Fate/Believe of Determination (海の色)
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プロローグ

 生き残るには、何か才能を持たなければならない。

 

 才能がなけりゃ、この世界を生き残る事なんてできない……。

 

『……いつ見ても馬鹿なマスターだ、どうあがいても勝てないと何故わからないのか、この先の未来で起こる事など、赤子でもわかる事だというのに』

 その鋭き言葉が、深く傷ついた私の心にドスンッと突き刺さった。手に持った竹刀がプルプルと震える。目の前にいる存在に恐怖し、今にも逃げ出したいと思っている証拠だ。それを晒す為に……私は今この場を立っているのか?

 違う……違う……私は何度も心の中でそう吐いた、でもこんな物はただの見栄っ張りに過ぎない。

『……違う……未来に何が起こるかなんて、誰にもわかる筈がない……』

『何?』

 身体についた無数の傷が、私を痛く蝕んでいく。でも、今となってはそんな物さほど問題ではなかった。

 今この場にある物なんて……"死ぬ"か"生きる"か、なんだから。

『マスター……』

 友達の声が聞こえる……その言葉だけが、今の私を動かす原動力となっている。

 

『……私の目的はただ一つだ……お前を倒し、大切な物を取り戻す事、ただそれだけだ!』

 

 私は目の前の強者に向かってそう吼え、駆け出した。

 その言葉こそが……いま私が持っている決意(Determination)だから。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 Fate/Believe of Determination

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ジリリ……ジリリ……

 

『……うるっさいなぁ……もう少し……』

 

 ジリリ……ジリリリリリリ

 

『あぁもう!!』

 眠る横でけたたましく鳴り響く時計を扉の方に投げつけて黙らせる、もはや当たり前のように見る光景だ。

 破壊された時計の針は、7時54分を刺していた。

『……はぁ……って、もう8時前!? 何度寝したの私っ!』

 

 勢いよく扉を開き、階段をダッシュで駆け降りる、もはや慣れすぎた光景であり、その手際の良さはもはやプロ並みといっても過言じゃなかった。

 何のプロだよってツッコミは置いておこう。

『……翔也はもう学校行ったか……まったく真面目だなぁ、誰に似たんだろ……』

 弟の翔也は恐らくお母さん譲りなんだろうけどね、もう亡くなっちゃったけど、お母さんはとても真面目で正直者だった、なら私の性格は誰に似たんだろう、父譲り? でも私も翔也もお父さんの事は知らない、お父さんは物ごごろつく前に亡くなっちゃみたいだから。

 

『朝ごはんは~……いいやっ!』

 やっぱり私はお母さん似じゃないな、と改めて再確認し、玄関の扉を勢いよく開けた。

 

 私の家から学校は自転車を全力で走らせて15分といった場所に存在した。それもあって昔から『まだ寝てても問題ないな』という習慣が身についてしまい、このありさまである。

 私の馬鹿な性格が招いた大失態だ。

『うわぁ……これ遅刻じゃないかな……』

 急な登り坂も疲れという物を忘れて難なく乗り越え、その先に見える学校へと自転車を加速させる、門が閉じられてなかったら、ギリギリ間に合わないんだろうが、今回はセーフだったようだ。

『でも急がないとマズいなぁ』

 自転車をその場に止め、校舎の中へと駆け込む、もはや最初の授業が何だったかなんて覚えていない。そんなことよりも、今は遅刻するかしないかが重要だった。

 階段を駆け上がり、4階にある私の教室へ急ぐ。急な坂を自転車で駆け上り、かつ4階まで階段をダッシュするという如何せんハードな道のりで普通なら疲れで動けなくなる所だが、今私が置かれている危機的状況故に、疲れなんて感じやしなかった。

 

『せ、セーフ!!』

 何とか到着し勢いよく扉を開けたまではよかったが……。

『アウトだっ』

『いたっ!?』

 担任である風間先生に、生徒名簿による頭コツンのお仕置きで出迎えられた。

『……ダメですか?』

『ダメだ、まったく……何回目だ、音切。さっさと席につけ』

『ふぁ~い』

 今になって、疲れがどっと押し寄せてきたのか、情けないような声を漏らしてしまった、普段は疲れてもこんな声は出さないんだが、今日は異様に疲れていたのだろうと脳内解釈した。

 よりによって担任に見つかるとは……ついていないな。大きなため息をつきながら席に着いた。

『なんだ音切、文句でもあるのか?』

『ないでーすっ!』

『全く……音切(おとぎり) (かなえ)は今日も遅刻っと……そんじゃま、授業やってくぞ』

 

 

 〇

 

 

 私の名は音切 叶、まぁ見た通りどこにでもいる女子高生だ。長所は明るい事、短所は才能がない事。

 女子の人一倍の運動神経はあるけども、それは才能とは言わない、本当の才能とは、誰にも負けない技能その物だと私は思っている。

 こうした運動神経で誰にも負けない才能を作ろうと、響きがかっこいい剣道部に入った。最終的には県内一の強さは勝ち取り部長の座にはついたものの、まだ才能と呼べるような腕前には至っていない。

 ……才能がなければ生き残る事なんてできない、そう昔から思っていた。

 どんな有名な人だって、才能を持って有名になってきたのだから……。

『……今日も色々散々だったなぁ』

 愚痴に似たような言葉を淡々と吐きながら、剣道部の部室へと入る。

 数名の部員が相手を見据えながら、淡々と竹刀を振る、その光景を見て良く私みたいな人が部長をやれているなって思う。

 

『……やってるね』

『ん? あれ、叶~~!』

『あ、あかりじゃん? 最近来てないからどうしたものかと』

『あぁ……はは、ちょっと風邪で』

『しっかりしなよ~?』

 背後から副部長の裏星(うらぼし) あかりが声をかけてきた。幼馴染であり裏星家っていう家系の現当主だ、どういう家系なのかは知らないけど、彼女の実家を見るに『いろいろとヤバそう』なのは確かだと思う。

 そういう家系の末裔っていうから、凄い才能の持ち主なんだなぁと勝手なイメージをもって敬遠していたが、話してみると案外優しい子だったのを知り、それ以降はとても仲の良い関係となった。

『せっかく久しぶりに部活来たんだし、叶っ打ち込み付き合ってくれない? ま、いくら頑張ったって私が才能を持ったあんたに勝てるわけないんだろうけど』

『……う、うん……問題ないよ』

 彼女との打ち込み稽古はとても長くなるから、あまり好きではないんだけどなぁ……と心の中では若干めんどくささを覚えるが、仕方なく付き合う事にした。

 結局これも、自分が『才能』と呼べる程の腕前をつけるための試練なんだ……末裔だか何の才能持ってるんだか知らないけど、私だって上に登らなければならなければならない。

 彼女は私に『才能がある』なんていうけど、私はそう思えない……きっと才能がない私に対する慰めの言葉に過ぎないんだろう。

『それじゃっ今日も勝たせてもらいますか』

『今日は負けないかんな~?』

 戦い前の挨拶代わりとして、それだけを言い放ち両者共に駆け出しその竹刀をぶつけあった。

 

 

 〇

 

 

 戦いが終わったのは午後7時の下校時間ちょうどだった、結局あかりは私に一本も取れやしなかった。

 既に回りには私達以外に部員はいなかったので、私達は最初の分かれ道まで一緒に帰る事にした。

『結局下校まで付き合っちゃったけど……あかりって妙に諦めが悪いよねぇ』

『諦めたらそこで試合終了だって……』

 あかりの剣道の腕前というのは、正直いってそこらへんの部員とあまり大差ない、むしろ彼女より上手い部員だって数名いる。

 それでも彼女は性懲りもなく私に勝負を挑んでくる、何回か挑めば私に勝てるって思ってる感じなのかな?

『ねぇ、あかりってなんで私ばっかに挑むの? ほかにも相手にはちょうどいい人だっているでしょうに……』

『え? ん~……幼馴染だから?』

『何で疑問形なの?』

 苦笑しながら大して面白くもないツッコミをかましてしまった。

『まぁでも、深い意味なんてないから、多分そういうことだよ!』

『なんだかなぁ……』

 

 そんな他愛もない会話をしていたら、いつの間にか分かれ道まで歩いていた。何だろう、彼女と話していると体感時間という物が狂わされる物を感じる。

『んじゃ私こっちだからっ! 明日は寝坊するなよー!』

『遅刻の理由がもう寝坊確定になってるし!』

『寝ぐせ凄かったし~? そんじゃまた明日~!』

 相変わらずの破天荒っぷりだ、まぁ私も性格は彼女とそんな違いもないから人の事言えないんだけど……多分あかりだって、私の事『破天荒な幼馴染』だって思っているだろう、実際私も同じだ。

『さて……帰ろ』

 そして私は反対方向の道を向かって歩き始めた。

 

『それにしても……』

 今日はとにかく災難な一日だった、登校した際にいつも以上に疲れが溜まっていたし、結局間に合わなかったし、あかりのわがままに最後まで付き合ってしまったし……はぁ、これじゃぁいつまでたっても才能なんて持てやしないよ。

 あかりは私に『君は才能がある』なんていうけど……一体何の才能があるっていうんだ?

『くっ……こんなんじゃ、お母さんに何て顔すればいいんだろ』

 

 私は小さい頃、母親が死ぬ前に約束したんだ。

 "お母さんの分まで翔也を護る、そして自分も強くなる"って、そしたらお母さんは『安心した』って言ってくれた。

 

 でも、今の私はなんも強くなんかない……、なんだ? 何がいけなかったんだ?

 

『くそっ……』

 

 と、地面にあった石を腹いせのように蹴っ飛ばす、その刹那私はとあることを思い出した。

『……あれ、そういや私……自転車登校だった!!』

 あかりのペースに飲まれてしまったからなのか、すっかり自転車登校だったことを忘れていた。このまま帰ってもいいんだが、明日また寝坊してしまったら自転車無しではほぼ確実に遅刻してしまう。先生の生徒名簿ファイル、叩かれると割と痛いので、2連続で喰らうとなるとさすがに億劫だ。

『ほんっとうに散々な日だ』

 私は来た道を渋々と戻り、自転車を取りに行くことにした。

 

 ……この時の行動を、後の私は後悔することになるとは知らずに。

 

 

 〇

 

 

『……えっと、どこに置いたかなっと……』

 自転車置き場へと戻り、自分の自転車がどこにあるかを確認する。夜であるにもかかわらず、まだ自転車が数台残っている。教師の姿も確認できないという事は、おそらく私と同じ学校に忘れてきた人たちの物だろうか。

 それとも……まだ誰かいるのだろうか? そんなまさか……。

『まったく……人の事は言えないけど、ちゃんと取りに戻ってほしいよね……あ、あったっ』

 私は自分の自転車を発見し、カバンの中に入れた筈の鍵を取り出そうとした。

 ……その時だった。

 

 ガンッ……ガンゴンッ……

 

 硬い物と硬い物がぶつかり合うような鈍い音が耳に響き渡った。

『え?』

 グラウンドの方からだった。

 ……え? まさか本当に誰か残ってるの? 残っていたとして何をやっているの……? 鈍い物と鈍い物がぶつかり合う音って……一体何が起こってるの?

『……身に行かなきゃダメなのかな……』

 私は物陰からこそっとグラウンドの方を覗き込んだ。

 

 ……そこには信じられない物が映っていた。

 大きな槍を持った男と剣を持った男が、人とは思えない速度で走り回り、武器をぶつけあっていた。

『(……え? へ?)』

 脳内大パニック状態だった、明らかに動きが殺し合いその物であった。嫌そんなことよりも武器おかしいでしょ? 槍って何!? いや剣も大概だけど。

 

『(……逃げなきゃ不味いよね?)』

 私は一歩後ずさり、自転車の方へ戻ろうとした。

 

 が……驚く事が連続して起こったせいなのか、ドジ踏んでしまった。

 

 ジャリッ……

 

『げっ』

『……!?』

『(不味ッ)』

 そう思った時には時すでに遅く、既に私の頭の後ろには大きな槍の先端が迫っていた。

『殺されるっ……』

 私は寸での所で、身体を側転させ、槍を避ける。

『……おっ、へぇ?』

 

 逃げなきゃ……逃げなきゃ殺される。足を休めたら死ぬ……何故かはわからないが、そんな気がした。

『目撃された時には、早く始末しなきゃとは思ったが……良い動きしたな? ちょっと遊んでやるァ!』

 何言ってるの? 何言ってるの?

『うらぁ!』

『ひゃっ!?』

 心臓を狙ったひと突き、殺気を見せてたからこそ分かった攻撃……それでも、奴は攻撃の手を止めなかった。

 無造作に振り回された槍の斬撃……この時既に私は『剣を持ったもう一人の男』がどこに行ったかなんて考える余裕が残っていたなかった。

 避けなきゃ死ぬ……今の私に残された選択肢はそれだけだった。

 

『魔術師の雰囲気は感じたが……見た感じ自覚症状無しの腑抜けか? まぁいい、殺すにゃ惜しい体幹だが、そろそろ飽きてきたな』

 魔術師? 何いってるの、中二病ってやつ? いや、槍持ってる時点でそれはないか……。でもどういうこと? 何言ってるの? いや、それよりも……。

『飽きたって……え? 今の遊びだったの!?』

『へっ、遊びって程のもんじゃねぇよ!』

『うわっ!?』

 先程とは比べ物にならない程の速度の突きが私の頬をかすめた。あとコンマ数秒頭を反らすのが遅かったら完全に頭を貫いていただろう。

『もう……無理っ……うわわっ』

『そりゃっ!!』

 先程の無造作に振り回した時の回避行動が身体に大きな負担をもたらしたのか、足が限界を迎え等々転んでしまった。

 だがそれが災いし、その次に繰り出される突き攻撃は避ける事ができた、運がいいのか悪いのか……でも、転んでしまっては走る事なんてできない……それはつまり……。

 

『……へっ、手こずらせやがってよぉ』

『ひっ……』

 

 死だ。

 

『よく俺の攻撃をここまで避ける事ができたもんだ……それだけは褒めてやる。剣野郎の事なら心配すんな、もうどっかに消えたさ。つまり、お前が殺される相手っていうのは俺だけしかいなくなったってことだ、つまり1回痛い想いをするだけってことだ、よかったな』

 サイコパス思考!?

『い……嫌……』

『恨むんなら、俺たちの戦いを見ちゃった自分を恨むんだなッ……!』

 

 その槍はまさしく一閃その物だった。

 心に"何か"を決意した物にしかたどり着けない……私が望む才能その物に他ならなかった。

 きっと彼は槍の才能があったのだろう……わからないけど。

 

『嫌……』

 死にたくない……こんな所で……。

 でも……もう……なんの手も……。

 足も動きそうにない……。

 

 目の前に槍が迫った……動きがスローに感じる。

 何だろう、死ぬ間際に起こるアレかな……。

 

『嫌……だよ……』

 

 私は涙を流した。

 そして目を閉じ、心の中で……こう叫んだ。

 ──助けて……。

 

 

 〇

 

 

 突如視界が真っ白になった。

 天国って奴だろうか。

『はっ!? なんだこれっ!?』

 あいつの声が聞こえる……てことは死んでないのか?

 

 私はゆっくりと目を開けた。

 そこには驚くべき事が2つ起きていた。

 一つは私の腕から、謎の紋章のような物が飛び出し、地面に魔法陣のような何かを描いていた事……。

 

 そして、もう一つは……。

 目の前に、茶色……?に焼けた刃を持った女性が私を護るように立っていた事だ……。

『……てめぇ、もう一人のセイバーか!?』

『セ……セイバー……?』

『……』

 女性は目の前の男から、ゆっくりと視界を私に移し……こう告げた。

 

 ──サーヴァント、セイバー。ただいま現界しました。……問いましょう、貴方が私のマスターですか?

 

『マスター……?』

 

 これが……私と英霊……いや、セイバーとの出会いであった。

 当時の私は突然の事で、どうすればいいのか、わからなかった。



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