みこーん!と転生…しましたが尻尾が9本ありました (一般FGOプレイヤー)
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人類悪爆誕!(大嘘)

玉藻の前スキルマ記念で書きました。
続きません。

2020年6月17日。少しだけ、内容を改訂しました。物語には何も影響はないので、気にせずに読んでいただいて大丈夫です。


瑞稀玉藻(みずきたまも)さん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたがあなたの生は終わってしまったのです」

 

 目が覚めた瞬間。水色の髪に水色の瞳を持った、まるでアニメのヒロインのような容姿の美少女がそんな事を告げてきた。

 突然の事でわけがわからず辺りを見渡すが、そこには真っ白な空間しか広がっておらず、あるのは私が今座っているパイプ椅子と美少女が座る椅子と前にある事務机だけだった。

 

 ……さながら会社の面接室のような場所ですね。……見た事はありませんが……。

 

 少しの間だけキョロキョロとしていたが、目の前に座る美少女が小さく「んっんん」と咳払いをした事により視線が再び美少女に戻る。よくよく見れば、彼女の身に付ける衣服が薄く輝いている事に気がついた。

 

 ……こんなものを見てしまえば認める他ないですね。

 

 どうやら私は彼女の言葉通り死んでしまったようだ。

 

 ……でも一体どうして?

 

 私はそう思い、記憶を整理する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 学校に行かなくなり家に引き籠るようになってから早数年。私は数ヶ月ぶりに外へと出た。

 理由はスマートフォン向けRPG……『Fate/GrandOrder』に課金をする為である。

 

 ……マーリンの復刻。これを逃したら来年か……最悪数年待つ事になってしまいます! 前回の投資金は2万ポッチだったので来てくれませんでしたが、流石に今回は……。

 

 そう考えながら私はチラリとお財布の中を覗く。中には諭吉さんが10枚並んでいる。

 これ全て、親から貰ったお小遣いである。親が共働きで大手企業のお偉いさんをしているのでお金に関しての不自由は全くなかった。しかしそれに引き換え両親がとても忙しくあまり顔を合わせる事が普段から出来ない。

 

 ……まあそのせいで私の事を思いっきり甘やかしてくれているのですがね……。

 

 そう考えながら私は建設中のマンションの横を通り抜け、駅前のコンビニへと歩みを進ようとした。そんな時だった。

 目の前にいた小さな女の子とその手を握る母親と思われる女性。

 その二人の上から突然大きな音が響き、鉄骨のような物が落ちてきていた。

 なんらかの理由で外れてしまったのだろう。

 それを見た私は反射的に走り出し、未だその場でポカンと呆ける二人に手を突き出して……。

 

 

 

 

 

 

 

 ……そうでしたね。私は……もう……。

 

 そう納得した私は美少女——おそらく女神様なのだろう——に向かって、こう尋ねた。

 

「あの人達は……私があの時押した親子は…助かりましたか?」

 

 私の人生を掛けて救おうとした存在だ。せめてこの穀潰しの命1つで済んでいればいいのだが……。

 

「……ええ。母親の方は足の骨を折る重症。しかし、命に別状はありません。女の子の方は擦り傷だけで此方も命に別状はありません」

 

「……よかった」

 

 ……ただの親不孝者な私でも……誰かの役に立てたのですね。

 

 そんな事を考えていると美少女は小首を傾げて爆弾を投下した。

 

 

「もっとも、あの二人を突き飛ばさなければ、あの場は死亡者どころか怪我人など出ませんでしたけどね」

 

 

「……え?」

 

 わんもあぷりーず。

 

「あれはドラマの撮影の為の、所謂演出というやつだったんです。あの足場は見かけだけの発泡スチロールですよ? なので当たっても怪我人はゼロ。ドラマの撮影もこれにて終了だったんですよ。そこを貴方が気づかずに飛び込んで出演者である親子に怪我をさせて、更には当たりどころが悪かったというだけであなたはぽっくりと」

 

「……嘘でしょ?」

 

「ほんとですよ? あなたは都内の病院に搬送されて医師から『なんでこの程度で死ぬのでしょうか?』と困惑されながら死亡。現在、病院に到着して死因を聞いたご両親は悲しみよりも困惑の方が大きいようで、思わずといった感じでずっこけるという事が……」

 

「ちょっ! ストップストップ! これ以上は聞いていられません!」

 

 私が耳を塞ぎながらそう言うと美少女は小さく、しかしはっきりとクスクスと笑った。

 

「……さて、あなたをいじめるのもこれくらいにしてそろそろ本題を話しましょうか。初めまして瑞稀玉藻さん。私の名はアクア。日本で若くして死んだ人間を導く女神よ。……私でさえも初めは困惑してしまうほどおかしな死に方をしたあなたには2つの選択肢があります」

 

 人の傷口に塩を塗りながら、アクアと名乗る女神は話を続ける。

 

「1つは人間としてもう一度この世界で人生を歩むか。1つは天国的な場所でおじいちゃんみたいな生活をするか」

 

 ……なにその暮らし方。

 

「……1つ目はわかるのですが、2つ目の選択肢はなんなのですか? 天国的なところでおじいちゃんみたいな生活って……」

 

「実を言うとね、天国ってところは人間が想像するような場所じゃないのよ。食事や娯楽が無い、ただただ永久的に、世間話やら日向ぼっこを楽しむ場所なのよね」

 

 ……予想以上に最悪な場所だった!

 

 そこに行くくらいなら生まれ変わったほうがマシだ。

 私がそう考えて生まれ変わる事に決めようとすると、アクアがその前に、こう提案してきた。 

 

「そこで! 3つ目の選択肢。あなた、異世界に転生してみない?」

 

「……はぁ?」 

 

 

 アクア様が言うにはこうらしい。

 ある世界が魔王によって滅ぼされてしまうらしい。なんでも、魔王軍に殺された人々がその世界での生まれ変わりを恐怖のあまり嫌がって、みんなおじいちゃんみたいな生活を望むらしい。そのせいで、人口はどんどん減少していっているらしい。

 このままではその世界が滅びてしまう。

 そこで、私達のような若者がその世界にチート能力を持って行き、人口増加及び魔王の討伐をさせればいけるのでは? と神々の間で提案され、それが通ったらしい。 

 

 ……神様って意外とゆるいの?

 

 だが、確かにゲームやラノベが大好きな現代人にとってはもってこいだろう。かく言う私もこの話を受けようと考えている。

 

 

「そういえば、私は現地の言葉が喋れないのですが……大丈夫なのでしょうか?」 

 

「その辺りは心配しなくて大丈夫よ。……まあたまに大丈夫じゃない人が出来上がってしまうのだけど」

 

 ……今のは聞かなかった事にしよう。

 

 私は再びアクア様に渡されたカタログに目を向ける。そのには、異世界に持っていける、様々なチート能力やチート武器が大量に書かれている。がどれもこれもイマイチ心に響かない。

 

「あの……ここに書かれている事以外にもなにか出来ませんか?」

 

「もちろんできるわよ? 私を誰だと思っているのかしら? 水の女神にして、日本という超エリートしか携わる事が出来ない場所を担当している女神様よ? 大体の事は朝飯前よ」

 

 ……少しだけ腹が立ちますね。

 

「それじゃあ……」

 

 私はアクア様の耳に近づいて、こしょこしょと小さく自らの欲望をぶちまけていく。本来なら他人に言うのも恥ずかしいのだが、折角の機会だ。

 

「それくらいなら、朝飯前どころかおやつ前よ!それじゃあ、早速そこに立って」

 

 アクアが指を指す先には、1つの魔法陣があった。

 私が黙ってそこに立つとアクアは何かをむにゃむにゃと唱える。 

 

「これで準備完了よ! とりあえず、街の外に飛ばすからまずはそこで様子を確認してみなさいな」

 

「……ありがとうございます」

 

 案外いい女神様だったようだ。今度出会う機会があったのならば、精一杯のお礼をしよう。

 

「あっ、そうそう。言うのを忘れてたけど、魔王を討伐できたら神々の超パワーであなたの願いをなんでも叶えてあげるから、覚えておきなさい」

 

 ……大丈夫なのだろうか?

 

「……とりあえず覚えておきます」

 

「よろしい。それでは……勇者よ!願わくば、数多の勇者候補の中からあなたが魔王を打ち倒す事を祈っています。……さあ、旅立ちなさい!」

 

 アクアがそう言うと魔法陣が眩しく光り、その光に思わず目を閉じる。すると、意識が遠のいてきて……

 

「……あっ、調整間違えてたわ」

 

 ……ちょっと待て!

 

 そう言おうとしたが間に合わず、そのまま意識は光の中へと……

 

 

 

 意識が覚醒すると、そこは開けた草原の中だった。少し遠くには壁が見える。おそらく、あそこがアクア様の言っていた街なのだろう。早速この草原で、身のこなしを確かめよう……っとその前に

 

「ご用とあらば即参上! 貴方の頼れる巫女狐、キャスター降臨っ! です!」

 

 ……決まった。これでこの姿でやりたい事No.1を達成した。

 

 私がアクア様に頼んだチート。それは「私をFateシリーズに登場する玉藻の前の、容姿と能力をください」というものだ。

 早速、自分の姿を確認するために玉藻鎮石(たまものしずいし)と呼ばれる鏡を取り出した。するとそこには、FGOの最終再臨で着る和服を身につけて、ピクピクと動く耳と()()の尻尾を生やした玉藻の姿が……

 

「ちょおおっと待てい!」

 

 ……調整失敗ってそういう事ですか!

 

 明らかにヤバい姿に頭を抱えてしまう。

 

「……あれ? これ大丈夫なの? この尻尾、虚数空間に捨てに行かなきゃいけない? タマモナインとかになったりしない?」

 

 思わず誰かに問いかけるように聞いてみるが、答えを返す者はいない。 

 

 ……多分大丈夫でしょう。

 

「いや大丈夫じゃないでしょう! これもう人類悪じゃないですか!」

 

 ……アクア、次会ったらシバく。

 

 先程までの信仰心は何処へやら。まあ、あってはいけない調整ミスをやらかしたうっかり女神だからある程度は怒っても大丈夫だろう。

 

「……とりあえず、街に行きましょう」

 

 異世界に転生してから僅か数分。私は色々な意味で疲れてしまった。

 

 ……これからどうしましょうか。

 

 私は街道をとぼとぼ歩きながら、これからの事を考えてため息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ……憂鬱ですねぇ」

 

 私はダダ下がりのテンションのまま、草原から見えていた街、アクセルの街中を歩いていた。

 異世界に来て、考えるべき事が自分の尻尾についてだなんて。全く持って面倒な事になってしまった。

 私はもう何回目かもわからないため息を吐いて、街に入る前に門番に教えてもらった冒険者ギルドへと、向かっている。尻尾や耳はそのままだが、この世界では獣人は知られているのでそのままでも街に入る事はできるそうだ。

 しかし、この見た目のせいでかなりの注目を浴びているようで、すれ違う人が何回も私の事をチラ見してくる。

 流石、玉藻ボディである。

 そんな事を考えている内に、いかにも冒険者ギルドらしい大きな建物が見えてきた。近づいて見ると看板に『冒険者ギルド』と書かれていたので、どうやら本当に冒険者ギルドらしい。

 私はその扉を極力音を立てず開く。

 しかしそんな努力は報われず、入った瞬間にギルドの喧騒が全て消え、私の方へと視線が集中した。

 私は再びため息を吐いて、受付を探してそこへと歩いていく。

 ギルドの中では私の話があちこちでされている。

 

 ……小さい声で話しているようですが、私の耳の前では全て筒抜けですよ? 

 

「すみません。冒険者登録はここでよろしいのでしょうか?」

 

 ……反応がない。ただの屍のようだ。

 

「……はっ! えっ、ええそうですね。手数料1000エリスが必要となりますが、よろしいでしょうか?」

 

「……これで」

 

 先程、門番から誘わk……もといお願いしていただいたお金を受付に渡す。

 

「はい、確かに1000エリス頂戴しました」

 

 ……僅かに手と声が震えているようだが、大丈夫だろうか?

 

「それでは、冒険者についての説明を簡単にさせていただきますね。……冒険者とは街の外に生息するモンスターの討伐を請け負う人の事です。……と言っても、壁の修理やアルバイトだったりも請け負ったりもするので、実質『何でも屋』といったものです。……そして、冒険者はそれぞれの技術や技能を使い、各職業ごとに分かれて仕事をしてもらいます」

 

 どうやら冒険者といってもその中には様々な仕事があるようだ。

 

「こちらが冒険者としての身分証明書…冒険者カードになります。これに触れていただくとステータスや適正職業が分かりますよ」

 

 早速触れてみる。

 

 ……できればキャスター。最悪でもバーサーカーがいい。

 

「ありがとうございま……うぇええ!? 何ですかこれ?! 全てのステータスが軒並み高いんですけど?! 魔力に至っては見た事ないほどの量ですよ!? これなら上級職なんて簡単に取れてしまいますよ!? ……ん? 適性職の欄によくわからない文字があるのですが……これは一体?」

 

 ……嫌な予感しかしませんね。お願いだからキャスターって書かれてて……。

 

 しかし、神は無情であった。

 そこには人類悪と赤く輝く3文字の漢字が……

 

「これは職業なんかじゃないわぁああーーっ!!」

 

「ひっ」

 

 これは職業なんかではない。断じて違う。

 床に叩きつけたカードを受付に返す。

 

「……魔法職にします(ニコ)」

 

「えっ? ですが……」

 

「魔法職にします♪(ニコ)」

 

「……アークウィザードですね。わかりました。それでは……えっと「玉藻です」タマモさんですね。此方がカードになります。……なるべく乱暴な扱いはしないでくださいね? 依頼はあそこにある提示版で確認できますので、自分のレベルに合った依頼を受けてくださいね?それではよき冒険者ライフを」

 

「ありがとうございました」

 

 こうして私の不安しかない異世界生活がスタートした。




気が向いたら投稿します。(掌返し)


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ジャッジメントの時間だぜ☆

気分がのりました。


 転生してから一ヶ月が経つ。

 しかし、私は未だに「始まりの街」と呼ばれるアクセルにいる。

 

 ……いや、わかっているんですよ?バカみたいなチート持ってるんだから、とっとと魔王を倒さなきゃいけないってことは。でも……

 

「タマモさん! 畑に一撃熊が現れました! 討伐依頼を出しておくので、早めの駆除をお願いします!」

 

「タマモさん! 最近ゴブリンの群れが現れたのですが、何故か誰も狩ってくれないので討伐依頼を受けてください! お願いします!」

 

「タマモさん。また外壁の拡張工事を手伝ってもらいたいんですけど、いつ頃なら空いていますかね?」

 

「タマモさん! ダンジョンからアンデッドの群れが溢れてきて…

 

「タマモさん! また、客引きのバイトを受けてほしいんだけど! …

 

「タマモさん! …… 「タマモさん! ……

 

「あぁもう!わかりました!全部請ければいいのでしょう?!やってやりますとも!」

 

 ……依頼が次から次へと入ってくるせいで、身動きが全くとれません!

 

 おそらく、意図的にそうされているのだろう。他の冒険者を見ても、私ほど忙しくしている者は見えない。

 確かに私は今までどんなクエストでも全て成功させてきた。それこそ、お店のアルバイトから始まり、誰もやりたがらないような難しいくせにしょっぱい報酬のクエストや、そもそも初心者になんかは狩れないモンスターの駆除なんかも。そのせいで大体のクエストは私に任せればいいだろうという認識をギルドや冒険者達に持たれてしまった。

 流石にこの数の依頼を受けていると、お金がどんどんと溜まっていき、今では900万エリスほど溜まっており、もうすぐ1000万に届きそうである。

 そのおかげで生活はかなり裕福になった。最初は馬小屋で寝泊りをしていたが、最近ではベッド付きの宿をとっている。しかも、朝食と夕食も付いている。

 得たものは大きかった。しかし……

 

「いくらなんでも、毎日出勤はおかしくないですか?! ……え? 私は異世界に来て、ニートから社畜っていう真逆の存在になっちゃったのですか? このまま私はどっかの王様みたいに過労死しちゃうんですか?」

 

 私は机を壊さない程度に拳を叩きつける。すると狙っているかのように、ある人物がいそいそと近づいてきたのですぐに表情を直した。

 

「あの……タマモさん? 大丈夫です? 大変そうですけど……。もっ、もし良ければ、私とパーティーを組みませんか?」

 

「……ありがたい誘いですねゆんゆん。ですがその必要はありません。このくらいでしたら私一人で十分です」

 

 ……その悲しげな目でこちらを見るのはやめてください!

 

 目の前で、瞳をうるうるとさせている少女……ゆんゆんに出会ったのは転生してから三週間が経った頃だった。

 初めて会った時はモンスターを駆除している時だった。

 アルカンレティアという街からアクセルを結ぶ街道付近に、ウォームの群れが出現したから、駆除をしてくれとギルドの方からお願いをされたので、ウォームの出現報告があった場所へと向かうと、複数の馬車を守るように冒険者達が応戦していた。その中の1人にゆんゆんがいたのである。同じ女性という事もあり、意外と簡単に仲良くなれたのだ。

 

 ……相変わらず変な名前ですねぇ。私が言うのも何なのですが、いきなり変な名乗りをあげるのはすごい感性ですよねぇ。まあ種族上、仕方がないらしいですが…。

 

 ゆんゆんと名乗った少女は紅魔族という魔法使いに特化した種族らしい。そして、変な名前も変な名乗りも、全て種族の宿命のようなもののせいらしい。ゆんゆん自体はその事を恥ずかしがる…所謂常識人なのだが……

 

「……そんな目をしないでください。別にゆんゆんを嫌っているわけではないのですよ?」

 

「……本当ですか? 私は紅魔の里では変人だったので、いつもハブられていたのですが……」

 

 紅魔の里では、私達の間での常識人が変人らしく、私目線で常識人なゆんゆんは変人扱いをされていたらしい。

 

 ……かわいそうに……。

 

「……今日の依頼は一人の方が都合がいいってだけですよ。ゆんゆんの友達である私が、そんな事するわけないじゃないですか〜」

 

「えっ? ……そっ、そうですよね! 友達がそんな事するわけないですよね! ……えへへ。友達……友達……」

 

 ……チョロすぎません? この子、いつか悪い人に利用されそうなんですけど……

 

 ゆんゆんの将来を心配していると、後ろから待ったをかける少女の声が聞こえてきた。

 

「この狐の言葉に騙されてはいけませんよ、ゆんゆん。この狐、本当は心の中でこう思っているはずです。『どうせゆんゆんが、また旅行前の子供みたいになって、そのテンションのせいで1つの依頼で疲れる事になるからこれからは誘わないでおこう』と」

 

「おい問題児。これ以上面倒な事を喋るようなら、その口縫い合わせるゾ☆」

 

 ……まあ、半分正解なのですがね。

 

「もう! めぐみんったら適当な事を言って…え? 嘘ですよね? ね?」

 

「もちろん嘘ですねー。私とゆんゆんはずっともですからねー」

 

 棒読みに気づかぬゆんゆんはパァッと顔を輝かせる。対するめぐみんはドン引きである。

 めぐみんとの出会いも、ゆんゆんと同じくウォームの討伐中だったのだが、その出会いが衝撃的すぎたのでめぐみんの事はよく覚えている。

 

 ……ウォームを見た瞬間、強大な魔法をブッパしようとするのはやめてほしいですねぇ。一応頭はいいらしいのですけど……やっぱり女の子として、あの見た目はないのでしょうか?

 

 めぐみんが恐怖のあまり、長い詠唱と共に大量の魔力を注ぎ込み始めた時は本当に焦った。急いで玉藻鎮石……鏡を使って殲滅したからよかったものの、あのまま使われていたらどうなった事か……。その後、めぐみん達とは因縁の相手らしい悪魔に向かって、その魔法を使ったのだが悪魔どころか地形も破壊してしまうという火力だったので、あの時使われなくて本当によかった、と心から思った。因みに、その時に悪魔と共に破壊された地形の責任を、何故か私が請け負う事になってしまった。解せない。

 

「ゆんゆん……友達はしっかり選びましょうね?」 

 

「……いや、私よりもぼっちだっためぐみんに言われたくないわよ」

 

「なっ! 言いましたね! 言ってしまいましたね! いいでしょう! それなら、どちらが先に友達と呼べるパーティーを組めるかです!」

 

 私がため息をついている間に、いつもの勝負が始まった。

 

 ……これは……

 

「「という事で、タマモさん。私とパーティーを組んでください(組みませんか?)」」

 

「……good bye!」

 

「あっ! 逃げましたよ!」

 

「逃しませんよ! ゆんゆん! 追いますよ!」

 

「貴方達、仲か良いのか悪いのか。はっきりさせなさい!」

 

 私がそう叫びながら、ギルドの扉を開くと……

 

「お前のせいでまたバイトクビになっちまったじゃねえか! どーすんだよ!」

 

「でっ、でも客寄せは完璧だったじゃない!」

 

「客寄せはな! 客を寄せても、お前の芸で消したバナナがないんじゃ意味がないわこの駄女神!」

 

「なんですって?! 私は、あんたがコミュ障だから仕方なくお金の為に宴会芸を披露したのよ!? なんで筋力が足りなくてバナナの箱すら持ち上げられないクソニートにそんな事言われなきゃいけないのよ! ほら謝って! この清く美しい女神様を、駄女神と言ってしまいごめんなさい、って謝って!」

 

「……フッ」

 

「あっ!」

 

 そこにはギャーギャーと騒ぐ、水の女神(全ての元凶)と、日本人のような顔立ちの少年が……

 

 ……みこーん。

 

「貴方、もしかして水の女神アクア様ですか?」

 

「「えっ?」」

 

 声をかけた2人は、驚いたような顔をした。

 

 ……さあ、ジャッジメントの時間だ……

 

「「……どちら様ですか?」」

 

 ……ジャッジメントは必要ありませんね☆

 

「……クソ女神、貴方はたおやかに沈めてあげるので覚悟しなさいな♪」

 

「「えっ?」」

 

「懺悔しやがれ! これが狐の! 怒りの鉄槌だぁあああーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇめぐみん。私達って今現在、パーティーを組める人ってタマモさんしかいないよね?」 

 

「……そうですね」

 

「……それなら。勝負、どうしよっか?」

 

「……仕方ないですね。今回は引き分けって事で手を打ってあげますよ。そのかわり、友達である私にご飯を奢ってくださいね?」

 

「もちろんよ! だって、私とめぐみんは友達だもんね!」

 

「冗談ですよゆんゆん? 何故、2番目に頭が良かった貴方がこんな簡単に引っかかって……って、痛い、痛いです! 謝りますから! 謝りますから、殴るのをやめて下さい!」

 

「めぐみんの馬鹿ぁああーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁあああーー!! 助けて! 助けてカズマさーん!! もうカズマさんのお金、勝手に取ってお酒飲まないからー!今度からはちゃんと言ってから取るから!」

 

「おまっ! 金が少なくなっていたのはお前のせいかよ! だったらもう少しそこで、頭をグリグリされてるんだな!」

 

「まだです! まだ終わりませんよ! 狐の怒りはこんなもんでは治りません!」

 

「いやぁあああーー!」

 

「お前が、お前があそこで調整ミスをしなければ! 私が力の制御をしなくてもよかったのですよ! 大人しく、反省しなさいな!」

 

「謝るからぁ! 調整ミスした事も、忘れてた事も謝るからぁあ! そろそろやめてぇーーー!! 変なニートに連れてこられた世界で!! こんな痛い目に合わされるなんてぇええええーーーいったーーい!!」

 

 今日もアクセルは平和である。

 

 

 

 

 

 

 結局あの後、ギルドの職員さんが止めに入るまで、私はアクアに鉄槌を下していた。転生させてくれた恩はあるが、それはそれ。これはこれであるので、先ほどの行いを悔いはしない。

 

 ……私、大☆満☆足です!

 

 因みにアクアは、私と佐藤和真(さとうかずま)と名乗った少年転生者の足元で痛みに呻いている。

 

「頭が……私の高貴なる頭が……」

 

「……そういえば、この駄女神は何をやらかしたんですか?タマモさん」

 

「私を転生させる時に、能力の調整を盛大にミスって、私をこの世界を滅ぼしうる存在にしようとしたのですよねぇ〜。そこで、ジャッジメントを下そうとしたら、私の事を忘れているときたものです。だから私は鉄槌を下したまでです」

 

「どこが高貴だこの駄女神! なに救おうとしてる世界に、トドメをさしかけてるんだよ! そんな事をしでかす頭のどこが高貴なのか言ってみろよ! この無能で馬鹿なアホ女神がぁぁぁぁー!」

 

「言っちゃいけないこと言った! カズマさんが言っちゃいけないこと言った! うわぁぁぁぁぁーーーん!」

 

 ……これ以上この場にいたら、厄介事に巻き込まれそうですね。

 

 カズマの肩に手をのせる。

 

「……後は任せたゾ☆」

 

「ちょっ! おい!」

 

 私は、カズマの制止を振り切ってギルドの外へと飛び出していく。

 

 ……しっかし、あの女神を連れてきてくれたカズマには感謝しないといけませんねぇ。今度、何かしらのお礼をするとしますか。

 

 先ほど下していた鉄槌の最中に、アクアが口走っていた言葉を思い出す。

 

 ……まあなににしても、これでファーストミッションはコンプリートです♪

 

 走りながら満足気に頷き、門の外へと駆けて行く。目指すはデイリークエストの達成だ。

 

 ……さあさあ今日も、タマモちゃんパワーを見せてやるゾ☆

 

 私は意気揚々と最初の依頼である、一撃熊の討伐へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……そういえば、スキルってどうやって取ればいいの?




次回も気分がのれば投稿します。


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カードの中には人類悪

気が向きました。
評価付与時に、任意ですが、何がよくて何がダメだったのか、教えていただけるとありがたいです。…別に、低い評価がついてショックを受けたわけではありませんよ?(震え声)
(作者のハートはガラス製なので、なるべく優しく教えてください)


「ええっ?! タマモさんってスキルを習得されていなかったのですか!?」

 

「そんなに驚くことですかぁ?」

 

「当たり前じゃないですか! 私はてっきり、その強いステータスとスキルを使って、高難易度をサクサクとクリアしていたのかと……」

 

「っと言われましても、スキルの取り方がわからないんですから、スキルもスルメもありません!」

 

「……えっと、冒険者登録の時に説明されませんでしたか?」

 

「いえ、何も……ってスルーですか?! 何か反応してくれません?!」

 

「……つまらないので」

 

「ガーーン!」

 

 私はオーバーリアクションでカウンターに手をついた。目の前にいる受付嬢、ルナさんはため息を吐いている。ルナさんとは、女が少ない職場という事もあり、つい最近仲良くなったのだ。

 

 ……何故かさん付けをしてしまう。……っは! これが大人の女性というやつなのですね?

 

 そんな阿保な事を考えている私は今、依頼の完了をルナさんに報告したついでにスキルの事を聞きながら、カウンターの上で某卵のようにグデーっと溶けて話をしている。

 

「……あとでその子は説教をするとして、冒険者カードを見ていないのですか? そこにスキル欄と書かれていると思うのですが…」

 

「あーー、黒歴史の塊みたいなものだったので、見ていませんね」

 

 私にとってあの時の事は、かなりのトラウマものなのであまりあのカードを見たくなかったのだ。

 

 ……あれ? 私は今、アークウィザードになっているのなら、人類悪(職業)になる危険性はないのでは?

 

 カードを取り出して職業欄を見てもアークウィザードとしか書かれていないので、おそらく人類悪になる事は回避出来るだろう。

 

 ……さてさて、スキルの欄は……え?

 

「えっと……そう、そこですね。ってええ?! なんですかこのスキルの数! 明らかに、アークウィザードが覚えられるスキルの量を超えていますよ!」

 

 習得可能スキルの欄をスクロールをしてもなかなか一番下へとたどり着かない。気になるスキル名を見ると、そこにはこの世界特有の魔法から始まり、玉藻(水着も含め)が保有していたスキルに、使っていた技が書かれていて……

 

「だからこれはチートすぎです! まるでチートのバーゲンセールです! というより、習得する為の消費ポイントが少なすぎません?! これなら、玉藻スキルマの方が、ここにある全てのスキルの習得より時間がかかりますよ!」

 

「なにがなんだかわかりませんが、カウンターを叩くのをやめてください! タマモさん!」

 

「安心してください。峰打ちです」

 

「あっ、そういうのはいいですので」

 

「ガーーーーン!!」

 

 先ほどよりも、豪快にリアクションをとる。

 

 ……ぐぬぬ。やはり、ボケをかますのは難しい。

 

「……って、タマモさん。ちょっとここ見てください! なんですかこのスキルポイントの数は!? 1ヶ月でこんなに貯まるわけないじゃないですか! それに、初期ポイントも合わせたとしても、どう考えても初期ポイントのソレじゃないですよ!」

 

 慌ててルナさんが指をさす場所に目を飛ばすと、そこには玉藻のスキルや技を全て習得したとしても、余ってしまいそうな程の量のスキルポイントが……

 

 ……悲報:玉藻の最終再臨の方が難しい模様。

 

「……とりあえず。スキルを習得、してみましょうか」

 

「……はい」

 

 とりあえず、1番上にあった《初級魔法》というものを、習得してみた。使い方は、他の冒険者を見ていたので、わかっている。

 

 ……事故らない為に、念のため流す魔力は少なめにして……

 

「『ティンダー』……本当にできるのか……」

 

 分かってはいたが、先ほどまでできなかった事が、こうもあっさりとできるようになってしまうのは、なんとも言えない感覚だった。私は指先に灯った火を消して、カードを再び手に持った。

 

「ひとまずスキル習得、おめでとうございます。……これからはちゃんと、スキルを使ってくださいね? ……あっ、因みに、スキルは使い続けていると、スキルレベルというものが上がっていきます。スキルはスキルレベルに応じて、強力になっていくので、たくさんスキルを使って、スキルレベルを上げる事をオススメします。……もっとも、タマモさんには必要ないとは思いますが……」

 

「……まあ、どこかの問題児のように、極めたいスキルを見つけたら、使い続けてみます」

 

「……貴方が爆裂魔法を極めようとしたら、洒落にならないのでやめてくださいね?」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

「……そうですか」

 

「いやいやいや! そこは『問題大有りだ、この駄狐が!』ってツッコミを入れるところでしょう!?」

 

「……問題大有りだこの駄狐が」

 

「……もう、いいです」

 

 私はカウンターから離れて、スキルポイントを消費する作業に入ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 ……《水天日光天照八野鎮石(すいてんにっこうあまてらすやのしずいし)》。なんで習得可能スキル欄にあるのでしょうか……。ていうかこれ、調整しないとこの世界が壊れちゃいそうですが大丈夫なんですかね?

 

 スキルの習得は淡々と進めていたが、このスキル? を習得した時に、ふとそんな事を考えた。

 ……確か、あの宝具ってキャス狐状態だと、呪術コストゼロとか、味方全体のスキルチャージを1進めて、味方全体のHPを回復や味方全体のNPを増やすだけだったと思うけど、九尾状態で使うと対界宝具になって……あっ。 

 

「……とりあえず、これを使う時は、どうにか制御してキャス狐程度の力に……できますかね?」

 

 ……できると信じたい。

 

 そんな事を考えているあいだに、この作業の終わりが見えてきたようで、画面のスクロールがとうとう止まった。が、そこにはどう考えても悪意のあるものが書かれていた。

 

 ……あと残っているスキルは……え?

 

 1番下に書かれている4つのスキル。その4つだけ、赤色の文字で書かれている。

 

 ……うっそじゃん?

 

そう。そこに書かれていたのは《獣の権能》《単独顕現》《自己改造》《ネガ・ウェポン》という、『人類悪スタートパック』と名前が付けられそうな感じで……

 

「馬鹿なんですか?! この世界は大馬鹿野郎なんですか?!」

 

 私はこの4つ以外のスキルを習得し、カードをしまう。

 

「こんなところに伏兵がいるのは聞いてないんですけど? なんですかこれ? 人類悪を勧めてくる新手の詐欺なんですか?」

 

 元々低かったテンションが、さらに急降下した私はゆらゆらと立ち上がり、冒険者ギルドから出てある場所へと向かって歩き始める。

 目的地に行く途中でゆんゆん達にも出会ったが、私の様子を見て、話しかけてはこなかった。

 ゆらゆらと歩き続けて数十分。私の足は、小さなお店の前で止まった。看板には『ウィズ魔道具店』という文字が書いてある。

 扉を開けると「カランカラン」という鐘の音と共に……

 

「いらっしゃいま……あっ! タマモさん! お久しぶりですね! 今、お茶とお茶請けを用意しますので少し待っていてください」

 

「……条件反射でそれを行う貴方は、きっと良いお嫁さんになるでしょう……」

 

 店の奥へと入って行った女性……ウィズの背中を見ながら、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ウィズと出会ったのはゆんゆん達と出会って間もない頃だった。

 初めての野宿をゆんゆん達との出会いで体験してから、野宿をなるべく、快適なものにしたくて、アクセルの道具店と魔道具店を巡っていたら、たまたま出会っただけであった。

 だが、彼女の中にあった、人間とは一線を画す魔力を、尻尾(第六感)がキャッチした事によって、彼女の正体を突き止めてしまう事になった。

 

 ……アンデッドの王様であるリッチーが、人間の街に住むって普通に考えておかしいですよね?

 

 ウィズが、人間ではなくリッチーであったという事を知った私は……どうこうするわけでもなく、ただ私やウィズの愚痴を言い合う、謂わば飲み仲間のような関係になってもらった。

 

 ……第1に、私は人の事を言えない存在ですし……。それに、この悩みを聞いてもらう事ができる存在は人間以外でないといけないから、正直に言ってウィズのような存在はありがたい存在ですよ。……人類悪の説明をしたら顔を真っ青にさせながら私に攻撃してきましたがね……。

 

 目の前で鼻歌を披露しながら、カチャカチャとティーセットを用意している、ウィズの姿をチラリと見る。

 「仕事はいいのか」と普通なら、言ったほうがいいのだろうが、生憎と今の私は愚痴を思いっきり溢したい気分なのだ。

 それに、この店には商品目的で客が来ることなど、滅多にないのだから大丈夫だろう。

 というのも、この店……ウィズ魔道具店にはまともな魔道具が殆ど無いからである。

 

 ……一体なにを思って1つ数万エリスもするようなガラクタ達をウィズは購入しているんですか……。

 

 おそらく彼女の商才は、ダ・ヴィンチちゃんの知恵や、ナイチンゲールの治療をもってしても治す事は難しいかもしれない。

 

 ……まあ、お茶を出してもらっている手前何も買わないわけにはいかないのですがね……。

 

 ニコニコ顔なウィズを見ながらため息を吐く。

 

「準備ができましたよ〜。今日のお茶請けは、最近、お客さんに恵んでいただいた、お饅頭ですよ!」

 

「恵んでいただいたお客様に感謝して……ってなるかぁー! なんでお客さんに、食べ物を恵んでもらってるんですか?!」

 

「わっ、私も最初は、お客さんに悪いからって言って断ろうとしたんですよ! ですがその時の私は、もう4日も固形物を食べていない状態だったので、つい欲が勝ってしまい…」

 

「……アンデッドに食欲ってあるんですか?」

 

「私は腐っても人間です。確かに死ぬ事はありませんが、何か食べないとお腹が空いて死にそうになります」

 

「腐っても人って、誰が上手いこと言えと」

 

 私達の会話は、大体がこういった世間話? から始まる。

 といっても、すぐに私の悩みをきいてもらったり、ウィズの商談の相談をしたり、仕事の愚痴を言い合ったりするお茶会になるのだが……。

 

「それにしても、本当にタマモさんは強いですよね。……もしかしたら、私の友人のバニルさんにも勝てちゃったりして」

 

「バニルってまさか、手配書に出てる魔王軍の幹部のあのバニル? 」

 

「そのバニルで合っていますよ。実を言うと、その人とは、私が魔王軍の幹部になる前からの知り合いでして」

 

 ……ちょっと待て。

 

「悪魔が友達なのはまだ分かります。悪魔の事を人と言ったのも、あえてツッコミはいれません。ですが……ウィズが魔王軍の幹部って事には、流石にツッコませていただきます! なんで魔王軍の幹部が街中でお店なんかひらいてるんですか!? 魔王軍って意外とフレンドリーなんですか?!」

 

「別に、そういうわけではありませんよ。ただ私が特殊なだけで、ほかのみなさんは、しっかりと魔王軍をやっていますよ。私がこうして、人間の街に住んでいるのは……人間だったときの名残、のような物なのでしょうね」

 

 そう言ったウィズは、少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべた。

 

 ……これ以上は踏み込まない方が良さそうですね。

 

「まあ、今更ウィズが魔王軍だって事が分かっても、今までの貴方を見ていたこちらからすると別に気にする必要はないですね。それに、手配書が出ていないという事は何もしていないって事なのでしょうし。……なにより、私も人の事を強く言えた立場ではないのですし」

 

「そう言ってくださると、ありがたいですね……」

 

 ウィズがそう言うと、静かな時間が少しだけ流れ、そして、先ほどのようなお茶会が再開されるのであった。




次回も気分が向けば投稿します。 


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1番の敵は自分のパワー

気が向きました。


「炎天よ、奔れ! ……よし。カエルの丸焼き、完成!」

 

 気持ちのいいくらいの快晴のなか、私は、今日も今日とてクエストをこなす。

 

 ……いい社畜日和ですね。お出かけ日和に変わってほしいです。

 

 そんな事を考えながら、カエルの丸焼きを手早く解体して可食部と素材を分けて、袋の中に入れていく。素材になる部分は、ギルドに差し出して、可食部はウィズに押し付けるつもりだ。

 

 ……粗方、終わりましたか。それでは、残骸をチョチョイと焼却して……ん? 尻尾(第六感)がなにか捉えましたね。これは……

 

「めぐみんですか」

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 遠くからめぐみんの声が聞こえてきた直後、強烈な閃光と爆音が平原を揺らし、次いで暴風が襲ってきた。遠くに爆煙が上がっているのが確認できた。

 

 ……この匂いからして、今日はちゃんとモンスターに向けて撃ちましたか。折角なので、顔を見せていきましょうか。……さてさて、今日は一体、どなたと組んでいるんでしょう……。

 

 私は爆煙が晴れた丘に向かって歩いて行く。彼女が今、パーティーメンバーを組めるのは、私以外にはつい最近冒険を始めた者くらいしか、彼女と組もうとは思わないだろう。

 ほぼ全ての冒険者が、彼女の名前と『頭のおかしい爆裂娘』という異名を知っているから組みたがらないし、私以外で組んでくれるゆんゆんは、上級魔法を覚えると言って修行に出てしまった。

 

 ……爆裂魔法以外も覚えてくれたら、パーティーメンバーくらい簡単にできると思うんですが……っと。見えてきましたか。はてさて今日のお相手は……

 

「お前ら〜〜!!」

 

 ……なるほど、カズマでしたか。……ご愁傷様です。

 

 どうやらめぐみんの初見殺しをくらったのは、あの駄女神を連れてきてくれたカズマだったようだ。駄女神と問題児……アクアとめぐみんの姿が見えないので、探してみるとカズマが走っている方向に人間の足をぷらんと垂らしたカエルが2匹いて……。

 

 ……南無三。

 

 心の中で呟いて合掌する。

 そうしている間にもカズマはカエルを倒して2人を救出したようだ。

 しかし、どちらも精神的ショックが大きいようでアクアは泣きじゃくり、めぐみんは呆然としている。

 そんな彼女達に近づいていくとカズマがこちらの存在に気がついたようで助けてくれという目を向けてくる。

 

「うっ……うう。ぐすん。カズマ……っ! カズマ……っ!うわああああああんっ……!」

 

「だぁあああ! アクア、お前っ! 抱きつこうとするなぁ!」

 

「………カエルって、見かけによらず凶悪ですね。身をもって体験しました」

 

「そんな情報はいらんわぁあ! ちょっ、タマモさん! ヘルプ! ヘルプミー!」

 

 ……なんです? このカオスな状況。

 

「……とりあえず、街に戻られては? このままだとお肉が痛んでしまいますよ?」

 

「……確かに、とっととクエスト完了をギルドに報告して、こいつらを風呂にたたき込んだ方がいいな……。おーいめぐみーん。立てるかー?」

 

「……無理です。動けません。申し訳ないのですが、おぶっていただけないでしょうか?」

 

「しょーがねぇなぁあ」「しょうがないですねー」

 

「え?」

 

 カズマが困惑している間に、私は準備を済ませる。

 

「うーん、やっぱりこちらの姿の方が、動きやっすいですねぇ。もういっそのこと、この姿で……アリ」

 

「「「えっ?」」」

 

 私の姿を見て、カズマ、アクア、めぐみんの3人が困惑した。

 何故なら……

 

「最終再臨もいいのですが……玉藻といったら、やっぱりこの姿! というのは、偏見ですね」

 

 私の姿が、FGOで言うところの第3段階から第1段階の姿に、変わったからである。

 

 ……まあ、尻尾は9本のままなんですけどね……。

 

 因みに、第2段階にも姿を変えることはできるのだが、尻尾の数が変わらないので、実質なにも変わっていない事と同じである。

 これができるようになったのはつい最近のことで、久しぶりにレベルの確認をしようとしたときに、スキル欄を見たら《霊基変更》という文字があったので習得した。

 最初に見た時は、英霊ではないのに霊基ってどうゆうことなんですか? と困惑したが、人類悪を勧められる事なんかよりよっぽどマシだったので、深くは考えなかった。

 何故今になってこのような事ができるようになったのかよくわかっていないが、おそらく力の制御がうまくできるようになったからだと私は思っている。

 もっともこの姿だと露出が多くなるので、多くの視線———主に男性の———が集まる事が、予想されるから使っていなかったのだが。

 じゃあなんで今使っているのかというと……気分である。

 

 ……なんていうか……この姿で技を使う方が、しっくりくるのは何故でしょうか?

 

 そう考えながら私は手に持っていた鏡を宙に浮かせる。

 何故、そのような事をしているか。……それは、あの技を使う為である。

 

 ……大きな借りを、少しだけでも返すとしましょうか。

 

 お札を数枚、手に持ち……いざ!

 

「ここは我が国、神の国」

 ———私は握っていたお札を離す。

「水は潤い、実り豊かな中津国」

 ———離していたお札が、私やカズマ達を囲い、紫色に光り始める。と同時に、鳥居が出現する。

「国が空に水注ぎ、高天巡り、黄泉巡り、巡り巡りて水天日光」

 ———私の周りを飛んでいた鏡が、中央上空に、回転しながら飛んでいき、お札から出ていた光を吸収していく。やがて、そこに緑色に光る大きな球ができていた。

「我が照らす、豊葦原瑞穂の国」

 ———私は飛び上がり、その光を地面に叩きつける。すると、叩きつけた場所を中心に、光の渦が出来上がる。

「八尋の輪に輪を掛けて、これぞ九重天照」

 ———私はその光の渦の中心に立ち、そして……

「水天日光天照八野鎮石」

 ———と言うと同時に、私達の周りに、大きな渦……結界をつくりあげた。

 

 玉藻の前の宝具。《水天日光天照八野鎮石》は作品によって、効果が少しずつ変わっているが、どれもみな、魔力供給のようなものだ。

 しかし、本来の姿……つまり、今の私が使うと、無限の魔力供給に、死者蘇生ができる結界を、この国全体に張ることができてしまう。

 そんな事をすれば、国中が大騒ぎになり、最悪の場合、私がなんかしらの罪で逮捕されてしまう。

 だから私は、力の制御をクエストの合間に練習していた。その練習の成果のおまけが、《霊基変更》という事だ。

 正直に言って、この世界に来てから1番苦労をした。

 最初は中級魔法すらも制御がままならなかったが、今では宝具ですら制御できるようになった。

 因みに、制御した状態の宝具の性能を、ランクで表すとしたら、Aランク程。FGOで、強化クエストを受けた後の玉藻より、1ランク上である。

 効果としては、キャス狐の宝具の効果を、そのまま強くした……といったところだろう。

 今回は草原だったので水は出さなかったが、一応FGOの宝具などのような演出も可能である。

 

 ……私のプチ修行の成果。これは高得点間違いなし。

 

 私は自慢気に、腰に手を当てて、えっへんとしてみる。

 しかし、得点係である3人は、得点ではなく、別の事を叫んだ。

 

「「「なっ……」」」

 

「な?」

 

「「「なんじゃこりゃぁあ!」」」

 

「……貴方たち、どこに向かってほえてるんですか?」

 

 思わず、某刑事ドラマが思い浮かんでしまった。

 

「いやっ! だってさっきまでスッゲェ疲れてたのが、今の……なんか……すっごい技で、全部吹き飛んだんですけど!? なんすかこれ!」

 

「体力もそうですが、魔力が回復したのも驚きですよ!? さっきまで、すっからかんだった魔力が、爆裂魔法がギリギリ撃てないという、なんともいやらしいラインまで回復しましたよ!? そしてなにより! 先ほどの詠唱が、ありえないほどかっこよかったです!」

 

「ちょっ、ちょっと。あんた、誰の許可を貰って神様宣言してるのよ?! あんた信者いないでしょう?! 神様っていうのは私みたいに、清くて美しい者のことをいうのよ?! 勝手に神様宣言されるのは困るわよ!」

 

「「少なくとも、カエルの体液まみれになっているお前(あなた)よりも、タマモさんのほうが、神様っぽいぞ(ですよ)」」

 

「うわぁあああーーん……っ! 私、女神なのに! 本物の、女神なのに! うわぁああーん……っ!」 

 

 ……なんです? このカオスな状況。

 

 結局、ギャーギャーと騒ぎ始めた私達——主にアクア——が静かになったのは私達が騒いでいた事によって地中にいたカエルが出てきた時だった。

 もっとも……

 

「カエルはもういやぁあああーーっ!」

 

「あぁあああ! なんでこうなるんだぁあ!」

 

「逃げますよ! クエストは達成したんですから、とっとと退却です!」

 

 私以外の3人はカエルを見た直後。一瞬固まった後に、街の方向へと叫びながら走って行ってしまったのだが……。

 

 ……とりあえず、カエルの丸焼きを作りましょっか。

 

「『インフェルノ』! ……カエルの丸焼き、完成」

 

  ……玉藻印の技もいいんですけど、やっぱり上級魔法もカッコいいですね。

 

 そんな事を考えながら、私は解体の作業へと入る。

 これが最後のクエストで本当によかった。

 先ほどの出来事のせいで、精神的に疲れてしまった。

 

 ……やっと終わった。……もう夕方ですか。今から帰るとなると、街への到着は夜になる。……ギルドに報告したら、宿に戻ってとっとと寝るとしましょうか。

 

 カエルの残骸を手早く焼却して、私はアクセルへと重い足を動かすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ルナさん。クエスト完了しました」

 

「タマモさんですね。それでは、冒険カードを、預からせて……ってなんて格好しているのですか?! いつもの、あの服はどうしたんですか?!」

 

「あっ……すぐに直します」

 

 どうや第1段階のままで街の中を歩いていたらしい。

 

「……タマモさん。仕事を押し付……渡している此方が言うのもなんなのですが……しっかり休めていますか?」

 

「……ヤスミってなんですか?」

 

「……わかりました。これからは、クエストの量を減らしておきましょうか

 

「……クエスト完了の確認をしてもらってもいいですか?」

 

「あっ、はい。………はい。今日タマモさんが受けていた、全ての依頼の達成を確認しました。こちらが、報酬になります。ご確認くださいね」

 

 机の上に置かれた報酬を受け取り、私は帰路についた。

 

 ……明日は、今日よりもまともな1日になってほしいですね。というかなれ。

 

 宿に向かって歩きながら、私はそんな事を祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 翌日。私は、空を飛ぶキャベツを相手に闘いを繰り広げていた。

 改めて思った。

 この世界は、どうしようもないくらい巫山戯ていると。




宝具演出、めちゃくちゃ難しい……。 
どなたか、アドバイスをいただけたらありがたいです。
マーリン復刻。皆さまはどうだったでしょうか。
作者は……ご想像にお任せします。
次回も気が向けば書きます。


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休日の過ごし方

気が向きました。……のですが、今回はかなりの難産でした。
文章の質が下がっていたら、申し訳ありません。


「頼もーーう! 今日もクエストを請けに来たゾ☆」

 

 キャベツ狩り、という巫山戯たクエストを受けた翌日。私は今日も今日とて、社畜に励む為に、冒険者ギルドの扉を開く。

 

 ……さて、今日はどれほど、タイムを縮められることができるのでしょうか?

 

 新たなる記録を目指して、私は、今日も今日とてクエストを受けようと、受付嬢に私宛のクエストの確認を……。

 

「あっ、タマモさん。今日タマモさんに受けてもらいたいクエストは無いので、休日にしていただいて大丈夫ですよ」

 

「……え?」

 

 ……この受付嬢。今、なんて言いました?

 

 困惑していた私に、隣にいたルナさんが

 

「あぁ、タマモさん。今日は彼女が言うように、タマモさんに受けていただきたいクエストが無いので、休んでもらって大丈夫ですよ」

 

「……マジですか?」

 

「えっ? ええ。そうですが……」

 

「やりましたぁああ! 遂に! 遂に! ここにきて遂に! 初めての休日が! ……冒険者を始めてから1度もなかった休日が! ようやく、手に入りました!」

 

 私が勝利宣言を叫ぶとギルド内にいた冒険者が騒然とした。

 

「おいおい、まじかよ……。とうとうタマモさんが、休日を手に入れたぞ」

 

「思えば、タマモさんって、冒険者を登録したその日から、毎日ギルドに通っていたわよね?」

 

「……真昼間から酒を飲んでる俺とは、大違いだな。あぁ、どうしてこうなっちまったんだ……」

 

「……これで涙拭けよ。酒が不味くなっちまうだろ? 同士よ」

 

「ほら、カズマさんもあんな風にならないように、タマモを見習いなさいな」

 

「お前にだけは言われたくない」

 

「いや寧ろ、ああなってもらった方が、私としては都合がいい。真昼間から酒を入れて、冒険もせずに自堕落に生活していく。やがてお金が尽きたお前はこういう言うのだ。『おいダクネス。金がねえからその身をちょっと売ってこい』……と。私は身体を売るために街に出て、そこで野獣のような男達に……んんっ! カズマ! 是非あの者達のようになってもらいたい!」

 

「お前はちょっと黙ってろ」

 

「……タマモさんを久しぶりに爆裂散歩に誘いたいですね」

 

「おい、やめろよ? それに、今日はクエストを受けるんだから勝手に爆裂すんじゃないぞ?」

 

 ……何人かおかしな人が混じっている気がしたのですが……。

 

 兎に角。遂に私は、この世界に来て初めての休日を手に入れたのだった。

 

 ………そういえば。

 

「休日って、どう過ごせばいいのでしたっけ?」

 

 ……よくよく考えてみればこの世界にきてから毎日が労働だったので、趣味=労働、娯楽=労働となっている。

 

「……趣味が仕事しかないので、クエストを受ける……ということは」

 

「できませんよ? というより、私が受諾しません」

 

 ルナさんにバッサリと切られてしまった。

 

 ……となると……あそこしか暇を潰せる場所はありませんね。

 

 私は冒険者ギルドを出て、ウィズ喫茶店……もといウィズ魔道具店に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「休日の過ごし方……ですか? えっと……私は商品の仕入れや新しい魔道具の購入や取り引きをしていますね。後は……お金がないので特には……」

 

 ウィズはお茶の準備をする手を止めて、私の問いに答える。

 

 ……リッチーがお金に悩まされながら生活するとは。……本当に世知辛い世の中ですね。

 

「ウィズも仕事でしたか……」

 

「……"も"、という事はタマモさんも同じですか?」

 

「……私は止められたのですがね」

 

「ですが、止められなければクエストを受けていたでしょう? ダメじゃないですか。休日はしっかり休まなくちゃ身体に毒ですよ」

 

「それを言うのなら、ウィズだって同じですねぇ〜。人の事言うのなら、まずは自分が休みなさい」

 

「うぅん、ですが仕事以外に何かやるとなると一体何をすれば……」

 

「……とりあえず、趣味になるものを見つけましょうか」

 

 そう言ってみると、ウィズは顎に手を当てて考え始めた。

 

「ショッピング……なんてどうでしょうか。一緒に見て回るくらいなら、私にもできますし」

 

 ……確かに良さそうですが、ウィズとショッピングをしたら変な物を持ってきそうですね。それに買えない物を見ても私だったら、唯々ストレスですね。つまらないですし……。

 

「……ピクニックなんてどうです? それならウィズも楽しめるでしょうし……。なにより、ゆったりと休めますよ?」

 

「いいですね! いかにも休日って感じがします!」

 

 どうやらウィズは提案に乗り気なようで、見るからにテンションが上がっている。

 

「あと、キャンプなんてどうでしょうか? 冒険者時代は、野営をしなければならない時が多々あったのですが……なかなか気が休めるものではなくて……」

 

 ウィズの提案もいいものなので同意して、それに付け足していく。

 

「それもアリですね。キャンプなら釣りやハイキングなど、様々な事が楽しめますからね」

 

 1度案が出れば次々と思い浮かび、休日というものがなかなか楽しいものに変わっていく。

 

 ……なるほど。これも、休日の過ごし方の1つに加えてもいいですね。『知り合いや友人とお茶やご飯を食べながら、延々と駄弁る』……なかなか面白いですね。

 

「それからそれから! ———」

 

 楽しそうに話すウィズを見ながら、私は喉を湿らせて、ウィズとの会話を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 気がつけば窓の外は夕焼けによって赤くなっており、いかにもといった感じでカラスが鳴いている。

 

「あっ! もうこんな時間に……。すみませんタマモさん。タマモさんとの話が楽しくて、ついつい時間を忘れてしまいました」

 

「別にいいですが? 私も楽しかったですし……なにより休日の楽しみ方がよくわかったので謝罪はいりませんよ」

 

 そう言って、椅子から立ち上がり大きく伸びをする。

 

 ……明日から、再びクエスト漬けの毎日ですか。……先ほどまでは、クエストをしていた方が楽しいと感じていたのですが……今となってはクエストが憂鬱になってしまいましたね。

 

 そう考えながらため息を吐き、ウィズに別れの挨拶を告げる。

 

「それじゃあ、そろそろ私は帰らせてもらおっかな? 明日はまたクエストを請けなければなりませんし……」

 

 口に出すだけでも憂鬱になっていく。

 徐々に目が死んでいく私を見ながら、ウィズは苦笑いを浮かべている。

 

「私も応援していますので、頑張ってください。此処に来てくださればお茶くらいしか出せませんが、話し相手にはなりますので……」

 

 ……ウィズはいい人……もといアンデットですね。そこいらにいる駄女神やら爆裂狂とは大違いですよ……。

 

 ジーンとなりながら、ウィズに感謝の言葉を伝える。

 

「ウィズがそう言ってくれるだけでも、救いですよ……。ありがとうございます」

 

 頭を下げるとウィズは何故か慌てふためく。

 

「あっ、頭を上げてください! これは私が好きでやっている事ですので、褒めていただくようなことではありませんよ!」

 

 ……はっ! 一瞬だけ、ウィズとの結婚を本気で考えてしまった。くっ、これが良妻オーラというものですか!

 

「あの、タマモさん?どうされましたか?」

 

「……ウィズは将来、良いお嫁さんになりそうだなって考えていただけですよ」

 

「えっ? あっ、ありがとうございます?」

 

「何故に疑問形? まあ良いんですけど。……それじゃあ私はそろそろお邪魔しますかねぇ。お茶美味しかったですよ」

 

「ありがとうございます。またお越し下さいませ。タマモさん」

 

 ……今日は何も買っていないのに、また来てくださいとはこれはいかに……。

 

 とりあえず、右手を上げて返事をしておいた。

 カランカランという店とは対照的な景気のいい音を聞きながら、私は外に出る。

 

 ……さて、帰って明日の準備をしておきましょうか……。憂鬱ですねぇ……。これを例えるなら……長期休みの最終日……ってそれは言い過ぎですかね。

 

 私はため息を吐きながら宿へと向かって歩く。

 

 ……宿に帰ったら夕飯を食べてお風呂に入って……ん? あれは……

 

「カズマ達ですか……」

 

 どうやらこれからクエストに出るようで、装備で身を包んでいる。

 

「ふわぁあ……それにしても。このクエストに私は必要なのですか? 魔法が撃てない私は、自分が言うのもアレですが、役に立たないと思うのですが……」

 

「そりゃ……そうだけど。もしもって時があるだろう?」

 

「ゾンビメーカーの討伐で、もしもが起こるわけないだろう……というのは慢心だからな。油断は禁物だ。もしも危うくなったら私がこの身で守るから、安心するといい」

 

「ダクネスったら、何言っちゃってるのよ! 私がもしもを許すわけないでしょう? 相手はたかだかゾンビメーカーなんだから、安心して私にドーンと任せておきなさいな!」

 

「よし2人とも。アクアがフラグを建てたから、俺達でなんとかするぞ」

 

「「了解だ(です)」」

 

「なんでよーーっ!!」

 

 ……賑やかですね。……私にもいつか、ああいったパーティーメンバーが欲しいですね……。

 

 彼らを横目にそんな事を考えながら、私は宿に向かって歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

———翌日———

 

「頼もう! さぁさぁ今日こそ、出すもん出してもらいましょうか!」

 

 いつものようにギルドの扉を開けて叫ぶと、何故かギルド内にいた全ての冒険者がこちらを見た。

 

 ……いつもこんなノリなのに、どうしたのでしょう?

 

 首を傾げながら私は受付に向かい、クエストを請けようと……

 

「あっ、すみませんタマモさん。今日もクエストは無いんですよ。……実は最近、魔王の幹部らしき者が街の近くの小城に住み着いたんですよ。そのせいで、力の弱いモンスター達が身を潜めてしまい仕事が……。タマモさんに討伐依頼を出そうと考えていたのですが、上から『来月には、首都から騎士達が討伐の為に派遣されるから、それまで手を出すな』……と言われてしまいまして。なので、後1ヶ月は殆どクエストは無いと思ってもらって大丈夫です」

 

 …………まじか。

 

「やりましたぁああ!!」

 

 再び勝利宣言を上げた私はギルドを飛び出して、この街で1番有名なお菓子屋に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ウィズ! やりました! これから1ヶ月間。ずっと休みになった……ってどうしたのですか?! やけにやつれているようですが……」 

 

「あっ……タマモさん。すみません、今お茶を用意しますので……」

 

「わかりまし……ってちょぉおっと待てい!」

 

 フラフラとしながら歩いていくウィズを止めて、私はウィズを支えに入る。

 

「何があったかは知りませんが、今日は寝ていなさいな。店番くらいなら、私がしますから」

 

「ですが……」

 

「いいから。いつもお茶を出しているお礼として受け取ってください。というか受け取りやがれ」

 

「……わかりました。それでは暫くの間、お店の方をお願いします」

 

 意外とすぐに引き下がってくれたので少し驚いた。それほど疲れているという事なのだろう。

 

 ……まあ店を任された所で、お客さんは来ないのですが……。今日は静かな1日になりそうですね。

 

 私は大きく欠伸をすると、カウンターに立ち静かな1日を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「バニルさん……殺人光線だけは……やめてください……」

 

 ……いや、夢が物騒すぎるのですが?!

 寝言を言うウィズに戦慄させられたしまった私は、嫌に目が冴えてしまい、暇な店番でも眠ることなく最後までこなすのであった。




次回も気が向いたら書きます。


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全ての原因は駄女神に

気が向きました。
またもや難産。1度最初からしっかり読み直した方がいいという啓示なのでしょうか?


「ありがとうございます。もう大丈夫ですので」

 

 店番を始めてから数時間が経過した頃。ウィズがお店の裏から顔を出した。

 先ほどまでの死人を通り越した顔色が、死人のような顔色なのは、リッチーだからなのだろう。

 

「……それにしても、一体私が帰った後に何があったのです? リッチーである貴方が、この短時間であんな状態になるなど、何かがあったとしか考えられないのですが……」

 

「……実は昨日、タマモさんが帰った後に、私は定期的に通っている街の共同墓地で、迷える魂達を天に還していたのですが……。その時に、青い髪のアークプリーストが私を浄化しようと魔法を唱えて……。普通なら効かないと思うのですが、そのアークプリーストの方がかなりの実力の持ち主だったようで、唱えられた『ターンアンデッド』によって私が浄化されかけてしまい……。幸いにも、そのアークプリーストの仲間の方が止めに入ってくれたので、事なきを得たのですが……」

 

 ウィズはため息を吐きながら、カウンターにもたれた。

 

 ……どうしよう。犯人が誰だか分かってしまったのですが……。シバいてもいいのでしょうか。

 

「……誰が犯人か分かったので、シバいてきてもいいですか?」

 

「ちょっ! やめてくださいよタマモさん! 確かに、今こうしてタマモさんと友人感覚で話してはいますが、私はリッチーです。冒険者の方々が、私を退治しようとするのは当たり前のことですから……。だから、そういった事はしないでくださいよ?」

 

 ……やっぱり、ウィズならそう言うと思っていました。……確かに貴方はリッチーですが、それと同時に私の相談相手兼友人という事を忘れないで欲しいですね。

 

 思わずため息を吐いてしまう。

 

「本っ当に貴方はお人好しですねぇ〜。……まあそれがウィズの良さでもあるんですけどね。とりあえず、今回はシバくのは止めておきましょうか」

 

 するとウィズは、ほっと安堵の表情を浮かべた。

 

「……さて、ウィズに元気が戻ったようですし、そろそろお茶でも飲みますか。今日はお茶請けとして、アクセルで人気のお菓子を持ってきましたから、少しだけ贅沢なお茶会になりそうですよ」

 

 ……リッチーなお茶会。……なんちゃって。

 

 つまらないギャグを考えていると、ウィズがぱあっと顔を輝かせている事に気がついた。

 

「嬉しいです! 最近はタマモさんに貰ったカエル肉しか食べる物がなかったので、本当に有難いです!」

 

「……今度からカエル肉と共に野菜と炭水化物も用意して、週に数回ご飯を作りに来るとしましょう。というかします」

 

「ええっ?!」

 

 新たにやるべきことが決まったところで、私はいつもお茶会を開く机の上に、会話の時に用意していたお茶とお菓子を展開するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。こちらが緊急クエストの報酬、200万エリスになります。お確かめください」

 

 ……キャベツ狩りの報酬 ≒ 私の1週間……なんでしょうこの敗北感。

 

 カウンターの上に置かれた袋を持ち上げ、受付嬢にお辞儀をする。

 ウィズのお店でリッチなお茶会をした翌日。私は数日前にあったキャベツ狩りの報酬を受け取りにギルドに顔を出していた。ギルド内では、受け取った報酬で早速飲み始めている冒険者達の姿がちらほらと見られる。

 

 ……確かに今はクエストが無いので暇になり、飲みたくなりますよね。かくゆう私も、久しぶりに飲みたい気分です。

 

 彼らを横目に見ながら、私もお酒を飲もうと席につき、クリムゾンネロイドを注文する。

 ……それにしても、今日のギルドはいつもよりも活気が溢れていますね。……これがキャベツ狩りのおかげって……ファンタジー的にどうなんでしょうか?

 

 そんな事を考えている内に、注文していたクリムゾンネロイドが私の前に置かれた。

 

 ……これ。お酒というよりジュースですよね。……あちらの世界で言う、『凍結』のような物ですかね。……飲んだ事ありませんが。

 

 グイッと一杯。口の中がシャワシャワする。何故シュワシュワではなくシャワシャワなのかは、未だによくわからない。

 

 ……今日は、このままお酒を飲んで過ごしてみましょうか。……いや、途中で飽きてしまいそうですね。何かおもしろい事は……ん?あれは……。

 

「なんですってえええ!? ちょっとあんたどういう事よっ!」

 

 そんな叫び声がギルド中に響く。お酒を飲んでいた冒険者達が、それにつられて声の方向である受付を見る。そこには受付嬢の胸倉を掴むアクアの姿があった。

 

 ……今度は何をやらかしたのです。あの駄女神は。

 

 ギルドの注目を集めながら、アクアが放った言葉は……

 

「何で5万しか報酬が貰えないのよ! 私が捕まえたキャベツの量は、そんなに少なくない筈よ!」

 

 報酬に対するケチだった。

 

 ……いや、5万って。いくらなんでも少なすぎなのでは? あんなにキャベツがいたのに5万って……。一体どういう……。

 

 ウィズの一件を忘れてしまう程、気になったので引き続き話を聞いていると、どうやらアクアが捕まえていたのはキャベツではなくレタスだったようで、レタスの値段はキャベツよりも圧倒的に安いので報酬が少ないのだとか。

 

 ……レタスってそんなに雑魚でしたっけ? …………あぁ、そういえばレタスって栄養価があまり高く無いんでしたっけ。

 

 レタスの値段に疑問を感じたが、よくよく考えたら納得のいく理由に辿り着いたので、これ以上深くは考えない事にした。

 そうこうしている内にクリムゾンネロイドを飲み終えたので、素早く会計を済ませ、タゲがカズマに向いている内にギルドの外へと……

 

「タマモ様ー! 確か貴方にはカズマに対して大きな恩があるとかなんとか聞いたわよー! ならいっそ、ここで返してみるっていうのはどうかしら?」

 

 ……もう来やがったのですか! この女神、こういう時だけ無駄に行動が早いですね!

 

「確かにカズマには恩がありますが、アクアには私を転生させてくれた恩しかありません」

 

「大きな恩じゃない。さあさあ、いつでも返してもらっていいのよ?」

 

 …………この女神!

 

「確かに、転生してもらった事は大きな恩ですね。 ですが、アクアがやらかした調整ミスのせいでその恩全てが消し飛んでいます。 というか、恩も何もこの状況で、どうやって恩を返せばいいのですかね?」

 

「うっ……」

 

 流石のアクアもこれには強く言えないようで、言葉に詰まってしまった。のも束の間。すぐに言い返してきた。

 

「でも、あんたは玉藻の前にしてくださいと言っただけじゃない。つまりこれは、あんたの願い通りにしてあげたという事になるわよね?! だったら私に感謝しなくちゃいけない筈よ! ほら! さっさと出す物出しなさいな!」

 

 ………………こんのアマがぁあああ!!

 

「だったら、衣装と姿を変えろやこの駄女神! 尻尾が9本あるくせに、キャス狐の服着て顔しているんだからキャラ寄せしにくいでしょうが! そもそも、私がやりたかったのはキャス狐ムーブで、あのでかくてやばい方じゃないわ! そんくらいわかってただろこの馬鹿女神が!」

 

「あぁあああ! タマモが今言っちゃいけない事言った!」

 

「何度でも言ってやる! 大体、ずっと前からお前には恨みがあるんです! いい機会ですので、晴らさせていただきますよ!」

 

「わぁあああ!! カズマー! カズマ様ー! またタマモに頭グリグリされる! その前に私を助けてぇええ! さっきの事は謝るからぁああっ! 夜中に馬小屋でゴソゴソしてた事をみんなにバラしたの謝るからぁあ! だから助けてぇええ!」

 

「……お前は少し黙っていろ」

 

 ゴスッという鈍い音と共に、アクアが白目を剥いて倒れ込んだ。見れば、カズマが剣の柄頭でアクアの頭を殴っていた。

 

 ……冒険者に負ける女神って……えぇ?

 

「……うちの馬鹿が、ほんとすんません」

 

 滅茶苦茶低い声でカズマが謝罪をしてくる。

 

 ……うわぁあ。先日、カズマ達の事を羨ましいと思っていた私をぶん殴りたいですねぇ。自分の秘密をパーティーメンバーにバラされるのは、はっきり言って最悪ですね。

 

 アクアを引きずるカズマが余りにも可哀想なので、フォローになればと声をかけた。 

 

「……男の子だもんね。仕方ないよね」

 

「…………」

 

 ……あれ? ギルドの中の空気が凍りついたのですが……。何かまずい事を言ってしまったのでしょうか?

 

 キョロキョロしていると、めぐみんと金髪の騎士の人がカズマに駆け寄って行く姿が見えた。

 

「カズマ。気にする事はありません。貴方だってお年頃なんですし、そういった事は仕方のない事と、私達も考えていますので」

 

「そうだぞカズマ。お前の行動は何ら恥じる事は無いのだ。私もちゃんと分かっているから……な?」

 

「おい、お前ら。その可哀想なものを見る目を止めろ。というかやめてくださいお願いします」

 

 突然土下座を始めたカズマに、尚も2人は優しい目を向けて声をかける。

 

「何を言っているのですか。私はただ、傷ついたパーティーメンバーを慰めているだけじゃないですか」 

 

「カズマ。流石の私も、今回のこのシュチュエーションで興奮など出来ないから安心してくれ」

 

 ……なんかおかしな単語が聞こえてきたのですが……気のせいでしょうか?

 困惑をしている間に、カズマはスッと立ち上がり、再びアクアの服の襟を掴んでギルドの外へと引きずって行った。

 そして……

 

「ちっ、ちくしょぉおおおっ!」 

 

 男の悲しい咆哮が、アクセルの街に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「なんかすみません……」  

 

「……いえ、いいんです。もういいんです」

 

 ギルドにいつもの喧騒が戻った中。

 感情の抜け落ちた顔を見せるカズマに、私はどうしたらいいのか分からずに、周りをチラチラと見ている。

 しかし私に目を合わせようとする者はおらず、皆すぐに逸らしてしまう。

 ……誰か助けてくれませんか?!

 そんな願いが女神に通じたのか、空気を読めない全ての元凶が私達の間に割って入ってきた。

 

「ねえねえ、カズマさん。この際なんだし、タマモになにかしらのお願いをしてみましょうよ。例えば……『パーティーメンバーにお金を貸してやってください』とか。……きっと今のタマモなら聞いてくれると思うのよね」

 

「……却下」

 

 ギャーギャーと騒ぐアクアを、めぐみんとダクネスと名乗ったクルセイダーが取り押さえる。

 

「「…………」」

 

 ……どうしてこんな事に……。

 

 思わず頭を抱えてしまう。 

 

「あの……本当に気にしていないので、大丈夫ですよ?」

 

 ……いや、明らかに暗い声で言われても、説得力が皆無なんですけど……。

 

「それだと私の気が収まらないんですよね。……どうしましょうか?」

 

「どうしましょうって言われましてもなぁ……。あぁそうだ! じゃっ、じゃあ1つだけお願いしたい事が!」

 

 ……お願い? 一体なんでしょうか?

 

「私にできる範囲の事なら、引き受けましょう」 

 

 私がそう言ってみると、カズマはキラキラとした笑みを浮かべた。

 

「……それじゃあ……」

 

 私はカズマのお願いの内容に少し驚いたが、なんとなく納得できた。

 

「わっかりました。それくらいなら」

 

 そう答えると、カズマはニッコリと笑い私に向かって手を伸ばし、そして……

 

「……尻尾の毛並みすげぇええ!」 

 

 尻尾をモフモフしていた。

 

 ……それでいいのか男の子。

 

 度胸がないのか、それとも単純に尻尾の方に興味があったのかわからないが、カズマは尻尾をモフモフしたいと言ってきたのだ。

 

 ……確かに気持ちはわかりますが。……まあ、カズマがあっち系の事を頼んできたら、あのキックをかましていましたがね。

 

 ため息を吐きながら、私はカズマが尻尾をモフっている間、店員さんに頼んでお酒を持ってきてもらい、口の中をシャワシャワさせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ほんっと、カズマって冒険者は最悪よね。クリスって女盗賊だけじゃなく、よりにもよってタマモさんに手を出すなんて」

 

 尚これを見ていた冒険者が誤解をしたせいで、暫くの間カズマがカスマやクソマという不名誉な名前で呼ばれる事を、本人はまだ知らない。




カズマ。そこ変わってください。
次回も気が向いたら書きます。


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魔王軍の幹部

気が向きました。
真面目な話なんてなかった。いいね?

……正直に言うと、作者自身もこれじゃない感があったので書き直しました。すみません。


「緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは、直ちに武装し戦闘態勢で街の正門に集まってください!」

 

 クエストが無くなり約1週間。

 普段の癖で朝早くに目を覚ましてしまったので、2度寝という贅沢な時間を過ごしていたが、突然の緊急アナウンスにより邪魔されてしまう。

 

 ……突然なんなのですか……まだ眠いんですけど……。

 

 ふかふかのベッドが3度寝を誘ってくるがなんとか打ち倒し、そこから離脱する。

 それでもやってくる眠気と戦いながら、状況を整理しようと頭を働かせるがうまく纏める事ができない。

 

 ……とりあえず、指示通りに正門に向かいますか……。

 

 ぐっと大きく伸びをして、着ていたパジャマからいつもの服に着替え、顔を洗う。

 

 ……眠い。

 

 それでも眠気が取れないが、外から聞こえてくる冒険者達の声につられて、私も宿の外へと出る。

 

 ……冒険者の姿は見えませんね。もう向かったのでしょうか?

 

 正門へと続く道に冒険者らしき人の姿が見えないので、歩きから小走りに切り替える。

 幸いにも、私が住む宿は正門からそれほど離れているわけではないのですぐに着きそうだ。

 

 ……それにしても、今度は一体どんな用件での呼び出しなのでしょうか? ……戦闘態勢をとって、という事はキャベツの時のような巫山戯たクエストでは無いと思うのですが……。というか思いたい。

 

 願いながら暫く走ると、街の正門が見えてきた。門の前には、冒険者達がずらりと並んでいる。

 

 ……一体なにをやっているんでしょうか? 見たところ、ギルドの職員達はいないようですが……? 男の声? それに……これはダクネス? の声でしょうか? ……流石にこの距離ではうまく聞き取れませんか。

 

 とりあえず、あの先で何が起こっているのか確かめるべく冒険者達の列に加わる。

 

 ……はてさて、一体どんな状況に……

 

「なっ、なんて事だ! つまり貴様は、この私に呪いを掛け、呪いを解いて欲しくば俺の言う事を聞けと! つまりはそういう事なのか!」

 

「……え?」

 

 ……は?

 

 思わず声の聞こえた方向を見ると、そこには顔を赤らめてプルプルと震えるダクネスと、顔を真っ青にしてシリアスな雰囲気を纏っているめぐみん。そして正門の外には大きな馬に乗り、とれた頭を手で持っている騎士……デュラハンが、ダクネスの言葉に困惑している姿が……

 

 ……どういう状況ですかこれ?!

 

 ツッコミたくなる気持ちをぐっと抑えて、近くの冒険者達に何が起こったのかを聞く。

 

「すみません。今来たところなんですけど……一体何が有ったんでしょうか?」

 

「あぁっ、タマモさん! 実はですね……」

 

 冒険者の話によると、めぐみんがこの1週間の間、爆裂魔法をこの街の近くにある魔王の幹部の城に向かって毎日ぶっ放していたのだが、とうとう魔王の幹部がブチギレて、街にやってきたらしい。

 

「最初は頭のおかしい爆裂娘……めぐみんに向かって警告していただけだったのですが……何を思ったか爆裂魔法を城に向かって撃つのをやめないと、めぐみんが宣言してしまい……。それに、魔王の幹部……デュラハンが、報復として死の宣告を爆裂娘に向かって使ったのですが。……それをあの金髪の騎士様が庇って……」

 

 ……なるほど。なんとなく状況はつかめました。……完璧に魔王軍の幹部が被害者じゃないですか!

 

 思わず心の中でツッコミを入れてしまう。

 

 ……そりゃ怒りますよ。むしろこれで怒らなかったら、なんで魔王軍なんかになっているのか聞きたくなるところですよ。

 

 そんな事を考えていると、死の宣告を受けた筈のダクネスが、嬉々として自らの欲望を語っていた。……デュラハンも巻き込んで。

 

 ……うわぁあ。こんな大勢の目の前で、変質者呼ばわりされるなんて。南無三。

 

 あまりにも酷すぎる展開に、デュラハンの被害者感が加速していく。

 しかし、そんなことはお構いなしという風にとんでもない事を口走り、挙句の果てには付いてこようとするダクネスに、とうとうデュラハンが本気で困り始めてしまった。

 なんとかデュラハンに到達する直前で、カズマが止めたからいいものの、あのまま行っていたらどんな展開になっていたことか……。

 その後も自身に付いてこようとするダクネスに困惑しながら、デュラハンは早口で死の宣告の解除方法を言うと、高笑いをしながら帰って行った。

 

 ……なんとも言えないこの空気、どうしましょう。

 

 巫山戯た事を口走るダクネスと、ダクネスにかけられてしまった呪いに、責任感からか顔を青ざめるめぐみんという、真逆な雰囲気に言葉を失ってしまう。

 

 ……これは……あのデュラハンをぶっ飛ばしに行く、という流れでいいのでしょうか?

 

 めぐみんの様子を見ていると、街の外へ出て行こうとするのをカズマに止められていた。 

 

 ……1人で行こうとするとは、責任感があるのか、それとも喧嘩っ早いのか……。まあ、今回は責任感からなんでしょうね。

 

 とりあえず、カズマ達がどう動くのかが気になったので、聞き耳を立ててみる。

 

 ……ふむふむ。……これは熱い展開! 乗るしかない、このビッグウェーブに!

 

 私は気配を消してカズマ達に近づいていき……

 

「……1週間の期限があるなら、そんな作戦でいっても……」

 

 

「その話、ちょお〜〜〜っと待った! 暫く、暫くぅ!」

 

 

「……っ! その声は!」

 

 ……いい反応ですねぇ。それじゃあセリフ、いってみよう!

 

 

「2人の作戦とかぜーんぜん存じませんが、その気持ち、その熱意。そこの女神が聞き逃しても、私の耳にはピンときました! 女神エリスもご覧あれ! その騎士をあの世に送るにはまだ早すぎ。だってこの人達、とっても面白いんですもの! ちょっと私も混ぜてくださいな♪」

 

 

 そして言い放つ、決めゼリフ。

 

 

「謂れはなくとも即参上、アクセルの街から、社畜狐のデリバリーにやって参りました!」

 

 

 ……決まった。

 

「「…………」」

 

「あっ、あれ? お2人共どうされましたか? もしかして私、引かれちゃってます?」

 

 「「いや……タマモさんって、ことごとく空気をぶち壊していくな、と」」

 

「今回は狙ってそうしていますので」

 

 キリッとしながら答えると、2人は何処か諦めたような顔をした。

 

「まあ、心強い仲間が出来た……という事でいいんでしょうね」

 

「そうだな。というか心強すぎて、俺たちがいらない気が……」

 

「カズマ、それ以上はやめましょう」

 

 そんな事を言い合う2人には、いつもの調子が戻っているように見えた。

 

 ……やっぱり、こっちの方がカズマ達に合っていますね。

 

 この時の私は完璧に忘れていた。

 私なんかよりも空気を読まない問題児が、この場にいる事を。

 

「ダクネス! 呪いは俺たちがなんとかするから、安心して街で待って……」

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」

 

「「「えっ?」」」

 

 突然アクアがカズマの声を遮り、ダクネスに向かって魔法を唱えた。

 すると、ダクネスの体が淡く光り、何故かダクネスが残念そうな表情を浮かべ……。

 

 ……え?

 

「私にかかれば、あんなクソ雑魚アンデッドの呪いの解除なんかチョチョイのチョイよ! どうどう? 私だって女神っぽいところあるでしょう?」

 

「「「…………えっ?」」」

 

 ……私のセリフを返してください。 

 

 アクアのせいでぶち壊された空気の中。私達はゲンナリと街の中へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか……そんな事があったのですね」

 

 朝の騒動の後。

 私はカズマ達と別れて、いつものようにウィズ魔道具店に来ていた。

 

「そういえは、ウィズはあのデュラハン……確かベルディアでしたっけ? とはどんな関係だったのですか? ほら、一応貴方も魔王軍の幹部じゃないですか」

 

「ええっと……。ベルディアさんとはそこまで仲の良い関係ではありませんでしたね。私自身、苦手意識がありましたし。あったとしてもベルディアさんが『手が滑った』と言って、私の下に首を転がしてスカートの中を覗こうとした事ぐらいで……」

 

 ……やってる事が、思春期の中学生なんですけど……。騎士って一体……。魔王軍の幹部って一体……。

 

 話を聞いて軽く困惑していると、ウィズが苦笑いをしながらこう付け足した。

 

「それでも、ベルディアさんは幹部の中でも結構真面目な方なんですよ? 元が騎士なだけあって、部下や誇りは大切にしていましたし。なにより、人望? が厚かったんですよ?」

 

 ……アットホームな魔王軍……なんか想像と違いますね。

 

 ますます困惑してしまう私は、話を変える事にした。

 

「ところで、先ほどから気になっていたのですが、そこに置いてある指輪はなんなのですか? 見たところ、なにかの魔道具のようですが……」

 

「よくぞ聞いてくれました! この指輪、実は浮気防止アイテムといって、カップルの方に大人気……になる予定のアイテムなんです!」

 

 ウィズは指輪を手に載せてドヤ顔を決めている。

 

 ……嫌な予感しかしないのですが……。

 

「ど、どんな効果があるんです?」

 

「この指輪をカップルである男性と女性がお互いにはめてあげると、自分以外の異性に浮気をしようとした時に、その指輪が呪いをかけて、浮気をできなくするというすごいアイテムなんです!」

 

「そうですか……。それで……欠点は?」

 

「欠点といえば、浮気の判定が厳しいことと、呪いが強力すぎる事ですかね」

 

「……浮気の判定」

 

「異性とのボディタッチですね」

 

「……呪いの効果」

 

「一生去勢です」

 

「誰も買いませんよこの指輪!」

 

 確かに、ハーレム野郎に装着させるとハーレムをぶっ壊す事ができる素晴らしいアイテムだが、普通のカップルには絶対に需要がないと思う。

 

 ……そんな物ヤンデレすら買いませんよ。

 

 小声で「売れると思うのですが……」と呟きながら、元あった場所に指輪を置くウィズ。

 その後も、新しく仕入れた魔道具(ガラクタ)を、「これは素晴らしい物です!」と言って、勧めてくるウィズを見て

 

 ……魔王軍の幹部って、やっぱり変人の集まりなのでしょうか?

 

 と感じるのだった。

 

「これは売れます! 革命的な商品なんです!」

 

「わかりました。わかりましたから。ちょっと落ち着いてください。……健気すぎて、悲しくなってきますから……」

 

 ウィズは、なんの事かわからなかったようで、キョトンと首を傾げると、再び魔道具の解説に戻るのだった。

 

 ……この貧乏店主が報われる日は、果たして来るのでしょうか?




次回も気が向けば書きます。

今回の話、作者が物凄く迷走していますので、アンケートを取る事にしました。


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クエスト……クエスト?

お久しぶりでございます。
何故こんなに更新期間が空いたかというと……完璧に作者個人の事情です。本当にすみません。
久しぶりなので誤字脱字が多いかもしれません。
なので、もし間違っていたりアドバイスがあるようでしたら優しく教えていただけるとありがたいです。(作者の心はガラス製です)
とりあえず……気が向きました。

追記
ちょっとだけ改訂しました。


「……暇ですねぇ〜。なんでしょうか……クエストが無いと逆にクエストをやりたくなるというこの感覚は……」

 

 普段沢山の依頼で埋めつくされている提示版を見ながらため息を吐く。

 デュラハン騒動があってから数日後。

 毎日ウィズのお店で厄介になるのも気が引けてきた私は久しぶりに冒険者ギルドへと顔を出していた。

 しかしクエストが無い現状、ギルドで出来る事と言ったら食事かお酒を飲む事くらいなので早速暇になってしまった。

 

 ……うむむ。流石に朝からお酒を飲むのはちょっと……。ですが酒パワーを借りないと暇で仕方ありません。さて、どうしたものでしょう……。

 

 そんな私の現状を見兼ねたのか、ルナさんがカウンターから出てきて私に話しかけてくれた。

 

「タマモさん。いくら暇だからと言ってあれらと同類になるのはやめてくださいよ?」

 

 ルナさんが指を指した方向をチラリと見る。そこには朝から出来上がってしまったのかギルドにいる女冒険者やギルド職員にちょっかいをかけるチンピラの姿が……。

 

「……そう言うのであれば適当に依頼をください。このままだと暇で暇で仕方ないんですよ」

 

 そう言ってみるとルナさんは顎に手を置いて何かを考え始めた。

 やがて何かを思いついたのか、「ちょっと待っててください」と言い残してカウンターの裏へと消えて行った。

 暫くの間。頼んでおいたカエルの唐揚げを摘んでいると、ルナさんや他の職員達が何かを抱えて近づいて来るのが見えた。

 よくよく見るとそれは釣竿のような形をしており……。

 

 ……いや、デカすぎじゃないですか? 船についているあれじゃないですか。

 

 運ばれてきた釣竿に驚いているとルナさんがそれについて説明してくれた。

 曰く、この釣竿はとある魔道具店で買ったモンスター用の釣竿で、魔力を流すと耐久性と柔軟性が上がる仕様になっており、大きなモンスターとも戦うことが出来るらしい。

 しかし、重すぎて駆け出し冒険者達には扱えないという事でギルドの奥にしまっていたらしい。

 

「ですが……何故に釣りなんです? 提示版には水生生物の討伐クエストなんてありませんでしたが……」

 

「実はですね。街外れにこの街の水源である湖があるんですが……その湖の水質が悪くなり、ブルータルアリゲーターという凶暴なモンスターが棲み着いてしまい……。プリーストの方に浄化の依頼が出ているのですが、浄化魔法を唱えているとモンスター達が襲ってきて浄化作業が出来ないらしく……」

 

 ……なんとなく話がよめましたよ。

 

「もしかしてその釣竿って……そのアリゲーターも釣れたり」

 

「しますね。……どうします? タマモさん。依頼が出ていないので、報酬はかなり少なくなってしまうかもしれませんが、暇つぶしにはなると思うのですが……」

 

 ルナさんの提案にどうしようか悩む。

 

 ……釣りはゲームでしかやったことがないのでできるかどうかわかりませんねぇ……。ですが暇を潰す事はできそうですし……。しかし、ワニ釣りというのは……。さて、どうしたものか……。

 

 悩むこと数秒。

 

「……その話、受けさせてもらいます。どうせ暇ですし……」

 

 私はルナさんの提案に乗ることにした。

 

「ありがとうございます。目的としては水源に棲み着いたモンスターの全滅なので、じゃんじゃん釣ってもらっても大丈夫ですよ」

 

 ……? 釣りってじゃんじゃん釣れるものでしたっけ? ……過剰な討伐をしてもいい、ということなのでしょうか? 

 

 ルナさんの言葉に引っかかりを感じながら釣竿を持ち上げる。

 

 ……今更ですが釣竿でワニを釣るってなんなのでしょうか? ……まあいつもの事なので深くは考えないでおきましょう。

 

 疑問をいつものように流しながら釣竿を調べると、釣り糸の先が釣り針ではなくルアーがついていることに気がついた。

 

「あのールナさん。私、ルアー釣りなんて出来る気がしないのですが……」

 

「その点は大丈夫です」

 

「えっ? ですが……」

 

「大丈夫です」

 

「…………」

 

「大丈夫です」

 

「……はい」

 

 ……何が大丈夫なのでしょうか?

 

 真顔で推してくるルナさんに若干不安になってしまうが、私の第6感こと、尻尾は反応しないので大丈夫だろう。

 

「それでは良い報告。期待していますよ! タマモさん!」

 

「……行ってきます」

 

 いい笑顔で送り出してくるルナさんに再び違和感を感じながら、街の水源へと向かうことにした。

 

「……それにしても、これって本当に重いのでしょうか?」

 

 想像の数倍軽かった釣竿を眺めながらそんな疑問を溢すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ルナさん。本当によかったんですか?」

 

 ルナのすぐ後ろにいた職員が不安そうに声をかける。

 ルナはその声にニッコリと微笑みを浮かべた。

 

「タマモさんなら大丈夫でしょう。タマモさんならあのくらいの魔道具、簡単に扱いこなしますよ」

 

「いえ。私が心配しているのはあの魔道具の効果を受けたモンスターなのですが……」

 

「あれだけ高いステータスがあるならあの魔道具の効果を受けたモンスターなんて簡単に倒せますよ」

 

「だといいのですが……」

 

 そう言って未だに不安気な表情を浮かべる職員に、もう1人の職員がルナのような笑顔で声をかける。

 

「大丈夫。タマモさんならあのウィズ魔道具店の魔道具くらい簡単に扱ってくれるから、私達は沢山出来上がる予定のワニ肉について考えましょう」

 

「……本当に大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫よ。さっ、解散解散」

 

 そう言って職員達は各々の職場に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……到着〜、って確かに汚いですね。こんなところが水源だなんて、衛生管理はどこにやら……。

 

 濁った湖を見て思わず顔を顰めてしまう。が、すぐに切り替えて釣りの準備をする。

 

 ……といっても、魔力を流すだけなんですけどね。

 

 釣竿に魔力を流したら、準備完了。

 

 ……それじゃあ早速。

 

 ヒュッという風を切る音の後にチャポンという水の音が聞こえてくる。

 

 ……さて、とりあえず適当に釣竿を固定して様子見を……ってえ?

 

 釣竿を魔法で固定しようとした瞬間。突然釣竿が大きくしなった。

 

「いくらなんでも早すぎません?!」

 

 思わず叫んでしまうが急いで釣竿を手に持ち上に上げる。

 

 ……ん? 意外と軽いですね。まずは1匹目ゲッ……は?

 

 あまりの呆気なさに調子に乗って勝利宣言をあげようとするが、目の前にあった光景に思わず止まってしまう。

 何故なら、そこにはドでかいワニが大きな口を開けて此方に向かって飛んできており……

 

「……えっ?」

 

グァアアアーーッ!

 

「……ッ! 『ライト・オブ・セイバー』ッッ!!」

 

 突然の展開に戸惑ってしまったが、アリゲーターの叫び声に意識が戻り咄嗟に魔法を唱えアリゲーターを真っ二つにした。

 

「あっぶないですね?! というか、ギルドからもらった資料より何メートルもでかいんですけど?!」

 

 目の前に転がるアリゲーターの残骸を見ながらそう叫ぶ。というか、叫ばずにはいられなかった。

 

 ……この湖の主……なのでしょうか? ……とりあえず、釣りを続行しますか。

 

 そう考えた私はルアーを湖に飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—— 数分後 ——

 

 私の周りには巨大なアリゲーターの残骸が散らばっていた。 

 

 ……やったねタマちゃん! 報酬が増えるよ!

 

「じゃないでしょう!? なんでこんなにサイズが大きいんですか? こんな奴らがなんで初心者の街の近くにいるんですか!? これギルドに知られたら、全部駆除してくれとか言われませんよね?!」

 

 そう言いながら私は濁った湖を眺める。

 すると、私が釣り上げたやつよりも明らかに小さなアリゲーター達が悠々と泳いでおり……。

 

「なるほど、なるほど。……ちょ〜〜と真相を確かめてみましょうか♪」

 

 私はそう言いながらスキルの『呪層界・怨天祝奉』を使う。

 

「いりょ〜く倍♪倍♪倍♪」

 

 そんなアホなフレーズを唱えながら湖に指を向けて

 

「『カースドライトニング』ッ!」

 

 巨大な黒い稲妻を放つ。一瞬、眩い閃光が走り轟音と衝撃が辺りを襲った。

 

「……是非も無し」

 

 ……ってどっかの英雄の真似してる場合じゃないですよ! これ絶対ギルドに怒られるやつじゃないですかぁ……。

 

 そう考えたところで後の祭り。私は急いで湖から離れる。

 湖の周りでは衝撃によって近くにあった草木が吹き飛んだり、湖の水が吹き飛び霧を作ったり、ゲリラ豪雨並みの雨を降らせたりと大変なことになっている。

 素早く湖から離れた私は暫くの間そんな光景を眺めていたが、やがて衝撃やら水飛沫などが落ち着いたので再び湖に近づき様子を見る。

 するとそこには、お腹を見せてぷかぷかと浮かぶ小さめのアリゲーター達の姿があった。

 

 ……どう見ても私が釣り上げたアリゲーターよりも小さいですね。……やっぱりこれですかね?

 

 思わず置いてあった釣竿を見る。

 

 ……私に魔道具の目利きができればいいんですけど、これだけは場数をこなさないとみたいですからね〜。

 

 そう考えながらため息を吐いてしまう。

 

「とりあえずアリゲーターを回収してギルドに売っ払いますか……」

 

 そう言いながら私はアリゲーターを魔法で岸にあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……暇ですね」

 

 アリゲーターを回収し駆けつけてきたギルド職員に全てを押し付けた後。私は再び暇になってしまった。

 

 ……とりあえず、後でルナさんに魔道具の説明書を見せてもらうとして今はどうしましょうか。……というか、どうせならもうちょっとフィッシングを楽しんでいたらよかったですねぇ。……って、ん? あそこにいるのは……。

 

 少し離れたところにある小さな木。その木の近くによく見知った顔があった。すかさず最近獲得した第7感(フォックスセンス)こと狐耳を起動して会話を聞き取る。

 

「……ねえ……。ほんとにやるの?」

 

「ここまできて引き下がるってのは無しだからな。ほら、とっとと檻ん中に入れ」

 

 その言葉に渋々と檻の中に入り体操座りをする駄女神。その近くにはいつメンの3人がいる。どうやら此方には気付いていないようだ。

 

「……私、これから売られていく捕まった希少モンスターの気分なんですけど……」

 

 アクアが檻の中で不機嫌そうな顔になりながらそんなことを言っている。 

 

 ……何故檻の中にアクアが……。

 

 暫く様子を見ているとカズマとめぐみん、ダクネスの3人がアクアの入った檻を湖の中に押し込んだ。

 

「……女神の出汁取り?」

 

 よくわからないことを口走ってしまうがどうしてもそう見えてしまう。

 

 ……どうせここにいても暇ですし、なにやら面白そうなカズマ達にちょっかいをかけに行きましょうかねぇ。 

 

 そんな事を考えた私は座っていたせいでついてしまった砂埃を払いながら立ち上がり近づいていく。

 ゆっくりと歩いているうちにカズマ達も私に気付いたようで私に向かって手を振っている。

 私も手を振り返しながら歩いて行く。

 

「おーい! ターマーモーさーん! こんなところで何やってるんですかー!」

 

 ……めぐみん。話しかけてくれるのは嬉しいのですが、笑顔で手をぶんぶんと張りながら大声で此方を呼ぶのは……見た目も相まって凄く子供っぽいですよ。いつものキャラはどうしたのですか。

 

 心の中でそんな事を考えていたが、隣にいたカズマとダクネスも同じ考えに至ったようで驚いた顔をしていた。

 

「……ちょっとしたお使いですよ! そういう貴方達は何してるんですかー! 見たところアクアをきったない湖の中につけていますが!」

 

 素直に暇つぶしを自らの手で完璧に潰してしまったなどという間抜けな事は言えずに適当に誤魔化しておく。

 

「掲示板にあった湖の浄化作業ですー! なんでもアクアは水に浸かるだけでその水を浄化してしまうという、なんともおかしな体質の持ち主ですのでそれを利用して湖の浄化をしているのです!」

 

「ちょっとめぐみーん? この体質は私が女神だから仕方のない事であって、全っ然おかしくない事であるのよ? そこんところ、ちゃんと理解しているかしらー?」

 

「……そうですね。アクアは水の女神様ですね。わかっていますよ。ねっ、ダクネス」

 

「あぁ、その通りだな。私は信じているぞ。例えアクアがカエル相手に涙を流したという話を聞いても。例えアクアがキャベツとレタスを間違えて、借金が返せなくなりカズマやタマモに泣きつく姿を見ても。私はアクアが女神だと信じて…………ぷっ、ククッ」

 

「ちょっとー! なんで笑ってるのよ! 絶対信じていないでしょう! 全く、カズマもタマモも何とか言ってやりなさいな!」

 

「「……フッ!」」

 

「あっ!」

 

 ……あぁ、やっぱりこの人達に絡むと暇になりませんねぇ。……休日のプランとしてカズマ達のところで駄弁るのもアリかもしれません。

 

 未だにギャーギャーと騒ぐ駄女神の声を聞きながら、私はこれからの休日を想像するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、どうしてアクアは檻に入れられてるのでしょうか」

 

「あぁ。それはだな、俺のアイデアで湖の浄化だけならモンスターを相手しなくてもいいから、アクアを対モンスター用の檻に突っ込んで、モンスターに襲われないようにしているんだ」

 

 カズマが胸を張りながら自信満々にそう言っており……

 

 ……言わぬが仏、ということで。

 

 私は1人、心の中でそう呟くのだった。




次回も気が向いたら書きます。


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