「ワンピース」の世界に来たと思ったら『最悪の世代』にされたんですけど(半ギレ) (闇野サバス)
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プロローグ お酒を飲んだだけなのに

せっかく書いた文が何度も消えやがったので初投稿です(半ギレ)


 

うん・・・

 

ここは何処だ・・・

 

見たところ森の中っぽいけど・・・

 

あー頭痛い・・・

 

えーと、昨日何があったっけ・・・

 

確か友達と居酒屋で飲み会したんだっけ・・・

 

それで文字通り吐くまで飲んで・・・

 

松田に担いでもらって・・・

 

そのままタクシーに乗せてもらって・・・

 

あーーー。思い出してきたぞ。そういやそうだったわ。

いやー久々の飲み会とはいえハメ外しすぎたな。

やっぱ大量に飲んだ後の二次会で大五郎チャレンジしたのが不味かった。

 

それでその後記憶がぶっ飛んだまま森に突入して今に至ると。はいはい。

 

 

 

これヤバくないか?電波通じなかったら真面目に詰むぞ。

 

うわ最悪だわ。松田のやつ何やってんだよ。

 

こないだだって大学のレポート提出手伝ってやるって言ったくせに真っ先にベッドの上に逃げやがったし。

 

アイツだけは許さん。アイツのせいだ。単にレポートサボったり自制心ゼロで飲み続けた俺の自業自得な気もするけど。ともかく後でアイアンクロー確定だ。

 

さて先ずは電話が通じるか試さないと。何処にやったかな・・・

 

 

 

ん?

 

今腕の感覚が変だったぞ?

 

まだアルコールが抜けてないのか?

 

というか何か・・・

 

腕縮んでね?

 

いや腕だけじゃない。足も。頭も。全部そんな感じだ。

 

オイオイまだ夢見てるのか?これだから二日酔いは嫌なん、

 

 

 

「あぅー」

 

 

 

・・・・・今のは俺の声か?

 

呂律が回らないとかそういうレベルじゃなかったぞ。

 

というか待ってくれ。口の中に歯がないんですけど。

 

オイオイオイ勘弁してくれ何が起きてるんだ。昏睡してる間に猿がもぎ取ったのか?それとも山姥?それともビッグフット?まさかのバイキンマン!?

 

落ち着け。冷静になるんだ。落ち着いて状況判断を・・・

 

 

 

・・・取れるかアホ!どうなってんだよいきなり!こんなん笑い話にもなりゃしねーぞ!あーもう!松田のバカ!ウカツ!頭無惨!

 

いやそれよりも。大事なのは今の声が本当に俺の声なのかだ。流石に歯がないだけであんな赤ん坊みたいな声は出ないはずだ。

 

よし。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・スゥーハァー

 

 

 

では元気よく!「こーんにーちわー!」

 

 

 

「あーうあーうあー!」

 

 

 

はい。俺の声です。確定しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワッツァファァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッックっ!!!!!!

 

 

 

何が起きてんだよォォォォォ!!これじゃあ俺がまるで赤ちゃんになったみたいじゃねえかァァァァァァァァ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと待ってマジで何が起きてんだよ。目が覚めたら赤ちゃんになってて森の中に1人とか。

 

どうなってんだよ本当に・・・出来の悪いクソ映画でも観てる気分だ・・・

 

しかも心の中で叫んだおかげでまた頭痛くなってきたし。最悪。

 

 

 

どうするよコレ。ロクに動けないし。

 

もうやだ。何も考えたくない。眠いし。

 

身体が赤ちゃんになったせいだろうか。いくらでも眠れる気がする。

 

うん。寝よう。寝てしまおう。コレは全部悪い夢だ。

 

目が覚めたらきっと何もかも元通りだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元に戻るんだ・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

何時も通りに山を歩く。

 

歩き慣れた道。通り慣れた木々の壁。そして見慣れた獣たち。

 

その老人は何時も通りに狩りを終えた後だった。

 

あの組織(・・・・)を裏切ってこの辺境の島に逃げ延びてから何十年経つだろう。奴らは未だに儂を探しているのだろうか。

 

素手で仕留めた(・・・・・・・)獲物を担ぎながらふと、思った。

 

その腕は血に濡れており、鹿の喉には釘を刺したような穴が開いていた。

 

武器らしい武器は見えない。狩りの最中に紛失したか。あるいは初めから必要なかったのか。

 

少なくとも、この山一帯に置いて、この老人に敵う獣はいない。

 

(とりあえず早く戻るか。もうすぐ日が沈む頃合いじゃ。)

 

老人は脚を急ぐことにした。

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩いて、それに気づいた。

 

「捨て子か・・・」

 

道の端。木々が立ち並ぶすぐそこに、1人の赤子が捨てられていた。

 

今は眠っているようだ。

 

「はっ。お前も1人みたいじゃな」

 

老人はつい言葉を漏らした。

 

この島に来たは良いものの、決して住人たちに受けいれられている訳ではない。むしろ敬遠している節さえある。

 

己の出す気配が。仕草が。目つきが。

 

なんとも言えない近寄り難さを出していたのだ。

 

しかし、それはむしろ都合が良い。自分の居場所がバレる可能性が減るからだ。だからこそ、こうして山奥で自給自足の生活に甘んじれているのである。

 

そんな中出会ったもう1人の孤独。

 

誰に捨てられたのかも分からないその赤子は、しかし可愛らしい顔をしていた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

老人はしばらく黙り、少し考えたような素振りをすると、

 

 

 

「なに。生まれたばかりの命を、熊に喰わせてやることもあるまいて」

 

 

 

空いた片腕で、揺り籠を持ち上げた

 

 

 

 



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1話 携帯無くしたしタマも無くした

おはよう。今日もいい朝だわ。酒飲めなくなったおかげで頭もスッキリしてるし。

 

でもやっぱり酒は飲みたいわ。味はともかくあのタガが緩んでいく感覚は何にも変えられないものだし。スーパーで買ったサラミやらチーズやらと一緒に食べるとまた最高なんだわ。そしてそのまま泥のように沈んでいくのもまた一興。

 

いやそうじゃない。前置きが長いわ。

 

あの後眠ったわけだけど、やっぱり何も変わらなかった。コレが現実なんだって受け入れるしかなかった。

 

何というかやっぱりキツいよ。いきなり赤ちゃんにされて。山奥にポイされて。耐えられるかよ。

 

 

 

それで、その、泣いた。

 

 

 

身体がこうなってるせいか一旦泣き出すともう止まらなかった。情けなくギャンギャン大泣きして、恥かいた。

 

しばらくして泣き止んでスッとしてたらヒゲ生やしたおっさんが来た。気付いたら小屋みたいなところにいるし、ああこの人が拾ってくれたのかって気付いた。

 

ミルクでも飲ませてくれるんかなー酒の方が良いけどなーとか思ってたら何かするわけでもなくじっと覗いてきた。アレは正直キモかった。

 

それで俺のことを自分と同じ独りだなんだとやたら言い聞かせてきた。いやアンタの事情とか知らんし。ずっと独身のままその歳まで行って寂しいんだか知らんけど、こっちの境遇の方がずっとずっと悲惨だわ。

 

まあ今の何も出来ない俺を育ててくれるってなったときは安心したけど。辛さが消えたわけじゃないけど少なくとも生きていく事が出来る。

 

 


 

 

おっさんの育児方針はヘタクソだった。まだ歯も生えていない俺におかゆ食わせようとしてきたり、小便漏らしたことに気付かずに何時間も放置されたりした。

 

親切に声と言う名の泣き声で伝えようとしたのに「腹が減ったか」とかいってアツアツのミルク作って飲ませてきやがったし。

哺乳瓶?ねえよそんなもん。

 

毎日朝に狩りに出かけて夕方くらいに戻り、俺の世話して寝るのがおっさんの生活サイクル。

 

つまり帰ってくるまでずっと1人にして放置。

 

アンタね。中身が俺だから良かったものの、コレ普通だったらアウトだからな。どんな社会生活送ってきたのよマジで。

 

あと名前も決められた。その名もケイト。

 

まあ俺には新木健斗っていう立派な名前があるが。でも案外悪くない名前だと思ったよ。

 

 

 

それでコレが一番の問題だ。

おっさんがお漏らしに気付いてやっとオムツ取り替えてくれた時にソレ(・・)は発覚した。

 

 

 

 

 

俺のムスコが、サヨナラバイバイしていた。

 

 

 

 

 

アレはショッキングだった。どうりで何かずーっと違和感あったなって思ってたらそういうことかよ!まだ小さすぎるだけかと思ってたわ!

 

つまり今の俺は、女として生まれ変わったという事になる。

 

コレじゃあ今までみたいにお世話になる事も出来ないし、生理とかにも対処しなきゃいけない。色んな意味でお先真っ暗になった。

 

さらば俺のムスコ・・・

 

さらば俺の童貞卒業・・・

 

 

 

 

 

それから2年くらい経った。

 

歩き方も安定し始めて、声もある程度は出せるようになった俺に、おっさんは教育を始めた。

 

俺には実際意味のないことだったが、黙って受けることにした。おっさんは俺の事情しらないし、何より少なからずの恩も感じてるしな。

 

あっ。ちなみにおっさんの名前はジョンね。

 

それでおっさん改めジョンに色々教えてもらってる中で一つ気づいた。

 

 

 

俺、ワンピースの世界にいるわ。

 

 

 

何言ってるか分かんないかも知れないけど俺も何言ってるか分かんない。

 

新聞届けてくるのが帽子被ったカモメだったり、その新聞に『サマケ海賊団、海軍との衝突により壊滅!』みたいな記事が書いてあったりした時点でだいぶ「ううん!?」てなったけど湖の近くで野生の電伝虫見かけたところでトドメ刺された。

 

マジかよ。俺この世界生きていける気がしないんだけど。

 

俺はワンピースの事はあまりよく知らないけどロクでもない世界だって事は知っている。気軽に島の1つや2つ簡単に滅ぼせる奴らがウロウロしてるとかやってらんねー過ぎる。

 

それにジョウが強いヤツとは限らない。ジジイとメスガキが2人とか山賊に襲われたら蹂躙され放題だぞ。

 

まあ必ずしもそうなるとは限らない。一応狩りやら何やらで自給自足してる訳だし。

 

何事もなく過ぎる事を祈ろう。

 

 


 

 

「突然だが、今日からお前を鍛える事にした」

 

「は?」

 

五歳になった俺に突然そんな事をぬかしてきた。

 

「いやいや修行て。そんなせんにんみたいなことジョウじいちゃんできるわけないじゃん」

 

「冗談ではない。これから先、お前が生き残っていく為に必要な事だ」

 

どうやら本気みたいだ。

 

こんなまだ舌足らずの歳した女の子に何事教える気なんだ。

 

あ!そうか分かったぞ!

 

狩りのやり方だな!

 

まあそうだよなー。拾われてからずっと山ん中だし街にも行ったことない。というかなぜか行かせて貰えない。

 

これはきっと俺に自分と同じように自給自足できるように、って事なんだ。そうだそうだ多分そうだ。

 

「・・・わかったよ。いま本よんでたからちょっとまってて」

 

「なら、先に外に行っている。なるべく早く来るんだぞ」

 

「はーい」

 

という訳で本にしおり挟んでから外に出た。

 

どうせ動物狩るならボウガンとか使いたいな。あと罠仕掛けたりとか。

 

外にはひらけた場所にじいちゃんが立っていた。まず何を教えてくれるんだろうか。

 

 

 

・・・ん?

 

 

 

じいちゃん何も持ってなくね?まさか素手で狩ったりするの?

 

「口であれこれ言うより見たほうが早いじゃろう。目を閉じるなよ」

 

そう言うとじいちゃんは、何やら足に力を込め始めた。

 

そして、

 

 

 

「嵐脚」

 

 

 

足からデカい衝撃波みたいなものをぶっ放し、

 

 

 

近くの木々を、根こそぎ切り飛ばした。(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

ガラガラ・・・

 

「今のは、"六式"と呼ばれるものの1つだ。これから先、お前にも同じ事が出来る様になってもらう」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

あの、すいません。

 

俺の第2の人生、そこそこで良かったんですけど・・・




今の所上手く違和感なくやれてるか分からない。

感想とかあったらドシドシ送ってください。


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2話 ダメって言われるほど人はやりたくなる

感想してくれた人、ありがとうございます。

他人からの評価は私のやる気になるのでコレからもよろしくお願いします。



あと・・・評価とかお気に入りとかもしてくれたらもっと嬉しいかなって・・・


じいちゃんが六式使いだった事が判明したあの後、俺は容赦ない修行を受ける事になった。

 

まずは肉体を極限まで鍛え上げる必要があるということで基礎作りから始まった。

 

最初のうちは腕立てとかランニングとかそこら辺からやったんだけど、慣れてきたと思ったら素手で薪割りをやらされたり断崖絶壁を登らされたりした。

 

もうこんな事できる時点で充分じゃね?

 

でもじいちゃんはこれでも若干足りないくらいだと言う。勘弁してくれ。これ以上増えたら早死にする。

 

こんな生活を5年間毎日欠かさず続けて、素手で薪割りどころかワンチャン岩も切れるんじゃないかと思い始めた頃、ついに六式そのものを覚える時が来た。

 

「まだ少し早い気もするが、お前はスジが良い。時間をかければ問題なく覚えられるじゃろう」

 

「まだ十歳にもならないうちから崖上りとかされてたら誰でも覚えられると思うんだけど」

 

「ハッ。それは途中で投げ出さず地道について来られたやつが言えることじゃ。だからお前にはスジがあると言える。その忍耐力、誇って良いぞ」

 

いや・・・なんか投げ出したりしたら半殺しにされる気がしたからずっとそうしてきただけって言うか・・・

 

 

 

そうしてじいちゃんから1つずつ六式を教わっていった。

 

六式とはその名の通り全部で六種類ある武術だ。

 

全身に力を入れて身体を固くする『鉄塊』、指を弾丸みたいに相手に打ち込む『指銃』、攻撃時の風圧を利用して紙一重でかわす『紙絵』、瞬間的に加速して超速移動する『剃』、空を蹴って空中に浮く『月歩』、そしてじいちゃんが見せてくれた蹴りと同時に斬撃を打つ『嵐脚』だ。

 

しかもこれらはあくまで基本らしく、技術を磨けば応用技も使えるようになるらしい。

 

実際やってみて分かったけど、こりゃ身体を極限まで鍛えないと無理だわ。幾つか試しただけで手足が森の中全力疾走したみたいにパンパンだもん。

 

ああ、六式使ってるモブとかも本当は凄かったんだなぁ。見直したよ。

 

『指銃』と『鉄塊』は割と早く覚えられた。特に『指銃』は簡単で、練習してる内に足からも打てるようになった。

 

『紙絵』は身体を脱力する感覚が中々掴めなくてちょっと苦戦した。だって相手の攻撃が眼前まで迫ってくるんだぜ?力入っちゃうよそりゃ。

 

で、だ。それよりも大きな問題がある。

 

 

 

『月歩』クソムズい。

 

 

 

大体何なんだよ空を蹴るって。人の身体で出来ることの範疇超えてるだろどう考えても!最初にこれ考え出したヤツ絶対変態だわ!

 

しかもそれだけじゃない。じいちゃん曰く『月歩』が出来ない理由の1つは脚力不足らしい。

 

つまりこれ以外にも足を使う『剃』や『嵐脚』も使えないということだ。

 

クソゲー!ふざけんじゃねぇよマジで!

 

途中まで順調だったのにここに来てどん詰まりだ。じいちゃんは焦ることはないって言ってくれたけど、割とかなり落ち込んでしまった。

 

もうヤダもう。憂さ晴らしに今日も岩を真っ二つにしていこう。

 

なーんで手では出来て足じゃ出来ないんだよ・・・

 

 

 

1日分の修行終わったある日の夜。俺は布団に入りながらじいちゃんに聞いた。

 

「ねえじいちゃん」

 

「何だ、ケイト」

 

「そもそもじいちゃんってさ、何で六式を俺に教えようと思ったの?普通なら身体鍛えただけで充分だと思うんだけど」

 

「・・・何故今さらそれを聞く」

 

「いや、別に疑ったりしてる訳じゃなくて、単に気になっただけだよ。まあどこで六式覚えたのか、みたいなのはあるけどさ」

 

六式使えるってことは多分海兵かなんかだと思ってるけどさ。もしくは武術家。

 

「・・・お前にも、言っておかなければならんか」

 

「?」

 

「儂は数十年前、ある組織に入っていた。」

 

うん。何となく知ってる。

 

「昔の儂は向こう見ずな馬鹿じゃった。どんな苦難があろうとも自分なら蹴散らせる。乗り越えて行ける。そう信じ切っておった。実際儂には、そう思えるほどの力があったからな」

 

「でも、そうじゃなかったって事?」

 

「ああ。信じていた仲間に、裏切られたのじゃ。そして組織を追われた。奴らの追手を振り切る内に、この島に流れ着いた。それからはずっと1人じゃ。」

 

オイオイ。思ってた以上に深刻だぞ。

 

「もう儂には何も信じられなかった。信じたくなかった。そうして山に篭り、狩りをして暮らすようになった。幸い山には獣が多いし、街の奴らも寄り付かない。偶に会ったとしても、不気味がって逃げていく」

 

「・・・・・・・・」

 

「だから、1人捨てられているお前を見た時は見て見ぬふりが出来んかった。儂が味わった苦痛をお前が受ける必要は無い。お前には儂のようになって欲しくはないのじゃ。だから強くすると決めた。ただ強いだけではない。儂が超えられなかった苦難を超えて、幸せに暮らせるように。それさえも、儂の思い上がりかも知れんがな」

 

何て言ったら良いか、浮かばなかった。

 

ジョンじいちゃん、そんな事俺に想ってたのかよ。

 

別に悪くねぇよじいちゃんは。そんなの裏切った奴らが悪いんだ。自分を責める必要なんて、全く無いんだ。

 

少なくとも俺はそう思う。

 

「・・・俺にはよく分かんないけど、じいちゃんは間違ってなかったと思うよ」

 

だから、悪くない、きっと。

 

「・・・・・・・・拾ってくれて、ありがとう」

 

「・・・ああ」

 

結局、これくらいの事しか言ってやれなかった。

 

 

 

ちなみに『月歩』の習得には8ヶ月掛かった。

 

 

 


 

どうも。今年でついに15歳になるケイトちゃんです。

 

やっとこさ六式コンプリートして、現在は狩りの手伝いをしたり実際に組み手をしたりしています。

 

そしてじいちゃんにボコボコにされるまでがワンパターン。

 

もう存分に六式使えるようになったのにまだ敵わないとか強すぎっしょ。今でコレとか昔はどんなんだったんだ。

 

まああんまり考えすぎてもダメだ。そのうち勝てるようになればオッケーなんだよこういうのは。

 

さて、さっさと狩り終わらせて帰るぞ。

 

「ケェェェーン!」

 

変な鳴き方する鹿をひたすら追いかける。もうこの森一帯は俺の庭みたいなもんだ。目を瞑っても走り回れる。

 

「ほーら、大人しく捕まっとけ!」

 

舐めプをやめて『剃』で至近距離まで近づき、首に『指銃』を突き刺してやる。死ねオラァ!!

 

ドスゥッ

 

ブシャァァァァァ・・・・・・

 

鹿は血を流しながら数回跳ねた後、動かなくなった。

 

やっぱ指で肉を刺す感覚がたまんねえ。じいちゃんはいつもこんな狩りしてたのか。

 

・・・ん?

 

後ろから熊が来てるな。獲物を横取りする気か。

 

とりあえず『嵐脚』。

 

ズバァッ!!

 

「グガァァァァァァァァァッッッ!?」

 

ドスゥン

 

あー、やっぱそうか。威力抑えて打ったから周りの木々を倒さずに済んだ。

 

さあーて、狩りも終わったし、家に帰って飯に、

 

 

 

お?

 

 

 

音が聞こえると思ったらここ街のすぐ近くか。じいちゃんにはいつも行くなって言われてるけど。

 

いくら自分が良い思いしてないからってそこまで強制することないよなー。良いじゃん行ってみたって。

 

・・・まだ夕暮れまで時間あるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よし。

 

行くか。



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3話 街と喧嘩ととある謎

「東の海」(イーストブルー)のとある島、アウトラ。

 

その島は特に大きな危険があるわけではない、全体的に見ても普通寄りの島だ。何か特徴を挙げるなら、人々が住む街と獣達が潜む山の2つに分かれているくらいだ。

 

そんな中、1人の男がある調査をしていた。

 

「ああ、まただ。また割られている(・・・・・・・・)

 

その男の名はアッシュ。島で何でも屋『ワイルドカード』を開いている。

 

昔から裕福ではない暮らしをしてきた彼は、学校にはあまり行けず子供でも出来る労働をして家計を手伝っていた。

 

数年間その様な暮らしをしてきたが、ある日父親が事故で亡くなってしまう。

 

父親がいなくなった分も稼がなければならなくなったが、まだ若いとはいえ教育をまともに受けていない身ではできる労働など限られていた。

 

しかし今まで通りでは金が足りない。

 

そこで彼は、何でも屋を開いたのだ。

 

使われなくなった家屋を再利用しそこに店を構え、文字通りどんな事でも引き受けた。

 

ネズミ退治、掃除、店の手伝い、重労働、捜索など、やっていない事はもはや数えるほどしかないと思えるほどだ。

島の人たちも次第に彼を信頼するようになっていき、また彼の元で働く人も現れ始めた。

 

こうして安定した収入と仲間をアッシュは作ることが出来た。そんな時、森の方で奇妙な物を見かけるようになった。

 

真っ二つに割られた岩である。

 

それは断面からして明らかに意図してやられたものである。それも精巧な技術が無くてはできない。一体誰が何の為にやったのか。しかし島の人間はある目星がついていた。

 

山の奥に住むジョンという老人。やったとしたら彼くらいだ。

 

しかしそうだとしても、何故こんな事をしているのか。意図が読めなかった。

 

こうしてこの謎を解くために白羽の矢がたったのがアッシュだ。だがそれでも捜査は難航した。

 

「まったく、本当に誰がやったんだ?イタズラにしては凝り過ぎだろ」

 

手掛かりが無いのでどうしようもないが、ジョンという老人がやったことではないだろう、と彼は推察していた。

 

結局この日も収穫なし。アッシュは街に引き返していった。

 

「今日は仕事の量が多くてくたくただ。帰る前に一杯やっていくか」

 

そう思っていた矢先、何やら騒ぎが聞こえてきた。

 

 


 

 

「おいガキ。今明らかに俺にぶつかってきたよなぁ?」

 

「は?」

 

こっそり街に降りてきたは良いけど、柄の悪い男に絡まれちまった。

 

ぶつかった程度でキレるとは器の小さいヤツだな。俺なら笑って許すぞ。

 

「で、今俺はひじょ〜〜〜に痛いわけだ。主に全身がな」

 

「その割にはペラペラ喋るんだな」

 

「うるせえ!今何で俺が怒ってるのか分かってるのか!」

 

「お前が怒ってる理由を俺が理解できてないから、とか?」

 

「ハア!?ふざけてんじゃねえぞ!!」

 

「アハハハハハ!悪い悪い冗談だって!まあ許してくれよわざとじゃないしさ」

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッッッッ!!!」

 

コイツおもしれーなぁ!顔真っ赤にしてやがる。

 

こんな小さいやつに言いくるめられてバカみたい。

 

というかよく見たらコイツ薄毛じゃんwwwwwwww

 

やべえwwwスカスカwww

 

「テメエ!どこ見て笑ってやがるんだよ!」

 

「ゴメンwwwだってwww頭wwwスカスカwww」

 

「コイツぅぅぅぅぅ!!!ブッ殺す!!!」

 

ガシィ!

 

ッ!

ついに掴みかかってきた。流石に笑い過ぎたか?

 

「グゥッ!何でだ!?何でこんなチビ1人動かせない!?」

 

おっとチビはNGワードだぞ?転生する前からずっと気にしてるんだからな、ソレ。

 

「そりゃあ鍛え方が違うからな。つーかチビって言うな。それ言われると腹が立つ」

「はーん?人の頭バカにしといてぬかすなよこのチビ女!」

 

「あ?言ったなこのヒジキ頭!」

 

さっきから何なんだコイツ!人が笑って許してやってるのにその態度は!

 

人の短所をバカにするなんて最低だぞ!どんな教育を受けたんだ!許さん!

 

「人が無抵抗だからって良い気になりやがって!お前なんてこうしてやる!」

 

ギュッ

 

「痛でででででででで!!コイツ耳握りやがった!!」

 

ざまあみろ。

 

「おい見ろよ!喧嘩が始まってるぜ!」

 

「あいつはブライトじゃねえか。もう1人は・・・鹿を背負った女の子?」

 

「大変よ!あんなに掴み合ってるわ!あの子が怪我しちゃう!」

 

人が集まってきたな。面倒なことになると厄介だ。

 

まあ良いや。このまま投げ飛ばして・・・

 

 

 

「おい!何の騒ぎだ!こっちにまで聞こえてきたぞ!」

 

 


 

 

「全く何やってるんだお前は。相手は子供でしかも女の子だぞ?怪我を負わせたら責任取れるのか?」

 

「いやだって・・・ぶつかってきたのはアイツだぞ・・・」

 

街に戻ってきたらブライトが女の子と喧嘩していた。良い歳こいて何やってるんだ全く。

 

「大丈夫だった?怖かったでしょう」

 

「いや全然怖くなかったし。アイツより熊の方がまだ怖いわ」

 

「まあ。そんな強がりを言って」

 

だがあの子もあの子だ。売られた喧嘩に食ってかかるなんて身の程知らずにも程がある。自分がどうなるかぐらい分かるだろう?

 

しかし何というか、妙な見た目だな。

 

黒い髪は女子にしては短めに切り揃えてあり、服は動きやすさを重視したような見た目でどちらかと言うと男物っぽい。

 

そして1番目を引くのは背中の鹿だ。自分で仕留めたのか?

 

「とにかく、喧嘩はこれでおしまいだ。もう夕方が近いんだし揉め事なんて起こすな」

 

「ああ、分かったよ・・・」

 

渋々ブライトは帰っていった。本当に世話が焼ける。

 

ん?待てよ?

 

 

 

俺は今までアイツを見かけたことがあるか?(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

この街で店を開いてからアイツを見かけた覚えがない。特に俺は色んな住民から依頼を受けてきたんだ。見た覚えが無いなんて絶対におかしい。

 

「ところで、お家は大丈夫なの?もうすぐ日が沈むわよ?」

 

「あっ。それはその、大丈夫というか・・・」

 

きっとそうだ。

 

あの子には会った事がない。

 

それなら、割れたあの岩についても何か知っているかも知れないな。

 

「なあ。君、名前は?」

 

俺は彼女に後ろから訪ねた。

 

「ん?えっと、ケイトだけど」

 

「ケイトか。初めて聞く名前だ」

 

「・・・あははーそうだよねー珍しい名前だからねーそうだよねー」

 

反応があからさまだ。やはりそうなのか。

 

「君に少し聞きたい事があるんだ。酒場で何かドリンクでも飲ませてやるからついて来てくれないか」

 

「酒場?!!はいはい行きます付いてきます!!」

 

よし。話が聞けそうだ。

 

というか返事が食い気味だったな・・・




投稿遅れて申し訳ありません。


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4話 おつまみフルーツ ゲロマズ味

ああああああああ!!!!!!
『ワンピース』のタグ間違えてんじゃねえかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
×ONEPIECE → ○ONE PIECE

というわけで修正しました。すいません。


あのちょっとした喧嘩の後、1人の男から話が聞きたいと言われた。

 

と言うのもそいつはこの島アウトラで何でも屋をやってるアッシュという奴らしく、今とある謎について調べてるそうだ。

 

というかこの島の名前アウトラだったのか。初めて聞いたわ。

 

アッシュはそのある謎について調べてるらしいんだが、どうも難航してて目処が立っていないらしい。それで見ない顔である俺に何か知ってるか尋ねたい訳なんだ。

 

 

そ!れ!で!

 

 

俺を酒場に連れて行ってくれるらしいんだよぉ!!!!!!

 

ぃやったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

もう15年間も飲めてなかったんだぁぁぁぁ!!

 

ずっとミルクか水かぐらいしかなかったんだぁぁぁぁ!!

 

まだ15歳だけどもう我慢出来ない飲むぅぅぅぅぅ!!

 

飲んじゃうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!

 

 

・・・ふう。

 

 

とにかくやっとこれで酒にありつける訳だ。

 

いやー本当に良いやつだよアッシュくんは〜。まず相手の餌付けから始めて情報を引き出すなんて優秀な奴じゃないか〜。街の皆が君のこと好いてそうな理由分かったよ〜。

 

いやー山から降りてきて正解だったわ。何で今まで降りちゃダメだって言ってたんだろうなー。

 

お、もうすぐ酒場だー。

 

さーて何頼もうかなー。酒が飲める酒が飲める酒が飲めるぞ〜♪

 

 

 


 

 

 

この酒場の名前は『酔いどれ天使(ドラックエンジェル)』と言うらしい。

 

見た感じ凄く賑やかだ。きっと人気の店に違いない。

 

「いらっしゃーい。久しぶりに来たわねアッシュ」

 

「ああ、ミリー。仕事の量は相変わらず多いが、お陰で余裕が出来てきたからな」

 

「そう、良かったじゃない。あれ、その子は?」

 

「ついさっきブライトと喧嘩してたケイトって子だ。取っ組み合いになる前に止めたけどな」

 

「あらそうなの。良かったわねぇ、怪我する前に止めてくれて」

 

まあ、それは結果論であってね。

その気になりゃ俺はあの場を穏便に済ませられたわけでして。(イキり)

 

「俺の事なら心配しなくても大丈夫よお姉さん。こう見えても身体能力には大分自信がある方だから」

 

「とにかく貴女はまだ子供だし、危険な事はしないように。約束よ」

 

「はーい」

 

それにしてもあのお姉さん可愛いなぁ。エプロン姿とポニーテールが似合ってる。

 

くっ!俺がこの世界でも男だったらお見合いの1つでも考えれたのに!いやむしろ今のままでもイケるか?

 

「名前を言うのが遅れたわね。私はミリー。よろしく」

 

「俺はケイトです。こちらこそ」

 

決めた。この店は俺の行きつけにする。

 

 

 

「さて、それじゃあ色々聴いていくぞ」

 

俺とアッシュは席に座って向かい合っていた。

 

「オーケー。聴きたい事って?」

 

「この島は特にこれと言った異常や特異性はない。だが最近になって変な物を見かけるようになった。真っ二つに割れた岩だ。」

 

・・・あれぇ?見に覚えがあり過ぎるぞ?

 

「決まって森の中で見かけるが、そのどれもが綺麗に割れてやがるんだ。明らかに人の意思で出来ている。色々と調べて回ったが手掛かり無しだ。だからお前が何か知ってないか・・・」

 

うん。これってやっぱり・・・

 

「ゴメン、それ俺だわ」

 

「え?」

 

「俺がいつも山で狩りをした帰りとかに、暇つぶしで割ってるやつだわ」

 

「・・・ちょっと待て。待ってくれよ。つまりアレはお前が割ったって事で良いのか?」

 

「うん」

 

「冗談はやめてくれ。あんなにデカい岩をお前みたいなのが割れるわけあるか。あんな山の中じゃ大掛かりな道具を保管しておく事もできないぞ。それとも素手で割ったって言うのか?」

 

「だからそう言ってるじゃん。素手だよ素手」

 

そう言いながら指を動かしてボキボキと鳴らしてみる。

 

「・・・・・・・・本気(マジ)か?」

 

「マジで」

 

「・・・・・・・・・・はぁー〜〜〜〜」

 

頭を抱え始めた。

 

まあそうか。今まで自分が調査してきた謎の正体がただの暇つぶしだったなんてバカバカしいしな。←違う

 

「まあ、落ち込むなよ。別にお前のせいとかじゃないって。ほら、頼んでたのが来たぞ」

 

「そういう事じゃねぇよ・・・アホかお前・・・」

 

「はい、特製エールお待ち!」

 

俺とアッシュの目の前に並々と注がれたエールが置かれた。

 

ひゃあー美味そう!もう早く飲みたいんだけど!

 

「うわぁ!本当に良さそうな酒だな。いつもこんなの飲んでるのかよ」

 

「おい、何で2人分あるんだ。お前、酒飲めるのか?」

 

「なーに。15歳だって立派な大人だよ。イケるイケる」

 

「俺はドリンクって言ったんだが・・・まあ良いか。そもそも山に住んでて岩を割るなんて言いふらすような奴だ。酒の1杯くらい余裕だろう」

 

・・・何か言い方が引っかかる気がするが気のせいだろ。

 

それより乾杯だ乾杯!さあ飲むぞー!!

 

「はい、カンパーイ!」

 

「・・・乾杯」

 

カチンっ

 

「んっんっんっ・・・・・・」

 

ゴクゴク・・・

 

「・・・・・・っかぁーーーーーーっ!!」

 

うまーい!コレだよコレぇーーーーーー!!

 

この上シュワシュワとした味わいと喉越し!コレがないと始まらないわーーーーーー!!

 

「生きててよかったぁぁぁぁ!」

 

「そんなに喜ぶなんて、前に飲んだことがあるのか?」

 

「ギクッ!いや別に、飲んでみたかっただけですけどぉ?」

 

「そうか・・・・・・・・美味いな」

 

「ええ!今日のは今朝出来たばかりだから格別よ!」

 

ミリーが言う。

 

「へーそうか。どうりで美味しいわけだ。ありがとうお姉さん!」

 

「ふふ、どういたしまして」

 

ミリーちゃん可愛いなあ。ますますお酒が進むぜェ。

 

 

ゴクゴクゴク・・・

 

 

「よく飲むな。やめた方が良いんじゃないか?」

 

「これくらいヘッチャラだっての!」グビグビー

 

俺の肝臓を甘く見るなよ?10杯ぐらい余裕だかんなぁ?

 

「・・・それよりもだ。お前、山に住んでるって言ったよな」

 

「ん?そうだけど?」

 

「それってお前1人か?」

 

「いや、もう1人いるぜ」

 

「それって誰だ?」

 

「ジョンって言うじいちゃんだよ。捨てられてた俺を拾って育ててくれたんだ」

 

「・・・っ!」

 

どうしたんだ?急にハッとした様な顔して。もしかしてじいちゃんと顔見知りか?

 

「そうか・・・あの『流狼』がそんな事を・・・」

 

『流狼』?なんじゃそりゃ。ダサいあだ名だな。

 

「ああ、悪い。ただの独り言だ。」

 

「なんかよく分かんないけど、まあ良いか!ミリー姉さーん!おかわりとついでにおつまみもー!」

 

 

 


 

 

 

へにゃあ。

 

あしこしたたなくなるまでのんじゃったあ。

 

「ウェヒヒヒ・・・あっしゅのかおがおくらみたいぃ・・・」

 

「別に俺の顔はオクラじゃない。初対面目の前に普通酔い潰れるか」

 

「にゃによぉ。わたし(・・・)がなにのもうがかってでしょお?」

 

「・・・分かったから早く立て。もうすぐ店じまいだぞ」

 

「やだあ!まだのむ!」

 

「ワガママを言うな!ガキかお前は!」

 

「やだああああああああ」

 

「・・・本当にどうしようもないやつだな。もう良い。先にお前の分の金も払ってくるからそこで待ってろ」

 

あ、どっかいっちゃったあ。

 

まあいいやぁ。のこってるおつまみたべよ。

 

・・・のこってないじゃぁん。

 

どこぉ?わたしのおつまみどこぉ?

 

・・・あ、あったぁ。きのみのふるーつだあ(・・・・・・・・・・)

 

あれ?これとなりのひとのせきじゃぁん。しかもこんなのめにゅーにあったっけぇ。

 

 

まあいっか。いただきまあす。

 

 

シャリッ

 

ゴクッ

 

 

 

「げろまずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

何これマッズ!酔い覚めたんだけど!これ絶対ロクな食いもんじゃねぇ!

 

投げ捨てたるわこんなん!

 

べシャアッ

 

はー。まだ口の中に不味さ残ってるわ。

 

ってもうこんな時間!?やっば早く戻らないと!

 

ちくしょうまたハメ外したせいで下手こいた!じいちゃん今頃カンカンに、

 

 

 

ドクンッ

 

 

 

「かはっ」

 

ッッッ!!何これ!?

 

体が、熱い・・・!

 

ドッドッドッドッドッドッドッドッ

 

「あ、がぁぁぁっ!!!」

 

ま、不味い・・・!

 

何かがこみ上げてくるゥ・・・!

 

「オイいきなり叫んでどうし、おいケイト!?」

 

「あ、アッシュぅ・・・!」

 

「大丈夫か!?しっかりしろ!?」

 

「は、はやく・・・」

 

「ケイトちゃん!?どうしたの!?」

 

「はやく、はなれろぉっ!」

 

 

 

次の瞬間。

 

店の中は紫の煙の様なものに覆われて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大なキノコ(・・・・・・)が、全てを埋め尽くした。



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5話 キノコって胞子出すだけでしょ?弱くね?

 

うむぅ・・・・・・

 

はっ。

・・・気を失っていたのか。結局朝まで寝てしまった。

 

全く、変なもの食べたせいで酷い目にあったぞ。また頭痛いのは単に飲み過ぎか。

 

というか、身動きが取れない。何かに全身が固定されてる。

 

一体なんだ。

 

・・・キノコだ。

 

馬鹿でかいキノコに手足が食い込んでる。

 

・・・・・・・・

 

イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ

 

どういう事だよ!?昨日の何処にキノコが出てくる要素があったんだ!?童話の世界じゃないんだぞ!?いやここ『ワンピース』の世界だけど!?

 

とにかくここから出ないと。

 

グッ

 

ああもう!鬱陶しいな外れろコイツ!

 

ガッ

 

ボロッ

 

お?

 

びくともしなかったのが急に崩れた?意外と脆かったな。

 

というかよく見たら店が全部キノコ地獄やんけ!床も壁も天井も何もかもデッカいキノコだらけだ!

 

マズいぞ。コレにアッシュとミリー姉さんが巻き込まれてたら・・・

 

早く掘り出さないと!何処だ!何処にいる!?

 

「アッシュー!ミリー姉さーん!聞こえてたら返事しろー!」

 

「うぅ・・・」

 

「!」 

 

今の声は、姉さんだ!壁にいるぞ!

 

俺の暫定彼女がキノコに埋もれてる!しかも顔しか外に出てない!俺より重症だ!

 

「姉さん!大丈夫か!?」

 

「わ、私は後で良いから・・・先にアッシュを・・・」

 

自分の身より他人の心配!?なんて良い人だ!

 

しかしだからこそ先に姉さんを助ける!

 

俺はサンジじゃないけどレディーファーストを重じているからな。それにあの人なら何か頑丈そうだし多少ほっといても大丈夫だろう。

 

さあ掘り出すぞ。かと言って六式は使うと危ないし、地道に掘るしかないか。

 

俺は彼女を助けようと右手を前に出し、

 

 

 

右手の異変に気付いた。

 

 

 

「えっ」

 

右手の色が紫色に変わっていて、爪も獣みたいに伸びていた。そしてソコから同じく紫の煙みたいなのが出ている。

 

「こ、これって・・・」

 

心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。

 

身に覚えがないわけじゃなかった。

 

俺の腕が変化している理由。店がキノコで埋め尽くされている理由。

 

もし昨日食ったアレがそうなら。(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「・・・」

 

俺はキノコの上に手を当て、強く念じてみた。

 

「ケ、ケイトちゃん・・・?」

 

するとあっという間に。

 

 

全てのキノコは跡形も無く崩れていった。

 

 

「きゃっ!?」

 

急に動ける様になったから、ミリー姉さんが前に倒れた。

 

本当なら受け止めてやるべきなんだろうけど、今はそれどころじゃない。

 

そういう事だ。さっき簡単にキノコから手足が外せたのも脆いからじゃない。

 

 

俺が外れろと思ったからだ。(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「ねぇ。その腕って・・・」

 

「ああ、そういう事かよ。クソ」

 

 

俺、能力者になっちゃったよー。

 

 


 

 

急に視界が晴れた。

 

一体何があったんだ?

 

あの後アイツから変な粉が出てきたと思ったら、突然何かに覆われて・・・

 

目が覚めたら、何も見えないし動けないで大変な事になっていた。

 

ケイトは、ミリーはどうなった?大丈夫なのか?

 

身に纏わりついていた何かが崩れていき、体も動かせるようになる。

 

「あっ。アッシュが出てきたわ!」

 

ミリーの声だ。じゃあケイトは・・・

 

・・・というかさっきから何かが下腹部(・・・)に乗ってる気が、

 

「・・・・・・ん、アッシュか。そこにいたんだ」

 

「ブフッ!!!」

 

ケイトだ!コイツ、なんて場所に尻乗せてやがる!

 

「何またがってんだ!早く降りろ!」

 

「あっ!ごめん!」

 

そう言われるとケイトは直ぐに降りた。

 

「ごめんな。さっきまでキノコだったから気付かなかったんだ」

 

「気づかないってお前、・・・キノコ?」

 

キノコって今こいつは言ったのか?じゃあ俺は一晩中キノコの中に?

 

「そうよ。さっきまで私たち、キノコに埋もれてたのよ。だけどケイトちゃんが手を当てたら突然崩れて・・・」

 

待ってくれ。話が掴めないぞ。

 

「どういう事だ。俺が気絶してる間に何が起きたんだ」

 

「多分、俺のせいだ」

 

ケイトは言った。

 

「お前のせいだって?」

 

「俺、多分悪魔の実を食っちまったんだ。」

 

悪魔の実、だって?

 

「それで能力が暴走して、こんな事になったんだ。ほら、見てくれ」

 

「ッ!」

 

そう言ってケイトは、右手を見せてきた。それは紫色になっていて爪も黒く伸びている。そして、あの時の粉が出ていた。

 

「悪魔の実って、アレの事?一部の海賊とかが食べてるって言う」

 

「うん、それだ」

 

ミリーの質問に返答するケイト。

 

コイツの口ぶりから察するに、昨日の夜のどこかで食べたという事なんだろう。

 

いつだ?どのタイミングだ?注文の品にはそれらしいもんは見当たらなかったが。

 

「俺もびっくりだよ。こんな事になるなら酔った勢いで隣の席に置いてあるもんなんて食うんじゃなかったー!」

 

「「は?」」

 

思わず声が揃う。

 

「いや、ね。酔っ払うとね、正常な判断ができなくなるんだ。1本の指が2本に見えたりするんだよ。それで勝手に人様の物も食べちゃったって言うか、その・・・・・・とにかくすいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「・・・」

 

言葉も出なかった。そんな貴重な物を忘れていくやつも大概だが、コイツはそれ以上だ。

 

「ミリーさんごめんなさい!幸い他の店員はもう帰ってたけど、オーナーである姉さんを巻き込んでしまって!一生かけても弁償しますから許してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「きゃっ、ちょっと落ち着いて。分かったから。わざとじゃないってよく分かったし弁償も結構よ」

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!ありがとうぅぅぅ!!!」

 

ミリーに抱きついて泣くケイト。そんなに言うなら俺の心配も少しはしろ。

 

「で、どうする?お前、家に帰れるのか?」

 

「まあ、そうだけど。・・・それとあと1つ、お願いがあるんだ」

 

「今度はなんだ?」

 

「俺が能力者って事、秘密にしてくれないかな?その、何か色々面倒臭い事になりそうだし」

 

そういう事か。悪魔の実を持っていた奴の事も気にかかるが、コイツの身を考えるとそうしてやった方が良いかも知れないな。

 

「分かった。こうなったのもきっと縁が何かだ。ただし、これは借りだからな」

 

「私もそうするわ。店に壊れてる所も無さそうだしね」

 

「ッ・・・・・・2人とも、ありがとう!」

 

そう言って頭を下げてきた。

 

・・・どうにもコレだけで終わらなさそうだな。

 

そう思うのは俺だけかもしれないが。

 

 


 

 

俺は山を走り帰路についていた。

 

いやーどうしようか。悪魔の実なんて食べる予定なかったんだけど。

 

にしてもアレだな。俺もう死ぬまで泳げないってことか。

 

うわ最悪だ。俺水泳はかなり得意な科目だったのに。もうあの湖で平泳ぎする楽しみも味わえない訳か。

 

だがそれより肝心の能力だよ。

 

キノコてお前・・・

 

だってコレ、胞子出してキノコ生やすだけじゃん。弱くない?

 

確かに拘束ならできなくも無さそうだけど、俺ぐらい鍛えた奴なら多分割と簡単に壊せる。

 

そしてキノコなので乾燥や火にもすこぶる弱い。

 

うん!最弱!

 

ふざけるなよ神様ァ!こんなガラクタ能力よこすくらいならメラメラの方が絶対良かったんだけど!

 

あー、戻りたい。戻って昨日の自分を『嵐脚』で蹴り飛ばしたい。

 

「お前が酔っ払ったせいでこっちは産廃能力者じゃボケぇ!」ってな。

 

やっぱ酒ってクソだわ。じいちゃんの搾ったミルクの方が1番!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時の俺は、気付いてなかった。

俺のとった選択が、この平和な島に大きすぎる変化をもたらす事になるのを。




主人公が食べたのは『ノコノコの実』です。

劇場版ワンピースに出てくるとある敵が食べていた物です。

何か個人的に気に入ってた能力なので、今回出してみる事にしました。

実はこの能力、使い方次第で恐るべき破壊力を出すことが出来ます。



本人は気づいていない上に産廃扱いしていましたが・・・


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6話 キノコ最強だわ

少し書き方変えてみました。


家に帰った後、じいちゃんにたっぷりと叱られました。

 

朝までどこをほっつき回ってたんだって言われて、何て言えば良いか分からなかったよ。あんだけ禁止されてた街に勝手に降りたわけだし。

 

まあ隠しててもしょうがないからどこに行ったか話した。

 

「・・・そうか、降りたか」

 

そしたら何故かじいちゃんまでバツが悪そうな顔をしてきた。どうしてだ?

 

「気にするな。儂の問題じゃ。・・・あと、これから街へ行く時は儂に言うんじゃぞ」

 

「え!?街に行って良いの!!」

 

やったぁー!こそこそ行かずに済むぞー!

 

何か思い直したらしく、街に行くことを許してくれた。これからもまた会えるよ、姉さん。

 

次に悪魔の実を食べた事も教えた。

 

「それは・・・能力者の力か・・・!」

 

「うん。酒場に行ったときに、その、色々あってな。まだ能力に慣れてないし、どうすればいいか分かんないんだ」

 

「酒場で何があった?」

「・・・・・・」

「言え」

 

「・・・・・・酔った勢いで食べました・・・・・・」

「・・・馬鹿者が」

 

ホントニゴメンナサイ。

 

「ともかく、お前が能力者になった以上ソレを使いこなせるようにならなきゃならん。方法はひとつ。鍛錬じゃ」

 

「鍛錬?」

 

「悪魔の実の力は、手に入れただけでは使いこなせん。どう言った能力か理解し、己の身体の一部であるかのようにするんじゃ。六式を教えた時と同じよ」

 

ふーん。ワンピースの能力者ってそうなってんのか。俺よく知らなかったから助かるわ。

 

「これからは六式に加え、能力の制御も鍛錬に加える。今まで以上にキツく行くぞ」

 

「えっ!?」

 

今まで以上って。まって勘弁して欲しいんだけど。

 

 


 

 

という事で能力の鍛錬が始まった。

 

この能力の事を大体理解したと思う。

 

出てくるキノコは俺の認識に依存しているんだ。

例えば美味しいキノコが食べたいなって思ってると食べれるキノコが生えてくる。

逆にアイツを苦しめたいなって思ってると毒キノコが生えてくる。

 

この特性を掴んだ上で様々なキノコが生やせるように鍛錬した。

 

それでまあ、色々出来るになったぜ。

 

まず、「紅茸(べにだけ)」。

これは相手の体に生えるキノコで、1度根付くとそこからガンガン血を吸い取る。

最初は白色だけど、血を吸って真っ赤になるからこういう名前にした。

まあ、大抵のザコはこれで片付く。試しに狼に生やしてみたらあっという間にカサカサのミイラみたいになった。怖っ。

 

次に「猪断茸(いたちだけ)」。

キノコの傘が回転ノコギリみたいになってズパズパ切り裂く。あと気円斬みたいに飛ばせる。

これがあれば木を切るのも楽だし山生活だと重宝するんじゃないか。まあ俺は木ぐらいチョップでいけるからいいけど。

 

そして「花火螺茸(はなびらだけ)」。

桃色のキノコで、投げつけると破裂して攻撃出来る。

それが文字通り花火みたいでちょっと綺麗なんだ。まあその胞子毒なんだけどな!

 

これ以外にも沢山覚えたけど全部話すとキリがないので省略。

 

いや、以前の俺の発言撤回するわ。

 

この能力超使える。

 

ただキノコ生やすだけかと思ったら無茶苦茶応用効くじゃん!誰だよこれを使えないとか言ったやつ!

鍛錬積むとここまで変わるなんてな。きっとエースとかも同じ苦労してたんだろうな。

 

ただ1つ問題が生まれた。

能力の練習しすぎたせいで山の至る所にキノコゾーンが生まれてしまった。

キノコ自体は消しても残ってた胞子が根付いてしまったらしい。

よく見ると変な虫とか止まってるし。完全に生態系変えちゃったな。

これだけ規模デカいと多分いっぺんに消すとかも無理だし、ほっとこう。

 

「じゃあじいちゃん、また街に行ってくるわ」

 

「おう、ハメは外すなよ?」

 

「はーい」

 

「・・・そう言って何回酔い潰れながら帰ってきた?」

 

「アーアーキコエナーイ」

 

そして今日も鍛錬を終わらせた俺はまた例の町に繰り出すのだった。

ここ最近はずっと通いづめだなー。またブライトと腕相撲してみようか?今度は先に4杯飲んだ状態でやってやる。

アッシュも誘おう。最近また忙しくなったらしいけど。

街に降りるようになってもう数ヶ月だったけど、アイツと飲んでる時が1番楽しいんだよな。まあ居なかったらしょうかないか。

 

よーし、今日も飲むぞー!

 

 

 

 

 

と、思ったら。

 

 

 

 

 

「ハッハッハッ。よく来たな嬢ちゃん。残念だがこの店は今日は店じまいだぜ」

 

「うぅっ・・・」

 

酒場は荒らされていた。

グラスやテーブルは散乱していて。

ミリー姉さんは床に倒れていた。

何だアイツらは。何で笑ってんだよ。

 

「全く、お前もいい加減吐いたらどうなんだ?悪魔の実は、どこにある?」

 

「だ、だから、知りませ・・・」

 

「嘘をつくな!散々探し回ってやっとこの場所を探し当てたんだ!ここ以外あり得ねえ!」

 

そう言っで男は姉さんを蹴り飛ばした。

 

「がっ!あぁ・・・」

 

「くそ、こうなったのもあの商人がドジ踏みやがったせいだぜ。酒によってそのまま忘れたなんてよ・・・」

 

・・・・・・・・・・そうか。

 

そういう事だったのか。

 

だからあの時あんな所に・・・

 

「あ?お前さっきから何見てんだぁ?」

 

「ぶっ殺されたくなきゃさっさと帰れガキがよぉ!」

 

ミリー姉さん。

そんなになってまで俺との約束を・・・

 

俺なら大丈夫なのに。

こんなやつら簡単に捻られるのに。

 

「それとも何だ?俺たちの相手してくれるって事かぁ?」

 

「ハハハッ。そりゃあ名案だ。ちょうど溜まってた所だ。良いガス抜きになるぜ」

 

ありがとう。ミリー姉さん。

 

 

 

後は任せろ。

 

 

 

「ぐわアッ!」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

 

まずはうるさい2人の腕を握り潰す。

そいつらの腕は簡単にひしゃげて、嫌な方向に曲がった。

 

「ッ!」

 

あの男が振り返った。

 

「おい。ゴミ野郎ども」

 

そして全員が振り向く。

 

「お前らの探してる悪魔の実はここにあるぜ」

 

そして腕を変化させ、やつらに見せてやる。

 

「欲しけりゃ、俺を殺してみろ」

 

「ッッッッッッ!お前ら、やれぇ!!!」

 

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」

 

一斉にかかってくる。

だがすぐには動かない。

やつらがすぐ近くまで寄ってきたタイミングで『紅茸』の胞子を浴びせて脱出する。

 

「何だこりゃ?」

 

「ぐっ!がああああああああああ!」

 

「血が!血が吸われるぅぅぅぅぅ!」

 

血を吸われて萎んでいくアイツらを尻目に、他の船員に接近する。

最低限にしたから死にはしないはずだ。

 

「くっ、来るなぁぁぁぁぁぁ!」

 

撃ってきた銃の弾丸を目で見てから(・・・・・・)避けてやる。

 

「ひっ」

 

そのまま腹を蹴り飛ばして壁に叩きつける。

 

「が、あ、あ」

 

壁に亀裂を作りながら倒れる。

すぐさま振り向いて次の相手に。

 

「何だアイツ!化け物だ!」

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

次の相手に。

 

「くそがぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

次の相手に。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

次の相手に。

 

「助けてぇぇぇぇぇぇ!」

 

次の相手に。

 

「やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

次の相手に。

次の相手に。

次の相手に。

次の相手に。

次の相手に。

 

 

 

・・・ははっ。

 

なんだよ。こんなものか。(・・・・・・・)

あまり大した事ないな。(・・・・・・・・・・・)

 

「お前ぇ!動くなあ!」

「うあぁっ!」

 

ん?

 

「少しでも動けばコイツの首を切る!」

 

あの野郎ぉ。

ミリー姉さんを人質にしてやがる。

所詮は三流海賊だな。

 

「ケ、ケイトちゃん・・・」

 

ああ分かったぜ。怪我はさせたくない。

動かないでやるよ。

 

「ハハハッ。動くなぁ。動くなよぉ」

 

ミリー姉さんを片腕で掴みながらジリジリと近づいてくる。

 

「くたばれぇ!」

 

そして剣を振りかぶった。

 

その瞬間、俺は胞子に変化して(・・・・・・・・・)攻撃を避ける。

 

「えっ?」

 

間抜けな声をあげてるうちに背後に回り込んで脳天にかかと落とししてやった。

 

バキィ!

 

「ゴベス!」

 

気絶して倒れる前にミリー姉さんを救出した。

 

「大丈夫か?姉さん」

 

「う、うん・・・」

 

よし、そうか。

 

よかったー!もうあの時呆然としていた俺とは違うんだぜ!

まさに大勝利!!一件落着!!

 

「それよりも・・・」

 

うん?

 

「店が・・・」

 

店が?

 

あ、ホントだ。

壁中ヒビだらけだわ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

よし。

今度こそ弁償だな。



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7話 責任は負わなきゃいけないけど払いきれなかったらどうするべきなんだろうな?

最近忙しい・・・忙しい・・・

投稿遅れ許して・・・許して・・・


俺は姉さんを海賊達から助けた。

だがその余波で店の壁をヒビだらけにしてしまった。

だからアッシュからもの凄い剣幕でキレられたよ。

 

「知り合いの店をボコボコに壊すバカがどこにいるんだ!」

 

「待てアッシュ!アレはただ壊した訳じゃないんだ!俺は姉さんを救出するために頑張って戦ったんだよ!つまりわざとじゃない!名誉の負傷だ!」

 

「そういう問題かぁ!名誉の負傷とか言って誤魔化そうとするな!」

 

「落ち着いてアッシュ!店が壊れちゃったのは残念だけど、ケイトちゃんが助けてくれなかったらもっと悲惨な事になってたわ!」

 

姉さんの助け舟だ!ありがとう!

 

「そうだぞアッシュ!俺が助けたからこの程度で済んだんだ!もっと感謝しろ!」

 

「だったら少しは申し訳無さそうにしろ!」

 

アッシュはますます怒った。

 

「・・・まあミリーを助けてくれたのは感謝する。それにしても、本当に強かったんだな、お前」

 

「ええ。凄かったのよ。足で船員を次々に蹴飛ばして・・・」

 

へへっ。姉さんに褒められると嬉しいな。

 

というか、初めてじゃないか?人に対してガチの戦闘したのは。

今まではじいちゃんとの手合わせだけだったから実戦でも通じるか正直不安だった。

けどこの感じなら、割と通じるな。

うん、いける。これなら大抵の奴には負けない。

 

「でも、この壁、どうしましょう・・・」

 

「コイツに弁償させれば良いだろう」

 

やっぱり?そりゃそうよな。

あ、でも金がないわ。

 

「でも俺、弁償出来るだけの金持ってないぞ。今までは狩った動物の毛皮売ったりして飲み代稼いでたけど、これは流石に・・・」

 

「・・・そうか。なら、考えがある」

 

え、何?代わりに払ってくれるの?

 

「お前、俺の所で働け」

 

「・・・はい?」

 

今、何て?

 

「俺の下で働いて金を貯めるんだよ。その方がお前にとっても良いだろう。この街のために、その力を使うんだよ」

 

そういう事か。確かにそれが1番楽だろうな。

ただお前の下かぁ。ヤダなあ。

何か屈辱的なんだよ。

 

「確かにそうだかどさ・・・うーん・・・」

 

「どうするんだ?お前次第だ」

 

・・・・・・

 

「分かった。ちゃんと働いて返すよ」

 

俺はアッシュの元で働く事にした。

 

ちょっと悔しいけどコレが1番良いな。反省もかねてしっかりやるか。

 

帰ってじいちゃんにも報告した。

 

「お前という奴は、何故いつもそうなんだ・・・」

 

そして、呆れたようにそう言われた。

 

 

 


 

 

 

こうしてアッシュの店「ワイルドカード」で働くようになった。

どういう店なのか一言で言えば何でも屋だ。

街の人からの依頼を受けて様々な事をやる。シンプルで分かり易い所だ。

 

「ここでは俺がリーダーみたいなもんだ。態度には気を付けろよ」

 

いきなりこんな事言ってくるからちょっと腹が立ったね。

まあ、文句言った所でしょうがないけど。

 

俺は戦闘能力が高いから、護衛や海賊の撃退なんかをメインに仕事させてもらっている。

まさに適材適所ってやつだな。

 

泥棒とっ捕まえるのは鬼ごっこ感覚でこなせるし、家屋の解体も『嵐脚』で一発。

 

だから意外と楽にやれる。こりゃ良いや。弁償のお金払い終わってもここで働こうかな。

 

「この島の近くに海賊船が接近しているという連絡が見張り台の方からやってきた。俺たちにも来て欲しいらしい」

 

という連絡があった時は街中大騒ぎした。市長みたいな人が街の強そうな人たちを集めて色々対策を話し合ってた。よく見たらブライトもいる。

 

俺たちの役目は偵察だった。

港まで行って相手がどんな行動に出るか見てほしい、ていう感じだ。

 

「まあ見た感じまだ行動には移してないな。向こうも様子見なんだろ」

 

「お前、双眼鏡ないのに分かるのかよ」

 

アッシュから驚いたように言われた。

 

「山育ちだからな。目には自信ありだ。何ならお前も山に住んで見るか?楽しいぞ〜」

 

「遠慮する。お前と暮らすとか想像したくない」

 

「はーっ、冷たいなぁ。何がやなんだよ」

 

何て雑談してたら変化が見えた。皆は気づいてないみたいだが、そろそろ動き出しそうだった。

 

こうなったら有無を言わさず先手必勝だ。

 

「アッシュ。ちょっと行ってくる」

 

そう言って『月歩』で飛んでいく。

アイツらの近くまで行ったら上から『花火螺茸』をばら撒いた。

 

「なっ!なんだこりゃ!」

 

そのまま破裂して周り奴らを吹っ飛ばす。同時に毒胞子も散布してやる。

 

「うわああああ!」

 

「か、身体が動かない!」

 

そして撒いた毒胞子の一部が船に根付いてキノコを生やす。

そこからまた毒胞子を出す。

そしてキノコが生えるの無限ループだ。

これで船上は大混乱だ。

 

よし、そろそろ仕留めてやるか。

船の上に降りる。

 

スタッ

 

「だ、誰だアンタ!」

 

切りかかってくる相手を受け止め、適当に吹っ飛ばす。

 

銃弾は『鉄塊』で全ガードして『嵐脚』で一網打尽だ。

 

そうこうしてる内に毒胞子とキノコは拡大していく。

これぞ真のキノコ地獄よ!ははは!

 

「こ、このクソアマがぁっ!!」

 

お、ちょっと強そうなの来た。多分船長か?

 

「そんな情けねえツラして、ゴボッ!、とんでもねえ事しやがって!女は女らしく俺達に股開いていれば、ガッハッ!、いいんだァ!!」

 

あ、あのヤロウ。

俺の事バカにしやがった。

 

俺はどうやら相当美形らしく、皆可愛いだの憧れるだの言ってくる。

それは別に良いんだ。むしろチヤホヤされると機嫌が良い。

 

だが舐められるのだけはどうしても我慢ならん!!

俺は昔から舐められるのが大嫌いなんだよ!!

 

「言ったなこのヒゲ!俺の顔がリカちゃん人形みてぇだとぉ!」

 

『月歩』で飛び上がり、再び船の上に。

 

もう許さん。この船は沈める。

 

胞子を噴出して両手の上に巨大キノコを作り出す。

これぞ『大砲雷茸(おおほうらいたけ)』だ。

この技は言わば超巨大ミサイル。

大きな相手との戦闘を想定して作った技だ。

 

船に狙いを定めて、後ろから勢いよく胞子を噴出。

着弾して大爆発した。

 

ドカアァァァァァァァァァァァン!!!

 

「「「うわああああああああああ!!!」」」

 

船に大穴が空いて、奴らは沈んで行った。

 

良いザマだぜ。さっさと戻ろ。

 

「よっ。ざっと片付けてきたぞ」

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

皆ポカーンとしてる。

 

「すげえ・・・」「どうなってんだよ・・・」

 

あ、アッシュも近づいてきた。

 

「お前、そんな事まで・・・」

 

ああ、そうか。

まだ『月歩』見せてなかったっけ。

 

「山で修行すればアッシュや皆も出来るぜ」

 

「俺はともかく、皆アイツの元に行きたがらないさ」

 

アイツ?じいちゃんのことか?

なーんで皆じいちゃんの事避けるんだよ。

俺の事はすんなり受け入れてくれたのに。

 

「じゃあアッシュは行っても平気なのか?」

 

「そうだ。俺とジョンは何度か会ってる」

 

「マジ!?初耳なんだけど!!」

 

そうだったのか!じいちゃんもアッシュも言わないから気づかんかったわ。

 

なんで言わなかったんだよ2人ともさあ。皆俺に隠し事をしてる気がするぜ。

 

 


 

 

「・・・ていう話を聞いたんだけどさ、本当?」

 

「そうだ。偶にアイツとは話をする」

 

やっぱりー!

じいちゃんも知ってて黙ってたのかー!

 

夕飯の熊鍋を2人でつつきながら今日の事を話してみた。

脂が大分クセ強い感じだけど、俺は普通にイケる。美味い。

 

「あのさ、一応聴くけど、なんで黙ってたの?」

 

「・・・別に。お前に話すような内容じゃあないからだ」

 

ふーん。なら良いけど。

 

「あ、それより聞いてくれよ!今日はなんと海賊団丸々1つぶっ倒したぜ!」

 

そして今日の戦果を聞かせてやる。凄かったんだぜー?

じいちゃんも来れば良かったのに。せっかく孫の成長が見られる良い機会なのにさ。

 

いつもアッシュの所であった事とか話してるのに、一向に大した反応見せた事がない。というかじいちゃんの笑顔を殆ど見ない。

 

「そうかそうか。お前も成長したようじゃな」

 

あっ褒めてくれたわ。いつも変わらない仏頂面だけど。

 

「えへっ。もっと褒めてよ」

 

「ところでお前、大分人との闘いに慣れたようじゃな」

 

「おう、じいちゃんのおかげで連戦連勝よ!」

 

じいちゃんがいなかったら今頃死んでただろうしな。

感謝してるよ。肉美味しい。モゴモゴ

 

「なら、気を付けろ」

 

ん?

 

「今のお前の眼には、影が見える。油断。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼神が」

 

 

 

はえ?鬼神?

何言ってんのじいちゃん?

 

「お前は儂の教えを、良く学んでくれた。そして強くなった。この儂自身の想像さえ、遙かに超えるほど。お前のような奴は儂が現役だった時さえ、そう会わなかった」

 

普段余り多く喋らないじいちゃんが、つらつらと話し出した。

 

「だからこそ、お前には力に溺れてほしくない。この儂と同じ苦しみを、味わせたくない。何かのきっかけで、お前が修羅に落ちるのは見たくないんじゃ。」

 

色々と言ってくる。

じいちゃんもイケイケだった時代があったという事か。

 

・・・ちゃんと心配してくれてたんだな、俺の事。

 

「だから、忘れるな。どんな時であっても、優しさだけは捨てないでくれ。」

 

・・・うん。

 

 

 

なんか良くわかんね。

 

突然そんな事言われて正直ポカンだけど、良い事言ってくれたのはわかる。

 

「ありがとう、じいちゃん。心配するなよ。俺が優しさ捨てるなんてあり得ない。何せミリー姉さんと美味い酒があるからな!」

 

そうだよじいちゃん。俺はしっかりやるから大丈夫だ。

 

「・・・そうか。それが聞けて安心したわい」

 

じいちゃんは納得したような顔をして呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に、わすれてくれるなよ」ボソッ

 

「ん?何か言った?」

 

「・・・・・・何も」



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8話 予想しない事が起きると誰でも困る

お気に入り、評価数が200を超えました!
本当にありがとうございます!

中々思うように書けませんが、日々努力してまいります。
これからも評価、感想等よろしくお願いします。


何だかんだあったけど無事弁償代を払う事ができた。

最初はどうなるかと思ったけど、何事もなく払えて良かったな。

 

「という訳で、全額払い終わったぜ姉さん。これでやっと羽を伸ばせるよ」

 

「ええ、ありがとう。ちゃんとしてくれて嬉しいわ」

 

いやー、気分が良いな。もう弁償の事考えなくて済むんだし。

 

「おお、本当に壁の修理代払ったんだな!初めて聞いた時は絶対無理だと思ったぜ」

 

「うるさいなブライト。また腕相撲で負けたいのか?」

 

「何でいつも俺にだけ辛辣なんだよ!」

 

さーて、払い終えた事だし、これでアッシュの所に行かなくても良くなったな。

もうアイツに頭を下げなくて・・・

 

 

・・・・・・

 

 

 

いや、でも辞めなくても良いかもしれないな。

別に嫌だった訳じゃないし、給料も案外悪くなかったし。

 

それに・・・アッシュは俺の友達だしな。

何か知らないけどアッシュといると仕事の効率も良くなるし。

アイツさえ良かったらまだ、雇わせてくれないかな。

 

 

 

という訳で「ワイルドカード」に行ってきた。

 

「だから、これからも俺の事雇ってくれないか?」

 

そしたら驚いたような顔をされた。

 

「お前が・・・ガサツなお前が自分から働きたいだなんて・・・」

 

「何だよ。お前までバカにしやがって。良いだろ?」

 

「悪いとは言ってないが、ちょっと想像してなかったからな。うん。お前が正式にウチの社員か・・・」

 

「・・・何か嫌そうにしてないか?」

 

「別に嫌ではないんだ。嫌じゃないんだが・・・その・・・」

 

「お前、何か顔赤くね?」

 

「・・・っ!あーもう、分かった!分かったよ!そんなにココに居たいならそうしろ!」

 

「マジ!?やったー!ありがとな!」

 

ガシッ

 

「ちょっ!しがみつくなって!」

 

あははは!やっぱりコイツといると楽しいわ!

よーし!じゃあ今日こそアッシュと飲むぞぉ!

 

「じゃあさ、今日は『酔いどれ天使(ドラックエンジェル)』に来いよ。一緒に飲もうぜ」

 

「・・・分かった。久しぶりにお前と飲むのもアリだな」

 

よっしゃ!

それなら早く行こうぜ!

 

 

 

「ハッハッハッ!どうしたんだよアッシュぅ!もっと飲めヨォ!」

 

「いやお前が飲み過ぎなんだ。本当にそこだけは治らないな・・・」

 

「アハハ!本当にそうだなぁ!」

 

でも悪い。

これだけは直りそうにないわ。

 

「ふふ。今日もケイトちゃんは凄いわね」

 

「おお!相変わらず飲むなテメェは!」

 

姉さんとブライトもそう言ってくる。

 

「はは、何というかお前がこんなにこの街に馴染むなんてな」

 

「お?意外?」

 

「お前がジョンの拾った娘である事は、皆何となく知ってるんだよ。アイツはあまりこの街の奴らと馴染めていなかった。だから、意外だと思ってるんだ」

 

「うん。実は俺も知ってるんだ。大分前にじいちゃんから聞かされてたからな。」

 

「そうなのか?どうせ知らないと思ってたが」

 

「知ってるわバカ」

 

俺の事何だと思ってんだよ。

 

「まあでも、何となく気付いてるんだ。皆俺に、優しくしてくれてるんだよ。」

 

そうだ。これはアッシュとの仕事で人々と触れるうちに気付いた事だ。

 

「姉さんだけじゃない。八百屋のギーム、漁師のサイサイ、ここから隣の家のマニさん、ハゲのブライト。皆優しい人だ」

 

「やっぱり俺だけバカにしてるよな!?」

 

「皆がそうしてくれたから、俺も馴染めたんだ。今の俺がいるのは、ここにいる全員のおかげだよ」

 

ヤバイな。酒回ってるせいでドンドン本音が漏れる。

 

「でも1番感謝してるのは、アッシュだよ」

 

「お、俺か?」

 

「ああ。初めて会った時も喧嘩を止めに入ってくれたし、この酒場も教えてくれたし。それにお前がいると楽しさも増すしな」

 

アッシュがああやって俺に関わってくれたから、今の俺がいるんだ。

 

「アッシュ!色々世話焼いてくれて、ありがとう!」

 

「おおっ!?どうした急に!?」

 

ああ〜っっ!!自分でやってて恥ずかしい〜!

こういう青春臭いの慣れてないんだよ〜!

まあもうしょうがない!言っちゃおう!

 

 

 

「だからさ!これからもずっと俺の友達でいてくれよ!」

 

 

 

「なっ・・・!ち、ちょっと待て・・・!お前・・・!」

 

あ〜!アッシュも照れてるなあ!案外恥ずかしがりなんだなあコイツも!

 

「よーし姉さん!もう1杯追加で!」

 

「はーい!」

 

「今日は飲み比べだぞぉ!どっちか負けるまで逃さないからなぁ!」

 

「勝手に決めるなよ!ああもう、何で俺の気持ちも考えないんだ・・・」

 

ああ、楽しい。

この世界に来て色々あったけど、俺は今の自分に後悔していない。

 

俺はこの街の人達が、大好きだ。

 

 

 

 

 

 


 

 

んっ・・・

 

ふあああ・・・・・・

 

朝か・・・

 

・・・・・・・・・・

 

なんでじいちゃんの家にいるんだぁ・・・?

そうか・・・あの後アッシュが運んでくれたのか・・・

 

ははっ、また迷惑かけたな。

 

というか誰もいなくね?

じいちゃんもどこ行ったんだ?

とりあえず外に出るか。

 

あれ、外にもいない。

もう狩りに行ったのか?

まだ早い気がするんだけど・・・

 

 

 

ゾクッ

 

 

 

ッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!

 

何だ今の!?

今まで感じた事ないくらいの寒気が!?

 

マズい!!

これは絶対にヤバい奴だ!!

 

しかも街の方から伝わってくる!!

 

とにかくいかないと!

 

その場を猛スピードで駆け出し、森の中を抜ける。

心の中に、かつて無い焦燥を抱えながら。

 

まるでもうすぐ取り返しの付かない何かが起きるかのような。

 

漠然とした恐怖を感じながら。

 

木々を躱し、街のすぐ近くまで辿り着いた。

俺が見たのは、

 

 

 

 

 

 

火が立ち昇り、燃えている街だった。

 

 

 

 

 

 

は・・・・・・?

 

は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?

 

おい待てよ何でだよ何で街が燃えてるんだよおかしいだろ何でそうなるんだよ何でだよふざけるなよねえどうしてだよ!!!!!!!!!

 

ヤバい。家が燃えてる。

何が起こったんだ。どうしてこんな事に。

昨日は何とも無かった筈だろ?

何で今日いきなり?どうして?

 

ん?ちょっと待て。

 

誰か倒れてる。

とりあえず何があったか聞かないと!

 

「が、あぐっ・・・」

 

ヤベェ。ひどい怪我だ。

 

「おい!大丈夫か!何があったんだよ!」

 

「だ、だれか・・・いるのか・・・」

 

「おい!しっかりしろ!」

 

「しゅうげき、だ・・・」

 

「え?」

 

次の瞬間。

俺の背筋は完全に凍りついた。

 

 

 

「くろい、かいぞく、どもが・・・」



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9話 ゴミクズ

総合評価、300pt突破!

本当にありがとうございます!


黒い、海賊・・・?

それって完全に『黒ひげ海賊団』のことじゃないか!

何でこの島に来てるんだよ!

 

「は・・・はやく、にげろ・・・」

 

「おい、もう喋るな!傷が深まるぞ!」

 

「わた、し、は・・・」

 

何か言い終わる前に倒れた。

 

目の焦点は合ってないし、脈も無い。

 

 

 

死んだ。

 

 

 

嘘だろ?殺されたのか?

何もしてないコイツが?

あの海賊達に?

 

ちくしょお!

何でこんな事になってんだよぉ!

 

クソ。クソ。クソ。

こんな事していてもダメだ。

早く皆を助けないと!

 

急いで街の中に入る。

 

そこには地獄が広がっていた。

 

「うわああああああああああああああああ!!!」

 

「助けてえええええええええええええええ!!!」

 

絶叫して逃げまどう街の市民たち。

焼け落ちて崩れる家屋。

道に飛び散る血液。

そして。

 

「げはははは!もっと逃げろぉ!」

 

「金や食い物を掻っ払ったら火を付けろぉ!」

 

「はははっ!ここの家はよく燃えるなあ!」

 

俺たちの日常(幸せ)をぶっ壊しやがった黒ひげの仲間達(ゴミクズ野郎供)!!!!!!!!

 

「やめろォォォォォォォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

俺は叫びながら突っ込んでいく。

 

先ずは群がっている奴らからだ。

本気の『嵐脚』でまとめて消し飛ばす。

 

ズギャアアアアアア!!!

 

「「「うわああああああ!!!」」」

 

「うおお、何だコイツ!」

 

「この野郎!やるぞ!」

 

他の奴らも突っ込んでくる。

邪魔だ。消えろ!

 

「『紅茸』!!」

 

広範囲に胞子をばら撒き、雑魚たちの身体に血吸いキノコを生やす。

 

胞子を浴びた連中が干からびた所で次の相手に『指銃』を突き刺す。

 

ドスゥ

 

「グワアッ!!!」

 

次だ。

 

確実に倒すために足に刺す。

あるいは肩に。

あるいは腹に。

あるいは背中に。

 

ドシュウっ!

刺す!

ブスっ!

刺す!

ザシュッ!

刺す!!!

 

「お前ら、コイツだあ!先にこいつをやれぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

ダメだ!まだまだ数が多すぎる!

 

もっと手数を!

 

「うおおおおおお!!!」

 

『嵐脚』でなぎ払い、『猪断茸』を発射し切り裂いていく。

『指銃』で突き刺し、『紅茸』で血を搾り取る。

 

「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

とにかく敵を倒し続けた。

 

数が多いけど1人1人は弱い。

本当に『黒ひげ』の仲間なのかと思うくらいだ。

何はともあれ俺にとっては好機だ。

倒し続ればいつか片付く。

 

「ぎゃああああああああああ!!!」

 

「何なんだよこいつはぁ!?」

 

「こんなの話に聞いてないぞ!?」

 

ごちゃごちゃうるせえ!

 

「吹っ飛べ!『嵐脚』!」

 

ズドォォォォォォォ!!!

 

急げ!

手遅れになる前に!倒さないと!

倒して!倒して!倒して!

もっと速く!!

 

「くらええええええ!!!」

 

とどめに『大砲雷茸』を打ち込んだ。

大爆発を起こして、船員達が吹き飛んで行った。

 

ドガァァァァァァァァァ!!!

 

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

 

やった。やったぞ。

何とかコイツらを倒した。

こんなに短時間でこれほどの数と戦うのは初めてだ。

 

「待っててくれ、皆・・・はあ、すぐに、助ける・・・」

 

まだ逃げ遅れた人もいる。

火の手が回り切る前に助けなきゃな。

もう大丈夫だ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおいどうしたぁ?もうコイツらくたばってるじゃねえか!ウィッハハハハハァ!!!」

 

ぞ・・・?

 

「所詮は勝手に付いてきただけ(・・・・・・・・・・)の格下ですからね。期待する方がバカというものですよ」

 

「ゴフ・・・少しは使えると思っていたが・・・これも運命か・・・・・・ああ・・・」

 

マスクを被った大柄の男。

 

シルクハットにステッキのいかにも狡猾そうな男。

 

病弱な馬に跨がった同じく病弱な男。

 

名前はよく知らない。けど見たことある奴が何人かいる。

多分コイツらは『黒ひげ海賊団』の船員だ。

 

そして今聞いた話が本当なら今のコイツらは船員じゃない。

ただの使い捨てだ(・・・・・・・・)

 

「ん?何だアイツ?もしかしてお前がやったのか?」

 

マスク男がこっちを見てくる。

 

「ほお。中々強そうじゃねえか。ちょうど良い!建物ぶっ壊すのも飽きてきた所だ!俺と少し遊べよォ!」

 

そう言ってこっちに向かって突っ込んできた!

くっ!絶対強いぞコイツ!

とにかくやるしかねえ!相手が誰であろうが絶対に勝つ!!

 

「来るなら来やがれぇ!」

 

その時だった。

 

 

 

ドスッ

 

 

 

「がはっ・・・」

 

え?

 

何これ?

 

何で肩に穴が・・・

 

「波動ぉ!エルボー!!!」

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

「ぐああああああああああああああああ!」

 

俺は何も出来ないまま吹き飛ばされた。

 

ガラガラ・・・

 

「あっああああああああっ・・・」

 

痛い。

今までにないぐらい痛すぎる。

 

「ぐふっ・・・がっ・・・」

 

しかも身体に力が入らない。

 

どうなってるんだ。

 

「何だ何だ?もうお終いかよ。つまんねえな」

 

マスク男が呆れたように言う。

 

「おやおや。今の弾はオーガーのものですか。さすが、仕事の早い人です」

 

「どうやら・・・海楼石の弾のようだ・・・貴重な拾い物だったのだが・・・グフッ」

 

か・・・海楼石?

そうか・・・だから身体が・・・

 

「てことはコイツ能力者か!厄介な事されなくて良かったぜ!」

 

すると納得がいったように肯いた。

 

「この状態では・・・ロクに動けないだろう・・・我々は、先を急ごう・・・」

 

「ふむ。では行きましょうか」

 

3人が離れていく。

ダメだ。先に行かせてたまるか。

 

「がっ、あぐ・・・何で、動けないんだぁ・・・!」

 

だけど指1本動かせない。

今までならこの程度何とも無かったのに。

崖から落ちても大丈夫なのに。

 

何て情けないんだ、俺は。

 

「くそぉ・・・!動けぇぇ・・・!」

 

「・・・」

 

すると何を思ったのか病弱な男が戻ってくる。

何をする気なんだ。

 

「お前は・・・どっちだ・・・?」

 

そいつは銃を取り出し、袋から無造作に取り出した弾を込めて俺に向けてきた。

 

「や、やめろ・・・!」

 

このまま撃ち殺す気か!ちくしょお!

 

「・・・」

 

カチャ

 

動け・・・!早く動け・・・!

 

 

 

カチンッ

 

 

 

「え・・・?」

 

不発弾か(・・・・)・・・・・・はあ・・・」

 

男はそのまま銃をしまう。

 

「運が良いな・・・」

 

そう言ってそいつは、他の2人と行ってしまった。

 

 


 

 

あれからどれくらい経ったか。

 

俺は未だ動けずにいた。

 

「うう・・・」

 

皆を、助けるなんて言っておいて。

1人も助けられていない。

 

何がこれならいける、だ。

何にも行けてないじゃないか。

 

俺はクズだ。

自分の力を過信して、油断だらけで・・・

 

これじゃあじいちゃんやミリー姉さんにも会わせる顔が無い。

 

 

 

「じいちゃん・・・?ミリー・・・?」

 

 

 

そうだ!

2人はまだ、大丈夫なのか!?

 

アッシュは、どこに行ったんだ!?

 

まだダメだ!

諦めるには早い!

 

「うおお!!」

 

グチュウッ

 

「うぎぃ!?」

 

肩に喰い込んだ海楼石の弾を指で掴んで無理矢理引き摺り出す。

 

ズル・・・ブチ・・・

 

「ぐうううううううっ!!」

 

身体に力が入らないからすごくやり辛い。

 

ジクジク・・・

 

「いたいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

子供のような情けない悲鳴をあげる。

 

グチ・・グチ・・・

 

「うああああああああああああああ!」

 

ズリュウッ!

 

「ハア・・・ハア・・・」

 

涙を浮かべながらようやく取り出した。

 

よし・・・!動ける・・・!

 

「待っててくれ・・・!皆・・・!」

 

俺は走り出した。

 

 

 

街はもうほとんどが火の海だった。

 

道には人々の死体が倒れている。

 

まだ倒せていない三下海賊もいるようだった。

 

「ハアッ!ハアッ!」

 

俺は止まる事なく走り続ける。

 

あの酒場は。

 

ミリー姉さんは。

 

じいちゃんは。

 

アッシュは。

 

皆、大丈夫なのか。

 

「もうすぐ、あそこだ・・・!」

 

曲がり角を曲がって、あの酒場へ辿り着いた。

 

 

 

 

 

俺が、見たのは。

 

 

 

 

 

 

燃えながら崩れ落ちた『酔いどれ天使(ドラックエンジェル)』の店。

 

その下敷きになっている、女の人の腕(・・・・・)

 

そしてバラバラになったじいちゃんが(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

「ああ・・・ああああ・・・」

 

 

 

「うそだ・・・じいちゃん・・・ミリー・・・」 

 

 

 

いやだ。

 

いやだ。

 

みんな、おれのたいせつなひとなんだ。

 

だからやめてよ。つれていかないでよ。

 

みんなを、うばわないでよ。

 

 

 

「いやだ・・・いやだ・・・」

 

 

 

かみさま。おねがいします。

 

もうやめてください。

 

こんなひどいこと、しないでください。

 

おねがいします。

 

もうわるいことしません。

 

おさけもにどとのみません。

 

だから、かえしてください。

 

 

 

 

「やだ・・・」

 

 

 

ちがう。

 

かみさまのせいじゃない。

 

だから、きっとかえしてくれない。

 

だって、うばったのは。

 

もえたのは。

 

ころされたのは。

 

ぜんぶ。

 

 

 

「やだァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

 

 

おれ(・・)のせいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・あはっ

 

 

 

おれのなにかが、こわれた。



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10話 焦土と化して

日間ランキング67位にランクインしてました!

マジでランキングに入るとは思って無かったので、本当に驚いてます!

これからもよろしくお願いします!


「お前、うちのケイトと随分仲が良いらしいが、本当か?」

 

「ああ、気付けば長い付き合いになってたよ」

 

「ほう。それは良かった」

 

「・・・?」

 

「どうした?」

 

「いや、『流狼』のジョンでも笑うんだなってな」

 

「・・・ふん。余計な事まで調べおって」

 

「こんな性格でね。気になった事は知りたくなるんだ」

 

「そうか。・・・その事、アイツに言ったか?」

 

「いや、一言も」

 

「なら良い。」

 

「・・・・・・」

 

「・・・お前に頼みがある」

 

「何だ」

 

「・・・どうか最後まで、アイツの側にいてやってくれんか」

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

「はあ、はあ、はあ・・・」

 

「お前、無事か・・・」

 

「おいジョン!どうなってるんだ!ケイトを家に帰して家に帰ったらこのザマだ!どう言う事だよ!」

 

「海賊どもの襲撃じゃ・・・残念だが、お前の親は、もうダメだった・・・」

 

「ッ・・・・・・!う、嘘だろ・・・・・・?」

 

「お前しか助けられなかった・・・すまん・・・」

 

「い、いや、謝らなくて良い・・・お前は、悪くない・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・大丈夫だ。黙らなくても、平気だよ」

 

「・・・儂とケイトが住む家に行け。そこなら安全なはずじゃ」

 

「・・・待て。お前はどうするんだ」

 

「奴らを、地獄に送る。儂の最期の仕事じゃ」

 

「最期って、お前まさか!」

 

「奴らの中に、ただならぬ力を持った者がある。そいつを止めにゃならん」

 

「お前が死んだら、アイツはどうなる!?俺と同じ気分を味わせる気か!?そうしたら、きっとアイツは・・・!」

 

「あの日、お前ははぐらかしたが、儂には分かっとる」

 

「っ!」

 

「ケイトの事を、よろしく頼んだぞ」

 

「おい待て!ジョン!ジョーーン!」

 

 


 

 

あの後、俺は言う通りに家に向かった。

 

だが、アイツはいなかった。

 

恐らく街に降りたんだろう。皆を助けるために。

 

本当に優しい女だ。

 

見ず知らずの相手だっているだろうに、力を振り絞るなんて。

 

だけど、不安は消えなかった。

海賊達がどれくらいの強さかは知らないが、今回ばかりはアイツでもどうにか出来るか分からない。

 

特にあのジョンでさえ出張らなければならない相手だ。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

危険だとは分かっていた。

 

だけどこの足は、アイツの元へ行くために動いていた。

 

「ハアッ!ハアッ!」

 

来た道を全力で駆け下りる。

ただでさえ急な道は、戻る時にはさらにきつくなっていた。

途中で転がり落ちて、道から外れたりした。

そのせいで大分時間を食ってしまった。

 

それでも何とか、傷だらけになりながら戻ってきた。

 

「ケイトォー!」

 

アイツの名前を叫びながら燃える街を走る。

道は酷い有様だった。

海賊達の手により略奪され、殺されている住民たち。

この中にアイツがいたら・・・

考えただけで、恐ろしくなった。

 

「ケイトォー!いたら返事してくれーっ!」

 

しばらく走っていると、ある事に気がついた。

 

海賊の気配が、まるでない。

 

もう奪える物は奪ったと言う事だろうか。だがその先の光景がそれを否定する。

 

 

 

無惨に殺された海賊の死体が、散乱していたのだ。

 

 

 

首を引きちぎられて殺された者。

四肢をグシャグシャに折り畳まれて殺された者。

頭をトマトみたいに潰されて殺された者。

腹を裂かれて内臓という内臓を引き摺り出されて殺された者。

 

どう考えても異常なやり方だ。

ジョンは性格から考えても、こんな事をする奴じゃない。

 

「まさか・・・」

 

俺は1つの答えに思い至った。

考えたくない。

アイツに限って、まさか、そんな・・・

 

そしてその予想は、的中してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははははははははははははははははははははははは!!!」

 

 

 

そこにいたのは、全身を血に染め、狂笑するケイトだった。

 

アイツの両腕は漆黒に変わっていて(・・・・・・・・・)、周囲には禍々しいキノコが無数に生えている。

 

「・・・アレ?アッシュ?」

 

そして目には、初めてジョンに会った時と同じドス黒い影が宿っていた。

 

 


 

 

あれから何十日経っただろうか。

街の全ては、燃え尽きてしまった。

 

生き残りは、アッシュと()含めて殆どいない。

 

私達は今、2人で山奥のおじいちゃんの家にいる。

山奥にあったから唯一攻められなかった所だ。

 

ちなみに肩の怪我は、アッシュに治してもらった。

凄いよね、アッシュは。

 

無能な私と違って、何でも出来るから。

 

「ただいま。帰ったよ。アッシュ」

 

「ああ、お帰り。・・・メシ、作って置いたぞ」

 

「ありがと」

 

今日も私は、例の鍛錬(・・・・)を終わらせて帰ってきた。

 

私は正気を失ったとき、■■■についてきた海賊たちを惨たらしく皆殺しにした。

これはその時に発現した新しい力だ。

 

それは武装色の覇気。

 

纏った部位を硬質化し、自然系(ロギア)の能力者にも攻撃を当てられるようになる。

 

この力を十分に使えるように私はトレーニングしている。

いつか完全にモノにするまで。

 

これで。

 

これで■■■の奴らを・・・

 

「おい、ケイト。おい」

 

「あっ、ごめん。ボーっとしてた」

 

少し考え事し過ぎたみたいだ。

 

私はアッシュと向き合う形で席についた。

 

「「いただきます」」

 

今日は熊鍋だ。

この世界に来てからの私の好物で、よくおじいちゃんが作ってくれた。

 

「あむっ」

 

・・・美味しい。

おじいちゃんのよりちょっとしょっぱいけど。

 

「うまいか?ケイト」

 

「うん。美味しいよ」

 

「ああ、良かった。ちゃんと出来たか不安だったんだ」

 

「あはは。そんな事ないよ。」

 

そう言いながら何とか笑顔を作る。

あの日以来、上手く笑えなくなってしまった。

 

「なあ、お前本当に大丈夫なのか?目の隈が凄いぞ」

 

「大丈夫だよ。身体だけは丈夫なんだ、私」

 

「前にも同じ事言ってただろ。何というか、喋り方まで変わっちまったし・・・」

 

「ははは。初めて聞いた時はそりゃびっくりしたよね。でもごめん。この話し方じゃないと()()()()()()()()()

 

あの日何も守れなかった弱い()は壊れて消えた。

 

だから、()じゃないと上手く自分を抑えられる気がしない。

 

完全に、私は立ち直れなくなってしまう。

 

「・・・それなら良いけど、そんなに鍛えて何する気なんだ」

 

熊鍋を食べながらアッシュが質問してくる。

 

「・・・」

 

思わず沈黙する。

 

「おい、ケイト・・・」

 

言うべきなんだろうか。私の決断を。

でもついてきてくれる保障なんてない。

 

・・・いや、だからこそ言うべきだろう。

 

私は息を整えて、ハッキリと聞こえるように言った。

 

 

 

 

 

 

「・・・私、海賊になろうと思う」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・は?」

 

「私はアイツらが心の底から憎い。いつか絶対に復讐しようと思ってる。だから行くんだ。海に出て、アイツらを追いかけて、全員殺す」

 

これだけは絶対に果たさないといけない。

どんな手を使ってでも、必ず復讐を成す。

 

そうしなきゃ、きっと許されないから。

皆、許してくれない。

 

「・・・っ!ダメだ!!」

 

突然アッシュが立ち上がった。

 

「お前、自分が何言ってるか分かってるのか!海賊だぞ!この街をめちゃくちゃにしたアイツらと同じ所に落ちてまでやらなきゃいけない事なのか!それが本当に皆のためなのか!それに、そんなことしたら、お前の命が・・・」

 

「分かってるよ、それくらい。でも行かないと。私達から全てを奪った、あの海賊だけは許せない」

 

アッシュが認めてくれないのは、分かってた。

だから私も言うべきか悩んだんだ。

 

でも決めたんだ。例え誰からも理解されなかったとしても、やらなきゃならないって。

 

例え1人でも。

 

例え何かを失ってでも、

 

「俺はぁ!!!!!」

 

すると、アッシュが物凄く大きな声を上げた。

 

 

 

「俺はもう、これ以上お前が傷つくのを見たくない・・・・・」

 

 

 

その言葉を聞いてしばらく動けなかった。

 

「・・・・・・」

 

気がついたら、私は泣いていた。

 

「はあ・・・はあ・・・」

 

アッシュも私と同じように、泣いていた。

 

何で泣いたか上手く言えないけど。

 

まるで庭の朝露みたいな(しずく)が。

 

2人の心の穴を埋めるように流れ落ちていった。

 

「「・・・・・・」」

 

どうすれば良いか分からず、とりあえず言った。

 

「ご飯、食べよ・・・」

 

「ああ・・・」

 

アッシュは座り直る。

 

鍋はもう、冷めていた。



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