キノとユーリとレジーの旅 (黒アライさん)
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静かな森

こんにちはなのだ!黒アライさんなのだ!最近キノの旅の原作を読んでから、ちょっとデレのあるキノちゃんも見たいなぁってことで、自分で描いてみたのだ!駄文が多いのだが、読んでくれたら嬉しいのだ!それではどうぞなのだ!


カチャカチャ…

 

カチンッ!

 

???「…ふぅ、以上無しと…」

 

???「…スゥ…スゥ…」

 

とある森に、とある2人の旅人がいた。1人の男は手に持つ2つのハンドパースエイダー(拳銃)を整備し、座りながら抜き打ちチェックしていた。もう1人の女の子は座っている方の旅人の膝を枕にして、毛布をきながら心地良さそうに寝ていた

 

???「…こうして見ると、キノもやっぱ女の子なんだなって思うな」

 

???「手に持っているそれがなければね」

 

1人の旅人が独り言を言っていると、男の横にいるモトラド(バイク)が声にして喋る。モトラドの言った通り、キノという女の子の手元を見ると、しっかりと握られたリボルバー式のパースエイダーの銃口が、毛布の中から黒光りして見えた

 

???「…まぁ、教えたのは俺達だからな。教えを忘れずにいるのはいいことさ。それだけで、生きやすくなる」

 

???「雪地になんて、どれだけ経験があろうが知識があろうが結局は運だ…そう言ったのはどこの誰だっけ?」

 

???「…生き死に、か?」

 

???「そうそれ」

 

モトラドの間違えを言葉を訂正すると、モトラドはすかさず反応する。男はそれを見ると苦笑いしながら答える

 

???「確かにそう言った事もある。だが、いざ死にそうになった時、自分にもっと知識があれば、実力があればとか、そんな後悔、俺はしたくないし、キノにもさせたくない…それに」

 

???「それに?」

 

???「長生きしてほしいだろ?キノには」

 

男はキノの頭を撫でながらそう微笑む。それをみたモトラドは少し笑いながら答える

 

???「ハハハッ!違いない。…それじゃ、僕は寝るよ」

 

???「そうか」

 

???「うん。おやすみ。《ユーリ》」

 

ユーリ「あぁ、おやすみ。《エルメス》」

 

ユーリと呼ばれた男はエルメスに反応しながらキノと同じように自動装填式のパースエイダーを握りながら毛布を着て、座りながら寝る。

 

 

この世界はいつだって油断できない…いや、全世界に共通して言える事である。気を抜けばいつでもすぐそこに死が待っている。だが、そんな危険に満ち溢れた世界でも、美しさは計り知れない。自然に満ち溢れた美しさ、人工的な景色の美しさ、人間達や動物達の美しさなど様々だ。

 

これは、そんな美しさを探しながら自分の生き様を示す、とある2人の旅人の物語……

 

 

 

 

ーー翌朝ーー

 

チュン…チュン…

 

キノ「…ん」

 

ゴソゴソ…

 

キノが目を覚ますと、目の前には焚き火の前で朝食の調理をしている男の大きな背が見えた

 

ユーリ「おはよう、キノ」

 

キノ「…おはようございます、ユーリさん」

 

エルメス「僕には?ねぇ僕には?挨拶しないの?ねぇってば」

 

キノ「はいはいおはようエルメス」

 

エルメス「うわ、この対応の差。僕泣いちゃうよ?」

 

ムクッ…

 

キノはエルメスの冗談には付き合わず起き上がると、慣れた手つきで毛布を片付け、エルメスの後ろに括り付ける

 

キノ「何を作ってるんですか?ユーリさん」

 

片付け作業が終わると、キノはユーリの後ろから顔を出して、調理している物を見つめる

 

ユーリ「今日は朝からウサギが獲れたからな。野草と組み合わせてちょっとしたスープを作ろうと思ってる。まだもう少し時間はかかるから、ゆっくりしてるか、カノンの調整でもして待ってな」

 

キノ「…手伝いま「いや結構だ」…むぅ」

 

キノはユーリに朝食の手伝いを申し込み、懐にある万能ナイフを握るとすかさずユーリに止められナイフを取られ、背中を押される

 

ユーリ「ほら、いつ何が来るかわからないんだ。相棒の調整はしっかりな?じゃないと、レジーから怒られるぞ」

 

ユーリはそういいながらさりげなくキノの太ももにあるパースエイダーのケースからカノンと呼ばれるリボルバー式ハンドパースエイダーを抜き取る

 

キノ「あ」

 

カチャカチャ…

 

ユーリは慣れた手つきでカノンを解体し、リボルバーから銃口、引き金が正常に起動するかなど、軽くチェックした

 

ユーリ「…まぁ、元あいつの銃なだけあって長持ちしてるが…キノ、お前はどうなんだろうな?」

 

キノ「…わかりました。奥で手入れしてきます」

 

ユーリ「そうしろ。朝食ができたら呼ぶ」

 

キノはそう言われると、少し落ち込みながら渋々とエルメスのところに戻る

 

エルメス「…キノ、振られちゃったねぇ?」

 

エルメスはユーリには聞こえないよう、小声でキノに話す。しかし、その言葉はキノの怒りに触れたようで…

 

キノ「うるさい、タイヤ外すよ?」

 

キノは光無い目でエルメスを見つめ、小声で告げる。しかし、エルメスは笑いながら言う

 

エルメス「おぉ怖い怖い。キノの嫉妬程怖いものはないよ」

 

キノ「…喧嘩売ってるの?」

 

エルメス「まさか、忠告してあげてるんだよ。ほら、よくいうじゃない?男の嫉妬程惨めなものはないってさ」

 

キノ「僕は女だ!」

 

キノが我慢の限界と言わんばかりに大声で叫ぶと、ユーリが驚いて尋ねる

 

ユーリ「うるさいぞ。どうした?キノ、エルメス」

 

キノ「なんでもありません」

 

エルメス「上に同じく」

 

ユーリ「…普通は右に、じゃないか?まぁ何もないならいいが…」

 

ユーリはそういうと調理に戻る。それをみたキノはほっと息をつく

 

エルメス「…冗談なのに、そこまで怒らなくても」

 

キノ「ついていい嘘と悪い嘘があるでしょ…ていうか、あんな言葉一体どこで覚えてくるのさ。僕でさえ初めて聞いたよ」

 

カチャカチャ…

 

キノは後腰部につけてあるユーリと同じ自動装填式ハンドパースエイダー「森の人」を弄りながらそう聞く。

 

エルメス「旅をしてれば知らない言葉の一つや二つ、あって当然でしょ?」

 

キノ「…正論だけど、エルメスが言うと認めたくない」

 

エルメス「おぉ酷い酷い」

 

エルメスは意味深に笑いながらキノに対応する。そんな様子のエルメスなど眼中にないように、キノはぶつぶつと呟く

 

キノ「男の嫉妬が醜い…いやでも僕女だし…女の嫉妬はどうなんだろ…」

 

カチャカチャ…

 

エルメス「…キノってさ、よく別の事考えながらそれ弄るなんてことできるよね。ちゃんとチェックできてんの?」

 

エルメスの言った通り、キノはぶつぶつと呟き、頭の中はユーリでいっぱいになりながらも、カチャカチャと森の人をチェックしていた。

 

カチンッ!

 

キノ「できてるよ…多分」

 

エルメス「多分なんだ」

 

キノ「この世に絶対なんて言葉はないんだよ」

 

キノはそういいながら森の人を元のケースに戻す。すると、後ろからユーリに声をかけられる

 

ユーリ「できたぞ、キノ。冷めない内に食べろ」

 

キノ「ありがとうございます、ユーリさん」

 

キノはそういい、焚き火の近くに移動し、座る

 

ユーリ「ほら」

 

コトッ

 

ユーリは小さなコップにスープを注ぎ、キノに渡す。キノもそれを受け取り、熱を冷ましながら飲む

 

キノ「ふぅー…ふぅー…」

 

ズズズッ…

 

キノ「…ふぅ、美味しいです」

 

ユーリ「そりゃよかったよ」

 

ユーリもキノの隣に座り、スープを飲む。

 

キノ「…ユーリさん、ちょっと前に会った人が言ってましたけど、次の国ってそんなにいいところなんですか?」

 

キノはスープを飲みながら聞く。キノ達がこの森に来る前、1人の女性と出会った。その人は旅人であり、キノ達の目指す国から出国したばかりだと言う。その旅人は、とても良い国だから、ぜひ一度行ってみるといいと言い、旅人はその場を後にした

 

ユーリ「…さぁなぁ、噂じゃ昔は結構平和な国だったらしいが、今はどうだか…だが、余所者は一応歓迎してくれるらしい」

 

エルメス「どうしてわかるの?」

 

ユーリ「道中会った人間も旅人だった。そいつがいい国だって言うんだから、少なからずそう言わせるぐらいの歓迎はしてくれるんだろうよ…保証はしないが」

 

エルメス「ふーん、本当にそうだといいけどね」

 

エルメスは意味深な言い方をし、キノに尋ねる

 

エルメス「キノはどう思う?」

 

キノ「どうも思わない。どんな国だろうと行く事に変わりないんだから」

 

ユーリ「だな」

 

キノはそういいながら、スープをおかわりしていた。しかし、それを聞いたエルメスはちょっと嫌そうに言った

 

エルメス「…ユーリに似てきた」

 

キノ「そう?嬉しいな。ありがとうエルメス」

 

エルメス「お礼言うんだ。むしろ怒ってもいいと思うんだけど」

 

ユーリ「エルメス、お前ちょっと失礼じゃないか?主に俺に対して」

 

ユーリはスープを飲み干したコップを片付けながらエルメスにそう言った。エルメスはちっとも悪気がないように話す

 

エルメス「だってユーリに似てきたら、キノ、もっと無愛想になっちゃうよ」

 

ユーリ「俺が無愛想って言いたいのか?」

 

エルメス「違うの?」

 

ユーリ「…否定はしない」

 

ユーリはバツが悪そうにそう言った。が、キノがフォローする。

 

キノ「ユーリさんは無愛想じゃないよ」

 

エルメス「そう感じるのはキノだからだよ。ユーリさんが優しくするのはキノとお師匠様だけさ。他人にはすごい無愛想だし、容赦ないもん」

 

それを聞いたキノは、さも当然と言わんばかりに答える

 

キノ「それで良いんだよエルメス。ユーリさんの優しさは、僕達だけに向いていればいいんだ。他の人にも優しくするなんてもったいない」

 

エルメス「なにがもったいないんだろう…」

 

ユーリ「俺の優しさなんかどうでもいいだろ?ほら、さっさと支度しろ。今日のうちに目的地に行くぞ」

 

ユーリはそういいながら身の回りの整理をし、必要なものは次々とユーリの、現代で言うフォルツァ型のモトラド「ヤタガラス」に積み込む

 

キノ「わかりました。…それと、ユーリさん」

 

ユーリ「ん?」

 

キノは準備するユーリを止めると、感情を感じさせない程の真顔で尋ねる

 

キノ「僕達だけ、ですよね?」

 

ユーリ「…何がだ?」

 

キノ「ユーリさんが優しくしてくれるのは」

 

キノ「僕達だけなんですよね?…ね?」

 

キノは何度も確かめるようにユーリに尋ねる。しかし、ユーリは至って冷静に答える

 

ユーリ「あぁ」

 

ユーリはキノの目を真っ直ぐ見返しながら、たった一言、そう言った。その言葉を聞いたキノは、少し頬を桃色に染めながら微笑んだ

 

キノ「ならいいんです」

 

エルメス「…独占したがりめ」

 

キノ「なんか言った?エルメス」

 

エルメスの小さな呟きに、聞こえたのか、はたまた偶然なのかは知らないがキノは振り向き、エルメスにきいた

 

エルメス「別に?ほら、早いとこ行こうよ。昼前にはつきたいんでしょ?」

 

エルメスの言葉に、ユーリが肯定する

 

ユーリ「そうだな、予定としてはそのつもりだ。キノ、早くエルメスに乗れ。早くしないと昼飯が抜きになるぞ」

 

キノ「ならまた作ってください」

 

ユーリ「断る、面倒だし、何より材料を仕入れるだけの金が勿体無い」

 

キノ「…ちぇっ」

 

キノはそれを聞くと、エルメスに跨り、エンジンをつける。ユーリも同じようにヤタガラスのエンジンをつける

 

カチッ!

 

ブルルンッ!

 

エルメスは重々しいエンジン音を、ヤタガラスは結構大きなエンジンの爆発音を轟かす。

 

ユーリ「…それじゃ、世話になったな」

 

ユーリは自分達の野宿した場所に向かってそう言うと、ヤタガラスを走らせ、森の奥へと進んでいく。キノもそれに続いてエルメスを走らせ、後を追うようについていった

 

そこに残ったのは、二つのタイヤ痕と、立ち上る土煙だけだった…

 

 

 

 


ここからはオリキャラ詳細

 

名前 ユーリ・フランチェスカ

 

性別 男

 

歳 20歳 (中身は80ぐらい)

 

性格 キノ、エルメス、レジー以外には無愛想であり、なおかつ容赦も情けもかけない

 

身長 194cm

 

体重66kg

 

見た目 長い銀髪を鈴のついた蒼いリボンで後ろにひとまとめにしており、結構中性的な顔をしている。普段は黒い軍帽とロングコートを羽織っており、夏場になると、コートを腰に巻き付け、薄青色のカッターシャツを半袖にまくり、ラフに着ている。下もカーゴパンツに黒のブーツを履いている

 

詳細

ユーリは半分人間と、半分人外の体であり、普段は普通の人間だが、掌や自分の近場の空間から鋭利な鎖を任意に数本同時に出すことが可能。しかし、その力を使えば結構疲れることと、パースエイダーをもっている為、使うことはあまりない。

 

キノと同じように2丁のパースエイダーを持っており、マグナム自動装填式パースエイダー「バンシィ」と「リゼル」というふうに、それぞれ名前をつけて呼んでいる。見た目に関しては現代で言う黒いデザートイーグルである。

 

もともとキノの師匠であるレジーと偶然的に出会い、ひょんなことから一緒に旅をするようになったことがユーリが旅をするようになったきっかけである。キノとはユーリが1人で旅をするようになった時、偶然立ち寄った国で拾った子供である。急遽レジーの家に戻り、世話はレジーに任せ、1人でも生きていけるようにありったけの技術と知識を詰め込んだが、キノはユーリと旅をすると言いだし、ユーリの旅に、レジーの相棒であったカノンを盗み、ついてきたことが、2人の旅のきっかけである。

 

ちなみにユーリは自分の育った国から、歳を取らないようになる試作ウイルスを投与されており、年で言うなら結構な老人だが見た目は結構若い。なお、このウイルスは周りにも感染するため、レジーとキノも同じように歳を取らなくなってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




…はい!如何でしたか?なのだ!オリキャラの名前を考えるのがめんどくさくて他作品のssのオリキャラの名前と同じにしたのだ…だが、あまり気にしないで読んでくれると嬉しいのだ!それでは次回もどうぞなのだ


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偽りの平和

こんにちはなのだ!黒アライさんなのだ!今回はとある国のお話を進めていくのだ!それではどうぞなのだ!



キノ「…ここ、ですか?」

 

ユーリ「…あぁ、そうだ」

 

やっとこさ目的の国についたキノ達。その2人が入り口で目にしたものは、やたらとガラの悪い門番であった

 

門番「よぉ、入国を希望か?」

 

ユーリ「そうだ」

 

門番はそれを聞くとニヤニヤしながら数人がかりでキノ達をジロジロと見る

 

門番「…ふーん、まぁいい。ほら、これが番号だ。奥が控室になってるからそこで順番が来るまで待ってろ」

 

キノ「…いきなり控室、ですか」

 

エルメス「この番号はなに?何かに使うの?」

 

その言葉を聞いた門番は、驚いたのち、呆れたような表情をしながら答える

 

門番「さてはお前達、何も知らずにここに来たんだな?」

 

ユーリ「そうだな、あまり詳しいことは知らん」

 

門番「なら教えてやる、それは選手番号だ。今日は栄えあるコロシアムの日なんだよ!いいか?ここはな、殺し合いの国だ。互いに命をかけて、民衆の目の前で戦うんだ。いわば闘技場なんだよここは」

 

門番の言葉にユーリは顔をしかめながら問う

 

ユーリ「…俺達は闘技場に参加したいわけじゃない。観光目的として来てるんだ」

 

門番「どこの馬の骨ともしれねぇ奴を国にいれる訳ねぇだろ。アンタがこの国に入るには、戦士として入らざるを得ないのさ」

 

門番の言葉に、奥で酒でも飲んでいる数人の男達がほくそ笑みながらこっちを見ていた。キノは不快感を覚えながら講義する

 

キノ「…ここはとても良い国だと聞いたんですが」

 

門番「そうとも、ここは凄くいい国さ。娯楽に満ち溢れてるからな。命を賭けた娯楽に満ち溢れている。前の時代は退屈だった…平和を重んじるあまり毎日がつまらなかった。だがそれがどうだ。今じゃこの国は、今までで一番盛り上がっている」

 

そんな言葉には耳を貸さず、ユーリはどうにかして入らないものかと交渉するが…

 

ユーリ「…どうしても無理なのか?」

 

門番「駄目だな、諦めな。まぁ安心しろよ、何も助かる道が無いわけじゃない…降参すればいい。仮にもし相手が心優しい戦士だったら、降参を認めて命だけは助けてくれる…が、助かったとしても、この国で一生奴隷として働く羽目になるがな」

 

エルメス「うわー」

 

門番がそこまで話すと、奥にいる門番の同僚とも思える男が近づいて来た

 

同僚「そういやよ、前にきた夫婦の旅人は笑えたよな」

 

門番「んぉ?あぁ!あの2人か。確かにあれは見物だったな!2人で闘技場に参加したのはいいものの、順調に2人は勝ち進めていったのに、肝心の夫は頭をかち割られて死んだんだからな!」

 

キノ「…」

 

2人の男の言葉に、キノは自分達が先日野宿した森の手前ですれ違ったこの国に対する情報をくれた旅人を思い出していた。その旅人は女性だけの旅人であった。もし彼女がここに来ていたのなら…

 

ユーリ「…仕方ない…出直すとす「やります」…は?」

 

キノ「僕が出ます」

 

エルメス「え、本気?」

 

ユーリの言葉を遮ったのはキノであった。キノは渡されていた番号札を握ると、奥の控室に行こうとする

 

門番「おいおい坊主、本気か?お前に何ができんだよ。子供だからって情けをかけるほど他の戦士達は甘くないぞ。それともなにか?その可愛らしい見た目で相手を魅了しようってか?」

 

門番の言葉に、奥の男達もゲラゲラと下品に笑いながらキノを見る。キノは一旦止まると、門番の目の前に立ち…

 

キノ「…」

 

門番「?なんだよ、怒らせちまったか?悪かったよ、ガキには怖かっただろうな!ハハ「カチャッ!」…は?」

 

キノは目にも止まらぬ速さ相手の心臓にカノンを突きつけた。

 

ゴリッ…

 

キノ「…これで、いいですか?」

 

キノは身長が小さいため、見上げる様な感じに門番に問う

 

門番「…わ、分かった、通っていい。アンタの参加を認めよう…」

 

キノ「…」

 

スッ…

 

その言葉をきいたキノは、カノンを納め、控室へと歩いていく。

 

ユーリ「…やれやれ」

 

エルメス「こりゃユーリも出ないとね」

 

ユーリ「冗談言うな。出るわけないだろ」

 

エルメス「え?いいの?キノ死んじゃうかもよ?」

 

エルメスは意外そうにユーリに言うが、ユーリは淡々と告げる

 

ユーリ「もし万が一そんな状況になったら、キノが殺られる前に俺が場外から撃ち殺せばいい話だ。それに」

 

エルメス「それに?」

 

ユーリ「キノに勝てる奴なんざそうそういない」

 

エルメス「言えてる」

 

ユーリはヤタガラスとエルメスを押し、キノの控室へと向かう。

 

 

 

 

 

エルメス「…それにしても、キノが出るなんて意外だな」

 

ユーリ「そうだな。こういうことには極力関わるなと言ったはずなんだが…」

 

ユーリとエルメスはキノの待つ控室に着く間、何故キノが出場することを決めたのか、その理由を考えていた

 

エルメス「…あの旅人のことかな?」

 

ユーリ「あん?」

 

エルメス「ほら、森の手前であった女の旅人だよ。あの門番が話してた夫婦って、あの女性のことでしょ?…キノ、怒ったのかな」

 

ユーリ「…さぁな、あいつのことは、あいつにしかわからないからな。今言えるのは、なんらかの理由でキノは出ることを決めた。それさえ分かれば俺はいい」

 

そう言ってユーリはキノのいる控室に着いた

 

ガチャ…

 

キノ「…」

 

扉を開けたその先には、目の前でカノンを握り、瞑想しているキノがいた

 

キノ「…ごめんなさい」

 

ユーリ「ん?」

 

キノ「勝手な行動しちゃって…」

 

キノは目を開けると、申し訳なさそうにそう言った。だが、ユーリは特にどうこうするわけでもなく、エルメスとヤタガラスをスタンドをだして立たせた

 

ユーリ「別にいい。俺は、お前を束縛するつもりはないからな。好きに動くといいさ…」

 

キノ「…ユーリさんは出るんですか?」

 

キノはカノンの弾の残弾数を確認しながらそう言う

 

ユーリ「出るわけないだろ、弾薬の無駄だ」

 

キノ「そうですか、良かったです」

 

キノは微笑みながらそう言った。その言葉に、エルメスが不思議そうに聞く。

 

エルメス「なんで?ユーリがいた方がいいんじゃないの?」

 

キノ「ユーリさんと対戦なんてしたくないからね。僕の銃は、家族を撃つために持ってるわけじゃないから」

 

カノンに弾を込め、元のホルスターに戻すと、キノはユーリに一つの頼み事をした

 

キノ「ユーリさん」

 

ユーリ「なんだ」

 

キノ「…不躾なんですけど、ユーリさんのバンシィ、貸してくれませんか?」

 

キノはそう言って、ユーリの腰に付いているパースエイダーを指差した

 

ユーリ「…別に構わないが、何故だ?」

 

ユーリはキノにバンシィを渡しながらそう聞いた。キノはその問いに少し恥ずかしそうに答えた

 

キノ「…ユーリさんから、直に力をもらえる様な気がするんです。片方はお師匠様の、もう片方はユーリさんの力がある。なら、僕が負ける事は絶対にありません」

 

キノはそういいながらカノンとバンシィをそれぞれのホルスターに納める

 

ユーリ「…そうか、だが気を付けろよ?俺の銃は威力は高いが反動もでかい。連射が効かない事は頭に入れておけ」

 

キノ「はい、わかりました」

 

エルメス「そういやさ、その試合っていつあるの?」

 

エルメスがキノに聞く。入り口にいた門番には試合の開催時間などは聞かされていなかったから知らないのも当然である

 

キノ「…これだね」

 

カサッ…

 

キノは控室の机から一つのプリントを取ると、エルメスに見せる

 

エルメス「…ふーん、今日の昼からなんだ。ていうかもうすぐじゃない?」

 

ユーリ「そうだな、今が丁度11時少し前ぐらいだが、開始時間にはまだ1時間近くはある。そこのベッドで今のうちに体を休めておけ」

 

キノ「わかりました」

 

ユーリが控室のベッドを指差しながらキノにそう言った。キノも頷き、ベッドに座り、横になった

 

ゴソゴソ…

 

キノ「…ユーリさん」

 

ユーリ「今度はなんだ?」

 

キノ「一緒に寝ませんか?」

 

キノは体を横にしたまま腕をユーリに向けて伸ばすが、ユーリはその手を握っただけであった

 

ユーリ「結構だ」

 

キノ「そう言わずに、お願いします」

 

ユーリ「…キノ、何を考えてる?」

 

キノの意味不明な行動に、ユーリは少し困惑しながらキノに問うが、当の本人は軽く微笑みながらユーリに頼む

 

キノ「緊張しちゃってるんです。少しだけでいいので、寝ませんか?」

 

エルメス「いいじゃん、寝てあげたら?時間になったら、僕が起こしてあげるよ」

 

ユーリ「…そういう問題じゃないし、キノにいたっては緊張する様なガラじゃないだろ…全く…」

 

ユーリはキノに近づき、隣に座ると、キノの頭を自分の膝に乗せた

 

ユーリ「生憎俺は眠くない。寝ないが枕程度にならなってやる」

 

キノ「…フフッ…ありがとうございます、ユーリさん」

 

ユーリ「いいから、休んでろ」

 

ナデナデ…

 

ユーリはキノの頭を撫でながら次にいく国の情報などをどう集めようか考えていると、自分の膝の上で目を瞑ったキノから、一言だけ告げられた

 

キノ「…ユーリさん、好きです。愛してます」

 

キノはそういうと、返事を待たずにユーリの腹部に顔をグリグリとうずめながら眠った

 

ユーリ「…」

 

エルメス「…嬉しい?」

 

ユーリ「別に…キノからは何回も言われた言葉だし、本気にするつもりもない」

 

エルメス「えぇ〜、なんでぇ?」

 

ユーリ「長い付き合いなんだ、今更そんな目で見れるか」

 

エルメス「それを見てあげなきゃ。キノ、可愛そうだよ?」

 

エルメスの言葉に、ユーリは苦虫を噛み潰したような表情をしながらエルメスに愚痴を言う

 

ユーリ「…キノは大切だが、家族としてだ。小さい頃から好きだのなんだの言われちゃいるが、キノ自身は今でも子供なんだ。成長すれば、いい男なんざごまんといるだろ」

 

エルメス「キノかわいそー」

 

ユーリ「黙れ。…俺は、今を大切にしたいんだよ。今の関係が、俺にとってもキノにとっても丁度いい」

 

ユーリはそういいながらキノの頭を撫で続けていた…

 

キノ「…むにゅ…」

 

 

 

 

ーー約1時間後ーー

 

キノ「…ふわぁ〜…くぁ…」

 

キノは大きなあくびをしながら目を開けると、目の前には自分が敬愛しているユーリの顔が下から見えた

 

ユーリ「…起きたか、丁度良かった。もうすぐ始まるぞ」

 

エルメス「具体的にはあと13分ぐらいだね」

 

エルメスは控室についてある時計を見ながらそう答える。それを聞いたキノはユーリの膝枕からは起きずに、懐のカノンとバンシィを抜き、両手でしっかりと握りしめる

 

ギュ…

 

キノ「…ふぅ」

 

ユーリ「…本当に緊張しているのか?」

 

キノ「…まぁ、それなりには…ですが」

 

キノ「ユーリさんとお師匠様の訓練に比べたら楽なものです」

 

キノはユーリの膝の上から微笑みながら答える。ユーリも、それを見ると、軽く笑いながら告げた

 

ユーリ「ならさっさとどけ。いい加減足が痺れた」

 

キノ「…もうちょっとだけ「早くしろ」…はい…」

 

キノがもう少しユーリにねだろうとしたが、容赦の無い一言により、あっさりと撃沈した

 

『ザァー…ザザッ…』

 

キノ「…?」

 

そうこうしていると、控室の上方向から、放送が聞こえてくる

 

『…あー、聞こえてるか?もうそろそろ出場だ。さっさと準備して来な』

 

エルメス「…だそうだよ?キノ」

 

キノ「はいはい、今いきますよ」

 

キノはそういいながらしぶしぶとユーリの膝から起き、カノンとバンシィをホルスターに戻しながら言う

 

キノ「…じゃあ、行ってきます」

 

ユーリ「あぁ、行ってこい」

 

エルメス「無いとは思うけど、最後になるかもしれないから一応言っとくね。さよなら、キノ。楽しかったよ」

 

キノ「はいはいさよならエルメス。そこそこ楽しかったよ」

 

エルメス「うわー、もうこれ泣いていいよね?ユーリ」

 

キノの言葉に、エルメスが棒読みでユーリに話す。それを見たキノは笑いながらさっきの言葉を取り消した

 

キノ「冗談だよ、楽しかった。そして、これからも楽しくなると思うよ」

 

 

キノはそういいながら、控室を出て、闘技場へと足を進めた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




…はい!如何でしたか?なのだ!自分、キノの旅はある程度知っているのだが、本自体は持っていないからストーリー自体がどう進んでいたか忘れがちなのだ。だからオリ話が多くなるかもしれないのだ。生暖かい目で見守ってほしいのだ!それでは次回も読んでくださいなのだ!


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力づく、強引に

こんにちわなのだ!黒アライさんなのだ!今回はとりあえず適当に考えついたネタを書いていくのだ!それではどうぞなのだー!


キノ「…これが…闘技場…」

 

キノが呟く。キノの目の前にあるのは、上から見ると円形のエリアに、瓦礫などが積み重なってできた壁が複数あるだけの場所である。その外側には大勢の観客が歓声を上げながらキノを見て叫ぶ

 

観客「おいおい!ここは子供の遊び場じゃねぇぞ!!さっさと降伏するか死にな!」

 

観客「なるべく長く持ってくれよー?でないとつまんねぇかんなぁ!」

 

様々な観客がキノにブーイングを起こす。キノは無表情のままカノンを握る

 

キノ「…やっぱり、見せ物はあまりいい気分じゃないな…」

 

キノはそう呟きながら大勢の観客をぐるっと見回すと、ユーリとエルメスが見えた

 

キノ「…ユーリさんに見られるなら、ちょっとだけ儲け物かな」

 

ガコォン!

 

キノが独り言を言っていると、キノが出てきた扉の反対側から、対戦相手が出てくる。

 

ジャララ…

 

その男はキノの倍ぐらい大きな体をしており、鎖のついた巨大な鉄球が引きずられていた。

 

大型の男「…あん?テメーが相手か?」

 

キノ「そうですが、なにか?」

 

キノの言葉に、男は大層面倒な顔をした

 

大型の男「んだよ、こんなガキが相手とは、面白くねぇなぁ…だが…」

 

男はそれだけ言うとジャラリと鎖を引っ張る。

 

大型の男「ここに出たからにゃぁ容赦はしないぜぇッ!」

 

男はそう言いながら鉄球をキノに向かってぶん回した。…いや、ぶん回そうとした、が…

 

 

 

パァンッ!!

 

 

キノ「…」

 

大型の男「…へ?」

 

 

ズドォーン!

 

 

突如として鳴り響く銃声、そしてそのあと、鎖の《千切れた》鉄球が男の真横に落ちる。

 

 

 

大型の男「…えっと…」

 

男が手元を見ると、鉄球につながっていたはずの鎖が、根本から千切れ、柄だけになった物をみると、恐る恐るキノに聞く

 

大型の「これ…アンタが撃って壊したのか?」

 

キノ「ええ、そうです。武器もないようですし、降参してはどうです?今なら認めますよ」

 

キノは男に銃を突きつけながら無表情でそう告げる。その言葉に、男はキノを真っ直ぐと見返し…

 

大型の男「あ、じゃあお願いします」

 

土下座しながらそう告げた

 

男のその行動を見た観客達は、ブーイングよりも、キノの電光石火の速射により、あまりにも早く終わった対戦に呆気を取られていた

 

 

 

 

 

 

 

ユーリ「…あっけないな」

 

エルメス「よく言うよ、予想通りなくせに」

 

ユーリ「予想より相手が弱すぎた。これじゃキノの訓練相手にもならない…」

 

ユーリは観客席に座りながら溜息をつき、リゼルを触る

 

ユーリ「キノの憂さ晴らしに付き合える人間がいるといいが…」

 

エルメス「ユーリがその相手になってあげなきゃ。キノもそれがいいと思うよ?」

 

ユーリ「丁重に断らせてもらう。キノの相手などしていたら、精神的にキツイ…いろんな意味でな」

 

ユーリの嫌そうな顔を見たエルメスは嬉しそうに笑いながら話す

 

エルメス「ユーリのその嫌そうな顔、久しぶりに見たよ。でもまぁ確かに、ユーリ相手だとキノは鉛玉じゃなくて、パースエイダーなんか投げ捨てて喜んで身体を差し出しに来そうだよね」

 

ユーリ「…強く否定できないのが悲しいな…」

 

エルメスの言葉に、ユーリは頭を押さえながら再度溜息をつく。

 

ユーリ「どうして…あんな子に育ってしまったんだ…昔はもっと純情ないい子だった筈だ…手間暇かけて、もちろんなるべく愛情も込めて育てていたのに…」

 

エルメス「その愛情を教えた人が悪かったんじゃないかな?主にお師匠様とか」

 

ユーリ「…レジー?いや、あいつはないだろ…一緒に育てていたが、あいつからキノにそこまで関わることなんてほとんどなかったぞ?」

 

エルメス「問題はそのお師匠様から歪んだ愛情を教わったことだね」

 

エルメスはそう言いながら昔を思い出す…

 

 

 

 


 

 

レジー「いいですか?キノ。旅をするということは自由を手に入れる代わりにその他の物全てを捨てなくてはなりません。例としては、家族、家、親友、仲間、国、身の安全の保証、違う角度から見れば…自分の愛する人、いわば恋人などもですね。まぁ今の時点で国も家族も捨て、子供で恋人もいない貴方にはほとんど関係ないでしょうが…ここまではわかりますか?」

 

キノ「はい」

 

エルメス「オッケー」

 

 

長く美しい黒髪を持ち、全身をスーツで軽く着こなしている若い女性、キノのお師匠様ことレジーがまだ小さく、可愛らしい年相応の女の子の面影を残すキノと、ユーリに作られて間もないエルメスに旅についての情報を教えていた。

 

レジー「故に、私は旅をして思いました…欲しい物は手に入れられる内に、目の前にある内に、身近にある内に、力を使ってでも奪うべきであると…だってそうでしょう?私達旅人はただ旅をするということだけで多くの物を失ってしまう。その代わりに自由が手に入るわけですが、それだけです。たったそれだけ…どうみても割に合いません。そう思うでしょう?」

 

キノ「はい」

 

エルメス「わぁお、強引〜」

 

レジーの淡々とした長い説明に、キノは嫌な顔せず真面目に頷きながら聞く

 

レジー「だから私は、奪うことにかけて容赦はしません。欲しいと思った瞬間に即行動です。それがたとえ弱者だろうと強者だろうと何者であろうと関係ありません。奪うことに罪悪感を感じる必要もありません。欲しいと思わせる相手が悪いのですから。だから貴方も、欲しいと思った物は命の危険を考え、死なない程度に奪いなさい、いいですね?」

 

エルメス「鬼畜だね、よく出るおとぎ話の悪役よりもむごい思考だ」

 

キノ「一つ質問です」

 

レジーの説明に、キノは勢いよく右手を上げて告げる。レジーはそれをみてエルメスの言葉など気にせずキノに聞く

 

レジー「なんでしょう、キノ」

 

キノ「お師匠様は一体、何を奪ったのですか?」

 

キノの質問に、レジーは腕を組み、少し唸りながら話す

 

レジー「…悪いですが、今まで奪った物の事などいちいち覚えていません」

 

キノ「そうですか、なら追加でもう一つ質問です」

 

レジー「なんでしょう」

 

キノ「今まで奪った物の中で、一番価値があるのはなんでしたか?」

 

レジー「…一番価値のある物、ですか。子供のくせになかなか難しい質問をしますね」

 

キノの答えづらい質問に、レジーは再度腕を組み、静かに佇む

 

 

 

1分後

 

レジー「…」

 

キノ「…」

 

エルメス「…」

 

 

 

2分後

 

レジー「…」

 

キノ「…」

 

エルメス「…まだ?」

 

 

 

3分後

 

レジー「…」

 

キノ「…」

 

エルメス「…長いなぁ」

 

 

 

4分後

 

レジー「…」

 

キノ「…」

 

エルメス「…えちょっとまって、そんな考えるような質問だっけ?」

 

 

 

5分後

 

レジー「…」

 

キノ「…」

 

エルメス「もういいって!適当に答えれば済む話でしょ!?何真面目に考えてんのさ!」

 

 

6分後

 

レジー「…そうですね」

 

キノ「!」

 

エルメス「やっとまとまった?一つの質問に5分もかけないでよもう…」

 

 

エルメスが文句を言うが、レジーは聞こえていないかの如く無視する

 

レジー「私が奪ったものの中で一番価値のある物、それは…」

 

キノ「それは…?」

 

エルメス「なになに?」

 

 

 

 

レジー「お金です」

 

 

 

キノ「…」

 

エルメス「…え、お金?ホントに?ダッサ「ガンッ!」フグゥ…」

 

レジーはエルメスの言葉を途中で蹴りを入れることによって中断させた

 

レジー「…と、言いたいところですが」

 

キノ「!」

 

レジーはそこで言葉を止めると、目を閉じ、静かに告げた

 

 

 

 

 

レジー「やはり、ユーリですね」

 

 

 

 

キノ「…ユーリ、さん?」

 

エルメス「え、なになに、どゆこと?」

 

キノもエルメスが不思議そうに尋ねる。レジーもゆっくりと語る

 

レジー「ユーリは、とある国の科学モルモット…いわば実験体でした。ユーリが特殊な力を持ち、歳を取らないことは知っているでしょう?あれはその時に投与された特殊ウイルスの名残です」

 

レジーはキノの目の前のイスに座り、カノンをいじりながら続けて話す

 

レジー「私は、その力を持った彼を欲しいと思いました。色々なことにつかえそうですしね。荷物運びとか…まぁそれで、国の実験体というしがらみから彼を奪ったのです。文字通り、これで…ね」

 

カチャリ…

 

キノ「…」

 

エルメス「…」

 

レジーの言葉を、キノ達はわらうでもなく、恐れるでもなく、ただ静かに聞く

 

レジー「まぁそれで一緒に旅をしました。いろんなところを見て、一緒に戦って…彼のウイルスのせいで私も年を取らなくなってしまったし、ずいぶん長いこと一緒にいましたね…最初はただの荷物持ち、いわば奴隷のようにしか思っていなかったんですが…なんと言うべき、なんでしょうね」

 

レジーは少し微笑みながらキノを見つめる。しかし、この後キノがとんでもないことを言い出す

 

キノ「…お師匠様は、ユーリさんが好きなのですか?」

 

エルメス「え」

 

レジー「!」

 

キノの何気ない一言により、周りの温度が凍りついた

 

エルメス「…キノ、ちょっとヤバイよ、早く誤った方がいいんじゃない?また眉間にゴム弾がとんでくるよ」

 

エルメスがそう言うが、レジーは意外な答えをだす

 

レジー「あら、わかりますか?」

 

エルメス「え」

 

キノ「…なんとなく、ですけど」

 

レジーはフフフと微笑みながら語る

 

レジー「流石、小さくても女の子ですね。貴方の言う通り、いつのまにかそういう対象として見ていたんですよね…私にとっては、初めてでしたし、こんな気持ちを教えてくれた彼は…」

 

レジー「私にとって、一番の価値のある略奪品ですね」

 

キノ「…」

 

エルメス「…うっそー…」

 

レジーは恥ずかしがるでもなく、堂々とそう言い切った。それを見たキノは、心にある事を誓った

 

 

キノ「…わかりました。お師匠様の教えに従って、旅をする時は欲しいものは遠慮なく奪うようにします」

 

 

 

キノ「文字通り、力づくで」

 

 

 

キノはレジーの目を真っ直ぐと見返しながら無表情でそう告げた

 

 

 


 

 

エルメス(それからすぐの事だったっけ…ユーリが一人旅をしようとすると、キノがお師匠様のカノンを抜き取って僕に跨がり、ユーリの後をおって半端無理やり旅についていったのは…)

 

エルメスは昔の事に感慨深そうにしていると、ユーリが訂正する

 

ユーリ「歪んだ愛情って…確かにあいつはほとんど感情を感じさせない程冷酷で残酷で非道な奴だが、子供を育てる愛情ぐらいはあるだろ」

 

エルメス「ユーリ、それ本人の前では言わないようにね」

 

ユーリ「言うものか。言った瞬間口に風穴を開けられるだけだ」

 

ユーリは静かにキノの次の対戦を待つ

 

エルメス(…今ならなんでキノが無理やり旅についていったのかが分かるね」)

 

 

 

エルメス(無理やり奪ったんだ…ユーリを…お師匠様から…)

 

エルメス「…結果的だけど、ね…くだらないなぁ、よくそれで命を危険に晒す旅にでたもんだよ」

 

エルメスも溜息をつきながらキノの次の試合を待っていた

 

 

 

 

 




…はい!如何でしたか?なのだ!よければ感想などくださいなのだ!それではまた次回も読んで下さいなのだ!


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キノの顔も三度まで

こんにちはなのだ!黒アライさんなのだ!もう一つの自分が投稿している小説と交代ずつで投稿しているから結構遅くなっちゃうけど、気ままに待っていて欲しいのだ!それではどうぞなのだ!


キノ「…ふう」

 

大型の男の降伏を許したキノは、その男がコロシアムの管理者のような人物に回収…というよりかは手錠をつけられ連行されるの見届けた。そして一旦自分の控室に戻った。1時間後にはまた対戦相手が現れるらしい。キノはそれに備えて自分のカノンとリゼルをくまなくチェックしていた

 

キノ「…リゼル、綺麗だなぁ…流石ユーリさんだ……終わったら、褒めてくれるかな…」

 

しかし当の本人は試合に対する緊張など全くなく、尊敬と深い恋情を向ける男で脳内を埋め尽くしていた。

 

キノ「…一応、認められてる…んだよね?だっていつも好きだって言ってるけど拒絶されたことなんて一度もないし、ユーリさんも愛してくれてるに違いない。うん」

 

キノはぶつぶつと呟きながらリゼルをいじくり回す。しかし、その眼はどことなく深い闇を抱えてるように黒く澱んでいた。

 

ガチャ…

 

エルメス「だといいけどねぇ」

 

ユーリ「…」

 

その控室の入り口から、ユーリとエルメスがそう言いながら入ってきた。エルメスの人事のような声色とは裏腹に、ユーリは相変わらずの無表情だった。

 

キノ「あ、ユーリさん」

 

エルメス「僕もいるよ」

 

キノ「見てくれましたか?ユーリさん」

 

エルメス「ねえっt「どうでしたか?僕、うまく戦えてましたか?」…もうキノの相棒やめよっかな…」

 

ユーリ「…」

 

キノの怒涛の質問に、ユーリは控室のベッドに腰掛けながら淡々と言った

 

ユーリ「あんなあっけない試合で、それが判断できる訳ないだろ?あの程度で満足していちゃ、これから先、命がいくつあっても足りない」

 

ユーリの言葉に、キノはさっきとはうって変わってしょんぼりしながら返事をした。

 

キノ「…はい」

 

キノも少しだけでいいから自分の師匠に褒められたかったのだろうが、ユーリの言葉は正論で、何一つ言い返すことはできなかった

 

ユーリ「…だが…」

 

キノ「…?」

 

ユーリ「…まぁ、初弾で終わらせたのと、無闇に殺さなかった点については、よかったんじゃないか?」

 

キノ「!…えへへ…ありがとうございます、ユーリさん」

 

ユーリはしょんぼりと落ち込むキノを見て、多少なりとも罪悪感があったのだろう、なんとか褒めようとしてそれっぽいことを言っただけだったが、キノにとってはそれでも嬉しかったらしく、恥ずかしそうにはにかみながらそう言った

 

エルメス「にやけるのはいいけどさ、次の試合って結構早く始まるんでしょ?対策はしてるの?」

 

キノ「知らない相手に対策も何もないでしょ?僕はただ、コレに弾をこめて引き金を引くだけさ」

 

キノはそういいながら腰につけているカノンを指差す。

 

ユーリ「…そう単純にいく相手ならいいんだがな…」

 

ユーリは溜息混じりにそう呟きながらベッドから腰を上げる

 

ユーリ「俺は一足先に観客席に行く。キノ、気を付けろよ」

 

ギュッ

 

キノ「もう行っちゃうんですか?」

 

キノはそういいながら物寂しげにユーリの袖を掴み、そう尋ねた。

 

ユーリ「悪いが、俺たちも急いできたもんでな。俺のヤタガラス置いてきてるんだよ。早く行かないと盗られる」

 

エルメス「僕もそうだけど、ヤタガラス大きいから地味に重いんだよね」

 

ユーリはそんなキノの様子にも慣れた物だと言わんばかりに事情を説明した。理由を聞いたキノはそれならば仕方ないと思い、仕方なく、本当に仕方なく袖を離した。しかし、そのかわりにユーリに一つお願いごとをした

 

キノ「…ユーリさん、ユーリさん」

 

ユーリ「なんだ?」

 

キノ「僕が優勝したら、ご褒美下さい」

 

ユーリ「…褒美?」

 

エルメス「ロクでもないもの頼みそうだなあ…」

 

キノの言葉に、ユーリは顔をしかめながら少し考えた。

 

ユーリ「…何がいいんだ?」

 

キノ「キスして下さい」

 

ユーリ「エルメスとでもしてろ」

 

ガシッ!

 

キノ「そう言わずに」

 

ユーリは間髪入れずに断るが、キノも負けじとユーリの腕を掴む。

 

ユーリ「…ッ…お前のその細っちい腕のどこにこんな力があるんだッ…百歩譲って褒美をやるのはいいが、物限定にしてくれ」

 

ユーリは仕方なく褒美をやることは認めたが、少し制限がついた。しかし、キノには制限など全くもって関係なかった

 

キノ「ならユーリさんを下さい」

 

ユーリ「キノ、お前話聞いてたか?物限定にしろって言っただろうが…!」

 

キノ「ユーリさんと言う「物」を下さい」

 

ユーリ「俺は物じゃない!」

 

バッ!

 

キノ「…ぁ」

 

ユーリが珍しく叫び、無理やりキノを振り払うと、キノがうっすらと涙目になる

 

ユーリ「…今更そんな目で見られても困る…もっとこう、可愛らしい物とかあるじゃないか…女の子だろう?」

 

キノ「失礼ですね、ちゃんと女の子です。それに、僕は僕なりには女らしい物を頼んだつもりですが」

 

ユーリ「俺のどこが女らしい物なんだよ」

 

キノ「女性が男性を求めるのは自然でしょう?」

 

ユーリ「お前そういう規模の話をしていたのか…?」

 

ユーリがめんどくさそうに相手をしていると、放送がなる

 

『聞こえているか?出番だぜ、早く来な』

 

ピタッ…

 

キノ「…」

 

ユーリ「…呼ばれているぞ?」

 

その放送の言葉に、キノの体がピタリと止まる。数秒後、溜息をつきながらユーリから離れる

 

キノ「…ここまで、ですか…全く…」

 

ユーリ(…助かった…)

 

キノ「…空気を読まない放送だな…」

 

ユーリ(俺にとってはナイスタイミングで来てくれたがな…)

 

キノの小さな呟きに、ユーリは心の中でそう言った。キノはそんなユーリの心の中などいざ知らず、一足先に部屋を出ようとする

 

ユーリ「…キノ」

 

キノ「?なんですか?」

 

ユーリ「褒美だが、こっちで考えておこう」

 

キノはそれを聴くと、一瞬目を見開き、驚いた。そして恐る恐る聞いてくる

 

キノ「…キス、してくれるんです?」

 

ユーリ「する訳ないだろ、物だよ物」

 

キノ「ですよね」

 

ユーリの言葉に、キノはちょっとしょんぼりしてしまったが、すぐにいつも通りになった。

 

キノ「…じゃあ、期待させてもらいます」

 

ユーリ「あぁ」

 

キノはそういうと、控室から出て行った。そこに残ったのはユーリとエルメスだけになる。

 

エルメス「…物をあげるのはいいけどさ、お金、あるの?」

 

ユーリ「…ないな。もともとこの国で少し稼ぐつもりだったから金は携帯食を買う分しかない」

 

エルメス「どうすんの?いまさらあげないなんて言ったら流石にキノ怒っちゃうよ?」

 

1人と一機しかいない静かな控室の中で、エルメスがユーリに聞く。

 

ユーリ「…ま、なんとかするさ」

 

エルメス「ふーん」

 

 

 

 

 

 

 

エルメス「…死なない事を祈ってるよ」

 

ユーリ「今のどこに俺の死を危惧するものがあったんだよ…」

 

ユーリはそう言いながらエルメスを押して元の観客席に戻る…

 

 

 

 

 

 

 

ーーコロシアムーー

 

ガコォン!

 

キノ「…」

 

キノは闘技場の片方の大きな扉から入場してきた。対してもう片方の扉も開き、随分と奇妙な男があらわれた。

 

奇妙な男「…ほぉ?こんな小さな子供が、一回戦を勝ち進んだと言うのか…」

 

その男は、全身に黒光りする刃の付いた小さな鱗のような物を胴体と腕部に無数に取り付けてあり、歩くたびにチャリチャリと金属音を鳴らしていた

 

奇妙な男「だが!所詮マグレで勝っただけの子供に、この俺が負けることはなぁい!それを今に思い知らせてやろう!」

 

キノ「そうですか」

 

奇妙な男の変なテンションにも惑わされず、キノは無表情に返事をする。その眼は、すでに男のありとあらゆる部分に注目していた。どう攻撃してくる?何を使う?相手はどんな戦い方をする?自分はどういう風に攻めるべきか?キノはそれを脳内の中で冷静に分析し、慎重に自分は最初の一歩をどう踏み出すべきかを考慮していた

 

 

 

 

 

エルメス「なんか、全身キラキラしてるね」

 

ユーリ「あぁ、夕日も相まって眩しいな。おかげで目が痛くなりそうだ」

 

エルメス「…そこなんだ」

 

ユーリのちょっと違う疑問に、エルメスは呆れたように言った。

 

 

 

 

奇妙な男「さあいくぞ!でりゃあっ!」

 

ビュビュッ!!

 

キノ「!」

 

奇妙な男は身体に付いている鋭い鱗のようなものをとると、キノに投げつける。

 

キノ「…この程度」

 

キノは軽く身体を捻らせ、いとも簡単に避ける。

 

キノ(…本当にこれだけ?たったこれしか攻撃の方法がないのかな…)

 

キノは内心ちょっとがっかりしながらもリゼルのグリップを握る。が、突如として奇妙な男が叫ぶ。

 

奇妙な男「かかったなアホがぁ!俺の武器は、投げつけた後も急旋回し、投げた持ち主の方へ必ず戻ってくるのだ!」

 

キノ「!」

 

キノが後ろを振り向くと、男の言う通りに鱗は急旋回し、今度はキノの後ろ側から飛んでくる

 

奇妙な男「そして!もう一度この鱗を投げると、前と後ろからの挟み撃ちという訳だ!貴様に逃げ場などない!」

 

ビュビュッ!

 

キノ「…そうですか」

 

キノはそれだけいうと、意外な行動に出た。

 

 

 

サッ…

 

キノは何をするでもなく、ただ頭を低くしてその場でしゃがんだ

 

キノ(貴方の元へ必ず戻るのなら、地面へ姿勢を低くすればあたらないだろうに…)

 

キノの思惑通り、後ろから迫っていた鱗はキノの頭上を通り抜け、正面から来ていた鱗にぶつかり、地面へ落ちた

 

奇妙な男「な!?何ィ!?」

 

奇妙な男は驚きのあまり、後退りした。キノはおもむろに立ち上がり、容赦なくリゼルを抜き、奇妙な男の頭に銃口を向ける

 

キノ「こんな当たり前のことに驚かないで欲しいものですが…まぁとりあえず…」

 

 

 

 

 

キノ「降参、してください」

 

カチャリ…

 

 

キノは銃口を向けたまま静かにそう告げた。しかし、奇妙な男は断固としてそれを受け入れなかった

 

奇妙な男「こ、降参だと!?ふざけるな!俺がこんな子供に負けるものか!たかが一回マグレで避けたぐらいで、調子に乗るな!」

 

奇妙な男は怒涛の勢いでまくしたてるが、キノは冷静に奇妙な男に告げる

 

キノ「そうですか。まぁ貴方がどう思おうと知りませんが、貴方がその武器を投げるよりも早く、僕は引き金を引くことができます。仮に貴方が、僕が引き金を引くより早く投げつけることができたとしても、僕の銃弾が貴方の頭に到達することの方が圧倒的に速い。ここまで言えば、分かりますよね?」

 

キノは男にわかりやすいように、一字一句丁寧に今の置かれている状況を説明した。だが、男は自分のプライドが許さないのか、降参する事を一向に認めようとはしなかった

 

奇妙な男「うるさい!確かにそうかも知れんが、お前の言うことは、俺の頭に銃弾が当たって初めて通用するのだ!だが、お前の放った銃弾が、必ずしも俺に当たる決まったわけではない!故に俺はまだ負けていn「バァンッ!!」…へ?」

 

奇妙な男が叫び続けていると、一つの銃弾が自分の顔面のすぐ真横を通り、当たっていない筈なのに頬に一筋の傷を残していた

 

 

 

 

キノ「仏の顔も3度までって言葉、知ってますか?」

 

カチャリ…

 

キノはそれだけいうと、リゼルのハンマーを起こし、冷酷に銃口を向け続ける

 

 

キノ「最後です、降参してください…それと、誤解しないで欲しいのですが…」

 

キノ「これは忠告ではなく、警告であるという事を覚えておいてください」

 

キノは感情を感じさせない程の冷たい無表情で男にそう告げた

 

 

 

 

 

 

 

エルメス「あーあ、相手、以下承知だね」

 

ユーリ「意気消沈な。…まぁ、言葉の通じない奴にはあれが一番手っ取り早い」

 

エルメス「ユーリの場合、外さずに身体のどっかに当てるもんね。そう考えると、わざと外したキノは優しいんだなぁ」

 

ユーリ「俺が非道みたいに言うな。パースエイダーを撃つのに、優しさも何もないだろ…」

 

ユーリはエルメスの言葉に呆れていた。エルメスはそんなユーリを茶化すように話す。

 

エルメス「仏の顔が三度なら、キノの誘いを何度も断るユーリの顔は、一体いくつなんだろうね?」

 

ユーリ「少なくともお前よりかは器は広いつもりだ」

 

エルメスの挑発には乗らず、ユーリは冷静に返した。この後、エルメスはキノにこの話をしたら、キノもエルメスよりユーリの方が断然器は広いと言われ、本当に相棒をやめようか迷ったとか…それはまた、別の話…

 

 

 

 

 

 




…はい!如何でしたか?なのだ!もう一度キノの旅全巻読みたいのだが、お金がないのだ…十万円寄付も、つかってしまったから困ったのだ(´;ω;`)


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終焉

こんにちはなのだ!黒アライさんなのだ!今回でやっと長いコロシアム編が終わるのだ。次からはなんとかネタを考えながら進めていきたいのだ。それではどうぞなのだー!


その後もキノは試合に出ては順調に勝って行った。あるときは美人な女性のスナイパーだったり、あるときは金管楽器のホルンのような形をした火炎放射器を持った男だったり、またあるときは…まぁ色々な相手と戦って行ったのは確かである。しかし、そのだれもがキノの実力には程遠かった。キノに簡単にあしらわれ、降参を促される。それが繰り返されていた。それが初日に戦った大型の男の日から三日ほど続いた

 

 

そして、決勝戦にまで勝ち昇ったキノは、10時ぐらいから始まる決勝戦が行われるまで、控室にてユーリを待っていた。

 

 

 

 

キノ「…お腹すいたな」

 

キノは誰もいない1人の控室の空間にて呟いた。実際、今日は朝から試合に出たので、朝食は動いてお腹が痛くならない程度にしか食べていない。今が育ち盛りであり、もともとが大食らいのキノにとっては、それは本人にとって許容し難い事態なのであった。

 

ガチャ…

 

エルメス「そういうと思って」

 

ユーリ「適当な物を作ってきた」

 

ユーリはそう言いながら、ホカホカと湯気の立つ、野菜たっぷりの消化の良い野菜シチューの入った魔法瓶を、落とさないよう、器用にヤタガラスの上に乗せ、エルメスと一緒に運んできた。

 

キノ「!とても美味しそうです!…ですが、この素材、一体どこで?ボクの記憶が正しかったら、野菜の類は持ってなかったと思うんですが…」

 

ユーリ「ん…なに、街の中で、ここ数日活躍している噂のルーキー、その相棒だと言ったら気前よく素材をくれたさ。おかげで旅に必要な物も揃い、俺の懐はこのシチューと同じようにホカホカだ」

 

ユーリは微かに満足げに微笑みながらヤタガラスからシチューを取り外し、キノに差し出す

 

キノ「それは良かったですね。丁度今日がこの国に来て三日目ですし、決勝戦が終わったらすぐに出国できそうですね」

 

キノはそう言いながら渡されたシチューを静かに、されど急いで食べた。その勢いはまるで砂漠の中でオアシスを見つけた時のようだった。しかし、ユーリは変な応答をした

 

ユーリ「…だといいがな」

 

キノ「…?」

 

ユーリの意味深そうな言葉に、キノは首を傾げる。今までキノは、このコロシアムにて傷一つどころか指一本相手に触れさせていない。もはやこの国にはその程度の者しかいないのだろうと、キノは自然に考えていた。故に疑問が上がる。

 

その疑問に、エルメスが答えた

 

エルメス「あのね、キノ。次の決勝戦の人って、キノと同じく傷一つ負わずにここまで勝ち進んできたらしいんだよね。キノならこの意味、もうわかるんじゃないかな?ユーリはそれを心配してるんだよ」

 

ユーリ「心配というよりかは、それに対してどう思っているのか気になるだけだ」

 

ユーリはエルメスの言葉に同意しながらそう言った。キノと同じく傷一つ負うことなく勝ち進んできたということは、今までの相手とは格別に違うのだろう。ユーリはキノが勝つことを無意識に信じていたが、今までのように速攻で決着がつくことはないだろうと予測していた。

 

キノ「なんだ、そんなことでしたか」

 

ユーリ「…なんだとはなんだ。人がせっかく心配してやっているのに」

 

キノ「大丈夫ですよ、ユーリさん。ボクが負けることはありません」

 

キノは顔色一つ変えず、ユーリにきっぱりとそう言い切った

 

ユーリ「…理由を聞こうか」

 

キノ「だって…」

 

 

 

 

キノ「ボクにはユーリさんがいますから」

 

 

 

 

キノは少女特有の可愛らしい笑顔でユーリにそう告げた。

 

キノ「ユーリさんがいれば、ボクはなんだってできます。暗殺だろうが強盗だろうが完璧にこなせます」

 

ユーリ「……そうか」

 

ユーリはキノのその笑みを見ると、もはやなにも言わなかった。というより言えなかったのだろう。キノの言葉に嘘はない。自分がやれと言ったら本当に虐殺でもなんでもやるのだろう。そして、その意思は自分じゃ変えることはできないというのも本能的には感じとっていた

 

エルメス「ホントにできるから凄いよね〜」

 

エルメスはこの場の雰囲気には似合わない声色でそう言った。キノはそんな言葉には耳を貸さず、液体火薬を使い、なにやら妙な物を作っていた

 

ユーリ「…キノ、お前、相手を一撃で殺す気か?」

 

ユーリはキノの作業を見てそう言った。キノは、一つの弾薬を解体し、液体火薬をこれでもかというほど中に詰め込んでいた。そんなに火薬をつみこんでは、威力は上がるものの、銃に負担が大きくかかってしまう。そして何より弾が相手に着弾した瞬間、弾が爆発四散する可能性が高くなる。キノは威力は高いが扱いの難しい専用炸裂弾を作っていたのだ。

 

キノ「ちょっと、やってみたいことがあるんですよね」

 

ユーリ「その反応からして、俺の言ったこととは違うようだが…何を企んでいる?」

 

ユーリは訝しげにキノに問い詰めるが、そんなユーリを前に、キノは微笑みながら急に脈絡のない事を言い出す

 

キノ「ユーリさん、今回は観客席ではなく、コロシアムの入場口にいてくれますか?」

 

エルメス「え、なんで?」

 

キノ「終わったら教えるよ。…いいですか?」

 

キノはユーリに確認をとる。ユーリは数秒間黙った後、静かに頷いた

 

ユーリ「…了解だ。お前の判断を信じよう」

 

ユーリはそういうと、キノの食べ終わった後の大きめのカップを受け取り、部屋にあった水道で軽く水洗いした後、ヤタガラスについている専用のバックの中に詰め込む。

 

すると、放送が流れる。

 

ザァー…ザ、ザザッ

 

『よう、準備はできたか?次が最終決戦だ。今までのようにはいかない相手だぜ?せいぜい気をつけるんだな』

 

放送はそう告げられると打ち切られた

 

ユーリ「…それじゃ、いこうか、キノ」

 

エルメス「十発出航〜」

 

キノ「……出発進行?」

 

エルメス「そうそれ」

 

エルメスの軽口に付き合いながら、キノはカノンとリゼルを持ち、ユーリと共に控え室を後にする

 

 

 

 

 


 

 

 

ガコォン!

 

鉄の重苦しい音を立てながら、コロシアムの入場口の門が開いた。キノはそこからユーリとエルメスに見送られ、コロシアムに入る。

 

そこにいたのは…

 

???「…」

 

静かに佇む、縦線の入った緑色のセーターを着た、腰に一つの刀を下げる黒髪の優しそうな青年だった。青年はキノを見ると、無表情でキノを見つめ、今までキノが数々の対戦相手に言ってきたであろう言葉を言ってきた

 

青年「悪い事は言わない。降参、してくれないか?」

 

青年は静かに、そう告げた。しかし、キノの答えは最初から決まっていた

 

キノ「お断りします」

 

キノ「貴方が降参してください」

 

カチャリ…

 

キノはそういうと、カノンを彼の頭部に寸法違わず向ける

 

青年「この国に住みたいのなら、僕が勝った後に上に交渉してあげるよ、だから…」

 

キノ「結構です、別にこの国に住みたいわけではありませんので」

 

青年「…では何故戦う?賞金か?それとも名誉?」

 

キノ「ご想像にお任せします。まぁなんにせよ、ボクが貴方と戦うことに違いありません」

 

青年はそれだけ聞くと、疲れたように溜息を吐き、スラリと腰の刀を抜き、キノに向けて構える

 

 

 

 

 

ユーリ「…」

 

エルメス「パースエイダー相手に刀一本だけなんて、無謀だなぁ。心配する必要なかったかもね、ユーリ」

 

エルメスはまるで勝利を確信したようにいうが、隣にいるユーリは、むしろもっと顔が険しくなった

 

ユーリ「…俺はむしろ逆に心配になってきたよ」

 

エルメス「え?なんで?」

 

ユーリ「相手はキノと同じように傷一つ負わずにここまで勝ち進んできたんだ。それだけで、多少の剣の使い手である事は容易にわかる」

 

ユーリ「よく、〈銃は剣よりも強し〉なんていうが、必ずしもそうとは限らない。接近戦につめられちゃ体格の小さいキノの方が不利だ」

 

エルメス「へー、ボクにはそう思えないけどなぁ…」

 

エルメスはまるで他人事のようにそう言い、キノ達の試合を見届ける

 

 

 

 

 

青年「…」

 

ザッザッ…

 

青年はキノのもつパースエイダーにビクともせず、ただゆっくりと、距離を縮めてくる。そんな相手に、キノは頭部から少し狙いを横にずらし、

 

バァンッ!

 

発砲した。が…

 

青年「…」

 

ザッザッ

 

キノの放った弾丸は青年にあたる事はなく、顔面の横をすり抜けて行った。もちろん、わざと外した物だが、キノはそれで怯えて降参してくれればいいと思っていた。が、相手は思いのほか、精神が図太いのか、はたまたただの蛮勇なのか、キノの放った弾丸に怯える事なく、再度距離をジリジリとつめてくる。

 

キノ「…」

 

そんな相手に、キノは面倒に感じ、今度は肩に狙いをつける。だが…

 

青年「…」

 

スッ…

 

キノ「!」

 

キノが青年の肩にカノンの銃口を向けると、その銃口の一直線上に、刀が現れる。キノは発砲せず、相手の太腿に狙いをつけると、またも一直線上に刀を出してくる

 

キノ「…」

 

バァンッ!

 

キノは今度は狙いを変えず、太腿に向けて弾丸を放つが…

 

キィンッ!

 

青年「…」

 

キノ「なっ!?…」

 

青年はなんと、太腿に撃ち出された銃弾を、弾き返した。これは、流石のキノも少しばかり驚いた。しかし、そんなキノの様子にどうこうするでもなく、青年はなおもジリジリと距離を詰めてくる。

 

キノ「…」

 

バァンバァンッ!

 

青年「…フッ!!」

 

カンッ!キィンッ!

 

キノは立て続けに2発撃ち込むが、これも簡単に弾いた。この行動で、さっき弾いたのはマグレではなく、実力だということがわかると、キノは思わず言葉を漏らす

 

キノ「…凄いな」

 

しかし、案外そんなことを呟いている余裕はキノにはなかった。カノンは全6発のリボルバー式ハンドパースエイダーである。それは、ユーリの持つ自動装填式とは違い、弾を打ち切れば手動で弾を入れ直さなければならない物である。

 

現在、キノは4発の弾を撃った。残り、2発の銃弾で、彼を殺さなければ、長い装填時間がキノを襲う。相手がそれを見逃すほど、寛容だとは思えない。

 

そうこうしているうちに、ジリジリと距離は詰められ、キノと青年の距離、残り約2メートルにまで近づいた。

 

青年「…」

 

キノ「…」

 

2人は互いに見つめ合い、キノはカノンのグリップを力強く握り直すと、1発の銃弾を彼の頭に向けて、後ろにステップしながら発砲する。

 

バァンッ!

 

青年「シィッ!!」

 

青年はそれを弾かずに、姿勢を低くして避け、身体をしゃがめつつ思い切りキノの懐に飛び込む。青年はまず一つの銃弾を避けたが、キノのカノンにはまだ1発、弾が残っている。

 

キノは撃つと同時にもう一度後ろに飛ぼうとするが…

 

ガキィンッ!

 

 

 

 

キノ「あ…」

 

青年「…」

 

 

 

キノのもつカノンが、彼の下から振り上げた刀の斬撃にあたり、キノの手から弾かれた。

 

青年「ハァッ!!」

 

そして、雄叫びを上げながらキノに向かって飛び込むが…

 

チャキッ!

 

青年「ッ!?」

 

ピタッ!

 

キノは後ろの腰部に下げてあるもう一つのハンドパースエイダー、リゼルを抜き出し、電光石火の速さで彼に銃口を向けた。青年は刀を頭上に振り上げた状態で動きを止める。そして、キノと青年の距離、僅か1メートル弱。これがしめす答えは、彼は刀を振り上げている状態であるが故にキノの放つ銃弾を弾く事はできず、結果的にキノの勝利が決まったという事だ

 

青年「…僕の負けだな」

 

カランカラン…

 

青年はそう言うと、刀を手から落とした。

 

青年「降参しよう。君が認めてくれるなら、だけど…それとも、ここで頭を撃ち抜かれるのかな?」

 

青年は怯えた様子などなく、ただ心底残念そうに、キノに向かって言った。しかしキノは、酷く冷酷なことを言い出す

 

キノ「…実はですね」

 

キノはリゼルのマガジンを抜き、その弾倉に、昨日作った1発の特製炸裂弾を装填する

 

キノ「ボク、今まで1人も、相手を殺してないんですよ。だから、この試合をやる前に、決めたことがあるんです」

 

 

 

 

 

キノ「最後ぐらいは、派手にぶっ殺してやろうって」

 

パンッ!カチンッ!カランカラン…

 

 

 

 

 

キノはそれだけ言うと、リゼルの弾倉を再び入れ直し、スライドを引き、空薬莢を本体から抜き出して、キノ特製炸裂弾が自動的に装填される

 

青年「…フゥ」

 

青年は仕方無さげに溜息をつくと、静かに、キノを見つめ返した。キノは、彼をその場から動かさず、何故か少し移動した後、何かを見て確かめた。そして、突然突拍子もないことを言い出す

 

 

 

 

 

 

キノ「貴方の後ろには、誰がいる?」

 

青年「…後ろ?」

 

青年はキノが何故そんなことを聞くのかわからなかった。しかし、ふとひとつのことが脳裏に浮かんだ。彼女が装填した、液体火薬の滲み出た一つの弾丸。彼女がわざわざそこに移動した理由。そして、彼女から見て俺の後ろには、何があるか…その3つの謎が、彼の頭の中で、音を立てて一つの考えに当てはまり、たどり着く。

 

そして、たどり着いたと同時に叫んだ。

 

 

 

 

 

青年「まさかッ!!?」

 

キノ「伏せろォッ!!!」

 

 

バァンッ!!

 

 

 

 

リゼルから撃ち出された一つの弾丸は、紅い軌道を放ちながら青年の頭上を通り過ぎ、そして彼の後ろにいる、ずっと高みの見物をしていた、この国の王に一直線に飛んでいき…

 

バガァンッ!!

 

国王の部屋のガラスを突き破り、彼の脳天に到達した後、弾が炸裂し、彼の首から上が、消しとんだ。

 

 

 

 

 

 

エルメス「うわぁ、やっちゃったね!」

 

ユーリ「…あんの馬鹿…」

 

エルメスは心底楽しそうにそう言い出す。が、隣にいるユーリは頭を抱え出した

 

 

 

 

 

青年「…ほ、本当にやったのか…?」

 

キノ「…えぇ、やりましたよ。派手にぶっ殺してやりました」

 

キノは淡々とそう言うが、国王死去の現場を直で見た多くの国民は、叫び出し、多くが逃げようとした。

 

キノは、上空に向けて、リゼルを2、3発撃った。

 

バァンバァンッ!

 

突如として鳴り響く銃声に、観客全員が鎮まり、キノに視線が集中される。そして、キノは観客達に向けて大声で叫んだ

 

キノ「この国の王は、不慮の事故により亡くなった!!大変痛ましく思う!!そして、ボクはこの試合に優勝した!!その景品として一つの願いを、貴方達国民に言う!!」

 

キノ「今から!この国の民全員で激しく戦いあってもらう!!そして!最後に立っていられた人が!この国の王だっ!!!」

 

キノの叫んだ言葉の内容に、国民全員がしばしの間沈黙した。しかし、突如としてその沈黙は1人の男によって打ち消される

 

男「…俺が!この国の王になってやる!テメーら全員、ぶっ飛ばしてやらァ!」

 

男はそういいながら隣にいた観客を殴り飛ばす。そして、その騒ぎが伝染し、コロシアム全域で、壮絶な殺し合いが始まった。ある物は棍棒を、ある物は刃物を、またある物はパースエイダーを持ち出し、延々と殺し合いを続けた。

 

 

 

 

 

 

ユーリ「…キノ、お前狙ってやったな?ったく…世話の焼ける子だ…」

 

エルメス「ホントだよぉ!僕達まで襲われたんだから!」

 

キノ「えへへ、ごめんなさい、ユーリさん」

 

悪態をつくユーリとエルメスに、キノは静かに笑いながら謝った。

 

ユーリ「ほら、早く乗れ。こんな殺し合いに、長居は無用だ」

 

ブルルンッ!

 

キノ「はい、わかりました」

 

ユーリはヤタガラスに跨がり、大きなエンジン音を轟かし、国の出入り口に向けて走り出す。キノも同じようにエルメスに跨がり、エンジンをつけ、ユーリの後を追う。

 

ブォォォン……

 

 

 

 

青年「…」

 

青年は立ち上がると、どこからか、白い、大きな犬が、青年の刀を加えてやってきた。

 

犬「どうしますか?シズ様」

 

青年「…そう、だな」

 

青年は頭の消しとんだ王の部屋を見上げると、静かに歩み出した。

 

男「ハァッ…ハァ…!テメーも殺してやるゥゥ!!」

 

半狂乱になった男が、青年の横から刃物を持ち出し、襲いかかるが…

 

スパァン!

 

ゴトッ…

 

男「…へ?」

 

男が青年を刺そうとした瞬間、ナイフを持っていた右腕が目に見えぬ速さで切り落とされた。

 

男「…い、いぎゃぁぁ!!お、俺の腕が『ズドッ!!』

 

青年は、蹲りながら叫ぶ男の首を、静かにはねた。そして、また、歩き出す。

 

 

 

 

ガチャ…

 

青年「…」

 

青年は王の遺体のある部屋に着くと、静かにドアを開け、そして呟いた。

 

青年「…帰ってきましたよ、《父上》」

 

青年は首から上のない死体に、そういいながら、床に落ちていた金色に輝く王冠を手に取り、しばし見つめる

 

 

 

 

 

 

青年「…俺には、似合わないな…」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

門番「…えっと、出国、だったか?」

 

ユーリ「あぁそうだ。もう手続きは済んだだろう?行かせてもらうぞ」

 

ユーリは無表情で門番にそう言い、国門を結構なスピードで走り抜けていった。そして、キノもついていくが、その時、エルメスが門番に一言だけ言った

 

エルメス「おっちゃんも、早めにでてったほうがいいよ?死にたくないならね」

 

キノとエルメスはそう言うと、ユーリの後を追った

 

 

 

 

門番「…あぁ、そうさせてもらうわ」

 

門番は唖然としながら、土煙の残る二つの小さな背中に向けてそう呟いた。

 

 

 

 

 




…はい!如何でしたか?なのだ!しかし、本当にネタがないのだ…いっそのこともう一度キノの旅読み直そうか迷うのだ。まぁとりあえず、次も読んでいってくださいなのだー!


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「道の国」 「悪いことはできない国」

こんにちはなのだ!黒アライさんなのだ!今回は二つの国の話をするのだ!それではどうぞなのだ!


〈道の国〉

 

 

 

ブロロロロ…

 

 

 

 

 

エルメス「素晴らしい道だね、キノ」

 

キノ「…うん」

 

エルメスの言葉に、キノは力無さげに答える

 

ユーリ「…道、と言うよりかは、道路だな。こんなに路面が綺麗で、舗装がいつまでもしっかりしていて、なおかつ幅もしっかり広く、カーブも緩やか、左右の景色がいい道路は初めて走った…そして、こんなに長い道も…」

 

キノ「…ボクもです」

 

ユーリが感情を感じさせない程の淡々とした言葉に、キノも同じく無感情で答える。いつものキノならユーリのどんな話題(特に女性の話)でも喜んで食いつくのだが、今回ばかりはそんな気力もなかった

 

つい一昨日のことである。コロシアムの国を抜けた2人と一台は、この長い道の国に、《勝手に》入国した。もちろん、わざとではなく、しょうがなく無断で入国したのである。その理由は単純で、この国には人っ子1人いなかったのである。国はとても巨大で広く、もし国民がいたとしたら何百万人ぐらいの人数は住んでいたであろうことが予想できる。しかし、キノたちが来たときには既に、ヒビの入った建物と、綺麗な道だけが残る国だけになってしまっていた。

 

 

 

簡単に言えば、この国は『滅んでいた』。2人と一台は、その国に入ってから、約2日もの間その国をひたすら彷徨っていた。キノとユーリがうんざりするのも納得である

 

 

エルメス「これだけのものを作ったこの国の人達にちょっと乾杯」

 

ユーリ「…そうだな。だが俺とキノはともかく、お前飲めないだろう?」

 

エルメス「気持ちの問題だよ。正直、面と向かってその人たちを褒めてあげたい気分」

 

キノ「ああ…それができると、よかったのにね…」

 

キノはエルメスの言葉に適当に相槌を打つだけであった

 

エルメス「なんでだろう?」

 

エルメスはユーリに何故国が滅んでしまったか聞いたが、帰ってくる答えはわかっていることだけだった

 

ユーリ「さぁな…一つの国の国民全員が死んだ理由…俺にはわからない。文字通り誰もいないから、誰かに聞くこともできない」

 

キノ「まぁ、そうですよね…それにしても…」

 

キノはため息混じりに呟く

 

キノ「一向に終わりが見えませんね、この道路は。これだけかっ飛ばしてるんですから、いい加減西の城門が見えてきてもいいからだと思うんですが…」

 

エルメス「今日中に辿り着けないと、ルール違反だね」

 

ユーリ「だから、こうやって休憩もなしに飛ばしてるんだろう?…何度も何度も、同じ会話をさせるな、エルメス」

 

エルメス「はいはい」

 

ユーリがそろそろイライラしてきたのか、少し怒りの入った声でエルメスに告げる。だが、エルメスはそんなことなど知らないかのように、再度キノに呟く

 

 

エルメス「素晴らしい道だね、キノ」

 

キノ「…ああ…」

 

キノの答えは、淡々としたものだった…

 

 

 

 


 

 

 

〈悪いことはできない国〉

 

 

 

とある国にて、ユーリとキノ、そしてエルメスは眼鏡をかけていた。キノとユーリは当然顔に、そしてエルメスは…

 

エルメス「キノ、ユーリ。これ変じゃない?」

 

キノ・ユーリ「「似合ってる似合ってる」」

 

エルメス「ホントかな?すんごい邪魔なんだけど」

 

ヘッドライトにかけられていた。

 

眼鏡をかけている2人と一台の目の前で内門が開いていき、国の中の様子が見えてくる。

 

 

 

 

これより少し前の話…

 

 

 

審査官「それでは、説明させていただきます」

 

その国の審査官が、2人と一台の(喋らないがもう一台)旅人に向けていった。

 

それなりの量の荷物を積んだエルメスとヤタガラス。茶色いコートを羽織ったキノ。それと黒いロングコートを、前を開けた状態で羽織っているユーリ。そして背広姿の入国審査官は、城壁の中に作られた小部屋にいた。

 

審査官「今キノさんとユーリさんのお手元にある眼鏡のような機械が、監視装置になります」

 

審査官が説明した通り、2人の手にはそれぞれ眼鏡があった。一見ごく普通の眼鏡だが、その左右のこめかみの部分に、小指の先ほどの大きさだろうか、小さな機械が装着されていた。

 

審査官「レンズのある左がカメラ本体で、右は記憶装置と電源です。そのカメラが、貴方達の見たものを記録します。夜でも大丈夫ですし、無論音も同時に鮮明に。つまり貴方達2人の行動の全てを監視するわけです。しかしそのままですと、プライバシーの侵害になりますので、それをみることができるのは…」

 

ユーリ「警察、裁判官とかか?」

 

審査官「その通りです、ユーリさん。自分でも見ることはできません。警察が令状を取得すると、被疑者の記録を見ることができます。よって犯罪行為は確実にバレます」

 

キノ「なるほど、それで、悪いことはできない国とよばれてるんですね」

 

キノの言葉に、審査官は力強くうなづいた。無論、彼も同じような眼鏡をかけている。

 

審査官「そうです。我が国では悪事は絶対にバレることがはっきりしています。その行為は割りに合わないことが誰にでも理解されています」

 

審査官はそこまで言うと、少し息を整え、長い言葉を喋りだす。

 

審査官「以前犯罪が多発し殺人が死因のトップだったこともあるこの国では、生半可な対処では事態打開は不可能と考え、英知を結集しこのシステムを作り上げました。以来数十年、治安は劇的に改善されました。突発的、衝動的な犯罪以外ありませんし、それもすぐにバレてしまいます」

 

キノ「なるほど」

 

エルメス「ふむふむ」

 

ユーリ「よく考えたものだ」

 

旅人達はそれぞれ感想を漏らした。審査官はそれを聞きつつも、説明を続ける。

 

審査官「このシステムを守るため、一部例外を除き体が動いている時に外すことは法で禁止されています。この眼鏡は、使用者の脳波が、静止状態を指していない状態で皮膚から30秒以上離した場合、警告が発せられ、周囲の人間の眼鏡にもその情報が伝わります。一部例外とは寝ている時や、着替え、化粧、シャワー中などですね。この国のあちこちには充電器を兼ねた眼鏡ホルダーがあって、そこに自分を写すように引っかかることで対応しています。カメラが持ち主の姿で例外活動中であることを認識するのです」

 

キノ「それは、もの凄い技術ですね」

 

エルメス「ほんとほんと、凄い凄い」

 

ユーリ「高い技術力を持った国なんだな、ここは」

 

審査官「いやぁ、そう言われると嬉しいですね。あはは」

 

審査官は旅人達の言葉にひとしきり照れたあと、本題に入った。つまりはそういうことだから、3日の滞在中にユーリ達もこの眼鏡を国民と同じように使用する義務が生じることと、その承諾無しに入国許可が出せないことが伝えられた。

 

もちろん、旅人達は頷き、

 

ユーリ「了解した。俺達はそれに従おう」

 

快く承諾した。その言葉に、審査官はホッと安心したように息を吐いた。しかし、そこでキノが尋ねる

 

キノ「ところで、エルメスと、ヤタガラスはどうしますか?二台にも装着させた方がいいと思います」

 

審査官「ご自分で動けないモトラドさんには、法的に装着義務はありませんが…」

 

ユーリ「だが、例えば交通事故などがあった場合、エルメスとヤタガラスにもついていた方が何かと便利なことがあるかもしれないぞ?」

 

審査官「おお!それはそうですね!貴方達はこのシステムをとてもよく理解してくださってる。わかりました!エルメスさんとヤタガラスさん用のもすぐに用意しましょう!」

 

審査官はユーリとキノの言葉にいたく感心し、2人にそう言うと入国許可を出したあと、エルメスとヤタガラス専用の眼鏡を渡し、旅人は遠慮なく国に入国した。

 

 

 

 

 

 

 

眼鏡をかけたキノ達は、その国に三日間滞在した。休憩と観光、売れる物を全て売って買うべき物を買っていく。

 

この眼鏡のこともあり、治安のとてもよい国だった。なにも問題が起きることもなく、起こすこともなくキノ達は過ごした。

 

エルメス「いい加減鬱陶しいんだけどなぁ…」

 

……2人はともかく、エルメスの不満は溜まりに溜まっていたが。

 

そしてとうとう出国の時間になった。

 

ユーリ「この眼鏡はどうすればいい?」

 

西の城門前で、ユーリがそこにいた審査官に尋ねた。

 

審査官「城壁をくぐって国外に出た時点で、装着の法的義務はなくなります。外にいる番兵にお渡し下さい。もちろんキノさんやユーリさん、エルメスさんも何一つ違法行為はしませんでしたので、記録は全て消されます。プライバシーの侵害は一切致しません」

 

審査官がそう言ったあと、ユーリはキノとエルメスをチラリと見た。少し何か考えたあと、ユーリが言った。

 

ユーリ「もし良ければ、これをそのまま貰えないだろうか。次の国に着いた時、この国にはこんな素晴らしい物があると紹介したい。しかし、話だけではこんな高度な技術は信用されないだろう、実物が必要だ」

 

審査官「おお!」

 

審査官は少し驚いたが、そういうことでしたら差し上げましょう、と言った。

 

審査官「是非我が国の紹介にお使い下さい。ただし、電池はあと2日もすれば切れてしまいますので、機能は残念ながら失われますが…」

 

ユーリ「構わない。すまないな」

 

ユーリはそういうと、自分とヤタガラスから眼鏡を外し、自分のバックの中にしまった。キノも、同じようにした。

 

こうして、キノ達は再び自分達の旅に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

ユーリ「儲かった。こいつはとてもありがたいな」

 

小さくなっていく城壁を背に、草原を走りながらユーリは変なことを呟いた。

 

エルメス「ああもう、早く取ってよこれ」

 

エルメスは相変わらずヘッドライトにつけてある眼鏡を、早く取るようにキノにいった。

 

キノ「もう少しまってよエルメス。流石に走りながらじゃ危ない」

 

エルメス「全くもう」

 

そしてユーリ達は城壁のてっぺんが地平線の下に変えたのを確かめ、それぞれのエンジンを止めて停車する

 

ユーリはヤタガラスの後輪脇のサイドバックから、弁当箱のような金属の箱を取り出した。必要のない物は自分の服装の小物以外一切持ち歩かないユーリにとっては珍しく、箱の中身はカラだった。そしてユーリは…

 

エルメス「あー鬱陶しい」

 

そうぼやくエルメスのライトから眼鏡を取り出した。そして同じようにキノからも眼鏡を受け取ろうとした、が…

 

ユーリ「…なにしてるんだ?」

 

キノ「似合いますか?ユーリさん」

 

キノは外していた眼鏡を再度顔にかけ、ユーリの方を向いてそう聞いた。しかしユーリは面倒くさそうに溜息をついた

 

ユーリ「…似合ってるよ、だから早く貸せ」

 

キノ「あっ…」

 

ユーリはキノの顔から眼鏡を外した。

 

キノ「…いけず…」

 

ユーリ「何か言ったか?」

 

キノ「愛してると言いました」

 

ユーリ「そいつは光栄だな」

 

ユーリはそういいながら、次は小さなピンを取り出し、記憶装置の穴に何か細工を施す。何度かつついて数秒おいてまた何度かつつく行為を繰り返した。やがて眼鏡はピピピと音を立てた。あと3つも同じようにした。

 

ユーリ「…完了。これで機能は停止したし、俺達のデータも消去できた」

 

ユーリが先ほどのキノの愛の告白をされた時よりも嬉しそうに言って、合計四つの眼鏡を丁寧に布で包み、そして金属の箱にしまった。その箱も、ヤタガラスの後輪脇のサイドバックに再び戻す。

 

ユーリ「次の国ではこれを高く売って大儲けだ。しかもうまくいって4つも手に入った」

 

ユーリが珍しく満面の笑みでいそいそと準備をしていた。

 

エルメス「とんでもない悪人だね、ユーリは」

 

ユーリ「レジー程じゃない。それに、俺はあいつの背中を見て育ったんだ。そりゃこうなるさ」

 

ユーリは悪びれもなく、次の国では少し豪華な食事にしよう、新しい肌着も買わなくては、と、夢を膨らませる。

 

キノ「…僕の言葉には興味ないんですか?」

 

しかし、キノは何やらご立腹だった。どうやら適当にあしらわれたのが気に入らなかったらしい。キノはユーリを軽く睨みながらジリジリと近づく

 

ユーリ「…これのおかげで、次は美味い物が食えるんだぞ?そんなに怒るな」

 

キノ「僕より食事のことの方が大切なんですか?」

 

ユーリはなだめるが、キノはそれでも機嫌は良くならず、逆にもっと声が低くなっていく

 

エルメス「あらー、面倒なスイッチ入っちゃったね」

 

ユーリ「…わかった、悪かったよ、ちょっと待ってろ」

 

ユーリはそれまで言うと、急に両手をさすりあわせ、その両手の中にフッと息を優しく吐いた。すると…

 

パキパキッ!パキンッ!

 

ユーリの両手の中に、丁度ユーリの手になじむようなおおきさの氷の塊ができた。そして、ユーリはそれを両手で握り潰した。

 

キノ「…??」

 

キノも、突然後ろを振り向いて何をやっているのだろうと気になり出した。そして答えはすぐにわかった

 

ユーリ「…できた」

 

エルメス「ん?…おわ!凄い!」

 

ユーリは握り潰したその両手を開くと、その中にはチェーンで繋がれた一つの小さな花があった。ユーリは自分の生まれ持った特殊な能力で、氷のネックレスを作ったのだ。

 

ユーリ「ほら」

 

キノ「わっ」

 

ユーリは適当にそれをキノに投げた。

 

ユーリ「先の闘技場の国で、褒美の話をしたが、結局何もやれていなかったからな。今回のこともあわせて、それで勘弁してくれ」

 

ユーリは氷の粒のついた両手をパンパンと払うと、再びヤタガラスにまたがる。

 

キノ「…凄い、綺麗…」

 

ユーリ「氷のネックレスなんざどこにもない、すぐに溶けるからな。だが俺の氷ならそれはない。文字通り世界に一つだけのものだ。身に付けるには冷たすぎて難しいだろうがな」

 

キノ「…いえ、ありがとうございます」

 

キノは先程の不機嫌さは何処かに吹き飛び、逆に嬉しそうに微笑み、それを早速首に下げた。

 

キノ「うひゃっ!…冷た!」

 

エルメス「当たり前でしょ?氷なんだから。つけすぎると凍傷になっちゃうよ?」

 

キノ「…仕方ないな、じゃあ布越しに手首に巻いておこう」

 

エルメス「しまうっていう選択肢はないの?」

 

キノ「ないよ。せっかくユーリさんが、僕だけのために作ってくれたんだもの。身に付けておかないと失礼だよ」

 

キノはやけに僕だけのというところを強調したが、ユーリはどうでも良さそうに、ヤタガラスのエンジンをつける

 

ユーリ「ほらいくぞ。はやくしないと野宿する日が増えるぞ」

 

エルメス「らしいよ?ほら」

 

キノ「わかってる。…行きましょうか」

 

キノは手首に下げたその氷のネックレスを愛おしそうに見つめると、エルメスのエンジンをつけ、ユーリとともに自分達の旅に戻った。

 

 

 

 


 

後日談

 

キノ「…そういえばユーリさん」

 

ユーリ「ん?」

 

キノ「ユーリさんのヤタガラスって、何で喋らないんですか?」

 

ユーリ「さあな、どうでもいいだろう?そんなこと」

 

キノ「エルメスは喋るのになぁ…」

 

エルメス「モトラドにも色々とあるんだよ」

 

キノ「…そうなの?」

 

エルメス「そうなの」




…はい!如何でしたか?なのだ!キノの旅を一回全部持っているものは読み直したから、今回は原作に忠実に作ってみたのだ!しかしながら、いつまでネタが持つか分からないのだ…まぁ頑張るのだ!次も見ていって下さいなのだ!


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保護の国(過去)

夏の草原を、小さな車が走っていた。

 

見渡す限り平らな草原で、草花が楽しそうに風に吹かれて揺れていた。その周りに、木はまばらにしかなかった。空には夕暮れ間近の日が傾き、所々に浮かぶ雲を、鮮やかなオレンジ色に輝かせていた。

 

その車は黄色くて小さくて、あちこちがボロボロで、所々に氷のような結晶で穴が塞がれているところがあった。黒い煙を出す排気管が、土の道の凹凸に合わせて暴れて、今にも脱落しそうになっていた。サイドミラーはひびだらけで、ボンネットの隅っこは錆びて欠けていた。

 

それでも車は、広大な草原を一生懸命走っていた。

 

季節は夏に差し掛かり、気温は高いが湿度がなく、過ごしやすい場所だった。車の運転席に座る男も、左側の助手席に座る女性も、窓から入る心地いい風を受けて、シャツの襟元を揺らしていた。

 

運転席の、背が高くて綺麗で長い銀髪の、中性的な顔を持つ若い青年がハンドルを片手に握りながら、

 

ユーリ「なぁレジー。たまには休まないか?国に入ったら、だが」

 

隣の女性にそういった。レジーと呼ばれた、長く綺麗な黒髪をもつ、ユーリと同じかそれ以上の歳のように見える女性が、ユーリの方をみて尋ね返す。

 

レジー「休む、とは?」

 

ユーリ「とはって返されてもな…文字通り、金を稼ぐ為の仕事をせずに、滞在中にのんびりと英気を養うってことだ。商人から巻き上げた宝石で、食い扶持や消耗品などには曰く困ることはないだろう?」

 

レジーはなにも答えなかったが、特に反対するようなこともなかった。

 

ユーリ「俺も、たまには美味いものを三食たらふく食いたい」

 

ユーリがそういったのと同時に、地平線の先に城壁が見えてきた。

 

車はヘロヘロと城壁に近づいていく。その時、その道の左右に、なにか動いているものが見えた。

 

それをみたユーリは、速度をさらに緩めた。その先で動いていたのは、動物だった。

 

全長で60センチほど。一見するとペンギンのような、歩く鳥と言った風態だが、猿のように二本の腕があった。

 

色は茶色とクリーム色の斑で、身体中に猫のような毛をはやし、犬のようなふさふさの尻尾があり、顔には小熊のようにぱっちりとした目と小さな鼻があった。

 

ユーリ「…あんな動物、生まれて初めて見たぞ。…もっとも、俺が動物を見た数なんてたかが知れてるが」

 

ユーリが言った。レジーも無言のまま、草原に顔を出す動物を見遣った

 

30頭程の動物に見つめられながら、車は城門に吸い込まれていく。

 

 

 

 

 

 

 

2人が入国したのは、広くもなく狭くもない、農業が主産業の、周りに争う国もないのんびりとした国だった。

 

入国が許可されて、2人は早速宝石を売り捌き、なかなか豪華なホテルに投宿した。

 

 

 

ユーリ「…レジー、俺は今風呂に入りたいんだが」

 

レジー「それがどうしました?」

 

ユーリ「…なんでお前も道具をもってついてくるんだ?」

 

レジー「そんなの決まってるでしょう?私も一緒に入るからです」

 

ユーリ「堂々と言うな堂々と」

 

……久々に風呂に入ったり、

 

 

ユーリ「それじゃあ、何処か食事を食いに「ガシッ」…どうした?レジー」

 

レジー「貴方が作りなさい」

 

ユーリ「…いや、何故だ?食いに行った方が早いし、何より美味いだろう?」

 

レジー「お金がかかるでしょう?」

 

ユーリ「…いや、作るにしても金はかかるし、何よりさっき宝石をたんまり売って、俺たちの懐は暖かいはずだろう?そこまで節約する必要も…」

 

レジー「節約とはできるうちにするものです。なくなってからからでは遅いのですよ。いいからつべこべ言わずさっさと作りなさい」

 

ユーリ「…了解」

 

……そこそこの美味い料理も食べ、2人はそれなりに上気分だった。

 

そして夜…

 

 

ユーリ「…なにをしている?」

 

レジー「いちいち言わなければ分かりませんか?寝る準備をしているんですよ」

 

ユーリ「そんなのは見てわかる。俺が言ってるのは、なんで俺のベットで寝ようとしているんだということだ」

 

レジー「…ハァ…いいですか?ユーリ」

 

ユーリ「…なんだ」

 

レジー「女性には、色々とあるものなのです」

 

ユーリ「…」

 

レジー「…」

 

ユーリ「…いや、意味がわからん」

 

 

旅人はまあまあいい品質のベットでぐっすり(男はさらに疲労していたが)眠った

 

 

……翌日……

 

2人が遅い朝食を食べていた時だった

 

今日はユーリが流石に自分で作る料理より、どこか食べに行きたいとレジーに頼んだので、レストランに行っていた。そして、そのチラホラと客が見えるレストランに、動物が入ってきたのだ

 

それは国の外で見かけたのと同じ動物だった。ただし色は少し違っており、黒と茶色の斑で、体格も僅かだがこちらの方が立派に見えた。

 

ユーリ「国の中にもいるんだな。…ペットか何かか?」

 

男が聞いて、

 

レジー「さぁ?興味ありません」

 

レジーはお茶を飲みながら、感心なさげに答えた。

 

その動物はユーリの隣に来ると、テーブルのいた所にヒョイと飛び上がってきた。テーブルに土足で着地、そしてユーリが後で食べようと取っておいた、たっぷりとクリームが乗ったシュークリームに目を光らせる

 

ユーリ「ダメだ、やらないぞ」

 

ユーリはそう言いながら追い払おうと右手を外に振った。その時だった。

 

ウエイター「あっ!旅人さん!ダメです!」

 

ウエイターが大声で言ったもので、ユーリはピタリと動きを止めた。レジーも、カップに口をつけたまま視線を上げた。

 

その隙に、

 

「きょきょきょきゅきょ」

 

その動物はそんなことを言うと、器用にユーリのシュークリームをつまみとった。そしてむしゃぶりつくように、クリームを顔中につけながら食べ始めた。

 

ユーリ「あ…」

 

ユーリが呆れている間に、ふがふがと食べまくった。ウエイターが駆け足でやってきたのはその時だった。

 

ウエイター「旅人さん。その動物に手を出しては行けません」

 

ユーリ「…何故だ?良ければ理由を聞かせて欲しい」

 

ウエイター「保護法があるのですよ」

 

ウエイターが2人に丁寧に説明した。

 

この動物は、かつてこの辺の草原にたくさんいたがこの地のこの国に人間が住むようになって、乱獲で激減してしまったらしい。

 

とうとう絶滅の1歩手前まで来て、そこで国は、ある程度の数を国内で保護し、餌を与えて繁殖させたという。

 

この動物を絶滅から守るため、人は一切危害を加えてはならないと法律で定められたのだ。以降どこで何をされても、手を出してはいけなくなったという。

 

そんな説明の間も動物はシュークリームをふがふがと貪り、やがて食べ尽くすと、

 

「きょきゃきゃきゅきゅきゅきゃ?」

 

クリームまみれの口でそんなことを聞いてきた。ユーリとウエイターはなんと言っていいのかわからず、無言だった。

 

動物はレジーの皿を見た。こっちにも、美味しそうな1つシュークリームが残っているではないか。

 

「きょきゅきゃきゅきょー。きゅきゅきょ」

 

動物はそう言うと、その皿へと手を伸ばし、

 

「きゅきゃ?」

 

楽しそうにシュークリームを掴む寸前で、自分を見下ろすレジーとバッチリ目が合った。

 

レジー「…」

 

「きゅきっ…」

 

動物が、目を逸らした。

 

そしてテーブルから飛び降りると、少し離れたテーブルへ掛けて行った。そこへ飛び乗ると、だいぶ残っていたそのお客のパンケーキを食べ始めた。

 

そこに座っていた中年の男性は、大きくため息をつくと、その席から立ち上がった。すっかり諦めたように食事を途中でやめて、出ていった。

 

ウエイター「ご覧の通りです。この国では、この動物に触れることもできません。万が一傷付けてしまったら、旅人さんと言えども懲役5年は喰らいますよ。殺しでもした日には終身刑です。お気をつけを」

 

ユーリ「そうかい…なんともまぁ…」

 

ユーリは呆れ果てた。そして、シュークリームを食われてしまったので、もうひとつ追加しようとしたが、

 

ウエイター「もう品切れなんです。申し訳ありません」

 

ウエイターは頭を下げてから去っていった。

 

ユーリは、自分の分のシュークリームを食べているレジーに、尋ねた。

 

ユーリ「…なぁレジ「嫌です」…即答することはないんじゃないか?」

 

レジー「私は既に食べています。口移しでもいいのならあげますが」

 

ユーリ「…いやいい。俺はまだ死にたくな「ゴスッ!」…ッ… 」

 

レジーは何故か不機嫌になり、ユーリの発言中にテーブルの下から足でユーリの脛を蹴りあげた。

 

 

 

さてそれから、2人は散歩がてらに国を見て回ったが、

 

ユーリ「どうにも、えらい狼藉者らしいな」

 

ユーリが漏らした感想通り、あちこちで例の動物が、傍若無人な、文字通り人間など近くに居ないかのような振る舞いをしていた。

 

数頭の群で道路を横切り、車や馬車を止める。器用に壁を昇って洗濯物をぶちまけてしまう。店の前の果物を食べ荒らす。吹いたばかりのテーブルに足跡を付ける。ところ構わず糞尿を撒き散らす。農作物を荒らしまくり、じゃあ食べるかというとそうでもなく投げて遊んでいる。

 

その数は決して多くはなかったが、別に希少というほど少ないというわけでもなく、ちらほらと目にする。

 

国の者によると、最近は繁殖が上手くいったのか、急激にその数を増やしているとの事だった。

 

歩いている2人のところにも数頭がたかってきたが、

 

レジー「何か用ですか?」

 

そう言ったレジーと目が合うと、去っていった。その動物達は道路の反対側を歩いていた女の子に目をつけた。女の子の鞄をひったくると、車道に放り投げた。その上を、トラックが通過した。

 

女の子「酷い……やっと買ってもらったのに……」

 

ぺしゃんこになった鞄を見て女の子はさめざめと泣き出し、

 

「きゅきゃきゃ!きゅきょ!」

 

「きゅっきょきゅ!」

 

「きゃきゅきょきゃ!」

 

「きゅきょきゃ!」

 

動物達は楽しそうに笑った

 

ユーリ「ちゃんと相手を見ているんだな。無駄に知能が高そうだ」

 

ユーリははしゃぐ動物達を見ながらそう言った

 

 

 

 

その日の夕方の事だった

 

2人がロビーのホテルでくつろいでいると、オーナーである初老の男性が挨拶にやってきた。滅多に来ない旅人を歓迎し、お茶を出してくれた。

 

明日出国すると言った2人に、この国はいい所だからまた来てくださいと、オーナーは言った。

 

レジーは、かつて会った旅人がこのホテルに泊まったことを話した。随分前で、こんな立派な建物ではなかったと話すと、オーナーは、ロビーのとても高いところに飾ってある写真を紹介した。

 

それは古びた白黒の写真で、小さな建物の前で、若い夫婦が笑顔を見せていた。オーナーが、自分の両親だと説明した。

 

何十年も前、両親がこの地に小さな旅館を始め、それが今はこんな立派なホテルになったことをどこか誇らしげに語った。

 

オーナー「もうあの写真しか残っていません。当ホテルの宝ですよ」

 

レジー「それは大切なものですね」

 

レジーが言うと、

 

オーナー「ええ、だからあの高さに飾っているんです。本当はよく見えるように暖炉の上がいいのですが…まあこの国はいろいろと大変ですので…」

 

オーナーは複雑そうな表情でそう言った

 

 

 

 

 

翌朝。

 

レジーとユーリが食事を撮っている時に、その事件は起きた。

 

「あーっ!!やめろっ!やめてくれ!!」

 

ロビーから男の絶叫が聞こえた

 

ユーリが眉をひそめ、また、多くのお客が心配そうにロビーに向かった

 

レジー「オーナーさんですね」

 

レジーがそう言って、口を吹いて立ち上がった。ユーリも、レジーの後を急いでおった。

 

そこでみたのは、

 

オーナー「やめろーっ!!」

 

絶叫するオーナーと、

 

「きゃきゅ!」 「きゃきゃきゅ!」 「きゃきゅーきょきゅきゃ!」

 

楽しそうに何かを踏んづけている3頭の動物達だった。

 

「きゅきゃ!」 「きゅきゅきょ!」 「きゅっきゅきゅきゅ!」

 

動物達が楽しそうに会話しながら踏んづけているのは、高いところに飾ってあるはずの、オーナーのご両親の写真だった。

 

動物達は額を足で踏み割って、さらに写真を踏んづけ、しまいにはそこに涎や糞を垂れて汚していった。

 

オーナー「……」

 

オーナーはその場にへたりこんで、大切な写真をぐちゃぐちゃにされていくのをただ見つめていた。

 

ユーリ「何故だ?写真はあいつらの届かない高いところに置いていたはずだ」

 

ユーリが首を傾げて、飾ってあった壁を見た。すると、そこには長い棒が3本立てかけてあった。

 

ロビーにいた従業員の女性が、あの棒を持って動物達がやってきて、立てかけると器用に登り、写真をたたき落としたと教えてくれた。

 

ユーリ「…なるほど。本当に、無駄に知能の高い奴らだ」

 

「きゃっきゅきゃー! 「きゅきょきゅー!」 「きゃ!」

 

嬉しそうに写真をぐしゃぐしゃにする動物達と、

 

オーナー「あぁ…」

 

その前で滂沱するしかないオーナーを、まわりのお客が、なにもできずにただ見ていた。

 

「きゃきゃ?」

 

動物の1頭が、汚い足で、とことことそんなお客達に近付いては、お客が後ずさりする。歯ぎしりをして悔しさをむきだしにするお客達だが、手は出さなかった。

 

ユーリ「…まるでこの国の王だな」

 

ユーリはレジーにだけ聞こえるように、呟いた。

 

やがてその動物は、とことことレジーの前にきた。ただし必要以上には近づかずに、

 

「きゃっきゃきゅ!」

 

そう言って何度か飛び跳ねて、それから仲間のいる写真の上へと戻って、

 

「きゃきゅー!」 「きゃきゅ!」 「きゃーきゅきゃ!」

 

もはやグズグズで原型を留めていない写真を、さらに足でちぎった。まるで踊っているようだった。

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

バガァァン!!

 

物凄い轟音がロビーを揺らした。

 

そこにいる人間が、1人を除いて飛び上がらんばかりに驚いて、そこにいた動物も、1頭を除いて飛び上がらんばかりに驚いた。

 

1人の人間は、腰で煙立つリボルバーを構えているレジーだった。

 

1頭の動物はその弾丸を胸に受けて数メートルぶっ飛ばされて仰向けに倒れ、血を吹き出しながらピクリとも動かない。それは先程レジーを散々愚弄した動物だった。

 

ユーリ「…やるときはやってくれるレジーは、やっぱり好きだな」

 

ユーリはそう言いながら、左手で、普通のものと比べると一回り大型の自動式ハンド・パースエイダーを抜いた。

 

「きゃきゅ?」

 

そのまま静かに動物達の眉間の間に狙いを定め、

 

 

 

バァァンッ!!

 

先程と同じくらいの発砲音を轟かせ、1頭の頭が丸々消し飛んだ。

 

呆気にとられているお客の前で、そして残りの1頭の前で、

 

レジー「すみません、パースエイダーが暴発しました」

 

レジーはそれだけ言った。ユーリも、しっかりとホルスターにしまいながら、

 

ユーリ「悪い、俺のもだ。まぁ誰にも当たらなくて良かったよ」

 

「た、旅人さん達……。とんでもないことを……!」

 

お客の誰かがようやくそれだけ言うと、レジーは、

 

レジー「さて、なにがでしょう?」

 

「何がって……。貴方、保護動物を殺してしまったんだぞ……。重罪だ……」

 

レジー「動物?」

 

レジーはそう言いながら、死んだ2頭と呆然と突っ立っている1頭を見ながら、

 

レジー「どこに動物がいるんですか?」

 

至極あっさりと、そんな質問をした。

 

ざわっ。

 

お客達はどよめいた。レジーは淡々とした口調で、

 

レジー「どこに、動物がいるんですか?」

 

もう一度言った

 

オーナー「ああ、確かに…」

 

オーナーがゆっくりと立ち上がった。

 

「きゅ?」

 

オーナー「お集まりの皆さん……動物なんでどこにもいないじゃないですか」

 

「きゅききょ……」

 

立ち上がって涙を拭ったオーナーは、自分の脇にあった頑丈そうなイスを持ち上げると、

 

オーナー「死ねーっ!!」

 

「きゅ」

 

小さな悲鳴と、なにか骨が沢山折れる嫌な音がした。

 

 

 

 

 

 

それからしばらく、元に戻せない程ぐちゃぐちゃになった写真の前で泣き続けるオーナーと、

 

ユーリ「さて、どうしたものかな」

 

肩をすくめるユーリと、黙ったままのレジーを周りの人間が眺めていた。

 

どうする?とか、警察?とかの声も聞こえるが、誰も率先して動こうとはしなかった。

 

ロビーが葬式場のように静まり返った時、

 

「きゃきゅ?」

 

バタンとドアが開かれ、沢山の、ざっと見ても1ダース以上の動物がロビーに入ってきた。そして仲間の死体を見ると、

 

「きゃきゅ!」 「きゃきゅー!」 「きょきゅ!」 「きゃーきゅきゅきゅ!」 「きゃきゅ!」

 

口々にそんな言葉を叫びながら、人間にむかって突っ込んできた。

 

ずどん。ぱごん。ぱきゅん。ばばばん。

 

レジーとユーリは、精密機械のように、パースエイダーを撃ちまくった。

 

レジーが弾倉を変えている間はユーリが援護、ユーリが弾倉を変えている間はレジーが援護。

 

そうしてロビー中に炸裂音が轟き渡り、誰も彼もが耳鳴りを起こしている中で、動いている動物は一頭もいなくなった。

 

皆が呆然とするなか、

 

ユーリ「…どこに動物がいるんだ?どこにも見当たらないが…」

 

ユーリはそう言った。

 

「そ、そうだ!」

 

国の誰かが言った。あとはスイッチが入ったように、

 

「そうだそうだ!動物なんか、この国にはいないんだ!」

 

「居ないものは守れない!」

 

全員が雄叫びをあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その国は、かつてないほど騒がしい1日を迎えることになった。

 

国中で、

 

「動物を見たか?」

 

「いいや、見えない」

 

そんな挨拶が交わされて、ホテルから生まれた波がどんどん電波していった。

 

住人は手に棒や農具をもって、

 

「きゃきゅー!ぎゃきゅ…」

 

見かけた動物を片っ端から殴り殺しいった。

 

最初のうちは警察も何とかしようとしていたが、国民全員がそれをしているので、目の前にいる全員を逮捕するか、それとも見て見ぬふりをするかの選択を強いられ、

 

「動物は…いないよな?巡査」

 

「ええ…いませんね。警部」

 

そんな会話をしていた。

 

「きゅきゅきゃー!」

 

一日中、国中で、怒号と悲鳴が飛び交った。

 

レジーとユーリも、何もいない場所への暴発を繰り返し、弾丸が足りなくなると無料で分けてもらった。

 

 

 

 

 

そして夕方

 

オーナーのこれ以上ないお礼の言葉を見送りに、黄色くて小さい車は、城門へと走っていった。

 

城門では、番兵にいつでもまたいらしてくださいなどと言われて感謝された。車は開かれた門をくぐっていく

 

その時だった。

 

「きゃきゅー!」

 

茂みに潜んでいた1頭の動物が、車の屋根に飛び乗った。

 

番兵「あ、あの野郎!…見えてないけど!」

 

番兵がそう言いながら手にした剣を屋根の上で素振りしようと思ったが、

 

レジー「出国してしまったので、いいでしょう」

 

レジーはそう言って番兵を止めた。その時車は、城壁を超えて外に出ていた。

 

番兵「まぁ国の外でしたら…お気をつけて」

 

番兵はそう言って城門の警備に戻っていった。

 

ユーリ「レジー?」

 

ユーリが、屋根に軽く飛び乗り、

 

「きゅきゅきゅう…」

 

恐らくは怯えている動物に目をやった。

 

レジーはしばらく走るようにユーリに言い、言われた通りに小さな車は草原を走った。そしてしばらくしてとまった。

 

レジーは車から降りると、屋根にいる動物に向かって話しかける。

 

レジー「もう降りなさい」

 

「きゅっきゃきゅー!」

 

レジー「連れては行けません」

 

「きゅきゅきゅ?」

 

レジー「ダメです」

 

レジーが睨みつけると、動物は渋々と車の屋根から降りた。

 

「きゅきゅう…」

 

レジー「貴方達は、少し勘違いをしていたようですね」

 

「きゅ?」

 

レジー「守られているということは、力があるということではないのですよ。あの国で本当に力があったのは、あの国の人達です。貴方達ではありません」

 

「きゅう…」

 

レジー「さあ、好きな所へ行きなさい」

 

レジーは草原へと指指した。動物はそちらを見る。

 

するとそこには沢山の動物がいた。色と大きさが少し違うだけの、大小合わせて20頭程動物の群れが、草原から顔を出してこっちを見ていた。

 

「きゅっきゅきゅ…」

 

レジー「さようなら」

 

レジーはそう言うと車に乗り込み、車を出すようにユーリに言った。

 

ユーリ「じゃあな」

 

ユーリはそう言ってへなへなと車を発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして草原の道を走りながら

 

ユーリ「レジーはやはり優しいな。俺ならすぐに殺してた」

 

レジー「いいえ、いいえ」

 

レジーが否定の言葉を2回も使ったので、ユーリは首を傾げた。

 

ユーリ「…何故2回言った?」

 

左側の席に座るレジーを見ると、レジーは美しく微笑んでいた。

 

レジー「私は少なくとも貴方以外に優しくしたことはありませんし、これからもすることは無いでしょう。あの動物も、すぐに殺す必要もありませんよ」

 

ユーリ(…俺に優しくしたことなんてないだろ…)

 

レジー「何か言いました?」

 

ユーリ「何故殺す必要がないのかなと」

 

レジー「…じきに分かりますよ」

 

 

 

 

 

黄色い車が夕日の中に去った後、

 

「きゅっきゅきゅー!」

 

取り残された1頭の動物は、そう言いながら群れを見た。

 

「ごががごかっ」 「ごががががご」 「ごごごごがが」 「ごがっがごがが!」

 

群れの1団が威圧的な勢いでそう言い返すと、その一頭は、

 

「きょゆ……」

 

少し体を引いた。

 

やがて群れの中にいたボスらしい一頭が、その1頭に話しかける。

 

「きょきゅきょ?」

 

「きょきゅっ!きょきゅきょっきょきゅ!」

 

「きょっ。きょきゅきょきゅきょ」

 

ボスはそう言うと群れへと振り向き、

 

「ごがごごがご」

 

そう短く強い調子でそう言った。群れの1団が身を引きしめた。

 

それからボスは、

 

「きょきゅきょ」

 

その1頭に優しげに話しかける。手を振ってその1頭を招き寄せた。

 

「きゅ!きゅう!」

 

その1頭は嬉しそうにそう言うと、テクテクと群れに近付く。群れは広がってその1頭を迎え入れた。

 

 

 

 

 

 

そして、

 

「ごがごー!」

 

ボスがそう叫んだ瞬間に、皆で一斉に、その1頭を殴り始めた。

 

「きゃーきゅー!きゃーきゅーきゃきゅー!」

 

悲鳴を上げても、お構いなしに殴り続けた

 

 

 

 

 

やがて、草原は静かになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レジー「そういえばユーリ」

 

ユーリ「ん?」

 

レジー「ホテルのロビーのことでしたか…やる時はやる私が好きだと、言いましたよね」

 

ユーリ「あぁ、確かに言ったな」

 

レジー「どういう意味です?」

 

ユーリ「…そのままの意味だが?」

 

レジー「…そうですか」

 

ユーリ「気に入らないのなら撤回するが」

 

レジー「いえ、結構です」

 

ユーリ「そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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再会の森

間違いを正すことが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

必ずしも正しいとは言えない

 

 

 

 

 


 

ある日の事だった。

 

季節は秋に差し掛かり、森の中ではいっそう紅葉の葉が地面に積もっていた。もうすぐ昼に差しかかる時刻の時、そんなときも小さな小動物達は、迫り来る冬の季節に備えて、いそいそと自分の食料をかきあつめていた。

 

その森の中で、自然とはかけ離れた音と振動がきこえてくる。

 

それは、とある旅人達によるものだった。1人は身体は小柄で、耳垂れの着いた帽子を被り、ゴーグルをはめ、背丈にあっていないぶかぶかの茶色のコートを羽織り、風と共にたなびかせながらモトラド(原動機付き二輪車のことを言う)に跨り、森をかけていた。もう1人は、相方と比べると結構な身長差があり、長く綺麗な銀髪を、木々の間に差しかかる光を反射しながら風で揺らしている。服装は黒いコートに、相方と同じ耳垂れ付きの帽子とゴーグルをつけ、モトラドで進みながら、薄水色のシャツを風でたなびかせていた。

 

 

 

エルメス「ねぇねぇユーリ」

 

ユーリ「なんだ?エルメス」

 

エルメスと言うモトラドが、ユーリという青年に聞いた。

 

エルメス「次の国、どういうところなの?なんか特別なこととかあんの?」

 

そんなエルメスの問いに、ユーリは自分のモトラドである、ヤタガラスを運転しながら素っ気なく答える。

 

ユーリ「さぁな、情報を集めてみたが、いかんせんその国について知っている奴が異常に少なかったからな。わかったことは、そこまで文明は高くないこと。そして…医療技術がないということだ」

 

ユーリのその言葉に、キノは首を傾げた

 

キノ「?ない、とは?」

 

ユーリ「文字通りないのさ、人を治すという技術が。そもそも、治すということすら知っているかどうか怪しいな」

 

エルメス「へー、そんな国もあるんだねぇ。さぞかし生きづらいんだろうなぁ」

 

2人の旅人とモトラドは、そんなことを口掴みながら、森の中で少し広い場所に出てきた。

 

ユーリ「ちょうど良い、今日はここらで野宿だな」

 

ユーリはそう言うとその広めの広場の端にヤタガラスをスタンドでたてかけた。キノも同じようにヤタガラスの隣にエルメスをスタンドでたてかける

 

ユーリ「キノ」

 

キノ「はい、分かりました」

 

キノはそう返事すると、手馴れた手つきでエルメスから野宿用の毛布などを取り外し、すぐそばに置くと、火を起こすための手頃な木を探すために森の中を歩いていった

 

ユーリ「…さて、それじゃあ俺は、なにか食い物でも探すとするか」

 

ユーリはそう言いながら黒いコートを脱ぎ、ヤタガラスのハンドルにかける。そして薄青色のシャツの袖をまくり、ラフな格好でエルメスに尋ねる

 

ユーリ「エルメス、近くに川は?」

 

エルメス「ないね、手頃な食料だと、今の季節なら栗っていう木の実が結構床に落ちてると思うよ」

 

ユーリ「…栗、か。食ったことないが、上手いのか?」

 

ユーリはそう言いながら、ヤタガラスのサドルを、その下側に着いているスイッチを押しながら上にあげた。するとサドルが箱の蓋のように片方だけ持ち上がり開いた。その中には様々な物資が綺麗に収納されていた。

 

エルメス「さあ?食べたことなんてないから分からないよ。でもまあ、不味くはないんじゃない?」

 

ユーリ「…携帯食料よりはマシであることを祈ろう…」

 

ユーリは肩をすくめながら、サドルの中からちょっとした調理器具を出してきた

 

エルメス「…ユーリってさ、ほんとに几帳面だよね。旅に調理器具持ってくるなんて、大規模な商人たちぐらいだと思うよ?」

 

ユーリ「飯は栄養の補給と共に、心を潤してくれる。いつまでもこんなクソ不味い栄養だけの固形物食ってたんじゃいざってときにやる気が出ない」

 

ユーリはそんな悪態をつきながら、自分も野宿用の毛布などを取り出していく。すると、手頃な木材を手に入れてきたキノが戻ってきた。

 

キノ「ユーリさん、戻りました」

 

ユーリ「もう戻ってきたのか。悪いな、今から準備するところだ」

 

キノ「いえ、気にしないで下さい。いつもはボクが手間取ってるんですから」

 

キノはそう言いながら広場の中央に拾ってきた木枝を置いていく。

 

そして置き終わった木枝の中央に、枯葉を乗せ、その上にほんの少しばかりのガソリンをかけ、懐からマッチを取り出した。

 

チッ…チッ…シュボッ!

 

マッチを二、三回マッチ箱の側面に擦り付けると、マッチ棒の先端から勢いよく火が現れた。

 

そしてキノはマッチ棒を指先で弾くようにして置いてある木枝に向かって飛ばした。

 

すると、綺麗にガソリンのかかった枯葉のところに入り、そして流れるかのように引火し、あっという間に焚き火が出来た。

 

エルメス「ほんと、慣れたもんだね」

 

キノ「そりゃあ、これをしてきたのは昨日今日の事じゃないからね。嫌でも慣れるよ」

 

キノはそう言いながら予備の木の枝を使ってガサガサと焚き火の中を弄り、火が効率よく回るようにしかけた。

 

その傍で、ユーリはパースエイダーを片手に森の中へ入ろうとしていた。

 

ユーリ「それじゃあ少し言ってくる。わかってると思うが「数時間たって来ないようならここからすぐに離れること、決してユーリさんを探そうとしないこと、ですよね。分かっていますよ」…ならいいが」

 

そのまま去っていくユーリの背を見つめ、完全に去るのを見届けると、キノは焚き火の前に座り、もうすぐで完全に日が暗くなる中、エルメスに唐突に変な事を語り始めた

 

キノ「ねぇエルメス」

 

エルメス「なんだいキノ」

 

キノ「昨日ね、少し…いやだいぶ…いやすごく、変な夢を見たんだよ」

 

エルメス「随分盛るね。一体どんな夢を見たの?キノが変って言うぐらいだからとても変なんだろうね」

 

エルメスは冗談混じりにそんなことを言うが、キノは至って真面目に答える

 

キノ「…僕は昨日夢の中で、この景色を、この今の現状を見た」

 

キノは焚き火を細長い木の枝で弄りながらそういった。後ろに居たエルメスは、随分と盛られたによってはそこまでの衝撃がなかったようで、それほど驚きもせず答えた

 

エルメス「あぁ、予知夢ってやつ?それともデジャブって言うのかな?人間にとっては稀に見るものらしいよ」

 

キノ「そうだね、それは僕も聞いた事があるし、前に見た事もある。でも、例え夢の中だとしても、嫌で…とても恐ろしかったんだ」

 

キノは声色を変えずにそう言いながら空を見上げる。エルメスはキノの後ろにいるため、表情を見ることは出来なかったが、珍しくキノがほんの少し身震いした

 

エルメス「…へぇ、キノが恐ろしいなんていうとはね。正直ココ最近で1番驚いたよ。でもどうして?ただこの景色を、この現状を見ただけの夢に、そこまで恐怖することなんてないと思うけど?」

 

キノ「確かにそれだけじゃ怖がることなんでない。でもほんとに恐ろしかったのはその後だ。この夢には、まだ続きがある」

 

エルメス「続き?」

 

キノ「うん。この後はね…」

 

 

 

 

 

 

パァンッ!

 

 

 

 

 

キノ「ッ!」

 

 

キノがそこまで言い淀んだ時、結構遠くから1つの銃声が聞こえた。音からしてユーリのパースエイダーであるバンシィの音だった。そして立て続けに発砲音が鳴った。

 

エルメス「うわ、ドンパチやってるね。この銃声、ユーリかな?襲われちゃってるのかな」

 

キノ「…りだ」

 

エルメス「え?何だって?」

 

キノ「夢の通りだ。僕は昨日の夢で、この事も見た」

 

キノは腰のホルスターにつってあるリボルバー式パースエイダーのカノンのグリップを握りながら、ユーリの銃声が聞こえた方とは真逆のところを見る

 

エルメス「…なるほど、じゃあ、この後来る奴らのことも知ってるのかな?」

 

エルメスがそう言うと、遠くから地響きのようなものが聞こえてきた。そして、それはだんだんと大きくなっていく。どうやらキノ達の方面えと向かってきているようだ。

 

キノ「数は?」

 

エルメス「大型四輪駆動車が1台、モトラド2台ってとこかな。どうすんの?…っていうか、これからのことも夢で知ってるんなら、どう動くかも決まってるのかな?」

 

キノ「まぁね。それじゃあ、僕の夢を信じて、動くとするよ」

 

キノはそう言って、横にあった焚き火を蹴り壊し、あかりを消した。もうほぼ日が落ちている時刻である為、視界はほとんど暗く染まった。

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

「おい、明かりが消えたぞ。どうする?」

 

「ならヘッドライトを消すぞ。互いに見えない状況になるが、ここ周辺の地形の情報は俺達の方が詳しい。この森の中でのそれは、覆すことの出来ない決定的差だ。そこを上手く使うぞ」

 

大型の四輪駆動車に乗った5人の男達と、2台のモトラドに乗った男達は、先刻、この森に入った2人のモトラド乗りの旅人を襲い、荷物を奪う為、ずっとタイミングを見計らっていた。

 

ガサッ…ガサッ…

 

山賊達は車から降り、各自それぞれの自動装填式アサルトパースエイダーを持ち、ゆっくりと音を立てずにキノ達のところへ向かう。慎重に、焦らずに、じっくりと時間をかけ、念入りに当たりを見回しながらキノ達の火の消えた焚き火の跡を見つけた。

 

しかし…

 

「…何の気配も感じないな。おい、どうする?」

 

「いや、よく見ろ。モトラドが置いたままだ。ということはまだ近くにはいる。それにまだ向こうではこいつの相方が撃ち合ってんだ、むざむざ見殺しにするとは思えねぇ。…いや、まさかそっちの方に加勢に行ったのか…」

 

山賊達が小声で相談しており、どう動くか決めかねていた。

 

その時だった。

 

ガサッ!

 

「ん?なんの音『ザシュッ!!』

 

『それ』は、木の上から1人の男目掛けて飛び、着地すると同時に男の喉元をかっさばいた。

 

キノ「まず1人」

 

キノはそう言いながら右腿に吊るしてあるホルスターからリボルバー式パースエイダー「カノン」を取り出し、流れるように2発撃った。

 

バァンバァンッ!!

 

その2つの銃弾は2人の男の頭部に目掛けてまっすぐに飛んでいき、そして貫いた。あまりのとっさの出来事に、山賊達は反応が遅れ、まともに対応することができなかった

 

「うわ!うわぁぁ!!」

 

バババババッ!!

 

1人の男が、自分の真後ろで3人の仲間が殺されたことによる恐怖なのか、半狂乱になりながらキノのいる方向にデタラメに銃を連射した。

 

しかしキノは冷静に、傍に落ちている死体を盾にしながら男に目掛けて突っ込み、山賊の集団の懐に潜り込んだ。

 

キノ(そのパースエイダーでこの至近距離なら、僕のカノンの方が強い!)

 

キノは姿勢をできる限り低くしながら滑り込み、山賊の股下を潜り抜けると同時に1発。男の顎から脳天を一点に貫いた。そして残った山賊達がキノに振り返ろうとした瞬間に1発。山賊のうちの1人の頭を正確に撃ち抜いた。

 

しかし、そこで残った2人のうちの1人の男が、思い切った行動をした。

 

「ッんのガキがァァ!!」

 

ブンッ!

 

キノ「!?」

 

男は手に持っていたパースエイダーをキノに向かって《投げた》。

 

これには少しキノも驚いたが、キノの、今まで積み重ねてきたユーリとレジーの訓練と、殺し合いの経験が、キノの体を動かした。冷静に、されど無駄がなく、その投げられたパースエイダーを避けた

 

だが

 

「うぉぉぉぉ!!!」

 

男はナイフを片手にキノに体当たりをしてきた。流石のキノも接近戦となれば体格の良い男の方が強い。キノはまだパースエイダーを避けた時の体制のままで、対応するのに遅れた。

 

ドゴッ!

 

キノ「ふぐっ!?」

 

キノの小さな体では男の巨大な体を受け止めることなどできなかった。男の体当たりを、腕で無理やり防ぎながらも突き飛ばされ、硬い地面に叩き付けられた。その時に手に持っていたカノンを手から離してしまった。男はそれを見逃すはずもなくすかさずキノにトドメを刺そうとするが、

 

キノ「ッんの!!」

 

バンッ!

 

男「イギッ!?」

 

キノは即座に後腰に吊ってあるもうひとつの自動装填式ハンド・パースエイダー「森の人」を抜き、狙いはとにかく体のどこかに当たれば良しとしてとにかく撃った。

 

その弾は男の太腿に直撃し、男は悲鳴を上げながら倒れ込む。しかし…

 

「このぉ!!」

 

バァンッ!!

 

ガキンっ!

 

キノ「うわっ!」

 

最後の1人である男がキノに向かってハンド・パースエイダーを撃った。だが、運良くキノは森の人に銃弾が当たった為、傷を負うことはなかったが、森の人は手から弾かれてしまった。

 

「動くんじゃねぇ!!指1本でも動かしてみろ!足から順に撃ってやるからな!!」

 

キノ「……」

 

キノはそう言われると、ピタリと動きを止めた。手元にパースエイダーがない時点でいくらキノと言えども分が悪すぎていた

 

「…へへ、そうだよそれでいいんだよ…じっとしてろよ」

 

男はそう言い、キノに銃口を向けながら太腿を撃たれて唸り続けている男が無事かを確認した。そして再びキノに振り向いた

 

「…このクソッタレのガキが…よくもまぁこんだけ殺ってくれたもんだぜ…キッチリ落とし前つけてもらわねえとなぁ…」

 

男はそう言いながらジリジリと距離を詰めていく。

 

 

 

 

 

 

その時、ずっとだんまりだったエルメスがしゃべり出した

 

エルメス「なるほど、キノが言ってた1番恐ろしい夢ってのはこのことだったのか。そりゃ恐ろしいよね、納得納得」

 

「…あん?」

 

男は急に喋り出したエルメスに向かって振り向くが、エルメスはその男に向かって一言、《忠告》をした

 

エルメス「今からの天気は〜星空の見える晴れた夜空のち〜」

 

 

 

 

 

エルメス「銀色の車が横から降ってくるでしょう〜」

 

エルメスがそう喋った後の数秒後、森がざわめきだした。そして、森から出るとは思えない重々しい何かの音が、だんだんと近付き、

 

 

 

ドゴォン!!

 

男「へ?」

 

キノ「…あ」

 

グシャッ…

 

横から急に銀色の車が飛び出してきた。その拍子に、太腿を撃ち抜かれ、うずくまっていた男の頭は踏み潰され、キノに銃口を向けていた男ははね飛ばされ、ビクビクと体を震わせたのちに、動かなくなった

 

ガチャ…

 

その銀色の車からドアをあけ、現れたのは、長く美しい黒髪と、茶色いジャケットを羽織った…

 

「久しぶりですね、キノ。気分はどうですか?」

 

キノ「…最悪ですね、お師匠様

 

 

 

 

レジーであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




人物紹介

レジー

原作通りの服装をしており、車は昔から乗っていた黄色いボロボロの車ではなく、ユーリがずっと昔から改修していた、現代で言うFORD MUSTANG “ELEANOR。通称《エレノア》に乗っている。


キノとユーリが旅に出たあと、レジーは自分のカノンがキノに持っていかれたことと、久しぶりに旅をしたくなったという理由で家を飛び出し、ガレージに残っていたユーリが改修した車、エレノアに乗り、まずは2人を探す旅に出ていた。持っている武器はとりあえず、ユーリの拳銃の予備である、今のユーリが持っているものと同じパースエイダーを2丁持ち出している。レジーはそれぞれ《レイ》《ヴァジュラ》と呼んでいる。


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レジーとキノはある意味犬猿の中

自分の力を完璧に制御できているうちは、それは自分の全力では無い事の証明でもある。


レジー「お久しぶりですね、キノ。気分はどうです?」

 

レジーは轢き殺した2人の男の事など最初からいなかったかのように振る舞い、キノに優しく語り掛けた。

 

キノ「…最悪ですね、お師匠様」

 

キノも一応、そう返事した。がその時、

 

パンッ!

 

キノ「い”っ”!?」

 

キノの額に1発のゴム弾が飛んできた。

 

レジー「これは、私のカノンを独断で盗んだ罰です」

 

レジー「そしてこれは…」

 

レジーはそう言葉は重ねながら、レジーのハンド・パースエイダーである《レイ》に1発のゴム弾を詰めながら、再度言った

 

レジー「私から、ユーリを奪おうとした罰です」

 

そしてレジーは額に手を当て、うずくまるキノの目の前にしゃがみこみ、ゴリッと頭に銃口をすりつけた

 

そして引き金を引こうとした時…

 

「俺を…モノみたいに…言うんじゃあないっての…」

 

レジー「…おや、色んな意味で随分と男前になりましたね、ユーリ」

 

そう言って現れたのは全身血だらけになり、疲れ果てたユーリだった

 

エルメス「うわーどうしたのその血。まさかボッコボコにやられちゃった?」

 

ユーリ「だとしたら俺は今この場にはいないだろうが…全部返り血だっての…」

 

ユーリは相当疲れているのか、すぐその場の木にうっかかりながら悪態を着いていた

 

キノ「…うぅ、ユーリ…さ「パンッ!」ひぐっ!?」

 

喋り出すキノに向かって、レジーはなんの言葉も発さずにキノに後頭部に向かってゴム弾を撃った

 

エルメス「…うわぁ、かわいそ…」

 

レジー「貴方、一体何をしてきたのです?ただの山賊相手にそのようになるまで押し込まれたのですか?」

 

レジーはレイをホルスターにしまいながらそう聞いた。

 

ユーリ「確かに、普通の山賊ならこうはならなかったがな…いかんせん数が多すぎたんだ。面倒だから、《力》を使っただけだ…ってか、なんでレジーがここにいんだよ…お前、家はどうした?」

 

レジー「質問をしているのは私なのですが…まぁいいでしょう、家のことなら捨てました」

 

 

 

 

エルメス「え」

 

レジーはごく淡々と述べたが、あまりのことにユーリはおろか、エルメスさえも絶句した。

 

ユーリ「…おいおい、正気か?いくらレジーのことだからといっても、限度がある。流石に捨てたってのはやりすぎだろう…あれ手に入れるのにどれだけ苦労したのか、忘れたのか?」

 

レジー「随分と酷い言い草ですね。貴方にそこまで言われるのは何気に初めてのような気がします」

 

レジーはまるで心外だと言わんばかりにわざとらしく言った。

 

ユーリ「…それだけのことを、したんだから当然だろう。レジーの事だ、ちゃんと、俺が納得できるような理由があるんだろうな?ないとは言わせないぞ…」

 

戦闘で疲れていることもあってか、レジーのその様子にイラつきを感じ始めたユーリは少し荒々しく言った。が、レジーはまるで見当違いのようなことをいってきた。

 

レジー「そんな大層な理由などありませんよ。あそこは、私の家ではなくなった。だから捨てた。それだけです」

 

ユーリ「…なに?」

 

エルメス「え、どゆこと?」

 

ゴム弾を再度打ち込まれて呻くキノ以外の2人は、レジーの言葉の意味がわからず、聞き返した。

 

レジー「…これは持論ですが、家というのは、必ずしも建物である必要はありません」

 

レジー「家というのは、家族が寄り集まって初めて、その場所が家となるのだと、私はおもっています。今回のことも、もうあそこには私と、ユーリの残したエレノアが残っているだけでした。だから私は、新しい家に行こうと思いました」

 

エルメス「新しい家?そんなものがあるの?」

 

あまりよく分からない話に、エルメスは再度聞き返したが、レジーはまだ分からないのかと仕方なさげにため息を着いた

 

レジー「ここですよ」

 

キノ「…意味が…分かりません…」

 

やっと痛みが引いてきたのか、顔だけレジーの方へ向けて、キノがいったが、その問いにユーリが答えた。

 

ユーリ「…俺達がいるから、か?」

 

レジー「えぇ、そうですよ」

 

レジーはやっとわかったかというため息と同時に、理解したことをほめてくれる母親のような珍しい表情をしていた。

 

レジー「私の帰る場所は、いつだって貴方達のいる所です。これは、貴方達にも言えることですよ。ユーリやキノの帰る場所も、私達のいるそこが、形はなくとも家なのですから、そこに帰ればよいのです」

 

レジーが本当に珍しく長く喋ったかと思うと、おもむろに立ち上がり、エレノアの方へ行くとそのボンネットの上に座り、ゆっくりと休み始めた

 

ユーリ「俺達の集まる所が家であり、帰る場所、か…」

 

ユーリはレジーの言葉を再度言い、少し沈黙した後にほんの少しだけ微笑んだ

 

ユーリ「…やっぱレジーは、根っからの旅人だな」

 

キノ「僕も、同感です…」

 

レジー「当たり前でしょう、私は昔から今この瞬間さえも、旅をし続けているのですから」

 

レジーはさも当然の如く振る舞う。そこに、エルメスが恐る恐る聞いてきた

 

エルメス「ねえお師匠様。ひとつ聞きたいんだけどさ」

 

レジー「なんです?」

 

エルメス「要するに、僕達の旅について来るってこと?」

 

色々な面で難ありのレジーだが、それでも着いてきてくれるのならとてつもなく頼りになるであろう存在でもある。そんなレジーが、着いてくるのかどうか、エルメスは聞いておきたかった

 

レジー「えぇ、行きますとも。ユーリはまだしも、キノはまだまだ不出来な弟子ですからね。本来私は最後まで、責任持って世話をしなくてはならない立場ですから」

 

レジーはそう言ってエレノアのボンネットの上から立ち上がると、キノ達2人が山賊に襲われる前、この森に来た時にキノがつけた焚き火を、再度点火した。

 

レジー「随分と長話をしてしまいましたね。今日はもう休みましょう。キノ、そこに転がっている死体を片付けますよ」

 

キノ「あ、はい」

 

キノは赤くなった額を抑えながらレジーと一緒にそこら中に転がっている死体を片付けに行った。

 

 

 

 

そうしてエルメスと2人きりとなったユーリは、襲撃された時に色々とぐちゃぐちゃになってしまった寝具をもう一度綺麗にした。

 

エルメス「ねぇねぇユーリ」

 

ユーリ「ん?」

 

エルメス「そういやさ、このお祭り騒ぎが起きる前にキノから話されたことなんだけどね」

 

エルメスはそう話し始めると、キノから聞いていたデジャヴの話をユーリにした。

 

エルメス「キノってさ、今回の襲撃、夢で見たらしいよ」

 

ユーリ「へぇ、予知夢って奴か?随分と珍しい物を見たんだな」

 

エルメス「そうなんだけどさ、キノってその夢についてさ、すっごく恐ろしい夢だったって言ってたんだよ」

 

ユーリ「…恐ろしい?」

 

ユーリは一旦作業を止め、エルメスの方を向きながら再度尋ねる

 

ユーリ「それこそ珍しいな。もうあいつに恐ろしいという感情はなかったと思っていたが…何が恐ろしかったんだ?」

 

エルメス「僕も途中まではわかんなくてさ、なんのことなんだろうって思ってたけど、やっと確信したんだよ」

 

エルメス「キノにとって、この世界でいっちばんおっそろしい人っていえば?」

 

エルメスは半分問題をだすかのような声色で答えた

 

ユーリ「……ん〜……」

 

ユーリはエルメスからの問いに対して様々な事を予想した。キノが恐れる人。例えば殺しても死なない化け物のような人間か。それとも自分達じゃ到底敵わないほどの強者?はたまた自分達に精神的苦痛を与えてくるような下衆な人間か。どれもユーリにとって恐ろしく、というよりかは会いたくない人間が、頭の中に浮かんでくる

 

 

 

 

ユーリ「…あ」

 

しかし、ユーリは気づいた。ユーリとキノにとってはある意味この世で最も恐ろしく、そして力強い存在を。

 

ユーリ「…レジー、だな?」

 

 

エルメス「せいかーい!」

 

エルメスは子供のように嬉しそうな声色で言った。

 

そう、2人…いや2人と一台にとって、レジーほどの恐ろしい人物はいないだろう。普段は大人しく、凛として、ただの立ち姿だけでもなんとも言えないような美しさを持つレジーだが、ひとたびキレると何をしでかすかわからない、まるで爆弾のような女性なのだ。

 

ユーリと旅をしていた過去の話、とある国では商人から集めた(略奪した)レジーの金品の詰まった袋を、その国の警官を名乗る人物が、「お前にような奴には必要ない。我々が役立ててやろう」などとふざけたことをぬかし、レジーの手から押収した時があった。

 

 

 

 

 

その夜、その国は一夜で滅亡の危機を迎えた。

 

何があったかは言えないが、とにかく彼女は自分の私物(略奪品)が奪われたになったというだけで、ただの憂さ晴らしに、一つの国家を破壊しかけたのだ。それもたった一人でである。

 

しかもちゃっかり奪われた金品以上の、希少で価値のあるものを奪っていった。

 

それからその国では、違う国から来た黒髪長髪の若い女性をみては頭を地面に擦り付けるほど、トラウマになっていたという。

 

それほどまでに、レジーという存在は、恐ろしいものである

 

 

 

ユーリ「…まぁ、俺達が恐れる相手って言えば、一番身近にいるあいつしかほぼいないからな…」

 

ユーリは少し身震いしながらエルメスに問う。

 

ユーリ「…えっと、なんの話をしていたんだか…あぁそうだそうだ。それで、そのレジーがどうしたんだよ」

 

エルメス「多分ね、キノはこの森に入ってからここまでのことを既に夢で見ていたんだよ」

 

ユーリ「‥何?」

 

エルメス「山賊がやってきて、僕達を襲う。これだけなら夢で見ることは珍しくても、恐れることはない。でも、お師匠様がいるなら話は別。」

 

ユーリ「…何か問題があるのか?確かにレジーは恐ろしい奴だが、それは敵対した時だけだ。仲間であり、家族である俺達は、そこまで怯えることはないだろう?」

 

ユーリはまだ少し理解できていないので、エルメスに説明を促した。

 

エルメス「確かに、ユーリは別にお師匠様にやましい事なんてないだろうけど…ほら、キノって、結構無理やりこの旅についてきたじゃん?そん時にお師匠様の大事なパースエイダー勝手に持ってきちゃってるからさ」

 

エルメス(まぁほんとは「カノン」を奪われた事じゃなくて、ユーリとずっと一緒にいたことが気に食わないんだろうけど…)

 

そんなエルメスの心情などいざ知らず、ユーリは納得したかのようにうなずいた。

 

ユーリ「なるほどな。そういや勝手にとってきてたからな…相棒を奪われたとなりゃ、怒るのも当然だ。今回ばかりは、俺は庇いきれそうにないな」

 

 

 

 

 

レジ「別に構いませんよ?キノを庇っても」

 

ユーリ「っ!!?」ビクゥッ!

 

エルメス「うわぁッ!!」

 

ユーリとエルメスは、気配もなく急に後ろからかけられた声に、珍しく体を思い切り震わせた。

 

ユーリ「…急に、後ろから声をかけないでくれ。お前に後ろを取られると、生きた心地がしない…」

 

ユーリは顔だけゆっくりとレジーの方へ振り向き、悪態をつくように言った。しかし、レジーは特に表情を変えるでもなく、ユーリの座ってる隣に体をすり寄せるように座った。

 

レジー「なんですかその言い草は。とてもレディにかける言葉とは思いませんね。不出来な弟子と一緒にいたせいか、貴方も不出来になってきましたか?もう一度教育してあげましょうか?」

 

ユーリの顔を無理やり自分の方へ向けると、レジーは身体を乗り出し、ユーリに上から覆いかぶさるようにしなだれかかってきた。

 

互いの顔は鼻先が当たるぐらいまで近づいており、あと少しでも距離を縮めれば唇が触れてしまいそうな程だ。

 

ユーリ「う…ぅ…」

 

ユーリは超至近距離に、レジーの顔があるとわかると、とても珍しく何もできなかった。 

 

エルメス(!?え、なにあれ、なんでなにもしないの!?えちょ、えッ!!?あんなユーリ初めて見るんだけど!?)

 

エルメスの言う通り、普段のユーリからは想像もできないような状態だ。これがキノ相手ならば鮮やかにかわして寝るのだろうが、ユーリにはいくつか問題があった。

 

 

 

…ユーリは昔から、レジーには一度たりとも逆らうことができないのである。

 

 

 

軽々と様々なことを危なげもなくこなす彼だが、もともとがとある国の科学実験体であるユーリは、束縛され、奴隷のように扱われるのが彼にとっての常識なのだ。故にユーリは、その国から助け出されたその時から、レジーに絶対的忠誠を誓っていた。

 

いつも、まるでレジーと対等のように振る舞ってはいるが、体の奥底では主人に従う絶対的な感情が常にあった。

 

だからこそ彼は、レジーは主人であると身体が勝手に認識している以上、強引にされると、何もできず、言いなりになってしまうのである

 

レジー「…私に対して、悪態をつこうがどう接しようが構いません。しかし、私から離れることは許しません。私以外に誰かと共にいることも許しません。貴方が旅に出ることを許した覚えもありませんし、許すつもりもありません」

 

レジーはユーリから少しも目を離さずに、命令するかのように告げる。

 

レジー「いいですね?貴方は常に私の側にいなさい」

 

ユーリ「…了解…」

 

やがてユーリの目には光なく、深く深く奥底の深海のような青黒い目をしながら返事をした。すると、レジーの左手がユーリの頭の上におかれ…

 

レジー「そう…それでいいんです…それで…」

 

レジーはユーリの頭を自分の胸に抱えながらゆっくりと撫で始めた。

 

 

 

 

 

エルメス(……僕、なにを見せられてるんだろう……てかユーリ大丈夫なの…?なんか、目、死んでるんだけど…)

 

エルメスが半分放心状態になっていると、《それ》はきた。

 

 

 

「お師匠様。ユーリさんになにしてるんですか?」

 

レジー「…」クルッ

 

レジーは声のした方を振り向くと、そこには……

 

 

まるで殺人鬼のような黒く澱んだ目をした、キノが立っていた。

 

 

キノ「いつのまにか消えて…探してみればユーリさんと一緒にいて…」

 

キノはゆっくりと近づき、片手に「森の人」(キノの自動装填式ハンド・パースエイダーのこと)のグリップを握り、引き金に指をかけた状態で語る。

 

キノ「ユーリさんに変な命令して…」

 

 

 

 

 

キノ「ちょっと、許せないですね」

 

キノはそう言うと森の人をレジーに向けた。

 

エルメス「え!?ちょ、正気なのキノ!?」

 

エルメスが必死に止めようとしたが、当の本人はいざ知らず、レジーに銃口を向けたまま下ろそうとしない。

 

レジー「…はぁ…聞き分けのない弟子を持つと苦労します…」

 

レジーはユーリを離し、キノの方へ向かってそう言うと、自分の腰に吊るしてあるホルスターのあるパースエイダー《レイ》のグリップを握った

 

 

その時、

 

ユーリ「…詐欺師(フラウド)

 

バシュッ!

 

キノ「!?うわっ!」

 

レジー「!」

 

キノの周りの地面から、蒼い無数の鎖が飛び出し、キノに纏わり付くようにして縛り上げた。

 

その鎖が出てきた際に、森の人も手から弾かれ、落としてしまった。

 

エルメス「え、これって…ユーリの、力…?」

 

キノ「うぐっ!な、なんで…ユーリさん!どうして僕に『グンッ!』…ッ!?うわぁッ!?」

 

キノは更に出てきた無数の鎖から、縛り上げられた状態のまま上の木に蓑虫のように逆さまから吊り下げられていた

 

レジー「…これは…なるほど、守ってくれたのですか」ツンツン

 

キノ「うぐっ…ちょ、つつかないで下さっ…」

 

エルメス「え、どゆこと?」

 

レジーはグリップから手を離し、ゆっくりと近づき、逆さ吊りになったキノを指先でつつきながら、説明した。

 

レジー「ユーリは常に私を守ってくれます。今回は、キノが私に対して攻撃的な意思を持っていると判断したのでしょう。故に意識がはっきりしない状態でも勝手に力が動いた、と思います。多分ですけれど…」

 

キノ「うぐぅ…」

 

悔しそうに逆さ吊りにならながら唸っていると、レジーはキノに向かって言った

 

レジー「全く…ユーリに感謝するのですよ?こんな状態で終わってなければ家族どうしで殺し合いする羽目になってたんですから…相変わらず感情的な子で手がかかります…丁度いい機会です。師に手をあげるようなダメ弟子にはそのまま宙吊りなっているのがお似合いでしょう。曰くそのまま反省してなさい」

 

レジーはそう言うと、ユーリを横にさせ、寝具を手に、ユーリの隣で寝ようとしていた。

 

エルメス「えぇ!?ちょ、ちょっとお師匠様!キノにも非がある…ていうか非しかないんだけど、このままにしておくの!?」

 

レジー「これも忍耐力の訓練です。朝までそうしてなさい」

 

レジーは非道にもそう言い残し、パースエイダーを片手に握りながら毛布を着て横になった。数分すると規則正しい寝息が聞こえてきた

 

エルメス「…本当に寝ちゃったよ…キノ、大丈夫?ってか、お師匠様に銃口むけるなんて、命知らずだなぁ…」

 

キノ「うるさい…仕方ないでしょ…ユーリさんに変なことしてたんだもん…」

 

プランプランと風にゆれながらキノは膨れっ面になっていた。

 

 

 

 

キノ「…いつか、この手で奪ってやる…」

 

エルメス「あっそ…ほんと、意固地なんだから…」

 

 

 

 

エルメス(結局ユーリって、お師匠様とどういう関係なんだろーなぁ…最後らへんなんて目が死んでたし…)

 

 

 

エルメス「…なんだか、頭が痛くなってきたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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開運の国

貴方が誰かを助ける時








貴方は誰かを殺してる


「朝日の中で」

 

 

 

キノとユーリとレジーは、昇る朝日を見つめていた

 

あたりが一面雪景色であり、猛烈に眩しい朝日だった

 

世界を銀色に染めながら、太陽はゆっくりと地平線からのぼり、さらなる高みを目指しているかのようなだった

 

防寒着を着込み、キノは自動装填式スナイパー・パースエイダー「フルート」を背負い、ユーリはヤタガラスの上に腰かかり、レジーはエレノアの中から窓を開け、片腕を出していた

 

そしてキノの股がっているところから

 

エルメス「うん、いい天気だね」

 

エルメスの声がした

 

キノ「そうだね、エルメス」

 

キノは言い返した

 

ユーリ「…幻想的だな」

 

ユーリがそう言うと、

 

レジー「同感です」

 

レジーもそう言った

 

 

 

 

 

 

キノ達の前に、3人の人達がいた

 

3人とも女性で、20代から30代だった

 

やはり防寒着を着込み、サングラスをして、太陽を見ている

 

3人は泣いていた

 

サングラスの下から、滝のような涙を流していた

 

時折それを外して、タオルで顔中を吹いていた

 

「うぅ…」

 

「あぁ…」

 

「うっ、うぅ…」

 

3人の嗚咽が、雪に吸い込まれて消えていくように感じた

 

 

 

 

エルメス「でもさ」

 

エルメスがなにか言おうとして

 

キノ「お静かに、エルメス」

 

キノはエルメスの方へ振り向かず、声だけでそれを制止した

 

そして、キノはずっと、朝日を見ていた。

 

ユーリとレジーも、ずっと見ていた。

 

3人の泣きじゃくる女性たちの後ろから、黙って見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

「関連の国」

 

 

広い大地を、2台のモトラドと1台の車が走っていた

 

2台のモトラドの内の1台は銀色の燃料タンクを光らせ、もう1台は真っ黒のボディで、もう1台とは逆に光を吸い込むかのような見た目をしていた。

 

1台の車の方は、銀色のボディに、特徴的なヘッドライトがあり、中々のエンジン音を大地に轟かせていた

 

黒いモトラドに股がっている、背が高く、長い銀髪を鈴の着いた青いリボンでひとまとめにしている男、ユーリ。

 

車を運転している長い黒髪の見目麗しい女性、レジー。

 

茶色のコートとゴーグル付きの耳垂れの長い帽子を被った幼い少女、キノ。

 

3人組は皆、サングラスをつけていた。

 

エレノアの後部座席には、旅荷物がこっちゃりと載っていて、整理整頓がかなりされていなかった。

 

寝袋やテント、水や燃料缶などの荷物の中に、象でも殺せそうな大口径ライフルタイプのパースエイダー が無造作に突き刺さっている。

 

大地には、土と草と木々と、丘があった。

 

世界は広大だが、低い丘が連なるため地平線は見えない。時期が春であるため、葉は青々と茂っていた。

 

空は綺麗に晴れており、太陽の日差しは強かった。

 

ヘビのようにうねって続く道は、トラック1台がやっとほどの狭さだ。

 

左右を潅木に挟まれた、少し赤みがかかった茶色の土の色が、途切れることなくどこまでも続いている。あちらこちらに大きなくぼみがあり、そこ輪を通過する際、小さな車は揺れに揺れた。

 

キノ「あの、お師匠様。疑う訳じゃありませんが、この道を通る人などいるんでしょうか?」

 

舌を噛まないように、揺れが収まった後にキノは言った。

 

レジーは涼しげな表情を崩さずに答える。

 

レジー「さあ?この先にあるのは、あまり普段から人が行かない国だとは聞いていますが」

 

ユーリ「こんな道じゃそうだろうよ。今が乾季だからまだいいが、雨期だったら泥沼だぞ…まぁせっかくいくんだから、そこで何か儲け話があるといいがな。その国の特産物、何か知ってるか?」

 

レジー「ええ。陶磁器だそうですよ」

 

レジーの答えに、エルメスが酷くつまらなそうに呟いた

 

エルメス「そりゃーダメだろうねー」

 

エルメスは顔がないため表情が分からないが、声の様子で、肩を竦めたかのように思えた。

 

陶磁器は壊れやすいが故に輸送が厄介である。余程の名器でもない限りは高値も期待できない。つまり、輸出入するには効率があまりにも悪かった。

 

キノは、

 

キノ「まぁ、僕はユーリさんと一緒に美味しいものでも食べられればそれでいいです」

 

レジー「私がいないのが少々気になりますが…少し見ないうちに本当に生意気に育って、一体誰に似たのでしょう?」

 

3人の旅人達はそれぞれの思いを胸に、丘を下った先に見えてきた城壁を眺めていた。

 

3人が入国したそこは、とても広い国だった。

 

城壁ははるか遠くまで走って、先端は全く見えない。国の中を太い川がゆったりと流れて、畑の緑が、四角い絨毯のように広がっていた。

 

国内の道を淡々と走り、旅人御一行は1番栄えている中心部に入った。と言っても平屋でレンガと木造の家屋がたくさん並ぶ、実にのどかな街だった。

 

商品があるメインストリートを走らせると、余所者はそれはそれは目立った。質素な服を纏った住人たちが一斉に、手にカゴをもって集まって来た。中身は野菜や果物だった

 

それらは新鮮で、美味しそうではあったが、

 

ユーリ「悪いがどいてくれ。買い物なら後でちゃんとするから」

 

ユーリは邪魔な住人達を、ヤタガラスのエンジンを吹かし、腹の底に響くような重々しい音を出して追い払った。

 

泊まれる場所を見つけて、3人はそこにエレノア、ヤタガラスを預け、歩きで通りへと出た。

 

先程通り抜けたメインストリートに戻り、レジーは客を見て回った。ユーリとキノは、果物をかじりながらそれに続いた。

 

暇そうな住人達や子供達が、物珍しそうに後ろに着いてきた。

 

レジーやキノの太腿の位置で光る大口径のハンドパースエイダーや、ユーリの左腰に下げられた自動式のパースエイダーを見て、子供達が面白そうに、指で二人を撃つ仕草をしていた

 

ユーリが、

 

ユーリ「お前達、本物でやっていると、もう死んでるぞ。5回くらいな」

 

子供達に言ったが、今ひとつ伝わっていないようだった。

 

レジーはいくつかの店を覗いて見たが、売っているのは食料と、簡単な雑貨、衣類など。

 

そして噂の陶磁器に行くと、確かに見事な出来の品が並んでいて、熱心に店の人は購入を勧めてきた。しかし、レジーは買わなかった

 

キノ「まぁ、よく出来ているとは思うですけどね」

 

キノはそう言うと、とても薄く作られた磁器を指で弾いて、綺麗な高音を響かせた

 

エルメス「わぉ、いい音するね」

 

 

 

 

 

店巡りもおおかた終わった頃、相変わらず住人達に囲まれている3人に、

 

老人「旅人さん、ちょいと、よろしいかな?お聞きしたいことがあるんじゃが」

 

1人の老人が話しかけた。齢で80はいってそうな、老人だ。脇に、お供だろうか、中年の男性が控えていた。

 

レジー「なんでしょうか?私に分かることでしたら」

 

レジーが言うと、老人は自分の店に3人を案内した。

 

かなり広い店だった。老人は自分が店主だと言った。店で売っているのは、ほかの店と同じく見事な陶磁器だったが、

 

老人「実はこれなんじゃが……旅人さんは買ってくれないかのう?」

 

作業員の男達が2人の足元に運んだのは、大きな木箱だった。ひっくり返したら机ほどになりそうなほど大きな木箱の中に入っているのは、たくさんの石だった

 

白くて、やや透明な石だ。形や大きさも歪だ。小さいのは指先ほど、大きいのは拳程。そんな石が、大きな木箱の中にザラザラと入っていた。何百、何千個あるのかも分からなかった。

 

ユーリ「これ、水晶か?」

 

ユーリが呟いた。

 

女性は床に静かにしゃがむと、箱に手を伸ばして、それをひとつ掴んだ。金平糖のお化けのような、薄くピンク色が乗った、乳白色のいびつな石だった

 

レジー「……」

 

レジーは9秒程それを眺めて、そしてポイッと放って、箱に戻した。石と石がぶつかり合い、ちいさな音がした。

 

エルメス「ねぇおっちゃん、これ、この国の中で取れるの?」

 

エルメスの質問に、老人が答えた

 

老人「そうなんじゃが、ワシらには必要のないものじゃ。焼き物を作るために、川からキメの細かい泥を取るのじゃがその時に振るいにかかるのがそれなんじゃ」

 

キノが頷きながら、

 

キノ「なるほど、それは確かに邪魔でしょうね。しかし、ならば捨てればいいんじゃないですか?」

 

老人「それがのう、川に捨てると、下流で採っている人が怒るんじゃ。また振るわなければならんしの。しかし道に捨てると、裸足の人から足が痛いと苦情が来る。当然畑に捨てる訳にも行かんし、いつ畑になるか分からん国土に捨てるのも叶わん。城壁の外まで捨てに行くのは億劫じゃ。だから、こうして集めて保管しているんじゃ。まだ倉庫がいっぱいになるほどあるんじゃ」

 

ユーリ「…そうだな。なら、綺麗に加工して、アクセサリーにでもしたらどうだ?他の国ではそうしている」

 

ユーリの言葉に、老人は首を横に振った。

 

老人「ワシが若い頃はそうしていたが、そのうちに国民全員に行き渡ってしまった。売れなくなると加工も面倒になって、今じゃ誰もやりたがらないし、ほしがらんのじゃ。せめて、アンタ達が買って、国の外に持ち出してくれると助かるんじゃが」

 

キノ「そうなると、多分旅人や商人もあまり欲しがらないと思いますよ。高値も期待できませんし、近くに国があればまだ良かったんですが…」

 

キノが正直に言うと、老人は肩を落とした。

 

老人「やはりそうか……どうしたもんかのう……」

 

すると、先程から黙っていたレジーが、先程までと変わらない表情のままで

 

レジー「私に、1つアイデアがあります」

 

 

 

 

 

 

ユーリとキノとエルメス。店主の老人。そして従業員の男達。

 

全員の注目を浴びながら、レジーは淡々と語った。

 

レジー「誰もこの石を欲しがらないのは、それに価値が無いからです」

 

エルメス「まそうだよね」

 

エルメスが相槌をうった。レジーは気にせずに続けた

 

レジー「それならば価値を作ればいい。簡単な話ですよ」

 

老人「価値を、作る、じゃと?」

 

老人が首を捻った

 

レジー「えぇ、この石は《単なる綺麗な石》ではなく、《持っていると幸運がやってくる力のある石》としてしまうのです。この国では昔からそういう伝統があることにして、売り出すのですよ」

 

老人「……?」

 

ぽかんとしている老人や従業員へと、レジーが説明を続ける

 

レジー「その際は、国中の皆の協力が必要なのは言うまでもありません。もし売れたら、国に寄付するなどして、還元しましょう」

 

老人「し、しかしじゃ」

 

老人が口を挟んだ。

 

老人「それは…お客を騙していることになる…。まるで、穴のあいた茶碗を売るようなものじゃ…。実際この石に、そんな力なんぞありはしない…」

 

レジー「そうです。力はありません。でも、人間には《思い込み》という力があります。手に入れた人が、『大変にいいものを手に入れた!これから自分には運気が巡ってくる!』と信じていると、それはその人の自信につながります。そして、自信に満ちた人の行動は得てして成功に繋がるのです。例え理由が嘘でも、治った体は本物です。ですから人を騙しているか否かは、買った人の考え方次第と言ってもいいでしょう」

 

老人「…」

 

ユーリ「…まぁ、レジーの言ってることはあながち間違っているわけじゃない。『そんなのが信じられるか!』って奴はそもそも買いはしないさ。『そんな石を信じてみたい』人が買うわけだから、問題はないだろう。騙しているという罪悪感など、持つ必要は無いし、持つ意味もない」

 

老人「…」

 

キノ「売る時は、どうせならつける値段はなるべく高い方がいいです。いくら余っているからといて言って安くしてしまうと、『そんなの効果ないんだろう』と高を括られてしまいます。値段が高いと、『そんなに高価なのは、皆が欲しがるからだろう。皆が欲しがるくらいなら、きっと石に力があるのだろう』と思われるのです。少しずつ、高く売るのがコツだと思いますよ」

 

老人「…」

 

エルメス「付け加えるなら、石はこのままでいいよ。無理に磨いたり、形を整えなくても結構だと思う。『自然の中の形が1番力が強い』とでも言っとけば、加工の手間も費用も押えられるしね。それと、これほど大量にあることはなるべく秘密にしといた方がいいよー。この国でも珍しい石なんだと言い張るのさ。一度にたくさん買おうとするやつがいても『それだかしかない』と言う。希少性が高価なことの理由付けになるからね」

 

老人「む、むう…」

 

老人は唸った。周りの従業員達も、呆れているのか関心しているのか分からない表情だった。多分両方なんだろう

 

レジーは、

 

レジー「ただ、これを実行するかしないかは最終的には貴方方次第です」

 

老人「むう……ご意見、確かに伺った。ひとまず、ありがとう。なにかお礼がしたいのじゃが、何かあるじゃろうか?」

 

老人の言葉に、レジーは、

 

レジー「では、記念に石を4つ頂ければ」

 

そう言って、箱の中から1つを取り上げた。あまり大きくない、コイン程の大きさの石でした。

 

ユーリ(…あのレジーが…たったあれだけ…?あれだけで事足りるほどの価値が、水晶ごときにあるとは思えないが…)

 

キノ(同感です…)

 

ユーリとキノがそんなことを思っていたが、レジーはそんなことなど知るよしもなかった

 

老人「そんなので、いいのか?」

 

レジーは頷いた。そして、

 

レジー「私はありふれた石も嫌いではありませんよ。…この国の思い出に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人の旅人は、その国に宿泊して翌日に出国した。

 

結局買ったのは自分達の食料だけだった。それも干し肉以外は生鮮食品であるため、数日以内に食べてしまえる量だけである。

 

再び、でこぼこ道を2台のモトラドと、1台の車が走る。

 

ユーリ「結局、儲け話などなかったな」

 

ユーリがそう言うと、

 

レジー「いいえ、大変に儲かりましたよ」

 

レジーがそんな言葉を返した。

 

それを聞いたキノは怪訝そうな顔をし、

 

キノ「その石のことですか」

 

レジーがジャケットの内ポケットから取り出した、例の石に気づいた。丁寧そうに、布に包まれていた。

 

ユーリは前を向いて、ハンドルを握りながら言った。

 

ユーリ「あの国の者達は、言う通りにできるのだろうか」

 

レジー「実直な店主は無理でも、まわりの従業員達はできるかもしれませんね」

 

エルメス「なるほどー…次に来た旅人か商人が、『素直に幸運を信じる人』な事を祈ってよう」

 

エルメスがそういうと、一旦話は終わったと思った

 

しかし、レジーが終わらせなかった

 

レジー「気づいていないのですよ。あの国の人達も…そして、貴方達も」

 

キノ「…気づいて、いない?」

 

エルメス「なになに?あの国にとんでもない秘密があったとか?」

 

ユーリ「そんなものは感じなかったが…なんだ?あの国に、何か気になることでもあったか?」

 

ユーリ達はそれなりに驚いて、聞き返した

 

レジーは、石を持った右手を前に出して、フロントガラス越しに入り込む太陽の光に、石を鈍く光らせた。

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

レジー「これ、ダイヤモンドの原石ですよ」

 

 

 

 

ユーリ「…」

 

キノ「…」

 

エルメス「…」

 

 

 

 

 

ユーリ「…悪い、今、なんて言ったんだ?」

 

キノ「…ユーリさん、僕は疲れてるかもしれません…」

 

エルメス「あっはは!お師匠様も面白い冗談いうね!あれがダイヤモンドだなんて、それじゃあんなに大量に木箱に入ってるわけないじゃない。ダイアモンドはとても希少なんだから」

 

レジー「これも、あの木箱に入っていたのも、全てダイヤモンドだと言ったのです。一体何カラットあったのか、想像もつきません。もはや、何キログラムと言うべきでしょうか」

 

 

 

キノ・ユーリ・エルメス「………」

 

 

 

 

 

 

2人と1台は、しばらく走ったあと、尋ねた

 

ユーリ「戻らないか?」

 

レジー「戻りません」

 

レジーは即答した。

 

キノが口をへの字にして、

 

キノ「言ってくれればいいのに…」

 

エルメス「そうだよー!なんで言ってくれないのさ!」

 

レジー「自分で気づけなかった貴方達が悪いのです。たくさんあるからこれは水晶だと、勝手に思い込んだのでしょう?ユーリも、勉強になりましたか?」

 

ユーリ「厳しいな…だがまぁ、勉強にはなった。しかし、それならそうで、もっと大量に貰ってくれば良かったんじゃないか?まだ荷物には空きがあっただろう?」

 

レジー「私の仕事としては、これで十分ですよ。これを、ダイヤモンドを宝石として扱っている大きな国に持っていけば、数年分の路銀になるでしょう」

 

キノ「それならあの箱ごと貰ってくれば良かったんじゃないんですか?」

 

エルメス「僕もそう思うけどな〜」

 

キノとエルメスの言葉に、レジーは少し溜息を吐きました

 

レジー「では逆に聞きますが」

 

レジーは2人に尋ねた

 

レジー「そんな大量の原石を持っていったら、高く買い取ってくれると思いますか?」

 

キノは考え、やがて首を横に振った

 

キノ「いいえ…買い叩かれます。それに、どこの国で手に入れたのかと追及してくるでしょうね。殺されることになっても不思議ではありません」

 

レジー「だからひとつでいいのです。見つけた場所も、旅の途中のどこだか分からない川のほとりだとでっち上げます」

 

エルメス「なるほどね〜納得。さすがはお師匠様だね」

 

エルメスが感心したかのようにそう言った

 

レジーは無言のまま、何がわかったのか、その発言をまった

 

ユーリ「次にあの国に来た旅人が、もしダイヤモンドだと気づかなければ…あんな『幸運をもたらす石』などインチキだと思って買わない。まあ中には縁起担ぎに大金をつかえる奇特なやつや、本気で信じてしまう奴もいるかもしれないがな」

 

レジー「そうですね」

 

ユーリ「だが、目が利いてあれがダイアモンドだと分かれば…今のレジーのように、暴落しない程度に買って、出処は秘密のまま売り捌くはずだし、それを繰り返す。結果、あの国の者達は儲かるし、商人や旅人はもっと儲かる。しかも、大量の原石が一気に買い叩かれることも無い。ダイヤモンドに目がくらんで、あの国に押し入ったりする不埒な輩も防げる…」

 

レジー「そうです。もちろん、空気を読めない誰かが全てをばらしてしまう可能性も少しはありますが」

 

キノ「それは、どうなることやら、ですよね」

 

キノが、あの国の未来を思いながら、空に向かって呟いた。そして、

 

ユーリ「それにしても」

 

ユーリが楽しそうに微笑みながら言った

 

ユーリ「ダイヤモンドって、あるところにはある物なんだな。猛烈に高い金を払って、恋人やフィアンセに送っている男共が知ったら、悶絶するだろうさ」

 

その言葉に、レジーは冷たく言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レジー「知らなければ、それまでですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、3人の旅人は森の中に着くと、野営の準備をし始めた。その時、

 

レジー「ユーリ」

 

ユーリ「ん?なんだレジー。飯ならまだ出来ていないぞ」

 

レジー「違います。……これを」

 

そう言ってレジーが渡したのは、3つの、あのダイヤモンドの原石だった

 

ユーリ「……なんだ?くれるのか?」

 

ユーリは手のひらに乗った3つの小さな原石を見ながらレジーに聞いた

 

レジー「ええ、そうですね。1つはあげます。しかし、2つは未来に渡してもらいます」

 

レジー「出来れば、指輪として送ってくれると嬉しいものですが」

 

ユーリ「……?そうか。まぁお前も女だものな。綺麗な装飾品でも欲しくなったか。…しかし」

 

ユーリは懐に原石を収めながらレジーに尋ねる

 

ユーリ「何故3つ渡した?この大きさなら指輪を作るのはひとつでも足りているが…」

 

その言葉を聞いたレジーは、少し間を開けてから、答えた

 

レジー「…キノの分ですよ。あの子にも、できれば送ってあげてください」

 

珍しく神妙な顔をしながら答えるレジーに、ユーリは疑問を持ったが、持ち前のレジーへの忠誠心と絶対的な信頼が、それを捨てた

 

ユーリ「…そうか。わかった。指輪をふたつ、作ればいいんだな。そしてお前たちに渡す」

 

レジー「そうですが…本当にその意味が分かっているんでしょうか?そんな端的に言われては、少し複雑な気分です…あぁ、あとそれと」

 

 

 

 

 

レジー「渡す時は、まず私に渡してくださいね」

 

ユーリ「……?意図もそうだが、渡す順番にも意味があるのか……?まぁわかった。そうしよう」

 

 

 

 

 

 

 

レジー(……意味、分かっていませんね、これは……まぁいいです。貰えさえすれば、それで私達のモノになりますから…)

 

 

 

 

 

レジー「…全く、キノも私に感謝して欲しいものです」



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犯人のいる国(前半)

秋と冬の間の季節だった

 

平坦な台地を覆う森の木々は、葉を全て落としている。空中を灰色の枝だけが走り、まるで骨が飾ってあるようだった。

 

地面は隙間なく、朽ち始めた落ち葉で覆われていた。かつては鮮やかだったモザイクが、くすんで見えていた。

 

空は鈍く曇って、灰色のまだら模様だった。朝の太陽が東の空の低いところにあるはずだが、全くわからなかった。

 

そんな寒い森の中に、2台のモトラドと、1台の車が止まっていた。

 

森の中で、2つのモトラドはセンタースタンドで立っていた。後輪両脇には黒い箱が装着されていて、1台のモトラドにはその上のキャリアに、鞄が1つ縛り付けられている。鞄の上には、丸められた寝袋とテントも見える。

 

1台の車の屋根には、大量の銃火器が詰まった縦に長いバッグが括り付けられており、そのボンネットの上には妙齢の女性が寄りかかって座っていた

 

2台のモトラドと1台の車から僅かに離れた木の幹に、まな板のような鉄板が縛りつけられていた。黒くて、表面が何度も叩かれて波打った鉄板だった。

 

風がなく、ほとんど音がしなかった森の中に、発泡音が轟いた。

 

1発。

 

間が空いて1発。

 

同じく1発、そして繋がるようにそこから三連発。

 

その度に調子を合わせるように、鉄板から猛烈な金属音が鳴った。

 

最後の音が重く長く響いた後、

 

「はい、全部命中です」

 

若い、10代ぐらいのゴーグルと耳垂れのついた帽子を被っており、茶色のジャケットを羽織っている子が、淡々と告げた

 

やがて湿った落ち葉をふみしめる音が聞こえてきた。音はゆっくりと大きくなり、木々の向こうから人間が1人現れた。

 

この人間もまた若い人間だった。20代の初めほど。黒いジャケットを着て、その上からロングコートを羽織っている。

 

長く雪のような銀髪を一纏めに括りつけてあり、シンプルな軍帽を被って、髪を纏めるのに使っている鈴付きの長いリボンが、チリンチリンと心地よい音を鳴らしている

 

右手には、大口径の、少し大きめの自動装填式のハンド・パースエイダーを持っていた。歩きながら、手早く細長い弾倉を取替えた。

 

モトラドが言う。

 

「あれだけ離れていてこの命中精度とは、流石だね。でももういいんじゃない?そろそろ行こうよ、ユーリ」

 

ユーリと呼ばれた人間は、右腿のホルスターにパースエイダーを戻しながら、

 

ユーリ「いや、もう少ししておくさ、エルメス」

 

エルメス「昨日もたっぷりやったじゃん。木を穴だらけにしてさ。ねぇ?キノ」

 

キノ「昨日はナイフ。今日はパースエイダーだよ。それに、僕も師匠もやったんだから、だいたい想像はついてたでしょ?」

 

キノと呼ばれた人間は、的にされていた鉄板を木から外して、今度はその紐で枝の一つに吊り下げた

 

それを見たユーリは羽織っていたロングコートを脱いでまとめると、ユーリがヤタガラスと呼ぶモトラドのシートの上に載せた

 

ユーリは腰を太いベルトで締めていて、そこには茶色のポーチがいくつかつけられている。腰の後ろでは、右手に持っているパースエイダーと同じ、自動装填式のハンド・パースエイダーがホルスターに収まっていた。

 

レジー「では、合図をしましょう」

 

レジーといった、車のボンネットの上でよりかかっていた女性はユーリと同じ、大口径の自動装填式ハンド・パースエイダーを整備しながらそう言った

 

人の胸ほどの高さに吊るされた鉄板と、ユーリはわずか3m程の距離で退治した。その右手は、ユーリが『バンシィ』と呼ぶ右腿の自動装填式パースエイダーのすぐ側へ。

 

静かな時間が過ぎて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レジー「今!」

 

短い言葉を言い始めた瞬間にユーリは動いて、言い終える前に『バンシィ』を抜いて、同時に親指でハンマーを上げ、そして腰の位置で撃っていた。

 

発泡音と、鉛の弾が鉄板を叩く金属音が、ほとんど同時に響いた。

 

エルメス「うん。全然遅くないよ」

 

エルメスが言って、ユーリは『バンシィ』をホルスターに戻す。

 

そして再びほぼ同時に起こる、合図と、発泡と、金属音。

 

目の前を素早く撃ち倒す練習を、ユーリは繰り返した。

 

最後の1回は連射し、2発をほとんど同じ場所に撃ち込んだ。

 

音はほとんど繋がっていて、1発だけに聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習後、

 

ユーリ「すぐに終わる、もう少し待ってくれ」

 

そう言ったユーリは『バンシィ』の弾込めを始める。

 

弾倉に四十四口径の弾丸を詰め、それを弾倉3つ分、21発をなれた手つきで、しかし慎重に装填して、1つの弾倉を『バンシィ』に戻した。予備の弾倉は、ポーチへと収める。

 

エルメス「もうすぐ国に着くのに。何も今朝実弾練習しなくていいのに」

 

エルメスが言うと、

 

キノ「だからだよ。人に襲われる可能性は、実は国の外より中の方が高いって、師匠はよく言ってた」

 

レジー「おや、よく覚えていますね、偉いですよキノ」

 

エルメス「ふーん…でもそれは、国には人が多いからじゃない?さらに言うと、それはお師匠様だからじゃな

 

 

ドスッ!

 

 

エルメス「……え」

 

エルメスが言葉を言いきる前に、エルメスの前輪のすぐ横にナイフが飛んできた

 

レジー「おっと、すいません。ナイフを素早く取り出す練習をしていたら手が滑ってしまいました」

 

キノ「……」

 

エルメス「……」

 

地面に刺さったナイフを取りながらにこやかに言うレジーを見ると、2人は何も言えなかった

 

そうこうしていると、全ての装填を終えたユーリは、鉄板を取り外した。

 

鉄板にへばりついた弾と、当たってから葉の上に落ちていた弾を、溶かして固めて再利用するために回収する

 

そして鉄板をレジーに渡し、受け取ったレジーは『エレノア』(レジーの愛車)の中にある箱にしまった

 

キノは何も落としていないか、何も残していないか、しっかりと確認した。

 

3人はそれぞれ、自分の大切な装備や持ち物が、いつもの位置にあるか、見て触って確認する。再び同じ場所に戻ってこられる保証などないので、荷物は念入りにチェックする

 

そして3人とも腰の後ろにある一丁のパースエイダー、ユーリは『リゼル』、キノは『森の人』、レジーは『レイ』と呼ぶパースエイダーを抜き、装填を確認、安全装置をかけてそれぞれホルスターに戻した

 

最後にキノとユーリはコートを羽織り、キノは前をボタンで止め、余った部分は腿にまきつけて止めた。

 

そしてそれぞれの相棒に乗り込み、エンジンをかける。寒々しい森の中に、騒々しいエンジン音が流れていく。

 

暖機をしてから、旅人達は森の中を走り出す。柔らかい土の上を少し進むと、1本の太い道に出た

 

土がむき出しの、幅の太い、どこまでもまっすぐな道だった。普段から往来が多いのか、土はしっかりと固まっていた。

 

それぞれスピードを加速させ、西側の地平線に向かって、灰色の森の中を走る。

 

速度を上げ、快適に走りながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エルメス「お師匠様やユーリはキノに本当によく教えてくれたけど、キノが1人で戦うやり方だけだよね?」

 

走行中に、下からエルメスがキノだけに聞こえるように言った

 

キノ「そりゃそうさ、仲間と組んで戦う方法とは、まるっきり違うんだよ」

 

キノが当然そうに答えてどういうふうに?とエルメスが聞いた

 

キノ「1人で戦う場合は、相手が1人でも複数でも、チームで戦う人のように気にしなくていいことがある」

 

エルメス「ふむふむ、それは?」

 

キノ「パースエイダーの向き。仲間で一斉に戦う場合は、仲間を撃ってしまう危険と常に隣り合わせなんだ」

 

エルメス「あぁ、なるほど」

 

エルメス「だから軍隊とかでは、普段であっても移動中であっても、とにかくまず仲間に狙いを向けないように徹底的に訓練されて、それが出来ない人ははじき出されたそうだよ。一緒に戦わせてもらえない」

 

エルメス「その点1人は楽だねえ…今は3人だけど」

 

キノ「僕達の場合は人数が増えても問題ないと思うよ。お師匠様は言わずもがな、ユーリさんも僕達に銃口を向けるとか、そんなヘマは絶対にしない。もちろん、僕もしない自信がある。それに、2人は常人とはかけはなれた射撃技術、判断力、行動力、そして誰にも負けない武力があるからね」

 

エルメス(…そういや射撃の才能だけならキノはこの中で誰よりもあるって、お師匠様言ってたなぁ…)

 

キノ「もちろん、それを抜きにしても1人の方が楽なのは変わらない。とりあえず混戦状態でも発砲に躊躇しなくていいというのは思ったよりありがたい。流石に撃ったら跳ね返ってくるような場所に撃っちゃダメだけど。ただ、それも弾の種類に大きく左右される。ボクが使っているような弾は、貫通力が低いから助かる」

 

エルメス「柔らかい鉛弾だもんね」

 

キノ「うん。師匠もその辺をよく分かって、ある程度の不利を覚悟で古いリヴォルバーを愛用していたんだと思うよ。今はもう自動装填式の、しかもユーリさんが改修してる、威力の高い銃になってるけど…あぁ、それと火薬と弾の入手のしやすさもあっただろうね。『カノン』は色々な弾が撃てて便利だよ。非致死性のゴム弾とか、鳥用の散弾とか。どうしても弾がない時は、バレルに細い釘を詰めて撃つこともできる。まぁライフリングが痛むからやりたくはないけどね」

 

キノ「こういうことはユーリさんや今の師匠が持つパースエイダーには出来ない、このカノンだからこそできる芸当だ。本当に助かるよ」

 

エルメス「なるほどなるほど」

 

キノ「師匠は荒事依頼を積極的…かどうかは知らないけど、結構引き受けていたから、時と状況に応じて様々なパースエイダーを使い分けていたそうだよ。そういえば、ユーリさんと師匠が、雪の森の中で羆を退治することになった話はしたっけ?」

 

エルメス「お、それはまだ。聞かせて聞かせて」

 

キノ「わかった。まずは師匠が、トラックを手に入れるところからね」

 

そして始まる物騒な話をにこやかに続けながら、走り続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーリ(…羆を退治した話、か…随分と懐かしいな…)

 

レジー(とか思ってるんでしょうね…まぁ、確かに懐かしいですけれども…)

 

 

 

 

 

 

 

 

昼がすぎた頃、旅人達は城壁の前にいた。

 

コンクリートでできた、ダムのような立派な城壁が、右に左にどこまでも続く。堂々たる城壁に囲まれた、かなり広い国だった

 

出てきた番兵に、ユーリが3日間の入国を申請した。

 

そして番兵に、城門脇にある詰所に導かれた。そこで、入国審査官も務める警官に様々な質問を受けて

 

警官「入国は認めます。ただし、この国の治安を守るために、法律を知ってもらわなければなりません。しばらくお時間をいただきます」

 

そう言われると、この国の刑法を延々時されていった

 

その中には、スポーツや自己防衛のため、一般人のパースエイダーの所持は許可を取れば可能。ただし持ち歩く時は外側から見えないようにする義務があるという法律があった

 

エルメス「キノはパースエイダーが入るほどのポーチとか持ってないから、とっさの時に使いにくいじゃん。この国、治安はいいの?」

 

エルメスが尋ねると、説明していた細身で40歳程の警官が、眼鏡の位置を治しながら答える。

 

警官「正直に言おう……あまり良くない」

 

エルメス「ありゃりゃ」

 

ユーリ・キノ・レジー「……」

 

警官「特に街の治安が悪い。国の中央に、経済機能を集中させた大きな町があるのだが、麻薬や売春、殺人事件など、この国の凶悪犯罪の吹き溜まりになっている。警察も政府も頑張ってはいるのだが、なにぶん国が大きく人口も多い。警官がいつもあなたを守ってくれるとは思わないように」

 

警官なのにそんなことを言った警官に、

 

ユーリ「別に構わない。そんな国、世の中には吐いて捨てるほどある」

 

ユーリは答えた。

 

警官「そうか…何かあった時は、命を落とす覚悟をしてもらいたい」

 

その言葉には、レジーが答えた

 

レジー「それは相手に言ってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーリ「…やっと、終わったか」

 

エルメス「長かったねぇ」

 

刑法の説明がようやく終了して、旅人達が城門をくぐりぬけた時には、昼も半分が過ぎていた。

 

3人が愛用しているパースエイダーは、それぞれホルスターごと取り外されていた。そして鞄の中に。

 

キノ「ちょっと足が疲れました…ユーリさん、おぶってください」

 

ユーリ「お前をおぶったら、誰がエルメスを運ぶんだ?またいつぞやの国の時みたいに、俺がエルメスとヤタガラスをそれぞれ片手で押していけと言うのか?」

 

キノ「エレノアに括りつければ「やだよ!車に括り付けられるなんて、モトラドの恥だよ!」…エルメス」

 

レジー「軟弱なことを言っていないで、さっさと行きますよ」

 

ユーリ「…だそうだ。ほら行くぞ」

 

キノ「ちぇっ…はーい」

 

収穫を終えた農地が広々と広がる中を、旅人達は進んだ。目指すのは、ホテルがある国の中央。

 

土を押し固めた道を走りながら、国の中の風景を見ながら、旅人達は、ここがどんな国なのか確かめていく。

 

まず、電柱と街灯があるので、電気はある。アンテナが立っている家があるので、テレビ放送もある。

 

トラクターや自動車は存在するが、他の国に比べてやや古いタイプだった。しかし、燃料が手に入ることはわかった。

 

円型の国の外側はほとんど農地で、走るにつれて住宅が増えた。やがて見えてきた国の中央には、10から20階程の建物が乱立している。

 

通りを歩く住人は、ユーリ達に視線をむけてくるが、商人や旅人がそれほど珍しくないのか、走って追いかけてくるよあな人はいなかった。

 

ユーリ達は、ごちゃごちゃとした中心部に入った。

 

石造りのビルが並んで、道は石畳とコンクリートが半々。道が狭いので、ビルに威圧感があった。

 

かなりの距離を走って、ユーリ達は、ようやく案内されたホテルへとたどり着いた。

 

繁華街のど真ん中にある建物で、宿泊客も多い。

 

明日がこの国の休日なこともあって、まだ夕方だと言うのに、酔っ払った何十人もの男達がフロントロビーで騒いでいた。

 

案内されたのは、ホテルで1番小さな部屋だった。しかし1階で裏口に近く、エレノアは流石に無理だが、エルメスとヤタガラスなら入るのを許可されたので、キノは有難く押し入れる。

 

キノ「?ユーリさんはヤタガラス入れないんです?」

 

ユーリ「よく考えろ。こんな小さな部屋に3人だぞ?モトラドが2台も入るわけないだろうが。入ったとして1台だけが限度だ」

 

キノ「あ…そうでしたね。うっかり忘れてました」

 

レジー「ヤタガラスはエレノアのすぐ横に置いておけばいいでしょう。今は夕食のことを考えましょう」

 

ユーリ「そうだな、もう外も薄暗い。パパっと済ませて早く寝よう」

 

ユーリの言った通り、外はもう薄暗く、雲の灰色が濃くなっていた

 

エルメス「食べてすぐ寝ると太るよ?」

 

エルメスが茶化したが、

 

レジー「物は試しです。たまには、太ってみるのも良いでしょう」

 

エルメス「それ、今太ってる人が聞いたら直ぐに怒るよ?」

 

キノ「じゃあこっそりと、ね?さっと食べて戻るから、ちょっと留守番よろしく」

 

エルメス「わかった。シャワーでも浴びて待ってる」

 

ユーリ「その後錆びないといいがな」

 

力の抜けた会話の後、ユーリ達はホテルのレストランに行くために、エルメスを残して部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数十秒で戻ってきた

 

エルメス「ちょっと。いくらなんでも早すぎるよ3人共。ちゃんと噛んだ?ちゃんと飲み込んだ?」

 

ユーリ「そうじゃないエルメス。部屋を出て直ぐに、こっちに向かってきた従業員に会って言われたから戻ってきたんだ」

 

エルメス「おや、なんて?」

 

キノ「僕達はホテルのレストランで食べられないってさ」

 

エルメス「なんで?」

 

レジー「どうやら、さっきの酔っ払い客が別の客を読んで大宴会を始めたらしいです。席と食材が足りなくなりそうなんだとか」

 

エルメス「つまり、もっと痩せろってことだね。お休み」

 

ユーリ「いいや、遠慮なく太れってよ。詫びにと、近くにあるレストランを紹介された。同じオーナーの店で、連絡しておくから、俺達はそこでなんでも食べられるんだと」

 

エルメス「なあんだ」

 

キノ「というわけで、食べるために出かけるけど、エルメスはどうする?」

 

エルメス「歩いて行ける距離?」

 

ユーリ「行けなくはないが少し遠いな」

 

エルメス「しょうがないなぁ。夜の散歩は危険だから、ついていってあげる」

 

レジー「おや、それは心強いことで」

 

3人はそれぞれジャケットを着て、その上にコートを羽織ると、エルメスを連れて、あとヤタガラスにレジーがユーリの後ろに乗るようにして出た。

 

レジー「安全運転で頼みますよ」

 

ユーリ「善処するさ」

 

 

 

 

 

 

キノ「…ずるい」

 

エルメス「ほーら、よそ見しないで前を向く。地面と熱烈なキスをしたいなら別だけど」

 

キノ「それは嫌だな。僕の初めてはユーリさんにあげるって決めてるから」

 

エルメス「それ絶対キス以外のことも含めてるよね?」

 

キノ「さぁ、どうだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が暮れた街中は、賑やかな場所とそうでないところが、ハッキリと分かれていた。

 

大通りや歓楽街などでは、数は多くないが街灯が灯り、車も人も往来が多い。

 

しかし裏通りや路地に入ると、ほとんど真っ暗だった。目を凝らすと、売春婦や麻薬の売人と思しき人影が動いていた。

 

ユーリ達はなるべく大通りを走って、目指すレストランへ到着した。店の人の好意で、エルメス、ヤタガラス共にテーブル脇まで入れさせてもらった。

 

店主「外に置いておいたら、イタズラしたり、部品を盗む輩がいるからね。この辺は酷いもんだよ」

 

店の人がそう言って、夜の治安が悪いことを嘆いた

 

キノは茹で野菜のサラダと唐揚げ。ユーリはチーズたっぷりのカルボナーラ。レジーはミネストローネと1つのパンを頼んだ。

 

出てきた料理をそれぞれ食べて、

 

キノ「…うん、美味しい唐揚げだ」

 

ユーリ「確かに、なかなか味の深い料理だな」

 

レジー「えぇ、ひとまずは安心して食べられます」

 

各々がそれぞれの反応を示すと、店の人は不思議そうな顔をして、

 

店主「カラアゲ?カラアゲつてなんだい?」

 

ユーリ「鶏肉をこの味付けで揚げたものを唐揚げと言うんだ」

 

店主「へーっ、初めて知ったよ!他の国にもあるんだねぇ。うちの先代が考えついて、この国に流行らせた味付けなんだけど、世界に一つだと思っていたよ。残念」

 

どこか楽しそうに、店の人が言った

 

レジー「出す料理は同じでも、出せる味は人それぞれですよ」

 

レジーがナプキンで口を拭きながらそういうと、店の人は嬉しそうに言った

 

店主「それもそうだね!世界で1番の唐揚げを出せるように頑張るよ!」

 

その後も3人は残すことなく食べきった

 

キノはデザートにフルーツを食べて、さらにお茶を飲んで、だいぶのんびりしてからそのレストランを後にする。

 

まだ夜は始まったばかりだが、大通りでは酔客のらんちき騒ぎが起こっていた。

 

道路に飛び出した酔っ払い達と、邪魔だと警笛を鳴らして怒り狂うドライバーとの間で、険悪な雰囲気になっていた。

 

エルメス「酔っ払いは全員酔っ払いの国に行けばいいのに!」

 

全然進まない車の列にエルメスが愚痴って、

 

ユーリ「…仕方がない、別の道から行こう。これ以上時間をかけると後ろの姫がお怒りのあまり周りに死体が積み重なることになる」

 

ギリっ…

 

ユーリ「んぐっ…」

 

レジー「失礼な、パースエイダーもないのにするわけが無いでしょう?」

 

レジーは後ろからユーリの首を軽く絞め上げた。

 

エルメス(…それってパースエイダーがあれば血祭りにしてたってこと…?)

 

キノ「エルメス、ホテルへの戻り方は分かる?」

 

エルメス「…」

 

キノ「…エルメス?」

 

エルメス「え?あ、あぁうん。分かるよ。じゃあ、あの先の角を左に入って」

 

ユーリ「どれだ?いくつか路地があるが」

 

エルメス「酔っ払ってひっくり返ってる、禿げたおっちゃんがいるところ」

 

ユーリ「了解っと」

 

キノとユーリは言われた通りに、エルメスとヤタガラスを走らせる。

 

車の脇を少しすり抜けて進み、ぐでんぐでんになって寒空の下で石畳の歩道に寝ている、見事に禿げた中年男性の脇を、踏まないように注意しながら通り抜けた。

 

角を曲がると、急に暗くなった。

 

車1台分あるかないか程の幅のその路地を、ライト出てらしながら2台のモトラドが走っていく。

 

少し進んで、

 

エルメス「次の角、白い猫がゴミ箱から残飯漁っている角を右」

 

キノ「了解」

 

キノ達は猫を驚かせながら曲がって、また同じように細い路地を進む。

 

エルメス「次に来る時の為に道を覚えてね、皆。寝ている禿げ酔っ払いを左で、食事中の白い猫を右ね」

 

エルメスが真面目な口調で言って

 

キノ「覚えた」

 

キノも真顔で返した

 

ユーリ(……いや、普通はわからんだろ…)

 

レジー(覚え方も人それぞれですよ、ユーリ)

 

ユーリ(…そう言われちゃ、何も言えないな)

 

キノの後ろを走るユーリ達も、小声でそう言い合っていた

 

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

エルメス「最後、左に曲がってそこの細い路地を抜けたら、ホテルに面した中央の大通りに出る」

 

キノ「了解。流石だね、エルメス」

 

キノ達が、エルメスの指示通りに、ほとんど真っ暗の路地に入る。

 

その直後だった。

 

エルメスのライトが、路面にごろんと横たわる人間の姿を捉えた

 

キノ「…!おっと」

 

ユーリ「ん?」

 

キノとユーリが急ブレーキをかけて、踏み潰さないようにその手前で止まった。

 

止まるのと同時に、その倒れている人間が、ライトに照らされるその姿が、真っ赤だということがわかった。

 

人間は、恐らく若い女性。

 

狭い路地で、通せんぼするように横たわっている。

 

露出の多い派手な衣装で手足がでているが、その服も手足も、そして仰向けの顔も、鮮血に染められて真っ赤だった。

 

そしてその顔には、両目の位置に、2本の小型ナイフが柄まで深々と刺さっていた。からだはピクリとも動かない。

 

レジー「…!ユーリっ!」

 

ユーリ「分かってる!」

 

ユーリとレジーは突然両足を路面に着けたままアクセルを大きめに開けつつクラッチを急にポンッと繋いで、後輪の力でヤタガラスの前輪を持ち上げた。

 

一瞬だけ持ち上がったヤタガラスのライトが、その路地の奥を照らす。

 

そこには男がたっていた。

 

黒づくめの服を着て、こっちを見ていた。

 

歳の頃にして、20代後半が30代前半。茶色く短い髪に、整った顔立ち。背も高い。かなりの美男子と言っても良かった。

 

そして、笑っていた。

 

白い歯を見せて、ニヤリと笑っていた。

 

その頬に、彼のでは無い赤い液体がべっとりとついていた。

 

ヤタガラスの前輪が落ちて、光の線が男から死体へと戻った。

 

今度はキノが同じように前輪を上げてみたが……

 

レジー「逃げられましたね」

 

男の姿はどこにもなかった。

 

ユーリが真面目な口調で言う。

 

ユーリ「惨殺死体があって、犯人が笑っている路地を左、ね……嫌でも覚えてしまった」

 

 

 

 

 




追記


森の中、3人はそれぞれ違う相棒に乗りながら旅をしているわけなのだが、どうやって会話をしているのかといことなのだが、それぞれ胸元に専用のマイクがつけられており、それで会話しているってことにしておいて欲しいのだ


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