小日向さんのバイト日記 (龍狐)
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小日向未来 2021年誕生日記念話!
あァ…悪正記の戦闘シーン考えるのめんどくせぇ。
大抵の小説って、戦闘シーンが投稿頻度の妨げになるよね。
まぁ、それではどうぞ。
今日は、私の誕生日。響も張り切って誕生日パーティーの準備をしてくれている。密かにやっているつもりなんだろうけど、もうバレバレ。でも、そういうところが響らしいというか…。
クリスや切歌ちゃん、調ちゃんもせっせと手伝っている。クリスは嫌々やっているように見えるけど、実は結構乗り気なところもまたご愛敬だと思うんだよね。
さて、そんな肝心の私ですが…。
「大根とはんぺん一つください」
「つくね2個とロールキャベツください」
「大根3個!」
「はんぺんとたまごを2個!」
今現在、おでん70円セールの餌食になっている。
事の始まりは学校の終わり。コンビニからの着信が35件もあるからなんだろうと思ってその電話に出てみたら、渇いた声で店長から、
『小日向…チャン…イマ…バイト…デラレナイ…カナ…?』
と、荒い呼吸とともにSOSのコールが初回の挨拶だった。
その只事ではない事態に、私はすぐに直行した。誕生日会の準備が出来るまで、私はいない方が良かったからちょうどいいと思ったのも理由である。
だが、すぐに私はその選択を後悔した。
着いてすぐ、着替えてこのおでんのコールの雨だったから。
「つくねとタコ串とこんにゃくと大根を3個ずつ!」
「はんぺんとたまご二つずつ、しらたきと昆布一つずつ、ちくわとソーセージとがんも3つずつ!」
「あ、やっぱ今の全部やめてロールキャベツを2個とごぼう巻きを2個と牛すじを2個。あ、やっぱ全部三個ずつで!」
―――よく、聞かれるんです。
おでん70円セールって、そんなに大変?――って。あれ、こんなこと聞かれたことあったっけ?もう記憶が
でも、そう聞かれたら早急にこう答える。
店内を埋め尽くす
勤務時間外でも入店音の幻聴が聞こえ始め!
火傷と隣り合わせの作業を強いられ!
煮詰まったおでんの香りが
――そして、
バックルームの夜食では、おでんが温かく迎えてくれる――。
「要は、おでんに五感全てを奪われます…」
「未来ちゃん!これお願い!」
「は、はい!!」
ちなにに余談だが、このセールは毎年あるらしい。これを何年も続けてきた店長や松駒さん、渡利さんがどれだけの修羅場を
―――。
――――。
―――――。
「そう言えば、柴田さん遅いな…。何してるんだろう?」
あの逆襲?のおでんセールが終わったあと、私たちはぐたっとしていた。時間は夜の7時15分。あと一時間もしたら帰れる。
とても辛かったけど、
と、そんなことを考えていて気を紛らわせようと別のことを考えて真っ先にコレが浮かんだ。今日は柴田さんのシフトは15分前に始まっているが一向に来る気配がない。本当に、あの地獄を体験しなくて羨ましい…。おっと、この声は心にとどめておこう…。
そう呟くと、近くにいた松駒さんと渡利さんが話に乗って来た。
「寝坊ですかねぇ」
「ま、バイトの遅刻といや寝坊かシフト忘れのどれかだよな」
「夜の七時ですよ?寝坊はありえませんって。響じゃないんだから」
「ん?未来ちゃん今何か言った?」
「いいえ、なにも?」
「そっか…。そうだ、遅刻の言い訳で、「向かい風が強くて」「学校に軟禁された」なんて珍回答も聞いたことが――」
その時、ダダダダ!!と大きな音が聞こえたと同時に、柴田さんがバックヤードに飛び込んできた。
――血塗られたスーツ姿で
「遅れてすみません!止血に手間取っちゃいまして…!」
「「「――――」」」
んー―――?
私は思考が停止して、目の前の状況を理解できない。いや、理解したくなく必死で脳の回転を止めようとするが、意識とは別に脳が勝手に状況を処理してしまった。
「あっ僕はなんともないです!お父さんたちと食事してたら大ゲンカ始まっちゃってー」
――なんらかの事件性しか感じない。
―――。
――――。
―――――。
―――翌日。
皆で私の誕生日を祝ってくれた次の日。学校が終わって、いつのものメンバーで校門をくぐり抜けたその時。
「あ、仁井さんではないデスか!」
切歌ちゃんが通りすがりの仁井さんを発見した。何度も言うが、彼は駅を
しかも、ちょうど帰りの時間帯に。
「おや、小日向さんに暁さん。今から帰りですか?」
「はい。仁井さんは今日シフト入ってるんですか?」
「えぇ。でもまぁ、本命は別にありまして…」
「――?」
そう言うと、彼は懐から一枚の紙きれを取り出して、私に差し出した。よく見ると、それは映画のチケットだった。
(あッ、これ気になってた映画のチケット…)
「昨日が誕生日だと聞きまして。よろしければこれをどうぞ」
「いいんですか?」
「えぇ。もらってください」
「ありがとうございます!」
そうして、私はニーチェ先生からチケットを貰った。……アレ、何気にお父さん以外の男性から贈り物を貰うのって初めての経験だ!
「よかったね、未来!」
「いいなー!私もその映画気になってたんだ!」
「じゃあさ、皆で明日見に行かない?ちょうど土曜日だしさ!」
「ナイスな提案ですわね!早速準備しないと!」
「いいデスねいいデスね!行きたいデス!」
「うん…。良いと思う」
「ま、まぁ?アタシは別に興味ねぇけど、皆が行くってのなら…先輩として顔を立ててやらないとな。アタシも行くよ」
よーし。それじゃあ明日は皆で映画を見に行く準備をしないと。本当に、仁井さんには感謝しかない。本当アルバイトがある日は
「本当にありがとうございます、仁井さん!」
「いいんですよ。一人目は車にはねられ入院。二人目は階段から落ちて骨折。三人目は強盗に襲われ全治一か月。……と三人の持ち主の元を渡り歩いて僕のところへ回って来たのですが、こういうものはあまり見ないので」
「「「「「「「「―――――」」」」」」」」
何故それを私に渡そうかと思ったのか小一時間問い詰めたい。
―――。
――――。
―――――。
結局、ニーチェ先生を入れた9人で映画館へ。あんな呪われてるとしか思えないチケットを渡してきたのだ。無理やりながらもついてきて貰った。
それに彼は曲りなりにもお坊さん志望。きっと呪いとかそう言い危険なモノに対して耐性を持っているに違いない。
事実、私たちに近づこうとしていたガラの悪い人たちが謎の腹痛を引き起こして病院に直行したから
彼は耐性と言うよりその扱いに長けているのではないかと私を含めた全員が思ったであろうが、誰も口にしなかった。
そして、映画のラストシーン。
『やったよメリッサ…。ホラ、君の仇は打ったよ…』
そしてその帰り道。私たちは映画の感想を言い合っていた。
「なかなか面白かったね!」
「そうだね、やっぱり最後のアクションシーンとかが最高だったよ!」
「私は、仇を打ったところが――」
「仁井さん!仁井さんはどんなところが気になりましたか!?」
響が仁井さんの横に並んでその質問をした。対して彼の答えは――
「そうですね…。何故主人公は犯人を殺してしまうのか理解できなかったです」
「仁井さん……」
「そう、ですよね…。戦うより、話し合いで解決した方が、良いに決まってますよね」
仁井さん……。流石にお坊さん志望なだけあって、仇にすら貫禄を貫くのか…。こういう人が、弦十郎さんみたいな良いOTONAになるんだな―――
「生きていることそのものが最大の苦しみなのに解放するなんて」
「「「「「「「「―――――」」」」」」」」
そう言い放ち堂々と歩くその後ろ姿は、まさしく歴戦を勝ち抜いてきた戦士の背中だった。
――今日も平常運転だった彼に、安心すればいいのか、呆れればいいのか分からない一日だった。
―――。
――――。
―――――。
おまけ。
月曜日の帰りの時間。雨が降った。バックを傘代わりにして頭を守る。
今日の天気予報は晴れだったのに――、いろいろと濡れちゃった。
「おはようございま~――」
お店の裏側に回って、バックヤードに続く扉を開ける。
その時私の目に映ったのは、大量の逆さてるてる坊主だった。
「――――」
その光景に、私は力が抜けて荷物が手から落ちる。
「おはようございます。今日も暇になりそうですね」
【神は死んだ】と豪語する彼が、民間伝承を用いてまで来店客数を減らすことに余念のない姿勢を見せたことに身震いしています。
評価:感想お願いします。
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無印編
1話~5話(4話改稿)
これは、もしもリディアンが『バイトOK』だったらのお話である。
私の名前は【小日向未来】
これからバイト先へ向かっています。
「社会勉強のためにやってみたけど…受かってよかった」
親友の響からも心配されていたけど、リディアンから近くのコンビニだし、それに時間も夕方から夜だけだから。
夜は少し不安だけど、とにかく頑張ってみることにしています。
「よ~し!頑張るぞ!」
私は勇気を出してコンビニの自動ドアから入った。
そして、最初に聞いたのは…
「ああん!!?」
怒号でした…。
「ふざけんなよ!!お客様は神様だろうが!!」
…まだ夕方にもなってないのに、やっぱりこういうお客さんもいるんだな…
そして、目の前で怒鳴られているのは店員さん。
立場的には私の先輩になるんだろう。
その人は男性で、身長はたぶん、170cmはあると思う。
そして、彼は…
「神は死んだ」
と、とてつもないことを言いました。
…私、どうなるんだろう?
1話 【自己紹介】
「こ、これからここで働かせてもらいます!【小日向未来】と申します!よ、よろしくお願いします!」
そう言って私は頭を下げる。
「よろしくね。未来ちゃん」
「どうも、松駒です」
「君の制服って、あれってリディアンのだよね?あ、俺渡利!よろしく!」
「…
あの人は晴也さんって言うんだ。
「ところでさ、リディアンって女子高でしょ?だからさ、なんかいい友達でも紹介してくんない?」
「え、えぇ…」
「ちょっと渡利さん、小日向さん困ってるじゃないですか!」
「俺さ、いずれ絶対6億当てるからさ!」
えぇ~~急にこの人すごく慣れ慣れしいな…。それに今の発言、完全にアウトだし…。
こんな人に私の友達…特に響は絶対に紹介できないよ。あまり関わらないでおこ。
「…渡利さん」
「なんだよ?」
そのとき、仁井さんは急に足を床にたたきつけた。
そのときに特有の音が聞こえる。
「きゅ、急になんだよ…」
「渡利さん。今26歳フリーターのあなたと、将来がある高校生。そんな圧倒的な差がある二人が付き合える確率は、今ボクが足で地面を叩いたときにそのエネルギーが地盤に到達して震度5以上の地震が起きる確率に等しいと思ってください」
「は、はぁ…つまり、お前はなにが言いたいんだ?」
「つまりそういうことです」
「「「……………」」」
「仁井君…。前にも、同じようなこと言ってなかったっけ?」
そのときの仁井さんの言葉は、今まで聞いてきた言葉のどれよりも酷で、一瞬だけ渡利さんが可哀そうになった。
でも、助けてくれたのはうれしかった。
2話 【基本】
「では小日向さん。まずはレジの基本操作を覚えてもらいます」
「わかりました」
「それではボクがいつくか商品を持ってくるので、カウンター越しで商品を受け取って会計をしてください」
そう言って仁井さんは商品棚に向かって行く。
まぁレジ打ちはコンビニバイトの基本中の基本だからね。
そして仁井さんが持ってきたのは…
「これを」
「……あの、これは?」
彼が持ってきたのは、線香と仏壇用ライター、慶弔用の封筒…。
仁井さんが想定するコンビニのお客様がどんな人物なのか、全く想像がつかない。
3話 【ニーチェ先生】
「って、いうことがバイト先であって…」
「それ、大丈夫?」
今の時間、昼食で私と親友の【立花響】。そして友達の【板場弓美】ちゃん、【安藤想世】ちゃん、【寺島詩織】ちゃんの五人で食べていたときのこと。
「その、仁井さんだったっけ?まるでアニメね!」
「…アニメでしかありえないことを平然をするあの人を見ると、いつもひやひやするんだよね…」
「ははは…。まぁ、当たり前だと思いますよ?」
「神は死んだ、か……」
「どうしたの?創世ちゃん?」
「いやぁね。その言葉って、【フリードリヒ・ニーチェ】って言う人の名言なんだけど、それから取って……その人は、『ニーチェ先生』にしよう!」
なんでそんなこと知ってるんだろう…
「ニーチェ先生…。ありかもね!」
「でも、なんで先生、をつけるんですか?」
「だって、相手は年上でしょ?だから敬意込めてって意味で!」
……ニーチェ先生か…。
この日から、彼を心の中でそう呼ぶことにしました。
4話 【友達が来た】
「おーい、未来!」
今日、土曜日なのですが、オーナーに頼まれたのでお昼から夕方までバイトしています。
そして、私の親友と友達の4人が来てくれました。
「へぇ~ここがヒナのバイト先か」
「うち私立だからバイトできるけど、なかなかいい場所じゃない」
「本当に、ナイスですね」
「にしても、コンビニの店員の恰好の未来もなんだかかっこいぃ~~!」
「えへへ、そうかな?」
やっぱり響にそう言われるとうれしいな。
「…お友達ですか?」
「あ、仁井さん」
そのとき、バックヤードからニーチェ先生が出てきました。
「交代ですか?」
「いえ。品出しをしないといけないので」
「あの!」
「……なんですか?」
「私、立花響って言います!未来の親友です!よろしくお願いします!」
「仁井晴也と申します」
「ちなみに!趣味は人助け!誕生日は9月13日O型!身長はこないだの測定で157cm。歳は15歳!体重は秘密です!」
「………」
「もう、響。急なことで仁井さん混乱してるよ」
「あはは、ごめんごめん」
「そうだよね。ビッキーこの前猫を助けたことで入学初日から遅刻してたもんね」
「そうだね。まるでアニメ見たいだったよ!」
「もう、弓美さんったら」
五人で笑いあっていたそのとき、仁井さんが口を開いた。
「立花さん」
「はい!なんですか?」
「自らの情報を出会ったばかりの人間、しかも異性に対してペラペラ喋るとは、情報管理能力が成っていませんね。そんなことではいずれそれがトラブルの元になりますよ」
………あまりの正論に、グゥの音も出ない。
その発言に、私だけではなく、響たちも固まっている。
ニーチェ先生は響に背を向け、こう言った。
「立花さん。もう少し、自分を見直してはいかがでしょうか?」
そう言い残して、ニーチェ先生は品出しをしに行った…。
5話 【資格】
「そういえば仁井さんって、仏教検定とか受けてるんですか?」
「…どうしたんですか、急に」
「いえ、仁井さんって、仏教学部なんですよね?」
「…誰から聞いたんですか?」
「渡利さんからです」
「……そうですか」
一瞬、仁井さんの目が怪しく光った気がしたけど…気のせいだよね。
「まぁ仏教学部に入る以上、仏教検定は必ず受けるでしょう。…賞状の写真、見ますか?」
「えっ!?いいんですか!!?」
「問題ありませんよ。見られて困るものはありせんから」
「それじゃあ、お言葉に甘えて…」
そうして、私は彼のスマホを借りて彼の賞状が映っている写真をを見た。
検定に最初に目が行った。
【仏教検定3級】
【英検準2級】
【数検2級】
【接客サービスマナー検定2級】 ←?
【コミ検2級】(コミュニケーション検定) ←?
【漢検3級】
【サービス接遇検定準2級】 ←?
かなりとってる。
かなり資格はある。だけど……。
私は仁井さんの方を見る。
「?」
この不愛想な顔…。
そして今までのお客さんへの態度…。
一度この検定試験を開催している協会に、もう一度この人の検査をさせたいと思いました。
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6話~10話
~6話 【ペンとインク】
「それで、商品を打ち間違えたときの取り消しの仕方は―――」
私は今、新人研修として、ニーチェ先生にいろいろと教わっている。
時間帯的に松駒さんと渡利さんはいない。あの人たちは基本深夜帯らしい。
ではなぜあのとき、夕方なのにいたのか?
それは単純な人手不足だかららしい。
それで、今はニーチェ先生の言っていることをメモに書き写している。
そんなとき…。
「あ、インク切れちゃった…」
どうしよう…?
変えのインク、今部屋にあるんだった…。
「…よければ、ボクのを貸しましょうか?」
「いいんですか!ありがとうございます!」
「どうぞ」
仁井さんから渡されたのは、持つところやペン尻のところが太い金属でできている、珍しい形のペンだった。
「へぇ~珍しい形のペンですね」
「実はこれペンを
「な、なんでそんなもの持ち歩いているんですか…!?」
「お客様から言質を取るために」
このとき、ニーチェ先生に初めて恐怖の感情を抱いた。
~7話~ 【掃除】
「コンビニに限らず、どんなところも清潔感を保つことが絶対です」
「はい」
それはよくわかる。
ちゃんと掃除をしないと汚いし、なにより居心地が悪い。
「では、まずは掃除の一環として、あれをこれで掃除してください」
ニーチェ先生が指をさしたのは…
「ねぇ、これやばくな~い!」
「うわぁ!マジじゃん!」
本を立ち読みしている男女のカップル。
特に目立つゴミはない。
「どこですか?」
「あるじゃないですか。喋っている、大きな大きなゴミが」
そのニーチェ先生の姿は、闇しか感じられなかった。
~8話~ 【タバコ】
「め、メンソールメンソール…」
「おい!遅っせーんだよ!!プロならタバコの銘柄ぐらい暗記しとけ!!」
「も、申し訳ございません!!」
このあと、なんとかそのタバコを見つけてお客様に売ることができた。
…接客業って、大変なんだな。
「小日向さん。大丈夫ですか?」
「あ、仁井さん…。ありがとうございます」
「いちいち気にしていたらこちらが持ちませんので、気にしないようにしましょう」
…今のは、彼なりの誠意なのかな?
とりあえず、話題を変える。
「そ、そういえば、私はタバコ吸う予定はないですけど、映画とかで観るとちょっとかっこいいなって思いますよね」
「…タバコは確かにカッコいいイメージはありますが―――」
続けて、ニーチェ先生はこう言い放った。
「実際は哺乳類の本能である「乳を吸う行為」をタバコに置き換えただけの幼児退行の表れですし、タバコの銘柄を間違えたくらいで逆上する方は、乳首依存患者として扱っています」
「乳首、依存患者…」
乳首依存患者という言葉の破壊力が凄まじすぎて全く内容が入ってこなかった。
~9話~ 【強盗の対処】
「もしもの、非常事態でのことですが、強盗が来たときの対処法を教えます」
「はい」
ほぼ低確率で、人生でバイトをして会えるかどうかわからない強盗。
でも、やっておくに越したことはない。
「えっと確か、店長さんにも言われましたけど、防犯ブザーがあるんですよね?それで―――」
「従来はそうですが、ここではボクの考えている対処法を教えます」
「え?」
「まず、二つ折りのケチャップ・マスタードを強盗に向かっております」
その最初から間違っていそうな彼の言葉で、こんな回想が浮かんだ。
~回想~
『おいこら金出せおら!!』
「すかさず犯人を目つぶし」
ケチャップ・マスタードがすごい勢いで強盗の目に入る。
「そしてカウンター越しにハイキック」
『グハァ!」
強盗が転がる。
「犯人がよろめいたところで背後に回ってチョーク*1を攻めて堕とす」
「それって格闘技のヤツですよね!?確実に危ないですって!」
「堕としたところで座禅を組ませ、礼の棒*2を取り出し、二度と犯罪に手を染めぬように―――セェェェエイ!」パァン!
「何故座禅を組ます必要が!?ていうか礼の棒なんてどこから取り出すんですか!?」
「セェェェエイ!」パァン!
「セェェェエイ!」パァン!
「ちょっと、やりすぎじゃ…」パァン!
「セェェェエイ!」パァン!
「堕ちてるんですよね?この人?」パァン!
「セェェェエイ!」パァン!
「もう勘弁してあげてください…」パァン!
「反省したことを確認したら」「堕ちてるんですよね?」「すべての関節を外します」
「何故!!??」
「ハイッ!」グキッ!
「ハイッ!」グキッ!
「ハイッ!」グ゙キッ!
「ハイィィィッ!」グキッ!
「…ちなみに聞きますけど、何のためにですか?」
「暴れださないためにです。そして最後に目つぶし」
「必要ですかそれ?」
「全く動けない状態になったところで警察に突き出します」
~回想終了~
…考えてみたけど、やることが何もかも理解の範疇を超えていて、私程度の頭じゃ理解することができない。
「ここまでやれば、強盗の再犯の可能性を限りなく少なくすることができます」
「私は、なにをしてれば…」
「―――小日向さんは、これ以上ないほどに慌てふためき、悲鳴を上げていてください」
「――――はい」
今度、店長にニーチェ先生を採用した理由を聞いてみようと思う。
~10話~ 【悩み事】
「はぁ~~」
最近、響どうしたんだろう…
「どうしたんですか?」
「あ、仁井さん」
「ため息をすれば幸運が逃げますよ」
「そう言われましても……」
「ちなみに、ため息をして不幸になった人間をボクは知っています」
「え?」
「例えば、渡利さん。今日の深夜バイトで、6億円が当たらないと嘆いていたところ、帰り道に全財産である106円を落としたそうです」
全財産少ない!そういえば、あの人って給金をことあるごとにすべてが宝くじに積み込まれているらしいし。
たぶん…いや、完全にそれが原因だよね…。宝くじ先輩、なんて言われてるし。6憶なんて当たるわけないのに。
「それは災難ですね…」
「そして、松駒さん。松駒さんは「また就職面接に落ちた……」と、嘆いており、それが原因で次の就職面接にも落ち、それで嘆いて再び就職面接に落ちると言う悪循環を繰り返しています」
「それ…もうダメじゃんじゃないですか!?」
「まぁ松駒さんに関してはため息が関係しているとは到底思えませんがね。なにせ、松駒さんはこれからも、落ち続ける運命にあります。そしてそれがこの世界のパワーバランスだと、僕は思っています」
松駒さん……!!
「さて、ため息をすると言うことは、なにかあるのでしょう」
「はい…。実は、響のことなんです」
「立花さんですか。それで、自分を見直しているんですか?」
「それが…。最近ちょっと、すごく変で」
「変…とは?」
私はニーチェ先生に響のことを話した。
最近、響はやけに帰りが遅い。授業中に出て行ったり、この前なんて、流れ星を見る約束をしていたのに…
「それで、それからと言うものの、ガタイの良い男の人と一緒に強くなるための訓練だ!って言って、学校を時々公欠してるんですよ…」
「それで、今日もですか?」
「お恥ずかしながら…」
「もはや、渡利さんと同じく救いようがありませんね」
「ちょっと!響を渡利さんと一緒にしないでください!」
「……そうですね。渡利さんとは比較できませんね。せいぜい立花さんは、ボクがその流れ星の日に見た【悪霊白タイツ】と同レベルでしょうね」
そうですよ!全く…ん?今、なんか変な単語が聞こえたんだけど。
悪霊白タイツ?
「あの、その悪霊白タイツのことを聞きたいんですけど!」
「あんな救いようのない鞭を振るって高笑いする変態タイツの悪霊の話はさておき、立花さんは要するに体を鍛えてるんですね?つまりそれには何かしら意味があるかと」
「あの、白タイツのことを…」
「親友なのですから、なにか話を聞いていないのですか?」
「いや、白タイ――」
「その反応を見ると、どうやらなにも聞かされてはいないようですね。では、ゆっくり待ってみるべきでは?無理やり聞いても無意味でしょう。待ってみるべきだと思います」
「あのだから―――」
「仁井さん!レジの交代お願いします!」
「分かりました」
「ちょ!仁井さん!」
ニーチェ先生はそのまま行ってしまった。
彼なりにアドバイスしてくれたんだろうけど、悪霊白タイツと言う謎の存在が出てきたために全く頭に入ってこなかった。
とにかく、危ない人だということは分かった。
後日、その話を響たちにしたら響がものすごく動揺していたことを覚えておく。
ちなみにですが、響はあえて【
理由としては、仁井経由でさらに自分のことを未来に疑われるのを避けるためです。
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11話~15話
これは、唐突な始まりだった。
~11話~ 【趣味】
何気ない、ただの興味だった。
「そういえば仁井さんって、趣味はないんですか?」
「楽器の演奏ですね。バンドも組んでいます」
「バンドッ!!?」
私は仁井さんがバンドを組んでいたという事実に驚愕していた。
私は音楽に力を入れているリディアンに入っているので、そういうことには興味はあるからだ。
「凄いですね!!担当楽器はなんなんですか!!?」
「木魚です」
……耳を疑う楽器があったこと、詳しく問い詰めたいし、演奏ではなく説法の聞き間違えかもしれない。
~12話~ 【バンド名】
「今度ライブやるんですよ。よかったらお友達と一緒に来てみてください」
「えぇ!?いいの!?」
そうして私は5枚分のチケットを渡され、その表紙を見た。
「うわぁ~~楽しm――」
出演バンド
18:00~ トルネードダイブ
18:45~ 天国の地獄
19:30~ 「 」(※空白)
20:15~ 馬オ餓アhゲ□誤トp是空yミ激ク
狂気にまみれた文字列が並んでおり、どれが仁井さんのバンドなのか聞き出せずにいる。
だけど、最後の完全に文字化けしているヤツじゃないことだけを祈っている。
~13話~ 【地下ライブ会場】
「へぇ~~ここがヒナのバイト仲間の仁井さんがやっているライブ会場か…」
「でも、貸出してるだけですよね?」
「そりゃそうでしょ。ここそういうところじゃん」
私は後日、響を混ぜた四人を連れて仁井さんが言っていた場所に着きました。
「ライブ…会場か…」
響はやっぱり悲しい顔をしている。
やっぱり、二年前のことなのかな…。
「ビッキー?どうしたの?そんな浮かない顔して?」
「うえぇ!?い、いや、なんでもないよ…」
「うっそー!その顔は絶対なにかあるってぇー!」
「いや、なんにもないよー!」
「…あの、皆さん。そろそろ時間ですし、行きませんか?」
詩織ちゃんナイス!
私たちは階段を下って、受付の人にチケットを渡した。
「にしても、バンドやってるなんてねぇ」
「以外だったねぇ」
「担当はなんだか聞いてますか?」
「あ、うん…」
「へぇ~。あ、言わないでね!こういうのは見てからの方がいいからさ!………にしても、この最後の文字化けしているヤツ、これなんかヤバイ感じしかしないんだけど」
「そうだよね…」
「でも、これじゃないんですよね」
「おーい!皆、早く早く!」
響はさっきのことはもうたぶんだけどすっかり忘れて奥にまで行っていた。
「もー響ったら」
「はは。まぁアタシも楽しみだし、響の気持ちは分からなくもないけどね」
やがて五人が扉の前についた。
「よーし!!それじゃあ開けるよ!!」
響は扉を開けた。
そこには、100人を超えるであろう観客たちと―――
「「「「「………………」」」」」
そこには、お坊さん姿の三人がいた。
木魚をすごい速さで叩く仁井さん。
強烈な勢いでギターを弾いている老人。
苛烈に歌っているお坊さんがいた。
私は、ゆっくりと扉を閉めた。
~14話~ 【緊急会議】
「……ねぇ、ヒナ。何?今の?」
「さぁ…私にも…」
「…と、とりあえず、もう一度開けてみない?」
「ちょっと待って。心の整理が…」
「とりあえず、少し時間を開けましょう」
皆、詩織の提案を受けて、頭と心の整理のために扉から離れた。
「あれ…歌、なのかな?」
「いや、お経でしょ」
「お経…と呼べるかどうかも不明ですよ」
「…仁井さん、前に担当がベースと木魚って言ってたけど、そのままの意味だったんだ…」
「…よし!私は行くよ!」
響ッ!!?
「響ッ!?本気なの!?あんな狂気にまみれた場所に行くつもり!?」
「弓美さんの言う通りです!もう少し時間を置いてから…!」
「そうだよ!!あそこに入ったらもう戻ってこれなくなるかもしれないよ!?」
皆…。ボロクソ言ってるけど、正直私も同じ気持ち。
あれ、絶対ダメな奴だ。
「でも、せっかくチケットもらったんだよ!見ない方が失礼だよ!」
「でも…!響!」
「私は行くよ!」
待って!行かないで響!
でも、私たちの叫びを無視して響は扉を開けた。
『うぇえええええええええええいッ!!!!!!!』
熱狂にまみれた地下ライブ会場と裏腹に…。
「「「「「……………」」」」」
この瞬間、私たちの中の歌の概念が、音を立てて壊れて行った。
「えーこんばんわ。今日はずいぶんと入ってますね!目標にまた一歩近づけて嬉しいです」
坊主のお坊さんが、マイクを持ってそういう。
「バンドの最終目標はなんですか!?やっぱりあれですか!?武道館ライブですか!?」
「おッ!じゃあ仁井くんから!」
「全国のライブ会場で、般若心経を広めていきたいです。この場所は、そのための第一歩です」
『ウオオオオオオォォォ!!!!』
日本中に布教の波が押し寄せるのも、そう遠くないかもしれない。
そして、その始まりを、私たちは見たのかもしれない。
~15話~ 【新しい宗教】
『アンコール!アンコール!アンコール!アン――』
アンコールが響く中…
カッ……
そのとき、ステージに一筋の光が刺さった。
そこにいたのは…俗に言う、【
「……あ…」
「ああ……」
そして、突如泣き出す観客たち。
「「「「「…………………」」」」」
私たちはもう、ワケがわからなかった。
そして、宗教と音楽が手を組んだときの恐ろしさ、ひしひしと感じているし、新しい宗教が始まる予感すらあった。
そして、ライブが終わり……。
「ねぇ、ビッキー、ヒナ、テラジ、ユミ…。音楽って、なんだっけ?」
「さぁ…」
「私も、わからなくなりました…」
「わ、私たちは!私たちの中の音楽や歌を、信じればいいと思うよ!」
「響…!」
「そ、そうだよね!!私たちは私たちの音楽を信じればいいよね!」
「いいこと言うね響!よぉ~し!今日はふらわーでたくさん食べよう!」
「ナイスですね弓美さん!」
「それじゃあ行こ~~!」
このときの私たちは、今までにないほど心がシンクロしていた。
~後日~
「あの、仁井さん。バンドっていつもあんな感じなんですか?」
「過去のライブ資料がありますけど」
「えっ、見せてください!」
ニーチェ先生はバックから写真を取り出し、私はそれを見る。
「わあ……」
そこに写っていたのは…。
観客たちが座禅して、三人が
もうこれ、音楽活動の域を超えている。
~後日 学校にて~
「―――で、今度の秋桜祭で流す音楽を決めようと思います。なにか、案がある方は挙手してください」
「はい!」
「はい、小日向さん。なにかいい案があるんですか?」
「般若心経なんてどうでしょうか!!」
「……え?」
『『『『『…………??』』』』』
「古いのに斬新で、気が付けばやみつきに―――」
「小日向さん………疲れているんですね…」
と、一週間の部活動の休止とバイトの休暇を強いられた。そしてクラスの皆から心配された。
般若心経の力の一端を垣間見た気がする。
~またまた後日~
「小日向さん。念仏ofパーフェクトに興味はありませんか?」
「ね、念仏オブ…?それは仁井さんのバンドのライブか何か――」
「いえ」
「今度国宝のお寺で開かれる公式イベントです」
この国、もうダメなんじゃないかと思いました。
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16話~20話
~16話~ 【学校帰り】
「ふゥ~~」
「響、今日は一緒に帰れる?」
「うん!大丈夫だよ!」
今は学校が終わった教室。今日は一緒に帰れそうだ。
それに今日はシフト入ってないしね。
「ビッキー、ヒナ、今日一緒に帰ろう!」
そこに、創世ちゃんたちが来て、今日は五人で帰ることになった。
そして、校門に来た時、その人は来た。
「あ!ニーチェ先生!!」
そう、創世ちゃんが叫んだ先には、
「……?」
イヤホンを耳につけ、私服姿で歩いている、ニーチェ先生の姿だった。
そしてこの瞬間、終わった、と思いました。
や、やばいよ…。隠してたニーチェ先生の――仁井さんのニックネームが即バレた!
「く、創世ちゃん…!それだめ!」
「え?なんで?」
「いろいろとあるんだよ!」
そして仁井さんはそのまま私たちの方に近づき…。
「どうしたんですか?」
イヤホンを取って、私たちに話かけた。
「こんにちは!晴也さん!」
「こんにちは立花さん」
「…あ、あれ?今の、聞いてました?」
「なにが、ですか?」
よ、よかったぁ~~~!!
今の聞かれてなかったぁ~~!!
「そ、そうですか!なにも聞いてないんですね!」
「えぇ、そうですね」
「ボクを【ニーチェ先生】と変な呼び方をしていたこと以外は」
……バレて、ました。
~17話~ 【ニックネーム(あだ名)】
「あ、あの…これは、ですね…」
ヤバイよヤバイよ!どうしよう!このままじゃ創世ちゃんが!
「これは、私が考えたニックネーム!いいと思わない!?」
だが、創世ちゃんはこの空気が読めないのか言ってしまった。
まずい…!
「あ、あの…」
「どうしたの未来?顔色変だよ?」
「なにやら、顔が青くなってますが…」
「もしかして未来、体調悪いの!?」
響たちも仁井さんのことを話でしか聞いたことがないから、そう言えるけど、直接見ている私は知っている。この人はなにかしでかしたらヤバイということを…!
「そうですか…。まぁいいでしょう」
「え……?」
だけど、返ってきたのは予想外の返答だった。
「ニックネームをつけるのは、別に問題ありません。表現の自由…と言うものですよね」
「おーわかるねニーチェ先生!」
な、なんだ…彼にもちゃんと協調的なところがあるんだ…
「よ、よかった…」
「あ、いつもの未来に戻った!」
「ところでさ、ニーチェ先生は誰かにニックネームとかつけないの?」
と、思ったのもつかの間、
「……安藤さんは、ラインから延々と流れてくる量産品の一つ一つに愛称をつけてるんですか?ボクは少なくとも面倒なのでやりませんね」
「「「「「…………」」」」」
「どうしたんですか?」
「いえ、なんでも、ないです…。仁井さん…」
この時から、創世ちゃんは仁井さんことをニーチェ先生と呼ばなくなった。
でも、私はせめて自分の心の中だけでも、彼女の生み出したこのニックネームを生かしておくことにする。
~18話~ 【布教の波】
「今日は、確か未来さんは今日はシフトは入っていないんでしたよね?」
「はい。そうですが…」
さきほどの人を量産品扱いした発言により、私を含めた五人に怖がられているニーチェ先生。
「そうですか。実はボクも今日はシフトがありません。それで余裕ができたので、先日のライブの感想を、立花さんたちにも聞こうと思いまして」
そしてニーチェ先生は響たちの方を向く。
「え、えぇ~~と…」
「あ、あの…」
「な、なんていうか…」
「ざ、斬新的でしたね!」
詩織ちゃんナイス!
「そ、そうそう!斬新的だったねぇ!」
「まさか般若心経をあんな歌にするなんて!」
「あんな発想思いつかないよ!」
「ほ、本当にそうですね、あはは…」
皆、苦し紛れに回答している。
実際、私も感想を聞かれたときは苦労した。
「そうですか。では、今度ボク等のバンドともう一組のバンドが主催する【法礼summerNIGHT】にぜひ来て下ささい」
「は、はは…よ、余裕があれば…」
題名がいかにもな感じで、とても行きたくない。
「では、ボクはこのへんで「あ、あの!!」?」
そのとき、女の子の声が聞こえた。
皆で振り返ると、そこには私たちと同じリディアンの生徒がいた。
「なんですか?」
「も、もしかして、
「そうですが」
「や、やっぱり!!私、ファンなんです!握手してください!!」
「「「「「……………」」」」」
私たちは、唖然とした。
「ねぇ、もしかしてあれって、
「本当だ!!」
「握手してもらおう!!」
これがトリガーとなり、同じリディアンの生徒2,30人が仁井さんを中心に集まった。
これにより周りの人たちも「なんだなんだ」と集まってきていた。
騒ぎを聞いて駆け付けたであろう先生が解散させようとするが、騒ぎが止まらない。
逆に、仁井さんの存在を駆けつけた生徒がさらに集まってきた。
なんで仁井さんこんなに認知度高いの!?
そんな状態の取り換えしがつかなくなったとき、
あの、笛の声が聞こえてきた。
その音を聞いた、仁井さんを知っている生徒たちが、膝から崩れ落ち、泣き出した。
「ひぐっ…えっぐ…」
「ううぅ……」
……布教の波、ここまで広がっていたことに驚愕を隠せない。
~19話~ 【おごり】
「この度は申し訳ございません。これはボクのおごりですので、どれか一つ好きなセットを注文してください」
あの後、なんとかあの場を切り抜けられた。
それでニーチェ先生がお詫びとしておごってくれるそうだ。
「(この人にも、人の情があったんだ…)」
「(さっきのあれからは信じられないな…)」
「(まさかあの
「(やったぁ~おごりだぁ~~!)」
なんか、約一名だけ別のことを考えいる感じがする。
いや、顔に出ている。
そして、カウンターに到着すると、私たちはそれぞれのものを注文する。
そして、最後にニーチェ先生。
「チキンセットにコーラ、コールスロー……」
そして、その時、
「以上でお願いします!」
ニーチェ先生は、今まで見たことないくらいの笑顔で笑って対応していた。
それに私たちは驚きを隠せずに表情に出てしまっていた。
そして、注文の品ができるまでの待っている時間は、私は聞いてみた。
「どうしたんですか?珍しく愛想がいいですね!」
「確かに!すごくいい笑顔だったですね!」
そして、彼は不愛想にこう答えた。
「店員も人ですし、良い客には良い部分の肉をくれる可能性が高まるので乱数調整をしたまでです」
訂正。やっぱり彼には人の情はなかった。
彼には人間の温もりを取り戻して欲しいと切に願っている。
~20話~ 【ライバル?】
私たちは席に座り、それぞれの食べ物を食べていた。
「そういえば仁井さんって、誰かすごい!尊敬している!って人はいますか!?」
突然、響が仁井さんにそんなことを聞いてきた。
「どうしたの、響?そんなこと聞いて」
「いやぁ、ちょっとねぇ…」
「もしかして、最近響がやってる、『特訓』って言うのに関係してるとか?」
「あはは…実はそうなんだ」
「じゃあ響が尊敬しているのって、あの大きい男の人?」
「そうそう!!あの人すっごくいい人なんだ!」
「響、話の論点がずれてるよ」
「あはは…。で、誰かいますか!?」
「……バイト仲間ですね」
「「「「「ッ!!!」」」」」
まさか、あの中に仁井さんが尊敬している人が!?
すごい気になる。
「最近新しく入って来たばかりなのに」
えっ!?
「どんなお客様でも文句一つ漏らさず仕事をこなし」
ももも、もしかして…
「ボクでもわからない、見逃してしまうミスをしてしまったときに教えてくれる…」
それって、私―――
―――人ですらなかった。この答えに、硬直する一同。
そういえば、最近新しいレジスターに変えたって、店長が言っていたような…。
今日は、なんだか変な一日だったなぁ…。
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21話~25話(後書きに付け足し)
~21話~ 【柴田健】
「あ、こんにちは!」
シフトの日、急に声をかけられた。同じバイトの人からだ。
「あ、こんにちは…」
「仁井さんから聞いてます。夕勤の人ですよね!」
「あ、はい…」
「ボクの名前は柴田健です!よろしくお願いします!」
「こちらこそ」
この人の第一人称は明るい人、かな。
まるで響を思い出す。
「実は僕、本来夜勤なんですけど、店長に頼まれて夕勤してるんです」
「そうなんですか…」
ここの人手不足は大変だなぁ…。
ちなみにだが、仁井さんも本来は夜勤体らしいんだけど、それが理由で夕方に来てもらえる日は来ているらしい。
噂だと、夜勤の人の自給だけ夕勤でも1000円らしいけど…。真相は定かではない。
まぁ本来夜勤の人に夕勤に出てもらっているんだからそれくらいの配慮はしてもらわないと困るけど。
「あ、もう小日向さんって一通り研修終わりましたか?」
「あ、いえ…。まだ入っ1ヵ月も経ってないので…」
「それでしたら、ボクもある程度教えることができますよ!」
「え、でも私の教育係は仁井さんで…」
「実は店長から、仁井さんがいないときはボクに任せるって言ってて…」
「本当ですか?」
「本当だよ」
そう言ったのは、本来柴田さんと同じく夜勤であるはずの松駒さん。
「ボクは忙しいから辞退したんだけど…」
松駒さんはちらっと違う方向を見る、そこには…
「………」
すごい形相の渡利さんがいた。
ちなみに、渡利さんがいる理由も二人と同じだ。
「俺が、やりたかったのに…」
「いやだって、渡利さんは店長が直々にダメって言ったじゃないですか」
「納得できねぇ!どうして俺じゃダメなんだ!」
「いやぁ…」
「渡利さんは、欲望が思いっきり顔に出てるからだと思います!」
「グホォ!」
あ、渡利さんが倒れた。
「あ~またか。渡利さん運ぶから、柴田くん。小日向さんのことよろしくね」
「わかりました!」
松駒さんが渡利さんを運んで行った後、柴田さんがこっちを向いて…。
「それじゃあ始めましょうか!」
「はい!」
そうして、柴田さんにもいろんなことを教えてもらった。
やっていることはニーチェ先生とほぼ同じだけど、新しい発見もあった。
「あの、そんなにバイト楽しいですか?」
「はい!」
「そうなんですね。ちょっと辛い作業もあるのに…」
「はは。まぁそうですよね。でも―――
「前は偽名使ったり年齢詐称を用いたりして指示された機材を運ぶ仕事をしてたので、法に触れないこの仕事が楽しいんですよ!」
即座に110と言う三桁の数字が浮かんだ。
~22話~ 【お仕事】
「付録を盗まれないようにするのと、綺麗な商品をお客様に買って頂きたいので立ち読み防止で雑誌を縛りましょう!」
「は、はい…」
さっきまでハイな気分だったのに、明かな犯罪者宣言で私の気分は一気にローになりました。
「まずはボクのお手本を見てください」
「はい…」
そうして、柴田さんは手慣れた手つきで本を縛っていく。
そして、できたのは…。
「できましよ!」
「えッ///!!!?」
俗に言う、亀甲縛り*1だった。
「ちょ!柴田君!」
松駒さんが飛び出してきてあの縛り方をされた本を投げ捨てた。
「ちょっと!!あの縛り方はダメだって!」
「あ!すみません!つい手慣れたもので、やってしまいました!」
…彼の謎の職歴を、洗いざらい吐き出させたい。
~23話~ 【夜間の食事】
『それでさ、やっぱり勉強しながら食べる夜のご飯はおいしいよね!』
私は響の言葉を思い出していた。
今はバイトの最中で、休憩時間だ。
何故この言葉を思い出したのかと言うと、単純だ。
深夜帯の人たちは廃棄でただでご飯が食べられるから、響が羨ましいって言っているんだよね。
それで突然思い出した。
「あの、仁井さん」
「なんですか?」
思い切って聞いてみることにした。
「仁井さんって本来は深夜帯なんですよね?と言うことは廃棄のお弁当とか食べてるんですよね?」
「ボクは食べてません」
「えっ!?お得なのになんでですか!?」
響なら喜んで食べるのに。私も実際お得でしかないと思っているし。
「勿体ないじゃないですか。それって深夜の人の特権じゃないですか」
「…………」
しばらくの沈黙のあと、ニーチェ先生はこう言った。
「深夜の食事は肥満、糖尿病、肝硬変、虫歯、逆流性食道炎、自律神経失調症などに繋がる恐れがありますので」
「……………」
手に持っていたスマホが、床に落ちた。
「高い医療費を支払うはめになるほうが、よっぽど勿体ないです」
響に伝えるべき?いや、あんなに深夜の食事がおいしいと言っている響にそんなこと言えるわけが…
ていうか、ただでさえ響は最近帰りが遅くて疲れていて夜の食事が至福のひと時だって言ってたし…。
「立花さんにも小日向さんからも言っておいてください。立花さんには今死なれたら困りますので」
「…………」
「親友だから伝えられないというのなら、ボクの方から言っておきます」
「………?」
そこで私は気になった。人を量産品扱いしている彼がどうして響のことをそんなに気にかけているのか?
もしかして、響のことが気になっているんじゃ…
なんだろう、妬ましく思ってきた。とりあえず聞いてみる。
「なんで、響のことそんなに気にしているんですか?」
「立花さんは大事な顧客の一人ですので。ボクがお坊さんになって
と、冷淡に言い放ったことがより一層仁井さんに忌避感と恐怖を感じさせた。
そして響に恋をしているわけではないと知ったことが、とても安心した。
~24話~
それは、とある土曜日のバイトの日。
「いらっしゃいませ」
一人の女性が来店してきた。
そしてその女性は私を見た瞬間、すごい形相で私の方にきて…
「あなたが、未来って子ね!!?」
「そ、そうですけど…。どこかでお会いしましたか?」
「単刀直入に言うわ!!仁井君は貴方みたいな女に、全く興味はないから!!」
えっ?
なに急にこの人?
「ちょ!
「邪魔しないで松駒君!仁井君をたぶらかすこの女をほおっておくわけにはいかないわ!」
その楓と呼ばれた女性は私に指をさす。
「松駒さん、彼女は…」
「この人はボクの幼馴染の塩山楓。仁井君に惚れてるんだ」
あ、理解した。
つまり彼女は私がニーチェ先生を取るんじゃないかと言っているわけか
「あの、大丈夫ですよ?私、仁井さんにそう言った特別な感情は向けていないので」
「今はそうでもこの先どうなるかはわからないでしょ!?」
「楓ッ!まだ夕方だから他のお客さんに迷惑が――」
「まだ誰もいないじゃない!誰のいないのだから別に今は問題ないでしょ?それともなに?松駒君は私のせいでこの店にお客がこないとでも言いたいの?」
「いや別にそう言っているわけじゃ――」
「だったらいいじゃない!それに、この店に客が来ないのはねぇ私の仁井君への愛が!他の客を退けているのよ!」
「それ結局客が来てないの君のせいだよね?」
……何この人。いろいろと壊れているんだけど。
「それに!今夕方なのにどうしてここにいるの!?楓は看護師じゃないか!」
この人看護師なの!?……こういう人にだけは診られたくない。
「今日は定時で仕事が終わったの。だから一秒でも早く仁井くんに会いたくて!」
「仁井君は基本深夜帯だよ?常連なのに忘れたの?」
「だって最近は夕方にもいるって!」
「それは単純な人手不足が原因です。今日は仁井君のシフトはないよ」
「なんで!?どうして!?なんでこんな日に限って仁井君がいないの?ちょっと店長呼んで?仁井君のシフトを深夜帯で毎日してもらうように言ってくる!」
「今店長はいないしそもそも仁井君の意見を尊重してあげて?」
――と、この話が永遠に続きそうなので、私が終わらせなきゃ。
「あの、楓さん」
「なに!?」
「私は本当に仁井さんのこと特別視してないので、そういう心配はしなくて大丈夫ですよ」
「それは今の話でしょ!?その後はどうなるかわからないじゃない!」
「いえ、男の人にはあまり興味ないので…」
「つまり、レズと?」
「ちちちちち違いますよ!!」
「じゃあ男に興味があるんじゃない!!」
どうしよう。話が一向に終わる気配がない。
とりあえず、なんとか別の話に切り替えないと…
「とりあえず!私はそういうことはないので安心してください!…ところで、楓さんは看護師なんですよね?どうしてそうなろうと思ったんですか?」
「明かに話を変えようとしてるのバレバレなんですけど!?」
「でも、仁井さんが怪我したときに助けたら仁井さんの目が楓さんに行く日もあるかもしれませんよ?」
そう言ったとき、松駒さんが苦い顔をして、楓さんの顔が明らかに変わった。
「そうよね!仁井君が怪我したときのためにね、いつもお薬を持ち歩いているの!ほら!!」
楓さんが服を薄いコートを広げると、そこには大量の注射器と薬が入っているであろうフラスコがコートに付けられていた。
「いつでも仁井君んが怪我したときのために準備しているのよ!」
「え…でも、重くないですか?それに、転んだ時にフラスコが割れでもしたら…」
「大丈夫よ!だって仁井君のためだもの!愛があれば!!何度だって準備するわよ!愛があれば!!」
もう彼女はダメだった。
………薄々感じていたが、彼女からはなぜか私と同じ何かを感じている。
~25話~ 【白衣の天使】
また、楓さんが来ました。
そのときは前回とは違いすごくおとなしかった。
「あの、前回聞きそびれたんですけど、どうして楓さんは看護師になったんですか?」
「そうだね…。病気や怪我ってなくならないじゃない?」
「まぁ確かにそうですね」
「誰かがやらなきゃいけない職業だし今までたくさんの人に助けられてきたからさ。今度は私の番かなって…」
へぇ…!二回しか会ってないけど、彼女のまともな部分が見れた気がする。
「それにね!」
「?」
「病院はどこにでもあるから困らないし、愛する人を地の果てまで追えるから!」
今一番治療が必要なのは私の目の前の人物なのでは?
~後日~
私は思い切ってニーチェ先生に楓さんのことを聞いてみた。
「あの、楓さんのことなんですけど」
「………」
「仁井さん?」
「できれば彼女の話は避けてください」
「ははは…やっぱり少し気持ち悪いですよね」
やはりニーチェ先生も彼女には苦手意識を出しているようだ。
「…………」
「あ、でも。なんて言ったらいいのかわからないですけど、彼女からは少し私と似ているところがあるんですよ」
「………」
「ちなみに、ああいうところじゃなくて、愛している人がいるってところですかね。私も響のことが好きなので」
「…それは…」
「?」
「それはloveですか?likeですか?」
「え、えぇっと…」
どうしよう。答えづらい。
「…………」
そのまま仁井さんは立って私の方に近づき…
「……同族嫌悪」
「え?」
そう言い残して、休憩室から出て行った。
え?今のなに?私が楓さんと同類?確かに彼女は正直言うと気持ち悪かったけど、彼女と私が同類?
いやだ、認めたくない。認めるわけにはいかな――――
~とある病室にて~
「翼さん、片付けますね」
「あぁ、すまないな立花」
響は翼の病室を片付けようといろいろな場所に手を伸ばす。
そして、しばらくして、目にあるものが映った。それは…
「 」(※空白) 特典付きCD
1.般若心経
2.般若心経 off voice
「……………」
「あ、ついでだ。それをラジカセで流してくれないか?」
「……………」
「立花?」
響はついている特典を見る。
『あなたの戒名考えます』
「……………」
「どうした立花?そんなにだんまりして」
「……………」
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26話~30話
~26話~ 【魔界】
「……てな感じでさ、また就職面接に落ちちゃったんだよね」
「は、はぁ…」
「一体どうしたら受かるのか…」
今現在、松駒さんから就活の話をされている。
松駒さんは今のところこの中で一番の常識人だ。
ここ最近で分かったここの人のこと。
結論から言うと深夜帯の人はヤバイ人ばかりだ。
宝くじしか頭にない渡利さん。
明かな犯罪臭がする―――と言うか犯罪を犯しているであろう柴田さん。
過剰発注をする店長。
そして―――人の情のない仁井さん。(ニーチェ先生)
深夜勤帯の人はヤバイひとばかりだ。
そして、唯一の癒しは夕勤の人たちと松駒さん。
最上の癒しである響は夜遅いから最近癒されてない。
この人はこの中で唯一の常識人だ。
「大変なんですね。就活って」
「本当にそうなんだよ」
「そうですか……。無理して体調崩さないようにしてくださいね?」
「あははっ。大丈夫だよ」
やっぱりこの人は正常だ。本当によかっt―――――
「スーツ姿のおっさんと合法的に話せるの楽しいし。そうそう!おっさんがネクタイを緩める姿、雨に濡れた体毛を身震いで乾かそうとする犬のようでかわいいと思わない!?」
前言撤回。
やっぱり彼も異常者の一人だった。
深夜勤帯の接客業自体が異常者を集める魔境なのか、それとも彼ら自身の性格がヤバイのか判断しかねる。
~27話~ 【25箇条】
ある日、休憩室の壁に、こんなものが張ってあった。
―――続く。尺の都合上カット。
こんな教訓だ。
なんか変な文字が見える気もするが無視だ。
「これ、良い教訓ですね。店長が自分で考えたんですか?」
「ううん。違うよ!ブス25箇条として宝塚の舞台裏に張られてるやつなの」
何故それをチョイスしたのか今だに謎だし。
それにこのお店が一体どこを目指しているのか私程度の頭では到底理解できそうにもない。
~28話~ 【汚れ】
「食品を扱うから汚れた制服はこまめに洗濯してね」
「はい!」
仕事終わり。私たちはオーナーにそう言われた。
なんでも、制服のクリーニングだけは自腹らしい。まぁそんなにかからないし、いいんだけど…。
「油汚れとか、落ちにくいですもんね…」
「そうだよね。油で揚げる商品を扱う以上、そういった汚れはあるよね」
「それに比べて柴田の服はすごく綺麗だよな。どうしてなんだ?」
渡利さんが柴田さんにそう言った。
実際、油で汚れた制服も次来たときはすごく綺麗になってたから不思議だった。
「あぁこれですか?」
「専門の業者さんに頼んでいます!お父さんの仕事で服を汚すんですけど、洗濯機じゃ落ちない汚れものばかりなので一緒に出してます。女性の従業員の方もいるのでせっかくですから皆さんもどうですか?」
血の汚れや硝煙の臭いを消す証拠隠滅に長けたプロが連想されたので、丁重にお断りした。
こればっかりは踏み込んではいけないし、関わってはいけない気がした。
~29話~ 【知れば知るほど】
「やっぱり面白いなぁ…」
今の時間は休憩室での出来事。
最近流行っている漫画、【快傑☆うたずきん!】。これがまた面白くてつい見ちゃうんだよなぁ。
「小日向さん。それはなんですか?」
「あ、仁井さん。これは最近流行っているうたずきんですよ」
「うたずきん?……知りませんね」
「えっ!?有名なんですよ!?映画化されるって噂もあるのに…!」
彼の意外な一面。流行りにはあまり詳しくないんだ。
だとしたら彼は普段なにを見ているのだろう?
「仁井さんって、普段どんな本を見てるんですか?」
たぶん、「純粋理性批判」や「幸福論」とかの本かな?
もしくは純文学…?
「別冊マー●レットです」
……それは確か少女漫画のはずでは…
彼について知れば知るほど疑問が尽きない。
~30話~ 【悪霊白タイツ】
それは、バイトがいつもより早く終わったときのこと。
私は寮に向かう道を、仁井さんと一緒に歩いていた。
理由は単純。ただ帰り道が一緒なだけだ。
「今日は早く帰れてよかったですね」
「そうですね。まぁその分負担が松駒さんや渡利さんに行きますが」
「…………」
それを聞いてより一層空気が重くなる。
「そういえば、仁井さんって帰ってからやることってあるんですか?やっぱり勉強ですか?」
「それもありますが、ボクは趣味である写経をしたいですね」
「あぁ~~」
まぁ彼は仏教学部だからそれくらいは当然か…。
そのとき…
「あ、響!」
響がこちらに走っているのが見えた。
「えっ!?未来!?」
響はなぜか驚愕していた。
そして…
「見つけたぁ――――――ッッッ!!!!!」
そのとき、どこからか声がして、地面が吹き飛んだ。
「キャァァアアア!!!」
「しまったッ!人がいたのか!?
そして、赤い車が私たちめがけて吹き飛んできた!
私は顔を両手で塞ぐ。
「未来ゥゥゥゥゥウウウ!!!!」
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
そのとき、歌が聞こえて…
――ガンッ!――
「「「…ッえ?」」」
三人の、私を含めた女の子の素っ頓狂な声が重なった。
目の前に映っていたのは…。
「大丈夫ですか?」
仁井さんが、片手で車を支えていたことだ。
え?あれ?おかしいなぁ?車って片手で持ち上げられる質量じゃないはずなんだけど…。
ていうか、響、その恰好なに?
「響……なにその格好?」
「えっ!?こ、これはその……」
「立花さん……」
「はいっ!な、なんでしょうか……」
「とうとう、救いようのない境地にまで至ってしまいましたか」
「ちょ!?仁井さん!」
そして、ニーチェ先生は般若心経を唱え始めた。
「
「あの…仁井さん?」
「なにしているんですか…?」
「…般若心経を唱えています」
「何故この状況で般若心経を!?」
「……立花さんへの祈りと、悪霊白タイツの除霊の意味を込めて…」
そうして仁井さんはあの白い服を着た女の子の方を見る。
あれが悪霊白タイツ…。見たまんまだ。
「誰が悪霊白タイツだぁ!!!!」
「鏡は見ましたか?その姿、紛うことなき悪霊白タイツ。おとなしく除霊されなさい」
「あたしは幽霊じゃねぇよ!!」
「それならばただの力を持った変態ですか…。恥ずかしくないんですか?」
「うっせぇ!!余計なお世話だ此畜生!」
……思ったけど、あれ普通に生きてるよね?
全然悪霊じゃないし…。でも、変な人だということは分かる。
「小日向さん。頭が救いようのない立花さんを連れて、逃げてください」
「ちょ!!仁井さん!?」
「仁井さんはどうするつもりなんですか!?」
「ボクは、あの悪霊を除霊します」
「だから悪霊じゃねぇつってんだろうがぁ!!」
あの女の子は怒号を上げる。
ニーチェ先生…。なにがなんでも悪霊で押し通そうとするつもりなんだ…。
仁井さんは再び般若心経を唱え始める。
「
「
「
「「「………………」」」
私たちはなにを見せられているのだろう?
「……ええぇいい!!ワケのわからねぇお経唱えてんじゃねぇよ!!お前はどっか行っt―――グハァ!!」
そのとき、白タイツの女の子が突如として倒れた。
どうしたの!?
「ええぇえ!!???」
「ど、どういうこと…?」
「きゅ、急に胸が、体が…苦しい……ッ!!」
女の子はもがき苦しんでいる。
たぶん、原因は…
「
今だに般若心経を唱え続けている仁井さんだろう。
何故般若心経を唱えるだけでこんなにこの子は苦しんでるの!?
「あ、あの、仁井さん……」
「響…ッて、えっ!?」
「な、なんか私も苦しくなってきたんですけど…」
響まで!?
「あの~仁井さ――――」
その途中で、地獄は始まったのだろう。
「
響が悲願すると同時に、仁井さんは般若心経のペースを上げた。
「「ぎゃぁああああああああああああ!!!!!」」
「
「あ、あの仁井さん!!もうやめてください!!」
私はなんとか仁井さんに般若心経をやめさせられた。
「なにするんですか小日向さん。今がいいところなのですよ?」
「いいところ、じゃないですよ!響まで苦しんでるじゃないですか!あの子幽霊じゃないですけど、やってるの除霊ですよね!?なんで生身に効いているんですか!?」
あれは除霊だったはずだ。なのになぜ生身に―――
「何を言っているんですか小日向さん」
「え?」
「変態と言う名の悪霊を除霊しているではありませんか」
…彼の中ではすでに響は人としての扱いを受けていないのかな?
「はぁ…はぁ…畜生!こんな奴にかまってられるかぁ!」
あの女の子はすごい勢いで森の中に飛んで行った。
「あ、待ってよ!」
「ひ、響!!」
「未来…。ごめん。終わったら全部話すから!」
そうして響もあの子を追っていった。
一体、なにがどうなって…
「小日向さん」
「は、はい…」
「もう少し友人関係を見直した方がよろしいかと」
「…………」
響のことだからなにかあるはずだけど、彼の言葉も正論そのものでなにも言えなかった。
~この後~
私は黒服さんたちに事情を話された。
そしてその後の事…
「響……」
まさかノイズと戦っていたなんて…。
どうして言ってくれなかった?
響のウソつき…
「―――――」
そのとき、仁井さんも大量の書類を書かされていた後から戻ってきたのだろう。
「――――…仁井さん…」
「どうしましたか?」
「仁井さんにも、いろいろと聞きたいことがあるんですけど…」
「いいででしょう。今は気分がいいので。ですが、今はもう時間がないので一つだけですよ」
どうして気分がいいんだろう…?
取りあえず…
「あの、どうして般若心経であんなことが…」
「知らないんですか?」
「?」
「変態と言う名の悪霊―――と言うのは名目です。本当の理由は別にあります」
「そ、それは…?」
「守護霊とマスターは運命共同体。宿主の方を傷付けるのが難しいのなら守護霊の方にダメージを与えれば自動的に宿主の方にもダメージが行くんです」
「………?」
初めて聞く謎設定に思考が停止しました。
一方そのころ
「司令……」
『どうしたんだ?慎次?』
「100万円を、用意できませんか?」
『どうしたんだ急に!?』
「……一般人から、個人情報を書く代わりに、情報料をと…」
『な、何故そうなった?』
「説明は省きますが…。断ったら、般若心経でボクを含め全員が、腹痛を…」
『何故般若心経で腹痛を起こすんだ!?』
「と、とにかく、早くしないと、二課が…般若心経によって、全滅させられ…」ガクッ
『慎次ッ!?慎次ッ!?』
後日、仁井宅に100万円の小切手が送られてきたとかこないとか。
少し遡り。
「クリス……。あなたにもう用はないわ」
「はぁ!?どうしてなんだよフィーネ!!?アタシがもう用済みってどういうことだよ!?」
「何でって……般若心経なんかでやられたあなたに、もう用はないわよ」
「…………」
「…………」
「………般若心経?」
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31話~35話
~31話~ 【夕陽の海で】
今は、バイトの時間。
昨日の夜、事情を聞いて寮に戻った私は、響と喧嘩した。
それから、今日は一度も喋っていない。
「………」
「どうしたんですか?未来さん?」
柴田さんに話しかけられた。
正直、この人とはあまり話したくないけど、今は気晴らしにでも…
「実は、響と喧嘩しちゃって…」
「響さんって、未来さんのお友達ですよね?あんなに仲良かったのに、どうして喧嘩なんて?」
「…詳しくは、言えないんです。でも、響が隠し事をしてて…」
「その隠し事に腹を立てちゃったんですね」
「はい…」
今の時間でも今はお客さんは一人も来てなかったので気軽に話すことができた。
「私、どうすれば…」
「でも、響さんの言い分も聞いてあげたんですか?」
「…………いいえ」
「駄目ですよそれは!少なからずとも相手側にも事情があるんですから!」
そうだよね……。
「ありがとうございます、柴田さん」
「大丈夫ですよ!あっそうだ!僕が仲直りする方法を教えますよ!」
「な、なんですか?」
「夕陽の海で殺し合いをするんです!そうすれば絶対に仲良くなれますよ!仲良くなれるんだったら仲直りもできますって!」
その方法。確か一昔前の不良が友達作るときの方法なはずでは。
しかも殴り合いのところが殺し合いに発展しているし。
「僕もこの方法で、何人もの友達ができたんですよ!!」
今の発言で、彼が有限実行していたことが立証された。
怖い。
~32話~ 【帰り道】
学校の校門前。
私はいつもの五人で歩いていた。
唯一、変わったところがあるとすれば…
「…………」
「…………」
私と響が、喋らないことだ。
あの出来事(31話)から一日経ってるけど、私と響は喋っていない。
むしろ、私は響を突き放した。
響の目の前で、「もう友達でいられない」と言ってしまったから。
「…ねぇ、どうしたの?ビッキー?ヒナ?」
「昨日から様子がおかしいですよ?」
「いい加減元気だしなよぉ」
「「………」」
「こりゃ相当重症だなぁ…」
「私たちでは入りどころがありませんね…」
「こんなときアニメでは…」
三人なりに励ましてくれているんだろうけど、今の場合じゃ…
そのとき。
「excuse me!」
突如英語で話しかけられた。
相手は、外国人だ。
「~~~~~~ッ?」
「え、えぇ…」
「な、なんて言ってるんだろう…?」
「え、えぇっと…」
「ぱ、パードゥン…?」
この外国人は私たちの空気など知らないというように話しかけてきた。
一体なんて返せば…
「~~~~~」
そのとき、見知った声が聞こえた。
その声の主は…
「仁井さん!」
ニーチェ先生だ。
そうか、彼はアパートから駅、コンビニに行くために毎回この正門を通るんだった…
「~~~~~」
「~~~~~~~~」
流石は大学生…英語が上手なんだな。
「あ、あの仁井さん!この人はなんて言ってるんですか?」
「あぁ。頭がどうしようもない響さん」
「その言い方やめてくれません!?」
「「「???」」」
「…こほん、で、なんて言ってるんですか?」
「50円で飢えを凌ぐにはどうすればいいかと聞いています」
一介の女子高生に無理な難題押しかけて来た。
~33話~ 【少女】
雨の日の、朝。
私は朝早く寮から出て、学校に向かっていた。
ただでさえ私は響の件で情緒不安定なのに、コンビニの人たちのおかげで考えがまとまらない。
改めておかしすぎる。明かに裏社会に繋がっているであろう柴田さんと仁井さん。この二人が特に…
特に仁井さん。あの般若心経で人を苦しめたこと自体謎だしなにより、車を片手で抑えていたことが驚愕した。
あれは確実に人間の腕力ではない。
でも、考えても仕方ない。
「……?」
そのとき、路地裏であるものが目に入った。
女の子だ。どうしてこんな、しかも雨が降っている中で…
私はその女の子に近づく。
……あれ?この女の子、どこかで…。
いや、そんなことはどうでもいい。
とにかくこの子を助けないと。でも、どこに…
「……小日向さん?」
そのとき、見知った声が聞こえた。
そこにいたのは、仁井さんだった。
「仁井さん…?」
「どうしたんですか、こんなところで……」
仁井さんが女の子の方を見る。
「彼女は…」
「あの、仁井さんも手伝ってください!この子をどこかへ…!」
「彼女は、悪霊白タイツじゃないですか」
「………え?」
突然のことで、思考が停止した。
~34話~ 【力の秘密?】
私たちは、いつもお好み焼きを食べている『ふらわー』まで来ていて、二階を貸してもらっていた。
「………」
この子が、あの白いタイツ―――服を着ていた子。
なんであんなところに…
「う、うぅ……」
「あ、起きた。大丈夫?」
「ここは…って!あんたは…!」
この子は私に気付いたのか、驚愕の声を上げた。
「お前は、あのときの…っって、あれ!?アタシの服は!?」
「貴方の服なら、洗濯物に出しといたよ。今洗ってる。その服は私の体操服」
「余計なことを!」
そこのは一気に立ち上がる。
「ちょ!今上着しか着せてないから!見えちゃう!」
「うわぁあ///!!」
はぁ…同性同士なのに恥ずかしい…。
「…………」
「…なんで、アタシを助けたんだ?だって、アタシは一度、お前を危険な目に…」
「でも、結果じゃ私はどこも怪我してないよ?」
「違う!アタシが言いたいのはそういうことじゃねぇ!なんで、アタシなんかを助けたんだ!?」
「だって、困ってたら助けてあげなきゃ」
「そんなこと言って!これが終わったらアタシをあいつらに突き出すつもりなんだろ!」
「そんなことしない!それに…響と、喧嘩しちゃったし…」
「…え?」
「響のあの姿のこと。ノイズと戦ってたことで喧嘩して、喧嘩しちゃったんだ」
「………(…アタシの、せいだ…)…ごめん」
「ううん。あなたが謝ることじゃないよ」
そのとき…
「起きましたか」
「なッ!?」
仁井さんだ。あの後、彼も一緒についてきた。
なんでも、今日は仏教学部のみ学校に行かずオンライン授業をするらしい。理由は聞いてないけど。
それで授業は午後にあるから気晴らしに散歩してたら私と出くわしたらしい。
「お前は…怪力念仏野郎!」
「仁井です」
「呼び方なんてどうでもいい!お前のせいで!お前のせいであたしは、アタシは…!」
たぶん、彼女は仁井さんの般若心経のことを言っているのだろう。
普通に般若心経のせいでって言ったら謎すぎるけど、事情を知っている人しかわからない内容だ。
「なにに怒っているか知りませんが、少し落ち着いてみては?」
「落ち着ていいられるか!大体、お前なんなんだよ!?車を片手で持ったり!念仏でアタシ等の腹を痛めつけたり
よぉ!?まさか、お前もあいつらの仲間か!!」
そう言って、彼女は私の方を睨みつける。
「ヤツ等、とは誰のことかわかりませんが、勝手に決めつけられるのは心外ですね」
「はッ!じゃあなんだって言うんだよ!?」
「仏教学部に所属している、大学2年生です」
「嘘つくんじゃねぇ!普通のヤツにあんな怪力出せるワケねぇだろ!!」
「なに言ってるんですか?」
?この彼の顔。
本当に何言ってるんだろうこの人、とでもいう顔をしていた。
一体何故こんな顔に―――
「あれは仏教学部において必要な基準身体能力です」
「……………」
「はぁ!?」
仏教学部に求められている身体能力基準がおかしすぎる件について。
~35話~ 【国際問題】
この後、私は彼女、【雪音クリス】からいろいろなことを聞いた。
色々と言っても、ただ知ったことは彼女の両親が地球の裏側で殺されたということ。
「地球の裏側と言えば、バルベルデですね」
「……あぁそうだよ。チッ」
バルベルデ。ニュースで聞いたことがある。今も内戦が絶えない戦場地帯だと言うことを聞いたことがある。
「バルベルデですか……」
「どうしたんだよ」
「バルベルデには昔、旅行で言ったことがありまして」
「嘘つくんじゃねぇよ!あんな地獄に旅行で行けるわけねぇだろ!」
「仁井さん!さすがにそんなウソは!」
「嘘ではありませんよ。昔、と言っても一年前のことですが。当時の映像があります。見ますか?」
そうして仁井さんにスマホを渡された。
そして、そこに映されていたのは…
『『『『『ぎぎゃあああぁあああああああああ!!!!!!』』』』』
「「…………………」」
生き地獄だった。
始まりは、兵士たちの手足が何故かプランと垂れていて、倒れている所から始まった。
その状態でお坊さんの服を着ている仁井さんに一人一人無理やり座禅を組まされた。
そして…
『セェエエイ!』パンッ!
警棒で、兵士の肩を叩く。肩が脱臼しているせいかその兵士の絶叫が響く。
『ぎゃぁああああああああああああ!!』
『セェエエイ!』パンッ!
『ぎゃぁああああああああああああ!!』
『セェエエイ!』パンッ!
『ぎゃぁああああああああああああ!!』
一人一人、確実に肩を叩き、絶望の海に叩き落としていっていた。
なにこれ?
「あの…なんですか?これ、仁井さん?」
「バルベルデの兵士に仏教を説いています」
「いやこれ明らかに拷問ですよね!?仏教を説くとかの以前の問題ですよね!?」
「おい…なんでこいつらの顔、なんか赤と黄色の粘液にまみれてねぇか?特に目のあたり」
クリスに言われて、動画をいったん止め、ズームしてみる。
すると兵士一人一人の目から、赤と黄色の液体が垂れていた。
待って?もしかして、これって…
「仁井さん……。もしかしてこれって、ケチャップとマスタードですか…?」
「正解です」
「あの…この拷問。前に聞いたことあるんですが……」
私の記憶が正しければ、これは…
「覚えていてくださり光栄です。これは僕が教えた強盗の対処の仕方です」
「「…………………」」
有限実行どころか、すでに実行していた。
彼の行動が下手すれば国際問題に発展しかねないので、とても恐ろしい。
31話。そのあと
私は休憩室の扉を開けた。
そのとき…
ポンッ
「ひっ!」
突如、両肩を何者かに叩かれた。
慌てて後ろを振り向いてみると、そこには松駒さんと渡利さんがいた。
「小日向さん。さっきのは、聞かなかったことにしよう」
「それが、俺たちにとっても、君にとっても良いことだ」
珍しく二人がマジ顔をしていた。
その考えはものすごく共感できるし、なにより怖すぎて誰にも話す気になれない。
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36話~40話
~36話 【囮】
あの後、ノイズが表れた。
クリスはすぐに皆が逃げる逆方向に向かって行った。
「彼女ならあの武装があります。放っておいても問題ないでしょう」
「そうだけど…」
「――――――。まぁ、とりあえず逃げましょう」
そう言い、私と仁井さん、そしておばちゃんと一緒に逃げる。
他の人とより逃げ遅れたから、私たち三人以外には誰も周りにはいない。
だから…
「ッ!ノイズ!」
私たちの走る方向の横の道から、ノイズが表れた。
このままじゃ皆が…!
「小日向さん。おばあさんを連れて走ってください」
「えっ!?でもそれだと仁井さんが!」
「そうだよ!私たちと一緒に逃げるんだよ!」
「ヤツ等の足は以外と早いです。中年の方ではすぐに追いつかれてしまいます。そしてボクは体力には自信があるので」
確かに、彼ならノイズくらいなら簡単に逃げられるだろう。
でも…!
「駄目ですよ仁井さん!もしぶつかってしまったら…!」
灰になってしまう。
それは彼だってわかっているだろう。
「安心してください。行き止まりに差し当たってもただ屋根を飛び越えればいいだけです」
「はい!?」
彼だからこそ言える、説得力のある発言。
それだけで、私は諦めてしまった。
「絶対に捕まらないでくださいね!」
「えぇ。それはお二人にも指定されますが。まぁなにせ―――」
シェルターとは違う方向を走ろうとする仁井さんが、次の瞬間私たちにこう告げた。
「お二人が死んでしまったら、ボクが戒名料をもらえないので」
「「――――………」」
こんなときでも彼は……ぶれない。それがなかったらかっこよかったのに。
しかもいつの間にか私とおばちゃんが顧客に含まれているし。
~37話~ 【わいせつ物陳列罪】
あの後、おばちゃんを助けるためにタコ型のノイズの囮になった私は、響に助けられ、仲直りをした。
そして、あの時に見た黒服を着た優しそうな風貌をした男の人、2mくらいある大きな男の人、そして、風鳴翼さん、そして私と響が円になって話していた。
「あの……」
「どうしたんだ?」
「実は、私とおばちゃんが逃げてる最中に、囮になってくれた人がいて…」
「む?それは誰だ?特徴を言ってくれると助かるんだが…」
「そちらの男性は一度会われてるはずですけど…」
「僕ですか?あ、ちなみに僕の名前は【緒川慎次】。緒川でいいです」
「えっと、緒川さんは一度会ってるはずですよ?」
「あの…もしかしてその人って…」
響が、そう言った。たぶん分かったんだろう。
「仁井さんですか!!?」
「うん……」
そのとき、慎次さんと男の人がちょっと苦い顔をして、翼さんが何故か驚愕していた。何故?
「彼か…」
「彼ですか…」
「あの、なんでそんなにたどたどしいんですか?」
「いやぁ……。俺の口からは言えないんだが…。彼は少し、過激なことをしてな…」
「彼の、般若心経は、もう聞きたくありません…」
一体彼らとニーチェ先生の般若心経の間になにがあったのか気になってやまない。
「あーそういえば!仁井さんのあれって結局謎ですよね!私もあの人の般若心経でお腹痛くなりましたし!」
「それだけが謎なんですよね…特に聖遺物などの反応は見られなかったんですけど…」
「…まぁとにかく。彼がいないんだな?職員に探すように「司令!生存者を見つけました!」本当か!?」
職員の人がその生存者の人を連れてくる。
その人は…
「仁井さん!!」
「おや、小日向さん、無事でしたか」
仁井さんだった。よかった…!無事だったんだ!
「よかったー」
「心配しましたよ!」
「別に心配しなくても問題ないんですがね。……ところで、また会いましたね」
仁井さんは緒川さんの方を見る。
「えぇ…」
「先日はどうも。おかげでいろいろと潤いました」
「えぇ…」
一体なんの話を…?
そのとき、ピンクの車がやってきた。
「はぁ~~い。主役は遅れてやってくるものよぉ♪」
そのとき、グラマーレベルの体型をした女性が車から降りてきた。
…なんか悔しい。
「了子くん」
「弦十郎くん。どうしたの?」
「いやぁ、実は彼らに話を…」
「そう。それじゃあ私は仕事で忙しいからまたあとで!」
そうして了子と言われた彼女は別の方向へ向かって行く。
だが…
「ところで、あの武装を造った人はどんな人物なんですか?どれだけ頭のおかしい人か聞きたいのですが」
その瞬間、周りの時が止まった。
その理由は、彼女―――了子さんから発せられる謎の黒いオーラが原因だ。
あ、たぶんシンフォギア作ったのあの人だ。
「に、仁井さーん…。その人はそんなに頭おかしくないですよ?」
「そうですか?」
仁井さんは続けてこう言った。
「あれだけ性能の高いものを作る知能を有しておきながら、わいせつ物陳列罪と言う法律に目がいかないただの愚か者だとボクは思いますが」
その瞬間、彼女は仁井さんに形容しがたい―――言語化するのが難しいほどの黒くどす黒い目で仁井さんを掴もうとしていたところを、大きい男性に必死に止められているのが彼の背中越しで起きている。
~38話~ 【ゲーセン】
あれから数日後。
私たちは三人でデートすることになった。
言い出しっぺは響。
それで今はゲームセンターにいる。
途中、同い年の黒髪の女の人が敵の軍隊を無傷で壊滅させていたところは、見ていた楽しかったのをここに記しておく。
「はぁ~~取れなかった…」
「気を落とすな、立花」
「そうだよ。またがんばろ?」
響がクレーンゲームに挑んだけど、ことごとく失敗してお金の無駄遣いになってしまった。
「よぉ~し!!じゃあ次は音ゲーやりましょう!!」
そうして響が指さしたのは太○の達人。
「よぉ~し!やるぞぉ~!」
そうして、対戦するは私と響。
結果は…
「負けたぁ~!!」
「小日向はこういうのに強いのか?」
「はい。幼いころからピアノを習っているので」
こういうのに関しては、自身がある。
さすがに仁井さんの木魚をやれと言われたら無理だけど…
「そうか。小日向は将来ピアニストにでもなるのか?」
「それはまだ、決めかねています」
「まぁ人生いろいろとだ。そうすぐに決めなくてもいいだろう」
さすが先輩…!貫禄がある。
と、そのとき…
――ガヤガヤ――
ゲームセンターの中が騒がしくなってきていた。
しかも人が一か所に集まっている。
「どうしたんだ?」
翼さんのその一言で、私たちもその場所に向かってみた。
そこには…
ダダダダダダダダ!!ガチャンガチャンガチャンガチャンガチャン!!パンパンパンパンパン!!カチカチカチカチカチ!!
音ゲー史上最難関と言われている【
「すごい!あの超難しいと言われている音ゲーをあんな素早くコンボするなんて!」
「しかも、連続で続いて、両者一ミスもしていないぞ…!」
「…あれ?なんか片方の人どこかで…?」
やがて、ゲームが終わり、フルコンボと画面に出る。そして巻き起こる歓声。
その人たちが後ろを振り向いた。そして、その一人は…!?
「に、仁井さん!?」
ニーチェ先生だった。
もう一人は知らないけど、友達だろうか?
「あれ?仁井。お前この子たちと知り合いなのか?」
「えぇ。バイト仲間です」
「あの、お二人とも!さっきのすごかったです!どうしてあんな反射神経を持ってるんですか!?お二人ともぜひ教えてください!」
「コツですか?僕は―――」
「僕は三歳のころからエレクトーン*2を習わされていたので」
幼少期からフルコンボ前提の音楽ゲームをしていたと同じなのか…
ピアノ程度で誇っていた私が恥ずかしい。
~39話~ 【お友達】
「ところで…そちらの方は?」
「あぁ。俺?俺は【中村】。中村
「彼は僕の所属する仏教学部の3年生。つまり先輩です」
へえ~。彼にも友達がいたんだ。
しかも結構まともそう…。いや、彼の周りの人が変人すぎるから感性が可笑しくなってるのかな?
「ところで、木村さんもエレクトーンってやつをやってるんですか?」
「え?俺はやってないよ?」
「えっ!?それじゃあどうやってフルコンボしたんですか!?」
これには私たちも驚きだ。
仁井さんは過去の経験がものを言っただけだけど、木村さんは謎すぎる。
あれだけの反射神経を一体どこで…
「あーなにか勘違いしてるかもだけどよ…」
「え?」
「小日向さん」
ニーチェ先生?
一体どうしたんだろ――
「彼は今人生初めてあの音ゲー、【beatmaimai】をプレイしたんです」
「「「――――!?」」」
え、人生初!?
とてもそんな風には見えない。いや、見えるわけがない。
「嘘つかないでくださいよ!あれは明かにプロの領域ですって!」
「いや嘘じゃねぇって」
「それに―――」
「あの程度。ボクたち仏教学部全員がフルコンボできますよ」
あ、そうだった。
仁井さんのとこの仏教学部、普通じゃなかった。
~40話~ 【ライブ】
あれからまた数日後。
私は翼さんの生ライブに行っていた。
歌も終わり、演説も終わり、30分の休憩が挟まった。
「よかったなぁ…」
にしても、響はどうして来てないんだろう?
もしかして、またノイズが…?
……響の分まで楽しまないと。
もし今響が戦っているのだとしたら、私にできることは少ないから。
終わりの開幕まであと10分。
そろそろステージに戻らなきゃ。
「おや、小日向さん」
あれ?
「仁井さん!?なんでこんなところに!?それにその人たちは…!?」
その人たちは確か、仁井さんのバンド、
どうしてここに?彼らも翼さんのファンなのかな?
「僕たちは野暮用で来たんです」
「それじゃ、また会いましょう」
「それでは」
三人は、そのままステージとは違う方向を歩いていった。
…一体どこに?そっちは楽屋とかがある場所だけど、彼らには関係ないはず。
まぁ考えても仕方ないか。
『さぁ!今ライブも最後の大詰めとなりました!最後に、風鳴翼が、演歌を歌います!』
そう司会者の言葉に、観客席がざわめく。
翼さんが
『いつもとは180度違ったジャンルに挑戦してみたい。と言う翼さんの期待に応え、今回披露していただくこととなりました!それでは、どうぞ!!』
そして、ステージに四つの光が差した。
光の三つは線を結べば三角形になるような形に光、その中心にもう一つの光が差す。
そして、その中心に、青い花柄の浴衣を着た翼さんが出てきた。
それに会場は一気に大盛り上がりに。
そして、三つの光に、人が入ってくる。
………虚無僧?
出てきたのは、虚無僧だった。
これには、私だけではなく、他の観客たちも困惑している。
……ていうか、あれって絶対仁井さんたちだよね!?
そして、虚無僧は笛を吹き、翼さんが歌い始めた。
………仏教徒の間では有名であろう
そんなバンドが、ついに表舞台に姿を現した。
37話の後。
翼「すまない」
仁井「?」
翼「サインを、くれないだろうか?ファンなんだ」
仁井「いいですよ」
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戦姫絶唱しないシンフォギア
41話~45話
こっから時系列が一気に飛びます。
~41話~ 【再開:その後】
あのライブの日から約一か月―――。いろんなことがあった。あのお団子の茶髪の女の人が、一連の騒動の原因である【フィーネ】さんだったりと、それで響たちがいなくなっちゃったり―――。
あの時はすごく悲しかったけど、再会できたときはすごくうれしかった―――!
「ところで小日向さん。学校の方は大丈夫なの?」
「あぁそうそう。ノイズ被害で全壊しちゃったけど、この後どうなんの?」
「政府が廃校を買い取ってそこが新しいリディアンになるそうです」
今現在、バイトの休憩室で松駒さん、渡利さん、ニーチェ先生、私で机を囲っている。ニーチェ先生は話に興味がないのかずっと『別冊マー○レット』を読んでいる。
あの事件で、リディアンは全壊した。だけど、新しい校舎で再開するみたいだ。よかった。
「―――ところで、とっても
「なんですか?」
「仁井君が、戒名料とか言わなかったのがちょっと不思議で…ちゃんと、人のこと考えてたんだなって…」
「松駒さん」
ニーチェ先生は本を閉じて―――
「松駒さんは僕をなんだと思ってるんですか?」
変人です。私は少なくともそう思います。でも、彼が戒名料のことを言わなかったのは今となってみれば不思議だ。まぁあの状態で『立花さんの戒名です。戒名料を貰えませんか?』と言われたらビンタでもなんでもしていただろう。あの時の私はそうする自信がある。
「い、いやぁ…。ただ単に不思議だったってだけで―――」
「―――流石の僕も、あのような状態でそんなことは言いません」
仁井さん…。ちゃんと考えてくれてたんですね…。
今までの彼から考えるに、そんなこと考えずに非常にもそういうことする人だと薄々思ってたけど……ちゃんと―――
「それに、立花さんたちの霊体が見つからなかったので」
「「「――――――???」」」
この人は今、ナニヲイッテイルノカナ?
「霊体がないと言うことは生きていたということです。生きている人間に戒名を添えても何の意味もありませんので」
―――つまり、死んでいたら添えていたと?
ていうか、今の発言で彼がそう言った霊が見えているので?と言う疑問が――と言うか確証が生まれた。
~42話~ 【切れることのない赤い鎖】
今の時間帯はお昼休み。
この時間、私と響、弓美ちゃん、創世ちゃん、詩織ちゃん、そして―――
「な、なんでアタシが…」
このリディアンに2年生として編入してきたクリスと一緒にご飯を食べていた。
「いいじゃん!いっしょに食べるとおいしいでしょ!?」
「う、うるせぇな…。ま、まぁでも?そこまでアタシと一緒に食べたいってんのなら、やってやっても…」
クリスったら、ツンデレなところがかわいいな。
そんなとき―――
「ここにいたのか」
聞き覚えのある声が聞こえた。
私たちがそっちの方を振り向くと――
「翼さんッ!」
「先輩ッ!」
そこには、翼さんがいた。
「風鳴翼さんだ!」
「とてつもない状況ですわ…」
「一体どうしたんですか?」
三人はあんまり交流がないから、驚いてるんだな…。
でも、なにか用事があるのかな?
「実は、お前たちをライブに誘いたいと思ってな」
「えぇ!?翼さんのライブですか!?」
「いいや、違う」
「だよな。先輩のライブの予定なんて聞いたことねぇもん」
「6枚持ってきているので、皆で当日来てほしい」
「行きます行きますッ!絶対行きますッ!!」
「そうか。喜んでくれて、私も嬉しいぞ」
「…………」
「ん?どうしたんだ未来?」
……翼さんのライブじゃない。翼さんがお勧めするライブ…。もしかして……
私の脳内に、あの激しく般若心経を唱える三人の姿が浮かんだ。
そして、翼さんから渡されたチケットには…
○月×日。
18:00~19:30
そうでかでかと書かれていた。
なんとなく予想できてたから私はあまり驚きはしなかったけど…。
………私たちと般若心経はすでに、切っても切れない鎖で繋がれているのかもしれない。
皆の表情を見てみる。
「「「「…………………」」」」
案の定、四人の思考は見ているだけでも分かるほど止まっているように見えた。
「なぁ、先輩。これってなんだ…?」
「それは私が
翼さんの目がこれほどかと言うくらいに輝いている。
不安しかない。
~43話~ 【地下ライブハウス、再び】
「……来てみたはいいものの、ライブハウスはどこなんだ?」
当日、私たちは六人でライブが開催される街へと来ていた。
あぁ…できればこのまま道に迷ったと言う理由で行かないという手も…
現に…
「来ちゃったね…」
「来ちゃったよね…」
「来ちゃいましたね…」
「まぁでも、翼さんのお誘いだから、断るわけにはいかないよね」
「そうだけど…。でも、まさか翼さんが「 」のファンだなんて驚いたな」
世界が誇るアーティストがまさかの仏教好きだなんて、一部の人以外は、知る由もないだろう。
そのとき、クリスが私に質問してきた。
「……なぁ、なんでこいつらはこんなに落ち込んでんだ?」
「そっか…。クリスは知らないんだね。あの狂気を」
「狂気?」
「あの時見せてもらった映像よりある意味ヤバイほど」
「………なんかわかった気がする」
ちなみに、あの映像とは仁井さんがバルベルデの兵士に強盗の対処方法を実践しているところだ。今のところあの映像を知っているのは私とクリスの二人だけ。あの映像の異常性が分かるからこそ、彼はある意味危険なのだ。
「…まぁでも現地で先輩が待ってんだから、行かないとな」
「…でもクリスちゃん。私たち、一体どっちに行けば…」
「そこなんだよな…。アタシも初めてだし、こういうの」
「たぶん、こっちで合ってると思うんだけど―――」
――その時、私たちの目にあるものが映った。
黒いTシャツの中心に円が書かれており、その円には三人の虚無僧。そしてその上に大きく書かれている『KU-HAKU』と言う文字。しかもそのTシャツを着ている人が所々に見える。
「ねぇ、キネクリ先輩」
「キネクリ言うな…。後輩、言いたいことはわかってるよ」
「確実に…」
「あれ、ですわよね…」
「……どうする?」
「とりあえず、あの人たちについていこうか」
ナイスなTシャツのおかげで事なきを得た。
あの人たちについていき、私たちは無事ライブハウスへと到着した。すると、そこには…
「あれ、松駒さんに柴田さん?」
「あれ、小日向さん?」
「小日向さんじゃないですか!」
バイト仲間である松駒さんと柴田さんがいた。どうしてここに…。
「どうして小日向さんたちが?ていうか、そっちの銀髪の子は…」
「この子は雪音クリスって言って、私たちの友達です」
「へぇ、そうなんですか!それで、どうして小日向さんたちもここに?」
「……ちょっと」
「誘われまして…」
言えない…。まさかトップアーティストに誘われただなんて…。
「そっか。とりあえず入ろうか」
「そうですね」
「あ、あの松駒さん?」
「ん?どうしたの?」
「松駒さんはどうしてここに?」
「もちろん、仁井君に誘われたんだけど…」
まぁ、彼らが来る理由なんて、それしかないかな…?
私たちは受付でチケットを渡して中に入る。
「あぁ、いよいよか…」
「始まって、しまうのですね…」
「…今の内に音楽聞いて心の安寧を…」
「…今更だが、ヤベェな」
「でしょ?」
「大丈夫三人とも?」
「小日向さん。一度休ませた方がいいんじゃ…」
「そうですね。前は水責めでしたし…。休ませたほうがいいと思います」
三人の精神状態がとてつもなく危険だ。やっぱり来ない方がよかったんじゃ…。
―――?ちょっと待って柴田さん?今水責めって言った?
「あの、柴田さん。今水責めって―――」
―――と、その時。
「皆!」
「この声って!」
私たちはその声が聞こえた方へと顔を向ける。
そこには――
「皆、よく来たな。ついでに買っていかないか?」
――変装もしていない素顔を晒している翼さんと渡利さんが、物販をしていた。
………理解するために、時間をください。
~44話~ 【物販】
「翼さん!?」
「渡利さん!?」
響と松駒さんが驚愕の声を上げる。何故翼さんと渡利さんがいたからだ。
うん、この時点で理解できない。
「どうして翼さんがここに!?」
弓美ちゃんたちも驚いている。どうしてこんなところで物販を!?どうして変装もせずに!?ていうかなんで渡利さんと一緒に!?
「いやぁ、仁井に物販頼まれちゃってさ」
「私は一度こういうのをやってみたかったものでな」
いやだからって変装もせずにするのは…。ていうかなんで周りの人たちはトップアーティストがこんな堂々といるのに見向きもしないの!?
「翼さん、どうして変装してないんですか!?」
「それはだな、立花。彼らに比べれば私など雲の下の存在だと言うことだ」
「先輩!自分で自分を卑下すんなよ!」
これ、すごく重症なんじゃ…。
「か、風鳴翼だ…」
「すごい!僕生で見たの初めてです!あとでサインもらってもいいですか!?」
「別に構いませんよ」
「やった!」
二人の反応は普通なのに…。やっぱりここは異常だと思う。
「とりあえず、買って行かないか?」
「CDは特典付きだぞ?」
「えぇ…。じゃ、じゃあ一枚」
私はお金を出してCDを一枚買う。主題歌はあれだけど内容は聞いていて何故か心地よいから悪いと言うわけではないので、CDを買うこと自体は後悔はしない。さて、特典ってなにかn―――
―――人生のアフターサービスも万全な坊主ロッカーの商魂逞しいと思った次第です。
特典を見た皆(松駒さんと柴田さん以外)も唖然としているし…。
「(これ……翼さんの病室に同じようなものがあった…)」
「さぁ~て、金数えるか。ひ~ふ~み~」
渡利さんは怪しい顔でお金を数え始める。あれ、盗んだりしないかな?
と、そのとき。
「皆さん。どうしたんですか?」
「仁井くん!」
坊主服の姿をした兄さんが現れた。ちょうどよかった。ツッコミたいところも聞きたいところもたくさんあったから…。
「仁井さん、渡利さんに物販任せて大丈夫なんですか?」
「金銭に関する計算はお手のものですし会計も間違えない人材と見込んでいます。監視として彼女もついています。そして何より―――」
仁井さんの目が、二人の壁の後ろにある『
「信用できる見張りも万全です」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
その信ずる心、もう少し
「あのよ、一つ気になったんだが…。なんで先輩に物販任せたんだ?」
「彼女は有名人ですからね。彼女目的で買ってくれる方もいるのではないかと思ったからです」
売上のためならトップアーティストすらこき使う彼の度胸が凄まじい。
~45話~ 【本番】
ライブ中。相変わらず般若心経の歌と観客の歓声が響く。
「……聞いてはいたが、ヤベェな」
「だよね」
これを始めて聞いた人の正当な感想だと私は思う。
―――と、その時。
『ん?』
変な音が聞こえた。これって確か、機械の不調の音じゃ…
『すみません、アンプの調子が…』
「悪霊が憑りついてますね。祓いましょう」
彼が突然そんなことを言い出し、般若心経を唱え始める。
「悪霊って…」
「そんなのいるワケないですわよね」
「えぇ~そうかな?アタシはいるって信じてるよ?」
「ゆゆゆゆ、幽霊なんててて、い、い、いるわけ、ないないないだろ?」
クリス、あからさますぎるよ。
「ウッ…!?」
「ガッ…!?」
そのとき、変な声が聞えたので、そちらの方を全員で振り返ってみた。
「カッ…カハ…ッ」
「グゲェエエエエ!!!!」
響と渡利さんが、泡を吹きながら悶え苦しんでいた。
「響!?」
「渡利さん!?」
私たちも驚くが、周りは気にしている様子はなかった。なんで!?こんなあからさまに苦しんでいるのに!?
――渡利さんは金の亡者に憑かれている可能性が出てきたけど…。響は一体なんの霊に憑りつかれてるの!?
* * * * * * *
『さてさて!法礼summerNIGHTもいよいよ後半戦!』
「ねぇヒナ。次はバンドは牧師集団らしいよ?」
「牧師!?」
牧師、牧師かぁ…。まぁ牧師なら大丈夫かな。仁井さんたちのバンドに勝るほどのインパクトは―――
「「「「「「「「……………」」」」」」」」
―――と、思っていた一秒前の私を殴りたい。なにが大丈夫だ。全然大丈夫じゃない。
なにせ―――
―――腰布しか装備していない男性が、ビニールプールの水に顔が埋められていたから。あれ、息できないよね!?あれ死んでないよね!?
ていうか翼さんもなに一緒に洗礼言ってるの!?
そして、ライブは続いた―――
* * * * * * *
「「「「「「……………」」」」」」
「小日向さんたち、大丈夫?」
「どうしたんですか、皆さん?」
……今日は帰ったらすぐお風呂入って寝よう…。
おまけ1
「あの、
「あ、それ気になります!」
この時間帯は後半戦の前の休憩時間。未来たちは仁井たちに合いに行っていた。ちなみに、何故二人の名前を未来が知っているのかと言うと、仁井から聞いたからだ。
「僕ら普通に大学の同級生ですよ?」
「「「「「「…………」」」」」」
「雲海さん、悟浄さん。サインをいただけませんか?」
「おお。いいですよ。トップアーティストにサインを書く日が来るとは思わなかったな」
「そうですな」
仏教学部の守備範囲の広さに俄然興味が湧いた一同であった。
「「「(……となると、この人(おっさん)たちも、仁井さんレベルの身体能力を……)」」」
シンフォギア装者二人と、民間協力者一人が、そう思った。
おまけ2
「あの、雪音さん」
「どうしたんだ?」
柴田が、クリスに話しかけた。
「ナンパか?そういうのは受け付けねぇぞ」
「全然違いますよ!僕は雪音さんに聞きたいことがあったんです」
「なんだ?」
「雪音さんって、銃、持ったことありますか?」
「「「ッ!!!??」」」
クリスは驚愕した。なにせ、それは事実だからだ。
「な、なんでそう思うんだよ?」
「く、クリスちゃんは銃なんて使ってないよ!ミサイルは使っt「このバカッ!」痛ッ!」
響がボロを出した。すぐに柴田の顔を確認するが、どうやら聞こえてなかったようだ。そして、柴田はこういった。
「雪音さんの手に、タコが出来ているじゃないですか」
「あ…ッ」
そう言い、皆はクリスの手を見てみる。クリスの細い指に、小さなタコが確認できた。
「ま、まぁ確かにあるけどよ。これは別にペン持ってる時に出来たもんだから、銃なんて現実的なもん持ってるわけ――」
「いえいえ!そのタコの出来方は銃を使っている人とほぼ同じなんですよ!僕も良くできるので!」
「「「「「「「……………」」」」」」」
何故そんなことを知っているのか、何故柴田にもよくできるのか、答えは内心理解したのだが、一同は怖くて聞き出せなかった。
おまけ3
時間帯はバイト。
未来と仁井はバックヤードで休みを取っていた。
「そうだ、未来さん。この前は法礼summerNIGHTに来ていただきありがとうございました」
「は、はは…」
「どうせですので、これをどうぞ」
「わぁ、ありがとうございま―――」
未来に渡されたものは、掌サイズの長方形の箱に、何か封印のようなものが施されているものだった。
「…………」
天地無用 開封厳禁を予感させる代物に、未来は手から脂汗が止まらなかった。
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G編
46~50話
投稿した理由はほんの息抜きです。
それでは、どうぞ!
~46話 【真夜中の小さなお客さん】~
あの狂気のライブから数日。世間は大盛り上がりを見せていた。その理由としては、あと数日で開催される【Queen of Music】にある。
このライブは、たった二ヶ月で世界に名を轟かせた歌姫、【マリア・カデンツァヴナ・イヴ】と翼さんの合同ライブ。
だから、皆この噂で持ち切りだ。
――と、まぁ、だがしかし。そんな話はこのコンビニにおいては全く関係なく。
私は今いつものメンバー、松駒さん、渡利さんの3人でバックヤードで休憩を取っていた。
そんなとき、松駒さんが、
「あ、そう言えば、未来ちゃん。実は今日の4時くらいに、中学生くらいの女の子二人が来たんだよ」
と、今日も夕勤の松駒さんが世間話の一環としてそう言ってきた。
深夜の四時に中学生くらいの女の子が二人で?なんでそんな時間帯に…?
「あぁそう言えばそうだったな。黒髪のツインテールの女の子と、金髪で語尾が『デス』って言う子だったんだよな」
「へぇ~……そんな子たちが」
「なんでそんな時間帯に来たのか心配になって聞いたら、『食べ物が足りなくなったから買い出しデス!スーパーが空いてなかったから、仕方なくコンビニに来てやったデス!』って元気よく叫んだんだよね」
「その後黒髪の子に説教されてたけどな」
確かに、仕方なく来たってところが余計すぎるし、黒髪の子が起こるのも無理はないと思う。
それに、なんで子供二人だけで買い出し?なんでよりにもよってそんな時間帯に買い出しに来たんだろう?
「その子たち、保護者はいなかったんですか?」
「さぁ?そこら辺も聞いたんだけど、仕事で忙しいってしか」
「そうですか…」
「そしてそれでね。結局その子たちはおにぎりとインスタントみそ汁を数個買ってったんだよ」
「……それがどうかしたんですか?」
「いやぁ、注目すべきはその前さ。仁井が品物の補充しているときに、金髪の子がさ―――」
そして、松駒さんが語り始める。
『なにやってるんデスか?』
金髪の子が、品出しをしている最中のニーチェ先生に話しかけたそうだ。
『このお兄さんはね、今新しい食べ物と古い食べ物を交換中』
『面白そうデス!アタシもやりたいデス!』
『ちょ、切ちゃん…!』
『い、いややらなくていいよ…』
しかし、金髪の子は静止を聞かずにオリコン*1にあるサンドイッチを棚に置いた。
『やめてください。場所が違います』
そして、容赦なくニーチェ先生がそう言い、またオリコンに戻す。
『切ちゃん、もう――』
『―――』
だが、容赦ないダメ出しをされたことで金髪の子が頬を膨らませて、今度はおにぎりをまた同じ場所に置いた。
『やめてください。僕がやるので』
『仁井くん。なにもそこまでガチで駄目だししなくても…』
『そうだよ、切ちゃんもあまり他の人に迷惑かけちゃだめだよ』
『で、デスけど、ここまで言われて黙っているわけにはいかないデス!』
と、二人の女の子がもめ始めようとしたとき、ニーチェ先生が強い声で、
『僕は、水っぽいカレーくらい、子供が嫌いなんです。特にこういった話を聞かない部類の子供は』
普通それ本人の前で言うかな…。
本人の前でソレを言うくらい彼が逞しいの理解しているつもりだけど、もう少しオブラートに包んだ言い方があるのでは…。
『む~!ならば!アタシの超高等テクニックその36!超綺麗な棚揃えを見せてやるデスよ!』
『切ちゃん。もうそれ普通の整理だよ…』
そして、ニ十分くらい経った後、なんやかんやで二人で品出し作業を黙々と取り組んでいたようだ。
……私としては、なんやかんやの内容が知りたい。
『本当に、切ちゃんがごめんなさい…』
『い、いいんだよ』
『そうだぜ、もうあまり気にすんな』
黒髪の女の子がおにぎりとインスタントみそ汁を購入し終えた後に、謝罪したようだ。
そして、品出しが完了した後。
『お疲れ様でした』
『はいデス!』
『今日は帰ってよし。これは本日のバイト代です』
そう言い、ニーチェ先生が棚から300円ほどの大きなカップ焼きそばを取りだし、バックヤードにわざわざ戻って財布を取って、自らレジで決算して、二つの割りばしと共に金髪の女の子に手渡した。
『これを二人で食べてください』
『~~~ッ!ありがとうデス!帰ったら早速皆で食べるデス!行きましょう調!』
『そうだね。切ちゃん。……あの、本当にありがとうございました』
そして、二人は帰っていった―――。
「なんですかそれ!すっごい良い話じゃないですか!仁井さんにも優しい所があったんですね!」
「いや、それがさ、アイツあの後――」
『使えますよ、アイツ。あとはレジのやり方さえ覚えさせれば即戦力になります。あれはそのための先行投資です』
『『えっ?』』
「――――」
やはり彼は彼なのかと思ったし、本人の知らぬ間にニーチェ先生の手によって『
~47話 【将来】~
「そう言えば未来さん。将来はどのような職につくことを考えてるんですか?」
「えっ?」
カウンターに立っているときに、急に柴田さんにそう言われた。
「どうしたんですか、急に?」
「実はですね、深夜勤のときに松駒さんの就職について話してたんですけど、未来さんはどうなのかなって知りたくなって!」
またか、と思ってしまう。バイトを始めてから数ヶ月。松駒さんは何度も就職活動に失敗していると聞いている。
大丈夫かな…その内、人生に絶望してしまうかもしれない。
「そうなんですか…。ちなみに、松駒さんは?」
「それでですね、松駒さんの仕事を選ぶ基準が『従業員平均年齢36~43歳』らしいんですよ」
ちなみに、彼は大のおっさん好きだ。どこがいいのか全く分からないけど、好みは人それぞれだし、私が口を挟んでいい事ではない。
「それで、その職種にピッタリな良い仕事を紹介したんですよ!そしたら松駒さん、それを考えてるようでして…」
「へぇ~ちなみにどんな仕事ですか?」
「俗に『懲役』って言われているんですけど…」
「―――ソウナンデスネ」
それを紹介する方もアレだし、それを考える方もアレだと思う。
私は、この言葉しか絞り出せなかった。
「と、ところで柴田さんはどうするつもりなんですか?」
「僕ですか?僕は自営業なので継ごうと思います!」
「そうなんですか!どんな仕事をやって――」
「おやっ!?柴田さん家の跡取りじゃねぇか!」
「あっ、ヤスさん!」
サングラスをかけ、顔には切り傷とその縫い目が目立つスーツ姿――いわゆるヤクザ風のおじさんが手荷物を持って入って来た。
そして、私の前にその手荷物――宅配便を置いた。そして、品目にはこう書かれてあった。
品物【粉・葉っぱ・錠剤】 |
―――それ以来なにも聞けていない。
~48話 【
今日もバイトの日なので、いつものコンビニに来ました。
そして、自動ドアを通り抜けると、そこには――、
「さっさとレジ入りなさいよ!」
女性のお客さんの怒号だった。
そして、その怒号に対応したのは、今まで見たことのない黒髪の女の人の店員さんだった。
「申し訳ございません。大変お待たせ致しました。お品物お預かりいたします」
そう言い、その人は対応を終えた後、私の方に向かってきて、挨拶をしてきた。
「あの、小日向さんですよね?お話は店長から聞いています。私の名前は【
「そ、そうなんですか…。初めまして。小日向未来です。それにしても、私も二ヶ月ほどバイトしてますけど、一度も会わないなんて、すごい偶然ですね」
「本当にそうですね」
丁寧に言葉を返してくれたこの子は一礼した後、そのままレジに向かって作業を開始した。
なんていい人なんだろう…!
ここのコンビニのアルバイト(夜勤に限る)は私の目から見ても異常な人ばかりだし、やっぱりこういう人がいるのって、いいな…――あれ?
そう言えば、あの後ろ姿、どこかで…?とりあえず後で聞いてみよう。
~3時間後~
一通りの仕事を終え、私と黒木さんはバックヤードの方で休憩を取っている。
よし、聞いてみよう。
「あの、黒木さん」
「なんですか?」
「この間ゲーセンで銃のゲームを――」
瞬間、黒木さんは瞬時に、胸ポケからボールペンを取り出し、芯を出さない状態で私の首に優しく突き刺した。
「見間違いですよ。この話を他の人に言われると私店にいられなくなるのでやめましょう?」
両膝の震えと冷汗が、止まらないでいる。
~49話 【お辞儀の心】~
「あーとざいましたー(#^ω^)」
そう適当なお礼を返すのは、私と同じ夕勤の高校生の男子だ。
接客業をしていると、やはり必ずと言っていいほど、横暴な客がいる。これは我慢するしかないが、夜勤の彼らの場合(特にニーチェ先生)は反撃をするらしいがその話の内容は真実だと私は思う。
「空のアルコールスプレー缶のガス抜きしてきまーす」
そう言い、男子アルバイトはバックヤードへと姿を消していく。私も同じようにバックヤードに入ると、そこには…
「フンッ、フンッ、フンッ!!」
―――ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!
八つ当たりと言わんばかりに、すごい勢いでスプレー缶に穴を開けている姿だった。
執念がすごい――!
「あ、あの~…」
「フンッ!フンッ!フッ……あっ、すみません」
「あっ、良いんです。気持ちは分かるので…」
「ありがとうございます…。はぁ……横暴な客にお辞儀ができない…!辞めたいッ、イー!」
「――――」
気持ちは分からなくはないが、私には慰めることしかできない。
しかし、そんな時に彼が、ニーチェ先生が男子アルバイトの前に立った。
「―――素晴らしいお客様にはまたご来店くださいと言う懇意を込めて、ゴミみたいな方には来店はおろか半径5km圏内に近づかないで下さいと言う強い意思表示をこめて最敬礼しましょう」
「―――はい!!」
なんだろう、そのアドバイス、朝礼で読み上げたいと思った私は彼の考えに犯されているのだろうか?
~50話 【遠くなる心】
バックヤードにて。私と黒木さんが休憩している。黒木さんは今スマホを見ているし、他には誰もいない。つまり、聞けるチャンスだ…!
「あの、黒木さん」
「なんですか?」
「黒木さんは、なんで重火器に心奪われるんですか?」
「えっ?……それは…」
あ…ちょっと踏み込んだ質問だったかな…。
もしかしたら、クリスみたいななにか言いたくない理由でもあるのかな…?そんなことを、私は興味本位で…。
とにかく謝らないと――
「言葉が通じない相手にも散弾は通じるの。凄いじゃないですか…!」
「――――」
「銃は世界共通の言語です!」
彼女と打ち解ける度に心の距離が離れていきます。
そして思い知った。彼女のこの本性を決して響とクリスには知られてはいけないと言うことを…!
~おまけ~
バイトの最中、床にゲーセンのメダルが落ちていた。
「ゲーセンのメダル…?」
「それ…私のです!」
そう言ったのは黒木さんだ。私は黒木さんにメダルを返した。
黒木さんは小さな巾着にそのメダルを入れる。よく見ると、その巾着の中には大量のメダルが入っていることが音で伺えた。
「すごい量ですね。重くないんですか?」
「いえ、色々使えるので…」
そう言った彼女の持っている巾着の下部分には、血痕が残っていた
肉体言語も
~~~~~~
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51~55話
突然ながら―――
「メープルパンを温めると、ディ●ニーランドテーマパークの味がする!」
という店長の独断で100個(当社比20倍)発注されて大量のメープルパンを前に今、生まれて初めて人に対して敵意ではなく殺意の波動に目覚めた瞬間だった。
と、言うわけでこんな感じで、私のバイト日記、始まります。
51話 【迷惑電話の撃退法】
あれから――、QUEEN of MUSIC が終わって数日経った。
歌姫マリアの宣戦布告や何たらかんたらといろいろありましたが、私は相も変わらずバイトに勤しんでいます。
そして、そんなある日、一本の電話がかかって来た。
「お電話ありがとうございます。スリーセブン――」
「ハァハァハァハァ。ねぇ、今何色のパンツ穿いてるの?」
うっ…!まさかの迷惑電話!?
こんなの、漫画やアニメだけかと思ったのに、まさか現実でも起こるなんて…!それに、本当に気持ち悪い!
それに、松駒さんや渡利さんの話だと、こういった電話は一度や二度ではなく、何度も来ているらしい。本当に迷惑だ。
こういう時、どうすれば―――、
「―――」
そのとき、ニーチェ先生が無言で受話器を差し出すように手を差し伸べてきた。
私はその受話器を仁井さんに渡すと、彼は―――、
「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色受想行識亦復如是舎利子是諸法空想不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色無受想行識無限耳鼻舌身意無色声香味触法無限界乃至無意識界無無明亦無無明尽乃至無老死亦無老死尽無苦集滅道無知亦無得以無―――」
「――――」
しばらく経って、彼は受話器を電話に戻した。
「悪霊の類かと思いましたので一通り祓っておきました」
それ以来、迷惑電話が掛かることは亡くなったので、念仏の汎用性凄まじいと思った次第です。
52話 【安らぎ無き
「ありがどうございまじだ~…」
最近、体調が悪い。
その証拠に、喉の調子も悪くなっている。風邪かな…?
「小日向さん、風ですか?」
「え?」
「鼻声と顔色で一目瞭然です。ちょっと待っててください」
そう言い、仁井さんはマスクを棚から出し、自腹でそのマスクを購入した。うそっ…!もしかしてそれ、私にくれるの?
仁井さん、今まで変な人だと思ってごめんなさい――
「どうぞ」
―――が、しかし、マスクを渡した相手は近くにいた柴田さんと黒木さんだった。
二人はマスクをつけると、そのままこちらを向いて――、
「半径2m以内に近寄らないでいただけますか?」
と、慈悲無き言葉を容赦なく仁井さんが言い放った。後に聞いたが彼は男女平等主義とのこと。だとしてもこれは結構心にダメージ負いました。
そして悟った。この場所に、安らぎなど存在しないのだと。
* * *
あのあと、結局早退して、病院に向かった。その間にも、どんどんと体調が悪くなっているような気がする。
響も心配して着いてきてくれた。今忙しいのに、本当に私は良い親友を持ったと思う。
「未来、大丈夫?」
「大丈夫だよ。あ、呼ばれたからそろそろ行くね」
そう言い残して、私は審査室へと入った。
「う~ん、風邪かもね。ちょっと、口あ~んしてね」
そう言い、検査をしてもらって、結果は―――、
「風邪の症状は出てるんだけどねぇ~、多分、おそらく?まぁそこまで深刻化してないから、大丈夫なんじゃないかな~~?」
と、ゆるふわな診断を下され、病状が刻一刻と悪化しているのを感じる。
「風邪ってさ、免疫の低下が主な原因だからね。例えば、不規則な生活とか、ストレスとか。そう言うのには気を付けた方がいいよ」
生活リズムは崩しているつもりはない。と言うことはストレスが原因だと思うけど、別に、ストレスなんて―――、
・響への心配 ※また危険にならないかの。
・オーナーの過剰発注 ※初の殺意の波動に目覚めた瞬間
・松駒によるオッサン好きの話 ※どうでもいいのでそれがストレス
・渡利による宝くじ話 ※これも松駒と同じ理由
・柴田の裏社会の人間説(濃厚) ※いつも裏の話らしき話を聞く度にストレス
・黒木さんによる脅迫 ※最近『死』を感じた瞬間がストレス
・仁井による冷や冷やする毎日 ※客への穏やかな暴言など。
最近 ウイルス扱いされたこと。
―――心辺りありすぎて、何から考えればいいのか全く分からない。
* * *
薬局にて。
『18番のかた、お薬ができました』
「あ、呼ばれた」
「じゃあ行こっか」
そう言い、受付まで行く。そこでお姉さんに薬を渡される。
「風邪薬です」
「ありがとうございます」
「こちら服用にあたってですが―――」
あ、副作用とかのことかな?しっかり聞いとかないと。
「異常行動を起こすかもしれないので、薬を使ったあとは鍵をかけた部屋にこもったり刃物を片付けておくなどの工夫をしてください。お大事に―」
「「―――――」」
なんでそんなお薬に認可降りてるの―――?
53話 【認可薬?】
後日、復活してバイトに入りました。
「あ、小日向さん、復活したんですね!」
「今度は体調管理はしっかりしてくださいね」
と、まずあの二人にそう言われた。私のストレスの一端が一体何を言っているのか…。あんなことしておいて、普通に話しかけてくるなんて…。図々しいのか、ただ単にもう忘れているだけなのか…。
しかし、考えていても仕方ない。この人たちには何を言ってもほとんど無駄だってこと分かってるし、わざわざそんなことに労力を使う必要もないか。
と、そんなこんなで薬の誤飲談義で盛り上がるバックルーム。(松駒さんと渡利さんを入れての五人で)
「で、朦朧として錠剤をシートごと飲んじまったらしいぞ」
「え~!痛そうですね…」
「そういうの、結構あるらしいですね」
「座薬を飲んじまった話も聞くよなァ」
「本当ですか!?」
と、いろいろ盛り上がっている所に、柴田さんが大声で笑った。
「アッハッハッハ、分かります分かります~~!僕もお父さんが使っている白い粉薬を間違って飲んじゃって大変な騒ぎになったことありますー!」
「……いやいやぁ~」
「こわいこわーい…」
「ははは、そうなんですねぇ~…」
その白いおクスリ、所持だけでも重罪に値する薬物でないことを確認できないでいる。
54話 【病は広がり】
「えっ、風邪?分かったお大事にね、うんうん!」
そういい、店長は電話を切る。
「今週風邪や体調不良で休みの人、三人目ですね」
「紛れもなく小日向さんのせいですね」
「なっ…!決めつけられるのは心外です!!」
「風邪の発症から治癒までの帰還と小日向さんの体調不良になった時期が一致しているのですが」
「――――」
「病原体を保有して出勤なんてバイオテロもいいところです」
反論の手立て失っている。
「それと、どうやら渡利さんも風邪だそうですね」
「人数ぎりぎりですね」
そんな時、渡利さんから電話が掛かって来た。
「渡利さん…?どうしたんですか?」
『未来ちゃん!聞いてくれよ!宝くじが当たったんだよ!サマージャンボの一等だよ、一等!!』
あれ、なんか話がおかしいような…。
私はバックヤードから出て、イートンコーナーに貼られている宝くじの張り紙を見て、それを確認する。
「渡利さん。抽選日どころか発売日もまだじゃないですか…?」
『ん?そうか夢か!じゃあ正夢になる日も近いな!六億当たったら一緒に飯食いに行こうよ!約束したからね、じゃあね!』
と、勝手に約束を取り付けられたが、その約束が叶う日は永遠に来ないだろう。
それよりも―――通常運転なのか風邪薬による異常行動なのか判断がつかない。
55話 【復活後】
どうしたのかな…?大丈夫かな…?
私は今、とある心配をしている。
「どうされました?」
「いや…20分くらい前にトイレに入った男性のお客さんが出てこないなあって…。大丈夫かな…?」
もし中で倒れていたりでもしたら、大変だし、私のせいで風邪が流行っちゃったし(もう認めました)、これは流石に考え過ぎか…。
でもとても気になる。
「―――。小日向さんにも鈴木さんが見えるんですか?」
「えっ?見え…、えっ…?」
彼は霊が見えるような発言はいくつもしてきたが、そんなことは今はどうでもいい。ともかく、現実逃避現実逃避――、
「そう言えば、渡利さんがドリンク補充から戻ってきていませんね」
と、暗い雰囲気を作った本人から話題を変えてくれた。
そう言えば、まだ戻ってきてない…。ちょっと様子を見に行こうかな。雰囲気替えも兼ねて。
「―――って!寝てる!?」
ウォークイン倉庫*1で渡利さんがぐっすり寝ていた
「冷蔵スイッチ切ったままで…!商品がぬるくなっちゃいますよ!叩き起こしましょう!」
さっきの恐怖を紛らわすために、怒りで自分らしくない言葉を連発する。
が、しかし、仁井さんが人差し指を口元に置いた。静かにのサインだ。
(そうだった…渡利さんはまだ体調が万全じゃないんだった…。私が原因でもあるんだし、私がとやかく言う権利なんて―――)
バチン?一体何の音――?
「寒ッ」
その時、倉庫の中が段々と冷気が充満していっている。
まさか仁井さん、倉庫のスイッチ入れたんじゃ…!
「せっかくですのでコールドスリープさせましょう」
病み上がりにも慈悲のない鉄槌を目の当たりにしている。
おまけ。
「こちら、控えです」
ニーチェ先生がお客さんの持って来たものにハンコを押して、その控えを渡した。
「いやあね~なにこれ。インクがにじんで汚らしい!押し方が全然なっちゃいないわ!」
と、文句を言うお客さん。
多分だけど、大方この後の展開が予測できてしまう。
「……申し訳ございません」
そう言いニーチェ先生はハンコをお客さんに向けた。
「押しかたを、ご教授いただけませんか?」
そう言い、そのお客さんがやった結果、上半分しか使い捨ての紙についていなかった。
「口ほどにもないですね」
その紙をクシャクシャにしてゴミ箱にポイ捨てするニーチェ先生。
お客さんの矜持に消えない烙印を押す接客業怖いなって。
評価:感想お願いします。
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