IS×SPARTAN (魔女っ子アルト姫)
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Reach、生き抜け。

地獄を見た、地獄を聞いた、地獄に降りた、地獄を作った、地獄を―――渡った。

 

「敵接近!!」

「戦闘隊形を崩すなよ、みんな分かってるな?」

「ああ分かってるぜ!!」

「ええ、未来に繋ぐために戦いましょう!!」

「あの人を守って死ねるならこれほどまでに嬉しい事なんてないぜ!!」

 

我らは家族、我らは戦友、我らは兄妹、その絆は例え死であっても断ち切る事なんて出来ない。戦場を渡り続け人類の為に戦い続けるのが使命。それが自分達に課せられた運命、それを喜んで受け入れ飲み込んだ、荒れ狂った嵐の中だろうと嬉々として飛び込んで銃を握りトリガーを引き弾丸で命を奪い続けた。

 

『まだ残っているのか、急げ本艦は間もなく発艦する!!』

「いいえ我々には仕事が残っていますのでお先にどうぞ」

 

そう言い残し、通信を切った。きっとあの艦長は自分達にも生き残れと言うだろう、いや意思を尊重して幸運をというのだろうか……恐らく後者だろうがそんな事を言われたら嬉しくて照準がブレてしまうかもしれない。だから切ったのだ。そんな行いに仲間が笑った、そして銃を握りしめた。

 

「さて行こう、残ってるのは―――ノーブル6と俺らか……さあ最後の獲物は俺達で総取りだ……行くぞ!!」

『yes sir!!』

 

 

時に2500年代、人類はワープ技術を確立させ銀河中に生活圏を広げていた。問題と言えば植民地惑星などで起きる反乱程度。人類は癌にも打ち勝ち、遂に大昔の人々が夢見続けてきた宇宙の大開拓時代が始まっていた。正しく夢に溢れた星の海への船出。だが人類は突如として史上最大の敵と敵対する。

 

人類は神を冒涜する者である、そう宣言するや、コブナントと称するエイリアン連合が戦争を仕掛けてきたのである。人類よりも遥かに技術で勝り、凄まじい兵器や戦艦などを用いる彼らは命すら顧みない。コブナントに人類は惨敗を重ね続けてきた。

 

人類に与えられている希望、それはスパルタンと呼ばれる特殊改造を施された兵士らであった。彼らは専用のアーマースーツ、ミョルニルアーマーを纏い勇敢に人類の為に奮戦した。スパルタンらによって齎す地上戦の勝利は勝利というにはあまりに僅かで苦しい物であった。だが宇宙戦では一方的な敗北を続け戦線の後退をせざるを得ない人類にとっては希望であった。

 

だが―――コブナントの魔の手は奥深くまで伸びた、植民地惑星の中心と言える惑星リーチ。地球に次ぐ重要な星とされているこの星にもコブナントが攻撃を開始。宇宙から行われる地表をガラス化する程のエネルギーによる砲撃、身体を焼くプラズマ兵器、リーチは瞬く間に戦場となり、死へと走り続けていく。

 

 

 

胸を光の刃が貫いた、それはコブナントの最高戦力、エリート族の価値観故。彼らは出血を不浄の者とする、彼らはプラズマを主武装にしその攻撃によって傷口は焼かれる。だがそれだけではない、全滅したチームのリーダーであるスパルタンの止めを刺す際にエリートはライフルを投げ捨てエナジーソードを抜刀し突進、長い格闘戦の末にスパルタンを貫いた。

 

「―――っ……」

 

何を言っているのか伝わっていない、胸を貫けてもなおスパルタンは腰にあるナイフへと手を伸ばし突き立てようとするが……刺さる寸前に力が抜けその瞳に前にてナイフは停止した。

 

『―――、―――』

 

 

その行為を見届けたエリートは完全に仕留めたスパルタンを地へと下すと咆哮を上げた後に最後に残ったスパルタン―――ノーブル6へと向かって行く。ソードはエリートの象徴、それを使い相手を殺す事は彼にとって戦う相手への最大限の称賛と敬意。あの咆哮も戦い続けた戦士への弔砲……それに近い物なのだ。

 

バイザー越しに最後に映っていたのは―――最後までライフルを握りしめ、地を駆け、敵をなぎ倒し、迫りくるソードを構えたエリートと戦う同じスパルタンの姿だった。

 

 

その戦いは決して無駄などではなかった、ノーブル6らスパルタンの奮戦によって植民地惑星の中心地であったリーチから人類の希望が飛び立った。それは文字通りの希望となり長きに渡る戦争を終結させる大きな輝きとなった。歴史は確実に受け継がれた、そして―――人類は救われたのだ。彼らの勝利は後僅かだったというのに……だが彼らはリーチに消えた、肉体もアーマーも全てガラスのように砕け散った。残ったのは彼らの勇気、勇気の炎は灯り続けた。不死身の兵士、スパルタンの勇気が未来を作った。

 

スパルタンは不死身だ、奴らは……行方不明になるだけ―――そう、行方不明になるだけ。

 

 

惑星リーチにて最後まで戦い続け、最後はエリートのソードによって胸を抉られて尚戦おうとした戦士は敬意をもって葬られた。そこで彼の命は終わり、彼は星をも焼き尽しガラスと化してしまう程の光に飲まれてしまった……。

 

―――筈だった。

 

 

「あれなんだろこれ、えっクレーターって……落ちてきたって事?でも反応とかなかったのに……ってえっ何これパワードスーツ!?」

 

命運が尽きたスパルタンは新たな戦場に身を投じる事になる、運命は未だスパルタンに戦いを強いる。そしてスパルタンはその戦いに身を投じ戦い続けていく。だが彼にあった目的は既に無くなりスパルタンは何を見つめるのか。世界を見つめ何を成すのか。

 

「ねぇねぇスパちゃん、宇宙って……やっぱり綺麗なの」

「……ああ、数多の星々が作り出す無限の天海。だが一番美しいのは……この地球だと思っている」

 

一人の女科学者と人類の希望と言われた戦士、その二人の道は重なり合うのか……それは誰にも分からない。



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073、覚醒。

死んだ筈、それなのに意識が存在している。それは自分の特異性故なのか、この世界に生まれる筈ではなかった命だったからの罰なのか。SPARTAN-Ⅱ Sierraー073、それが自分。幼い頃からスパルタンとしての戦いは始まった、全ては人類を守るという使命感と家族を守りたいという願いからだった。自分は一度死んでスパルタンになった。一度生命活動を停止した自分は何者かによって未来、いや別の世界に飛ばされた。

 

誰がそんな事をしたかなんて詮索する意味はなく、神という上位者が悪戯にそうしたと仮定しておく。その上位者によって遥か未来の異世界に住む少年へとなった男はその世界が絶望にしかない地獄のような世界だと即座に理解した。そして同時に自分が地球を救うスーパーソルジャーを生み出すSPARTAN-Ⅱ計画に選ばれてしまった事も。絶望しかなかった、いや逆だった……絶望に立ち向かえる力を与えられると喜んでいたかもしれない。遥か昔の事……地獄のような日々の中でそれは塗りつぶされてしまった。

 

結果として自分はスパルタンとして生まれ変わり、戦って戦って戦い続けてきた。そんな自分に訪れた最後の時―――惑星リーチ、工業、軍事面で非常に重要な惑星であり、その優先度は地球に継ぐレベルの星にコブナントが襲来。スパルタンとして戦った、そして最後には―――

 

「チーフ……後を、頼みます」

 

尊敬し相手も自分に向けて信頼を向けてくれている最強のスパルタンを見送った。彼こそが人類の希望、そんな彼ともう一つの希望を箱舟へと載せてこの星を脱出させるのが最後の任務だった。チームメンバーだけは艦に乗せるつもりだったが彼らも共に戦うと言ってくれた、最後まで一緒に希望を守る為に戦う。そして自分達は―――全滅した。最後に残ったノーブル6はどうなったのだろうか、彼も死んだのだろうか……いや死んだのだろう、あの戦況で生きている方が不自然だ。自分達の戦いが未来を作ったと信じている。

 

そんな複雑な経緯のある自分は再度死んだ。兵士として、スパルタンとなった時からもう死など恐れはしなかった、何れ死ぬのだと受け入れながらその終着点までに成せるだけの事を成そうと全力を尽くそうと誓っていた。だが今の自分は何なのだろうか、今思考を行っている自分はどうなっているのか。身体は動くのか、瞳は開けられるのか、様々な事を思考しながら遂に身体に力が入った。

 

「―――っ、俺は……」

 

身体を持ち上げる、同時に視界にあるHUDが再起動する。ミョルニルアーマーの現在の状況を詳細に映し出している。エナジーシールド、レーダー、パワーアシスト、小型核融合炉(動力部)が良好で問題がないと表示されている事にこれなら不測の事態にも対応が可能だと思ったのだが直後に血の気が引くかのような思いがしつつ胸に手を当てる。そこには万全な状態のアーマー、エナジーソードで貫かれた様子も無ければ損傷自体もない。

 

「何が、どうなっているんだ……これは、俺は確かにあの時……」

 

思い出されるのは最後の記憶の手前、メンバーが次々と戦死していく中戦い続けた。そして遂に最後の時が訪れてエリートによって貫かれた……筈なのに傷も無い。プラズマによって焼かれた形跡もない……理解が出来ない、メット内のHUDに表示されるバイタルも通常を示している、つまり自分は生きている事になる。

 

「―――」

 

何もかもが理解を超えていた、死んだという確信もあったのにそれらを覆す材料が今の自分、自分の装備が語りかけてくる。無駄になったというのだろうか、自らの戦いが、あの人を守る為に必死になったあの戦いが。全てが失われて自分はなぜいま生きている、何故のうのうと生きている……!?

 

「あっ起きたんだ」

 

胸の中の感情が渦巻いた時だった、突然背後から声が掛けられた。咄嗟に腰部にセットされ続けていたハンドガン(M6G)を手に取って構えた。幸いな事なのか残弾もあった、必要ならばすぐに撃てる。そしてハンドガンとしては余りに大きい銃口(12.7x40mm)を声のした方へと向けるとそこに一人の美女が居た。エプロンドレスにうさ耳が余りにも特徴的な美しい女性が此方を見つめていた。

 

「やっぱりパワードスーツだったんだそれ、生体反応自体はあったから無人機ではないのはわかってたよ。でも……君は何者なのかな、そんなパワードスーツの存在は全世界を見てもどこにも存在していないよ」

 

女性は部屋の中へと入りながら此方を笑うかのようにしながら見つめてくる、だがその言葉に073は眉を顰めた。ミョルニルアーマー(スパルタン)の事を知らないと言った事が信じられなかった。スパルタンの存在は本来極秘、だが絶望的な情勢下で多くの(ささやかな)勝利を収め続け、いつしか戦場の伝説となっていたスパルタンに狙いを付けた上層部によって士気高揚の為に情報公開が成されている筈。それを知らないというのは余りにも可笑しい、そして世界中を見てもと言った。

 

「何も、知らない……だと、スパルタンを知らないというのか」

「スパルタとなんかの関係あるの?」

 

愕然となった。スパルタンの存在を知らない、その事実は073にとって凄まじい衝撃を齎すと自らの経歴と照らし合わせ一つの答えを導き出すに至った。それは―――異世界もしくは過去への転移、それしか考えれない。それに辿り着いてしまった073は思わず膝を突いてしまった。

 

「ね、ねえちょっと……」

 

突然の事に女性も慌てていた、彼女にとって073は突然の来訪者に過ぎない。彼女の拠点の一つに突然出現した謎のパワードスーツを纏った存在が073。一体何がどうなっているのか、解析したかったが装着者の許可がいるのかそれとも未知のテクノロジーなのかアクセスが出来なかった。故に目覚めるのを待っていた、が突然脱力してしまった彼を心配するように駆け寄った。

 

「頼む、俺にこの世界の事を、教えて、くれ……頼む……」

 

まるで縋るかのような言葉に女性は戸惑ったが少しずつ彼の質問に答えながらネットなどでこの世界について教えていく、そしてそれらによって―――この世界が全く知り得ない未知の世界である事を理解し、彼は口を黙り込んでしまった。メット故に表情は読み取れないが、女性は彼が泣いているように見えたという。




M6Dハンドガン

使用弾薬は12.7mmマグナム弾を使用する「対物」拳銃。FPS界史上最強の拳銃とも名高い。
尚、一部界隈では擬人化したらメインヒロイン待ったなしと鼻息を荒くする者もいる程に大変優れた名銃であり、初代HALOでは必ず持ち歩く武器としても名が上がる。

余談だが、照門と照星の色と形がちょうどうまい具合に人の顔に見える事もメインヒロインと呼ぶ理由になっているとかいないとか……。


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073、束。

「束博士、荷物は此方でいいのか」

「あっありがと~いやぁ助かるよ、ありがとねスパちゃん」

「一宿一飯の恩義という奴だ」

 

惑星リーチでの戦死と覚醒、それから約2週間が過ぎようとしていた。スパルタンⅡ-シエラ073は少しずつであるが現実を受け入れながらも前に進もうと努力を進めている。その中で彼は自らを発見した女性、篠ノ之 束博士の下に身を寄せる事となった。束としては073が纏っているパワードスーツ、ミョルニルアーマーへの興味とそれを纏っている彼への興味が強く受け入れる事へと決めた。

 

073としては受け入れの条件として自らの情報とミョルニルアーマーの技術提供を条件として出された事に難色を示した。ミョルニルアーマー、そしてスパルタンの個人情報は軍部の極秘情報。それらを提供する事に迷ったが彼はこの世界への理解を深めていくと共にこの世界自体が自分の世界とは全く別の歴史と技術体系を所持している事が分かった。1週間時間を貰い迷いに迷った結果……技術提供に応じ、073は束の保護下にはいる事になった。

 

「いやぁ……凄いよ本当に凄い、このミョルニルアーマーを作ったって人ってやばくない?技術的な話はまあ未来だから分かるけどこれって……宇宙服に応用が利きまくる、いやこれをISに応用したらどんな風になるんだろう……!!」

 

と束は瞳を輝かせながら073から提供されたミョルニルアーマーのデータに釘付けになっていた。彼女は超一流の科学者であると同時にこの世界特有のインフィニットストラトス(IS)と呼ばれる宇宙空間での活動を想定したマルチフォーム・スーツの制作者。そんな彼女にとって宇宙空間でも平然と運用可能なミョルニルアーマーなどは垂涎の物と言える。

 

そんなISだが致命的な欠点として女性しか使用できない上にその中核を成すコアの数は467。しかも肝心の束は製造し各国に配布した後に姿を眩ませてしまったという。何故かと言われればISを軍事利用されてしまう事が不服且つ宇宙へと旅立たせるという者が居なかったからというのが理由らしい。そんな彼女は世界から逃れつつ研究を続けており、今は拠点の一つにしている無人島に作った秘密ラボにいる。自分はその島に出現したらしい。

 

「ねえねえスパちゃん、これを作った人って君のお母さんと同じなんでしょ!?」

「―――ええ、キャサリン・エリザベス・ハルゼイ博士。人類最高の天才にして、スパルタンの母です」

「いやぁそりゃそう言われるわ、いやマジで感服したわ」

 

そんな風に天災とさえ呼ばれ畏怖される束すら顔すら見た事もないハルゼイ博士へと尊敬の念を向けている。そんな姿に嬉しさを浮かべつつ博士の事を思う、最後に博士にあったのはリーチでの通信だけだった。例えアーマー越しであったとしてもどのスパルタンなのか見分ける程に自分達に強い愛情を持ってくれているあの人、彼女は技術を提供している事を知ったらどう思うのだろうか……怒るだろうか……。

 

「おっとととと……いけないいけない解析作業に夢中になっちゃってスパちゃんご要望の武器の事忘れるところだったよ~……アハハハごめんごめん」

「いえ科学者としては当然の事かと」

 

そう言って貰えると助ける~と言いながら束はISの拡張領域(バススロット)へと量子変換して入れておいたそれを取り出し073へと投げ渡した。それは073にとって慣れ親しんだライフル、UNSCで最も普及していた突撃銃であるMA5B アサルトライフル。手に馴染んた感触とトリガーの硬さに重さ、全てが自分が戦争中に使用していたものと全く同じ物。

 

「……すみません博士、貴方にこのような要望を出してしまい」

「いいのいいの、束さんのボディガードをお願いしちゃってるんだから武器を持ってもらうのは当然だよ。それに異世界(未来)の武器を再現してみるっていうのも一種のロマンで楽しかったからね」

 

今現在の073の立場は束の護衛(ボディガード)、彼女は国際指名手配を受けている身。自由に研究したいと言っても追手が自分を見つけて確保しようとするのも目に見えている。それを自力で対処してきた束だが折角従軍経験があるスーパーソルジャーがいるのだからそちらの方面のプロに任せようという事になったのである。

 

「にしてもさ、そっちの対物ハンドガンもそうだけどUNSC……だっけ、それの武器ってやばいね。どれもこれも威力ありすぎじゃね?」

「相手が相手でしたからね……それでも人類は劣勢でした」

「……信じられないけどマジなんだろうね」

 

束はアーマーと共に武器のデータも受け取っている、その中には到底に人間相手に向けられるような物ではない者も多くあった。エイリアン連合との戦争なのだから当然と言えば当然だろうが……そのような武器が大量にあり、銀河中に生息圏を広げていた人類を劣勢に追い込んでいくかのような存在と戦っていた。そう考えると束は逆に今の軍事利用されているISの流れは強ち悪くはないのではないかと気を持ち直し始めていた。外宇宙には信頼なる隣人だけがいる訳ではない、ならば今あるそれらを発展させてそれらに対抗するための物の研究の基礎にするのも悪くないと発想を転換させる。

 

『ねぇねぇスパちゃん、宇宙って……やっぱり綺麗なの』

『……ああ、数多の星々が作り出す無限の天海。だが一番美しいのは……この地球だと思っている』

 

そうだとしても見て見たい、宇宙の海を。そしてそこから見る事が出来る母なる青い星である地球を。だから束は諦める事はしない、絶対に宇宙に行ってみせると決心しながらデータを見つめた。

 

「えっと、スパちゃん悪いけど4-Uのユニット持って来て貰っても良いかな。重いけど大丈夫?」

「問題ありません、60tの戦車(スコーピオン)をスパルタンは一人でひっくり返せるので」

「わぁおっ……」

 

アーマーのパワーアシストにも目を通したがIS以上のパワーを誇っている事に思わず目が点になりそうになる、そして戦車を一人でひっくり返す光景を想像してみるとシュールを通り越してホラーになった。そして束は次の情報に目を通す事にした。それは―――スパルタンについて。

 

「さてと……彼が纏めてくれたスパルタンについての情報……彼ほどのスーパーソルジャーがいっぱい居たなんて信じられないなぁ……どんな手段でそんなのを育成したんだろ、それじゃ……ポチっとな」

 

この時、束は後悔した。単なる好奇心でその情報を要求した事を、こんな事を思い出させてしまった事を、だが目を放す事は出来なかった。そこにあった地獄に等しい情報は紛れもなく彼が生き延びてきた歴史の一端……そして束は無意識のうちに―――涙を流しながらそれに喰い入っていた。




MA5B クs…アサルトライフル

7.62mmNATO弾を使用する突撃銃。UNSCで最も普及して(しまって)いる歩兵装備である。集弾性もお世辞にもいいとは言えず7.62㎜にも関わらずマガジン撃ち切っても相手を倒せなかったりすることが多発。撃ちだしているのがBB弾ではないかと思われるぐらいに弱い。故にクソルトライフル、玉が撃てる鈍器、殴った方が強い、殴れる豆鉄砲と呼ばれてしまっている。
フォローしておくと、HALO4、5では威力が見直され威力も精度も向上している。優秀であるが器用貧乏という印象は拭えないが、十二分に活躍出来る武器となった。

因みにグーグル先生でHALO アサルトライフルで検索しようとすると候補で弱い、電動ガンと表示される。最早虐めである。


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073、レイ

目を覆いたかった(目が離せない)目をそらしたかった(反らす事なんて出来ない)涙が止まらない(だが視界を遮らない)。彼が、スパルタンたる彼が直々に纏められたデータはきっと真実であり虚偽など混ぜられていない。それは僅か2週間程度の付き合いでしかない自分でも分かる、話しかけなければまともに喋る事すらない彼、それは性格でも何でもない……そう訓練されているからなのだ。目を通すたびに如何にスパルタンが完成された英雄なのかが分かっていく、彼らは戦士であり―――兵器である事も。

 

 

「……この辺りの筈だが」

 

束に頼まれたパーツを探す073、彼女が拠点している無人島は表向きは平凡な島にしか映らないが見えない分は完璧なまでに機械化されており複雑な造りとなっている。複数の場所が機材置き場となっておりそこには無造作に様々な物が置かれている。073からしても少しは整理した方が良いだろうと思うほどに散乱しているが、彼女一人では難しいかと思いながらパーツを探す。

 

「―――それか」

 

目的のパーツを発見、確保する為にライフルを背中へと回す。磁気によって武器をマウントし手を開けると巨大なパーツのそれを担ぎ上げる。生身の人間からすれば到底持ち上がるような物ではないがスーツのパワーアシストがある彼にとっては米俵同然と言いたげに平然と肩へと担ぎ上げるとバイザー越しにユニットの番号を確認して元来た道を戻り始める。

 

「(……俺は如何するべきなんだ……)」

 

異なる世界、異なる時代、そこへたった一人放り出されてしまった。人類の為に戦い続けてきた彼にとってそれは余りにも残酷な仕打ちだった。スパルタンとして人類の為に戦う、そんな使命に燃えるように戦い続けて家族と言えるチームと共に戦場を駆けまわって来た、そんな最後に待っていたのはこんな最後。スパルタンとしての存在意義も無く、己を知る者もなく、唯々漠然とした恐怖が沸々と胸の中に沸き上がってくるのである。感じた事もないような得体の知らない恐怖が……。

 

「(スパルタンが聞いて呆れるな……エリートやグラント、ジャッカルにブルート以上に怖がっているとは)」

 

スパルタンとほぼ同等の能力を秘めた戦士、追い込まれると神風を嬉々として行う突撃兵、輝く盾を構えながら迫る斥候、スパルタンを腕力のみで圧倒出来る屈強な巨漢。それらよりも遥かに今の胸の内にあるそれらの方が恐怖があった。戦いに恐怖はあった、だがそれらを屈する事などは無かった。恐怖をコントロールする訓練を受けている、それでも沸き上がるそれを操る事が出来なかった、気付けば元の部屋の前まで戻っていた。それを一度忘れながら入室するとそこには待っていたと言わんばかりに此方を見つめている滝のような涙を流している束の姿があった。

 

「……スパちゃん、こんな……束さんはそんなつもりじゃ……私は唯、興味本位で……」

 

何を言いたいのかは彼女の背後にあるモニターを見ると理解は出来た、そこにあったのは己が被験者となって参加したスパルタンⅡ計画。それを見て察する事が出来た、自身は何とも思っていないとしても彼女からしたら計画は余りにも非人道すぎる計画、それらによって未来は刈り取られたと言ってもいいのに……。ユニットを適当な場所に降ろしながら073は応えた。

 

「……謝らないでください博士、私にとって計画に参加出来た事は栄誉なんです」

「でも、でもでも今君は……此処まで尽くしたのに何の悪戯でこんな所に……!!!」

 

世間一般で言えば篠ノ之 束は狂人の科学者(マッドサイエンティスト)。自らのISが発表当時に正当評価を受ける事が出来なかった。その一か月後に日本を射程距離内とするミサイルの配備された軍事基地のコンピュータが一斉にハッキングされ、2341発のミサイルが日本へ向けて発射されるも、その約半数を搭乗者不明のIS(白騎士)が迎撃した事件、今ではこれは篠ノ之 束が企てたマッチポンプというのが定説だ。

 

だが実際は大きく異なっている、彼女はその主犯を押し付けられたに近い。本当の彼女は心優しい乙女、そんな彼女は後悔に咽び泣いていた。興味本位でスパルタンについての情報を求めてしまった事を。そんな彼女に手を置きながら073は語る。

 

「私はスパルタンになれた事を誇りに思い戦い抜いた、それだけの事です。私の戦死は無駄などではなかった、きっと……あの人が人類の希望になり続けると思っております。だから過去の私のために泣かないでください」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 

唯々謝り続けている束。それは此処まで非道な計画に無理矢理参加させられてしまった彼が哀れだと思ってしまった事への謝罪、軽い気持ちで彼の根本へ立ち入ってしまった事への謝罪、様々な謝罪がそこに秘められている。唯そんな事しか出来ない自分への憤りもあった事だろう。だが073は決して彼女を責める事など無い。責める資格も意味も無い。

 

「今の私にとっての任務は貴方の護衛です、確かに私の人類の為に戦うという使命は既に意味を成さないかもしませんが貴方は私に別の使命を与えてくれている。博士には感謝しています、ですから―――私のために泣かないでください」

 

自分の為に泣いてくれている、そんな彼女に073は素直に感謝を浮かべたくなった。自分はもう元の世界に戻る事なんて恐らく出来ないのだろう……ならば自分のすべきことは一つでしかない。スパルタンとして彼女を守るという任務を果たすのみ。自分に出来る事を精いっぱいにやるだけだと誓う。

 

「本来は機密事項なのですが……私の名前はレイです、これからはそうお呼びください博士」

「ぅぅっうん、有難うね……レイ君」




スパルタンⅡ計画

反乱軍との戦争を未然に防ぎ、人類の未来を救うべく養成されたスーパーソルジャー。だがそれは遺伝子適正で選別された幼い子供を「徴兵」し、訓練と肉体改造を施すというものであった。肉体的欠陥を持つ即席クローンを使った拉致の隠蔽、子供への軍事訓練、致命的リスクのある肉体改造を行う非道な計画。

候補生は全植民地惑星から選びぬかれた150名のみから構成されておりその基準は身体的能力や遺伝特性のみならず、心理的傾向にすら及んでいる。ごく一部の例外を除いてスパルタンⅡらは拉致され訓練を強制されているにもかかわらず人類を救う使命に燃え、前向きに訓練に取り組むものがばかりだった。
全員がそうとは限らないが、スパルタンⅡらの多くは自身がスパルタンとして選ばれ徴兵されたことを誇りに思っており決して「被害者」などとは考えていない。

―――そして最終的にスパルタンⅡとして完成したのは……僅か33名のみ。


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束、狂乱。

スパルタン-S-073(レイ)が束の保護下に入って半年の時間が流れようとしていた。その間も彼はこの世界に対する理解を深めつつも帰還は可能なのかという可能性を模索してはいたが矢張り絶望的な状況、この世界にて骨をうずめる覚悟を固めつつも束の護衛兼実験役を請け負っていた。

 

彼自身は男である為にISを起動させる事自体は出来ない、だがミョルニルアーマー自体はISの基本スペックを凌駕している。そんな彼は新開発の装備などを試すには絶好の人材。それに加えて束も彼女なりにミョルニルアーマーを解析しそれらに適応する専用モジュールを開発していた。ISの機能をミョルニルアーマーのまま使用出来るようにした物で大きな改造をすることもなくアーマーに適応された時には073も酷く驚いた。

 

「フフン如何だいレイ君、束さんだって中々に大天災でしょ!」

 

と嬉しそうに語る彼女に素直に称賛を送る他無かった。外付けとはいえあっさりと適応させるのは容易ではない筈、しかしこれでアーマーはISの機能を獲得した。ISではないがISのような物になりつつある、束自身はミョルニルアーマー自体の改造を望んでいたが流石にそれを拒絶されこの形に落ち着いた。そこに至るまで度重なる交渉があったりはしたが……。

 

「よっしゃぁっ出来たぁ!!ワッハハハハ、見たか束さんはやってやったぞぉぉ!!」

 

そんなこんなで今日も今日で073は彼女の護衛を続けながら彼女が再現したUNSCの武器のメンテナンスを行っている最中、突然大きな声を上げながら笑い始めた。歓喜に染まっている彼女は飛び跳ねながら此方へと走ってくると自分の手を取ってブンブンと振る。

 

「~~~……おっもっ!!?」

「何か完成したんですか」

「ムッフッフッフ……苦心する事約半年間、難しすぎて眠れない日もあった、だがしかし今日をもってそれも終わり!!ISのシールドにエナジーシールドを応用して組み合わせる事についに成功したぁ!!!」

 

スパルタンの象徴も言えるアーマーに搭載されているエナジーシールド。そもそもその技術がコブナント由来の技術をリバースエンジニアリング*1した結果の産物。それをこの時代で解析してしまい、そのノウハウを活かして自らの技術を進歩させてしまった。もう彼女はハルゼイ博士並みに凄いのではないかと思えてきてしまった。

 

「まっと言ってもこれは逆にこのリバースエンジニアリングに成功した人達のお陰だね、流石に束さんだけでこれをやれとか言われてもぶっちゃけ無理ゲーだよ。人類の手で組み直されてるから何とかなりました~的な感じ」

「十二分に凄すぎるでしょう……博士、貴方何年先の技術を先取りしたのか分かってます?」

「あはっ数百年先だね」

 

サラッと言いのけてしまうがマジでとんでもない事をやらかしている。戦国時代の人間がUSBが何に使われているのかを解明して応用するような事をやってのけている。この世界の技術は彼が居た世界よりもずっと進んでいるとしてもそれを差し引いてもとんでもない偉業である事に変わりはない。

 

「これで本格的に宇宙活動前提型のISの開発が一気に進むよ。でもまあまだまだやる事は山済みだけど……う~んでも流石にレイ君のアーマーの丸パクリなんてプライドが許さないし……流石に未来の技術に頼りきりなんて紐も良い所だし……」

 

と束は参考にできる部分はしてそれ以外には手を伸ばしたりはしていない、加えて参考にするにしても技術的には彼女自身のオリジナルでそれを作り出す、そのままでないのは彼女にも彼女なりのプライドがあるのとこのアーマーを作りだした人々へのリスペクト。

 

「やっぱり全身を覆った方が確実だよなぁ……電磁パルス(EMP)の影響は防ぎきれないし……SEが切れたら生身で宇宙空間漂う事になって死ぬし……」

「出なくとも通常時から纏うが普通かと」

「ですよねぇ」

 

073からすれば試合形式としてルールが定められているとはいえ大体に肌を露出させたまま戦ったりするのは正気とは思えない。ISには優れた防御機構があるのも承知だがそれは絶対的でない事は伝えられている、地球で運用したとしても何かの拍子で防御機能が落ちたら生身が大きく損傷する恐れがある。

 

「にしても流石に頭使い過ぎたぁ……レイ君~そこにあるコーラ取ってぇ……」

「どうぞ」

 

約2リットルのコーラのペットボトルを手渡すとそれを彼女は腰に手を当てながら一気飲みし始める。咽たりする事なく飲み干すともう一本!と要求するので手渡すと凄い音がしたが気にしないようにした。そして再び飲み始めたタイミングで―――ネットニュースが飛び込んできた。

 

『世界初、ISを動かした男性現る!!その人物は織斑 千冬の弟、織斑 一夏!!』

「っっっ!!!?」

 

一気飲みで咽なかった束が思いっきり咽そうになった、噴き出すのを懸命に堪えながら口に合ったそれを飲みこむとまだ残っているそれの蓋を閉めながらニュース記事をガン見しながら見た事の無いような驚きの表情を作って呆然としていた。

 

「博士……織斑と言えば博士のご友人の」

「うん、うんそうなんだよ束さんの大事な友達のち~ちゃんの弟君だよ!!何やってんのあの子!?っつかなんてIS最大の欠点の女しか動かせないっていうのをサラッと乗り越えて動かしてる訳ぇ!?あの子絶対自分がどんだけやべぇ事やらかしたとか絶対理解してないでしょ!?ああもう折角研究が良い所まで来たのにそっち優先しなきゃいけないじゃないかぁも~!!!」

 

憤慨しながらも束は携帯を引っ手繰るように取ると番号を入れ始めた、そう言いながらも自らの夢よりもあっさりと友人を優先する辺り優しい人であることが読み取れる。そして繋がったのか彼女は大きな声を上げながら電話へ向けて叫んだ。

 

「もしもしち~ちゃん!?何いっくん何やらかしてんの!?何あの子ってまさかのジェンダーレスだったりすんの!?」

『……まさか一夏がISを動かした事には関係ないのか、私が束が手を出したのかと……』

「んな事やってるほど今束さん暇じゃねぇんだよ!!今待望の宇宙活動前提型ISが良い所に差仕掛かろうとしてんのにさぁ!!大体ち~ちゃんもち~ちゃんだよね!!何かあったら束さんのせい束さんのせいって!!!」

『いやそれはお前が常識はずれな技術を開発しまくるから……』

「だまらっしゃい!!事実確認もしないで犯人扱いしないで欲しいね!!!」

 

そこから約1時間ほどギャアギャアと凄まじい口論が始まった、073はそれを唯見届ける事しか出来なかったのだが……漸く終わったのがぐったりとした束が腰を落ち着けながら語りかけてきた。

 

「……ねぇっレイ君、もしもIS学園に行って欲しいって言ったら―――」

「貴方の言葉ならば従います」

 

この言葉に束は心から有難みと感謝を浮かべながら彼は本当に自分の味方なのだと確信しながら感謝の言葉を述べるのであった。そして同時に―――肩を竦めながら自らもIS学園へと出向くことを決心するのであった。

*1
分解や解析などを行い、その動作原理や製造方法、設計や構造、仕様の詳細、構成要素などを明らかにすること




キャサリン・エリザベス・ハルゼイ博士

人類最高の天才にして、スパルタンの母。スパルタン計画、ミョルニルアーマーを開発、
古代文明を研究、コヴナント技術を研究し等々、あらゆる分野で八面六臂の活躍をした天才。
子供達を拉致し肉体改造を施す計画を立案する非常さと、人類の平和の為にそれを推し進める強い意志と、自分が未来を歪めてしまったスパルタン達への深い愛情を秘めた複雑な人物でもあり、その真意を明かすことはほぼない。

ハルゼイ博士はスパルタンⅡ全員の名前を覚えてる。例えスパルタンⅡがアーマーを着込んでいる状態だとしても判別できる程に深い愛情を持っている。


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千冬、IS学園。

日本に存在する世界唯一のISの教育機関、IS学園。本島からモノレールにて移動した先の島を丸ごと教育の為の施設にしている何とも贅沢な学校。と言ってもそこで学ぶのはIS、世界のパワーバランスの決定はISの力と言ってもいい。それらを学ぶための学園なのだからそれ相応の費用などで建造された施設で集中的に学ぶのが有効なのだろう。

 

そんなIS学園の船着き場、本来そこには食材や資材などを運搬する貨物船などが停泊するのだがその日は何もいないのだがそこに女性がいた。凛々しく美しい女騎士のような雰囲気に包まれている女性が居た、彼女はこちらへと迫って来た一つの影を見ると気を引き締めた。

 

「時間ピッタリ、間違いなくあれだな―――束」

 

迫ってきているのは何処か船というよりも何処かコンテナのような印象を与える塊だった、それはゆっくりを速度を落としながら接岸すると仰々しい音と共に橋を作るように変形をしていく。その奥から足音が聞こえてくる、それに対して構えるがそこから姿を見せた人物に驚いた。それは待ちわびた人物ではなく全身を鎧のようなパワードスーツとヘルメットに身を包んだ姿だったからだ。

 

「貴方が織斑 千冬さんでしょうか」

「そうだ」

 

目の前の存在へと警戒心を迎えるかのように鋭い声をぶつけるがそれは全く気にしていないかのように振舞っている。そしてそれが言葉を返すよりも先に奥からうさ耳を付けた女性、束が姿を現すと千冬は旧友の久しい再会にも拘らず溜息を洩らした。

 

「やっほち~ちゃんお久しぶり、まさかこんな形でまた会うとはねぇ……やれやれ人生って分からないもんだね、今回はいっくんのせいみたいなもんだけどさ」

「それを言うな束、私とて頭が痛い限りだ。今回の一件で私ももう忙しくて忙しくてな……」

 

千冬は深々と溜息を吐く、そこには疲れとストレスがこれでもかと込められていた。彼女こそが束の親友にしてISの世界大会の初代の王座に君臨した伝説的なIS操縦者、戦乙女(ブリュンヒルデ)の二つ名を持つ織斑 千冬。その鋭い瞳と纏っているオーラはスパルタンから見ても相当なものに見える。

 

「あ~……ち~ちゃん、束さんが言える事じゃないと思うけどさ、ちゃんと休んだ方が良いよ。書類仕事ぐらいだったらこっちに回してくれればパパっと片付けちゃうけど」

「仮にもIS学園の仕事だ、お前と言えどやらせられん……気持ちは受け取っておく」

「……今度飲もうよ、愚痴付き合うからさ」

「……すまん」

 

そこにあったのは紛れもなく親友間の空気、それを見るだけで二人が親しい友人同士であった事が事実であったことが分かる。先程まで凛々しかった千冬のオーラも一気に弱まり素の状態になっている、束も自分といる時とは全く違う素になっている。そんな二人はしばらく話し続けていた、その間に073は必要な荷物を下ろしておく。そして話が終わったのか多少スッキリした表情になった千冬が声を出した。

 

「すまん束、だいぶ楽になった」

「何水臭い事言ってんのち~ちゃん、この位お安い御用だよ。というかそんなんで結婚できるの?」

「お前にだけは言われたくはない」

「いや束さんは諦めてるから」

「ったく……それでそっちの声からして男か、その男がお前の話に出てきた条件に合った護衛か」

「そだよ」

 

と千冬が興味を示したように視線を向けると束は酷く嬉しそうにしながら073へと駆け寄って挨拶をするようにせがむ。荷物を置きながら073は千冬の前まで移動した。

 

「スパルタン-S-073。篠ノ之 束の護衛を担当しています」

「話は束から聞いているが……これは」

 

握手を結びながら千冬はスパルタンの凄みに圧倒されてしまっていた。束から自分の護衛もIS学園に連れていく事を条件に加えられ、許可を取り付ける間にどんな人物なのかを聞いてそれから想像を組み立てていたが……それを軽々と飛び越える程の風格を感じてしまう。

 

千冬も女性としては高い方だが073は2メートルを超える、加えて体格も非常にガッシリとしており例えアーマーを纏っていなくてもその屈強さに言葉を失う事は間違いないだろう。千冬は過去にドイツ軍にて教官の任についた経験がある、そこで戦争を乗り越えたベテランの軍人とも話をする機会も多くあった。だが目の前の戦士からはそれ以上の物を感じずにはいられなかった。どれ程の戦いを、どれ程の訓練を、経験を積めばこんな戦士が生まれるのか皆目見当がつかなかった。

 

「一つ聞かせて欲しいのだが名前は教えて貰えないのだな、顔もそうだが」

「あ~……ごめんねち~ちゃん、今までずっと軍の特殊部隊で従軍してたみたいでその時の事が完全に習慣になってるみたいでね、その時に完全な機密事項にされてる顔と名前は教えたくないんだって」

 

この束の話は本当でもあり嘘、既にミョルニルアーマー、スパルタン計画などの事を話してしまっている今としては機密など無いに等しいだろうと思うだろうがそれは束は絶対に機密にする事を約束してくれている、だが千冬は違う。彼女は束とは親友だが立場としてはIS学園という機関に所属する人間、それに詳しい話をする事は出来ないと束が気を回した。

 

「だが既に除隊してお前の護衛をしているのだろう、それでもか」

「うん。悪いけど……これ以上聞くなら束さんは此処から消えるつもりだよ」

「……成程、ならば私にそれ以上深入りする権利などは無いな。済まなかったなスパルタン」

「いえご理解いただき感謝します」

 

彼としては束が話しても問題ないと判断した場合には話しても構わないと思っている、だが束は千冬と言えどそう簡単に話すつもりはない。彼女自身その話をしたくないという思いもあるだろうが……自分を信頼して話してくれたレイに対するすべき事だと思っているからである。

 

「それでスパルタンが纏っているそれは……何だ、男だとしたらISではないのだろう?」

「まあね、束さんにとってISの女しか使えないのって致命的なエラーで何としても直したいんだよ。だからその一歩というか……ISの技術を応用して作ったパワードアーマー……みたいな感じ?」

「ほうっ……」

 

千冬は興味深そうにミョルニルアーマーを見つめる、教師としても元操縦士としてもISの技術を応用して作られたそれは面白そうに映り込んでいる。

 

「……現状のISからは随分と離れている印象を受けるな、最初から戦闘を想定しているかのような重厚さだ。防御も万全……背中には武器をマウントできるのか。フム……私も使ってみたいな」

「(相変わらずなんて勘が良いんだ……)まあ束さんの護衛を頼むぐらいだから最初から荒事を想定するのは当然だよ。戦闘という意味では現行のISとも戦えるしね」

 

流石にミョルニルアーマーをISと偽るのは無理がある、073はISを起動できない。加えてミョルニルアーマーはそう簡単に外せる代物でもないのである。アーマーを外すだけでも専用の設備と専門技師が付いて作業を行って漸く外す事が出来る。流石の束でも未だにそれを外す為の設備を作るには至れてはいない、と言ってもアーマーは殆ど肌と同じような感覚で快適その物なので073は外せない事はあまり気にはしていない。

 

なのでアーマーは束が073専用に開発したISの技術を応用して制作した特殊パワードアーマーという事になっている。

 

「ではいつかその素顔を見られる日を楽しみにさせて貰う、という事にしておくか。ではついてきてくれるか、お前達に当てられる地下へと案内する……だがそのアーマー重量は大丈夫か、地下へはエレベーターなんだが……」

「そこは大丈夫、束さんがPICを改良した装置を組み込んであるから重量はスパちゃん本人の体重分しかないから」

「ならばいい。因みにそのアーマーは本来どのぐらい重いのだ?」

「500キロほどです」

「……束のその装置があって良かった、でなければ階段で行く羽目になっていた」




ミョルニルアーマー

スパルタンが装着する特殊アーマー。完全与圧、シールド機能、筋力補助、反応性向上、ダメージの回復などありとあらゆる機能が詰め込まれている。500キロにも達する重量と巡洋艦一隻に匹敵すると言われるコストも量産の妨げとなり名実共にスパルタン専用の装備である。

ただ、その出力の高さはスパルタンでこそ扱えるものであり、実験段階においてアーマーを着用した被験者(一般兵)が「スーパーボールのように飛び跳ねて」しまったといわれる。



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073、IS学園。

篠ノ之 束がIS学園へと出向いた理由、それは彼女自身が織斑 一夏が何故ISを稼働させられたのかという疑問を解消する為というのもあるが自分の親友である千冬の弟、自分にとってももう一人の弟的な存在の一夏が踏み入れてしまった世界情勢、それらを作り出してしまった原因としてフォローしてやるべきだと思ったからだった。そんな自分勝手な理由で付き合わせてしまった073への罪悪感などもなくはなかったが、彼は何も言わずに付いてきてくれた。理由なんて唯一つだけだった、彼が今彼女の護衛という任についているから、それだけだった。

 

「さて~と……作業再開するかぁ……」

 

彼女自身が織斑 一夏のデータ解析を担当すると共にISの技術進歩の為協力するというのがIS学園から提示された条件だった。束としてはその程度は構わない、と言っても彼女自身が進めている研究から見たら今世界が行っている現行の技術なんて遅れているとしか言いようがない。

 

今世界で最新鋭とされている第三世代、操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標とした世代だが現状束が研究している第五世代はISの本来の活動域である宇宙空間活動前提型の試験型、それまでの技術の集大成とも言える存在。故に技術要求されても今あるものを一部デチューンしたものを出せばいいだけの事。先進的な物を出しても構わないのだが、逆に理解出来ずに自分頼りにされても面倒なだけだからである。

 

「織斑女史、コンテナの搬送と納品終了しました」

「ご苦労。すまないな束の護衛だというのにこのような事に駆り出してしまって……」

「博士からの許可は頂いておりますのでお気遣いなく」

「助かる、では次の船で来るISのパーツを頼む」

「了解しました」

 

そんなIS学園にて活動を再開した束の護衛の073だが、IS学園自体が他国からの介入が行いにくい治外法権地帯でありセキュリティ自体も非常に整っている。束がそこにいるという情報はトップシークレットで秘匿されているが、例えそれを入手して接触を図ろうとしても全世界から批難などを浴びせられる。此処にいる限り束は追手の心配もする事がなく安全とも言える。

 

ある種の最終防衛ライン的な立ち位置になった073だが、彼は彼で束から許可を得てIS学園の一部の業務の補佐を任せられる事となった。IS学園を守る事自体が束を守る事にも繋がるので護衛としては間違っていない、そして束と親しく話していた千冬の助けになってほしいという彼女からの要請にこたえる事にも繋がる。

 

「ほえぇぇッッっ~……凄いですね、えっとスパルタンさん、で宜しいんでしたっけ先輩」

「ああ、スパルタン-S-073だ。本名は知らん」

 

千冬は船着き場にて受け取った貨物やらのチェックをしていると隣にいる同じクラスを受け持つ副担任の山田 真耶が目を丸くしながら軽々とコンテナを担ぎ上げて運んでいく073の姿に驚嘆していた。担ぎ上げられたコンテナの内部にはISのパーツや機材などが詰め込まれており重量はトンを超えている。それを重機を使う事無く運んでいる。

 

「篠ノ之博士がIS学園の警備強化の為に送ってくれたっていう方なのは知ってますけどあんなに凄いなんて……」

 

表向き上、073は束がIS学園に自分の妹と一夏が入学すると知って送り込んできた警備強化の為の人員だという事になっている。そんな人に仕事をさせてしまっていいのかと彼女は不安になっていたのだがそのパワーは想像以上。

 

「奴のアーマーは篠ノ之 束が自らISの技術を応用してくみ上げた代物らしいからな、ある種男も使えるISとも言えるだろうな、厳密には違うだろうが」

「そ、それって外部に知れたら相当まずいですよね……」

「まずいな、だからこれは極秘になっていただろう。態々誓約書を書かされ違反した者は刑務所に収監されると添え書きと一緒にな」

 

ひぇっ……という言葉と共に真耶は顔を青くする。当然073の事も機密扱い。口外、情報漏洩などに問われたら問答無用で逮捕拘束される。千冬としては隠さずにいいのか、とも思ったが下手に隠すよりも脅しを聞かせておいた方が良いという束の判断に従っておく事にしておく、世界とて束の恐ろしさを知らない訳ではないのだから。

 

「織斑女史、搬送終了しました」

「えええっ!?もう終わっちゃったんですか、だってコンテナって10個ありましたよね!?全部35トンはくだらないんですよあれ!?」

「その程度でしたら問題ありません、大きさの関係で一つずつになりますが」

「それでも十分過ぎますよ……」

 

本来搬送を行うだけで軽く1時間はかかる、それをあっという間に終わらせてしまった073のアーマーの凄まじさが伝わってくる。

 

「すまんなこんな下らんことに駆り出してしまって」

「いえ織斑女史の言葉に従うようにと言われておりますので」

 

そう言って言葉を終わらせる彼に口数が酷く少ない事に千冬は少しだけ肩を竦める、彼女としても束が自らの護衛に付けているという人物には酷く興味が湧く。どんな人物、性格、生き方をしてきた気になるのだが彼は必要以上の言葉を話そうとはしない。

 

「あ、あのぉ~……スパルタンさん一つお願いしても良いですか」

「何でしょうか」

「え、ええっとその肩に乗せて頂く事って可能ですか?」

「おい真耶……」

「構いません」

 

そう言って073は膝を曲げながら真耶を抱くとそのまま軽々と肩へ乗せた。

 

「わぁっやっぱり凄いです!!すいませんこんなお願いしちゃって、でも一度で良いからこんなことして貰いたかったんです!!」

「すまんな……私の後輩が……」

「問題ありません」

 

そう言って073は真耶を肩に乗せたまま千冬と共に歩きだしていく。単純に機械のようではなく何処か茶目っ気のような物も存在している、だが酷く機械めいている。彼の自己を感じられる面が酷く少ない、今も真耶を乗せたのも単純にこれからの行動に支障をきたす事もないから引き受けているようにしか見えない。

 

「如何だスパルタン、暇なときは私の授業にも参加せんか。お前は銃の扱いにも長けていると聞く、戦闘訓練時の教官として参加せんか」

「参加して問題なければ」

「良し決まりだな、間もなく行われる新学期では期待しているぞ」

 

と声を掛けるが073からの返答は了解しましたのみ、矢張り酷く喋らない。それは単純彼が無駄な話が嫌いだからだろうか、いや彼女の勘が違うと囁いている。長い間特殊部隊にて活動をしていた、それは恐らく真実だろうが全てではない。きっと束は意図的に何かを話してくれていない。それはきっと彼の根幹に関わる物なのだろう、ならば千冬が取るのは一つだけ、話して貰えるように自分から歩み寄って信頼を勝ち取るだけ。




スパルタンⅡは平時より戦闘時の方が多弁になる。

これは訓練時に余計な事を喋らないよう訓練されている為。彼らスパルタンⅡは書類上兵士ではなく兵器として識別される。その事から分かる様に彼らには人権が無い。
そして、彼らは実際の年齢と肉体年齢がかなり食い違うレベルで平時は冷凍睡眠に入っている。尚073を始めスパルタンⅡの面々はこの処遇について納得している、そこまでしなければ人類は救えなかったし自分たちの人生がそれに費やされる事が寧ろ誇りであると考えている程であり正に完成された英雄といえる。


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新学期、IS学園。

「あっつう間に新学期、今日から箒ちゃんもち~ちゃんが担任の下で頑張るのかぁ~……」

 

遂に迎える春、新学期。人によってはこの時期を地獄と揶揄する者いるだろうが多くの者にとっては新たな出会いと別れ、そして世界が開ける時期である。IS学園に拠点を移した束はそこで研究を続けていたがある日この日を待っていたのかもしれない。一夏がISを稼働させた時のデータの解析などを行うのは自分、彼女としても何故男である一夏がISを稼働させられるのかというのは興味深く調べてみたい。

 

「レイ君、ち~ちゃんに授業の参加をお願いされたみたいだけど参加するの?」

「戦闘訓練にて教官として招待を受けております。その際には是非私の使う武器を使わせてほしいと」

「あのハンドガンとかアサルトライフルって事だよね、まあ数は用意するのは簡単だけど」

 

073に依頼された授業は戦闘訓練などの一部に教官として参加、元から軍人である彼からすればその程度ならば引き受けるのは簡単、そこで教えるのはISとはいえその手で武器を持つという事の意味と武器の怖さを教えてあげて欲しいというものだった。

 

ISは良くも悪くも競技用としての側面が強く出過ぎている、実情は世界最強の兵器である事に変わりはない。安全性の確保やルール整備がされているとはいえなまじ武器を扱うのならばその心構えを確りと教育しておく必要があるので軍人である073にその依頼が成された。ドイツ軍にて教官経験がある千冬自身が教えてもいいのだが、073の従軍経験と比べたら大人と子供なので本職に任せる事になった。

 

「ういうい、まあ準備はしとくよ。まあ正直こいつをそのままISにぶっ放しても十二分なダメージになるからねぇ」

 

束自身も護身用と称してハンドガン(M6D)を携帯している。これの威力を考えると普通にISに損傷を与えてしまう、それらを使って武器の怖さを教え込むというのも何とも贅沢な物だ。訓練用の弾丸なども確り準備しておくとしよう。

 

「束、邪魔をするぞ」

「おりょ、ち~ちゃんどったの」

 

そこに姿を現した千冬、普段通りのスーツ姿が決まっている。見た目も非常に整っている凛々しい美人女教師、此処だけ書き出すと凄まじく良いだろうが酷いスパルタなのでどっこいどっこいである。それ故の優しい真耶が副担任なのかもしれない。

 

「すまんが(スパルタン)を借りていいか」

「束さんは構わないけど何々どったのよ」

「教官の件は学園長から許可を得た、その過程で生徒への顔合わせはしておけという事だ。ついでにお前と彼への警告もしなければならんのでな」

「成程ね、分かったよ。スパちゃん悪いけどち~ちゃんに従って貰っても良いかな?」

「了解しました」

「良し行こう」

 

束の許可を取って073を連れてエレベーターへと乗り込んだ千冬(親友)へと手を振りながら見送ると束は懐に合った携帯をとりながら一通のメールを開いた。それは大好きで大切な妹である箒からの物だった。

 

『姉さん、私は今日からIS学園にて勉学に励む事になります。今まで姉さんの事を毛嫌いしていた私がIS学園に通うなんて姉さんからしたら妙かもしれませんが……私は―――姉さんを少しでも理解したくて此処にいるのです』

「……気持ちは嬉しいけど束さんはこっちに来て欲しくはなかったかな……」

 

ポツリと呟かれた言葉は空調に飲まれて消えていく、束は瞳を閉じた後に携帯を仕舞いこむと073用の武器の制作に戻った。

 

「度々すまんな」

「適材適所です」

 

授業初日という事でクラス内で配る物は数は多い、プリントだけではなく一部の教本なども渡す必要がある。それらは流石に重いので数回に分けて持っていく予定だったが073が纏めて持っていけるお陰で通常よりも早く教室に着く事が出来る。今現在は真耶がHRを行っている筈、終わる前に着く事が出来そうだ。

 

「織斑女史、私は教官としては不適格と思われるが」

「何、それでも私が教えるよりはマシだろう。それに真に教えるべきは銃を握る意味だ」

 

073はその言葉にはい、と短く返すが十二分に理解している。一度銃を握ったら人生は大きく変わっていく、例えそれが訓練であろうと実戦であろうと変わりはしない。武器の本質は暴力、そしてそれらの本質の方向性を定めるのは人間。兵士も機械も扱うのは同じ人間だ、それを向ける意味を知ってほしいのが千冬の本心。一度軍にて教官をしたときに深く思った事がそれだった。武器を持つ事の意味を。

 

「奴から聞いたぞ、従軍経験は酷く長いそうだな」

「はい」

「ならばその経験を基にしてそれを伝えてやればいい、その歴史の重みを」

「―――難しいですね」

 

千冬が初めて073の少しだけ弱気で冗談のような言い回し、それに笑った。失礼かもしれないが目の前に彼は間違いなく人間だと改めて認識してしまった。しかしそれは本気で難しいと思っているのは千冬に伝わらない事だった。彼はチームを組んだ時、多少の指導をした事はある。それは相手が同じ軍人、加えて最後まで共に戦った戦友でスパルタンⅢだった。彼らと何も知らない民間人の少女たちでは比較にならない。

 

「何、難しかったら素直に私に助けを求めろ。力になれるか分からんが出来るだけ助けよう」

「有難う御座います織斑女史」

「うむ苦しゅうない、では私が先に行く。名を呼んだら中へ入ってくれ」

 

荷物を持ったまま、教室前の廊下にて待機する073は不意にかつての仲間達の事を思い出す。共に戦えたことを誇りに思っている、今彼らが今の自分を見ていたらどう思う事だろうか。彼らと自分は違う、自分はスパルタンⅡであり彼らはⅢだった。だが自分達は人類の為に戦った、そこに迷いなどは無かった。彼らとチームを組んだばかりの頃に教え方と気分の乗せ方が上手いと言われた事があった気がするが、そんな事は無かったと思う……だがこれからはその言葉で自信を作って教鞭を取る事になる。成せることを懸命になそうと決意する中で教室から何やら叩く音が聞こえた少し後に名が呼ばれた。

 

「スパルタン-S-073。戦闘訓練時の教官を受け持つ事になっている、皆宜しく頼む」




スパルタンⅢ

スパルタンⅡの下位互換、コヴナント戦争による戦災孤児を徴用、また遺伝子適正のレベルを下げて実施されたスパルタンⅢ計画によって生まれたスパルタン。
特に脱落率の高かった外科手術を撤廃、投薬のみで同水準の性能を獲得しており、僅か33名しか誕生しなかったⅡに比べⅢは数百体の量産を達成している。

しかし戦闘能力はスパルタンⅡ程ではなく、軍からも普通の兵士より使いやすい「備品」として扱われる事もあるが彼らはそれに文句を言う事は少ない。



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073、織斑 一夏。

073のミョルニルアーマーは束による改造によってISの機能が外付けモジュールによって搭載された。外見はHALO5のミョルニルアーマーに近い。


「スパルタン-S-073。戦闘訓練時の教官を受け持つ事になっている、皆宜しく頼む」

 

挨拶を述べるスパルタン、直後に広まるのは困惑と驚愕の声。学園という場所からしてもその姿は余りにも異質過ぎる、肌を一切見せないスーツの上を重厚な鎧が取り囲んでいる。ヘルメットも完全に顔を覆い表情どころか視線すらうかがう事も出来ない、何よりこの声色は男の物だった。女子高であるIS学園では酷く目立つ。

 

「え、ええっ……?」

「声からして、男の人……だよね?」

「何か凄いゴツいの着てる……」

 

「ねえねえ今の声凄い渋くてカッコよくない!?」

「うんうん、低いけど確り通るダンディズム溢れる声。間違いないあのメットの下はナイスなダンディなお方よ!!」

「凄いカッコいい人……声だけなんかやばい惚れそう」

 

と両極端な反応がクラス内には波紋している。それはそれで当然とも言えるだろう、加えて述べたそれも名前というよりも区別を行う為のコードネーム的な印象を与える。様々な意味で異質な存在なそれに対して疑問が浮かぶ中で唯一安心と明るい顔を浮かべていたのは世界で初めてISを稼働させてしまった男、千冬の弟である織斑 一夏であった。

 

「(お、男の人、間違いない男の人だぁ……!!良かった俺ずっと男で一人此処にいるのかと思ってたよぉ……)」

 

一夏の心情は安心に溢れかえっていた。彼は不慮の事故……と言ってもいいのだろうか、兎に角ISに触れたせいで問答無用でIS学園への入学を強制された上に今まで勉強もした事もないISについて学んで行かなければいけない。しかも世界情勢的に考えて一夏は絶対にISから逃れられない、加えてIS学園は女子高である。今までクラス内で全周囲から女子の視線を放たれて胃が痛くなる寸前にまで行っていた。そこに現れた073の存在は酷く助けになった。

 

「(っつかあの人カッコ良すぎだろなんだよあれFPSに出てくるパワードアーマーかよやべぇよ俺ISなんかよりあれの方が何百倍も良いんですけどというか是非ともそちらを着させてください)」

 

ゲームをよくする一夏にとって073は全く別の視線も向けていた。彼が纏っているそれはゲームに出てくるパワードアーマーその物。ISよりもある種慣れ親しんだものに近しい物の方を望むは当然なのかもしれない。

 

「彼はこの学園の警備体制の増強の一環として出向して頂いた、彼は学園での業務の補佐の一方で警備を行う。彼の邪魔をするなよ、そして彼をIS学園(此処)へ寄越したのは篠ノ之 束だ」

 

その一言にクラス中がざわついた。篠ノ之 束のネームバリューは改めて凄まじい、ISの開発者というだけではなく全世界が血眼になって探しているのにも拘らず未だに足取りすら追う事が出来ずにいる世界最高の科学者。そんな存在から遣わされたという事に驚愕の瞳が向けられる。

 

「篠ノ之 束が彼をここに派遣したのも彼女の厚意だ。どこぞの男がISを動かしたせいで色々大変だろうからと気を回してくれたようだ」

「(間違いなくそれって俺だよな……じゃあ束さんが俺の心配をしてあの人を……?)」

 

と思う一夏の考えは間違ってはいない。実際その通りなのだから。

 

「彼の厚意で戦闘訓練時の教官を引き受けてくださった、敬意を忘れるな。そして―――彼に無用なちょっかいや失礼な行為だけはやめておけよ、余計な気を回せば彼から博士に情報が渡る」

「あ、あの渡ったらどうなるんですか……?」

「そうだな、博士の機嫌を損なった場合……身の破滅は確実だと保証しておこう、故に敬意を忘れるな」

 

千冬の言葉に全員が強く頷いた。此処まで強く言っておけば面倒な事は起こそうとはしないだろう、後はこれを他のクラスや学年にも通達しなければならない。これを怠って妙なちょっかいが出た場合、排除に踏み切られる事もあり得るのでマジで忘れる事は出来ない。

 

「織斑先生、その辺りにしておいた方が……」

「警告は忘れられんのだが……まあ十分か、それでは一言どうぞ」

「一言、ですか」

 

そう言われて073は素直に言葉に詰まる。何を言えばいいのだろうか、相手は何も知らない一般人の少女らが大半を占めているだろう、中には深くISに関わって軍事関連の知識なども備えている物もいるだろうが……そんな彼女らに向けてどのような言葉を掛けるべきなのだろうか。少しだけ考えてから言葉を紡ぐ。

 

「私が教えるのは単純な事だけ。不満に思うかもしれんが人生経験の一環として取り組んでくれ」

 

そう区切った後この程度で良いかとも思ったがクラスの女子らは何やらもっと喋って欲しそうな瞳を向けている、まだ喋った方が良いかとも思いながらその視線の中に織斑 一夏の物があった事に気付き彼へと一瞥すると一言だけ言う。

 

「必要になったら声を掛けてくれ、声には応えよう」

 

そう言って挨拶を終了した。様々な感想が少女らの口から小声で出る中で一夏は最後の言葉が自分に向けられた物だと気づいて胸を撫で下ろしていた。困ったら相談しろ、それに近いニュアンスの物で話し相手程度に放ってくるという事だと思った。兎も角この学園内で味方が出来た事に大きな喜びを感じていた、が直ぐに始まった授業にて頭を抱える事になったのであった。

 

「レイ君、いっくんは如何だった?」

「普通の少年、ですね現状では」

「ありゃ見込みなし?」

「いえ……しかし言葉の意味に気付く程には勘が鋭いようで」




スパルタンⅡに施された肉体改造

炭化セラミックの骨化。
骨折を防ぐ為、先進素材である炭化セラミックを骨格構造に移植。
リスク:移植される量が骨格の総量の3%を越える場合、著しい白血球壊死を引き起こす。また対象が思春期前後の年齢である場合、骨の液状化などの極めて深刻な症状が発生する可能性がある。

筋肉増強の注射。
タンパク質複合体を筋肉に注入し、細胞の密度を高め乳酸の回復時間が短縮する。
リスク:5%の確率で致命的な心臓容積の増加が発生する。

甲状腺インプラント。
ヒト成長ホルモンの分泌を促す触媒を入れたプラチナペレットを甲状腺に移植、骨格と筋肉組織の成長率を高める。
リスク:稀に象皮病が発生。性欲の抑制。

頭毛細血管の反転。
感光性細胞である網膜の桿状体、円錐体の下の毛細血管の流れを押し上げて視力を強化。
リスク:手術に伴う拒絶反応による、網膜の除去と剥離による永久的失明。

神経樹状突起の超伝導加工。
生体電気の伝達に用いる神経を人為的に加工された素材に置換する。反射神経は300%の向上、知能・記憶力・創造性の著しい向上も期待される。
リスク:深刻なパーキンソン病とフレッチャー症候群となる恐れがある。


以上の改造を施された75名のスパルタンⅡ達は33名しか生き残らなかった。


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073、追跡、授業。

073のCV、私は藤真秀さんで再生してます。
ジョジョ5部、黄金の風にてリゾットの声を担当された方です。


073の役目は授業の一部での教官役と警備任務、そして束の護衛。彼の場合の警備任務は基本的に夜にあてがわれているので昼間は授業などがない限りは基本的に本来の役目である護衛に徹する事になる。と言っても基本的に束が研究に集中している上にIS学園の特性上侵入者などめったに現れない上に束はごく一部の人間以外には情報開示されていない。端的に言えば073は束から試験を頼まれない限りやる事が無いのである、それ故か―――

 

「……問題はないな」

 

夜の警備巡回の為にルート確認などを兼ねた見回りを行う事にした、千冬からも一度は回っておいた方が良いと言われたのでそれに素直に従った。HUD内に表示されているIS学園内のマップ、それに表示されていたルートをなぞるだけ、問題はないと思いながら途中でレーダーに新しい反応へと視線を移した。自らの背後を付いてくるように移動している、動きには迷いはなく此方へと意識を集中しながらも姿を見せずに意識だけを向け続けている。視線を向ければバレると判断したのか、己の才覚のみで此方を追跡している。悪くは無いが―――余りにも意識を向け過ぎている。

 

幼い頃、徴兵を受けスパルタンとしての訓練を受けてきた073にとってその隠密はまだまだ幼稚な部類に入っていた。既に会う事は出来ないが同期の中には意識どころか自らの命の気配すら完全に消し去って姿を隠して暗殺を行えるスパルタンも存在していた。073はそこまでではない、だが今の追跡者はスパルタンならば確実に発見できる。例えモーショントラッカーによる探知など無くても見つけられるほどに。ハンドガンを抜き放ち背後近くの廊下の突き当り……ではなくそこから奥の通路へと銃口を向けながら殺気を放つ。

 

「―――行ったか」

 

レーダーで確認しなくても判別出来るが動体反応が遠ざかっている、追跡がバレたと判断してすぐさまに後退していった。思い切り自体は悪くもなく判断も素早いが、余計な自信が慢心を呼び技術を欠いている。ワザと殺気を放って警告めいたものにしたが逆に自分は気配を殺して相手を殺してやる事も出来た。束に消音機(サプレッサー)も受け取っている、完璧な消音が可能になる……が此処で無駄な殺しをする意味も無い。相手も謎の存在である自分を警戒しているIS学園の人間だろう。此処はそっとしておく事にしよう。

 

「見事な殺気だな」

「見ていましたか」

「ああ、途中からだがな」

 

背後にいた千冬は少しだけ汗を流しながら声を掛けてきた。M6Dを収めながら此方へと向き直る彼を見つめながら千冬は想像していたよりも遥かに途轍もない戦士だと再認識した。

 

「申し訳ありません、不必要な行いでした」

「いやお前に関する無用な干渉は奴にも通達されている筈だ、だがワザと行ったな……奴から見たら余程正体不明な存在だと映ったのだろう」

「正しい判断でしょう」

「束に報告するか」

「いえ先に銃を抜いたのは私です、私の落ち度です」

 

千冬は追跡を行っていた人物に思い当たる節がある、恐らくだが生徒会長の奴だろう。奴とてスパルタン()のアーマーへの興味と彼個人への興味が強かったのだろう。それに関しては自分も同じなので何も言えないが……それを優先させ過ぎて殺されでもしたら洒落にならんのでこちらでも忠告はしておく事にしておこう。

 

「フムそうだな、抜いた事を見逃がす代わりに次の私の授業を手伝って貰おう」

「次はIS基礎技術学、私の担当ではありませんが何をすれば」

「途中で変わって貰おう、そこでお前が何を教えるのかも話して貰おう」

「……了解しました」

 

少しだけ渋るような仕草をしたが直ぐに了承の返事を出すと千冬は笑ってから期待しておく、言いながら彼を連れて歩き出した。

 

「先程の殺気は見事だったな、相手へと直接注ぎ込む殺気とは」

「有難う御座います」

 

「っ……っ……心臓を鷲掴みにされたようなこのプレッシャー……あそこで無理矢理動いてなかった確実に殺されてた……あんな殺気を放てるって、何なの……!?」

 

 

「皆も理解していると思うがISには様々な機能が存在している、実際にISを稼働させるうえでこれらの機能は常に働いていると言ってもいい。だがそれらに依存しきるのは危険な行いだ」

 

IS基礎技術学、千冬からバトンを受け取った073が授業を進めている。ISを稼働させる上では様々な機能などが並列的に稼働して操縦者を守るながら機体を動かす事になる。それは銃を撃つだけでもパワーアシストなどで反動を抑え込む、自動照準補正(エイムアシスト)、弾数管理。だがそれらに頼り切るのは操縦者の多くはしない、己で出来る事は己でやりISには他の事をやらせて自らの補佐させる事が多い、その方が有益だからである。

 

「えっと、その……先生。如何すればいいんですか」

「慣れているならば分かるだろう、基本的にそれらの性質などを身体に覚え込ませる。反動、軌道、弾数などを自らの身体で感じておくだけでも大きく異なる。ISが表示する弾数表示を確認するのと自らの感覚で覚え込んだ弾数感覚、何方がタイムラグがないと言えば分かるか」

 

そう言われて生徒らは納得したような表情を浮かべる。キーボードのタイピングでもキーの位置を把握してそれらを感覚的に入力するブラインドタッチとキーを一々見ながら入力するのとどちらが早いかと言われたら感覚的な方が早いに決まっている。

 

「え、えとでも感覚でも間違える事があるんじゃ……」

「当然あるだろう。それを無くすための訓練だ、間違える事もあるだろうが間違える事など構わない、寧ろどんどん間違えろ」

 

間違えろという言葉に思わずぽかんとなる生徒が多かった、それらを見つめる千冬も何を言うのかと楽しみにしているかのような瞳を作りながら授業を見つめている。肝心の073はこれも任務だと真面目に取り組み、彼女らに理解出来るような言葉を彼なりに懸命に選びながら教鞭をとっていた。

 

「間違える、ミスをするというのは大切だ。逆を言えばそこには自身の成長の可能性がある証明でもある。そしてミスを無くす為の努力と訓練を積む、それが皆がすべき事だ。初めから何もかも上手くやれなど言うつもりはない。ミスを恐れるな、受け入れて前に進む事こそが成長する為の一歩だ」

 

それらを聞くと少女らからはおぉっ~と声が漏れる、その一方でアーマーに包まれている故か硬派で酷くスパルタな印象を抱いていた者が多かったのかそれらを改めるきっかけになった。同時に千冬は少しだけ悪い顔をしながら難しいと言いながらも中々に悪くない発破を掛けながら生徒達の授業への意欲を高めるのが上手いじゃないかと内心で褒める。同時にこれからも一緒に授業をして貰おうかな、と悪戯心を働かせるのであった。

 

「レイ君ち~ちゃんから聞いたよ~中々に良い授業やったったって」

「これでも懸命に言葉を選びながらだったんです、出来ればもう遠慮したいです」

「フムフム……レイ君は教えるのが苦手だからリードしてあげるべきっと……」




ハルゼイ博士とスパルタンⅢ

スパルタンⅢはハルゼイ博士を敵視するONI、海軍情報局上層部が発案した計画にて生まれた。ONIにとってスパルタンの戦果を無視できず、自分達の手駒としてスパルタンの簡易量産を計画。スパルタンⅡのデータ及び人員を盗用して作り上げたのがスパルタンⅢ計画。
それはS-Ⅱを我が子のように思うハルゼイ博士にとっては許しがたいことであった。
博士は計画への反発はもちろん、命令を優先する彼らをONIの操り人形という揶揄した事もある。



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一組、代表推薦。

「命拾いをしたな―――楯無」

「……今生きているのが、不思議な気分です」

 

ぐったりと項垂れるかのように腰を落ち着けながら荒い息をし続けている青髪の少女を見つめながら千冬は溜息混じりに声を掛けた。普段ならばあり得ないほどに覇気がなく疲れ切っている声に珍しい物を見れた、そして仮にも暗部の人間である彼女をここまで憔悴させてしまった073に寒気を感じてしまう。

 

「決して、油断もしていなかった。私の持てる全てを駆使して気配を殺し、視線を向けずに己の感覚だけで存在を感じ取っていました。それなのに……私へ直接殺気をピンポイントで向けてくるなんて……」

 

感じた事もないような凄まじい感覚だった、全身の血管が逆流し身体が雷撃によって貫かれたような衝撃と恐怖で完全に神経が麻痺し心臓を鷲掴みされた。そんな感じだった、自分の全てを掛けてそれを振り払って即座に撤退したがそれ僅かでも遅かったら確実に殺されていたと確信している。逃げられたのが奇跡とすら思える。

 

「奴とて最初から殺す気など無かったらしいが……警告だろうな、束が態々警告をしたというのにそれを無視してあんな行為をしたんだ。報復があるとは思わなかったのか」

「……申し訳ありません、政府から少しでも情報をと望まれたので細心の注意を払い観察のみをするつもりでした……」

「奴は束に報告はする気はないと言っていた、幸運だったな。政府の要請だとしてもやめておけ、相手が悪すぎる」

「……織斑先生は、あの人をどう思っているんですか」

 

青髪の少女、楯無は力なく尋ねた。それを背中で受けながら持っていた缶コーヒーを飲み干すとスチール缶であるのにも拘らず握り潰してゴミ箱へと投げ捨てた。

 

「奴からすれば私など今潰した物と同じ程度の存在だろうな……」

 

 

「やぁやぁレイ君、面白い事に巻き込まれたねぇ」

 

面白い、というには些か面倒が過ぎる事に巻き込まれた。千冬の指示通りに自らが教鞭をとっている最中にクラスの代表を決める事になった。簡単に言えば学級委員に近い者の選定、面倒な仕事極まりない。その際に多くの女子が男性IS操縦者である一夏を推した。その理由は至極簡単、珍しいからである。一部でふざけて073を推す事があったがそこは千冬が指摘するまでもなく本人が否定した。

 

「私は生徒ではないのだが」

 

と即答で却下されたが、ユーモアとしては面白かったと彼は女子を余り責めずにそのまま場を進行させた。結果として一夏本人としてはやりたくないという意志に反して多くの票が集まってしまった。本人とは断固として否定、そんな中で一人の少女が声を上げた。イギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットであった。

 

「私は自らを推薦して立候補いたします、クラス代表とは文字通りのクラスの顔です。ならば物珍しいではなくもっと最適な物で判断すべきですわ。安易な選択は後悔を産むだけですわ」

 

御尤もな意見を述べて立候補を行った。それらをクラスの反応はそれに同調しつつ一方的に嫌がっている一夏に押し付けるのも失礼かと自らの行動を反省する者と、折角の男子なんだから代表について貰うべきだと否定的な意見に割れた。彼女の表情にはそれだけにはなく男に対する侮蔑的な物も混じっていただろう、だが束から直接送り込まれている073の手前では不快を買わぬようにと慎重になっていると073は見抜く。

 

「フム……織斑如何する、お前は一方的な推薦を受けているだけだ。結局の所、お前は拒否している。オルコットへ代表を任せるか」

「……」

 

彼女の申し出は一夏にとっても有り難い物の筈、だが断る前にもう一度よく考えたのだ。そして素直に以前の言葉を思い出して073へと言葉を投げかけた。

 

「あ、あのえっとスパルタン先生……でいいんですよね」

「スパルタン-S-073、好きなように」

「それじゃ……スパル先生、仮にですけど俺が代表になった場合に良い事ってありますかね、良く分からなくて……」

 

と素直な疑問をぶつけてきた一夏に073は対応する、何気にスパルという呼び方に新鮮味を感じていたりもした。

 

「代表になった場合はお前は積極的にIS学園の行事へと関わる事へとなる、様々な仕事もあるがそれらは成績へのプラスにも成り得る。それよりも明確なプラスはIS操縦の経験を積めるという事だろう」

 

クラスの代表となればクラス対抗の代表戦に出場する事になり、クラスの顔としてISを使用する頻度も大幅に増えて行く。それらを前向きに捉えるならば経験になるという事、恐らく一夏はこれから今歩いている道から逃れるすべはなく如何足掻こうと関わるしかない。ならばこれを機に経験と知識などを付ける切っ掛けとしては適切ではあると伝えると一夏はその言葉を受けて深く考える。

 

「織斑女史、決めるは何時までですか」

「出来るだけ早い方が良いだろう、まあ遅くなっても来月辺りまでならばと言った所か」

「では今此処では決定はせずにという事に」

「いえあのまって貰えますか!?」

 

と立ち上がりながら一夏は少しだけ震える手を強く握りしめながら言った。

 

「あ、あの俺……クラスの皆に迷惑を掛ける事になるかもしれないけど、俺やってみたいです……相応しいかどうかは分からないけど俺自身はやってみたいです……!!」

「(いい顔で言いおって……少しは大人になったか一夏)成程、その意気込みは買ってやろう。だがクラス代表は文字通りのクラスの代表だ。認められる必要がある、そうだな……オルコット、織斑で後日模擬戦を行う事にしよう。勝敗ではなくそこで様々な点を考慮した評価を教師陣で下して裁定する事にする、両名異論は」

「私は御座いません、負ける事などあり得ませんわ」

「俺もそれでいいですちふっ……すいません、それでいいです織斑先生」

「よし、ならば―――そうだな、ついでにこれもはっきりさせておくか」

 

と悪い顔になりながら千冬は073の隣に立って彼の胸板の装甲を軽く叩きながら言う。

 

「お前の実力をこいつらに見せてやる事は可能か?お前が篠ノ之博士に認められている事を証明するいいチャンスだと思うが」

「……随分と急な提案ですね」

「何、本音は私もお前の実力を見て見たいのだ。ダメか」

「―――承知しました、博士に許可を頂ければお受けします」

 

十分だと千冬は区切りながら日付については後日発表し、今はこれで話を終わらせる事にした。この後束から面白そうだからやっちゃえレイ君!!という快い返答を頂いたので073はその模擬戦に参加する事になったのであった。

 

「良いのですか博士」

「束さん的にもレイ君とミョルニルアーマーの戦う所を見て見たいっていう本音もあるけど、負けるなんて想像できないからね。頑張ってね」

「微力を尽くします」




コヴナント

複数のエイリアン種族が宗教的に連合した組織、人類に対しては"聖戦"を仕掛けている。がその実態は聖戦と呼ぶには程遠い物。
科学技術は人類から1~2世代先に居るが異様に歩兵戦術に重きを置くため地上戦ならどうにか対抗可能。だが宇宙での艦隊戦では人類は一方的な敗北をし続けている。
リーチ時点で開戦以来30年ほど経つが、未だ全容や最終目的に関してはよく分かっていない。



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073、一夏、試合前。

一組のクラス代表決定戦に巻き込まれるような形でISとの対決が決定してしまった073。本人としては戦う事に関しては全く忌避感はない、彼にとって戦う事は使命であり課せられた仕事。その対象が今回ISを使用するというだけである。問題なのは純粋に束にどこまでの武装の再現が済んでいるのかを確認しつつ自分が扱い慣れている物は使えるのかというもの、使えなかったらそれはそれで手を考えなければならない。最悪の場合相手の武装を奪い取って使う事も視野に入れなければならない。

 

「博士、武器の事でお聞きしたい事が」

「大丈夫、特に要望が強かったこれも出来てるよ。ごめんね遅くなって」

 

投げ渡された物を確認するとそれは073が特によく使用していたもの、懐かしい感触と形状に思わず安心感が出てくる。命中精度も優れているセミオートスナイパーライフルで彼はそれを好んでいた。近距離でも十二分に効力を発揮する。それを背中に背負おうとするがISの機能を使ってそれを収納する。直後にまたもう一本の銃が投げ渡された。

 

「それは束さんのオリジナルだよ、色々参考にさせて貰いながら作ってみたライトマシンガンだよ」

 

束お手製のそれを構える、ドラム式のマガジンが特徴的なそれは即座にHUDとリンクして武器の情報も流れ込んでくる。それらを見ながら構えながら感触を確かめていく、そしてそれも収納しておく。

 

「有難う御座います博士」

「いいのいいのこれぐらい、例の試合はもう1週間後だもんねぇ」

 

1週間後、073は一夏そしてセシリアと対決する事になっている。本来彼は戦うべきではないのだろうが千冬の希望、束の許可もあるので臨むのみとなっている。しかしその日まで073はそこまで大した事はせずにすべき事をしながら再現してくれた銃器の感触を学園の施設の一部を借りてテストなどをしながら過ごしていた。そして遂にその日が訪れた。

 

「ぁぁぁっ~やばい緊張してきた……山田先生に色々補修とかISの訓練とかお願いして頑張って来たけどやっぱり本番となると緊張するぜ……」

 

試合の行われる第三アリーナのピット、そこに一夏にその幼馴染にして束の妹である箒、そして073の姿があった。073は同じく一夏と対戦する者だが落ち着き払っている、そんな彼は専用機が遅れているのか全く来ない事と本格的な試合を目の前にして緊張してしまっている一夏を見つめていた。新兵を見ているようでその姿は何処か懐かしい。

 

「落ち着け一夏、スパル先生を前にみっともない。あの人を見て見ろ、あの歴戦の勇者のような堂々たる姿を……男ならばあのようにして待った方が格好がつくというものだぞ」

「いや無茶言うなよ箒ぃ……先生は長い間軍の特殊部隊に居たって千冬姉が言ってたんだぜ……そんな人と同じようになんて出来ないって……」

「だが慌てていてもしょうがないだろう、此処は深呼吸をだな」

 

箒は今日まで一夏の勉強の手伝いや鈍ってしまっていた身体の感覚を取り戻す目的で剣道などをして体と精神を磨いてきていた。彼女は献身的に一夏を支えながら彼が真耶との訓練の際にもスパーリング相手として活躍をしていた、一夏も一夏ですさまじい集中力を発揮してそれらに取り組んだ結果、2週間の成果としてはかなり大きなものになったと真耶のお墨付きを得ているとの事。

 

「あ、あのスパル先生……こう、緊張を無くす御呪いというかそんなの無いですかね……」

「おい一夏そんなものを聞くのか、失礼だろ」

「そんなのって軍人さんっていうのは結構ジンクスとかゲン担ぎをするもんなんだぜ」

 

スパルタンとして生きてきた彼はそこまでゲン担ぎに頼った事は無い、信じられるのは自分が会得してきた技術とそれらを如何に発揮するかという事のみ。故に一夏に頼られても困ってしまう。

 

「すまんがゲン担ぎは余りやった事が無い」

「そ、そうなんですか!?」

「だが今日まで懸命に訓練を重ねてきた、違うか」

「も、勿論です」

 

先程の言葉でそれは分かっている、ならば後はどうやって自信に変えるだけ。自信への変え方は人によって異なってくる、自分のやり方を伝えた所で妙な感覚になってしまうのみ。自覚させるしかない。

 

「今日まで努力しただろうがそれはオルコットも同じ、今回に限らんが勝負の分かれ目はそれを本番でどこまで引き出せるか」

「何処まで、引き出せるか……」

「お前は一人で努力をしたのか、違うだろう。誰とどんな努力を重ねたのかそれをよく考えてみると言い」

 

一夏は思わず箒を見つめた、そして専用機の受領に向かってくれている為に居ないが、真耶も一夏に訓練を付けていた。そこで一夏は気付けたかもしれない、今の自分を作ったのは自身だけではなく幼馴染と親切な先生が居たから形作る事が出来たと。自分が情けない戦いをしたらそれは箒や真耶への恥にもなってしまう、だからこそ自分は教えて貰った事をすべて出し切らなければいけないと強く意識する。すると不思議な事に緊張が消え失せ、闘志が溢れて来た。

 

「緊張、しなくなってる……」

「誰かの為になら頑張れる、成程な」

 

そんな彼の肩を軽く叩いて073は間もなく始まるであろう試合に備える事にした、恐らくこの調子では自分が先に出るのが適切なのだろう。

 

「織斑女史、宜しければ自分が先に試合を行いますが」

『フム……そうだなアリーナの使用時間の事も考えるとそちらに出て貰った方が良いか。そして織斑、お前のISも到着したらしい、初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)を開始しておけ』

「分かりましたっ、あのスパル先生、有難う御座います、あと頑張ってください!!」

 

背後では漸くやって来た自分の専用機となるISを気にしつつも声援をかけてくる一夏、そんな彼に応えるかのように腕を軽く上げて応える。そしてその手にライフルを出現させて握り込むとISの機能を起動させて浮かび上がる、そのまま軽くスラスターを吹かしながらアリーナへと飛び出していった。




人類対コヴナントの艦隊戦

地上戦では辛勝を勝ち取れているが人類は艦隊戦は敗北をし続けている。人類とコヴナントのキルレシオはおおよそ3~5倍である。コヴナント艦のプラズマは容易にUNSC艦艇を轟沈させうる火力を持っているが人類側はまずシールドを破壊し、その上で装甲を削らなければならないためその間に撃沈されてしまうからである。

尚、これらのセオリーを無視して戦力的に劣る状態から敵を撃破した英雄も存在する。その英雄は駆逐艦を敵艦へぶつける事でシールドを破るという常軌を逸した行動を取ったという。駆逐艦は鈍器。

因みにその英雄の娘は非武装の輸送船でコブナントの艦を撃墜している。
その方法とは輸送船を敵艦に突っ込ませて大気圏に突き落とすという、最早狂気染みた方法である。この親子は船を鈍器と思っているのだろうか。

この英雄らはハルゼイ博士の元夫と娘である。


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073、セシリア、試合。

「あら、貴方がお先ですのね」

 

少女はまるで本当に戦えるのかと懐疑的且つ笑うような感情を込めながら言った。向かい側のピットから出現したのは自らが見慣れているISなどではなく逆の方向性を言ったそれに近かった。全身を覆ったスーツにその上から数多くの鎧が覆われている美しさがないそれを嘲笑うようにしながら少女、セシリアは先に戦うのが一夏ではなく073である事を口にする。

 

「織斑のISは先程到着したばかりだ、流石に初期化と最適化をさせていない状態では出撃させられないという織斑女史の判断だ」

「当然ですわね、完全初期設定なISで私が負けるなどあり得ませんわ」

 

彼女は地上に降りながら銃を構えている073を見つめながら話す、だが同時に073の意識は既に切り替わっていた。普段の護衛から完全な戦闘状態への移行、内部の切り替えが終わっている。同時に既に始められているスタート開始までのカウントダウン、それらの確認を終えた。

 

「言っておきますわ、私は貴方のような男性から教えを乞う事を容認しきれておりません。授業内容などは優れた一品ですがそれは貴方とは別ですわ、よって身勝手ですが私自身の手でどれ程の強さなのかを確かめさせて頂きますわ!」

「好きにやってくれ」

 

その様な言葉が来るというの千冬から前もって言われているので大して気にもしないし、家庭環境などの影響でそれらの思想を持つのも致し方ないとは思う。寧ろ彼女はそれをあまり表には出さないほどに理性的、今は戦闘前の高揚感から出てしまっているのだろう。そして直後、開始の合図がなった。普段と同じ、トリガーを引いて相手を仕留める、だけの筈が―――。

 

「キャアァ!?」

 

自らがトリガーを引くよりもずっと早くに被弾した、自らのIS"ブルー・ティアーズ"が被弾していた。だが彼女も放つ、レーザーを撃つ。だがそれらを073は地に足を付けたままの状態で疾走してそれらを避け続けている。

 

「当たらない……!?」

 

スパルタンが生きた戦場で戦ったコブナント、それらが使用してきたのは基本的にプラズマ兵器。それらが無数に降り注ぐ中を縫うように的確に相手を探知して追尾するような銃まで存在していた。それらに比べれたら単純に偏差射撃のレーザー程度など恐怖ではない。

 

「クッ、なんて速さ……!?」

 

073の疾走する速度は80キロ程度だろうか、空を駆けるISにとってそれらは大した速さではないだろうがそれらの速度を出して移動する人間となると話は違ってくる。その事を計算に入れて射撃をする、だが相手はそのコースを的確に読んでいるのか最低限の動き、四肢を動かすタイミングをズラして回避を行っている。そしてあの速度の中で同じように移動し続けている自分に的確にライフルを放ち当ててくる。しかも、その殆どが頭部付近。

 

「これは、もう微塵も油断も慢心も捨てるしかありませんわね。行きなさい、その名を示しなさい!!」

 

彼女のISの非固定浮遊部位(アンロックユニット)が稼働し飛び出していく。機体の名前を冠する武装(ブルー・ティアーズ)、それらは彼女の意志を受けて073を取り囲むようにしながら、全方位から時間差を付けながらレーザーを放って撃ち抜かんと迫ってくるが、そこで漸く073はISの機能を使い、軽く浮き上がりながら身体を捻った。そしてライフルを仕舞いながらその手に束お手製のライトマシンガンを手にした。

 

「(操縦者の思考で操作、それらを用いた攻撃……成程、第3世代型という奴か)」

 

空中を蹴るような跳躍を繰り返しながら、各部に外付けされたスラスターを吹かす事で姿勢制御を行いながら073は背後に回ったそれへと向けてトリガーを引いた。それは吸い込まれていくように背後の死角に回り込んだようなティアーズへと命中した。そして背後に向けた銃のトリガーを引いたまま角度を掛けて残ったそれをも撃ち落としていく。

 

「ま、まさか、そんな……ティアーズが一瞬で……!?」

 

ミョルニルアーマーはモーショントラッカーにより、周囲360度の動く物体を探知できる。そしてスパルタンはそれらを十全に活かせるような訓練と実戦を繰り返してきた。全方位敵だらけな戦場も経験した事がある073にとって背後に敵がいるなんて事は驚く事ではない。加えて彼はそれで終わらない、続けて元のライフルを出現させると彼女の腰部当たりのそれを狙って撃ち抜くとそれは爆発を起こしながら脱落していく。恐らくミサイル系の発射機構だったのだろう。

 

「虎の子は落とした」

 

彼の冷静な指摘がセシリアの思考を支配する、彼女は言った。強さを見せて貰うと、その結果の果てが自らの切り札を僅かな時間で全破壊するという行いで証明されてしまったのである。圧倒的な強さ、自らの中に合った価値観の男とはまるで相反する絶対的な強さを内包した強者、それが目の前にいる存在だと認識せざるを得ない。それらの素直な驚嘆と称賛そして―――敬意で溢れかえった彼女は空いた手にブレードを握り、レーザーライフルを持ちながら叫ぶ。

 

「まだ、まだまだ私は戦えますわ。貴方に強さを見せて欲しいと言ったのです、私も貴方に私の強さを見せる義務があるのです!!!」

「十二分に見た、セシリア・オルコット。君は強い、そしてもっともっと強くなれる存在だ」

「いえもっと、もっと私を見てくださいもっと、深くまで!!!」

 

結果を言うなれば、セシリアの惨敗だった。開始直後に彼女は切り札を出し惜しみせずに使用したが073はそれらに即座に対応しながら撃墜し彼女に付随している隠し玉すら看破し射抜いた。彼女は彼に弾丸を命中させる事が出来なかった。例え自らの切り札が無くなろうとも最後まで戦う意志を見せた彼女はライフルとブレードを構えながら戦闘を継続した。

 

そして最後には彼に一太刀を入れる事に成功しながら敗北を受け入れた。

 




惑星リーチ

数ある植民地惑星の中でも最重要に類する星。
豊富な地下資源に恵まれた事から民間軍事問わず宇宙船の造船拠点となり、併設する形で軍事施設も発展した。
UNSC、国連宇宙司令部の海兵隊本部はリーチにあり、またスパルタン2計画の本拠地もリーチであった。
人口も地球並みに豊富であり、あらゆる意味でリーチは中心だった、人類にとってはリーチは最終防衛ライン。
それ故に警戒網、戦力共に絶大なものが準備されていたのだが……

073はリーチにて戦死した事になっている。


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073、戦闘後。

人類対コヴナントの艦隊戦での補足

コヴナント艦の防御力
コヴナントの軍用艦艇にはエネルギーシールドのみならず『ナノラミネート積層プレート』と呼ばれる耐熱性に極めて優れた超高密度金属を何十層にも重ねた装甲を艦のほぼ全周囲に張り巡らせている。

このため、シールドの無い小型艦ですら核兵器とMACガン*1。以外では大したダメージを負わない。超大型空母に至っては装甲の厚さは30mを超えていると言われている。


*1
超大型のコイルガン、核を除けばコヴナント艦に殆ど唯一真正面から有効打を与えられる兵器

「済まなかったオルコット、初のIS戦故に加減を知らなかった」

「い、いえ私としては加減をする事無く戦って頂けただけで嬉しい限りですわ」

「助かる」

 

試合後、全てを出し切って疲労故か腰を下ろしてしまった彼女を抱き上げた073は彼女が待機していたピットへと入りながら彼女への謝罪を口にしていた。束の下で過ごしていたとはいえ今回が初の対IS戦闘だった彼はあまり手を抜く事は無かった。完全な全力という訳ではないが、少なくとも意図的に手を抜いたという事は無かった。どの程度で戦えばいいのか分からなかったがそれがセシリアとしてはそれは嬉しい事でもあった。そして腰を落ち着ける場所へと降ろされたセシリアは狼狽える。

 

「あの……私は、私は……」

 

気まずそうにも言葉を詰まらせてもごつかせてしまう口、当初の彼女は完全に073を馬鹿にしていた、下に見ていた。その結果があの大惨敗である。認めない、確めさせて貰うと上から物を言っていたので謝罪をしたいが非常に情けなく恥ずかしかった。怒られてもしょうがないという恐怖もあったがそれ以上の物があった。束へと報告が行くのではというものだ。

 

073が束によって送り込まれてきたことは周知の事実の筈なのに、彼女は自らのプライドだけでそれに反抗した。それが束を通じて母国へと抗議されたら一体どうなるのだろう、代表候補の座を奪われるだけでは済まないかもしれない。表現のしようもない恐怖が渦巻き言葉すら発せなくなった所へ頭を優しく撫でる感触があった。顔を上げてみるとそこには膝を曲げながら視線を合わせた。

 

「お前は凄かった、あの遠隔操作武装は基本的に死角に回り込んでいた。それは相手への足止めだけではなく意識の基点にも成り得る。それを続けていけば唯一無二の存在になる事は夢ではない」

「あっ……有難う、御座います」

「それとオルコット、博士へと報告するつもりは毛頭ない」

 

まるで自分の心を見透かしているかのような言葉に驚いた、メット故に表情を見抜く事は出来ずどんな感情を浮かべているのかすら分からないがセシリアには彼が少しだけ微笑んでくれているように感じた。

 

「君からすればスパルタン-S-073は篠ノ之 束博士から送り込まれた完全に不明瞭な存在、それがどのような存在なのかを確かめたいと思うのは当然、そして君自身は代表候補生、何れ国を揺るがすかもしれない力を持った相手の力を見ておきたいと考えるのもいい判断だ」

 

違う、そこまで考えていない。彼女の中にあったのは単純に男だから認めないという幼稚な考えだけだった。彼女の父がそうだったように男というのは情けない存在という意識があった、それらに従ったまでに過ぎないのに何処まで自分を褒めてくれていた。自分の行い、内面を評価し称賛してくれた、失礼な事を言ったのにも拘らず一対一の形をとって正当な評価を。

 

「織斑女史から女尊男卑思想からのやっかみは気を付けろと言われている、それに他人が下す評価を一々気にするつもりもない」

「それ、でも……申し訳ございませんでした。私は先生にあれほど失礼な事を……」

 

それでも気落ちし謝罪する彼女に073は内心で焦りを見せていた。彼自身教鞭をとった経験なども無い上に同年代の女性ならば相手にした事があるが少女相手なんて全くない。此処(IS学園)では自分は教師に近い立ち位置にある、故に教師として必要な言い回しなどを探してはいる、故に彼が取ったのは出来るだけ失敗を責めずに褒めて伸ばすというもの。それでも苦戦してしまっている、慣れていない故なのかと内心で毒づきながら続ける。

 

「ならばこれから気を付ければいい、君は国家代表を目指している。なった場合国の顔になる、その場合外交なども考えていく必要がある。その練習と反省だと思い、次に生かせばいい」

「ッ―――はい、有難う御座います……」

「よし、ならば次からは気を付けてな」

 

そう言いながら立ち上がった073は千冬へと向けた通信回線を開きつつ内心でホッと胸を撫で下ろしつつ自分は教職に向いていないなと思う。

 

『織斑女史、そちらは終わったのでしょうか』

『後少しという所らしいが……先程の様子ではオルコットのISはパーツの交換や修理が必要だろう、この後の試合は中止だな……』

『私が試合をするのでは』

『単に私がお前の実力を見たかっただけだ、それに何方かと言えばオルコットやクラスにお前の力を見せ付けるためだ。織斑との戦闘はそこまで必要ない』

 

という事になってクラス代表決定戦は数日後に延期される事になったのだが、一夏は一夏で専用機に慣れる時間が取れると心から安堵するのだが、慣れる為の時間中に自らの専用機がまさかのブレード一本のみという修羅仕様の機体であった事に阿鼻叫喚になったりしたのだが、それはまた別の話。

 

「レイ君、君ホント凄かったんだね……データでアーマーの性能とか話で大体予想してたけど余りにも凄すぎた」

「大袈裟です博士」

「いいや、マジで凄かった」

 

束は戻って来た073に向けて素直な感想を述べ続けていた。彼女も彼女で以前貰ったデータでどれ程の強さなのかという予想は立てていたのだが想像以上だった。これこそ戦場で数多くの敵を薙ぎ倒し人類の希望となったスパルタンの力の一端なのかと思い知らされた気分だった。

 

「レイ君マジで最強スパルタンじゃないの、マジで君より強い人いたの?」

「いました、遥かに強い人が」

 

束はそれを聞いても信じられなかった。073は激しい移動をしながらの射撃や偏差射撃に秀でている、当然近接戦も得意な分野でもあるがそんな彼以上の実力を持つスパルタンは多く存在している。

 

ナイフでプラズマで形成された剣を持つスパルタンⅡ並の身体能力を持つコブナントの兵士二人に勝つ、本気になれば誰も触れる事すら出来ない程速いと評される、ワイヤーに片手片足を使ってぶら下がった状態で飛行するコブナントの航空機のパイロットのみをぶち抜く、などなど073よりも上のスパルタンは多い。その中でも最強と言われているスパルタンこそ彼が尊敬しリーチにて彼が最後まで戦い続け未来へと紡いだ希望だった。

 

「それって前に聞いたマスターチーフって人?」

「S-117、チーフが最高最強のスパルタンです」

 

そんな風に語る073、束には彼が最も輝いているように見えた。S-117、そのスパルタンこそが最強だと疑わず誇りだと豪語するかのように胸を張り続けていた。そんな風に誰かを誇らしげに語られる彼を少しだけ、羨ましく思った束であった。




マスターチーフ

スパルタンIIの一人。本名はジョン、コールサインはスパルタン-117。
073が言うように最高最強のスパルタン。俊足や狙撃、ナイフ格闘、部隊指揮など個々の分野においてマスターチーフを上回るスパルタンは少なくないが、それら全てを高い水準で併せ持ち、他のどのスパルタンよりも「運」を持っている事が最強の所以である。
通称である海兵最先任上級兵曹長(マスターチーフ)は階級名であり「士官の枠組み以外で最もえらい兵隊」となる。曹長が「兵隊の大佐」などと呼ばれることがあるが、それにならうならマスターチーフは「兵隊の元帥」とも言えるだろう。

運の要素を含めた場合どれほど凄いスパルタンなのかと言われると、ガンダムのアムロ・レイとボトムズのキリコ・キュービィーを足して二乗したぐらいのスパルタンと言えば凄まじさが伝わるだろう。

アメリカではマリオ、ソニックなどと並び立つ程の超有名キャラクター。日本での知名度は低いが世界的にみると圧倒的な知名度を誇る。


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セシリア、一夏叫ぶ。

他者の顔を窺わず堂々と己を出し勇ましく、媚びる眼差しをせぬ男としか結婚しない。そう父を見て誓っていた。名家に婿入りした故に退き目を感じているが故に常に母の顔色を窺っていた父、それを見て自分はそう思っていた。そんな男との結婚を望みながらも内心そんな人間が今の情勢下(女尊男卑)で居るのかと疑問に思いながら諦め足を向け、踏み入れようとしていた。

 

「―――あの方の瞳は、何処までも真っ直ぐで私程度を対等に……」

 

自身の専用機の修復が必要とされたので彼女は自室に戻り熱めのシャワーで汗を流した後にベットに腰を下ろしながら脳裏に残り続けている事を思う。今日、彼女は完敗したのだ。篠ノ之 束から送り込まれたという謎の存在であるスパルタン-S-073、男である存在が自分達を指導するという事に腹を立てた。その授業の内容の素晴らしさにも腹が立った。自分のちっぽけなプライドがそれを許そうとしなかった、愚かしい事に。

 

彼には自分を追いつめる権利があった、篠ノ之 束と繋がっている事は千冬から明らかにされていたのに自分は侮辱を投げかけた。自分を地の底に叩き伏せて嘲笑う事もしてよい筈なのに、彼はそんな事はせずに瞳を合わせ自分の多くの行いを当然だと言い、これからの練習と反省にして成長に繋げようと言ってくれた。頭を、優しく撫でてくれた。

 

「先生……」

 

彼の事を思う、同時に胸に更に強い熱が灯る。火照っていた身体は冷え始めているのも関わらずその熱は自分の身体と心を熔解させるかのような強い熱を放ちながら自己主張をやめない。その熱が戦う彼の姿を想起させる、自らの全力と向かい合ってくれた真摯な姿を映し出す、まるで―――理想の男性が顕現したかのような彼の事を考えずにはいられなくなっていた。

 

「先生、ああっこの思いは禁断なのかもしれません。ですが私はこの思いを捨てる事など、出来ません……この思い、受け取っていただけるでしょうか……?」

 

セシリア・オルコット、彼女が抱いた艶かしくも業火のような熱情は収まる事を知らずに更に大きくなっていった。

 

 

「……」

「あ、あの織斑君そのえっと……」

「うがぁぁぁぁぁブレード一本だけとか修羅過ぎんだろがぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

セシリアと073との試合後、漸く一次移行(ファースト・シフト)が完了し完璧に一夏専用のISへとなった機体、名前を"白式"。それを纏って勇んで073が待つアリーナへと飛び出したのは良いのだが……そこで判明した衝撃の事実、彼のISの武装は雪片弐型という名称のブレードがたった一本だけ。外付けの武装などは無く、単純に高機動近接特化型……というしかない機体セッティングに流石の一夏も絶句し073は何かの冗談か何かだと思った。ところがどっこいマジで剣一本だけがISの中にぶち込まれているだけだった。

 

「ま、まあ一夏落ち着くんだ。千冬さんだって現役時代は同じだったんだ」

「俺と千冬姉を一緒にすんじゃねえよ箒ぃ!!お前だってそれは分かってるでしょうがぁっ!!」

 

箒は幼馴染である彼を何とかなだめて冷静にさせようとするのだが、余りのショックに一夏は先程から叫びまくっている。流石の千冬も強く咎める事は出来ない、改めて現役時代の自分もあんなセッティングでやってたなと振り返ると本気で思うのだから一夏が同じ状況になったら叫んでもしょうがない。

 

「酷くね、俺スパル先生に銃の撃ち方とかコーチして貰う予定だったんだぜ。スナイパーライフルとか撃たせてくれるって言ってくれたんだぜ、俺興奮したよ。俺FPSだとスナイパーばっかりだったからさ、マジで興奮したんだよ。シモヘイヘの凄さ分かるのかな、とか思ってたんだよ。それで山田先生との訓練機での訓練でも射撃成績そこそこだったから猶更期待してたんだよ俺。それなのにこの仕打ちはねぇだろぉぉおおおお!!?」

 

正しく魂の叫びだった。ブレード一本だけと分かってそれでも何とか073に果敢に戦いを挑んだ、真耶との訓練は決して無駄ではなく初心者としては非常に上出来なレベルで滑らか機動を描きつつ初めて動かすISをそれなりに動かせていた。だが073からすれば撃ち抜くのは容易くあっという間に撃ち抜かれて終わった、懸命にブレードで弾を防いだり瞬間停止から急加速などをして彼なりにベストを尽くしたが……流石に無茶だった。

 

「え、えっとそのだ、大丈夫ですよ織斑君!!機動面はトップクラスですからそこを磨いて一太刀を入れる感じにすれば……」

「それをさっきやろうとしてハチの巣にされたんすよ俺、この機体セッティングにして専用機完成させた奴は何処だぁぁぁ!!!そいつはクビだぁぁぁぁ!!!!」

「お、落ち着いてください織斑君!?美食倶楽部の経営者みたいになってますよ!?」

「大丈夫だ一夏何だったら私が姉さんに相談して手を打ってもらうから、頼むから落ち着いてくれぇ!!」

「チクショメエエエエエ!!!」

 

最早半泣きになっている一夏を箒と真耶は必死に慰め続けた。それを見た千冬はまさか研究所が自分の弟だからという理由だけでこんな事にしたのかと悪い予感を感じ、束と073に相談して直ぐに一夏のISの調整をお願いする事にした。結果として完全に変える事は出来ずにミョルニルアーマーのように武装を外付けにする事で射撃武器を搭載する事に成功した。ハンドガンとアサルトライフルのみだが、一夏は両手を上げて大喜びしたという。

 

「流石にスパルタンでも剣だけって人はいなかったよね……」

「ナイフファイトとかが得意というのはいましたけど流石に……」




マスターチーフに関して。

「UNSCのあらゆる人員がチーフの経験とカリスマ性に敬服しており、階級を遥かに凌ぐ権威を認めている」とされる程にS-117は英雄として認知されている。
初期はその非人道的な出で立ちから彼を嫌うものも少なくなかったようだがコヴナント戦争や数々の戦いを通して人類を救い続けた彼の評価は今や揺るぎないものとなった。

チーフをデザインした人形なども販売されているらしく、文字通り人類すべての大英雄と言って差し支えないだろう。


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一組、代表決定。

仕切り直されて行われた代表決定戦、セシリアのISの修復などの時間を有効に使用した一夏は073の指導の下で銃の訓練を積みながらISの稼働経験を積む事に専念していた。自らの専用機の余りにもピーキーな仕様、本人曰く修羅仕様に少しでも適応するために努力を惜しまなかった。それの結果なのか、彼のISには一次移行が終了している状態で単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が存在していることが明らかになった。

 

各ISが操縦者と最高状態の相性になったときに自然発生する能力のことを指すのだがISが二次移行(セカンドシフト)した後の第二形態(セカンド・フォーム)にて発生する。それでも圧倒的に発現しない場合のが大多数、所謂ISそれぞれが成長する事で使用できる必殺技のような物が最初から使えると一夏は興奮したのだが、その能力の詳細を調べてみると顔を引き攣らせてしまった。

 

「あ、あの先生これって……」

「……改修、されてよかったな」

 

073が素直にそう言ってしまう程の物だった。一夏の"白式"の単一仕様能力、それは零落白夜。嘗て千冬が世界を制した際に使用していたISと全く同じ物。その能力は自らのSEを消費する事でエネルギー性質であれば、それが何であろうと問答無用で無力化、消滅させてしまうというものであった。ISのSEも勿論適応されるので相手への大きな一撃になりえるもの……。

 

なのだが、今でさえハンドガンやライフルを持てているが、修羅仕様のままだとブレード一本とこれを使いこなさなければならないという事になっていた。加えて白式はかなりの高出力機でありその速度も非常に高くそれらに使うエネルギーも他の機体と比べると大きい。それらとこの零落白夜の相性はハッキリ言って良くない、超短期決戦を主眼にしなければならず、持久戦になればあっという間にやられる。

 

「馬鹿かこればっかじゃねえのまたはアホかぁぁぁ初心者が使うISをどういう仕様にしてんだぁぁぁ!!!!」

 

と叫ぶ一夏は悪くない、超短期決戦仕様は熟練者だとしてもおいそれと取り入れる戦法ではない。卓越した技術と戦術眼に観察力、先読みする思考力すら必要する。正しくそんな事が出来るのは戦闘の鬼、修羅仕様というのも中々に言い得て妙である。

 

「兎に角それは正しく奥の手だな」

「己を犠牲にして相手に大打撃とかロマンだけどさ……それを現実でやれとか唯のバカの所業ですよねこれ、ねえスパル先生、俺"白式"を設計した技術者殴っても許されますよねぇ!!?」

 

興奮する一夏を落ち着かせながら訓練を再開する。結局一夏はセシリアとの戦いまでに単一仕様能力を使いこなせるまでにはなれなかったので取り合えず基本使用しない方針にする事にした。二人の対決は一夏の敗北に終わってしまうのだが、セシリアのSEを8割まで削るまでの大健闘を見せての敗北に一夏は確かな手応えと自分の成長を実感して笑顔を浮かべて敗北の苦みを噛み締めるのであった。

 

「えっと先日の代表戦の結果を踏まえた結果、一組の代表は織斑君という事になりました」

「……ヘヤァッ!?」

 

とHRにて一夏は唐突にクラス代表に就任する旨が伝えられて驚きのあまり変な声が出てしまった。

 

「いやちょっと先生、俺ものの見事に負けたんですけどぉ!!?」

「別に私は勝敗で決めるとは言っておらんぞ、試合結果を我々教師陣にて評価して決めると言った筈だぞ」

「織斑君は短い期間で相当詰め込んだ集中的な訓練をしたとは言えオルコットさんにあんなに大健闘をしたんですよ、他のクラスの先生からも評価高かったんですよ」

 

真耶の機動訓練に射撃訓練、箒との近接訓練、そして073との総合訓練などに努力を惜しまず全力でぶつかっていった結果としてそれらから得られたすべてを発揮した。セシリアと073の戦いを見ていたお陰か彼女の切り札の存在などを知れていたのも大きく立ち回りも安定し、何より射撃面でもセシリアを驚かせることをやってのけた。背後の死角から迫ったティアーズの一基を一夏はセシリアへと意識を向け続けたまま、引き抜いたハンドガンでティアーズへと弾丸を命中させて撃墜したのである。それらも大きく評価された。

 

「しかしそれらを含めても勝利したのはオルコットだ、故に彼女にも許可は取ってある」

「えっマジで……?」

 

その言葉にセシリアが手を上げた、それに発言を許す旨を伝えると彼女は立ち上がって一夏へと言葉を掛ける。

 

「私は以前にクラス代表とは顔であり相応しい者がなるべきだと言いました、ですが私はあの試合にて織斑さんの将来性や成長性を考えると相応しいと思えたのです、加えて先生方は勝利云々とおっしゃいましたが私の所へとお話を持っていただいたのも勝者が認められないかもしれない、という配慮故です。私は相応しい御相手ならば席はお譲りするべきだと思っております」

「オ、オルコットさん……え、えっと俺……その、その期待を裏切らないように全身全霊で努力していきます!!ですのでスパル先生これからもご指導お願いします!!」

 

と代表を務める宣言をした上で素直に全力で助力を求める言葉に思わず千冬が笑いつつもそこはもう少しカッコつけておけといい、真耶は素直なのは良い事ですよとフォローをする。一夏はそれに対してサムズアップで返すのだが、セシリアはさらに続ける。

 

「そ、それでですね私も織斑さんの指導に参加してお相手をしようと思うのです」

「そりゃ助けるけど……」

「クラス代表になったからには私も認める程に強さになっていただけなければお譲りした私の面子にも関わりますわ、ですので先生とのご指導は私も参加させて頂きますわ」

「俺は別にいいけどスパル先生良いんですか?」

 

本人的には良いだろうが逆に先生的にどうなんだろうかとそちらを見て見る、それと同じくセシリアは希望と期待に満ち溢れた熱っぽい視線を送った。是非是非!!という意志の強さがひしひしと感じられる。073自身には断るもなく、一夏の事を考えると相手が増えるのは良い事なので許可を出すとセシリアは花が咲いたような笑顔を作るのであった。




コブナントの艦隊の凄まじさ

SDV級ヘビーコルベット
全長956m 全幅399m 全高115m 
全長1キロちかいコルベットってなんだ‥‥‥(戦艦大和が約300m

UNSCの巡洋艦に匹敵する巨大な艦であるが、コルベットという艦種名が示す通りコヴナント軍が保有する軍用艦艇の中ではかなり小型の部類に属する。

コヴナントの運用する艦には珍しく、エネルギーシールドが装備されておらず防御力が低いが、パルスレーザーやプラズマ魚雷といった標準的な装備は一通り揃っており、UNSCにとって非常に危険な相手であることに変わりはない。

前述の通り1キロ近い艦であるのにも拘らず小型の部類に入ってしまい、コブナント艦隊の膨大さが見て取れる。
因みに惑星リーチへの先遣隊として派遣されたCSO級 超大型空母の全長は28キロにも及ぶとされ、コブナントの本拠地防衛艦隊にはCSO級が100隻単位で配備されていると言われている。


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073、機動訓練。

出会いと別れの春も終わりへと近づいていく春下旬、季節は紡いだ関係を発展と深める夏へと。清々しい空気が徐々に湿気と熱気を持ち始める季節の変わり目、世界的にイレギュラー且つ異常な場所でもあるIS学園も同じように生徒達に変化という成長は訪れそれら受け入れて前に進めている。そんな季節の中でも変わら無い光景も存在する、例えば―――教鞭をとっているミョルニルアーマーを纏ったスパルタンとか。

 

「ウォーミングアップは以上と、これよりIS基礎機動訓練へと移行する。これより訓練機である"打鉄"か"ラファール・リヴァイブ"へと搭乗して貰って基本的な物から初めて貰う。その前に専用機のお手本を見せて貰う、オルコットに織斑、手本を」

「分かりましたわシエラ先生!!」

「分かりましたスパル先生」

 

本来の任務とは違うが軍人である為か授業の質や授業を受けた生徒らからの評判の良いのか徐々に授業を受け持つ量が増えている073。数をこなせばそれらしくなるのか以前よりも教師らしくなり言葉遣いなども慣れてきた。そんな彼の呼び名は一夏のようなスパル、それはセシリアのシエラ先生というものに統一されつつある。少数派としてスパゼというものもあったりする。日本に多い様々な物の呼び方を省略するものに流石の彼も首を傾げたりもした。

 

二人は指示を受けてISを展開、共に飛び上がっていく。同時に二人に指定高度を送信してその地点まで上昇するように指示を出しつつ073自身もISの機能を使用した習熟訓練に頭を使っていた。彼自身ISの知識は束に叩きこまれているがいざ使うとなると別の話、千冬から見ても十二分な応用などが出来ているが彼からすればまだまだミョルニルアーマーと同じように使用出来ていない感覚が強い、故に一夏の指導は彼自身の訓練にもなるので結構助かったりしている。

 

「指定高度到着後に急速降下、完全停止。目標は地表から10センチだ」

 

指示を飛ばすとポイントに到達したセシリアから先に降下体制へと入った。一夏も上達こそしているが矢張りまだまだセシリアには及ばず、速度という観点で言えば"白式"の圧勝にも関わらずに彼女の後ろを飛んでいた。それでもスムーズな軌道を描けているので及第点だろう。そんな彼女は急降下していく、流れ落ちる雫のような優雅さと美しさを身に纏いながら地表へと迫っていく、指定された10センチピッタリに完全停止をやってのける。

 

「流石は代表候補生、見事な完全停止だ」

「お褒めに預かり光栄ですわ、ですがこの程度このセシリア・オルコットからすれば当然ですわ!!半分でも行けましたわ!!」

「それは頼もしい、それはまたいずれ見せて貰おう」

「はっはい必ず御覧に入れて見せます!」

 

と心から嬉しそうな声と笑顔を浮かべている彼女、キラキラと輝いている瞳と笑顔に073は素直に真面目で優秀な生徒で手が掛からなくていいと思っている。が周囲の女子らはおんやぁ……?と何やら怪しい瞳を向けている、中で空中からまるで天へと向かうロケットのような勢いで迫ってくる一夏が見えた。その勢いを本当に殺し切れるのか、心が恐怖に耐えられるのかと思われる中で一夏は完全停止をやってのけた……が10センチではなく、25センチ程の位置で止まっている。彼は身体の向きを直しながら地面にヘタレ込むように腰を下ろした。

 

「……こ、怖えええ……」

「怖いと思えるのは立派な事だ」

 

思わず出た言葉で一夏を叱らず褒めた。顔を上げると手を差し出してくれている073がいた、その手を有難く取りながら立ち上がった。

 

「皆も分かったとは思う、ISというのは大きな力を秘めている。単純な飛行の力の向け方でも今のような事が出来る。そしてそこへ様々な武装などもある、皆はそれらを確りと理解し歩めるようにならなければならない」

 

IS学園には憧れなどで入る生徒も多い、IS操縦者というのは基本的に肌にピッチリと合うISスーツを着用する。それは彼女らがアイドルのような物を兼ねるから容姿を見せるような意識があるから、故かこの学園にもアイドル志望のような生徒も多く、退学する生徒も多いと千冬は嘆かわしいと呟いていた。

 

「皆が行うべきなのは恐怖を抑えるのではなく恐怖を理解しそれを自分のものにする事だ。恐怖は人間には必要な物だ、恐怖が無ければ危険を避ける事なんて出来ない。だが恐怖を知りそれらを自分のものにしたとき、それらを冷静に捉え対処出来る」

 

そう言いながらハンドガンを取り出し彼は自らのこめかみへと押し当てる、生徒らからは悲鳴のような声も上がるが彼は一切揺るがず落ち着き払っている。

 

「質問だ、何故君らは悲鳴を上げて恐がった」

「だ、だって下手したら死んじゃいますよ……!?」

「そうだ。銃は何かを撃ち抜き殺す暴力だ、だが私はそれを恐れない。何故ならば銃を知り撃ち方を知っている、私はトリガーにすら指を掛けていない」

 

そう、彼はそれを知っている。故に恐れない。彼女らもよく見て見ると073が指を掛けていない事が分かった、ISを纏っている一夏とセシリアは細かい部分まで拡大する事が出来るためか撃つ気が全くない事を知って慌てる事もなかった。流石に一夏は小さくィィッ!?と声を出したが。

 

「恐怖を知るというのがこれだ、直面したものへの理解と対処法を深める。それらは君たちに大きな力を勇気を与える、勇気を持った人は比類ない力と魅力を手に入れる。勇猛で凛々しい人への憧れとはそこにある、私は君達がそんな人物になりえるような手伝いをしていこう―――済まない少々説教臭かったか」

 

と話を切ったが直後に大きな拍手と喝采が帰ってきた。恐怖を否定し塗り潰すのではなく、恐怖を理解しそれを自分の一つにして前に進む原動力の勇気と化す。そしてそれを得た人物がどれほど魅力的なのかも語られた、それらを聞いて彼女の中には073への尊敬の心がより一層大きくなり、自分もそう成りたいという思いが生まれた。

 

「せ、先生私頑張ります!!」

「うんうん怖がる事を分かってあげるなんてなんか素敵!」

「そっか織斑先生がカッコいいのってそういう事なのね!!」

 

「なんて素晴らしいお言葉なのでしょうか……ぁぁシエラ先生、私はより一層、先生への想いが……ぁぁいけませんわもっと虜に……」

「か、かっけぇっ……かっけぇっ!!マジで尊敬するぜスパル先生!!」

「分かって貰えたなら良い、その為には訓練と失敗を繰り返そう。訓練で得た失敗を理解し得たものを成長に変えて一歩一歩前へ、さて授業を再開しよう」

『はい先生!!』

 




ノーブルチーム、惑星リーチでの戦い

6名のスパルタンから構成される火力部隊(ファイアチーム)、UNSC海軍 特殊作戦軍に所属する。メンバーはスパルタンⅢが5名、そしてスパルタンⅡが一名で構成されている。
惑星リーチにて奮戦した部隊、コブナントの侵攻を受けながらも最後の最後まで戦い続けた英雄たちだが、一名を除いて全滅している。

その内の一人、ノーブル6は073と同じ地点にて彼が指揮するファイアチームが全滅した後も最後の最後まで戦った、最後まで生き抜き、スパルタンであり続けた。その戦いぶりからもしもチーフの隣に彼が居たら……と思わずにはいられないスパルタン(プレイヤー)も多く存在した。

スパルタンはコヴナントに「悪魔」と呼ばれている。だがそう呼ばれるようになったのは実はHALO本編ではなくReach。簡単に言えばチーフ率いるブルーチームがランボーとコマンドーを足して割らない様な大暴れを演じた為である。

UNSC側被害 兵員 3億8千万人以上、民間人 7億人以上が死亡
コヴナント側被害 投入した艦艇総数の2/3以上 地上兵力の大部分


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転入生、遭遇。

「ご苦労だな生徒人気が鰻登りなスパル先生、先程も良い授業をしたようだな」

「織斑女史、鰻登り……とは?」

 

要請を受けた荷運びをしながらチェックをしている千冬が良い笑顔を作りながら良い玩具を見つけた猫のような調子で語り続けてくる。教師など気が進まない、上手くできるのかと不安になっていた073だが一ヶ月程度で一組では大人気の教師、他のクラスでも見事な手腕と褒め上手な先生だと評判になっている。上の学年の生徒も教えて貰いたいと一部では漏れている程だ。

 

「何、見る見るうちに昇っていくという意味だ。日本語にはこのようなものが多いと知らんかったか」

「皆目。学習項目が増えました」

「ならばもっと勉強しておくといい」

「はぁっ……」

 

少しばかり困ったような声を浮かべた後に引き続き荷物運びに戻る073、彼の仕事振りには感謝しか出ない。軍人であるからこそ体力や精神力などは自分達とは桁違いなのは理解しているがそれでもあそこまで自己を抑制して他者の為に尽くせるとは思えなかった。任務だから、の一言で片付けながら追加の仕事を振っても文句一つ言わず自己主張も特にしない。納得しているからこそだろうが……だからこそ千冬は少しだけ不安になっていた。

 

「束から聞いてはいたが……その様に長い事過ごしてきた弊害か……」

 

一部の女尊男卑思想の生徒らは彼に対して好ましくない反応を示しながら失礼な態度を取り下に見るような態度を取っているのに、彼はそれを一切取り合わず無視かあしらうような事をし続けている。彼の凄さが伝わるごとにそれは鳴りを潜めているがそれでも彼に対する悪意は存在する。束の影響下にある為に表立っての事を控えたとも言えるが。一切取り合わないそれに違和感すら覚えている。

 

スパルタンⅡは反乱軍を鎮圧し全UNSC市民に奉仕する事を教育されている。故に彼が千冬らの頼みを聞き入れ活動を行う事は全くもって当たり前の事なのである。そして元々スパルタンが対処する相手は反乱軍、つまり同族である人類。それらに対する最終兵器、それこそがスパルタン。そんな経緯もある故か073にとってその程度の風潮で踊らされ殺意すら抱かず殺しにかからない少女など小動物が威嚇する程度にしか映っていないのである。

 

「……スパル、今日の夜頃に一組生徒らが織斑の代表就任パーティを催すようだ。それに参加せんか」

「警備巡回があります」

「いやそれは私が変わる、お前が出た方が奴らも喜ぶだろう。旨い飯は期待出来んだろうが生徒らとの交友にはなるだろう」

「遠慮させて頂きます」

 

そう言って最後の荷物を担ぎ上げて歩みを進める彼にダメか、と肩を落とす。彼は何があっても素顔を晒す事を絶対にしない。元々スパルタンの素顔は軍事機密事項、もう既に束にミョルニルアーマーにスパルタンⅡ計画などの情報を渡している状態なのに機密事項も無いだろうとも思うだろうがそれでも彼は顔を晒す事はしない。食事も一人で行う、決して混じらない。それは彼自身の存在がこの世界と隔絶している事を示すかのよう。

 

「束、奴は一体何があったんだ。私にすらわかる、奴は唯の軍人などではない……奴が私らへと向けるのはまるで―――平和を謳歌する者を慈しみ守ろうとするような優しさのあるものだぞ……」

 

結局、彼はパーティへの出席は行わなかった。警備巡回ルートを只管に巡回し警備をし続けている。レーダーにモーショントラッカーなども併用して殆ど戦場に立っているような状態と心持ちでそれに臨んでいた。アーマーの機能がOFFにならなければ彼が傷付く事はほぼなく、例えEMPによってシールドが落ちたとしても元々ある装甲などを貫くにはこの世界の技術力では不足している。それでも彼は任務に忠実に巡回をし続ける。

 

「……どう過ごせば良いのか分からない」

 

任務があるというのもそうだがそれ以上にパーティなどという場でどのようにすれば良いのか全くもって分からない。スパルタンとして生き、スパルタンとして死んだ彼としてはそのような事は酷く難しかった。

 

「ああもう何なのよこのメモ、というかなんでメモなのよふっつう確り見取り図が印刷された物とか渡すでしょ!?それなのに何でメモなのよこんなの絶対可笑しいわ!!!」

 

と巡回中に何やら酷く騒いでいる女子を発見する。栗色の髪をツインテールにした小柄で活発そうな少女、そんな彼女は手にしているらしきメモに文句を述べながら苛立たし気に足踏みをしていた。と同時に千冬から転入生がやってくるという小耳に挟んだ話を思い出し彼女がそうではないかと思い至った。そして迷ったのかもしれないと声を掛ける。

 

「何を騒いでいる」

「あぁんッ!!?ってうわっ何IS学園って警備用にロボットまで配備されてんの!?」

「正真正銘の人間だ」

「ってええっ男ぉ!?ってあれそう言えばなんか学園には篠ノ之博士が送った男が居るって聞いたような……」

 

如何やら自分の事は一応知っていたらしい、束が送り込んだ人間という事である意味一夏並に注目される存在になっているから当然だろうが。

 

「スパルタン-S-073、篠ノ之 束博士から任務を受けてIS学園に赴任した。警備と一部授業にて教官を担当している」

「なんかどっかのゲームに出てくる特殊部隊の人みたいな感じね……あ、えっとごめんなさい、凰 鈴音です。一応中国で国家代表候補生をやってます」

「話は聞いている、最短で代表候補生へと昇りつめた少女と話題になっている」

「い、いやぁそれほどでもぉ~♪」

 

素直に感情を表に出しながら照れている鈴、彼女は僅か1年足らずで代表候補生に成り上がったしまうほどの才能(ポテンシャル)を持ちそれらを活かすだけの努力も絶やさずにいた。そんな少女の凄さはある意味スパルタンに選ばれた者と似ているのかもしれない。

 

「それで何を騒いでいたのか」

「あっそうなんですよ聞いてください、私政府の命令でIS学園(此処)に来たんですけど到着してからはこれを見ろってメモを渡されたんですよ。そこには確かに指示が書いてありましたよ、でもそれ以外が皆無なんですよ!?本校舎一階総合事務受付に行けだけで地図とか一切なし!!」

「……酷いな、政府の連中は何を思ってそんな事をしたんだ」

「そう思いますよね、んもう今度の連絡の時にタップリ文句言ってやりますよ!!」

「それは明らかに政府の怠慢、やる権利は十二分にあるだろう」

 

あの束の指示で来ている人から権利はあると言われた事で鈴は益々その気になって次の連絡をする時が楽しみになった。この事を言ったら一体政府の年を重ねただけで優秀だと思い込んで不相応な程に偉そうな大人たちの反応が楽しみになってきた。

 

「フム……それではそこへは案内しよう、巡回ルート上だ」

「えっでも、良いんですか。道を教えて貰えるだけで……」

「夜中に少女一人を放置する方が問題だ、まあ何かの縁という奴だ」

「それじゃあお願いしちゃうま~す、ええっと……スパ先生で良いんですかね」

「スパ……まあ好きに呼んでくれて構わない」




《エリート》
正式な種族名 サンヘイリ

コヴナント最強と称される種族で、コヴナントの権力階層では二番目に位置する、文武ともに高水準なエイリアン。高い身体能力に絶大な忠誠心、戦闘センスを持つそして身体能力はスパルタンⅡに相当する程。
名誉を重んじ、戦闘では特にその傾向が現れ「戦場で戦って死ぬことこそ誉」と考えている戦闘民族。そのため、敵味方を問わず勇敢なものには最大の敬意を払う。

その敬意はリーチでのスパルタン、ノーブル6や073にも向けられ最後まで戦士として戦い続けた彼らには最大限の敬意を向けており、戦後には彼らの事を語るエリートも……。

因みに彼らから見た人類は恋愛対象にもなるらしく、戦後にはとあるスパルタンに恋心を寄せるエリートが確認出来る、しかもデータ上にそのスパルタンへの想いを綴ったポエムまであった。HALO5にて確認できるので必見である。


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073、思考。

星、無数の星が浮かんでいる。地球から見る星、そこから見ている星々は自分が居た惑星の輝く姿なのかもしれないと思うと何処か不思議な気持ちにならざるを得ない。彼が最後に見たリーチの空とは違う、プラズマで焼き尽くされ何色とも表現できないような地獄のような光景ではない。

 

「―――何故、俺は今此処にいる」

 

何度繰り返してしまったのだろうか、答えも出ない問いかけをし続ける。その答えを探す事こそが今此処にいる意味なのかもしれないと答えめいたもので自分を騙そうとしても騙せずに叫ぶのだ、心が……。何故お前(自分)は生きているのかと叫ぶのだ。胸を貫いたソードの感触、最後の最後に突き刺そうとしたナイフを持った腕が動かなくなる感覚、倒れ伏し最後に見た光景を全て覚えている。

 

「―――何故俺だけが……」

 

これはリーチを守り抜けなかった事への罰なのか、それこそが己の罪なのか、ファイアチーム(自分達)が死ぬことは明白だった。それでも尚自分達はあの場に残って銃を握り続けながら向かってくる敵を薙ぎ払い続けた。例え死ぬと分かっていても怖くはなかった。それ程までに仲間との絆は深かった、強かった。そして死んだ後は笑って同じ場所へと行くのだと全員で思っていた。

 

『―――リーダー、先、行くぜ……!!』

『愛してるわよそれじゃあまた後で!!』

『あばよアンタの下は最高だっ―――』

『失礼します、ご武運を……!!』

 

皆、死んでいった。自分一人を残して死んでいった、そして自分も死んだ―――筈だったのに今此処にいる。誰も助けられなかった自分が何故生きる、希望は繋がったのかも分からない、その終局が今だった。束に拾われ彼女の護衛、今は学園にて警備と教官をしながら生きている……それで本当に良いのだろうか。

 

「分からない……分からない」

 

哀れにも生き残った自分が辿り着いた世界で生きろ、自らが罪悪感で焼き尽くされるまで生きる。それが罰なのか。同胞がコブナントに殺戮されている中で自分だけそんな風に生きろと、目の前で散った仲間はそれをどう思うだろうか。

 

「チーフ……貴方は、貴方は生きててくれていますか……ただそれだけを願っています……」

 

スパルタン-S-073、レイ。彼はまだ―――地獄に佇んでいる。

 

 

胸の内を誰にも明かさぬまま、073は今日も教官としての任を果たす為に歩き出す。

 

「今日も頼むぞスパル、いやお前が優秀で私も楽が出来て感謝している」

「お役に立てて何より」

 

短く言葉を紡ぐが彼も彼で千冬には感謝を心からしていた。何もしなければきっと同じことを考え続けていた、最初こそ気が進まなかった教鞭を取る事も任務と捉えれば思考を変えてそれにのみ集中できる。護衛もそうとも言えるだろうが兎に角073は感謝しながら本日配布するプリントの束を抱えながら千冬と共に廊下を進んでいく。道行く途中で生徒らが挨拶をする、彼の姿も最初こそ異端の極致のような物だったが今ではすっかり慣れられたのか平然と接して貰えている。

 

「例の転入生だが二組に入る事になった、あのお転婆が私のクラスでなくて良かった」

「凰 鈴音ですか、お知り合いで?」

「ああ。一夏の同級生だった、偶に家に遊びにも来ていた」

 

千冬から先日の夜に遭遇した少女の話題が出た。中国の代表候補生として来日し二組に配属される事になった少女、来歴を見ても正しく天才肌の努力家というものが滲み出ていた。だがそんな秀才も彼女からすればお転婆な小娘にしか過ぎないらしい。

 

「そうだスパル、束に話を聞いてくれたか。"白式"は束が調整したものだと聞かされた」

「はい」

 

一夏のISである"白式"は元々は日本のIS企業が設計開発していた代物だが、開発が頓挫して欠陥機として凍結されていたものを束が貰い受けて完成させた機体である。そんな束ならば何故あんな機体セッティングになっているのかを知っているのではないか、いや束が犯人なのではないかと思い代わりに聞いて貰ったのである。

 

「博士曰く、雪片弐型は搭載する気はなかったそうです。博士としても初心者が使うISに乗せるのは愚の骨頂だと」

「だろうな」

「技術提供の一環として共に送ったそうです、性能こそいいそうですが問題は明白です」

 

雪片には今現在束がメインに据えている技術を組み込んだ試験型、結果的に容量が膨れ上がったので搭載するのではなく自慢的な意味で一緒に送った。本人としてもISの初心者である一夏が使う事は聞いていたが、猶更初心者にこんなものを使わせる訳ないだろうと思ってたとの事。結果として何を血迷ったのか送り先の研究所がぶち込んでくれた訳だが。

 

「博士も頭を抱えておりました。何でこれ載ってんだ……と仰っておりました」

「……束にそこまで言わせるとは倉持技研も血迷った事をした物だ……」

「ですので博士は即座に改修を請け負ったのです」

「奴なりの贖罪か」

 

千冬も納得したように後で自分も束に謝罪しようと思いながら教室を向かい直す。

 

「それはお前の口から一夏に説明してやってくれんか、あいつは如何にもお前に懐いているようだからな」

「懐くではなく尊敬では」

 

そう答える最中にどうだろうなと答えながら千冬は一夏の顔を思い浮かべてみる。セシリアとの戦後、一夏が073の指導を受けた後に話す事があった、その時に一夏は嬉しそうに073が優しくて強くてカッコいいのかを語るのだ。

 

『俺絶対スパル先生みたいな渋くて優しくてカッコいい大人になるぜ、男が惚れる男ってあんな感じだ!!』

『フフフッそうか、お前が奴のようになるのは一体何十年後だ?』

『ちょっ酷くねっ千冬姉!?』

『ハッハッハすまんすまん』

 

久しく語り合う姉弟水入らずだったのに語られる内容に嫉妬までしてしまったがその嫉妬が幼稚である事に気付くのも直ぐだった。彼女から見て彼が素晴らしい人間である事なんてすぐにわかる、それに嫉妬するとは自分もまだまだ幼いなと思ってしまう。

 

「では彼に伝えておきます―――私に憧れるのはやめておけと」

「そうしてくれ、奴ではお前などにはなれんという現実をな」

 

笑いながら進む千冬の隣で彼は何も言わなかった。やめておけ、その言葉の意味はこの世界からすれば恐ろしい程に重く辛い物でしかない。それを知るのは束と彼のみ、いや束ですら解り得ないものを抱え続けたまま―――地獄を生き続ける彼は―――どうするべきなのかを探し続けている。




スパルタン-S-073 ノーブル6、SPARTAN-B312の最期

リーチの戦いにおいて二人はエリートのエナジーソードによって死を遂げている。エナジーソードは高温のプラズマにより刃を形成しているため、傷口が焼き塞がれ出血を伴わない。流血を不浄と考えるエリートにとって、彼らの象徴であるソードで出血させずに殺傷することは最大級の敬意と称賛の表れでもある。

エリート族はコヴナント戦争を通じて、最後まで決して諦めない人類を高く評価しており大多数のエリート族は、人類がコヴナントに加盟することを許されるべきであると考えていたほどであった。


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一夏、鈴音。

「おい何を騒いでいる、間もなく授業開始だぞ」

 

教室へと到達したが何やら中から騒がしい声が聞こえてくる、まだ授業前の時間なので別に騒がしくても問題はないと言えるかもしれないが後数分で授業の開始。出来る事ならばすでに着席しているのが望ましいのも確か。千冬が入り口から様子を窺うと何やら一人の少女がポーズを決めながら宣言を行い、その矛先を向けられている一夏は何やら握り拳でそれに受けて立っているようにも見える。何かのバトル物のワンシーンだろうか、と073は思う。

 

「(……あの子もああいうのが好きだったな)」

 

と何やらを考えていると千冬の声に反応したのか二人が此方を見た、同時にクラス中はシィ~ンと静まり返りながらもこのクラスの担任の姿を見て二人は顔を青くしながら固まったが少女の方は隣にいる073を見てあっと声を出した。

 

「あっえっと、スパ先生!?」

「スパル、既に奴と会っていたのか」

「昨夜に少し。彼女を受付にまで案内したまでです」

「成程な、凰間もなく授業が始まる。戻れ」

「はっはいィ失礼しましたぁ!!!」

 

と脱兎の如く立ち去っていく彼女の姿を見送る、如何やら彼女は千冬の恐ろしさというものが身に沁みついているらしい。駆け出していく姿に恐怖と動揺から全力で遠ざかる意思があった。

 

「さて授業を始めるぞ……織斑さっさと席に着け」

「あっはいすいません」

 

そんなこんなで漸く授業が始まったのであった。

 

 

授業中は問題は特に起こらず平和なまま進行、あっという間に放課後になった。今日は一夏のIS訓練に付き合う事になっているのでアリーナへと足を進めていると何やら騒がしく口論になっているのが見えてきた。そこではセシリアが溜息混じりに口論を行っている箒と鈴を見つめ、一夏はセシリアの隣で如何すればいいんだろうと言いたげな不安な表情を浮かべていた。

 

「騒がしい、何事だ」

「シエラ先生っ!」

 

と声が掛けられると花が咲いたような華やかな表情に豹変して振り向くセシリア、彼女の様子に女は変り身が早いというのは本当なんだなと知る一夏。

 

「実は……織斑さんとの総合訓練で凰さんもお手伝いとして参加すると仰ったのですがそれに篠ノ之さんが酷く反発致しまして……」

「俺的には相手をしてくれるのは有り難いと思ったんですけど……箒は、奴は二組の代表つまり敵だぞ!って」

 

態々へたくそな物真似をして説明した一夏に感謝しつつ状況の把握に成功する。セシリアのそれを合わせれば完璧な理解が出来る、箒の意見も分からなくもないが一夏の有難いというのも理解も出来る。彼からすれば彼女は格上の存在、そんな彼女が態々手伝いをしてくれるというのだから感謝すべき立場。

 

「それでこの争いか」

「はい……」

「俺がもっと確り言った方が良かったんですかねぇ……」

 

肩を落とす一夏、彼としても箒には感謝をしている手前もあるので強く言いにくい。そして鈴は彼としても久しぶりに再開したという幼馴染。そんな彼女が代表候補生なのは非常に有難くセシリア以上に親しく接っする事が出来るし彼女のISは近接主体だというので学べることも多いらしい。073は溜息を吐きながら地面を一度、強く踏みしめた。

 

「「っ!!?」」

 

軽めの爆発が起きたような音と舞い上がる土埃、そして凹んですらいる足元に二人が警戒するように体勢を作りながら振り向いた。そこには呆れているようなセシリアと苦い笑みを浮かべている一夏、そして腕を組んで見つめてくる073の姿があった。

 

「あっスパル先生!?い、何時からそこに……」

「先程な、話は二人から聞いた。篠ノ之熱くなり過ぎだ」

「も、申し訳ありません……」

 

と小さくなっていく箒に鈴はいい気味だと言わんばかりに鼻で笑うが直ぐに迫った073に息を呑んだ。昨夜も感じたがアーマーから感じられる威圧感、そして本人のオーラが合わさって言葉が出なくなってしまう。歴戦の軍人、いやそれすら生ぬるい表現ですらないのだろう。

 

「凰、君は二組の代表に就任したと聞いた。君の行いは君の敵を育てる行為にもなりかねないがそれでも良いのか」

「私的には全然、クラス的には敵でしょうけど一夏は昔馴染みですからその誼って感じですよ」

 

少々頬が赤くなり言葉を選んでいるような節があるがそこにあるのは純粋な善意。その他にも何かあるようだが敢えて指摘しなかった。

 

「成程…では織斑との近接訓練を頼めるか、私用のブレードはまだ完成していない」

「お安い御用で!!ほら一夏始めるわよその位は出来るんでしょうねぇ!?」

「舐めんなよ、俺のISは最初ブレード一本だけだったんだ舐めんなよ!!」

「何その地雷機体、最早産業廃棄物レベルの産物じゃないのよ。今は大丈夫なの?」

 

と即座に鈴は一夏と訓練を始めるのだがそこにあるの和やかな友人同士の空気が広がっていた。箒とは違う肩を組んで歩けるような友人の雰囲気。そして互いにブレードを握りしめると即座に剣戟の音が響き始めた。

 

「おっとぉっ!!何だちょっとやるじゃないのよぉ!!」

「嘘だろ何で今の反応出来るんだよ!?」

「年季の差って奴よ!!」

 

とそんな軽口すら飛び出す光景に箒はもっと集中するべきだろうに……だから私とならあんな言葉など……と呟いているが違う。彼はあれで集中している、彼の意識は完全に鈴にだけ注がれており相手の挙動全てに気を配る程に視野を広く持ちながらも全く意識がブレない。

 

「織斑は様々な経験を積む、それは勝利と敗北の双方も必要になる。それに凰は近接主体、そんな格上の存在は必要だ」

「しかし……」

「篠ノ之さん、清濁併せ吞むですわ。織斑さんに一番必要なのは成長です、それを促してくれる且つあれほど親し気な方は貴重ですわよ」

「……私以上に日本語を上手く使うな」

 

少しばかり納得がいかなさそうな彼女だが、一夏の為ならば致し方ないと……と少しだけ考えを改めようとする箒の姿に073は安心しつつ妙に迫ってくるセシリアの相手をするのであった。




スパルタンIV

戦後に行われた計画によって誕生した最新世代のスパルタン。チーフらスパルタンⅡ、ノーブル(5除く)らスパルタンⅢに続く存在。技術革新等により身体強化のハードルは相当下がっているらしく子供からの教育・強化ではなく志願兵からの選抜で構成されている。恐らく、強化手術もスパルタンⅢ以上に安全性と確実性が高いものと思われる。
「スパルタンⅡ並の能力を持ちスパルタンⅢ以上に数が揃えられる」が売れ込みのようだが、ハード面の性能はともかく兵士としての技量はスパルタンⅡやⅢには遠く及ばないというのが現場の評価である。

一応彼らの名誉のために付け加えておくと、そもそも遺伝子レベルで優秀な人材を幼少期から徹底的に訓練したスパルタンⅡと言葉は悪いが元が凡人のスパルタンⅣとを比べるのはいささか酷な話ではある。


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073、一夏、鈴。

「シエラ先生のライフルは私のと違って実弾なのですね」

「ああ、こちらの方がしっくりくる」

 

そう言いながら一夏の指導の傍らで自分の狙撃を見て欲しいと依頼されたのでセシリアの指導をしていると彼女から是非自分の狙撃を見たいというリクエストを貰った。なのでその期待に応える事にして束に再現して貰ったスナイパーライフルを展開して見せた。そしてそれを構えると即座に発砲した、放たれた弾丸は的確に出現した的の中心を呆気なく射抜くと即座に別の的へと放たれた。

 

「早い……!!」

 

次の弾丸を込め直すまでに次の標的へと狙いを定め発射体勢まで取って即座に発砲するを繰り返していく。流れ作業のような速度で狙撃を行っていく。

 

「な、なんて音……それにあんな威力を出せるライフルの反動を受けていないのか……!?」

 

箒はそれを近くで見ているからか凄まじい発砲音、そして的が命中した際の砕け散り具合に驚愕していた。的が炸裂しているかのような壊れ方をしている。一夏のアサルトライフル、セシリアのライフルとは桁違いの威力に目を丸くしながらそれだけの威力ならばとんでもない衝撃が起きる、例えISでも支えきれない反動がある筈なのにそれを苦にすることもなく連発する073を見つめた。

 

それもその筈、彼が使用しているライフルは対物仕様のスナイパーライフル。14.5x114mmの弾薬を使用しておりISでも損傷を与えられる、そしてこのライフルは高速徹甲弾を使用して約2キロ先のエリートの頭部をシールドごとぶち抜く事すらできる威力を誇る。

 

「凄い、全弾中央部を捉えていますわ……!!」

 

その腕前にセシリアは感激しきった声を出した。彼女のISは射撃戦仕様で彼女自身も狙撃を得意とする、そんな彼女からすれば中々お目にかかる事が出来ない程の射撃技術を拝見出来た事は光栄な事。しかし肝心の073は不満そうな声を出す。狙撃するにしてもあまりにも近い、これでは通常のライフルで十分過ぎた。

 

「すっげぇ~!!スパル先生ってカンスト砂*1かよ俺もスナイパーライフル持てねぇかな!!」

「いやアンタそれを高速戦闘仕様の機体に乗って言うの、凸砂*2にしかならないからやめときなさい。だけどホント凄いわね……弾込めと次の照準が出るのを並列して行いながら出現予測が完璧……スパ先生って何者なのよ」

 

鈴は僅かな期間でメキメキと頭角を現し代表候補生に昇りつめた猛者、そんな彼女からしても彼の技術は異次元級だった。只者ではないという事しか分からなかったがそれが更に明確に見せつけられて同時に強く感じた―――絶対に戦いを挑んではいけない類の存在だと。

 

「織斑、撃ってみるか」

「良いんすかぁ!!?」

「以前撃たせるという約束をしたからな」

「おっしゃあっ!!俺これでもスナイプばっかしてたんで自信ありますよ!!」

「いやそれゲームの中の話でしょうが……確かにヘッショ率7割は凄いとは思うけど」

 

この後、一夏はスナイパーライフルを体験するのだが意外にもそちら方面の才能がある事が判明。流石にゲームとは違うが初めての狙撃銃で命中率5割を記録した。セシリアから見てもかなり才能があると見て間違いない物らしく、一夏ならば射撃仕様のISだったとしても上手く乗りこなす事が出来ただろうと断言出来る程の物だった。

 

「本当にお見事な狙撃でしたわシエラ先生!!私が目指す射撃こそシエラ先生の物ですわ!!」

「君は君らしい射撃を見つけるべきだ、私なぞより遥か上の狙撃手はいる」

「ぁぁっそんなご謙遜なさる先生も素敵ですわ……」

 

その言葉は真実な事に彼女は気付いていない。彼女にとっては073の見せた技術こそが最上の物、しかし073は己以上の狙撃を行える者を知っている。2キロ先の上空の目標に命中させてしまう程の神掛り的な狙撃をするスパルタンを。彼女に比べたら自分のそれなどは子供の児戯に等しいだろう。

 

「織斑、お前は射撃適性があるという事はこれからも私とセシリアからの指導はより一層厳しくなる事になるのは覚悟しておけ。事と次第によっては博士にライフルの追加を頼む事にもなりえる」

「よっしゃバッチこいです!!でも束さんに頼むって流石にまずいんじゃ……」

「これは博士の意向でもある、雪片の一件は流石の博士も予想外だったらしいからな」

 

改めて一夏に雪片の一件を伝えてみると一夏は呆れ果ててしまった。

 

「ええっ……何、俺って個人として見られてないのかよ。いやまあ千冬姉の事を言われると何も言えないけどさ……流石に千冬姉と同一視されても俺困る。千冬姉みたいにブレード一本で無双しろとか撃ってなんぼのFPSで近接格闘とグレネードのみでキャンペーンクリアしろって言ってるようなもんだぞ」

「ただのマゾゲーね、というか一夏マジで同情するわ」

「姉さん……いやこの場合姉さんが常識を期待してしまったのが原因なのでは……せめて一言添えておけばよかったのでは……」

 

この時の発言を偶然聞いてしまった束は思わずグフゥッ!!と噴き出しながら胸を押さえながら猛省したという。流石に大切に思っている妹からそう言われると来る物があるらしい。

 

「それで如何だ凰、君から見て一夏の実力は」

「全然余裕、負ける気がしませんね」

 

正しく余裕綽々という言葉がよく似合う態度と言葉。そこには単純な一夏の実力が低いだけではなく、自らが努力によって育て上げた実力とそれらを目の当たりにした周囲の大人たちから裏付けされたもの。実際彼女は世界中を見て有数の有望株だと言われる程の代表候補生だと言われる程。そんな彼女のそれは侮りなどではなく正当な自信なのである。それに対して箒は一夏を侮るなと言おうとするがそれより早く一夏が言う。

 

「言ってくれるな鈴。だけどな俺だって言われっぱなしで終わらない、クラス代表戦でそれをハッキリさせてやる。俺はその時にまでにもっともっと腕を磨いてお前をあっと言わせてやる、その為の努力を惜しむつもりはねぇ。それに―――俺だって男の子だぜ、そこまで言われたら逆に闘志が沸くってもんだぜ」

「へえっ……」

 

良い目をするじゃないと内心でそれを褒めた。一夏の瞳にあるそれは正しく闘志、自分への挑戦を意味する炎で見ていた。真っすぐで澄んだそれに思わず身体を震わせてしまった、人を魅惑的に惑わせてしまう程の物がある。

 

「言うじゃない、それじゃあその時を楽しみにする為に協力するのは今日だけよ。アンタからしたら私の実力を把握しきれないのもあるからきついわよ、それでもいいわね」

「ああ望むところだぜ、見てろよ」

*1
カンストスキルスナイパー

*2
突撃スナイパー




コブナントが人類に戦争を仕掛けた理由を簡単に説明。

①HALO世界では、かつて「フォアランナー」と呼ばれる種族が銀河を圧巻していた。
②コヴナントは多種族の連合であり、フォアランナーを神として崇めている。
③コブナントの権力トップは自分達は神、フォアランナーに遣われた預言者として君臨している。
④だがフォアランナーは人類を自分達の後継者的な位置づけで見ていた。
⑤それにコブナントの権力のトップらが、ふざけんな俺達の立場がねえじゃねえか皆殺しだ、野郎ぶっ殺してやるぅ!!
⑥開戦。

大体こんな感じの流れ。


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一夏、073、訓練、試合。

一夏が鈴への宣戦布告を向けてから数日、あれから一夏は何時も以上に訓練に精を出すようになっていた。普段から真面目だったがこの学園で初めてライバルと言えるような存在と出会えた事が余程彼にとって素晴らしい刺激となったに違いない。セシリアは単純に練習相手、箒は幼馴染という認識が強かった。だが明確な対戦相手としての存在が非常に大きかった。

 

「動きの想定が甘い」

「はいっしゃあ次だぁっ!!!」

 

完成したスパルタン専用超硬質実体剣を握りしめながら一夏の近接訓練を行っている073。ミョルニルアーマーの出力を考えれば高出力機体である"白式"であろうと逆に力で捻じ伏せる事なども容易い上に細かい動きも出来る。ある意味近接戦を想定するとこれ以上ない強敵とも言える、そんな相手と果し合いをし続けている一夏の剣戟の冴えはどんどん研ぎ澄まされていく。

 

「此処だぁっ!!!」

「ッ―――素晴らしいな」

 

スパルタンとして力を発揮しながらも小技などを細かく挟み込み素早い動きで翻弄してくる073を相手にし続ける一夏の技量も凄まじい速度で成長していく。渾身の力で弾き飛ばした剣、だが073ならば即座に切り返してくる事なんて容易。だがそれを突く為に一夏は自ら雪片を手放し、足で押し込むようにしながら073に蹴りをぶつけた直後に雪片を握り直すとそのまま袈裟斬りにした。

 

そのコンボは見事に073の意識を瞬間に鈍らせる事に成功した、そして剣を握っていた腕の肩を狙う事で反撃が行われるまでの時間を稼ぎながら一太刀を浴びせた。しかも彼は斬る瞬間に無意識的に単一仕様能力である"零落白夜"を発動させたのかアーマーのエナジーシールドを大きく削ったのである。この世界で初めてのエナジーシールドの回復、久しく聞かなかった回復機能の作動音。それを起こさせた一夏に対して驚きではなく歓心が沸く。

 

「今のは咄嗟だな」

「えっ何で分かったんですか!?」

「矢張りか、お前の一連の動作としては違和感を覚えた。だが悪くない手だ、相手が近接主体ならば効果的に使えれば自分のペースに巻き込む一手になりえる」

「うっすっ!!」

 

零落白夜はエネルギー特性を持つ物を容赦なく無力化し消滅させる、ミョルニルアーマーのシールドは動力源である小型核融合炉。流石にそれから生まれるシールドを消し去るだけの力は無いが削る程度は出来る。仮に零落白夜をミョルニルアーマーの出力で使用した場合、どうなるのだろうか。コブナントのシールドを破る事も容易だったのではないのだろうか、それを応用させて艦に搭載出来れば……と意味の無い事を考えてしまい一夏の訓練に集中し直した。

 

「スパル一つ聞いていいか、一夏に何を教えたんだ?」

「訓練を付けただけです」

「いやそういう事ではなくてな……」

 

一夏の相手をしながら時間はあっという間に過ぎ去っていた、セシリアから激しく迫られたりしたがそれらを上手く受け流したりして遂にクラス代表戦の日となった。その初戦となる組み合わせは運命の悪戯とも言える、一夏と鈴となっていたのである。千冬としては簡単に負けない程度に強くなってくれていればこの先も希望が持てると思っていた。そして負けたとしてもその敗北を糧に前に進んでいってくれればいいとさえ思っていたのだが……。

 

『一夏ぁアンタやるじゃないそろそろ本気で行くわよぉ!!!』

『来やがれ、スパル師匠直伝の戦術を見せてやらぁ!!』

 

鈴は数年の間の代表候補生の中でも有数の存在だとされる程の麒麟児、僅かな時間で代表候補生に昇りつめた事からもその才能と実力は計り知れる。そんな彼女とまだまだ初心者という評価が相応しい自信の弟、織斑 一夏―――彼がほぼ互角に渡り合っているのである。

 

「ええっ今のタイミングで回避出来ちゃうんですか!?って織斑君もしかして各種マニュアル操作してるんですかええっ!?まだ初心者ですよね!?」

「今の切り返しの速度と角度もなんだ、敵からの反撃も考慮した上で不意打ちすら想定に入っている……あれでは下がるしかないしそれを読んだノールックショットだと……?」

 

一夏は左手に雪片、右手にハンドガンを持った状態を維持したまま高速戦闘をし続けていた。相手の挙動全てに意識を向けながらも各種の操作を無意識的に制御しながら戦略プランを立てて鍔迫り合いを演じながら即座に剣戟と射撃を切り替えている。その速度も酷く速い。

 

「えっ今のって無反動旋回(ゼロリアクト・ターン)三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)併せ技(クロススキル)ですか!?嘘あれって初心者が出来る技術じゃありませんよ!!?」

 

旋回で生じる反動を0にしつつそれらを活用して次の動作へと移る無反動旋回、後方へと飛びながら生まれたそれで三次元的な軌道をもって体勢を変更する攻守一体の技術の三次元躍動旋回。一つ一つを行うのはそれほど難しくは無いがそれらを一連の動作として取り入れるのは難しく熟練した操縦者が愛用する技術、だがそれをまだまだ初心者である一夏がやるという現実に二人は信じられなかった。

 

『ぜっせぇええい!!』

『ちょブレード投げるのってしまったぁ!?』

 

直後に斬る筈のそれを投げつけて彼女のIS"甲龍"の非固定浮遊部位へと突き刺さり火が噴き出す。そこへ追い打ちをかけるかの如く、一夏は加速技術の一つである瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を詰めるとそのまま雪片を引き抜くともう一方へと突き刺してそれを沈めてしまう。

 

『ちぃぃぃっっ!!!やってくれるじゃないの一夏ぁ、いいわいいわよいいじゃないの!!アタシはこういう展開に燃えるタイプの女なのよ!!こっからはガッチガチの斬り合いよ!!』

『来いよ鈴、存分にやってやらぁ!!』

 

「おいスパルお前本当に何を教え込んだんだ、いやどんな訓練を付けたんだ!?」

「お、織斑君がもう別人みたいになってますよ!!?」

「特に何も、強いて言うならば―――彼の意気込みを買ったまでです」

 

そう正しくそれだけである、一夏は鈴に負けたくないその一心でもっともっと厳しい訓練を望んだ。その結果として073が課したのは……過去に自分がスパルタンとして受けた軍事訓練をアレンジした物。そこには諦めさせて少しずつ成長させる方向に導く為もあったのだが……一夏はそれらの苦しさと辛さを全て飲み干してしまい、今の強さを手に入れたのである。流石に073もあの訓練に耐えきるのは完全に予想外だったが、そうならばそれに相応しい訓練を付けてやるのが道理だと思い続けた、その結果が今の一夏という訳である。

 

「この場合、彼の成長速度もあります。流石は世界最強の弟君です」

 

そう言われると千冬はぐっ……と口を一文字にして閉ざした。暗に貴方の弟なら出来て当然だと言われてしまって少しだけ誇らしく思いつつも恥ずかしくなった。

 

073の訓練を潜り抜けた一夏はその後鈴と激しい戦闘を繰り広げたが、機体性能の差が現れた。燃費を重視されている甲龍と高出力機である白式の差が大きく出てしまい、一夏は敗北してしまうのだが最後にはアリーナの中心で熱い握手を交わしている二人の姿があり、観客から大きな拍手が送られた。

 

今の一夏はある意味で―――この世界で初めて生まれたスパルタン……と言えるのかもしれない。




スパルタンブルーチーム

ジョン-117を指揮官としフレッド-104, ケリー-087, リンダ-058で構成されるファイアチーム。一時的にスパルタンⅢを編成に組み込んだこともあるが、基本的には生え抜きのスパルタンⅡのみで構成されている。
ブルーチームはファイアチーム規模の兵力としては他に類を見ない数の任務を達成しており、正にUNSCの最高戦力と評するに相応しく参加した戦闘において常に戦果を上げ続ける。
その練度と蓄積された経験は他の追随を許さない。正に人類の最終兵器である。

最も、上層部は「スパルタンⅡの任務はスパルタンIVで代替可能である」と考え負の遺産とも言えるⅡを過酷な任務ですり潰そうとしているとの説もあるが……


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試合後、ピット内。

「だぁぁぁっ負けたぁそがぁぁぁ!!!」

 

敗北を喫した一夏は握手の後にピットに戻り腰掛けると四肢を床に放り出しながら悔しそうな声を上げた。流石に経験という最大のアドバンテージを覆すのは容易い事ではなかった、自分でも分かっていたが下手に対策を講じようとすると別の側面が疎かになり、そこを基点にして敗北へ一気に転げ落ちる事を警戒して相手が自分のペースに入るのを待っていたが……今思えばそれ自体が鈴の作戦だったのだと気づきさらに悔しそうにする。

 

「だが一夏凄かったぞ、なんだあの機動は!?」

「シエラ先生と特訓されていたのは知っておりましたがあれほどなんて……強化対象訓練を受けた代表候補生並みの動きでしたわ」

 

ピットでは自分の動きを褒め称える箒とセシリアがいた。彼女らも一夏の試合をずっと見つめて驚愕に目を見開き続けていた。一夏は上半身を起こしながら濁った声を出しながら頑張ったから~、と疲労した顔を作る。

 

「先生凄いスパルタだったからなぁ……流石スパルタンってか、ハッハッハ」

「どんな感じだったんだ……?」

「あ~……」

 

疲れで思考が少し鈍っているのかペラペラと自分が受けたそれを話す一夏、そしてそれらを聞く二人は唖然となりながら顔を青くしていた。何故ならば内容が途轍もない程にキッツいからである。代表候補のセシリアは軍人に近いメニューをこなした事もあった、数々の辛さを飲み込んだ末に今があるのだが一夏の経験したそれは自分が今に到達するまでの道を遥かに超える程に傾斜が激しい物だった。スパルタンの面目躍如だな、と一夏は笑いながら言うのだがそれをこなせたお前は何なんだ、と言いたげな視線を送られるのであった。

 

「最後なんてぶっ続けで先生と打ち合いしてたんだぜ、ブレードにライフル何でもありで。いやぁ~……ずっと俺圧倒され続けたわ」

「い、いやでもこれだけ成長しているんだから今なら先生にも少しは……」

「無理だよぜってぇ無理、先生本気出したら俺なんか一瞬でミンチだよ」

 

尚スパルタンが本気を出したら比喩表現抜きでISごと一夏はミンチになる、ガチで。そんな一夏に対して高速で何かが飛来する。それは剣道を経験し他者よりも気配に鋭敏や箒、空間把握能力が長けているセシリアが気付く前に立ち上がった一夏が二人の前に立って受け止めた。小気味好い音を響かせながら一夏の手に収まった。

 

「な、なんだ!?」

「良い反応だ」

 

声の先に顔を向けるとそこには073の姿があった、そして彼は箒とセシリアにも向けて優しく物を投げた。それは缶ジュースでそれを二人は慌てながら受け止めた。一夏が受け止めたそれも同じだった。

 

「師匠っちょっとミスったら俺の顔面直撃だったんじゃないですか今の……」

「師匠ではない、教官だ。その場合は扱きが足りないと判断してこの後訓練を施すだけだ」

「あっぶ……がぶふぅ!!?」

 

心底安心する一夏に向かって追撃のもう一本が飛来する。それを顔面で受け止める事になり一夏は悶絶しながら床の上でのた打ち回る、缶ジュースを加減しているとはいえスパルタンの力で投げられるのだから痛くて当然である。

 

「油断したが最後死ぬ、そう教えた筈だがな……」

「だ、だからってこれは酷くないっすか!?」

「戦場に酷いも何もない、その心持で挑めと言った」

「うぐぅ……」

 

何も言えなくなった一夏はジュースを開けて情けない自分と一緒に飲み干す事にしたのか、照れ隠しのように力任せに開けた。そんな様子を見つめる彼に箒は話を切り出した。

 

「あの先生、何故一夏にあれほどの訓練を付けたのですか?」

「理由などない。望まれたからしただけだ」

「一夏がそれを望んだから……?」

「ああマジだぜ箒、鈴に負けたくなくてさ。いやまあ結局負けてんだけど」

 

セシリアの目から見て一夏の訓練は過剰のそれを超えている、それを望んで可能ならば切り替える事も可能だと言われた上で一夏はそれへ向かって走って踏破してしまった。今の一夏は彼女と戦った時とは完全な別人となっている。次やったらどうなるだろうかと思わず考えずにはいられない中である決心をする。

 

「あ、あのシエラ先生私にも織斑さんと同じ訓練を付けてくださりませんか?」

「オルコットお前……ならば私もお願いします!!」

 

箒はセシリアの意図を完全に誤解している、負けてはいられないという勢いのまま言葉を放つが一夏からは呆れたような目で見られてしまい073からも溜息を吐かれてしまった。セシリアは兎も角だが箒は絶対に脱落する事は確実、それに073としてもそれを教えるつもりはなかった。望まれたとしても流石にやり過ぎたと思っている。

 

「教鞭は私の専門ではない、これ以上無用な生徒を取るつもりはない」

「そ、そんなぁ~……シエラ先生に是非とも習いたいのです……」

「オルコットめっ……それほどまでに一夏と……!!!」

「そんなに受けたいのか箒……まさか」

 

酷く残念そうにするセシリアを慰める、箒はそんな彼女の気持ちを完全に誤解しているのか視線だけで人を殺せるような物を向けている。そんな様子に一夏はもしかして箒は先生に憧れているのかな、という勘違いを起こす。連鎖的に起こっていくそれらに誰も適切な対処などしない、ある種の暴走事態である。

 

「兎も角織斑、お前は今日の試合データを貰ってそれで反省会でもしておけ」

「はぁ~い……」

 

最期にそれだけを言い残すと彼はピットを去っていく、そんな後姿を名残惜しそうに見つめているセシリアに怒れる箒と何で怒っているのか理解できない一夏。その場を離れつつ073は自罰的になっていた。何故自分はあそこまでの訓練を付けたのか、束にさえ言われた。流石にやり過ぎではないのか、そこまで入れ込む理由があるのかと。

 

理由なんてなかった、単純に負けたくないからもっと厳しくお願いしますと言われたから……と言われたからその願いを叶えただけ―――なのだがもっと理由を探すとするならば……一つだけ思い当たる節があったのだが敢えてそれからは瞳を反らして考えないようにしてしまった。認めたくはなかったからだ、愚かな事を考えた自分を。

 

そんな彼へとまた新たな事象が迫っていた、それは―――彼に似た境遇を持った軍人の襲来であった。だが彼はそれを否定するだろう、認めないだろう。何故ならば―――彼はそれを望んで今になったのだから。




ONI 海軍情報局

ハルゼイ博士などもONIに所属している。分かり易く言えばCIA的な存在なのだがソフトに言って「畜生畜生&畜生」といった存在で恐らくUNSCからはコヴナント以上に恐れられていると思われる。

基本的にONIは人類の為になる事を行う、がそれらは結果的に新たな火種を生み人類を危険に晒しかねない事も多い。コブナント戦後にも彼らが余計な事をしたせいで、という事が多発。またONIか、とファンからは溜息と共に言葉が吐き出される。ファッキンONIとも揶揄される事も多い。
基本的にいらんことしいだが、たまにその非情さが人類を救うことにも繋がる。スパルタンプロジェクトもその一つ。


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第二男性操縦者、教員危機。

改めて考えると凄い忙しくなると思って切り口を変えました。


「あのさち~ちゃん、スパ君は一応束さんの護衛なんだけど……なんか最近スパ君の仕事増やしすぎじゃね。受け持つ授業がなんか加速度的に増えてる気がするんだけど」

『……本当に済まない』

 

IS学園の地下に存在する施設、束へと譲渡に近い形で使われている施設では引き続き束は研究と再現を行っている最中に親友への電話を行いながらも軽い文句を垂れていた。千冬の頼みは基本的に断るつもりもない、加えて当人の了承も取っているのでそれほど文句を言うつもりなど無かったのだが……彼に本来の仕事をさせる気がないのかという事ぐらいは許されるだろう。

 

『最近なまた男性IS操縦者が増えて此方がやらなければいけない仕事が増えて行ってな……だからこそスパルが授業を受け持ってくれるのは本当に助かるんだ……』

「またぁ!?何、またいっ君みたいなの見つかったっていうのぉ!?」

 

肝心のそれの理由に束は彼女らしくもなく驚いた。最近073が受け持つ授業が増している、稼働訓練の教官というだけではなく座学まで受け持っている。そんな理由が又もやISを動かせる男が見つかってしまったから、千冬や真耶が処理しなければならない事が尋常ではない量になっており通常の授業にも支障をきたすほど。自習などで済ませられる物ならば済ませたいのだがこの時期には直接教えなければならない者も多く存在しており自習にさせられない。故に073に頭を下げて教鞭をとって貰った、という訳なのである。

 

「いやまあそういう事ならしょうがないけどさ……でもおかしいなぁ……」

『な、何がだ……』

「いやさ、束さんもいっ君みたいなイレギュラーがまた発生しないとも限らないからこっちもコア・ネットワークに監視システムを付け加えて男性IS操縦者が見つかったらこっちでも把握出来るようにしてるんだけどそんな反応なかったよ?」

『……その精度は』

「いっ君の稼働データをベースに作ったけど毎回毎回いっ君が使う時は確り通知来てるよ、ログもあるから100%だよ。まあ他の子が動かしたなら通知されなかったかもしれない、ていうのも否定はしきれないけど」

 

流石の束とて可能性としては考えていたので察知する為のシステムは構築してあった、だがそれに反応は無かった。全てのISのコアを結んでいるネットワークを活用したそれに引っかからないのは疑問がある。システムのクォリティが足らないと言われたらそこまでかもしれないが如何にも怪しい。

 

「ねぇち~ちゃん、それって何処の子なの。ち~ちゃんさえよければこっちで調査しても良いよ」

『済まないが頼めるか、此方は此方で馬鹿みたいに忙しくてな……』

「分かったよ。後でスパ君に特製の栄養ドリンクを持っていってあげるように言っておくからそれ飲んで元気出して、でも飲み過ぎ厳禁だからね。薬も飲み過ぎたら毒だから」

『ああ、分かっている』

 

そう言って切れた電話を置きながら束はゲーミングチェア並に大きな椅子に身体を預けた。二人目のIS操縦者の出現、これは本当に偶然なのか。いや自分のシステムに狂いがないと仮定するならば実は偽物で一夏のデータを狙っているか073のデータを欲していると考えるのが自然。これはやる事が増えてきたかもしれない、純粋に本物の男ならばそれで良し、そうでなければ自分の大切な人に弓を引こうとする愚か者に対する対処もしなければならない。

 

「―――ク~ちゃん悪いけど調査手伝って貰っても良いかな、その番組見終わってからで良いから」

「あっはい解りました束様」

「いやにしてもホントそれ好きだね」

「ハイ大好きです。レイ様のようでカッコいいです」

「いやレイ君の方が大分クールな気がするけど……スペック的にも」

 

 

「織斑女史、博士よりお預かりしたドリンクです」

「―――ああ、済まない……これは本当に良いドリンクだ……真耶お前も飲め、飲まんと身体が持たんぞ」

「あ、有難う御座いますぅ……」

 

そう言って二人は受け取ったドリンクを一気に飲み干す。束特製の栄養ドリンク、胃に優しい上に各種栄養が豊富に詰まっており飲むと気持ちが安らぐだけではなく脳が覚醒したような力が漲ってくる。そんな各社が出す栄養ドリンクに喧嘩を売るような物だが、副作用めいたものは存在していない。強いて言うならば飲み過ぎると身体に毒な位だろうが、それは普通の物も同じなので特に言う事は無いだろう。

 

「プッハァァッッ……奴にまた礼を言わなければならんな……」

「これ本当に凄いですよね、飲むと直ぐに効いて力が出ますもん」

「それでいて服作用は無しときた、全く奴は製薬の分野でも富を築けるな」

「これ一般販売してくれませんかね」

「それはそれで各社が悲鳴を上げるからやめておいた方が良いんだろうな」

 

と飲んだ傍から効果が現れる辺り流石の束印。

 

「それで今日も私が教鞭を」

「……ああそうだな、HRは私達も同行する。だがその後は……その、頼んだりしてもいいか」

「はい、問題ありません」

「本当にすいません……ごめんなさい……情けない先生でごめんなさい」

「頭をお上げください山田女史、改善しようと努力なさっているだけでご立派です」

「ぅぅぅっっ……なんでシエラさんはそんなにも素敵な人なんですかぁ~……」

 

と思わず千冬と真耶はガチで感謝を述べた。彼女らはこの後もやらなければいけない仕事が溜まっているのである、073に教師の代行を頼んで書類の処理に集中しているのにも拘らずこの始末である。今回一組に男子を含んだ2名が編入される。加えて他国からの転入希望の対処などもどんどん来ておりそれらの対処と書類仕事なども大量にある。本気で073が教師代行を行って貰えなければその負担が一方に集中してしまい過労で倒れかねない状況がIS学園の教師陣に起きており千冬も真耶もそれで大忙し。

 

苦肉の策、というか最早ただの懇願だったのだが生徒からの評判も内容も良い073に教鞭を取って貰っている。教師としては本当に情けない事なのだが彼はそれを文句一つ言わずに引き受けて貰えて、授業も予定通りに進んでいる事は現状を考えると奇跡とも言える。

 

「でも本当に大丈夫なんですか、ご負担になってますよね」

「いえお気遣いなく」

「……すまん今度埋め合わせを絶対にするから頼む……」

 

人類の救世主として戦い続けたスパルタン、そんな彼は今……千冬と真耶(教員)の救世主として教鞭を取るのであった。流石にそんな事になるとは思いもしなかっただろうが……。

 

「さて行くか……HRの時間だ……」

「その後は受け入れる代表候補生の選定、調査、協議、連絡……」

「今の内から先を考えるのはやめておこう真耶……鬱になるだけだ……」




スパルタン-S-073

UNSC海軍特殊機甲部隊"SPARTAN-Ⅱ"所属の兵士で、タグはSPARTAN-073。本名はレイ、名字は不明。
30年以上にわたって従軍し人類の為に戦い続けたスパルタンの一人。リーチ攻防戦にて自ら指揮官として率いるファイアチームと共に死亡したが、その意志がマスターチーフを活かし人類の未来を切り開いた偉大な軍人の一人。

スパルタンⅡ全体を見ると彼の技量などは中の上程度で彼を上回るスパルタンは数多い。だが彼のもっとも優れているのは他者の長所を見抜き適切な指示や指導を行える点。故かファイアチームのメンバーからも評価が高く酷く信頼されていた。

IS学園では主に教官として活躍する事が増えているが、彼自身に経験がなかっただけで教育者としての適性は非常に高くそれは生徒からの人気から見ても現れている、基本的に叱る事は余りせず説き伏せ、前に進む事を促し、褒めて成長させるタイプ。
スパルタンとしては多弁な印象を受けるがそれは仕事を任務として捉えている為、基本的に感情を表に出さない男で寡黙かつ地道に任務に身を投じる。


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転入生、相性最悪。

「一つだけ言っておくぞボーデヴィッヒ、教官はやめろ。お前は何時まで私を軍の人間だと見ているんだお前は区別も出来んのか」

「も、申し訳ありません……」

「織斑女史、冷静に」

 

HRへと入る直前、転入生である2人と顔合わせを行ったのだがそこで若干溢れたストレスで際どい表情になった千冬を抑える。僅かに殺気が漏れている、転入生である二人目となる男性IS操縦者であるフランスの代表候補生シャルル・デュノア、そしてドイツからやってきた代表候補生にして少佐の階級にあるラウラ・ボーデヴィッヒ。彼女は以前千冬の指導を受けた上に教官と呼んでしまった。フォローをしておくと彼女としては教官としての印象が強い上に何処か疲れてしまっている千冬を心配した言葉だった。が、ラウラ本人が原因ではないにしろ原因の一端の言葉遣いに軽くイラっときてしまったのだろう。

 

「すまん、スパル……私としたことがこの後の事が如何にも……ストレスが……」

「お気持ちお察しいたします。ですがそれを事情を知らない彼女にぶつけるのは如何なものかと」

「すまんボーデヴィッヒ……」

「い、いえ私こそ失礼な事を言ってしまい申し訳ございません織斑教官、ではなくえっと織斑女史……?」

「先生でいい……」

 

と咄嗟に073の言葉を真似するラウラに対して肩に手を置きながら先生で良いと弱弱しく声を掛ける。隣にいるシャルルもあの世界最強のIS操縦者、戦乙女と呼ばれた千冬が弱っている所が信じられないのか顔が引き攣っている。そしてそんな千冬を抑えているパワードアーマーを纏っている男にも驚愕している様子。

 

「スパルタン-S-073、IS学園の教官をしている」

「え、ええっとシャルル・デュノア……です」

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ……篠ノ之 束博士が送り込んだという例の……」

「ラウラ貴様スパルに失礼な事したらマジで許さんからな私と真耶がどれだけ世話になっているのか分かっているんだろうな今だって本当は私達がやらなければいけない授業を態々受け持って貰っているんだ失礼は絶対に許さん働いたら懲罰ものだ独房行きだデータ化だ覚悟しておけ」

「イ、イエスマム!!!」

「織斑女史、お気になさらず。任務ですので私は気にしません」

「うううっっ……シエラさんは本当に私達のメシアです……」

「や、山田先生でしたっけあのハンカチ使います……?」

 

途中千冬が何を言っているのか分からなかったが兎に角恐ろしい物の片鱗を味わったラウラは真っ青な表情を作りながら敬礼をしながら了承するのであった。兎も角さっさとHRを行う事になったのだが……そこへ追い打ちとなるフランス政府の人間の到着が被り、千冬と真耶はそちらの対処をしなければいけなくなり073にHRを任せた。肝心の彼は何とも思わずに了解し二人を連れて教室へと向かって行くのであった。

 

「……なあ真耶、私な……なんて情けない教師だと自分が嫌になって来たよ……」

「私もです……シエラさんにもう授業とか丸投げしちゃって……」

「「はぁっ……」」

 

二人は溜息混じりに午後に飲もうとしていたドリンクの二本目を喉の奥に流し込むと重くなった足に力を込めながら仕事に向かうのであった。

 

「えっとスパル先生……でいいんですかね」

「好きなように呼んで貰って構わない、生徒からはスパルやシエラ、スパゼなどと呼ばれている」

「それじゃあ織斑先生に倣ってスパル先生って呼びますね」

 

とシャルルは人懐っこそうな笑みを浮かべながら改めての挨拶をするが073としてはシャルルが男のようには見えない。むしろ男子用の制服を着た女という方がしっくりくる、そもそも喉仏などもない年頃の男というのはあり得るのだろうかと思える。束が本当にフランスで見つかった二人目は事実なのかと調べているが本当に疑問であった。彼の中で警戒する事が決定する中でラウラが同時に懐疑的な視線に敵意にも似た物を向けてくるのにも気づいていた。

 

「……私は貴様のような怪しい奴に気を許す気などない」

「好きにすればいい」

 

ドイツ軍人である彼女から見れば073は余りにも謎過ぎる人物なのもあるだろうがそれだけではない、彼女にとって千冬はある種の象徴的な物、過去に何があったのか彼には把握できないがそれだけ心酔している存在があれほどに頼っている事を簡単には容認出来ないのかもしれない。それは同じ軍人……いやスパルタンである彼としては余りにも馬鹿馬鹿しい事に映ったのか彼女に対して溜息しか出なくなった。そんな事を思っていると一組に到着した、中へと入ると生徒達が元気に挨拶をする中で一気に凍結されたかのように硬直した。

 

「シャルル・デュノアです、フランスから来ました。皆さん宜しくお願いします」

「お、男……!?」

「騒がないように、仕事が溜まってイライラしている織斑女史の鉄拳が飛んでくるぞ」

 

と五寸釘を刺されるとシャルルの登場で熱気に支配されそうになっていた少女たちがヒェッ……という声と共に再度凍り付いた。クラスの舵取り方を完全に心得たからこそできる芸当である。

 

「織斑、それなりに世話を焼くように」

「分かりました~」

 

一方の一夏は一夏であまり喜んでいなさそうにしている。というのも彼から見てもシャルルが綺麗すぎる為か男として見れていない。フランス人は美形が多いから男でもあんな風になるんだろうかと思いつつも格差社会だな、思っているのかもしれない。尚、彼自身も十分なイケメンであるのでそれを言う資格は恐らくない。続けてラウラが挨拶をする事になった。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ、ドイツより出向した」

 

と簡潔に自らの情報を述べるだけ述べて終了した。彼も人の事は言えないがせめて宜しく位は言うべきだろうに。そして同時に073の中で本当に彼女は軍人なのかという疑念すら浮かんできた、子供だからというなどという事は一切の理由にも言い訳にもならない。それが通るならば彼はどうなってしまうのか。

 

「織斑 一夏……貴様がっ―――」

「ボーデヴィッヒ、何か?」

 

一先ず席に着くように促すがラウラはその前に一夏に詰め寄った、その只ならぬ雰囲気に073は何かを察知して動いた。彼女は腕を振り上げるとそのまま一夏へと振り抜こうとするがそれより前に一夏は席を立って距離を取った。空振りする筈の手は073にも止められた。

 

「何をする……!!!」

「それは此方の台詞だラウラ・ボーデヴィッヒ、お前はドイツ軍人だと言ったな。お前は突然民間人に暴力を振るうのか。ドイツ軍人はその程度か」

「ッ―――!!」

 

我が祖国を愚弄するかと言わんばかりの瞳を向けるが073は掴んだラウラの手首を軽く締めた。加減しているとはいえ万力でガッチリ固定されたかのようなそれに驚愕に目を見開いた少女をスパルタンは落胆に満ちた瞳で見つめながら溜息を吐いた。

 

「……織斑女史には報告しておく、さっさと席に着け」

「……」

 

不貞腐れたようにラウラは席へと着いた、その際に一夏を鋭く睨みつけるのも忘れていなかったが彼からしたら突然ビンタを食らいそうになった挙句に睨み付けられた。小声で何なんだよあいつ……と毒づくが彼は悪くはない。

 

「織斑、お前も不憫だな……この後は二組合同での稼働訓練だが……デュノア共々私と来い、案内がてら護衛もしてやる」

「なんかお世話掛けます……」

 

ラウラ自身に何があったのか可能ならば千冬に聞くしかないだろうが、今現在として彼女は073としては眉を顰める存在にしかなっていない。彼は人類の為に戦い続けた軍人(スパルタン)、そして彼女は―――軍人として失格な事をしている。この二人の相性は悪いとしか言いようがない。




スパルタンへの認識

仮に反乱軍への増援をUNSCが出した場合、スパルタンでなければまともな対応はされないだろう(良くて無視、最悪問答無用で敵ごと吹っ飛ばす)。
だがスパルタンは人類にとってヒーローという概念にまでなっているので「UNSCの支援だけどスパルタンだから支援を受け入れました」という言い訳ができる。背に腹が変えられない状態とはいえ世論のUNSCへの反感、色々と出てくる数々の密輸品を見られても基本「スパルタンだから」でいい訳が済んでしまう。

このイメージを作ったのはスパルタンⅡとⅢ達であり彼らは名誉なんて気にしないがチーフ達の後に続くⅣの面々はその自覚が足りなかったのでハルゼイ博士は基本的にⅣを嫌っている。HALOファンの間でも実力も足らずに弱いⅣ世代をスパルタン(笑)と呼ぶものが多かった。私も呼んでた。

しかし、HALO5で登場したスパルタンⅣであるファイアチーム・オシリスらのお陰で彼らの名誉は回復している。


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073、授業中、軍人。

「ったく何なんだよあのボーデヴィッヒって奴……俺が何したってんだよ、先生にも迷惑かけやがって……」

「凄いピリピリしてたもんね……教室に行く前はそこまで、いや割とかな……」

「織斑、何かあれば直ぐに言え。織斑女史へと報告する」

「うっす分かりました。頼る時は見極めて、だけど頼る時は素直且つ速攻で頼れですね」

 

一夏とシャルルの護衛、新たな男子という存在を得たIS学園の生徒は確実に暴走する。そう読んでいた073の勘は間違っておらず男三点セットとして話題となった、一夏もシャルルも見た目は麗しいのもあるだろうが女子の間では073のメットの中に眠っている外見を妄想するのも楽しみの一つだという。そういうものなのかと思いつつも正論の刃と千冬への通報をも検討しなければいけないだろう、という抑止力を行使した結果無事に3人は授業を行う場へと到達する事に成功した。

 

「やっほ~一夏、そっちが噂のもう一人の男って奴ぅ?いやフランス人形って感じね、いやマジで」

「フランス人って美形多いってマジだよな」

「そう言われると照れちゃうよ」

 

と二組との合同なので到着した鈴は気さくに声を掛けながらシャルルへと視線を向けている。鈴は時々一夏に熱っぽい視線を向けつつも彼の親友的な立ち位置を確りと確立しながらちゃっかり隣を確保している。そこへ一組女子がやってきて、箒が鈴を牽制するような声を出すが本人は何処吹く風やら。肩を竦めつつも揃った事を確認しながら授業を始める事にした。

 

「さて……これより合同授業を開始する。本来は此処に織斑女史と山田女史が居る筈だったが御二人は多忙に付き来られない。不満だろうが私だけで勘弁してくれ」

「不満なんてありません~」

「スパル先生の授業分かり易いから大好き~」

「褒めて伸ばす万歳~!」

火災発生!!

『何よ今の!?』

 

と賑やかな女子生徒らにシャルルは笑顔を作りながらも楽しげな雰囲気に肩の荷が下りた気がした。その一方で見た目の重厚さと圧迫感故か少し苦手意識を持っていたが073の慕われ加減に驚きを隠せなかった。完全に人気教師として見られているのだから驚くの無理は無いだろう。

 

「さて、今回は各人にグループを作って貰いそれらが訓練機を動かしそれを考察改善を行って貰う。その班分けはリーダーに専用機持ちを据える、各自出席番号順にそれぞれに一人ずつ集まるように。男子に殺到防止だ」

『チッ先手を打たれた!!』

≪大破ァ!!

『だから今の何よ!!?』

 

何やら妖精めいた生徒が一人遊びで変な声を出しているようだが特に害も無いので放って置く事にする。そして専用機持ちはそれぞれのリーダーシップを発揮してきびきびと指示を出していく。一夏は経験値的には他の女子らと同じだが逆にそれを活かして仕切るのではなく一緒に歩んでいくという方式を素早く取って一緒に準備や指導を始めていく。中々に適応が早い。

 

セシリアは淑女せんとした礼儀正しさとマニュアルを一つ一つ確認しながらやるようなやり方で、鈴は感覚的な物だが一緒に動いて行うからか分かり易い。一番分かり易いのはシャルルだろう、懇切丁寧且つ理論的且つ感覚的な部分をバランスよく取り入れている。あれならばどちらのタイプでも把握出来る……そして一番の大問題枠はラウラだった。

 

「あ、あの先生私達どうすれば……」

「……」

「そうだな、まずはあれの説教からか」

 

完全にやる気なし、リーダーとしての役目を果たそうとしないそれに失望を更に極めているラウラの態度に073は呆れ果てていた。練習機を確保したのは良いがその後が分からず指示も出して貰えず困っているメンバーを無視し続けている、素直に助けて欲しいと声を出した彼女らにやり方を教えた後にラウラに向かい合った。

 

「ドイツ軍人、何故役目を果たそうとしない」

「ISをファッション感覚で思っていない奴らに指導する事など無い、価値があるとも思えん」

「貴様程度がそれを判断する必要などは無い、価値も無い」

「―――なんだと」

 

073の物言いにラウラは赤い瞳に怒りを燃やしながらそちらを見た、そこには相変わらず変化もしないアーマーに身を包みながら生徒の一人を練習機に乗せながら一歩一歩確認しながらやればいい、と指示を出しながらセシリアらに余裕があればで良いから此方も見てやって欲しいと声を掛けておく。するとすぐに対応がなされ、それぞれが生徒を一人受け入れて授業が進行される事になった。そして残った数名の生徒は073が直接見る事になるのだが、彼女らには少し待って貰う事にした。

 

「お前が価値を見出す事への意味と価値はなんだ、それを行うのは我々側だ」

「兵器を扱うのに相応しくはない、正当な評価だとしてもか」

「最初から正しい認識などない、だからこそ学習と訓練を通して失敗と成功を繰り返し理解と成長する。その意味も分からんのによくも少佐などである物だ……呆れて物も言えん」

「何だと貴様っ!!!」

 

と声を荒げるラウラ、それに周囲の女子らが身体を震わせる。少女とはいえ正式にドイツ軍から少佐に任命されている存在の怒号は身体を震わせるに相応しい圧力を放つ、だが073からすればその程度そよ風以下でしかない。寧ろ何故少佐などという地位を与えられているのか理解出来ない。地位を与えられている物はそれに適した責任と役目がある。彼女はそれを果たしているのだろうか、学園に来ているから軍人ではないとでもいうのだろうか。これ程までに軍人である事を強調しているのも関わらず。

 

「ならば貴様は何だというのだ、貴様に軍人の何が分かる!!?訳の分からない奴が何を語るか!!」

 

そんな叫びを鼻で笑う。逆に問いたいぐらいだ、そちらは何を理解しているのか。

 

「舐めるなよ小娘、貴様に俺の何が分かる」

「―――っ……!!」

 

その時、ラウラだけが鋭敏に感じ取った。彼から感じ取った圧倒的な存在感、殺気、闘気、敵意。様々な物が要り乱られる中で圧縮されたそれらが内面を攻撃するかのように迫ってくる。巨大な星にすら見える程に力に後退りをする。そして益々理解が追い付かなくなってくる、だが073は敢えてそのまま言葉を続けた。必死に努力を重ねて一歩一歩ISを動かしていく生徒を見ながら。

 

「今の彼女らは原石、それらの価値を見出すのが我々の仕事だ。そしてその価値を伸ばす、価値を与える、価値を示す、それが織斑女史の仕事でもある。幼稚な否定をするだけで前に進めていないなドイツ軍人、織斑女史には報告しておく。後は好きにしろ」

 

そう言い残して073は舌打ちをする彼女など無視して待たせてしまった少女らへの指導を開始する。同時に彼の中でラウラへの評価が最低へと一気に下降していく、千冬には悪いが073の中でラウラへの評価はほぼ固定され始めていた。それらを変える事は出来るだろうが彼女が変えるだけの事をするのだろうか……。




ミランダ・キース 中佐

ジェイコブ・キースとエリザベス・キャサリン・ハルゼイの娘。人類の誇る英雄が両親というラノベ主人公も真っ青である。
幼少の頃に父方に引き取られ育てられた為か軍人を志し、それも戦艦の乗員として最前線での戦いを志願していた。それに肝を冷やしたハルゼイ博士が手を回し、学術研究艦ヒルベルトの乗員として遠方のコロニーに配置される。

しかしヒルベルトは不幸にもコヴナントに遭遇。攻撃される味方艦を前に、ミランダはヒルベルトを敵艦に突撃させるという蛮行に出る。戦艦を鈍器にされたコヴナント艦は大気圏に落下し爆散。そして生き延びたミランダは父と同じ戦術によって英雄となり、中佐に昇進。

非常に思考も柔軟かつ勇猛果敢。PCにラーメンだばぁする位やばい事する敵艦にも怯む事がない位に凄い人。
部下の話にも耳を傾け戦局を見る目も優れている軍人の鏡で今の少佐とは酷い差である。


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束、千冬、頑張る。

「ホムホムモグモグハグハグ……」

「束様チーズ蒸しパンをお食べになりながらの作業はおやめください」

「いふ?」

「頂きます」

 

流れるような銀髪と白と青のゴスロリ系ドレスに身を包む少女は金の瞳を輝かせながらキーボードを操作する、途中で束がIS学園経由で買い込んだ菓子パンを主のように慕い敬っている束と同じようにハムスターのように頬に詰め込むようにして咀嚼する。途中、揃ってのどに詰まったのかブルーベリーヨーグルトカルピスで流し込む。その光景は親子のそれ。

 

「束様、本日のご夕食はロールキャベツを御予定しておりますが」

「わ~い束さんロールキャベツ大好き~。にしてもく~ちゃんもお料理上達したね、前から美味しかったのに」

「い、いえそれは本当にご勘弁を……レイ様に教えて頂いた結果です」

 

スパルタンであるが073は同時に軍人としても十分過ぎる程の訓練を行っている、それは野外におけるサバイバル訓練も入っており速やかな栄養の摂取や手早い調理なども出来る。スパルタンとして活動するようになってからは基本必要な栄養を補給するサプリメントを摂取する身になっているが……簡単な調理は出来るのでそれを教えたに過ぎない。教えられる以前の物は……ゲルや炭を量産するほどに料理が下手だった、それでも束は美味しいと言っていたが……味は良いのかそれとも束の優しさなのかは解明は控えておこう。

 

「にしてもやっぱり男がISを稼働させたなんてログは何処にもないなぁ……みんな快くログ提出してくれたし男子乗ったよ~なんて一言も無かったし」

「矢張り虚偽、でしょうか」

「だとしたらフランスは随分馬鹿なことしてるなぁ……バレたらどうなるのか分かってんのかな」

 

男性IS操縦者が発見出来た、となれば様々な面で強く出る事が出来る。政治、経済などでも様々な政策を推し進められる……だがそれだけの事を虚偽を繕ってまでする価値があるとは思えずに束も首を傾げる。ワンミスで全てがパーになる事を考えるとリスクがリターンに見合わなすぎる。スーパーハイリスクローリターンだ、それなら既にいる一夏に歩み寄りを見せる政策やらを打ち出した方が余程効果的だ。意味不明過ぎる。

 

「仮にいっ君やレイ君のアーマーが目的だとしてもそれなら普通に送り込むだけでいい、なのに態々男に仕立て上げる理由……ク~ちゃん、デュノア社に狙いを定めて徹底的に探るよ。過去の事も含めて」

「承知致しました、創設から現在に至るまでの全データですね」

「そう、気合入れていくよ」

 

 

「織斑女史、お一つ宜しいでしょうか」

「な、なんだスパル手短に頼む」

「では率直に、ボーデヴィッヒの即時送還を提案します」

「……そんなに酷い、のか」

 

職員室。シャルルやらに加えてほぼ日常的にやってくる転入願いの処理で慌ただしく動き回っている教師陣の中にいるミョルニルアーマーのスパルタン、その視線の先には両手のペンで別々の書類を処理するという事をやっている千冬が話を聞いて頭を抱えた。二人が転入して間もなく1週間になるがその間の授業も073が受け持っている、がその間のラウラは余りにも酷くて手に負えない。

 

「授業の進行の邪魔はしておりませんが彼女は責務ある立場にあります、それがあらゆる物を許容せずに己の判断基準のみで切り捨てを行おうとする。幼稚で愚かな子供が権力と力を持った結果のいい例です」

「……あの馬鹿が……スパルに迷惑を掛けるなとあれほど行ったのに……殺すか」

「お気を確かに」

「分かっている、だがその位苛立っている」

 

冗談なのだろうが真顔でそれを言うのはやめて頂きたい。判別しづらい、因みに教師陣はほぼ全員073に感謝していたりする。束の差し入れドリンクを持って来たり問題児的な生徒の指導を千冬経由でだが行ってくれる、授業を代わりにやってくれる、そんな彼に感謝しない相手などいない。

 

「今の彼女は私に対する敵対心や悪意で動いているでしょうな、彼女から見た私など謎のアーマーに身を包んだ存在でしかない」

「だがその存在は私が絶対的な信頼を置いているのは奴も知っている筈だ、奴め何故そこまで愚かになった……」

「権力の腐臭、ではないでしょうな。あれは狂信です」

「……なら私のせいだろうな」

 

狂信、信じて疑わずに全てをそれに捧げてしまう者の強さはスパルタンである彼は良く知っている。しかしそれが齎すのは甘美な毒、身を任せ続ければ身の破滅を招くだろう。

 

「……奴と一対一で話を付けなければならんな、お前でも構わないだろうが聞く耳持たんだろう?」

「でしょうな、しかし出来るのですか―――この仕事の量で」

「……」

 

まだまだ処理しなければいけない書類が山のように積まれている、机やテーブルに置ききれず、所狭しと床にまで乱立するのは書類の束、束、束。恐ろしいのはこれだけの数を千冬だけではなく教師やその他の職員を総動員して処理しなければいけない程なのである。千冬は他と比べて早いとはいえそれでも全く追い付かない。ドリンクが無ければガチで潰れていた可能性も十二分にあり得る。

 

「博士に一部委託する事をご検討ください」

「……い、いやこれは私がやらなければいけない事だ……不必要に奴を頼るなどあっては……」

「ではそのようにお伝えしますが」

「い、いや待ってくれもう少し検討を……」

 

教師としてのせめてものプライドだろうか、何とか踏み留まっているが一度その甘美な毒に飛び込んでその味を堪能したいと心から思うのだが一度楽を覚えると依存するのでは、という自制心から必死に我慢している千冬は立派である。

 

「……では私はアリーナの方へ、織斑の訓練がありますので」

「ああ……そうか、ああっ……弟を頼む……」

 

と見送った073の後を名残惜しげに見つめる千冬、だが彼の姿が消えると気持ちを切り替えて熱いお茶を喉の奥に流し込むと気合を入れ直して受け入れ要請が来ている代表候補生の書類選考を始めるのであった。

 

「承認!駄目!承認!駄目!駄目!駄目!駄目!駄目!承認!承認!!」

 

と超ハイスピードで第一次の書類選考を承認するか否かをハンコで示していく。尚、千冬は闇雲に押している訳ではなくほんの一瞬の間に中身を確りと確認した上でそれらを行っている。正しく神業と呼ぶに相応しい。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!」

「―――お茶、此処に置いて置きますね……」

 

差し入れのお茶を渡しに来た食堂のおばちゃんは千冬の周囲を紙が無数に舞っていると休憩中に同僚に話したという。




《グラント》
正式な種族名 アンゴイ

コヴナントの歩兵において最も数の多く小柄で非常に繁殖能力が高い種族であり、過去には言葉通り肉壁として用いられていた。
その幼稚で臆病な性格故に、指揮官が倒されるとヤケになってプラズマグレネードを両手に特攻してくる。また中には命令によって自爆を強要されている部隊なども存在するようである。コヴナントブラック過ぎワロエナイ。
呼吸にメタンガスが必要なため、ガスマスクと背中のタンクが欠かせない。このため背中を撃つと盛大に吹っ飛ぶ。

しかし彼らの大半は少年兵であるが故にパニックや特攻が多い、成長したグラントはエリートとも並び立つ程の戦闘力を持つ。そして学習力も優れており人類の言語を真っ先に習得したのも彼らグラントである。

HALOプレイヤーからすると彼らは敵ではあるが、可愛らしい一面もあり人気も高い。彼らが可愛くない、とHALO4では苦情が起きる程に人気がある。一部では慌てふためくグラントを見て愉しむ者や、彼らが少年兵、つまりロリショタ的な意味で愛好している者もいる。宇宙は広い……。


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スパルタン-S-073、私怨。

命令は絶対、使命は絶対、すべき事は確実。それがスパルタン。それこそがスパルタンの使命。

 

当初の予定から相手が切り替わっているが成すべき事は何一つ変わっていない。スパルタンとして戦うだけ、人類の為に戦い続けるのみでしかない。「反乱軍を鎮圧し全UNSC市民に奉仕する」事を教育されているスパルタンⅡである073にとって平和を実感しやすいIS学園での仕事は悪い物ではなかった、軍は暴力装置でしかない。最終的な解決手段として必要なものであって平時から求められる物ではない。そう考えた事があった、仮にスパルタンとしての役目が終わりを告げて真の平和を勝ち取れた時―――何をする事が出来るのか。その答えが此処なのか、戦死したからもう役目から解放されたのか。

 

「止めよう」

 

そこで思考を打ち切った、溜息混じり073は思考をやめた。矢張り何もしていない時には考えてしまう事に絶望する。地獄に居続ける彼にとっては任務こそが絶対で余計な事を考えない為の手段になっている。兎に角今は一夏の指導の為にアリーナへと急ぐ事にした。思考を教官に切り替えて一夏のメニューを再確認している時にアリーナから大きな衝撃音が感知された。

 

「……いや違うな」

 

今日のアリーナは貸し切りではなく多くの生徒達が練習の為に使用解放されている、このような一対一での戦いのような衝撃音は可笑しい。その手にライフルを構え発射体勢を整えながらアリーナへと突撃していく。入った先では漆黒に染まったISを纏ったラウラが武装の一つであるレールカノンを構えながらその先にいる一夏やシャルル、そしてその他の生徒らを威圧するかのように立っていた。

 

「信じられねぇ、あいつ他の子に向けてぶっ放そうとしやがった……!?」

「ドイツ軍人って怖いね……頭の中までレーベンブロイで出来てるのかな」

 

その先では一夏とシャルルが訓練を行っていたのだろう、今回はシャルルも混ざって一夏のライフルの指導を行う予定だった。その二人はライフルを持ちながら警戒をして他の生徒らに大急ぎで退避するように促している、手間取る様なら退避できるまでの時間を確保するまでと戦う意志まで見せる二人だが―――ラウラはをそれを鼻で笑うかのようにレールカノンを向け直そうとしていた。

 

「フンッやっとやる気になったか」

「それも無駄になったな」

「ッ!?」

 

ラウラはそこで漸く気付いた、背後にスナイパーライフルの照準を後頭部へと向け続けながら迫って来た073の存在に。彼は束からステルスモジュールが渡されており短時間だがISのセンサーだろうと引っ掛からずに活動できる。ラウラは舌打ちをしてカノンを取り下げようとするが、

 

「動くな」

 

低い唸り声が、地の底から響き渡るかのような地響きが向けられると身体が硬直した。

 

「(なぜ、何故身体が動かない……!?私が、このラウラ・ボーデヴィッヒが、教官から様々な事を教えて頂いて此処にいる私が怯えているとでもいうのか……!?)」

 

動けなかった、身動ぎすら出来ない程に硬直してしまった。生物の本能に直接訴えかけるかのような恐怖が襲い掛かってくる、絶対に逆らってはいけない上位者による威圧は身体を縛り上げる、それは過去にも似たような経験をした事があった。千冬の指導を受け、故か千冬以外には恐怖を感じなくなっていた彼女が感じた久しいそれ以外の恐怖に憤りすら覚えそうになった。

 

「(こいつが、教官と同じだと……)ふざけるなぁ……!!」

 

激怒した、彼女からすれば耐えがたい苦痛であり許されない事。自らが落ちに落ちた時に前に進むだけの力を教えてくれた教官たる千冬の顔に泥を塗るに等しい。全身に力を込める、スラスターすら併用して強引に身体を動かした。同時に兵装を起動させてプラズマの刃で背後のそれを切り裂かんとする―――が

 

「警告は一度だけだ―――堕ちたな軍人」

 

073は軽く、スラスターを吹かした。同時に体勢を低くした、プラズマは虚しく空を切る。そして地が蹴られた、推進力以上に得られた速度でアーマーがラウラへと突っ込んでいく。

 

「ぐぅっ!!?」

 

瞬間的にPICを解除する事で学園内では軽減されていた重量がダイレクトにラウラを襲い掛かる。500キロオーバーの人間が普通ではありえない速度でタックルをしてくる。それをまともに受けて咄嗟に背後に全力で後退する、結果彼女はアリーナの地面に叩きつけられるがそうでなければ襲い掛かってくる073に押し潰されていた事だろう。それを見て073は紛いなりにも軍人か、と呟いた。そしてその後を追うようにアリーナへと降りるとその傍に一夏とシャルルが寄った。

 

「スパル先生!!あのボーデヴィッヒ滅茶苦茶だぜ、千冬姉の世界二連覇を俺が邪魔したから俺に消えろとか戦えとかもう意味分かんねぇよ!!」

「何とか他の子たちへの砲撃は僕が砲身をズラして回避させましたけど……」

「良くやったデュノア。私怨に狂って理性すら無くしたか、テロリストと変わらんな」

 

過去に一夏が千冬の二連覇を阻止する為に誘拐され、彼女が助けに行った事は聞いている。その際に情報を齎したがドイツ軍。その縁で千冬がIS部隊の教官として赴任したという事があったらしい、そしてその時に千冬は落ちこぼれ同然だったラウラを指導してその烙印を返上させるほど優秀な物にした……と千冬から聞いたが随分と可笑しな話だ。

 

極論だが一夏が拉致されなければ千冬はドイツ軍に出向くこともなくラウラは落ちこぼれのままだったろうに。それに一夏とて被害者、彼だって自分が誘拐されたせいで姉の栄光を邪魔したと酷く悔やんだ事だろう。だがその事は彼と姉で話が付いている筈、それをいまさら他人がとやかく言う権利はない。

 

「テロリスト、か―――」

「せ、先生?」

「―――スパルタン-S-073.これより作戦行動を開始する」

 

雰囲気が変わった、傍に居た一夏とシャルルはそれを鋭敏に感じ取り理解した。そこにいるのはもう教官としての073ではない。皆が知っているスパル先生などではない、兵士だ、軍人だ、一つの兵器だ。一歩、前に進むと同時に二人は顔を見合わせて後退しピットの入り口近くに待機する。何時でも逃げられるようにしつつも必要であれば援護をする為―――まぁ、彼に援護など必要ないだろうが。

 

「貴様ぁっ……良いだろう、私をそこまで愚弄するなら見せ付けるだけだ、織斑教官が私に教えてくれた全てをな!!!」

 

声高に叫ぶラウラの言葉を彼は気にも留めない、必要もない。これからするのはスパルタンにとっての日常、戦闘行動。奇しくも彼女の武器はプラズマの刃、まるでエリートのようだ。ならばそのように対応しよう―――だが殺さないように注意は払っておこう。

 

「行くぞ」

 

鬨の声とは思えぬほどに小さく静かな宣言をもって、073は本来のスパルタンⅡとしての活動を開始した。




スパルタンとミョルニルアーマー

スパルタンの象徴であるミョルニルアーマーだが所謂エナジーシールドが搭載されたのはMk.Vから。それ以前は動力源がバッテリーでシールドも存在していなかった。

このスーツが完成しスパルタン達に受け渡されたのはHalo:Reachの開始時くらい……なのだが逆に考えて欲しい。スパルタン達はこのスーツを受領するまでの間エナジーシールド無しでコブナントから「悪魔」と恐れられる程無双を続けていたことになる。


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スパルタン、束。

「お、織斑先生大変ですぅ!!」

「なんだまた新しい国からの要請か……」

「違います、スパル先生がボーデヴィッヒさんと戦闘に入ったそうです!!」

「な、なんだとぉ!!?」

 

仕事を片付けてラウラとの対面の時間を何とか確保しようとしている千冬、流石に表情に疲れこそ出していないが声には出てしまっている。そんな彼女へと飛び込んできた凶報に近いそれは思わず顔を青くさせてしまった。

 

「馬鹿な……あの大馬鹿もんが何を考えている!!?」

 

机に鉄拳が炸裂する、衝撃で舞う紙は彼女の心情を現しているかのようだった。兎に角大急ぎで現場に向かって止めなければならないだろう。軍人であるとは現役軍人且つ専用機を持つラウラが相手ではISの技術を応用したアーマーを纏っている彼でも相手が悪い。立ち上がろうとする中で携帯が鳴り響いた、その着信音に思わずそれを取って通話にする。

 

「束か!?お前からも今すぐやめるように言ってくれ、奴が危険だ!!」

『ういういち~ちゃん折角連絡してあげたのにご挨拶だねぇ、まあいいけど束さんもそれで話をしたくてお電話した訳だからね―――先に言うけどスパ君が負けるから止めるとか流石に馬鹿な事は考えない方が良いよ』

「なっ……!?」

 

正しくそうして欲しかった、雇い主(クライアント)である束の命令ならば確実にスパルは戦闘行動を中止する、そこに自分がラウラに声を掛けて対処をするべきだと考えていたのに現実は全く別の方向性に胎動している。

 

「お前何をっ……!?」

『ち~ちゃんには詳細は話した事なかっただろうけどさ、スパ君のアーマーはミョルニルアーマーっていうんだけどさ……あれね、やろうと思えば搭乗者ごとISを叩き潰す事が出来る出力あるんだよ』

「な、なんだと!!?」

『ま~神経回路インタフェースで思考と同じ速度で管理されてる、スパ君がその気にならない限りあ~何だっけ……

<ラウラ・ボーデヴィッヒデハ?

ああそれだ、そいつが死ぬことはまずないだろうね。スパ君があれ程度の相手に殺意を覚える事もあり得ないだろうし』

 

この時、束が恐ろしく感じられてしまった。彼女は自分が知らない彼を知っている、アーマーの事を知っている。ドイツの少佐であるラウラの勝利などあり得ないと断言してしまう程。それ程の信頼関係が刻まれているというのだろうか。

 

「束……奴は、スパルは何者なんだ……お前は、何故そのようなアーマーを作った!?」

『さてどうしてでしょうねぇ~……唯一つだけ言えるとすれば―――スパルタンは決して負けない、それだけだよ。来たりて取れ(モーロン・ラベ)

 

そう言い残すと束は通信を切断した、そこへ千冬は必死に呼びかけるが既に通じなくなっている事を理解すると真耶を連れてアリーナへと向かって駆けだしていた。

 

 

IS学園第3アリーナ、本来ならば多くの生徒達が練習の場として使用する筈の時間帯なのだが……今そこは束の手によって外から中へ入る事も出来ずにあらゆる干渉が封じされている状態に陥っている。管制室にてアリーナ管理をしていた教員も完全に何も出来ずに閉じ込めを食らってしまっている。そこにて正しく物事を認識理解出来ているのは一夏とシャルルの両名のみだった。

 

「すっげっ……」

 

思わず出てしまった言葉は無意識下で形になったものだったが、シャルルはそれを否定する材料など持ち合わせていなかった。目の前の壮絶な戦いを目にして何も思わない方がどうにかしている。本当にどうなっているのか、あのアーマーはIS技術が転用されて作られた戦闘向けな物なのは知っている、だが流石に本当のISの方が優れているだろうと思っていたのかもしれない……だが現実は如何だ。

 

「さあお次は何だ」

「ぐっがぁぁっっ……!!?」

 

認めない、こんな現実を認めてはいけない。その筈なのに重く圧し掛かってくるそれらのせいで認めざるを得なくなっている。圧倒、その言葉すら出てこないのだ。

 

「っ……!!!」

「無駄だ」

 

我武者羅に振るったワイヤーブレードはあっさりと受け止められ同時に自らの失敗を理解する。ワイヤーをガッチリと掴みこんだ073はそのまま力任せにそれを振り上げた。

 

「いかんっ……ぉぉぉっ!!?」

 

咄嗟にワイヤーブレードを切り離そうとするが間に合わない、吊り上がったワイヤー共々機体が持ち上がって宙高くへと振り上げられた。ISを此処まで振り上げるなんてどういう出力をしているんだと思うのだが直後にそんな思考すら支配される、ラウラは一つにされてしまう。彼が作り出した竜巻の個性要素の一つとして取り込まれた。

 

「おいおいマジかよ……」

 

アーマーの出力故かもしれないが、それでもここまでくると一夏でもラウラに対しての怒りなど湧かなかった。最早そこにあるのはホラー的なインパクトによって掻き消された同情めいた何かだった。そしてそこにあるラウラを容赦する事もなく地面へと墜落させてしまう、途轍もない衝撃音と共にISの各部が大きく破損してしまっている。

 

「うわぁっ……」

 

流石のフランス貴公子シャルルも顔を引き攣らせてドン引きである、彼の中では073は優しい先生という評価だったのだが……絶対に逆らってはいけないタイプの人だったと改めるのであった。地表へと落とされた彼女は必死に身体を動かして起き上がろうとするが更なる銃声がその意志すら砕いた。

 

「ヒィッ!?」

 

年相応の声が漏れた、そこにはショットガンを握り込んだスパルタンの姿があり無造作にまだ使用可能な兵装へと打ち込んでそれらを完全に破壊していく。機械を思わせるかのような淡々とした流れるような動作にラウラは唖然としながら何故そんな事が出来るのかという疑問すら湧いてきた。

 

もう既に理解も出来ている、自分程度などでは彼の足元にも及ばない事も。射撃、格闘、戦闘の基本ですら圧倒的な練度の差があった。恐らく何を尽くしたとしても勝つ事なんて出来ないのは明白。自らの虎の子で一対一ならば反則的な強さを誇るアクティブ・イナーシャル・キャンセラー、停止結界すらまともに利く事が無かった。纏うシールド強度を上げるだけで対処したようにすら思えた。此処までボコボコにされると一周回って頭が冴えてくる。もう、自分はこのまま殺されるのだろうなという納得すらあった。

 

「戦闘継続の意志はあるか」

「―――ある、訳が無い……」

 

同時にラウラの意志ではなくISが強制的に解除され無防備な生身が曝け出された、彼女はそのまま倒れこむようにしながら気絶してしまった。一応の決着がついたのを確認しながら束がISに解除命令を出した。コア・ネットワークに直接接続出来る上に各ISが持つ機体データを全て掌握出来る彼女からすれば容易。そして強制解除にはもう一つの理由がある。

 

『レイ君、悪いけどそいつのISを回収して貰えるかな。内部に実にムカつくシステムが仕込まれてやがる』

「了解」

 

待機状態へと移行されたそれを回収しながら073は彼女を抱き上げた。酷く軽く柔らかな身体を傷付けぬように細心の注意を払いながら抱き上げると一夏とシャルルにも声を上げた。

 

「お前達は少しの間此処で待機を、間もなく他の教員が来るはずだ」

「わ、分かりました……」

「う、うっす……」

 

そして073はラウラを抱えたままその場を去っていく、残された一夏とシャルルはその僅か1分後にやって来た千冬と真耶に事情を説明するように言われるのだが―――

 

「スパル先生がラウラをボコった……?」

 

としか言いようがなく二人は酷く困惑したという。




《ハンター》
正式な種族名 レクゴロ

青い装甲に身を包み、右手にロッドガン、左手に盾を装備したコヴナント最大の種族。
常に2体セットで行動し、ロッドガンによる遠距離、盾による近距離をカバーしあう強敵でコブナントにおける重装歩兵。
実は半人型に見える外見は多数のレクゴロが集まって出来た群体であり、単品のレクゴロは1.4m程度のミミズ状の生物。このミミズ達が有機的に接続しあうことで知能や運動機能を高めている。
エリート族とはお互いに認め合う種族規模での盟友であり、彼らの命令にのみ従う

作品によって脅威度がだいぶ変わる敵。初代が最弱(ただしハンドガン必須)。


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073、ラウラ、会話。

「レイ様、そちらのISは此方にて」

「確かに渡したぞ」

「はい、それでは」

 

医務室近く、壁の中に隠されているエレベーターから現れた束の助手であるクロエへとラウラのISを渡した073は医務室へと足を踏み入れた。如何やら常駐している筈の学医は席を外してしまっているらしいので勝手にベットの一つを使う。本気こそ出していなかったがそれでもアーマーの出力でISを屠る事など容易い。故に加減は必要になる、地面への叩きつけは絶対防御のシステムで搭乗者を守れる範囲でのダメージという計算があったので行った。

 

「……手当はするか」

 

彼女自身の行いがあったとはいえ今ある負傷は自らの手によるもの、年頃の娘の身体に傷があるというのは嫌だろう。幾ら軍人であるとはいえ気にする者は気にする、スパルタンでもそのような者はいた。逆に敢えて傷を多く負ってそれらを自らの勲章、歴史として受け入れて今ある命に感謝しながら戦っていたスパルタンを知っている。

 

「久しぶりだな……」

 

サバイバル訓練と同様に応急処置などの訓練も十分に受けている、加えて此処はIS学園の医務室。質の高い医療器具や設備が備え付けられている、そこならば応急処置程度の知識しか持ち合わせていない073でも本職に迫れる診断や治療を施す事が出来る。文句が出るかもしれないがそれはラウラの自業自得として受け入れてもらうつもりでいる。

 

「打撲が主だな……後は軽いの火傷……ショットガンの熱か」

 

診断を終えると割れ物を扱うような手付きで慎重に治療を施していく。流石にミョルニルアーマーを着用したままでの処置は殆ど経験がない、やるなら他の者に任せて警戒などを行う方が実に効率的。しかも相手は幼い少女だ。猶更緊張する、僅かな力加減のミスで彼女の足や腕が使い物にならなくなりましたでは笑い話にもならない。

 

黙々と作業を続けていくが気遣いもあってか時間が掛かってしまった、それでも学医が見たら完璧すぎてやる事ないという事必須な出来前。そんな治療が済み073は退出しようかと思ったのだが……その時にラウラの意識が覚醒した。

 

「……ここは」

「医務室だ、起きたようだな」

「―――ッ!!」

 

視線を彷徨わせてその先にあった悪魔に思わず身体を抱きしめるようにしながら怯えた瞳を向けてしまう、そんな光景に当然かと溜息を吐きながら近くにあった椅子に腰かける。室内なのでPICは確り作動させているので彼本人の体重分しか掛かっていないので壊れたりはしない。

 

「お前は……私は、いや負けたのだな……」

「ああ」

「……」

「頭が冷えたか」

「……」

 

その問いかけに静かに頭を縦に振る、良くも悪くもあの時は頭に血が上っていたのは確かだろう。

 

「ハッキリ言うが今のお前は軍人などではない。民間人への向けての砲撃、数々の暴言に反抗……テロリストと揶揄されても致し方ないのは理解出来るな」

「……ああ」

「今回の事を踏まえて織斑女史への報告はする」

 

それを聞いて彼女は酷く怯えるように身体を震わせた、この世の終わりのような表情を作りながらシーツを握りしめるようにしながら恐怖と戦っているように見える。それだけ彼女にとって千冬という存在は余りにも巨大であるという事の表れだろう。

 

「だがその前に話をしよう、何故お前は織斑にあそこまで固執する」

「……私は、教官を尊敬している……」

 

諭されたわけでもなく単純な興味本位の質問だった、なのにも拘らずラウラは自ら理由を話し始めた。彼女は完膚なきまで叩きのめされた敗北者、敗北を喫した故に勝者の問いに応えなければならない、それも千冬から教わった事の一つだったらしい。

 

そしてそこで話し始めていく理由、彼女自身は人工的に作られた人間でありラウラというのも識別を行う為の物でしかなかった。故か自己表現として強さを求めた、IS適合移植手術の失敗によって"出来損ない"の烙印を押され、その境遇から自分に歩む力をくれた人、自分をラウラという個人として扱った教官である織斑 千冬を心酔した。同時に千冬の圧倒的にして完璧な強さに憧れ、その名誉に汚点を残す元凶となった千冬の弟・織斑 一夏を憎み、また嫉妬していた。

 

「成程、だがお前とて理解しているのだろ」

「……ああ、織斑 一夏が拉致されなければ教官がドイツに来ることもなかった……いやそれ以前に奴とて大きな被害者である筈なのに……それから眼を反らして理解しようともしなかった……」

 

本当は理解していたのにしなかった。目を背けていた事も確りと理解していた、軍人などではないという真実を突かれて荒れたのも同じ。

 

「私には家族がいない……誰が母で父なのかも分からない……そんな中教官だけは私を見捨てずに自主練にも付き合ってくださった……私が家族と呼びたいと思ったたった一人の方だったんだ……」

 

そんな人の栄光を邪魔したのが本当の家族、家族ならばそうしない筈だと思ってしまったのだろう。一歩引いて考えればわかる筈の答えを見なかった、愚かすぎる自分が心底嫌になっていた。今回の一件で千冬からもきっと見放されたに決まっている、もう自分は完全に孤独なのだ。失望と絶望のそこにいるような表情をしている彼女に073は言った。

 

「家族の定義とはなんだ」

「それは……血縁などではないのか」

「私にも家族がいる、いや居たと言うべきか……」

 

それはいくつかの意味を持つ、それはスパルタンである彼にとっては非常に重い言葉だった。何故ならば―――彼の本当の家族からすればレイという人間は既に死んでいるという認識なのだから、肉体的欠陥を持つ即席クローンを使った拉致の隠蔽、073に実の家族は既に存在しない。

 

「私にとっての家族は共に訓練を重ねた者達、そして共に地獄を踏みしめて前に進んだ者達」

「お前の家族……」

「ああ、家族の為ならば命を投げ出す事も厭わない。そんな絆で結ばれた素晴らしい家族だ」

「……羨ましいな、そんな人達がいて」

 

紛れもない本音のだったのだろう、だがラウラは何も知らないからこそ言えてしまうのだ。その言葉の意味と孕んでいる重さが。彼女からすればそうなのかもしれない、だが自分はその家族と二度と会う事は出来ない。声も聞けない、家族と呼びたい者がいるだけ恵まれているとさえ思える程だ。

 

「……不躾かもしれんが、話を聞いてもいいか。篠ノ之 束が送った人間に興味が、ある」

「―――自分にだけ過去を話させたことが不満、とでも」

「い、いやそういう訳では……」

 

慌てるラウラは年相応だった、軍人と言われても理解されないだろう。故だろうか、その時073は彼女をラウラとして見ていた。だが073は彼女の頭を軽く撫でながら立ち上がった。

 

「織斑女史の説教の後にでも話してやる、それと女史に口添えはしておく」

 

そう言い残して医務室から出て行くと直後に千冬が向かってきた。肩で息をしながら慌てている彼女はまくし立てるように迫る。

 

「ス、スパルお前……!!」

「落ち着いてください織斑女史、もう片付きました。ボーデヴィッヒですが加減してやってください、既に反省と罰は与えてあります」

「お、お前な私はお前についての事を言っているんだぞ!!?」

「お気遣い感謝します、ですが私は仮にも博士の護衛を任されています」

 

その言葉を受けて千冬は漸く冷静さを取り戻したのか深呼吸を繰り返して呼吸を整えた。確かにラウラの事を深く知っているが故に慌てていたがあの束が自らの護衛を全て委託した上で戦闘を前提にして調整したアーマーまで預けているのだから強くて当然、なのだろう。仕事の疲労もあって思考力が鈍っていたのかもしれない。

 

「では後はお任せします、それと……彼女の感情と話も受け止めてあげてください」

「……お前がそこまで言うとは珍しいな、分かったじっくり話を聞いてやるとする」

 

ラウラの事を千冬に任せながら彼はその場を離れていくのだが……その途中で思わず自分を戒めた。自分は何を言いかけたのだ、何を言おうとした……少し前から現れているそれに危機感を覚える。

 

「―――愚かな考えは捨てろ……何を考えている……」

 

スパルタン-S-073、彼は欲してしまっている……自らと同じ仲間を。




《ブルート》
正式な種族名 ジラルハネイ

ゴリラとクマをミックスしたような種族で、コヴナントでは最も新参。粗野粗暴粗雑の種族で、コヴナントに加盟するまでは3回ほど核戦争が起こり滅亡寸前まで衰退していたらしい。無限ループって怖くね?
が、暴力という一点のみでは他の種族を圧倒する程。ミョルニルアーマーを着たスパルタンを腕力で圧倒するほど身体能力は優れている……のだが、お世辞にも頭は良くなく先述した核戦争がそれを現している。

脳筋馬鹿ゴリラとファンからは呼ばれ、脳筋突撃を行うと発想がブルートと言われる程に脳筋な種族。


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ラウラ、千冬、073。

「教官……お一つお教えください」

「何だ」

「―――スパルタン、彼の事です」

 

医務室、ラウラは千冬からの説教を甘んじて受けていた。が、それは彼女が思い描いていた以上に重い物ではなくすんなりと受け入れられた。そしてそれほどまで辛い物ではなかった、千冬が前以て彼に既に反省と罰を与えているという言葉を掛けられた事話を受け止めてやる事に従事したのもあるだろう。そしてそれらの後にラウラは尋ねた、それは073の事だった。

 

「あの人は……何者なのでしょうか、失礼ながら私には教官と同等いえ……それ以上の何かを感じました。あれは―――絶えず実戦を潜り抜けた者でなければ出す事の出来ないものばかり……」

「お前もそう思うのか、奇遇だな私もだ」

 

その言葉を否定せずに同調する、073が発する殺気やオーラのそれは最前線で戦い続けなければ出せないような物。極限の環境に置かれ続けた末に磨かれた崇高な意志、卓越した技術にそれらによって支えられ行使される肉体が生み出す力は絶大。実戦を生き延びたからこそ、千冬もラウラも実戦を経験した訳ではないがその程度は理解出来た。

 

加えてラウラも一部隊を束ねる少佐の地位にあるがその部隊は何方かと言えば軍や国の名声を高める為の物に近く任務も実戦などとは程遠い物ばかりだった。そんな彼女にない物を全て所有するのが073、スパルタンという存在だった。

 

「生憎私も奴の事は詳しくない、知っているのは識別コードのような名前程度。後は奴が優れた指導者の素質を持っているという事だけ、篠ノ之博士に尋ねてみたりもしたが聞く事は出来なかった」

「……あの人は言っておりました。私にとっての家族は共に訓練を重ねた者達、そして共に地獄を踏みしめて前に進んだ者達だと……」

「奴がそんな事を……」

 

その言葉に千冬も驚いた、彼は全くと言っていい程に自らについて語る事が無い。束に度々尋ねて見た事もあるが適当にはぐらかせてしまっている。それは暗に教える事は出来ないというメッセージだという事は分かっているのだがどうしても知っておきたかったのだ。数々の恩を感じる千冬としてはどうしても彼に今までの事を含めた礼を。その為に相応しい品や態度を用意する為の材料を確保したかった、だが今漸くそれに驚いた。一貫して語らなかった己について出会ったばかりのラウラに語った。

 

「―――奴はもしやラウラに近い境遇にあるのか」

「もしや彼も私と同じような……」

 

あり得なくはない、軍が秘密裏に計画したものによって生み出された存在。それによって軍に従事し続けた者が切り捨てられる作戦で仲間と死ぬはずがそこを偶然束が救い上げたという事ならばそれなりに筋は通るし、ラウラにも思わず話してしまうというのも理解は出来る。

 

「教官……あの、私は今から話をしに行っても宜しいでしょうか……」

「奴にか、今は恐らく警備巡回中だろう。可能と言えば可能だろう」

「私は……実に愚かしく軍人として失格な事をしていたのかを教えられました、ドイツ軍にいるには相応しくない程の人間です……そんな私に向き合ってくれた彼には礼儀を通すべきだと思います」

「……良いだろう、行ってこい」

 

頭を下げてからベットを飛び出したラウラは医務室から彼の元に向かって行く。それを見送りながら千冬は思考する。

 

「……家族、か……」

「あ、あの教官すいません……私の制服は更衣室にないのですが……」

「あっすまん、此処に持って来てたの忘れていた」

 

 

巡回をし続けている073、僅かな時間で随分と事が起きる事に肩を竦める。このIS学園という場所では退屈という言葉は存在しないという事なのだろう。

 

「あっスパル先生こんばんわ~、巡回お疲れ様です~」

「先生~明日の機動訓練頑張るから見ててくださいね~!!」

「ああ、夕食は取り過ぎるなよ。今日は煮込みハンバーグらしい」

「やっば大好物じゃん!?」

「うっそぉいまダイエット中なのにィ!?」

『ダイエットは一時中断急げぇ!!』

 

駆け出していく女子生徒らへ廊下は走るなと忠告して巡回へと戻る、すっかり日常となった風景だが彼の胸は全く満たされずに空虚な思いだけが沸き上がって満たしてしまって行く事が腹立たしい。理由は全てわかっている、解決なんて絶対に出来ない、してはいけない物だと分かっているのに望んでしまっている。

 

『同胞を望んでいる』

 

本当の意味での仲間を、友を望んでいる自分がいる。自分の全てを吐き出せる相手が欲しい、同じ存在が欲しい、そんな思いが日を跨ぐ毎に加速度的に増しているのである。愚かしい考えだと思う一方で肥大化し続ける思いを抑え続ける日々を繰り返す。

 

『リーダー、司令本部からの通信が途絶えました』

『朗報じゃねえか、上はうるせえからな』

『同感ね、あいつら煩いったらありゃしないわ』

『その位にしとけよお前ら、此処からは俺の指示で動く。従えよ』

『リーダーの指示なら喜んで、本部の指示なんて真っ平だ』

『……だから問題児扱いされるんだウチは……』

 

あの日の声が木霊する、もう遠い日々の彼方に消え失せた記憶がまた叫んでいる。最早形にすらならず、思い出せば出すだけ辛くなるだけの日々、地獄が地獄を作り出した過去。だが其処こそが自分が生きるべき世界だと思う。そしてだから求めてしまう同胞がこの世界に不必要であると言い聞かせる。

 

「―――皆……」

 

零れてしまう言葉には彼らしからぬ弱弱しさがあった、エリートが敬意を示すほどの戦士が上げた弱音に含まれている感情の渦にあるのはチームを組み続けた仲間への想いだった。彼のファイアチームのメンバーは全員が問題児扱いを受けていた、だが彼にとっては掛け替えのない大切な仲間だった。思いを吐露してしまっている時、彼は珍しく背後から迫る反応に気付けなかった。

 

「シエラ先生、あのお時間を頂いても宜しいでしょうか……」

「あ、あの……織斑教官からのお話を終えて、来ました……」

 

迫っていた少女二人は少し呆然と空を見上げている彼へと恐る恐ると声を掛けた。そして彼はそれに漸く気付くと振り向きながら話を聞く事にした。




073のファイアチーム

彼が指揮官を務めたファイアチームは基本的に問題児扱いを受けるスパルタンⅢばかり。任務への忠実さと不屈さを併せ持つが、非スパルタンとの連携が取れない。ある意味では非常にスパルタンらしい者たちばかりだった。

非スパルタンチームとの問題ばかり引きおこす彼らを纏め上げたのが073であり、彼の命令ならば問題児たちは素直に聞いた所から彼の指揮官としての優秀さや教官としての適性が滲み出ていた。
際立った戦果もあるがそれ以上に確実且つ正確に任務をこなす部隊として重宝されていた。


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073―――スパルタン、語る。

約束を果たす為か、それとも道理を通す為なのか。説教を無事にされ終えたラウラは073へと会いに行ったが、その道中にてラウラの事を危険視しているセシリアに彼の事を尋ねられ何の用があるのかと問われ、話をしに行くだけだと伝えると自分も行くと言われたので共に来た。

 

セシリアとしてシエラは憧れの教師であるとともに意中の人でもある、だがラウラは余りにも行動が目立ちすぎている上に品行方正とは言い難くシエラに近づく事はあまりに許容出来なかった。政府命令で彼を排除する気かもしれないと思った、が彼との約束があると言われるがそれを確かめる為にも一緒に来たという訳である。そんな彼女も加えて話をする為に応接室へとやって来た、入り口には使用中の札を掛けて置く。

 

ソファに腰掛けながら前に腰掛けたラウラ、そしてちゃっかり自分の隣を陣取って何やら笑顔を浮かべているセシリアが気になかったが藪蛇になりそうなので突っ込むのはやめておく事にする。

 

「私の話、だったな。これほど早く聞きたがるとは思わなかった」

「め、迷惑だった……でしょうか」

 

自分に反抗的且つ攻撃的な態度を崩さなかった彼女にしては随分としおらしい態度を取る、あの後随分と千冬と話して中に溜まっていた色々なものを発散できたのかもしれない。そんな彼を見て073は少しだけ沈黙を作ってから笑った。

 

「私は怪しい奴に気を許す気などない……だったか。確かに私でも素直に教えを受けたいとは思わないかもな、丁度隣の彼女も似たような事を言っていた」

「シ、シエラ先生もうその事はおやめください……!!」

「済まない、如何にも連想してしまってな」

 

酷く慌てるセシリアにラウラも思わず、お前も人の事言えんじゃないかと呟く。

 

「わ、私は貴方ほど敵視してはおりませんでしたからセーフです!!」

「それでよくもまああれほど私の事を言った物だな、先のお前は如何に自分が清廉潔白と言わんばかりだったぞ」

「ま、まあ細かい事は宜しいです!!」

「おいそれでも貴族の当主か貴様」

 

そんなやり取りもありながらも先日の彼女とは大きな変化がそこにある、だからこそだろうか073は話してしまいたくなってしまった。自分の事を、知って貰いたかった、彼女も理解されたのだから自分もその位してもいいのでは……揺らぐ中で彼は思わず―――語りだしてしまったのだ、自らの事を。

 

「何から話すべきだろうな……」

「え、えっとそれではシエラ先生のお名前からお聞きしたいですわ!!」

「名前、か……」

「スパルタン-S(シエラ)-073というのはコードネーム……ですね」

 

この世界に来て数々の違反行為をしている身である彼にもう軍事機密もくそも無いだろう、そもそもがこの世界にUNSCは存在しておらず規約なども存在していないのにそれを律儀に守り続ける理由も無い筈なのに何故守り続けたのかと束にも言われた事がある。単純明快だ―――自分がスパルタンだからだ。書類上兵士ではなく兵器として識別される事から分かる様に彼らには人権が無い。故に兵器や兵士として動く事しか許されない。スパルタンとして生きた彼にはそれが正しいと思っていた。

 

「本来、私の名も顔も軍事機密だ。教える事も見せる事もしてはいけない」

「そ、そうなのですか!?」

「名前や顔までも……特殊作戦部隊の出身なのですか」

「そうとも言えるだろうな」

 

UNSC特殊作戦軍 ファイアチーム・サバイブ所属 サバイブ1 スパルタン-S-073。それこそが073を現す正式な識別コードだった。その名前すら束にしか伝えた事しかなかったのに今自分は―――本当の名前を伝えようとしている。行けない筈のそれを彼は行おうとしていた、不思議と止める事も出来ずに出てしまったそれに口にしてから自分は拙いと思ってしまう程に滑らかに滑り出してしまった。

 

「レイだ、それが私の名前だ」

「レイ、それがシエラ先生の本当のお名前なのですね!!私達を優しく導く光のような先生にはピッタリのお名前ですわ!!」

「スパルタンという名前からは想像できない程に人間らしい名前、ですね」

 

―――言ってしまった、重大な違反行為だと分かっていた筈なのに言ってしまった。だが同時に心が叫ぶのだ、誰がそれを咎める、誰が自らの情報を晒して罰を与えるのか。この世界において優先すべきなのは自らの安全と生存、それを確保する為には自らが何者かを表して信頼と信用を確保するのが最優先なのも理解しているのに何時まで束という大きな存在の力を利用し続けるのか、と自らの行いを肯定するかのように訴えてくる。

 

悪い事などあるか、何も分からぬ世界で確保すべき信頼を得る為、それは自らと命とも言えるアーマーを守る事に繋がるのだと。既に束に様々な情報を伝えておきながら何を気にするのか、と続け様に責めるように問われる。そえらは既に精神的に衰弱が始まっていたレイの決意と大きく揺るがして……踏締めていた足を浮かべて前へと進めてしまった。

 

「済まんが名前もだが私の事は他言無用で頼む、後其方で呼ばれるのは慣れん」

「承知致しました、この名前は私とレイさん……いえシエラ先生との約束ですわね♪」

「私もいるのだが……分かりましたドイツ軍の名誉にかけて公言しない事をお約束します」

 

最期に既に信用はないかもしれませんが、と自罰的に苦笑するラウラにそれでいいと伝えながら何やら夢見心地になっているセシリアを呼び戻して話を続ける事にした。

 

「今更になってしまうが私の話は決して楽しい物ではなく聞いていて気持ちのいい物ではない」

 

それは二人も何となくだが理解していた、初対面の頃から何か過去にあったのではないかとずっと思い続けてきた。頑なに素顔や名前、過去を語ろうとしない人。そんな過去は他人においそれと語っていい筈の物ではないと刺しが付いていた。だがこうして話してくれるという事は自分達にある種の信用を向けてくれているという事、ならばそれを聞く者としては絶対の約束をして覚悟を決めて聞く、それが筋だろう。と真っ直ぐと見つめる。

 

『―――分かった、では話すか……』

 

「いよいよ……か」

「ちょっとち~ちゃん本気で聞く気なの?」

「当然だ。だって気になるじゃないか」

 

と束の地下施設に千冬の姿があった、そこには束のコンピュータに接続された端末がある。それはラウラの制服にこっそりと仕込んだ盗聴器から音声データが届けられる。束としては流石に失礼だろうと思った、しかし彼の口から語られる過去にも興味があった、情報としては知っているが矢張り彼の目線からの話は知っておきたいという思いがあったのも確か。それに束はミョルニルアーマーに組み込んだモジュールから音声を取れるので人の事は強く言えない。

 

千冬としては今回の一件で073への興味が一層強くなった、そして何より彼の正体に迫りたいという好奇心が何より大きかった。自分よりも遥かに強いであろう存在が近くに居るのにその正体に関して情報が手に入らない、ならば自分から取りに行ってやると言わんばかりの行動力。

 

「でもまあ、この後に奴には謝罪しに行くか……」

「あっそこはするんだ」

「当たり前だ、その位の良識はあるつもりだ」

 

束としては今すぐにも千冬を含めた彼女らを止めたかった、自分でも辛すぎて涙を流してしまう程の過去を聞いたらどうなる事だろうか。レイが自分の全てを完全に話すかは不明、ある程度は暈かすかもしれないが……それでも自分が何故軍に居た程度は話すだろう、それだけでも―――十二分に心を抉る事だろう。今ならば止めさせられる……筈なのに束は止める事が出来ずに―――

 

『私は最初から軍に居たわけではなかった』

『そ、そうなのですか?』

『ああ、私が軍に入ったのは……秘密裏に進めていた計画の被験者として―――拉致された事が始まりだった』

 

話を始めさせてしまった。




ODST(Orbital Drop Shock Troopers:軌道強襲降下兵)

その名の通り、軌道上から個人用突入艇(HEV)にて目標地点へ強襲降下を行う、UNSCの精鋭達。当然の事ながらその任務は常に命がけであり、恐れを知らぬ者達として「ヘルジャンパー」と渾名される。

彼らとスパルタンの力の差は言うまでもないが彼らも十二分に優秀な兵士である。彼らを戦力として例えると以下のようになる。

スパルタンⅡ:ガンダムNT-1(アレックス) in アムロ
スパルタンⅢ:ジムコマンド in エースパイロット
ODST:ジム in エースパイロット
その他兵隊:ただのボール


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レイ、スパルタン。

好奇心、それは人を前に歩ませる原動力。興味があるから手を伸ばす、興味があるから足を動かす、興味から欲が、欲から行動が、行動から力が生まれる。好奇心こそが人を活動させる最たるもの。だがその興味が身を滅ぼすほどの苦しみを及ばす事もある。好奇心は猫を殺す、パンドラの箱。

 

「えっえっ……拉致……」

「ああ、本人及び家族の意思を無視した徴兵、拉致だ」

 

始まりの言葉すらどのような感想を述べれば良いのか詰まる程に重い物だった、意志を完全に無視した徴兵と拉致。貴族として生きてきたセシリアには想像にもしなかった言葉だった、いやIS操縦者は有事の際には戦争に参加する事も義務付けられているので彼女も軍人との連携訓練などは受けているが……そんな事など生温いと言えてしまう程の事柄が眼前にあった。

 

「……私のラウラという名のように、貴方の073というのは矢張り単なる識別コードではなかったのですね」

 

一方のラウラはある程度の予想があったのか、やっぱりかと言いたげな表情を作っていた。彼女も自分と酷く似通っているのではという予想自体は立ててはいた。ラウラも軍が遺伝子操作を行って生み出された遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)、所謂試験管ベイビーなのだ。だがある意味ではそれ以上にえぐい経験を持っている事に無意識に拳を握ってしまう。

 

「ああ、スパルタン計画という旗の下で行われたそれは反乱軍との戦争を未然に防ぎ、人類の未来を救うべく養成されたスーパーソルジャー計画だ。身体的能力や遺伝特性のみならず、心理的傾向までも審査した上で選別が行われた」

「そ、そんな事が……い、いえしかしそんな事をすればご家族などが絶対に気付いて抗議を行う筈です!!ネットなどに情報を流す事だって……!!」

「そうはならなかったんだよ、その程度の事を軍が予想出来ないと思うか」

 

選び抜かれた150名、それらこそがUNSCが求めた子供達だった。健康診断と謡いながら子どもたちを施設に集め、そこで軍への加入をした子はそのまま軍へ、そして親の元へ前以て用意を行ったクローンを代用として返らされた。それらの工作によって親たちは我が子が拉致されている事なんて知りもしなかった。加えて言うならばそのクローンは肉体的な欠陥を持っており数か月後には病気により死亡するように……されていた。

 

「―――」

「まさか、そんな……」

 

最早言葉すら出せないセシリア、ラウラも言葉が見当たらずに呻く事しか出来なかった。余りにも惨たらしく残酷すぎる始まり。幼い頃、親の愛情を一身に受ける筈の子供らを拉致した上で親にはその身代わりとして直ぐに死ぬ代用品を渡して騙しておく。これでよくも悪くも兵器として運用できる兵士の下準備が出来始めていた。

 

「そして確保された子供達へ施されたのはエリート軍人でも嫌がるような訓練だった、余りにもスパルタで何度も死にそうなったな……だがな私も含めて皆が前向きに訓練に取り組むものが殆どだった」

「な、何故なんです!?」

「当時我々はこう言われた。君達は人類を救う英雄に選ばれた、君達はヒーローになるんだとな。皆それを信じて直向きに訓練に勤しんだ。そうしなければ人類は救えないと心から信じていた」

「……そんなのそんなのって……唯の反乱軍を鎮圧する為にそこまでの事など……!!」

 

ラウラの言葉も分かるがUNSCに反抗する意思を見せていた人間は酷く多かった、それらに対処するにはどうしても必要だった。誰もが本気でそれを信じていたのだ、悪質極まる程の洗脳だ。だがスパルタンはその程度ではない、彼らの真実はもっと奥深い。

 

「そして―――スパルタン計画は佳境に差し掛かった。スーパーソルジャーたるスパルタンとして相応しい力を与えられる手術が行われた」

「手術、まさか……」

 

思わずラウラは自らの左目へと触れる、その瞳"ヴォーダン・オージェ"と呼ばれるISとの適合率を上げる為の物になっている。彼女はその適合手術に失敗して出来損ないとされた、それと同じような手術が施されたのかと尋ねると答えはもちろんYESだった。だが彼らの場合は違う、彼らスパルタンが行われたのは肉体強化改造手術。ラウラのそれとは全く一線を画すものばかりだった。

 

「行われて手術は合計で5つ、どれもリスクが高く死亡する危険もあった。その手術が無事に成功した者達が私のようなスパルタンⅡと呼ばれる存在になった訳だ」

「死亡するリスクって……その様な手術を受けたというのですか!!?」

「ああ、候補者は75名だった」

「貴方が073という事は……最低でもそれだけの成功する程に手術は安全性を確保して行ったという事ですよね」

 

リスクが高いと言っても彼の番号から考えて最低でも73人は生きている事になる、リスクが高いと言ってもそれ程でもない筈だとラウラとセシリアは信じたかった。外科手術でも死亡する確率が20を超えると酷く高いと言われると聞いた事がある。希望を持っていた二人だがそれは彼の放った言葉によって呆気なく崩れた。

 

「いや成功したのは33名だ。それ以外は死亡している」

 

最早言葉が出なくなるほどの世界の話だった。最早聞きたくもない話ばかりだった、彼はもう多くの屍の上に立っている。何故そんな事をしてまで強い兵士を作りたがるのか、ラウラですら疑問に思ってしまう程だった。軍の思惑の為に多くの者が死んでいった、だが彼らはその手術を望んで受け入れたのだ。人類を救う、その使命に燃えていた、それだけの為に。

 

後にスパルタンとなった彼らは絶大な戦果を挙げた、それを知った軍はより安価で量産可能なスパルタン計画を発動した。それが戦災孤児らを徴兵し脱落率が高かった強化手術は廃止され、投薬による強化のみに留まった簡易スパルタンが後のスパルタンⅢ。計画当初の目的であった300人単位での部隊編成が可能となったが、そんな彼らに課された任務は極秘でありながら極めて危険で苛烈。まるで人命で時間を買うような物だった。その果てに待っていたのは彼が戦いの果てに全滅という運命から一人だけ生き延びてしまったという今。

 

「―――っ」

「何故泣いている?」

「な、何故って……レイ、さん、貴方自分の境遇がどれほどの物なのか分からないのですか……!?」

 

言葉が出ない程の大粒の涙を流してしまっているセシリア、彼女の涙に近くにあったティッシュを差し出しながらも何故そこまで泣くのかと思わず尋ねてしまった彼にラウラが立ち上がって声を荒げた。軍人である彼女から見て余りにも非人道的すぎる、彼女の境遇も近くはあるがこれほどではない。壮絶且つ凄惨な歴史としか言いようがない。

 

「―――ああそうか、私のために泣いてくれているのか」

 

過去の彼ならば察せた筈だった、だが今の彼は完全なスパルタンなのだ。スパルタンというものにのめり込み過ぎた。故郷の光景も、家族の姿も今が潰してしまった。過去の記憶も戦場の匂い、死を告げる光、地獄の熱で塗り潰された。それ程までに彼は人類の為に戦おうとしたのだ、スパルタンという存在に全てを捧げてそれになり、人類を救う一助になれればいいとさえ思い生き続けた。その果ての終局が今なのだ、続き続ける終わりにして終わる事の無い宿命なのだ。

 

「私は決して後悔などしていない、スパルタンとして生きた事も戦った事も全て私が全て納得した上でやった事だ。君が泣く事じゃない」

「貴方は何故そこまで、強いのですか……私ならばそのような事なんて……」

「レイ、さん……申し訳、ありません……すいません……」

「泣かないでくれ、私の過去に謝らないでくれ。君は何一つ悪くない、それほどまでに思ってくれて有難う」

 

泣きじゃくるセシリアを慰めるように撫でてるレイ、そんな彼を見てラウラは胸が痛くなるような思いだった。自分よりも遥かに重い責務、惨い境遇、惨劇と言える最期を仲間と迎えるはずだったが生きている彼、今どんな思いで時を重ねているのか。どれだけの精神があればそれが叶うのか……純粋な戦士としての格の違いを見せ付けられた。そして最後にレイはこういった。

 

「ボーデヴィッヒ、織斑女史に伝言を」

「教官いえ織斑先生に、ですか」

「ああ、お話があるなら直接どうぞとな」

「は、はあ……お伝えしておきます」




スパルタン-058 リンダ

073が射撃技術は自分以上だと言わしめるスパルタン最高の狙撃手にしてスパルタンブルーチームの一人。
弾丸の融通を考えるべき部隊装備の中でも特例としてスナイパーライフルの携行が認められるほどの凄腕。狙撃時の集中は「禅の境地」とも評される程で、ワイヤーに片手片足を使ってぶら下がった状態で飛行する機体のパイロットのみをぶち抜き2キロ上空の目標に命中弾を繰り出すなど、神業とすら言える。
また極めてタフであり、リーチ攻防戦の際には集中砲火を浴び死亡が確認されたがコールドスリープの末にハルゼイ博士による蘇生手術が成功。その翌日に戦線復帰している。その時にライフルを手入れしつつ発した言葉は
「このアーマーを着たまま休暇を楽しむには、重傷を負えばいいのね」
ちなみに彼女が狙撃を好むのは待機中に昼寝が出来るかららしい。


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レイ、073、不安。

唯々言葉が出なくなった。静かに盗聴器とリンクを切る事しか彼女には出来なかった、立ち尽くしながらも不意に足に力が入らなくなって座り込む、聞いてはいけないものを聞いてしまった。明らかに興味本位などの理由で許される類のものではなかった。

 

「―――レイ君もよくもまあ話してくれたもんだね……」

 

束はそれを聞き終えると辛そうな表情を作りながらもコーラで喉を潤す。彼が話していた内容は上手く暈かされていて真実の部分は秘匿されている、UNSCやコブナント、植民地惑星などの事は確りと隠されている。彼なりに上手く伝えようとしたのだろう。

 

「束、つまりお前が会った時奴は……」

「そう、たった一人だけ残されていたんだよ。他のメンバーは全員戦死で地獄を歩き続けていた彼、単純な興味で彼を救ったんだよ―――事実を知っていたらそのまま死なせてあげただろうけどね」

 

自罰的な表情を浮かべながらラウラのISへの作業をし続ける束は応える、仮に自分が彼の事情を知っていたとして出会ったとしたら確実に彼を生かすなんて事はしないだろう。寧ろ彼を生かす事こそが彼にとって罰になってしまう、スパルタンとして生き抜き、最期には仲間と共に死を前にしても恐怖する事なく前へ前へと進み続けた。その果てに迎えた終局ならば彼は喜んで受け入れた筈だ、彼もそう言っていた。

 

だが運命は残酷にも彼を生かしてしまった、惑星リーチにて果てる筈の命が何故か全く別の世界へと転移した上で命を助けた。

 

「人類の為に戦い続けて彼はその大義の旗の下で死ぬはずだった、だけど彼だけは生き残ってしまった。彼にとってこの世界は地獄に等しい、家族の下には戻れず家族と仲間は全員死に絶えた」

「……奴にとってこの世界はまるで牢獄だな」

「良い表現だね、だからこそ話しちゃったんだろうね。絶対に話してはいけないとされた軍事機密を、レイ君は仲間を欲しがってるんだろうね―――無理だと分かっていても」

 

同胞を望む、単純な仲間などではない。同じスパルタンを求めている、千冬もその気持ちは痛い程に良く分かった。ドイツ軍に教官として出向した時も時たま同じ日本人と晩酌をしたいと猛烈に思った事がある、それとは比較にならない思いだろうが似たような方向性の想いがある。だがそれを求めてはいけない事を彼も分かっている。

 

「でも少しはスッキリしたろうね、自分の事情を知ってくれる人が増えたわけだから。だからち~ちゃんの事も全く怒ってないと思うよ、お話があるなら直接どうぞっていうのも次はちゃんと顔を合わせて話をしましょうって事で次会う時に変に持ち越すなって事でもあると思うよ」

「随分、と理解しているな……」

「まあ束さんが現状理解しているからね」

 

そんな彼の為に第五世代の開発と並行してある物の開発を進めている、それはある意味彼の要望を叶えるに近い物。正確には違うだろうが慰め程度にはなるだろうと思っている、その程度になればいいとさえ思っている。それは奇しくも―――レイが戦死した後の世界にてスパルタンⅣと呼ばれる次世代のスパルタンが纏うアーマーに酷く酷似している物が束の目の前の画面に映し出されていた。

 

 

「―――済まない、このような話をしてしまって」

「い、いえ元を正せば私が話を聞きたいなどと宣ったからです!!」

「私も、卑しくもその場に残り続けたせいですわ……レイさんが謝る事など……!!」

 

話を終えたレイ、いや073は二人を部屋へと送り届けた後に巡回を再開した。二人には突然重い話を聞かせてしまった事は悪いとは思っている、だがそれを二人は確りと受け止めた上で絶対に公言はしないし味方であるという事まで言ってくれた事には嬉しさすら湧き上がっている。彼自身も自らの素性を明かし理解者を得た事は幾分かの救いにもなっていたのか胸の中にあった重さが少しばかり軽くなっていた。

 

二人に自らの素性を明かしたのはラウラへのケジメという意味もあったが自分の中にあった思いを少しでも発散したいという打算が無いわけではなかった。結果的に僅かながらに解消されているのは事実、軽くなっている胸を躍らせる訳ではないか少なからず聞いてくれた二人には感謝を、そして新たに知ったもう一人には後日確りと話をしておかなければと誓うが、同時に胸の痞えが僅かにしか取れていない事にため息が漏れてしまった。

 

「儘ならん、というのだったかな……」

 

010、047。スパルタンⅡ計画に参加していた仲間の中には日系人も存在していた、彼らがそのような言い回しをしていた事を思い出しながらも矢張り同胞を望んでいる事に嫌気を覚える。ラウラは自分達に似ていると思っているがセシリアにも同じような思いを抱いている。彼女の射撃技術は成熟しきれば人類随一になるだろう、と思う反面でチーフのブルーチームに所属し最高のスナイパーだった058を連想してしまった。我ながら危険な兆候だと思わずにはいられなかった。

 

「……博士に精神安定剤でも依頼してみるか」

 

その様に考えてしまう程に、輪をかけて同胞の事を連想するようになってしまっている。今まで考えもしなかった筈の事、唯同じというだけで此処まで考えるようになっている……スパルタンが聞いて呆れてしまう、そんな思いを携えながら巡回を続けていると此方へと誰かが走ってくるのをモーショントラッカーが捉える。振りむくとそこには一夏の姿があった。

 

「廊下は走るな、と言われなかったか」

「す、すいません先生……そ、その先生どうしても聞いてほしい事があるんです、今すぐ俺の部屋に来て貰えませんか!?」

「恋愛相談なら専門外だぞ」

「んなもんじゃないです!!」

 

と強引に自分の手を引っ張っていこうとする一夏にただならぬ事なのだろうと察して付いていく事にした。そして連れていかれた先で073が見た物は……

 

「シャルルは女だったんですよ!!?」

「え、えっと……はいそうなんです……」

「おい織斑女史と山田女史を過労死させる気か」

 

流石の073もそんな言葉を発するのが精々になる程の衝撃を放つ光景が待っていた。




スパルタン-087 ケリー

スパルタン最速の女戦士。徴兵時には実に6時間もの間、ONIエージェントとの「鬼ごっこ」から逃げ切ってみせた。
その俊足は訓練と強化手術を経てさらに強化され、チーフからは「本気になれば誰も触れる事すら出来ない程速い」と評される程の超俊足を誇る。チームではその俊足を活かした囮役の「ウサギ」として、数々の困難な任務の突破口を開いてきた。


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073、シャルル、シャルロット。

「頼る時は見極めて、だけど頼る時は素直且つ速攻で頼れと確かに言った。だが限度を知れ」

「いやだってこういう問題って速攻でぶっちゃけて助けを求めるのが一番じゃないですか!?それに今千冬姉とかに求めたら更にやばい事になりそうだし……」

「私でも同じだ……」

 

同室となっている一夏とシャルルの部屋へと連れていかれた073、そんな彼を連れてきた一夏はシャルルと共にある事実をぶっちゃけた。シャルルは男ではなく女だったという事である、本当の名前はシャルロット。

 

フランスが誇る世界第3位のIS産業会社 デュノア社の社長と愛人との間に生まれた少女。そんな彼女は未だに第三世代の開発の目途が立たずに焦りを浮き彫りにした社長の命令で男性IS操縦者として学園に潜入して情報収集と可能ならば一夏の専用機のデータと073のアーマーデータの確保を命令されているとの事。

 

「……確かにどちらかと言ったら男装した少女だと言われたら納得はいくな、なんだそのお粗末な男装。それで男装の麗人を名乗るつもりか、それ以下だ。ボーイッシュガールにも届かん」

「ううっ……」

 

此処の教師も皆思っている事、余りにも女性的過ぎる。世の中には男の娘という極めて女性に近い外形をしている男性も存在する、何も知らなければ本当に女性に見える人さえいる。それを名乗るにも声や所作、見た目も余りにも女性的、お粗末にもほどがある。しかし女尊男卑の一方でトランスジェンダーに関する問題も大きくなっているので表立って指摘などはしづらくなっていたのでされなかったが……やはり女性だったか。

 

「織斑、何故女だと見破った」

「いやそれは……」

「じ、実はシャワーを浴びてたら……中にゴ、ゴゴゴ、ゴ、ゴキブリが居て……」

「―――はっ?」

 

流石のスパルタンさえも呆気に取られた。ラウラの一件で軽い事情を聞かれた二人はそのまま部屋に戻されたのだがその後に軽く話し込んだ後にシャワーを浴びる事になった、先にシャルルが浴びる事になってその間に一夏は冷たい緑茶を準備していると浴室から絹を裂いたような悲鳴が木霊した。

 

『な、なんだぁ!?』

『い、いいいい、いちきゃああああ助けてぇぇぇぇゴキブリがぁぁぁ!!!』

『シャルル大丈夫かってブゥゥゥッッ!!?』

 

思わず噴き出してしまった、シャワーから飛び出してきたのは身体に軽く纏わりつく程度にバスタオルを纏ったシャルル……だと思ったら明らかに胸に膨らみがあり男ならばある筈の物がないシャルルだった。思わず凍り付いたのだが泣き叫ばれたのでゴキブリを駆除した後に話を聞いたらそんな事が明らかになった、との事。

 

「……ゴキブリって……仮にも諜報員(エージェント)としてここへ来たのではないのか。それがゴキブリ程度で……」

「だ、だってゴキブリですよ!?それが突然顔目掛けて飛んできたんですよ!?そりゃ悲鳴上げて逃げ出しちゃいますよぉ!!女なら正常の反応ですってばぁ!!」

「そのせいでお前一世一代のおおポカしてんだぜ」

「うぐっ……」

 

 

『あらメットに虫付いてるわよ』

『全く邪魔ねぇ……』

 

『何だ普通の虫じゃないの、ドローンかと思って損したわ』

『まあここの虫はでかいもの、無理ないわ』

 

 

過去の記憶の中の女スパルタン達、彼女らは全く虫など恐れる事無く目の前に飛んできても無視するか叩き潰すのが当たり前だった。アーマーこそ付けているがアーマー受領前にも同じような事をしていた、なので073的には彼女の主張はいまいち理解出来ない。そもそも彼らが戦っていたのはエイリアンであり、その中にはミミズのようなワームが有機的に結合してスパルタンですら恐れる程の重装歩兵となって襲い掛かってくる事もあった。故に怖くなどない。

 

「はぁっ……それで織斑、私に何を相談したいんだ」

「いえその……これから如何するべきかなぁと思って……」

 

唯々漠然とした感じで相談を持ち掛けてきたのか、と流れ呆れそうになるのだがきっと一夏としては事情を聴いて放ってなど置けないのだろう。だが自分では如何したら良いのか分からないので師匠的なポジションにいる073に相談したのだろう。千冬にいきなり相談するよりはマシだろう、彼女の胃的な問題で。今の多忙な状態の彼女にこの話をもって行ったら確実に倒れる。過労とストレスで絶対に倒れる。

 

「織斑、お前とて理解はしているんだろう。普通に考えれば彼女が如何のような処遇になるのか」

「……はい。強制送還、その後に裁判とか投獄……ですよね多分」

「凡そな、デュノア社も追及を受けるだろうが確実に切り捨てられる」

 

普通に考えれば彼女の罪は酷く大きい、強制的な本国への送還は当然としてその後の処罰すら容易に想像できる。余談だが073の部下のスパルタンⅢ達は命令無視を行う事が多数だった、加えて任務は完璧にこなすので質が悪い物だった。流石に彼が指揮官になってからは激減したが……。

 

「っつっても先生、デュノア社が男装させて送り込むメリットってあるのか?」

「ないな。データが欲しいだけならばさせる必要もない、バレたら会社の解体どころか国家そのものの地位が低下する。その過程で生じる損失は莫大だろう」

「ですよね、俺でも分かりますもん。なあシャルロット、男装って誰に命令されたんだ?」

「社長からだよ、言われたのは側近の人からだけど」

 

シャルロットは最早力がなく、屍同然のような死んだ瞳でそれに答えてしまっている。もうどうせ自分に明るい未来なんてないんだ、だったらその前に洗いざらい喋っても良いだろうと自暴自棄になっている。

 

「……ねえ先生、これって完全に可笑しくねえですか。デュノア社って何がしたいんでしょ」

「……社長に責任を押し付け失脚をさせる為に反社長派が仕組んだ、としてもダメージがでかすぎるな。会社どころか国そのものが揺れる」

「って事は……デュノア社を敵対視する海外メーカーの策略とか……すかね」

「妥当な線だが証拠は何一つも無い」

 

だとしても自分達が何をする必要なんて欠片も無い、彼女は任務を与えられた。その遂行中に凡ミスで自らの任務を台無しにしただけの話。それに073の任務は束の護衛と教官職のみ、彼女の将来なんて気にする意味がなく何かをしてやる義理なども全くないのである。寧ろ束の親友の千冬の弟である一夏の身を狙っているというだけで自己判断で彼女をこの場で殺す事すら許される存在。

 

「……」

 

思考を巡らせる振りをしながら彼女を殺すべきか否かを思考する、何方が有益かと言えば殺す方に傾くのだろう。彼の立場を考えればそれが正解になる、下手に公にして国家の危機を齎すよりも事故に見せかけて始末した方が問題も起きづらく起きたとしても小さい物で済む。ならばそうすべきでは……と思う傍らで一夏とシャルロットが会話をしている。

 

「なあシャルロット、親父さんとお母さんって仲良かったのか?」

「うん凄いラブラブだったって聞いたよ、でもお母さんが身を引いたんだ。僕もお母さんが死んじゃってデュノア社の人が来るまでお父さんが社長なんて知らなかったもん。お父さんとしても僕の事がバレるとまずいって思ってたみたいだから」

「そんな人がこんな危ないことするかぁ……スーパーハイリスクローリターンだぜ」

「でももういいよ、お母さんも死んじゃってからもうずっといい事なんてなかったし……もうここらで諦めるのが良いのかもね」

 

そんな彼女の姿が如何にも胸に突き刺さって来た。それは彼自身が元々両親から愛を受けていたがそれを受ける事が出来なくなったからか、それとも戦災孤児故に愛する家族を奪われたスパルタンⅢを率いていた為なのか……涙目になりながら力なく笑っている彼女の姿が妙に痛々しく突き刺さって来た。

 

「先生……?」

「―――」

 

気付けば彼女の頭に手を伸ばして優しく撫でていた、唯単に彼女の境遇が自分に似ているというだけではなくスパルタンⅡの基本教育として市民への奉仕がある事も影響しているだろう。可能であれば人々を救う英雄でもあるのがスパルタン、戦場にてその姿を見る事が出来れば生きて帰る事が出来ると言われる程の影響力を持ち合わせる存在。そんなスパルタンは英雄として確立されており、彼もその一つとして使命は全うしてきた。

 

「織斑、私が初めてだな話したのは」

「当然です、というか最初は千冬姉……と思ったけど男の先生の方が話しやすかったというのが本音っすね」

「良し。この件は私が預かる、博士に協力を仰いでみよう」

「あっそっかスパル先生って束さんと連絡取れるんですもんね!!?」

 

一夏は束がこの学園に居る事を知らないので純粋に連絡が取れるだけだと思っているが、それでも十二分なワイルドカードになりえる。思わず咄嗟に相談した相手が最大級のジョーカーだとは思っていなかった模様。

 

「え、えっ……!?」

「これなら多分大丈夫だ!!シャルロットお前安心していいぜ!!」

「私が言うのもなんだが織斑、お前諮られたかもしれなかった相手をよくもそこまで」

「いや実際俺何もされてませんし、寧ろ俺裸見ちまった負い目ありますし……」

「あ、あれは事故だから僕は何も……」

 

その程度で此処まで喜べるのだから一夏自身の善性の強さと優しさが垣間見える。少々甘すぎる気もするが……。

 

「打算込みで、という事だ。これを使えばフランスとデュノア社の弱みを握った事になり博士も切れるカードが増える事を意味する」

「あっそっか、束さんって国際指名手配されてるから身を守る手段が増えるって事か……」

「護衛を任命されていたものとしては見逃がす訳には行かない。だが―――安心しておけ、君は必ず救おう。スパルタンの名に懸けてな」

「あっ―――」

 

もう一度、強く頭を撫でてやった後に離れていく酷くゴツゴツしていたアーマー越しの手。だが彼女はその感触が狂おしくなる程にその温かさが恋しくなった。思わず伸ばした手は空を切らずに073の腕に触れる。装甲の冷たく硬い感触だがもっと触れたいそれに彼はもう一度軽く触れてから部屋を出た。

 

「〈博士、聞いておられたんでしょう〉」

『うんバッチリね、彼女の事は前から調べててね。漸く全部の裏が取れた所、いやぁ創設以来の全データに目を通すのって面倒だねぇ』

「〈申し訳ありません、私の独断で無用な行動をする事になるかもしれません〉」

『フフフッいいんじゃないの、困ってる女の子を見捨てない先生っぽくて素敵だったよ。それじゃあ話したい事もあるからこっちに顔出してね』

「〈分かりました〉」




ドローン族 
コヴナント側名称:ヤンミー

キチン質の外骨格と羽を持った昆虫型エイリアン種族、見た目は空飛ぶコガネムシ、あるいはG。
コヴナントへの加盟には当初反発的で、双方が億単位の犠牲を払う大戦争に発展したのちに和解した経緯を持つ。戦争が長引いたのはコヴナントがドローン語の翻訳装置の開発に手間取ったため。
見た目に反して手先が非常に器用な種族であり、コヴナント加盟当初は武器・兵器の整備を担当する作業員として役立っていたが、新たにそちら方面で優れた種族が加盟したので整備担当を取って代わられ戦場に兵士として放り込まれる若干可哀想な種族。



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デュノア、真実。

独自解釈と独自設定の結果の果て。


「んでまあ束さんが調べた結果としては―――社長も正妻も白だったわ」

「何方も、ですか」

「こういう場合って正妻が黒幕です~ってのが多かったりするけど意外に白だったんだよねぇ……」

 

デュノア社の社長にしてシャルロットの父親であるアルベール・デュノア、その正妻であるロゼンタ・デュノア。そしてシャルロットの母親であるシェリラ・デュノア、問題となる愛人としてのシェリラの立場だがロゼンタとは元々アルベールを巡るライバル関係だったらしいが家の事情などもあり彼女が身を引き、その事にロゼンタも深く感謝を感じながらアルベールとの間に生まれたシャルロットの事については容認しているとの事。

 

「だぁけど不幸は起きるもんだよ、ロゼンタが先天性の病気で赤ちゃんを作る事が出来なかった。それまでは単純に仕事の忙しさでする回数の少なさもあったから出来難い体質なんだって思ってたんだって。漸く把握出来た時にはもうシェリアは残念ながら」

 

不幸に不幸は重なっていった。アルベールとロゼンタ自身はシャルロットには自分達には関わらないようにして生きて生けるだけの支援をする筈だったのだが、彼女がアルベールの血を引いている事をアルベールの反対勢力派閥に知られてしまった。そのままにしておけば彼女の身に危険が及ぶとアルベールとロゼンタはシャルロットを引き取る事にしたのだが……派閥に利用されない為にアルベールはシャルロットに辛く、冷たく当たる事しか出来なかった。

 

ロゼンタはそれを上手くフォローしたかったのだが、彼女も彼女で周囲からの目や派閥からの監視染みたものから逃れる事は難しく、心を痛めながらも辛く当たるしかなかった。

 

「……何て不運な」

「全くだよ。そして日に日に反対派閥がシャルロットに対する干渉を強めようとしているから、アルベールとロゼンタはこれ以上娘を危険に合わせたくないってので学園に送る事にしたんだってさ。幸いな事に彼らにはフランスの上層部と学園とのパイプがあったみたいだからね」

 

IS学園の治外法権、各国はIS学園に干渉することは禁止されている条約。それを利用して3年間の間でも彼女を遠ざけてその間に反対派閥を全滅させようと決意を固めた。そして驚きなのはアルベールとロゼンタがシャルロットを男として向かわせるように二人に忠実な信頼できる側近から命令を出した事だった。

 

「いやぁあのお二人さん中々に強かだよ。彼はもうデュノア社諸共深海に沈んでやるつもりだったんだよ、最低でもシャルロットが被害者として立ち回れるように今も必死に動いてる。多分完全に被害者として扱われるだろうね、いや束さんもこれにはビックリ。加えて反対派閥は国の上層部の一部ともべっちゃり癒着している、彼は国へのダメージも厭わない。寧ろそれも復讐にさえなる。いやぁ親の愛ってのは凄いもんだね」

 

デュノア社という全体で見ればメリットこそ皆無、だが二人からすれば大切な娘を守れるためならば会社がどうなろうが国がどうなろうが如何でもいい。正しく愛が成せる覚悟という奴だろう。

 

「これで社長も正妻がクソだったらレイ君に突撃して貰ってデュノア社を灰燼に帰す、が出来たんだけどなぁ……いやぁ此処までの覚悟がある二人にそんな事は出来ないなぁ」

「流石に灰燼に帰すは難しいかと、完全倒壊は可能ですが」

「まあアーマーでビルの柱圧し折るなんて容易いもんね」

 

これで深い所の事情は把握出来た、一先ずシャルロットは親からの愛を得られる事については語っても良いかもしれない。

 

「それでレイ君的にはどうしたいかな、元々束さんはち~ちゃんから話を聞いて調査をしてただけだからね。本当に男性IS操縦者なのかが分かればそれでよかったんだけど、その先はどうしたいかな」

「私としては此処でデュノア社長夫婦に恩を売りつつフランスの弱みを握れば弱みと強みを同時確保出来ます、いざという場合に博士の安全を確保するのに役立つかと」

「ムフフフッ流石レイ君、束さんの護衛を任せてるだけあって良い意見だね。まあその方面で進めても良いんだけどレイ君はどうしたいのかな」

「―――博士、あれを彼女に着せるなど思わないでください」

 

そう言われて向けられた視線の先には一つの形があった。それは極めてミョルニルアーマーに酷似している物だった、全身を包み込むようなアンダーウェア、その上から自らを守る装甲が幾重にも重ねられている。バイザーのようなメット、どう見てもミョルニルアーマーの近縁種とみるのが妥当な代物だった。

 

「私はそのつもりで助けるのではありません、スパルタンとして助けるだけです」

「市民への奉仕……だっけ、そうしたいなら止めないけどさ……そこに君の意志があるのかな、唯スパルタンという存在に縋っているだけにしか見えないよ()は」

「私はスパルタン-S-073です」

 

そう言い切ると彼はそのまま去っていく、途中束はラウラに返しておいてくれと彼女のISを投げ渡しておく。彼女のISの中に仕込まれていた不愉快なシステムなど全て解析した上で再利用不能なレベルなまでに解体して完全抹消してやった、本国のデータ諸共。これで気が済んだと言いたい所だが……

 

「大きなお世話だったかな……」

 

ミョルニルアーマーを模したIS、それは彼が心から同胞を欲してしまった時にその願いを叶える為の物。束の技術力をもってしてもスパルタンを生み出した手術や薬物を再現など出来ない、したくもない。だから出来るのはスパルタンと似たアーマーを作る程度。差し詰めスパルタンⅤとでも言うべき存在を生み出す事が精々。

 

「レイ君、同胞が欲しいっていうのが君の本心の筈。スパルタン云々関係なしにね、ならそれに従うべきだと思うよ……今の君は機械みたいだよ、君は人間なんだから人間らしくすべきだよ」




スパルタン-102 フレデリック(フレッド)

白兵戦のスペシャリスト。特にナイフの扱いに長け、ソード持ちエリート2体と単身で渡り合い勝利した事もある猛者
総合的にも非常に優れたスパルタンであり、教官のチーフ・メンデスからS-2のリーダーとなる素質のある人物の一人として挙げられていた。
チーフからは「本気になればスパルタンの中でも一番になれる男だが、注目を浴びないよう二番手に留まっている」と評される。


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シャルロット、073、AI。

既に日も落ちてしまい夜になった。一夏は気を遣って今日は洗面所で寝ると言ったのだがシャルロットは流石にそれは悪いと止めながら意地悪で襲わないでね、と忠告はした。一夏はそれを受けてそんな趣味ねぇよと言いながら少し不貞腐れるように布団を被るとあっという間に寝息を立ててしまった。そんな彼を見て微笑みながらシャルロットは天井を見つめながら横になった。

 

「(僕は、これから如何するべきなんだろう……大人しく自首するべきなのかな……)」

 

そんな事を思いながらもこの話を預かると言ってくれた073の事を考えると彼の厚意を無駄にするし、既に篠ノ之 束が動いていると仮定するとその邪魔にすらなると思って保留にしておく。そして同時に思わず彼の事が頭をよぎる。

 

「……如何してこんなにも先生の事、考えちゃうんだろう……」

 

一夏には本当に感謝をしている、彼は自分がフランスからやって来たエージェントで彼の機体のデータなどを狙って来ている事は知っている。その筈なのに彼は親身になって助けようしてくれた、女だと分かると配慮などもしてくれるようになり、フォローすることも約束してくれた。

 

「大きかった、なぁあの手……」

 

頭を撫でられる際に触れられた073の手、纏っているアーマーのアンダーの感触は硬くてゴツゴツしていたのに暖かくて心地良くてずっと撫でられたいと思ってしまう程に、名残惜しくなってしまう程に気持ちよかった。打算込み、つまり親切のつもりで助けるのではないとハッキリと言葉にしていたのにも関わらずにあの人の姿が心から消えない。

 

「戦ってる、姿もカッコよかったなぁ……」

 

ラウラとの戦闘を一夏と共に見つめ続けていた、ドイツ軍人が相手なだけに援護が必要かもしれないと思っていたのだがそんな物は必要なかった。構えていたライフルは自然と下がっていき気付けば魅了され、必死にその戦いを目で追い続けてしまった。圧倒的な力だけではなく卓越した技術に凄まじい精神力は恐れる事もなく飛来するワイヤーブレードの間をすり抜けていく。射撃だけではなくブレードでの近接戦闘も途轍もなかった。

 

「……傍に、いたいなぁ……」

 

そんな言葉と共に瞳を閉じる、眠気も大きくなってきたのかボンヤリとした意識に浮かび上がってくる細やかな願いが形になっていく。かの先生の補佐として同じようなアーマーを纏いながらもメットだけを外して笑顔を向けてみる、すると彼は何も言わずに頭を撫でてくれる。そんな光景が突然の事ばかりで揺れていた心、そんな心を思い浮かんだ光景は癒してくれた。そして気付けば身体に籠っていた力も抜けて彼女も寝息を立てていた。

 

 

ラウラへとISを返しに行った後にもう一度束からの呼び出しを受けた073は彼女からある物を渡されようとしていた。それは彼女曰くこれからのIS学園での教官職にも役立ち、技術体系やレベルが違うこの世界での行動の助けになるというものだった。

 

「それで博士、それは一体」

「フッフッフ実は先程ようやく形になったんだよ、それで急遽呼び戻しちゃって悪いね」

「いえ問題ありません」

「それで色々と頑張ってくれてるレイ君へのプレゼント!!」

 

そう言いながら束は手のひらサイズのデータディスクのような物を取り出してそれを機材へと接続した、すると投影型モニターの画面には何やら球体のような物が出現、それは瞳のようなピンク色の光を光らせながら此方を見つめた。それは何やら嬉しそうな音を立てながらも声を上げた。

 

『どうも、私はイグズーベラントウィットネス。お初にお目にかかります、貴方が私のマスターになられるレイ様ですね。博士からお話はお聞きしております、こういう時はこう尋ねるのですよね。問いますね、貴方が私のマスターさんですね』

「博士、これは……」

「フッフッフ……如何やらAI関係は束さんの方が遥かに上を行ってるようだね、やったぜ未来の技術に勝ったぁぁ!!!」

 

と狂喜乱舞する束、束はレイから提供されたデータを基に様々な研究を行っていたがその中で未来の技術に自分が勝っている物も発見した。それはAI技術である。

 

スパルタンが活躍した場では様々なAIが実用化され人間たちの助けになると同時に戦艦の制御なども行って共にコブナントと戦っていた。そんなAI達は人間の神経回路を超伝導ナノ・アセンブリッジによってそのまま複写し製作される。が、これを行う脳神経が著しいダメージを受ける為基本的に死人の脳からしかAIは生み出せない。

 

だが束をそれらを自ら設計したプログラムで構築した物だけで既に作り出していた。それらはISのコアに埋め込まれており、束は各コアにある意識達から情報や調査を行う事も出来る。そんなコア達を束は子供達と見て非常に可愛がっている。

 

「この子はレイ君の補佐の為に一から作った新世代型でね、元々ISに乗せるには情報量が多すぎて保留にしてたんだけどさミョルニルアーマーなら受け入れられる程の容量があるって分かってさ、この子を君に託したいんだよね」

「私に、ですか」

「今も授業とかで大変でしょ、その時に彼女が居たら便利だよ。色んな補佐とか予定の確認とかやってくれるし」

 

ミョルニルアーマーは簡単に言ってしまえば宇宙戦艦並の容量と核融合炉で動くメモリの塊と言っても過言ではない。事実としてマスターチーフは惑星リーチ脱出後にとあるAIをミョルニルアーマーにロードさせ、そのまま数々の戦いを乗り越えている。

 

その提案に073は少しだけ躊躇する、束の厚意は確実に善意の物だろうがミョルニルアーマーにAIを入れる事は彼には少しばかりの不安があった。だがそれを解消するような言葉が掛けられる。

 

「気にしなくても大丈夫だよ、イグには情報漏洩を予防する色んなセーフティを掛けてる。それに彼女自身も君の力になりたいって乗り気だから悪い事はしないよ」

『はい、お話をお聞きした時から是非ともご一緒したいと思っておりました。正直申し上げましてレイ様とこうして対面出来るだけで非常に嬉しく思っております、ああワクワクする♪』

「―――了解しました。博士のご厚意、有難く頂戴いたします」

「うん受け取ってくれたまえ!」

 

この世界で生きていく為には情報は絶対に必要になってくる、自分の足りない部分をAIにカバーして貰えるのは素直に助かる。それに、実は授業中に困ってしまう場面も多くあってその度に持っている知識や情報をフル活用してその危機を脱してきている。それに対する備えも出来るのは非常に助かる。そして束が直々にイグズーべラントをアーマーへと接続する、そしてメット内のHUDに彼女のアイコンが追加され声が聞こえるようになった。

 

『これで私とマスターは一心同体ですね、ああワクワクする♪』

「可笑しな気は起こすなよ」

『はい承知しております、それにしてもお話は聞いておりましたが凄い容量です。私を受け入れてまだ余裕があるなんて、まさかこんなに大きいだなんて……』

「イグちゃんちょっと今のエローい」

「?」




《イグズーベラントウィットネス》

とある星の管理を行うAI。妙に可愛らしい声質を持っており、また要所でどこか子供っぽい言動の影響かモニター独特のウザさが変に萌え要素に思えてくる異常事態を発揮。HALO5の誇る最強ヒロインと推す者が大多数存在する。

なかなかに「良い性格」をしている上に声が可愛く数多のスパルタンのハートを鷲掴みにした。海外のスパルタン達も総じて同様の反応を示している。残念ながら現時点でも声優さんが誰かは不明だが、彼女のキャスティングに関しては満面の笑みとともにサムズアップを送らざるを得ない。

今作では束が開発した新世代型AIとして登場。基本的に相違は無いが何処か箱入り娘のお嬢様的な印象を強く受ける。


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073、千冬、戸惑い。

「あ、あの先生……えっと、その昨日の事なんですが……」

「ああ。対処は此方でしておく事に決まった、そして―――安心していい、お前は愛を受けている」

「えっあのそれって……」

「放課後に話してやる」

 

授業の移動中にシャルルから話をしたそうにされるが此処では話せない内容も多分に含んでいるので放課後にすることを決めておきながら外へと移動していく。

 

『あの方が博士の言っておられたシャルロットさんですね、あれでよく男性と偽っておりますね。バレる前提だとしても最低限度にも程があると思うのですが』

「〈聞いているんだろう、バレていいんだろう〉」

『だとしても凄いと思います、人間は不思議です』

 

メット内から直接脳内に響いてくるかのような声に返答する073の声、それはイグが制御しているのか外に漏れないようになっている。それも彼女なりの気遣い、喋りたいときには遠慮なく喋るようにと。幸い表情は隠れているのだから音さえ漏れなければ幾ら喋っても問題は起きない。それは主人と喋って話を聞きたい彼女としても利がある。

 

「〈それと073だ、マスターはやめろ〉」

『ではレイさんとお呼びしても宜しいでしょうか、外部には漏らしませんし聞かれるかもしれない時には変えますので』

「〈それならいい〉」

 

奇妙な関係になりつつあるが、外に出向く途中もイグズーべラントからの質問は続いていた。スパルタン計画の事も束から情報を提供されており自分のパートナーとして生み出された事を強調するように話してくる。束にも自分が同じ存在を求めている事が筒抜けになっている事に少し気落ちしながらも、話相手が出来たと思っておこうと気持ちを切り替えておくのであった。

 

「今日は以前も行ったIS稼働訓練を行う、今回は一組のみだが基本は同じだと思って貰って構わない。まあ違いがあると言えば……今回は織斑女史が居る程度だ。普段通りに頑張ってくれ」

『全然同じじゃない……!!』

 

生徒らからすれば千冬がいる事によって緊張感がとんでもないレベルになった。何かしらのミスで怒られるのではないか、手を抜く事は絶対に許さないという空気の中で授業が始まってしまうのであった。だが千冬が今回いるのは明確な理由が存在する。それは前回の二組での合同授業でラウラが責任放棄をやらかしたらのでその監視として参加している。のだが―――

 

「そ、その……前回の授業で私は余りにも失礼な事をしてしまった……許して貰えるのならばその、務めさせて貰えないだろうか……」

「え、えっとそれじゃあボーデヴィッヒさんその……私達前回の授業も一緒だったんだけど、最初から教えて貰っても良いかな。まだまだ基本が全然で……」

「分かった、精一杯務めさせて貰おう」

 

その心配も必要なかった。前回の稼働授業とは全く別人と言えるような態度と丁寧だが何処か大胆な教え方、自らが受けた軍での訓練を一部アレンジしたかのような教え方は僅かに厳しさを感じさせるが、一度乗り越えれば乗り越えたという実感が甘さとなってクセになる。それを味わう為に真面目に取り組ませる、その気になればあれだけやれるだけの力は持っていたラウラ。それを見て千冬は肩を竦めながら溜息を吐く。

 

「私が言えた事ではないかもしれんが最初からそのように教えてやれ」

「全くです、お話は良かったのですか」

「じっくりと話を積んだ。些か話過ぎたかもしれんがな」

「その位が良いのでしょう」

 

沈黙、互いの間に言葉が無くなった。

 

「(い、いかん話が続かん……)」

 

千冬としては先日のラウラとセシリアに話していた事を盗聴していた事への負い目があるのか、罪悪感が重さとなって唇を重くなり閉ざしてしまう。

 

『チーフさんにもそのような時代が』

「〈確かターキーとポテトにコーン、デザートにチョコケーキとアイスクリームだった。チーフも当時の事は未だに覚えていた、きっと今も覚えているだろう〉」*1

『私の想像以上にお茶目な方ですね』

 

対する073は生徒らを見つめながら問題もなく順調に進んでいる事に満足感を示しながらも話しかけてくるイグの相手をする事にしている。当然何時でも対応出来るような思考を作りながらの会話、ある種の並列処理(マルチタスク)。狙撃手として銃を握りながら狙いを定めながらも自身の周囲への警戒も全く解かなかった者としては楽な処理なのだろう。

 

『(矢張り過去のお仲間の事になると饒舌になっています、それだけの絆で結ばれているのですね)』

 

イグはイグで会話をしながら073の事への分析と考察を繰り返していた。彼の話は非常に興味深い上に聞いていて飽きる事は無い上に彼の事を知るの上で必要になる。その中で彼が仲間の事ではかなり饒舌になる事が分かった、声色も心なしか弾んでいる。

 

千冬からすると無言のまま、前方を見つめ続けているスパルタン。気まずい空気が流れている中、千冬は意を決しながら深呼吸をして他の生徒に聞こえない程度に小さく、だが相手が聞き取れるように話す。

 

「……済まなかった、愚かな事をしてしまった……私は単純にお前に多くの借りが出来ていた、それを返す為の材料を得たくてな……それと好奇心に負けてしまってあんな事を」

「私は気にしていません」

「―――っ何故だ、私は……」

 

スパルタンⅡ計画を知った千冬としてはそれは信じがたい言葉、あれほど壮絶で他人に聞かせるべきではない話。それを教え子に盗聴器を忍ばせて盗み聞きしたのにも拘らず気にも留めないのは理解出来なかった。

 

「私は自ら一切の素性を語りませんでした、それが原因です」

「あのような過去ならば隠して当然だろうに……」

「その行いが織斑女史の好奇心を不要に刺激しました、申し訳ありませんでした」

「……謝罪すべきは私だ、お前が謝る事など無いのだ……」

「ならばこれで終わりにしましょう」

 

そう言い切るともう生徒からアドバイスが欲しいと言われるまで口を開ける事は無かった。そちらへと向かって行く姿を見送りながら千冬は彼がそう言うならともうそれ以上言うのをやめたのだが、束に相談して彼の力になる事を決意する。

 

「(あの精神も計画によって模られた物なのだろうか……本当の彼は何処にあるのだろうな)」

 

073は未だにスパルタンである事に徹する。彼にはもうそれしかないのかもしれないと察する事は出来るがそれは同時に彼の内面の状況をよく表している事にもなっていた。その事から読み取れる彼の内面、言葉に出来ない程にぐちゃぐちゃになっているであろうそれを支えたいと思いながら自分に何が出来るのかを冷静に判断する所から始める事にした千冬であった。

*1
計画参加直後の117(ジョン)はチームワークが苦手で、仲間を無視して単独行動をとって夕食抜きにされた事があり、その時の事を後年まで覚えていた




HALOユニバースにおけるAI

HALO世界における人類が生み出すAIは、人間の神経回路を超伝導ナノ・アセンブリッジによってそのまま複写することによって製作される。これにより元になった神経組織は重篤なダメージを負うため基本的にAIは死者の脳からしか作れない。が、中にはクローンを使う事でAIを作り出した、という事例も存在している。

そうして生まれたAIはメモリ・マトリックスの制限によって「賢い(Smart)」AIと「馬鹿な(Dumb)」AIの二つに分けられる。「馬鹿な」AIも人間とは比べ物にならない圧倒的な処理能力を持つがメモリ・マトリックスに制限がかけられているため「想像力」に欠ける。
「賢い」AIはその制限が無いためその知性はどこまでも成長するが、やがては「考え過ぎる」ようになって機能に異常をきたし、発狂へと至る。
このAIの「寿命」はおおよそ7年とされその活動期間を過ぎたAIは処分されるが、中には異常をきたしながらも7年以上稼働を続けるAIも存在する。


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073、トーナメント、シャルロット。

放課後、073としては日課に近くなってきた訓練への付き添い。今現在一夏は鈴と箒、そして軟化したラウラに近接戦を見て貰っている。

 

『その、織斑……申し訳なかった……私が愚かだった。良ければ私の謝罪を受け入れて貰えないだろうか……許してくれとは言わない、ただ私の想いがそのような方向にあるというだけを理解して欲しい』

『いやいいさ、スパル先生が俺の分までやったくれたしもう何も思ってないぜ。自分で悪いと思って謝罪して貰えれば満足だ。んじゃ詫び代わりに俺に色々教えてくれよ』

『―――っ……あ、ああ任せてくれ。但し私のはドイツ軍仕込みだ、キツいぞ』

『スパル先生のもきついから大丈夫だろ』

 

最初こそ戸惑いがあったようだが一夏はラウラと打ち解けあう事が出来たらしく、鈴や箒と交代交代で打ち合いをし続けている。本人も一夏の技量には驚きを隠せず、徐々に本気を出していった。そして073に止められずに戦っていたと仮定した場合、あの場にシャルルもいたので負けていたのは自分である可能性が高い事を知って自分の浅はかに遠い目をするのであった。

 

「オルコット、射撃の感覚をコンマ5遅らせてみろ」

「はい」

 

其方を二人に任せながらも催促を受けたので彼はセシリア、そしてシャルルの射撃訓練の方を担当する事になった。代表候補生である彼女の射撃技術は純粋な経験を積んでいく事が最大の訓練になるので下手な指導は必要ない筈だが、余りにも熱いアプローチをかけてくるので根負けする形で見る事になった。細かく素早く動き続ける標的への狙撃訓練、だが彼女は上手く捉えられない。そんな彼女が構えるライフルへそっと手をやる。

 

「せ、先生!?」

「偏差射撃は見事だ、相手の機動計算にも淀みは無いが機械的に考えすぎだ。考えるのではなく感じ取った物へ直接打ち込めばいい」

 

彼女のライフルを導くかのように即座に向ける、そして柔らかく細い指越しにトリガーを引いてやる。撃ちだされた弾丸は人型のターゲットの頭部の中心部を完璧に貫いた。唖然とする、あの動きは幾つかの想定機動パターンとして計算していたが一瞬でそれを導き出して放った事が驚きだった。

 

「計算は淀みがない、だがたった一つの計算の誤差が答えを変えてしまう。計算は参考、答えは感覚」

「私にはまだまだ届き得ない境地ですわ……」

 

狙撃の境地の一端、それを覗いてしまい気落ちする。セシリアは何方かと言えばマニュアル通りに学んで伸びていくタイプ、所謂感覚的に物事を教える事は苦手且つ体感して得るにしても、得た物を結局計算してしまうので感覚を得る事が中々出来ない。

 

「気にすることなどない、千里の道も一歩よりだったか……小さな物事の積み重ねこそが未来への近道だ。今は実感がなくても繰り返していく事、そして偶に振り返る。そうすれば積み重ねた一歩の大切さがわかる」

「―――はい。そ、そのでしたらこれからもご指導ご鞭撻をお願いします!!」

「私などいなくても君は一人で歩けると思うが」

「いえ、狙撃のお手本となるべき先生がいらっしゃるのです。是非ともこれからも見て頂きたいですわ!!」

 

『あらあら、好かれておりますね』

「〈やれやれだがな〉」

 

言いたい事も分かるので何とも否定し難い。しょうがないので次の課題を出しておくことにしておく。そんな二人の姿を見る鈴は改めて一夏を短期間であれだけの強さに仕上げた073の手腕に驚きを隠せなかった。単純に強いだけではなくその強さを裏付ける経験の説得力は凄まじい。柔らかだか力強い物言いは努力の実感を信じさせるには効果的。そんなこんなで彼が付ける訓練もアリーナの使用時間が迫ったので終わる事になった。

 

「さて、間もなく学年別トーナメントが行われる事になる。それに対する備えは各人忘れないように」

 

IS学園の上半期に行われる、文字通り学年別のIS対決トーナメント戦。1学年が120人前後なので期間は1週間かけて行い、生徒は全員強制参加が義務付けられている一大イベント。1年は潜在的な能力評価に遣われるのだが2年や3年は自らの将来に関わる事になるので必死に取り組む。此処でいい成績を出せればIS関連企業からのスカウトや各国の重鎮などに顔を売る事が出来るからである。

 

「おっと一つ忘れていたな……例年では個人で行われるが、戦闘経験を積ませる目的でツーマンセルのタッグ戦に形式変更になったそうだ」

「げぇっマジですか先生!?」

「大マジだ」

「マァジィ……俺タッグ戦の経験とか皆無だぜ……」

 

と今まで完全な個人プレイしか経験のない一夏が嘆きを上げた。基本的にワンツーマンでの戦闘が多かったしタッグの場合は人数の問題もあって出来ずにいた。単独戦闘(ローンドッグ)経験しかない一夏にとっての二機連携戦闘(ツインドッグ)は中々に厳しい物になる事は確実だろう。

 

「そこを教えてやりたい……と言ってもこれは組む相手を決めてからでないと厳しいだろうな。集団戦闘の場合は単独戦闘とは大きく異なる、ボーデヴィッヒは分かるだろうが考える事が数倍に膨れ上がる」

「うへぇっ……」

 

それを聞いて思わず一夏が嫌そうな声を上げる。今だって漸く射撃と近接の切り替えに慣れ始めている頃、そこに新しく連携戦闘の思考を付け加えるのは今の一夏では確実にキャパシティオーバー。

 

「その辺りはお前ら自身で組むパートナーを見定めると良いだろう、候補者は幾らでもいるだろうからな」

「うへぇっ……如何したら良いんだよぉ……」

「一夏私と組まんか」「アタシが組んであげるわよ一夏」

「「……」」

 

と困惑の声を上げる一夏に全く同時に声が掛かった、その主は当然箒と鈴であった。それを見て始まったと言わんばかりにその他のメンバーは距離を取った。

 

「シエラ先生是非私と」

「ならば後衛は任せた……私は生徒ではないから無理だ」

「実に、実に残念です……」

「分かって言ったのではないかオルコット……?」

「組みたいのは事実ですわ……」

 

と心底残念そうな声を上げるセシリアにシャルルは思わずむっとした表情を作ってしまった、訓練の時から思っていたが妙に彼女は073に馴れ馴れしく積極的過ぎる。一体何様のつもりなんだと言わんばかりに不機嫌そうな顔になるが直ぐにそれを切り替えながらも無意識に悪い顔になって言う。

 

「あの先生、この後お時間ありますよね。ちょっと相談したい事が……そのえっと」

「ああ分かっている、あの件だな。時間は取ってある」

「デュノアさん、貴方シエラ先生と何をなさるおつもりで?」

「それはプライベートにも関わるから言えないね、まあそんな怖い顔しなくてもいいんじゃないの」

「むぅぅぅっ……!!」

 

明確な挑発行為に少しばかりの苛立ちを見せてしまう彼女を諫めながらも時間が迫っているから解散を強めに言葉にして強引に終了させる。結局一夏は誰と組むのか決まらずに箒と鈴の両サイドからどっちを選ぶの!?と迫れて助けを求めるが、シャルルは073に首ったけ、そして肝心の073はハンドサインで気持ちを伝えた。それは一夏が軍で使っているサインなどがあったら教えて欲しいと言われた時に教えた簡単なサインでその内容は

 

『健闘を祈る』

 

である。スパルタンは引き際を間違えない、見事な戦場分析の下で撤退していく彼に恨めし気な瞳で見つめるが兎に角箒と鈴の追及から逃れる為にシャワーを浴びたいからと言って強引に逃げ出した。

 

「そ、それじゃあお父さんやロゼンタさんは……」

「君を愛している、今もお二人は必死に君を守ろうと努力している。だがもう問題は無いだろう、既に手は打たれた」

 

応接室へと移動した二人はそこでデュノア社に関する問題をシャルロットへと伝える、今現在も敵対派閥との戦いを行っている社長夫妻だが既に束が行動を起こしている。独自の情報網によってフランス政府や派閥の汚職や横領データなどを大量に入手、言う事を聞かないとこれらを今すぐ全世界へ公開するという圧力を政府へ掛けた。

 

フランス政府はそれを恐れ、即座に対応を開始したらしい。今現在敵対派閥は適当な罪状で秘密裏にしょっ引かれている。あと数日もすればデュノア社内のゴタゴタは完全に鎮静化し、再びアルベール主導で問題なく会社は運営されていく事だろう。

 

「それじゃあ僕は……もう……」

「君は間もなく自由になる、それから君が如何したいかは君自身で決めるといい」

 

あの時のように優しく頭を撫でながら073は目線を合わせるように膝を突きながら優しく囁く。

 

「本国に戻って両親と暮らすという事も出来る、もう君は自由だ。何物にも縛られずに未来を決めていい。シャルロット・デュノア、その道は君の意志で決めると良い」

 

そして073は立ち上がって応接室を出た、出る最中に後ろから涙を流しながら声が聞こえたが何も聞こえない振りをしながら応接室の扉に使用中の文字を置いて置いた。

 

『お優しいのですね』

「〈彼女は我慢した、泣いていいんだ〉」




AIのパーソナリティ

物理的肉体を持たないAIは自分の姿形などはすべて自分自身で決定する。よって外見=性格であると考えてまず間違いない。北欧のプリンセスの姿をした「シフ」、マカロニ・ウェスタン風の伊達男「マック」、半裸のインディアン戦士「エンドレス・サマー」、古き良き時代の飛行機乗りの姿をした「ローランド」、チーフ達の教官の一人であったギリシャ女神風の「デジャ」などなど、多くの個性的なAIが登場している。

ハルゼイ博士曰く、ONIのAIは大抵強烈で芝居じみた容姿をしているとの事。


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073、トーナメント、噂。

教官という立場にある073だが彼は正式な教員ではない為学年別トーナメントの運営には一切かかわっていない。基本的に無干渉であり警備巡回をし続けるだけ、寧ろトーナメントという場には学園外より人が来るのでより警備の力を入れるべき。なのだが学園の中では既に当たり前の光景となっているが、外からすれば篠ノ之 束が遣わせた人間である為に何かしらの接触を図ってくる事も予想される。故に余計なトラブルを生むのではと考え、当日の警備は此方で請け負うべきでは、という話も出ている。

 

彼としては警備をしても構わないのだが、その最終判断はそちらに任せながら束の護衛に警備、そして教官職を普段通りにこなしていくだけであった。そしてそんな日常の中にも変化は少なからずあった。例えば……

 

「シャルロット・デュノアです、訳あって男性として入学する羽目になってましたが本当は女の子でした。改めてお願いしますね」

「という訳でシャルルではなかったという訳だ、文句はフランス政府に言うように」

『えええええッッ!!?』

 

まず、シャルロットは名実ともに自由になった。彼女は073との対話の後に本社と連絡を取って社長夫妻と対話をする事が出来た。そこで彼女は本国に戻ってISとは全く縁のない生活を送る事も出来るという選択肢を与えられたのだがそれを拒否して学園に居たいという思いを吐露した。そして彼女は社長夫妻の許可も得てシャルロット・デュノアとしての再入学をする事になった、まあそのせいで千冬たち教員がまた苦労を抱える事になったのだが……。様々な反応の中でもシャルロットは思いのほか好意的に受け止められたのか、あまり変化なく学園生活を送れるようになった……のだが

 

「シャルロットさん、貴方シエラ先生に近すぎではなくて。先生はこれから私とのお時間なのですが?」

「僕だって先生との時間を楽しみにしてたんだけど、そこへそっちが無理矢理予定をねじ込んできたんだから遠慮するべきじゃないかな、英国淑女ってこうも強引なの?」

「「……」」

 

あれからシャルロットとして生きられるようになった彼女は生き生きするようになったのだがその反動に自由に生きる!と言わんばかりに073へと猛烈なアプローチを掛けるようになった。警備巡回中に出会えば抱き付く、上目遣い&涙で同行許可を強請る、訓練に参加したがるようになっている。セシリアほどではないが彼女の場合は妙にあざとい、自分の武器をよく理解している女といった印象を受ける感じである。

 

「あ、あの先生……大丈夫っすか?」

「お前に言われたくはない、タッグの相手は篠ノ之か凰の何方か決めたのか」

「いえ全く……」

 

と一夏に僅かながら心配されるのだが、073的には一夏の板挟みの方が気になる。箒と鈴の相性はあまり良くなく一夏を巡って口論に加え、時たまISでの戦いにまで発展している。箒も箒で一夏と共にスパルタン仕込みの訓練に参加していたので一夏ほどではないが実力が大きく向上しているので鈴に喰らい付く事は出来るようになっている。がそれが逆に勝負が付かなくなったりする原因にもなって争いは更に過熱したりもしてしまっている。

 

「二人とも落ち着け、何故そこまで争うのか……」

「「女のプライドです」」

「……」

 

と言われて下手に仲裁する事を諦めた。女は時として魔物になるのだ、それはスパルタンも変わらなかった。いやスパルタンだからこそより凶悪な大魔王として顕現する事があった。それを垣間見た時、近くに居た他のスパルタンと共にこういう時は不干渉が一番だと頷き合ったのが良い思い出だったりする。

 

「そっそうだ先生、ちょっとお願いって言うかそんな感じの事があるんですけど!!」

「妙にふわふわした表現だな」

 

そんなトーナメントも迫ってきている中の事、一夏のパートナー問題は全く解決していなかった……のだがそこでラウラが助け舟を出して彼女と一夏が組む事に決定した。箒と鈴は予想外過ぎる展開に噛みつくのだが、それを073が止める中、一夏が強引に話の流れを変えようと何かを切り出した。

 

「俺がトーナメントでいい成績だしたら一個お願い聞いて貰っていいですか?」

「何だそのお願いというのは、内容によるが」

「先生の素顔が見てぇっす!!」

 

その時、一同に電流走る。スパルタン-S-073の素顔、それは今現在IS学園で最も知りたい七不思議の一つとして扱われている。何故ならば彼はアーマーを脱いだ姿が目撃された事もなく、食事時にも姿を現さない。故に常にメットを被ったままなのでその素顔を誰も知る由も無かったのである。天啓を得たりと言わんばかりに放ったそれに一夏は活路を見出したのだろう。

 

肝心の073としてはどうするべきかと思った、彼もイグから

 

『いい成績を出せばご褒美を出すと言えば事態が収束するのでは?』

 

という意見もあったので一応検討はしていたのだが……まさか自分の素顔を要求されるとは思わなかった。この世界に自らの戸籍も無ければ親族の戸籍も無い。故に軍事機密に当たるスパルタンの素顔はある意味見せたとしてもそれほど問題にはならないのかもしれない、スパルタン計画の概要を話すよりはマシなのでは、とイグからも言われる。そして一同的にもそれは酷く気になっている事だった。

 

「……まあ考えてやってもいいが、随分と下らん事を知りたがるな」

「いやいや、スパル先生学園内でどんだけ先生の素顔がどうなってるのか知りたがってる人がいるのか分からないからそれ言えるんですよ」

「その通りですわ、女子たちの間ではシエラ先生のご尊顔を拝見したいという声は酷く多いのです!!」

「うん、僕も見たい!!みんなの間じゃ先生の素顔の事で一晩潰せるぐらいには話題性あるもん!」

「わ、私も興味がある……!!」

「アタシも!!」

「わ、私もだ……」

 

とスパルタン計画の事を話したセシリアやラウラもそれは同じだった模様。随分と乗り気だったので取り合えず前向きに検討しておく、とだけ返答するのだが一同は大喜びだった。これは本気で素顔を出さなければいけないな……と思いながら警備巡回をするのであった。がそれは後日思わぬ方向にぶっ飛び始めた。

 

「お、おいなんかすげぇ事になってねぇか……?」

「どうしてこうなったんだ……」

「確実にシエラ先生はご存じではないでしょうし、まずいですわ……」

「いやいや……だからってなんでそうなるのよ」

「何処かで聞き耳立てられてたのかな……」

「私達が責任を取るしかないのでは……」

 

なんと何処かで素顔云々の話が漏れていたのか、それが1年生の間で大流行してしまった。そしてそれは流れていく内に変質してしまい―――最終的に『学年別トーナメントで優勝すればスパル先生か織斑 一夏と付き合える』という事になっていた。一体どうやったらそう成るのだろうかと一夏は思いながら、迂闊な発言をした自分を呪うのであった。




スパルタンの肉体

参考としてマスターチーフ、S-117を上げる。彼の身長はアーマー込みで218cm。
これは強化手術のみならず異常なまでの戦闘訓練生活の影響も大きいようで、強化手術当時14歳のジョンは「18歳のオリンピック選手に見える」ほどだったという。

そして彼らは生身でも凄まじい身体能力を持っている。過去にS-117は揉め事のケジメとしてODSTとボクシングを行う事になったのだが対戦相手を殺害してしまう程だった。


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タッグペア、073、対IS。

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……幻覚だな。

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……はい?

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……なんでぇ!?何なのこの急激な伸び方!!?なんだ、何が起きているのだ!!?
そうか、そんなにHALOファンが居たという事だな!!流石スパルタン、人類の英雄だな!!

―――割とマジでなんで伸びたの。


「ねえセシリア、此処は共同戦線と行かないかな。見ず知らずの奴に先生を取られたら嫌だよね」

「致し方ありませんわね、今回だけは共同戦線と参りましょう。ですが―――」

「分かってる、トーナメントの後は―――敵同士」

「「だけどは今は味方同士、それでいい!!」」

 

とがっちりと手を取り合って固い握手にて締結された同盟。一夏の発言が種火となって、いつの間にか学年全体を熱狂させるような大火となってしまった。純粋な好奇心は時として大きな事件を生み出しかねないと一夏は学びつつ本気でこの事を悔いており、ラウラと共にガチで連携戦闘訓練を開始している。

 

「此処で横、それから後ろぉ!!」

「だがまだまだ反応が遅い!!あと1.6秒短縮を目指せ!!」

「おうよ少佐殿!!先生に鍛えられた俺なら絶対に行けるはずだ!!」

 

と中々にメンタル面も相応に鍛えられている一夏は厳しめな訓練を作ったラウラもビックリなレベルで適応して平気な顔をしてメニューをこなしている。このメニューは嘗て千冬が教官時に使用した物を一部アレンジした物。元の訓練は余りに過酷で職業軍人であったら彼女らが夕食が中々喉を通らなかったほど、流石にそこまでではないが……軍事訓練もした事が無い一般人が挑んだら確実に吐いたりダウンする筈の物を平気な顔してこなすさまを見てラウラは唖然となったが、直ぐに納得した表情を浮かべた。

 

「いや可笑しいと思う私が可笑しかったのか、織斑先生の弟である一夏が出来ない訳もないのか」

 

「―――いま妙な納得をされた気が……」

「きっと正当な評価ですよ」

「おい真耶どういう意味だ」

 

ハッキリ言って一夏は遺伝子レベルで優れており、スパルタンⅡ計画で判断してもクリア基準を満たしその対象になりえる。そんな彼がスパルタンⅡである073によって当時の訓練の再構成を行った物を乗り越えた結果が今なのである。ミョルニルアーマーさえ纏えば彼は立派なスパルタンになる事だろう。

 

「くっ一夏めラウラとあんなに仲良さそうに……!!」

「ちょっと箒アンタ前に出過ぎよ!!」

「お前こそ邪魔だ!!お前は中距離だと言っていただろう!!!」

「だからあんた出過ぎなのよ!!衝撃砲で援護が出来ないレベルで接近しろって誰が言ったのよ!?」

 

セシリアとシャルは同じ男への恋への道を進む為に積極的に協力し、中遠距離での戦いを中心にした連携を。一夏とラウラは一夏は近距離をメインにしつつも咄嗟の射撃による後退戦術と同時にラウラと前と後ろを切り替えながら戦う戦法を確立させていく中、箒と鈴は元々そこまで相性が良くないのか上手くいっていない。互いがそもそも恋の鞘当てをしている上に今回は優勝して一夏に告白して他から守ろう、という意志が互いから滲み出ているので不和の元になっている。

 

「レイ君、いっ君たちのコーチしなくていいの?」

「織斑女史より止められました、トーナメントの肝であるタッグ。その指導は不公平になりえると」

「ち~ちゃんらしいな」

 

千冬からの要請でタッグトーナメントが近い間は彼らには連携訓練に専念してもらう為にコーチングは中止される運びとなった。故に本来の任務である束の護衛へと戻った、彼女は何時もと同じように何かの開発に注力している。それは自分が使用していた武器の再現ではないように見える。

 

「まあ束さんとしてはいっ君たちがそれでいいなら別にいいけど……イグとは喧嘩してない?」

「いえ全く。彼女にはそれなりに助けられています」

『そう言って頂けて光栄です、私は様々なお話をお聞き出来て非常に興味深いです』

 

と満足げな声を漏らすイグに束は少しだけ羨ましさを持った、彼女とて情報ではなく話としてそれを聞いて見たい。ただ見るのと話しをされるのでは大きな違いがある。自分もこの研究にひと段落が見えてきたらそちらの話に加えて貰いたいものだ。

 

「ねぇっレイ君の世界の武器だとビーム兵器ってなかったの?」

「いえ、コブナントはプラズマなどが主でした。スパルタンレーザーというものは存在しましたが、それ以外は聞きません」

「それじゃあレイ君もこれは初めてかな、束さん製の携行型のビーム兵器だよ」

 

そう言いながら束はある物を投げ渡してきた、それは無数のパーツから構築されている塊のような物。それを受け取ると塊は無数のパーツに分裂、直後に073が手にした部分が持ち手となりそれを中心に組み合わさって一つの銃を構築した。

 

「博士、これは……」

「ムフフン凄いでしょ、束さんの自信作だよ。ISには経験と共にフラグメントパターンを構築するんだよ、それは搭乗者の遺伝子なんかも材料にして作るんだけど今回はそれを応用して、使用者の遺伝子を読み取って最適な形になるような武器を作ってみましたぁ!!」

 

つまり、束が新開発した武器に決まった形などは無い。保持者のDNAを解析し、最もふさわしい形状を自動的に判断し姿を変質させる。極論犬だろうが鳥だろうがこの銃を使う事は出来る事になる。と言っても流石にISを介してではないとまだ不可能らしいが、今回はミョルニルアーマーに接続されているモジュールを経由しているとの事。

 

「と、この実際豊満なお胸を張って言ったはいいけど実際は完全なビーム兵器じゃなくて実弾をビームコーティングしてぶっ放してるだけなんだけどね、それでもレーザーライフルなんかよりはずっと威力も貫通性もあるよ。質量も重さもあるし。でもまだまだマジモンのビームライフルを撃てるだけのエネルギーパックの開発が終わってないからコーティングで我慢してね」

「いえ、これは……十分過ぎますね」

 

トリガーの位置に構える時に身体に当たるパーツの形状にスコープの位置、全てがその人物の為だけに製造されたオーダーメイド。規格化された銃ならば自分で合わせるが、これは合わせる必要すらないのである。それだけでとんでもない技術力である。束は所々で元居た世界の技術力を飛び越えてしまっている、末恐ろしい人だと思い知らされる。

 

「んでレイ君、今回それを渡したのはね―――なんだか最近ISを世界中で狙ってる不届き者がいるんだよ」

「……成程、それに対する備えという訳ですね」

「そう、前にいっ君がライフルの弾丸に零落白夜使えたら凄いよなぁ、的な事を言っててそれをヒントに開発してみたんだよ。だからそれは対IS戦闘前提型ライフルって所」

「承知しました、いざという時はお任せください」

「うん、信じてるよ」

 

僅かながら揺れ始めている世界、その渦の中にスパルタンは少しずつ引き込まれつつあった。彼が戦っていた戦場は無くなったが新たな戦場が出現しようとしていた。スパルタンが戦場を必要とするのではない、彼らが望むのは平和。それを望む彼らを戦いは欲する、戦場がスパルタンを必要としているのだ。




アサルトビームライフル 正式名称:対IS戦闘前提型BC(ビームコーティング)自動小銃

MA5B アサルトライフルを原型にして束が様々な技術を盛り込んで開発した対IS戦闘ライフル。一夏の「零落白夜を銃でも使えないか」という言葉からヒントを得て、7.62mmNATO弾をビームコーティングして威力などを高めてISに大きなダメージを与えられる。
そして束の好みなのか、兎に角弾薬をばらまく事を念頭にしているのか発射レートが凄まじく速い。

そして一番の特徴は使用者のDNAを解析し最も相応しい形状を自動的に形成する事。ISの遺伝子とも言えるフラグメントパターン構築時に搭乗者のDNAも読み取って構築する技術を応用して作られている。が、まだ研究途中故か、IS経由でないと解析が出来ないので実質的にISやIS機能モジュールをアーマーに外付けしている073しか使う事が出来ない。


尚、これらの技術はHALOでもフォアランナー側の武装の特徴として登場する。手に取ると宙に浮いた部品が勝手に組み立てられる光景は正しくSFである。とてもカッコいい。見よう。


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トーナメント、073、開始。

学年別トーナメント当日。この日、IS学園には各国からやってきた来賓などで賑わっていた。各国政府関係者、研究所員、企業のエージェント、その他諸々の顔ぶれが学園に会している。そこに足を運ぶ目的はそれぞれ違うだろうが大部分共通している物もある。それは3年生のスカウトそして―――世界で唯一ISを稼働させてしまった織斑 一夏を自身の目で確かめたいというもの。シャルはこの事で若干緊張していたが、既に彼女の事は処理されているので問題は特に起きなかったので胸を撫で下ろしていた。そしてその一方……

 

「手続きが御済の方はお早くお進みください」

「是非ともお話を」

お進みください

「あの、せめて……」

お進みください

『は、はい……』

 

篠ノ之 束によって直接送り込まれ、彼女が直々に製作したというIS技術を応用して作られたというアーマーを纏う男、スパルタン-S-073の存在もあった。本来彼は出張るつもりはなかったのだが日を増して行く毎に対応するべき事柄や仕様の変更に予定変更のオンパレードが今年に限って発生してしまった。原因は間違いなく一夏と073なのだが千冬は自分達で処理しなければと努力したのだが……警備に割ける人員が極端に減りかねない程の人数が学園に殺到する事になった。

 

『了解しました、では私が各国の方々の出迎えなどを担当いたします』

『済まない、済まない……情けない教師で済まない……済まない……』

『ごめんなさいごめんなさい……普段から頼りっぱなしな上にこんな時にまで頼ってしまう駄目な先生申し訳ありません……』

 

千冬と真耶は申し訳なさMAXで依頼を出したのだが当の本人は全く気にする事もなく引き受けた。同時に懸念された彼へと殺到する人々もあったのだが……警備という名目で握られたアサルトライフル、そして彼へ何とかアクションを取ろうとする者へは本人から発せられるオーラがそれらを削ぎ落す。073の背後には篠ノ之 束がいる、なんとかコネクションを築きたいと思っても不興を買えばどんな不利益を被るか想像もつかないので強く出られなかった。073を上手く活用した結果、来場人数が過去最高なのに受付や受入は過去最短で終了したという。

 

「おい君は勝てるかね……」

「死んでもごめんです絶対に喧嘩売るなんて無理無理カタツムリです。大臣は私に太陽の中に突撃しろっていうんですか?」

 

「―――正直、彼の前を無事に通れただけで一生分の運を使い切った気分です……」

「うん素直に諦めよう」

 

数々の戦場で磨かれた威圧感と闘気が有効的に活用された瞬間であった。そして問題なく受入が終わると即座に次の仕事であるISの整備パーツや設備の予備部品などの搬入作業を開始していく。1週間かけて行われるトーナメント、生徒が全員参加するこの催しでは破損などは次の試合を直ぐに行えるようにすべてパーツ交換などで済ませられる。それらを行う設備の損耗も激しくなるので同時にそちらのパーツも同時に受け入れる。

 

「織斑女史よりお話をお聞きしました、お手伝いします」

「あっスパルさん、助かります!!それじゃあどんどんお願いしても良いですか!?」

「了解しました」

「ああいや専用重機がないと……」

『嘘ぉっ!!?』

 

と彼の事を全く知らない各国の人々は軽々とコンテナを持ち上げて運んでいくその姿に驚愕し、直ぐに戻ってきてまた運んでいく姿に愕然とした。

 

「助かりました、普通なら3時間は掛かっちゃう作業がもうあっという間でしたね!!」

「では私はこれで」

『如何なってるんだあのアーマー……』

 

 

『一言で申しますと核融合炉で動くアーマーですね』

「〈いきなり何を言ってる?〉」

 

 

「織斑女史、任務完了の報告にきました」

「何もう終わったのか!?」

 

と教員室へと顔を出しに来た073に思わず驚きの声をぶつけてしまう、千冬は千冬はまだまだやる事があるのでギリギリまで教員室で作業を行ってその後にアリーナに出向く事にしている。

 

「スパルさんどれだけ凄いんですか!?各国の皆さんに言い寄られたりしなかったんですか!?」

「されました、皆さんそれ程までに愚かではありませんでした」

「ははっそれもそうか、私達が余計な心配を回し過ぎてしまったという事だな真耶」

「そうですよね、だって皆さんいい男ですし政治家とか企業の重鎮とかが子供みたいに執着するなんてありえないですもんね!!余計なお願いしちゃったかもしれませんね」

 

知らぬが仏とはよく言ったもんである。因みにアサルトライフルについては学園長から確り携行許可を貰っている、例え学園長にクレームを言ったとしても学園側としては彼は篠ノ之 束サイドの人間であり此方から絶対的な命令は意味を成さないという名目もある。なので向こうは泣き寝入りするしかないのだある。

 

「他にする事はありますか」

「いやあとは此方で何とか出来るさ、学園としても束側であるお前に頼り切るというのは対面的にもまずいからなぁ……」

「出来るならまだまだお願いしたい物とかあるんですけどね……」

「では私はこれにて、何かあればご遠慮なく」

「ああ、その時が来たら遠慮せずに頼むとしよう」

 

そのまま教員室を立ち去る彼はそのまま歩き始めて、束の元へと戻ろうとするのだが……途中で思わずその足を止めてしまった。近くの窓から遠くの空を見上げてみるとそこには雲一つない晴天が広がっている。本当に良い天気、この大空の下で最初に戦うのは誰だっただろうか、とトーナメント表を見て見ると……そこにあったのは

 

織斑 一夏&ラウラ・ボーデヴィッヒ VS 篠ノ之 箒&凰 鈴音

 

という組み合わせだった。奇しくもある意味自分が訓練を見た者だった、彼らの激突は見たい気もするがそれよりも警備巡回を優先する。そして巡回を進めていく内に始まる時間帯になっていた。073は心の中で応援をすると再び巡回へと戻るのであった。




人類がコブナントと役30年も戦争を続けられた理由。

コブナントが人類への戦争を仕掛けたのはコブナントの最高権力者らが、自分達が信仰する神、フォアランナーが人類を後継者として定めた事を知り、自らの権力を崩される事への焦りが原因。そして人類が様々な星へと生活圏を広げているのも知らないまま、人類を根絶やしにする戦争を始めてしまった為。

そして人類はコブナントの攻撃を受け続けながらも母星である地球を徹底的に隠蔽している。全人類の艦船に対しコヴナント軍に地球の位置を知らせてはならないこと、船が拿捕される可能性が高い場合自爆すること、船が拿捕されそうな場合AIを破壊ないし除去することなどが決められた条約によって人類の母星に関して徹底的な隠蔽が成され、戦争が30年以上も続く事になった。

その中にはスパルタンらが直接情報の隠蔽に動いた作戦も多数含まれている。


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学年別トーナメント、一夏&ラウラ、箒&鈴

注目の学年別トーナメント、一年生の部。その第一回戦、織斑 一夏&ラウラ・ボーデヴィッヒ VS 篠ノ之 箒&凰 鈴音、注目の対戦カードとなった対決に多くの人が視線を向けていた。そんな中で見せ付けられた一夏とラウラの戦い様は各国のIS関係者や重鎮らが驚く程の物だった。

 

「いくぜ少佐殿!!」

「ああやってくれ!」

「一球入魂、イッツァパァァアリィィィ!!」

 

一夏とラウラの連携戦闘の基本は互いが入れ替わりながらの戦術が主軸、一夏自身が連携に不慣れな事も考慮しそれらと射撃と近接の経験も積む為の物であった。だが073に鍛えられている故か既にラウラから見ても高い実力を身に着けているからか、更にラウラの教えもスポンジに水を吸い込ませるかのようにどんどん吸収していく。そして咄嗟のアドリブにも長けている。それは相手が想定している定石、行動パターン、ペースを崩すには十分な効力を示す。

 

前衛と後衛の交代、だがその時一夏は思いっきり後方へと下がった。下がり過ぎなのではと言う勢いで、逆にラウラは凄まじい勢いで突貫していく。それにカウンターを仕掛けるべき箒は"打鉄"のブレードを構え抜刀術の構えを取るのだが、彼女はブレードの射程範囲に入る寸前に一気に後退した。しかもそれは"瞬時加速"の後方移動版、"後方瞬時加速(バック・イグニッション・ブースト)"。その勢いのまま一夏の元まで迫るが態勢を変え、一夏が構えていた雪片に乗るようにすると、一夏は最大出力でスラスターを吹かしながらパワーアシストも全開にしてラウラをミサイルの如く撃ちだしたのである。

 

「あんですてぇぇ!?」

「無茶苦茶すぎるぞ!?」

 

加えて"瞬時加速"をも組み合わせる事で瞬間的な速度は高等技術である"個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)"にも匹敵する程だった。その勢いのまま迫るラウラの目標は鈴よりもずっと実力の劣る箒、突撃しながら箒へとラリアットを加えながら全力でそれを振り抜き、彼女を壁へと激突させるとそのまま飛び膝蹴りを叩きこんだのである。

 

「がはぁ……!!」

「ちょっ箒ぃ!?」

 

『篠ノ之 箒、SEエンプティ』

 

「嘘でしょ、まだ結構SEあった筈なのに今の連撃で削り斬ったって訳なの!?」

 

「全くよくもまあこんな奇想天外な作戦を思いつくな、お前には常識がないのか」

「失礼ながら転入直後の少佐殿ほどではないと思われます、マム!!」

「ウグッ……そ、それは言わない約束だろう……」

 

驚きの視線を向けられる中で一夏の元まで後退したラウラと一夏が何やら寸劇染みた事をしつつもこちらを警戒している。向こうとしては完全に対面有利の形へと持ってこれている、2対1では此方が圧倒的に不利、幸いなのが鈴の"甲龍"は燃費を重視している仕様故に長期戦にも強いという点だが……それでも火力が優れているタッグである二人を前にしてそれは心もとない。

 

「(アタシってば馬鹿ね、幾らそりが合わないからってこういう時は歩み寄ってやるのが当たり前なのに……後でちゃんと謝らなきゃ)」

 

鈴と箒はハッキリ言って仲が悪い、単純明快な程に相性が悪い上に箒とは一夏を巡る恋のライバルでもある。下手な相手と組むよりも勝率が高いだろうという目論みで組んだが、互いが自由にやるのでコンビネーションも無かった。先程は訓練の時よりはマシなコンビだったが、自分がもっと歩み寄るべきだったと反省しながら武器を構える。

 

「(だったらアタシは全力で戦うのが筋よね、最後の最後まで足掻いて足掻き続けるのが粋ってもんよね)さあ来なさいよお二人さん、音にも聞けッ刮目せよ!!中国が代表候補生凰 鈴音、例え苦戦が必至だろうと全力で立ち向かって御覧に入れよう!!」

「おおっなんか鈴がめっちゃカッコいい……!!」

「むぅっ……あれが以前クラリッサが見せてくれたアニメにあった名乗り、と言う奴か……いいなあれ、よし次の試合では私達もあんな感じのをやろう」

「話が分かるでありますな少佐、まあ取り敢えずは―――」

「そうだな―――」

「「あの全力を全力で迎え撃つ!!」」

 

この後、一夏とラウラの激戦が始まった。鈴の卓越した観察眼はハイパーセンサーをフル活用して完璧に二人を捉えながらも立ち回り続けた。そして燃費の良さを生かして持久戦を展開しながら細かな攻撃と機動で二人の攻撃を何とか凌ぎ続けていた……がそれにも限界があり、ラウラの"シュヴァルツェア・レーゲン(schwarzer regen)"の切り札である停止結界と言う札を切られてしまい、動きを止められたところ一夏の一太刀が炸裂して敗北してしまうのだった。

 

「ったく負けっちゃったかぁ……あ~あ、頑張ったのになぁ……」

「いやマジで凄かったぜ鈴、あのタイミングの射撃を読まれるとは思わなかった」

「ああ。此方も出すつもりはなかった停止結界を切らずにはいられなかった、温存するつもりが……これからの戦いはパターンを変えていかねばならないな」

 

停止結界は以前073へ使用したがその時には全く通用しなかった、しかしそれは相手が核融合炉を持っているミョルニルア―マーだったから。通常のIS相手ならば十二分に通用するし一対一の状況では最早反則染みた効力を秘めている。しかしそれを使ってしまうと後の試合ではそれを警戒されてしまうので戦術パターンを組み直す事を決めた少佐に一夏軍曹は敬礼で返すのであった。

 

「後どうでもいいんだけどさ、一夏はなんで少佐殿って連呼してんのよ」

「だって少佐だぜ佐官だぞカッコいいんだよ、だったら殿って呼ぶしかねえだろ」

「フムいい心がけだ一夏軍曹、先程の機動も大したものだったぞ」

「ハッ光栄であります!!」

 

と若干遊びも入っているが、一夏とラウラは今は対等な友人として触れ合っている模様。タッグを組んだ事でより一層仲良くなったのか少佐と軍曹と呼び合ってじゃれ合う姿が確認されている。何故軍曹なのかというと、一夏的に軍の階級で一番好きなのがそれだから、という割かしどうでもいい理由だった。そんな二人にエールを送った後に自分達のピットへと戻ると箒が酷く悔しそうにしていた。

 

「あ~あ、あんだけ張り切っておいてこれかぁ……もう面倒だから一夏が優勝してくれたらあれも無効になるんじゃないかしらね」

「何を言ってんだお前は!?その場合はラウラが一夏の彼女になってしまいかねないぞ!?」

「いやそれはないでしょ、あの二人は完全にダチの空気よ。しかも絶対に恋愛発展しないタイプの」

「ふん、恋愛経験もした事が無い奴が言っても説得力がないぞ」

「アンタに言われたくないよ」

「何だと!!?」

「何よ!!?」

 

と鈴は何故か箒と口論になってしまった、気付けば箒へと謝ろうという考えは銀河の彼方に飛びだってしまったのか次のタッグがピットに入ってくるまでその言い合いは続いていたとの事。

 

「フン、そもそも一夏は絶対に私の方が好みだと思うぞ。このスタイルにかけてもいい」

「ハンッそんな物でマウント取るとか何言ってんのよ、最後に物を言うのは家庭的なスキルと相手を気遣う心よ。その点アタシはパーペキだしぃ?」

「私とて料理ならば自信あるのだぞ、何なら勝負するか!?」

「アタシに勝てると思ってんの、中華料理店の娘舐めんじゃないわよ」

「「上等だ勝負ぅっ!!」」

 

「織斑女史、あれは止めなくていいので」

「じゃれ合ってるだけだ気にするな」




ODSTとスパルタンの確執

スパルタンIIであるジョン-117(後のマスターチーフ)は、強化手術後のリハビリ中にODST4人とのボクシングで加減が効かず、死傷者を出してしまう。このケンカそのものが上層部がスパルタン計画の成果を確認するために意図的に起こしたとする説もあるが、当事者からすればそんなもの知ったことではない。

この後「最精鋭」の座を奪われたこともあってか、スパルタンとODSTの確執は深まっていく。最も男とは単純なもので死ぬほど敵視していたスパルタン(S-141 通称能登ルタン)の中身が美女だったと分かるや否や対応が180度変わったりもした。まあ相手が能登ルタンだからね、しょうがないね。


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トーナメント、理不尽。

「か、開始直ぐに試合終了……って凹む……」

「操縦者目指すのやめようかな……取り敢えず新学期からは整備目指そうかな……整備楽しかったし」

 

対戦相手の少女らはそんな声が飛び出す程の元気はあったがもう精神的にはボロボロの域だった。開始直後に両手に重機関銃による弾幕の嵐、それらから逃げられたと思ったら的確に機動部位を狙っての狙撃で高速移動を潰される。鈍った所を盾殺しとも呼ばれる武装を展開。右の灰色の鱗殻(パイルバンカー)、左の灰色の鱗殻を叩きこまれ、息絶え絶えの所を全周囲攻撃を受け撃墜されるという所業にあった。

 

「シャルロットさん、先程の物は少々ラグがありましたわ。データを更新して最適化を」

「そうだねセシリア。僕も気になったし」

『何、だと……?』

 

と肝心のそれらを決めた二人は改善点の洗い出しとそれらへの対応を即座に行い自らの向上を行う、そんな行いを見て少女二人もあんな二人も努力する姿勢があるんだから自分達ももう少し頑張ってみよう、取り敢えずスパル先生に相談しようとなったのは余談である。

 

「何で本職教員の私らじゃないんだろうな……」

「スパルさん大人気ですもんね……私も学生時代にあんな先生欲しかったですもん」

「それについては全くの同意だがな」

 

と最近教師として確りやれるか不安になりつつある二人、だがそんな不安が封殺されるように仕事が回ってきて生徒達に掛けて上げる筈の時間が無くなっていくので素直に073が生徒達に目を配ってくれるのは素直に助かるのは事実なので何も言えないのであった。

 

「シエラ先生、私達第一試合を無事に突破いたしましたわ♪」

「流石としか言いようがないな。しかし最初から遊びがないな、後になればなるだけこの情報が後を引いて相手に手の内が読まれるかもしれないぞ」

「それに備えて真逆の対応策とか色々準備はしてますから大丈夫だと思います、いざとなったら頭から尻尾までアドリブで通しますから」

「そうか、それとセシリアは全方位射撃が死角に偏り過ぎだ。そしてシャルはバンカーを打ち込む際に無駄に踏み込み過ぎている」

 

そんなアドバイスを真面目に聞きながらも二人は酷くご機嫌そうだった。彼女からすれば073は巡回中だった筈なのに自分達の試合内容をバッチリと把握している、つまり巡回中だったのにも拘らず見に来てくれていたという事になりご機嫌になる要素しかないのである。

 

『中継した甲斐がありました』

「〈手間を掛けさせたな〉」

『いえいえお気になさらず』

 

実際は073は確りと巡回をしていた。HUD内にイグが中継したセシリアとシャルロットの映像を映して貰っていただけなのだが知らぬが仏である。巡回の片手間にだが観戦していたのは事実なので、彼女達からすればそれだけで嬉しいのだろう。

 

そんな圧倒的な強さで相手をほぼ封殺で圧倒していくセシリアとシャルロットのタッグ。正に対戦相手を戦々恐々へと陥れる無双っぷりであった。恋する乙女は時として魔物になると言われているが真実なのだと思わずにはいられない、そしてそんな乙女らが魔物へと変貌するきっかけを作ってしまった一夏はラウラと共に順調に勝ち進んでいくのだが……

 

「やっべぇっ……少佐殿、あのお二人に勝てると思いますか?」

「いやキッツいな……開始からの初動の速度が恐ろしい程に早い。私の数倍だ、最初から防御前提だとしても防御したらそのまま何も出来なくなる可能性も高い」

「うわぁっガードしたらしたらでブレイクされるまでそのまま拘束とか完全なる即死コンボだぜ……」

 

このまま行くと決勝戦で当たる事になるであろう二人への恐怖を募らせながらなんとか戦法を組み立てようとするのだが……二人の実力や技術などを考えると余りにもきつい事が判明した。

 

「あれに対応出来るのは確実にスパル先生か織斑先生だろうな、そのレベルを私達で何とかするとなると一から十までハイリスクを負うしかないだろうな」

「ちなみに少佐殿はその作戦を如何思いますか」

「それを通すとしたら尋常じゃない運がいる、確実にな。素直に棄権して第3位決定戦に備えるのが利口だ」

「んじゃそうしませんかね」

「妥当かもしれんな」

 

とラウラに此処まで言わせるほどに二人は異常なまでに張り切っていた。二人からすれば073は憧れの人であると共に添い遂げたいとすら思える人。セシリアは本気で惚れているしシャルロットは人生を救われている、そんな二人からすれば優勝したら073と交際出来るという与太話は許しておけないのだろう。あわよくば自分達がその権利を行使できないか程度には思っているかもしれないが……そして決勝戦は一夏&ラウラ、セシリア&シャルロットとなった。

 

「これで最低でもシエラ先生へのご迷惑だけは回避出来そうですわね」

「うん、これで迷惑を掛けずに済みそう」

「いや本当にすいませんでした……」

「この場合は完全に聞き耳を立て、伝言ゲームになった女子ら全員のせいだ。軍曹、お前はあの場にて明確に目的を明らかにしていた。それを面白半分に改変した奴のせいだろう」

「少佐殿ォ……!!」

 

一夏は割と本気で073に迷惑をかけかねない事になった事を悔やんだのか、本気で臨んだ。その結果としてラウラと決勝まで上り詰める事が出来た。各国からしても稼働経験が代表候補生と比べたら雲泥の差である筈の一夏が彼女らと張り合えている事実に驚愕しながらも、彼への接触を検討する中で決勝戦が行われようとしていた。

 

「さて―――織斑さん、加減などしませんのでお覚悟を」

「ラウラ、悪いけど僕も一切加減しないし全力で行くからね」

 

とやる気満々なお二人に対して一夏とラウラは最早半ば投げやりな気分になりつつあった。取り合えずリスキル染みた開幕への対策は立てる事が出来たが、その後は完全なアドリブ対処しかないと分かると流石のラウラも苦笑いしか出なくなった。そして遂に試合が始まる―――瞬間だった、その場に本来あるの筈の無い、いやあってはならない乱入者がその場へと降臨した。




ノーブル6 スパルタンタグ-B312

欠員補充のために配属されたノーブルチームの新人。HALO:Reachにおける主人公。
スパルタンの中でも特に情報があやふやな人物で、過去の履歴も殆どが分かっていない。
極秘開発中の最新鋭戦闘機のテストパイロットであった事は確かなようだが……。しかし、短期間でチームの信頼を勝ち得た実力は本物であり、"あのAI"に未来を託された一人でもある。

リーチ戦を最初から最後まで戦い抜き、人類の希望を繋げた。戦艦オータム脱出支援のためマスドライバーで砲撃を行い、以後消息不明。


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トーナメント、乱入者、073。

鳴り響くアラート、緊急事態を知らせる本来あってはならない筈のそれがアリーナ中を駆け巡っていく。各国からやって来た要人らは突然の事に焦った。このIS学園に殴り込みをかけた事を知らせるものが駆け巡っているのだからそれは焦る、だがその恐怖や焦りを飲み込みながら行動を返していく。軍人なども少数おり、彼らが中心となって避難誘導を行い、生徒らと共に避難を行っていく。

 

「彼方は彼方で任せていいだろう、真耶侵入者については!?」

「分かりません、学園のセキュリティが捉えたのは……3秒前です!!超高速飛来する目標を確認したようですが、瞬間的にロストした後に今に至る様です!!」

 

管制室にて状況の把握と避難指示を出しながらも千冬は真耶に情報を求めていく。正しく決勝戦が行われようとした真っ先にこの事態、混乱するなと言うのが無理な話だ。アリーナのシールドを破った上に超高速で接近、ロストと言うのも更に速度を上げたのも考えられる。そんな相手が今アリーナの中にいる。教員たちがISで対処するにも出撃までに時間がかかる。

 

「一夏……!!」

 

 

「お、おいなんだあれ……!?」

「まさかこのIS学園に殴り込みをかけるなんて、愚かを通り越してもう尊敬すら覚えますわ」

 

セシリアの言葉に誰もが同意を浮かべざるを得なかった。全世界から注目を集める上に非常にデリケートな場所でもあるこの学園は繊細なバランスの上で成り立っているのである。そこに妙な事を働くという事はほぼ同時に世界を敵に回す事にも等しい行為。世界を敵に回す自殺志願者にほぼ等しいそれに思わず皆が言葉を失う中でアリーナの中央部、土煙の中に隠れているそれが遂に姿を現した。

 

 

中央部から無数の酷くごつい筒状の物が落ちて行く、それは宇宙船が大気圏へと飛び立つ際にパージされるロケットブースターのようだった。それらを使用して凄まじい速度を実現していたと言わんばかりの数、そして同様に目を引くのは肩に装備されている巨大な砲門のような何かだった。それは煙を放ちながらも放熱を行っているようだった。あれでアリーナのシールドをぶち破ったのだと言わんばかりだった。

 

深い蒼い装甲が陽の光で輝きを増している姿は思わず美しいとさえ思える程、だが余りの重厚さに身体の全身に緊張が走った。肩と一体化するかのようになっている砲門に右手にも巨大なキャノン、その巨体の7割を覆えるかのような巨大な盾を左にマウントしているそれはゆっくりと立ち上がった。073のように肌を一切見せないそれは従来のISならばあり得ないに近く、異質さを際立させていた。

 

『―――ッッッッ!!!』

 

そしてそれは凶悪な肉食獣を彷彿させる牙と怒りに染まった表情のまま、呪いに塗れた狂戦士が如く、学園全体を揺るがすような馬鹿げた音量の咆哮を上げた。

 

「何……あれ……!?」

「何て巨体……そしてあれらに装備された武器の威力を計算すると……拙いですわ」

「―――やばいちょっとカッコいいと思った俺がいる」

「自重しろ軍曹」

 

思わずラウラに窘められる一夏、本人も状況がやばいのは分かっているのだろう。だがいきなり現れたそれは重装甲に重火力、無数のブースターを装備していた事から本体は酷く重く動きも遅いのではないかという事を伺わせる。そして地獄の悪鬼を連想させるかのような形相に悪魔が如く咆哮、あのコンセプトで作った奴はロマンが良く分かってらっしゃると褒めてやりたい所だぁ、ともしかして余裕があるのではないかと思えるほどに一夏はある種の感激を持っていた。

 

「いやでも、如何すりゃいいんだあれ……これ下手に退こうとしたらあいつ追ってくるかもしれねぇよな……」

「ええ、そうなったら被害が甚大な事に……」

「でもあいつってアリーナのシールドを破ってるからこのまま放置するのもあまりに危険だよ……ラウラ、如何するべきだと思う?」

「……教員が来るまで喰いとめ、その後に私達は撤退するのが良いのだろうな」

 

素直にラウラに指示を仰ぐと彼女は冷静に直ぐに引くべきではなく、回避や防御を優先した上で時間を稼ぐことに徹する事を提案する。幸いなことに試合は始まる前だった事もあってSEも十二分にある、ラウラの停止結界ならば時間を稼ぐ事も可能なので作戦としては十二分あり、だが不安材料も多くあり最適解ではあるが当然大きな危険も覚悟しなければならない。

 

『織斑、ボーデヴィッヒ、オルコット、デュノア聞こえるか』

「ちっじゃなくて織斑先生!?」

『ああ、通信は良好だから焦らんでいい。総員よく聞け、10秒後に緊急ハッチを開ける。そこから全員避難しろ』

「ですが奴が……」

『心配するな、奴には取って置きの戦力が対処する事になった。巡回の時間がアリーナ周辺で助かった』

 

巡回という言葉で全員が気付いた、そして時間になった瞬間に稼働していくハッチへと全員が移動していく。乱入したそれは動き始めた一夏たちを肩の砲で狙いを定めて撃ち抜こうとする、アリーナのシールドを破る程の出力を受けたら絶対防御が発動しても確実にまずい。だがそんな事にはならなかった。ハッチの奥から飛来した一発の弾丸が砲門へと吸い込まれるように入った。内部でエネルギーが暴発しながら砲が吹き飛んだ。

 

「ウオッすっげぇ!?」

「軍曹さっさとしろ!!」

 

と思わずそれに見惚れた一夏はラウラに急かされてハッチに急いだ。そしてハッチの奥からアリーナの地を踏みしめた隣を通りながら、それへと向けて敬礼を送りながら撤退していった。それらが確認出来るとハッチは隔壁と共に閉ざされてアリーナは緊急用ジェネレーターによって更に強いシールドで覆われ完全に密閉される。所持されている武器の威力を考えると全く安心できる要素は無いがそこに立った者が安心を招く。

 

『レイ君頼んだよ。束さんも割といっ君の試合楽しみにしてたんだよ、あんな奴叩きのめしちゃって!』

「了解しました」

『システムオールグリーン、何時でも行けますよ』

「スパルタン-S-073、これより戦闘行動を開始する」

 

その手に構えられたのは束の手によって作られたアサルトビームライフルを構えた。初の実戦投入だが彼女が作ったそれに信頼を置きながらも目の前のそれへと意識を向け集中した。星をガラス化する者達から悪魔と呼ばれたスパルタンが今、戦いの場に帰った。




パリ級フリゲート艦

UNSCが多数所有するフリゲート艦の一種、直接戦闘能力を追求した設計となっている。このため大型の船体と強力な火力・装甲を誇るが、それと引き換えに地上部隊や降下艇の運用能力が失われている。

人類の主力艦といえる500m級の戦艦だが、残念ながら活躍の機会は薄い。人類対コブナントの艦隊戦の撃墜対被撃墜比率(キルレシオ)は同クラスで1対5、以前も解説したが人類がコブナントの艦を落とすには多くの手順を踏む必要がありその間に落とされてしまうからである。


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スパルタン、戦闘開始。

アサルトビームライフルを構えながら目の前のそれへと意識を向けながらも073は久しぶりに感じる戦場の空気に懐かしさすら覚えていた。彼らスパルタンは基本的に戦いにのみ生きる、それ以外は冷凍睡眠に入り何か起きたら起こされるスパルタン。彼らは平和の為に戦うのに戦場の空気に力が入る事への想いを感じるのは学園にて平和を感じ過ぎてしまったからだろうか。

 

「ハンターに見えるな、あれもまるでロットガンだ」

 

乱入者へと視線を向けつつ素直な感想を言葉にする、眼前で雄たけびを上げながら殺気立っている獣のようになっている存在はコブナントにて重装歩兵の役割を行っていたハンターに似通っている部分が多く見受けられ連想させるには十分過ぎた。巨大な盾に蒼い装甲、巨大な銃、違う部分もあるが大きな特徴は概ね同じとも言える。だがあれと比べたら容易い相手なのは確実だろう。

 

「―――行くぞ」

 

ライフルのセーフティを外した後にトリガーを引いた。甲高く光線銃を思わせるような音ともに信じれない発射レートで弾丸が放たれていく。ISモジュール内にこのライフルの弾丸も収納されているが、その弾数が凄まじい勢いで減っていく。そんな弾幕が向かって行く。

 

『―――っ!!!』

 

ビームコーティングされた弾丸が飛来してくるのを盾で防ぐ、しかし弾丸は盾の半ばまで食い込んでいく。ビームを纏う事で貫通力も飛躍的に上昇している、巨大且つ分厚い盾にも深くまでめり込んでいく。だがそれにも動じる事もなくハンターにも似たそれは咆哮を上げながらゆっくり、少しずつ速度を上げながら突進をしてきた。そして盾で殴り掛かるがそれを後方へと飛び退きながらも更に弾丸を浴びせていく。そして盾が悲鳴を上げている中、SAWへと武装を変更しながらそれへ束が是非ともと言っていたドラムマガジンをセットする。

 

『盾を狙ってください、あれはもう持たないと思われます』

「分かった」

 

そう言いながら073はトリガーを引く、先程の物と比べると分隊支援火器にカテゴライズされるこれですら大人しく感じられてしまう。7.62×51㎜弾頭故に先程よりも威力は劣る……と思っていたのだが盾へと打ち込まれた弾丸は次々と火を噴いていき既にボロボロであった盾を完全に粉砕してしまった。

 

「この弾丸は」

『博士の自信作です。近接信管が内蔵されている弾丸です』

「そうか、いや何だって」

『簡単に申し上げますと徹甲榴弾マガジンです、現在のSAWはフルオートでそれらをばら撒く機関銃となっております』

「役に立っているから何も言えんな」

 

本当になんて弾丸を作ったんだと言いたくなるような思いだった、加えて言うなればこれはビームアサルトライフルの弾丸を作る過程で作った試作品で本来はこれすらビームコーティングを行う予定だったらしい。完成して居たら先程の時点であれの盾は爆散四散していた事になる。呆れた威力に073も少しばかり驚いてしまった。

 

『―――ォォォォォォッッッ!!!!』

 

怒りを露わにしたかのように咆哮を捧げながら、剥き出しになった悪意と共に保持していた大砲のような銃を向けた。躊躇する事も無く連射される、ロッドガンのような巨大さから放たれる弾丸を走り抜けて回避する。地面へと着弾した弾丸は青緑色の光を放ちながら爆発を起こし地面を熔解させてしまった。

 

「成程、ならっ―――」

 

恐らく性質もロッドガンに近いのだろう、ならばやる事は一つ。更に加速しながらスラスターを並列使用しながら疾駆、90キロを超える程の速度で迫りスパルタンに乱射するが咄嗟に身体を屈めるとスライディングを行いながらその股下を潜り抜ける。背後を取りながら地面を蹴って力を込めて肘打ちを頭部へと喰らわせる。

 

「貰うぞ」

『装填口は上部のようです』

 

一瞬、動きが鈍る隙を突きながらその銃を奪いながらもホルダーに収められていた燃料ロッドを取りながら上部へと押し込んでトリガーを引く。発射されたロッドは着弾と共に途轍もない熱を発しながら爆発していく、続けざまに放たれていくそれを受け続けていくそれ。本来この銃を使用することを前提に設計されている為か熱にもかなり強いように思える、だが其処へ追い打ちが掛けられる。

 

『っ―――!?』

「よぉ、返すぞ」

 

爆炎が途切れた瞬間に視界一杯に広がったスパルタンの姿、それは後方へと飛び退きながらマガジンである纏められた燃料ロッドの全てが投げ付けられる。そしてそこへアサルトビームライフルを撃ちこんで合計26発の弾丸が一斉に連鎖爆発していく。一際巨大な爆発と熱量はそれの装甲をドロドロに融かしていく。

 

『―――……!!』

 

爆炎と熔解しきった地面の上には使い物にならなくなった装甲をパージしたそれが膝を付いていた。まだ動けるのか錆びついた歯車のような動きをしている。だが盾や装甲、内部に格納されていた武装も熱でイカれてしまったのか同じくパージしてしまっている。もう戦闘力は完全に無くなっている、そしてそこへ一本のブレードが飛来しそれの胸へと突き刺さった。

 

「クロエが好きだったな、こんな感じの蹴り」

 

と073は胸へと突き刺さったブレードを押し込むかのようにそこへ飛び蹴りを浴びせながら、それを貫通しながら地面へと着地した。蹴り貫かれたそれは各部から激しいスパークを起こしながらも小規模の爆発を起こしながら最後に穢れた咆哮を天へと召し上げるとそのまま崩れ落ちるかのように倒れこんで機能を停止させた。

 

『エネルギーレベル0、再起動の確率は限りなく0です』

「此方S-073、織斑女史応答願います。敵機の撃破に成功、戦闘終了です」

『……ま、任せてしまったのは私だが早すぎないか……?こちらは後15秒で教師陣が突入する所だったのだが』

「そうですか、教員の皆さんを危険に晒さずに済んだのならば良かったです。敵機は回収いたしますか」

『そ、そうだな……搭乗者の確保をした後に運んで貰えるか』

 

と言っても恐らく生存などしていないだろうが……と千冬は思っていた。戦闘の際の判断は全て彼に委ねられる、それは彼が搭乗者を殺害するか否かまでも委ねられる。だがIS学園にこのようなことまでしているのだから殺されたとしても何も言えないだろう、死人に口なしという言葉もある訳だし。

 

「了解しました、ではすぐにお運びします。これは無人機のようです」

『そうかならば―――待て、今何と言った』

 

千冬は思わず聞き直してしまった、今073が今何と言ったのかを。それに対して彼は無造作に再び言い放った。

 

「これは無人機です、搭乗者など存在しません」

『―――馬鹿な』

 

彼がブレードを突き刺し蹴り穿ったのは胸部、そこに開けられた穴からは内部の機械のみが露出している。人間の姿など影も形も存在していなかった。IS学園を唐突に襲った謎の襲来、その中心に立つスパルタン。それが撃破したそれへの謎は深まりを見せながら―――悪魔を再び戦場へと誘い始めていく。




特定の正義(パティキュラー・ジャスティス)艦隊

総勢341隻を超える惑星リーチ攻撃艦隊の主力、艦隊の最高司令官は後の歴史において重要な存在となるサンヘイリ(エリート)のゼル・ヴァダム。更に増援艦隊が派遣されていたようで、最終的には750隻近い大艦隊がリーチの空を覆い尽くしていたらしい。
ちなみにこの時のUNSC側の防衛戦力は、艦艇152隻と軌道防衛プラットフォーム20基のみ。コヴナントの艦隊とまともに戦うには少なくとも4~5倍の戦力を用意しなければならないというのにこの戦力差、どうあがいても絶望という言葉がこれほど似合う状況が惑星リーチを襲った。


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束、千冬、073。

学年別トーナメント、1年の決勝に襲来したそれ、便宜上突然の襲撃者をブルー・ゴーレムと呼ばれる事となった。それは073の手によって屠られた、各部の装甲はそのゴーレムが所持していたロッドガンの燃料ロッドを同時点火させた事による熱でドロドロに溶けていた。分厚い装甲が無くなった部分を狙って投げ付けられたブレード、それは胸部へと突き刺さり追撃の飛び蹴りで蹴り穿たれた事で機能を停止した。完全に動く事が無くなったそれの解析は束が引き受ける事になって地下へと運び込まれた。

 

「如何だ束、何かわかった事はあったか」

「ちょっとち~ちゃん大丈夫、顔酷いよ」

「もう慣れてきたわ」

 

何とか戦いの後の処理が終わった千冬はやや疲労困憊と言いたげな表情をしながら地下へと足を踏み入れた。各国から人が集まる今のタイミングでこのような事が起きた事でその対処にも追われたのだが、社畜さながらのオーバー労働に身体が好い加減に慣れてきたのか教員達も効率良く裁く方法を身に着けたのか普段よりも短時間で終わらせる事が出来た。

 

「取り合えずこいつは言うなれば無人機、しかも使い捨てのね」

「これが、か」

「データ収集用のね、如何やら戦いで得られてたデータをどっかに送るようになってたみたいだけど流石に束さんが此処にいる事までは計算できなかったみたいだね、その回線はこっちで掌握してたからデータの流出はないよ」

「流石だな、だがまさか無人機だとはな……」

 

ISは人が乗らなければ動かす事が出来ない、それが当たり前。それを根本的に崩しにかかっている、それについても束が既にその方法を調べ終わっていた。

 

「そもそもこいつはISコアで動いてない、ち~ちゃんってば疑似コアの事はご存じ?」

「ああ、お前の作ったコアを作ろうとして生まれた廉価版だろう」

 

束がISを生み出し、そのコアを世界に向けて配ったがその数は僅かに467のみ。束はそれ以上の数を世界に流通させる気が皆無であった為、オリジナルとも言えるそれらのコアを参考にして各国は共同開発と研究を行い量産型とも言えるコアを完成させている……のだがそれには大きな問題点が存在する。

 

オリジナルコアと比較した際にその性能差は明らか。オリジナルの2~3割程度の性能しか引き出せない。更にそのような性能でありながら量産し配備する事を考えても束が提示したコアを作る為の費用と僅かに安い程度であった。それらの問題点から量産型のコアは疑似コアと呼ばれ区別されるようになっている。

 

「こいつは疑似コアを合計7個使って稼働している、4つは出力特化調整をされてるね。疑似コアだけでオリジナルに迫る性能にしようとしたらそれだけの数がいる。そしてコアの数だけ機体も膨れ上がる、だから重装甲重火力にして此処に来るまでは外付けの大型ブースターにするって事にしたわけ。ある意味正解だけどね、因みにブースターの方は普通のロケットブースターだったよ。宇宙船に使われるようなあれね」

「成程な……」

「それでそんだけ疑似コアを突っ込んで連結調整した後に、一度人間で稼働データを取る。その時のデータを基にした物を使えば動かす事は出来る。まあそれでも人間が動かすには大きく劣るけど、だから高機動じゃなくてもそれなりの脅威になる重火力にしたんだろうけど」

 

そこまでの調整を行った存在はスパルタンの手によってあっさりと屠られてしまっている、これを作ったのがどこの誰かは知らないだろうが最大の誤算は彼の圧倒的な強さだろう。その強さには千冬ですら驚きを隠しきれなかった。

 

「それで束、奴は一体どこに……?」

「ああ、なんかいっ君達の所に行ってるよ。今回の一件で折角の決勝戦が台無しになって結局トーナメントも中止になっちゃったじゃん。残念だったな、みたいな声掛けしてくるって」

「一番の割を食ったのはあいつらだろうからな……」

 

今日まで一夏たちが必死に訓練に励んできたことは承知している、偶に自分もその現場を見て心の中で一夏への応援を送った事もあった。ラウラともいい関係を築けている事にも安心していた、そして此処でいい成績を残してくれれば教師としての自分も安心出来るので是非とも頑張って欲しいと思っていた。結局一夏は決勝まで勝ち進んだのに結局それは中止になってしまったのは不憫な気がする。

 

「まあ大丈夫じゃない、いっ君のモチベはメットの中を見る事にあったみたいだし」

「―――えっ奴の、スパルの顔か。あいつの素顔の事か!?」

「あれ、聞いてなかったの?なんか元々成績よかったら見せてあげてもいいよ、的な話をしてたら一年の間だと優勝したらいっ君かレイ君と付き合える的な話が生まれちゃったから、それを阻止する為にもいっ君たち頑張ってたんだよ」

「ま、まさか今あいつらは奴の素顔を見てるとでもいうのか!?」

「いやそこは知らんけどさ」

 

と言っても束自身も彼の素顔は見た事が無い、本名と同じくスパルタンの顔も軍事機密扱い。だが彼も少しずつ変わってきているように何時か自分にも素顔を見せてくれると信じながら待つ事にしているのだが……如何やら千冬的にも酷く気になる事だったらしい。

 

「おい束今すぐ奴の居場所を教えろ、私も行く」

「いやいやいやこれの解析いいの?」

「だって奴の顔だぞ、私とて学園のみの付き合いだが奴はメットを外した所は一度とてない。見たいに決まってるだろうがぁ!!」

「いや、これの調査報告を聞きに来てその後は立ち会う筈じゃないの……?」

「ンなもん後で良いだろ!!」

「ええ~……」

 

と親友への呆れを滲ませながらも束自身も気になるのか片手間に調べてみる事にした。彼女の考えも理解出来なくはないからである。調べてると彼は一夏たちと共に生徒が使用可能な談話室に集まっている事が分かった、千冬はそれを聞くとまた後でな!と駆けだしていった。

 

「あっれ~……ち~ちゃんってあんなキャラだったっけ……?」

 

それだけスパルタンの素顔は神秘に満ちている……という事なのかもしれない。




《フォアランナー》

かつて宇宙に存在した超古代文明。
その技術力は圧倒的であり、惑星を一から創る事すら可能としていた。しかし繁栄を誇った彼らも彼らに恨みを抱く者達の作った兵器やその他の要因で衰退、滅亡してしまう。彼らの技術は遺跡として銀河中に眠っており、コヴナントはそれらを多数利用している。

HALO世界でもフォアランナーは様々な形で干渉、激突を起こしている。主にコブナントがそれらのテクノロジーを使用しているが、人類もその恩恵に預かる事も出来ている。

そして人類はフォアランナーの技術を何となくのレベルでだが、使い方が分かり扱う事が出来る。


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073、素顔。

「怪我などは無くて何よりだ」

「いや俺達からしたら先生が突入してから事態が収束した方が驚きなんすけど……」

 

談話室にて話をしている一夏たちは彼の言葉に思わず頷き、全く無傷の073へと視線を向けるのであった。最低でもアリーナのシールドを破壊する程の出力を秘めている相手を短時間で撃破してしまった強さに改めて強さを実感した。

 

「今回は博士からの武器もあった、そのお陰で楽が出来ただけだ」

「姉さんが……あの、先生は姉さんと連絡が取れるのですよね」

「ああ」

 

正確には毎日顔を合わせているので取れる以前の問題なのだが……。

 

「今姉さんはどんな事をしているのでしょうか……私もメールなどは送ったりはしてるんですか偶にしか返信がなくて……」

「博士は今宇宙活動前提型のISの開発に注力している、純粋に忙しいのだろう」

「そうなんですか……姉さんは今夢に向かっているんですね……」

 

と何処か嬉しそうな表情を作っている箒、彼女は束の影響を受けて様々な弊害を受けてきた。だが唯々闇雲に否定するのではなく、あの姉の穴などを付いてやったりしてやろうという心でISに興味を向け勉強するうちに寧ろ、それの在り方を歪めているのは世界の方だと気づき、今度は姉を理解する為に努力している。

 

そんな妹の事を束も大切に思っていたり人生を歪めてしまったと強い罪悪感を抱く一方でISには関わった欲しくはないという思いがある。そして箒の想いも分かる為にどんな風に接すればいいのか分からずに距離を取ってしまっている。本人も何とか努力しようとしているのだが中々に難しい問題なのである。

 

「それで先生、この場合俺のお願いってどうなるんですかね……」

「私の素顔云々か」

 

そう、一夏たちがトーナメントを頑張ったのはそもそも073の素顔を見せて欲しいという話が何処かで聞かれて伝言ゲーム方式で肥大化してしまったのを阻止する為。そして結果的にそれはいい成績を出しさえすれば考えてくれるという事に十分適応されるような事を成し遂げている。それに期待に満ちた瞳を向けてくる一夏たち、純粋無垢な瞳の中に幾つか熱情に溢れかえった物もあるが……当人は気付かずどうするべきかと少しだけ思考する。

 

「(いや、思考する意味なんてないな……もう、この世界で自分の存在そのものも……)余り、驚くなよ」

 

ゆっくりと彼の両手がメットへと向けられて行く。メットの両側へと触れられた時に思わず一夏は声を上げてしまう程に興奮した。セシリアはメット内の減圧ロックが解除される音に胸をときめかせ、箒は空気が抜ける音に喉を鳴らす。そして持ち上げられ始める光景に鈴が目を限界まで見開き、顎が見え始めるとシャルは思わず鼻血を出しそうになるのを我慢する、そして明らかになっていく表情にラウラが緊張した。

 

「おいスパルが顔を見せるというのなら私にも見せろぉ!!」

「ち、千冬姉ぇ!?」

 

と使用中という看板を出していたのにも拘らず扉を大きな音を立てながら開けて入って来た千冬にほぼ全員が驚いたのかそちらを凝視した。酷く息が荒いのは束の地下から此処まで走って来たからだろう、教師がそれでいいのかと思う者も当然いる事だろう。

 

「お、織斑先生驚かせないでください!?」

「束からお前達が何やら面白そうなことをしていると聞いて地下から走って来たんだ、少しはもてなせ。茶をくれ」

「図々しいな千冬姉!?ってあっ!?」

 

と思わず一夏の声が上がった、その声に皆の視線が注がれるがその視線に釣られるように瞳が向けられている方へと向くと思わず息を呑んでしまった。そこにあったのはずっと被り続けていたメットを外して膝の上へと置いていた。隠されていたその素顔に皆が見入った。

 

「すっげぇ……」

 

最初に言葉を放つ一夏の言葉は誰もが抱くものだっただろう、常にアーマーを纏い続けてきた彼の印象は何方かと言えば機械へと傾いていたものもあった。だが実際は純粋たる人間、それをよく知っている筈のセシリアやラウラですらその素顔には驚きを隠せなかったのである。

 

「へぇっ先生ってイケメンなのね、こりゃ生徒人気が白熱するわ」

「フム、以前母さんがこういう方の事をナイスシルバーと言うと言っていたが……いや違うか」

 

と鈴と箒は年頃の娘らしく素顔に多少なりの興奮を覚えている、彼女らの恋心は一夏にある筈だがカッコいいと思うものには素直な称賛は向けられる。内心では一夏も負けてないとは思っているだろうが。

 

「シルバーは違うだろう、赤み掛った金髪だ」

「ストロベリーブロンド……というのだったかな」

 

と美しい髪の色に思わずラウラは箒の意見の訂正をしつつもその髪色と質に少しだけ羨ましさを覚えていた。以前部下が休憩中に雑誌を読みながら自分にはこんな髪もあるじゃないかと言われた事があった、実際に目にして見ると確かに何処か気品がある。歴戦の戦士に相応しい髪に僅かな嫉妬が起きる。

 

「ほうほうっ……なんだ中々に私好みではないか」

 

と品定めをするかのように悪い笑みを浮かべながら見つめる千冬、明らかにからかいなどをする気が満々と言いたげな彼女だが素直にその表情が見られてよかったと嬉しさが胸にあった。

 

「しかし肌が青白いな、それで驚くなと言ったのか」

「はい。アーマーの影響です、病気ではないです」

 

スパルタンは基本的にミョルニルアーマーを着用し続ける、外す時などはアーマーが大きな破損をしてしまった時や改修などを行う時位だろう。その為にスパルタンである073の肌は青白いが、そんな姿を見た二人の少女は完全に目をハートにしていた。

 

青白い肌に赤い金髪は相反しつつも何処か神秘的で魅力に溢れかえっていた。顔もいくつか傷があり、深い物もあるがそれらを見てもとてもとても歴戦を戦い抜いた軍人には思えないというのが素直な感想だがそれ以上にその素顔はイケメンの部類に入る、青い瞳に纏っている落ち着きと威厳そして優しさが混ざった空気とそれらの相乗効果はセシリアとシャルロットをメロメロにするにはあまりに十分過ぎるものだった。

 

「シエラ先生、なんて素敵なお顔何でしょうか……ハリウッドの俳優なんて目じゃないですわぁ……」

「カッコいいっ……もうそれ以外の言葉なんていらないよぉ……」

 

その様に皆が彼の素顔を称賛した、少々褒め過ぎな所もあるだろうと思いながらも彼は礼を述べた。顔を褒められるというのは滅多にない事だからだろう。そして彼は余り見せすぎるものじゃない、と再びメットを装着し直す。

 

「ああっもうちょい見せてくれてもいいじゃないですか!?」

「あと少しお願いいたします!!」

「人の顔を見過ぎだ、特にオルコットとデュノア」

「それ千冬姉が言えねぇよ」

 

 

そんな風にじゃれ合う彼らを見つめながらも073は何処か気分が優れなかった、顔を見せる。その事の意味を改めて痛感しながらも何故それに至ったかを考えると―――言葉が出なくなる。彼は考え始めている、今此処にいる自分そのものが意味を失い始めている、その事への恐怖を。




エンジニア族 コヴナント側名称:ハラゴック

フォアランナーによって作り出された人工生命体、壊れた機械などの修理を"本能"としている。非常におとなしい生物で、いかなる種族に対しても基本的に敵対の意思を持っておらず機械を弄れればそれでいいと思っている模様。

実際、マスターチーフがコヴナント艦をジャックした際に彼のミョルニルアーマーや壊れた武器を修理してくれている。


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073、束、困惑。

自らの素顔を晒した事でより一夏たちが親しみを持って接するようになってきていた。矢張り彼の中に本当に人間なのだろうかという不安のような興味があったようで、それが解消された事で身近な存在だとそれが再認識された。そうであったとしても基本的に彼の毎日の変化などは無い、強いて言うなれば受け持っていた授業が元の教師に返したぐらいだろう。

 

「あのスパル先生、教え方のコツって御座いますか……?」

「何でしょうか突然」

「いえその……実は前まで私のクラスもやっていただいたじゃないですか、それで私も落ち着いたのでまた戻ったんですけど……生徒達からスパル先生の方が良いという声が多発して凹んでおります……」

 

大きな問題と言えば元の授業体制へと戻った事で基本的に一組での授業のみ参加するようになった073、他のクラスは元の先生が授業を行うのだが……教え方の質などが違ったり方向性の違いからか不満を漏らされて本職の教師としての自信が傷ついている位だろう……。一応自分の教え方などを教えてみると生徒達からの評判が良くなって本気で悩む先生方が多かったとか……。

 

「シエラ教官、是非とも私に訓練を付けて頂けませんか!」

「構わないが何故いきなり教官なのだ」

「ハッ。私ことラウラ・ボーデヴィッヒは数々のご無礼を働き織斑先生にもその事を強く責められました、そして先日の一件にて教官は織斑先生にも匹敵しうる方だと改めて尊敬した次第で御座います。なので敬意を表して教官とお呼び支度存じます!!」

「まあ好きにしてくれ」

 

とラウラの豹変染みた態度の変化、彼女としては今までの非礼などに対する謝罪と敬意の表れを表現する為の行動。彼からすればそれは少々懐かしさを覚えるような態度だった。何故ならば自らのファイアチーム・サバイブのメンバーと組んでリーダーと認められた直後に似ているそれに思わずメットの中で微笑んだ。ラウラのそれは可愛く映っていた、上に彼は特に気にせずにいた―――のだが

 

「教官、本日から父上とお呼びしても宜しいでしょうか!?」

「―――いやなんで、私はお前の父ではないのだが」

「日本では尊敬する男性にはそのようにお呼びすると私の副官が言っておりました」

「日本の風習には不思議な物があるのだな……」

 

と日本出身どころか地球出身でもない彼にとってはその真実を確認する術が全くない、それが正しいのかも分からず取り敢えず保留して二人一緒に千冬に尋ねてみる事にした。

 

「いやいやいやなんだそれは!?絶対間違っているぞっていうか誰からそんな事を聞いたァ!?」

「ボーデヴィッヒの副官がそう言っていたと」

「はい、クラリッサがそう言っておりました。日本ではそのようなしきたりがあり、年上の男性にはそのように呼ぶが良いと言われました。後もう少し進展したら嫁と呼ぶべきだとも言っておりました、実際そう呼ぶつもりでした」

「私は男だが」

「クラリッサ貴様ぁぁぁああああああああああああ!!!!」

 

と教員室から怒号が響き渡ったという。そしてドイツではラウラの副官が尋常ではない寒気を感じて震えあがったとか。

 

 

「ッシャアオラァ!!!」

 

と地下の設備にて魂の籠った叫び声が木霊する、久しぶりの束の護衛任務を行っている073。その日は日曜日の早朝、今日は授業は休みな上に訓練を付ける予定もない。言うなれば休日的な日なのだが束の護衛に専念する彼に束の声は届いていた。今までにない程に声に力が込められているそれに思わず其方へと顔を向けてみると目元に深い深い隈を作っている束が狂喜乱舞している姿が確認できた。

 

「やったやったよやったったぜイイィィィヤアアホオオオオオ最高だぜえええ!!」

『博士のテンションが振り切れていますね、此処の所一睡もせずに研究に没頭してらっしゃいましたから』

「レイ君レイ君レイ君聞いて聞いてくれるよね!!?」

「お聞きします」

「遂に、第五世代型のプロトタイプが出来たぁ!!!」

 

束大歓喜の理由は彼女が推し進めていた計画であり目標であった宇宙空間活動前提型IS、本来の活動範囲での使用を前提にしたIS。それはミョルニルアーマーの技術や各種を参考にしながらも彼女のオリジナル技術が詰め込まれた彼女の夢を体現したかのようなものだった。

 

「流石に核融合炉にはまだ手が届かないけど新開発の超大容量バッテリーを組み込んだ事で稼働時間と防御系システムに使うエネルギーを分けた、そしてコアからの供給もあるからミョルニルアーマー程じゃないけどリチャージも出来る!!やっとここまで来たぁ……」

 

と思わずソファに崩れ落ちるかのように座り込む束、宇宙への進出を夢見る彼女にとってミョルニルアーマーは目指すべき物全てが詰まっているような物。ある種ISが目指すべき進化の道の先にある、それらを追求した結果、第五世代型は従来のISと違って肌を一切見せない方式になったが、合理的に考えればこちらの方が安全なのは明白である。

 

「でもこれでもまだまだプロトタイプ、まだまだ上を目指すぞぉ~!!」

 

雄たけびを上げながらもまだまだ努力する事を決意しながら早速プロトタイプでのやるべきデータ収集のメニューを考える束。気密性、出力、デブリ対処、リチャージ、実験すべき内容は大量に存在する。それらから得られたデータを研究して次へと繋げていく。その連鎖に楽しさすら覚えている彼女に073は素直に良かったですねと言葉を送った。

 

「あっそうだ、ねえレイ君今日お休みなんだよね」

「はい、学園は休みです。間もなく臨海学校というのも近いらしく織斑たちも買い物へ行きました」

「あ~そっか……それじゃあさ、レイ君これから束さんとく~ちゃんと一緒にお出かけしよう。お買い物にさ」

「―――えっ?」




ジャッカル コヴナント側名称: キグヤー

優れた視覚・聴覚・嗅覚を有しており、それらを活かした偵察兵やスナイパーとして運用をされており、一部のスパルタンからは尋常ならざる恨みと怒りを買っている。
コブナントとは同盟を結んでいる傭兵に近い立場にあり、宇宙での海賊行為の容認を条件にという条約を結んでいる。


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束、クロエ、レイ。

「ほらほらく~ちゃんこっちだよ」

「ああっお母様お待ちください……お、お父様もお早く」

 

楽しそうなステップを踏みながらも娘とも言える存在であるクロエの手を引きながら笑顔を浮かべている束、普段のエプロンドレスではなくグレーニットに白パンツ、伊達眼鏡と髪形をポニーテールにしている姿は実に新鮮味が強く不思議な印象を受ける。そんな彼女に手を引かれる少女であるクロエも普段の白と青のゴスロリ系ドレスではなくロングスカートにTシャツ、そしてスパッツを組み合わせたような同じく普段とは思えないようなラフな格好。コーディネートした束、そしてされたクロエ曰くスパッツが肝との事。

 

「ほらほらレ~君こっちだよ」

「……ええ今行きます」

 

そんな二人に呼ばれながら漸く追いついたように並び立った男、傾国の美女とも例えられる束の隣を歩くのは酷く大柄な男性で身長は2メートル近いのに加えて酷くガタイも良い上に非常に鍛えこまれているのが分かる程にシャツの上からでも筋肉が自己主張している。紺色のジャケットにパンツに白いシャツ、バイザーのようなサングラスをかけた男、レイは束とクロエに手を引かれながらも街中を行く。

 

「如何よレ~君、生身で街を歩く気分は」

 

そう、クロエと共に手を繋いでいる男こそスパルタンであるS-073のレイその人なのである。トレードマークと言っても過言ではない程の物であるミョルニルアーマーではなく生身のまま外へと出た彼は少しばかり緊張しながらも日本の湿気塗れの暑さにも負けずに平然としながら歩く。

 

「新鮮な気分です。アーマーを外すのは滅多にありません」

 

スパルタンのミョルニルアーマーは専用の設備と技術が両立しなければ外す事が出来ない、その設備も技術者もいない為常に纏っていたそれを遂に脱いだ073。それは束がミョルニルアーマーを自身の全てを注ぎ込んで大解析をした結果、アーマー自体をISモジュールの中に収納しISとほぼ同じように待機状態にするという快挙を成し遂げた。実質的にISとほぼ全く同じ状態になったアーマーは現在ドッグタグの状態となって彼が所持している。それもあって三人で出かけようと持ち掛けたのである。

 

「私は少し、暑いです……」

「ありゃりゃもうちょっと麦わら帽子ちゃんと被らないとダメだね、レ~君は大丈夫なの」

「はい、戦場ではそれ以上の物を体験しています」

 

と言っても本当は日本の湿気の多い暑さは割かし辛い物がある、だが戦場ではそれ以上の物を体験したので耐えられないなんて事は無い。ミョルニルアーマーはには密度を変化させる事が出来るジェル層が存在しており、それらは着用者の体温を感知し外気温との温度差を逆算して密度を変化してスーツ内の温度を変化させる。故にスーツは快適なのである。スパルタンの中にはスーツを着たまま休暇を楽しみたいというものもそれなりに居た程である。

 

「それでお母様、本日は何方に行くのですか?」

「いやぁ今度海行くからさ、水着見たいなぁと思って」

 

海、それはIS学園の行事の一つである臨海学校。単純な臨海学校ではなくそこではISの各種装備試験運用とデータ収集などが行われ、そこでは専用機持ち達の専用装備などの運用試験なども行われる。そこに束も同行する事になっている、単純な気分と海で泳ぎたいという思いが重なった結果なのだが護衛として073も行かない訳にも行かない。そしてついでにクロエも一緒に連れて行き泳ぐ事にしたのでその時の水着を選んでおきたい模様。

 

「よ~しという訳で早速買いに行くぞぉ~!」

「おっ~……でいいんでしょうかお父様」

「恐らく」

 

外出の際に決めた設定として束とレイは夫婦でありクロエは娘という事になっている、そんな設定に二人はまんざらでもないのか力強い手へと絡めている指から感じられる体温と感触に頬を赤らめている。と言っても彼自身は殆ど二人に流れを任せるような状態に近い、スパルタンになる前の人生は普通の人生だったがそれらは完全にスパルタンに塗り潰されていてもう思い出す事も困難。そんな記憶は頼りにならないので基本受け身で行く事と思われる。

 

そんな調子でやって来た水着を買う為にやってきたショッピングモールのレゾナンス。束曰く、此処になかったら市内にはどこにもないという触れ込みらしいので此処を選んだとの事。

 

「え~っと水着売り場……どこだっけな」

「クロエ、後でおもちゃ売り場でも覗くか。例のドライバーが再入荷されたとあるが」

「欲しいです」

 

と一般家庭のそれを演じている一行は周囲を見ながらも紆余曲折ありながら水着売り場へと到着した。が、そこでは何やら騒ぎのような物が起きていた。そこには何やらそこそこの年齢のおばさんが一夏に対していちゃもんを付けているように見える。それに対して一夏は呆れた顔をしつつも酷く理性的に対応し、ラウラはラウラで何時でも荒事に対応出来るように準備しつつ女尊男卑思想に染まっている女の弱みを握る為のレコーダーを起動させているなど中々に強かな事をしている。

 

「あらら、いっ君も不運だなぁ。助けてあげるかな」

 

そんな風に微笑む束に続いていくと束は良い笑顔を作りながらおばさんの肩を叩いた。

 

「ちょっとおばさん煩いよ、公共の場のマナーも守れないなんて社会人として失格だね。もう一回人生やり直したらどうよ」

「何よアンタ、こんな男の肩を持つ気なの!?」

「持つも何もアンタ自分の始末は自分でするのが常識でしょ。それとも何、自分で散らかした下着同然の水着を片付けさせる性癖でもあるのかな、うっわドン引きですわ」

 

話しかけるまでの一瞬で束は声を変えていた、声を変える道具などを一切使わずに声色を完璧(CV:水樹 奈々)に変えている。細胞レベルでのオーバースペックを自称するだけあってとんでもない高スペックぶりである。そんな束の物言いに顔を真っ赤にさせていくおばさんだが更に追い打ちをかけるかのように、悪い顔になった。

 

「それにさぁそこの子がボイレコでアンタの発言全部録音してんの気が付かないの、このまま警察にこの子が私に暴力振るいました、とか言ってもそれ出されたら一発アウトだよ。どうせ売れ残ってその憂さ晴らしにそんなことしてるんだろうけど逆にそれが自分の価値を落として独身街道を突き進むんだよ」

 

とワザと見せ付けるかのように胸を押し付けるようにレイに抱き付きながらクロエの頭を撫でながら勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「もっと自分の品性とか常識を磨いたらどうかな、世の中の状況を理解すればどんな風なのが一番賢いのかが理解出来るからさ」

「うううっっ……私だって好きでこんな事ぉぉぉお!!!」

 

ともう半泣きに泣きながら脱兎の如く駆け出していくおばさんに束は一声かけて追い打ちをかけておく。そして対処が終わると声色を戻して一夏たちに声を掛ける。

 

「やぁやぁいっ君、災難だったね」

「えっええっ!?もしかして、えっマジっすか!?じゃあそっちの人ってまさか……ええっ先生っすか!?」

「な、なんだと教官なのか!?じゃ、じゃなくて先生!?」

「おおっ中々に頭の回転が速いじゃない二人とも、私的にポイント高いよ」

 

と一夏とラウラの頭の回転を褒めながらも一旦売り場を離れてジュースでも飲みながら事情を説明する事にするのであった。




ミョルニルアーマーの機能 その1

装甲は特殊合金の多層構造で、表面はエネルギー兵器を拡散するコーティングが施されている。装甲内部にはジェル層があり、衝撃を吸収するため、2000m以上の高さから落ちても無傷で済むこともある。チーフのせいで勘違いされがちだが流石に大気圏突入などは専用装備が必要になる。
全身を包むエネルギーシールドは、銃弾・プラズマ兵器・ビーム兵器・打撃のいずれに対しても完全な防御を行う。キャパシティには限界があるが、しばらく安定した状態が続けば、再び完全な状態まで回復できるオートリチャージ機能がある。


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ショッピング、束、クロエ、レイ。

近場の自販機でジュースを買ってベンチに腰を落ち着けて話をする事になった一行、しかし一夏とラウラは酷く驚いていた。ラウラは目の前にいる存在こそが自分が教官と仰ぐもう一人の存在でありそんな人物が共に歩む女性と言えば一人しか思い浮かばなかった。一夏の反応を見ると恐らく間違いないと確信している、あの篠ノ之 束が目の前にいるという驚きに言葉を失いかけている。

 

「まあそう言う訳でね、束さんってば実は学園の地下に居るんだよね。そこで色々と研究とかしながら過ごしてる訳。理由としてはいっ君のデータをこっちで解析するって名目、まあ実際はいっ君のサポートというかまあなんというか賑やかしでもいいか」

「いやそこはハッキリさせましょうよ……」

「しかし教官があのアーマーを脱いでいる姿など初めて、です……」

 

柵に背中を預けるようにしながらも全周囲へと意識を配るようにして警戒を行っているレイ、例えアーマーを装着していないとしてもスパルタンゆえの習性は本能のレベルにまで染みついているので周囲への警戒は忘れない。良くも悪くも自分達は目立つのでそれらに混じる感情の一つひとつを鋭敏に感じ取っている。

 

「まあレイ君は護衛だからさ、無視して外歩く訳にいかないじゃん。だから今回は無理言って脱いで貰ったの。それとこっちはさっき話した束さんの義娘のく~ちゃんだよ」

「先程ご挨拶させて頂きましたく~ちゃんこと、クロエ・クロニクルです。余りに緊張なさらないでくださいラウラさん」

「い、いや私としてはそれは難しいのだが……」

 

挨拶をするクロエに苦々しい表情を浮かべてしまうラウラ、クロエはラウラと同じく試験管ベビーであると共に同じくドイツにて生まれた存在。が国が求めるような存在ではなかったために廃棄処分を受けそうになった所を束が救い養子として受け入れたという経緯がある。

 

「私としてはもうドイツも何も関係ありません、束様の娘であるクロエですので。気にされても私が困るだけです」

「ぜ、善処する……」

 

ラウラからすれば自分の国の闇をマジマジと見せつけられた上に自分がどのような存在なのかを突き付けられたような物なのでおいそれと受け入れるのは難しいだろう。時間をかけてゆっくりやっていくしかない。

 

「それで……えっと、何て呼べばいいんですかね」

「おおっいっ君思った以上に回転いいじゃない」

「ISの稼働訓練で上手くなるには回転が良くなきゃダメですからね」

 

束の名前を出さない配慮に束は素直に笑みを浮かべる。一夏的には以前の自分が鈍すぎただけと思っている。

 

「今の名前は高町 菜音さんだよ。菜音さんでいいよいっ君」

「私は高町 クロエです」

「因みにレイ君は高町 黎地ね」

「んじゃ先生は高町先生って呼べばいいんですかね」

「さんでいい」

「みょ、妙な気分だな……」

 

と思わず言葉にしてしまうラウラは悪くは無いだろう、彼女からすれば世界的な指名手配を受けている篠ノ之 束とその娘そして学園にて自分達の教官をしつつ束の護衛をしている073の偽名を容認してそれで呼ばなければいけないのだから。

 

「因みに何で高町なんすか?」

「この前見つけた喫茶店の看板娘さんがそんな名前だったんだよ」

「なんだ、この間違っているようで間違っていない漢字が割り当てられていそうな気配は……」

 

多分その予感はあっている。

 

 

「最近はこんな水着があるんだね~……つうか男性用少なくね、これでよくもまあ『此処になければない』とか胸張れたもんだな、後で本社宛にクレーム付けてやろっと」

「ちょっとたっ……菜音さん、メール爆弾めいた物だけはやめてくださいよ」

「大丈夫大丈夫、本社のメインサーバーが飛ぶ程度の事しかしないから」

「十分とんでもねぇ!!」

 

と本来の目的であった水着選びを開始した束こと高町 菜音。一夏とラウラもそれが目的だったようで一緒に水着選びを開始した。

 

「なんかラウラも水着は学校の指定の奴しかないんだけど部隊の人からそれは素敵なものだけど色物の域を出ない!!とか熱弁されたらしいですよ、本人も折角学生やってるんだからかわいい系の水着を着て見たかったっていうのもあったらしいです。それで丁度一緒に居たんで折角だから買いに行くかって事で今に至ります」

「随分と愉快な部隊メンバーだな、それ絶対なんか日本文化を勘違いしてる日本人かぶれだろ」

 

全くもってその通りなのが恐ろしい所である。ラウラの副官であるクラリッサ・ハルフォーフは日本通を自称しているが、彼女の持っている知識の大半は日本の少女漫画・ラノベ・ゲーム等からのサブカルチャー文化から得たもので大体偏っている。父上&嫁云々もこの人のせいであり、一番質が悪いのが本人に悪気は一切なくマジで日本はそうなんだと思ってる点である。

 

「お父様、こちらの方が良いのではないでしょうか」

「明るめなのもいいが普段の落ち着いたものに合わせるのも良いと思うが……」

「むぅっ迷うなぁ……」

 

と同じように水着を選んでいるクロエとラウラの面倒を見るかのようにレイは主観的な物言いをし、二人はそれらを取り入れつつ物を選んでいる。そして一番大変だったのは一夏とレイの物選びで女性ものと比べると物が圧倒的に少ない。これには菜音も本気でクレームを入れる事を決心するのであった。

 

「俺は普通にボクサーのこれでいっか安いし」

「……これで良いか」

 

と本人たちは余り拘りを見せるタイプでもないのでサクッと決める事にした。因みにレイ自身は臨海学校でアーマーを外す気は基本的にないので泳ぐのかと言われたら皆無なのだが、周囲の楽し気な空気を壊さない為に合わせて購入する事にした。所謂男性用競泳水着のスイムパンツにした。

 

「さぁってと……お買い物も済んだけどこの後どうしようかな、いっ君たちは何か用あるのかい?」

「俺達は後は新作のゲームを買おうかなと思ってる位です。一緒にプレイするつもりです」

「因みにそれ何のゲーム」

「「EDF!!」」

「おk把握した」

 

もう完全に仲のいい友達になっている二人はそのまま束たちと別れてゲームショップへとダッシュで向かって行った。本来あの隣には一夏の事を好いている箒や鈴が一緒に買い物をしたいと思っていたのだろう、だがそれを本人が友達のラウラに付き合う事で天然回避を起こした。今頃箒と鈴がラウラと出掛けた事を聞いて大慌てで此方に向かっている頃だろう。

 

「頭の回転は悪くなくなったけど乙女心に気付けるようになるのは何時なんだろうなぁ……」

 

楽しいショッピングを終えて戻ると直ぐに束は研究の再開、クロエは少し疲れたのか休憩がてらにレイに買って貰ったドライバーで劇中再現をし始めた。そして彼は―――内部にアーマーが収められたドッグタグを掌に乗せながら見つめた。

 

「今の私はスパルタンなのか、それともレイなのか……今の私は何だ、本当にスパルタンなのか……教えてくれ……頼む、チーフ……貴方なら今どうするのか……俺に教えてください……」




ミョルニルアーマーの機能 その2

ある種のパワーアシストがあり、60tの重量がある戦車を一人でひっくり返せる力がある。またその重量にもかかわらず、走力やジャンプ力でも一般兵士に劣らない。
アーマーの動作は神経回路インタフェースにより、思考と同じ速さでコントロールされる。HUDには銃の種類にかかわらず常に照準が表示されており、正確な射撃をサポートする。銃火器の残弾やバッテリー残量を解析し、表示する。

モーショントラッカーにより、周囲360度の動く物体を探知できる。更にその敵味方も判別でき暗所で使用するフラッシュライトを内蔵している。が、スパルタンⅡは視力の強化手術も受けているので暗所も問題なく見える為、彼らとしてはあまり必要ではないのかもしれない。

背中には武器を装備するためのマグネットがありくっつけるように装備できる。

これらの機能を併せ持った末にアーマー本体は500キロ、そして巡洋艦一隻に匹敵すると言われるコストがかかってしまう。


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臨海学校、073。

「海っ!見えたぁっ!」

 

山を穿つような長いトンネルを抜けた先から溢れ出してくる太陽の光、それに一瞬視界を奪われる。その後に訪れてくるのは太陽の光を受けて輝きを放っている大海原。幸運な事に快晴に包まれた空からサンサンと降り注ぎ日の光が、美しい海を更に美しくする。同時に漂ってくる心地が良い潮風が届けられてくる、その相乗効果で車内の女子達はお祭り騒ぎ。それらを見ながら内心一夏もテンションが上がっている。臨海学校の初日となる今日、世話になる宿へと向かっている途中でもワクワクを抑えれずにいた。

 

「海って学園の周囲完全に海なのにテンションの上がり方が此処まで違うっていうのもすげぇよな」

「そういうな一夏、学園には海があっても砂浜がない。海での楽しみは砂浜があってこそだろう」

「ああまあ、そう言われたら確かに」

 

そんな一夏の隣に陣取っている箒は酷くご機嫌そうな笑みを浮かべていた。恋敵(ライバル)である鈴は2組である為に別のバス、そして何時も集っているメンバーに一夏を狙うものはいない。存分に一夏の隣という特権を楽しむ事が出来ているので彼女は酷くご機嫌そうだった。そんな彼らの通路を跨いだ反対側の席にはセシリアとシャルロットが座っているのだが、彼女らの視線は窓の外のバスと並走するように走っている一台の車へと向けられている。

 

アクセルを踏むとそれに応えるように唸りを上げながら馬力を増して行くエンジン、呼応するように回転数を上げていくタイヤは軽い車体と共に高い機動性を生み出しながら操縦士の思うが儘に走り回る。そこに乗っているのはミョルニルアーマーに身を包んだ073。彼に合うバスのシートは無いので専用の車両を使ってバスを追いかけている。

 

「如何よレイ君」

「とても素直で扱いやすいです」

「エッヘン気合入れて再現したからね!!」

「あれが砂浜……楽しみです」

 

その車両もUNSCにて運用されていた陸上機動兵器"ワートホグ"。陸上部隊の支援、輸送、偵察など多様な任務に使用され、スパルタンもなじみ深い物だった。流石に後部には武装は積んでいないがそれ以外は懐かしさすら覚える程の再現率だった。そして同乗している束とクロエだが、彼女らは専用のステルスモジュールを使って姿を隠している。それなら先に臨海学校が行われる宿に向かえばいいだろうに、と思うだろうが束とクロエも是非とも一緒に乗りたかったらしい。

 

「博士、泳ぎになるので」

「そりゃ折角水着買ったんだからね、何なら此処で顔出して束さんがレイ君の上位者って見せ付けるのも悪くはないでしょ。事実の確認的な意味で」

「博士が良いのであれば」

 

そんな言葉で話を切って運転に集中するかのようにハンドルを切る、束も相変わらずだなぁと漏らしつつも買った水着の威力を見せ付けてやる、と乗り気である。クロエもクロエで一緒に泳ぐ機会は初めてなのかワクワクに胸を躍らせている。そんな思いを抱きながら到着した目的地である旅館、ワートホグを止めて束と別れながら千冬に合流。旅館の方々への挨拶なども済ませると彼は彼で行う事をやり始めた。

 

「すまんなスパル……いやお前も時間を見つけて泳ぐ……いや泳げないのだったか」

「遊泳は可能です、するつもりはありません」

 

そう言って彼は見回りへと歩き出していった。旅館の周囲一帯はIS学園が借り切っているので原則的に関係者以外は立ち入り禁止となっている。だとしてもこの臨海学校には各国の最新鋭のISが揃っている、それを狙っての者が現れないという事もあり得るのでその見回りを依頼された。この見回りは範囲が多い上に感知用の機器の設置までしなければいけないので誰もやりたがらなかった。そこで効率を考えて彼が名乗りを上げたのであった。

 

「いやのんびりやって貰って構わんぞ」

「いえ直ぐに始めます」

「あっおい―――」

 

そう言って073は機器を受け取るとさっさと見回りへと歩き出していってしまった。そんな彼の後姿を見送った千冬は不安そうな瞳を向けてしまった、そこへ自分の部屋の場所が一覧に乗っていなかったので教えて欲しいのか、一夏が話しかける。

 

「織斑先生、あのどうかしたんですか?」

「ああいやな……奴に妙な違和感を覚えてな」

「スパル先生に……ですか」

「ああ、奴が仕事に実直で直ぐにこなしてしまうのは知っている。それらに集中する事もな、だが―――それが最近かなり顕著になっている気がしてな……」

 

仕事を完璧にこなすし文句も言わずに頼りになる、思わず頼りたくなってしまう程の彼だが……それがやや目立つようになっているように千冬には感じられた。仕事を終えた直後だというのに次を要求し、ないと答えると即座に巡回へと動き出していく。一体何時休んでいるのかと言いたくなるような働き方に不安しか覚えない。漸く落ち着きを見せるまで頼り過ぎていた自分達が言えた事ではないが……働き過ぎだろう。

 

「この前、俺がラウラと買い物に行った時に束さん達と一緒だったけどそん時は全然普通な感じだったぜ」

「ああそれは聞いた、唯の気のせい……だと良いのだがな」

 

 

溢れてくる、満ちてくる、零れていく、自分から何かが次々と失われていくかのように恐ろしさを押し殺すかのように任務だと自分を言い聞かせる。すると途端にそれらは姿を消していく、スパルタンの習性が役に立っている。ならば任務に集中しよう、任務ならば何も考えずに済む。自分はスパルタンだ、スパルタン-S-073だと己に刻み込み続けていく。

 

足を動かし続ける、思考を止めない。止まった時、辞めた時―――自分がどうなってしまうのかが酷く怖い。想像したくもない、そんな憤りに思わず木を軽く殴ってしまった。アーマーの拳は易々と木の幹を抉った、穿たれたかのようなその跡を残して、彼は任務を遂行する為に再び動き始めていった。

 

『博士、悪い知らせです。レイさんですが……』

「……うん分かった、何とかしないとね……」




ワートホグ

高い機動性を持つ戦闘車両。手足に出来ればかなりの攻撃を避けることができる。
UNCSが保有する陸上兵器の中でも特に活躍機会が多い車両。日々大量のワートホグが前線で活躍し、吹っ飛び、更に製造されている。
後部に様々な武装を施せるのが強みで、ロケットランチャー、ガトリングタレット、ガウスキャノン*1などさまざまなバリエーションが存在する。

HALOの顔と言える車両でリアルでも人気が高い。実際に作っちゃった人も結構いる。

*1
砲弾を超音速する兵器で優れた火力を誇る



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束、073、少女ら。

「やっぱり……心配してた通りになっちゃったか」

『はい、申し訳ありません。私がもっとレイさんのケアを出来ていればよかったのですが……』

「いや十分にやってくれてるよ、でも全然足りない位に荒れちゃってるんだよ……」

 

旅館近くに仮拠点を設営している束の元へと届いたイグからの通信に全く役に立てなかった事への無力感、それが怒りとなって現れてしまう。それを抑え込みながらもどうすればいいのか策を巡らせるが、そんな事なんて出来っこないと結論が生まれてしまう。

 

「……無理だね、レイ君からすれば見ず知らずの私達なんてコブナントのそれに近い何かだし」

 

全く別の地球の人間、だが其処に彼を構成していた要因を一つもなく別次元の存在だと感じさせる。何も知らない者ならば必ず言うだろう。命を懸けて守る為の戦いをし続けた、その果てに生き延びたのならば人間として生きて守ろうとした平和を感じればいいだろうと。

 

「馬鹿の言う事でしかない、そんな事出来ないから苦しんでるだろうが……!!」

 

彼にスパルタンとして選ばれ、スパルタン-S-073となった事は誇りなのだ。家族に等しい仲間と共に戦い続けた日々が全てなのだ。人間(レイ)として生きるという事はそれから眼を背けるという事だ。共に死ぬはずだった仲間を置き去りにしてしまった、生きてしまっている彼はだからこそ苦しんでいる。

 

今の彼にとって生き地獄に等しい苦しみ、それは例え束とて彼を満たす事は出来ないのだろう。束はあくまでそれに関する情報を識っているだけで知っている訳ではない、仲間(スパルタン)ではない。絶対的な境界線で隔たれた壁を超える事なんて出来ない。

 

「何が、天災だよ……何が、何が……」

「束様……」

 

悲痛に歪んだ先に投げかけた言葉は何にも触れる事もなく消えていく、あるのは静寂だけ。唯圧し掛かってくる無力感とやり切れない思いが交錯していく中で束は迫ってくる気配に気づいたのか苦虫を嚙み潰しながら立ち上がって普段通りの笑顔を張り付けた。

 

「やぁやぁっレイ君、そっちのお仕事は終わったの?」

「いえまだ途中ですが間もなくです」

 

悟られたくはない……それは単なる見栄なのだろうか……同情なんて受けたくはないかもしれない、そんな気遣いを向けて位しか出来ない自分に酷く苛立っていた。

 

「では後程お伺いします」

「うんそれじゃね~」

 

機器の設置などを終えるとそのまま他の場所へと向かって行く彼を見送った後、崩れ落ちてしまう。言葉を交えると彼が危うい状態だとそれがより明確になっている。それを感じながら一つの決心をしながら束は鋭い瞳を作りながら拠点の中へと入るとあるカプセルの中に収められている物へと瞳を向けながらキーボードを叩き始めた。

 

「―――君は反対するだろうけど束さんはすべきだ思ってるよ―――これが君を癒すやり方だからね」

 

 

「完了、任務完了」

 

最後の機器の準備が完了し後は千冬にこの報告をするだけとなった。だが同時に綻びが生まれてしまった、僅かに指が震えた。思考がまた揺らいだ、またあれを考えてしまった。

 

「―――聞いて呆れるな……」

 

それを無理矢理収めながら立ち上がる。何であろうと任務をこなすだけ、そして自分は束の護衛に戻るだけだろうと言い聞かせて漸く震えが止まったのを見ながら自分が大分狂って来ている事を自覚せずにはいられなかった。だがそれを表に出さずに千冬の元へと報告に向かおうとするのだが……不意に砂浜から楽し気に響く声が聞こえる。海で遊ぶ生徒達の声がする。

 

「あっスパル先生~!!」

「一緒に泳ぎましょうよ~!!」

「いやアンタ先生があれ脱ぐと思うの?」

 

そんな声には応えない、筈だったのが千冬の声が過る。

 

 

―――のんびりやって貰って構わんぞ。

 

 

それに従うならば多少は時間をかけてもいいのではないか、長めに見積られた任務完遂までの制限時間を考えればまだまだ余裕はある。ならば―――と砂浜へと足を向けてみる。生徒達からは驚きと共にそれを歓迎する声が響いた。教官としての自分はそれに笑みを浮かべ―――スパルタン-S-073としての己が軋んでいる事に気付けず。

 

「ああ先生私の水着どうですかこれ!!」

「あざとい」

「狙いすぎ」

「お腹プニプニ」

「アンタらには聞いてないって嘘ぉ!?ちゃんとシェイプアップしたのよ!?」

 

賑やかで楽し気な生徒達の声、年頃の少女たちがやや大人ぶりすぎている水着などを纏っている姿は見眼麗しいのだろう―――それに彼は手を振ってやりながら大きく青い海を見つめた。

 

「……綺麗、だな」

 

地球出身ではない彼にとっても地球は故郷という不思議な自覚があった。それゆえに地球は絶対に守らないといけないという強い思いがあった。そして初めて地球を見た時の感動と沸き上がった使命感を忘れた事も無い。今自分はそんな地球の地に居る事に思いを巡らせていると背後から軽い衝撃が襲ってきた。

 

「先生、お仕事は終わったんですか?」

「デュノアそれに……オルコット」

「はいシエラ先生、お会いしたかったです♪」

 

後ろを見るとそこにはモデル顔負けなスタイルに見事に選び抜かれた水着を纏っている二人の美女がいる。普通の男ならば確実に目が離せなくなること間違いない。

 

「流石の美貌だな、モデル顔負けな美しさと可憐さだ」

「いやですわシエラ先生照れますわ♪」

「えへへへっ~♪」

 

と子供のような笑みを浮かべているシャルに赤らめた頬と共にさり気なくポーズを取るセシリア、明らかに誘惑する気MAXである。しかしスパルタンⅡである彼に効果は余りない。

 

「あの先生、是非ともお願いしたい事が御座いますの!!」

「なんだ」

「そ、その……是非サンオイルを塗って頂きたいのです!!」

「ちょっとセシリアずるいよ!!」

 

と攻め始めたセシリアに慌てるシャル、だがあの073が簡単にやるとは思えずに断れるのではないか、と言う考えもあったシャルロットはさり気なく気落ちするセシリアを想像して口角を上げる……のだが

 

「……経験は無いがそれでも良いのなら、織斑女史への報告の後でなら」

「ほ、本当ですか!?是非お願いします!!」

「え、えええっ!!?ず、ずるいよ僕もお願いします!!」

 

この時、彼は気付けずにいた。セシリアとシャルロットとの会話の最中に余計なことが考えずに済んでいた事に。それは彼女が自分と関りが強くなっているからだろうか、セシリアはスパルタン計画について話したからか、シャルロットは自分が救おうとした少女だろうか……何も分からないが僅かながらに彼の心は踏み止まれた。




再突入装備

ミョルニルアーマーへ装備するモジュールの一つで自由落下での大気圏突入に対応した装備。
大体高高度から落ちて平然と生きているチーフのせいで勘違いされがちだが、いくらスパルタンでも単独での大気圏突入は自殺行為である。アーマー内のジェル層でも衝撃を吸収しきれず、関節などをロックしたとしても流石のスパルタンでも何かしらの備えがない確実に死ぬ。

……筈なのだがチーフは何故か毎回毎回平然と生きている。
何故かと言われたら、チーフの運、としか言いようがない。


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砂浜、レイ、セシリア&シャルロット

夜、073は海を見つめ続けていた。見つめている海は夜空の星空の光をスクリーンにするかのように我が身に受けている姿はまるで宇宙を作り出しているかのような光景。その光景は彼にとっては様々な意味を持っている、そんな中で思わず握りしめた拳。

 

「―――俺はどうしたい……何を如何したい」

 

最初こそ割り切ろうとした、自分は何れUNSCへと戻り戦いへと身を投じるのだと。だが時間が流れて行く度に現実を見せ付けられて行く。ISなどというものが存在しているならば自分の世界にも確実にそれは残っている、だが自分はそれを知らず確実に元の世界の過去などではない。例えコールドスリープが可能になったとしても目覚めた後は自分の知っている世界という事はあり得ない。

 

途中から口さえ紡いだ、言葉すら発さなくなった。何も言葉にも形にしなくなった彼は唯々握りしめた拳を何処にも振り下ろす事も無く呑み込んでいった。今自分に出来る事なんて限られている上にそれらは決して自分を癒す物ではない、生き延びてしまった自分を罰するものだとすら思っている。

 

「―――っ、ぐぁ……ぅぅ……」

 

思わずメットを外した、周囲に人の気配などはしない。それでも彼がメットを外したのはスパルタンとしては異常すぎる。顔を手で覆うようにしながら呻く、声を漏らさぬように押し潰した声が、虚空に飲み込まれていく。彼が惑星リーチで死に、そしてこの世界に来てから間もなく1年を迎えようとしている。だが何も進展せず、只管に責め苦を味わうような現実に鋼の精神を持つスパルタンが限界を上げようとする。

 

此処では自分の使命を果たせない、自分の全てを使う事が出来ない、ならば如何するのだ、分からない。何も分からない、これなら宇宙空間に投げ出されて永遠に彷徨いながら死を待った方が余程救済だと思わず内心で吐き捨てた。

 

「(チーフ……なんで俺は生きているんですか……貴方に未来を託して死ねなかった俺は―――如何して生きているんですか……お願いです、チーフ教えてください……)」

 

星空を見上げる、届かない筈の願いを流星に託す。だが託された流星は直ぐに地へと墜ちて行く。お前の願いはかなわないと揶揄するかのような光景が僅かに彼の心を冷静にさせた、愚かな願いと考えをしていると自罰的に思いながらメットを被り直して再び空を見る。自らの願いなんて意味がないのだろう、死んだ者が望む自らの願いなんて呪いと同じだろう。ならばこの願いは聞き入れられるだろう、あの人へと向けた言葉ならば。

 

「チーフ……私は、信じてます―――貴方がきっと未来を切り開いてくれるという事を……ジョン、幸運を」

 

そんな言葉を口にしたとき、思わず星が煌めいた。その願いを聞き入れたと、返事が聞こえたような気がした。その煌めきはレイにとって小さな救いになった、気のせいかもしれないが願いが天へと届いたと思いながら―――振り向くとそこにはセシリアが此方へと向かっていた。

 

「レイさん、そろそろお夕食のお時間ですわ。ご一緒に戴きませんか?」

「いや私は……」

「はい、旅館の方が個室をご用意して下さったそうです。織斑先生も気を回してくださったようで、私もご一緒させて頂けませんか?」

 

食事、スパルタンである彼はまともな食事というものは取った記憶がない。戦争時は基本的に必要な栄養素が補給出来るサプリメントを摂取する程度だった。した事もあったかもしれないが……あまり覚えていない、それらは出来るだけ部下のファイアチームに回したりすることが多かった気がするし、此方でもその癖が抜けきらず束が研究などで食事をする暇がない時に使う錠剤を使わせて貰っていた。

 

「私ならレイさんの素顔も知っておりますし配慮も出来ます、上手く休息を取って身体を休める事も良い戦士の条件ですわ」

「……確かに。ではそうさせて頂こうか……」

「ハイ、それではご一緒に♪」

「そうだね、一緒にだね」

「キャアッ!?シャ、シャルロットさん!?」

 

レイ自身は気付いていたがセシリアの背後にはシャルロットが潜んでこっそりと着いてきていたらしい。

 

「抜け駆けなんて許さないからね、結局サンオイルは僕塗って貰えなかったんだから!!」

「そ、それは織斑先生が来てレイさんが場所を離れなければいかなくなったからで……」

「それはそれ、これはこれだよ。僕も同席するけどいいよねレイさん♪」

 

結局、初日の自由時間にてサンオイルを塗って貰えたのはセシリアだけだった。ISの収納を上手く活用して手の部分だけを露出させて行った。その際にセシリアは妙に艶っぽい声を連発したのだが当の本人は全く動じなかった。そして次にシャルロットへと行おうとしたら……そこへ千冬が現れてしまい、他の先生からの救援要請に応えてあげて欲しいと言われ、其方を優先されてしまったのでシャルロットは塗って貰えなかった。

 

『そうか、ならば代わりに私がやってやろうじゃないか』

『え"っいやその……ぼ、僕はそれならご迷惑になりそうですから一人で……』

『何、此方とてお前達の予定を潰してしまって悪いと思っている。純粋に私の厚意だ、安心して受け取れ』

 

と完全に千冬の厚意を受け取らない訳にも行かずに千冬に塗られたのだが……如何せん千冬自身も経験がないのか……セシリアの身体を気遣って繊細に塗ったレイと比べたら……酷く力任せだった。

 

『ヒギィッ!?』

『むっすまん、間違って力を込めて……おいデュノア大丈夫か?』

『ぜ、全然……』

『そうか無事で何よりだ、続けるぞ』

『ごぎゃぁっ!?』

『(お、織斑先生今の全然は大丈夫ではないという意味ですきっと……)』

 

 

「ううっ……未だに身体が痛いよぉ……」

「そ、それについてその……ご愁傷様です、がそれはそれ、これはこれです」

「むぅぅっ!!」

「まあまあ落ち着け、私としてもデュノアとの約束を果たせなかった事もある。一緒に食べようじゃないか、それと身体が痛いならば簡単な整体をするが」

「えっ良いんですか!?というか出来るんですか!?」

「訓練の一環でな」

 

訓練では単純な軍事訓練だけではなく応急処置などの医療訓練も含まれていた。その中には脱臼者や骨折した者への処置なども含まれており、整体なども一応修めている。因みにスパルタンの中だと一番上手いのがレイでアーマーを受領する前などは仲間内でやって欲しいと言われた事もあったりした。

 

「わぁぁっお願いします!!」

「ず、ずるいですわシャルロットさん!!」

「勿論オルコットにもやってやる」

「有難う御座います!!私の事はセシリアとお呼びください!!」

「僕もシャルロットで良いですからね!!」

 

そんな二人が身体を密着させるようにしながら腕を組むのだが、お互いを牽制するかのような視線と唸り声を上げる光景に過去のファイアチームとの思い出があった事を思い出した。

 

『だから悪かったって言ってるだろ!?っつうかテメェが俺の射線にいきなり飛び込んできたんじゃねえか!!射線上に入るなよって俺言ったよな』

『爆風でぶっ飛ばされてたんだから無理に決まってるでしょうがぁ!!アンタ私が何とか立ち上がろうとしてた所に警告なし&躊躇なくぶっ放したじゃないのよ!!リーダー退いてそいつ殺せない!!』

『殺すな殺すな!!』

 

そんな光景に二人が何故被ったのか、少しばかりに疑問に思ったがレイはそのまま彼女らと共に旅館へと向かう事になった。そして心の何処かで何かが呟いた―――彼女らがスパルタンなら良かったのに……と。




ファイアチーム・オシリス

ジェイムソン・ロック、エドワード・バック、ホーリー・タナカ、オリンピア・ヴェイルで構成されるファイアチームでHALO5における主人公枠。全員がスパルタン4で必然結成から日が浅い。
メンバーが良くも悪くもやたら濃い過去を持っているのが特徴。機密度の高い仕事に関わる事が多く、必然後ろめたい仕事も増えているらしい。
だがその実力は本物であり劇中ではエリートの集団を銃よりもフィジカルにて圧倒し、撃破している。

オシリスの活躍はそれまで評判の悪かったスパルタンⅣへの印象を覆すような物でプレイヤーからも白い目で見られがちなⅣ世代の名誉を回復させていった。


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レイ、食事、整体。

「―――……」

「シエラ先生、追加が来たようですわ」

「済まない、恥ずかしい所を……」

「そんな事ないですってそれだけ此処のご飯が美味しいって事ですから」

 

個室へと案内された073はセシリアとシャルロットと共に夕食を取る事になった。出されたのは純然たる和食のフルコース、日本食すらまともに食した事のない073にとっては洗練され美しさすら感じるそれらはまさに青天の霹靂と言うに相応しいものだった…だった。スパルタンは切り札、そんな彼らを投入する作戦は慎重に選ばれる、そんな彼らにはベストなコンディションを保つことが要求される故に待機時間などもあったが基本的に娯楽などに費やす事なども無いⅡ達は戦う事へと集中し続けていた。何時、命令が掛かったとしても動ける体制を維持し続ける事をし続けるのが普通。そんな彼らの食事は普通ではなかった。

 

だがその日、073であるレイは和食を口にした。魚を切っただけの刺身を口にして驚いた、美味いのだ。単純に魚の身を切って美しく並べただけである筈のそれが目を見張る程に、共に口にする白米の甘さにも驚きを感じさせられた。お椀の中にある吸い物を口にすると透明なのに力強い味が口の中を覆うのだ、なんだこれはと驚かずにはいられなかったのだ。

 

「レイさんって凄い健啖家だったんだね、学園でも凄いモリモリ食べてるんですか?」

「―――いやそう言う訳では……」

 

言えるはずもない、彼の食事は食事ではなく補給でしかない。スパルタンは兵士ではない、兵器だ。そう言わしめるかのように073はそれを続けている、それはスパルタンとして活動している間もずっとだった。チームが食事を取っている際も自分は薬で栄養を取り自分の分は部下へと回していた。単純に食い意地が張っていて取り合いをそれらを諫める為……だが今は違うのにそれを続けていた、だが今は違う事をしている。

 

「セシリア、其方の薬味を取ってくれ。試してみたい」

「はいこちらですね」

 

箸を初めてとは思えない程に上手く扱いながら食事を進める、薬味を加えてみると味が変化しながらも深くなった。自分の知らない命の側面だと思えるほどの衝撃を覚えてしまう。自分は此処まで食べれるのか、と驚くほどに食が進む。強化手術の影響か、食欲といった物は必要なものを摂取したと自分が感じられれば生まれなかった。故に必要分の薬を飲めば何も感じない。自分が此処まで物を美味しく食べれる、スパルタンになる前ならば当たり前だった筈の事が酷く新鮮に思えてしまっている。

 

「―――凄かった」

 

自分には成し得ないものだという思いと共に言葉が吐き出された。

 

「ハイとても美味しかったですわ」

「うん、流石はIS学園が貸し切りするだけの旅館なだけはあるよね」

 

洗礼された職人の技には美食の国であるフランス出身のシャルロットも笑みを浮かべ、貴族の当主であり大きな宴にも出席した事があるセシリアも満足する程の素晴らしい出来前の物ばかりだった。食後のお茶を楽しみながらにこやかな会話の後、主にシャルロットが待ちわびていた整体が始まった。

 

「―――後で織斑女史に言っておく」

「是非お願いします」

「あ、あのシャルロットさん大丈夫なのでしょうか、凄いゴキゴキ骨が鳴っている気が……」

「背骨も大分ズレているな……関節も……明日には全快するだろうがこれは酷い……」

 

千冬のサンオイル塗り、という名の一種の技を受けたシャルロットの身体は何故か大きなダメージを受けていた。肉体面だけではなく骨辺りまで浸透してしまっている。それらを上手く解しつつズレてしまっている骨を矯正し直す。翌日には完全に戻っている事だろう。

 

「織斑女史……加減を知らないのだろうか」

「あ"あ"っ~やばい超気持ちいい……新しい境地が開けそう……」

「黙って受けろ」

「あ、あのなんかすごい音がしているんですが痛くないのですか?」

「いや全然、セシリアも受けてみなよマジで凄い、世界が変わったみたい―――Mの気持ちが分かったかも」

「シャルロットさん!?」

「流石に冗談だよ、ホントだよ?」

 

この後、千冬の元まで出向いたレイが話をして千冬は思わず頭を下げたのであった。

 

「済まん……本当に私の善意のつもりだったのだが……」

「善意なのは結構ですが、そこで自らの感覚だけで相手にダメージが及ぶのが危険なのです。客観的に自らを判断した上で行動が求められるのが教える立場です」

「……ぐうの音もでん……」

「私よりも教育者歴が長い織斑女史がそれなのは如何かと」

「……」

 

とシャルロットという被害者もいるので今回ばかりは強めに注意をしておく事にしておくのであった。そしてそれらが終わった後に巡回へと気持ちを切り替えようとした時に―――気付いてしまった。自分は今まで何をしていたのかと。

 

「―――そんな、まさか、いやそんな事は絶対に……」

 

先程まで自分は何をしていたのか、その時に何を感じていた。何も感じずに考えず、その場の全てを受け入れていたのである。それはつまり―――迫りくる恐怖も何も失う恐怖も無かったのだ。スパルタンではなかった、レイであった。

 

いい筈の事ではないか、と思われる事へ彼は絶望した。レイであろうとするという事は嘗ての自分、スパルタンになる前へと戻ろうとしている事に他ならない。それはスパルタンであった自分を忘れようとしている、苦しさから解放される手段としてあり得るかもしれないと思っていたそれに自分から指を掛けていたのだ。忘却という甘い毒が立ち込める地獄が、また新たにスパルタンを貪ろうとする。

 

今度は―――彼の全てと言ってもいい誇りを奪おうと画策が始まった。




セイバー

UNSCが極秘裏に開発していた宇宙戦闘機。拠点防衛用として設計されている為に性能面を強く追及した結果、エナジーシールドを装備している。これにより、セラフの様なコヴナントの機体とも十分に渡り合える性能を持っている。機銃とミサイルを装備しており、追加ブースターを装備することで単独での大気圏突破も可能。

ノーブル6はセイバーの元テストパイロットだが、計画の機密度から正式には明かされていない。


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臨海学校、束。

合宿二日目。一日目とは打って変わって本日は丸一日、午前中から夜までISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる事になる。特に専用機持ち達は大量の装備が送られてくるので酷く忙しい一日になる。そして―――それだけで終わる訳もないのが二日目でもある、何故ならばその場に073の姿がありその手にはライフルを持っている。戦闘態勢を整えている状態に周囲からは戸惑いの声が漏れた。

 

「あ、あの織斑先生どうしてスパル先生は如何してあんな感じなんですか……?」

「ああうん……実は今日はとあるVIPがやってくる事になっていてな、その護衛役だ」

「護衛……?」

 

彼が護衛に当たる程のVIPと言われて皆は思い辺る事が出来なかった、国のトップや大企業のトップなどだろうかと予想を巡らせてみるがそれを態々学園側である073が護衛する意味が分からない。そちら側から護衛する人員が出ていても可笑しくない筈、そんな中で一夏たちはその人物に心当たりがあった、が心の何処かでまさか……という思いもあった。

 

がそんな予想を裏切るかのように073の隣当たりの空間が歪むようにノイズが走っていく、それは次第にはっきりとした形となって表れて行く一つの人影を形成するかのようになっていく。そして遂にハッキリと輪郭が、次に姿が現れてきた。風景に同化するかのように潜んでいたそれは姿が現すと同時に頬を緩めながら声を上げてみせた。

 

「ニュッフッフッフ……やぁやぁやぁ皆の衆ご機嫌麗しゅう、ISのお母さんこと篠ノ之 束さんのご登場だよ~!はい拍手拍手~!!」

「無茶を言うな束……突然現れて拍手要求は無茶だろ……」

「えっでもスパ君やってくれてるよ」

 

『ええええっっ~!!!!??』

 

と空しく073の拍手が木霊する中で絶叫が木霊してしまった。それも無理はない、全世界にて指名手配を受けているあの篠ノ之 束が自分達の目の前に平然と立っているのだから驚くなと言う方が無理な話である。と言っても彼女の理不尽さやフリーダム加減を知っている一夏に最近顔を合わせているラウラはそこまで驚く事はしなかった。

 

「……今回博士がいらっしゃったのは博士自身が派遣したスパル先生が教えている学園の生徒達がどの程度なのか気になったから、だそうだ。その見返りとは言わんが専用機持ちのISのセッティングを請け負って貰う事になっている、皆頼むからスパル先生のご迷惑になられるような結果は遺すなよ。場合によっては彼を学園から撤退させる事をも考えるそうだ」

 

その言葉で浮足立っていた皆の空気が一気に引き締まっていく、確かに平静さを思わず欠いてしまう程の大きな衝撃を生み出す出来事だが、それに気を取られてしまう程に学園の生徒達は愚かではない。何せ肝心要の彼自身が教えているのだから頭の回転も決して悪いわけでもないのだ。気合を入れてやるべき事へと取り組み始めて行く。

 

「ち~ちゃん何言いだすのさ、束さんはそんな事言った覚えも考えた事もないんだけど」

「こうした方が余計な事をする生徒も減るし真面目に取り組む生徒も増える。それだけスパルは人気という訳だ」

「まあ人気なのは知ってるけどさ」

 

強制されているかのような立場になってしまったが、まあ千冬が強引なのは昔からなので特に言う事は無く終了したのであった。そして束も束で約束である専用機換装装備(パッケージ)の装備試験の手伝いという役目を果たす。本来装備の換装や起動準備にはそれなりの時間がかかってしまうのだが、束はそれらを全員纏めて5分程度で終わらせて何時でも動かせるような状態に仕上げてしまった。流石理不尽の塊の天災と呼ばれる事なだけはある。

 

「さてさてこんなもんかなぁ、それじゃあみんな頑張って動かしてねぇ~」

「……一応これってウチの国の最高機密なのよね、一応プロテクトとかあって候補生の入力とか必要なのに……」

「あっさりと、突破して起動完了させてしまうとは……これはこれで本国に報告しなければならないのだろうなぁ……」

 

鈴とラウラは思わずそんな事を口にしながらも、報告してプロテクトの強化を図った所でどうせそれもあっさりと突破されてしまうのだろうなぁという思いに駆られてしまった。人間というものは目の前で想像を絶するものを見せ付けられると一種の悟りの境地のような物に目覚めてしまうのか、明るくない方面にも勘が働くようになるらしい。

 

「でも博士ですし……」

「だよね……スパル先生が護衛する程の人だしね……」

「まあうん、束さんだし」

 

と一方で素早く束への適応を成功させた者もいる。そんな様子を見守りながらもどんどん進んでいく作業に束も満足気な笑みを零す、唯一の例外は装備が存在しない一夏程度で彼は束から直接データの解析をさせる事がすべき事となった。そしてそんな中でこちらを見つめている箒へと軽く手を振ってみる、如何やらそちらの作業が終わったらしく気を利かせた千冬が此方へと呼んでらしいが本人的には要らぬ節介だと溜息が漏れた。

 

「久しぶりだね箒ちゃん、元気してるみたいで安心したよ」

「お、お久しぶりです……その、姉さんもお元気そうで」

「まあね、束さんが元気じゃない日があったらガチ天災だからね」

「……姉さん、私が子供の時に台風の日は酷くテンション上がってませんでした……?」

「いやあれは自然エネルギー活用型の実験が出来たからテンション高かっただけだよ」

 

姉と妹の久しぶりの対話というにはどうにもぎこちないような雰囲気がある、箒の側は歩み寄りたいが束は逆であるような雰囲気。何処か上手くかみ合っていないようなそれに一夏はどことなく不安を感じているのだが、下手に突っついて怒りを買いたくないので静観し続ける。

 

「……よくもまあこっちに来る気になったね」

「ええ、姉さんを理解したかったので」

「理解ねぇ……だったら解ると思うけどね」

 

そう言って束は箒に背を向けて他の作業をし始めてしまった、箒としてはそれに戸惑ってしまった。彼女の記憶の中にいる姉は自分に酷く構ってくる上にちょっかいなどを頻繁にかけてくる人物だった。それとは大きく異なるそれに戸惑いを隠せなかった。千冬に肩を叩かれた時、ちょうど束が試験が終わったばかりのセシリアとシャルロットへと声を掛けた。

 

「えっとほら……そうそう、オルコットちゃんとデュノアちゃんだっけ。二人にちょっとやって貰いたい事があるんだよ、いい感じに二人が最初に終わったっぽいからね、ついでにいっ君もプリーズ」

「チョーイイネって何言わせるんすか」

「いやそっちが勝手に言ったんじゃない、それに束さんはchange NOW派だから。三人にはさ束さんが開発した最新型の運用テストをお願いしたいんだよね」

 

その時、その言葉を聞いて073が思わず其方を凝視した。是非テストして欲しいとお願いするその機体は……以前自分が見たミョルニルアーマーを模したかのような第五世代型のISだった。そしてそれを見た時に、今までにない程の感情の渦が巻き起こった。




ゼル・ヴァダム

コヴナント軍連合艦隊パーティキュラー・ジャスティスの最高司令官にして、後の歴史において重要な立場を担う事になり、後のアービターと呼ばれる事になるサンヘイリ(エリート)
彼を現す言葉として最も分かりやすいのがエリート版のマスターチーフ。それ程までに優秀且つ勇猛な戦士。本人のカリスマ性も相まって纏め上げ統率するという点に至ってはチーフ以上とも言えるかもしれない。

惑星リーチを陥落させた艦隊の最高司令官であるが、その存在が人類とコブナントの戦争を大きく変える事になった。


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束、第五世代、アーマー。

上空からゆっくりと迫ってくるように降りてくる輸送機、それはISの技術が用いられているのかゆっくりと降りながらも一定の高度で完璧に静止した後に完璧な直線運動で降下してそれを切り離して空の彼方へと消えていった。そして束が指を鳴らすと同時にそれは解放されて中からゆっくりと3機のISが歩き出し、並んで立った。

 

「よしよし、そこで待機っと……」

「束、今のはAI制御か」

「と言っても簡単な命令しか聞かないけどね、でも態々人間が乗って動かすよりは効率的だからこの位に使ってるんだよね」

 

サラッと見せているがISは人間が動かさないと動かないという前提を自らぶち破っているような所業だが、その物いいからまだまだ戦闘行動などは出来ず簡単な命令程度なのだろうと千冬は解釈する、実際はどうかは分からないがその位ならばまだ……と許容しているかのようだった。

 

「あ、あの篠ノ之博士、これらのISはシエラ先生のアーマーと酷く似ておられるのですが……!!」

「そりゃそうだよ、これらのISの原型はスパ君のアーマーなんだからね。言うなればあれはプロトタイプでこっちのはテストタイプになるね。いっ君にも分かるように言えば、こっちのは初号機であっちは零号機って感じ。まあ暴走はしないけど」

「すげぇめっさ解りやすい」

「えっ一夏今ので分かるの!?」

 

この辺りはアニメ関連に明るくないと分からない物があるだろう、因みにラウラは成程と納得している。彼女も彼女で休日にクラリッサに気分転換として一緒にアニメを見ないかと誘われてみた事がある。本人的に中々楽しめた内容だったらしい。

 

太陽の下に照らされているそれは従来のISとは違って完全に全身を覆ってしまう全身装甲(フルスキン)タイプになっており、073のアーマーの系列機だという事が強く窺える。基本的な造りは同じ物のように感じられるが頭部のバイザーの形状が異なっている程度の違いしかない。

 

バイザータイプのサングラスのような物もあれば、その上から高感度のカメラを新たに付けたような物もあれば全周囲を確認出来るようなものらに分かれている。

 

「え、えっとその博士質問いいですか」

「いいよえっと……えっと、ち~ちゃんこの巨乳眼鏡っ子の名前なんぞ」

「真耶だ、山田 真耶」

「そっかんじゃ質問どうぞ山田さん」

「えっと、其方のISは一体何なのでしょうか。全身装甲タイプは第一世代以降見なくなったものですからまるで逆行しているような感じがするのですが……」

「ああそう見えるのか、これは第五世代型だよ」

 

『第五世代!!?』

 

とその場にいるほぼ全員から驚愕に慄く声が漏れた。今世界で最新型とされているのは第三世代型、それよりも二つも世代を飛び越えてしまう程の物を既に開発しているというのかと驚きと恐怖に引き攣るのだがそれを束は何か勘違いしてるっぽいね、と口にする。

 

「どういう事だ」

「第五世代型っていうのは今までのISの世代とは違うんだよ、確かに第四世代は当てはまるけど」

「え、え~っと……」

「うんんじゃ説明してあげちゃおうか、スパ君手伝って~」

「はい」

 

説明の手伝いを求められた073は束の隣に歩み出た、皆からその存在を知っていたのかという視線が投げられるが千冬はまあ束の護衛なのだから知っていて当然。そして知っていたとしてもそれを悪戯に口にする事は拙い事だと納得して視線を収めた。そしてスパルが先生として咳払いをしながら話す。

 

「第一として、始まりの世代である第一世代はISとしての形の完成。次の第二世代は後付け武装による多様化、第三世代は操縦者のイメージ・インターフェイスを利用した特殊武装の実装だ。第五世代はそのままこの後には入らずに第一世代からの直接進化型に当たる事になる」

「直接、進化……ですか?」

「そうだ。織斑やラウラに一発で分かる方法で言えばレベルによる進化か条件や道具による分岐進化だな」

「「成程解りやすい」」

「お前らシンクロ率高すぎないか……いや私もそれで分かってしまうが」

 

とその説明で全員が理解出来た。流石は世界に名立たる携帯獣、あっという間に伝わっていく。第四世代型は第三世代の後継となり、その本質はパッケージ換装を必要としない万能機。束曰く展開装甲は装甲自体が攻撃、防御、機動へと可変し切り替えを可能とするもので世界では机上の空論でしかないのだが、本人はそれを実用化させてしまっている。因みにその技術を応用して以前073が使用したビームアサルトライフルは構成されている。

 

「そして第五世代は第一世代を本来の到達点へと導く為への世代、宇宙空間活動前提型って所だね。流れとしては第二世代ルートが今の競技用のISルートで第五世代ルートは宇宙服を目指すルートってイメージをして貰えばいいかな」

「な、成程……で、でも凄まじ過ぎますわ……こんなことを本国に報告していいのでしょうか……」

「したらしたでもうパニックになるよね……」

 

全世界が総力を挙げて研究が行われているIS、それが次へとステップへとテーマとなるが空論でしかないそれは既に束からすればもう歩んだ地点でしかない。彼女はもうずっと先に進んでいる、人類が彼女の後塵を拝するしかないというのは凄すぎて何も言えなくなってしまう。

 

「それで今ここにあるのがその記念すべき第五世代のテストショットって事、通常のISとは大きく異なる部分もあるから比較の為にも既にそれなりの経験を積んでる子達に試験をお願いしたんだよね。お願い出来るかい、了承してくれるならイギリスとフランスにはISに関する技術データを提供してもいいけど」

「は、博士から直接ですの!?ぜ、是非やらせてください!!(そして此処で博士から褒められればきっとレイさんからも!!)」

「ぼ、僕もやります!!(レイさんは博士から遣わされた人、なら此処で僕の顔を売る事は凄い利になる!!)」

 

とやる気満々になるセシリアとシャルロット、二人からすれば国家の利益になる事を見逃がす事なんて出来ないというのも愛しの先生に良い所を見せたいというのが大体数だろう。

 

「あ、あの束さん俺にもなんかその……」

「いっ君の場合はね~……う~ん……そうだね、金一封と専用機の調整してあげようか」

「オナシャス!!」

「急になんか現実的な謝礼になったな……」

「だっていっ君個人に対するものだからあんまりでっかいとち~ちゃんも後で面倒でしょ?」

 

となんだかんだで自分の事への配慮があった事に束に感謝を述べるのであった。そして三人は勇んで第五世代型へと向かいながら興味津々といった様子でそれを見つめる中―――全く別の視線がそれらへと向けられていた。

 

「―――博士、貴方は……」

 

073だった、彼の瞳にあったのは第五世代型へのもの。その形状や姿は紛れもなくミョルニルアーマーにISを一部付け足したような物だった。思わずこの世界にも他のスパルタンがいるのではないかという歓喜に胸が躍りそうになった、それらを抑えつけながらもまだ胸が高鳴っているのだ。喜びと興奮で―――この世界にも自分の仲間を作る事が出来る……あってはならないそれに高鳴っている。




HALO、について。

HALOとはフォアランナーと呼ばれる古代種族が建造した、とある兵器に対する最終兵器。
それを起動した場合の効力の範囲は半径2万5千光年というもの。
コブナントはこれらを聖なるリングと崇めており、HALOを使用する事で大いなる旅たちと呼ばれる救済を信じている。

だが、前述した通りこれらは兵器である作動させた場合に齎すのは救済というものではないのは明白だろう。
HALO作中ではこれが大きなターニングポイントとして登場し、大きな流れを生み出している。


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第五世代、束、073。

「いやぁカッコいいよなぁこれ!!先生のあれを初めてみた時からずっと思ってたんだよ、ISよりもこっち使わせてくれよ!!って、その悲願が叶うのか!!オッシャアアアアア!!!」

「お、織斑さんが凄い喜んでらっしゃいますね……」

「こういうのって所謂男のロマンって奴なのかな、お父さんも先生のアーマーを見た時に是非ともこういうISを作りたいなぁ……って凄んごい未練たらしく言ってたもん。多分元々ああいうのを作りたかったんだろうなぁ……」

 

第五世代型のテストパイロットへと任命された一夏、セシリア、シャルロット。彼女らがそれらへの眺めている中で高鳴り続けているそれにレイは驚いていた、何故ここまで胸が高鳴るように自分が喜んでしまっているのか。分からない、いや分かっている筈なのに理性がそれから瞳を反らしている。

 

「んじゃまあ着ちゃって着ちゃって~。右からスタンダート型に遠距離射撃型、万能型って調整にしてるから」

「あれって事は武器載せてるんですか?」

「そりゃねいっ君、宇宙にはデブリって物が存在しているんだよ。それらとの接触っていうのはかなり危ないから排除の為の武装とかは想定しておくべきなんだよ。遠距離射撃って事はレーダー面とかも強化されてるから周囲の状況把握に長けてるから指揮官的な感じになるんだよ」

「はぁ~宇宙って考えること多いですね」

 

確かにアニメなどでもデブリベルトなどは基本的に避けるべき危険地帯でありそこへと突っ込んでいくなんて自殺行為に等しいというのは聞いた覚えがあった。それを考えると今のISの兵器として見られているその方向性もデブリ排除という方面に切り替える事が出来ると思い至る一夏であった。

 

「んじゃ俺は……このジェガンっぽいバイザーのスタンダートで」

「ジェ、ジェガン……?まあ僕はこっちの万能型かな、なんかメットのあれが凄い広いね」

「それでは私はこの遠距離射撃型ですわね。フフフッ正に私向けなものですわ!」

 

とそれぞれが纏うものを選択すると束はそれらを一度待機状態(ドッグタグ)へと還元する。それらを渡してそのまま展開するように促す。

 

「おっし行くぜ……変っ―――身!!」

 

一夏は天へと手を伸ばした後、キレッキレな動きと力を込めた言葉と共にポーズを決めて展開を行う。それらと同時に光が溢れて瞬時にして一夏の身体をアーマーが包み込み、バイザーが強く光を放って装着を完了した。

 

「―――そう、俺こんなのやりたかったんだよ……やべっ俺泣きそう……」

「いっ君解ってるねぇ~そう、ロマンとは素晴らしい物だよ」

「束さん、この感動をありがとうございます」

「良いって事よ」

 

サムズアップと共に笑顔を浮かべている束と握手を交わす一夏。そんな一夏へ肩を竦めつつも二人もアーマーを展開してその身に纏った。纏ったそれを見つめながらも自らの身体を何度も何度も見つめるセシリアとシャルロットは自分達が普段展開しているそれよりも何処か快適な印象を受ける。

 

「纏っているという実感が全くありませんわ……身体の一部のように感じる程の一体感が……」

「うんそれに凄い涼しい……っていうか全然暑さを感じない、常に身体が適温に保たれてるみたいな感じ……」

 

それを聞いた073は本当にミョルニルアーマーの機能を再現しているのだと束の技術力に驚かされる、彼女の天才加減には驚かさせる。彼女が仮にハルゼイ博士と同じ時代、世界に生きていたら一体どうなってしまっていたのだろうかと考えたいようで考えたくない。

 

「宇宙で活動を想定してるからね、宇宙ってめちゃ寒いからその対策もするよ」

「パワードアーマーって言ったらパワーアシストとかがお約束だけど……おおっ持てたぁ!!」

 

アーマーが収められていたコンテナへと手を伸ばしてみるとそれをあっさりと持つ事が出来た。当然これにもパワーアシストは搭載されている、そのパワーも大きくISのそれを上回る。流石にミョルニルアーマー程ではないが。

 

「それじゃあ武器システムのチェックをお願いね」

「うっす。えっと……太ももにハンドガンとコンバットナイフ、アサルトライフルにショットガンにバトルライフル?ってのが入ってますね」

「凄いですわ!!」

 

そこへセシリアの興奮したような声が響いた、そこにはスナイパーライフルを構えている彼女の姿があるのだがいち早く宙に浮きながら様々な射撃体勢を取りながら、予め仕込んであった訓練用の仮想敵と思われる物へと銃口を向けているが、かなりの興奮を孕んでいる。

 

「如何したのそんなに興奮して」

「狙撃状態を試そうとしたのですが、バイザー全体がスコープのようになって広い視野で標的を狙える上に私の瞳の動きと完璧に連動して狙いがつけられますわ!!ISのハイパーセンサー以上の情報がありますのにそれらを完璧に捌けるうえに周囲の情報の取得も完璧……これは狙撃手としては最高ですわ」

「狙撃仕様な上にそれ自体が指揮官機仕様だからね、一度に複数の情報を並列処理できるようにしてあるよ。同時にそれを装着者にも伝えるんだけど大丈夫かい、情報量が多すぎたりすると頭痛とか起きるんだけど」

「今のところは全く!!」

 

酷くご機嫌そうにしながら射撃体勢を取るそれに束はそのまま続けて長めに時間を取って体感した事を教えて欲しいと伝えると、セシリアは上機嫌そうに答えながら宙返りなどの激しい動きをしながらの狙撃体感を始めた。

 

「でもこれ本当に凄い……全ての武装のデータが頭に入ってくる上にそれらが一切混雑しないで理解出来る。手に取った中の状態まですべて把握出来る……」

「うぉっブレードまであった。凄いなこれ……ブレードの射程範囲まで表示されてやがる……」

 

薄い光のような物がバイザー内で表示され、手にした武器の射程範囲すら把握出来る。束曰くそれは初心者向けの練習ホログラムらしいが一夏としては武器の射程を目で感じられるというのは酷く新鮮に思えた。そんな彼女の元へ073が近づいた、過去に自分は言った、スパルタンにするつもりなのかと、着せないで欲しいと言った。なのに―――

 

「博士……貴方は」

「―――どうレイ君、目の前で仲間に近しい存在がいる感想は」

 

理解した、胸の高鳴りは何なのか……自分は目の前の光景に過去を投影し感激しているのだ。ⅡでもⅢでもない、だが今彼らの形は完全なスパルタンだ。それに自分は安らぎを覚えているのだ、二度と得る事が無いと思えていた仲間とよく似ているそれに、スパルタンとしての自分が漸くの癒しを感じている。

 

「私は―――」

「気持ちはわかるよ、でも少しは我儘を言いなよ。好い加減にさ」

 

そう言いながら束ははしゃいでいる一夏たちへと寄っていく、それらを呆然と見送りながら改めて今の光景を見つめ直し―――自分は矢張り同胞を強く望んでいたのだと思い知らされてしまった。この世界に必要はなく、嵐を呼びかねない存在であるスパルタンを。この世界で一番の安らぎを。

 

「―――私は……」




軌道防衛タレット

超大型のMACガン、通称スーパーMACを中心とした軌道防衛システム。1発で3隻のコヴナント艦を戦闘不能に追い込めるほどのMACガンを数秒毎に連射できるという変態性能を誇る他で簡易な宇宙ドッグや司令部も兼ねる。
リーチにもコレが20基ほど展開していたが、よりによってコヴナントがタレット網の下に現れたため本領を発揮できなかったが地球にはこのタレットが300基展開されている。


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スパルタン、アーマー、暗号。

地獄にいる、地獄を歩いている、地獄に墜ちている、地獄で壊れて行く、地獄を―――生きている。

 

自らの心情を現すとするならば正しくそれとしか言いようがないだろう。彼にとって世界とはそうでしかない、少なくとも今生きる世界とは地獄と大差なくとめどなく自らを責め続けるものでしかない。それだけ深い生存者の罪悪感(サバイバーズ・ギルト)が傷跡を作っている。彼にとってたった一人で生きている事、そしてもう人類の為に戦わないというのは辛い事。

 

―――少しは我儘を言いなよ。好い加減にさ。

 

「……望めというのですか、この世界で」

 

小さく呟いたそれは誰にも受け取られる事も無く消えていく、消えて行った事への安心感を覚えつつもイグは聞いてしまっているのだろうなという一種の諦めがあった。だが聞いてもらって結構、それで束に伝わって自分の内面を理解して頂けるのならばいいのだ。まあ―――どうせ意味なんてないのだろうに決まっている。

 

「そのまま速度を維持」

『はい!!』

 

海上にてアーマーの情報収集の教官として腕を振るいながら思考をリセットしておく、本当に一度何処かでどうにかして吐き出さなければと思いつつも、その方法がスパルタンとしての仲間を作り過ごすという事に気付いてしまいもう溜息が品切れになりそうな勢いで出て行く、正しく満員御礼である。

 

「織斑遅れているぞ、機動戦重視のIS操縦者の名が泣くぞ」

「いやこのアーマーってある種白式によりもピーキーですよ!?操縦性が良すぎて遊びがねぇぇええ!!!?」

 

 

バシャアアアアアアンッッッ!!

 

 

これで何度目になるのだろうか、一夏が真夏の空へと打ち上げる水飛沫の花火。好い加減慣れておかないとこれから先のステップを踏む事も難しいだろう。といいたい所だが……今まで扱い慣れていた機体から全く操縦性が異なる物を十全に扱えというのが無茶な要求なのでそこまでは無理強いはしないでおく。

 

「くっ生身で空を飛ぶ感覚がこれほどに難しいなんて……!!」

「上下左右への移動全てが感覚的に行わなきゃいけない……うわわわっ危ない!?また落ちるとこだったぁ!」

 

代表候補生コンビのセシリアとシャルロットですらアーマーでの飛行制御は難しく苦戦していた。通常のISとは感覚が全く異なっている、ISを操縦する際には特定のイメージなどを行って制御を行う。自分の前方に角錐を展開させるイメージなどがある、だが第五世代型の場合はそれらを全て感覚によって管理する。自らの身体をそのままISにすると言った風にした第五世代型は今までのISの常識が通用しない。全てが未知の世界の出来事のよう、だからこそ海上で訓練を行うのであるが。

 

「というかなんで先生はそんなに簡単に制御出来てんすかぁ!?」

「訓練しただけだ」

「結局それに尽きるんですねってうわああああ!!?」

「シャルロットさんっ!?ってキャアアア!!?」

「って俺もだぁぁぁ!?」

 

 

ドッボォォン!!ビシャアアアン!!!バシャアアンッッッ!!

 

 

訓練生の三連コンボが海上へと炸裂した。宇宙活動前提型なので気密性なども完璧、水が入る事は勿論ないし溺れるなんて事もあり得ない。

 

「ブッハァァァッ!!溺れないと分かっててもどんどん沈んていくの怖え!!」

「上昇の感覚だけでも掴んででよかった……」

「この辺りは旅館から随分離れておりますから深いですものね……」

 

第五世代型、束曰くインフィニット・ストラトス・ミョルニル。それの重量は本家と言うべきミョルニルアーマー程ではないが十二分に重量があるので泳ぐなんてもってのほか、なので上昇出来ないと最悪の場合海の中を移動して海岸まで戻る羽目になる。

 

「いやでも海の中を呼吸とか気にしないで見れるっていうのは普通に良かったな、すげぇ綺麗だった」

「余裕だね一夏……僕普通に怖くて必死に上がってたから見る余裕なかったよ」

「織斑さんは意外と肝が据わってらっしゃいますわね……」

 

そんな彼らの姿を見ると心が安らぎを覚えている事に不快感を覚えてしまった、自分は平和を享受すべき子供を自らと同じ存在に引きずり込もうとしているのか。ハルゼイ博士が自分達、スパルタンⅡへと抱いていた苦悩と同じ事をしようとしている事が果てしなく苦痛で不快だった。自分達へと向けていた博士の想いは良く理解しているのに……。

 

「さあ訓練を続けろ、ゆっくりで構わない。今回の経験は無駄にはならん、それらの感覚は元のISでも十二分と通用すると博士も言っていたからな」

「簡単に言ってくれるよな先生……マジでこれ遊びがなくてキッツいぜ」

「自分と身体と同じと考える……って言われて僕、生身で空で飛ぶ感覚てわかんないからなぁ……」

「兎に角トライ&エラーですわ、何事もチャレンジあるのみですわ」

 

セシリアの言葉に納得と同意を浮かべながら再びデータ収集を兼ねた訓練が再開されていくのを見続ける、そんな彼にイグへと言葉が届いた。

 

『レイさん、不審な通信をキャッチしました』

「〈通信……何が不審なんだ〉」

 

唐突にイグが言葉を述べながら警戒するように促した、謎の通信を捉えたという。それは酷く弱くイグも僅かな違和感から受信感度を強めた結果、捉える事が出来た程に弱い物だった。

 

『恐らく海中からだと思われます、海水によって遮られていると思いますが……』

「〈内容は〉」

『歌、でしょうか……いえ口笛のような物だと思われます、それが続いております』

「〈口笛―――それを聞かせろ〉」

 

思わず語彙を強めた、イグは即座にそれを聞かせてくれた。それを聞いた途端、ある一つの物が脳裏をよぎったのだ。それが確かならばと思いそれを聞いた途端に073は思わず言葉を失ってしまった。

 

「〈イグそれは何処から発信されている、何処からだ!!〉」

『周波数帯を変更……特定しました。約500m先から発信されています』

「〈HUDにその地点をマーク!!〉」

 

イグは驚きつつもその地点をマークした、そして直後に彼は指導という任務が完全に頭から抜けた。そこへと全速力で向かって飛翔した。そこは海中だったがお構いなく突っ込んでいった、青い海の中を掻き分けるように突き進んでいくと、発信源となっている地点が見えてきた。そしてそれを見ると―――073はその通信へ全力で答えを返した、自分達(スパルタンⅡ)が暗号として使用していた口笛だった。そして返答が、帰って来た……言葉が。

 

「やっぱり、お前だったんだな……一か八かで試してみて正解だったぜ。また会えるなんてな……」

「こっちの台詞だ馬鹿……一番戦いたかった筈のお前がいの一番で逝くなよ……」

 

そこにあったのは強い絆の鎖、その鎖は互いを引き寄せ合いながら手を伸ばした。伸ばした手は強く強く組み合って横たわっていたそれを引き起こしながら存在を実感させ合った。

 

「お互い、死に損なったってとこか―――S-073(レイ)

「ああ、そうかもな―――S-052(ジョージ)




スコーピオン

UNSCの主力戦車(MBT)、名の通りサソリの尾のように高い主砲が特徴。
90mm高速砲、チタン・セラミック装甲、4つの独立したクローラーによる走破力を揃え、攻撃頻度と速力以外ではほぼ地上最強である。また戦車としては規格外に軽い事が特徴、輸送機一機で空輸できるという常識外れの戦略機動力を持つ。


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スパルタンⅡ、レイ、ジョージ。

「なんか、先生……如何したんだろ」

「突然なんか、束さんの指示を受けたとかでどっか行っちまったもんな」

「何かあったのでしょうか」

『はいはい集中してね~』

 

と本来その場を仕切っている筈の073の姿はなく、そこでは束が指示とデータ収集の監督を行っていた。彼は突然海中へと潜ったかと思ったら束がその場を引き継ぐ事になったという通信が飛んできた。その場を去っていく彼の姿を見る事も出来ないまま、姿を消した。

 

『スパ君には折角海に来てるから深くまで潜って貰うテストデータを取って貰ってるだけだよ、そこから得られたデータを参照しつつ追加データを入れて、潜って貰う事も検討してるから』

「マジっすか……」

 

兎も角一夏たちはやるべき事でもあるアーマーの操作感覚をマスターする事に専念することした、そんな一夏たちを見つめながら束はレイが向かった誰もいない外れの岩場へと視線をやった。そこらには自分が仕掛けた仕掛けによってレーダーや衛星からも探知されないようにしてある、存分に話す事が出来る。

 

「―――藪蛇だったなんてねぇ……人生って分からないもんだね」

 

 

束が用意した場所、そこでは今二人のスパルタンが腰を落ち着けていた。一方は073であるレイ、そしてもう一人―――スパルタン-S-052.惑星リーチにて敵巨大空母を撃破する作戦、アッパーカット作戦にて行方不明となったスパルタンⅡであるジョージがそこにいた。

 

「まさか、会えるなんて思ってもいなかった……なぁレイ」

「―――」

 

メットを外しながら何処か嬉しそうな笑みを湛えながら隣に腰掛けているレイの肩を軽く叩いた。ジョージにとってもこの出会いは完全に予想外だったはずの物だった、だがそれでも出会う事が出来た相手が同じスパルタンであった事が救いにもなっている。

 

「俺も、会えるなんて思ってなかったよ……お前は、お前はアッパーカット作戦で」

「ああ俺もだよ、死に損なったのかもな」

 

彼、ジョージは惑星リーチにて最後まで戦ったノーブル6と同じノーブルチームの一人。そんなジョージは自ら話を始めた、巨大空母への攻撃作戦へと参加した。ある意味の特攻にも近い作戦だった、だがその作戦は同じノーブルチームであるシックスの尽力もあり成功まであと一歩の所まで迫っていた。指が掛けられていた状態だった、だが―――。

 

『この船はスラスターの損傷が酷くて使えない、脱出は自由落下になる』

『良い知らせは?』

『今のが良い知らせだ、悪い知らせはタイマーが壊れた。手動で爆破する』

 

敵空母を沈めるための爆弾のタイマーが故障してしまい手動爆破をするしかなかった。ジョージはリーチの出身だった、そんな彼は故郷への恩返しの為に最後まで残り爆破の任務をする事を決めてシックスを脱出させる事にした。幸いなことに此処は低軌道上、再突入装備をしているシックスならばリーチへ無事辿り着く事は可能。

 

『止めないでくれ』

 

有無を言わせぬため、メットを脱いだ上で自らのドッグタグをシックスへと託し彼を船外へと放り出した。後は頼んだぞという言葉を添えて。残された彼は空母へと迫る中で最後までスパルタンとして生きる事を思いながら爆弾を起動させ―――巨大空母を沈める事に成功した。そして―――深い眠りのような意識の中から目覚めた時、彼は海中にいた。後は073が発見したくれたのと同じだった。

 

「何か持ってないか、腹減ってな」

「エネルギーバーなら」

「ああ頼む」

 

クロエからおやつ代わりだと言われて貰ったそれを渡すとジョージはそれへと喰らい付く、海中にいる間は身体が全身疲労でいるかのような重さで動く事が出来なかった。気付いて貰えなかったらあのまま死んでいたのかもなと笑いながらあっという間に平らげた。

 

「レイあの後リーチは……」

「―――……ああ」

「そうか……」

 

悲しげな瞳を伏せながら呟くレイを見ながらジョージは遠くを見つめるように視線を巡らせた。彼とても分かっていた、コブナントの戦力があれだけとは限らない。リーチが敵に見つかり攻撃を受けた時点で増援も考えられる。それが齎すのはリーチの陥落、それしかないという残酷な現実も分かっていた。だからこそ自分はそんな絶望的な状況で戦いたかった。だがきっとその思いはシックスが継いでくれたとジョージは信じている。きっと、奴ならば―――。

 

「お前も最後まで戦ったんだな……レイ」

「ああ。希望を未来へ放つ為に、最後まで……だけど結局、シックスを残して俺達は全滅したよ」

「そうか……」

 

シックスは鬼神に勝る戦いぶりだった、チーフすら追い迫る程の物があった。きっと彼も最後まで……。そんな思いが二人の間に流れながら空を見上げてみる。コブナント艦によるガラス化の影響など受けていない青々とした空は二人の想いをどう受け止めるのか、そしてジョージはレイへと尋ねた。

 

「レイ、此処は本当に地球なのか……本当に」

「ああ間違いない―――しかも500年以上の前の別の世界の地球かもしれない」

「……冗談、キツいな……」

 

此処へと連れて来られるまでに簡単な説明を受けた、空を飛んでいると思われるミョルニルアーマーに酷似している兵器。本来飛行出来ないアーマーで自分を引き上げたレイ、様々な情報が飛び込んでくるのをジョージはそれらを真摯に受け止めた。その果てにやり切れない思いが溢れ出してくるのは必定だった。

 

「原隊復帰は絶望的……そうか、状況は把握した。そうか」

 

ジョージにとってもそれは受け入れる事はきっと難しい筈、生まれ故郷は陥落し自分は敵と共に地獄に墜ちた筈なのに生きている。生きているならば戦いのに戦うべき相手は存在しない世界に居る、戻ろうと思っても戻れない状況。余りにも辛い世界、同時にジョージはレイを見ながら言った。

 

「レイ―――俺達は如何するべき、何だろうな……いやなんでも無い」

 

聞いてはならない筈の事を思わず聞いてしまった、それは彼だって聞きたいはずだった。そして同時にジョージは彼の心情へと気を配った、きっとこの世界で彼は苦しみ続けた筈だと。

 

「大丈夫だよジョージ……俺は大丈夫だよ……」

 

それは強がりなどではない、心からそう思っている。危うかった彼の心はあと一歩という所で現れた家族によって踏み止まる事が出来た。ジョージもそれを感じ取ったのか何も言わなかった。

 

「よし、この事は後にしよう。この世界についてもっと詳しく聞かせてくれ」

「あ、ああ分かった。そうだな、先ずは俺が今護衛をやってる博士の事からか」




スパルタン-S-052

UNSC海軍特殊機甲部隊"SPARTAN-Ⅱ"所属の兵士で、タグはSPARTAN-052。本名はジョージ。
コールサインはノーブル5。重厚にカスタマイズされたアーマーと専用のガトリングガンを使うチームの火力支援役。またスパルタンⅢばかりのノーブルチーム唯一のスパルタンⅡ。
リーチ戦時点で歴戦の勇士であり、スパルタンとして既に30年近く戦場に身を置きながらまったく衰えを見せないプロフェッショナルの兵士。
リーチ出身で現地語に堪能。スパルタンの訓練がリーチで行われた事もあり故郷への愛着は人一倍強い。それだけにリーチでの戦いには並々ならぬモノがあったようだ。

コヴナント巨大空母を撃破するアッパーカット作戦に参加。敵空母を道連れに戦死―――行方不明になった。


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レイ、ジョージ、感謝。

「成程確かに明らかに単純な過去って訳じゃないな、少なくとも別の世界である事は確実だ。ISなんて物があったんならスパルタンの選定も変わるだろうし人類の技術レベルも大幅に前に行ってる筈、お前の読みは正しいと思うぞ」

「だろ」

「それで今は美人な博士の護衛で女子高の先生か……」

 

リーチでの話を一区切りにしてからこの地球に来てからの事や今何をしているかの話をする、その話をジョージは興味深く聞きながら自分は如何するべきなのかという事を思考しながら適度に茶々を入れておく。

 

「その篠ノ之博士にミョルニルアーマーの技術提供をしちまったんだろ、それはそれでしょうがないだろうな。ハルゼイ博士が聞いたらなんて言うだろうな……取り敢えず絶対零度の視線は覚悟しとけ」

「半殺しは覚悟してる」

「紐なしバンジーもな」

「アーマー、だよな」

「なしに決まってるだろ」

 

軽い冗談に思わず笑い声が周囲に木霊した。

 

「取り合えず俺は如何するべきなんだろうな、アーマーの事もある」

「それなら俺が博士に話を付けてある、同じスパルタンⅡである事を言って保護下に入れて貰えるようにしてもらった」

「済まない、俺もこの世界についての事をいろいろと調べないといけないな」

 

レイの表情は非常に明るくなっていた、それはジョージの目から見てもこれ程に明るい顔をする奴だったかな、首を傾げてしまう程だった。彼の心の傷は癒えてこそいないが同じ存在はと巨大な支えを得たような物だった。

 

「一先ず俺はどういう扱いになるんだ、その博士の護衛なのか?」

「そう言う扱いにして貰えるようにしておいた、今は学園の臨海学校で近くの旅館に来ている。今はそこの警備巡回をする事になるだろうな」

「荒事になるかもしれないなら確かに適切だな。いや逆に気を付けないといけないのか」

 

ジョージのアーマーには専用のガトリングがマウントされている、スパルタンが使用するに相応しい威力を保持するそれは恐らくISだろうと瞬時にハチの巣になる事だろう。故に下手にそれを使ったら確保しなければいけない相手を一瞬でお陀仏になる、まあスパルタンパワーで殴っただけで相手はミンチよりひどい事になるだろうが。

 

「それじゃあ取り敢えず博士に改めて紹介する、後はそうだな……俺と同じ護衛だと織斑女史にも話を通さねばな」

「ああ分かった」

 

立ち上がって旅館へと向かって歩き出す二人。道案内の為に先を行く背中を見つめるジョージは改めて目の前の家族がどれほどまでに辛く地獄のような日々を送り続けたのか分かった。自分は時間差なのか分からないが、明らかにレイよりも後にこの世界へきている。そして自分の後もリーチで必死に戦い続けたレイが今生きている事への罪悪感を抱き続けている事も察する事が出来た。単純な仲間の死を乗り越えるとはわけが違う。

 

「(……許せる訳がないか)」

 

レイは取り分けスパルタンという物を強く誇りにしていた、人類を救う為の力になると意気込んでいた。ぞれに実力が伴っていないな、とブルーチームの面々と比較されていた事もあったがそれでも彼は優秀な兵士だった。そんな彼は最後まで仲間と戦って死んだ筈なのに生きている、仲間と共に死ぬ事を望んだのに生きている。それがどれほど辛いのか……ジョージには痛いほど分かった。

 

「レイ」

 

ジョージは声を掛ける、それに彼が振り向いた。そしてメットを外しながら柔らかな笑みを浮かべて言ってやる。

 

「お前は本当によくやったよ、リーチの為に有難うな」

「―――ああ、有難うジョージ。その言葉が沁みるようだよ」

 

笑い返して見せるそれに肩を叩いてやりながら早く案内してくれと催促する、エネルギーバーを食べたと言ってもジョージは暫くの間何も摂取していなかった。有体に言えば腹ペコ、身体が迅速なエネルギー補給を望んでいるようだ。それじゃあいっしょに昼食にでもするかと言いながら旅館へと急ぐ事にした。

 

「という訳で俺はスパルタン-S-052.まあ皆ご存じスパル先生の同僚って訳だ、宜しくな」

 

052の紹介は驚くほどにすんなり通す事が出来た、束が前以て千冬へと連絡を入れておいてくれたらしい。学年別トーナメントにおける襲撃者を鑑みて学園への配慮を考えてもう一人の学園へ派遣することを決定したというのが表向きの理由になっている。

 

「ついさっき合流したんだ、悪かったな君達の先生を取っちゃって。新米スパルタン諸君」

「えっいや先生の友達ならそっちを優先するのは当然っすよ、なんか俺達の為っぽいですし」

「ハハッ話が早くて助かるな、これから陸上でのデータを取るんだろ。それなら俺に付いてきな、面倒見てやるよ」

 

そう言いながら052は陽気な笑いを浮かべながらも第五世代型を纏っている一夏たちを連れて少し離れた場所へと先導していく、途中腕を上げると073もそれに合わせるように腕を上げる。如何にも彼が自分に対して気を遣っているのが見えてきて少し申し訳なくなってくる。

 

「……奴の事はなんと呼ぶべきなのだろうな、同じスパルタンなのだろう」

「ノーブルと呼んで欲しいと。以前そのチームに入っていましたから」

「成程、ではノーブルと呼ぶとしよう、お前はまあ今まで通りスパルでいいだろうな」

「ちょっと雑な気もしますがいいでしょう」

 

同じ存在がいる、それだけで自分の心が酷く落ち着いている事へ僅かに現金だなと思いながらもジョージがいてくれる事への感謝が沸き上がってくる。そして同時に思うが……これから自分達は如何するべきなのか、この世界にどのように接していくべきなのかを本格的に検討しなければいけないと思う。




オータム

ハルシオン級巡洋艦の一隻であり相当の戦いを経た歴戦艦。ハルシオン級自体はそれほど評判の良い艦ではなかったが、オータムは近代化改修を受け前線使用が続けられた。
主機や装甲の強化はもちろん、リーチ駐留時の極秘任務用途として武装面を魔改造レベルで強化しており、コルタナというAIの変態戦闘操艦のお陰もあってヤムチャがフリーザ様を倒すレベルの戦果を叩き出した。
本来のハルシオン級なら、こちらが数隻揃ってようやくコヴナントのCCS級1隻と「戦い」にできるレベルである。

ノーブル6、サバイブ1(S-073)が未来への希望を繋ぎリーチを飛び立った艦。そしてリーチを離脱したオータムはHALO1の物語へと進んでいく。


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レイ&ジョージ、道。

S-052との再会を遂げた073、彼も参加する事になった臨海学校の二日目。第五世代型という登場に驚きつつも教官としての職務を全うした後に束へジョージと共に向かい、改めての自己紹介と顔合わせを行う事になった。

 

「初めまして篠ノ之博士、スパルタン-S-052.UNSC特殊作戦軍ノーブルチーム所属、ノーブル5です。突然の事にも関わらず私の事を受け入れて下さり深い感謝を」

「篠ノ之 束だよ、好きなように呼んで構わないしそんなに畏まらなくてもいいんだよ。束さんは束さんだし人類の為になんて崇高でご立派な使命がある訳もないからさ、ラフに接して貰えた方が束さん的にも楽だから」

「そうですかね、それじゃあ適度に崩して行かせて貰いますよ。ハルゼイ博士より気さくな方で正直ホッとしてますよ今」

「アハハッ噂に聞くスパルタンのお母さんにして人類の最高峰って博士さんだね。束さんとして是非ともお話ししたいもんだよ」

 

レイと違って随分と気さくに話しかけてくれるジョージに笑いかける、彼は酷くしっかりしている為か基本的に敬語を崩さないし常にキッチリしている。それに比べると酷く接しやすく話しやすい、レイも教官としての時みたいだと一番いいのだが、それは彼としては難しいらしい。

 

「それでジョージ君でいいだよね、レイ君から話を聞いた時は驚いたよ。まさか別のスパルタンさんとこうして会うなんて」

「レイは随分と博士に情報を提供しているようですね、やれやれっレイお前やっぱりハルゼイ博士に怒られるな」

「……やめてくれジョージ」

 

と悪い笑みを浮かべながらのそれに渋い声で答える姿に束はこれこそが本来の彼なのだと実感しつつも自分といる時は矢張り常に自分を抑制して押し殺していた事が察する。

 

「まあ束さんの護衛兼IS学園の警備強化って名目で学園に行って貰う事になるけど大丈夫かな、ジョージ君的にもレイ君と一緒の方が気は楽でしょ?」

「そうして頂けると有難いです、此方側の事も色々と調べたり知っていかないといけないですから」

「そっちはもうち~ちゃんに話は付けてるから安心していいよ、それと―――はいこれ」

 

懐からドッグタグが手渡されたジョージはそれを見つめながらもそれがISモジュールである事の説明を受け、それらが成す機能を聞いて驚きを隠せなくなった。

 

「……博士、貴方俺達の所よりもよっぽどとんでもない技術持ってますよ」

「いやいやそれでも宇宙進出出来ないから、実績的に言えばそっち方が何倍も凄いんだよ」

「凄い事は事実です、それに博士の凄さはこれからもっと知る事になる」

「おいおい流石に少しずつで頼む、短時間に一気に詰め込まれても処理しきれないぞ」

 

そんな事を言いつつも言われるがままにドッグタグを装着するとそれは少しずつミョルニルアーマーへの同調を始めていく、ジョージのアーマーは重厚なカスタマイズがされている筈だが、そこは束驚異のメカニズムで上手く抵抗しつつレイのアーマー同様の機能の獲得に成功する。

 

「……なぁ、ONIみたいな組織ないよな」

「あったとしても博士はISの発表から逃げ続けてる。逃走に関する技術については自分の技術力も使うからケリーに迫る程に凄い」

「そりゃ確かにやばいな……俺達の出番は最後の手段って訳だな」

「そう言う事だ」

 

短いながらも二人の間では完璧な情報交換がなされている、親友すら超えている家族としての絆を感じさせるやり取りに妹と上手くやれていない事を思うと少しばかり嫉妬が沸いてしまう。そんな思いの傍らでこの二人に勝てる相手なんているのだろうかと思う、そしてそんな二人に守られるIS学園……また襲撃があったとしても直ぐに抑えられるのだろうなと、思いつつジョージはISの機能を活用してアーマーが解除されるのを見て絶句する。

 

「……設備と技術者要らずだな」

「全くだ」

 

 

そんな驚きと衝撃だらけの束との対面を終了させた二人、束は得られたデータの解析と第五世代の修正作業に入った。護衛としての仕事は設備などで代用するので今は二人でゆっくり話していいと気を遣われた。レイとジョージは砂浜に立ちながら海と夜空を見つめていた。すっかり日も落ちて夜空の星空が海を煌びやかに飾るのを見つめながら、スパルタンは口を開く。

 

「ジョージ、これから俺達は如何するべきだと思う」

「考えなかったのか?」

「考えたくても俺には余裕がなかった。何で俺だけ生きてしまっているのかって考えちゃってな」

「今は死に損ない仲間がいるから違うって言いたいのか」

「そうじゃない、意地悪しないでくれ」

 

冗談もそれぐらいにしておきながら、真面目な声色で話をする二人。

 

「UNSCどころか人類は宇宙にすら十分な進出もしていない、スリップスペースドライブもまだまだだ」

「スパルタンも俺達だけか、そして全く別の世界……」

 

上げられる材料や現状を数えていくと絶望的な状況である事に変わりも無く、スパルタンとして生きる事も出来ない世界という現実の重みが圧し掛かってくる。リーチは間違いなく陥落している、地球の喉元にまでコブナントの刃は迫っているというのに自分達が出来る事は何もない。歯痒い、無力感が身体を蝕む中でも不屈のスパルタンは足を止める事はない。

 

「今は今で出来る事を一つ一つこなしていきながら、未来について考えて行くしかないだろうな……何なら俺達でUNSCの原型でも作ってみるか?」

「もしも作るなら最高司令官の座はジョージに譲るよ、俺はガラじゃない」

「そうかぁ?でも一夏だったか、あいつはお前の事をすごくいい先生だって慕ってたぞ。他の二人の女の子もな」

「教官と司令官は違うだろ」

 

そんな考えすら出せなかったレイはそれを聞いてある種の可能性、いややるべき事を考えようとしていた。もう自分達の運命は潰えていると言える、ならば何故この世界に居るのかを考えて何をすべきなのかを見つけるべきなのではと。互いに死ぬという覚悟をもって戦った末に此処にいる、だが自分達はまだスパルタンだ。スパルタンとして生きながらこの世界でその使命を果たす道があるのではないのだろうか。

 

「答えはまだ出せなくてもいいとは思う、俺もまだ全然この世界の事を知らない。まずは見聞を深めないとな―――まずはそうだな、お前が育ててる新米スパルタンの面倒って所か」

「その言い方はやめてくれ、俺はこの世界でスパルタンを作るなんて思ってないぞ」

「この世界でじゃないさ、この世界のスパルタンだよ……まあゆっくり行こうぜ」




スリップスペースドライブ

正式名称は「ショウ・フジカワ式光速機関」。要はワープエンジンである。ワープ、スリップスペースジャンプ専用の機関。動力機関などとはまた別のもの。これの機関を用いる事で人類は地球圏から離れた銀河圏まで植民地を広げるまでに至る事が出来た。

コヴナントは人類を遥かに上回る精度でのジャンプが可能だが、恐らくフォアランナーの技術をそのまま使用しているだけだと思われる。しかし人類はこれを自力で開発している。


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学園、夏休み、会長。

臨海学校の三日目、最後の日となったその日は朝食を取り終わった後にIS及び専用装備回収作業を行った後に学園へと戻る事になっている。9時辺りには既に作業が終了し、生徒達はバスへと乗り込んでいき学園へと出発し、学園へ戻って来た。本来はもっと時間がかかる筈だったのだが、スパルタン二人が作業を円滑に進めてくれたおかげで特に困る事も無く、旅館への挨拶を終えて二人はワートホグへと乗り込んでバスを追うようにしながら学園への帰路へと着く事になった。

 

IS学園は特殊な教育機関であるがそれでも一教育機関には変わらない、故に夏季休暇も存在する。無事に終了した臨海学校、その後には期末テストも存在しているがそれさえ乗り越えればいよいよ学生たちが待ち侘びた夏休みへと突入していく。

 

「さてと、あと何往復だ?」

「3だな」

 

そんな学園にて教官職を兼任している073もテストに関わる事になると思っていた、筆記では特に力には慣れないだろうが実技面での試験位はやれるだろうと思っていたのだが、教員達の方針でテストは自分達だけで受け持つという事になっていた。如何やら以前の自分の働きに学園長が流石にまずいと思って教員達でするような方針に切り替えたらしい。なので073は本来の護衛と警備巡回、そしてコンテナ運搬などをする事に落ち着いた。

 

「夏季休暇は素直に有り難い、世界の事を調べる時間が出来た。それに……なんか女の子ばっかりに教えるっていうのもまだ慣れないな」

「その内慣れるさ、俺と同じでな」

 

052の役回りも基本的には073と同じ、護衛と警備巡回などが主になる。教官職もする事も考えているがそれはISに関する知識などを付けてからという事にした。そしてまずは此方側の世界の情報を集めておく事も重要になってくる。何も分かりませんでは話にもならないのだから。

 

「んっ……ほいほいどったのよ、ああそっちね。うんうん、はいはい伝えておくよ~ん」

 

と護衛任務中の最中、束の携帯が鳴り響いて暫しの会話が続いた。近くではジョージが様々な情報を閲覧しながら今の社会の歪さを見て仲間の女性スパルタンたちが見たらどう思うんだろうなぁと思案しつつも本当にレイと合流する事が出来た事に安堵する。

 

「レイ君レイ君、ち~ちゃんから伝言だよ。弟の面倒を見てくれた事を本当に感謝する、これで私は漸く安眠できる。だってさ」

「何かやったのかレイ」

「単純に実技訓練を見てやっただけ」

 

如何やら期末テストの結果が出たようで、その結果を見て千冬は心からの安堵と深い喜びを抱いたらしい。ハッキリ一夏は唐突にISに関わる事になってしまった故に他の生徒と比べても大幅に知識面などが遅れているし訓練などもそれが言える。故か試験が姉としても教師としても不安だったのだ、しかし一夏はスパル先生の指導の下で代表候補生とほぼ互角に戦える程の実力を付ける事が出来ている。そして筆記面は友人のラウラに箒や鈴、セシリアやシャルロットたちと勉強会を開いてそこで徹底的に叩きこんで貰ったらしい。その結果―――

 

「にしてもいっ君これは頑張ったよ、上から数えた方が早いよ。しかも成績上位だし」

「おおっやっぱり一夏は中々に見所があるみたいだな、陸上運用だとあいつが一番上手かったからな」

 

臨海学校での一面を思い出すジョージ、第五世代の陸上でのデータ収集の際に軽い模擬戦を行ってみたがセシリアとシャルロットは何処かぎこちなかったが一夏は中々に動きにもキレがあり勇猛な所があり、前衛を務めるには優れた素質を持っていた。やや突撃癖のような物があるが、それはそれで何処かノーブルチームの一人を彷彿とさせるようだった。

 

「いっ君の成績は実技だと学年で8位、筆記だと17位だったみたいだよ。クラスだともっと上らしいけど」

「学年でそれなら十分過ぎるんじゃないですかね、ちょっと前まで完全な一般人だった事を加味すりゃ十分過ぎるせいだ。そりゃお姉さんも安堵するってもんだ」

 

ジョージの言葉が正しく千冬の言葉の全ての意味を代弁しているような物だった。成績についてはある程度の免除や補修による補填などでサポートを行い予定だったがそれらは完全に必要なくなった。今の一夏は代表候補生並の優等生と言う訳になる。

 

「レイ君に凄い感謝してたよち~ちゃん、今度是非一緒に飲まないかだってさ」

「なんだなんだ随分と美人に好かれてるじゃないか、羨ましいぞ」

「止めてくれジョージ、巡回の時間だ」

「そうだったな、それじゃあ博士また後で」

「いってらっしゃ~い」

 

と二人を送り出した束、ジョージを案内するかのように前に立ちながら普段の巡回ルートを歩いていくレイ。そんな途中で彼は多くの生徒達に話しかけられている。

 

「うわぁ~んスパル先生大変だ~……来週に実技の追試があるんですよぉ如何したらいいんですかぁ……」

「その時の担当は私だから何ともな」

「うっそだぁ!!?」

 

「先生~この前教えて貰った所がバッチリテストに点数もバッチリでした!」

「赤点回避、という意味ではないだろうな」

「さ、さぁ~て如何でしょうなぁ~(震え声)」

「お嬢ちゃん声が震えまくってるぞ」

 

巡回をしていて改めてレイの慕われ具合にジョージは素直に感心していた。彼は教官職は任務だと思っていたから上手くやれたと言っているがそれだけではない。訓練をしていた昔、彼は指折りの学習速度で覚えたそれを誰かに教える事をしていた。教官からも此方側でも大成したと太鼓判を押すほどだった。

 

「俺もその位になれればいいんだけどな、頑張るか」

「期待してるよ、ノーブル先生」

「言うねぇサバイブ先生」

 

052がチームの名前で呼ばれるので073もそれで統一している、彼らはそれで呼び合う事にしている。そして間もなく巡回ルートの案内も終了しようとしている時の事だった。二人は全く同時に足を止めた、何者かが自分達を追跡している。単純に道が同じ……ではなく確実に此方を追ってきている。

 

「〈レイ、心当たりは〉」

「〈一度だけ、その時は軽く払っただけだ。お前の存在で再発したか〉」

「〈あり得るな……〉」

 

悟られぬように足を進めようとした時に、その足音が一気に近づいてくるのであった。そしてそれは堂々と身を晒しながら此方を赤い瞳で見つめていた。

 

「突然すいません、お話をさせて貰えないでしょうか―――お二方」

 

その人物に覚えがあった。渡された学園の資料にあった生徒会長、更識 楯無。千冬が直々に注意はしておいた方がいいと言っていた人物でもあった。




改ハルシオン級巡洋艦「ピラー・オブ・オータム」

Reachの最後で、シックスから受け取った希望を回収して離脱したUNSCの軽巡洋艦。
高い生存性に目をつけられ「レッドフラッグ作戦」への投入に備えた魔改造が行われたため、建造中の極秘戦艦を除けば現存するUNSC艦艇の中では最強クラス。

この魔改造による戦果、コブナントの上位艦を4隻撃墜という歴史に残るような大戦果が戦後非常に高く評価され「ピラー・オブ・オータムII世」級重巡洋艦が制式採用される運びとなった。


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生徒会、スパルタン、楯無。

「突然のお話の申し出を受け入れて頂き感謝いたします」

「誠意を持って来るのならば対応する、それだけの事だ」

 

話しかけられた073と052(スパルタンⅡら)は生徒会長である彼女、更識 楯無の誘いに乗り生徒会室へと足を踏み入れる事になった。そこでは彼女の補佐役である3年の布仏 虚と共に待ち受けていた。ある種の罠への誘いへと乗るような行動だが、逆に考えても此処で彼女らが自分達を罠にかけたと仮定して利益はあるのだろうか。束の心象を悪くするだけになりえる所業をする意味は酷く希薄、故に乗ったとも言える。

 

「布仏か……成程、本音の姉か」

「はい、妹からは何時も授業が面白く楽しいとお話をお伺いしております。姉としては妹の成績を上げてくださって事へは感謝の言葉を尽くしても私の思いを表現できない程です」

 

深々と頭を下げる少女、彼女は一組に在籍している生徒の布仏 本音の姉。本音という生徒は073としても酷く印象的であるが故に脳裏に簡単にイメージが沸く。おっとりとしているがしたたかさも合わせた掴みどころのない人物というのが073の人物評、クラス的にはマスコット的な扱いを受けているのか皆からはのほほんさんと呼ばれて親しまれている。

 

「彼女は最初から優秀だ、ただ少しマイペースが過ぎるだけだ。自分から興味を示すように仕向ければ無限に成長する」

「それを成すがどれだけ大変なのかも私は理解しているつもりです、姉としても家族としても苦労してきたのです……」

「なんか、大変そうだな……」

 

思わず052がそんな言葉を零す程度には虚は溜息と共に頭痛がするのか額を強く抑えている。この後073が本音のマイペースさを語るのだが……それを聞いて本当に大丈夫なのかと心配になる程度にはマイペースだった。

 

「後虚、一つだけ言っていいか」

「はいなんなりと」

「彼女は夢遊病か何かか、夜間巡回中に狐のような格好で夢見心地な彼女によく会うのだが」

 

酷く寝ぼけているのか、それともワザとやっているのかと疑いたくなるような感じで遭遇する本音。遭遇した際にはしょうがないので彼女の部屋の前まで連れて行ってから起きて貰って部屋に戻って貰う事にしている。偶に起きていた同室の少女が頭を下げながら本音を引き取る事もあった。

 

「あ、あの子ったら私にはそんなこと一言も……!!!」

「あの虚ちゃん気持ちはよく分かるのけど、それは後で呼び出して話しましょ……ねっ?」

「分かりました……」

 

やっぱりどの世界にも苦労人はいるのだな、と再認識する二人であった。

 

「それでは本題に入らせていただきます」

「済まない脱線してしまった」

 

と一言だけ謝罪しておくが、彼女は気にも留めていない事と逆に友好的な関係を築けているようで酷く安堵していたらしい。のほほんとしている本音は時に本質を無意識で鋭く貫く、それが発動して怒りを買っていないのかと不安だったらしい。

 

「率直に言わせていただきます―――貴方達は何処の軍に在籍していたのでしょうか」

 

矢張りそれ関連かと二人は内心で予想の範疇ないのであったことに納得を浮かべた。

 

「私はこれでも日本に仕える暗部の人間です、尽くせるだけの手を尽くしましたが貴方方と思われる人間が所属していた記録は何処の軍にもなく、お二方の存在はまるで幽霊です」

幽霊(ファントム)か、そう呼ばれる日が来るなんてな」

「悪魔だけかと思っていたがな」

 

軽率と思われる言葉に楯無は全身に緊張が走ってしまった、あの束が自らの傍においていた人間。故に彼女が手を回して情報を全て消していると言われたら何も言えなくなってしまう、そんな理不尽染みた事だってあの博士ならあり得えてしまう。だが確認せずにはいられない、唐突に出現した謎の存在の正体を。

 

「余り深入りするのはやめておけ、余計な知識は破滅を招くぞ」

「では完全な味方だと思っても宜しいんでしょうか、そう思いたいのですが」

「そうだな、少なくとも無用な追跡をしない限りは手を出さないがね」

「っ―――矢張りあれはワザと、だったんですね」

 

ああ、と肯定する姿の073に楯無は言葉を失いながらも当時の記憶がフラッシュバックしていく。直接向けられた殺気で心臓を鷲掴みにされたような感覚が今も思い出せるほどに彼女の中に刻み込まれている。今こうして居るのも怖くて怖くてしょうがない。でも彼女は動かずにはいられない、守りたい者の為に命を懸けると決めた覚悟に突き動かされている。

 

「博士からこの学園に派遣された時点で分かっているのだろう、味方だと」

「……はい、最初は疑っていました。ですがそれにしては貴方の行動は如何にも不可解でした、何より―――学年別トーナメントでのあの戦闘」

 

052もデータでの閲覧をしているのでそれを知っている、自分達からすれば何処かハンターを想起させるような無人機。それの撃破と戦闘が決定的であった。彼は味方だと分かっても正体が何も分からないそれを味方と断言するのは危険だと政府も言い続けてきた、だからこそ彼女はトラウマと戦いながら必死になって情報をかき集めようとしていた。結果は全て徒労に近いものだったが……。

 

「それで態々そんな事を聞いてきたことの意味は何だい会長さん、それらは全て答えを導く為の方程式でこの会談自体が最後の計算の一つなんだろ」

「っ!?ご、ご存じだったんですか!?」

「何となく分かる、俺達スパルタンへの深入りの危険を承知している上で態々んな事をするのは政府じゃない。私情に近い何かだろ」

 

052の言葉は楯無の中にあった核心を貫いている、間違いなく真実を。それに素直に言葉を漏らしながら彼女は喉を鳴らしながら二人を味方に出来るならば怖い物なんてないと自らを鼓舞する。

 

「はい、お願いがございます。一つはIS学園生徒会の顧問になっていただきたいんです、そしてもう一つ……此方が私としての本当のお願いです」

 

楯無の本当の願い、それは一体何のかと二人は固唾を飲んでそれを待つ。そしてそれが遂に語られた―――

 

「うちの妹が先生のファンになってて如何にしか接点を作って仲直りをしたいんですぅ!!」

「「……えっ」」

 

まさか過ぎる私情の極みに流石のスパルタンも素で変な声が出た、そして後ろでは虚がずっこけた音がした。




コルタナ

コヴナント戦争の絶望的戦況を打開する為にハルゼイ博士がスパルタンの最強の相棒として生み出したAI。スパルタンによるコヴナント支配階級の確保・拉致という極めて困難な任務の為に作られており、その頭脳は人類最高の研究者であるハルゼイ博士のクローニングから生み出されている。

マスターチーフと共に数々の戦いを共に行動してきた名実ともに彼の唯一無二の相棒である。


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顧問、生徒会、妹。

「私情に近い何かと言うか……まんま私情だな」

「全くだ」

 

楯無からの要求、生徒会の顧問になるというのは千冬に話して通して確認を取る必要があるだろうが恐らく可能だろうと思っていた直後に本命の願い、それはまさかの妹との仲直りの手伝いをしてほしいというものだった。

 

「な、な、なっ……何を言い出しやがりますか貴方はぁぁぁあああ!!!?お二方を強引にお連れして重大なお話があると言っておきながらその実が、妹と仲直りしたいから自分が紹介したという事で会って欲しい!?何を考えているんですかぁ!!」

「だ、だって簪ちゃんと最近凄いぎくしゃくしているし……この前だって差し入れ持って行ったらすごい怒鳴られちゃって……」

「だったらご自分だけで何とかするのが筋でしょうがぁぁ!!!それをなんでスパル先生とノーブル先生にご依頼されるのですかとお聞きしてるんですよこの馬鹿会長ぉぉ!!!」

 

激昂した虚は顔を真っ赤にさせながら楯無の胸倉を掴んで問い詰めていく、楯無としては非常に重要な問題で何とか関係の修復を図りたい。本人も好きなお菓子やケーキを差し入れに持っていたりしているのだが……どうにも上手くいかずに彼女の悩みの種。

 

「レイ、その簪って子を知ってるか」

「ああ、四組の子で妙にアーマーをキラキラした目で見ていた」

 

四組の授業も受け持った事がある、その時に妙に此方を見ていた。憧れのヒーローを見つめる少年の瞳のそれに酷く近い物を感じた。そして楯無は何故妹との確執があるのかを語ってくれた。

 

元々自分の妹なだけで期待されていた事もあったが優秀であった為にそれには応えられていた、だが同時に自分と比較される事も酷くあった。本人もそれは自覚しつつも自分は自分で姉は姉と分けて考えていたが心の中で思う所はあったのだろう。それでも姉妹仲は良好だったのだが、彼女の専用機開発が一夏の出現とその専用機開発に人材などが回ってしまった影響でストップしてしまった。

 

その行いにその研究所を見限って自ら自身の手で専用機を完成させる事に固執していった。それは楯無が一人で専用機を完成させたという話もあるからだと思われる、そしてその作業を行う間も姉との比較は増して行く、遂に最近爆発してしまい、彼女は楯無を酷く避けるようになったとの事。

 

「そもそも私が専用機を完成させたっていうのも完全にデマよ、確かに稼働データを取るのには協力したけどそれだけなのに……」

「優秀さが仇になって尾ひれが付いたか」

「はい……」

 

手を尽くしたりもしたのだが……全てが尽く駄目だった。そこで二人の力を借りたいとの事だった。

 

「会長……お気持ちはお察ししますがそのような事を……」

「だ、だってもう私が近づくだけで凄い目で睨んでくるし、偶然すれ違った時だって怖いのよ……」

 

と本気で困っている事自体は伝わってくる、内容自体も別段困った事でもないし束と千冬に確認を取って許可さえ貰えれば自分達としてはやぶさかでもない願いに二人は受けてもいいと思い始める。

 

「俺達は博士と織斑女史からの許可を貰えないと顧問にはならないが」

「あっそれなら一応織斑先生からは許可を貰ってます、この生徒会の顧問は長らくいなかったのでそこに当てはめる事自体は簡単との事です。後はお二方の許可さえいただければと言った形です」

「ならば博士もそこまで反対もしないだろうな……いいだろう、引き受けよう」

「よ、良かったぁっ~!!」

 

と深く安堵すると共に歓喜の声を上げてしまった楯無。この生徒会は単純な生徒会ではなく楯無が日本政府に仕える暗部の人間という事もあってIS学園の為に行動する事も多くある、学年別トーナメントの時の襲来者の一件で彼女も危機感を強めており、この学園が狙われているのではという事を考えて自衛力を高めるべきだと思っている。

 

「本当に助かります!!実は顧問がいないせいで私が余計な書類を書かなきゃいけないので本当に大変だったんです!!」

「俺達がそれをやるって事か?」

「いえ違います、顧問がいない場合は会長を顧問代行として認めさせる書類をやるんですがそれを処理するべき仕事全てでやらなきゃいけなくて……お名前を使わせて頂けるだけで私の仕事量は本当に減るんです……」

「そんなにか」

「そんなになんです」

 

虚が書類を見せてくれたが、顧問不在の為に発生する書類数は酷く多かった。元々処理する筈だったものを加えれば3~4倍に膨れ上がる程。顧問を直ぐに付けてあげればいいのにと思うが、学園の教師陣も基本的に多忙である事が多くスケジュールもコロコロ変わるので軽い気持ちで顧問になる事が出来ないという事情もある。そんな所にスパルタンの二人が顧問になってくれるというのは楯無としても救いの神に等しいのである。

 

「会長、ホットカルピスが入りました」

「ごめんなさい虚ちゃん、マジで助かるわ……うっ……ごめん薬取って」

 

半分位の同情もあってか顧問とその妹への接触は引き受ける事となってしまった、流石に目の前で顔を青くしながら書類を戦おうとする少女を見捨てる事は難しかった。

 

「にしても良かったのか引き受けちまって」

「この学園の警備も仕事の内だ、向こうが此方の力を理解しているなら適切な距離取って関係を築けた方が楽だろ」

「確かに」

「それに―――」

 

それ以上、073は言葉を続ける事は無かった。足を進めながら052と別れて彼は彼での巡回ルートを進み始めていく。丁度楯無の妹がよく立ち寄っているという整備室近く、寄ってみるのもいいだろうと思いつつもある事が過ってくる。

 

「面影が似てたな―――あいつらに」




戦艦オータムが観測した「HALO」関するデータ

天使の輪のような円形状の物体。

直径10000キロ、厚さ22.3キロ

これまでに収集されたコヴナントのあらゆるデータと一致せず制御された回転と共に内径面に1Gの重力を持ち、窒素と酸素からなる大気と豊かな自然環境を備える。


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簪、073、専用機。

更識 楯無から受けた頼み事、生徒会顧問の就任と妹への接触とそこから行う姉妹仲の修復の手伝い。それ容認した073は巡回を終えた後に妹がよくいるという整備区画へと足を踏み入れる事にした。今迄は自分には関係がなく巡回以外では入る事も無かったが、今日初めて自分の意志でそこへと行く。既に日も落ちているが室内は灯りに包まれている、その一角はより強い光がある。

 

「―――違う、もっとこう……そうか此処の配線を繋ぎ直せれば……」

 

一人の少女が忙しなく空中投影ディスプレイを見つめながらキーボードを叩きながら計算を行い、その結果に満足気な笑みを浮かべながら早速設備を使って装甲をはがしながら内部の配線系を弄繰っていく。青い髪に赤い瞳、姉に通ずる部分も多いが彼女の方が大人し気で幼い印象を強く受ける。いや、少女として考えれば楯無が成熟しすぎてしまっているという点もあるだろう、彼女は暗部の人間としての役目を遂行し続けているとの事。それを考慮すれば成熟が早いのも当然の事。そんな彼女を見ながら楯無から貰った箱を見る。

 

『これ先生から渡してあげてください!!最近人気のケーキですから』

『彼女の好物でなくていいのか』

『それだと何で初対面なのに好物を?ってなるかもしれないじゃないですか、偶然かもって思われるのを期待するよりはこうした方が自然です』

 

と熱弁して出来るだけ自分との関係性を匂わせないように努力する姉の姿に苦笑する、どれだけ妹が大切なのだろうか。そんな事を思いつつもそこへと足を踏み入れていく、そしてその時に彼女は額に流れる汗を拭いながら水を口にする。

 

「お腹すいた……甘いもの食べたい」

「ならいるか?」

 

と唐突にかけられた事に思わず振り返った、すると彼女の動きは完全に停止した。そこに立っていたのは全身を包むアーマー、紛れもなくスパルタン-S-073であった。

 

「ス、ス、ス……スパル先生!?」

「根を詰めすぎるのは身体の毒だぞ」

 

と気遣いの言葉を掛けるのだが彼女の反応は芳しくない、流石に集中している作業の邪魔をしてしまうのは拙かっただろうかと思う傍らでイグが声を出した。

 

『多分違うと思います、彼女は酷く感激して処理が追い付いていないようです。もう少し待ってあげましょう』

「〈……そういうものなのか?〉」

「あ、あのサイン貰えますか!!?」

『ほら』

 

何処から取り出したんだと問いたくなるような感じで出現したサイン色紙とサインペン、それらを持ちながら身体を90度の角度で保ちながら差し出すような体勢を維持する。ふつうこの角度は更につらいのではないだろうかと思うが彼女にとってそれは辛くも無いのかもしれない、自らの誠意が伝われるのならば望んで苦労する。色紙を差し出してからどれだけの時間が経過したのだろう、酷く経過が遅く感じられるほどに時が圧縮される。そして指先から離れていく感覚に思わず顔を上げる。

 

「書いた事ないが……それでもいいか」

「は、はいっ!!」

 

「こ、これ一生の宝物にします!!」

「喜んでもらえたならまあ、何よりか」

 

頬を赤く染めながら胸に抱きしめたそれ、初めて書いて見せたサインに楯無の妹の簪は酷く感激していた。自分が初めてサインをもらう、そんな光栄を受けて良いのかとすら思ってしまえたが幸運に魂の奥底から感謝しながらそれを受けた。

 

SPARTAN-S-073から更識 簪へ

 

と書かれただけではなく一緒にツーショット写真までセットになっているそれを酷く大事そうに抱き込む。まるで誕生日にぬいぐるみを買って貰った幼い少女のような行いだ、それ程までに嬉しい物なのかと思いつつも同時にケーキを差し入れる事にした。それについても酷く感謝されながら手を震わせながら受け取られて流石の彼も困惑気味だった。

 

「話は聞いている、専用機を作っているのだったな」

「はっはい!!」

「大変な部分もあるのではないか」

「そ、そうですね色んな苦労がありますけど整備課の友達とかも手伝ったりしてくれてるので私はそこまでの苦労はないです!はい!!」

 

本人曰く、姉を見返す為に一人で完成させたというのならば自分は友達と一緒に生徒達の手だけで作ってやろうと画策しているらしい。整備課の生徒達も整備ではなく開発に携われる貴重な機会だと積極的に協力しているとの事。そんな専用機はどんな物なのかと目を向けてみる、それに簪は恥ずかしそうに各部の装甲などを外してしまっているので是非とも完成予想図を見て貰いたいと投影ディスプレイを最大化させながらそこに表示する。

 

「これが私が作ろうとしているものですっ!!」

「これは……」

 

そこにあったのはIS、と呼ぶには些か武骨なものだった。そしてそれは酷くミョルニルアーマーに似ている、可能な限りミョルニルアーマーの形状などを網羅しつつIS的な装備や形状もある、二種のハイブリットというのが的確な表現に思える。

 

「その、勝手なんですけど先生のアーマーをリスペクトしつつ私なりにISに取り入れてみたんです」

 

その言葉通りに各部にはミョルニルアーマーを思わせる作り、頭部のメットなども明らかにリスペクトしている部分が多い。ガトリングなどは052を見たばかりなのか、外付けのオプションとしての検討が行われているらしい。だがそれらを合わせると073としてはとあるものが脳裏を過った。それを見つけたのは単純な偶然が重なった末の光景だった、データだけだったがそれを見て纏っているアーマーの重さを感じて前に進もうと思った。

 

「悪くないな、だがこの部分の設計が浅い。1.5深くした方がいい」

「えっ!?あっそこが問題だったんだ!?ずっと問題になってたのに……そんな簡単な事で……!」

 

目から鱗が落ちたと言いたげな少女の頭を軽く撫でる、楯無の事とは関係なしに彼女の事は応援しておく事にする。それは教官としてなのかスパルタンとしてなのかは本人しか分からないが……ジョージの言葉通りにこの世界のスパルタンというものは少しずつ芽生えようとしているのかもしれない。

 

「この機体の名前は何なんだ?」

「まだ仮名でしかないんですけど……HRUNTINGかYGGDRASIのどっちかにしようかなって思ってます」




《ギルティスパーク》

通称モニターと呼ばれるHALOの管理AI。浮遊する青い機械を本体とし、システムの監視、維持、修復などを行っている。またHALO起動プロセスにおいては権限を持つ者を導く存在で、様々な情報を与えてくれる。自衛や攻撃はセンチネルという攻撃ドローンに任せることが多い。

なにがどうと言えるわけではないが性格が悪く、プレイヤーを的確にイラつかせる天才で、嫌いなプレイヤーが大多数。故か、ファッキンスパークとも呼ばれる。


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簪、才能、天才。

「ほむほむ、中々に興味深い話だね。うん束さん的には別に良いよ、此処はセキュリティもあるから安全だからね。此処にいれば大丈夫だし束さんも自衛の準備あるから」

「有難う御座います博士」

 

簪との邂逅の後、束の元へと出向いて楯無から受けた提案などを全て話して顧問になる許可を取り付ける。これで後は千冬に簡単に最後の話をして顧問になるという感じだろう。束としては元々この学園に出向いたのは一夏のサポートやらが目的なので生徒会顧問への就任は生徒へのサポートもし易くなるし一夏が生徒会に入ってくれればよりそれも円滑になる事だろう。

 

「にしてもこの簪だっけ、この子の専用機興味深いな。束さんとは別の目線なのに目指している物の究極系は同じって言うんだから面白いよね。ジョー君もそう思わない?」

「情報がないとこんな感じに乖離するのかっていい例ですな」

 

ジョージは自身のIS機能の慣熟訓練を終えて水分を補給しながら答えを返す。ジョージ的にも簪の作っている専用機は興味深い、自分達のそれに酷く似ているというのもあるがこの世界でどんな観点でアーマーを観察、研究して既存の技術に組み込んで発展させるのかというのも気になる。そして同時にある事を思う。

 

「その簪ちゃん、どんな風に見る」

「素質はある、度胸もあるし努力を惜しまらないし視野も広い。必要なのは正当な評価を与える人間だな」

「やっぱり会長さんが優秀過ぎるのか」

「完全な上位互換だな楯無は、上手くフォローしていったとしても本人としてはずっと心苦しい思いをし続けるだけだ」

 

簪は同年代の代表候補生と比べても上位に入る程の優秀さ、今は専用機が完成しきっていないので訓練機である"打鉄"を使っているがそれでも機体の特性をすべて把握した上でそれらを本来のスペック以上に引き出す事が出来る才覚を持つ、才能を引き出す素質を持つ努力する天才と形容するべき……だがそんな彼女を上回る才能と実力を誇るのが姉の楯無なのである。

 

「そりゃ比較されて辛いだろう……自分が正当に評価されずに比較されるってかなり精神に来る、周りがその気がなくても本人からしたら自分なんて必要ないなんて結論に至りかねない」

「束さんも箒ちゃんには悪いことしまくってるからなんか自分の事言われてるみたいでなんか辛いわぁ……箒ちゃんからのメールに返そうかな……内容に迷うけど」

 

と思いがけない攻撃を受けた束は少しは避けていた箒との交流を取る事に決めて先程来ていたメールへの返信を決めたのであった。

 

「んでよレイ、この子の専用機は元の形から今さっきの完成予想図に作り直してるんだろ。出来るのか?」

「既に6割ほどは終わってるらしい、元々の専用機の特性を活用しながら各部は実家のコネと自分のコネ、そして整備課の友人たちの全面協力の賜物だそうだ」

「中々にやり手な嬢ちゃんだな」

 

そして改めてイグがちゃっかり記録していた完成予想図を見上げる、束としては簪の意図や愛情が籠っているそれをパクるなんて無粋且つ侮辱に値する行為をする気はない。寧ろ完成を応援してあげたいレベルの完成度、そのまま完成させられたら純粋に褒め称えたいほど。そんな物を見つめながらジョージは何処かで見た気があるするのを漸く思い出した。

 

「前にキャットが手に入れてた機密情報にあった奴に似てるんだ」

「俺も知ってる、というかまた彼女か……本当に深入りが好きだな」

「そのお陰でアッパーカット作戦も行えたんだ、そう言うなよ。ミョルニルアーマーの前身だった筈だった奴だな」

「ああ、それの名前もフルンディングやユグドラシルだった」

 

ジョージ曰く、巨大である上に制御が複雑、そして何より搭乗者が持たないレベルの負担が圧し掛かるのでスパルタンが纏ったとしても一度の戦闘が限度な上に搭乗者は高い確率で使い捨てになるというもの。だがその力は確かな物、公式な物かは不明だがキャットが見たものでは単騎でファントムを撃破したという記録まであったという。

 

「そんなお嬢ちゃんにお前は付き合ってやるのかい」

「彼女に戦闘訓練に参加したいという申し出はあった、許可は出すつもりだよ。後……彼女は一夏とも会いたいとも言ってた」

「一夏にか、確か奴の専用機は……」

「ああうん束さんの奴……」

 

一夏と簪はある種の因縁がある、が、その因縁も研究所側が技術の頓挫で束にそれが回って来たので実質的に研究所は自分のやるべき仕事を投げ捨てたに近い状態にある。一夏としては殆ど因縁はないだろうが、簪からすれば専用機の開発を投げ出された事になる元凶とも言える存在ともなる、理性的な彼女が短絡的な行動をとるとは思えないが……燻り続けるよりも確りと処理させてやった方がいいというものだろう。

 

と言う訳で後日、一夏の許可を取って専用機の整備授業という事で整備室へと訪れると矢張り簪の姿があった。彼女は073の姿に感激したように目を輝かせるが一夏の姿を見る少しだけ暗い瞳を向けた。何か思う所があるのかもしれない……とその時だった。

 

「うおおぉすげぇ!これ先生のアーマーリスペクトモチーフだろ!?いいなぁやっぱりこういう感じのが良かったな俺!!こっちの方がすげぇロマンだし何よりカッコいいじゃん!!」

「―――っ!!話が分かる、これには肩にカノン砲、腰にはスラスターとガトリングを付けるつもり」

「何それカッコ良すぎ、いやでもガトリングはシールドに着けねぇか!?」

「ガトリングシールド……迂闊だった、何故私はその可能性に……!!」

 

問題に発展するかもしれないと心配していたのは完全に無駄だった、何やら熱く語り合う二人の間には不思議な友情の橋が生まれているように見えた。

 

「―――更識 簪、簪でいい」

「織斑 一夏、一夏でいいぜ」

「「貴方/君とは盟友になれそうな気がする……!!」」

 

この後、ラウラも確りと盟友入りした模様。




S-B230キャット コールサイン:ノーブル2

ノーブルチーム所属のスパルタンⅢ。ノーブルチーム副官。

優れた情報技術・暗号解析技術を持ち、彼女に解析できなかったシステムはない、と称されるほど。その一方で任務を超えて物事に「深入り」する傾向があり、彼女によってチームが機密情報を入手しようとしたことが問題視されている。
右腕はある戦闘における負傷が原因で機械化されているが、その戦闘の模様はゲームの実写CMとして映像化されている


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生徒会、顧問、部活。

「―――いやなんだこの提案は」

「いや私もどうかと思いますけどそれだけ要請が多いんですよ」

 

生徒会の顧問へと就任した073と052、基本的に073をメインに据えて052はサブに回る事にして顧問をやっていくことを決めながら顧問として生徒会へと顔を出した。間もなく夏休みに入るがその前に始末して起きたい仕事があるからと会長の姿はそこにあった。そこで見せられた提案書の一つに難しい声を作る顧問にまあそうだろうな、みたいな声を出す。

 

「各部からの要請が多いというのは以前教員室で小耳にはさんだ事がある、だがそんなにか」

「はいそんなになんです、だからこっちに凄い要請が回ってきたりもしてるんです」

 

その要請というのは織斑 一夏の部活動への入部要請というものだった。んなもん生徒会に文句言う暇があるのなら自分で勧誘するなりすればいいだろうに。本人に入部の意志があって互いの合意と許可されあれば彼を入れるなんて簡単な事だろうに。

 

「誘いたくても周囲の女の子がガッチリガード固めて無理、だそうですよ」

「篠ノ之達あたりか……それを越える気概も無いのに無理だからこっちに面倒を掛けるのか」

「全くやってられませんよ、といっても生徒会の役割として生徒達の不平不満を上手く発散させるっていうのもありますからねぇ……ハイハイ戯言戯言お疲れ様です、でぶん投げ焼却炉、っていうのが出来ないのが面倒なんです」

 

と言いつつも顧問誕生のお陰でやるべき書類が激減して彼女としては万々歳で処理しようと思えば処理出来るのだが問題は処理の問題なのである。力技で解決しようとすれば全体から反感を買う、といっても一夏は一夏で逆に部活動にはあまり興味を示さないだろう、それよりもIS操縦の訓練の方が大切に決まっている。

 

「う~ん……この際一夏君に生徒会に入って貰えませんかぁ~ってお願いしてみようかな。それで生徒会に入った一夏君を時々部活動派遣にすれば……いやそれだと彼の負担が増えるだけだしなぁ~……」

 

頭を捻りながら唸りを上げている、そんな彼女へとハーブティーを差し入れする虚。それを受け取りながらも考えが纏まらない、そんな中で気分転換がてらにお願いした簪関連の事を尋ねてみる。

 

「あの簪ちゃんはどんな様子ですか?」

「同年代の中ではずば抜けて優秀だな、故に残念だな。彼女を彼女として見ないのは」

「アハハハッ……すいません、見てたのが私ぐらいだったので……」

 

楯無は楯無で簪を見つめて正当な評価とフォローをし続けていた、だが流石に一人だけでは無理が出る。それが今の現状だ、彼女の忙しさなどを加味すると致し方ない物もある。故に彼女の力を正当に評価して共に仲良く過ごせる友達こそが最高の薬になりえる。

 

「織斑やボーデヴィッヒと仲良くやっている、共に好きな事を話しながら専用機のアイデアに生かしている」

「へぇっ~……私なんて一夏君とは喧嘩にならないかなって凄い不安だったんですけど……意外にならない物なんですね」

「奴が彼女の趣味を理解しているのが大きいがな」

 

 

「ええっこっちの方がよくね?!俺ロマンも大好きだけど実用性との両立も大好きだぜ」

「でも私はこっちの方が良い、いやでも……う~ん……」

「「少佐殿ご意見を求めます!!」」

「逆に考えるだ、何方も取り入れちゃっていいんだと」

「「その考えはなかった……!!」」

 

 

「いやでもなんかそれってブレーキ役不在じゃないですか、ツッコミ不在の恐怖が出来上がりそうで怖いんですけど……」

 

楯無の不安通り、ロマンを理解した男子と現実するロマンと実用性の同居を目指す少女、そしてそこにロマン大好きな現役軍人が手を組んだ事でえらい事になると分かるのは少し後の事だったりするのであった。

 

「ああもういっその事、一夏君が部活でも立ち上げてくれたら楽なんだけどなぁ……」

「立ち上げる」

「ええ、それなら生徒達の勧誘も難しくなるし生徒会としても何で勧誘対策してくれないのかっていう言い訳もできますし内容によって一夏君のメリットにもなります」

 

それを聞いて073は少しばかり考える、多種多様な物が揃っているこのIS学園。此処は様々な部活動が容認されている、それは生徒達のフラストレーションを解消する場として部活が有効と判断されているからである。一夏はこの学園唯一の男子生徒、彼が抱えるストレスの事を考えれば部活の新設は恐らくあっさりと許可されるだろう。

 

「……ならばそれを促してみるか、それを生徒会が支援する形にすれば保護もやりやすいだろう」

「それいいですねぇ!ああでも内容とかどうするんですか?」

「博士に掛け合えば一発だ、電脳ダイブを応用したVRでのIS機動訓練ならば学園としても利になる」

「―――凄いわ、それなら訓練機の予約問題の解消にもつながりますね。その試験段階として一夏君の部活でお願いすると」

 

楯無的にもそれは魅力的な話だった。クラスメイトも訓練機の予約を入れたはいいが、人数が多くて自分の手番がまだまだ先で中々練習できなくて困っているというのはざらな話だった。中にはまだ専用機が与えられていない代表候補生もいるので、それらの問題の解消案としては非常に魅惑的。

 

「博士には俺から話を入れよう、一夏にもうまく誘導しておこう」

「すいませんお願いします、これなら夏休み前に一番の問題が解決するぞぉ~!!」

 

そんな喜びの声を上げる楯無は生徒会室から立ち去っていく顧問の姿を見送っておく。最初こそ怖かったが触れ合ってみると彼が人気教師となった理由が分かった気がする。

 

「ねぇ虚ちゃん、先生って本当にいい男よねぇ……結婚するなら先生みたいな人がいいわ私」

「ご安心ください会長は絶対無理ですから」

「ちょっと酷くないかしら!?これでも魅力に自信あるのよ!?」

「篠ノ之博士が御認めになると思いますか?」

「う"っ……」

 

 

「ほうほう電脳ダイブ応用のVR訓練か、いいね。いいよその位だったらお安い御用だよ、ク~ちゃん手伝って~」

「はい分かりました」




S-A259カーター コールサイン:ノーブル1

ノーブルチーム隊長でありスパルタンⅢ。

冷静かつ広範な視点を持ち、的確な指示を出す隊長としてメンバーからは絶大な信頼を得ていた。また非常に柔軟な思考を持ち、通常部隊との混成指揮も難なくこなしてみせる。
キャット、エミール等問題児ですら彼には一目置いていた事からも、能力以上のモノを持った指揮官だったようだ。


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部活、仮想訓練、敵キャラ。

「部活、ですか」

「そ~言えば一夏を妙に熱っぽい目で見るラケット持った女子とかいたわね」

 

夏休みに入る直前、一夏を招集したら何時ものメンバーが集う事になった。主にセシリアとシャルロットは073が関わっているから話に入ってきた感じだが……。その他は本当に何時もの感じで集った感じだろう。

 

「生徒会宛にそんなクレームめいた要請が多く届いているらしい、時間を経ればそれはより一層増して行くだろう」

「うへぇっ……でも俺部活動やってる余裕なんてないぜぇ先生、今だって必死にISの訓練やってるところなんだから。言っちゃ悪いけどそっちに時間裂くなら訓練に回すよ」

 

と一夏の発言に箒と鈴も強く首を振る、そこにあるのは単純に訓練に励んで力を付けようとする殊勝な心掛けを褒めるのと余計な女子生徒との関わりが出来ないという点に対する物だろう。しかし一夏の言い分にはラウラも同意見であり、力の向上に専念するの良い事。確実に後に生きてくる事。

 

「そこで織斑、お前に部を立ち上げて貰いたい」

「へっ?」

「部活動といっても大それたものではない。ISに関する技術や知識の向上を生徒達が自らの自主性によって図る事を目的とした部を設立する、お前はそこで普段通りの訓練に専念出来る上に部活動故の支援なども確立される」

「おおっ……良い事尽くめじゃないですか!!」

 

という訳で一夏はそれに関しては大賛成だった、自分への部活動の勧誘が活発化しそうになっている話を聞いた上ではそれを避けられる絶好のプラン。そしてそれには束からの支援や生徒会、何より顧問としてスパルタンが付くというのも決め手だった。この部活には一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラの参加が決定し部活動として認められるための人数は早々にクリアとなった。

 

「あっでもさ、箒とか鈴とかってもう部活入ってんだろ。大丈夫なのか?」

「ああそれならダイジョブよ、学園での部活ってマジでフラストレーション解消の為だけにあるから。学園の特異性故に大会とかにも出れないから」

「あっそうなのか」

 

IS学園という存在は非常に面倒なパワーバランスの上に立っている、そんな学園の部活動が一般の大会に参加するのは非常に難しいので参加は出来ない。その代わりに学園の資金は豊富なので通常の学校ではお目に掛れないような設備や機械などが使い放題なのが強みでもある。そしてそんな部活の規則はきつくもなく、授業や訓練に集中したい生徒向けに退部や再入部などの手続きも簡易化されているのも特徴の一つ。

 

「それで部室とかの準備は……」

「そちらは手配済みだ、元々これは生徒会からの要請のような物だ。生徒会(あちら)側から空いている部室を提供してくれた、必要な設備なども運び込んである」

「あのシエラ先生、もしやこの案件は織斑さんが断ったとしても強引に推し進められていたのでは……」

「うん、幾ら何でも手配が……」

「断る要素がない、だから先に準備したまでだ」

 

用意周到に準備されている計画に一夏は自分の行動も読まれていたのかぁと半ば呆れているが、これはこれで色々面倒な事が減っていいかと前向きに考えた。そして一行は早速自分達へと割り当てられた部室へと乗り込む事にした。そこは普通の教室を2~3倍ほど広い部屋だが、戦術研究用の大型モニターやら資料置き場などが既に完備されている部屋、そして何より目を引くのが8台ほどのソファに様々な機材が繋げられている設備だった。

 

「うっひゃ~広いな!!」

「凄いな……軽い運動なら此処で十二分に出来るぞ」

「今日から自由に使っていいそうだ、そしてあれらがお前達に部室を与える大きな理由だ」

 

そう言って指を指す先には8台ある設備がある。それこそが部室が設けられた真の意味。

 

「あれは今後学園に導入が検討されているバーチャルシミュレーションシステムを採用した新型訓練機だ、仮想空間でISの稼働訓練を行う為に作られた物だ」

「そ、そのような者が実用化されていたのですか!?」

「す、凄いそれを僕たちが使っていいんですか!!?」

「ああ。だがこれはある種のテストでもある」

 

此処で機材が何故この部室にあるのかの説明がなされる。既に安全性のテストなどは終わっているが、これらを使用する事で本当に訓練になるのか、仮想体験が実際の訓練に反映されるかのデータはまだまだ不十分なのでそのデータの収集がこの部活動の役目にもなると伝えると皆は納得したような声を出す。

 

「成程……何れにしろ名誉な事ではあるな、これを使用すれば私達の専用機のデータを用いた訓練も可能。つまり機体の破損状態を気にせずに存分に動ける」

「そりゃいいわね!!思いっきり暴れた後は暫く使えなくなるなんてザラだもんね~パーツの交換にしても時間かかるし」

「あっでもシエラ先生、専用機のデータは……」

「それについては責任をもって私が管理をする、安心しろ何処かに横流しなんてさせない。第一その設備のネットワークを管理しているのは篠ノ之博士だ、あの人を越えてハッキングしてデータを奪う事が考えられるのか」

『いや無理ですね』

 

安心と信頼の束クォリティで一発説得が叶った。そして073の勧めで早速それを試す事になった、それぞれが席に背中を預けると脳波を感じ取る為のメットが降りてくるのでそれを自分の手で装着し、起動を開始する。それぞれの専用機のデータも自動的に読み込まれていき、仮想空間では彼らの機体が再現される。箒は専用機を持っていないので彼女が一番使い慣れている"打鉄"が再現される事になっている。

 

『やぁやぁやぁようこそ皆、束さんお手製の仮想空間訓練へ!!此処では皆に様々なモードを選択して貰って訓練に励んで貰うよ!!』

 

と仮想空間内と連動しているモニターに一夏たちの姿が映し出された、それと同時に彼ら限定の束のナビゲーションがスタートされた。彼らはデフォルメされた束に色々とツッコミなどを入れているが、束はお構いなしに進行を続けていく。

 

『まずは一人モード、自由にプログラムを選択して訓練をしていくモード。VS AIモード、仮想空間に束さんが作った人工知能が動かすIS相手に模擬戦をする奴だね、多分これがみんなお世話になる奴だと思う。これらが基本になるけど―――実はまだまだあるんだよねぇ』

 

と悪い顔になる彼女はある物を見せ付けた、そこには―――伝説の戦士たちを追いかけて、というボードが掲げられていた。

 

『このモードは一人でもいいしチームを組んでもいいモードだよ、此処ではISではなく宇宙からの侵略者って設定の敵キャラと戦って貰うよ。それは単体ではなく集団で襲ってくるから正確な状況判断能力に連携、自己分析とか様々な能力が必要になってくるよ、此処で自分の能力がどんな感じで何が優れているかって判断するのもいいかもね。そしてこのモードを一定レベルクリアすると解禁されるモードがあるけどそれはしてからのお楽しみだね、それじゃあ皆楽しんでねぇ~♪』

 

そう言って消えていく束、同時に一夏たちは此処まで煽られた気になる伝説の戦士たちを追いかけて、を選択する事にした。難易度も皆で考えて最初だからイージーをセレクトしてそれに臨む事になった。それを見つめていると不意に束からの通信が入った。

 

『許可は取ったけど本当に良かったの、ジョー君からもOK貰ってるけど……』

「〈良いんですよ、俺達は別に何思ってませんから〉」

 

モニターにはとある画面が映し出されていく、それは―――

 

『うおおおっっプラズマブレードってマジかぁ!?ってわぁぁ特攻してくんあぁ馬鹿ぁってキモイキモイ!?どういう顎してんだテメェゴラァ!!』

『一夏今援護する、せぇぇい!!』

『ナイスよ箒!!神風は他所でやんなさいよ!!!』

『シャルロットさんとラウラさん、後方援護はお任せください!!』

『うむ、あのデカ物は此方でかく乱する。行くぞシャルロット!!』

『うんいいよ、どっからでも来い!!』

 

そこでは様々な方向から襲いかかってくる多くのエイリアンたち相手に奮戦する一夏たちの姿がある、そこにあるエイリアンたちに思わず073は拳を強く握りしめた。そこに映っているのは―――コブナント、スパルタンが戦い続けてきた人類の敵……それを使う事を許可したレイとジョージ……その心中はどうなっているのだろうか。




S-A266 ジュン コールサイン:ノーブル3

ノーブルチーム所属のスパルタンⅢ。ノーブルチームの狙撃担当。

スパルタンとしては珍しく朗らかかつ気さくな人物で、欠員補充のために配属された新人のノーブル6にも何かと声をかけてくれる。
というより、無駄口自体が非常に多い。ただ、有用な情報が含まれているケースも多いため黙認されている。近距離でも積極的に狙撃ライフルを使うなど、狙撃の名手。

彼はノーブルチームの中で唯一生存しており、スパルタンIV計画に関わり教官職も務めていたらしい。が、一部プレイヤーからはⅣ世代の最新鋭()な練度から教官としての素質を疑うような声も上がっているらしい……。


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仮想訓練、集団戦。

「おっやってるな」

「ノーブル、お前も来たのか」

「おう。巡回ルートも覚えたし織斑先生からのお願いも終わらせたし、部活立ち上げの書類も無事に受理された」

 

一夏たちの部室へとやって来たノーブル、そんな彼はモニターに映し出されている光景を見つめながらなつかしさを感じつつも過去の経験と感触が全身に蘇るのを感じ、思わず握り拳を作った。

 

『ふざけんなこの脳筋糞ゴリラ!!俺の白式と近接戦したいとかいい度胸してんじゃねえか!!って待て待てなんだ馬鹿みたいな得物ぉ!?』

『文字通りの力 is パワーみたいな武器だと!?他のエイリアンと比べて原始的過ぎないか!?』

『衝撃砲で牽制するからその隙に頼むわよ!!』

 

そこにはブルートの大軍が迫ってくるのに対応するが、それらが体力で攻撃に耐えながら巨大なハンマーなどで猛追してくるので流石に驚く一夏や箒、二人を援護する為に衝撃砲で足を狙って隙を作ってその間に二人が撃破するという戦術の核を担う鈴の上手さにジョージは思わず首笛を鳴らした。

 

「中々やるな、ブルートの対処として悪くない手だ」

「狙いも足元に集中して上手く掬うようにしている、良い手だ」

 

『このゴリラどもぉテメェらの武器でぶっ飛べぇぇ!!!』

『ちょっと待ちなさいよ一夏それ使い方わかる訳!?』

『叩きつければいいんだよ、なんか表示にもグラビティハンマーって表示されてるし!!』

 

此処で一夏が倒したブルートから武器を奪った、今回のモードではそれが非常に重要な事になっており状況に応じて適した武器を選ぶ必要が出てくる。それが相手の武器を奪う事も選択肢に出てくる、スパルタンである二人も経験がある事でコブナントの武器で相手を撃ち抜くなんてそれほど珍しい事ではない光景だった。そんなこんなでもう一本確保した一夏はそれをラウラへと手渡して、迫ってくる一際大きなブルートへと向かってそれを全力で振り下ろした。

 

『『光になれぇぇぇぇえ!!!!』』

『いやアンタらそれ絶対に違う奴ぅ!!』

 

叩きつけられたハンマーから発生した衝撃は組み込まれた重力波発生器によって増幅、拡大されて周囲を震わせながらブルートをぶっ飛ばしながら撃破してしまった。因みに重力波を叩きつけて相手を光にする某ハンマーとは全く違う一品である。

 

『皆さまお気を付け下さい、奥から大部隊が……!!エリートですわ、それも凄い数……それに新しい敵ですわ!!』

『ええい次々と!これでイージーってマジな訳!?確かに優しい感じが各所に散りばめられてる感じけど』

『っというか何か凄いゴツいのが来たよ?!重装歩兵みたいなのがタッグ組んできた!!』

『識別―――ハンター……狩人か』

『なんか、身体が筋っぽいな……少し私は苦手かも……』

『おいおいなんかすげぇの構えてないかって連射出来るのかよそれ!?みんな逃げろぉ!?』

 

 

「一夏たち阿鼻叫喚になってやがるな」

「ハンターの相手は要領を得るまでが辛いからな、それに最後のウェーブ扱いで多くのエリートも随伴か……博士も意地の悪い事をなさる」

「ほらほら頑張れ頑張れ~背後を上手く突けよ~」

 

そんな事をやっているとロッドガンの爆風に飲まれたり上手く背後を突いたが二人一組のハンターの相方にぶっ飛ばされたりして全員に撃墜判定が成されて敗北の音と共にメットが外される。悔しそうな声を上げながら二人に手招きされて自分達の戦いが映し出されているモニターへと集まっていく。

 

「ああもう何なんだよあの自爆連隊、最初っから自爆前提の部隊編成ってどんだけキチってんだよ……あのタフネス脳筋ゴリラも相当だけどさ……」

「両手にグレネードを構えて猛ダッシュされた時は素直に死ぬかと思ったぞ私……」

「うん、僕も目の前でそれされて咄嗟に後方瞬時加速で逃げる位怖かったもん」

 

と一夏たちが口々に漏らすそれらは自分達が思ったのと全く同じなので思わず笑ってしまう。

 

「ロットガンへの対処が問題だな……途中あの小型の……グラントだったか、あれの狙撃が厄介だった」

「追尾性の奴も厄介だけど広範囲を高火力でぶっ飛ばすあれもやばかったもんねぇ……最後のハンターもやばかったし、あれってどうするべきだと思う?」

「ミサイルなどの広範囲系でエリートを片付けてから、ハンターのみに集中できる状況を作り出すのが一番でしょうか……シールドを削って下されば私がヘッドショットで沈める事も出来ます」

「ではそのプランが良さそうだな、中距離を保ちながら回避を優先しながらシールドをはがす事を目指そう」

 

ラウラ、鈴、セシリアの三人は参謀的な立場としてチームを引っ張りながら作戦の提案と会議を行っている。一夏や箒、そしてシャルロットは指揮官というよりも前線で戦わせた方が自分の持ち味が発揮できるのでそれに上手く合わせながら作戦を展開していくべきだと組み立てていく。

 

「もう一回やろうぜ、最後の最後まで行ったのに負けたのが気に入らねぇ!!というか俺の最期ってあのチビ助の殴りで死んでたのかよ!?」

「あんなリーチの短い殴りを食らうってどんなミラクルだ一夏」

「しかもそれがとどめってアンタ……」

「というか軍曹、お前焦りすぎて射撃も酷かったぞ。狙撃が粗撃になってたぞ」

 

とぼろくそに言われる一夏、初めての相手もあるし緊張もあったのだろうが一方の箒は全くそれがなかったので余り擁護できない。073の特訓を集中的に受けているのにその様なので致し方ないだろう。それを誤魔化すかのようにドカリと座り直すかのようにメットを装着した一夏に苦笑しつつも皆がそれに続いて再度の挑戦へと望んでいく。

 

『ねぇっレイ君にジョー君、後でいっ君たちにお手本を見せてやってくれないかな。お仲間はこっちで出来る限る再現したスパルタンを付けてるからさ、その評価をお願い』

「分かりました博士……再現って言われてるのに、身体が素直に喜んでやがるよ」

「俺もだよ、やれやれ歳かな」

 

そんな思いを引きずりながら、空がガラス化によって地獄めいた色の下で戦う一夏たちの戦いを見つめ直した。




ガラス化

コヴナント艦隊が地表を焼き払う様をUNSCのAIが名付けたもの。コヴナントが占領下においたUNSC殖民惑星を居住不能にし、戦略的価値を無くすために使われる。
その星の生命の痕跡を消し去り星の表面をガラス状の物質へと変えてしまう。ガラス化が行われたあとは、星には赤く燻された痕が残り、数日後、星の空気が腐り、跡形もなくなり、あとは不毛の地となる。

そして真に恐ろしいのはそのガラス化を行う為の装備、エネルギー・プロジェクターをコブナントの艦隊の駆逐艦以上の艦の多くが主砲として装備されている事である。

戦後にはそれらが行われた星の復興作業も行われているが……星によっては海洋が蒸発させられてしまったりなど壊滅的な被害を被っている星も存在し、復興に覇気が遠くなるほどの時間が必要なとなるだろう。


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仮想訓練、一夏、千冬。

「だぁぁぁっまた負けたぁぁ……ふざけんなよガリガリのヒョロヒョロ共!!無駄に数が多い上に的確に狙撃してくるとか厄介にも程があるわ!!」

「くそっ……イージーからノーマルに上げただけでこれだけ難易度が上がってしまうなんてな……」

「流石に狙撃となるとアタシだと対応出来ないから少しずつ前線(ライン)を上げていくしかないんだけど……」

 

正式認定された一夏達の部活、部活動の名前はIS技術向上部というシンプルな物にした。セシリアやラウラが威厳とカッコいい名前を、シャルロットは自分達の目標である高みを目指した意味を踏まえたものを上げていくが、部長として任命されている一夏はシンプルな方がこれから入りたい人にも分かり易くていいという事で纏め上げて、この名前に落ち着いた。

 

「何だまた負けたのか、先日から良く負けるな」

「勘弁してくれよ織斑先生……今の俺達だと突破キッツいんだよ……」

「兎に角全方位の意識分散が下手すぎる、もっと努力しろ」

『はい……』

 

そんな部活なのだが、夏休み後には一般生徒の入部も可能にする予定だが一夏がいる事で入部希望者が殺到する事を警戒して千冬が副顧問として名乗りを上げてくれた。これによって千冬のしごきを恐れて抑制が期待できる、千冬としても仮想訓練は非常に興味深い上に現役時代にこれが欲しかったと半ば嘆きを向けている。

 

「ラウラやセシリア、シャルロットは本国に戻っちゃったからねぇ……その間にアタシ達出来るチームワーク確立が望ましいんだけど……如何せんアタシらって近距離偏重チームよね……」

 

夏休みに入った事もあって代表候補の皆は本国への一時帰国がされている、鈴は近い上に普段から週に二度に分けてデータを送っている事、そして本国から日本にいて構わないという許可が下りているのでそのまま留まって共に高難度攻略を目指して一夏と箒と共に毎日挑戦を繰り返している。

 

「そう此処なんだよ、このタイミングあいつらから奪ったグレネード投げたんだよ」

「ゲッ……丁度私がぶっ飛ばしたグランドが此処で爆発で飛び上がって……」

「そこに私が放ったロットガンの一撃で後方へ……」

「織斑の投げたプラズマグレネードが付着、投げたものへグランドごと返却。そして起爆で死亡か」

「何だよこれ笑いの神のせいかよ!!?」

 

机にもなりそのまま会議が出来るようになっているモニターに映し出されているのは一夏の投げたグレネードが起こした悲劇(喜劇)、偶然が偶然に重なった結果とんでもない事になってしまった。その原因を作ってしまった鈴や箒は気まずいのか顔を反らしているのだが……

 

「プッ……ハハハハハッ!!い、一夏お前……アハハハハハハッ!!!」

「笑うなぁ!!爆笑しすぎだろ千冬姉!!!」

「このような傑作の喜劇を笑うなというのが無理な話だ!!ハハハハッッ、グフッハハハハハハッッ!!!!」

 

教師としてではなく一人の姉として抱腹絶倒になる千冬と姉のバカ笑いに顔を赤くしながらやめろと叫ぶ弟の一夏、その光景に鈴と箒は懐かしさを感じつつもこの光景を見れた事への役得を感じつつも自分が一夏の撃破判定の原因である事を強く自覚しながらこれからはもっと気を付ける事にした……まああれはかなりのレアケースだろうが……。

 

「そう言う千冬姉だってやってみればいいじゃねえか!!そうすれば俺達の苦労が分かるって!!」

「私は既にクリアしてるぞ、ベリーハードまで」

『嘘ぉっ!!?』

 

ベリーハードは今一夏たちが詰まっている難易度のノーマルの二つ上、その上にはハーデスト(HARDEST)が鎮座している。そのハーデストは伝説の戦士たちが戦っていたという難易度とほぼ同レベルの強さで流石の千冬でも勝利する事が難しくエリートによるエナジーソードの餌食になってしまっているのが現状らしい。

 

「ち、千冬姉でもきついってマジかよ……」

「まあハード以上は多人数攻略が前提らしい、一人でも出来なくはないがその場合は周囲にはAI制御NPCのみでな。それらの管理も一気にするから逆に難しさが増す、多人数の方が楽だろう」

「っつうか千冬さんそんな難易度を一人でクリアしちゃったんですか……」

「おう、書類仕事で溜まったストレスが一気に吐き出した。しかしハーデストの難易度が凄まじい、あの場合は逆に……」

 

と自分専用の椅子に腰掛けながらノートに何かを書き出しながら呟き続けている千冬、如何やら千冬も此処の施設は大いに活用しているらしい。主にストレス解消目的で、真耶も真耶で体験しているが彼女は一人でハードのクリアは可能だったらしい、本人曰く、一人でやるのは勘弁との事らしいが。

 

「そう言えばさ、ハードクリアの特典としてなんか特殊なISのデータ解禁ってあったけどあれってきっと第五世代の奴だと思うんだ」

「それマジ?」

「ああ、臨海学校で俺が動かしてた奴と同じ見た目だったし感じもすげぇ似てた」

『という事は……』

 

仮想空間限定、加えてデータを取る事も出来ないだろうが第五世代に触れる事が出来る。そしてそれを用いて戦う事が出来る。鈴と箒が喉を鳴らしながら体験してみたいと望む中でそれを一夏が諫めるように言う。

 

「まあ落ち着いた方が良いぞ、だって俺達ノーマルすらクリアできないんだから現状ないもの強請りにしか過ぎないぜ。取り敢えず仲間をぶっ飛ばす事だけはやめてくれよ、なっ

「あ、ああ……分かった……」

「分かってる、わよ……」

 

珍しく覇気と威圧感に満ちて一夏の言葉に抑え付けられた二人は素直に落ち着きながら反省会を続けるのであった。そんな二人を見つめる073は千冬へと声を掛ける。

 

「女子も随分と嵌られていますね」

「ああ、仮想体験とはいえ現実のIS稼働に全て生かせる。それが操縦者が喰い付かない訳が無かろう、錆び付いていた私の身体も疼いて致し方なかった―――最強難易度はお前達用なのか」

 

唯一、ハーデストにも手を伸ばす事が出来ている千冬のみが確認できたそれ。ハーデストの上、最恐最悪の難易度と思われるインフェルノ(INFERNO)。ハーデスト攻略経験者しか挑戦出来ないそれに目指す事が今の千冬の目標だがそれを既にクリアしている者がいたという記録が残っていた。それが073と052だった。

 

「―――我々、スパルタンが生きた戦場が再現された地獄ですよ」

 

そう言いながら一夏たちの元へと向かって行く073、彼は敢えて記憶の中にある地獄の再現を束に依頼した。あれを忘れない為に、今もあの中で生きる事が出来るようにするための備えを……怠っていない。




S-A239 エミール コールサイン:ノーブル4

ノーブルチーム所属のスパルタンⅢ。前衛突撃を担当。

任務に対する忠誠心が高い反面、協調性と柔軟性にやや問題があり、粗暴な言動もあって連携は苦手とするある意味スパルタンらしい人物。

前衛突撃を担当するだけあって、ショットガン片手に敵陣に突撃するその胆力と技量はズバ抜けたものがあり、ノーブルには無くてはならない人員であったのは確かである。

彼のヘルメットにはドクロマークが刻まれており、それは肩のククリナイフを用いて自分で彫ったもの。


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簪、一夏、仮想空間。

「駄目……これじゃあ全然ダメ」

 

整備区画の一角にて溜息と共に手の上にある資料を纏めてライターの炎で炙ってから廃棄物置き場へと放り投げながら完成が少しずつ迫ってきている自らの専用機へと目を向けてみる。

 

「あと少しなの……でも、データが全然足りない……やっぱり稼働データがいる……」

 

自分の夢であるそれ、目標であるそれへと到達には如何しても何歩かの跳躍が必要になってくる。だがその為に必要な物が現状では用意出来ない、確保出来るのは夏休み明け、それまで専用機開発が完全にストップしてしまう。システム面を進める事が出来るがそれでも稼働データと照らし合わせて調整や修正なども必要になってくるのでどちらにしろパーツ確保が必須になってくる。

 

「スパル先生みたいなのを作りたいって思ったのが間違いだったのかな……」

 

思わずそんな弱音を吐き出してしまった、少女はハンガーに繋がれたまま立ち尽くしている専用機へと目を向ける。光が灯っていないバイザー越しに瞳のような圧力を感じるのはスパルタンを模しているからだろうか、そんな思いに思わず肩を竦めながらも簪は今自分に出来る事をやるしかないと思いながらもディスプレイに向かい直る―――が矢張りデータを土台にしなければいけない現実に打ちのめされてしまう。予測データを打ち込んでシミュレーションする事も出来るが……それを本当に理論上でしかない上に信頼しているのかも謎。故に悩んでいる。汗もかいていたので塩分補給の夏ミカンジュースを含むと一夏の事を思い出す。

 

「そう言えば、一夏部活を作ったって言ってたっけ……時間が出来たら遊びに来てくれってメールくれたっけ」

 

携帯を取り出してメールを確認してみると確かに部活を作ったから暇なときで良いから遊びに来てくれ、という物があった。ご丁寧な事に学園のどこにあるのかまでメールに記載されてある、彼は意外と律儀な性格なのかもしれない。

 

「……行ってみようかな、パーツの確保出来るまで自分の訓練位しかする事ないし」

 

煮詰まっている今の自分をスッキリさせてしまうにはいい機会かもしれない、メールのお礼も言わなければいけないしと作業を切り上げて準備をしてメールを頼りに部室へと向かう事にしてみる。そして辿り着いた部室、少し緊張した面持ちでノックすると中から一夏の声が聞こえてきた。開け放たれたドアから直ぐに見える友人の顔に少し安心しつつ、即座に愕然となった。

 

「おおっ簪きたのか、入れよちょうどいま反省会してたところでさ」

「何だ一夏お客さんか?」

「もしかしてラウラとアンタが趣味とロマンを語り合える友だって言ってた簪?」

 

そこには見た事もないような設備に戦闘の様子が映し出されている大型モニターが組み込まれた円卓のような立派なテーブル、投影ディスプレイ、そして改善点を指摘する073と052などなど彼女からしたら胸が躍りまくる物ばかりがそこにあった。そしてお茶でも淹れるからと言っている一夏の肩を全力で鷲掴みにしながら笑顔で語りかけた。

 

こんな素敵な場所があるなら詳細に書け♪

「すっすいませんでした……」

 

「―――なんで俺こんな責められてんだよ……」

「今回はそうね……まあ部活の事はまだ発表前だったし明確な詳細は出さない方が正しかったし……」

「だが彼女からすれば自分の悩みを解決する策を友人が持っていたのに隠していたに等しいからな……」

「まっ強いて言うなら間が悪かっただ。運が悪かったと思って諦めな一夏」

「ノーブル先生それは無理ってもんだぜ……」

 

ソファに寝そべるように倒れこんでいる一夏、一夏は先程まで簪から鬼のような叱責を受けた。自分の問題を全て解決するような物が揃っている環境を友人に黙っていた罪は重いと言わんばかりの問い詰めに一夏は千冬の説教に近い物を感じて震えあがった。と言っても夏休みが終わってから正式な部活動を宣言するつもりだったので、千冬からもあまり口外はするなと口留めをされているので友達にも話していいのか分からず、それだったら直接来て貰えれば心配ないだろうと思ったのだが……タイミングが悪すぎたと言わざるを得ない。

 

「んで嬢ちゃんは嬉々として仮想訓練で稼働データ収集か」

「ああ、彼女の専用機の完成予想データは出来ている。それらを仮想空間で構築して運用する事は容易い、それに博士が稼働データは安心しろと太鼓判を押している」

 

『稼働データァ?ンなもん仮想空間で訓練してれば幾らでも取れるから別に渡してもいいよ、学園にあるのと束さん製のマシンのスペックを考えれば簡単だよ。コア・ネットワークが此処の監視と演算処理の手伝いもしてるんだよ、地球中のスパコン集めたって対抗しきれない処理能力があるんだから』

 

「と言ってた」

「全く本当に我らが博士は人類をしていらっしゃるな」

「全くだ、なあ篠ノ之」

「……勘弁してください、姉さんの事を言われると頭が痛くなるのです……」

 

分かりきっている事だろうが束が人類を超越してしまっているのはもう当然の事、そんな束でも再現しきれないミョルニルアーマーを纏っている自分達は一体どんな存在なのかと一瞬考えそうになるのだが、深く考えておくのはやめておく事にした。

 

「ふうっ……」

「簪感想は」

 

メットを上げる彼女へと感想を求める一夏、そんな彼へ簪は陶酔しきった満面の笑みでサムズアップしながら言った。

 

「大満足……!!」

「よしそれなら今度は俺達とチーム組んでさ、伝説の戦士たちを追いかけてをやろうぜ!!」

「やるっ!!」

「よし再チャレンジをしゃれ込もう」

「まあ4人パーティじゃ役割とか動き方が違うだろうから数回はイージーを周回しながらそれぞれの癖を掴んでいくのが一番ね」




プロフェット 正式な種族名 サンシューム
コヴナントの政治的、宗教的支配階級であり、特に預言者と呼ばれる3名(その中でも真実の預言者が一番)は絶大な権力を誇っている。身体能力は最も貧弱だが長大な寿命を持っているため知識が深い。簡単に言えば口八丁オバケ。

またフォアランナーを盲信しており、古代からその研究や技術転用を盛んに行ってきた。この知識と技術が宇宙戦でエリートに勝ちコヴナントの頂点に立つ要因となった。

そして何をどう勘違いしたかHALO起動を悲願としている、行った場合とんでもない事になるのにそれを救済とか言うので困ったものである。


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仮想体験、スパルタン。

夏休みに突入したIS学園、普段の活気も半減したように静けさを持つようになっている。学園の多くの構成している海外からの生徒達は帰省の為に学園を離れているので当然ともいえる、と言っても全ての生徒たちが帰っている訳ではなく一定数の生徒は存在している。そんな学園になっても普段通りに変わらない巡回をし続けているスパルタン、073と052。夏季休暇中に外部からの侵入者がないとは限らないので巡回は必要なのである。それらが終了したら束の元へと戻るが、部活動に励んでいる一夏たちの元へ行くか生徒会に顔を出すかの二択へとなっていく。

 

「ノ、ノーマル初クリアァァァッッ……」

「お疲れ、さん……」

「いやぁ最後のラッシュマジでキッツ……」

「私ももうだめ……」

 

とソファにだらしなく身体を投げ出している一夏たちだが全身に滲み出ている圧倒的な疲労感、仮想空間における活動ゆえに身体に実際に疲れは蓄積している訳ではない筈なのに疲労感が凄まじい事になっている。病は気から来る物なのだと改めて思い知らされた一同であった。

 

「漸くノーマル制覇か、お疲れさん。ほれっ差し入れのラムネだ、いるか」

『あ、有難う御座いますぅ~……』

 

とノーブルが持って来たそれを受け取る、良く冷えているそれらを頭に当てて清涼感に癒しを感じつつも次は喉奥にそれを流し込んでいく。そんな様子の彼らにノーブルは少しだけ溜息のようなものを吐く。

 

「お前らそれで本当に大丈夫なのか、次はいよいよハードに挑戦するだろう」

「い、いや暫くは今回の経験を活かす為にトレーニングモードで……」

「それぞれの専用機に馴染ませるつもりです……」

 

と鈴と一夏が交代交代で説明するように話す。箒も箒で打鉄でそれを行うつもりでいるらしく、簪は今回得られたデータを基にして専用機の開発を加速させるつもりらしい。ノーマルモード攻略のお祝いに束から自分が手に入れるまで時間が掛かり過ぎてしまうパーツを073が貰ってくれたらしく、それを組み込んでいよいよ形にしていくらしい。稼働データのお陰で細かな調整まで出来るのでそれに専念するつもりでいる。

 

「まあそれもいいだろうな、というかお前らはあのモードに固執しすぎなんだ」

「いやだってISで集団戦するって本当に貴重な体験なんですよ、それが仮想空間とはいえ出来るんだからやらないなんて損ですよ」

「あのエリートのソードの振り方とかも凄い参考になったからなぁ……千冬姉が夢中になっちゃうのも分かるぜ」

 

因みに千冬は千冬で日に日にハーデストの難易度に喰らい付けるようになっており、間もなくハーデストのクリアも可能になってくるのではと思っている。

 

「そう言えばノーブル先生、スパル先生は何処に行ったんですか」

「ああ、あいつなら生徒会に顔を出してる。あいつは生徒会顧問でもあるからな」

「ええっそうなんですか?」

 

その言葉に思わず簪が大きく身体を揺らしてしまった、まさか姉が先生に接触している……いや普通に考えれば普通の事だがまさかこの部活も収めようとしているのかと勘繰るのだがノーブルはそれを否定するような答えを直ぐに出してくれた。

 

「しかしそれでは先生は二足の草鞋を履いているのでは」

「あ~……生徒会顧問って言っても名前を貸して貰いたいって話らしいぞ。なんでも他の先生方は忙しくて顧問になれないからずっと不在だったんだが、名前だけでも貸して欲しいって頭下げられたらしい。顧問が不在だとその分、書類が増えるんだと」

「あ~……なんかそういうのありますよね、代理証明書類をやらないといけないとか。俺も役所でそういう経験ありましたよ」

 

と胸をなでおろしてしまう簪、同時にある種の罪悪感にも似た物が走った。何故自分はそこまで姉を敵視しているのか、姉が悪くないなんて分かっているのに。自分が姉の優秀さに嫉妬しているだけで本当な姉のことを嫌っている訳ではないのに……と思う中で073が部室へと顔を出した。

 

「よぉサバイブ、生徒会の用事は終わりか」

「ああ。此処の施設のデータ提出と名前を貸した程度だ」

「ンでどうだったよ会長さんの様子は」

「稼働開始からまだそこまで立っていないのに稼働効率と技術向上が早すぎるとな」

 

それは当然と言えば当然かもしれない。『伝説の戦士たちを追いかけて』はコブナント戦争のデータを基にしてAIなどが組まれている、その内容も実際に戦いを経て得られた物によって構築されている。AIの再現とはいえコブナントたちの今回は本物に酷似している。それらの苛烈さも、そんな中で揉まれている訳だから成長もする筈。

 

「そうだな……4人とも今日はこれで上がるのか」

「いや大分マシになってきましたから、イージーで俺達がどれだけ動けるのか試すのもいいかなぁって」

「あっそれいいわね、ノーマル攻略の為に結構作戦とか考えたもんね」

「ああ。タイミングに合図、フォーメーションやら大量にな」

「それらの改善を試すチャンスかもね」

 

それらを見つつジョージはレイへと目配せをした、表情が見えない筈なのに相手が少し悪い顔になっているのが分かって肩を竦めながら了承を送るとよっしゃと声を出しながら手を叩いた。

 

「それじゃあお前ら、マシンに入れ。但し難易度はノーマルだ」

『えっ~!!?』

「まあそう言うな、その代わり今回は俺達も一緒に同行してやるから」

 

それを聞いて瞳の色が変わった、それはスパルタンの二人の戦いを間近で見る事が出来るという事になる。そんな機会に巡り合えるなんて思っても見なかったのか驚きながらも全員が興奮しながらもマシンへと走ってメットを被っていく。僅かに見えている口元は緩められた糸のように湾曲し、喜びで溢れているのが手に取るように解る。

 

「さて、やろうぜ」

「やれやれ……火力支援期待してるぞ」

「任せろ」




HALO

フォアランナーと呼ばれる古代種族が建造した、フラッドという存在への最終兵器。
その正体は強力な電磁パルスを照射し、フラッドではなくフラッドの餌となる知的生命体を殺す装置。フラッドにとても長い期間悩まされていたフォアランナーの遺物、そしてコブナントが救済を与えてくれる物と大いに誤解している存在。

その照射範囲は半径2万5千光年。

このHALOが大きな役割となり、物語は加速しながらうねりを上げていく。


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仮想訓練、スパルタン、一夏たち。

『サバイブ1より各員に通達、エリートは全て撃破した。残りはグラントとジャッカルだ、援護射撃は継続するので突貫せよ』

 

「了解、フォーメーションはお前達の普段通りで頼む。俺がそれに合わせる」

『わ、分かりました!!』

 

ノーマルモード、標準的な難易度とはいうが戦場を経験した事のない物にとってそれは酷く難しく全方向への注意をも必要とされるモード。素早い標的の選択、撃破までの時間、油断などせず時には相手の得物すら奪って戦いを進めなければならないのだが……二人のスパルタンがいるだけで難易度が劇的に下がっているように思えた。

 

「次ってうおっ先生の狙撃やばすぎない!?今4枚抜きしたわよ!?」

「おい鈴背後に来てるぞ!!せぇい!!」

 

セシリアの狙撃も高水準且つ優れた腕前の筈なのに、073のそれはさらに上を行く。スパルタンである彼の動体視力は敵の動きを的確に読み取りながらその先を計算しながら狙撃して貫きなんて簡単な物。そして片目でスコープを見ながら片目で次の標的を探し、その繰り返しで狙撃で敵を貫いていく光景を目の前でやらされている鈴は驚きの言葉しか出なかった。

 

「今だ突っ込め!!」

「おっす!!!行くぜ簪ぃ!!」

「うん!!!」

「「ダブルキィィィイクッッッ!!」」

 

と052のガトリングの制圧射撃の後に素早く飛び込みながら蹴り込んで戦線を崩壊させながら周囲の敵を滅多切りにしていく一夏と簪、そこへ次々と敵が集中して押し潰しにかかろうとするがそれを052の分隊支援火力が襲い掛かって逆に返り討ちにしていく。ステージの目的であった基地の奪還は一夏たちがクリアした時よりも遥かに早く終了し、最後に残った再奪還の為に差し向けられる敵の撃破となったのだが―――

 

「サバイブ、ハンターだ。任せるぞ!!」

「ああ引き受けた!!」

 

そこでもスパルタンの強さを見せ付けた、迫りくるエリートへと殴り掛かりながら至近距離でハンドガンで頭部を撃ち抜きながらエナジーソードを奪い周囲のエリートの首を刈り取りながらハンターへと向かって行く。エネルギーも少なくなってきたそれをハンターへと投げ付けて盾で防がせた所でスライディング、股抜けをしながら弱点である背中へとショットガンを連射。

 

『―――っ!!!』

「渋滞する、邪魔だ」

 

崩れ落ちるハンターから奪い取ったロットガンを迷う事なく全弾発射してハンターを沈める、そして残った一発で一夏たちの援護をした後に再び迫りくるコブナントの兵たちへと銃口を向けながら走り出していく。

 

「くそっやっぱりこのウェーブの敵の量凄すぎねぇか!?」

「迂闊に頭を出すな、的確に相手の呼吸を見極めて撃つしかない!!」

「それが出来たら苦労しないレベルの弾幕なんでしょうがぁ!!」

「でも……今は……」

 

ノーマル攻略時にも体験した嵐のようなプラズマの嵐、飛来する結晶弾(ニードラー)、防衛タレットを起動してそれらの嵐を受けて一時的に攻撃が弱まる瞬間を狙って的確に数を減らしていくのが正攻法……だが今は前線に立ちながらガトリングを放ち続けているノーブルがいる。そして本来恐れる筈のコブナントの戦車とも言えるレイス、それを―――なんと殴り壊した。

 

「うそぉん……あれ殴り壊せるんだ……」

 

一夏の言葉に思わず同意が浮かぶがスパルタンならではである。スパルタン式対車両戦闘、スパルタンは冗談みたいに強い為、専用の対物武器がなくても徒手空拳で車両に対処できる。具体的に言えばノーブルが行ったように車両に組み付いて殴るだけで対処が終わる、殴って壊せる、例えコブナントのものだろうと。

 

「私も行く、援護して!!」

「お、おう!!」

 

そう言って飛び出していく簪、それの援護射撃をする一夏たち。それを受けながら簪はノーブルのガトリングを見て作り上げた機関砲を起動させる、それはかのドイツの撃墜王が愛用した航空機にも搭載されていた物。大型化したISのパワーによって保持出来るようにしたもの。そう―――知る人と知る、航空機搭載機関砲のなかで最大・最重そして、攻撃力の点で最強を誇ると言われている一品。

 

「おいちょっと待て簪ぃ!!?おま、それ閣下のあれじゃねえか!!」

「30㎜、その身で味わえエイリアン!!!」

 

低く重いと共にスピンアップしていくそれ、そして放たれていく圧倒的な火力の暴力。それらはコブナントのシールドなんて無視するかのように一瞬で突き破りながらコブナントの身体をネギトロのような死体へと変貌させていく。それを見たノーブルは口笛を吹きながら隣に陣取ると同じように斉射を開始した。

 

「細かいのはやってやるよ、それじゃあ小回り効かないだろ」

「はい、足を止めないと撃てないです。だからこれとガトリングシールドの選択式になってます」

「面白いな、それじゃあ、ダブルで行くぞ」

「ハイっ!!」

 

と簪とノーブルのガトリングの嵐が迫ってくるコブナントを逆に押し返していく。先程まで圧倒的な数で押し潰しにかかろうとしていたコブナントの軍勢が一気に散っていく、難易度の都合もあるだろうが此処まで一方的な物になるんだ、と一夏は少し寒気を覚えた。

 

「アイエエエ……何たることか、コブナント=サンの軍勢は簪=サンのガトリング・ジツによって爆発四散、ネギトロめいた死体に変えた……コワイ、実際コワイ」

「一夏、恐怖のあまり忍殺語に染まってるわよ」

「何て火力だ……成程な、ある種こういった物を求める人達の気持ちが分かってしまった気がする……火力こそ正義と言いたくなる訳だな……」

 

簪の専用機が開発終了したらその時に対策と怖さ、そしてスパルタンの凄まじさを再確認した一夏たち。ノーマルモードの制覇に掛った時間は自分達の4分の1程度だった。それを知った時に自分達の実力の無さを再確認して若干凹むのであった。




フラッド

最小単位は細胞レベルの寄生生命体。
知的生物に寄生し、増殖、また寄生を繰り返す。宿主は死亡し体を明け渡すことになり、またフラッドは寄生した生物の知性を若干受け継ぐらしい。そのため手持ちの武器程度は扱ってくるため非常に厄介。
それを抜きにしても尋常ではない増殖力による夥しい物量は脅威であり、迂闊に手を出してはエサになるだけである。

フォアランナーはこれに対する最終兵器としてHALOを建造した。


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