Justice Shield (田中おにぎり)
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Justice Shield 第一部
第0話 騎士に憧れた少年


ある冬の日。この日はいつにも増して雪が降っていた。
ハインスラシア王国のシュカ村に住んでいる村人達は、皆年を越すための準備をしていた。


「母さん、今日は寒いね。」

無邪気に少年が呟く。

「えぇ。外に行くなら気を付けるのよ!今日はご馳走にするんだから早く帰って来なさいね。」

少年は笑いながらうなずき、外に飛び出した。

 

いつも遊んでいた友達と集合し、近くの森に遊びに行った。

木々を抜けていつもの隠れ家へと足を運ぶと、とても大柄な男たちが3人、そこに座っていた。

少年たちはとっさに木の裏へ隠れ、会話を盗み聞きすることにした。

「全く、襲撃当日に待機場所を決めるなんて抜けてるよな、今の王様は。」

「でもよかったじゃないか、比較的バレにくい隠れ場所がこんな近くにあってよ。」

「あぁ…。」

少年たちは互いに目配せし、急いで村に戻る。

 

しかし事はそう上手く行かなかった。

逃げ遅れた一人がこけた時に大きな音が鳴った。

「誰だ!!!」

大柄な男につかまった少女は大きな声で

「逃げて!」

と叫んだ。

少年たちは走って村に逃げた。ただ一人を除いて。

ガクトという少年はただ一人だけその場に残り少女を守ろうと立ち向かう。

その抵抗はむなしく二人とも木に括られ、男たちは去っていった。

 

あれから何時間が経っただろうか。気が付くと眠っていた彼は目を覚ます。辺りはもう暗くなり、推測するに午後9時頃だろうと思っていた。

隣に括られていた少女は自分の縄を外し、彼の縄を外そうとしていた。

「大丈夫?私なんかを助けてくれてありがとう。」

声を震わせながら問いかける。

彼はただうなずいて、縄を外す。

10分ほどかけて縄を外し、急いで村の方へと走っていった。

 

そこで彼らは驚くべき光景を目の当たりにした。

 

目の前には真っ赤に燃え上がるシュカ村、彼らの故郷があった。

二人は何も言わずに自分の家の方へと走る。

家は燃え上がり、跡形も残っていない。もちろん母親の姿も。

ガクトは急いで少女のもとへ走る。

少女が泣きながら彼のところに向かう瞬間、鈍い音とともに、彼の目の前を鮮血が覆った。

目の前にいたのはルーヴェティア帝国の国王、ガルファだった。

まっすぐに伸びた剣は少女の体を串刺しにしており、鋭い目つきでこちらを睨む。

「まだ生きてるやつがいたか。」

ガルファはただ一言、そう言って少女から剣を抜き、血塗られた剣を振りかざす。

 

気が付くと目の前には王国の騎士団長、ルミナスが立っていた。

「遅れてしまって本当にすまない…。君だけでも、俺が助ける。」

そう言って国王と剣を交わし、戦いが始まった。

次第に戦いは進み、ルミナスの剣がガルファの体に刺さった。

「私が死んでも、必ず我が国が貴様らの国を滅ぼし我が物にする…。」

そう言い残しガルファは崩れ落ちる。

 

状況を理解し、故郷と親、友達のすべてを失ったガクトはただ、泣き叫んでいたのだった。




目を覚ますとそこは城下町の病院だった。
家族を失った彼の病室にただ一人座っていたのはルミナスだった。
「本当にすまない。俺は君のすべてを救えなかった…。」
そう言って彼に頭を下げる。
間を開けてガクトが呟いた。
「大丈夫だよ。今度は俺が守るから。」
ガクトがそう言うとルミナスは泣きながら彼を抱きしめる。
少年は心の中で村の人達へ向け
(さようなら、大好きなみんな。)
と、思いを伝えるのだった。


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第1話 認定試験

ガクトが騎士団長を志して騎士団に入り、数年が経った。
ルミナスにより稽古をつけてもらい、何度も特訓を繰り返していた。
そして騎士団長認定試験はあと一か月に迫っていたのだった。


「今日はもう十分だろ、そろそろ休もう。」

もうすぐ現役を降りる騎士団長、ルミナスが言った。

ガクトは近接戦練習をやめる気配も無く、ただ黙々と練習用の大盾を振る。

「しかしもう練習を始めて何年にもなるが、どうして剣じゃなく盾で戦うんだ?剣のほうが間合いを取りやすいだろ。」

確かに騎士団長なのに大盾を使うのはおかしい。ガクト自身もそれはわかっていた。

しかし彼には、盾でなくてはならない理由があった。

それは攻めるのではなく、守りたいから。

もう誰にも攻撃を通させない、そんな思いで盾を選んだ彼は、その理由を誰にも話さずただ、

「俺にはこれが向いてんだよ。」

とだけ言ってごまかす。

ルミナスは呆れて自分が経営するバーへと戻る。

また夜が明けた。

 

そして一か月後、ついに騎士団長認定試験の当日が来た。

会場はハインスラシア城にある大きな円形の庭だ。全部で30人を超える候補者が試験を受ける。この中で一人が騎士団長、あと一人が副団長に選ばれる。

「ガクト、やっぱお前も受けに来たか!」

と、笑いながら声をかけてきた青年はカルナ・ドラゴアイ。同期で一二を争う強さだ。

カルナは剣術に長けていて、素早い動きが得意だが、それでいて統率力もある。

今回の試験で一番のライバルはこいつしかいないと初めから思っていた。

「あぁ。そういうお前こそ。お互い頑張ろうな。」

ガクトはそう言って試験が始まるのを待った。

 

10分ほど経ち、試験が始まった。今回の試験内容は襲撃審査。敵国が攻めてきたときにどう対処するのかを審査する。

敵と戦う者、国民の安全を最優先する者、いろんな人物がいた。

そしてカルナの番。カルナは国民を避難させ、帝国の襲撃を迎え撃った。

騎士団の幹部たちからの評価は高かった。その場にいた全員がカルナが合格だろうと思っていた。

そしてガクトの番。

迎え撃つところまではカルナと同じだった。しかしその後にガクトが取った行動、それは敵国と戦った後、握手を交わしもう戦わないで済むように停戦協定を結ぼう、と言った。周りの候補者たちは笑ったが、ただ一人、カルナだけは拍手をした。

審査が終わりその日の夜、騎士団の寮の自室にカルナが来た。

「お前やっぱりすごいよ。俺はお前と仲間になることができてよかった。騎士団長にふさわしいのはお前しかいない。停戦協定、実現させような。」

そう言ってガクトに拳を突き出す。ガクトはそれに応じるように拳を突き出した。

 

翌日、結果発表の日。ルミナスが最後の仕事だと言って、読み上げる。

「新騎士団長をガクト、副騎士団長をカルナに任命する!ほかのものは変わらず任務に励め!以上だ。」

ルミナスがよくやったと言わんばかりに目配せしてくるが、ガクトは無視していた。

引継ぎが終わった後、ガクトとカルナでルミナスが経営するバーへ行くと、

「ここまでよく頑張った。これからはお前が民衆の盾となるんだぞ。」

と、ルミナスが呟く。

「そんなの、当たり前だ。」

ガクトがそう言うと、カルナとルミナスは大声で笑いあい、ガクトも少し微笑んだ。




数か月後、騎士団長になったガクトはすっかりカルナに仕事を押し付け、城下町を歩き回ってばかりいた。
「お前に期待した俺が間違いだった…。」
カルナは頭を抱えながらガクトを見つめるばかりだった。


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第2話 貧困の少女

ガクトが騎士団長になってから数か月後の夏。
城下町はいつものように活気にあふれていた。
そんな中、パトロールがてら散歩していたガクトはある少女を見つける。


輝くような金色の髪をして、大きな布で目隠しをしている少女。

巨体の不潔な男にひもで繋がれながら歩いていた。

「おいリザ、今日は何をして遊ぼうかぁ…。」

男は口を大きく広げにやつきながら少女の元へと顔を近づける。

「なんでも大丈夫です。お父様の好きなようにしてください。」

表情を一切変えずにそう答えたのが少し遠くてもわかる。

明らかにおかしい。遊ぶことに対してまるで父に従うようについていくなんて。

ガクトはそう感じ、後を追うことにした。

 

少女を見つけてから歩いて30分ほどにある荒れ地の岩の裏に隠れたガクトは助ける機会を伺っていた。

「てめぇは静かで面白くねえよなぁ!!ガキはもっと笑ってりゃいいんだよ!!」

そう言って巨体の男は金髪の少女に殴りかかる。

見過ごすわけにはいかない。ガクトは岩から飛び出し攻撃を防いだ。

「こんな女の子殴るなんて、父親失格じゃないのか?」

ガクトはそう言って男から少女を避け、左手を前に突き出す。

ガクトの左手の人差し指には赤い宝石のようなものが埋め込まれたリング。ハインスラシア王国の女王エイリーンから騎士団長就任記念でもらった召喚リングだ。

エイリーンから魔力を供給され、武器、乗り物などを召喚することができる。

「来い。正義の大盾…その力で少女を守るために!!」

ガクトの目の前に赤い魔法陣が現れる。そこから眩い光を放ちながら、大きな盾が現れた。

男は驚いた様子だったが、咄嗟に棍棒を構える。少女は気づかないうちにガクトの服の裾を握っていた。まるで怖くなさそうだったが、本当は辛かったんだろうと、ガクトは思った。

男が棍棒を振ろうとしたその時、ガクトが口を開く。

「おっと待った!先に言っておくが俺からは攻撃を一切しない。いくらあんたのように腐った奴でも女王様が愛する一国民だからな。俺はこの子を守りに来た、ただそれだけだ。」

そう言い放つと、ガクトは強張った表情から一変、笑顔で少女に笑いかける。

「うるせぇ!!お前なんか殺してやる!」

男は躊躇わず棍棒を振りかざす。大きな盾でそれを防ぎ、ガクトは少女に目線が行かないように徹している。

「俺がたった一人の父親だぞ!!お前なんかに何がわかる!」

男の猛攻は止まらない。しかしその全てを正確に守る。もう傷つけない。そう誓ったあの日のことを思って。

男が疲れ果て、ガクトに問いかけた。

「そんなガキ守ってどうすんだ…。俺からは逃げられないんだぞ…。どうやっても!!」

間髪入れずにガクトが答える。

「俺は全員守りたいんだよ。この子も、あんたも。だからこそこの子をあんたとは一緒に居させたくない。この子にもあんたにも、お互い得がないんだろ?」

男は沈黙し、少女を見つめる。

少女は目隠しを外さず、下を向いている。

そしてしばらくして、男はガクトに近づきただ一言。

「すいませんでした!!」

頭を下げる。ガクトはただ男に向けて、1枚の紙を差し出した。

「あんたのように力のある人は歓迎だぜ。ただしこの子とはもう縁を切ってくれ。お互いのためにな。」

ガクトが差し出した紙は王国騎士団の募集ポスターだった。男は泣いてガクトに抱きつき、去っていった。

ガクトは少女の頭を撫でる。

「よく頑張ったな。遅くなってごめん。」

そう声をかけると、少女はただ首を振って、

「ありがとう。」

そう呟いた。




事が終わり城下町へ戻った二人。ガクトは少女にいろいろ聞いていた。
「んで今更だけど名前は?それと行く宛とか、ないのか?」
少女はガクトと手をつなぎながら答える。
「名前はリザ。行く宛なんてない。初めから私は一人だから。」
まるで死んでしまった人のように冷たい生気がない返事。
それに気づいたガクトはこう答える。
「それならひとまず俺の家で暮らせばいいさ。またそれから詳しく話を聞かせてくれないか?」
リザはそれまでより少し嬉しそうにしながら、
「…うん!」
元気そうな顔を見たガクトは安心して家に戻った。


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第3話 父の行方

二人で仲良く手をつなぎ、城にある自室に戻るガクトとリザ。
気づけばすっかり夜になっていた。
しかしそう簡単に入れるはずもなく…。


「団長様!誰ですかその汚い少女は!!」

鎧に身を包んだ門番が焦りながら言った。

リザからは少し元気がなくなったように見えた。頭を抱えながら、ガクトはこう答える。

「この子は俺の義理の妹でな!実は少し前から引っ越してたんだが、い、家から追い出されちゃったらしくてよ~!」

まるで大根役者のごとく下手くそな演技をしてみたが門番の目つきはより鋭くなり、

「まさか誘拐ですか…!団長様がそんなことするなんて信じられません!!」

完全に誤解だ。まぁ半分間違ってはいないのだが、とてもガクトには言い訳が思いつかず、二人は困っていた。

するとそこに、カルナがやってくる。カルナはガクトに耳打ちして、

「何があった。その子は誰なんだ!」

と囁く。状況はあとで説明するからとりあえずこの子を俺の妹にしてくれとだけ頼み、カルナはため息をついて門番へと駆け寄る。

「あの子はガクトの血は繋がっていないが親族だぞ。しばらく預かることになったんだから仕方のないことだろう。女王様には俺から説明しておく、だから大丈夫だ。」

そう言うと門番は頭をさげ門を開ける。

カルナは二人を手引きして3人はガクトの部屋へと向かったのだった。

 

「さぁ、説明してもらおうか。その子は誰なんだ。」

カルナが落ち着いて問いかける。

ここまであった経緯を説明し、ひとまず納得してもらったが、ガクトとカルナに疑問が残る。

それはリザが口にした「初めから私は一人だから」という言葉が気になっていた。

ガクトからしてみれば、やむを得ない事情とはいえ、ただ一人の家族であった父親と引き離してしまったのだ。ガクトは反省してただ謝る。

しかし少女は驚きの言葉を口にした。

「気にしてないよ。だってあの人は4人目の父親だから。」

想像していなかった言葉に驚きを隠せない二人は一斉に聞く。

「どういうことなんだ、君の本当の家族は!!」

そう聞くと、少女は少し笑って昔の話をした。

 

今から10年ほど前、王国に起きたルーヴェティア帝国の襲撃。

そのとき被害を受けた城下町では何千人もの死者が出た。

リザは当時2歳。記憶もまばらでうっすらと覚えているが、リザの父親は惨劇を見せないために目隠しをして、こっそりと近くに居た夫婦に向け放れの民家へ逃げてくれ、この子を頼むと伝え、リザは見知らぬ家族とともに遥か遠くに地にある田舎町へと逃げた。

リザは義母から両親は死んだ。代わりに私たちが育てる、それだけ言われて育ってきた。リザという名前もその時に義母から付けられた名前だ。

しかしある日、リザが10歳になったころ。突如押し入ってきた盗賊によってリザの義理の両親が殺された。

こいつはまだ若い。そう言われてリザは盗賊に連れていかれ、奴隷として生活させられることになる。

やがて1年が経ち、盗賊のアジトは国によって破壊され、盗賊は解散した。

その中の一人がリザを連れていき、ガクトと出会うことになる。

 

「これが私の過去。私は本当の両親の名前も、顔も覚えていないの。」

悲しすぎる現実に二人は落胆していた。同時に怒りも沸いた。

「俺が必ず君の本当の家族を見つける。」

すぐに立ち上がりガクトはそう言った。

リザの目隠しが濡れる。リザは笑ってガクトに抱き着くのだった。

 

ガクトとカルナはリザを連れて、女王エイリーンがいる王室へと向かう。

エイリーンは目を見開き駆け寄った。

「まぁ!!なんて麗しい子なのかしら…。その子が噂で聞いた子なのね。いいわ、好きにお城を使ってください。」

優しく微笑んでリザを抱きながらそう言うと、リザは浴室へと連れていかれた。

 

翌日。ガクトはリザに自身の過去を打ち明ける。

「俺も同じくらいの年に父親がいなくなった。俺の場合は仕事で村から出て行ったんだけどな。」

ガクトの過去を知り、同じような境遇だとわかったリザはより一層安心して、

「私の弱い魔法でよかったら、支えるからね。」

ただそう言ってルミナスのバーへと走っていった。

後を追うようにガクトも走って向かっていった。




「はい、リザちゃんにはこのオレンジジュースな。」
メガネをかけ完全にバーテンダーとなった元騎士団長が、飲み物をふるまう。
今日も仕事をせずゆっくりと平和な時間を過ごす現騎士団長。
こんな日が続けばいいのにな、と思うばかりだった。


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第4話 女王の求める理想

平和な日が続き、いつものようにパトロールという名目で散歩をしていたガクトとリザ。
いつも通りルミナスのバーで過ごしていると、カルナが呼びに来た。


「ガクト、女王様から召集だ。なんでも俺とお前だけらしい。」

何か悪いことでもしたのかな、と思いながらリザを連れて城へ戻る一行。

王室へと入ると、そこには大きなテーブルと椅子が並べられ、エイリーンが座っていた。

「さ、どうぞ座って?」

エイリーンが声をかけ、3人が座ると、

「遅いぞお前たち!!エイリーンが呼んだんだからもっと早く来い!!」

と大きな声が椅子の裏からする。

その正体は黒猫に翼が生えた魔物であり、女王様のペットであるモアだ。

モアはエイリーンを護衛するために国に召喚された生物で、見かけに反して強大な魔力を持っている。炎を自在に操るので、怒らせると怖い。

「まぁまぁ。モア、少し落ち着きなさい。」

エイリーンがげんこつをモアに一発入れると、モアは気絶してその場に崩れ落ちた。

召喚獣を一撃で倒す女王のげんこつ、おそるべし。

「で、女王様。私たちが召集された理由は一体何なのでしょう。」

カルナが聞くと、エイリーンはあっと思い出しような表情で椅子に急いで腰掛ける。

するとこう語りだした。

「私は帝国との戦争を望みません。もちろんあちらから襲撃したらこちらも応戦しますが、こちらからは攻撃したくないのです。だからこそ、その理想と同じ思いを告げたガクト、あなたを騎士団長に任命したんですよ。」

ひとまず3人は胸をなでおろした。

しかしエイリーンが語ったことは確かだ。皆戦争を求めてなどいない。戦わない平和なときを過ごせることが一番だと思っている。

「そこで、停戦協定を結ぶことを目標として活動していく方針を固めたいのです。あなたたちなら、きっと納得させられますよね。なんとか騎士団の方々に話を付けてください。私はもう、誰も失いたくないですから…。」

エイリーンはそう語ると、席を立った。

一通り話が終わり、3人が王室を出ると、エイリーンは昔のことを思い出す。

 

国民全員が忘れられない10年前の帝国襲撃。もちろんエイリーンもそれは同じだ。

自分の最愛の夫と娘をその時に失ったからだ。しかしエイリーンはその時、帝国に人質として囚われており、夫と娘の死を確認したのは事件の数日後になった。

ルミナスにより帝国から救われたエイリーンはすぐに病室へと運ばれ、その後ルミナスは最後に襲われた村、シュカ村へと急いだのだった。

 

「あんな悲劇、もう繰り返してはいけない…。この世界に平和が訪れますように。」

いつものように、空に向けて祈りを捧げた。

 

エイリーンの理想を聞いた3人は騎士団を集め、指示を伝える。

騎士団の団員達は納得し、停戦協定を目指して団結した。




ガクトはリザと戦いの訓練をしていた。
リザはまだ幼い少女だが、モアにも匹敵する魔力を持っていて、立派な魔導師になりつつあった。
「私の魔法でも、人は救えるかな?」
リザはガクトに問いかける。
大声で笑った後、ガクトは
「そんなの当たり前だろ。」
そう言って頭を撫でた。

一方その頃…

「さぁ…襲撃の時間だ。」

帝国の魔の手が近づいていることに、誰も気が付くことはなかった。


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第5話 10年越しの襲撃

すっかり平和ボケしてたガクトだったが、リザとの訓練で徐々に感覚を取り戻していた。
カルナがいつものように呼びに来たが、いつもと様子が違った。
「ガクト!!急げ!帝国の襲撃だ!!」
ガクトとリザは急いで城下町へと走った。


この城下町だけで数百人はいるだろうか、帝国兵の大群が来ていた。そしてその前を歩く五人。ルーヴェティア帝国の国王とその側近四人だ。

まず、ルーヴェティア帝国の国王ヴォイス。電気を操ることができ、その力は単体でも召喚獣に匹敵するほどのもの。

そしてその側近、ダスト、フェイカー、リコン、レギウス。

全員腕利きの戦士で、一人で百人単位を相手にできることは間違いない。

「国王自ら出向いてやったんだ。戦争と行こうじゃないか…!そしてこの国を俺たちが頂く。」

ヴォイスが高らかに叫ぶ。それに続いて帝国軍がうぉー!!!と声を上げる。

「安心しろ、俺がこの国を守る。」

ガクトの目つきがこれまでとは変わった。

それに応じるように王国騎士団も身構える。

ヴォイスの合図で一斉に戦いが始まった。

 

「俺はそんな盾じゃ倒せないぜ!!」

体中に電気を纏ったヴォイスが電光石火のごとく近づく。速すぎる、訓練とは比べ物にならない強さだ。

それもヴォイスが戦いに出たのは今回が初めてだったため、王国はヴォイスの強さを想定していなかった。

「思ってたより強いな、お前…。」

焦りから思わず本音が出てしまったガクト。

即座に攻撃をやめ、大笑いするヴォイス。

「おいおいまじかよ…!!敵国の王様目の前にして思ってたより強いだって?笑っちゃうぜ!当たり前だろ、俺は強い。お前なんかよりも何倍もな。」

完全に嘲笑われたガクト。それはそうだ。相手の国をなめてました、と口で言ってしまったようなもの、馬鹿にされて当然。

「あぁ、そうみたいだな。でも俺はまだ限界じゃない。ついてこれるよな?」

相手のやる気を煽るかのようにガクトが聞く。

「へぇ…。言ってくれるじゃんか、気に入った。お前だけはこの俺様が思う存分叩きのめす!!」

ガクトは注意を引き付けるために、バイクを召喚し急いで王国を出る。

まんまと挑発に乗ったヴォイスは体に電気を纏い高速で後を追いかけた。

王国から少し離れた荒れ地にて、ガクトは盾を構える。

ヴォイスが電気を腕から飛ばし攻撃する。

間一髪盾で防いだが、電気が盾を通じ体に少し流れた。

そしてガクトは悟る。今の自分では勝てないと。

「ちっ…ここまでか。」

ガクトがそう言った瞬間、ヴォイスに風で出来た弾丸のような弾が飛んできた。

リザによる風魔法、エアーバレット。密かにリザが習得していた魔法だった。

「やっぱりこの国にも魔法使いが他にいたか。」

ヴォイスは即座に体勢を変え、リザの方へと走る。

危険だと思ったガクトは咄嗟にナイフを召喚し、ヴォイスの方へ二本投げた。

もちろんヴォイスが気づかないはずもなく、ナイフを掴み、

「まだやれるんだな、騎士団長。」

口を大きく開きながら笑い、ガクトの元へと走り出した。




一方王国で指揮を執り、エイリーンと共に幹部を相手するカルナ。
国の命運を懸けた戦いが今、始まる。


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第6話 嘘と幻術

王国の状況を把握し早々に退散した敵の幹部リコンとレギウス。
エイリーンが追いかけようとするもフェイカーによってそれを阻止された。
エイリーンVSフェイカーの対決が始まる。


「女王様が国を離れては危険じゃないですか。私がお相手いたしましょう。」

男の名はフェイカー。ルーヴェティア帝国の国王側近の一人であり、幹部。

その両手にはそれぞれ爆弾が握られている。

エイリーンは距離を取り、正面にバリアを展開した。

「おやおや、そんな小細工は無駄ですよ。この爆弾はどんなものでも破壊する。もちろん体もろとも破壊しますよ。」

顔をヘルメットで覆っているため、表情を読み取れないことが余計に気味が悪く恐怖を植え付けられる。

「私は負けません。この国のためにも負けられないのです。」

エイリーンの手から魔法陣が出現し、光の弾が放たれる。

フェイカーは体を半分に折り簡単に避けた。

「そんな攻撃通用しませんよ?さぁ早くどちらかの爆弾を握るのです、私と賭けをしましょう。」

さすがは帝国の中でも上級の戦士、心の操り方が上手い。相手を焦らせ、自分の思うがままにコントロールする。

まるでマジシャンかのようなそのテクニックにエイリーンはまんまと翻弄されてしまった。

「私がどちらかの爆弾を手に取ればいいんですか…。」

エイリーンがそう言うとフェイカーは顔を見ずとも笑みがこぼれているとわかるような声で、

「えぇ、そうです。さぁ、どちらを選びますか?」

と言った。エイリーンが右の爆弾を手に取ろうとすると、フェイカーは手をひっこめた。

歴戦の戦士である彼は気づいていた。エイリーンを完全にコントロールできていないことに。

「しぶとい方ですねぇ…。さすがは女王様です。」

あと少しで一気に魔法を注ぎ込めたがそう上手くはいかなかった。

同時に二人で後ろに下がる。フェイカーは魔法を使い5人に分身した。

エイリーンは同時に光弾を何度も弾く。

「くっ…。こんなに当てても全く効いていないなんて…。」

エイリーンが経験した中でもかなり上手の戦士だったことに驚いていると、

「感心している暇はありませんよ。」

そう、後ろに回りこまれていた。エイリーンとフェイカーの周りを大量の爆弾が取り囲んでいる。

ジリジリと音を鳴らしながら中心へと転がっていくと

ドカーン!!と大きな音がなり爆発した。

しかしエイリーンは無傷だった。辺りを見回すとフェイカーは居なくなっていた。

「今ので自爆したわけがない…。いったいどこへいったの?」

悩んでいても仕方ない。今は王国を守ることが最優先だ。エイリーンは帝国と応戦しながら急いで自分の城で巨大障壁を発動するために、城へと戻る。

 

二人の戦いの場から遠く離れた帝国への道で、フェイカーは傷を癒していた。

「いくら隠せたとしても、正直想定していた以上だ…、あの女王様、なかなかやりますね…。」

フェイカーは無傷を装っていたが、実はエイリーンからかなりのダメージを受けていた。持前の嘘で隠していたことにより、向こうには悟られていなかったが。

「これは戦い続けるのも相当大変だと思いますよ…、ヴォイス様。」

帝国への道中にある木陰で隠れながら、フェイカーはそう呟くのだった。




帝国兵と王国騎士団が戦っている中、状況は3つに分かれた。
ガクト&リザVSヴォイス、カルナVSダスト、城へと戻るエイリーンと護衛部隊。
果たしてそれぞれ決着をつけることはできるのか。
王国に障壁を張ることはできるのか…。


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第7話 槍使い

ガクトとリザがヴォイスと応戦し、エイリーンが単独でフェイカーと戦っている頃、同じようにカルナは敵国最後の幹部、ダストと戦っていた。


まるで力そのもの、という例えが当てはまるほどの強さを持つ槍使いダスト。

そしてカルナは鋭い目つきでこう言う。

「同郷のお前と、まさかこんな形で戦うことになるとは思わなかったよ。」

そう、カルナとダストは同じ村の生まれであり、かつての幼馴染であった。

 

―10年前―

ハインスラシア王国の端にある大きな街ディフォールで生まれた少年。彼の名はカルナ・ドラゴアイ。

「おーいカルナ!!稽古遅れるぞ~!」

カルナを呼ぶ彼の親友、彼はダスト・ロウウェル。幼いながらも槍の名手として称えられ、共に王国騎士団を目指していた。

いつものように二人が稽古に向かっている途中、悲劇は起こった。

突如街一面が炎に包まれた。そう、ルーヴェティア帝国の襲撃が始まったのである。

二人は急いで家へと引き返し、家族の元へ向かうが、手遅れだった。駆け付けた王国騎士団により二人は保護され、ハインスラシア城の城下町へと連れて行かれることになった。

しかしダストは悔しかった。自分に何もできずに家族が死んでしまったことがなによりも辛かった。

その日の夜、こっそりシェルターから抜け出したダストはたった一人、帝国へと走った。

しかしその道中には、ヘルメットをつけたピエロのような男が待ち構えていた。

「おやおやこんな時間に子供が一人とは、危ないですねぇ…。」

その細身の男は瞬時にダストへと近づく。

「うんうん…、良い目をしています。そんなに正義に満ち溢れた瞳、奪いたい。君からすべてを…。」

彼はフェイカー。一流の幻術士だ。ダストはまんまとマインドコントロールされてしまった。

 

そしてそれから数年、フェイカーはもうすでに立派な帝国の幹部となっていたダストの暗示を解いた。

「さぁ、選びなさい。帝国のために生きるか。王国へと戻るか。」

両方の思い出を持っていたダスト。彼が選んだ道は、帝国のために生きることだった。

 

そして現在…。

 

「どうして王国を捨てたんだ!」

カルナの問いかけを無視してダストは落ち着いて言った。

「俺はお前と戦いたかっただけだ。共に過ごしたお前に殺されるなら未練はない。」

まるで死ぬことにためらいがないように答えた。しかしカルナは涙を浮かべていたのだった。

「王国を守りたい…、そのためならどんな者でも切るつもりだった。でも俺は進んで死にたがるやつを殺したりしない。」

そう言って剣を構えた。ダストは少し笑ってから槍を構えた。

 

「行くぞ!!」

 

ダストの槍がカルナの顔の真横を通る。カルナは同じように剣を振るうが、こっちも空を切った。

お互いの心にまだ後悔がある。心を鬼にしてダストへと剣を突き刺すが、容易く槍を回転させ剣を弾いた。

「まだまだ甘いな。訓練が足りていないんじゃないか?」

そういってダストはカルナの肩に槍を突き刺す。

カルナは体勢を崩し、膝をついた。

「ぐっ…!!お前は本気なんだな…。クソ、俺だって!!」

真っ直ぐに伸びた剣が槍を真っ二つにした。

そしてそのまま防ぎきれなかった彼は体に傷が入る。

「お互いそろそろ限界だな…。俺はお前に勝つ、昔からそう決めてたんだ!!」

ダストは折れた槍の先を持ってカルナの元に突き刺すが、カルナは避けきれなかった。

そしてそのままカルナの鎧を貫通し、カルナの体に槍が刺さった…。




一方その頃、ガクトとリザは、ヴォイスと激しい戦いを繰り広げていた。
同じ頃、フェイカーは帝国へと帰っていた。
そしてエイリーンは…。


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第8話 帝国の目的

カルナがダストと戦い、エイリーンがフェイカーと戦い終えた頃、ガクトとリザはヴォイスに追い込まれていた。


「どうした!!そんなもんかよ、騎士団長さんよ!!」

電撃を纏った拳が盾を殴る。盾からは電気が流れ体にダメージがどんどん蓄積されていった。

リザは遠くから魔法で援護していた。しかし練習仕立ての魔法じゃ全く歯が立たなかった。

「リザ…。ここは危険だ、お前だけでも逃げてくれ。俺がなんとかするから。」

ガクトがそう言うと、リザは珍しく感情を表に出して大きな声で喋った。

「嫌だよ!!嫌だ…。父さんも…同じこと言っていなくなったんだ!!もう大切な人を失うのは辛いよ…。それに約束したでしょ!私が支えるって…!!」

はっと目が覚めた感覚がした。そうだ。俺は世界を平和に導くんだ。こんな所で折れちゃいけない。そう思った。

「よそ見してんじゃねぇぞ!!」

ヴォイスがガクトに殴りかかる。カーンッ!!と硬い音がなった。

「なんだ…急に盾が硬くなった、さっきまで殴りでもいけたのに!!」

すぐに声を遮り、ガクトが言った。

「この盾は思いに答えるんだよ、俺の強い信念がこの盾を硬くした。もう攻撃は通さない…。俺がお前を倒す!!」

これまでとは違う表情で強く睨みつけた。ヴォイスは急に頭を抱え地面に崩れ落ちた。まるでトラウマを見た子供のように。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。父さん!!俺じゃ無理だよ…。帝国をまとめるなんて俺じゃ無理だったんだよ…。」

これまでの威勢がなくなり、弱気になっていたヴォイスに過去の記憶が蘇る。

 

―15年前―

「父さん!!見てみて!今日はもっと強い電撃が出せるようになったんだ!」

ヴォイスは満面の笑みで父親に話しかける。

「すごいなヴォイス!父さんも誇らしいよ、お前みたいな優秀な息子がいてなぁ。」

そう答えるのは先代国王のガルファ。

ヴォイスはいつもなぜ父が王国を領土にしたいのか考えていた。

するとある日、ガルファがフェイカーと話している声が聞こえてきた…。

「ガルファ様。そろそろハインスラシアを制圧しませんか…?もう時間は残されてないですよ?」

時間が残されていない?何の話をしているんだろう、好奇心からヴォイスはそのまま話を聞いていた。

「私が死ぬことなどどうでもいい。問題はこの世界を破滅においやる存在のことだ。私の未来視に間違いなどない。急いで我が手中にハインスラシアを収め、武力で対抗せねばならん。しかしこのことは言うな。私の未来視を知っているのはお前だけなんだ。」

「しかしまだ話し合えばなんとかなるのではないのですか?王国と手を組んでその謎の第三勢力に対抗するのでは駄目なんですか?」

「本当のことを話しても変に警戒されるだけだ。この国はそもそもあまりいいイメージを持たれていないからな。私にもしものことがあれば、ヴォイスを頼むぞ。」

 

正直何を言っているのか全く分からなかった。しかしその数年後、王国騎士団長のルミナスによってガルファは本当に殺害された。

そこでヴォイスは必ず父の目的のためにハインスラシアを制圧しなければいけないと思っていた。

 

―現在―

ヴォイスは心の中で思う。こいつなら本当のことを明かしても聞いてくれるんじゃないかと。

冷静を取り戻し、口を開いた瞬間ヴォイスの体は弾きだされた。

 

エイリーンの巨大障壁が完成したのだった。




時を同じくしてカルナの方では。
ダストが同じように弾かれ、王国の外に出てしまった。
そしてそこに一人倒れるカルナの元へ王国騎士団の団員たちが駆け寄る。
「すぐに副団長様を病室へ運べ!!」

こうして王国と帝国の戦いは強制的に一時休戦した。


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第9話 休戦の時

エイリーンにより発動された巨大障壁によって、帝国は遮断された。
そして病室ではカルナの治療がされていたのだった。


まずは王国に死者がいないか確認する。今のところ報告は0。

騎士団が捜索に出ているが、皆10年前に経験したため、即座に避難していた。

「ガクトとカルナが避難誘導してくれたのね…。ありがとう二人とも、どうか無事でいて下さい。」

窓から見える城下町へ向けて祈りを捧げる。

 

戦いを終えてボロボロになったガクトとリザは、二人の部屋へ戻っていた。

どうして盾が硬くなったのか、本当はわからなかった。もちろんリザにも。

ただ、盾と同時にリザが光っていたのが見えた。なぜリザが光ったのか、二人ともわからなかった。

「いくら魔力があるとはいえどうして…。」

ガクトが悩んでいると、リザが口を開く。

「ヴォイスって人、最後ガクトに何か言おうとしてた気がするの。」

確かに突然冷静になってから、何かおかしかった。障壁に弾かれてもなお、しばらく障壁を破ろうとしていた。いくらガクトを倒したかったからといってもおかしな話だ。

するとコンコン、と部屋がノックされる。

「団長様、副団長様の容体が安定しました。」

カルナが倒れたことを知らなかったガクトはすぐにリザを連れて病室へと向かった。

 

病室のドアをおもいきり開けると、そこには横になっているカルナがいた。

「おい…、大丈夫かよ!!」

ガクトがそう声をかけると、めんどくさそうに、

「心配しすぎだ。俺はこんなことじゃ死なないよ。」

とだけ言った。ガクトは安堵の気持ちを抑えられず、カルナに泣きつく。リザはそれをみて少し笑っていた。

一時休戦したからと言って気を抜いてはいけない。それは国民の誰しもが思っていた。

しかし今はとても戦える状況じゃない。大事をとって休養を始めた。

 

そして2週間後、エイリーンはカルナとガクトを招集し、緊急作戦会議をした。

エイリーンの思いは障壁でしばらく守り続けること。もちろんそれはエイリーンの魔力を持続的に使い続けることだった。

近くで飛んでいるモアが口をはさむ。

「俺の魔力を足しても1か月が限界だ!早めの戦いが必要になる!!あまりにも危険だ!」

そんな言葉を遮るように、

「しないよりはマシです!!ガクトとカルナはどう思いますか!!」

正直こうなったときの女王様ほど面倒くさいものはないが、二人同時に心配だけどそうするのがいいという旨を伝えた。

会議の結果1か月障壁を張り続けることに決まった。

しかしエイリーンの魔力はもう尽き始めている。たった一人で10年以上も国を守っているのだから。

 

カルナはガクトの部屋へ行き、リザとガクトにダストとの過去、戦った時に話したことを伝えた。

「俺の過去、あの時話せなかったな。ごめん。」

リザは首を振ってカルナの頭を背伸びして撫でる。

カルナの目には自然と涙が零れていた。




そして翌日、ガクトはリザの体が盾と連動して光った理由を突き止めるため、カルナと共にリザを連れて、王室へと向かった。


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第10話 家族

ヴォイスとの戦闘時、ガクトの盾と同時に光輝いたリザ。
その原因を突き止めるため、ガクト、カルナ、リザは盾を作ったエイリーンに話を聞き行くのだった。


カルナはガクトとリザに状況を確認した。ヴォイスと戦っていた時の状況はこうだ。ヴォイスに追い詰められ、戦う意思が弱っていたガクト。自分の大切な人はもう失いたくないと言い放ったリザ。それに鼓舞され本気を取り戻したガクト。すると盾とリザが輝き、ヴォイスの攻撃を限界まで抑え込むことに成功したのだ。

これまでに盾が輝いたことなどなかった。ガクトはカルナにそう伝えると、お前の意思と連動するようになってたんじゃないか?と聞く、しかしガクトはリザが光った理由がわからないといった。しかしリザは盾に魔法を送ったわけではないと言う。話してもわからないことが多かったので、ひとまずエイリーンが来るのを待つことにした。

 

王室の扉が開き、エイリーンに盾のことを話した。

「今まで盾が輝いたことなんてなかったんです。いったいどうして盾とリザが輝いたんですか?」

ガクトがそう聞くと、エイリーンは目を見開きその場に倒れこむ。

3人が駆け寄ると、大丈夫よ。と言って起き上がった。

「まずは私の過去の話からするわね…。」

 

10年前、エイリーンは帝国によって人質にとなり監禁された。ルミナスが助けに駆け付けるも、もう遅かった。エイリーンの家族、夫と娘はすでに死んでいた。

それも、夫の遺体は見つかったのに対し、娘の遺体は見つからなかった。エイリーンは嘆き悲しみ、帝国への復讐を誓った。

しかし、戦いを望まない、停戦協定という新しい考え方を持った青年、ガクトが現れた。ガクトの言葉に胸を打たれ、同じ意思を持つようになった。

そしてエイリーンは自分の魔力を込めたリングと盾を彼に贈ったのだった。

エイリーンの大盾は魔力に反応するようになっている。魔力と使い手の意思に応じて盾は強くなるようになっている、エイリーンが近くにいること、ガクトの意思が硬くなること、明確な条件はそれだけ。

そうエイリーンが伝えたが、あの時エイリーンは近くに居なかった。そしてリザの体が光ったこと。

 

「私、魔力には自信がある。昔から魔法は扱えたの、たくさん。」

そうリザが言うと、エイリーンは驚きながら、リザに一つ頼み事をした。

「ねぇリザ。その目隠しを取ってくれないかしら。お父様からもらった大切な目隠しなのはわかるの。でもお願い。あなたの瞳を見せてくれないかしら…。」

リザは少し悩んでガクトを見つめる。

ガクトはじっとリザを見つめ返し、リザはうなずいた。

 

ついにリザが目隠しを外した。その瞳はエイリーンと同じ、綺麗な宝石のように輝く紫色だった。



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第11話 親子の絆

ついに目隠しを外したリザ。その瞳の色によって盾と体が反応したこと、強大な魔力を持っていたことがすべて線として繋がったのだった。


エイリーンは涙を浮かべながらその場に倒れる。

リザという少女。その顔は10年前、ルーヴェティア帝国襲撃によって死んだと思われていた自分の娘と瓜二つだ。

ガクトという青年。リザという少女。その巡り合わせが奇跡的に親子を繋ぎとめた。

「あなたは…。あなたは間違いない私の娘、アイシャール・フィアン。」

そう言うと、リザの脳裏に焼き付いていた父親に目隠しをされた瞬間が駆け巡る。

 

「愛してるぞ。アイシャール。」

 

それは紛れもない忘れていた父の声だった。母の顔、父の声、すべてを感じ取ったリザは泣いていた。

「やっと会えたね、お母さん…!」

エイリーンとリザは抱き合いながら再会を喜んだ。

ガクトとカルナはすべてを察したように王室を後にし、二人でルミナスの元へと向かった。

 

「リザ、よかったな。唯一の家族に会えてさ。」

ガクトはそう呟く。彼に残された唯一の家族は父親だけ。その父も行方不明だ。

するとカルナは仕事があるからと言って城へ戻った。

静かになった店内、今日はリザがいないから余計に寂しく感じる。

「ガクト、ちょっといいか。」

ルミナスが横に座って話しかけてくる。ガクトは無言でうなずき、話の内容を聞くことにした。

「俺の過去のことを話そうと思ってな。今から20年ほど前、俺には一人の息子と妻がいた。しかし騎士団長として任命された俺は、城で住み込みで働かなくちゃいけなくなったんだ。妻を説得したが聞き入れてもらえず、俺は泣く泣く息子と妻を置いて村を出ることになったんだ。そしてそれから10年後、俺は妻を救えなかった。そう、ルーヴェティア帝国の襲撃だ。ちょうど俺が住んでいたシュカ村は最後に狙われた場所だった、俺は帝国に囚われていたエイリーン様を助けるために最優先で動き、すぐにそこへ向かった。しかしもう手遅れだったんだ、俺がたどり着いた時にはもう…」

とそこまで言ったとき、ガクトは立ち上がった。

「ふざけるなよ…、どうしてもっと早く言ってくれなかった!!」

ルミナスは眼鏡を外し、深く頭を下げる。

少し涙を浮かべながら、彼は言った。

「俺は逃げてた。お前とここで築き上げた信頼、騎士団長としての憧れとまで言ってもらった俺が、お前を捨てて出て行った父親だと思われたくなかったんだ。でもリザがエイリーン様の娘だったと知ったとき、俺も告げるしかないと思ってしまった…。本当にすまない。」

また頭を下げる。ガクトはすぐに頭を上げさせた。

「俺だって憎んでるつもりだった…。でもさ、いざ目の前にすると嬉しさが勝っちゃうんだよ…。会いたかった、父さん。」

男同士で抱き合うのなんて変だけど、少し気持ちが晴れた気がした。




「私、まだガクトのところにいてもいいかな。」
母親のエイリーンと食事をしながら明るく問いかけた。
エイリーンは少し考えた後、優しい笑顔で答えた。
「えぇ!だってあなたはアイシャールではなくリザ、なんだからね。」
それから数日、リザはエイリーンの元で魔法を勉強し、親子水入らずの時間を共にしていた。
ガクトはなんだかんだいつもと変わらず、リザと一緒にルミナスのバーでだらだらと過ごしていた。


一方その頃帝国では…

「あ~あ、弱いねぇ。これが帝国の槍使い?」
そこには血まみれで死ぬダストの姿があったのだった。


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第12話 嘆きの雷鳴

「あ~あ、弱いねぇ。これが帝国の槍使い?」
謎の科学者のような男はそう言って腕からナイフを出し、ダストを殺した。
ルーヴェティア帝国に突如現れたこの男は一体何者なのか…。


足早にヴォイス、フェイカー、リコン、レギウスが駆け付ける。

しかし時はすでに遅かった。そこには血に染まった仲間の亡骸が転がっており、その隣には見慣れない白衣の男が立っている。

「ダスト!!」

ヴォイスは一目散にダストに向かって走るが、それを遮るように一人の男が帝国の門を開けて入ってきた。

奇抜な髪、見慣れない服を身に纏ったその男はただ白衣の男に向け、ご苦労。と言ったのだった。

仲間の死に直面し、激昂したヴォイスは二人の男に向けて殴りかかろうとする。

しかし白衣の男はあり得ないスピードでそれを阻止した。

「遅いなぁ…。そんなんじゃ僕には追い付けないよぉ…。ヒヒヒ。」

気味の悪い笑い方をしたのち、白衣の袖からナイフを出し、ヴォイスの首を切ろうとする、しかし咄嗟にそれを避けたヴォイスは思ったのだった、今の自分たちに勝ち目はない、と。

「さ、ロウフォン、全員殺せ。私たちの未来のために。」

奇抜な髪の男がそう言うと、ロウフォンと呼ばれた白衣の男は人知を超えたスピードでヴォイスたちの背後に回る。

そのままリコンの首の裏を切りつけ、気絶させる。

「ヴォイス様!!ここは私に任せてお逃げください!!!」

フェイカーはいつにも増して叫び、一気に分身する。

リコンを抱え、ヴォイスとレギウスは帝国の城の中へと入っていった。

 

ロウフォンという白衣の男と対峙するフェイカー。それをじっと見て背を向ける奇抜な髪の男。魔力を全集中させ、20人ほど分身を出す。

「おやおや、一気に形勢逆転ですかね?この状況なら本気を出せる。これ以上帝国から犠牲者は出させねぇぞ。」

これまでの冷静なフェイカーとは打って変わって、本気の幻術士として戦う決意を決めていた。

一瞬にして周囲を大量の爆弾が覆う。しかしロウフォンはなぜか攻撃してこない。まるで様子をうかがっているかのようだ。

すぐになにか裏があると察したフェイカーは一気に畳みかける。

「攻撃してこないならこっちから行くぞ。爆撃よ!龍となれ!!」

周りの爆弾が一気に爆発し、その爆風から龍が現れる。その炎に包まれた爆撃の龍はロウフォンを襲うようにして爆発した。

しかしロウフォンは避けようともしなかった。

まるで何かの作戦のように。その予想は的中してしまった。

奇抜な髪の男が指を鳴らすと、フェイカーは分身を出しており、目の前にはピンピンしているロウフォン。

「おやおや、一気に形勢逆転ですかね?この状況なら本気を出せる。これ以上帝国から犠牲者は出させねぇぞ。」

そう言った瞬間、記憶に一瞬だけ変な感覚を覚えた。

「私はこの光景を体験している…?まさか…そんなことがあるのか…!」

嫌な予感がしたフェイカーは、ある魔法を唱える。

「偽人転換(ダミースイッチ)…。」

そう唱えると、一瞬にして自分が作り出した分身と位置を入れ替えた。

危険を感じていたフェイカーは分身の一人をある方向へ走らせていた。

その行先は、ハインスラシア王国だった。




周りにいるフェイカーの分身を片っ端から消したロウフォン。
「お-い、状況はもうわかったのかぁい…?」
奇抜な髪の男はうなずき、ロウフォンへ向けて一言、
「あぁ。私の求める救世主はここにはいない。こんな弱い者たちはあとからいくらでも潰すことができる。アジトに戻って作戦を練ろう。」
その男とロウフォンは帝国を後にし、森を抜けてアジトへと戻っていった。


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第13話 知恵と勇気

リコンを抱え、帝国の城へと戻ったヴォイスとレギウス。
二人による緊急治療が始まった。


レギウスは自分の手に持っている宝石のようなものに魔力を込める。

その宝石はみるみる光はじめ、リコンの体に向かって飛んでいく。

心配そうにヴォイスが見ていると、

「大丈夫だ、傷は深くない。この程度ならあと20分もすれば元通りにできる。問題はあいつらをどうするかだ。」

レギウスは腕利きの魔導師であり、医師としても優秀だ。仲間の治療をしながら、二人は謎の二人の男の正体について考える。

ヴォイスは過去の出来事を思い出した。先代国王のガルファが口にしていた言葉、世界を破滅に追いやる存在のことを。

「俺の親父が言ってたんだ。何かはわからないけど、未来で世界を破滅においやる存在がなんとか…って。」

もちろんこの話は誰にもしたことがない。信じてもらえるわけないからだ。しかし心当たりはそれしかない。王国の領土を奪うことに反対していたにも関わらず、国王となったことで任務として王国との戦争をしていたヴォイスはレギウスに本音を打ち明ける。

「俺は本当は戦争なんて望んでいなかった…。今までその気持ちを殺してきた。でも、王国の騎士団長、ガクトだったか。あいつは襲撃の時、俺を倒そうとしたけどどこか迷いがあった、本当は俺と同じで、停戦協定を結ぼうとしているんじゃないかって思ったんだ。」

レギウスはため息をつき、笑った。すると腕を組みゆっくりと椅子に腰掛けた。

「武力の国、とまで言われたこの帝国でそんな思想を持つ奴が国王になるなんてな。でも、悪くない。王国が俺たちを信用してくれるかは別だけどな。」

当たり前だ。過去に襲撃し、一度襲撃をしてしまった帝国を簡単に信じるわけがない。もちろん警戒されている。それに謎の二人の男のことも何も解決していない、どうするか悩んでいると、リコンが目覚める。

「ごめんごめん…。助かったよ、ありがとうレギウス!」

明るくそう言うと、三人はほっとしたように目を合わせた。時間を稼いでくれているフェイカーのためにも王国と手を組む方法を考えなくてはいけない。

幸いにも帝国の頭脳担当のリコンとレギウスがこの場にいてよかった。そう思い作戦会議をしていると、フェイカーが王国の方へ走っているのが見えた。

「フェイカー…まさか俺と同じことを考えたのか!?」

ヴォイスは驚いてすぐに後を追おうとしたが、リコンとレギウスが止める。

今の状況で帝国の幹部が全員で王国へ行っても怪しまれるだけだ。ほかに信用してもらえる作戦を考えたほうがいいと話していると、リコンが呟く。

「僕の変身魔法で王国騎士団になって潜入するよ。」

あまりにも無謀だ。もし信じてもらえず正体がバレて殺されたら意味がない。

しかし悩んでいる猶予はない。リコンを送り出したヴォイスとレギウスはフェイカーとリコンの帰りを待つことにした。




急いでフェイカーを追いかけ、無事合流したリコン。
二人は停戦協定を持ち掛けるため、王国へと向かった。


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第14話 第三勢力

王国へと向かって走り始めたフェイカーとリコン。
その一方で、アジトへと帰った謎の二人は仲間たちと合流していた。


 

さぁ、ようやくこの世界を我々のために解き放つ時が来た。

そんな言葉が頭に響き続ける。

彼の言葉は不思議と心に届き、まるで心を操られたかのように従ってしまう。初めて会ったときは何をしていたか、自分がどこにいたか、それすら思い出せない。

今自分は何をしているんだろう…。

「おい、ロウフォン!目を覚ませ。」

奇抜な髪の男にそう言われ、はっと意識を戻した。

「我々は新世界を手に入れるんだ。そのために私たち以外の人間は必要ない。そう決めただろう、今は休んでなどいられないんだ。」

そう、彼らは自らの意思ですべてを統治する“新世界”を築こうとしていた。

とある村にある彼らのアジトには7人のメンバーがいる。

「リーダー。帝国には最後の一人、いたのでしょうか。」

くノ一のような姿をした女は、奇抜な髪の男に顔色一つ変えずに質問した。

奇抜な髪の男は俯きながら首を振った。するとすぐに、人と化け物のキメラのような少女が元気そうに声をかける。

「じゃあじゃあ!王国の第一候補って人できまりなの!?」

そう答えると、奇抜な髪の男はその少女へ向けて紫色に輝くクリスタルを見せながら、

「私の目で確認したわけじゃないため、少し不安だが、まぁあいつの言うことなら間違いはないだろう。」

そう言った。

こうして作戦会議が始まった。

彼らが立てた作戦は、まず帝国を崩壊させ、その後王国を制圧すること、それ以外の土地はすべて後回しでいいと言い切り、目に見える脅威を全滅させることに決めた。

「あそこの国王、ヴォイスとか言ったかぁ?あいつは本当は臆病者だ…!すぐにでも帝国を潰しに行こうぜぇ…僕もう我慢できないよ…ヒヒヒヒ。」

ロウフォンは興奮気味に殺意衝動で溢れたようにリーダーと呼ばれる奇抜な髪の男に向かって走りながら言った。

「いいだろう。では明日の昼、帝国へと向かうことにしよう。出遅れるなよ、ロウフォン。」

するとくノ一のような女はすぐに口を挟む。

「しかしリーダー、殺すのならあと何人か連れて行ってはどうでしょう。我々もしばらく待機では腕がなまります。」

奇抜な髪の男はしばらく悩んだ末、その場にいた二人を指さし、

「ではカズマ、アイザ。お前たちを連れて行く。」

カズマと呼ばれた目を閉じた侍のように刀を持った男はただ、

「御意。」

といい、アイザと呼ばれた二丁拳銃を持った現代風の服を着た女は、

「わかったわ。」

と二人ともすんなりと襲撃を受け入れた。

 

そして同時刻、帝国では。

 

帝国に残ったヴォイス、レギウスは王国へ向かった二人の帰りを待つが、再襲撃を予想し同じように作戦を立てていた。

「奴らはダストを一瞬で殺した。あの腕利きのダストを俺様達に気づかれずに殺したんだ。そうとう腕が立つぞ。」

ヴォイスは悩む、自分の力でこれ以上犠牲を出したくないが、まだまだ力が足りない。しかしヴォイスは過去にフェイカーに教えてもらった幻術の応用を思い出す。

「俺様の新しい力が完成すれば、少しは役に立てるかもしれない。」

レギウスはヴォイスへと目を向け、

「信じてるぜ、王様。」

と言い、夜通しで技の完成へ向け、訓練を始めた。



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第15話 覚醒の刻

一夜かけて特訓をしたヴォイス。
幻術を応用した電気との組み合わせ。少しだけ技が使えるようになった。
気づけば朝になっていた。
レギウスが王国の外を見ると、そこには4人の影が。


「現れたか…。謎の男!!」

ヴォイスが声を荒げ鋭い目つきで詰め寄る。

その場が凍り付いたように静かになった後、周りにいた三人は静かにヴォイスとレギウスを囲んだ。

「どうした?仲間が二人ほど足りないな。怖気づいて逃げ出したか。」

冷静に奇抜な髪の男がそう言うと、レギウスは間髪入れず

「ああ!そうだ。あいつらは俺たちを見捨てて逃げたんだ。俺たちだけでお前たちを止める。」

そんな風にハッタリをかます。

しかし4人に怯む様子など一切なく、ただ笑われた。

「拙者たちを簡単に倒せるなど…笑止千万。拙者の名はカズマ。ここで死んで頂こう。」

同時に謎の4人は全員名前を名乗り始めた。

「僕はロウフォン…イヒヒ。」

「私はアイザ。殺し屋よ。」

そして奇抜な髪の男が大きく手を広げ、

「私の名はメシア。この世界を新世界へと導く神だ。不要な人間はここで消す。」

威勢のよかったヴォイスでさえ気圧され、レギウスと背中を合わせる。

「行くぞ…。レギウス。」

「あぁ、王様。」

地面を蹴り出し高く飛んだヴォイス。彼の手には強力な電撃が走っていた。

そしてその電撃は次第に形を変えていく。

まるで槍のように。

「雷帝の槍!!!」

ヴォイスがそう叫ぶと体中に電気を纏い、手には電気で出来た槍を持っていた。

想定外のパワーアップにカズマ、ロウフォン、アイザは驚き少し引き下がる。

「もらった!!」

レギウスの手から宝石のような魔法石が投げられ、呪文を唱える。

「紅玉弾!!」

魔法石が赤色に輝き、次第に炎を帯びていく。

そして辺りは一瞬で燃え盛り、4人を包んでいく。

しかしメシアは焦りの表情すら見せなかった。

静かに目を閉じ、指を鳴らす。

気が付くと炎はすべて消えていた。

「い、一体どういうことだ…。」

レギウスは驚き、唖然としていた。

彼にゆっくりと近づく殺し屋の女。

アイザは腰のホルスターに刺さっていた二丁拳銃を取り出し、レギウスの頭に突きつける。

「レギウス!!」

ヴォイスは叫び、全力で近づこうとするが、ロウフォンとカズマに刃を突き立てられ、動けなかった。

「私たちを倒すのは二人で十分ですってぇ?甘く見ないで欲しいわね。私たちだってプライドくらいあるから。それじゃ、おやすみ。一流ジェム使いさん!」

鈍い音が響く。

その瞬間、ヴォイスの目の前では帝国幹部であり、一流の魔導師である彼の首が飛んでいた。

「うあああああああああああああぁぁぁああああ!!!!!!!」

二度目の仲間の死に直面した彼は激昂した。

彼の思いはもう仲間を失いたくない、ただその一心だけになり、体中を電気が覆いつくす。

もう誰にも止められないくらい。そう、まさに今の彼こそが【雷帝】そのものだった。

「俺は…。お前たちを絶対に潰す!!雷帝の鉤爪!!」

槍だった電気がみるみる大きな爪へと変化し、彼の怒りを目にわかるほど表している。

「かかってこいよ…。俺の仲間の分まで…俺が戦ってやる!!」

メシアはロウフォンを置いてアイザとカズマを連れてアジトへと戻った。

「僕の力があればぁ…君を殺すことなんて簡単だよぉ!!アッハハハハ!!」

ロウフォンの腰に刺さっていた大量の注射器をすべて自分に打ち込み、彼は巨大な怪物へと姿を変える。

「ウグォォォオオオオオオオオ!!」

理性を失ったその瞳は、どこか悲しそうだった。



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第16話 停戦協定

ヴォイスとレギウスがまだ交戦している頃。
王国へと向かった二人は、王国の巨大障壁に悩まされていた。


「僕たちの完璧な変装があってもこれじゃ王国に近づくことすらできませんよ!!」

まるで子供のように駄々をこねるリコンにフェイカーは優しく、

「まぁまぁ、変装なんてしては逆に怪しまれてしまいますよ。大人しくお話を聞いていただけるまで、この門の前で待つとしましょう。」

と言い、二人は時が来るのを待った。

 

二人が王国の前で王国の人間に気づかれるまで待ち始めてから1時間。ようやく王国兵がやってきた。

「お前たちは…!!帝国の幹部!!急いで団長様に報告しなくては!!!」

もちろん障壁の向こうから声が届くはずなどなく、王国兵は離れて行ってしまった。

「おやおや、やはり駄目ですねぇ…。」

「うーん、どうしたもんか…。」

今思いつく最善策を考えていると、目の前には見たことのある顔が現れた。

「久しぶりだな、帝国の幹部さん達。」

彼はガクト。王国の騎士団長だ。その横には副団長のカルナ。そして目隠しの少女リザ。

フェイカーとリコンは信じていた。この人たちなら理想を叶えてくれると。

「今までの非礼をお詫び申し上げます…。どうか…どうか我々の帝国を救ってください…!」

未だかつて誰も見たことがないほど深く頭を下げたフェイカーに驚愕した王国の三人。

「ガクト。騙されるな。こいつらは奇襲をかけるチャンスを伺っているだけだ。」

頭を下げているフェイカーとリコンを切り捨てるようにカルナがそう言うと、

「責任は俺が持つ。城の中に入って状況を説明してくれ。」

まるで信じきったようにガクトは警戒もせずに城へと案内する。

「おい!」

カルナがガクトの腕を掴もうとすると、リザはカルナの服を掴み、首を振った。

彼は深いため息をついた後、先に向かったガクト達へとついていき、城へと向かった。

 

王室の扉を開け、エイリーンとモアが二人を座らせると、会議が始まった。

「それで、あなた方は本気で停戦協定を結びたいと?」

「今更言っても仕方ないことなのはわかります…。でも、僕たちの帝国は、そうせざるを得なくなってしまった。」

リコンはこれまでに起きた出来事の説明を始めた。

「帝国の民はすべて滅ぼされました。そして幹部だったダストでさえも一瞬で殺されたんです。」

カルナの目つきが変わり、

「一体誰がそんなことを…!!」

と、静かに怒りながらリコンへ尋ねると、

「正直僕たちにもわかりません、でもあれは第三勢力です。今まで誰も見たことが無かった。謎の男たちでした。」

フェイカーは椅子から立ち上がり、体から水晶のようなものを出し、机に乗せる。

すると水晶には過去のフェイカーが映し出された。

「これは過去の私です。先代帝国国王のガルファ様は、誰にも言えない秘密の力、未来視を持っていました。そして予言していたのです。先の未来、必ず世界を破滅に追いやる存在が現れる、と。」

そして次第に停戦協定会議は、終息へと向かっていった。



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第17話 衝撃の同盟

停戦協定に向けて会議していたガクト達は、ある話へと進んでいった。


「同盟!?」

カルナとガクトは目を丸くして驚いた。

エイリーンはハインスラシア王国とルーヴェティア帝国で同盟を結びたいと言い出した。

確かにこの状況が本当なら協力せざるを得ない。しかし今まで敵として長年戦ってきた国と同盟を組むなんて決断がすぐにできるのは、さすが支持率の高い女王様と言えるだろう。

「申し訳ありません。あなた方の国民を救うことができなくて…。争いのない世界へと導くのが私の使命ですから、協力しましょう。フェイカーさん。リコンさん。」

帝国の二人は深く頭を下げお礼を言った。

すると、

「でも、そんな大事なこと、王様抜きで話していいのか?」

と、ガクトが聞く。

「えぇ、彼の総意ですから。むしろ一番こうしたかったのは彼だと思いますよ。ヴォイス様は元々戦いなど望んでおられませんから。」

リザは笑顔でガクトに微笑む。リザの推測通りだ。

襲撃の時、ガクトへヴォイスが向けた表情を見たリザは、彼の思いを感じていた。

「ガクト、お母様。今すぐここにヴォイス様を連れて来ないと…!」

そう言うとエイリーンとリザはすぐに転移魔法陣を準備し、詠唱を始める。

フェイカー、リコンを連れてガクトとカルナはその場を後にしたが、カルナがあることに気づいた。

「待てガクト、あいつはどこに行った?」

あいつと言われて思いつかなかったが、確かに話している途中からモアの姿がなかった。

フェイカーとリコンと協力し、二人はモアを探し始めた。

 

一方その頃、帝国では…

「グルルアアアアアアアアアアッ!!!」

まるで怪物のようになったロウフォンと応戦しているヴォイス。

「雷帝の槍じゃ大してダメージを与えられてないのか…!!クソ!こんなやつに負けてたまるかよ!!」

電気で出来た槍で体を刺すが全く効いている気配がない。なにより手数が圧倒的に足りず、相手の体に傷すらついていない。

「こうなったらヤケクソだ…。行くぞ!!雷帝の双刃!!」

電気を腕に纏い、それを二対の剣のような形に変えていく。

圧倒的な速度で体を切りつけるが全くと言っていいほど効いている気配はない。

「タス…ケテクレ…」

ヴォイスに向けて語り掛けてくる声が聞こえる、その声の主はロウフォンだった。

仲間を奪われた苦しみはあるが、救いを求める声を見過ごしたくはない、そう思ったヴォイスは体中のエネルギーをすべて電気に変える。

「悔しいけど助けてやる…死んでも知らねぇぞ…。」

ロウフォンは雄叫びを上げるがその場から動こうとはしない。

「受け入れるってことだな…!行くぞ!!雷神の覇気!!」

体中に纏っていた電気を全力で放出する。辺りのエネルギーをも吸収し、ロウフォンの体は黒焦げになった、同時にヴォイスは反動で地面に崩れ落ちる。

「はぁ…はぁ…やったか…?」

ロウフォンは死にかけながら口を開きこう伝える。

「僕たちは…間違っているんだ…新世界なんて…いらない…あいつを止めてくれないか…?王国には…裏切り者がいる…そして…紫のキューブには気を付けるんだ…。」

そう言うと、彼は静かに息を引き取った。

「どういうことだよ…お前たちはなんなんだよ…!どうしてこんなに人が死ななきゃいけないんだよ!!!」

ヴォイスは雨のなか叫び、ロウフォンの亡骸を地面に埋め、近くに生えていた花を添え、その場を後にした。




ヴォイスが王国へ歩いていると突然転移魔法で王国の王室へ転移した。
「ヴォイス様。ようこそハインスラシア王国へ。共に戦いましょう。第三勢力と。」
エイリーンの瞳を見たヴォイスは涙を流し頭を下げて、
「よろしくお願いします!」
と言ったのだった。


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第18話 女王の最期

ついに同盟を結ぶことを決めたハインスラシア王国とルーヴェティア帝国。
それぞれの国の国民をハインスラシア王国の安全な場所に避難させ、重役たちは次の第三勢力襲撃に備えて作戦会議をしていた。
一方その頃数日間モアを探しているリコンとフェイカーは…。


「おかしい…王国はもうすべて見たはず。どうしてどこにもいないんだろう…。」

王国の召喚獣であるモアには大切なときに居てほしいものだが、気まぐれなのか一向に姿を見せない。

エイリーンが二人を呼び出し、二人は王室へと向かった。

 

王室に着くと、もう会議は終わっていて解散しているところだった。

「すみません。何日も探させてしまって…。私なりに心当たりがあるところをお伝えし忘れていたのでそこだけでも伝えておこうと思って…。」

同盟国の女王に深々と頭を下げられ、二人は謙遜する。

「いえいえ。これくらいどうってことありませんよ。ねぇ、リコン?」

「は、はい!そんな頭なんて下げないでください!!」

エイリーンは謝った後、二人にモアが好きな場所を伝え始めた。

すると王室の中に巨大な赤色の魔法陣が浮かび上がる。

三人は驚いたが、フェイカーとリコンはすぐにエイリーンを守るように様子を伺う。

すると三人の目の前は一瞬で炎の海になった。

「この炎は…まさか!!」

エイリーンが口を開くと三人の背後に翼と尻尾が生えたまるで悪魔のような装いをした男が立っていた。

「そう、そのまさかだよ…。エイリーン。」

男はそう言った後、三人を背中から刺し魔法陣に立ち、そのまま消えていった。

「モア…どうして…。」

三人はその場に崩れ落ちた。

 

一方ガクト達は。

「作戦前には腹ごしらえだな!」

とすっかり元気になったヴォイスと共に、ガクト、カルナとリザは食事をしていた。

ガクト達はそこでヴォイスが受けた被害や、第三勢力の話を聞いた。

「なんて自分勝手なやつらなんだ…。みんなは俺が絶対に守る。約束だ。」

ガクトが鋭い眼差しで三人にそう言うと、無言で三人は頷いた。

「が、ガクト騎士団長!!」

兵士が走ってくる。

一体なんだと聞いてみると衝撃の言葉が返ってくる。

「女王様と…帝国の幹部様が…。」

兵士の言葉を遮るようにガクトとカルナ、ヴォイスは走って王室に向かう。

リザはその後を追いかけながら不安がよぎっていた。

 

王室に到着した四人は救命処置を施されている三人を発見する。

「王妃…!!一体誰が…誰がこんなことを!!」

声を荒げるガクトに手を添え、エイリーンが呟く。

「モアが…裏切りました…。」

これまで国に召喚されてから守り神のように守護していたモアが第三勢力の仲間だったことに驚きを隠せない。

「あいつの…ロウフォンの言っていた通りだ…。」

ヴォイスが聞いた王国の裏切り者はモアだった。

仲間や王妃、親友までも手を出されたカルナは激昂し、静かに言う。

「あいつらを、殺す…!!」

「同意見だ…。黙ってられるかよ…!こんなことされて!!」

「新世界なんて作らせねぇ…俺様が必ずぶっ潰す!!」

ガクト、カルナ、ヴォイスは第三勢力へと復讐心が燃えた。

 

それから数時間。リザはエイリーンの寝ているベッドへと呼び出された。

「お母様!!もう具合は大丈夫なの…?」

心配そうにリザはエイリーンの手を握る。

エイリーンは優しくリザの頭を撫で、抱きしめた。

「私は…もう長くありません…。だから、あなたに私の力の全てを…受け継いでほしいの。」

エイリーンの目を見て、リザは決意した。

 

王位を継ぐことを。



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第19話 受け継ぐ意思

「長くなると思うけど…あなたが国を守るの。お願いね。アイシャール。」

王族に伝わる魔法の受け継ぎが始まった。

国を守るための障壁。回復や攻撃の魔術。王国の歴史などすべてを数日間で覚えなくてはいけない。

「大丈夫。私、できるよ!!」

心配させまいとリザは明るく答える。

安心したエイリーンは魔術の仕組みや魔力の増強の仕方、魔力の供給など教え始める。

 

 

リコンとフェイカーの病室には毎日ヴォイスが通い、世話をしていた。

「ごめん…。何回も助けられちゃってさ…。」

俯きながら謝るリコンの肩に手をのせ、ヴォイスは励ます。

「大丈夫だ。必ずあいつらをぶっ倒してやるからな。守ってやれなくてすまん、リコン。」

帝国の仲間を二度失い、ヴォイスの怒りは限界に達していた。

第三勢力を許さない。そんな思いで毎日トレーニングを続けている。

すぐにでも倒したいとさえ思っているが、アジトがわからず攻撃をしかけられないでいた。

そんな三人のところにガクトとカルナがやってくる。

「大丈夫か…二人とも。ごめんな、守れなくて。」

頭を下げるガクトを見てフェイカーとリコンは笑う。

「似てるんだな、二人とも。」

少しだけ仲良くなった気がした。

 

しばらく話していると、外が騒がしくなり、窓の外を見る。

するとそこには赤紫の長髪で鎧を纏った騎士が馬に乗り門から入ってきた。

「魔法騎士ルリナ。王国の危機と聞いて戻って参りました。」

その女性はハインスラシア王国から数年前に旅立ち、他国で修業していたカルナの姉、ルリナだった。

 

ガクトとカルナは急いでルリナの元へ行き、顔を合わせる。

「姉さん!!」

カルナが嬉しそうに言うと、ルリナは馬から降りて、カルナを抱きしめる。

「大きくなったね。カルナ…。」

民衆の前で抱きしめられた副団長は恥ずかしがりながら離れる。

「現ハインスラシア王国騎士団長、ガクトです。お会いできて幸栄です、ルリナさん。」

お辞儀をして、丁寧に挨拶する。

「遅くなってしまってすまない、騎士団長。それと、団長なんだから敬語なんてやめてくれ、むしろ私が使うべきなのだがな…。」

そう言って握手をしてくれた。

ガクトとカルナはルリナを連れて、会議室にて現在の状況を説明した。

「なるほど…。それは悲惨だったな。本当に遅くなって申し訳ない。」

謝るルリナを元気づけながら今後の作戦について話し合った。

 

 

そして数日後の夜。エイリーンとリザは最後の継承に入っていた。

「よくここまで頑張ったわね…。ではこれで最後…。」

リザは見違えるように魔術が上達し、王国の王妃として相応しいレベルに達していた。

「最後は…何を覚えたらいいの?お母様。」

リザは問いかけるがしばらく沈黙が続く。エイリーンは涙を浮かべている。

最後に教える魔術が何かわかっていないが、そんなに大変なのかと覚悟していたリザだったが、悩んでいるとエイリーンが口を開く。

「私を…私の魂を…取り込んでほしいの…。」

リザは理解できなかった、なぜ国のために自分の母親の命を奪わなきゃいけないのか。それに魂を取り込むとはいったい何なのか。

「何…言ってるの?どういうこと?嫌だよ…お母さんがいなくなるなんて…絶対に嫌!」

もちろんすんなり受け入れるなんて無理だった。

「私だって嫌です…!愛するアイシャールと一緒に居られなくなるどころか…この世界も…もう見られなくなるなんて…。でも、もう…私には時間がないんです。どうか…私の力の全てを…受け取ってください。」

最後に二人は強く抱きしめあった。

「ずっと、ずっと一緒ですよ…。お父様も母さんも、あなたのそばに居ます…。アイシャール。」

涙で声が震えながら耳元でそう呟き、エイリーンの体から全ての魔力、生命の力がリザの体に流れていく。

しばらくして、エイリーンの体は冷たくなった。

リザはこれまでしていた目隠しの布を外し、王妃となった。



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第20話 新世界を求めて

時は少し遡り、ロウフォンが死んだ直後の話。
メシア、カズマ、アイザはアジトに戻り、傷を癒していた。


「なんなのあいつら…。想像の何倍も強いじゃない…!」

弱音を吐くアイザを見て強気に笑いながらキメラの少女が近づいてくる。

「なぁにぃ…??まさかびびってんの~!!ハハハ!!だっさー!」

「今煽りあう必要はない。次の計画を、いや、最後の計画を立てるぞ。」

メシアは全員を集め、作戦会議を始めた。

作戦決行は二週間後、アジトに残っている六人で襲撃をしかけ、メシアに王国にいる人間たちの魔力を吸収させ、世界を滅ぼして作り変える。

そしてメシアは自らの手にある切り札、紫色に輝くクリスタルのような結晶をみて不敵に笑う。

「向こうの騎士団長も新世界を支配するためには必要だ。連れて行くことになるだろうから、丁重にもてなすんだぞ…?」

メンバーは頷く。

するとアジトの扉をノックする音が聞こえた。音は5回。

「遅くなった。」

一言だけ扉ごしに聞こえ、メシアは笑いながら扉を開ける。

そこに立っていたのはモアだった。

「モア、随分と待たせてしまったようだな、すまない。」

「まぁいいってことよ、長いこと小さい姿だったから人型になるのも久々だけどな。俺は10年近く待ったんだ。期待していいんだよな?新世界ってのに。」

新世界計画は極秘に10年以上計画されていた。モアは元々メシアの使い魔で、王国の召喚獣になりすまして王国に潜入し、機会を伺っていた。

メンバーも整い、メシア達は作戦の準備に入った。

 

そして二週間後、第三勢力は王国へ襲撃に向かった。

 

 

エイリーンが亡くなってすっかり暗くなった王国に一通の手紙が届く。

 

本日、世界を終わらせに行く。

 

ただそう書いてあった。

ガクトはすぐに破り捨て怒りに震えながら指示を出す。

「…迎え撃つぞ、必ず終わらせる…。」

ガクト、リザ、カルナ、ヴォイス、ルリナ、フェイカー、リコンが前に立ち、兵士たちに号令をかける。

そこに一人、兵士ではないものが歩いてきた。

「俺もこの剣を振るわせてくれ。ガクト。」

元騎士団長のルミナスが鎧を着て戦場に戻ってきた。

「もちろんだ、親父。」

ハインスラシア、ルーヴェティア連合国は戦いの体制が整った。

そこに都合よく現れた。

 

「もう準備はできているみたいだな。ガクト。」

「お前がメシアか。殺してやるよ。」

「おっと、騎士団長様がそんなに怖いこと言っていいのかな?」

カルナが走って止めに来る。

「ガクト、挑発に乗るな。」

お互い自分の軍に戻る。

 

メシアが両手を広げ大声で叫ぶ。

「我々はグラム!!そして新世界の名でもある…。今からこの世界を滅ぼし、我々の思い通りの世界を作る。」

戦いの合図が始まった。

「だがしかしこちらは人数不利だ…。そこで一人、優秀な戦士をいただこうと思ってね…。」

その瞬間、メシアの手から紫色に輝く結晶がガクトの元へ投げられる。

「な、なんだ…!!」

「ガクト!!危ない!!」

誰かがガクトの体を突き飛ばしてクリスタルを体で受け止めた。

その瞬間、辺りは光に包まれた。



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第21話 堕ちた剣

ついにグラムとの決戦を迎えたガクトは、激昂してメシアを殺すと宣言した。
その時メシアの手から、紫色の光を放つ結晶が投げられた…。


「な、なんだ…!」

「ガクト!!危ない!!」

その瞬間、辺りは紫色のまばゆい光に包まれた。その場にいた全員がまぶしさに目を閉じ、数秒が経った。

ガクトの前に両手を広げて立っていたのは、副騎士団長のカルナだった。

「カルナ!!」

ガクトは急いでカルナの元へ駆け寄った。

周りにいた仲間たちも駆けつける。

するとカルナは目にも止まらぬ速さで剣を抜きガクトを切りつける。

「…うああっ!!」

激しく傷を負い弾かれた後、カルナの瞳は変わっていた。

「想定外ではあるが…ご苦労だったな、カルナ!」

そう言って笑いながらメシアがカルナの肩を叩く。

連合国が気を緩めた隙にメシアが仲間に向けて口を開いた。

「いいか、向こうの兵士達や市民は貴重なグラムの人材だ。殺すのは前に居るこいつらだけにしておけ。」

メシアが話し終わるとそこにいたグラムの一員アイザとカズマはすぐに兵士達や市民を気絶させに行った。

ルミナスとルリナは危険を察知し、その後を追う。

残されたヴォイス達は自然とグラムのメンバーと一体一状態だった。

ガクトは傷を負っているが立ち上がり、盾を召喚する。

目の前には当然のようにメシアがいた。

 

並行して、それぞれは散らばり、各々の戦いが始まっていた。

 

フェイカーとリコンの目の前にはアメーバに覆われた不思議な少女の前にいた。

「私達は国のためにも負けるわけにはいかないのです…いけますね?リコン。」

「うん…。もちろん!弱点は僕が見つける…!」

二人は顔を見合わせそう話したあと、相手の少女を見る。

「…お話は済みましたか。私はステラです、あなたたちを殺すために来ました。」

その顔には感情など一切なかった。まるで殺戮のために感情が抜き取られたかのように。

ステラは体を覆っていたアメーバを地面に広げると、巨大な円形のバリアのようになって二人を閉じ込める。

「…二体一なんですから。まぁ頑張ってくださいね。」

静かに一言呟くと両手を前に突き出し魔法陣を展開する。

「リコン!」

フェイカーの合図でリコンはすぐに動いた。

「わかってます!サーチ!」

目を閉じて手を突き出す。相手の状況を整理している。

サーチが終わってフェイカーにすぐ伝える。

「あれは光魔法です!光魔法の使い手は星魔法にも長けています、気を付けてください!」

リコンはステラの攻撃を分析してフェイカーに伝えた。

「…よそ見してると死にますよ。」

勢いよく魔法陣から光が放たれる。その光はリコンに直撃した。

「うわあああっ!!」

彼の軽い体は瞬時に吹き飛ばされ、アメーバの壁に激突し、地面に倒れこむ。

すぐに追い打ちの魔法を構えたが、負けじとフェイカーは分身した。

「私の幻術。とくとご覧あれ!!」

五人に分身した体から爆弾が投げられる。ステラは詠唱を中断せざるを得なかった。

すぐにその爆弾を避け、反撃を開始する。

リコンが起き上がると、壁になっていたアメーバから手が生え、アメーバに巻き込まれた。

「うわあ!!フェイカー!!」

リコンの声に反応してすぐに後ろを向く。

「リコン!待っていてください!今助けます!」

しかし甘かった。すぐにリコンを助け出し、安堵してステラの方を向くとそこに彼女はいなかった。

「いない…!?」

フェイカーは幻術を使われたのかと思ったが、気配は完全にない。

その時外から声がした。

「…なんかよそ見ばっかで飽きたので、さようなら。」

彼女が指を鳴らすとアメーバがどんどん縮んでいく。

二人は必至にもがくが、もちろん出ることはできなかった。

その圧倒的な力の差に絶望した時にはもう遅かった。

ステラはメシアの方へと戻っていく。



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第22話 それぞれの戦い

ルミナスとルリナは、後ろにいた兵士達や市民を狙いに行った二人を追っていた。


「ついて来れるか!ルリナ!」

「久しぶりですね…団長と一緒に戦うのは…!」

昔の出来事を思い出しながらも追いかけると、姿を見失ってしまった。

「しまった!衰えたな…。」

すると後ろからカズマが刀を振りかざした。

ルリナがすぐに剣を抜いてカバーする。

「団長、背中は任せてください!」

「頼もしいな…!だが待て。もう一人はどこに行った!!」

気が付くと周りには兵士達や市民の影はない。

思考させる間も与えずにカズマは切りかかる。

「貴様らなど。拙者一人で十分。」

一言呟くと、今まで閉じていた目を大きく開いた。

「いざ。勝負!!」

 

 

その頃アイザは。

「兵士と市民ってこんなにいるの~?私の麻酔足りるかしら…。」

逃げていた市民たちに容赦なく麻酔が仕込まれたグレネードを投げる。

その場に市民たちや一部の兵士はぐったりと倒れこんだ。

騎士団の兵士達は戦うために前に向かって走る。

しかしアイザの手に握られた二丁拳銃で次々に撃たれていく。

「一国の騎士団と言ってもこんなものか…まぁ団長に頼りっきりみたいだし仕方ないわねぇ…。」

その隙をついて背後から兵士が切りかかる。背中に大きく傷をつけた。

「いった!!ってちょっと!このニット高かったんだけど!!あーもう!20人くらいなら殺しても怒られないわよね!!」

思わぬところでアイザの逆鱗に触れ銃を乱射する。兵士たちは次々に倒れていく。

たった20分足らずで壊滅させてしまった。

「所詮はモブね…じゃあ麻酔投げて終わらせますか。」

残っていた麻酔グレネードを投げつけ、兵士や市民は気絶させられてしまった。

「メシア?任務終わったわ。じゃあカズマのところに戻るから、あとはあなたの効果範囲まで来てよね。」

メシアに連絡し、カズマの元へ戻った。

 

 

 

「キャハ!久しぶりに暴れられる~!!あなたがロウフォン殺したんだってね!すごいじゃん!」

キメラになっている少女がヴォイスの前に立ちふさがる。

「誰だお前。俺は今最大級に強いぜ?」

少女は大笑いしながら近づいてくる。

「アタシはコクウ…多分あなたの何倍も強い殺戮モンスターってとこね!じゃあ殺しちゃうわ!アッハハ!」

彼女の背中から生えた巨大な翼で羽ばたいて空へ飛んだ。

ヴォイスも雷帝の槍を生み出し、上空をめがけて投げ続ける。

するとコクウの背中から巨大な腕が二本伸び、ヴォイスを上空へ連れ去った。

「チッ!こうなったらやけくそだ!!」

腕に掴まれ上空へと連れ去られるヴォイスは体中に電撃を流し、電気を身に纏う。

「雷神の覇気!!」

体から大量の電気をコクウの腕を伝って一気に流し込んだ。

「ギャアアッ!」

あまりの衝撃のコクウは腕を離す。

ヴォイスはそのまま下に落下していく。

「まずい…!一か八かだ…!」

ヴォイスは再度体に大量の電気を流し、足に集中させた。

すると電磁浮遊のように彼の体は宙に浮いた。

「おいおいマジかよ…土壇場でもいけるもんだな!よし、雷帝の剣!!」

そのまま電気を使って二本の剣を作り出し、コクウの翼に向かって加速する。

スパン!と音をたててコクウの背中から翼は切り落とされた。

「ウワアアアアア!!」

コクウは真っ逆さまに地面に落ちた。

ヴォイスもそれをすぐに追いかけ高速で地面に戻る。

背中に生えた巨大な腕で受け身を取り、重症は免れていた。

「チッ!なかなかしぶといな!」

「う、うう…。」

彼女がかなり消耗していたのが分かり、ヴォイスはすぐに詰め寄る。

今度は背中の腕を切り落とそうとすると、蛇のような下半身の尻尾に弾かれる。

「クッ!」

ヴォイスはすぐに戻ろうとすると彼女は消えた。

「消えただと…!メシアがテレポートさせたのか!!クソがっ!」

彼は急いでガクトの元へと走った。



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最終話 新世界グラム

各々が戦いを繰り広げていた中、ガクトとリザは。


「モア…。お母様を!この世界を!返してもらいます!」

自分の母親を殺されたリザは復讐のためにもモアと戦う。

「悪いなアイシャール。俺はメシアに乗ったんだ!そのためにもこの世界には死んでもらわないと困る。」

お互い話合う気などもちろんなく、言いながらも魔法を詠唱し始めていた。

モアの炎魔法とリザの水魔法が激突する。

「ずるいよなぁ…王族ってのは。どんな魔法でも簡単に使えてよ!!」

モアは指で炎の線を描き、衝撃波のようにリザへ飛ばす。

すぐに魔法障壁で防ぎ、魔法攻撃をした。

華麗に彼女の魔法を躱し、すぐに火球を投げつける。

「やっぱり…強い…。」

「当たり前だ!俺はお前とは魔法の歴が違うんだよ!なんたって元ハインスラシア王国の守護召喚獣だからなぁ!!お前の無様な母親とは違うんだよ!」

リザを挑発し、続けて炎を浴びせる。

「それ以上、お母様を…侮辱しないで!!」

リザが魔法障壁の後ろに立ち、祈りを捧げる。

「お母様…力を貸して…。」

するとリザの体に光が集まり、背中からエイリーンの影が抱きしめるように光った。

「な、なんだこれは…!」

モアは驚き、後ずさりする。

「私の本気。見せます…!」

リザの手から巨大な魔法陣が現れる。そのままモアへ向けて光の柱を放つ。

「やべぇな…そろそろ時間だろうし一旦引くしかないか…!」

炎の壁を作ってメシアの元へ逃げた。

リザはすぐに後を追う。

 

 

ガクトはすぐに立ち上がって盾を召喚する。

「俺は…みんなを守らなきゃいけないんだ!」

目の前にはメシアとカルナが立ちはだかる。

メシアはカルナを前に出し、大きな声で叫んだ。

「俺は忙しくてな!リン!カルナ!相手をしてやれ。」

メシアがそう言った途端、くノ一のような恰好をした女が走ってくる。

カルナとリンを残してメシアは兵士達がいた方へと走る。

「待て!!」

ガクトがすぐに後を追おうとするとリンに足止めされた。

後ろ側にはカルナが剣を構えて立っている。

「なるほど…お前たちを倒さないと先には行けないってことか。カルナ、俺のせいで…。」

そんな心配も空しくカルナは剣を振る。

リンは手に持っていた苦無を地面に刺し、炸裂させる。

巨大な盾でそれを防ぎ、反撃を始めた。

しかしリンのスピードには追い付けず、盾の攻撃は空を切る。

「くそっ!速い…!」

そこに次いでカルナの猛攻が来る。

あまりの手数に防ぎきれない。しかしエイリーンとした国を守る約束を思い出し、自分を奮い立たせる。

「俺は守らなくちゃいけないんだ!絶対に!」

おもいきり盾を振りかざす。

「二度も同じことを言うな!!」

リンは盾を避けて苦無を投げる。

ガクトの肩に直撃したが、まったく効いている様子はない。

「そんな攻撃効かねぇよ…!」

はっとした顔で油断した隙をついてリンに盾が直撃する。

「うっ!!」

しかしダメージを受けたリンをカルナがすぐにカバーする。

「俺の仲間に手を出すな…。」

彼の目は妖しく紫色に光っていた。

「悪いな…俺のせいで、必ず元に戻す!」

カルナの剣を盾で防ぎ、盾を押し出してカルナを弾く。

そのまま倒れた二人に向かって盾を振り下ろした。

「こんなこと、ヒーローがすることじゃねぇけど…。今はメシアのところへ行かなきゃいけない!」

動けないリンとカルナに追い打ちをしかけ、気絶させてメシアが逃げた方向へ走った。

そこにヴォイスが走ってくる。

「ガクト!メシアのところに行くのか…!」

「あぁ。カルナを正気に戻すためにも、それに市民や仲間の兵士達も危ないだろうからまずはそれが先決だ。」

二人はすぐにメシアが走った方向へと向かった。

 

 

時は少し戻り、ルリナとルミナスは。

「こいつ…強いですよ、団長。」

二人はすでにかなり傷を負っていた。

「あぁ…。市民や兵士達は逃げられたのか、我々がこうしてる間に…。」

そんな期待を裏切るようにアイザが走ってくる。

「残念だけど手遅れね!詠唱はもう始まってるわ。」

麻酔によって気絶させられた兵士や市民の元にメシアが向かい、世界を作り変える魔法の詠唱が始まっていた。その効果範囲はハインスラシア王国とルーヴェティア帝国など余裕で覆える範囲。このままではメシアの望む新世界が誕生してしまう。

「そんな馬鹿な…。」

ルリナは絶望し、その場に崩れる。

「諦めるのはまだ早いぞ!」

長い間騎士団長を務めた男の激励が響いた。

再び剣を構えるが、どうしたらいいのかわからない。

「団長…。どうしたらいいんでしょう…。」

「こいつらは私が止める。だからこいつが来た方向へ急ぐんだ。そして息子と共に詠唱をやめさせるんだ!」

ルミナスは二人の攻撃を受けながらもそう伝える。

「でも!一人で二人相手なんて無茶じゃ…!」

すると彼の目つきが変わり、剣を地面に突き刺す。

その瞬間地面を伝って光が放たれた。

「はやく行け!私なら大丈夫だ。」

彼の目を見て頷きすぐにアイザが来た方向へと走る。

しかしすぐにカズマとアイザが止めに向かう。

でも二人は動けなかった。

「無駄だ。これは魔法結界。私が死ぬまでお前たちは動けん!」

アイザとカズマは二人がかりでルミナスと戦った。

 

 

そして倒れた大量の市民や兵士達の元にメシアが現れる。

「生まれ変わるんだ。この世界のことなど忘れて…。」

両手を空に掲げ詠唱を始めた。

そこに歩いてきたステラ、転移してきたコクウ、逃げてきたモアがやってくる。

「おい!まだかよ!!」

モアが焦って急かすと

「あと少しだ、彼らの記憶は書き換えられ世界は生まれ変わる…!!」

三人は世界が生まれ変わるのを待っていた。

そこにガクト達が合流し駆け付けた。

「やめろ!!」

走って盾を構え殴りかかるが三人に足止めされる。

ヴォイスとルリナとリザは足止めしてきた三人を止めようとするがその瞬間メシアが口を開く。

「時は満ちた…!新世界グラムの誕生だ!!」

メシアがそう言った瞬間周りは巨大な闇に包まれたのだった…。




咄嗟に転移魔法で近くに居たガクト、ヴォイス、ルリナを連れて魔法の範囲外である大陸の端へと逃げたリザが目を覚ますと、そこには小さな小屋があった。


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Justice Shield 第二部
第0話 目覚め


メシアによって作り変えられた新世界グラム。
そんな中支配が及んでいない端までワープしてきたリザは目の前に無人の小屋を見つける。


「お邪魔しまーす…。」

そこには誰も居なく、住んでいる形跡もなかった。

中にある机を見ると地図と計画図があった。

どうやらここはグラムのメンバーがもともとアジトに使っていた場所だった。

しかし世界は変わり、行く宛もないリザはここを拠点にすることに決めた。

するとすぐにルリナとヴォイスが目覚めてくる。

「どうなったんだ…この世界は。」

「変わってしまったみたい、新世界グラムに。」

ヴォイスは絶望した。

「弟は…カルナはどこに行ったのでしょう、陛下…。」

虚ろな目でリザに聞く。リザは目を閉じて魔法を唱える。

魔法で視た世界ではカルナが皇帝補佐になっていたのが見えた。

「残念ですけど…完全に敵の手に…。」

自分の弟を何もできずに失ったルリナは叫んだ。

「私が…私が団長もガクトもみんなを守れていたら…!!こんなことにはならなかった!」

「自分を責めるな…、俺だって国の仲間全てを失った。」

幹部や国民すべてを失ったヴォイスが慰める。

ガクトの傷が深かったのか、一向に目覚める気配がない。

「私、ガクトの治療を続ける。だからグラムを倒すために自分を鍛え上げよう?私達でみんなを取り戻すの。」

リザの提案に二人は乗り、新たな力を求めて修行を開始した。もちろんグラムに気づかれないように。

食料の調達は狩りをして。なんとか生活を続けながら、リザはガクトの治療に専念し、二人は修行をした。

 

そして一年が経った。

 

雪が終わったころの春の日、ガクトは目を覚ました。

「…っはっ!はぁ…はぁ…。俺は…どうなったんだ…!」

三人はすぐに集まってガクトを見る。

「よかった…!ガクト!!」

「ったくどんだけ寝てんだよ!」

「目覚めたか、ガクト。」

見慣れない天井。そこで自分が長いこと寝ていたことを悟る。

長いこと寝ていたのに健康な体を見て、リザのおかげとすぐにわかった。

「リザ、みんな、ありがとう。俺はどれだけ寝てた…?」

そしてここまでの経緯を説明した。

「すまない…俺が守れなかったばかりに…。こんなんじゃ騎士団長失格だな。」

落ち込んだガクトを抱きしめるリザ。

「んな弱気になってどうする!俺たちがミスったら俺たちが取り返さなきゃなんねぇんだ!国も、国民も、仲間も!」

ヴォイスの熱意に動かされすぐにここを出発することに決めた。

しかし、ガクトは魔力不足で武器召喚を行うことができなかった。

「そんな…俺はここまで弱ってるのか…!」

仕方なくヴォイスが調達してくれていた予備の市販の盾を持って四人は計画を立て始めた。

「まずどうやってグラムと戦う、正直今の俺達四人じゃ勝ち目ないぜ?」

当然だ。当たり前のように捻られたのにたった四人で勝てるわけがない。

するとルリナが口を開いた。

「私はしばらく騎士団を抜けて修行していたが、そのとき船で島に行ったんだ。この周辺の島は大きくてそれぞれが国規模になっている。そこならグラムの手も及んでないかもしれない…。」

そう、ハインスラシア王国とルーヴェティア帝国のある大陸の外周には三つの巨大な島、もとい国がある。

メシアの使った巨大魔法には効果範囲があった、現に自分たちが作り変えられていないように。つまり外周の島なら力になってくれるかもしれないと。

そして四人は船を探すために小屋を出発した。



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第1話 船を探せ

惑星グランマリアにあるかつてハインスラシア王国、ルーヴェティア帝国が統治していた巨大な大陸はメシアという男によってグラムという新世界に作り変えられた。
外周にある島国には変化が起きていなかったことを悟ったガクト一行は、大陸を取り戻すための協力を得るためにすべての島国へと向かう準備として、船を探していた…。


もう半日は歩いただろうか、今までとはまるで違う砂漠のような景色に驚く暇もなかった。

グラムに支配されてからは自然はごく一部に減り、魔力も吸い上げられていた。

このままではこの島から緑が消えるのも時間の問題だ、そんなことを考えていると久しぶりに人を見かけた。

男は一行に死に物狂いで近寄り話しかける。

「お前ら…!高そうな服着てんな!金寄越せ!!金!」

グラムが統治してから今まで以上に貧困層が増えていた。国を制圧し世界を作り変えたものの、メシアはすでに寿命の半分以上を失い、行動すらも難しくなっていた。

ヴォイスは無視して通り過ぎようとしたが、こうなった原因は民を、国を守れなかった自分にある。ガクトは自分を責めていた。手持ちの少ない金銭を彼に渡して何も言わずにその場を立ち去った。

「俺がもっと強ければ、みんなを守れていたらこんなことには…。」

意気消沈しているガクトに続き、その場の4人の空気はとても重かった。

そうして誰も口を開かず数分が経過した。リザは言いづらそうに重い口を開く。

「過ぎてしまったことは仕方ないよ…。でももう一度取り戻すために旅に出ようって決めたんじゃない。ここで躓いたら、もっとダメになっちゃうよ。」

ルリナとヴォイスはすぐに立ち直り足を進め始めた。しかしガクトはそれでも自分を責め続けていた。リザはガクトの元へと歩き、大きく息を吸った直後、勢いよくガクトの頬に平手打ちをした。

「これは現実だよ!?受け入れなきゃいけないの!私を救ってくれたのはあなただった…!だから今度は私以外のみんなも救ってあげて…お願いだから…。」

そうだ、自分はみんなのために盾を取ったんだ。血が滲んでも、灰になっても守り抜くって決めたじゃないか。こんなところで挫けるわけにはいかない。

「ありがとう、リザ。おかげで目が覚めた。俺はもう一度この世界を取り戻す。死んでいったみんなのためにも!」

3人は笑みを浮かべ、安堵した様子でガクトに歩み寄る。

「それはそうと船は!?早く探さないと!!」

忘れてた。結局その日は船を見つけられず野宿することになった。

 

今日の夕食は野生動物の肉や数少ないお金で買った材料で作るシチュー。素朴な味だったけど思い出の味になった。

ルリナ、ヴォイス、ガクトが交代で見張りをし休養を取ることにした。

そして夜は更けはじめ、ヴォイスとガクトは見張りを交代した。

「今日中に船を見つけないとな…。きっとあと少しで港だった場所に着くはずだしな。」

一人で計画を立てていると森の中に人影が見えた。すぐに察知したガクトは小さな盾を持ち身構える。

すると一瞬で目の前から影は姿を消した。辺りを見回していると後ろから声がした。

「その程度か、甘いな…。」

声がした途端、ガクトの横を巨大な剣が通り過ぎる。間一髪避けたがとても今の盾じゃ防げない。相手は黒い鎧に覆われていて、武装でも負けていることは目に見えてわかっていた。それでも3人を守るために立ち向かう。

なんとか壊れはしなかったが今の盾ではやはり何も攻撃が通っていなかった。

時間を稼ぐのも限界と思っていた時に、盾と大剣がぶつかり合う金属音で目を覚ましたルリナはすぐに戦闘態勢で加勢した。

「ガクト!大丈夫か!!」

ルリナは炎魔法を剣に変え、黒い鎧に切りかかる。黒い鎧の男はその場から動かずよけようとしなかった。切り裂くことはできなかったが、傷をつけることはできた。このまま時間を稼がれるのはまずいと思ったのか、黒い鎧の男は闇の魔法を地面に向けて放ち、その場から消えた。

一体今の男は誰だったのか。そんなことを考える暇もなくヴォイスに続きリザが起きてくる。4人はすぐに出発し、港を目指した。

 

しばらく歩いていると港についた。しかしここ1年で使われた形跡は全くなく、ボロボロになった港には船が一艘しか泊まっていなかった。それでも大きな船が残っていたのはまだ救いだった。

「誰もいませんけど…この船使わせていただいてもいいんでしょうか…。」

不安げにリザが呟くと、3人は返事もせず船に乗り込み、ゴーサインを出していた。苦笑いしつつも遅れて乗り込み、4人は最初の島へと出発するのだった。



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第2話 機械の国

船を調達し、本島を脱出したガクト一行は一番近くの島であるハイ島へと向かっていた。


別の島に唯一行ったことがあるルリナは自分で書き起こした地図を見ながら3人に提案した。

「最初に向かうのは…ハイ島だな。ここから一番近い。まぁ私は行ったことがないが…というより行けなかった、という感じだがな。」

ハイ島は別名「機械の国」。しばらく鎖国しており、軍事開発をし続けていることでルリナ以外の3人でもすぐにわかるほど有名な島だった。

軍事兵器や武器、あらゆる武力を所持していて、王国騎士団よりも格段に強い軍隊を組織している国。そんな国に力を貸してくださいと頼むなんてどれだけ愚かな行為かわからないものはいない。それでも4人は行くしかなかった。

 

しばらく船を漕いでいると島が見えてきた。巨大な灯台が常に光っており、密入国者を徹底的に監視していることが容易に想像できた。

「心なしか少しビビってきたな…。」

あのヴォイスですら怖気づいてしまう雰囲気を醸し出している。まるで監獄だ。

なんとか見つからないように島へ船をつけ、4人は上陸した。

恐る恐る島の中心街へ入ろうとすると、ボロボロのローブを着た男がリザの首を抑え3人の背後に回った。

「お前ら、密入国者だな。死にたくなかったら俺の言うことを聞け。」

リザを人質に取られ思うように動けない3人。その場から一歩も動けず静かに男の話を聞いた。その男のローブの下に見える体は機械でできており、軍事開発で生まれたサイボーグ戦士だとすぐにわかった。

「まずリザを離せ!話はそれからだ。」

声を大きくしてガクトが言うと男は笑いながら近寄ってくる。

「そんなに大きな声出したらすぐにバレるぞ。俺はお前らの身柄を国に引き渡してもいいんだ。お前らに選択肢はない、黙って俺についてこい。」

3人はリザのためにも男についていくことにした。

中心街に入り、男は自分の自宅のような場所へと4人を連れて行った。

ドアを開けた途端、大きな音で

「お帰りなさいゼオン!!今日は大丈夫でしたか!!」

という合成音声を発するロボットが出迎えてくれた。

ゼオンと呼ばれた男はローブを脱ぎ、リザの首から手を離した。

ため息とともにタバコを吸い始めると、男は口を開いた。

「手荒な真似して悪かったな。俺はゼオン。元はこの国の軍隊にいた。それでこの機械はお手伝いロボットの000(トリプルオー)だ。」

000はお辞儀をしながら「おーちゃんと呼んでよ!」と言って家事に戻っていった。

ガクト達は密入国を手助けした理由を聞いた。するとゼオンはあっさりと語り始める。

「俺はこの国の支配者であり総帥、ギアに妻を殺された。だから復讐するために人手が必要でな。お前ら見たところ強そうだったし、あいつらに先越される前に助けてやったんだよ。逆にお前らはどうして鎖国中のうちなんかに来たんだ?」

ガクト達はこれまでの経緯を話した。ゼオンの目的がわかり、総帥ギアの復讐を手伝う代わりにこの国の軍隊を貸すという提案をされた。

復讐に手を貸したくないという気持ちと、自分たちが今しているのも復讐だと思う気持ちが葛藤し、密入国を助けてくれたお礼に4人は彼の復讐に協力することにした。



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第3話 ゼオンの過去

ゼオンと共にハイ島の軍隊と戦い武力を手に入れる決意をした一行は、作戦決行前夜、彼の過去について聞くことになった。


「あれはもう10年以上前か…俺には恋人がいたんだ。お前らにも言ったが後の妻だな。」

ゼオンには妻がいた。しかしこの国の総帥『ギア』によって彼女は殺害された。その復讐のために戦っている。

「彼女は変わっててな、当時軍隊に所属していた俺に差し入れを持ってきたんだ。当然一度も話したことなんてなかったからな、俺は警戒して手はつけなかった。そしたらそれから毎日弁当作って持って来やがったんだ。」

 

--12年前--

「もう!せっかく毎日作ってるんだからそろそろ食べてください!!」

元気そうな女は警備中の俺に毎日差し入れを持ってくる。

「うるせぇなぁ!怪しすぎんだろ!なんで見ず知らずのやつからもらったもの食わなきゃいけないんだよ!」

俺は強く言い返すと女は泣き始めた、それも大声で。当然周りの人間からも見られる。ため息交じりに俺は弁当を受け取った。

「はぁ…わかったよ、食えばいいんだろ食えば。」

女は目を見開いた後、涙を拭きながら満面の笑みを浮かべる。

「私、過去にあなたに助けてもらったんですよ!覚えてないんですか?それから私あなたに一目惚れしたから…ずっと食べてもらおうと思って持ってきたんです!」

正直なところ覚えてはいない。助けた人間も殺した人間も顔を覚えてられないほど俺は物覚えが悪かった。しかしこの弁当は美味い。それだけは忘れないと思った俺はすぐに彼女の手を取る。

「美味い!!やるな!お前!!名前は?」

胃袋を掴まれた俺は彼女と何度か出掛け、その後付き合い、結婚した。

そして結婚して3年の時が過ぎた。

 

--1年前--

仕事を終え家に帰ると、そこには少し浮ついてる彼女の姿があった。

「どうした?大丈夫か?」

彼女に駆け寄ると、彼女は途端に大声で言った。

「子供ができたみたい!!あなた!」

人生で一番嬉しい瞬間だった。すぐに名前を考えたり色々なことを考えてしまう。

しかしそんな時間は一瞬にして過ぎ去った。

二人で喜んでいると家に俺の部下がやって来た。

「ゼオン分隊長!敵襲です!!すぐに出動をお願いします!」

心配そうにする彼女に微笑み、俺は家を出た。

敵襲の正体は軍隊の反乱者だった。すでに十数名は死亡し重傷者も多数出ていた。

「何をしている!お前ら!!」

俺は一人で立ち向かう。半数は壊滅させたが、とても勝てる人数ではなかった。

大きな爆発音が耳に響く。

 

目が覚めると病室だった。体がおかしい。すると扉を開けて総帥が入ってくる。

「おはよう。わが親愛なる部下よ。勇敢な君はわが軍の強化戦士に選ばれたのだ。コードネームウルフ、それが今日から君の名だ。」

そう言われ体を見ると、自分の体がサイボーグになっていた。動けるようになった俺はすぐに家に戻った。しかしそこに彼女の姿はない。

どこだと焦って基地に戻ると、同じ強化戦士のフォックス、ライノ、オウルの三人がいた。

「お前ら!俺の妻は…あいつはどこに行ったんだ!それに俺はどれくらいの時間ここにいた!!」

三人が口を開こうとすると、基地の指令室から総帥が降りてくる。

「私が殺した。君のこれからの活動の邪魔になると思ったからな!」

動揺と怒りが抑えられなかった。それからの記憶は曖昧だが、気が付いた時には自宅にいた。家のお手伝いロボットによるとボロボロになり廃棄されそうな自分を隙を見て助けに行ったらしい。

俺はその日から総帥への復讐を誓った。こんな体にされた、妻と子供を殺された恨みを倍にして返すと。

 

--現在--

「ま、俺が復讐するに至った経緯はこんなところだ。せっかくだからお前らの旅の話も聞かせてくれよ。」

彼の話を聞いたガクトはすぐに口を開き、自分たちのしてきた旅を語った。

 

そんな話をしていると夜は更け、作戦を決行する時が来た。

五人は家を出て基地へと向かう。



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第4話 理想の世界

ゼオンの家を出て基地へと向かった五人。総帥ギアとの戦いが幕を開ける。


「これも俺達が国を取り戻すためだ…。悪く思わないでくれ。」

ガクトが呟くとリザが手を握る。

「大丈夫。きっとうまくいくよ。」

「おいお前ら!行くぞ!」

前を行くゼオンについて行くと、すぐに軍隊がやって来る。

軍隊の全員はゼオンに目を向け睨む。

「裏切り者だ!始末しろ!」

大量に迫ってくる軍隊を次々と背中合わせにした五人は捌いていく。

次々とやって来る兵士達を倒していると奥から三人の男が歩いてくる。

「よぉ!久しぶりだなウルフ!」

「元気そうで何よりだ。」

「んじゃ、殺してもいいよな!」

無造作な金髪の男、フードを被った目に傷のある男、大柄で鎧を身に纏う角のある男。

「フォックス、オウル、ライノ…。やっぱり来ると思ったぜ。」

ゼオンは深呼吸をし鉤爪を構える。

「いくぞ!!」

目にもとまらぬ速さで三人と戦う彼を横目に、ガクト達は次々に来る軍隊と戦っていた。

するとフォックスが巨大な大砲を取り出す。

「これでも食らっときな!!」

大きなミサイルがガクト達の元へと飛ぶ。

「危ない!!」

リザは咄嗟に魔導障壁を作り攻撃を防ぐ。

すぐにヴォイスとルリナも魔力で自分の体を守る。

それを見たフォックスはにやりと笑った。

「どこを見ている!!」

ゼオンは爪をフォックスの装甲に刺す。

溢れる血と共に後ろに下がるフォックスと交代するようにライノが突進をしてくる。

勢いよく避けてゼオンはバイザーをおろし、ライノの行動予測をする。

しかし背後から弾丸が直撃した。

索敵担当のオウルの狙撃により、背中の装甲を破壊された。

大きなうめき声を上げるゼオンの元に咄嗟に走ってガクトが拳銃でカバーする。

ライノのアーマーを弾き飛ばし、ライノがよろめく。

「大丈夫か!ゼオン!」

「あぁ…助かったぜ、俺はすぐに修復できるから大丈夫だ。」

よろめいたライノにヴォイスが雷帝の槍を刺すとライノは気絶する。

「チームプレイだろ、ガクト!ゼオン!」

すると狙撃銃を構えるオウルの元をゼオンが指差し、リザはそこに拘束魔術を展開する。ルリナは武器を構え、狙撃銃を切り落とし、手刀でオウルを気絶させた。

フォックスは血を流しながら呟く。

「殺さないんだな…お前らは。行け…この先に総帥がいる…。総帥の計画を止めてくれ…。」

フォックスは倒れた。このままでは失血死してしまうだろう。するとその場にリザが座り込み、手をかざす。

「私が治癒します!だからみんなは先に言ってください!」

ガクトは目を合わして頷き、ゼオンの肩を担いで基地の奥へと進む。

四人が奥まで進むと、そこには総帥が一人で立っていた。

「お前はどこまで馬鹿なのだ…。もう一度戻って来るなら見逃してやろう。」

ゼオンは怒りの限界を迎え戦闘態勢に入る。

「ふざけるなぁああ!!!!!!」

総帥は目も向けず、高笑いする。

「では真実を教えてやろう。お前の妻と子供を殺したのはお前自身なのだよ!!貴様が暴走して彼女を殺害したのだ!」

すると巨大なスクリーンが現れ、そこには目が赤く光り、自分の手で妻を殺すゼオンの姿があった。

「これは私が搭載した暴走モード。お前は目が覚めた直後に暴走してくれた。そこでその力を試すためにお前の帰りを待っていた妻を目の前においてやったのだ、この私が!!」

ゼオンはその場に倒れこむ。

「そんな…。俺が…俺が殺したのか…。」

意気消沈したゼオンの元に走ってくる四人の影があった。

「お前が悪いんじゃない!お前の女は最後までお前を信じてたんだ!元に戻って!って言ってたんだ!!」

リザに治療されたフォックスが叫ぶ。後ろからリザとオウルとライノもついてくる。

「本当か…?あいつは最後まで俺のことを…。」

ゼオンの右目が赤く光る。それを見たギアは後ろに下がり腕を銃に変形させる。

「死ね!!失敗作が!!」

ギアの腕から大量の弾丸が射出される。するとゼオンは目にもとまらぬ速さで攻撃を避ける。鉤爪でギアの背中を引き裂く。そのままギアを蹴り飛ばし、ゼオンは声を上げる。

「今だ!!こいつの眉間を撃ち抜け!」

するとガクトは拳銃を構え吹き飛んでいるギアの眉間を撃ち抜いた。

そのまま壁にぶつかったギアは倒れる。

少しの時間が経つと、ギアが立ち上がる。

「私は…元に戻ったのか…?」

理解が追い付かないガクトはゼオンに説明を求める。

「こいつは明らかにここ数年でおかしくなった。わざと内部で反乱を起こさせたり武力で統治したりな、俺は復讐するつもりだったがさっき戦ったときにスキャンして気が付いたんだ。こいつの眉間に見たことがない結晶が埋め込まれていることに。」

全員がギアの元に目をやるとギアの足元に紫色の結晶が散らばっていた。

ガクト達はこの結晶を見たことがあった。ガクトを庇ったカルナが浴びたあの結晶だ。

「グラムの手は…周辺の島にも渡っていたのか…!急がないとまずい!」

ガクト達が焦っている横でギアはゼオンに深く頭を下げる。

「すまない…。私はこの国の民だけでなく大切な部下の家族まで…。」

ゼオンにはわかった。ギアの本心はずっと嫌だと感じていたんだなと。だからと言って許せるわけではない。でも少しホッとしている気持ちだった。

「過ぎたことはいい。それよりこいつらに協力してやってほしいんだ。こいつらはお前のように操られた人や国を取り戻すために戦ってる。この国の軍を貸してやってほしい。」

ギアはさっきの戦いで軍隊の大半をボロボロにしてしまったため、すぐには用意できないが必ず約束すると誓った。

そして翌日、ガクト達は出発のために船に乗る。ギアやフォックスたちが見送りにくると、奥からゼオンが歩いてくる。

「んじゃ、俺も同行するか。お前らの旅に。この国の軍隊はすぐに貸せないけど俺がついてってやる。」

「それは頼もしいな!よろしくな、ゼオン!」

「俺様達の足引っ張んじゃねぇぞ?」

「こらヴォイス、仲間にそんなことを言うな!」

仲良く話す五人の船は、次の島へと向かった。



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第5話 侍の国

新たにゼオンが仲間に加わり、ハイ島を仲間にしたガクト一行は、次なる協力者を求めて船を漕いでいた。


ハイ島を出て約1日、ガクト達は船旅を続けていた。

ゼオンのスキャンにより近くにある島を簡単に見つけることができるようになったので、目的地を見つけ、辿り着くのはそう難しくはなかった。

「島が見えたぞ。どうやらあそこは侍の国、キリサメ島のようだな。」

ゼオンの言うことが本当なら、そこには騎士団に匹敵すると言われる戦いの職人、侍がいることになる。侍を仲間に出来たらきっとかなりの戦力になってくれると確信し、上陸した。

すると、船着場には多くの人間が待ち伏せしていたのだった。

ヴォイスは焦りながら口を開く。

「おい、これってやべぇんじゃねぇか!?俺様たち多分囲まれてんぞ!」

しかし、船着場にいる侍達からは敵意を感じない。それどころか笑顔でじっとガクトやリザを見ている。

リザにはなんとなく敵対しようとしているわけではないことを察し、一行に安全を伝えてから、船を降りた。

「ようこそおいでくださいました。その冠は紛れもない、ハインスラシア王国の王女様ですな!」

鍛え上げられた体に渋い声、ざっと見て50代は超えているであろう侍に声をかけられた。その後彼がした自己紹介によると、彼の名はケンゴク。侍の里の長であり、ハインスラシア王国の親衛隊をしていたという男だった。

ハインスラシア王国はその昔周辺の島々とも連絡を取り合っていた頃、絶大な人気のために親衛隊として傘下に下っていた国があった。それがこのキリサメ島、もとい侍の里であった。

「王になるための生活で、お母様から聞いたことがあります。私たちの国を手助けしてくださる国が昔はあった。しかししばらく連絡を取らなくなって、疎遠になってしまった、申し訳ないことをしたわ。と。」

リザの言葉と申し訳なさそうな顔を見てケンゴクは優しく謙虚に頭を下げた。そのまま里の里長の家に案内された。

お互いの国の絆も確かめ合えたガクト達は、今世界で起こっている惨状について彼らに話した。ケンゴクは力強い声で、怒りを露わにした。

「なんと罪深い人だ!私共でよろしければお力になりましょう。」

彼がそう言った途端、家の周りに全身を黒い布で覆った忍が現れ、家全体を取り囲む。

ガクト達は慌てて戦闘態勢を取ろうとしたが、一切動こうとしないケンゴクを見て落ち着く。

彼は慌てるどころか目を閉じて微動だにしていない。すると家のはずれに座っていた一人の侍と人間の子供くらいのサイズはある小さなドラゴンが囲っている忍を押しのけ、家の入口に背を向けて刀を構えた。

「奇襲とはなかなか汚い手を使うんじゃのぉ!この国の裏切り者が!」

一人の男は刀を抜くと周りにいた忍を一掃した。ドラゴンも口に刀を咥え、飛び回りながら一掃する。

阿吽の呼吸ですべてを片付けた彼らはケンゴクの元へとやってくる。

ケンゴクはガクト達に紹介するべく、彼を家に招き入れた。



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第6話 相棒

ケンゴクによって招き入れられた男とドラゴンは、ガクト達のいる居間にたどり着くとどっしりと座るのだった。


「里長!そろそろきりがないんじゃないかのぅ。裏切り者を見つけ出してとらえた方がいいんじゃなかろうか。」

男は困った顔でケンゴクの顔を見る。しかしケンゴクは返事をしない。きっと国に裏切り者がいることを信じたくないのだろう。そんな気持ちを見ただけで悟ることができた。

「ムラマサや、気持ちはわかるが私はこの里に裏切り者がいるなど考えておらん、皆子供だ。親であるワシが信じてやれなくてどうする。」

ムラマサはガクト達を見て少し考えた後、目配せして外に連れ出す。

「里長、ワシはこの客人に用が出来た!ちぃと話をしたいんでお暇してもいいかのぅ?」

少しの沈黙が続く。彼の言った言葉の意味を理解した上で送り出すのは自分の信念と矛盾しているとわかっていたが、これも里のためと心に決め、ケンゴクは彼を送り出した。

家から出た一行は、ムラマサに話を聞く。

「あんた、ムラマサって言ったか?俺達を外に連れ出したってことは協力しろ、てことだよな。」

「おぉ!話が早いではないか、感心するぞ、隻眼の男よ。」

「別に俺は片目を隠しているだけで隻眼ではないんだが…。」

その後はゼオンの時と同じく、国の力を借りるためにも問題を解決するため彼と協力することにした。作戦は今夜、毎晩里長の家に暗殺をしにやってくる部隊の中に親分がいるというのはムラマサの調べによってわかっていたため、そこを一気に叩くといった作戦だった。

そして、瞬く間に夜がやってきた。

ムラマサの相棒のドラゴンが集合場所に案内してくれた。

「我はカスミ。ムラマサの相棒だ、しばしの間よろしく頼む。」

「喋れんのかよコイツ!!」

彼女は人語を喋ることができるドラゴンらしい。ヴォイスが驚いて固まっているところをルリナとゼオンが引っ張っていく。

やがて集合した一行は作戦を確認し、ケンゴクの家へと向かう。

予想通り、彼の家には無数の忍者や侍が待ち構えていた。

奥の方で指揮を取る人物を見つけ、一行は茂みから飛び出す。

「貴様ら、今夜こそワシが成敗してくれよぅ!ワシの相棒、カスミは怖いぞぅ〜!」

「適当な事を言うな、ムラマサ!我は刀を扱う龍、カスミ。国のためにもお前達はここで仕留める!」

2人は名乗りを上げると一気に侍達と戦い始める。それに続きガクト達も続く。

相棒と言うだけあり、2人の息はすごくあっていた、お互いの足りないところを補い合って戦っている。

しばらく戦い、侍達を気絶させた。すると奥から親分が歩いてくる。

彼は顔に被っていた包みを取り、その姿を現す。

「貴様は…コグモ!やはりそうじゃったか。どうしてこんな事をする!」

ムラマサと知り合いの男は、口を開き語り始めた。



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第7話 義兄弟

里長ケンゴクを襲う舞台のリーダーは、ムラマサの知り合いである男、コグモだった。彼は口を開き、語り始める。


「久しいな、ムラマサ。俺はとある妖刀が欲しい…。その妖刀には人を魅了する力があるんだろうなぁ、俺は忘れられない、あの力が…。里長を殺せばあの力を手に入れられる!そう言われたんでな、悪いが俺は国より力が欲しい。」

そういう彼の瞳は紫色に染まっていた。ガクト達にはすぐにわかる。これもグラムの結晶の影響だと。

怒りを覚えるムラマサに結晶の事を告げ、彼を正気に戻すため戦おうと決める。

「やはりあいつはおかしくなっちょるってわけじゃな、わかった。ならワシが切り伏せよう、義兄弟として。」

コグモは刀を構える。続けて話を始める。

「義兄弟か…。里長に育てられたのは何歳の時までだったか忘れたな、いつのまにか刀の才能があるお前が気に食わなくなっていた!俺は誰にも負けない力を手に入れるんだ…!そのためなら親さえも殺す!」

2人は息を呑み、その場にいる全員が静まる。

先に踏み込んだのはコグモの方だった。するとムラマサは彼の一撃をいなし、切り伏せる。その強力な一太刀は、彼の装甲がなかった腹部を綺麗に切り裂いた。

「リザ殿!止血を!話した通りだとできるんじゃろう!頼む!」

彼の言葉通り魔力を込め、回復魔法を詠唱する。すぐに血は止まり、傷は癒えた。

やがてコグモが目を覚ます頃には、すっかり朝日が昇っていた。

ケンゴクも合流し、皆で彼が口を開くのを待つ。

「俺は…何を…。」

ムラマサは大声で彼に言う。

「コグモ!戻ってきよったか!一体何があったんじゃ、お主の思い出せる限りで構わん、話してくれ。」

記憶を取り戻したコグモは戸惑いながらも話し始める。

「あれは確か10年ほど前だったか、いつものように1人で鍛錬に励んでいた時、突然見たこともない装いの男が目の前に現れたんだ。彼は一振りの刀を見せてきた。紫色に輝く刀。あれはまさしく妖刀だ。そしてその刀を俺に渡し、その力を使わせた。気がつくと俺はその刀が欲しくてたまらなくなっていたんだ。彼は刀を回収し、時間だ、その力が欲しくばこの国を、世界を滅ぼせ。と言ってきた。俺はそれから10年間、力を貯め襲撃の時を待った。それが今に至るまでの経緯だ。」

リザは頭を悩ませる。

「それって、10年前からあの結晶はこの世界に存在していたってことですよね…。一体誰が何のために作ったんでしょう。私にはとても分かりません。」

話の通りだと、ガクト達が見るよりも、メシア達が来るよりも前からこの世界には紫の結晶は存在していたらしい。彼の話を信じ、各々が考えを巡らせていると、ムラマサがまた喋る。

「里長、コグモ!ワシは旅に出ることにした、この国の力を貸して本土を取り戻すんじゃろう、ならワシは直接このお方達に同行して腕を振いたい。」

彼の言葉を聞いた2人は笑い合い、ただ頷く。

そして数時間が経ち、準備を終えた一行は船に乗る。

「此度はありがとうございました。助けが必要な時は、いつでも呼んでくだされ。この国総出で駆けつけます故。」

「気張れよ、義兄弟。」

2人の言葉を受け取り、船は次なる国へと出発した。



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第8話 魔法の国

新たにムラマサ、カスミが加わった一行は最後の目的地、魔法の国「フィルゲイラ島」へと向かっていた。


「あと少しで私が指導を受けていた国、フィルゲイラ島だ。」

ルリナは魔法を会得するためこの島に来ていた。魔法の国と呼ばれるだけあり、大規模な魔法学校が島の中心にある。いくつも有名な魔導士の家系があり、その力はハインスラシア王国やルーヴェティア帝国の王に匹敵するほどだと言われているらしい。しかし本土には外部の島の話は届かないため、その実力を知っているのはフィルゲイラ島の人間のみだ。

「着いたぞ、船を停めよう。」

ゼオンが船を停め、島に上陸した直後、すごい勢いで1人の男が走ってきた。

「うおおおおーーー!!やはり!この香りは!!ルリナではないか!ようやく我が恋しくて帰ってきたのか!!」

緑色の派手なスーツを着たその男はルリナに駆け寄る。しかし彼女は呆れた顔でため息をつきながら返事をする。

「はぁ…。クラウン、久しぶりだな。まだ勝手な事を言っていたのかお前は。」

彼女の反応を見て一行は全てを察し、苦笑する。

クラウンに案内され、彼の屋敷へと足を運ぶ。大きな扉を開け、中に入るとそこには数十名の執事やメイドがおり、出迎える。

「我が屋敷へようこそ!で、皆のものは何をしにここへ?」

ガクトは事情を説明し、助けがいることを話した。

すると彼は大きな声で笑い飛ばす。

「残念ながらそれは無理だな!この国には強い魔術師など我以外にもう残っていない!有名な貴族魔導士は皆全滅したよ、ただ1人を除いて。」

ルリナの顔が険しくなる。彼女は間髪入れずにテーブルを叩き声を荒げる。

「それは…本当か!!オッソリア家は…ディアは無事なのか!!」

「そう言うと思ったよ!安心しな、生き残った1人はディアさ。まぁ彼女の家族は皆死んだけどね。」

沈黙の後、全員の顔が曇る。ルリナは現実を確かめるため話を聞く。

彼の話によると数ヶ月前、この島にはグラムから魔物の軍団が遅いかかり、名家は殆どがその処理に追われ、自爆の被害に合い死んだと言う。

ガクト達はその話を聞きすぐに怪しいと感じた。グラムが自分の領土を広げるならわざわざ自爆などさせる必要がないからだ。

「ゼオン、スキャンできるか。」

「ガクト、ちょうど俺もしようと考えてたところだ。」

ゼオンがバイザーを下ろし、クラウンの体をスキャンすると、心臓の部分に紫の結晶が埋まっているのが見えた。

「コイツは厄介だ、心臓に埋まってやがる。取り出すなら殺すしかないな。」

思惑通り彼は結晶により人格が凶暴になっていた。きっと他の家を潰すためにした自作自演だろう。一行は彼の家を出て、ルリナの修行の師匠の家系であるオッソリア家へと向かった。



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第9話 魔力塊

オッソリア家へと向かったガクト一行は、ルリナの案内でその前までたどり着く。
しかしそこにあったのは瓦礫に埋もれた地下室への入口のみだった。


「これは…。なんてひどいのかしら…。」

「そのディアってやつは地下室へ行ったみたいだな。扉が開いてる。」

ヴォイスの言葉通り、地下室への扉が開いていた。全員は地下室へと降りていく。

中には巨大な魔力の結晶、【魔力塊】が浮いており、その前には一人の少女が祈りをささげている。

「大賢者様…。今日も私をお守りください。そしてお父様やお母様によろしくお伝えください。」

一通り祈りが終わると、彼女は立ち上がり振り返る。

「だ、誰!?私の家に何の用なの!…ってルリナさん!」

慌ただしく焦った彼女はルリナの存在に気づき、落ち着きを取り戻した。

ディアに事情を説明し、彼女の話を聞く。

彼女曰く、学校が終わり家に戻った時にはもうすでにこの惨状だったという。

「誰もアタシを助けてなんてくれなかった。クラウンさんも。みんな。」

彼女の眼には涙すら浮かんでいなかった。もうそれすらもできないのだろう。

「なぁ、俺様が魔法を教えてやるよ、お前強くなりたいだろ。」

「ハァ?なんでアンタみたいな得体のしれない半裸の男に魔法を教わらなきゃいけないのよ!」

「お、おいお前な!俺様は元国王だぞ!今はこいつらと同盟を組んで国ごと奪われたけどよ…。魔法はそれなりに得意なんだよ、それにリザやルリナもいる。」

リザとルリナは優しく微笑む。

「俺とゼオン、ムラマサとカスミはクラウンの調査に向かう。だから存分に鍛えてやり返してやるんだ。きっとディアの家族やこの国の人々はクラウンに殺されてる。」

ガクトの提案にディアは困惑しながらもなんとか納得し魔法の修行をはじめた。

 

クラウンの元へと戻ったガクト達は、彼の怪しい行動を目撃する。

彼は自ら魔物を生み出し、町の人々を襲わせ、自ら魔物を魔法で倒していた。

「やはりそうじゃったか。汚いやつじゃのぅ。のぉカスミ。」

「あぁ。我らの里だったら即追放だろう。」

クラウンの惨状を目撃した四人はオッソリア家へと戻る。そして魔法の修行をしていたディア達と合流した。

地下室は広く、全員がギリギリ泊まれるスペースになっていたため休息をとる。

朝が来て目が覚めたころ、魔術学校の校長がやってきた。

「はじめまして。僕はシルといいます。見た目は子供ですが、一応魔術学校の校長をやっています。久しぶりだね、ディア。」

全員は挨拶をすると、彼がやってきた目的を聞く。

「このオッソリア家の地下にある魔力塊。その正体を話に来たんだ。そして君たちの動きを見させてもらった。協力を約束するから、一緒にクラウンを倒させてくれ。クラウンを倒すための切り札がここにある。」

彼は魔力塊を指さした。



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第10話 大賢者

シルは魔力塊を指さし、その正体を明かす。


「これはこの島に伝わる大賢者オーラ。正確にはこの中にいるって感じなんだけどね。」

「ほ、本当!?校長先生がよく話してる大賢者って、実在したんだ…。」

「彼女をここから解き放つには願い、五大元素が同時にそろわないといけないんだ。でも今ならそれができる。」

魔力塊の前で手をかざす。

ルリナは炎。ヴォイスは雷。シルは風。ディアは水。リザは氷。手をかざして魔力を込め、願いを込める。

しかし魔力塊は動かない。すると地下室へと黒い鎧を着た男が入ってくる、彼は顔を隠しているため姿がわからなかったが、魔力塊に手をかざす。

「六大元素…。闇魔法が足りていないんだ。」

すると魔力塊は割れ、中から美しい女性が出てきた。男はすぐにその場を立ち去る。

「僕の知らない元素…。彼は一体…。まぁいい!オーラ様が復活したんだ!」

「願いは届きました…。世界のために、私はあなた達とともに戦います。ディア、あなたの祈りはちゃんと届いていましたよ。よく頑張りましたね。」

その慈愛に満ち溢れた笑顔で、ディアは大粒の涙をこぼす。

全員は今日の夜、クラウンと戦いに行くことを決意し、作戦を決めた。

 

いつものように魔物の大群を生み出している彼のもとに立ちはだかる。

「おやおや!ディア!我に歯向かうというのかね?ルリナもそんなところじゃなくてこっちに来たまえ。」

「黙れ!アタシは…世界のために…家族のためにアンタを殺すと決めた!」

ディアとルリナ、シルとオーラがクラウンのもとを目指す、それ以外は魔物の大群と戦っている。

 

そして戦いが始まった。

 

「僕の風魔法で彼を拘束します!その間に全力を叩き込んでください!」

シルは詠唱を始める。彼の詠唱はすぐに終わり、クラウンは大量の竜巻に囲まれた。巨大な風の渦は彼をその場に拘束し、一切の行動が出来なくなった。

シルはかなりの魔力を消費しているようで消耗している。

「ディア。ルリナ。私に合わせてください。私の光魔法にあなた達の水と炎の魔法を融合させるのです。」

「わかりました!オーラ様!」

「いつでも大丈夫です。合図はお任せしました。」

二人は返事をした後、魔法を放つ準備をする。

「一撃で決めます…!ハイライト!!」

大きな一筋の光がクラウンの元へと放出される。二人はすぐに続いて魔法を放つ。

「ディープマリン!!」「紅き煉獄!!」

光に混ざって渦巻くように水と炎が交わる。やがて巨大な竜巻と一つになり、クラウンはなす術もなく魔法を受ける。

「そんな…!バカな!!こんなあっけなく!終わっていいはずないんだああ!!」

彼のそんな言葉は虚しく。彼の体、紫の結晶は跡形もなく消え去った。

気がつくと夜は明け、周りにいた彼が生み出した魔物も全て消え去り、フィルゲイラ島には平和が訪れた。

「終わった…のね。私…やりましたわ!お父様!お母様!」

すると空から二つの羽が落ちてきた。羽はディアの前に落ち、ディアは手にして前を向く。

「アタシ、アンタ達に着いていくわ。この世界の平和のために、必要なんでしょ。戦力が!」

「俺は大歓迎だ。だけどその前にこの街の復興が先だな、最低限でよければ俺たちも手伝うからさ。」

ガクトはそう言い、一行は街の復興へと勤しんだ。

 

1週間後

 

出発の日が来た。いよいよ本拠地である本島へと向かう。

「世話になったな。何かあった時はまた呼んでくれ。」

「こちらこそ、大賢者オーラも復活させることができたし、僕としても助かったよ。こちらも必ず君たちの戦いに力を貸そう。」

ガクトとシルは固い握手を交わし、全員は船へ乗る。

「おい、俺様にあんまくっつくんじゃねぇ!」

「いいじゃない!ヴォイスはアタシの1番の師匠なんだから!」

一行は呆れた顔をしてから港へと顔を向ける。

フィルゲイラ島の人々は感謝の気持ちを込め、全員で手を振って一行を見送った。

 

その頃本島では

 

「ようやくこの時が来たか…。頃合いだな。」



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第11話 暗黒の騎士

フィルゲイラ島を出たガクト一行は本島へと上陸した。森を抜けるとグラムの城へと辿り着く。彼らは森を抜けるため船を降り、足を踏み入れた。


「ようやく来たな。俺たちは必ず勝って取り戻すんだ。」

「えぇ。私たちの国を、みんなの思いを、必ず取り返しましょう。」

「そうだなぁ!ここまで来て負けるわけにはいかねぇもんな!」

「カルナよ…遅くなった姉を許してくれ。必ず助け出す!」

四人は決意を胸にし、仲間達を見る。ゼオン、ムラマサ、カスミ、ディアは頷き、森へと歩き出した。

 

森に入ってからかなりの時間が経ち、もうすぐ抜けられるところまで来たが、夜になったため休息を取ることにした。

キャンプをし、皆が睡眠を取っている中、ガクトは眠れないでいた。

木に腰掛け、夜空を眺めていると、背後から大きな剣が襲いかかってくる。

「なんだ!?」

「チッ、外したか。」

その男はフィルゲイラ島の地下室で見た黒い鎧の男だった。

「お前!あの時の!」

「あぁ、ここまで来たらあとはお前さえいなければ俺の目的は果たされるからな、死んでもらう。」

ガクトは銃と盾を構えて戦う。

しかし男の力は圧倒的ですぐに反撃されてしまう。

「ぐあっ!こんなところで…死ぬわけには!」

「諦めが悪いな、さっさと死ね!」

黒い鎧の男は左手に魔力を集め、それを闇魔法に変えて放った。

「うぁああ!」

ガクトは耐えきれず弾き飛ばされる。それと同時に反動で男の鎧兜は弾け飛ぶ。

男がガクトに大剣を突き刺そうとすると、目が覚めたリザが身を挺して庇う。

「やめて!!」

「っ…!!リザ…!やめろ…。」

男は少しの沈黙の後そう言って、剣を下ろす。

ガクトとリザが男の顔を見ると、その男はガクトと同じ顔をしていた。

「俺…なのか?髪は黒くなっているが…顔は俺と同じだ。」

「そうだ。俺はお前だ。お前になるために、俺はお前を殺しに来た。」

仲間達が皆起きてきて、彼を見る。もう一人のガクトはルリナとヴォイスを見て、少し落ち着いた様子で話し始めた。

「俺は…ずっとお前達を見張ってきた。俺がこの世界に来たのは、お前達がハイ島へ向かう時だ。俺は別世界線のガクト。この世界ではカルナが闇の結晶によって悪に染まってしまったが、俺は自らが悪に染まった。暗黒の騎士となった俺は、力が抑えられず、その場にいた仲間を含めてほとんどの人間を殺戮したみたいでな。もちろんカルナやリザ、ヴォイスやルリナも皆俺が殺してしまったんだ。気がついた時にはその事実だけが残っていて俺は絶望したよ。でもグラムは世界線を渡る装置を開発していた。それでこの世界線へと渡って、俺は俺自身を殺して成り代わることで、理想の未来を手に入れようとしていたんだ。」

一行はその話を聞き、沈黙する。

少し間が空いて、ガクトが口を開く。

「それで、今お前の元の世界はどうなっているんだ?」

「誰もいないさ、人が消えた世界だ。俺の手によって。正確には気がついた時には全て俺が殺していたらしい。」

「だったら、戻る必要もないな。ここに居ればいい。俺の仲間に俺がいるってのはおかしな話かもしれないが、俺とお前は同じであり別の人間だ。」

「何を言っているんだ…?俺はお前を殺そうとしているんだぞ?仲間だと…どうしてそうなる。」

「俺様もそれでいいと思うぜ、別に何もガクトを殺して成り代わる必要なんてねぇじゃねぇか」

「俺も同意だな。データ上は別の人間として扱われている。」

各々がもう一人のガクトの存在を認めて、話を進めていると

「じゃあ決まりだな、俺たちと一緒に、この世界で暮らせばいいさ。こっちでは平和を取り戻そうぜ、俺!」

ガクトはもう一人のガクトの肩を叩き、笑う。

「…フフ。面白い。そうだな、別に俺は俺自身に復讐をしたいわけじゃない、メシアに復讐したいだけだ。わかった、俺も同行させてもらう。それと、俺の魔力を少し分けてやるから少しは元の力を取り戻したらどうだ?」

もう一人のガクトに魔力を供給され、ガクトはもう一度武器を召喚できるようになった。エイリーンにもらった盾をまた召喚できるようになり、喜んでいた。

「でもよぉ、ガクトが二人じゃ名前がややこしくなるんじゃないかのぅ?」

「我も同じことを考えていたぞ、ムラマサ。」

ムラマサとカスミの質問に一行が悩んでいると、ディアが提案する。

「じゃあ、もう一人のガクトだし、影みたいなもんだからシャドウとかどうかしら!かっこいいし!」

「おいおい、安直だな、俺の新しい名前だぞ?」

「私もいいと思う!シャドウ!」

「リザにそう言われたら仕方ないな…。じゃあ俺は今日からシャドウだ。よろしくな。そうと決まれば、さっさと森を抜けるぞ。」

一行は森を抜け、城の前へと辿り着いたのだった。



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第12話 燃やす侍魂

城へと辿り着いた一行は、数年ぶりにグラムの幹部達、元々の自分たちの国にいた国民を見かけた。するとすぐに戦いは始まったのだった。


グラムへと足を踏み入れた途端、周りから大量の兵士が取り囲む。元々は連合国の人間だった者達だ。

「いいか、全員殺すなよ、殺すのはグラムの人間だけだ。」

「「了解!」」

ガクトの命令に全員は返事をして戦いが始まる。

鈍い鉄の音が響き合う。大量の兵士を切り抜けたその先に待っていたのはグラムの幹部、侍風の男、カズマとくノ一のリンだった。

「拙者はカズマ。以前にもお見受けしたことがあると思うが、今回はこの刀でお命を頂戴しに参上した。」

「私はリン。右に同じ。」

二人の迫力に圧倒されていると、ムラマサが前に出る。

「のぅガクト。こいつら全員で叩くのも悪かないが、今のワシらなら余裕じゃろうて、ここは手分けして幹部達を倒すのはどうじゃ?」

幹部の二人はまだ攻撃を仕掛けてこない。きっとこちらの判断に任せるということなんだろう。

ガクトは決断した後、先へ進む。

「我も残ろう。死に場所は同じだ。ムラマサ。」

「ハッハッハ!こんなとこで死なんじゃろうて。」

「すまない…ここは任せた!」

「存分に暴れて来い!ガクト!」

ムラマサとカスミは一行を送り出し、カズマとリンに向かい合う。

「さてと…待たせて悪かったのぅ。いざ尋常に、勝負!」

ムラマサの合図でカズマは同時に飛び出し、互いの刀がぶつかり合う。

 

その頃カスミは

 

カスミはリンの苦無を避け、徐々に距離を詰めていく。

近くに森があるため、上手く木々に隠れながら、素早い身のこなしで自分のペースへと持っていく。

「我の間合い…届いた!霊刀・シズク!その記憶を呼び醒ませ!!」

カスミがそう叫ぶと、口に咥えていた刀から冷気が溢れ出し、氷を纏った。そのままリンへと突撃し、リンの体を引き裂く。

「…っ。」

リンは言葉を出す間もなく絶命し、体が凍る。それと同時に辺りは銀世界と化した。

「一瞬だったな。所詮こんなものか。」

 

ムラマサはカズマの動きを見切り、どんどん攻撃をいなしていく。

「そろそろ本気を出す頃かのぅ。向こうも片付いたようだし。」

ムラマサの持っている刀から妖気が溢れる。

「貴様!まさかそれは!!妖刀か!」

「本気を出すとはこういうことじゃ!魂刀・キリサメ!魂を啜れ!!」

カズマは急いで刀を使って攻撃を受け止めようとしたが、刀が折れ、攻撃をいなせなかった。

そのままカズマの体を貫き、やがてその体は朽ち、彼は息絶えた。

「妖刀の代償、安いもんじゃ。世界の平和に比べれば。」

ムラマサは妖刀の力を解放したことにより、代償を支払った。刀を鞘に収めた途端、左腕を失った。

戦いを終えた二人は城の階段を登って仲間の元へと走った。



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第13話 仲間

ムラマサ、カスミの二人を残し、城へと辿り着いたガクト達は入り口に立っている3人の幹部を見つけた。


そこに立っていたのは数年前、数多の兵士を殺したアイザ、フェイカーとリコンを殺したステラ、ヴォイスが瀕死に追いやったコクウだった。

「あら?久しぶりね。覚えてるわよ、私の綺麗な服を傷付けた騎士団の団長さん?」

「アタシもアンタのこと忘れない…!アタシの羽切った!!」

ガクト達は武器を構える。すると先ほどのムラマサと同じように、今度はヴォイスが声をかけた。

「俺様に任せろ。こんな奴ら俺様一人で十分だ。」

「師匠が戦うならアタシも戦ってあげるわ!」

「おい!俺様一人でなんとかなるって言ってんだろ!ディア!」

二人は魔力を込め、戦う準備を始める。

「ガクト。流石に人数差があるのは良いとは言えない。俺もここに残ろう。お前達にはやることがあるはずだ、先に行け。」

ゼオンも残ると言い、3人を残し、ガクト、シャドウ、リザ、ルリナは城の中へと向かった。

城の中へと走る四人に向かって、魔力を込めた銃を構えたアイザをヴォイスが蹴る。

「どこ見てんだ!お前の相手はこっちだよ!!雷帝の槍!!」

アイザの体目掛けて雷で作った槍を投げる。

すかさず星魔法を唱えるステラをディアが水魔法で拘束した。

「面倒くさい…。」

ステラの体を覆っていたアメーバが水魔法を吸収し、ドーム状に展開してディアを閉じ込める。

「これで終わり…。あとは縮めるだけ。」

ステラが指を鳴らすとアメーバは小さくなり始め、ディアを包んでいく。

「こんなところで終わるもんか!!光魔法を媒体とした星魔法なら!シャドウが使っていた闇魔法で対抗できる!光魔法は元素の力じゃないから六大元素の一つである闇魔法なら勝てるわ!!」

光魔法は炎魔法と雷魔法を組み合わせて作られた魔法で、元素力の強い単体の元素魔法には弱いという弱点があった。

「なぜそれを…!こいつ…魔法学校の生徒か!」

「闇魔法について知ったのは最近だけどね!見よう見まねでもきっとできる!闇魔法!!ダークナイト!!」

ディアの詠唱によって、ディアが持っていた杖から紫の光が放たれる。

やがてその光は弾け、アメーバを消滅させた。

「そんな馬鹿な!私の魔法が!!」

 

それと同時に、コクウと爪で切り裂きあっていたゼオンは、彼女の尻尾、翼、両腕を切り落とした。

「もうすぐ決着だ。泣き喚くんじゃないぞガキ。」

「いったあああい!ひどい!!!アタシはこんなところで死にたくないのに!メシア様!!!」

 

同時にアイザと戦っているヴォイスは

彼女の作った魔力銃と麻酔グレネードを全て破壊し、残る武器はもう無くなるところまで追い込んでいた。

「お前…!雷だけじゃなくて氷まで使えるなんて!この数年で強くなりすぎでしょ!」

「あんま俺様達を舐めるんじゃないぞ。これで終わりだ!雷神の覇気!!氷刃無双!!」

氷を腕に纏い、腕を氷の刃に変え、そこに雷を纏わせる。武器と化した両腕で、彼女の体を斬りつけ、それと同時にディアの水魔法でステラを、ゼオンの鉤爪でコクウを倒した。

「あっけなかったな。さぁ、行くぞ。」

ゼオンが二人を連れて城へと向かおうとしたその時、大量の魔物が現れる。

「チッ!グラムの最後の抵抗ってとこか!!めんどくせぇ!」

「師匠、アタシまだ戦えるわ!」

「待て二人とも!あれを見ろ!!」

ゼオンが空を指差し、3人は上を見る。すると巨大な飛空艇が3隻やってきた。

「あれは…!!総帥の!」

3人の元へと戦いを終えたであろうムラマサとカスミが走ってくる。5人が背中合わせになり、魔物を迎え撃とうとした瞬間、飛空艇から一人の男が降りてくる。

「遅くなったな!ゼオン!!」

「フォックス!お前!!」

「総帥ならライノとオウル、侍の里の侍達と魔法学校の生徒達と協力して倒れた兵士たちを助けてる!先に行け!」

別の飛空艇からはシルとオーラが降りてきた。

「ここは僕たちに任せてください!!あなた方は先へと進むんです!」

また別の飛空艇からはケンゴクとコグモが降りる。

「魔物などこの人数で十分!進め!」

降りて来たみんなに続いて救護班以外に残ったハイ島の兵士、キリサメ島の侍、フィルゲイラ島の魔法学校の生徒が続いて降りてくる。

「いくぞおおおお!!!」

ケンゴクの号令で全員は一切に魔物と戦い始めた。

 

「頼んだぞ!お前達!!」

ヴォイスは4人と共にガクトの元へと向かった。



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第14話 姉弟

先に城のかなり上層まで登ったガクト、シャドウ、リザ、ルリナはメシアのいる最上階の少し手前まで来た。


「あと少しだ!行くぞ!」

ガクトが声をかけて扉を開けるとそこにはカルナが立っていた。

シャドウと同じように瞳は紫に染まっており、剣を構えこちらを睨む。

「久しぶりだな。ようやく来たか。」

「俺が必ず戻してやるからな、カルナ。」

「ガクト、私にやらせてくれ。気持ちはわかるがメシアを頼みたい。姉として、私がカルナを救いたいんだ。」

ガクトは考えたが、ルリナの思いを察してこの場を託すことにした。

3人は上へと進み、カルナとルリナを残す。

「姉さん。今の俺はメシア様に忠誠を誓った。姉さんだろうが容赦なく殺すぞ。」

「カルナ…。大丈夫よ、私が戻す。」

カルナが剣を振りかざす。ルリナはそれを受け止めて後ろに跳ぶ。

「紅蓮兵装・炎滅!!」

ルリナは炎を鎧に変え、纏った。炎で出来た鎧の熱気にカルナは攻撃を弱める。

2人の剣がぶつかり合い、大きな火花を散らす。

「闇魔法・充填!放出!!」

カルナの剣に闇魔法が込められ、放出しながら思い切り切り裂く。ルリナの鎧は砕けるが、すぐに炎魔法を纏い、再構築する。

「厄介なことを…。あのもう1人のガクトの仕業か!」

「あぁそうだ。ここに来るまでの間に彼から私の魔法を武器から鎧に応用する術を教えてもらったんだ。」

ルリナの紅き炎をで作られた剣はカルナの鎧を切り裂く。

瞬く間に鎧は砕け、カルナは倒れ込む。するとルリナはカルナの胸元に結晶のペンダントがあるのを見つけた。

「あれを壊せばきっと!!」

勢いよくペンダントを目掛けて炎魔法を飛ばすがカルナは剣で防ぐ。

「させるか!!俺は!この力で!!メシア様を救う!」

「目を覚まさせてみせる!」

2人はもう一度剣を構えぶつかり合う。ルリナはかなり魔力を消耗しており、最後の力を振り絞り、炎の剣に魔力を込める。

「これで決める!!炎獄剣・荊!!」

炎の剣を鞭のようにしならせ、カルナの剣を掴み、燃やし尽くす。

カルナは振り解こうとしたが、剣は強い力で拘束されており、解けなかった。そしてカルナの剣は消え去った。

「今だ!」

ルリナはカルナの胸元にある結晶のペンダントを握りつぶした。

瞬間、辺りに紫の光が放出され、やがてそれは消え去った。

「…姉さん?」

「カルナ!!」

ルリナに抱き抱えられたカルナは目を覚ます。ようやくメシアの呪縛から解放されたのだ。

「姉さん…俺は…仲間を殺してしまったのか?」

「大丈夫。みんな無事だ。この先でメシアと戦っている。」

「そうか…。やっぱりガクトは来てくれたんだな…助けに…。」

2人が話していると、扉を開けて後からやって来たゼオン達が入ってくる。

「ルリナ!大丈夫か!!」

「あぁ、弟は正気に戻った。」

カルナは初めて会う仲間達に挨拶を済ませ、元気を取り戻す。

「よし!ガクトを助けに行こう!」

カルナは意気込むが、ムラマサが首を傾げて問いかけた。

「じゃが、カルナは武器も鎧も砕けちっとる、どうやって戦うっちゅうんじゃ。」

「それなら心配いらないわ!さっきシル先生から受け取ったものがあるの!」

「これは…ハインスラシア王国騎士団の制服!どうして!」

「大賢者オーラ様がきっと必要になるだろうって2着渡してくださったのよ!アンタと、ガクトの分ね。まぁガクトは着替える時間なんてないけど、少しは気が引き締まるでしょ。」

「あぁ、ありがとう。ディア!」

今度はゼオンが宙に手を翳す。

「武器はこれを使うといい。少し特殊だがうちの軍で作った一級品だ。この戦いが終わったら再結成する騎士団のために作らせておいた。」

ゼオンがそう言うと、手元に武器が召喚された。

「お前も出来んのかよ!武器召喚!!ガクトの専売特許じゃねぇのか!」

「違うヴォイス。これはただの転送魔法だ。武器召喚とは勝手が違う。」

「そういうもんなのか!?」

「師匠、もしかしてあんまり魔法得意じゃない?」

「うるせぇ!さっさと行くぞ!!」

一行はガクト達の元へと向かった。



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第15話 煉獄への逆襲

ガクト、シャドウ、リザはメシアのいる部屋の目の前までたどり着いた。


「この先に、奴がいる!!」

ガクトは勢いよく扉を開け、中へ入ろうとするが、その後ろから声がした。

「まだ1人、忘れてないか!一番大事な俺をさ!」

指先から炎を飛ばした男はモアだった。

かつて王国の守護獣のフリをして、王国を破滅に追いやった煉獄の悪魔。リザは睨みつけ、ガクトとシャドウを先へと進ませる。

「私が仇を打つ!だから2人はメシアを!」

「エイリーン様の仇は俺だって!でも…リザの気持ちもわかる。ここは任せたぞ。」

ガクトとシャドウは先へ進み、リザとモアがその場に残る。

「さぁて、どれくらい成長できたか見せてもらおうか!」

モアの両手が青く燃え、辺りを焼き尽くす。リザはすぐに魔法で自身にバリアを作った。

「そんなので守り切れるかなぁ!!お前の母親はそれでも死んでいったぜ!」

「黙れ!!エアーバレット!!」

リザがガクトとの修行で最初に覚えた魔法をぶつける。

「ハハハ!そんな弱い魔法じゃ傷一つつかねぇぞ?」

「風刃!!」

リザが叫ぶとモアの体に当たった風の弾が高速で回転し、周りに刃を纏い始める。

「なに!?魔法を改変させただと!」

モアの体を斬りつけ、弾は消える。

「お望み通り、傷、付けてあげたわ。」

「馬鹿にしやがって!!お前も殺してやるよ!」

モアが腕を上に掲げると手の上には巨大な火球が出来上がっていく。

その火球はどんどん辺りを灼熱にし、焦がしていく。

「燃え盛れ!紅き煉獄!!」

ルリナが使っていた魔法と同じ魔法だが、遥かに力の差があり、リザは水魔法で対抗する。

「全てを包み込め!オーシャンウェーブ!!」

巨大な波で火球を包んで、押さえ込む。

しかしどんどんと火球は力を増していき、止まる様子はない。

「ダメみたいだな!ここで死ね!」

モアが指を鳴らすとさらに勢いを増し、水が抱えきれなくなってくる。

「ディープマリン!!」

駆けつけたディアが魔法で手助けする。

「ディア!」

「復讐したいのかもしれないけど!死んだら元も子もないでしょ!」

ヴォイスの氷魔法とカスミの霊刀・シズクで氷の力も増強され、火球は消え去った。

リザはすぐにモアの元へと近づき、光魔法を詠唱する。

「世界に存在する数多の光よ。彼に罰をお与えください。サルベーション!!」

「やめろ!見逃してくれ!助けてくれ!!」

命乞いするモアに光の柱が降り注ぐ。柱に呑まれ、彼は消滅した。

「お母様。助けてあげられなくてごめんなさい。」

リザは涙を流すが、駆けつけて来た皆が励ます。

「私には、仲間がいるものね。お母様から受け継いだ国を守る使命もあるし、すぐにこの部屋に入りましょう!」

立ち直ったリザを見て、一行は部屋へと入った。



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最終話 民衆の盾

ガクトとシャドウはメシアの元へと辿り着き、各々盾と大剣を構えた。


「よく来たな、新世界を拒む愚か者ども。」

「黙れ!そんなもの必要ない。」

「そうだ、取り戻してやるよ。」

ガクトが盾を使って距離を詰めると、メシアは椅子から降り、ガクトとシャドウを弾く。

2人は飛ばされて、入り口まで吹き飛んだ。

「ぐあっ!なんて力だ…!」

「さっさと死ね!」

メシアの闇魔法によって2人は体制を崩されたが、すぐに立て直した。

闇魔法は負荷が大きくかかるがその分強く、2人に何度もダメージを与えていく。その都度2人は立ち上がり、立ち向かうが彼の元へは辿り着けなかった。

「俺も本気を出そう…闇夜兵装・漆黒!」

シャドウの鎧はさらに黒さを増し、闇魔法で新たに鎧が形成されていく。

「さらにその向こうへ!闇夜兵装・白銀!!」

漆黒を超え、闇魔法は白く変わり、その鎧は銀色に輝いていた。

シャドウの大剣はそのままメシアの闇魔法を切り裂き、彼への道を作る。

「いけ!ガクト!このままトドメだ!」

ガクトがメシアの元へと走り、盾に魔力を込める。盾は輝き、メシアの体へ向けて突進する。

「これで終わりだ!!!」

そのままガクトの光輝いた盾でメシアの体を貫き、メシアはその場で雄叫びを上げる。

「うぁああああ!!こんな!こんなはずでは!」

倒れたメシアの貫通した体から大量の闇魔法が溢れ出す。

やがてその闇は辺りを覆った。

そんな時入口のドアが開く。仲間達が駆けつけたのだった。

「ガクト!シャドウ!大丈夫か!」

ヴォイスの声を皮切りに、仲間達が入ってくる。

しかしすでに当たりは闇に覆われ、メシアが口を開き始めた。

「これで…これで新世界は保たれる…。我が魔力で世界を覆い…貴様らを葬る!」

ゼオンが即座に分析する。

「こいつ!自爆する気か!逃げてもひとたまりもないぞ!」

「私の魔道障壁で抑えられますか!」

「無理よ!これほどの力!絶対に抑え込めないわ!!」

仲間達が焦る。そんな中ガクトは静かに喋り始めた。

「俺には唯一使える魔法がある。なるべくこれは使いたくなかった。でも、今こそこの力に頼る時なのかもしれない。」

シャドウだけは状況を察し、止めようとした。

「おい、まさかお前あれを使う気か!やめろ!そんなことをしたらお前は!!」

「大丈夫。あの程度の代償、たいしたことない。俺の唯一使える呪文。それは禁忌呪文アルター。自分の願いを一つ叶える代わりに、自分自身をランダムな別の世界線へ移動させる代償がある。場合によっては追加で何かしらの代償があるらしいが、今はこれしかない。みんな、この世界を頼むな!」

仲間達は涙ぐみ、リザは必死に止めようと走るがガクトの決意は決まっていた。ヴォイスはリザを抑え、ガクトの呪文に全てを託す。

「禁忌呪文アルター!メシアを滅ぼし、世界を元の世界へと再構築しろ!!」

ガクトが手をかざし、呪文を唱えると一瞬にして辺りは白く光り輝き、闇は消し去った。光が晴れる瞬間、一瞬だけガクトの顔が見えたが、彼はただ余裕そうに笑っていた。

 

そして世界は完全に作り変わったのだった。





時は経ち、ハインスラシア同盟王国の新たな幕開けを祝して、式典が行われた。
「では、続いてリザ王女のスピーチです。」
王室補佐になったヴォイスはマイクを渡し、リザは民衆へと声をかける。
「私たちは、1人の最強の騎士団長によって命と世界を救われました。彼の名前はガクト・アーデルシュラウド。今もこの世界のどこかにきっといます。そこで私は、彼を騎士団長兼国王に、任命したいと考えています!この同盟王国は、彼を探すための組織を結成し、必ず彼を見つけ出します!そしてこの世界を救った英雄として!皆さんの上に立っていただきたいのです!」
民衆は大きく歓声を上げる。
「彼は!民衆の盾です!皆さんを守り、安寧を約束してくれるでしょう!どうかこの世界に!光があらんことを!」
大きな歓声が鳴り響き、スピーチは終わった。
ガクトがいなくなってからの世界は、あらゆる島が協力するようになり、リザは国王代理に、カルナは副騎士団長に、ヴォイスは王室補佐に、ルリナは騎士団栄誉騎士に、ムラマサは戦闘指揮官に、カスミは戦闘指揮官補佐に、ディアは騎士団団員、シャドウはルミナスが経営していたバーを受け継ぐことになったのだった。
そして、リザの宣言通りガクトを探すことになった。
「こんなところか。必ず見つけ出して連れてくるさ。何年かかろうがな。」
「機械の体を持ってるとはいえ、世界線移動にはかなりの体力を消耗する。気をつけろよ、ゼオン。」
ゼオンはガクトを探すため、世界線移動装置を持ち、シャドウに忠告されながらも時空間を超えた旅へと出発したのだった。

一方その頃ガクトは一体どうしているのか…
それは誰にもわからなかった。

「ここは…一体…僕は…誰だ…?」
銀髪の青年がそう呟きながら目を覚したのは、監獄の中だった。


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外伝 エンプティーフューチャー
第一話 シニガミ


人間が西暦を数えるのをやめた時代。それは人間の終わりを表すのと同義だった。宇宙に存在していた数多の動物達は、突如無差別に生命を襲う鎧鬼へと変化を始め、その鎧鬼に殺されたものは自らもまた鎧鬼になってしまう。残された人類はおよそ1万人。その少ない命を守るために鎧鬼討伐隊が結成された。


「おい!起きろ!討伐の時間だ!」

今日も最悪の目覚ましで目が覚めた。開発部隊の隊長フュラスの通達だ。私はアルシア。アルシア・ダスト。最強と呼ばれる鎧鬼討伐隊の第一部隊シニガミの隊長だ。最強の部隊と言いつつも、2人しかいない。私とモカの2人だ。モカは私が面倒を見ている妹みたいなもんだ。自己紹介は置いといて、ともかく出発しなきゃいけないらしい。

私は開発部隊が作った人工栄養食の紅茶を手に取り、口に運ぶ。いつもと変わらない味、かなり上等。もちろん本物の紅茶なんて飲んだことないけど。

「おいモカ、起きろ。時間だぞ。」

「んん〜…アルシア様ぁ…もう少しだけ寝かせて…。」

「バカ言ってんな、さっさと仕事しに行くぞ。」

「ちぇ〜…もっとアルシア様と一緒に寝たかったのに…!」

「めんどくせーけど、平和な未来のためだ。行くぞ、モカ。」

私はモカを連れ出して、鎧鬼の目撃場所へと向かった。

いつも通り荒廃した世界にはそこら中に鎧鬼が沸いている。私の刀とモカが使役する機獣で片っ端から片付けていると、奥から1人の青年が現れた。

「すごいすごい!ボクのライバルようやく登場かなぁ、オセ、シトリー?」

「アルト様。このような人間など、アルト様の力には及びません。」

「わ、わたしも同意見です…!」

アルトという名の白髪の青年は、冷たい表情へと変わり、人間に近い鎧鬼の男オセと人間の女シトリーの首を掴み、静かな声で怒りを露わにする。

「ボクがライバルって言ってんだから、オマエ達は従っておけばいいんだ…。」

2人はすぐに頭を下げ、アルトの横に並ぶ。アルトが手を叩くと、数百体の鎧鬼が召喚された。

「第二部隊ホープ!第三部隊クロカゲの報告により参上した!これより鎧鬼討滅作戦を遂行する!」

30人ほどの部隊、ホープがリーダーのロックスを筆頭に鎧鬼たちと戦い始める。

第二部隊は数で制圧する部隊。第三部隊は諜報活動をメインとするサポート部隊。

シニガミの2人は加勢し、一気に叩いた。鎧鬼たちはすぐに消滅し、アルトたちはその場から立ちさっていた。

「片付いたけど、私たちが戦うべきはあのアルトとかいう男なんだろうな、モカ。」

「そうですね、ウチも同じこと思ってたんです!」

すると2人の戦いを見ていた開発部隊の男が近寄ってくる。

開発部隊は荒廃都市サラーシアを作り、この世界唯一の人が暮らす施設や、装備などを1から作っている部隊。

「君たちのためにキューブとドリンクを持ってきた。」

彼は開発部隊のリーダーであり、この世界の基礎を作ったと言っても過言ではない男、そして私にとって最悪の目覚まし時計でもある男、フュラスだ。

「ありがと。受け取っとく。アンタの研究データには、あのアルトとかいうやつのこと、ないの?」

「当然あるさ、彼を作ったのは私だからな。」

アルシアとモカは沈黙の果てに大きな声を上げた。

「はぁ!?」



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第二話 マッドサイエンティスト

フュラスの発言に驚きを隠せないシニガミの2人は、彼に説明を要求した。するとフュラスは過去を語り始めたのだった。


「あれはいつだったか、私は研究の果てに人工生命体を作り出すことに成功してね、彼は私の子供のように扱っていたんだ。その名がアルト。だがいつの間にか、アルトは鎧鬼と名付けた魔物を生み出し、操るほどに自我を持ち始めてしまった。私は世界に退屈していてね、この世界を滅ぼす覚悟で生み出したのだが、どうやらアルトはその意志を受け継いでしまったらしい。しかし飽き性である私はそんなアルトを最高の敵と捉え、鎧鬼討伐隊を組織したのだよ、そして君たちは選ばれた。これが今君たちが置かれている現状さ。アルトが連れていた2人のうち1人は、高成長した鎧鬼そのものだが、もう1人は同じ開発部隊にいた人間、名をシトリーと言う。彼女はアルトに気に入られたようでね、仲間として行動するしかなくなっているようだ。」

シニガミの2人は絶句する。とんだマッドサイエンティストだった。

鎧鬼を片付け、後処理をしていた第二部隊、第三部隊にはその事実を隠し、シニガミの2人でアルトを止めようと考えた。

それだけ伝えると、またふらっとフュラスは帰ってしまったのだった。

「アルトはただ世界の破滅を求めてるだけの子供みたいなもんだろ、早く楽にしてやらないとな。」

すると2人の背後から男が声をかける。

「なかなかの腕だったな、2人とも。」

「誰だ!アルシア様に近づくヤツは殺す!!」

「落ち着けモカ!見たことない人間だ、まずは話を…って人間?機獣か?」

その男は全身が機械で出来ており、マントのようなものを羽織っていた。

「俺はとある男を探していてな、世界線を渡り歩いている。今ここに来たのは1456回目の転移だな。」

何を言ってるんだと思いながらも、2人は黙って彼の話を聞く。

「俺にはそれなりの戦力がある。そこでだ、俺は君達に力を貸そう。その代わりに君達の力を俺にくれないか?」

彼に協力してもらう代わりに、シニガミの2人はこの世界を救ったら、彼に着いていくという約束だった。

「面白い、平和な世界にしたら、あとはアンタと世界線ってのを移動できるんだな、私はそういう体験を求めてたんだ、いいぜ、モカは?」

「ウチはアルシア様が良ければそれでいいので!よろしく!名前は?」

「俺はゼオン。よろしくな。そうと決まれば、すぐにでも救うか、この世界を。」

ゼオンと協力関係になったシニガミは、アルトを探し始めた。

アルトを探している間に、シニガミの2人にはゼオンが来た世界のことを話したりして打ち解けた。

 

そしてアルトは現れたのだった。



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第三話 ミッションコンプリート

世界を救うために戦いを決意した3人のもとに、アルトはオセとシトリーを連れて現れたのだった。


「ボク達の邪魔をするなら、キミ達から先に消すことにするよ!」

アルトは大量の鎧鬼を召喚し、3人へ向かわせる。その鎧鬼達を先導するようにオセは武器を構え、突撃する。

「迎え打つぞ!アルシア!モカ!」

ゼオンの号令でそれぞれ刀と杖を持ち、臨戦態勢に入る。

アルシアの刀は火花を散らしながら鞘から飛び出し、辺りの鎧鬼を一掃する。そのままモカも杖で機獣を召喚し、現れた機械の龍は全てを焼き尽くした。

瞳は赤く発光し、目にも止まらぬ速さで鎧鬼達を蹴散らすゼオン。そんな3人を見て、アルトは苛立ちを覚える。

「どうして、どうして邪魔をする!世界が壊れるのを見たいだけなんだ!ボクは!博士の代わりに!!」

「その博士がお前を始末しろってさ、残念だけど、それがアンタの宿命だよ。かわいそうに。」

アルシアはそう言って、一気に距離を詰める。しかしアルトは後ろに下がり、叫び始める。

「いやだ!いやだ!ボクは…ボクの生まれた意味は!ボクは!どうして生まれたんだ!」

アルトの周りを紫色のオーラが渦巻く。オセとシトリーはそれに吸い込まれていく。

「くっ!これは一体!アルト様!!」

「これが…私の償いになるなら…。」

2人はアルトに吸い込まれ、融合してしまった。そして純白だったアルトの体はまるで鎧を纏った怪物の姿に変わり、3人へ襲いかかる。

「まずは足を狙え!巨大な生物は動きを封じろ!」

ゼオンの指示通り、アルシアは刀で足を狙う。

「モカ!お前は翼を落とせ!その龍ならきっとやれるはずだ!」

「ウチに指示すんな!」

そう言いながらも、機龍を飛ばし、アルトの翼へと向かわせる。

アルシアの刀とゼオンの爪は瞬く間にアルトの足の関節を切り落とした。当然アルトは立てなくなり、バランスを崩す。その隙を狙い、モカの機龍はアルトの翼を巨大な爪で切り落とす。

アルトはそのまま倒れ込み、元の姿へと戻る。

「まだだ…ボクは!こんな呆気なく終わるわけには!!いかない!」

アルトの体を鎧が覆い、手には2つの剣が現れる。

アルシアとモカを容易く蹴り飛ばし、ゼオンに向かって切り掛かる。

「チッ!仕方ない!!俺も本気を出させてもらうぞ!『機狼転換・完全武装(きろうてんかん・フルアーマー)』!!」

ゼオンの機械の体の上にさらにアーマーが生成され、顔は完全に覆われ、フルフェイスのメットが付く。

「いくぞ!!」

従来の10倍近くのスピードで動き、アルトの双刃を寄せ付けず、全て弾きながら、彼の腹部を手についた鉤爪で貫く。

「タイムオーバーだ。やはり持って15秒ってとこか…!」

ゼオンの体は元に戻り、ふらつく。魔力を全て使い果たしたようだ。

アルトは声も上げずに消滅し、世界から鎧鬼は消え去った。

そして時間はすぎ、朝がやってきた。

 

フュラスは何事もなかったかのように、都市の復興へと勤しんでいた。アルシアとモカはそれを見て、少し呆れながらゼオンの後ろを着いていく。

「確認するが、本当にいいんだな?お前たちはきっともうここには戻ってこれない。俺たち騎士団の仲間になるんだ。」

「構わない。アタシは退屈してたところだしな、団長様兼国王様をお守りするまでは死ねないしな。」

「アルシア様がそうするなら。ウチも。」

「飲み込みはやいなお前ら…。んじゃ行くぞ。」

ゼオンの手に握られた転移装置に2人は手を合わせる。

3人は、世界を救い、別の時空間へと渡って行ったのだった。



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Justice Shield 第三部
第1話 監獄の研究所


銀髪の青年は、突然目を覚ます。そこは監獄の中だった。


「僕は…一体誰だ…それにここは…?」

辺りを見回すと、同じ牢獄には数人他の人がいたようだった。しかし、皆倒れている。起きているのは一人だけだ。

「おぅ、目が覚めたか!ここは終末世界イクリプス。そしてそのとある研究所の中にある監獄だ。俺にもそれ以上のことはわからねぇ。」

話しかけてきた男は、赤い機械の体を持っており、その姿はまるでロボット。とても人には見えなかった。

「俺はライオット!機械の体にされちまった実験体だ。お前さんは割と前からここにいたんだが、ようやく目覚めたってところだな!」

「周りの人たちは…?」

「お前と同じコードを植えられて全滅した実験体たちだ、負荷に耐えられなかったんだろうな、お前さんは成功例ってとこだ。」

何を言ってるのか分からなかったが、彼の話を聞いてみる。

どうやら、この世界では人間はとある研究者の実験の道具であり、最強の異能力、血液(コード)と呼ばれるものに適合できる人間を作り出しているらしい。

「僕は…その力を植え付けられたのか…?」

「そういうことになるな、お前は『デーモン・コード』。血液の中でも最強の力と言われているらしい。俺みたいな血液移植の対象にすらならなかった人間からすると、羨ましい力だぜ。」

その名前を聞いた途端、恐ろしさを感じるほど、脳内に鮮明に力の使い方、何もかもが流れ込んでくる。

「ところでお前さん、名前も覚えてないのか?記憶はないみたいだが。」

「…わからない。」

そんな会話をしていると、突如研究所を爆撃が襲う。

「なんだ!!」

ライオットが慌てて外を見ると、研究員の女性が男に脅されていた。

「どこだ!!デーモン・コードを持った実験体は!!」

男の手からは炎が出ており、辺りを焼け野原にしていた。恐らく生き残ったのは研究員の女性を含めて3人。青年はライオットと共に救出に向かう。

「ここだぜ!デーモン・コードは!」

ライオットが高らかに叫ぶ。すると男はすぐに名乗り始めた。

「そうか!俺はレイ!フレイム・コードを持っている!!デーモン・コードは俺が頂くぞ!『フレイム・コード:業火』!!」

男がそう唱えると、手からとてつもない量の炎が現れ、青年に向けて放出する。

「…『デーモン・コード:シールド』。」

青年の前に赤黒い禍々しいオーラを纏った巨大な盾が現れる。業火を受け止め、それを反射する。

「このまま追撃する…『デーモン・コード:スパイク』!!」

青年の腕を、棘が覆い、その手でレイを殴る。レイはそのまま倒れ込み、瀕死状態になった。

「これで終わり…『デーモン・コード:ソード』!」

青年の手に剣が現れ、レイの心臓を突き刺した。そのままレイは倒れた。

研究員の女性は青年に抱きつき、感謝を述べる。

「ありがとう…助かったわ…!私はモモ。あなたたちを研究してたここの研究員。悪いとは思ってる…実験なんてしてしまって、でも所長の命令なの…ごめんなさい!私にできることならなんでも協力させて。」

ライオットは青年の正体と、血液についての説明を頼み、モモは語り始めた。



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