異物にまみれた世界 (estllera)
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序章
プロローグ


ここは異物が入り乱れる世界。人間の生活に魔物が当たり前にいて科学技術と魔術が共存する。そんな世界。

『魔力』『悪魔の実』『超能力』『スタンド』『覇気』『天使の力』『波紋』『チャクラ』『天使』『世界樹』『ATフィールド』『ギルド』『冥界』『位相』

―――これは異物にまみれた世界を駆ける勇者と魔王の物語である。

















「お前たちは逃げろ!オレ達が食い止めているうちに!」


「冗談じゃねえ!置いていけるかよ!」


「皆で帰るんだ!」


「はっきり言うぞ。オマエらがいたところで足手まといなんだよ。とっとと行け!」


「く……ッ!」


「お前も行くんだよ!」


「―――俺はコイツらには貸しがある。逃げるのならお前の方だな」


「そんな事言ってる場合か!」


「…………。」


「…………分かったよ。お前らの逃げ道はオレが作る」


「―――絶対帰ってこいよ!」


「―――当たり前だ」


ここはラルド諸島のファース島に位置するビギン王国である。

 

この国のとある食事屋で空になったコーラのストローをかじりながら少年が言った。

 

 

「おいおい、レイヴ。少し遅すぎじゃねーかー?」

 

 

彼の名はホーク・イグニス。

本来彼らは回復呪文を得意とする『優治族【エルフ】』と呼ばれる心優しい種族だが彼はどういうわけかむしろ好戦的である。

そしてせっかちである。

 

ホークは首に赤いスカーフを巻いている。

また、優治族【エルフ】と人間の相違点は耳が鋭いところである。

 

彼らの種族のランクはE。

ランクとは価値や希少性、強さを示す序列のような物でF~Aまであり、Aランクが最高とされている。

 

 

 

「いや約束の10分前なんですけどね!?」

 

 

そうレイヴ・セインと呼ばれる少年は遠方から答えた。

外見はこれと言って特徴のない少年だ。

強いてあげるなら少し髪がボサボサなところか。

種族は擬人【ターミナス】

他の種族の者は大概人間に近い外見だがなんらかの違いがあるのだが彼らの種族は人間と瓜二つで希少とされている。

更に身体能力も人間同様低い故にランクはFで『最弱』とも称されるが本人は大して気にしてないようだ。

 

 

レイヴの隣に立つ少女が口を開いた。

 

 

「そういえばドラゴは?」

 

 

彼女はウイッカ・セインという名で頭にちょこんと帽子を乗せた少女だ。

スラリンの妹であり、魔法の扱いに長けている。

種族は当然ながら兄同様、擬人だ。

 

勝負とはミイホンがスラリンに勝負を挑む時ミイホンが考える対決の事だ。

 

これもホークたちが力を付けるためであり、実際この勝負でお互いを高めあっている。

 

彼女が問い掛けた時にテーブルにゴーグルを頭に付けた少年が現れた。

 

 

「あ、二人とも来てたの?じゃあ僕で最後か」

 

 

疲れ果てた様子の彼はドラゴ・グニル。

頭にゴーグルを身に付けている。

ゴーグルと言っても狙撃用の物である。

彼は魔龍族と呼ばれる種族の特徴である小さな角が生えている。

 

 

ホーク「遅いぞドラゴッ!」

 

 

ドラゴ「10分前のどこが遅いの!?」

 

 

ホーク「次からはもっと早く来るように!で、今回の勝負ってのは新ゲームだぜ!」

 

 

レイヴ「あー、そういや前から新しいの考えたいって言ってたっけ」

 

 

レイブ「それで、何なんだその新ゲームは」

 

 

ホーク「新ゲームの名前は!ズバリ!ドキドキ!素通り借り物だ!」

 

 

ドラゴ「うわー…ネーミングからしてイヤな予感しかしないよ…」

 

 

ウイッカ「ネーミングセンス酷すぎでしょ…」

 

 

レイヴ「いつも以上のなにかをやらかしたやつだこれ」

 

 

ホーク「はいそこの3人黙るッ!新ゲームのルールは単純明快、博物館にこの物品が置いてある所の前をコイツを持って通りいかに長くバレずにいられるかタイムを競うんだぜ!」

 

 

ホーク「これでイザというとき隠れる技術を鍛えるんだぜー!順番決めてさっさっと始めるぞ!」

 

 

レイヴ「おい」

 

 

ウイッカ「ちょっと」

 

 

ドラゴ「まてや」

 

 

ホーク「なんだ?なにか問題あったか?」

 

 

ウイッカ「つまり博物館の物持ってきちゃったってこと!?」

 

 

ホーク「そうなるな。へっへっへ、コイツだぜ!」

 

 

ミイホンは古ぼけた笛をかざした。

 

 

ドラゴ「え? それって勇車の笛じゃあ…」

 

 

ホーク「あー、そんな名前だったかなー?」

 

 

思わずドラゴは顔に手を当てた。

 

 

ドラゴ「おまっ、それって国の超重要国宝じゃないか! ていうか警備はどうした!」

 

 

ドラゴは焦りつつ怒鳴った。

彼がここまで怒る事は珍しい。

 

 

ミイホン「チッチッチ、コイツはとにかくすごいぽかったから拝見させてもらったわけよ!それにとーちゃんがいない警備なんて濁流をせき止める小石にもならんぜ!」

 

 

レイヴ「そんな凄い物を盗まれるなよ警備員!」

 

 

ウイッカ「頭の回るバカって改めて怖いわー…」

 

 

ドラゴ「今すぐ返そう! 気付かれたら大騒ぎだ! そうなったら後で君だけじゃなく僕たちまで酷い目に遭う!」

 

 

ホーク「焦りすぎだぜ。むしろ返す時警備の隙間を掻い潜るのが楽しいだろ?」

 

 

レイヴ「いつもの調子だと俺だけ何故か見つかるパターンだよなこれ…」

 

 

ホーク「そりゃお約束ってやつだレイヴ」

 

 

レイヴ「それ偽物とかじゃないよな?」

 

 

ホーク「本物だっつーの、よく見てみろよ」

 

 

ホークはレイヴに笛を手渡したその時だった。

 

 

 

「勇車の笛を見ていないかい? 博物館から無くなって大騒ぎなんだ」

 

 

ホーク「」

 

 

ドラゴ「」

 

 

ウイッカ「」

 

 

レイヴ「」

 

 

この声を聴いた瞬間とっさにレイヴは勇車の笛を隠した。

 

 

3人は思わずその場で泣き出したくなった。

 

 

そしてレイヴはやっぱりこんなことか悟るのであった。

 

 

この男性はホークの父親のエンテ・イグニス。

 

外見はスーツにネクタイに眼鏡という典型的なサラリーマンな格好ではあるが職業は警備員である。

 

 

エンテ「ミイホン、この事件の原因はお前じゃないだろうね?」

 

 

ホーク「……そ、そんな事知るわけないだろ?」

 

 

エンテ「そうかい…もし嘘を着いたら…分かってるね?」

 

 

その一言でミイホンは恐ろしい寒気に襲われた。

 

 

エンテ「ではレイヴ君、右手に何か持っているね?見せてもらっていいかな?」

 

 

4人は半分諦めた。

 

無論言い訳も考えていない。

 

レイヴはその場でホイルンに笛を手渡し地面に膝と手と頭を付けた。この間実に0.5秒。何かと理不尽な目にあうため彼がプライドと引き換えに身につけた見事な土下座だ。

 

 

そんな無様な彼に続き3人も頭を下げた。

 

 

 

レイヴ達「すいませんでした!」

 

 

レイヴ「おしおきだけはご勘弁を!」

 

 

エンテ「ダメだね。しっかりとバツは受けてもらわないと…というのは冗談で今回の件は許すよ」

 

 

ウイッカ「いいんですか!?」

 

 

エンテ「構わないよ。ただしホーク、お前は駄目だ」

 

 

ホーク「えっ!?」

 

 

エンテ「どうせお前の事だ。お前が持ち出したのだろ?」

 

 

ドラゴ「流石ホークのお父さん。全てお見通しってわけだ」

 

 

エンテ「今からお前にはまず博物館に私と来てもらう」

 

 

ホーク「うわああああああ……」

 

 

ホークはエンテに連れて行かれてしまった…。

 

 

レイヴ「呼び出した本人がいなくなっちゃったよ…」

 

 

ウイッカ「どうする?特に行きたい所もないし解散にしちゃう?」

 

 

ドラゴ「そうしようか。なんていうか…無駄足だったな」

 

 

レイヴ「俺なんか無様な土下座を公衆の面前で晒しただけだしな」

 

 

ウイッカ「お兄ちゃんあれ恥ずかしいから止めてって言ってるのに!」

 

 

 

 

 

ズドオオオン!!!

 

 

突然何か巨大な物が落ちたような轟音が鳴り響いた。

 

 

ウイッカ「えっ、何?」

 

 

ドラゴ「あっちの方からだ!」

 

 

エンテ「私が行くから皆はここに残ってなさい!

 

 

ホーク「いや、俺たちも行くぞ!」

 

 

エンテ「ダメだ!もし皆になにかあったらいけない!」

 

 

レイヴ「けど!」

 

 

ドラゴ「…ここはエンテさんに従うべきだ」

 

 

レイヴ「なんでだ!この国でなにか起こってるんだぞ!!皆の家族だって危ないだろ!」

 

 

ウイッカ「二人とも落ち着いて!このままじゃあの時の二の舞になる!」

 

 

ホーク「………ッ!」ギリッ

 

 

ドラゴ「今はエンテさんを信じてここに残ろう…」

 

 

レイヴ「ごめん、全然冷静じゃなかった…」

 

 

彼らはここで待機することにした。

 

―――――――――

 

 

轟音の鳴り響いた地点でさっきまで国宝を捜索していた警備員エンテが立ち尽くしていた。

 

 

 

エンテ「何だお前たちは? 何故こんな事をするんだ?!」

 

 

 

城下町は見るも無惨な状態になっていた。

 

至る所に鉄球が落とされ建物はボロボロになっている。

 

そしてエンテと対峙するのはその原因だと思われる集団。

 

一見間抜けな1.5頭身の鳥の集団。

 

彼らの種族はももんじゃ。

 

その集団のリーダーだと思われる2本の尻尾を持つももんじゃが口を開いた。

 

 

「我々はルティスモジャ」

 

 

「勇車の笛を頂きにここまで来たモジャ」

 

 

「この国の民に勇車の笛の在処を言わなければ鉄球をこの国に撃ち込むと脅して聞いたがどいつもこいつも同じデタラメしか言わないモジャ」

 

 

「だからお望み通り鉄球を撃ち込んだと言うわけモジャ。素直に在処を吐けモジャ」

 

 

語尾はとても滑稽だが、それに反して言っている事はマフィアそのものである。

 

 

エンテ「お生憎だが今勇車の笛は紛失し「いい加減にしろモジャ!」

 

 

「その台詞は何回も聞いた! 聞き飽きたモジャ!」

 

 

「もういい! この国の国民を拐い、拷問して吐かしてやるモジャ!」

 

 

エンテ「何?」

 

 

エンテ「なら君たちをもうこの国に近寄れないよう徹底的に叩きのめすまで!」

 

 

「野郎どもやっちまうぞ!」

 

 

エンテ「!」

 

現在この国で最強の警備員にしてこの国最後の砦がルティスを迎え撃つ!

 

ももんじゃたちは次々とエンテへ飛び掛かる。

 

一体のももんじゃは尻尾でエンテを殴り付けようとするがエンテはそれを掴み砲丸投げのようにもう一体の方へ投げ付けた。

 

そこへ別のももんじゃが突進をするもエンテは容易く舞うように跳んでかわしてそのまま足下のももんじゃを地面へ叩き付けた。

 

そのエンテを囲む様に6体のももんじゃが押さえつけようとするがエンテはその場で地面に手を添えると6本の火柱がそびえ立ち全てのももんじゃをその業火で焼いた。

 

しかし更に現れた無数のももんじゃにエンテは下敷きとなってしまうがその場で魔力を開放するとまるで紙に息を吹きかけるように全て吹き飛ばした。

 

しかし隙を付きエンテの懐へ2本の尻尾のリーダーが忍び込みエンテめがけて銃から白いガスを噴射した。

 

 

エンテ「しまった!・・・これは・・・」

 

 

ガスを吸い込んだエンテはその場に倒れ込んでしまう。

彼が倒れることはつまりこの国の砦が崩れ去ったに等しい事実だった。

 

 

「このガスは像をも3秒で眠らせる強力な催眠ガスモジャ さて邪魔は消えたモジャ。野郎共!この平和ボケした国の連中を一人残らず捕らえろ!」

 

丸腰になったこの国をルティスが侵攻を開始した。

徐々に国民が捕らわれていく。

その様子を成す術なくとある食事屋の窓から眺める四つの影があった。

 

 

ホーク「親父!」

 

 

ウイッカ「な・・・何よあいつら!」

 

 

レイヴ「クソッ!」

 

 

ドラゴ「これは不味いね・・・!」

 

 

後方から声が聞こえた。

 

 

「そこのガキども、大人しくするモジャ!」

 

 

心臓が一瞬止まったと思った。

4人の思っていたよりルティスの侵攻は早かったのだ

 

逃げ場はないだろう。無論突破口もない。

誰もが逃げ切ることなど不可能な状況だった。

それはレイヴ達とて例外ではない。

 

 

レイヴ「ああ分かったよ…捕まってやる…けど、」

 

 

レイヴは爆発の余波を受け吹っ飛んだ鉄パイプを拾った。

 

 

レイヴ「それは俺たちを大人しくさせてからだ!」

 

 

彼らは場慣れしていた。命を狙われた事もあった。

なにより彼らの意志は固かった。何者にも屈服されぬ黄金の精神を持っていたのだ。

 

 

ホーク「てめえら、こんな事してただで済むと思うなよ…!?」

 

 

ドラゴ「これはやるしかないね…龍族の意地を見せてやる!」

 

 

ウイッカ「こんなにこの国を荒らして…絶対に許さないから」

 

 

「!!」

 

 

ドラゴ「冷たい息!」

 

 

ウイッカ「爆発呪文・イオ!」

 

 

ドラゴは冷気のブレス、スラーナはイオを唱える。

2人のももんじゃはイオの爆炎が毛皮に引火し火だるまになり、もう一人は足が凍り付き動けなくなった。

 

 

ホーク「遅っせえな!!」

 

 

ホークはラッシュ攻撃、爆裂拳をお見舞いした。

 

無数の拳がももんじゃの身体を叩いた。

 

 

レイヴ「ギラ!」

 

 

ホークの背後に居た残りのももんじゃにレイヴの閃光呪文が炸裂した。

流石にボールのように吹き飛ぶ事は無かったがそれでも5mの距離を転がった。

 

 

ホーク「!!」

 

 

敵は尻尾でミイホンを叩きつけようとしていたのだ。

 

 

ミイホン「レイヴ、サンキューな!」

 

 

レイヴ「お前少し危なっかしくないか?」

 

 

ふと4人はこの国に絶望が近づいてくる事に気づいた。

 

 

ホークドラゴウイッカ「!!!!」

 

 

 

 

ウイッカ「え……?嘘……!?」

 

 

ドラゴ「……!そんな!」

 

 

ホーク「……冗談だろ……?」

 

 

レイヴ「………!!」

 

 

彼らは外から続々とルティスの増援がやって来るのを確認した。

 

それも大量の巨大な戦車に乗ってだ。

 

戦車の大きさはざっと現代の民家より2回り大きい。

 

その数ざっと5000人分であろうか。

 

今居るルティスを含めれば7000人分になる。

 

こちらは当然突然の襲来で何の対策もない。

 

そして連中をまとめて蹴散らせるような秘策などという都合の良い話などない。

 

このままでは勝利など絶望的だ。

 

 

ホークは笑みを浮かべているがその笑顔に余裕は無かった

 

 

レイヴ「ここまで敵は大きかったってのかよ…!」

 

 

ホーク「笑えねえ……!」

 

 

ドラゴ「どこかへ隠れよう!あんな武装した集団に勝てる道理なんて無い!」

 

 

ウイッカ「また囲まれた!」

 

 

次は先程倒した数の2倍程のルティスに囲まれてしまった。

後続からどんどんやってくるのが分かる。

 

 

ドラゴ「そんな……こいつら相手にしてたら増援が到着してしまう…」

 

 

ウイッカ「ここまでなの……?」

 

 

二人が諦めようとしている時ミイホンが一喝した。

 

 

 

ミイホン「お前ら勝手に諦めてんじゃねえぞ! まだ増援は来てねえ! 来ても国の皆で力を合わせれば絶対勝てる! だから勝手に諦めんじゃねえ!それに、この戦に勝てばずっと強くなれるはずだ!!」

 

 

レイヴも続けた。

 

 

レイヴ「俺は相手が誰だろうとお前らを守りぬいて見せるって決めてんだ。けど俺一人じゃ力不足みたいだし…絶望してる暇があったら力を貸してくれ。」

 

 

ドラゴ「!…そうだね!まだ僕たちは負けちゃいない!」

 

 

ウイッカ「もし皆捕まってもきっとお父さんとお母さんが助けてくれるわきっと!」

 

 

レイヴ「行くぞ!」

 

 

レイヴホークウイッカドラゴ「うおおおおおおおおお!!!!!」

 

______

 

 

ルティスの団員がスライムたちを台車の上の檻の中に詰めてゆく

その中にミイホンたちも居た。

 

 

ドラゴ「どうしてこんな事に…」

 

 

ホーク「ハア…ハア…お前らここから出しやがれ…!」

 

 

ウイッカ「アンタたちなんかお父さんとお母さんがボコボコにするんだから…!」

 

 

スラーン王国は至る所に鉄球が落とされ、城下町も建物が半壊し、瓦礫の山も大量に出来ていた。

美しかったスラーン王国は見るも無惨な姿となった。

この日、一つの国が終焉を迎えた。

 

 

_______

 

 

夕方、一本の尻尾の一本兵と二本の尻尾の二本兵が最後の国民を檻に詰めようとしていた。

 

 

「これで最後モジャよアニキ」

 

 

アニキ「ブッカ、あそこの茂みなにかいないかモジャ?」

 

 

ブッカ「えっ、そうは見えないモジャよ?」

 

 

アニキ「ちょっと見てこいモジャ」

 

 

ブッカ「アニキは人使いが荒いモジャ…」

 

 

アニキ「なにか言ったかモジャ?」

 

 

ブッカ「なにも言ってないモジャよ」

 

 

実際この茂みには少年が隠れていた。

 

 

レイヴ(バレる!マズい!!)

 

 

あの戦闘の最中

――――――――――――――――――

 

その状況はまさに四面楚歌。

 

 

レイヴ「ぐうっ!?」

 

 

四方八方から襲い来る敵にとうとう深手を負わされた。

 

 

ウイッカ「お兄ちゃん!?」

 

 

レイヴ「ッ!ギラ!」

 

 

レイヴが閃光呪文を詠唱するも閃光は生み出されない。

その結果。

 

レイヴ「がふっ!?」

 

 

更なる追撃を受けてしまう。

 

 

ホーク「メラ!」

 

 

ホークが咄嗟にレイヴに襲いかかった輩を吹き飛ばした。

 

 

ホーク「大丈夫かレイヴ。それと正直に言うぜ……今ので最後の一発だ」

 

 

ドラゴ「もう僕もホイミも一回しか無理だよ……」

 

 

ウイッカ「私ももう魔法はあと一回で限界っぽい……」

 

 

レイヴ「はあ…はあ…なんだ?魔力が練れない…」

 

 

ドラゴ「なんらかの呪いを受けたと見るべきだね…」

 

 

レイヴ「なっ…このタイミングでかよ…」

 

 

ドラゴ「…回復呪文ホイミ」

 

 

レイヴ「!貴重な一発をなんで…!?」

 

 

ドラゴ「賭けに出おうと思う」

 

 

ホーク「その賭けはこの状況をどうにかできるってのか?」

 

 

ドラゴ「無理だと思う……。少なくとも僕らは一回捕まるしこの国は一度滅びるだろう」

 

 

ドラゴ「けれどうまく行けば助かるかもしれない。ウイッカ、マヌーサは今出せる?」

 

 

ウイッカ「うん……。なんとか。でも一回分でしかも効果範囲はすごい狭いよ?」

 

 

ドラゴ「足りない分は僕のブレスで補うから大丈夫だ。」

 

 

ホーク「何をするつもりだ?」

 

 

ドラゴ「レイヴをこの場から逃がす」

 

 

レイヴ「ちょっと待ってくれ、なんで俺だけが助かるんだ。皆で逃げる方法はないのか?そもそも俺は魔力を練れないんだぞ」

 

 

ドラゴ「どうやってもレイヴを救う方法しか思いつかなかった」

 

 

ウイッカ「どういう意味?」

 

 

ドラゴ「レイヴ以外の3人の内一人が抜けてはこの包囲網は突破できそうにないんだ」

 

 

ドラゴ「ウイッカのマヌーサを僕のブレスで広範囲に広げ幻にやつらを包みホークの攻撃で血路を開く」

 

 

ホーク「まさかレイヴにこの国の運命を預けるつもりか!」

 

 

ドラゴ「そう、幼馴染にこんな重い責任は背負わせたくないけど……レイヴはできる自信はある?」

 

 

レイヴ「分からねえよそんなこと……。けど……、けどそれでこの国を救えるのならやってやる……ッ!!」

 

 

ドラゴ「ありがとうレイヴ……。始めるよ!ウイッカ、マヌーサをお願い!」

 

 

レイヴ「それじゃ……行ってくる!」

 

 

レイヴは敵の群れに突っ込んでいった。

 

 

ウイッカ「お兄ちゃん信じてるから!幻霧呪文マヌーサ!」

 

 

敵の目の前に幻を見せる小さな霧が生まれた。

とても小さい霧で一体を幻に包む程度の大きさでしかなかった。

しかしそれにドラゴが息を吹きかけることで一瞬だけルティスは幻を見たことによりレイヴを見失った。その隙にホークがルティスを殴り倒す。

レイヴは一瞬の隙をついて無事にその包囲網を突破した。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

ブッカが茂みをのぞこうとした瞬間、レイヴが彼の脳天を鉄のパイプでブン殴った。

 

 

レイヴ「くそっ!」

 

レイヴは走る。

レイヴはパイプで殴った音が周囲に響き渡るのと同時に地を蹴った。当然他のルティスに気付かれてしまっている。

戦車のない方面へへ無我夢中で駆けた。

しかし冷静さを欠いたせいで重要な事を忘れてしまっていた。

長い間暮らしているから回避できる危険だったというのに。

 

 

 

レイヴ「……しまった!!」

 

 

行きつく先は絶壁の崖だった。

落ちてしまってはただでは済まない高さだ。

元の道を戻ろうにもすでにルティスが待ち受けている。

 

袋の中の鼠。もう完全に行き詰ったレイヴにルティスの魔の手が触れるその時だった。

 

 

レイヴ「おぁっ!?」

 

 

レイヴは崖から足を踏み外し―――

 

 

レイヴ「うわああああああああああ!!!!???」

 

 

レイヴは重力に従い落下していった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「囲まれた!?」

 

 

「これじゃあ逃げようがねえぞ!」

 

 

「早く帰っておけばよかった…」

 

 

 

数人の少年少女は後悔し絶望の淵にいた。

 

だが一人が覚悟を決める

 

 

 

「後悔してもなにも始まらないぞ。ここは俺が血路を開くからその間に皆は逃げろ」

 

 

彼は一つ提案を告げた。

 

 

「は、それじゃあアルゼ、おまえはどうすんだよ!?」

 

 

「…必ず帰る」

 

 

 

アルゼと呼ばれた少年は敵に視線を外さずに答えた。

 

その声は小さかったが、覚悟に満ちたものだった。

 

 

親友たちを思う彼の意志は固い。

 

 

だがそれを妨げる無粋な声が一つ。

 

 

 

「オイオイ、なに一人でフラグ建てて格好つけてんだ。英雄気取りか?尻尾巻いてお前も逃げてろ」

 

 

「それしか方法が…」

 

 

「俺も残る。コイツらには借りがあるんだ」

 

 

「ソロ!借りとか言ってる場合じゃねえだろ!」

 

 

ソロ、その名前の主は答えない。だがその眼は憎悪に燃えていて見るものを戦慄させた。

 

 

「……分かった。だが俺は逃げない」

 

 

「君の借りを返すのに俺も手伝う」

 

 

「ふん、勝手にしろ…」

 

 

 

そして数秒後、衝撃があった

 

 

 

――――――

 

 

とある林は既に夜は明け日が照っていた。

 

 

たくさんの生い茂る木々に一人少年が引っかかっていた

 

 

レイヴ「!!」

 

 

レイヴ「夢、か」

 

 

レイヴ「落ちてく時あのまま気を失ったのか俺……」

 

 

彼は運良く森に突っ込み、木の枝に引っ掛かり、事なきを得たのだ。

 

 

レイヴ「久々に嫌な夢を見ちまったな……俺はあの時と大して変わってなかったってことか。情けない…」

 

 

レイヴ「しっかし無傷とは…俺にしてはすごいラッキーだな」

 

 

自虐めいたことを呟き勝手にちょっとブルーになりながらふととある事を思い出した。

 

 

レイヴ「!あれそう言えば笛は…! ブフウウウウッッ!!?」

 

 

 

レイヴはすぐに笛を見つけられたが無残にも笛は真っ二つになってしまっていた。

 

 

 

レイヴ「うわあ…どうすんだよこれ……」

 

 

突然どうしようもない問題を抱えて途方に暮れていると林道の向こうから人影が一つ見えた。

 

 

レイヴ「ん?あれは…!」

 

 

レイヴが見つけたのは昨日捕まったはずの友人だった。

 

 

レイヴ「ドラゴなのか!?」

 

 

ドラゴ「えっ?レイヴ!無事だったんだね!」

 

 

レイヴ「なんでお前がここに?昨日捕まったはずじゃ…」

 

 

ドラゴ「昨日何かで運ばれていく途中で僕の檻が落ちちゃってね、中から熱で溶かして脱出できたんだ。」

 

 

ドラゴ「それはそうと笛は?」

 

 

レイヴ「おおう…」

 

 

ドラゴ「えっなに?」

 

 

レイヴ「このザマです…」

 

 

ドラゴ「……ミイホン助けたら半殺しにするよ」

 

 

彼は微笑む。

 

 

しかし目は笑ってない。

 

 

自分が対象ではないにも関わらずスラリンは生命の危機を本能で感じつつ問いかけた。

 

 

とりあえず場の空気を変えることにしたのだ。

 

 

レイヴ「そ、そういやここってどこだろうな?」

 

 

ドラゴ「うーん…木とか空気からしてノッケの林道じゃないかな」

 

 

レイヴ「こんな城に近いところで寝てよく見つからなかったな俺…」

 

 

ノッケの林道はスラーン王国のすぐそばにある場所だ。

 

 

ドラゴ「最近はこの島が荒れてきているみたいだね…」

 

 

レイヴ「みたいだな…。8年前のあの時といい5年前のエルリオン国滅亡とか」

 

 

8年前にレイヴ達は二人の幼馴染を失っている。このノッケの林道にて謎の襲撃者に襲われたのだ。

 

エルリオン国滅亡とは5年前に起こった正体不明の何者かにより国民が一人残らず死に至らしめ滅亡した事件の事である。

 

 

レイヴ「そして今回…8年前はともかくとしてルティスが関係している可能性が大きいと思う。」

 

 

ルティスがどれほどの科学技術を持っているかは未知数ではあるがあれほどの数の戦車を所有しているとなるとあり得ない話ではなかった。

 

 

ドラゴ「でもそれだとおかしいんだよね。もし連中がエルリオンを落としたとしてスラーンもエルリオンのように痕跡を残さず全員さらうことも出来たはず…。」

 

 

そもそもの話、戦車による大移動など普通は誰かに目撃されるはずなのだ。

 

 

 

レイヴ「…ここで頭動かすより体を動かした方が良さそうだ。とりあえず皆を助けないとな!」

 

 

ドラゴ「もちろん僕も一緒に行くよ。僕だけが城に残ってるなんてのは皆に申し訳ないから」

 

 

ドラゴが仲間になった!

 

 

レイヴ「ああ。もうあの時の冒険とは違うからな。あの日から成長した俺たちの力、存分に発揮してやる!」

 

 

レイヴ「行くぞ! 冒険だ!」

 

 

ドラゴ「うん!」

 

かくして、彼らの冒険が始まった。




1話予告


「…あいつらルティスだね」


「お前に任せる。俺が戦いたいけど今回はそうも言ってられない。頼むぞ」


「俺が何もできないと思うなよ!」


ルティスたちにさらわれた国民を探し旅に出る二人。

二人は果たして国民を助け出せるのか

滅んだ王国の運命は

ルティスの目的とは


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