ハイスクールD×D 〜鏡花水月とともに〜 (bad boy)
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原作前
プロローグ


初めまして、bad boyと申します!
処女作ゆえに至らない点ありますでしょうが、感想などでご報告いただけるとありがたいです!

それではプロローグどうぞっ!


ここはどこだ、

 

 

 目を開ければ見覚えのない真っ白な空? 天井? が目に入った。自分の家でもないし、そもそもここにくるまでの記憶が思い出せない。

 

「知らない天井だ」

 

 ごめんなさい、言ってみたかっただけです。

 

 体を起こしてみる。うん、体に怪我があったりするわけではないようだ。ここがどこなのか手がかりを得るために周囲を見回してみる。すると少し先に不自然に机が1つだけポツンと佇んでいる。

 

「とりあえずあそこに行ってみるか」

 

 立ち上がり机に向かって歩き出す。その間にも周囲を確認してみたがマジで何もない。本当に真っ白な空間だ。ここがどれだけの広さなのかもわからない。ここは夢の中なのだろうか。

 そんなことを考えておる間に机にたどり着いた。何やら手紙らしきものが置いてある。めちゃめちゃ怪しいがこれ以外の手がかりが見つかりそうもないので手紙を開いてみる。

 

《拝啓 この手紙を読んでいるどなたかへ

 

 単刀直入に言います。あなたは死にました。

 

 そしてあなたには運のいいことに記憶を持ったまま別世界へ転生するか、通常の輪廻転生を行うかを選べるチャンスが与えられました。

 

 まず別世界への転生について

 

 ・転生先はガチャによって選ばれます。転生先の世界はあなた方が普段観るアニメや漫画の世界となります。

 

 ・転生特典もおひとつ差し上げます。こちらもガチャを回していただきます。こちらもアニメや漫画に出てくる武器や特殊能力になります。

 

 ・転生後の容姿については特典の原作の持ち主に近いものとなります。潜在能力に関しても特典の持ち主を参考にさせていただきます。

 

 次に輪廻転生について

 

 ・ふつーに記憶なくして同じ世界に生まれていただきます。

 

 ・ただし異世界転生の際は種族は人間で固定ですがこちらは種族固定ではありません。例を挙げればゴキブリに生まれ変わる可能性もあるということです。

 

 以上で説明は終了とさせていただきます。

 

 どちらにするか選択しましたら、手紙を読み終わった後にでてくる2つの扉のうち

 

 異世界転生の際は黒い扉、輪廻転生の際は白い扉にお入りください。転生先や特典のガチャは扉の先で行います。

 

 それではあなたの来世に幸多からんことを》

 

 手紙を読み終えるといつの間にか目の前に2つの扉があった。

 

 ………………。

 

 はああああああああアアアアア!!!!????? 

 

 え、おれ死んでたの? っていうか転生って所謂神様転生ってこと?? でもアニメや漫画の世界って基本的に危険な世界ばっかりだよなあ。そんな世界でTHE☆普通! な大学生してたおれが生きていけるのかなあ。しかも頼みの綱の特典もガチャ運次第って……。

 しかもおれガチャ運ないんだよなあ。具体的にいうとムキになってバイト代全額突っ込んでも欲しいキャラ一体も出ないくらいはガチャ運ないんだよなあ。

 

 でも輪廻転生もなあ。確実に人間に生まれ変われるならまだしも記憶なくなるとはいえゴキブリになる可能性もあるってのはなあ……。

 うーん、だったら一か八か異世界転生にかけてみることにするか。まだこれが夢っていう可能性も捨てきれないわけだし。

 

 あまりグダグダ考えていても仕方がないので意を決しておれは黒い扉をくぐった。

 

 

 

 扉をくぐると自分の身長よりもはるかに大きいガチャがあった。まずは転生先を選ぶのだろう。

 

「神様、どうかバトルや人外だらけの世界ではなく、平和な世界を。それかせめてワンピースやNARUTOのようなおれがよく知ってる世界でお願いします!」

 

 おれはそう願いながらガチャを回した。ガランガランと音がしてボールが1つ目の前に出てくる。そこに書いてあったのは……。

 

《ハイスクールD×D》

 

 マジかよ、もろ人外だらけの世界じゃねえか。しかも原作は読んだことないしアニメで見たのも数年前で記憶があやふやだ。ここでもおれのガチャ運のなさは健在かっ!! 

 

 すると目の前にあったガチャが消え、新しいガチャが現れた。きっとこのガチャで転生特典が決まるのだろう。どうせモブみたいな特典でそれにつられて容姿もモブのようになるのだろう。

 おれは自身のガチャ運のなさに絶望しどうせ大した特典ももらえず死ぬのだろうと半ば自暴自棄になりつつガチャを回した。ガランガランと景気のいい音を鳴らすガチャを睨みつつ出てきたボールに書いてある文字を確認した。

 

《鏡花水月(特別に発動条件無し)》

 

 えっ……

 

 マジかああああああああああ!!!!! 

 

 ここにきて今までの人生のマイナスを無くしそうなほどの大当たりを引いたよおい! 

 鏡花水月っていったらおれの好きな漫画の1つであるBLEACHの最強キャラの一角の藍染惣右介が使ってた完全催眠が使い放題のチート武器やんけ!! しかも唯一の発動条件だった一度発動させることを見せなきゃいけないっていう条件もないだとっ! つまりノーリスクで打ち放題やんけ! 

 これはとんでもない特典ではなかろうか、しかも容姿が藍染惣右介に近いものになるってことはヨン様風イケメンになるのは確定した未来! 

 しかも俺藍染惣右介大好きだし、藍染の名言とかめっちゃ漫画見返したなあ。黒棺の完全詠唱もかっこよくて暗唱してたし。容姿が藍染惣右介に近くなるなら身体能力とかも期待できるなあ。もしかして黒棺出せちゃったりすんのかなあ!!

 

 今までのガチャ運のなさによる落ち込んだ気分は消え去りあまりの嬉しさに小躍りしていると、突然目の前が真っ白になり意識が薄れてゆく感覚に襲われた。

 きっと今から転生するのだろう。そう考えながらおれは意識を手放した。

 




主人公は鏡花水月というチート武器を持って転生しました。
鏡花水月の禁手(卍解)については原作では登場してませんので活動報告などで意見を聞きたいと考えています。

ちなみにヒロインはすでに決まっています( ´∀`)


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第一話 短かった平穏

どうも!bad boyです!
プロローグだけでお気に入り登録してくださった方々本当にありがとうございます!
これからも頑張ります!

それでは第一話どうぞ!


 気付けば転生してから7年が経っていた。おれは7歳になっていた。

 

 おれは藍染家の長男として生まれ惣右介と名付けられ、現在は両親と共に駒王町という町に住んでいる。いや容姿だけじゃなくて名前まで思いっきり鏡花水月に引っ張られとるやん……。容姿に関しては藍染様が子供の時はこんな感じだったのかなと思えるメガネをかけた穏やかそうな少年だ。ちなみにメガネは伊達である。母親がメガネをつけていた方が可愛いからという訳の分からない理由で伊達眼鏡を買ってきてそれをつけている。

 

 家は裕福な方だ。父親はフリーランスの仕事をしているらしく、腕もよくいろいろな企業から引っ張りだこなようだ。かなり稼いでいるらしい。この家も一括で購入したらしいし、貯金もかなりあるとのこと。母親はそのためか専業主婦をしている。

 

 ちなみに鏡花水月は常に外に出ているわけではなく普段は自分の中にあり、自分が念じたら外に出てくるようだ。でも出していなくても完全催眠は発動できるらしく、試しに甘いものが嫌いな父親に甘党になるように催眠をかけてみたら普段食べない食後のデザートをおれの分まで夢中で食べていた。後で子供の分までデザートを食した父親は母親に怒られていたけど、なぜ自分があんなに甘いものを食べていたのか理解していないようだった。

 

 やっぱりチートすぎるな鏡花水月……。そして完全催眠を回避する方法はやはり原作通りあらかじめ触れておくことらしく両親には鏡花水月のかけらを手作りのお守りの中に入れて渡しておいた。

 

 人外ども(確かこの世界は悪魔や天使、堕天使や神までいたはず)の世界でどんな波乱万丈な人生を送るのかとドキドキしていたが予想を裏切りバトルなどは一切なく、ただただ平和な日常を謳歌していた。ただ藍染様の体だから霊圧(魔力)を感知することはでき、この町にいくつか人外どもの気配はしたが自分には関わりがないものだと考え気にしていなかった。

 

 なあんだバトルするのは一部のみで自分みたいなモブはこのまま平和に人生を送れるのではないかと思っていた。

 

 

 

 

「じゃあ遊びに行ってきまーす!」

 

「行ってらっしゃい、気をつけてね。夕方までには帰ってきなさいね」

 

 週末の日曜日、おれは子供らしく(精神年齢はアラサーだが)近くの公園に遊びに出かけた。ずっと家にいると両親がおれには友達がいないのではないかと心配していたので特にやることもないが近くの公園で夕方まで時間を潰すことにした。

 

 べっ別に友達いない訳じゃないからね! ちょっと精神年齢が周りと離れすぎててどうしていいかわからないから自分から話しかけてないだけなんだからねっ! 

 

 そして時間が経ち空が紅く染まってきた。夏から秋への転換点なのか、最近日が暮れるのが早くなってきた。そろそろ帰るかなと思い公園を出ようとした時に異変を感じた。

 

 さっきまで公園にいた人たちがいない。急に全員が帰宅するのも不自然であり、これは何かおかしいと考えていると魔力の気配と共に空から声が聞こえてきた。

 

「おい人間のガキ、お前神器(セイクリッド・ギア)を所持しているな」

 

「えっ?」

 

 振り向いてみると見るからに性格の悪そうなおっさんが背中から二枚の黒い天使の羽を出してこちらを見ていた。

 

 え、これって堕天使ってやつだよね。そしてせいくりっどぎあ? 聞いたことあるなその単語……。あっ、この世界の武器の総称じゃん。ってことはこのおっさんおれの鏡花水月を狙ってるってこと? でもバトルなんておれ無理だし、万が一とぼけたら見逃してくれないかな? 

 

「何か他の人間にはない力を宿しているだろう。あたりはついているのだぞ。白状しろ」

 

 あっ、ダメですね、はい。バレてますね。だったら正直に答えるしかないか。別にバトルになると決まった訳じゃないし。

 

「はい、確かに僕には他の人にはないものがあります」

 

「そうかやはりな、さらにその歳でそれを自覚しているとは。おいガキ、おれについて来い。その年から鍛えれば戦争の時には俺たちの戦力になるかもしれん」

 

 いやいやいきなりついて来いって……。しかも戦争って、それ絶対今みたいな平和な日常がなくなるやん。これは断固拒否だな。

 

「いえ、僕そういうのに興味ありません。親が待ってるので帰ってもよろしいでしょうか?」

 

「そうか家族か。ならば貴様の家族がいなくなればどうする?」

 

「は?」

 

「貴様のようなガキがそう言うのは予想できていた。なのですでにおれの仲間が貴様の家族を殺しに行っているだろう。そうすれば身寄りのない貴様はおれについて来ざるを得まい」

 

 目の前の堕天使はニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべてそう言った。

 

 は? 家族を殺す? あの優しい父さんと母さんを? こいつふざけてるのか? 

 

 おれは心底ムカついた。なんでこんなクズやろうのためになんの罪もない両親が殺されなければならないのか。ならばやることは1つ。こいつを殺して両親を助けに行く。鏡花水月の力があればおれをただのガキと思って油断してるこいつなんかたやすく殺せるはずだ。

 

 おれは鏡花水月を使って奴には俺の足元にいた蟻を俺自身だと錯覚させ、堕天使の背後に回り心臓を貫こうとした。

 

 

 

 

 

 

 しかし手が震える。震えが止まらない。早く両親のもとに行かなければならないのに。

 

 当たり前だ、だって前世は普通の大学生だったんだ。そんな簡単に人を殺す覚悟なんてできるはずがない。刃物で人を指すなんて経験したことがある訳ない。

 

「さあ早くこい。貴様はいつか来る戦争dぐはっ!! き、貴様いつの間に……!」

 

 結局おれは殺す決心はつかず、殺すのではなく動けなくすればいいと自分に言い聞かせ、蟻に話しかける堕天使の背中を震える手で鏡花水月を握り、思いっきり切りつけた。

 

 堕天使は目の前で倒れていき、それを確認したおれは急いで家まで駆け出した。

 

 

 

 

 家についておれは玄関の扉が壊されているのを見て土足のまま急いでリビングまで向かった。

 

 すると一人のこれまた性格の悪そうな堕天使が両親に光の槍を振り上げていた。急いでおれは鏡花水月を発動し、堕天使の五感を狂わせそれに堕天使が動揺しているすきに両親に駆け寄った。

 

「よかった間に合った……!」

 

 両親には傷がちらほら見えたが大きなものはない。あとはおれがこの堕天使を倒せば解決だ! 

 

「惣右介! 無事だったのね!」

 

「惣右介! 怪我はないか?」

 

 自分たちが傷だらけなのにも関わらず心配してくれるなんておれは両親に恵まれてるな……。

 

「父さん、母さんもう大丈夫だよ。僕がなんとかするから、詳しいことはまた後でね」

 

 そう両親に告げておれは堕天使の方へと向かう。堕天使は五感が狂っていることに戸惑い訳のわからない叫び声を上げている。こいつは今真っ暗な世界で謎の音が周囲から聞こえ、腐臭をかんじ身体中に何かが巻きついていると錯覚している。こいつを倒せば全て終わる。

 

 未だ叫んでいる堕天使を切りつける。目の前の堕天使はなすすべなく崩れ落ちた。

 

 なんとか終わった。両親にどう説明しようかなと思いながら両親の方を振り向いた。

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間が止まったように感じた。嘘だと信じたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り返ったおれに目に映ったのはおれを温かく迎えてくれる両親ではなく光の槍に胸を貫かれていた二人だった。

 

「ハハハハハ!!! ガキい! さっきはよくもやってくれたなあ!!」

 

 そこにいたのは先ほど倒したはずの堕天使だった。

 

 え? なんで? なんでお前がいるの? さっき倒したはず。

 

「ごふっ……惣右介、お前だけでも、逃げるんだ」

 

「幸せに……なってね、私たち、見てるから……」

 

 父さんと母さんは最後の力を振り絞ってそういうと動かなくなってしまった。それを見た堕天使は汚い笑みを浮かべる。

 

「俺たち堕天使の生命力を甘くみたなあ!! 貴様ら人間とは違うんだよ!! 貴様の両親が死んだのはおれにとどめを刺さなかった貴様の甘さのせいだ!!!」

 

 おれのせい? おれが殺さなかったから両親が死んだ? おれが殺す覚悟が持てなくて手が震えてしまったせいで? なんで優しい両親が殺されなければならないのか? 

 

 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで? 

 

「ああああああああああああああああああああアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつけばおれは二人の堕天使を殺していた。完膚なきまでに。おれの手に握られている鏡花水月は堕天使の地で真っ赤に染まっていた。むせかえるような血の匂いでおれは吐いていた。

 

 もっと早くこうしていればよかった、普段から自分たちに認識阻害を使っておけばよかった、両親を助けた時に両親周りにも認識阻害の催眠を同時に使っておくべきだった、堕天使に父さんと母さんを殺したと催眠をかけておけばよかった、こんな世界に来たのだから日常に甘えることなく普段から鏡花水月をうまく扱う訓練をしていればよかった。

 

 後から考えれば考えるほど自分で自分が嫌になる。何やってんだよおれ、ふざけんなよおれ、と自分を責めた。

 

 おれのせいで殺されたんだ。おれが弱いせいで、両親を殺されたにも関わらず堕天使を殺した後に吐いてしまうほどに弱いせいで、おれの考えが甘かったせいで。マモレナカッタ。

 

 おれは泣いた。前世を含めても人生で一番泣いた。堕天使への怒りもある、両親を失った悲しみもある、でも一番は守れなかった自分の不甲斐なさに、悔しさが込み上げてきておれは泣いた。

 

 

 

 

 

「俺は…………弱い…………」

 

 強くならないと、もし守りたいと思える人ができた時に守れるように。

 

 こんな弱くて甘い俺がそんな人を作るべきではないのかもしれないけど。

 

 もしそんな人ができた時は、俺は守るためなら相手が誰であろうとコロス。

 

 

 

 

 

 

 俺はその日から変わった。甘さを捨てようと思った。強くなろうと思った。

 

 怪しまれないように俺は町に完全催眠を発動させた。解けることのない催眠をかけた。一人で生きていけるように周囲から両親とおれの記憶を消した。この家に住んでいる人間はもともといなかったと。寂しいけれど両親の記憶は俺だけが覚えていればいい。殺されたなんて知らせて両親が同情されたり遺産の取り合いで両親の死が汚されないように。家が認識されないように催眠をかけた。

 

 いくつもの催眠を同時に発動しているとひどい頭痛に襲われる。数分程度ならなんとかできるが普段から使うのは不可能だ。戦闘でも基本催眠の併用はやめておこう。きっと脳の処理が追いつかなくなり、身体がストップをかけるのだろう。鏡花水月も万能ではないということだ。

 

 だからこの催眠のコントロールをおれは手放した。俺から自立させたのだ。だからこの催眠は解けることはない。

 

 また、あまり大きな範囲での催眠は複雑なことはできない。例えば全員に違った幻覚を見せたりはできない。基本的に同じことで単純なものでなければならない。複雑な催眠をしようと思ったらまた頭痛に襲われた。やはり脳の処理が追いつかないようだ。

 

 だから俺は都合の良いことだけを忘れさせるのではなく極端な催眠しかかけられなかった。本当は父さんと母さんの存在を消したくなんてなかった。

 

 そして少なくとも高校生くらいになるまでは家の外では俺の容姿が大学生ほどの姿で認識されるようにした。子供の姿では生きていきずらい。学校に行く必要はない、だって前世では大学生だったのだから。学校に行く時間を自分を鍛える時間に使った方が有意義だ。鏡花水月を使いこなせるようにしなければ。

 

 ただしこの催眠については時間経過と共に解除されるようにしてある。自分の見た目が催眠に追い付いたら特に必要のないものであるからだ。

 

 いつか自分で稼げるようにしないといけないな。幸いにも父さんと母さんが多額の貯金を残していてくれた。生活には困らないだろう。学者になりたいと家から出たくないために言っていた俺の適当な夢のために将来大学院までいけるように貯金をしてくれていたようだ。ダメだ、こんなこと考えているとまた泣いてしまう。

 

 そうしておれは誰にも俺自身を認識されることもなく、一人で生活をするようになった。

 

 

 

 

 

「母さん、最後に幸せになれって言ったけど俺にそんな資格があるのかな。母さんたちを守れなかったこんなおれなんかに。俺、幸せになれるのかな、母さん」

 

 俺はそう呟くと休憩を切り上げてトレーニングを再開した。

 

 強くならないとBLEACHの藍染惣右介のように、頭も鍛えないとならない、あの藍染惣右介のように。

 

 俺は藍染惣右介だ。そしてあの藍染惣右介のように強くなりたい。




はい主人公の名前はそのまま藍染惣右介君です!

いきなりどん底に落とされた惣右介君ですが、ちゃんと幸せになってもらう予定です!

なので次回以降にご期待ください!

また、評価や感想もお待ちしております!


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第二話 彼の過酷で孤独な日常

はい!bad boyです!

たった二話だけなのに多くの人が拙作を読んでくださり本当にありがとうございます!皆様の評価や感想などをモチベーションにこれからも執筆していきます!

それと、第二話にすこし文章を加えました。鏡花水月はそこまで使い放題というものではないという内容です。

それでは第二話どうぞっ!


 両親が殺されてからもう5年がたつ。

 

 俺はもうすぐ13歳になる。中学1年生の年だが学校には行っていない。今となってはこの広い一軒家での生活びも慣れた。今の時刻は朝の5時、もう起きねば。

 

「ふあ〜〜〜あ」

 

 大きな欠伸を1つしておれはベッドから出る。まず起きたらシャワーを浴びのが毎朝のルーティーンだ。朝に弱い俺はシャワーを浴びないと目が冴えない。これは前世からも変わらない俺の体質だ。

 

 シャワーを浴びふとドライヤーで髪を乾かしながらふと鏡の中の自分を目を合わせる。うん、似てきたな、()()藍染惣右介に。普段はメガネをかけているが、風呂上がりの裸眼に髪の毛を上げている自分は俺の知っている破面篇の藍染惣右介を幼くした感じだ。我ながらイケメンだなと思う。

 

 次に視線を少し落とす。5年前の細い体に比べたらだいぶしっかりとした体つきになっている。しかしもともと筋肉がつきにくい体なのか細マッチョという印象だ。それでも質を上げるように日々鍛錬している。

 

 いつもの伊達眼鏡をかけ、シャワー浴び終えたら朝食だ。しかし朝食といっても手早く摂取できるバランス栄養食(所謂カ○リーメイト)だけだ。キッチンにあるダンボールに大量に入っている。自分で料理を作る時間があったら鍛錬に使った方がマシだ。

 

 でも時々無性に母さんの手料理が恋しくなる時がある。もう5年も食べていないあの味、もう一度食べたいなあ……。いかんいかん泣きそうになってしまう。

 

 そうして朝食を済ませ日課の鍛錬に出かける前にリビングの片隅にある仏壇に手を合わせる。そこには両親の写真と亡くなったときにも身につけてくれていた俺があげたお守りが飾られている。

 

「父さん、母さん、いってきます」

 

 そう父さんと母さんに告げておれは家を出る。そして家を出ると同時に仮面を被る。なぜならこの街にいる人は俺の姿がいつものまだあどけなさの残る姿ではなく、()()藍染惣右介の姿に見えているからだ。

 

「あら藍染くん毎日朝早いわねえ」

 

「佐藤さん、おはようございます。今日も朝から散歩ですか?」

 

 毎朝同じ時間に会う佐藤さんは犬の散歩をしておりよく俺に話しかけてくる。といっても佐藤さんが話しかけているのは俺であって俺ではない。この街では家の中以外では誰も俺を俺と認識しない。そしてあの事件から俺は誰も家に上げていない。つまり俺はこの5年間誰にもおれ自身を認識されていない。

 

 最初の方は苦労した。なんせ誰も俺自身を見てくれないからだ。言いようのない寂しさに襲われよく泣きそうになっていたが、今となってはもう慣れた。

 

「そうよお、藍染くん一人暮らしなんでしょう? 家の場所さえ教えてくれれば時々ご飯作ってあげるのに」

 

 家の場所なんて決して教えない。まだあの家に誰かを上げる気はない。

 

「いえいえ、僕は自炊していますので大丈夫ですよ。お気持ちだけありがたく受け取っておきます。それではまた」

 

 そして俺はマダムにモテる。この佐藤さんにしろスーパーでレジのパートをしてる鈴木さんにしろなぜかマダムからのウケがやけにいい。

 

 なんでだ? 俺がヨン様に似てるからなのか? そうなのか? どうせモテるなら若くて可愛い子がいいに決まっている。だって俺まだ中学一年生の年だよ。流石に自分の四倍の年齢の人からモテても嬉しくねーよ! 

 

 でもたとえ若くて可愛い子にモテたとしても親密になるまで仲良くなろうとは思わない。あくまで時々話す上辺の友人までだ。

 

 なぜならまだ目の前で両親が殺されたことを引きずっているからだ。もし誰かを好きになってその人を失ってしまったら俺はもう立ち直れる気がしない。情けない話だ。()()藍染惣右介ならきっとこんな風にならないだろうに。

 

 それに親しい人を作らない理由はもう一つある。それは家の中には全ての催眠をかけていない。なぜなら父さんと母さんにはありのままの自分を見て欲しいというささやかな願いからだ。つまり家の中に人を入れるとその人には全てがバレてしまう。だから自分の中で決心がつくまでは他の人を家に入れたくない。

 

 佐藤さんと別れた俺は近くの山に入り、周囲の霊圧(魔力)を探り誰もいないことを確認して鏡花水月を発動させる。この山付近を近くを通る人の認識から外す。簡単に言えばこの山の存在を忘れさせるのだ。こうすることで誰にも邪魔されることなく鍛錬ができる。

 

 

 

 

 

 

 気がつけば夕暮れになっており、今日の鍛錬を終わらせる。

 

 かなり力がついてきたと思う。拳で岩を粉砕できるし、鏡花水月で川を切ることもできるようになった。正直言って自分でもここまでパワーが出せるなんて驚いた。俺って人間? もしかしていつの間にか人間やめてる? しかしこの体が藍染惣右介のスペックだからというのが一番有力な説だ。なぜなら頭の出来も違う。一度見たことは忘れないのだ。このことからもこの体は藍染惣右介仕様だというのが正しいだろう。魔力探知の精度もかなり上がった。

 

 しかし……。

 

「やはり黒棺はまだか。」

 

 そう誰にも認識されない山の中で呟く。

 

 そう、黒棺がいまだに習得できないのだ。詠唱は完璧なはずなのに。完全詠唱を覚えている鬼道は黒棺だけだが他にも名前とイメージを覚えているものを片っ端から試してみたがどれもダメ。蒼火墜も赤火砲も六杖光牢も全部だめ。こういう魔法の類のようなものはやはりコツがいるのかもしれないから誰かに習わないとダメなのかなあ。多分霊圧ってここでの魔力と同義っぽいし。でも頼れる人なんかいないしなあ。藍染惣右介なら魔力量は半端ないはずなんだけどなあ。制御できてないから多分垂れ流しなんだろうし。まあ鏡花水月で認識されないようにしてるから感知されることはないと思うけど。

 

 まあ色々考えすぎても仕方ないか、今日は帰ろう。

 

 

 

 

 

 

「うん?」

 

 家に帰る途中で異質な魔力を探知する。この感じは……。

 

「はあ、またはぐれ悪魔か、最近多いね。」

 

 この魔力の質からして悪魔だろう。それもかなり荒々しいためおそらくはぐれ悪魔だ。

 

 はぐれ悪魔、俺が覚えている原作のワードの1つだ。アニメの序盤でフルボッコにされているのが印象的で覚えていた。確か主人から逃げ出した眷属悪魔だったかな? 

 

 正直原作の知識が少なすぎる。忘れないようにノートに書き留めてあるが原作を見たのがもう15年ほど前の話だ。正しいのかもわからないしこの世界についても知識があやふやだ。これについても詳しい人に話を聞ければいいんだがなあ。

 

 そんなことを考えながら俺ははぐれ悪魔の魔力を感じる廃墟にやってきた。感じる気配は2つ。1つは入った正面にいるな。もう一人は隠れているのか? まあいい、鍛錬だと思えば対人戦を経験できる数少ない機会だ。有意義に使うとしよう。

 

 戦闘のため俺は伊達眼鏡を外し、普段下ろしている前髪をかきあげながら廃墟の扉を開けた。

 

 

 

 

 

「なんだあ? 人間かあ?」

 

 おぞましい低い声が響いてくる。そこにいたのは半身半獣。正確に言えば下半身が馬の男だった。ケンタウロスか。

 

「そうだよ、はぐれ悪魔」

 

「ちっ! 裏の世界の事情を知ってる人間か。神器もちか?」

 

「肯定しよう、確かに私は神器をこの身に宿している」

 

 そう答えるが俺は今回鏡花水月を使う気はない。()()藍染惣右介は鏡花水月がなくとも恐ろしく強かった。だから俺も鏡花水月なしでも戦えるようにならねばならない。

 

「だったら……。死ねやあ!!」

 

「ふっ!」

 

 はぐれ悪魔は作戦なしに俺に突っ込んできた。所詮人間だと侮っているのだろう。早く重い一撃でバラバラにしてやろうというところか。

 

 だが遅い。遅すぎる、まるでスローモーションだ。おれははぐれ悪魔の拳を紙一重で避け此奴の鳩尾に一撃叩き込む。

 

「ぐほぇ!!!」

 

 鳩尾への一撃がクリーンヒットし、はぐれ悪魔は腹を抑えて悶絶する。弱い、弱すぎる、そこまで力入れたわけじゃないのに。俺が強くなりすぎたのか? しかしこういう作品でパワーインフレが凄まじいのはお約束。きっとインフレしていくのだろう。もっと強くならないとな。

 

「そこに隠れてる君、もうそろそろ出てきたらどうだい?」

 

 そう言って背後の気配のする方に振り返る。

 

「ほお、少しはやるようじゃねえか」

 

 そういって物陰から出てきたのはいかにも悪魔です! って感じの見た目のやつだった。頭からはツノが生え、翼を出し全身赤い上に服を着ていない。なぜか男の弱点もついてない。どういう体してるんだこいつ。この世界の悪魔は見た目人間と変わらないはずなんだが。

 

「ククク、さっきはしてやられたが二対一だ。さっきの分やり返させてもらうぜ」

 

「そういうことだ大人しくぶっ殺されなあ!!」

 

 さっきまでうずくまってたケンタウロスが起き上がり、前後で挟まれている状況だ。

 

 だが……。

 

「払う埃が1つでも2つでも、目に見えるほどの違いはない」

 

 そう、こいつらは明らかに弱い。俺はまだ全力ではないし鏡花水月も使っていない。だが、過去の経験から油断は一ミリもしない! 確実にこの世から消し去る! 

 

「戯言をっ!! 死ねえ────!!」

 

「食らいやがれええ!!」

 

 二人のはぐれ悪魔は前後から攻撃を仕掛けてくる。俺は奴らの目では追えないであろう速さで目の前のケンタウロスの背後に回り込み鏡花水月を発現させそのまま首を落とした。

 

「なっ!!」

 

 もう一人の悪魔が驚いているがその一瞬で貴様を殺すには十分だ。

 

 俺は突っ込んできていて体を驚きで硬直させた悪魔の懐に入り込みそのまま鏡花水月で心臓を貫く。

 

「がっ! はっ!」

 

 それだけ言うと悪魔は息絶えた。

 

 弱いな。これでは自分がどれだけ強くなれたのかわからない。でも俺がまだまだなのは間違いない。なぜなら()()藍染惣右介はこんなもんじゃないはずだ。魔力の制御を身につければそれを解放するだけでこいつらを跪かせていただろう。俺には課題がまだあだある。剣の一振りで地形が変わるほどのあの力を身につけなければ。俺の目標とする人のいるところは果てしなく遠い。

 

 

 

 

 

「ただいま。」

 

 もちろん返事はない。しかしどうしてもやめようとは思えなかった。

 

 そのあとは何事もなく家に着いた。シャワーを浴び、キッチンにあるダンボールの中からバランス栄養食品を2つ取り出し食す。はっきり言って飽きた。でもわざわざ何かを買いに行く時間があれば他のことに使う方がいい。

 

 そして俺は両親がいた頃からのおれの部屋でノートを開く。そこには過去俺が思い出せるだけ書き出したこの世界の原作知識と鬼道が書いてある。そして新たに思い出せることがないか思案し、何も思い出せず溜息を吐く。

 

 せめてもっと早くこれを始めていれば他のこともわかっていたのになあ。昔の自分に腹がたつ。何も考えず呑気にしていたあの時間を返して欲しい。しかし何度目かわからない自己嫌悪をしても仕方ないのでこの感情を抑えてノートに目を落とす。

 

 そこには思い出せる限りの原作の主要人物やその特徴、原作で起こった大きな出来事、この世界の特徴などが書いてある。しかしまだ俺はこの主要キャラたちにはあったことがない。学校に通ってないから当然のことではあるが。

 

 しかし普段から感じる駒王学園の中等部から感じる魔力。あれはきっとリアス・グレモリーのものだろう。大人しくしているから手は出さない。もしここで殺してしまえばただでさえ少ない原作知識が全く意味のないものになるからだ。

 

 次に鬼道のページを開く。そこには黒棺の完全詠唱を始め多くの鬼道の番号と名前が書いてある。しかしその多くは番号が欠けている。思い出せないのだ。名前は思い出せたのだが番号が思い出せない。番号がないと使えるのかわからない。

 

 とりあえず黒棺と他幾つかの番号と名前が揃っている鬼道の暗唱を行いいつでも即座に唱えられるようにしておく。これも日課だ。

 

 

 

 

 

 そこまでやってノートを閉じる。時刻は夜の11時、そろそろ寝なければ寝坊してしまいそうだな。そう思いベッドに横になる。

 

 

 

 

 

 まただ。はぐれ悪魔を殺した時の映像がフラッシュバックする。ずり落ちていく首、悪魔の心臓に鏡花水月が吸い込まれてく様子が目を閉じるとまぶたの裏で蘇る。

 

 その場で殺すことに対しての躊躇や恐怖は無くなった。しかし殺したと言う事実に俺は震える。俺がやっていることはあの堕天使と同じなのではないか。もしかしたらあの悪魔たちにも何か理由があったのかもしれない。でも向こうから仕掛けてきたのだから仕方ない、正当防衛だ。そう思いこむがやはり喉の奥に魚の骨が刺さっている感覚に襲われる。

 

 やっぱり俺はまだまだ甘いな。強くならなければならないのに。()()藍染惣右介のようにならなければいけないのに。

 

 

 

 

 

 そう考えていると眠気に襲われ俺はその眠気に身を委ねる。

 

 ああ、きっと疲れていたんだはぐれ悪魔と戦ったせいで。

 

 

 

 

 

「寂しいな、一人は」

 

 

 

 

 

 そう呟き彼は寝息を立てる。彼の最後の一言は寝言であったのか、それとも本心から出た独り言であったのかは彼にもわからない。

 

 こうして彼のいつもとほとんど変わらぬ1日は終わる。




惣右介くんは誰にも認識されることなく孤独な日常を延々と繰り返しているようです。

誰か彼を救ってくれえ

次回の執筆も頑張ります!

評価・感想も自身のモチベーションになるため、お待ちしております!


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第三話 彼が守れたささやかなもの

はい!bad boyです!

ルーキーランキング16位に入っていた、、、!!

拙作を読んでくださった方、評価・感想をくださった方、ご指摘を下さった方ありがとうございます!非常にモチベーションに繋がります!

これからもよろしくお願いします!

それでは第三話どうぞ!


 俺は14歳になった。

 

 今日も父さんと母さんに挨拶をしてから家を出る。

 

「父さん、母さん、行ってきます。今日は二人の命日だね。今日は帰りに二人が好きだったものを買ってくるよ」

 

 そう、今日は父さんと母さんがあの堕天使に殺された日だ。もうあれから7年経つ。月日の経つのは早いものだ。毎日似たような日々を送っているから月日の経つ感覚が狂ってくる。

 

 でもこの生活を止めようとは思わない。まだまだ俺は弱い。このままだとまた守れないかもしれない。守りたいものなんて何1つないし作ろうとも思えないが。

 

 いかんいかんどうしても毎年この日になると感傷に浸ってしまう。体を動かして忘れよう。

 

 

 

 

 俺は今鍛錬を終えた後、近くのスーパーで父さんの好きだった銘柄の酒と母さんの好きだったスイーツを買って家へと向かっている。え? 未成年? 俺は周りからはヨン様に見えているから問題ない。レジの担当も知り合いの鈴木さんだったから問題なく購入できた。ヨン様スマイルで

 

「鈴木さん、いつもご苦労様です」

 

 とねぎらえばイチコロだ。

 

 

 

 

 

 夏から秋の転換点だからか、最近は日が暮れるのも早く空は紅に染まり、辺りは暗くなり始めていた。俺はスーパーからの帰り道のため普段歩かない道を歩いている。

 

 この道は普段通らないようにしている。なぜならあの堕天使と遭遇し、殺し損ねた公園の前を通らなければならないからだ。あの日以来この公園を俺は避けていた。ここの自分の甘さを突きつけられているようで怖かったからだ。

 

 しばらくするとあの公園が視線の先に移る。足早に通り過ぎようかとも考えたが公園の前で足を止める。

 

(いつまでも避けていても仕方ないよな。()()藍染惣右介だったらこんなこと何年も引きずらないはずだ。向き合わないとな)

 

 7年経ってやっと気持ちの整理がついてきたのかおれはそう考え公園の中へと入っていく。7年ぶりに入るこの公園は以前とちっとも変わらない。

 

(ここで俺は父さんと母さんが死んだ原因を作ってしまったんだ)

 

 もう日が暮れ、空も紅さを失いつつあるこの公園には今は誰もいない。俺はベンチに腰掛ける。

 

(ここで迷わず奴を貫いていれば……)

 

 色々と考えてしまう。後悔しても仕切れない。だがそれでも表情には出さない。なぜなら仮面を被っているから。俺は今藍染惣右介であって藍染惣右介ではないからだ。だから頭の中で何を考えようともその仮面を外してはならない。

 

(母さんは最後に幸せになれって言ってくれた。しかし俺にそんな資格あるのだろうか)

 

 そう、父さんと母さんを殺してしまったも同然なこのおれに。今でも時々夢にみることがある。二人が光の槍に貫かれ死んでいく様子、そして堕天使が俺のせいだと叫んでいたことを。

 

 それが引っかかり未だに誰かと仲良くなろうとも思えない。家に人なんてあげられない。

 

 

 

 

 

 しばらくベンチに腰掛けて物思いにふけっていると不意に近くの茂みからがさりと音がした。振り向いてみると。

 

「黒猫か」

 

 一匹の黒猫がいた。キョロキョロと辺りを見回しまるで何かに怯えているかのようにも見える。しかし

 

「傷だらけじゃないか。他の猫と喧嘩でもしていたのか?」

 

 黒猫は傷だらけだった。その様子は痛々しく足取りも非常に不安定だ。手当てをしてあげるべきだろうか。ヨン様モードの()()藍染惣右介ならばそうするだろう。そう考えて俺は立ち上がり黒猫に近ずいた。

 

「大丈夫だ。僕は君を傷つけたりはしない。安心してくれたまえ」

 

 俺が近ずくと黒猫は毛を逆立てて威嚇してきたので俺は黒猫にヨン様スマイルでそう告げた。

 

 するとヨン様スマイルは安心感抜群のようで黒猫は警戒を解いたと思ったらその場で倒れてしまった。

 

「疲れていたのだろう。安心して休むといい」

 

 しかしどうしたものか。手当てをすると言ってもこの場ではできない。家に連れて帰るべきだろうか。家には誰一人いれたくはないが目の前にいるのは黒猫。一人ではなく一匹ならば平気か。

 

 そう俺が自分に対して屁理屈をこねていると不意に違和感を感じた。これは……。

 

 

 

 

「結界、か?」

 

 そう、いつの間にか公園に結界が張られていた。この魔力は悪魔か? しかし普段のはぐれ悪魔のような気配ではない。となると普通の悪魔か? 

 

 なんでこの公園ではこんなことばかり起きるのか。この公園は呪われているのか? 

 

 とりあえず俺は万が一戦闘になってもいいように倒れている黒猫を出てきた茂みの方に隠し、公園の反対側へ歩く。また俺に巻き込まれて誰かが死ぬのはごめんだ。

 

 そうすると複数の悪魔が俺の目の前に現れた。見た目は人間のようだ。やはりはぐれ悪魔とは全く違うな。そう悪魔たちを観察しているとリーダー格らしい悪魔が声をかけてきた。

 

「なんで人間がおれらの張った結界の中にいるんだあ? 気配は感じなかったが」

 

 それはこの街にかけてある鏡花水月の催眠のせいだろう。俺の垂れ流しているはずの霊圧(魔力)を認識されないようにしてあるからな。そうしなければすぐに悪魔や堕天使に襲われてしまう。

 

「いえ、僕はたまたまこの公園を散歩していただけですよ」

 

 とりあえず穏便に済ませようと当たり障りのないように質問に答える。

 

「そうか、ならいい。人間なんかに構っている暇はないからな。そうだ貴様、ここらで女を見かけなかったか?」

 

 女? そんなの見ていない。そもそもこの公園には前から俺以外いなかったはずだ。こいつらはその女性を探しているようだ。

 

「いえ、見ていませんね。その女性に何か用事でもあるのでしょうか?」

 

 その女性は仲間なのだろうか? そう考え軽く質問を返してみる。

 

「うるせえな、人間がおれに質問なんかすんじゃねえよ。殺すんだよ」

 

「殺す?」

 

「ああそうだよ。俺たちのために殺すんだ」

 

 リーダー格の悪魔は汚い笑みを浮かべてそう答える。

 

 何を言ってんだこいつ。もしかしてあの時のように自分勝手な理由で人を殺すつもりなのか? また俺の両親のような罪のない人を陥れようとするのか? 

 

「どうだ、満足したか? そして記憶を消すのも面倒だからそんなことを聞いたてめえも殺してやるよ! さっき質問に答えたのを冥土の土産になあ!」

 

 目の前の悪魔たちを俺を見てゲラゲラ笑っている。非の打ち所のないクズどもだ。おれは腹が立った、なんでこんなクズどもが生きているんだ。ここで殺そう。さらに被害が出る前に。こいつらは俺の地雷を踏んだ。

 

 そう思って俺はメガネを取り髪をかきあげる。

 

「ちょっとは抵抗してみろよ! おれらが気配を感知できなかったんだ。もし見込みがあったら俺様の眷属にしてやるかもなあ!」

 

 

 

 

 

「君たちは有害すぎる。ここで歩みを止めてもらおうか」

 

「何余裕ぶってんだ人間風情が! てめえら! やれ」

 

 判断するやいなや俺は鏡花水月を発動させる。本来一対多の状況では鬼道を使うのが効率的なのだが俺にはまだ鬼道は使えない。だからこうする。

 

「なっ! てめえらなんの真似だ!」

 

「死にやがれ! 人間!」

 

「一人でこの人数に勝てるわけないだろうが!」

 

 俺は鏡花水月で下っ端たちに催眠をかけた。リーダー格が俺に見えるように。すると下っ端たちはリーダー格の方に攻撃を始めた。リーダー格は驚きながらも部下たちを相手取る。やはり下っ端たちよりは腕が立つようだ。

 

「てめえ、神器持ちだったのか! これか催眠か!?」

 

 奴は俺がいたはず方向を向き怒鳴る。だが奴の視線の先にもう俺はいない。

 

「君が知る必要はない」

 

 そう言いつつ俺はリーダー格の背後から奴の首を落とす。下っ端たちの相手をしている合間におれはすでに背後に回り込んでいた。奴の落ちていく顔が最後に驚愕していた。

 

「ははは! 所詮人間なんてザコだったなあ!」

 

「俺たち悪魔相手に一人でなんて勝てるわけないに決まってらあ!」

 

 リーダーが殺されて下っ端どもは笑う。そんな馬鹿どもを見て俺は鏡花水月を解除する。

 

「砕けろ、鏡花水月」

 

「なん……だと……?」

 

「なんで死んでるのがあの人間じゃねえんだよ!」

 

 口々に驚愕の言葉を口にする。隙だらけだ。

 

「あの人間はどk」

 

 一人の悪魔の首を落とす。一斉に他の悪魔どもはこちらを振り向き驚愕する。そしてその隙に隣にいた悪魔の首も落とす。

 

「ヒッ! ば、バケモノめ!」

 

 残り少なくなった下っ端の一人の顔が恐怖に染まる。

 

「バケモノは君たちの方だろう」

 

 恐怖に足がすくんでいる間に残りの悪魔の首を全て落とす。やはり相手が複数の際は心臓を貫くよりも首を落とす方が効率的だ。

 

 そうして悪魔たちと俺の戦闘は俺の蹂躙という結果で幕を閉じた。やはり鏡花水月は便利である。刀を振る回数も一人一振りと効率が良かった。スムーズな戦闘だった。もちろんこんなクズどもは死ぬ時は必ず驚愕か恐怖の中で殺す。笑顔でなんて逝かせてやるものか。

 

 鏡花水月の弱点の1つである催眠無視の敵味方無差別の全体魔法などを使われていたらもう少し手こずっていただろう。やはりあの中でそれを使う可能性が最も高そうなリーダー格を最初に殺せたのは今回の戦いで最も評価する点だろう。

 

 自己分析もほどほどに俺は髪を下ろしメガネをかけ直す。戦闘の時は前髪やメガネは邪魔なので外したりあげたりしているが、基本戦闘以外はヨン様モードだ。ヨン様モードの方が色々な人からウケが良く何かと都合がいい。

 

 そして俺は最初の目的を思い出した。そうだ、あの黒猫は大丈夫か? 一応離れたところで戦闘していたから大丈夫だと信じたいが……。

 

 

 

 

 

 黒猫の元に戻ってみると先ほどと変わらず気を失ったままだ。逃げ出してないということはあの戦闘の間も気を失ったままだったのだろう。よほど疲れていたのだろう、体のダメージもひどい。

 

「よかった。守ることができたようだね」

 

 俺は心の中で安堵する。守れてよかったと。いくら猫とはいえ俺に関わったせいで死んでしまうのは辛い。そして猫とはいえ俺はこの世界で初めて何かを守れたのだと思う。

 

「もう少しの辛抱だ、すぐに手当てしよう」

 

 黒猫を撫でながらそう呟く。せっかく守れたのだ、ここで見捨てるはずがない。一時的とはいえ守りたいと思えたのだからこの猫なら家にあげてもいい。最も人を入れるのはまだ先になりそうだが……。

 

 そうして俺は片手に猫を抱き、片手にお供え物用のビールなどが入ったレジ袋を持ち公園を出る。そして公園の入り口で立ち止まり振り返る。

 

(父さんと母さんを守れなかったこの公園だけど、この公園で守れたものができたよ)

 

 そう心の中で呟き、今度こそ家への帰路につく。空はすでに暗く、夜空には満月が輝いていた。

 

 

 

 

 

「ただいま、父さん、母さん。今日、俺は猫を守ることができたんだ。初めて何かを守れたんだ」

 

 家に帰り仏壇にそう挨拶をする。

 

「もう少し待っててね、この猫の手当てが終わったら父さんが好きだったビールと母さんが好きだったケーキを持ってくるよ。今冷やしているからね」

 

 そして俺はソファーに寝かせた猫の手当てを始める。正直猫の手当てなんて前世でもしたことがないため正しいのかはわからないが思いつく手当てをしていく。まず汚れた体を水に濡らした清潔なタオルで拭き、傷に軟膏を塗って包帯を巻いていく。そしてふと思った。

 

「あれ? 最初公園で見たときよりも傷が少ない気がするな? まあ、暗くなりかけてたし気のせいか」

 

 なんだか先ほどより傷が浅くなっている気がする。しかしすぐに暗かったからだろうと忘れることにした。

 

 なんとか黒猫の手当てを終えると生前の父さんの部屋に入る。部屋はまだ余っていたのだ。ちなみに今俺が使っている部屋は母さんと俺が一緒に寝ていた部屋だ。まだあの時は7歳だったから自分の部屋は持っていなかった。

 

 父さんの部屋はこまめにおれが掃除しているので生前の雰囲気を崩すことなく清潔に保たれている。部屋のベッドにタオルを敷き、その上に猫を寝かせる。

 

「早く元気になるといいな」

 

 俺は気持ちよさそうに寝ている黒猫を撫でる。

 

 いかん、情が湧いてしまったか? でも一度守りたいと思えたんだ、このままここで飼ってもいいかもな。もう家に入れてしまったんだし。

 

 そう考えつつ俺は父さんの部屋を出て仏壇に買ってきたものを供える。そして両親に今日会ったことを報告し、普段やらないことなどをしたため時間も遅いので日課の鬼道の暗唱と原作知識の確認はやらないことにする。

 

 そして俺は軽く食事をし、シャワーを浴びてベッドに横になる。今日はなんだかよく眠れそうだ。あの猫を守って公園での嫌な思い出が少し払拭されたからかもしれないな。

 

 そんなことを考えていると眠気が襲ってきた。

 

 

 

 

 

「どうしよう、猫に食べさせられるものがないわ。明日朝一で買いに行かなきゃ」

 

 

 

 

 

 そう寝る直前に思いつき、明日は朝猫に食べさせるものを近くのコンビニにでも買いに行かなければならないと考える。

 

「明日は一日猫関連で忙しいかもな。何が必要なのかもわからないし、怪我の具合も見ないといけない。明日は鍛錬なしかなあ」

 

 そこまで考えてもう眠気の限界がきたようで俺は目を閉じそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 その日は両親の命日であり、悪魔を殺したにも関わらず、いつもの悪夢を見ることはなかった。




はい!オリ主は黒猫を拾いました!

ほとんどの方がもうお分かりだと思います。笑

ここからどう物語が進んでいくのでしょうか!

次回もお楽しみください!

評価・感想・誤字報告も是非お願いいたします!


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第四話 邂逅

はい!bad boyです!

UA数が1万を超えました!正直ここまで見てもらえるとは思っていませんでした!見てくださる方本当にありがとうございます!

それでは第四話どうぞ!


 黒猫を守り、悪魔たちを殺した翌日、俺はいつも通り朝5時に起床した。もう体に染み付いており目覚ましなしでも時間通りに目覚めることができる。

 

「ふあ〜あ、起きるかあ」

 

 大きな欠伸を1つして起き上がる。

 

(そういえば昨日の黒猫は大丈夫かな?)

 

 そう考え向かいの部屋のドアを開ける。そこには昨日と様子の変わらない黒猫が寝息を立てていた。

 

 傷の具合は包帯を取ってみないとわからないが、気持ちよさそうに寝てる様子を見る限り大丈夫そうだ。

 

 包帯を取り替えるべきかと考えたが、今起こしてしまうのは無粋だと考える。

 

「最初警戒していたし、長い間しっかりした休みを取れていなかったのかもしれないな。ゆっくりおやすみ」

 

 そう起こさないように小さく呟き、部屋を後にする。

 

 今日は昨日考えていた通り鍛錬は中止することにした。黒猫のために買わなければいけないものや、怪我した黒猫の面倒を見る必要がある。

 

 そうして俺はシャワーを浴び、いつもの朝食をすませると必要なものを買うために近くのスーパーに向かうために家を出た。朝早いため24時間であるのが非常にありがたい。

 

 

 

 

 俺はスーパーで猫の喜びそうなマグロの切り身や鰹節や、ブラッシング用の櫛などを購入し、家に帰る。

 

 玄関をくぐろうとした時にふと家の中から魔力の気配を感じた。

 

「昨日の悪魔の残党か? いや、そもそもこの家は認識できないようにしてあるはず……」

 

 絶対に家の中から感じないはずの気配に冷や汗が流れる。魔力の持ち主はどうやらリビングにいるようだ。俺は気付かれないようにそっと家に入り、リビングへと向かう。

 

 

 

 

 リビングには家に入れた覚えのない女性が俺の食料庫(バランス栄養食品が入った段ボール)を漁っていた。

 

「誰だっ!!!!」

 

「にゃあああああああ!!!!」

 

 そこにいた女性は俺に気付いていなかったようで驚き叫び声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────??? side

 

 時間はすこし遡る。

 

 

 

 

 

「うにゃ? ここは?」

 

 

 

 

 

 私が目を覚まして目に入ってきたのは知らない部屋だった。ここはいったいどこなのだろう。

 

 記憶を整理してみる。私は妹がこの街の中学校に入学したという噂を聞きつけて久しぶりに妹の姿を隠れて見ようとこの街に来た。

 

 そこで追手の悪魔たちに見つかり不意打ちで手傷を負わされて猫の姿になり逃げていた。猫の姿になっている間は魔力などが感知されにくいからだ。

 

 なんとか逃げ切れたはいいものの、思っていたよりもダメージが大きく、満身創痍だった。悪魔の気配も遠くに感じていた。でも私も限界が近かった。

 

 その時私の目の前に優しそうな青年が現れた。見た所人間のようだ。私はその時目に見えるもの全てが敵に見えていたから威嚇をした。しかしその人間は

 

「大丈夫だ。私は君を傷つけたりはしない。安心してくれたまえ」

 

 そう優しく笑顔で言ってくれた。この人間はきっと私がただの猫だと思っているのだろう。悪意は感じなかった。

 

 そのあとのことは記憶にない。おそらく気を失ってしまったのだろう。

 

 ふと自分の体を見てみる。綺麗に包帯が巻かれていた。きっと優しそうなあの人が手当てしてくれたのだろう。

 

「ってことはここはあの人の家ってことかにゃ?」

 

 おそらくそうなのだろう。あとでお礼をしなければ。

 

 しかし長居はできない。なんせ私はお尋ね者、いつ追手の悪魔に見つかるかわからない。人間を巻き込むわけにはいかない。あの人に礼を言ったらすぐにここを出よう。

 

 幸い動けないほどの怪我ではない、仙術でそのうち治るだろう。そう思いながら私は人の姿になり、ベッドから起き上がる。

 

 

 

 

 

 手当てをしてくれた彼にお礼を言うためにリビングに来たが誰もいない。人の気配もしない、あの人はおそらく出かけているのだろう。このまま出て行くのでもいいが助けてくれた相手に例の1つも言わないのは自分の良心が痛む。幸い追手の悪魔の気配も無いため少しの間待つことにした。そう考えているとお腹が鳴った。

 

「お腹すいたにゃあ」

 

 そういえば私昨日から何も食べていないんだ。

 

 勝手に食べたりはしないけどちょっとだけこの家に何か食べ物がないか探してみようかな。

 

 そう思いキッチンに来てみたが使われている形跡がない、不自然なくらいに何もない。そう思って辺りを見回してみると1つの段ボール箱を見つけた。唯一使用感のあるもので気になり中をのぞいてみる。

 

「大量のカ○リーメイト?」

 

 同じものが大量に入っていた。もしかしてあの人はこんなものばかり食べているのだろうか。そんなことを考えていると……。

 

「誰だ!!!!」

 

「にゃああああああああ!!!!」

 

 不意に後ろから声が聞こえ私は飛び上がる。おかしい、気配は何も感じなかった。振り向いてみるとそこには見覚えのない中学生くらいの男の子がいた。

 

 ────??? side out

 

 

 

 

 

「お前は誰だ! どうやってこの家に入った!」

 

 家に帰ったら見知らぬ女性がいた。おかしい、この家は誰にも認識されていないはずなのに。人なんて入れたくなかったのに! 

 

「ど、どうやってって、目が覚めたらここにいたのにゃ!」

 

「は? 何言ってんだ? おれは誰かをこの家に入れた覚えはない!」

 

 俺は鏡花水月を構えながら女性に話しかける。だがおかしい、こちらの話にきちんと返事をしてくる。俺を狙っているならすぐに仕掛けてきてもいいはずなのに。

 

「ほ、ホントだにゃ! 昨日ある人に助けられて、目が覚めたらこの家で手当てされてたんだにゃ!」

 

「俺はお前なんか助けた覚えはない! 手当てなんか……?」

 

 昨日助けた? 手当てをした? その行為自体には覚えがあるがこの女性には覚えがない。

 

「俺が昨日手当てしたのは黒猫だけだ! お前なんか知らん!」

 

「私がその黒猫にゃ! 昨日あの人に手当てしてもらった黒猫にゃ!」

 

 は? そんなわけないだろうが、あの猫からは今みたいな魔力は感じなかった。

 

「そんなわけないだろ! あの猫からは今お前から感じる悪魔のような気配はしなかった!」

 

「あ──! もう! だったらその証拠見せるにゃん!」

 

 そういって彼女は黒猫へと変身した。包帯なども昨日のままだ。ということはマジでこの黒猫は悪魔だってのか? 

 

「まじ……かよ……」

 

 しばらくして黒猫は再び女性の姿へと戻った。そういえば猫耳も尻尾もある。コスプレか何かかと思って無視していたが本物なのか。

 

「だから言ったにゃん! ところで君! 昨日私を助けてくれた人はどこかにゃ? お礼を言いたいんだけど」

 

「へ? 俺だけど?」

 

「何嘘言ってるにゃん! 昨日助けてくれた人は君よりももっと大人だったにゃ! あの人は君のお兄さん?」

 

 何言ってんだこいつ……? 

 

 あっ!! そうかこの家の中では催眠がかかっていない! 自分を助けたのはヨン様だと思っているのか。

 

「証拠を見せるよ、鏡花水月」

 

 俺は鏡花水月を発動させヨン様に見えるように催眠にかけた。

 

「嘘。この人にゃ、昨日私を助けてくれた人」

 

「砕けろ、鏡花水月。だから言っただろ、昨日黒猫を助けたのは俺だって」

 

「だって見た目もしゃべり方も別人だにゃ」

 

「うっ、それは色々あるんだよ……。とりあえずお互い誤解は解けたようだし飯にしよう。詳しいことは食べながらでも話す。猫に食べさせるようにマグロとか買ってきたんだよ」

 

「にゃ!? わかったにゃ! 私も昨日から何も食べてないからお腹すいてるし」

 

 

 

 

 

「まずは名前からだな俺は藍染惣右介」

 

「惣右介ね、私は黒歌っていうにゃん」

 

 俺はいつもの、黒歌は買ってきたマグロを刺身にして食べながら自己紹介をしている。

 

「単刀直入に聞くが、黒歌は悪魔なのか?」

 

「やっぱり悪魔のこと知ってるのね、姿のことも神器なんだろうし。そうよ私は悪魔にゃん」

 

 やはりそうか、悪魔の魔力を感じるしそもそも普通の人間は猫になんて変身できない。

 

「じゃあなんで猫の姿であんなに傷だらけだったんだ?」

 

「それは、私がはぐれ悪魔だからにゃん……」

 

 はぐれ悪魔? 黒歌が? 今までのはぐれ悪魔とは全然違じゃないか。魔力も今までのはぐれ悪魔とは質が違う。

 

「はぐれ悪魔? 今まで何回かはぐれ悪魔の相手をしたことがあるがそいつらとは随分違うな」

 

「え? はぐれ悪魔とやりあったことがあるにゃん? そうね、はぐれ悪魔には主に二種類いるにゃん。力に溺れ主人の元から逃げ出したやつ。そして理由があって主人を殺した眷属悪魔……」

 

 なるほど、はぐれ悪魔にも色々とあるようだな。そもそも今までのはぐれ悪魔はまともにこちらと会話しようとする奴はいなかった。

 

「黒歌の様子からして後者のようだな」

 

「そうにゃん、だからあの時私は追手の悪魔に手傷を負わされて逃げていたんだにゃん」

 

 こいつは俺が知っている悪魔と違うようだ。ここまで俺の話をちゃんと聞く悪魔なんて初めてだ。敵意も感じない。

 

「なるほど、あの悪魔どもの言っていた探している女ってのは黒歌のことだったのか」

 

「えっ、奴らと話したの!?」

 

「ああ、こちらを攻撃してきたからな、全員殺した」

 

「嘘っ!?」

 

「本当だ。俺の神器の能力は完全催眠、同士討ちさせて奴ら全員の首を落としたさ。それよりもお前が主人を殺した理由ってなんなんだ? そしてなんでこの街に来た?」

 

「理由は……」

 

 黒歌は俯いて唇を嚙む。あまり聞かれたくないようだ。

 

「無理に話さなくていい。俺にも聞かれたくないことはあるしな」

 

「ありがとうにゃん。さてと、昨日の傷の手当てとご飯ありがと本当に感謝してるにゃん、でも私そろそろここを出るにゃん」

 

 黒歌は捲し立てるように会話を切り上げ席を立とうとする。

 

「まて、お前行くあてなんてあるのか? はぐれ悪魔なんだろ?」

 

「そんなのあるわけないにゃん。でも私がここにいると惣右介に迷惑がかかるにゃん、いつ狙われるかわからないし……。私なら大丈夫にゃん!」

 

 そう言って黒歌は笑顔を浮かべた。でも無理して笑っているのがわかる。俺を気遣っているのだ、自分のせいで俺に被害が行かないように。

 

 優しいんだな。放っておけない、こんな気持ちになったのはいつぶりだろうか。俺はとっさに声をかけた。

 

 

 

 

「行く場所がないならここにいればいい」

 

 

 

 

「えっ?」

 

 そうだ、俺は元々こいつを守るために家にあげたんだ。ならばもうすでに黒歌は俺の守らなければならない対象だ。

 

 それに、他の悪魔は信じられないが黒歌なら信じられそうな気がする。自分が傷つくであろうことを承知で人間のおれのことを気遣ってくれるような優しい奴なら。

 

「ここにいていいって言ったんだよ」

 

「私の話聞いてなかったのかにゃ? 私ははぐれ悪魔でいつか必ず狙われるっt」

 

「それは大丈夫だ。俺の神器の能力は話しただろ、この家は誰からも認識されないようになっている。この家にいる限り誰かに狙われるなんてことはあり得ない」

 

「で、でも見ず知らずの人にそんなよくしてもらえる資格なんて私にはないにゃん……」

 

 うーん、思っていたよりも意思が固いな。どうするか……。そうだ! 

 

「ならその対価として俺に魔力の制御方法やこの世界のこと裏のことも含めて教えてくれないか? それならお互い対等だろう?」

 

 こちらにメリットがないと思っているのならばこちらのメリットを提示すればいい。俺としても最近の鍛錬には限界を感じていたしちょうどいい。

 

「うーん、それだったら確かに……。わかったにゃ、お言葉に甘えさせてもらうにゃ、でも惣右介に危険が及んだらすぐに出て行くからね」

 

 よかった、うまくまとまったな。

 

「ああ、わかった」

 

「じゃあこれからよろしく頼むにゃん! 惣右介!」

 

「こちらこそ、ようこそ我が家へ黒歌」

 

 

 

 

 

 それからは黒歌がうちに住むうえで必要なものなどを買いに行った。如何せんうちにはモノがなさすぎる。

 

 外に買いに行こうと黒歌に言うと家にいると言われたが、催眠で魔力や容姿もを誤認させることができるから大丈夫だと言ったらおそるおそる付いて来てくれた。

 

 外に出るとおれの容姿や口調が違いすぎて「ギャップありすぎにゃ」と盛大に笑われてしまったが。解せぬ。

 

 そうして色々と買い物を済ませ、黒歌が住むように家の中をいじったりしていると夜になっていた。ちなみに黒歌には父さんの部屋を使ってもらうことにした。きっと父さんも許してくれるだろう。

 

 引っ越し作業が終わると俺と黒歌はスーパーで買って来た惣菜で夕食を済ませ就寝することにした。そういえばちゃんとしたご飯を食べたのなんていつぶりだろう。

 

「まだ怪我が完治したわけじゃないからしっかり休めよ」

 

「わかってるにゃん、おやすみ惣右介」

 

「ああ、おやすみ」

 

 そう言って俺らはそれぞれの部屋に入った。

 

 

 

 

 

「おやすみ、か」

 

 そうベッドに横になりながら呟く。おやすみなんて言葉を使ったのは両親が死んで以来だ。

 

 いやそもそも()()()()()の仮面を被った俺ではなく俺自身が人と会話をしたこと自体7年ぶりだ。そう考えると涙がこぼれそうになる。

 

「誰か俺を見てくれって、心のどこかで思っていたのかもしれないな」

 

 やはり俺はまだ心が弱いようだ。だから成り行きとはいえ7年ぶりにおれ自身と会話してくれた黒歌をとっさに引き止めて家に住むように言ってしまったのかもしれない。昨日までは誰も家にはあげたくないと思っていたのに。

 

 守りたいからではなく、現在俺自身を見てくれる唯一の人だから。だが不思議と嫌な気分にはならなかった、寧ろ清々しい。

 

 

 

 

 

 そろそろ寝よう。今日は昨日と同じくらい色々なことがありすぎた。

 

 久しぶりに人と会話して、久しぶりにちゃんとした食事を誰かと食べて、「おやすみ」と言い合ったり。

 

 今日のことを思い出すと自然と心が軽くなる。今日はいい夢が見れそうだ。

 

 

 

 

 

 そうして俺は眠りについた。

 

 

 




はい!と言うことで黒歌さんが本作のヒロインであります。

理由としては主人公に魔力や色々なことを教えてあげられること、行くあてがないため主人公と同居人にするのに都合がいいこと、そして個人的に作者が好きだからなどです!

他のヒロインを期待していた方には申し訳ないです。これからも見ていただけると嬉しいです。

では次回をお楽しみに!


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第五話 家族になるために

はい!bad boyです!

お気に入り数が300を超えました!

多くの方に見てもらい、非常に嬉しいです!これからもよろしくお願いします!


それでは第五話どうぞ!


 黒歌がうちに住みだしてから半年が経った。俺はいつものように鍛錬を行なっていた。もちろん黒歌に教わりながら。

 

 黒歌は転移魔法陣が使えたため黒歌が来てからはいつもの山ではなく海外の誰もいない山奥で人目を気にすることなく鍛錬できていた。黒歌が結界を張ってくれることで鏡花水月を使うことなく鍛錬に集中できた。

 

 そして黒歌に魔力の使い方を学んだおかげでとうとう……。

 

 

 

 

 

 ド────ーン

 

 

 

 

 

「や、やっと出た!!」

 

「すごいにゃん惣右介! こんな魔法見たことないにゃ! 初めて聞いたときは何言ってんのこいつって思ってたけどほんとにできるとはにゃあ」

 

「ああ、ありがとう、これも黒歌が魔力制御について色々と教えてくれたおかげだよ。最後の方少しバカにされた気もするけどまあいいや」

 

「それにしても惣右介は色々と規格外すぎにゃ。身体能力お化けだし、膨大な魔力を持ってるし、神器の能力も使い勝手良すぎるし、ほんとに人間?」

 

「正真正銘人間だよ失礼な。人間、のはず。人間……だよな?」

 

 最近俺も本当に俺が人間なのかと思い始めてきた。黒歌に教えてもらった話だとそもそも普通人間は魔力を持たないらしい。なんで俺が並の悪魔を余裕で超える魔力を有しているのか謎だ。

 

 おそらくこれも転生特典なのだろうか。俺は潜在能力は鏡花水月の元の持ち主である()()藍染惣右介を参考にしてるってやつ。そうじゃないと説明がつかない。

 

 でもまだ本物には程遠い。彼は刀を使わせても一流だった。俺は剣術はからっきしだ、黒歌も剣は使わないので教わる相手もいない。しかしそこまで望むのは欲張りだろう。

 

「なんで自分で言っておいて自信なくしてるにゃん」

 

 黒歌が呆れたように言ってくる。やかましい! こちとら慣れてきたがいまだに前世の常識引きずっとんのや! 

 

「まあ多分人間よ惣右介は。他の種族の気配は感じないし、背中から羽が生えたりもしないでしょ?」

 

「ああ、そうだよな、俺人間だよな。サンキュー」

 

「そうそう安心していいにゃん。どうする? キリもいいしそろそろ切り上げて帰るかにゃん?」

 

「いや、あれが使えたなら他にも使えそうな魔法に心当たりがある。それを一通り試して今日は終わりにしよう」

 

「わかったにゃん。お腹すいたにゃあ」

 

「待ってろって、試すだけだからすぐ終わるから」

 

 それから覚えているもを一通り試した後俺たちは家に帰った。

 

 

 

 

 

「またカ○リーメイト? ちゃんとした食事とったほうがいいにゃん」

 

「いや、でもこれバランス栄養食品だし、今までこれで生活できたし」

 

 俺らは今夕飯を食べている。黒歌は鍛錬中に獲っていたのか家にはなかったはずの焼き魚を食べている。

 

「そういう問題じゃないにゃ! 美味しいもの食べるだけで心が豊かになるにゃ、体を休めるだけじゃなくて心も休めるべきにゃ」

 

「そうか? 別に黒歌が心配する必要なんかないのになあ、お前が食べたいものあったら買ってくるし」

 

「惣右介は一緒に住んでるんだし家族みたいなもんなんだから心配するのは当たり前にゃ。ただでさえ惣右介は修行バカで他のこと考えないんだから」

 

 家族、か。そういえば俺のこと心配してくれる相手なんて今までいなかったもんな。そうか、黒歌は俺のことそんな風に思ってくれているんだな。最後の言葉に少し棘があったが。

 

「どうしたのかにゃ? ぼーっとして」

 

「いや、なんでもない。そうだなこれからは少しマシなものを食べるようにするよ」

 

「それでいいにゃん。ごちそうさま、私はお風呂に入ってくにゃ、覗いちゃダメよ?」

 

「バッ、そんなことしねーよ!」

 

「えー、別に覗きにきてもいいのににゃ〜」

 

「うっさい、俺は覗かないから早く風呂いけって」

 

「はいはい、じゃあ行ってくるにゃん」

 

 そこまで話して黒歌は風呂場へ向かった。

 

 

 

 

 

 そしてその後はお互いの部屋に入り、俺は日々の日課の鬼道の暗唱や黒歌に教えてもらった知識と原作知識のすり合わせをしてベッドに横になる。俺が主人公と同じ学年だとするならば原作開始まで後2年というところか。

 

「家族、か」

 

 黒歌は俺のことを家族のように思ってくれているらしい。あの言葉は7年間一人で過ごしてきた俺に深く刺さった。

 

 俺としても7年一人であった頃と比べて話し相手がいる今ははるかに心地がいい。誰かと「おはよう」挨拶をし、食事をし、「おやすみ」と言いあう。このような当たり前の日常を俺は望んでいたのかもしれない。

 

 だが、俺たちにはまだ壁がある。お互いに踏み込んだ話はしないようにしている。俺は黒歌にこの街に来た理由やはぐれ悪魔になった理由を聞こうとはしてこなかった。それに黒歌は鍛錬が休みの日はどこかへ出かけている。帰ってきても手ぶらなので買い物というわけでもない。それについても問い詰めようとは思わなかった。

 

 黒歌にしても俺がなんで一人だったのか、なぜ外で自分の姿をごまかしているのか、なぜ強くなろうとするのか関して聞いてこない。俺が毎日仏壇の両親に挨拶しているのを見ているにも関わらず。

 

 そろそろお互い腹を割って話すべきなのかもしれない。俺たちが本当の意味で家族のようになるためには今のままではいけない、今はただの家族ごっこだ。ただお互い自分にメリットがあるから一緒にいるに過ぎない。

 

 俺としてはようやく俺自身を見てくれてる相手ができたこの生活を失いたくはない。今のままでは何か起きればこの日常は簡単に崩れてしまうのだろう。

 

「明日にでも話すべき、かな」

 

 家族になろうとするならばお互いの汚い部分も見せ合う必要がある。

 

 ならば明日の鍛錬は中止してゆっくりとお互いの話をするべきだ。

 

 そう明日の予定を頭の中で書き換えながら目を閉じる。

 

「最近寝る前に考え事をするのが習慣になってやしないか?」

 

 

 

 

 ────黒歌side

 

 私は今日自然と目が覚めた。

 

 私は基本朝に弱いからいつもは朝「鍛錬行くぞ! 早く起きろ!」と惣右介が起こしに来てくれるのだが今日はなぜか起こしに来なかったようだ。

 

 惣右介も寝坊することがあるのか? とふと思う。あの修行オタクが寝坊なんかするのだろうか。

 

 惣右介の家に居候するようになってからもう半年が経つ。正直こんなに長くここにいることになるとは思っていなかった。

 

 どうせすぐに追手の悪魔に見つかって惣右介を巻き込まないためにここを出るものだと思っていた。

 

 だが、惣右介の神器鏡花水月の能力は凄まじく知ってても確実にかかってしまう。聞いたことのない神器だがそのおかげで今だに追手に見つかる気配はない。

 

 それにここでの生活は心地いい。追手の心配をすることなく普通に食事をして普通に誰かと話して安心して夜眠れるここでの生活は。

 

 それに惣右介は信頼できるいい人だ。修行のことしか頭にないばかな人だが、私のことを助けてくれて、こんな私を気にかけてくれてここにいていいと言ってくれる優しい人だ。

 

 そして家の中と外で人が変わりすぎるのが面白い。戦闘中になるとさらに人が変わるから最初は「三重人格?」と笑ってしまった。だが本人に聞いてみたらあの姿は数年後の自分の姿だと言う。確かに今の彼にあの姿の面影がある最初は兄弟だと間違えたくらいには。数年すればあんなカッコ良い男になるのか。おっと思考がそれてしまった。

 

 惣右介は場所を提供する代わりに魔力の使い方を教えてもらうから俺たちは対等だと言っていたがそれも疑問だ。

 

 惣右介はものすごく強い。魔力量も膨大だし身体能力も高い。それに昨日成功させた見たことのない魔法の数々に加え神器まである。最上級悪魔と戦っても勝てると思う。本人は俺なんて弱いとよく言うがそんなことはないと思う。

 

 正直私がいなくても平気な気がする。以前欲に溺れたはぐれ悪魔と戦いのを見たが、普段のバカさはどこに行ったのかとても冷静で容赦がなかった。

 

 でも、私はこの生活を失いたくないと思っている。そんなのダメに決まっているのに。

 

 惣右介に迷惑がかかる前に出ていかなければならないのに。

 

 

 

 

「黒歌〜、起きてるか〜?」

 

 部屋のドアの前から惣右介の声が聞こえた。

 

「起きてるにゃん」

 

「そうか、今日は鍛錬は中止だ。朝飯を食べたら買い物に行くぞ。昨日マシな食事をするって約束したしな」

 

 なるほど、だから今日は朝早くに起こしに来なかったのか。休みなら白音の様子でも見に行こうかな。

 

「わかったにゃん、今からリビングに行くから待っててにゃ」

 

 

 

 

 そうして私たちは必要なものを買いに行った。食料だけではなく、パンを焼くためのトースターやキッチン用品なども買いに行った。

 

 買い物から帰ってきたらとりあえず買ってきた惣菜で昼食をすませる。この後はどうするのだろうか、午後からはまた修行でもするのか。

 

「ねえ惣右介、買い物はもう終わったけどこの後はどうするにゃ? やっぱり修行?」

 

「いや、今日の鍛錬は無し。今日はお前としっかり話さなきゃなと思ってな」

 

「話す? わざわざ何話すのにゃ?」

 

「その、昨日お前俺のことを家族みたいなもんだって言ってたよな?」

 

 なんの話をするのだろうか。確かに昨日は会話の流れでそのようなことを言った気がする。

 

「確かに言った気がするけど、それがどうかしたのかにゃ?」

 

「家族になるためにはさ、もっとお互いのことを話さなきゃなと思ったんだ。黒歌はなんで俺がここまで強くなろうとするのか知らないだろ? 俺も黒歌がはぐれ悪魔になった理由だったり色々と知らない。俺らはお互い無意識に壁を作っていると思うんだ」

 

「っ!!」

 

 私は息を飲んだ。そうだ、確かに私は惣右介のことを何も知らない。なぜあそこまで修行にこだわるのか、きっとあそこの仏壇の写真の人たちも関係するのだろう。

 

 それは今まで避けてきたことだ。それを聞くにはきっと私も色々と話さねばならないから。彼に話して嫌われたくなかったから、この心地いい場所が壊れてしまう気がしたから。

 

 でもここまで言われたら私も覚悟を決めなければならない。きっと惣右介も話したくないことを話そうと覚悟を決めてこの話を持ちかけてきたのだろうから。

 

 全て話そう。それで嫌われてしまったらここを出て行くしかない。

 

「わかったにゃ。全部話すにゃ、私も惣右介がなんでそんなに強くなることにこだわってるのか知りたいし」

 

「ああ、じゃあ俺も全部話すよ。俺がここまで強くなることにこだわる理由、それは〜」

 

 惣右介は話し始めた。

 

 

 

 

 

「〜以上が俺が強くなろうと思ったきっかけ、そして半年前までずっと一人だった理由だ」

 

 ひどい話だった。こんなの7歳の子供がしていい経験じゃない。目の前で両親が殺され、さらにその原因は自分にあると言われたのだ。そんなはずはないのに。

 

 そしてその後7年も誰にも認識されずに生きてきたなんて私には絶対耐えられそうもない。私は惣右介の話を聞いて涙が止まらなかった。

 

「なんで、なんで惣右介がそんな目に合わないといけないんだにゃ? 何も悪いことなんてしてないのに」

 

「いや、俺が甘いのがいけなかったんだ。それ以降俺はまた守れなかった時壊れてしまいそうだったから誰もこの家に入れず、誰にも認識されずに一人で生きてきた」

 

「そんなことないにゃ! 惣右介は甘いんじゃない、優しいんだにゃ! そんなに苦しむ必要なんてないにゃ!」

 

 惣右介が悪いわけない! だってこんなに優しいんだから。こんな人を一人になんてしておけない。

 

「それに今は一人じゃないにゃ! 私がいるにゃ! 一人で背負いこむ必要なんてないにゃ!」

 

「ありがとう黒歌、お前は優しいな。よければ今度は俺に聞かせてくれないか? 黒歌のこと」

 

「わかったにゃ」

 

 

 

 

 

 私は全部話した。私が元々は猫魈という妖怪だったということ、妹を守るために眷属悪魔になり、主人を殺したということ。そして妹がグレモリー家の眷属となり、この街にある駒王学園の中等部へ通っておりそのためにこの街に訪れ今でも時々様子を見に行っていること。

 

「そしてあの時追手の悪魔に追われていて惣右介に助けられて、今ここにいるってわけにゃ」

 

「そうか……。黒歌みたいな優しい奴がどうしてはぐれ悪魔なんかにとは思っていたがなるほどな」

 

「やっぱり私のこと嫌いになったかにゃ? 主人を殺したなんて……」

 

 嫌だな、惣右介に嫌われるの。この生活も終わりなのかな。

 

「は? 嫌いになんてなるわけないだろ?」

 

「えっ?」

 

「だってお前は何も悪いことしていないじゃないか。主人を殺したのだって妹のためなんだろ? それでお前は自分を犠牲に妹を守り切ったんだ。すごいよ、嫌うどころかむしろ尊敬する」

 

 え? 嫌いにならないの? そんなこと言ってくれるの? 

 

「でも、結局妹を最後まで守れなかったし……」

 

「でも妹さんはまだ生きているんだろ? ちゃんと守れているじゃないか」

 

 こんなに優しい言葉をかけてもらえるとは思ってなかった。また泣いてしまいそうになる。

 

「そう、かにゃ? 私、本当に白音を、守れた、のかにゃ?」

 

「大丈夫だ、泣きそうな顔すんなって。お前は妹さんを守れたんだ。現に今も遠くから見守ってるだろ? 俺なんかよりよっぽど立派だよ黒歌は」

 

 そういって惣右介は私の頭を優しく撫でてくれる。

 

「安心してくれ、お互い腹の内見せ合ったんだ。俺たちはもう家族だ、

 

 

 

 

何があっても絶対俺が守ってやる」

 

 

 

 

 

 そう彼は綺麗な笑みをこちらに向けて言った。普段外で浮かべる仮面の笑顔ではなく、彼本来の微笑み。綺麗で優しい笑顔だった、誰かに守るなんて言われたのは生まれて初めてだった。

 

 不意に顔が熱くなる。あれ、おかしいな私年下は好みじゃなかったはずなのに。きっと照れているだけだ。

 

「ん? どうしたんだ? さっきから下を向いて黙って」

 

「な、なんでもないにゃ! その、守るなんて言われたの生まれて初めてだったからなんて言えばいいのかわからなかっただけにゃ!」

 

 まずい、惣右介の顔をまともに見れない。私ってこんな簡単な女だったか? 落ち着け私! 

 

「そういう時は、ありがとうって言えばいいんだよ。もう俺たちは家族なんだから家族を守るのは当たり前だ」

 

「あ、ありがと、にゃ。私も家族だから惣右介が危ない時があったら守るにゃ!」

 

 家族、この言葉の重さは彼が誰よりもわかっているはずだ。ってことは惣右介は私を大事に思ってくれてる? 流石に飛躍しすぎか。

 

「ああ、ありがとな黒歌!」

 

 そう彼は満面の笑みを浮かべた。思わず見とれてしまった。その笑顔は反則にゃ。

 

 

 

 

 

 そのあとはお互いの昔のことなどの話題で談笑していたら夜になっていた。

 

 そして夕食を食べているときに惣右介がふと提案をしてきた。

 

「俺、高校生の年になったら駒王学園に入学することにする」

 

「え、急にどうしたんだにゃ?」

 

「いや、お前いつまでも妹と離れ離れなんて嫌だろ? だから俺が駒王学園に入って接点作ればお前らが話し合える機会を作れるかもしれないだろ? それに俺が近くにいれば何かあった時守ってやれる、黒歌の家族は俺の家族でもあるからな!」

 

 やっぱり惣右介は優しい、普通はここまでしてくれない。学校に通うということは修行の時間が減るということだ。自分の大切な時間を削ってまで私たちの姉妹のためにそこまでしてくれるなんて。

 

 そしてそこまで私のことを考えてくれていることを嬉しく思う。あれ? でも学校に行くってことは二人でいる時間が減るていうこと? それはそれで寂しいな。

 

「惣右介、ありがとにゃ。私たちのためにそこまで考えてくれて」

 

「何言ってんだ、さっきも言っただろ俺たちは家族だ。家族が笑顔でいられるようにするのは当然のことなんだよ」

 

「うん、ありがとう、惣右介。その時は白音のことよろしく頼むにゃ」

 

「おう! 任せろ!それとこれ、常に持っておくようにしてくれ。」

 

 そう言って惣右介は私にお守りを渡してきた。

 

「これは、お守りかにゃ?」

 

「ああ、そしてその中には鏡花水月の欠片が入っている。それを常に持っていれば俺の完全催眠にかかることはない。家族である黒歌にはありのままの俺を見ていて欲しいからな。」

 

 そう言って惣右介は微笑む。嬉しい、ありのままを見ていて欲しいだなんて。私は顔がにやけないようにするのに必死だった。

 

「ありがとうにゃ、ずっと持っておくようにするにゃ。」

 

「ああ、よろしく頼む。」

 

 

 

 

 そして夕食を食べ終え、しばらく談笑したあと就寝の時間の迎える。

 

「おやすみ黒歌。明日は今まで通り鍛錬やるからな」

 

「了解にゃ。おやすみにゃん、惣右介」

 

 お互いにおやすみを言い、自分の部屋に入りベッドに横になる。

 

 今日は色々ありすぎて心なしか疲れた。

 

 でもお互い隠し事なしで具べて話せたおかげで私たちは本当の家族のようになれたと思う。

 

 惣右介が私のことを嫌いにならないでくれてよかった。守るって言ってくれて嬉しかった、白音のために学校に通うと言ってくれて感謝した。

 

 そして、もう1つ。こっちの方が重大な問題。私が惣右介を好きになってしまった。

 

 最初は守るって言ってくれたことに対しての照れかも知れないと思ったが時間が経ってもドキドキしっぱなしだった。

 

 今まで言い寄られることはあっても、こんな経験は初めてなためどうしていいかわからない。

 

 そう言えばどこかで好きな人の心を掴むためにはまず胃袋を掴むって聞いたことがある。

 

 これは今の彼には非常に有効な作戦ではなかろうか。惣右介は今まで決して良いとは言えない食生活を送ってきた。

 

 私が料理をしてあげることがアピールにつながるかも知れない。正直料理なんてしたことがないがそこは練習していけばいいだろう。

 

 それに彼は家の中でしか本来の自分でいられないと話していた。つまり彼の本当の姿を見れるのは私だけということ。それだけ私を信頼してかれてるのだと思うととても嬉しい、そしてライバルがいないのはありがたい。

 

 

 

 

 とりあえずの作戦を頭の中で完成させ、私は目を閉じる。

 

 明日からの生活がすごく楽しみだ。こんなに安らかな気持ちになれたのは本当に久しぶりだ。

 

 

 

 

 

 それと、家族なんだからスキンシップ増やしても大丈夫だよね? 

 

 私を好きにさせたんだから責任とってよね、惣右介。

 

 




はい!ここで二人は本当の意味で家族のような存在になれました!

そして、黒歌が墜ちました!笑
次回以降も是非お楽しみください!

また、評価・感想もお待ちしてます!よろしくお願いします!


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第六話 嵐の前の静けさ

はい!bad boyです!

UA数が2万を超えました!みてくださる方ありがとうございます!

今回少し短めとなっておりますがご容赦ください。


それでは第六話どうぞ!


 黒歌とお互い腹割って話して本当の家族になってから2年がたった。

 

 黒歌と家族になってからは色々なことが変化した。

 

 

 

 

 

 まず、俺の食生活を気遣ってか黒歌が料理をするようになった。黒歌も料理なんてしたことなかったのか最初は失敗を重ねていたが、今の黒歌の作る料理はとても美味しい。今となっては家に料理系雑誌が沢山ある。

 

 時々スッポン鍋だったりおかずが牡蠣ばっかりだったりする特殊な時があるが、翌日の鍛錬の調子がいいのでありがたい。

 

 そして黒歌からのスキンシップがやけに増えた。朝起きるとベッドに入り込んで隣に寝ていたり、不意に後ろから抱きついてきたりする。

 

 正直俺も男であるため理性を保つのが大変だが、黒歌も長い間一人で過ごしてきたため家族の温もりに飢えているのだと考え特に注意などはしていない。それに夜抱きついて寝てるのには理由があるらしく、こうすることで仙術で俺の体を癒すことができるらしい。これは俺としても非常にありがたい。

 

 黒歌は優しいやつだし、俺が寂しがっていたのを知って気を遣ってくれているのかも知れない。

 

 黒歌は大事な家族だから俺がしっかり守ってやらないとな。

 

 そして鍛錬の成果については、駒王町のような広い範囲は無理だが戦闘時のような狭い空間では鏡花水月の二重使用ができるようになった。これは俺が魔力制御を覚え、不必要に魔力を使うことがないようになったからだと推測する。

 

 黒歌が使う仙術に関しても教えてもらおうと思ったのだがどうやら俺には不向きだったらしく良い結果が得られなかった。だが強くなるためには習得すべきだと思うので今やっていることがひと段落したらもう一度挑戦しようと思う。

 

 最近は制御した魔力を習慣的に一箇所に集中させることにより攻撃力・防御力を強化することができないか試している。それと鬼道の威力増加と魔力の節約のための鍛錬だ。

 

 

 

 

 

 そしてあと2つ大きな変化がある。1つ目は俺の容姿がほぼ()()藍染惣右介と同じになったことだ。食生活が改善されたからか俺の身長はこの2年で急激に伸び、今は180ほどになった。

 

 それによりこの街にかけていた完全催眠が1つ解除された。外に出るときも本来の容姿のままになった。もちろん俺や黒歌の魔力の誤認や、黒歌の容姿の誤認の催眠はかけるが。

 

 だがこの約10年で染み付いてしまったのか、家の外では今までの態度でいるし、不必要に人と関わろうとはしていない。

 

 正直今は黒歌がいることで寂しさはないし、まだ俺に複数の人を守れる自信はないため今まで通り外では仮面を被ろうと思っている。いざという時切り捨てることができずに以前のように全てを失うなんてのはごめんだ。

 

 せっかくできた家族を失うリスクと天秤にかければ仮面を被るくらいなんてことはない。

 

 そしてもう1つの、一番大きな変化は先日俺が駒王学園に入学したことだ。

 

 その目的は黒歌と妹の白音ちゃんを再会させる機会を作るため、そして何かあった時に白音ちゃんを守ることができるようにするためだ。

 

 入学するのは鏡花水月を使えば簡単なことだった。

 

 しかし今更学生生活はきついものがあった。なにせあまり人との関係を深めたくないためヨン様の仮面を被っているのだが、これが女子うけがいいらしくやけに色々な生徒から話しかけられる。

 

 その度に当たり障りのない会話をして特定の誰かとつるまないようにするのはなかなかに気をつかう。うわべでは問題ないように生活し、かつ怪しまれないために孤立しないようにするのは匙加減が難しい。

 

 そしてこの学園には悪魔が多い。これは数少ない原作知識から元々知っていたことだ。重要人物が多くいる中彼らとも関わりすぎないようにするのは大変だ? しかも彼らは魔力制御の鍛錬をこなしていないのか、魔力がダダ漏れだ。気にしないようにするのにも骨が折れる。

 

 そういえば黒歌は原作の登場人物なのだろうか? 本当に重要なところと大まかな流れしか記憶していなかったため黒歌は俺の原作知識には引っかからなかった。妹の白音という名前も覚えがなかった。

 

 こんなところだろう。この2年間で色々と変化があった。

 

 

 

 

 

 そして俺はいつも通り朝の鍛錬をするために5時に目を覚ました。右腕に重みを感じるとやはり黒歌がいた。

 

「黒歌〜起きろ〜鍛錬の時間だぞ〜」

 

「んにゃ? おはようにゃ惣右介」

 

 こいつは本当に無防備だな。普通男にこんなことするかね? まあ家族だし俺が何もしないって信頼してくれているのだろう」

 

「ああ、おはよう黒歌。鍛錬行くぞ」

 

「ほんと惣右介は修行バカだにゃあ。もう少しこのままでもいいのに」

 

 バカとはなんだ。俺はお前を守るためにはもっと強くならねばならんのだ。それにこれ以上このままでいるのは流石に理性が持たない。

 

 そうして朝の鍛錬を終え、黒歌が用意してくれた朝食を食べ、学校へと向かった。

 

 ちなみに黒歌も猫の姿で時々学校についてくる。最初の頃は家にいたのだが暇だと言ってついてくるようになった。もちろん鏡花水月を発動してある。学校では基本俺のリュックの中にいる。

 

 

 

 

 

「よう藍染!」

 

「やあ、おはよう兵藤君」

 

 教室に入って声をかけてきたのは兵藤一誠という生徒だ。最初会った時は驚いた、なぜなら彼は原作の主人公だったからだ。確か彼はドラゴン系の神器を宿しているはずだ。微かにドラゴンの気配がする。

 

 彼は原作主人公でこれからの話の中心になる人物のため他の生徒よりかは話している。そのため懐かれてしまったようだ。

 

 黒歌に不思議がられたが、ドラゴンの気配がするからと説明したらなんとか納得してくれた。

 

「お前放課後暇か? ナンパしに行こうぜ! お前がいるだけで絶対成功率跳ね上がるからよお!」

 

「悪いね兵藤君、それには参加できないよ」

 

 ただ、問題なのはこいつ変態すぎるということだ。正直原作主人公でなければ絶対に関わりたくない人種だ。ハーレムを作るためにこの学校に入ったなどと意味がわからなすぎる。

 

「ちょっと兵藤! 藍染君をそっちの道に引きずり込まないでよね!」

 

「そうよ! 兵藤離れなさいよ!」

 

「くっそー! お前ばっかりモテやがって! やっぱりイケメンは敵だあ!」

 

 そういって兵藤一誠は教室から出て行った。おーい、もう直ぐ授業始まるぞー。

 

 

 

 

 

「藍染君! 好きです! 付き合ってください!」

 

「すまないね、僕は今そういう人を作るつもりはないんだ。君ならば僕よりもきっと良い人物がいるはずだ。悪いけど諦めてもらいたい」

 

 今は昼休み。黒歌に作ってもらった弁当を食べようとしていたら一人の女子生徒に呼び出されて今に至る。

 

 最近はこういうことが多い。男としては嬉しいのだが今は黒歌以外に親しい人間を作るつもりはないので毎回断っている。

 

 それにもし誰かと付き合うにしてもその人には仮面の俺ではなく、本物の俺を知っていて受け止めてくれる人間がいい。

 

 なのでこの学園の人間にいくら告白されてもOKを出す日はこない。

 

 そして教室へと帰り、今度こそ黒歌の弁当を食べようとすると、

 

「おい藍染! お前今告白されたんだろ!? 返事はどうしたんだ?」

 

 兵藤一誠(へんたい)が来た。毎度毎度よくこいつも飽きないな。

 

「いや、断ったよ」

 

「なんでだよさっきの子隣のクラスで結構可愛いって人気の子なんだぞ!」

 

「僕は彼女のことを知らないし、彼女も僕のことを知らないだろう? 申し訳ないが流石にそれでは良い返事は返せないよ。それにそもそも僕は今そういう人を作るつもりはない」

 

「くっそー! 余裕見せやがって!! 彼女なんていつでも作れますってか! やっぱりお前は敵だー!!」

 

 そう言って兵藤一誠はまた泣きながら教室を出て行った。はあ、疲れるなこいつの相手をするのも。

 

 

 

 

 

「おい、本当に今日ナンパ一緒に行ってくれないのか?」

 

「すまないね、一緒に行くことはできない」

 

「そうか、残念だけどしょうがないな! じゃあまた明日な藍染!」

 

「ああ、すまないね兵藤君、また明日会おう」

 

 その日の授業が終わり今は放課後、兵藤はまたナンパに誘って欲しいと行ってきたが丁重にお断りした。

 

 あいつ顔はそこまで悪いわけじゃないんだからあのオープンな性癖をどうにかすればそれなりにモテると思うんだがなあ。だがそれ言っても聞いてくれないので何も言わない。

 

 毎日あいつのエロ話を聞かされるのは正直きつい。

 

 

 

 

 

「惣右介また告白されてたにゃ」

 

 学園から帰ってきて黒歌がなぜか不機嫌そうに言ってきた。

 

「いつも言っているだろ? 俺はこの学園で恋人とかを作る気なんてないって」

 

 なんで不機嫌そうなんだろう、家族を誰かに取られるような気がして嫌なのかな? 

 

「知っているけど、なんか嫌なんだにゃ」

 

「だから安心しろって、俺は今のところ黒歌以外に親密な人を作ろうとは思わないし、黒歌が俺の真実を知って受け入れてくれてるだけで満足だよ」

 

 そう言って安心させるように黒歌の頭を撫でる。こうしてくれると黒歌は機嫌を直してくれる。

 

「わかったにゃ。……ずるいにゃ惣右介」

 

 黒歌はそうそっぽを向いて言う。最後の方の言葉は小さくて聞き取れなかった。

 

 すると黒歌は後ろから俺に抱きついてきた。

 

「ちょっ! なんだよ急に!」

 

「なんでもないにゃ、なんとなくこうしたかっただけにゃ」

 

 元々が猫の妖怪だから家族にこういう風に接するのが当たり前なのかもしれないが、正直俺の理性が保つか心配だ。

 

「そうかいわかったよ、ったく」

 

 平常心! 平常心だぞ俺! これは家族の触れ合い、家族だから当たり前。普段仮面を被り続けている俺ならば平常心の仮面を被るくらいわけないはずだ! 

 

「それじゃ、夕飯作るから惣右介は風呂にでも入ってくるにゃ」

 

「ああ、サンキューな」

 

 そう言って黒歌は俺から離れキッチンへ向かい、俺は風呂場へと向かう。

 

 危なかった……。平常心でいるのも大変だな。

 

 

 

 

 

 そうして高校生活1年目は特に大きな事件もなく終わり、とうとう原作開始予定の高校2年性へと突入する事になる。

 

 




はい!というわけで次回からは原作へと突入していきます。

主人公がどのようにして物語へと絡んでいくのか是非お楽しみに!


感想・評価お待ちしております!よければお願い致します!


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旧校舎のディアボロス
第七話 加速する日常


はい!bad boyです!

今回からいよいよ原作突入です!

主人公がどう原作に絡んでいくのか、お楽しみください!

それでは第七話どうぞ!


 とうとう俺も高校二年生になった。この1年間は特に大きな事件も起きず平和な日々だった。

 

 だが俺は数少ない原作知識で知っている。今年から大きな事件が多発すると。

 

 だから俺はこの1年間も鍛錬をサボることはなく、家族を守れるように強くなろうとした。

 

 その結果として魔力を一瞬一部分に集中させ、その部分の強度を上げることによって攻撃力、防御力を強化することができるようになった。

 

 これから先は事件が起こりまくるためまとまった鍛錬の時間を取れるかはわからない。今の強さでどこまで通用するのかわからないが今できることを精一杯やるしかない。

 

 正直これから起こる事件の詳細や時期などは覚えていない。その中で俺は家族を守りぬかねばならない。

 

 

 

 

 

 そして1つ驚いたことがある。多分黒歌が原作の登場人物であるということだ。

 

 それは俺が二年生になり、妹の白音ちゃんが高校一年生になったということで黒歌とともに鏡花水月で気配を消して様子を見に行った時の話だ。

 

 白音という名前は俺の原作知識に引っかからなかったので安心していたのだが、いざ蓋を開けてみれば原作の登場人物だった。

 

 白音ちゃんはその名を塔城小猫と変えており、その名前は俺の原作知識に引っかかった。その時はやってしまったと思った。

 

 まさか自分が気付かない間に原作改変をしていたとは。

 

 しかしよく考えてみればそれでもいいのかもしれないと考えた。

 

 おそらく黒歌は俺に会うことがなければあのまま一人で過ごしていたのだろう。ならばここで俺が原作を変えても本人にとってはプラスなのではないだろうか。あのまま一人でいるよりかは今の環境の方が黒歌にとっては幸せだと思いたい。

 

 そもそも黒歌が原作にどう関わっていたのかなんて覚えていないし、気にすることでもないかと考えた。

 

 しかし困った。黒歌と白音ちゃんを仲直りさせるためには原作に関わっていけないかもしれない。なぜなら彼女はオカルト研究部の部員であり、俺と接点が全くないからだ。

 

 さてどうしたものか。数日前から堕天使の気配がするがきっとこれが原作の始まりなのだろう。俺はどう動くべきか。

 

 

 

 

 

「なあ藍染!! 聞いてくれよ!! 俺に彼女ができたんだ!!」

 

「本当かい?」

 

 ある日、兵藤一誠に彼女ができたらしい。こんな変態がいいなんて物好きな女もいるのだなあ。

 

「マジなんだって! ほら! 写真見ろよ!」

 

「なるほど、綺麗で性格も良さそうじゃないか。おめでとう兵藤君」

 

「へへっ、ありがとな!」

 

 彼女の名前は天野夕麻というらしい。見た目も良く、兵藤一誠が好きそうな女だ。

 

「イッセー死すべし……」

 

「裏切り者め……」

 

 少し離れたところで兵藤一誠に恨みのこもった眼差しを向けているのは松田と元浜という生徒だ。彼らは兵藤一誠の変態仲間であり、よく女子更衣室などを一緒にのぞいている。

 

 そして俺はその二人とはあまり接点がない。あの二人はイケメンを嫌悪しており、『学園のお兄様』といつの間にか名付けられ、裏で『藍染様』と呼ばれているらしい俺にはあまり近寄ってこない。

 

 イッセー曰く今日はその彼女とデートがあるらしい。

 

「そうなのか、応援しているよ兵藤君」

 

「サンキュー! 絶対いい報告持って帰ってきてやるから待ってろよ!」

 

「ああ、楽しみにしているよ」

 

 そう言って彼はスキップをしながら離れていった。

 

 放課後にちらりと校門付近に見えた彼の彼女から堕天使の気配がした。

 

 数日前から感じている複数の堕天使の気配に、聞く限りでは初対面の女、それに堕天使からの告白からのデート。怪しいな。

 

 

 

 

 

 

「あの変態にできた彼女、多分堕天使にゃ」

 

「やっぱりそうだよな〜」

 

 黒歌も気付いていたようだ。

 

「どうするつもりにゃん?」

 

「うーん、とりあえずは様子見かな。まだ何もしてないわけだし。前の俺ならすぐに消しにいってただろうけど、黒歌みたいな例もあるし、堕天使も全員が全員あの堕天使みたいなクズじゃないと俺は思いたいよ」

 

 あの堕天使のことは今でも思い出すたびに声が震える。そう簡単に過去なんて断ち切れるもんじゃないな。

 

「わかったにゃ、惣右介がそう言うなら私も気にかけるだけにしとくにゃ」

 

 そういって黒歌は俺を後ろから抱きしめてくれる。優しいな黒歌は。

 

「ありがとうな、黒歌」

 

 それに比べて俺は情けない。甘さを捨てようと思ったのに、まだこんなに甘い。

 

 そんなことを考えていると、

 

「っ!!」

 

 これは、堕天使の力の気配? 他の気配を感じないと言うことは人間を襲っているのか!? 

 

「惣右介、この気配……」

 

「ああ、堕天使だ。しかもおそらく人間を襲ってる。黒歌、ちょっと行ってくる」

 

「わかったにゃ、惣右介なら大丈夫だと思うけど気を付けてね? 

 

「ああ、家族を残して死ぬ気はないさ」

 

 そう言って俺は伊達眼鏡を外して家を出た。

 

 

 

 

 

 堕天使の気配がしたのはとある公園。またこの公園かよ! 

 

 この公園人外を引き寄せる魔法でもかかってるのか!? 

 

 そんなことを考えながら公園に入ると堕天使とその光の槍に貫かれた兵藤一誠がいた。結界が張られていたがそんなの俺に通用しない。

 

「あら? 人払いの結界を張っていたのだけれどなぜここに人間が入ってきたのかしら?」

 

 そう言ってきた堕天使は見せてもらった写真とは別人のようだが彼の彼女のはずの天野夕麻だった。

 

「堕天使の気配を感じたからね、様子を見にきたのさ」

 

「ふ〜ん、そう言うってことはあなたも神器持ちなのかしら?」

 

 なるほど彼に近付いた理由は神器が狙いだったのか。まるっきり俺の時と同じだな。やっぱり堕天使ってこんな奴らばかりなのか? 

 

 兵藤一誠の様子をちらりと確認する。どうやら死にかけてはいるがまだ息はあるようだ。なるほど、これで悪魔に転生して原作が始まるのか。彼がどうやって悪魔になったのか覚えてなかったがこういうことか。

 

「そうだよ。私は神器を有しており、そこで死んでいる男の知り合いでもある」

 

「あら一誠君の知り合いだったんだあ。まああなたもここで死ぬから関係ないけどね!」

 

 そう言って堕天使が光の槍を構えたため俺も鏡花水月を構えたタイミングで背後に魔法陣が浮かび上がった。

 

「っ! ここは一旦引くべきね。当初の目的は達成したわけだし。あなたはまた今度殺してあげるわ」

 

 そう言って堕天使は去っていった。ここで消しても良かったのだが兵藤一誠を見捨てるわけにもいかないだろう。俺は戦闘が終わったので伊達眼鏡をつける。

 

 

 

 

 

 

「貴方が私を呼んだのかしら?」

 

 魔法陣のあった場所から声が聞こえた。

 

 そこにいたのはリアス・グレモリー。原作の重要人物であり、駒王学園の2大お姉様の片翼であり、悪魔である。

 

「いや、僕は呼んでいませんよ。おそらくそこの兵藤君が呼んだのでしょう」

 

「っ!! これはっ!! 貴方がやったの?」

 

 あれ? なぜかリアス・グレモリーがこちらを睨んでいる。

 

 状況を整理しよう。兵藤一誠は体を貫かれ瀕死、俺は鏡花水月(刀)を手に持っている。それをリアス・グレモリーが目撃。

 

 なるほど俺が兵藤一誠を殺したと思っているわけか。まずは誤解を解くべきだな。

 

「いえ、違います。彼をその状態にしたのは堕天使ですよ。僕がこの場に駆けつけたときはすでにその状態でした」

 

「堕天使の存在を知ってるの? それにその刀おそらく神器ね」

 

「そうです。彼が光の槍に貫かれ、僕も堕天使に殺されそうになったので神器を構えたタイミングで貴方が現れたというわけです」

 

「なるほど、本当かどうかはわからないけれどそういうことにしておくわ。貴方に敵意はないようだし」

 

 良かった。誤解はすぐに解けたようだ。

 

「後で話を聞く必要がありそうだけど、それよりもまずはこの子ね」

 

 そう言うとリアス・グレモリーはチェスの駒のようなものを取り出し彼の胸に置いた。するとその駒は彼の胸に溶け込んでいき傷が塞がっていく。なるほど、これが悪魔の駒(イーヴィル・ピース)か。

 

「あら? 1つじゃ足りないようね」

 

 どうやら足りないらしく1つ、さらに1つと駒を置いていく。

 

「ま、まさか兵士(ポーン)を全て使い切るなんて……」

 

「彼を悪魔に転生させたのですか?」

 

「ええ、そうよ。それにしても貴方悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のことも知ってるなんて、やはり話を聞く必要があるわね。貴方確か駒王学園の生徒よね、『学園のお兄様』だったかしら?」

 

 その呼び名はやめろ!! 

 

「はい、そこの兵藤君と同じ教室ですよ」

 

「そう、それなら後日貴方たちの教室に迎えの者を送るからその人の指示に従ってちょうだい」

 

「はい、わかりました」

 

「それじゃあ私はいくわ。貴方ももう遅いのだから早く帰りなさい」

 

 そう言ってリアス・グレモリーは兵藤一誠を連れて魔法陣で去っていった。

 

 

 

 

 

 

「〜ということがあった」

 

 俺は家に帰ると夕飯を作って待っていてくれた黒歌に夕飯を食べながら先ほどあった出来事を報告していた。

 

「あの変態が悪魔ににゃあ、それで惣右介はどうするのかにゃ?」

 

「とりあえず当たり障りのないように話をするよ。それに本当の目的はその場にいるであろう白音ちゃんと知り合いになることだからね」

 

 そう、あの場で俺が鏡花水月を使って俺のことを忘れさせなかったのは、白音ちゃんと知り合いになるチャンスだと考えたからだ。

 

 正直彼女は学年も違うし、普段はオカルト研究部の悪魔たちとよく一緒にいるため話しかけづらかった。

 

 ここでオカルト研究部の面々と顔見知りになっておくのは黒歌のためにもプラスだと俺は考えた。

 

「私なんかのためにありがとにゃ、惣右介」

 

「何度も言ってんだろ、家族なんだから遠慮なんていらねーって。好意は素直に受け取っとけよ」

 

「うん、ありがとにゃ。明日も惣右介のために頑張ってご飯作るにゃ!」

 

 そう言って黒歌は笑顔を作る。不覚にも俺はその笑顔に一瞬見惚れてしまった。そういえば黒歌ってかなりの美人だよな、俺が黒歌と同居してるなんて兵藤一誠が知ったらきっと発狂するんだろうな。

 

 こんな美人に毎日飯作ってもらえてるなんて俺は幸せ者なのかもしれないな。

 

 って、俺は何考えてるんだか。黒歌は家族だぞ、家族に何やましいこと考えてんだよ俺。

 

「ああっ、ありがとな黒歌」

 

 若干どもってしまった、恥ずかしい。

 

「あれ〜、惣右介顔が赤いにゃ〜♪」

 

「っ!! うっせーな! 風呂入ってくる!!」

 

「背中流してあげようかにゃ〜?」

 

「か、からかうなよ! じゃあ行ってくる!」

 

 そう言って俺は逃げるように風呂場へ向かう。

 

 ったくからかいやがって。黒歌みたいな美人にそんなこと言われると本気にしちまうだろうがっ。

 

 

 

 

 

 そうして風呂に入りなんとか冷静さを取り戻したところで就寝の時間になり、俺はベッドに横になる。

 

 明日は悪魔たちとご対面か、これからどう立ち回るかな。

 

 

 

 

 

 

 そして翌日……。

 

「おい、藍染!お前天野夕麻って子のこと覚えているか!?」

 

 




はい!ということで原作開始です。

これから彼はどのように立ち回っていくのかをお楽しみください!

感想・評価待ってます!誤字訂正してくださった方はありがとうございました!

それでは次回もよろしくお願いします!


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第八話 オカルト研究部

はい!bad boyです!

前回から原作に突入しましたが、原作にオリキャラ絡ませていくのってなかなか難しいですね、他の作者さん方尊敬します。

それでは第八話どうぞ!


「おい! 藍染! お前、天野夕麻って子のこと覚えているか!?」

 

 兵藤一誠が堕天使に襲われた翌日の朝、そう話しかけて来た。この気配、やはり彼は悪魔として転生したようだ。

 

「ああ、覚えているよ。君の彼女だろう?」

 

「っ! 藍染は覚えているのか?」

 

「僕以外の人は覚えていないのかい?」

 

「ああ、そうなんだよ! 松田も元浜もそんな子知らないっていうんだ! 嘘言ってる様子でもないし」

 

 俺は鏡花水月を使っていない。ということはあのリアス・グレモリーがやったのだろうか。一般人に堕天使の記憶を残しておくことに問題でもあるのだろうか。

 

「それはおかしいね、あまりにも不自然だ。兵藤君、これからあまりそのことは口に出さないほうがいいかもしれない」

 

「な、なんでだよっ!!」

 

「話を聞く限りまるで意図的にその天野さんのことがなかったことにされているみたいだ。ならばここで動き回るのは得策ではないよ」

 

 まあここは遠回しにリアス・グレモリーのやったことに協力しておくとしよう。俺としてもこれに時間はあまり取られたくない。このまま話を聞いていれば兵藤一誠に色々連れ回されるかもしれない。

 

「そ、そうか。藍染がそう言うならそうするよ」

 

 どうやらヨン様の信頼度はそこそこ高いらしく兵藤一誠は大人しく引き下がった。

 

「ああ、そのほうがいい。もうすぐ授業が始まる、席に戻っておいたほうがいい」

 

「ああ、サンキューな藍染」

 

 結局その日はリアス・グレモリーの迎えは来ず、そのまま何事もなく学校は終わった。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、俺はリビングでくつろいでいると不意に1つの堕天使の力が増大した気配を感じた。そしてもう1つ悪魔の気配。これは、兵藤一誠の気配だ。

 

「惣右介、堕天使と悪魔が戦ってるにゃ。どうするにゃ?」

 

「いや、今回は静観するよ。堕天使は昨日のとは違う堕天使のようだが、悪魔の方は兵藤一誠だ」

 

 眷属(兵藤一誠)が襲われているならば、主人であるリアス・グレモリーが黙っていないだろう。

 

「行かなくていいのかにゃ?」

 

「兵藤一誠はリアス・グレモリーの眷属だ。ならばわざわざ俺が行かなくてもその前に主人が黙っていないはずだ」

 

「なるほどにゃ。グレモリー家は情愛の強い一族、眷属にちょっかい出されて黙ってないってことね」

 

「その通り。だから今回は俺は特に行動はしないかな」

 

 そんなことを話している間にリアス・グレモリーの魔力を感じた。

 

「やっぱりな。ところで黒歌、そろそろリアス・グレモリーが話をしに来るはずなんだが黒歌はどうする?」

 

「うーん。万が一惣右介を無理やり眷属に誘う可能性があるかもしれないから猫の姿で一緒に行くにゃ」

 

 黒歌はやはり悪魔のことを完全に信用してはいないようだ。

 

「わかった、何かあっても基本俺だけでどうにでもなるから、手は出さないようにな。はぐれ悪魔である黒歌が奴らの前に出るのは避けたほうがいい」

 

「わかったにゃん♪」

 

 

 

 

 

 

 そして翌日

 

「嘘だろ!? なんであんな奴が!」

 

「リアスお姉様があんな下品な奴と……」

 

 兵藤一誠がリアス・グレモリーと登校してきた。リアス・グレモリーは学園で二大お姉様と呼ばれるほど人気のある生徒なため、他の生徒は変態(兵藤一誠)と一緒に登校してきたことに驚きの声を上げる。

 

「どういうことだ!」

 

 兵藤一誠が教室に入るやいなや松田と元浜が彼に詰め寄った。まあ事情を知らなければその反応も無理ないか。

 

「お前ら、生乳を見たことはあるか?」

 

 兵藤一誠がそう得意げに言う。

 

 やはりこいつは救いようのない変態だな。そう考え俺は人知れずため息を漏らした。リュックの中の黒歌もため息を漏らしていた。

 

 

 

 

 

 

「やあ、藍染君に兵藤君。リアス・グレモリー先輩の使いで君たちを迎えききたんだ。ついてきてもらっていいかな?」

 

「えっ、藍染もなのか?」

 

 放課後に俺と兵藤一誠を訪ねてきたのは一人の男だった。名前は木場祐斗(きばゆうと)、原作の登場人物であり、感じる気配からして彼も悪魔だ。

 

 最初兵藤一誠はその男に敵対的な視線を浮かべたが、次に俺の名前が出たことに驚く。彼は攻撃を食らった後だったからなぜ俺も呼ばれているのかを理解していないようだった。

 

 個人的には彼が来て欲しくなかった。なぜなら彼は『学園の王子様』と呼ばれており、

 

「きゃあああ! 藍染様と木場きゅんの組み合わせよ!」

 

「藍染様×木場きゅん? 木場きゅん×藍染様? どっち!?」

 

 そう、なぜか俺と木場祐斗にはホモ疑惑が流れている。理由はわかっている、俺も彼も女子生徒からの告白を断り続けているためだ。そのため一部の女子の中ではベストカップリングとして妄想のオカズにされているのだ。

 

 遺憾、誠に遺憾である。俺はノーマルだ、決してホモではない! 

 

「あのー、なんか俺影薄いんだけど……」

 

 兵藤一誠が寂しそうにしている。とりあえず早く教室から出たい。

 

「用事があるんだろう。とりあえず教室を出ないかい?」

 

「あ、あはは……。そうだね」

 

 木場祐斗もこの空気には堪え難いようで、俺たちは足早に教室を抜け出した。

 

 

 

 

 

 

「どこに向かってるんだい?」

 

「旧校舎にあるオカルト研究部の部室だよ。そこで部長、リアス・グレモリー先輩が待っているんだ」

 

「オカルト研究部!? あの二大お姉様や美女が集まるオカルト研究部!? グヘヘ……」

 

 兵藤一誠はまた変な妄想でもしているのだろう。とりあえず放っておくことにする。

 

 なるほど、確かに旧校舎に悪魔の気配が集まっている。そこに眷属全員集めてお話というわけか。

 

「ここがオカルト研究部の部室だよ。ようこそオカルト研究部へ」

 

 しばらく歩いて1つの扉の前で足が止まる。扉にはオカルト研究部と書かれたプレートがかけられていた。

 

 そして木場祐斗がその扉を開ける。

 

 その部屋に入ると目に入るのは部屋のいたるところにある魔法陣、なんだここ。趣味がいいとはお世辞にも言えないないな。

 

 そうして部屋の中にあるソファーに目を向けてみるとそこには一人の少女がいた。今日の一番の目的である白音ちゃん、もとい塔城小猫(とうじょうこねこ)ちゃんだ。こちらには目もくれず夢中で羊羹を食べている。

 

 黒歌にはおとなしくしておけよと釘を刺しておく。

 

「小猫ちゃん、こちらは兵藤一誠君と藍染惣右介君だよ」

 

「あ、どうも」

 

「紹介された通り僕は藍染惣右介、よろしくお願いするよ」

 

「……塔城小猫です」

 

 うーん、黒歌とは随分感じが違うなあ。顔は面影があるんだが雰囲気が違いすぎるなあ。

 

「……なんですか?」

 

 こちらの視線に気がついたようだ。

 

「いや、君は有名だけどこうして会うのは初めてだね、仲良くしてくれると嬉しい」

 

 とりあえずヨン様スマイルで好感度を稼ぎに行く。

 

「……羊羹食べますか?」

 

「ありがとう塔城君」

 

「小猫ちゃんが自分から食べ物を上げるなんてっ!!」

 

 木場祐斗が驚いている。どうやらファーストコンタクトは成功したようだ。ヨン様スマイルおそるべし。

 

「……いやらしい顔」

 

 隣の兵藤一誠は非常にいやらしい顔をしていた。それを白音ちゃんがジト目で見ていた。

 

 兵藤一誠の視線の先を見てみると部屋の片隅にシャワーが、そしてこの魔力からしてリアス・グレモリーがシャワーを浴びているのだろう。だからこの顔か。

 

 それにしても人を呼んでおいて自分はシャワーを浴びるというのはいかがなものだろうか。そもそも学校内にシャワーがあるのが不思議だが。

 

「部長、これを」

 

 そんなことを考えながら待っているとこの学園の二大お姉様のもう一人、姫島朱乃(ひめじまあけの)が中にいる人物にタオルを手渡す。

 

 そしてリアス・グレモリーがシャワーから出てくる。

 

「待たせてごめんなさいね。昨日はイッセーの家に泊まったからシャワーを浴びれなくて今汗を流してたの」

 

 なるほど、それで今朝の登校と兵藤一誠の発言に繋がるわけか。

 

 隣の兵藤一誠がドヤ顔をしているが、俺は俺でほぼ毎晩黒歌と添い寝しているからそこまで羨ましくもない。黒歌は家族ではあるが、女性としてはこのリアス・グレモリーに引けを取らない。

 

「祐斗、案内ご苦労様。それじゃあ兵藤一誠君、藍染惣右介君。私たちオカルト研究部はあなた達を歓迎するわ────悪魔としてね」

 

 

 

 

 

 

「〜とういことよ。これからよろしくねイッセー」

 

 リアス・グレモリーが兵藤一誠に一昨日の事件の説明、そして悪魔や堕天使についてなどの説明を行った。

 

 最初はもちろん信じなかったが、天野夕麻(本名はレイナーレというらしい)のことや実際に悪魔の羽を出して説明したことでなんとか飲み込んだようだ。

 

 その後兵藤一誠に宿る神器についての説明、それの顕現などを行った。どうやら彼の神器は龍の手(トゥワイス・クリティカル)らしい。

 

 だがどうもおかしい、彼の神器から感じるドラゴンの波動はもっと格の高いものだと思う。本当に彼の神器は龍の手(トゥワイス・クリティカル)なのだろうか。

 

 それに兵藤一誠は確か駒を8つ消費したはずだ。それがそんなものならば割りに合わないだろう。

 

 そして最後に兵藤一誠はオカルト研究部への入部と承諾し、眷属悪魔として生きていくことを決めたようだ。

 

 その決め手が上級悪魔になってハーレムを作るというのがまたこいつらしくて俺は呆れてしまった。

 

 

 

 

 

「それで今度は藍染君、説明してもらおうかしら?」

 

 兵藤への話は終わったようでようやく俺の番が来た。正直暇だった。

 

「何を説明すればいいでしょうか?」

 

「そうね、まずあなたはどうして悪魔や堕天使の存在を知っていたの?」

 

「僕が悪魔や堕天使の存在を知ったのは実際昔に堕天使に襲われたことがあるからですよ。その際に冥土の土産だと言われこの世界のことを色々と話されました」

 

 ここは真実を交えて嘘を言っておこう。自分の過去を詳しく話すつもりはない。

 

「っ!! そうなの!?」

 

「ええ、その際に神器に目覚めてなんとか相手を退けることができました。それ以降はまた襲われてもいいように密かに訓練を行なっていました」

 

「なるほど、そういうことなのね。では、あなたの神器の能力はなんなのかしら? 見た所刀のようだったけど」

 

「僕の神器鏡花水月の能力は霧と水流の乱反射により敵を撹乱させ同士討ちにさせる能力です。実際に見せてみましょう、砕けろ、鏡花水月」

 

 完全催眠なんて能力をここで教えるわけにはいかない。俺は()()藍染惣右介が使っていた手段を取ることにした。

 

 鏡花水月を発動させ、彼らには霧が出てお互いの姿が反射しているように見える催眠をかけた。

 

「これは……。なかなかえげつない能力ね」

 

「これでわかってもらえたでしょうか」

 

「ええ、あなたがなぜ悪魔や堕天使の存在を知っていて神器を使えたのか理解したわ。あと、なぜあの日あの場にいたのかしら?」

 

「それはたまたまです。買い物に行こうと家を出て公園の前を通っているときに人払いの結界が張られているのに気が付いたからです。僕の神器の特性上そういう結界の類は近くに行けば感じ取れるんです」

 

 俺嘘つくの上手くなったよなあ。それに仮面を被っているから表情にも一切動揺が現れない。

 

「それで公園に入ってみたら堕天使がいたと」

 

「はい、そうです」

 

「なるほどね。ねえ藍染君、あなた私の眷属になる気はないかしら?」

 

 やはり来たか。正直こうなることは予想できた。ある程度自分を鍛えていて神器も扱えるならば自分の眷属にしたがるだろうと思っていた。だが

 

「いえ、僕は遠慮しておきます」

 

 俺は誘いを断った。正直言って俺が信頼している悪魔は黒歌だけだ。そして黒歌の過去を聞いて眷属悪魔になることに抵抗を感じている。

 

「どうしてかしら?」

 

「僕は人として生を全うし、人として死にたいと思っているんですよ。永遠に近い寿命にも興味はありません」

 

 考えていた言い訳を言った。これで無理やり眷属にしようとしてくるならば実力行使だ。

 

「あら、残念ね。それなら諦めてあなたの意思を尊重するわ」

 

 意外にもすんなり引き下がってくれた。実力行使は俺も気が進まなかったので助かった。

 

「それではオカルト研究部に入ってくれないかしら?」

 

 今度は入部を勧められた。これは白音ちゃんと仲良くなるには好条件だ。今すぐ承諾したいところだが一応理由を聞いてみる。

 

「僕は人間ですよ? 入ってもよろしいのですか?」

 

「ええ、あなたはうちの学園の生徒であり眷属のイッセーの友人でもあるわ。それにまた堕天使や悪魔に襲われる可能性もあるからその時助けやすいようにね」

 

 なるほど、嘘は言っていないようだ。それなら入ってもいいだろう。

 

「わかりました。僕は人間なので悪魔の仕事はできませんし、毎日顔を出すわけではありませんがそれでもいいのでしたら入部させていただきます」

 

「もちろん大丈夫よ。もともとお願いしているのはこっちなんだし。改めてようこそオカルト研究部へ、あなたのことは惣右介って呼ぶわね。私のことは部長と呼んでほしいわ」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします部長」

 

 そうしてそのあとは解散となった。

 

 

 

 

 

「入部しちゃってよかったのかにゃ?」

 

「ああ、所属していることで白音ちゃんとの接点が持てるしな」

 

 夕食を済ませもうすぐ就寝の時間を迎える時に黒歌が聞いてきたのでそう答える。

 

「でもあのリアス・グレモリーちょっと馴れ馴れしいにゃ! 惣右介のこといきなり名前で呼んだりして!」

 

「まあ確かにいきなり名前呼びされたのは少し驚いたけどそんなに変なことか?」

 

 なぜか黒歌が少し機嫌が悪そうだ。

 

「なんかちょっと腹が立っただけにゃ」

 

「いくら名前で呼ばれてるからって俺と親しいわけではないぞ。あいつは俺のことを何1つ知らない」

 

「それはそうだけど」

 

「今俺のことを理解してくれてるのは黒歌だけだし、黒歌だけで十分だ。これからも関わっていくけどそのスタンスを変えるつもりはない。例外で黒歌の家族の白音ちゃんだけは真実を話す可能性もあるが」

 

「そうね惣右介の本当の姿を知っているのは私だけで、惣右介の家族も私だけにゃん」

 

「ああそうだ。それだけで十分だ」

 

 どうやら黒歌の機嫌も直ったらしい。家族が取られそうで不安になっていたのかな。

 

「今日は一緒に寝るにゃん、惣右介♪」

 

 そういって黒歌は俺の右腕に抱きついてくる。やばい、右手が埋まってる。

 

「わかったから抱きつくのはせめて寝る時になってからにしてくれ!」

 

「あれ〜なんでかにゃ〜?」

 

 こいつ確信犯だな。俺の反応をみて楽しんでやがる。

 

「いいから、とりあえず離れろって! 寝室行くぞ!」

 

「ちぇ〜、しょうがないにゃ」

 

 なぜか少し残念そうにしながら黒歌が離れる。そうして今日は終わりに近づいていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい!ということで主人公は悪魔になりませんでした。

正直悪魔にしてスペック上げてしまうとガチチートになってしまうのでとりあえずは人間のまま戦ってもらいます!

黒歌との寿命の差に関しては考えがありますのでご心配なさらずに!

感想・評価お待ちしています!よろしくお願いします!

それでは次回をお楽しみに!


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第九話 実力の片鱗

はい!bad boyです!

とうとう日間ランキングにも顔を出せるようになりました!応援してくださった皆様本当にありがとうございます!

今回でプロローグ含めて十話目ですね!

これからも頑張って更新していくので応援よろしくお願いします!

それでは第九話どうぞ!


 俺がオカルト研究部に入部してからはや数日が経った。

 

 俺としては入部してからは一回しか顔を出していない。なぜなら俺は悪魔ではなく人間であり部員のみんなは悪魔の仕事などを行なっているが俺がそれに対してできることは何もなかった。

 

 たまたま行った時に兵藤一誠が死んだような顔をしていたので声をかけたがその時は

 

『魔法少女……ミルたん……。うっ頭が……』

 

 と聞いてはいけないことだったらしく、そっとしておいて俺は不自然にならないように白音ちゃんと交流してその日は帰った。

 

 

 

 

 

「教会に近づいてはダメよ」

 

 数日ぶりに部室に顔を出し、白音ちゃんと話していると後から来た兵藤一誠がリアス・グレモリーに説教をされ始めた。

 

 話を聞くところによるとどうやら兵藤一誠は道に迷っていたシスターを教会まで道案内して教会に近づいたため怒られているようだ。

 

 その話を聞いて俺は少し兵藤一誠を見直した。ただの変態だと思っていたが困っている人を助ける一面も持っていたようだ。

 

 俺のような人間からしたらなぜそんなことで怒られなければならないのかと思うかもしれないが、悪魔からしたら怒って当然だ。

 

 悪魔は聖なる力が弱点だ。そのため聖なる場所である教会へ近づくのは自殺行為である。どちらの言い分もそれぞれの立場では正しいことである。

 

 悪魔になりたてで人間としての倫理観が抜けていない兵藤一誠にとっては酷な話かもな。

 

 それに今は悪魔・堕天使・教会(天使)の三勢力は休戦状態だ。何か小さないざこざでも戦争に発展しかねない。

 

 俺のような人間が堕天使や悪魔を殺しても問題はないがいづれかの勢力に所属してると問題になる。

 

 これが俺が悪魔になるのを断った理由の1つでもある。

 

 

 

 

 

 

 だが、兵藤一誠の言う教会からは聖なる気配ではなく、堕天使の気配がするんだよなあ。

 

 そもそもここは悪魔の管理する土地だから今あの教会は機能していないはずだ。まあそこまで教えてやるほどこいつらに肩入れする気はないが。

 

 そんなことを考えていると兵藤一誠が解放された。一応声かけとくか。

 

「大変だったね、兵藤君」

 

「ああ、道案内しただけでこんなに怒られるとは」

 

 まあ人間の常識で考えるとそうだよな。

 

「部長、大公からはぐれ悪魔討伐の依頼が来ましたわ」

 

「そういい機会だからイッセーに悪魔の駒の特徴を実演して教えましょう。それと惣右介も付いてきて、貴方の実力も把握しておきたいわ」

 

 姫島朱乃がそうリアス・グレモリーに告げると俺にも同行して欲しいと行ってきた。

 

 まあはぐれ悪魔は基本退治するしこいつらの実力も俺は把握しておきたいからちょうどいいな。

 

「わかりました、部長」

 

 

 

 

 

 

 そこから場所は変わって廃墟へ。しっかりと中から悪魔の気配を感じる。

 

「イッセー貴方チェスはわかる?」

 

 リアス・グレモリーが兵藤一誠に尋ねる。悪魔の駒の説明をするのだろう。

 

「はい、ルールくらいは……」

 

 そうして悪魔の駒についての説明が始まる。

 

 駒の種類、悪魔の出生率の低さをカバーしている点、そしてレーティングゲーム。

 

 レーティングゲームについては見たことはない。だがルールについては黒歌から常識の一環として教えてもらったことがある。

 

 まあ興行として人気らしいが、いつ戦争が再開してもおかしくないから実戦形式の模擬戦を行なって腕が鈍ることのないようにする目的もあるのだろう。

 

 そしてそれぞれの駒の特性について説明をしようとしたタイミングでリアス・グレモリーの言葉が止まる。

 

 さて、お手並み拝見といこうか。

 

 

 

 

 

 

「旨そうな匂いがするぞ。不味そうな匂いもするぞ。甘いのかしら? 苦いのかしら?」

 

 そう行って姿を現したはぐれ悪魔は、上半身は女、下半身は獣の姿で両手には槍を持っていた。

 

 こいつは黒歌のようなはぐれ悪魔ではなく、私利私欲のためにはぐれとなったパターンか。

 

「はぐれ悪魔バイサー。貴方を消滅させにきたわ。己の欲を満たすために暴れまわるのは万死に値する。グレモリー公爵の名において貴方を消しとばしてあげる!」

 

 そうリアス・グレモリーが宣言する。ちらりと兵藤一誠の方を見ると鼻の下を伸ばしていた。お前ストライクゾーン広すぎないか!? 

 

「小娘ごときがっ!」

 

 バイサーは激昂して襲いかかってきた。

 

「祐斗!」

 

「はい!」

 

 木場祐斗がバイサーに向けて飛び出す。

 

「イッセー、駒の特性を説明するわ」

 

 どうやら実際に見せながら説明をするらしい。

 

「祐斗の駒は《騎士(ナイト)》。騎士になった悪魔はその速度が上昇するの。そして祐斗の最大の武器は剣」

 

 木場祐斗の手には剣が握られておりバイサーに斬りかかる。おそらく神器だろう。

 

 だがあれで速度特化? 正直俺よりもずっと遅い。

 

 バイサーは腕を切断され絶叫しながら足元にいた白音ちゃんを踏みつぶそうとする。

 

「小猫の駒は《戦車(ルーク)》。特性はバカげた力と防御力」

 

 白音ちゃんはバイサーを軽く受け止めジャンプするとバイサーに拳を打ち込む。

 

 なるほど確かに確かに力強い。だが、あれくらいは人間の俺でもできるぞ? 説明するためにかなり手を抜いているのか? 

 

「あらあら最後は私ですわね」

 

「朱乃の駒は《女王(クイーン)》。《王》以外の全ての駒の特性を持つ最強の駒よ」

 

 姫島朱乃はバイサーになんども雷を落とす。

 

「うふふふふ」

 

 彼女は恍惚の表情を浮かべる。あ、これ意図的に手抜いてますわ。虐めるために。

 

 この人はドSだ! 俺はその表情を見て冷や汗を流す。

 

「朱乃は究極のSなの」

 

「見ればわかります!」

 

「大丈夫よ。味方には優しいから」

 

 本当かよ。誰にでもあの性癖発揮しそうで怖いわ! まあヨン様には流石にやってこないだろう。

 

 やってこないよね? いじめられるヨン様なんて俺知らないから演じられないよ!? 

 

「さて、最後に惣右介ね」

 

「僕ですか?」

 

「ええ、実力を見せてもらいたいから連れてきたのよ。そのために三人には手加減してもらって致命傷を与えないようにしてもらったの」

 

 なるほどな、まだバイサーは健在だ。これだけ時間かけてはぐれ悪魔一匹片付けられないんじゃ流石に失望してたわ。

 

「なるほど、わかりました」

 

 どうするか、あえて実力の一端を見せておくか。

 

 そう考えると俺は眼鏡を外し、髪の毛をかきあげた。

 

 

 

 

 

 

「それでは私の実力を少し見せるとしよう」

 

『えっ!?』

 

 部員の全員が驚いている。戦闘モードを見せるのは初めてだしな。二重人格と思われてるかもしれない。

 

「リアス・グレモリー、私が終わらせてもいいかい?」

 

「え、ええもちろん。それより惣右介……」

 

「それでは行ってこよう。紅茶でも入れて待っていてくれたまえ」

 

 そう言って俺はバイサーの方へ歩いていく

 

「あれ、本当に惣右介……?」

 

「……キャラ変わりすぎです」

 

「あ、あらあら」

 

「藍染君……?」

 

「マジかよ、あいつ二重人格なのか?」

 

 後ろの方から色々と言われているようだが気にしない。俺はこのモードじゃないと調子が出ないんだ! 

 

「さて、君一人だから鏡花水月の同士討ちは使えないな。どうしたものか」

 

 俺はそう後ろの部員にも聞こえるように言う。鏡花水月の偽の能力のアピールも忘れない。

 

「人間ごときが……」

 

 バイサーが憎悪のこもった目でこちらを見てくる。

 

「人間を舐めてはいけないよ」

 

 そう言って俺はバイサーの横を一瞬で通り過ぎた。足元にはバイサーの腕が転がっている。

 

「なっぎゃああああああ!!」

 

 腕がないのに気付いたバイサーは悲鳴を上げる。

 

「み、見えなかった。速い、騎士の僕よりも……」

 

 後ろで木場祐斗が声を漏らしている。

 

「人間があああああ!!!」

 

 バイサーは残っている腕を俺に突き出してきた。だが遅い、それに軽い。

 

「なっ!」

 

「何かしたのかい?」

 

 俺はバイサーの拳を人差し指で受け止めた。人差し指の先端に魔力を集中させ、防御力を高めたのだ。

 

 そして俺は魔力を込めた人差し指でバイサーをデコピンの要領で吹き飛ばす。

 

「がはっ」

 

「……なんて防御力、なんてパワー」

 

 白音ちゃんがそう呟く。

 

「まだ私に殺意を向けてくるか、些か滑稽に見えるな」

 

「この私が、人間ごときにいいい!!!」

 

「もう終わりにしよう。破道の三十三、蒼火墜(そうかつい)

 

 俺はバイサーへ蒼火墜を放ち、跡形もなく消しとばした。正直ちょっと遊びすぎたかもしれない。

 

「なっ? あれは魔法? 見たことがないわ!」

 

「ものすごい威力ですわ……」

 

 魔力を扱う二人が驚いている。

 

「す、すげー」

 

 兵藤一誠はただただ感心している。

 

 そして俺は伊達眼鏡をかけ、髪を下ろしながら部員の元へ戻る。

 

「ただいま戻りました。僕の実力少しはわかってもらえたでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

「いやー、あの後は大変だったよ」

 

「そりゃそうにゃ……」

 

 あの後色々と質問攻めにあい、やっとの事で家について、今はまったりしながら黒歌に今日の報告をしてきた。

 

 黒歌は呆れた顔をしている? なぜだ? 俺は全然本気を出していないというのに。

 

「にしても散々な言われようだったよ。まず真っ先に兵藤一誠に二重人格かと言われたしさ」

 

「二重人格に関しては仕方ないにゃ。あれは誰が見ても最初はそう思うにゃん」

 

「そうかな〜、俺としてはちょっと口調が変わるだけだと思うんだけどな〜」

 

「ちょっとどころじゃないにゃん。完全に別人だにゃ」

 

 結構容赦ないなこいつ。

 

「それにその後はお前本当に人間か? って言われるしさあ」

 

「それも当然にゃ。惣右介の動きや力は人間超えてるにゃ。しかも知らない魔法を目の前で見せられたらなおさらにゃ」

 

「本気を出したわけじゃないんだけどなあ。鬼道だって使える中では一番ランクの低い蒼火墜だったし」

 

「それで人間超えてるんだから惣右介が本当に人間なのか私も時々疑問に思うにゃん」

 

 なんかさっきからやけにグサグサくるな。

 

「なんかさっきから言葉に棘ない?」

 

「私が普段思ってたことを他の人が代弁してくれただけにゃん」

 

 黒歌も俺のことおかしいって思ってたのか。なんかショック、人間やめてるつもりはなかったんだがなあ。

 

「でも、惣右介がそんなに強くなろうとしたのは守ろうと思ったから、そして私をその力で守ってくれるのは嬉しいにゃん♪」

 

 でも黒歌は笑顔でそう言ってくれた。こいつツンデレかよ。

 

 やっぱりこいつだけは俺のことをわかってくれている。そう思うと胸が熱くなる。ありがとな黒歌。

 

「ああ、ありがとう黒歌。お前のことは絶対に守ってやるからな。そのために強くなったんだから」

 

「あ、ありがとうにゃん」

 

 俺がそう言うと黒歌そっぽを向いて礼を言う。

 

「さて、そろそろ寝るとするか! 明日も鍛錬してから学校だ!」

 

「にゃ! 今日も一緒に寝るにゃん惣右介♪」

 

「はーいよ、ちゃんと歯磨けよ?」

 

「わかってるにゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 そうして今日も俺は黒歌と一緒にベッドに横になる。そろそろ慣れてもいいんだがなあ。

 

 いつまでたっても慣れない。平常心平常心。羊が一匹羊が二匹羊が三匹、zzzZZZ

 

 

 

 




はい!と言うわけで主人公の戦闘シーンでした。

正直はぐれ悪魔程度に苦戦しているようじゃ今後のインフレに耐えられそうもないので圧倒してもらいました。

彼の残されている強化は大きいのは卍解くらいしかありませんからねえ。

アーシアとの会わせるか考えたのですが、アーシアはどうしても雛森っぽく感じるため主人公崇拝させてしまいそうだったのでやめました笑

評価・感想励みになりますので是非お願いします!

それでは次回をお楽しみに!


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第十話 兵藤一誠の覚悟

はい!bad boyです!

先日日間ランキング入りしてから多くの方に見てもらって非常に嬉しいです!

これからも頑張りますので応援よろしくお願いします!

それでは第十話どうぞ!


 オカルト研究部の前で戦闘を行った日から数日が過ぎた。

 

 俺はあの日から部に顔を出していない。なぜなら待っているのは質問攻めであるからだ。

 

 前回の戦闘後もみんなから色々と質問をされて全部はぐらかして帰ってきたのだ。正直全部に答える気もないし、かと行ってそんなことのために鏡花水月を使うのもなんだかなあ。

 

 もし部に行ったら確実にあれの続きが始まる。だから俺はほとぼりが冷めるか何か事件で上書きされるのを待っている。

 

 そのためここ数日は黒歌と鍛錬をしたり、家でまったりしたりしていた。

 

 

 

 

 

 

「惣右介、変態が何かと戦闘してるっぽいにゃ」

 

「ああ、他の魔力を感じないということは相手は人間か、教会関係者か?」

 

 黒歌の作った夕飯を食べようかというところで街の一角で兵藤一誠の魔力が上がるのを感じ取った。そして兵藤一誠以外の魔力は感じないため戦っているであろう相手は人間だろう。

 

「どうするにゃん? 助けに行くのかにゃ?」

 

「今から行ってもおそらく先にリアス・グレモリー達が駆けつけるだろう。俺は転移魔法陣は黒歌に頼りっきりで使えないからな、俺が急いで行ったところで向こうの方が先に到着すると思う」

 

 俺は転移魔法陣はまだ使えない。今までは黒歌の転移魔法陣に頼っていた、なぜなら今すぐに覚える必要性がなかったからだ。

 

 俺は強くなろうと鍛錬していたため魔力の制御も戦闘方面への応用を重点的にやっていた。しかし俺も使えるようになっておいたほうがいいかもな。

 

「私が送って行ってもいいのよ?」

 

「いや、奴らに俺に魔力を使える仲間が身近にいることを知られたくない。どこかの勢力に所属しているのかと疑われる可能性があるし、その場合は黒歌のことを明かさなければならないことになる可能性もある」

 

「わかったにゃ。私のことを考えてくれてありがと、惣右介」

 

「家族のことを第一に考えるのは当然のことだよ。明日学校に行ったら部に顔を出して何があったか聞いてみるよ」

 

 事件が起こったっぽいから俺への質問はその事件で上書きされていることを願う。質問攻めはごめんだ。

 

「わかったにゃん」

 

「それじゃ夕飯を食べよう、冷めちゃったらせっかく黒歌が作ってくれたのに勿体ない」

 

「わかったにゃ、今日は初めて作ってみたメニューにゃ。口に合うかわからないけど食べてみてほしいにゃ」

 

「めっちゃ美味そうだ、いたただきます」

 

 

 

 

 

 

「……〜と言うことがあったんです」

 

「なるほど、教えくれてありがとう、小猫君」

 

 そして今俺は部室で白音ちゃんから話を聞いている。ちなみに今日は黒歌は学校についてきていない。家で新しい料理の練習をするそうだ。

 

 昨日のことを聞こうと部に顔を出してみれば雰囲気が暗い。そして兵藤一誠が学校に来ていなかった。

 

 これは確実に何か起きたのだと確信し、白音ちゃんに何かあったのかと質問した。

 

 どうやら昨日兵藤一誠が契約のために依頼主の部屋を訪れたところ依頼主は死んでいて悪魔祓い(エクソシスト)と戦闘になったらしい。

 

 そしてその場には先日兵藤一誠が助けたシスターがおり兵藤一誠をかばってくれたのだという。

 

 部員達が到着したことで戦闘は終了したが、転移魔法陣は眷属しか使用できなかったものでそのシスターは置いてきてしまったのだという。

 

 そのことでおそらく兵藤一誠は落ち込み、今日学校を休んだのだろう。

 

 なるほど、しかし教会の悪魔祓いがそんな簡単に人の命を奪うのだろうか。そしてこの街の教会からは堕天使の気配、そこにシスター。

 

 これは絶対に何かある。堕天使と一緒にいるならばその悪魔祓いはおそらくはぐれ。しかしなぜシスターがそこにいるのだろうか、しかも話を聞く限りどのシスターは争いを好むような性格ではない。

 

 目的はなんだ? もしやそのシスターは神器所有者? いやしかしそれならばなぜ無事でいるのだろうか。俺のように戦争で使うために本部にて訓練を受けるのではないのか? 如何せん情報が少なすぎるな。

 

 

 

 

 

 

 思考の渦に沈んでいるといつの間にか兵藤一誠が部室に現れていた。そして

 

 

 ──パシンッ! 

 

 兵藤一誠はリアス・グレモリーに平手打ちをされていた。

 

 兵藤一誠の話を聞くに、彼は今日そのシスターと再会したらしい。しかし二人で会話をしているときに堕天使が現れて、兵藤一誠はまともな抵抗もできずにそのシスターを奪われてしまった。

 

 そのため兵藤一誠は彼女を助けにいかせてほしいとリアス・グレモリーに提案するが却下されなんども食い下がっていた。

 

「何度言ったらわかるのイッセー!? あのシスターを救出しに行くことは認められないわ!」

 

 まあ、彼女の立場からしたら認められるわけないよな。戦争の火種になることかもしれないことだ。

 

 でも俺からしてみれば兵藤一誠を応援してあげたい。彼は純粋に一人の人間を救いたいと考えている。

 

「なら俺一人でも行きます」

 

 いつもの兵藤一誠の面影はない。そこにあるのは一人の少女を守りたいという漢の表情だ。

 

「あなたはバカなの!? 行けば確実に殺される、もう生き返ることはできないのよ。わかっているの!?」

 

 確かに彼一人なら殺されるだろう。

 

「あなたの行動は他の眷属にも影響を及ぼすことになる! あなたはグレモリー眷属の悪魔なのよ! それを自覚してちょうだい!」

 

「だったら俺を眷属から外してください! 俺一人であの教会に乗り込みます!」

 

 そこまでの覚悟か。こいつは普段はただの変態でも根っこではこんなに人を大切にできるやつなんだな。少し見直した。

 

 大切な人を守りたい、その気持ちは俺にはよくわかる。

 

「そんなことができるわけないでしょう! どうしてわかってくれないの!?」

 

「俺はアーシア・アルジェントと友達になりました。アーシアは大切な友達です! 俺には友達を見捨てることなんてできません!」

 

 友達、か。こいつは俺よりもより多くの人を守りたいと願うのだな。その弱い力でも。

 

 今回は力を貸そう。彼の覚悟はよくわかった、守れる力がないのならば力を貸そう。

 

 そういって声をかけようとしたタイミングで姫島朱乃がリアス・グレモリーに何か耳打ちをする。

 

「大事な用ができたわ。私と朱乃はこれから少し外に出るわね」

 

「部長! まだ話は終わって──!」

 

 リアス・グレモリーが兵藤一誠の言葉を遮るように人差し指を立て、兵藤一誠の口元にやる。

 

「イッセー、あなたにはいくつか話しておくことがあるわ。まずあなたは《兵士(ポーン)》を弱い駒だと思っているわね?」

 

 どうやら風向きが変わったようだ。俺は今は声を掛けるのをやめ事態の行く末を見守る。

 

「は、はい」

 

「それは間違いよ。《兵士》には他の駒にはない特別な力があるわ、それが《昇格(プロモーション)》よ」

 

 兵藤一誠はどうやらよくわかっていない様子だ。

 

「実物のチェス同様、《兵士》は相手陣地の最深部に到達した時、《王》以外の全ての駒に昇格することが可能なの。イッセー、あなたは私が《敵の陣地》と認めた場所の最も重要なところへ足を踏み入れた場合、《王》以外の駒の力を得ることができるの」

 

 どうやら兵藤一誠は気付いたようだ。そうリアス・グレモリーは彼に戦える手段を教えている。

 

「あなたはまだ悪魔になって日が浅いわ、だから最強の駒である《女王》への昇格は負担が大きく現時点ではおそらく不可能よ。でもそれ以外の駒になら変化できるわ。心の中で強く《昇格》を願えばあなたの力は変化する」

 

 リアス・グレモリーも本心では助けたいと思っているのだろう。

 

「それとあと1つ、神器についてよ。神器を使う際、これだけは覚えていてちょうだい」

 

 そう言ってリアス・グレモリーは兵藤一誠の頰を撫でる。

 

 流石の兵藤一誠も今はスイッチが入っている、いつものようなだらしない顔にはなっていない。

 

「想いなさい、神器は想いの力で動き出す。そしてその力も決定するわ。想いが強ければ強いほど神器はあなたの想いに応えて力を発揮してくれるわ」

 

「想いの力……」

 

「これで最後よイッセー。絶対にこれだけは忘れないで。《兵士》でも《王》を取ることができる。これはチェスの基本であり、あくまでも変わらない絶対的な事実なの。あなたは強くなれるわ」

 

 そこまで言ってリアス・グレモリーと姫島朱乃は魔法陣で消える。そしてリアス・グレモリーは最後に俺に視線を向ける。言外に『イッセーを頼むわね、惣右介』と言われたように感じた。

 

 ここまでお膳立てされてはいく以外の選択肢は見つからないな。

 

 

 

 

 

 

「さて、それでは行こうか兵藤君」

 

「っ! 藍染も来てくれるのか!?」

 

「ああ、僕はそもそも人間だ。悪魔の都合関係なしに動くことができる。君に守れる力が足りないのならば、僕の力を貸そう」

 

「そうか、ありがとうな」

 

「きっと僕だけじゃない、みんな協力してくれるはずだよ。そうだろう?」

 

 そう言って俺が兵藤一誠の背後に視線をやるとつられて兵藤一誠は後ろを振り向く。そこには木場祐斗と白音ちゃんが立っていた。この二人も先ほどからやる気に満ちた目をしていた。

 

「もちろんだよ」

 

「木場っ!」

 

「僕たちを仲間外れにはしないでほしいね。同じオカルト研究部の仲間だろう?」

 

「……三人だけでは心配ですし、仲間を見捨てる気はありません」

 

「小猫ちゃんもっ! みんな……。ありがとう!」

 

 どうやらグレモリー眷属は中々いい奴らの集まりらしい。一人のわがままにみんなで付き合ってあげるなんてな。

 

「さて、決まったのならば向かうとしよう。いつまでも彼らの好きにさせておくわけにはいかない」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

「……はい」

 

 そうして俺たちは堕天使のいる教会へとシスターを救出しに向かった。

 

 

 

 




はい!次回からはいよいよ戦闘シーンです!

とは言っても主人公が全力を出すことはないと思いますが・・・

主人公がどう戦闘に関わっていくのかお楽しみに!

評価・感想待ってます!誤字訂正もやっていただけると非常に助かります!

それでは次回をお楽しみに!


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第十一話 教会への突入

はい!bad boyです!

緊急事態宣言が解除され、そろそろ不定期更新になるかもしれません・・・。

ですがこれからも書き続けていくので応援してくれるとありがたいです!

それでは第十一話どうぞ!


 俺たちは今町にある教会の前にいた。

 

 これからおそらく戦闘があるために俺は予め伊達眼鏡を取り、髪を後ろに持って行っていた。

 

「どうやら扉は開いているようだ。なんとも不用心なことだね」

 

 結界でも張ってあるのかと思っていたのだが、何もなかった。シスターを取り返しに来ることを考えていないのか、自分たちの能力を過信しているのか。どちらにしろ愚かなことだ。

 

「それじゃあ中に入ろうか、準備はいいかい?」

 

「おうっ!」

 

「うん」

 

「……はい」

 

 ぎいっ

 

 と音を立てて教会の中へと入る。ぱっと見では誰もいないように感じる。

 

 だが隠す気もないような殺気を感じる。まるで気づいてくださいと言わんばかりだ。

 

「さて、シスターを探しに行く前に……。そこにいる君、隠れていないで出てきたまえ」

 

「あれえ? 気付かれちまった。お前人間のくせになんでクソ悪魔なんかと一緒にいるんですかあ?」

 

 物陰から出てきたのは白髪の神父服姿の男だった。はぐれ悪魔祓いか、腐った目をしている。

 

「お前……フリード! アーシアをどこにやった!」

 

 兵藤一誠が白髪神父(フリードという名らしい)に怒鳴る。

 

「んー? この前のクソ悪魔じゃありませんかあ! アーシアたんなら今祭壇の下にある隠し階段を通った先にある儀式場でお楽しみ中ですよお。いやあ羨ましい!」

 

 儀式場? 堕天使どもは何かシスターを使って儀式を行うのか? 

 

 ……もしかしてシスターが持っている神器を抜き取るつもりか!? 

 

 まずいな、それならば一刻も早く先を急がねばならない。

 

「ふざけんな!」

 

 兵藤一誠が叫ぶ。確かにこの神父んのふざけた喋り方は俺も好きではないが今はそんなことに時間を使うべきではない。

 

「君たちは先を急ぐといい。私の推測ではおそらく儀式は神器を抜き取ることだろう」

 

 だからここは俺が相手をして兵藤一誠たちを先に行かせることにする。

 

 本当なら俺が行って全てを終わらせるべきなのかもしれない。

 

 だが、今回はあくまで俺は少し力を貸すだけで自分で解決しようとは思っていない。

 

 兵藤一誠がシスターを守りたいと覚悟し、ここまできたのだ。彼の覚悟を踏みにじるようなことはしたくない。

 

「な、藍染! なんだよそれ!」

 

「神器を抜き取られたものは命を落とす。君はそのシスターを助けたいのだろう? ならばここは私に任せて三人で先を急ぎたまえ」

 

「っ! わかった、俺たちは先に行く。絶対負けんなよ!」

 

 俺はそう言って木場祐斗と白音ちゃんに視線をやる。

 

「わかったよ藍染君。行こう、二人とも」

 

「……わかりました」

 

 そうして三人は俺とフリードの横を走り抜けていった。以外にもフリードは三人を止めるそぶりを見せなかった。

 

 

 

 

 

「さて、それでは手短に終わらせるとしよう」

 

「アヒャヒャヒャ! クソ悪魔につくクソ人間が大口叩きますねえ! クソ悪魔を殺す前にぶっ殺してあげますよおおお!!」

 

 クソ神父は汚い笑いとともにそんなセリフを吐く。

 

 あれ? もしかしてこの場面、あのセリフ使えるんじゃないだろうか? ()()藍染惣右介の代表的な名言の1つ────

 

 

 

 

 

 

「あまり強い言葉を遣うなよ……弱く見えるぞ」

 

 

 

 

 

「なーに屁理屈言ってるんですかあ!? 普通にやってたら勝てないからって心理戦ですかあ!?」

 

「君とこれ以上喋るつもりはない」

 

「はあ!? てめえ何いっt」

 

 あの言葉をいった俺は日々の鍛錬で身につけた瞬歩もどき(魔力を足に集中させて高速移動すること)で背後に回り込みフリードの背中を切りつけた。

 

 一瞬で殺そうかとも思ったが、確かこいつ原作に少し出ていたような気がしたため殺しはしなかった。

 

 俺がギリギリ記憶していたということは登場回数が一回じゃないはずだ。もしかしたらいつか味方になって再登場したのかもしれない。

 

「がはっ! ぼ、ボクちゃんはこんなところで死にたくありませんので退散させていただきまーす!」

 

 フリードはこちらを信じられないような目で見たあとすぐに閃光弾のようなものを使ってこの場から逃げ出した。勝てないと見るやすぐに撤退できる判断力だけは評価しよう。

 

 気配で追いかけて殺してもいいのだが先ほどの理由でまだ殺さないほうがいいかもしれないと頭によぎったので見逃すことにした。

 

 だが、次はないぞ。フリードよ。

 

 そうして一瞬でフリードとの戦闘を終わらせた俺は隠し階段を降り、儀式場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 階段を半分降りた頃だろうか、戦闘の音が響いてくる。おそらく儀式場での戦闘が始まっているのだろう。

 

 白音ちゃんと木場祐斗もいることだし何より覚悟を決めた兵藤一誠がそう簡単にくたばるとは思えないが、俺は階段を降りる速度を少しだけ早めた。

 

 階段が終わり、現れた扉を開くとはぐれ悪魔祓いの大群と白音ちゃんと木場祐斗がいた。その奥には堕天使、確かレイナーレと兵藤一誠がいた。

 

「二人とも平気かい?」

 

「藍染君もうきたのかい!? こちらはまだ始まったばかりだよ」

 

「……一人一人は弱いですけど数が多いです。それよりも兵藤先輩が」

 

 二人とも目立った怪我などはないようだった。確かに数が多いな。

 

 ここは仮の鏡花水月の能力が使えるか。そうすれば白音ちゃんをこれ以上戦わせないで済むしな。

 

「今から鏡花水月を使う。二人とも私の後ろに下がってくれるかい」

 

 二人に斬りかかっていたはぐれ悪魔祓いを斬り払いながらそう言う。

 

「なるほど、了解したよ!」

 

「……お願いします」

 

 二人はすぐに理解してくれたようで俺の後ろに下がった。

 

「砕けろ、鏡花水月」

 

 本来ならこんな掛け声など不要なのだが、後ろの二人に発動の瞬間を認識してもらうためだ。

 

「なっ貴様いつの間に私の後ろに!」

 

「悪魔めえ!」

 

「死にやがれえ!」

 

 目の前のはぐれ悪魔祓いたちは揃って同士討ちを始めた。

 

「やっぱり、君の神器の能力はかなりえげつないね……」

 

 木場祐斗が少し引いている。本当の能力はこんなもんじゃねえぞ! 

 

「さてそれでは彼らは放っておいて兵藤一誠の援護に行こうか」

 

「……了解でs」

 

 

 

 

「いやあああああああああっ!!!」

 

 

 

 

 

 その時シスターの叫び声が響いた。

 

「アーシア!?」

 

 兵藤一誠が呼びかけるが返事は返ってこない。彼女から光とともに神器と思われるものがレイナーレの手に渡る。

 

 まさか儀式は継続中だったのか? だとしたらあのシスターはもう……。

 

「あははははは! やったわこれで私は至高の堕天使になれる! 私をバカにした者たちを見返してやれる!」

 

 体から緑色の光を発しながら笑うレイナーレ、どうやら彼女は神器を自分のモノにしたらしい。

 

「そ、そんな。神器を抜かれたってことはアーシアは……」

 

「死んでいるわよ、その娘は! 私が至高の堕天使になる礎となれたのだから本望でしょう!!」

 

「くそっ! 救えなかった! アーシアを、友達を!」

 

 兵藤一誠の顔が絶望に染まる。そしてその気持ちが俺には痛いほどわかってしまう。

 

 ここは俺が出る幕ではない、兵藤一誠自身が決着をつけるべきだ。

 

「おい! 俺の神器! 神器は想いに答えるんだろ! だったら俺のこの想いに応えやがれえええ!」

 

 すると兵藤一誠の神器の形状が変わり、真っ赤な鱗のような見た目に手の甲の部分に緑の宝玉が埋め込まれた神器が姿を現した。

 

『Boost!!』

 

「なっ! それは赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)!? まさか貴様みたいな下級悪魔が神滅具(ロンギヌス)を!?」

 

 その神器からは今までとは比べ物にならないほどの荒々しいドラゴンのオーラを感じる。なるほど赤龍帝の籠手、さすが主人公と言うべきか。

 

 

 

 

 

 

 そのあとの戦闘は一方的だった。不利になったレイナーレは儀式場を飛び出し逃亡を図ったが、そこは俺が阻止した。

 

 そして兵藤一誠はレイナーレを倒し、俺たちは気絶したレイナーレと冷たくなってしまったシスターを連れ階段を戻り、教会にまで戻ってきた。

 

 それとレイナーレと神器はまだ融合していなかったらしく彼女が気絶した時に出てきた。今は兵藤一誠がそれを握りしめている。

 

 そこにはリアス・グレモリーと姫島朱乃がいた。

 

「どうやら私たちが想像していたよりも早く終わったようね」

 

「はい、でもアーシアが……」

 

 兵藤一誠は俯いたままだ。

 

「そのことについては一応考えがあるわ。それよりもひとまずその堕天使に起きてもらいましょう。小猫」

 

 リアス・グレモリーには考えがあるらしい。思いつく死者を蘇らせる方法なんて1つしかない。

 

「……はい部長。えいっ」

 

「かはっ!」

 

 ドゴン! と音がしてレイナーレは無理やり意識を取り戻した。少し堕天使に同情した。

 

「ごきげんよう、堕天使レイナーレ」

 

「グレモリー一族の次期当主か……」

 

「はじめまして、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ」

 

 レイナーレはリアス・グレモリーを憎々しげに睨み、嘲笑うような表情を浮かべる。

 

「してやったりと思ってるんでしょうけど、私に同調し協力してくれる堕天使もいるわ。私が危なくなったら彼らは──」

 

「彼らは来ないわよ」

 

 リアス・グレモリーがレイナーレの言葉を遮る。

 

「堕天使カラワーナ、ドーナシーク、ミッテルト。彼らは私が消滅させたわ。この羽は彼らのものよ、あなたならわかるでしょう?」

 

「そ、そんな……」

 

 レイナーレが絶望の表情を浮かべる。

 

「そしてあなたにも消えてもらうわ」

 

「冗談じゃないわ!」

 

 この堕天使は俺のことを利用しようとした堕天使によく似ている。さっきから殺意を抑えるのが大変だ。

 

「静かにしたまえ」

 

 俺はこのうるさい口を黙らせたかった。昔を思い出すし、傷心の兵藤一誠をこれ以上傷つけるのも昔の自分を思い出すようで嫌だった。

 

「イッセー君! 私を助けて! あなたのことが好きなの! だからこの剣を退けて!」

 

 こいつは最後まで胸糞悪いことをしやがる。

 

「あなたいい加減にっ」

 

「部長!」

 

 先ほどまで黙っていた兵藤一誠がそこで声をあげた。

 

「最後に一発やつを殴らせてください。その後は消してもらって構いません」

 

 どうやら兵藤一誠にはかりそめとはいえ彼女と過ごした時間には想いところがあったらしい。

 

「ええ、わかったわ」

 

 リアス・グレモリーはそれを了承した。

 

「イッセー君! 好きよ、愛してるの!」

 

「うるせええええええええ!」

 

『Boost!!』

 

 バキイッ──

 

「グッバイ、俺の初恋。……部長」

 

「ええ、消えなさい」

 

 バシュッ──

 

 そうして堕天使レイナーレはこの世から消滅した。その場には彼女の黒い羽が数枚残っただけだった。

 

 

 

 

 

「兵藤君、その神器をシスターさんに返してあげるといい」

 

 すでに伊達眼鏡を装着していた俺はそう声をかけた。

 

「でも、アーシアはもう……」

 

 兵藤一誠はいまだに俯いたままだ。

 

「イッセー、これはなんだと思う?」

 

 リアス・グレモリーは1つの悪魔の駒を取り出して兵藤一誠に見せる。

 

「それは?」

 

「これは『僧侶(ビショップ)》の駒よ」

 

 そう彼女の言っていた考えとは悪魔として転生させることだ。

 

 

 

 

 

 そうしてシスター、アーシア・アルジェントは悪魔として蘇り、神器も彼女の元へ戻った。

 

 生き返った彼女を見て兵藤一誠は涙を流しながら彼女を抱きしめていた。

 

 正直、一度失ったものが戻ってきた彼が羨ましかった。

 

 

 

 

 

「〜これが今回の顛末だ」

 

 家に帰った俺は最初に黒歌に怒られた。料理の練習をして夕飯を作って待っていてくれたのに俺が連絡もせずに帰ってくるのが遅れたからだ。

 

 俺は黒歌に謝り、なんで帰りが遅かったのかを説明した。

 

「ふーん、それで遅れたのかにゃ。でも連絡くらいしても良かったんじゃない?」

 

「そ、それは……。完全に忘れていた、ごめん」

 

「まあ理由が理由だから許してあげるにゃん。でも今後は何かあった時は連絡してほしいにゃ」

 

「今後はこのようなことがないように気をつける、ごめん」

 

 怒った黒歌は結構怖い。怒ってても語尾が「にゃん」なのが余計不気味に感じて怖い。

 

「もう謝らなくていいにゃ。それよりもシャワー浴びてくるにゃん、その間に冷めたご飯温め直しておくにゃ」

 

「ああ、そうするよ。ありがとう黒歌」

 

 黒歌が作ってくれた夕飯は温め直したものでもとても美味しかった。

 

 

 

 

 

「そういえば、白音は今回の戦いで怪我してなかったかにゃ?」

 

 夕飯を食べ寝ようとしていると横に寝ていた黒歌が話しかけてきた。

 

「大丈夫、無傷だったよ。鏡花水月で敵を同士討ちにさせたから戦闘自体あまり行ってないはずだ」

 

「そっか、ありがとにゃん惣右介。妹を守ってくれて」

 

「家族の家族を守ることは当然だよ。それに白音ちゃんが傷つくと黒歌が悲しむだろ? 俺は黒歌が悲しむ姿は見たくない」

 

 妹思いの黒歌のことだ。そもそも妹にはあまり戦って欲しくないのだろう。

 

「うん、ありがとにゃ。でも惣右介も無理はしないでね。私は惣右介が傷つく姿も見たくないにゃ」

 

 そっか、そうだよな。俺が黒歌に傷ついて欲しくないのと同様に黒歌も俺が傷ついて欲しくないんだよな。

 

「ありがとう、心配してくれて」

 

「家族なら当然にゃ」

 

「ああ、そうだな。そろそろ寝よう。明日も早い」

 

「うん、おやすみにゃ惣右介」

 

「おやすみ黒歌」

 

 そうして俺たちは目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい!ということで今回で第1巻が終了となります!

次回からはライザー編ですね!人間であるオリ主をレーティングゲームに参加させるかどうかまだ悩んでいます。

評価・感想よろしくお願いします!

それでは次回をお楽しみに!


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戦闘校舎のフェニックス
第十二話 フェニックス襲来


はい!bad boyです!

UA数が5万を超えました!見てくださった方本当にありがとうございます!

今回から原作2巻に入ります!

それでは第十二話どうぞ!


 アーシア・アルジェントは悪魔になった。

 

 彼女は聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)という悪魔をも回復できる神器を所有しており、今まで回復役がいなかったグレモリー眷属にとっては貴重な存在となった。

 

 彼女は兵藤一誠に救われたことで彼に友情以上の感情を抱いたらしく、兵藤一誠と同じクラスに転入し彼の家にホームステイすることになったらしい。

 

 それを転入初日に暴露したからクラスの男子たちは彼に憤怒の視線を向けたが、おれはそのことについて疑問を持たなかった。

 

 彼が覚悟を決めて最後まで戦ったのだから、そうなっても不思議ではなかった。彼はその感情を向けられていいほどには頑張ったのだから。

 

 

 

 

 

 あれからおれはしばらく部活動には顔を出していなかった。アーシア・アルジェントが悪魔になってからは数回しか顔を出していない。大きな事件もないし言っても白音ちゃんとの交流を深めるくらいしかやることがなかったからだ。

 

 使い魔を捕まえにいくと言って誘われたこともあったが、正直おれは悪魔ではなく人間だし使い魔が必要であるとも思えなかったのでその誘いは断ることにした。

 

 兵藤一誠は次の日に結局使い魔を自分だけ捕まえられなかったと言って落ち込んでいたが、適当な言葉で慰めておいた。

 

 

 

 

 

 

「最近、部長の様子がおかしいと思わないか?」

 

 それからしばらく経ったある日兵藤一誠が急におれにそう言ってきた。

 

「部長がかい? 僕は最近あまり会っていないから気付かなかったよ」

 

 どうやら彼曰くリアス・グレモリーの元気がないらしい。これはまた事件が起きる前触れなのだろうか。

 

 正直何が起きたかの詳しいことは全く覚えていない。

 

「ああ、なんていうか時々部長らしくもなくぼーっとしてるときが多いんだよ」

 

「ふむ、僕には心当たりがないな。力になれなくてごめんよ」

 

 だからおれはリアス・グレモリーがなぜ様子がおかしいのかもわからない。

 

「いや、いいんだ。気のせいかもしれないしさ」

 

 兵藤一誠は曇った笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 その日は部活に顔を出す気はなくそのまま家に帰ろうとしていた。

 

 だが部室から記憶にない魔力を感じた。しかも魔力を抑えているように感じる。かなりの強者かもしれない。

 

「はあ、これは見て見ぬふりはできないね」

 

 そう呟いておれは黒歌に帰りが遅くなると連絡を入れた。前回連絡なしで帰りが遅れて怒られたためだ。

 

 つま先を校門から旧校舎へと向け、おれは部室に向かって歩き出した。

 

 部室に向かう途中で新しい魔力が現れた。今度は魔力を隠す気もなく垂れ流している。魔力量はリアス・グレモリー達より優れているが魔力を抑えているものには敵わないだろう。

 

 部室の前に着くと結界が張られていた。だがそんなのは御構い無しにおれは部室のドアを開けた。

 

 ガチャ

 

「どういう状況かなこれは」

 

 

 

 

 

 中に入って見た光景におれは困惑した。

 

 中央のソファでは知らない悪魔がリアス・グレモリーにベタベタしていた。リアス・グレモリーは心底嫌そうな顔を浮かべている。

 

 傍らには銀髪メイド服の女性が無表情で佇んでいた。おれが感じた強者の気配はこの人だな。

 

 そしてグレモリー眷属は少し下がった位置で苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 

「なんだ貴様は? 下等な人間がなぜここにいる?」

 

 だらしない金髪ホストのような悪魔がおれを見下した発言をする。うんこいつはおれの嫌いなタイプだ。

 

「ライザー! 彼はこの部の部員よ! 手を出すことは許さないわ!」

 

 リアス・グレモリーがライザーと呼ばれた悪魔に怒鳴る。

 

「それにいい加減にしてちょうだい! 前にも言ったでしょう、私はあなたと結婚する気はないわ。結婚相手は自分で決める」

 

 結婚、ね。なるほどこれは貴族の政略結婚のような話か。

 

 あの金髪ホストが婚約者でリアス・グレモリーはそれが嫌であると主張しているということか。

 

「それは前にも聞いたが、君のところのお家事情は切羽詰まってるんだろ? おれもフェニックスの看板を背負ってここにきてるんだ。はい、そうですかと帰るわけにはいかないんだよ」

 

 まあ、婚約がすでに決まっているのならば一人の意思で覆すのなんて難しい話だろう。

 

 だが個人的な気持ちではそんなんで家族を決めるだなんて嫌だなとは思う。家族にはされるのではなくて望んでなる方がいいに決まっている。生まれる親を選べない子供なら別であるが。

 

 そしてこいつはそれを政治の道具のように見ている。政略結婚自体は否定しないがせめて愛を持って家族に迎え入れてやれよと思う。

 

「おい! 貴族だかなんだか知らないけどそれが婚約者のする態度かよ!」

 

 兵藤一誠が金髪ホストに噛み付く。その意見にはおれも同意だ。それに貴族ならば貴族らしい態度をとるべきだ。

 

「兵藤君、君は彼が貴族に見えているのかい? 僕にはそうは見えない、貴族とは物心ついた頃から礼儀などを教育されるのだろう? そこの彼はそのようなものを持っているように見えない」

 

「な、なんだと!? 下等な人間ごときが誇り高きフェニックスを愚弄する気か!?」

 

「うるせえ焼き鳥野郎が!!」

 

「その誇り高きフェニックスとやらを愚弄しているのは君自身だというのがわからないのかい? 貴族ならば貴族らしい振る舞いをするべきだよ」

 

「き、貴様らあああ!! よっぽどおれをコケにしたいようだな! この場でリアス以外焼き殺してくれる!」

 

 金髪ホストは魔力を高める。

 

「そんなことはさせないわ! 可愛い下僕や部員に手を出すなら私があなたを消しとばす!」

 

 そう言ってリアス・グレモリーも魔力を高める。

 

 やれやれ、少し煽っただけでこれか。それにリアス・グレモリーも相手の力量がわかっていないようだ。

 

「お納めくださいませ」

 

 今まで傍観していた銀髪メイドが口を開いた。なるほどなかなかの圧力だ。

 

「お嬢様、ライザー様、私はサーゼクス様の命によりここにおります。双方手をお引きください」

 

 そう圧力を収めることなく続ける。

 

「最強の《女王》と言われるあなたを相手するほどおれは愚かじゃないよ」

 

 どうやらこちらは少しは相手の力量がわかるらしいな。さすがに学生とは経験が違うか。

 

「旦那様もこうなることは予想しておられました。よって決裂した際の最終手段を仰せつかっています」

 

「最終手段?」

 

 この平行線の議論を収めるにはどちらかを屈服させる必要がある。ならばその最終手段は……。

 

「お嬢様、あくまでもご自身の意思を貫くおつもりならばレーティングゲームで決着をおつけください」

 

「っ!!」

 

 やはりレーティングゲームか。敗者は勝者の言うことに従う。実力主義の悪魔社会にとってはこれしかないだろう。

 

 だが正直先ほどの魔力を比べても実力差が大きすぎる気がするな。

 

「そう言うことか。おれはなんども公式戦で戦ってるし勝ち星も多い。対して君はゲームへの参加資格すらない。結果は見えていると思うがそれでもおれと戦うのか?」

 

 それに加えて経験の差もあるのか。

 

「そう……そこまでして私の人生を弄びたいのね! いいわ、ゲームでライザー、あなたを倒してみせるわ!」

 

 リアス・グレモリーも戦力差はわかっているようだが引くに引けないようだ。

 

 そして金髪ホストは部屋を一瞥する。

 

「リアス、確認だがここにいる全員で君の眷属は全てかい?」

 

「だったらなんだと言うの?」

 

「それでは勝負の行方は見えているようなものだ。そこの人間を参加させてもいいぞ!」

 

「なっ!」

 

「おれをコケにしたんだ、ゲームで後悔させてやる! それに君との戦力差は歴然だ、ハンデも必要だろう」

 

 どうやらおれにゲームに参加してほしそうだ。

 

 はっきり言って不可能だろう。あくまでもこれは悪魔内での問題だ。人間のおれが参加は不可能だろう。

 

 だがこいつはおれとの実力差がわかっていないらしい。もしかしたら例外で出ることになってしまうかもしれない。

 

 おれとしてはゲームには出たくない。悪魔のいざこざに巻き込まれたくはないし、出しゃばって貴族に睨まれることも避けたい。もしかしたら無理やり眷属にしに来ようとする貴族もいるかもしれない。

 

 そのためにこいつには少し理解してもらう必要がありそうだ。

 

 おれはこっそり鏡花水月を発動させた

 

 金髪ホスト以外全員におれと金髪ホストが口論してるように見えるようにした。

 

「君は僕との実力差もわからないのかい? 本当に貴族なのかい?」

 

「なっなんだと貴様!」

 

「どうやら少し教訓が必要そうだね」

 

 

 

 

 

 そう言うとおれは眼鏡を外しながら金髪ホストの背後に回る。そして鏡花水月を首元に当てる。

 

「なっ!」

 

「私はすぐにでも君の首を取ることが可能だ。それに……」

 

 おれは金髪ホストの首元に鏡花水月を当てた状態でさらに鏡花水月を発動させる。この街のライザー以外におれの魔力を認識できないようにして魔力を解放する。

 

 街規模の大きな催眠は一人だけを例外にしたりなどは難しい。そのため予め金髪ホストには鏡花水月に触れていてもらった。

 

「君のその魔力量では私にダメージを与えることもできない」

 

「き、貴様は何者だ。本当に人間か?」

 

 彼はものすごい量の冷や汗を流し、呼吸が乱れている。やっとおれとの実力差を理解したようだ。

 

「人間だよ。それよりも本当に私がゲームに参加してもいいのかい? 君ごとき倒すのなど容易いのだが」

 

「わ、わかった。貴様は出るな! これでいいんだろう!?」

 

「賢明な判断だよ、このことは他のみんなには聞こえていない。もし言ったら、わかるね?」

 

「あ、ああ。」

 

 そうしておれは矛を収め鏡花水月を解いた。伊達眼鏡も掛け直した。

 

 

 

 

 

「それで、僕はゲームに出たほうがいいのかい?」

 

 おれは元の位置で金髪ホストに聞き直した。

 

「い、いや、やはりこれは悪魔同士の問題だ。人間が入ってくるべきではない」

 

「ら、ライザー!?」

 

 彼は前言を撤回した。リアス・グレモリー達はぽかんとした表情を浮かべている。それもそうだろう、彼女達はおれの魔力を感じていなかったし本当の会話も聞こえていなかったはずだ。

 

 ただおれと金髪ホストが口論していたように見えていたはずだ。

 

「なんだお前! 怖気付いたのか!?」

 

 兵藤一誠が噛み付く。

 

「黙れ! 下級悪魔の分際で! これは悪魔の問題だ。人間を巻き込むのはそもそもお門違いだと思い直しただけだ!」

 

「話は纏まったようですね。ではレーティングゲームで決着をつけることとします。異存はありませんか?」

 

「ええ」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 銀髪メイドが話をまとめ、確認を取る。金髪ホストも落ち着いたらしい。

 

「それではゲームは十日後に行うこととします。先ほどライザー様も言った通りある程度のハンデはあってもよろしいと考えますので、ライザー様はこの十日間訓練は控えてもらうようにお願いいたします」

 

 どうやらハンデとして十日間訓練できるらしい。

 

「もちろんですよ。そこまで大人気ないことはしませんよ」

 

 ライザーはそう答える。

 

「余裕そうね。その余裕ゲームが始まっていつまでもつのかしら?」

 

「じゃあなリアス。十日後のゲームで会おう」

 

 そう言い残して彼は転移魔法陣で帰っていった。

 

 最後におれの方をちらりと見たがその瞳には恐怖が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

「私と朱乃はグレイフィアと詳細を詰めるから解散していいわよみんな。追って連絡するわ」

 

 そうして解散となり部員が部室から出ていく中おれは残った。

 

「あら惣右介? 何か用かしら?」

 

「部長達はこの十日間特訓をするつもりでしょう? 僕も手伝いますよ、参加はできませんけど部員としてそれくらいは協力させてください」

 

 おれはリアス・グレモリーに特訓の協力を提案した。

 

 悪魔達に目をつけられるのを避けるために参加することは避けたが、この政略結婚は個人的に好かない、それにこの特訓で1つやりたいことがあった。だからおれは彼女に協力を申し出た。

 

 きっとこれも原作の出来事なのだろうが、すでにおれが部室にいた時点でどこまで変わってしまっているのかわからない。なのでおれはこの特訓に介入することにした。

 

「え、でも……」

 

「模擬戦相手がいたほうが捗るでしょう? この十日間で少しでも強くなる必要があるはずです」

 

「そこまで言うなら……。わかったわ、その好意ありがたく受け取らせてもらうわ」

 

 最初は難色を示していたが、最終的には受け入れられた。

 

「ありがとうございます。それでは詳細が決まったら僕にも連絡をお願いします」

 

「ええ、わかったわ」

 

「それでは失礼します」

 

 そうしておれは部室から出た。

 

 

 

 

 

 

「〜ってことで明日から十日間訓練を手伝うことになった」

 

「え〜、なんで惣右介がそこまでしてあげる必要があるにゃ」

 

 おれはいつものように学校で起きたことに関しての報告を黒歌にしていた。

 

「家族を政治の一部として不本意ながら作る。せめてお互いが同意してならまだしも無理やり望んでもいない家族になる。それが個人的に気に食わなかったからだよ」

 

「そこまで言うなら止めようとはしないけど……。じゃあ私は十日間留守番かにゃ?」

 

 黒歌が少し寂しそうな表情を浮かべる。

 

「いや、黒歌も一緒に来てもらうつもりだよ」

 

 そう、おれは特訓でやりたいことがある。そのためには黒歌についてきてもらわなければならない。

 

「え? 私も行っていいのかにゃ?」

 

 黒歌は一転嬉しそうな顔をする。家族と十日間離れて家でひとりぼっちって寂しいもんな。

 

「ああ、早朝の日課の鍛錬は向こうでも並行してやりたいしな。黒歌のことは鏡花水月で隠しておくから心配はない」

 

「なるほどにゃ〜、楽しみにゃん♪」

 

「おいおい、特訓に行くんだぞ?」

 

「それでも楽しみにゃん」

 

 なぜだか一瞬黒歌が少し悪い顔をしたように見えた。

 

 

 

 

 




はい!と言うことで主人公はレーティングゲームには出ません!

出すと仮の鏡花水月の能力でも無双してしまいそうなため、特訓の協力のみにしました!

評価・感想励みになるので是非お願いします!

それでは次回をお楽しみに!


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第十三話 特訓の始まり

はい!bad boyです!

ちょくちょくランキングに顔を出すようになりましたが、ランキングに載っている間のUAやお気に入りの伸びがすごいですね。

ランキングの威力を思い知りました。

それでは第十三話どうぞ!


俺は今山を登っている。

 

なぜ山を登っているのかと言うと、レーティングゲームの特訓をグレモリーが所有する別荘で行うためだ。その別荘がこの山にあるらしい。

 

この山自体がグレモリーの所有地らしく、人間界にこれだけの土地を所有しているとは悪魔の貴族はすごいなあと感心した。

 

十日間山籠りして特訓するため俺は学校を休んでいる。前世は大学生だったので俺は勉強では問題ないためいいのだが、兵藤一誠は成績がすこぶる悪かったはずだ。十日間も学校を休んで平気なのだろうか?

 

「はあ、はあ、重い・・・。」

 

俺の隣で兵藤一誠が苦しそうな表情を浮かべる。彼はかなりの量の荷物を背負わされている。そんな状態で山を登っているのだから先日まで普通の人間だった彼には苦痛だろう。

 

反対にリアス・グレモリーや姫島朱乃、アーシア・アルジェントはほとんど荷物を持っていない。どうやら兵藤一誠に持たせているようだ。これも特訓の一環らしい。

 

白音ちゃんは自分の背丈ほどもある荷物を汗もかかずに余裕そうに持っていた。さすが戦車。

 

俺?俺は黒歌に荷物をしまっていてもらっている。黒歌は亜空間のようなところにものをしまうことができるためそれを使わせてもらっている。

 

だってリュックを重そうに背負いながら登山するヨン様なんてやだもん!涼しい顔をしていたい!

 

ちなみに黒歌は猫の姿で堂々と俺の横を歩いている。鏡花水月で誤認させているとはいえもう少しコソコソしてもらいたい気持ちもある。

 

 

 

 

 

そんなこんなで山登りを終えた。兵藤一誠は汗だくで顔色もかなり悪そうだ。

 

そして俺たちの前には巨大な豪邸が現れた。

 

別荘?これが?城じゃなくて?

 

どうやらグレモリー家は俺たち人間の価値観に当てはまらないほど裕福なようだ。

 

「で、でっけええええ!」

 

「綺麗ですぅ!」

 

兵藤一誠やアーシアアルジェントも似たような感想を持ったようだ。

 

「ここがグレモリー家が所有している別荘よ。それでは着替えたら修行を開始しましょう。」

 

「ええぇ、もう始めるんですか?すでに俺ヘトヘトなんですよ!?」

 

兵藤一誠が文句を言う。でも疲れているのは彼だけだ。圧倒的マイノリティの意見に誰も耳を貸さない。

 

「それでは私たちは中で着替えてくるわ。のぞいちゃダメよ♪」

 

そういって女性陣は別荘へと入っていった。

 

ちらりと兵藤一誠を見るとにやけた顔をしていた。変な想像でもしているのだろう。

 

そしていつの間にか回復しているようだ。ある意味感心する。

 

 

 

 

 

まず初めに兵藤一誠の実力を測るようで、木場祐斗と兵藤一誠の手合わせが行われた。

 

ちなみに黒歌は今いても仕方がないので好きにしていていいと言ってある。必要な時になったら呼ぶと言ってある。

 

兵藤一誠はあっけなく木場祐斗に負けた。そして次に行こうとしたところで。

 

「このままでは兵藤君だけの特訓になってしまうよ。木場君、僕とも手合わせをしよう。」

 

そういって俺は鏡花水月を出した。

 

「なるほど、僕も全力を出すべきと言うことだね。わかったよ。《魔剣創造(ソード・バース)》!」

 

木場祐斗は手合わせを了承すると神器を発動させ魔剣を作った。

 

「さあ、君のタイミングで来ていいよ。」

 

ちなみに今は眼鏡をつけたままだ。戦闘モードは特訓や手合わせには向かない。

 

「そんな余裕でいいのかなっ!」

 

木場祐斗は騎士の速さを生かして間合いを詰め剣を振る。

 

「攻撃が直線的すぎるよ。」

 

俺は簡単に木場祐斗の剣を受け止めた。

 

結局彼は俺に一太刀も入れることな地面に倒れた。

 

「はあっ、はあっ。なんで僕の攻撃が当たらないんだい?」

 

「君の速度は確かに素晴らしい。だが君はそれに頼りすぎている、攻撃が直線的すぎるんだ。そのせいで君の動きは予想しやすい。」

 

俺は木場祐斗にアドバイスをした。

 

「なるほど、僕は騎士の速度に誇りを持っているけどそれに頼りきってはダメなんだね。」

 

「そうだね、君が色々と考えながら動くだけで戦い方の幅はもっと広がる。今回の十日間はそれを目標にしてみたらどうだい?」

 

「うん、そうすることにするよ。ありがとう藍染君。」

 

そうして俺と木場祐斗の手合わせは終わった。

 

 

 

 

 

その後も部員たちにアドバイスをして回った。

 

リアス・グレモリーにはレーティングゲームの過去映像を見て王に必要なものはなんなのかを再確認してもらうようにした。彼女は甘すぎる節がある、レーティングゲームが悪魔版のチェスであるならば犠牲はつきものだ。そのことを再認識してもらう。

 

姫島朱乃はアーシアアルジェントの魔力制御の教育を行ってもらうことにした。彼女には隠された力があると感じるが彼女はそれを意図的に封じている気がする。ならばこの十日間での強化は不可能と考え教育役として眷属の底上げをしてもらうことにした。

 

アーシア・アルジェントは先ほど述べたように魔力の制御。彼女の神器は非常に強力だが有効範囲が狭すぎる。魔力の制御によってそれが少しでも広がればという算段だ。

 

兵藤一誠には徹底的に体を鍛えてもらうことにした。その理由は彼の魔力は米粒ほどで鍛えようもなかったことと、彼の体が神器に耐えられないからだ。不慣れな格闘術をするよりも一段階上の倍加を行えるようにすることの方がこの十日間では強くなれるだろう。

 

 

 

 

 

最後は白音ちゃんだ。

 

俺は今白音ちゃんと模擬戦をしている。

 

「・・・当たってください!」

 

「ただ力任せに拳を振っても素早い相手には当たらないよ。」

 

彼女は俺に向かって拳を突き出すが当たらない。俺は全てを避けている。彼女も攻撃が直線的すぎる、木場祐斗ほどのスピードもない。

 

「・・・そんなっ!!」

 

「そしてある程度強いものにはその拳も簡単に受け止められてしまう。」

 

そして俺は彼女がふるった拳を片手で受け止めた。もちろん生身では無理なので腕に魔力を集中させているが。

 

「正直に言おう。君はグレモリー眷属の中で兵藤一誠の次に弱い。」

 

「っ!」

 

彼女は身を震わせこちらを睨む。

 

心苦しいが彼女が強くなるためには現実を見る必要がある。そして強くなりたいと強く思う必要がある。

 

「君の中途半端な力ではきっとライザーフェニックスには届かない。」

 

「・・・そんなこと、わかってます!」

 

「ならばなぜ君はもっと強くなろうと思わないんだい?君からは悪魔とは違った気配も感じる、おそらく妖怪か何かだろう?それならばそれに合った戦い方があるはずだ。」

 

そう黒歌の妹である彼女ならば仙術の素質を秘めているはずだ。

 

「・・・そんなこと、言われなくてもわかってます!」

 

「それならばなぜそれを使わないんだい?」

 

「・・・そ、それは。」

 

彼女は俯いて黙ってしまう。やはり黒歌の仙術の暴走を見ていたからか、仙術に対しての恐怖心があるようだ。

 

「今日はここまでにしよう。今日一日ゆっくりと考えてほしい。自分には何があるのか、このままでいいのか、一歩踏み出すべきなのか。明日その答えを聞こう。強制はしない、いやであるならば僕は他の最善の特訓内容を考えよう。そして決心がつき、一歩踏み出す勇気を持てたならば僕は最大のサポートをすると約束しよう。」

 

彼女自身で考える時間が必要だ。彼女に伸び代はあまりない、パワーを上げたり速度を上げることはできるが天井は見えている。神器を持たない彼女が強くなるためにはここで一歩踏み出さなければならない。

 

「・・・わかり、ました。」

 

そう彼女は消えそうなくらい小さな声で返事をした。

 

 

 

 

 

その後は別荘へと戻り、姫島朱乃の作った料理を全員で食べた。

 

確かにすごく美味しかったが俺は黒歌の料理の方が好きだ。十日間黒歌の料理を食べれないと言うのは俺にとってこの特訓で最も過酷なことなのかもしれない。

 

料理を食べ終えると入浴の時間になった。兵藤一誠はリアス・グレモリーに一緒に入るかと誘われひどい顔をしていたが白音ちゃんが断ったことで撃沈した。

 

風呂では兵藤一誠が覗こうと全力を尽くしていたが。

 

「まだ余力があるようだ。ならば明日を楽しみにしているといい。」

 

と言うと大人しくなった。ちなみに風呂では眼鏡を取っているので戦闘モードの迫力だ。

 

そうして風呂を出た俺は割り振られた自分の部屋へと向かう。

 

部員たちは夜にも特訓を行うそうだが悪魔ではない俺には合わないので辞退した。自分の早朝鍛練があるため早く寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

「黒歌、明日はお前を呼ぶかもしれない。心の準備をしておいてくれ。」

 

部屋にはいつの間に帰っていたのか黒歌がいた。そして今俺と黒歌は部屋に1つしかないベッドに揃って横になっていた。

 

「惣右介、もしかして・・・。」

 

「ああ、白音ちゃんに仙術を教えてやってほしい。そしてその前にゆっくり話をするべきだ。」

 

俺はこのタイミングで黒歌と白音ちゃんを仲直りさせてあげたいと考えている。そしてそれが白音ちゃんが強くなるために必要なことであると考える。

 

そのために白音ちゃんには一晩しっかり考えてもらって一歩を踏み出す勇気を持った状態で黒歌に会ってほしい。

 

「で、でも白音は・・・。」

 

「ああ、今日遠回しに聞いてみたけどやっぱり仙術に恐怖心を抱いているようだ。だから俺は彼女に一晩じっくり考えるように言った。明日彼女が一歩踏み出す勇気を持っていたらお前に会わせる。決心がつかないようならば会わせない方がいい。」

 

「わかったにゃ・・・。私もまさかいきなり白音と話すかもしれないって思うと怖いにゃ。でも惣右介は私たちのことを考えて行動してくれてる。だから私も勇気を出すにゃ。」

 

黒歌もやはり嫌われている妹に再開するのは怖いらしい。だが彼女は勇気を持って一歩を踏み出す気でいる。

 

「大丈夫、きっと黒歌なら大丈夫だよ。黒歌が考えていたこと、どれだけ妹を大切に思っているのかを真摯に伝えればきっと白音ちゃんもわかってくれる。」

 

そう言って俺は少し震えている黒歌の頭を撫でる。

 

「ありがと惣右介。惣右介はやっぱり優しいにゃ。」

 

「そんなことはないさ。さてと、明日はまず俺らの早朝鍛練だ。そろそろ寝よう。」

 

真正面から笑顔で言われてなんとも言えない気持ちになった俺は咄嗟に話を逸らした。

 

「そうね、そろそろ寝ないとにゃあ。」

 

「ああ、おやすみ黒歌、明日は頑張ろうな。」

 

「頑張るにゃん。おやすみ惣右介。」

 

そうして俺たちは目を閉じる。

 

明日、頑張れよ、黒歌。




はい!と言うことで特訓初日でした!

次回は大幅な原作改変が予想されます!一体どんな結果になるのか!

評価・感想非常にありがたいです!お待ちしています!

それでは次回をお楽しみに!


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第十四話 姉妹のサイカイ

はい!bad boyです!

最近前書きでいうネタが思いつかなくなってきました。次回までには考えておきます!

というわけで第十四話どうぞ!


 夜が明け特訓二日目となった。

 

 今、俺は黒歌と早朝鍛練を行なっていた。

 

 グレモリー眷属は夜まで特訓をやっていたためいまだに寝ている。

 

「なあ、黒歌。今やっていることも終わりが見えてきたから転移魔法陣使えるようになりたいんだけど」

 

「にゃ? 前は教えようとしたら後回しにしたのに何かあったのかにゃ?」

 

 俺は黒歌に転移魔法陣を使えるようになりたいと提案した。

 

 やはり移動手段が自分の足だけだとどうにも移動範囲が狭くなりすぎる。

 

 もし今日黒歌と白音ちゃんが和解できたとしたならば、白音ちゃんも俺が必ず守る対象になる。

 

 だが白音ちゃんはほとんど一緒にいる黒歌とは違い、学校にも通うしグレモリー眷属としての活動もあるため常に俺がすぐに駆けつけられる訳ではない。

 

 そのためにも俺は遠距離の移動手段を手に入れる必要があると考えた。

 

「いや、もし黒歌が今日白音ちゃんと仲直りできたら彼女も俺の必ず守る対象になるからさ。何かあった時にすぐに駆けつけられるようにしておきたいんだよ」

 

「惣右介……わかったにゃ。じゃあ今日から転移の方法を教え始めるにゃ」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 そうして今日から俺は鍛練の時間を転移魔法陣を習得することにあてた。

 

 結構難しいけど早めに身につけないとな。

 

 

 

 

 

 

 そして俺たちは早朝鍛練を終え、グレモリー眷属がちょうど起きてきたので朝食をとり、特訓二日目が始まった。

 

 

 

 

 

 

「さて、塔城君。一晩考えて答えは出せたかい?」

 

 特訓二日目では他のグレモリー眷属は昨日提示した特訓内容をこなしている。あまり俺が関わらずとも自分たちで強くなるために努力するだろう。

 

 俺は白音ちゃんに昨日考えたことの結果を聞いていた。黒歌には近くに控えてもらっている。

 

「……私は弱いです。兵藤先輩よりはまだ強いですけど、神滅具の赤龍帝の籠手を宿している先輩にはきっとすぐに抜かれてしまうと思います。昨日藍染先輩が言ったように私には部長達のような魔力もなければ神器もありません。ですがそんな私が強くなれる方法が1つだけあります。ですが私はその力が怖いです、その力を扱える自信が私にはありません。藍染先輩は最大のサポートをしてくれると言ってくれましたね、それは本当ですか?」

 

 どうやら彼女なりにしっかりと現実と向き合い、何が必要なのかを考えてきたようだ。

 

 そして彼女はなぜかは語らないが仙術に対しての恐怖心も打ち明けてくれた。普段から交流を持っていたからかある程度信頼されているようだ。俺が最大限のサポートをするならば、挑戦しようと考えているのだろうか。ならば答えは1つだ。

 

「もちろんだよ。君が恐怖を抱いてる力に関しても心当たりがある。僕ができる最大のサポートを君にすることを約束するよ。もちろん暴走なんて絶対にさせない」

 

「……わかりました。このまま私だけ眷属の皆さんから置いていかれるのは嫌です。藍染先輩がそこまで言ってくれるのならば私も勇気を持って一歩踏み出したいです」

 

 どうやら彼女は俺を信頼して仙術と向き合う勇気を持ってくれたようだ。俺は黒歌に合図を送る、視界の隅で体を強張らせるのが確認できた。

 

「ありがとう塔城君。僕を信頼してくれて、一歩踏み出す勇気を持ってくれて。全力でサポートするよ」

 

「……はい。先輩、まず私は何をすればいいですか?」

 

 彼女は覚悟を決めたらすぐに特訓を開始しようとした。昨日の分で他の眷属と差が開いてしまっているから焦っているのかもしれない。

 

「いや、まずは何かをするのじゃなくてある人物と話をしてもらいたい。それが君の新しい力への近道になる」

 

「……誰ですかそれは?」

 

「すぐにわかるよ。もういいよ出ておいで」

 

 

 

 

 

 

「……姉……様……?」

 

 

 

 

 

 彼女は目を見開いて驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 ────黒歌side

 

「……姉……様……?」

 

 白音は歩いてきた私に驚愕し、そして恐怖の視線を向けた。

 

「久しぶりにゃ……白音」

 

 とりあえず私は挨拶をする。声が震えていたのがわかる。

 

「塔城君、黒歌は君が思ってるような人物じゃない。一度話を聞いてやってくれ。黒歌、しっかり話せばきっとわかってくれる。それじゃ僕は離れているよ、鏡花水月で周りには僕と塔城君が模擬戦をしているように見えているからゆっくり話すといい」

 

 そう言って惣右介は離れていく。ありがとにゃ惣右介。

 

 せっかく惣右介が作ってくれたこの場を台無しにしないために私は白音に話し始める。なぜ悪魔になったか、なぜ主人を殺したのか、なぜ置いていってしまったのか全て。

 

 

 

 

 

「そのせいで私は白音を置いていってしまったにゃ。白音、本当に、本当にごめんなさい。私がもっとしっかりしていれば白音にこんな悲しい思いも一人にさせてしまうこともなかったにゃ……」

 

 私は話した、全てを。声が、腕が震えて涙が出そうになるのを我慢してゆっくり、ゆっくりと話した。

 

 途中から白音の顔を見ていられなくなって俯いてしまっていた。白音は今どんな顔をしているのだろう。怒りや憎しみのこもった目をしているのだろうか、私のことを信じられないような目をしているのか。白音にどんなことを言われても私は受け止めるつもりでいる。

 

「……姉様、顔をあげてください」

 

 そう白音に言われて私は顔を上げる。白音は、泣いていた。

 

「……姉様、私は姉様のことを誤解していました。姉様は仙術の力に飲まれて暴走し私を巻き込み勝手に置いていったのだと思っていました」

 

 白音はそう言った。

 

「白音……。私のことを疑わないのかにゃ? 私が言ったことを信じてくれるのかにゃ?」

 

「……正直、まだ少し混乱してます。今まで私は姉様にいい感情を持ってませんでしたから。ですがものすごく辛そうに話す姉様が全て嘘を言っているとは思えませんし、藍染先輩も姉様を信じているようですので私は姉様のことを信じたいと思います」

 

 白音は私を信じてくれると言ってくれた。一度見捨ててしまった私を。私は涙が止まらなくなり、思わず白音を抱きしめた。

 

「ありがとう、ありがとうにゃ。こんな姉のことを信じようと思ってくれて」

 

「……姉様、こちらこそごめんなさい。助けようとしてくれた姉様を憎んでしまって」

 

 白音もどうやら泣いているようだ。肩が震えている。

 

「いいんだにゃ。それだけのことをしてしまったんだから」

 

 私たちは落ち着くまでしばらくそのままでいた。

 

 

 

 

 

 

「……ところで姉様、藍染先輩とはなんで知り合いなのですか? それにさっき言っていた私と先輩が模擬戦をしているように見えてるとはどういうことですか?」

 

 落ち着いた私たちはたわいもない話をしていた。お互い離れていた時にあったことなど離れていた溝を埋めるように話をしていた。

 

 そんな時にふと白音が惣右介のことを聞いてきた。

 

「惣右介には一度助けてもらったんだにゃ。そしてその後色々あって今は家に住まわせてもらってるにゃ」

 

「……え? 一緒に住んでるんですか!?」

 

 白音はかなり驚いているようだ。確かに行方不明だった自分の姉がこんな身近にいてしかも知り合いの家にいると言ったら驚くか。

 

 そして惣右介の能力については私が話していいのか判断しかねる。

 

 だから私は惣右介をこの会話に混ぜることにした。

 

「後のことについては本人を交えて話した方がいいにゃ」

 

「……そうですね」

 

 そうして私は離れたところにいる惣右介を呼びに言った。

 

 

 

 

 

 

「そういうことがあって僕たちは今一緒に暮らしているんだ」

 

 惣右介を呼んできて白音が先ほどの質問をすると惣右介はほとんど全てを白音に話した。話してないのは詳しい過去の話くらいだろうか。

 

「……そういうことでしたか、姉様を助けてくださってありがとうございます。それに姉様と話す場を設けてくれて」

 

 白音は惣右介にお礼をいう。私も惣右介には感謝してもしきれないほどだ。ますます好きになってしまう。

 

「いや、礼には及ばないよ。誤解が解けてよかったよ」

 

「……それに完全催眠とはものすごい能力ですね」

 

「使い勝手がいいから重宝しているよ。でもできれば鏡花水月の能力に関しては他の人には黙っていてほしい、あまり目立ちたくないからね」

 

「……わかりました姉様の恩人のお願いです。断るわけありません」

 

「それよりも惣右介、いつもの調子で話してほしいにゃん。その話し方あんまり好きじゃないにゃん」

 

 私は唐突にそう言った。先ほどから気になっていたことだ。仮面の惣右介じゃなくて自然体の惣右介で接してほしいというわがままでもある。

 

「……いつもの調子?」

 

 白音ははてなマークを浮かべている。

 

「え? いやしかし……」

 

 惣右介は困っている。

 

「白音は私の妹にゃ、家族の妹くらいいいんじゃない?」

 

 私はそういう。惣右介は家族という言葉にこだわっているのは知っている。

 

「はあ、仕方ねえなあまったく」

 

「……っ!!??」

 

 白音が驚いている。私は笑いが止まらない。

 

「そんなに笑うなよ黒歌。ごめんな白音ちゃん、驚かせちゃったな」

 

「……先輩は三重人格だったんですね」

 

「ちっが──────う!!」

 

 私の予想通りの白音の反応に惣右介は全力で否定する。

 

 

 

 

 

 あのあと話していたら夕方になったので白音の特訓は明日からということになった。

 

 白音は私と話して仙術への恐怖心はある程度和らいだようで、あの様子ならば遅れをとった二日間は簡単に取り戻せそうだ。

 

 惣右介は明日以降も今日みたいに鏡花水月を発動しておいてくれるらしく存分に教えてやってくれと言ってくれた。惣右介には本当に感謝している。惣右介に出会っていなければきっと私は今だに白音と仲直りすることはできていなかっただろう。

 

 その惣右介は別荘に帰ってきた後はリビングで夕食を食べ今はお風呂に入っている。私はみんなが夕食を食べている間に一足先にこっそりお風呂を使わせてもらって今は惣右介の部屋で彼を待っている。

 

 そしてしばらくすると惣右介が部屋に帰ってきた。まだ私は彼に感謝の言葉を告げていない。

 

 だから私は部屋に入ってきた惣右介に抱きついた。いきなりのことに困惑している惣右介に私は

 

 

 

 

 

「白音と仲直りさせてくれて本当にありがとにゃ。惣右介、大好きにゃ」

 

 

 

 

 

 抱きしめる手に力を入れてそう言った(告白した)

 

 

 




はい!ということで猫又姉妹は無事に和解できました!

黒歌の告白に関しては次回どうなるのか楽しみに待っていてください!

評価・感想ぜひともよろしくお願いします!

それでは次回をお楽しみに!


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第十五話 今はまだ

みなさんお久しぶりですbad boy です。

緊急事態宣言が解除され、色々と忙しくなり、スランプにもなってしまい更新ができず申し訳ありませんでした!

気付けばお気に入りが1300件を超えており待ってくれていた方は本当にありがとうございます。

今だにスランプから抜け出せずこれからも不定期な更新になると思いますがよろしくお願いいたします。

それでは十五話どうぞ!


 

「惣右介、大好きにゃ」

 

 

 

 

 ──え? 

 

 俺はなんで黒歌に抱きつかれている? 黒歌は今なんて言った? 

 

 俺には大好きだと告白されたように聞こえた。

 

「黒歌、今なんて……?」

 

「大好きって言ったんだにゃ、もちろん異性としてにゃ」

 

「そう、か……」

 

 抱きつかれているため黒歌の顔は見えないが耳が赤くなっているのがわかる。そうか、大好き、か。

 

 正直黒歌の普段のスキンシップや言動などはすべて家族に対するものだと考えていた。いや、思い込んでいたという方が正しいか。

 

 きっと俺も黒歌に対しては家族以上の気持ちを抱いていたのだろう。だがどうしても自分がこれ以上幸せになっていいと思えなかった、家族がいることで十分すぎると感じていたんだ。

 

 また失うことに対しての恐怖に耐えられる気がしなかったから、これ以上大切な存在にすることが怖かったんだ。何もアクションを起こさなければ今の関係のままでいられると思っていたんだ。

 

 でも女の子に告白させてしまったんだ、俺も誠意を見せなければならない。

 

「惣右介……?」

 

 黒歌が反応のない俺を心配して上目遣いで俺を見てきた。

 

 やばい、こんな状況だと嫌でも意識してしまうな、こいつ顔はものすごく整ってるし。それに今気づいたが腹のあたりから2つの幸せな感触が……。

 

 いかんいかん。まだ返事も何もしていないのに。

 

「ん? ああ、ごめん。ちょっといきなりすぎて混乱してた」

 

「ひどいにゃ、私だってすごく緊張してるんだにゃ」

 

「ごめんな、自分が誰かにそんな風に思ってもらえるなんて考えたこともなかったから驚いたんだ。そしてありがとう、こんな俺を好きだと言ってくれて。すごく嬉しいよ」

 

「そ、それじゃあー」

 

「でも返事は明日まで待ってくれないか? 少し頭を整理してよく考えてから答えを出したいんだ」

 

 このことに関してすぐに答えを出すわけにはいかない。

 

 正直なことを言えば今すぐにいい返事をしたい。俺も黒歌には家族以上の感情を抱いているし、本当の俺を知った上で好意を持ってくれた黒歌ならむしろこちらからお願いしたいくらいだ。

 

 でも俺たちは複雑な立場だ。そう簡単に答えを出すわけにもいかない。

 

「そっか。うん、わかったにゃ。明日、答えを聞かせてほしいにゃ」

 

 そう言って黒歌は俺から離れた。少し名残惜しいが今後のことについて色々考える必要がある。

 

「おう、とりあえず今日は白音ちゃんの部屋にお邪魔してみれば? せっかく仲直りできたんだ姉妹水入らずで夜語り合うのも悪くないと思う」

 

 改めて黒歌の顔を見た俺はなんだか気恥ずかしくなってあからさまに話題を変えた。きっと顔も赤くなっているのだろう、黒歌の顔もやはり赤い。

 

「そ、そのアイデアいただきにゃ! じゃあ早速白音の部屋にお邪魔してくるにゃ! じゃあ惣右介また明日にゃ!」

 

「あ、ああ。また明日」

 

 黒歌もどうやら気恥ずかしかったのか捲し立ててさっさと部屋を出て行った。窓から。

 

 

 

 

 

「大好き、か」

 

 夜、ベッドの上で俺は一人つぶやいた。これが何回目かなんてもうわからない。

 

 はっきり言って嬉しい。めっちゃ嬉しい。

 

「でも、なあ」

 

 俺たちは立場が特殊すぎる。俺は日々自分を偽って生きていて悪魔にも関わっているが後ろ盾は何もない。

 

 黒歌もSS級はぐれ悪魔として指名手配されていていつ狙われるのかもわからない。そんな状況で俺は黒歌を守っていくことができるのだろうか。

 

 もし俺たちが今以上の関係になるのだとしたら必ずこのことで何か問題が起きるに違いない。もし黒歌のことが悪魔たちにバレて俺以上の実力者が討伐に来たらどうするのか。俺の神器の本当の能力に目をつけた人外たちが俺の捕獲に乗り出してきたらどうするのか。

 

 そんなことを考えると俺はまだ黒歌とそのような関係になるわけにはいかないんじゃないだろうか。勢いに任せて後先考えないのは違うんじゃないだろうか。

 

「今の環境をどうにかしなきゃなあ」

 

 うん、そうしよう。今の環境をどうにかする目処が立つまでは今の関係でいることがきっと俺に取っても黒歌にとってもいいと思う。お互いの安全がある程度保証されるようにこれからの俺の立ち振る舞いを考えなければならないな。

 

 

 

 

 

 

「それにしても」

 

 改めて考えてみると黒歌の今までの行動は単なる家族にするものじゃないよな。いきなり抱きついてきたり、毎日料理を作ってくれたり、風呂に突撃してきたり。兄弟なんかにやるような行動じゃない。それを家族だからとごまかし続けてきたけど流石に無理があるよな。

 

 そんなことを思い返していると黒歌が非常に愛しく思えてくる。どうして俺なんかを好きになってくれたのやら。

 

 でもこんな自分を受け入れてくれてそして好意を持ってくれる。まるで幸せになっていいのかと自問する俺に幸せになっていいと言ってくれているように感じる。こんなに嬉しいことはない。

 

 だからこそ俺は黒歌のために黒歌が安心していられるような環境を作ってあげなければならない。そうしたら改めて黒歌に俺から告白しよう。そう俺は決意した。

 

 

 

 

 

 

「こ、答えを聞かせもらってもいいかにゃ?」

 

 そして次の日の夜、俺と黒歌は俺の部屋にいた。黒歌はどこか緊張している様子だ。

 

「ああ、黒歌と付き合うことはできない。今はまだ、な」

 

「っ! そっか……。って今は?」

 

「ああ、今はまだ、だ」

 

 そんな悲しそうな顔をしないでくれ。俺だって本音は今すぐオッケーを出したいんだ。

 

 でも勢いに任せてはいけない。俺たちの立場を考えたらな。

 

「俺たちは特殊な立場だ、いつ狙われてもおかしくはない。そして今の環境じゃ何かあった時にお前を必ず守りきることができない」

 

「そっか、私みたいなはぐれ悪魔となんかじゃ惣右介が迷惑よね……」

 

 黒歌は目を潤ませ俯く。

 

 違う、そうじゃないんだ。そんなこと思うわけないじゃないか。

 

「違う、そういう意味じゃない! 迷惑だなんて思っていない!」

 

 思わず声を荒げてしまった。

 

「じゃ、じゃあどうして」

 

「今はまだって言っただろ? 俺もお前が好きだ。大切だ。だからこそ今の状況じゃ何かあった時にお前を守ることができない。俺の能力だって隠してはいるがいつばれて狙われるかわからない。

 俺が黒歌が安心していられるような環境を作ってみせる、何があっても俺が黒歌を守ることのできる環境を。

 だからそれまで待っていてくれないか? その時が来たら改めて俺から黒歌に告白させてほしい。だから黒歌が嫌いなわけじゃない、迷惑だなんて思ったこともない、お前が好きだからこそお互いが心から笑顔でいられるようする。だからそんな悲しい顔をしないでくれ」

 

 そういって俺は黒歌の頭を撫でる。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。好きな女にこんな顔をさせる俺はきっと最低なんだろう。良い男ならばきっとここで彼女を抱きしめてあげるんだろう。

 

 でもこれが俺なりの誠意だ。どうか受け入れてほしい。

 

「うん、うん。わかったにゃ。惣右介が私を大切に思ってくれてるのはわかったにゃ」

 

「これは俺のわがままだ。お前を幸せにしたい、自由に過ごせるようにしてやりたいと勝手に考えてる俺のわがままだ。こんな俺を受け入れてくれるなら少しだけ待っていてくれないか?」

 

「ありがとにゃ惣右介、私のためにそこまで考えてくれて。わかったにゃ、惣右介のこと待ってるにゃ、でもあんまり待たせすぎないでよ?」

 

 良い女だよお前はまったく。

 

「ああ、善処するよ」

 

「だったら今日は一旦解散だにゃ。今日も白音の部屋に行ってくるにゃ」

 

「おう、また明日。改めてよろしく」

 

「また明日! よろしくだにゃ!」

 

 そう言って黒歌は窓から飛び出していった。万が一見られたらどうする気だあいつは。

 

 

 

 

 

 そしてそのあとは俺と黒歌も普段と変わりなく過ごし、特訓も順調に進み十日という短い時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、ということで今はまだ、という結果になりました。

今回は少し短かったですが申し訳ありません。

今回で特訓は終わりです。あまり長々と書いてもこの特訓の見せ場はもうほとんどないので。

感想、評価モチベーションに繋がります!よろしければお願いします!

それでは次回をお楽しみに!


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