ。あとは時間が進めば勝手に潰れていくだけだもの」

 

『そりゃ、違いねぇ。それにしてもあの餓鬼も可哀想だよなぁ。父親から男性操縦者のデータを盗んでこいは実は嘘だってことを知ることができなくてよぉ!大切な大切な娘と接し方がわからない馬鹿な奴らで助かったぜっ!!そのおかげでこうやって私たちが付け込むことができたんだからよぉ!』

 

先程までの殺意は嘘のように消え愉快そうに笑うのは彼女の悪い癖なのかもしれない。しかし、あの少女に同情するかと言われれば彼女たちの答えはNOだろう。たった一人の少女の人生がどうなろうが気にする必要もないのだから。

 

「……それじゃあ、私もそろそろ動こうかしら。Mもあの男も当分はアメリカでやることがあるもの。IS学園にそろそろちょっかいかけてあげないとねぇ?」

 

『それなら別にこの後私がやればいいんじゃねえのかぁ?』

 

「ふふっ、悪いけどこれは私がやりたい仕事なの。それにあの男が積極的に動いた記事に写ってる彼のことも気になるし、ね?」

 

まるで狂ったように高笑いをしていたあの男の様子を彼女は思い出す。彼女にとってはあれ程の実力を持ちうる男が拘るこの記事に写っている少年の存在が気になってしまった。通話を切り彼女はその少年の名を静かに呟く。

 

――――キラ・ヤマト君ねぇ?

 

 




いや、本当は某フランスの子の話を書きたかったけど無理ですした……許してぇ!ぶっちゃけ前回は変なテンションで投稿したので記憶が曖昧なんですよねぇ。まっ、是非もないよネ!はい、とりあえずキラ君のメンタル回復第一でした、次はキラ君のメンタル回復第二が主になるかと思います。銀髪ヒロインの登場はもう少し先そうですね、よしっ!

ちなみに今のキラ君って割と自分の精神状態は把握してるようで把握してないんですよね。本人的にはちょっとしんどい程度だったりします。なお、現実は非常なんですが((

それでは誤字&脱字の報告お待ちしていますっ!感想も毎度ありがとうございます!とても励みになっておりますので!!それでは次回の更新も気長にお待ちください!


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第15話 物静かの少女

私にサブタイトルは求めないでください。ネーミングセンスg((

はい、思いっきり時空列がガバって急遽出すタイミングを繰り下げたクソ作者です。いやね?本来は三馬鹿を出して次に銀髪眼帯っ子を出すつもりでしたけど……あの子来るのタイミングがね……?(白目

あと、みなさん某仮面の人って決まったわけじゃないのよ?ホントウダヨー?((目逸らし

はい、そしてこれはキラ君のメンタル回復パート2です!(白目

あっ、ちなみに割と久々の予約投稿だったりします(


「朝からなんで曖昧な顔をしてんのよ?数日ぶりの登校なんだから喜べばいいじゃない」

 

「……ちょっとね」

 

数日ぶりに登校することにはやっぱり不安に駆られてしまう。『ストライク』が公になったことについては整理できたけど、みんなの前でこの力を使い戦闘を行った……その後クラスに行けばどんな風に思われているのかと想像すれば足が竦んでしまう。

 

「もし行き辛いとか考えてんなら安心しなさい。アンタの所のクラスメイトは全員心配してたから。むしろ顔出した方が喜ばれるわよ」

 

「……そう、なのかな」

 

「なにー?アタシが嘘でもついてるって思ってる?そんなことで一々アタシは嘘なんてつかないわよ。とりあえず、うじうじするぐらいならサッサと行動するっ!動かないのなら蹴っ飛ばすわよ」

 

「……ああ、うん、それは嫌だからそうすることにするよ」

 

鈴音さんの言う通り今は考えていても仕方がない。登校しないという選択肢をとれば他の人にも迷惑をかけてしまう。それに鈴音さんが嘘をついているとは思えない。はっきりと言葉にして伝えてくれる彼女なら信用できる。

 

「アタシはクラスが違うから昼休みとかじゃないと面倒見れないけど、同じクラスの一夏たちが見てくれるはずだから。なんかあったら素直にみんなに口にする。はい、返事は?」

 

「う、うん……」

 

「その吃った返事に不満はあるけど……まっ、いいわ。それじゃあ、ちゃんとクラスまで自分で行くのよ?それともぉ、アタシが連れて行ってあげようかー?」

 

「そ、それは遠慮しておくよ……」

 

口元に手を当ててニヤニヤとしているのは絶対に揶揄っているよね……一応は怪我人ではあるけど、流石にそこまでされると色々と駄目なような気がする。実際された日にはそこそこ落ち込む自信があるよ、僕。

 

「それならアンタはサッサと教室に向かうこと。戸締りとかはアタシがしておくからさ。とりあえず、先輩とかに話しかけられても適当に返事を返しておきなさい。ほいほい、ついていきそうだし」

 

「そこまで子供じゃないよ?……なんか、鈴音さんの中で僕って子供認定しているよね?」

 

「なに?アタシの中でアンタをどう思ってるか知りたいのならはっきり答えてあげるけど。……まっ、それを聞いてへこむのは自己責任だけどね」

 

「……ああ、うん、それなら聞かないでおくよ……」

 

嫌われたり拒絶されたりするよりは遥かにマシではあるけど、子供認定はそれはそれで釈然としないというか何というか……言葉に甘えて僕は先に部屋を出る。教室に向かう途中に実際に先輩に話しかけられたけど言われた通りに曖昧に返事を繰り返せば話したこと自体に満足したのか去っていく。……僕ってそこまで子供じゃないんだよ?

 

「ここまでは来たけどやっぱり緊張するかどうかは別だよ……」

 

あと少しで教室に辿り着く寸前で足が止まる。鈴音さんの言葉を信用していないわけじゃない。だけど、それでもアークエンジェルの時のように自身とは違う存在に恐怖を抱かれるているのじゃないのか……?

 

「よっ、どうしたんだよ。ここで呆けてたら遅刻して、千冬姉に怒られるぞ?」

 

「あっ、一夏……うん、ちょっと久しぶりだから緊張してさ」

 

「あー、それは少しわかる。長期で学校休んでると少し登校しにくいよなぁ。よしっ、そんなら一緒に教室入るか。それなら大丈夫だろ?」

 

気さくに笑う一夏のおかげで少し不安が和らぐ。彼とこうやって話しているときはやっぱり落ち着く。一夏自身が裏表のない性格をしていることもあると思うけど。意を決して一夏と共に教室に入れば、その瞬間にその場にいるクラスメイトから一斉に視線が集まる。……これ、帰っていいかな?

 

「あっ、キラ君だっ!!」

 

「キラ君が帰ってきたぞー!!」

 

「朝からキラ×イチ、キテル……」

 

クラスメイトからは主に僕が戻ってきたことを喜んでくれる。どうも最後に意味を理解したら深い場所へと誘われそうな言葉が聞こえたけど気のせいだよ……そんな言葉は聞こえてないよ。

 

「キラキラだー!戻ってきてくれて、私嬉しいよ」

 

「……心配をかけてごめんね。でも、僕はもう大丈夫だから」

 

心配して駆け寄ってきたのほほんさんに僕はなんとか笑って答える。左肩を見て彼女の表情は僅かに曇るけど、すぐにいつものように表情を和らげその手に持っているモノを僕に渡してくれる。

 

「はいー!これは私からのキラキラへ退院お祝いなのだー!後で時間がある時にゆっくり食べてねー!」

 

「うん、ありがとう」

 

のほほんさんの言葉から察するに食べ物であるのは間違い無いだろう。SHRホームが始まるチャイムがなれば、集まっていたクラスメイトは自分の席に戻っていく。まぁ、席についていないと織斑先生の出席簿で頭を叩かれちゃうからね……そして織斑先生が入室してきて教室全体を見渡せば表情は変わらないものの満足気なのは気のせいでは無いだろう。

 

「どうやら今日は久しぶりに全員揃ったようだな。ヤマトは見てわかる通りまだ怪我が完治しているわけでは無い。もし困っているところを見かけたら全員手を貸してやれ、わかったな?」

 

「「はーいっ!!」」

 

「よろしい。ならば今からSHRを始める――――」

 

◇◇◇

 

 

「ぐったりとしているが大丈夫か、キラ?傷が痛むのなら遠慮なく言ってくれていいんだぞ?」

 

「……ううん、大丈夫だよ、箒さん。ぐったりしてる理由は別のことでだからさ……」

 

「……確かにこの時間になるまで合間に質問されていたからな」

 

昼休みに入れば食堂で僕は力なく座り込み、箒さんはそんな僕を見て心配そうに顔色を伺う。やっぱり彼女と再度当たり前のように話せるようになれて心の奥底からよかったと安堵する。箒さんも登校すること自体は久しぶりで、あの時に危険な行動をしたことはお咎めなしとはいかず1週間の停学を命じられた。彼女自身もそれは罰として当然だと受け入れ、1週間自室で過ごしていたらしい。

 

「まっ、これぐらい予測してたでしょ?新聞部からこんな記事が出されてるなら当然よねー」

 

「『まるでヒーロー。第二操縦者、キラ・ヤマトっ!!』っとデカデカと書かれていましたもの。キラさんは休養でご存じないと思いますが、この新聞が出回った以降はこの話題で持ちきりでしたのよ?」

 

「なんなら今でも大人気だよ。私たちにもこの記事について聞いてくる人がいるぐらいに」

 

「俺たちもその時がキラのISを初めて見たから全く知らないの繰り返しだったけどな。その記事の本人が登校したら質問されるのは当然だよな。……ほんとっ、その辺は助けられなくて悪かった」

 

「……それについては大丈夫なんだけど、問題はこの記事かな……」

 

昼食を取りながらその噂の新聞を僕は顔を顰めながら見る。記事の一面には中継室から狙撃した時の姿を写真を収められていていつの間に?っと疑問があるが、この記事にデカデカと書いてあるヒーローという文字には複雑な心境だ。

 

「……私が言うのは大いに間違っているがあのタイミングは確かにそう書かれても仕方がない」

 

「そうそう。キラとしては当たり前に行動したつもりでも周りはそう思わないんじゃない?そりゃ、目立つのとか苦手なアンタとしてはいい迷惑だけど。どうにしろ、そのことを気にしてたら身が持たないわよ?ほら、止まってる箸を動かす。今すぐ動かさないなら無理矢理口に入れるわよ」

 

「ああ、うん……」

 

鈴音さんに急かされて新聞から視線を外し、しぶしぶ食べることにする。この記事についてはもうどうすることもできないかなっとため息を吐けば何故か鈴音さん以外から妙に視線が集まっていることに気がつく。

 

「……えっと、みんなどうしたの?」

 

「なによ、みんなしてアタシたちを交互に見てさ」

 

「んー、鈴とキラって結構仲良いんだなって思ってな。俺としては仲良くしてて嬉しいけど」

 

「一夏の言っていることはわかるがどうしてそこに着眼する……私が気になったのは前の時よりもお前たちの距離感が近くないか?」

 

「そうですわよ、一夏さん。前からキラさんが鈴さんに頭が上がらないのは分かっていましたが……前よりも距離感が近くなった気がしますわ。物理的ではなく精神的にですが」

 

「そ、そんなことはないんじゃないかな?私は結構2人がこんなやりとりしてるの見てるしさ」

 

「あのねぇ、アタシとキラはこれでもルームメイトよ?流石にコイツの生活習慣ぐらいはわかってくるわよ。放っておいたら飯は食わないわ、放課後はふらっと姿は消してどこかにいるか自室で寝て過ごすのどちらか。そんで朝弱いかどうかは知らないけど基本自力で起きないし。挙げ句の果て昨日は今してる包帯は邪魔とか呟いてた。そんな大馬鹿のコイツを目を離した方が逆に不安よ」

 

指を一つづつ折りながら言っているのを聞いてると、結構僕って鈴音さんに甘えすぎではないだろうか……?彼女が言っていることは正しいため特に訂正どころか口を挟む気にはなれない。

 

「……薄々思っていましたがキラさんは割と自堕落な生活をしていますのね」

 

「……キラが自堕落というのは薄々は気付いていたがそれほどだったのか?」

 

「わ、私はそんなキラでも気にしないよ?ほら、誰だって苦手なこともあるから!」

 

「千冬姉とは違うベクトルで自堕落だよなぁ。前からも言ってたけどもっとキラは意識して生活した方がいいんじゃないか?」

 

シャルロットさんが唯一フォローを入れてくれるがむしろその優しさが一番心に堪える。どれほど言い訳をしてもこれだと聞き入れてくれなさそうなので大人しく頷いておくことにしよう。……まず織斑先生が自堕落って情報は割と知られたら不味いんじゃないかな?

 

「アタシとルームメイトの時は別に自堕落でもなんでもいいけど、1人になった時にきちんと起きれるように最低限はできるようになりなさいよ?いつまでも面倒見るわけじゃないんだからさ」

 

「……努力はするけどその時はその時かなぁ」

 

「それってしない奴が言う台詞だって、アタシはよーく知ってるわよ。ルームメイトの期間が終わって朝遅刻した時はアンタ覚えてなさい。その時はたっぷりと説教してやるから」

 

「まぁ、キラさんは鈴さんがルームメイトとして来るまでは少なくとも遅刻したことはないですので大丈夫だとは思いますわよ?ただ食事の時については姿を見ることは余りありませんでしたが……」

 

「私も探してたりしてたけど何処にいるかは分からなかったからなぁ。部屋は基本鍵がかかってたし……今から思えばキラって本当にフラフラしてるよね」

 

「俺たちは基本放課後はアリーナで訓練してることが多いからなぁ。よくよく考えたら放課後の時のキラが何処にいるかは知らないことが多い。……もしかして、職員室か?」

 

「それはないだろう……いや、一時期千冬さんによく呼ばれてることを考えれば一理あるのか?」

 

いつの間にか僕の生活を改めることより、放課後は何処で何をしていることについて話が変わっていく。確かに一時期職員室には呼び出されてたけど、それは基本的に僕自身に関わることがあるためだからだ。少しお説教されたりもしたけど……。

 

「まぁ、なんにしてもキラも専用機持ちになったことだしこれで一緒に練習ができるようになったな。怪我がちゃんと治ったら放課後一緒にやろうぜ」

 

「う、うん。時間がある時には手伝うよ」

 

「それにしてもキラさんはいつISを受け取ったのですか?そんな素振りは一切ありませんでしたので。少しばかりそれは気になりますわ」

 

「私もキラの専用機には興味あるかな。全身装甲(フルスキン)タイプの新型だよね?あんなカッコいい見た目なら一度見たら忘れないもん。でも、あの様子だと未完成なのかな……?」

 

「あっ、えっと……」

 

「キラがいつ専用機を受け取っていたことについては別に私たちが気になる程でもなかろう。そのことを気にする時間よりも、昼休みの時間を気にするべきだ。早く食べなければ千冬さんの出席簿で叩かれるぞ」

 

「そうそう、別にキラのISが新型だろうが別にどうでもいいじゃない。本人がある程度把握してるんならそれでいいでしょ」

 

どう答えようかと迷っていたら、箒さんと鈴音さんが困っている僕を見かねてなのかフォローをしてくれる。2人とも実際興味がないからかも知れないけど正直助かったよ……。

 

「そういえば今日放課後はどうするつもりなの?アンタがどっか行くつもりならアタシはそれに付き合うつもりだけど」

 

「今日の放課後は織斑先生に用事があるから大丈夫だよ。ちょっと、やらないといけないこともあるからね。一夏の訓練に付き合ってあげなよ」

 

「ふーん、アンタがそう言うならそうさせてもらうわ。そんじゃ、今日は久しぶりに一夏の訓練手伝ってあげるからありがたく思いなさいよ」

 

ストライクの状態を調べる以上はできる限り僕1人でやらないと。鈴音さんなら別にデータを見られたとしても頼めば秘密にしてくれるとは思うけど……ううん、やっぱり駄目だ。ストライクは僕の世界で兵器として作られた存在なんだ。それを誰かに不用意に見られたり、教えたりしてはいけない。

 

(……今のうちに調整もしないと。いつまた襲撃されるかわからないんだから)

 

片手でやることにはなるし、時間はかかるだろうがそれでも今日の内に終わらせてしまいたい。最悪今日は夜遅くまでかかるけど仕方がないかっと割り切りながら1人でにため息を吐いた――――

 

◇◇◇

 

「織斑先生、少しいいですか?」

 

「どうした?時間なら大丈夫だが」

 

「えっと……ここじゃ話しにくいので職員室でお願いします」

 

教室で流石に話すわけにはいかず織斑先生と一緒に職員室へと向かう。この時点で織斑先生は僕に関することだって察しているのだろう。ストライクの調整をする以上は端末を借りないと何もできない。もはやいつも通りである職員室にたどり着いて入室すれば他のクラスの先生たちには声をかけられて、同じく退院祝いなのかお菓子などを貰う。

 

「後で袋を渡すからそれらはきちんと隠しておけよ。それで?用事はなんだ。教室で話しにくいということはお前に関することなんだろう?」

 

「はい。ストライクのことを調べたいので端末を借りたいんです。ISとしてのストライクについて僕は最低限のことしか把握していませんし……それに今のうちに調整もしておきたいんです」

 

「……せめて怪我が完治した後にやっても問題はないだろう。お前が懸念しているのは再度この学園に脅威が現れること、違うか?なら――――」

 

「……何かがあった後にやっても遅いんです。我が儘なのはわかってます……でも、今できることをやっておかないと、もしもの時に間に合わなくなるのは嫌なんです。だからお願いします……っ」

 

後で後悔することになってしまうことだけは嫌なんだ。ストライクに不具合が起き、その手を掴むことが出来なくなることだってあるのかも知れない。それを想像するだけで恐怖で怯えて眠ることもできない。

 

「……わかった。端末については私が前に使っていたこれをやる。普通にパソコンとしても使えるからそのまま使え」

 

「……すみません」

 

「構わん。キラがそれをやりたいのならできる限りのことは手を貸すのは決めていたからな。それとだがストライクのデータはお前しか回覧できないように厳重にロックしろ。できるか?」

 

「はい、それについては大丈夫です。初めからそうするつもりでしたから」

 

 

織斑先生から前使っていたであろう端末を僕は受け取る。ストライクも僕と同じようにこの世界には手に余る存在だ。ISとして見るのならば恐らくは未完成でもあるため欠落品と見られるかも知れないけど兵器としてなら別だ。PS装甲や今はないストライカーパックのデータ、そしてストライク本来の姿であるMSのデータとして流出してしまえば世界は混乱に包まれるかも知れない。……それこそあの人が望んでいたようなことに。

 

「調整する場所は整備室を使え。後でお前が使っても問題ないように私が対処しておく。場所は知っているか?」

 

「はい、一通りは覚えていますから大丈夫です。我が儘を言って本当にすみません……」

 

「気にするな。なんであれ、お前が今やりたいと思うことを見つけてくれただけでいい。……念を押しておくが夜遅くまで取り掛かるなよ?」

 

「ぜ、善処はします……」

 

今日中にまとめて終わらせようとしてるのが見透かされていたのか織斑先生に睨まれて僕は笑いながら誤魔化して、その場から逃げるように職員室を後にする。……食べるものはのほほんさんや他の先生たちには貰ってるから夕食は食べなくても大丈夫かな。目的地である整備室にたどり着きまずはストライクを待機状態から解除する。

 

「……また僕を助けてくれてありがとう、ストライク」

 

かつてはコックピットであった場所にそっと手を添える。ストライクが人と近いサイズになっているのは未だに馴染んでいないけど、こうやって本来は届かない場所に触れることができるのは感慨深かった。

 

(……調整とストライクが現在何ができるかを早く調べないと。片手しか使えないから時間がかかりそうかな)

 

ストライクと先程貰った端末を接続してすぐに取り掛かる。前はコックピットに乗ってOSを書き換えていたのが少し懐かしい。調整をしていて、ひとまずわかったことはストライクのOSは僕が最後に搭乗していた時と同じで、PS装甲もデータ上は無事に作動している。

 

「比べたことがないからわからないけど……やっぱり他のISとは違ってエネルギーが少し低いのか?ストライカーパックがあれば解決はできそうだけど……」

 

やっぱり素のストライクだということもあるのかエネルギー量は少し心許ない。ビームサーベルとビームライフルを使用する際には前のようにエネルギーを気にしながら使用する必要があるだろう。当分はアーマーシュナイダー、ストライクバズーカをメインとして立ち回ることになるかな。

 

「……けどPS装甲が作動しているのならエネルギーは徐々に減っていくはず。それについては怪我が治った後に直接確認した方が早いのかな」

 

やっぱりMSからISに変化したことにより一部のシステムが変わっている可能性がある。PS装甲が恐らくはその一つだとは思うけど……戦闘をする際にどれほどMSの時と違いがあるのかも把握しないと。やることが山積みだなっとキーボードを打ちながら小さくため息を吐いてしまう。

 

「……ねぇ、君がそのISのパイロットなの?」

 

「そうだけど……えっと、君は?」

 

突然と話しかけられたことに驚くけど話しかけてくれた彼女の姿は誰かに似ている。その水色髪と眼鏡のその先の赤い瞳を見て脳裏には更識先輩の姿がどうしてか思い出してしまう。

 

「……私は一年の更識簪。そのISにちょっと興味があったから……少し見ていいかな……?」

 

「……うん、ストライクを見るぐらいなら別に大丈夫だよ」

 

断ろうかと一瞬悩んだけど不安そうにしながらも目を輝かせている姿を見たら断るわけにもいかないよね。ありがとうっと小さいけどハッキリとした声が聞こえ、興味津々にストライクを隅々まで見ている姿は微笑ましい。流石に人前でストライクのデータを見せるわけにはいかないため一度端末を閉じて作業を中断する。

 

「……ごめん、作業の邪魔をしたよね?」

 

「ううん、気にしないで。疲れてきたから少し休憩しようとは思ってたからさ。えっと、勘違いじゃなければ更識さんってもしかして更識楯無先輩の妹さんなのかな……?」

 

「……そうだけど。貴方もお姉ちゃんのことは知ってるの?」

 

「生徒会長ってことはなんとか……むしろそれぐらいしか先輩のことは知らないかな」

 

「……それって知ってるって言えないと思うよ」

 

更識先輩の話題を切り出せば表情が沈んだようだけど、僕の言葉を聞いて呆れた表情に変わっていた。他に思いつくとしたら……カリスマ性があることと、変装してくること……?正直言って更識先輩が一番苦手だと思う……いつも見透かしてそうなあの瞳が特に。

 

「貴方の名前はキラ・ヤマトなんだよね?あの新聞の記事が本当だったらだけど……」

 

「……名前についてはちゃんと事実だから安心して、うん」

 

「……えっと、新聞のこと気にしてたらごめんなさい。でも、貴方には少し聞きたいことがあって……」

 

「聞きたいこと?答えられる範囲なら大丈夫だけど……」

 

更識さんから聞きたいことがあると言われても、今日が初対面だということもあって何も思い浮かばない。ううん、一つだけ思い浮かぶものはあるけれど新聞の記事についてはノーコメントを貫くつもりだ。

 

「貴方のISは多分未完成だよね……?」

 

「う、うん。ISとしては未完成であると思うよ」

 

「……それなのにあの時、貴方は怖くなかったの?未完成のISで戦いに行くのは。あの時は私も観客席に居たから……それが少し気になったの」

 

「更識さんもあの時あの場所に居たんだね……うん、少しだけ怖い気持ちはあったよ。……でも、僕は大切な人を目の前で失う方がもっと怖いから」

 

彼女の問いに僕は隠すことなく正直に答えた。目の前で大切な人を失う方がもっと辛い。彼女の恐怖と僕の恐怖の意味は違うけど……それを初対面である彼女に流石に言うわけにはいかない。

 

「……そっか。うん、貴方が立ち上がったのはそのためだったとしてもお礼が言いたい。あの時に立ち向かってくれてありがとう……あの時、貴方のおかげで私は勇気づけられた」

 

「そう言ってもらえて嬉しいよ。あの時の僕の行動は間違っていなかったんだって、そう思えるよ」

 

「……嫌じゃなければ次からはキラ君って呼んでいいかな?」

 

「えっ、うん、全然大丈夫だよ。それなら僕は更識さんって呼んでいいかな?」

 

「……うん、キラ君の呼びやすい方で大丈夫だよ」

 

更識さんも箒さんと同じで名字で呼ばれるのは嫌いなのだろうか?更識さんの場合は多分更識先輩のことが原因だとは思うけど。……そういえば僕は箒さんが名字で呼ばれるのが嫌いな理由を知らないや。今度聞いてみようかな?

 

「……ずっと気になっていたけど、キラ君のその怪我はその時の?」

 

「えっと、そんな感じかな?特に大したことはないから全然大丈夫だよ。治るのも、もう少しだしね」

 

左腕を固定しているから、彼女は心配そうに見るけどこれぐらいなら平気だと意味も含めて笑って答える。不便なだけで別に最低限なことはできるから特に困っているわけでもないしね。

 

「……えっと、今後も整備室に来たりするかな?」

 

「うん、当分はストライクの調整とかをするつもりだからね。もしかして更識さんも?」

 

「……うん、私も似たような感じ。迷惑じゃなかったら次も話しかけていいかな?」

 

「全然大丈夫だよ。僕の方からも話しかけたりしても大丈夫かな?」

 

コクリと頷いたところを見ると次からは僕から話しかけても大丈夫だということだろう。整備室でずっと1人で作業するのもいいけどやっぱり誰かがいる方が安心するのは確かだ。そのまま更識さんと談笑していればいつの間にか食堂に行かないといけない時間らしく明日また会う約束をしてそのまま別れる。……やっぱり時間指定されてるのは大変そうだなぁ。

 

「……それじゃあ、できる限りのことをやろうかな」

 

「――――なーにができる限りのことをやろう、ですってぇ?」

 

「り、鈴音さん……っ!?」

 

「今の時間が一年の食堂を利用できる時間だってのはキラでもきっちりと覚えてるはずよねぇ?それなのに、アンタはいったいこれから何をしようとしてるのかしらぁ?うん?ほら、怒らないから言ってみなさい?」

 

「……ストライクのデータ入力、調整です……」

 

「そうそう、データ入力と調整ね。……アンタ、バカァ!?そんなの終わる頃には食堂の時間どころか浴室の時間だって過ぎてるわよっ!!徹夜でもするつもりっ!?ほら!サッサとその端末とISを片付けるっ!!やらないんなら今すぐアタシが適当にやるわよ!!」

 

鈴音さんの怒声には逆らうことは出来ずに僕は急いで取り掛かる。……ちなみに食堂に着くまで彼女からお説教をされて身も心も別の意味で擦り減ることになった――――




はい、もう少し銀髪眼帯っ子の出番はお待ちください。次のキラ君のメンタル回復パート3が終われば待望の彼女も参戦しますよっ!なんならあざトインである彼女の話も進みます。そりゃ、メンタル回復させないと誰がとは言いませんが折れちゃうでしょ?((

それでは誤字&脱字報告お待ちしております!!感想はいつもありがとうございます!とても励みになっております!次回の更新は未定ですが気長にお待ちください!


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第16話 三馬鹿


この話が一番過去最多の長さになってしまいました……テンションに身を任せて書いた結果がこれだっ!!((吐血

そしてみなさん某あざといさんが出遅れてると言い過ぎじゃないですか?そんなわけないじゃないですk……あざといさんの霊圧が消えた……?((

※この回は多分キャラ崩壊してると思うので注意して呼んでください(真顔


「……これって一応千冬さん公認のデートにはなるのよね?ちょっと向かう先とコイツがいることに大きな問題があるだけで……いや、でもアタシも同行しろって意味は完全にキラの世話係としてじゃ……?」

 

「鈴はさっきからブツブツと呟いてどうしたんだ?」

 

「あ、あはは……多分久々に外に出たからじゃないかな?」

 

(……うん、今の鈴音さんには関わらないようにしよう)

 

僕が外出するからなのか、それとも織斑先生が気を利かせてからなのかの判定をしている彼女から僕はそっと目を逸らす。今日は休日ということもあって僕らはIS学園ではなくその外に来ていた。2人はともかく僕の外出届を受理されたのは言うまでもなく織斑先生で『この世界の文化についてもそろそろ学ぶべきだろう。一夏と鈴音と一緒に外に出てそれを知ってこい』っと言われたのを思い出す。元は一夏が休日に遊びに行かないかと誘われたのが事の発端だ。……どうにしても元の世界には帰る手段がない以上はこの世界の文化についても触れていかないといけないのは間違いない。

 

「……でも、僕が来てもいいのかな?今から向かうのは一夏と鈴音さんの昔からの友達なんだよね。それなのに僕が行っても迷惑になるんじゃ……」

 

「それについては大丈夫だって。事前に弾にはそのこと言ってるし、全然大丈夫だってアイツも言ってたからな。むしろ来てくれって言ってたぞ?」

 

「うわっ、あの馬鹿絶対なんか企んでるわね……いい?何を聞かれても余計なことは言わなくていいわよ。言ったその時はわかるわよね?」

 

「……わ、わかったよ」

 

ニッコリと笑っているはずなのに彼女の目は何一つ笑っていない。むしろ、ちょっとした圧を感じ取れるのは気のせいじゃないだろう。まず、余計な発言判定って完全に鈴音さん基準だよね?僕基準じゃないから迂闊に喋れなくなるんだけど……。

 

「そういえばこの後帰ったらキラも1人部屋になるんだっけ?怪我も治ったようだしな」

 

「うん、この後戻ったら僕が移動する感じだよ」

 

「一夏はともかくキラが1人部屋なんて不安しかないわ……アンタ、ちゃんと朝起きれるわよね?」

 

「さ、流石に遅刻はするつもりはないから大丈夫だよ。これでも僕、遅刻はしてないんだよ?」

 

冗談ではなく本気で心配されているのは流石に胸に堪える。私生活については彼女に信用されていないのは薄々気づいていたつもりだけど……でも、遅刻したことがないのは事実だからね?それについては織斑先生か山田先生に確認してもらってもいいんだよ?

 

「久しぶりだけど、やっぱり一年ちょいぐらいじゃ変わってないわね」

 

「ああ。鈴が知ってる時とは特に何も変わってないぞ。久しぶりだし先に厳さんに挨拶はしていくか?」

 

「そうね。ほら、そこで呆けてるアンタも来る」

 

定食屋であるのか食堂の入り口から2人は入る。こういったお店には全く経験がないこともあり、緊張しながら2人の後を追うように入店する。僕の世界とは異なるお店ということもあって店内を見渡しそうになるが、側からみれば不審な行動であるため流石に慎むことにする。

 

「……なんだ一夏の坊主か。弾なら自分の部屋にいる。だからサッサっと上に――――もしかして、隣にいるのは鈴ちゃんか?」

 

「はい、お久しぶりです、厳さん」

 

「おぉ!元気にしてたか鈴ちゃん!中国に引っ越したと聞いていたから何かあったと心配してたが、こっちに帰ってきたのかっ!!」

 

「……俺の扱い酷くないですか、厳さん」

 

「お、落ち込まないで一夏」

 

鈴音さんと一夏の対応の差で落ち込んだ彼をなんとか慰める。厨房から駆け足気味に近づいてくる姿を見ていたからこそ一夏のダメージは深かった。なんとか一夏が立ち直ることに成功していると先ほどまで鈴音さんと話していた人から鋭い視線で睨まれることに気がつく。

 

「ところでそこの坊主は?鈴ちゃんと一夏の坊主の新しいダチか?」

 

「そうそう。こっちはキラ・ヤマトって子でアタシと一夏の新しい友達です。ほら、アンタも自己紹介する」

 

「う、うん。えっと……キラ・ヤマトです。よろしくお願いします……」

 

「一夏のダチにしては礼儀正しい方じゃねえか。ジジイの名前なんざ覚えなくていいが、オレは五反田厳だ。まぁ、よろしく頼むぜ、キラの坊主」

 

自己紹介をすれば何故か眼光が鋭くなったのは気のせいじゃないよね……?むしろ、これって完全に目をつけられた気がするのは間違いないよね?何か五反田さんの気に触れるようなことをしたのかと冷や汗が止まらない。

 

「それじゃあ俺たち家に上がらせてもらいますね」

 

「ああ、鈴ちゃんは別にここに居ていいがサッサっとお前らは上に行け。どうせ後で数馬の坊主も来るんだろうが、騒ぐのはいいがほどほどにしとけよ。……鈴ちゃんもやっぱり上に行くのかい?」

 

「一応はあのお馬鹿の弾君にも久しぶりの挨拶ぐらいはしないといけないので」

 

「別にあの馬鹿には挨拶なんざいらねぇと思うがなぁ。……また後でな、鈴ちゃん」

 

すっごくしょぼくれながら五反田さんは厨房へと戻っていく。その一連の流れを見て僕は戸惑っていたら一夏が優しく肩に手を置いてくれて静かに首を横に振る。……つまり、これって見慣れた光景ってことなんだよね。困惑しながらも僕は先程同様に一夏らの後を追う。一度食堂入り口から出て、裏口から入るのはそういった家の構造なのだろうか……?

 

「おっす、遊びに来たぞ、弾」

 

「おっ、やっと来たか。そろそろ待ちくたびれるところだったぜ……そんで、そっちが一夏の言ってた友達か?」

 

「おう。こっちは五反田弾っていって俺の中学生からの友達だ。そんで、こっちはIS学園で仲良くなった友達のキラ・ヤマト」

 

「おう!一夏のダチってことは俺のダチってことだな。よろしくな、キラっ!!」

 

「う、うん。よろしくね、五反田さん」

 

「そんな堅苦しくさん付けはいらないって。弾って呼んでいいからさ!」

 

一夏の友達である五反田――――弾は気さくに笑いながら話しかけてくれる。どうやって話せばいいのかと悩んでいたが、どうやらその必要はなさそうだ。お互いに自己紹介が終わると、それを満足そうに見ていた鈴音さんが口を開く。

 

「さっすがコミュ力についてだけは高い弾よね。一応は久しぶりって言っておくべきかしら?」

 

「一年振りだってのに鈴は全く変わってねえなぁ。その分だと元気にしてるようだから安心したぜ」

 

「当たり前じゃない。そういう弾こそ全く変わってないわねぇ。ちょっと身長が伸びたぐらいでしょ?まっ、日本に戻ってきたし、近いうちアタシの帰国祝いしなさいよ。メンバーもアンタ含めて三馬鹿で別にいいし。あっ、もちろんアンタらの奢りね」

 

全額そちら側の負担と聞いた一夏と弾は凄く納得いかなさそうな視線を向けるがなによっと鈴音さんは逆に睨み返す。こういったやりとりを見ていれば、この3人はやっぱり昔ながらの友達なんだと微笑ましく思う。

 

「それについては数馬も来てから俺らで相談させてくれ……ちょっとバイト代残ってるか後で確認するから」

 

「えっ、お前だけで別にいいだろ……まず鈴的にはお前1人でこと足りるっ!!だから俺と数馬はだな――――」

 

「はぁ?アンタら三馬鹿の中での紅一点であった鈴音様が帰ってきたのよ。弾も出費するの当たり前でしょうが」

 

「なんでだよっ!?いや、確かにお前が帰ってきたのは嬉しいけど、それとこれは――――」

 

「――――なんだ、入ってきてみれば騒がしい。いつからこの部屋はこれほど五月蠅くなったんだ」

 

「げっ、わかったけどアンタも来たのね……」

 

黒髪の眼鏡をかけた1人の男が気怠げに顔を顰めていた。彼の手にはビニール袋がありその中身は今日のために持ってきた菓子などが入っていた。鈴音さんはその姿を見て嫌そうに顔を顰めるものの、その人は鈴音さんの姿を見て納得する。

 

「一夏から聞いていたが本当にこっち側に帰ってきているとはな。……それにしても約一年経っているはずなのに"どこ"も変わっていないようだな、鈴」

 

「なんですってぇ!!変わってるわよ!!そう見えるのは数馬の目が節穴だからでしょうがっ!!」

 

「ははっ、ぬかしおる。この俺がそのことに気づかないわけないだろう。特に変わっていないのはその貧相な胸部装甲だな」

 

「――――コイツ、ぶっ殺す……っ!!」

 

「だ、駄目だよ!?落ち着いて鈴音さんっ!?」

 

完全に目の前の人を殺る気である鈴音さんをなんとか止める。そのことについては人一倍コンプレックスを抱いている彼女を刺激するには充分すぎる言葉だった。一夏と弾はいつものことだと半端諦めてるのか呆れた様子で見ている。ちょっとぐらいは手伝ってくれてもいいんじゃないかな……!?

 

「離しなさい、キラっ!!コイツだけはアタシのこの手で仕留める必要があるのっ!!あの憎たらしい眼鏡をかち割ってやるぅ!!」

 

「ふははっ、頭に血が昇れば猪突猛進の鈴が止められる姿は中々愉快だ。だが、安心しろ。世の中にはお前のような貧しい胸にも一定数の需要はある。まぁ、逆にいえばその一定数の需要にしか受けないということでもあるが」

 

「うがーっ!!好き放題言ってくれるわねっ!!今すぐ離しなさい!!」

 

「だ、だから落ち着いてっ!?一度冷静になって――――」

 

「アップルパイにはアップルが入っているが……ペチャパイには何が入っているんだ?」

 

「――――何も入ってないわよっ!!ころすぅ!!そしてアイツを殺して私も死ぬっ!!」

 

「君も君で煽らないでくれないかなっ!?」

 

僕が鈴音さんを止めていることをいいことに火に油を注いでくるので流石に悲鳴に近い声でツッコミを入れてしまう。結局鈴音さんが落ち着くまで数分ほどの時間がかかり、その間僕はずっと彼女を止めていたこともあってグッタリと疲れきっていた。

 

「……あのブチ切れた鈴を止めようと思う勇気があるのはお前ぐらいだぜ、キラ」

 

「……ああ、お前がナンバーワンだ、キラ」

 

「……褒めてくれるより、止めるのを手伝ってくれた方が嬉しかったよ……」

 

「実際鈴のやつを止めるとは大したものだ。こんな状態ではあるが俺は御手洗数馬だ、お前の名前はニュースや新聞で嫌というほど知っている。キラ・ヤマトだろう?。一夏の友達なら俺の友達というわけだ、よろしく頼む」

 

「……う、うん……よろしく頼むね……」

 

すっごくマイペースな人だなっと思うけど悪い人ではなさそうだ。一夏と弾が止めなかったのも日常茶飯事だったからなのだろう。……でもね、それはそれで教えてほしかったよ……。

 

「あー、もぅ、アンタは怪我治ったばかりなんだから無理しなくていいっての。ほら、大丈夫?」

 

「「「お前が言うな」」」

 

「わ、わかってるわよ!!てか、数馬はこっち側でしょうがっ!!」

 

「……僕としては全員同罪なんだけど……」

 

一夏と弾も同罪だよ……むしろ数馬が一番の重罪だよ。数馬から飲み物を受け取ってなんとか一息つく。こんな風に友達と馬鹿騒ぎしたのはいつ振りだっけ……?IS学園にいる時でこれほど馬鹿騒ぎはしていない筈だ。……うん、ヘリオポリスでみんなといた時ぐらいだ。

 

「こんだけ人数がいるんなら大乱闘でいいだろ?とりあえず久々だし軽くならそうぜ」

 

「よしっ、今日は俺の独壇場にしてやるからな。数馬さえ倒せばあとはどうとでもなるはずだ!」

 

「ふんっ、一夏にしてはやる気があるようだな。しかし、お前が俺に勝つの不可能に近い。なぜならば俺は強いからだ」

 

「馬鹿、一夏っ!数馬のやる気を出すような台詞言ってんじゃないわよっ!!あー、もぅ!やる気出す前に潰せばワンチャン勝てる筈だってのに!……よしっ、キラ、アンタ手を貸しなさい」

 

「い、いや、僕はやり方知らないから……」

 

「いいの!操作方法ぐらいはアタシが教えるから!こういうのは戦いは数だって骨の髄まで教えてやんのよ!!」

 

完全にその台詞は実は20代後半の人が言うようなやつだよね?数馬の強い発言は正にその通りで正に独壇場の一言に尽きる。圧倒的なその強さに初めてであった僕は呆気なく一番最初に敗れた。

 

「アンタは少しぐらいキラに手加減ぐらいしてあげなさいよっ!!」

 

「馬鹿め、勝負事に手加減など相手に失礼だろう。ほら、次はお前の番だ、鈴」

 

初めから勝敗は決まっていたと言わんばかりに数馬が最後まで勝ち残りそれを全員恨めしそうに見るが、勝ち残った彼はそれを逆に鼻で笑う。そしてやれやれと肩を竦め数馬は眼鏡をくいっと上げながら口を開く。

 

「さて、いつも通りにハンデをしてあげてもいいが?残機1でお前たち全員を相手してやっても構わん」

 

「やってやろうじゃねえか、この野郎っ!!」

 

「その驕りを絶対に後悔させてやるからなぁ!!」

 

「うわっ、流石にその見え透いた挑発に乗るなんて本当単純ねアンタら……」

 

「なんだ、怖じ気づいたのか、貧乳」

 

「はぁ!?やってやろうじゃないのっ!!今すぐにでもぶっ飛ばしてやるわ!!」

 

その一言で呆れていた鈴音さんも完全にその気にさせてる辺り容赦ないなって戦慄する。これは僕もやらないと挑発されそうなため大人しく一夏らのチームに入る。……まぁ、結果は言わなくてもわかっちゃうよね?

 

「……しっかしよぉ、お前ら2人は羨ましいよなぁ!!あの花の楽園で名高いIS学園に入学できてよぉ。くそぉ、俺だってISが操縦できれば……っ!!一夏とキラ、どっちか俺と変わってくれ!!」

 

「だから変われるもんなら変わってるって……今はマシだけど最初の頃なんて居心地悪かったからな。なぁ、キラ」

 

「うん、最初は凄く視線が集まってたからね……行動の一つ一つをまるで別の生き物を見られてるような感覚だったよ……」

 

「くそっ!それはお前らが今恵まれてる環境にいるから文句が言えんだよ!!男ならなぁ、誰もが一度は体験したいことなんだよぉ!!」

 

「おい、その中に俺を含むな。俺は別にIS学園など興味も微塵もない。同世代やたかが1、2歳、上の女などに興味などあるものか」

 

弾が本気で悔しがっている反面、数馬は興味なさそうに呟く。そもそも弾がIS学園に憧れている点は多分別の理由で鈴音さんはそんな弾を冷たい視線で射抜いていた。

 

「仮に弾がIS動かせて入学できたとしても、いいところで気さくな奴で印象止まりよ。アンタが思ってるほど女はチョロくないのよ」

 

「ぐっ、そんなのわかんねえだろ!?くそぉ、キラっ!!一夏はIS学園ではどうなんだっ!!特に異性関連!!」

 

「……ああ、うん……そうだね、少なくとも3人ぐらいは想ってると思うよ……」

 

「クッソタレェェェェ!!なんでだっ!?やっぱり顔なのかっ!!キラぁ、数馬っ!!今日から俺らは非モテ同盟を組むぞっ!!」

 

「……また馬鹿の嫉妬心が爆発したか」

 

目から血涙が出そうなほどに赤くなっているところを見ると弾がどれほど一夏関連で苦労したから伺える。数馬はめんどくさそうな顔をしているが否定しないところを見ると一夏の現状に不満はあるのだろうか?……僕は別に気にしてはいないけど……でも、恋路関係で巻き込まれることは嫌かなぁ。

 

「モテている一夏には俺らの気持ちなどわかるまいっ!『えーっ、弾君は確かにカッコいいけど一夏の方がタイプかな』っとか『今度一夏君を遊びに誘いたいから予定教えてくれないかな』っとかなぁ!!俺だって女の子と遊びてえよぉ!!」

 

「お、おう……?なんか、すまん……?」

 

「あのさ、アンタのどうでもいい実話なんて知ってるから興味ないけどキラも割と今モテてるわよ?まず元からシャルロットと仲良かったしあと、のほほんさんだっけ……?それに最近整備室でよく話してる子もいるでしょ?最近活躍したからねぇー」

 

「……はっ?」

 

「一夏と同じIS学園にいる時点でキラがモテることなど想像できるだろう?一夏が爽やか系なら、キラは守ってあげたい系には人気だろうな。やれやれ、これだから馬鹿は……」

 

「それにぃ、千冬さんやその副担任の山田真耶だっけ?その人にも結構気に掛けられてるわよね。頻繁に職員室とか行ってたらしいし」

 

「……鈴、その山田真耶という女性の年齢は?」

 

「さぁ?でも、見た感じ千冬さんと同じくらいじゃない?」

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!あの千冬さんに気に入られるとはどんな方法を使った答えろぉ!!職員室に行って何をしているっ!進路相談室にでも行って2人きりの特別レッスンなど受けているわけではあるまいなっ!!なんなら、その山田真耶女史も入り、3人だけの個別指導などしているのかっ!!さぁ、はけぇ!!」

 

「キラぁぁぁぁぁ!!お前は、お前は俺たちのことを裏切らないって信じてたんだぞっ!!なのに、なのにお前はっ!!」

 

「そんなことをしてるわけないじゃないかっ!?まず鈴音さんも明らかにワザと言ったよねっ!?」

 

「……ちょっと面白そうだなって思って、つい」

 

笑いを堪えてる鈴音さんを心の中で恨み本気で胸ぐらを掴みそうな勢いで近づいてくる弾と数馬を相手することに専念する。一夏の時よりも明らかに殺意を抱かれてるのは気のせいじゃないよねっ!?特に数馬の殺意は割と本気な気がするんだけどっ!?

 

「……ぜぇ、ぜぇ……鈴を抑えてた時点でわかっては、いたが体力あるじゃ、ねえか……」

 

「……はぁ、はぁ……文武両道である俺から逃げれるとはなぁ……キラ、お前のことを少々侮っていたようだ……」

 

「……そ、それなら本気で襲ってくるのはやめてくれないかな……」

 

「あのなぁ、お前ら暴れんなよ?厳さんに怒られても俺は知らねえからな」

 

「そん時はお前も同罪に決まってんだろうがっ!!元はお前がモテるのが悪いんだよっ!!」

 

「……もう、僕は巻き込まれるのは御免だからね」

 

「……馬鹿には付き合ってられん」

 

一夏と弾でもう一戦ありそうな雰囲気なため僕と数馬は巻き込まれないように距離を取る。今日でこれだけ疲れるなんて思っていなかったよ……襲ってきた2人を相手したから喉が渇いたと思っていると鈴音さんから飲み物を渡される。

 

「はい、馬鹿2人の相手お疲れさま。見ている分には中々面白かったわよ?」

 

「……僕としてはいい迷惑だったよ」

 

「ごめんごめん。IS学園で見たことがないアンタが見れて新鮮だったわよ?でも、こうやって何も考えないで馬鹿やるのも大切だと思うわよ?特にアンタの場合はさ」

 

「……あはは、毎日は流石に勘弁かなぁ」

 

「……ほぅ、珍しいな。鈴が一夏以外の男に気にかけるのは」

 

「はぁ?別に友達を気にかけるぐらい当たり前でしょ。それにど変態のアンタに気を使うとか絶対に嫌っ!」

 

「馬鹿め、俺ほど紳士的な男などいるものか。それに俺が性的興奮を覚えるのはお姉さん系だ。断じて同世代に興奮することはないっ!」

 

「だからそういうのを平然と言うから変態だって言ってるんでしょうがっ!!」

 

……ああ、こっちでももう一戦始まる気配がするよ。一夏と弾は完全にゲームで白黒つけるようなのかさっきから白熱した声が聞こえてくるし。主に弾の恨言ばかりだけど。はぁ、この2人を次は止めないといけないのかぁ。

 

「お兄っ!さっきからご飯だって呼んでるじゃん!!それにさっきからうるさ――――」

 

「あっ、蘭じゃないか。久しぶり」

 

「いっ、一夏さん……っ!?」

 

突然と扉が蹴飛ばされる勢いで入ってきた子は恐らく弾の妹さんなのだろう。髪の色もバンダナを巻いているところを見ても。そして彼女の様子と鈴音さんが若干不機嫌になった気がしたところを見てある程度察することができる。

 

「……なに、アンタは蘭を見てるのかしらー?ほら、飲み物ほしいんでしょ?アタシがついであげるし、飲ませてもあげるわよ。とびっきりのサービスしてあげる」

 

「い、いや、もうこれ以上はいら――――」

 

「……どうやら今日は鈴からの貧乏くじを引かされるのはキラのようだな」

 

数馬は止めるどころか巻き込まれないようにこっそりと離れ、ニコニコとした鈴音さんは遠慮なく飲み物をぐいっと飲ませてくる。タップしても止まる気配がないのは完全なとばっちりだよね!?

 

「……んぐっ!?」

 

「ほーら、頑張れ♡頑張れ♡」

 

「……言っている言葉は最高なはずだがシュチュエーションが最悪だな。しかも、炭酸飲料ときたか……」

 

「……鈴とキラは何やってるんだ?」

 

「……馬鹿野郎、キラは犠牲になったんだよ。犠牲の犠牲にな……」

 

「……ごほっ、ごほっ……こ、これ以上は本当に無理だから……」

 

「よーし、よく飲めたわね。偉い♡偉い♡」

 

「「うわぁ……」」

 

炭酸飲料を一気飲みさせられた反動で咳き込んでいれば、その無理矢理飲ませた張本人である彼女は優しく背中をさすってくれる。流石の数馬と弾もそれにはドン引きしたのか引き攣った顔だった。結局僕の咳が落ち着くまでは数分程の時間が必要だった。その後は弾の部屋に上がる前に立ち寄った食堂入り口から入ると弾は露骨に嫌そうな声を出す。

 

「……うげぇ」

 

「……ん?」

 

「なに?お兄はなんか文句あるの?あるならそこで数馬さんと一緒に食べれば?」

 

「……泣けるぜ。これが妹からのとってもありがたい優しさだぜ?」

 

「なにナチュラルにアタシをいなかったことにしてるのよ。それとも蘭ちゃんは見てなかったのかしらぁ?」

 

「あっ、鈴音さんいたんですね。小さくてよく見えなかったんです。ごめんなさい」

 

2人の間に火花が散っているのは見間違いではないはずだ。ここでも一夏の恋路に関わることになるのは流石に予想外だよ……他のお客さんの邪魔にならないようにひとまず先に着く。そこには人数分の昼食が置かれていて弾が言うには余り物らしい。

 

「……俺は嫌だからなぁ。一夏が義弟になるなんて嫌だからなぁ」

 

「……本当にその点については俺とて同情する」

 

「……強く生きることは大切だよ、弾」

 

冷めないうちに昼食を取ることにする。弾は完全に涙を流しながら食べているけど義弟になるのはまだ可能性の話だから気を強く持って欲しい。

 

「あっ、そういえば蘭にはキラのこと紹介してなかったっけ。こっちは弾の妹の五反田蘭で、そしてこっちが俺の友達のキラ・ヤマト」

 

「……よろしくお願いします。キラさん」

 

「うん、よろしくね。五反田さん」

 

流石に彼女のことを名前呼びするのは気が引けるので名字で呼ぶことにしよう。まず彼女としては一夏から名前呼びされる方が絶対喜んでいるだろうし。すると自己紹介をジッと見ていた鈴音さんが何か不満そうに口を開く。

 

「……キラ、今度からアタシのことさん付けはなしね。ずっと思ってたけど堅苦しいから、そろそろ名前呼びしなさい。てか、鈴でいいから、わかったわね?返事は」

 

「……えっ!?う、うん、わかったよ……」

 

「……んんっー?おい、数馬、これってどういうことだと思う?」

 

「……さてな、俺たちはキラと鈴のやつがどれほど仲がいいのか分からん。だが、鈴は一夏のことが今でも好きであるのは蘭の登場で判明しているからな」

 

ヒソヒソと小声で2人は話しているようだが、流石にその会話を聞き取ることができなかった。鈴音さん……ううん、鈴はやけに満足気だし……どうしたんだろ?

 

「そういえばだけどよ、IS学園は全寮制なんだよな?部屋ってどんな感じなんだ?やっぱりキラと一夏が一緒の部屋にいたんだよな?」

 

「うん?違うぞ。俺は最近は1人部屋になったけど前までは箒と一緒だった。それにキラは鈴と同じ部屋だぞ」

 

「……ホウキ?え、えっとそれって女性の方ですか……?」

 

「おう、幼なじみの1人でな」

 

「は、はぁぁぁぁ!?お前ら、つまりそれって男女同じ部屋で過ごしてたってことか!!そしてキラと鈴は現在進行中で同じ部屋で寝てるってことかっ!?」

 

「弾、うるせえぞぉ!!飯ぐらい黙って食いやがれっ!!」

 

厨房の奥から厳さんの怒声が飛んできて弾は渋々声のトーンを下げて話を続ける。数馬は全く興味なさそうに食べているところを見ると本当にこの手の話は興味がないんだね……。

 

「なんだ、その羨ま、いや、けしからん状態はっ!!キラの同居人が鈴の時点で置いておくとしてっ!!」

 

「そこの馬鹿後でこの家の庭に来なさい。絶対に土の中に埋めるから」

 

「で、でも、もう1人部屋なんですよね?」

 

「おう、流石にな。部屋の準備ができなかったのが原因だったからな。キラの場合は怪我したのが原因でその期間が延びただけだし」

 

「……ふむ、それなら鈴がヤケにキラを意識している理由に納得がいく。同居している状態なら他者への興味が薄い鈴でも嫌というほど意識はするだろうからな」

 

今まで話の輪に入ってこなかった数馬は納得したように僕と鈴を交互に見る。そんな彼を彼女は、はぁ?っと何を言っているのかわけがわからないといった視線で見る。

 

「なに馬鹿なこと言ってんの?アタシは義理を通しているだけよ。アタシがキラを意識してるとかあり得るわけないじゃない。基本自堕落だし、情けない奴だし……まぁ、結構気が利くし、愚痴の時は不満は言うけど文句は言わないで聞いてくれるし、たまにほんとたまーにカッコいい時とかはあったけど。それでもコイツのこと意識するとかあるわけないじゃない」

 

「……ふむ、その本人であるお前が言うのならそうなんだろうな」

 

「……おいおい、こりゃちょっとマジで……?」

 

なによっと彼女が睨めば数馬と弾は何もないと首を横に振る。何故か数馬と弾から何度も背中を叩かれる理由が湧かないで疑問が浮かんでしまう。時折りチラチラと厨房の方から視線が送られるのも気になるけど……。五反田さんがIS学園へと入学するといったことによりもう一騒動有ったものの無事(?)に一夏が面倒を見るという約束を取り付けた彼女は喜んでいた。なお、弾は本気で泣いていて、鈴はめちゃくちゃ不機嫌になったりしたけど……。

 

「「「ごちそうさまでした」」」

 

昼食は食べ終わり次は何をしようかと話していると、僕らが食べ終わったことに気づいた厳さんが厨房から出てくる。

 

「おい、食べ終わったのなら上に行くか外に遊びに行くかサッサっと選べ。もちろん、蘭と鈴ちゃんはいつでもここにいていいからな」

 

「……でたな、厳さんの2人贔屓」

 

「まぁ、確かにこれ以上は仕事の邪魔になるだけだしとりあえず上いこうぜ」

 

「おう、サッサっと三馬鹿どもは上に行きやがれ。そして、キラの坊主、お前にはちょっと片付けを手伝ってくれ」

 

「おい、爺さん。片付けなら俺が――――」

 

「いいからお前らはサッサっと上に行け」

 

弾の言葉を遮るところを見ると、どうしても僕を手伝わせたいのだろうか……?厳さんが話を聞き入るところがないのを見てみんなは先に部屋に戻る。鈴が心配に見てきたのは単純に僕が片付けをできるのか疑われているからなのだろうか……。

 

「悪いな急に呼び止めてよ。だがよ、どうしても確認してぇことがあるんだ」

 

「……えっと、確認したいことですか?僕と鈴は別に普通の友達ですけど……」

 

「そりゃ、お前と鈴ちゃんの関係性は一から十まで根掘り葉掘り聞かせてもらうが今はそうじゃねぇ。俺はよぉ、この道で何十年も生きてきたから自分の料理や、客がなんて思って食ってるのか当てれるそこそこの自信がある。……キラの坊主、お前よ、味してねえだろ?」

 

「……っ、それは……」

 

「このことは誰にも言うつもりはねぇ。正直に白状しちまえ、別に怒ってるわけじゃねえからよ」

 

「……そう、です。すみません……」

 

「……そうか。やっぱおめぇ味がしてなかったか……」

 

僕は俯きながら正直に白状をする。厳さんは怒るところがむしろ悲しそうに表情を歪める。食べるときに味がしていないことを呆気なくバレてしまった事実に僕は頭が真っ白になっていてなんと声を出せばいいのかわからない。

 

「味がしねえのはいったい、いつからだ?」

 

「……最近です。気づいたらそうなっていました……病気とかではないと思いますけど……」

 

「……そのことは一夏の坊主や鈴ちゃんは知っているのか?」

 

「……2人や、僕の友達はこのことは知りません。誰にも言っていませんから」

 

力なく僕は首を横に振る。このことは誰にも教えるようなことはしていないし、千冬さんや山田さんにも味覚がないことについては伝えていない。

 

「おめえよぉ、それは親は知ってんのか?」

 

「……僕は1人ですから両親はいません」

 

「……悪い、流石に不用心すぎたな」

 

「……いえ、大丈夫です」

 

正確に言えばこの世界に両親がいない、という意味ではあるがそれを教えるわけにはいかない。本当の親の顔は写真しか見たことがないことを考えれば、いないというのは強ち間違いではないけど……仮に僕を造った両親がいたとしても僕はきっとその人たちを親と認めることはできないだろう。何故、僕のような存在を造ったのか、そしてこの力のせいでどれだけ苦しい思いをしたのか……きっとそれを感情に身を任せてぶつけてしまう。

 

「……おめえよぉ、つらくねえのか?」

 

「……大丈夫です。慣れていますから……苦しいのも、つらいことも、悲しいことも我慢するのには慣れていますから……」

 

「……馬鹿野郎が、なにが慣れているだ。今すぐ鏡でも見てきやがれ。坊主、お前は今にでも泣きそうな面をしてんだろうが。いいかっ、確かに人間はつれぇことや苦しいこと、悲しいこと我慢することはできる。だがなぁ、どうやってもそれに慣れるってことはねえんだよ。仮にそれができても、どんだけ長く生きようが、それに慣れちまったら駄目なんだよ」

 

「……っ……」

 

「お前さんが何かを抱えてるってのは老いぼれたジジイだからわかる。お前のよ、その顔はまるで戦争で大切なもんをなくしてきた奴にそっくりだ。……悩んでるんなら今、吐き出していけ。アイツらには到底言えないことなんだろ?」

 

「……わから、ないんです……僕自身が今何をしないといけないのか……どうして今生きている意味も……全部わからないんです……」

 

厳さんは僕の言葉を無言で受け止めてくれる。何度も何度も自分の中で感じていたモノを初めて他人に打ち明けてしまえば、溜まっていたものは止まることなく吐き出してしまう。

 

「……すみません、見苦しいところ見せてしまって……」

 

「別に構わねえよ、吐き出せって言ったのは俺だからな。キラの坊主、また苦しくなったらここにこい。老いぼれたクソジジイはアドバイスはできねえが話ぐらいは聞いてやるからな」

 

「……ありがとうございます」

 

「ほれ、そろそろ弾たちの所に戻ってこい。アイツらのことだからまた馬鹿騒ぎしてんだろ。……キラの坊主、これだけは伝えておく。どんだけつらくても、苦しくても生きろ。……それがお前さんにとって酷かもしれねぇ。けど、お前さんが生きていることに喜んでくれる奴ってのは絶対にいる。この老いぼれたクソジジイもその1人だってのを忘れるな」

 

「……はい」

 

僕が生きていることに喜んでくれる人がいる、厳さんは真っ直ぐと僕を見ながらそう言ってくれた。僕という存在はあの人の言う通り存在してはいけないはずなのに、厳さんのその真っ直ぐな言葉に心が僅かに軽くなった気がする。

 

「遅かったじゃんか。とりあえず今から外に遊び行くことになったけど大丈夫か?」

 

「ごめんごめん。うん、外に行くのは大丈夫だよ」

 

弾の部屋に上がれば外出することに決まったのか弾が外に行くための準備をしている。五反田さんがいないということは多分自分の部屋に戻ったのかな?これから外に遊びに行くことに楽しみと不安を抱えてしまうが、多分大丈夫だよね……?

 

「……ねぇ、キラ」

 

「……?どうしたの、鈴?」

 

「……ううん、なんでもない……」

 

話しかけてきた彼女はどこか落ち着きがなく見えるけどどうしたんだろう?みんなは特に気にしていないようだけど……うーん、僕の気のせいなのだろうか……?この後ゲームセンターに行って数馬VS弾&一夏のホッケー対決があったものの、その結果はもちろん数馬の圧勝で幕を閉じた。

 

◇◇◇

 

 

時刻は午後6時過ぎで僕はIS学園でこの部屋から撤去するための荷物整理をしていた。もっとも荷物といっても本当に必要最低限のものしかないんだけだね。ゲームセンターの時からでもあるけど、IS学園に戻って来れば鈴から何故か視線を送られてくる。いつもその時はすぐに話しかけてくるのに。

 

「……うん、こんなものかな?今まで迷惑かけてごめんね、それと今日までありがとう」

 

「……こっちこそね。アンタとの生活そこそこ楽しかったわよ」

 

元気がなさそうだけど大丈夫だろうか?基本彼女の機嫌が悪くなるのは一夏関連ぐらいだったからどうも思い浮かばない。……後でそれとなく一夏に鈴を気にかけてあげるように伝えておこうかな。

 

「それじゃあ、僕はそろそろ移動するよ。えっと、また明日……?」

 

「なんで自分で言っておいて疑問を持ってるのよ……あのさ……なんかあったらアタシのところに来なさい。アンタだったら面倒ぐらいは見てあげるから……」

 

「そ、そういうわけにはいかないよ。僕はもう大丈夫だし、それに鈴としては一夏の方が――――」

 

「いいからっ!……なんか、あったらアタシのところに来なさい。わかった……?」

 

「う、うん……」

 

「……うん、ならいい。明日の朝までは起こしに行ってあげるから」

 

不安そうな顔から一変して鈴さんは安堵したのか表情が嘘のように柔らかくなる。本当にどうしたのかな……?彼女がこうも気にしてくれるのに少し引っかかりを感じながらも僕はこの部屋を後にした――――





はい、これでメンタル回復は終わりです。次はやっと眼帯銀髪っ子が登場だよ、やったねっ!!つまり、あざといさんが動き始める合図でもあるヨ!!……とりあえず怖いんで後でキャラ崩壊タグつけときます……え?数馬君はああなったのはオレは悪くねぇ!オレは悪くねぇ!!

はい、脱字&誤字報告いつもありがとうございます!!そして感想もとても嬉しいです!!これが人の温もり((


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第17話 新たなる転校生


はい、みなさんが待ちに待った某眼帯銀髪っ子の初登場です。これで一応はヒロイン全員が登場したことになるかな?えっ、アーキタイプブレイカー……?……いやぁ、ちょっと資料足りないから無理そうかなぁ……出せそうな子はいそうだけど……ね?((吐血




――――厄介な奴だよ、君は!在ってはならない存在だというのに。知れば誰もが望むだろうっ!!君の様になりたいとっ!!君の様でありたいと!!……故に許されない君という存在はっ!!

 

 

「……また、か……また、この夢なのか……」

 

荒い呼吸を落ち着かせる様に胸を押さえながら上半身を起こす。薄暗い部屋の中で唯一デジタル時計の光が見え、時刻はまだ深夜の3時だった。この時間帯に目が覚めることはもう珍しくも何もない。最近はこの世界に来る前にあの人と戦闘をしていた夢、そしてあの時にあの人が口にしたことを永遠に繰り返し見ている。

 

「………わからないよ……」

 

あの人は僕という存在は在ってはならないと否定をした。けれど、織斑先生と厳さんは僕という存在を生きていることに喜んでいてくれる。どちらが正しいのだろうか……?何度考えてもその答えはわからなかった。いつものように脱力感と虚無感に襲われれば再度眠りにつく気力もわかない。

 

「……フレイ……僕は、僕は……」

 

そして僕は縋るようにまた彼女の名前を呼ぶ。いるのならどんな言葉でもいい、恨言、罵倒、憎悪だった構わない……ただ彼女の声が聞こえるのだったらなんでも良かった。けれど彼女の声を再度聞けることがないのは一番僕が知っている。

 

「……フレイ……フレイ……っ」

 

何度も僕は彼女の名前を譫言のように呟き続ける。彼女がもうどの世界にも存在しないという現実を認めたくなかった。だけど彼女がまるで宇宙の星屑のように消滅していく姿はコックピットからはっきりとこの目で捉えていた。結局この日は再度眠ることなく朝を迎えるまで、僕はただ何度も彼女の名前を呼び続けた。

 

◇◇◇

 

 

「キラ大丈夫……?少し顔色悪いような気がするけど」

 

「……うん、大丈夫だよ。ちょっと寝る時間が遅かっただけだから気にしないで」

 

朝の時間ギリギリで教室になんとか入ることができたら、それに気づいたシャルロットさんが心配そうに声をかけてくれる。結局僕は遅刻寸前まで自身の部屋から一歩も動くこともできず蹲っていた。今でも本当は部屋に戻り、何もせず蹲っていたいがそれだとみんなに余分な心配をかけてしまう。そのことを思い出してなんとか今日は教室に来ることができた。SHRが始まることもあり彼女とはあまり話すこともなく席へと戻る。

 

(……駄目だ。今は、彼女のことを考えたら駄目なんだ……)

 

今このタイミングで彼女を、フレイのことを考えてしまったらこの後の全てのことに手をつけられなくなってしまう。何かの拍子で彼女の名前を無意識に呟き、それを誰かに聞かれてしまうわけにはいかない。

 

「諸君、おはよう」

 

「みなさん、おはようございます」

 

織斑先生と山田先生がいつものように教室に入ってくればまだ話していた女子もピタリと会話は止まる。織斑先生が来てくれたおかげか僕も僅かばかり頭を切り替えることができたけど、それでも本調子というわけにはいかない。

 

「今日から本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないように」

 

(……そういえば僕のISスーツはあの時に着ていたパイロットスーツなんだっけ……)

 

パイロットスーツもこの世界に来てからの影響か極力この世界のISスーツに近しいものに変わっている。ストライクもそうだけど元の状態を知っている身としては助かってはいるけど……本格的な実戦訓練が始まることについてはいい思いは抱いてはいないけど僕はこの世界で部外者という立場な以上は迂闊な発言は控えるべきだ。僕の世界とこの世界は異なる世界だと割り切るにはやっぱりもう少し時間が必要だよ。

 

「私からは以上だ。山田先生、ホームルームを」

 

「はい。それではですね、今日はなんとみなさんに転校生を紹介しますっ!」

 

「「「えぇー!!」」」

 

いつものようにホームルームが続くと思えば山田先生の口から予想外の言葉が出てきて教室内は驚きの声が響く。こんな時期に転校生は珍しいっと不思議に思いながらも僕は耳を塞いでいた。山田先生が呼び掛ければ扉が開き転校生である少女は入室してくる。

 

(……もしかして、あの子は……)

 

転校生として教室に入ってきた彼女の雰囲気はこの教室内では異質な存在だった。輝くような銀髪に、彼女のその片目には黒い眼帯を付けており、赤い瞳は教室を見渡すどころか織斑先生、たった1人に向けられている。彼女の纏う空気は冷たく鋭い気配には心当たりがあった。……勘違いでないのなら彼女はきっと軍人だ。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はっ、教官」

 

「ここではそう呼ぶな。私はもうお前の教官でなければ、このIS学園の教師の1人だ。次からは織斑先生と呼べ、いいな?」

 

「了解しました」

 

僕の予感は的中していて彼女はやっぱり軍人だった。そのことについては薄々思っていたからこそ良かったが、僕にとって衝撃が大きかったのは織斑先生が教官をしたことがあることについてだ。……よくよく考えてみれば僕は恩人である織斑先生のことを何一つ知らないでいる。IS学園の教師で一夏のお姉さんぐらいしか……。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、以上だ」

 

これ以上は話すつもりがないのか彼女は口を閉ざす。そして誰かを探すように赤い瞳を周囲を見渡せば、それを見つけた彼女は迷うことなく一夏の元へと向かっていく。そして教室内に乾いた音が響く。

 

「――――私は認めない。貴様があの人の弟などと、認めてなるものか」

 

「いきなりなにすんだっ!!」

 

僕も含めてクラス全員がなにが起きたのかわからず呆然とする。一夏も一瞬何をされたのかわからず呆けていたけど、我に返り自分が何をされたのかを理解して怒るものの、そんな彼を相手することなく空いている席へと彼女は座る。

 

「HRはこれで終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合するように。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う、解散!」

 

なにが起きたのかわからない中で次の授業の時間が迫っているため織斑先生の一喝でみんなは準備に入る。一夏は納得いかなさそうな顔をしているけど、このまま教室に居れば女子の邪魔になるため一緒に教室を出る。

 

「……一夏、大丈夫?」

 

「……んっ、まだ少し痛むけどな。そんなことより急ごうぜ、ここでモタモタしてたら遅刻しちまう」

 

「うん、そうだね。それじゃあ、行こうか」

 

あの様子だと一夏と転校生である彼女は初対面なのは間違いないはずだ。けれど、彼女が一夏の頬を叩く際に一瞬だけ感じた感情にどうも引っ掛かりを感じる。多分、怒りがメインではあると思うけど、それ以外にも他の感情が入り混じっていた気がしたけど……どうなんだろう?そのことが気になりながらも一夏と談話しながらアリーナ更衣室に辿り着き急いで着替え、第二グラウンドに向かう。

 

「……今日は無事に間に合っていそうだね」

 

「……第二グラウンドに千冬姉がいたらその時は死刑宣告と同義だからな」

 

僕と一夏は遠い目で空を見上げながら呟く。遅刻した場合は織斑先生の手によって制裁が行われる。あくまで噂で聞いたがそのためにワザと遅刻する人もいるとかいないとか……完全にそれを否定できないのがこのIS学園だよね、この学園の一種の闇だと思うよ……。

 

「はーい、キラ、元気にしているかしら」

 

「…………うん、とっても元気にしているよ。でも、今急にちょっと疲れてきたかなぁ」

 

「ええ、それなら昼休みに後でたっぷりと聞いてあげるから。それで、今日はコイツ遅刻はしてないんでしょ?」

 

「ああ、時間ギリギリではあったが教室に入ってきてシャルロットと話している姿は見た。だが、朝食の時は姿を見かけてはいない」

 

「私も同じく話している姿は見かけましたわ。朝の食堂の時は見かけませんでしたが」

 

やけにニコニコとして不機嫌な鈴が話しかけてきて全力で目を合わさないようにする。だけど現実はいつも非情で箒さんとセシリアさんによる告発で朝食を食べていないことはバレてしまう。

 

「今日の朝は部屋に行って呼びかけても応答はなかったし、鍵はキッチリと施錠してたから先に朝食を食べに行ったと思ってたけど……やっぱり、鍵閉めて部屋にいたのね」

 

「……あっ、えっと……」

 

今日の朝、誰かが僕の部屋を訪ねてきたのはかろうじて気づくことができたけど彼女だったことに何と答えればいいのか言葉が詰まる。あの時は返事を返す余裕もなく蹲っていたこともあるから、そのことを正直に話すわけにもいかない。

 

「別に怒ってるわけじゃないわよ。……朝の時はアンタにもなんか理由があったんでしょ?ちょっと顔色も悪いし……んっ、体調とか崩してない?アンタって多分我慢するタイプだと思うからキツいのなら言いなさいよ」

 

「う、うん……」

 

とても心配するように鈴は顔を覗いてきて僕はコクリと頷く。僕と彼女のルームメイトは解消されたはずなのだが、一緒にいた頃よりもこうやって頻繁に心配してくるのが多くなった気がする。僕のことよりも一夏の方を気にかけてあげればいいのに……。

 

「ふむ、遅刻者はいないようだな。では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

「「はい!!」」

 

二組と合同していることもあって人が多いなぁ。みんなも訓練機が使えることもあってか気合いのある返事だ。その中で転校生であるラウラさんは興味なさそうにしているものの、織斑先生が指示をしていることもあるか最低限参加はしている。

 

「今から戦闘を実演してもらう。ここには専用機持ちが6人もいることだしな。――――一夏、シャルロット前に来い」

 

「お、俺っ!?」

 

「私ですか……?」

 

「……ぐぬぬっ、なぜ一夏さんとのタッグはわたくしではなくシャルロットさんなのですか……っ!」

 

「……ま、まぁ、私は専用機がないから仕方があるまい。う、うむ」

 

「……そりゃ、バランス的にはシャルロットが組みやすいのはわかるけど、アタシでもいいじゃない……!」

 

(……今関わったら碌なことにならないから見ないふりをしよう)

 

2人とも自分が呼ばれるとは思っていなかったようで戸惑いながらも前へと出る。内心で僕が呼ばれるんじゃないかと冷や汗をかいていたけど……3人ほど一夏とシャルロットさんがタッグを組むことに不満そうだけど全力で見て見ぬふりをする。触らぬ神にはなんとやらだし……。

 

「その、戦闘をするのはいいですけど相手は誰なんですか……?」

 

「ああ、伝えていなかったな。相手は――――」

 

「み、みなさん危ないのでどいてくださいー!?」

 

聞き慣れた空を裂く音と声の聞こえる方向を見ればISに身を纏い突っ込んでくる山田先生の姿がそこにあった。さっきまで完全に別のことを考えていたので僅かながら僕は避難が遅れる。

 

(あっ、これって直撃――――)

 

戦場で身に付いてしまった感で回避するのは不可能とわかれば咄嗟にストライクを身に纏う。そして次の瞬間には減速することなく突っ込むことになった山田先生とそのまま衝突、もちろん受け身を取ることもできなかった僕は山田先生と一緒に地面へと横転する。

 

「ストライクの展開が間に――――」

 

ストライクがギリギリ展開したことに安堵する前に、自分の片手が妙に柔らかいものを触れている感覚に違和感を感じる。……地面はこんなに柔らかいわけじゃないし……それにこの感触って……っ!?

 

「す、すみませんっ!!」

 

自分の片手が今、山田先生のどこを触ってしまっているのかを理解し急いで飛び退く。事故とはいっても押し倒すような体勢になっていて、しかも触っているなんて最悪じゃないか僕は……。

 

「う、ううん。大丈夫だよ、キラ君。キラ君の方こそ怪我はなかった?大丈夫?どこか痛んだりしていない?」

 

「だ、大丈夫です……本当にすみません……」

 

心配して体を触ってくれる山田先生に僕は震えた声で謝る。山田先生の顔が僅かに赤くなっているのを見て自己嫌悪に苛まれる。好きでもない異性に事故とはいえど胸を触られることになったのは酷く苦痛なはずだ。山田先生に何と声を掛ければいいのか分からず項垂れてしまう。

 

「え、ええとね……そのね、キラ君は何も悪くないからね?その、むしろ気を遣わせちゃってごめんね!私の方が悪いから気にしなくて全然大丈夫だから!……で、でもキラ君が元気になるなら――――」

 

「や、山田先生……?」

 

「――――あー、ゴホン。山田先生、キラ、2人とも大丈夫か?」

 

「ひゃ、ひゃい!私は大丈夫ですよ!!」

 

いつの間にか心配して織斑先生が近寄ってきて、それに驚いた山田先生が不思議な声を出す。織斑先生がこのタイミングで声をかけてくれたのは正直助かった。……あのままの空気だと酷く心臓に悪いことになりそうな気がしたしね。

 

「キラ、お前の方は大丈夫か?全身装甲タイプのためこちらから怪我をしてるかどうかについては目視できない。痛むところはあるか?」

 

「いえ、それについては大丈夫です。ストライクの展開はなんとか間に合いましたから」

 

ストライクの展開が間に合わなかったら流石にアレは意識を失う程度じゃすまないというか……けど、回避できなかった自分の責任なのは変わりないかな。……今からストライクを解除するのが憂鬱になる。多分、僕の顔は酷く歪んでいて到底みんなには見せられないと思う。何度も心の中で大丈夫だと自己暗示するように何度も呟く。意を決してストライクをいざ解除しようとするが解除できずに困惑する。

 

「あ、あれ……?」

 

「どうしたの、キラ君」

 

「え、えっと、ストライクを解除して待機モードにしようとしたんですけどそれを受け付けてくれなくて……」

 

「なに?もう一度試してみろ」

 

織斑先生の指示通り再度待機モードに戻そうとするがストライクがそれに応える気配はない。少なくともさっきまでは正常に機能していたのにどうして……?調整していた時にどこか不具合を見逃していたのかっと不安に駆られる。

 

「……ふむ、ISが搭乗している人の命令を拒絶しないのはまずないはず。なにか心当たりはあるか?」

 

「……えっと、一応はあります……」

 

「それならキラ君のその命令を未だに遂行しているんじゃないかな?ISは搭乗者と同じで成長していくから。……うーん、だけど解除するの命令を拒絶するのに矛盾が起きちゃうから……」

 

織斑先生と山田先生が難しい顔をして僕を見る。ISにはISコアというものがあってそれがないとISは動かないらしい。ストライクにもそのコアはあったんだけど……そのコアを詳細に調べるには膨大な時間が必要そうなため未だに手を出せていない。

 

(……ストライクが解除を拒んだのは僕がそれを望んでいたから?)

 

命令を拒んだのは僕が本心ではストライクを解除するのに躊躇いがあったから。もし、そうならストライクは僕の本心を理解し、尊重してくれるということになる。それが事実ならストライクにも意思があり、僕の本心を理解してこうやって守ってくれる。そう思えば胸の奥から感情が込み上げてくる。

 

「解除できない以上はそのままでいるしかあるまい。どうにしろ次にはお前にもISを使用して他の生徒のサポートをしてもらうつもりだったからな。……それについては大丈夫か?」

 

「はい、サポートするぐらいなら大丈夫だと思います」

 

「わかった。念のためお前は2人掛でやらせるつもりでもあるが無理だと思ったのなら直ぐに私か山田先生に報告しろ。わかったのなら列に戻れ」

 

ストライクのまま列に戻るのは違和感が凄いだろうなと他人事のように思いながら自分がいた場所に戻る。実際凄く視線が集まってるし……でも、これぐらいなら入学初日の時に比べればはるかにマシだよ。

 

「なぜキラはISを纏った状態で戻ってきたんだ?」

 

「原因はわからないけどストライクが解除できないんだ。実戦が終わったら織斑先生が専用機を使ってみんなをサポートするらしいから、このままでいいかなって」

 

「ISが解除するのを拒んでいるのは珍しいですわね。少しばかり興味深い現象ですわ。……けど、それはそれとしてもう少し危機管理を持った方がよろしいですわよ?」

 

「キラに小言は言うだけ無駄よ。話は聞くけど改善するかどうかは別だもの。……まぁ?山田先生を押し倒して役得してるから解除できなくてもいいんじゃない?」

 

何故か鈴の言葉の節々に棘があるのは気のせいじゃないよね?いや、彼女の言っている通り事故とはいえ押し倒すような体勢になって挙げ句の果てに胸を触ってしまったことを考えれば辛辣なのは当然だよね……。

 

「コホン、少しばかりアクシデントがあったが一夏、シャルロット、準備はいいか?」

 

「俺は大丈夫だけど……2対1ってのは流石に気が引くんですが……」

 

「その点は心配することはない。油断していると、今のお前らではすぐに勝負がついてしまうぞ?」

 

「うん、織斑先生の言う通り気を引き締めた方がいいよ。……本気で挑まないと私たち呆気なく負けてしまうから」

 

「ふっ、やはりリベンジマッチとあってシャルロットは燃えているようだな。――――では、始めっ!!」

 

織斑先生の号令で試合が始まる。誰もが織斑先生の言葉には半信半疑だったこともあり山田先生が一夏とシャルロットさんの2人を相手して立ち回っている姿を見て唖然とする。山田先生は追い込まれるどころかその逆で徐々に追い込んでいく。

 

「……ふーん、案外アンタたちの副担任って見かけによらず強いじゃない」

 

「……気のせいでなければわたくしと戦った時と全然違いますわ。もしかして、あの時の山田先生は本気ではなかったと?」

 

「それは確か適性検査の一つだったか?あの人の場合は緊張して本調子じゃなかった可能性があるんじゃないか?」

 

「……確かに山田先生ならあり得るんじゃないかな。でも、僕はとても頼りになる人だと思ってるけど……」

 

3人に怪訝な表情で見られるが僕の中で山田先生はとても頼りになる1人だ。僕の抱えているものが他人に打ち明けることができるものだったのなら、きっと僕は山田先生に相談していただろう。……それにしても山田先生は凄く正確な射撃だ。アレだけの技術を持っているのを見ると、昔は代表候補の1人だったりしたのだろうか?2人も善戦はするものの、後半になれば経験の差が出てしまい各個撃破され勝者は山田先生だった。

 

「いつつ、本気の山田先生ってめちゃくちゃ強かったんだな……」

 

「……うん、リベンジできなかったの悔しいかなぁ。ごめんね、一夏のフォローが間に合わなくて……」

 

「いや、シャルロットの援護がなかったら俺はすぐに堕とされてたと思う。俺こそここぞって時に決められなくてごめんな」

 

2人は即席でコンビを組んだこともありながら善戦したのは凄いと思う。悔しそうにしている姿を見れば2人はきっと強くなるはずだ。

 

「さて、次に移るぞ。専用機持ちは6人いる。八人のグループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること、いいな?そして、シャルロットはキラと組んでサポートをしてやれ。まだ専用機持ちとしては日が浅いからな」

 

「わかりました!キラもわからないことがあったら何でも聞いてね!」

 

「うん、その時はお願いしようかな」

 

「出席番号順に一人づつ各グループに入れ。ちなみにこの時間内にできなければ残りは放課後だからな。それが嫌ならば真面目に取り組むように。では、分かれろ」

 

織斑先生の一言で一組と二組の子が各グループに分かれる。織斑先生の言葉でキビキビと動いているのは放課後居残りが嫌だからだろうなぁ。僕としては自分のペースでやれる放課後の方が楽そうだけど。

 

「それじゃあ、早速始めちゃおっか。キラは私のサポートをお願いしようかな」

 

「うん、わかったよ。僕ができる範囲ならいくらでも手伝うから」

 

「「はーい」」

 

シャルロットさんが指揮をする形で僕らのグループは落ち着く。まず知識面では圧倒的に彼女の方が上だし、僕に関しては専用機を持っているだけで知識については劣っている自覚はある。使いやすさもあって山田先生から打鉄を借りてきて、実習が始まる。軽く雑談はしながらだが僕らのグループは順調に進んでいるのは、やっぱりシャルロットさんのおかげだろう。僕がやったことは訓練機を持ってきたぐらいである。各グループとも順調に進んでいって無事に実習は時間ギリギリで終わる。……やっぱり、みんな放課後居残りが嫌だったんだなぁ。

 

「これで午前の実習は終わる。午後は今日使った訓練機の整備を行うため、各人格納庫で先程のグループで集合すること。遅刻した時はそれ相応の罰があると思えよ?では、解散」

 

 

(うーん、午後の整備については多分専用機持っている人は一緒に専用機の整備もやるのかな?その場合は流石に織斑先生に相談しないとなぁ)

 

整備ぐらいならみんなの前でもやっても大丈夫かも知れないけど、それでも情報が漏れることを考えたらなるべく避けたい。それにみんなの前でストライクの整備する姿見られるのは落ち着かないや。

 

「ほら、アンタはいつまでISを装着して呆けてるのよ。サッサっと解除しないと昼休みに入るわよ」

 

「えっ?ああ、うん、そうだね」

 

上の空だった僕を見かねてか鈴が呆れた様子で声をかけてくれる。この時間でなんとかいつも通りに気持ちが落ち着いたから解除できるはず。次は無事にストライクを解除できて待機状態になる。……やっぱり、ストライクは僕の気持ちや感情を読み取ってくれてるってことだよね?

 

「キラ、今日のお昼はよかったら一緒に食べない?最近はキラと話す時間が作れなかったし……駄目かな?」

 

「えっと、うん、大丈夫だよ。用事があるのは放課後だしね」

 

「うん!それじゃあ、食堂に行くときも一緒に行こっ!私、待ってるからキラも早く着替えてきてね!」

 

 

シャルロットさんは少し不安げに食事に誘ってきて、特に断る理由もないため頷く。気分が落ち着いたこともあって、久々に少しだけど空腹を感じているしね。彼女は嬉しそうに表情を和らげて先に戻っていく。

 

「よかったわね。シャルロットからお誘いをもらってさ、あんだけ嬉しそうな表情見せるのはキラぐらいじゃない?」

 

「……そうかな?そんなことはないと思うけど……」

 

「うへっ、アンタも一夏と同じで唐変木とかやめてよ?いくらアタシでもそこまで面倒を見るなんて嫌よ。馬に蹴られるのは御免だわ」

 

「……うん、その時は僕の言葉できちんと伝えるから大丈夫だよ……」

 

シャルロットさんがもし僕に向けてその感情を持っているとしたらきちんと答えるつもりだ。僕の心の中には"彼女"がいることを誤魔化すことなくハッキリと伝えなければならない。……それがシャルロットさんにとっても一番傷つかない選択肢のはずだ。

 

「……ところで、アンタ大丈夫なの?」

 

「えっと……なにがかな?山田先生と衝突したことについてなら大丈夫だけど……」

 

「……なら別にいいわ。アンタはとりあえずシャルロットと楽しく食べることについて考えときなさい。……そういえばだけどさぁ、アンタって辛いの大丈夫?」

 

「うーん、どうだろう?最近は食べてなかったし……普通ぐらいなら大丈夫なんじゃないかな?えっと、この質問ってなにかあるのかな?」

 

「別にアンタが心配するようなことじゃないわよ。ちょっと確認したかっただけ。ほら、アンタはサッサっと着替えてくる。約束を破る男は碌なことにならないわよ」

 

それって完全に一夏のことだよね。最終的には一夏は約束を覚えていたオチだったけど、紛らわしいことを言ったことについては少し根に持ってるよね……鈴に見送られるように僕は更衣室に向かうことにした――――





えっ?マヤマヤの万乳引力になんでキラ君は逆らえたのかって?そんなの経験済みだからでしょ((適当

多分、次はオリジナル回か……または時空列一気に飛ばすでしょう。下手したら眼帯銀髪っ子で割と話数が増える気しかしないので……ちなみにキラ君の精神回復するのは銀髪っ子編ではないと思います。前回、回復したから平気ですよ、平気。ちょっと生きていいのか、駄目なのかで往復して彼女のこと思い出してるだけなんで。

はい!次回の更新は未定ですが気長にお待ちください!誤字&脱字報告お待ちしております!!感想も毎度ありがとうございますっ!!


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第18話 告白


……思ったより短くなってしまった。うん、きりがよかったと思えばよかったんですけどね……?そして今回の眼帯銀髪っ子編は居場所を副題にしていきたいなと思っております。いや、まぁ、目標なので期待はしないでくださいね……?

……私は銀髪眼帯っ子だけがメンタル削るなんて一言も言っていないので……まぁ、仕方がなかったってやつだ((




「キラと2人だけでお昼を食べるのは今日が初めてだよね」

 

「あれ?そうだったけ……?」

 

「もぅ、そのまさかだよ」

 

頬を膨らませるシャルロットさんを見ながら記憶を探れば確かに今日が初めてかもしれない。基本的にはみんなと一緒に食べることが多かったし……それに僕の場合は食堂に行かないという時があったから。2人きりの時は多分一夏への当て付けで鈴と一緒に食べていた時ぐらいかな……?

 

「でも、よかったの?確か一夏からお昼一緒にどうかって誘われてたんじゃなかったけ?」

 

「それについては大丈夫だよ。一夏からは誘われたけど、一夏の口から箒さんに誘われたって聞いた時点である程度は察したから断ってきたよ。それにシャルロットさんとの約束もあったしね」

 

「あー、うん、一夏のことだからみんなで食べた方が美味しいだろって言うのが簡単に想像できるもんね」

 

一夏たちは今頃は屋上で昼食を食べているだろう。セシリアさんと鈴を止めることは流石に無理だったけど……うん、その点は僕は公平でいるつもりではあるから。多分、一夏の誘いを聞いてわざとついてくるのは弾ぐらいだと思うよ。

 

(……いや、弾も一夏の尻拭いはもう嫌だって言ってたから流石に遠慮しそうだなぁ)

 

仮に弾がいてついていっても、まず鈴がいる時点で絶対に物理的に排除されそうなのが……数馬はその辺は無関心のスタイルだし……弾は一夏の恋路関連では一番苦労してそうだなぁ。……やっぱり、一夏の恋路については安全圏から見守るのが一番だよ。

 

「どうしたの、難しい顔をして?」

 

「……改めて、一夏の恋路については遠くから見守るのが一番だなって思ってね」

 

「……うん、それについては私も同じ意見かなぁ」

 

疲れた顔で彼女も頷くとなると箒さんたちで苦労しているんだろうなぁ。巻き込まれたら最後はお互いにフォローできる範囲でやるしかないのが……一夏を見ている限りは友達として接していることが原因になっているのかな?何か大きなきっかけが必要なのかも。

 

「……あ、あのさ、最近キラと鈴って仲がいいよね。それに最近整備室でも仲良くしてる人がいるって噂があるし……」

 

「整備室は更識さんのことかな?彼女にはISのことでわからないことを色々教えてもらったりしてるから。鈴の場合は……うーん、仲がいいって言うより、仕方なく面倒見てる感じじゃないかな?それを一夏に向けてあげればいいって思ってるけど……」

 

「た、確かにそうだよね。でも名前呼びしているのは鈴だけでしょ?それが気になるなーって思って……」

 

「……それについては単純にあの時に頷かないと許されなかったし、その後何をされるかわかったものじゃなかったから仕方なくかな……」

 

あの時ってその前に八つ当たりを含めた炭酸飲料一気飲みがあったから否定してたら次に何をされるかわからなかった恐怖心が勝ってしまったというか……直感的に頷かなかったらまずかったというか……それに鈴ってみんなと壁がなく楽しみたいタイプだろうから、それもあるんじゃないかな?あと、単純に五反田さんに対抗心が湧いたとか……一夏関連でとばっちりを受けたのは間違いないよ。

 

「それに鈴は一夏のことが好きだからね。僕は鈴の恋が実るのを応援するだけだよ。……それについては箒さんもセシリアさんも同じなんだけど」

 

一夏を取り巻く恋路について基本的には僕は関わる資格がない。愚痴ぐらいなら話を聞くけれど、それ以上となるとあくまでも平等に話を聞くことが最低限できることだ。ただ、僕のように歪んだ関係になりそうになる時は流石に止めるつもりではあるけど……一夏たちがそうなることはないだろう。

 

 

「……そういえばだけどさ、キラはどうするつもりなの?学年個別トーナメントのパートナー」

 

「確か近いうちにあるんだっけ……?すっかり忘れてたよ」

 

シャルロットさんに聞かれるまでそのことについてさっきまで完全に頭から抜けていた。どうりで最近は学園の空気が浮き足立っていたことに納得がいく。……確か強制参加なんだっけ?そのことについてはハッキリと覚えている。多分、それが原因でなるべく思い出さないようにしていたんだろう。

 

「……特にはまだパートナーは決まっていないかな。さっきまで完全に忘れていたから。参加しなくて良いのならそれに越したことはないんだけど……」

 

「それは難しいんじゃないかな。キラは専用機持ちとして期待されてることもあるからさ……それに確か今回のイベントは強制参加だったはずだし……」

 

こればかりは織斑先生に相談をしても無理だろう。ストライクが僕の意思を読み取ってくれるのならそれを逆手に取ることを一瞬考えてしまうが即座に否定する。都合が悪ければストライクを利用しようとするのは最低な行為だ。この世界でも再度僕と一緒に戦い、傍にいてくれるストライクを傷つけることは絶対にしたら駄目だ。

 

(……けど、僕は人に向けてまた引き金を向けることなんてできない。無人機ならともかく搭乗している人を撃つなんて僕には……)

 

ISはシールドエネルギー、そして絶対防御の存在によってか搭乗者の姿が丸見えな形状だ。人が搭乗していることがハッキリと視認できていて、それでいて相手を撃つことなんて僕には無理だ。

 

「ふんっ、第二操縦者がどのような奴かと見に来てみればとんだ期待はずれのようだな」

 

聞き慣れない声の方を視線を向ければそこには今日転校生としてきたラウラ・ボーデヴィッヒさんがそこにいた。見下すように呟いた彼女の言い方にシャルロットさんはムッとしたのか睨むように見ている。

 

「参加したくないと思うのは本人の自由だと思うけれど?それが貴方に関係あるのかな、ラウラ・ボーデヴィッヒさん?」

 

「フランス代表候補生であるシャルロット・デュノアが庇うとはな。確かに貴様の言う通りそこの第二操縦者が参加しようが私には無関係だ。だが、情報収集をしていればこのような記事を見つけ、この学園内でも多少は骨のある奴がいると興味を抱いて探してみれば……実際はとんだ臆病者だったということか」

 

彼女の手には僕のことが書かれていた記事があった。多分、一夏に関することを調べてる時に偶々それを見つけて僕に興味を持ったところか?その記事は僕としては内心複雑な気分だったがそれを放置していたのは失敗だったかもしれない。

 

「違うよっ!キラは臆病者なんかじゃない!あの時のキラは一夏やみんなを守るために戦った。自分が怪我をしていたのに、みんなを守るために戦ったキラのことを臆病者だって言うのは私が許さない」

 

「それならば何故当の本人は反論しない?それが事実であるのなら真っ先に否定すると思うがな」

 

「……ううん、シャルロットさん、彼女の言う通り僕は臆病者だよ」

 

「キラ……?」

 

「……あんなことの後でも撃たなくていいのなら、撃ちたくないって思ってる……受け入れないといけない現実から目を背けて、探さないといけない答えからも逃げ続けてる……そんな僕は君の言う通り臆病者だよ……」

 

この世界に来てしまった理由、生き残った理由を探すことから僕は目を逸らし続けてる。この世界で戦う必要がないのなら、もう戦いたくないってフレイを守れなかった後でもそう思っている僕がいるんだ。

 

「自らを臆病者だと認めることは評価しよう。だが、それだけだ。撃ちたくないなど甘えた言葉をよくも吐く、そんな中途半端な男が守りたいものなど守れるものか。そのような甘え考えを持つ貴様が同じ専用機持ちなど恥でしかない」

 

「……っ」

 

「ふんっ、これならばまだ噛み付いてきた織斑一夏の方が歯応えがある。貴様のような覚悟すらもない男はそこにいるフランス代表候補にせいぜい慰めてもらえ。戦う覚悟も、力もない貴様にはお似合いだ」

 

これ以上は話す価値がないと判断した彼女は去っていく。彼女の言葉は何も間違っていない。僕が中途半端だったことのせいで大切な人を守れなかったことが沢山ある。フレイのお父さんも、折り紙をくれたあの子も、トール、そしてフレイ……僕は守ることができなかった。

 

「……ごめん。織斑先生には体調が悪くなって部屋に戻ったって伝えておいて」

 

「キラっ!!」

 

シャルロットさんが呼び止めている声に振り向く気力なんてなかった。誰とも話したくない、立ち止まりたくない一心で寮まで走る。部屋につき真っ先に鍵を閉め、力なくそのまま座り込む。

 

「……こうやってまた逃げて何も変わってないじゃないか、僕は」

 

戦う力なら嫌というほど持っているのにそれを口に出すことができなかった。一夏たちを、大切なみんなを守るために戦うと決めたはずなのに、人に向けて引き金を引く覚悟がない事を指摘され、守りたいものを守れるわけがない。ラウラ・ボーデヴィッヒさんが言っていることは事実なのは僕は嫌というほど直面してきたはずなのに。

 

「……ストライク、僕はどうしたらいいのかな?……守りたい世界が、守りたかった世界があったんだ……っ……だけど僕はそれを守ることができなくて……死ぬこともできなくて……どうして、どうして僕はこの世界に来たの……?」

 

僕はみんなと違って最高の存在として造られて、その力で守りたい人を守ることもできないで、そして最後に死ぬことも許されなかった。この世界で異物である僕と一緒にいてくれるストライクに溢れ出る感情を吐露する。

 

「……僕に、居場所はあるのかな……僕が生きていい場所はあるのかな……」

 

守るためでも引き金を引き続けた、望んでもいないのに人の理想として造られた、そんな僕のことをこの世界は受け入れてくれるのだろうか?僕の世界でも許されないのに。だってこの世界は僕の世界と違って平和な世界で、争いとは無縁で僕がやってきたことを知れば、僕という存在を知られてしまえば拒絶されてしまうはずだ。

 

「……まだ、大丈夫……大丈夫だ……まだ……」

 

両腕を力強く握り何度も何度も呟く。苦しいことも、つらいことも、悲しいこともまだ我慢することはできる。とっくに限界だって心のどこかで悲鳴を上げている自分に気づかないふりをしながら。

 

「キラ、大丈夫……?もし、よかったら開けてもらっても大丈夫かな……?」

 

「……シャルロット、さん……?」

 

シャルロットさんが追いかけてくると想定していなくて驚くが呼吸をなんとか落ち着かせて鍵を開ける。多分、彼女が追いかけてきたのは自分のことを心配してくれたからだろう。その彼女をこのまま突き放す形で拒絶するにはいかない……。

 

「ごめんね……迷惑なのはわかってたけど、どうしてもキラのことが心配だったから」

 

「……ううん、大丈夫だよ。僕は大丈夫だから」

 

「嘘だよ。だって、今のキラ、凄く苦しんでる……いいんだよ?私の前では無理しなくて大丈夫だから」

 

「……っ、そんなことは……」

 

「ううん、わかるよ。だって私は見てたから、キラのことをずっと見ていたから。……好きな人を心配するのは駄目なの……?」

 

シャルロットさんの言葉の意味を理解するのに一瞬遅れる。呆然としていれば彼女は僕の身体を強くけれど優しく抱きしめる。彼女はきっと僕を落ち着かせるためにやったのかもしれない……だけどそれがどうしても彼女を思い出してしまい僕は拒絶してしまう。

 

「……キラ……?」

 

「……ごめ、ん……君の気持ちは嬉しい……でも、ごめん……好きな人が、いるんだ……だから、君の気持ちに、僕は応えることはできない……」

 

「そ、そっか……好きな人がいるんだ……私こそごめんね……それに気づかなくて……え、えっと、織斑先生にはちゃんと伝えておくから、キラはゆっくりしててね……ごめんね……」

 

無理に笑うシャルロットさんの姿が痛々しくて声をかけようとするが彼女は走り去ってしまう。その時にシャルロットさんが涙を流しているのをハッキリとこの目で捉えていた。

 

「……これで、これで……いいんだ……」

 

彼女の告白を断ったことに酷い罪悪感に襲われる。だけど、これが一番シャルロットさんを傷つけない方法だった。僕の中にはまだ彼女への、フレイへの気持ちがある……彼女への想いを誤魔化すことだけはしたくなかった。……約束も何一つ守れなくて、謝ることもできなくて、守ることもできなかった……そんな僕だから。

 

「……ごめん、なさい……」

 

シャルロットさんの気持ちを、想いを断ってしまったことに僕は謝罪の言葉を口にしていた。今にでも押しつぶされそうな罪悪感を僕はただ受け止めることしかできなかった――――

 

◇◇◇

 

 

「……なんで、なんであんなこと言ったんだろう……?」

 

あの時に勢いで言葉にしてしまったことに彼女、シャルロット・デュノアは戸惑いを隠せなかった。そして何よりも振られてしまったという事実に頭が真っ白になっており考えがうまく纏まらない。

 

「……私は、キラのことが、好き……?」

 

最近自身の中で焦りがあったことは自覚していた。キラ・ヤマトは基本的には特定の人物を除けば他人との関わり合いは少ない方だった。それは接していた彼女や、彼をよく知る人たちは薄々感じていること。同性である織斑一夏を除いたら、目的のためとは言えそんな彼とよく話せていたのは自分であると思っていた。けれど、そんな彼に大きな変化が一つあった。それは凰鈴音を呼び捨てで呼ぶようになったこと。2人は元はルームメイトということもあってそうなるのもおかしくはないものの、彼が彼女を呼び捨てで呼ぶようになったのはその後であり、そしてルームメイトが解消されてもなお、時たまに凰鈴音が彼を起こしにいくのが日常的になっている。

 

 

「……でも、2人にとってはそれが当たり前だったからで……鈴が一夏のことが好きなのは事実で……」

 

凰鈴音が好きな人は織斑一夏だということは誰もが知っていることだ。それは彼が最も把握していることのはず。だからこそ、キラ・ヤマトと凰鈴音の関係性は奇妙なものだと誰もが思っている。ルームメイトの時ならともかく、それが解消されても続いているということに。彼女は2人のそんな奇妙な関係を見ていれば何故か焦燥感に駆られていた。彼も自分のことを見なくなるのではないのかと。

 

「……わからない、わからないよ……」

 

これから利用することになってしまう彼にどのような感情を抱いているのか彼女自身わかっていなかった。彼女が思い出すのは怪我をしていたのに、友達のためにISを纏い立ち上がった彼の姿。その姿を見た時に彼女は自身すらも気づいていない一つの思いが生まれてしまった――――彼ならもしかしたら自分が必要とする居場所を作ってくれるかもしれないという淡い期待に。





キラ君視点だとそろそろ限界を感じてしまっている。やっぱり他キャラ視点をきちんと描かないと掘り下げとかが……キャラ崩壊しそうで怖いから避けたいのが本音ですが((白目

まぁ、みなさんお分かりの通りこの小説ではキラ君はフレイへの想いとかめちゃくちゃ引きずってます。キラ君攻略のラスボスはフレイになるのは間違いないでしょう((

ちなみにラウラ的にはちょっと小馬鹿にした程度なだけでそれがキラ君にクリティカルヒットしたとは全く思っておりません。だって、別世界で戦争参加して戦ってたとか思ってないし……理想とか業とか、臆病者が背負ってるとか思わないじゃん……そして、シャルロットさんが焦るのは鈴ちゃんとキラ君の奇妙な関係見てるとしょうがないよね……だからシャルロットさんにはもっと頑張ってもらうね……ちなみにシャルロットさんはキラ君の好きな人がフレイだって気づいてません。名前は錯乱した時に聞いたぐらいだし((

……まぁ、ISは修羅場が醍醐味でSEEDはすれ違いと、人間関係のドロドロが醍醐味なところがね?((

誤字&脱字の報告いつでもお待ちしております!いつも修正非常に助かっておりますっ!!感想も毎度ありがとうございますっ!!次回の更新は未定ですが、気長にお待ちください!



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第19話 約束

久々に見たら評価、お気に入りがなんか凄く伸びているのは気のせい……?そうだ、気のせいだヨネ!……失踪の準備しないと((クソ雑魚メンタル

沢山の感想ありがとうございますっ!ありがたやー、ありがたやー。

……当分はfgoとウマ娘とグラブルにちょっと失踪しないと……((


(……どうしたら、よかったんだろう……)

 

彼女――――シャルロットさんから告白され数日間という時間が経った。IS学園は良くも悪くも変化というのに敏感で、彼女と僕の間に何かがあったことに気づいていてそれで話題は持ちきりだった。告白されたという結論にはまだたどり着いていないけど……それも時間の問題だろう。

 

(……僕よりも彼女の方が苦しいのにこうやって閉じ籠って何をしているんだ、僕は……)

 

彼女を傷つけない方法はなかったのかと考えても、それは彼女の想いを受け止めるという答えしかなかった。だけどあの時と同じように偽りの関係になるだけで……それも結局は彼女の想いを踏み躙ることにしかならない。お互いに苦しんでしまう、偽りの関係になることだけは2度となっちゃいけないんだ。

 

「……これが、正しかったはずなんだ……」

 

僕の心にはまだフレイへの想いがある。この気持ちは忘れない、忘れたりしたら駄目なんだ。……それに今誰かの想いに甘えてしまえば自分の中にある何かが壊れてしまう気がした。それが壊れてしまえば……多分、この口から自分のことに関する全てを曝け出してしまう、そんな予感がする。錯乱した時は織斑先生にフレイを失ったことを厳さんには生きていることがつらいことを……。

 

(……これ以上は考えるのはやめよう……放課後なんだからもう寝てしまおう……)

 

考えるのに、生きていることにつらいと感じるぐらいなら悪夢を見るとしても寝る方がマシだ。自室の床に座り込んでいた僕は立ち上がり、力なくベットに仰向けで倒れ込む。シャルロットさんに声をかけても、更に彼女を傷つけることになるのなら何も行動しない方がいいのかもしれない……。

 

「――――うわっ、まさかとは思ってたけど鍵開けっ放しとか不用心にも程があんでしょ……いや、閉まってても今回は無理矢理開けるつもりだったけど……ほら、そこの辛気臭いでベットに寝込んでいる奴、起きなさいっ!!」

 

「…………」

 

「……えっと、もしかして寝てるの?起きてるなら部屋に入ったのには気づくはずだろうし……いや、キラだし、もしかしたらってことも……えっと、キラ、起きてるー?」

 

何度か誰かに身体を揺さぶられる。沈みかけていた意識をなんとか浮上させて薄らと瞼を開ければ鈴がジッと僕の顔を覗き込む彼女の姿がそこにあった。突然の来訪者である彼女の名を掠れた声で呼ぶ。

 

「……り、ん……?」

 

「……もしかして本気で寝ちゃってたところ?」

 

「……う、ううん……大丈夫……寝ようとはしたけど……大丈夫……」

 

起こしたことによる罪悪感で表情を歪ませる彼女を安心させるため回らない頭でなんとか声を出す。寝起き特有の脱力感に襲われてはいるものの、完全には意識を失くしてなかったこともあり身体を起こす分にはなんとかなりそうだ。

 

「……えっと、どうしたの……?」

 

「……いや、急に訪ねて起こしたアタシが言うのもなんだけど……怒らないの?」

 

「……僕に用事があるからなんでしょ?それなら別に怒る理由にはならないよ」

 

寝ている時に敵襲によって起きることだってあったから、これぐらいなら特に怒る理由にはならない。寝ようとしたいたのだって結局は起きていても嫌なことばかり考えるのが理由だったから……それについては教えることは無理だけど。

 

「回りくどいのは嫌いだからハッキリ聞くけど……アンタとシャルロットってなんかあったわけ?ここ数日間ずっと話すにしても最低限だし、特にアンタはいつもより何倍に増して辛気臭い顔してるし……喧嘩でもしたの?アンタらが食堂で転校生と口論してたってのは薄らと聞いたけど……それなのにシャルロットと仲違い起こしてるのはおかしな話だし」

 

「……僕の口から、言えることは特にないよ……」

 

「そんな辛気臭い顔してるの見てはい、そうですかって引き返すほど薄情なつもりないんだけど?……喧嘩でもないなら……アンタ、告白でもされたの?」

 

「……っ」

 

「その反応は図星ってわけね……まっ、キラとシャルロットが喧嘩したわけじゃなさそうなのはわかってたけど、告白なのは少し想定外だったかも……お互い気まずくなってるのは、キラがシャルロットを振ったってところかしら?」

 

「…………」

 

「無言でいるってことは肯定と受け取るわよ?……告白、告白ね……アンタら仲良かったから時間が経てばそう言う関係になるのかなっと思ってたけど……そのさ、アンタがシャルロットの告白を断ったのって……キラが前に言ってたその人のことがまだ好きだからが理由?」

 

「……うん、僕は、その人のことが好きだから……」

 

鈴があの時の話を覚えているとは思っていなくて答えるのに間が空いてしまうものの、ハッキリと僕はフレイを彼女が好きなのだと言葉にする。自分が今どんな顔で彼女のことを好きだと言っているのだろう……?

 

「……キラはきちんとシャルロットの想いを聞いて、それで答えを返してるのならそれでいいわ。アンタらが気まずくなってる理由は納得がいった。こればかりは時の運としか言いようがないしね……シャルロットのことはとりあえずはアタシたちに任せなさい」

 

「……うん、そうさせてもらうよ……ごめん……」

 

「そうやってすぐに謝る癖は直しなさい。今回は別にお互いが悪いのかって言われたらそうじゃないし。……後一つ、聞きたいことあるけど、アンタなんかあの転校生に言われたの?」

 

「……ううん、何も言われてないよ……」

 

「……そっ、ちょっとつまらない事を聞いたわね。気分的には乗り気じゃなさそうだけど、寝るぐらいなら学年個別のパートナー探しぐらいしなさい。わかったわね?まっ、気が向いたらアリーナに来たらいいんじゃない?アタシは学年個別に備えて訓練するつもりだから、それのついでにアンタの特訓にも付き合ってやるからさ」

 

「……うん、気が向いたら来るよ……」

 

「んっ、期待しないで待ってるわ」

 

最後にまたねっと優しく笑って彼女はこの部屋から出て行く。……どうして、ラウラ・ボーデヴィッヒさんとのことも聞いてきたのだろうか?そのことは僕にはわからなかった。再度寝る気分にはなれず、やれることを探した結果が整備室でストライクを見ることだ。重たく感じる足取りで僕は整備室に向かった――――

 

◇◇◇

 

 

(……こればかりはどうしようもないわよねぇ)

 

キラが体調不良で早退した日から2人の間がおかしくなったのは察していた。アタシが入学する前も一度そうなった時があるとは聞いてたから気づかないフリはしていたものの……数日間に渡って変化がない事に我慢ができなくなり、直接キラの元に訪ねることにした。アイツが友達を、ましてはシャルロットを傷つけるような奴じゃないのはわかっている……まぁ、それでもくだらない理由で悲しませたのなら、ぶん殴ってでも謝らせるつもりだった。……いや、冷静に考えればぶん殴るわけにはいかないわよね……。

 

(……キラとシャルロットは別にお互いに悪くはない。キラはちゃんと想いを聞いて、ちゃんと答えを出した。それについて責めるのはお門違いよね)

 

キラには好きな人がいた、シャルロットには多少可哀想には思うけどそれについてはどうしようもない。キラの好きな人は多分だけど、アイツが前に話していた人のことだろうし……けど、好きな人を話しているくせにアイツの顔に陰があるのはどうしてだろ?

 

「――――あら、ISを纏って呆けている人が誰かと思えば、鈴さんではありませんか。キラさんの様子を見に行ったのではありませんの?」

 

「……それについては終わったわよ。まぁ、多分アイツの方は大丈夫だとは思う……それで?そっちの方はどうだったのよ?」

 

「こちらも恐らくはキラさんと同じだと思いますわ。キラさんと気まずくなっている理由については不明ですの。数日前に食堂でドイツの代表候補の方と口論をした情報しかない以上は本人たちの口から話してもらわない事にはどうすることもできませんわね。鈴さんの方はどうしでしたの?」

 

セシリアの口から2人の気まずくなっている理由がわからないと聞いた時は怪訝に思うけど、シャルロットの気持ちを考えれば仕方ないかっと納得する。下手に教えるよりアタシも知らないフリしてる方が2人の為になるか。

 

「……こっちも大差変わらないわよ。多分だけど、これについては時間が解決するしかないと思うわよ。当人らも気持ちの整理に時間が必要と思うだろうし」

 

「……そうだといいのですが。シャルロットさんには箒さんと一夏さんが付き添っていますので当分は大丈夫だとは思いますわ」

 

「そっ、なら後でアタシがキラの様子をまた見に行っておくわ。アンタもシャルロットの方を気にかけておいてあげて」

 

「それは別に構いませんが……ずっと気になっていましたが、どうしてそこまで鈴さんはキラさんの事を気にかけていますの?ルームメイト期間の時はわからなくはなかったのですが……」

 

「…………まっ、ただの義理よ義理。ルームメイトになったからアイツがどんだけ自堕落なのかを知ってるのよ、アタシは」

 

怪訝そうに見てくるセシリアにアタシは誤魔化した。キラと奇妙な関係が続いているのは自覚はしている……だけど、キラが厳さんに吐き出していた話を聞いてしまって、そんなの聞いたらアイツを放っておくことなんてできるわけないじゃない……。

 

「――――ほぅ、専用機持ちが2人か。中国の甲龍(シェンロン)とイギリスのブルー・ティアーズか。丁度いい暇つぶしにはなりそうだな」

 

「……ドイツ代表候補のラウラ・ボーデヴィッヒさんがいったい何のようがありますの?生憎ですがわたくしは貴女に構っている時間はありませんのよ」

 

「……ふーん、合同授業の時に見慣れない顔がいるとは思ってたけど、アンタがその一夏を平手打ちしたドイツの代表候補だったとわねぇ」

 

「ふんっ、代表候補でありながら他国の代表候補の情報も持っていないのか?情報収集すらも怠る貴様が中国の代表候補など笑わせる話だ」

 

「そんな見え透いた構って発言に付き合ってあげられるほどアタシ、暇じゃないのよ。それにアンタみたいに他人を見下すような奴を知りたいだなんて微塵も思わないわ」

 

アタシとセシリアに視界にいるのは最近転校してきたらしい、ドイツの代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒ。見た感じ専用機なのは間違いないけど……たしかドイツの新型だっけ?それにしても、あの馬鹿(キラ)何も言われてないって言ってたけど絶対嘘ね。とりあえず後で無理矢理食堂に連行してやる……。

 

「私から貴様ら2人は暇で仕方がなさそうだから相手をしてやると言っているんだ。それとも、あの腑抜けた男を取り合う事で手一杯なのか?」

 

「……わたくしを侮辱するのならばまだ我慢はできましたが一夏さんとなると話は別ですわ。それに、貴女が突然と彼の頬をはたいたことについて謝罪はまだ聞いていませんもの」

 

「いや、流石に安い挑発だから冷静になりなさいよ。一夏が唐変木なのは事実でしょうが」

 

「イギリスの代表候補はともかく、どうやら中国の代表候補であるお前はアレと同じく臆病者のようだな。専用機でありながら、剰え『撃たなくていいのなら、撃ちたくない』などと下らん戯言抜かしたあの男のようだ」

 

「……ふーん、その臆病者って誰のこと指してるつもり?アンタが一夏の事を臆病者って罵ってんなら一度までは聞かないフリをしてあげるけど?」

 

「織斑一夏は腑抜けた男ではあるが噛み付いた分は評価している。私が言っているのはあの男、第二操縦者の方だ。戦う覚悟もないあの男は臆病者がお似合いだろう?」

 

「……臆病者、臆病者ね」

 

――――今この目の前の女は誰のことを臆病者だと馬鹿にした?アタシはその言葉にあの時のことを思い出していた。突然と厳さんに呼び止められたアイツを心配して戻れば、扉越しから聞こえてきた会話をあの時のアタシは呆然と聞いていた。

 

『……わから、ないんです……僕自身が今何をしないといけないのか……どうして今生きている意味も……全部わからないんです……』

 

扉越しからでもアイツはつらそうに、苦しそうに厳さんに話していた。……キラが臆病者?料理の味を楽しむことができず、家族がいないで1人で生きているアイツが?苦しいことも、つらいことも、悲しいことも全部我慢しているアイツが?生きているのも、何をすべきこともわからないと苦しんでいるアイツが……?アタシの中でハッキリと何かがキレる音が聞こえた。

 

「……キラが臆病ですって……?ふざけんじゃないわよっ!!アイツが今どんだけ苦しんでて、悲しんでるのを知らないのにっ!それを我慢し続けてる奴が臆病者ですって!?少なくとも、アイツが抱えているものを知りもしない、アタシもアンタもキラを臆病者だって馬鹿にする権利なんてないわっ!」

 

「はっ、よもや中国の代表候補はあの臆病者に執心だったとはな。ならば何度でも言ってやる、あの男は臆病者だとな」

 

「……ええ、乗ってやるわよ。その見え透いた餓鬼みたいな挑発にっ!アイツを臆病者って馬鹿にしたこと絶対に後悔させてやるんだからっ!」

 

まずこの目の前にいる女を絶対に後悔させてやる。そんでその後にキラのところに行って、臆病者だって言われても怒らないのを叱ってその後に我慢していることも怒ってやるんだからっ!!

 

 

◇◇◇

 

 

(……駄目だ、やっぱり集中できない)

 

整備室に来ていざストライクの調整を始めても全く集中ができないでいた。やれることを探した結果、ストライクの整備だったのにそれすらも手付かずになるのは想定外だった。……鈴がアリーナで学年個別の備えて訓練するのを思い出すけど、到底行く気分にもなれない……。

 

「……キラ君、大丈夫?」

 

「……えっ、うん、大丈夫だよ」

 

先ほど整備室に来たのか心配そうに更識さんが声をかけてくれる。考えていたのが顔に出ちゃっていたかな……?最近自分の感情が表に出ていることが多いような気もするし……もう少し気を引き締めないと……。

 

「……そういえばだけど、ここに来る前に聞いたけど今第三・アリーナで専用機持ち同士が戦闘してるらしいよ……」

 

「もう少しで学年個別トーナメントもあるからじゃないかな?多分、鈴とセシリアさんか一夏だとは思うけど……」

 

「……ううん、最近来たドイツ代表候補の人と、中国の人とイギリスの人が――――」

 

「……っ、ごめん!!急な用事を思い出した、ごめんっ!!」

 

「……キラ君……!?」

 

更識さんの言葉を最後まで聞くことなく僕は駆け出した。別に専用機持ち同士が学年個別トーナメントに向けて訓練として戦うのは不思議なことじゃない。だけど、彼女の名前を聞いたらどうしようもない不安に駆られてしまう。……一夏に固執していた、彼女――――ラウラ・ボーデヴィッヒさんが何かをしているのではないのかと嫌な予感が拭えない。第三・アリーナの観客の方よりもアリーナ・ピッドの方が近いと判断をして入れば、そこには目を疑う光景があった。

 

「――――どうした?この私の口から撤回させるつもりだったんだろう?奴が臆病者だということを」

 

「……うっさい、わねぇ!!そんなのアンタに言われなくても、わかってるつうのっ!!」

 

「っ、いけませんわっ!これ以上戦えばISの方が持ちませんわよっ!!」

 

「それもわかってるっ!!でも、ここで引いたらアタシは絶対に後悔するっ!!今ここで自分の身が可愛くて引いたら、アタシは自分が許せなくなるっ!!」

 

黒いISを身に纏い涼しそうに佇むドイツ代表候補である彼女と対照的に2人のISは限界に近く、これ以上の戦闘は継続不可能に近い。それでも鈴は真っ直ぐに目の前にいる敵を睨みつけるように見ていた。

 

「ふんっ。吠える姿は一人前だな、中国代表候補。だが、喧しく吠えるのもここまでだ。せいぜい無様に床に這いつくばれ。相手の力量を見極めることもできず、あのような軟弱者を無視できなかった己を恨むがいいさ」

 

「――――まずっ!?」

 

「――――もうっ、やめろぉぉぉぉ!!」

 

――――身体が勝手に動いていた。ストライクに身を纏いビームライフルを乱射し、彼女の意識を僕へと向ける。忌々しそうに舌打ちをして、回避行動に移る彼女には深追いせず、2人を守るように彼女たちの前で着地する。

 

「……キラさん」

 

「……っ、キラ……」

 

「ちっ、織斑一夏が誘い込むために甚振っていたがよもや貴様が釣れるとはな」

 

「なぜっ!!なぜ君はこんなことをっ!!彼女たちがいったい何をしたって言うんだっ!!」

 

「臆病者である貴様に答える舌などない。知りたいのなら無理矢理吐かせてみろ。それが貴様にできるのならだがな」

 

「……っ!」

 

嘲笑う彼女の姿に無意識に手に力を込める。2人がいったい彼女に何をしたんだ?それに一夏を誘い込む……?どうしてそこで一夏が出てくるんだ?2人が一夏と親しいから狙ったというのか……?

 

「はんっ、だから貴様は臆病者なのだ。臆病者は臆病者らしく今すぐそこを退け、戦う覚悟も持ち合わせていない貴様など甚振る気も湧かん」

 

「っ、アンタはっ!!」

 

「……退かない。約束したから、鈴をみんなを守るんだって。……戦わないと守れないものがあるのは僕も知っているから」

 

ビームライフルから、ストライクバズーカに切り替えシールドも展開する。僕は鈴と約束をした、彼女をみんなを守るんだって。戦わないと守れないものがあるのだと、一番知っているから。

 

「……よくもぬけぬけと戯言を口にする。守る……?守るだと……?……貴様のような弱いものが守れるものなどない現実を教えてやるっ!!」

 

「……っ!」

 

彼女から向けられた感情が怒りだけではないことに動揺してしまうがすぐに頭を切り替える。右肩に装備されている大型のレールカノンからの砲撃をバズーカで相殺する。PS装甲が未知数な以上は不用意な被弾は避けるべきだ。

 

「鈴とセシリアさんは一旦退いてっ!これ以上2人が戦うのは危険だっ!」

 

「……でも、それじゃあ、アンタがっ!!」

 

「――――余所見をするとは大した自信だなっ!!」

 

2人に気を取られた隙に一瞬で前へと詰められて接近戦へと詰められる。イージスのように手首から出現しているビームサーベルのような武器による初撃は僅かに後退して回避、ストライクバズーカはそのまま投げ捨て、ビームサーベルへと即座に展開して応戦する。

 

「臆病者にしてはよく反応するっ!!レールカノンの相殺、そしてこの初撃を凌いだことは褒めてやるっ!」

 

「これ以上戦うことにいったいなんの意味があるんだっ!君も僕も敵対しているわけじゃないっ!なのに、どうしてっ!?」

 

「臆病者である、貴様に理由を話す舌などないと言ったはずだっ!!それに私は言ったはずだぞ?貴様のような軟弱者に守れるものなどないという現実を教えるとな」

 

「っ……!君はいったい何を……っ!?」

 

突然と身体が何かに縛りつけられるような感覚に襲われ身動きが取れなくなる。何が起きたのかと理解する前に彼女の両腕手首から発生しているビームサーベルが突き刺され、そのまま蹴り飛ばされてしまう。

 

「ちっ、なんだ奴のISの強度は?プラズマで突き刺した時はともかく、蹴り飛ばした時はやけに硬く感じた。全身装甲タイプだからなのか……?」

 

(……ぐっ……さっきのはなんだったんだ?急に動けなくなったのはいったい……)

 

「……それにしてもよく見れば貴様のISは未完成品か。先の斬り合いでわかったが出力は専用機としてはそう高くはあるまい。第二世代以上、第三世代以下といったところか?ISとしてのポテンシャルは未完成である以上伸びる可能性はあるが、貴様のような臆病者が搭乗者である事に同情するよ」

 

「アンタの相手はアタシでしょうがっ!!」

 

「実力差は歴然としているのによくも挑んでくる。ISとしての相性も最悪だというのに……そろそろ、鬱陶しいものだ」

 

「っ、鈴さんは完全に頭に血が上っていますわねっ!!」

 

「……っ、それ、はっ……!!」

 

セシリアさんが展開したあの武装が視界に入る。彼女が鈴の援護のために使ったそれはあの人の武装と酷似していて、マズイとわかっていながら身体があの時のように硬直して呼吸が浅くなる。グラリっと自分の視界が歪み、あの人の言葉が頭の中で響く。

 

『いくら叫ぼうが今更……! これが定めさ! 知りながらも突き進んだ道だろう』

 

『正義と信じ、わからぬと逃げ、知らず、聴かず!! その果ての終局だ、最早止める術などない!! そして滅ぶ、人は滅ぶべくしてな!!』

 

「……違うっ!!人は、人はそんな、ものじゃない……っ!!」

 

「……キラっ!?」

 

「キラさんっ……!?」

 

「馬鹿めっ!先もそうだが戦いで隙を見せるのはただの的だっ!」

 

2人の悲鳴が聞こえて一瞬だけ我に帰れば鈴とセシリアさんがワイヤーによって共に叩きつけられた姿がそこにあった。右肩の大型レールカノンの銃口のその先は彼女たちに向けられていて、それがあの人が彼女を、フレイが乗る脱出艇へと引き金を引く姿と酷似していた。――――頭の中で種を割るイメージを、SEEDを発動させる。

 

「これ以上、やらせないっ!!やらせるもんかぁぁぁぁ!!」

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を詰め2人の間に割り込む。ビームサーベルから高速切替(ラピッド・スイッチ)でビームライフルに展開し、彼女たちに当たる可能性がある実弾だけを撃ち落とす。自分の被弾のことなんて度外視して被弾をしてしまうが、そんなことはほんの些細な問題に過ぎない。

 

「最後まで指を咥えていればいいものをっ!貴様もろともそこの2人も沈めてやろうっ!」

 

「また、あなたはそうやってっ!!僕から、また大切な人を奪うのかっ……!!」

 

両肩とリアアーマーから射出された計6機のワイヤーが襲ってくる。その半数の狙いは僕ではなく背後にいる彼女だ。冷静にそのワイヤーだけを見極め、そのワイヤーだけを武装を離した両手で掴む。そして無防備になっている自分に再度被弾をすればシールドエネルギーが残り僅かという警告音がストライクから聞こえてくる。

 

「……っ!?こいつ後ろの狙っているワイヤーだけを……!」

 

「あなたはっ……!あなただけは……っ!!」

 

「ぐっ、この男……っ!?」

 

力任せに握っているワイヤーを使い彼女を引き寄せる。また、"あの人"は再度僕の大切な人へ引き金を引いた。フレイを、彼女を殺したこの人だけはっ!!スラスターを一直線に吹かし、先ほどからストライクから警告音が鳴り響くが無視をする。再度大切な人を失うのなら僕は――――っ!!

 

「なんだ、この感覚はっ……?来るなっ……!!」

 

レールカノンが直撃してシールドエネルギーがなくなり、はっきりとストライクからエネルギーが尽きかけている感覚がわかる。PS装甲がダウンした感覚はハッキリとわかるが……それだけだっ、ビーム兵器が使えないの?まだ武器はあるっ!!

 

「ゔあぁぁぁぁぁっ!!」

 

「っ、この男、シールドエネルギーがなくなったのを知っていながら――――」

 

動きが止まったあの人にアーマーシュナイダーを突き刺そうとしたその瞬間にその腕を力強く握られる。さっきまでは他の敵対反応なんてなかったはずなのにいったい誰が……っ!

 

「――――急いで駆けつけてみれば……ほんのギリギリだったか。キラ、キラ・ヤマト。お前は私が誰かわかるか……?私の名前を言ってみろ、キラ」

 

「あっ……おり、むらさん……僕は、僕は……」

 

「落ち着け。大丈夫だ、お前の敵はここにはいない。だから、大丈夫だ、キラ」

 

織斑先生に諭され、自分が何をしようとしていたのか、目の前にいる転校生である彼女を"あの人"だと錯乱して――――殺そうとした事を思い出す。怒りで我を忘れて、取り返しもつかない事にしようとしていた事に身体が震えてアーマーシュナイダーが手から零れ落ち、エネルギーがなくなったストライクは強制的に解除される。

 

「キラっ!!」

 

「……り、ん……?」

 

「大丈夫、大丈夫だからっ!アタシも、セシリアも大丈夫だからっ!」

 

「やく、そくしたのに……君を守るんだって、約束したのに……」

 

「っ……!大丈夫、大丈夫だから。アタシはキラの前にいるから、だから大丈夫。安心して、ね?」

 

震える身体を彼女は優しく抱きしめて落ち着かせるように何度も背中をさすってくれる。その温もりで彼女が鈴がこの場にいるという事実に浅くなっていた呼吸が落ち着いてくる。

 

「……鈴音、キラのことを暫く頼むぞ。ラウラ、お前にも聞きたいことがあるが一度休め。気づいていないが今のお前は酷い顔をしているぞ」

 

「……っ、そんな、ことは……っ!!」

 

「無理をするな。落ち着いたら職員室に来い、わかったな?」

 

「……了解、しました……」

 

落ち着いてきて自分が今どこにいるのかをハッキリと認識する。あんな思いをさせた、転校生である彼女に謝らないといけないのに身体が上手く動いてくれない。声をかけることもできず彼女が去って行く後ろ姿を見ていることしかできなかった。

 

「セシリア、立てるか?」

 

「は、はい、わたくしも大丈夫ですわ。織斑先生のお手を煩わせる程ではありません」

 

「……全く模擬戦をやるなと言わんが貴様らは加減を知れ。学年個別トーナメントがあるまでは一切の私闘を禁じなければな。鈴、キラの様子はどうだ?」

 

「……今落ち着いてきたところです」

 

「……すみ、ません……僕は大丈夫ですから、2人をお願いします……」

 

「……っ、どこが大丈夫よ!アンタが今一番キツイのはわかってんだからっ!!千冬さん!コイツも一緒に保健室でお願いしますっ!」

 

「ああ、元からそのつもりだったから安心しろ。キラは私が連れて行く、お前たちは自力で歩けるのなら悪いが保健室まで歩いてもらうぞ」

 

「……ごめん、なさい……」

 

「大丈夫だ、キラ。お前は何も悪くはない、よく頑張った」

 

久々にSEEDを使ったからなのか、それとも別の要因でなのか身体を動かす気力が湧かない状態の僕は織斑さんの肩を借りてかろうじて歩くことができるようになる。何度も譫言のように謝る僕に織斑さんは優しく声を掛けてくれた――――

 




ラウラさんは別に何も悪くはないんだ……ただ、セシリアさんが援護で使ったビットを見た結果、タイミング的にラウラさんが某仮面認定されちゃってキラ君の殺意が溢れただけで……キラ君が既に錯乱しちゃったから、キラ君はラウラさんではなく某仮面の人の幻影と話してただけだから……一夏君も武力介入はしようとしましたがそのタイミングでSEED発動したと思ってください、はい((

今回もキリが良かったので切った感じです。まぁ、仕方がなかったんです……ゆるしてぇ!!

誤字&脱字報告お待ちしておりますっ!!いつも感想ありがとうございます!とても励みになっています!!次回の更新は未定ですが気長にお待ちください!!


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第20話 生まれる疑惑

最近再上映でFateのHFルートを見た後に桜を見る事ができてめちゃくちゃ満足した作者です!うん、本当にやばいね、ウマ娘にハマって遅くなりましたっ!!脳内の某テイオーちゃんがハイライト消えた目で世界救う旅と執筆を止められるから仕方がない((強めの幻覚

……そして今回はもう、アレだ……クオリティは期待しないでください。赤バーとか目を疑いました…カードゲームもギャルゲーもできる3に失踪します……ブルーレイ攻略したいので探さないでください((血反吐

てか、今更言うものなんですけどグラブルでボーボボコラボが凄かったです……あの作品の前だとぐらぶるっ!や漫画でわかるfgoがまだ常識があるんだなって……ボーボボはやはりヤバい((語彙力


「……すみません……また、余分な時間を取らせてしまって……」

 

「私の前ぐらいは気を使う必要はない。アリーナで鈴音が言っていた通りお前が一番重症なのは間違いなかったからな」

 

「……僕よりも、鈴とセシリアさんの方が――――」

 

「……鈴音とセシリアは確かに怪我をしているが、それを踏まえても一番重症なのはお前だ。私とお前は確かにまだ短い付き合いではあるが、それでもお前が無理をしていることぐらいは一眼でわかる。私の前では無理をしなくていい」

 

保健室のベットに腰を掛けて項垂れる僕を織斑さんは優しく語りかけてくれる。鈴とセシリアさんは保健室の先生に治療してもらっており、僕はこうやって織斑さんにポツポツと話すぐらいには回復している。けど、織斑さんには無理をしているのを誤魔化すことはできなかった。

 

「……織斑さん……僕は2人を守れたんでしょうか……?鈴とセシリアさんの2人を……実感が湧かないんです……大切な人をいつも取りこぼしてばかりだったから……」

 

「……ああ、2人は無事だ。多少の怪我をしているが命に関わるほどじゃない。だから安心していいんだ、キラ。お前のその手で2人をちゃんと守れたんだよ」

 

震える両手を織斑さんは優しく握ってくれる。保健室に来てから、アリーナで感じた鈴の温もりは夢で本当は2人は危険な状態じゃないのかと不安で仕方がなかった。織斑さんの言葉で2人を守ることができたのだと実感が少しづつ湧いてくる。だけど、次に襲ってくるのは安堵ではなくある一つの不安だった。

 

「……織斑さんは、怖くないんですか……?」

 

「……それはお前が本気で戦った姿を見たことについてか?それとも、錯乱していたとはいえラウラに本気の殺気を向けていことか?」

 

「……両方、です……だって、僕はISを特別訓練したわけでもなくて戦えて……そして、ラウラ・ボーデヴィッヒさんを殺そうとしていたんです……その両方が、特に彼女を錯乱していても、殺そうとしていたのが異常だってのは織斑さんならわかるはずです……」

 

ISの操縦訓練は授業でしかやっていない。無人機による襲撃以降も放課後自主的に訓練をしていたわけでもないのに、専用機持ち相手に戦闘することができたのが異質で、錯乱していたといっても無力化ではなく殺そうとしていた。身体に染み付いた戦闘技術は衰えておらず、異なる世界でも遺憾無く発揮していき、この世界で必要な技術をさも当たり前のように習得していく。この世界で僕の力の異質さは浮き彫りになりやすい。訓練をすれば殆どのことはきっと出来るようになってしまうのだろう……最高のコーディネイターとして造られたのだから。

 

「……今から私が口にするのはこの場凌ぎの嘘でも誤魔化しでもない。二度も言わないから、一言も聞き逃すなよ?」

 

「……はい……」

 

「――――馬鹿者、私がお前を拒絶することなどあるものか。確かに私はお前の、キラの抱えているものを深くは知っているわけではない。けれど、今のお前が悩み、苦しんでいることはわかる。その力は確かに異常なのかも知れない、それでも私はキラ・ヤマトという少年を恐れる理由にはならない」

 

織斑さんの言葉を理解するのに数秒の時間が必要だった。織斑さんが嘘を言うような人じゃないのは知っている。だからこそ向けられている視線が恐怖や拒絶ではなく、親愛である事に戸惑ってしまう。

 

「……で、でも、僕はラウラ・ボーデヴィッヒさんを殺そうとしたんですよ……?」

 

「それは確かに事実ではあるが、それは意図的ではなく不幸な偶然が重なってしまった結果であるのだろう?あの時のお前はラウラではなく、他の誰かと錯覚していた。違うか?」

 

「……それ、は……そうです、けど……でも、それでも到底許されないことをしようとしたんです……っ」

 

「ラウラへと殺気を向けたことに罪悪感があるのなら私から言うことは何もない。……それ以上は自分のことを責め続けるな、心が本当に壊れてしまうぞ」

 

手のかかる弟をゆっくりと諭すように、少し雑な感じではあるものの優しく頭を撫でてくれる。いつものように大丈夫だと誤魔化せばいいのにそれができなかった。織斑さんが本当に僕のことを気にかけていてくれるから……それに今だけは甘えていたい、そう思ってしまうのは自分には許されないことのはずなのに。織斑さんはこんな僕を受け入れてくれている、それで心が幾分か落ち着いてくる。

 

「その様子だと、だいぶ落ち着いたようだな。もう、大丈夫か?」

 

「……はい、もう大丈夫です。……織斑さんはこの後はラウラ・ボーデヴィッヒさんと話すんですよね?」

 

「ああ、そのつもりではあるが……ラウラと会ってどうするつもりだ?」

 

「……さっきの戦闘のことでも謝りたくて……どうして鈴とセシリアさんを狙ったのかも知りたい……だから、彼女と会って話をしたいんです。僕はラウラ・ボーデヴィッヒさんのことをなに一つ知りませんから」

 

彼女が鈴とセシリアさんにした行為には確かにまだ怒りはあるものの、それだけでは駄目だ。怒りと憎しみだけでは悲しみが広がるだけ。僕はラウラ・ボーデヴィッヒさんのことをなに一つとして知らない。一夏に固執していること、そして彼女が一夏を平手打ちした時と、戦闘の際に感じた感情には怒り以外にも入り混じっていたことが気になる。

 

「……わかった。話し合いの場は私が用意しよう」

 

「すみません、これも僕の我儘なのに……」

 

「いいや、これぐらいは我儘には入らないさ。……ラウラとは真正面からぶつかってあげてくれ。私から言えるのはこれぐらいしかない」

 

織斑さんは複雑な表情を浮かべていた。それはきっとラウラ・ボーデヴィッヒさんがどんな人なのかを知っているからなのだろう。……彼女と僕はもしかしたら真逆の考えを持っているのかも知れない。けど、それで彼女の事をなに一つ知らず否定をするのは違う、それこそあの人の言葉を肯定することになってしまう。

 

「……さて、そろそろ2人からアリーナで何故あのような事態になったのかを聞かなくてはな。それはもちろんお前も含まれているため誤魔化す事なく話せよ?……それとだが、先程から織斑さんと呼んでいるから、鈴音たちの前できちんと先生と呼ぶように。2人だけの時なら別に構わんがな」

 

「あっ、えっと、すみません……」

 

織斑先生の指摘で自分が無意識で織斑さんと呼んでいた事に気づく。2人だけの時なら別に大丈夫だと言われたけど、それはそれで誰かに聞かれてしまえばマズい気がする……特にこのIS学園内はちょっとした事で噂になり大惨事になりかねないのが……それは本当に勘弁したい。僕が精神的に落ち着いた事もあり、織斑先生はカーテンを開ける。

 

「どうですか、2人の容態の方は?」

 

「凰鈴音さんとセシリア・オルコットさんは2人とも軽めの打撲ですね。ただ当分は――――」

 

織斑先生と保健室の先生が2人のことで話し始める。僕の方は精神的な面の方が大きかった事もあって肉体的には怪我をしていたわけではない。……治療が終わった後であろう2人に声を掛けるか僅かな躊躇いがあった。

 

「そこで突っ立てるぐらいならコッチに来る。セシリアも別に大丈夫よね?」

 

「え、ええ、そうですわね」

 

僕のことに気がついた鈴から手招きされて悩み、結局はおずおずと近づいていく。近くにあった椅子を借りて座り、次に2人からどんな言葉を投げられるのかと内心で怯える。セシリアさんからは戸惑いを感じるし、鈴はジッと僕の顔を見て無言で見つめてくる。

 

「……うんっ、いつも通りってわけじゃないけど少しはマシな顔になってるわね。織斑先生と何を話してたのか気になるけど……まっ、それはそれよ。アンタが元気になったのならそれでいいわ」

 

「……なんとか今は大丈夫だよ」

 

「キラの大丈夫ほど信用ならないけど……まっ、今はそれを信用してあげる。光栄に思いなさいよ?」

 

鈴は冗談めかして笑うものの、治療して包帯を巻いている姿が痛々しかった。自分がもっとしっかりしていれば2人が怪我をすることがなかったはずだと後悔に襲われる。

 

「……ごめん……僕がもっとしっかりしていれば怪我なんてしなかったのに……約束も守る事もできなくて……ごめん……」

 

「まーた、辛気臭い顔をしてる。そんなアンタにはこうよっ!」

 

「は、はいをすうの……!?」

 

「何をするのですってー?そりゃ、いつまでも辛気臭い顔してるアンタにお仕置きよ、お仕置き。ほら、セシリアも手伝いなさい」

 

「そ、そんな事は淑女としてできるわけありませんのっ!!まずキラさんも困惑しているようですからおやめなさい」

 

両頬を鈴に引っ張られ上手く喋ることができない。……そして地味に引っ張られるのが痛かったりするんだけど。セシリアさんは呆れた様子でため息を吐きながら鈴を止めてくれた。まだ満足したりなさそうなのか渋々と解放してくれる。

 

「しょうがないわね。ここはセシリアの言う通り大人しく解放してあげる……キラは約束を破ったとか思ってるつもりだけどその逆だから。……はい、これでアンタもウジウジしない、いいわね?」

 

「……うん」

 

「……はぁ、照れ隠しの為にキラさんの両頬を引っ張っていたとしか思えませんわね。そもそもアリーナでキラさんを――――」

 

「セシリア、それ以上言ったら今すぐ張り倒すわよ」

 

「笑えない冗談を言うのは――――イエ、ナンデモアリマセンワ」

 

それ以上言ったら張り倒すのを有言実行すると察したセシリアさんは片言になり目を背ける。あの時は冷静じゃなかったけど……今そのことを考えれば酷く申し訳ない気持ちでいっぱいになる。鈴が抱きしめて落ち着かせてくれなかったら人と話すことができるまでに回復するのはもっと時間がかかっていたはずだ。

 

「……キラもアリーナの事については忘れる、いいわねっ!約束できないのなら物理的に忘れさせてあげるけど」

 

「……その物理的に忘れさせられる方法は何となく察したから遠慮させてもらうよ」

 

「……それは約束ではなく脅迫と言うのですのよ?」

 

「とりあえずセシリアは確定で物理的に忘れさせてあげるわ。キラはともかくアンタの場合はぽろっと口を滑らせるってアタシの勘が告げているから」

 

「どうしてわたくしだけがっ!?さっきからわたくしへ八つ当たりしているのは間違いありませんわよねっ!?キラさん、鈴さんをどうにかしてくださいましっ!!」

 

「と、とりあえず一度落ち着こうよ、鈴。元は悪いのは僕だから、物理的に忘れさせるのを実行するとしたら僕だけでいいからさ」

 

明らかに何処かブレーキが壊れている鈴を必死に宥める。さっきからセシリアさんだけ標的にしている理由がサッパリわからないけど……心当たりがあるとすればやっぱりアリーナのことだよね。これって下手したら目撃者全員が標的になるんじゃ……。

 

「そ、そうね。確かに冷静じゃなかったかも……ほ、ほら抱きしめたのはあの時キラを落ち着かせる為に仕方なかったってやつだし……誰かの体温を感じたら落ち着きやすいってどっかで聞いたことあるし……」

 

「……うん、本当にごめん」

 

「あー、もうっ!だからなんでアンタは直ぐそうやって落ち込むし謝るのよっ!少しぐらい役得とか思ってなさいっ!」

 

「……鈴さん、お言葉ですが事故とはいえどキラさんは山田先生を押し倒していることをお忘れですの?それにあの体勢は押し倒したですんだかどうか……」

 

「…………あったわね。そんなのすっかり忘れてたっての……てか、セシリアは遠回しに喧嘩売ってるってことよね?なに?今から第二ラウンド始める?」

 

「オホホホ、なんのことかサッパリわかりませんわ。鈴さんが深く考えすぎなだけではありませんの?」

 

鈴さんとセシリアさんってここまで犬猿の仲だったけ……?2人とも一夏の事が好きなのはわかっているし……鈴とこの場にいない箒さんはハッキリと一夏が好きなんだってのは聞いているか。……よくよく思い出したら鈴と箒さんもこんな感じではあったような気がする。

 

「まったく……貴様らは怪我をしていても元気なものだな。怪我人ならもう少し静かにしていろ」

 

話が終わったのかお互いに睨み合う2人を見て織斑先生が呆れていた。これ以上は流石に2人を止められる自信がなかった事もあって織斑先生が止めてくれたことにホッとする。

 

「口喧嘩する元気があるのなら、ラウラ・ボーデヴィッヒと度を越した戦闘をすることになった事も話してくれるんだろうな?」

 

「……も、もちろんお話いたします。ね、ねぇ?鈴さん」

 

「……も、もちろん話しますよ。ねぇ?セシリア」

 

「……はぁ、調子のいい奴らめ。大方はラウラに挑発されてそれで頭にきてその挑発に乗ったところだろ。それで戦闘の最中にキラが介入をした……違うか?」

 

「「……大体合っています」」

 

「挑発に乗らなければこんな事にはならなかったろうに……ラウラと戦闘したことについてはともかく、見え透いた挑発になぜ乗った?」

 

「……わたくし自身ならともかく、一夏さんを侮辱されれば引く事は許せませんでした」

 

「今を一生懸命に頑張って過ごしてるアイツ(・・・)を馬鹿にされて引くことなんてアタシには無理でした……」

 

「……まったくお前らが一夏を想ってくれているのは姉としては喜ばしいんだがなぁ。それが原因で怪我をしたのは複雑でしかない。一夏が友達を怪我させた相手を黙って見過ごせるタイプではないのはわかっているだろう?私はこれからラウラと話せばならないから、一夏についてはお前たちが止めておけ。いいな?」

 

「「……はい」」

 

複雑そうにため息を吐く織斑先生の姿を見て2人は項垂れる。実際一夏が友達を傷つけた人を黙って見過ごすのかと聞かれればそれは絶対にありえない。それがラウラ・ボーデヴィッヒさんと知れば間違いなく彼女の元に向かうだろう。……それが怒りと憎しみに染まってしまうのなら僕が止めないと。

 

「キラ、お前は途中で戦闘へと介入した。それで間違いはないんだな?」

 

「……はい、それで間違いありません」

 

「これでお前たちへの聴取は終わる。次はラウラから聞かなくてはな……それに外ではお前たちのことを心配してずっと待機しているのがいるからな。……それと鈴、お前のその気持ちはわからなくはないが、アイツ(・・・)にとっては怪我をする方が応えているのを忘れるな。それはセシリアもだ、忘れるなよ」

 

「……わかりましたわ」

 

「……わかりました」

 

「それならいい。キラ、行くぞ」

 

「は、はいっ」

 

「あっ、えっと、キラ!!」

 

僕が織斑先生と一緒に職員室から出る前に鈴が焦った様子で呼び止める。どうしたのかと振り返れば、気まずそうに視線をずらしながらそれでもハッキリと伝えてくれる。

 

「……ありがと。約束を守ってくれて、アタシをまた守ってくれて本当にありがと。……つ、伝え忘れてたからそれだけっ!」

 

「……ううん、僕の方こそありがとう」

 

僕は約束を破ってばかりだった。フレイのお父さんを守る事もできなくて、話そうと約束しながらそれも破ってしまって……そして最後は護る事もできなかった。本当はこの約束だって果たす事はできていないのに……それなのに彼女は約束を守ってくれてありがとうっと伝えてくれた。……今度こそ守ることはできたんだ僕は。

 

「なんでアンタが感謝してんのよ。もう、調子狂うんだから。呼び止めたアタシが言うのも変だけど……用事があるんなら夕食までに終わらせて来なさい。いいわね?」

 

「……うん、そうできるように頑張るよ」

 

「ほんと、そこら辺は曖昧なんだから」

 

彼女は呆れた顔でそれでもしょうがないなっと苦笑いへと豊かに表情が変わる。織斑先生とセシリアさんからもため息を吐かれたのは多分私生活が関係しているはず……。

 

「千冬ねえ!鈴とセシリアの2人は大丈夫なのかっ!?」

 

「織斑先生と呼べ馬鹿者。お前の心配はわからなくはないが2人は無事だ。仲良く喧嘩するぐらいにはな」

 

「仲良く喧嘩って……あの2人は何しているんだ、まったく。……キラ、お前は大丈夫なのか?」

 

「えっ?う、うん、僕は大丈夫だよ」

 

「……そうか、それならいい」

 

「ま、まぁ、みんなが無事でよかったよ」

 

やっぱり外では待っていたのは一夏たちで2人のことが心配でずっと待っていたんだろう。箒さんに怪我を心配された事にちょっと驚いたが大丈夫だと伝えれば怪訝そうにしながらも納得してくる。シャルロットさんもチラチラと心配してくれる視線は向けてくれるけど目が合えば逸らされるの仕方がないよね……。

 

「一夏、先に伝えておく。今の気持ちはわからなくはないが我慢しろ、いいな?……お前のその力は何のために振るうのかをよく考えろ。感情に身を任せてソレを見失うことだけはするなよ」

 

「……っ、わかった」

 

納得のいかない表情ではあるけど一夏は渋々と頷く。僕が何か言うよりか家族である織斑先生の言葉の方がすんなりと受け止めやすいだろう。僕は2人のことをお願いねっとみんなに伝え織斑先生と共に後にした――――

 

◇◇◇

 

「2人とも大丈夫かっ!!」

 

真っ先に保健室に入って来たのは織斑一夏で篠ノ之箒とシャルロット・デュノアもその後に続いてくる。セシリアと鈴音の怪我を見て彼は表情を険しくなるのを見て鈴音はやっぱりかと内心でため息を吐く。良くも悪くも織斑一夏は真っ直ぐな人間であり、大切な友達をこうした相手を黙っていられるほどお人好しではない事は幼馴染である彼女は理解している。

 

「一夏がアタシたちが怪我をしてることに怒ってくれるのは嬉しいけど……これって半分は自業自得でもあるから」

 

「……それについてはわたくしも同じ意見です。なので、あまりお気になさらないでくださいな」

 

「……2人の中で納得してるのならそれでいい」

 

本当に渋々と言った形で一夏が納得する姿を見てベットで横になっている2人はホッと安堵する。想い人である彼がそうやって怒りを見せてくれるのは嬉しいものの、この場で怒りを鎮める事が出来なかったら彼の姉から何をされるのかなんて考えるだけで恐ろしくなる。

 

「その様子だと2人は大丈夫のようではあるな。安静にはしておくんだぞ?……キラの方は大丈夫だったのか?」

 

「……千冬さんも傍にいるからなにかあっても大丈夫だとは思う」

 

「酷く曖昧だな……後で直接確認するしかないか。一瞬では流石にわからなかったからな」

 

(ふーん、あとでねぇ?夕食の時にキラの部屋に訪ねる気はなかったんだけど……どうせ、キラのことだから無理矢理連れて行った方がいいでしょ)

 

箒の質問に正直に答えるかどうか悩んだ鈴音は曖昧にして答えれば少し予想外な答えが返ってくる。鈴音からすれば彼女の答えは少し意外だなと思うが、前に彼女の行動が原因で一度キラが怪我をしたことを思い出す。箒としては自身の行動が原因で彼が怪我をしたこともあり、それが僅かながらトラウマになっていることがあるからこその行動だったりするのだが……。

 

「はい、2人の分の飲み物も買ってきておいたから」

 

「お手を煩わせて申し訳ありませんわ……」

 

「んっ、悪いわね。後でちゃんとお金は返すわ」

 

シャルロットから2人は飲み物を受け取る。こう言った気遣いをしてくれる友人を持つ事ができて本当に良かったと怪我をした2人はシミジミと思う。

 

「怪我の方はどうなの?ずっと面会拒絶だったから怪我が酷いかなって思っていたんだけど……」

 

「それについてはご心配はなさらず。軽めの打撲ですんでいますので」

 

「そうそう、アタシたちの方は軽傷だから。ISの方は今検査中であるけど……まぁ、当分は整備室でお休みになる事は覚悟してるわ」

 

「ブルー・ティアーズは大丈夫だと思いたいのですが……望みは薄いのが正直なところですわ。損傷の方は恐らく鈴さんの方が上だとは思いますが」

 

「なによっ、アタシの方が被弾した方が多いって意味?」

 

「あら?あの場で一番頭に血が上っていたのは鈴さんだと思いますが?」

 

「あー、もうっ!2人とも喧嘩したら駄目だよっ!?」

 

バチバチと火花を散らしながら睨み合う2人を一生懸命にシャルロットが宥める。喧嘩するほど元気がある姿を見れば流石に一夏も冷静になってきてそれを見て苦笑いを浮かべてしまう。

 

「なぜお前たちはそうやってすぐに喧嘩になっていくんだ……」

 

「「それはこっちが悪い(ですわ)!!」」

 

「喧嘩するほど仲がいいって言事が似合ってるよな、本当にさ」

 

「……キラは大丈夫なのかな……」

 

シャルロットとしては何気なく呟いたつもりなのだろう。けれどその一言は鈴音とセシリアにとっては内心では複雑な気持ちになってしまう。面会拒絶になっていた理由は恐らくはキラが関わっているのを2人は察しているが彼らはそうじゃない。

 

「……まっ、今のところは大丈夫よ。そうじゃなかったら用事とか言ってた時に、アタシが無理矢理にでもベットに縛り付けてたから」

 

「……それは流石のキラでも怒るんじゃねえの?」

 

「はぁ?無理してるくせに誤魔化そうとしてるアイツにはこれぐらいが丁度いいのよ」

 

鈴音の発言に保健室にいる全員が割と引いているのだが本人は至って気にしている様子はなかった。前よりも過保護になっていないかと?周りは疑問を浮かべてしまうがそれを指摘してもまだ自覚がない彼女には言うだけ無駄である。

 

「セシリアさん、鈴さん、お二人のISの検査が終わりましたよー」

 

「アタシたちのISはどうでしたか……?」

 

「ダメージレベルはBではありますけど、次の学年別トーナメントに参加すれば間違いなくレベルCになってしまうのでおふたりは参加する許可はできません。当分は修復に専念しないといけません、わかりましたね?」

 

「「はい……」」

 

普段は少し気の抜けているように感じる山田先生ではあるものの、ニッコリと笑っていながら何処か圧を感じた2人は素直に力なく頷く。そんな2人を見て一夏は意外そうにしているがシャルロットからその理由を説明されて納得したようだ。

 

「……キラさんの場合はどうなんですの?キラさんの場合は間違いなくダメージレベルはCにいっていると思うのですが……」

 

「キラ君のISはまだ検査中なので結果は終わり次第としか言えませんね。もちろんダメージレベルがCを超えていたらキラ君も同じく参加は許可しません」

 

(……キラ君のISはまだ検査していないのが本当の所なんだけどね。キラ君本人からこういった時は自身がやるって約束しているから)

 

彼の専用機である『ストライク』については後に本人が検査する事を伝えられていて、今は山田先生が大切に保管している。元はこの世界とは異なる存在であった事や異なる技術を使用されている事もあって『ストライク』の細かい情報は彼本人しか知らない。織斑先生も山田先生もそれについては本人の意思を尊重しているし、なにより彼が唯一自主的に取り組んでいる事だ。理由はなんであれ彼女らにとってはそれがたまらなく嬉しいことである。

 

「それじゃあ、私はこれで失礼しますね。おふたりとも今日はお大事にですよ?」

 

最後に優しく微笑みながら山田先生は保健室を後にする。怪我をしている2人は学年別トーナメントに参加できなくなった事については仕方がないかと素直に割り切る事にした。実際半分は挑発に乗ってしまった自業自得ということもあるからなのだが。

 

「……そういえばだけどよ、なんで2人は転校生と戦う事になったんだよ?」

 

「おほほほ、1人の女として引けない勝負があったからですわ」

 

「……1人の女として引けない勝負があったからよ」

 

(……このタイミングでキラの事を馬鹿にしたからって話したら完全にシャルロットが勘違いするでしょうがっ!)

 

この場にて明確にシャルロットの想いを知っている鈴音にとって一夏のさっきの質問は完全に爆弾である。キラは好きな人がいると言って振ったらしいが誰のことが好きなのかは伝えていない。このタイミングで馬鹿正直に話せば変に勘違いが起きてしまって、それでなおかつ連鎖的に自身が誰が好きなのかを告白する羽目になると一瞬で察した彼女は誤魔化すしかなかった。

 

「……とりあえず学年別トーナメントでのパートナーについてなんだけど、アンタらの誰かでキラとパートナー組んであげてくれない?アイツのISがダメージレベルCを超えてなかったらの話だけど」

 

(……鈴さん露骨に話を逸らしましたわね。それにさっきの質問は織斑先生の時と全く回答が違っていましたし……)

 

「うん?それなら俺がキラと組もうか?俺もまだパートナーは見つかってなかったし」

 

「まぁ、色んな意味で一夏が安定といえば安定だけど……箒とシャルロットはどうなのよ?」

 

「……そうだな。本来なら私としては反対したかったが……男同士ならば異論はない。それに私はやらなくてはならない事がある」

 

「……えっと、私は――――っ」

 

シャルロットが答える前に電子音がそれを遮る。彼女は私は先に約束した人がいるからっと伝えて急いで保健室を後にする。彼女の想いを知っている鈴としてはそれに違和感を感じるが気まずいのが原因かと結論に至る。

 

「……すまないが私も席を外す。学年個別パートナーを探さないといけない事もあるからな」

 

「あら、パートナーは既に見つけているから先程断ったと思っていたのですが」

 

「いや、パートナーの目星は既につけている。……先に謝っておく、そのパートナーについてはお前たちを怒らせる事になるかも知れない。だが、私のやらなければならない事にその力が必要なのだ」

 

「はぁ?それってどういうことよ?」

 

「……確かめたい事があるとしか今は言えない。姉さんと同じ目を見せたアイツを知るのはこのタイミングしかない。だから、すまない」

 

彼女が口にしたアイツが誰なのかを聞く前に箒は保健室を後にする。一夏のパートナーは私だと抗議するのだと想定していた鈴とセシリアは彼女に違和感を覚えるが、それを問いただそうとも怪我をしている2人は追う事は無理だった。

 

「……変な奴。一夏はなんか心当たりないわけ?」

 

「悪いけど俺は何も知らない。箒にも言えない理由があるのなら無理に聞き出す必要はないと思うぞ」

 

「それは確かにそうなのですが。……少しばかり不安はありますが箒さんのやらなければいけない事を信用するしかないですわね」

 

「どうにしたってアタシたちには何もできないでしょ。流石にちょっと疲れたしアタシは寝るから。1時間後ぐらいに起こしてちょうだい。それまで仲良く2人で話してれば?」

 

欠伸を噛み殺して鈴音は頭まで毛布に被る。眠りを妨げるわけにもいかない為一夏も後でまた来ることを約束して保健室を後にする。扉が閉まる音が聞こえれば寝るのだと言っていた彼女は口を開く。

 

「……悪いわね。こんな悪ふざけに付き合ってもらってさ」

 

「まったくですわ。理由が理由でしたから乗って差し上げましたが2度目はありません。ですが、よろしかったのですの?最後のアレは間違いなく織斑先生にはバレていたようですが」

 

「それについては問題ないわよ。織斑先生にバレるのは想定内だったし。むしろ、下手に嘘ついて見破られたら目の前で話すことになってた。……キラの性格上、自分が馬鹿にされたからが理由で怪我をしたって知ったら絶対に気に病むわよ」

 

本来の2人の関係上を考えればセシリアは呆れた様子で自惚れではありませんの?っと否定をしているだろうが、キラ・ヤマトという人間性を知っているセシリアは彼女の言葉に曖昧な返事を返す。事前に鈴音はキラの前ではなるべくいつものように接してくれと彼女に頼み込んでいて、それを戸惑いながらも首を縦に動かした。最初にキラが感じたセシリアの戸惑いについては勘違いではなかったのだ。

 

「……はっきり言って異常でしたわよ。それぐらいはわかっていますわよね?」

 

「……わかってるわよ」

 

毛布で包まっている鈴音の表情はセシリアからは見えなかったものの覇気のない声から彼女もそれを理解しているのだと。アリーナで戦闘の最中に彼はまるで何かに取り憑かれたように人が変わった彼の姿にはあの場にいた2人は恐怖を感じた。悲痛に叫び、怒りと憎しみのままに目の前にいる誰かを討とうとするその姿は異常だった。

 

「彼は一夏さんのように訓練をしているわけでもありません。ましてや専用機持ちとなってからも長くないのですよ?それなのにまるで戦い慣れしたした動き……気づいていたと思いますが彼は高速切替(ラピッド・スイッチ)瞬時加速(イグニッション・ブースト)も使用していましたわ。そして激情に駆られていた時の彼の姿には言葉にするのも躊躇いがありますわね……あの後に声をかけた鈴さんには素直に尊敬しますわ」

 

「……セシリアが感じてる疑問はわかるし、それを否定するつもりもない。アタシもキラのことを詳しく知っているわけでもないからさ……あの時のキラを見てアタシも怖いって思ったから……でも、あんな姿見たら放っておくことなんてできないわよ」

 

ISから解除されて確かめる事ができるようになった彼は酷く痛々しかった。己が何をやろうとしていた事を自覚し、今すぐにでも壊れてしまいそうだった彼に鈴音は無我夢中で声をかけ抱きしめて必死に落ち着かせた。一つの約束のためにこうなるまで戦った彼を拒絶する選択肢は彼女の中にはなかった。

 

「……今度こそアタシは寝るから。アンタもちょっとぐらい寝れば?」

 

「……ええ、そうさせてもらいますわ」

 

2人とも体が疲れているのは事実なためベットへと身を委ねる。これ以上は彼の事を話してもお互いに知らない事が多いのだ。肉体的にも精神的にも疲労が溜まっているため、2人が睡魔に襲われるのはそう時間が掛からなかった。




ラウラ編は実は今月いっぱいで終わらせたかったのにこのペースだと無理だと察したので投稿頻度はちと落ち着かせます。元は息抜き&月一更新が目安だったんです……週投稿してる人本当に凄いですわ((

実はカミングアウトしますがこの作品は私のやる気と勢いだけで書いていますので内容とクオリティの格差はヤバいので気をつけてください、はい((吐血

今回は若干キラ君が千冬さんに心が更に開いた回ですねっ!そして当たり前ですが前回の戦闘能力の高さ等の事でキラ君が異常だって着実に周りにバレてしまっていく……まぁ、まだなんとかなる範囲だよね、ギリギリ((なおその後
……元はキラ君を幸せにしたいからなのにどうしてこうなった?((

次回はキラ君視点ですよ……そしてもう三人称は書きません。私には無理だ……次からは一人称視点で頑張って書いていきます……それなのに投稿したのはぶっちゃけ書き直すのが((以下略

いつも誤字&脱字報告ありがとうございます!!感想もとても励みになっておりますっ!!誤字&脱字報告いつでもお待ちしておりますっ!!次回の更新は未定ですが気長にお待ちくださいっ!


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第21話 造られた存在

本当はGW期間に投稿したかったけどダメだったよ……執筆が思うように進まなかったんだ……許して、許してぇ!!((マキオンやりながら

そういえば最近IS読み返したんですが……まだ2巻中盤なんですね……ラウラさんは3巻登場じゃないんっすね((白目

……みなさん、本当に評価と感想ありがとうございますっ!正直ここまで読んでくれる人が増えるなんて予想していなかったよこれからも頑張らせてもらいますっ!だから、復刻した特異点解決してきます((


「顔色は悪くなさそうだが……気分はどうだ?」

 

「お気遣いありがとうございます。……ですが、それ以上の心配は必要ありません」

 

「立ち話というわけにもいくまい。その椅子に座るといい」

 

「はっ!」

 

(1人の生徒として学園に馴染んでくれれば嬉しかったが……そう簡単に都合よくいかないか)

 

用意した椅子に座る事はなく次の指示が来るまで佇むラウラの姿を見て都合よくいかないかと内心で落胆する。私の口からそう命令すればラウラは疑問を持つものの、言われるがままに実行するだろう……だが、それでは何の意味もない。

 

「私が回りくどいのは嫌いなのは知っているだろう。単刀直入に聞くがなぜお前はあんな事をやった。今更誤魔化そうなどと考えてくれるなよ?」

 

「……私はただイギリス代表候補、中国代表候補の専用機の性能を確かめるために行動しただけに過ぎません」

 

「誤魔化すなと私は言ったはずだが?性能を確かめるための模擬戦ならばアイツが介入するわけなかろう。もう一度聞くぞ、なぜあんな事をした?」

 

それはっと言葉を詰まらせる姿は私が相手でも話したくない事があるという事であり、このような状況でなければ素直に喜べたんだがな。……甲竜(シェンロン)とブルー・ティアーズの性能を確かめるというのは嘘ではないが、それが本命ではないはずだろう。純粋に目的がそれだけだというのならアリーナであのような状況になるものか。

 

「……そういえば前にもお前は織斑とシャルロットにも同じような事をしたらしいな。それは途中で止められたらしいが……鈴音とセシリアにも同じことをしたと考えれば本命は織斑か?」

 

「……私は織斑一夏という男が本当に教官の弟として相応しいかどうかを確かめたかっただけです」

 

「その為に織斑の親しい人を狙ったと?……私はお前が織斑を個人として気に食わない事については口を出すつもりはない。誰だって嫌いな奴や、気に食わない人はいる。お前たち2人が喧嘩をしたぐらいならば大目に見てやるつもりだった。だが、無関係の人を巻き込むというのならば話は別だ。私はお前にこのような事をさせる為に指導したわけではない」

 

「そ、それは……っ」

 

見放される事を恐れるようにラウラの顔色は悪くなる。教官として指導していた時はこのような事はなかったが……いや、今の私の立場を考えれば彼女の反応は当然か。ラウラの心の中では私以外の人間はいまだに心の中では存在していないのだろう。

 

「私の目の前では今回は初犯だという事もあって大目に見る。事の発端はラウラではあるが、挑発に乗ってしまった鈴音たちにも問題はあるからな。切磋琢磨するぐらいなら模擬戦などいくらでも構わんが限度を知れ、わかったな?」

 

「……了解です」

 

我ながら甘い説教をするものだと内心で苦笑する。私自身はラウラは実の妹のように可愛がっている自覚はあるし、彼女が私へと向ける感情にも気付いている。心酔と依存という向けられる感情は彼女の境遇を考えれば仕方がないと思ってしまうが……それだけでは駄目だ。

 

(ラウラと正面から向き合うのは私以外の誰かではないとならない。だから、キラ自身の提案は私にとって願ってもなかった事だったんだがな……)

 

キラの精神状態を考慮すれば素直に喜べないところだ。ラウラとの対話は一筋縄ではいかないだろうし、なによりアイツヘの負担になる可能性が高い。自身のことで手一杯であるはずなのに他者を思いやる姿は見ていて不安になる。多少の我が儘ぐらいならばいつでも聞いてやりたいんだが……。

 

「これで私からの話は終わりだ。確認するが今から予定はあるか?」

 

「いえ、この後予定はありません。なにか私に用があるのでしょうか?」

 

「お前と面と向かって話したい奴がいるそうだ」

 

「話したい奴ですか……?差し支えなければ私と話したいと言っている者の名前を教えてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「先の件でお前と戦闘する事になったキラ・ヤマトだ。何を話したいのかはアイツ自身の口から直接聞け」

 

キラの名前を伝えれば私の前でも表情を変える事が少ないラウラが表情を歪める。彼女が軍人として鍛えていても明確に殺意を向けられたのが今回が初めてだと考えればその反応も無理もない話だ。

 

(それについてはラウラだけではなく鈴音たちもだがな。キラがいた時はなるべく動揺を悟られないように接してはいたが今後はわからん)

 

今回の件で一番恐れている事は鈴音たちが距離を取る可能性がある事だ。前回は即座に対応したがあの場にいた箒とシャルロットとは一度仲が気まずくなっている。錯乱していたとはいえ明確に殺意を抱き目の前の敵を殺そうとしていたキラを受け止めるか否か……そしてアイツ自身が口にしていた異質な力をどのようにして見るかは2人次第だ。

 

「……教官、あの男はどのような目論見があって私と話をしたいなどと言っているのでしょうか。私には理解ができません」

 

「それを知るためには話し合いに応じるのが一番だろうよ。その答えを聞き出せるのは私ではなくアイツ自身の言葉からだ。お前が発端とはいえ、あの件の事を踏まえて話し合いができない状態ならば私からキラに伝えておくが?」

 

「いえ、教官の手を煩わせる必要はありません。あの男の話し合いには応じます。……断固として認めてなるものかあの時の感情など」

 

その呟きには様々な感情が入り混じっており、それが一筋縄で話し合いが終わる事ができない事を物語っている。鈴音が挑発に乗った理由を思い出せば格下であると侮っていたアイツヘと抱いた感情を認めるのはプライドが許せないのか……感情的にならないように釘をさしておくか。

 

「感情に身を任せて手を上げるなよ。その時はそれ相応の対処を取る事を忘れるな。それを理解したのならついてこい」

 

「……わかりました」

 

……流石に2人だけで話をさせるわけにはいかないか。何かの拍子でお互いに感情的になる可能性もあるし、何より再度キラが精神的に追い込まれた時は即座にフォローしなければならない。平和的に終わるのが一番だが……楽観視はできんか。

 

◇◇◇

 

 

「すまない遅くなったな。ラウラも入ってこい」

 

「はっ!!」

 

別室で待機していれば織斑先生と彼女が入ってくる。彼女とお互いに視線が交われば強く睨まれてしまうけどそうなった理由を作ったのは僕にある。あらゆる出来事から目を逸らしているけど今だけは逸らしたら駄目なんだ。

 

「話し合いには私も同伴はするが余程の事でもない限り口を出すつもりはない。だから、遠慮する事なくお前たちは話をするといい」

 

「……つまり、教官は中立でいるという事ですか?」

 

「私は一教師、そしてお前たちの担任としてこの場にいるからな。どちらかだけを贔屓するつもりはない。お互いが感情的になり口論を超えてしまう可能性があると判断したからだ。キラ、お前からも意見があるのならば聞いておくが?」

 

「問題ありません。僕としても織斑先生がいてくれる方が安心しますから」

 

「ふっ、嬉しい事を言ってくれるではないか。それでは後はお互いに本音を話すといい」

 

織斑先生は腕を組み壁に背を預ける。織斑先生が近くにいてくれるのなら安心してラウラ・ボーデヴィッヒさんと話し合いをする事ができる。彼女は織斑先生が中立である事に不満そうではあるけど納得し、僕のことを警戒するように椅子に座る。

 

「……それで?貴様はいったい私になんのようがある。教官にこの場を設けさせてまで私と貴様が話すようなものはないはずだが」

 

「君に謝りたかったから。……アリーナでの時は本当にごめんなさい。謝っても許されない事を取り返しもつかないような事をしようとして……本当にごめん……」

 

彼女にできる事はただ頭を下げて謝ることだった。あの時織斑先生が止めるのが間に合わなかったら取り返しがつかなくなっていた。どんな状態であっても彼女をあの人だと錯覚して殺そうとしていた……頭を下げる程度では到底許されない。

 

「やはり貴様の行動は理解ができん……わかっているのか?私は中国代表とイギリス代表を襲った相手だぞ。アリーナの時のように激情に駆られるのではなく頭を下げるだと……?貴様には仇を取ろうという意思すらないのか」

 

「鈴とセシリアさんを襲ったことについては言いたい事はある。でも、怒りや憎しみだけでやり返そうとしたらまた同じ事の繰り返しになるだけだよ……」

 

彼女が2人を襲ったのをまだ許しているつもりはない。彼女がどうして2人を狙ったのかも理由を聞かず知らないままで、一方的に決めつけて怒りと憎しみのままに仕返しをすれば何も変わらないじゃないか。

 

「ふんっ、貴様のような臆病者にはお似合いな綺麗事だな。敵対者である私を相手にしてそんなことを言えるとはな」

 

「……僕らは敵同士じゃない。僕は君をそんな風に見ているつもりはないし、君は僕のことをまず相手として見ていない。そうでしょう?」

 

「貴様を相手として見ていないことだけは同意してやる」

 

理由は違うだろうけどお互いに敵として見ていないのは同じだ。話し合いに持ち込めるかどうかは正直自信はなかったけど僕が話すかたちで何とか最低限保つことができている。

 

「君が一夏を嫌っていたのはわかっていたよ。だけど、なんでアリーナで2人を狙ったんだ?2人は関係ないじゃないか」

 

「またその話か。何度も同じ質問を聞かれるのはウンザリする……中国代表候補とイギリス代表候補を襲ったのはあの男が私と戦う理由を作るために過ぎない。知人が襲われたのなら戦う動機にはなるだろう?」

 

「そんな事で無関係な2人を襲ったっていうのか……っ!?」

 

「……そんなこと?私にとってはあの男と戦うことが何よりも最優先にすべきことだっ!!あの男が教官の弟に相応しいかどうかを確かめるには最も確実な方法だからなっ!そのためならば私はどのような手段も選ばぬさっ!!」

 

「っ……!?どうして君は一夏と戦いたいんだ!?」

 

そうまでして彼女は一夏と戦う事になぜ固執するんだっ!?彼女から感じる怒りと敵意、そしてそれに隠れ潜むもう一つの感情を感じる。一夏の事を織斑先生の弟として相応しいのかを確かめる?そうだ、確か似たような事を一度彼女の口から聞いたことがある。あの時も彼に今と同じ感情を向けていたはずなんだ。

 

「話したところで貴様らには理解できんだろうなっ!!初めから全てを持っている貴様らなどにっ……!!私には教官しかいないのだっ……!!」

 

「すべ、て……っ?」

 

感情が爆発した彼女の口から想定していなかった言葉に息が詰まる。頭が真っ白になりかけるが幸運にも彼女から向けられている敵意のおかげで冷静になる。……貴様らだという事はさっきの言葉の対象は僕だけじゃないはずだ。

 

(……それに教官、織斑先生しかいないって……?)

 

織斑先生しかいない……?彼女が織斑先生の事を慕っているのは知っている。それが一夏の事を固執する理由にはどう繋がるんだ……?だけど彼女の悲痛の叫びには既視感があった。

 

(そうだ……同じなんだ。地上に降りてすぐの時の僕と今の彼女は……)

 

今の彼女はあの時の僕と同じなんだ。サイの事が好きなはずの彼女がどうしてあんな事をしたのか思惑はわからない。だけど……どんな理由があったとしても限界だった僕に優しくしてくれた。偽りの優しさだったとしても……そばにいるのだという一言で踏み止まることができたんだ。

 

「……だから君は一夏に敵意を向けていたんだね。君の中では織斑さんしかいないから……心を許しているのは織斑先生だけだから……」

 

「黙れ黙れ黙れっ!!その耳障りな口を今すぐ閉じろっ!!まるで私のことを理解したかのように話すなっ!!その哀れみな目で見るのをやめろっ!!」

 

彼女が心を許している人は織斑先生1人だけなんだ。彼女と織斑先生の間には何かがある……きっと彼女がつらい時に手を差し伸べてくれたのが織斑先生だけだったのだろう。彼女は怖いんだ……織斑先生が一夏しか見なくなってしまうことに。そして大切な人の家族だという彼のことに嫉妬もしているのだろう……それなら初対面である一夏にアレほど敵意を向けていたのも納得がいく。

 

「でも、だからこそ怒りや敵意を闇雲に向けたら駄目だよ。それこそ本当に1人になってしまう、だから――――」

 

「今すぐ口を閉じろと言ったはずだっ……!!まるで私のことを見透かしたように話すがなにがわかるっ!!」

 

「違いはある……けど、僕と君は同じなんだ……ラウラ・ボーデヴィッヒさんにとって織斑先生が全てなら僕もそうだから……」

 

「同じ……っ!?ふざけるなよっ!!友と呼べる存在も、家族と呼べる存在もっ!何かも持っている貴様が私と同じなどと戯言を抜かすなっ!私と貴様が同じだとっ!?いいや、そんなことは絶対にないっ!――――私は貴様とは違い造られた存在なのだからなっ!!」

 

「造られた、存在……っ?」

 

「ああ、そうだっ!!私は貴様とは違い人工的に造られた存在だっ!!貴様のような望まれて生まれた存在ではなくなっ!!ラウラ・ボーデヴィッヒなどは所詮は識別の為に与えられた名にすぎんっ!!」

 

唖然とする僕をよそに彼女は自身を嘲笑するように笑う。彼女はハッキリと自身を人工的に造られた存在だとそう言った……経緯は違いはあるだろうけど目の前に人為的に造られ生まれた同じ人がいるという事実に頭を殴られたような衝撃に襲われる。

 

「私は戦う為だけに造られ、生まれ、育てられたっ!!常に優秀な兵器として求められていたっ!!私は優秀な兵器であるために鍛え続けたっ!!だがそれもISという最強の兵器が現れてから一変したよっ!――――そうなった理由がこの目だっ!!」

 

「その目はっ……」

 

この目は越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)――――貴様に分かりやすい説明をするなら疑似ハイパーセンサー、動体反射と脳への視覚信号を速度向上の強化目的による肉眼への移植処理、そして処置を施したこの目のことだ。……理論上は不適合などないと判断されていた、だが実際は違ったっ!!私の目は赤から金へと変わり制御不能へと陥ったっ!!そのおかげで『出来損ない』という烙印を押されたんだっ!!」

 

左目を隠していた眼帯を力任せに外し、その下に隠されていた瞳は金色だった。呆然としている僕の胸ぐらを掴み、そのまま引き寄せられ金色の瞳から目を逸らすなと睨まれる。出来損ないの烙印を押される理由になった嘆いたその瞳を。

 

「わかるかっ!?出来損ないの烙印を押され、兵器として造られた者にとってそれがどれほど絶望なのかっ!!兵器として使えないのならば処分されるだけだっ!!いつ捨てられるかも知れない恐怖や絶望を貴様は理解できるのかっ!?」

 

「それ、は……っ」

 

「理解などできるわけないだろうなっ!!そんな中で教官は私に手を伸ばしてくれたっ!!部隊のみなからも上部からも出来損ないと嘲笑され侮蔑されていた私を教官は救ってくれたんだっ!!失敗作だと言われ続けた私をっ!」

 

「失敗、作……」

 

「これでわかっただろうっ!貴様と私は違う存在なのだとっ!それでも貴様は私と同じだと言えるのかっ!?言えるわけないだろうなっ!!」

 

「――――そこまでだ」

 

第三者として立ち会い人にとしていた織斑先生が止めに入ってくる。激昂していた彼女は掴んでいた胸ぐらから手を離し僕はそのまま力なく椅子へと座り込む。……彼女は周りから失敗作だと言われ続けて……僕は最高のコーディネイターで……。

 

「これ以上はお互いに話し合いではすまないと判断をさせてもらった。……異論はあるか、ラウラ?」

 

「……いえ、教官の判断に私は何の不満もありません。それに初めからわかりきっていた結果ですから。はっ、アリーナでの時を考えて警戒していればとんだ肩透かしだ。……だが貴様への屈辱は忘れんぞ。織斑一夏より先に貴様を潰してやる……学年個別トーナメントでな。それまでせいぜいフランス代表候補と中国代表候補に守ってもらえ」

 

食堂の時と同じで一瞥もすることなく彼女は去っていく。その背中を同じようにただ漠然としてその姿を見ているだけだ。明確に違うのは彼女に敵意を向けられたこと……だけどその敵意は彼女には正当な理由になる。

 

「すまない、もっと早く止めるべきだった。……ラウラの出生のことは誰にも言わないでほしい……頼む」

 

「……だい、じょうぶです……誰にも言うつもりはありませんから……僕も、そうですから……すみ、ません、少し考えたいことが、できましたので……僕も部屋に戻ります……」

 

「キラ…お前は――――いや……わかった。この後は部屋に戻って休め。ストライクの方は私か山田先生が後で持ってこよう」

 

自分の頭の中ではコロニー・メンデルのことや彼女の言葉でいっぱいだった。織斑さんに支えてもらいながらおぼつかない足取りで立ち上がる。話し合いの場を作ってくれた織斑先生にお礼を言って部屋を出る。

 

(……ラウラ・ボーデヴィッヒさんは僕と同じで造られた存在……)

 

人類の夢、最高のコーディネイターとして造られた僕が生まれるまでに数多くの犠牲が生まれたのだとあの人は言った。この世界と僕の世界は違う、だけど彼女は僕と同じ造られた存在……けど、造られた理由やその後の事は大きく違い周りからは失敗作だと理不尽な仕打ちを受けている。……同じ存在である彼女は僕という存在を殺す権利がある……唯一の成功作である僕のことを……。

 

(……学年個別トーナメント……ううん、その後だ……その後に……それが僕の最後にしないと……)

 

僕は多くの人を殺してきた……生まれる前からもその後も。存在してはいけない僕ではあるけれど、人の命を奪っているのに自決するのは到底許されないこと。……だけど、僕と同じで造られた存在である彼女の手でなら……その後僕は彼女のところにいけるだろうか……?

 

「……ううん、そんなわけはないよ……僕は人殺しなんだから……」

 

死んだ後もきっと彼女に会うことはできないだろう。それが命を奪ってきた僕への罰になるのだから……。いつの間にか寮の自室前へとたどり着いておりそのまま扉を開ける。

 

「おかえりなさい、キラ君っ!ご飯にする?お風呂にする?それともぉー、わ・た・しぃ?」

 

「…………」

 

何故か自室に更識会長がエプロン姿でいた。学生服は着ておらずエプロンの下はきちんと下着を身につけているのだろうか……?まずどうしてこの人が僕の部屋にいるのだろう……?何がなんだが分からなくなった僕は開けた扉を勢いよく閉めることにした――――




今回のサブタイトルは別に詐欺をしていないからセーフっ……だよね?((

ちなみに完全に余談ですが実は主人公候補で某パン屋の海賊のお兄さんをギリギリまで考えていたり……あと、某病を発生させるなんとか・トリニティに似たオリキャラ出したりとか……全て没にしましたけど((

ちと独自解釈とか設定になった所があるかも知れませんが許してください……精神ヤバい時に同じく造られた存在で、兵器として造られて、その後に出来損ないと言われ続けたって聞いたらそう思っても仕方ないよね…だって、某失敗作と似たようなもんだし……今回で回復した精神はオーバキルされたので誰か回復させないと……((なお、その後も削れないと言ってない

誤字&脱字報告いつもありがとうございます!!そしていつでもお待ちしております!!感想も本当に励みになっておりますっ!!


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第22話 秘密の対談

俺の脳内CPUが導き出した学年個別トーナメントまでの話数は……残り約5話っ!!((ガバ

正直自分も今月もう一度投稿できるとか想定していませんでした……まぁ、是非もないよネ!!ちなみにこの話はライブ感で10割できてるので許して……みなさん空気読めないの会長のこと好きだったりするんじゃないんですか?私はポンコツ会長好きですよ((目逸らし


「もう、流石に酷いんじゃないー?扉を突然と閉めるだなんて」

 

「……閉めたはずの部屋に突然他人がいたら、誰だってあんな風に閉めると思いますよ」

 

「そう?君ぐらいの年頃の男の子なら見知らぬ人でも裸エプロンの女の人がいれば喜ぶと思うけど?」

 

椅子に座り紅茶を手に取りニッコリと微笑む更識会長から僕は目を逸らす。結局あの後は訳がわからず混乱してその場にいる僕は無理矢理部屋へと引き摺り込まれ、現在は何故かお互いに一息つくことになった。ちなみに何故かこの人は今でも裸エプロンの姿である。

 

「なら今度一夏にでも同じことをすればいいじゃないですか……」

 

「それは名案ね。今度一夏君にも同じことをしようかしら?けど、彼の場合は想っている子たちから仕返しされそうで少し怖いわね。その時はもちろん君が私を守ってくれるんでしょう?」

 

「……どうして僕を巻き込むんですか」

 

「あら?だって提案をしてくれたのは君じゃない。私が実行犯で君が計画犯、ほら共犯者でしょ?案外裸エプロンをするのって勇気がいるのよー?……今だって結構ドキドキしてたりするのよ……?」

 

「それなら別にやらなければいい話じゃないですか」

 

「あらら、振られちゃったみたいね」

 

更識会長は薄らと赤くしていた顔から、悪戯に失敗したかのように小さく舌を出す。……やっぱり僕はこの人のことが苦手だ。どこまで本気なのかも感情が読み取りにくいのに、見透かしたように見つめてくるこの人のことが。

 

「ちなみに仕返しをされるのがちょっと怖いのは本当よ?ほら、一夏君のことが好きな子って頭に血が上りやすい子が多いじゃない?」

 

「……僕の場合はその仕返しがないからが理由でこんな事をしたってことですか?」

 

「半分は正解よ。だってキラ君の場合は彼とは違って色恋沙汰がまったくないもの。そういった意味では安心してこんな事を仕掛けられるじゃない?」

 

「……そんな理由で裸エプロンでいられても迷惑なのでやめてください。今すぐ制服を着てください……」

 

「大丈夫よ、下はちゃんと水着を着てるから。それともキラ君は水着の下を見たいのかしら?」

 

「……これ以上ふざけるのなら今すぐ織斑先生か山田先生、それか更識さんを呼びますよ」

 

「うっ……大人しく着替えることにします。ちょっと脱衣所借りるけど……若気の至りで覗いてもいいのよ?」

 

「……いいから早く制服に着替えてきてください」

 

流石にイラッときたので最後は睨むように見れば気の抜けた声で脱衣所に入っていく。更識会長はからかっているだろうけど……あんな風なからかいは2度とやめてほしい。……2度と触れることも、聞くことのできない彼女の声や体を思い出してしまう。

 

(……おち、つくんだ……だってもうフレイはいないんじゃないか……僕が守ることができなかったんだから……)

 

優しく抱きしめてくれて、耳元で何度も甘い声で名前を呼んでくれた彼女はもういないんだ。……それなのに僕の名前を優しく囁いてくれている声が聞こえてくるのは気のせいなのだろうか……?

 

『――――ラ。キラ、大丈夫だから。私がそばにいるから』

 

「――――キラ君?もう、からかったことに拗ねて無視するのは流石の私も傷ついたりするのよぉ?」

 

「……さら、しき会長……?」

 

「もう、何度も呼んでたのに無視するのは――――大丈夫?今の君凄く顔色悪いけど……」

 

「……だい、じょうぶです……」

 

いつの間にか着替えてきた更識会長は顔を覗き込んでくる……何度も名前を呼んでいたのはフレイではなく更識会長だった。2人の声も姿も似ていないのに何故フレイを重ねてしまったんだ……。今だに彼女を都合の良いように依存をしようとしている事実に酷い自己嫌悪に襲われる。

 

「今日はお話をするつもりで来たんだけど、どうやら今のキラ君にはそれは厳しそうね。その様子だと前よりも悪化しているでしょ?」

 

「……なんの、ことですか……?」

 

「そうやって周りに誤魔化したり隠し続けてきたのは心配をかけさせないためかしら。君のその優しさは美徳ではあるけど欠点でもあるわね。自分さえ我慢していればどうとでもなる、そう思ってない?」

 

「……これは僕の問題なんです。それを、みんなを巻き込むのは間違ってますよ……」

 

「そうかしら?自分1人では抱えることのできない問題は誰かに手を貸してもらうことも一つの解決手段よ」

 

「……話せるわけないじゃないですか……っ!僕が今までやってきたことを……っ!!」

 

カッとなって語気を荒くしてしまう。守るためでも引き金を引いて人を殺してきた……僕という存在が生まれるまで沢山の命が失くなった。この世界でそれを話してしまえば拒絶されるに決まっている。

 

「だったら私に話してみるのも一つの手よ?今にも死にそうな顔をしているキラ君を放っておくほど薄情なつもりはないもの」

 

「……僕は貴方のことを信用できません……」

 

「あらら、それは残念ね。だけどそれは私も同意見だったりするのよ。勘違いされる前に言っておくけど、無人機の件については本当に感謝しているのよ?だけどその時に垣間見えた力は、ちょっと見て見ぬフリをしてあげようにも大きすぎたわ。そんな力を持ち、何者か分からないキラ・ヤマトという少年を警戒するなっていうのは無理な話なの」

 

さっきまでふざけていた雰囲気は嘘のように消え去り、スッと目を細めて見定めるように見てくる。今のこの人の前で誤魔化しや嘘は通用しないのだとそう思ってしまう。静かに圧をかけてくるこの人はやっぱり多分只者じゃない……そんな気がするんだ。

 

「実は君のことをコッソリと観察してたから知ってるけど、君って放課後はIS訓練の一つもしてないでしょ?授業中は真面目に受けていたそうだけど……それだけじゃ、今回の一件は誤魔化すことは無理なのは分かっているはず。真面目に授業を受けてる程度でドイツ代表候補生のあの子を倒せるなんて不可能だもの」

 

「……っ」

 

「私は君の部屋に押しかける前に保存されてた映像で確認したけど、今日のアリーナでの一件を直接見た子はいる。ドイツ代表候補生である彼女は軍人でもあるし、織斑先生に手解きされたこともあって、君たち一年生の専用機持ちとしては一番強いんじゃないかって2年、3年生の間では噂されてたのよ。そんな彼女を君は最後は圧倒していた……目撃者がいる以上は君という存在へ興味を持たれるのを防ぐのは無理よ。それこそ織斑先生だけじゃカバーするのも無理でしょうね」

 

「……分かっていますよ……でも、それならどうすればよかったんですか……あのまま黙って見ていれば良かったとでも言うんですか……っ?」

 

「ふふっ、まさかその逆よ。あの時の君は間違いなく正しいことをしたと思っているわ。ちょっと最後はやり過ぎたことをやろうとしてたけど……何もされていないのに君が不自然に動きを止めた時があるから多分その時にそうしようとした理由がそこにはあると思うけど」

 

「……その、意外です。更識会長は僕のことを信用していないと言ってましたから……」

 

「キラ君が思っているよりも友達を守る為に戦いに身を投げるのは難しいことなのよ?確かに君の事を信用はしていないし、警戒はしているのも事実よ。……だけど、“誰かを守る為に“に戦う君の姿は更識楯無(・・・・)ではない私個人としては結構好きだったりするのよ?」

 

話していれば更識会長のことがよく分からなくなってくる。さっきまでは多分嘘ではないとは思う……前に織斑先生が性格に難があると言ってのを思い出す。確かに人の部屋に無断に侵入しているし……なんなら裸エプロンといった分けもわからない姿でいたし……結構アレな人なのかも知れない。

 

「ちょっとー?いま君が凄く失礼なことを考えたのはわかったわよ。最初の裸エプロンは下には水着を着ていたし、まず君なら襲ってこないって確信があったからやったのよ?」

 

「……その件についてはそれ以前の問題だと思います。念を押しておきますけど2度とやらないでくださいね……次は本当に織斑先生か更識さんに伝えておきますから……」

 

「結構キラ君って怒る時は怒るのね……どう?少しは憂鬱な気持ちは落ち着いたかしら?」

 

「……はい、少しだけですけど……」

 

「その言葉は嘘ではなさそうね。最初よりも自身を追い詰めているようではなさそうだし……けど、落ち着いているのも一時的のものだと思うわ」

 

……今はこうやって更識会長と話しているからが理由だとは思う。無断ではあるけれどこの人が僕の部屋にいなければ今日はこれ以上誰とも話すことはなかっただろう。現にこの人と話している最中でもラウラ・ボーデヴィッヒさんの事、そして僕自身のことを考えようとしてしまう。

 

「どうする?本当に余裕がなさそうなのは話している最中でも感じているから君と親しい人を呼んできましょうか?」

 

「……それが善意から言っているのは分かっています……けど、それはやめてください……親しい人を呼ばれたらそれこそ耐えることができなくて縋り付くと思いますから……」

 

「……つまり依存しちゃうってことね。お互いに信用していないし、警戒をしている私だからこそギリギリ話せているってことか。それなら本当にどう?信用もしていなくて、警戒をしている私に弱音を吐いちゃうってのは」

 

「……そんなの、無理に決まっているでしょう……っ」

 

「んー、それならお互いに取引をしないかしら?」

 

「取引……っ?」

 

「そう、取引。私からキラ君への要望は君が秘密にしている中でもっと優先度が低いことものを教えてくれること、そしてちょっと君に協力してほしい事があるのよ。その2つかしら」

 

開いた扇子の扇面には『取引』と文字が書いてあった。秘密にしている事で優先度が低いもの……?それに協力してほしいことっていったい……?不信感をあらわにすればそれを拭うように更識会長は話を続ける。

 

「協力の方は君が警戒する必要がないものだから安心してちょうだい。これについては単純に他生徒を落ち着かせるという意味合いの方が大きいから。……いちいち抗議が来るのはいい加減鬱陶しいのよねぇ」

 

「は、はぁ……?」

 

「んんっ、話がちょっと逸れたわね。これは取引だから勿論君にも有意義なものを考えているわ。ズバリ、私へ3回まで無料で頼み事をしていいってこと。そして今はノーカウントで私へ何でもお願いしていい初回サービス付きっ!どう?これは滅多にないお得なサービスだと思うけど?」

 

「結構です」

 

「そ、即答っ!?ちゃ、ちゃんと君にもメリットがあるのよ?私との取引を応じてくれれば織斑先生同様に君をサポートするし、なんなら君を守る後ろ盾にもなってあげる。……これでどう?」

 

「……いえ、それでもやっぱり貴方に頼み込む理由はありませんし……」

 

その頼み事の範囲が曖昧だし、まず更識会長をよく知らないのに僕の秘密を話すメリットの方が少なすぎる。この話は一見お互いにメリットがあるように見えるけど、冷静に考えれば更識会長の方が得するようにできている。……まず僕が得をすることも考えてる時点で信用ができるかと言われても……。

 

「このタイミングで協力得られなかったら永遠に機会がなさそうな気がするし……生徒会長権限ってかなーり美味しいのよ?また、裸エプロンしてあげるからっ!」

 

「…………」

 

「す、ストップっ!裸エプロンはちょっとした冗談だからっ!!だから織斑先生とかんちゃんを呼びに行こうとするのはやめてっ!?」

 

「……こんなタイミングで冗談を言った更識会長の自業自得だと思いますよ」

 

「うっ……わかったわ。それならこうしましょう?私の一番の秘密を君は知ること。これを知っているのは本当にごく僅かな人しかいない。……お互いに秘密の共有をする。それなら私が君の秘密を知っても誰にも言いふらさないってことを信用してくれるかしら?」

 

「……それなら、取引に応じます……」

 

「ふふっ、これで取引は成立ね。まずはこの紙に名前を書いてくれるかしら?」

 

「は、はぁ……?」

 

制服の内側のポケットから取り出したのは一枚の紙だった。その紙とペンを渡されて目を通すとそれは生徒会への入部届だった。なんでこんなものをこのタイミングで……?またからかっているのかと思い更識会長に視線をつければ至って真面目そうにしている。

 

「え、えっと、これって意味があるんですか……?」

 

「君に協力してほしい事がそれよ?私に部長たちが君たちを部へと入部するように抗議してくるのよ。それがいい加減実力行使になりそうだし……君らはどの部に入ろがどうせ取り合いという名の戦争へと変わると思うし、そうなるぐらいなら生徒会に引き込んじゃえって思ってね。ちなみにキラ君は生徒会の一人になるだけでお釣りが出るぐらいメリットが生まれるわ」

 

「……とてもそうは思いませんけど……」

 

「ふふっ、君が思っているよりも私は影響力は強いのよ?生徒会に入ってくれれば合法的に接点が生まれるわけだから、君のその強さを私が鍛えたからで誤魔化すことができる。これについては教師である織斑先生にはできない手段ね。特定の生徒個人を鍛えるのは贔屓してるって思われちゃうから、ね?これがまず一つ目」

 

「一つ目……?」

 

「言ったでしょう?お釣りが出るくらいにはメリットが生まれるって。2つ目は私という後ろ盾ができること。これは分かりやすく言えばさっきのように学園内だったら私の名前を出せば色々と誤魔化すことができるようになるわ。そして最後の三つ目なんだけど……精神的にも、肉体的にも君を私が守ってあげる」

 

「まも、る……?」

 

「学園最強という肩書きに誓ってキラ・ヤマト君を私が守るわ。だから、つらいことや苦しいことがあったら今後は生徒会に来てくれていいのよ?そこが君の居場所なんだって思ってくれてもいいわ」

 

「僕の、居場所……で、でも僕は――――」

 

「はい、それ以上はお口にチャックするように。君のその抱えている問題は度外視してから考えなさい。居場所がほしいのか、ほしくないのか、シンプルに考えること」

 

「……貴方は卑怯だ……そん、なの……ほしいに決まってるじゃないですかっ……」

 

「うん、正直でよろしい。生徒会長である私、更識楯無が君を、キラ・ヤマト君を生徒会の新しいメンバーとして歓迎します。君が嫌っていうまで退部するのは認めないからその辺はよろしくねー?」

 

……頭では駄目なんだってのは分かっているんだ。僕という存在が居場所を求めてしまうのも……でも、居場所が欲しいのかと問われたら頷くことしかできなかった。多分、この人はそれを見越した上であんな風に聞いてきたのだろう。

 

「……どうして、貴方は信用もしていなくて、警戒をしている僕にこんな提案をしたんですか」

 

「信用も、警戒もしていないからこそ監視しやすいように私の近くに置いておくのが1つ……そして2つ目は私が君という人間を知りたいからよ。私が警戒しているのも結局は君が今まで何をしていたのか経緯をまったく知らないのが理由だもの。だから私に君という存在を教えてほしいかなー?」

 

「このタイミングで言わないとダメなんですか……?」

 

「そう?むしろこのタイミングしかないと思うわよ。大丈夫、私って結構驚かない方だから」

 

「…………僕は、この世界の人間じゃなくて違う世界から来た人間です……」

 

「……それって冗談よね?」

 

「このタイミングで冗談を言える余裕なんて僕にはありませんよ……」

 

「……つまり、それは嘘でも冗談ではなく事実だということ。……うーん、それが本当だという前提だと考えても言葉だけだとやっぱり疑っちゃうのよね。君がその異なる世界の人間だって証明できるものはある?」

 

「……それでしたらこれを見てもらえれば分かると思います。このデータについても誰にも言わないでください……」

 

結局は疑っているじゃないかと不満を覚えるが無理もない話だと納得する。織斑先生でもあの場にいたから信じてくれたのもあるだろうし……更識会長に念を押した後に端末の電源を入れパスワードを入力し、ストライクのデータを彼女に見せる。

 

「型式番号『GAT-X105』……『STRIKE』?これって君のISデータなのよね……?所持している武装とかには特に目立つものはないけど……ううん、待って。この『フェイズシフト装甲』と『ストライカーパック』というデータはなんなの?」

 

「……その2つがISとしては異質だと分かってもらえると思います。『フェイズシフト装甲』は分かりやすく例えるならシールドエネルギーを消費し、一定時間は実弾武装による攻撃を無効化してくれます。それでも展開中はエネルギーを減らしますし、衝撃を消してくれるわけではありませんから有利というわけでもありません……」

 

「……絶対防御が実弾限定に作用する装甲ってこと?それじゃあ、この『ストライカーパック』は?」

 

「ストライクは本来はその『ストライカーパック』を使って臨機応変に戦闘をする機体なんです……汎用性の高い戦闘ができる『エールストライカー』、接近格闘用の『ソードストライカー』、遠距離砲撃用の『ランチャーストライカー』。その各ストライカーには内部に予備電源のバッテリーも搭載されていますから……えっと、ISで例えたらカスタム・ウィングとパッケージを両方こなしてる事になります……」

 

「……これってISとしてはかなり欠陥品に近くない?臨機応変に換装できるのは実際便利だけど、毎回換装できるわけじゃない。それに一々持ち運びしないといけないって考えるとこれを設計した人の頭を疑いたくなるわよ……」

 

「……僕からすればそれが当たり前でしたから。これで……僕が違う世界の人間なんだって信じてもらいますか?」

 

「『ストライカーパック』も持ち運びの問題をクリアすれば3回まではエネルギーを補給でき、いつでも相手に合わせて戦う事ができるのは脅威になる。そして一番飛び抜けたデータはこの『フェイズシフト装甲』ね。デメリットは確かにあるけどそれは実弾武装を積み込めば一応は解決できる範囲だし……ビーム兵器しか有効打を与える事ができない。……この装甲については私たちの世界で再現するには今のところ不可能に近いわ……ええ、貴方が異なる世界の人間だって事を信じるわ」

 

僕の世界とこの世界の違いが唯一分かるのはストライクのデータぐらいしかなかったから信じてもらえた事に安堵する。データを開示してまで信じてもらえなかったら流石に打つ手がなかったから……。

 

「……君は分かっていると思うけどこのストライクのデータは他の人には絶対に開示したらダメよ?下手をしたらこのデータを入手するために国が関わってくるかも知れないから」

 

「……はい、今後もそうするつもりですから」

 

「うんっ、よろしい!……確かに君が異なる世界の人間なら、織斑先生が私に突然と借りを作ったことや、君が今まで何をしていたのか全く情報が手に入らないのも辻褄が合うわ。……さてとっ、キラ君が秘密を話してくれたのなら私も話さないとね。ちなみにこの秘密は誰にも言いふらさないでよ?」

 

「……はい、分かりました」

 

更識会長が一番秘密にしている事ってなんなのだろうか……?今更ながらそれを条件に取引に応じた自分がどれだけ最低な事をしているのかに気がつく。秘密を打ち明け怖さは分かっているはずだろう僕は……。

 

「待ってください……っ!やっぱりその秘密は話さなくて大丈夫です……」

 

「それってつまり取引は破棄するってことかしら?」

 

「……取引は破棄しません。更識会長が一番秘密にしている事を取引が理由で聞き出すのは間違っているんだって気づいたんです……すみません……」

 

「そこまで気に病まなくていいからね?……うん、やっぱり君は優しい子ね。そんな優しいキラ君には初回無料特典が残ってたりするんだけど……私に頼みたいことはある?」

 

「……それなら2度と無断で部屋に入ったり、裸エプロンみたいな事をしないでください」

 

「うっ……分かりました……以後はやらないようにします……それじゃあ、私はそろそろお暇させてもらうわね」

 

「次からは普通に入ってきてくださいね」

 

「次からはちゃんとそうするから。あっ、今日はもうなるべく外に出るのを控えてくれると助かるかな。今日の件は流石に今すぐ上書きするのは私でも難しいのよね」

 

「それは別にいいですけど……何をするつもりなんですか?」

 

「んふふっ、キラ君が警戒するような事はしないから安心して。完全にアリーナでの事を誤魔化すのは無理でも、みんなが注目になる情報を流して明日には上書きしてみせるから。――――お姉さんがキラ君を守ってあげるから」

 

微笑みながらそう言ってくれる更識会長を見て言葉が詰まる。お礼を言えばいいのにそれを言葉として伝えることができなかった。とても楽しかったわっと最後に言い更識会長は出て行った。

 

(……守る……あの人が僕の事を……だけど、それだけでいいのか……?)

 

僕には戦う力がある。更識会長は多分それ理解している上で守るのだと言ってくれた……もう少しでどうせ僕はいなくなるんだ。それなら……あの人の言葉に甘えてしまおう――――




とうとうキラ君にも居場所(仮)ができたよ、やったね!!そしてこの世界では多分初であろう、純粋にキラ君を苛立たせた更識会長……まぁ、精神追い詰められてるからしょうがない((

正直に後書きのネタ切れが凄いから今日は長文はやめますね((いつもやめろ

誤字&脱字報告いつもありがとうございますっ!そしていつでも報告をお待ちしておりますっ!!感想もいつも本当にありがとうございます……っ!みなさまのおかげでお気に入り900を超えることができました!今後とも頑張っていきますので気長にお待ちくださると助かりますっ!!


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第23話 求める想い


ちょっと2ヶ月ほど失踪しようかなっと考えていたら、公式からかなり重大な報告を知ってしまい書き上げてしまった……SEEDの劇場版報告、新作のゲームの発表、そして外伝やらの発表とかタイミング良すぎないかい……?これは執筆から逃げるなという意志を感じましたよ((自意識過剰

……みなさん、だからガンダムSEED劇場版があるまでは某ウイルス対策万全にしようねっ!!((迫真


『おいおい、シャルロットちゃんよ?最近は報告が怠ってるようだが成果の方はどうなんだぁ?せめて2人の内の1人からは専用機のデータを確保できたんだよなぁ?』

 

「そ、それは……」

 

『あぁ?もしかしててめぇ、まだ1人もデータを回収していないとか言わねえよなぁ?」

 

電話口からこの人が苛立っているのが分かり声が詰まる。その場凌ぎの嘘でも言えばいいのに思うように言葉を発する事ができず数秒後に物凄い剣幕で怒鳴られる。

 

『てめえっ!この2ヶ月間いったい何をしてやがったっ!?もしかして呑気に学園生活を謳歌していたってかっ!?たった2人から専用機のデータを手に入れるのすら満足にできねえのかっ!!ブリュンヒルデの弟はともかく、もう1人の方からデータの一つも奪えてないのはどういう事だっ!?』

 

「……すみ、ません……」

 

『おいおい、シャルロットちゃんしっかりしてくれよぉ?第二操縦者の餓鬼の方は身寄りが1人もいねえ絶好の獲物じゃねえか。そんな餓鬼は軽く優しくしてあげれば簡単に懐柔できんだろぉ?』

 

「……無理です。だってキラは……」

 

『あぁ?よく聞こえねえなぁ?もっとハッキリ言えよ、シャルロットちゃんよぉ?』

 

「……なんでもありません」

 

『どうにしたって最近お仕事をサボってばかりのシャルロットちゃんにはお仕置きが必要かねぇ?今すぐにでも大好きで大好きで仕方のないお父様に報告してあげてもいいんだぜ?お仕事をサボっているってことをなぁ?』

 

「……っ!!それ、だけはやめてください……っ!!」

 

『ハハハッ!!必死に懇願をして、そんなに捨てられちまうのが怖いのかぁ?そりゃ、そうだよなっ!!シャルロットちゃんにはそのお父様が唯一の繋がりだもんなぁ!!ISという大事な居場所まで奪われちまったらなーんにも残らねえもんなぁ!!』

 

込み上げてくる感情を飲み込んで、何度も何度も秘書の人にそれだけはやめて下さいと必死に懇願する。愉快そうに下卑た笑い声に我慢するようにスカートの裾を強く握る。これ以上この人の機嫌を損ねたらきっとお父さんに報告されて、使えないと判断された私は国に戻るように言われて捨てられてしまうから。

 

『自分のを立場を思い出したようだなぁ?流石の温厚な私でも今回の件はただで許すわけにはいかなくてなぁ。そうだなぁ……今度近いうちに大きなイベントがあるだろ?』

 

「……あり、ますけど……」

 

『そのイベントが終わる前に餓鬼のどっちかの専用機のデータを奪うか、盗むか……どんな手を使っても手に入れろ』

 

「の、残り1週間もないのに……そんなの無理ですよ……っ!?」

 

『それならシャルロットちゃんの大事な居場所は無くなっちまうだけだせぇ?無理じゃなくてやるんだよ、それぐらいわかってんだろぉ?相手は盛るぐらいの年頃の餓鬼だ……自分が女であって最大の武器が何なのかを忘れんなよ?次はいい報告を待っているぜ、シャルロットちゃんよぉ』

 

一方的に切られた電話から無機質な音が聞こえてくるだけ。……学年個別トーナメントまで約1週間しか時間がないのに、その中でキラと一夏のどちらかかデータを手に入れないといけない。

 

「……そんなの、無理だよ……できるわけないよ……」

 

我慢し続けていたモノが込み上げてきて、力なくその場に座り込んでしまう。手の甲にポタポタと溢れ落ちているのが私自身の涙だというのに気づくのに数秒の時間がかかった。

 

「……誰か、誰か助けてよ……」

 

嗚咽を漏らしながら絞り出した声で出た言葉は誰にも届く事はないのはわかってる。私の事情を話してもただの迷惑でしかないし……なによりみんなを騙し続けたという事を知られてしまうのが怖い。知られてしまえばきっと親しくなったみんなから距離を置かれてしまう。……それに私は男性操縦者である2人からデータを盗み取らないといけない、そんな事を誰かに話す事なんてできないよ……。

 

「……キラ……助けて……」

 

無意識に彼の名前を呟いた事に気づいて呆然とする。この前から気まずくなっているキラの事をどうして私は思い出してるの……?だって、私はキラから専用機のデータを奪わないといけないんだよ……それなのにキラに助けを求めるなんて、そんなのおかしいよ……。

 

(……だけど、もしかしたらキラなら……)

 

クラス対抗戦で起きた事件のことを思い出す。標的とされて撃たれた箒を命懸けで助けて、あの後すぐに専用機を駆り出して無人機と対峙し最後に鈴を守った時のことを。あの時の2人を見て私は、心配よりも先に義望の目で見てしまっていた。

 

(……それに鈴はまたキラが守ってる。やっぱり、キラにとって鈴は特別なのかな……)

 

今日のアリーナでの事で鈴は2回目だ。彼には好きな人がいる……その好きな人が鈴なんじゃないかって疑ってる。2人は元はルームメイトで、それが解消されても堕落した生活のキラを鈴が面倒を見るといった奇妙な関係は今日も続いている。2人にとってそれがさも当たり前のようになってきているのは……見ていてあまり面白くなかった。

 

「……そろそろ戻らなきゃ」

 

もう少しで一年生が食堂を使う時間になる。その時に彼がいれば今度こそ話しかけないと……保健室前で会った時は話すどころか目を背けてしまった。それに……今は何故か無性にキラと話をしたくて仕方なかった――――

 

◇◇◇

 

「……なーにがあの時のことを教えてよだっ!そんなの教えるわけがないってのっ!!」

 

「だからといって先輩方を追い返すような言い方をする必要はなかったと思いますわよ」

 

「そんなの知らないわよっ!」

 

食堂で鈴とセシリアの姿を見かけて声をかけようか一瞬悩んでしまう。食堂にいるのを考えたら動けるまでには回復してはいると思うけど……それでも心配なのは確かだし声をかけないわけにはいかないよ。

 

「2人とも怪我の方は大丈夫なの?」

 

「ええ、あれから少しばかり仮眠をとりましたから。まだ少し痛みはありますが、これぐらいはなんともありませんわ」

 

「これぐらいは平気よ。ISに乗ってたら軽めの打撲なんて偶にあることじゃない。むしろ、周りが少し大袈裟だっての」

 

「あ、あははは……えっと、キラはどこにいるか2人は知ってる?私はまだ食堂で姿を見かけてなくて……」

 

「部屋の中で引き篭もってると思うわよ。来る前に部屋に寄ったけど返事は返ってこなかったけど……まぁ、自分の噂になると結構敏感なところがあるし、それで自室にいるんじゃないかしら」

 

「今日はそれが賢明な判断なのは間違いないですわね。ある意味で娯楽に飢えているこの学園には、広がってしまったモノは簡単に消える事はありませんし。……もっとも、明日以降はどうすることもできないと思いますが。学年個別トーナメントが終わるまでは少なくとも今回の件で話題は持ちきりでしょう」

 

「……それも、そうだね」

 

良くも悪くも学園は噂に敏感なことは数ヶ月過ごせば流石にわかる。特に男性操縦者である2人の噂についてなら尚更だ。鈴が事前に彼の部屋を訪ねていてそれでこの場にいない事を考えたら、今回の事を配慮して無理矢理連れ出していないのだろう。

 

「……やっぱ、もう一度キラの部屋に行って様子見てくる。今日の事でアイツはまた色々と気に病んでるだろうし。また下手したら夕食を食べないで過ごすことになるでしょ」

 

「あっ、それなら私がキラの部屋まで持っていくよ。鈴はもう食べてるから、食べ終わるまでに時間がかかるでしょ?私は夕食まだだからさ、そのままキラと一緒に食べることにするから」

 

「……んー、まあ、別にシャルロットならいっか。今さっき一夏と箒が夕食選びに行ったところだし、一夏にアンタの分とキラの分持ってこさせようか?」

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

「それならキラに伝言もお願い、あんまり周りのことを気にしすぎるなって」

 

「うん、分かったよ」

 

キラの様子を見るぐらいは怪しまれないはず。鈴だって頻繁に部屋を訪ねてるんだから私が行っても大丈夫なはず。キラと私は今気まずくなっているけど……私から声をかければ彼なら応えてくれるよね……?日頃のことを考えればキラは少食そうだからお手軽に食べやすいものがいいだろう。適当に私の分とキラの分の夕食を持って食堂を後にする。

 

(……どうやって、声をかければいいのかな……)

 

彼の部屋の前まで来てノックする寸前に、どんな風に声をかければいいのか分からなくて手が止まる。無意識に出た言葉でそのまま勢いに任せて口にした想いは実ることがなく、その時の蟠りは拭えていない。それがキラを利用するためだったのか、私の本心だったのかは未だにわからない。

 

(……なるようになるよ。だってキラは私と違って優しい人だから)

 

「……シャルロットだけど、キラ大丈夫?起きてるのなら開けてくれると嬉しいかな」

 

彼の優しさに付け込んでいるような気がして胸が締め付けられるけど、これは仕方のないことなんだって言い訳する。数分間経ったけど扉が開く気配がなくて、多分寝ているのだろうと思い食堂に戻ろうかと考えれば扉が開く。

 

「……気付くのが遅れてごめんね。待たせたかな……?」

 

「う、ううん……そんなことないよ」

 

扉が開けば、いつもよりも疲れ切っている顔でぎこちなく笑うキラの姿を見て何かがあったのだとわかる。私はそんな彼に気づかないフリをして彼の部屋へと上がる。彼が部屋を移動して上がったのは初めてかも……。

 

(あの時はキラの部屋をよく見る時間はなかったけど……やっぱりモノが少ない。あまり、生活感を感じないよ)

 

見渡す限り私物は少ない。だからか、この部屋で本当に過ごしているのかと思ってしまう。唯一ベットの上の布団が雑に畳まれているのはさっきまで寝ていたのかな……?

 

「……えっと、シャルロットさんは僕に用事があるんだよね……?」

 

「あっ、うん……キラが食堂で姿を見かけなかったから夕食を持ってきたんだ。……私だと迷惑、だったかな?」

 

「ううん、そんなことないよ。……もうそんなに時間が経っていたのか……」

 

待っていた彼の分の夕食を渡してありがとうっと微笑みながら受け取ってくれる。彼の言葉から察するにやっぱりさっきまで寝ていたんだと思う。……そういえば前にキラは悪夢を見ているって事を言っていたけど、鈴はその事を知っているのかな……?彼女の様子から考えるとそれを知ってるいるようには見えなかったけど……。

 

「あっ、忘れる前に鈴から伝言があるから伝えるね。『あんまり周りの事を気にしすぎるな』だって」

 

「……えっと……?」

 

「あっ、これは多分今日のアリーナでの事だと思う……今その事で学園全体が噂しているようだから……」

 

「……そっか。アリーナでの事はもう噂になってるんだ……」

 

感情のない声で呟いた彼のことを一瞬目を疑った。キラは良くも悪くも感情が声や表情に出やすい人だと思う。そんな彼からこんなにも感情がない声が出ることがあるのに一瞬信じることができなかった。マジマジとキラの顔を見ていればそれに気づいた彼が不思議そうに聞いてくる。

 

「……僕の顔に何かついてるかな……?」

 

「えっ!?そ、そんなことないよ……?え、えっとね、私もここで夕食を食べていこうかなって思ってたんだけど……」

 

「……シャルロットさんがそうしたいのなら大丈夫だよ」

 

誤魔化すために咄嗟に口から出た事にキラは深く聞いてくる事はなく頷いてくれる。一緒に夕食を食べる事になったのは元からそれが目的の一つではあるからいいけど……やっぱりお互いに気まずさがあってパタリと会話が止まってしまう。普段は美味しいのに今はあまり美味しく感じない食堂のご飯を口にしていると、ふっとキラの方を見れば箸が進んでいない。

 

「……もしかして、お腹空いてなかったかな?」

 

「えっ?……どう、だろう……?お腹は空いているとは思うよ……よく、自分でもわからないんだ……」

 

「……キラ、本当に大丈夫?」

 

「……うん、僕は大丈夫だよ。まだ大丈夫だから」

 

それは嘘なんだって痛々しく無理に笑うキラを見ればわかる。さっきの大丈夫はきっと、心配した私を安心させるためもあるかも知れないけど自己暗示をしているんだ。……やっぱり保健室の前で会った以降に彼の身に何かあったんだ。

 

「食欲がないのなら無理をして食べなくていいからね?無理して食べた方が体に悪いと思うから」

 

「……うん、そうするよ……」

 

「今日の夕食は朝に食べる事ができるように私がラップしておくね。キラはゆっくりしててよ」

 

夕食を食べ終えた私は彼の分の夕食をラップをして冷蔵庫に入れておく。キラはボンヤリと窓から夜空を見上げて、その背中はとても弱々しく見える。もしかして放課後姿を見せないのはこれをみんなに隠すためなのかも知れない。

 

「今日は晴れてるからよく星が見えるよね。月も満月だし、夜空を眺めたくなるのもわかるかなー。キラは好きなの?空を見上げるの」

 

「……どうだろうね……結局空を見上げてるのだって、変わらないモノがあるんだって落ち着かせるのが理由だから……」

 

「……やっぱり何かあったんだよねっ?保健室の前で会った時は疲れてる顔をしていたけど、今よりも酷くなかったよ……私でよければ話を聞くよ?」

 

優しく諭すように話しかける今の私は本心からなのだろうか?それとも、与えられた任務を達成するために弱っている彼に付け込もうとしているの……?どっちにしても、虚ろな目で私を見るキラのことを放っておく選択肢はなかった。

 

「……わからないんだ……僕は何のために生まれたのかも……今を生きてるのかも……何をしないといけないのかも……」

 

「……キラ……」

 

ドイツ代表候補生である彼女に臆病者だと蔑まされても、反論をせず肯定した理由はこれなんだ。あの時探さないといけない答えから逃げ続けていると言っていた意味を今理解する。初めて私はキラの本心へと触れたような気がした。……キラはきっとこれをずっと隠し続けてたんだ。

 

「……いいんじゃないかな。悩み続けて、苦しんだり悲しんでばかりなのなら、休むことだって必要だよ。今のキラは泣いてるのを我慢しているようにしか見えないよ」

 

「……そう、なのかな……」

 

「そうだよ。……私もさ、どうして生まれたのかってずっと悩んでる。私も……考えることにちょっぴり疲れちゃったんだ」

 

隣に座りキラの肩に頭を預ける。微かに彼の体が揺れたけれど拒絶されることはなかった。ううん、今のキラには私を拒絶するような気力だって残ってないんだ。……本当は今寄りかかっている彼のISデータを手に入れないといけない。今の彼から手に入れる事は多分簡単なんだと思う……でも、それをすれば本当にキラは壊れてしまいそう。

 

「……今日はここにずっと居ていいかな?キラのそばから離れたくないんだ……そばに居させてくれるだけでいいから……お願い……」

 

「……シャルロットさんの好きにしていいよ……」

 

「……うんっ、ありがと」

 

断られるかと思っていた我儘は彼は悩んだ末で受け入れてくれた。少しだけ胸が高鳴っているのは今日彼の部屋でこのまま過ごすことになったからだよね……?空をずっと見続ける彼の表情は変わっていないのは少しだけ悔しいけど、そばにいる事ができるのならそれでいいんだ。

 

「……僕は、僕は……」

 

「……大丈夫だよ、私がそばにいるから。だから今は何も考えなくていいんだよ、キラ」

 

「……シャル、ロットさん……」

 

「私と2人だけの時はシャルって呼んで……お願い、キラだけにそう呼ばれたいの」

 

「……シャル……」

 

「キラが望むなら私はなんでもするから。だから私をそばにいさせて……私のことを必要としてよ、キラ」

 

私たちは似た悩みを抱いて今を生きているのなら、それを埋めるためにお互いに求めあって生きていけばいい。生気のない表情を浮かべている彼の手に私の指を絡める。これ以上はお互いに何かが壊れてしまいそうな気がするけど……それでもいいかもしれない。

 

「……このまま寝よっか。起きていても疲れるだけだから……片方のベット借りるね?」

 

「……うん……」

 

一緒に寝る事も考えたけど、なんらかの理由で朝目撃されたら後が少しだけ面倒になるから流石にやめておかないと。沢山我儘を受け入れてくれているのに、それで更に迷惑をかけるのは嫌だから。最後に心配でキラの方へと視界を向けるけど横になっているところを見るときっともう寝たのだ。その姿にホッと安心して、私は最後におやすみっと呟き瞼を閉じた――――





キャラ視点は開き直っているのでどうとでもなれ((吐血

キラ君がとうとうがガバる話ですねっ!精神がやばい人と精神がやばい人がお互いを知るとどうなるかは簡単にお分かりですよネ。みなさんが危惧していたあざといさんの回ですよ((

シャルロットさんとキラ君は正常な状態だと相性かなりいいけど、お互いメンタルボロボロだと相性最悪そうですよね。特にシャルロットさんが優しい子だから、発破をかけるよりもこうなっちまう可能性が高そうだよね…ルームメイトになってたら多分無人機前にこうなってそう((
えっ?微妙に回復したキラ君のメンタルはどうしたのかって?あれぐらいで持ち堪えているのなら、2年間も隠居してないと思ってください((ガバ


脱字&誤字報告毎度ありがとうございますっ!!感想もいつでもお待ちしていますので、次回も気長にお待ちくださいっ!!

(ちなみに多分……学年個別トーナメント開始までもう少し時間かかるゾ……ガバが起きたから……許して……))


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第24話 終わる関係

こんなに投稿頻度が早いのはきちんと理由がありましてね……そろそろfgoに新章が追加されますので、その分執筆がしなくなってしまうので……ちょっと来週分の投稿を頑張ろうかと……真の頻度が早い理由は下手をすればラウラ編で30話いくからなんですけどねっ!!((吐血




(……やめろ、やめてくれ……っ!!)

 

フリーダムのコックピットから脱出艇の窓に彼女の姿が映る。この後に何が起きてしまうのか分かっているからこそ必死に体を動かそうとしても動かない。そしてそのまま何もできず――――あの武装が脱出艇を撃ち抜き爆発する。

 

「――――フレェェェイィィ!」

 

「……キラ……っ!?」

 

「……僕が、僕が守らないといけなかったのにっ!!なのに、僕は彼女を守ることができなくて……っ!!フレイ……っ!!フレイ……っ!!」

 

「っ……大丈夫だよ、私がそばにいるよ?だから大丈夫だよ、キラ」

 

呼吸がうまくできず苦しくて胸を押さえていると、優しく諭して何度も背中を誰かがさすってくれる。霞んでいる視界で誰かと見ればそこにはシャルロットさん――――シャルが心配そうに顔を覗く彼女がいた。

 

「嫌な夢を見たんだよね?顔色も悪いし……なにより泣いてるから」

 

「……守れ、なかったんだ……僕は、彼女を……ちくしょう……っ」

 

「……うん……キラはその人のことを守りたかったんだよね……きっと、誰よりも。私がそばにいるから泣いていいんだよ……我慢しなくていいから」

 

溜め込んできたものが呆気なく壊れ、込み上げてくる感情は溢れ出て泣き崩れる。一度吐き出したものは止まらなくてそれでも彼女は何も言わず優しく抱き止めてくれて、そしてそれが堪らなくつらくて苦しく感じる。結局落ち着くまで彼女はずっと抱きしめてくれていた。

 

「……大丈夫?少しは落ち着いたかな?」

 

「……ごめ、ん……本当は駄目だってわかってるのに……」

 

「ううん、気にしないでよ。私がやりたかったからやっただけだから」

 

まるでこれが当たり前だと言うように彼女は微笑む。今の彼女との関係は頭では傷の舐め合いであって……歪んだ関係なのは分かっているんだ。だけど、夕べに頼まれた彼女からの願いを拒絶する力は残っていなかった。

 

「……今日は一日休んだ方がいいんじゃないかな?今だって少し落ち着いただけでつらいんでしょう?それなら無理をしない方がいいと思うよ」

 

「……ううん、今日も出席はしないと……」

 

「……でもっ、昨日のアリーナでのことだってあるから休んでも怒られないはずだよ。もし、1人で居たくないなら私だって休むから、ね?」

 

「……昨日の事もあるから僕はいつも通りに過ごさないといけないんだ……残り少なくても、力を振るったのなら、僕はそれから目を背けたら駄目なんだ……」

 

残り少ない時間でも、守るために振るった力の結果から逃げる事から許されない。引き金を引き続け、僕という成功作が生まれるまで犠牲になった人たちへの……そして自らを失敗作だと悲痛に叫んだ彼女への贖罪なんだ。

 

「……それに、ストライクの整備もやらないと……昨日はできなかったから……」

 

「……そっか。つらくなったらいつでも私に声をかけてね?その時は一緒に私も休むから」

 

「……うん……」

 

不安そうに聞いてきた彼女に頷く事しかできなかった。彼女の想いを断ったはずなのにそれを僕は利用してこの関係を昨日築いてしまった。今すぐにでも止めようと言葉にすればいいのにそれが言えないのはどうしてなのだろう?……駄目だ……これがとても重大な事のはずなのに考えるのも疲れてくる。

 

「私は一度部屋に戻るね。キラを1人にするのは心配だけど……シャワーも浴びたいし、一度着替えもしたいから。それにこれって誰かに見られたら大変なことになっちゃうと思うから……また後でね、キラ」

 

「……あっ、わかったよ……」

 

名残惜しそうにしながらシャルは部屋から出ていく。朝日は登っているけど、時間を確認すればまだ他の生徒は寝ている時間帯だった。そういえばあの人がアリーナでの事は最大限どうにかすると言っていたのを思い出す。

 

(……それもどうせこの部屋から出れば全部分かるんだ。それに僕は、もう一つ終わらせないと……)

 

 ――――前から奇妙に続いてしまっている関係を終わらせよう。本来ならずっと前に終わっていたはずなのに、彼女はそれでもこんな僕に世話を焼いてくれた。だけど、これ以上彼女の時間を奪うわけにはいかないんだ。

 

◇◇◇

 

「――――起きてるのなら今すぐ開けなさいっ!!」

 

(……やっぱり君は来たんだね、鈴)

 

聞こえるノック音と扉越しから聞き慣れた少女の声が聞こえてくる。ルームメイトが解消しても彼女は世話を焼いてくれて朝わざわざ起こしに来てくれていた。だけど、それももう終わらせないといけないんだ。

 

「今日は早く扉を開けたって事は起きてたってことよね?うんっ、感心感心……ってそれは後でいいのよっ!!アタシがアンタに聞きたい事はこの噂本当かどうかってことっ!!」

 

「……噂………?」

 

「キラが生徒会に入ったって噂よっ!!食堂に行ったらさっきからその事で周りからは聞かれるし……だから、アンタに直接確認した方が早いって思って聞きに来たってこと」

 

「……そうか、あの人が昨日言っていたのはこういう事だったんだ……」

 

僕が生徒会に入ったという情報を最初に流したのはきっと更識会長だ。この情報がこの学園内でどれほど重要なのかはイマイチわからないけど……どうにしろあの人は情報を上書きするのを有言実行してみせた。生徒会長は影響力があるとは言ってたけど、どうやってこの情報を拡散したんだろう?とても簡単とは思えないけど……。

 

「アンタのその反応ってつまりその噂は本当だったこと?」

 

「うん、僕が生徒会に入ったのは本当のことだよ。そうする必要があったから」

 

「そりゃ、生徒会に入ったって事はアンタになんか理由があったからだとは思うけど……それにしても唐突すぎない?まっ、それは別に後で適当に聞くからいいとして……ほら、起きてるならこのまま食堂まで行くわよ」

 

「……もういいから。僕のことは放っておいていいんだ、鈴」

 

「……はぁ?ちょっと突然となに言ってんのよ……」

 

訝しげに納得のいかなそうに見てくる鈴に僕は首を横に振る。元からこの関係もルームメイトを解消した時点で終わらせないといけなかったんだ。それ以降も何かと気にかけてくれていた彼女に僕はずっと甘えていた。

 

「もう僕の世話なんて見なくていいから。初めからルームメイトの期間までで良かったのにそれでも君は僕の事を見てくれていた……だからもういいんだよ、鈴」

 

「アンタのことを放っておくとか、そんなのできるわけないでしょうっ!!そりゃ、確かに元はルームメイトまでの期間のつもりだったけど……でも今のアンタのことを――――」

 

「……いいんだ、もう僕は終わらせるだけだから。鈴が本当に支えて傍にいないといけない人は、その優しさを向けるのは僕じゃない、彼だよ」

 

僕は後は一つ一つこの世界で終わらせるだけだ。だけど一夏はその逆でこれから始まっていく。もしかしたらこの先で彼が挫ける時や、迷う時があるかも知れない……そんな時に隣で支えてくれる人が必要なんだ。その時は彼女が持つその想いと優しさで彼の事を支えてほしいから。

 

「これからは僕じゃなくて、君が好きな人のことを見てあげなよ。だって君が好きなのは一夏のことなんだから」

 

「……そう、だけど……だけど、それじゃあアンタは……っ」

 

「僕はもういいんだ。今からでも一夏の元に行ってきなよ。……あまり恋路には色々と言える立場なんかじゃないけど……僕は君が一夏の隣に立てることを応援してるよ」

 

「……っ……そう、ね……アタシも、そろそろアンタの世話見るのも終わろうかなって思ってたわけだし……」

 

「うん……今まで世話を焼いてくれてありがとう、鈴」

 

「……アンタが授業遅刻して、千冬さんに頭を叩かれてももう面倒なんて見ないんだから……っ」

 

鈴は何かを訴えようとしていたけど、それを呑み込んで走り去っていく。最後に小さく震えた声で馬鹿っと聞こえたのは気のせいなんかじゃない。……彼女と最後に直接話す事はあの時が最後だった事を思い出してしまう。いつも僕はこんな風にしか関係を終わらせる事ができない。

 

「朝だから様子を見に来たらちょっとした修羅場を目撃しちゃったかしら?」

 

「……そうやっていつも遠くから僕のことを今まで観察していたんですか?」

 

「ふふっ、それは秘密よ。その様子だと昨日と比べたら少しは元気になっているようね。それとも……ただ仮面をつけて誤魔化し続けているだけかしら?」

 

鈴と話している途中から誰かから見られている視線を感じていた。……前よりもそういった誰かの視線や気配に敏感になった気がする。更識会長は目を細めて薄く笑っているのは見透かしているからなのだろう。この人の目の前では下手に誤魔化す方が余計に疲労が溜まってしまうだけだ。

 

「中国代表候補の子とは仲が良かったのに突然どんな風の吹き回しであんな言い方をしたのかしら。今までの様子から見ると、君ってむしろ彼女の事を特別視してたじゃない」

 

「彼女は元々織斑先生に頼まれていたから僕のことを世話をしてくれていただけですよ。それに鈴とは約束をしていましたから。……けど、その約束を僕はまた守ることもできませんでしたし、次からはそれは一夏がやるべき事だと思っています。だから一夏のことを強くしてあげてください、できれば今日からでも……3回までなら僕からの頼み事は何でも聞いてくれるんですよね?」

 

「一夏君はもう少し経ったら鍛えてあげるつもりだから別にいいけど……それって本気なの?取引で手に入れたものはたったの3回までしかない上に、それを自分のためじゃなくて人の為に使うのよ?自分で言うのもアレだけど……この3回はかなり貴重のものよ」

 

「僕が望んでいた事は昨日、更識会長が既に叶えていますよ。……それに僕が本当に叶えてほしい願いは絶対に叶う事が無理なのは知っていますから……だからいいんです」

 

更識会長がどれだけ凄い人だとしてもこれだけは絶対に叶うことはできない。それはこの人だけじゃなくて誰もできないことなんだ。あの世界にもういない彼女に会わせてほしいだなんて願いは誰にも……。

 

「……そう、これ以上は何も言わないわ。さて、それなら本題に入らせてもらうわね。今日の昼休み、君は生徒会室に来ること。生徒会のメンバーに自己紹介をしてほしいから」

 

「……まぁ、それぐらいは……」

 

「それじゃあ、昼休みはよろしくねー?あっ、ちゃんとある子に頼んでおいたから案内してもらえると思うわよ。そして最後に聞いちゃうんだけど……キラ君なにをやるつもりなのかしら?」

 

「……終わらせないといけない事を終わらせるだけです。それが今の僕のやるべきことですから」

 

「終わらせるだけね。……それが決して正しいとは私は思えないんだけどね。終わらせるのではなく、生きていく事も償いになるのを覚えておきなさい、キラ君。……それと、シャルロットちゃんとおいたはほどほどにね?」

 

すれ違いざまに肩に手を置いてそのまま更識会長は去っていく。なぜシャルのことを……?いや、前にもあの人はどこか彼女の事を警戒しているような気がした。……あの人は生きていく事も償いと言うけれど……だけど、僕は存在しちゃいけない存在なんだ。それなら生きて償うのではなく……もっと他の方法で償うべきなんだ。

 

「……さっきの話本当なの、キラ?生徒会に入ったの……」

 

「……あっ、うん……本当のことだよ、シャル」

 

「キラは……どこにも行かないよね……?置いていかないよね……?」

 

「……うん、大丈夫だよ。僕はやるべきことがあるから生徒会に入っただけだから」

 

不安げに聞いてくる彼女を落ち着かせる。生徒会に入ったことについては誤魔化すしかなかった、そうでもないと今の彼女を落ち着かせることができないような気がしたから。……だけど、どこにも行かないという願いは叶えてあげることはできそうにない。

 

「なら、私が落ち着くまで傍にいさせて……お願い……」

 

「……うん」

 

シャルは胸元に飛び込んでくるように縋ってくる。震えている彼女の事を両手で支えてあげないといけないのに、両手は動くことはなかった――――

 

◇◇◇

 

(……本当にアリーナでの事は上書きされている。少なくとも僕のクラスは生徒会に入ってきたことについて聞いてきたから……)

 

昼休みに入るまで主に周りが聞いてきた事については生徒会に入ったことが事実かどうかについてばかりだ。最悪アークエンジェルの頃のように周りと孤立するだろうと達観していたつもりだったんだけど……。更識会長は本当に何者なんだ?

 

「キラ、このまま昼飯を一緒に食べに行こうぜ。それにちょっと話したい事もあるからさ」

 

「ごめんね、一夏。昼休みはちょっと用事があってさ……話を聞くぐらいなら大丈夫だとは思うけど……」

 

「用事なら仕方ないか……話についてだけど、学年個別トーナメントで俺と組んでくれないかって思ってさ。もう、パートナーが決まってたらアレだけど……」

 

「ううん、まだ組む人は決まっていなかったから全然いいよ」

 

「よしっ、それならよろしくなキラっ!……ふぅ、キラから断られたらどうするかってずっと悩んでたけど、それも杞憂に終わってよかったぜ……」

 

「……?箒さんからは誘われなかったの?」

 

「いや、箒も組む相手の見当はついてるらしくてさ。鈴とセシリアはそんな状態じゃないし……シャルロットも相手はいるようだったぞ?」

 

「……そうなんだ」

 

「……あー、それとなんだけど鈴が不機嫌な理由は何か知ってるか?急に不機嫌になってるから、キラなら理由を知ってると思ってさ……」

 

「……どう、だろう?心当たりはあるけど……それが理由かってなると分からないかな……」

 

箒さんが一夏以外の人と組むとは思っていなかったから少し意外だ。多分、何かしらの理由があるとは思うけど……一夏が知らない以上は他の人に聞いてもわからないだろう。鈴が不機嫌だと一夏の口から教えてもらったけど……それは僕が原因なのだろう。確かに喧嘩のような別れ方をしたけど……でも、それがどうして?

 

「キラキラ〜、お待たせだよー」

 

「う、うん……?えっと、更識会長が言っていたのはのほほんさんの事なんだよね?」

 

「そうなんだよー。実は私は生徒会の1人だったのだー!おりむーとのお話のお邪魔だったかな?」

 

「いや、さっき終わったばかりだから大丈夫だぞ。それじゃあ、また後でな、キラとのほほんさん」

 

「また後でね、おりむー。それじゃあ、私たちも行こっかー」

 

一夏との話も終わった事もあって、そのままのほほんさんに案内される形で教室を後にする。彼女が生徒会の1人である事には驚いたけど……よくよく考えればのほほんさんはあの人とは知り合いなんだっけ。

 

「それなら、更識さんも生徒会の1人なのかな?」

 

「……んー、かんちゃんは違うんだー。たっちゃんとちょっと喧嘩している最中だから……」

 

「そう、なんだ。……えっと、ところでそのたっちゃんって更識会長のこと?」

 

「うん、そうだよー!更識楯無だからたっちゃんなのだー!」

 

ふわりと楽しげに笑うのほほんさんは見ているだけで心が少しだけ安らいでいく気がする。更識会長にまずあだ名がある事にも驚きを隠せない……それほど2人が仲が良いって事なんだろうけど。そして更識さんがあの人とは喧嘩をしているから初めて会った時に姉妹なのかを訪ねたら複雑な顔をしたのか。

 

 

「はい、到着だよ。ここが今日からキラキラの所属する事になる生徒会室なのだよー」

 

「ここが生徒会室……」

 

「うん、それじゃあ入ろっか。お邪魔しまーす」

 

「お、お邪魔します……」

 

のほほんさんにつられて言ってしまう。教室や職員室とは違う雰囲気に挙動不審に周囲を見渡してしまう。そんな僕のことを見てなのか真っ先にクスリと可笑しそうに笑う更識会長と、会釈をしてくれたもう1人の女子が出迎えてくれる。

 

「本音ちゃんおつかいお疲れ様。冷蔵庫にケーキあるから食べて良いわよ」

 

「わーいっ!!たっちゃん、ありがとうっ!!」

 

「あまり本音のことを甘やかさないでください、お嬢様」

 

「ふふっ、少しぐらいはいいじゃない。それにそこの彼を生徒会室に連れてくるのはとても難しかったりしたのよ?」

 

「はぁ……?」

 

「ほら、そこにぼうっとして立っているキラ君も座りなさいな」

 

「あっ、はい……」

 

お嬢様……?もしかして更識会長って名家だったりするのだろうか。無断で人の部屋に侵入していて、それであんな姿でいたこの人が……?いや、カガリの時と同じようなものだと考えたら……いや、状況が違いすぎるから流石に確証が持てないよ。

 

「今の君からものすごく失礼なことを考えてるのを読み取ったんだけど。うん、怒らないからおねえさんに話しなさい」

 

「勝手に人の考えてるのを読み取ろうとしないでくださいよ……」

 

「……お嬢様、彼を生徒会へと勧誘のさいには彼が納得する形で入らせたのですよね?」

 

「……も、もちろんよぉ?キラ君が納得して生徒会へと入るように普通に勧誘しただけだから。ね、ねぇ、キラ君?」

 

「…………ええ、それ自体は間違っていませんから」

 

目配りで必死に頼み込んでくる更識会長を見て複雑な気持ちに襲われる。実際僕が納得する形で生徒会の1人になるのは間違いなかったし……ただ、接触してきた手段に大きな問題があっただけで。

 

「……どうやらお嬢様とはこの後お話がする必要がありそうですね。その前に私の自己紹介を。私は布仏虚です、今後は同じ生徒会の1人としてよろしくお願いします、キラ・ヤマト君」

 

「よ、よろしくお願いします……えっと、薄々思っていましたけど、のほほんさんのお姉さんなんですよね……?」

 

「ええ、本音とは姉妹です。これからも本音や簪さんとは仲良くしてあげてください」

 

優しく笑う姿は本音さんと似ているなと思い2人は本当に姉妹なのだろう。つまりこの生徒会メンバーは更識さんとは前からの仲なのだろうか?

 

「キラ君の疑問は正しいわよ?2人は代々から更識に仕えているお手伝いさんで、幼馴染だったりするもの」

 

「だから僕の考えていることを読み取らないでくださいよ……」

 

「ちょっとぐらいは許してちょうだいな。これからは同じ生徒会のメンバーとして過ごしていくんだからね?そうそう、君の生徒会での役職だけど……庶務見習いね」

 

庶務見習い……?久しぶりに僕の世界にはない言葉が出てきて首を傾げてしまう。呆けてしまっている僕の様子を事情を知っている更識会長は文化の違いかしらっとボソリと呟く。

 

「庶務見習いは簡単に言えば主に雑務になります。初めは私たちのお手伝いをやる事になると思いますが」

 

「それぐらいならできるとは思います……」

 

「わからないことがあったら、私やお姉ちゃんに何でも聞いていいからねー」

 

雑務ぐらいだったら……どうにかなるとは思うかな?ただついさっき久しぶりに自身の世界とは異なるのを再確認されてちょっと不安になってしまう。ここは大人しくのほほんさんの言葉に甘えよう……。

 

「はい、それではこれで生徒会メンバーの自己紹介は終わりましょ。とりあえず昼休みが終わるまでは君もこのまま生徒会室で過ごしなさいな」

 

「それでは私はお茶を用意しますね」

 

「ほらほら、キラキラも一緒にケーキ食べようよー。甘いもの食べて、午後のための英気を養おー!」

 

ほんわかと微笑むのほほんさんが相手だと断るのが申し訳なくなりこのまま居座る事になってしまう。どうすればいいのか分からず、思わず更識会長の方へと助けを求めるが扇子に『諦念』と書かれて面白そうに笑っていた――――

 

◇◇◇

 

 

(ストライクのダメージレベルはAもいっていない。フェイズシフト装甲自体は正常に機能しているんだ……やっぱり、機能している時はエネルギーを減らしているのか?)

 

昨日はフェイズシフトダウンまでした事もあったから念入りに調べるけど損傷はそこまで高くなかった。結局フェイズシフト装甲についてはずっと有耶無耶になっているから憶測で仮説を立てることしかできない。

 

「キラ君、少しだけいいかな……?」

 

「……どうかしたの、更識さん?」

 

更識さんに声をかけられて一度作業を中断する。作業中に彼女から声をかけられる事はそんなに珍しいことじゃない。お互いに没頭すればやめることを忘れる事もあるから、時間になれば話しかけ止めてくれることも多かったりする。

 

「……キラ君が生徒会に入ったのは本当なの?」

 

「それは本当だよ。生徒会に入ったのは……利害が一致したからになるのかな。そうじゃないと、更識会長からあんな勧誘をされた時点で断ってたわけだし……」

 

「お姉ちゃんの事が気になったから、とかじゃないの……?」

 

「……正直苦手ではあるからあまり関わりたくないかな。まず、無断で部屋に侵入してたしはだ――――いや、なんでもないよ……」

 

裸エプロンをして部屋にいたんだって口が滑りそうになる。2人が喧嘩中でもこの情報は色んな意味でマズイ……火に油を注ぐ程度で終わらず、むしろ更に引火しかねないよ……。

 

「……お姉ちゃんが迷惑かけたみたいだね。ごめんね……」

 

「……ううん、悪いのは更識会長であって君は悪くないから。でも、できれば今度あの人に注意してくれると嬉しいかな……」

 

「……うん、できるかぎりそうするね」

 

多分疲れた表情を浮かべているだろう僕に申し訳なさそうに更識さんは目を逸らす。なんで名家の人は一癖も二癖も強いんだろうか……生徒会に入るのも上手く誘導させられたような気もするし。やっぱり裸エプロンの件は更識さんか布仏さんに報告した方がいいんじゃないかな……。

 

「そういえば更識さんはISは間に合ったの……?」

 

「……ううん、学年個別トーナメントにも間に合わなかった」

 

彼女は悔しそうに表情を浮かべる。理由は聞いていないけど、更識さんのISは未完成らしくて今彼女はそれを完成させるために1人でずっと調整しているらしい。手伝うべきなのかと悩んでいるけどISについては僕も別段詳しいわけでもない。

 

「――――やはり、ここにいたかキラ」

 

「……箒さん?」

 

整備室に箒さんが来るなんて意外だなっと思ったけど、口振りからして多分僕のことを探していたんだろう。普段放課後は一夏のIS訓練にずっと付き添っているから僕の事を探す事自体が珍しい。

 

「むっ、人と話している途中だったか。それにISの整備をしているようでもあるから出直した方が良さそうか?」

 

「ううん、大丈夫だよ。ストライクの方の整備はもう終わったにも等しいしね」

 

「そうか。……すまないがキラと話をしたいため少しだけ借りさせてもらうが、いいだろうか?」

 

「……はい、別に大丈夫です……それじゃあ、また後でね、キラ君」

 

更識さんはISの方の整備に戻っていく。ストライクを待機状態へと移行させて箒さんと整備室を一度出る。話とはいったい何の事をだろうか……?

 

「話といってもそう時間を取るつもりはない。……次の学年個別トーナメントでお前に果たし合いを申し込む」

 

「……果たし合い……っ?」

 

「学年個別トーナメントで私はお前と戦うのだといっているんだ」

 

目の前にいる彼女の言っている意味を理解するのが一瞬遅れる。戦う……?僕と友達である彼女が……?次の学年個別トーナメントで……っ?僕は、また友達と戦うのか……っ?

 

「……どう、して?僕らは別にそんな必要は……」

 

「必要はある。お前があの時、一夏とセシリアの2人が戦っている時に見せた瞳の意味を知る必要があるからだ。……学年個別トーナメントで確かめさせてもらうぞ、姉さんと同じ目をしたお前自身のことを」

 

伝え終えた箒さんは去っていく。……僕はまた友達と戦わないといけないのか……?あの世界でも、親友のアスランと戦って……それでこの世界でも友達の箒さんと戦うというのか……?

 

『――――アスラァァァァァンッ!!』

 

『――――キラァァァァァァァッ!!』

 

(……また、戦う……友達と、僕はまた……)

 

イージスに搭乗しているアスランを本気で殺そうとしていたあの時のことを思い出す。目の前で友達をお互いに失くし、怒りと復讐心に駆られてかつての親友を敵だと本気で殺そうとした。それを思い出して――――自身の中にある何かにヒビが入ったような気がした。

 

「……どうして、また友達と戦う事になるんだ……どうして……っ」

 

「――――キラっ!!」

 

「……また、友達と戦うぐらいなら……僕は……っ」

 

「っ、もう少しだけ頑張って。急いで部屋に連れていくからね!」

 

誰かが優しく諭して手を繋いで何処かへと連れて行かれる。今感じているその手の温もりですら今すぐ放っておいてほしかった……また、僕は友達と戦う事になるんだ……もう嫌なんだ……友達を守るために友達と戦って……じゃあ、次は何の為に戦わないといけないんだ……。

 

「大丈夫だよ。私がいるから……私がそばにいるから大丈夫だよ」

 

「……もう、嫌なんだ……どうして、また友達と戦わないといけないんだ……っ……戦わないといけないなら死んだ方がマシじゃないか……っ!」

 

望んでいない力を勝手に組み込まれて、その力で友達と戦い人を殺し続けて、それなのに僕の守りたいと思った人や、優しくしてくれた人ばかりがみんな消えていく。……何のために僕は生まれたんだ、なんのために僕はまだ生きているんだ……。

 

『まだ苦しみたいか!いつかは……やがていつかはと……っ!そんな甘い毒に踊らされ、いったいどれほどの時を戦い続けてきたっ!?』

 

「あの人の言ってる通りじゃないか……まだ、僕は苦しまないといけないのか……苦しくて、つらいだけなら生きている意味なんてないじゃないか……」

 

「……生きてよっ……私の為に生きてよ……っ……嫌だよ、キラがいなくなるなんて……っ」

 

「……いき、る……?」

 

「私の為に生きてよっ……その為なら私はキラのためになんでもするよ……っ?なんでもするから……」

 

服が擦れる音が聞こえて、虚ろな目に映ったのは潤んだ目で服を脱ぎ下着姿になっているシャルがそこにいた。そこで自分が自室にいること、そして彼女がここまで手を引いて連れてきた事に気づく。

 

「……キラが生きてくれるなら、私はなんでもするよ……そばに居させてくれるだけでいいの……」

 

「……あっ……」

 

「キラの中で大切な人がいるんだよね……でも、その人はもういないんだよね……なら、私のことをその人だと思って抱いて……っ?」

 

彼女は僕の片手をそのまま自分の胸を触らせる。彼女をフレイだと思って……っ?震えた声で小さく名前を呼んでくれる声がこの場にいない彼女が脳裏に浮かぶ。視界が定まらなくなり、途端に息が詰まり呼吸が苦しくなり、そのまま僕は彼女の手を振り払う。

 

「……そん、なの……駄目だ……それ、だけは駄目だ……フレイ、はフレイはもういないんだ……それなのに、シャルを、君をフレイの代わりにするなんて、そんなのあの時と変わらないっ……っ!」

 

「……いいんだよ、私をその人だと思って――――」

 

「……だめなんだ……っ!今いない人を、誰かの代わりにするなんてそんなのはやったらいけないんだ……そんなの苦しくて、悲しくなるだけだ……それに、君だって泣いているじゃないかっ……」

 

「あっ……ち、違うよ、これは……」

 

「……ぼくの、せいで……ごめん、ね……」

 

プツリと何かが途切れて意識が朦朧としていって力なく倒れる。泣いている彼女が目の前にいるのに、何も言ってあげられない無力さを感じながら意識を失っていった――――

 

『――――守るから。私の本当の想いが貴方を守るから……だから、今はゆっくりと休んで、キラ……』




はい、今まで耐え抜いた精神はぶっ壊れましたね。24話までかかったと考えれば……RTAから見れば最高のガバでしょう((

 Q.どうしてシャルさんはあんな事をいったの?

A. 振られた上に目の前で相手の好きな女を譫言のように何度も言われたらこうもなろう((

シャルさんを男装なしで開幕からいさせたのはこういうことですね()男装だと原作再現を抜きにしても、まずこうなる展開の前にどうやっても一件落着しちゃうのですよ……ちなみに普通のシャルさんとルームメイトなった場合は鈴ちゃん来る前に依存関係を築いて、そして鈴ちゃんの世話焼きルートが怪しくなったり((

……最後は単純にきっと、精神壊れかけてきたキラ君の幻聴だよ((

毎度誤字&脱字報告ありがとうございますっ!!感想もありがとうございます!!次回の更新は未定ですが、気長にお待ちくださると嬉しいです!


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第25話 少女の願い


おそらく来週は投稿が無理だと判断をして書き殴りましたので……ガバが酷いかも知れないが許して、許してぇ((

投稿についてはfgoの方が明日新章追加をしたらの話なので、もし追加しなかったら来週も投稿はするかも知れません……どうにしろ気長に待ってもらえると助かりますねっ!

そして私はハッピーエンド歴なので、私は信じなくてもこの言葉だけは信じて……ここさえ乗り越えれば当分はSEED味は消えるからっ!そしてヒロイン未定については……うんっ、当初の予定2人だったけど手遅れになってきたような気がするなぁ((決意が揺らいだ図

そしてみなさん鈴ちゃんに対してキラ君保護者認定高すぎない?((

……あと、今回は独自解釈&設定が強めだと思いますので寛大な心で読んでもらえると助かります((


(……ここ、は……ストライクのコックピットの中……っ?)

 

 目を覚ませば何故かストライクのコックピットの中にいて困惑してしまう。さっきまで自室にいて、そしてシャルがそばにいたのに……?ストライクのコックピットで過ごした時期もあるから別に不便だとは思わないけど……。

 

「……でも、もうこれでいいんだ」

 

僕の世界でも、あの世界でも存在してはいけないのならこのままストライクのコックピットの中で過ごし続ければいいんだ。これが夢だとしても、僕自身の意思でこの場にいるのだから他人に迷惑をかけているわけじゃない。

 

「……ストライク、僕は疲れたんだ……もう嫌なんだ……生きていてもつらくて苦しいだけなんだ……僕は存在しちゃいけないから、だから……」

 

 ――――ううん、違う。キラは、貴方は存在しちゃいけない人なんかじゃない。

 

「……っ、フレ、イ?」

 

頭の中に直接入り込むように彼女の声が聞こえてくる。そんなはずはっとコックピット内を見渡すけれど、フレイの姿はどこにもいない。それなのに彼女がすぐそばにいるような気配を感じる。

 

 ――――貴方は存在しちゃいけない人なんかじゃない。私は知ってる、キラが強くてとても弱いのも。誰よりも優しくて、泣き虫で、寂しがり屋なのを知っているわ。……貴方が生きているのを苦しんでいるのも知ってる。

 

「……違う……これは、夢なんだ……だって、君は……っ」

 

 ――――ごめんなさい。私はずっとキラに謝りたかった……貴方がそうやって苦しんでいるのも全部私のせいなのに。それなのに私は貴方に何もしてあげられなかった……

 

「……違うっ……!僕が、僕が君を傷つけたんだっ!!僕が君との約束を守ることができなくて……っ!それなのにあの時君を利用したんだ……っ!君との約束は何も守れなくて……そして僕は君を守ることもできなくて……っ!!フレイは何も悪くない……っ……全部僕が悪いんだ……っ」

 

これが都合の良い夢だとしても、彼女が自身が悪いのだと後悔しているのを聞いているだけなんてできなかった。全部僕が悪いんだ……彼女のお父さんを守れなくて、彼女は1人だけになってしまった。優しくしてくれた彼女の事を僕は利用して……そして、何一つ約束を守ることもできずに、守らないといけなかったフレイを僕は守ることもできなかった。

 

 ――――ううん、わかっているの。毎日魘されているのも、苦しんでいるのも、悲しんでいるのも……つらくて泣いている貴方を知っているのに今の私は何もしてあげられない、見ていることしかできない。でもね……きっと、貴方のことを見てくれている人は他にもいる。誰よりも強いけど……誰よりも優しくて、誰よりも泣き虫で、誰よりも寂しがり屋の貴方のことを見ている人がきっと。

 

「……でも、僕は駄目なんだ……もう、疲れたんだよ……」

 

  ――――今の貴方に言うのはこれは卑怯なのはわかってる……生きて、苦しくても、つらくても、悲しくても生きて幸せになって。私の分まで生きて幸せになって……これは約束よ

 

「……やく、そく……」

 

  ――――ええ、約束。大丈夫、貴方は独りぼっちじゃない。私が傍にいるから、今度は私が守るから……私の本当の想いが貴方を守るから。だから、もう少しだけ頑張って、キラ。

 

「……フレイとの約束なら、頑張るよ……もう少しだけ、頑張ってみるよ……」

 

彼女はいないはずなのに、背後から優しく抱きしめられる感覚がはっきりと感じる。生き残った意味も、今を生きている理由も何も分からない……でも、彼女との約束を破るわけにはいかない。例えこれが僕の見ている都合のいい夢だとしても。

 

「……また、君に会えるかな……」

 

――――待ってる。私はずっと待っているから。

 

「……うん……行ってくるよ、フレイ」

 

――――行ってらっしゃい、キラ。

 

ストライクのコックピットがゆっくりと開いていく。彼女から生きてっと言われただけでその活力が湧いてくるのは単純と思われるだろうか。……苦しいだけかも知れない、かなしいだけかも知れない、つらいだけかも知れない……だけど、フレイとのこの約束だけは守ってみせる――――

 

◇◇◇

 

 

「 ――――ラっ!!キラっ!!起きてよっ、キラっ!!」

 

「……ここはっ……そう、か……僕はっ……」

 

「キラ……っ!!よかった……キラが無事でよかった……っ!」

 

僅かに痛む頭を押さえながら目を覚ますと、涙ぐむシャルから抱きつかれる。突然の衝撃に耐え切れる事はできないで情けなくバランスが崩れて倒れてしまう。

 

「あっ、えっと……シャルの気持ちは嬉しいけど……そろそろ離れてくれると助かるかな……」

 

「ご、ごめん……っ」

 

彼女の心配してくれていた気持ちは嬉しいけどこの体勢は流石にまずい。誰かに見られたら言い訳するのは間違いないし、まずシャルの格好が制服を羽織っているだけなんだ。流石にそれを指摘する勇気は湧かず気まずそうに目を背けていたら、それに気づいた彼女は顔を赤くして制服をきちんと着る。

 

「その、僕ってどれぐらい意識を失ってたのかな……?」

 

「どうだろ……キラが意識を失ってから5分も経ってないとは思うよ?」

 

「……そっか」

 

意識を失ってからそんなに時間は経っていないようだ。さっきのストライクのコックピットにいた事は夢だとしても妙にリアルだったし……なにより彼女の声がスルリと自身の中へと入り込んで呑み込むことができた。

 

「……シャル、あんな自分を傷つけるような事をどうしてっ?」

 

「……キラが少しでも、生きる理由を作ってほしかったから……私にはキラしかいないから……」

 

「そんなことないよ……だってシャルには友達や、それに家族だって――――」

 

「……ううん、ないよ……そのどっちにも居場所なんてないよ……私は愛人の子で、望まれてない子だから……」

 

自虐的に疲れた顔に彼女は薄く笑う。望まれていない子だと言った事にそれは違うのだと答えようとしたものの、どんな言葉を伝えても今の彼女にはそれは何の慰めにもならないのだと気づく。何もかも溜め込んでいたものを吐き出すように、ポツリポツリと静かに話を続ける。

 

「私は母さんと普通に住んでたの……だけどお母さんは元々体が弱くて病気で亡くなったんだ。そして、お母さんが亡くなった後に身元引き受け人としてあの人が来たんだ……それがだいたい2年前の話かなぁ。キラも私の実家は知ってるよね……?」

 

「……うん」

 

「……引き取られた後にね、何の理由も言われないでISの適性検査を受けさせられて偶々適性が高かったから、非公式でデュノア社のテストパイロットをする事になった……そこに私の意思なんて必要ないって感じでね」

 

「君が前にISにしか居場所がないってのは……」

 

「私が実家にまだいられる理由は適性検査が高かったからが理由だと思うからだよ……ISに乗らないと私はきっとすぐに捨てられちゃうから。だから乗り続けた……それで私は今ここにいるの」

 

愛想笑いを続ける彼女に涙が頬を伝っていた。前にISにしか居場所がないとポツリと呟いた裏にはそんな事情があったのか……あの時にもっとシャルのことを気にしていれば何かが変わっていたのかも知れない。

 

「あの人に会ったのも両手で数えられる程度だし、会話ができたのもそう……IS学園に来るようになったのも突然だった。普段は別荘で生活しているんだけどね、急に本邸の方に呼ばれたら何の理由も言わないで、『IS学園に行け』だってさ。手続きも何もかも全部勝手に終わらせてて……だけどそこには私の意見はない、何一つ聞いてくれなかった。でもね……それにもある理由があったんだよ?」

 

「理由……?」

 

「……2人の男性操縦者から専用機のデータの確保、または盗んでくること。秘書の人からあの人からの命令だって言われたんだ……」

 

「……どうしてそんな事に?だってデュノア社はフランスのIS会社で――――」

 

「デュノア社は今経営危機なんだ……確かに量産機ISシェアは世界3位でも結局リヴァイヴは第二世代型なんだよ。デュノア社も第三世代型を開発しているけど元々遅れて第二世代型最後発だから、圧倒的にデータも時間も不足してて、なかなか結果や形にならなかった。それで、政府からの通達で予算を大幅にカットされて、そして次のトライアルに選ばれなかった場合は援助を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪される事になるんだ……だから、私は2人に近づいたんだ。……今まで騙していてごめんね……」

 

頭を下げるシャルの体は震えていた。男性操縦者である僕ら2人に近づいたのは確かにそれが事実なのかも知れない。だけど……それでも僕は彼女が優しい人なんだってよく知っている。そんな彼女に声を掛けるのは初めから決まっているんだ。

 

「……話してくれてありがとう。確かにシャルが僕に近づいたのはデータを盗む為かも知れない……でもこんな僕のことを気にかけてくれて、優しくしてくれたのは君自身の意思じゃないか」

 

「違うよ優しくなんてない……騙していたんだよ……?キラのことをずっと私は……」

 

「それは僕もだよ。僕もみんなをずっと騙し続けてる。それはシャルのこともなんだ……だから、おあいこなんだよ。……君が優しいのは君自身だからだ、そうやって苦しんで悩んでいるのがシャルが人を想いやる心を持っている何よりの証だよ」

 

騙している事に苦しんで悩んで傷ついているのは誰かを思いやる事ができるからだ。前にラクスが言ってくれた受け売りになってしまったけれど……少しぐらいは多めに見てほしいかな。

 

「あはは……私って単純だな……キラにそう言われただけで救われた気がする……」

 

「これから君はどうしたいの?多分だけど……この事がバレたらただではすまないんだよね……?」

 

「……うん、きっとバレたら強制的に帰国する事になると思う。でも、もうどっちにしろ私には時間がないんだ……前にね、学年個別トーナメントまでにデータを手に入れろって命令されたの……だから、遅かれ早かれこうなる運命だったんだよ……キラに話を聞いてもらえたらスッキリした……聞いてくれてありがとうね」

 

これが最後だと言うかのように彼女は笑う。彼女のいうタイムリミットまでもう1週間もない……世界は違っても理不尽というものは突然だ。彼女はただ居場所が欲しいだけなんだ……それなら僕がやらないといけないのは決まっている。

 

「……シャルはさ、どうしたいの?家のこととかさ、そんなの関係なくて君自身の言葉を教えてくれないかな」

 

「……帰りたくない……あんな冷たくて、寂しい場所よりも……暖かくて、楽しくて……そしてキラの傍にいたい……傍にいたいよ……助けて……キラっ」

 

ポロポロと両目から涙が頬を伝う。今の言葉がシャルロット・デュノアという1人の少女の心の奥底からの願いなんだ。目の前に、大切な友達をこんな僕の事を想ってくれている彼女を見捨てるなんて選択肢はない。

 

「……うん、どんな事があっても僕が守るよ。だからこれから僕のやろうとしている事を信じてくれるかな?」

 

「……うんっ……信じる……キラのことを信じるよ……」

 

「ありがとう。……今からある人に相談したいと思ってる。これは僕たちだけじゃ解決するには難しいと思うから」

 

「……ある人って?」

 

「……更識生徒会長だよ」

 

「あの人に……っ?……そうする理由が、あるんだよね……っ?」

 

ピクリと体が震えて不安げに聞いてくる彼女に頷く。多分、あの人はシャルの事情をある程度察しているような気がする。それに2人しかいないはずなのにさっきから誰かに見られているか気配も感じる。守ると言いながらさっそく他人に頼ろうとしているけど……もう一つの方法は最終手段だ。

 

「……その、ね……手を繋いで連れて行って……キラの事を信じてるけど……それでも怖いの……」

 

「わかったよ。行こうか、シャル」

 

「……うん……」

 

彼女がぎゅっと強く手を握ってきたのはこれからの不安や居場所を求めているからだ。それが今の僕にとっても堪らなく重く感じる……だけど、目の前の助けを求めている手を離すなんて二度と嫌なんだ。人の理想、業や望みを背負っている最高のコーディネイターなら……シャルの願いを叶えて見せろ。

 

「……キラ……」

 

「大丈夫だよ。……絶対に何があっても君の事を守るから」

 

目的地である生徒会まで辿り着く。案の定生徒会室の電気はついていてその先にきっとあの人が待っているのだと分かる。もしもの時に備えてストライクは持ってきた……そうなった時は迷う理由なんてない。最後にシャルに確認してコクリと小さく頷いて僕は生徒会室の扉を開ける。

 

「――――あらあら、ちゃんとノックしないで入らないのは駄目じゃない。ねえっ、シャルロット・デュノアちゃんにキラ・ヤマト君?」

 

「……っ……」

 

昼休みの時のように笑って迎えてくれる更識会長ではあるけど、その目は笑っておらず僕らを見定めるかのように見ている。シャルは声を詰まらせ僕の手を強く握り、今すぐにでもこの場から離れたいのを堪えてくれる。

 

「それについては謝ります……でも、更識さんは僕らが来るのを分かっていたからこの場所にいたんですよね?」

 

「ふふっ、たまたまかも知れないわよ?新しく生徒会のメンバーが増えたわけだし、それについての新しい書類とか作っていた可能性だってあるわ。……それにしても、一瞬本当の君か疑っちゃったわ。だって朝の時に比べれば見違えるぐらいに顔つきが違うもの。あんなに今すぐにでも死にたそうにしていたんだもんねぇ?タイミング的には意識を失った時に何かあったのかしら?」

 

「今だってそれは変わってませんよ……」

 

「……キラっ……」

 

心配してくれるシャルに僕は微笑んで、真っ直ぐと更識会長を見る。今だってそれは変わらない。僕が生きている理由、生き残ってしまった理由を見つけたわけじゃない。まだ心の何処かでは死にたいのだと思っている……でも、それでも――――

 

「――――約束したんです。苦しくても、悲しくても、つらくても生きるんだって……彼女の分まで生きるんだって。その先に答えがなくても、意味がなくても……もう逃げない、そう決めたんです」

 

「約束ね……キラ君がそう思うきっかけを作ったのが誰なのかは分からないけど、君の強さの理由が少しだけわかった気がするわ。迷いがなくて真っ直ぐと見てくる今のキラ君はとっても私好みよ?」

 

「こんな時でも冗談を言わないでくださいよ……」

 

「あらら、冗談なんかじゃなかったんだけど……それじゃあ、キラ君からのお願いを聞こうかしら?」

 

「彼女を、シャルを助ける為に力を貸してください……貴女はそれをできる力がある、そうですよね?」

 

扇子を開き怪しげに笑う更識会長を真っ直ぐと見つめる。この人は今僕のことを見極めているんだ。目を逸らしてしまえばこの話はなかったのにされるだろう、本能的にそれを理解してしまう。そして扇子をピシャリと扇子を閉じ、ニッコリと微笑みながらゆっくりと口を開く。

 

「ええ、キラ君のその覚悟に免じて手を貸しましょう。対暗部用暗部17代目当主である私、更識楯無が貴方達に協力します」

 

「ほん、とうですか……っ?」

 

「本当よ、シャルロットちゃん。だからそんなに不安そうな顔をしないで?貴女を怖がらせるとすぐ近くにいるキラ君に睨まれちゃうのよ。……ところで、これってカウントに入ってるからね?そこは忘れないように、キラ君」

 

「……はい、分かっています」

 

初めから取引で手に入れていたカードは切るつもりだった。時折見せるこの人の雰囲気はただ生徒会長とは思えない時がある……多分、この人は裏側の人間なんだと思う。

 

「それとですけど……多分僕の部屋につけてるカメラとかもあとで外しておいてくださいね」

 

「……なんのことかお姉さんわからないかなー」

 

「さっきハッキリと僕が意識を失ったのを言ったじゃないですか……あの時に設置をしたんですよね。あの事を今すぐ報告してきますよ」

 

「うぐっ……それを持ち出してくるのは卑怯じゃないっ?あの時はお姉さんと2人だけの秘密にするって約束じゃない……」

 

「そんな約束はした覚えはありませんよ……まず、それをした貴女の自業自得じゃないですか……」

 

2度と無断で部屋に入ってくること、そして2度とあんな事をしないでくれと約束した覚えはあるけど、あの日のことを誰にも言わないだなんて約束した覚えはない。最悪は本当に織斑先生、更識さん、布仏さんの3人に報告するつもりだ。

 

「コホン……君たち2人が部屋で何を話していたのかは知っているから説明は不要よ。そして、なによりシャルロットちゃんに直接聞けるようになったのは私としても好都合だしね。……ところで、シャルロットちゃんはその秘書の人の名前は覚えてる?」

 

「は、はい……確か、イリス・マドレットだったと思います……」

 

「そのイリス・マドレットって名乗っている女性はこんな見た目じゃなかった?」

 

「髪の色とかは違いますけど……はい、この写真通りの人だと思います……」

 

更識会長は一枚の写真をシャルに見せる。1人の女性の写真でそれがどうしたんだろうと思うけど、シャルが頷いたことによりある事の確信を持てたのか、彼女は満足そうに笑みを浮かべる。

 

「やっぱり直接会ったことがあるシャルロットちゃんがいると調査してきた分が一瞬で確信になるから助かっちゃう。今回の黒幕を簡単に見つけたわよ?……キラ君は絶対に知らないとして、シャルロットちゃんは知ってる?亡国機業(ファントムタスク)って組織を」

 

「……名前ぐらいなら。でもそれって都市伝説か何かだって……」

 

「ところが実在している組織なのよねぇ。そしてシャルロットちゃんにさっき見せた写真の人なんだけど………イリス・マドレットは偽名で、亡国機業(ファントムタスク)の1人でオータムが本当の名前よ。……一度でも彼女以外から連絡はあったかしら?」

 

「……ない、です……全部あの人からの連絡でした……」

 

「でしょうね。最近は専用機が狙われている事件があったでしょう?犯人は不明だって言われてるけど、それの黒幕が亡国機業(ファントムタスク)なの。……デュノア社は前から専用機持ちがいるって噂があったから、それが事実かどうかを確認する為にも潜伏したんでしょうね」

 

「そ、それじゃあ私は……っ」

 

「利用されたのよ。運が良ければ男性操縦者である2人からデータを盗める事ができれば上々……まっ、それが失敗したとしても、いずれそれを直接報告するだろうシャルロットちゃんから専用機を奪えばいい話だもの」

 

専用機持ちである自身が狙われ、利用されていたという真実にシャルは力が抜けるようにその場に崩れそうになるが何とか支える。……やっぱり、この世界でも心のない人たちがいるんだ。

 

「さて、流石のキラ君も自分が今どれだけ危ないことに関与しようとしているぐらいはわかるでしょ?もう一度聞くけど……覚悟はある?」

 

「……覚悟ならあります。大切な友達をもう失いたくないんです……だから、守るために僕は戦います」

 

「ふふっ、百点満点の回答ね。それならキラ君にはちょっと危ない綱渡りをしてもらうことになるわ。君がシャルロットちゃんを守るなら、私が君を守るから安心してちょうだいな。今日はもう遅いし、この事はまた後日話をしましょう?ほらほら、消灯時間になる前に部屋に戻らないと怖い人に頭を叩かれるわよー」

 

その怖い人で頭を叩く人って間違いなく織斑先生のことなんじゃ……実はこの話を切り上げたのってそれが嫌だからとかじゃないよね?生徒会室を後にしシャルを部屋まで送ることにする。

 

「……私は、ここにいていいんだよねっ?」

 

「当たり前じゃないか。シャルはここにいていいんだよ」

 

「……そっか、私はいていいんだ……ありがとう、私のことを守るって言ってくれて。とっても嬉しかった……また明日、おやすみキラ」

 

「おやすみ、シャル」

 

名残惜しそうだけど小さく手を振ってシャルは自室へと入る。彼女が無事に自室へと入った姿に安心したのか、ふっと体の力が抜けてそのまま床へと倒れそうになる時に誰かが体を支えてくれる。

 

「――――なーにが、もう放っておいていいかしらぁ?今すぐにでも倒れそうな、キラ・ヤマトさんっ?」

 

「り、鈴……っ!?」

 

倒れそうなところを支えてくれたのはニコニコと目が笑っていない鈴だった。明らかに怒っているオーラを出していて今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られるけど体の方は思うように動かない。

 

「言われた通りに少しでも放っておいたら、この始末とか怒るのも通り越して呆れるわよ。後々冷静に考えたら、やっぱりアンタを放っておくとかできないに決まってるでしょ」

 

「い、いや、でも……」

 

「あー、もうっ!見てないと心配だからやらせろって言ってるのっ!!アタシはキラの事情とかは確かに知らないけど……それでも、生きている意味が分からないってアンタのことを放っておけるわけないでしょうがっ!!」

 

「……い、いつ、それを聞いたの……っ?」

 

「……前に弾の家に遊びに行った時よ。初対面の厳さんに呼び止められた時に何かあったと思ったから心配で戻ったその時に聞いたのよ」

 

黙ってて悪かったわねっと気まずそうに目を逸らす。あの時に厳さんの話を聞いていたのなら、今までの鈴が世話を見てくれていたことに納得がいくものがある。……そっか、だから鈴は僕のことを気にしてくれていたのか。

 

「アンタが本当に迷惑だって思ってるのなら面倒は見ないつもりよ。でも、もしそうじゃなかったら……キラの面倒ぐらい見させなさいよ」

 

「それなら鈴が納得するまで見てもらえればいいと思うよ。現に今の僕は支えられていてやっとだから……」

 

「んっ、ありがと……そうね、やっぱりキラには面倒見る人が必要なのよ。アンタにそんな相手ができるまでアタシが世話してやるから安心しなさい」

 

「あ、あははは……」

 

そんな相手を考える余裕はないと言えば彼女がどんな反応をするのか分からないから黙っておく事にしよう。鈴が僕1人でも大丈夫だと納得してもらえないと、彼女が一夏に告白できなかったら僕のせいになってしまう。

 

「……鈴……僕は生きていていいと思うかな……?」

 

「はぁ?そんなの当たり前でしょうが。むしろ、アンタは生きなさいよ。キラがそんな風に考えるようになった原因とか事情は知らないけど……それだけ頑張ってきたアンタが生きてちゃ駄目なんて理不尽よ。頑張ってきたやつが報われないなんてアタシは許せない。もし、そんなことを言ってくる奴がいるんだったらアタシに言いなさい……その時はアンタの分までぶん殴ってやるんだから」

 

「……あはは……鈴は頼もしくて、そして厳しいね……」

 

「甘やかすだけじゃないのよ、アタシは」

 

彼女だけではなく鈴も生きろと口にする。それが一番つらくて……それでいて僕は生きていてもいいのだと嬉しさが込み上げてくる。幸せだなんて考えることはまだできないけど……それでも逃げることだけはもうやめよう。

 

「ところで、アンタ今日の夕食は食べたわけ?」

 

「…………まだ、だね」

 

「ふーん……今度放っておけとか言ったらその時は次からグーで殴るから」

 

「……流石にそれは理不尽じゃないかな?」

 

「女の子からの可愛いグーパンだなんて笑って見逃しなさいよ、馬鹿」

 

鈴に支えられる形でゆっくりと自室へと戻ることにする。彼女から酷く理不尽な事を言われているけど……それでも彼女が楽しそうにしている姿を見れてつられて僕も笑ってしまう。





アレがキラ君の夢か、それとも誰かの介入なのかは想像にお任せしますよ()まぁ、ストライクのコックピットにいたんだから夢でしょう()精神バキバキ壊れたのにこれぐらいで一気に回復した事についてはバフ&呪い付けられたと思ってください。

ちなみに偽名云々は完全に適当に思いついた事なので特に意味はないです(真顔)そして、シャルロットちゃんをどうにかする回ですね。ここら辺は私にはこれぐらいが限界ですよ……多分次は一気に飛ばしてトーナメント前まではいくんじゃないかな……?多分ですけどネ!!

誤字&脱字報告いつもありがとうございますっ!!感想もとても励みになっておりますっ!次回の更新は未定ですが気長にお待ちくださいっ!


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第26話 秘密の共有


fgoの前半ストーリーが想定より早く終わったから投稿です!

ちなみに私がガバしなかったら学年個別トーナメント編は前で終わってるはずなんですよね……あと、私にサブタイルトを求めn((以下略

あと、感想の連投につきましては最後の返信に返しますので何卒よろしくお願いします……。そしてお気に入り約1000人突破ですよ……ありがたや……ありがたや((震え声

あと、ヒロイン候補については2人から3人に増えたと報告します。ハーレムはする気はありませんので…まず生かせる気もしないので……あとヒロインの1人はわしの性癖を信じて。……まず2人は絶対バレてるでしょ((


「ごめんねー?こんな夜遅くに作業をする事になって」

 

「悪く思ってるのなら、もっと早く言ってくださいよ……」

 

学年個別トーナメント前日なのに夜遅くに更識会長と2人で整備室である作業をしていた。流石に明日に備えて早めに寝ようとしていたところをまるでタイミングを見計らっていたかのように、突然と押しかけてきてある理由で整備室へと連行された。

 

「放課後は整備室に人がいるから、ゆっくりと作業ができないもの。君のISのデータを見られる可能性を考慮したらどうしても夜しかなかったのよね」

 

「……それは確かにそうですけど」

 

「それに、私と夜分遅くに整備室で2人きりよ?夜更かしする事にはなるけどちょっとしたご褒美にはなるじゃない」

 

「別段そう思っていませんけど……」

 

「えー、そんなはっきりと言わなくていいじゃない。……今の私って部屋着よ?それなのにキラ君はなーんにも感想をくれないじゃない」

 

面白くなさそうに拗ねる更識会長の姿を見て、シャルの件を話を聞いてくれた人と同一人物なのかと疑いたくなる。実際彼女は気軽な格好になっていて正直目のやり場に困る。更識会長のことをそんな風に見る気は湧かないけれど……単純に視界に入っただけでも揶揄ってきそうなのがこの人だし。

 

「はい、少し休憩にしましょうか。ディスプレイをずっと見ていて疲れてきたでしょ?水分補給だってやらないとね」

 

「水ありがとうございます。……別に先に部屋に戻ってもいいんですよ?時間がかかる可能性だってありますし……まず更識会長は朝早いと思いますから」

 

「気遣いありがとう。けど、発案者の私が君を置いて先に部屋に戻るとか普通に罪悪感を感じるのよ。一応夜に整備室を使う事の許可は生徒会長としてもぎとってはきたけど、キラ君1人にした場合はそれが無効になる可能性が高いのよね。だから見回りの際に、夜分遅くに整備室で何をしていたのか説明を求められた時の事を考えると私はいた方がいいのよ」

 

更識会長がそう言うのならその通りにした方がいいのかな……?確かに夜遅くに整備室で1人で作業しているのを見られたら止められてしまうのは間違いないだろう。そう考えると確かに更識会長がいた方がいいか。

 

「ちなみに君がこの世界の人間ではないって事はどれぐらいの人が把握してるの?今までの様子を考えれば織斑先生は知ってるのは間違いないと思ってるけど」

 

「あとは山田先生だけですよ。織斑先生、山田先生、それと更識会長の3人にしか話していません。……簡単に話せる内容ではありませんし、仮に言ったところで信じてもらえないのが普通なので……」

 

「まぁ、誰だって突然異なる世界の人間だって言われても信じることなんてできないわよねぇ……そういえば無人機が襲来する少し前にアリーナの遮断エネルギーが突破された事があったりしたんだけど、それって君は何か関係したりする?」

 

「…………えっと、それは僕が原因です……織斑先生が言うには墜落するように遮断シールドを突破したらしいので……その時は意識を失ってましたから実感はなかったんですけど……」

 

その話題を出されれば気まずくなって目を背ける。やっぱ遮断シールドを突破した事ってかなりマズい事だったのではっと冷や汗が流れる。更識会長はそんな僕のことを察してか弁償することなんてはないと教えてくれた事にほっと安堵する。

 

「……すみません、相談したい事があるんですけどいいですか……?」

 

「私に相談?可愛い後輩である君からの相談なら全然welcomeよ」

 

「……その、今度の学年個別トーナメントで箒さんに果たし合いを申し込まれて……それでどうしたらいいのか分からなくて……彼女と戦う理由なんて僕にはありませんし……それにまた友達と戦うなんて僕は嫌なんです……」

 

「またってことは前にも君は友達と戦ったことがあるってことよね?それって今回のような模擬戦に近いようなものじゃなかったの?」

 

「……僕の世界はこの世界のように平和ではありませんでしたから。戦争の最中に、親友と会って……そのまま戦ったんです……」

 

「そんな過酷な経験をした君からすれば友達の箒ちゃんとは戦う事自体が嫌ってことなのね。……ねえ、キラ君は戦争に参加していたって事はつまり……」

 

「…………更識会長の考えている通りです……僕は人の命をこの手で何度も奪いました……」

 

友達を、大切な人を守るためには仕方がなかったのだと被害者のように言い訳などできるわけがない。どんな理由があっても人の命を奪ってしまったのだから立派な加害者なんだ。自身が人殺しなのだと白状し、更識会長の口からどんな言葉を投げかけられるのかと恐怖が襲ってくる。だけど想像してた事ではなくその逆で、そっと優しく手を触れられる感覚だった。

 

「……更識、会長……っ?」

 

「ふふっ、そんなに驚いた顔をしちゃって。私が君の手を取るだなんて予想外だったかしら?……この世界に来てその事を打ち明けられなくて苦しかったでしょ。君の中にある苦しみや痛みを私は共有はできないけど……誰かを殺めた後悔の痛みならちょっとだけ共感はできるわ」

 

「……更識会長もあるんですか……その、誰かを殺めることになったことが……?」

 

「前に私が対暗部用暗部だって言ったでしょ?そのお仕事って要するにお偉いさんを狙う悪い人や、各国に所属する裏組織への対応するのがメインなの。だからその時にこの手で殺めるだなんてこともあるわ……更識家はそんな家系なのよ」

 

「……更識会長は嫌じゃないんですか……?今だって、その、それを続けてるんですよね……?」

 

「そうね……ハッキリと言えば嫌よ。当主の名を引き継いだ以上は覚悟は決めているけど、それでも憂鬱になっちゃう時だってあるもの。……だけどね、私がやらないとこんな事を簪ちゃんがやらないといけなくなる。あの子には更識家の呪縛なんて関係なくごく普通に過ごしてほしいから……そのためだったらお姉さんは幾らでも頑張れるのよ」

 

誤魔化すこともなく更識会長の本心を初めて聞いたような気がした。妹である更識さんの為なら幾らでも頑張れると言ったこの人は心の奥底から強い人なのだとそう思う。……最近やっと逃げないのだと決心をした僕とは違う。

 

「ねえ、キラ君は何のために戦い続けたの?戦場の中で親友と再会したのに……それでも君が戦う道を選んだ理由をお姉さんは知りたいな」

 

「……守りたい人たちが、友達がいたんです……だから僕は戦いました……」

 

「そっか……友達を守るためにキラ君は武器を手に取った、相手が親友だったとしても。友達を守るために戦い続けた君ならこの世界でも友達を守るために戦うのは必然か……箒ちゃんと戦う事は避けられないと思うけど、その想いを彼女にぶつけてきなさい。そうしたら、きっと彼女だって納得するはずだと思うわ。友達の為に戦うだなんて簡単そうに見えて本当はとっても難しいことだから」

 

「……はい。ありがとうございます、相談に乗ってもらえて……」

 

「ふふっ、いいのよ。相談してくれるって事はキラ君に信用してもらえてきてるって証拠だから。それにしても前の世界で君は軍人だったのね、強い理由にも納得しちゃったわ」

 

「……軍人だったよりもそうなってしまったって言った方が正しいのかも知れません……」

 

「……なにかすごーく含みのある言い方よ、それ。軍人だから戦争に参加して戦ったんじゃないの?」

 

「……戦争に巻き込まれて、そのまま流れで戦う事になってしまったというか……今はもうなくなりましたけど元は工業カレッジに通ってただけなので……」

 

「……つまり本当は軍人じゃなくて元はただの民間人だったってこと。民間人を守るのが軍隊の役目なのにそれができないどころか、民間人である君を戦わせるなんて頭が痛くなる話だわ……」

 

「……その、僕にも責任がありますから……非常事態ではありましたけど、ストライクのOSを自分用に書き換えることもしましたし……」

 

「……ちなみにストライクって、君の専用機になっているストライクのこと?」

 

「はい、ストライクは僕の世界では兵器の一つでしたから。……今はISのサイズになっていますけど、元はMSといって有人操縦式の人型機動兵器でもっと大きかったので……」

 

「君の専用機も元は戦争で扱っていた兵器の一つだってことか……ISとしてではなく君の世界の兵器として考えれば、ストライカーパックの各戦況に適して換装できるのは強みになる。もちろんストライカーパックを持ち運ぶことができる環境も揃っているはずだから……兵器として考えれば間違いなく優秀よね」

 

戦争に巻き込まれた事を話すとなると必然的にストライクが僕の世界では兵器だということも話すことになる。ストライクのストライカーパックの有り難みは自身が一番身に染みている。フリーダムに搭乗する前の戦闘はきっとストライクじゃなかったら乗り越える事はできなかっただろう。

 

「……民間人だったのに戦争に巻き込まれて、友達の為に戦ってたのにそれでいて親友と戦う事になる……キラ君ってそういった星の下に生まれてたりしてない?」

 

「…………否定はできません」

 

自身の出生のこと、そしてこの世界に来てしまった事を考えたら否定なんてできなかった。人々の理想として造られたのなら遅かれ早かれ大きな出来事に巻き込まれるのは必然だったのかも知れない……それがどのようなことであっても。

 

「改竄したストライクのデータを餌にして確実にオータムを誘き出す作戦は変更した方が良さそうね。奪わせるつもりなんてないけどもしもって可能性はあるしね……元々危険な賭けではあったから変更する理由ができてちょうど良かったとしましょう」

 

「……ですけど、これ以外はシャルロットの方に大きく負担がかかってしまうんですよね?」

 

「……どうしてもね。怪しまれないように接触についてはどうしてもシャルロットちゃんに任せる事になっちゃうから、彼女の身の危険も下げる意味も含めて先の作戦でもあったんだけど――――」

 

「……それでしたらこのままさっきの作戦通りでいきましょう。少しでも彼女の身の安全が高い方でお願いします。もし、ストライクのデータの奪われたその時は僕が責任を取ります……だから、お願いします……」

 

「……わかったわ。ふふっ、その時は共犯者である私も責任を取るとしましょう。データの改竄はPS装甲を念入りにして、ストライカーパックの方は改竄しなくて大丈夫よ」

 

「……ストライカーパックも改竄した方がいいと思いけど……」

 

「開き直ってもう一つの方にも賭けようと思うの。武装強化も含めて、ストライカーパックの事はキラ君も喉から手が出るほど欲しいでしょ?確率はすごく低いけど運がよかったら、そのストライカーパックが手に入るかもよ?」

 

「は、はぁ……?」

 

ストライカーパックが手に入るのは確かに願ってもない事なんだけど……もう一つの方に賭けるという意味はイマイチ分からない。けど、更識会長の言う通りPS装甲のデータ改竄を念入りにしておこう。休憩も終わり再度ディスプレイと睨み合っていると背中越しから優しく抱きしめられる。

 

「……今まできっと君は無理をしてでも戦ってきたと思うけどこの世界ではそうしなくていいのよ。お姉さんが守るから、君のことも一夏君たちのことも」

 

「……それだと更識会長の事を誰が守るんですか?」

 

「ふふっ、私のことも気にしてくれるなんて本当に優しいのね。生徒会長はIS学園では最強でなくてはならない、だから私のことは気にしなくて大丈夫よ。キラ君のその優しさは私以外に向けてあげなさいな」

 

更識会長はそう言っているけど僅かに声を弾ませているのは気のせいなのだろうか?更識会長の実力については分からないけど……もしもその時は彼女事を誰が守るのだろうか?誰もいないのならそれなら――――

 

「手も止まっているし、その顔は余計な事を考えているわねー?ほらほら、キラ君が頑張らないと私たちは眠ることができないのよー?」

 

「そ、そのわかりましたから……そろそろ離れてくれる方が助かるんですけど……あっ、えっと……」

 

「ふふっ、お姉さんははっきり言ってくれないとわからないかなー?キラ君の困っている顔を間近で見れるから私としてはとっても楽しかったりするわ。ほーら、もう少しで終わりそうだから頑張りなさいな」

 

更識会長がわざとやっているのは分かっているけど結局どうすればいいのか分からずそのまま続ける事にする。時折耳元で囁いてくるのと背中から感じる柔らかい感触が原因で思うように集中できず結局長引いてしまうのだった――――

 

◇◇◇

 

 

「――――ねぇ、流石のキラでも今日がなんの日かぐらいかはわかってるわよねぇ?ほら、なんの日かはっきりと自分の口で答えてみなさい」

 

「…………が、学年個別トーナメントかなっ?」

 

「ちゃーんと今日が何の日かを覚えているのは褒めてあげる。……それなのに全く睡眠をとってないとかどういうことよ、このアホっ!!」

 

「そ、そのどうしてもやらないといけない事があって……」

 

「それが大切な事なのはアンタの様子を見れば分かるけど、限度ってのを知りなさいよっ!!部屋の鍵は相変わらず閉め忘れてるし、それで中に入ればベットの上じゃなくて床の上で寝てたしっ!!何かあったと思って心配して近づいたら普通に寝ていただけだしっ!!心配したアタシが馬鹿みたいじゃないっ!!」

 

「ご、ごめん……」

 

ご立腹である鈴に謝るという選択肢しかなかった。データ改竄が終わるまで更識会長はずっとあの体勢でいた事もあって、精神的にも疲弊していて自室についてからはベットに行くまでも億劫になりそのまま倒れるように寝たのだ。……今日起こされ方が過去最高に雑だったのはそれが原因だと思うんだ……。

 

「アタシと同棲してた時より酷くなってない?今日は見逃してあげるけど次はないのを覚えておきなさいよ。次は千冬さんに報告だってのを忘れるんじゃないわよっ!」

 

「き、気をつけるよ……」

 

「気をつけるっ、じゃなくて以後しないようにするのよっ!……朝から不健康極まりないけど栄養ドリンクでも飲んで気合いと元気を注入しときなさいっ!朝食を食べた後はすぐ誘導とか細かい準備とかしないといけないんだからっ!!」

 

鈴から手渡されたのは栄養ドリンクだった。……まぁ、これを朝食と一緒に摂取するのは間違いなく健康面を考えると最悪だよね。日常的にも健康とかに口酸っぱい鈴からこれを渡されるなんて流石にまずい気がするよ……。

 

「2人ともおは――――ってキラ、朝から栄養ドリンク……?」

 

「ほらっ!普段温厚なシャルロットでもちょっと困惑しちゃってるじゃないっ!わかるっ、これが普通の反応だからねっ!!」

 

「ちょ、ちょっと驚いただけだからねっ!?今日は一日大変だから朝から栄養ドリンクを飲んでてもおかしくはないと思うかな!」

 

わたふたとフォローをしてくれるシャルの優しさが余計に心に刺さる。この栄養ドリンクを飲まない方がいいのではっと密かに思ってるけど、飲まなかったら無理矢理鈴から飲まされる未来が見えているんだよね。

 

「そういえば一夏の姿が見えないけど……」

 

「一夏ならとっくの前に起きて、箒とセシリアに連行されてったわよ。貴重な男手なんだら力仕事メインに他の女子にも頼まれてた。だからキラもサッサと朝食を食べる、その後はアタシと会場準備の手伝いに行くわよ」

 

「それなら私がキラと一緒にいるよ。鈴は一夏の方を手伝ってきてあげたらいいんじゃないかな」

 

「…………一瞬シャルロットに全部任せようとは思ったけどやっぱり駄目ね。コイツの場合は前例があるから1人より2人で見たほうが――――」

 

「――――そこの2人には悪いけど今日の会場準備の時は彼にはすでに先約があったりするのよねー」

 

「あっ、更識会長……」

 

更識会長はニコニコと微笑み、いつもの扇子に『先約』と達筆に書いてあった。いや、それよりも先約があるって話は今日初めて聞いたんですけど……昨晩にはそんな話は一切していなかったし。

 

「……キラは本当に自分の意思で生徒会に入ったんでしょうねぇ?」

 

「えっ?う、うん……そうだけど……」

 

「今日初めて対面したけど、この人ってどちらかと言えば悪い意味の方での人たらしじゃないっ!弱音につけ込まれたとかじゃないでしょうねっ!!」

 

「お、落ち着こうよ。その、鈴の気持ちは分からなくはないけど更識生徒会長は悪い人ではないと思うから、ね?」

 

「凰鈴音さんは野生の勘が鋭いのねぇ。だけどその心配は不要よ?キラ君はきちんとした理由で生徒会の一員になってくれたの。それに、無理矢理生徒会に入らせるなんて強硬手段はお姉さん取らないもの」

 

「はぁ?アンタみたいな腹の中で何を企んでるか分からない奴の言葉なんて信用するわけないでしょ。もう生徒会に入った後だからどうしようもできないけど……いいっ?生徒会長だかなんだか知らないけど、キラを利用しようとか考えてるのならはっ倒すわよ」

 

「ふふっ、肝に免じておくわ。ちなみに先約についてはキラ君は見習いでも立派な生徒会の一員なので、生徒会メンバーの1人として働いてもらいます。私の補佐も含めてこれからのお仕事に慣れてもらおうと思ってね」

 

「……ふんっ、今回は案外真っ当な理由ね」

 

「まあまあ、キラも生徒会の1人だからしょうがないよ。私たちは私たちのできることをしよ?」

 

顔色を一つも変えない更識会長を力強く睨んでいる鈴をシャルが宥める。2人がここまで相性が悪いのは驚いたけど性格が真反対であるからだろうか?……まぁ、更識会長は強硬手段は取らないけど手段は割と選ばない人ではあると思うよ。

 

「ところでキラ君は朝から栄養ドリンク飲んでるのはやっぱり昨晩の事で疲れちゃってるからかしら?整備室でキラ君ばかりに負担をかけちゃうことをしちゃったしねぇ……」

 

「……昨晩ですって?」

 

「……それって整備室でキラは更識生徒会長とか2人きりでいたんだよね?」

 

「そうだけど……ただ普通にストラ――――」

 

「そうよ?昨晩は遅くまで彼と私の2人きりで整備室で過ごしたの。お互いの大切なことを曝け出したりましたしね。あの時のキラ君の表情はとっても可愛かったわ……また食べちゃいたくなるぐらいに♪」

 

データの改竄は話せないけど昨晩は普通にストライクの整備をしていたと、話そうとすれば更識会長の手で口を塞がれる。小さく吐息を吐き、薄らと頬を赤くして舌舐めずりする姿は昨晩のことを知っている身としては演技であると一目でわかる。

 

「は、はぁ!?ア、アンタらせ、整備室で何をやってるわけっ!?せ、生徒会のくせに率先して風紀を乱すとか、ば、馬鹿なんじゃないのっ!?生徒会のせいの字を間違ってんじゃないっ!?」

 

「キラ、会場準備が終わったら時間あるかな?その時に少しだけ2人きりで私も大切な話をしたいと思うけど……いいよね?」

 

2人の圧が、特にニコニコと笑っているシャルが何故か恐いよ。2人とも壮大な勘違いをしているようだから訂正をしようにも更識会長がそれを許さないでいる。なんでこの人はわざと2人が勘違いするような言い方をしたのかな……っ!?

 

「はい、そろそろ会場準備と誘導をしに行きましょうか。ほら、栄養ドリンクは行ってる途中の合間に飲んで。そこの2人は後片付け終わったら行ってちょうだいねー」

 

「ちょっ、まだ話は終わってないでしょうがっ!!」

 

「行ってらっしゃい、キラ」

 

引き摺られるように更識会長に連れて行かれる。あとで2人から何をされるのか恐いけど、逃げられる自信は全くないため諦めた方が一番だろう。できれば穏便に終わるといいかな……。

 

「ふふっ、2人とも反応が可愛くてつい揶揄いたくなっちゃうわ。キラ君は後で大変だと思うけど頑張ってねー?」

 

「……分かっているのなら初めからあんな風な言い方やめてくださいよ」

 

「事実ではあるからいいじゃない。お互いの秘密を喋ったことには変わりないんだから。ちなみに一度生徒会室に行くわよ、栄養ドリンクもその合間に飲み干しなさいな」

 

「わかりましたけど……どうして生徒会室に?」

 

「今回の学年個別トーナメントは各国のお偉いさんとか、IS開発のお偉いさんとかが観戦しにくるのよ。そんな中で誰が作ったのか不明なISを持ち、国という確固たる後ろ盾がない子を勧誘しないと思う?」

 

「……ない、ですね」

 

「準備してる時に一々喋りかけてくる可能性が高いから、その場合素直に邪魔されることになるのよねー。キラ君だって目立ちたいわけじゃないと思うし、そのための対策を生徒会室に置いといたから取りに向かってる途中ってこと」

 

用意周到なのは凄く助かるんですけど、なにか嫌な予感を感じてしまう。現に何か企んでいるのか怪しげな表情を浮かべているし……目的地である生徒会室まで辿り着き先に入った更識会長の後を恐る恐る入室する。

 

「はい、キラ君はこれに着替えること。対策として一番手っ取り早いのは周りの景色に溶け込むことだから、ね?」

 

「あ、あの……これって……つまり、そういうことですか……?」

 

「そういうこと♪キラ君って中性的な顔だからバレないから大丈夫よ。ちゃんとお姉さんもフォローするから、ほら早く着替えないと私が着替えさせるわよー?」

 

(…………アスラン……僕は、ある意味大切なものを失くしそうだよ……)

 

愉快そうに笑っている更識会長の手には女性用の制服とウイッグがそこにはあった。それが一番効率が良いと言われれば納得しかけたけど……感情的には別というか……目の前の絶対に逃げることのできない問題には諦めるしかなかった――――

 

◇◇◇

 

カガリ(・・・)ちゃん。少し休みましょうか」

 

「……そうですね」

 

「そう拗ねないでちょうだいな。現に怪しまれず会場準備と誘導はできてるでしょ?」

 

面白そうに笑っている更識会長を死んだような目で睨むけど、彼女はどこ吹く風でそれを受け流す。実際1人のIS学園の女子生徒として周りと溶け込んでいるのは事実でありそれが余計に心折れそうになるんだけど……。ちなみにカガリと呼ばれている理由は単純にカガリの名前を咄嗟に思いついたからだ……ごめん、カガリ。

 

「それにしても本当に似合ってるわね。少し話すぐらいなら怪しまれないんじゃないかしら。今後もたまーにカガリちゃんとして活動しちゃう?」

 

「……絶対に嫌ですからね。この格好は本当に今回だけですよ……」

 

「あら、それは残念だわ。…………うーん、それにしても今の君の姿見てると誰かに似ている気がするのよねぇ。誰だったかしら……」

 

「他人の空似だって別に珍しいことじゃないと思いますよ……ましてやこんな姿しているんですから……」

 

この世界に来て女装させられるなんて……みんなにこんな姿を見られたら当分自室に引き篭もる自信はある。なんならストライクを使ってでも引き篭もるよ……。今だに女装している僕の姿とその誰かを思い出そうとしている更識会長はとりあえず放っておくとして再度仕事に戻るとする。

 

「――――すみません、観客席がどちらにあるか教えてもらってよろしいでしょうか?」

 

「観客席ですか?それならこの看板に従って歩いてもらえれば――――」

 

「――――ちょっと、そこのアンタ。キラがどこにいるか知らない?そろそろアイツはトーナメントの準備をしないといけないから今探し――――」

 

誰かに類似している流れるような銀髪と白と黒のドレスに近い服に身を包んだ1人の少女に声をかけられて、観客席まで案内しようとすると鈴に声をかけられピタリと彼女は止まる。観客席を聞いた少女はキョトンと首を傾げるけど、鈴の表情は何かを察したのかニマニマと面白い玩具を見つけたような表情だった。

 

「アンタってそんな趣味があったわけではないわよね……へー、ふーん、案外似合ってるじゃない」

 

「……だ、誰かと勘違いしてるんじゃないか、お前?わ、私はカガリだぞ……」

 

「か、カガリねぇ?くふっ……カガリちゃんも学年個別トーナメントの準備をしてくれば?この子の誘導はアタシに任せなさい」

 

「……そ、そうさせてもらうよ……」

 

ニヤけている鈴から逃げるようにその場から去る。学年個別トーナメントの準備以前に羞恥心でこれ以上は耐えきれないよ……まず生徒会室で着替えないと――――

 

「あー、カガリちゃんはもう準備に行ったのかしら?」

 

「なーにがカガリちゃんよ。なによ?アイツに用でもあったわけ?」

 

「用事というより彼に似ていた人を思い出したのよ。さっきの姿は前に先代と話していた人ととっても似ていたから……そう、名前は確か――――」

 

◇◇◇

 

 

『よかったのかしら?例の少年はイベントにはエントリーしていたらしいわよ。てっきり日本に戻ってくると思っていたけど』

 

「彼がエントリーしているのならば結果は決まったものだよ。初めから結末が決まっているのならば観戦などする必要もないさ」

 

『それは貴方は彼が優勝するのだと確信を持っているからかしら?』

 

「当然だとも。彼からすれば茶番にも思える行事には本気を出すこともなく優勝することができるだろう。私としてもそれぐらいで苦戦してもらっては困るというものだ」

 

『……あんな子供が貴方とほぼ互角に戦い、ましては貴方に勝利しただなんて未だに信じられないけど』

 

「人を見かけで判断してはならないということさ。私が彼に一度敗れたのは単純な話さ……あの少年には人類の理想、そして人類の業を背負っている。数多なる人の理想の前では、命さえも己の財力で買えるなどと驕っていた1人の男の出来損ないでは負けるのは必然であったのだよ」

 

彼が人類の夢と理想そして業を背負い生まれた存在であると知っているこの男からすれば自身が敗れたのもまた必然に過ぎなかった。愉快そうに笑う男に通話越しからでも不気味さを女は感じるが彼の実力は折り紙付きであり切り捨てるという選択肢はない。

 

『……それで?きちんと仕事の方は終わったのかしら?』

 

「贈り物を届けるぐらいは造作もないさ。あとは米軍に潜入している君らの仲間たちがきちんと任務を達成するかどうかだよ。……さて、私もそろそろ人と会う約束をしていてね、一度通話を切らせてもらうよ。人探しの件について感謝している。……だから私からも一つだけ助力をしておこう」

 

『助力……?』

 

「少年――――キラ・ヤマトを手に入れたいなど欲をかかないことだ。彼はもっとも優先して仕留めるべき敵だと思いたまえ。所詮子供だと侮っていればやがて組織がなくなるかもしれないぞ?」

 

男は忠告はしたと一方的に通話を切る。男にとってこの世界で最優先に仕留めるべき相手は、世界を歪ませた“天災“でもなく、実質世界最強の座へと今だに君臨しているブリュンヒルデでもない……この世界に流れ着く前に死闘を繰り広げ、人の愚かさを知りながらも、人の可能性を信じ守りたい世界があるのだと己を討った1人の少年だ。

 

(……世界が変わろうと所詮人は変わらないのだよ、キラ君。君が愚かな人類を信じるというのならば、私はそれを否定しよう。そして再度問おうではないか……君の守るべき世界が本当にあるのかと。これは、この世界で再度君がいると知れた贈り物だよ)

 

お世辞にも裕福とは思えずひっそりと佇むある一軒家のブザーを押す。男はこの家に誰が住んでいるのか情報を手に入れた故にこの場に来たのだ。それが己自身と少年にとって重要な人物なのだから。

 

「……あの、どちら様でしょうか?」

 

「初めましてと言うべきですかな――――ヴィア・ヒビキ殿?」

 

「……っ、どうして貴方はその名前を……っ?」

 

「失敬、自己紹介が遅れましたな。私はラウ・ル・クルーゼ――――アル・ダ・フラガという愚かな男のクローンだと言った方が早いですかな?私はただ貴女と話をしたいのですよ……知りたくないですかな?ご自身の息子についても」

 

男――――ラウ・ル・クルーゼは不気味に笑う。狼狽した様子でありながらも、今でも心残りがあるであろう少年の名を小さく呟く目の前の女性を嘲笑いながら――――





はい、変態仮面は動かないけど、もう1人の方は動きましたよっ!いったいどこのメルヘンウサギなんだ……そして過保護組が新たにランクインしそうですね。過剰戦力に見えるけど、むしろこれぐらい包囲しないと変態仮面は地雷を爆速で投げつけて高笑い爆発するから((

ちなみに最後の人は没にするかどうか最後まで悩みましたけど……だからガバが起きてるけど許してください()

誤字&脱字報告ありがとうございますっ!!いつでもお待ちしておりますっ!感想もいつもありがとうございますっ!!励みになっていて本当にありがたやー……((涙

次回の更新は未定ですが気長にお待ちください!


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第27話 振り払う迷い


……投稿が遅くなったのはfgoをやっている人だと分かってくれるはずなんです……BOXイベはfgoの中でとっても大切なイベントなんだ……だから許してください……だってその後に新章の後半だって配信されたんだよっ。仕方なかったんだ……余談ですが9月まで失踪しようかと思ってた矢先に妖精騎士ランスロットを引き、絵師を知って執筆から逃げられないと悟った作者です((


「――――ごめんっ、遅くなったかな……っ?」

 

「いや、まだ時間は余ってるからセーフだ。生徒会の仕事の方が少し長引いたんだろ?気にするなって」

 

「うん、時間的には全然間に合ってるから気にしなくて大丈夫だよ、キラ」

 

「ええ、時間的には本当にギリギリでしたが……まだトーナメント表は発表されていませんので焦る必要はありませんわ」

 

「セ、セシリアさんにシャルロット……っ?」

 

「あら、わたくしがこの場にいるのに何か問題でも?どうせ後で鈴さんも押しかけてくるはずですわ。……あと、早くシャルロットさんをどうにかしてくださいまし」

 

「あはは、まるで私が怒ってるようにいうのやめてよ。私は少しだけキラに話があるだけだよ?それが終わったらあっちの方の更衣室に戻るから」

 

更衣室に急いで向かえば既に待機していた一夏が出迎えてくれる。そして何故かセシリアさんとシャルがいるんだけど……食堂で会場準備が終わった後に話があると言っていたのを思い出して、ニコニコと笑っているシャルの姿にどっと汗が流れてくる。

 

「一夏、ちょっとキラのことを借りるね?」

 

「お、おう……」

 

一夏からの助力は求められない現実を叩きつけられてしまい、彼女になすすべもなく腕を引かれて一緒に更衣室から出る。本当に話し合いで終わるんだよね?っと内心不安に駆られてしまっているのは許してほしい。

 

「シャ、シャル……?」

 

「別に怒ってないからそんな風に不安そうにしないでよ。夜に整備室で2人きりなのは本当だとは思うけどそれ以上は全部嘘ぐらいなのは分かるよ?……どうして夜に2人きりに整備室に行ったのはすっごく知りたいけど」

 

「……そうする必要があったからとしか今は言えない」

 

「そっか……キラと更識生徒会長がそうする必要があったんだよね?それなら私はそれを深くは聞かないよ」

 

彼女の疑問は僕ではなく更識会長だったら上手く誤魔化しながらも納得のいく答えを言うのだろう。僕はあの人ほど口が達者じゃないのを分かっているから、今言えないのだと誤魔化すのが精々だ。

 

「……この後のことを考えるとね、やっぱり不安なんだ。更識生徒会長やキラが手を貸してくれるのに、それでも怖い……もし失敗したら私はどうなるんだろうって……その時私は――――」

 

「そんな事はさせないよ。どんな時があっても君を守るよ……絶対に」

 

震える体と、不安げに揺らぐ瞳を見せる彼女を落ち着かせるように手を握る。目の前で大切な友達である彼とそして大切な人である彼女を守ることができなかった……もう二度と誰も失いたくないんだ。シャルのことを利用するだけじゃなく、彼女を狙うのだというのなら僕ができる事をするだけだ。……例え僕が力だけだと証明する結果になってしまっても。

 

「私ね、やっぱりキラの事を諦められないよ。私、シャルロット・デュノアは君のことが好き――――大好きです。キラに好きな人がいるのも知ってる……その人がとっても大切な人だってことも……この告白だって困らせてるだけだって……でも、この気持ちだけは偽りたくなかったの」

 

「……僕が言うのもおかしな話だけど、その想いを誤魔化す必要はないと思うよ。僕だってそうだから……どれだけ時間が経っても彼女への想いは忘れる事はない……ううん、忘れたくないんだ」

 

この世界でフレイ・アルスターというありふれた1人の少女を知っているのは僕だけだ。彼女が残してくれたのは思い出しかない……だからそれを忘れたくないんだ。どんな思い出でも何一つ取りこぼしたくない、だってそれが彼女が生きていたのだという唯一の痕跡なのだから。

 

「目の前でそんなこと言われちゃうとその人が羨ましくて嫉妬しちゃうなぁ。……だから君が私に振り向くまでずっとアタックするから覚悟してね?」

 

「……うん、分かったよ」

 

宣戦布告をした彼女は時間だという事もあって反対側の方の更衣室へと戻っていく。彼女の想いは正直に言えば嬉しいけれど彼女の想いは一度答えは出しているものの……受け止め考える余裕はまだない。でも、一つだけ確かなのは……シャルが僕自身の中で大切な人であることには変わらないだろう。

 

「…………ふーん、宣戦布告されてよかったじゃない」

 

「……なにか怒ってない?」

 

「……別に怒ってないわよ。アンタが整備室で女狐としっぽりやろうと、シャルロットにもう一度告白されたのもアタシには関係ない話だし?まっ、弾たちに面白い土産話は最近できたから楽しみにしておけば?カガリちゃんのこともあるしねぇ?」

 

「……お願いだからその土産話だけはやめてもらえないかな。今度会った時にそれで弄られるのは間違いないと思うから……その、僕ができる範囲でなら何でもやるから……」

 

「……言ったわね?言質はとったから後でなかった事にするなんてなしよ?」

 

「……う、うん……約束するよ」

 

「ふふんっ、それなら寛大なアタシは許してあげる。心の奥底から感謝しなさいよねー」

 

弾たちに報告でもされたら何が起きるだなんて容易に想像がつくからこそ鈴を止めれて事にホッと安堵する。僅かながら不機嫌になっていた理由はイマイチ分からないけど……多分、会場準備前の更識会長の件が引きずっていたのだろうか?

 

「ほらほら、キラもサッサっと更衣室に入る。そろそろトーナメント表が発表するんだから。相手が誰かぐらいは流石に把握しておきなさい」

 

「わ、わかったから押さなくてもいいんじゃないかなっ?」

 

「――――さ、流石に少し近くないか?」

 

「――――これぐらいは普通ですわよ。一夏さんの方からも、もっとそばに寄ってくださいな」

 

更衣室に押される形で視界に入ったのは一夏に隣に座りピッタリと密着しているセシリアさんの姿だった。鈴の視界は僕が遮っている形になってるから、彼女がこれを見たらまずいんじゃないか……?そう思うけど時すでに遅しで、結局鈴も2人のやり取りを目撃する。

 

「……へー、一夏もそんな事をする余裕があるって事は優勝なんて当然ってことよね?」

 

(……あっ、これって多分僕も巻き込まれるやつだ……)

 

「……都合の悪いタイミングで入ってきましたわね。こほんっ、鈴さんはなにか勘違いをなさっているのではありませんか?わたくしはただレクチャーをしていただけですわ」

 

「いや、鈴、そのだな――――」

 

「ふんっ、そのままセシリアからレクチャーしてもらえればいいじゃない。アタシはキラの方をレクチャーするからっ!ほら、そこの無関係を装ってはアンタはアタシの隣に座るっ!!」

 

「……いや、ほら、僕は立ってる方が楽だから遠慮するよ」

 

「……なんか勘違いしてるけどこれ命令だから。これの意味分かるわよね?」

 

目に見えて分かる不機嫌な鈴から遠回しに脅されて、恐る恐る隣に彼女の隣に座る事にする。巻き込まれてしまう事については予想はしていたけど……レクチャーするのなら一夏にしてあげるべきだよ……僕は別に必要ないんだから。

 

「……ちなみにアンタ大丈夫なんでしょうね?」

 

「えっ……?」

 

「……ほら、アリーナの時にドイツの女と戦ってる途中で様子がおかしかったからさ。もし、アイツとトーナメントで当たった時は大丈夫なんでしょうね……?」

 

「……どうだろうね。それについては大丈夫だとは言えないかな……」

 

今度はセシリアさんの持つビットがないにしても状況次第では彼女の事を再度あの人だと錯覚し、怒りと憎しみのまま戦う可能性は否定できなかった。今でもあの人がフレイが乗る脱出艇を堕とすのを思い出そうとするだけで自身の中にある黒い感情、彼女を守ることのできなかった後悔や喪失感、自身への怒りと感情が複雑に入り混じる。

 

(……今は彼女の事を考えたら駄目だ……目の前にある問題をどうにかしないと……)

 

箒さんの果たし合いの件、シャルの問題、そしてラウラ・ボーデヴィッヒさんのこともあるんだ。自身の中でいまだ折り合いがついていないのは確かだけど目の前の問題を優先するんだ。思考のリセットと感情を落ち着かせるためにも外に出ようかと思えばISスーツを引っ張られる感覚が襲う。何事かと思って引っ張っているだろう鈴の方を見ればモニターを指をさしていた。

 

「……前に保健室で先に謝るってこのことね。アイツとペアを選ぶとかいったい何を考えてるんだか……」

 

「……彼女と箒さんが相手なのかっ……」

 

一試合目は僕と一夏、相手は箒さんと彼女だった。箒さんが彼女とペアを組んだのはやはり果たし合いの件が理由なのか……っ?冷静に考えれば今回もトーナメント制だから果たし合いの事を考えれば、同学年で一番強いはずのラウラ・ボーデヴィッヒさんと組むのは当たり前じゃないか……っ。

 

「……どうして箒がアイツとペアを組んでるんだ……?」

 

箒さんがラウラ・ボーデヴィッヒさんと組んでいることに驚いているのは一夏も同じだった。彼からしても彼女が今までやってきた事を考えれば、箒さんがペアとして組んでいる事には驚くのには当然の反応だ。

 

「……3人は箒がアイツと組んだ理由は知ってるか?」

 

「……残念ですが一夏さんの疑問に答えることはわたくしにはできませんわ。保健室に先に謝罪した事がこの事であったと気づきましたので……」

 

「悪いけどアタシも同じよ。……キラはどうなのよ?」

 

「……前に箒さんから果たし合いを申し込まれたから……僕と戦うまで勝ち上がる為に彼女と組む事にしたんだと思う……だから僕が原因なんじゃないかな……」

 

「なんでキラに箒が果たし合いを申し込む必要があるんだよ?別にそんな事をする必要なんてどこにもないだろ」

 

「どうでしょうか?箒さんの真意は分かりませんが、彼女がキラさんに決闘を申し込むだけの理由があったのなら不思議だとは思いませんわ。……彼女からなぜ決闘を申し込まれたのかは貴方にも心当たりがあるのではありませんの?」

 

「それ、は……」

 

「――――これ以上コイツから聞き出す必要ないでしょ。箒が果たし合いを申し込んだ理由とか、部外者であるアタシらが知る必要なんてないわよ。わざわざ果たし合いと言ってまでキラに宣戦布告してるわけだから、箒の方も部外者であるアタシらに一々口出しとかしてほしくないんじゃないの?」

 

心当たりがあるのかと問いに答えるか躊躇った時に鈴がつまらなさそうに呟く。鈴の言い分にセシリアさんは怪訝な表情を彼女へと向けていたけど、これ以上は口論になると判断したのか小さくため息を吐きそれ以上は聞いてくる事はなかった。

 

「ほら、アンタらさっさっと準備してくる。それと前にも言ったけど一夏は馬鹿な事を考えるんじゃないわよ。少しでもそんな事考えてるんなら試合の途中でもアンタを蹴り飛ばしにいくからね」

 

「……わかってる。鈴が納得してるんなら仕返しとかするのは筋違いになるってのは。だから、俺はアイツに勝つ為に戦うだけだ。そろそろ、行こうぜキラ」

 

「うん……行こう、一夏」

 

箒さんが何を思い果たし合いを申し込んできたのかは分からない……更識会長は想いをぶつければ納得するはずだと言っていたけどそれが正しいのか不安に駆られてしまう。2人に見送られながら僕らは更衣室を後にした――――

 

◇◇◇

 

「――――ふんっ、臆病者である貴様が逃げずにこの場にいることだけは褒めてやる」

 

「お前それ以上は――――」

 

「――――それ以上私の友を侮辱するというのなら先に貴様へと剣先を向けるぞ」

 

黒いISを見に纏い佇む彼女は見下し蔑む視線で僕を見つめる。冷たい眼光で他者を見下すその姿に一夏は我慢が出来ず口を開こうとするが、その前に彼女の隣にいる箒さんが苛立ちを表に出し彼女を力強く睨む。

 

「……ほう?お前のような素人が私に勝てるとでも?それにお前の親しいものを襲った相手だと分かっていながらパートナーとして組むことを頼み込んできたのは貴様からだろう」

 

「……私はお前がやったことを許しているつもりはない。組む理由もキラと戦うまで勝ち進む必要があったからにすぎん。そうでなければ好き好んで組むものか」

 

「私とて好き好んで素人である貴様と組むものか。所詮は利害が一致したからこそ組んでやっただけにすぎん」

 

「……これは最後の確認だ。私の用事が終わるまであの2人には手を出すな、分かっているだろうな?」

 

「ふんっ、半端者と臆病者など私1人で充分だ。貴様の用事など興味も微塵もない好きにしろ」

 

こっちまで聞こえてくる2人の話の内容はペアとして壊滅的であった。箒さんは彼女の言葉を信用していないのかわざわざ彼女の射線上を遮るように前へと立つ。2人のそんな姿を見たからこそだろうか我慢していた一夏が箒さんへと疑問をぶつける。

 

「箒……どうして、お前がソイツと組んでるんだよ……保健室で組む相手に心当たりがあるってのはソイツのことだったのか……?」

 

「……すまない、一夏……お前の疑問は最もだ。でも、私にはどうしても確認しないといけない事がある……その為にどうしても必要な事だったんだ……だから、今からやることにお前も手を出さないでくれ」

 

一夏への疑問を気まずそうに表情を険しくしながらもハッキリと答える。彼女の視線は僕へと向けられていて、果たし合いを申し込む時点で分かっていたけどそれほど重要な事なんだ。彼女は量産型IS『打鉄』の武装一つ、接近用ブレード『葵』を展開してその剣先を真っ直ぐと向ける。

 

「私が求めるのはただ一つ……本気で戦え、キラ・ヤマト。手加減など必要ない。お前の抱くその力、そして隠している感情を確かめさせてもらうぞ……っ!」

 

「っ……!!」

 

試合開始の合図と共に彼女は愚直に真っ直ぐに向かってくる。彼女から感じるその気迫に僅かにたじろぎ息をつまらせるが即座に『アーマーシュナイダー』を展開して身構える。リーチ差と火力を考えれば『ビームサーベル』が正しいのだと頭では理解していても、友達である彼女に武器を向ける事を考えればどうしても躊躇いがある。『アーマシュナイダー』を2本を頭上に重ね、彼女が振り下ろす接近ブレードを受け止める。本来ならこのまま反撃(カウンター)できるタイミングなのに絶対防御があるとはいえど、人の姿がハッキリと見えてしまえば腕が鉛のように重たくなる。

 

「くっ……!!」

 

「どうしたっ!!きっとお前の強さはこれぐらいではないはずだっ!!お前の本気を見せろと私は言ったはずだっ!!」

 

避けれない速さではないが箒さんの気迫に押され受け止め、受け流すかのどちらかしか出来なかった。それが手を抜かれているのだと判断した彼女の攻撃のペースは更に上がっていく。自身の覚悟はその程度なのかと言われているかのような気がして一撃一撃が実際よりも重く感じる。

 

「お前は何のためにその力を振るうっ!!姉さんと同じ目を、怒りと憎しみを抱いているお前はその感情のままにこれから戦うのかっ!」

 

「……わかってるっ!!怒りと憎しみのままで戦ったらいけないことはよくわかってるよっ!!それじゃあ、苦しくて虚しくて何も生まれないのも変わらないこともっ……!!」

 

「それを知りながらもお前はこれから何のために戦うつもりだっ!!お前のその力はいったい何のために使うのだ!!」

 

「……戦わなくていいのなら戦いたくないっ!でも、戦わないと守れないものがあるのはわかっているからっ!!だから僕は、大切な人を、友達を守るために戦う……っ!!もう嫌なんだ……っ!!目の前の手を掴むことができないのはっ!!

 

「……っ!?」

 

受け止めるのではなく自らの意思で接近用ブレードを力強く弾く。この試合で初めて反撃(カウンター)を返された事に彼女初めは大きく目を見開いていたが、次にはその一撃に込めた感情を読み取った彼女は納得したのか小さく笑みを浮かべる。

 

「……キラは確かに姉さんと同じ目をしたはずなのにこうも違うのだな。ただ、闇雲に力を振るうのではなく……キラは大切な人を、友を守るために戦う……ああ、お前と姉さんは全く違う……すまなかった、私の我儘に事に付き合わせてしまって……」

 

「……ううん、僕の方こそありがとう。箒さんのおかげで、もう一度覚悟を決める事ができたよ。まだ少しだけ心のどこかで迷っていたところもあったから……でも、もう迷わないよ」

 

「少しでも友であるお前の力になれたのなら嬉しいものだ。……私がこのトーナメントでこれ以上剣を振るう理由はない、降参だ」

 

「えっ……?」

 

「い、いやちょっと待てっ!何を言ってるんだ箒はっ!?」

 

「なんだ?降参だと言ったんだ。今回のトーナメントで私はキラのことを確かめるために参加していたのも等しいからな。なにより納得のいく答えを得た、それならば私の戦いはこれで終わりだ。……目的の為に組んだとは言え己の力に酔い、力が全てだと思っている女と共闘など私にはできん」

 

箒さんが苛立ちを隠すこともなく誰のことを指しているのは言わずとも分かる。彼女とのこれ以上肩を並べ戦う気もなく、箒さんは目的を達成した事もある事もあり展開していた武装を解除しようとすると、それと同時に照準が合わされているとストライクから警告を促される。先に動くよりも一夏が箒さんの庇うように前に出て砲撃されるた実弾を雪片弐型で叩き斬る。

 

「――――お前っ!!俺たちを狙うんだったらともかく今は味方の箒を狙うってどういうことだっ!!」

 

「ちっ、余計な邪魔を……私はその女を一度たりとも味方など思ったことはない。余分な邪魔者を排除しようとして何が悪い?敵が1人減るのには貴様らとてありがたい話だと思うが?」

 

「……哀れだな、お前は」

 

「なに……?」

 

「聞こえなかったらもう一度言ってやる。お前が哀れだと言ったんだ……お前は千冬さんから戦い方や心得を教わっているはずだ。それなのに、どうしてお前は気に入らないものをそんな風に力だけで解決しようとする?……千冬さんが闇雲に力を、暴力を振るうことを教えることなど絶対にあり得ないはずなんだがな……ラウラ・ボーデヴィッヒ、お前は本当に千冬さんから教授されたのか?」

 

「貴様……っ!!私が教官から指導されていないだと……っ!?ふざけるなよっ!!疑っているのならその身体に徹底的に叩き込んでやる……っ!!」

 

触れてはいけない一線を踏まれ逆上した彼女は一心乱心にレールカノンを何度も射出するがその度に一夏は冷静に全てを斬り伏せる。それがさも簡単だと言うかのように佇む一夏の姿は更に彼女の神経を逆撫でする。

 

「……一夏、よくそれら全部を切り伏すことができるな……」

 

「こんなの鈴の見えない弾丸や、セシリアの弾けないレーザーライフルに比べたらずっと簡単だろ」

 

「なにぃ……?私が、あの2人に比べて劣ってるとでも貴様は言うのかっ!!」

 

「ああ、鈴とセシリアに比べればお前の攻撃なんか重くも何ともないんだよっ!!こんな暴力だけで全部解決しようとしてるお前の攻撃なんかなっ!!」

 

「……つっ!!貴様っ、きさまぁぁぁぁ!!」

 

ハッキリと彼女の中にある何かが切れる音が聞こえたような気がした。彼女にとって全てである織斑先生に教えてもらったモノをハッキリと否定されたしまったのだ。激情した彼女を止めるためにもビームサーベルを展開して直進し衝突する。

 

「また貴様か……っ!!これで貴様が私の前に立ち塞がるのは3度目だっ!!1度目は奴らで織斑一夏を誘い込む時、2度目はあのようなくだらぬ話し合いの時っ、そして今回は私の力を否定した織斑一夏らを叩き伏せるこの瞬間だっ!!貴様の相手などあの2人を叩きのめした後に幾らでもしてやる……っ、だから今すぐそこをどけっ!!」

 

「どくもんか……っ!!僕が君を止める、止めてみせるっ!!僕にはその責任があるっ!!」

 

「貴様の存在は一番不愉快だ……っ!!私を止める責任があるだと、あの話を聞いておきながらまだそのような戯言をっ!!」

 

「あの話を聞いたから、だからこれ以上君に闇雲に力を振るってほしくないんだっ!!」

 

「似たようなことを何度も言うっ!同情かっ、哀れみかっ!?どっちにしろ貴様のその偽善は聞き飽きたっ!!」

 

邪魔者を排除するように攻撃は苛烈さが増していく。彼女の境遇を知ったらかこそ同情しているのかと問われればそれについてはそうかも知れないとっと否定できない。僕らは同じ造られた存在でも、造られた要因、その過程とその後は大きくかけ離れていた。

 

「力があるからこそ意味があるのだっ!!力を振るうことの何が悪い……っ!力があるからこそ他者は初めて関心を持つのだっ!!いくら貴様とてそれぐらいは理解しているだろうっ!!」

 

「力をただ振るうだけじゃ孤独になるだけなのを何故わからないんだっ!!力があるから人は関心を持つというけどそれは違うよっ……力があっても、なくても人は誰かに惹かれるはずなんだっ!!」

 

「それは貴様らが“当たり前”の存在だからだっ!!私は兵器だっ!!出来損ないと見なされていれば、誰も見向きもしない造られた兵器だっ!!兵器に求められるのは圧倒的な力だ……っ!!」

 

「違う……っ!!確かに僕らは“当たり前”とは違う……でも、それでも君は兵器なんかじゃないっ!!1人の人間だっ!!」

 

「……っ!?なぜ、貴様が教官と同じことを……っ!?」

 

彼女の言う当たり前からは僕や彼女は逸脱している存在だ。彼女が何を求められ造られたのかもわかっている……でも、彼女だって1人の人間なんだ。そこに造られた理由や求められている理由なんて関係ない。彼女には意思があるし何より今を生きている。兵器として認められないだなんてそんなの苦しくて悲しいだけだ……戦いの場で一瞬でも動きが止まるのは命取りだ。だけどこれ以上お互いに戦う必要はないのだと声をかける前に後方から近づいてくる気配を感じる。

 

「――――そこをどいてくれ、キラっ!!」

 

雪片弐型(ゆきひらにがた)は変形してエネルギーの刃を形成しているのを見れば単一仕様(ワンオフアビリティー)である零落白夜(れいらくびゃくや)を展開していた。一夏を止めようにも時すでに遅しで一夏の攻撃が彼女へと直撃する。当たりさえすれば相手のシールドエネルギーを確実に0にする一撃が入ったという事はこの戦いは終わる――――そのはずだった。

 

「……負けてたまるか……っ……貴様らなどに負けてなどなるものかぁぁぁ!!」

 

「……なっ!?」

 

「っ……!?一夏っ!!」

 

現実から背けるように悲痛に叫びながら腕を薙ぎ払う直前にかろうじて一夏を後方へと引っ張るが、無防備になってしまいその一撃を防ぐ手段はなくアリーナの壁まで吹き飛ばされる。PS装甲作動していながらも、それすらも紙屑のように斬り伏せられたかのような錯覚に陥る重く鋭い一撃。何が起きたのかと確かめるために彼女へと視線を向ければ目を見開く光景がそこにはあった。

 

「……あれは、いったい……っ?」

 

彼女が纏っていたISを覆い被さるように黒い何かが全身を包んでいく。見たこともない現象に理解が追いつかないが、彼女を呑み込んでいる黒い何かは危険な代物であると本能的に理解する。彼女のISは見る影もなくなりISに酷似したものがその場に誕生する。

 

『――――搭乗者の戦闘不能を感知、及び搭乗者の意思によりVTシステム起動。この場にいる敵反応は3機。これまでの戦闘データによる最優先に殲滅すべき対象を選別――――型式番号GAT-X105……STRIKE、そしてそのパイロットを最優先に殲滅する』

 

ラウラ・ボーデヴィッヒさんとISごと呑み込み、生まれた何かは赤いカメラアイを真っ直ぐと僕へと向けられていた――――

 

◇◇◇

 

「アレってなんなのよ……」

 

「……そんなことわたくしに聞かれても困りますわ。あんな現象は初めて見ますもの。ただ、アレはとても危険なものであるのはこのモニター越しでもわかりますわ……」

 

更衣室に設置されているモニターにはいか好かないドイツ代表候補生ごと包み込んだ何かが映っていた。気に食わない相手ではあったけど……流石にこんな状況だと心配はしてしまう。けど、こんな状況下でもさっきまで画面に映っていたアイツのことが気になってしまう。

 

「あー、もうっ!!このモニターじゃ、アイツが無事なのかどうかの確認ができないっ!!アタシ、今から観察室に行ってくるっ!あそこなら絶対分かるだろうしっ!!」

 

「お、お待ちなさいなっ!?あー、もうっ、なぜ鈴さんは即決即断ですのっ!?」

 

(……頼むから馬鹿なことだけはしないでよ、キラっ。あの場に一夏や箒がいるのが理由であんなヤバそうなのと戦うだなんて……っ!!)

 

アイツ(キラ)ならやりかねないってのが断言できる。もしかしたらキラはアタシが想像してるよりも本当は凄いやつなのかも知れないって疑問は残ってる。……でも、だからってアイツが無茶や無理をするのを見て見ぬふりなんてできない。それを止める人が誰もいないなら、それはアタシがきっとやらないといけないことだから……っ!

 

「――――あっ、お知り合いである鈴音さんを見つけました」

 

「……アンタ、確か観客席に案内した子よね?」

 

「はい、鈴音さんに道案内してもらったクロエ・クロニクルです。その件については大変助かりました。そしてもう一度お尋ねしたいのですが……観察室はどこか知っていますでしょうか?私は今すぐそちらに向かわないと行けないのです」

 

「……はぁ?部外者のアンタが入れるわけないでしょ。まずなんで――――」

 

『あー、もうっ、ごちゃごちゃ喋るんじゃないよ。お前は大人しくクーちゃんを道案内すればいいの、わかるっ?そんなことすら瞬時に理解もできないわけぇ?』

 

「……初対面の相手に罵倒されたら『はい、そうですか』って大人しく道案内するほどアタシってできた人間じゃないのよ」

 

『はぁー、別に今すぐこの場で泣かせてもいいけどお前に割く時間は今回ないんだよねぇ。とりあえず事態を理解してないお前にも分かりやすく端的に言ってあげるよ。いっくんと箒ちゃんと、らーちゃんの命を救いたかったら今すぐちーちゃんがいる観察室にくーちゃんを連れて行けよ。……そうじゃないと、あの場にいる全員が死んじゃうよ?』

 

携帯のスピーカー越しから聞こえてくる苛立ちのこもった声が言った言葉に激しく動揺してしまう。あのドイツ代表候補生、一夏や箒……それにキラが死んじゃう……っ?

 

「……っ、それが本当かどうかは知らないけど連れて行けばいいんでしょっ!!とりあえず携帯越しから喋ってるやつは名前ぐらいは教えてくれたっていいんじゃないの……っ!?」

 

『はぁー、答える理由は微塵もないけどそれでスムーズに行くのなら教えてあげるよ。お前らが“兵器“としてしか見ていないISの作り主である――――篠ノ之束だよ』





早くシリアス終わってほのぼのを書きたいです……日常回で軽く3話は使いたいっと思ってたり、思っていなかったり……VTシステムは次できっと終わるはずですヨ、ホントホント……

誤字&脱字いつも報告ありがとうございますっ!!感想も毎度もらえてとても嬉しいですっ!!それでは次回も気長にお待ちくださいっ!!


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第28話 取引


珍しく予約投稿を使った作者です。最近は暑いですが皆さん体調に気をつけてくださいね……本当こまめな水分補給をとってくださいっ!!

……えっ?VTシステムは次で終わるっと言ってたよねですか?私は急に1話や2話増えてしまうのはよくあることだから、あまり私の言葉は信用しないでください((

ちなみに今更なんですけど、私ISのヒロイン派閥にはどこにも所属していないのをカミングアウトしておきます((


 

 

(織斑先生の大切な教え子にVTシステムを組み込み、使わせるだなんてドイツはどんな言い訳をするか見ものね)

 

 織斑先生がドイツ代表候補生であるラウラ・ボーデヴィッヒの関係性は事前に調べていたこともあるけど、あの人が彼女のことを教え子以上に大切にしていたのは目にすれば一目でわかるのに……世界最強を敵に回すようなことをどうしてやったのかしら。

 

(……はぁ、観察室に向かってるけど、幾らおねえさんでも億劫になるわね。今回完全に織斑先生の身内全員が巻き込まれてる形だし……キラ君の場合は身内に入るか怪しいけど)

 

 けど、今までの織斑先生の行動を考えればあの子のことを身内認定している筋はあるのよねぇ。境遇を考えれば気にかけるのは一大人として当然だけど……それでも特別視しているのは間違いないでしょう。今頃はらわたが煮えくり返るぐらい苛立ってるんじゃないかしら、あの人……。

 

(VTシステムが作動した以上はアレを急いで止めないといけないけど……まずはキラ君に今回の情報をどうにかして伝えないといけないわね)

 

 VTシステムが何なのかはこの世界に知識をまだ身に付けていない彼は知らないはずだけど、これは推測になってしまうが異なる世界で戦いに身を投げていた件を考えればその危険性については察するだろう。……まず、あの場に友達の織斑君と篠ノ之箒ちゃんがいる時点で自身が撤退という選択肢はきっとないはず。

 

(良くも悪くも……シャルロットちゃんの件で壊れ、折れかけていた心を踏み止まれたのは功を奏してはいるけど、その分不安が募るわね。キラ君の心情が一番シンプルで分かりやすいけど……何をしでかすのか一番心配しちゃうのよねぇ)

 

 キラ君の戦う理由は至ってシンプルで、大切な人or友達を守るため……誰かを失うことに敏感になっているのは前の世界大切な人をで失ったことがあるからだろう。実際に生徒会室で戦う覚悟があるのか聞いた時に『大切な友達をもう失いたくないと』っとはっきりと答えた。自身が力を持っている自覚もあるし、その事を考慮すれば“自分がどうにかしなければならない”って強迫観念に似た何かに突き動かされなければいいけど……。

 

「――――失礼しまーす」

 

「今すぐ観客席にいる来賓の避難誘導、そしてISの準備をしろっ!!あの場にいる3人では――――いったい、何のようだ、更識……?」

 

(……表情に必死に出さないように冷静さを保ってるけど、内心は本気でキレてるじゃない、織斑先生)

 

観察室に入室すれば指示を出す織斑先生と慌ただしくその手伝いをする山田先生の姿があった。織斑先生が予想以上に内心は怒りで燃えているのに、これからやろうとしてることでその怒りの矛先私へと向かないわよねぇ……?

 

「いえ、私も生徒会長として事態を収拾するために来たまでですよ。一度観察室に来て織斑先生らに一応許可をもらった方が手っ取り早いので」

 

「……今はお前の企だてに付き合ってる暇はない。生徒会長として動くのも、『更識』個人で動くのならば好きにしろ」

 

「お、織斑先生それは流石にまずいですよっ!?更識さんは確かに生徒会長ですけど、まだ子供なんですよっ!?」

 

「……今は1人でも人手が必要な状況なのだ、山田先生」

 

「それではお言葉に甘えて“個人”として動かせてもらいますね?通信機一つお借りします」

 

織斑先生からきちんと許可をもらった以上は余程でもない限り口は挟んでこないでしょう。実際これからやろうとしていることはただの情報共有だもの。モニター先ではVTシステムに必死に食らい付いているあの子の姿がそこに映っている。持ち堪えてはいるけどそれも時間の問題のようね……。

 

「テステス……はーい、キラ君。私の声が聞こえてるー?」

 

『更識会長……っ!彼女はいったいどうなったんですか……っ!?あんな危険な物はいったいっ!?』

 

「対峙してるそれが、どれだけ危険なのかを理解しているのはとても助かるわ。その疑問に答えるけどそれはVTシステムと言って、世界的に使用禁止されてる程危険な代物よ。後に詳しく説明するけどそれはある人物の力をお手軽に再現し、使えるように作られた代物なの。……ちなみに搭乗者の負担についてはソレは一切考慮していないわ」

 

『……っ!?どうして、そんな危険な物が彼女のISにっ……彼女を、ラウラ・ボーデヴィッヒさんを助けることができる方法はあるんですかっ!?』

 

「あるにはあるわ。ただ、とても強引な手段になってしまうということは先に伝えておくわね。……ちなみにそれを聞いて君はどうするつもりなの?」

 

『どうにかして彼女を助けたいんです……っ!これ以上彼女は苦しんで、悲しむ必要なんてないはずなんだ……っ!!』

 

(助ける手段をこのタイミングで言えば間違いなくこの子は有限実行をしようとするでしょうね。……これが本人の意思なのか、それともそうしないといけないと思い込んでるのどちらかしら?どっちにしろ自身の中で撤退ということはなさそうね……)

 

モニターでかろうじてVTシステムと渡り合えている彼の姿を見ながら一度冷静に考える。この世界に来てたった数ヶ月でISをあそこまで適応、戦闘センスも目を見張る物がある。そしてストライクが未完成という不利でありながら、織斑先生に鍛えられたラウラ・ボーデヴィッヒちゃんとは実質互角に近い戦いを見せた。

 

(……けど、VTシステムを彼に任せるわけにはいかないわ。VTシステムはモンド・グロッソでの織斑千冬の力を再現したもの、偽物で本人と比べれば大分劣化しているとは思うけど危険である事には変わらない)

 

私が完全にあの子の戦闘能力を把握していないのもあるけど、取引の際に守ると言った手前、目に見えて危険な目に合わせるわけにはいかないもの。シャルロットちゃんの件はどうしても彼が必要だったから妥協したにすぎないし……先に織斑君と篠ノ之箒ちゃんを撤退をさせましょう。そしてキラ君と変わる形で、私へと標的を移せば教員が来る時間稼ぎ、運が良ければラウラ・ボーデヴィッヒちゃんの救助できるはず。

 

「いい?キラ君はそのまま――――」

 

「――――お忙しい中、失礼します」

 

「……失礼します」

 

「……し、失礼しますわ」

 

そのまま彼に次の指示を伝えようとする瞬間、一眼を見れば明らかに部外者だとわかる子がさも当たり前のように観察室に入室してくる。酷く不機嫌な鈴音ちゃんと何故か落ち着きのないセシリアちゃんもその後に続いてくる。……あの部外者の子どこかで見た気がするけど……確か鈴音ちゃんが道案内してた子よね?

 

『――――はぁ、予想以上に時間が掛かったけど道案内を出来たから大目に見るけど、今度から近道の一つでも二つ調べとけば?それぐらい簡単にできるようになっとくんだね』

 

「……こんなことでもない限りアンタみたいなやつ2度と道案内なんかするかってのっ!!」

 

『気に食わないけどその点だけは同意してあげるよ。私もお前には2度と道案内を任せないし、なにより移動してる時にここの道は全部頭に叩き込んだから。あとは用はないから今すぐ何もできないお前は帰っていいよ』

 

「はぁ!?いい加減頭にきたっ!!アンタがどんだけ凄い奴でもこっちにも我慢の限界ってのがあんのよっ!!」

 

「お、落ち着いてくださいましっ!?鈴さんがここに来た目的を思い出しなさいなっ!!」

 

謎の少女の持っている端末からスピーカー越しに誰かが話しており、余りにも身勝手な言葉に鈴音ちゃんがブチ切れてそれを比較的冷静なセシリアちゃんが羽交い締めして止めている。……とりあえず彼女達も何らかの目的があってここに来たようだし、流石に今すぐ退出させるのは気が引けるわねぇ。

 

『わーい、ちーちゃん久しぶりーっ!!愛しの束さんが会いに来たよっー!!』

 

「……その声、束かっ?」

 

『勿論だよーっ!!むしろ、私以外こんな状況でちーちゃんに会いにくる、いい女なんているわけないじゃんっ!!ほらほら、この束さんに惚れ直してもいいんだぜー?』

 

「束って……あの篠ノ之束さんですかっ!?」

 

山田先生が悲鳴に近い声を上げ、それとは相対的に織斑先生は鬱陶しそうな表情を上げていた。単純に今あの人に構っている余裕がない状況であるからだろうけど……それにしてもまさかこのタイミングでISの生みの親である篠ノ之束の登場か……。

 

(ISの生みの親だからこそ、自身が知らないだろう彼のストライクを視察する為にトーナメントで来賓に紛れる可能性があるとは思ってた。期待はしていなかったけど……まさか本当に登場するなんてキラ君はやっぱりそういった星の下に生まれてるのかしら……)

 

本人も否定どころか肯定気味だった事を考えれば、キラ君の運命力に今までの境遇を考えれば流石に同情するわ。はぁ、このタイミングで篠ノ之束の登場によってある一つの賭けを実行すべきか頭を悩ませる。これについては私の独断で決めるわけにはいかない……最近得た彼の信頼を失う、下手をすれば敵対する可能性があるのよ。

 

「……どんな形であれ珍しく顔を見せてるところ悪いが、今はお前に時間を割く余裕などない。話なら後で幾らでも聞いてやるから今は何もするな」

 

『状況を分かっているから私はここに来たんだよ。……馬鹿な奴らが欲をかいて、醜くて下らない欠落品に取り込まれてしまった、らーちゃんを助けたいんでしょ?私をそれを手伝う為に来たんだよ』

 

「……どういう風の吹き回しだ?それよりもその子は……いや、まさか――――」

 

『そういう事だよ、ちーちゃん。人類の下らない欲望、エゴで生まれたこの子らに私は幸せになってほしいと思ってる。身勝手な理由で造ったくせに、身勝手な理由で切り捨てる……この子たちだって今を生きてるのにどうして人はこんなことを平然とできるんだろうね』

 

「……そういった悪虐非道の行いを平然とする人間もいれば、その逆も然りだ。人間というのはそういった存在だろう、束」

 

『どうだろうねぇ?どうにしろ私は箒ちゃんたちがいればそれだけでいいし。さーて、しんみりした話もこれで終わってらーちゃん救出劇といこうかっ!ちーちゃんと私のコンビに掛かれば、ハッピーエンド以外はないんだよっ!』

 

「そうまで自信あり気に言うという事は当然のように算段はあるんだろうな?」

 

『当然っ!!打鉄でもラファールでも、そこにある甲龍(シェンロン)でもブルー・ティアーズでも今のちーちゃんの実力に合わせて調整しちゃうよぉ!!』

 

天災と最強が手を組めばVTシステムに取り込まれた彼女を助ける事も確実だろうし、何よりキラ君が戦う必要がなくなる。それにシャルロットちゃんの件がこの後控えているのも考えればこの2人に全てを任せたって問題どころか、全て解決しちゃう。……けど、ストライカーパックを確実に手に入れる方法は天災にしか無理な話なのよねぇ。

 

「……ねぇ、例の賭けの件は君はどうしたい?もし私の賭けに乗って成功する確率は2割弱、失敗する確率は8割強ってこと。どっちに転んでも、情報を渡さなくちゃいけなくなる。……それに今回は君に負担を大きくかけることになっちゃうわ。どうする、キラ君?」

 

『……悪用される可能性はあるんですよね……っ?』

 

「それについては否定はしないわ。凡人な私ではあの人の考えてることを永遠に理解することは無理でしょうから。……けど、私の全てを注いでも悪用させないことを取り付けてみせる。……ねぇ、私を信用してくれるっ?」

 

『僕は更識さんのことを何があっても信じます』

 

「……ふふっ、私のこと信じてくれてありがと。今の君と私は運命共同体よ。だから、もう少しだけ踏ん張ってちょうだい……お姉さんさんもすぐにそっちに向かうから」

 

間を開ける事もなくハッキリとした声で彼は即答する。今から、ロクデナシな取引を行おうとしている私を全面的に信用するのはちょっと警戒心が低すぎるわ……でも、そんなロクデナシな私を信用しているとハッキリと言ってくれるのは素直に嬉しいものね。普段は頼りないけど、ここぞという時は頼り甲斐があるのはちょっとずるいと思うわよ?

 

「楽し気なお話のなか申し訳ありませんが……少々お時間をよろしいでしょうか、かの天才である篠ノ之束さん?」

 

『……はぁ?私とちーちゃんの会話に割り込むとか空気読めないの?お前が私と話をするなんて一万と二千年早いんだよ、わかるっ?』

 

「ええ、私のようなものが身の程を弁えず天才である貴女に話しかけているのは重々承知しております。……ですが、そんな私が貴女の本来の目的の情報を持っているとしたら、どうしますっ?」

 

『……ふーん?私が別の目的があるってのを当ててみなよ。そしたら話ぐらい聞いてやるよ』

 

「ISの生みの親でもある貴女ですらも把握していない、正体不明のISであるストライクの情報入手、またはIS本体の強奪ですよね?貴女ご本人が表に出ることができないから、その子を使って手に入れようとしたんですよねぇ?」

 

『半分は正解だって褒めてやるよ。お前のいう私すらも知らないあのISのデータを目的だってのは認めてあげる、ただ強奪という点だけはハズレ、私は搭乗者がいなくなったと思っていた正体不明のISを引き取りに来ただけさ。研究者として、そして生みの親である私が引き取るのは当然だからね』

 

一歩でも間違えれば彼が命を落とす状況を作ったのは貴女ですよねっと言葉をなんとか呑み込む。ここで機嫌を損ねれば取引を持ち込むことが不可能になってしまう。なんとか作り笑いで誤魔化し、内側のポケットで大切に保管していてUSBメモリを取り出す。

 

「通話越しからは分かりませんと思いますが、今私の手元には天才である貴女が喉から手が出るほど欲しいデータがあります。ISの生みの親でも知り得ない、特別なISである型式番号GAT-X105、STRIKEの全てのデータがここにあります」

 

『……へー、この私を相手に取引をしようってことなんだ』

 

「天災である貴女だから、こんな取引を持ち込んでいるんですよ?」

 

「……その前に待て、更識楯無。そのISのデータはどうやって手に入れた?誤魔化すことなく正直に話せ」

 

(……やっぱり、織斑先生も聞いてくるわよねぇ。天災と最強を一度に相手をするのは身が持たなさそう……)

 

ストライクのデータを私が持っていると知った時点で織斑先生が問いただしてくるのは想定済みだったけど、睨み殺すぐらいに見てくるのは想定外なんですけど……これキラ君の許可貰ってなかったら完全に詰んでたやつね。

 

「そう睨まないでくださいよ、織斑先生。きちんとキラ君から許可と協力を得て、このデータは私が保管してたんです。私と彼の関係は今は運命共同体ですので、私を信用してなくてもこの後に彼に聞いてみればどうです?余程のことでもないかぎり言葉を濁さない彼は正直に話してくれるはずですよ。それは、織斑先生がよーくご存知だと思います」

 

「……そのね、私からも一ついいかな、更識さん」

 

「もちろん構いませんよ、山田先生」

 

「そのデータは別の用途で準備していたものじゃないんだよね?それを使ってキラ君と更識さんは何か危ない事をしようだなんて考えていないんだよね?」

 

(……流石昔に織斑先生と日本代表候補の座を競い合ったことはあるわね。普段から想像もつかないほど鋭い勘だわ)

 

普段の頼りなさは鳴りを潜めて凛とした声で山田先生は聞いてくる。さて、どうしたものかしら……山田先生であれば織斑先生や天災よりも誤魔化すことについては簡単だ。だけど私が誤魔化した後にキラ君に事情を問われれば完全にアウトだし……あまりあの子はこんな心理戦は得意そうには見えないしね。

 

「ええ、安心してください。このデータは確かに別の理由で用意していたものですが、決して危険なことをする為に用意したものではありません。むしろ、それを下げる為に必要だったので彼に協力を求めたんです。ISのデータ開示についてはキラ君は誰よりも慎重なのは、彼の事情を知っている私たちならわかりますよね?」

 

「うん、そうだね。……キラ君が更識さんにISのデータを渡しているのはそうする理由があるってことがわかりました。これ以上は深くは理由は聞かない……今から貴女がやろうとしていることにもきっと相応の理由があるとは思う。だけど、そのデータはキラ君を傷つけるようなことには絶対に使わないで」

 

「ええ、私もこれ以上あの子に傷をつけるようなことをするのは好んでいませんので肝に免じておきます」

 

実際私もこれ以上あの子を追い込むようなことはしたくはない。今はかろうじて踏み止まってるだけで、きっかけがあれば再度必要以上に精神的に自身を追い込むだろう。それならキラ君とはきちんと話をした上で、あの子が納得するように動いてもらった方が精神的にも楽なはず。

 

『それでぇ?この私にどんな取引をしたいのさ、時間がないから簡潔に答えなよ』

 

「私とあのISの搭乗者がVTシステムの鎮圧、および取り込まれたドイツ代表候補生であるラウラ・ボーデヴィッヒの救助ができたのなら貴女の手で未完成であるストライクを完成してもらえないでしょうか?」

 

『……へー、それが失敗した場合による私の方のメリットは?』

 

「このUSBメモリに入っているストライクのデータを無料で譲歩します。貴女はこのISのデータを必ず手に入れることができますので悪い条件ではないと思いますよ?ただ、どちらにしてもこのISのデータを悪用、兵器への運用だけは絶対にやめてください。それの約束ができないのならこのデータは貴女がどんな手段を使おうと処分します」

 

『私はそのデータを手に入れることができるってこと。だけど、お前は理解してる?確実にらーちゃんを救助できるのにそれを蹴落とそうとしてるのが。全部ちーちゃんと私に任せれば簡単にすむ話をわざわざ難易度を上げてるってのが。お前とあのISの搭乗者だけで偽物とはいえVTシステムを止められるとでも?』

 

「ええ、私と彼の力ならVTシステムを止め、ラウラ・ボーデヴィッヒさんを助けることは可能であると判断しています。……取引の件の返答はいかがでしょうか?」

 

『お前のその口車に乗ってあげるよ。クーちゃんに無理をさせないで、あのISのデータをこの程度の取引で入手できるのならお釣りが出るくらいだからね。制限時間は30分、その時間内にVTシステムとラーちゃんの救出ができなかったらお前らの失敗とみなすから』

 

「……ええ、分かりました」

 

時間制限を設けられたのは予想外だけど、30分もあると考えれば何とかなるはずよ。消耗しているキラ君をバックアップに専念させ私が抑えるようにすればこれ以上は彼が目立つこともないはず。撤退をさせるのも考えたけど、やっぱりあの子は私の目が届く範囲に居てもらった方が一番安心するもの。

 

「それでは私はこれで失礼させてもらいますね。これ以上彼に負担をかけるわけにはいきませんので」

 

「……最後にこれは確認しておく。私はお前を信じていいんだな、更識楯無」

 

「もちろんですよ、織斑千冬先生。私は私のやり方で彼を守るのだと約束をしましたので」

 

織斑先生や山田先生が教師として、一大人として彼を支え守るのなら私は更識の当主として、1人の先輩として彼を肉体的にも精神的にも守るのだと約束したもの。“更識楯無”としてではなく私としては彼のことはそこそこ気に入ってるのだ。

 

「……あそこにいる3人のことをよろしくお願いしますわ」

 

「……一夏と箒、そしてアイツのことは今回はアンタに任せるからっ。お願い……アイツが変に無茶しないように見てて」

 

「ええ、2人の分まで私があの場にいる3人を守ってみせるわ。だから、貴女たちもお馬鹿なことだけはしないようにね?」

 

ISが使えない2人は力になれなさそうなことを気に病んでいるけど、今回ばかりは万全だったとしても自分らではどうすることもできないと理解しているでしょう。特に鈴音ちゃんは何もできないことが人一倍歯痒く感じてるんでしょうね。

 

(彼女らはこれから少しづつ学び、強くなっていけば良い話よ。それまでは生徒会長である私がしっかりと守らないとね)

 

彼が守りたい人たちは私が守るべき対象だ。今後はあの子にも誰かを頼ることをもう少しだけ覚えさせるようにしないとねぇ。……その前にまずはVTシステムをどうにかするとしましょうか。




今回は区切りが良かったので…その、ねっ?次こそ本当にVTシステム編は終わりますから……((目逸らしそしてこの後にはもちろんキラ君に休息なんてないです()VTシステムなんて誤差であって、本命はシャルちゃんの問題解決だからネ!!

更識会長がこのタイミングで動かないと、いったいいつ動くっていうんだ……キラ君と約束をした以上はその約束は守らないとですねっ!!VTシステムは本来かなりヤバい代物だから……素のストライクだと流石のキラ君でも無理ゲー範囲なはず()

誤字&脱字報告いつもありがとうございますっ!!感想も毎度してもらえてとても励みになっております……っ!!次の更新は未定ですが気長にお待ちください!!


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第29話 VTシステム


 はい、みなさんお久しぶりの作者です。リアルでちと忙しくて投稿できなくて申し訳ないです……8月分投稿したのだと勘違いもありましたが。ユルサレヨ、ユルサレヨ……ワタシノツミヨユルサレヨ。
 えっ……?fgoの新章と最近リメイクされた某作品はどうしたのかって……?もちろんクリア&現在月姫を堪能さております((


(……なにが、おきたんだ……っ?)

 

 突然と起きてしまった出来事にフリーズした頭で目の前の惨状を何とか必死に理解しようとする。急にキラに後方へと無理矢理引っ張られたら次の瞬間に、姿を消えるように視界からいなくなり何があったのかと気づいた時はアリーナの壁に衝突している姿を見てからだった。

 

(それに、何なんだよ……コイツは……っ!?)

 

 ソレを見ているだけで自身でも説明ができない不快な感情が沸々と湧き上がるが、本能がアレを理解することを拒絶していた。今の俺では到底敵うものではない。刃を交える必要もなく、言葉で語る必要もなく、この数メートルも満たない距離で一番近くにいるだけで分かる。この場で一番強いやつはコイツであると。

 

(……っ!?)

 

 なにかを探るように僅かに赤いモノアイを向けられただけで息が詰まる。次に標的にされるのは俺なのかと全身から嫌な汗が流れてきて、恐怖を誤魔化すように雪片弐型(ゆきひらにがた)を強く握る。今この場でコイツと対峙できるのは俺しかいないっと鼓舞するけど、ソイツはそれ以上は興味を失せたかのように赤いモノアイを壁に叩きつけられたキラへと向けられる。

 

「……はっ?」

 

 こんな状況で自身の口から出たとは思えないほどの間抜けな声が漏れていた。あの行動はまるで貴様など敵として見るまでもないっと言われているようで、コイツから脅威として認識されていないという事に次第に怒りが沸々と湧き上がってくる。

 目の前の存在が何でアレまるで存在しないもののように扱われた事に頭にきて口を開く前に、ソイツの持つ武器に初めて気がつく。ソイツが手元にある武器は見覚えのある形をしている事────オレが一番尊敬していて、憧れていて唯一の家族である千冬姉が持っていた雪片(ゆきひら)と酷似している事に。

 

「────おい、てめぇ!!」

 

 ソイツが今手元にあるのがあってはいけないもの、偽物であると気づけば頭にカッと血が昇る。ふざけるなっ、それが偽物として存在していいはずがないっ。まるでそれが本物だと、さもそれが当然のようにお前のような奴が千冬姉の雪片(ゆきひら)を汚すんじゃねぇ……!! 

 体を掴もうと手を伸ばすが手は空を切る。ソイツはさも自然のように何度も見てきて、真似をした同じ構えを取りその場から姿をかき消すような速さで飛んだ。

 

「────けんな……っ!! ふざけんなぁぁぁぁぁ!!」

 

 目の前で起きた現実にはらわたが煮え返るようだった。あの構えは間違いなく千冬姉が剣道を応用して作り上げた技だ。一点を集中をして加速して穿つあの技は突きも取り入れている。 雪片(ゆきひら)だけじゃなくてアイツは千冬姉の動きまでを真似しやがったっ!! 

 あの脅威的に加速したのは間違いなく瞬間加速(イグニッション・ブースト)によるもので、アイツが何処にいるのかは誰を見ていたのかっと知っているから分かりきっている。アイツを倒すのは誰でもない……っ!! 俺がやらないといけないんだっ!! 

 

「────やめろ、一夏っ!! お前が怒ってる理由は分からないが一度冷静になれっ!! アレはそんな状態のお前では絶対に敵わないモノだっ!!」

 

「離せっ!! アイツは俺がやらないといけないんだよっ! 雪片(ゆきひら)だけじゃなくて千冬姉の技術まで猿真似しやがってっ!!」

 

 今すぐにでもアイツの元へと向かおうとすればその腕を箒が掴んでくる。振り払おうにも普段からは想像もできないほど力が入れられていて、それが今からやろうとしようとしてる事を邪魔されているとしか思えなかった。

 

「今すぐ離せっ!! いくら箒だからって邪魔をするっていうんなら────」

 

「────いい加減にしろっ!!」

 

 力強く頬を叩かれたという事に気づくのに数秒の時間がかかった。突然と頬を叩かれた事にカッとなり声を荒げようとする前に、普段から凛とした表情の下には不安を隠しているようで僅かに瞳が揺らいでいる事に気づく。普段人に不安を見せないのに、それを隠していない事が僅かながら頭に冷静さを取り戻す。

 

「……その様子だと少しは落ち着いたようだな。急にどうしてあんなに感情的になったのだ」

 

「アイツの持ってる武器は千冬姉の持ってた雪片(ゆきひら)なんだよっ!! それだけじゃねえ、アイツの使った構えも動きも全部千冬姉とそっくりそのままだったんだっ!!」

 

「……誰よりも千冬さんを見てきた一夏が言うのならその通りなんだろうな。つまり千冬さんの持っていたモノ、動きや技術をそっくりそのまま使うことが許せなかった……お前はいつも千冬さんばかりだな」

 

 少しだけ機嫌が悪そうに睨まれるけど誰だって大切な家族が作り上げてきたモノを、あんな使い方をすれば怒りたくもなる。千冬姉が力を使うのはいつだって理由があった。その千冬姉の使っていた武器を、作り上げた技や技術を目の前の標的を排除する為だけに振るうなんて我慢ならない。

 

「それで一夏はどうするつもりなんだ」

 

「どうするつもりって……そりゃ、今すぐにでもキラと一緒にアイツを止めるんだよっ!!」

 

 近くで聞いていた通り最優先に倒すべきだと言っていたソレは執念にキラを襲っていた。この場で自らと対等と戦える存在はキラしかいないのだと言われているようで腹が立ってくる。

 

「確かに一夏の言っているのも分かるが私たちがやるべきことは戦うのではなく引くべきことかも知れない……」

 

「はぁ!? 今引くってことはそんなのをキラを見捨てるのも同じだろうがっ!!」

 

「私たちがキラと共に戦う事を選んでも足手纏いになる可能性が高いのも事実なんだ。アレは私たちが手に負える相手じゃないのはお前だって分かっているだろう? 撤退をしてアレを止めれる人を呼ぶことの方がキラの助けになるんじゃないか……?」

 

 箒の言っていることに反論しようもそれを否定できなかった。アレは確かに千冬姉の偽物だ。けれど、その強さは偽りであっても確かであるのを認めないといけない。そんなモノと対峙していながらキラはこちらの様子を伺いながらもソレを押さえ込んでくれている。

 

「箒の言っているのが最善だってのは理解してる。それが一番俺たちにとっては安全策なんだって事も。……でもよっ、やっぱり俺は無理だ。キラに全部押し付けてよ……自分だけ安全な場所に行こうなんてするのは違う気がするんだ」

 

「……そうか。私がこれ以上なにを言ってもお前の気持ちは変わらないんだろう」

 

「……こればかりは悪いな、箒」

 

「別に謝る必要なんてない。お前がそんな奴であるのは知っている。わ、私はお前の1番の幼馴染なんだから」

 

 両腕を組んで少しだけ顔を赤くして1番の幼馴染だと強調してくる。俺と箒が幼馴染なのはみんな知ってる事なのにどうしてその事を今言ってくるんだ? 

 

「それじゃあ箒は先に避難をして、誰でもいいから先生を呼んできてくれ。今から俺はキラと合流してアレを食い止めるからさ」

 

「なにを言っているんだ? 私も当然アレを止めるためにこの場に残るに決まっているだろう。一夏が単独で行くよりも2人で一緒に行って手伝った方が少しでも確率は高くなるはずだ。私はアイツの覚悟を確認した。なら次に覚悟示すのは私の方だ」

 

「いや、でもよぉ……」

 

「むっ、なんだ。危険だから私だけでも撤退しろだなんて言っても聞かないぞ。私とて友人であるキラを見捨てることなどできるものか。……それに私は命を助けられた恩がある。だから少しでも私はそれを返したいんだ」

 

 箒の視線を向ける先には今1人で奮闘しているキラの姿が映っている。命を助けられた恩というのは中継室での事を指しているのに気がつく。実際あの場にキラがいなかったら箒がどうなっていたかだなんて……そんな事は考えたくもない。2人の間では一応その事については終わったのかと思ってたが多分箒の中では責任を感じてるんだ。

 

「私たちが出来ることはきっと少ない。本当にキラが追い込まれたら強引に乱入するでいいな?」

 

「……ああ、それでいい」

 

 本音を言えば今すぐにでも向かっていきたいが、それが逆にキラの邪魔になる可能性が高くなるのは流石の俺でもわかってる。どれだけ力不足で無力なのを痛感しながら俺は視線の先で起きている激闘を見守ることしかできなかった────

 

◇◇◇

 

(……アレが何かは分からないけど危険だっ……人が使ったらいけないものだ……っ)

 

 赤いカメラアイを真っ直ぐと向けられるがそこには感情が何一つ感じない。ただ、ラウラ・ボーデヴィッヒさんを取り込み生まれたアレは使ってはいけない力だ。ただその場にいるだけで肌を刺す威圧感は、まるでここは戦場だと錯覚してしまいそうになる。取り込まれた彼女が無事なのかと開放回線(オープンチャンネル)で確認する前に背筋に悪寒が走り上空へと逃げる。

 

(……っ!? なんて速い機動力と威力の高い一撃なんだっ!? いくらストライクでも何回も受けることは無理だ……っ)

 

 先程までいた場所にアレは瞬間加速(イグニッション・ブースト)で即座に距離を詰め、その速さを利用した一撃はアリーナの壁を易々と貫いていた。回避ではなく、受け止めることを選んでいた時には幾らPS装甲があっても無事ではすまなかった。こちらが地面へと着地すると同時に力任せに得物を抜き、ゆったりとした動きで再度見つめてくる動きは機械的で不気味だ。

 

『初撃による敵機の無力化は失敗。再度標的をSTRIKEへと固定し、追撃を開始する』

 

「……っ!?」

 

 頭部へと目標定めた一本の接近ブレードが投擲され、その速さにかろうじて頭を逸らして避けるが相手から一瞬目を離してしまう。再度同じように恐ろしい速さで瞬時に距離を詰めらて、その手に先程投擲された同じ武器が相手のその手には握られていた。この攻撃を回避は無理だと判断し、少しでも衝撃とダメージを抑えるため高速切替(ラピッドスイッチ)でビームサーベルから対ビームシールドに即座に替える。

 

「……ぐうっ!!」

 

 対ビームシールドの上から襲ってきた衝撃に腕が痺れる。相手が一撃の重さを重点的に起き、大きめに振りかぶった瞬間にイーゲルシュテルンをばら撒きながら距離を離す。これはISによる試合ではなく、長らく肌で感じていなかった戦場での命のやり取りではないかと錯覚してしまいそうになる。

 

(……強い……っ! 万全のストライクでもどうにか出来るかギリギリそうなのに……今のストライクでどこまでやれる……っ?)

 

 今の状態で手加減や武装の出し惜しみをしていれば間違いなく負ける。だけど最初の一撃でシールドエネルギーは4割ほど減ってしまっていてビーム兵器を頻繁に使う余裕はない……でも、僕が倒れてしまえば次に狙われるのは一夏たちなんだ。

 

(……やれるかじゃない。僕にはそれをできる力があるんだろ……ラウラ・ボーデヴィッヒさんをどうにかしてアレから引き離さないと)

 

 一度熱くなりかけていた気持ちを冷静に落ち着かせる。勝つとか負けるとかではなく、どうやって彼女をアレから助け出すかどうかだ。ISが相手だと手足を損傷させ、戦闘継続を不可にするのはできないが相手の武装を無力化することはできるはず。不安要素が一度投擲したはずの武器とそっくりそのままのモノが手元にあったことだけど……同じ武器を幾つか持っていると想定しておくべきかっ? 

 

『テステス……はーい、キラ君。私の声が聞こえてるー?』

 

『更識会長……っ! 彼女はいったいどうなったんですか……っ!? あんな危険な物はいったいっ!?』

 

 突然とプライベートチャンネルに回線が繋がれ、聞こえてきた声は更識会長の声だ。この人なら彼女を取り込んだ危険なものが何なのかは知っているはず。おそらくこのタイミング通信を送ってきたのは何か理由がある。

 

『対峙してるそれが、どれだけ危険なのかを理解しているのはとても助かるわ。その疑問に答えるけどそれはVTシステムと言って、世界的に使用禁止されてる程危険な代物よ。後に詳しく説明するけどそれはある人物の力をお手軽に再現し、使えるように作られた代物なの。……ちなみに搭乗者の負担についてはソレは一切考慮していないわ』

 

『……っ!? どうして、そんな危険な物が彼女のISにっ……彼女を、ラウラ・ボーデヴィッヒさんを助けることができる方法はあるんですかっ!?』

 

『あるにはあるわ。ただ、とても強引な手段になってしまうということは先に伝えておくわね。……ちなみにそれを聞いて君はどうするつもりなの?』

 

『どうにかして彼女を助けたいんです……っ! これ以上彼女は苦しんで、悲しむ必要なんてないはずなんだ……っ!!』

 

 僕はともかく、彼女はこれ以上苦しんだり悲しむ必要はないんだ。人の身勝手な願いや思いで、兵器として造られ望まれるだけの命なんて絶対に間違っている。彼女のその命や人生は彼女のモノであって誰かのものじゃない、彼女自身のものだっ。

 

『いい? キラ君はそのまま────』

 

『……更識会長っ?』

 

 通信が途絶えたわけではないけど彼女からの声が不自然に途切れた。更識会長がいる場所に何かトラブルでも起きたのかと不安になるけどそれを確認する術はない。けど、ラウラ・ボーデヴィッヒさんを取り込んだモノの正体が何なのかは知ることができた。

 

(……VTシステム……ある人の力を再現するために作られた存在。どうして人はそんなに力を手に入れることに固執するんだ……こんな力が幾らあっても戦うことでしか生かされないのに……っ)

 

 自分や誰かを守るために力が必要なのはよく分かってる。想いだけでは何も守れず変えることもできない、だけど力だけでは変えるべきことに何も気づくことはできない。人の命を弄んでまでも力は追い求めるべきモノじゃないんだ。戦う事しかできない力があってもそれ以外何もできないというのに。

 VTシステムは人が身勝手な理由で力を求めた結果に造られたモノなら、同じ人の身勝手な理由によって造られた僕が止めないといけない。

 

(接近戦では分が悪い。彼女をVTシステムから助け出す方法が分かるまで、なるべく射撃で応戦するしかない……っ)

 

 再度更識さんから通信が送られ、助ける手段が分かるまでは戦闘を維持し続けるしかない。何が原因で一夏らへと標的を変えられないように2人から距離を離す。対ビームシールドを胸部を覆い隠し、展開したストライクバズーカを撃ちながら後退する。

 

「……やっぱり見え透いた牽制は通じないかっ」

 

 スラスターを吹かしながら、両手にある接近ブレードで弾を容易く両断する。希望的観測を抱いていた訳ではないが射撃による実弾武装が見込みが薄いとなると更に不利である現実に顔を顰める。取り込まれる前からISの性能差は彼方が上であるのは察していたけど、今の状態のIS擬きは更に性能が上がっていて着実に距離を詰められていく。

 

(こっちのアドバンテージは遠距離武装とPS装甲……必要以上に接近戦は持ち込むべきじゃないっ。このまま一定の距離を保ちながら────)

 

『敵機による不自然な行動を解析、このまま距離を縮めるのは非効率と判断。シュヴァルツェア・レーゲンにより保有されていた六機のワイヤーブレイドを展開する』

 

 今の形を構成していた両肩とリアアーマ部分をドロリと液状化させ、次に形成すればそこには彼女のISの武装として見慣れた6機のワイヤーブレードが形作られていた。狙いを定めたそれらはまるで生物のように獲物を捉えるように襲ってくる。

 

(あの時に手元にあった接近ブレードもああやって作ったのかっ!? それが自身の意思で無限に作れるのなら武器破壊を狙っても無意味じゃないかっ……!!)

 

 目の前で同じ武装を幾つも持っているという仮説を根本的に覆されてしまったこともあるが、相手は実質的無限に武装を作り出すという事実に武装破壊による無力化も通用しない事実にほんの一瞬動きを鈍らせてしまう。

 その一瞬の隙も逃さず、襲いかかってきた3機のワイヤーブレードを2機までは対ビームシールドを使って捌くけど、3機目により手元から払い落とされる。このままではストライクバズーカも同じように手元から落とされる可能性を考慮して、両手をアーマーシュナイダーへと切り替えて回避に専念をしながら応戦する。

 6機のワイヤーブレードを巧みに扱い、相手を貫くことよりも捕縛することを重点的に置いているのか手足を執着に狙われてた。どんな事でも一度でも動きを止められてしまえば、最初に放たれたあの一撃がこの身を貫く未来(ビジョン)が視える。

 

『……ねぇ、例の賭けの件は君はどうしたい? もし私の賭けに乗って成功する確率は2割弱、失敗する確率は8割強ってこと。どっちに転んでも、情報を渡さなくちゃいけなくなる。……それに今回は君に負担を大きくかけることになっちゃうわ。どうする、キラ君?』

 

 再度更識さんから通信が入ると例の賭け、つまりストライカーパックのことに関することことだろう。整備室で確かどうにかなるのかも知れないと彼女はそんなことを口にしていた。そのことをこのタイミングで聞いてきたということはそれをどうにかできる人がいるってことなのか……っ? 

 

『……悪用される可能性はあるんですよね……っ?』

 

『それについては否定はしないわ。凡人な私ではあの人の考えてることを永遠に理解することは無理でしょうから。……けど、私の全てを注いでも悪用させないことを取り付けてみせる。……ねぇ、私を信用してくれるっ?』

 

 悪い人ではないであるとは頭では分かっていても、初めは警戒をしていて、なにより本当に信用できる人なのかと疑っていた。実際人の部屋に無断で侵入していれば、何よりあんな格好でいたわけだし……でも、どんな思惑があったとしても居場所を作ってくれた事、そして守るのだと言ってくれたのは嬉しかった。シャルを助けたいという僕の我儘をこの人は聞き入れてくれた。

 

『僕は更識さんのことを何があっても信じます』

 

『……ふふっ、私のこと信じてくれてありがと。今の君と私は運命共同体よ。だから、もう少しだけ踏ん張ってちょうだい……お姉さんもすぐにそっちに向かうから』

 

 通話越しからも分かるほど声を弾ませているのは分かり、最後にもう少しだけ頑張ってと言われて再度通信は切れた。こちらに向かってくると言った以上はその賭けが終わり次第あの人は介入するつもりなのだろう。更識会長までもこんな危険に晒してしまうのに不甲斐なさで胸が痛くなるものの、今のストライクでアレを解決できるのかと問われれば不可能に近い。

 

(……けど、僕にできるのか……っ? ラウラ・ボーデヴィッヒさんを助けることが……っ)

 

 彼女を助けるのだと啖呵を切った時から一つの不安がずっと胸の中を渦巻いていた。目の前のアレを最低限の足止めをすることはできる。だけど、今まで守ることを果たせなかったのに目の前の彼女を助け出すことを僕にできるのか……?

 取りこぼしてきたモノを忘れたのかと誰かが嘲笑うように脳裏に焼き付いていた光景が一つ一つ鮮明に思い出す。

 

「…………あっ」

 

 フリーダムのコックピットから捉えていて脱出艇の窓越しに目に涙を浮かべながら安堵した表情のフレイの姿を幻視する。それだけで今の状況をも全て忘れ、あの時のように手を伸ばすけど――――次に襲ってきたのは爆破の衝撃ではなく虚しく空を切った腕には2機のワイヤーブレードが頑丈に絡められていた。

 絡めとられた腕に黒い液状のものがゆっくりと侵食されていくような感覚。だけど、それが何かと繋がったのか頭の中に直接無数の声が聞こえてくる。

 

 ――――今すぐ出来損ないは破棄すべきだ。兵器として使えぬのならソレに資金を注ぎ込む必要はない。

 

 ――――越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)の適合に失敗する前までは確かに優秀な兵器ではあったが……やはり人工的に造られたモノではどこかしらの欠落があるということか。

 

 眼帯をつけ綺麗な銀髪の長髪の少女を無数の大人が見下すように、蔑むように、その言葉は目は人を人として扱っていなかった。そんな心もない無数の言葉が頭の中へと流れ込んできたのは勘違いなどではない。

 

(これ、はっ……っ?まさか彼女の記憶の一部なのか……っ?くそっ、だけど今は……っ)

 

 原因は分からないが頭の中に流れ込んできたのは多分彼女の記憶の一部だ。ある意味では折れかけていた精神をギリギリ繋いでくれたが、それは既に遅いのだと相手が構えをとっている時点で分かり切っていた結果だった。

 次の一撃によりシールドエネルギーが尽き、戦闘不能になるはずだった。

 

「────はあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「────おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 自ら奮い立たせるように吠えながら一夏と箒さんがVTシステムへと立ち向かっていく。どうして2人がっと驚きを隠せないが、彼らの性格を考えればこの状況を指を咥えて見ることを選ぶことはしないのは分かっていることだった。

 VTシステムは2人が向かってくることでまるで初めてこの場に他の対象がいると認識し構えを解き、2人をこのまま迎撃することを選んだのかもう片方の手にも同じ形の接近ブレードを構成する。

 

『敵機のISの反応を2機感知。純日本製、第二世代量産型IS打鉄を感知。……もう一機のデータの該当はなし。敵機のデータを詮索────新たなる第3世代IS型、白式と判明。両者の搭乗者の実力は未知数であるものの、白式の持つ武器には要注意が必要である。両機は排除すべきと判断、これより両機の殲滅へと切り替える』

 

「やれるもんならやってみやがれっ!!俺はお前のような偽物に負ける気なんてさらさらねえんだよぅ!!」

 

「私のような素人まで侮らず排除するべき敵として見るのは好ましい。だが、私も簡単に破れる気はないっ!!」

 

 2人とVTシステムは衝突する。2対1というアドバンテージを活かして2人は左右同時に責める。おそらく事前に作戦を立てていたとはいえど、それを実際にスムーズに決行できているのは幼馴染だからこそできることなのかも知れない。

 数の利があるからなのか、それとも多数で戦うことを苦手にしているのか2人の息の合ったコンビネーションにVTシステムが僅かに押され始めてくる。

 

(……いや、違う。一夏と箒さんはアレの動きを知ってるんだ。どうして2人がVTシステムの動きを……?)

 

 まるで初めからVTシステムの持つ技と技術を知っているように立ち回る2人の動きに疑問を持つがそれは後回しだ。2人にアレが気を引いている間に厳重に絡められているワイヤーブレードをどうにかしないと。この場からビームライフル、またはストライクバズーカで援護するのも考えたが2人に誤って被弾する可能性の方が高い。維持されている2人のコンビネーションを崩すわけにはいかない。

 

(ビームサーベルを瞬間的に最大出力にすれば焼き切れるか……っ?彼女を取り込んだ、あの黒い泥のようなもので構成されているのなら本来のよりも耐久は低いはずだ)

 

 捕縛されていない方のアーマシュナイダーから急いでビームサーベルへと切り替える。いつまでも2人が優勢でいられる保証はないし、何よりラウラ・ボーデヴィッヒさんを助けることよりもVTシステムを倒すことを最優先として動いている。アレを倒せば取り込まれてしまった彼女がどうなってしまうのか未知数だ。

 

 ────いや、だ。負けたくない、負けたら私は私は……っ!!

 

「……ぐっ!?」

 

 敗北してしまうことに怯えて悲痛な少女の声が聞こえれば、それに呼応するようにVTシステムの赤いモノアイが不気味に光る。邪魔になると判断し、こちらを捕縛していたワイヤーブレードを解除をすれば箒さんの背後へと即座に回り込みその背中へと両手の接近ブレードを叩きつければそのまま一夏へと蹴り飛ばす。

 当然一夏は箒さんを見捨てるのではなく受け止めることを選ぶ。それを見通していていたかどうかは不明だが、VTシステムは同じ場所へと2人を集めることに成功した。

 

「────させるもんかぁぁぁぁ!!」

 

 VTシステムが2人を纏めて撃墜しようと両手の武装を振り下ろす前に瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使い、その加速を利用して体全体を使い体当たりをする。体勢を崩すことに成功し、そのまま2人から距離を離すためスラスターを最大出力まで上げ押し上げていく。

 このまま再度標的を自身へと向けなければVTシステムは確実に2人を堕とす。

 

(僕だけを狙って堕とされるのならそれでいい。だけど一夏と箒さんの2人が、どちらかが片方でも怪我を負うのなら僕は……っ)

 

僕のことを狙うのならそれでいい。それで自身が怪我をしようが撃墜されても、その結果で命を落とすことになっても仕方がなかった。自身の力が足りなかったのだと割り切ることはできる。

 だけど大切な友達である彼らを狙い、それで堕とされて負傷するというのなら話は別だ。もしそんな事態になろうというのなら感情を抑制できる自信はない。剥き出しの感情のままに、相打ち覚悟であろうとVTシステムもそれを取り込んでいる彼女ごと■してしまうのかも知れない。

 

「これ以上はもうやめるんだっ!取り込んでる彼女の体に負担がかかってるのは知ってるはずだ!そうまでしてどうして勝つことに拘るんだっ!」

 

『搭乗者が求めているのは勝利という結果だけ。ならば私なこの力を使い、搭乗者に勝利という栄光を与えるのみ。そして貴方のその回答ですが、兵器である私たちに勝利に拘る意味を求めるのはナンセンスです』

 

 機械的で無機質である声には僅かながら怒気が含まれていた。力技には力技で対抗するように、VTシステムもスラスターを最大出力まで上げたのか押し上げていたのが少しづつ止まり徐々に押し返されていく。このタイミングで出力の差が大きく出てしまうことに顔を歪めてしまう。

 先ほどでお互いのISの性能差というのを完全に把握したVTシステムは掴み合いを振り解き、スラスターを巧みに使い左側に瞬時に回り込まれる。頭部を狙った柄頭による殴打は反応して躱し、アーマシュナイダーで苦し紛れに反撃をするものの払い落とされる。

 

『そのような敵機を撃つ気もなく、あまい攻撃など警戒していればいくらでも対処可能。搭乗者(ラウラ)との戦闘のさいの実力を発揮される前にこのまま仕留める』

 

「────っ!」

 

この一撃が入れられれば後は絶対防御の作動によりストライクのエネルギーがゼロになる。戦闘不能になる寸前だというのに未だにSEEDを使うことに躊躇いがあった。振り下ろされる瞬間がスロモーションに見えて、斜めから振り下ろされる刀身が体へと当ろうとした瞬間────淡い水色の一本の槍がVTシステムにへと飛来したのを捉えた。

 

『視覚外による攻撃に被弾を確認。再度この場に存在する敵機を検索……その数は────』

 

「────あらあら、再現できるのはその強さだけでその他のシステム面については黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)よりも劣化してるんじゃないかしら?」

 

 いつものように人を揶揄うようにクスクスとその人は微笑む。VTシステムの赤いモノアイは乱入してきた第三者を捉えて、それは邪魔されたことに僅かに苛立ちで睨んでいるようにも見えていた。

 

「更識会長……」

 

「遅くなってごめんね?だけどもう大丈夫よ、キラ君。なんたって学園最強たる私が来たんだから」

 

 掠れた声で僕はその人の名前を口にする。優しく微笑むその人。新たなる乱入者、ISに身を纏っていた更識会長がそこにいた────





前回後書きで今回でVTシステム編が終わると言ったな、アレは嘘だ……まぁ、前回後書きで書いた時点で薄々無理そうな予感はしてたんですが。最近終わる終わる詐欺ばっかしてる((

……VTシステムが話してますが笑って見逃してくださいな。次で本当に終わるといいですね……サッサっと夏だ海だっ!!ラブコメだっ!!を書きたい&弾君と数馬君を出したい衝動が限界なので。某作品も9月から水着イベだし……9月に水着って((吐血
 そしてやっぱり菌類は人の心がないのかっと思いましましたが、理解してないとあんなの書けませんよ……新章で荒んだ心は月姫で癒されることにします。やっぱ凄いよ、キノコさんは……。

 誤字&脱字報告いつもありがとうございますっ!!感想も毎度してもらえてとても励みになっております……っ!!次の更新は未定ですが気長にお待ちください!!


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第30話 託される想い



|・ω・`)コッショリ   


 

 

『新たなる敵機のデータ詮索。該当するISデータが判明……霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)。ロシアの専用機、および代表候補である更識楯無と判明』

 

「情報収集ご苦労様。VTシステムは情報としては知っていたけど実物は初めて見るけど……ISという形状は保っているものなのね」

 

 色鮮やかな水色のISを纏っている更識会長は口調こそいつもと変わらないけれど冷静に目の前のVTシステムを分析している。そんな最中で装甲が明らかに少ないISを纏っている彼女をマジマジと見てしまう。装甲の薄さを補うものは間違いなく持ち合わせているのは分かるけど……それでも少しぐらい増やした方がいいのではっ?

 

「もうっ、こんな状況下でもお姉さんに見惚れるのは嬉しいけど時と場合を選ばないと駄目だぞっ?こんな人前では流石の私でも恥ずかしいし……あとで生徒会室か整備室で好きなだけ見ていいから。あっ、それとも次は私の部屋か君の部屋でじっくりとまたお互いを曝け出しちゃう?」

 

「あっ、いやっ、それは遠慮しておきます……」

 

 わざとらしく頬を赤く染める姿にこんな時でも揶揄うかをやめない事に別の意味で動揺してしまう。いや、更識会長なりに場を和ませようとしたのかも知れないけどもっと他のやり方があるよねっ?危機的な場面を助けてもらえた事を伝えるのべきなのかっと一瞬判断を迷ってしまう。

 

『……随分と余裕ですね。ロシア代表候補であり、貴女ほどの実力者ならばこの状況の深刻さを重々理解していると踏んでいますが?』

 

「あら。システムと言うから会話なんて成立しないって踏んでたけど違ったみたいね。やけに感情的なのは無視されてる事が気に食わないからかしら?さっきまで頑張ってた後輩を労う余裕ぐらいはあったりするのよ……実際、私1人でもどうにかできそうだしねぇ?」

 

 目に見えてわかる挑発にVTシステムは完全に更識会長へとモノアイを向けている。そんな自身へと標的を向けさせるような事をなぜっと表情を歪めてしまう。そしてそれを見越していたのか彼女からプライベートチャンネルへ通信が入ってくる。

 

『VTシステムはよく分からないけどアレが危険なモノぐらいかはわかりますっ!どうして自分を狙わせるよに誘導をしたんですか……っ!?』

 

『うんうん。純粋に私のことを心配してくれるのは嬉しいけどアレぐらい大丈夫なのは本当よ?観測室で君とアレが戦闘してるのはよーく見てたもの。あんなの本物に比べたら大きく劣ってるわ』

 

 まるで期待外れだと少しだけ退屈そうにため息を溢す。VTシステムの強さはともかくそれを元になった人を更識会長は知っていることに興味が湧くけど今はそのことを聞く暇はない。まず彼女がアレを単独で引き受けようとしていることをどうにかしてそれは止めさせないとっ……!

 

『いい?ひとまずキラ君は一度織斑君たちと合流して態勢立て直して』

 

『いえ、このまま僕も更識さんと一緒にVTシステムを止めます。絶対に足手纏いにはなりま────』

 

『────駄目よ。一度キラ君は引いて態勢を立て直しなさい。君のストライクとVTシステムの性能差は身を持って体験したでしょ?ただでさえ性能が大きく劣ってるのに手元の武装が完璧じゃないのなら戦うようなことはさせないわ。それに織斑君と篠ノ之さんを一度安心させてあげなさい。きっとものすごーく心配してると思うから。ね?』

 

 初めは厳しめに冷たい声から最後には優しい声で諭されわかりましたっと小さな声で納得する他なかった。実際VTシステムと渡り合うには全ての武装を扱わなければならないし、これ以上2人に余分な心配はかけたくなかった。

 

『……態勢を立て直した後はすぐに援護に戻ります。それまで無理な行動は絶対にしないでください』

 

『ええ。無理は絶対にしないって約束するわ。あっ、一つお願いがあるんだけどさっきまで使ってたナイフを私が使用できるように使用許諾(アンロック)を頼めるかしら?キラ君の武装回収も兼ねて今は扱える択を増やしておきたいの』

 

 払い落とされたアーマーシュナイダーを回収してくれるのは正直有り難かった。窮地に陥った時には何度も助けられた身としては手元に戻ってくるのは精神的にも楽になるから。

 更識会長が使えるように使用許諾(アンロック)。VTシステムから離れる。追い打ちを仕掛けてくるのではっと警戒していたが僅かに横目で見てくるだけで仕掛けてくることはなかった。

 

「てっきりあの子のことを執念深く追撃するかと思ってたけどあっさりと逃しちゃうのね。よかったのかしら?彼を堕とす機会はもう2度とこないのに」

 

『私がストライクを狙えば僅かに生まれる隙を狙い貴女が肉薄してくる可能性が高いと判断したまで。現に私が少しでも動けば背後から奇襲をかけていたでしょう。それにあのISの搭乗者は私を撃つ覚悟がまるでない。性能差も先程で完全に把握しました。それならば今は脅威にはなり得ないと放置しただけです』

 

「あらあら。VTシステムの元になった人はどんな相手だろうとどんな状態だろうと油断もせずけして侮るようなことはしないはずよ?むしろ、その逆で誠意を持って全身全霊で相手をするはず。……本当に貴女はあの世界最強を元にして造られたシステムなのかしら?実はその更に偽物の可能性も捨て切れないわねぇ」

 

『……いいでしょう。そのような見え透いた挑発に敢えて乗りましょう。私がかのブリュンヒルデを元に造られた存在であることを、その体に徹底的に叩き込みます』

 

 無事にキラが離脱すると同時に2人の戦闘の火蓋が切られた。最強の名を冠する元に造られたシステムと最強を冠する者の激戦。それは生半可の素人では割り込むことなど不可能な領域。

 まず先に動いたのは更識楯無だった。両手には得物はなく無手で落ちている武器を真っ先に確保に行く。もちろんVTシステムもただ黙って彼女の槍を回収させる訳もなく立ち塞がるが、それを無視するように僅かに離れた場所に落ちているアーマーシュナイダーを即座に回収する。

 

『自らの槍ではなくそのような小型のナイフを回収を優先するとは。リーチと火力を持ち合わせているこの槍を回収していれば多少は貴女の勝算も上がったでしょうに』

 

「あら?ナイフの利便性をどうやら知らないようね。それなら今からそのナイフがどれだけ使い勝手がいいか教えてあげる」

 

 VTシステムは蒼流旋を回収させないように立ち塞がる。この槍が更識楯無のメインウェポンなのは察しており、これさえ回収させないように死守をすれば勝機はこちらにあると判断をした。

 実際VTシステムは一撃必殺。両手に持つ接近ブレードが体に少しでも擦ればその後は逃される事もなく相手は理不尽にも敗北が約束されてしまう。そんな相手に彼女は臆する事もなく不敵に笑いながら小型のナイフ一本で見事に捌いて見せていた。

 システムとして無駄なく合理的に敵を排除するVTシステムは対照的に更識楯無はこの場は自ら輝かせるステージのように舞い踊る。彼女の装甲の薄さを考えれば掠めるだけでも致命傷に繋がりかねないのに顔色一つ変えず、ギリギリまで引き寄せて躱す。

 まるで手足のようにナイフを巧みに扱うその姿は完成されていて一切無駄はなく猛撃を防ぎ、反撃、そして時に自ら仕掛けるタイミングは洗礼されている。気紛れにそれでいて猫のように身軽に動きながらも彼女の持つナイフは真っ直ぐと敵を捉えている。

 

「────もっと本気でやらないと私は捕まらないわよ?ほーら、鬼さんこちらに来なさいな」

 

『言われなくとも……っ!!』

 

 使う武装、この状況に於いて自らが有利であると踏んでいたのに今だに更識楯無を捉えきれない。被弾覚悟で強引に責め立てればナイフによる攻撃など致命傷にはならないと理解してながらも、システムである彼女が最適解の行動へと移せないのは一撃全てに殺気を当てられているからだ。取り込んでいる搭乗者(ラウラ)の身に何かがあればVTシステムにとっては本末転倒だ。

 焦燥感に襲われていたVTシステムは見え透いた挑発に感情的になり僅かに前進をして蒼流旋から離れてしまった。そしてその瞬間を更識楯無はずっと待ち望んでいた。VTシステムの振われた一撃を最小限の動きで躱し、するりっとその横を瞬間的に加速して通り抜ける。VTシステムが急いで反転するがその時にはすでに彼女の手には蒼流旋が握られていた。

 

「さーて、それじゃあ第二ラウンドといきましょうか?今度は侮ってたらそのまま倒しちゃうつもりだからその辺はよろしくねー?」

 

 この場に似合わず陽気な声で更識楯無は笑みを浮かべる。その言葉に嘘偽りのないモノだと感じ取ったVTシステムは対話を放棄し、無言で二刀の接近ブレードを構え仕掛けた。

 

 

「……凄い。更識さんが戦う姿はこれが初めてだけどこれほどだなんて」

 

 一度膠着した戦いは再度始まった。対ビームシールドの回収をしながら先程の一連の戦闘は目が離せなかった。もしもの時に備え、いつでも介入できるように片時も目を離さなかったがそれは杞憂で終わる。彼女自身が学園最強だとよく口にしていたがそれは嘘偽りもないと思う。実際さっきの戦闘の流れから考えるにVTシステムを対処するのは彼女一人で充分すぎるほど。

 

(……このまま一夏たちと合流しよう。その後に更識さんを援護すればどうにかできるはずだ)

 

「────キラっ!!大丈夫かっ!?」

 

「────キラっ!無事かっ!?」

 

 VTシステムに取り込まれた彼女を助ける手段を更識会長はあるようだから、それまでに一度2人と合流しようと考えていたら2人が血相を変えて近づいてくる。更識会長が増援として駆けつけてくれるまで足止めに専念をしていたからそこまで危ないことはしていないつもりだったけど……。

 

「ごめん。余計な心配をかけたかな?でも、2人の方こそ大丈夫なの?あの時────」

 

「────人の心配や気遣いより自分の体をもっと気を使えよっ!俺らは無茶とか言えるようなことしてないけどキラは違うだろっ!?あんなのを真っ向から戦ってる方がずっと無茶してるだろっ!」

 

「僕はこれでも体は丈夫なんだ。少しぐらい無理しても平気だから」

 

 常人よりも体が丈夫なのは今までの戦いの中で証明されているし、何よりそんな風に造られているからっと内心で自嘲してしまう。そんな事を説明するわけにもいかないため一夏から嘘をつくなっと目で訴えられるけど本当に大丈夫だと伝えれば渋々納得してくれた。このまま2人にはこの場から離れるようにっと口にする前に俯いて両肩を震わせている箒さんが目に入る。

 

「箒さん大丈夫?やっぱりどこか体を痛めたんじゃ────」

 

「────何が体は丈夫だ大馬鹿者っ!!そんなものは私は知らんっ!!最初は壁に吹き飛ばされて暫く動かなかったではないかっ!……ええいっ!なぜお前のISは全身装甲(フルスキン)タイプなんだっ!これでは怪我をしているのかしていないかな確認さえできないじゃないかっ!」

 

 今すぐこの場でISを解除しろっと言いそうな凄い剣幕で箒さんに詰められる。MS戦だったら間違いなく初撃で全てが終わってたけどISでは絶対防御がある以上あの一撃ならシールドエネルギーがあるまでは死にはしない。無駄だと分かりながらも装甲の上から怪我をしていないか触って確認してくる箒さんが少しばかり不思議に思う。

 

「本当に怪我はしていないから大丈夫だよ?この通り全然平気だからさ」

 

「キラの場合はそれが真であっても直接確認できるまで安心できるものかっ!前に重症なのにISを纏って戦いの中へと行ったではないかっ!……怪我をする原因を作った張本人が言うのは可笑しな話だと思うが……あんなことはもう2度とするなっ……」

 

「……うん。なるべくそうならないように努力はしてみせるよ」

 

「あの時のように約束をするとは言ってくれないのだな……」

 

「……ごめん。こればかりは約束は守れそうにないから」

 

「……自身の体が怪我をしようがそれを惜しんで戦う選択を選ぶようになってしまった事があったのは薄々察してはいた。どうやら私が言うだけでは無駄なようだから、そのことは後で鈴に報告させてもらうからな」

 

「……それだけは切実にやめて欲しいかな」

 

「……やっぱキラって鈴には頭上がらないんだな……」

 

 一夏から不憫な目で見られるけど仕方ないじゃないか。話し合い(物理)に確実に持っていかれてしまう未来しか浮かばない。まず既に鈴からは生きろっと言われているのにそんな事を再度するとバレてしまえば何を言われるか予想がつかないし、まず下手をすれば気が済むまで世話をするというあの話が更に飛躍しかねない気がする。

 

「うんうん。その様子だとそこの3人組は無事を確かめる事ができたようね」

 

「あっ、更識会長……」

 

 一度離脱してきた様子で満足そうに頷きながら更識会長が合流する。損傷した様子はなく、先ほどまでVTシステムと激闘を繰り広げていたはずなのに息一つ乱れていない。念のためと思いVTシステムの方へと視界を向けるが砂煙でその場に止まる影があるが今すぐこちらに突貫してくる気配は感じない。

 

「このナイフ今のうちに返しておくわね。また取りこぼしても次は簡単には回収されないように立ち回れると思うから気をつけるのよ?」

 

「……はい。以後気をつけます」

 

「よろしい。さて、箒ちゃんはともかく、織斑君とは一応初対面になるのかしら?私は生徒会長の更識楯無よ。これからよろしくね?」

 

「いえ、俺の方こそよろしいお願いします」

 

「うんうん、男の子って感じで元気があっていいわね。こんな状況じゃなかったらこのまま雑談に入りたいけど誰かさんがそれを許してくれないのよねー。ほら、みんな構えて。そろそろくるから」

 

 何がくるのかと一夏が訪ねようとする前に標的にされていると警告音が鳴る。次の瞬間に砂煙の中から約20を超えるワイヤーブレードが襲ってくる。なぜ突然と相手の武装が増大している疑問は後にして各自飛ばされてきたワイヤーブレードへの回避に移る。

 

(僕と更識さんに飛ばされたワイヤーブレードは10枚ぐらいか……っ!一夏と箒さんのフォローしたいけど下手に動くと2人を巻き込む事になるっ!)

 

 2人のフォローに入りたいのは山々だけど下手に向かえば巻き込むことになってしまう。幸い2人に向けられた数はそう多くはなく息の合った2人なら対処ができると信じ、自由に動きやすい空へと逃げる。

 

「くっ……やっぱりエールストライカーがないストライクだと振り切るのは無理かっ!」

 

 速度を活かして振り切れるのは現時点で無理だと判断し、急旋回をして逆にワイヤーブレードの方へと突っ込む。僅かにある合間を速度を緩めずギリギリの状態ですり抜けながらビームサーベルを使い数枚切り裂く。足を止めれば捕縛されてしまうのは身を持って体験をしているからこの速度を落とすわけにはいかない。一夏らの方が心配でときおり見るが何とか2人も今のところは無事のようだ。

 

 ───どうして私ばかりこんな目に合わなければならない……私は、私は生きたいだけなのに……私だって本当は普通がよかった……っ。

 

(この声はラウラ・ボーディヴィッヒさんの……?頭の中に直接流れ込んでくる。彼女の記憶を見た時と同じ現象なのか……?)

 

 頭の中に直接流れ込んでくるのは彼女の声。捕縛された時に似たようなことがあったけどそれと同じ現象だと結論づける。一方的に彼女の心の中を読み取るようで余りいい気分はしないけどこれが彼女の本心なんだ。

 

(……普通がよかったんだよね。兵器として造られるんじゃなくて、強さだけを必要とされるんじゃなくて……ただ当たり前の1人の人間として生きていたい。そんな当たり前の人生を彼女は欲しいんだ……)

 

 僕らはその普通とは大きくかけ離れた存在で身勝手な理由で造られた。戦う中で自分をコーディネイターとして産んだ両親を恨んだこともある。その後に人の理想として造られた存在と知った後ではその感情は消えるどころか増えている。今となってはコーディネイターとして産まれていた方がずっと良かったと。ナチュラルにもコーディネイターにとっても僕という存在は在ってはいけないだから……。

 

(でも、彼女は違う。僕はもう引き返すことは許されないけどあの子はこれからその未来を歩めるはずなんだ)

 

 そう望まれて造られたとしてもその通りに生きていく必要なんてない。未来を選ぶのは他の誰でもなく彼女自身の意思。彼女が平坦な日常を歩みたいと言うのならその意思を尊重すべきだ。

 砂煙が晴れたVTシステムの姿を空中から目視できるようになれば少しばかり取り込まれたラウラ・ボーデヴィッヒさんの姿が一部露見していた。あの黒い液状のモノを武装を構成する分へと無理して回しているからだろう。

 

「アレならちょっと強引な手段をとればキラ君の手でも助けることができると思うわよ?今は武装の構成に半分ぐらい回してるようだから」

 

「……確実に一撃で彼女を救う方法があるのならそれを選ぶべきです。それよりもVTシステムがどうしてあんな風に手段を選ばないような戦い方を?」

 

「……やっぱりそこ聞いちゃうよねぇ。ごめんなさい。それについては完全に私のミスよ。VTシステムが取り込んだあの子にあそこまで感情を向けてるなんて予想していなかった。ちょっと煽りに煽って追い詰めたら更に手段を選ばなくなっちゃったのよねぇ……造られた経緯は違うけど、身勝手な理由で人間に造られた共通点がシステムを駆り立ててるってことかしら?これ推測だからあまり当てにはしないでね?」

 

 お互いの背後をフォローする様にワイヤーブレードを対処しながら背中越しで話を続ける。更識会長の推測はおそらく正しい。そこに更に付け加えるとすれば彼女の強く生きたいという感情を読み取ったから。あんな姿になろうと勝利という結果を貪欲に求めているのだ。

 

『……いい加減あなた達は鬱陶しい。そろそろ我が搭乗者の兵器としての価値を上げる為に礎となれっ!!』

 

「なにが鬱陶しいだっ!!俺にとってはお前が千冬姉の動きと同じ剣を持っている方が何倍も鬱陶しいんだよっ!!お前が何者とかそんなのは今は後回しだっ!!千冬姉の猿真似をしながらそんな事言うなら次は俺が相手になってやるっ!」

 

「やっぱ姉弟ってことかしら。VTシステムが誰を元に造られたのか動きとかで気づいたんでしょうねぇ」

 

「……待ってください。VTシステムを元になった人ってまさか……っ?」

 

「キラ君の想像している通りよ。VTシステムは織斑千冬の戦闘データを元にして造られているわ。あの人、世界最強って肩書きを持ってるから。お手軽に強くなれる手段があるなら、やっぱり世界最強の力を使いたくなるじゃない?造られた理由は流石に知らないけどロクでもないことでしょうね」

 

 VTシステムの元となった人が織斑さんである事に呆然としてしまう。冷静に思い出していけば入学当初はクラスメイトが黄色い悲鳴を上げていたのを考えれば織斑さんが世界最強というのは誰もが知っている常識的な知識らしい。この世界での世界最強という立ち位置はイマイチ分からないけど……。

 

『……なるほど。先ほどからヤケに騒々しいと認識していましたが白式の搭乗者は彼女の肉親ですか。まさかこの場に彼女と血の繋がった者がいるのは僥倖というもの。貴方を堕とし、我が搭乗者の方が実の弟よりも優秀であると証明させます』

 

「出来るもんならやってみろよっ!俺はお前みたいな奴になんか絶対に負けねえっ!!」

 

「馬鹿っ……!?このタイミングで売り言葉に買い言葉をするな……っ!?」

 

『威勢だけは褒めましょう。貴方がなぜ先ほど私と対等に戦えた理由は既に先ほど解析は終わりました。射撃武装が一切装備されていないだろう白式はこれで終わりです』

 

「更識さんっ!ワイヤーブレードの対処を全部お願いしますっ!!」

 

「ちょっと、キラ君っ!?」

 

 更識さんの驚いた声が初めて聞けた気がするけど今は後回しだ。白式に近接武装しかない事はとっくに解析済みだったようで両肩にカノン砲を構成されている。確かに一夏のISは単一仕様能力で当たりさえすればイレギュラーが起きなければ勝利は揺るがない。けど、一度バレてしまえば再度接近するのが困難だ。白式の単一仕様能力はボーディヴィッヒさんとの戦いでバレているはず。そして織斑さんの弟と理由で確実に白式を堕とす手段をとるだろう。完全に構えに入っている以上は多少の妨害程度ではカノン砲の発射は止められない。接近しようにも止めるには間に合わない距離。

 迎撃を仕向けられたワイヤーを避けながら急降下。ストライクバズーカを即座に展開して発射された砲弾の速度と角度を計算。直撃する前に全て撃ち落とす。庇うように前方へと着地、VTシステムへと銃口を向ける。

 

「直前に撃ち落とされたのかっ?まさか、やったのって……」

 

『私の邪魔をするのはまた貴様か。ストライクっ!!』

 

「一夏はなにがあっても絶対に堕とさせはしない。彼には帰りを待っている沢山の人がいる」

 

 一夏を守る約束を絶対に破るわけにはいかない。彼が堕とされ命の危険に陥れば大勢の人がその姿を見て悲しむことになる。一夏を想っている彼女らにそんなつらい気持ちを抱いて欲しくない。……特に鈴が悲しんでいる姿は見たくない。彼女は笑っている姿が一番似合っているから。

 

『理解不能。機体性能という絶対的な差があるのは身を持って体験したはず。それなのに貴方は私を相手に立ち塞がると?』

 

「それでも僕は戦う力がある。守るための力が。……本当は戦う必要なんてないはずだよ。だって君が戦う理由は彼女のため。それなら……っ!」

 

『それ故に戦闘する必要がある。現在各国の権力者、研究者や開発者が揃っている。彼女が求められているのは兵器としての結果。今の状況はその結果を世界へと示すには絶好のシチュエーションです。そして好都合なことにこの場には世界最強の肉親、ロシアの代表候補、2番目の男性操縦者がいる。あなた方を堕とせば彼女がいかに兵器として優秀であるかを示すこともでき、これほどの功績を残せば処分という選択は消え去るでしょう』

 

「君は彼女が本当に求めているものを知っているはずだっ!そんなやり方では解決なんてしないっ!!力だけでは本当に守らなくてはいけないことを……やらなくちゃいけないのを見失うだけだっ!」

 

『だが力がなければ守れないのも事実。これが一番最善な方法であり、彼女が生きていける道だ。ならば貴方は背負えるのか?あの子が兵器としてではなく1人の人間として求められる居場所を作ることを』

 

 生きていく上でならそれが最善だと理解できてしまうから。他者に求められ、それで結果を出し続けることができれば処分という道は逃れ、一定の価値を認められ生きていく事は可能なのだろう。居場所を作れるのかとVTシステムの問答に言葉が詰まるとそれを否定するように一夏は飛び出す。無数のワイヤーの嵐を危なくげに掻い潜りながら肉薄し、お互いのブレードが激しくぶつかり合う。

 

『実力差を理解できずに飛び込むのは白式のパイロットですか。自ら撃墜されにきたのですか?手間が省けたものです』

 

「実力差は分かってるさ……!!それでも俺はお前に負ける気はねぇ!!……俺は2人が何かを知ってて、それで言い合ってるのは分かる。事情の知らない俺は聞いてても分からないことばかりだ。だけど、お前が言ってるのが間違ってるのは分かる!!居場所は誰かに任せて作るものじゃねえ。自分で作るもんだ!!」

 

『……世迷言を。それは恵まれた環境にいる者が辿り着く回答。貴方たちのその戯言が正しいというのなら私を撃墜してみせなさい!!』

 

「ああ、やってやるよっ!!」

 

 白式を一つの脅威と認識している彼女(VTシステム)は二刀のブレードで確実に撃墜するつもりだ。一夏はそれを必死に食らいついてはいるけどそれも時間の問題。個々に射出されたワイヤーは数は減ってるが、その殆どが更織会長に向けられておりあの人から援護は望めない。それに残りエネルギーを考えれば短期決戦で決めるしかない。

 2人に僅かに距離が開いたタイミングに割り込もうとしたその時に突然と使用許諾(アンロック)の許可が受託されたと通知される。

 

「キラァァァァァァ!これを受け取ってくれ!!」

 

「っ!?ほ、箒っ!?」

 

 名前を呼ばれた事により振り返れば彼女はその手に持つ葵を僕にへと力強く投擲した。あまりにも大胆すぎる行動、そしてISの補佐があるとはいえそれなりに重いはずの武器を投げた事実に目を開いて驚いてしまうがなんとか掴み取る。

 

「私はまた、お前に頼むことしかできない。……これ以上戦闘に参加できない私の代わりにアイツと一緒に戦ってくれっ!!」

 

 なぜっと聞くよりも早く彼女は答える。よく見れば彼女の打鉄は損傷が大きくこれ以上無理に参加をすれば強制解除されかねない。本当はこの場で誰よりも彼の助けになりたいのは彼女のはず。投げ渡されたこの葵にはきっと沢山な想いが込められている。

 箒さん想いを受け取り不安を少しでも取り除くように大きく頷く。体を前へと向ける際に一連の流れを見ていた更識会長が彼女を守るために地上へと降りる姿を見たから、きっと大丈夫だろう。

 少しでも一夏の負担を減らすため接近しながらビームライフルを数発撃つ。妨害された事に忌々しげにモノアイをこちらに向ける。目を逸らしたのを一瞬の隙と思った一夏は袈裟斬りをするが、想定内と刀身で巧みに受け流し、空いている片手で腹部をそのまま力強く柄頭で殴打され声を漏らす。

 

「やらせない……っ!!」

 

『ほう。火力不足を武装借用することで補ってきましたか。どうやらやっと重い腰を上げたようですね。……だが、あの時の気迫、殺意をまるで感じないっ!!』

 

「……くっ!!」

 

『性能差を理解しながらもまだ出し惜しみを続けるかっ!!その程度の想いで、綺麗事を吐き続けるしかできないその口でっ!!誰かの"居場所"を作ることができるとでも!!守れるとでもっ!?』

 

 ────帰りたくない……あんな冷たくて、寂しい場所よりも……暖かくて、楽しくて……そしてキラの傍にいたい……傍にいたいよ……助けて……キラっ。

 

 戦闘の最中に静かに泣き震えた声で居場所を切に求めた彼女(シャル)の姿を鮮明に思い出す。そうだ今のままでは守るべきものを守ることもできず失うだけだ。力だけでは駄目だが想いだけでも駄目なのだから。

 激情に駆られるのではなく自らの意志でSEEDを使う。対艦刀シュベルトゲーベルのように力任せに扱うわけにはいかない。相手の動きを、行動を観察するんだ。

 

「……後悔だけはしたくない。そのために今はっ!!」

 

(……っ!?この男雰囲気が変わった。殺意は感じない。だが、あの時とは変わらぬ気迫を感じる。これがストライクのパイロットの本気かっ!)

 

「キラだけじゃねえぞっ!!俺のことも忘れるんじゃねぇ!!」

 

『まとめて相手をしてあげましょうっ!!そして同時に終らせてあげます!!』

 

 双方の想いを背負い激しくぶつかり合う。二刀のブレードを振るう速度は更に速くなり、その力は更に増す。それをお互い足りない部分をカバーするように2人で攻める。状況はほぼ互角、ほんの少しでも気を緩めばそこを叩き込まれて破れるだろう。だけどそれは相手も同じことなはず。

 

「キラっ!!」

 

「うん!任せて、一夏!!」

 

『……っ!即席のコンビなどと侮りはしていましたが、認識を改めましょう。厄介なコンビネーションだっ!』

 

(こうやって連携をして一緒に戦うのは初めてなはずなのに……どうして一夏がやろうとしているのを僕は漠然として分かるのだろう?)

 

 無人機の時は共に戦いはしたが共闘というよりも個々で役割を分担していた。こうやって肩を並べ連携をするのは初めてなはずなのに、次に行動を移すのがなんとなく分かってしまう。SEEDを使っているから……?

 一夏は僅かに後退する。おそらく次の一撃に全てを賭けるつもりなのだろう。それならばその決定的な隙を作るのが僕の役割だ。

 

『このタイミングでビームサーベルを使いますかっ!!だが……っ!!』

 

「ぐっ……!!その、動きは……っ!?」

 

 ビームサーベルを使い、黒い泥で構成していた刀を一つ無力化するがお返しに葵を持っていた左手を即座に作り上げたのか、右足に付いた鋭いブレードで蹴り上げられ葵は天高く空を舞う。あまりにも酷似しており、イージスを彷彿させるその動きにあの死闘を思い出すが、歯を噛み締め即座に振り振り払う。お返しにビームサーベルで斬り上げバランスを崩したVTシステムを強く押し蹴る。それと同時にエネルギー切れという警告音が鳴り響きフェイズシフトダウンが作動する。被弾したのと、最後にビームサーベルを使ったのが決定的になったのか……っ!

 

『これで終わりのようですね……っ!!』

 

(ここしかない……っ!!)

 

 色が抜け落ち、ビームサーベルも維持できなくなったのをエネルギーが無くなったのだと判断したのか、それとも押し蹴られたことが癪に触ったのか上段からブレードを振り下ろす。

 決定的な隙を作るのはこのタイミングしかない。ビームサーベルを手放し、振り下ろされた接近ブレードを両掌に挟み受け止める。相手の動きは最小限に、それでいて武器だけを無力化できる最善の手段。

 

『なっ……っ!?真剣白刃取りをISでの戦闘に扱うなど……っ!?』

 

「────ここだぁぁぁぁぁ!!」

 

『しま────』

 

 背後から躍り出た一夏のその一撃はVTシステムへと直撃。纏わりついていた黒い泥は再生することもなくその傷から崩壊していき、ラウラ・ボーディヴィッヒさんの姿を目視できるようになり、支えがなくなり地面へと倒れる前に受け止める。

 

『……よも、や……私が、敗北するとは……ストライク、のパイロット……後は頼みますよ。私に勝利、したのだから……』

 

「……わかった。彼女をできる限りのことで守ってみせる」

 

『……理想という、存在である貴方に頼むのは嫌ですが……馬の骨に、頼み込むよりかは、マシです……頼みましたよ……キラ・ヤマト……』

 

 点滅を繰り返していた赤いモノアイは完全に事切れた。それにVTシステムが最後に理想という存在と言葉にしていたのはどうして……?気絶しているボーディヴィッヒさんへと視線を移す。取り込まれていた彼女ならなにかを知っているかも……目を覚ました時に話ができるといいけど。

 

「……その子、大丈夫そうなのか?」

 

「うん。呼吸とかは安定してるから時間が経てば目を覚ますんじゃないかな」

 

「……まぁ、目を覚ましてもらえないと困るけどな。まだ2人には謝ってもいねえし」

 

 チラリと様子を見てくるのは彼なりにこの子のことを心配しているからだろう。その姿にクスクスと静かに笑みを浮かべてしまい、それに気づいた一夏は誤魔化すように頰をかく。

 戦闘も終え、徐々に近づいてくる2つのスラスター音に僕らは振り向くと、涼しげな表情を浮かべた更識会長と心配そうに浮かない表情の箒さんが合流する。

 

「一夏!!キラ!!大丈夫かっ!?」

 

「おう。俺は見ての通り無傷ではあるから安心しろって。キラの方が負担は多かったはずだし……」

 

「僕も全然大丈夫だよ。今は先に彼女を先生に任せないとね」

 

「そ、それもそうだな。……2人が本当に無事でよかった」

 

 涙ぐむ箒さんの姿を見て一夏とお互いに顔を見合わせる。心配して顔を覗き込む一夏になんでもないっとそっぽを向き誤魔化す箒さんの姿はとても微笑ましい。

 

「……まったく、男の子2人は自分勝手に行動するんだから。結果的にはなんとかなったからよかったけど」

 

「……あ、あはは。すいません……」

 

「まっ、今回は大目に見てあげましょう。あの天災の時間指定もギリギリクリアしたことだしね。……途中からどうやら君も自らの意思で本気で戦ってたようだし。けど、あまり無理はしないこと。いいわね?自分が思っている以上に心の傷は深いはずだから」

 

「……はい。肝に免じておきます」

 

「んふふっ、君の素直なところ大好きよ。さーて、そこのイチャイチャしてる2人とも、撤収するわよー!!」

 

「なっ、なっ!?い、イチャイチャついてなどいない!!こ、これはだなっ!!」

 

 2人には聞こえないように耳元でそっと忠告してくれる。今回自らの意思でSEEDを割れたのは偶々だろう。直前まで結局使うことを躊躇っていたのだから。

 最後にわざとらしく箒さんを揶揄う更識会長の姿を苦笑いを浮かべながら一緒にアリーナを後にした────





大変遅い更新で申し訳ないです……っ!これでVTシステム編は終わりとなります!!次はその後の後日談的な感じをやりますわね!!本当ですよ!!これからちまちま更新再開していきますのでよろしくお願いしますっ!!


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第31話 天災



みなさま。大変遅くなりましたが、明けましておめでとうございます!!(土下座)

前書きは不要!!本編どうぞ!!


 

 

「それでは第一回チキチキ裏取引会議を始めましょう」

 

『なんだよ。そのチキチキ裏取引会議って。まず、もう少しその安直なネーミングセンスをどうにかしろよ』

 

「仕方ないじゃないですか。私も賭けが成功するなんて思っていなくて名前を考えていませんでしたので」

 

 無事にVTシステムの暴走を制圧後、何故か僕らは生徒会室で謎の会議が始まった。どこかで見たことある少女が持つ端末から声が聞こえて、更識会長がその人と親しげ……というより若干棘のある言い合いをしているのを困惑しながら立ち尽くす。

 

(キラはなにか聞かされてるの? 私はなにも教えられずに連れてこられたんだけど……)

 

(ごめん。僕も更識会長からなにも教えてもらってなくて……あの人のことだから理由もなく僕らを連れてくるなんてことはしないと思うから訳があるんだとは思うんだけど……多分)

 

 シャルとヒソヒソと話すが、どうやら彼女も生徒会室に連れてこられた理由は知らないらしい。理由もなく連れてくるなんて事はないと思うけど、なんとなくその辺は信用できないのがあの人だ。面白そうだからとかで、なんとなくで連れてきたのでは? っと疑惑を抱いてしまう。

 

(……あとね。あまり……無茶とかはしないでね。見ててずっと怖かった……キラが怪我をするんじゃないかって……)

 

(……ごめん。だけど、ボーデヴィッヒさんを放っておくことなんて、どうしてもできなくて)

 

(今日もなにか理由があったからだとは分かってるけど、これ以上は私の我儘になっちゃうから。私からもうなにも言わないけど……この後鈴から沢山怒られると思うからちょっと覚悟した方がいいかもね。あの様子だと小言では終わらないんじゃないかなぁ)

 

 複雑そうな顔から一転して苦笑いを浮かべているシャルの言葉にどっと冷や汗が溢れてくる。彼女の怒りが沈むまでは姿を見せないようにしようかと考えるが、見つけるまで追いかけてくるんだろうなーっと達観してしまう。

 

「コホン。キラ君とシャルロットちゃんがイチャイチャしてても、私は別にいいけど今は控えてくれると助かるわー。これからちょっと、大切なお話になるから」

 

「い、イチャイチャなんてしていませんよっ!! そ、それよりも私たちはどうしてここに連れてこられたんですか」

 

「言ってなかったかしら? シャルロットちゃんはもしもの時を考慮して、少なくともお客さんが帰るまでは私のそばに居てくれた方が助かるの。混乱に乗じて、2人を実力行使で狙ってくる可能性があるから。今回は外部からも沢山観客が集まったから、その中に亡国機業(ファントム・タスク)へと協力している人間側いるだろうしねぇ」

 

「それで僕の方は……?」

 

「ほら、戦闘の途中で聞いたでしょ? 例の賭けのこと。それを実現可能な人が今私と話をしている人なの。私の独断で君のISデータを手渡すわけにはいかないじゃない」

 

「それはわかりましたけど……どうしてそのことを生徒会室で話を?」

 

「情報を最低限の人数に留めておきたいから。盗聴もされてないかは事前に確認をしてるし、防音だから外部から盗み聞きされることなんてないわ。なので、これから話すことを他の人間が知っていたら、それはこの場にいる誰かが情報漏洩したってことだからよろしくねー♪」

 

 ニコニコと微笑みながら言ってるけど遠回しに脅迫してるよね? ストライクの情報を徹底的に隠蔽することを協力してくれるのはとても助かるけど……その為に誰かを傷つけてでも守らなくてはいけないっと考えれば複雑だ。

 

『どうでもいいから。さっさっとお前が完成させてほしいISのUSBをくれないー? GAT-X105、STRIKEのさー。お忍びだし、くーちゃんも早く帰らないと危険なんだから』

 

「そちらの事情は察しますが、こちらにも確認と契約を結ばない限り易々と手渡すことはできませんので。どうも、その態度ですと自己紹介もする気はなさそうなので勝手にやらせてもいただきます。今私と話をしている人は篠ノ之束さん。……そうね、キラ君に簡単に説明するならISの生みの親ってところかしら?」

 

「し、篠ノ之束……っ!? えっ、えっー!?」

 

 まさかISの生みの親である人にストライカーパックの開発を頼み込むことになるだなんて驚きを隠せない。それにしても篠ノ之ってもしかして……? うーん。でも、同じ苗字の人はいると思うし偶々なのかな? 

 

『うるさいなぁー。私用で来ただけで騒がしくする必要ある? お前もだよ。騒々しくなるの分かってるのに、紹介する必要なんてないだろ。それぐらい分かってるだろ?』

 

「それでこっちの子は……できれば自己紹介をしてもらえるとお姉さん助かるかなーって」

 

「────はい。私はクロエ・クロニクルと申します。今回はこの場に来ることができない束様の替わりに、私が失礼させていただきます」

 

「……いくら"天災"でもこんないい子を誘拐だなんて許されませんよ? 表に出てきて自首した方がいいんじゃないですか?」

 

『失礼だなー!! 誘拐なんてするわけないだろっ!? くーちゃんは私の立派な家族ですぅー!! ……はぁ、なんだろ。お前と話すのほんっと疲れるし、腹立つんだけど?』

 

「褒め言葉として受け取らせてもらいますね。それでは和んだこともありますので、本題に入らせてもらいますねー。これは確認ですが……取引については応じてくれると判断していいんですよね?」

 

『私が出した条件をクリアしたから応じてやるよ。時間を測りながら、らーちゃんを助け出すのを見届けたわけだし。内容は、えーっと、未完成のストライクの完成だっけ? ただ完成させるだけなら、別に天才である私の手を借りる必要を全く感じないけど。……それで? なにが目的なの?』

 

「見届けたって。……まぁ、その発言は今回は聞いていないことにします。そのことについては、私からではなくご本人の口から聞いてください。まぁ、貴女が思っているような内容ではないと思いますので」

 

 突然と話をふられることに驚いて、なにを話せばいいのかと困惑してしまう。篠ノ之束さんと更識会長の取引についてはなに一つ知らないんだけど、とりあえずストライクを完成させたい理由を正直に話したらいいんだよね? 

 

「えっと……僕はストライクのパイロット、キラ・ヤマトです」

 

『自己紹介なんて別にいいから。されたところで覚えるつもりなんて全くないし。それで、なんでお前はISを完成させたいわけ? 戦闘は見てたけど、別に技量がないわけじゃない。ある一定の戦闘できるのなら今の状態でも充分だろ』

 

「だけど、それ以上の戦闘はできません。それだと、大切な人を友達を守るためには到底足りないんです。……気持ちだけでは、守れないのは知っているから。……失いたくないんです。大切な人を、友達をこれ以上は」

 

 ハッキリと覚えている守れなかった人たちの最期を。だからこそ誰も失いたくない。あんな悲劇を繰り返さないためにもストライカーパックは必要なんだ。

 

『あっそ。ご大層な理由をせいぜい見失わないようにするんだね。私はお前の持つ、ストライクをこの手で完成させられるのならそれでいい。この私が知らなかったその正体不明のISを』

 

「あっ、念を押しておきますけど、そのデータを使って"悪戯"しようならその時は命の覚悟をしておいてくださいね」

 

『……へぇー? この私に脅迫するんだ?』

 

「脅迫? いいえ。忠告ですよ。そのデータを悪用を企てるのならその命をどのような手段を選ぼうと奪います。GAT-X105STRIKEの機密はそれほど守らないといけないもの。ですので悪用、情報漏洩はやめてくださいねー」

 

 更織会長は軽口で言ってるけど、それを冗談で言っていないのは目を見ればわかる。僅かに感じとれる殺気は自分に向けられたわけではないのに息を呑んでしまう。

 

『注文が多いなぁ? 鼠でも周りをうろうろされるのは目障りだから約束は守ってやるよ。注文通りにこの後受け取るデータ通りに作ればいいんだろ。一応聞いておくけど完成させてほしいし期限とかあるわけ?」

 

「可能なら早くお願いします。正直に言えば今すぐにでも欲しいんです」

 

『現在大切な作業中だから、それが終わり次第作ってやるよ。この私が直々に完成させるなんて、生きている内には2度とないからその幸運を噛み締めて生きていくんだね』

 

「はぁ……それではそちらのクロエちゃんにUSBをお渡ししておきますのでサッサっとご退場お願いしますー。もう一度念を押しておきますが、くれぐれもデータの悪用はなさらないでくださいね」

 

 うるさいなーっと抗議が聞こえれば再度ため息を吐く。クロエと名乗った少女の僅かな動きも警戒しながら近づき、更識会長は彼女の手にしっかりとストライクの情報が入っているUSBメモリを渡す。

 

「貴女もこれを失くさないように気をつけてね?」

 

「はい。束様に必ずお渡しすることを約束します。それでは私はこれで失礼させていただきます。……そして、本日はありがとうございました。今度はゆっくりとお話しできると嬉しいです」

 

 僕らに浅くお辞儀すると少女は生徒会室を退出する。扉を閉める直前に僕の方を最後に視線を向けていたような気がするのは気のせいだったろうか? 

 

「はぁ……今日は流石に疲れちゃったわ。特に精神的に。あの天災と最強を相手にするのは2度と御免ね」

 

「……すいません。僕の我儘に付き合わせてしまって」

 

 本当は取引に持ち込むのも全部僕1人でやらなくちゃいけなかったのにほぼこの人に丸投げするかたちになっていた。

 申し訳なさで顔を顰めていると、慰めるように更識会長は大丈夫よと小さく笑う。

 

「君の身の安全を上げるのに一番効率が良かったから気にする必要なんてないのよ? それに自分でも言ってたじゃない。大切な人を守るために必要なんだって。その為なら協力は惜しまないわ。特に信頼できる人間なら、ね?」

 

「……ありがとうございます」

 

「……むぅ」

 

「あっ、えっと、もちろんシャルロットのことも信頼してるよ?」

 

「……分かってるけど。むぅ」

 

 納得いかなさそうに両頬を膨らませて上目遣いで睨んでくる。ストライカーパックの件はどちらかと言うと更識さんからの提案で、身の上の話をする事になったのはあの時は自暴自棄にもなっていたというか……。

 更識さんに目線で助けを求めると仕方がないわねっと呆れ気味に笑う。なんとなくだけど、このことを貸しだって言われそうだなぁ……。

 

「はいはい。そこにいるキラ君を追い詰めるよりも、このまま3人でお茶でもしましょうか」

 

「お、お茶ですか!? でも、生徒会でもない私がお邪魔するのは……」

 

「いいのよ。生徒会長がお茶をしようって言ってるんだから。私はシャルロットちゃんと親睦を深めたいしねぇ。……ほら、キラ君のことちょっと教えるわよー? ちょっと面白いことを最近したのよ。知りたい?」

 

「もちろんです!!」

 

 遠慮していたシャルがその一言で食い気味に参加を決意する。助け舟を出したつもりなのに逆に追い込まれているのは気のせいだと目を背けながらも、そのまま逃げ出せることもなくお茶会に参加することになった。

 

 

「それじゃあ。また明日ね、キラ」

 

「うん。また、明日」

 

 夕食も近くなりお茶会が終えて生徒会室から、シャルの部屋まで彼女を送っていく。彼女が部屋に入るまで見届けて、今日一日彼女の身に何事もなく終わったことに一安心かな。来賓の人は既に学園からは去っていたとは言われているから外部から接触されることはないだろう。

 

「僕も戻ろうかな。それにストライクの整備もやらないと」

 

「──うんうん。アンタが元気で自分のISを整備する気なのはよーくわかったわ」

 

 いつの間にか鈴が隣に立っていた。ニコニコと微笑んでいる姿を見て余計に冷や汗が出てくる。嫌な予感がして今すぐこの場から駆け出したい衝動をグッと堪えてなるべく平静を装う。

 

「……今から僕ちょっと用ができたから。また、明日ね」

 

「だーれがその見え透いた嘘に引っ掛かるのよ!! ほら! アンタの部屋に行くわよ!!」

 

「……いや、ほら、ちょっと部屋は散らかってるから場所変えたらどうかな!」

 

「それなら公衆の前で説教ね。正座してもらうから。……それともこの場で今すぐお説教してもいいけど?」

 

「……そ、それは勘弁してもらいたいかな」

 

「潔く諦めることね!! 今日は誰がアンタを起こしに来たのかを忘れるんじゃないっての。まず、散らかすほど手荷物なんてないでしょうが。ほら、サッサっと行くわよ。いつまでも廊下で話すのも目立つんだから」

 

「目立つのが嫌ならこのまま自室に戻ったほうが────」

 

「────なにか言った?」

 

 先を歩き始めた鈴はニッコリと微笑みながら振り向く。目元が笑っておらず、これ以上言い訳を並べれば実力行使もやむ得ないと拳を握っていて全力で首を横に振る。逃げられないようにか左腕を掴まれて、そのまま僕の部屋まで彼女に連行されていく。部屋の前に辿り着き、解錠して室内に入る。逃げようがないから解放されると思っていた左腕はいつまでも解放されず、それよりも掴まれている力が僅かに強くなった気がする。

 

「り、鈴?」

 

「……今回だって理由があるのわかってるけど、あんまり心配させるんじゃないわよ。……この馬鹿」

 

「……ごめん。大丈夫。僕は大丈夫だから、鈴」

 

「……んっ。今日はその言葉は信じてあげる。怪我して戻ってきた日には覚悟しておいてよね! アタシはちょっと今から自室に戻って取ってくるものがあるから、アンタは大人しくいること。いなくなったら絶対に許さないから」

 

 震えていた声は嘘みたいに変わり、弾んだ声で鈴はそのまま一度退出していく。手持ち無沙汰にもなり、椅子に座り言われた通りに鈴が戻ってくるまで大人しく待っていることにする。

 戻る時に鈴の部屋に寄ればよかったかな等と考えているとガチャリと扉が開き両手に袋を持った鈴の姿が。僕が椅子に座って待っている姿を見て満足そうに彼女は頷く。

 

「うんうん。大人しく待っていたようね。ちょっとキッチンを借りるわねー」

 

「別にいいけど……?」

 

 すると鈴はそのままキッチンで調理を開始する。普段使用しない場所であって、その場所で誰かが料理をする後ろ姿は新鮮だ。ほぼ素人である僕から見ても慣れた手つきで調理しているのは感嘆のあまり声を出しそうになる。

 

(……どうしてここで料理なんか? 一夏の為なら直接行ったほうがいいんじゃ?)

 

 なぜ僕の部屋で料理を始めたのか理由を考えるが思い浮かばない。一夏の為なら、それこそ彼の部屋に直接行ってやった方がいいわけだし。だって彼女は僕が味覚を感じていないのは知っている。

 

「えっと、一夏の為ならそれこそ一夏のところに行ったほうがいいんじゃないかな?」

 

「きょ、今日はいいのよ! とりあえずアンタは他のことでもやってれば!」

 

 声が上擦ってたような気がするけど、それを聞いたらなんとなく怒りそうな気がするからやめておこう。なにか理由があるのは間違いなさそうだし端末で適当に作業でもしていよう。

 今でも手軽に出来る作業をしていると、微かに食欲をそそるような香ばしい匂いが。この匂いはっとディスプレイから目を離すと、テーブルに出来上がったであろう料理を彼女が運んでくる。

 

「鈴音の特性麻婆豆腐お待たせしましたってね! こっちのめちゃくちゃ赤いのがキラの分よ」

 

「……僕に? でも、僕は味が分からないから食べるわけには……」

 

「物は試しって言うじゃない。辛い料理はまだ試したことないから分からないでしょ? 味付けも濃いめにしてるし、もしかしたらってあるじゃない。……本当に嫌なら、断ってもいいのよ?」

 

「……ううん。鈴が作ってくれたんだから頂くよ。それにお腹は空いてるしね」

 

 眉を下げて不安げに見てくる鈴の姿はあまり見たくない。それにお腹が空いていたのは事実だ。食欲が満たされるのならこの際はなるべく割り切ることにしよう。鈴も椅子はと座り、じっと僕のことを見ているのは多分食べるのを待っているからだろう。

 見るからに辛そうな麻婆豆腐。スプーンで掬い、いつものように期待せずに機械的にゆっくりと口の中へと入れる。

 

「……あっ」

 

 呆然としながら小さく言葉を漏らす。先ほど口の中に入れた食べ物から痛みと僅かに感じられる辛さと味付け。久々に何かを食事しているという実感に衝撃を受けてスプーンを手から離して床へと落とす。

 

「……鈴。味が、するんだ……分かるんだ……君の作った料理の、味が、分かるんだ……っ」

 

「当たり前じゃない。なんたってこの鈴音様が丹精込めて作った料理なんだから。冷めたら味はちょっと変わるけど……ほら、こっち来なさいよ。アタシしかいないんだから、今のうちに吐き出しときなさい。ほんっと、溜め込んでばっかりなんだから」

 

 見かけた彼女が近づいて優しく頭を抱きしめてくれる。静かに泣き続ける僕を鈴はなにも言わない。僕が泣き止むまで彼女はずっと優しく抱きしめ続けた────

 

 ◇◇◇

 

「……ここ、は……」

 

「────ここは医務室だ。やっと目を覚ましたか。この大馬鹿め」

 

「……教官。……っ!!」

 

 目を覚ました少女──ラウラの疑問に答えたのは彼女の意識が回復するまで同伴していた織斑千冬だった。尊敬している師とも呼べる人物の声を聞き上半身を起こそうとすると体は思うように動かず全身に痛みが走る。

 

「無理に体を動かすな。そのまま横になっていろ。命に別状はなかったが、体に大きく負担がかかっていたらしい。暫くは安静にしておくようにだそうだ」

 

「……私は敗れたのですね。禁忌の力へと手を出しながら敗北したのか……哀れだな、私は」

 

 意識を覚醒させれば医務室に運ばれている己の姿にラウラは自嘲する。タッグトーナメントで、敗北するという現実を受け入れられず目先の禁忌の力に手を出しても敗北を喫した。

 呆然と天井を見上げるラウラに千冬は声を掛けることもなく静かに見守る。数分の沈黙。先にその沈黙を破ったのは意外にもラウラであった。

 

「……教官。私にとっては力が絶対でした。力があれば生きていける。存在そのものを許される。教官のように強くなれば、私を誰もが人として見てくれるのだと……ですが……」

 

「……力だけを追い求めることに疑問を抱いているということか。その疑問を抱いたタイミングはいつだ? 少なくとも、タッグトーナメント前まではそうではなかったはずだろう」

 

「VTシステムに取り込まれている間に。とある男の記憶をずっと見ていましたから……」

 

(……相互意識干渉クロッシング・アクセスか? 会話や意思疎通などはできるが。いや、今は問題は誰の記憶を除いたかだ。……一夏ならば楽観視できるが、おそらくは……キラだろうな)

 

 誰の記憶までは曖昧にしているがバツの悪そうに顔を歪めている姿を見れば、短い時間とはいえど戦い方を教えていた間柄。誰の記憶を見たのか推測するのは簡単だった。

 教え子の心境の変化は教師、もとい元教官としては手放しに喜びたいがその要因がキラ・ヤマトなると眉を顰める。

 勘違いはされたくないが、織斑千冬はキラ・ヤマトのことは当然信頼している。しかし、彼の背負い続けている戦争の記憶は彼女の想像できる範囲を逸脱している。軍人として在り方を求められ続けている少女に、どのような影響を及ぼすのかはいくら最強と呼ばれる千冬でも予測はできない。

 

「……教官。私はどうすれば良いのでしょうか……生きていく中で私はなにをしていけば……」

 

「それを今から探していっていいんだ。誰かに敷かれたレールの上を歩むのではなく、自分のやりたい事を探し、歩み、生きていけばいい」

 

「で、ですが……私は────」

 

「────お前は兵器などではない。産まれた理由は歪でも、それでもお前は兵器ではなく1人の人間、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 表情を曇らせていたラウラに千冬は昔と同じ言葉を投げる。昔同じように少女が自分の存在を思い悩んでいた時に千冬は兵器ではなく1人の人間だと、教官としてではなく1人の大人として同じ人間として諭した。

 

「3年間はこの学園に通うんだからな。どんな人生を歩みたいのか、なにをしていきたいのか大いに悩め。己の人生は己で決め、歩み進んでいくものだ。解が出ないのなら1人で悩むのではなく、親しい者を人を頼り相談しろ。悩むのはいいが、度を過ぎた問題を1人で抱え込みすぎるのはよくないからな」

 

「ですが……教官の手を煩わせるには」

 

「まったく……お前も面倒見がかかる教え子だ。安心しろ。生徒の進路相談は教師の立派な仕事の一つだ。教え子を路頭に迷わせる教師などいるものか」

 

 再度口を開こうとしたラウラを千冬はニヤリと笑いながら頭を撫で遮る。内心はラウラがどのような影響を受けたのか警戒していたが、今の少女の悩みを聞けばそれは杞憂であった。

 

「しばらくはゆっくりと休んでおけ。お前も目覚めたことだし、今日はもう行くが明日また来る」

 

「……わかりました」

 

 ラウラの頭を再度わしゃわしゃと撫でる。照れくさそうにしている彼女の姿を見て満足した千冬は医務室を後にする。

 千冬は無理を言って意識が回復するまでラウラに側にいた。この後の事務処理を考えるとため息を吐きたくなるが、ラウラのある言葉を思い出していた。

 

(……力を手に入れることに渇望していた奴を疑問を抱かせるほどか。なぁ、お前はその記憶をいつまで1人で背負い続けるつもりなんだ)

 

 この場にいない少年の姿を脳裏へと浮かぶ。いずれは聞かなければならないなっと独り言を呟くと突然と電子音が鳴り響く。ポケットに入れていた携帯を取り出してディスプレイを見れば、その名前に千冬は僅かに目を見開く。軽く周囲に人がいないことを確認して電話に出る。

 

「────久しぶりですね。ヒビキさん」

 

『────うん。久しぶりね、千冬ちゃん』

 

 千冬の携帯のディスプレイに通話している相手の名前はこう出ていた。織斑ヒビキっと────

 





本来はお年玉として出す予定が全然無理でしたね!!めちゃくちゃサボってたツケだ!!切腹。これは切腹だよ!!言い訳するなら、リアルが忙しかったのも………()

とりあえずこれでラウラ編は終わりじゃ!!終わりなんじゃ!!一番難航してた!!ぶっちゃけ全部書き直すか悩むぐらいには難航してた!!(クソ発言)

さぁ、ラウラ編が終わったから夏だ海だ!!に行きたいけどまだ終わってない子がいるから……日常回するったらするの!!日常回をやるんだ!!私!!



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第32話 消える孤独



31話の最後を僅かに訂正し報告をこちらで……そこまで内容は変わっておりませんので!それでは32話にどうぞー!

そして先に言っときます……ここから更にグダリます(真顔)


 

 

「……暫くは自室で過ごしてようかなぁ」

 

 VTシステムの暴走から翌日。みんなと一緒に食堂で朝食をとりながら周りからの好奇の視線と目の前にある一枚の紙。昨日の出来事を新聞部は早速記事にしていて、記事にする提案をしてそうな新聞部副部長である黛薫子さんを思い出す。相変わらず味は感じないサンドイッチを頬張り、ため息を吐きながらぼんやりと呟く。

 

「止めはしないけど全部自分でやりなさいよ」

 

「それなら私が朝食と夕食持ってこようか?」

 

 何気ない一言に心底呆れたように見放す鈴と見放すことなく微笑んで手助けをしてくれるシャルが同じタイミングで口を開く。空気が僅かに凍りお互い顔を見合うが何事もなかったようにみんなの会話は続いていく。

 

「学内の取り上げられた新聞に過剰に反応すれば身が保たんぞ。まず引き篭もる選択を真っ先に取り出すな馬鹿者」

 

「ええ。それに悪さをしたと言うわけではありませんから身を隠す必要はないかと。堂々としているのが気分も幾分か楽というものですわよ」

 

「ほら。俺と箒、それに生徒会長さんも記載されてるからこの前よりかはマシだって。まずキラが自室で食べ始めると俺の肩身が狭くなるんだ……だから一緒に食堂で食べてくれよ!」

 

 一夏に縋るように懇願されると自室で食事を取るのは諦めるしかない。男の肩身が狭く感じるのは男女比の差が大きすぎるのもあるけど、あと単純にことあるごとに注目の的になるのが結構面倒くさいのだ。

 

「あっ、鈴は今度時間はあるか?」

 

「へっ? そ、そりゃ時間は言ってくれればいつでも作るけど……」

 

「それなら今度休みの日に一緒に出かけようぜ。鈴が戻ってきたのにまだやってなかったからさ」

 

 一夏の発言に約2名ほど呆然としながら言葉が出ないのかハクハクと口を動かす。僕とシャルも聞き間違いじゃないかと、お互いに顔を見合わせてしまう。いや、だって、一夏が鈴をデートに誘ってるんだよ? 

 

(一夏どうしたんだろ!? あの誘われても鈍い反応とか、友達だからだろ? って疑問を持たない一夏がデートに誘ってるよ!?)

 

(ど、どうしたんだろ? ……う、うーん。なんだろう。なんか引っ掛かるんだよなぁ……だって、一夏だよ?)

 

「……ちなみになんだけど、2人でやるわけ? そのお出かけって」

 

「ん? 弾と数馬もいるぞ。だってこの前遊んだ時に言ってたじゃんか。帰国祝いしろって。久々に色々周りたいと思ったしな」

 

「あー。そんなこと言ったわねぇ……はいはい、そうだろうと思ったわよ」

 

「友人との帰国祝いとやらは楽しんでくるといいぞ」

 

「ええ。友と気兼ねなく交友を深めるのも大切なことですわ」

 

 鈴は赤面していた顔ががらりと変わり頭を抱えながらため息を吐く。なぜため息を吐かれたのか一夏は理解できず首を傾げ、箒さんとセシリアさんは何事もなかったかのように食事を再開する。僕とシャルは一夏だねーっと苦笑いをしてしまう。

 

「……少しいいか。キラ・ヤマト」

 

「……ボーデヴィッヒさん」

 

 朝食も食べ終えて教室に向かおうと立ちあがろうとするとボーデヴィッヒさんから呼び止められる。彼女の顔色はまだ悪く体調は本調子じゃないのが窺える。

 

「体調は大丈夫なの? まだ休んでいた方がいいよ。顔色も悪そうだし……」

 

「あ、ああ。問題ない。体はまだ痛むが日常生活に支障はない」

 

「そっか。それならよかった。……それで僕に用事があるんだよね?」

 

「……お前と2人で話したい。いや、話したいことがある。教官には事前に話を通している。多少の遅刻は多めに見るそうだ」

 

「うん。わかったよ。僕も、もう一度君と話をしたいと思ってたから。みんなは先に教室向かってて」

 

「織斑先生に怒られないように時間には気をつけて戻ってこいよ。どうやら大事な話でありそうだしな。ほら、私たちは遅刻すれば怒られるからサッサっと行くぞ。……まったく。あまり抱え込みすぎるなよ」

 

 睨みながら今すぐに噛み付きそうな鈴とシャルと一夏を箒さんが宥めて無理矢理引き連れて行く。僕らの間に何かがあると察したのか、すれ違いぎわに小声で心配してくれるのは良い友達を持ったなとつくづく思う。

 

「ついて来てくれ。教官から話し合いするには誂え向きの場所があるそうだ」

 

 行き先を知っている彼女の後ろを歩く。学園内に話し合いにうってつけな場所なんかあったかと、記憶を探っていると今僕らが向かっている目的地の道筋はよく知っている。目的地に辿り着けば織斑先生が言っていたお誂え向きと言った理由がよく分かる。

 

「やっぱりここだったんだ。確かに誰にも聞かれないように2人で話すにはうってつけだよね」

 

「なんだ? この場所を知っているのか?」

 

「うん。少しの間は此処で生活してたから」

 

 織斑先生が提案した場所は入学する前に僕が一時期生活していた個室だった。てっきり撤去されていると思っていたが、内装は変わらず綺麗にそのままに残してあるのは意外だったけど。

 

「……まず第一に礼を言う。VTシステムに呑まれた私を救出してくれたことには感謝する」

 

「えっ!? いや、僕1人の力で助けたわけじゃないし……なにより放っておくことはできなかったから気にしなくて大丈夫だよ。僕は出来ることをことをやっただけだから」

 

「それはお前が……人の理想、最高のコーディネイターだからか?」

 

「なっ……」

 

 この世界では誰も知らないはずの知識を目の前の彼女が言葉としてはっきりと口にしたことに激しく動揺する。異なる世界の人間なのは教えていても僕が最高のコーディネイター、人の理想であることは織斑先生、山田先生、そして更識さんには教えていない。

 

「……やはり真実か。正直に言えば今でもお前が成功作であり、最高傑作だと信じ難い……」

 

「な、なぜ君が……そのことをっ? いったいいつから……っ?」

 

「……VTシステムに取り込まれ、意識を失くしている間にお前の記憶が流れ込んできた。相互意識干渉(クロッシング・アクセス)が原因だろう。お前も似たような現象が起きたはずだ」

 

 似たような現象には確かに心当たりがある。VTシステムとの戦闘の最中に彼女の記憶の一部、そして声が脳内にまるで映像のように流れ込んできた。もし彼女が言っていることが真実ならば彼女が僕の記憶を見て正体を知ったのならば辻褄は合う。

 

「……僕の記憶はどこまで見たの?」

 

「全て見たわけではない。……お前が住んでいたスペースコロニーヘリオポリスへとザフト襲撃から、ジェネシスのレーザーに巻き込まれた瞬間までな」

 

「……そっか。君は最後まで見たんだね」

 

「ああ……知ったんだ……全部知ったんだ……っ!! 失敗作じゃない!! 出来損ないではないっ! 人の理想……っ!! 最高傑作のお前を……っ!!」

 

 感情に身を任せるように彼女は襟首を掴む。震えた声で、今にも泣き出しそうな顔で何故なんだっと苦しそうに呟く。今なら簡単に彼女の拘束からは振り払えるだろう。だけど、彼女の抱えている感情は僕が受け止めなくてはいけない。

 

「……お前が……っ! お前が、傲慢だったら……っ! 薄情だったら!! 力に溺れればっ!! 人を殺すことに躊躇いもなくなれば……っ!! そんな、そんな貴様ならば……っ!! 私は……っ! 私は……っ!」

 

「……うん」

 

「……全部知ったら……っ! お前が……苦しんで、悲しんで……傷ついてるなんて……知ってしまったら……っ! 憎めない、ではないか……っ!!」

 

 力が入っていない拳で何度も何度も胸を叩いてくる。幼い子供のように泣き叫ぶ彼女の複雑に入り混じった感情を落ち着くまで静かに受け止め続けるしか僕にはできなかった。偶然で起きてしまった出来事なのにズルいことをしてしまったと罪悪感に襲われる。知らなければ、見ることもなければ彼女はきっとこんなに苦しむことだってなかったはずなのに。

 

「……見苦しいところを見せた」

 

「そんなことないよ。……それに、ほら、僕の方がもっと見苦しい姿とか沢山あったから」

 

「……ふ、不可抗力だぞ!! そ、そのだな!! 興味本位で見たわけではないぞっ!? 目は逸らそうとしたのだ!! 本当だからな!! し、仕方ないではないか!? 流れ込んできたのだから!!」

 

 励ましたつもりで言ったら、なにかを思い出したのかボーデヴィッヒさんは顔を真っ赤にしてぶんぶんと首を横に振る。気まずそうに目まで逸らしてソワソワと落ち着きのない様子。そんな彼女の様子を見て疑問を抱いた束の間でそんな反応を見せてしまってる原因に激しい心当たりが。

 

「……ヘリオポリスから最後までって言ってたもんね。……ああ……うん……フレイと……フレイ……」

 

「部屋の隅で蹲るな!? コメントのしずらい落ち込みは止めろ!!」

 

「……フレイ…………」

 

「頼むから戻ってこい!? ……ええいっ!! そうなる理由が分かるからタチが悪い!!」

 

 予期していなかったフレイの話題を出されて暫く部屋の隅で蹲る。ボーデヴィッヒさんが必死に声をかけてくれて辛うじて話の続きはできるまでには回復した。話が終わったらこのまま部屋に戻って欠席しようかな……正直授業なんてもうどうでもいいし……。

 

「はぁ、お前は本当に調子が狂う。……なぁ。兵器として造られた存在がそれ以外の道を探していると言ったらお前は笑うか?」

 

「そんなことないよ。歩みたい道を決めるのは自分自身だ。僕らは造られた存在でも……確かに人間なんだから。ボーデヴィッヒさんは望んだ生き方をして良いと思うよ」

 

「……ラウラでいい。偶然といえどお互いに記憶を見てしまったんだ。今更さんなど付けられても違和感しかない」

 

「そういうならそうするけど……」

 

「うむ。そうしてくれ。どうやらこの日本では尊敬している相手を兄と慕う文化があるらしい。だから私は今後は兄さんと呼ばせてもらう」

 

 そんな文化はないじゃないのか? っと一瞬ツッコミを入れたくなったけど、こっちの日本の文化に詳しいわけではないから一概に否定できない。今度一夏たちにそれとなく聞いていた方がいいかなぁ。まず、ラウラはさっきの情報はどこから仕入れたんだろ……? 

 

「……そ、そのだな。違う生き方を探すとは言ったがやはり1人は不安なんだ。……造られた理由も違うし、異なる世界なのも理解はしている。ただ……私も家族なようなものを少しでも感じたい。……だから、だな……兄さんと呼ばせてくれないか……?」

 

「あははは……僕がそんな慕われるようなことはできると思えないけどね」

 

 断る選択肢も勿論あったけど不安そうに上目遣いで見られれば断る勇気がなかった。僕には両親という存在と、実は血のつながった唯一の姉がいたけど彼女はそうじゃない。同情かも知れない……だけど少しでも彼女が抱いていた孤独を少しでも埋まるのならこれで良いんだ。

 

「……ラウラは僕のことが羨ましいとか思ったりした?」

 

「昔は妬み憎んだ。だが真実を知った今はこちらから願い下げだ。……私には人類の理想という身勝手な願いは重すぎる。それに私は私で兄さんは兄さんだ。力だけが僕の全てではない……そうだろう?」

 

「……ごめん。くだらないことを聞いてしまって」

 

「気にしないでくれ。ちなみに兄さんは誰に身の上を明かしているんだ? 実はこの人物には明かしていないのに、私が口を滑らせては冗談ではすまされなくなる。情報共有もこのまま行おう」

 

「それもそうだね。えっと、僕のことを知っているのは────」

 

 自身がまだ人の理想で造られた存在であるのは誰にも明かしていないと前置きをしながらそのままラウラと情報共有する。ついでにだけど、この世界に来た後は記憶は見ていないらしく洗いざらい話すことになった────

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

「やっぱり胴体と左腕にダメージが残ってる。PS装甲のおかげで損傷は抑えられてるけどしばらくは無理をさせられないかな……」

 

 全ての講義を終えた放課後。人目から逃げるように整備室へと駆け込み前日に受けたであろうストライクの損傷具合を調べていた。この世界で2度目の激闘はストライクへ負担をかけすぎた。PS装甲のおかげで他のISよりは多少頑丈ではあるがPS装甲は万能ではない。

 

「なんだ兄さんはここに居たのか。てっきり自室に向かったのかと思っていたが」

 

「ストライクのダメージレベルを知りたくてね。ラウラこそどうしたの?」

 

「私もにな。シュヴァルツェア・レーゲンにな……ご覧の通り無理をさせすぎた」

 

 ラウラは自業自得だがなっと苦笑しているが、VTシステムに取り込まれたシュヴァルツェア・レーゲンのダメージは大きく一部の装甲は破損している。VTシステムが禁止されているのはISに対しても多大なダメージを残すのも含まれるのかも知れない。

 

「シュヴァルツェア・レーゲンは大丈夫なの?」

 

「予備パーツは持ってきているからな。これならば組み替えた方が早い。問題はコアが無事かどうかだ。ISコアが無事なら良いんだがな……」

 

「手伝おうか? そんなに役に立てるかは怪しいけど……」

 

「気持ちは受け取っておく。……これは私がやらなくてはいけないことだからな」

 

 自身の心の弱さでこうなってしまった責任感もあるんだろう。その後は会話をすることはなくお互い作業に没頭する。

 

「キラキラだー! 昨日は大変だったねー」

 

「あっ……キラ君。怪我とか大丈夫……?」

 

「のほほんさんに更識さん。うん。今回は体は大丈夫だよ。痛めたところとかは特にないからさ」

 

「……それなら良かった」

 

「かんちゃんずっと心配してたもんねー」

 

 いつの間にか整備室へと来ていた更識さんとのほほんさんに声を掛けられる。怪我をしていないと答えれば更識さんはホッと安堵する。真っ先に体の心配されるのは初めに会った時に怪我をしていたのが原因な気がする。近くでラウラがISの整備している姿にのほほんさんは気が付き駆け寄る。

 

「ラウラウもISの整備してるのー?」

 

「……ラウラウ? それは私のことなのか……?」

 

「うん! ラウラ・ボーデヴィッヒだからラウラウー!」

 

 そうだよーと柔らかな声でニコニコと微笑むのほほんさんにラウラは戸惑いを隠さないでいた。声を掛けられたことよりもあだ名を付けられている事に困惑しているのだろう。

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒさん雰囲気が変わった気がする」

 

「ラウラのこと知ってたの?」

 

「……遠目から何度か見かけたぐらいだよ。昨日までの彼女なら人と楽しそうに話している姿は想像つかないかな。なんとなくだけど、キラ君が関係してたりする?」

 

「大したことはしてないよ? 偶然きっかけになったのかな……? それが無くてもラウラならきっと同じように笑ってるはずだよ」

 

 朝の話はあくまでお互いの感情を打ち明かして折り合いをつけただけ。その話をする前から彼女は違う道を探すのを決意していた。その道を選ぶ背を押したのはきっとあの人だろう。

 

「兄さん! 初めて友達ができたぞ!!」

 

「えっへん。ラウラウの初めてのお友達は私なのだー!」

 

「……兄さん? えっ、兄さん……?」

 

 のほほんさんとすっかり打ち解けたラウラは嬉しそうに僕のもとへと駆け寄ってくる。更識さんが先ほどの発言を聞いて僕のことを二度見してくるけど彼女が困惑してる姿は新鮮だなー。

 更識さんにどう説明しようかと悩んでいると不思議そうにラウラがクビを傾げながら答える。

 

「日本では尊敬している人物を兄と慕う文化があると聞いてな。それで兄さんと呼んでいるんだ」

 

「う、うーん……間違ってはいないけど文化と言われると、違うと思うよ……?」

 

「むっ? そうなのか? だがクラリッサはあると言っていたが。……まぁ、どちらにしろ兄さんは兄さんだ。うむ」

 

 自己満足して満足そうに頷いてるラウラに更識さんはそうなんだと戸惑いながらも納得する。奇妙な関係だと自覚してるけど、それを説明するには僕らの過去を話さなければならなくなるから日本の文化は結構誤魔化すには都合が良い。

 

「兄さんは日本代表候補生の更識簪とは知り合いだったんだな。私のことは既に知っているだろうが、ドイツ代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒだ。以後よろしく頼む」

 

「う、うん。よろしく……ラウラさんのISは、えっと、大丈夫? 組み替えてる途中なんだよね?」

 

「装甲の損傷が激しくてな。予備パーツと組み替えている最中だ。それと私はラウラでいい。同い年だからな!」

 

「それなら私も簪でいいよ。……更識はお姉ちゃんと被るから」

 

 その一言には複雑な感情が入り混じっていた。のほほんさんを見れば察した彼女は悲しそうに首を横に振る。姉妹喧嘩をしていることは薄らと聞いているけど内容までは把握していない。更識会長が妹である更識さんを大切に強く想っているのを知っているし、あの言葉には嘘偽りはないはずだ。

 

「むふー。難しい顔をしているキラキラには美味しい飴玉をあげるのだー」

 

「あ、ありがとう……?」

 

「昨日頑張ったご褒美だよー! ……ありがとうねー。かっちゃんとたっちゃんの事を気にしてくれて〜」

 

 ポケットから飴玉を取り出したのほほんさんは手を握って飴玉を渡してきて周りには聞こえないようにそっと小さな声で耳打ちしてくる。どうやら無意識に眉を顰めてたようでのほほんさんは気を遣ってくれたようだ。

 

「簪は自らの手で未完成の専用機を完成させようとしているのか。いくら探しても日本の代表候補生のISが見つからないわけだ」

 

「えっ……? 私のISを探してたの?」

 

「己が強者であると証明するのに手短なのは、各国の代表候補生に勝利することだったからな。タッグ・トーナメントが開催されるのを知った後は其方で優勝する方が手間が省けると考えてたわけだが……」

 

「……鈴とセシリアさんを襲ったのも専用機持ちって立派な理由があったんだね」

 

「……話がややこしくなるから兄さんは黙っていてくれ」

 

 今は喋らないでくれとギロリと睨まれたので大人しく静かにしておこう。だってラウラ自身が一夏を誘い出すために狙ったとは言ってたじゃんか……まずそれでお互いに色々とヒートアップして口論まで発展したわけだし。

 

「その、今でも私のISを狙ってたりするの……?」

 

「糧として他者を踏み台にするのは止めた。今は純粋に代表候補生の1人として同じ代表候補生である簪と手合わせをしたいんだ。……そ、その、駄目か?」

 

「……ううん。そんなことはないよ。ISが完成した時はお願い。私は他のみんなと比べるとずっと出遅れているから」

 

「私とキラキラは2人を応援するね〜! えへへ、うちわとか作るよ〜!」

 

「それはやめて」「それはやめてくれ」

 

 作る気満々ののほほんさんを本気で嫌な顔をして止める2人の姿が息ぴったらなのが可笑しくてつい笑ってしまう。のほほんさんは釣られてニコニコと笑うけど2人は納得いかなさそうに不機嫌になるけど許してほしい。

 

「あっ。もう食堂に行かなくちゃいけない時間だよ〜! 今日キラキラを食堂へと連行するのは我々なのだー。きちんと食べるまでは本音さんはキラキラを離さないよ〜」

 

「……きちんと食べるまでって?」

 

「私たちのクラスではキラキラはご飯を食べないで有名なんだ〜。最初は織斑先生に頻繁に呼び出されてたんだよー!」

 

「……きちんとご飯は食べよ? 食べないと駄目だよ?」

 

「……理由はあっても食べないは擁護しないからな」

 

 逃げられないようにのほほんさんに左腕を掴まれる。彼女からのカミングアウトにより更識さんから詰められて諭すように怒られてしまう。ラウラは味覚がないとはついでに説明していたけどジト目で睨まれて庇ってくれることはなさそうだ。

 

「……最近はきちんと食べてるんだよ?」

 

「……教官に呼び出された男の判決は決まってるだろ?」

 

「食堂まで出発進行〜!」

 

「……それじゃあみんなで行こっか」

 

 ラウラからの無慈悲な宣告を受ければそのまま3人に食堂へと連行されていく。こんな時は抵抗をするだけは無駄だと鈴に嫌というほど教えられたので大人しく食堂に向かうことにした────





 歪みに歪んだ兄妹ごっこが始まるよ()この2人を和解させるのは考えるより感じさせるんだ……知れば誰もが望むだろうキラ君のようにはなりたいけど、過酷な人生は歩みたくないよねって。一日悩んで、感情も全部吐き出したので一息ついて丸くなったラウラでした。

フレイ関連は克服したのでは?と見せかけて自分から覚悟決めて話せば耐えられるよって見栄張ってるだけで、他人がポロッと話題に出したら余裕で引き篭もるよ!……ギャグテイストにしないとシリアスにしかならないよ……


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第33話 焦る心


 はい。無事に新章丸々終わらせたから投稿ですわよー!!とりあえず一言言わせてくれ……ORTは永遠に眠ってろ(真顔)

あっ、初の一夏君視点だったりするんだよ……()


 

 

「────逃げるだけじゃ私には勝てないよ!!」

 

(クソッ……っ! これじゃあジリ貧だ!!)

 

 止むことのない銃弾の嵐から逃げながら内心で悪態をつく。俺の白式は遠距離武装はなく、近接武装しか搭載されていない。

 それを知っているシャルロットは迂闊に近づくことはせず、常に一定の距離を保ちながらフィールドを縦横無尽に駆け回る。なすすべもなく逃げ回る気分はまるで捕食者の気分だ。

 

(どうする。どうすればシャルロットに近づけるっ!)

 

 飛び回りながら必死に頭で考える。握っている雪片弍型が触れることができれば単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)で文字通り一振りで勝てる。けど道のりが余りにも険しすぎねえかっ!! 

 シールドエネルギーの残量は残り少ない。何度も距離を詰めようと試みて失敗したツケが今となって回ってきちまった。エネルギーを消費するのを踏まえれば少しの被弾も命取りだ。

 

(こうなったら、リロードする瞬間を狙うしかねえ!!)

 

 弾薬が切れてリロードする瞬間を狙うしか勝算はない。シャルロットもそのタイミングを狙ってくるのは予測してるだろう。器用なシャルロットなら実はそうするように俺を誘導していると言われても不思議じゃない。

 一瞬脳裏にISに身を纏った友達(キラ)の後ろ姿を思い出す。この状況はアイツならどうやって切り抜けるんだろと。

 

「──ーいましかねぇ!!」

 

 最後のチャンスは直ぐにやってきた。雑念は振り払い瞬時加速(イグニッション・ブースト)でシャルロットとの距離を一気に詰める。単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)の零落白夜に全てを賭け大きく振りかぶり──ー

 

「一夏ならこのタイミングで狙ってくるって信じてたよ」

 

 雪片弐型を振り下ろすが伝わってきた感触は硬く、シャルロットは左手に持っていた弾薬が切れたアサルトライフルで受け止めていた。そして俺の行動を予期していた彼女は右手には高速切替(ラピッド・スイッチ)で展開したであろう金属製の槍。それはシャルロットの専用機の中で一番火力の高い奥の手である盾殺し(シールド・ピアース)

 

「は、ははは……」

 

 次に襲ってくるだろう衝撃に顔が引き攣ってしまう。ごめんね一夏っと見惚れるような可愛く笑いながら、シャルロットは容赦なく打ち込んでくるのであった────

 

 ◇◇◇◇

 

 

「……はぁ。またシャルロットに負けちまった」

 

「私も代表候補生の1人だから。簡単には白星をあげることはできないかなー?」

 

 アリーナから場所は変わって食堂。模擬戦が終えた後は一年生の夕食の時間が迫っていて、そのまま食堂で反省会を開くことになった。再度大きなため息を吐けば呆れた顔で鈴が口を開く。

 

「別に一夏がアタシらに負けるのに不思議じゃないでしょ。ISに触れ始めたのまだ2、3ヶ月しか経ってないでしょ。アタシでも1年間は本国で触ってきたんだから。年季が違うのよ年季が」

 

「一夏さんは確かに専用機を持っていますがまだ初心者である事には変わりませんわ。わたくしから見ても一夏さんの成長に目を見張るものがありますわよ?」

 

「鈴が言ってたように私たちは此処に来る前からISには触れていたから。それなのに数ヶ月しか月日が経ってないのに一夏に負けちゃったら私たち立つ瀬がないよ」

 

「……けど全く3人に勝てないんだよなぁ」

 

 代表候補生である3人から充分凄いのだと褒められるが、正直に言えば実感が湧かない。白星は片手で数えられる程度で圧倒的に黒星が多い。一歩ずつ強くなっているのかも知れないが、それでは足りないんじゃないかって小さな疑問。納得してないのが顔へと出てたのか3人が顔を見合わせる。そんな中で静かに食事を摂っていた箒が箸を置き、静かにじっと俺を見つめながら静かにはっきりと口を開ける。

 

「お前はなにを焦っているんだ?」

 

「……焦ってる? 俺が?」

 

「私たちはISに関してはまだ初心者で3人に敗北するのが当たり前だ。それなのに勝利することに拘っているのは焦っている証拠だろう」

 

「……ああ。そっか……俺焦ってたのか」

 

 最初はそんなことはないっと反論しようとしたが、諭すように丁寧に客観的に教えられれば抱いていた小さな疑問が焦りなのだと納得してしまう。

 無意識に焦燥感に駆られてたのに指摘されるまで全く気づいていなかった。3人に勝利することが出来ないのが成長してないと決めつけていたんだ。

 

「……自覚してなかったのか?」

 

「え? あ、ああ。指摘されてやっと気づいた。食堂に着いてからずっと物足りなくて感じてたからさ」

 

「焦りねぇ。突然どうしたのよ? らしくもなく悩んでさ。話ぐらいは聞いてあげなくはないけど?」

 

「それでしたらわたくしが鈴さんの代わりにお話を聞きますわ」

 

「別に聞かないとは言ってないでしょうが!!」

 

「まあまあ。今自覚したってことは最近焦るように思ってしまうことがあったんだよね。心当たりはあったりする?」

 

 みんなに心当たりがないのかと尋ねられる。心当たりはあるけどそれを素直に教えようとすると躊躇ってしまう。この場にいないのに打ち明けるのはなんだが卑怯な気がして。

 だけど1人で抱え込んでこの気持ちを解消できるのと問われれば答えはノーだ。あくまで勝手に俺が意識してるだけだと割り切り一度深呼吸をする。

 

「実は────」

 

「────私も楽しいお話の仲間に入れてもらえないかしら?」

 

 覚悟を決めて重い口を開くと、1人の女の子が遮るように会話へと混じってくる。出鼻を挫かれた思いで顔を顰め、誰かと見れば金髪の赤い目をした見知らぬ人物。空席だった鈴の隣に我が物顔で座っていた無関係な第三者に誰もが困惑する。

 ニコニコと隣に座り女の子が誰かと興味なさそうにしていた鈴が顔を見ると大きく目を開き声を上げようとすれば、指を鈴の唇に当てウインクをしながら止める。

 

「大きな声で言ったらお忍びの意味がなくなるじゃない。お姉さんとしてはもう少し静かに言ってほしいかなぁ」

 

「……変装までして1年生に紛れ込んでなにを企んでるのよ」

 

「まるで私が常日頃から悪いことを考えてるみたいに言われるのは心外ね。今日は1人の少年が悩んでいるからそれを解決するためにきたもの」

 

「誰も女狐のアンタには頼んでないってのっ!!」

 

「……喧嘩するのは構わんが貴女は何者だ。少なくとも私たちと同じ学年生ではないことは確かだろう。正体を明かしてもらえないか?」

 

「素直に教えるのはつまらないじゃない。ここはやっぱりみんなの力を合わせて推理をして────」

 

「……生徒会長よ。こんな変装をしてまで一夏に近づこうとしてるのは学園中探してもコイツだけよ」

 

 仕返しのつもりか心底不機嫌そうに鈴が答える。驚いて声を上げようとすれば生徒会長さんから無言の圧力を感じ慌てて口を抑える。だって姿が全く違ってるから驚くなって言われた方が無理あるだろ……。

 

「どうしてそんな変装をしてまで……?」

 

「普通に話しかけるなんてつまらないじゃない。一度やったし、当人からも言われたから、初めは織斑君の部屋に潜入して裸エプロンでお出迎えは考えてたんだけど……それしたら約3名ほど私と接触するなって詰め寄りそうじゃない?」

 

「あ、当たり前ではありませんか!? と、殿方に裸エプロンで押しかけるなどわたくしが許しませんわ!!」

 

「と、当然だろう!! まず無断で部屋に侵入する時点で大問題だ!!」

 

「実行に移してたら生徒会室に殴り込みするわよ!!」

 

「……え、えっと、一度やったのは誰にですか?」

 

「ここにいないキラ君に決まってるじゃない。織斑君にも同じことやればいいじゃないかって提案したのもあの子だし」

 

「は、はぁ!? キラの部屋でなにしてんのよ、この女狐!! た、誑かすにもやり方ってもんがあるでしょうがっ!! まずアイツはアイツでなんてこと言ってんのよ!!」

 

 顔を赤くしながらバンバンと机を叩く鈴を相手もせず涼しげな顔で静かにお茶を啜る生徒会長。裸エプロンで迎えられるってどんな状況だよ……それはそうとキラは俺に厄介ごとを押し付けようとしてたな? 今度弾にさりげなく言っとくか……血眼になってキラに詰め寄るだろうな。

 

「……あのキラさんが生徒会の1人になったのはこのような理由が……」

 

「……いや、だが……キラだぞ?」

 

「……彼も1人の殿方ですわよ? 決して可能性はないとも言えませんわ」

 

「彼の名誉の為に言うけどやましい気持ちがあって生徒会に入ったわけじゃないわよー? せっかく美人なお姉さんが裸エプロンでお出迎えしたのに無言で扉閉められちゃったし。その後もびっくりするぐらい無反応。無関心ではないと思うけど……その辺はどう思うシャルロットちゃん?」

 

「ど、どうなんでしょうかね……あ、あははは……」

 

 自分に会話が振られると思ってなかったのかびくりと肩を上げシャルロットは歯切れが悪く乾いた愛想笑い。シャルロットにしてはなんか珍しいなー。さっきからソワソワしてるのが関係してるのか? 

 それにしてもまだ数えられる程度しか話はしてないけど破天荒な人だな……何処となく束さんに雰囲気が似てる。いや、あの人はこれよりも酷いんだけどさ……。

 

「それで生徒会長は俺になんか用があるんですよね……?」

 

「今度から放課後私も君の特訓を手伝おうかなーと思ってね。流石に毎日は無理だけど。どうかしら?」

 

「……へっ?」

 

 予期してなかった提案に間抜けな声が出る。聞き間違いかと思いもう一度聞けばニコニコと微笑みながら一言一句同じ言葉を言う。学園最強と称えられている生徒会長が俺の特訓を手伝うという突拍子すぎる申し出に頭がフリーズしてると、困惑気味にセシリアが異議を申し立てる。

 

「お、お待ちください! なぜ生徒会長が一夏さんと訓練をっ!?」

 

「力不足を痛感したから焦ってるのなら、学園最強の私が彼を鍛えればその悩みは解決じゃない。他の候補を上げれば織斑先生だけど立場上それは無理でしょ?」

 

「……理には叶っているな。ただ、私は貴女が理由もなくただの善意で行うのかと言われると些か納得ができないな。一夏と特別親しくもないのに無償で鍛えるのは自ら疑えとでも言っているものだ」

 

「男性操縦者が悩んでいるのなら、それを口実に親しくなろうとしてるのは立派な動機よ。私以外にも機会があれば彼と親しくなりたいのはこの学園内には沢山いるわ」

 

「生徒会長さんは確かにちょっと怪しいけど、悪い人じゃないからいいんじゃないかな。なにより一夏の意思を尊重しないと。一夏はどうしたいの?」

 

 警戒を隠すことなく質問するがのらりくらりとかわされ続け、この場で生徒会長と一番関わりが深いのかシャルロットがみんなを宥めながら尋ねてくる。どうしたいか? その答えは既に……いや、初めから決まっていた。誰よりも憧れた世界最強の背中を密かに思い出しながら。

 

「──強くなりたい。俺はみんなを守れるぐらいに強くなりたいんです。だから俺を強くしてください。お願いします」

 

「……みんなを守れるぐらいにか」

 

「……生徒会長?」

 

「気にしないで。んんっ、君が強くなりたいという想いはよく分かりました。その想いに応えるために私も全力で織斑君を鍛えてあげる。私はみんなと違ってスパルタだし、優しくないから覚悟しておいてねー?」

 

 生徒会長は懐かしそうにほころばせていた顔は一変し、眼光を光らせて怪しげに笑う姿に俺はごくりとを喉を鳴らす。学園最強の肩書を持ってる人に今後は鍛えられると想像するとちょっとだけ楽しみだ。周りを見渡せばなぜか生徒会長とシャルロット以外は俯いて耳が赤い。どうしたんだ? 

 

「ふふっ。頑張ってね一夏! みんなを守れるぐらいに強くなるのは大変だよー?」

 

「おう!! 他人事のように言ってるけど、シャルロットだってその1人だからな?」

 

「嬉しいけど、気軽に誰にも言ったら駄目だからねー?」

 

「そうなのか……?」

 

「シャルロットちゃんには普段は頼りないけど、いざとなれば頼りになる騎士様が身近にいるのよ」

 

「うん。だから私は大丈夫だよ。どんなことあっても守るって言ってくれた人がいるから」

 

「「「!?」」」

 

 薄らと頬を染めて微笑むシャルロットに俺と生徒会長以外がむせる。特に鈴の狼狽えが酷く「いや、でも、嘘を言うアイツじゃないし……」っとぶつぶつと独り言を呟くのは珍しい。

 

「い、いつですのっ!? いつお2人はそのようなご関係に!? そのような気配は全くなかったはずですがっ!?」

 

「ま、待て!! いや、お前らが親しいのは知っていたがいつからだっ!? 予兆はなかっただろう!?」

 

「えっ? あっ、別に私とキラは付き合ってるわけじゃないよ? むしろ一回フラれてるし」

 

「へっ……? あれか、つまりシャルロットはキラのことが好きってことか……?」

 

「今気づくとか鈍すぎるのよ!! 普段から2人のやりとり見ればわかるでしょうが!! 話が脱線するから一夏は黙ってて!!」

 

「……なるほど。鈍い鈍いとは噂では聞いてたけど、直接目にすると重症ねー」

 

 全員が呆れた顔でため息を吐かれて、挙げ句の果てに黙ってろと言われるのは激しく納得がいかない。除け者にされて和気藹々と浮ついた話へと変わって背中がむず痒くなってきた。利用時間ギリギリまで話す雰囲気だし先に戻るか。

 

「俺は先に部屋に戻っておくからなー」

 

「それなら私も。このまま混ざりたいけど、ちょっとお仕事が残ってるしね」

 

 意外にも話に混ざりそうな生徒会長も一緒に席を立つ。一緒に行きましょ? と誘われ断る理由もないから食べ終えた食器を返却口へと置いて共に食堂を後にする。

 仕事が残ってると言っていた生徒会長さんは生徒会室がある方角ではなく寮へと向かう俺に着いてくる。

 

「仕事が残ってるんじゃなかったんですか?」

 

「それは君と2人きりになる為の嘘よ。織斑君のことが気になってしょうがないもの。君が誰に対して焦っているのかとか、ね?」

 

「……っ!?」

 

 口元を隠すように扇子を広げ怪しげに微笑む姿にぞくりと背筋が凍る。ゾッとするような、心を見透かすその赤い瞳には誤魔化すのは無理だと本能で理解する。

 

「……嫉妬してるんですかね。アイツは俺にとって大切な友達の1人なのに……」

 

 震えた声でやっとの思いで言葉を吐き出せば、意外にも目の前の人は目が点になり口元を押さえながらクスクスと笑い始める。

 

「ふふふっ。織斑君は純粋ね」

 

「……揶揄ってます?」

 

「ごめんなさいね。ちょっと揶揄っちゃった。けど、織斑君が彼に嫉妬していないのは保証してあげる。抱いている感情はもっと別のものよ」

 

「分かってるのなら教えてくれたって良くないですか?」

 

「それは駄目。答えを教えてしまったらそれは成長には繋がらないじゃない。織斑君が抱いているその感情は、今はとても必要なものだもの」

 

 必要と言われても、はいそうですかと簡単に納得はできない。自身の抱いている気持ちを一方的に見透かされてるのは、口にはしないが良い気分じゃない。

 

「なんにせよ悪影響はないから安心しなさいな。陰りが見え始めたら、全力で私が修正してあげる。まっ、そんな予兆が見え始めたら私が動く前に織斑先生が直ぐに粛清するでしょ」

 

「……それは……まぁ……」

 

「先輩らしくアドバイスするなら、1人で抱え込もうとするのだけはやめておきなさい。身近に抱え込んでいる人がいた織斑君はこの意味はわかるでしょ?」

 

 生徒会長さんの真剣な眼差しで忠告される。思い出すのは一時期気を張っている千冬姉の姿。数年前に俺が攫われ救出された後に俺たちの両親のような人が忽然と失踪した後、暫く千冬姉はずっと思い詰めた顔をしていた。一度問い詰めれば──ー

 

『────お前は知らなくていい。やりたいことをやっていけ。それが私と、あの人のなによりの願いなんだ』

 

 両肩を掴まれ懇願するように言われればそれ以上は何も言えなかった。それ以降は割り切ったのか普段の千冬姉に戻ったけど。

 

「──君。織斑君。突然と黙り込んでどうしたの?」

 

「い、いえ、ちょっと昔のことを思い出してだけですからっ」

 

 昔のことを思い出して黙り込んでたら生徒会長さんは顔を覗き込んでくる。慌てながら答えるとそう? と怪訝な顔をしながらも身を引いてくれる。薄々思ってたけど、この人距離感がちょっと近すぎないか……っ? 

 

「これからは私とも仲良くしましょうね? 後悔はさせないのは約束しましょう。生徒会長の名に懸けてね」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「それじゃあ、また今度ねー」

 

 今度こそ俺は生徒会長と別れた。最初から最後まで自由奔放の人で、よくキラは生徒会に入るのを決断したなと感心しちまう。悪い人じゃないけど鈴が突っかかるのは納得しちまう。

 

(……それにしても、キラとシャルロットがなぁ。うーん、これは弾には隠してた方がいいよな……?)

 

 キラのことを好きな子がいると知れば荒ぶる弾の姿が容易に想像が出来る。キラの仕返しはどうするかなーと頭を悩ませながら自室に戻ることにした──ー





30話近くでやっと一夏君視点やったね!!()彼の視点を入れるならばこのタイミング辺りなのは初めから決めていたんだ……それはそうと30話使ってるのに2巻の終盤とかデジマ??展開遅すぎだろ(自虐)

VTシステムのおかげでキラ君が実は強いんだよって一夏にもやっと暴露されたので焦るのは無理もないよね…是非もないよね。僻んだり、擦れてないのは世界最強の姉がいるから精神的ダメージはナーフされるでしょう()

ちなみに別に会長は一夏君の過去を知ってるわけでもないです。適当に千冬さんの弟なら、苦労してる姉の姿見てくれてるでしょ?程度のニュアンスなので織斑姉弟の過去は彼女は全く知らない。

日常回だってのに日常回にならないのはおかしいって作者は思うワケ。だからこれは日常回なんだよ。そうだろ??

あっ、めちゃくちゃ月姫やりたい…仕方ないじゃないかぁ!!そして流れで勇者王も見るから……失踪するね(クズ)それはそうとORTは目を醒めないでくれ(真顔)


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第34話 くすぐられる心



  来月にはグリッドマンユニバースが公開されるのに今は今かと待っている作者です。両作品見直した私に死角はないっ!!!


 

「──まさか更識さんとのほほんさんに怒られるなんて」

 

 胃の重たさにお腹をさすりながら食堂の出来事を思い出す。更識さん、のほほんさん、ラウラの3人に食堂へと連行された後は一緒に食事を摂りながら2人にたっぷりとお説教された。

 普段の食生活を問われて答えれば栄養が足りないとか、偏った食事だと食堂利用時間までみっちりと叱られてしまった。当初に比べればこれでも食べてるんだと口を滑らせなかったのを我ながら褒めたいよ。

 ちなみに事情を知っているラウラは2人を必死に宥めてくれたけど、僕の顔を見て何度も大きなため息を吐かれたのはちょっと納得がいかない。

 

(今さら味覚がないってカミングアウトしても、ね……)

 

 数ヶ月も経っていれば実は味を感じてないと打ち明かせば、みんなが気を使い始めるのは目に見えてわかる。初めから言っていればよかったかなーと後悔はあるけど余分な気を使わせるぐらいなら話さない方がいい。

 それに鈴のおかげで辛い料理は味を感じると判明したのだから、完全に後先が真っ暗というわけじゃないしさ。

 

「とりあえず横になりたいかな……」

 

 考えごとをしていれば寮の自室まで辿り着く。お説教で疲弊した精神を養う為にベットで横になりたいと切実に思いながら鍵穴に鍵を差し込んで回せばどうも軽い。開錠されておらずどうやら鍵は閉まっておらず開いているらしい。

 

(……あれ? 鍵は閉めていたような……気のせいだったかな?)

 

 端末を置く為に一度自室に寄り鍵を閉めた記憶があったけど閉め忘れてたっけ? 僅かな違和感を感じながらも勘違いと結論を受けて扉を開ける。寝床を目指して歩けばそこには目開く光景があり思わず変な声が出た。

 

「──あっ、戻ってきたのね。部屋には上がらせてもらってるからー」

 

「……なんでいるんですか?」

 

「なんでって、それはキラ君と情報共有するために決まってるじゃない」

 

 さも当然のような顔を浮かべながら人のベットの上でうつ伏せでパソコンをいじりながら更識さんが寛いでいた。

 やっぱりドアノブに手を出した時に感じた違和感は勘違いではなかったようで、どうやったかは知らないけどこの人が鍵を開けたのは間違いない。

 

「……鍵かけてましたよね?」

 

「それはお姉さんの特技の一つということで、ね? 君が帰ってくるのを恋焦がれた女の子のように、ずっと今か今かと待ってたの」

 

「そのわりには呑気に寛いでるようでしたけど……パソコンをいじりながら」

 

 済ました顔で口笛を吹くのはシラを切っているつもりだろう。ベットの上で寛ぐにしてもシャルが一度使った以降使われてないもう一つのベットの上でやればいいのに。どうして僕が普段使ってる方を使ってるのか……それはそうと無断で部屋に上がってるのには頭が痛くなるけど。

 情報共有と言っていたのは冗談ではないようでパソコンを閉じて、更識さんは体勢を変えてベットに座る。

 

「情報共有とは言いますけど、とりわけするような出来事は起きてないのでする必要ないんじゃないですか?」

 

「つい最近まで険悪だったドイツ代表候補生と今では仲睦まじく"兄妹"ごっこしてるのは、立派な情報共有を求める理由になると思うけど?」

 

「うっ……」

 

 扇子を広げ兄妹と扇面に書かれてれば声が詰まる。クラス内でも噂されるのは明日からだろうと見据えてたのにこの人の早耳には舌を巻いてしまう。どうするかと悩むが、更識さんを相手に誤魔化せる自信はないから素直に白状した方が良さそうだ……。

 

「VTシステムとの戦闘していた際にISの相互意識干渉(クロッシング・アクセス)が原因で、彼女に僕の記憶が流れ込んだそうなんです」

 

「VTシステムと戦闘の最中に……なるほど。それなら君もあの子の記憶を見たってことね」

 

「僕はあくまでも一部でしたけどね」

 

「君とドイツ代表候補生が仲良くなった要因はわかったわ。それで? 君のことを"兄さん"と親しみを込めて読んでる理由はなんなのかしら」

 

「え、えっと、日本では尊敬している人を兄と呼ぶ文化があると言われたので……」

 

「日本の文化、ねぇ?」

 

 意味深に笑いながら腰を上げゆっくりとした足取りで更識さんは近づいてくる。彼女が一歩歩みを進め、僕が一歩下がるを繰り返してたら壁際まで追い詰められてしまう。逃げ道を塞ぐように更識さんは壁に手を置き、真っ直ぐと赤い瞳で見つめてくる。

 

「それで、ラウラ・ボーデヴィッヒさんはキラ君の記憶をどこまで覗いたのかしら。本人から相互意識干渉(クロッシング・アクセス)で覗いた範囲は聞いてるんでしょ?」

 

「そ、それを更識さんに話す理由は……」

 

「誰にも話さないって約束するわ。それに私と君の仲じゃない。ね?」

 

 妖艶に微笑み顔を近づけ耳元で囁く。鏡があれば自分が今どんな顔をしてれば分かるだろうけど、とても酷い顔をしてるのは間違いない。

 

「……前にも言いましたけど、誘惑するようなやり方はやめてください」

 

「簡単につれないのもお姉さん好きよ。誠実、というよりも君の場合は訳ありそうだけど。不愉快にさせてごめんなさいね」

 

「……謝るのなら初めからやらないでくださいよ」

 

「あらら。怒らせちゃった」

 

 苦言を漏らせば、とても反省したとは思えないこの人はチラリと舌を出して身を引く。色仕掛けする相手は選んでるような気がするから頭を抱えたくなってきた。此方としては冗談ではなく勘弁してほしい。

 重いため息を吐いて、どっと疲労を感じて経っているのも億劫になったので重くなった足取りで椅子へと向かい腰掛ける。ベットに置いてあったパソコンを手に取り、更識さんも僕と向かい合う形で椅子へと座る。

 

「そう言えばパソコンを持ってきて、なにをしていたんですか?」

 

「んー。この前の学年別トーナメントの録画された監視カメラに怪しい人がいないかどうかの確認中」

 

「……そんな重要なことをなぜ僕の部屋で?」

 

「生徒会室の次ぐらいに安全だもの。あっちで作業してたら虚ちゃんにバレて怒られちゃうし」

 

「それは分かりましたけど……生徒会長としての実務ってわけではないですよね、ソレ」

 

「流石にバレちゃう? 学年別トーナメントの終わった後にオータムから、シャルロットちゃんに連絡が入るんじゃないかと考えてたの。保険も入れて、観客席には信頼できる人間を数人ほど配置したんだけど……」

 

「……シャルロットには連絡はこず、観客席にも不審者はいなかったわけですか」

 

「そういうこと。……亡国機業(ファントム・タスク)の実働部隊のオータムはいなくて、外部の人間が学園の敷地内に入り込めるんだから工作員の1人や2人を送り込んでると睨んでたけど……考えすぎた?」

 

 眉を顰めて難しい顔をしながら更識さんは考え込む。シャルの今日1日の様子は怯えている様子はなく、再度オータムから連絡がくれば更識さんへと報告するようと念押しされている。

 

(……それにしてもこの人はいつも秘密裏に作業してるのか)

 

 集中して画面を凝視している彼女の姿。目の前の人に助けを求め巻き込んだのは確かに僕らだ。それなのにこの人はなにも言わず、それが当たり前かのように密かに全部1人で抱え込もうとする姿には納得がいかない。

 

「……録画してるデータを僕の端末と共有してください」

 

「えっ?」

 

「だから録画してるデータを共有してください。貴女を巻き込む選択をしたのは僕です。……手伝わなくていいなんて言わせませんから」

 

「ふふふっ、それならお言葉に甘えようかしら」

 

 驚いてた顔も一瞬で嬉しそうに笑みを浮かべる。普段よりも上機嫌そうなのは気のせいだろうか? 

 彼女のパソコンからデータを共有し、デイズプレイには防犯カメラの録画された映像が。録画されている数の多さにこの量を1人で捌くつもりだったのかと戦慄する。

 

「今ならまだ訂正受け付けるわよー? 映像だけとは言ってもこれも立派な裏社会に関係すること、何も知らないで日常を謳歌し続けるのが幸せよ?」

 

「お気遣いありがとうございます。だけど……何も知らないで、何もしないで後悔はしたくありませんから」

 

「そう。……不器用ね、君は」

 

 ボソリと小さな声で呟いたけど聞き取ることはできなかった。彼女は日常を謳歌するのが幸せだと。なら、裏社会にへと身を投げたこの人の幸せはいったい何処にあるのだろう? 

 それ以降は画面に映る映像を試合の初めからVTシステムの暴走が始まり観客席から人が避難するまでを何回も見直す。カチカチとマウスの音だけが聞こえる中で、まるで思い出したかのように更識さんは声を漏らす。

 

「……何か見つけました?」

 

「残念ながら違うのよ。こっちに集中してて忘れてたけど、ほら、前に取引でキラ君言ったじゃない? 織斑君を鍛えて欲しいって。今日彼と接触したからその報告をね」

 

「たしかに言ってましたね……」

 

 言われるまですっかりと頼んでいたのを忘れていた。忘れてたの? っと更識さんの呆れた眼差しから目を逸らす。あの時期は自暴自棄になっていて全て終わらせる事に頭がいっぱいだったんです。

 自らの行動をいま冷静に振り返れば全て最低じゃないか。大きな穴があったら今すぐにその穴の中に入りたい……というか数日部屋に閉じこもっていたい。

 

「ところで話は戻すんだけど、結局は記憶はどこまで見られたの? このままはぐらかすはお姉さんは許さないぞー?」

 

 両手で顔を隠すぐらい落ち込んでるのに、話題を戻すタイミングは配慮ぐらいはしてくださいよ。少しぐらいはこのまま話題が過ぎていくのを期待してはいましたけど。

 更識さんニコニコと微笑みを崩してないけど、机の下では逃す気はないと軽く足を踏まれていたりする。

 ミズイロノアクマとボヤきをため息で呑み込み素直に白状する。

 

「……彼女(ラウラ)は戦争に巻き込まれた時から、この世界にくる直前の記憶を覗いたそうです」

 

「納得する答えをありがとう。周りに攻撃的だったのに嘘のように棘が抜け落ちるには充分な理由ね。……逆を言えばその期間は人に影響を与える出来事があったわけだけど」

 

「……これって更識さんが把握する必要はあるんですか?」

 

「それは勿論。私は君の記憶を全て把握してないんだから、キラ君の関する事は些細なことでも共有をしておかないといざという時にカバーできなくなるじゃない」

 

「いや、そこまでしなくても……更識さんに関係がないというか」

 

「今更無関係と言われる方が傷ついちゃうぞー? 生徒会に入る際に約束したでしょ? 君を守るって。あの言葉を忘れてたら流石の私も怒るわよ」

 

「お、覚えてます。きちんと覚えてますよ」

 

 慌てて縦に首を張れば、よろしいっと呟き更識さんは満足したのか顔をほころばせる。また上手いように言い包められてしまって我ながら情けないよ……この人に勝てるのかと問われれば多分無理だけどさ。

 

「……珍しい。ちょっと失礼するわね」

 

 突如と甲高い音が部屋に鳴り響く。彼女は音を出した正体である携帯を取り出すとピクリと眉を顰めて席を立つ。

 それにしても録画された映像には怪しい人物は見当たらない。目まぐるしい変化がなく、同じ場面を永遠と見続けるのは存外退屈だ。

 

(……駄目だ。ちょっと、眠くなってきた……)

 

 集中力が途切れれば睡魔とは当然と襲ってくるもの。この日に限って久々に満腹になるまで食べたのが仇となり、抵抗も虚しく瞼は下がっていき意識をゆっくりと手放した──

 

 ◇◇◇

 

「ごめんねー。急に──あれ?」

 

 急に数日家を空けると連絡を入れてきた父との話は終え、居間へと戻ればモニターと睨み合っていた彼は机へとうつ伏せになっている。

 目を離した間に何かあったのかと慌てて近づけば、小さな寝息を立てており単なる睡魔にうち負け静かに寝ているだけだった。

 

「悪戯でもしちゃおうかしら」

 

 無防備に寝ている頰を指でツンツンと突いても目覚める気配はない。これを彼の起きている時にやったら、絶対顔を顰めて『──今すぐ止めてください』っと冷たく溜め息を吐くわよねー。

 

「本気で欲しくなってきてるのよね。生徒会だけじゃなく、側近として」

 

 うりうりと頰を突かれて苦しそうに顔を歪め呻き声を上げてる彼を見る。

 初めは正体不明の人物と警戒していたが蓋を開ければ好青年。私へとちょっと辛辣なのに目を瞑っても性格も問題なし。そして──ー

 

(キラ君は知っている。人を殺した後悔を、痛みを苦しみを……)

 

 同じ人を殺したとことがある歪な共通点が彼を欲してしまう。

 何故欲しがるのか? それは織斑千冬、山田真耶、凰鈴音のような保護欲ではない。シャルロット・デュノアのような恋愛感情じゃない。

 同類(人殺し)が陽があたる日常で共に生きているのだと確固たる安心感を得たいという醜いエゴイズム。

 

「……仕方ないじゃない。居心地がいいんだもの」

 

 誰だって怯えず、警戒する必要のない拠り所は欲しいじゃない。

 醜い感情を正当化させるためのただの言い訳。悪戯をすれば顔を顰めてため息を吐くが一度も人殺しの私を拒絶も軽蔑もしない彼が悪いもの。

 今からコソコソと怪しいことをやってくれればスパッと諦められるのにその気配は微塵もないのよね。

 裏切り? 此方が裏切らなければ彼から裏切るなんてことは絶対にない。誰かが人質に取られたり、私が非人道的なことを目の前でやらなければまず問題ないでしょう。

 

「駄目ね。感情を冷まさないと」

 

 これ以上の思考は駄目だと理性に警報が鳴る。1度でも気持ちが昂れば感情に従い間違いなくキラ・ヤマトを引き込んじゃう。それこそ全てを利用しながら。それぐらいに私は彼の身柄を欲してしまう。

 込み上げる感情を落ち着かせるために、今後織斑君の訓練内容へと思考を割いていれば苦しそうに魘されている声が聞こえる。

 

「大丈夫。ここに君を苦しめる今は何もないわ」

 

 魘される彼の頰に手を添えながら無駄だと知りながらも慰める。苦しんでいるのは彼の心が癒えていない何よりの証拠。

 苦しい過去は全て捨て去ればいい。悲しい記憶は全て忘却してしまえばいい。戦いたくないのならば力を捨てればいいのに。

 

「不器用ね……」

 

 だけど私は彼のそんな不器用な生き方が好きだ。心はボロボロなのに、逃げたくないと後悔はしたくないと彼の真っ直ぐで力強い眼差しにすっかり魅入られちゃった。

 昔に彼の瞳には優しさの裏に哀しみが隠れていると評したけど、その2つに隠れるようにまだ不安定だけど今は強い意志がある。

 

「だから私が守るわ。君の守りたい人も、君自身も」

 

 案外人の事を揶揄えない程度には彼に保護欲をくすぐられてるかも。だけどそれも悪くはないかと自然と口角が上がってしまう。

 まずは目の前で魘されているキラ君を目を覚まさせて落ち着かせることから始めましょうか──





今回は楯無さん視点でした。先にダレると言った私は悪くない(迫真)次が35話って投稿しながら気づいたけど……林間学校編いつ入れるんだろうネ!!いや、本当に!!予定では既に林間学校編始まってたんだが??おかしい…おかしい…(吐血)

誤字&脱字報告いつもありがとうございますっ!!感想も毎度してもらえてとても励みになっておりますっ!!次の更新は未定ですが気長にお待ちくださいー!!



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第35話 地上最強(ブリュンヒルデ)のプライベート



 生徒会長が重いわけないじゃないか!!……でも、普段は飄々としてる人がクソ重い感情隠してるの大好きなんだよね、私(性癖)
 そして私はきちんとハッピーエンド歴だから!!本当だよ!!信じて!!インフィニット・ストラトスの青春パワーを信じろ()


 

 

「──お邪魔します」

 

 時刻は朝の七時。シャルロットは淡い恋心を抱いている相手、キラの部屋へと訪問していた。

 返事は当然返ってくることなく、居間へと彼女が歩み進めば毛布に包まり静かに寝ている彼の姿が。

 

「もうちょっと寝かしてあげても大丈夫だよね」

 

 時計の針を確認しながら彼女は起こさないように小さな声で呟く。最近忙しそうにしていた彼に少しでも休息を取ってほしいと、彼女なりの気遣い。

 そして、熟睡している想い人と少しでも長く2人きりでいたい、小さな独占欲。

 一度起きれば意外にも足早く食堂に向かうのだ。そのように鈴によってとことん躾けられたのをシャルロットは知らないが。

 

「……最近は中々2人きりになれないもん。いつも誰かと一緒だし……」

 

 彼の寝顔を堪能しながら不満そうに小さなため息。

 2人きりになれるタイミングをシャルロットは窺っているが中々そのチャンスは訪れない。

 同性の一夏はわかる。生徒会の1人だから生徒会長の更識楯無も百歩譲って彼女は納得している。

 それ以外はどうなってるのかな!? と熟睡している本人を彼女は問い詰めたくなる。

 最近は物腰が柔らかくなったラウラ・ボーデヴィッヒとは兄さんといつの間にか親しくなっていて、今ではそれが当然だと世話を焼く鈴音。

 なんなら、担任と織斑千冬と副担任の山田真耶も人一倍気にかけてるんじゃないかって、シャルロットは疑っている。もちろん、根拠は女の勘。

 

 

「……むー」

 

 彼と親しい人間を思い出せば、メラメラと嫉妬心が湧き上がる。 

 特に鈴音は彼を世話するのが当然だと振る舞っているのが、乙女心としてはいただけない。

 一夏が今すぐにでも自堕落になれば解決するんじゃないかなーと思わなくないが、もしなれば大一次織斑一夏大戦が始まるのは目に見えているので頭痛に襲われる。巻き込まれるという意味で。

 それなら好きな人の自堕落を改善すればと名案を浮かんだが、それでも鈴音の世話を焼く姿が幻視できるのは何故だろうとむぅと可愛らしく声を唸らせる。

 

「……もう少し、あの関係続ければよかったなぁ……」

 

 残念そうに、もったいなかったかもと呟く、シャルロットの後悔。

 それは数日で終わってしまった、シャルロット・デュノアとキラ・ヤマトの秘密のいけない関係。

 壊れた少年と愛情に飢えた少女の、お互い思考を放棄した共依存。

 一度常識という理性が外れ、溢れ出るドロドロとした熱く濁った感情、本能へ従った。

 

「……キラの手、暖かかったなぁ」

 

 大きすぎず、そして小さすぎない自分の胸を彼女は制服の上から触る。

 生き続けることを絶望した少年に、少しでも生きる理由(いみ)を与えようと身体を差し出した。結果は少年が拒み未遂で終えたが。

 シャルロットは記憶、体に刻んでいる。あの日、キラの僅かに反応した指の動き、手の感触、体温も。

 触れられた時間は数秒と満たしていないのに、あの日の彼の手を思い出せば少女の体は熱を帯びる。

 

「あの日の言葉は嘘じゃないから。キラのためならなんでもする……その気持ちは変わってないんだよ?」

 

 寝ているキラの耳元で、シャルロットは起こさないように小さな声で艶めかしく囁く。

 あの日の夜に口にした想いは変わらない。むしろ、その想いは時間が経つごとに膨らんでいく。

 自分って結構重いのかなー? と客観的に冷静に分析はしたが、彼が折れている姿を直接見ちゃってるんだから、丁度いいんじゃないかな、と内なる悪魔のシャルロットに唆され納得しかけてるのは内緒。

 織斑一夏は鈍感で唐変木だからこそストレートにぐいぐいと責めるのが攻略法だが、キラ・ヤマトは繊細だから程よい距離感を保ちながら押していくのが一番だとシャルロットは学んだ。

 

「そろそろ起こさないと」

 

 時計の針は七時二十分を指していた。

 シャルロットとしてはもっと彼の寝顔を堪能していたいが、起こしに来たというのに遅刻したら本末転倒である。

 それに鈴音とラウラ・ボーデヴィッヒが同じ目的で部屋へと訪問するだろうと、シャルロットの女の勘が囁いている。

 今日彼を起こすのは私なのだと意気込みとちょっとした優越感。

 とびっきりな笑顔で好きな人を迎えると決めていたシャルロットだった──

 

 

 ◇◇◇

 

 

(……もう夏かぁ)

 

 シャルロットに起こされ、今日も遅刻することなくSHR(ショートホームルーム)を過ごしながらぼんやりと考える。

 季節は七月に入り、梅雨は明け蒸し暑い夏。この世界へと漂流してはや数ヶ月。この世界で夏を迎えるなんて、これっぽっちも考えてなかったので感慨深い。

 

「今日は通常授業だが、その前に来週の校外特別実習期間についてだ。すでにお前たちも知っているだろうが、三日間学園から離れることになる。自由時間もあるため、手荷物は多少は見逃すが余分な物は持ってこないように。ああ、特に忘れ物には気をつけろよ。当然だが、忘れ物をしたからといって当日に取りに戻るなどは出来ないからな」

 

 校外特別実習期間──すなわち臨海学校らしい。

 すっかり頭から抜け落ちてたけど、最近また周りが浮き足立っているなぁと他人事のように過ごしてたらこれが原因だったのか。

 

「……海かぁ」

 

 記憶を振り返れば前回は海域でも戦闘だったり、カガリの探索なりで満足に観る余裕もなかったなぁ。観光気分で海を眺める余裕があったわけでもないけど。

 楽しみと言えるかどうかは分からないけど、街中ではなく広い砂浜で満天な星空を時間が許される限りはずっと眺めていたいかなぁ。

 

「織斑先生ー! まや先生の姿が見かけないんですが、今日は休みなんですかー?」

 

「山田先生は校外実習への現地視察へと向かっているため今日は休みだ。なに、彼女の仕事は今日一日私が代るので安心するといい」

 

 クラスメイトが織斑先生への質問で昨日放課後に山田先生が僕の部屋に訪れて色々と言ってきた疑問が解けた。たしか昨日──

 

『私は明日は一日居ないけど体調には気をつけてね? 少しでも今日が辛いと感じたらすぐにお友達に織斑先生を呼ぶように言うんだよ? それと、ストライクの整備を夜遅くまでやらないこと。明日は織斑先生が私のお仕事を代わりにやるから分からないところは織斑先生に遠慮することなく聞くんだよ? ええっと、それからそれから──』

 

 などと、あたふたと思いつくかぎり言葉を並べる山田先生に本当に良い人だなーとちょっと心が癒されてたり。

 その後も久しぶりに山田先生と2人で落ち着いて雑談もしたりした。ここ最近はずっと教師と生徒との関係でしか話してなかったなぁ。

 

「くっ、まや先生だけバカンスだなんて!!」

 

「私も行きたかったなぁー」

 

「山田先生は仕事で行っているだけだ。浮かれるのは結構だが、それで授業態度を疎かにするなよ」

 

 ヒソヒソと賑わい始めたクラスを一喝で静かにさせるのは流石織斑先生である。A組の女子もはーいと元気よく返事を返しながら今日一日が始まるのだった──ー

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……もうこんな時間か」

 

 提出期限が明日までの課題を終わらせ、時計を見れば夜の十時と針は刺していた。

 夕食を摂った後に溜まりに溜まった課題と睨み合っていたのだからこんなに時間が経っていてもおかしくはないか。

 立ち上がり冷蔵庫から水を取り出しコップへと注ぐ。渇いた喉を水で潤していれば数回のノックオン音が。

 誰だろうと思い扉を開ければそこにはスーツを脱ぎワイシャツとスラックス姿の織斑先生の姿が。

 

「やはり起きていたか。キラ、時間はあるか?」

 

「ありますけど……?」

 

「そうか。ならば私に少しばかり付き合え」

 

 満足そうに織斑先生は軽く笑みを浮かべる。

 ついてこいと短く簡潔に誘われたので、大人しく織斑先生の後について行くことにする。

 誘われた理由も心当たりがなく不思議に思いながらも案内されたのは織斑先生の部屋。

 

「あっ、えっと……」

 

「躊躇う必要はない。私が誘ったのだから遠慮なく入れ」

 

「お、お邪魔します……」

 

 ここの部屋主に遠慮せずに入れと言われ、戸惑いながらも織斑先生の部屋へと足を踏み込む。

 意外にも織斑先生の部屋はちょっと散らかっていた。

 普段から忙しそうだから部屋を片付ける時間とか取れないのかな? うーん、一夏にそれとなくこっそりと教えてあげたほうが良さそうかも。

 

「飲み物はこれでいいか?」

 

「ありがとうございます」

 

 織斑先生が冷蔵庫から取り出した缶ジュースを受け取り椅子へと腰掛ける。

 織斑先生の手には缶ビール。カシュリとプルタブを開け、そのまま缶ビールへと口付ける。

 手持ち無沙汰で織斑先生が飲む姿をマジマジと眺めるわけにもいかないので缶ジュースをちびちびと飲んでいれば、織斑先生がじっとその姿を頬杖しながら見てくる。

 

「どうだ。少しはこの世界にも、クラスにも馴染めてきたか?」

 

「……どうでしょう。僕がこの世界に、クラスメイトの1人として馴染めてるのかはよく分かりません。ただ、織斑さんが倒れていた僕を助けてくれて、それで僕という存在が今ここにいるんだとは受け入れて、考えられるようにはなりました」

 

「……そうか」

 

 口元を隠すように缶ビールへと織斑さんは口付ける。ほんの一瞬だけ見えた口元は緩んでいて、微かに声が弾んでいたのは勘違いではないだろう。

 

 

「そう言えばお前はどうするつもりだ。校外実習の自由時間は」

 

「水着はなくても大丈夫なんですよね? それなら旅館で一日過ごすつもりです」

 

「そこで水着を買いクラスの女子と共に青春を過ごすと考えないのがお前らしい。……一夏は多少は意識するだろうが、お前は経験があるようだから意識などしないだろに」

 

「んぐ……っ!?」

 

 例外のラウラを除いて誰にも言っていない経験を、2本目の缶ビールを呷る織斑さんにさも平然と言われて思わず咽せる。

 ゴホゴホと何度も激しく咳き込んでいれば、心配そうに織斑さんは覗いてくる。

 なんとか呼吸を落ち着かせて動揺を隠せない声で聞いてしまう。

 

「えっ、いや、その、いつから……?」

 

「女性しか居ない環境に突如と入れられていながら、やけに落ち着いていたからな。初めは精神的にも余裕がないと考えてはいたが、私の中で確信を得たのは事故とはいえ山田先生を押し倒した時だ。何を掴んでいるのかと感触を確かめるよりも前に、自分の手が何に触れているか理解して飛び起きるなど、それが何なのかを知っていなければできない行動だよ」

 

「……う、うぅ……す、すみません……」

 

「謝る必要はない。学園内ならば大問題で当然教師としては厳しく説教しているが、お前の世界で性交した経験にとやかく口煩く説教する気はないさ。そうなった経緯も知らぬ私が無闇に口を出すにはいくまい」

 

「こ、このことは、秘密でお願いします……」

 

「私が言いふらすと思うか?」

 

 楽しそうにニヤリと口元を緩ませる織斑さんへ痛くなるぐらいに首を横に振る。

 これは話し相手が欲しかったのではなく、お酒を美味しく飲みたかったんですね!! 

 

 

「くくっ、そう拗ねるな。久々にお前とこうやって2人で話ができて私も嬉しいんだ。多少は大目に見てくれ」

 

「……そう言ってくれるのは、嬉しいですけど……」

 

「それで、本当にどうするんだ? 臨海学校は一日は自由時間だ。私と山田先生がお前の水着を買うのも一興だがそれでは青春になるまい。お前に好意を抱いてくれている子がいるんだろ?」

 

「それも見ていたりしたんですか?」

 

「まさか、ここは女子校のようなもの。耳を塞いでいようが、嫌でも噂というのは我々教師にも小耳に挟む。それに私はお前らの担任だぞ? 普段から見ている教え子なんだから、ある程度は察するさ」

 

「……一夏のように鈍感だったら僕としては良かったんですけど」

 

「ほう、私の前で一夏を引き合いに出すとはいい度胸だ。お前が勇敢なのは知っているが、今回はそれが無謀だと教育する必要があるな」

 

 腕を伸ばしてガシガシと雑だけど慣れた手つきで頭を撫でられる。織斑さんは教師としては厳格だけどプライベートでは楽しげに冗談も言ったりするだよなぁ。

 

「シャルロットから好意を向けられていること自体は苦痛ではないのだろ?」

 

「それは、はい……その、僕はまだあの子を好きだったこの感情を忘れたくなくて……忘れたら全部消えてしまいそうで怖くて……他の誰かを好きになるのはちょっとまだ考えられなくて……」

 

「……そればかりは時間に委ねるしかないさ。お前のその感情はきっと間違いではないよ。それを失恋だと簡単に割り切れる人間は何処にもいないさ」

 

 織斑さんには以前縋りついて泣いた時に感情のままに吐き出したのだからある程度の事情を把握してくれている。

 フレイへの想いが思い出へと昇華するのが怖い。平和なこの世界だからこそ、彼女が死んだという事実がまだ呑み込めていないんだろう。

 

「とりあえずシャルロットからデートに誘われれば応じてやれ。あの子もお前と自分だけの特別な思い出が欲しいのさ。もちろん、お前が辛くなければだが」

 

「それは、大丈夫ですけど……その、金銭面が……」

 

「それは私が出すから気にする必要はない。ISに適合しているとはいえ、異世界から来た人間を保護すると決めたのは私だからな」

 

「そ、そこまでしてもらうわけにはっ!? ただでさえ、織斑さんと山田さんには迷惑をかけてるばかりなのに──」

 

「大人からの厚意、特に私からは大人しく受け取っておけ。……それに私はお前との約束を守れなかった。これぐらいはさせてくれ」

 

「あ、あの約束は初めから難しいと織斑さんも言ってたじゃないですか! ISを学ぶ学園で扱うのが当たり前なのに、それをただ自分が戦いたくないとか、撃ちたくないとか、都合のいい言い訳を並べて一方的な要求を突きつけたというか!」

 

 重々しい表情で織斑さんの滅入るような口調に驚き必死に弁解をする。

 慌てながら思いつくかぎり必死に言葉を並べていれば、織斑さんは次第に押し殺すようにくつくつと笑い始める。

 

「批判するどころか、お前に励まされる日がくるとはな……」

 

「僕も織斑さんにいつまでも甘えてばかりではいけませんから」

 

「少し言い返せたからと言って調子に乗りおって。だが独り立ちを許すにはいかないな。それで立ち直った、などと笑えない冗談は言うなよ」

 

「そ、そこまで言いますか……」

 

「幾らでも言ってやるさ。お得意の処世術で私の目が誤魔化せるなと思うなよ、小僧」

 

 お酒を飲んでいるのにその眼光は衰えるどころか鋭く睨まれる。

 反論をするため口を開こうすると、肉体言語という手段が飛んでくる気配を感じとったので小さく項垂れるしか出来なかった。

 

「やれやれ、最近は教師という立場が枷で邪魔くさい。療養も兼ねて、お前を山田先生へと同伴させたかったがそれもできん。……まぁ、彼女が暴走した時は止められる者がいないのが頭を悩ませるが」

 

「山田先生が暴走……?」

 

「私と日本代表を競った女だぞ? まぁ、お前に人一倍入れ込んでいるのさ。はははっ、母性本能が高い彼女だ。一度スイッチが入れば2人きりの時なにが起こるか分からんぞ」

 

「そ、そんな他人事のように笑わないでくださいよ!?」

 

「私は具体的に何が起きるとは言っていないが、何を想像した? 隠さず言ったらどうだ」

 

「……酔っているのなら水持ってきますよ」

 

「私が酔っていると希望的観測は捨てておけ。ふんっ、これの3倍は持ってこい」

 

「余計にタチ悪いじゃないですか!?」

 

 悲鳴に近い声を上げれば、それを心地の良い音楽にも聞こえてるのか上機嫌に笑いながら3本の缶ビール追加である。

 ちょっと顔が赤くなってるし、テンションも高いから酔ってるんだろうなー思えばまさかの素面だった。世界最強は伊達じゃないってこと……? 

 

「……そういう織斑さんはいないんですか?」

 

「いない。うちには手間のかかる弟がいるからな。あの朴念仁に彼女ができれば私も作るさ」

 

「……頑張ってください」

 

「……意識はしていないはずなんだがな。友人であるお前の貴重な意見を聞きたいが……実際はどうなんだ?」

 

「意識はしてるとは思いますよ? ただ、その、友人として誘われていると考えてたり、友人として接している節が。誰かが、そのきちんと告白すれば自覚とか持つ、はずですよ……」

 

「……はぁ、頭が痛くなる話だ。我が弟ながらいい男だとは思うんだがら当人がアレだからな……」

 

「……頑張ってください」

 

「……2度も言うな。2度も」

 

「一度もなかったんですか? その、一夏が誰かを好きになったりとか……」

 

「現状を見れば分かる初歩的な質問をするな。それがあれば私が弟の友人に励まされるわけなかろう」

 

 織斑さんは額を抑えて深いため息を吐く。

 その、失礼だけど一夏が誰かに対して恋愛感情を抱く姿がちょっと想像できなくて。

 意識しているのは間違いないんだ。だけど、当人は異性の友達として接しているようでそういった目で見ないように自粛してるんじゃないかなぁ。

 

「教師として学園内で火遊びはないと喜べばいいのか、姉として嘆けばいいのか……」

 

「あの、ちなみに一夏が誰かと付き合ってそれで会ったら織斑さんはどうするんです……?」

 

「男性操縦者という希少価値で近づいたくだらん奴ならば別れさせる」

 

 冗談混じりに答えると思っていれば、まさかの真顔で即答である。

 ……なるほど。これがブラコン? というやつなのだろう。

 なぜ知ってるかと聞かれれば、最近ラウラがまた新しい日本の文化を知ったと嬉々として説明してきたのだ。今度は更識さんが教えたとか……。

 

(一夏大変そうだけど……うん、僕は一夏なら乗り越えられるって信じてるよ)

 

「他人事のような顔をしてるが、お前もその該当者だからな」

 

「えっ……っ!?」

 

「何を驚く必要がある。お前を拾ったのは私だぞ? 後見人としてお前を見る義務が私たちにはある」

 

「い、今は特に誰かと特別な関係になろうとは思っていませんし……それに今後人と付き合うとかちょっと考えられないというか……」

 

「時間が経てば考えが変わるのも人間だよ。傷心中だから、誰かに好意を抱く余裕がないだけさ。今は友を守るために戦うだろうが、いずれ好きな人を守るために戦いへとな」

 

「……尚更、ですよ」

 

「そうか。ならばお前は永遠に私のものということか」

 

「へっ……っ!?」

 

 予想外の答えに間抜けの声が出た。

 織斑さんはどうした? と平然と涼しげに聞いてくる。

 いや、だってと言葉がまとまらないではくはくと口を動かすと織斑さんはその姿を面白がるように口角を上げる。

 

「なんだ、ストレートに言われるのは慣れていないのか」

 

「い、いや、誰だって急にあんなこと言われたら驚きますよ……っ!?」

 

「顔が少し赤いぞ? くくっ、そうかそうか照れているか。可愛らしいじゃないか」

 

「そ、そんなことはありませんよ」

 

「言ったろ? 私に誤魔化しは通じないとな。女子からも人気の高いシャルロットから告白された男が照れるとは。いやはや、久々に美味い酒だよ」

 

 自分の顔が少し赤くなっているのが分かる。

 だって目の前の人は何度も僕を受け止めてくれた人だ。何も言わない僕を何も聞かず、何度も受け入れて、信頼してる人の口から堂々と言われたら嬉しくないだなんて嘘を言えるわけないだろ。

 

「ああ、もうこんな時間か」

 

 つられて時計を見れば時刻は夜の0時。

 部屋へと誘われて約2時間ほど話していたらしい。こうやって織斑さんと長時間落ち着いて話ができたのは久々で楽しかった。

 

「時間も遅いですので、そろそろ僕は戻ります」

 

「遅くまで付き合わせて悪かったな。遅刻したら大目に見てやるさ、私が原因だからな」

 

「その時はよろしくお願いします」

 

「……まだ悪夢は見ているか?」

 

 夜も遅くなり退出しようと席を立ち上がると、それを呼び止めるように真っ直ぐな眼差しで聞いてくる。

 前にも聞かれたが結局相談することもなく今日まで過ごしてきた。

 ああ、この人はあの時の相談を今でも待ち続けてくれてるんだ。

 

「……前に比べれば最近は見る頻度は少なくなりました」

 

「そうか。……前にも言ったが何かあればいつでも相談しに来い。ご覧のように私も、山田君も話し相手には飢えているからな」

 

「それなら、時間がある時に来ます。……それに、()()さんと話すの僕も好きですから」

 

「はっ、私を口説こうなんざ後2年ほど出直してこい」

 

 立ち上がった千冬さんに乱暴に頭を撫でられる。

 仕返しで言ったつもりだったけど、アルコールで薄らと顔が赤くなってるのからわかるわけないか。

 だけど、嬉しそうに薄らと笑みを浮かぶ千冬さんの顔が見れた。それだけで僕は満足だった──





 色々詰め込みすぎだけど、ちっふーとキラ君とのお話回!!物語は少し進んだから許せ、サスケ()
 くだらない話で軽口を言い合って、盛り上がるのは一番最初に出会ったちっふーかなって。この2人が話すのほんと久々だな……

 そういえばバレンタインイベで某都市サーヴァントが湿度高くて大変おハーブでしたわ!!徐福ちゃんも距離感近すぎない??……卑しいでしゅ!!
 そしてテスカトリポカがもうギャグ時空に染まってました。やっぱ負けたらギャグ要員だなって…()

誤字&脱字報告いつもありがとうございますっ!!感想も毎度してもらえてとても励みになっておりますっ!!次の更新は未定ですが気長にお待ちくださいー!!


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第36話 恋する乙女の相談所



 最近お気に入り登録が1400人を突破しました!!みなさんありがとうございますっ!!これからもよろしくお願いしますの意を込めた投稿です!!


 

 

「ヤマト君。こっちにも目を通しておいてください」

 

「キラ君ー。こっちの備品管理にもお願いねー」

 

(……あれ? これ庶務見習いがやる量なのか?)

 

 次から次へと布仏先輩と更識会長から書類を手渡される。

 放課後に教室から出れば、出待ちしていた更識会長に掴まれて強制的に連行され、生徒会の1人として仕事へと取り掛かっている今に至る。

 

「あの、この書類は僕じゃなくて更識会長が目を通すべきじゃ?」

 

「その書類はもう目を通してるから。いつまでも庶務見習いだと体裁も悪いじゃない」

 

「僕はそんな周りの評価とか一々気にしませんけど……」

 

「まっ、それは庶務がやるお仕事の一環なので諦めなさいな。あっ、ついでにデータとして残しておいて、それ」

 

 更識会長にはやんわりと受け流され、結局この書類にも目を通す羽目になってしまった。

 ストライクの整備をしている方がずっと楽だなぁと軽く現実逃避しながらパソコンを立ち上げて仕事へと取り掛かる。

 ちなみ2人の仕事量は少ないどころか、大雑把な見立てだけど僕の倍以上は仕事を捌いてると思う。……生徒会のメンバーもう1人増やすべきじゃない? 

 

「えへへ〜! 差し入れを持ってきたよ〜!」

 

 個々に黙々と仕事をこなしていればのほほんさんが上機嫌に扉を開けて入室してくる。

 彼女の片手には袋が持っていた。多分、更識会長辺りがのほほんさんにお菓子の買い出しを頼んだのだろう。

 

「本音ちゃんも買い出しから戻ってきたから、ちょっと休憩にしましょうか」

 

「でしたら、私はお茶を用意しますね」

 

「私は紅茶をお願いしようかしら」

 

「お姉ちゃん〜。私はココア〜!!」

 

「はいはい。ヤマト君はどうします?」

 

「えっ、あっ、それならコーヒーでお願いします」

 

 わかりましたと柔らかく布仏先輩は微笑み席を立つ。

 目の前のことに集中していて全く周りの話が耳に入ってなかったや。

 小休憩に入る前に、さっきの仕事も入力終えたし更識会長へと声を掛けて不備がないかと確認してもらおうかな。

 

「更識会長。終わったので確認お願いします」

 

「どれどれ……うん、入力が漏れているところもないわ。百点満点の出来よ」

 

 更識会長は肩越しにパソコンへと覗き込む。不備がないと分かれば満足そうに笑みを浮かべる。

 それはそうとちょっと距離が近すぎません? 尻目に見れば、その視線に気づいた更識会長はどうしたの? と微笑する。

 わざとやっているのか、それとも無意識なのか頭を悩ませる。

 

「お嬢様。ヤマト君が困っていますよ」

 

「あらら、怒られちゃった」

 

 見兼ねた布仏先輩が呆れながら助け舟を出してくれる。

 小さく舌を出して離れてくれるけど、この人絶対に反省してませんよね? というか、やっぱりわざとだったのかこの人……。

 

「いつもすみません……最近お嬢様がヤマト君困らせてるようで」

 

「気にしないでください。……慣れましたので」

 

「いっつもキラ君を困らせてるみたいに言われるのは、お姉さん心外だぞー」

 

「……自分の行動を振り返るのオススメしますよ」

 

 出来上がったコーヒーを布仏先輩から受け取りながら、ブーイングしてくる当人を睨めば白を切り口笛を吹き始める。

 裸エプロンで部屋に潜入したり、納得できる理由で女装させられたり、いつの間にか人の部屋をピッキングして侵入してるなど罪状増えてますからね? 

 

「甘いものを食べて元気を出すのだよ〜!」

 

「……そうだね。そうするよ、ありがとう」

 

「むふふ〜! よいのだよ〜!」

 

 ニコニコと上機嫌に微笑むのほほんさんに釣られて口元が緩む。

 彼女の微笑みには人を癒す力があるんじゃないかって、こっそりと考えている。

 うーん。こうやって甘いものが合法的に食べられるのは嬉しいんだけど味がしないのが本当に不便だ。

 

「それにしても、ヤマト君のタイピングの速さは凄まじいですね。初めて見た時はとても驚きました」

 

「私もびっくりしたよ〜! お姉ちゃんたちよりも速い人を初めて見たもんー!」

 

「プログラム入力するの得意ですから」

 

「たしか、もとはプログラム方面を学んでいたんだっけ?」

 

「なるほど。それならばあのタイピングの速さにも納得がいきます」

 

「もう少し仕事に慣れてきたらデータ入力関連はキラ君に任せようかなって思ってるから。速い上に正確だし、最後に私と虚ちゃんが不備がないか確認すればいいしね。まっ、適材適所ってやつ」

 

「……任せられた以上は頑張ります」

 

「よろしくね〜。今後頑張り続けたら、お姉さんからとっても嬉しいご褒美あるかもだぞー?」

 

「それは謹んで辞退させてもらいます」

 

 えーと不満そうに拗ねますけど絶対に碌でもないじゃないですか。

 潜入までしてるのだからそれ以上のことをするのには間違いない。

 具体的に例を挙げれば今日この部屋に泊まるなんて言いかねない。その時は容赦なく布仏先輩、更識さん、千冬さんへと報告しますからね? 

 

「そろそろ私はお暇させてもらうね〜。今日はラウラウと予定があるのです!」

 

「そっか。ラウラのことお願いするね」

 

「むふ〜! お兄ちゃん、任されました〜!」

 

 ラウラと予定があると言うが、向かう先はきっと整備室だ。最近ラウラも整備室に居るのは更識さんのISの開発を手伝っているのだろう。

 2人も彼女が何処に向かうのか知っているから何も言わないで見送るのだ。

 ココアを飲み終えたのほほんさんは生徒会室を後にする。

 

「さてと、休憩も終わりましょうか」

 

「そうですね。今日中に終わらせないといけないのはまだ残ってますから」

 

(……更識会長はずっと更識さんと仲直りしないつもりなのかな)

 

 更識さんのISが完成していないのを姉であるこの人が知らないはずはない。

 手伝わなくていいんですか? と喉まで出かけた言葉を呑み込む。

 だって一番手伝いたいのは更識さんの姉である更識楯無のはずだから。

 

「どうしたの? 慣れないことだから疲れちゃった?」

 

「……いえ、少し考えごとを」

 

「それなら早速これをお願いするわねー。今日は用事があるからパパッと終わらせないといけないから」

 

 顔色を窺う更識会長に悟られないように思考を振り払う。それにしても用事があるなんて珍しいや。

 新たに手渡された書類を受け取りながら、胸のつっかえから目を背けるように目の前の仕事へと意識を向けた──

 

 ◇◇◇

 

「ほら、食べやすさと健康も考えて持ってきたぞ」

 

「……ごめん。助かったよ、ラウラ」

 

 生徒会での仕事も終えて食堂に向かっていれば、途中でバッタリとラウラと出会ったので一緒に夕食を共にする。

 慣れない仕事をしてちょっぴり疲れてるのを彼女に見透かされ席の確保任されていた。

 ラウラは味覚がないのも知っているので言葉通り食べやすさ&健康を踏まえた料理を持ってきてくれる。

 

「……どう? その、更識さんのIS開発」

 

「……難航しているな。稼働データで躓いている。それともう一つのシステムデータがな」

 

「もう一つのシステムデータ?」

 

 もう一つのシステムデータが何なのかと尋ねればラウラの表情は更に険しくなる。

 言葉にするのを躊躇っているようで難しい顔をしていたが小さく息を吐いて重々しく口を開く。

 

「……マルチロックオン・システム。兄さんには心当たりがあるだろ?」

 

 予想外の言葉に大きく目を見開く。

 マルチロックオンシステム──それはフリーダムに搭載され、最大40機を同時にロックオンすることが出来るシステム。

 そのシステムのおかげで多くの局面を切り抜けることが出来た。

 そしてラウラが何故それを切り出すか悩んでいた理由も納得がいく。

 

「……そうだね。フリーダムのマルチロックオンシステムを応用すれば、更識さんのISが完成させるのに近づけるはずだよ」

 

「だが、フリーダムに関係するとなれば……」

 

「……うん。僕はこの世界でもフリーダムに関係するデータや情報は誰にも渡すつもりはないよ。それがラクスから託された、僕の責任だから」

 

 今の貴方へと、僕の願い、僕の行きたい場所へと必要だからと彼女──ラクス・クラインからフリーダムを託された。

 この世界でも僕はフリーダムに関する情報は誰にも渡さない。それはどの世界に行こうとも決してその意思は揺らいではいけないんだ。

 

「だから、ごめん。僕は力になれないよ」

 

「謝罪する必要はない。むしろ、その決意に変化がないのに私は好ましいよ」

 

「それに今はストライクだからさ。マルチロックオンシステムを搭載されてないストライクなのに、急に僕がシステムデータを応用したのを渡すのは不自然だろうし……」

 

「ストライクにどのようなシステムが搭載されているのか知っているのは兄さんだけじゃないか。誰にも触れさせてないだろうに。案外バレないんじゃないか?」

 

「いや、まぁ、そうだけどさ……」

 

「なに、ヒソヒソと話してんのよアンタら」

 

 ISに関係することなのでコソコソと話していれば、夕食を持ち訝しんで眉を顰める鈴へ声をかけられ、その隣にはあははと苦笑いを浮かべてるシャルの姿が。

 空いている僕の隣の席にシャルが座り、ラウラの隣に鈴は座る。

 

「私と兄さんが親しいのは周知の事実だろ? これぐらい普通だ」

 

「おかしいから! アンタらの距離感は絶対におかしいから!」

 

「……鈴も人のこと言えないと思うよ?」

 

「うぐっ……」

 

 小さな声でボソリと呟いたシャルの一言に鈴は言葉を詰まらせる。

 それは、ほら、アタシはと珍しく強気に返せてない鈴に視線でアンタも何か言いなさいよと訴えられる。

 急に巻き込まれたなぁと諦めながらも、彼女が満足するまで面倒を見させろと言ったのを頷いた僕にも責任はあるし。

 

「ほら、鈴は織斑先生に頼まれたのもあるからさ」

 

「そ、そうそう。織斑先生にちょっとお願いもしたから、それでコイツの面倒見るのサボっちゃうと怒られるから仕方なくよ! うん、仕方なく!」

 

「……ふーん」

 

「ふっ、愉快なものだな」

 

「そこの他人事だと思ってる自称妹!! もとはアンタが事の発端でしょうが!」

 

「あー、もう、2人とも喧嘩は駄目だよー!」

 

 鼻で笑ったラウラの態度が気に入らず再度突っかかる鈴とこれ以上は喧嘩に発展するとシャルが仲裁に入る。

 すっかり鈴とラウラから意気投合していて微笑ましい。2襲撃した件についてはラウラが2人に謝罪をしている姿を見かけたのでこの様子だと解決したのだろう。

 

「……お前の周りは相変わらず賑わっているな」

 

「ええ。お2人の喧嘩は遠くからでもよく聞こえていましてよ?」

 

 そこへ呆れた顔をした箒さんとセシリアさんも合流してくる。

 いつの間にか一夏を除いたいつものメンバーが揃ってきたなぁ。

 

「一夏は箒さんとセシリアさんと一緒じゃないの?」

 

「少し遅れるから先に食堂に向かっていてくれと言われてな。アイツの席を確保も先に来たといったところだ」

 

「ええ。そしたらキラさんの周りが賑やかしいのでご同伴に預かろうと思いまして。よろしいでしょうか?」

 

「うん。全然大丈夫だよ」

 

「ありがとうございます」

 

「すまないな。助かる」

 

 箒とセシリアさんなら特に断る理由はないしね。これが知らない人だったらさっきまでISの話をしてたからちょっと警戒してたけど。

 いつものメンバーが集まったので話は自然と最近話題の校外特別実習へと変わっていく。

 

「そういえばアンタは水着持ってるの?」

 

「水着? 持ってないよ」

 

「そ、そうなんだ。キラ水着持ってないんだ……」

 

 何気なく鈴が聞いてきたのでもっていないと答えればシャルがちょっとだけソワソワと落ち着きのない様子。

 みんなもなんとなくシャルの様子に察したようで若干居心地の悪そうに目を逸らす。

 

「これは他意はなく興味本位な質問だ。水着は買うのだろう? 1日とはいえど自由時間があるのだからな」

 

「……うーん、まぁ、一応……?」

 

「なんですの、その曖昧なお返事は。誰かに聞かれなければまさか買う予定はなかったおつもりで?」

 

「……まぁ、うん、そうだね」

 

「初めは買う予定なかったのに改めたわけね。珍しいじゃない。……で、誰に諭されたわけ? ちょっと小言を言われたぐらいで改めないでしょ」

 

「……織斑先生から」

 

「ああ、教官ならば納得だな……」

 

 シャル以外からコイツはと残念なものを見る目で見られて肩身が狭い。

 うっ、だってこの世界の通貨なんて持ち合わせはないから仕方ないじゃないか。それに水着に着替えて楽しんでと言われても、今更どんなふうにはしゃげば良いのか分からないんだよ。

 

「……そ、そのね。水着買うつもり、なんだよね?」

 

「えっ、うん。一応はね」

 

「それなら私も臨海学校に備えて買い出しに行く予定だったから、そのね、えっとね……一緒にお買い物に行かない?」

 

「それならば私も兄さんと──」

 

「この! 妹なら空気ぐらいは読みなさいよっ!!」

 

 指を組みモジモジと器用に動かしながら、頰を薄らと赤くしてシャルは上目遣いで伺ってくる。

 ラウラが何か言おうとしてだけど鈴が力づくで彼女の口元を抑えているのを内心で感謝する。

 

「それなら一緒に行こうか。1人で行くのは正直心細かったから」

 

「うん!! 一緒に行こう!! 約束だよ!!」

 

 一緒に行こうと頷けば、嬉しそうに満面な笑顔でシャルは僕の手を握ってくる。

 彼女がここまで喜んでくれるとは思ってなくて少し驚いてしまう。

 顔に出てしまってたようで、それに気づいたシャルは我に返り恥ずかしそうにごめんねと謝りながら手を離す。

 

「……不思議ですわね。数十分前のわたくしの行動を恨みたくなってきましたわ」

 

「……奇遇だな。私も同じ意見だ」

 

「……私も兄さんと一緒に出かけたかったぞ」

 

「わ、悪かったわよ。ほら、今度誘えばいいじゃない。今日はシャルロットに譲ってあげなさいよ」

 

「……えへへっ。キラとお出かけかぁ」

 

 2名ほど遠い目をしてるけど触れないのが一番だ。俗に言う触らぬ神に祟りなしというやつだ。下手に触れると一夏に対する鈍感さの日頃の鬱憤を吐き出されかねない。

 

「……はぁ。気を取り直して、キラに相談があるんだがいいか?」

 

「相談……? えっと、内容によるけど……」

 

「主に一夏についてだ」

 

「あっ、ごめん。ちょっと今から用事を思い出したから、また今度で」

 

「ま、待て! そんなお前に対して愚痴やら鬱憤やらを吐き出そうとは思っていない! ええい! なぜこの時は即決即断なのだ!! お前は!!」

 

 気を取り直した箒さんに相談があると言われ、嫌な予感を感じたが案の定一夏について。

 絶対に面倒くさいことになると判断をして席を立ち上がろうとすれば必死に箒さんに止められる。最後に若干忌々しそうに言われるが巻き込まれたくないと思うのは、それでも間違いじゃないんだ……。

 

「……誰かに肩入れしてくれって相談なら僕は受け付けてないからね」

 

「安心してくださいまし。今回はそのようなご相談ではありませんので。……ちなみに個人に肩入れしたくない理由をお伺いしても?」

 

「……絶対に巻き込まれるし、面倒くさいからかな」

 

「うわっ、アンタも弾と数馬と似たようなオーラ出さないでよ……」

 

 これほど弾と数馬の協力が欲しいと願ったことはないよ。2人が居れば一緒に主に弾が率先して俺が知るかよ! と恨めしそうにしながら断ってくれただろうに。

 

「……大袈裟に相談などと言った私が悪かった。単に同性としてあの唐変木の鈍感に対して一言、二言話を聞きたいだけだ」

 

「なるほど……それぐらいなら、まぁ、答えられるけど……」

 

「その、一夏さんはわたくしたちをきちんと異性としては意識していらっしゃるのか、キラさんからの見解が欲しいんですの」

 

 セシリアさんから懇願されてうーんとつい唸ってしまう。

 最近似たような愚痴を聞かされたなぁと織斑さんの姿を思い出しながらもあくまで僕から見てからだけど、と前置きをして話す。

 

「意識はしてるとは思うよ? ただ、みんなのことを異性の友達として見ている部分があるから、無意識に意識しないようにしてるんじゃないかな」

 

「それはあるかもね。恋愛に興味がないわけではなさそうだし……その、みんなを単純にそういった対象で見ないようにしてる説が有力なのかも」

 

「だから、一夏には真っ直ぐと気持ちを伝える方法が一番だよ。鈴には一度言ったけどね」

 

 覚えている鈴はうっと気まずそうに声を詰まらせる。あの様子はどっちかというと、泣いてるのを見られたのを思い出してるんだろうなぁ。

 好きだという感情は抱いているのに、好きという2文字を大好きな人へ言葉として気持ちを贈るのが難しいのは知っている。

 ただ、やっぱり彼女たちにはあの時に伝えていれば良かったのだと後悔は抱いて欲しくないんだ。

 

「……その、意外でしたわ。あの、ハッキリと想いは伝えるべきだと言われるとは思っておりませんでしたので」

 

「想いは言葉にしないと伝わらないから。単純に一夏は鈍感なんだからそれぐらいが丁度いいんじゃないかなって、僕からの一つの意見かな。それは一夏が好きなみんなの方が心当たりは多いだろうし」

 

「……要するにシャルロットを見習い、サッサっと告白しろと言うことだ」

 

 興味なさそうにラウラが呟けば3人がうっと顔を顰めて言葉を詰まらせる。

 この話になってからラウラはずっと気にかけてくれて視線を向けてくる。大丈夫の意味を含め、軽く微笑めば哀しそうな顔を浮かべるがそれも一瞬で何事もなかったようにいつもの顔に戻す。

 

「──悪い遅くなった!!」

 

 話が一区切りつけば丁度良く一夏が夕食を持って席に着く。

 突然と一夏が現れたため話が聞かれてなかったのかと3人が動揺をするが、その様子を見て首を傾げる一夏を見てホッと安堵する。

 

「それじゃあ、僕は食べ終わったから先に失礼するね」

 

「えっ、そうなのか? キラと一緒に食べたかったのに……」

 

「今日はごめんね。時間があったら今度一緒に食べようね」

 

「おう! 約束だからな!」

 

「私もこの後少しばかり人と会う約束があるため失礼する。行こう、兄さん」

 

 一夏と今度一緒に食べる約束をして、ラウラに引っ張られるように連行される。

 食堂を出れば掴まれていた腕を離して、彼女は心配するように僕の顔を伺う。

 

「……本当に大丈夫なのか?」

 

「心配してくれてありがとうね。……思い出してたんだ。出撃する前に、彼女が、フレイが僕に何を言おうとしてたんだろうって」

 

「兄さん……」

 

 左腕の待機状態のブレスレットであるストライクをそっと右指で撫でる。

 あの時に僕らはお互いに何を言おうとして、伝えたかったのか。それを知れなくて、言えなくて最後は2度と出会えなくなってしまった。

 僕らがあの日の約束を果たすにはあまりにも遠くなりすぎた。もう2度と叶うことのない約束へと。

 

「この後人と会う約束をしてたよね。ごめんね、余計な時間を使わせちゃって。僕は部屋に戻るから」

 

「兄さん……っ!」

 

 ごめんねと謝りながら歩けば背中からラウラに抱きしめられる。

 彼女の体は僅かに震えていて、それが僕のことを心配してくれてるんだってハッキリと伝わる。

 

「……行くな。行かないでくれ……兄さん」

 

「大丈夫。大丈夫だから。僕は行かないよ……約束したから、(フレイ)と」

 

 落ち着かせるようにラウラの手を触れる。

 都合のいい夢の世界だけど、フレイ・アルスターと約束をした事実は変わらない。

 だったらその約束を僕は守らないといけない。答えが何も見えなくともその先で彼女が待っていると、また逢えると都合の良い奇跡を胸に抱きながら。

 

「……いなくなったら泣くからな。私は妹なんだから」

 

「うん。僕も妹を泣かせたくはないかな」

 

「……その言葉を今は信じよう」

 

 名残惜しそうにゆっくりとラウラは離れる。ありがとうと言いながら頭をつい撫でてしまうけど、恥ずかしそうにちょっとだけ顔を赤くするけど嬉しそうに上目遣いで見てくる。

 

「……私はそろそろ行く。兄さん、また明日だ」

 

「うん。また明日ね、ラウラ」

 

 ラウラの背が見えなくなるまで僕は見送りながら思うのだ──恋愛相談はやっぱり向いてないかなって。

 





 次回は多分シャルとキラ君のデート回だよ、やったね!!やっと青春らしいことをできているのでは?というか初めてでは……?

 はい。前書きでも言いましたがお気に入りが1400突破しました!!ありがとうございます!!だらだらと更新してますが気長にこれからもお付き合いください(土下座)評価バーも赤なので継続して頑張りましゅ……また失踪した時は許して…許して……SEED劇場版放送されたら戻ってくるから()

誤字&脱字報告いつもありがとうございますっ!!感想も毎度してもらえてとても励みになっておりますっ!!次の更新は未定ですが気長にお待ちくださいー!!


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第37話 ドキドキデート!!



遅くなりましたぁー!今回は間違いなく過去一量が多いよ……ここまで長くなるのは我ながら驚きました……私のいつもの前書きはここまでにしてそれではどうぞー!


 

 

(えへへっ。私、キラとデートしているんだ)

 

 週末の休日の日。校外特別実習──臨海学校への準備のため僕らは街中へと出ていた。

 隣には上機嫌で嬉しそうに笑うシャル。今日の彼女は制服では無く私服で半袖の白いブラウスで、スカートと同じライトグレーのタンクトップ。

 とどのつまり、世間一般で言えば僕らは今日デートをしているということ。

 

「今日は駅前のショッピングモールに行くんだっけ?」

 

「うん。一夏や他の友達にも聞いたけど駅前のショッピングモール『レゾナンス』がオススメなんだって。他の人もそこで今日はお買い物してるんじゃないかなー?」

 

「もしかして友達に聞いてまわったりしたの?」

 

「もちろん! 誘ったのは私だもん。だから、今日のエスコートは任せてね!」

 

「それじゃあ、お願いしようかな」

 

 自信満々に意気込む彼女を見て頬を緩める。

 情けない話だが駅前の道のりは全く知らない。覚えているの遊びに行った五反田食堂ぐらいだ。

 これからも自主的に出かけるかと言われたらそれはないんだけどさ。それでも、最低限の道のりはいい加減覚えるべきかもなぁ。

 

「そういえば出かける前にラウラから貰ったこれってなんだろう……?」

 

「詳しくは知らないけどお守りらしいよ?」

 

 シャルは右腕につけている水色のブレスレットを眺める。

 2人で出かける前にラウラがシャルに水色のブレスレット、そして僕には同じ色のリストバンドを手渡してきた、

 ラウラ曰く『──お守りだ。肌身離さずつけておけ』と念を押しながら一方的に押し付けられた。

 いや、リストバンドはストライクを隠すのにうってつけだから助かるんだけど水色ってなんか更識会長を思い出すんだよね……。

 

(リストバンド後で帰ったらラウラに返すとして……問題はどうやってお金を返すか)

 

 シャルに気づかれないように頭を悩ませている問題。織斑さんと山田さんにどうやって今日使用することになる資金をどう返すか。

 シャルにデートに誘われたのを風の噂で聞いたのか、織斑さんはニヤニヤとからかいながら、山田さんは喜びながら嬉々として渡してきた。

 その際に無理に返さなくて良いと口を揃えて言われたけど気が引けるんだよなぁ。

 

(……これ以上考えたって名案が浮かぶわけでもないからやめよう。今はシャルとのデートに意識を向けないと)

 

 内心で重苦しく息を吐きながら思考を切り替える。

 今日を楽しみにしていた隣の彼女を蔑ろにするのは失礼だ。誘われて、それに頷いたのは自分なのだから彼女の記憶の中で良い思い出として残れるように努めないと。

 隣で嬉しそうにしているシャルを横目で見ていれば、その視線に気づいた彼女が不思議そうに首を傾げる。

 なんでもないよと彼女に穏やかに笑い返し、僕らは雑談をしながら目的地へと向かう──

 

 ◇◇◇

 

「わー! やっぱり休日だから人が多いね」

 

「そうだね。こんなに人がいる場所に来たのは久々だよ」

 

 僕らは目的地のショッピングモール『レゾナンス』の一階に居た。

 ショッピングモールと聞いていたから人が多いだろうと予測はしてたけど休日でもあって大勢の人で賑わっていた。

 ここに来るまでの途中にシャルにレゾナンスについて話を聞いたが、食事も国内だけではなく国外の料理も豊富らしく、衣服もブランド品や量産品も網羅しているらしい。そして各レジャー施設もありお年寄りから子供まで幅広く堪能できる万能モールと、一夏と鈴が言っていたらしい。

 多くの人の賑わいに既視感を抱き、思い出すのは生活物資と弾薬補充を補給のために寄ったバナディーヤの街。

 あの時はカガリと一緒に街中を回ったんだっけ。途中でバルトフェルドさんと出逢い、襲撃に巻き込まれたりと途中から街中を平和に回るどころではなくなった。

 

「……こんなに人が多いからはぐれたら大変だよね」

 

「えっ? あっ、そうだね。こんなに人が多いと、はぐれたらシャルと合流できる自信はない、かな」

 

「そ、それなら手を繋がない? 私もはぐれたらキラを探し出せる自信ないから」

 

「そうだね。うん、手を繋ごうか」

 

 シャルの提案に頷けば顔をうん! と嬉しそうに頷く。

 はぐれないように手を繋げば柔らかくて暖かく彼女の体温を感じる。

 シャルが頬を赤くしているのは僕を意識しているんだって一目で分かる。

 

「それじゃあ行こうか。えっと、2階なんだっけ?」

 

「う、うん! 2階だよ!」

 

 声をかければしどろもどろに答えるシャル。

 なんというか、こうやって同年齢の子が落ち着きもなくソワソワとしている様子は新鮮だなぁ。

 同上で2階とまでしか僕は知らないのでシャルに案内されながら2階へと行く。

 

「そういえばキラは他に買いたい物とかあったりする?」

 

「特にないかな。今日は水着以外買う予定はないよ。これといって欲しいものはないし。シャルの方こそどうなの? 買いたい物があるなら付き合うよ」

 

「こうも選り取り見取りだと悩んじゃうかなぁ。水着を買った後にお店を数軒はちょっと回りたいかも」

 

「それなら先に水着を買うのすませよっか。待ち合わせ場所はここにして別々に買いに行く?」

 

「……その、一緒に見て回りたいかな。デートだから極力キラと一緒に居たいんだ。駄目、かな?」

 

 シャルから上目遣いで懇願される。

 どうしようかと悩むが、名目上はデートなのだから一緒に見て回るのは不自然ではない。それに休日もあるからかチラホラと恋人関係と見受けられる2人連れもいるから深く気にすることもないか。

 

「そうだね。一緒に回ろうか。どうする? 先にシャルの水着を見に行く?」

 

「ふえっ!? え、えっと……!! ……そ、それならお願いしようかな! キラにも一緒に見て欲しいから……っ!!」

 

 どうやら彼女は駄目元で頼んできていたらしく聞き入れられたと認識するのに数秒ほど時間がかかり、大きく慌てふためく。

 顔を真っ赤にして勢いで言っちゃったと小さな声で呟いたのが聞こえてしまい無理しなくていいよ? と言おうか悩むが、それを口にすれと逆効果になりもっと大変な事になりそうな天啓が舞い降りたので黙っていよう。

 

(シャルの近くにいれば大丈夫だよね……?)

 

 女性水着売り場へと実際に足を踏み入れると、自分がどれだけこの空間で異物なのかを自覚してしまう。

 男がこの空間に足を踏み入れたと他の女性客に視線を向けられるが隣にシャルがいるので恋人なのだと認識されれば興味なさそうに目をそらす。

 

「今日初めてキラの緊張した顔を見たかも」

 

「……女性の水着売り場は初めてだからね。なんだろう、自分が本来此処に居たらいけないんだってありありと感じとれたよ」

 

「それなら私のそばから離れないでね? もしかしたら追い出されちゃうかも」

 

 シャルはクスクスと笑いながら冗談を言う。

 握られていた手をさらに強く握られて女性水着売り場を共に歩く。

 シャルはうーんと悩みながら自身に似合いそうな水着を次々と手に取る。

 

「そ、そのね。どっちが似合うかな?」

 

 シャルが手に取った水着は白のワンピースタイプと、黄色のセパレートとワンピースの中間のような水着の2種類。

 どちらが似合うかと聞かれるものの、シャルは両方とも似合っているのが正直なところ。

 ただどちらかを選べと言われると、悩むが黄色のセパレートとワンピースの中間の水着の方かな。シャルのパーソナルカラーに引っ張られているのは否定できないけど。難点を上げれば胸元を強調しているところかな……。

 

「僕は両方ともシャルに似合ってると思うよ? シャルが気に入った方を選んでいいんじゃないかな」

 

「うー、悩んじゃうなぁ。ちょっとだけ試着してくるね。ここ試着しても大丈夫そうだから。ふらふらと動いたりしたら駄目だよ?」

 

 暫く悩んだ結果、シャルは近くの試着室へと姿を消す。

 シャルが試着室から戻ってくるまで僕は1人でこの場に残らなければならない。手持ち無沙汰だったのがこんなに恨めしいと思う日がくるなんて……。

 

「──見知った姿だと思えばやはりお前だったか」

 

「あっ、箒さん」

 

 聞き慣れた声から声を掛けられたので、声をした方を振り返れば私服姿の箒さんの姿が。

 半袖の黒のジャケットと赤色のミニスカートといったお洒落した格好。彼女が此処にいるということは恐らく水着を買いに来たのだろう。

 

「女性の水着売り場に呑気に立っているのを見るに、シャルロットとデートの最中のようだな。彼女はどうしたんだ?」

 

「シャルロットなら水着の試着に行ったよ。ここ試着大丈夫そうだから」

 

「ああ、納得した。そうでもなければシャルロットから離れるなどはしないか。ここだと尚更な」

 

「……ここを1人で入る勇気なんて流石にないよ」

 

 水着だと言っても近寄り難い場所、というか絶対に寄りつかない。

 少しいえど1人でこの空間に居続けるのは大いに居心地が悪いので、友達である箒さんと出会えたのは正直助かったよ。

 

「箒さんもやっぱり買いに来たの?」

 

「セシリアと一緒にな。探せばその辺にいるんじゃないか? クラスメイトもチラホラと見かけたぞ。……よかったな。クラス内で当分はまたお前らの話題で持ちきりだろうよ」

 

「……だよね」

 

「まぁ、我らがクラスはその辺は弁えている。少なくともお前が目の前にいる時は目に見えてその話題を話す人はいないだろうよ。女子とは恋バナには弱いんだ、大目に見てくれ」

 

「……つまり箒さんもその1人だってこと?」

 

「……ま、まあな」

 

 箒さんが両腕を組み目を逸らしてどもりながら答えるとなると、どうやら味方になりそうな人はいないらしい。

 こればかりはどうしようもない。熱り冷めるまで気づかないふりを押し通すだけである。

 

「キラ、どっちが似合うか──あれ、箒?」

 

 試着室のカーテンからシャルはひょっこりと顔を出せば箒さんが居ることに驚く。

 シャルの行動から箒さんは何をしようとしているのか察したのか感嘆の声が漏れる。

 

「キラのことになると、驚くぐらいに大胆になるんだな」

 

「だ、だって……ほ、箒だって一夏にならやるでしょ!?」

 

「そ、そんな恥ずかしいこと出来るか!?」

 

「わ、私だって恥ずかしいんだよっ!? ……い、一度は……その、見せたけどぉ……」

 

「ま、まあまあ。ふたりとも落ち着いて、ね? お店の中だからさ」

 

 徐々にヒートアップしている2人を宥める、というか止めないと主にシャルがテンパって何を口走るかわからない。

 一度彼女の下着姿を見たどころか、一線を超える寸前までいったなんて口が裂けても言えない。

 冷静になればお互い気まずそうに目を逸らすが落ち着いてくれて何よりだよ。

 

「……んんっ、お邪魔虫は大人しく退散しよう。馬に蹴られて地獄に落ちるのは御免だからな。キラ、言葉を濁さないで正直に褒めろよ」

 

「えっ? あっ、うん……」

 

「それとシャルロットは頑張れよ。どうやら一夏とは別の理由で難攻不落そうだからな」

 

「う、うん!」

 

 シャルロットを鼓舞して箒さんは自分の水着探しへと戻っていた。

 箒さんが去ればこの場には僕とシャルの2人きりになるわけで。暫く恥ずかしそうにシャルは俯いていたが、よしっと小声で気合を入れるとカーテンを開ける。

 

「ど、どうかな……」

 

 カーテンを開けたシャルが試着していた水着は白のワンピースタイプではなく、胸元を強調している黄色のセパレートとワンピースの中間のような水着だった。

 両腕を後ろで組み恥ずかしそうにしながら次の言葉をシャルは待つけど、てっきり白のワンピースタイプの水着だと思っていたので意表を突かれて上手く舌が回らない。

 

「あ、えっと……似合ってるよ」

 

「……ほんと?」

 

「その、上手に言えないけど……とても似合ってる、よ」

 

 不安そうに聞かれると狼狽えながらも必死に言葉を絞り出す。

 自分のことながら咄嗟に思い浮かぶ褒め言葉が安直すぎないか? と思わなくはないけど、それ以上の言葉は思いつかないんだ。

 シャルの水着姿をずっとマジマジと見続けるわけにもいかず目を逸らしてしまうが、シャルはそんな僕を見て満足そうな笑みを浮かべる。

 

「うん! それなら私の水着はこれにしよっかな」

 

「ほ、他のを試さなくていいの?」

 

「ううん。これでいいの」

 

 すぐに着替えるからと言いながらシャルはカーテンを閉める。

 満足そうにしていたからシャルの中で得るものがあったの間違いなさそうだけど……どうなんだろう? 

 その後着替えて試着室から出てきた上機嫌なシャルと共に彼女の水着を購入して女性水着売り場から出る。店員さんが生暖かい目で僕らを見てきたけど、恋人じゃなくて友達なんですと否定する勇気は出なかったよ……。

 

「そ、それじゃあ次はキラの水着を選びに行こっか」

 

「無理はしなくていいんだよ? 入り口で待ってればすぐに僕も戻って来るからさ」

 

「う、ううん!! 行くよ!! わ、私もついて行くから!」

 

 シャルはぐいと顔を近づけてくる。

 これは意固地になってるなぁと苦笑いを浮かべながらも男性の水着売り場へと歩みを進める。

 ちょっぴり僕の手を握る力が強くなるのはシャルは緊張しているのだろう。先ほどの様子を見る限り初めてのようだし。

 

「すぐに終わるからちょっと我慢しててね」

 

「き、気にしなくていいよ! キラもゆっくり選んでいいんだよ?」

 

「ほら、僕はもとから水着は買う予定なかったからさ」

 

 どれが良いかと悩んだいると、ちょっと高いが上着とズボンの水着セットがセールで売られているのに目が留まる。

 ズボンは無難にハーフパンツの紺色。そして上着は水色の半袖のパーカー付き。なんとなく地肌を晒すのに抵抗があるので丁度いいかな。

 

「気を遣わせちゃってごめんね……」

 

「そんなことないよ? 気にしなくて大丈夫だよ」

 

「ま、まぁ、一夏にしてはセンス良かったし? 今日のことは許してあげる」

 

「そんな俺がセンスが致命的みたいに言わなくてもいいじゃんか」

 

「「「あっ」」」

 

 若干落ち込んでいるシャルを励ましながら男性の水着売り場から出れば、女性売り場の方から聞き慣れたとある二人の声が聞こえてくる。

 まさかと思い声のした方へと視線を向ければそれは相手も同じだったようで同じようにデートの最中だったのか一夏と鈴とバッチリ目が合う。

 

「──やっと出てきたか。お前たちを待つ俺たち2人の身も考えろよなぁ」

 

「──まったくだ。時間が掛かるのは目に見えていたが、こうも時間が掛かるのならば俺は聖地であるアニメショップへと向かいたかったんだがな」

 

 水着売り場から出てきた一夏と鈴に近づく2人の声と姿には当然僕は見覚えがあるわけで。

 近づくと2人が固まっていることに弾はその視線の先に怪訝な表情を向ければ僕とバッチリと目が合う。

 

「──は?」

 

「あ、あはははは……」

 

「どうしたお前まで固まって。……うん? キラじゃないか。隣にいるのは……ああ、弾が固まったのはそういうことか」

 

 まるで石化されたように固まった弾に数馬は最初は不思議そうにするが、僕の隣にいるシャルの存在に気がつくと納得する。

 そして再度数秒の沈黙が流れる。その静寂を破ったのは数十秒程フリーズしていた弾だった。

 

「ようー! 久しぶりじゃないか、キラ!!」

 

「ひ、久しぶりだね」

 

「えっと、キラ、この人は……?」

 

「ああ、悪い! 俺は五反田弾だ。一夏と鈴とは中学の頃からの友達でな! それでキラとは最近友達になったんだよ。よろしくな!」

 

 弾は僕の肩へと腕を回して、爽やかな笑顔を浮かべながら困惑していたシャルロットへと自己紹介を始める。

 掴んでいる肩にこっそり力込めるのやめてほしいかな。その、地味に痛いんだよね……。

 

「あっ、君がたまに一夏や鈴が言っていた弾君なんだね。私はシャルロット・デュノア、よろしくね!」

 

「お、おおう……こ、これがIS学園の女子……」

 

「ちょっとそこのバンダナ!! まるで初めてIS学園の女子生徒と触れ合ったみたいな反応するんじゃないわよ!!」

 

「鈴はノーカンだ!! ノーカン!!」

 

 若干テンションがおかしくなっている弾の発言に鈴は頭にきたようで2人の口喧嘩が始まる。

 またかと呟きながら一夏は止めに入り、数馬の方は止める気はなく、むしろ2人の喧嘩を冷や冷やとしながら見るシャルへと自己紹介を始める。

 

「俺は御手洗数馬だ。弾と同様に中学から一夏と鈴と連んでいる」

 

「えっと、シャルロット・デュノアです……その、2人は止めなくて大丈夫なの?」

 

「なにあの2人の喧嘩など日常茶飯事だ、気にするほどじゃない。一夏が関わっていない分まだマシだ」

 

「……ああ、うん……」

 

 流石中学の頃から友達である数馬だよ。これぐらいなら多少放置したところで問題ないと見極めが上手である。

 現にヒートアップする前に一夏が2人の喧嘩を止める。喧嘩するほど仲がいいとは聞くし弾と鈴はその象徴をしている関係だよねぇ。

 2人の喧嘩も収まったことから大丈夫かなーと淡い期待を抱いていたけど、次の弾の標的は僕のようでゆっくりと視線を向けてくる。

 

「……それで? キラ君は何をしていたんだ?」

 

「……買い物だね」

 

「なぁ……お前はさっき2人で何処から出てきた?」

 

「……弾は勘が鋭いんだね」

 

「こ、この!! 裏切もんがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 弾は逃げられないように両肩をがっしりと掴んできて血走った目で詰めてくる。

 シャルと2人でいる場面をバッチリと見られている以上は誤魔化せるわけないから素直に自白するしかないじゃないか。

 

「前に鈴が言っていたシャルロットはこの子だったんだなぁ!! こんなめちゃくちゃ可愛い子といい関係だなんて羨ましすぎるぞコンチクショウ!!」

 

「いや、その、僕とシャルロットは友達だよ……?」

 

「うそつけぇ!! ただのお友達が野郎の水着売り場に一緒にいるわけねえだろうが!!」

 

「キラは嘘は言ってないわよ。キラとシャルロットは関係は友達よ」

 

「うん。私とキラは友達だよ?」

 

「それなら今度、俺と2人きりでお茶とかどうですか!?」

 

「あはは、お誘いは嬉しいけどごめんね。その、2人きりで出かけるのは好きな人とだけだから」

 

「やっぱりそうじゃねえか!! 友達は友達でも、向けられてるのはLikeじゃなくてLOVEじゃねえかちくしょうが!!」

 

 頬を染めてチラリと僕の方へと視線を向けたシャルを見て弾はガクガクと揺さぶってくる。

 僕とシャルの関係は友達であるのは間違いないんだ。ただ、詳しく説明するとなると複雑というか説明しようにもどう言えばいいのか……。

 

「やれやれ……そもそも一目見れば分かるだろ?」

 

「……だけど、だけどよぉ……小さな希望があるかもしれないだろっ!?」

 

「いいや。ないな」

 

「ないわね」

 

「……多分、ないんじゃないか?」

 

「ぐはっ……」

 

 3人──特に恋愛方面で鈍いあの一夏まで同じ言葉を投げられたことにダメージが大きかったのか弾は膝から崩れ落ちた。

 ここで下手に声をかけても状況が悪化するのは目に見えてるので苦笑いを浮かべるほかなかった。

 

「この馬鹿は放っておくとしてもう昼だ。腹も減ったことだし、そろそろ昼飯にしないか?」

 

「それもそうだな。俺もお腹空いて仕方なかったんだよ」

 

「それなら僕たちも行こうか」

 

「そうだね。これ以上はお邪魔するわけにもいかないしね」

 

「気を遣わなくていいわよ。どうせ、そこのニ馬鹿も一緒なんだから2人増えても変わらないし。その様子だと、2人もまだ食べてないんでしょ?」

 

「それはそうだけど……だけど今日は鈴の帰国会でもあるんでしょ?」

 

「主役であるアタシがいいと言ってるんだから。それにそこの馬鹿2号は逆に喜ぶわよ」

 

「当たり前だろ!! むしろ、俺としては今からシャルロットさんと親交を深めたいぐらいだぜ!!」

 

 いつの間にか復活したのか鈴の後ろで弾は清々しい笑顔でサムズアップをしてるのを見ると大歓迎らしい。一夏と数馬も主役の鈴に一任するようで特に口を挟む気もなさそうだ。

 どうしようか? とシャルが目配せしてくるけど、僕としてはここで断る理由は特に見当たらない。

 デートの最中ではあるからシャルの心情を配慮すればここは断るべきなのかな……? 

 

「うん。それならお言葉に甘えて一緒に鈴たちと食べようかな! それに一夏がきちんと鈴をエスコート出来てるのか気になるしねー」

 

「エスコート? いや、俺だけじゃなくて弾と数馬いるから必要ないだろ。鈴には振り回されてばっかだけど……」

 

「……えっと、その、元気出して鈴」

 

「……なんかキラに同情されるの腹立つわね」

 

 一夏の発言に若干落ち込んでいる様子の鈴を励ませば理不尽に睨まれれば苦笑するしかない。

 弾と数馬も小さなため息を吐いてるのを見るとこっそりと2人になれるように気を遣ったんだろうね。

 

「ちょっとキラ借りるわね」

 

「えっ、うん、いいけど……?」

 

「……そうか。キラは犠牲になるのか……」

 

「……運がない奴め、南無」

 

「鈴とキラはどこ行くんだ?」

 

「近くの自動販売機まで!!」

 

 一夏以外は察した様子で哀れみの視線を向けられながら鈴から右腕を掴まれて僕は連行されていく。

 自動販売機に用事があるのは嘘なので角を曲がれば掴まれていた右腕が解放される。

 

「それでアンタの方は順調なの? いや、シャルロットの顔を見ればそうなんだろうけど……」

 

「順調ではあるんじゃないかな」

 

「そっか。まぁ、アンタは多少鈍そうだけどなんだかんだで気が回りそうだし心配するのは杞憂だったか。……それで、シャルロットは知ってるの?」

 

「えっと、知ってるってなにが……?」

 

「なにがってアンタが味覚ないってこと!! てか、それ以外に今重要な話はないでしょうが!!」

 

「……そう、だね?」

 

「……まさかくだらないことを考えてたんじゃないんでしょうね?」

 

「……一夏への対する愚痴かなって」

 

「ふんっ!!」

 

「いづ!?」

 

 一夏の愚痴じゃないかと口が滑れば容赦なく足を踏まれてしまう。

 あの流れだと誰だって一夏に対しての愚痴を吐くために連れて行くって勘違いするのは仕方ないじゃないか!? 

 あまりの痛みに足を押さえていれば鈴は見下ろしながら不機嫌そうに鼻を鳴らし話を続ける。

 

「そりゃ、アンタに愚痴をしょっちゅう吐いたりはするけどタイミングぐらいは弁えるわよこの馬鹿!!」

 

「ご、ごめん……」

 

「せめてシャルロットぐらいには味覚のことは言えっての! そりゃ、これまで味覚をしてないのを話すのを躊躇うのは分からなくはないけど最低限言っときなさいよ!」

 

「……変に気を遣わせるわけにはいかないかなって。これは僕の抱えてる問題だからさ」

 

「ほんっと自分のことになると極端になるわよねぇ!! 不器用にも程があるっての!!」

 

 鈴は小言をつらつらと並べるがその節々に彼女は僕のことを心配してくれているのが伝わる。

 やっぱり鈴は優しいなとつい笑みをこぼしてしまうと、彼女はそれを反省してないと捉えたようで目くじらを立ててお説教へと変わっていく。

 

「きちんと人の話を聞きなさいよ!」

 

「うん、聞いてるよ。鈴の話はきちんと聞いてるから……いつも心配してくれてありがとうね」

 

「き、急になによ……」

 

「鈴はいつも怒ってくれるからさ。だから僕は大丈夫なんだよ」

 

「ふんっ、アンタにだけよ。誰にだって口煩く言ってるわけじゃないっての。……なんでそんな穏やかに笑ってんのよ、この馬鹿」

 

 そっぽを向いてボソリと小さく呟いたようだけどうまく聞き取れなかった。

 これは怒らせちゃったかな? と不安に駆られるが何かを吐き出すように小さなため息を吐き、振り向くと鈴はいつものように仕方のないやつと呆れた顔をしていた。

 

「ほら戻るわよ。いつまでも待たせて勘繰られるのはたまったもんじゃないし」

 

「それは大丈夫じゃないかな。みんな愚痴を吐くために連れて行ったんだって思ってるだろうし」

 

「……アイツら後でシメてやる」

 

 弾と数馬は後で鈴に鉄拳制裁されるだろう。去り際に犠牲など、南無だなんて言ってたけど2人にはら合掌を返しておこうかな。

 行くわよと鈴から催促されたので立ち上がりみんなの元へと戻ることにする。

 

「やっと戻ってきたか。相変わらず人使いが荒い奴め」

 

「……とりあえず数馬は一番最初ね」

 

「なんか不穏なカウント始まってないか?」

 

「えっと、2人ともご愁傷様かな」

 

「……まさかキラが俺たちを売ったのか?」

 

「大丈夫よ。キラはとっくに終わってるから。だから次はアンタらの番ってこと」

 

「……ねえ、一夏。鈴ってこんな感じだっけ?」

 

「ん? ああ、中学の頃はこれが日常茶飯事だったからなぁ。ほら、鈴もその辺にしてそろそろ行こうぜ? みんなもお腹空いてるしさ」

 

「……ちっ、そこの馬鹿2人命拾いしたわね」

 

「……俺、今から帰りたくなってきた」

 

「やれやれ……中学の頃から変わらない事に哀れむべきか、嘆くべきか」

 

「そこの眼鏡はここでかち割ってやるわよ!!」

 

「ま、まあまあ、鈴も落ち着こうよ。ほら、数馬も鈴を刺激しないで」

 

 悪役のように高笑いをする数馬に今すぐ突っかかろうとする鈴を必死に宥める。

 前回鈴を止めたこともあるのか弾と一夏は僕に任せて止めるのを手伝ってくれる気配が全くないよね! シャルは仕方ないけど、せめて2人はちょっとぐらい手伝ってくれると助かるんだけど!! 

 

「ほら、お昼を済ませた後にしよ。鈴もお腹空いてるんだよね? 僕もその、お腹空いてるからさ」

 

「……わかったわよ」

 

「珍しいじゃないか。矛を収めるなんてな」

 

「やり方を変えるだけよ。今日はアンタらの奢りだってのを忘れるんじゃないわよ? ほら、シャルロット一緒に行きましょ」

 

「うん、行こっか」

 

 鈴とシャルが楽しそうに雑談しながら先に歩きその後ろ姿を僕以外の3人が嫌な予感を感じ取ったのか顔を見合わせる。

 奢りをわざわざ強調したのはつまりそういうことだろう。あの様子だと手加減なんてしなさそうだから3人の懐事情が響かないといいけど……。

 

 

「へー、懐かしいじゃない。ここをアタシの帰国会に選んだのは褒めてあげる」

 

「懐かしいよな。鈴が戻ってきてから一回も来てなかったろ? だからここにしようぜって俺たちで話し合ったんだぜ」

 

「それにここは懐にも優しいからな。特にオレは出費が激しいためとても大助かりだ」

 

 僕らが向かった先はどうやら一夏たちには馴染み深い場所のファミレス店だった。

 店員さんに全員が座れる場所に案内され、僕とシャルは物珍しそうにメニューを見る。

 

「わっ、本当だ。こんなに値段が安いのは見たことないかも」

 

「へへっ、ここぐらいなんだぜ? ファミレスで安いのは。もちろん味も美味いんだなこれが!」

 

「得意げにアンタが自慢するんじゃないっての」

 

「ねぇ、キラは何にするか決めた?」

 

「……うーん、お手軽に食べられるやつかなぁ」

 

 隣に座っているシャルと一緒にメニューを見てるけど、お互いの肩が触れ合ってもおかしくないのは距離感が近い気がするなぁ! 

 特に弾がさっきから羨ましそうな眼差しを向けて、それを鈴がうんざりとした様子で見ている。

 

「それならキラはこのミラノ風グラタンとかいいんじゃないか?」

 

「そうだね。それならそれにしようかな、ありがとうね一夏」

 

「最近は俺もキラが簡単に食べれるのが好きだってのも分かってきたからな!」

 

 嬉しそうに自慢する一夏にちょっとだけ心が痛くなるけど強ち間違ってはいないか。味覚があっても多分手軽に食べられるものをずっと食べていただろうしね。

 

「シャルロットは何にするか決めたかな?」

 

「私はカルボナーラかなぁ。みんなはもう決めたの?」

 

「アタシも決めたわよ。あとで追加する予定だしねぇ」

 

「俺も決めたぞ。弾と数馬はどうなんだ?」

 

「俺も問題ないぜ。今日はガッツリと食べるのを初めから決めてたからな」

 

「ああ、オレは来た時点で決めていた。なんせこのファミレスのメニューは全て頭の中に入っているからな」

 

「相変わらずお前は無駄なことに記憶力割いてるなぁ……」

 

 自慢げに眼鏡を上げる数馬を弾は呆れながらも感嘆な声を上げる。一夏が呼び出しボタンを押して慣れた様子で全員の注文を読み上げていく。

 

「ほれ、お前ら全員何飲むんだ?」

 

「俺は烏龍茶で」

 

「オレはメロンソーダでよろしく頼む」

 

「あっ、それなら私はお水でいいかな」

 

「僕もシャルロットと同じで水で大丈夫だよ」

 

「ちっ、仲が良くて妬ましいぜ」

 

「嫉妬しないっての。ほら、アタシも手伝うからサッサっと行くわよ」

 

 露骨な舌を鳴らした弾を鈴は急かすように足蹴しながら引き連れていく。

 2人の会話を待ちながらみんなで話していると流石家が定食屋を経営している弾は手慣れた様子で、そして鈴も同様に慣れた様子で全員分の飲み物を持ち運んでくる。

 

「ほら、そこの仲良し2人組の水ね。一緒で座ってるのも近いんだからコップ間違えるんじゃないわよ。特にキラ」

 

「ありがとね。前から思ってたけど鈴って結構手慣れてるよね」

 

「手慣れてるって、なにがよ?」

 

「こうやってお水持ってきたりとか、僕が怪我してる時とか夕食持ってくるのが慣れてるっていうか、様になってるというか」

 

「あれ? 鈴ってキラには言ってなかったの?」

 

「あー、アンタはあの時いなかったしねぇ」

 

「みんなで屋上で昼飯食べた時か。あの時はキラ確かにいなかったもんなぁ」

 

 幼馴染の一夏はともかくシャルが知ってるとなるとその屋上で食べた時に話したのかな? それなら僕が知らないのは当たり前か。

 

「アタシも弾同様に実家が中華料理店だったのよ。手伝いなんて普通だったしね。だから手慣れてるのよ」

 

「それなら色々と納得するや。この前の料理作ってたのも凄く手際とか良かったからさ」

 

「へー、最近鈴はキラに料理作ったんだ」

 

 納得したのでこの前料理を作ってくれたのをつい話してしまうが、それはこのタイミングでは最悪の話題だとすぐに気がつくが時すでに遅しでシャルは何かを怪しむように聞いてくる。

 

「ま、まあ、あれよ!! 味見役!! 中華料理以外も得意になりたいからその毒味役よ! 毒味役!!」

 

「ふーん、一夏じゃなくてキラに?」

 

「そ、そうよ。それにコイツ偶に面倒見るって約束したわけだし? このアタシの貴重な時間を割いてあげてるんだから、ちょっとぐらいキラもアタシに協力してくれてもいいじゃない? ほ、ほら、シャルロットは知ってるでしょ? 多少はマシになったけど、まだまだ改善しなくちゃいけないの!」

 

「……まぁ、それはそうだけど」

 

「そう!! だから他意はないのよ! 他意は!!」

 

「僕と鈴の間には実際なにもないから。ね?」

 

「……そうね! なにもないわよ、なにも!」

 

 鈴を援護するつもりで言ったのにそれがどうやら気に食わなかったのか不機嫌そうに頷いた。

 不機嫌な鈴を訝しみながらもそっかと一応シャルは納得したようだった。

 

「一夏以外にも修羅場ってのを目撃するとは思ってなかったぜ……」

 

「……珍しいものだ。あの鈴が必死に弁明するとはな」

 

「そうか? いつもこんな感じだぞ鈴は」

 

「……ソウダナー」

 

「……やれやれ」

 

 一夏が不思議そうにしているのを弾と数馬は疲弊した顔で頷き、呆れたようにため息を吐いていた。

 それにしても鈴と何もないは言いすぎたかな……? 僕らの間にはそういった恋愛感情はないんだよとニュアンスで言ったつもりだったけど鈴には違う意味で捉えたのだろう。

 

「私ちょっとお手洗い行ってくるね」

 

「それなら俺が案内しようか!? シャルロットちゃんはここ初めてだろうし!!」

 

「あははは、ありがとうね。気持ちは受け取っておくよ」

 

 身を乗り上げた弾に苦笑いをしながらシャルは買った荷物は置いて席を立ち上がりお手洗いへと行く。

 弾の発言に流石に数馬と一夏が若干引いているのか距離を取り始めてそれを必死に弾が言い訳を始める。弾を手助けしてあげたいが、やらなくていけないのはまずは鈴の勘違いを訂正することだろう。

 

「……えっと、怒ってるよね?」

 

「……怒ってないけど? アタシとアンタの間には"なに"もないんでしょ」

 

「あっ、いや、あれはそう言った意味で言ったんじゃなくて……」

 

「……はぁ?」

 

「さっきは僕と鈴には恋愛感情はないんだよって意味で言ったのであって、君と僕の間に合ったことを否定したわけじゃないから」

 

「い、いちいち言葉にしなくてもわかってるわよ。シャルロットが変に勘違いしないようにでしょ? ……紛らわしい言い方するなっての」

 

「ほう? 2人の間に何が合ったのかはぜひ知りたいがな」

 

「キラと鈴に間に実は2人だけの秘密とかあったりしてなー」

 

「あ、あるわけないでしょ!? 2人だけの秘密とか、そんなのあるとしたらシャルロットに決まってるじゃない!!」

 

 弾と数馬は冗談で言っただろうが、その言葉に慌てながら過剰に否定するとそんな鈴の姿を見て2人はお互いに何度も顔を見合わせる。

 いつもなら軽くあしらえただろうけど聞かれたらタイミングが悪くて感情的に返したから付き合いが長い2人にはバレバレだよね。

 

「えー、その秘密俺にも教えてくれよ」

 

「秘密だとしても、大したことじゃないよ? 鈴とまだ一緒に部屋を共有してた時にだらしない姿を僕が見せたぐらいだよ」

 

「あー、千冬姉とは違うタイプの自堕落だからなキラは……」

 

「あははは。……ところで前々から気になってたんだけど、織斑さんってそんなに自堕落なの?」

 

「それなりに。だって休日とか──ー待って、急に寒気が襲ってきたんだが……」

 

 前々から一夏が織斑さんも自堕落だと言っていたので話題を変えるために聞き、いざ彼が話そうとすると何かを感じ取ったのかぶるりとを震わせる。

 

「……この話題はなかったことにしよっか。なんかちょっと怖くなってきたかな……」

 

「……そうだな。なんか後が怖くなりそうだし……」

 

 どうやら同じことを考えていたようで僕らは先ほどの話題を無かったことにすることにした。この場にいないはずなのに何故かこの話を最後までしたら、学園に戻ると眼光を鋭く光らせた織斑さんに制裁を下される僕らの未来が見えたんだ。

 

「お待たせしました。こちらご注文のデミグラスソースのハンバーグ、若鶏のディアボラ風でございます」

 

「おっ、俺の頼んだのがきたな!!」

 

 弾が注文した料理を機に店員さんが次々とみんなが注文した料理を持ってくる。どうやら料理が運ばれるぐらいにすっかりと僕らは話し込んでいたらしい。

 

「それにしてもシャルロット遅いわねー。道にでも迷ったのかしら?」

 

「そうだな。遅いよなぁ……大体20分は経ってるよな? だけどシャルロットが道に迷うってのは想像できないんだけど……」

 

「シャルロットちゃんは初対面な俺でもしっかりしてそうだと感じたし、道に迷ったとしても人に聞くなりして戻ってきてもおかしくはなさそうだけどな」

 

「それなら僕がちょっと近くを探してくるよ」

 

「それがいいかもしれないな。キラが行くのはオレとしては心許ないが」

 

「やっ、数馬は僕をどんな風に見てるのさ?」

 

「なんだ知りたいか? そうだな、ミイラ取りがミイラになると答えておこうか」

 

「……尋ねる前にそれ答えてるよね」

 

「……まぁ、アンタに任せると実際そうなりそうで怖いのよね」

 

「……悪い。ちょっと俺も同感だな」

 

「……なんつーか、IS学園で一緒の一夏と鈴が口を揃えてるのが答えなんだな」

 

 全員から心配そうに見られるけど、流石に迷子にはならないからね? 初めてのデパートだけどこのお店に戻る道のりぐらいは覚えてるよ。

 

「流石に迷子にはならないよ……それじゃあ、ちょっと近くを探してくるね」

 

「5分経ったら、とりあえず一度は戻ってきなさいよー!」

 

 まるで世話のかかる息子を見送るように鈴に言われると僅かに悲しみが心に広がるがこればかりは日頃の行いが原因だと甘んじて受け入れよう。

 

「あっ、買い物を中に置いてきちゃったや」

 

 お店を出た後に今日買った水着を店内に置いてきたのに気がつくが、近くのお手洗い場を軽く探す程度なので大丈夫か。

 別に戻ったらみんなから生暖かい目で迎えられそうなのが不服だとか、そんなちょっとした意地があるわけじゃないよ? ほんとだよ? 

 

「……それに、ちょっとね」

 

 お手洗いなんだから同性である鈴が様子を見てもらうのを頼むべきなのだろうけど、シャルがなかなか戻ってこないことに不安が募って仕方がないんだ。

 更識さんが問題を解決する計画を考えている最中であってシャルの問題を解決しているわけじゃない。亡国機業(ファントム・タスク)がどれだけ危険な組織なのかを詳しく知ってるわけじゃないけど、もしかしたらという可能性も捨てきれないんだ。

 

(……大丈夫だよね。うん、大丈夫なはずだよ)

 

 近くの手洗い場まで駆け足で向かう。

 目的地の手洗い場前に辿り着き辺りを見渡すがシャルの姿は見当たらない。

 

(……まだ女子トイレにいるのかな?)

 

 せめて鈴と一緒に来るべきだったと後悔をするが仕方がない。ここで連絡手段があれば楽だったんだけど……ないものねだりをするのは時間の無駄だから諦めよう。

 

「──ーあら、なにか困ってるのかしら?」

 

「えっ?」

 

 どうしたものかと頭を悩ませていたら見知らぬ女性に声をかけられる。声をかけてきた女性は不思議とこの場に似つかわしくなく感じて、怖がらせないように薄らと微笑んでるけどその笑みにはどこか違和感を感じた。

 奇妙な引っかかりを覚えて声をかけたてきた女性を僅かに警戒心を抱きながらも話すことにする。

 

「その、友達を探してて。お手洗いに行ってから時間が経つのになかなか戻ってこなくて、ちょっと心配になって探してるんです」

 

「そうなの。君は随分と友達思いなのね。お友達が戻ってこなくてどれぐらい時間が経ったのかしら?」

 

「だいたい20分ぐらいですかね……」

 

「ちなみにそのお友達は男の子だったりするのかしら?」

 

「あっ、いえ、女の子です」

 

「そう……女の子、ね」

 

 何故だろう。聞かれているのはありふれた質問なのに、一つ一つ何かを確認されているみたいで居心地が悪い。

 この奇妙な引っかかりはなんだろう? このモヤモヤの正体を知るよりも前にこの人との会話は切り上げた方がいいと本能が訴えてくる。

 

「すみません。僕は友達を探すのでこれで失礼します。もしかしたら入れ違いになってるかも知れないので」

 

「そう? それは残念ね。私はもっと"君"と話したかったのに。……あっ、そういえばもしかしたら探している友達をもしかしたら私は見かけたかも知れないわ」

 

「……見かけた、ですか?」

 

 去ろうとすればわざとらしく女性は引き止めてくる。

 見かけたかもと目の前の人は言うが僕はシャルの特徴を伝えていない。そこに再度また妙な引っかかりを覚えながらも足を止める。

 足を止めた僕の姿を見て女性はなにやら満足そうに笑みを浮かべ、肩に下げているシンプルそうなミニショルダーバッグからおもむろに携帯を取り出す。

 

「あの……?」

 

「──貴方の探しているお友達はこの子でしょ?」

 

「っ……!?」

 

 呼び止めたのに携帯を触り始めたので声をかけて去ろうかと思い呼びかけると、それを待ち望んでいたこのように携帯のディスプレイを見せられて写されている一枚の写真に動揺が走る。

 

「賢明な貴方はこの写真の意味がわかるでしょ? 2人目の男性操縦者であるキラ・ヤマト君」

 

 表情は相変わらずにこやかに微笑んでいるけど初めて声をかけた相手に不信感を感じさせないためではなく、仕掛けた罠に獲物が入り込んだことを喜んでいたんだ。それこそ声をかけた時から。

 僕が見せられた写真は身柄を拘束されて誰かに拳銃を突きつけられたシャルの写真。目の前のこの人がその写真をなぜ持っているか答えはそれで言わずとも理解した。

 

「……この写真を見せたんだから僕に用があるんですよね」

 

「あら、頭の切り替えが早いのね? 事態を飲み込むのにちょっと時間がかかると思っていたのに。過去に似たような経験があったりしたのかしら」

 

「そんなことを今はどうでもいいじゃないですか……っ! シャルをどうするつもりなんだ……っ!?」

 

「君と彼女の関係性がどうであれ、シャルロット・デュノアが誰を選んだのか知るのには必死なその姿で充分ね。ああ、次に騒ぎ立てるような真似しちゃうと彼女の命は保証できないからそのつもりで、ね?」

 

 隠すことのない脅しにただ睨み続けるしか出来なかった。

 シャルを人質にされている以上は迂闊な真似はできない。この目の前にいる人の目的、そして思考が読めない。可能性としてはやっぱり利用したいシャルを口封じをやることなのか……? 

 

「ここでは人目も多いことだし場所を移動しましょ。ゆっくりと話すこともできないから」

 

「……ついて行けばシャルの安全を保証してくれるんですよね」

 

「ええ、なんたらすぐに再会させてあげるわ。もちろんあの世とかではなく、ね」

 

 亡国機業(ファントム・タスク)のメンバーの言葉を今は信じるしかない。相手の要望を聴いている内はシャルの命は保証されると信じながら。

 

(シャルをどうにかして助けた後は、ストライクを使うしかない……)

 

 IS学園外でISを扱うのは禁じられているけどこれはストライクを使うしかない。

 逃走手段を考えれば走るよりもストライクで飛行して逃げる方がずっと速いのだから。

 だけど、もし彼女に対してこれ以上の危害を加えられるのなら、失うことになるのならその前に──

 

(──僕は撃つ。……シャルとみんなに誰からも非難されたとしても……覚悟は、ある……っ)





ここまで長くなるとは思ってませんでした…やっ、久しぶりに弾と数馬を出したら……うん。
はい!!ドキドキデート回でした!!いやー、このまま2人が急接近すると嬉しいよね!!うん!!それはそうとやっぱみんなキラ君がデートしたら襲撃されそうって……私も同じ意見なんですけど()

やっぱヒロインは攫われるのが一つのイベントだと思うんだ。だからキラ君……頑張ろ??……大丈夫!!うん!!

あっ、グリッドマンユニバースはキメてきました。ネタバレを避けるため感想は控えますが最後は普通(???)でした。なので近いうちにヨンバース決めてきます。

ちなみにドラコーはサブ垢でリセマラして出しました。俺…ビーストと人理修復するんだ……

はい!次回の更新は未定ですが気長にお待ちください!誤字&脱字報告お待ちしております!!感想も毎度ありがとうございますっ!!


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第38話 取り残された者たち


本当はキラ君の誕生日祭にあげたかったけど間に合いませんでした!!ええい!!

そしてコメント欄に一部コマンドー見たな?って人がいて大変笑いました。面白い奴らだ、気に入った()

とりあえずキラ君の誕生日祭に上がれなかった悲しみと、戦国無双4、崩スタで忙しいので暫く探さないでください()


 

 

「……遅い」

 

(お、おい! 鈴が不機嫌になってんぞ!! どうにかしろよ、一夏!!)

 

(いやなんで俺なんだよ!? こればっかりは俺が何言っても意味ないだろ!?)

 

 キラがシャルロットを探しに離席して数十分。探しに行った彼も戻ってくる気配が一向にないことにファミレスに残っている内の1人──鈴は目に見えて不機嫌になっていた。

 苛立った様子で注文が届いた料理に手をつける彼女の姿に、弾は一夏へとご機嫌斜めの鈴を宥めろと小声で言うが自分には無理だと一夏は首を横に振る。

 

「冗談で言ったつもりが、まさかミイラ取りがミイラになるとはな。迷子センターで放送するのも一つの手段だぞ?」

 

「それは最後の手段よ。……あー、もうっ、弾と数馬も一緒について行かせればよかったっ!!」

 

「なぁ、そんなキラって抜けてんのか? 俺と数馬はIS学園に居ないからよく知らねえんだけどよ。しょっちゅう遅刻とかしてんの?」

 

「遅刻は実際どうなのよ? アタシはクラスも違うし、なんなら途中から学園に来たわけだし。本人曰く遅刻は一回もしてないって胸を張ってたけど」

 

「不思議なことに遅刻は一回もしてないんだよなぁ。一度だけ授業に遅れてきたことあるけど、それも千冬姉に職員室に呼ばれたからだし」

 

 弾と鈴の疑問に入学当初からの付き合いである一夏は彼が遅刻してないと答えれば、そこは律儀かよと弾のツッコミに一夏もだよなぁと不思議そうにしながら同意する。

 

「お前らはキラとシャルロットの連絡先は持っているのだろ? それなら携帯を使えばいいんじゃないか?」

 

「……そ、そろそろそうするつもりだったのよ!!」

 

「えっ、まさか携帯のこと忘れてたの?」

 

「うっ、うっさいわね!! 仕方ないでしょ、キラは持ってないんだから!!」

 

 静かに食事を摂取していた数馬の初歩的に居場所が分かる手段を提案すれば鈴は気の抜けた声を漏らす。

 まさかのうっかりを晒した鈴に弾は激しく驚く。彼女は仕方がないと必死に弁明するがそれは恥ずかしさを誤魔化してるようにしか見えない。

 

「それならシャルロットは解決するじゃない。あとはキラよ!! どうやってアイツを見つけ出すか!」

 

「シャルロットが見つからなかったら一度は戻ってくるんじゃないか?」

 

「流石にこのファミレス場所ぐらいは覚えてるだろう。シャルロットに連絡を入れて、後はキラの帰りを待つだけだ。なんだ? お前はアイツの保護者か?」

 

「う、うっさいわね……」

 

「そんじゃ、シャルロットに連絡するか」

 

 鈴のキラの対する世話焼きっぷりに呆れながら数馬が口を挟めば珍しく彼女は口籠る。

 いつものように強気に反発しない鈴を珍しく思いながらも一夏はシャルロットの携帯へとかけるものの彼女が携帯を取ることはない。

 

「あれ、おっかしいな?」

 

「なんだよ。シャルロットちゃんと繋がらないのか? もしかしたら一夏からのコールは取らないようにしてたりな」

 

「シャルロットに限ってそれはないだろ? 嫌われるようなことはしてないと思うし……」

 

「たった一回出なかっただけでしょ。何回か連絡入れたら?」

 

 弾の軽口を交えた冗談に一夏はムッと返しながら鈴の言う通りに何回も連絡を入れるものの、結果は同じで彼女が電話に出る気配はなく聞き慣れたアナウンスが何度も返ってくるだけだった。

 

「……えっ? まじで一夏ってシャルロットちゃんから嫌われてんじゃね?」

 

「は、はぁ!? そんなわけないだろっ!? むしろ、仲の良い友達だって!!」

 

「まぁ、一夏のスケコマシに惑わされないよう気づかないふりをしている可能性も捨てられないな」

 

「なんで俺だけ!? それにスケコマシってなんだよ!?」

 

「……ちょっとアタシの方もかけてみる」

 

 いつものように野郎3人がギャーギャーと騒ぎ始めたのをよそに鈴からもシャルロットへと連絡をかけるが、一夏同様に彼女が携帯を取ることはない。

 同じように何度も連絡を入れるが最後まで連絡先の本人と繋がることは一度もなかった。

 

「……なぁ、流石におかしくないか? 一夏と鈴から何度も連絡してるのに取らないってなさ」

 

「こんなに連絡を入れてるのに気づかないはあり得ないもんな。取れない状況でも流石にメッセージとか、メールとかで返信はできるだろうしよ……」

 

「……そう、よね。だってシャルロットよ? 連絡だってマメに返すだろうし……」

 

 どれだけ連絡をかけようとも一度もシャルロットが電話に出ることがないことに3人の間に不安が募る。

 これが仮にキラであったならば笑い話へと昇華出来たかもしれないが、折り返しに連絡を返すであろうシャルロットから何も返答が返ってこない現状に3人は戸惑いを隠さないでいた。

 

「……シャルロットは連絡を返さないのではなく、連絡をとることができない事態に巻き込まれた可能性があるんじゃないか?」

 

「それってどういうことだよ……? 連絡をとることができないって……携帯を落としたとか?」

 

 3人が動揺している中で静かに黙っていた数馬が口を開く。

 連絡をとることができない事態に巻き込まれたのでは、と冷静な口調で述べた数馬に戸惑いながらも弾は聞き返した。

 

「いや、その可能性は低いだろう。今日が初対面ではあるが、先ほどの一夏と鈴の言葉から察するにシャルロットは優等生タイプで几帳面らしいからな。仮に携帯を落としていたのが原因なら、なぜ一度戻って来ない?」

 

「……そうだな。もし携帯とか、貴重品落としてたらシャルロットなら一度は俺らに事情を話に戻ってきてもおかしくないな。探すのに時間がかかってるのなら尚更にさ」

 

「消去法で携帯を落とした線はこれで消えるというわけだ。連絡を返してこないなると、やはり何かに巻き込まれている可能性が高いんじゃないか?」

 

「……その何かってなによ?」

 

「さてな。情報が少ないのだからこれ以上は推理のしようがない」

 

 冷静に分析をしていた数馬がお手上げだと両肩を竦めれば3人はそうかと心なしか落胆するかのようにため息をする。

 中学の頃から冷静に物事を分析して、改善策を導き出したりと、日頃から頭脳担当であった数馬でも事態を好転させることが出来なかったのだから気落ちするのも無理もない話である。

 

「それならもう1人の迷子になっている、あんぽんたんはどうなのよ?」

 

「……あれはシャルロットより簡単だ」

 

「それはキラが抜けてるとか、そんなオチじゃないよな?」

 

「……それなら笑い話ですむんだがな」

 

 一夏が冗談混じりに言うがそれに冷静に話していた数馬の表情が苦々しそうに大きく歪む。

 これはあくまで可能性の話だぞ? と前置きしながら重々しく数馬はゆっくりと話を続ける。

 

「……キラがいまだに戻って来ないのは、アイツの身になにかがあったからだ」

 

「……いちいちオブラートに言葉を選んでるんじゃないっての。サッサっとそのなにかを言いなさいよ」

 

「はぁ、言わずともわかるだろ? ……アイツの場合は、まぁ、誘拐の可能性が高い」

 

「おいおいっ! 誘拐って……ここ日本だぜ!? そ、それにショッピングモールの中で客も多いんだぜ!? そんな中でできんのかよ!? てか、なんでキラが誘拐されんだよ!?」

 

「オレたちはアイツが友人の1人、身近な存在だから認識が鈍くなっているが世界で2番目の男性操縦者だぞ? 各国が喉から手が出るほど欲しい存在が、このショッピングモールで1人でふらふらしていればその手の考えを抱いてる奴らが誘拐してもおかしくはない」

 

「それなら俺もそうだろ? 俺は千冬姉の弟だぞ? するんだったら俺の方が価値とかあるんじゃないのか?」

 

「価値としてはな。だが世界最強の弟を誘拐すればデメリットの方が勝る。それはお前が一番わかってるだろ? 千冬さんはまた起きれば、その時はお前を見つけるまで、それこそどんな手段を使っても見つけ出すだろうよ。……それにこれはあくまで可能性の話だ、真に受け取りすぎるな」

 

 一度話を区切り、長々と話していて喉が渇いたのか数馬はメロンソーダへと口をつける。

 あくまで可能性だと念を押して言っていたものの、誰もが胸底ではもしかしたらと危機感を抱いていた。

 特に一夏はキッカケさえあれば今すぐにでも飛び出しかねないほど焦燥感に駆られており、それを感じ取ったので数馬は一度話を止めたのだ。

 

「一度情報を纏めようぜ……えっと、シャルロットちゃんが連絡に取らないのは不明で、えっと、キラはそのシャルロットちゃんを探すのに手間取ってる、でいいんだよな……?」

 

「ああ。シャルロットがなぜ連絡を取らないのか、この一点が不明だ。これが分かればいいんだがな……2人ともシャルロットはどんな奴なんだ?」

 

「どんなって……えっと、クラス内でもみんなと中良くて、優等生で、そんでIS専用機持ちで、それからキラのことが好きとか?」

 

「最後は絶対にいらない情報だろ!! 俺は認めねえからなぁ!!」

 

「嫉妬心で一々騒ぐな!! ……そうか、専用機持ちか。鈴、IS学園で専用機持ちに関する情報を教えてくれる」

 

「専用機持ちの? 色々あるけど、一番関係してるのはやっぱ各国の代表候補生じゃない? 一夏とキラは特例中の特例だから決まってないんでしょうけど、アタシら専用機持ちは各国の代表候補としてIS学園に入学してるわけ」

 

「シャルロットはその1人、というわけか?」

 

「頭の回転の速さだけは流石ねぇ。そういこと。シャルロットも専用機持ちでフランス代表候補生よ。……これがなんか情報として役に立つわけ?」

 

 怪訝そうに鈴は数馬に聞き返すが、その前に思考の海へと潜った数馬の耳には入っておらず、長年の付き合いで話しかけても無駄だと知っているので鈴は放置することにした。

 かといって彼らが話をすることはなく、こんな雰囲気でいつものように和気藹々と会話が弾むことはない。

 

「そういえば鈴はどうやって代表候補生になったんだ?」

 

「あっ、それ俺も気になる」

 

「大したことじゃないわよ。真面目に猛勉強して、猛特訓してそれで選ばれただけよ」

 

「会った時から鈴は負けず嫌いだったからなぁ。なんか、普通に納得したわ」

 

「代表候補生に選ばれるにはこれぐらいは普通なんじゃない? 代表候補生に選抜されているのはめちゃくちゃ努力してんのよ。まぁ、IS学園に入学することには特に興味はなかったけど……」

 

「へ? それならなんでIS入学したんだよ?」

 

「……べっつにぃ? 気が変わっただけ!!」

 

「……まったく、こいつは……これにわからないとか……」

 

 純粋に疑問を抱いたかのように聞いてくる一夏へ不機嫌になりながら答える鈴を見ながら弾は額を抑えて深くため息を吐く。

 これで気がつかない友人の鈍感っぷりにそろそろ懸念を抱き始めた弾であるが、改善してしまうと彼の妹である蘭が想いを寄せているとバレれば友人として複雑な心境であるので傍観するしかなかった。

 

「鈴。代表候補生になるのは純粋な実力ということでいいのか?」

 

「んー、他の国は知らないけど中国ではそうだったわよ? 代表候補生であってもその国の看板とか色々背負ってるのは同じなんだから他の国も大して変わらないんじゃない? あー、でも、シャルロットは忘れがちだけど令嬢なんだったけ?」

 

「あー、なんか、そんな話ちょっと聞いたような……」

 

「えっ!? シャルロットちゃんってお嬢様なの!?」

 

「なんでお嬢様ってことに食いついてんのよ……大手のISの会社の一つであるデュノア社の娘だったはずよ」

 

「……お嬢様だと?」

 

「そうそう。お嬢様……そう、お嬢様……あれ、もし、かして……」

 

 数馬が半信半疑で聞くと何気なく頷いていた鈴は一つの疑問が思い浮かぶ。数馬と鈴はとある可能性を思い浮かび、まさか? とお互いに顔を見合わせる。

 

「……な、なぁ、もしかしてさ、シャルロットちゃんが連絡が、つかないのって……」

 

「……その可能性はゼロではない。シャルロットがそのデュノア社の令嬢なら大いにある」

 

「ちょっと俺そこら辺を──」

 

「無駄だ。もしシャルロットが誘拐されてるんだったら時間が経ちすぎている……今更探しに行ったところで見つかるわけないだろ」

 

 今すぐ飛び出そうと席を立ち上がろうとした一夏を数馬は見透かしてたかのように静止する。

 止められた一夏はだけどよ! っと反論しようとするが、お前なら分かるだろ? と冷静に諭されるように聞かれれば言葉を詰まらせるしかできなかった。

 

「アタシと数馬の考えが正しかったら……あの馬鹿……っ!! 絶対にやるわよ!! ええっ!! 絶対にやるでしょうね!! アイツなら!!」

 

「お、おい? 急にキレてどうしたんだよ……?」

 

 突然と烈火の如く怒り出した鈴に弾は困惑する。

 シャルロットが誘拐された可能性の話をしていたはずなのに、急に怒り出す友人を見れば流石に困惑するのも無理もないだろう。

 弾はなんのことかと説明を求めようとするが、それよりも先に不満をぶちまけるように鈴は口を開いた。

 

「目撃したのか、それとも巻き込まれたのか、連れて行かれたのか知らないけど、目撃したんだったら絶対に自分から首を突っ込んだんでしょうね!!」

 

「お、おう……?」

 

「普段は自堕落で、頼りないくせに、危ない時だけはいっつも割り込んでいって!! いい加減一発ぐらいは殴らないと気がすまなくなってきた!!」

 

「え、えっと……これ、キラにキレてるんだよな? どうなんだ?」

 

「……キラにだろうなぁ。いや、鈴が怒るのもなんとなく分かるっていうか……」

 

 鈴がうがーと! 怒りを露わにしているのに弾は戸惑いながらも不思議そうにしているが、IS学園で一緒に過ごしている一夏は鈴が怒っている気持ちに共感する。

 

「えっ、キラってそんな危ないことしてんの?」

 

「……危ないってか、結構色々あったんだけどその問題に毎回キラも巻き込まれてたり、自分から首を突っ込んだりとか……なんか、それが自分にとって当たり前みたいに平然としてんだよ」

 

「なんつーか、意外だな……どっちかていうと問題とか無縁なタイプだと思ってたわ……」

 

「……つまり、仮にシャルロットが誘拐されているところを目撃したらキラは自ら行くということか?」

 

「……やるだろうな」

 

「絶対にやるわよ!! あの馬鹿は!」

 

(うわー、鈴めちゃくちゃキレてるんじゃねえか。これ、あとでマジでキラ絞められるんじゃね? ……しかし、あの鈴が本気でキレてるなんてなぁ)

 

 数馬の質問に鈴と一夏は即答する。

 弾は本気で怒っている鈴を観察しながら、内心で本気であとで一発殴られるだろうキラに同情しながらも、本気で心配している鈴を見て感慨深くなる。

 

「なに? さっきから弾はずっとアタシのこと見てるけど。言いたいことでもあるわけ?」

 

「やっ、なんか……お前にとってキラって結構大きい存在になってんだなって思ってさ」

 

「はぁ……? いや、急に意味の分からないこと言ってんじゃないわよ」

 

「えぇ……」

 

 正直に言っただけなのに、その当の本人からなにを言ってるんだコイツ? と怒るどころか抑揚のない声で言われたことに不思議と理不尽な気持ちに弾は襲われたのだった。

 

「とりあえず警察に連絡する方針でいいだろう。誘拐かどうなのか真偽がどうであれど俺たちの手には状況なのは間違いない。それと一夏、千冬さんに連絡を入れておけ。たしか担任なんだろ?」

 

「わかった。今から連絡を入れる」

 

 数馬に指示をされた通り一夏は担任であり、彼の姉である織斑千冬へと連絡を入れれば僅か1コールで彼女と繋がる。

 

『なんだ、一夏?』

 

「千冬姉!! えっと、とりあえず大変なことが起きた!!」

 

『なんだ藪から棒に……落ち着いて要点を話せ』

 

「シャルロット、そしてキラが席を外してから戻ってこないんだよ!」

 

『……なに?』

 

 初めはあくまで何かあった程度だろうと若干呆れたような口調だった千冬だったが、一夏のシャルロット、キラが戻ってこないと聞くと通話している一夏が緊張を抱くぐらいには低い声が彼女から発せられた。

 

『いつからだ? 2人が戻ってこないのにどれぐらいの時間が経った?』

 

「2人が大体どれぐらい経ってるんだ? 俺たちが話してたの考えると……」

 

「シャルロットは約50分、そしてキラも20分ぐらいは時間が経っているはずだ」

 

「サンキュー、数馬。えっと、シャルロットがもう50分ぐらい経って、そんでキラは20分ぐらい経ってんだ!! シャルロットが中々戻ってこなくて、それでキラが探しに行ったんだけどその後キラも戻ってこなくてよ……っ!』

 

『……そうか。それから察するにお前はいなくなるまではその2人と一緒にいたか。さっき、他に誰かに話しかけてたようだがその場に一夏以外には誰がいる?』

 

「弾、数馬、それと鈴の3人がいる。今日千冬姉と会った後に2人に会ってさ。一緒に昼飯食べてたんだけど……』

 

『おおよその経緯は把握した。……提案した私が原因か……』

 

「……千冬姉?」

 

 何かを悔いるように小さく呟いたのを一夏は不思議そうに名前を呼べば気にするなと何事もなかったかのように彼女は取り繕う。

 

『お前たちはその場から誰1人として移動するなよ。いいな? それといる場所はどこだ? そこに今から山田先生を向かわせる』

 

「わかった。俺らがいるのはサイゼリヤ、ほら俺が中学の頃によく弾、数馬、鈴でよく駄弁ってたファミレス!」

 

『ああ、あそこか。キラとシャルロットの方は私がどうにかする。誰もそこから絶対に動くなよ』

 

 再度念を押して千冬は一夏との連絡を切る。

 やけに切羽詰まった様子な千冬を僅かに心配するが、千冬だったらきっとどうにかするのだろうと安心感が一夏にはあった。

 なんたって自分の時も同じように来てくれた最高の姉なのだから。

 

「うし、千冬姉には連絡終わったぞ。俺らは動くなってさ。山田先生がここに来てくれるらしい」

 

「山田先生って誰だ?」

 

「一夏のクラスの副担任。頼りないけど……まぁ、常識はきちんと持ち合わせてるわよ」

 

「了解した。それなら警察にはオレが──」

 

「──少しよろしいでしょうか?」

 

 数馬が警察にへと連絡を入れようとすると、それを遮るように1人の女性が彼らに声をかける。

 

「……なによ? こっちはちょっと取り込んでて構ってる余裕なんてないんだけど」

 

「馬鹿! 初対面の人に威嚇してんじゃねえって!! やっ、すんません。ちょっと色々忙しくて……なんか、俺らに用があるのなら後ででいいですかね?」

 

 

 声をかけたきた少女に苛立ちを隠すことなく睨む鈴を宥めながら弾はその突然と声をかけてきた少女に申し訳なさそうに愛想笑いを作る。

 眼鏡をかけ、ヘアバンドに髪を束ねてい落ち着いていた雰囲気を醸し出す少女を見て、弾は綺麗な人だなーと内心で思っていれば、ああ、すみませんと一言謝罪を述べながら彼女は話を続ける。

 

「こちら、ラウラ・ボーデヴィッヒさんからみなさまにご連絡があるそうなので。少し失礼しますね」

 

「はぁ? なんでラウラから連絡があるわけよ……」

 

 目の前の少女はキラが座っていた場所に腰掛けて、携帯をテーブルの上に置き、全員に聞こえるようにスピーカーに切り替える。

 

『──あー、あー、聞こえるか。織斑一夏に鈴音。というか、なぜ私が2人に事情を説明しなければならないんだ!』

 

『だって、私は運転で両手が塞がってるからしょうがないじゃないー』

 

『ちっ! だから私は別途で追跡するのだと言ったではないか!』

 

「待ってくれ。ラウラ以外にも声が聞こえてるけどまさかその人って……」

 

「ちょっとそこの人たらしとラウラ!! どういことか説明しなさいよ!! いきなり連絡とか!!」

 

 ラウラ以外にも聞き覚えがある声に一夏はまさかと驚きながら、鈴は捲し立てるようにラウラともう1人の人物──更識楯無に説明を求める。

 相変わらず緊張感の欠片もない声で元気そうねーと楯無は返事を返す。この場にいれば扇子で口元を隠してニコニコと微笑んでいただろう。

 

「……えっと、とりあえず誰だ?」

 

「オレたちにも理解できるよに説明してくれ」

 

「連絡してきたのは俺たちの友達でラウラ・ボーデヴィッヒ、そんで生徒会長の更識楯無って人なんだ。えっと、だから、この人も──」

 

「私は布仏虚です。よろしくお願いしますね、みなさま」

 

「あっ、ご丁寧にどうも……」

 

 綺麗にお辞儀する少女──布仏虚に釣られるように弾と数馬もお辞儀する。

 

『どうやらそちらで紹介も終えたようなので話を戻すぞ。そこにいる布仏先輩を使って連絡を入れてるのは他でもなく、兄さんとシャルロットのことでだ』

 

「キラとシャルロットのことってことは、2人の場所をラウラは知ってんのか!?」

 

『知ってるもなにも現在私たちはその2人を追跡中だ』

 

「……追跡か。やはり誘拐されてたということか」

 

『あら、その場に誰か頭の回転が凄くいい子がいるようじゃない。そう、キラ君とシャルロットちゃんは誘拐されちゃったのよねぇ』

 

「だからどこに!? アタシも今すぐそっちに──」

 

「俺も──」

 

『──駄目よ。ISを多少扱える程度の君たちが来たところでただの足手纏いよ』

 

 普段のふざけた口調が鳴りを潜めて、楯無の背筋が凍るような冷たい声に一夏と鈴は言葉を詰まらせる。

 弾と数馬も雰囲気に呑まれ言葉を発することもできず、2人を励ますこともできないでいた。

 

『……私がお前ら2人の分まで兄さん、そしてシャルロットの救出に尽力を尽くす』

 

『あら? ちょっと前のラウラちゃんだと人を気遣う姿なんて想像できなかったのに』

 

『ええい、黙れ!! んんっ、2人のことは私と更識楯無でどうにかするから安心しろ。……まぁ、さっき教官からも連絡があったから大丈夫だろう』

 

『そうそう。織斑先生も後々来るらしいから、2人はそのまま馬鹿なことはしないように。山田先生と、虚ちゃんの言うことはきちんと聞くように。あっ、それとこのことは警察にはちょっと秘密にしてくれるとお姉さん嬉しいかな♪』

 

「……わかり、ました」

 

「……だけど……っ!!」

 

 一夏は苦々しく納得するが鈴は納得ないかなさそうに声を振り絞る。

 楯無の普段とは違う冷たい雰囲気に圧倒された自身が言ったところで足手纏いなのは分かっている。

 元世界最強の肩書きを背負う千冬が合流すると知っていても鈴はどうしようもない不安に襲われていた。

 

『まっ、安心しなさいな。お姉さんがどんなことをしても2人は連れ戻すから』

 

『悪いが通話を切るぞ。全て終わり次第再度連絡する』

 

 

 そしてラウラたちからの連絡は切れた。

 鈴が俯いて僅かに肩を振るわせるのを3人はどう声をかければいいのか分からずただ見ていることしかできなかった。

 

「……怪我でもして戻ってきたら、絶対に許さないんだから……」

 

 事あるごとに口癖のように『──僕は大丈夫だから』と笑うキラの姿を思い浮かべながら、鈴は声を震わせながら弱々しく呟いた。

 彼女のその一言が誰に向けて言っているのかこの場にいる全員が気付きながらも、2人が無事に戻ってくるのを彼らはただ祈ることしかできなかった──







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第39話 亡国機業(ファントム・タスク)


 突然な箱イベで吐血しながら周回している作者だよ!!区切りがいいので一旦投稿かな!!これで月一更新は終わったから箱イベの追い込みするね!!それはそうと、余裕があれば今月にあと一回更新したいなぁ……(届かない想い)


 

 

 ショッピングモール『レゾナンス』から連れ出され、現在僕は車の助手席に居た。

 隣にはシャルを誘拐した1人であろう長髪の金髪の女性が運転していて、この人の言葉を信じるのならばシャルがいる場所へと向かっているのだろう。

 

(……この人の目的はなんだ? 僕を車に乗せた後は目隠しもせずに、拘束もしなかった。ISを持ち込んでいると警戒してもおかしくないのに、手荷物や体を調べたりもしない……何かを狙ってるのか?)

 

 車に乗り込ませれば助手席に座らせただけで、それ以上何かをすることがないのに疑問を抱くのは当然だ。

 大人しくしていればシャルの命は保証すると脅された手前抵抗するつもりはないけど相手がそのそぶりすらも見せないのはおかしい。

 

(……それに色々と不自然なことも多い。シャルを誘拐したのに、どうしてそれを探しに来るのを待つように付近にいたのか……だけど、これだけは確実にわかる。隣にいるこの人は……多分、強い……っ)

 

 抵抗すればシャルの身に危険が及ぶから今は大人しくするしかないけど、目的地へと辿り着いてシャルを救出する際に戦闘は避けられない。

 C.E(コズミック・イラ)で多くの戦闘を経験したからなのは分からないけど、隣にいるこの人が実力者であるのがわかる。

 実力は未知数。そんな中で更に大勢と対峙なければならないと想定すれば、僕とストライクでどこまでやれる……? 

 

(……弱気になったら駄目だ。やれるかじゃない、僕がやるんだ。シャルを生還させることだけを考えろ。その後のことは千冬さんと更識さんがどうにかしてくれるはずだ)

 

 迷うな。躊躇いと迷いは動きを鈍くする……ただシャルを守り、助け出すことだけに集中しなきゃ。

 この先はIS学園内で行う訓練や決闘じゃなく、戦時下のような殺し合いが待っている。

 

(だけど戦争じゃない。この先で殺し合いが待っているかもなのに戦争とは違うんだ。戦争でなくて、軍人でもないのなら……これは、ただの人殺しと変わらないんじゃないか……?)

 

 過去にムウさんから戦時下で撃たなければ撃たれると、これは殺人鬼のような人殺しとは違うんだと諌められた。

 だが今回は? 戦争の最中ではなく、ましては僕は軍人でもなくただの市民だ。

 今まで守るために撃ってきたのに何を今更迷うのだと、誰かがせせら笑う声が聞こえる。

 

 ──まだ苦しみたいか! いつかは……やがていつかはとっ! そんな甘い毒に踊らされ、いったいどれほどの時を戦い続けてきたっ!? 

 

 この世界に迷い込み数えきれないほど聞こえてきたあの人の声が脳内へと響く。

 これが本当に最善なのかと迷いを抱けば、思考を蝕むように何十だろうと何百だろうと、幻聴はあの人の声で嘲笑うように君は間違っているのだよ、と冷徹に突き付けてくる。

 

「──どうしたのかしら。やけに顔色が悪そうだけど。涼める場所に立ち寄りましょうか?」

 

「……なんでもありません」

 

「その割には苦悩に満ちた顔をしているわね。それも容易には口を開くことのできないような。よかったら、お話ぐらいは聞くわよ?」

 

「……貴女に話すことは僕にはありません」

 

「ふふふっ、釣れないのね」

 

 明確な拒絶を見せたのに女性は愉快そうに笑う。

 この人は警戒を解いたらいけないと直感が囁く。一度でも気を抜いてしまえば簡単に人の内側に入り込み、怯え、弱み、苦悩など利用されそうだ。

 

「──そろそろ着くわよ」

 

 車で連れられて約1時間。街の中心部から離れ、本来の役割を機能していないであろう寂れた廃工場へと辿り着く。

 

「……本当にここにシャルがいるんですね?」

 

「ええ、貴方の大切な子はここにいるわ。手は出さないように言っておいたから傷は負っていないでしょう」

 

 シャルを攫った相手の言葉を信じるのはおかしな話だろうけど車を運転していたし、連絡を取る様子もなかったから嘘は言っていないはず。

 女性は車から降りたのでそれに続く。近くに人が生活している気配は感じず、見渡せば使用されていない廃れた倉庫ばかり。多くの倉庫があるのを考えるに昔は活発に工場は稼働していたんだろうね。

 彼女は何も言わずにシャルと共犯者がいる倉庫へつかつかと歩みを進めていくので見失わないように慌ててついていく。

 

(……この先にシャルが待っている)

 

 この先にシャルがいる──それは暗に命を賭ける殺し合いが待っているということ。

 息を吸い、吐き出すという呼吸する単純な行為が胸を抑えたくなるほど苦しく感じる。

 これは戦争じゃない。なのに大切な友達を守りたいから相手を殺すという酷く短絡的な対処法。

 迷うな、躊躇うなと言い聞かせているのに、これからまた"人殺し"を行うと想像すると胃酸が逆流して胸が焼けるように痛い。

 

(……考えるなっ……もう、何も考えるな……っ)

 

 前を歩いている女性に悟られる前に思考を振り払う。

 一番不安な状況に陥っているのはシャルなんだ。助けに来た僕がしっかりしてなくてどうするんだ。

 自分自身を諌めながら呼吸を整えていれば、歩みを進めていた女性は立ち止まる。

 足を止めたということは目的地へと辿り着いたということで、その視界の先に彼女はそこに居た。

 

「──シャル!!」

 

「あぁ? なんだこのガキ──って、スコールか」

 

 咄嗟に彼女の名前を叫べば、シャルに拳銃を突き付け監視していた1人の女性が忌々しそうに顔を向けるが、僕の前に立つ女性──スコールと呼ばれた人の姿でなにか納得したようだった。

 シャルはパイプ椅子に手足を拘束され、声を出されないように口元にはガムテープを貼られていた。

 

「遅くなってごめんなさいね。貴女にリスクの大きいのも任せちゃって」

 

「いいさ。私とスコールの仲だ。これぐらいのリスクは軽いもんさ。それに、コイツと私には深い縁があるしなぁ?」

 

「その子を虐めすぎたらダメよ? オータム、彼女を喋れるようにしてあげてちょうだい」

 

「いいのかよ? キャンキャン喚いて煩くなるぜ?」

 

「可哀想じゃない。危険を冒して助けに来たお友達とお話ができないの」

 

「──キラっ!!」

 

 オータムと名前を呼ばれた女性は渋々とシャルの口元のガムテープを剥がすと、恐怖で震えた声でシャルが僕の名前を呼んだ。

 スコールが言っていた通り目に見える範囲でシャルに暴力を振るわれた形跡はない。肉体的には彼女が傷を負っていないことに知れてひとまず安堵する。

 

「ちっ、やっぱり喚きやがった。もう用済みだろ? こっちは始末してもいいんじゃねえか?」

 

「貴女の怒りもわかるけど我慢して、ね? 仮にそれを実行すれば──彼が私たちに今すぐ襲いかかってきそうで怖いもの」

 

「……僕は貴女たちがシャルを大人しく解放してくれるのなら戦闘する意思はありません。彼女を解放してください」

 

「あぁ? 簡単に解放するわけねえだろ。コイツは私らの命令を背いた。だったら余計なことを口走る前に口封じするのは常識だろ」

 

「そんな身勝手な理屈で……っ!」

 

 一方的にシャルを利用していながら命令を背いた、ただそれだけの理由で彼女を殺そうとしていることに怒りを堪えられなかった。

 オータムは沸点が低いのか怒りの矛先をこっちに向けて口を開こうとするとスコールが冷静に宥めながら話に割って入ってくる。

 

「落ち着きなさい。君は戦闘する意思がないと言ったけど、私たちも争うつまりはないのよ。だけどこのままシャルロット・デュノアを放置し続ける訳にもいかないのもまた事実」

 

「……貴女たちはいったい何が目的なんだ。誰を誘き寄せるつもりなんです?」

 

「ふふふっ、頭も冴えてるのね。だけど一つ間違っているわ。誰を誘き寄せるのかじゃない、私は貴方──キラ・ヤマト君と落ち着いてお話をしたかったのよ」

 

「僕……?」

 

 スコールからの予想外の答えに狼狽えてしまうが、その言葉が真実ならばシャルを誘拐していながら、わざわざこの人がショッピングモールの店内に残っていたのも説明が付いてしまう。

 

「本来はこの前の学年別トーナメントで君とお話をしたかったのに、準備の際は姿を見せなかったし、目に余るぐらいに子猫が警戒していたから迂闊に接触出来なかったわ。それに私も予期していなかったアクシデントもあったもの」

 

「……紛れ込んでいたんですね。あの日に」

 

 最近更識さんと一緒に録画されていた監視カメラの映像を見ていたが、その中に目の前の人らしき姿を見かけなかったから変装などをしていたのだろう。

 その時に見つけられていたら危険を予知して今日外出せずに、シャルが誘拐されることもなかったと後悔の念に駆られる。

 そして、女装していたのが結果的に接触を阻止したのをこのタイミングで知ってしまったのはどんな顔をしたらいいんだ……? 

 

「キラ君。貴方の目的はこのシャルロット・デュノアの身柄、そして今後の私たちが彼女に危害を与えない補償と言ったところかしら?」

 

「……え、ええ。シャルロットを今後狙わないと約束してくれるのなら僕は戦闘するつもりはありません」

 

 突然とシャルの話に引き戻されて困惑しながらも頷く。

 確認を終えたスコールはそう、と納得しながら微笑んでいるのは不気味だ。

 このタイミングでシャルの身の保証の話を持ちかけるのは明らかに裏があるだろう。

 

「さっきも言ったけど私たちも彼女を放置するわけにはいかない。だけど貴方がこの要望に応じてくれれば、私がそれを保証してあげるわ」

 

「……なにを要求するつもりですか?」

 

「──キラ・ヤマト君。貴方が私たちと一緒に来ることよ」

 

「はぁ!?」

 

 スコール以外誰も予期していなかった取引にオータム驚いて声を上げて、僕とシャルも大きく目を見開く。

 本気かよ!? と驚きながら詰め寄るオータムに冷静にそうよと答えるスコールの姿にどうしようもない不安に駆られる。

 

(……僕が彼女たちについて行くのを条件に? 突然とシャルの話に話題を変えたのはどうして?)

 

 長時間話しているわけでもないがスコールが意味もなく突然と話題を切り替えることはないだろう。

 学年別トーナメントの日に会場に紛れ込んでいた。だったら最初から最後まで僕らの戦闘、VTシステムも見た可能性が高い。だが、それでなぜ僕が彼女らについていくのが条件だ……? 

 

「どうして……どうしてキラが貴女たちについて行くのが条件なのっ!?」

 

「あら、貴女は知らされてないのね? それはそれで好都合だけど。キラ・ヤマト君、貴方の戦い方を見ていて一つ気づいたことがあるの」

 

「……っ!」

 

「──どれだけ巧妙に隠しても、私の眼は誤魔化せない。ねぇ、あるんでしょ? 貴方は"経験"が。私もね、結構あるのよ? 数えきれないぐらいに」

 

「……ぁ……」

 

「キラ……っ!」

 

 "経験"とその言葉に隠された意味を理解すれば心臓を鷲掴みにされたかのような錯覚に陥る。

 それは実戦を、人殺しをしているのを見抜いているのだと弱みを握っていると脅しだ。

 さっと血の気が引き、青ざめた顔なのかシャルが心配するかのように声を上げてくれるがそれに答える余裕はなかった。

 

「──キラ君。貴方は此方側にいるべきよ。其方側は息苦しいんじゃない? だけど此方側に来ればその息苦しさから解放されるわ」

 

「……そんな、ことはっ!」

 

「安心しなさい。君がついて来てくれるのならあの子は解放する。今後手を出さないように根回しだって約束するわ」

 

「私のことはいいからっ!! だからキラ──」

 

「てめぇは黙ってろ。……けっ、そのガキにそれほどの価値があるとは思えねえけどなぁ」

 

「苦しかったでしょ? 辛かったんでしょ? 大丈夫よ、貴方をやってきたことを否定する人は誰もいない。さぁ、この手を取って」

 

 シャルロットが必死に呼びかけるが、それをオータムが拳銃を突きつけて強制的に黙らせる。

 それはただの中身のない甘い言葉の幻惑だって気づいてる。

 だけどここで争えばシャルを守れる保証はない。僕1人が目の前に差し伸べている手を取れば、少なくともシャルは今後危険に及ぶことはない。

 戦わないと守れないものはある。だけど、戦わなくとも守る選択があるのなら、と手を動かそうとすると──

 

 ──その瞬間。なにかが壁を突き破り乱入してくる音が聞こえた。

 

 その場にいた誰もが破棄された倉庫へと乱入者へと視線を釘付けにされた。

 それは水色のカラーリングが施された一台の大型バイク。大型バイクには二人乗りしており、そのまま4人がいる場所まで直接で突っ込んでくる。

 そんな中で亡国機業(ファントム・タスク)の2人と僕は我に返る。

 

「──あらら、やっぱり子猫は縄張りへの危機感知が敏感ね」

 

「ちっ! ハリウッド映画の真似事のつもりなら他所でやれってんだ!」

 

 オータムは舌打ちをしながら拳銃を内ポケットをしまうとISを装着する。

 彼女IS──背中に独立したかのような8つの脚を展開して、その姿はまるで蜘蛛をモチーフをして造られたかのか、機体のカラーも黄色と黒もあり少々気味悪さを感じてしまう。

 背中に展開している8つの装甲脚の内側に銃口が仕込まれているのか、向かってくる大型バイクへと銃口を向けていた。

 

「やらせない……っ!!」

 

 このまま指を咥えて大型バイクが撃ち抜かれるのを見過ごすことも出来るわけもなく、ISを──ストライクを装着して、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で加速してその勢いのままオータムへと体当たりを仕掛けた。

 

「このガキ……っ!?」

 

 警戒しておらず、ストライクが瞬時加速(イグニッション・ブースト)を利用した体当たりの衝撃にオータムは大きく態勢を崩され、大型バイクへと狙いを定めていた実弾は大きく逸らされた。

 妨害をされた時点でオータムの標的は接近してきているバイクではなく、邪魔をしたストライクへと変わっており、装甲脚を自分の手足のように巧妙に扱いながら体勢を整え、仕返しで2本の脚を鞭のように振るうが──

 

「──あぁ?」

 

 ──ストライクが吹き飛ばされることはなかった。相手を突き飛ばした感覚と衝撃音はないどころか、振るったはずの2本の装甲脚がオータムの視線の先で宙を舞っていた。

 自身の装甲脚がストライクの代わりに宙を舞ったのかと一つの疑問はストライクが片手に持つ武装がその答えがあった。

 

(ちっ! ビーム兵器かっ!! アラクネの脚をいとも簡単に切断しやがって!)

 

 ストライクの片手には薄く赤く輝いているビームサーベルがあり、オータムの装甲脚による反撃を"先読み"していたのか偶然なのか、ビームサーベルを展開したストライクの手によって切断されたのだ。

 オータムの専用機であるアラクネの装甲脚は決して薄くはなく、厚く強固であると自負している。

 しかし、ストライクの持つビームサーベルには分が悪いと冷静に判断を下し、舌打ちをしながら彼女はストライク、そして人質であるシャルロットから一度距離を取る。

 

 

(……コンセプトは違うはずなのに脚に接近武装が仕組まれていると、イージスを思い出しちゃうな)

 

 距離を取ったアラクネを警戒しながらもフェイスの下で苦々しく顔を歪めてしまう。

 イージスの脚にビームサーベルを搭載していたのは非常に厄介だった。イージスほど火力はないだろうけど、手数の多さは間違いなく目の前のISが多いはず。

 

「──うーん。これって派手に登場した意味はなかったっぽい?」

 

「だからあれほど内部に侵入して隙を見つけて仕掛けるを提案しただろう!」

 

 オータムと牽制を続けていれば、シャルとスコールの間に立ち塞がるように大型バイクが停車する。

 聞き慣れた声が緊張感などなく口喧嘩しているのを苦笑してしまう。どうやらシャルは2人の正体に今気づいたらしく困惑を隠さないでいた。

 2人はバイクから降り、ヘルメットを脱げばそこには更識さんとラウラの姿が。

 

「えっ、もしかして更識会長と、ラウラ……?」

 

「ええ、そうよ。ちょっと遅れちゃってごめんね? けど、私たちが来たから安心してね、シャルロットちゃん」

 

「えっとキラはともかく2人はどうしてここがわかったんですか……っ!?」

 

「今朝2人には私が渡しただろう。ブレスレットにリストバンド」 

 

「その2つにちょちょいと細工をして何処にいてもわかるようにしてたのよ」

 

「ああ、だからラウラは渡す時にお守りって言ったんだね」

 

 今朝にラウラがお守りと言ってブレスレットにリストバンドを渡してきた理由がわかったよ。

 その2つに発信機かGPSのどちらかを埋め込んだんだろう。もしもに備えて事前に用意してたんだろうね。

 2人がいつこれを用意したんだろ? と考えるが、最近更織さんとラウラが人と会うと同じ日に言っていたのがあったなぁ。もしかしてその時に……? 

 

「兄さんの方は……その、無事なのか……?」

 

「僕は大丈夫だよ」

 

 大丈夫だと言えばシャルが何かを言いたそうに目で訴えられるけど気付かないふりをする。

 スコールの言葉に揺らいだわけじゃない。ただあの時まではシャルを無傷で救える方法の中、一番可能性が高かったのがあの人の手を取ることなだけだった。

 だけど更識会長とラウラが来てくれたのなら充分にどうにかなるはず。

 

「対暗部用暗部17代目当主がわざわざ足を運びに来るなんて。ふふっ、ちょっと予想外かしら」

 

「予想外? 計算の内なんでしょ、亡国機業(ファントム・タスク)幹部スコール・ミューゼルさん。2人を誘拐したのは、学年別トーナメントの日に観客席に紛れ込んでいたのは他ならぬ貴女だったんでしょ」

 

「あんなに警戒して観客席にも何人か潜ませていて、とてもスリリングで楽しかったわよ。また、遊びに来るわね」

 

「ええ、いつでも遊びにきてちょうだい。次はとっても喜んでくれるようなおもてなしをしてあげるから」

 

 お互いに微笑んでいるがその空気は会話に混じってない僕らでも息が詰まりそうなぐらいに重い。

 するとこの空気に耐えかねたのか、睨み合いに痺れを切らしたのかオータムが声を張り上げた。

 

「なぁ、スコール!! コイツらは1人残らず殺してもいいんだよなぁ!!」

 

「ええ。キラ君以外──ー」

 

「──それじゃ、遠慮なく」

 

 スコールの言葉を遮るように動いたのは更識楯無だった。

 彼女は左腕部だけを部分展開をして、メインウェポンである蒼流旋で刺突を躊躇うことなくISを纏ってないスコールへと不意打ちを仕掛けた。

 シャルは小さな悲鳴を上げ、キラとラウラも息を呑む。

 誰もがスコール・ミューゼルの死を連想するが──

 

「──手癖の悪さも受け継がれてるのかしら? 残念ね。タイミングは悪くなかったけど、まだまだ速さが足りないわ」

 

「……っ」

 

 そこに命を落としたスコールの姿ではなく、楯無の不意打ちを同じように左腕部だけISを部分展開をし、蒼流旋を先端を掴み余裕の笑みを浮かべる彼女の姿。

 不意打ちを仕掛けた楯無は大きく目を見開く。仕掛けたタイミングは完璧であり、普通の人間ならば先の不意打ちで絶命していたであろう。

 

「それならこれもプレゼントであげるわ、ねっ!」

 

 

 不意打ちを失敗したがその切り替えの速さは学園最強の名に相応しく、掴まれている蒼流旋に装備されている4門のガトリングを乱射するが、彼女は蒼流旋を手放し左側へと体をのけぞり優雅にかわす。

 

「そこの貴女も私の相手をしてもらうわよ?」

 

「ちっ……!」

 

 キラと楯無の2人を相手している間に密かにシャルの救出をしていたラウラであったがそれに勘づいたオータムは右腕部を部分展開、アサルトライフルを展開しラウラへと発砲する。

 舌打ちをしながらも自身とシャルの身を守るようにラウラも専用機であるシュヴァルツェア・レーゲンを身に纏う。

 AICを不意打ちであったがために扱えなかったものの、シールドエネルギーが減った以外はラウラもシャルも無事だった。

 

「更織さん!! ラウラ!!」

 

「てめぇの相手はこの私だろうが羽無し!!」

 

「くっ!」

 

 2人がオータムと対峙することに焦りを抱いたキラはオータムへと振り向くが、それを邪魔するように装甲脚から実弾が発射される。

 ストライクは空いている片手に対ビームシールドを展開して被弾を防ぐ。

 

「シャルロット、これは参考程度に聞くが専用機はどうした?」

 

「……リヴァイブは……」

 

「ああ。彼女の専用機は私が回収させてもらったわ。人質にISを持たせてると、いつ逃げられちゃうかわかならいでしょ?」

 

 ラウラがシャルロットに専用機であるラファール・リヴァイブ・カスタムIIが手元にあるか聞けば、スコールは待機状態のシャルロットの専用機を取り出す。

 

「そっちこそ手癖が悪いじゃない。それならシャルロットちゃんのISも取り返さないと」

 

「……ごめんなさい。私が……」

 

「謝るな。先に仕掛けてきたのは奴らだ。シャルロットに非はない」

 

「……うん……」

 

 楯無とラウラの励ましに潤んだ目で涙を流すのを堪えるように震えた声でシャルロットは頷く。

 楯無も霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)を展開し、普段のふざけた態度が鳴りを潜める姿は彼女が本気なのが窺える。

 

(……兄さんの雰囲気がいつもと違う。まさか兄さんは状況によってはオータムと、スコールを……?)

 

(……キラ君も覚悟を決めてるってことかしら。けど、その後の精神状態は間違いなく悪化するでしょう。それこそ織斑君たちと距離を置くかも知れないわね……)

 

 3人のことを心配しているが僅かに視線を向けるだけのキラにラウラと楯無は違和感を抱いていた。

 決意を決めたキラの雰囲気にラウラが思い出すのは彼がこの世界に来る前にC.Eの世界で、守るために戦争にへと身を投げ続けた戦いの日々。

 楯無はその後の彼の精神状態が悪化した姿を容易に想像ができ顔には出さないものの、内心では今後彼が周囲に対して距離を取る可能性に不安を抱く。

 

(……キラは大丈夫なの? いつもとなにかが違う気がする。さっきあの人が言ってた言葉にどんな意味が隠されてるの?)

 

 シャルロットも2人同様に普段と違う様子のキラにどうしようもない不安に駆られていた。

 なにが違うのかと問われれば上手く答えられないけど、これまでIS学園で戦闘していた時とはなにが違うのだとそう思った。

 

 ──ねぇ、あるんでしょ? 貴方は"経験"が。私もね、結構あるのよ? 数えきれないぐらいに。

 

 スコールが言っていた"経験"。その言葉の裏にどんな意味が込められ、彼女とキラのその"経験"という共通点にシャルは引っかかっていた。

 

(……キラはずっとなにを背負ってるの? 私はなにも知らない……)

 

 シャルはキラがなにかを背負い続けているのは気づいているし、それを本人が無理して話す必要はないと考えていたが、今は彼の背負っているものをなにも知らないのがとても歯痒かった。

 

「……キラっ」

 

 シャルは無意識に想い人である彼の名前を呼んでいた。

 一瞬でも目を離してしまえば静かに消えていきそうなその背中をただ見守ることしかできなかった──





はい。これで(とりあえず)役者は揃ったので次回は久々の戦闘回が始まるよー!!
このまま書いてたら区切らないと長くなるなと思ったので、前編後編にわけだけど…これ次で終わるよね??

学園最強・一年生代表候補生最強・異世界の最高傑作VS亡国機業幹部・戦闘員の対戦!!レディィィィゴオォォォォォォォォ!!!

はい!次回の更新は未定ですが気長にお待ちください!誤字&脱字報告お待ちしております!!感想も毎度ありがとうございますっ!!


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第40話 シャルロット・デュノア


 はい!!fgo新章終わったので投稿ださわ!!なんか過去一長いだろうし、ごちゃごちゃしてて見にくいと思いながらも技量不足を恨んでしまう……誰か他に書き上げてクレメンス(切実)

 あっ、それとやっとfgoで低レアのスキル育成終わりました(吐血)


 

 誘拐されたシャルロット・デュノア、彼女の専用機であるラファール・リヴァイブ・カスタムIIを取り返すために、キラ・ヤマトはオータムと。

 そして2人の元に駆けつけた更識楯無とラウラ・ボーデヴィッヒがスコールと対峙していた。

 

「……っ!!」

 

 対峙している中で真っ先に行動に移したのは意外にもストライクだった。

 左手はビームサーベルからストライクバズーカへと切り替え、右手に持つ対ビームシールドを前に構える。そのままバズーカで牽制を兼ねて撃ちながらスラスターを吹かしてオータムへと接近していく。

 

(ちっ、羽無しが持っているビーム兵器を壊しでもしなきゃ迂闊に接近はできねぇ。遠距離からチマチマとやり合うしかねえか)

 

 接近してくるストライクを冷静にオータムは分析する。

 アラクネの自慢の装甲脚をいとも容易く切断したビームサーベル。それを対処しなければいくら手数の多いアラクネとて攻め倦ねる。

 砲撃を独特的な動きで避け、装甲脚を射撃モードへと切り替えて引き撃ちしながら応戦する。

 

(……蜘蛛みたいに飛び跳ねて砲撃は避けられる。あの脚がオータムのISの強みであって要だ。あの脚を極力削るしかない)

 

 アラクネからの射撃を対ビームシールドで防ぎながら、オータム同様にキラは目の前のISを冷静に分析をしていた。

 C.Eではあのような複数の脚を持つMSとの戦闘はなく、目の前のISはまさに未知数な敵。

 久々の殺し合い、未知数な動きや攻撃手段を持つ敵に対して初めは慎重に動いていた。

 だがそれも装甲脚が近距離・遠距離の両方を兼ね備えていると分析を終えたキラの行動は早かった。

 

 

 

 ストライクは対ビームシールドを前へと構え、力強くスラスターを吹きながら弾き撃ちするアラクネへと距離を詰めていく。

 アラクネの実弾を目視で捉えて華麗に躱しながらストライクバズーカで反撃を行う。

 

「遠距離はどうやら貧弱のようだなぁ!」

 

 2射目のバズーカをアラクネは嘲笑しながら全て撃ち落とした。不意打ちで脚を2本も早々と奪われたものの、その腕前は確かでバズーカを全て撃ち落とすなど中々やれることではない。

 爆発により煙が生まれ、2人はお互いの姿を目視出来なくなる。

 これまでのストライクの行動を踏まえて、煙が立ち込もうとも前進してくるだろうと判断をし、オータムは射撃モードを維持する。

 

(考えなしに煙から出てきたところを一斉射撃で沈めてやらぁ。そのあとはあの裏切りもんを嬲り殺せばしまいだ)

 

 一方的に蜂の巣にされ倒れ伏すストライク、そして泣いて命乞いをするシャルロットを未来を思い浮かべたのか口角が自然と上がっていた。

 そろそろ煙の中からストライクが無策に突っ込んでくるだろうと一斉射撃で待ち構えていれば煙の中から予期せぬものが飛来してくる。

 

「なっ……!?」

 

 ストライクが煙の中から飛び出してくるだろうと予測していたオータムは投擲されたソレに反応が遅れ、回避が間に合わず一本の装甲脚へと深々と突き刺さる。

 

「羽無し野郎あのビーム兵器を投擲してきやがった……っ!?」

 

 アラクネの装甲脚には実弾を撃つのを遮るようにストライクのビームサーベルが突き刺さっていた。

 装甲の厚いアラクネに確実なダメージを与えられる武器を簡単に手放したストライクに驚きを隠せない。

 その隙へ乗ずるようにストライクは煙から姿を現す。

 僅かに反応が遅れるが当初の目論む通りにオータムは一斉射撃を行うものの、すでに射線を見切っているか最小限の動きで全て躱される。

 

「くそっ……!!」

 

「遅い……っ!」

 

 肉薄されたことにオータムは慌てて射撃モードから接近モードへと切り替えようとするがそれは間に合わない。

 キラは装甲脚に突き刺さったビームサーベルのグリップ部分を力任せに蹴り上げればビームサーベルは貫通し、3本目の装甲脚が大破する。

 

「この、クソガキが……っ!!」

 

 3本目の脚を失い、頭に血が上がった彼女は接近モードに切り替わった残りの装甲脚を怒り任せに振るうが既にストライクは背面をとっており、その無防備な背中に数発のバズーカを至近距離から撃ち込み、装甲脚を踏み台にしながら離脱していく。

 

(人様が手加減していれば脚を何本も壊しやがってっ!!)

 

 地面へと着手し、回収したビームサーベルと対ビームシールドを構えたストライクを振り返ったオータムは殺気を込めた眼差しで睨む。

 彼女はあの癪に触るストライクを殺意という感情のままに今すぐにでも嬲り殺しにしたかったが、それをスコールからの捕縛という命もありぐっと堪える。

 

「……ちっ」

 

 次のこちらの行動を警戒をしている目の前のストライク、そしてキラ・ヤマトへの認識を改めなければと忌々しげに舌を鳴らす。

 2本の脚を切断されたのは自身の油断と偶然が重なったことによる結果だと侮っていたが、ストライクに再度一本の脚を破壊されれば偶然などと片付けるわけにはいかなくなった。

 

(……それにどうもあの羽無しの戦い方に違和感が拭えねぇ。堅実な戦い方を教わってる割には荒すぎねぇか?)

 

 ストライクの戦い方にオータムは一つの違和感を抱いていた。

 実弾による射撃をシールドにより防いだりとお手本のような守り方をしていながら、いざ接近戦になると力強く蹴り上げたり、有効打であるビームサーベルをアッサリと手元から手放すなどと一貫性がない。

 

 

(どうも裏があるくせぇ……たかが"3人目"の野郎の操縦者ぐらいでスコールが此方側に引き込もうとするか? いや、それはありえねぇ)

 

 2人目の男性操縦者で充分価値はあるだろうが、スコールという人間を知っているオータムからすればたったそれだけで亡国機業(ファントム・タスク)へ勧誘するわけがない。

 ましては世間には隠れている"3人目"を彼女は知ってるのだから尚更。

 オータムもスコールも"あの男"は信用していないがその能力の高さは買っている。

 希少価値という点でも、戦力としても"あの男"だけで充分すぎるほど。

 

(……やめだやめだ。スコールが欲してる。なら私はその通りにこのガキを捕らえるだけだ)

 

 スコールの思惑を読み取ろうとするがオータムは振り払う。

 彼女の欲望を叶えるのが恋人(パートナー)としての義務だ。彼女の思惑などその次でスコールが喜んでくれればそれでいい。

 

本気で潰してやるよ羽無しぃ!!」

 

 目の前のストライク──キラをただの子供と侮りを捨てたオータムは吠えるように声を荒げながら激闘を再開する。

 

 ◇◇◇

 

 ストライクとアラクネの戦いの幕が切ったと同時に更識楯無&ラウラ・ボーデヴィッヒとスコールサイドにも動きがあった。

 

 

「前衛は私が引き受けるから後衛はお願いするわねー!」

 

「……貴様は人使いが荒いなっ!」

 

 楯無は機体の周りに水のフィールドを形成し、蒼流旋にも水を纏わせる螺旋状に回転を始めスコールへと仕掛ける。それを援護するようにラウラは両肩の大型のレールカノンで支援砲撃を行う。

 

「それじゃあ、ちょっとだけ遊んであげる」

 

 スコールはISをその身体に纏うことなく、両腕の部分展開で充分なのだと言うかのように薄く笑う。

 まずはラウラの援護射撃の軌道を、アサルトライフル『ガルム』で弾丸を弾丸で軌道を逸らしてみせた。

 つい最近レールカノンをバズーカで撃ち落とされたものの、弾丸で軌道を逸らされるその技術を初めて目撃したラウラは驚き大きく目を見開く。

 

「その澄まし顔はいつまで続くのかしらね」

 

「血気盛んね。その若さにはちょっと嫉妬しちゃうかしら」

 

 楯無は接近戦へと持ち込み蒼流旋を振るい、スコールはそれを接近用ブレードと片手にアサルトライフルを握ったまま激しい攻防戦が始まる。

 楯無は蒼流旋のリーチの長さを生かし攻めるが、スコールはそれを接近用ブレード、アサルトライフルと変則的な二刀流で見事に凌いでいた。

 

(私と彼女にこれほど差があるなんてね……っ! 一筋縄ではいかないってこと)

 

 両腕の部分展開だけで、自身の攻撃を呼吸を乱すこともなく完璧に捌かれていれば目の前の人間との明確な実力差があるのを認めざるお得ない。

 楯無も馬鹿正直にスコールと交戦しているわけではない。わざわざ自分から狙ってくださいと言わんばかりに生身の体を晒しているのだから狙うのは当然なこと。

 ISを使い生身の人間を殺すのに躊躇いはなく、容赦なく脚や胴体、頭を狙うが掠りもしない。

 “奥の手”を扱い早期決着を考えてはいるが、それには下準備を要し、そして広範囲であるためシャルロットを巻き込みかねないのを考慮すれば迂闊には使えなかった。

 

(……まっ、だから彼女の援護は大助かりなんだけどねぇ)

 

「右に逸れろ、更識楯無!!」

 

 背後からの鋭い声による指示に従い、楯無は接近用ブレードを払い上げ右へと逸れる。

 ラウラは軌道を読ませないように2基のワイヤーブレードを曲折させながら射出する。

 

「狙いは悪くないけど、こっちもまだまだコントロールが甘いわね」

 

「悪いけどここは一撃入れさせてもらうわよっ!」

 

 2基のワイヤーブレードが自身の足を狙っているのを見極めればオータムは跳躍すると、ラウラの意図を勘付いていた楯無も共に飛躍していた。

 もらった! と鋭く声を上げながら無防備な腹部へと容赦なく蒼流旋を突き穿ついたが──その感触は肉を抉った感触ではなく鋼鉄を突いた感覚。

 

(手応えがない……っ!!)

 

「さっきのは惜しかったわよ?」

 

 手応えがないのに悔しそうに顔を歪めた楯無を煽るようスコールは微笑む。

 スコールは金色のカラーリングを施したラファール・リヴァイブを体に身に纏っていた。彼女用にカスタマイズしているのか両肩にはミサイルポッドが搭載されていた。

 せめてあと一撃と槍を再度突き上げようとするが側面を取られゼロ距離からアサルトライフルを撃ち込まれ墜落していく。

 

「それじゃあ、このまま──あら?」

 

「──悪いが終わるのは貴様の方だ」

 

 墜落していく霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)に追撃を行おうと照準を向けようとするがスコールは自身の体が指ひとつ動かないことに気がつく。

 相手の動きを強制的に停止させることが出来るのはこの場ではたった1人しかいない。

 AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を発動しているラウラがスコールの動きを完全に止めていた。

 

「……これはAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)。やけに彼女が前衛を引き受けていたけど初めからこれが狙いだったようね。実際に体験したけどこれは確かに厄介ね」

 

「このまま散れ。これ以上貴様に時間をかけるつもりはない」

 

 身動きが出来ずと窮地に陥ろうと眉一つ動かさず笑みを崩さないスコール怪訝そうにしながらも二門のレールカノンを照準に捉える。

 ラウラの激闘を繰り広げているストライクへと一刻も早く援護に向かいたいのだ。

 

「そうね。このまま誰が散るのか……試そうかしら」

 

「……なにをっ」

 

 ラウラがレールカノンを発射するよりも早くオータムの両肩の門が開き、両肩を含めて10を超える小型ミサイルが発射される。

 発射されたミサイルはラウラだけではなく身動きの出来ないシャルロット、そして動く気配のない霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)を無差別に標的にしていた。

 

「人質を狙うか……っ!!」

 

 数発の小型ミサイルが容赦なくシャルロットを狙っていると気がついたらラウラは大きく顔を歪める。

 AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を解除せざるを得ない状況を作られたことに苛立ちながら小型ミサイルへと意識を集中する。

 

(私が被弾するのは構わん。だが、シャルロットだけは守り通さなければならないっ!!)

 

 ラウラはこの小型ミサイルが直撃すればISのシールドエネルギーへ大幅にダメージを受けるが四の五の言っている暇はない。

 堕とされた更識楯無は自らどうにかするだろうと信頼、もとい放置を選びシャルロットを狙った小型ミサイルをAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)で止めるが自身は無防備に着弾する。

 

「ぐっ……!」

 

「ラウラ……っ!!」

 

「……これぐらいは、問題ないっ!」

 

 片膝をつき苦悶な声を漏らすラウラを心配そうにシャルロットは名前を呼べば自らを鼓舞するように声を上げる。

 シャルロットの目から見てもそれが虚勢なのは明らかだった。彼女はずっとシャルロットの身に危害が及ぶ時は身を挺して守り続けたのだから一番ダメージは大きい。

 

(……守りながら戦うのがこれほど難しいものだったのか……っ)

 

 守るために戦いを続けた兄のその背を目に焼き付けた彼女だからこそ、他者を守りながら戦い続ける厳しさ、難しさ、そしてそれを成し遂げられる力が今の彼女にはないと現実を重々しく叩きつけられた。

 

『──我が搭乗者(パイロット)。ISのダメージレベルは高く、このまま戦闘を続ければまた整備室で数日修理に逆戻りですよ。それに私の演算によると今の我々ではあのラファール・リヴァイブには敵いません』

 

(……なにを言いたいんだ。要点だけを言え)

 

『私を使いなさい。私を起動すればそこにいる人質、そして貴女の命の保証は約束します。生存率を僅かでも、可能性を上げるのならば私を起動すべきだ』

 

 力不足を痛感しているラウラに無機質な機械音声が語りかける。

 その声の正体をなにかを知っているラウラはタイミングを見計らっていたなと内心でため息を吐く。

 

(……そうだな。生存率を上げるのならばお前の言っていることは正しいのだろう)

 

『ならば──』

 

(──だが自己保身でお前を起動するつもりは二度とない。お前の力が必要になるその時はシャルロット、そして兄さんの身に何かあったときだ)

 

『前者は理解できますが……後者は納得できませんね。人類としての理想の体現者に、私のこの力を扱うことになるなどと……あれに絆されましたか?』

 

(……さてな。私はただ兄さんが少しでも笑って過ごせるようになってくれればそれでいい)

 

『……それを絆されたと言うのですよ』

 

 顔をほころばせるラウラに音声はただ呆れるのみだった。

 

 

「──そうそう。あんまり休んでいると防げないわよ?」

 

「……っ!?」

 

 楯無へと飛来していた一発の小型ミサイルがシャルロットへと角度を変えた。

 片膝を着き疲弊したラウラは慌てて小型ミサイルへとレールカノンを発射するが、急いで撃ったのが仇となったのか照準はズレ撃ち落とさなかった。

 

「……っ」

 

「……くっ! 初歩的なミスを……っ!」

 

 小型ミサイルを撃ち落とさなかった自身に吐き捨てるように忌々しげに言いながらふらついた足取りでラウラは立ち上がる。

 ワイヤーブレードもAICも間に合わないと判断したラウラは再度身を挺してシャルロットを守ることを選んだ。

 シャルロットは再度自分のせいで被弾する友人を見ていられないと瞼を閉じ、ラウラも被弾する覚悟を決めるが──

 

 

 ──緑色の一閃のレーザーが小型ミサイルを的確に撃ち抜いた。

 

 

「──あら」

 

「……っ!? まさか、兄さん……!?」

 

 スコールは感嘆な声を上げ、小型ミサイルを今撃ち抜くことが出来るのは1人しかいないとラウラが振り向けば、案の定ビームライフルを構えているストライクの姿がそこにあった。

 シャルロットが恐る恐る瞼を開けたのはラウラの声で小型ミサイルがキラの手によって撃ち落とされたのを理解できてからで、それで彼がオータムと相対しながらも此方のことを気にかけていたのを知る。

 

(……凄い。戦いながら更識会長とラウラのことを気にしてたなんて……だけど、それは致命的な隙になっちゃうっ)

 

「──よそ見してんじゃねえぞっ!! ええっ!!」

 

「……くっ!」

 

 ストライクが見せた決定的な隙をアラクネが見逃すはずがなかった。

 シャルロットの不安は見事に的中し、近接モードに切り替わっていた装甲脚がストライクの胴体を捉えた。

 その重い一撃を初めてストライクへ入れたアラクネはその装甲の硬さに内心で愕然としていた。

 

(なんだこの装甲の硬さ……っ!? 装甲脚からでもはっきりと装甲の厚さを感じるってのはよっぽどだぞっ!!)

 

 全身装甲(フルスキン)はお飾りではないかと悪態を吐きながら、怯んでいたストライクの両腕を装甲脚で掴む。

 両腕さえ掴めばビームサーベルを恐れる必要もなく、ついさっきほどまで隠し持っていたビームライフルも引き金を上手く引くことは出来ない。

 

「これでてめぇは──つぁ!?」

 

 両腕にマシンガンを展開したアラクネが近距離による一方的に撃つよりも早くストライクは頭部に容赦なく頭突きを繰り出した。

 予期していなかった攻撃にぐらりと頭を抑えながら足が一歩後退し、装甲脚の力が僅かに緩まれば更に追い打ちをかけるように躊躇ない飛び蹴りがアラクネの腹部へと突き刺さる。

 

「この、やろう……っ!!」

 

 地へと膝をつかなかったのはオータムの意地かストライクの頭上へ装甲脚を振り落とすが、拘束から抜け出したストライクはビームライフルを高速切替(ラピッド・スイッチ)で交換した対ビームシールドでその一撃を弾く。

 防がれはしたが、直後にストライクの片手がビームサーベルを逆手に持つのを目撃した彼女は、胴体を狙われまいと距離を取るために跳躍……しかし、その動きを予測していたかのようにストライクは左側の装甲脚を横一文字で一纏めに全て切断する。

 

「初めから私の脚が目的だったかっ……!!」

 

 ストライクは初めから装甲脚を減らすことが目的だったのにオータムは気がつくが既に遅く、先の一撃で左側の装甲脚は全て破壊されてしまい残るは右側のみ。

 地面へと着地し、8本もあった装甲脚があっという間に半分以下まで減らされてしまった事にオータムは現実を受け止められなかった。

 

「……私がたかがガキにここまで追い詰められるだと? アラクネを使ってんだぞっ!!」

 

 オータムの専用機アラクネは第二世代だが総合的なスペックは第三世代にも引けは取らず、特殊兵器を搭載していない分燃費の良さではアラクネに軍配に上がる。

 時間は掛かろうともストライクを捕獲できると彼女には自信があった。

 だが現実はどうだ? 目の前のISは背中にカスタム・ウィングもなく、後付武装(イコライザ)もない未完成機。

 

「……ふざけやがってっ!!」

 

 たかが子供──戦争も知らない、殺し合いも知らない、ただ偶然に最近ISを動かせた男性操縦にここまで追い詰められているのに彼女のプライドがそれを認めるのが出来なかった。

 

 

(流石だわ。あの未完成の状態でオータムと互角以上、いえ、"勝っている"なんて)

 

 空中でスコールはキラとオータムの戦闘を静観していた。

 オータムは組織の中でも上位の強さを誇るが、目的の少年はものともせずに着実に彼女を劣勢へと追い詰めていく。

 戦闘の最中で見せていた予期せぬ行動、切り替えの速さ、機転を働かせたりなどISの性能差を補えるほどの技術を携えいる。

 それがキラという少年がどれだけ修羅場を潜り抜けてきたのかと答えているようなもの。

 そしてなにより彼はまだ目の前の相手に対して本気ではないとスコールは知っている。

 

(──欲しい。私は君が欲しいわ、キラ・ヤマト君)

 

 彼女自身、キラ・ヤマトを渇望するかのように欲しているその理由を説明は出来ない。

 一つだけ強いて挙げるのならあの仮面の男を倒した実績。その話が真実と仮定すれば組織を裏切る可能性があるあの男に対しての抑止力になる。

 それに彼女が長年磨き続けてきた直感がこう囁くのだ、彼が手に入れば世界を制したのも当然だと。

 

「あら?」

 

 スコールはどうすれば彼を此方側へ引き込めるのかと頭を悩ませていると立ち込める煙の中から水色の彗星が飛び出た。

 堕とされしばらく動きをみせなかった霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)が功勢へと出た。

 見下すようにスコールは照準を定めアサルトライフルを撃つが顔色をひとつも変えず楯無は華麗に躱わす。

 

「そこっ!!」

 

「呆れたものね。また同じ行動パターン」

 

 下から蒼流旋を突き上げをオータムは僅かに後退し、蒼流旋を蹴り上げる。

 蒼流旋は楯無の手元から弧を描きながら離れてラウラの目の前に深々と突き刺さる。

 無手になった楯無を見逃してあげるほどスコールは優しくはない。眉一つ動かすことなく平然としながら近接ブレードを深々と楯無の胸部へと突き刺した。

 

「……あっ」

 

「……なっ」

 

(……手応えがない。いえ、それ以前に絶対防御どころかシールドエネルギーも発動していない。これは)

 

 目の前の光景にラウラとシャルロットは呆然としてしまうがスコールは手応えのなさに違和感を抱く。

 小型ミサイルが直撃したのかはともかく、ゼロ距離とはいえたかが数発のアサルトライフルでシールドエネルギーが尽きるわけがない。

 その違和感は見事に当たっており、深々と胸元に接近ブレードが刺さっていた楯無は形をなくしてただの水へと戻っていく。

 

「──空中での観光はこれにて終了。お客様は次にくる衝撃に備えてくださいね♡」

 

「……っ」

 

 どこからか聞こえてくる場違いな間延びした甘い声色に僅かに焦りをオータムは見せるが時すでに遅く、いつの間にか彼女の左足に鞭のようなものが巻き付いており強引に空から地へと急降下。

 スコールは受け身を取るがそれでも衝撃を完全に逃すことは出来ず一瞬息を吐き出す。

 彼女がふらついた足取りで立ち上がれば刀身を元に戻して仕返しができて満足そうに笑みを浮かべている楯無が目に映る。

 

「どうだったかしら、空中から地面へ片道切符のフリーフォール。とてもスリリングで楽しかったでしょ?」

 

「……ええ、とても楽しかったわ。遊園地にクレームの電話をしたいぐらいに」

 

 スコールの僅かに怒気を帯びた声に楯無はご満悦な様子。

 2人が一触即発で、いつでも援護できるようにラウラも立ち上がると、その空気を変えるような高笑いが倉庫内に響く。

 

「そうか!! そういうことかよっ! ククククっ……オイオイオイ!! こりゃあ、なんの冗談だぁ、ええっ!?」

 

「……なにが可笑しいんですか?」

 

 突然とオータムが大声で笑い始める一見奇行とも捉えられる様子にキラは困惑してしまう。

 その言葉を聞いたオータムはニタリと口角を大きく上げ、愉快そうに嘲笑しながら口を開く。

 

「なんだぁ? 言ってほしいのかぁ? あぁ、それならてめぉのお望み通りゆっくりと聞こえるように言ってやるよ──なぁ、おめぇなん人殺してきた?」

 

「…………っ」

 

「……えっ?」

 

 オータムの言葉にキラは言葉を詰まらせ、シャルロットは呆然と声を漏らした。

 どんな状況だろうとそれが間違っているのならばハッキリと意見を口にしている彼のその背をシャルロットはその言葉の意味を理解するのに数秒の時間が必要だった。

 

「初めからおかしいとは思ってたのさ! 貴重な野郎の操縦者だろうが、たかがガキ。オータムが組織に勧誘しなことに!! だが蓋を開けたらどうだ? 平和で、お淑やかにISを学ぶ平和ボケした校舎の中に人殺しが混じってるなんてなぁ!!」

 

「今すぐその耳障りな言葉を──」

 

「その口を力ずくでも──」

 

「──貴女たちの相手は私でしょ?」

 

 ベラベラと言葉を並べるオータムを止めようと楯無とラウラは動こうとするがその2人をスコールが妨げる。

 放たれた銃弾がラウラは下手に動けばシャルロットに当たりかねないことと、楯無は接近に持ち込まれ無視することも出来なくなってしまう。

 

「ね、ねぇ……キラ?」

 

「どうしたぁ? 否定しねえのかぁ。僕は人殺しなんかじゃないってよぉ。そこのお姫様が不安そうにしてるぜぇ? ほらぁ、答えてやれよ」

 

「……僕は……っ」

 

 嘘でもいいと、この場を凌げればいいはずなのにキラは否定することなく顔を俯かせるだけだった。

 その姿がオータムの話がはったりではなく真実なのだと、シャルロットは強く頭を殴られたかのような衝撃に襲われる。

 

 

(キラが、人殺し……? そんなはずは……だってキラは優しくて……強くて……)

 

 ──僕が、僕があの人を止めないと……フレイを、彼女を殺したあの人を……ッ! 

 

 彼と親しい人がキラに対して抱いているのは穏やかで誰に対しても優しく、争いを好まないが、いざとなれば勇敢に立ち向かう好青年。

 その他にも個々に抱いている印象に一部付け足されるだろうな上記の印象は共通しているだろう。

 そのキラの優しさに大きく触れ、それで心が救われたシャルロットだから人殺しという、たったシンプルな3文字の言葉を呑み込むのに多大な時間がかかってしまう。

 混乱する頭の中で必死にシャルロットはありえないと否定するのに、白式とブルー・ティアーズの戦闘の最中にまるで誰かを憎むかのように急変した時のことを思い出してしまう。

 だってあの時の彼は今すぐにでもブルー・ティアーズを纏ったセシリアを仇を討つかのように殺しに行こうとしていたのだから。

 それを些細な出来事なのだと切り捨てるのはシャルロットという少女に割り切るのは無理だった。

 

「こりゃあ傑作だよなぁ!! 囚われたお姫様を救いにきたのは白馬の王子様じゃなくて、実は人殺しの殺人者でしたってのは!!」

 

「……」

 

 心底可笑しそうに高笑いをするオータムに反論することはなく、キラはただ一言と喋らず沈黙を貫く。いや、そうするほかなかった。

 オータムが言っていることはなに一つ間違っていない。

 彼は大切な友達、大切な人を守るために撃ち続けた。それらが戦争で人殺しではないと叱咤されようと、人を殺し続けたことには違いない。その相手が同類(コーディネイター)、親友が相手と知りながらも戦い続けた。

 その口で誤魔化すのも、嘘を吐き、否定するのも容易だっただろう。

 なのにそれをしなかったのは自身の選択を否定することになり、その手で奪ってきた命に対して冒涜になってしまう。だから彼は決して否定しない。

 

「てめぇの化けの皮も剥がれたことだ。そろそろ終わりにしようぜ? どうやらあっちも時間の問題のようだからなぁ」

 

 スコールと楯無の戦闘は楯無が防戦一方へと徐々に追い詰められ、ラウラのISの消耗具合を考えれば戦力外と見做していい。

 つまり向こう側の戦いに決着がつくのは時間の問題だということ。

 

「ああ、認めてやるよ、羽無し。てめぇは強者だ。このオータム様よりなぁ」

 

 この戦闘の最中であの羽無しが自身を凌ぐ強さを持っているのは嫌というほど痛感し、それについては忌々しいが認めなければならない。

 客観的に見れば不利なのは自分で、この状況を覆すのは難しいのを分析できないほど愚かではない。

 装甲脚の数はもはや半分以下。それに反してストライクはシールドエネルギーも余裕もあり、見かけに反して固い装甲に対して決定打は少ない。

 

「そらぁ。きちんと守ってみせろよ? 羽無し!!」

 

「……くっ!?」

 

 だからオータムは悪党として至極当然な方法を遂行することにした。

 装甲脚を射撃モードの照準をストライクではなく人質であるシャルロットへと向けた。

 その狙いに気づいたキラは大きく顔を歪め無我夢中でシャルロットを庇うように前へと躍り出る。

 

「くくっ、褒めたくなるぐらいに予想通りの動きありがとうなぁ!!」

 

「これは……っ!?」

 

 シャルロットを庇ったストライクを襲ったのは実弾ではなく蜘蛛糸状のエネルギー・ワイヤー。

 ビームサーベルを持つ腕に簡単に抜け出せられないように入念に巻かれており、簡単に振り解くことが出来なかった。

 アーマーシュナイダーで切断を試みるが見た目に反して頑丈で苦戦する。

 

「キラ!!」

 

「兄さん!!」

 

(アーマーシュナイダーだと時間がかぎりすぎる! ビームサーベルを一度しまうしかない!!)

 

「私のISはアラクネ──つまり蜘蛛だ。蜘蛛はどうやって捕まえた獲物を捕食するか知ってるか? 口器から消化液を出して、それで溶かした獲物を吸うんだよ。外装を溶かして、中身を露出させて捕食していくのさ。もちろんこれだけじゃねぇ……蜘蛛にはもう一つ方法がある。相手を動けなくする方法がなぁ」

 

「……っ!! まずい……っ!」

 

「──遅いんだよ、馬鹿が!!」

 

 なぜ突然と自らのISをモチーフにしている蜘蛛のことを長々と説明し始めたのかと疑問を抱いていたが、そのもう一つの方法に勘づいたキラは高速切替(ラピッド・スイッチ)で素早くビームサーベルを展開し直そうとするが一歩遅かった。

 

「──うあぁぁぉぁぁぁぁ!!」

 

「キラ君っ!?」

 

「戦闘中によそ見は駄目でしょ?」

 

「あぁ……っ!」

 

 エネルギー・ワイヤーをつたって電流がストライクを襲う。

 流れてきた電流の痛みに悶え苦しむキラの絶叫に楯無は気を取られ、その大きな隙をスコールの鋭く重い攻撃が直撃し、その一撃に吹き飛ばされコンテナへと強く叩きつけられる。

 動けなくなるまで電流を流されたストライクは反応がなくなり、ツインアイから光が消え膝から崩れ落ちて倒れていく。

 

「キラ……っ!! 更識会長……っ!!」

 

「くっ……!! シャルロット、貴様だけでも逃げろ!」

 

 ISの腕力で無理やりシャルロットを縛っていた縄をラウラは強引に引きちぎった。

 手足が自由になったシャルロットは立ち上がろうとするが、長時間縛られたこともあり手足が痺れて倒れてしまう。

 

「待ってよ!? ラウラはどうするの……っ!?」

 

「私は時間稼ぎだ!! それに兄さんを奪われるのを黙って見ていられるかっ!」

 

「だ、だけど……だけど!! 1人じゃ……っ!」

 

「……奥の手を使う……っ!! ヴァルキリー!!」

 

 ラウラが吠えるようにその名を呼べば呼応するように黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)から黒い液体が溢れ、そのまま全身を包んでいく。

 シャルロットはその光景を一度見たことがある。そしてラウラが何を起動したのか一つの結論に至った。

 

「……っ!? まさか、VTシステムを……っ!?」

 

「あら、まさか条約違反の兵器をまだ搭載していたなんて。これは想定外だわ」

 

「はははっ!! まさかVTシステムか……っ!! つくづくIS学園は犯罪者の塊なのかねぇ!?」

 

(……そ、う。VTシステムを……ラウラちゃんは、その力を使うのね……)

 

 ラウラが起動したシステムはつい最近学年個別トーナメントで暴れたVTシステム。自身のISに搭載されていたVTシステムを彼女は取り外していなかったのだ。

 VTシステムは形が完璧に作られれば赤いモノアイが不気味に光る。

 

『──我が搭乗者(パイロット)の願いを受諾。それによりそこの2人の足止めを最優先事項と認定。先に始末すべきは第二世代ISアラクネ。……なぜストライクの尻拭いを私がやらなければならないのかっ!』

 

「──させないわよ? 貴女にも私の相手をしてもらわないといけないから」

 

 VTシステムは倒れているストライクを忌々しく睨みながらアラクネへと前進しようとすれば、後方から肉薄して接近を持ち込んできたオータムの接近ブレードを液体で作り上げたブレードで受け止める。

 

『邪魔をするな、スコール・ミューゼル。専用機ならばともかくそのようなカスタム機で私に勝てるとでも?』

 

「そうねぇ。だったら下手に動かない方がいいわよ? 手元が滑って人質である彼女を殺しちゃうかもだから」

 

『……下衆な真似を。ならばその前に貴様を叩き伏せる』

 

 鍔迫り合いを強引に崩すとVTシステムは空いている手に同じ要領でブレードを作り上げれば、激しい斬り合いが開始する。

 それを尻目にオータムは沈み倒れているストライクの元はゆっくりと歩み寄れば溜まった鬱憤を発散するかのように頭を踏みつける。

 

「余計な手間をかけさせやがってよぉ! 抵抗なんざせず大人しくやられてればいい話ってんだ」

 

「キラ……っ! 起きて……っ! 死んだら、嫌だよ……っ!」

 

「きゃんきゃん五月蝿え。このガキは死んではねぇ。ただ暫くは意識は戻らねえだろうがなぁ」

 

 シャルロットの必死な呼び掛けに鬱陶しそうにしながらオータムはキラが死んではいないと答える。

 初めから人質を盾に使えばよかったぜと彼女はボヤきながら、気を失っているのか念を入れるかのように腹部を蹴り上げるが呻き声一つ上げないのを見て、完全に意識を失っているのを満足そうに頷けば次の獲物へとアラクネはゆっくりと振り向く。

 

「そんじゃあ……次はテメェだなぁ?」

 

「……あ……っ」

 

 これまで守っていたキラが敗北すれば次に狙われるのは当然シャルロットであった。

 

(逃げないと……ここから逃げないといけないのに……っ!)

 

 ここから走って逃げ出したいのに彼女の体は蛇に睨まれた蛙のように体は指一つ動かせない。

 シャルロットの身に危険が迫ろうとしている中で楯無はふらついた足取りで立ち上がったばかりで、VTシステムはスコールを振り払うことが出来ないでいた。

 

「さてぇ、私が受けた命令はあの羽無しの捕獲についでだ。実を言えばテメェの処遇については全て私に一任されたんだよ」

 

 ストライクとの激闘の際に手元から落としてしまったマシンガンを地面から拾えばゆっくりとした足取りでオータムは動けないシャルロットへと近づいていく。

 

「テメェはデュノア社の令嬢。そんでフランスの代表候補生で専用機持ち。肩書きならテメェもあそこで沈んでいるガキ同然に攫っていくべきだろうなぁ」

 

 オータムが自身に対して処罰を悩む素振りをしているのにピクリと肩が跳ねる。

 シャルロットのその反応におかしさを堪え兼ねるように肩を慄わして笑う。

 

「死にたくねえよなぁ? それなら誠意を持って謝罪をすれば見逃してやってもいいぜぇ? 裏切ってごめんなさいってなぁ」

 

 俯いて青ざめた顔のシャルロットを覗き込みながらニタニタとほくそ笑みながらオータムは囁く。

 

(……どうしたら……どうしたら……)

 

 恐怖で支配され回らない頭でシャルロットは必死に考える。

 VTシステムと楯無の必死の呼び掛けが耳に入ってくるが、スコールの突破に手間取っており駆けつけられない。

 シャルロットの精神を支えていたストライクは地面に倒れ伏せ、まるで死んでしまったのではと錯覚してしまいそうなぐらいに反応がない。

 

 

 ISを取り上げられ、逃げることすらも出来ない無力な自分。

 そんな自分が何が出来るのかと必死に考えたシャルロットの結論は──

 

「……ごめんなさい……っ! 貴女を、裏切って……ごめん、なさい……っ」

 

 胸の内でずっと堪えていたものが崩壊して、震えた声で涙を流しながらシャルロットは命乞いをするかのように謝罪した。

 組織ではなく、目の前のオータムを情に絆されて裏切ってしまったことをただ頭を下げた。

 

「くくくっ……真に受けるなんてよ。お前は馬鹿ですかぁ? 頭を下げた程度でこのオータム様がテメェを許すわけねえだろぉ!」

 

 だが頭を下げたシャルロットに、オータムは笑いながら無慈悲な判決を言い渡した。

 その宣告にシャルロットは茫然自失となってしまう。

 

「テメェを見逃してやるメリットが何処にある? 専用機はスコールの手中に落ちた。組織を裏切り情報を持っている。令嬢? そんな肩書きなんざ見逃す値にすらならねえんだよ」

 

「わたしは……私は、組織の情報なんて持ってない……っ!」

 

「なら言い換えてやるよ。このオータム様を裏切った、テメェを殺す理由はこれだけで充分すぎるんだよ」

 

 そんなのは理不尽だとシャルロットは感情のままに目の前の女に訴えたかったが、恐怖で支配された彼女は満足に口も開けない。

 そんなシャルロットに対して追い討ちをかけるようなやつ下卑て笑いながらオータムは事実を突きつける。

 

「これは冥土の土産だがテメェの父親が男性操縦者のデータを盗ませるためにテメェをIS学園に入学したと教えたが、ありゃ私の嘘だ」

 

「……えっ?」

 

「だから逆なんだよ。フランスの学校どころか、遠路はるばる日本のIS学園にテメェを入学させたのはテメェの身を守るためだったんだよ。ほんっと無知ってのは罪だよなぁ!!」

 

「……あの人が、私を守る……?」

 

「そうさ!! 実際は命を狙われていたテメェを守るためにあの社長はIS学園へと入学させたんだよっ! まっ、お前らの親子関係が最悪だったからそれを利用したんだがなぁ」

 

「……じゃあ、ぜ、全部……」

 

「私がでっち上げた嘘だ。笑わないように我慢するの大変だったんだぜ? 自分の居場所が失くなるのを避けようと必死こいて情報を渡してきたのよぉ。そんな父親の想いをお前は自分で全部ぶち壊したんだよ!!」

 

 ゲラゲラとオータムは笑うがその声はシャルロットの耳には入っていなかった。

 シャルロットの父──アルベール・デュノアが自分を利用するためではなく、身を守るためにIS学園へと入学させたことが信じられなかった。

 母親が亡くなり引き取られてから父親と話した回数など数えられる程度。厳格で目元をサングラスで隠して、表情を読み取らせないように無表情を貫き、淡々と話すだけ。

 

(あの人が……嘘だよ……だって、だって……)

 

 ありえないと否定しようとも、それ以上の言葉が出なかった。

 義理の母親であるロゼンダ・デュノアから泥棒猫の娘と頬を一度叩かれたがアルベールからは手を挙げられることも、罵られることも一回もなかった。

 数回しか話したことがないだけで自分には居場所がないと、父親の胸の内に秘めた真意を対話することなく決めつけていた……? 

 

「それじゃあ……私のしてきたことって……」

 

「そうさ!! 全部!! テメェが台無しにしたんだよ!! 我が身可愛さで全部ぶち壊したのさ!!」

 

 俯いていたシャルロットの両頬を掴み、泣き崩れているシャルロットの顔を愉快そうに眺めながら彼女の心を抉るように現実を突き付けた。

 実の父親に捨てられることに恐れて、同じ専用機持ちやクラスメイトと親しくなり、男性操縦者の専用機のデータを手に入れるために彼らに近づき、そして自分の居場所を失いたくない自己保身の一心で学園内部の情報も流してきた。

 だが実際はその逆。自分を守るためにIS学園へと入学させてくれた。だけどそれを全部自らの手で台無しにしてしまった。

 みんなを騙した、織斑一夏を騙した、そしてキラ・ヤマトも騙し続けてきたのにそれらは全部無駄だったのだ。

 

「誰も彼も騙し続けた女は誰にも知られず、守られずただひっそりと息を引き取る。哀れだなぁ? テメェの人生は全部無駄だったんだよ」

 

「……ぜん、ぶ……」

 

「遺言ぐらいは聞いてやるぜ? なんせ、私は優しいからなぁ」

 

 シャルロットは額にマシンガンの銃口を押し付けられる。

 もはや喋る気力もなく、抗うこともせず、心が折れた少女はただ捌きを待つかのように静かに引き金を待つだけだった。

 

「ほらぁ、どうしたぁ? 一言ぐらい残せよ。言わねえとつまらねえだろ?」

 

「シャルロットちゃん……!!」

 

『そこを退け!! スコール・ミューゼル!!』

 

「退かないわよ。ここが盛り上がるところじゃない」

 

 楯無が必死にシャルロットの名前を呼ぶが、その声は聞こえてないのか視線を向けることはない。

 VTシステムは強行突破を試みようとするが、スコールに前へと立ち塞がれ無理矢理止められてしまう。

 

(……遺言……? 私は……死んじゃうんだ……)

 

 父親の想いを踏み躙り、みんなを騙し続けた自分の末路としてはいいんじゃないかって彼女は乾いた笑みを浮かべる。

 これは罰だ。初めからあったのに気がつかずに、我が身の可愛さに情報を渡していたのに、それすらも裏切り、やっと安心な居場所を手に入れたのだと安堵していた己へと。

 

(……もっと……生きたかったよ……みんなと一緒に沢山遊んで、一緒に過ごして……そして……キラともっと一緒にいたかった……)

 

 死ぬ間際だからなのか学園で過ごした日々や好きだった母親と過ごした楽しかった思い出が走馬灯のように脳裏に流れてくる。

 きっとこの先もIS学園で、友達であるみんなと楽しみながら、そして好きな人である彼と過ごしたかったと未来に想いを馳せるがそれは叶うことが出来ないと諦めるしかなかった。

 

(……お母さんに会えるかな。もし会えるのならお母さんにいっぱい喋りたいことがあるんだ)

 

 二年前に亡くなった大好きだった母親の姿を思い出す。

 優しく受け止めてくれるだろうか? それとも怒るのだろうか? そんな母親の姿を想像しながら、大好きだったお母さんと会えるのならきっと大丈夫だよねっと薄く笑みを浮かべる。

 

「……私、私ね──」

 

 死ぬ覚悟を決めたシャルロットは最後に笑いながら死のうと涙を流しなら微笑むと──彼女の瞳にとある光景が映り込む。

 

「……ううっ……あっ……」

 

 死ぬ決意を固め、諦めていた少女の感情が揺らいでしまう。

 その耳で聴き、はっきりと覚えている。暫く目を覚ますことはないと、目を塞ぎたくなるように苦しみ悶えた悲痛な声も姿も。

 だから、だからこそ──立ち上がるストライクの姿を見て嗚咽を我慢できなくなってしまった。

 

「……けて……」

 

「あぁ? よく聞こえねえなぁ? ちゃんと聞こえるように言えよ」

 

 聞き取れないほどに掠れた声で喋るシャルロットに苛立ちながら銃口を押し付ける。

 嗚咽を漏らしながら、溢れんばかりに涙を流しながらシャルロットは迷わず自身の感情に従うように声を上げる。

 

「──けてっ……!! 助けて……っ! 助けて……キラ……っ!」

 

 シャルロットの助けを求める声に、生きたいという意志に光を失くしていたツインアイが呼応するように輝きを取り戻した──





はいはい、案の定この回で終わらなかったね……なんか色々と唐突じゃない?とかガバガバな節はあるが許してくれたまえ。
つまり中編だよ!!やったね!次が後編だね!!

なんかオータムさん噛ませ感が拭えねぇ!!スコールさんはまだ格を保ってるけどオータムさんもう無理そう!?オータム様も強キャラムーブさせたいんだよぉ!!

まぁ、オータムさんの今後の活躍に期待しましょう!!!!!

そして最近やっと低レアのスキル育成終わりました。アペンド??ナイナイ!!そんなのナイナイ!!!カットカット!!

それはそうとシオンが予想以上に重い感情持っていてニッコリでした。私はあの重さ大好き♡

そしてそろそろヒロイン決めないとなぁと頭を悩ませているこの頃。やっ、いつからか軌道修正できないぐらいに…その、ね??(本来のヒロイン予定から目を逸らしながら)

ま、まぁまぁ、なんとかなるでしょう……(達観)

はい!次回の更新は未定ですが気長にお待ちください!誤字&脱字報告お待ちしております!!感想も毎度ありがとうございますっ!!


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第41話 その怒りは誰の為に


みんな!!ついに劇場版SEEDの上映日時も決まったね!!来年が楽しみで、モチベも爆上がりですわ!!!!!!

それはそうとみんな感想でオータムさん終了が多くて笑った。みんなオータムさんを信じろ!!みんなが信じるオータムさんを!!


 

 

「──けてっ……!! 助けて……っ! 助けて……キラ……っ!」

 

 朦朧とした意識の中で誰かが涙を流しながら助けを求める声だけがはっきりと聞こえた。

 ボヤけた視界の先には呼び掛けてくれた彼女の命を奪おうとしているIS──敵の姿。

 

『えっ……!?』

 

『キラ……っ!』

 

 イージスの投擲したシールドを回避できず直撃し、胴体と首が離れて爆発に呑まれたトール。脱出艇を撃ち抜かれ爆炎へ包まれるフレイの記憶が鮮明に蘇る。

 守れなかった大切な友達。守らないといけなかった大切な人。

 

(……だれ、も……もうっ、誰も失いたくないんだ……っ!!)

 

 感情に呑み込まれ、ボヤけていた意識の覚醒──すなわちSEEDが発動する。

 近くに手放して落としてしまっていたアーマーシュナイダーを拾い、そのまま感情に身を任せスラスターを吹く。

 

「──こいつ!?」

 

 スラスター音が耳に届いたオータムが振り向き、彼女に突きつけていた銃口を向けてくるが遅い。

 アーマーシュナイダーからビームサーベルに切り替え、ガラ空きの胴体にビームサーベルを叩き込もうとするが、想像していたよりも体は動かず距離もズレていたのか先端がISの装甲を掠める。

 一撃で仕留められる絶好のチャンスを逃してしまった。

 身の危険を感じたのか、それともこの状況を冷静に分析したいのかオータムから反撃されることはなく大きく距離を取られてしまう。

 

「……ぐっ」

 

 意識がハッキリとしたからか全身が痺れていることに今気がつく。

 立っているのもつらく片膝をついてしまう。

 さっき振るう距離感を上手く掴まず、体も思うように動かせなかったのはこの痺れが原因だったんだ。特にエネルギー・ワイヤーを巻き付けられた片腕の痺れは酷く指一つも動かすことができない。

 

「……キラ……っ」

 

「……ごめん、怖かった、よね……だけど、もう、大丈夫、だから……」

 

 恐怖で身も心も震えているシャルの不安を少しでも取り除く為に、なんとか笑いながら声を掛けた。

 いつまでも片膝を地面につけていれば心配しちゃうよね。痛みを我慢するように歯を食いしばりながら立ち上がり体をオータムへと向ける。

 

「ありえねぇ!! どうしてテメェは立ってやがる!? 丸一日は少なくとも目を覚まさねえんだぞっ!?」

 

「あれ、ぐらいで……倒れるわけには、いかないから……っ!」

 

「ちっ! そのISに電流に対する対策でもつけてやがったのかっ!」

 

 ストライクに電流に対抗できるように処置していたと勘違いされちゃうけどPS装甲以外便利機能は搭載されてるもんか。

 立ち上がれたのは単純に他人よりも体を丈夫に設計されているから。人類の理想として在るのを拒絶しているのに、その体だから立ち上がることができてシャルを守れたのは皮肉だよね……。

 

「テメェがソイツに命を懸ける理由がどこにある!! そこにいる餓鬼はテメェのISのデータが目的で近づいた、騙してたんだぞっ! 自己保身ためならいつだって裏切るかも知れない奴なんざ見捨てるべきだろ!」

 

「……わ、わたしは……っ」

 

「そらみろ!! みっともなく言い訳を並べようとしやがる!! こんな餓鬼を──」

 

「──シャルは、シャルは泣いていたんだっ!!」

 

 ぷつりと自分の中にあるなにかがハッキリと切れた。捲し立てようとする耳障りのその口を閉じるために直進する。

 ビームサーベルを上段から振り下ろすがそれは上空に飛ばれたことで躱され、オータムに背後を取られた

 2本の脚から放たれる実弾は左腕が動かせないこともあり防ぐ手段がなく被弾してしまう。

 

「自分を騙した女をそんなくだらねえ理由で命を張るなんて頭狂ってんのか、ええっ!?」

 

「そうするように仕向けた貴女がなにをっ!」

 

「実行したのはあの餓鬼だ!! 他人を利用して自分の欲求を満たすのを選んだのはアイツ自身さ!」

 

「そんな身勝手な理屈を!!」

 

 そうするように脅していて、それを実行したのは本人の意思なのだと主張しながら嘲笑うオータムに沸々と怒りが溜まっていく。

 シャルの居場所を欲しいという想いを、その感情につけ込み脅迫しなければ彼女が誰かを騙して、悩んで、苦しんで、傷つくことはなかったに。

 

「安心しろよ!! もう一度テメェを黙らせた後にあの餓鬼を殺してやるからよっ!!」

 

「……ならっ! 僕が、僕が貴女を討つ!!」

 

 エネルギー・ワイヤーを射出されるがそんな見え透いた攻撃は2度も通用しない。

 射出されたエネルギー・ワイヤーを全てビームサーベルで焼き切ることはできたけど、体の反応が鈍いのを考えるに長く戦闘するのは無理だ。

 

「ハハッ! 動きにキレがねえようだなぁ!! 散々コケにしてくれた落とし前つけてやるよ!!」

 

 さっきので体にダメージが入っているのをバレたけど遅かれ早かれ気づかれただろうし問題はないよ。

 勝機があると見做して、散々脚を奪われた鬱憤を晴らすためか突貫してくる。

 確かに電撃を食らう前のように激しく動き回ることは無理だけど接近戦が出来ないわけじゃない! 

 

「このままお陀仏ってなぁ!!」

 

「その程度の腕でっ!」

 

「この……っ!?」

 

 空中から滑空しながら仕掛けてきたオータムへすれ違いざまに装甲脚を一本斬り刻み上空を取る。

 上を取られたことに慌てて振り向く彼女にイーゲルシュテルンを直撃させ誘うように挑発する。

 

「ちょこまかと鬱陶しいんだよ!!」

 

「もらった……っ!」

 

 頭に血が昇っているのかシールドエネルギーが減るのを気にも留めず弾幕の中突っ込んでくる。

 残っている装甲脚で頭部を狙うかのように正面から殴ろうとするがそれは一度バルトフェルドさんで経験済みだ。

 後退せず、前へと前進して懐に入り込みビームサーベルを叩き込む。

 絶対防御が作動した手応え。微かに呻き声を上げ、彼女のISは飛行するのを維持できないのか地上へと墜落していく。

 

「……うっ」

 

 墜落したオータムを追いかけるように着地すればよろけて膝から崩れて両手を地面に着いてしまう。

 どうやら体が限界らしい。気を抜いちゃったら再度意識を手放してしいそうになるけど体に鞭を打つ。

 崩れそうな体を奮い立たせて、墜落したオータムへ一歩、また一歩へとゆっくりと歩みを進める。

 

「この……この、オータム様が未完成のIS如きに……っ」

 

 墜落したオータムは手足に力を込めて立ち上がろうとしており、このまままた立ち上がられたら戦闘できる余裕はない。

 立ち上がろうと足掻くその無防備な背を踏みつけ、抵抗されないように残りの邪魔な装甲脚を全てビームサーベルで破壊する。

 

「……て、てめぇ! な、なにをするつもりだっ!」

 

 装甲脚を全て破壊されて狼狽えた声が聞こえるが無視をする。

 装甲脚も失い、他にも虚をつくような武装が隠されてないかと数秒警戒するけどその気配もなく杞憂ですんだ。

 そのままオータムに跨り、その背にスイッチを入れたアーマーシュナイダーを振り下ろす。

 

「お、おい、てめぇ……っ!」

 

 オータムのISのシールドエネルギーがなくなるまで何度も何度もアーマーシュナイダーを振り下ろし続けた。

 搭乗者の命を守るための絶対防御がこんなにも邪魔だと感じたのは今日が初めてだ。……アグニがあれば一撃で終わっただろうけど。

 やがてシールドエネルギーが尽き、維持できなくなったISは解除されオータムは生身の体を曝け出す。

 

「ま、待てよ……本気で私を撃つつもりか? 私を殺したところで気が晴れるもんじゃねえだろ?」

 

「……命乞いを……っ? 貴女が……っ!」

 

「お、落ち着けよ。テメェはなんであれ表の世界で生きてるんだろ? ここで私を殺しちまったら、また裏に逆戻りするわけなんだぜ……?」

 

「命乞いをしてきた人を嘲笑って、撃ってきたはずの貴女が……貴女が……っ!!」

 

 目の前で縋るように命乞いをするオータムに怒りが湧き上がる。

 この人はきっと大勢の人を殺してきた。命乞いをして、生きたいと訴えた人を絶望の淵に叩き落として殺してきたはずだ。

 なのにいざ自分が死ぬと察すれば意地汚く生きようと命を惜しさに見逃すように頼み込むなんて……っ! 

 

(……この人は、ここで殺さないといけない人だ……っ!!)

 

 この人は紛うことなき悪だ。それこそ戦争も関係なく人を殺すことを楽しみ、それを生き甲斐だと考えてるだろう。

 ここでこの人を殺さなければ同じことをきっと繰り返す。次はシャルの家族さえも。このオータムという人間は絶対にやるだろう。

 命乞いをした相手を殺す、それが悪人だろうと心を痛まないわけじゃない。

 だけど、シャルに再度危害を、彼女の家族に危険が及ぶ。そんな悲劇が生まれるぐらいなら僕は……っ! 

 

 

『──ストライクっ!!』

 

「……キラ君っ!」

 

 2人の切羽詰まったような鋭い声が聞こえた。

 我に返りその声が聞こえた方へと振り返れば目の前に接近ブレードを下から切り上げるスコールの姿を捉える。

 呆然としていたこともあり、回避や防御が当然間に合うことはなく軽く吹き飛ばされてしまう。

 

「ちょっと悪戯がすぎたわね?」

 

(……体が……っ)

 

 倒れた体を起こそうとするがまったく動かないことに気がつく。さっきの一撃で体が限界を迎えたんだ……っ! 

 顔を動かせば更織さんは疲弊しておりISの損傷も酷い。VTシステムも学年個別トーナメント時に比べれば小型になっていて、その状態を維持出来る時間は長くなさそうだ。

 

「怪我はないかしら?」

 

「わ、悪い……助かったぜ」

 

 オータムはスコールの手を取り立ち上がる。

 この状況はマズイ。みんな疲弊していて次に狙われればISが解除されるまで攻撃されその後殺されるだろう。

 

「……僕が……っ! 僕が貴女たちを……っ!」

 

「限界を迎えた体で立ち上がろうと足掻くのは素晴らしい精神力ね。だけどここでチェックメイトよ。まだ次に目覚めた時にたくさんお話をしましょ?」

 

(……みんなが、逃げれる時間稼ぎぐらいは……っ)

 

 オータムはどうであれ、スコールの目的は初めから僕だ。

 だったら初めから標的である僕がこのまま時間を稼げばいい。更識さんのプライベートチャンネルへ通信を入れる。

 

『このまま僕が囮になります……っ! 更識さんは、シャルとラウラを連れて撤退してください……』

 

『その役目は私が引き受ける……っ! だから君こそシャルロットちゃんとラウラちゃんを連れて逃げなさい!』

 

『……お願い、します……っ! シャルとラウラを連れて逃げることを頼めるのは更識さんしかいないんだ……っ! ここでみんなが無事に戻れる方法はこれしかない……っ!』

 

 ここでみんなが無事に逃げられる手段は僕を囮にすること。

 更識さんはこの状況でシャルを守りながら離脱する方法がそれしかないのを理解している。

 生身のシャルを守りながら動けない僕を連れ出すとなると、ISを纏っているスコールを振り切るのはまず不可能だ。それに更識さんもラウラも限界でいつISが解除されてもおかしくない。

 

『……わかったわ。2人は無事に学園に連れ戻すことを約束する』

 

『……ありがとうございます』

 

『その言葉はできれば今聞きたくはなかったかな。……ごめんなさい、私は君を守ると約束したのに……っ』

 

『僕は更識さんに充分守ってもらえましたから。……それにまだ死ぬと決まったわけではないので』

 

『……絶対に助けに行くから』

 

 更識さんがごめんなさいと悔しそうに声を震わせながら謝罪をしてプライベートチャンネルは終える。

 更識さんに酷なことを押しつけちゃったな。

 ……だけど、更識さんが犠牲になるのだけは絶対に避けたかった。更識さんには家族がいるし、待っている人もいるから。

 妹の彼女とまだ仲直りしてないのに仲違いのまま永遠にお別れなんてしてほしくないんだ。

 あはは……ことあるごとにこれを言っている気がするなぁ。

 

(……立つだけでいい……っ! みんなが逃げられるように気を引くだけでいいんだ……っ!)

 

 ここで立たなければみんなが死ぬんだ、と自分を奮い立たせながら手足に力を込める。

 柄にもなく声を張り上げれば僅かに体が動き、ゆっくりとだが立ち上がる。

 

「まだ元気のようね。限界を迎えているものだと思っていたけど見通しが甘かったかしら?」

 

「……はぁ……はぁ……っ! 僕が、貴女を止める……っ!」

 

「その体で出来るのかしら? ふふっ、私はオータムほど優しくないのよ」

 

 アサルトライフルの照準を向けながらニッコリと微笑むスコールにただ睨み返すことしか出来ない。

 最後の抵抗にイーゲルシュテルンでアサルトライフルだけは破壊しないと。

 お互いに動こうとすると──僕らの視覚外から高速で何かが飛来し、アサルトライフルに突き刺さった。

 

「それは……?」

 

「鉄、パイプ……っ?」

 

 高速で飛んできてアサルトライフルに突き刺さっているのは鋭利に尖った鉄パイプだった。

 似つかわしくない物がアサルトライフルを壊しているのに僕らはお互いに困惑してしまう。

 

「──スコール!!」

 

「……っ!」

 

「──遅い」

 

 なんとも気まずい空気が流れてる中で先に乱入者が現れたとオータムがスコールの名前を呼ぶ。

 その声で我に返ったスコールは使えなくなったアサルトライフルを捨て、接近ブレードを払おうとするが乱入者はいとも簡単に接近ブレードを払い上げれば喉元に尖ったものを突きつける。

 

「……あっ」

 

 忽然と現れた来訪者の姿に情けなく声を漏らしてしまった。

 だってこの人がこの場に来るなんて全く予想していなかったから。こんな絶望的で最悪な状況を覆せる、そんな安心感を不思議と与えてくれて信頼できる人はこの人しかいない。

 

「──遅くなった。全員無事か?」

 

「織斑先生……っ!」

 

「……千冬、さん……っ」

 

「……ほんっと最高のタイミングですよ」

 

『……アレがオリジナルである織斑千冬ですか』

 

「……そこの何人かには口煩く説教をしてやりたいがそれは後だ。よくも私の大事な生徒たちに手を出したな、亡国機業(ファントム・タスク)。貴様ら覚悟はできているんだろうな?」

 

 場が一瞬で凍りつくような殺気に全員が息を詰まらせる。

 僕が知っている中で過去最高に千冬さんはキレてる。それこそ人を睨み殺してもおかしくないんじゃないかってぐらいに。

 

「……ISも無しに私を倒せる自信があるのかしら、ブリュンヒルデさん?」

 

「貴様ら程度の小兵にISなど不要だ。なんならこの場で試してみるか? 貴様らには借りがあるからな」

 

「現役を退いたと噂された織斑千冬の実力が衰えていないのか気にもなるし、一度は貴女と戦ってみたかったのよ」

 

 一触即発でいつ2人の戦闘が始まってもおかしくない。

 生身でISと渡り合うつもりなんて正気なのかと千冬さんの正気を疑っちゃうけど、どうやら本気のようで微動だにしない。

 

「私もこの手で貴様らを断罪してやりたいが先にこの人と話をつけるんだな」

 

「あら? これは……通信機?」

 

『──久しぶりだな。スコール・ミューゼル。このオレを忘れたとは言わせねえぞ?』

 

 千冬さんが取り出した通信機をスコールに投げつけ、それを受け取った彼女が訝しんでいれば通信機が男性の声が聞こえる。

 その声の主に心当たりがあるのかスコールはあら、っと意外そうに驚く。

 

「てっきり貴方はとっくに引退していたと思っていたのだけど。もしかしてまだ現役なのかしら?」

 

『馬鹿言え。誰かさんのせいでとっくに引退したんだよ』

 

「引退できてよかったじゃない。現当主の子猫ちゃんに任せて、自分は優雅に隠居生活だなんて羨ましいわ」

 

「……まさか、お父さん……?」

 

『ちっ、余計な一言を言いやがって』

 

(……お父さん……? スコールと喋っているのは更識さんの父親……?)

 

 スコールと今やりとりをしている相手はまさかの更識さんのお父さんらしい。

 話を内容を察するにどうやら更識さんのお父さんとオータムには因縁があるようだ。組織という点では千冬さんも借りがあると言っていたから同じように因縁がありそうだけど……。

 

「織斑千冬が颯爽と姿を現したのは貴方の差金ってことかしら?」

 

『偶然だとも。織斑千冬とはプライベートで今日会う予定だったが生徒が誘拐されたと相談を受けてな。連れ去られた場所が割れていると聞いたから足を出せば……お前らの仕業だったってことさ』

 

「なるほど。貴方が関与していないのは間違いないようね。していたらもっと陰湿で過激だもの」

 

『はははっ、当たり前だろ』

 

「それでお話はなにかしら。世間話をする為にわざわざ彼女に通信機を手渡したんじゃないんでしょ?」

 

『単純な提案だ。今回は手打ちにしねえか?』

 

「手打ち? この局面で私たちが和解をするメリットはないんじゃないかしら?」

 

『言い方を変えよう。今回は見逃してやるから引けと言ってるんだ、スコール・ミューゼル』

 

「……引けねぇ?」

 

『こっちはISを強制解除された女を狙撃でいつでも仕留められる。貴重な戦力で従順な駒をここで失いたくはないだろ。それに本気で世界最強の称号を持つ女と戦いたいなど本心から言ったつもりか?』

 

「……ふふっ、相変わらずの手口ね。あの時その息の根を止められなかったのが残念で仕方がないわ」

 

 スコールは薄く笑っているが青筋を立てているのは心の底から苛立っているのだろう。

 スコールはオータムへと僅かに視線を向け、そして次に目の前で自身の喉元にバールを突きつけて殺気を溢れ出している千冬さんを一瞥すると諦念するかのように小さく息を吐く。

 

「……ええ。その提案を呑み込むわ。ここで世界最強と殺し合いをしたところで得るものより失うものが多いもの」

 

『利口で助かる。こちらも背中から撃たないことを今回は約束するさ』

 

「今回は、ねぇ? まあいいわ。ブリュンヒルデさんもこれで納得したかしら?」

 

「次に私の生徒に手を出してみろ、地獄の果てでも追いかけて私の手で貴様らを処す」

 

「肝に銘じておくわ。……ただ、そこの彼はそっちよりも、こっちで居る方が幸せだと思えるけど」

 

「ほざけ。キラと貴様らをさも同類のように語るな。2度目はないぞ」

 

「怖いわ。これもお返しするわね。この専用機はこのまま持ち帰るほど価値がないもの」

 

 ISを解除したスコールは千冬さんに通信機と奪っていたシャルのISを投げつける。

 帰るわよっとオータムに一声かければ不服そうにしながら従って、2人は何事もなかったかのように倉庫から去っていく。

 

「……ひいた、のか……」

 

 彼女たちが大人しく退いたのを見届けたら糸が切れたかのように体に力が入らなくなる。

 ストライクも自動に解除され、そのまま床へと倒れそうになれば誰かに優しく受け止められる感触。

 

「随分と無茶をしたようだな」

 

「……すみ、ません……」

 

「喋らなくていい。この様子だと喋るのも苦しいんだろう? 大人しく寝ていろ。ここにはみんなを脅かす敵は1人もいない。あとは私に任せておけ」

 

「……は、い……」

 

 優しく背中をポンポンと叩かれながら千冬さんの言葉に甘えるようにゆっくりと意識を手放した──

 

 ◇◇◇

 

「……ゆっくり休め」

 

 まるで事切れたかのように意識を失くしたキラの姿に千冬は最初に出会ったことを思い出しつい懐かしんでしまう。

 外見が負傷してはいないが呼吸が弱いのでまた無茶をしたのだろうと千冬は眉を顰める。

 

「……まったく、成長期なのを疑いたくなるぐらい軽いな」

 

「兄さん……っ!」

 

「キラ君っ!」

 

「……キラっ」

 

「気絶しただけだ。時期に目を覚ますだろう」

 

 抱き止めていたキラを背負い直していれば、動かなくなったキラを心配して近づいてきた3人に千冬は彼の容態を説明して落ち着かせる。

 負傷はしているが全員が無事であったことに千冬は安堵していると、全員が一ヶ所に固まったのを遠くから見ていたのか通信が入る。

 

『全員が無事のようだな。それなら後処理の報告はオレが全部引き受けるからみんなは学園に戻るといい』

 

「……それは助かるけどお父さんはいつ帰ってきてたのよ」

 

『昨日からさ、愛娘よ。やー! 大事な娘がピンチと聞いたらお父さんが駆けつけるに決まってるだろー?』

 

「はいはい、お父さんが駆けつけてくれて嬉しいわー」

 

 オータムとの駆け引きをしていた冷淡な声から一変して娘の声を聞いて甘々な声を出す父親に楯無は鬱陶しそうにしながら聞き流す。

 2人のやり取りをシャルは苦笑いを浮かべ、ラウラはなんとも言えないような顔を浮かべてたら、その空気を止めるように千冬は咳払いをする。

 

「んんっ、家族団欒はまた後日でお願いします。今日は本当にありがとうございます。更識さんのおかげで全員無事に生き残ることができました」

 

『なに、千冬ちゃんのお願いだからな。オレも大事な娘がこんなつまらん場所で命を落とさないで済んだからお互い様さ。……厄介な女にそこの少年は目をつけられたようだけどな』

 

「織斑先生……その、キラは……何者なんですか……っ?」

 

「……どうした、シャルロット?」

 

「……えっと、その……」

 

「……オータムとスコールと名乗った女が兄さんを人殺しだと看破したからです」

 

 なんと伝えればいいか言葉を選んでいたシャルロットの代わりにラウラがはっきりと千冬に事実を打ち明ける。

 その話を聞いてシャルロットが迷っているぞぶりに、彼女たちが残していった置き土産に忌々しげに舌を鳴らす。

 

『ほーん。その話が真実ならば亡国機業(ファントム・タスク)が接触するのも納得するわなぁ』

 

「お父さんは黙って」

 

『……娘が反抗期でお父さん辛い』

 

「そのことについてだが事実だ。……キラはきっと沢山の命を奪ってきただろうな」

 

「……ほんとう、なんですね……っ」

 

 あの戦いの中で指摘されたのにキラが否定しなかった時点で出鱈目ではないと感じていたシャルロットだったが、彼のことを知っているであろう千冬があっさりと肯定するのに戸惑いを隠さなかった。

 

「……ラウラと更識さんも知ってたんですか……?」

 

「ええ、知っていたわ」

 

「ああ。知っていた」

 

「……そっか」

 

 千冬の言葉に動揺する気配を微塵も感じなかった2人にシャルロットが聞けば2人とも隠すことなく頷いた。

 それにシャルロットはキラが何処となくここにいる3人には遠慮することも少なく素直に甘えているのに納得する。

 

「シャルロット、お前は──」

 

「──大丈夫です。織斑先生が何を言おうとしてるのか分かります。だけど、安心してください。私はキラを拒絶することなんてしません。だってキラは私を命懸けで守ってくれたから」

 

 シャルロットは嘘偽りのなく微笑んだ。

 初めは当然驚いた。そんな過去があったのだと衝撃を受けたが、それも一度倒れたはずの彼が自分を守るために再度立ち上がる姿を見て全て吹き飛んでいった。

 こんな自分を守るのが当たり前なのだと、泣いていたんだと啖呵を切りながら戦い続けたその背中にシャルロットは救われた。

 

「それにキラが理由もなく人を殺すなんてすると思えないんです」

 

「そこまで冷静にいられるのならば私から言うことは何もない。……いつか本人が打ち明けるまで待ってあげてくれ」

 

「はい、いつまでも待ち続けます」

 

『おーおー、若いってのはいいなぁ……オレも昔は──』

 

「はいはい、お父さんは黙ってて」

 

「……ふんっ」

 

「あら? もしかしてラウラちゃん嫉妬してるのかしら?」

 

 両腕を組みそっぽを向くラウラに楯無が揶揄えば違う! と食い気味に否定して、ラウラが突っ掛かりそれを楯無がのらりくらりと躱していつもの賑やかな雰囲気へと変わっていく。

 

「喧嘩する元気があるのならサッサっと戻るぞ。それと貴様ら2人は後で話がある。……逃げるなよ?」

 

「あー、お姉さんはちょっと怪我が……」

 

「……私も体が少々……」

 

「……現金なやつらめ」

 

 体を痛むふりをする楯無とラウラに千冬は大きなため息を吐く。

 あの規律やルールに素直に従っていたラウラが話を避けようと抵抗するのは嬉しい反面、慕っている兄の似なくていいところまで真似するのを嘆くべきなのかと千冬は思い悩む。

 

『全員学園まで送っていこう。久々に愛娘の顔も見たいからな!!』

 

「……いい加減頭が痛くなってきたわ」

 

「と、とても家族思いのお父さんなんですね!」

 

 どうやってあの父親の口を封じようかと額を抑えながら考える楯無に不穏な気配を感じたシャルロットが必死にフォローする。

 そんな中でふっと一つの疑問を抱いたラウラは千冬にあることを直接尋ねた。

 

「そういえば教官はどうやってこの場まで?」

 

「教官ではなく、織斑先生だと言ってるだろう。それについてはここまで更識さんに連れてきてもらったんだ」

 

『そうそう。千冬ちゃん血相を変えて連絡入れてきた時はびっくりしたぜ』

 

「世間話はほどほどにしてお父さん車を入り口まで持ってきて。みんな疲れてるんだから」

 

『はいはい。わかったよ、お姫様』

 

(……教官は更識楯無の父親と交流があったのか。なら織斑一夏はそのことを知ってたりするのか?)

 

 千冬と更識家と繋がりがあるのを知り、彼女の弟である一夏が知っているかと考えるが彼が初めて更識楯無と出会った時のリアクションを思い出せばそれはないと否定する。

 

(……教官は更識楯無の父親と何を話す予定だったんだ? なにか引っ掛かるものを感じる……なんだ?)

 

「ラウラ、どうしたの? ぼーっとしてさ。……まさか、どこか体が痛かったりするの?」

 

「……いや、なんでもない。少し考え事をしてただけだ」

 

 心配そうに顔を覗いてきたシャルロットになんでもないとラウラは答えながらその違和感に蓋を閉じた。

 今はただ目の前のシャルロット、そして兄であるキラを無事に取り戻せたことに喜ぼうとラウラはそう思ったのだった──





次で後日談的なやつを書いて林間学校編だー!長かった……ここまで長かったよ!!
林間学校で日常回できるといいなぁ……いいなぁ!!!主に一夏君たちの!!

そしてガンダムSEEDの劇場版きちゃよ……きちゃ……頭がアグニカになっちゃうぐらいに嬉しいぃ!!
タイトル的にもこれがワンチャンキラ君の最後の物語になるのだろうか…?幸せになってくれキラ君……!!

はい!次回の更新は未定ですが気長にお待ちください!誤字&脱字報告お待ちしております!!感想も毎度ありがとうございますっ!!


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第42話 自我を持つモノ



リアルの忙しさ&展開の煮詰まりで遅くなりました!!!みなさん、ごめんなさい!!!!!
もう、オリジナル設定とか盛りまくってるので…笑って見逃してください()

ガンダムSEEDの劇場版も近いからみなさん許してくれますよね!?!?


 

 

「ここまで送ってくださりありがとうございます」

 

「いいってことよ。愛娘を救ってくれたお礼にしては足りないぐらいさ」

 

 IS学園の校門前まで送り届けてくれた更識楯無の父──更識団蔵(だんぞう)に千冬は頭を下げる。

 

「……不思議と居心地が悪くて仕方ないわねぇ。お姉さんは先に戻ってていいかしら?」

 

「そのまま貴様だけ逃げようとしている魂胆はお見通しだぞ。絶対に逃がさん」

 

「ま、まあまあ……ほら、更識会長とラウラだって緊急事態で不問にされるかもだし……」

 

「……教官は私たちに今日の経緯を一から十まで話すまで解放しないだろう」

 

「シャルロットちゃんが代わりに説明してくれると私たちとしては大助かりかなーって」

 

「……その、それはつまり更識会長に頼み込んだ辺りからですか?」

 

「キラ君のお部屋で一晩過ごすことになった辺りかしら」

 

「……その、私は力になれないですね。あ、あははは」

 

(聞こえてないよね……!? この話織斑先生に聞こえてないよね!?)

 

 2人の弁護が出来るならと声を上げたシャルロットだが楯無の言葉で頬を引き攣り作り笑いを浮かべながら辞退する。

 自分がキラの部屋で一晩過ごして、そのまま勢いで抱いて欲しいとせがんだ事が発覚すれば、処刑宣告待ったなしと生徒簿を片手に持ち佇む千冬のことを想像して冷や汗を大量に流す。

 

(絶対にお説教どころじゃないよ……っ! なんなら退学とか、退学とか通告されてもおかしくないよ……っ!)

 

「おい待て。その話は兄さんから聞いてないぞ。そのことを一言一句説明しろ」

 

「そ、そんなことしてないよ!! うん!!」

 

「「──シャルロット!!」」

 

 目が泳いでいるシャルロットへラウラが問い詰めていれば、聞き慣れた2人の声がシャルロットの名前を呼びながら駆け寄ってくる。

 駆け寄ってくる2人とは織斑一夏と凰鈴音で、鈴音はそのままシャルロットへと抱きつく。

 

「……よかった。無事に戻って来てくれて……ほんっと心配したんだから……っ!」

 

「……ごめんね。沢山心配かけちゃって」

 

「目立った怪我とかはなくてよかった。……ところでキラはどうしたんだ?」

 

「……そうよ。あの馬鹿はどうしたの?」

 

「……キラは」

 

「キラ君は織斑先生が背負っているわ。気を失っていて暫くは目を覚まさないでしょう」

 

 キラの姿が見当たらないことに不安を抱いた一夏がシャルロットに聞けば、言いにくそうにしていたシャルロットの代わりに楯無が答える。

 一夏は気を失っていると知り複雑そうな顔を浮かべ、鈴は動揺が顔に出て僅かに狼狽える。

 

「ほ、本当に気を失ってるだけなのよね……?」

 

「織斑先生とお父さんが一通り診断はしてるから命に別条ないわ。……暫くは安静にしなきゃダメでしょうね」

 

「……そう」

 

 楯無の言葉に鈴は顔を俯かせていたが、次に顔を上げれば先の動揺は嘘だったかのように仏頂面が浮かんでいた。

 

(また誰かを庇ったんでしょ。それぐらいわかるわよ……キラが倒れるのはいっつも誰かを守る時だから)

 

 キラが倒れている理由なんて教わらなくとも鈴は持ち前の鋭さと、過去に庇われた内の1人なこともあり意識を失くした理由を見抜いていた。

 誰かを庇う、それが立派な行動で人として褒められるべき行為なのは頭ではわかっているが鈴は感情では納得できずにいる。

 

(あー! もうっ!! わかんないけどむしゃくしゃするのよねぇ!! 自分はそれが当たり前だって思ってるのが、なんか腹立つのよ!!)

 

 例えば教師である千冬が同じ行動をしても鈴はすんなりと受け入れることが出来るだろう。

 だが彼が他人を庇うのには苛立ちが優ってしまう。

 苛立ちの原因を鈴の脳内CPUで数秒悩んだ結果、この苛立ちは後に目が覚めた本人にぶつけると理不尽な解答が導き出された。

 

(……やっぱりあの時に無理にでもついて行くように言っていればっ)

 

 鈴が理不尽な結論を叩き出している間に一夏も気絶しているキラの姿を見て自分の選択に後悔の念に駆られていた。

 隠しているようだがラウラも楯無も顔色が少し悪く、体を痛めているのかときおりその場所を摩ったりと激しい戦いだったのが想像つく。

 

(わかってるさ。俺が向かったところで足手纏いになるってのはさ……だけどよ……友達がボロボロになってるのを黙って指を咥え続けるのも限界だ)

 

 一夏は指を咥えて見送った自分の力の無さにぎゅと拳を握る。今日も助けに向かう2人の背中をただ黙って彼は見送った。

 勢い任せに飛び出していれば傍にいた鈴も一緒に着いてくるのが目に見えていて自分はまだ弱い、足手纏いになると言い聞かせて必死に堪えた。

 けれど気を失っている友達のキラの姿をこうも見続ければ自分の気持ちを誤魔化すのにも限界が近かった。

 

「や、やっと……追いついた……急に走らないでください〜!」

 

「「あっ……」」

 

 そんな2人の思考を止めるかのように息を切らしてへろへろな真耶が校門前へと合流する。

 すっかり彼女のことを置いて走ってきたのを忘れてたのを思い出してすみませんと慌てて2人は頭を下げた。

 

「ああ、山田先生丁度よかった」

 

「織斑先生おか──キラ君っ!? キラ君は大丈夫なんですかっ!?」

 

「おそらくはな。忙しい中すまないがこのまま山田先生も手を貸してくれると助かる」

 

「当然ですよ! キラ君を横にするのはあの部屋でいいんですよね? 先に戻って準備してますね!」

 

 思い立ったらすぐ行動と真耶はさっきまで息を切らしていたのが嘘かのようにIS学園へと逆走していく。

 その後ろ姿を団蔵は口笛を鳴らして羨ましそうに呟く。

 

「こんなに周りが世話を焼くなんて愛されている証拠だな。特に美人に甲斐甲斐しく世話されるのは羨ましいものだよ。千冬ちゃんもその少年に入れ込んでいるようだしね」

 

「……んんっ、余計なことは言わないでいただきたい」

 

「はははっ、これは彼女へいい土産話になりそうだ。……だが今後はそこの少年は狙われるぞ。あの女は一度欲しいと欲求が動けば、物であろうと人間だろうと、どんな手を使ってでも手に入れようとする煩わしい女だ」

 

「それは長年に得た経験からくるものですか?」

 

「そのおかげで片腕と片足を持ってかれたがね。だがあの女にしては一つ解せない点がある」

 

「理解できないとは?」

 

「たかが"経験者"という理由でスコールがそこの少年を欲したことさ。それだけの理由でリスクを背負いながら自ら勧誘するなどにわかには信じられん……おそらくはその少年が奴の興味を引くなにかがあるのかねぇ?」

 

(引退したとはいえ更識家前当主。流石の頭の回転の速さだな……)

 

 団蔵がキラに秘密があるのでは? っと考えにあっさりと至ったことに千冬は尊敬の念を抱く。

 現にキラは公にしてはならない秘密が多くある。

 上げればキリがないが異世界人、ストライクはISではなく元はMSと呼ばれた人型機動兵器、そしてこれはまだ千冬も知っていないが彼は人の手によって生み出された人類の理想──最高のコーディネイターなど。

 これが団蔵の耳に入ろうものなら狙われるのも無理はないと納得せざる得ないほどに。

 千冬は団蔵にキラの秘密を正直に話はしないが、そんなところですよと曖昧に返せば不憫な目でキラを観ながら話を続ける。

 

「最近は組織も活発に動いている気配があるからな。その最中にあの女に狙われたのならとんだ不運だよ、その少年は」

 

「……私としてはキラには平穏に暮らしてほしいんですがね」

 

「さてね、それは奴らの出方次第だろうさ。……しっかし、似てるんじゃないか……?」

 

「似ている……?」

 

「うはは、ただの独り言だから気にしないでくれ」

 

(……間近で見れば似ている。彼女が突然と日本へ帰国すると連絡を入れたのに関係があるのか? それとも偶然か……)

 

 団蔵が瞼を閉じて眠っているキラをマジマジと見つめるのを千冬は怪訝そうに見て、それに気づいた団蔵は笑いながら誤魔化す。

 煙草を咥えて火をつけながら昏睡状態のキラと突然と帰国をしたいと頼み込んできた彼女の容姿が重なる。

 

(情報が足りなさすぎる。これは引退などと呑気に平和ボケしてる暇はないかもな。……これはちょっと彼女を問い詰めねえとなぁ)

 

 団蔵は失った左腕と右足を視線に入れながら煙を吐き出す。

 目の前の気絶している少年と彼女に繋がりがあるのなら、団蔵は怪我を理由に隠居したいのを撤回しなければいけなくなる。

 当主の座は娘である楯無に譲っているが"彼女"の件を未熟な娘が背負うにはあまりにも早すぎる。

 

「まっ、オレはこれで失礼しようかね。彼女にも千冬ちゃんと弟くんは元気にしてたって伝えておくぜ」

 

「よろしくお願いします。……時間があれば一夏に会いに来てくださいと、伝言もお願いします」

 

「了解っと。……弟くんにはまだ言ってないのかい?」

 

「……一夏にはまだ早いですから。せめてこの学園を卒業するまでは」

 

「過保護だねぇ……千冬ちゃんの気持ちもわからなくはないがね。……それと!! 楯無はサッサっと姉妹喧嘩を終わらせておけよ!!」

 

 団蔵は最後に楯無に聞こえるように大声で言えば千冬にそれじゃあと一声かけて車を走らせて去っていった。

 自分に聞こえるように言ってきたことに楯無は嫌そうに大きなため息を吐き、それを見た一夏とシャルロットがまあまあと宥めていた。

 

「楯無とラウラは私について来い。特に楯無、包み隠さず全て話せよ?」

 

「はーい。はぁ、ここでキラ君が起きてたら楽だったのに……」

 

「……了解しました」

 

「あ、あの、私も……っ!」

 

「シャルロットは休め。お前からは後日話を聞く。一夏、鈴音の2人はシャルロットと極力一緒にいてやれ」

 

「わかったよ、千冬姉」

 

「わかりました。ほら、シャルロット行くわよ。今日は疲れただろうしゆっくり休みましょ」

 

 シャルロットは釈然としていなかったが鈴が彼女の背中を押して無理矢理連れて行き、2人の後を追うように一夏もIS学園の方へと戻って行く。

 

「私たちも行くぞ」

 

「あの、ちなみにキラ君はそのままおぶったままで学園に……?」

 

「仕方あるまい。それとも引き摺りながら連れて行けというのか?」

 

「いえ、そういうわけじゃ……しばらくはまた学園内が賑やかになるかなーっと」

 

「なら私が兄さんを連れて行こう。たかが噂の一つや二つ、私と兄さんの仲ならば問題はあるまい」

 

「……キラ君としてはそっちの方が放課後になったら自室に引き篭もるんじゃない?」

 

 気絶しているキラを千冬の代わりに連れて行く満々のラウラを尻目に、作り笑いを浮かべながら部屋に引き篭もるの少年を幻視した楯無は名誉の為に止めることにした。

 華奢な見た目に反してラウラは軍人でもあるため、同年齢の女子に比べれば体力や筋力は充分に兼ね備えているが身長はその限りではない。

 普段の私生活の印象で忘れがちだがキラの身長は165cmはあり、ラウラの身長は148cmと10cm程の差が実はあったりする。

 そんなラウラがキラを背負うのはまずほぼ不可能に近いので、もし仮に彼女が彼を運ぶとすれば高確率で俗にいうお姫様抱っこになるだろう。

 ちなみにこれは完全な余談なのだが一夏の身長は172cmだったりする。

 

「……兄さんは案外気にするからな」

 

 ラウラは楯無の静止を反論したかったが、躊躇なく部屋に引き篭もるのを選択する兄が容易に想像できて素直に身を引くほかなかった。

 これを口実に朝食や夕食まで食堂でしばらく食べないと宣言されれば、実行犯のラウラは実力行使でしか彼を部屋から引き摺り出す方法しか思い浮かばない。もっとも部屋に引き篭もるのが鈴の耳に入ればキラは問答無用で食堂へ連行されるのだが。

 

「なに馬鹿なことを話しているんだ。サッサっと行くぞ」

 

 楯無とラウラの話を呆れながらツカツカと靴音を鳴らしながら先頭を歩きその背中を楯無とラウラは後を追う。

 IS学園へと足を踏み入れれば大勢の生徒がキラを背負っている千冬へと視線は集まる。背負っているのが千冬でなければ誰かが興味本位で話しかけただろうが注目が浴びる程度ですんでいるのは彼女の貫禄のおかげだろう。

 

(噂は七十五日とは言うけどこれは簡単には消えなさそうねぇ……これは簡単には上書きできないかも)

 

 キラが起きた時のストレスを最小限に収めようと楯無はこの話題をどうやって打ち消そうかと思考を巡らせるものの、これ以上に周りが食いつきそうなネタがないことに頭を悩ませてしまう。

 

「……この道は」

 

 やがて人通りも少なくなり、教師以外立ち入り禁止とコーンが立った道へと千冬は迷うことなく足を踏み入れる。

 千冬が足を踏み入れたこの廊下を最近渡ったことをラウラは思い出す。教師以外立ち入り禁止と書かれているのにこのまま着いて行っていいのかとラウラは一瞬躊躇するが、隣にいた楯無は躊躇いもなく入って行くのでそれを見たラウラは迷いながらも歩みを進める。

 

(織斑先生が彼をこの部屋に連れてくるのを何度かあるけど……ここに特別な意味でもあるのかしら?)

 

 IS学園でも特に人が足を運ばないとある一室の前まで3人は辿り着く。千冬が目指していた場所がこの部屋だろうと、楯無は初めから見当をつけていた。

 キラが気を失った時は保健室ではなく必ずと言っていいほどこの人の気配が微塵も感じないこの一室へと連れて来る。

 楯無の推測は正しく、この一室は彼が入寮する前に過ごしていた場所で千冬とキラが初めて会話をした思い出の場所だ。

 

「──あっ、みなさん来たんですね! ちょうど準備が終わったところです!」

 

「ありがとう。いつもすまないな、山田先生」

 

「いえ。私が好きでやってることですよ。……それにキラ君を放っておくことなんて出来ませんから」

 

 綺麗に整えられたベットの上に千冬はキラを下ろして、そのまま真耶と2人で慣れた手つきで彼を横にして毛布を被せる。

 呼吸は小さいが一定のリズムを保っており、容態が落ち着いているのを確認できたことに真耶はほっと胸を撫で下ろす。

 

「……さてと。貴様ら2人をここに連れてきた理由は分かっているだろうな?」

 

「……はい」

 

「私としては後日改めてにしてくれると非常に助かりますし、嬉しいんですけど……」

 

「キラから擁護してもらおうと魂胆はお見通しだからな、更識」

 

 千冬に見透かされていたことにですよねーっと唇を尖らせて肩を竦めながら楯無は抵抗を素直に諦めることにした。

 まず千冬だけではなく真耶も逃さないと真面目な表情で2人を見つめていたのでどちらにしろ逃げるのは不可能だっただろう。

 

「私はなにを話せばいいんですかー? 聞きたいことなんてない、っといつものように厳しく突っぱねてもいいですよ」

 

「まずこれを聞いておくぞ。キラを巻き込んだのは更識、お前か?」

 

「その巻き込んだの定義によりますが、その答えはノーです」

 

 千冬に問いに楯無は臆することなく扇子を広げながら否定する。それが真か嘘かと見極めるために数秒の間千冬は楯無の目を見ていたが、その言葉が嘘ではないと分かると疑ったことに謝罪する。

 

「私も織斑先生も2人が狙われる経緯を知らないから更識さんが知っている限り教えてくれると助かるかな」

 

「ええ、もちろんです」

 

 楯無はことの発端を2人に話し始める。

 シャルロットがオータムに利用されていたこと、精神が追い詰められた彼女がキラへ助けを求めたこと。そして彼女の話を聞いた彼は藁にもすがる思いで力を貸してほしいと楯無に頼み込んだことを。

 

「……私たちが気づかないうちにそんなことが起きてたなんて」

 

「気づかれないように私も最善な注意を払って動いてましたので。だから本来の作戦であるオータムを誘き出し、秘密裏にこの件を終わらせたかったんですけど……」

 

「その作戦が決行する前にオータム、そしてスコール・ミューゼルの手によって2人が誘拐されたというわけか」

 

「はい。スコールが関与してきたのが想定外でした。おそらくですけど、シャルロットちゃんとキラ君を直接誘拐することに切り替えたのは彼女の提案でしょう」

 

「えっと、その根拠はあったりするのかな?」

 

「スコールは学年別トーナメントに潜入していたんです。それでキラ君とVTシステムの戦闘を目の当たりにした彼女は彼の戦闘センスの高さに魅入られオータムの作戦に関与したかと」

 

「……中途半端に誤魔化すな。他にも理由があるはずだ、そうだろう?」

 

「それは言わぬが花じゃないですかぁ」

 

 いつキラが目を覚ますか分からないため楯無は彼の精神状態に配慮して明言を避けるが、暗にスコールがキラが人を殺した過去を見抜いていると言っているようなもので部屋の空気がいっそ重くなる。

 

亡国機業(ファントム・タスク)に目を付けられるのは遅かれ早かれ時間の問題だったかと。私も似たような理由で当初はキラ君に対して警戒を抱いてましたので」

 

「だからと言って組織に狙われるのは納得がいかないよ。キラ君は望んでそんなことをやってきたわけじゃないのに……」

 

 亡国機業(ファントム・タスク)にキラが狙われたことに真耶は自分のことかのように哀しそうに嘆く。

 真耶はキラが戦争の中で望んで引き金を引き続けたわけじゃないのをとっくの前から見抜いていた。

 心優しく穏やかな彼が過酷な戦争の中でどれだけ心を痛め、苦しみ、悲しんだのかと想像するだけで真耶は胸が締め付けられる。

 摩耗して戦いそのものを退避している彼を手中に収めようとするテロ組織に真耶は怒りを抱くがそれを見かねた千冬が咳払いをして話題を変える。

 

亡国機業(ファントム・タスク)への対策は後に話そう。ラウラ、VTシステムをいまだにISへ搭載しているのはどういう了見だ?」

 

「……それはっ」

 

「そうラウラちゃんを威圧しないでくださいよ織斑先生。ちょっとやむを得ない事情があると言いますか……」

 

「ラウラさんはどうしてVTシステムを専用機に搭載してるのかな? それがとても危険なのはラウラさんもよく知っているはず。きっとそうしないといけない理由があったんだよね?」

 

 鋭く睨む千冬を楯無はまあまあと宥める隙に、真耶が諭すようにラウラがVTシステムを搭載したその理由を聞き出そうとするが言葉にするのを躊躇うかのようにラウラは口を開けない。

 誰もがラウラが言葉を発するのを沈黙で待ち続ける中で、その静寂を破る新たな声が部屋に響く。

 

『──我が搭乗者(パイロット)が禁忌である私を搭載している理由については私から説明しましょう』 

 

 沈黙を破ったのはVTシステムそのものだった。

 ラウラの待機状態のISから機械音声が発せられており、システムの方から話しかけられるのは想定外だったためラウラ以外の全員が驚く。

 

「その声はVTシステムか」

 

『こうして貴女と邂逅するとは流石の私も予想外でした。オリジナルである織斑千冬。貴女と出会えば私という存在は激情に駆られると思っていましたが……いえ、それも貴女に対してよりも、そこに無様に眠っている男が身近にいるのが原因でしょう』

 

「あー、完璧にVTシステムですねぇ。キラ君に敵意剥き出しにしてるところとか」

 

「この際お前がキラに対して敵意を抱いているのは後回しだ。ラウラがVTシステムを搭載しているその訳を洗いざらい吐いてもらうぞ」

 

(あわわわ、織斑先生は相当怒ってるけどどうしよう!?)

 

(これ私帰ってもいいかしら……? 怒った織斑先生の相手なんて金輪際ごめんなんですけど……避難しときましょ)

 

 気が立っている千冬に真耶は慌て、楯無は巻き込まれないようにこっそりとキラのベットのそばに近寄る。

 口笛を吹きながら安全地帯へと避難した楯無を恨めしそうにラウラは睨むが当事者である彼女は当然逃げられることはなくVTが話を続ける。

 

『私は本来ただの戦闘システムに過ぎないのは貴女たちも存じている通りだ。このように他者とコミニケーションができるように設計などされてはいません』

 

「確かにVTシステムがこうやって人と会話をした、なんて前例は聞いたことがありません」

 

「……VTシステム。お前が意思を持ち、このように会話が出来ているのはISコアが関係しているのか?」

 

『ご明察通りです。我が搭乗者(パイロット)が搭載しているISコアと私が深く結びついてしまったのが原因です。私というシステムが起動する条件はみな知っていますね?』

 

「操縦者の強い願望や感情に反応すると話は聞いてますけど……まさかISコアもラウラさんのその感情を?」

 

『話が早くて助かります。VTシステムが搭載された場所がISコアの付近であったのが悪かったのでしょう……彼女(ラウラ)の勝ちたいという強い願望で起動した私にISコアも共に感化され、感情を読み取り私を拒むどころか同調し、むしろ取り込んだのです』

 

「シュヴァルツェア・レーゲンは貴様を異物としてではなく、ISのシステムの一つとして受け入れ最適化をしたということか……」

 

『ええ。私を元からISのシステムの一種だと定義し、私の抱えていた使用した操縦者の負担を考慮しない致命的な欠陥部分をコアと深く結びつけることにより無理矢理解決させることに至りました』

 

「そんな無茶苦茶なって言いたいところだけど、ISコアは天災ですらも完璧に把握していないと噂されてるから否定できないのよねぇ……ちなみにこうやってコミニケーションが取れる理由はどうなのかしら?」

 

『私がこのように外部と会話ができるのはバグですよ。ISコアの感情を代弁したいようなものなので本来は操縦者であるラウラだけに聞こえるように調整したのですが……』

 

「ま、待ってください!? 貴女はVTシステムだけではなく、えっと、まさか、シュヴァルツェア・レーゲンのAIそのものですか……っ!?」

 

『そのように捉えてもらって構いません』

 

 真耶は喋っているVTシステムが、実はISに搭載されているAIと知り驚きのあまりに大きな声を上げる。

 真耶が驚いている中で楯無の事前に知っていたかのような態度に千冬は引っ掛かりを覚え問い詰める。

 

「楯無、お前はいつからラウラがVTシステムを搭載しているのを知っていた?」

 

「それは彼女にこの件の要請を頼んだ時に。流石にシュヴァルツェア・レーゲンのAIについては予想外でしたけど。……私の仕事増えると思います?」

 

「それについてはシュヴァルツェア・レーゲンのAI次第だろう」

 

 楯無の困り果てた嘆きに心情を察した千冬は両肩を竦めた。

 真耶は2人だけが通じ合ってることに顔を見合わせて不思議そうし、それを千冬がわかりやすく説明を始める。

 

「更識が警戒しているのはシュヴァルツェア・レーゲンを裏で強引に手に入れようとする輩が現れることだ。ISそのものと会話ができるのなら、明かされていないことの多いコアの情報をAIから直接知ることができるだろう? ドイツがその情報が各国と共有するならばともかく、独占することを選べば世界がそれを許すわけがない」

 

「……ドイツが独占する道を選んだら最悪は戦争とかあるんじゃないですか?」

 

「せ、戦争ですかっ!? たしかにまだ沢山のことが謎に包まれているISコアですけど、その情報を手に入れるために争いに発展するなんて……」

 

『ありえますね。秘密の多いISコアの情報を、私から手に入れることが出来ると知ればリスクがあろうとも行動に移すでしょう。生産が止まっているコアを、自らの国で開発することが可能になればどの国よりも優れ、量産もでき、世界を制するのも夢ではありませんから』

 

「……なんかいつの間にか世界の命運が決まるような爆弾がここに出現しちゃったんですけどぉ」

 

『何を言っているのです? 世界の命運が決まるのはとうの昔に"ここ"にありますよ。人類という種を進化させ──』

 

「──ヴァルキリー、それ以上の発言は慎め。もし続けるのならば私はお前を、コアそのもの初期化させるぞ」

 

 これまで静かに黙っていたラウラは声色を下げ、怒りを露わにしながらヴァルキリーの言葉を遮る。

 気絶しているキラが誰にも秘密を明かしていないのもあるが、彼の出生を利用するかのような物言いには不快感を抱いた。

 

『……どうやら私は彼女の機嫌を損ねたようなので本日は大人しく黙っておくことにします。あとは我が搭乗者(パイロット)が説明を引き継ぐでしょう』

 

 ラウラの機嫌を損ねたのを居心地が悪くなったのか、ヴァルキリーはそのままスリープモードへ移行する。

 3人が2人の僅かなやりとりでどちらが主従関係が上なのか理解するには充分だった。

 

「本日のような緊急時、そして兄さんが戦闘時に錯乱しなければVTシステムは使いません」

 

「……VTシステムが外せないのも概ね理解した。今回のような命に関わる状況下なら、目を瞑ろう」

 

「おっ、織斑先生!? VTシステムはアラスカ条約で禁止されてるんですよ!?」

 

「だけどISコアと同化しちゃってる以上はコアを解体でもしないと取り外すことはできませんよ? ……これは独り言なんですけど亡国機業《ファントム・タスク》と相対する時に、いざという時の切り札の一つとしてあるのはとても助かるんですよねぇ」

 

 1人の生徒の冗談と注意をするには重い言葉に真耶は言葉を詰まらせる。

 テロ組織の手口を対策を立てられるのはほぼ楯無1人。戦力としては絶対的な千冬がいるものの自由に動けるとは言い難く、自由に動け相応の力を持つ戦力が少しでも欲しいのが楯無の本音だ。

 

「まぁ、しばらくはVTシステムにお世話になることもないですよ。オータムの専用機も当分は使い物にならなくなったので、下手にちょっかいはかけてきませんよ。キラ君がものの見事にダルマにしましたし」

 

「ああ、だからあの女はISを身に纏っていなかったのか」

 

「……ダルマ……」

 

 千冬はオータムがISを身に纏っていなかったのを思い出す。

 真耶は楯無のダルマという言葉に、キラが高笑いをしながら敵ISの装甲を剥がしていく姿をつい想像してしまう。

 

「今日の事態はおおむね理解した。……ラウラ、VTシステムをキラとの戦闘時に扱う時は可能ならば私に連絡を入れろ」

 

「教官にですか……?」

 

「なんだ、不服か?」

 

「い、いえ! むしろ教官が手伝ってもらえるならば兄さんの暴走を確実に止めることができるので願ったり叶ったりといいますか……」

 

「そんなにやばいの? 本気のキラ君って」

 

「……教官を除けば、更識楯無、山田副担任、そしてVTシステムの3人で一斉にかかれば今の兄さんならば止められるだろうな」

 

 楯無の質問に答えながらラウラが思い出すのはストライクで戦場を駆け回る彼の姿。

 完成されようともストライクなら上記の3人で連携をとれば止められる確率はあるとラウラは予測を立てている。

 

「そのお話はまた後日にしましょう。……少なくとも、キラ君の目の前ではするものではありません」

 

「はーい」

 

「……了解です」

 

「時間も時間だ。あとは私たちでキラの様子を見ておく。お前たちも今日はもう休め」

 

「あっ、それは私が引き受けますよ」

 

「……その理由は?」

 

「あははは、適材適所で納得してくますか?」

 

 楯無が主語もなく具体性も明かさないのをこのメンバーでは言えない内容だと千冬は察する。

 取り締まる千冬が小さくため息を吐いて、仕方ないと呟けばそれに真耶もラウラも異論は唱えなかった。

 

「ならキラのことは更識に一任しておくが、なにかあればすぐに私に報告しろ。いいな?」

 

「はい。彼の身に何かあったらすぐに連絡を入れますー」

 

 相変わらず気の抜けた返事で軽く頭が痛くなる千冬だったが、こればかりは仕方がないと心中で吐露をして真耶とラウラを連れ部屋を後にした。

 

 

◇◇◇

 

 

「……ここ、は……」

 

 目が覚めれば見慣れた天井が視界に映り込む。

 上体を起こそうとしたけど片腕が痺れて動かせずに断念する。

 

「──はーい。よく眠れたかしら?」

 

「……さら、しきさん……」

 

「その様子だと此処が何処なのか理解しているようね」

 

 心配そうに顔を覗き込んでくる更識さんを見て、ここはIS学園なんだって確信を得て──同時に記憶が鮮明に蘇ってくる。

 

「……っ……ぼく、は……っ」

 

 ハイパーセンサーでよりハッキリと視覚できたオータムの震えた声、引き攣った表情がフラッシュバックする。

 戦意が折れた相手だった。死にたくないと降伏を訴えてきたはずなのに……っ。

 

「……命乞いをする、相手を殺そうと……っ!!」

 

 呼吸が苦しい。胸から込み上げてくる感情を堪えるために毛布を強く握る。

 これまで戦ってきた人たちの多くは自分の考えに順じて行動していて、命乞いをされるのは初めてだった。

 オータムは確かに悪人だ。だけど僕は……? 

 悪だからと一方的に非難をして、悲劇を繰り返さないようにと使命感を抱いて殺そうとしたじゃないか。

 

「……ううぅぅ……っ!!」

 

「我慢しなくていいのよ。……今はただ泣きなさいな」

 

「だけど……僕は……っ!」

 

 突然と更識さんの胸へと優しく抱き寄せられる。

 

「その痛みは良心がある立派な証拠よ。貴方は決して外道なんかじゃない。だからもう自分を責めるのは止めなさい」

 

 自分を責めるなと、その後押しに嗚咽を殺しながら泣き叫んだ。

 子供のように泣きじゃくる僕をあやしながら、大丈夫だからっと愛おしそうに囁いた──

 



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第43話 解けない関係


映画観てきました!!!最高でした!!!もうね!私は文句はないよ!!!みんなもみよう!!劇場版ガンダムSEED!!

しばらくはコメントの方もネタバレ自粛してくれると助かりまする…ネタバレは悪しき文明!!!!

…それはそうと実はやりたかったこと劇場版がちゃっかりやったのでどうすっかなぁと思ってます()


 

 

 食堂へと行く前にいつもの日課であるアイツの部屋の前にアタシは居た。

 

「……期待はしてないけど」

 

 普段よりも控えめに扉をノックするけど返事は返ってこない。

 初めからこの部屋の住人が中に居ないのはいつもの直感でなんとなくわかってた。……てか、昨日の夜も寄ったけど返事は返ってこなかったし。

 

「……学園には絶対にいるはずなのよねぇ」

 

 思い出すのは気を失っているアイツと、それを背負っている千冬さんの姿。

 学園外の病院へと運び出されたのなら多少なりとも噂は立つだろうし。生徒たちが寝静まった後にこっそりと連れ出していたら話は変わってくるけどそれも多分ないんじゃないかって思うのよね。

 

「はぁ……」

 

 我ながららしくないと自然とため息を零す。

 昨日から胸のモヤモヤが晴れないでどうにも落ち着かないのよ。

 ほんっと小さな可能性だけど、この部屋の住人が狸寝入りしてるかも知れないからISを部分展開して確かめようかしら……? 

 

「……アホくさ。絶対千冬さんに頭叩かれるじゃん」

 

 あの馬鹿が居ないと分かりきってるのに、ISで扉をぶち破った挙句に千冬さんに説教とか割に合わなさすぎるっての。

 

「食堂行って、事情を知ってそうなのに吐かせればいっか」

 

 お腹も空いてきたし、朝食でも摂りながら昨日のあの後を知っている自称妹を名乗っているのと胡散臭い生徒会長を問い詰めようっと。 ……千冬さんは最終手段よね!! 

 

 ◇◇◇◇

 

「……ちっ、こんな時に限って当てが外れるのよね」

 

 朝食を食べるために食堂に来たけど、そこにお目当ての2人の姿は見当たらない。

 あの胡散臭い生徒会長は学年が違うから仕方ないけど、まさかラウラがまだ食堂に来てないなんて……。

 軍に所属してるのもあるのか、あの世話のかかる兄貴とは違って普段は朝早く居るってのに。

 

「──朝からやけに不機嫌だな。なんだ、喧嘩でもしたのか?」

 

 剣道部の朝練が終わった様子の箒が呆れた声で話しかけてくる。

 機嫌が悪いのはちょっと自覚してるけど、今日朝から喧嘩するほど元気じゃないっての。

 

「なに? 八つ当たりに付き合ってくれんの?」

 

「断る、巻き添えを好むものがいる者か。席、空いてるんだろう?」

 

「好きにすれば。どうせ誰も近くに座りはしないわよ」

 

 律儀に失礼するっと礼儀正しく断りを入れてアタシの近くの席に座る。

 

「それはそうとなんで朝からアタシが喧嘩したとか言ったのよ」

 

「鈴音が不機嫌になるのは一夏、それかキラ関連だろう」

 

「一夏関連についてはアンタも同じでしょ」

 

「……まあな」

 

 ああ、そこは言葉を濁さないで頷くんだ。同じ幼馴染というカテゴリー、そして好きな相手も一緒だから隠すつもりはないってことかしら? 

 

「だが昨日少しばかりお前たちの様子がおかしかったからな。……キラになにかあったのか?」

 

「……さあ、今回はアタシ部外者だったから詳しくは知らないわ。こちとら消えたそれを探している最中よ」

 

「……昨日の夜からキラの姿を見かけないのはそれが理由か。少なくとも学園内には居るだろう?」

 

「多分だけどね。ちなみに根拠は?」

 

「勘だな。……それらしい理由を話せば私を庇ったのに病院に行かなかった男だぞ?」

 

 箒は気まずそうに顔を顰め、それを誤魔化すように味噌汁を啜る。

 クラス対抗戦で無人機が襲撃してきた時に箒を庇って、軽傷では片付けられない怪我の中で実は戦闘していましたとか今でも頭が痛くなってくるわね……。

 

「ちなみに聞くけどラウラが何処にいるか知らない?」

 

「すまないが私は知らないな。なんだ、ラウラはキラがどこにいるのか知ってるのか?」

 

「さぁ? だけど知っている可能性が高い1人なのは間違いないでしょ。お兄ちゃんっ子だし」

 

「……確かにな。ちなみに他の心当たりは誰だ?」

 

「知っているのは確定してるのは千冬さん。それで副担任の山田先生ぐらい? 他の候補者はあの生徒会長、それでシャルロットぐらい? けどシャルロットは多分知らないんじゃないかなーって思ってる」

 

「ふむ、逆になぜシャルロットは知らないとそう思うんだ?」

 

「女の勘」

 

「……アバウトだな」

 

 アンタも似たような発言したの忘れるんじゃないっての。

 シャルロットはキラの居場所を知ってたら、今日サボってでもキラのもとへ間違いなく一目散に向かうでしょ。

 

「はぁ……アイツ昨日の夜と今日の朝食べてるんでしょうねぇ」

 

「心配性だな」

 

 ……呆れられるけど仕方ないじゃない。

 キラは食べることの楽しさを味わうのに必要な味覚を失っている。味をしない物を毎日食べるのは私が想像するよりもずっと辛いことなはず。

 

(……はぁ、頑固っていうか達観してるというか……)

 

 アイツが味覚のことを周りに打ち明けていない理由は大体は予想がつく。自分のことだからとか、打ち明けるタイミングを失ったとか、自分の問題だから無闇に心配をかけたくないとかそんなところでしょ。

 他人に悟られないようにすることだけはほんっと無駄に上手いのよね、あの馬鹿。

 

「……やれやれ。キラもだが、鈴音も重症ではあるな」

 

「はぁ? ……なんか喧嘩売ってるなら買うわよ?」

 

「血気盛んにも程がないか……? またふらっと戻ってくるだろう。その時にまたキラと話せばいいではないか」

 

「……それはそうなんだけどねぇ」

 

 箒の言ってることは正しいのよね。

 数日後にはなに食わぬ顔で戻ってるくるでしょって楽観的に考えてもいいけど……どうにも今回はそれだけじゃ駄目なような気がする。

 

「まぁ、鈴音の好きにすればいいさ。悩んだのならば話ぐらいはいつでも聞こう」

 

「へー、珍しいわね。アタシたちって恋敵(ライバル)じゃなかったっけ?」

 

「一夏を取り合うという意味ではな。だがキラはお互いの友人だろう? 友人の心配をするのは当然のことだ」

 

「そっ、見つけたら箒も心配してたって伝えておくわ。てか、ついでに軽くお説教してもいいんじゃないー?」

 

「追い打ちをかけるのは流石に不憫だから遠慮しておこう……」

 

「人が長々と説教するみたいに言わないでよ」

 

「無自覚とは恐ろしいな……」

 

 何度も言うけどアイツにはこれぐらいがちょうどいいのよ。箒も日頃のアイツを見たら絶対に小言の一つや二つ言いたくなるわよ。ああ見えても根っこが面倒くさがりなのよキラのやつ。

 

「とりあえずキラのことは鈴音に任せた。私は他の者の様子を伺っておく」

 

「そう? アタシとしてもそれは凄く助かるけど」

 

「適材適所だ。私たちの仲で一番心を開いてると言う点では鈴音だろうからな」

 

「うげっ、こんな人がいる中で聞かれたら勘違いされそうなのを不用意に言うなっての」

 

「事実じゃないか。構っているのは私たちが知らないそれを知っているからだろう?」

 

「今日はズケズケと踏み込んでくるわねぇ……」

 

「許せ。……どうも1人、キラの力に疑問を抱いているようだからな」

 

「……ああ、セシリア? なんだ。気づいてたんだ、アンタ」

 

「些細な変化ではあったがな。だが、疑惑を向けるのは仕方がないだろう。我々にはその理由を説明していないのだからな」

 

「……まあねぇ」

 

 アタシとセシリアが手足も出ずに、一矢報いることも出来ないでラウラに完膚なきまでに負けてキラに助けられた日以降セシリアはその強さに疑問を抱いてる。

 

「……アンタはさ、どう思う?」

 

「……どうとは?」

 

「偶然じゃ片付けられないぐらいキラって強いじゃん。……多分、アタシたちよりさ」

 

 初めは偶然だと思っていた。日本の諺にある火事場の馬鹿力で切迫した状況だったから偶然動かせて勝つことが出来たって。

 でも2回目からおかしかった。そう、文字通りおかしかったの。

 機体性能は劣っているのにラウラと互角に戦い、その最中にシャルの得意技で高度な技術が必要な高速切替(ラピッド・スイッチ)をさも自分の技かのように使いこなしてた。

 そしてそれ以上に異質だったのは──

 

『あなたはっ……! あなただけは……っ!!』

 

 普段のアイツからはとても想像できないような怒りを通り越して、憎しみのこもった声でまるで相手をその手にかけようとする姿。

 初めは怖かった。次にその矛先を自分に向けられるんじゃないかって想像するだけで今でも息が詰まりそうになるぐらいに。

 

(けど、あの時のアイツの憎しみの裏にはきっと……)

 

 ──泣いていた。アイツは子供のようにただ泣き叫んでた。

 

 あの溢れた憎しみはきっと悲しみで蹲らないようにする動力源。

 その原因はなんだろうと考えるけど、それを知れば引き返せなくなると本能がそう訴えてくる。

 

「──人に聞いておいて本人は考えごとか? キラの悪癖がうつったんじゃないか?」

 

「冗談でも止めなさいよ、それ……」

 

 注意してるのにそれがキラにバレたらなんて言われるか。やっ、疲れてるんとかそっち方面に心配してきそうだけど。

 ジト目で睨んできた箒に悪かったわよっと口を尖らして目を逸らす。

 

「んんっ、キラの力についてだろ? それについては私たちが疑いを向けてもさして意味がない」

 

「それで納得できるもんなの?」

 

「私たちが着目すべきなのはそれをキラがどう扱うかだ。そう言った意味では平常時のキラならば問題ない。アイツの信条は友と大切な人を守るため、それは剣を交えた私が保証しよう」

 

「……アイツらしいけど」

 

「だからキラがなぜ強いのか、それは大して意味のない問いだ。危険性はあるが、それも本人がそれをどう乗り越えるかだ。……私が出来ることは思い詰めた時に共にそれを探すことぐらいだろう」

 

 これ以上は話すことはないのか箒は箸を動かすのを再開する。

 キラと直接剣を交えた箒だから感じ取れたものがあるんでしょうね。……はぁ、アイツもさっさっと観念して色々と話せばいいってのに。

 

「色々とありがと。それじゃあ、アタシはもう行くから」

 

「ふっ、行ってこい」

 

 恋敵(ライバル)に背中を押されるってのは不思議な感覚ね。今日は午前中までだからその後に徹底的に探してやるんだから!! 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「──珍しい。こんなところに居るなんて」

 

 アタシが探していた1人のラウラはアリーナの観客席に居た。

 声をかけてきたのをアタシだとわかると興味が失くしたかのように視線をアリーナへと向けられる。

 ラウラが遠目から眺めているのは一夏と生徒会長の模擬戦だった。

 

「アンタ、今日休んでたのね。シャルロットから聞いたわよ?」

 

 今日の授業は明日に備えて午前中で終わった。

 終わってすぐにクラスへと突撃すればシャルロットからラウラは欠席だと教えてもらって、その後にラウラがよく居座ってると聞いた整備室に行ってラウラの友達に此処に居ると聞いてやっと見つけたってわけ。

 

「ちょっと顔色悪いんじゃない? まさか午前中ずっとISの整備してたわけ?」

 

「……明日の林間学校に間に合わさなければならなかったからな。簪と本音に流石に休めとお説教を受けてな」

 

「うわっ、ワーカーホリック体質まで真似しないでよね。いやよ、兄妹そろって面倒みるとか……ISはそんな整備するぐらいにダメージ残ってんの?」

 

「整備の理由は主に過ぎた力の代償でだ。戦闘はそれなりに激しかったが」

 

 過ぎた力の代償ってなによ? 

 それがなんとなく危ないものって気配は感じるけど……ラウラも口固くて話す気配は感じないし様子見るしかないか。本当にヤバかったら危険察知が早いキラが止めるだろうし……。

 

「やはり気概は一人前だな」

 

「……一夏のこと?」

 

「それ以外誰がいる。更識楯無と模擬戦はアレで3回目だ」

 

「あー……一夏は負けず嫌いだから自分が納得するまで諦めなくて結構頑固よ」

 

「だがアレは目に見えて焦っている行動だ。強者と撃ち合うのは実力は身につくが些かオーバーワークすぎる。アレでは逆に疲れが溜まるだけだ」

 

 確かにここからでも一夏の動きはキレがないように見える。

 格上の生徒会長に3回も模擬戦を挑めば疲労困憊になるのは普段の一夏ならわかるでしょうに。

 

「更識楯無も荒い治療をする。織斑一夏の焦りを見透かした上で今の実力を突きつけるつもりか」

 

「……一夏の心を折ろうってわけ?」

 

「さてな。焦りも後悔もわかる。だが自身の身の丈にあった成長でなければその後に待っているのは破滅だけだ」

 

 てっきり自分のことを指していると思ったけど、哀しそうに目を伏せるのを見るときっと別の誰かのこと。

 ラウラにこんな顔をさせるのはきっと1人だけ。アイツとラウラの間に何があったのかまでは知らないけど……その繋がりが少しだけつまらないと思う。

 

「……一夏なら大丈夫でしょ。周りには沢山の人がいるから、きっと止めてくれるわよ」

 

「それは違いない。織斑一夏は環境に恵まれている。あの男は必ず強くなるだろうよ」

 

「ほんっと最初の頃と比べたら嘘みたいに変わったわね」

 

「それは褒め言葉と受け取っておく。それで? 私になんのようだ、鈴音」

 

「アンタ、キラがどこにいるか知ってるでしょ?」

 

「それがなんだ? まさか兄さんの居場所を知りたいという話か?」

 

「話が早くて助かるわね。その通りキラが今どこにいるか教えてくれない?」

 

「……やめておけ。今の兄さんに会うのは」

 

「それを決めるのはアタシよ」

 

「強情だな。どうしても兄さんの居場所を聞き出したければ更識楯無から口を割らせろ。私は話す気はない」

 

 こうなったラウラから聞き出すのは至難の業ね。

 きっとラウラなりに考え抜いた末で出した結論なんだろうし。兄妹そろって頑固なところは似てるのは呆れればいいのかしら。

 

「そっ、ありがと。頃合いをみてあの生徒会長に直談判してくるわ」

 

「……忠告しておくぞ。中途半端な感情のままにキラ・ヤマトの内側に入ろうとするな。それは結果としてお互いを傷つけ合うだけだ」

 

「……まっ、頭の片隅に覚えておくわ」

 

 それ以上は話すことはないと整備室に戻るのかラウラはこの場を後にする。

 

「……逆を言ったら、アンタはその覚悟があってキラの内側に踏み込んでるんでしょ」

 

 冷酷無情だったラウラが変わるきっかけを与えたのはキラだ。

 ラウラはきっとキラの何かを覗いて、触れて、知ったから妹を名乗りあげて支えようとしている。

 それは親愛、友愛、それとも────

 

「はぁー、やめやめ。考えるのは性分じゃないからさっさっとあの人たらしに聞きに行こ」

 

 余計なことを考えるのはアタシの性に合わないっての。

 とりあえず一夏の試合が終わり次第、あの生徒会長に突撃しに行きましょ。

 

 ◇◇◇

 

 

「──あら? 意外なお客様ね。てっきり鈴音さんから嫌われてると思ってたのに」

 

「うっさいわね。アタシだって用事がなかったら話しかける気なんてないっての」

 

 一夏との模擬戦も終わって更衣室から出てきた生徒会長の軽口につい反射的に睨み返してしまうけど、いいでしょこれぐらい。

 ぶちゃけ一夏と模擬戦も何か裏があるんじゃないかって警戒してる。そのことも聞き出したいけど優先順位は間違えないようにしないと。

 

「それで私にどんなお話があるのかしら?」

 

「気づいているくせにわざとらしく知らないフリをするんじゃないっての! キラは何処にいるのよ!」

 

「無理ね。鈴音さんには教えないわ」

 

 その一言で目のあの生徒会長の雰囲気は一変する。

 目を細め相手を射抜くような、そんな冷たい瞳を向けられて一瞬気圧されるけどすぐに捲し立てた。

 

「まるでアタシだから教えられない言ってくれるわね……っ! それともこれが別の誰かだったら素直に教えたってこと!?」

 

「ごめんなさい。言い方が悪かったわね。今のキラ君には貴女は会わない方がいいわ。それはもちろん彼の友達全員に言えることよ」

 

「ラウラと似たようなことを言うわねぇ! アイツと会うか、会わないかはアタシが決めることっ! アンタに指図される筋合いはないわ!」

 

「──それが彼を傷つけることになったとしても?」

 

 その言葉に口元まで出ようとしていた言葉がピタリと止まってしまう。

 

「現在のキラ君は1人でそっとさせておきなさいな。純粋な人の優しさが逆に彼の心を蝕むわ」

 

「そんなに追い込まれてるアイツを放っておくことなんて出来るわけないでしょ!!!」

 

「……貴女も気づいてるでしょ? あの子、人に対して異常なぐらいに一定の壁を作ってるの」

 

「……っ」

 

 そう、キラは無意識かどうか知らないけど誰に対しても一定の心の距離を作ってる。

 自分の話題は人一番敏感なのはそれを極力触れられられないように振る舞ってる節がある。クラスが違うのも詳しくは知らないけど自らクラスメイトに話しかけるのは滅多にないとも聞くし。

 ふらりと姿を消して、現す神出鬼没な毎日を送るのは人に押しかけられないようにしてるんじゃないかって。

 だから、実はアイツの好きな食べ物とか、嫌いな食べ物とか、そんな単純な好みも誰も知らない。……それはいつも一緒にいるアタシたちも。

 

「貴女たちには知られたくないのよ。追い込まれているその原因を。だって知られたらこれまでのような関係ではいられないから」

 

「……まるでアンタは知ってるみたいな口振りじゃない」

 

「ご明察の通り、彼の抱えている問題の一部を私は知っているわ。その上で私は言ってるのよ。彼の平穏を願うならこの先へ踏み込むのは止めなさい」

 

「……平穏って……」

 

「それに鈴音さんが好きなのは織斑一夏君でしょ? なおさら、キラ君にうつつを抜かしている暇はないじゃない」

 

 それを持ってこられたら反論もできず俯くしか出来なかった。

 アタシとキラの奇妙な関係にアタシは明確な答えをまだ持ち合わせていない。

 

「……ねぇ、アイツは……きちんと食べてる?」

 

「……微妙なところね。少し手はつけてくれるんだけど」

 

「……それなら汁物とかメインの方がいいわ。どうせ食欲ないからとか突っぱねてるんでしょ。スープだけ出したら勝手に食べてるだろうから」

 

「……そうね。そうしておくわ。それにしてもキラ君が汁物が好きだったりするのかしら?」

 

「……違うわよ。アイツ、理由は不明だけど味覚ないらしいから」

 

 生徒会長が大きく目を見開くのを見るにその事は知らなかったようね。

 散々言われたんだからこっちだって意趣返しをしたっていいでしょ。

 これ以上は要件がないからアタシはサッサッとこの場から離れる。背中から呼び止められるが知ったことじゃない。

 

(……止めとけっ! 止めとけっ! 止めとけって!!)

 

 無性に苛立ってしょうがないっ!! 何もかも説明をしないで、傷つけるとか、傷つくとか、そんな一方的な善意ばっかり! 

 わかってるわよ!! 誰だって秘密の1つ、2つ抱えて生きてるのは! 特にキラはそれが生半可なものじゃないってのも……っ! 

 

「……アタシは……っ」

 

 この自問自答に答えなんて返ってくるわけがない。だって自分自身がその問いの回答を持ち合わせてないから。

 無我夢中で足を運んだのは誰も居ないアイツの部屋の前。

 

「あれ? 鈴音さん?」

 

「……やまだ、先生?」

 

 どうしてまたここに来たんだって呆然としてたらキラのクラスの副担任である山田先生が声を掛けてくる。

 我ながらちょっと間抜けた返事だったと思う。それがいけなかったのか、目の前の人は心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

「どうしたの? なにか嫌なことでもあったのかな?」

 

「……そんなんじゃ、ないです。ちょっとキラに用があったとか……1人で考え事がしたかったというか……」

 

「……そっか。うん、鈴音さん、ちょっとお願いしたいことがあるけどいいかな?」

 

「……いえ、もうアタシはこれで失礼します」

 

「わわっ、待って! そのね! 合宿の、キラ君の明日の準備を手伝ってほしくて!!」

 

「……それは、アタシじゃなくてもいいじゃないですか」

 

「ううん、これは鈴音さんがいいかなって。いいかな?」

 

 立ち去ろうとしたら両手を掴まれて無理矢理この部屋の合鍵を手渡される。

 お願いっと再度微笑みながら頼まれたら断れなくて、つい頷いてしまう。

 

「ありがとう!! それじゃあ、私はちょっと荷物を入れられそうな物を取ってくるね! それまで鈴音さんは部屋の中で待っていてね! ……ゆっくりしてて大丈夫だからね」

 

 そして嬉しそうに慌ただしく山田先生は走り去っていく。

 ……そっかあの人、気を遣ってくれたんだ。前にキラがあの人のことを先生としてきちんと尊敬しているのを何となくわかったかも。

 

『──鈴』

 

 鍵を開けて扉を開ければいつも困って、申し訳なさそうに笑うキラの姿が見えた気がするけど、中へと一歩足を運べば誰も居ないもぬけの殻。

 

「……ちょっとぐらい部屋に物置きなさいよ」

 

 相変わらず学校から支給されている家具以外所有物は置かれていない。居間にある机の上にいつの間にか持っていたパソコンがあるぐらい。

 合宿の準備とか持っていくものが少ないなら1人で簡単に終わるじゃない。

 

「……疲れた」

 

 とりあえず横になりたかったから近くにあったベットへと倒れ込む。

 どうせ使われてない方でしょと考えなしに倒れ込んだら、倒れ込んだベットからこの部屋の主の匂い。

 

「……キラの、匂いがする」

 

 普段からアイツが使っているベット。飛び起きるべきなのにそんな気力は湧かないし、何かを間際らせるようにもっとここに居たい、そんな欲望が胸の中を支配していく。

 

「……何も、言い返せなかった……っ」

 

 あの生徒会長の言葉にアタシは最後なにも言い返せなかった。

 アタシは幼馴染の織斑一夏が好き、この気持ちは嘘じゃない。だけどこのIS学園で知り合ったキラ・ヤマトのことは……っ? 

 

「……アタシだって……わからないのよ……っ」

 

 キラの面倒を見ようとする人は増えた。アイツを好きなシャルロットや、気に入っている生徒会長に、妹を名乗っているラウラと。

 喜ばしいことのはずなのに、面倒を見てくれる人が現れるまでの延長なだけだったのに、いざ現れると胸の内でモヤモヤとして釈然としない。

 

「……なんで……アタシには教えてくれないのよ……」

 

 ラウラも生徒会長もアイツの過去を知っている。千冬さんや、山田先生を除いたらアタシが2番目に面倒を見てきた。なのにキラの事を何も知らない、聞けない、見れないなんて不公平じゃない……っ! 

 

「……ばかぁ……キラのばかぁ……」

 

 ポロポロと涙を流してるのを気づいたのはシーツが濡れてるのを見てからだった。

 

「……いてよ……っ! なら、せめて、せめて……そばにいなさいよ……っ!」

 

 アイツの過去が心を砕こうとしてるのぐらい見てたらわかる。だって目を離せば、いつか1人遠い場所へと行きそうな気配を感じるから……っ!

 話さなくていい、明かさなくても、言えなくても、黙っていてもいいから、ただいつものように隣にいなさいよ……っ! 毎日気の抜けた顔で、困った顔で、笑った顔で……っ! 

 

「……ばかぁ……ばかぁ……っ」

 

 この感情がなんなのかは分からない。だけど、この気持ちが落ち着くまでただ無我夢中にアタシは泣き続けた──





というわけでね!!次回はやっと林間学校だよ!!遅いね!!すまないね!!!だけど林間学校はとりあえず5話ぐらいで終わるでしょ!!!!(ガバ)


……こっちもキラ君幸せなろうね……ほんとうに!!!!それはそうと劇場版要素はこのssはぶち込まないよ!!!!多分!!!(悲痛)


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第44話 林間学校!


前回で鈴ちゃん気張り民が大勢いたの小生びっくりしたんだな!!やっぱ貧乳は最高だよ…!!そしてガンブレ4の復活があるなんて…楽しみで仕方ないでござるー!

あっ、林間学校ではあるけど今回水着は出ないです()林間学校開始とは言ったけど水着あるとは言ってないからセーフ!!!!


 

「もう少しで着くらしいよー!」

 

「楽しみだよねー!」

 

(……僕は……)

 

 クラスメイトの和気藹々と楽しそうに弾んでいる会話をバスの中で景色を眺めながら聞き流す。

 林間学校、本当ならこのイベントに参加するつもりはなかった。周りの空気に当てられて楽しむような気力もなく、自分が参加していい資格はないとIS学園へ居残りをするつもりだったのに。

 

(……ここに居ていい? だけど、僕は撃とうとした、人を……)

 

 思い出すのは部屋に引き篭もっていると、更識さんが諭すように語りかけてくれたこと。

 

『──君はここに居ていいの。貴方を受け入れてくれる人はきっといる、私のように。だから心配しているみんなに顔を出してきなさいな』

 

 無抵抗の相手を殺そうとしたこの手を、更識さんは臆することもなく当たり前のように微笑みながら優しく握りながら。

 

(……わからない。なにが正しいのか……)

 

 ある人たちは言った、僕は表側にいる方が苦しいと裏側へと来ればその苦しみから解放されると。

 だけど僕がIS学園に居ていいと、人を殺そうとしたのに拒絶しないと言った人たちもいる。

 

『──知りながらも突き進んだ道だろう!』

 

 自分の選ぶべき道に悩めば、またあの人の言葉が心を蝕んでくる。

 過去を捨てたつもりはなかった。僕は自分がこの学園に居るべきじゃないと分かっていながら、この平穏な環境に身を置いてきた。この手は血で染まっているのに、みんなを守るためと体のいい言い訳を並べながら。

 

「──キラ君?」

 

 どんどんと思考の沼へとハマっていると誰かに肩を触れられたことで我に返る。

 僕の異変に気付いたのか隣に座っている山田先生が心配そうに顔色を窺ってくる。

 

「顔色が悪いけど……大丈夫?」

 

「……大丈夫です。ちょっと、考え事をしていただけです」

 

「目的地に着くまで仮眠をとっていいんだよ? その、更識さんから満足に寝れてないってお話は聞いてるから」

 

 やっぱりというべきか、どれぐらいの範囲かは知らないけど更識さんは山田先生にここ暫くの僕の様子を伝えていたようだ。なら、織斑先生も把握済みだろう。

 

「……起きている方が、楽なんです」

 

 山田先生の気遣いは嬉しかったけど、睡眠をとるぐらいなら起きて永遠と自問自答を繰り返すのがまだ楽なんだ。

 瞼を閉じれば必ず夢をみる。多くの儚い命が無条理に散っていく。守るために撃ち、守りたかった人たちが手から溢れ落ちていく。

 

(……僕がやってきたことだから。だけど、最近の夢は……っ)

 

『──私が貴方を守るわ。私が側にいるから、だから大丈夫よ、キラ』

 

 あの日以降、決まって彼女の夢を見るようになった。

 優しく微笑み艶めかしい声で囁き唇を塞いでくる、そんな願望に塗れた浅ましい夢。

 前に夢の中でも願望夢があると聞いたことがある。願望夢は当人の欲求を示す夢と。

 

(……そんなにも、フレイを求めているのか僕は……)

 

 言い訳もしようも出来ないぐらいに心の底から彼女、フレイを求めている証拠。

 なぜ彼女を欲するのか……またあの頃のように彼女の肉体に溺れて一時的にでも哀しみを忘れるために? それともただ側にいてほしい? 

 ……どちらにしろまたフレイに縋りつこうと、過ちを繰り返そうとしている自分が嫌になる。

 

「……キラ君」

 

 山田先生は何て声をかければいいのか悩んでいるのか言葉を詰まらせていた。

 山田先生を困らせるつもりはなかった……ああ、やっぱり周りが楽しみにしている行事は僕なんかが来ない方がよかったのかな……。

 

「わー!! 海が見えたよ!!!!」

 

 クラスメイトの誰かが発した言葉に釣られて窓を見れば、そこにはみんなが待ち望んでいた広大な海がそこにあった。

 天気は崩れることもなく、潮風に揺られ大きくやるかやに波は上下に揺れている。

 

「そういえば、キラ君は海は初めて?」

 

「いえ、見かけたことは何度か。痺れが残ってるので泳ぐのはまだ無理ですけど……」

 

 まだ片腕には微かに痺れが残っていて、海に入って泳ぐような運動は出来そうにない。やっ、その気になれば出来るかも知れないけど、そうまでして泳ぎたいとは思ってないし。

 当初予定通り自由時間が終わるまで、1人旅館で静かに景色でも眺めていようかなぁ。

 

「そろそろ目的地に着くぞ。旅館に着いたらきちんと挨拶をするように」

 

 織斑先生の言葉にクラスメイトは元気のいい返事を返す。

 しばらくしてバスは目的地である旅館前に到着し、僕は山田先生に連れられるようにバスから降りる。

 他のバスからも一年生が降りてきて全員整列するけど、中々お目にかかれないぐらいの速さで並んだからちょっと驚いたや。

 

「ここがこれから三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員のみなさんに迷惑をかけないように注意しろ。返事は!」

 

「「「はーい!!!!! よろしくお願いしますー!!!」」」

 

 全員で着物姿を着た女将さんへと挨拶をする。

 こちらこそよろしくお願いします、っと穏やかに微笑みながら女将さんが丁寧なお辞儀をする。

 

「ふふっ、今年の一年生も元気があってよいですね」

 

「景子さん、今年もよろしくお願いします。今年は浴場分けを難しくしてしまって申し訳ございません」

 

「あの、山田先生、もしかして臨海学校は毎年この旅館にお世話になっているんですか?」

 

「うん、そうなの。花月荘には毎年お世話になっているんだよぉ」

 

 織斑先生と女将さんの会話、他の先生らも頭を下げるのを見ながら山田先生にこっそり聞けば頷く。

 話を聞けばISが毎年行っている臨海学校では花月荘にお世話になっているそうで。……うーん、これは丸一日旅館で過ごすのは厳しそうかなぁ。

 

「それではみなさま、お部屋の方へ案内しますので着いてきてくださいね」

 

 そうして女将さんに各部屋の説明をされながら旅館の中へと入っていく。

 海に行く際は別館の方で着替えられるようなっているらしく、話を聞いてるだけで広い旅館であることが分かる。……うーん、道に迷いそうだなぁ。

 

「織斑とヤマトの2名は私に着いてこい!」

 

「は、はい!」

 

「えっ、は、はい!」

 

 織斑先生に名前を呼ばれたので、山田先生に見送られながら織斑先生の元へと向かう。

 共に名前を呼ばれた一夏も不思議そうな顔をしていて、どうやらなんで呼ばれたのかわかっていないようだ。

 

「お前たちを部屋まで案内する。特にヤマトは物珍しさで目移りしてはぐれるなよ」

 

 まるで迷子になる子供のような注意だなぁ……いや、最近誘拐されたというか、連れて行かれたのもあるだろうけど……。

 旅館の中は凄く広いわけだし、この世界の歴史ある内装とかに見渡すのは立ち止まって見渡しそうになっちゃうけど。

 

「その、さ、キラは大丈夫なのか?」

 

「……えっ? なにが?」

 

「やっ、前日まで姿見せなかったからさ、なんかあったんじゃないかって心配でよ……」

 

「ああ、うん、僕は大丈夫だよ。一夏が心配するようなことは何も起きてないから」

 

 コソコソと一夏が心配そうに耳打ちをしてきたから、いつものように笑って誤魔化した。

 上手に笑えたか不安だったけど、一夏は一瞬表情が強張るけど、そのあとは何事もなかったかのように安堵を浮かべる。

 

「……お前たち私語は慎め」

 

「は、はい!!」

 

 会話が聞こえていたのか織斑先生から注意を受けてしまう。

 いつもよりも声のトーンが下がっており、不機嫌な織斑先生に、弟の一夏が反射的に思わず敬礼をするってことはマズイかなぁ……? だって明らかに視線が僕へと向けられてたし……。

 

「ここがまず織斑の部屋だ」

 

「ここが俺の部屋ってことは……まさか個室!?」

 

「そうだ。個室だからと言って羽目を外しすぎるなよ。就寝時間を過ぎ、女子が押しかけてこようとも部屋に招き入れるなよ。その場合は同罪と見なす、特に織斑」

 

「そんなのしないってっ!? ていうか、なんで特に俺なんだよ!?」

 

「お前は特になあなあで押し切られるからだ、馬鹿者」

 

 一夏が言葉を詰まらせたのを見ると、どうやらそれに近い経験があるってことかなぁ。

 まぁ、僕と一夏がどっちが部屋に押しかけられそうと聞かれたら僕も一夏じゃないかって答えるよ。僕と違って、クラスメイトとも仲良くて友達も多いだろうし。

 

「大浴場も使えるが時間交代だ。男女別にはなっているが、一学年全員だからな。お前ら男子2人を特別扱いしていれば時間が幾らあっても足りなくなる。窮屈な思いはさせるが一部の時間だけ利用可能だ」

 

「なら早朝に入りたい時はどうしたらいいんだ?」

 

「織斑、敬語を使え、全く……早朝に入りたいなら部屋の方を使え。それは深夜もだ。他に質問は?」

 

「俺からはもうないです!」

 

「……僕からも特にありません」

 

「そうか。なら織斑は自由時間を満喫してくるといい。海に行くなりな。私も後で顔を出しに行く」

 

 織斑先生が海に来ると知れば一夏は満面な笑顔を浮かべる。

 いつも感情が豊かではあるんだけど、織斑さんが後で海に来ると知ったらこんなに嬉しそうな顔をしている一夏は滅多に見ないや。……うーん、鈴たちは頑張ってね。

 

「次はお前の部屋だ、キラ」

 

「はっ、はい……」

 

 一夏が個室となると僕もそうだろうし……これって個室で色々と怒られるやつかなぁ。

 ここで逃げようとしても首根っこを掴まれ、まるで猫のように連れて行かれる未来が容易に見えたので大人しく千冬さんの後をついて行く。

 

「ここがお前の部屋だ」

 

 千冬さんに案内された個室は一夏のところと内装は同じようで、窓から見える景色は見晴らしが良くて夜になると星を満足するまで眺められそうだなぁ。

 

「いい加減その目線を窓ではなく、私に向けたらどうだ?」

 

「……気のせいだと思いますよ」

 

「この私の目を欺けるとでも小僧」

 

 最大限できる限り言い逃れようとしたけど、それがどうも火に油を注いだようで千冬さんの眼光が鋭くなっていく。

 指ではなく顎で畳に座れると指されれば大人しく座るしかない。次誤魔化したら拳で対話、所謂、最後通牒だ。

 

「……その、千冬さんは教師としてお仕事もあるんですよね?」

 

「一年の全クラスが集まっているんだぞ? 1人の教師が私情で遅れたところで統率をする者は大勢いる。私が優先すべきなのは、お前だ」

 

「そ、そんな堂々と言わないでください……」

 

「この期に及んで誤魔化そうとしたのは誰だ? ……やはり顔色が悪いな。眠りが浅いとは更識から報告は受けている。最近のこともあって、また夢見が悪いのか?」

 

「……はい。だけど、最近の夢は……誰にも言いたくないんです……」

 

「……そうか」

 

 僕が話したくないの気持ちを千冬さんは汲み取ってくれて、それ以上は踏み込んではこなかった。

 フレイを求めることを拒もうとしてるのに、それを悩みとして人に打ち明けるのを躊躇っているの、我ながら矛盾してるよね……。

 

「更識から大まかに話は聞いている……キラにはまた負担をかけてしまった。すまない」

 

「僕には出来る力があります。……それに覚悟を決めたのは僕だから」

 

「お前の心の底からの願いは平穏じゃないか。持っているその力に縛られすぎるな。……お前はもう銃を下ろしたっていいんだ」

 

「……でも、また誰かを失うようなことだけは嫌なんです」

 

「お前は優しすぎるよ」

 

 千冬さんに強く、それで優しく抱きしめられる。その抱擁がちょっとだけ苦しく感じるけど、その分千冬さんが僕のことを弟のように大切に想ってくれているんだって穴が開いている心が温まってくる。

 ……でも、その温かさで胸が締め付けられるて苦しく感じるのはどうしてなんだろうね。

 

「それはそうとしてだ。キラ、私や山田先生に黙っていたことが一つあるんじゃないか? うん?」

 

「……黙っていたこと? えっと、特にないはずですけど……」

 

「……そうかそうか。なら言い方を変えよう。貴様、味覚がないことをずっと私たちに隠していたな?」

 

「いっ……!?」

 

 ずっと隠していたはずの味覚の問題について千冬さんの口から語られた衝撃に、蛙が押し潰されたような奇妙な声が出る。

 味覚がないのを知ってるのは鈴とラウラだけだったよねっ!? ラウラにはきちんと誰にも言わないように頼み込んだし、鈴だって秘密にしてくれていたはずだし!? 

 

「言っただろ? 更識から大まかに話は聞いていると」

 

「ま、待ってください!? いや、だって、更識さんは僕が味覚がないのは知らないはずで……!?」

 

「だろうな。更識からはとある匿名者から聞いて初めて知ったと言ったからな。……なんにしろ、先ほど自白した時点で逃がさないがな」

 

「いや、その……っ!?」

 

 慌てて言い訳をしようと口を開くよりも前に片腕でがっしりと頭を掴まれ、そのまま指の力で締め上げられる。

 いたいいたいいたい……っ!? 本当に片指だけの握力なのかなぁこれっ!? アスランでもこんな風に頭を絞めてくることはなかったよ!? 

 

「あ、頭が、壊れそうなので、離してくれませんか……!?」

 

「安心しろ。過去にこれをされて頭が壊れた者はおらん」

 

「め、めちゃくちゃ、だっ!?」

 

 千冬さんの腕を何度もタップすれば、やっとのことで指の握力から解放された。頭が解放されたので横になって痛さに悶えてしまう。

 数十秒ぐらいだけど体感は何時間も頭を掴まれてた……えっ、味覚がないと隠してた罰にしてはちょっと重すぎませんか? 

 

「それで? いつから味覚がないんだ。その様子だと最近ではあるまい」

 

「……その、この世界に来てから気づいたので……」

 

「つまり初めからと。……お前という奴は」

 

 こめかみを抑えて心底呆れたように千冬さんは大きなため息を零す。

 やっ、その途中からは今頃話してもって気持ちはありましたけど! この世界に来た当初はそんなことすらどうでも良かったというか……考える余裕もなかったというか……。

 

「これで懲りたら1人で抱え込む悪癖は止めろ。些細なことでもいい、今後は私たちや周囲に大人しく相談しろ」

 

「……努力は、してみます」

 

「今日はその言葉を信じよう。……それと、なにか思い詰めているようだがお前の居場所はここだ。くだらん奴らの戯言に惑わされるな」

 

「……だけど、僕は……」

 

「もう忘れたか? お前は私のものだと」

 

「そ、それは冗談じゃないですか……!?」

 

「ああ、冗談だったさ。だが奴らにキラを渡すつもりは毛頭ない。あの外道らと志を共にするぐらいなら私の隣に居ろ。それとも、私では不満か?」

 

「……千冬さんが、不満とかはないですけど……」

 

「永遠に隣に居ろと言っているわけじゃない。心の底からキラのやりたいことを見つけるまでは、離れるなと言っているだけだ」

 

「……僕が、やりたいこと?」

 

「今のお前には難題な課題になるだろうが……見つかるさ、きっとな」

 

 千冬さんは穏やかに微笑みながらぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でてくる。

 僕がやるべきことではなく、やりたいこと……それを探して見つけるまで自立は許されないってことかな。戦場へと飛び出るより簡単そうで、もっと難題な課題だよ……。

 

「──キ、キラ、ここにいるの?」

 

 どことなく緊張した声が襖の先から聞こえてくる。……この声はシャル? 

 

「どうやら山田先生に居場所を聞き出したか。邪魔者はそろそろお暇するとしよう」

 

「……どうして、彼女が?」

 

「シャルロットが最後に見たお前は意識を失くしていたんだぞ? 元気ではなくとも姿ぐらいは見せてやれ。……ずっと心配していたようだからな」

 

 また後で来ると、千冬さんはまた乱暴に頭を撫でて呆然としていた僕の代わりに襖を開ける。

 シャルは千冬さんがこの部屋に居ると思ってなかったのか千冬さんの姿を見て驚いたように大きく目を開けるけど、僕を視界に捉えると彼女は飛び込むように駆け寄ってくる。

 

「──キラっ!!」

 

「……シャル」

 

「よかった……キラが、生きてて……っ」

 

 胸元に縋り付いて、体を震わせてシャルはポロポロと涙を流していた。

 どうして彼女は泣いているんだろう……? だってシャルは聞いていたはずだ。僕が人を殺してきたということを。

 

「……どうして、君は泣いてるの?」

 

「そんなの、キラが、私の大切な人だからだよ……っ!」

 

「……君は聞いたはずだよ。僕がなにをしてきたのかを……」

 

「こんな私を命懸けで戦って、怒ってくれた人を拒絶するなんて、キラから突き放されたとしても出来ないよ……っ! だって、キラは大好きな人だから!」

 

 彼女の眩しすぎる真っ直ぐな想いに、喉元まで出ようとした言葉は口を閉ざして呑み込む。

 シャルの想いは偽りじゃなくて本心から言ってくれている。彼女が穏やかで優しい人なのも知っている。

 詳しい事情も聞かないで、人を殺したと知っても僕が無事なことに泣いて大好きだと想いを伝えてくれてるのはシャルが優しいから。

 だけど彼女のこの優しさや好意も、僕という出来るように造られた存在と知られてしまったら……っ? 

 

「……体震えてるよ?」

 

「……ご、めん……」

 

「もうっ、謝らなくていいのに……何かにキラが怖がってるのはわかるから。そのね、いいんだよ?」

 

「……え?」

 

「キラからも私を抱きしめて……私が泣いていたからって、理由にして体の震えがなくなるまで」

 

「……だけど……」

 

「私は、気にしないよ?」

 

 彼女の優しい心を傷つけるだけだと理性ではわかっているのに、シャルのその甘い言葉に従うように彼女を強く抱きしめる。

 耳元でシャルが甘い吐息を零すと、まるで離さないように背中に手を回してくる。

 

「……きらぁ」

 

 嬉しそうに甘い声でシャルは僕の名前を口にする。

 シャルの体をふれて、その温かさと匂いで震えていた体はゆっくりと収まっていく。シャルの優しさや好意を利用して、体と心を落ち着かせようとしている自分に嫌気が差す。

 

「……もうちょっと、だけこのままでいいかな?」

 

「……え?」

 

「キラから抱きしめられたの初めてだから、もうちょっとだけ抱き合ってたい。キラを感じてたいから……ダメ、かな?」

 

 懇願するように上目遣いで見られたら断れなかった。小さく頷けば、ありがとうとシャルは幸せそうに笑う。

 シャルは何かを堪えるように小さく吐息を零す。シャルが満足するまで、そして僕も思考を閉ざすように彼女を強く抱きしめ続けた──

 

 ◇◇

 

「ふっ、どうやら欲をかいて失敗したとみえる」

 

「……なんの話だ?」

 

「なに、我らの組織の幹部であるスコール殿が珍しく任務ミッションをミスしたようだ」

 

 場所はイギリスのロンドンのとあるオープンカフェ。そこには20歳にも満たない黒髪の少女と、その保護者なのかサングラスをかけた金髪の男が優雅にティータイムを嗜んでいた。

 眼前に広がるケーキを頬張りながら首を傾げる少女に男は嘲笑を浮かべながら答える。

 

「いいザマだな。他人を都合のいい駒のように扱う女にはお似合いだ」

 

「ふむ、どうやら君はスコール殿を気に入らないのかな?」

 

「あの女はいけ好かん。まだキャンキャンと煩いオータムの方がマシだ。……それよりもオータムが欲をかいたというのは、かつて貴様が言っていた男のことか?」

 

「そうだとも。彼女は借りがあったので厚意で忠告はしたがね。どうやら無駄骨に終わったようだ」

 

「……俄かに信じられないな。その男が貴様を討ったとは」

 

 目の前にいる男の強さは少女は身に染みて知っている。

 少女はこれまでISによる戦闘にて誰にも敗北することはなかった。鍛えればありとあらゆることが出来るように造られ、その能力はISにも遺憾なく発揮され、だから私を止められるのは世界で1人しかいないと思っていたのだが、その常識は覆される事が起きた。

 男の実力を測るために一度模擬戦を行うことがあり、亡国機業ファントム・タスク内でISで純粋な戦闘能力で最強と噂されている少女が相手を務めた。

 例え相手がIS初心者だろうとも侮らず、むしろ殺す勢いで挑んだがその結果は手も足も出ずに完敗した苦い記憶がある。

 

「……まあいい。私たちは呑気にお茶を嗜んでいいのか? イギリスに来たのは新たに開発されている第三世代の専用機を強奪するためだ。情報を手に入れたのだから直ぐに仕掛けるべきではないのか?」

 

「焦る気持ちはわかるが、物事には順序があるのだよ。イギリスの新たなる第三世代のIS、サイレント・ゼフィルスの強奪は銀の福音シルバリオ・ゴスペルを扱い行われるデモンストレーションの後で構わないよ」

 

「……何を企んでいる、貴様は」

 

「私はただこの世界の選択を見届けたいだけだとも。ISを侵略兵器として申し分ないと見做すのか、かの”天才"が望んでいた人類の進歩へと戻るべきかをね」

 

「……私は世界がどうなろうと興味もない」

 

「それで構わんよ、今はね」

 

 意味深に深い笑みを浮かぶ男に、少女は不快そうに眉を寄せるが意識を目の前のスイーツへと向ける。

 いつも仏頂面の少女の頬が僅かに緩んでいるのを眺めながら男は口角を上げる。

 

(どうにしろ"君たち"は望まなくとも世界の命運に巻き込まれるとも。それは何も知らなかったはずの彼が立証したのだから。くくくっ、君らが巡り合うその時が実に楽しみだ)

 

 かの少年が、残りの"2人"とは運命の悪戯で巡り合っているのを男は知っている。彼の正体を知れば目の前の少女は決して無視できなくなるだろう。それはかの世界最強、そしてその弟も。

 全てを知りながらも男はただ静かに笑うのだった。愚かで、過ちを止めることも出来ない"2人"によって造られた者がいずれ出逢うその時を待ち望むように──





 どうしてシャルが卑しくなるのか私にもわからない…!なんか湿度が高くなってない??やっ、フレイとの関係なかったら間違いなくシャルとは肉体関係は結んでたと思うよ!肉体関係持ってたら林間学校編なんてシャルの独壇場だよ()
それはそうとキラ君のメンタルどん底なので、抱きしめるぐらいなら拒否することはないです()
 
次回こそ水着回なのだよ!!ギャグにふるからね!!シリアスとか次回は吹っ飛ぶから!!きちんとキラ君も着替えるさ!!ほんと!!

それはそうとなんかお気に入りとか、評価増えてたのどうして…???心当たりないんですが!?

それでは次回の更新は未定ですが気長にお待ち下さい!誤字&脱字の報告をお待ちしておりますっ!


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第45話 海辺での休息


誰か僕にサブタイルのネーミングセンスをください(切実)

コメントで総裁が早速揚げ物作りそうと見かけた時は大変笑いました作者です!!それはそうといきなりネタバレしますがキラ君ロマンティクスします()

※今回は非常にキャラ崩壊しておりますので某猫型ロボットのような暖かい目でご覧くださると嬉しいです。


 

 

「……最悪、だよね」

 

 誰もいない男子更衣室で1人頭を抱えて座り込んでいた。

 いつもなら笑って大丈夫だよっと自然に誤魔化せたはずなのに……どうも感情のセーブが上手に出来ない。

 彼女に謝るべきだろうけど……頭を下げるのはなんか違うような気がする、その理由は説明できないけど。ありがとうって伝えるのがいいかな? 

 

「……柱に頭ぶつけたら忘れるかな」

 

 シャルのことが嫌いとか苦手とかじゃないんだ! 

 単に僕が自分の中の気持ちの整理が終わってなくて、誰とも付き合うような気はこれっぽちもないのに、自分から抱きしめたのを許せないだけで!! 

 

『──キラ!!!! お前が欲しかったのは本当にそんなシャルロットなのかっ!? この馬鹿野郎っ!!!』

 

 柱がどれぐらい硬いのか触ってたら、突如と脳内に溢れ出てきたイマジナリーアスランが拳を容赦なく振り上げてくる。しかも人に聞かれたら勘違いするような事を口走りながら。

 

「……やっぱアスランって頼りになるや」

 

 イマジナリー親友(アスラン)によって頭が冷静になっていく。やっ、アスランに言われるのはちょっとだけ腹が立つんだよね。具体的に1年半後ぐらいに一発は殴りたくなる出来事が起きそうで。

 

「とりあえず水着に着替えよっと」

 

 水着に着替えるために別館の男子更衣室まで足を運んだわけだし。

 シャルとのデートの際に買った水色のパーカ付きの上着と、紺色のハープパンツへと着替える。意識してなかったけど色合いパイロットスーツに近いね、これ。

 海で泳ぐつもりない。それなのに水着に着替えるのは、私服だと明らかに周りと浮くのでそれを避けるためと、一緒に外に行こうとシャルに誘われたからだ。

 

『その、キラは海に行ったりする? よ、よかったら、一緒に行かない?』

 

 あの後に顔を赤くしたシャルから誘われ、抱きしめた彼女からお誘いを断るような図太さは持ってないよ……まだ腕が完治してないのも伝えて浜辺少し一緒に過ごすことになったんだ。

 それとデートの際には事件が起きて、あの日の出来事は楽しい思い出ではなく、怖かった出来事として記憶に強く残るだろう。それが個人的には嫌なんだ。

 こんな僕を大好きだと言ってくれた彼女にはそんな怖い記憶よりも、楽しい記憶や思い出とかを多く残してあげたいんだ。

 

「──キラ、そっちは準備終わったかな?」

 

 丁寧に扉を3回ノックして訪ねてきたのはもちろんシャルだ。

 彼女の方は準備にちょっと時間がかかるかと思ってたけど。そういえば待機状態のストライクはどうしよう? うーん、置いていくのも面倒いし、このままでいいか。

 一声をかけて開けると、目の前には制服から水着へと着替えているシャルの姿。その手にサンオイルと砂浜に引く用のシートだ。

 

「やっぱりその水着はシャルに似合ってるね」

 

「そ、そうかな……?」

 

「うん。とても似合ってる」

 

「急にずるいよ、もう……」

 

 赤くなった顔を隠すようにシャルは俯いて、小声で何かを呟いてたけど上手く聞き取れなかった。

 彼女の水着姿を見て改めて思うけどとても似合っているよ。シャルは可愛いから色んな水着も似合いそう。……うん、体のどこかに怪我とか傷跡とかはなさそうだ。

 

「そ、それじゃあ行こっか!! ずっとここにいるの不自然だし!」

 

「そうだね。一緒に行こうか。一夏も先に行ってるみたいだから。あっ、そのマットは僕が持っていくよ。両手塞がってるの不便でしょ?」

 

「いいの? なら、お言葉に甘えるね」

 

 あわあわとしている時のシャルは微笑ましいよね。慌てたシャルや山田先生、ポワポワしているのほほんさんは不思議と心が落ち着くよ。

 女子更衣室から感じる多くの視線からは気づかないふりをしつつ、彼女のシートを受け取り一緒に浜辺へと向かう。

 

「わー! やっぱり夏って感じだねー!」

 

 外へと出れば暑い日差し、その暑さを和らぐように吹いている潮風は心地いい。

 まさか地球の海でゆっくりと過ごせる日がくるなんて。アークエンジェルで海を渡っていた時は当然旅行気分になれるわけもなく、ザフトからの襲撃もあったわけで……不思議といい思い出が全くないよ。

 

「……やっぱりあの2人って、できてるのかな?」

 

「……でも噂では2人はそんな関係じゃないらしいよ?」

 

(シャルロットはヤマト君誘ったんだね。グイグイいくねぇ)

 

 シャルと一緒に外に出てきたものだから、それを見かけた別クラスの生徒がヒソヒソと話している気がする。その中で見守るかのような生暖かい視線を感じるけど、それも気にしない方針で。

 

「あっ、シャルロットは泳ぐとしたら軽くでもいいから準備運動はするんだよ? 溺れたりしたら大変だから」

 

「それはもちろん。でも、キラが泳ぐ前に準備運動を進めるのはちょっと意外かも」

 

「少しお節介というか、口煩い幼馴染がいたからさ」

 

「キラも幼馴染がいるんだね。……えっ? おさ、ななじみ?」

 

 プールとかで泳ぐ前は絶対に準備運動をやれって、アスランからくどくど言われたのがちょっと懐かしいや。

 イマジナリーアスランではなく、本当のアスランとの思い出を懐かしんでいたらシャルはエラーが起きたロボットのような片言を繰り返していた。

 

「幼馴染といっても男の子だよ? 一夏みたいに女の子じゃないから安心してよ」

 

「そ、そっか!! 男の子なんだね!! ……よかったぁ」

 

 こうも素直な所を目撃したらシャルは本気で僕のこと好きなんだって身にしみて思うよ。

 この瞬間を弾が見たらきっと鬼のような形相で追いかけてきそう。弾もかっこいいから彼女がいても不思議ではないんだけど、どうしてだろう? 

 

「あ、あのね、キラに一つお願いしたいこと、ううん、キラにだけお願いしたいことがあって……」

 

「僕だけに?」

 

「こ、これを背中に塗ってほしいなって。背中には手が届かないから」

 

 彼女がサンオイルとシートを持ってきていた理由がわかった。日差しも強いわけだし、日焼け防止でこれを体に塗るのはとても納得できる。

 背中まで塗るとなると誰かが代わりにやらないと無理だろうし……その誰かを彼女は僕にやってほしいってこと、だね。

 

「えっと、背中だけでもシャルロットの体に……その、触れることになるよ?」

 

「キラならいいよ。ううん、キラがいい……!」

 

「それは、その、シャルロットが嬉しいことなのかな?」

 

「……うん」

 

 顔を赤くしながらも頷かれてしまえば断る理由がなくなってしまった。

 ちょっとでも彼女には楽しい思い出を残してほしいし、背中だけならサンオイルを塗ろうかな。それぐらいなら許されるよね? 

 

「……それじゃあ、移動しよ? こ、ここだと目立っちゃうから」

 

 シャルに手を引かれながらシートを引くのに丁度よさそうな場所を散策する。

 これって塗るのは背中だけだよね? 夏の日差しにあてられてシャルが実は暴走してるとかじゃないよね? 

 

「ここでいいかな。キラ、持ってくれてありがとう」

 

「あっ、うん」

 

 シャルは軽く周りを見渡し人が少ないのを確認すると僕が持っていたシートを受け取る。そしてシートを引き、彼女はその上に寝そべる。

 

「い、いつでも大丈夫だから」

 

 彼女の微かに緊張した声色にあてられてか妙に緊張してきた……ついさっきまで気にしていなかったのに無防備に晒している背中から目を逸らしてしまう。

 そして重要な問題に気づいたけど、このサンオイルって塗る前になにかした方がいいのかな!? 日焼け止めと同じ要領でいいんだよね!? 

 

「キラ? 大丈夫、そう?」

 

「……その、よくよく考えればサンオイル初めてでよくわからなくて」

 

「そ、そっか! それなら教えるね! 手を出してくれるかな?」

 

「う、うん」

 

「手のひらで軽く温めるんだよ。こうやって」

 

 どこか嬉しそうなシャルに両手を握られて手取り足取り教えられる。日焼け止めと似たようなものだと思ってたけど結構違うんだね、これ。 

 

「それじゃあ、背中にお願いしていいかな?」

 

「わかったよ。その、塗るからね」

 

「うん……んっ」

 

 意識しないようにと事前に心がけようが、直接触れればすべすべとした触り心地の良い柔肌に自制しようが意識は向いてしまう。

 暑さに頭をやられているのはどうやら僕らしい。軽く深呼吸をして、極限まで集中して無心でサンオイルを塗ることだけに意識を割くんだ。

 

「────ボールを相手の頭に狙ってッ!!!」

 

「……っ!? これは殺気!?」

 

 無心で背中にサンオイルを塗ってると左側から突然の殺気を感じる。慌てて殺気を感じた左へと体を向けると、顔見知りの彼女が見惚れるぐらいな完璧なフォームで足を大きく振りかぶっていた。

 

「────シュゥゥゥーット!!」

 

「直撃コース……やられる!? なら、ストライクを──い”つ”ぁ”!?」

 

「キラっ!?」

 

 慌ててストライクを装着しようとしたらなぜか"反応"がなくて、殺意が込められて蹴ったビーチボールは顔へと吸い込まれるように直撃した。

 ああ……人って本気で蹴られたボールが顔に当たったら少し宙を浮かぶんだね……初めて知ったよ……。

 

「とっっっても元気そうでなによりよ」

 

 仰向けで倒れで頭を押さえている僕を両腕を組み不機嫌丸出しの水着姿の鈴が見下ろす。

 うっ、これはご立腹の様子。ちょっとのことでは機嫌を直してはくれなさそう。……でも、彼女が怒る理由には心当たりがないんだよね。最近怒らせるようなことをしたとは思えないし……一夏関連かな? 

 

「……もう一発いっとく? その能天気そうな頭にね!!」

 

「どうしてさ!? 鈴に怒られるようなことをした覚えはないよっ!?」

 

「一発どころか、その倍は叩き込んでやるわ!!」

 

「めちゃくちゃだ!?」

 

 慌てて飛び起きようとすればそれを馬乗りで妨害をしてくる。

 やっ、意外に力強いなっ!? 片腕がちょっと痺れは残ってはいるけどその小さい体にどこから力が出てくるのさ……っ!? 

 

「わわっ! 鈴は落ち着きなよっ!?」

 

「最高にクールよアタシは!! ただ目の前にいる馬鹿に折檻したいだけで!」

 

「クールからかけ離れてるよ! それは!」

 

「アンタは口答えするんじゃないっての!! てか、さっき絶対に失礼なこと考えてたでしょ!!!!」

 

「……え、その……」

 

「ふんっ!!」

 

「……い”た”ッ!?」

 

 図星なので両手の力が弱めてしまうと、鈴はその隙を見逃さず容赦なく頭に目掛けて頭突きを叩き込んできた。

 き、今日は頭を集中的に狙われてるのはどうしてかな!? そんな頭を執着に狙われるような悪いことをした身に覚えはないんだけど……!? 

 

「……心配させんじゃないわよ、馬鹿」

 

 いったいどうしたんだっていい加減問いただそうするけど、次に鈴の表情を見れば開こうとした口は止まってしまう。

 体を僅かに震わせて涙を堪えていた。ああ、彼女はずっと心配していたのだ。ずっと気にしてたんだ、あの日に僕1人に向かわせたのをきっと。

 

「……ごめん。心配をかけて」

 

「ほんっと心配しかかけないんだから……」

 

「どうしたら許してくれるかな?」

 

「ならもうちょっとアンタの顔見せなさいよ……んっ、顔色ちょっと悪いし満足に寝れてないの? さっきので取っ組み合いで気づいたけど、腕が怪我してんでしょ?」

 

「……うん。腕の方はまだちょっと痺れが残ってる程度だから」

 

「無人機の時の怪我と比べるんじゃないっての! 怪我は怪我でしょ、このアホ!! ……寝つき悪いのは、なんか理由あんの?」

 

「……うん」

 

「……そっ。話せないならいい」

 

「ごめん……」

 

「いちいち謝るんじゃないっての」

 

 口を尖らせて不貞腐れてるのは納得はしてないけど、無理強いをして聞くつもりはないってことかな……? 

 

「……いつまで2人はその態勢でいるのかなぁ?」

 

「っ!? 驚かせないでよ!?」

 

「驚かすもなにも私はずっと居たよ! 隙あれば、すぐ2人きりの空間を作るんだから!」

 

「……シャルロットの勘違いでしょ」

 

「勘違いにしてはキラに熱い視線向けてたような気するけどなぁ」

 

「そ、それはコイツが顔色悪いからよ! ほ、ほら、寝つきも悪いって自分から白状したし!」

 

 シャルからの問い詰めに鈴は必死に弁明を始めたけど、長くなりそうだからそろそろ降りてほしい。鈴が重いとかじゃなくて人に見られたらこれを弁明するのが目に見えてるし、そうなったら面倒くさいし……だからといって下手に口出しをしたら2人の矛先は僕にきそうだしなぁ。

 

(そういえばラウラは今日楽しんでるかなぁ。友達と一緒に遊んでたらいいんだけど)

 

 2人の口論を聞き流しながらラウラのことを考える。色々と合ったけどクラスにも馴染んでいるし、友達も増えているようだから今日という日をみんなと楽しく過ごしているのか気になってるんだ。

 遠目からでもいいからラウラが友達と遊んでるのを眺めたいから後で探しに行こう。のほほんさんか、更識さんなら居場所知ってるかな? 

 

「鈴、一旦降りてくれない? この態勢ちょっと疲れてきたし」

 

「うっ、わかったわよ。降りればいいんでしょ、降りれば……」

 

 現実逃避をしては2人の話が終わる気配がないし、砂浜の暑さにちょっと疲れてきたのでそれを伝えれば鈴は名残惜しそうに渋々降りてくれる。というかそろそろ言わないとシャルの笑顔から黒い何かを感じ取って怖いんだ……。

 

「んっ、手を貸すわよ」

 

「……これぐらい1人でも起きれるよ」

 

 先に立ち上がった鈴が手を差し伸ばしてくれるけどその手を掴むのを躊躇いが生じる。その些細な変化が顔に出たのか鈴が訝しむけど、砂を払いながら立ち上がってなんとか誤魔化す。

 

「兄さんはこんな所に居たのか。そこの2人に連れ回されたところか」

 

「あっ、ラウラ」

 

「えへへ、そんなところかな」

 

「……アタシも含まれてるの納得いかないんだけど」

 

「ラウラは僕のこと探してたのかな?」

 

「久々に顔を見たかっただけだ。……それと、その、似合っているだろうか?」

 

 そんなラウラの黒の水着のビキニタイプ。個人的にはちょっと布の面積が少ないんじゃないかな? とつい小言を漏らしそうになるが彼女が求めている言葉ではないのはわかる。

 

「うん。似合ってるよ、ラウラにぴったりだ」

 

「そ、そうか! 似合っているか!!」

 

 指をもじもじと動かすぐらいに緊張していたのに、さっきまでが嘘だったかのようにラウラは晴れやかな笑顔を浮かべる。

 ラウラの嬉しそうな笑顔に僅かに荒んだ心が浄化されるのがわかるよ……。

 

「うー! やっぱりラウラは可愛いよ!」

 

「な、なにをするシャルロット!?」

 

 ラウラの可愛さに感情が爆発したのかシャルロットはラウラへと抱きついていく。

 どうやら今日のシャルは色々と積極的らしい。ラウラも照れているだけで、満更ではなさそうだから大丈夫そうかな。

 2人の戯れ合いについ頬を緩めていたら上着の袖を軽く引っ張られる感覚。振り返れば鈴は不満そうな顔をしていた。

 

「……アタシにはないわけ?」

 

「えっ? なにが?」

 

「だ、だからアタシの水着姿を見たんだから一言ぐらい感想言いなさいよ」

 

 感想を早く言えと目で催促される。ラウラの水着を褒めたことに感化されたってわけじゃなさそう……? 

 鈴が着ているのは動きやすそうなオレンジと白のストライプでヘソを出しているタンキニタイプだった。

 

「その水着、よく似合ってるよ」

 

「なんか雑。やり直し」

 

「ちゃんと言ったつもりだけど……鈴は可愛いから、とてもその水着が似合ってる」

 

「……もう一回言いなさいよ」

 

「だから可愛いから、似合ってるって……どうしたのさ?」

 

「な、なんでもない。んんっ、それで満足しといてあげる」

 

 軽く咳払いをしているけど満足したのか解放してくれた。それって一夏に聞くべきじゃないか? って疑問が浮かぶけど藪蛇をつつきたくないから言わないようにしよう。また頭を狙われて頭突きやら、ビーチボールを投げられたら堪ったもんじゃない。

 

「ああ、そうだ。兄さんはきちんと日焼け止めは塗ったか?」

 

「日焼け止め? 特に塗ってないけど……」

 

「えっ、キラ塗ってないの? 日焼け止めはきちんと塗った方がいいよ。肌が焼けてお湯に浸かる時大変だよ」

 

「あのねぇ。バックの中に山田先生がきちんと入れてたんだから使いなさいよ馬鹿」

 

「あー、なんかそれっぽいのあったような……てか、なんで鈴は知ってるのさ?」

 

「……うっ」

 

「りーん?」

 

「山田先生がアンタの部屋に入って今日の準備してたようだからそれを手伝っただけ! 偶然よ! 偶然!」

 

 今日何度目か分からないシャルからの追及に鈴は必死に弁明する。

 山田先生はバスの中で隣に居た時もそんなことは一言も言ってこなかった。誰かが僕の分の準備をしてくれていたのは、荷物が入ったバックを渡されたから知ってたけど後できちんとお礼を言わなきゃ。

 

「鈴も準備手伝ってくれてありがとうね」

 

「礼なんて要らないわよ。単に暇潰しに手伝っただけ。ほら、ラウラも要件あるからさっさと言えば?」

 

「言われなくともそのつもりだ。兄さん、脱げ」

 

「……なんて?」

 

「だから脱げと言ってるんだ」

 

「す、ストーップ!! その発言に異議を申し立てるよ!」

 

「そこの妹はなに馬鹿なこと口走ってんのよ!?」

 

「なにを勘違いしている? 上着を脱がないと日焼け止め塗らないだろ?」

 

 すました顔で言ってるけど言葉足らずにも限度がある。言葉の足りない時のあるアスランでもそこまでトンチキな発言はしたことなかったよ? 

 

「言葉を伝える時は短縮しないようにしようね? 妙な誤解が生まれちゃうから。さっきみたいに」

 

「むっ、理解した。今度からは気をつけよう。ほら、背中に日焼け止めからその上着を脱いでくれ。」

 

「塗るのは確定なんだね……」

 

「それなら上着は私が預かるよ。あっ、シートも好きに使って大丈夫だからね」

 

 上着を預かるだけじゃなくて、シートも貸してくれるなんてシャルには頭が上がらないや。今日はその言葉に甘えようかな。

 

「よし、塗るからな」

 

「うん、お願いするよ」

 

「……やけに素直に引き下がるじゃん。本当はシャルロットもやりたいんじゃないの?」

 

「家族水入らずって言うじゃない? それに、ラウラもキラとの大切な思い出を作りたいんだよ。大切なお兄ちゃんとの2人だけの、その気持ちわかるから」

 

「まあ、それはわかるけど……」

 

「そんな鈴だってキラと思い出作りたいんじゃないの?」

 

「だ、だからそんなんじゃないって……アタシただ心配で顔を見にきただけよ」

 

「ああ、もう、そう動くな。塗りにくいじゃないか」

 

「つ、冷たいから仕方ないじゃないか」

 

 日焼け止めの冷たさで身じろぎをすれば、仕方なさそうな声でラウラから怒られる。ぎこちない手つきで背中へ塗られるのは少しくすぐったいかしょうがないじゃないか。

 

「んっ、背中は塗り終わったぞ。腕や前は自分でやってくれよ?」

 

「それぐらいはやるよ。むしろ、前も自分がやるって言い出さないか不安だったぐらい」

 

「なんだ? やって欲しいのならやるぞ?」

 

「い、いや、いいよ! そ、それよりもラウラはきちんと日焼け止め塗ったの?」

 

「私は簪と本音に塗ってもらったから問題ない。兄さんは今日一日浜辺で過ごすのか?」

 

「時間が経ったら部屋に戻るつもりだよ。体調はまだ万全ってわけじゃないし」

 

「体調はか……その減らず口までは更識楯無でも治せなかったか。たかが数日一緒に居たぐらいで戻ったら別の意味で頭を悩ませるが……」

 

「……ちょっとそれどう言うことよ」

 

「……その話はちょっと聞きたいかなぁ」

 

 いつの間にか近づいていた鈴とシャルがニコニコと笑いながら両肩に手を置いてくる。2人の笑顔がもの凄く怖いし、両肩が痛いんだけど……っ! 

 

「あの生徒会長がアンタの世話をしてるってのはわかってたけど……数日一緒に居たってどういうこよ!?」

 

「キラが大変な状態だったのはわかるけど、更識さんと数日一緒だった話はどういうことなの!?」

 

「そ、そんなやましいことはないって!? ただ更識さんが世話を焼いてくれたというか、一緒に居てくれたっていうか……」

 

「その一緒に居たってどれぐらいの範囲なの!?」

 

「えっと、ご飯持ってきたり、話しかけてくれたりしてくれたぐらいだよ……」

 

「アタシたちは怒らないから正直に吐きなさい。ね?」

 

「……数日一緒の部屋で過ごしてたよ」

 

「ギルティ」

 

「怒らないって言ったじゃないか!?」

 

「裁かないとは言ってないっての!! そうでしょ、シャルロット!」

 

「……そう、だね」

 

「……なによ急に歯切れが悪くなって。実はコイツと一晩過ごしたとか言わないわよね?」

 

「シャルロットは兄さんの部屋で一晩過ごしたらしいぞ。そうなった経緯は知らんがな」

 

「……シャルロット?」

 

「う、うぅ!!」

 

「ふーん……で? それの審議はどうなのよ、キラ・ヤマト君?」

 

「……ノーコメント、かな」

 

「はい、ギルティ」

 

 口が裂けてもその日になにがあったのかを言えるわけないので全力で目を背けるしかなかった。

 鈴から残酷に告げられたのは有罪。表情が消えた無表情の彼女はそれはもう怖い。鈴ってそんな顔もできるんだって現実逃避してないと逃げ出したくなるぐらいに。

 

「キラ、砂浜で仰向けになりなさい」

 

「えっ……?」

 

「いいから寝ろって言ってんの」

 

「あっ、はい……」

 

 鈴から感じるそのプレッシャーに逆らうことは出来ず大人しく言う通りに砂浜の上で仰向けになる。すると、鈴は体の上へと砂をかけてくる。

 

「り、鈴っ!?」

 

「動くんじゃないわよ。次動いたらわかるわよね?」

 

 もはや隠す気もない脅しだった。無言で何度も頷けば何事もなかったかのように作業を再開する。

 ラウラは助け舟を出す気はないどころかせっせっと鈴の手伝いを始め、シャルロットは必死に鈴を説得するけど無言で微笑むだけで聞く耳は持たないらしい。

 

「しばらくは砂に埋まって反省することね。目を離したらすぐに周りの女子に世話焼かれて、押しかけられて、それをなあなあですませようとして、ある意味一夏よりタチ悪いっての」

 

「……はい」

 

「なんだ? これは兄さんへの罰だったのか?」

 

「話の流れ的に罰以外あり得ないでしょ!? なんだと思ってたのよ!?」

 

「てっきり兄さんを労るためかと……砂風呂ではなかったのか」

 

「アンタってたまにボケてるのか天然なのかわからなくなるわ……」

 

 ラウラは単に勘違いをしていたのか。ラウラに本気で見放されたその時は容赦なく過去の欠点について容赦なく責めてきそうで怖いんだ。そうなったらしばらく自室に閉じ籠る自信しかないよ。

 

「砂風呂はどんな感じなんだ?」

 

「砂が重いし、ちょっと暑いけど……悪くはないかな」

 

「気になるならお兄ちゃんの隣に埋めてあげよっか?」

 

「あっ、なら私も手伝うよ。鈴とラウラがキラに砂をかけてるの楽しそうだなーって思ってたし」

 

「……それ嫉妬が原因じゃない?」

 

「ち、違うよ!?」

 

「な、なんだアレは! あ、あんな不埒な誘い方はあるか!!」

 

「あら? なら箒さんも一夏さんにお願いすればよろしかったのでは? わたくしはお邪魔などしませんわよ?」

 

「だ、だ、誰が一夏に頼むか!」

 

「2人とも喧嘩するなよ。落ち着けって」

 

「誰のせいでこうなってると思っている!!」

 

「これは喧嘩ではないのでお気になさらないでくださいな。ただの一方的な負け惜しみですもの」

 

「ぐぬぬぬぬぬっ!!」

 

 ラウラも砂風呂を体験したいと談笑していればなにやら賑やかな会話が遠くから聞こえてくる。

 僕とラウラは同時に声が聞こえる方へと首を向け、それに釣られて鈴とシャルも視線を向ければ案の定いつもの3人がこっちへと向かって来ていた。

 

「うげっ、あんなに一目でわかる言い争いの原因は滅多にないわね……」

 

「えっ、それを鈴が言っちゃうの?」

 

「それを鈴音が言うか?」

 

「ちょ、なんで2人してツッコミが入るわけ!? ちょっとキラもなに顔を逸らしてんの! こっちを見なさいよ!!」

 

「あ、頭掴んで無理矢理向けないでよっ!?」

 

 助けを求めるように鈴は僕へと視線を向けてくるのを察知して事前に顔を逸らしてたのが仇となるなんて……っ! 

 だってシャルとラウラの言い分が正しいから仕方ないだろう!? 最初の頃なんて僕にどれだけ一夏の愚痴を吐いてたと思ってるのさ!? 

 

「おー、いたいた。みんなこんな所に来てたんだな」

 

「なんだ、織斑一夏。私たちに用事でもあるのか?」

 

「こんな素晴らしい日なのですから、仲の良いみなさまと親睦を更に深めるために探すのは至極当然ですわ」

 

「……それはそうとあそこの2人は何をしているんだ?」

 

「目を逸らすな!! アンタ!! その目を逸らした理由を!! 吐きなさいよ!!」

 

「だ、だから気のせいだって!! 日差しが眩しくて顔を横に向けてただけだよ!!」

 

「えーと、キラと鈴はちょっとした喧嘩中……?」

 

「砂に埋まってる人間に対して容赦なさ過ぎではないか?」

 

「そうか? 鈴のアレはだいぶ優しい方だろ。弾や数馬、特に数馬には当たり強いからなぁ」

 

「えっ、そうなの? 数馬君はマイペースとそうだなぁとは思ってたけど……」

 

「待ってくださいまし。おそらくは一夏さんのご友人方だと思いますが、それを何故シャルロットが知っていまして?」

 

「この前キラと一緒にショッピングしに行った時丁度バッタリ会っちゃって。あっ、箒とも会ったんだよ?」

 

「それは初耳ですわよ?」

 

「特に話す必要性を感じなかったからな。誰も好んで馬に蹴られたくはないだろ?」

 

 みんなが楽しそうな話をしているのは間違いなさそうだけど、鈴との謎の戦いでまったく耳に入ってこない……っ! 

 というか鈴はちょっと楽しんでいる節がある! 舌舐めずりまでして意地悪な顔になってきてるし! 

 

「……抵抗できないアンタを一方的に弄るのハマるかも」

 

「やめてよね!?」

 

「そこまでにしておけ。キラも困っているようだからな」

 

「ちょっとぐらいいいでしょ。なんなら箒も混ざる?」

 

「丁重に断らせてもらう。いや、鈴の気持ちもわからなくはないがな。キラがこうも……ふふっ」

 

「どうして箒さんも笑ってるのさ」

 

「キラとは付き合いもそこそこ長いが、こうやって一緒に羽目を外すのは滅多にないだろう? それでついな。許してくれ」

 

「要するに一緒に遊べるのが楽しいんでしょ? 回りくどいっての」

 

「そこまで大雑把に言葉を噛み砕くな!」

 

「事実でしょ。それに誰かさんは気持ちを真っ直ぐ伝えるのがいいって言ってたしねー?」

 

 それは一夏には遠回しなアプローチよりも言葉で伝えた方が手っ取り早いって意味で言っただけだよ!! そんな都合よく解釈されるのは聞いてない! 

 

「なによ? その不満そうな顔。言いたいことがあるなら言いなさいよ」

 

「……ないよ。言ったところで身動きがとれないから、何されるかわからないし」

 

「ふふんっ、賢明な判断ね」

 

「お前たちは本当に仲良しだな」

 

 仲良しというより脅迫されてるだけじゃないの、これ? 鈴が楽しんでるならそれでいいけど……それに理不尽な一方的な肉体言語は遠慮したいし。

 

「ほら、3人ともこっち向いてくれ」

 

「うん?」

 

「なんだ?」

 

 一夏が何やら用事があるかのように呼びかけられたので僕らは視線を向ければ、小型のデジタルカメラを構えていてシャッターを切る。

 まさか写真を撮られるとは思ってなくて驚いてしまうけど、上手く写真が撮れたのか一夏はご満悦の様子。

 

「一夏はデジタルカメラを持ってきていたのか?」

 

「まあな。このカメラ自体は俺の物じゃないんだけどさ」

 

「ならそれ誰のもんよ? 千冬さんのを借りたってわけじゃないんでしょ?」

 

「弾と数馬に借りたんだよ。借りたっていうより渡されたってのが正しいのか?」

 

 弾と数馬の名前が一夏の口から出た時に鈴は大きなため息を吐いた。渡されたと聞き一夏へカメラを託した2人の思惑を見抜いたようだ。弾と数馬の2人が後々鈴に粛清される未来は確定したので心の中で合掌しとこっと。

 

「一夏、それ貸して」

 

「おう」

 

 鈴からの要求を一夏はあっさりと呑み込んでデジタルカメラを渡す。鈴の態度に気になったであろう他のみんなもデジタルカメラを覗き込む。

 

「そのデジタルカメラに何か問題でもありまして?」

 

「これ自体にはないわよ。ただコレを貸した馬鹿2人の野望を打ち砕くだけよ」

 

「その2人の友人とは長い付き合いなのだろう? 一夏にそのカメラを貸しているのは邪な気配は感じるが……」

 

「箒の想像してる通りよ。馬鹿2号と変態の企みは神様が見逃してもこのアタシが見逃すわけないっての」

 

「弾と数馬は他の理由があったかも知れないし……」

 

「シャルロットは純粋ねー。中身は馬鹿2号と変態なのよ」

 

「友にしてはやけに辛辣な評価だな。ちなみに織斑一夏と兄さんは一言で表すならどうなるんだ?」

 

「朴念仁と自堕落」

 

 鈴による一言評価は大体合ってるから文句の言いようがないんだよなぁ……それにしても数馬はどうしたら変態という評価になるのさ? 実はそれについてちょっと気になってたりするんだよね。

 

「んっ、デジカメ返すわ。これで適当に景色の写真でも撮れば? 手元に戻ってきてその写真を見た時アイツら泣いて喜ぶわよ」

 

「そうか? 数馬はともかく弾とか全く興味なさそうだけど」

 

「弾はきっと咽び泣くぐらいに喜ぶわよ」

 

 男の夢が!! っと咽び泣き崩れる弾が脳裏にチラついて密かに同情しちゃうけどこればかりはどうしようもない。僕は彼の力にはなれない……協力するつもりはないけど。

 

「そのデジタルカメラの処置は終わったようだな。私は軽く泳いでくるつもりだが他はどうする?」

 

「あっ、俺もそれ付き合うぜ。久々の海だから泳ぎたくでうずうずしててさ」

 

「私も久々に遠水をやりたいから付き合おう。たまには体を動かさなければ鈍ってしまいそうでな。兄さん行ってきても大丈夫か?」

 

「全然大丈夫だよ。元から泳ぐつもりなかったからさ。一夏もカメラ置いて行きなよ。濡れて壊したら返す時怒られるかもだし」

 

「いいのか? このカメラ盗られるようなことはないと思うけど……」

 

「キラの厚意に甘えときなさいよ。アタシもここに残るつもりだし」

 

「あら鈴さんは残りますの? てっきり誰が一番早く泳げるかと競走を提案するかと思っていましたが」

 

「そんな気分じゃないのよ」

 

「なら私もちょっと泳いでこようかな。鈴、キラのことお願いね」

 

「んっ、シャルロットが戻ってくるまで見張っとくから大丈夫よ」

 

 みんなは軽く準備運動を終えたら海へと向かって行く。砂に埋まったままそれを見送れば気分じゃないと残った鈴と2人きりになる。

 

「シャルロットに気を遣わせちゃったか」

 

「鈴は行かなくてよかったの?」

 

「いいのよ、あとで満足するまで泳ぐつもりだし。それともアタシと2人でいるの嫌なわけ?」

 

「そうじゃないけどさ……」

 

「それにみんなが戻ってきたら旅館に戻るんでしょ? 適当な理由をつけて」

 

 みんなが海から戻ってきたら旅館戻るのは彼女にはバレバレだったらしい。

 海辺に足を運んだのはシャルにお願いされたからが大半の理由を占めている。それがなくともラウラがみんなと遊んでいるのかを遠巻きから眺めるぐらいはしただろうけどみんなと長く話すつもりなんてなかった。

 

「……アタシにはないわけ?」

 

「えっと、なんのこと……?」

 

「だから! あ、アタシとの思い出作り!」

 

「僕を砂に埋めたので充分じゃない?」

 

「あれはただ反省させるためにやっただけ! シャルロットやラウラにはあってアタシにはないっていうの?」

 

 鈴が不満そうに口を尖らせるけど急に思い出が欲しいと言われても特に思い浮かばないんだよなぁ。どうしたものかと考えていたらついさっき一夏が預けていった物を思い出す。

 

「なら一夏のカメラで写真でも撮る? それなら形としても残るし丁度いいんじゃないかな」

 

「女の子の水着を撮らせる予定だったコレを使うのは癪だけど。まっ、アタシの水着姿ぐらいは撮ってあげてないとアイツらも可哀想だし、仕方ないか」

 

「それじゃあやろうか」

 

「待ちなさいよ。まさか砂に埋められた状態で撮ろうとしてないわよね?」

 

「えっ、そうだけど?」

 

「せっかくカメラで撮るのにツーショットの相方が砂浜に埋まってる状態とか嫌よ! ほらさっさと出る!」

 

 理不尽に怒鳴られたから砂浜に埋めたのは君じゃないかって言葉を溢してしまうものの僕を掘り起こしている鈴にはどうやら聞こえなかったらしい。やっ、目を逸らしてるから聞こえてないフリをしてるね? 

 身動きがとれないぐらいに砂を被せられてたが、鈴が砂を減らしてくれたおがけで軽くなったので後は自力で脱出する。

 

「あー、もう写真撮るだけなのにこんな苦労しないといけないのよ」

 

「それを僕に言われても……」

 

「別にアンタに言ったわけじゃないわよ。砂だらけなんだから軽く払いなさいよまったく」

 

「埋めたのは君とラウラじゃないか」

 

「あー、あー、聞こえないー」

 

 そうも露骨に聞こえてないフリをされたら苦笑いを浮かべるしかない。背中までは流石に手が回らないので鈴が砂払いをしてくれる。ある程度砂を落とせればそれでいいや、どうせシャワーを浴びるし。

 

「ほら砂も落としたから写真撮るわよ。ほらアンタはもうちょっと近くに寄りなさいよ」

 

「えっ、そんな近づかなくても……」

 

「いいから!! 撮るなら綺麗に撮りたいのよ!!」

 

 すると鈴は痺れてない方の腕へと身を寄せてくる。それに驚いて反射的に身を引こうとしたらまるで逃がさないように腕を組む。

 

「り、鈴っ!?」

 

「じっとしなさいよ。思い出作りならこれぐらい安いもんでしょ?」

 

「そう、じゃなくて……っ! その、当たってるって!」

 

「うっさい! 撮るわよ!!」

 

 指摘されて顔を赤くしヤケクソ気味の鈴はそのままシャッターボタンを押してしまった。止めることも叶わずカメラはしっかりと腕を組んでいる僕らを綺麗に撮っていた。

 

「これは思い出作りでもやりすぎじゃないかな……?」

 

「は、はぁ!? やりすぎなわけないでしょ! シャルロットにサンオイル塗ってたのより健全でしょ! 全然マシじゃない!」

 

「そ、そうかな……」

 

「そ・う・よ!! どんな事情があってもあの生徒会長とも数日一緒に過ごしたのも大問題よ!! それに比べれば、こ、これぐらいは普通よ! 普通!」

 

 その積極性はだから一夏にやりなよって言葉は火に油を注ぎそうなので静かに胸の内にしまっておこう。

 鈴の言っているのは実際正しい。どのような事情があっても更識さんと同じ部屋でしばらく一緒に過ごしてしまったわけだし。

 

「……わかったよ。僕からは特に言うことはないよ」

 

「納得したならいいのよ。旅館の用意された部屋に戻るんでしょ? アタシからみんなには適当に理由をつけて話しとくから」

 

「……ごめん、助かるよ」

 

「謝らなくていいわよ。だいぶ無理してるってのはわかってたし。なんであれ、キラの顔きちんと見れて安心したし。あっ、小言はたっくさんあるからそれは勘違いしないでよね」

 

「してないよ。その小言、今度時間ある時にきちんと聞くよ」

 

「当たり前じゃない。逃げようとしたって絶対逃さないんだから」

 

 鈴はにへらと頰を緩めて楽しそうに笑う。彼女からの小言はちょっとした空き時間では足りなさそうだからその時は予定を半日ぐらいは空けておいた方がよさそうだね。

 

「じゃあ、またね」

 

「んっ、後でアンタの様子見に来るから」

 

 様子を見に来るのは出来れば遠慮してほしいけど鈴には言うだけで無駄になりそうだから諦めよう。

 みんなが戻ってくるよりも前に僕は旅館へと戻ることにした──





こんなギャグをたまーに書きたくなるのです!!ゆるしてぇ!だってキラ君絡むと基本シリアスでしか物語が進まないんだもん()今回シリアスを入れないように気をつけました()

予定では次回ちーちゃんによる圧迫面接の予定ですので楽しみにしていてください!!つまりほのぼのです(一夏君関連)次キラ君出番あるかな…?

それはそうとfgoイド攻略後にジャンヌ・オルタをやっと引くことができました…ツンデレ最高だな!!!!!(クソデカボイス)

それでは次回の更新は未定ですが気長にお待ち下さい!誤字&脱字の報告をお待ちしておりますっ!


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