【完結】アリス·ギア·アイギス 〜空を目指す者〜 (塊ロック)
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成小坂DAYS

 

春の陽気が過ぎ、少し夏の暑さが先行してきた5月末。

もう慣れ親しんだ道の途中で活発な挨拶を受ける。

 

「おはよう、比良坂。今日も元気だな」

「はい!今日も成子坂の為に頑張るっす!!」

 

おーっ!と腕を突き上げ気合充分な様子。

比良坂夜露16歳。

俺がこの春働き始めた、成子坂製作所の新人アクトレスだ。

 

なんと俺が隊長としてやってきた日に入社しているので、ある意味同期とも言えるのかもしれない。

 

そのせいか、年が少し離れているにも関わらずよろしくやってくれている。

 

「体調はどうだ?」

「バッチリっす!いつでも出撃出来ます!」

「と、行ってもまず依頼があるかどうかだけどな」

 

がくり、と夜露が項垂れる。

…成子坂製作所は現在、過去に起こった不祥事により経営が傾きかけているのだ。

当然、そこへ舞い込む依頼も相当絞られてしまっている。

 

「隊長はいじわるっす」

「比良坂の反応が良いからな」

 

うーっとうなりながら非難の目を向けてくる。

感情表現が豊かだからこそ、弄り甲斐があるのだ。

 

「そこは俺の仕事だからな。せいぜいお前が輝ける場所を探してやるよ」

「約束っすよ、隊長」

「勿論だ。…百科にどやされるのも勘弁だしな」

 

苦い顔をしながら成子坂所属のもう一人のアクトレスを思い出す。

 

「隊長がサボるからいけないっす」

「そうは言うが休憩するタイミングを見計らって追加で仕事入れてくるのはどうかと思うぞ」

「えっ、サボってたんじゃなかったっすか!?」

「おま、人をなんだと」

 

なんて事だ、俺の勤務態度に問題があると思われてしまっている。

 

「そんな事はないぞ、うん。やるときゃやってるから」

 

我ながら苦しい言い訳になってしまったが、夜露は困ったように笑う。

 

「私も頑張るんで、やっぱり隊長にも頑張って欲しいっす」

 

思わず面食らう。

それもそうだ。

いくら危険性が低くなってるとはいえ最前線で戦うのは彼女たちなのだ。

こんな少女が戦ってるのに、自分はみっともなく言い訳をしている。

 

「あっ!その、別に…えーと」

 

自分の言ったことに気付き、慌てて訂正しようとするが上手いこと言葉が出てこない。

そんなあたふたしている表情を見て、暗くなりかけた思考が一気に緩む。

 

「ああ。まだまだ頼りない隊長かもしれないけど、俺なりに頑張るよ」

「はいっす!その意気っすよ!!」

「比良坂ァ!お前も俺に発破掛けたんだ。持ってきた依頼へまするんじゃねぇぞ!!」

「望むところっす!」

「なら成子坂まで競争だ!行くぞォ!!」

「うおおおおお!!」

 

雄叫びを上げならが走り出す二名。

朝っぱらから何だなんだと周辺住人が顔を出すが当人たちの知る由もなかった。

この光景が日常になるまで、もう少し係るだろう。

 

なお、その後奇跡的に隊長が依頼をもぎ取り、突如乱入してきた大型ヴァイスを夜露が討伐し、成子坂の復興に貢献した。

 

「成子坂、ファイトー!!」

 

黎明期が終わるまで、あと少し。



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紗那仮面…一体何者なんだ…?

シリーズ化してしまったアクトレス達と駄弁るSS。
今回は吾つ…紗那仮面とのドタバタをお送りします。


あ、今更ですけどキャラエピのネタバレ注意。
あと、隊長がアクトレス達並に強いです。


 

それは、春先の夜の繁華街で起こった。

 

「きゃあ!ひったくりよ!!」

「…?」

 

背後から聞こえる悲鳴。

振り返り、被害者の女性から走り去る男性を見付ける。

 

「世も末だな…!」

 

独りごちながら走り出す冴えない男…我らが成子坂の新人隊長であった。

割と早いペースで走り抜け、あっという間に路地裏へ駆け込んだ男に追い付いた。

 

「なんだてめぇ!分け前でも欲しいのか!」

「違う。そいつを取り返しに来た」

 

男は、背後がちょうど行き止まりだったらしく鞄を抱えながらこちらを見据えてきた。

 

「詰みだ。おとなしく返せば見逃す」

「チィ…!」

 

お世辞にも整っているとは言えない顔だが、それなりに場数は踏んでいるため凄めば怯ませるくらい効果はあった。

本人は気付いていなかったようだが。

 

「ここまでか…」

「お、案外あっさり諦めたな」

 

隊長の気配で完全にビビりきったひったくり犯は簡単に折れて鞄をこちらに渡した。

 

「俺だってこんなとこで死ぬなんざまっぴらだ」

「大袈裟だな…まぁ、警察には突き出さねぇよ。面倒だし」

「すまねぇな…これからは心入れ替えて真面目に働くよ」

 

がくりと肩を落として男は路地裏から出ていった。

 

「さて、こいつを返しに行くか。比良坂にいい土産話が出来たな」

「待ちなさい!」

 

どこかで聞いたことのある凛とした声。

あれ、この声は…。

 

「吾つ『紗那仮面参上!!』フォッ!?」

 

そこには、木刀を携え…何故か狐の面をした少女が立っていた。

 

「お覚悟をッ!!」

「おっと!?」

「何っ…」

 

素早い踏み込みからの上段。

脳天を叩き割られる前に慌てて避ける。

 

こんな冗談みたいな所でやられるのはゴメンだ。

 

「上段だけに…フフっ」

「何を笑っているのですか」

 

引くような格好している相手から引かれた。

む、地味に傷付く。

 

「はぁ、何やってんだ吾妻」

 

結局、少女…紗那仮面?に声を掛けることにした。

 

「えっ!隊長…何でひったくりなんて」

「俺がやった前提にしないでもらえるか!?」

「見損ないました…成敗します!」

「話聞けよ」

 

説得は失敗に終わった。

取り付く島も無いとはこの事か。

 

解せぬ。

解せぬのでちょっと困らせてやろう。

 

「ハァッ!!」

 

烈迫の気合と共に振り下ろされた木刀。

それを、

 

「ふっ…!!」

「なっ…!?」

 

ぱしいっ!!

 

頭の上で合わせた手の中に、木刀は収まった。

所謂真剣白刃取り…まぁ木刀だが。

 

「ちょっと話を…聞いてもらえるか吾妻ァ…!」

「くっ…わかりました…」

 

 

 

 

10分後。

 

おとなしく仮面を外して、吾妻楓はちゃんと俺の話を聞いてくれた。

この子素直だから扱いやすいけど今回なんでまた暴走じみた事をしたんだろうか。

 

「と、言う訳でこいつを持ち主に返す」

「それで、犯人の方は…」

 

路地裏から出る。

鞄の持ち主はすぐに見付かった。

 

「ああ…ありがとうございます!今月のお給料がはいったばかりだったので…助かりました」

「間に合って何よりです」

「本当に、ありがとうございました」

 

最後までペコペコしながら帰っていった。

…隣にいた楓が、口を開く。

 

「隊長。正義って何だと思いますか」

「…わからないよ、なんでまた?」

「私は、自分の剣が正義のためになると思い今まで研鑽を続けてきました。けれど、幾度振ろうとも世の中から悪事が消えません」

 

じっ、と去っていった女性の方を見て、楓は続ける。

 

「だから、こんな事を?」

 

仮面を付けて、木刀を振るう。

正義のためとは言うが、それはただの。

 

「エゴだよ、これは」

「ッ!わかって、います。こんな事をいくら続けても意味がないと」

「じっとしてられなかった?」

「…はい」

 

伏目がちにそう言った。

…しばし、無言。

 

おもむろに左腕にした腕時計を確認する。

 

「もうこんな時間か。送っていくよ」

「でも…」

「なぁ、吾妻」

 

渋る楓に、意を決したように話す。

 

「正義の反対って、何だと思う?」

「…悪です」

「いんや?正義だよ」

「どういう事ですか」

 

納得しかねる、と顔に書いてある。

本当に、会ったばかりの頃と比べたら表情が豊かになった。

 

「悪っていうのは、また別の誰かの正義なんだよ」

「…」

「犯罪をする人が全員が全員悪意がある訳じゃない。中には生活の為、家族の為って人もいる。それって正義なんじゃないかな」

 

静かに聞いている楓が目を閉じた。

隊長は語るのを続ける。

 

「だから、判断には第三者が要るんだ。一方が勝手に決め付けたら、争いになる。吾妻」

 

考え込む楓の頭の上に手を乗せる。

優しく、撫でる。

 

「焦らなくていい」

「はい…」

 

これで、伝わっていると良いが。

アクトレスの実力は感情に起因するところも多少はあると思っている。

今の迷いのある楓は少し危うかったから柄にも無くこんな語りをしてしまったなと、後になってから恥ずかしくなる。

 

「隊長」

「ありがとう、ございました」

 

彼女を家に送り届けた後、綺麗なお辞儀と共にそんな言葉が投げられた。

 

「おやすみ。吾妻」

「はい、おやすみなさい」

 

 

 

 

その後、楓の暴走癖は少しなりを潜めヴァイス討伐のスコアも伸びていった。

 

何かしらの心のつかえは取れたのだろうか。

 

今になってそれを知る由もない、が。

 

 

「隊長」

 

「隊長?」

 

「あ、隊長。今日の私はどうでしたか?」

 

「隊長ー」

 

 

…近い。

主に距離感が。

 

 

(あれっ、なんかめっちゃ懐かれてない?)

 

 

やたらと距離感が近くなった楓に悩まされるのは、また別の話。

 

 

「あー!隊長また楓さんとべったりして!」

 

「比良坂、語弊がある」

 

「へー、隊長未成年に手を出すの?」

 

「四谷さん!?誤解だ!」

 

 

しばらく弄られる事になるが、楓は満更でも無さそうだった。

 

 

 



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百科文嘉の憂鬱

アクトレス達と過ごすシリーズ、今回は我らがメガネ文嘉先輩。

前半は文嘉視点でお送りします。

…なんか、ほのぼのしないなぁ。


 

「おはようございます」

「おはよう」

「えっ、隊長…?」

 

始業前の成子坂製作所。

所属アクトレスである百科文嘉は、最近ちょっとした悩みがあった。

 

そう、この人だ。

私達の隊長。

履歴書は至って普通。

背は少し高く、見た目はそれほど良くはない。

 

数カ月前に、アクトレスの比良坂夜露と一緒にふらっとやって来たのだ。

 

「早いな、百科。まだ始業前だろう」

「それを言うなら隊長もです」

「俺か?あー、まぁ、そうだな」

 

いやに歯切れが悪い…そう思ってふと、目元に隈があるのを…。

 

「まさか、泊まったんですか?」

「ぎくっ」

 

判りやすく動揺した。

全く、この人は…。

 

「隊長。普段から貴方は私達に体調管理はしっかりしろと仰られてましたね」

「あ、ああ」

「そのくせ自分は徹夜で仕事するなんてどう言う量権ですか!!!」

 

ああ、またやってしまった。

この人がこんな事してるのを見るとまた口が出てしまう。

 

それなのに隊長は、

 

「どうしても片付けたい案件があってな…」

「それで、どういった依頼ですか」

「お、流石。こいつを見てくれ」

 

悪びれもせずに仕事の話を入れてくる。

そう、少し要領は悪いがこの隊長の能力は高かった。

 

特に、私達アクトレスの負担になりそうな作業を率先してやってくれている。

以前は事務員がおらず、私しかそういった仕事が出来なかったが今では新しい事務員と隊長がやっている。

 

私はアクトレスに専念できるけど、少し、何というか、

 

「…百科?」

「は、はい?」

「お前さ、どうした?」

 

慌てて首を振る。

らしくもない考え事をしていたみたいだ。

 

「いえ、何でも。それでは次の宙域は私と…」

「無しだ」

「えっ…」

「今のお前を行かせるのは危険だ。プランを変更して、お前の代わりに小鳥遊に行かせる」

「ちょ、ちょっと待ってください!そんな、」

 

足元がフラついた。

出撃も出来ないなんて、まるで…。

私が、要らなくなったみたいに思えて、

 

「お、おい!百科!?」

 

気付いたら、走り出してしまった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「百科!」

 

急に、百科は走り出してしまった。

そこで、彼女が最近何かに悩んでいた様に感じた事を思い出す。

 

「クソっ…」

 

慌てて後を追おうと立ち上がる。

 

「おはようございまーす。ありゃ、隊長どしたのさ」

 

事務室へ、所属アクトレスの兼志谷シタラが入ってきた。

 

「なんか文嘉凄い顔で走ってったけど、修羅場?」

「ある意味そんなもんだ。悪いけどこれ読んで小鳥遊とジニーと一緒に出撃してくれ。代わりの指揮は四谷さんに頼む」

「え、ちょっと隊長?」

 

懐からスマホを取り出して四谷弓を呼び出す。

 

「もしもし四谷さん?はい、ほんとすんません埋め合わせは絶対します。はい、はいありがとうございます」

「あのー、隊長?」

 

らしくもなく切羽詰まっている。

自分の行動が百科をここまで追い詰めていたとは。

 

「百科…!」

 

兼志谷の静止を振り切って走り出した。

 

 

 

 

 

 

近場の公園のベンチに百科は腰掛けていた。

案外簡単に見付かった事にちょっと苦笑を漏らすが、すぐに表情を引き締める。

 

「百科」

「隊長…?あの、仕事は」

「その仕事放り投げてきたアクトレスを追い掛けてきた」

「…」

 

百科は黙り込む。

隣に腰掛けて、事情を聞こう。

 

「何で逃げた?」

「それは…」

 

口を開きかけて…閉じる。

大分話しにくそうな内容なのか。

 

「なんだか、私が必要無くなったみたいで…怖くなって」

「そんなわけが無い」

 

即答で返してやったが、却って不安にさせてしまった。

 

「じゃあ何で今日私をメンバーから外したんですか!」

「そんな酷い顔で出させる訳にはいかない…カメラに映るかもしれんしな」

 

アクトレスの戦闘は中継されていたりする。

たまに成子坂も映っているので油断は出来ない。

 

「大体、うちはアクトレスの数が少ない。お前ならそれくらい判るだろう」

「…」

「何に切羽詰まってるのかはわからない、けど早とちりも良くはない。前に比良坂とそれでひと悶着あったろう」

 

以前、比良坂が百科にポンコツと言い放たれたと思い暴走した案件を思い出す。

 

「…仕事」

 

ポツリ、と零した。

 

「私の仕事が…どんどん無くなっていって、不安になったんです」

「仕事って、お前はアクトレスだろう?最近減ったとは言えやっぱり成子坂の最古参だしそれなりには…」

「違います。そうじゃないんです」

「じゃあ…まさか」

 

百科のもう一つの仕事だったもの。

 

「…事務、させてなかったな」

 

そう、嘗て成子坂の事務は全て百科が担当していた。

たまに四谷さんが手伝っていたが、自分が来るまではかなり大変だったらしい。

そして最近になり、自分と、四谷さん、新谷さんが片付けてしまっていて百科には回していなかった。

 

「そっか…そういう事だったか」

 

楽をさせてあげたかったが、逆にそれで追い詰めてしまっていたらしい。

つくづく、そういった事に気が回らないなと反省する。

 

「お前たちに、無理させたくなかったんだがな」

「でもそれで隊長が無理しています」

「うっ、それはそうだが…」

「それに、ちょっと誤字脱字が多いです」

「うぐ…」

「後は…」

「判った、判ったから降参だ」

 

まだまだ出てきそうな指摘の前に諸手を上げて降参のアピールをする。

いつの間にか自分が糾弾されていた。

 

「そろそろ落としどころを探そう。百科文嘉。君はどうしたいんだ?」

「隊長」

 

キッ、といつもの表情に戻る。

 

「私にも書類を回してください」

「………判った。俺の分を半分回す。これで良いか」

「妥当なところでしょう」

「お前なぁ…」

 

すっかりいつもの調子に戻った百科の頭に手を置いて、軽めに撫でてやる。

 

「…何ですか。子供扱いして」

「お前はまだまだ子供だよ。でも、立派になっちゃってまぁ」

「む…」

 

不服そうだがこの辺で話を切り上げないとな。

 

「まだこの時間なら出撃してないだろうな。どうする?戻るか?」

「皆さんに謝らないといけませんし…」

「一緒に頭下げるくらいはしてやるよ」

 

これにて、一件落着、かな…?

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

あの後、やって来たアダルトアクトレス組にこっぴどく叱られ、一番割を食った四谷さんに財布を思いっ切り絞り尽くされたのは言うまでも無かった。

 

「隊長。そこ一文抜けてますよ」

「えっ、マジか。うわ本当だ…すまんな」

「全く、隊長一人だと心配ですね」

「何おう。俺だってな…」

「はいはい、まだまだ仕事あるんですから手を動かしてください」

「事務所でイチャ付きながら仕事してんじゃねー!!」

 

兼志谷、吠える。

 

 

 



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神宮寺式コミュニケーション

アクトレスと過ごすシリーズ第四弾。
真理さんとダラダラと駄弁るだけです。
隊長の過去がちょっと明かされます。
隊長の設定とか無理な方はブラウザバックどうぞ。


 

「ねぇねぇ、隊長って強いよね」

「何の話ですかいきなり」

 

ある日の昼下がり、特にやることも無く書類とにらめっこしていたら唐突にそんな言葉が掛けられた。

 

「別に、強くなんないですよ。戦えませんしね」

「ヴァイスとは…ね。でも人相手なら?」

 

声を掛けてきたのは成子坂専属のカメラマン兼アクトレスの、神宮寺真理だ。

普通ならば20歳を過ぎると衰えていくエミッション能力を高いレベルで維持し、29にして未だ現役として通用する腕前を持っている。

 

「コロちゃん吾妻に余裕で張っ倒されますよ」

「ふーん…?」

 

懐からパッ、と書類を取り出した。

 

「何でわざわざ胸元に仕込んだんですか」

「喜ぶかなーって」

「…ノーコメント」

「あっ、珍しく照れてるね」

「ノーコメント」

 

真顔で返すと、ちぇー、と言いながら話を進める。

俺としてはこの辺で終わって欲しいのだが。

 

「隊長ってさ、ここに来る前は自衛官やってたんだよね」

「ここまで調べといて聞きます?」

 

広げられた書類には、俺の本当の経歴がつらつらと記述されていた。

…勿論、元自衛官と言うのも本当だ。

ヴァイス襲来から、すっかりアクトレスに取って代わられてしまい落ち目気味だった自衛隊。

そこへ入隊した物好きのうちの一人。

 

「へー、部隊格闘技と銃剣道ね。けっこうしっかり鍛えてんじゃん」

「…で、それを自分に教えてどうすんですか」

 

普段からただ女の子を追い掛けてる似非カメラマンではないと思っていたが。

 

「いや、ちょっと聞きたい事があってさ」

「ここまで剥かれたんです、何も隠せませんよ…」

「…九品田凪って子、知ってる?」

 

九品田凪。

聞いたことは無い。

 

それを素直に伝えると、

 

「えっ、嘘。だって貴方の居た部隊…」

「…神宮寺さん、自分が居たのは、」

「あれっ、違うじゃん紛らわしい!同姓同名!?」

 

…どうやら、別の人物の経歴が混ざっていたようだ。

入隊同期に居たんだなあ、俺と同姓同名のやつ。

 

「ああそっかー、ごめんね?」

「良いですよ、貴女にはお世話になってますから」

「それじゃ迷惑ついでにもう一つ聞いてもいい?」

「答えられる範囲なら」

「何で経歴偽装してるの?」

 

そう、そこである。

成子坂に元々提出して有る履歴書に、元自衛官とは書いてない。

 

「このご時世に自衛官だって言って良いように見られると思います?」

「そう言うの気にするタイプ?」

「女の子を怖がらせるのも嫌ですしね」

 

割と嘘偽りなく話している。

 

「ふーん…じゃあこの事は」

「なるべくならバラさないで欲しいですけど。まぁ、所長と盤田さんは知ってますよ」

「えっ」

「所長と相談して決めたことなんで」

「ええっ」

 

神宮寺さんが天を仰いで顔を手で覆った。

 

「やられた…」

 

隠してはいたが、別にバレても問題の無い話なのであった。

 

「人生そういうこともありますよ」

「くぅー…年下に諭されるなんて」

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

翌日

 

「隊長、おはよー」

「おはようございます…?」

 

神宮寺さんが、また成子坂へやって来た。

 

「先日のお詫びもかねてランチのお誘いに来たよ」

「…本当にそれだけですか?」

 

その先日の件で色々ばれているので、疑っても仕方ない。

 

「やだなー、ちょっとお話あるだけだよ」

「ほらやっぱり」

「ここのアクトレスちゃん達の写真撮らせてくれないかなーって」

「良いですよ」

「やった!」

 

我ながら即答である。

兼ねて寄り宣伝材料が足らなかったなーと思っていたところにこの話。

利用しない手はない。

 

「所長には自分から話しておきますよ」

「え?本当に?嬉しいー、隊長結婚しよ?」

 

ガタタッ!

事務所の方から誰かが躓く音がする。

 

「自分じゃ釣り合いませんので辞退します」

「ざーんねん。それじゃ行こっか」

「あ、昼は本当に行くんですか。百科ー、ちょっと出てくるわ!」

 

 

尚、この後激辛料理をしこたま食わせられる事になるとは俺の想像力が足らなかったらしい。

 

 

(八つ当たりか…!)

 

 

 




…ほのぼのなんで出来ないんだ…!


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ニコ✕タマ=マイ

アクトレス達と駄弁るシリーズその5。
今回は成子坂のヤベーやつこと舞ちゃんです。


 

 

「隊長、もう来るなっつっただろ」

「磐田さん…俺は」

「帰ってくれ。顔を見たかねぇ」

「待ってくれ!」

「っ!離しやがれ!」

「嫌です!そうやってまた逃げるつもりですね!?」

「何だと!?」

「俺がどういう気持ちか知ってて逃げるんですよね?」

「…………」

「聞いてくれ、俺は磐田さんの事…」

 

 

「うわァァァァァァァァ!!!!?!!」

 

勢い良く、手にしていたやたらと薄い本を床に叩き付けた。

 

「ぜぇ…ぜぇ…な、なんだこれ…」

 

今日、事務所に顔を出すと誰もおらず、このやたらと薄い本が床に落ちていたので拾い上げて興味本位でページを捲っていたのであった。

 

「何で俺と磐田さんで…ひぃ」

 

このメンバーを知っているという事は、成子坂所属と言う事が確定的に明らか。

一体誰がこんな物を…………。

 

 

ガタタッ!

 

 

事務室の出入り口から、誰かが躓く音がした。

 

「おい、大丈夫か?」

「ひゃう…!?あ、隊長…ありがとうございます、大丈夫です…」

 

床に座り込んでいたのは、先日シタラが連れてきた新人アクトレス、二子玉舞だった。

極度の人見知りではあるが、バレエに習熟し戦闘もその柔軟性を以下したトリッキーな戦い方をするアクトレスだ。

 

「そうか?ならいいが…」

「あ、隊長…そ…それ…は…」

 

舞が、顔を一気に青くして床に落ちていた薄い本を指差す。

 

「ああ、これか…誰かが作った趣味の悪い本だ…また兼志谷辺りが面白半分で…」

「趣味悪くなんか無いです!!」

「えっ」

「隊長、これは需要があるものなんです」

 

すっ、と立ち上がり真っ直ぐこちらを見据えてきた。

何時ものオドオドとしたか弱い雰囲気は何処かへ消え去り、凛とした表情の一人の戦士が立っていた。

 

「…っ!」

「隊長はBLをご存知ですかこれはですね元々私が目を付けていたカップリングなんですけど最初は隊長がヘタレ受けかなーって考えてたんですでも隊長は作戦指揮の最中は凄い真剣でこの人はちゃんとできる人なんだなって思いましたあ、そうじゃなくてですね結局掛け算なんです大事なのはカップルの性別じゃなく左右の位置なんです隊長は絶対左なんですあと」

 

コノコハナニヲイッテルンダ?

 

少なくとも目の前の壊れたラジオの様に言葉を羅列しまくっている女の子は、俺知っている二子玉舞ではない。

 

「ですから…」

「ストップ。二子玉、ストップ」

「あっ…」

 

一旦落ち着かせようと声を掛けると、今自分が何を喋っていたのか思い出したようで。

 

「あっ、あ、ああああ」

 

顔を青くしたり赤くしたり。

 

「…ごめんなさいいいいいいい」

「二子玉!?」

 

顔を手で覆ってそのまま走って逃げていった。

 

「何だったんだ一体…」

 

その後、事務室にやってきたゆみさんに舞を泣かせたと言われしこたま説教されたのだった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「二子玉」

 

次の日、舞が一人になった瞬間を見計らって声を掛けた。

すると、わかり易いくらい肩を震わせてこちらへ振り向いた。

 

「隊長…」

「昨日は、その…悪かったな…」

 

何がどう悪いのかはこの際置いておいて、ここで大事なのは謝る事だ。

 

「い、いえ…その、勝手に喋って勝手に逃げたのは…私なので…」

「それで、これ何だが…」

 

テーブルの上に、先日の薄い本を置く。

表紙は真っ白で、中に挿絵など無くずらっと文字が並んでいる。

 

「もしかして、これはお前が書いたのか?」

「…はい」

 

躊躇いがちに答えた。

 

「そうか…」

「その、隊長は…気持ち悪いとか…思いましたか?」

「いや?」

「えっ?」

「ん?」

「こんな事考えてるんですよ?」

「そうだな」

「引いたりとかしないんですか?」

「趣味は人それぞれだろ」

「隊長は被害者ですけど…」

「実際にその気があるわけじゃない。あくまで創作物の話だ」

「隊長✕有田さんのもあるんですけど」

「そ…おいまてこれだけじゃないのかよってか俺はどんだけ節操なしだ」

 

そこまで言い合ってから、お互いに笑いだした。

舞も、もう緊張はどこかへ行ったようだ。

 

「隊長は…へんな人です」

「変じゃなきゃここでやってけないよ」

 

成子坂は魔境である。

 

隊長がマトモな訳が無かった。

 

「二子玉が好きな物が知れて良かったよ。何だかんだあまり接点が持てなくて会話に困ってた」

「…それ、本人に言うんですか…」

「気にするな。履歴書読んだだけで会話するなんて無理だよ、俺には」

 

実際に話してみないと、人物は推し量れない。

だからこそ、今回の事は収穫だ。

 

「ま、趣味はほどほどにな」

「はい…ところで隊長」

「何だ?」

「文✕シタって興味あります?」

「…………………………ちょっと詳しく」

 

 




やっとシリアスじゃない話が書けたよ…。


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遥か宇宙へと響くエグゾーストノート

アクトレスと過ごすシリーズ、第6弾。

今回のお相手はアマ女の風紀委員さん。
彼女のハイテンションに我らの隊長はついていけるのだろうか。


 

 

『私の残像と戯れてると良いよ!!』

 

「…は?」

 

自分でも物凄い間の抜けた声が出たなと思ってしまう。

いやしかし無理もないと主張したい。

 

隣で戦闘宙域のモニターを見ていた四谷さんも、ぽかんとした顔をしていた。

 

『いぇーい!チェック!やったよね!!』

 

…いやだって、宇宙で、

 

「バイク乗るか普通…」

 

 

 

 

数日後。

 

 

 

 

所で、諸君は2輪へ憧れを持ったことは無いだろうか。

俺はというと勿論あった。

 

昔の貯金を卸せばまぁ買えなくはない…が、

 

「…種類とか、よくわかんねぇや」

 

不精な性格が災いして、良く調べていないのであった。

…そんなことを久しぶりに考えたいたら、1台のバイクが横を通り過ぎた。

 

(飛ばすねぇ…うん?)

 

二人乗りをしていたが…後ろの子がとても小さい。

しかも、身にまとっているのは見覚えのある制服…。

 

「アマ女の…?」

 

そのバイクは、目の前で停車、小柄な方が降り、メットを外した。

 

「やっぱりコロちゃんか」

「あ、隊長さん。ごきげんよう」

 

朗らかに笑うおっとりとした少女、須天頃椎名。

本人からの強い希望でコロちゃんと呼んでいる。

 

「てことはこっちは紺堂さん?」

「ちえりじゃないですよー」

「隊長さんちょっと酷いですよー?」

「ごめんごめん、仁紀籐。次からは間違えない」

 

バイクに跨っていたライダースーツ姿の少女がメットを外す。

こちらもアマ女の生徒で風紀委員長の仁紀藤奏だ。

 

かつて、鳴子坂に対して宣戦布告を行い、白金エリアを賭けて戦った相手だ。

現在は故あって和解。

共闘する関係となっている。

 

「…へぇ、これ仁紀藤のバイクなのか」

「そうですよ!かっこいいでしょ?」

「ああ」

 

それと、しっかりと手入れが行き届いていて大切にされている事がわかる。

 

「それで、二人は何を?」

「ちょっとナデちゃんにお買い物をお手伝いしてもらって」

「コロちゃんのお手伝いです!」

「仲が良いんだな」

「はいー。幼馴染ですからね」

「はい!昔からの付き合いです!」

 

アマ女の3人は何というか、仲がいいの一言で表すには何とも言えないオーラがあるけど。

…うちの二子玉が凄い興奮するし。

 

「買い物か…そこのスーパー?」

「そうですよー」

「俺も晩飯の買い物に来たんだ。良かったら荷物持ちでもするよ」

「そんな、悪いですよ」

「気にすんな。さ、行こうぜ」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「…ってことが昨日あってな」

「そうですか…仁紀藤さんは…その、元気でしたか?」

「気になるんだったら連絡とればいいだろう」

「それは…そうなんですが」

 

翌日、事務所に居た百科に昨日の話をする。

以前、仁紀藤と百科が交友を深めていたことを又聞きで知っていた。

 

「ま、友人との距離感っていうのは人それぞれだ。お前の場合引きすぎだがな」

「皆さん!!ごきげんよう!!」

 

ものっそい大きな声で誰かが叫んだ。

…ごきげんよう、なんて挨拶する人間を3人しか知らないし、この声の大きさだと一人しかいない。

 

「仁紀藤さん…!」

「あ、百科さん!ごきげんよう!」

「き、今日はどうされたんですか…?」

「百科さんに会いたくて!」

「えっ、」

 

そっと事務室を後にした。

 

「ちゃんと、友達は大事にしろよ」

「わぁ…!無理、尊い…」

「二子玉、邪魔しちゃ悪いからお前は向こうにいこうなー」

「あぁー!隊長!離してー!私はアマ女の壁のシミになるー!!」

 

夕刻。

 

シャードの人口の空が茜色に染まる。

今日は特にこれと言って手のかかる書類も無く、定時で帰れた。

 

「…仁紀藤」

「あ!隊長、ごきげんよう!」

 

自宅までの帰り道の途中にある公園前、仁紀藤がバイクから降りて休憩していた。

 

「すみません、わざわざ百科さんが居るタイミングを教えてもらって」

「気にするな。部下のケアも仕事のうちだ」

「またまたそんなもっともらしい事言って…キャラじゃないんじゃないですか?」

「バレたか」

「付き合いは短いですけど、隊長の人柄は結構わかりやすいですからね」

 

からからと笑う。

不思議なものだ。

この子はなんだかとっつきにくいイメージはみじんも感じさせられない。

 

「そんなわかりやすいか?」

「はい。かっこつけてますけど何だかんだ私たちを気にかけてくれる不器用に優しい人」

「…言ってて恥ずかしくないか?」

「って百科さんが言ってました」

 

がくっと首が落ちる。

そんな風に思われていたのか俺は。

 

「私もそう思います」

「なんで」

「だって、買い出しの行き先が同じだからって荷物持ちしてくれるなんてよっぽどのお人よしですよ」

「そうか…」

 

空を見上げる。

茜色は、だんだん暗くなっている・

 

「そろそろお暇させてもらおう。そっちも早く帰った方が良い」

「あ、じゃあ最後にひとつだけ」

「最後だぞー」

 

けらけらと笑って続きを促す。

 

「隊長はどうして”アクトレス”に優しんですか?」

「…」

「アクトレスの子に対する世話の焼き方が尋常じゃないですよ?何か理由でも…」

 

 

 

 

 

「憧れ…かな」

 

 

 

 

少し昔の、俺の命を救ってくれたアクトレスの少女。

 

その子にもう一度会いたい。

 

会ってお礼が言いたい。

 

 

 

「ちょっと違う気がするんですけど」

「はい、最後だ。またな仁紀藤」

「ちょ、隊長!?…もう。ごきげんよう!隊長!!百科さんによろしくー!!」

 

 

 




隊長がアクトレスに甘い理由は。

…なんだかあんまり絡ませられなかったなぁ。


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隊長の夢

成子坂の隊長の過去。


 

空を飛びたいと思っていた。

 

 

幼い頃から見慣れていた、シャードの映像とは違う。

 

古い記憶媒体にしか残っていなかった地球の空。

 

その透き通る青の中を飛んでみたいと思うのは、子供ながらに夢を見ていたとも言うべきか。

 

 

それが、俺がこの道を選んだ…。

 

 

 

 

 

 

 

「…朝か」

 

朝6時。

きっちりといつもの起床時間に覚醒する。

なんとなく、夢を見ていたことは覚えているが、肝心の内容を忘れてしまった。

 

先日、仁紀藤に指摘された事が原因だろうか…。

 

『何でそんなにアクトレスに優しいんですか?』

「優しくなんか無いよ…俺は」

 

空を飛べる彼女達への嫉妬。

そんなことを思う自分を否定したくてただただ彼女達へ尽くす。

我ながら矛盾しているとは思う。

 

「なんで、こんな事になったんだろうな」

 

あれは、まだ俺が純粋に夢を見ていた頃。

チームの仲間たちと一緒に空を飛ぶための開発をしていた。

自衛官ではあるが同時にテストパイロットでもあった。

人型の有人機動兵器の実験。

 

 

俺は、相棒と空が飛びたかった。

 

 

「…酷え顔してるな」

 

とてもじゃないが、うちの女神たちに見せられる顔じゃなかった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

昔、戯れに映像記録に残されていたロボットを作ってみようぜ、と誰かが言い出したのが切っ掛けだった。

選考に選考を重ね、遂に決定したのだ。

 

 

バイアラン·カスタム。

 

 

とどのつまり、男性が前線に立つためのギア。

モビルスーツの再現だ。

 

そして、それが俺たちと空を飛ぶ相棒の名前だった。

あの時は楽しかった。

誰もがやるべき事、やりたい事を持ってあの場所に集まっていたから。

 

 

少しの失敗も、少しだけの進歩も皆で笑い合った。

 

 

当時、たまたまエミッション能力を有していた俺がたまたまテストパイロットに選ばれたのも、本当に偶然だった。

 

「Hey、隊長」

「ジニーか。どうした?」

 

長く引きずっていた思考を、事務所にいたアクトレス、バージニア·グリーンベレーが引き戻した。

 

「今日、昼からアマ女にお邪魔するんでしょ?こんなゆっくりしてて良いの?」

「…あっ」

 

忘れていた。

完全に失念していた。

慌てて時計を見ると針は12を刺そうとしていた。

 

「あっぶねー…。サンキュージニー」

「もう、隊長ってば今日ずっと上の空だよ?どうかした?」

「んー…ちょっと、昔を思い出してな」

 

あまり、彼女達に語る内容でもあるまい。

 

「隊長の昔って、そんなにオジサマじゃないでしょ?」

「四谷さんたちとタメだよ俺は」

 

さて、アマ女へと向かいますかね…。

そんな俺の様子を、ジニーは何も表情の無い顔で見詰めていた。

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

「以上になります。隊長、本日はご足労頂き感謝します」

 

聖アマルテ女学院。

以前、成子坂の防衛区画だった白金エリアを賭けて戦った間柄ではあったが、先日のある一見を経て協力関係となった。

今回はそんな協力の一環での施設見学であった。

 

「アクトレス候補を抱えるお嬢様学園…か。不思議と背筋を伸ばさなきゃいけない気がするな」

「そう気負わないで下さい。友好を示すために手の内を明かすような物ですから」

「そうは言うが…」

 

視線。

四方八方から注がれる視線。

紺堂と並ぶ時点でまぁ理解はできるが、とにかく自分に対しての視線も多い。

 

「あれが件の成子坂の隊長様ですの?」

「ふぅん…中々」

「背が高いですね…」

「体も相当鍛え込まれていますね…お手合わせ願いたいくらい」

「成子坂の隊長さん…ご結婚なされているのかしら」

 

と、聞こえる限りの囁き声。

俺はまだ結婚するつもりは無い。

 

案内の先々で小鳥遊、一条と遭遇もした。

 

凄まじく微妙そうな顔をされたけど。

 

「そういやここの生徒だったんだな」

「彼女達は、学園…というより、上のしがらみを振り切り貴方の元へ集った」

「いや、あの二人は元は叢雲所属だったろ」

「ですが、今は貴方の下にいます」

「やめろ、俺に特別なものなんてない」

 

ただの、落ちこぼれだ。

 

空を諦めた、ちっぽけな男だ。

 

「この私を配下に入れる以上、貴方には相応しくなってもらわねばなりません」

「だから、言っただろ。ダンスは苦手だと」

「逃しません」

 

ずいっ、と顔を近付けられ思わず引く。

精悍ながらも大人の女性の様な顔つきの美少女に至近距離で見つめられるなど、心臓が保たない。

 

「わかってるよ…所で、今度は何処に向かうんだ?」

「先日、私達が出撃した際に発見したものです」

 

地下へ向けて進んでいく。

ギアの整備室を超えて、更に奥へ。

 

「外観がヴァイスのもの様でしたが、内部にまるで、人間が乗り込めるような空間が存在していました」

「…は?」

「そして、データ上で該当する個体が確認出来ない新種かと思い接触したのですが…動力が動いておらず捕獲して来ました」

「それ、AGiesには?」

「まだ上げてはいません」

 

セキュリティで固く閉ざされた扉が開かれる。

 

「これです…?隊長?どうなされましたか?何故…泣いているのですか」

 

目の前に、強化ガラスの仕切りの向こうに鎮座していたのは…ヴァイスではない。

等の昔に無くなったと思っていた。

破壊されたものだと思っていた。

 

 

色んな感情がぐちゃぐちゃになり、自分の中のダムが決壊した様だった。

 

 

「あ、あぁ…あ…!」

「隊長?隊長!しっかりしてください!」

 

 

紺堂に肩を揺すられるが、それを振り払いガラスの前に行く。

 

 

「嘘だ、そんな筈は、無い…けど、なんで…どうして、」

 

 

人型とはとても言い切れないシルエット。

背中の大容量プロペラントタンク。

両肩のスラスター。

バイザーの下に隠れたデュアルアイ。

 

 

空を飛ぶために、必死に考えた装備。

 

 

「バイアラン…」

 

 

かつて生き別れた相棒が、そこには居た。

 

 

 




正直何でも許せる人向けです。
好きなんだこの機体…許して。

ちょっとやってみたかった。
反省も後悔もありません。


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指輪争奪狂想曲 前編

アクトレス達と過ごすシリーズ、波乱のハーフアニバーサリーリング争奪戦開始。

隊長は渡す相手を決めているけど予想以上に周囲がグイグイ来るの図。

ちなみに相手についてはリアル私隊長が贈った相手です。



 

たまに、AGEISの上層部は馬鹿なんじゃないなと思う時がある。

今回、着任半年と言う事で総報告の為にAGEIS東京支部へ出頭させられた。

…まぁ、あの噂の成子坂製作所のアクトレス部門隊長と言う肩書きと、叢雲重工とのやり取り、倒産寸前の危機を救った。

と、注目される理由はごまんとある。

 

百科に手伝ってもらった業務記録を手に大ボスの元へ向か…。

 

「君が成子坂の隊長だね?」

「え、あ、はい」

 

普通に会議室程度の場所かと思っていたが、通された部屋は調度品から何まで豪華な執務室の様だった。

 

「それを受け取り給え」

「はぁ…ん?カタログ?」

 

渡されたのは一冊のカタログ。

表紙にはシンプルにアクトレス用アニバーサリーリングと書かれていた。

…リング?

 

「これは?」

「君も配置になってから半年、そろそろなにかの記念が必要なのかと思ってね」

「それが、指輪ですか」

「ああ。君の所の誰か一人に贈るといい」

「全員、では無いのですか」

「ひとりだ」

 

何を考えているこの禿頭。

指輪だぞ?何で指輪なんて贈らにゃならんのだ。

 

「お言葉ですがーーーー」

「君の報告書、読ませてもらった」

 

抗議の声は掻き消される。

舌打ちしたい気持ちを抑え相手の言を優先した。

 

「君達の活躍には感服している。だからこそ、これは我々の純粋な好意なのだよ。聡明な隊長ならば、この意味が判ると思うが」

 

「………ご厚意、ありがとうございます」

 

ここで何か問題を起こせば、後がない成子坂の面子を潰し倒産寸前まで逆戻りしてしまう。

真意は不明だが、従うしかない。

 

(中間管理職はつらいね全く)

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

誕生石をあしらったリングのため、特注品なのである。

…本当に、誰に渡すべきか。

 

いつも成子坂の事務を引き受けてくれている百科?

いやいや、未成年を勘違いさせては行けない。

よって未成年組は除外。

 

成年組は…いかんな、誰に渡しても暴動が起きそうだ。

 

と言うか、これ選択をミスしたらそのままデッドなエンドが見えて来そうなのだが。

 

(お蔵入りの方が平和だろうなぁ)

「隊長、何見てんの?」

「何ってカタロ…うわっ、兼志谷!?」

 

事務所のデスクの対面から兼志谷シタラがカタログを覗き込んでいた。

 

「ほほう…誕生石をあしらった記念リング?隊長もそういう相手居るんだー?」

「彼女居ない歴=年齢なんだが」

「みなまで言うなってー。隊長とお付き合いしてるひとかー。誰?知ってる人?」

「だから、居ねぇっての。話聞け」

 

やばいぞ、話がこんがらがってきた。

 

「ハッ、もしかしてBBAに贈る…」

「女の子がBBAなんて言うもんじゃありません」

「…隊長ってばたまにお母さんみたいだよね」

 

失敬な。

せめて父親役だろう。

 

「親御さんから預かってる大事な娘さんだからな。小五月蠅くもなる」

「…子供扱い、か」

「何か言ったか?」

「いんや、なんにも。じゃあねー」

 

引っ掻き回すだけ回して、兼志谷は走り去って行った。

 

「何だったんだ一体…」

 

カタログに目を落とし、ふと、目が止まる。

 

「…ダイヤモンド、か」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

唐突だが、成子坂で最も働いてくれているのは勿論百科だ。

事務仕事をこなしながらアクトレスとしても働いている。

そして、新谷さんもそうだ。

だが、彼女達に渡すのは少々抵抗があると言うか…。

 

 

まぁ、それを抜きにすると同じ事をした上で中学生組の面倒を引き受けてくれていた彼女になる訳だ。

何だかんだ専用ギアも限界までチューニングされ、成年組のエースクラスのアクトレスとなっている。

 

「…で、だ」

 

目の前の指輪のケースを前にして、固まる。

 

「なんて言って渡せば良い…!!」

 

俺は今、迷っている!!

注文したら案外すぐ届いてしまい全く考える時間が無かった。

 

「隊長、これ何?」

「え?ああ、これは…ってぇさせるかッ!!」

「確保っ…あーん隊長のいけず!!」

「チィ!ちょっと油断するとこれか神宮寺さんや!?」

 

背後からこっそり忍び寄っていた神宮寺真理に、奪われるのを既の所で回避した。

この人にバレるのは、拙い…!!

 

「それ、どう見ての指輪のケースでしょ?隊長も隅に置けないねぇ?」

「これを、どうするつもりですか」

「うーん…」

 

顎に手を載せて考え始めた。

この隙きに逃げ出したかったが、

 

「おはようございます、隊長さん」

「お、おはようございます…宇佐元さん」

 

退路をさりげなく宇佐元杏奈さんに塞がれてしまった。

緊急ミッション!雷撃針を撃破せよ!ちげーよセルケトは関係ねえ。

 

「それ、ちょーだい♡」

「可愛く言っても駄目です。貴女には渡せない…」

「なぁんだ。AGIESからの支給でしょ?それ」

「判ってたんなら…」

「そっかぁ、私にはくれないんだ…結構頑張ったのに」

「ぐっ…」

 

そう来たか!

俺は確かにこの人に借りがあるし、結構良くしてもらっていた…。

 

情に訴えてくるとは、やりおる…!

 

「えっ、隊長さんそれ指輪なんですか?」

「あっ、えっと、はい、そうです」

「ズバリ、誰に渡す予定なんですか?やっぱりそう言うお相手ですか?いえ、私は別に興味ないんですけどね?」

 

嘘だ。

顔は笑ってるけど宇佐元さん、目が笑ってない。

 

(こっっっっっわ!!!?)

「さぁさぁ、どうなんですか?」

「そっかー、私じゃ駄目なんだね…」

 

誰かッ!出来れば重力属性の誰かッ!助けて!!

 

「おはようございます〜」

 

この声は、大関さん!?来た!メイン盾来た!これでかつる!!

 

「おはようございます隊長…何やってるんですか?」

 

おのれシャノワール!!

じゃなかった何で新谷さんまでぇ!?

 

「えっとですね…」

「うえーん、芹菜ちゃーん隊長にフラれちゃったよー」

「ちょっとぉ!?」

 

嘘泣きで新谷さんの胸に飛び込む神宮寺さん。

一歩前で頭を抑えられて未遂に終わる。

 

「芹菜ちゃんのいけずぅー」

「はいはい。それで隊長、どういう事ですか?」

「それは…」

「隊長が指輪を贈る相手を待ってるんです!」

「宇佐元ォ!」

「わっ、隊長さん…叫ぶなんてお腹空いてるんですか?」

 

確かに今朝は朝飯食いそびれ…ってそうじゃない。

宇佐元さんの方を見ると、テヘペロ、みたいな顔してた。

かわいい。

 

「へぇ…指輪。勿論、成子坂で頑張っていた私にですよね?隊長」

「えっ」

「え?」

 

欲しいの!?意外!?

じゃなくて、除外って言った相手にねだられるなんて想定してなかった。

 

「隊長、ごはん食べますか?」

「えっ、あー、じゃあ…」

 

と、見せかけてダッシュ!

こんな所にいられるか!俺は逃げさせてもらう!

 

「Hi!隊長!廊下は走っちゃいけない、よ!」

「ぐえっ、ジニー!?」

 

走り出して事務室から逃げた瞬間、ジニーに手首の関節を決められて崩れ落ちる。

後ろから羽交い締めされ、後頭部に柔らかい感触が…。

 

「ナイスよ!ジニーちゃん!後で写真撮ったげる!」

「要らない」

「バッサリだ」

 

視線をこちらに向ける。

…おや、なんかいつもより楽しそうな顔してるけど。

 

「隊長?」

「な、なんだ」

「please」

「えっ」

「それリングでしょ?だから、please」

 

何だかんだ懐いてもらえず、距離を置かれていたと思っていたが。

でも、彼女は未成年だしな…。

 

「ペンタゴンじゃ普通だよ!」

「えぇ…そう言われてもな」

「?」

 

ニッ、と笑う。

かわいい…けど、

 

「ごめんな。東京シャードだとまだちょっと厳しいんだ」

「そっか、残念。じゃあ二年後にRevengeするよ」

「えっ」

「それじゃあね!あと、シタラ泣かせたら許さないよ!」

 

…うっそぉ。

俺そんなに打ち解けるとかして無いと思ってたんだけどな…。

 

 

結局、誰に渡すか吐かされた。

 

その後勤務表を確認すると、肝心の相手は今日は休みだった。

 

 

「神宮寺ィ!」

 

 

 




なんだか今回の隊長は優柔不断になったかな…。


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貴方と私とグリーンベレー

オリジナル要素満載&超捏造回。
そんな要素が苦手ならブラウザバック推奨です。

ジニーの加入時期がちょっとおかしいですが見逃してください……。


 

 

『くそったれ!!何でペンタゴンシャード周辺宙域にヴァイスが居るんだよ!』

『喋ってねぇで手ぇ動かせ!!追い付かれんぞ!!』

『アクトレス、アクトレスはまだなのかよ!?』

『二宮ァ!急げ!そいつを破壊されちゃたまらん!!』

「理解ってる!そっちもくたばるんじゃねぇぞ!!」

『吠えるなクソガキ!どの道俺達の武器じゃ奴さんに傷一つ付けらりゃしねぇ!逃げの一択だ!!』

 

近くで爆発。

スーツに焦げ目が付いた程度。

全力でバーニアを吹かす。

こいつの出力ならすぐに追い付ける…!!

 

『やべぇ!ケルベロスだ!!』

「何だって…!?なんでシャードの近くに大型がいるんだよ!!」

『知るかよっ…うわっ!?』

『くそっ!被弾か!報告!!』

『損傷軽微!まだ充分東京シャードには戻れます

!』

「隊長!先にシャトルだけの帰還を具申します!自分が囮になって…」

 

ヴァイスを引きつけて、シャトルだけでも逃し、ペンタゴンシャードからの増援を待つ…!

 

『馬鹿者ッ!!却下だ!さっさと戻ってこい!!』

「ですが…見えた!!」

 

シャトルが見えた。

しかし、一体のヴァイスワーカーが組み付こうとしていた。

 

「てっめぇ!離れやがれぇぇえぇぇぇ!!」

 

推進力そのままでヴァイスワーカーへ体当りし、吹き飛ばした。

 

『暁ィ!てめぇボディ凹ませたらぶん殴るぞ!』

「んな事言ってられるか!早く!」

『乗れ!』

 

簡素なクローアームをシャトル屋根のフックへ伸ばす。

閃光。

眩しい光が俺のマニュピレーターを吹っ飛ばした。

 

「うわぁぁぁぁぁ!?」

『暁機右腕喪失!!』

『二宮!?』

 

誘爆こそしなかったが、シャトルから大きく離されてしまった。

 

「くっそぉ…よくも…!?」

 

機体の制御を取り戻し、レーダーを確認し…。

 

『お、おい…嘘だろ…』

 

目の前に現れた巨大な柱。

近くに居た大型ヴァイス、ケルベロスですら霞んで見える。

 

「オベリスク…!?」

 

超大型ヴァイス、オベリスク。

その要塞の様な見た目に違わず、固定砲台のように射撃を仕掛けてくる…現状最も会いたくない相手だ。

 

『そうか…我々は奴らの縄張りに誘い込まれたか…!』

 

ケルベロス率いる小規模編隊に誘導され、群れのど真ん中までまんまと誘き寄せられたのだ。

 

「そんな…」

 

思考が全て絶望一色になる。

もう、逃げる事は出来ない。

シャトルにろくな火器は無い。

あったとしても奴らに通じる訳が無い。

 

『二宮!そいつの足なら逃げ切れる!』

「な、何言い出すんだ!置いていくなんで出来ない!」

『行け!二宮!わたし達の研究成果を…!』

 

ザッ!

通信途絶。

そして、爆発。

 

「う、あ、あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

反転、加速。

バーニアを全開。

ヴァイスの群れを振り切る様に。

 

目の前に、先程シャトルに組み付いたヴァイスワーカーが立ち塞がる。

 

「退けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

残った左腕に備え付けられた粒子砲からビームを乱射する。

 

…案の定、弾かれる。

ホルスターから棒状の装備を取り出す。

ピンクの粒子が収束し、剣になる。

 

「うおらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

それをヴァイスワーカーに突き刺す。

火花を撒き散らしながら装甲に阻まれる。

 

「通れ…!通れぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

凄まじい抵抗感が消えた刹那、剣がヴァイスワーカーの脳天を貫いた。

 

「やった………ハハッ!やったぞ…!」

 

爆発、一瞬だけ意識が途切れる。

 

「な、にっ…」

 

バックパックに被弾。

プロペラントタンクが誘爆。

航行不能………。

 

「ちく、しょう…ここまでか…」

 

霞む視界に、巨大な柱が青く光るのが見える。

 

(ごめんな、相棒…こんな所で終わりなんて)

 

光の線が四肢を弾き飛ばす。

スーツから吹き飛ばされ、専用の宇宙服一枚だけで宇宙空間へ放り出される。

 

目の前に、ヴァイスが迫る。

 

「くそぉ…ちくしょお…」

 

そして、空から赤い光が降り注いだ。

 

「えっ…」

 

その光は、周囲へ降り注ぎヴァイスたちを次々と貫いた。

 

「一体…」

 

現れる3つの影。

一つがオベリスクへ砲撃を行い、一つが肉薄、コアを一撃で粉砕した。

 

「すげぇ…まさか、あれが…アクトレス…」

 

オベリスクのあちこちから、光が漏れ出す。

…あぁ、爆発するのか。

 

ほぼ生身の俺は、巻き込まれたら確実に命は無い。

アクトレスはその機動力から逃れることは出来るだろう。

 

(まぁ、最後に良いもの見せてもらったし…)

 

あいつにも、あれだけ動ける翼を付けてやりたかったなぁ…。

 

そして、オベリスクは爆発する。

 

「Hold Hand!!(手を取って!!)」

「えっ…」

 

咄嗟に出した右手を、一人のアクトレスが取った。

 

この瞬間は、絶対に忘れられない光景だった。

 

 

まだあどけなさが残る顔立ち、長いブロンドの髪、透き通る碧眼。

 

 

そのアクトレスに、俺は命を救われた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長」

「隊長ー?」

「隊長、いつまで寝てるんですか!」

「隊長、お昼過ぎてるっすよ!」

「…隊長」

「たいちょー、おはよー」

「……………………あれ、夢?」

 

昼下がり、成子坂製作所。

事務机に突っ伏して寝ていたらしい。

 

顔の下には、散らばった書類。

机の周りには、部下のアクトレスである比良坂、百科、兼志谷、吾妻、日向、小鳥遊の六人がいた。

 

「隊長。ただでさえ仕事が多いんですから…」

 

百科が説教モードに入る。

慌てて立ち上がろうとして、

 

「あの、隊長……何故、泣いているんですか?」

 

躊躇いがちに、吾妻がそう言ってきた。

 

「え?あ、れ、本当…だ。あははは…何でだろうな…」

「たいちょー。何か悲しい事でもあった?」

「夢って、言ってたよね。話してみなよ…その、楽になると思うし」

「ごめんごめん。ちょっと、顔洗ってくるよ」

 

心配そうにする日向と小鳥遊を手で制して立ち上がる。

 

「…隊長」

「すぐ戻る。すまんな」

 

その場から、逃げ出すようにトイレへ入った。

 

「っぐ、うぇ…」

 

たまらず、便器に向かって胃の中の物をぶちまけた。

 

「ハァ…ハァ…何だってまたあの時のことを」

 

今は、聖アマルテア女学院に破れ戦力増強が必要となる大事な時期だ。

私事で妨げる訳にはいかない。

 

「…ん?大型の案件か…今は、とにかく仕事が居る…」

 

勿論、承諾した。

 

「あー…くそ、何なんだもう…」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

今回は比良坂、兼志谷、百科の三名で出撃させた。

アドバイザーで吾妻が指揮所の隣に居る。

 

「お前たち、今回は大型案件だ。油断するなよ」

『『『了解!』』』

 

確認されている大型はサーペント程度。

他に出てくるかもしれないが、このメンバーなら大丈夫だろう。

 

「隊長、接近するアクトレスが居ます」

「他の企業か?」

「いえ…一人です。回線、開きます」

『Hi!アクトレスの援軍は必要?』

 

…通信機越しだから確証は持てないが、若い少女の声。

ただし、声音から東京シャードではない海外シャードの人間だと判断する。

 

「願ってもない話だが、どこの所属だ?」

『どこにも所属してないよ!だから、売り込みに!』

「また随分とアグレッシブなお嬢さんだな…」

『Wow!お嬢さんだなんて口の上手い隊長さんだね!』

「そっちこそ、日本語が随分うまいな。まぁ、宜しく頼むよ」

『Thanks!じゃあ、しっかり活躍しないとね!』

 

少しだけ映った映像は、プラチナブロンドの眩しい少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「Nice to meet you!隊長!」

 

 

目の前に現れた少女を前にして固まった。

 

 

長い金の髪に、透き通る碧眼。

 

 

「ペンタゴンシャードからの留学生、バージニア・グリーンベレーです!」

「あ、ああ…」

「ジニー!てっきり他の企業の所属になってるかと思ってたのに」

「そんなこと無いよ。ただ、シタラが大変そうだったからね!」

 

聞けば、兼志谷とルームシェアで同棲してるとかなんとか。

二子玉とも顔見知りらしく、三人でチームを組む事になったらしい。

 

「じゃあ、よろしくな…グリーンベレー」

「む、隊長なんかよそよそしいね?もっと気楽にジニーって呼んでよ」

「えっ、あー…判ったよ、ジニー」

 

 

普段はあまり名前呼びはしない。

 

…のだが、この子に言われるとなぜだが断れない。

 

 

「隊長!これからよろしくね!」

 

 

 

 




アクトレスと過ごすシリーズ…?

隊長の過去と、ジニーの加入編。

またどこかでジニーの絡みをもう一度やるけど今回のこれは邂逅編と言うことでひとつ。


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指輪争奪狂想曲 後編

指輪争奪戦、後編。

今回はちゃんとギャグやったし指輪渡せました。


 

「昨日は酷い目にあった…」

 

昨日の成人組による指輪争奪戦、そしてジニー参戦、更に小鳥遊参戦によって混沌を極めた成子坂製作所。

終業時刻と言うことでいの一番に逃げ出した判断は間違っていなかったと信じたかった。

 

「しかし、どうやって渡そうかな…こいつ」

 

昨日渡しそびれた指輪を見る。

四谷ゆみの誕生石であるダイヤがアクセントとして嵌められている。

 

 

…そもそも、何故彼女に渡そうと思ったのか。

この際うちのエースと言うことで比良坂に渡してしまってもいい気も無くもない。

 

「ふぁ…あら隊長。おはようございまーす」

「お、おはよう!?」

「?」

 

唐突に声を掛けられてわかり易いほど動揺する。

振り返ると、欠伸を噛み締めながらだらしない顔で四谷が入ってきていた。

 

「また副業ですか?」

「まぁ、そんなところ」

「寝不足も程々に」

「はいはいわかってますよー。今日の出撃は?」

「今日は…そうですね、四谷さんは昼からバーベナの二人と」

「了解ー」

 

じゃ、それまで仮眠してくるねー、と事務室から出ていこうとする。

 

…周囲に素早く気配を巡らせる。

敵影無し。

好機到来!

 

「よ、四谷ゆみ!!」

「は、はいぃ!?」

 

思わずフルネーム呼び、だが、止まるんじゃねぇぞ、俺!

 

「そ、その…四谷さん」

「な、何…」

 

こちらの緊張が移ったのか、向こうもガチガチに固まってしまっている。

結局、誤解の無いよう正直に話すのが一番だと結論付けていた。

 

「AGEISからの通達で…活躍したアクトレスに褒賞を支給する事になってな…」

「はぁ、褒賞。それじゃ皆の活動記録でも引っ張って見てみますか?」

「いい、や!もう誰に渡すかは決めてある」

「そうなんですか?ちなみに誰です?あ、言いませんよ」

 

いつもの調子を取り戻したのか、ケラケラと笑う。

 

「どうぞ」

 

すっ、と指輪のケースを差し出した。

 

「…へ?」

 

笑顔のまま固まった。

 

…そのまま10秒ほど。

 

「えぇ!?わ、私何もしてませんよ!?」

「そんな事はありませんよ!バーベナの面倒見て、事務仕事して、出撃して、何でもやってもらってます」

「それだったら文嘉とか…」

「俺は、貴女に渡したいと思った。貴女が俺のエースだ」

「も、もう!そんな事言われたら断れないじゃない!」

 

お互い顔が真っ赤である。

プロポーズでもないのに意識しまくっているのがバレバレである。

 

「良いの?私で」

「はい」

「ありがとうございます、隊長…」

 

箱を受け取り、指輪を取り出し、薬指に…。

 

「んんっ!流石にそこはやめて下さい…」

「えっ、あ、あはは…ちぇ」

 

左手の小指に嵌めた。

何でそこにサイズピッタリ何だろうか。

 

「あら、ピッタリ」

「左手の小指って何か意味とかあるんですか?」

「そうね…変化とチャンス」

「へぇー…」

「所で隊長」

「はい」

「その…今夜、空いてる?」

「えっ、あ、それは…」

 

この程度、想定の範囲外だよ!!(クソ情けない)

どうする、どうするよ!俺!?

 

「させるかBBAァ!!」

「兼志谷!?」

「さぁ今日はパーッと呑むわよ!ゆみちゃんのエース表彰祝い!」

「えっちょっ、真理さん?!」

 

ワラワラと事務所に流れ込んでくるアクトレス達。

 

「隊長、私にももう少しご褒美とかあってもいいんじゃないですか?」

「新谷さん…ちょっ、近っ」

「隊長」

「ゆみさん!」

「隊長ー!」

 

結局、夜は成人組で宴会となった。

次々と酌をされて飲み潰される羽目になるのはまぁしかたの無いことだったか。

 

 

「…うっぷ」

 

 

いやでもここまで飲まされる道理も無いぞ…。

 

 

「…ふふふ」

 

 

それからしばらく、指輪を眺めて笑う四谷さんの姿が散見されたとか何とか。

 

「そういや左手の小指ってどういう意味なんですか?新谷さん」

「隊長さんご存知無かったかしら。『恋を引き寄せる』、よ」

「へー…………ゑ?」

 




変にフラグ建ってますが時系列とか全部バラバラなので、これがいつの話かはまた。

温度差で風邪ひくわ!!


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拳で創る明日

今回は先日誕生日を迎えた洲天頃椎奈ことコロちゃんです。
(投稿当初)


 

 

「くっそ、ふざんけんじゃねぇぇぇぇぇ!!」

 

ガンッ!!

思いっきり自宅の壁を殴った。

隊長は珍しくキレていた。

アクトレス達には絶対に見せない、ガチな怒り。

 

事の発端は、先日行われた成子坂製作所とノーブルヒルズとのアクトレス事業を賭けた争奪戦。

様々な不正と工作、乱入に裏切りと目まぐるしく事態が動いた。

 

そんな中届いた一通のメール。

内容は、アクトレスへの誹謗中傷と今回協力しなかったアマ女へのバッシング。

特に、正々堂々と戦ったアマ女への批判に腹がたった。

 

「あの子達が何したってんだ…!」

 

しきりに壁を殴った。

ふと、我に帰り、自宅を出た。

 

 

 

 

「あ、隊長さん。ごきげんよう」

 

成子坂製作所前に、洲天頃椎奈が立っていた。

 

「洲天頃さん?なんでここに」

「隊長さん」

「…おはよう。いい天気だね」

「はい、よく出来ました」

 

ニッコリと笑う。

柔らかい雰囲気だが、その奥に見え隠れする武闘家としての本質が油断をさせない。

 

「ナデちゃんを迎えに来ました」

「ナデちゃん…あー、仁紀藤奏か」

 

同じくアマ女所属、仁紀藤奏を迎えに来たらしい。

どこで知り合ったのか度々成子坂に来ては百科にべったりだと言う。

 

「大方百科に会いに来たんだろうな」

「そうですね。ナデちゃんったら最近百科さんの話ばっかりで」

「良いじゃないか。交友関係が拡がるのは悪いことじゃない。それに、うちの百科も仁紀藤の前じゃ楽しそうにしてるしな」

「百科さんの事、大事にしてるんですね」

「あいつだけじゃない。アクトレス皆大事だ」

「優しいんですね、隊長さんは」

「あたぼうよ。俺が支えになってるなら願ったりだ」

 

それが、俺にできる事ならな。

心の中で独りごちる。

 

そこで、はたと洲天頃がずっと一点を見ていることに気が付く。

 

「…どうした?」

「隊長さん、その右手はどうしたんですか?」

「右手って…あっ」

 

…右手から血が滴っていた。

今朝割と本気で壁を殴っていたのを思い出す。

しかも何度も。

 

大家さんに怒られそうだ。

 

「やっべ、気が付かなかった。こりゃ通報されるかも…ありがとう、ちょっと手当してく」

「失礼しますね」

「ちょ」

「動かないでください」

 

ぴしゃりと言い切られて、洲天頃に手を取られた。

じっ、と眺めた後、徐ろにポケットから小さな救急箱を取り出した。

 

「…用意が良いな」

「ナデちゃんもちえりも気が付いたら怪我したりしてますからね」

「意外だ」

「ちえりは案外天然さんな所もあるんですよ?」

「あの会長様がね…」

 

慣れた手付きで右手に包帯が巻かれた。

 

「はい、終わりました」

「すまないな」

「いえいえ。それで、何を殴ったんですか?」

 

直球な質問にちょっと面食らう。

顔はいつものふんわり笑顔であるが、真剣さが伝わってくる。

 

「…少し、嫌な事がな。君達に話す事じゃない」

「今の成子坂を見てれば、隊長さんがピリピリひてるのは何となくわかりますよ」

「…あの二人が君に頭が上がらないのが判ったよ」

 

この子は本当に人を見ているし、聡い。

隠し事もすぐに察するんだろうなと苦笑した。

 

「ちょっとした八つ当たり…かな」

「誰かに手を上げた訳じゃないんですね?」

「誓って」

「…良くはないですけど、それなら良いです」

 

武闘家として何か思う所があるのだろうか。

 

「隊長さんの手、デスクワークだけじゃなくてしっかりと鍛えた人の手をしています。ここに来る前に何かなされてましたか?」

 

…本当に聡い子だ。

 

「愛と平和を守る正義のヒーロー」

「茶化さないでください」

「嘘は言ってないぞ…」

 

本当の事を話したくは無い。

その時が来るまでは。

 

「見た所によると軍隊式の格闘術。銃を持っての行動ですね」

「バレバレである」

「…自衛官だったんですか?」

「そうだ」

 

アクトレスとヴァイスのせいで、世間から白い目で見られている職業ナンバーワンの名を欲しいままにしていたので、なるべくなら伏せておきたかった。

 

「確かに、愛と平和を守るヒーローですね」

 

ようやく、洲天頃が笑った。

今までは笑みを浮かべるだけだったのに、ちゃんと笑ったのだ。

 

「カッコいいと思いますよ」

「…えっ」

「誰かの為に拳を握る事は、悪いことじゃないと思います。けど、それで自分を傷付けるのはいけませんからね」

 

そんな事を言われたのは、初めてだ。

俺は、この少女に、

 

「…ありがとう。そんな事を言われたのは、初めてだ」

「えぇっ、そうなんですか!?」

「君は本当に良い子だな…将来の旦那さんが羨ましいくらいに」

「あらあら、止めてくださいよー。今はちえりとナデちゃんで精いっぱいなんですから」

「なら、紺堂が羨ましいかな」

「もー、隊長さんってば」

 

空気が一気に緩んだ。

この子の雰囲気が、やっぱりそうさせるのだろうか。

 

「しかし、洲天頃ってちょっと呼びにくいな…なんて呼んだらいい?」

「そうですねー。ナデちゃんは『コロちゃん』って呼んでくれます」

「OK、じゃあそれで」

「わかりました」

「さて、そろそろ仁紀藤呼びに行くか」

「あ、隊長さんとお話してたらこんな時間に…」

 

30分も立ち話をしていたらしい。

早く行かないと百科がカンカンになってるかもしれない。

 

「なんなら上がっておいき。お茶くらい出すぞ」

「いえ、流石にそこまでは。心遣い痛み入ります」

 

洲天頃椎奈。

 

この子はアマ女のメンバーにとって掛け替えのない存在になってるのかもしれない。

 

(強い、な。本当に)

 

俺にも、そんな強さがあればな…。



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絶対零度を溶かすのは

アクトレスと戯れるシリーズ、遂に登場絶対零度の生徒会長。
ちょっとポンコツっぽいのはわざとです。
つまりはシュミッ!


 

 

「隊長、ごきげんよう」

「え?あ、おう?おはよう…紺堂!?」

 

午前8時、土曜の成子坂製作所。

アクトレスはほとんど居ないこの時間帯に、何故かアマ女のアクトレス、紺堂地衛理が居た。

 

「何故ここに?」

「今、私達聖アマルテア女学院は貴方の指揮下にあります。特に驚く事は無いかと?」

「指揮下?うーん、どちらかも言うとアライアンスだし対等だと思うんだが」

 

あくまで傘下に入れる訳ではなく対等な連携契約。

それに、成子坂としては一度アマ女に敗北しているのでなんとなく居心地が悪いのも否めない。

 

「ですが、貴方はアライアンスの総司令官です。私達アクトレスが貴方の指示を受け戦うのですよ」

「…」

 

今思うと、相当話が大きくなっている。

零細企業であった成子坂に赴任し、明日存続させるために必死で戦ってきた。

 

それが今や、東京シャードの中小企業アクトレス部門総括、総司令官として今自分はここにいる。

 

「それで、要件は?」

 

なんだか壮大な話で流されそうだったが、肝心な紺堂地衛理がここにいる理由を聞いてはいなかった。

 

「貴方と話しに来ました」

「話?何を?」

「何と言われても…話をするのでは?」

「いやだから、話って何さ」

「話です」

 

???

なんだ、このイマイチ噛み合っていない遣り取りは。

 

「…もしかして、俺と?」

「はい、隊長と話がしたいと思いまして」

 

なるほど、そういうことね…今完全に理解したわ。

 

「吾妻とか呼ぶけど?」

「結構です。今、隊長と二人で話したく思っていますので」

 

そう言われて、ちょっとドキリとする。

自分より年下だが、美人オーラ全開の美少女と二人で話すのだ。

緊張しない方がおかしい。

 

「以前、隊長に譲渡したギアですが」

「ああ、アイツか?」

 

先日、アマ女へ行った際に再会した相棒。

その件では紺堂に感謝してもしきれない部分がある。

 

「アレは…どういう物なのか、お聞きしても?」

「…それは、北条の人として聞いてるのか?」

 

一瞬だけ、ハッとした顔をする。

…割と貴重な物を見れた気がする。

 

写真が取れていれば結構儲かりそうだな、とどうでもいい事を考えていた。

 

 

北条。

アマ女のスポンサーにして支配者であり、シャードの実権を握ろうと暗躍している。

 

そいつらにとって、相棒の存在は許されるものでは無い。

 

「…これは、私個人の疑問です。北条は関係ありません」

 

すぐに毅然としたいつものアブソリュート生徒会長に戻る。

こういう所は流石だ。

 

「そっか。アレはな…男性用のパワードスーツだ」

「はい」

「終わり」

「…はい?」

 

今度は、口を開けてぽかんとした。

 

なんだ、かわいい顔も出来るじゃないか。

 

「アレは、兵器なのでは?」

「大気圏内で飛ぶことしか出来ないけど」

「ですが、」

「ひとつ言っておく」

 

またしゃべる前に、自分の言いたい事を告げる。

 

「アイツは、俺達の夢だ。それ以外の何物でもない。誰にも邪魔はさせない、到達点だ」

 

これだけはハッキリとさせておくべきもの。

男の矜持だ。

 

「…ふふっ、やはり貴方は面白い方ですね」

 

今度は、柔らかく笑った。

なんとなく、距離が縮まった感じがする。

こちらの意図がちゃんと伝わったのだろうか。

 

「夢、夢ですか…良いものですね」

「ああ」

「うちのメイドが話しているのを小耳に挟んだのですが」

「え?」

「夢を追い掛けている男性は素敵ですね、と」

「は、はぁ?」

 

突然何を言い出すのか。

と言うか貴女のお家はメイドさんいらっしゃるんですね…ちょっと見てみた、ゲフンゲフン。

 

「私も素敵だと思います」

「えっ」

「あなたの様な人が、やはり私の指揮官に相応しい」

「待て待て、過大評価だ」

 

私事の為に隊長になった自分に、相応しいと言ってくれた少女。

 

「隊長、以前お話しましたよね。私は戦場でしか自由を感じれないと」

 

忘れもしない。

目の前の少女と交わした約束。

 

「貴方の自由は、何処にありますか?」

 

自由。

目の前の哀しい少女に、俺はどう答えるべきか。

 

はぐらかしてはいけない。

自分を認めてくれている相手に、不誠実だ。

 

 

俺の自由。

 

それは、

 

 

「俺の自由は、空にある」

「空…それは、シャードの外の宇宙と言うことですか?」

「違う。どこまでも、無限に続く青い空」

 

失われた地球の空。

シャードで産まれた自分には、もう見ることの出来ない絶景。

 

「なら、私の自由の先に貴方はいるのですね」

 

紺堂地衛理の自由。

戦いの先。

 

「…かもな」

「ふふ…素敵ですね」

「やめろって。照れるだろうが」

「良いではないですか。貴方はいつもポーカーフェイスを気取っている。たまには優位に立たせてもらいたいものです」

「解っててやってるのか、たち悪い」

 

彼女とは、気難しい関係でしかなかったけれど、今なら、一緒に戦っていける気がしてきた。

 

「隊長、私と、踊っていただけて?」

「ダンスは、苦手だな」

 

この遣り取りも、板に付いてきた。

 

 

 




アマ女ガチ勢に怒られそうだけど、私がやりたかったので許してください。


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俺が彼女を気にする理由

ジニー編その2。
前回がちょっと蛇足感凄かったので追加。



 

 

「アクトレス同士の模擬戦?」

 

とある昼下がり、何やらアクトレス達が騒がしいと感じていた頃。

 

「そ。なんでもシタラとジニーがちょっとね」

「珍しいな。ルームシェアで住んでるくらい仲いいだろあの二人」

「ジニー宛に届いた荷物の話をしてたらそうなってたって」

 

事情を四谷さんから聞く限り、単純に好奇心で聞いたことが割とジニーにとってデリケートな話だったらしい。

 

「それで、どうして模擬戦に?」

「ジニーが、勝ったら教えてあげるってさ」

「なるほどね…まぁ、」

 

そのうち対アクトレス戦も発生するだろうし経験させるのも…と、言おうとしてやめる。

 

(馬鹿か。そんな事はあり得ない…)

「隊長?」

「ああいや、なんでもない。で、ジニーと兼志谷がタイマンするのか?」

 

前衛のジニーと後衛の兼志谷だとどう考えても兼志谷が不利だ。

判っていてジニーがこの勝負を仕掛けたとは考えにくいが。

 

「夜露ちゃん、シタラ、リンちゃん、怜ちゃん、楓ちゃんが参加するそうよ」

「…まさか、ジニーが一人で相手するのか?」

 

確かにジニーは腕が立つ。

…明らかに民間人上がりではない強さを持っている。

 

「そうみたいね」

「マジかよ」

 

ジニーに限って何か思い詰めている、そういった事は無いはずなんだけど…。

 

「シタラもなんか『灰色の世界』って単語聞いたらジニーが怒ったーとか」

「灰色の世界…?」

 

灰色の世界、よく自分の価値観を灰色と評する人も居たりするが。

 

「…………あっ」

 

わかってしまった。

過去に銃を握った事のある身として、彼女の言葉の意味が。

 

「…ジニー、まさか」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

予想通り、模擬戦はジニーが圧勝した。

ただし、日向と吾妻が食い下がりこの二人には教えるらしい。

 

「…」

 

そんな日の数日あと。

ジニーから連絡が入り、一緒に出掛けることになった。

場所は、よくジニーが行くという水族館。

 

「Hi、隊長!早いね」

「ジニー。学校帰りにそのまま来たな?」

「隊長を待たせちゃいけないからね」

 

よく見る、シタラと同じ高校の制服姿。

なんとなく、制服を着慣れていない印象を感じる。

 

「さ、入ろうか」

「ああ」

 

東京シャード内でも有数のアクアリウムを持つこの場所は、正直縁のない場所であった。

歳は離れているとはいえ、女の子と並んで歩いている事にちょっとした違和感すら覚える。

 

…生憎相手側も普通の女の子では無いわけだが。

 

「ジニー」

「?何、隊長」

「この前の模擬戦、ショットギアを一切使わなかったな」

「!気付いて、たんだ」

 

前回の模擬戦、ジニーは自分の得意武器であるショットギアを封印し、クロスギアの大剣だけで他のアクトレスを圧倒していた。

 

「どんだけお前達を見てたと思ってる」

「それもそっか。隊長も、軍人さんだしね?」

 

その一言で、言葉が詰まった。

 

「そんな事、言ったか?」

「隠してたならごめんね?調べちゃった」

 

えへへー、と舌を出してわざとらしく笑う。

…まぁ、履歴書に書いてない、アクトレスに伝えていない理由が自分の体裁の為だから別にバレても問題はない訳だが。

 

「まぁ、バレて困る訳じゃないがもう辞めてるんだ」

「あれ、じゃあ元?東京シャードの言葉は難しいね」

「そんだけ流暢に喋っててよく言う」

 

呼び出した理由、そろそろ本題に入るかどうか。

結局、話を切り出すことにした。

 

「…PTSD。もう治ってるだろ」

「………隊長にはほとんど話が行ってないと思ったんだけどな」

「まさか。たまたま聞いただけさ」

 

自分の世界に色がない。

戦争で精神を病んでしまった兵士がよく掛かってしまう症状だ。

 

…昔、俺も掛かっていた。

 

「届いたのは、これなんだ」

 

取り出されたのは、サングラス…いや、射撃用のアイセーフティだ。

相当年季の入った代物で、常用されていた物だとすぐにわかった。

 

「私さ、昔…ちょっとした事があってさ。それから人にジュウコウガ向けられなくなったんだ」

「…」

 

ジニーの年齢を考えると、その過去はとてつもなく重い。

 

「ヴァイス相手なら何とかなるんだけどね。でも、お世話になった教官が、これを贈ってくれたんだ」

「…そうか」

 

でも、彼女は立ち上がった。負けなかった。

それがとてつもなく眩しい。

 

「私にも、大事なものが出来たしね!」

「トライステラか」

「もう!言わないでよ!」

 

ようやくジニーが笑った気がした。

兼志谷と二子玉。

二人がジニーにとっての世界の光なんだろう。

 

「大事にしろよ。掛け替えのない仲間なんだから」

「モチロン!」

「あと、」

 

付け加えるように、ジニーをしっかりと見据える。

 

まだまだ幼い彼女への、精いっぱいのメッセージ。

 

「大丈夫だ。俺がいる」

「隊長…?」

「この事は兼志谷には話さない。けど仲直りはさせてやる。お前たちを絶対一人になんてさせない」

 

それが、俺の役目。

しってしまった人間がしなくてはならない事だ。

 

だから、俺がこの子達を守る。

 

「隊長、それ告白みたいだね」

「ま、意味としてはそんなもんかな?」

「えっ」

「まぁでも、お前らがもう少し年食ったら考えるかな」

「隊長その時オジサンでしょ」

「痛い所をつくなオイ」

「私は嫌いじゃないよ、隊長のこと」

「そりゃどうも…?」

 

ふと、ジニーの姿がブレる。

 

(…うん?)

 

ジニーの年齢。

職業、あれは何年前だった。

俺に手を伸ばした、あの少女は、

 

「…二年前」

「?」

「ペンタゴンシャード周辺宙域で手を伸ばしたのは、まさか」

「隊長」

 

 

 

ジニーが唇の前に、人差し指を押し付けた。

 

 

 

 

「Thanks、ちょっと気分が軽くなったよ」

「…そうか」

 

ならば、何も言うまい。

彼女が今回話してくれただけで御の字だ。

 

「さて、晩ごはん食って帰る…あー、兼志谷誘うか」

「ちょっ、隊長!?」

「言ったろ?仲直りさせてやるって」

「いくら何でも光速すぎるよ!」

「むしろ数日経ってんだから音速くらいだ」

 

兼志谷にコールしながら、片手でジニーをあやす。

 

「もう!こんなんじゃ喜ばないよ!」

「もし、兼志谷?今ひまー?」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

ちょっとだけ後日談。

あのあと、しっかりとジニーと兼志谷は和解できたらしい。

 

ファミレスでムードを作りつつ会計を済ませて帰る完璧な作戦によって事なきを得た。

 

(ま、一件落着かな)

「隊長ー!」

「おう、おはようジニぐえぇっ!?」

 

振り返って挨拶に応えようとした瞬間、腹に突撃物が。

なんとか踏ん張って見下ろすと、綺麗なブロンドの後頭部…ではなく。

 

「ジニー…」

「もう!先に帰るなんて水臭いよ!」

「悪い悪い…ちょっとした急用が」

「シタラとの仲取り持ってくれたから今回は許してあげる」

「ははは…」

「急用ってセリナから?仕事貯まってたなら無理しなくて良かったのに」

「…………は?」

「大変なら私も手伝うから!それじゃーね隊長!」

 

固まるこっちを余所に、ジニーは学校へ走っていった。

…途中で、立ち止まり、

 

「隊長!私もう結婚できるよ!」

「さっさと登校しろ!!」

 

 

 




ジニー、陥落。


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結婚?…え?

アクトレスは結婚出来ないって電波を受信したのでさらっと書いてみた。


 

 

「隊長って結婚しないんですか?」

「…え?」

 

始まりは、比良坂のこの一言から始まった。

平日の昼、アクトレスが一番多い時間帯だった為にあちこちから物音が響きまくった。

 

ガタタッ!

 

ゴトッ!

 

グキッ!

 

「おい誰か今足捻ってないか」

「隊長、どうなんですか?」

「比良坂…まぁいいや、別に結婚願望は無いよ。今はな」

 

大分安定してきたとはいえ、未だ成子坂は零細企業だ。

配偶者に苦労を掛けるという意味では些か決断できない。

 

「今は、じゃあいつかはしたいんだ?」

「兼志谷」

 

後ろから兼志谷が首を出してきた。

その後ろにはニヤニヤしているジニーといつも通りオロオロしている二子玉がいた。

 

「私とかどう?見た目は結構自信あるよ?」

「まだお前16だろ。あと5.6年経ってから出直して来い」

「がーん」

「Hey隊長!私も自信あるよ?」

「シャード跨いでの結婚は相当面倒なんだろうな…」

「がーん…」

「た、隊長!カナダシャードとかどうですか!?」

「唐突に移住を勧めてきたぞこの子。あっ同性婚が認められてる国かこの野郎」

 

トライステラによるジェットストリームアタックを難なく躱す。

一人核弾頭を持っていた気がするが気にしない。

 

…しかし、結婚か。

 

(今は…まぁ、夢が実現できそうだしそっちに割いてる余裕は無いかなぁ)

 

実際問題、成子坂での隊長業務と並行して相棒の改修を進めている。

そして、この隊長は彼女いない歴=年齢を地で行っているので動く気配も無い。

 

(でも正直ここの皆見てくれだけなら一級品だし邪な考えが無いって言うのも嘘なんだよなぁ)

「勝手に人の思考を代弁しないでもらえますか神宮寺さん」

「え?バレた?あははーごめんごめん」

 

いつの間にか耳元で囁いてきた神宮寺さんを引き剥がす。

 

「隊長が結婚についてどう思ってるかちょっと気になってさ」

「別にどうとも。今の所する予定が無いだけで」

「ふーん…?」

 

意味ありげに薄く笑う。

こう言う時の神宮寺真理はだいたい良からぬ事を考えているに違いない。

 

ならば、先手を打つ。

 

「そういう貴女はどうなんです?」

「えー?まだ21だし焦る事はないかなーって」

「21ってアンタこの前誕生日じゃ…」

「舐めるでないよ!!」

「ごはっ!?」

 

鳩尾に拳が入った。

割と本気だこの人。

 

「いいかい隊長?世の中には流した方がいい真実もあるのだよ…」

「げほっ、げほっ…貴女本当にその性格なかったら好みなのに残念過ぎやしませんかね」

「えっ」

 

ぴしり、と神宮寺さんが固まった。

 

「そ、それはどういう…」

「…なんてね。仕事の時間だ。チーム、トライステラ出撃!」

「隊長、☆も付けてね」

「えっ、いるのそれ」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

翌日。

 

「隊長さん、結婚に興味無いんですか?」

「なんかデジャブが……って、新谷さん」

 

事務仕事中、新谷さん、百科、安藤さんと机で向かい合って作業中の一言であった。

 

「隊長、ご結婚されるんですか?」

「安藤さんまで……違いますよ、昨日兼志谷達が騒いでただけです」

「皆さん、仕事中ですよ……っと、もういい時間ですね。お茶淹れてきます、休憩しましょう」

「悪いな、百科」

「いえ、お気になさらず」

 

百科が席を立った。

……最近割とメリハリ付けてくれるようになってくれてちょっと嬉しく思う。

 

「隊長、そんな娘を見守る親みたいな顔して」

「うちのアクトレス皆娘をみたいなもんだし」

「隊長さんいくつですか……」

「今年で24」

 

どことなく枯れて見える、そう評されたこともあったなとしみじみ思う。

 

「ふーん……?」

「何ですかその意味深な」

「歳が近い男性ってどうしても子供っぽく見えちゃうけど、隊長なら良いかなって」

「……冗談でもたちが悪い」

「あら、本気ですよ?」

「辞めてくださいよ。笑えない」

「……隊長に芹那さん、何やってんの」

 

新谷さんに詰め寄られてることに気が付きちょっと後ずさっていると、そこに小鳥遊が入ってきた。

……何故か物凄いジト目で。

 

「お、おう小鳥遊。どうした?」

「別に。ただ、邪魔だった?」

「あら怜ちゃん。こんにちは」

「あ、小鳥遊さんこんにちは」

「こんにちは安藤さん。それで、これはなんの騒ぎ?」

「結婚するなら隊長みたいな人が良いって話よ。怜ちゃんはどう思う?」

「………………別に。興味無いし」

 

何その無言。

めっちゃ気になってそうなんだけど。

 

「ただ、」

「うん?」

「隊長は……一緒にいると安心するって言うか、一緒にいられると言うか……」

「ぐはっ!?」

「隊長!?」

 

いかん、どうした小鳥遊!

俺のハートに火を付けてどうする!

 

「隊長……!?大丈夫?」

「ああ……大丈夫だ……」

「お茶持ってきまし……何やってるんですか隊長」

 

 

 




多分続きます。


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酔っ払い達の讃歌

 

どうしてこうなった。

 

「ねーねー隊長きいてるー?」

「はいはい聞いてますって」

「えーほんとですかー?真理ちゃんのえっちー」

「聞いてねぇよそんなん」

「やーん隊長のえっちー」

「てめー実は酔ってないだろ神宮寺」

 

事の発端は、新任の隊長補佐、山野薫子さんが着任してからの事だった。

 

「成子坂は婦人会の助っ人としてバレーボール大会に参加します」

「えっ、あっ、はい。頑張ってください」

 

以上。

回想終わり。

いやだってこっちも業務忙しくて差し入れ持っていってもらうしか出来なかったんだ。

 

で、打ち上げの宴会をやってたらしく、潰れた人たちを回収するという任務を付与された俺こと隊長が店にやって来たのだが…。

 

「アハハーワタシー」

「アハハー、隊長ーもう一杯ー!」

「勘弁してくれ…」

 

見事に泥酔した杏奈と真理に絡まれる羽目になった。

なお、二軒目である。

 

「ほら、それ飲んだら帰りますよ」

「隊長ー、のめのめー、おねーさんのおごりだぞ♪」

「奢りは嬉しいけど」

「アハハ、良いなー真理ちゃん私もー!」

「しょうがないにゃあ…いいよ!」

「「イェーイ!!」」

「うわぁ…」

 

さっきからずっとこのテンションである。

正直まぁ、神宮寺しかり宇佐元しかり、成子坂の為に頑張ってくれているしこれくらいは面倒見てやらないとなーと思う所もある。

 

「隊長ーおねーさんが貰ってあげようかー?」

「素面だったらオーケーしても良いですよ」

「よってないよー」

「すみませーん水一つ」

 

情報を掴むために色んな所を敵に回しながら必死に七年戦ってきたという。

…せめて、俺の下にいる間くらいは羽目を外させてやりたい。

 

(エゴかなー)

 

神宮寺真理にとっての事態は、実際何も解決していない。

 

(エゴだよなー)

「隊長ーどーん」

「うおわぁ!?」

 

雷撃ハンマーの如きタックルが背後から飛んでくる。

背中に柔らかい感触。

 

「隊長ー、真理ちゃんとばっか飲んでないで私と飲んでくださいよー」

「ちょっ、宇佐元重っ」

「重くないですよーアンナちゃんは軽いですよー」

「やめっくっつくな!」

「隙あり!」

「やめろ神宮寺手帳抜き取るな!酔ってねぇだろ!」

 

終始この調子なので凄まじく疲れる。

 

「オラァ帰るぞ!」

「「きゃー♪」」

 

結局、酔い潰れた二人を両肩に担いで米俵よろしく運ぶのだが…。

 

「…やっべ、家知らねぇぞ」

 

事務所に連れてくわけにも行かず、タクシーも捕まらない。

電車もバスも止まったこの時間。

 

「隊長ー、泊めてー」

「あんた本気か?」

 

相変わらず宇佐元は寝ているが、目が冷めたのか神宮寺の方は耳元で囁いて来た。

 

「本気ー。ちょっとくらい役得あったほうがいいでしょ?」

「…俺は嫌なんだが」

「素面なら受けてくれるんでしょ」

「何で覚えてんですか」

「隊長が珍しく甘いから…甘えたい、かな」

「…はぁ。今回だけですよ」

「ありがとー」

 

年上は苦手だ。

というか、この人は本当に狡い。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「はい、乾杯」

 

かつん、とグラス同士がぶつかる音。

場所は結局自宅。

宇佐元は先に隊長のベッドで寝ている…勿論諸々は神宮寺がやったが。

 

それで、二人は何しているかと言うと。

 

「全く。宅飲みまでもつれ込ませおって」

「綺麗なおねーさんと飲めるのが不満?」

「まさか」

「なら良かった」

 

さっきまでの馬鹿騒ぎが嘘のように、静かに飲む。

 

「ふぅ…」

「で、何が目的だ?」

「あ、ひっどーい。疑うの?」

「どう考えたって裏があるだろ」

「ぜーんぜん…」

 

急に覇気のない表情になる。

 

「私さ…ちょっと前までなりふり構わず必死に色々やって来たのに…最近ちょっと楽しいなーって思っちゃったんだ」

「…」

「でもさ、やっぱり凪のこと諦められないし止まるつもりも無いんだけど…ここでの生活も手放したくなくてさ」

「…居てくれよ、神宮寺」

「何、隊長もしかして寂しかったりする?」

「ああ」

 

アルコールのせいだけじゃない赤みが神宮寺の頬にさす。

 

「どうしたの隊長…今日はやけに優しいじゃん」

「甘えたいって言ったのはそっちじゃないか」

「そうだけどさ……」

「少し立ち止まったって罰は当たらない。神宮寺さんだけが必死になる必要はもうない」

「ずるいなぁ……そんなこと言われたら……本気……に……するじゃん……」

 

限界が来たのか、そのまま突っ伏して眠ってしまった。

 

「せめて、いい夢でも見てくれ」

 

宇佐元の隣に寝かしつつ、どこで寝るか考えるのだった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「隊長、私も招待してよ」

「何の話だ?」

 

翌日、話を聞いたのか小鳥遊やら吾妻やら、果ては四谷まで自宅に上げろと言い出してきた。

 

「あー…昨日のアレか」

「隊長」

「未成年はだめ」

「たーいちょ、今夜空いてますか?」

「四谷さん、あんたも駄目」

 

朝からこんなやり取りがずっと続いているのだった。

 

「隊長さん、随分とアクトレス達に慕われていますね…」

「山野さん。なんか、慕われるって感じはしませんがね」

「いえ、皆が隊長の事を信頼しているのが伝わってきます」

「ただ甘いだけですよ」

 

甘くても、彼女たちの為になるならそれも悪くないか、と思う。

 

「おはよー隊長ー!合鍵作っちゃった!」

「おうコラ神宮寺しばくぞ」

 

この後合鍵争奪戦が勃発したとかしなかったとか。

 

 

 




後悔はしていない。
年上のお姉さんがふとしたときに見せる弱気なところって良いと思いませんか?


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州天頃椎奈「隊長さん、後でお話があります」

短めですが、会長のチア服が当たったので勢いで書いた。


 

女神がいた。

 

「あっ」

「え」

「すまん」

 

回れ右。

光の速さで事務所から転がり出た。

 

「…………………はぁ!?」

 

事務所で成子坂謹製のチア服を着ようとしていたアマ女の面々なんてゲームのし過ぎだ。

 

「落ち着け……クールになれ……」

 

決して、仁紀藤の脚とか紺堂のたわわを見てしまったとか言ってはいけない。

深呼吸を2、3度繰り返し、意を決して中に入った。

 

「隊長、ごきげんよう」

 

………………夢ではなかった。

 

「お、おはよう……何故君らがここにこんな格好で?」

「ごきげんよう!隊長!それは学院の先生達も参加されるのでその応援です!」

「へ、へぇー……」

 

仁紀藤が意気揚々と応える。

……彼女も、なかなかに良いものをお持ちだ。

 

「いや待て、なんで兼志谷の衣装が出回ってんだ」

「隊長さん、ご存知無いんですか?ライセンス登録されたので色んな所から発注が来てるらしいですよ」

 

州天頃が二人の後ろから出てくる。

……三人とも揃って例のチア服だった。

 

「で、何で三人が?」

「隊長、先程から質問ばかりですね」

「混乱してるんだ」

「ふふふ、ならこの衣装を着た甲斐がありましたね」

「もぉ、ちえりったらー。私まで巻き込まないでよー」

「ここまで焦った隊長なんて初めてみました!」

 

……紺堂はこの間からあの手この手で俺の精神に揺さぶりを掛けてきている。

こちらとしては未成年に対して正直対応に困るから勘弁していただきたい。

 

「他の奴らはもう先に行ってるぞ」

「隊長は行かれないのですか?」

「仕事だよ。流石に俺がここを空けたら拙い」

 

目の前に書類の山。

百科が応援、新谷さんが選手として出場、そして何故か安藤さんも居ない。

なので、自分がこの山に向き合わなければならなかった。

 

「少しお手伝いしましょうか?」

「仁紀藤、ありがたいけどお前らも応援だろ?心遣いだけ受け取っておくよ」

「……そうですかー。頑張ってくださいね」

 

仁紀藤と州天頃が残念そうにそう言って更衣室に引っ込んだ。

 

……先程から無言の紺堂を残して。

 

「紺堂?」

「隊長」

 

ずいっ、とまたいつぞやの様に詰め寄ってくる。

……反射的に後退る。

 

「結局貴方はまたそのポーカーフェイスに戻るのね」

「な、何が言いたい」

「貴方も、仮面の下に獣を飼っている筈よ」

「それ、は」

 

戦闘中の紺堂を知っているからこそ、押し黙った。

俺の獣。

全てのヴァイスを根絶したいと心の底から憎んでいたこと。

 

「俺は…私怨で君達を動かしたくない」

 

震える口から、ようやく言葉が出た。

憧れ、羨望、私怨。

アクトレス達と触れ合う時、俺はこの3つの感情にいつも潰されそうになる。

 

「……いいえ。隊長、見せてください。貴方の夢を。その為に全てを食い潰す覚悟を」

 

紺堂の手が、俺の顎を撫でる。

……扇情的な衣装の女性に迫られ、自制心が振り切れそうになる。

 

「私の上に立つ人間が、凡人だなんて許しません」

「お断りだ」

 

紺堂の手首を掴み、反対の肩を抑え付ける。

 

「俺は自分の夢のために誰かを使い潰したりしない。最善、最良の結果にしてみせる……!」

 

全てを犠牲にして実現した夢に、意味なんて無い。

甘かろうが臆病だろうが知ったことでは無い。

 

「俺の道だ……誰かに邪魔されて堪るか」

「良い啖呵ですね」

「……また煽ったな」

「ご想像にお任せしま」

「ちえりー?早くしないと遅れ……」

「ふ、風紀が乱れてます!!!?」

 

「「あ」」

 

 

更衣室から制服に着替えた二人が出てきた。

 

……構図としては、俺が紺堂に無理矢理迫っているような絵面だ。

 

 

「隊長ー!」

 

 

州天頃の小さな体が一瞬で懐に潜り込んだ。

 

 

「まっ」

 

 

ドグシャァ!!!

 

 

 

その後、夕方に目が覚めた俺は、戻ってきた百科にこってり絞られたのだった。

 

 

勿論、後日三人が謝罪に来た。

 

ええ子や……。

 

 

 




後悔はしてない!!

はっきり白状すると、私は百合の間に挟まりたい。
……というより気に入ったキャラがほかのキャラと百合百合してるだけとも。


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ゆみ「隊長さん、前は何やってたの?」

バイアラン隊長の前職が皆にバレる話。


 

 

「おはようございまーす。ふぁ…」

 

四谷さんが大あくびをしながら事務室に入ってきた。

 

…寝不足なのだろうか。

 

「あー、BBAまたキャバクラだなー」

「ゆみさん、こっちに支障でそうなら仮眠してきても大丈夫ですよ」

「あー、ありがとう文嘉。シタラ、あとで覚えてなさい」

 

そんなやりとりをしている所に入っていった。

 

「みんなおはよう」

「あ、隊長。おはようございます」

「四谷さん、寝不足ですか」

「ごめんなさい隊長、昼には復活す…」

 

そこまで言ってから、

 

「そう言えば隊長さんってさ」

「うん?」

「前、何やってたの?新卒にしては歳行ってるよね」

「書類では何も書かれてませんね」

「えっ、じゃあたいちょー元エリートニート!?」

 

前職の話になった。

流石に繋ぎ無理矢理すぎやしませんかね四谷さんや。

 

「えー、その割には鍛えてると言うか判断力あると言うか」

 

そう言いながら四谷さんが二の腕に触ってくる。

…ちょい恥ずかしいので止めてほしい。

 

「どれどれ…ふぉっ!?腹筋かたっ!」

「ちょっとシタラ。ごめんなさい隊長」

「いや…」

「ふっふー、こんなJKに触られてるんだぜたいちょー。役得役得」

「悪いが射程圏外」

「がーん」

 

なんてことは無い。

こんな事すぐに忘れていつもの日常に…。

 

「…この筋肉の付き方は独特ですね。何か武術をやられていたんですか?」

「ふーん…結構スゴいんだ隊長。まぁ、私はどうでもいいけど」

「ふぁっ!?」

 

体を触る手がいつの間にか増えていた。

吾妻と小鳥遊がいつの間にか来ていたらしい。

 

「あら楓ちゃんと怜ちゃん、おはよう」

「「おはようございます」」

 

…急に現れたのになんで普通に会話してるんだろう。

俺はめっちゃびっくりしたぞ。

 

「隊長、以前私の竹刀を受け止めた事がありましたよね」

「えっ、そんな…あー、あの変な仮面の…」

「そこまでは言わなくていいです!!」

 

あの吾妻がかなり取り乱しながら話を遮ってきた。

 

「えっ、隊長…楓さんの剣ってかなりの筋ですよね…」

「そ、そうだな…」

「おっはよー子猫ちゃんたち!!今日も私と遊ぼう!」

 

…リアルに頭を抱えた。

こんな時に事情を知ってて面白おかしく引っ掻き回す問題児がやってきた。

 

「俺の事は眼中になしっすか神宮寺さん」

「おはよう隊長。勿論愛してる!」

「そりゃどうも…」

「…おはよう。真理さんは隊長の事何か知らない?」

 

小鳥遊がいきなりぶち込んできた。やめて。

 

「えー?隊長の事?うーん、彼女居ない歴=年齢とか?」

「ガハァッ!!」

 

思わず吐血したが別に今バレても問題無かった話だったが、身体が反応してしまった。

 

「ふーーーーーん…そうなんだ」

 

小鳥遊の目が心無しか明るい。

やめろぉ、哀れむなぁ…。

 

「ね、たいちょーそろそろはいちゃいなよ」

「…愛と平和を守る正義のヒーロー」

「だっはははははは!!ヒーロー!?ヒーローはないわー!!」

「うるせぇ神宮寺!!」

 

この人は本当に…。

…ここで、黙っていた百科が口を開いた。

 

「あのギア、バイアランでしたっけ。あれと関係あるんですよね」

「…」

 

事務所が静まりかえった。

…この質問、変にはぐらかしてしまうと怪しまれてしまう。

 

そろそろこの子達に隠し事をしている事が心苦しくなってきた。

 

「隊長。この子達は今更知ったって距離とったりしないと思うよ」

「神宮寺さん…」

 

凄い、もっともらしい事言ってるけど顔がニヤついてて台無しだ。

…四谷さんが前に歩いてきた。

 

「隊長さんには、その、結構お世話になったし…軽蔑とか絶対しませんよ」

「ゆみさんに同じ。これでも私は信頼してる」

「そうです隊長。未熟な身ですが、貴方のお陰で私は道を踏み外さずに済んだんです」

「たいちょー。私も気にしないよ」

「皆…」

 

ええ子達や…ホンマに…。

歳甲斐もなく涙が出てきそうだ。

 

神宮寺、なんかいいムードになった事にちょっと困惑してるし。

良いからそのまま黙っててくれ。

 

「じゃあ…言うぞ。俺は…」

「ごめんください」

 

事務所に、誰か入ってきた。

…60代くらいのお婆ちゃんだ。

 

「はい、どうされましたか?」

「いやね、前にここに務めてる男の人に助けてもらってね…お礼を言いに来たんだ」

「…え?」

 

はて、誰だろうなそれ。

 

「あー、この前はありがとうねぇ」

「え、あ、はい?」

 

お婆ちゃんは俺を見つけると、近づいて来て手をとった。

この人…?

 

「…あ、この前踏切で足引っ掛けてた」

「そう!あの時は本当にありがとうねぇ…お陰で孫の顔が見れたよ」

 

先週、遮断器が降りた線路の上で立ち往生していたお婆ちゃんを助けた事を思い出した。

 

「そうですか…それは良かったです」

「これ、良かったら貰って貰って」

 

紙袋を渡されてしまった。

…その後、お婆ちゃんは百科に送られて外へ出ていった。

 

「…隊長さん?」

「え、な、何だ」

 

四谷さんが話を切り出す。

普段は見せない、とても柔らかい表情で。

 

「ヒーロー、私はその、似合ってると思うけど」

「あれは、冗談…」

「あながち間違ってないかもね」

「小鳥遊」

 

 

振り向くと、神宮寺さんがウィンクしていた。

 

…後から知ったが、あのお婆ちゃんに俺の事を教えたのは彼女らしい。

 

「まぁ、タイミング逃したし当面たいちょーは正義のヒーローって事でいいよ?」

「ははは…ありがとう。いつか、絶対話すよ」

 

決心を固めて、いつか必ず俺の口から伝えなくちゃ。

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

後日。

 

 

「今日は隊長の奢り!皆じゃんじゃん飲んでこう!かんぱーい!」

「とほほ…」

 

神宮寺に対して貸し1、これは即ち飲み会奢りを意味していた。

辛い。財布が。

 

(この人にゃ隠し事知られたくねーなぁ)

 

今日はヤケ酒だ。

 

 

 



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隊長「は?吾妻のプラモデル?」

これは渋で発売日に投稿したSSです。
キャラ崩壊上等、やりたい放題なので許容できる方向け。

人選は今のチームメンバーから。


 

「ってこれ女神デバイスじゃん。FAGの方かと思ってた」

「えふえーじー?」

 

はてなマークを頭の上に浮かべまくっている吾妻。

かわいい。

 

「しかしまぁ…叢雲重工の高嶺の花が俺の部下に居るってのも世の中わかんないもんだな…」

「高嶺の花だなんて、そんな。私は…」

「やれる事をやっている、だろ。でもそれは凄い事なんだ。誇っていい」

「隊長…」

 

我ながらいい事言ってる感凄い。

こんな考えが頭を過る辺り吾妻の様なピュア力(ぢから)が足らないんだろう。

 

 

 

 

※今回の話はパラレルワールド的なものであり、本編とはなんら関係ありません。

 

 

 

 

「なんと言うか…すみません隊長、今日は買い物に付き合って頂いて」

「良いって良いって。ちょうど俺も休みだったからな、気分転換だ」

 

外を散歩していたらたまたま吾妻と出くわし、そのまま吾妻のショッピング(押し切られた)に付き合い近場のファミレスに入ったのだった。

 

「そう言って頂けると嬉しいです」

「おう。…で、最近なんかあったのか?」

「えっ…どうしてですか?」

「あんな強引に誘ってくるなんて吾妻らしく無いからな。何か悩みでもあるのかと思ってた」

「あ…それは…」

 

吾妻が俯いた。

やはり、何か大きな悩みでもあったのだろう。

 

 

 

 

※今回はギャグ回です。

 

 

 

 

「さ、話してみろ。楽になるかもしれん」

「い、言えません…」

「何だと…まさか、誰かに脅されているのか!?」

 

素早く辺りを見渡す。

敵影無し。

引き続き警戒をせよ。

 

「違っ…あのですね」

「あら、ごきげんよう」

「ごきげんよう、隊長さん、吾妻さん」

 

…ファミレスにものっそい場違いな二人が現れた。

 

「紺堂とコロちゃん…?」

「こんにちは」

「珍しい組み合わせを見掛けたのでつい声を掛けさせて頂きました」

 

いたずらっぽく紺堂がウィンクした。

…あれ、こんなキャラだっけ。

 

「もぅ、ちえりったら」

「ふふふ」

 

なんか二人の世界入り始めたし。

注文が来ないので動きようも無い。

 

「それで隊長」

「うん、何食わぬ顔で普通に相席するのやめようね」

「吾妻さんは優等生の仮面の下に獣を飼ってると思うの」

「うーん話聞いて?と言うか世間話で喋ることじゃなくね?」

「紺堂さん。私は紗那仮面です」

「おまっ、自分から黒歴史バラしてくのかよ!?」

「すみませーん、アイスコーヒー2つ」

「コロちゃんもスルーしてる…」

 

なんか皆いつもと様子ちがくない!?

 

「隊長」

「どうした吾妻」

 

軽く頭痛がする。

こめかみを抑えながら吾妻の話に…。

 

「どうして州天頃さんの事は愛称で呼んでいるのですか」

「えっ、ああ。本人の希望で…」

「じゃあ私も名前で呼んでください!」

「楓」

「〜〜〜〜〜っ!!!」

 

呼んだら呼んだで顔真っ赤にして悶出した。

嫌なら止めておけば良かったのに…。

 

「隊長、中々やりますね…」

「なんのことだかさっぱりなんだが」

「では私も披露しましょう…しいなで!」

「ちえりー。コーヒー来たよ」

「ありがとうしいな。大好きよ」

「うふふー、私もですよー」

「〜〜〜〜っ!!!」

「お前が照れてどうすんだよ!!」

 

この生徒会長面白い人になってるけど大丈夫なのアマ女。

しばらく黙っていた吾妻ががばっ、と起き上がる。

 

「隊長!大好きです!」

「おう、俺も(妹的な意味で)好きだぞ」

「そ、そうですか…にへへ」

 

吾妻もキャラがブレ始めた。

 

「っべー。なんか収集つかなくなってきた」

 

マジどうすんべ。

ここで、スマホに一通のメールが届く。

 

「ん?何何…『女神デバイス吾妻楓、発売おめでとう!あとこれ夢だから』…はぁ」

 

一拍置いておいて。

 

「夢オチとか最低だなオイ!?」

 

女神デバイス、吾妻楓発売おめでとうございます。

 

 

 



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隊長「ハロウィン終わったのに事務所がカボチャ頭だらけ」

遅れたハロウィン回と見せかけたなにか。

駆け足なのはいつもの事。


 

ドアを開けると、そこはカボチャ畑だった。

 

「…………えぇ?」

 

思わずドアを閉めた。

 

「今日、何日だ?11月1日?だよな?うん?」

 

時計の日付を確認して、深呼吸する。

…何をビビっている、ジャック・オ・ランタンなんてペルソナで序盤世話になるレベルで親しんでるだろ。

 

「おはようーーーー!!」

 

元気よく、快活に。

挨拶は一日の活力ーッ!!(ヤケクソ

 

「お、おはようございます…隊長」

 

増えてた。

 

さっきまで三人くらいしか居なかったのに、七人になっていた。

 

「…ヒェッ」

「あ、どうしたのさたいちょー。さっきはそっ閉じなんてして」

「隊長。今日も書類が貯まってますよ」

「隊長ー!今日は焼きそばが食べたい!」

「隊長、どうしたの…?顔色悪いよ?」

「(無言でサムズアップ)」

「Hey!隊長!」

 

助けて。

ではなく、

 

「なんだこの状況」

「Trick or Treat!」

 

やたら発音がいい。

てかこいつジニーだな絶対。

 

「一日遅くないか」

「えー、だって昨日たいちょー居なかったじゃん」

 

ハロウィン当日、休みを貰って相棒の整備に一日を費やしていた。

とはいえ。

 

「今やるかそれ。と言うかよく百科許したな」

「隊長の驚く顔が見た…ごほん!皆のモチベーションの為です」

「オイこら本音」

「で、たいちょー。お菓子あるの?」

 

あっ。

 

「…ない、な」

「ほう」

「ならば」

「覚悟は」

「出来てますね?」

「隊長!」

 

ガタガタガタッ!!

事務所の至る所からカボチャ頭のアクトレスが大量に出てきた。

 

「ヒッ」

 

服装をよく見ると大人組の面々である。

…あんた達ねぇ。

 

「ふふふー、さぁ何をしてやろうかなぁ?」

「神宮寺さんアンタまで何やってんすか」

「おぉー?そんな口聞いていいのかなぁー?いたずらどうしようかな」

「うわトーンがマジだこの人。逃げるわ」

 

回れ右。

誰にも捕まらない最短最速のルートを一瞬で判断して飛び出す。

 

「まずい!たいちょーが逃げる!ジニー!!」

「OK!!」

「あってめぇ!ジニーは卑怯だろうがあでででででで!!?」

 

ドアノブに手を掛けようとしたところ、ジニーに手首を掴まれ関節を決められる。

…毎回ジニーに決められてる気がするけど気のせいかな。

 

「それっ!」

「おばぁっ!?」

 

そこから見事な一本背負いが決まる。

仰向けに床へ倒されてしまった。

 

「ごふっ!?」

 

腹の上にジニーが思いっきり座った。

柔らかい感触とか堪能する前に息が抜けていった。

 

「私のおしりでも楽しんでてよ」

「その頭のカボチャ無かったら楽しめたよ…」

 

カボチャがバチコーン!とウィンクを決めた。

…無駄に高性能らしい。

 

「おはよう、隊長。早速だけどいたずらして良いかしら?」

「にゃーさん勘弁してくれない?」

「新谷です。変に呼ばないでください」

 

カボチャに朱線が何本か浮かび上がる。

どうやら照れているらしい。

 

「おや、お菓子発見」

「ちょっ、兼志谷待て、それは」

 

さっきから服を弄っていた兼志谷が、リボンで包装された包みを持っていた。

 

「何これ、プレゼント?隊長もすみに置けないわねぇ」

「絶対これ女の子への贈り物でしょー。ほらほら吐きなさいよー」

「誰々だー?」

 

全員面白がって捲し立ててきた。

カボチャ頭に囲まれて見下されている…なんかトラウマになりそうだ。

 

「それは…」

「おはようございまーす。皆のアイドル!桃花ちゃんだゾ☆」

 

…事務所が静まり返った。

 

「…えっ、何この状況」

「俺に聞くな。こっちが聞きたい」

 

とりあえずジニーを退けた。

 

「よいしょっと…下落合、ほら」

「わたた…え、何これクッキー?」

 

さっきの包みを兼志谷から返してもらい、下落合に渡す。

 

「「えぇ!?」」

 

アダルト組がめっちゃ驚いてるのを尻目に続ける。

 

「な、何で…」

「誕生日、おめでとう下落合」

「「「!!!!!!」」」

 

事務所の中が一気に騒然とした。

 

「ちょっと隊長!プレゼント私貰ってない!」

「あ、あわあわあわ」

「桃花さんだけずるい!」

「ちょっ、待て待て…あるから、みんなの分」

 

鞄から包みを取り出していく。

 

「…これ、市販品じゃないわね隊長」

 

ジト目でこっちを見てくる下落合。

まぁ、流石にバレるか。

 

「作った」

「え、嘘!そんなキャラじゃないでしょ!?」

「失礼な…わ、悪いか」

「あっと、その…嬉しい、です。ありがとう隊長」

 

下落合から感謝の言葉。

割とこれだけでやった甲斐があったともとれる。

 

「隊長!おかわり!」

「ぶち壊しだな!?」

「で、オチは?」

「ねぇよんなもん」

 

 

 



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クロゴケグモは待ち切れない

色気があって専用ギアがめちゃくちゃ格好いい籠目さんズルくない?
と、言うことで今回も勢いで乗り切るシリーズです。


…なーんか隊長キャラ違う気がする。


 

 

たまに、Aegis本部に赴く事がある。

話題の成子坂の隊長でもあるし、何かと制限のある相棒についての報告もあるので思っていたより呼ばれるらしい。

 

「おはようございます」

「…!?お、おはようございます」

 

ここの職員の人たちも、いつもお世話になっているので挨拶は欠かしていない。

…の、だけれど。

 

この人だけは俺が挨拶すると露骨に焦ったように振る舞う。

以前、サンティがうちのアクトレスを鍛えてくれていた時に協力してくれていた事務員の方だ、とは聞いていたので追ってお礼をしたのが出会いだった。

 

綺麗な黒髪に憂いを帯びた風貌に目が離せない…ぶっちゃけ好みだった。

 

彼女は名前は、籠目深沙希さん。

 

「もう結構挨拶してますけど、未だに馴れませんか」

「す、すみません…私、影が薄い様なのであまり…」

「影が薄いとは思えませんけど」

「私が居て気付かれない事も、多々ありますので」

 

聞けば、新谷さんや蛙阪とも既知の仲だとか。

…新谷さんはまぁわかるが何故蛙阪と知り合いなのか割と疑問だが。

 

「っと、そうだった。それじゃ、自分はこの辺で」

「はい…あ、隊長さん。1つだけよろしいですか?」

「何でしょうか?」

「相棒さんは、お元気ですか?」

 

固まる。

否応無しに体が反応した。

 

「…まぁ、それなりですね」

「そうですか」

「では失礼します」

 

そそくさと立ち去る。

…背中に、視線を感じながら。

 

(…オカシイ。アレについては鳳さんしか知らないはず…)

 

何故一介の事務員に過ぎない籠目さんが、相棒について知ってるんだ…?

 

「……………」

 

視線は、エレベーターで上の階に登るまで続いていた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

その日は、鳳さんに相棒の改修の進捗状況を話したくらいで終わった。

 

(…今日どうすっかな…事務所寄る予定も無いし直帰…でもせっかくこの辺に来たし…)

「あ、隊長さんだ。やっほー」

「ん、蛙阪か」

 

考え事をしながら歩いていると、正面から蛙阪が歩いてきた。

 

「隊長珍しいね。どこ行ってたの?」

「ちょっとAegisに用事があってね」

「えっ、大丈夫?何かされなかった?もしものときはアーバン流忍術で」

「あそこを何だと思ってる…」

「来弥ちゃん、隊長はいつもの定期報告に行ってたのよ」

「にゃーさん」

「…隊長、その呼び方はその、やめてもらえると」

 

蛙阪の後から出てきたのは、にゃーさんこと新谷さんであった。

この二人、意外と接点がありよく買い物とか行っているのだとか。

 

「二人こそどうしてここに?」

「これから、深沙希っちとご飯に行くんだー」

「深沙希っち…?」

 

ふと、背後に気配がしたので振り返る。

 

「…!」

 

そこには、驚いた顔をした籠目さんが立っていた。

 

「あ、深沙希っちお待たせー」

「こんばんは、来弥ちゃん、芹那さん、隊長さん」

「こんばんは、深沙希」

「…さっきぶりですね」

「はい」

 

この人、誰かの背後を取るのが好きなのだろうか。

 

「隊長さんはこの後何かありますか?」

「いや、特には」

「なら良かった。どうです?一緒に」

「女所帯にご一緒するのはちょっと気が引けますけど…」

「えー、そんなの気にしないよ。ねぇ、芹那っち、深沙希っち?」

「ええ」

「はい」

「じゃあ…それなら」

 

結局、四人で食事をする事になった。

 

 

…しかし。

 

 

「…………………」

(…………めっちゃ見てるなこの人)

 

視線…籠目さんから物凄い視線を感じるのだった。

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

翌日。

朝、ごみ捨てをする為にアパートのドアを出、

 

「あ」

「えっ」

 

…ゴミ袋を持った籠目さんと、バッタリ出くわすのだった。

 

「お、おはようございます」

「……おはようございます」

「先日は、どうも」

「いえ、こちらも面白いお話を聞かせて頂いて…」

「いやいやそんな…」

「いえいえ…」

 

か、会話が続かない。

指定された場所にゴミを捨てる。

 

ようやくそこで、籠目さんが口を開いた。

 

「隊長さん」 

「?」

「貴方は…今の状況、どう思いますか」

 

今の状況?

それは何に対しての話だ…?

 

 

思い当たるフシは多い、が。

この人は、一体何を。

 

「…籠目さん」

「はい」

「あまり、嗅ぎ回っていると長生きできませんよ」

「!!!」

「…なんてね」

「面白くない冗談ですね」

「これは失敬。美人な方とする話題じゃ無かったですね」

「なっ」

「いい反応しますね」

「………意地悪な人」

「ははは」

 

部屋の前まで来る。

籠目さんは隣の部屋だったらしい。

 

変な偶然だ…。

 

「…あれ、先週まで空き家だったような」

「それでは、隊長さん。また」

「えっ…ええ」

 

 

…どうやら、冗談がそうじゃないらしい。

 

 

「…まるで蜘蛛だな、あの人」

 

 

獲物がかかるのを、じっと待っているにしてはアプローチが激しいけど。

 

 

「参ったな。けどまぁ、美人だし大歓迎か」

 

 

 



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隊長「休 ま せ ろ ! !」

休みが欲しいと叫んだ隊長の温泉旅行。

当然のようにアクトレスはついてきますよ?


 

 

隊長業務を始めてから結構日にちが経って。

成子坂もようやく建て直して。

 

俺もさ、よく頑張ったと思うんだよ。

 

だからさ…。

 

「休ませろ!!」

 

なんと五ヶ月連勤でござい。

しかも何がすごいってこれ緊急出動なの。

 

ぶっちゃけ成子坂で寝てる日数の方が多い。

余裕が出来てきたとは言え隊長が俺しかいないのがそもそも原因なのだが…。

 

「いい加減死ぬぞ俺…」

 

元々肉体派な仕事をしていたのである程度の激務には耐えられる。

ジニーの言ってた72時間とやらも割と付き合えるとは思う。

 

しかし、しかしだ。

 

「息抜きがしたい…」

 

この一言。

一日くらいなら予定は空く。

けど、それまでだ。

 

大半が寝て終わる。

 

こう、3日…ないし2日は欲しい。

 

「一泊ニ日で温泉とか行きてぇなぁ…」

「そうですねぇ、地方で地酒片手に夜景見たりして」

「あー、良いねぇ…露天もいいな」

「良いですねぇ…たーいちょ、行きません?」

「行きません」

「ちぇー」

 

事務所に一人だったのにいつの間にか話に入ってきていた四谷ゆみを追い払う。

年齢もタメなので割と気心のしれた仲である。

 

「そう言えば隊長さんも相当働き詰めですね」

「四谷さんには負けるさ」

「私は…まぁほら、半分自業自得みたいなもんだし」

「お身体に触らない程度に」

「…はーい」

「さてと、仕事仕事…」

 

どさどさどさ!!

 

書類の棚から何かが雪崩の様に落ちてきた。

…これは、温泉ガイドと観光地パンフ?

 

「これぞ、アーバン忍法ガイドの術!!」

「蛙坂!危ないから天井に潜むなって言ってるだろうが!!」

「とう!」

 

華麗に空中1回転を決めて着地する。

 

「どう、隊長。気になるところある?」

「全く…いやまぁ、気持ちは嬉しいよ。ありがとな」

「にへへ、どういたしまして」

 

蛙坂がはにかんだ。

やる事が突拍子も無いけど、基本的にこの子は誰かの為に行動できる良い子だ。

日向と並ぶと制御不能になるのが玉に瑕だが。

 

「ちょっと隊長さん?私ほっぽっといてJKと和まないでくれる?」

「すまんすまん…しかし、どっかで2日休めねぇかな…」

「え?隊長さん今週末休みですよ。2日」

「にゃーさん…?え、それマジで?」

 

事務所に入ってきた新谷さんにいきなりそう言われてしまった。

 

「…あっ、ほんまやん」

 

隊長、温泉旅行決定。

勿論、一人で。

 

「ちぇー」

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

某観光シャード。

 

「ツーわけで来たぞ温泉街!!勿論一人でな!!」

 

シャード間プラットフォームから降りるなり叫ぶ。

通行人が訝しみながらこちらをみるが気にしない。

 

「さーて、まずは旅館に行く前に荷物預けて紅葉でも見に行くとしますかねぇ」

「Hi!ダーリンこっちこっち!」

「…………気にしない気にしない。俺は何も見てないし聞いてない…」

 

スゴい聞き覚えのある声が聞こえる。

しかもダーリンってお前、彼氏いたのかよ。

 

「もう!無視するなんてひどいよ!」

「あっくそそうきたか!!」

 

後ろから走って来て当然のように右腕絡めてきた。

右腕に柔らかい感触。

ちくせう、男のサガだこれ。

 

「ジニー…着いてきたのかよ」

 

そう、うちのブロンドアクトレスである、バージニア・グリーンベレーその人であった。

 

「ううん!観光で来たらたまたま隊長を見かけたんだ!」

「ダウト!」

「Doubt?NO!I'm seriously!」

「あーもうわかったわかった…トホホ」

 

まぁ、ジニーみたいな子と観光出来るなら役得か…。

 

「なんというか、その辺麻痺するよなこの仕事…」

「麻痺?そんなに酷かったの隊長!?」

「いや、気にすんな」

「大丈夫!隊長の次の仕事は私がペンタゴンで見つけてあげる!」

「話聞け」

 

…騒がしい観光になりそうだ。

 

「とりあえず旅館に荷物預けに行かないとな…ジニー、お前の宿泊先は?」

「えっとね、ここ!」

「…俺と同じとこやん」

「Wow!偶然だね!」

「あくまでしらを切るのか…」

 

この娘、やりおる…。

とりあえず、移動しよう。

 

「ふふふっ、マリ達に自慢しちゃお」

「…やめてくれよ」

 

それは心の底から勘弁願いたかった。

 

「それじゃ、どこから行く?」

「んー…そうだな」

「あら…隊長?」

「………うっそぉ」

 

 




………続く?


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隊長「休んだけど休みじゃなかった」

 

 

「こんな所で会うなんて奇遇ですね。ごきげんよう、隊長」

「ごきげんよう、隊長さん」

「………………えぇ?なんか会うの多くない君たち…」

 

声を掛けてきたアクトレス…まぁ、俺に声かけてくる女なんて基本的にアクトレスだが…は、名高いアマ女の生徒会コンビだった。

 

「Wow…チェリーとシイナじゃん」

「お久しぶりね、ジニー」

「お久しぶりです。…ちえり、ちょっとお邪魔かもしれないよ」

 

コロちゃんが、腕を組まされている俺達を見てそう呟いた。

 

「あー、コロちゃん?これはだな」

「隊長も観光ですか?」

(…おっと、今日はポンコツ生徒会長か)

「そうな「私とお忍びデートなんだ!」コラてめぇ!!」

「あらそうでしたの…アマルテアは本日1泊2日でこちらに修学旅行で来ております」

「お嬢様学校なのに渋くない?」

「理事長がこちらの旅館の経営者と親族なんですってー」

「へぇ…………」

 

温泉旅館のパンフをコロちゃんが見せてくる。

すっごい見覚えある。

 

「隊長!ここ私達が泊まるところだよ!」

「あら」

「ジニー、言わんでいい………」

 

頭を抱えたくなる。

完全にこの二人にはジニーとデートに来たと認識されてしまった。

 

「あら、ちえり。ナデちゃんから電話」

「もうそんな時間?それでは隊長、ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 

アマ女の二人は去っていく。

…しかしまぁ、周囲に見たことある制服姿が多いと思ったらそういう事か。

 

「隊長、見られてるよ?」

「気付いてないふりをしていたかった」

 

以前、アマ女訪問の際に色々噂になっていた為、軽く有名人状態。

アマ女の生徒から必ずと言っていいほど見られている。

 

(気が休まらん……………)

「隊長、行こう!」

「お、わっ!ったく…!」

 

仕方ない、今日はこのお姫様に付き合うとしますかね………。

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

「隊長!見てこれ」

「なんだこれ…あぁ、民芸品か…まだこういうの作ってるんだな」

 

21世紀を再現しているとはいえ、もうその時代から相当な年月が経っている。

手作り感満載の木彫りのお土産だが、こういった技能はまだまだ受け継がれているのだろう。

 

「…隊長、なんか遠い所を見てる」

「そうか?」

「隊長ってさ。たまに…どこか遠くを眺めてるよね」

 

ジニーの表情はいつもの微笑。

…しかし、声のトーンは変わっていた。

 

「最近それが増えてる感じがする。成子坂が忙しくて隊長が追い詰められてる時とか」

「…………さぁな。ただ単に疲れてるだけかもしれん」

「はぐらかさなくてもいいよ。私しか聞いてないんだし」

「…敵わねぇな」

 

思っていた以上にジニーに見られていたらしい。

 

「空だ」

「空?」

 

ジニーが上を指差す。

…上を向く。

 

映し出された空、薄っすらとシャードの天井が見える。

 

「違うよ…ここには空は無い」

「じゃあ、シャードの外ってこと?」

「いや…どこまでも続く、青い空だ…もうこの世には無いけど」

 

映像記録で何度も目にした、地球の青。

それに憧れて、でも叶わない小さな夢。

 

「俺の夢って、言ったことあったっけ」

「…ううん」

 

ジニーは茶化さず聞いてくれている。

 

「空を、飛びたいんだ。どこまでも続く青い空を」

「…Dreamy。でも、嫌いじゃないよ」

「そっか。なんか、しめっぽくなっちまったな…」

「隊長。話してくれてありがとう」

「………こっちこそ、聞いてくれてありがとう」

 

そこで、ジニーの腹から何か音が鳴る。

 

「…なんか食うか」

「………あはは」

 

 

続く………?

 

 

 




中編的な物になってしまった。

あと、なんとなくシリアス。


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隊長「休みって…なんだろうな、ジニー」

隊長の休日、後編。
隊長の休みなんてアクトレスの為にある様な物だしね?

…この隊長、いつかぶっ倒れないかな。


 

あの後、ジニーにあちこち引っ張り連れ回され写真もかなり撮った。

…なんか半分以上ツーショットな気がしたけど気のせいだと思う。

 

時間帯がいい感じになったのでそのまま旅館に入ってジニーと別れた。

 

「ふぃー、やっとひとりになれた…」

 

案内された部屋で荷物の鞄を置く。

貴重品だけは持って旅館内を散策しよう。

 

…アマ女が来てるだけあって内装は古き良き日本の旅館そのもの。

隅々まで手入れされていて清潔感に溢れていた。

 

「さて、温泉は…ん?時間帯で男女変わるのか…じゃあこの時間に来るか」

 

今は広い方が女湯になっている。

後でまた来よう。

 

自販機の並ぶコーナーの一角にビールの自動販売機を見付ける。

 

「…自販機で酒買うとなんか割高な気がするんだよな…」

 

まぁ、料理の方にビール付いてたし買う必要は無いか…。

 

「Hi!隊長!」

「ジニーか。今から風呂か?」

「そうだよ!隊長も一緒に入る?」

「いや、俺はもう少し後にするよ」

「そうなんだ。それじゃあね」

 

…おや?さっきまで執拗に絡んできたのに、やけにあっさり去ったな…。

 

「まぁ、良いか…」

 

さて、時間まで何しようかな…。

 

「隊長、ごきげんよう」

「…紺堂?」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「…コロちゃん達と一緒じゃなくて良いのか?」

 

旅館のロビーに座る。

対面に紺堂も座った。

 

「私も、流石に四六時中しいなと一緒に居るわけではありません」

「親しき仲にも…か」

「しいなにもしいなの交友関係と言うものがありますから」

「ふーん…で、紺堂は何で俺と?」

「せっかく会ったのですから。少し語らいたいと思うのは変かしら?」

「…………俺なんかと?わざわざここで?」

「女性に誘われてその様な物言いをするのは、無粋でしてよ」

「そりゃ失礼した」

 

非難がましい視線を投げてくる紺堂を軽くあしらう。

…階段の方から賑やかな声が聞こえる。

紺堂は続けた。

 

「隊長、貴方は今日楽しいと感じていましたか?」

「え?そうだな…ちょっとワガママなお嬢さんと一緒にそこら中を歩き回ったな…」

「お嬢さん…ああ」

 

納得行ったように相槌を打つ。

…しかし、この言い方…まるで。

 

「…楽しくなかったのか?」

「それは…しいなと一緒でしたし、楽しく無い訳が…」

「以前、言ったな」

 

紺堂地衛理は、戦いの中でしか自由を感じられない。

 

「お前さ…もう少し肩の力抜いてもいいんじゃないか?」

「どう言う事ですか?」

「家とか、アウトランドとか、生徒会長とか、とにかく肩書なんて全部ぶん投げてその場その場で泣いたり笑ったりすれば良い」

「そんな事…」

「しても良いんだ。お前はまだ子供なんだから」

「…ふふふっ」

 

紺堂が薄く笑う。

面白い事を言ったつもりは無いんだけど。

 

「やはり、貴方は面白いですね…私を子供扱いする人間なんて今まで居なかった」

「そうか?…ま、少なくとも俺は子供扱いするぞ。大事なアクトレスだし」

「大事なアクトレス…」

「ああ」

「私も、貴方に大切にされているのですか?」

「まぁ、そうなるな」

「そうですか…ふふふ…」

 

…あれ、これなんか拙い事になってないか。

紺堂は立ち上がる。

 

「楽しい一時でしたよ、隊長…ごきげんよう」

 

笑顔と言うのは、元々攻撃のサインだったとか云々。

 

「…こえぇ」

 

美人の笑顔が怖いと思ったのは初めてだ。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「はぁー…………いい湯だ」

 

時刻は23時前。

流石にこんな時間に風呂に入ろうと思う人間は居ないのか、露天風呂は貸し切り状態だった。

 

「あー生き返る…日頃の疲れも取れるってもんだ」

 

風呂は良い。

人類の作り出した文化の極みだ。

…誰かが入ってくる気配がする。

俺以外にも物好きは居たらしい。

 

「ごきげんよう」

「ヴェァッ!?」

 

ウッソだろオイ!?

 

ナンデ!?紺堂ナンデ!?

 

「お、おまおおお前!?ここ今男湯だぞ!?」

「大丈夫です。表に清掃中の札を出しておきましたので」

「だっ、オメー流石に拙いだろこんな時間に!」

「この程度可愛いものでしょう」

「あのだな…」

「失礼します」

 

こいつ、ごくナチュラルに隣に座りやがった。

視線を向けないように背を向ける。

 

「…良い湯ですね」

「あ、ああ…」

 

…会話が続かない。

 

「……………」

「……………」

 

紺堂の方は見えない。

何をしに来たのだろうか…。

 

「さ、先に出る!」

「あっ、隊長…」

「隊長、背中流しに来たよ!!」

「ちっくしょおおおお!!」

 

知ってた。

何となくこうなる気がしてたんだ。

体にタオル巻き付けたジニーがそりゃもうにっこにこで入ってきたよね。

 

……いやいや君顔真っ赤じゃん。

無理すんな。

 

「あれ、チェリー何してるの?」

「ごきげんよう。隊長とご一緒していました」

「ふぅん…さ、隊長!」

「隊長」

「あ、あのなぁお前ら…出てけ!!」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「なんか全然休んだ気がしねーや…」

 

旅行から2日後。

結局あの後気が済むまで湯船に浸かって行った。

まぁ、成子坂の皆に土産も買ったし仕事また頑張りますかね…。

 

「おはようございま」

「隊長!!!!」

「ひぎっ」

 

事務所に入った瞬間アンブッシュ。

相手は四谷さんだった。

スーツのネクタイを引っ張られている。

首が、締まる…!!!

 

「これどういう事か説明して下さい!」

「な、何が…ゲェーッ!?」

 

SNSに投稿されていた俺とジニーのツーショットだこれ…!?

 

「隊長、見損ないました…」

「にゃーさんまで…」

「ほーう、1泊2日で美少女アクトレスとよろしくやった訳だ」

「ゲェーッ!?神宮寺真理!?」

「さぁ隊長!洗いざらい吐いてもらいますよ!」

「や、やめ…来るな…!あっ小鳥遊に吾妻!ちょ、HA☆NA☆SE!!うわぁぁぁぁぁ!?」

 

…今度こそ、休暇は一人で過ごそう…。

 

 

 



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隊長「メガミデバイスって?」シタラ「ああ!」

メガミデバイスと兼志谷とダラダラ話すだけの回。

たまにはグダクするのも良いよね。


 

「いや、答えになってないけど」

 

成子坂製作所。

その談話室にて。

俺こと成子坂アクトレス部門隊長と、所属アクトレスの兼志谷シタラが向かい合って座っていた。

 

お互いが座るソファの間にある机の上には、メガミデバイスと書かれた箱が置かれていた。

 

「あれ、隊長は前に出た楓さんのキット買ったんじゃなかったの?」

「前…なんの事だ?」

「ありゃ、違ったかな…」

 

スマホで調べた者によると、ユーザーによる改造を推奨されたキットらしい。

 

「とりあえず女の子のプラモデルって認識でOK?」

「OK!」

 

ドスン!と兼志谷が新たな箱を机の上に置く。

どうでも良いがどこから出したんだ。

 

「発売されたばかりのSOLラプター!隊長は買ったかい?」

「いや…俺パワードジム組むのに忙しかったから」

「隊長またジム組んでたの…」

「そうだぞ。その前はMGジムスナイパーカスタム」

「あー、あれ可動すごいって話だけど」

「凄いぞー。やり方によっちゃ片手で逆立ちする」

「すっご!」

 

談話室のドアが開き、百科が入ってきた。

 

「…隊長、休憩もそこそこにして貰えますか?」

「今日の作業全部終わってるけど」

「一応勤務時間です」

「ったく、文嘉は相変わらずかったいなー」

「シタラ、あなたねぇ…」

「了解っと…じゃあアクトレスの勤務割りでも見直そうか」

 

机の上の箱を見る。

…あれ、なんか増えてる。

 

「待て待て待てどっから出したんだ」

「ふっふっふ…隊長をメガミ沼に沈めるために用意したのだよ…」

「お前ェ…ちゃんと貯金してるのか?」

「大丈夫ですよ隊長。こう見えてシタラちゃんと目的のために貯金してるので」

「ちょ、文嘉!」

「へぇ、やるじゃない(ニッコリ」

 

人は見かけによらないという事か。

時計をふと見る。

…あれ、夕方やんけ。

 

「百科、時間」

「あっ…すみません隊長…」

「さては、本読んでてな?」

「うっ…それは…その…」

「おー?文嘉ー?」

「いいじゃないかな。それだけ余裕が出てきたんだから」

 

百科の頭に手を置いてぐしぐしと撫でてやる。

 

「ちょっ…隊長…もう」

「目の前でいちゃつくんじゃねぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「で、メガミデバイスって?」

「ああ!」

「もうやった」

「テヘ☆」

 

可愛いなぁこいつもう。

話が脱線しまくってが雑談ってこんなもんだと思う。

 

「で、隊長ってどんなメガミ好き?」

「弓兵」

「…好きだねぇ隊長」

「大きいのはいい事だ」

「隊長、やはりここは比較的新しいキットであるわた…吾妻楓などどうでしょうか」

「吾妻。ステイ」

「はい…」

「隊長、今度私も出るよ」

「小鳥遊はfigmaだか、」

「うん…」

「ねぇ隊長。なんでドアの音してないのにこの二人がいるのかは突っ込まないんだ」

 

えぇ?なんの話かな…。

 

「隊長、これちょっと趣味が出すぎてない?」

「そうか?柔らかい雰囲気で好きだけど」

「隊長はこういった方が好みなんですか?」

「まぁな」

「じゃあ私とか!どうかな!」

「まずはそのほっそい身体に肉付けてから言ってくれ神宮寺」

「辛辣ゥ!!」

 

今誰か混ざってた気がするけど気にしない。

 

「でもさ隊長。カスタムって良いよね、専用機っぽくて」

「お?俺にその話するか?その手の事には長いぞー。量産型カスタム機とかめっちゃ好きだからな」

「わかるー!いぶし銀みたいな活躍する量産型とか良いよね、ね!」

「ジムカスタムとかどうだ」

「バニング大尉!」

「俺はオーバーフラッグが好きだ」

「人呼んで、」

「グラハムスペシャル!」

 

いやー、この歳になってこんなにトークが弾むとは。

 

何だかんだこのまま日が暮れるまで喋り続けていた。

 

 



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隣人と筑前煮

深沙希さんに寿命縮めさせられる話。

最近真面目にしすぎたからただ駄弁ってるだけが続きます。



 

「あ…おはようございます」

「籠目さん。おはようございます」

 

朝。

可燃ごみの袋を抱えてドアを開くと目の前に黒髪の美人さんが立っていた。

 

籠目深沙希。

 

AEGiSの職員らしいけど先日成子坂に派遣され、なんというか…俺の部下ということに。

 

「今日は、成子坂に来るんですか?」

「はい。隊長の指揮で今日は戦闘に参加しますね」

「あー、了解。頼りにしてます」

「やめてください…私なんて隊長のエースの方々に及びませんよ」

「いやいや…」

 

彼女は実際優秀だった。

と、言うよりヴァイスの死角から瓦解させる能力に長けているとでも言えばよいのだろうか。

チームで戦闘しているのに必ずノーマークとなる瞬間を作る事ができる。

 

また、彼女の持つH.D.M.が特殊すぎるのだ。

展開し、ヴァイスの攻撃を受けると発動するという状況を選び過ぎる代物。

しかし、その分高火力で何度も勝利をもたらしてくれた。

 

「良ければご一緒しますか?」

「お、役得かな…是非とも」

 

こっちに来てる間は、それなりにゆっくりしてもらいたいものだ。

 

 

 

 

《通勤中》

 

 

「そう言えば。籠目さんはどうしてあそこに住んでるんです?AEGiSからは結構離れてますけど」

「それは…」

 

住んでるアパートは成子坂には近いけど、AEGiS支部にはわりかし遠かったりする。

 

「成子坂に派遣が決まったので」

「え、わざわざ引っ越してきたんですか!?」

 

それは割と申し訳無い事を…。

 

「大丈夫ですよ。AEGiSから補助は出ています」

 

それなら良いのだけれども。

 

「…」

「…」

 

会話が途切れる。

なんというか、籠目さんもあまり喋らないせいか黙ってしまうとそのまま沈黙が支配する。

 

ちらり、と隣で歩く籠目さんを見る。

…AEGiSの制服をしっかりと着こなし、背筋もぴっしりと伸び、凛とした雰囲気を出しながら歩く。

ふつくしい…。

 

「…隊長?私の顔に何か?」

「えっ、アッ、いやーアハハハ」

 

誤魔化しが下手すぎた。

籠目さんも疑問符が浮かびまくっている顔をしている。

 

「で、ちょくちょくうち盗聴してるのは何でですかね」

「!?」

「…まぁ、小鳥遊とかジニーとか居るし今更驚きませんしまさかホントに仕掛けてるなんて」

「い、いえ…覚えがないですね」

「アハハハ、ですよねー」

 

部屋に盗聴機転がってるとか冗談としか思えないよな(白目)

 

「隊長、私はこれでもAEGiS情報部の職員ですので…良ければお手伝いしますよ」

「え、本当ですか。助かりますよ」

 

これで部屋の怪しい機械が一掃できる。

 

「く、苦労されてるのですね…」

「慕われてるみたいだから強くは言えない…」

「ふふふ…貴方も、おもしろい方ですね」

「そうですか?まぁ、悪い気はしませんけど」

「私も、大事にしてくれますか?」

「えっ、あ、あぁ。もちろん」

 

 

心臓が止まるかと思った。

 

この人本当に側に居ると寿命縮むタイプの人だわ…。

 

 

 



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ある日の成子坂

休日の成子坂製作所。

年末だけどアクトレスとダラダラしてるだけ。


 

朝。

目覚めは悪くない。

 

年の瀬が迫る中の早朝はやたらと寒い。

思わず布団にくるまりたくなるがぐっと堪えて洗顔を済ませ軽く朝食を取る。

 

テレビを付けてニュースをチェック。

丁度宇佐元が受け持つ番組がやっていたので目を通す。

 

AEGiSから受け取った端末に依頼が無いかチェック。

 

…特になし。

 

なんかヴァイスの方も出現数が極端に減っている。

向こうも忘年会シーズンなのだろうか。

 

「…あほくさ」

 

スーツに袖を通す。

さぁ、出社するか。

 

「あ、おはようございます隊長」

「おはようございます、籠目さん」

 

玄関を出ると、隣人の籠目さんに遭遇する。

うーん、今日も綺麗。

やる気が出てくるったらないね。

毎日『偶然』玄関出るとか考えちゃいけない。

 

「今日は籠目さんオフですよ。ゆっくりしててください」

「いえ、隊長も大変でしょうしお手伝いしますよ」

「いやいや、自分の仕事くらい片付けますよ」

 

なんか最近籠目さんの俺を見る目が優しい。

 

この前の盗聴機の件から大分同情されてる感じがする。

 

「お体にはお気を付けてくださいね…?」

「ありがとうございます。それでは」

 

さて、出社しよう。

 

 

 

 

AM10:00

 

 

書類の整理をしていると、談話室からアクトレスがひとり出てきた。

 

「隊長、ヒマすぎて死にそうだよ」

「10分前にも同じ事言ってたなジニー。休みの待機シフトなんだからくじ運のなさを呪え」

 

ブロンド美少女のグリーンベレー。

休日シフトで入っていたので待機してもらっていた。

 

「構って♪」

「仕事が終わらん。あとにしてくれ」

「さっきもそう言ったじゃん」

「こっちも休日出勤してるから事務員足らないんだ。勘弁してくれ…」

 

午前中で終わるとイイなー程度に作業していた。

…見通しは甘かったと言わざるを得ない。

 

「フミカは?」

「休ませた。年頃の娘さんにあんまり働かせたくないし」

「…ほっとくとずっと書類触ってるし」

「新谷さんは別件だし。ほら、兼志谷と舞と遊んでこい」

「舞がなんか語り出して」

「兼志谷…」

 

基本的に良い子なんだけど暴走すると手が付けられないのがネック。

…常識人枠だと思ったんだけどな。

 

「もうしばらく辛抱してくれ。終わったら構ってやる」

「約束だよ。破ったら今度デートしてもらうから」

「…前から疑問だったんだけど」

 

俺、ナンデこんな慕われてる訳?

 

「隊長何だかんだ優しいからね」

「兼志谷」

「隊長さんは…その、いつも気遣ってくれて…話しやすいです」

「二子玉まで…」

「ウチで隊長の事嫌ってるアクトレスなんて居ないんじゃない?」

「それはそれで嬉しいけど」

「後はたいちょーが腹括れば解決なのだよ」

「何だよ腹括るって。俺は女性と健全な付き合いをしたい」

 

彼女はいないけど。

 

「健全な付き合いて…たいちょー今どきそれは」

「やっぱり東京シャードの男の人って消極的だよね」

「隊長さん。男の人は男の人と、女の子は女の子と付き合うべきだと懐います」

「二子玉?大丈夫?起きてる?寝言は寝てから言おうね?」

 

やばいさっきから書類がなんか進まない。

 

「昼コースか…先に飯買ってこよ」

「あ、じゃあ冷やし中華で」

「あ?ねぇよんなモン」

 

季節考えろ。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

PM1:00

 

「…終わった」

 

覚悟してたけどそんなに苦行ではなかった。

さて、後は緊急の依頼がない限りフリーか…。

 

「…本でも読むか」

 

何となく気まぐれで買った文庫本を取り出す。

栞が最初の方のページにあるのは読む暇が無かったから。

本を開き読み始め…。

 

「とーかちゃん参上だゾ☆」

 

なんか来た。

 

「下落合?どうしてここに?まさか、自力で…」

「いつも自力よ!!」

 

江古田のロコドル、下落合桃歌が現れた。

なんの前触れもなくえらく唐突に。

 

「で、どうしたんだ?こんな休みに」

「別に…この前のお礼よ」

「お礼?」

 

はて、なにかしただろうか。

 

「忘れんじゃないわよ。誕生日よ誕生日」

「あー、アレ?別に礼なんか言われる程じゃ」

「今日び誕生日にわざわざ手作りのプレゼントくれる男が居るもんですか。とーかちゃんアイドルだからそんなファンは大事にしたいの」

「下落合…」

 

ええ子やんこの子…イロモノとか思ってごめんよ…。

 

「ほら、差し入れ」

「ありがとう」

 

紙袋を受け取る。

中身は雑多な菓子類。

あとで兼志谷達にも分けるか。

 

「それじゃ、仕事頑張って」

「おう。ありがとな」

 

答えはなく、そっぽを向いてそのまま出ていった。

 

「可愛いとこあるじゃん、あいつも」

「ふーん…隊長、ああ言うのがいいの?」

「悪くはな…ジニー、お前何してんの」

「隊長が約束破って他の女とおしゃべりしてた」

「おまっ!人聞きの悪い!?」

 

このあとめちゃくちゃご機嫌取りした。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

PM5:00

結局終業時間ぎりぎりまで四人でス○ブラやる事に。

 

「それじゃ、隊長またね」

「おう、おつかれさん」

 

兼志谷達を見送り、事務所の戸締まりをする。

 

平和な一日だった。

こういう日がずっと続けば良いのに、

 

「いや、違うだろ」

 

いつかヴァイスを殲滅し、仲間たちの仇を…。

 

「…………そうじゃない」

 

仲間たちの想いに報いる為に、空を飛ばなきゃならない。

相棒は粗方修理はした。

後は試験飛行の場を抑えるだけ。

 

 

 

「…空が、遠いな」

 

 

 

 

東京シャードに落ちる夕日を眺めて、ひとりごちた。

 

「隊長?何してるの?」

「小鳥遊…?お前こそ」

 

事務所に鍵を掛けたあと、後ろから声が掛けられた。

 

「私は買い物の帰り。もしかして隊長、仕事?」

「その通り。…小鳥遊のとこは今日おでんか」

 

寒いしちょうどいいな。

 

「隊長も食べてく?」

「おばあさんに悪いよ。遠慮しとく」

「そう…」

 

小鳥遊がしゅんとする。

最初と比べると本当に表情豊かになったなぁ。

頭をぐしゃぐしゃと撫でてやる。

 

「そんな顔するなよ。また今度な」

「…うん」

 

薄くだが、笑顔を見せてくれた。

そんな小鳥遊に別れを告げて、俺は帰路に着いた。

 

(晩飯…どうしよ)

 

飲みにでも行こうかな…。

 

 

 



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夜の蝶をどう愛でる

四谷ゆみのアナザーが出るってよ!!

そんなノリで書きました。
新しい設定が出てきましたけど怪文書なので許して。

ゆみさん好き。


 

「隊長、同伴お願いしまーす♡」

「断る」

 

年の瀬迫る12月末。

成子坂の事務所で書類作業をしていると、所属アクトレスの四谷ゆみが入ってくるなりそう言った。

 

「隊長のいけず。どうせ暇なんでしょう?」

「この書類の山が見えないのかアンタ」

「大丈夫大丈夫、隊長ならパッと片付けるでしょ」

「俺を何だと」

「クリスマスですよ隊長。なーに辛気臭い顔で書類とにらめっこしてるのよ」

 

まぁ、彼女の言い分は一理ある。

単に飲みたいだけなのだろうが。

 

「他の成人組と飲みにでも行ってこいよ、俺は無理だ」

「……ここまで言って判らないとか」

 

小さくなにか呟かれたけど無視だ無視。

書類を裁く手を止めずに言ってやる。

 

「なぁ、何で俺なんだよ」

「女の子とより暁と一緒のほうが楽しいから」

「……名前で呼ぶな」

「だったらゆみって呼んでよ。職場で意地張ってみんなの事苗字で呼んでるの知ってるんだから」

 

実は……俺、彼女とは小中高と同じクラスだったりする所謂腐れ縁幼馴染という関係だった。

しかし、その後進路は別れしばらく疎遠となっている。

まぁ進路が分かれるなんてよくある話だ。

そして、成子坂に入社したところたまたま再会したのだった。

 

「苗字呼びは別に良いだろう」

「必要以上に踏み込むの怖がってるくせにお節介」

「やめろ気にしてるんだから」

「しょっちゅうアクトレス口説いてるって噂になってるわよ」

「この前吾妻にも言われたよそれ。今どきの子と距離感摑めなくてなんて声かけたら良いか」

「それで口説いたわけ?」

「……いや、口説いたわけじゃ」

「あーあ、可哀相に。こんなのに夢見せられてる子達が」

「いやほんと、マジやめてください」

 

思わず敬語が出てきてしまった。

 

「ふふふっ、何それ」

「とにかく、仕事の邪魔だ」

「何よそれ。幼馴染がわざわざクリスマスに誘いに来たってのに」

「お互いそういう関係じゃないだろ?」

「私はいつでも空いてるわよ」

「……散財癖を何とかしたら考える」

 

事務所に二人しか居ないから、昔みたいに砕けた話し方になっている。

昔散々振り回されたから身に沁みて覚えている。

 

「はい、貸して」

「……何を」

「書類。私これでも前職はエリートよ。このくらい手伝ったげる」

「見返りは?」

「クリスマス、私と二人っきりの乾杯」

「……はぁ、乗った。そっちは任せる」

「了解♪それじゃ、片付けましょ」

 

敵わないなぁと独りごちる。

外は雪が降り始めていた。

 

 

今年は、一人じゃないみたいだな。

 

 

「あ、もちろん貴方の奢りね」

「ふざけんな!!」

 

 

 



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隊長の夢2

番外編。
隊長の相棒に関するやり取り。

今年最後の更新は隊長に関して。


 

誰かの前で泣いたのも、相当久しぶりな気がする。

落ち着いてみるととても気恥ずかしいものを感じる。

 

「隊長、落ち着かれましたか?」

「ああ…見苦しいところを見せたな」

 

場所は、聖アマルテア女学院の生徒会室。

俺たち……紺堂地衛理と、上品なソファで向かい合って座っている。

造りが本当に上流階級の家屋そのものなのがまたなんとも……。

 

対面には、この部屋の主紺堂地衛理。

 

「焦る事はあれど、感情を吐露しない隊長にしては珍しい光景ではありました」

「…忘れてくれ」

「ふふ、ではその様に」

 

紺堂が紅茶に手を付けたので、こちらもティーカップを手に取る。

……良い香りがする。

紅茶の種類には明るくないが、そういったことは素直に楽しい。

 

「あれは、以前所属していた部隊に関係があるものですね?」

「……ッ!なんで、それを」

「この程度の事は調べた内には入りませんのよ。隊長も積極的に隠してはいませんでしたし」

「それもそうか……」

 

脱力する。

…しかし、こいつには毎度毎度揺さぶられている気がする。

未成年は趣味じゃないんだけどな…。

 

「なぁ、紺堂」

「何でしょうか」

「あれ、譲ってくれないか?」

「構いませんよ」

「金が必要なら必ず払う。俺を好きに、それこそボロ雑巾の様に使い潰してもらっても構わん」

「隊長」

「だから、頼む……」

「ですから」

「あれは俺にとって……」

「……隊長、少し静かにして頂けます?」

「えっ、あっ、はい」

 

怒られてしまった。

なんとか説得しようとしていたのが露骨だったからだろうか。

 

「お譲りします、と先程から言っておりますが」

「……何だって、それは本当なのか」

「ええ。私達が所持していても意味の無い物ですので」

「……そうか……ありがとう」

「それにしても、随分とご執心な様子。それ程にあれが?」

「……ああ。大事な、仲間達との思い出だよ」

 

そう言い切ると、紺堂は言いづらそうに切り出した。

 

「隊長の居た部隊は、ヴァイスの襲撃で壊滅したと……」

「そこまで知ってたか。それじゃあアイツが何なのかも?」

「いえ、そこまでは……」

 

武器が便宜上付いてはいるが、兵器ではない。

 

「……そうですね隊長。1つだけ《お願い》を聞いていただけますか?」

「お願い?」

「はい。そのギアを修復した暁には……私と、踊って頂けて?」

 

……紺堂地衛理とのダンス。

それが何を意味しているのか分からない訳じゃない。

 

「……乗った」

「そうでなくては」

 

また一つ、俺は夢に戻ってこられたのかもしれない。

 



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アクトレス達と、隊長の年の瀬

遅くなった大晦日編。

この日、集まったメンバーの中に隊長の姿は無かった。

投稿時点では大晦日だったんですよ。
時系列がおかしいのはいつもの事です。


 

 

…除夜の鐘の音が聞こえる。

 

「皆、聞こえるか……また年が変わるんだ」

 

瓶を傾け、グラスに中身を注ぐ。

中身は風情もへったくれも無い日本酒。

 

屋外で晩酌するには流石に寒い。

 

そんな中、俺……鳴子坂製作所隊長、二宮暁は空に向けてグラスを掲げていた。

 

「……第--実験部隊の戦友たちに」

 

 

呟きは夜空に消えていく。

俺はグラスの酒を一息に飲み干した。

 

「……はぁ。今回はいいやつを買った……ようやく余裕も出てきたし」

 

ぽつぽつと、誰かに語りかけるように最近の出来事を綴る。

 

「今は鳴子坂ってとこでアクトレス達の隊長もやってる·…大変だけど良い奴ばっかだよ」

 

グラスにまた中身を注ぐ。

 

「俺が隊長だってよ……笑っちまうよな」

「そんな事無いよ。よく頑張ってるじゃん」

 

後ろから声がかかる。

……ここに居ることは、誰にも言ってなかったんだけどな。

 

「神宮寺さん」

「やっ、隊長」

 

いつもの恰好とは違って振袖を着ていた。

体系がスレンダーだとやっぱり栄えるな。

 

「……何考えてんのさ」

「スレンダーだと振袖が似合うな」

「やだ、隊長酔ってる?」

「かもな」

「……誰と話してたの?」

 

無言で目の前に置かれたもう一本の未開封の酒瓶を指さす。

 

「もうコイツ飲めないやつらと」

「……そっか。隊長の部隊がやられたのって確か」

「そういう事……今日は初詣行ってたんじゃないのか?」

「気合入った可愛い子たちが一人居ないだけで見るからに沈んでたから、居なくなった罪な男を探しに来たのよ」

「……俺は行けないって言ったんだけどな」

「成小坂に人が集まって最初の元旦でしょう?」

「分かってる。けど、割り切れなくてな……」

 

手元の酒瓶の中身を注ごうとして、神宮寺にそれを奪われた。

 

「おい」

「私もご相伴預かって良いかな?」

「それ、結構高かったからな」

「いただきまーす」

「聞いてねぇ」

 

生憎とグラスは一つしか無い。

飲み干して渡した。

 

「んっ……ふふ、今年最後の晩酌の相手が隊長か……皆には悪いことしてる気がする」

「そうか……?俺みたいなやつのどこが良いんだか」

「アンケートでも取って調べてあげようか?」

「あんたが実施する時点でうさん臭くて誰も答えんだろう」

「あ、ひっどい」

 

思ったよりも会話が弾む。

……酔ってるからなのか、口調が素に戻っているのに気付いていない。

 

「……それが、スイッチ切ってる時なんだ」

「なんの」

「話し方。私に基本敬語じゃん、君」

「そう……ああ、そうだったな」

「そっちの方がかっこいいよ」

「と、言われてもな……何だかんだ年上多いし」

「えー、私21さーい」

「そこまでにしておけよ神宮寺」

 

無言で拳が腹にめり込んだ。

恐ろしく早い突きだ…俺じゃなきゃ見逃してたね。

 

「ごはっ……」

「全く……そういうところよ」

「すぐ手が出る」

「うるさい」

「ぐえっ」

 

……そのまま、なんのけなしにお互い笑みがこぼれる。

 

「さて、ホラ行くわよ隊長。皆待ってるわ」

「……しょうがねぇなぁ」

 

今から走れば、0時には間に合いそうだ。

 



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隊長が風邪ひいた話

隊長が体調を崩す話(激寒

誰が見舞いに行くのかひと悶着あったようです。


 

ピピピッ。

 

---38.5°。

 

「…風邪か…風邪だな…」

 

フラフラとフローリングに倒れこんだ。

 

「床つめてー…」

 

今朝、起きたら体がやけに重く、食欲も湧かなかった。

流石におかしいと思い熱を測ると案の定だった。

 

「事務所に連絡しねぇと…」

 

仕事用の端末を手に取る。

 

「もしもし…ああ、文嘉。すまん…風邪ひいた。皆に映すといかんから休む…ああ、その辺の書類は期限が遠いから置いといて。ああ、それじゃ」

 

電話が切れる。

途端に眠気が襲ってくる。

 

「…寝ないと」

 

寝巻のジャージ姿のままだったため、そのままベッドにダイブロール。

 

「…今日のメンバー、誰だったっけな…」

 

そのまま、意識は沈んでいった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

side:成小坂

 

「「隊長が風邪ひいた!?」」

(うわー…)

 

どうも皆さま、お久しぶりです。

百科文嘉です。

 

今日、先ほど隊長から欠勤の報告が有りシフトをどうするか悩んでいたらアクトレスのL〇NEにその情報が貼られ今事務所が混沌としています。

 

「やはりここは私がお世話するしかないのでは」

「楓さん、うちのエースがが風邪貰ったら拙いよ。ここは私が」

「Hey怜、怜もエースでしょ。元気になるならワタシの出番だよ!」

「ちょっとアンタ達ー。若いのが男の家に上がるんじゃないわよ。私が行くわ」

「ゆみさん、隊長の家何で知ってるんですか…」

「ああもう皆さんうるさいですよ!!」

 

つい叫んでしまった私は悪くない。

それでも全員は止まらない。

 

「しからば!来弥さんのアーバン忍術で元気にするでござるよ!」

「来弥ちゃんだけじゃ心配だわ…私も同行しましょう」

「新谷さんは事務所で仕事あるでしょ?」

「あら怜ちゃん。貴女も今日は出撃あるでしょう?」

「ぐぬぬ…」

「じゃあ隊長さんには美味しいご飯を持って行ってあげないとですねー」

「ごはん!私も!私も行きます!」

「杏奈…隊長のお見舞いじゃないの…?」

「真理さんも行く気っすか…」

 

ああもうこれは収拾がつかない…。

 

「ゆみ!貴女はこれから出る組の指揮代行をしてください!あなたたちは準備、新谷さんはこっちの書類を」

「山野さん?!」

 

山野さん…隊長の代打でこの成小坂に派遣されたと聞いてたけど、その話に恥じない能力で場をまとめていった。

 

「すみません、助かりました」

「いえいえ…隊長の方も応援に行かせたので大丈夫ですよ」

「…応援?」

「ええ。今日は非番で、隊長の家の近くに住んでいる方に」

「そんな人、居ましたか…?」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

side:隊長自宅

 

 

…カーテンの隙間から夕陽が差し込んでいる。

目が覚める。

 

「…あ、起こしてしまわれましたか?」

 

寝ぼけ眼で目の前に居る女性が判別できない。

黒いシルエットの…。

 

「籠目、さん…?何故」

「はい。今日は非番でしたので…山野さんに頼まれて、やってまいりました」

「そんな…悪いですよ…移しちゃ、悪いです」

「…病気の時に、誰も居ないというのはさみしいものですよ…旦那様もそう仰っていました」

「そう…ですか」

 

籠目さんの手には土鍋が抱えられていた。

今時えらい古風な。

 

「おかゆですけど…食欲は、ありますか?」

「…はい、朝から今まで寝てましたので腹が減ってしょうがないです」

「ふふふ…なら良かったです。お水も置いておきますね」

 

付けていたエプロンを外す。

…その所作に思わず見とれてしまっていた。

 

「…ははは、籠目さん旦那さんは羨ましい人だなホント…」

「旦那…隊長、私は、未婚ですよ」

「…え?」

 

未婚…?

え、じゃあ旦那って。

 

「旦那様は…その、私を拾って下さり、ここまで育てていただいた養父の事です」

「…うっそォ」

 

あ、やばい。

ショックが大きすぎてまた頭が。

 

「…隊長さん、まだ本調子ではなさそうですね…まだまだこちらも熱いので、起きた時に食べてください。それでは、お大事に」

 

また、俺の意識は沈んでいった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

数日後。

 

「籠目さん」

「隊長さん…もうお体の方は?」

「絶好調。その節はお世話になりました」

「いえいえ…お元気になられたようで何よりです」

 

事務所で作業していた籠目さんに声を掛ける。

結局、二日寝こんだが籠目さんが世話してくれたお陰で全快したのだった

 

「何か今度お礼しますね」

「そんな…悪いですよ」

「こんな面倒かけちまった俺が悪いんですよ…大人しくお礼されてください」

「ずるい方ですね」

「そうですかね…ん?」

 

事務所の裏の更衣室までの出入り口から視線数多。

 

「…どうしたんだお前たち」

「べっつに…何でもないよ」

「隊長、見損ないました」

「私も隊長が居ない間代行頑張ったんだけどなー?ご褒美とか無いのかな、ア・カ・ツ・キさん?」

「ゆみ、お前職場で名前呼ぶなって言ったろ」

「んなっ…!?ちょっとゆみさんどういう事!?」

「ゆみ!!」

「BBAそれまさか!!」

「フフフ…どうかしらね」

「無いからな、断じてないからな」

「貴方たちいい加減にしなさい!!」

 

何故か俺がげんこつ食らった。

解せぬ。

 

「やっぱり、面白い方ですね…暁さん?」

「籠目さん、揶揄わないでくださいよ」

「深沙紀で良いですよ?」

「勘弁してくれ…」

 

 

 

 




…ちょっとこの人に美味しい役やらせ過ぎかな。

あ、籠目さんの絆エピソードのネタバレがあるので見てない隊長たちは注意っすよ!


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隊長!名前で呼んでください!

隊長が腹括る話。

アマ女は今回出ません。
グダグダしてるだけでも書ければいいかなと。


 

 

事の発端は、先日の風邪から復帰した日のことだ。

 

『私も代行頑張ったし、何かご褒美が欲しいなー?ア・カ・ツ・キさん?』

『ゆみお前事務所で名前呼ぶなって』

『『『!!!!』』』

 

以上、回想終わり。

 

「隊長、名前で呼んでください」

「は、はぁ?」

 

成子坂製作所の事務所に入るなり、吾妻と小鳥遊に腕を捕まれ、そのままあれよあれよと事務所の隅に追いやられた。

…気が付くと成人組にも囲まれている。

ジニーとゆみがニヤニヤしながらこっちの様子を見ていた。

あんにゃろう…。

 

「な、何故?」

「隊長、私には歩み寄れって言ったくせに一線引いてるみたいじゃん」

「うぐっ…」

 

それを小鳥遊に言われるのはこうかはばつぐんだ。

囲いその壱の神宮寺と兼志谷からヤジが来る。

 

「そうだそうだー。女の子を泣かせるなー」

「即刻全員名前で呼ぶことを提案しまーす」

「い、いや…そのだな」

「第一ジニーは愛称で呼んでるじゃないですか」

 

新谷さんが痛いところをついてくる。

…呼びにくいやつはあだ名で呼んでたし。

 

「隊長は金髪美少女がお好きなのかなー?」

「待ってください真理さん、この前隊長はリタさんをチラ見してましたよ」

「百科ァ!!」

 

バレて…なぜバラした!

最近成子坂の整備班にやってきたリタ・ヘンシェルさんは金の髪にそれは豊かなスイカを…。

 

「…」

「いっだぁ!?」

 

吾妻にスネを蹴られた。

何故だ。

 

「いやらしい顔をされてました」

「ウッソだろ」

「嘘です」

「えっ、じゃあなんで蹴られたの」

「自分から意識が外れたらこうして振り向かせろと、真理さんが」

「おうこら貴様うちのアクトレスに何教えとんじゃい」

「んー?なんの事かな?」

「隊長、まだ話は終わってませんよ。聞けばゆみさんと話すときだけだいぶ砕けてたらしいじゃないですか」

 

新谷さんが割り込んできてそんな事を言い始めた。

ゆみお前バラしたな…!

 

「私達成人組には皆敬語使って話してたじゃないですか。ちょっと壁を感じるんですよね」

「え、えぇ…」

「芹菜さん隊長困ってるよ。いい年なんだから子供みたいなこと言わないでよ」

「あら怜ちゃん。これは大人の話だからちょっと向こう行っててくれる?」

 

小鳥遊と新谷さんの間に火花が見えてきた。

 

「さぁ、隊長!」

「隊長!」

「あわ、あわわわ」

 

やばい、とにかくやばい。

助けて。

 

「はー、暁?何を差し出す?」

「よ、よつ」

「ゆ・み、でしょう?」

「ぐうっ…」

「隊長!腹括りなよ」

 

孤立。

もう駄目か…。

 

「……………はぁ、分かったよ。付き合ってもない女性を名前で呼ぶなんて気が進まないけど」

「えっ、隊長今どきそんな考えだったの」

「腹括ったのに死体けりかよこの三十路」

「そぉい!」

「見切ったァ!」

「な、何ぃ!?」

 

神宮寺のボディブローを受け止めて抑え込むことに成功した。

いつまでもやられっぱなしじゃないのだ!

 

「隊長、じゃあ呼んでよ」

 

たかな…怜がずいっと寄って来る。

待って、君そんな懐いてたっけ。

 

「…れ、怜」

「っ、わ、悪くないかな…」

「怜ちゃんズルいです、私も!」

「楓!」

 

結局、全員の名前呼ぶまで解放されなかった。

 

 

 

―――――――――-

 

しばらくして。

 

「芹菜、これなんだが」

「真理。アンタまたそんなことして」

「小結…さん。買ってきた食材ここに置いときますよ」

「杏奈、おつかれさん」

「シタラ!遊ぶ前に仕事しろ」

「文嘉ぁー?この書類の資料どこだったか?」

「夜露!行くぞ!活躍してこい!」

「良くやった楓!お前は最高だ!」

「流石だな怜、この調子で頼むぞ」

「リン、ぶちかませぇ!!」

「綾香、二人を置いてくなよ」

「愛花、いつも花ありがとな」

「睦海!?おま、そこ昇竜かよ!?」

「桃歌、サンキュー!」

「後ろだ!やよい!」

「薫子さん!拙い!SPギアを!」

「来弥!今だ!」

「深沙希さん、それはこっちでお願いしますよ」

 

 

……………。

 

なんか、釈然としないと言うか。

 

「?ゆみ、どうしたの?」

「ジニー…いえ、何というか…アドバンテージ、無くなったかなって」

「ま、隊長ヘタレだし大丈夫じゃない?」

「真顔でなんてこと言うのジニー」

 

これ以降、隊長が呼ぶたびにアクトレス達の戦績は上がっていったという。

 

 

 



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相棒、復帰。でも波乱

パイロットとAIの関係ってのが好きなので無駄に性能の良いAIを搭載することにしました。

名前は…まぁ、紛らわしいですがアリス、で行こうかと。


 

聖アマルテア女学院から、所有権が成小坂…の、隊長である俺に…相棒が移った日。

 

「…無理言ってすいません、磐田さん」

「お前さんが珍しく頼みがある、なんてな。しかも、こんな厄介ごとだ」

 

場所は成小坂地下格納庫。

二人して見上げるのは、胴体部分だけになってしまったパワードスーツの成れの果て。

 

「こいつをお前さんが直して、あまつさえお前さんが乗るって言いだした時は何事かと思ったが」

「まぁ普通はそう思わないでしょうが。こいつも一種のアリスギアですし」

「ああ…造りはかなり古いし、機械で補ってる部分が相当だ。こいはギアって言うよりパワードスーツだ」

 

コアブロックからデータを抜き取る。

OSは死んでいない…これなら、相棒も起こせるか?

 

「…こいつAIなんか積んでやがったか」

「はい、何分未熟なシステムだもんでAI補助が無いとまともに動かせなかったんですよね」

「なるほどなぁ…」

『誰が未熟なシステムですか、誰が』

「誰だ…?」

 

響く女の声。

若干機械特有のノイズが混ざっている。

磐田さんが怪訝な顔をして辺りを見渡し始めた。

 

「…そういう意味じゃない、アリス」

「アリス…?」

『どうだか。私のこと3年もほっといた癖に』

「…驚いた。AIがまだ生きていやがったか」

『お初にお目にかかります。パイロット、二宮暁の補助AIのアリスと申します』

 

バイアランを繋いだPCから流れる機会音声。

…こいつ、勝手にPCのプログラム弄ったな。

 

『成小坂製作所の整備班長、磐田様ですね。うちの馬鹿がお世話になってます』

「こりゃご丁寧に…」

「さり気なく俺の事馬鹿呼ばわりはやめてくれない?」

『事実を言ったまでですが』

「こいつ…」

「ま、ここにある設備は好きに使ってもらって構わない。ジャンクだってそこそこ貯まってるから勝手に使え」

「ありがとうございます」

「流石に費用はお前さん持ちだがな」

「いえ、それでも助かります…アリス」

『分かっています。こちらで不足分を提案しますので、物資はなんとかしてください』

 

やっと、またスタート地点に戻ってこられた。

ここからだ。

今度は俺一人で、やらなきゃいけない。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

仕事用のノートPCにアリスを入れてしまったのは、割とまずかったのかもしれない。

成小坂で業務を片付けていた時の事。

提携企業に送る文書を製作していた時だ。

 

『そこ、変換間違えてますよ』

「あ、本当だ…すまんな、アリス」

「…はい?」

「え…?あっ」

 

事務所の中、周囲には結構人がいる。

そして…誰もしゃべっていなかった。

俺が独り言を言っていたか、それとも気がふれたかと思われてしまう。

 

「…隊長?あの、大丈夫ですか…?」

「にぃ…芹菜、いや…これはだな」

「隊長さん、最後にお休みとられたのはいつですか」

「陽子さんまで…俺は正常ですって」

 

『正気で馬鹿をやる人ですから、これが正常なのかもしれませんね』

 

「…えっ」

 

アリスの存在が、速攻でバレた。

 

「…このPCから女性の声が」

『初めまして。パイロット、二宮暁の補助AI、アリスと申します』

「あらご丁寧に。事務員兼アクトレスの新谷芹菜です」

「あ、私はAegisから派遣された安藤陽子です」

『私の主人が迷惑かけてないでしょうか』

「俺の母親かお前は…」

「隊長、そんなものまで持ってらしたのですね…シタラちゃんが作ったのかしら」

『いえ、私は第404実験…』

 

そこまで言われかけて急いでPCのスピーカーを切った。

 

「あら、調子悪いのかしら」

「ま、まだ試験運用中だからな…あはは」

「隊長さん、パイロットというのは?」

「嫌だなー、設定ですよ、設定」

 

…どうせあのギアが完成した時にはここのアクトレス全員に俺の来歴がバレる。

ここで隠し事するのも問題の先送りにしかならない。

 

けれど、つい…隠してしまった。

 

『…ヘタレ』

 

そんな俺の事を察したのか、ディスプレイのメモ帳にテキストが打ち込まれた。

 

「やかましい」

 

作業の経過を保存してPCをシャットダウ…。

あっ、この野郎中からロック掛けやがった。

 

「はぁ…何だかんだ隊長もやっぱり男性なんですね」

「芹菜、その生暖かい目はやめてもらえないか…」

「私は、そういうのも含めて男の人って感じしますけどね」

「フォロー痛み入ります…」

 

諦めてスピーカーをONにした。

 

 

『今後ともよろしくお願いします』

 

 

…今後が不安だよちくしょう。

 

 

 



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黒猫は狙っている

 

アクトレス達を名前で呼び始めてから最近思うことがある。

…何というか、ビミョーに呼ばれると嬉しそうにするのだ。

 

「芹菜、今日の出撃なんだけど」

「!あ、はい。何でしょうか隊長」

 

一瞬驚かれたかと思ったけど、そうでは無いのかもしれないと気付く。

新谷芹菜。

最初は安藤さんの代わりに事務員兼アクトレスとして成子坂にやってきた女性だったが…。

詳しくは話せないので端折るが様々な経緯でアクトレス籍だけ残していた。

…残していた割には結構滞在しているので存分に頼らせてもらっている。

 

「…って事で重力属性が有効な依頼なんだが、安定を取りたくて貴女に頼みたい」

「私で良いんですか?」

「勿論。芹菜が行ってくれたら安心できる」

「もう、隊長ったら口が上手いんですから。おだてても何も出ませんよ?」

「そんなこたぁ無いですよ」

 

彼女は一歩引いた所から全体を見渡してくれる存在として安定に一役買ってくれているのだ。

まだシタラ達はそのレベルに来ていないので、大変貴重な戦力である。

 

「ゆみと並んでもらって、あと一人はどうするかな…」

「隊長、1つ聞いてもいいですか?」

「ん?どした」

「ゆみさんと付き合ってるんですか?」

 

口に含んでいた珈琲を吹き出した。

 

「隊長…」

「何言ってるんだアンタ…どうしてそう思った」

「いえ、距離が結構近いので」

「そうかぁ…?」

 

確かに、何だかんだクリスマスも一緒に(飲み)過ごしていた。

 

「あいつとは腐れ縁の幼馴染だしな…」

「そうだったんですか!?」

「え、そこ驚くのか?」

 

関係ないけど、芹菜は驚くと瞳が小さくなり何となく猫みたいに見えて可愛らしい。

話が逸れた。

 

「いえ、だって…」

「だって?」

「…何でもないです」

「そうか」

 

小さくうかうかしてられないとか聞こえたけど気のせいだ。

…何度も言う様だが彼女、何となく気まぐれだったり急に甘えてきたりする。

やっぱりちょっと猫みたいだな。

 

「隊長、今回の依頼が終わったらデートしませんか?」

「ゑっ?」

「私、その方が俄然やる気が出てきます。たーいちょ、お願いします」

「いや…そのだな」

「もしかして、私の事が嫌いとか…」

「断じて無い」

「…隊長、やっぱり焦った時が素なんですね」

「からかったのか」

「いいえ?でも、素の隊長の事結構好きですよ」

「そいつはどーも…。狙撃手としてシタラ入れとくからさっさと行ってくれ」

 

これ以上ペース握られたら堪らない。

はい、と流石社会人。

返事一つで切り替えて、ハンガーへ向かって行った。

 

…途中で振り返って、笑顔で一言。

 

「デート、楽しみにしてますから」

「じょ、冗談じゃ」

「それじゃあ隊長。戦果、期待しててくださいね」

 

ウィンク一つ飛ばして去っていった。

…本当に、猫みたいだ。

 

 

 

その日の彼女は、過去最高クラスの成績を叩き出し、改めてデートをねだったとか。

 

 

「うっそぉ…」

 

 

どうしてこうなった。

 

 

 




芹菜さんの親密度エピソード見てハートやられたので即興で書きました。

気まぐれだけど一途な感じにしたかったよ…。
ただの妄想として完成したけど後悔はしていない(


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隊長「俺達」有人「入れ替わってるッス!?」

唐突に思いついたネタ。
女の子と入れ替わるかと思った?残念!野郎です。
珍しく他の男が出てきます。


 

 

「何で!?つか寄りによっておめーかよ!?」

「知らないッスよ!俺だって女の子が良かったッス!!」

 

成子坂の昼下がり。

バイアランの整備中、俺が足を滑らせた所近くにいたギア整備員の有人と激突。

そして今に至る。

 

「いってー…頭まだ痛え」

「とにかく、どうやって元に戻れば…はっ!」

「あ?何か思い付いたか?」

「今この体ならアクトレスの誰かと…」

「手を出したら生まれてきた事を 後 悔 さ せ て や る 」

「ヒェッやりませんよ!?」

 

見た目俺がおっかなさそうに怯んでいる。

我ながらとても情けない光景にちょっと目を疑う。

 

「参ったな…これじゃ皆の前に出る訳にゃいかねぇし」

「大体信じるかどうか…」

「それな…」

 

大の大人が二人して頭を抱える。

なんなのだこれは。どうすれば良いのだ。

 

「そうだ!同じ衝撃が加われば…」

「俺はゴメンだぞ。あの高さらか落ちるなんざ避けられた暁には死ねる」

「新手のギャグッスか?」

「あ"?」

「…スイマセン」

 

こんな所誰かに見られる訳には…。

 

「あ、こんな所にいた」

「「あ」」

 

バイアラン整備ハンガーへツナギの女性が現れる。

 

金の髪を無造作に一つに縛った女性、彼女はリタ·ヘンシェル。

成子坂整備班の救世主にしてアクトレスだ。

 

「隊長、頼まれた機材持ってきたけど…わぁ、これがバイアラン?super!」

(ちょ、暁さん何呼んでんすか!?)

(そうだった完全に忘れてた!話を合わせてくれ)

(えっちょっとムチャっすよ!?)

「男二人でなにコソコソ話してるのよ…」

「い、いや…何でもないぞ?」

「?アリト、そんな喋り方だっけ」

(うわぁぁぁぁ暁さん何してんすか!?)

(うっせぇお前のキャラなんか知るかよ!?)

「…で、隊長。持ってきたので受け取ってください」

「ありがとうリタ。やっぱり君は天使だ」

 

思いっ切り鳩尾に拳を突き刺した。

 

「お、ばっ…!?」

「え、て、天使って…大袈裟よ隊長」

(なんだてめぇその歯の浮くようなセリフは!?いつ言った!?)

(えええぇ暁さんとりあえずアクトレス口説いてるじゃないですか!!)

(じゃかぁしい!!とりあえず話進めろ!!)

「リタ、このあと暇?食事でも…あイダッ!?」

 

脛を力の限り蹴飛ばす。

くそ、体が自分の物じゃないから思ったより力が入らない。

 

「た、隊長そんな…ゆみに悪いって」

(口説くなっつってんだろオラァ!)

(い、いや…口が勝手に)

(俺が女性にだらしねぇみたいじゃねぇか)

(え、違うっすか?)

(表出ろ。殺す)

「隊長、冗談でも辞めてくださいよ」

「す、すんませんッス」

「…隊長?」

「あー、ちょっと暁さん調子悪いみたいッスね。帰って休んだほうが」

「か、かもな?ちょっと熱っぽいし」

 

即興にしては悪くない小芝居。

有人がとりあえず引っ込めば俺が何とか誤魔化してこの場を収められる。

 

「えっ、隊長大丈夫なの?」

「ふ、ふぉっ!?」

 

…リタが、有人のおでこに自分のおでこを当てた。

えっ、君そんな事するキャラだっけ?

 

「うわ、熱い…こんなになってまで整備してたの…?」

「あ、あわあわあわ」

「もう、仕方ないんだから…私もギア弄るの好きだし判るけど」

 

やべーよやべーよ。

俺の顔がめっちゃ真っ赤になってるのを傍目にするのはとても妙な気分だ。

 

「じゃ、隊長…お大事に…キャッ!?」

「「危な…!?」」

 

リタが整備室を出ようとしたとき、彼女が持ち込んだ機材に足を引っ掛けてバランスを崩し…。

俺(有人)がリタの背中を受け止める…もそのまま後ろに倒れ、

何故か俺の後ろにいた有人(俺)の顔面に後頭部がぶち当たった。

 

「「ぐえっ」」

 

いってぇぇぇぇ。

この野郎顔面はやめ…ん?なんだこの柔らかいの…。

 

「…隊長、受け止めてくれたのは嬉しいけど、その手を今すぐ離して…ぶっ叩くわよ」

「えっ、あっ、それは…すまん!!」

 

すぐにリタを立たせてジャンピング土下座。

…いやしかし、柔らかかっ…。

 

…あれ、

 

「…………戻ってる?」

 

視線を下に向ける。

見慣れた服に靴。

 

後ろを見ると、目を回して伸びている有人が倒れていた。

 

「あっ…戻った。良かった…」

「何が良かったのよこのスケベ!!」

「違っ…リタぶふぉあ!?」

 

スパナが顔に直撃した。

 

今日は、厄日だ。

 

 

(いやでも、帳消しか…)

 

 

俺はまた意識を失うのだった。

 

 

 



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黒猫怪盗シャノアールVS未亡人捜査官アラーニェfor隊長

隊長「なんか巻き込まれたんだけど」

アリス『諦めてください』

隊長「そんなー。あっやべぇ助けて!」


相棒初戦闘。
ノリと勢いで書いたけど割とシリアスなのでは…。


 

ある日の夜中。

たまたま前の職場の知り合いと飲みに行き、帰りがけにたまたま会ったゆみに引っ張られ飲み屋を三軒ほど梯子した後の事だった。

 

「…ん?人?」

 

アルコールが入り熱を持った頬を冷たい風が撫でる感触が心地良い。

…が、目に入ったのはあまりにも異色だった。

全身スーツの黒髪の女がビルの屋根から屋根へ飛び移り疾走していたのだ。

 

「…何だあれ」

 

酒の入った頭では考えがまとまる訳でもなく、そんな事もあったな程度の出来事として処理されるだろう。

しかし、まぁ。

 

「…いい体してるな」

 

俺は平常運転です。

 

 

 

 

―――――――――――翌日。

 

 

 

 

 

 

「芹菜さん、シャノアールさんにその様にお伝え出来ますか?」

 

喫茶店に入り、コーヒーとケーキのセットを頼み至福の時間を堪能している時であった。

 

(…シャノアール?)

 

シャノアールとは、世間を騒がす怪盗…とまでは行かないが、様々な企業へ夜な夜な侵入し、闇に葬られた不祥事、汚職を暴き夜に知らしめていると言う。

現代に生きる義賊、と取る人もいる。

 

(この声、深沙希さんか?それに、芹菜って)

「分かりました、深沙希さん。必ず伝えますね」

「ありがとうございます」

 

ちらりと後ろの席を見やると、ボックス席で二人がそんな話をしていた。

聞かれてるけど大丈夫なの君ら。

 

「それでは失礼します」

 

深沙希さんが立ち上がったので慌てて前を向く。

見られては居ないだろうが、何となく居心地が悪い。

 

「…明日の夜零時、アマカサ商事か」

 

芹菜?聞こえてるから。

駄目だろそう言うの呟いちゃ。

 

 

 

 

―――――――――――深夜零時。

 

 

 

 

アマカサ商事前。

 

「…来てしまった」

 

何となく仕事を終わらせ、何となく足を運んでしまい、何となく野次馬しに来てしまったのだ。

目の前のビルには灯り一つない。

ホワイト企業と言うことで割と好評な企業の一つであるここに、闇に隠さなければならない秘密でもあるのだろうか…。

 

「動かないでください」

「…っ!」

 

背後からかけられた声。

背中に押し当てられる硬い物。

反射的に振り返ろうとするが、相手の手がやんわりと左手首を摘み…。

背中から上方向へ捻り上げた。

 

「う、ぎぃっ!?」

「質問します。貴方は何故ここに?」

「あ、あんたみたいな美人に会いたいからかな…」

「お上手ですね」

「いやちょっと、痛いから。褒めてるんだから手心とか無いのか!?」

「あまり効いていないよう見えますが」

「…バレたか」

 

手を離された。

しかし、背中の感触は消えない。

なので、両手を上げる。

 

「二宮暁さんですね?」

「よくご存知で」

「今貴方のことを知らない企業なんてありませんよ」

「…えらく有名になったな俺」

「ご活躍は私共にも耳に入る程ですよ」

「あんたらが何者か知らないんだけど…シャノアールじゃなさそうだ」

 

この状況、思ったよりヤバい。

生殺与奪権を奪われてい上にこちらの正体は割れている。

どうする。どうやって切り抜ける。

 

「アラーニェ!あなた何を!!」

「来ましたか、シャノアール」

 

ウッソだろおい。

 

「たいちょ…げふん!アラーニェ、その人を離しなさい。無関係な筈よ」

「それは出来ません、シャノアール。私達しか知らない計画をこの人は知っていました」

「…それは本当に?」

「ええ。ですから、処分を」

 

サラッと恐ろしい事を言ったぞこの人。

拘束が緩まったので手を振りほどき二人の姿をせめて拝んでおく。

 

「あっ」

「…困りました」

 

方やぴっちりとした全身スーツの女。

もう方や豊かなバストと際どすぎるラインの女。

 

「うわ…」

「ちょっと、たい…そこの貴方、なんで今引いたんですか」

「いやだって…その格好…」

 

コスプレやないかい。

 

「…アラーニェ!とにかく他人に危害を加えるのは許せないわ!」

「困りました、シャノアールさんに協力がえられないと滞りが」

 

スルーされた。

まぁ今の内に逃げるが吉か。

 

「…ちょっと、待ちなさい!」

 

待てと言われて待つ馬鹿がいるかっての。

 

「とう!」

「ぐえっ」

 

上から降ってきた誰かに踏み潰された。

 

「「来弥ちゃん(さん)!?」」

「む、これはシャノアールとアラーニェ殿。ご無沙汰でござる」

「どうしてここに?まさか、自力で情報を?」

「それが、今回拙者が受けた依頼は…ここの警備でござる」

「「また!?」」

「ら、来弥…いい加減退いてくれないか?」

 

現役JKに背中グリグリされてる。

ローファーめっちゃ痛いからやめて。

 

「た、隊長!?どうしてここに!?まさか、自力で」

「その下りもう良いから」

「それで、お前は何でここにで?」

「それは…」

 

 

『動くな!小汚い怪盗!』

 

 

突如ライトが当てられる。

思わず眼を閉じる…あれ、これ拙いんじゃね?

 

「見つかった…!?」

『玄関でそれだけ騒いでればこうもなろう』

「…仰る通りで」

 

ぐうの音も出なかった。

 

『フフハハハ!今まで散々嗅ぎ回りおって!今日こそ始末してやる!』

 

どこからともなく聞こえる指パッチンの音。

…地面が凹み、下から何かがせり上がってくる。

 

「うわ、良いなこの会社…羨ましい」

「馬鹿なこと言わないでくださいよ!?」

 

俺たちの目の前に現れたのは…緑の角ばったシルエットに、よく見た剣のようなパーツ。

 

「ヴァイスワーカーだと!?」

『そのとおり!どうだ!怖かろう』

「やはり…最近になってヴァイスの廃材を集めていたのは」

「なんだって…こいつを作っていたのか」

 

人がヴァイスを操っている…まぁモドキなんだが。

 

「来弥、今すぐ成子坂に…」

「隊長!無理でござる!この区画から走っても20分は…」

「くそ、今のシフトは…ああ駄目だ!この時間仮眠させてる…」

「ちょっと隊長!逃げますよ!」

「判ってる芹菜!急かすな!」

 

考えろ、この状況を打開するには…。

 

「危ない!」

「あっ…」

 

隣に立っていた黒髪ロングの女性の手を引く。

確かアラーニェとか言ってたけど。

 

さっきまで立っていた場所に剣が振り下ろされた。

 

「あ、ありがとうございます隊長…」

「良いから、走れ!」

 

叫ぶと同時に走り出す。

ヴァイスワーカーモドキも追いかけて来る。

 

「流石にAEGiSが黙ってないだろ!」

「駄目です!あの辺一帯はSINの勢力下で手が出せないんです!」

「何これそんな案件だったのかよ!?」

「アリスギアさえあれば…」

『このヴァイスは特別性でワシの脳波でコントロール出来る!』

「要らん解説始めたぞ!」

 

操縦手は絶対鉄製の仮面でも着けている。

 

「う、わっ!?」

「隊長!?」

 

ヴァイスワーカーモドキの空いた手に掴まれ持ち上げられた。

 

『しかも手足を使わずコントロール出来る!』

「来弥!芹菜!深沙希!ニゲルォ!!」

『こんな時まで仲間の心配か…安心しろ、貴様を消してから全員送ってやる』

「隊長!」

 

やむを得ない…だが、試験運用には丁度いい!

 

『死ねぃ!』

「アリィィィィス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『煩いですよご主人。聞こえています』

 

 

 

 

 

 

 

 

ザン!!

急に訪れる浮遊感。

 

続いて重力に従い落ちる…が、横から伸びてきたクローアームが俺を捕らえた。

 

「だいぶ早かったじゃねーか」

『無人だったのでバーニア全開できました』

「愛してるぜアリス!」

『冗談キツイです』

 

胸のハッチが開く。

すかさず滑り込み、体をコックピットに固定。

相棒を起こす。

 

 

「起きろ、バイアラン・カスタム!!」

 

 

片腕を失ったヴァイスワーカーに肉薄する。

 

『貴様…!何故ヴァイスを!?』

『心外です。ご主人、抹殺許可を』

「待て待て殺すな。まぁアレ人乗ってないけど、さ!!」

 

左のクローアームのストレートがクリーンヒットする。

たまらずヴァイスワーカーが吹っ飛ぶ。

 

「三人とも、今のうちに!」

『敵弾、来ます』

「切り払う!演算任せた!」

 

クローアームの下にマウントされたメガ粒子砲の砲口からサーベルが展開される。

ヴァイスワーカーの胴体に備えられた砲口か弾丸が発射された。

 

 

…が、これを切り払う。

 

『クリア』

「失せろ!!」

 

スラスターを吹かせて、切り払った方とは逆のサーベルを付き出す。

サーベルはそのまま頭部に突き刺さる。

 

『メインコンピュータが!?』

「ふぅ…悪いが破壊させてもらう」

 

そのままサーベルを縦に振り降ろし、ヴァイスワーカーを両断した。

 

『ぐ、ぐぬぬ…覚えておれ!!』

『三流の悪党みたいなこと言い始めましたが』

「ほっとけほっとけ。とりあえず制圧するか」

『その必要は無さそうですよ』

「…え?あ、本当だ」

 

カメラをビルの方に向けると、シャノアールとアラーニェと来弥に取り押さえられたおっさんの姿が。

…部下居なかったのかよ。

 

「片付いたかな?」

『AEGiSと成子坂に提出する始末書と反省文とがまだ済んでいませんが』

「あー…」

 

警察が駆けつける前にずらかろう。

 

 

 

 

――――――――――三日後。

 

 

 

 

AEGiS東京シャード支部で鳳さんにこってり絞られた後。

何故だか知らないが事件の詳細は情報部が揉み消してくれたらしい。

 

何故だが知らんが助かった。

 

 

「…で、だ

『まさかシャノアールとアラーニェの正体が身内とは』

「まぁ、そうだな」

『よくお気付きに』

「何となく所作とか体型とかでつい名前呼んでたみたいだ」

『スケベ』

「何でだ」

「隊長、珈琲どうですか?」

「え?ああ、芹菜。頂くよ」

 

場所は成子坂製作所の事務所。

あれから芹那と話した結果。

 

「出来れば秘密にして頂けると…その、何でもしますので」

「バラさねーよんなもん。いやでもそうか…まぁ、怪我しないでくださいよ?美人の疵は見てられない」

「え、はい…ありがとう、ございます…」

 

とまぁ強引だけど片付けた。

反対側に追加の書類を持ってきた深沙希さんが来る。

 

「隊長、それでは喫茶店でもどうでしょうか。良い豆を使っている所を知っていますよ」

「良いですね…芹那もどうだ?」

「それじゃあお昼休憩も兼ねて行きましょうか」

 

アラーニェこと深沙希の件も、

 

「…情報部の方で規制を行いました。これで隊長の事は世間には割れないでしょう」

「えーと、深沙希さん?どういう…」

「これでお判りになられましたか?今後、もう近付くのは止めて頂けると」

「いや、今の貴方は俺の部下だ。秘密は守るし深沙希を(戦力的に)手放すもんかよ」

「………そう、ですか」

 

なんと言うか、これ以来二人共なんか距離が近いというか。

怜や楓から凄い見られてるのからやめてほしい。

 

「それで、来弥はあそこで何やってたんだ?」

「それは…アーバン流忍術の忍び道具を買うためのろ銀を…」

「お前、ちょっとバイトするところ選んだら?」

 

ヴァイス作っちゃうようなところで働くのはちょっと。

 

 

 



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腕がクローかドリルかで揉める部署

ノリと勢いって怖いよね。
久し振りに外伝の更新。
バイアラン修復中の光景。
こんな感じに賑やかにやってると隊長的に優しい世界だ。


 

バイアランの修復は困難を極めた。

まぁ、整備士一人で何とかするなんて無謀にも程があっ

 

「何言ってんスか!やっぱり人型メカって言ったらドリルっスよ!」

「何と戦う気だ!」

「有人は引っ込んでろ!やはり漢のロマンと言えばグレネード…そう、武器腕」

「新しい…惹かれるな」

「言葉は不要か…」

「駄目だ駄目だ!MSの腕がっつったら汎用性だろ?五本指に決まってらァ!」

 

混沌を極めていた。

どうしてこうなった。

事の発端は有人が興味本位でこのハンガーにやってきた所から始まる。

 

「わぁ…ヴァイスの残骸っスかこれ」

『ご主人、このゴミ虫の抹殺許可を』

「やめろアリス。有人か、何しに来た」

「いや、おやっさんが使ってない大型整備室を急に開けたから気になっちゃって」

「まぁ、いずれ全員にバレる事だし隠す必要はないけどさ」

「それで、暁さんこれなんスか!?」

「こいつは…」

「「ちょっと待ったァ!」」

「…ゑ?」

 

あれよあれよと成子坂整備班が集結し、今に至る。

ちなみに、

 

「へぇ、この子がアリスちゃん」

『初めまして。パイロット、二宮暁のサポートAIのアリスです』

 

普通に紹介した。

そして普通に受け入れられた。

 

「…全く。これだから男の子はいつまでも子供って言われるのよ」

「ヘンシェル。どうしてここに?」

 

気が付くと、整備班に最近配属されたリタ·ヘンシェルがそこに居た。

 

「休憩時間に人が全く居なくなって様子を見に来たの。リタで良いわ、隊長」

「わかった。まぁ、俺もここまで集まるとは思ってなかったが」

 

ふと視線をやると、おやっさんが入り込んで怒鳴っていた。

…懐かしい光景に思わず笑みを零す。

 

「…どうしたの?」

「いや、懐かしいなぁって。俺も昔、こんな感じでこいつ作ってたっけな…」

「…昔?と言うか、作るって…隊長、貴方一体」

「テメェら!漢は黙ってマニュピレーターだろうが!!」

「おやっさん待って!こいつの腕決まってるから!!」

「…ま、いっか。私もこれからヒント貰おうと思ってたし」

『貴女も物好きですね』

「Guten Tag.Wie heißen Sie?(こんにちは。お名前は?)」

『パイロット、二宮暁のサポートAIのアリスです』

「アリス、ね…ほんと隊長って何者なのかしら」

『いずれ分かりますよ。いずれ』

「暁さん!これなんてどうッスか!」

「大き過ぎる…修正が必要だ…」

「美人とAIの組み合わせって萌えね?」

「誰だ今の」

 

何だかんだアリスも受け入れられたし、相棒も悪い様にはされないだろう。

 

やっぱり成子坂はいい所だった。

 

 

「でもとりあえずこいつの設計は変えないからな!?」

 

「「えぇー!!」」

 

 

恵まれた環境だと再確認出来た。

 

 

『ご主人、修復いい加減進めてください』

 

「あ、ごめん…」

 

 

 



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指輪争奪協奏曲リターンズ

二人目のリングはどうしようかと一週間悩んだ結果。
あくまでここは本編とは別の世界線です。


 

 

成子坂への着任が、ついこの前一年を迎えた。

生憎とその日は出撃だったが、戻ってきた後アクトレスと整備班総出で祝ってもらい少し気恥ずかしかった。

 

…この後、また爆弾が投下されるとも知らずに。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「ねぇ、暁」

「んん?どしたゆみ」

 

2月某日。

成子坂製作所にて。

まだ早朝なので誰も居なかった。

 

「これで一年目って事はさ、また指輪貰うんじゃないの?」

 

自分の薬指に嵌っている指輪に視線を落としながらそう言う。

結局あれから付ける位置を替えた上に、事務所に居るときは必ず着けている。

 

「…あー。そういやカタログ渡されたなまた」

「ふーん。どうするのそれ。私にくれた時相当悩んでたらしいじゃん」

「そうだな…実はもう決めてある」

「あら、珍しいじゃない。誰か聞いても?」

「…えぇ?聞くのそれ」

「当然でしよ。ほら、吐け吐け」

「あーもう、分かったから。渡すのはーーーー」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「隊長。どうしたのさ、こんな所に呼んで」

 

新宿郊外。

東京シャードで最も人が少なく、そして新宿が一望できる遊歩道の一箇所。

 

そこに俺と…ジニーが居た。

 

「いや、何…ちょっとした話をな」

「事務所でも出来るんじゃない?」

「あんまり人に聞かれたくない話かな」

「ふーん…あ、わかった」

 

ジニーはいたずらっぽく笑う。

 

「ゆみに馬鹿にされるのが嫌だから、私からチョコ貰おうって?」

「…は?」

「なるほどね。事務所だと中止の張り紙に引っかかるから前日で、しかも外なら…考えたね隊長」

 

何か盛大に誤解されたっぽい。

日付を思い出せばそう言えばそんなイベントもあったなと思い出す。

 

「なんてね。はい、隊長。Happy Valentine!!」

 

ジニーが後ろ手に隠していた箱を、俺に差し出した。

 

「え…あ、いや、そんなつもりは無かったんだが…」

「良いのいいの。渡したかったから」

「まぁ、何だ…ありがとう」

 

チョコレートを貰うのは実は高校以来だと言うのは胸にしまっておこう。

 

「お返し、期待してるからね」

「気が早いな…それじゃ、ほら」

「?」

 

ポケットから小箱を取り出し…。

 

「あっ…隊長、それ」

「欲しがってたろ、ほら」

 

6月の誕生石、ムーンストーンがはめ込まれたアニバーサリーリングが納められていた。

 

「…だめだよ隊長。受け取れない」

「それは、何故?」

「だって、私…」

 

言い淀む。

彼女は揺れているんだ。

自分の立ち位置に。

 

「…初めてあった日の事、覚えてるか?」

「どうしたのさ急に。of course.お嬢さんだなんて上手いんだから…」

「二年前…いやもう三年か。ペンタゴンシャード周辺宙域」

「…っ」

 

ジニーが固まる。

散々煙に撒かれたが、今度こそ、この話しにケリをつけよう。

 

「俺の命を救ってくれたアクトレス。ずっと、会いたかった」

「…違う。私じゃない。だって、皆…皆死んじゃったんだよ…」

「けど、俺の手を掴んでくれたじゃないか」

「でも、でも…!」

「お前のその手で、命を救ったんだ。誇ってくれ。それが手向けだ」

「…ずっと、もっと早く行けば間に合ったんじゃないかって。命令を無視したら皆助かったんじゃないかって思ってた」

 

ジニーも、同じ様に後悔を背負っていた。

過去を精算出来るのは、今しかない。

 

「でも私は…ペンタゴンの人間で」

「ジニー」

 

今にも泣き出しそうな彼女の頭を、そっと撫でてやる。

 

「ありがとう。あの時、手を取ってくれて」

「隊、長…うっ…うぅ…」

「もしお前が道に迷う事があるなら。俺がその先を歩いてやる。俺が隊長でいる間、ずっと面倒みてやる」

 

それが俺の、アクトレスに救われた者の使命だ。

その為なら、北条だろうがシャードだろうが相手になってやる。

 

「俺は絶対に、お前の味方だ」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

あれから暫く、ジニーは俺の胸元でずっと泣いていた。

顔を上げたジニーは、涙の跡こそあれど晴れやかな顔をしていた。

 

「うん。じゃあ…貰うね」

「おう」

 

迷わず左手の薬指に嵌めやがった。

それを苦笑しながら言ってやる。

 

「何で皆そこに付けたがるんだか」

「分かってないね隊長」

「そればっかりはわからんよ」

「ね、隊長。貴方はまだ空を飛ぶの?」

 

真っ直ぐと、俺を射貫く相貌。

 

「勿論だ。それが俺の夢だからな」

「そっか。一緒に行こうよ、アカツキ。空の案内は私がしてあげる」

 

その時の笑顔は、一生忘れられないくらい眩しいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――後日。

 

 

 

 

「隊長…?」

「え、あ、お、おう…どうした真理」

 

何だか只者ではない雰囲気を出す真理と、小結さんと、深沙希さんと、芹菜と、怜と楓と…っね皆居るじゃねぇか。

 

「二個目の指輪、どうしたのよ」

「え?指輪…なんの事かな」

「ゆみちゃんに送ったのは半年前…そして、今が一年」

「隊長、指輪…持ってますよね」

 

………君達のようにカンの良い女性は怖いよ。

 

「HELLO!わ!どうしたのみんな?顔怖いよ」

 

このタイミングでジニーが入ってきた。

これ確信犯だろ。

 

「あらおはよ、う…ジニー。その指の」

「?隊長から貰ったんだよ」

「「な、ナニぃーーーー!?」」

 

…避難する準備だァ。

 

「何処へ行くんですかぁ…隊長」

「に、逃げるんだ…勝てるわけが無い…」

「確保ォー!!」

 

「…ふふ、アカツキ。私、頑張るよ」

 

その後、整備ハンガーのバイアランに吊るされる事になった。

 

『馬鹿ですね』

「うるせぇ」

 

 

 

 




…ジニーには、幸せになってほしい。


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百科事典に贈る飴

何だかんだ最初期に来てくれた☆4アクトレスは百科さんなんですよね。
ちなみに初☆4は愛花。


 

これは、早く伝えなくてはならない。

 

「文嘉!」

「…隊長!?ど、どうしたんですか…?」

 

ある日。

ハンガーから事務所に戻り、文嘉の姿をずっと探していた。

 

「ああ良かった。文嘉、来てくれ」

「へ?隊長一体…」

「良いから」

「ちょっ、」

 

文嘉の手を引いてハンガーに向かった。

 

「隊長、とりあえず説明してください…!書類と業務を全部ほうりだして来ちゃったじゃないですか!」

「説教は後で聞く!磐田さん!」

「はいよ…ったく、ガキじゃねーんだからよ隊長さんや」

 

ハンガーの灯がつく。

…そこには濃紺のカラーで彩られた、一人分のアリスギアが吊るされていた。

 

「これは…」

「文嘉、お前の専用ギアだ」

「えっ、私のですか!?」

「ああ。お前さんのだ」

「そんな、何で私が…」

「大きな理由としては、お前さんのギアが最も数が揃っていたからだ。ただ」

「お前が一番頑張ってくれてたからな。タイミングさえ合えばお前を優先的に渡したかった」

 

文嘉は何とも言えない表情で専用カスタマイズが施されていたギアを眺めていた。

 

「そんじゃ、オレぁまだ仕事があるから先に行く。後は二人でゆっくりしてくれ」

 

磐田さんが出ていっても、文嘉はギアをずっと見ていた。

 

「隊長」

「どうした?」

「私で…良いのでしょうか。楓さんみたいに実力がある訳でもないです。バージニアさんみたいに思い切りが良い理由でもないです」

「そう思うか?」

「はっきり言って私は…優秀ではありません」

「それを決めるのは俺だ」

「っ!」

 

考えがどうにもネガティブな方向に向かっていくのはよろしくない。

素直に喜んでくれるかなと安易に考えていたが…。

 

ひと押しが、足らない様だ。

 

「ったく、嬉しいだろ?」

「は、はい…」

「ならそれで良し。そうだろう?」

 

この年の女の子が、貰って喜ばない訳は無いよな。

ただ、こいつはあんまりはしゃぐタイプじゃないってのも知ってるけど。

 

「…あ、ありがとうございます隊長」

 

たまには、飴だってあげても良いだろう。

 

「これからも頑張ってもらうから、覚悟しとけよ?」

「ふふ…仕方ないですね。頑張らせてもらいますよ」

 

初めて会ったときと比べて、ずいぶん笑うようになった。

 

「そうやって笑ってるほうがやっぱり好きだね、俺は」

「なっ、何を言ってるんですか!」

 

ばしん、と文嘉に背中をたたかれる。

俺は笑いだす。

釣られて文嘉も笑う。

 

「本当に、隊長に感化されてますね……私は」

「良い事じゃないか」

「そう、でしょうか」

「ああ」

「なら、そうなんでしょうね」

 

 

 



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君影ちゃんと話すだけ

こちらは支部に投稿してない奴です。
君影ちゃん書きたくて用意しました。


「あれ、隊長じゃん。久しぶりー」

 

声を掛けられて視線を上げた。

未だ片付けなきゃならない書類は減らない。

 

「君影、さんか」

「なんでちょっと迷ったのよ」

「気にしないでくれ」

 

実は、彼女と関わってから顔を合わせたのはこれで2回目になる。

 

「なによ。けど、隊長がちゃんと人間で良かったわ」

「いやなんでだ」

「だって普段ドローンでしか見た事なかったし」

「それもそうか……」

 

何だかんだ最近忙しくてドローンでアクトレスと話してばっかだったからな……。

ジニーも結構ぶーぶー言ってたのを思い出す。

また何か埋め合わせしないとな……。

 

改めて目の前の子……君影唯を見る。

彼女はモデルとアクトレス、そして高校生を兼業するスーパーウーマンだ。

正直初対面の時小学生かと思ってしまったが……彼女は、その背の低さのハンデすら乗り越えモデルとして活動している。

夢に向かってひたむきに努力するその姿が眩しい。

 

「……それで、今日はなんで居るのよ」

「居ちゃ悪いのかよ……」

「別に。居る時の方が少ないじゃんか」

「まぁそうだけど……」

『パイロットアカツキ。作業が滞っていますよ』

「えっ」

 

アリスが注意を促す。

 

「あー悪かったって……」

「え、隊長なにそれ……」

『初めまして、アクトレス・君影唯。私は独立支援AIアリスです』

「は、初めまして……?えー、なにこれ、隊長こういうの趣味なの……?」

「違う違う。前職の関係でな」

「前職?あー……そう言えば飛ぶとかなんとか言ってたけど」

「まぁ、それだ」

「フーン……」

 

何となく納得が行ってない様子。

まぁ、これだけの説明じゃ分からないよな……。

 

『別に隠す事も無いとは思いますが』

「ま、そうだけどさ」

「何よ人の目の前でコソコソと」

「ああいや、スマン」

「まぁいいけどね。アンタ、隊長としてはそこそこ出来るみたいだし気にしないであげるわ」

 

思いの外高評価な発言にちょっと面食らう。

 

「何よ」

「いや……まさか評価されてるとは思っていなかった」

「はぁ?鈍いわね……流石に仕事が出来るかどうかなんてすぐ判るわよ。判断が速いし、的確だもの」

「まぁ、伊達に一年経ってないしな」

「……え?一年?まだ一年?新人もいいとこじゃない」

「え?」

 

あ、そうか。

一応俺まだ一年しかたってないなら新人隊長って事になる。

 

「絶対素人じゃないわね……何?前職ってまさか自衛隊だとか?」

「えっ……」

「えっ」

 

あ、カマ掛けに引っ掛かった……。

 

「えっ、ホントなの?なら納得だわ」

「あんまし言いたくないんだがな……」

「どうして?」

「いや、正直あんまり良いイメージ持たれないかもって」

「何よそれ。唯は別に偏見とか無いわよ。大体、ギアも無しに生命賭けてるんだから……凄いと思うわ」

 

……こりゃまた。

 

「何照れてんのよ。隊長は元でしょ、元」

「て、照れてねーよ」

『男のツンデレは受けませんよ』

「うるせーぞポンコツ!」

 

 




キャラの理解が足りてない気がする。


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抱えた兎の立ち直り

実装当時、アナザージニーがぎりぎりで引けた記念で書いたものです。
指輪を贈った彼女からの激しいアプローチを受ける隊長。
彼女との過去を精算し、今までの関係にケリを付けた隊長と変わらぬ日々を過ごす。


ある日の、休日の昼下がり。

 

「アカツキ」

「ん?…ジニー、お前隊長って呼べよ」

「Oops…良いじゃん、他に誰も居ないんだし」

「あのなぁ…」

 

成子坂製作所事務室。

当然の様に休日出勤した俺と…何故かそこに居たジニー。

「暇だったから」と気さくに笑ってたけど、彼女がシタラと一緒に居ないのに違和感を感じた。

 

「シタラ、夜露達と遊びに行っちゃってさ。一人でいるのもつまらなくて」

「一緒に行かなかったのか?」

「…」

 

ジニーは黙り込む。

成子坂内の交友関係で、あまり夜露や文嘉と絡んでいるのを見たことがない。

仲は良いが一緒に行くほどでもない…そんな所だろうか。

 

「はぁ、まぁいいや。気の済むまで居ろよ。俺は仕事してるけど」

「ありがと、アカツキ!」

 

背中に衝撃+柔らかい感触。

やめてくれジニー、その技は俺に効く。

 

「当ててるのよ」

「キャラちがくね?」

「嬉しい?」

「……もうちょい年食ってから出直しな」

「意地っ張り」

 

未成年は対象外ってポリシーが最近ことごとく砕かれそうで怖いんだよこっちは。

 

「ゆみには負けてられないからね」

「何の勝負だよ」

「言わせる気?」

 

分かってる。

二人共俺なんかの事慕ってくれてるのは重々承知しているし、なんならアニバーサリーリングなんてものを渡している。

 

「なーんで俺なんか」

「アカツキは誰かの為に一生懸命だからかな」

「フワッとしてんな」

「誰かを好きになるのに理由なんか要る?」

「ごもっとも…」

 

屁理屈で固まった大人より、十代の女の子は柔軟で、そして強い。

 

「ジニー、よく笑うようになったな」

 

たまに見かける影が指したように無表情になる姿を最近見かけなくなった。

 

「私ね、毎日が楽しいよ」

「ああ」

「シタラと舞と一緒に笑って」

「ああ…」

「ここの皆と一緒に戦って」

「ああ…」

「隊長と、一緒に居て」

「…」

「だからね…私、とっても幸せなんだ」

「そう、か…」

 

彼女の背負ってた物を全て理解した訳じゃない。

俺が踏み込んで良い領域ではない。

 

「ありがとう、隊長…」

「ああ…」

 

それでも、寄り添ってあげたい。

ここにいる間くらい、のんびりしたってバチは当たらない。

 

「ってな訳で、じゃーん」

 

やっとジニーが背中から離れたので、ようやく振り返れた。

 

「ペンタゴンからスーツが届いたんだ!どうかな…?」

「ワオ…」

 

全体的に紫をメインとしたバトルスーツ。

前の迷彩スーツは、下半身の露出が凄まじかったが、こちらは肩がむき出しで胸元もかなり際どくスリットが入っていた。

 

左手の薬指には、一つ指輪がきらめいめいた。

 

この姿は…まるで、燕尾服とバニースーツみたいな。

 

「…」

「どう?」

「あー、なんだ…似合ってる」

「thanks!あ、ちなみにここのバンドね。外すと…」

「やめなさい!女の子がみだりに晒しちゃ」

「…隊長ってさ、たまにお母さんみたいだよね」

 

何となくばが白けてしまった。

黙ってしまったが、どちらからとも無く笑い出す。

 

「隊長。これからも頑張るからさ、目を離さないでよ」

「当然だ」

 

心から笑えるその日迄、支えてやるよ。

 

「約束だからね」

 

 



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黒猫へ甘い贈り物

芹菜さんの誕生日に書いたものです。
なんかまたよくわからないイベント始まったけどめげないで。


 

ここはいつもの成子坂製作所。

今日のために一週間前から準備を進め、なんとか期日に間に合わす事が出来た。

 

……そこにあるのは、紙袋いっぱいに詰められた、ラッピング済のクッキー。

本日は3/14……俗に言うホワイトデーである。

 

「おはようございます、隊長」

「おはよう芹菜。はい、お返し」

「え、わ、私に……ってそうですね。確かに渡しましたし…ありがとうございます」

「済まんな、まだ凝ったものは作れなくてな」

「えっ、手作りなんですか!?」

「おう。あれ、前に言わなかったっけ」

「うーん、覚えてないですね……」

「じゃあ言ってないかもな」

「もう、隊長ったら」

 

自分の机について談笑する。

芹菜も向かいの席に座る。

 

「……その紙袋、もしかして全部ですか?」

 

俺の背後に置かれている紙袋を見て、彼女は苦笑した。

 

「あー、まぁそうだな」

「所属アクトレスだけで何人いると思ってるんですか……」

「それ、そっくりそのままお前らに返すぞ」

「あら、そうでしたね」

 

最近、芹菜が周りを値踏みするように黙って眺める事が減ってきた。

以前共闘した際にだいぶ打ち解け、割と口数が増えてきたと思う

……彼女も、自分の正義の為に奔走する人間である事を俺は知っている。

 

「なぁ、芹菜……そのさ。最近怪我とか……してないか?」

「どうしたんですか藪から棒に」

「……えーっと……心配、かな」

「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。上手くやってます」

 

いつも独りで戦っている彼女。

……せめて、ここに居る間くらいはのんびりさせてあげたいものだな……。

 

「……そうだ。芹菜、デートしよう」

「…………へ、っ、えぇ!?」

 

書類に目を通しながら言い放っていた。

顔をそちらに向けてないので表情は見えない。

 

「な、何で急に……」

「前言ってたろ?ご褒美にデートって。そういやゴタゴタあって結局流れてたなと」

「そう……何ですか」

 

何だか残念そうな声音。

なんだろう……何を見落として……。

……PCのメモに文章がポップアップされる。

 

『新谷芹菜、本日誕生日』

 

……アリス、ナイスアシスト。

 

相棒のAIに心の中で称賛しつつ、切り出す。

 

「芹菜、今日誕生日だろ?好きなとこ連れてってやるよ」

「……!本当ですか?それじゃあ……前話してた評判のケーキ屋さんに行きませんか?」

「良いぜ。じゃあバースデーケーキを買うか」

「ふふ、ありがとうございます。それじゃあ仕事終わりに、誰にも邪魔されずに行きましょう」

「おう」

 

さて、今日も1日頑張ろうか。

 

黒猫へのちょっとしたご褒美の為に。

 

 

 




解釈違い?なんかキャラ違う?この話はパラレルなので大目に見て…。


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地衛理「隊長、エアガンを買いに行きましょう」

サバゲー知らないで見切り発車。


「何で!?」

 

とある休日の昼下がり。

事務室で一人寂しく休日出勤をしていた時だ。

 

突然事務室のドアが開き、いつもの明瞭なごきげんようが聞こえた二言目がこれである。

 

……重ねて言っておくと、彼女は名門聖アマルテア女学院生徒会長である淑女、紺堂地衛理である。

いやまぁ、確かに履歴書にサバゲーやってると書かれてたけど。

 

「何故……そうですね。隊長はこちらのイベントはご存知でしょうか」

 

一冊のパンフレットを渡された。

何となく嫌な予感がするが中身を見て……。

 

「へぇ……ハワイシャードで……え"っ!?ハワイ!?」

 

先日アクトレス達が総出で出演したクイズの景品がそれだった気がする。

 

「そんなとこ行く時間も金もねぇよ……」

「失礼、これは後日しいなと奏と一緒に行く予定のパンフレットでした」

「お、おう……相変わらずどっか抜けてるなお前」

「……私が抜けてると?」

「貶した訳じゃない。その方が可愛げがあるってだけさ」

 

もう一冊のパンフレットに目を通す。

……何でも、フルダイブVRのサバゲーらしい。

VRなら何も銃を用意しなくても、と思ったが持ち物全てが反映される仕様らしい。

 

「……なるほどな。確かにそれなら場所も取らないし安全だな」

「ご理解頂けましたか?」

「ああ……ただ、何で俺?二人とか誘わないの?」

 

そう言うと、地衛理は少し考え込んで、

 

「……二人には、あまり受けなかったわ」

「……佐用で。他に友達居ないのか?」

「………………」

「ごめん、ごめんて。そんなに睨むな」

 

美人に睨まれる趣味は無いよ……。

 

「元自衛官って知ってて誘ってんの?」

「さて、どうでしょう」

「秘密の数だけ女は綺麗になるが、今この場では相応しくないぞ……」

「………………隊長、貴方は素でそれを言ってるみたいですから反応に困るわ」

「喜んどけ」

 

さて、サバゲーね。

エアガンすら持ってないし何が要るかも判らない。

 

どうしたもんかな……。

 

「Hi!隊長!サバゲーするって?」

「ジニー?」

 

気配殺して後ろからジニーが飛び付いてきた。

地衛理もちょっと引き気味でビビってる。

 

「事務室で気配殺して近付かないでくれる?心臓止まるかと思った」

「ふふ、その時は私がなんとかしてあげる♪」

 

やめろ、背中に押し付けないで。

……そんな様子を見て、地衛理が一言。

 

「バージニアさん……雰囲気、変わりましたね」

「そう?そうかもね!」

「んな適当な……」

「ふふふ……あら、その、指に有るものは……」

「これ?隊長から貰ったんだ!」

 

ジニーの左手薬指に嵌っている物。

……以前、俺が渡したアニバーサリーリングがそこに煌いていた。

 

「お二人はそう言ったご関係で?」

「いや?ただ、ある意味ケリを着けたって感じだが」

「……アカツキ……私とは、遊びだったの……?」

「いや違うぞ!?待て!そう言う意味じゃない!」

 

背中に食い付いてるジニーを振り払おうと藻掻く。

 

「ジニー、お巫山戯はやめろ……地衛理が引いてる」

「……『地衛理』?」

「あ、すまん。前にこいつらから名前で呼べって懇願されてな……不快なら辞めるよ」

「いえ、不快という訳では。ただ、そうですね……好ましくは、思います」

 

あー、駄目だわ。

不意打ち気味にそんな顔するのはやめてくれ……心臓に悪い。

未成年は射程圏外って言う何やかんやが揺らぐ。

 

「むー……ね、隊長!どんな銃が良いの?」

「え?そうだな……アサルトライフル系なら、使いやすいと思う」

「「ああ……」」

「いや二人して納得しないでくれない?」

「だって……」「ねぇ……?」

「あーもう、分かったから!行くぞ!」

「えっ、隊長!仕事は!?」

「終わった!」

 

そして後になって気が付くのだった。

美少女二人侍らせてエアガンショップに行く馬鹿みたいな姿を。

 

「………まいっか」

 

 

 




何だかんだ名前呼びを始めてから絡ませてないのでやってみました。


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ジニー「隊長、お願いがあるんだ」

唐突に思い付いたネタ。
ジニーにペンタゴンへ誘われる話。



「……どうした?薮から棒に」

 

ある日の成子坂製作所。

いつもの活気はどこへやら、今日は人が居なかった。

 

そんな中、ジニーが神妙な面持ちでやって来た。

 

「その、私と一緒に……ペンタゴンに行かない?」

「……えっ」

 

それは、どう言う意味だろうか。

彼女は俺が東京シャード自衛隊元技術士官であるという事を知っている。

辞めたとは言え何かしらの情報を保有している為、海外シャード渡航は禁じられている身だ。

 

「ジニー。俺、海外シャード行けないんだけど」

「これ、チケット」

 

スッ、と一枚の渡航券が差し出された。

 

「……ジニー。本当の事を教えてくれ。何故だ」

「隊長さ、このまま……アリスと、アレと一緒に東京シャードで埋もれても、良いの?」

 

事務所のデスクトップの中にアリスが来る。

話だけでも聞きに来たらしい。

 

「……どうだろうなぁ。埋もれるとか、忘れるとか、そんな事考えた事なかった」

「え?」

「今のところ大した邪魔も入って来てないし……どの勢力も正直問題にしてないんじゃない?」

「でも、ステイツなら…隊長のその技術を買ってくれると思うんだ」

「売らねーよ。これは思い出なんだから」

「……出世欲ないね、アカツキ」

「元上司にも言われたよ」

 

そこから、お互い笑い出した。

何がおかしいのかわからないけど。

 

「ははは、何それ、お前そのチケットどうしたのさ」

「アハハハ!パパが送ってくれたんだ!」

「ジニーの親父さんか。今度娘さんに世話になってるって挨拶しないとなぁ」

「ほんと?約束だよ!」

「約束、か……じゃ、そのチケット受け取っとくよ」

「……え?」

「……時が来たら、行こう。一緒に」

「……うん」

 

「なーに事務所でJKといちゃついてんのよ」

 

ビックゥゥッ!!

お互い近かったのか、その一言と共に素早く離れた。

 

「よ、よう、ゆみ……今日はどした?」

「暁。不自然よ……まぁ、アンタに限ってジニーに手を出したりするなんて無いと思うけど」

「あ、アハハハ……それはそれで悔しいなぁ」

「フフ、まだまだ貴女も子供だからね。暁も遠慮してるんでしょ」

「子供、か……」

 

ジニーが遠い目になる。

子供と言うには、背負った物が重過ぎる。

 

「で、何の話してたの?」

「え?ああ、ペンタゴンシャードへの旅行とかどうって話」

「へぇ、海外シャード旅行?良いじゃん」

「うん、ペンタゴンは良いところだよ!」

「私は、カッセルとか行きたいな〜って」

「酒だろ」

「え〜、良いじゃん暁〜?私のディアンドル、見たくないの?」

 

……ちょっと前にあった商店街でのアクトレス集団ウェイトレスイベントの時、丁度出張で別のシャードに行っていた為……生で見る事は叶わなかった。

 

……深沙希さんとか。

 

「私もディアンドル着たよ」

「そうだったのか」

「で、どう?見たい?見るだけなら、ロハで良いけど?」

「……み、見たい……です」

「……ぷっ、何それ!」

「アカツキなんかやらし〜」

「なっ、お前ら……!」

「きゃ〜暁が怒った〜」

「逃げろ〜」

「待てコノヤロウ!!」

 

湿っぽい空気が、ちょっと霧散した気がする。

ゆみに、気を遣わせてしまっただろうか。

 

(今度、呑みに誘うか……)

 

ジニーにもちょっとケアが必要かもな。

買い物にも連れてってやろう。

 

「暁、何してるの行くわよ」

「え、どこに」

「決まってるじゃない。居酒屋」

「ええ……」

「あー、良いなー私も行きたい」

「ゆみ、ジニーも行けるとこにしようぜ」

「ちぇ、しょうがないか……じゃ、あそこにしましょう?」

 

……ジニーと二人だと、割と湿っぽい話ばかりだな、なんて思ってしまったが……。

 

こう言うとき、ゆみが居てくれると助かる。

 

(ケリつけたと思ったんだけどなー)

 

まだまだ、甘いらしい。

 

『女性に甘過ぎるんですよ』

「うるせー」

 

 




指輪を渡した二人との会話。
何だかんだこの組み合わせレアだなーと書いてて楽しかった。


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地衛理「隊長、エアガンは買いましたか?」

サバゲ―にわか作者のチェリー&ジニー第2話。
この二人に連れられてお買い物です。



 

「……あー、いや?すまんな地衛理…」

「……」

 

以前、地衛理に誘われてから実はそういった場所に行っていなかった。

理由に関してはまぁ休みが無かったから……なのだが、そこは言わない方が良いだろう。

 

「隊長」

「え、何……近ッ!?」

 

書類に一瞬目を落とした隙に目の前に接近されていて思わず書類が零れ落ちる。

 

「隊長ともあろう方が不要心ではなくて?」

「な、なにが……」

「自らの武器を用意しない等言語道断です……バージニアさんもそうは思いませんか?」

「え、ジニー?」

「そうだねチェリー。隊長、その仕事どのくらいで終わりそう?」

「え…ああ、午前中には……」

「ふーん、じゃあ昼からデートすっか」

「……はい?」

 

 

 

 

___________________________________

 

 

 

 

 

自主的な休日出勤だったのでノルマ等特に決められていないのが幸いして……特に何事もなく作業が終わり、俺とジニーと地衛理はエアガンショップに来ていた。

 

……視線が俺の背中にめっちゃ突き刺さる。

 

「あー……地衛理?随分と……その、攻めた私服だな」

「これですか?」

 

背中まで大胆に開いている……この子の自身はいつもどこから湧いてくるんだろうか。

ジニーもジニーで上半身のボディラインがぴっちり浮き出ているし目立つことこの上ない。

 

「私は特に何も感じませんが」

「そ、そうか……」

 

……この羨望と嫉妬の視線を俺は一身に背負って、入店するのだった。

 

 

「隊長、希望などはございますか?」

「希望か……そうだなぁ。最近銃の擬人化ゲ―がマイブームでいくつか気に入った奴があるんだ」

「へぇ…どんなゲーム?」

「兵站管理しながら戦うゲーム」

「へぇ……」

「隊長、以前はライフルが使いたいと仰っていましたが……ここは、ショットガンのエリアですね」

 

壁に掛けられている銃の種類が独特なシルエットに置き換わっている。

 

「お気に入りがあれば良いんだけどな……」

 

ちなみに何でショットガンかというと、ポンプアクションとか敢えて隙を晒す行為にロマンを見出しているから。

 

詰まるところ、俺のリロードは、レヴォリューションだ!とでも。

 

 

「お、あった」

「ほう、M37ですか」

 

ショットガンの中でもひと際長い銃身を持つ、猟銃の様なシルエット。

 

「おー、実物は結構かっこいいな……」

「隊長は、何でこれが良いと思ったの?」

「んー?最初に入手したショットガンだし思い入れも深かったんだ」

 

へぇ、フェザーライトって通称もあるんだ。

なるほど、確かに軽い。

 

「隊長」

「どうした地衛理……ヴ!?」

 

呼ばれて振り返ると、地衛理が端末でたまたまM37……ゲームのその子の画像を検索していた。

 

「ははぁん……?隊長こういうの好みなんだ?」

「確か……隊長の作られたメガミデバイスも……」

「あー!あー!やめて!確かに弓兵選んだけど!違うから!そういうのじゃないから!!」

 

そんなわけで、俺の使うエアガンが決まった。

 

「一応、サイドアームも考えておきましょうか」

「え、まだ買うの?」

 

 




…最近アリスギアへのモチベーションがどうしても続かないのにちょっと焦っております。
ここらで何とかしないとなぁ…。


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日雇い蛙の苦労人

今回はたまたまレベル80まで上げて専用揃ったのでアーバン忍者と戯れようと思います。


 

…唐突に視線を感じてその方向を見てしまう。

視線の先は…通気ダクト。

 

いや、ガタガタ言ってるし…。

 

「来弥、女の子がそんな所通るんじゃありません」

「おはようございまーす、隊長さん!」

 

天井から赤毛の女の子がぶら下がり、降りてくる。

まるで忍者の様だが……本人の便を信じるならアーバン流忍術免許皆伝…だそうだ。

その名を、蛙坂来弥。

現代に生きる忍者……らしい。

 

「元気があって宜しい。けどな来弥、玄関があるんだから玄関使ってくれ」

「えー、忍びっぽくないじゃないですか」

「あのね、ダクトのホコリを事務所に落とすなって事言ってんの」

「あー、そっか。ごめんね隊長さん!気を付けるよ!ホコリ落とさないように」

「通らなきゃ良い話だからな!?」

 

本人は快活で素直な良い子なんだが、いかんせん忍術を使いたいのかじっとしていてくれない。

 

「あら、おはよう来弥ちゃん」

「おはよう芹菜っち!」

「にゃーさんも何か言ってくださいよ……」

「え?私ですか?」

 

スーツ姿の黒髪の女性が出勤してきた。

事務員兼アクトレスの新谷芹菜さんだ。

意外な事にこの二人、交友関係があり仲がいい。

 

「駄目じゃない来弥ちゃん」

「ごめんなさーい」

 

流石に二人に諭されれば折れるしか無いのだろう。

 

「それで、今日はどうしたんだ?非番だろ?」

「あ、そうなんですよ隊長さん!ちょっとお願いがあって」

「お願い?」

 

アクトレス達からのお願いか……聞くのはやぶさかじゃないが。

 

「今月ピンチなんです!日雇いで忍者雇いませんか?」

「え、えー……」

 

ちょっと予想していた内容と…いや、ちょっとどころじゃないな?

しかし今時忍者て。

 

「すまんな来弥。今の所ライバル企業を亡きものにする用事はない」

「隊長、考えが物騒過ぎます……」

「そんなんじゃなくて良いよ、雑用でも何でも任せて任せてー!」

「と、言われてもなぁ……最近特に忙しいわけでも無いし……」

 

成子坂にも人が増え、かつての勢いを取り戻しつつある。

そのせいか、多少案件が入った所で揺らがない程度には余裕が出来ている。

 

………………相変わらず隊長俺しかいないけどな。

 

「仕方ない。事務所の掃除頼むよ。報酬は晩飯な」

「やたっ!ありがとう隊長さん!」

「あらあら……」

「……うん、待とうか手裏剣なんて何に使う気だ!!」

 

ちょっと心配だ。

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

なんてことはなく、案外要領が良いのか綺麗に仕上げてくれた。

 

「おはよう……ございます、隊長」

「深沙希さん、おはよう」

「あ、深沙希っちだ。おはよ!」

 

しばらくして、これまた黒髪の女性が事務所に訪れた。

籠目深沙希さん。

お隣さんでAEGISから派遣されたアクトレスだ。

 

「今日の事務所は……綺麗ですね」

「ふふふ、何を隠そうこの来弥さんが綺麗にしたのだ!」

「そうだったのですか……」

「深沙希、おはよう。今日は特に忙しくないからゆっくりしてて」

「おはようございます、芹菜さん」

 

しかし、今日は珍しく仲のいいアクトレス三人が固まっている。

来弥と深沙希さんも、芹菜を通して接点を持ち仲良くなったらしい。

 

「ですが……少し甘いようですね」

「えっ、どこどこ!?」

「ここに」

「いや姑かよ」

 

微笑みながら深沙希さんが窓のさんを指でなぞっている。

笑ってるから多分冗談なのだろう。

……それにしてはガチな笑い方してる。

こわい。

 

「冗談ですよ。来弥さんは素直ですね」

「うう、酷いよ深沙希っち!」

「でも大したものね。一人でしっかりここまでするなんて」

「えへへー、前に深沙希っちに教えてもらったからね」

「そうなのか。じゃあいつ嫁に行っても大丈夫そうだな」

「えっ、お、おおおお嫁さん!?い、いやー……来弥さんにはちょっとそういうの早いかなーって……」

「そうでしょうか?東京シャードの法律では16歳から婚約が結べますが……」

「いいっ!?」

「来弥ちゃんはもういい人見付けてるのかしら?」

「も、もう!そんな人いないってば!」

 

成人女性二人がJKをイジるの図。

まぁ、三人とも気心がしれてるし来弥も笑ってるからいつもの絡みなのだろう。

 

「隊長とかどうかしら」

「俺?自慢じゃないが給料そんな高くないぞ」

「た、隊長さん!?……隊長さんの事は信頼してるし……」

「来弥、冗談だからな……深沙希さん?視線怖いんだけど」

「何のことでしょうか」

 

たまにこの人目が捕食者のそれになるんだよな…。

 

「あら、もうこんな時間ですね」

 

時計は12時を指していた。

昼の時間か……。

 

「お昼にしますか…今日どこ行こうかな」

「隊長は外食ですか?」

「ああ。最近ちょっとうどんにハマっててな」

 

近くのチェーン店だけど。

 

「おうどん!良いねぇ来弥さんも行こうかな〜」

「お?一緒に行くか?」

「……あっ、財布……忘れてきちゃった……」

「良いよそれくらい。出してやるよ」

「えっ、そんな、悪いよ隊長さん」

「午前の仕事の報酬だ。気にするな」

「ふふ、良かったわね。それじゃあ行きましょう?」

「にゃーさんも来るのか?珍しい」

「たまには良いじゃないですか。深沙希は?」

「……それでは、ご一緒させて頂きます」

「深沙希さんまで。……じゃ、早めに行かないと席が取れないな……行こうぜ、来弥」

「え、あっ、はい!ありがとう隊長!」

 

その日の午後、リンもやってきてちょっと騒動があったのはまた別の話。

 

 

 

 

「…何で焼き肉奢ることになってんの!?」

 

 




エピソードちょろ見してきただけだからキャラ違っても許して…ユルシテ…。


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空を目指した男は

空を眺めて、空に焦がれて。
そんな男の、一種のケジメ。

時系列はストパンコラボ終了前からになります。
何処までも続く蒼い空に憧れた隊長は何を思うか。

帰ってきても、心に残っている物があるならば。



 

空を眺めていた。

 

 

東京シャードから見える空に、俺は何も感じなかった。

 

しかし、ここはどうだ!

別の世界と言われてもピンと来ない。

隔離されていても意味が分からない。

 

「……は、ははっ」

 

この場所に成子坂とその周辺が飛ばされて来た当初、確かに困惑していた。

 

出撃していたアクトレスや、整備部の心配。

たまたま事務所に居なかったアクトレス達と連絡を取る。

それらをしなかった訳ではない。

 

ただ、ふと……空を見上げた。

 

「ははは……あ、あはは……空だ……空だ!本物だ!!あはははははは!!!」

 

この時の俺を見た有人は、腰を抜かすほどビビっていたらしい。

この時の俺は、恐らく部隊を辞めてから初めて大笑いしたのかもしれない。

 

帰ってきた夜露達にもビビられたよ。

 

 

 

 

……でも、俺がこの空に飛び立つことは無かった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「……また空を見てる」

「……ああ、ゆみか」

 

それから。

俺は毎日この空を眺めていた。

届かないと判っていても、恋い焦がれていた。

 

理由は簡単だ。

相棒……バイアランはこちらに飛んできていないからだ。

成子坂から少し離れたい第二格納庫にあったせいで。

 

……修復はおおよそ完了していたが、試験飛行をまだ行ってない為、あったとしても飛べないが。

 

「癪ね。私達と話してる時より、今の方が生き生きしてるなんて」

「そうかー?……でも、見納めなんだ」

「明日、シタラ達とウイッチの皆が原因の排除に向かうから、ね……」

「せめて、この色は覚えておきたいんだ」

「空が何色か、なんて……貴方には大事なことなの?」

「ああ。心に目指す空の色、だ」

 

しばらく、そのまま無言でゆみと空を眺めていた。

 

「駄目ね、私にはちっとも良さが解らないわ」

「別に共感が欲しいわけじゃないさ……ただ、こんな空を、この色を気の済むまま思いっきり飛べたら。そう思っちまう」

「……残りたい?」

 

俺はその時、初めてゆみの方を見た。

……いつになく、表情は真剣だ。

 

「何もかも投げ捨てて、あの空に向えたら……ずっと思ってた」

 

けれど、投げ捨てるには背負ってるものが重過ぎた。

 

「約束が、あるんだ。向こうに置いてきたたくさんの約束」

 

部隊の仲間と、ジニーと、地衛理との約束。

相棒との約束。

 

「そう……暁、帰ったら一杯やりましょう?」

「どうしたんだ、いきなり」

「嫌な事は飲んで忘れるのが一番よ」

「……そうか、そうだな」

 

結局、ここは偽りの空。

ここで全部投げ出すのは勿体ない。

俺は、自分にそう、言い聞かせた。

 

 

…………ただ、飛べなかった後悔は消えなかった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

空を眺めていた。

なんてことは無い、東京シャードのただの映像。

 

「たーいちょ、また空見てる」

「ん?ああ、ゆみか……いや、少し引っ掛かっててな」

 

頭の片隅に引っ掛かる記憶。

大事な出会いがあった気がする。

けれど、思い出せない。

詳細を思い出そうとすると、靄が掛かってしまう。

 

「ふぅん……」

「思い出せないんだが……どうしても、感動と後悔だけは覚えてるんだ」

 

何かに出会った事への感動。

何かを出来なかった事への後悔。

 

「そうは見えなかったけどね」

「……?」

「だって隊長……暁はさ、ずっとつまらなさそうに空を見てたじゃん。でも、今は……生き生きしてる」

「そうか?……そうかもな」

 

手を空に向かって伸ばす。

当然、届かない。

 

「ようやく、俺が目指してる物が見えて来た気がするんだ」

「空が?」

「ああ……絶対に、掴んでやる」

 

理由の分からない情熱が、俺の中で炎となる。

理由の分からない後悔を燃料として。

 

「悔しかった、それだけは覚えてるんだ。だから、次こそ、俺は逃さない」

 

ゆみは、ただ笑って手を振った。

 

「暁、今夜空いてる?」

「なんだよ、唐突に」

「飲みに行く約束してた気がしてさ」

「……誘われた気がするな。よし、行くか……皆誘って」

「…………………ばーか」

 

 

今日も、東京シャードの空は変わらなかった。

 

 

けど、俺には何故か、今日だけは澄んで見えた。

 

 

 




いつのコラボだよって話ですが、これも暁にとって大事な話です。

いつか、空に届くと信じて。


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見上げる空へと手を引いて

空に焦れた隊長の集大成。


 

……試験飛行の日程が、決まった。

 

自衛官時代のコネやら、何もかもをフル活用し、ようやく富士シャードのエリアを掌握する事に成功した。

 

「隊長、それで……お願いと言うのは?」

 

ある日の成子坂。

事務所には俺と、薫子さんが居た。

 

「あー、その……一日、いや、二日か?自分の代わりに代行指揮官をして欲しいんです」

「唐突ですね。何か用事でも?」

「ええ、大事な」

「それは顔を見れば分かります。……分かりました」

「え、まだ理由なんかも言ってませんが」

「そういう事を言うのなら、少しは机の上を片付けたらどうですか?……大事な書類、目に付きましたよ」

 

どうやら、薫子さんにはとっくにバレていたらしい。

俺も相当浮足立っている。

 

「あ、あはは……薫子さんには敵わないなぁ」

「気を付けて。貴方に何かあれば、ここの子達も悲しみますよ」

「薫子さんは、悲しんでくれますか?」

「……馬鹿な事を言っていないで、早く準備してきたらどうです?」

「っと、すいません。今日は早上がりします」

「お疲れ様……ったく、馬鹿なんですから……」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

当日のスケジュールを纏めて、同行するアクトレスの選出欄を記入しようとして……手が止まる。

 

誰を、選ぼうか。

 

「たーいちょ♪」

「うおっ、と……ジニー?さっきシタラと帰らなかったか?」

 

背中にふわりと柔らかい感触。

ブロンドの髪が肌をくすぐる。

……所属アクトレスの、バージニア・グリーンベレーだ。

 

「隊長が気になって残っちゃった」

「こら、うら若き乙女がこんな時間まで男の所に来るんじゃないの」

「イイじゃん。その代わり帰りは送ってくれるんでしょ?」

「お前……ったく、都合良いなホント」

「……ふーん、飛ぶの……決まったんだ」

「え?ああ……」

 

俺の肩越しにジニーがPCのモニターを盗み見た。

バレてるから盗み見も何も無いけど。

 

「護衛にアクトレス1チーム、か」

「誰にするの?」

「どうしようかな……ジニー、来てくれるか?」

「いいよ!前に約束したもんね」

「約束……ああ、したな」

 

ジニーの右手にはめられているリング。

俺とジニーの過去に折り合いを付けた際に交わされた約束。

 

 

ーー空への道先案内人は、私がしてあげる!

 

 

「大丈夫だよ、アカツキ……私がついてるから。一緒に、行こうよ」

「……ああ」

 

首に手が回される。

ジニーに背後から抱き締められて、ちょっと照れくさくなる。

 

「お前、そういうのは……」

「アカツキにしかしないよ、こんなの」

「……子供が大人をからかうんじゃない」

「私、もう結婚できるよ」

「……駄目だ」

「……ヘタレ」

「うぐっ」

「おはようございまぁーす」

 

そんな中、事務所に一人女性が入ってきた。

四谷ゆみだ。

 

「……あら、お邪魔だったかしら?」

「ゆみ、そうか夜のシフトだったな」

「暁?JKと夕方に何しようとしてたのかしら?」

「ゆみってばタイミング良すぎたよ!」

「ジニー、やめなさい」

「あらぁ?……ふふ、文嘉に言いつけてやろうかしら」

「やめてくれよ……」

 

最近アクトレス達が絡んてくるとメガネ光らせてきて圧掛けてくるんだよな……。

 

「あ、ゆみ。この日暇か?」

「え……この日?何コレ……暁、これは?」

「俺の前職繋がりでな」

「……こんなタイミングで明かさなくても良いでしょ!?」

「ごめんな」

「行くに決まってるでしょ!」

「え、来るの!?」

「当たり前よ!!そのへんの話、しっかり聞かせてもらうわよ!」

 

それはそれでありがたい、が。

 

「……いいのか?」

「……これが、アンタのしたい事でしょ」

 

それで充分、と言わんばかりに。

 

「それで、あと一人は?」

「それは……」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「お受けしましょう」

 

聖アマルテア女学院。

その生徒会室にて。

来客用ソファに向かい合って座っているのは……生徒会長、紺堂地衛理。

 

「そうか……いや、良かった」

 

今回の最後の一人のメンバー。

それは、地衛理だった。

元々バイアランを所持していたのはアマルテアだったのだ。

それを善意で譲ってもらった形になっている。

 

そのため、地衛理にも結末を見る権利はある。

 

「お前を誘うのは勇気がいるからな……」

「あら?そんなに身持ちを固く持った覚えはなくってよ?」

「いやいや、ちったぁ見た目の事を加味してくれ」

「ふふふっ……約束は、覚えていますか?」

「覚えている……けど、何故?」

「貴方の渇望は、私の空白を埋められるか……それを、見せてください」

「……分かったよ」

 

飛ぶしか出来ない俺を嬲る気満々な生徒会長だった。

……いや、飛べるかどうかも怪しいが。

 

「では、楽しみにしております」

「ああ」

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

……………当日。

空にはゆみ達が既に飛んでいる。

後は、俺がそこに向かうだけ。

 

『ライフリンク接続、チャンバー正常加圧』

「……行けるか?アリス」

『ロック解除。行けます』

 

バイアランと俺が接続される。

後は、俺の意識の問題だ。

 

「……行こうぜ、空にさ!」

 

 

 

 

俺は、空へと手を伸ばす。

 

バイアランのバーニアが、火を吹く。

 

 

 

 

「隊長!ほら!早く!行こうよ!」

 

 

 

 

ジニーが手を差し出す。

 

俺は、それにーーーーーー。

 

 

 




これは空を目指した男の、一つの通過点。

次回、最終回。


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憧れは遠く、されど心は折れず

このゲームと出会えて、自分は初めてSSを書くと言う行為をし始めました。

実はSSを書き始めたきっかけってアリスギアだったんですよね。


 

結局、バイアランの飛行時間は5分にも満たず……墜落した。

 

地面に不時着し、バイアランは大破、俺も左腕の骨を折った。

あの時のジニーとゆみの顔は忘れられそうにない。

 

その日から一ヶ月。

 

「おはよう」

 

成子坂製作所に久しぶりに顔を出す。

先日まで入院生活を余儀なくされ、体力が落ちたなと苦笑しながら事務所のドアをくぐった。

 

「あ……暁。退院、したんだ」

 

四谷ゆみが、俺の事務机を掃除していた。

 

「さんきゅ、ゆみ。整理してくれてたんだろ?」

「別に、深い意味は無いわよ……ただ、見てくれる人が居なくて張り合いが無かっただけ」

「……おいおい、やけに素直だな」

「誰のせいだか。心配したんだからね」

「……ごめん」

 

俺が意識を失っている間、一番泣いていたのは彼女だったらしい。

心配かけてしまったようだ……また埋め合わせをしないといけないだろう。

 

「暁……貴方は、まだ空を目指すの?」

「ああ」

 

即答する。

 

「どうして?あんな目に遭ったのに」

「それでも、止められないんだ。止まるわけには行かないんだ」

 

あの青い空こそ、俺の願いで、皆の願いで、俺の背負ったもの。

義務であり、宿願であり……俺の全て。

 

「諦める訳にはいかない」

「そっか……私が何を言っても、無駄なんだ」

「ごめん」

「良いよ、別に……男を送り出すのも、いい女に必要なことなんだから」

 

笑ってはいるが、無理やりな印象を受ける。

 

「ゆみ、その」

「ごきげんよう、隊長、四谷さん」

 

……珍しく、事務所に地衛理が顔を出した。

 

「地衛理……」

「あら、お取り込み中でしたでしょうか」

「取り込みって、別にそんな……」

「おはよう!隊長、おかえり!!」

 

また新たなアクトレスが来たな、と思ったら背後から衝撃。

思わず踏ん張った。

 

「痛っでぇ!!ジニー!まだ腕のギプス取れてないんだ……」

「心配したんだよ!良かった……」

 

俺の背中に抱きついてジニーが頭を押し付けてくる。

 

「……そうね、おかえり暁」

「退院おめでとうございます、隊長」

 

二人ともその様子に笑みを浮かべて言った。

何だかんだ、3人には大分信頼してもらえているんだなと改めてそう感じた。

 

「ありがとう、皆。それと……先月はありがとう。3人のお陰で俺は飛べた」

「落ちた、の間違いでなくて?」

「手厳しいな地衛理……」

「私との約束、果たして頂けなかったので」

「……しょっぱなから出来るわけないだろ。というかお前専用装備で固めてきやがって……まさか、気合入れてたとか」

「……何の事でしょうか」

 

地衛理が顔をそらす。

でもその先にジニーが満面の笑みでニヤニヤしていた。

 

「あれぇ?チェリー顔が赤いよ?」

「へぇ?結構可愛いとこあるじゃない」

「何の事でしょうか」

「まだそれを通すのか……」

 

何となく、雰囲気が明るくなった。

……そこへ、Aegis端末へメールが届いた。

 

「おっと……え、また指輪か」

 

アニバーサリーリング配布のお知らせが来ていた。

もう渡す相手に心当たりは……。

 

「……地衛理?」

「はい、何でしょうか?」

「……いる?」

「頂きましょう」

「えっ、マジ?コロちゃんには良いの?」

「ええ。しいなもきっと分かってくれるわ」

「良いのかよ……」

 

凄いグダグだに決まってしまった気がする。

 

「私が、隊長に認められた。隊長の夢を見届ける権利を得た……そういう事ですよね」

「え……?」

「この3人は、隊長が空を目指した瞬間に立ち会いました。これからも、勿論選んでいただけますよね」

「そうよ、暁!ここまで来て除け者は絶対嫌だからね」

「うん、私も……隊長の夢の手助けがしたいんだ」

「お前ら……」

 

ジニーが改めて俺に笑顔を向けた。

 

「言ったでしょ。空への道先案内人は私がするって」

「そうだったな……頼んだぜ」

 

一度地に落ちたくらいで、諦めてたまるものか。

俺には、3人の案内人が着いている。

 

俺はもう、一人じゃない。

 

見上げる空は遠くても、いつか届くその日まで。

 

「俺は、手を伸ばし続ける」

 

その先の蒼に向かって。

 

「俺は、絶対に諦めない」

 

 

 

 

 

空を目指すもの ~完~




いつか、あの空に手が届きますように。

ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました。
これからも、隊長の空への挑戦は続きます。
物語は一先ずの終わりですが、もしかしたら続きとか書くかもしれません。
気長にお待ち下さい。



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エピローグ

空を飛びたいと、夢に見ていた。

けど、この宇宙は壁に映されたまやかしで。

俺が手を伸ばしたい本物の空は、とっくの昔に失われていた。

 

それでも、俺の心には未だ、見果てぬ空へ焦がれる想いが燻っていた。

 

「隊長」

 

東京シャードに存在する、成子坂製作所。

その屋上から偽りの空を眺めていると……若い少女が俺を呼んだ。

 

「ん……?」

「隊長ってば。休憩、とっくに終わってるよ」

 

腰まである金の髪に、青い瞳。

ひと目見て東京シャード出身ではないと判る。

 

「ああ、呼びに来てくれたのかジニー。悪い」

「いくら平和だからって気を抜き過ぎだよ隊長」

「管轄区内にヴァイスの出現もないし、最近は暇を持て余してる。ちょっとサボった所で流石に文嘉も咎めはしないだろ」

 

彼女の名前は、バージニア·グリーンベレー。

ペンタゴンシャードからの留学生にして、成子坂の誇るチーム·トライステラのメンバーだ。

そして……俺の、命の恩人でもある。

 

「そのフミカが探してた」

「マジか。あと五分したら帰るって言っといて」

「自分で言いなよ」

「戻るんだろ」

「えー?隣に居るよ?」

「……好きにしろ」

 

屋上の柵に肘をついてもたれていた。

その隣へ、ジニーが尻を乗せるようにもたれかかった。

 

「落ちるなよ」

「その時は、隊長が助けてくれるでしょ?」

 

なんの気なしに笑ってそう言ってくる。

信頼感の裏返しなのだろうか。

 

彼女の左手の薬指には、誕生石であるムーンストーンがあしらわれた指輪がはまっている。

……誤解無きように言っておくが、俺は彼女に将来を誓った訳ではない。

大体、ジニーはまだ高校生だ。

手を出すのは、どう考えても犯罪だ。

 

……え?もう法律上は結婚出来る?

あー、あー、聞こえない聞こえてない。

 

「あ?これ?隊長がいつでも私の事で悩んでくれるようにいつもしてるよ?」

「………………お前なぁ」

「アハハ!ジョークだよジョーク。顔が怖いよ隊長?」

「はぁー……ったく。ただでさえゆみとか地衛理からの視線も最近多いってのに」

「あはは」

 

からからと笑う。

俺は、そんな彼女に……つい尋ねるのだった。

 

「今、楽しいか?」

 

「……うん!」

 

その彼女の顔は、星の煌めきの様に輝いていた。

 

「そうか……なら、良いや」

「でも、ずっとこのままは嫌かな」

「このまま?」

「こうやって……アカツキの隣で笑ったりしてるだけの生活?」

「何が不満なんだよそれ」

「んー……何だろう。分かんないや」

「なんだそれ」

「でも、隊長がゆみやチェリーと喋ってるの見ると……何か面白くなくて」

「……そうか」

「あ、何その反応。何か勘付いてる?」

「全然?」

「む」

「そろそろ休憩終わるし先戻ってろ。You copy?」

「Negative‼」

「のわっ!?こら、くっつくな!」

「さぁさぁ喋っちゃいなよ!」

「やめろっての!」

「いつまで遊んでるんですか隊長!!!!!」

「あっ、ふみぎゃああああああああああああああああああああああ!!?!??!」

 

 

 



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