黒魔導士の血脈 (永遠の炎)
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プロローグ
運命の分岐点


プレヒトがオーガストを捨てなかったら?

これはそんな「もしも」のお話。


 X697年、アースランド

 

 イシュガル大陸の永世中立国・フィオーレ王国、マグノリアの街にギルドホームを構える魔導士ギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)。そのギルドの地下にて二代目ギルドマスター、プレヒト・ゲイボルグは思い悩んでいた。

 

「………そんなバカな……この反応は……」

 

 アンクセラムの黒魔術。別名矛盾の呪い。対象者を不老不死とし、その者が生命を尊く思えば思う程、周囲の生命を奪うという呪い。生命を奪わない為には生命の尊さを忘れなければならない。

 しかしその呪いによって不老不死になったはずが、死んでしまった女性がいた。

 

 メイビス・ヴァーミリオン。フィオーレ王国の魔導士ギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の初代ギルドマスターだ。

 いや、もしかしたら生きている可能性はある。少なくともその心臓は生きている。動いてはいないが微かな魔力は残っていた。故にプレヒトは意識を失ってしまったメイビスを蘇生する為に蘇生用の魔水晶(ラクリマ)の中に彼女の身体を封じた。

 

 彼女を蘇らせる研究の傍ら、プレヒトはある重大な事実に気付いた。

 

「メイビスの体内に生命が……」

 

 動かなくなったメイビスの身体の中に新たな生命が芽生えていたのだ。つまり彼女は子供を身篭っていた。

 彼女の見た目は幼く可憐な少女だが、それは不老不死だから。ちゃんと成長した上で生きていれば二十代前半といったところだろう。そこは問題ではない。

 

 アンクセラムの黒魔術によって呪われた状態で身篭ってしまっていたのが問題なのだ。

 

「………放っておくべきか…殺すべきか、生かすべきか……」

 

 今メイビスの中にある赤子がアンクセラムの呪いによって今にも死んでしまうかもしれない。無事に取り上げる事ができたとしてもその子供もまた母同様にアンクセラムの呪いにかけられているかもしれない。

 

「殺すか、生かすか、殺すか……」

 

 もし、赤子もその呪いにかけられていれば殺す手段などない。それは分かっている。最悪なのはその赤子からアンクセラムの呪いによる死の捕食が解き放たれるかもしれない事だ。

 

「………生かす…か…」

 

 結局プレヒトは非情になりきれなかった。自分にとっても恩人であり、大切な仲間であるメイビスの子をあのまま放ったらかしにする事も殺す事もできずに出産の時を迎えてしまった。

 

「メイビスの子……父親はゼレフなのか……」

 

 取り上げた子供を見てプレヒトは頭を抱えた。この赤子にはありとあらゆる問題が付き纏っている。

 

「しかしいつの間に……いや、メイビスもこう見えて成人の女…。問題はそこではない。この子をどうしたものか……」

 

 幸い生まれた赤子にはアンクセラムの呪いはかけられてはいなかった。それは良い。しかしまた別の問題が沸いてしまった。

 

「光とも闇ともつかぬ強大な魔力……生かしたのは過ちか……」

 

 メイビスと黒魔導士ゼレフ。ある種の魔法における天才二人の間に生まれた子供。故に生まれ持ったその魔力は赤子という事を度外視してもあり得ない程に強大なものだった。

 

 こんな強大な魔力を持つ子供を正しく教え導けるのか……。プレヒトにはそんな不安があった。それにメイビスは既に死んだと公表している。彼女の蘇生が叶うならば話は別になるが、この子の出自をギルドの仲間達にどう伝えれば良いものか。

 

「………どうする?」

 

 メイビスの子を殺す事はできない。ならば捨てるか?育てるか?

 

 ここが運命の分岐点となった。ここで捨てるという決断を下された子供は疎まれ、誰からも愛される事なく、無の境地へと至った。

 しかし、この世界では違った。捨てられたという「もしも」が存在するならば、捨てられなかった、育てられたという「もしも」もまた存在するのだ。

 

 そしてプレヒト・ゲイボルグはその赤子を育てるという『選択』をした。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 ぼくにはうまれたときからのきおくがありました。なんでしっているのかというと、ぼくにはそれだけのまりょくがあったから。

 

 ぼくのなまえはぼくのおとうさんとおかあさんがはちがつにであったことからなづけられました。

 

 おかあさんはもうこのよにはいなくて、おとうさんはぼくのことをしりません。でも、それでもよかったのです。

 

 プレヒトはおとうさんもおかあさんもいないぼくをそだててくれました。ギルドのみんながかぞくだとおしえてくれました。だから、おかあさんがもういなくても、おとうさんにあえなくても、ぜんぜんさびしくはありませんでした。

 

 ぼくはこどものときからしあわせでした。マカロフとヤジマ、ロブというおともだちができました。

 ボブ、ゴールドマイン、ポーリュシカにレイス……みんながおともだちであるとどうじにかぞくでした。おかあさんがつくってくれた妖精の尻尾(フェアリーテイル)がぼくのかぞく。なによりもいちばんたいせつなものでした。

 

 プレヒトとウォーロッドはぼくにとってのおやでした。ちのつながりがなくても、かぞくになれるとおしえてくれた。ぼくをそだててくれた。だからゼレフとメイビスがうみのおやなら、プレヒトとウォーロッドがそだてのおやです。

 

 そしてつきひがながれてギルドをやめてしまうひとや、しごとでしんでしまうひともでてきました。それでもギルドにあたらしくくるひとみんながかぞくです。

 

 プレヒトはマカロフとぼくに妖精の尻尾(フェアリーテイル)をたくしてたびにでました。にどとかえってはこないとぼくにはわかりました。

 

 だから、これからはぼくとマカロフがギルドのこどもたちのおやです。

 

 ぼくはギルドでそだちました。ギルドのみんなにそそいでもらったあいじょうを、けっしてわすれません。ぼくも、ギルドのこどもたちにあいじょうをそそいでいきていきます。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ??年後

 

 マグノリアの街の秋の収穫祭。この時期になるとこの街にギルドホームを構える魔導士ギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)幻想曲(ファンタジア)という一大パレードを行う事が伝統となっている。

 

 幻想曲(ファンタジア)とはギルドの魔導士達が総出で魔法によるパフォーマンスを行うという形のパレードだ。

 

「じーちゃん!見て見て!今日の幻想曲(ファンタジア)で俺これ着るんだ!!」

 

「……うむ。似合っておるぞ、カキ」

 

 目の前の少年に「じーちゃん」と呼ばれた老人はニッコリと笑いかけながら頷く。どうやらこの老人と少年は祖父と孫の関係のようだ。

 孫……カキという少年ははしゃぎながら祖父に嬉しそうに今夜の幻想曲(ファンタジア)での衣装を見せつけていた。

 

「あとねあとね!昔ラクサスがマスターに言ってたらしいんだけど、俺もパレード中にじーちゃん見つけられるか分かんないから、このポーズ取るから!」

 

 カキは右手を上げて人差し指を上空に向けて立てた。親指は別方向を真っ直ぐに指している。それを見てカキの祖父は数年前の幼馴染の自慢話を思い出す。

 

「そいつは確か、マカロフが自慢しておった……」

 

 姿が見えなくとも、遠く離れていようとも、いつでもをギルドの仲間を、家族を見ている。ずっと見守っている。そんな意味が込められたルーティンだ。

 歳のせいか、涙腺が緩む。あんなに小さかった孫が幼いながらもこうしてギルドの魔導士となって立派に幻想曲(ファンタジア)に参加しようとしている。自分も歳を取る訳だ。

 

 ニカッと笑うカキの頭を祖父は力強く、しかし優しく撫でる。

 

「俺、頑張るから!見ててね!じーちゃん!!」

 

「うむ!ちゃんと見ておるぞ!」

 

 オーガスト・ヴァーミリオン。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士として隠居後、幻想曲(ファンタジア)にて孫の晴れ舞台を観る。




ナツは夏、オーガストは8月……ゼレフの血縁者の名前は夏の季節から来てるので主人公は「夏季」にしました。ゼレフに会ってないのに「オーガスト」の名前を付けられたのはご都合主義です。
んん?ファントムのジョゼとか天狼島でのハデス戦とか、逆にどうやって苦戦すれば良いのかな?

オーガスト・ヴァーミリオン
聖十大魔道序列一位。妖精の尻尾(フェアリーテイル)初代マスターメイビスの息子にして主人公の祖父。プレヒトに捨てられる事なく、血の繋がった親はいなかったものの、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を家族とし、確かな愛情を注がれて育った。マカロフとは幼馴染。アルバレス建国などに携わってないので原作より“若干”実力は劣る。

カキ・ヴァーミリオン
主人公。妖精の尻尾(フェアリーテイル)初代マスターメイビスの曾孫。オーガストの孫。外見は特に考えてないけどメイビス譲りの鮮やかな金髪である事だけは間違いない。年齢とか諸々は下記のアンケートの結果次第で決めます。


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魔人達との出逢い

ヒロインは断トツトップでミラジェーンに決定しました。因みにヒロインによって主人公の年齢(原作開始時)と使用する魔法も変わる予定でした。

サブタイはストラウス兄弟姉妹全員の事を表そうとしたけど、リサーナの呼び名が上手く思い付かなかった。エルフマンは「漢」で済むんだけどな。

ちょっとダイジェスト感あるかも?


 X778年、妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

「辺境の村の悪魔?」

 

「うむ。何やら良からぬ噂が絶えん。何でも悪魔に呪われた一家が村を滅ぼす……などという話が横行しておる」

 

 ギルドで食事をしながらカキは祖父のオーガストからあるクエストへの遠征を命じられる。それはカキが使用する魔法に起因する。

 

「その悪魔を倒してくれば良いのか?」

 

「いや、どうにもキナ臭い噂でな。子供が悪魔に憑かれたらしく、その子供諸共討伐して欲しいという依頼なのだ。評議院の方でも扱いに困っているようだ」

 

「何それひっでーの。つか正規ギルドにそんな依頼出すかフツー」

 

 悪魔に憑かれた子供を始末しろなどという依頼はそもそも評議院から認可などされない。闇ギルドに回されるような仕事だ。しかし認可しなければしないとしてもそのまま放っておく訳にもいかない。故にカキにこの話が来たのだろう。

 

「まずは真相を確かめて来い。場合によってはその村からギルドに連れて来た方が良いだろう」

 

「分かった。確かに俺しか適任はいないわな」

 

 色々と引っかかる点は多いが、正にそこを調べる事が今回の依頼という事だろう。カキは立ち上がると荷物を纏めてギルドの出入り口に向かう。

 

「カキー!勝負しろぉーー!!…へぶっ!?」

 

 その途中で一年程前にギルドに入ったカキと似た系統の魔法を使う子供が手に炎を纏って殴りかかって来たが、カキは彼を一瞥する事すらなく、適当に裏拳でぶっ飛ばして瞬殺。そのまま何事も無かったかのようにギルドを後にした。

 

「ハハハッ!ダッセーなナツ!てかおまえがカキに勝てる訳ねーだろ!」

 

「んだとこのビビリパンツ!」

 

 背景で桜髪の子供とパンイチの子供が殴り合いのケンカをしているが気にしない。いつもの事だから。どうせこの後ケンカ両成敗で緋色の髪の女の子にシメられるのがお決まりのパターンなのだ。

 

「じゃ行ってみるか。その悪魔の村ってトコによ」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 件の村に到着したカキが抱いた印象は酷いの一言だった。ある一軒家を取り囲んで大人達が中にいる子供達へと退去を迫る。

 

「呪われた家族めーー!!」

 

「村から出ていけーー!!」

 

「悪魔憑きめー!!」

 

「いつまで村にいる気だーー!!」

 

「おまえたちがいる限り、村の厄災は終わらねえ!!」

 

 酷い罵声だった。どう考えても子供に向けていいものじゃない。中には家に石まで投げ込む者がいる始末。

 

(人間に取り憑く……いや、寄生か?どっちにしろじーちゃんが言ってた通りみてーだな)

 

 中にいる子供が悪魔に取り憑かれたといったところだろう。カキは家を取り囲む人混みに近付いていく。

 

「これは何の騒ぎだ?」

 

「あ?何だ坊主、この家に近付かねえ方が良い。ここには悪魔がいるからな」

 

「……俺はギルドの魔導士だ。評議院の要請でここに来たんだけど」

 

 取り敢えず探りを入れる為に適当な人に話しかけ、情報を得ようとしたが、それはある意味では取り越し苦労に終わった。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章を見せれば村人達は目を輝かせてカキの周りに集まった。

 

「おお!村長!皆!ギルドの魔導士さんが来たぞーー!!」

 

『おおおっ!!』

 

 完全に自分達が悪魔に怯える善良な村人であるかのように集まってくる。いや、本人達はそのつもりなんだろう。

 すると突如として家の窓が開かれ、小さな白髪ショートヘアの女の子が泣きながら顔を出した。

 

「教会で悪さしてた悪魔を退治したのはミラ姉なんだっ!!この村の為に悪魔をやっつけたのに……こんなの酷過ぎるよ!!」

 

 泣いていた。子供ならではの感情的な言葉だった。それ故にあの女の子が言っている事が真実である事はすぐに理解できた。

 

「悪魔をやっつけたのせいで悪魔に取り憑かれちゃったんだ……ミラ姉は悪くない!悪くないもん!!」

 

「……」

 

 そして中にいる姉と兄に引き戻されたのか少女は引っ張られて家の中に戻る。

 

「では魔導士さん、あの家にいる呪われた一家の討伐を……」

 

「……村長さん、報酬はいらねー。その代わりあの家にいる家族は、ウチのギルドで引き取る。それで文句は無いな?」

 

「え、いや……退治……」

 

「文句はねぇな?」

 

 ギロリと簡単に人を殺せそうな目付きで村長を睨むカキ。彼は頭に来ていた。あんな幼い子供達にこんな仕打ちが平然とできるこの村の人間達に強い憤りを覚えていた。

 

「は、はい……」

 

 その剣幕に押された村長は反射的に了承してしまう。討伐をごり押そうとすれば自分がやられる。本能的にそう悟ったのだ。

 カキは家を取り囲む村人達を遠ざけてから一度ノックをしてから返事を待たずに扉を開いた。鍵がかかっていたのを強引に壊してこじ開けているが……まぁ細かい事は気にしない。

 

「な、何だおまえは!?」

 

 鍵がかかっていた扉を破壊されて侵入してきたカキを見て白いロングヘアの少女が声を荒げる。恐らく先程窓から叫んでいた少女の姉にあたるのだろう。

 

「魔導士ギルドのモンだ。評議院の要請でこの村に来た」

 

「っ!や、やめて!ミラ姉を傷付けないで!!何も悪い事してないの!!」

 

 先程の女の子が必死に泣きながらカキの前に出てしがみ付く。見ればショートヘアの少女の兄であり、ロングヘアの少女の弟……つまり真ん中にあたるであろう少年は姉を守る為に彼女を庇うように怖いのを必死に抑えて立っている。

 

 姉として、弟であると同時に兄として、妹として……彼らは強い絆で結ばれているのが分かった。まるでギルドのように。

 元々彼らに危害を加えるつもりは無い。まずは話を聞いて貰わねばならない。

 

「……大丈夫。おまえもおまえの兄ちゃんも姉ちゃんも……誰も傷付けない。悪魔に取り憑かれたんだろ?その悪魔を何とかする為に来たんだ」

 

「……本当?」

 

「ああ。だからまず悪魔に取り憑かれたってところを見せてくれないか?それを見てどうにかする方法を考えないとな。えっと……」

 

「……ミラジェーン・ストラウスだ」

 

「そっか。そっちの二人は……」

 

「エルフマン……」

 

「リサーナだよ」

 

 少女二人と少年一人はまだ完全にカキを信用した訳じゃない。だが魔導士に姉の症状を一度診て貰うべきであるという事は分かったのか、恐る恐る長女の右腕を見せた。

 

「それは接収(テイクオーバー)っていう魔法だな。確か」

 

「ていく…おーばー?」

 

「簡単に言えば対象の力を自分に宿す魔法。悪魔に取り憑かれたんじゃなくて、悪魔を吸収したって感じかな。まだコントロールが効かないみたいだけど、別におまえが悪魔に身体を取られたりはしないよ」

 

 何でもないように語るカキの言葉に少女は愕然としながらも暫く黙り込む。そして数十秒後に緊張の糸が切れたかのようにへたり込んだ。

 

「良かった……」

 

「姉ちゃん!リサーナ!」

 

「うん!ミラ姉は取り憑かれてたんじゃないんだね!」

 

 エルフマンとリサーナは姉であるミラジェーンが無事だったと喜ぶが、ミラジェーンは少し違う。取り憑かれたと思っていた事による懸念が晴れたからだ。

 このまま悪魔に身体の全てを乗っ取られ、大切な弟と妹をこの手で傷付けてしまうのではないか。そんな不安が常々あった。

 だがそれは杞憂に終わった。それと同時にある思いが生まれた。目の前の魔導士は今の自分は悪魔の力をその身に宿していると言ったのだ。

 

(そんなの……いらない)

 

 自分は家族と一緒に幸せに暮らせればそれで良かったのだ。なのに悪魔の力を宿したばっかりに村八分…それ以上の扱いを受け、ドン底に落とされた。こんな力が無ければ……そう思わずにはいられなかった。

 

 ミラジェーンの浮かない顔からその心情を読み取ったのか、カキはミラジェーンの腕に手を伸ばす。

 

「……ちょいと失礼」

 

「な、なんだよ……」

 

 カキは少女の右腕に両手で抑えるように触れると掌から強い熱気を放出する。目に見える程の蒸気だが、その色は薄い紫色という異質なものだった。

 

「ちょっと熱いけど、我慢してくれよ。こんな時こそ悪魔を滅するこの力で……」

 

「っ…!」

 

 熱気を悪魔化したミラジェーンの腕に当て続ける。すると悪魔化した事でこの年代の少女としては一回りも大きくなっていた腕がみるみる小さくなっていく。

 熱気が収まるとミラジェーンの右腕は透き通るような美しい白い肌が顔を出す。禍々しい悪魔の腕は本来の人間としての腕の姿を取り戻した。

 

「………元に、戻った……」

 

「俺の魔法ならこの通り、表面に出た悪魔の力を抑え込むのは朝飯前ってね」

 

「何の……魔法なんだ?」

 

 カキは己の右腕に浮かび上がった黒い紋様を誇らしげに見せ付けながら答える。

 

「悪魔を倒す魔法、炎の滅悪魔法さ。俺はその使い手、滅悪魔導士(デビルスレイヤー)なんだ」

 

「デビル…スレイヤー……」

 

「凄い!ミラ姉の腕が戻った!」

 

「あ、ありがとう……。姉ちゃんを助けてくれて!」

 

 ミラジェーンは元の姿を取り戻した腕を茫然と眺め、リサーナとエルフマンは泣いて喜んだ。しかし喜んでばかりはいられない。

 ミラジェーンの腕の件が解決しても、外にいる連中からすればそんな事関係ないのだ。故にカキは問う。

 

「……これからどうしたい?」

 

「……もう、この村にはいられない。腕が戻ったって大人達は私達を追い出そうとする。例えそうじゃなくても、またいつあんな扱いされるか分からない。私だけならともかく、エルフマンとリサーナまであんな目に遭わされたんだ」

 

 その辺りの事は理解しているのか、ストラウス一家の表情は暗く沈む。今更掌返しされても嬉しくなどないが、どっち道この村に居続けても良い事なんて無いだろう。

 故にカキは提案する。というか既に決めていた。勝手に。

 

「そっか。じゃあ、俺の入ってるギルドに来ないか?」

 

「ギルド?」

 

「ああ。魔導士のギルドだ。おまえは既に接収(テイクオーバー)の魔法が使えるし、エルフマンとリサーナだったら魔法を使える素質はある。何なら、ギルドに入ってから学べば良い」

 

 カキの話を聞いてストラウス一家は考え込む。ミラジェーンもこの魔法についてまだまだ知らない事ばかりまたいつ腕があの禍々しい悪魔のものになるか分からない。故にちゃんと制御が効くようにしなければならない。

 だが不安もある。そのギルドがもしこの村人と同じような考えをしていたら……魔法という「力」のある者達が集うそこで今度こそ自分達は……。

 

「それに……おまえの腕を見て気味悪がる奴なんて、ウチのギルドにはいないぞ。ギルドに入れば皆仲間で家族なんだ」

 

「本当に……本当に大丈夫なのかよ!?」

 

「ああ」

 

 何の迷いもなく断言される。考え込む素振りすら見せない。何故そこまで自信を持って言えるのだ。

 百歩譲って目の前の魔導士は信用できたとしてもその仲間の全てが信じられる訳ではない。それ以前にハッキリさせておかねばならない。

 

 

「なんで……なんでおまえは見ず知らずの私達にそこまでしてくれんだよ!?」

 

 

「何言ってんだおまえ。目の前で泣きそうな奴らを放っておけるかよ」

 

 

 さも当然のように告げるカキの顔を見て、その言葉を聞いて、ミラジェーンは弟と妹がいるというのに、二人の為に強くあらねばならないと考えているのに、泣き崩れてしまった。

 

 それから簡単にこれからの方針について話し合った後、ミラジェーン、エルフマン、リサーナは簡単に荷物を纏めてカキに着いて行く事になった。行き先はフィオーレ王国の東側の街、マグノリアにある魔導士ギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

「じゃ遅くなったけど自己紹介だな」

 

 カキはニカッと新しい家族(仲間)に笑いかけながら手を差し伸べ、己の名、そして(ギルド)の名前を告げる。

 

「俺はカキ・ヴァーミリオン。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だ!!」




炎の滅悪魔法

対悪魔用のスレイヤー魔法。その名の通り悪魔を倒す為に用いられる。多分オーガストに教わったと思われる。
オーガストが滅悪魔法の修得方法知ってるのは多分父親の負の遺産である「ゼレフ書の悪魔」を息子として責任を持って処分する為とかなんとか今考えた。
それとも滅竜魔法みたいに魔水晶(ラクリマ)とかあんのかなコレ。
属性が炎なのはナツと同じく「夏」が名前の由来なので。

因みに各ヒロインルートでのカキの年齢(原作開始時)と使用魔法の内訳は以下の通りです。

ルーシィ…16歳、コピー魔法
エルザ…17歳、TCM
ミラジェーン…21歳、滅悪魔法
ウェンディ…14歳、滅竜魔法(第二世代)

ウェンディに関しては別でヒロインの小説始めましたが。


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鉄の森編
鎧の魔導士


もうちょっと原作前の話やろうかと思ったけど、上手く書けなかったのでもう原作入ります。

あとあるキャラについてまだ伏せておきたい事もあったので。


 X784年

 

 最近、以前から憧れていた魔導士ギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に加入した星霊魔導士のルーシィはギルドに出された依頼を掲示する依頼板(リクエストボード)で仕事を探していた。

 

「う〜ん、魔法の腕輪探しに、呪われた杖の魔法解除(ディスペル)、占星術で恋占い……火山の悪魔退治!?あ、コレ指名されてる。えと…カキって人宛てだ。それにしてもギルドの依頼って色々あるのね」

 

 するとギルドの看板娘であるミラジェーンがルーシィに声をかける。

 

「気に入った仕事があったら私に言ってね。今はマスターもオーガストさんもいないから」

 

「あれ?本当だ」

 

 いつもは揃って酒飲んで孫の自慢話合戦して笑ってる老人二人の姿が無い。その理由についてミラジェーンは述べる。

 

「定例会があるから暫くいないのよ」

 

「定例会?」

 

「地方のギルドマスター達が集って定期報告をする会よ。評議会とは違うんだけど、図にした方が良いかな?リーダス、光筆(ヒカリペン)貸してくれる?」

 

「ウィ」

 

 ルーシィに魔法界の詳しい組織図を解説する為、ミラジェーンは近くにしたリーダスという魔導士から空中に文字や絵を書ける魔法アイテム、光筆(ヒカリペン)を借りて解説を始める。

 

「魔法界で一番偉いのは政府との繋がりもある魔法評議院ERAの評議員10人。魔法界における全ての秩序を守る為に存在するの。犯罪を犯した魔導士を裁くのもこの機関なの。その下にいるのがギルドマスター。評議会での決定事項をギルドの魔導士達に通達したり、各地のギルド同士のコミュニケーションを円滑にしたり、私達を纏めたり。まぁ大変な仕事よ」

 

「知らなかったなぁ、ギルド同士の繋がりがあったなんて」

 

 分かりやすく説明を受けたルーシィは思わず感心してしまう。魔導士ギルドに憧れていたは良いが、どうやらまだ詳しい実情などは知らなかったらしい。

 

「ギルド同士の連携は大切なのよ。幽鬼の支配者(ファントムロード)はこれを大分疎かにしてるの。あそこは規模が他と比べて段違いだから大した襲撃を受けてないけど、基本的にはこれを疎かにしていると突け入る隙になるの。そうすると……」

 

「黒い奴等が来るぞォォォ!!」

 

「ひいいいいっ!!」

 

 ミラジェーンとルーシィの会話に後ろから入って驚かせる魔導士が一人。ギルドでもぶっちぎりの問題児、ナツ・ドラグニル。火の滅竜魔法を使う滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だ。

 ルーシィがこのギルドに入るきっかけにもなった魔導士だ。

 

「うひゃひゃひゃひゃ!なーにビビってんだよルーシィ!」

 

「もォ!おどかさないでよ!」

 

「ビビリルーシィ、略してビリィーだね!」

 

「変な略称つけんなっ!!」

 

 ルーシィに変な略称を付けたのは何故か喋る青い猫、ハッピー。彼も妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士であり、翼を生やして空を飛ぶ魔法を使う。

 

「でも黒い奴らは本当にいるのよ。連盟に属さず、評議院にも認可されていないギルドを闇ギルドっていうの」

 

「あいつら法律無視だからおっかねーんだ」

 

「あい」

 

「じゃあいつかアンタにもスカウト来そうね」

 

 良く仕事などの行く先々で建物を壊したり、全焼させたりと基本何かぶっ壊して逃げるという問題を起こすナツはある意味闇ギルドと大差無かったりする。

 

「つーか早く仕事選べよ」

 

「前はオイラ達が勝手に決めちゃったからね。今度はルーシィの番」

 

「冗談!チームなんて解消に決まってるでしょ」

 

 先日ナツとハッピーと共に行った初仕事の件でルーシィはかなり不満があったようで、組んだチームの解消を申し出てしまう。

 ナツとハッピーはその理由が分からないようだ。

 

「何で?」

 

「前回の仕事、金髪の女だったら誰でも良かったんでしょ!?」

 

「何言ってんだ。その通りだ」

 

「ホラー!!」

 

 おまえが何言ってんだと言いたくなるナツの肯定の言葉にルーシィは怒り心頭。しかし屈託無い笑顔で述べられた次の言葉に怒りは消え失せてしまう。

 

「でもルーシィを選んだんだ。良い奴だから」

 

「……もう」

 

 するとギルドの入り口の方から大きな声が響いた。

 

「ただいまー!」

 

 ギルドに入って来たのは金髪の青年だった。その姿を確認したギルドのメンバー達は一斉に騒ぎ出した。

 

「カキじゃねぇか!!」

 

「おおっ!帰って来たか!!」

 

「何ィ!?カキー!俺と勝負しろぉーー!!」

 

「いきなりだねナツ……」

 

「S級を一週間で片付けて来たのか……」

 

「流石は兄貴!漢だ!!」

 

 カキ・ヴァーミリオン。このギルドでもトップクラスの実力を持つ魔導士だ。ルーシィも週刊ソーサラーの記事で彼の事を何度か見た事がある。

 

(確か異名は……炎魔(イフリート)、だっけ。ナツと同じ火の魔導士かな?)

 

 仕事から帰って来たらしいカキはまっすぐルーシィ達…正確にはミラジェーンのいるギルドのカウンターの方へと歩いて来て、荷物を床に置いた。するとミラジェーンが笑顔でカキに話しかける。

 

「カキ、お帰りなさい」

 

「ただいま。ミラ、なんか飯作ってくれ。腹減ってさ」

 

「あらあら。分かったわ。ちょっと待っててね」

 

 いつも笑顔のミラジェーンだが、ルーシィにはカキと話している時はどうも少し雰囲気が違うように見えた。何というか生き生きしているというか、嬉しそうだ。

 ミラジェーンに料理を頼み、ギルドのカウンターに座ったカキは自分達の様子を見ていたルーシィに気付いた。

 

「ん?見ない顔だな」

 

「新入りのルーシィです!よろしくお願いしますカキさん!」

 

 先日、カキはギルドに星霊魔導士の新入りが入ったという話を聞いた。仕事の都合で中々その新入りとの顔合わせは叶わなかったが、どうやら今回は丁度居合わせたタイミングで帰って来れたらしい。

 

「そっか。噂の新入りは君か。さん付けも敬語もいらねーぞ。俺はカキ・ヴァーミリオンだ。よろしくな」

 

「カキー!勝負しろっつってんだろーー!!」

 

「ナツおまえ、そればっかだな」

 

 空気を読まずに両腕に炎を纏って飛びかかってきたのはナツ。

 まぁそんな突撃、カキには通用しない。飛びかかってきた所をタイミングを合わせて顎にアッパーカット。ぶっ飛ばされたナツは宙を綺麗に舞いながら後ろのテーブルに激突。というか落下。

 何はともあれカキはあっさりとナツを返り討ちにした。

 

「ぐぱーーー!?」

 

「だはははっ!ダッセーぞナツ!」

 

「んだとコラァ!!挑む勇気もねぇ癖に好き勝手言ってんじゃねーぞ変態野郎!!」

 

 瞬殺されたナツを笑うのは彼にも引けを取らない問題児、グレイ・フルバスター。氷の造形魔導士。あと何故かすぐに服を脱ぐ露出魔である。彼はどうもナツと些細な事で大喧嘩する程仲が悪く、ほぼ毎日のように殴り合いの喧嘩を繰り広げている。

 

 とにかく馬鹿にされたナツはグレイに食ってかかり、グレイはグレイで変態呼ばわりされたのが気に食わないのか、ナツに向かってメンチを切る。パンツ一丁で。

 

「アァ?今変態っつったか釣り目ヤロー!!」

 

「事実だろーがタレ目ヤロー!!」

 

「うわ〜、レベル低……」

 

「それがナツとグレイです」

 

「相変わらずだな。この調子じゃ今年も受験できねーんじゃねーの?」

 

 ナツとグレイのやり取りに呆れていると指輪の魔法を使うロキがいつものように今度はルーシィに対してナンパを仕掛けていた。

 

「ルーシィ、僕と愛のチームを結成しないかい?今夜二人で」

 

「嫌よ」

 

「君って本当綺麗だよね。サングラスを通してもその美しさだ。肉眼で見たらきっと目が潰れちゃうな……。ははっ」

 

「潰せば?」

 

 週間ソーサラーでは彼氏にしたい魔導士ランキングでも上位ランカーのロキだが、ルーシィは一向に靡かない。大体の女の子はロキに口説かれて骨抜きにされる事が多いので珍しいと言えよう。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の女魔導士は基本ロキの口説きをスルーする傾向にはあるが。

 

 ジャラリとルーシィが腰に下げていた星霊の鍵がロキの目に映る。すると分かりやすくロキは狼狽える。

 

「も、もしかして君、星霊魔導士!?」

 

「そうだけど?」

 

「お?金色の鍵。黄道十二門と契約してんのか。しかも三つ」

 

「な、なんたる運命の悪戯!ごめん、僕達はここまでにしよう!!」

 

 そう別れを告げてロキは逃げて行った。残されたルーシィはただ困惑するのみ。

 

「何か始まってたのかしら……」

 

「ロキは星霊魔導士が苦手なんだとよ。理由は知らねーが」

 

「どうせ昔女の子絡みで何かあったのよ。それよりカキ、お待たせ!」

 

「おう。サンキューなミラ。……ロキの奴、その内背中刺されんじゃねーかな?」

 

 ミラジェーンが作ってくれたパスタを口に運びつつ、カキは女関係で近い内に痛い目を見そうな仲間を案ずる。するとそのロキは慌てて帰って来た。

 

「なんか帰って来た」

 

「遂に刃物で襲われたか?」

 

「不味いぞ!ナツ、グレイ!」

 

「「あ?」」

 

 未だに喧嘩を繰り広げていたナツとグレイに対し、ロキは本気で恐怖に震えながら叫ぶ。

 

「エルザが帰って来た!!」

 

「「あぁ!!!?」」

 

 ナツとグレイの顔が恐怖に染まった。いや、彼ら二人だけではない。カキとミラジェーンを除くギルドのメンバーのほぼ全員がビビり散らしていた。新入りのルーシィだけが状況を把握できていない。

 

 ズシン……という化け物でも歩いているかのような足音が響く。そうしてギルドに入って来たのは巨大な角を片手で抱えた緋色の髪をした女騎士だった。

 

 彼女こそ妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の女魔導士、エルザ・スカーレットだ。

 

「今戻った。マスターとオーガストさんはおられるか」

 

「二人共定例会よ。クローバーの街に行ってるわ」

 

「そうか」

 

「つーかエルザ、そのバカでかい角は何だ?」

 

 誰もが気になっていた謎の角についてカキが尋ねる。

 

「これか。討伐した魔物の角に地元の者が飾りを施してくれてな。綺麗だったのでギルドへの土産にしようと思って持って帰ってきたのだ。迷惑か?」

 

「デカくてスペース取るからちょっと邪魔じゃないか?ギルドの中だとみんな暴れるからナツ辺りが壊しちまいそうだし」

 

「む。そうか……では置き場所を後で考えねばな」

 

(((カキがいて良かった〜)))

 

 ギルドの魔導士は大半がエルザを恐れてしまっている為、彼女に堂々と意見できる者は少ない。マスターであるマカロフとオーガストを除いてはカキともう一人くらいしかいないのが実情である。他にも彼女に臆さない者もいるにはいるが、こんな事で意見するなどガラじゃないような人物だ。

 

「それよりおまえ達、また問題ばかり起こしているようだな。マスターやオーガストさんが許しても私は許さんぞ」

 

 話の矛先はギルドの問題児達へと向かう。誰もがビクリと肩を震わす。エルザの説教は彼女の威圧感から一種のホラーも同然なのだ。

 

「カナ、何という格好で飲んでいる。ビジター、踊りなら外でやれ。ワカバ、吸殻が落ちているぞ。ナブ、相変わらず依頼板(リクエストボード)の前をウロウロしているのか?仕事をしろ」

 

 次々と名指しで説教される。名前を呼ばれた者はバツが悪そうに俯く。その姿はさながら風紀委員と注意される生徒の図である。

 

「マカオ!……はぁ」

 

「何か言えよ!」

 

 名前を呼ばれてもノーコメントで終わる者も偶にいる。

 

「全く世話が焼ける。今日のところは何も言わずにおいてやろう」

 

(随分色々言ってたような…)

 

 ルーシィはツッコみたかったが、何となく怖かったのでやめた。

 

「……ところでカキ、ラクサスはいるか?」

 

「いや、こないだ雷神衆を連れてS級クエストに行った。結構難しいのにな。経験積ませて今年の試験であいつらの内誰かに資格を取らせたいんだってよ」

 

「何ーー!?今年選ばれんのは俺だぞーー!!」

 

 話を聞いてたらしいナツが後ろで喚いているが無視。

 

(多分来年には10年クエストに挑戦するつもりなんだろうな。そん時は俺も同行するよう言われたし、S級三人いれば流石にマスターもじーちゃんも許可出すだろうって腹かな)

 

 目当ての人物がいないと知ったエルザは少し考え込むとすぐ近くにいた問題児二人に白羽の矢を立てた。

 

「ふむ。ではナツとグレイ」

 

「「あい!?」」

 

 名前を呼ばれた事で再び震え上がる火竜と露出魔。喧嘩をしていた先程とは打って変わり、肩を組んで仲良しアピールを始める。

 

「や、やあエルザ……お、俺達今日も仲良し…良く、や、やってるぜぃ」

 

「あい」

 

「ナツがハッピーみたいになった!!」

 

 ダラダラと冷や汗を流して棒読みな台詞を言うグレイだが、何故かエルザはそれをそのまま鵜呑みにする。

 

「そうか。親友なら時には喧嘩もするだろう。しかし私はそうやって仲良くしているところを見るのが好きだぞ」

 

 どう見ても不自然なのだが、エルザから見て震え上がって肩組んで仲良しアピールするナツとグレイは極自然なものらしい。その様子を見てカキは必死に笑いを堪えている。

 

「べ、別に親友って訳じゃ…」

 

「あい」

 

「こんなナツ見た事ないわっ!」

 

 大体みんなエルザが怖いのだ。ナツは昔喧嘩を挑んでボコボコにされ、グレイは裸で出歩いてのを見つかりボロ雑巾にされ、ついでにロキはエルザを口説こうとして半殺しにされたという説明をミラジェーンがルーシィに話す。

 

「実はカキとナツとグレイ、三人に頼みたい事がある」

 

「……頼み?」

 

「ああ。仕事先で少々厄介な話を耳にしてな。本来ならマスターかオーガストさんの判断を仰ぐところなんだが、いないのであれば早期解決が望ましい。三人の力を貸して欲しい。着いて来てくれるな?」

 

「え!?」

 

「はい!?」

 

「……俺は構わねーが、おまえ程の奴が助けを必要とする程なのか?」

 

「ああ。出発は明日だ。準備をしておいてくれ。詳しくは移動中に話す」

 

 誰も彼もが困惑する。あのエルザが誰かの助力を求めるところなど初めて見るのだ。それはカキとて同じ。流石にエルザから協力を求められるとは夢にも思っておらず、内心かなり驚いていた。

 

 ナツとグレイはあまりの事に言葉を失っている。そんな中、ミラジェーンはこの四人の組み合わせに何か思うところがあったようで驚愕を露わにしていた。

 

「カキにエルザに……ナツとグレイ。今まで想像した事も無かったけど、これって……妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強チームかも」



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その列車はナツを乗せて行く

お久しぶりです。またマイペースに更新していけたらいいなと思います。


 マグノリア駅にて、エルザの帰還から一夜明けた翌日、駅のホームでナツどグレイはいつものようにメンチの切り合いをしていた。よくもまぁ飽きないものである。

 

「何でエルザみてーなバケモンが俺達の力を借りてえんだよ」

 

「知らねえよ。つーか助けなら俺とカキで十分だっつーの!」

 

「じゃあオメーらだけで行けよ!俺は行きたくねえ!!」

 

「じゃあ来んなよ!そんで後でエルザに殺されちまえ!!」

 

 メンチ切って、安い挑発にお互いが乗って殴り合いの喧嘩を始めるナツとグレイ。その余波で周囲の露店を壊してしまう。そんな二人をルーシィが怒鳴って止める。

 

「迷惑だからやめなさい!もおっ!アンタ達何でそんなに仲悪いのよ!」

 

「ナツとグレイだからな。今更そこにツッコミを入れてもな」

 

 ルーシィの隣で傍観していたカキはナツとグレイを止める気は無いようで何処吹く風。どちらかと言うとこんなマイペースな連中を集めてエルザが何をする気なのか気になるので同行している。

 

「というかなんでルーシィがいるんだ?」

 

「ミラさんに同行を頼まれたの。ナツとグレイがエルザさんの見てないところで喧嘩するだろうから仲を取り持ってほしいって。だから仕方なくね」

 

 あくまで仕方なくと強調するルーシィ。それを見たカキは彼女がツンデレに見えた。

 

「本当は一緒に来たかったのか?」

 

「まさか!てか仲を取り持つならカキとハッピーもいるじゃない。私いらなかったんじゃ……」

 

「はっはっは!あの二人はアレで良いんだけどな。でも多分いらないなんて事はないぜ」

 

 ルーシィが同行する理由は分かったがハッキリ言ってあまり意味はない。カキの言う通りナツとグレイはアレで正常だからだ。しかしだからと言ってルーシィのいる意味がないわけではない。例えば……ツッコミとか。

 

「……何かしら。今かなり不名誉な扱いをされた気がするわ」

 

「ハッピー、こういうのなんて言うっけ?」

 

「自意識過剰って奴だよコレー!」

 

「アンタ達ね……」

 

 どこまでも自分をおちょくろうとするハッピーとそれに乗るカキ。もしかしてカキもナツやグレイと大差ないのではないかと思っていたら今回この問題児達をこの場に集めた女騎士が到着した。

 

「すまない。待たせたか?」

 

「荷物多っ!?」

 

「アレ全部食料らしいぜ」

 

「ええっ!?」

 

 一番遅れてやって来たエルザだがルーシィのツッコミ通り、異常な量の荷物を牽引していたハートクロイツ製のトランクを山程積み重ねて台車の上に固定している。そんなに何を入れているのかと思えばカキ曰く全て食料らしい。

 

「ん?君は昨日ギルドにいたな」

 

 エルザはそんなツッコミを気にする事なくルーシィの存在に気付く。一応会話自体は初めてなので自己紹介する。

 

「新人のルーシィと言います。ミラさんに頼まれ同行する事になりました。よろしくお願いします」

 

「そんな畏まる必要はねーし、敬語もいらねーぞ。ナツみてーに接した方がエルザとしてもやりやすいだろうし」

 

「ああ。さん付けもいらない。エルザで良い。それにしてもギルドのみんなが騒いでいた新人とは君の事か。傭兵ゴリラを指一本で倒したと聞く。頼もしいな」

 

「えっ!?」

 

「エルザ、違うだろ。傭兵ゴリラをお得意の星霊魔法で倒したんだろ?」

 

(補正してくれたのは有り難いけど倒したのナツだし!?)

 

 自己紹介からこんな事実とは異なる噂話が横行している事を教えられると誰が思うか。しかも結局誤解は解けてない。だがそんなのは序の口に過ぎなかった。

 

「あとミラから聞いたけど、エバルー公爵の31年に渡る悪事を暴いて汚い金で雪山に建てられた人工強化バルカンの屋敷を粉々にぶっ壊したらしいな。すげーじゃん」

 

「それ程とは……力になってくれるなら有り難い。よろしく頼む」

 

(どんだけ尾ヒレ付いてんのよーー!?しかも色々とごちゃ混ぜになってるし!?)

 

 何故か過大評価されている事に戦慄するルーシィ。ていうかなんだ人工強化バルカンの屋敷って。

 

「まぁ星霊魔導士なら戦力的な意味でも補助でも頼りになりそうだしな」

 

 星霊には多種多様な個体がおり、持つ魔法も千差万別。用途に応じて違う星霊を呼び出せるのは強みだろう。ルーシィがどんな星霊と契約しているのかは知らないが、エルザやカキにもできない事をできる可能性は大いにある。

 話が終わるとグレイとの喧嘩を一旦終わりにしたナツがズカズカとエルザの前にやって来る。

 

「エルザ」

 

「なんだ?ナツ」

 

「何の用事かは知らねーが、今回は着いて行ってやる。条件付きでな」

 

 その言葉にグレイ、カキ、ハッピーは少なからず驚く。普段からエルザにビビっているナツがそんな強気な発言をしたのだ。

 

(……いや、そんな驚く事でもねーな。普段から勝負しろーってエルザ含めて誰彼構わず挑んでるし)

 

「バ、バカ!お、俺はエルザの為なら無償で働くぜっ!!」

 

「え…グレイ、おまえエルザの事好きなの?」

 

「んなわけあるかっ!!」

 

「いやそんな奴隷宣言するからさ……」

 

 背後で何やらコントを繰り広げるグレイとカキを気にする事なくナツはビシッと指をエルザに突き付ける。

 

「帰ったら俺と勝負しろ!あの時とは違うんだ」

 

(……最後に挑んだの、エルザが前の仕事行く三日前くらいじゃなかったか?)

 

 そんな大して期間を空けてもいないが、リベンジできるだけ腕が上がっているようにも見えない。しかしナツは自信だけはあるようでまっすぐにエルザの目を見て言っている。こういうところは素直に好感が持てる。どうせ負けるだろうけど。

 

「オ、オイ!早まるなっ!死にてえのか!?」

 

「……仲間を失うのは辛い事なのにな」

 

「負けどころか死ぬの確定!?」

 

 自殺志願者とも取れるナツを止めようとするグレイ。ナツの敗北と死を確信したカキ。あんまりな決め付けにツッコむルーシィ。

 そしてナツの挑戦を聞いたエルザは微かに微笑みながら答える。

 

「確かにおまえは成長した。私は些か自信がないが……良いだろう。受けて立つ」

 

「自信がねえって何だよっ!本気で来いよな!」

 

「フフ、分かっているさ。だがおまえは強い。そう言いたかっただけだ」

 

 エルザとの勝負の確約が取れたナツはグルリと首を回して今度はカキを指差す。

 

「勿論カキもだぞ!!」

 

「別に良いけど、おまえ昨日俺に瞬殺されてなかった?ま、いっか。グレイもやるか?」

 

「い!?いやー俺はまだ二人に勝てる気しねぇから良いよ」

 

「そうかい。なら良いや。……ナツ、勝負の出来次第で今年の試験におまえを推薦してやるよ」

 

「何ィ!?」

 

「やれやれ、なんだかんだ言っておまえが一番ナツ達に甘いんじゃないか?」

 

 カキの発言にグレイは「やっぱ受けときゃ良かったか?」とでも言いたげな表情になり、エルザは少しだけ肩を竦める。そしてナツは目をギラギラさせて頭部からメラメラと暑苦しい炎を噴出する。

 

「本当か!?約束だぞカキ!!燃えてきたぁぁっ!!」

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 列車の中、あんな宣言の後にも関わらずいつものように乗り物酔いでグロッキーなナツ。そんなナツを見てみんなが口々にナツの現状について考えを述べる。因みに窓際からナツ、ハッピー、グレイの順で座り、向かい側をまた窓際からエルザ、ルーシィ、カキの順で座っている。

 

「鬱陶しいから別の席行けよ。つーか列車乗るな!走れ!」

 

「うぷ……」

 

「毎度の事だけど辛そうね……」

 

「ちったぁラクサスを見習って欲しいもんだ」

 

「アレは痩せ我慢だけどね」

 

 乗り物酔い体質のナツにとって列車は地獄だろう。せめて眠る事ができれば多少は楽になるのだろうが、襲い掛かる吐き気はそれすら許してはくれない。

 そんなナツを見て何を思ったのかエルザはナツに優しく話しかける。

 

「全く仕方のない奴だ……。私の隣に来い」

 

「あい……」

 

「どけって事なのかしら」

 

 エルザの隣に来るという事はそこに座っているルーシィが自然とどかされる。ナツとルーシィの座る位置が入れ替わったところでエルザは乗り物酔いで苦しむナツの鳩尾に容赦なく拳を叩き込んだ。

 

「!?」

 

「少しは楽になるだろう」

 

「痛いだけじゃね?」

 

 ダメージを与えて気絶させる事で乗り物酔いを軽減させる事を目的としたのだろうが、急所に激痛を走らせたので大差ないだろう。

 絶句するグレイとルーシィ。エルザにドン引きする事なく普通に接しているのはカキだけだ。

 

「そういえばあたし、妖精の尻尾(フェアリーテイル)ではナツの魔法しか見た事ないかも。カキとエルザはどんな魔法を使うの?」

 

「エルザの魔法は綺麗だよ。血がいっぱい出るんだ。相手の」

 

「綺麗なの?それ」

 

「血はともかく、発動するところは俺も綺麗だと思うぞ。とくに天輪」

 

 ハッピーの発言に同意したカキだがそんなカキの発言にグレイは呆れたような目をしながら一応の忠告をしておく。

 

「おまえミラちゃんの前でそれ言うなよ」

 

「魔法褒めただけだろ?」

 

「他の女褒めんなって言ってんだよ」

 

「別に私の魔法は大した事はない。それにグレイの魔法の方が綺麗だと思うぞ」

 

「確かにそうだな。グレイの魔法も綺麗だよな。ショーとかできそうだし」

 

 これまた同意するカキ。一見意見がないようにも見えたルーシィだが、次の瞬間にはカキの意見に納得する。

 

「そうか?」

 

 グレイは試しに両手を合わせて魔力を練る。すると彼の手元には氷で形を作られた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章が現れた。

 

 氷の造形魔法。氷を生み出し、それに形を与える魔法だ。好きな形の氷を生み出せる創造性の高い魔法だが、特定の形を物に与えるという事はそれ以外の形を奪い取る魔法でもある。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士達の使う魔法の中でもダントツで芸術性の高い魔法だろう。カキがショーができそうだと言ったのも頷ける。

 

「わぁ!」

 

「氷の魔法さ」

 

 そこでルーシィはある点に気づいた。普段から喧嘩ばかりのナツとグレイだが使う魔法が全くの対局であるのだ。

 

「あ!炎と氷!だからアンタ達仲悪いのね!可愛いー!」

 

「そうだったのか?」

 

「どうでもいいだろ!?そんな事。つーかカキとは別に仲悪くねェ!!」

 

 ルーシィに弄られて少し照れ臭そうに突き放すグレイ。どうやら少しばかり自覚はあったらしい。

 そして話を終わらせようと出されたカキの名前にルーシィが反応した。

 

「え?カキ?……そういえばまだカキの魔法は教えて貰ってないわね。カキは炎魔(イフリート)っていうくらいだし、やっぱり火の魔法?」

 

「正解。ホレ」

 

 カキが右手を前に出すと掌から薄紫色の炎が出る。これがカキの使う炎の魔法だ。

 

「なんかナツの魔法とは色が違うわね」

 

「似たような魔法ではあるんだけどな。ナツのと同じでちょっと特殊なんだ。因みに教えてくれたのはじーちゃんだ」

 

「じーちゃん?」

 

「オーガストさんだ。カキはオーガストさんの実の孫だからな」

 

「そ、そうだったんだ……」

 

 普段からマスターであるマカロフと一緒に酒ばっか飲んでるじいさんだがやはり魔導士としてはかなり優秀らしい。少なくとも孫に魔法を教え、その孫がギルドでも上位の魔導士になっているのだから。

 カキの掌から現れた薄紫色の炎。それをグレイはジロっと見ていた。

 

「……」

 

「どうしたのよグレイ?」

 

「……いや、何でもねぇ」

 

 カキの魔法を見て少し複雑そうな表情を浮かべたグレイだが、それに気付いたルーシィに指摘されてすぐに話題を変える。

 

「それよりエルザ、そろそろ本題に入ろうぜ。一体何事なんだ?おまえ程の奴が他の誰かの力を借りたいなんてよっぽどだぜ?」

 

「そうだな、話しておこう」

 

 それからエルザは語り出す。先日、仕事を終えた帰り。オニバスの街で魔導士が集まる酒場に寄り、ある会話を聞いたらしい。その話によるとララバイなる魔法が封印されていて、魔導士達はそれをどうにかして持ち出そうとしていたらしい。

 

「封印されてる魔法を?」

 

「ララバイ……」

 

「子守歌……眠りの魔法か何かかしら」

 

「分からない。しかし封印されているという話を聞く限り……」

 

「碌な魔法じゃねぇだろうな」

 

「何よりそれを話している連中が問題だった。その連中は闇ギルド、鉄の森(アイゼンヴァルト)の魔導士達だった。私は奴らが話している会話に出たエリゴールという名前を思い出すまで気付けなかった」

 

「死神エリゴールか……」

 

「し、死神!?」

 

「ああ。暗殺系の依頼ばかりを遂行し続け、付いた異名だ。本来暗殺依頼は評議会の意向で禁止されているのだが、鉄の森(アイゼンヴァルト)は金を選んだ。結果6年前に地方ギルド連盟を追放され、闇ギルドとなった」

 

 昨日闇ギルドについて説明を受けたルーシィの顔は目に見えて青くなる。鳥肌も立つ。ダラダラと汗も掻く。それも当然の事だ。要は犯罪組織に関わる案件なのだから。

 

「ルーシィ、汁いっぱい出てるよ」

 

「汗よ!」

 

 オニバス駅に着いて下車しながらも話は続く。

 

「当時の鉄の森(アイゼンヴァルト)のマスターは逮捕され、解散命令を出されても従わずに非合法な仕事を続けている。ま、闇ギルドの典型例だな。今回も封印された魔法を勝手に持ち出そうとしてるし」

 

「不覚だった。あの時エリゴールの名に気付いていれば全員血祭りにしてやったものを……!!」

 

「その場にいた連中だけならエルザ一人で何とかなったかもしれねぇ。だがギルド一つ丸々相手となると……「エルザなら勝てんじゃね?」……確かに」

 

 事情は分かったが別に俺達いらなかったんじゃね?カキもグレイもそう思った。だってエルザ強いし。

 

「とにかくこれらの事実は看過できん。鉄の森(アイゼンヴァルト)に乗り込むぞ」

 

「面白そうだな」

 

「来るんじゃなかった」

 

「汁出すぎだって」

 

「汁言うな」

 

「まずは情報収集か。燃えてきたって奴だな、ナツ。………ナツ?」

 

 なんだかんだで乗り気なグレイとカキ。ルーシィは流石に怖がっているが。カキはこの話を聞いた以上は一番燃え上がっていそうな滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の名を呼ぶが返事がない。

 

 というかこの場にナツがいない。

 

 先程述べたがもうすでにオニバスの街に着いた事で一行は列車から降りている。しかしナツは乗り物酔いで碌に動けない上にエルザに腹を殴られて気を失っていた。

 

 誰かに背負って貰わねば降りられるはずがない。

 

 カキもエルザもグレイもハッピーもダラダラと嫌な汗を流す。そして沈黙の中、恐る恐るルーシィがとある可能性を指摘した。

 

「もしかして……ナツ、列車に置いて来ちゃった?」




アニメの最後のop、「more than like」だけどアレってRAVEの最終決戦にも合いそうな気がする。というかあっちの方が合ってません?


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