孤独になった彼 ((TADA))
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孤独になった彼

パソコンの小説フォルダを整理していたら発掘されたので供養のために投稿

以下注意事項

オリ主が名人・桂香さん視点・りゅうおうのおしごと原作なのにシリアス風味・ほんのり三月のライオン・細かい設定のミスはスルーで・『将棋描写は一切ない!』

上記が大丈夫な方はスクロールをどうぞ


私、清滝桂香にはとても大事に思っている人がいる。私と同い年で、父の清滝鋼介に弟子となった人だ。彼が入った当時、私は父と上手くいっていなかった。今では父は棋士だったがために、他人とのコミュニケーションの取り方が将棋でしかなかったことを理解しているが、当時の私は将棋という存在が嫌になり一度将棋の世界から離れた。だが、彼とはなんとなく離れなかった。どこか世俗を超越した雰囲気を醸し出す雰囲気に惹かれていたかもしれない。彼は史上最年少で中学生プロ棋士となると、連勝街道を突き進んでいた。周囲が必死になって彼の攻略法を探し、挑戦するが、彼はそれを一蹴し続けていた。

そして彼にある転機が訪れる。22歳で名人への挑戦権を取得したのだ。もちろん父はもちろんのこと、彼の弟弟子の九頭竜八一くんや、妹弟子の空銀子ちゃんも喜んだ。だが、私は彼と名人との対局を見ていてどこか違和感があった。それまで彼は対局中にも穏やかな表情を浮かべていることはあった。その優しい雰囲気が彼の人気を加速していたのも事実だ。だが、その時の表情はどこか今までとは違った雰囲気を感じた。父にも相談してみたが、気の所為ではないかと言われてしまった。彼と名人の一戦は名勝負だった。今でも名人と彼の一局は動画での再生数が多い。最終戦までもつれ込んだ結果勝ったのは彼のほうだった。彼は勝利後のインタビューでも当たり障りのないことを言っていた。だが、私にはそれが違和感として残った。そして、私はその違和感がぬぐいきれなくなって、彼の家に行った。彼の家には調度品などは全くなく、部屋の中央には将棋盤が置いてあり、本棚には棋譜などが並べられていた。彼は穏やかだった。その姿は幼い頃に同じ家で育った彼と全く同じだった。

穏やかだった彼と会話をするが、時折彼に会話が続かなくなる時があるのだ。普通の相手だったらわからないかもしれないが、幼い頃から一緒にいて、私が将棋の世界に戻る決心がついたのも彼と一緒にいたいがためだった私には違和感が残った。そして問いかけてしまったのだ。

 『どこか悪いところがあるのではないか、と』

私の質問に彼は少し驚いた表情をしたが、彼は穏やかな表情にして言った。

 『A級になった頃からかな、たまに耳が聞こえなくなる時があるんだ』

その言葉に私は衝撃を受けた。彼は対局中に雑音が入らなくて集中できて良いと言っているが、私は慌てて父に連絡した。そして父が慌てた様子で彼の家にやってきて、病院で診断を受けた。

結果はストレスが原因とされる突発性難聴。これに私達親子は衝撃を受けた。父は弟子を大切にし、同時に自慢したがる人間である。父は周囲の棋士に彼は将来必ずトップ棋士になると広言していた。さらには父の弟子であり、彼の弟弟子、妹弟子の存在だった。あの子達も彼のような棋士になりたいと常々言っていた。それが彼に対するストレスとなっていたのだろう。

彼は父が家族と言っていた清滝一門の期待がストレスとなり、それが原因となり突発性難聴となった。父は泣きながら謝った。悪かった、と。だが、その謝罪すらも彼には届いていなかったのだろう。彼は困ったように微笑むだけだった。そのことが益々私たち親子の後悔が大きくなった。いくら天才であろうが、彼だって一人の人間である。ストレスを感じることは多かっただろう。しかし、そのストレスを最も与えていたのが、私たち清滝一門だった。その事実に打ちのめされる父は、普段からは考えられない姿だった。

私はこのことを月光聖市日本将棋連盟会長に連絡した。後日、彼の家を訪れた月光会長は彼に名人として戦い続けて欲しいと願った。会長も20代の時に失明したという過去がある。もしなんだったら彼に誰かサポートをつけることを約束したが、彼はサポートに関しては断った。一人、静かな空間で将棋を指したいという理由からだった。

私にはそれが彼が孤独になることを望んだ言葉であるということを感じた。月光会長はそれを了承していくつかの連絡を伝えて家を去った。連絡事項は彼の突発性難聴のことを棋士達に伝えないこと。これは同じ清滝一門である八一くんは銀子ちゃんにも知らせないことだった。だが、彼は少し考えて了承した。

その後も彼は様々な場面で対局したが、それらを全て彼は勝利していった。そのことにより彼に対する期待が高まり、突発性難聴の頻度が多くなる。私は叫びたかった。彼を苦しめることはやめてくれと、と。だが、私にそれはできない。研修会C2クラスに在籍している私では、将棋界に大きな影響を与えることはできない。私に出来ることは彼の私生活のサポートだった。八一くんや銀子ちゃんも彼と頻繁に会えなくなることに不満を覚えたようだったが、それは抑えられた。

だが、それでも彼に対する試練は終わらなかった。弟弟子の八一くんが史上最年少で『竜王』を奪取したのだ。彼は将棋雑誌でそれを見て嬉しそうに微笑んでいたが、私は八一くんがインタビューで言っていた言葉が気になっていた。

 『これで僕は一人の棋士として尊敬する名人に挑戦したいと思っています』

多くの棋士達は彼のことを神と呼んだりしているが、それを彼にさらなる孤独に追い込み、さらにストレスを助長することだと私は知っていた。

彼を孤独にすることは私には我慢できない。幼い頃に二人で笑顔で将棋をさしていた。その笑顔が彼にはなくなった。

私はそれに耐えられなくなって父に相談した。棋士としても道を諦めて、彼を支えたいと。その言葉に父はしばらく沈黙していたが、やがて口を開いた。

 『それなら確かにあいつは私生活では孤独にならないだろう。だが、将棋の世界ではさらなる孤独に追い込まれる。そしてあいつはおまえが女流棋士になろうとしていることも知っている。そこにある強い思いもな。だが、それを捨ててあいつの傍にいることを選べば、賢いあいつのことだ。それをおまえに対する負い目を感じてさらに自分を孤独に追い込むんじゃないのか?』

父に言われて気づいた。私は一人の女として彼の傍にいることをしてしまえば、彼の将棋世界における孤独は増えるだろう。ならば私は女流棋士となって彼の傍にいるしかない。それが私生活でも将棋世界でも彼の傍にいるためになると思って。

それから私は彼と研究会をするようになった。彼の一指しには意味があり、長い戦いの全てを見通す指し方をしていた。凡人である私にはそのような指し方ができない。だから、彼の棋譜を読み、研究し続けた。それでも私は研修会のC2クラスから抜けられなかった。それでも私は目指し続ける。幼い頃からの家族であり、彼を愛する一人の女として。

 「……どうかしたかい?」

 「ううん。なんでもないわ」

将棋盤を挟んで彼と会話する。比較的私と一緒にいる時に彼が難聴になることは少ない。それは私が彼にストレスを与えることがないと思うと顔が赤くなる。すると、私のスマートホンに通知が入る。確か今日は八一くんと父の恩返しの対局が将棋雑誌で組まれていたのを思い出す。そこには八一くんからのメールが来ていた。

 『師匠が乱心しました。至急迎えに来てください』

その連絡に苦笑してしまう。大方父が八一くんに負けて問題行動を起こしたのだろう。

 「何かあったかい?」

 「お父さんが八一くんに迷惑をかけているみたいだから、迎えに行ってくるね」

その言葉に彼は少し困った表情になった。父と彼は師弟関係である。もちろん恩返しの対局をしたが、その対局は彼の指し方もあいまって芸術とまで呼ばれた。そして父は彼に対する負い目があってあまり強く干渉できない。だから、父は私を彼の家に行かせているのだが。

 「僕に何か手伝えることはあるかい?」

 「大丈夫よ。あなたが心配することは何もない。あの二人もなんだかんだ言って仲が良いんだから」

私が彼の手を握りながら言うと、彼はわかったと言って頷いた。私は身支度を整えて父を迎えに行く準備をする。

 「八一と銀子がいたら、腐らずに頑張りなさいと伝えてくれるかい?」

あぁ、彼は本当に優しい。八一くんは竜王奪取後にスランプに陥り、ずっと連敗している。そして銀子ちゃんは女性初のプロ棋士を目指しているが、奨励会の三段昇段ができなくて悩み始めている。彼はそれを知っていて助言をしたのだろう。

 「わかったわ。必ず伝えておくね」

私の言葉に彼は木漏れ日のような微笑みを返してくるのであった。

 





主人公。最強の名人。作者が棋界に詳しくないためにありえない設定はお見逃しを

清滝桂香
ある意味で本当の主人公。彼に惚れている。


そんなわけで作者の小説フォルダから発掘されたので供養のために投稿。シリアス風味なのは多分書いた当時の気分。単にりゅうおうのおしごとが面白かったから書いたので将棋界のことほとんど知りません。なので彼の設定も適当。実際にこんなやつおらんやろ。

あ、最近は藤井七段がラノベか漫画のごとき活躍してますね!!

ちなみに最終回は彼と九頭龍が竜王のタイトルをかけて将棋を指しながら彼は死ぬ(死亡予告


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間違い

実は第4話まで書いてあるんすよ…!


そんなわけで供養の投稿。3月のライオンのキャラが名前だけ登場します


私は関西将棋会館で八一くんに負けて問題行動を起こしていた父を引き取り、タクシーに乗って家に帰る。父を引き取る際に八一くんと銀子ちゃんがいたので、彼からの伝言を伝えると、八一くんは嬉しそうに笑い、銀子ちゃんは照れくさそうにそっぽを向いた。

父はタクシーの中でも八一くんに対する愚痴をこぼし続けた。だが、娘である私は気づいていた。それは八一くんを彼のようにしないようにするためだと。だから、父は彼が名人を取った時は喜んでいても羽目を外すことがなかったのに、八一くんが竜王を取った時には全裸将棋とかいうわけのわからないことをやって会場だった旅館にも迷惑をかけた。

私はその日は彼の家で一緒に中継を見ていた。彼は八一くんが勝った時は本当に嬉しそうに微笑んだのだ。そして、その後に流れた全裸将棋を見て首を傾げていた。彼にとって父は師匠であり、幼い頃からその姿を見てきた。だから突然の奇行に対して疑問を持ったのだろう。だから私は説明した。父が彼に対して強い後悔を持っていること。そして八一くんや銀子ちゃんに彼での失敗を繰り返さないようにしていること。彼は少し驚いていたようだが、すぐに微笑んだ。

 『大丈夫。八一は僕のようにはならない。同世代に神鍋くんという存在がいるし、近くに銀子もいるから』

その言葉を聞いた時、私は彼のことを抱きしめていた。彼には同世代に仲の良いライバルがほとんどいない。それは彼の圧倒的な才能を前にして棋士になることを諦める人が多かったからだ。そして、私が将棋から離れたことで、彼には将棋で語り合える人がいなくなった。そこから彼の孤独が始まっている。

 『あなたは一人じゃない。私がいるわ』

私の言葉に驚いたように抱きしめられていた彼は、小さくありがとうと呟いた。違うのだ。彼に孤独を強いたのは私たち親子のせいだ。彼にライバルを見つけてあげられなかった。彼を見捨てて将棋から逃げた。それが私たち親子の彼に対する後悔。

昔を思い出しながら家についたのでタクシーから降りる。とりあえず下半身パンツの父を先に家に追いやりながら、タクシー代を払って私も家に入る。父は何も言わずに着替えて居間に座っていた。私はお茶の用意をして父のところに行く。

 「あいつの体調はどないや?」

父が尋ねてきたのは彼のことだった。彼は突発性難聴になってから人との関わりを避け、必要最小限以外には将棋会館にも行かない。ただ一人、あの家で孤独に将棋をさしているのだ。それを多くの棋士や将棋ファンは神秘的だと言って崇める。彼にとってそれがさらなるストレスとなり、難聴が酷くなる。

 「私生活では大分改善されているわ。逆に聞きたいのは対局の時はどうなの?」

私と父は役割分担をして彼をサポートしていた。私が私生活、父が将棋での対局。だから、父は彼の対局の時には余程の用事がない限り彼の傍にいるようにしているし、病気のことが知られないように細心の注意を払っている。

父は疲れたようにため息を吐いた。

 「悪化しとる。この前も感想戦は何も喋らずに、ただ駒を動かすだけやった。後で確認したら、対局中や対局の前日はもう聞こえとらんらしい」

父の言葉に私は絶句した。私は私生活での彼しか知らない。小さい頃は一緒に将棋を指したが、今は平手で指すことなどない。指したとしてもすぐに殺されるだろう。

 「何を間違えたんやろなぁ……」

父の言葉には色々な重みがあった。父にとって彼は最初の弟子で、格別の思いを込めて将棋を教えた。八一くんと銀子ちゃんを引き取った時も彼に対して『おう! 新しい家族やで!』と言って笑っていた。彼もそれは嬉しそうに笑っていたのを覚えている。今ではもう見れなくなってしまった笑い顔だ。

しかし、彼が中学生プロ棋士になり、連勝し続けてA級になり、そこでも圧倒的な強さを見せつけて名人への挑戦権を得て、そして名人になってから全てが壊れた。彼は笑顔の種類が変わり、父は普段以上に剽軽なキャラクターを演じるようになった。

私と父は無言になる。彼に対して弟子入りを希望する子供は後を絶たない。史上最強とも呼ばれる名人の元で修行したいという棋士の気持ちはわかる。しかし、それはできない。それは彼の病気が知られてしまうということだから。

 「誰か……同年代で彼に匹敵する棋士はいないの?」

彼の孤独はその強すぎるがゆえの孤独だ。上の年代からはその強さを煙たがられ、下の年代には崇拝される。それがさらに彼の孤独を助長させる。父は少し考えていたが、ポツリとこぼした。

 「あいつと同年代やったら、最近A級に上がった土橋くらいか……」

土橋健司。彼とは少年時代から戦っている相手だ。彼の才能を見ても諦めずに指し続け、ついにはA級になった。だが、こう言ってはなんだが、才能では圧倒的な開きがある。だから父も渋い顔をしているんだろう。

 「だがな桂香。土橋のすごいところは才能なんかやない。土橋は食事や睡眠以外のすべてを研究に費やしとる。その将棋に対する凄まじいまでの姿勢と、実力のみで運に左右されない強さは驚異や」

父は私に説明しているようで、自分に言い聞かせているように感じる。土橋さんの執念なら彼を孤独から救ってくれるのではないか、と。そういう期待をしているのだろう。

父はもう一度ため息を吐くと、今度は無理に明るい表情になる。

 「まぁ、私生活で改善されとるなら、それは前進や。あいつは静かな空間のほうがいいとか言って途中で治療をやめよったからな」

父の言葉に私も苦笑してしまう。彼は音が聞こえなくなったことを便利だとして、治療をやめてしまったのだ。だが、私たち親子にはそれが孤独に突き進んでいるように思えて寂しかった。だから私たち親子は彼を心配するのだ。私たちまで離れてしまったら、彼は完全に孤独になる。彼を孤独に追いやってしまった私たちが唯一できることがそれだけだった。

 「近いうちに八一に銀子、それにあいつも呼んでうちで飯でも食おか」

 「ふふふ、それじゃあ準備もしっかりしないとね」

いずれ、彼が音を取り戻してくれればいい。私たちはそれを願うのであった。

 




清滝桂香
彼に匹敵する棋士を探そうとする

清滝鋼介
放尿する師匠。いいパパをしています


そんなわけで実は4話まで書いてあるので供養の投稿です

土橋くんは個人的に3月のライオンで好きなキャラなので投入。

え? 個性が薄い? こやつめ、ハハハ


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