とある三兄妹のデンドロ記録:Re (貴司崎)
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三兄妹+αの設定まとめ

※注意:最新話までの登場人物の設定を乗せています。ネタバレもあるので、それが嫌な人は読み飛ばすかブラウザバックするかして下さい。


 アバター名:レント・ウィステリア

 本名:加藤連

 性別:男

 下級職【剣士】【騎士】【騎兵】【獣戦士】【格闘家】【斥候】【盗賊】【狩人】【傭兵】【餓鬼】【見習】【魔法剣士】【魔銃士】【魔術師】【司祭】【付与術師】【呪術師】【祓魔師】【防術師】【幻術師】【魔石職人】【戦像職人】【従魔師】【調教師】【従竜師】【女衒】合計26種

 上級職【聖騎士】【暗黒騎士】【幻獣騎兵】【古株】【獣戦鬼】【高位従魔師】【紅蓮術師】【黒土術師】【白氷術師】【抵抗術師】【司教】【高位祓魔師】【高位魔石職人】【巨像職人】合計14種・合計レベル約2650

 備考:本作の主人公その1であるごく普通(自称)の大学一年生。通称・兄。性格は冷静で常に余裕ある態度を取ってはいるが、妹達の事になると積極的にお節介を焼く割とシスコン気味な所も。デンドロは妹である美希の勧めで始めたが、現在はすっかりハマっておりエンジョイしている。

 デンドロでのプレイスタイルは自身の<エンブリオ>【ルー】のスキルで大量のジョブに就けるので戦闘も生産も出来る万能キャラになっている。戦闘では妹二人が前衛型な事もあって魔法支援主体の後衛で、前衛系のジョブも入れている事と剣の心得がある事により前衛もある程度熟せ、生産では複数種の魔法が使える事を生かした【ジェム】作りや特典武具のスキルを用いたゴーレム作成を行なっている。

 現在はテイムモンスター達との連携を視野に入れた新たな戦術を模索中。

 凡ゆる分野において天才的な才能を有するが真の意味での規格外(ハイエンド)には後一歩及ばず、昔やっていた剣道でそんな存在と遭遇してしまったことで挫折したので自分の“才能”についてコンプレックスを抱いていた……が、その少し後に遭遇した飛行機事故で両親を失い自分も大怪我を負った事や、それから出会った後に恋仲になる姫乃を始めとする“色々な者達”や遭遇した様々な事件(ジャンル違いあり)によって、現在では『自分の持った才能は生まれつきだしそういうモノだからしょうがないよね』と割り切る様になった。

 とりあえず今後の方針としては昔の自分の様に“才能”について悩んでいる妹達を見守りつつ、デンドロ世界を満喫させて自分なりの『答え』を見つけさせようと考えている。後はネリルから学んだ魔法技術の研鑽などによる自己強化に励みつつ、妹の『才能』によって今後巻き込まれるだろう厄ネタに対する対策を行なっている。

 

【百芸万職 ルー】

<マスター>:レント・ウィステリア

 TYPE:テリトリー→ルール

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:ジョブレベル(才能)

 固有スキル:

光神の恩寵(エクスペリエンス・ブースター)》パッシブスキル。自身が獲得する経験値を増加させる、第五形態現在では+500%。【見習】系ジョブスキルなどと合わせて兄の経験値稼ぎのお供スキルその1。

長き腕にて掴むモノ(エクスペリエンス・トランスレイション)》パッシブスキル。自身又は自身のパーティーメンバー・テイムモンスターがモンスターを倒した際、アイテムを落とさなくなる代わりにその分のリソースを獲得経験値に回す。オンオフの切り替えも可能だが、一度切り替えると再度の切り替えに第五形態時では8時間かかる。兄の経験値稼ぎのお供スキルその2にして三兄弟のレベルが高い理由。

諸芸の達人(スキル・マスタリー)》パッシブスキル。控えにあるレベル50以上のジョブのスキルをメインジョブに寄らず使用出来る。また、同じ条件で控えにあるジョブのジョブクエストでの経験値をメインジョブに寄らずに獲得出来る。

仮想奥義・神技昇華(イミテーション・ブリューナク)》アクティブスキル。任意のジョブのレベルをコストにして選択した【ルー】のスキル以外で自身が習得しているアクティブ系のスキルの効果を強化する。クールタイムは五分。コストに出来るレベルは第五形態時で最大50までで、選択したジョブスキルは24時間使用不能になる。コストが重い分だけ強化度合いは絶大で、現在でも50レベル捧げれば上級職の奥義を超級職奥義レベルまで引き上げられる。

我は万の職能に通ず(ルー)》必殺スキル、パッシブスキル。自身が就く事が出来るジョブの数を大幅に増やす。第五形態時点で下級職は30個、上級職は20個増える。強力なスキルであるが故にデメリットとして『ステータス補正の半減』と『現在就いているジョブに由来する超級職への就職不可』が課せられている。【ルー】の中核スキルであり、他のスキルはこのスキルを補助する為にある。

 備考:モチーフは『諸芸の達人』『長腕のルー』ともあだ名されるケルト神話の太陽神“ルー”。前述した兄の才能に関するコンプレックス──一応割り切ったとは言え『後少し自分に才能があれば』という少しの未練はあった──から、デンドロに於ける才能の象徴と言える“ジョブレベル”を起点にジョブやスキルを拡張する<エンブリオ>として生まれた。

 

 

 名前:ヴォルト

 種族:【ライトニング・ストライクホース】→【亜竜雷電馬(ライトニング・デミドラグホース)】→【ライトニング・トライコーン】

 性別:男

 備考:兄のテイムモンスターその1であり、デンドロ世界を馬車で移動する為の足要員として買った馬型モンスター。性格は冷静である種達観しており知性も同種の馬型モンスターの中ではかなり高く、後述の理由で強くなるための向上心もあるので似た様な性格の兄とは馬があっている感じ。

 元はアルター王国周辺にいた【純竜雷電馬(ライトニング・ドラグホース)】群れで生活しており、その知性と才能から群れの次期リーダーとして扱われていた。だが、群れが<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】に襲われて全滅し、自分だけは生き残ったものの弱った所を捕獲されて店に売りに出された……とは言え、“野生においては生き残った者の勝利”と教えられて来た彼には群れを壊滅させた<UBM>への恨みなどはそこまで無く、むしろ“生きる為に強くあろう”という考えが強い。

 戦闘能力に関しては物理的なステータスは純竜級のモンスターとしては平均より少し上ぐらいだが、その分MPが高めで様々な雷属性のスキルを駆使して戦うスタイル。最近ではネリルの指導とそれによって進化時に得たスキルのお陰で雷属性制御力が上昇したので安定して兄を乗せた騎乗戦闘が可能になった他、電磁防壁・電磁索敵などの新スキルも取得出来た模様。

 ただ、兄自身の慣れとステータスの関係やらヴォルト自身の騎乗させての戦闘練度の関係で別々に戦う事も多いので、現在は兄側で騎乗系ジョブを習熟したり騎乗しながらの戦闘訓練を行う事で騎乗戦闘を『手札の一つ』として扱える様に訓練中。その一環として電磁障壁を応用した空中走行などが出来ないか模索している。

 

 

 名前:ネリル

 種族:【リトル・ネイチャーエレメンタル】→【ネイチャーエレメンタル】

 性別:女

 備考:兄のテイムモンスターその2。偶々出会って自分をテイムする様に言ってきた外見は少女型のエレメンタル。性格はおおらかで明るく見えるが、その実深い知性と只者ならぬ雰囲気を持つ。

 その正体は先々期文明から生きる神話級最上位の<UBM>【魔鉱地蟲 アニミズヮーム】が万が一の時の為に自分の記憶と経験をインストールしておく事で“自分”を存続させる為に作られたエレメンタル。なので二千年の時を生きてきた魔法系<UBM>の記憶と経験──世界最高レベルの魔法技術や様々な知識を有する。

 普通のモンスターや<UBM>とはかなり異なる価値観を有しており、現在は自身の兄を始めとする三兄妹が中々“面白い”相手な事もあって自身の知識や経験を教えてみたり、<UBM>だった時と違って普通に食べれる様になった食事を堪能したりとテイムモンスター生活を満喫している。

 戦闘能力に関してはMP特化(後はAGIとDEXにも多少)のステータスと、高位魔法を“スキルによる補助無しで”運用出来るレベルの魔法技術で戦う典型的な魔法型で、使用頻度が高い魔法はスキルとして習得しておく事で手早く使える様にするなどの芸当もやってのける。また、【ジェム】作成やゴーレム創造も得意とするので兄やヴォルトに技術を教えたり、後述のクルエランを始めとするゴーレムや兄の【ジェム】作成を手伝ったりしている(その気になれば超級魔法の【ジェム】も作れるが兄の成長の為に自重している)

 

 

 名前:クルエラン

 種族:【クルエラン・プロトゴーレム】→【カスタムゴーレム・クルエラン二型】

 性別:女

 備考:兄のテイムモンスターその3。<UBM>【クルエラン・コア】の残留思念をベースにネリルが作り上げた【ゴーレム】コアを金属化させた【ウッドゴーレム】と【クルエラン・コア】が使っていた古代伝説級合金を組み合わせた躯体に組み込んだゴーレム。そこに特典武具である【クルエラン・コア】の力でスキルを付与したからか種族名に“クルエラン”が付いた新種のゴーレムと化した。残留思念をエレメンタル化した過程で安定化の為に女性寄りの人格にしたので性別は雌判定。

 戦闘能力に関してはHP・END特化のステータスに付加された各種防御・回復スキルを使った壁役であり、埋め込まれた“コア”が自然系エレメンタルの要素もあるのでMPも比較的高く自己強化魔法を使う事も可能。更にこの“コア”はネリル謹製の特別製であり砕かれない限りは躯体がどれだけ損傷してもHPが1以下にはならず、仮に砕かれても躯体が50%以上残っていれば時間経過で自動回復するので非常に死に難い。

 元となる残留思念が三強時代【覇王】によって物理的に両断されて、今では殆ど忘れ去られた<山岳国家クルエラ>の怨念がベースだからか“クルエラ”の名前を世界に轟かせる事を条件に兄に付き従っている。現在の実力は亜竜級上位であり更に戦闘能力を磨いて活躍の機会を得ようと鍛錬に余念がないが、躯体のベースとなる素材や兄のゴーレム生産技術の関係で成長限界は純竜級中位ぐらいなのでより良い素材による更なる強化改造を希望している。

 

 

 アバター名:ミカ・ウィステリア

 本名:加藤美希

 メインジョブ:【戦棍姫】

 サブジョブ:【剛戦棍士】【戦棍鬼】【戦棍士】【戦棍騎士】【壊屋】【重戦士】【砕屋】【双棍士】

 備考:本作の主人公その2の小学五年生、通称・妹。性格は普段は明るく天真爛漫だが後述の“直感”が働いた場合には異様に冷徹になり、本人も自分のそんな在り方に悩んでいる。

 生まれつき自身とその周りにいる者に降りかかる危険を感知出来る“直感”を有しており、自身への攻撃を先読みしたりその危険を回避する方法が解ったりもする。昔兄と両親が巻き込まれた航空機事故を“察知出来ていたのに止められなかった”事がトラウマになっており、それからは“直感”による危険回避の導きは最優先で実行する方針。

 デンドロでのプレイスタイルはゴリゴリの前衛戦闘型で、<エンブリオ>の高い物理ステータス補正で得られた物理ステータスと防御スキル効果減衰によるごり押しが主体。更に奇襲や罠や不意打ちは持ち前の“直感”によって事前察知出来るので、大抵の相手には無理矢理正面からの戦闘に持って行ける。

 現在はようやく得られた超級職【戦棍姫(メイス・プリンセス)】を見てニヨニヨしつつ、後述する【ギガース】の特性的に重要な物理ステータスを上げる為に積極的にレベリングをしている。装備品に関してはガチャ産の特典武具【どらぐている】が優秀なので防具は他に要らず、その分浮いた金を使ってサブのメイスや各種高性能耐性アクセサリーなどを買い込んでいる。

 

【激災棍 ギガース】

<マスター>:ミカ・ウィステリア

 TYPE:エルダーアームズ

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:物理ステータス・スキル効果減衰

 固有スキル:

《バーリアブレイカー》パッシブスキル。【ギガース】装備時の自身の直接攻撃を行った相手の防御系・身代わり系などの“自分の攻撃を妨げるスキル効果”を減衰させる。効果強度は攻撃が当たった時の攻撃力とスキルレベルによって決まり、第五形態時のスキルレベルは5。直接攻撃であれば【ギガース】での打撃以外でも殴る蹴るの格闘や鞭の様な持っている武器などでの遠距離攻撃でも効果は発動するが、武器の投擲や射撃など“自身の肉体から離れた攻撃”には効果を発揮しない。

我は禍ツ神を砕く巨人なり(ギガース)》必殺スキル。対象一体を指定して《バーリアブレイカー》の効果をその対象にしか発揮させない様にする代わりに大幅に引き上げる。更に対象の自身に対するスキル効果も大幅に減衰する。減衰効果は自身のHP・STR・END・AGIの物理ステータス数値に応じて上昇する。その基準となるのは現在値であり、HPの減少や物理ステータスへのデバフを受けていれば効果は下がる。効果減衰の範囲は対象にした相手の保有するスキル、装備品の装備スキル、対象が使用した消耗品のスキル、従属キャパシティ範囲内及び《軍団》スキル範囲内の使役モンスターが使ったスキルといった所。発動中は対象の強さに応じて常時SP継続消費し、クールタイムも1時間と長め。

 備考:大型メイスのアームズでモチーフはギリシャ神話において神々と戦った巨人を指す言葉“ギガース”。一つのパッシブスキルと必殺スキル以外のリソースを武器としての性能(強度・耐久性重視)と物理ステータス補正に割り振っているので第五形態時でSTR・AGI補正がS、HP・END補正がAに届くが、その分必殺スキルに必要なSPが僅かに補正があるぐらいでそれ以外はGのままという物理ステータス特化型。生まれながらの“直感”に振り回されてきた妹が『降りかかる理不尽に負けない強さが欲しい』と思った結果、デンドロにおけるチートな防御スキル(理不尽)を打ち破るスキルと高い物理ステータス補正(強さ)を持つ<エンブリオ>として生まれた。

 

 

 アバター名:ミュウ・ウィステリア

 本名:加藤祐美

 性別:女

 メインジョブ:【魔導拳】

 サブジョブ:【武闘家】【格闘家】【魔拳士】【拳士】【僧兵】【蹴拳士】【拳闘士】

 備考:本作の主人公その3である小学二年生、通称・末妹。普段の性格は礼儀正しく真面目だが、身内(兄と妹及びミメーシス)と一緒にいる時にははっちゃける事も。生まれつき武術を中心にした肉体の運用・戦いの際の判断力や冷静さなど“戦闘”に対しての規格外の才能を持つ天災児。

 デンドロでのプレイスタイルはその戦闘の才能と現実で少し学んでいる古武術を合わせた格闘家スタイル。普段は遊撃だが本人の高い戦闘センスと<エンブリオ>であるメイデンの特性(ジャイアントキリング)もあって、妹では対処しきれないレベルの相手との戦闘も担当する。最近は獲得した古代伝説級特典武具【バイオハーデス】に蓄積された魔力を大量に使う事で、各種スキルの効果を大きく引き上げたりコストを考えずスキル効果を維持出来る様になって更に戦闘能力があがった。

 だが、かつて起きた“とある事件”で自分が『異常な才能』を振るって戦った所を見られた所為で、友人であった真里亞と疎遠になってからその才能に対して忌避感を抱いていた……が、デンドロ内で再開した彼女と和解して再び友人に戻った事でその忌避感は大分薄くなった。現在はデンドロ内部での活動や現実の“師匠”と話し合いを通して自分の“才能”とどうにか向き合おうと努力しているが、まだ自分自身の『本来の戦闘の才能』には枷が掛かったままの様である。

 

【模倣天女 ミメーシス】

<マスター>:ミュウ・ウィステリア

 TYPE:メイデンwithガードナー→チャリオッツ・ガードナー→アドバンス・ガーディアン

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:模倣&同一化 

 固有スキル:

憑依融合(フュージョン・アップ)》アクティブスキル。マスターである末妹と融合してステータス・耐性などを乗算するスキル。ガードナー形態の【ミメーシス】のステータスはMPに特化、それ以外はHP・SPが多少高いぐらいだが各種耐性のマスクデータはかなり高い。融合時には接触している必要があり、デメリットとして“両手武器枠装備不可”と“ステータス補正0”が課せられている。また種族もエレメンタルになり反応速度や思考速度、肺活量や再生能力など“生物としての性能”も向上していて、他にもエレメンタルとしての特性を幾らか持っている。。おまけに融合時には髪と瞳の色が黒から桃色に変化したりする。

天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》アクティブスキル。効果範囲内の対象一体のSTR・END・AGI・DEX・LUCの内で数値が高いものから順に任意の数を選び、選んだ対象のステータスを自身のものにコピーする。コストとしてスキル発動時とそこから(6ー選択したステータスの数)分毎に、コピーしたステータスの中で一番高い数値だけMPを消費する。効果は任意のタイミングで終了出来、その際は最後の判定から経過した時間の割合分だけMPを消費する。クールタイムは効果終了から1分間。コストが足りなかった場合にはそのMP×10秒だけクールタイムが延長される。

攻撃纒装(アタック・テスクチャ)》アクティブスキル。自分に当たった“攻撃”をストックし、それを消費して自分の肉体を用いた攻撃にストックした“攻撃”の攻撃力と効果を上乗せする。またストックした“攻撃”に必要なコストを支払いながら消費する事でその“攻撃”の効果をそのまま使う事も出来る。ストック出来る数は第五形態現在七つで一度使用したストック枠はラーニングしたスキルの強度に応じた時間だけ再使用不能。ストック出来るのはその“攻撃”を受けてから30秒以内で、肉体への上乗せを使用した後は十秒経過で効果が切れる。ストックを一時間使用しなかった場合自動消滅。

転位模倣(エフェクト・ミラーリング)》アクティブスキル。効果範囲内の対象一体のバフ・デバフなどの掛かっているスキル効果、一部の傷痍系などを除く状態異常を自身にコピーして上書きする。コストとして発動時とそこから1分間経過する毎に選択した敵対対象がモンスターの場合はレベル×50、人間範疇生物の場合は合計ジョブレベル×10だけMPを消費する。効果は任意のタイミングで終了出来、その際は最後の判定から経過した時間の割合分だけMPを消費する。クールタイムは効果終了から1分間。コストが足りなかった場合にはそのMP×10秒だけクールタイムが延長される。

汝は正しく我を模倣せよ(ミメーシス)》必殺スキル。対象との五分以上(自身と相手の実力差に応じて時間延長)の戦闘と対象への接触によって発動。マスターに憑依している【ミメーシス】を対象に憑依させ、そのステータスとスキルをマスターのものと同一化させる。効果時間は5分間で、効果が終了して憑依が解除された後【ミメーシス】が紋章の中で24時間休眠状態になるデメリットが存在する。

 備考:常時融合型のガードナーで、モチーフは西洋哲学の概念の一つで『模倣』という意味を持つ言葉“ミメーシス”。メイデン態はショートカットなボーイッシュボクっ娘で性格は基本的に一歩引いて末妹のサポートに徹する控えめな感じだが、主人の為に必要と判断すれば積極的にその背を押す事も辞さない。食癖は“一緒に食べている誰かと同じ物しか食べない”で、メイデンとしてのジャイアントキリング要素は“自身と敵のスペックが同じであれば勝てる”という末妹の戦闘センスを前提としたもの。かつての事件から『異常な自分でも受け入れられる様に回りと同じでありたい』という願望と『自分でも制御出来ない(と本人は思っている)才能を側で止めてくれる人が欲しい』という心の奥底での危機感から『模倣と同一化を能力特性とするメイデン』として発現した。




あとがき

キャラや<エンブリオ>の設定が多くなって来たので、色々と(作者が)分かりやすくする為に改めてこちらに載せました。今後本編の更新に合わせて情報を付け加えたり書き換えたりする事もあります。
また、今後しばらくは登場人物の設定まとめをいくつか投稿する事になるのでよろしくお願いします。

※前まで載せていた三兄妹の設定まとめはこちらに移動したと言う事で削除しました。


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アルター王国<マスター>設定まとめ:その1

※注意:最新話までの登場人物の設定を乗せています。ネタバレもあるので、それが嫌な人は読み飛ばすかブラウザバックするかして下さい。


 アバター名:エルザ・ウインドベル

 性別:女

 メインジョブ:【高位飼育者】

 サブジョブ:【高位従魔師】【従魔師】【飼育者】【調教師】【魔獣師】【従竜師】【怪鳥師】

 備考:三兄妹のフレンドであるテイマー系<マスター>。バトルファンタジー系のラノベ好きで元々は自分で戦闘を行おうとしていたが、冒険者ギルドでの戦闘訓練で致命的に運動・戦闘センスが無い事が判明して挫折。その直後に戦闘を代行する【ワルキューレ】が生まれたのでテイマーの道を進む事になった。

 テイマーとしては後述の【ワルキューレ】達に加えて、感覚が鋭い偵察・斥候要員【亜竜灰狼(デミドラグ・グレイウルフ)】のヴォルフ、空中支援・風属性魔法担当【亜竜嵐鷲(デミドラグ・テンペストイーグル)】のウォズ、地属性魔法全般に長け彼女の護衛も務める【アース・コアエレメンタル】のアーシー、強力な光属性の純竜である【シャイン・ドラゴン】のシャイナと強力なテイムモンスター達を有する。

 また、本人もテイマーとしての才能は高かったらしく割とすぐにデンドロへ順応しており、配下への資金やテイム時の交渉・脅迫などもリアルを知る友人に驚かれるレベルで熟しているので、アルター王国でもトップクラスのテイマーとして一部では有名。

 ちなみに天然物の《審獣眼》などは持ち合わせていないが、単純に『いいな』と思ったモンスターの資質が高いという巡り合わせの運──リアルラックに優れたタイプ。なので友人が所属している生産クラン<プロデュース・ビルド>の専属として装備と引き換えにリアルラックで当てた高品質の装備を提供したり、最近では偶々立ち寄ったギデオンのガチャで特典武具を当てたりしている。

 

【代行神騎 ワルキューレ】

<マスター>:エルザ・ウインドベル

 TYPE:レギオン

 能力特性:代行

 到達形態:Ⅴ

 保有スキル:《代行者(オルタネイティブ)》《主の加護》

 必殺スキル:《神軍騎行・合一戦姫(ワルキューレ)

 備考:モチーフは北欧神話の戦乙女“ワルキューレ”で、種族は天使で女性の人型ガードナー。各々の基本ステータスは初期<マスター>並だが、スキル《代行者》により人間範疇生物と同じ下級職六つ、上級職二つのジョブに就いてレベルを上げる事が出来る。

 更に《主の加護》によって第五形態時には一人につき合計600%の補正を各ステータスにつき10%刻みで10%〜200%の割合で割り振る事が出来るのでカンスト<マスター>並のスペックを持たせられる。ただしデメリットとしてマスターのステータス補正はゼロになる。

 現在は騎士・盾系ジョブで壁役の長女アリア、司祭系統ジョブで回復役の次女セリカ、戦士系ジョブで物理アタッカーの三女トリム、魔術師系ジョブで魔法攻撃担当の四女フィーネ、狩人・弓系で探知と遠距離物理攻撃担当のリーファがいる。

 第五形態になって習得した必殺スキルは任意数の【ワルキューレ】に選んだ自身のテイムモンスター1体を融合させるガードナー系<エンブリオ>お約束の融合系スキルの亜種。ただスキルを使うのがマスターになっているのでチャージ中と融合中はマスターが戦闘行動不可・アクティブスキル使用不可のデメリットを追う仕様になっている。

 

 

 アバター名:ターニャ・メリアム

 性別:女

 メインジョブ:【紡績職人】

 サブジョブ:【裁縫職人】【紡績師】【裁縫屋】【服飾職人】【機織職人】【糸細工師】【繰糸師】

 備考:三兄妹御用達の生産クラン<プロデュース・ビルド>の一員でありエルザのリアフレ。糸素材や布素材の生産、及びそれらを使った衣服の生産を担当している。

 性格は明るくコミュ力も高いのでやや職人気質があるクランメンバーのまとめ役になる事もあるが、面白がってギャンブルみたいな生産を行ったりもするトラブルメーカーになる事も。

 一応糸を使った戦闘も可能ではあるが、基本的には<エンブリオ>のスキルを使った特殊な糸素材の生産・販売による資金稼ぎ。及びオシャレで高性能な衣服の生産やクランで作る装備品の布装飾生産などの生産活動がメイン。

 

【天糸紡蚕 クロートー】

<マスター>:ターニャ・メリアム

 TYPE:ガーディアン

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:製糸・捕縛

 固有スキル:《天糸紡ぎ》《運命の縦糸》《運命の横糸》《天命紡績》

 必殺スキル:《其の運命は此処に紡がれん(クロートー)

 備考:体長1メートル程の蚕型ガードナーで、モチーフはギリシャ神話の運命の三女神の一人「紡ぐ者」を意味する名を持つ“クロートー”。ステータスはMP・SP・DEXに特化で蚕型の見た目通りAGIが低いから直接戦闘は苦手。

 素材を捕食する事でその素材と同じ特性・性質を持つ繊維を生産する《天糸紡ぎ》や、それで作った繊維でマスターが行う生産活動に補正を与える《天命紡績》など生産補助がメインのガードナー。だが相手を【拘束】する《運命の縦糸》や、相手を【呪縛】する《運命の横糸》といった捕縛用の糸を出しての戦闘支援も一応可能。

 必殺スキルは一定以上のリソースを持ったアイテムを【クロートー】に捕食させた上でマスターと融合するもので、ステータスは合計されて戦闘能力が上がる……が、メインは融合中にMP・SPを消費する事で《天糸紡ぎ》を使って捕食したアイテムの特性を持った糸を幾らでも生産出来る事にある。

 

 

 アバター名:エドワード

 性別:男

 メインジョブ:【高位冶金術師】

 サブジョブ:【鉄鋼術師】【錬金術師】【冶金錬金術師】【魔術師】【彫金師】【金工師】【製鉄屋】

 備考:<プロデュース・ビルド>のクランオーナーで兄とは同じ大学の同期生。ちなみにオーナーの座は他のメンバーが面倒がったので消去法で決まった。クランの中では一番真面目でリーダーシップもあり、更にリアルの実家が自営業店なのである程度商売についても詳しかったのでそれなりに上手くオーナーを務めている。

 一応金属操作や<エンブリオ>での戦闘も可能だがメインは<エンブリオ>製の特殊な金属素材の生産・販売と、クランでの合作時の生産工程に於ける金属加工を担当するなどの生産活動。実は某錬金術師系漫画のファンであり、アバター名やデンドロで錬金術師を目指したのはそこから。

 

【幻想冶金 オレイカルコス】

<マスター>:エドワード

 TYPE:ワールド

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:非金属の金属化

 固有スキル:《メタル・トランスレイト》《ファンタジー・メタル・ワーキング》

 必殺スキル:《錬金秘術・幻想合金(オレイカルコス)

 備考:モチーフは神話や伝承に登場する架空の金属の名称の一つ“オレイカルコス”。

 任意の非金属を性質はそのままに一定時間金属化させる《メタル・トランスレイト》で相手を【金属化】させて動きを封じたり、自身が所有している非金属のアイテムを一定確率で性質はそのままに完全に金属化させる《ファンタジー・メタル・ワーキング》で特殊な金属素材を作ったり出来る。

 必殺スキルは非金属素材と金属素材を融合・金属化させる事で両方の性質を兼ね備えた特殊合金を作成するスキル。使用素材の品質と本人の技量で成功確率が決まる他、クールタイムは24時間と長め。

 

 

 アバター名:ゲンジ

 性別:男

 メインジョブ:【高位鍛冶師】

 サブジョブ:【高位武器職人】【鍛冶師】【武器職人】【鎧職人】【盾職人】【剣職人】【槍職人】

 備考:<プロデュース・ビルド>の一員で主に武器生産全般を担当している。性格は寡黙な職人肌だが割と仲間思いであり、後述する自身の<エンブリオ>もクランメンバーには遠慮なく貸し与えている。

 基本的により良い武器を作る事に意識が向いているので自分の意見を言う事はあまり無いが、メンバーの話し合いがグダグダになった場合にはばっさりと意見を言ってまとめる事もある。具体的にはクラン名決めの際に自分の<エンブリオ>のスキル名をもじった案を提案したり、クランの行動方針について『素材販売とオーダーメイドアイテム生産』を提案したりしてる。

 

【改訂工房 ヘパイストス】

<マスター>:ゲンジ

 TYPE:フォートレス・ルール

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:生産スキル効果及び生産物の効果改竄

 保有スキル:《プロダクション・エンハンスメント》《プロダクト・リビルド》

 必殺スキル:《我が精粋を込め神なる祭器を(ヘパイストス)

 備考:生産工房型のキャッスルで、モチーフはギリシャ神話の鍛冶の神“ヘパイストス”。

 工房内でマスターかそのパーティーメンバーが発動した生産系アクティブスキル効果欄の数字表記の内、効果がプラスになる部分のみを倍加(第五形態現在では三倍)させる《プロダクション・エンハンスメント》と、自身及び自身のパーティーメンバーが工房内で作った生産物の効果をそのリソースの範囲内で改竄・変更する《プロダクト・リビルド》による生産活動補助に特化した<エンブリオ>。

 特に《プロダクション・エンハンスメント》は素材の生産を行う為にジョブ構成も半分くらいはそちらに寄せているメンバーが多く、更に加工が難しい特殊素材を扱う事が多い彼等にとって非常にありがたいスキルであり、クラン名がそれをもじった物でも誰も文句を言わないレベルで重要スキルの一つとして扱われている。

 必殺スキルが工房内で生産したアイテムにチャージしたリソースを注ぎ込んで内包リソースを増幅させる《プロダクト・リビルド》との組み合わせが前提の物。アイテムの性能を大きく引き上げる事が出来るがチャージ時間及びクールタイムは30日と非常に長い。

 

 

 アバター名:アカイ・ワカバ

 性別:女

 メインジョブ:【木工職人】

 サブジョブ:【高位育樹家】【木工師】【木細工師】【木彫家】【育樹家】【植樹家】【伐採師】

 備考:<プロデュース・ビルド>の一員である<マスター>の一人で、主に木材の生産と植物素材の加工を担当している。ボーイッシュな外見の少女で一人称は“僕”。腕はいいのだがセンスが独特で味のある()デザインの木製アイテムを作ってはクランホームに置いたりしているとか。

 完全に純生産型のビルドでありログイン中は基本的にクランホームで木製アイテムの生産を行うか、街の商店や木工ギルドで<エンブリオ>様に植物系素材を探したりしていて、良い遺伝情報が取れそうな素材を見つけると全力で散財し出す。

 

【九製界樹 イグドラシル】

<マスター>:アカイ・ワカバ

 TYPE:フォートレス・カリキュレーター

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:植物複製

 固有スキル:《樹界図》《第一樹層・神》《第二樹層・人》《第三樹層・深》《樹洞拡張》

 必殺スキル:《九界貫く天樹(イグドラシル)

 備考:モチーフは北欧神話に登場する九つの世界を内包するという架空の木“イグドラシル”。

 形状は三階建ての塔で採集した植物の遺伝情報をストックするスキル《樹界図》から任意の植物を選んで育樹・生産する事が出来、それぞれ上から少数高品質生産の《神》、高速大量生産の《人》、複数の遺伝情報をランダムで合成・変異させる《深》となっている。

 一つの階層で生産出来る植物の種類は三種・それぞれ三つまでであり、生産する植物の大きさに応じて《樹洞拡張》である程度内部空間が拡張される。

 必殺スキルは【イグドラシル】の形状が階層の無い一本の塔に変形され、収集した遺伝情報から九つを選んでそれらを掛け合わせた高品質な樹木を作成出来るスキル。ただしどんな性質の物が出来るかは選んだ遺伝情報を基準にするがランダム性が高く、伐採可能なまでに成長するまで相応の時間が掛かる。

 

 

 アバター名:マキア・マジカ

 性別:女

 メインジョブ:【高位製図師】

 サブジョブ:【高位手順書士】【製図師】【手順書士】【生産者】【鍛冶師】【細工師】【装飾職人】

 備考:<プロデュース・ビルド>の一員であり、クランでの生産に於ける設計図や【レシピ】の政策や一般向けの特性【レシピ】販売を担当している。ゲームとかでボタンをポチポチして単純作業生産をするのが好きなタイプであり、スキルを使えばサクッと生産出来るデンドロの仕様が気に入ったので生産職をやっている。

 なので<エンブリオ>もそれに合わせて【レシピ】を介した生産バフになっているが、ダラけて居ても文句を言われない今のクランは気に入っているのでメンバーでの合同生産では手間を掛けて高性能な設計図を作ったりもしている。

 彼女のレシピ・設計図は様々な生産行為(<エンブリオ>を含む)に対してバフが掛けられるので、ゲンジと同じくクラン内生産活動の要として扱われている。

 

【図面改算 ゴブニュ】

<マスター>:マキア・マジカ

 TYPE:ルール

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:レシピ・設計図

 固有スキル:《改造の判》《成功の秘》《昇華の印》

 必殺スキル:《三振の神槌(ゴブニュ)

 備考:モチーフはケルト神話において槌を三振りするだけで完璧な武器を製造したとされる工芸神“ゴブニュ”。

 設計図やレシピを作る際の自由度が上がり内容が細かく詳しい程他の二つのスキルの効果が上昇する《改造の判》、自身が作った【レシピ】における生産スキル効果・成功率を上昇させる《成功の秘》、自身が作ったレシピ・設計図通りに作った生産物の性能を上昇させる《昇華の印》による生産行動へのバフを掛ける事に特化している。

 必殺スキルは自身が作った設計図での生産時で使われる生産スキル一つの成功率を大幅に引き上げると言うもの。スキル使用の為のストックは三つあり24時間で一つ回復する。複数回同じスキルに掛ける事も可能。

 

 

 アバター名:鵜崎

 性別:男

 メインジョブ:【宝石職人】

 サブジョブ:【彫金職人】【宝石師】【彫金師】【宝石細工師】【装飾師】【採取師】

 備考:<プロデュース・ビルド>の一員であり、希少鉱石素材の生産と宝石・金属加工担当。簡単に取れる宝石・鉱石をちょっと加工してから売って儲けていたが、その手の特殊素材の流通ルートを持っているクランの話を聞いて加入した。

 ソシャゲとかでログインボーナスをこまめに貰ったり貯めたそれらでガチャを回すのが好きなタイプだったが、昔それが行き過ぎてリアルで重課金兵だった時に生活が苦しくなってからは現実の金を使う事からは足を洗っている。その代わりに現実の金を使えないデンドロで<エンブリオ>で取れたアイテムを売って出来た金をギデオンのガチャを楽しんでいる(そしてしょっちゅう爆死している)

 なので生産自体にはそこまで熱心では無いがデザインセンスとかは良いので普通に売れており、本人もゲーム内で所属するクランとして今の緩い感じが気に入っているので必要なら生産の手伝いをしたり希少素材をメンバーに安く売ったりしている。

 

【果樹宝咲 ゴールデンアップル】

<マスター>:鵜崎

 TYPE:フォートレス

 到達形態:Ⅳ

 能力特性:希少鉱石生産

 固有スキル:《金の生る木》

 必殺スキル:《黄金と成る樹(ゴールデンアップル)

 備考:モチーフはさまざまな国や民族に伝承される民話や説話の果実である“黄金の林檎”。大きな一本の木の姿をした<エンブリオ>で、スキル《金の生る木》によって大地からリソースを吸収して一定間隔で様々な金属や宝石で出来た果実を付ける。

 また自身のHP・MP・SPを注ぎ込んだり所有するアイテムをコストとして捧げる事で、生成される宝石・金属の質と数を上昇させたり次の果樹が生る間隔を短くする事も可能だが、基本的にどんな金属・宝石が生成されるかは完全なランダムであり、木に果実として生る特性から一度に取れる量は平均的な果実程度の質量は余り多くないが、その分だけ高品質の物が生成されやすい。

 必殺スキルは【ゴールデンアップル】そのものを何らかの金属・宝石素材へと変換するという効果で、<エンブリオ>自体をコストにしているので相応に高品質で大質量な素材を獲得出来るが、<エンブリオ>自体が再生するまで使用不可になるクールタイムも30日と長い。

 

 

 アバター名:ドワガール

 性別:女

 メインジョブ:【装飾職人】

 サブジョブ:【高位武器職人】【装飾師】【武器職人】【鍛冶師】【木工師】【裁縫屋】

 備考:<プロデュース・ビルド>の一員で、名前通り女ドワーフっぽいアバターをした<マスター>。西洋系ファンタジー作品やそこに出てくる伝説の武器とかが好きで初期開始国家はレジェンダリアと迷ってコイントスで決めたらしい。

 純生産系ビルドであり様々なアクセサリーや装備品の生産・研究を行っており、クランに入ったのもエルザから話を聞いて希少素材が安く手に入ると思ったのもある。クランの方針も『オーダーメイド装備』を作る事に特化した自身の<エンブリオ>と相性が良いのでエンジョイしている。

 最近はテイムモンスター用にHPを1だけ残して【ジュエル】に収納させて生存させる【臨死の救命】のスキル装備が兄に売れたので、それを機に他のテイマーにも売ろうとしたのだが『そもそもHP1なら状態として大体死んでるし、死期を伸ばすしか出来ないんじゃ?』と言われて売れなかったので現在改造中(兄が買ったのはネリルが超級回復魔法も使えるから)

 

【専要装造 ドヴェルグ】

<マスター>:ドワガール

 TPYE:ルール・カリキュレーター

 到達形態:Ⅳ

 能力特性:オーダーメイド装備作成

 固有スキル:《依頼者は神魔も問わず(エニワン・オーダー・メイキング)》《汝の血肉で完成させん(ジーン・インクルード)》《因子解析》

 備考:モチーフは北欧神話で対価に応じて神々の象徴となる魔力のある武器や宝の制作をする優れた匠としても描かれる闇の妖精“ドヴェルグ”。形状は二の腕部分に機械がついたオープンフィンガー型の長手袋。

 他者から装備を作成する依頼を受けた時のみ生産スキルの効果を引き上げる《依頼者は神魔も問わず》と、対象の遺伝情報の一部を機械部分に取り込む事で作る装備品を対象専用にする代わりにスペックなどを強化・改造する《汝の血肉で完成させん》によるオーダーメイドの装備を作る事に特化している。

 遺伝情報はモンスターの物でも問題無く、その場合は例え人間用の装備でも装備条件やサイズなどを改変してそのモンスターに装備出来る様にする事すら可能。更に自身の所有物をコストに情報を記録して、それらのデータを生産物に反映させる《因子解析》によって改造の範囲・自由度を上げている。




あとがき

そういう訳でエルザ&<プロデュース・ビルド>の紹介でした。ジョブ名に関しては即興で考えたので深い設定は考えておらず今後変える可能性があります。


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アルター王国<マスター>設定まとめ:その2

※注意:最新話までの登場人物の設定を乗せています。ネタバレもあるので、それが嫌な人は読み飛ばすかブラウザバックするかして下さい。

12/2キャラ設定を追加


 アバター名:レオン・ハート

 性別:男

 メインジョブ:【黒騎士】

 サブジョブ:【聖騎士】【騎士】【弩弓手】【短槍士】【戦棍士】【盾騎士】【斥候】

 備考:三兄妹の知り合いであるアルター王国で騎士ロールプレイをやっている<マスター>で、実は兄とは【聖騎士】の転職条件を教えるなどしてその後も多少の付き合いがあった。

 現在は同じ騎士ロールプレイの<マスター>を集めて<アルター王国自由騎士団>というクランを作り、【聖騎士】の就職条件を広めたなどの功績から成り行きでクランリーダーに収まっている。現在は騎士系統のジョブクエストを始めとした騎士っぽいプレイに励み、その過程で危険なクエストやボランティアなども行なっているので王国の騎士達からもそれなりの信頼を得ている。

 戦闘スタイルは手持ち武器を強化して戦いつつ相手によって武器を使い分ける正統派だが、最近は偶々条件を満たす事が出来た騎士系統派生上級職【黒騎士(ブラックナイト)】のジョブとの組み合わせを考えている。

 

【獅支心応 ライオンハート】

<マスター>:レオン・ハート

 TYPE:ウェポン

 能力特性:手持ち武器強化

 到達形態:Ⅴ

 固有スキル:《イミテーション・エクスカリバー》《レンジレス・アームズ》《リリーフ・ウェポン》

 必殺スキル:《駆けよ獅子心王、其の聖剣は真成らずとも(ライオンハート)

 備考:モチーフはイングランドの王であり自分の剣に『エクスカリバー』と名付けていたリチャード1世の異名“獅子心王(ライオンハート)”。形状は獅子の意匠をあしらった白い小型の籠手で手に持った装備に効果を発揮する。

 手に持った武器の性能を強化(第五形態時は片手につき+250%、一つだけを両手持ちにすれば効果は累積する)する《イミテーション・エクスカリバー》、MP消費で手持ち武器の射程を上昇させる《レンジレス・アームズ》、手持ちの装備で使うジョブスキルの消費MP・SP・クールタイムを軽減させる《リリーフ・ウェポン》と言ったスキルによって武器を使った戦闘を補助する効果がある。

 必殺スキルは手持ち武器の合計装備攻撃力分AGI上昇、合計装備守備力分攻撃対象の防御力減少、手持ち武器で使うジョブスキル効果大幅上昇というシンプルな強化能力。コストも騎士系統ジョブを取っているので多いHPの継続消費でクールタイムも十分程と使いやすく、騎士団の訓練にも積極的に参加している本人の技術と合わせて純竜級モンスターのソロ討伐も可能。

 

 

 アバター名:アミタリア

 性別:女

 メインジョブ:【魔導騎兵】

 サブジョブ:【魔導盾】【騎兵】【盾士】【魔法盾士】【魔術師】【冒険家】【写真家】

 備考:<Wiki編纂部・アルター王国支部>の一員。<エンブリオ>を使っての人員輸送、戦闘時には前衛での壁役を主に担当している。

 写真とサーフボードが趣味であり旅行先で珍しい風景を撮ってはネットに上げたりしていたので、デンドロ内の写真撮影に都合が良いと思って編集部に入った。今も暇な時は編集部の伝手で手に入れたカメラ系アイテムと映像出力アイテムを使い、【プリトヴェン】に乗って色々な風景の写真を撮っている。

 

【暴風盾板 プリトヴェン】

<マスター>:アミタリア

 TYPE:ギア・ウェポン

 能力特性:風による移動

 到達形態:Ⅴ

 固有スキル:《ホバーダッシュ》《エアロバースト》《ウィンドリダクション》

 必殺スキル:《吹き荒べ、嵐の王(プリトヴェン)

 備考:モチーフはアーサー王伝説で語られる盾とも船とも言われるアイテム“プリトヴェン”。大型のサーフボード形態と手持ち出来るサイズの盾形態に変形する<エンブリオ>で、上級に進化した際に数が二つに増えてそれぞれ別の形態で使ったり同じ形態同士を連結させて威力を上げる事も出来る様になった。

 サーフボード形態ではMPを消費して陸・海・空を移動するホバー移動を行う事が出来て、盾形態ではMPを消費して殺傷性が低い代わりに相手を吹き飛ばすノックバック効果が高い暴風を発生させる。サーフボード形態では空気抵抗軽減、盾形態では暴風を起こした時の反動を軽減するパッシブスキル。

 必殺スキルは効果終了後の<エンブリオ>自壊と引き換えに大気放出効果を短時間だけ超大出力化するもので、更に形態変化なく全スキルが使用可能になり大気放出の指向性の操作や殺傷性が元通りになるので風属性上級魔法以上の威力の攻撃なども可能になる。

 

 

 アバター名:リゼ・ミルタ

 性別:女

 メインジョブ:【高位呪術師】

 サブジョブ:【増幅術師】【魔術師】【付与術師】【防術師】【司祭】【呪術師】【斥候】

 備考:<Wiki編纂部・アルター王国支部>の一員であり、デンドロの魔法に関する研究考察担当。戦闘に関しては分かりやすい純魔法型の支援タイプで、他者の魔法効果の強化に特化した付与術師派生上級職【増幅術師】で自分の<エンブリオ>を強化するスタイル。

 元々ファンタジー系の魔法が好きで以前からゲームの攻略wikiとかに魔法関連の使い方を書き込んだりしていたから<Wiki編集部>に入ったタイプで、今も異常に複雑なデンドロの魔法理論をどうにか分かりやすく解析できないかオーナーなどと一緒に奮闘中。

 

【支援妖精 フェアリー】

<マスター>:リゼ・ミルタ

 TYPE:レギオン

 能力特性:魔法運用支援

 到達形態:Ⅴ

 固有スキル:《マジカル・ラーニング》《マジカル・コントラクト》《フェアリー・コーラス》

 必殺スキル:《たくさんふえるよ!(フェアリー)

 備考:モチーフは西洋の神話や伝説に登場する超自然的存在の総称“フェアリー”。見た目は身長20センチぐらいの三頭身ゆるキャラ妖精。ステータスはMP極特化で浮遊可能。必殺スキルで増やしたモノ以外のオリジナル【フェアリー】は第五形態時で5体。

 この【フェアリー】達はマスターが習得した魔法系スキルを確定で、又は発動を目撃した魔法系アクティブスキルを最大1%(魔法によって隔離変動)の確率で【フェアリー】がスキルレベル1の状態でラーニングする《マジカル・ラーニング》や、【フェアリー】が覚えている魔法を一体につき一つマスターが使える様になる《マジカル・コントラクト》、マスターと【フェアリー】で擬似的に《ユニゾン・マジック》発動させる《フェアリー・コーラス》と言ったスキルで様々な自在に魔法を運用してくれる。

 必殺スキルは自分のジョブレベルをコスト(大体約上級職100レベル分)として【フェアリー】のコピーを一体増やすと言うもので、チャージ時間とも言えるクールタイムが30日かかる。レベルを捧げてジョブをリセットしつつ、別の魔法系ジョブを取って【フェアリー】に更なる魔法をラーニングさせるのが主な使い方で、初の必殺スキル使用時には【賢者】を捧げて新たに一体作ったので代わりに【高位呪術師】を取っている。

 

 

 アバター名:久遠たむー

 性別:男

 メインジョブ:【鷹匠】

 サブジョブ:【大弓狩人】【狩人】【弓狩人】【弓手】【怪鳥師】【観測手】【尾行者】

 尾行:<Wiki編纂部・アルター王国支部>の一員であり、主に<エンブリオ>を使っての探索・索敵並びに弓を使っての遠距離支援戦闘を担当している。

 元々隠しダンジョンやレアモンスターを見つけるのが趣味であり、デンドロでも情報を集めながら<エンブリオ>を使ってそういった要素を見つけ出している……が、その途中で自身や【ヤタガラス】が強力なモンスターに襲われてデスペナになる事も多い模様。

 

【誘導神鳥 ヤタガラス】

<マスター>:久遠たむー

 TYPE:ガーディアン

 能力特性:導き

 到達形態:Ⅴ

 固有スキル:《神鳥の導き》《金烏の炎》《誘導光》《視覚転写》《金烏の火の粉》

 備考:モチーフは日本神話に登場するカラスにして導きの神“八咫烏”。外見は小型の三本足のカラスでステータスはMP・AGIが高く、頭も良いので短文なら喋る事も可能。

 基本的に“目的地”を設定、その情報量・距離・自身の能力・隠蔽度合いなどからスキル行使が可能かを判定して、成功した場合【ヤタガラス】がそこまで飛んで行く《神鳥の導き》によってレアモンスターや隠しダンジョンなどを探したり、【ヤタガラス】の視界をマスターと共有する《視覚転写》での索敵を主に行う。

 一応、目視した対象を追尾する金色の炎を発射して攻撃する《金烏の炎》や、攻撃を当てた敵一体にマスターの攻撃を誘導する《誘導光》、誘導効果・軌道操作効果などの特性があるスキルの制御権を奪い取るチャフをばら撒く《金烏の火の粉》で戦闘も可能だが、そもそもステータスがMP・AGI型で同ランクのガードナーと比べても低めなので直接戦闘には向いていない。

 

 

 アバター名:モヒカン・ディシグマ

 性別:男

 メインジョブ:【盾巨人】

 サブジョブ:【守護者】【盾士】【塔盾士】【盾騎士】【双盾士】【防術師】】【斥候】

 備考:三兄妹を襲ったPKの一人であるモヒカン……だったが、かなりエグい戦術であっさりと返り討ちにされてからは相方のボッチーと一緒に足を洗って、現在は<モヒカン・リーグ>アルター支部に入って三兄妹との遭遇を避ける為に辺境でボランティアに邁進している。

 戦闘スタイルは<エンブリオ>を含む盾を使ったガチガチの前衛壁役で、相方であるボッチーを守りつつ彼の味方毎吹き飛ばす広範囲攻撃もガードする防御特化系。一応【盾騎士】や【双盾士】などでの盾を使った打撃スキルでの単独戦闘も出来るが、PKだった時に妹に単騎で挑んで頭を潰されてからは連携を重視する様になった。

 

【盾備板端 アイアス】

<マスター>:モヒカン・ディシグマ

 TYPE:ウェポン

 能力特性:障壁展開

 到達形態:Ⅴ

 固有スキル:《七の青壁(セブン・シャッター)》《鋼の赤壁(ハード・シャッター)》《撃の黒盾(リベンジ・シールド)》《再の茶盾(レストア・シールド)》《操の緑壁(ディフォーム・シャッター)

 備考:モチーフは“ギリシャ神話の英雄大アイアスが持つ盾”である盾型のアームズ。後述のスキルに色々と制限がある分だけ純粋に盾としての性能(装備攻撃力と装備防御力)が高くなっている。

 基本的に25万近い耐久値と間接攻撃に関してはダメージを半減する効果を有する障壁を展開する《七の青壁》を主体とした障壁展開能力を有する防御系<エンブリオ>だが、ストックは7つだけで一つの回復に1時間掛かるので連続戦闘には向いていない。

 その分上記の空きストック数×2秒間だけ展開中の全障壁の耐久値が減らなくなる《鋼の赤壁》や、MPを消費して展開した障壁を移動・変形・拡大などの操作を行える《操の緑壁》を適時使って最適な防御を行う。或いは空きストック数×3秒間戦闘中に障壁が受けたダメージ分アイアス本体の攻撃力を上昇させる《撃の黒盾》でのカウンター戦術や、盾で攻撃を受けた時ダメージ数×1秒分上記ストック回復時間を短縮する《再の茶盾》による継戦時間増加などの戦術も取れる。

 

 

 アバター名:ボッチー

 性別:男

 メインジョブ:【黒土術師】

 サブジョブ:【高位付与術師】【魔術師】【防術師】【付与術師】【司祭】【生贄】【裁判官】

 備考:リアルで付き合っていた彼女にフラれたので腹いせにデンドロでカップルを爆殺していたPK……だったが、兄に返り討ちにされて頭が冷えたので引退。今は迷惑を掛けた詫びも兼ねて相方のディシグマと共にボランティア活動とかをしている(クランにはモヒカンになるのは嫌なので入っていない)

 戦闘スタイルは爆破(自爆)が得意なガードナーを強化しての広範囲攻撃で、味方を巻き込みそうな時には相方のディシグマにフォローして貰う形。単独でも土属性魔法で壁を作って防ぎながら戦えるビルドになっているが、PK時代に取った【裁判官】は別のに変えようかと思っている。

 

【爆炎再誕 ベンヌ】

<マスター>:ボッチー

 TYPE:ガーディアン

 能力特性:自爆・再誕

 到達形態:Ⅴ

 固有スキル:《爆炎鳥(エクスプロージョン)》《爆裂羽弾(エクスプロード・フェザー)》《爆裂羽陣(エクスプロード・マイン)》《再誕鳥(リ・ボーン)》《魔力蓄積》

 必殺スキル:《爆裂転成(ベンヌ)

 備考:モチーフはエジプト神話に伝わる不死の霊鳥“ベンヌ”であり、スキル型でステータスはそこまで高くは無いが二人ぐらいは背に乗せて飛ぶ事も出来る大型の鳥型ガードナー。

 メインの攻撃方法は自爆する事で自身のステータスに比例した威力の高熱と衝撃波を発生させる《爆炎鳥》による自爆特効。他には左右の翼に30枚づつある特殊な羽を分離・射出した上で爆発させる《爆裂羽弾》や、その羽を多数に分裂させ滞空・低速移動・接触でも爆発という設定で周囲に散布する《爆裂羽陣》と言った身を削っての爆破を駆使する。

 だが、自爆は言うまでもなく羽に関しても一枚消費する毎に自身の全ステータスが1%低下する仕様故に継戦能力に欠けている。それを補う為MPを支払う事で上記スキルによる損耗を回復させる《再誕鳥》と、それに使う魔力を事前に蓄積(容量は第五形態で25万程)出来る《魔力蓄積》のスキルもあるが典型的な蓄積型なので連続戦闘は苦手。

 必殺スキルはマスターと【ベンヌ】が融合したのちに蓄積魔力を全て使って自己強化を行いステータスを大きく引き上げると言うもので、更にこの手のスキルにありがちな発動までのチャージ時間も存在せず即座に使用できる……のだが、実は融合してから10秒後に自動で超強力な大爆発を起こす自爆スキルでもある。当然融合しているマスターも死ぬ。

 

 

 アバター名:シュバルツ・ブラック

 本名:新垣貴志

 性別:男

 メインジョブ:【疾風槍士】

 サブジョブ:【呪槍士】【槍士】【双槍士】【魔法槍士】【呪術師】【伏兵】【斥候】

 備考:アルター王国所属の<マスター>で、高い実力と狙いを定めたターゲットの事を事前に念入りに調べる慎重さを持ち合わせた優秀なPK。昔やっていたMMOでレアスキルで粋がってるプレイヤーに初心者狩りされたのをキッカケに、トッププレイヤーやイキるPK専門のPK活動を始めとして名を馳せていた。

 ……が、デンドロのPK始めとしてそこそこ有名だった三兄妹に狙いを定めたら返り討ちに、その後対策を講じて敗北した末妹にリベンジを仕掛けるも惜敗、更に現実での気になるクラスメイトが実は妹──美希だった事に気が付いて頭を抱える事になり、現在はPK稼業を中止して今後どうしようか悩みながら三兄妹と顔を合わせない様に王国の辺境で普通にプレイしている。

 それでデンドロ辞めようかなとも思ったが、PK辞めて普通にプレイしていたら何故か高性能な武器や特典武具を手に入れられたので『ここで辞めるのもなぁ』となり、現在は特典武具に合わせてジョブビルドを見直しつつ今後どうするかを考えている。

 

【滅神呪槍 ミスティルテイン】

<マスター>:シュバルツ・ブラック

 TYPE:テリトリー・アームズ

 能力特性:特化能力に対する特効

 到達形態:Ⅴ

 固有スキル:《輝ける命脈よ、尽き果てろ(フォース・アベレージング)》《輝ける身体よ、墜ち果てろ(パワー・アベレージング)》《輝ける技巧よ、色褪せよ(スキル・バニッシュ)》《輝ける才覚よ、消え失せよ(レベル・ブラスト)》《ヤドリギの枝よ、天へ伸びよ(カース・ルート)

 備考:モチーフは北欧神話において無敵の肉体を持つと言われた神“バルドル”を殺したヤドリギで出来た槍“ミスティルテイン”。木製の槍で装備攻撃力は低めでありステータス補正も平たく余り高くは無い。

 主な能力は<エンブリオ>が接触した対象(自身含む)全ての最大HP・MP・SPの内で最も高い数値一番低い数値と同じにして、更にこの効果が適応されている対象に攻撃する場合のみ槍の攻撃力はその減少数値の半分だけ上昇させる《輝ける命脈よ、尽き果てろ》と、最大STR・END・AGI・DEX・LUCの内で最も高い数値を一番低い数値と同じにして、その減少数値分だけ槍の攻撃力を上昇させる《輝ける身体よ、墜ち果てろ》による無差別デバフと攻撃力上昇。

 他にも同じ条件で上級職以上のジョブスキル・ジョブレベルを封印する《輝ける技巧よ、色褪せよ》や、その合計レベル×50の固定ダメージを与える《輝ける才覚よ、消え失せよ》などを使える他、HPを任意消費して展開したHP100につき直径1メートルの円形ドーム状をフィールドの範囲内に入った者全てを『<エンブリオ>が接触した対象』にする《ヤドリギの枝よ、天へ伸びろ》などで強制的にスキルの発動条件を満たす事も可能。

 

 

 アバター名:ガイアー

 性別:男

 メインジョブ:【重装戦士】

 サブジョブ:【鉄拳士】【重戦士】【鎧戦士】【拳士】【蹴拳士】【格闘家】【冒険家】

 備考:アルター王国の<マスター>で強敵とのタイマンが生き甲斐な奴。これは初日にログイン勢によくある『本物のVRMMOに出会った感激で辺りを走り回ったらモンスターに襲われる』展開の際に、それを苦戦しながらも倒した事でその興奮にやみつきになったから(その後は別のモンスターに襲われてデスペナになった)

 その後は強敵に積極的にタイマンを挑み続けておりPKの扇動に分かっていながら悪ノリして三兄妹に挑んだ事もあるが、基本的にティアンに迷惑が掛かるような犯罪行為は萎えるからやらない様にしている。

 戦闘スタイルは全身鎧の<エンブリオ>を装備しての近接格闘であり、本人の好みと能力との相性から足を止めて徹底的に殴り合うのが基本。

 

【大地巨鎧 アンタイオス】

<マスター>:ガイアー

 TYPE:エルダーアームズ

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:接地

 固有スキル:《チューニング・アーマー》《大地の加護》《代打鎧(ピンチヒット)》《ガイア・インパクト》《ガイア・バースト》

 必殺スキル:《大地に立つ不屈の巨人(アンタイオス)

 ・モチーフはギリシャ神話のポセイドンとガイアの息子であり、大地に足が付いている限り無限に復活して強化される巨人“アンタイオス”。高い強度・装備攻撃力・装備防御力を持った全身鎧だが、装備した時はアクセサリーと特殊装備品枠以外の両手装備枠も含めた全身の装備枠を使用する。

 重厚な全身鎧であるが肉体と遜色無く自在に稼働して視覚・聴覚などの五感も十全に運用出来る上、接地中はそれらの行動に対する制限への抵抗力も上昇する《チューニング・アーマー》の存在もあって意外と俊敏に動く。それと大地のリソースを吸い上げて鎧を自動修復する《大地の加護》や、発動中に自分自身が受けるダメージや状態異常などを鎧へのダメージに変換するアクティブスキル《代打鎧》があるので耐久力も高い。

 また鎧による直接攻撃時のダメージを『装備攻撃力分の固定ダメージ』に変更する《ガイア・インパクト》や、その戦闘中に鎧が受けたダメージ+装備防御力分の攻撃力を持つ衝撃波を発生させる遠距離攻撃技の《ガイア・バースト》と言ったアクティブスキルもある。ただしクールタイムは長め。

 必殺スキルは戦闘中に【アンタイオス】がダメージを受ける度に装備攻撃力・防御力が上昇し、更にSTR・END・AGIに対する装備補正が追加・強化されるというパッシブ型で上記の再生能力や身代わり能力もあってグングンステータスを引き上げられる。

 だが、モチーフ通りと言うか【アンタイオス】の固有スキルは全て“地面に接地している状態”でのみ発動可能で、必殺スキルも地面から1秒以上離れたら強化が解除されるデメリットがある。




あとがき

アルター王国<マスター>PK勢(元含む)と編集部勢+αでした。ジョブの読みとかはまだ考えてない所とかもある。


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アルター王国<マスター>設定まとめ:その3

※注意:最新話までの登場人物の設定を乗せています。ネタバレもあるので、それが嫌な人は読み飛ばすかブラウザバックするかして下さい。


 アバター名:日向葵

 本名:日向葵

 性別:女

 メインジョブ:【手刀拳士】

 サブジョブ:【賢者】【拳聖】【魔術師】【魔拳士】【拳士】【蹴拳士】【斥候】

 備考:クラン<月世の会>に所属する<マスター>の一人で、妹・末妹のフレンド。現実では生まれつきのアルビノ中学生少女であり、一応日光対策をすれば日常生活を送れるが病弱なので病院通い。

 その病院が<月世の会>関連の病院であった事とクランオーナーである月夜と知り合いだった事が縁でクランに加入したが、現実の方では<月世の会>には入っていなかったりする(デンドロは外で遊べない彼女の為に両親が買って来てくれた)その所為か月夜とは割と年の離れた友人みたいな気さくな関係になっており、偶に腹黒過ぎる行動に辛辣なツッコミを入れる事も。

 戦闘スタイルは<エンブリオ>に蓄積された熱エネルギーを使って【賢者】の魔法や【魔拳士】【付与術師】の身体強化を駆使する感じだったが、特典武具【ヒートライザ】を手に入れてからは純格闘型にジョブビルドを移行させている。これは火属性魔法で熱エネルギーをチャージする必要も無くなった事や、特典武具の装備スキルで遠距離攻撃が可能になった事、同じく特典武具の高熱を肉体に纏う装備スキルと近接格闘の相性が良かった事も原因。

 

【日天鎧皮 カルナ】

<マスター>:日向葵

 TYPE:アームズ

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:光・熱エネルギー吸収&蓄積

 固有スキル:《日天吸蓄(サンシャイン・アブソーブション)

 必殺スキル:《日輪殲洸(カルナ)

 備考:モチーフはインドの叙事詩『マハーバーラタ』に登場する皮膚と癒着した黄金の鎧を持って生まれてきた英雄“カルナ”。全身の皮膚を置換した人工皮膚型の<エンブリオ>で装備枠はアクセサリー枠を一つ消費する。人口皮膚とはいえアームズなので通常の皮膚より遥かに強靭であり、特に刺突・斬撃に対する防御力は高い。

 固有スキルは自身への光・熱エネルギーによるダメージを吸収・蓄積して、更にMP・SPを使う自身のスキルを使用する際に代わりとしてその蓄積エネルギーを使う事が出来る《日天吸蓄》一つだけの単機能特化型。これによりデメリットとして自分に高熱によるダメージが発生する特典武具などを自在に使える様にするなどしている。

 必殺スキルは蓄積した全光熱エネルギーに最低限の指向性を持たせて放出すると言うシンプルなもの。クールタイムは24時間で他のデメリットとして発動後には十分間《日天吸蓄》の『MP・SPの代わりに蓄積エネルギーを使う』能力が使用不可能になる(光熱吸収の方は使用可能)

 マスターの『日の光を浴びたい』という願いの元で生まれた<エンブリオ>だが、アバターの時点で日光下での活動は問題無かったので光熱エネルギー蓄積の方がメインになった。

 

 

 アバター名:小鳥遊雲雀

 本名:小鳥遊雲雀

 性別:女

 メインジョブ:【教会騎士】

 サブジョブ:【司教】【司祭】【助祭】【付与術師】【死兵】

 備考:クラン<月世の会>に所属する<マスター>の一人で、リアルでは<月世の会>関係の病院に所属している終末期医療担当の看護師であり、業務の一環としてデンドロ内部での患者のケアやデンドロが患者に与える影響の調査の為にデンドロをやっていた。

 デンドロのハードは患者優先で自分はアカウントだけ作って必要に応じてハードを借りていたが、最近ようやく自分用のハードを買う事が出来たので仕事以外にも息抜きにログインする事も出来る様になった。

 仕事が忙しいのでログイン時間が少ない事や<エンブリオ>の能力がピーキー過ぎる事から戦闘能力自体は低いが、仕事内容が『デンドロ内の患者の観察とケア』なのでクランメンバーでパーティー組む事を前提として支援と自身の生存能力特化でジョブビルドを組んでいる。

 

【回生杖 アスクレピオス】

<マスター>:小鳥遊雲雀

 TYPE:アームズ

 到達形態:Ⅳ

 能力特性:蘇生

 固有スキル:《パーフェクト・リザレクション》

 備考:モチーフはギリシャ神話に登場する名医であり医神“アスクレピオス”で、ステータス補正はMPに特化した杖型アームズ。固有スキルはMPを消費して蘇生可能時間内の死者を蘇生させる《パーフェクト・リザレクション》のみと言うピーキーな<エンブリオ>。

 だが、リソースをほぼその一点に集中しているが故に効果は強力で、蘇生の際にHP完全回復・【炭化】や部位欠損すら治せる状態異常回復・発動までほぼノータイム・消費MP低・短いクールタイム・複数人同時使用可能な超高性能蘇生スキルになっている。また上級<エンブリオ>になった際には無詠唱発動や装備さえしていれば手に持っていなくても発動可能になったりしている。

 

 

<マスター>:鈴木健太

 本名:鈴木健太

 性別:男

 メインジョブ:【薬効戦士】

 サブジョブ:【隻剣聖】【戦士】【剣士】【隻剣士】【薬師】【斥候】【指揮官】

 備考:クラン<月世の会>に所属する<マスター>の一人で、リアルでは複数の副作用がある薬を常飲しなければならない病気を患っている。その為余り人と接する事も少なく、何時も一人で本やゲームをしていた。

 それ故にデンドロではクランメンバーと共に自由に動ける事を楽しんでおり、戦闘では発現した<エンブリオ>の効果による自己バフや他者への支援・回復などを行うパーティー戦に長けたビルドを組んでいる。更に片腕が<エンブリオ>の装備で塞がる欠点を【隻剣士】系ジョブでもう片方の手で使う剣術の威力をあげる事でカバーしたりもしている。

 

【良薬来効 ヒュギエイア】

<マスター>:鈴木健太

 TYPE:テリトリー・アームズ

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:薬品強化

 固有スキル:《瞬間充薬》《瞬時注射》《霊薬は口に易し》《皆癒の落涙》《魔薬は身に厄し》

 備考:モチーフはギリシャ神話の医神アスクレピオスの娘で健康の維持や衛生を司る女神ヒュギエイア……が持つ、薬学のシンボルにも用いられている“ヒュギエイアの杯”。

 形状は短銃型の無針注射器で、中に入れたポーションを対象に注射する事で即時かつ最高効率で効果を発揮させる《瞬時注射》というスキルを持つ。更に《瞬間充薬》で所有しているポーションを内部へとに瞬時に装填し、それら効果・持続時間を《霊薬は口に易し》で強化及び副作用・デメリットの大幅軽減を行う事によって薬品の効果を最大限に引き出す事が出来る。

 また、そのポーションの効果を範囲内の味方に付与する《皆癒の落涙》による全体バフや、内部ポーションの薬効を反転させて《瞬時注射》と合わせて敵に打ち込む為の《魔薬は身に厄し》による、ポーションのバフ・回復効果扱い故に耐性が機能しにくい特殊な攻撃も可能。

 

 

 アバター名:立花翔

 本名:立花翔

 性別:男

 メインジョブ:【大魔戦士】

 サブジョブ:【賢者】【剣士】【投剣士】【魔戦士】【魔術師】【付与術師】【斥候】

 備考:クラン<月世の会>に所属する<マスター>の一人で、現実では“とある飛行機事故”によって重傷を負い、その後遺症で今は車椅子での生活を余儀無くされている。それ以前は武術をやっていたのだが辞めざるを得なくなったので鬱になっていたが、デンドロの紹介CMにおける決闘の映像を見て『自分もあそこで再び戦いたい』と思い<月世の会>の伝手でデンドロを始めた。

 戦闘スタイルは後述する自身の<エンブリオ>のバフデバフを受ける為と、『せっかくのゲームだし現実では使えない魔法とか使ってみたい』と言う理由で色々な事が出来る器用貧乏なジョブビルドを組んでいる。

 

【同一戦場 コロッセウム】

<マスター>:立花翔

 TYPE:ラビリンス

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:決闘場・無差別バフデバフ

 保有スキル:《高速展開:緊急収納》《特殊規則:能力偏向》《特殊規則:攻撃偏向》《特殊規則:技能偏向》《特殊規則:装備偏向》

 必殺スキル:《絶対平等決闘場(コロッセウム)

 備考:モチーフは古代ローマに於ける円形闘技場の名称“コロッセウム”。第五形態では直径60メートルぐらいで、それ以前の形態のより小さい決闘場を展開する事も出来る。また《高速展開:緊急収納》で高速で展開又は紋章で収納出来るが一度使うと一時間のクールタイムが掛かる。

 そしてスキルは内部にいる者全てに対するバフデバフの複合であり、ステータス一つを半減させ別のステータス一つを倍加させる《特殊規則:能力偏向》、攻撃手段一つによるダメージ量を半減させ別の攻撃手段一つのダメージ量を倍加させる《特殊規則:攻撃偏向》、任意のスキル種別一つの効果を半減させ別のスキル種別一つの効果を倍加させる《特殊規則:技能偏向》、アイテムの種別一つの性能を半減させ別の種別一つの性能を倍加させる《特殊規則:装備偏向》と言った具合。

 必殺スキルは対象一人を選択して自身と一対一で隔離する形で【コロッセウム】を展開、スキルによるバフデバフの効果を第五形態時でそれぞれ四倍と九割減に引き上げて適応するもの。・必殺スキル発動時には外部と内部は隔たれる様に決闘場の上と下に半球状の結界が展開されて壁自体の強度も大幅に上がっているので外部からの干渉や脱出は困難になる。クールタイムは24時間。

 他にもスキルを適応する条件は【コロッセウム】の展開前に設定する必要があり再変更するには再展開する必要がある、バフとデバフは“自身に全ての効果で適応出来る”様な設定でないといけない、発動してから1分以内にバフデバフの内容を敵に告げないと莫大な維持コストを支払われるなどの制限・デメリットがあるが、その分内部限定・無差別・バフ効果との併用な事もあってほぼ全て耐性を突破して効果が適応される。

 

 

 アバター名:佐藤結奈

 本名:佐藤結奈

 性別:女

 メインジョブ:【疾風操縦士】

 サブジョブ:【疾風騎兵】【騎兵】【魔砲兵】【操縦士】【斥候】【探検家】【索敵者】

 備考:クラン<月世の会>に所属する<マスター>の一人で、双子の佐藤姉妹の大人しめな姉の方。現実では姉妹揃って生まれつきの病で入退院を繰り返しており、そのせいか殆ど友人おらず姉妹でゲームなどをするしか出来なかった。レースゲーム好き。

 故にデンドロでも基本的に姉妹揃って行動しているが、これまで余り機会が無かった他の人間との遊び──<月世の会>のクランメンバーとのデンドロプレイが出来て嬉しく思っている。

 戦闘スタイルは乗機である<エンブリオ>に乗った上で速度強化系のバフ効果を積んでの高速戦闘であり、火力面は妹の方に任せてジョブ構成は騎乗系と索敵系に特化している。最近では自分に適したジョブに就く為にドライフへと遠征した。

 

【八速騎動 スレイプニル】

<マスター>:佐藤結奈

 TYPE:ギア

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:斥力力場・滑走

 スキル:《滑走機動(スライドムーブ)》《自在機動(フリームーブ)》《機動負荷軽減》《リパルジョンブラスト》《リパルジョンバリア》《リパルジョンブレード》

 備考:モチーフは北欧神話に出て来る八本足の馬である“スレイプニル”で、見た目は八本足で一人乗りの有脚戦車。強靭で可動域の広い脚部を使った走行でも亜音速レベルでの移動・跳躍と高い走破性・旋回性を有しており、スキル《滑走機動》を使い斥力によるホバー機動に切り替えれば超音速で移動可能になる。その場合は加速・旋回性に関しては問題ないが、地上の起伏に合わせて滑走する仕組みなので道が険しすぎると上手く動けない欠点がある。

 更に移動時に掛かるマスターへの負荷・慣性など軽減する《機動負荷軽減》や、多脚時には天井に張り付く事すら出来て滑走時には水上走行すら可能になる《自在機動》と言った補助スキルを組み合わせて行うアクロバティックな機動が持ち味。

 また戦闘手段として足先から斥力力場を応用した衝撃波の弾丸や、斥力を広範囲に展開してそれによって攻撃を弾く障壁、剣状に展開した障壁の両側面から逆方向に斥力を発生させて刃に当たる部分に触れた物体を割り裂く斥力ブレードが使えるが、機動力を重視した<エンブリオ>なので総合的に攻撃能力は余り高くない。

 

 

 アバター名:佐藤利奈

 本名:佐藤利奈

 性別:女

 メインジョブ:【戦車操縦士】

 サブジョブ:【魔砲兵隊】【魔砲兵】【操縦士】【観測手】【技師】【整備士】【生贄】

 備考:クラン<月世の会>に所属する<マスター>の一人で、双子の佐藤姉妹の活発な妹の方。現実では姉妹揃って生まれつきの病で入退院を繰り返しており、そのせいか殆ど友人おらず姉妹でゲームなどをするしか出来なかった。シューティングゲーム好き

 自身の<エンブリオ>の特性もあって基本的に姉妹揃って行動しているが姉と同じ様に<月世の会>のクランメンバーとのデンドロプレイが出来て嬉しく思っている。

 戦闘スタイルは<エンブリオ>に乗っての遠距離砲撃特化であり、最近では自分に適したジョブに就く為にドライフへと遠征した。

 

【棄動戦車 チャリオッツ】

<マスター>:佐藤利奈

 TYPE:アドバンス・フォートレス・ウェポン

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:騎乗物の火力・輸送能力強化

 スキル:《コネクション》《カートリッジ》《多機能型魔力式砲塔機構(マルチプル・マギカノンシステム)》《万能属性防御障壁機構(マルチエレメント・バリアシステム)》《兵員輸送》

 備考:モチーフは古代の戦争で用いられた戦闘用馬車……『戦車』の総称“チャリオッツ”。その名の通り馬車型の<エンブリオ>で《コネクション》により“他人が所有する”騎乗物に接続する事で真価を発揮する。その際に騎乗物に掛かる自身の重量軽減及び騎乗系スキル効果の共有を行い、騎乗物の移動・加速・停止に合わせて自身も動く様にもなる。

 主兵装の《多機能型魔力式砲塔機構》は備え付けられている三種の魔力砲台による攻撃システムの総称で、まず主砲である上部の大型砲台からは単純威力特化の炎熱弾《火属性爆裂魔弾(ブレイズ・カノン)》、防御スキル貫通に特化したビーム《光属性徹甲魔弾(ピアッシング・ビーム)》、防御力を無視する固定ダメージエネルギー弾《固定威力破砕魔弾(デモリッション・シェル)》を選択して使用可能。次いで左右にある速射可能の自在稼働型副砲からは【麻痺】効果もある指向性を持たせた雷を放つ《雷属性照射魔弾(サンダー・メーサー)》、暴風を巻き起こして広範囲を吹き飛ばす《風属性拡散魔弾(ウインド・バースト)》、浄化効果のある聖属性エネルギー弾を発射する《聖属性浄化魔弾(ホーリー・バレット)》を使用。最後に各部に配置されたミサイル発射管からは敵の生体反応を追尾する物体透過闇属性弾の《闇属性誘導魔弾(ダークネス・ミサイル)》、敵の熱源を追尾する【凍結】効果もある氷属性弾の《氷属性誘導魔弾(フリージング・ミサイル)》、発射後に対空し接触か一定時間経過で炸裂する防御用の《滞空機雷式炸裂魔弾(フローティング・マイン)》を発射可能。

 更に自身と接続している機体に任意の属性一つの防御障壁を纏わせる《万能属性防御障壁機構》も有しており、これらのスキルに使用するMPを1日に第五形態現在では15個の生産できて、それにMPを装填して保管しておける《カートリッジ》によって賄う事が出来る。加えて《兵員輸送》により内部空間を拡張して人員や物品の輸送も行えると非常に多目的に使える機体。

 その反面【チャリオッツ】自体には移動能力が存在せず、更に《コネクション》を使用した状態でなければ《カートリッジ》以外のスキルが使用不可能になってしまうデメリットが存在しており、戦う為には“騎乗物を持った協力してくれる他人”が必要というピーキーな<エンブリオ>であるが彼女の場合には姉の【スレイプニル】と連携する事で純竜すら倒せる火力を十全に運用出来ている。




あとがき

今回は<月世の会>オリジナルメンバー編でした。また今後キャラが追加される事があった場合、これらの設定集の適当な所にそのキャラの情報を追記する事もあります。後誤字報告とかもいつでも歓迎です。


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レジェンダリア<マスター>設定まとめ:その1

※注意:最新話までの登場人物の設定を乗せています。ネタバレもあるので、それが嫌な人は読み飛ばすかブラウザバックするかして下さい。


 アバター名:ひめひめ

 本名:加茂姫乃

 性別:女

 メインジョブ:【大魔弓手】

 サブジョブ:【高位幻術師】【魔弓手】【弓狩人】【幻術師】【付与術師】【観測手】【探検家】

 備考:レジェンダリアのまとも枠の<マスター>で、兄とはリアフレであり両想いの恋人(事情があって未満)な関係。実家は退魔師的な家系で昔は現代ファンタジー的な感じで兄と共にバトル展開になったりラブコメ展開になったりしていたが、現在では色々片付いたので落ち着いている模様。

 デンドロに関しては実家から調査を依頼されてプレイしていたが、兄からの情報提供によって『自分達ではどうしようもないジャンル違いな問題』と判断して今では普通にゲームを楽しんでいる。ただ可愛いロリアバター(若返らせただけ)にした所為か妙に変態に絡まれるのが悩みの種で、それ故にまともな性癖と人格を持つ者を集めて固定パーティーを組んだりした。

 戦闘スタイルは<エンブリオ>である魔法弓を使った遠距離戦で、そこに幻術を絡めての不意打ちや撹乱も行う。どちらかと言えばパーティー戦闘向けの支援系ビルドだが、本人の“魔法弓と幻術を扱うリアルスキル”が図抜けているので単騎での戦闘能力もかなり高い。

 

【光炎矢如 アマテラス】

<マスター>:ひめひめ

 TYPE:アームズ

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:光・火属性魔力矢の生成

 スキル:《光炎之矢》《閃光之矢》《炎勢之矢》《聖浄之矢》《爆裂之矢》

 必殺スキル:《天地一切大祓之矢(アマテラス)

 備考:モチーフは日本神話の太陽神にして主神である“天照大御神”。MPを消費して様々な特性を持つ光・火属性の矢を生成する魔法弓型のアームズで、ステータス補正はMP・DEX特化で後はSTRとAGIにそこそこ。

 生成出来る矢の種類は光熱による単純威力重視の《光炎之矢》、光属性で光速かつ貫通性が高い《閃光之矢》、火属性で当たった相手に延焼による継続ダメージを与える《炎勢之矢》、威力は低いが聖属性故の強力なアンデッド特攻・浄化能力を持つ《聖浄之矢》、着弾又は一定時間経過で爆発する広範囲攻撃用の《爆裂之矢》である。

 必殺スキルはまず矢の種類一つを選択し、それを自身の上空に向けて射って太陽エネルギーをチャージする光球を形成、そして任意のタイミングで光球を選択した特性を持った超威力の矢へと変換させて指定した場所に放つという物。その特性上日照下でしか使えずクールタイムも24時間と長い上、矢を打ち上げてからクールタイム終了まで選択した種別の矢も使えずチャージ時間も最低五分は必要と使い難いが、その分チャージ時間と選んだスキルに応じて威力・射程・弾速・効果範囲を大幅に引き上げる。

 

 

 アバター名:アリマ・スカーレット

 本名:赤城真里亞

 性別:女

 メインジョブ:【狂信者】

 サブジョブ:【剣聖】【戦士】【狂戦士】【剣士】【司祭】【催眠術師】【斥候】

 備考:レジェンダリアのまとも枠の<マスター>で、ひめひめのパーティーメンバーの一人にして末妹の親友。かつてあった“とある事件”以来末妹とは疎遠になっていたが、デンドロで再開した際に仲直り出来たので今では反動でベッタリになっている。

 リアル小学生ロリなので<YLNT倶楽部>のメンバーに声を掛けられる事もあるが、彼女自身が『悪意の無い人間には警戒心を抱かない』事と連中にロリショタへの悪意が一切ない事から比較的仲が良い。その代わりに保護者(ひめひめ)が変態を撃ち抜く事が多々ある(笑)

 戦闘スタイルは<エンブリオ>によってデメリットを廃した狂化スキルによる自己強化からの近接戦闘で、そこに【狂信者】の無差別精神汚染スキル効果を敵だけに限定する精神攻撃を絡めると言う見掛けによらずかなりエグい代物。そこに精神系のデメリットがある装備や特典武具を組み合わせる事で、周りを気にせず無差別精神汚染を行うと言う条件付きで現状でも準<超級>レベルの戦闘能力を有する。

 

【正心偽脳 シャカ】

<マスター>:アリマ・スカーレット

 TYPE:ルール・カリキュレーター

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:精神制御

 固有スキル:《悟りの境地(マインド・セット)》《悟りし者の御業(ソウル・コントローラー)

 必殺スキル:《???(シャカ)

 備考:モチーフは仏教の開祖である覚者の仏名“釈迦”であり、マスターの脳の一部を置換した世にも珍しい『人工補助脳』型の<エンブリオ>。

 固有スキルである《悟りの境地》は“現在掛かっている精神系状態異常や精神に関するスキルの悪影響・デメリットを受けない効果のパッシブスキル。これは単に精神干渉を無効にしている訳で無く“悪影響のみを受けない”効果なので、例えば精神系状態異常に掛かった場合その状態異常に掛かったままでその悪影響のみを受けず、狂化系のスキルを使ったとしても任意行動不能やアクティブスキル使用不可のデメリットのみを無効にしてステータス上昇などのメリット効果のみを享受出来る。また人工補助脳である副次効果として自身が受けている精神汚染の詳細を正確に把握する事も出来る。

 もう一つの《悟りし者の御業》は自身が使う精神系スキルを操作・制御するスキルで、効果範囲を敵限定にしたりオフに出来ない精神系パッシブスキルをオフに出来たりもする。消費コストは操作するスキルによって追加でいくらかMP・SPを消費する感じで、パッシブスキルをオフにする程度ならノーコストで可能だが無差別スキルを制御するならそこそこコストが掛かる感じ。彼女の場合は基本的に無差別系である【狂信者】のスキルや特典武具のスキルを制御する為に使っているが、それ故に味方を気遣う必要のある戦場ではMP・SPの消費が多くなって継戦能力が大きく落ちる。

 尚、第五形態に進化した際に必殺スキルを覚えた様だが『強い事には強いんだけど消費コストに見合った能力とは言えないかな』と言う感じだったので、現在有用な使い方を考察している。

 

 

 アバター名:でぃふぇ〜んど

 性別:男

 メインジョブ:【曲射弓手】

 サブジョブ:【城塞衛兵】【衛兵】【槍兵】【弓手】【長弓手】【防術師】【索敵者】

 備考:レジェンダリアのまとも枠の<マスター>で、ひめひめのパーティーメンバーの一人。アバター名に関しては昔見た特撮ネタから面白そうですネタに出来る変わった名前として付けてみたが、変態の巣窟であるレジェンダリアだとその程度では目立つ事すら無かった。

 戦闘では城壁型の<エンブリオ>で相手の攻撃を防ぎつつ槍や弓で地道に攻撃を仕掛けていくスタイルで、最近では壁を越えて弓を放てる【曲射弓手】のジョブスキルと組み合わせた戦術を試している……が、他のパーティーメンバーと比べて火力不足で戦術も地味な事が悩みの種。

 

【自在城壁 パラスアテナ】

<マスター>:でぃふぇ〜んど

 TYPE:キャッスル

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:城壁

 固有スキル:《フリーダム・ランパート》

 備考:モチーフは都市の守護神としても扱われるギリシャ神話の女神アテーナーの別名“パラスアテナ”。キャッスルとしては珍しく一切の特殊能力を持たない単なる城壁であり、それ故に第四形態現在でも小さな城を囲める程の質量と非常に高い耐久力・強度を持つ。

 固有スキル《フリーダム・ランパート》は【パラスアテナ】の高速展開・高速収納・部分展開・複数展開などを行うと言うもので、イメージ的には紋章内の城壁の一部を切り分けて展開してる感じ。その特性上展開出来る最大質量や形状は大元の【パラスアテナ】の質量と形状までが限界だが、それ以下であれば高さ・幅・厚さなどの設定は自由自在で戦闘中に小型の壁を複数出して味方を守ったりと応用も効く。ただしある程度スキルの副次効果で固定されるとは言え壁や地面など“城壁を支えられる最低限の地盤がある場所にしか展開出来ない”制限もある。

 一見地味であるが壁によって味方を守る・即興で足場を作る・展開速度を活かして敵を閉じ込めるなど色々応用が利き、マスター自身のサポートに長けた判断力もあってパーティーメンバーからは頼りにされている。

 

 

 アバター名:シズカ

 性別:女

 メインジョブ:【祟神】

 サブジョブ:【幽霊術師】【怨霊術師】【死霊術師】【呪術師】【防術師】【付与術師】【召喚術師】【冒険家】

 備考:レジェンダリアのまとも(では無い)枠の<マスター>で、ひめひめのパーティーメンバーの一人。リアルではひめひめの“実家関係”の知り合いであり、彼女曰く『規格は人間だけど在り方──特に精神面ではデンドロで言う古代伝説級の長命な人外に近い』だとか。

 デンドロをやり始めたのはちょうど暇だった時にひめひめがやっているのを見てて興味を持ったからで、彼女に頼み込んでハードを手に入れて貰ったらしい。その時に『デンドロ内ではあくまでも“ゲーム”として楽しんでほしい』と契約して受け取ったので、現在は“不思議系お姉さんポジだけど割とまともな人”のロールプレイをしている。

 戦闘スタイルは<エンブリオ>である自分自身に蓄積した怨念を使った霊体系アンデッド召喚による広域制圧や、大量の怨念を注ぎ込んでラーニングしたスキルを強化しての攻撃が主体。現在は新しく取った超級職【祟神】の怨念操作スキルをどう<エンブリオ>と組み合わせて戦闘に活かすか研究中。

 

【不有幽霊 ゴースト】

<マスター>:シズカ

 TYPE:ボディ

 能力特性:霊体・怨霊集積

 到達形態:Ⅴ

 固有スキル:《幽霊体》《斯の身は怨嗟の受け皿也や》《供物を捧げ、御霊を祀れ》《御霊顕現・霊装招来》《御霊顕現・亡霊召喚》

 備考:モチーフは幽霊や怨霊を意味する言葉である“ゴースト”。自身を“霊体系アンデッド”に置換する《幽霊体》により物理攻撃無効・浮遊可能・物体透過などの恩恵があるが、火・光・聖属性ダメージ大幅上昇・日光下での弱体化・物質透過故に普通の装備品の装備不可と言ったデメリットもある。

 加えてボディ故にステータス補正がSP・STR・ENDがマイナス75%、HP・DEX・LUCがマイナス50%となっており、MP・AGIにも補正は無い……が、周囲の怨念を自身に蓄積してスキル使用時のHP・MP・SP・怨念の代替とする《斯の身は怨嗟の受け皿也や》によって足りないコストを用立てる事が出来るのでスキル使用には問題無い。

 固有スキルである《供物を捧げ、御霊を祀れ》は自身が所有するアイテムをコストとして捧げる事で生物由来であればその情報を自身の合計ジョブレベルの十分の一の数までストック、そうしない場合又はそれ以外のアイテムであればリソース分の怨念に変換蓄積すると言うもので後述する二つのスキルの使用条件に関わる。

 まず一つ目は記録されているストックを自身の使われていない装備枠まで選択して、その中のスキルの内一つを自身のスキルとして使用可能にする《御霊顕現・霊装招来》で、これによりシズカは複数のモンスターのスキルを使用可能になっている。

 二つ目はストック一つを選択してMPを消費する事で霊体系アンデッドに変性させて召喚する《御霊顕現・亡霊召喚》で、消費MPによって維持時間は変わりクールタイムは1分間。

 そのストック内モンスターのステータス・レベルなどは捧げたアイテムの質に比例して、情報の上書き・破棄や同じモンスター由来のアイテムを捧げた際に既にあるストックに上乗せして情報内容の強化も可能。

 

 

 アバター名:クロード

 性別:男

 メインジョブ:【白氷術師】

 サブジョブ:【暗黒術師】【魔術師】【呪術師】【防術師】【付与術師】【斥候】【魔石職人】

 備考:レジェンダリアのまとも枠の<マスター>で、ひめひめのパーティーメンバーの一人。リアル小学生なショタマスターだが、昔プレイしていたネトゲでマナー違反者に苦しめられた事があってゲーム内でのマナー違反には口煩い所がある。

 しかし逆に言えば自分がマナー違反をする事も許せないタイプでもあるので彼自身はマナーを守る良いプレイヤーでもあり、デンドロの自由度の高さと姉であるクラリスからの注意によって最近では多少融通を効かせる様にもなった(とは言えPKやマナー違反の変態には容赦は無い)

 戦闘スタイルは<エンブリオ>によるAGIデバフで動きを止めつつ闇属性魔法で攻撃するか、氷属性魔法で凍らせて動きを完全に封じる魔法型。パーティー内では魔法とデバフによる支援を担当している。

 

【減速領域 スロウス】

<マスター>:クロード

 TYPE:ワールド

 能力特性:減速

 到達形態:Ⅴ

 固有スキル:《足引きの呪縛域(ディーセライレーション・ゾーン)》《届かじの闇衣(ディクリース・フィールド)

 必殺スキル:《過剰励起・怠惰世界(スロウス)

 備考:モチーフは七つの大罪の一つである怠惰を意味する言葉“スロウス”。スキルは全てMP消費制でありステータス補正もMPに特化しており、次いでAGIにも少し振られている。

 第一スキル《足引きの呪縛域》は効果範囲内の敵対対象のAGI及びそれらが使う魔法や飛び道具などの速度にデバフを掛ける呪術系スキルでで、対象と自身の強度差によって変動するが第五形態だと最大で速度を九分の一に出来る。範囲内の敵対対象が多い程に消費MPは多くなる。

 第二スキル《届かじの闇衣》は自分の身体を纏う程度の範囲に『自分への攻撃の運動エネルギーや熱エネルギーなどを大幅に減速・減少させる結界』を展開する防御用スキル。その関係上運動エネルギーや熱エネルギーを伴わない氷属性や闇属性攻撃には効果は無い。

 必殺スキル《過剰励起・怠惰世界》は範囲内の対象一つに対して超強力な“減速効果”を与えるもので、MP消費は対象の能力と減速効果の強度次第で次第でクールタイムも長いが対象が範囲内にいればすぐに発動する、またクールタイム終了まで【スロウス】のスキルは使用不可になるデメリットもある。この“減速効果”は単にAGIを下げるだけでなく発動した遠距離攻撃すらも減速させ、多量のMPを使えば対象の分子運動すらも限りなくゼロに近づけて完全に凍り付かせる事も可能。

 

 

 アバター名:クラリス

 性別:女

 メインジョブ:【大戦僧兵】

 サブジョブ:【肉壁】【槍兵】【投槍兵】【肉盾】【僧兵】【司祭】【冒険家】

 備考:レジェンダリアのまとも枠の<マスター>で、ひめひめのパーティーメンバーの一人であり上のクロードの姉。コミュニケーション能力が心配な弟の面倒を見ていたらひめひめからスカウトされたのでパーティーに入った。

 戦闘スタイルはHP消費でスキルを起動する<エンブリオ>と、HPが上がりやすいジョブ及び自己回復魔法を組み合わせたビルドによる瞬間火力と壁役を合わせた前衛。ただしスキルのクールタイムが長過ぎるので最大戦力での連続戦闘には向かず、本人が必要なら躊躇なく切り札を使うタイプなので予期せぬ遭遇戦も苦手とする。

 

【命琫血槍 ロンギヌス】

<マスター>:クラリス

 TYPE:エルダーアームズ

 能力特性:生命力消費・奇跡

 到達形態:Ⅴ

 固有スキル:《我が命を捧げ無双の力を(サクリファイス・ブーストアップ)》《我が命を捧げ聖なる守りを(サクリファイス・ホーリーシールド)》《我が命を捧げ奇跡の癒しを(サクリファイス・ミラクルヒーリング)》《我が命を捧げ破壊の一投を(サクリファイス・バスタージャベリン)》《我が命を捧げ光の裁きを(サクリファイス・ディバインバスター)》《我が命を捧げ応報の呪詛を(サクリファイス・アヴェンジカース)

 備考:モチーフは神の子の血を浴びて聖遺物となった“ロンギヌスの槍”。見た目は白い長槍に血の様な赤いラインが入っており強度は高いが装備攻撃力はかなり低く、ステータス補正はHP極特化。

 自身のHPを消費して能力特性の“奇跡”に相応しい強力で多様なアクティブスキルを使用可能で、消費したHP四分の一だけ自身のSTR・END・AGI・【ロンギヌス】の攻撃力を上昇させる《我が命を捧げ無双の力を》、消費したHPの十倍の耐久力を持ちある程度の悪性効果も防ぎ変形・移動も可能な聖属性の結界を展開する《我が命を捧げ聖なる守りを》、自身のHPを消費して任意の対象一人の状態異常を回復させる《我が命を捧げ奇跡の癒しを》、消費したHPの半分の速度と攻撃力と追尾機能を有する【ロンギヌス】を投擲する《我が命を捧げ破壊の一投を》、消費したHPの五分の一の攻撃力とそれに応じて射程・範囲を持つ聖属性拡散ビームを発射する《我が命を捧げ光の裁きを》、自身にダメージ・悪性スキル効果を与えた者のSTR・END・AGI・DEX・LUCの内ランダム一つを消費したHPの五分の一だけ減少させつつ呪怨系状態異常を三十種類程からランダムに一つを与える呪いを身に纏う《我が命を捧げ応報の呪詛を》を有する。

 ただし、持続時間があるスキルの最大維持時間は(合計レベル)秒間まで。更に全てのスキルにおいてクールタイムは24時間と非常に長く、また複数のスキルを併用する事も出来ないので使い所を考える必要もある。

 

 

 アバター名:ダーク・バイヤー

 性別:男

 メインジョブ:【邪眼術師】

 サブジョブ:【高位鑑定士】【幻術師】【呪術師】【魔眼術師】【観測手】【鑑定士】【行商人】

 備考:レジェンダリアのまだまとも枠の<マスター>で、デンドロで『何処からか現れた意味深な事を言いながら高性能なアイテムを売ってくる謎の闇商人』と言う非常にニッチなロールプレイを行なっている。

 その為にレジェンダリアの<魔法少女連盟>などの生産系クランなどと渡りを付けてマイナーなアイテムを買い取ったり、それらを上手く使えそうな人間を探して売ったりもしていた……が、HENTAIが多いレジェンダリアだと闇商人ロール程度では相対的に怪しくは見えなかったので、今はアルター王国に移ってレジェンダリアのアイテムを売るなどして活動している。

 ジョブビルドは基本的に<エンブリオ>強化される視覚系スキルに特化しておりアイテムや売り手を見つける為の鑑定に長けているが、戦闘においても強化された魔眼系スキルで戦う事が可能。そもそもデンドロ世界で一人旅が出来たり、アイテム集めの為に亜竜級程度なら一人で討伐出来るぐらいには強かったりする。

 

【視覚過敏 イーヴィルアイ】

<マスター>:ダーク・バイヤー

 TYPE:ルール

 能力特性:視覚系スキル強化

 到達形態:Ⅴ

 固有スキル:《ハイクオリティ・アイズ》《セービング・ルック》《ペネトレイト・ゲイズ》《マルチプル・サイト》《ピーピング・ウォッチ》

 備考:モチーフは世界の広範囲に分布する民間伝承で、悪意を持って相手を睨みつけることにより対象者に呪いを掛ける魔力・邪視・魔眼などを意味する言葉“イーヴィルアイ”。

 固有スキル《ハイクオリティ・アイズ》は自身の視覚系スキルのスキルレベルを第五形態時では5だけ上昇させるパッシブスキルで、最大レベル10までしか上げられないがスキルレベルを超過した数×10%だけそのスキル効果を強化出来る。これを使って【鑑定士】系統の最大レベルが低いと言う欠点を補っている。

 他にも視覚系スキルの消費HP・MP・SP・クールタイム・発動までの時間を軽減する《セービング・ルック》や、視覚系スキルを使う対象のそのスキルに対する耐性や隠蔽・防御スキル効果を減少させる《ペネトレイト・ゲイズ》、視覚系スキルを第五形態までは五つまで同時発動出来る《マルチプル・サイト》、視覚系スキルに隠密効果を付与する《ピーピング・ウォッチ》と言った視覚系スキル補助のパッシブスキルのみで固有スキルは構成されている。




あとがき

そう言う訳でひめひめパーティー+αの設定紹介でした。次回もレジェンダリアのマスター(ただし半分くらいはHENTAI)の紹介になります。後誤字報告いつもありがとうございます。


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レジェンダリア<マスター>設定まとめ:その2

※注意:最新話までの登場人物の設定を乗せています。ネタバレもあるので、それが嫌な人は読み飛ばすかブラウザバックするかして下さい。


 アバター名:ミマモリ

 性別:女

 メインジョブ:【邪眼術師】

 サブジョブ:【高位呪術師】【魔術師】【付与術師】【呪術師】【魔眼術師】【毒術師】【索敵者】

 備考:レジェンダリアの<YLNT倶楽部>に所属している<マスター>(HENTAI)の一人であるロリショタコン。幼気なロリショタを守る事こそ我が使命と思って常に子供達を視姦していると言う、かのクラン内では割とよく居るタイプの人物。

 戦闘スタイルは感知・解析能力に長けた<エンブリオ>と魔法系ジョブスキルによる支援が主体だが、魔眼系スキルと<エンブリオ>による遠視・透視を組み合わせての強力な状態異常戦術も行える。

 

【監視感撮 ヴィルーパークシャ】

<マスター>:ミマモリ

 TYPE:カリキュレーター

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:千里眼

 固有スキル:《四天の千里眼》《四天の透視眼》《四天の解析眼》《四天の読心眼》《広目の天眼》

 必殺スキル:《森羅万象を見通す眼(ヴィルーパークシャ)

 備考:モチーフは仏教の四天王の一角『広目天』の梵名にして、千里眼や尋常でない眼・特殊な力を持った眼とも解釈される“ヴィルーパークシャ”。見た目は大きな目のマークが描かれたゴツいバイザーで、強力かつ高精度な視覚系固有スキルを有する。

 内訳は遠隔視と視野の拡大を齎す《四天の千里眼》、凡ゆる物体を透視する《四天の透視眼》、凡ゆるものを生物・非生物問わずに解析する《看破》と《鑑定眼》の複合スキル《四天の解析眼》、凡ゆる隠蔽・迷彩を看破する《四天の読心眼》の四つ。それぞれのスキルを同時に使用する事も出来て、その場合は個々の出力は落ちるが併用している個々のスキルの出力を状況に応じて変更させる事も出来る。

 また、現在自分が使っている固有スキルの効果を七割程度の出力でパーティーメンバーに付与する《広目の天眼》と言うスキルもあるので、パーティー戦闘でも活躍する。

 必殺スキルは直近24時間以内に対象を見ている時間に応じて、その相手に自身の視覚系スキルへの耐性を減少させるパッシブスキル。耐性の下がり方を緩やかだが、<エンブリオ>のスキルだけでなく自身のジョブスキルにも効果は適応される。

 ちなみに通常の《透視》などと違って服だけ透過出来るレベルの精度を有しているが、ミマモリ自身が『私如きが穢れなきロリショタの肢体を視姦するなど言語道断』として少年少女に透視は使わないので安全()

 

 

 アバター名:KNKA

 性別:男

 メインジョブ:【翆風術師】

 サブジョブ:【賢者】【魔術師】【防術師】【付与術師】【司祭】【祓魔師】【冒険家】

 備考:レジェンダリアの<YLNT倶楽部>に所属している<マスター>(HENTAI)の一人であるロリショタコン。ロリショタの生活を守る為に孤児院への寄付やボランティアを積極的に行い、その手伝いの際に漂ってくる子供達のスメルをひっそりと楽しむかのクラン内では割とよく居るタイプの人物。

 戦闘スタイルは<エンブリオ>に蓄積したMPを使った魔法戦闘で、後述の理由で膨大なMPを溜め込んでいるのでクラン内部でもトップクラスの魔法使いとして知られている。

 

【空輝清杖 アイテール】

<マスター>:KNKA

 TYPE:エルダーアームズ

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:大気中の不純物吸収

 固有スキル:《輝く空を我が手に(エーテリック・コンバーター)

 必殺スキル:《真なる空をここに(アイテール)

 備考:モチーフは澄み渡った輝く大気を神格化したギリシャ神話の神であり天体を構成する第五元素であるエーテルの由来となった“アイテール”。見た目はシンプルな形状の白い杖。

 固有スキルは空気中の不純物を吸収してMPに変換して蓄積・運用する《輝く空を我が手に》のみで、その特性上酸素や窒素は吸収出来ず、基本的に空気中に微量しか存在しない不純物のみしかMPに変換出来ない事から少し使い辛いスキル……だがレジェンダリアの場合にはそこに存在する“可視化した自然魔力”も不純物判定で吸収出来、そもそも魔力なので変換効率も100%である事もあって膨大なMPが蓄積されている。

 必殺スキルは単純な吸収・変換・蓄積能力や範囲の大幅強化だが酸素や窒素すらも含めた周辺の大気全てを吸収・変換可能になり、更に何をどう吸収するのかと言う効果範囲の選択なども可能になる。具体的には酸素を吸収して周囲一帯を無酸素空間にしたり、一定範囲の大気を纏めて吸収して真空を作ったりも出来る。その分スキルの持続時間10秒程でクールタイムは十分掛かる。

 

 

 アバター名:剛雅

 性別:男

 メインジョブ:【獣戦鬼】

 サブジョブ:【疾風槍士】【槍士】【短槍士】【双槍士】【獣戦士】【魔獣師】【斥候】

 備考:レジェンダリアの<YLNT倶楽部>に所属している<マスター>(HENTAI)の一人であるロリショタコン。ロリショタを命に代えても守る為に日々厳しい訓練を積んでいると言う、かのクラン内ではよく居るタイプの武闘派。

 戦闘スタイルは槍を主体にしたAGI型のジョブビルドを活かした高速近接戦だが、ガードナー獣戦士理論によるEND型ガードナーのステータスを足し合わせる事でENDとAGIに二極型になり生存能力も高い。ガードナーが味方のカバー時にAGIを上げるスキルを持つので、自分が高速で敵に接近しながらそのスキルを使わせる事でAGIの低さをカバーさせるなど連携も考えている。

 

【守護星蟹 カルキノス】

<マスター>:剛雅

 TYPE:ガーディアン

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:カバー・妨害

 固有スキル:《友の危機に駆けよ(レスキュー・フレンズ)》《邪魔大鋏(ジャマーシザース)》《邪魔甲羅(ジャマーシェル)》《巨蟹宮の加護》《自動再生》

 必殺スキル:《魔蟹は砕かれ星となる(カルキノス)

 備考:モチーフはギリシャ神話のヒュドラの友であり後に蟹座となった魔物“カルキノス”。HP・END型のステータスをしている巨大な蟹型のガードナーで基本は陸上で行動するが、蟹なので水中でも生存と行動は可能(但し泳ぐ能力は無いので水中戦が得意と言う訳では無い)

 STR・AGIはそこそこだが味方を敵の攻撃から庇う際のみAGIを十倍にするアクティブスキル《友の危機に駆けよ》によって高いカバーリング能力を持つ。更に魔法攻撃の威力を減少させる《巨蟹宮の加護》とHP・傷痍系状態異常を自動回復させる《自動再生》によって耐久力も高い壁役として機能する。

 また、鋏で組み付いた相手のAGIを下げる《邪魔大鋏》と、直接攻撃を受けた際に相手のSTRを下げる《邪魔甲羅》によって相手にデバフを掛ける事も可能。

 必殺スキルは死亡した際に【カルキノス】とマスターの直前までステータスを合計してスキルも全て使えるようになる融合系スキルで、この手のスキルとしては珍しくチャージ時間は無いが持続時間は五分間。その後は最低24時間(死亡時の損壊・状態異常などによって延長される)復活の為に【カルキノス】が紋章の中で休眠する。

 

 

 アバター名:ペロセウス

 性別:男

 メインジョブ:【聖戦士】

 サブジョブ:【守護者】【魔戦士】【盾士】【小盾士】【祓魔師】【司祭】【冒険家】

 備考:レジェンダリアの<YLNT倶楽部>に所属している<マスター>(HENTAI)の一人であるロリショタコン……だったが、ロリショタに触れたいと言う僅かな性癖の違いから離反して、同じ性癖のメンバーを集めて<LPT小隊>と言うクランを立ち上げた。

 とは言え、彼もクランメンバーも含めてロリショタ相手に無理矢理接触を迫る事はせず、あくまでも相手の許可を得た上で手を繋ぐレベルの接触に止めるだけの分別はある。内心はペロペロしたいと思っていても表には出さない。

 戦闘スタイルは防御・回復のジョブスキルで相手の攻撃を耐えながら、カウンターで<エンブリオ>による拘束を仕掛けつつ攻撃に転ずると言う意外にも正統派。

 

【反視逆盾 アイギス】

<マスター>:ペロセウス

 TYPE:アームズ

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:カウンター・拘束

 固有スキル:《ペトリフィクション・リフレクト》《スリーピング・リフレクト》

 必殺スキル:《応報する蛇頭の邪視(アイギス)

 備考:モチーフはギリシャ神話の女神アテナが使ったとされる防具“アイギス”。元ネタ通りメデューサを模した蛇頭の女性のレリーフが刻まれた盾で、大きさは然程ではないが強度と装備防御力は高い。

 固有スキルは【アイギス】で物理攻撃を受けた際にそのダメージ(スキルによる減少分含む)に応じた強度の【石化】の状態異常を攻撃対象に仕掛ける《ペトリフィクション・リフレクト》と、魔法攻撃を受けた際に同じ条件で【精神休眠】の状態異常を仕掛ける《スリーピング・リフレクト》の二つ。盾で攻撃を受けるだけで自動発動するパッシブスキルだが、それ故に状態異常の強度はそこまで高くない。

 必殺スキルは【アイギス】で攻撃を受けた時のダメージ(減少分含む)1000毎に1%、攻撃した相手のジョブ・<エンブリオ>のスキル効果を十分間減少させるパッシブスキル。時間内であれば効果は重複する。

 

 

 アバター名:サリー・クリィミー

 性別:女

 メインジョブ:【賢者】

 サブジョブ:【司教】【魔術師】【付与術師】【呪術師】【防術師】【司祭】【魔石職人】(その他<エンブリオ>に保存されている魔法系ジョブ多数)

 備考:レジェンダリアのまとも枠な<マスター>の一人で、クラン<魔法少女連盟>のサブオーナー。別に天災児でもないごく普通の魔法少女好き小学生だったのだが、後述のボロボロになったモップルを助けた事で『おお……! この無償の善意と曇りなき瞳……まさしく私が追い求めていた魔法少女そのもの! どうか我が女神たる魔法少女よ、私をマスコットとして貴女に跪かさせて頂きたい』とか言われてついオーケーしてしまい、あれよあれよと言う間に<魔法少女連盟>の魔法少女メンバーの代表みたいになってサブオーナーになった子。

 戦闘スタイルは基本的に正統派の後衛魔法職だが、<エンブリオ>の能力でジョブビルドを必要に応じて変更出来るので保存してある魔法戦士系ジョブをセットして近接戦とかも出来る……が、普通の小学生である本人の戦闘技量はそこまで高くない上、魔法技術の研鑽などには興味がなく、それよりも魔法少女ロールプレイとしてクエストや人助けなどをしている事が多い。

 

【魔包証助 アラディア】

<マスター>:サリー・クリィミー

 TYPE:ルール・アームズ

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:魔法職

 固有スキル:《奇跡の軌跡(ホープ・レコード)》《魔導記録(マジカルコレクト)》《魔法転身(マジカルトランス)

 必殺スキル:《出会いと笑顔が私の魔法(アラディア)

 備考:モチーフはウイッカ(魔女宗)で信仰されている女神の一人で、迫害される貧しい者達を救うとされる女神“アラディア”。外見は『ザ・魔法少女』と言った感じのピンクでハートとかが付いたデザインのコンパクト型でアクセサリー枠を消費し、普段は付属の専用ポシェットに入れられている。

 固有スキル《奇跡の軌跡》はメインジョブが魔法系の時に限定して自身に向けられる正の感情を経験値に変換するスキルであり、加えて《魔導記録》によってカンストした魔法系ジョブをステータス・スキルをそのままにジョブ枠から外したコンパクトの内部にある水晶──専用ジョブクリスタルに保存出来るので、既に複数の魔法系ジョブをカンストしている。

 更に収納したジョブは《魔法転身》によって自由に空きジョブ枠にセットしたり他のカンストした魔法系ジョブと入れ替えられるので、戦闘やクエストに際しては必要に応じてジョブや使う魔法を切り替える事が出来る。

 必殺スキルは十分間【アラディア】に保存されているジョブ全てのステータスを加算し、更にジョブスキルも全て使える様になるアクティブスキル。加えて効果時間中は《奇跡の軌跡》の効果が『自身に向けられた正の感情をMPに変換する』に変わるのでMPは高速で回復する。ただし強力なスキルである分クールタイムは24時間と長めな“魔法少女の最終フォーム”的スキル。

 

 

 アバター名:モップル

 性別:男

 メインジョブ:【司令官】

 サブジョブ:【高位記者】【死兵】【指揮官】【冒険家】【索敵者】【記者】【書士】

 備考:レジェンダリアのアレな部類の<マスター>で、クラン<魔法少女連盟>クランオーナー。魔法少女のマスコットになりたいと言う理由だけで難易度ルナティックの小動物型アバターを選択し、当たり前の様にまともにプレイ出来ずズタボロにされたが、デスペナでも諦めず争った結果サリーに助けられた事でそのパートナーに収まった漢。

 その偉業からクランオーナーに選ばれ、本人も『サリーを最高の魔法少女にする』為に必要だと考えてクランの経営を行なっている。ちなみにクランオーナーとしても普通に優秀で所属魔法少女達のサポートや宣伝などの態勢を整えたりしている。

 戦闘スタイルは<エンブリオ>や【司令官】のジョブスキルによる支援特化で単体での戦闘能力は皆無。他にも《ペンは剣よりも強し》による魔法少女達へのレベリング支援も行なっている。

 

【魔導契約 デーモン】

<マスター>:モップル

 TYPE:アドバンス・ルール

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:魔法職の支援

 固有スキル:《僕と契約して魔法少女になってよ(マジカル・コントラクト)》《契約ある限り悪魔は滅びず(セルフ・プリザベーション)》《魔法少女達の宴(マジカル・シェアリング)》《仮初めの契約(テンポラリー・コントラクト)

 備考:モチーフは悪魔を意味する言葉“デーモン”だが、どちらかと言うと中世に魔女と契約して人を害する魔力や薬を与えたと言われた悪霊(デーモン)の方が本来のモチーフ。支援とスキル特化なのでステータス補正はオールG。

 メインのスキルは魔法系ジョブに付いた者一人を選び、相手の許可を得て“主人”と設定する事で自分へのデバフと引き換えに強力なバフを主人に掛ける《僕と契約して魔法少女になってよ》で、このスキルを魔法少女を助ける基点に様々な効果を発揮する。

 現在のバフの種類は『全ステータス最大値半減と引き換えにMP倍加、HP・SPに自身の合計レベルの二十倍、それ以外に合計レベルの五倍加算』『戦闘系アクティブスキル使用不可と引き換えに魔法系スキル効果倍加』『アクセサリー以外の装備不可と引き換えに全状態異常耐性が自分の空き装備枠数×20%上昇』『経験値獲得不可と引き換えに獲得経験値大幅増加』『従属キャパシティ消失と引き換えに被ダメージ合計レベルの倍だけ減少』であり、それぞれオンオフは可能だが一度切り替えると24時間再変更出来ず、また契約自体も一度結べば一ヶ月以上経ってから相手の許可無く解除出来ない。

 また、主人とパーティーを組み自身の戦闘不可を引き換えに凡ゆる攻撃によってダメージを受けなくなる《契約ある限り悪魔は滅びず》により貧弱なステータスに比して生存能力も高いが、主人の一定距離内に居なければ効果は発動せず主人が死亡した場合には自身も死亡する。更に《魔法少女達の宴》は主人とパーティーを組んでいる魔法職にも主人と同じバフを掛ける事も出来るが、一人を対象にする毎に全ステータスが元々の最大値の一割削れるので、前述のデメリットを含めると最大四人までしか対象に出来ない。

 当然モップルが主人に設定しているのはサリー・クリィミーであり、数多のデメリットも『彼女のマスコットでいられる』と言う(彼にとっての)最大のメリットがある時点で一切気になっていない。

 

 

 アバター名:バーニング・ハート

 性別:女

 メインジョブ:【炎霊術師】

 サブジョブ:【紅蓮術師】【魔術師】【付与術師】【幻術師】【精霊術師】【召喚師】【冒険家】

 備考:<魔法少女連盟>に所属する魔法少女<マスター>の一人。現実ではアラサーのOLであるが昔から魔法少女好きであり、デンドロではリアルでのストレス発散も兼ねて魔法少女ロールプレイをしようとしていた……が、変人の多いレジェンダリアで天然気味なサブオーナーのフォローをしている内にすっかりツッコミ役になってしまった。

 戦闘スタイルは<エンブリオ>による火属性エレメンタル召喚、及びそれらをジョブスキルによって強化よるサモナースタイル。

 

【奇炎伴杖 イグニス・ファトゥス】

<マスター>:バーニング・ハート

 TYPE:レギオン

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:火属性精霊召喚

 固有スキル:《炎妖精召喚(サモン・ファイアフェアリー)》《焔騎士召喚(サモン・ブレイズナイト)》《火鳥召喚(サモン・フレイムバード)》《赤像召喚(サモン・レッドゴーレム)》《緋狼召喚(サモン・スカーレットウルフ)

 必殺スキル:《融合召喚・紅蓮女王(イグニス・ファトゥス)

 備考:モチーフは青白い光を放ち浮遊する球体、あるいは火の玉を由来にする鬼火伝承を表す言葉の一つ“イグニス・ファトゥス”。外見は炎の意匠を象った杖だが、武器では無く召喚器なので装備枠は使ってもアームズではないタイプ。

 固有スキルは自身が習得している炎熱系魔法(火属性・爆発魔法・幻術など)を最大5つまで選択、それらを様々な火属性エレメンタルに変性させて召喚すると言うもの。選択したスキルに応じて召喚したエレメンタルの能力やスキルが変動するが、デメリットとして召喚されている間は選択したスキルは使用不能になる。

 召喚出来るエレメンタルの種類は選択した魔法を使うMP特化の【イグニス・フェアリー】、STR型で選択した魔法によって武器が変わる【イグニス・ナイト】、AGI特化飛行可能で選択した魔法によって爆発の性質が変わる自爆型【イグニス・バード】、END・HP型で選択した魔法によって防御スキルが変わる【イグニス・ゴーレム】、AGI型で索敵能力が高く選択した魔法によって攻撃手段が変わる【イグニス・ウルフ】の現在5種類。汎用性は高いが命令一つのみを実行するしか出来ない。

 必殺スキルは召喚したエレメンタルが消滅する度にそのステータスの1%を蓄積、スキル使用時に杖を破壊する事で蓄積した累計ステータスを全消費しながらマスターに加算させて強力な火属性エレメンタルへと変性させると言うもの。召喚器である杖が壊れるのでエレメンタル召喚は出来なくなるが、代わりにそれぞれのエレメンタルが蓄積された数に比例した強度の爆発・炎剣・炎熱攻撃・高熱防壁・追尾火球と言ったスキルが使える様になる。ただし変身時間は十分間でクールタイムは24時間な上、杖が壊れるので修復されるまでは<エンブリオ>が使えなくなる。

 

 

 アバター名:スノーホワイト

 性別:女

 メインジョブ:【白氷術師】

 サブジョブ【氷像職人】【魔術師】【防術師】【冒険家】【戦象職人】【氷細工師】【氷屋】

 備考:<魔法少女連盟>に所属する魔法少女<マスター>の一人。スノーアートなどが好きだったので、デンドロでは<エンブリオ>を活かして色々作っていた所を魔法少女にスカウトされて面白そうだから加入した。衣装とかも『まあゲームだし性能良いし』で気にしていない。

 どちらかと言うと生産職寄りだが、作りだめしておいた氷ゴーレムを大量に呼び出したり新たに即興で作ったりして戦える。更に氷属性魔法を使っての魔法戦も可能。

 

【氷室晶界 ニブルヘイム】

<マスター>:スノー・ホワイト

 TYPE:ワールド・フォートレス

 到達形態:Ⅴ

 能力特性:氷生産

 固有スキル:《氷晶創造(アイスメイク)》《氷晶操作(アイスムーブ)》《氷晶成型(アイスカット)

 必殺スキル:《氷晶輝く銀世界(ニブルヘイム)

 備考:モチーフは北欧神話の九つの世界のうち、下層に存在するとされる冷たい氷の国“ニブルヘイム”。周囲の水分が存在する空間自体を工房とする非実体型のフォートレス。

 周囲の水分を触媒にして魔力で氷を作り出し《氷晶創造》と、それで作った物をMP消費で動かす《氷晶操作》並びにその形を自由に変える《氷晶成型》によって好きな氷を作る事が出来る。《氷晶創造》は普通に液体を凍らせて氷を作る事も可能で、その方が消費MPは少なくなる。

 必殺スキルは周囲の気温を大幅に下げながら吹雪が舞う銀世界へと変えて、その範疇で使用される氷属性系統のスキルや氷属性エレメンタルなどの能力を大幅に強化するというのもの。効果範囲は任意に設定可能だが広める程に継続消費するMPが増える。

 

 

 アバター名:イーグレット

 性別:女

 メインジョブ:【翆風術師】

 サブジョブ:【閃光術師】【魔術師】【付与術師】【防術師】【魔戦士】【斥候】【生贄】

 備考:<魔法少女連盟>に所属する魔法少女<マスター>の一人。その身だけで空を飛ぶのが夢でありデンドロでも<エンブリオ>を使って空を飛んでいたのだが、魔境である『デンドロの空』を相手にして何度もデスペナしてしまい落ち込んでいた所を魔法少女にスカウトされた。クランに入ってからはレベリング補助や装備によって戦力強化されて空を飛びやすくなったので割と満足している。

 戦闘スタイルは<エンブリオ>で高速飛行しながらの魔法攻撃。飛行しながらでも当てやすい様に範囲攻撃を行える風魔法と後述の必殺スキルで弱点を潰せる光属性魔法が主体。

 

【白翼天靴 タラリア】

<マスター>:イーグレット

 TYPE:エルダーアームズ

 到達形態:Ⅳ

 能力特性:飛行

 固有スキル:《飛行(アビエーション)》《飛翔(ソアリング)

 必殺スキル:《飛翼(タラリア)

 備考:モチーフはギリシャ神話の伝令神ヘルメスが有する有翼のサンダル“タラリア”。外見は側面に羽飾りが付いた金色の脚甲で、ステータス補正はMP・AGI特化。

 固有スキルはMPを消費して自身のAGIと同じ速度で飛行する《飛行》と、飛行時に元々の最大MPの20%(第四形態時)をAGIに加算する《飛翔》の二つだけと言う飛行特化。また飛行時には側面の羽飾りから光輝く翼が展開される。

 必殺スキルは飛行速度がAGI一万を超える毎に累積する形で自身が使用するアクティブスキルの発動までの時間・消費MP・クールタイムを二分の一にする常時発動型。具体的にはAGI換算で一万(音速)の速度で飛んでいる時は二分の一、二万になったら四分の一、三万になったら八分の一と言った具合。ただし“飛行速度”で換算するのでホバリングなどで空中停止していたり音速以下の速度で飛んでいる場合は効果を発揮しない。




あとがき

そう言う訳でレジェンダリアのHENTAI組と魔法少女組の紹介でした。活動報告とかにも書いたけど、ここでの各種設定は他作者様のデンドロ系2次創作で自由に使って貰って構いません。デンドロ二次もっと増えろ(願望)


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ティアン+α設定まとめ

※注意:最新話までの登場人物の設定を乗せています。ネタバレもあるので、それが嫌な人は読み飛ばすかブラウザバックするかして下さい


 名前:アイラ・ローラン

 性別:女

 メインジョブ:【教導官】

 サブジョブ:【連闘士】【闘士】【双剣士】【鞭術士】【短弓手】【教官】【斥候】

 備考:アルター王国王都アルテアにある冒険者ギルドの受付嬢であり、デンドロを始めた三兄妹が最初に交流したティアン。王国の最強戦力の一角である【天翔騎士】リヒト・ローランの娘であり三姉妹の長女、美人で面倒見の良い性格でギルドの初心者講習も行なっているのでティアン・<マスター>共に人気は高い。

 実は王国でも最上位の騎士とトップレベルの魔道具職人である母の間に生まれながら、騎士・騎兵系統や魔術師系統のジョブ適正を持っていなかったので、周りからの視線や両親の才能を受け継いだ妹達を見ていられず家を出てフリーの冒険者になった過去がある。

 それからは合計レベル500に至れて様々な武器系前衛職に就ける資質と、妹のリリィは愚か父であるリヒトすら上回る武芸の才能を持っていたので瞬く間に頭角を表して“王国最強の冒険者”や“王国決闘ランキング第2位”と呼ばれる所にまでに上り詰めた。

 ……だが、とあるクエストで準備不足により引率していた新人を死なせてしまった事で冒険者を辞め、二度と同じ事がない様にとジョブリセットまでしてギルドに所属して初心者の育成を邁進する事に。

 初心者サポートに関しては冒険者ギルドの利用者が少ない事からそこまで上手くいっていなかったが<マスター>が来てからは状況が一変、三兄妹の意見を取り入れて王都に来たばかりの彼等を対象にした初心者講習をした結果大盛況となり、Wikiや掲示板にも『王国を選んだらまずは講習を受けろ』と書かれるレベルになった。

 本人が美人で王都でも五人と居ない教えた相手に経験値補正を与えられる【教導官】である事もあって<マスター>からは大人気であり、教師ギルドとの協力関係を結んだにも関わらず連日講習に駆り出されている。教師ギルドからのジョブクエストも兼ねていたお陰でレベルも500に戻った。

 戦闘スタイルは近距離では双剣、中距離では鞭、遠距離では弓を闘士系統のスキルで使い分ける全距離オールラウンダーな物理型。【教導官】が様々な武器種戦闘を指導するジョブである事と、本人が使用する全ての武器種で超一流の技量を持っている事もあって現在でも王国トップレベルのティアンのままである。

 

 

 名前:リリィ・ローラン

 性別:女

 メインジョブ:【天馬騎士】

 サブジョブ:【聖騎士】【騎士】【槍士】【騎兵】【乗馬師】【冒険家】【魔獣師】

 備考:アルター王国近衛騎士団所属の騎士であり、ローラン家三姉妹の次女。資質的には父のものを色濃く受け継いでおり、騎乗者として卓越した才覚を有するので自身の愛馬の娘である【テンペスト・ペガサス】のティルルを授けられた。

 騎士団の中では親<マスター>派であるがこれは別に<マスター>が好きと言う訳では無く、今後増えてくるであろう<マスター>による犯罪を止めるにはティアンだけの戦力では不可能だと考えているから。なので国を挙げて支援した方が効率が良いとも内心考えているが、それはそれでデメリットもあると分かっているので現状に文句は言わず個人的に信頼出来そうな<マスター>と友誼を結ぶにとどめている。

 戦闘スタイルは愛馬であるティルルに乗っての騎乗戦闘が主体で、純竜級モンスターであるティルルを含めれば超級職の面々を除いて王国騎士団最強の実力者。また幼い頃より父からの指導を受けていたので武芸の実力も高く、従属キャパシティの為にジョブの幾らかを従魔師・騎兵にしていても彼女に勝てるのは同じカンスト組の近衛騎士団副団長ぐらい……だが、それでも騎乗していなければ姉にはとても敵わないらしい。

 ちなみに彼女が近衛騎士団副団長では無いのは将来的に【天騎士】では無く【天翔騎士】を受け継ぐ事を期待されているからであり、現在も就職条件を満たそうと鍛錬しつつ仕事に励んでいる。

 

 名前:ティルル

 種族:【テンペスト・ペガサス】

 性別:雌

 備考:リリィの愛馬である風属性の有翼馬。美しい薄緑色のペガサスでステータスはMP・AGIが高めであり、攻撃・防御・移動に使える優秀な風属性スキルを持つ。またメイド服(趣味)を着た美女に人化する事も可能。

 更に父であるデュラルからの指導によってスキルを扱う技量も非常に高く、リリィが幼い頃からの付き合いで『お嬢様』と呼ぶぐらいの信頼関係もあるので連携も完璧。

 

 

 名前:マリィ・ローラン

 性別:女

 メインジョブ:【高位魔具職人】

 サブジョブ:【賢者】【魔術師】【付与術師】【司祭】【防術師】【呪術師】【魔道具職人】

 備考:王都の冒険者ギルド近くにある<マリィの雑貨屋>の店主であり【天翔騎士】リヒトの妻。元々はレジェンダリアで代々魔道具を作っている家系だったのだが、両親が死に議会関係のタチの悪い連中に目を付けられたので王国へと亡命した。

 その時にリヒトと出会って助けられたので、彼の下で厄介になる代わりに護身用として両親から預けられたペガサス──後のデュラルを預けた。その後は魔術師としても卓越した技量があったり三大属性全てへの適正がある事や魔道具職人としての能力を買われて王国の魔術師ギルドにスカウトされたりと紆余曲折あった後に彼と結婚して三人の子供を設けた。

 現在はギルドからは距離をとって趣味の雑貨屋を経営しつつ魔道具職人としての仕事を偶に行なっており、自分の素質を受け継いで魔法に長けている三女への指導も行なっている。

 

 

 名前:リヒト・ローラン

 性別:男

 メインジョブ:【天翔騎士】

 サブジョブ:【天馬騎士】【聖騎士】【騎士】【槍士】【投槍士】【騎兵】【乗馬師】【冒険家】

 備考:アルター王国第一騎士団団長にして王国所属の超級職【天翔騎士】。王国でも代々優秀な騎士を輩出している名門である“ローラン家”の人間であり、後に妻になるマリィと愛馬であるデュラルとの出会いによってロストしていた【天馬騎士】を復活させて超級職にまで付いたガチの偉人。

 娘達から三兄妹などの<マスター>の話を聞いたのと、上級職にすら就いてないのに伝説級<UBM>を倒した妹を見た故に『今後成長を続ける<マスター>相手にティアンだけでは治安維持は難しい』と早々に判断して、独自に信用出来る<マスター>との友誼を結んでいる。

 戦闘スタイルは神話級モンスターである愛馬デュラルを【天翔騎士】のスキルで強化・補助する空中戦。そこに30年近く『デンドロの空』という魔境で戦い続けてきた経験及び技術、そして実力と機動力を買われて王国に現れた危険な<UBM>への援軍として活躍したが故に保有する多数の特典武具を合わせる事で、後年に於いて準<超級>最上位と言われる者達に匹敵する戦闘能力を有する。

 

 名前:デュラル

 種族:【ハイエンド・セイクリッド・モノペガサス】

 性別:雄

 備考:リヒトの愛馬である聖属性の有角馬と有翼馬のハーフ。見た目はツノが生えている白銀のペガサスで、有翼馬としての飛行能力と有角馬としての魔法制御能力を併せ持つ。

 聖属性・風属性の強力な攻撃・防御・移動のスキルを持ち、加えて回復魔法までも使えるスキル型のモンスター。ステータスはMP・AGI型で神話級モンスターの中でも低い方だが【天翔騎士】のスキルで強化されるので問題にはなっていない。更に歴戦の経験と研鑽からスキルを運用する技術も非常に高く、主人であるリヒトとの連携及び飛行技術は神がかっているので、見かけのステータスを遥かに超える戦闘能力を有している。

 

 

 名前:レナート・セイラン

 性別:男

 メインジョブ:【聖騎士】

 サブジョブ:【騎士】【司祭】【助祭】【巡礼者】【指揮官】

 備考:アルター王国近衛騎士団の一人でリリィの副官。リヒトの同期であるベテラン騎士で、合計レベルこそ350止まりではあるが回復と味方のサポートに長けているので頼りにされている。

 人柄の良く【天騎士】【天翔騎士】から将来的に騎士団を背負える資質を持つリリィやリリアーナ達への指導役も任されており、長年騎士をやって来た際に得た経験を彼女達に伝えている。

 

 

 名前:ゴライアン・ガヘリス

 性別:男

 メインジョブ:【拳聖】

 サブジョブ:【武闘家】【拳士】【格闘家】【蹴拳士】【手刀拳士】【力士】【斥候】

 備考:アルター王国格闘家ギルドのギルドマスター。元はどこかの貴族の三男坊だったが王国では珍しく格闘系ジョブに特化した才能を持っていた事と、幼い頃の見た【格闘王】の戦いに憧れた事で修練を積んでカンストの強者にまで至った。

 まあ、昔は格闘バカ一代みたいな性格だったが、色々な経験を積んだ結果【格闘王】の爺様は割とアレな性格だと知ったり、ばら撒かれた【格闘王】の就職条件を巡る暗闘を収めたりした事で精神的には成熟した。その後は成り行きでギルドマスターの座に収まり、今は超級職狙いの<マスター>が増えた事で色々と苦労している模様。

 

 

 名前:シルビィ・マグノリア

 性別:女

 メインジョブ:【怪盗】

 サブジョブ:【輸送隊】【戦士】【短剣士】【盗賊】【荷運】【行商人】

 備考:元はギデオンの大商店の娘だったが妻が死んでガチャに逃避する様になった父親を見て、それを盗み出す為に冒険者として活動しながら合計レベルを400近くまで上げてガチャが収められた金庫を盗み出すというかなりアグレッシブな人物。

 その後は三兄妹との出会いや父親との和解を得てガチャと金庫を売り払い、心機一転も兼ねてギデオンからカルチェラタンへと引越して親子二人で小さな店舗を開きつつ慎ましく暮らしている。ただ、偶に生活費を稼ぐ為にせっかく取ったジョブを活かせるドライフへの物品輸送の護衛も行なっているとか。

 

 

 名前:ペルシナ・デミテル

 性別:女

 メインジョブ:【高位霊術師】

 サブジョブ:【屍術師】【死霊術師】【呪術師】【防術師】【付与術師】【従魔師】【冒険家】

 備考:レジェンダリアの死霊術師ギルドに所属する死霊術師。様々な自然干渉魔法に長けたエルフの母とレジェンダリア有数の天属性の攻撃魔術師である父の間に生まれたハーフエルフだったが、死霊術師だった父側の祖父の資質を受け継いで死霊術師系のジョブにのみ適正があり、その祖父の知り合いだった【冥王】ハイデスに弟子入りしていた。

 だが、その妻子が謎の存在“魂喰らい”に殺された所為でハイデスが暴走して<UBM>となり、そんな彼をこれ以上罪を重ねない為に三兄妹とひめひめパーティーに依頼して討伐してもらった。その際に自分が討伐に関われなかった事を振り切る為と、古代伝説級すら討伐した<マスター>の力を見て現在は死霊術師ギルドで<マスター>との融和策などの各種作業を積極的に行なっている。

 戦闘スタイルは作り上げたアンデッドを使役しつつ、自身は呪術による後方支援を行う典型的な死霊術師。【冥王】のジョブは空いているが師匠から正確な条件を聞く前に死に別れた事で一部の条件しか知らないのと、魂が見える故に堕ちた彼を見て自身が超級職を使いこなせるか不安なので今は目指していない。

 

 

 名前:ティアモ・ウル・ヒュポレ

 性別:女

 メインジョブ:【竜戦士】

 サブジョブ:【剣巨人】【戦士】【女戦士】【剣士】【大剣士】【格闘家】【斥候】

 備考:レジェンダリアの部族の一つである“アマゾネス”の少女であり、その族長である【女帝】レイソアの孫娘の一人(子沢山なので孫も複数いる)でもある。大人しめな性格だが割と天然であり、更にアマゾネスらしい恋愛への積極性もあってひめひめと好き合って居る事に気づいていながら兄に告白して妾希望を出すなどして二人を困惑させている。

 外見は褐色肌に金髪の美少女とアマゾネスにはよく居る感じだが、側頭部の二本の角と爬虫類の様な尻尾が生えている……そのぐらいであればレジェンダリアには居ない事も無いのだが、爬虫類系の獣人種などとは違うらしい、他にも古代伝説級特典武具【竜剣飾 ドラグソード】や単純な攻撃力だけなら超級武具にすら迫る【剛竜剣】を保有し、誰も聞いた事の無いジョブ【竜戦士】に就いているなど謎が多い。

 戦闘スタイルは前衛系ジョブで固められた+生まれつきのスペックと、アマゾネスとして鍛え抜いた技量による近接戦。魔法攻撃などの遠距離攻撃は特典武具と【竜戦士】のジョブスキルで無理矢理突破する事も出来るので対応力もある。




あとがき

そういう訳でティアンの設定証拠でした。そしてこれで設定まとめは一先ず終わりになります。今後もまとめ内容を追加する事もありますが、次からはしばらく間が空いた後で普通に本編を更新していく事になると思います。


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序章 2043年7月15日
とあるゲームを買った日:Re


以前、作者が書いていた兄妹デンドロ小説のリメイク版です。
今度は途中で止まらない様に頑張ります。


 □地球 加藤(かとう)美希(みき)

 

 ……その光景を一言で表現するのならば『地獄』であろうか。

 焼き払われた森林、穿たれ砕かれた大地、かつて街だったモノの残骸、荒れ果てた荒野……そして、人間だったと思わしき“ナニカ”。

 

『………………』

 

 ……そして、そんな中で一人ぽつんと立っている人影があった。

 その人物は原型を留めない程にボロボロになった鎧らしき物を身に纏い、手には身の丈以上の大きさがある何かの武器の残骸らしき物をぶら下げて、ただじっと立っていた。

 

『……嗚呼、失敗したな』

 

 その人影がポツリと呟いた……その何処かで聞いた事のある様な声には悲嘆と諦念、そしてそれ以上の悲しみの感情があった。

 

『………………』

 

 その人影が空を見上げると、そこには宙に浮かぶ巨大な……。

 

 

 ◇

 

 

「…………ハッ⁉︎ ……夢かぁ……」

 

 ……と、そこで私は夢から覚めてベットから跳ね起きた。慌ててベットの側に置いてあったスマホを確認すると、今日は2043年7月15日水曜日、夏休み少し前の何の事も無い平日であって少しホッとした。

 私の名前は加藤美希、日本のとある街に住んでいる“ごく普通”の女子小学生である。

 

「うーん……久しぶりに結構キツイ夢を見たな〜っと」

 

 私はその夢の内容を振り払う様にベットの上で大きく伸びをすると、そのままベットから降りて洗面所へと向かい顔を洗う。

 

(しかし、あの妙に意味深な夢は一体何だったんだろうかね? ……私の()()が危険を察知したのかとも思ったけど、それにしてはあんな光景が現実に早々起こるとは思えないし……)

 

 そんな事を考えながらも、私は顔を洗って目を覚ましてから部屋に戻り服を着替えてリビングはと向かっていった。

 

「おはようお兄ちゃん、祐美(ゆみ)ちゃん」

「おはようなのです姉様」

「はい、おはよう。朝メシは出来ているぞ」

 

 私がリビングに着くと、そこには先に起きていた私の兄である加藤(れん)(現在大学生)と従姉妹である加藤祐美ちゃん(現在小学生)が用意された朝食を食べていた。

 ちなみに本日の朝食はマーガリンを塗ったトースト、塩胡椒を振りかけた目玉焼き、そしてヨーグルトとバナナとカフェオレである。

 

「あれ? 叔父さんと叔母さんは今日はもう仕事だっけ?」

「はい、父様と母様はもう仕事に行きましたよ。今日は二人とも朝の仕事だそうです」

 

 ……ちなみに私とお兄ちゃんの両親は数年前に事故で亡くなっており、今は祐美ちゃんの両親である叔父さんと叔母さんの下で暮らしているんだ。

 また、その事故にはお兄ちゃんも巻き込まれていて幸い命は助かったものの、その時の後遺症でそれまでやっていた剣道を引退する事になったりもした……あの時、私がもっと……。

 

「それで俺が朝食を作る事になった訳だ。有り難く食べるといい」

「……おっと。はーい、有り難や〜、いただきまーす」

 

 今日は夢見が悪かった所為か思考がややネガティブな方向に向きそうだったので、私は敢えて少しふざけつつお兄ちゃんに対して両手を合わせてからトーストに噛り付いた。

 ……そうして、私はさっさと朝食を食べ終わって使った食器を片付けてから、登校時間になるまでリビングで寛ぎながらお兄ちゃん達と話していた。

 

「そういえば、今日は近所のゲーム屋さんのポイント倍増の日だったな。……今日は大学も早く上がれるし、学校が終わったらこの夏休みにやるゲームでも買いに行くか?」

「おっ、いいね! 夏休み前だから小学校の方も早く終わるし」

 

 私達は三人共ゲームが結構好きな方で、夏休みの様な長期休暇がある時には一緒に家庭内で出来るゲームを遊んだりする。なので休暇の前には何かみんなで出来るゲームを買いに行くのは定番になっているのだ。

 

「……あ、でも祐美ちゃんは道場とかあるんじゃない? 放課後の予定は大丈夫?」

「ダメそうなら欲しいゲームを先に言ってくれれば買ってくるが」

 

 実は祐美ちゃんは護身術をメインで教えている格闘技の道場に通っており、放課後はそちらに行く事も結構あるのだ。なので、その辺りを心配して放課後の予定を聞いてみたのだが……。

 

「今日は道場の方に行く予定は特になかったので大丈夫なのです。……それに師範からは『お前にはもう教える事は特に無い。後は自分自身で己の行く道を見つけるがいい』と言われていますし」

「な、成る程……」

 

 なんか思ったより凄い言葉が帰ってきた……ま、まあ、予定が無いなら三人一緒に行くって事で良いよね! 

 ……という訳で、まだ時間があったので私達は今どんなゲームが発売されているかをスマホで少し見てみる事した。

 

「……えーと『ドラクエⅩⅤ』? 随分ナンバリングが進んだんだな」

「あ、ポケモンの最新作がVRで発売されるそうですよ」

「うーん、私達ってVRとかやらないからなぁ。……ん? <Infinite Dendrogram>?」

 

 祐美ちゃんにポケモンVR(仮称)の事を言われたのでちょっとだけVRゲームのページを除いてみると、そこに本日発売と書いてある<Infinite Dendrogram>と言うVRMMOの紹介が載せられていた。

 ……私はこれまでVRやMMOは全くやって来なかった筈なのだが、その記事の事が何故か酷く気になった。

 

「どうしたんですか姉様。……えーと何々? VRMMO<Infinite Dendrogram>……『五感の完璧な再現』『単一サーバーで億人単位でも全プレイヤーが同時に同じ世界で遊戯可能』『ゲーム内では現実の三倍で時が進む』ですか。……凄いですね、VRってもうこんなに進歩していたのですか」

「……いや、俺もその方面に詳しい訳じゃないから断言は出来んが、どれも今の地球の技術では無理な事だと思うぞ。まあ、普通に考えたら誇大広告なんだろうが……何か気になるのか? 美希」

 

 私の様子が変わった事を察した二人が<Infinite Dendrogram>の記事を見て各々の反応を見せた……だが、私はその記事の文字を追う事すらせずに、ただ記事に書かれている<Infinite Dendrogram>題名部分だけを見つめていた。

 ……その只ならぬ様子を見た二人は、すぐさま表情を真剣なモノに変えて私に問いかけてきた。

 

「……美希、()()()()()()()()()のか?」

「うん、このゲームは買ってプレイした方が良い気がする」

「姉様の“気がする”ですか。……では、このゲームには“何か”があるのでしょうか?」

 

 私のその言葉に二人はそのまま考え込んでしまった……私の“直感”ではこのゲームをやった方が良い気がするのだが、もし危険なモノだったら……。

 ……そこまで考えたところでいきなりお兄ちゃんが勢いよく手を叩いたので、私は思わずそっちを向いてしまった。

 

「よし! それじゃあゲーム屋で買うのはこの<Infinite Dendrogram>にするか!」

「いや! でも、もし危険だったら……」

「ですが、姉様は()()()()()()()と感じたんですよね? ……だとすれば、姉様の“直感”の性質から考えて危険とかは無いのでは?」

 

 お兄ちゃんの提案に思わず言い返した私に対して、更に祐美ちゃんがそう返した……確かに、私の“直感”では今回ゲーム自体には『危険が無い』って感じるけど……。

 ……言い淀んだ私に二人は更に言葉を重ねた。

 

「まあ、初期のVRゲームには健康被害とかも有ったらしいが、今出ているヤツはそういうのは無い様になっているしな。……最悪、クソゲーかネタゲーを摑まされて残念ぐらいで済むさ」

「そうですよ姉様、たかがゲーム一つで大袈裟過ぎますよ」

「二人共……そうだね! たかがゲーム一つにちょっと神経質になってたかな!」

 

 最も、二人が朝の夢見の所為で気分が落ち込んでいた私を気遣って、そう言ってくれてる事にも気づいてはいるけど……そんな二人の気持ちを無駄にする訳にもいかないし、ここは明るく振る舞っておこうかな。

 

「それにしてもお兄ちゃん、妙にVRについて詳しかったけど実は前から気になったりしてた?」

「まあ少しな。……あの事故の“後遺症”が出て以来は、全力で遊びやスポーツ的な運動する事も殆ど無くなったからな。VRでなら或いはと調べた時期があった」

「では、今日の放課後は初めてのVRゲームを買いに行きましょうか! ……何、所詮はゲームですから死にはしませんよ、死には」

 

 ちょっと! せっかく明るく振舞おうとしたのに、何でいきなり話題が暗くなるかなぁ!

 

「まあ、冗談はさておき……姉様、そろそろ学校の時間です」

「あ! ホントだ! 急がないと!」

「じゃあ、俺もそろそろ出るかな」

 

 そうして、私達は各々の学び舎へと向かうために家を出たのだった。

 

 

 ◇

 

 

「はいっ! そんな訳でこちらに用意したのが<Infinite Dendrogram>本体三つになります!」

「わ〜、パチパチパチパチ〜」

 

 という訳で、あれから各々の学校が終わってから近所のゲーム屋に行って<Infinite Dendrogram>のハードを三つ程買って来ました……はい、登校前は結構シリアスな感じがしたんだけど、特に何か描写する事も無く普通に買えてしまいました。

 ……とりあえず<Infinite Dendrogram>と書かれている黒い箱を開けてみると、中からゴツイヘルメット型のVR機器が出て来た。でも、試しに持ってみたら意外と軽かったね。

 

「しかし、一個一万円とか儲ける気が無い値段設定だよな……美希の“直感”の事もあるが、ここまで来れば一周回って本物じゃないかと思える様になったな」

「とりあえず、やって見れば分かると思うのです兄様。……えーっと、確か紹介には最初に所属する国家を決めるんでしたよね。三人一緒にプレイしたいので同じ国家にしましょう」

「選べる国家は騎士の国『アルター王国』、刃の国『天地』、武仙の国『黄河帝国』、機械の国『ドライフ皇国』、商業都市群『カルディナ』、海上国家『グランバロア』、妖精郷『レジェンダリア』の七つあるみたいだね。どれにする?」

 

 私達はホームページなどに載っていたそれぞれの国の詳しい説明などを見て、最初の所属国会をどれにするか話し合う事にした。

 

「ここは王道ファンタジー的な『アルター王国』でいいんじゃない? ほら、以前やったゲームはSF系だったし、ここはファンタジー系にしようよ!」

「それは構いませんが……ファンタジーと言うなら『レジェンダリア』もそれっぽいですよ? 説明文を見る限り神秘的な雰囲気で面白そうです」

「俺達はVRやMMOは初めてだから、なるべく初心者向けの国の方が良いだろう。……その二つだと『アルター王国』の方がスタンダードっぽいか?」

 

 そう言う訳で、2対1で私達の所属国家は『アルター王国』に決まったのだった……別に私達は所属する国家にこだわりがある訳じゃなかったから、祐美ちゃんからも特に反対は無かったしね。

 

「プレイヤーネームはいつもゲームで使っている『レント』『ミカ』『ミュウ』でいいかな? 名前は分かりやすい方がゲーム内で合流しやすいと思うし」

「……待ってください姉様。多人数が同時にプレイするMMOだと短い名前では誰かと被ったりもするのでは?」

「まあ、どれもありがち名前だからそういう事もあり得るか。……じゃあ、そこに苗字でも付けるか? 同じ苗字なら兄妹だと分かりやすいだろう」

 

 確かに祐美ちゃんが言う事も最もなので、私達はお兄ちゃんの提案で何時もの自分のプレイヤーネームに苗字を付けることになったのだが……これがなかなか思いつかない!

 ……いつものプレイヤーネームも本名をもじったものだから、これ以上もじれる所が見つからないし。

 

「……と言っても、全然思いつかないなぁ。私達は本名をもじっただけで丁度いい苗字と名前が決まる様なものじゃないし……」

「そうだな……じゃあ安直だが、苗字の『加藤』の一文字である『(ふじ)』を英訳した『ウィステリア』とかでどうだ?」

 

 ……と思っていたら、お兄ちゃんがあっさりと本名のもじりで苗字候補を出してくれました。流石はお兄ちゃん、略してさすおに。

 

「綺麗な響きだからいいと思うのです。流石です! お兄様!」

「それ以上のアイデアも浮かばないしねー。……じゃあ、私のプレイヤーネームは『ミカ・ウィステリア』になるね」

 

 そして、お兄ちゃんが『レント・ウィステリア』で祐美ちゃんは『ミュウ・ウィステリア』になると……MMOだと現実の情報はあんまり出さない方がいいから、本名で呼ばない様に気を付けないとね。

 ……さて、これでゲーム前の準備は全て整ったね。

 

「それじゃあ、決める事も決めたしそれぞれの部屋に戻って早速プレイしてみようか!」

「はい、初めてのVRゲームですから楽しみなのです!」

「……まともなゲームならな……」

 

 ……そうして、私達は()()()VRMMO<Infinite Dendrogram>をプレイする事になったのだった。




あとがき・各種設定解説

加藤美希:通称『妹』
・小学五年生で外見は身長130cmぐらいの黒髪ロングで黒目。
・尚、彼女が見た夢は特に今後の展開には関わったりしないフレーバー的なモノ。
・生まれつき“直感”が鋭いらしい。

加藤蓮:通称『兄』
・大学一年生で外見は身長180cmぐらいの黒髪短髪で黒目。
・事故の後遺症はたまに腕が少し痺れるぐらいで日常生活には支障は無い。

加藤祐美:通称『末妹』
・小学二年生で外見は身長125cmぐらいの黒髪短髪で黒目。
・通っている道場はとある古流武術の所で、原作に出て来る『樹廻流』とも交流があるらしい。


読了ありがとうございました。
これから頑張って投稿していきますので、またよろしくお願いします。


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手探りの初ログイン

前回のあらすじ:末妹「<Infinite Dendrogram>始めました」妹「名前もカッコいいやつになったしね!」兄「後はクソゲーで無い事を祈るだけだな」


 □アルター王国・王都アルテア南門前 レント・ウィステリア

 

「……おー、青い空、白い雲、草の感触、そして目の前に聳え立つ白亜の街……成る程、確かにこれは()()だな」

 

 俺、加藤(かとう)(れん)ことアバター名『レント・ウィステリア』は、目の前に広がる現実と寸分違わぬクオリティで広がる景色に柄にもなく感動してしまっていた……あれから<Infinite Dendrogram>を起動してログインした俺はこのゲームの管理AIだという『ダッチェス』という女性に遭遇し、そこで彼女にゲーム内における各種設定を行う様に言われたのだ。

 その際にちょっとした質問をした後、描画選択で『私の仕事が減るから現実視にしてほしい(私のオススメはリアリティがある現実視)』と言われたので現実視に決めたり、プレイヤーネームを事前に決めていた『レント・ウィステリア』に決めたり、アバターの容姿を現実の姿を金髪碧眼にして少し弄ったものにしたり、各種初期配布アイテムを渡されたり、このゲームの目玉だと言う<エンブリオ>を移植されたりした。

 ……そして、初期国家を事前に決めていたアルター王国にして、このゲームを始める事になったのだが……。

 

「まさか、ゲームを開始していきなり上空からパラシュート無しスカイダイビングをさせられるとは思わなかったぞ。……高所恐怖症の人とかトラウマになるんじゃ無いか?」

 

 正直、事前説明無しにコレとかサービスが足りていないと思う……改めて思い返すとゲーム内のシステムの説明とかもされていないし……。

 

「まあ、そこはもう終わった事だからしょうがないとして……問題は妹達とどうやって合流するかだな。初期ログイン地点は王国首都の東西南北にある門の前のどれかだと聞いたし、このままここで待つか目の前にある街に入るか……ん?」

 

 そこまで考えたところで、俺は上空から声が聞こえてくる事に気付いた……その声は徐々に近づいて来ている様だし、恐らく俺と同じ初ログインのプレイヤーだろう。

 ……よく聞いてみると声は二人分あるようで、どうやら二人の人間が落ちて来ている様だった。

 

「へぶっ⁉︎」

「おっと」

 

 落ちて来た二人はどうやら両方共中学生ぐらいの少女の様で、片方は上手く着地出来ず尻餅をつき、もう一人は綺麗に両足を揃えて着地した。よく見てみるとあの二人の顔には見覚えが……いやいや、そんな都合のいい事がある訳が……。

 ……そう思っていたら、綺麗に着地した茶髪のセミロングの少女がこちらを見ると話しかけて来た。

 

「おや、そこに居るのは兄様……レント・ウィステリアさんなのです?」

「……まさかとは思ったが、そっちの名前はミュウ・ウィステリアとミカ・ウィステリアか?」

「そうだよー、レントお兄ちゃん。……しっかし、このゲーム凄いね。VRはやったことないんだけど、見た限り現実と変わらないや」

 

 俺のその質問に尻餅をついていた方の白髪ロングヘアーで赤目の少女がそう答えた……やっぱり、そんな気はしていたんだが……。

 

「随分都合が良いな、全員この場所に落とされるとは」

「あ、それは違いますよ兄様。……私が担当してくれた管理AIのアリスさんに頼んだら、初日限定のサービスとして兄様と姉様を同じ場所に落としてくれる事になったのです」

 

 詳しく話を聞くと、俺達が合流出来るかどうかが気になったミュウちゃんが担当のアリスという女性に良い方法が無いか聞いてみたところ『じゃあ、さっきログインしたレント・ウィステリアというプレイヤーと同じ場所に投下してあげるわ。初日だから私達の演算能力にも余裕があるしサービスよ』と言われたので、その提案に乗ったらしい。

 また、ミカの方も同じ地点に投下してもらう様にして貰ったとの事……気が利いているのかいないのかよく分からないな。

 

「私を担当していたチェシャさんは少し困惑していたけど、『まあ、初日だしいいかなー』って言ってここに投下してくれたよ」

「……まあ、さっさと合流出来たのならそれはそれで良いか。……それでミカ、()()()()()()()()()()()()()()か?」

 

 俺のその質問にミカとミュウちゃんは一転表情を真剣なモノに変えた……この<Infinite Dendrogram>を始めるキッカケになったのはミカの“直感”だからな。その辺りはまず確認しておかないと。

 

「うーん、流石にログインしてすぐじゃこの世界については殆ど何も分からないけど……チェシャさんに『この<Infinite Dendrogram >は只のゲーム何ですか?』と聞いた時には、少し驚かれた後『この<Infinite Dendrogram>で現実のプレイヤーに物理的に危険が及ぶ事は一切無いよー』って言われたかな」

「私もアリスさんに似たような事を聞きましたが、彼女もプレイヤーへの物理的危険は無いと言った上で『少なくとも<Infinite Dendrogram>の世界は()()()()()()()()最初の最後までゲームよ。実はデスゲームとかそんな事は絶対に無いわ』とも言ってましたね」

「俺の担当したダッチェスは『ただし、貴方達がこの世界で見たモノによる精神への負担は別だけど。ホラー映画とかと同じ理屈よ。……後は自分の“目”で確かめなさい』とも言っていたな」

 

 管理AIから聞いた情報を纏めると『<Infinite Dendrogram>はプレイヤーの現実の身体には一切無く(ただし精神への影響は例外)あくまで俺達にとってはゲームである』という事か……でもそれは俺達にはともかく“この世界”は只のゲームでは無いとも取れる表現だよなぁ。

 

「まあ、私の勘だと彼等(管理AI)は嘘は付いていないし、私達の安全を保障するってのも本当だと思うよ」

「後はもう兄様に言われた通り、自分達の目で見て判断するしかないでしょうね」

「ま、最後はやっぱりそうなるか……じゃあ、先ずは目の前にあるこのアルター王国の首都らしい所に行ってみるか」

 

 そういう訳で、俺達は目の前にある見上げる程に大きな白亜の壁に組み込まれている巨大な門へと向かっていった。

 

 

 ◇

 

 

 幸い目の前にあった門は解放されており、先程から馬車や人が行き来しているので俺達も普通に入る事が出来た……出来たのだが……。

 

「……さて、ここから私達は何をすれば良いのでしょうか?」

「……俺達は何か明確な目的があってこのゲームを始めた訳では無いからな。行動の指針が無い」

「チェシャさんは『このゲームでは君達は()()だよ。何をやっても良い』って言ってたけど……自由すぎて、まず何をすれば良いのか分からないんだけど!」

 

 正直言って、ゲームのシステムを説明するチュートリアルぐらいはあっても良かったんじゃないかと思うんだが……この<Infinite Dendrogram>、クオリティは凄いけどシステム面はクソゲーでは?

 

「初日だから情報も殆ど無いし! このゲームがどういうシステムなのかも説明無いし!」

「うーん、マップがあってもどこに行けば良いのか分からなければ意味は無いですね。まずは地道に情報収集から始めるしか無いのでは?」

「まあ、それしか無いか……とりあえず、ここは騎士の国らしいからその辺にいる騎士っぽい人に話を聞いてみよう。多分、警察機関とかも騎士がやっていると思うから悪い様にはされないだろ」

 

 そんな希望的な観測を元に騎士と思われる人間を探すと、門のすぐ近くに<アルター王国第一騎士団・南門駐在所>と書かれた看板を掲げた建物を見つける事が出来た……そりゃあ、首都の門に警備の兵を置くのは当然だよな。

 ……と言う訳で、俺達はそこに居た騎士さんに話を聞いてみる事にした。

 

「あの、すみません。少し宜しいでしょうか?」

「はい、何でしょうか?」

「えーっと、私達この世界に来たばかり何ですけど、正直この世界の常識とかさっぱり分からないので色々と教えてほしいんですが」

 

 俺が駐在所に何人か居た騎士さんの一人に話しかけたら、いきなりミカがその様な事を相手に問いかけた……一瞬、NPCにそんな聞き方で大丈夫なのかと思ったが、直後に管理AIが『<Infinite Dendrogram>のNPCは人間と同じ思考能力を持つ』と言っていた事を思い出した。

 ……それなら寧ろその聞き方が正解かもな。それに、ミカがそうしたという事はそちらが“正解”何だろう。

 

「この世界……ああ、もしかして<マスター>の方ですか?」

「<マスター>? ……お兄ちゃんとミュウちゃんは知ってる?」

「いや、知らない単語だな」

「私もなのです。……申し訳ありませんが、私達は<マスター>という言葉の意味を知らないのです。なので、それを含めたこの世界の一般的な常識を教えて貰えないでしょうか?」

 

 なんか、騎士さんの口からいきなり知らない単語が飛び出して来たし……やっぱり、チュートリアルとか用語説明とかはゲームシステムに入れた方が良いと思うんだが。

 ……幸いな事に、その駐在所に居た騎士達は嫌な顔一つせずに快くこちらの質問に答えてくれて、様々なこの世界の一般常識を教えてくれた。

 

「簡単に纏めると<マスター>っていうのは<エンブリオ>に選ばれた者の事で、不死身であるがその代償として頻繁に異世界に飛ばされてしまうと……上手い設定だね」

「そして、この世界では『ジョブ』につく事によってレベルを上げるシステムになっている様です……ジョブレベルゼロの私達はまずジョブに就く事が目的になるでしょうか」

「後、<マスター>以外のこの世界の人間は『ティアン』と呼び、ここは<王都アルテア>というアルター王国の首都で、冒険者ギルドとかではクエストを受けられるなどなど……情報量多すぎ。これでヘルプやチュートリアルが無いとか……」

 

 ……管理AIはもうちょっと初心者サービスを充実させて置くべきでは? いや、本当に。

 とりあえず、色々と教えてくれた騎士さん達にはお礼を言っておかないとな。

 

「本当にありがとうございました。お陰で助かりました」

「いえいえ、こういう事も我々の仕事ですから。……それに<マスター>の方々が()()を行う理由も分かりましたし。異世界から来たばかりの<マスター>達はこの世界の常識を知らなかったんですね」

「……奇行……ですか?」

 

 ミュウちゃんがそう聞き返すと、駐在所の騎士さん達は苦笑いをしながら肩をすくめて答えてくれた。

 

「ああ、<マスター>が今日から多く現れる事は事前に知っては居たんだが……その現れたばかりの<マスター>達がジョブに就く事すらせずにフィールドへと走り出してしまい、そこでモンスターに襲われて死亡する事件が非常に多く発生していてな……」

「<マスター>が不死身とは言え、それを目撃した王都の民にも不安が広がっており今も王都周辺を騎士達が見回りをしているのですが……どうも、多くの<マスター>は貴女達の様にこちらの話を聞いてくれず、向こうの話もどうも要領を得ない様でして……」

「……あー……そりゃあ、こんな世界に初めて来たら走り回りたくもなるよねぇ……」

「……なんか色々とすみません」

 

 ……まあ、事前情報が殆ど無ければそんな事も起こり得るよなぁ。やっぱり、管理AIはちゃんとしたチュートリアルとかでゲームシステムの説明をするべきでは? (四回目)

 さて、彼等には世話になったし、何かアドバイスでもしておくべきかな。

 

「えーっと、多分『この世界ではジョブに就かなければレベルがゼロのまま上がらないシステムだ』と説明すれば、その<マスター>達も思い止まってくれると思うのです」

「王都内の冒険者ギルドとかでクエストを受けられると言ったりするのもいいかもね。……モンスターに殺される為にこの世界に来る<マスター>は殆どいないと思うし」

「……俺達の方でも、可能な限り他の<マスター>に今聞いた情報を教えたりするので」

「ありがとうございます。今聞いた情報は見回り担当の騎士達に伝えておきましょう」

 

 そうして、改めて騎士さん達にお礼を言ってから、まず俺達は彼等に教えられた王都内にある冒険者ギルドがある場所へと向かう事にした……どうやら、彼等の話によると冒険者ギルドでは元々初心者冒険者への講習などを行なっており、そこでならより詳しい説明をして貰えるだろうとの事だ。

 ……さて、マップによると冒険者ギルドはこの大通りを進んだ先にある様だな。

 

「さて! なんか色々とグダグダだったけど、とりあえずまずは冒険者ギルドに行こうか! なろう系小説では最初に行くのがお約束だし!」

「確か様々なクエストの斡旋を行なっている施設との事でしたね。騎士さん達は何をするのか決まっていないのなら、まずそこで話を聞けばいいのではないかと言っていたのです」

「まずは、どんなジョブがあるかを知らなければジョブに就く事も出来ないしな……ん? おっと」

「ッ! 済まん! 大丈夫か⁉︎」

 

 そうやって駄弁りながら大通りを歩いていると、突然後ろの方から()()()()()()()()()が凄い勢いで走って来たので俺達は素早く大通りの脇の方へと寄った。

 その人物はフードの所為で顔はよく分からなかったが、どうやらとても焦っている様だった。また左手には第ゼロ形態の<エンブリオ>があったため、俺達と同じ初日ログイン組の<マスター>だと分かった。

 

「ああ、別に大丈夫ですよ」

「そうか良かった。……じゃあ、俺は急いでいるので失礼する! …… 上から見た光景だと、確かこの先に着ぐるみ屋がある筈だ!」

 

 そんなよく分からない事を言いながら、フードを被った彼はものすごい勢いで走り去って行った……しかし、着ぐるみ屋? 

 

「そんなに着ぐるみが好きな人だったのかな? ……あんなに焦っていたし」

「まあ、個人の趣味は人それぞれだし、ゲームなんだから変な遊び方をする人もいるだろう」

「うーん……フードでよく分かりませんでしたが、あの人どこかで見た事がある様な……?」

 

 俺達は少しだけ唖然としながら彼が走り去った跡を見つめていた……後、ミュウちゃんは何か気になったのか首を傾げていたが。

 ……まあ、あんまり気にしてもしょうがないか。

 

「とりあえず、他人の事よりも今は自分の事だ。俺達もさっさと目的地に行くぞ」

「まあそうだね。あの人みたいに走る必要はないけど急ごうか」

「そうですね。……まあ、再び会う機会でもあれば思い出すでしょう」

 

 そうして、俺達は少しだけ歩く速度を速めながら冒険者ギルドへと向かって行ったのだった。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:管理AIはもっと初心者支援増やして、どうぞ
・管理AI『それも含めて君達は“自由”だから。頑張って』
・また、騎士達がした説明は原作で出て来る設定が殆どなので省きました(全部書くと長くなるので)

南門駐屯所の騎士達:奇行が目立つ<マスター>達に大人の対応をしている人格者達
・“まだ”王国には沢山の騎士がいる為、門や街中の警備などはしっかりしている。
・三兄妹のアドバイスで<マスター>の自殺騒動は多少マシにはなった模様。

フードを被って着ぐるみ屋を求めて走り去った謎の男:いったい何ウ・スターリングなんだ……
・尚、フードは初期装備として選べる物の一つ。


読了ありがとうございます。
感想・評価は励みになりましたので、これからも頑張って行きたいと思います。


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冒険者ギルドでの初クエスト

前回のあらすじ:三兄妹「「「現在の<マスター>に対するティアン達の評価が『戦闘能力ゼロでモンスターに喜び勇んで突っ込んでいく変人』な件について」」」


※現在明らかになっているジョブ数を一万から千に変更。流石に多すぎたかなと。


 □王都アルテア・冒険者ギルド前 ミュウ・ウィステリア

 

「と、言うわけで、やっと到着しました冒険者ギルド!」

 

 何故か妙にテンションの高い姉様が、虚空に向かってたった今到着した冒険者ギルドの紹介をしているのです……姉様、異世界転生・転移物のラノベとかが好きですからね。

 

「ミカ、一体誰に話しかけているんだ?」

「とりあえず中に入りましょう姉様」

「ぶー、二人とも反応が塩いよー」

 

 そんな姉様の言動をスルーした私と兄様は冒険者ギルドへと入っていき、そんな私達の反応に少しむくれた姉様もその後に続きました。

 そんな冒険者ギルドの中は思っていたよりも遥かに綺麗で、その雰囲気は現実での市役所などの公的機関を思わせるものでした……しかし、中に居る人達は鎧や武器を身に付けている人が多く、彼等の雰囲気や足運びからその殆どが“戦う人間”である事も伺われました。

 

「……冒険者ギルドと言うからには荒くれ者の集まりみたいなのを期待してたんだけど……」

「国がやっている公共機関ならこっちの方が普通だろう。……ほら、さっさと受付に行くぞ」

「ハイなのです」

 

 そう言って兄様が姉様を連れて受付に向かって行ったので、私も周りの人の観察を終えてその後を追いました……幸いにも空いている受付があったので、そこに居た受付嬢さんに話を聞く事にしましょう。

 

「済みません。俺達は今日この世界に来たばかりの<マスター>なんですが、南門駐屯所に居た騎士さん達から『この冒険者ギルドでならジョブやクエストの詳しい説明を聞く事が出来る』と聞いて来たのですが」

「ああ成る程、<マスター>の方達でしたか。……分かりました。では、簡単な説明だけをする事も出来ますが、この冒険者ギルドでは簡単な訓練やジョブ適正の審査、初心者用アイテムの配布などを行う初心者講習を一人千リルで受ける事が出来ますが、どうしますか?」

 

 兄様が受付に居た金髪ロングで碧眼の美人受付嬢さんにその様な質問をしたら、彼女からその様な提案されました……さて、どうしましょうか? 

 

「千リルか〜、結構高いね。どうする?」

「受けてもいいんじゃないでしょうか。……私達はまだこの世界について殆ど知りませんし、ここでの戦い方が分かるのなら千リルぐらいなら安いかと」

「まあ、序盤には少し痛い出費ではあるが、また稼げばいいだけだし……「それでは、私から一つ提案があるのですが、初心者講習の費用を無しとする代わりに一つとあるクエストを受けて貰えないでしょうか?」

 

 受付嬢さんの提案をどうするのかを私達が相談してまあ受けてもいいかなと考え始めていた時に、その彼女からそんな提案を持ちかけられました。

 

「千リルを払わなくて済むのなら助かるのですが、その“とあるクエスト”の内容はどんなもの何ですか?」

「はい、そのクエストの内容というのは『<マスター>と言う存在についての情報提供』になります。……実は、私達冒険者ギルドを始めとするこの国の公共機関は【猫神】や<DIN>から『今日から多くの<マスター>がこの世界に現れる』と言うことは聞いて居たのですが、<マスター>の情報自体は伝説に語られている様なものしか知らないのです」

 

 そこから彼女が語った<マスター>の情報は騎士さん達から聞いたものと殆ど同じ不死である事や、<エンブリオ>に選ばれた者といった内容でした。

 

「ですが、昨日あたりから来た<マスター>達の行動は、これまで私達が抱いて来た<マスター>のイメージとズレているものが多く……これからこの世界に現れる<マスター>が増えていくとするなら、より詳細で正しい情報を得て置いた方が良いと私は考えたのでこのクエストを出させて頂きました」

「成る程〜!」

「後、貴方達は何故か奇行ばかり行う他の<マスター>よりも話が通じそうな事も理由ですね」

「成る程〜……」

 

 どうやら、色々と手探りなのはティアンの人達も同じの様ですね……まあ、いきなり不死身で超常的な力を持ち、価値観もかなり違う人間が大量に現れて何の問題も起きない筈はないですよね……。

 

「二人はどう思いますか? 私は受けてもいいと思うのです」

「うん、私も受けた方が良い気がする」

「まあ、コッチに損はなさそうだしな。……分かりました、そのクエストをお受けします」

「ありがとうございます。……申し遅れましたが、私は王都アルテア冒険者ギルドにおいて受付嬢をしておりますアイラ・ローランと申します。本日はよろしくお願いします」

 

【クエスト【相談──アイラ・ローラン 難易度:一】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 私達が彼女──アイラさんからのクエストを受託すると共に、そんなアナウンスが表示されました……こう言うところはゲーム的なんですね。

 

「それでは、あまりここで話を続ける訳にも行きませんので奥の個室へご案内します。こちらへどうぞ」

 

 私達はアイラさんの案内で冒険者ギルド内にある個室に向かいました。

 

 

 ◇

 

 

「なるほど、やはりこれからこの世界に来る<マスター>は、以前からいた<マスター>とはだいぶ違うようですね」

「そうみたいですね。……と言っても、<マスター>個人個人で価値観や行動パターンも全く違いますから、<マスター>と言う括りで見すぎるのは誤解を生むかもしれません」

「私達を含めて<マスター>達は基本的にこの世界には遊びに来てるからね。人によって楽しみ方は違うからね」

「<マスター>は良くも悪くも“自由”ですから。善行を成す人も、悪逆を成す人も、これからはそれぞれ現れると思うのです」

 

 あれから私達はアイラさんに<マスター>と言う存在について可能な限りの事を話しました……さっき騎士さん達に話したこと以外にも、初期の所持金や初期装備、この世界にいられる時間には個人差が大きい事なども伝えました。

 ……まあ、この世界が<マスター>の中ではゲームとして扱われているとかは、遊びに来ているなどと表現してある程度ぼかして話しましたが。

 

「<マスター>がこちら側に居られる時間が限られている以上、長時間の護衛依頼などは難しいですか。……ギルドとしては<マスター>が受けやすい依頼を纏めておいた方が良いかもしれませんね」

「人によるだろうけど、多分モンスター討伐みたいな派手なクエストが人気になると思うよ。逆に採取系とかは人気があんまり無いかも」

「<マスター>は不死身だから命の危険もある程度は気にしないだろうし、どちらかと言うと時間単位での報酬が良いクエストは人気になりやすいでしょう」

「ジョブクエストは特定のジョブに就いた人にしか受けられませんし、複数種のジョブでパーティーを組んでいる<マスター>には冒険者ギルドの方が使いやすいかもしれませんのです」

 

 そんな感じで、私達とアイラさんは大体二時間程<マスター>の事やこの世界の詳しい情報を話し合いました。

 

「……皆さま、今回は貴重なご意見を聞かせて下さって誠にありがとうございました。今回の意見は冒険者ギルドの<マスター>に対する姿勢の良い参考になると思います」

「いえ、こちらこそ色々な話を教えてくれて感謝しています。……中には、詳しく知らなかったなら致命的な情報もありましたし」

「<マスター>同士の争いはこの世界の法律でのノータッチだとか、<監獄>の事とか、<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>の事とかね。……本当に知らなきゃ行けない情報が多すぎ」

「誰か<Infinite Dendrogram>のwikiとか作ってくれませんかね。……物凄く大変そうですが」

 

 今までにこれだけ沢山の情報が出て来ましたが、それらですらこの世界では一般常識レベルのお話らしいですしね……兄様は『これらの情報は掲示板とか使って拡散した方がいいか?』と呟いていましたし。

 

【クエスト【相談──アイラ・ローラン 難易度:一】を達成しました】

 

 と、思っていたらそんなアナウンスが表示されました。どうやら、これで彼女からのクエストは達成と言う扱いの様ですね。

 ……まあ、後の<マスター>とティアンの関係はこれから手探りで進めていく事になるのでしょう。

 

「それでは、これからは初心者講習を始めさせて頂きます。……もっとも、主な説明は既に終わっていますので、これから私がするのは貴方達が初めて就くジョブ選択の手伝いと簡単に戦闘指導、そして初心者用アイテムの配布になりますが。……後、配布されるアイテムはクエスト報酬分も含めて多少色を付けさせて貰います」

「何から何までありがとうございます」

 

 そう言って、改めてこちらへ向き直ったアイラさんは左手人差し指に付いている指輪から一冊の本を取り出しました……どうやら、あの指輪は【アイテムボックス】の様ですね。ああいうタイプのも有るんですか。

 

「皆様にはこの【適職診断カタログ】をお貸しします。……このカタログには現在確認されているジョブの情報が載っており、更に質問を通じて今就けるジョブに中で一番合っているジョブを探す事が出来ます。……まあ、本当に最適とは限りませんが指針にはなりますし、それでも分からない事があればいつでも質問して下さい」

「分かりました」

 

 兄様は手渡された【適職診断カタログ】を受け取って開き、早速質問機能を使って『現在就くことのできる戦闘型の下級職』を表示させました……成る程、今のところ私達は生産をやる予定は無いですし、これなら今就けるジョブを探すのも楽そうですね。

 えーっと、載っているのは【戦士(ファイター)】【闘士(グラディエーター)】【剣士(ソードマン)】【槍士(ランサー)】【騎士(ナイト)】【弓士(アーチャー)】【狩人(ハンター)】【斥候(スカウト)】【冒険家(アドベンチャラー)】【盗賊(バンディット)】【魔術師(メイジ)】【司祭(プリースト)】【付与術師(エンチャンター)】……なんかめっちゃいっぱい有りますね。

 

「……お兄ちゃん、もっと絞った方がいいんじゃない?」

「じゃあ、どんなジョブに就きたいのかを言ってくれ。……俺がこの形式にしたのは、どんなジョブがあるのかを一通り確認する為だしな」

「では兄様、私は格闘系のジョブを見てみたいのです」

 

 これでも、私は護身術の道場に通っているので格闘技にはそこそこの自信があるのです……後、武器を使うのはちょっと性に合わないので。

 ……そして、兄様がカタログに『今就ける格闘系ジョブ』を質問すると【拳士(ボクサー)】【格闘家(グラップラー)】【蹴士(キックマン)】などのジョブが10個以上表示されました。

 

「……ふむ、格闘系だけに絞っても結構有りますね」

「この世界のジョブ多過ぎない? 一体いくつ有るんだよ」

「転職条件がロストしたものなども有りますので正確な数は私も分かりませんが、現在明らかになっているだけでも千は優に超えるでしょう」

 

 そんな姉様が言った愚痴にもアイラさんが真面目に答えてくれました……もう何度思ったか分かりませんが、この世界ゲームとしては自由度高過ぎじゃないですかね? 

 その後、私達は『ジョブを全部確認なんて何日かかるか分からない上に最悪ジョブはリセットも出来るらしいから、とりあえず適当に就くジョブを決めよう』と言う話になりました。

 

「私はせっかくだし派手に戦える前衛系、【戦士】とかがいいかな。ミュウちゃんはやっぱり格闘系?」

「はい、とりあえず【格闘家】辺りにしようかと。……兄様は昔剣道をやっていましたし【剣士】とかですか?」

「いや、パーティーで前衛三人というのもバランスが悪いし、せっかく剣と魔法のファンタジー世界に来たんだから魔法系のジョブとか良いと思ってるんだが……悩むな。……<エンブリオ>が生まれれば何かの指針になるんだが」

 

 そう言ながら、兄様は左手の甲にある卵──第ゼロ形態の<エンブリオ>を見つめました……アリスさんは孵化して第一形態になったら外れると言っており、もうログインしてから結構経ちましたがいつ生まれるのでしょうか。

 ……そう思っていたら、突然兄様の<エンブリオ>が光を放ち始めました。

 

「お、お兄ちゃんっ⁉︎ なんか光ってる! 光ってる!」

「うおっ! ……多分、これは孵化の合図だよな。……爆発とかはしないよな?」

「流石にそれは無いと思いますが……。あ、姉様のも光ってますよ」

「えっ⁉︎ ホントだ! 私の卵も生まれそう!」

 

 いきなりだったから流石の二人もてんやわんやしてますね。あちらのアイラさんも目を丸くしていますし。

 ……しかし、私の左手は全然光りませんね。引っ掻いたりつついたりしても反応が無いですし、孵化までの時間には個人差があるのでしょうか? 

 

「<マスター>における最大の目玉である<エンブリオ>! 一体どんなのが生まれるのかな〜」

「まあ、ジョブを選ぶ前だったからタイミングは良かったか」

「……私のは光ってませんけどねー」

 

 ……別にいいですもん。<エンブリオ>なんて無くても殴ればいいだけですし。




あとがき・各種設定解説

末妹:実は内心自分の<エンブリオ>が孵化しない事にちょっと危機感
・一眼見れば相手の大雑把な戦闘能力を見抜く洞察力を持っている。

兄:でも掲示板とか書き込んだ事無いしなぁ……どうしようかなぁ……

妹:私の<エンブリオ>は一体どんなのかな〜

アイラ・ローラン:王都アルテア冒険者ギルドの人気受付嬢
・現れ始めた<マスター>の奇行を聞いて、伝説では無い彼らの詳しい情報を知るべきだと考えていた。
・なので、三兄妹に初心者講習を先に持ちかけて、クエストを受けたくなる様な状況を作ったりしていた。

冒険者ギルドの初心者講習:実は今利用する人間は殆どいない
・元々はアルター王国が作られた直後に邪神との戦いで出来てしまった戦災孤児などの救済策として作られた制度で、前金の千リルも無利子の借金に出来る様になっている。
・しかし、時代が安定して来てからは、冒険者ギルドに来る前にそう言った情報や訓練をしておく人間が殆どになった為廃れていった制度。


読了ありがとうございました。
次はようやく兄と妹の<エンブリオ>紹介編になります。


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<エンブリオ>の孵化と訓練開始

前回のあらすじ:兄妹「「ついに俺(私)の<エンブリオ>が!」」末妹「……私は?」


 □王都アルテア・冒険者ギルド ミカ・ウィステリア

 

 私の左手にある卵──第ゼロ形態の<エンブリオ>が光を放ち始めてからしばらくした後、その光が収まると共に私は自分左手に何かが握られている事に気が付いた。

 

「……これは……随分とデカイね。……えーっと、金属製の棍棒なのかな?」

 

 私の左手に握られていたのは長さ二メートル程の金属製らしき棍棒で、形状は一メートル強ぐらいある持ち手の棒に巨大な四角錐がくっついた様な感じである……また、四角錐は鋭い凹凸が付いているかなり殺意の高い形状であり、物凄く重そうなのに不思議と片手で持てるぐらい軽かったりする。

 ……そして、卵があった私の左手には“棍棒を持った大柄な人”っぽい図柄の紋章が描かれていた。

 

「……それが姉様の<エンブリオ>なのですね。なんか凄いゴツいのです。……どこかのロボットアニメの主人公機が持ってそうなデザインですね

「本当に殺意が溢れるデザインだよねー。……あっ! お兄ちゃんの方はどうなったのかな?」

 

 そう思って私とミュウちゃんが隣を向くと、そこには左手にある“太陽を背負う男”の様な紋章を眺めているお兄ちゃんの姿があった。

 

「あれ? お兄ちゃんの<エンブリオ>は? まさかハズレとか……」

「ちゃんと孵化はしている。……おそらく、実態が無いタイプのモノなんだろう」

 

 ああ、確か<エンブリオ>にはいくつかの種類があるんだったね。私の棍棒は武器やアイテム型のTYPEアームズ、お兄ちゃんのは能力・領域型のTYPEテリトリーってヤツっぽいかな。

 ……と言うか、それもステータス欄を見れば普通に分かるよね。よく見たら、お兄ちゃんは早速自分のステータスを開いてるし。

 

「とりあえず、ステータスを見てみようか。……えーっと、<エンブリオ>のステータス欄はーっと……」

「一体どんな感じなのですか?」

「……んー、ちょっと待ってねー……ああコレだね。こんな感じー」

 

 私はステータス欄を操作してお兄ちゃんとミュウちゃんに自分の<エンブリオ>の能力を見せた。

 

【激災棍 ギガース】

 TYPE:アームズ

 到達形態:Ⅰ

 

 装備攻撃力:200

 装備防御力:20

 

 ステータス補正

 HP補正:D

 MP補正:G

 SP補正:F

 STR補正:D

 END補正:E

 DEX補正:G

 AGI補正:D

 LUC補正:G

 

『保有スキル』

《バーリアブレイカー》Lv1:

 自身の直接攻撃時、攻撃対象の防御系スキル・身代わり系スキル・防御力強化系スキル効果を低下させる。

 効果低下率はこのスキルのLvと攻撃する際の自身の攻撃力、及び攻撃対象と対象となるスキルの強度で決定する。

 パッシブスキル。

 

 ……ふむふむ、このスキルとステータス補正を見ると、多分物理的な近接戦闘に特化した感じの<エンブリオ>みたいだね。相手の防御を削って物理で殴る感じのスタイルなのかな。

 

「姉様の<エンブリオ>は物理攻撃特化って感じですかね。……後、ギガースってどう言う意味でしたっけ?」

「私も知らない。……後で現実(リアル)に戻ったらネットで確認してみよう。……さて! 次はお兄ちゃんの<エンブリオ>を公開ダー!」

「はいはい……ほれ、こんなんだ」

 

 そして、お兄ちゃんは私達に自分の<エンブリオ>のステータスを公開した。

 

【百芸万職 ルー】

 TYPE:テリトリー

 到達形態:Ⅰ

 

 ステータス補正

 HP補正:G

 MP補正:G

 SP補正:G

 STR補正:G

 END補正:G

 DEX補正:G

 AGI補正:G

 LUC補正:G

 

『保有スキル』

光神の恩寵(エクスペリエンス・ブースター)》Lv1:

 自身が獲得する全ての経験値を+100%する。

 パッシブスキル。

 

長き腕にて摑むモノ(エクスペリエンス・トランスレイション)》:

 自身と自身のパーティーメンバー、及びそれらの従属生物が非人型範疇生物(モンスター)を倒した時、アイテムをドロップしなくなる代わりに経験値が増大する。

 ※このスキルのオンオフを切り替えた後、<Infinite Dendrogram>内時間で24時間の間はこのスキルのオンオフの再変更は不可能。

 パッシブスキル

 

 ……うーむ? ステータス補正がオールGなのはともかく、スキル的には獲得経験値を増大させる<エンブリオ>って事なのかな? 

 

「それにしても、スキルの文字とルビがなんかアレだよね。……まあ、お兄ちゃんのパーソナルから生まれたのなら納得だけど」

「おいコラお前それ以上言うなそれを言ったらマジで戦争だろ!」

「まあまあ! 落ち着いて下さい兄様! ほら、アイラさんも見ていますし」

 

 私のからかいの言葉にちょっとキレたお兄ちゃんをミュウちゃんがどうにか宥めてくれた……ていうか、さっきからアイラさんを放置しっぱなしだったね。<エンブリオ>の孵化にちょっと浮かれ過ぎてたかな。

 

「あ、……申し訳ありませんアイラさん。何分、急に<エンブリオ>が孵化したもので動揺してしまって……」

「いえ、大丈夫ですよ。……私も、<マスター>が<マスター>足り得る<エンブリオ>の誕生を見る事が出来てとても興味深かったですし」

 

 お兄ちゃんの謝罪に対しアイラさんは大人の態度でそう言ってくれた……私達は『これ以上彼女に迷惑をかけるのも忍びないので、<エンブリオ>の考察は後回しにしてさっさと就くジョブを決めよう』という事になった。

 ……とりあえず、私とお兄ちゃんは自分達の<エンブリオ>の情報もカタログに入力して、自分に適したジョブを検索してみた。

 

「じゃあ、私はカタログで出たオススメの【戦棍士(メイスマン)】にしようかな。【ギガース】の種類は戦棍(メイス)みたいだし、その扱いに特化したこのジョブが無難でしょう」

「私はさっき言った通り【格闘家(グラップラー)】でいいですし……兄様は?」

「俺は【魔術師(メイジ)】で行く。……俺の【ルー】は今のところ獲得経験値を増大させるだけの<エンブリオ>だから、ジョブは割と何でもいいしな」

「その三つのジョブであればこの近くにあるそれぞれのギルドで転職出来ますね。……では、地図を渡しておくので早速転職してから、また此処に戻ってきて簡単な戦闘訓練に入りましょうか」

 

 そうして、私達はそれぞれ自分が初めて就くジョブをそれぞれのギルドに行って転職し、その後戦闘訓練の為に冒険者ギルド内にある訓練場へと戻っていったのでした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □王都アルテア・冒険者ギルド訓練場 【魔術師】レント・ウィステリア

 

「《ファイアーボール》!」

 

 そう言った俺の突き出した右手から小さな火の玉が発射され、10メートル程先に置かれていた的に命中した……ふむ、この世界の魔法は基本的にスキル名を言うだけで後は自動で発動してくれるみたいだな。

 ……あれから俺達は各々が選んだジョブに就いた後、この訓練場でアイラさんに簡単な訓練を付けてもらう事になった。

 

『それでは、まずは皆さんの実力を知りたいので軽く模擬戦でもしましょうか。……ああ、これでも私は殆ど戦闘系のジョブで()()()()()4()6()8()ありますので、遠慮なく向かって来てくれて構いませんよ』

 

 そう言った彼女の実力は本物で、俺も多少は剣の腕に覚えがあったのだがステータス差以前に純粋な技量で上回られて軽くいなされてしまっていた……と言うか、ティアンは<マスター>と違って合計レベルも個人差があるらしいのに、レベルから考えて彼女の最大レベルは500あるよな。

 ……なんで冒険者ギルドの受付嬢なんてやってるんだろう? 

 

『レントさんはどうやら剣の心得があるようですし、魔法系のジョブ主体で行くならそちらの訓練を優先した方がいいでしょう。ミカさんは武術の心得が無い様なので私が少し指導しましょうか。……ミュウさんは特に私が教える事は無いレベルなので自主訓練で』

 

 その模擬戦の後、アイラさんはミカとの一対一の訓練を始めて、俺は彼女が用意してくれた訓練用の的に向けて魔法スキルを発動させる練習を行っていた……後、ミュウちゃんは『あっち(現実)と身体の大きさが違うのでちょっと調整してきます』と言って、訓練場の端っこで暫く武術の型を繰り返していた。

 ……と思っていたら、ミュウちゃんが急に演舞を辞めてこっちにやってきた。

 

「もう調整はいいのか?」

「はい、体格の違いによる動きのズレは矯正出来ました。やっぱり格闘で戦うなら手足が長い方が有利ですからね、アバターを成長させて正解だったのです。……それで兄様、そちらの魔法の方はどんな感じですか」

「ふむ、発動の意思を込めてスキル名を言うと、MPが消費されてスキルが魔法を自動で発動させてくれるって感じかな。……後、発動者のイメージでスキルの方がある程度補正してくれるらしいか?」

 

 例えば、さっきの《ファイアーボール》は右手から出したけど、左手から魔法を出す事もできたりするし……多分、この辺りの事は本格的に魔法について調べないとどうしようもない領分かな。興味はあるし、機会があったら調べてみるのもいいかもしれない。

 ……実は、今はそれよりも気になる事があるんだが……。

 

「後、気になる事は()()()()()()()()()()()()()()()()だな」

「……アレ? この世界ってモンスターを倒すかジョブクエストをこなすかしないとレベルが上がらない仕様では無かったです?」

「ああ、それは私のジョブスキルによるものですね」

 

 そんな俺の疑問に答えてくれたのはアイラさんだった……後、ミカは向こうでヘトヘトになって地面に座り込んでいる。

 ……アイラさんは汗ひとつかいていないんだが、これがステータスの差か……。

 

「私のメインジョブ……教官系統上級職【教導官(インストラクター)』には《戦技教導》という『戦闘の指導をした相手がその度合いに応じて経験値を獲得する』スキルがありますので」

「成る程、そうだったんですね。ありがとうございます」

 

 経験値を獲得させるタイプのジョブスキルもあるのか……俺の【ルー】とは相性が良さそうだし、今度その辺りのジョブを調べてみようかな。

 

「それでは時間も押していますし、ミカさんの体力が回復したら最後の訓練……実戦訓練に移りたいと思います」

「分かりました」

 

 それじゃあ、暫くは休憩時間だから俺とミュウちゃんはへたり込んでいるミカの様子でも見に行く事にした……まあ、ミカは『アイラさんスパルタすぎー……。レベルは上がったけど……』とか言ってたし特に問題は無さそうだった。

 

 

 ◇

 

 

 それから十分後、ミカの体力が回復したので俺達はアイラさんの言う『実戦訓練』に入る事になった。

 

「では、これからの実戦訓練では、この中に入っているモンスターと戦ってもらいます」

 

 そう言って、アイラさんは一つの宝石の様な物を俺達に見せた。

 

「これはモンスターを入れておく為の【ジュエル】というものです。……この中には呼び出した人間を襲う様に設定された訓練用のモンスターが入っているので、皆さんにはそれと戦って貰う事になります」

 

 尚、そのモンスターは呼び出してから30分程度で死亡する設定の【錬金術師】が作り上げたホムンクルスらしく、ステータスも王都周辺に出るモンスターに毛が生えた程度らしいので、今の俺達でも普通に倒せるでしょうとの事だ。

 ……そうして一通りの説明を終えた後、アイラさんは【ジュエル】を俺に手渡してきた。

 

「それを持って《喚起》──【チュートリアル・ブラックホムンクルス】と言えば中にいるモンスターが出て来ますので、準備が出来たら呼び出してそれと戦って下さい」

「分かりました」

 

 それだけ言うと、アイラさんは部屋の隅の方に下がっていった……まあ、レベル四百越えの彼女がいれば万が一も無いだろう。

 

「……ミカ、ミュウちゃん、準備はいいか?」

「大丈夫だよお兄ちゃん」

「問題無いのです」

 

 俺の確認にミカは両手に【ギガース】を構えて、ミュウちゃんはごく自然体で立ったままそう答えた……それじゃあ、この世界での初実戦をやりましょうか! 

 

「じゃあ行くぞ……《喚起》──【チュートリアル・ブラックホムンクルス】!」

 

 俺のその宣言と共に手に持った【ジュエル】が発光し、直後に前方5メートルぐらい先へ一体のモンスターが出現した……のだが……。

 

『KYASYAAAAAAA……』

「……ホムンクルス?」

「……どっちかと言うと、怪物系の映画に出て来るクリーチャーみたいなんですけど……」

「……見た目的にはゲーム終盤に出てきそうな感じですね」

 

 その見た目は鈍く輝く黒い身体に禍々しい爪がついた手足を持つ長い腕と脚が生えていて、首から上は人間に嫌悪感を抱かせる事に特化された歪な形状をしていて、その牙が生えた口からは呼吸音と共に異臭を放つヨダレが滴り落ちていた。

 ……呼び出す相手を間違えたかな? 

 

「……あのー、アイラさんこれは……」

「それが貴方達がこれから戦う【チュートリアル・ブラックホムンクルス】で間違いありませんよ。……初めてモンスターと戦う初心者の死因で最も多いのが“初めて相対するモンスターに怯んで不意を突かれる”事なので、そう言った事に耐性を持たせる為に()()見た目を変えていますが」

 

 えぇ……俺達は別に大丈夫だけど、現実視でグロ耐性の無い<マスター>はリタイヤしそうな見た目何ですが……。

 ……そんな俺の考えを読み取ったのか、アイラさんは更に言葉を続けた。

 

「まあ、()()()()でリタイアする様ならば戦闘以外の道を探した方が賢明でしょう。この世界にはコレより遥かに恐ろしい脅威が幾らでも存在していますし。……それより、そろそろ来ますよ」

『KYASYAAAAAAaaa──ッ!!!』

 

 アイラさんのその言葉と同時に【チュートリアル・ブラックホムンクルス】が奇声を上げながら俺に向かって突っ込んで来た……ここに、俺達の<Infinite Dendrogram>における初めてのモンスターとの戦闘が始まったのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:昔アレな性格だった時期がある
・あらゆる方面に高い才能があったため、昔は神童と呼ばれて天狗になっていた時期があった。
・その際の性格は閣下とジュリエットを足して2で割った感じで、事故にあってからは改善したが当時の事は本人的には完全に黒歴史になっている。

【百芸万職 ルー】
<マスター>:レント・ウィステリア
TYPE:テリトリー
能力特性:獲得経験値上昇?
固有スキル:《光神の恩寵》《長き腕にて掴むモノ》
・モチーフは『諸芸の達人』『長腕のルー』ともあだ名されるケルト神話の太陽神“ルー”。
・《光神の恩寵》が増加させるのは自身が最終的に獲得する経験値量になる。
・《長き腕にて掴むモノ》はモンスターを倒した際にドロップアイテムのリソースを全て獲得経験値に回すスキル。
・尚、<UBM>には効果を発揮しない仕様。

妹:私の<エンブリオ>ゴツい……
・アイラとの特訓では持ち前の“直感”で攻撃を凌ぎ続けたものの疲労でダウンした。

【激災棍 ギガース】
<マスター>:ミカ・ウィステリア
TYPE:アームズ
能力特性:防御系スキル効果低下?
固有スキル:《バーリアブレイカー》
・モチーフはギリシャ神話において神々と戦った巨人を指す言葉“ギガース”。
・巨大なメイス型のアームズで非常に頑丈で攻撃力も高いが、大型である為に装備時には両手の装備枠を消費する。
・《バーリアブレイカー》は多くの防御系スキル効果を減衰出来るが、適応範囲が多くパッシブスキルなので減衰率はそこまで高くない。

【戦棍士】:戦棍士系統下級職
・メイスを扱う事に特化したジョブで、主に直接戦闘や相手の鎧などの破壊に長けておりステータスはSTR特化。
・上級職は【剛戦棍士(ストロング・メイスマン)】だが、派生のジョブもあるらしい。

末妹:現実とアバターの違いには三分程度で慣れた
・実は格闘系天災児でもあり、戦闘の才能はちょっとヤバいレベル。

【格闘家】:格闘家系統下級職
・格闘系のジョブの中でも殴る、蹴る、投げるなどの各種センススキルを習得出来る万能型で、《看破》《殺気感知》などの汎用スキルも習得可能。
・ただし、それらのスキルレベルの上限が低くアクティブスキルも殆ど覚えない上、ステータスも余り高くならないのでメインで使う人は少ない。
・上級職は【武闘家(マーシャルアーティスト)】。

アイラ・ローラン:意外と武闘派&スパルタ
・かつては五百レベルカンストしていたが、受付嬢になるに当たって【教導官】のジョブを取得する為にいくつかのジョブをリセットしている。

【教導官】:教官系統上級職
・他者にものを教える事に特化した【教師(ティーチャー)】の派生で、戦闘技能を教える事に特化した【教官(コーチ)】の上級職。
・主に武術系の指導に長けておりほぼ全ての武器を使え、戦士を育てるのに有用なスキルを習得出来る(魔法の指導に長けたジョブは別にある)


読了ありがとうございました……設定考えるのやっぱり超むずい……。


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初戦闘、そして出発

前回のあらすじ:妹「さぁ! 初めてのモンスターとの戦闘……ってキモッ!」兄「しょうがない、やるしか無いだろ」末妹「大丈夫、殴れるなら何とかなるのです」

※アイテム説明を一部変更。


 □王都アルテア冒険者ギルド・訓練室

 

 王都アルテアにある冒険者ギルド、そこの訓練室ではウィステリア兄妹と【チュートリアル・ブラックホムンクルス】との戦闘(訓練)が始まっていた。

 

『KYASYAAAAAAAAaaaa──ッ!!!』

 

 まず、【ジュエル】から解放された【チュートリアル・ブラックホムンクルス】がその製作時に与えられた命令に従って、自身を解放したレントに襲い掛かりその歪に捩じくれた爪を振り上げた。

 

「チィッ!」

 

 ……出てきた相手の醜悪な見た目に面食らっていたレントだが、相手がこちらに向かって来るや否や即座に気を切り替えて距離を取る為に後ろに飛び……。

 

「セイハーッ!」

『GYAAAッ⁉︎』

 

 その間に【ブラックホムンクルス】動き出すよりも()()()()()()()ミカが両手に持った大型メイス──彼女の<エンブリオ>【撃災棍 ギガース】を割り込ませてその爪を防ぎ、そのまま【ギガース】を振り抜いて相手を吹き飛ばした。

 ……この【チュートリアル・ブラックホムンクルス】は醜悪な見た目と違い、STRを含む()()()ステータスは王都周辺に出現する【リトルゴブリン】と大差無い程に低く設定されているので、現在ミカのSTRでも余裕で吹き飛ばす事が出来たのである。

 

『KYASYAッ!』

「あら、結構頑丈だね」

「戦闘訓練用だからか?」

 

 しかし、吹き飛ばされた【ブラックホムンクルス】はそのまま体勢を立て直して再び兄妹に向き直った……レントの想像通り【チュートリアル・ブラックホムンクルス】は初心者に多くの戦闘経験を積ませる事を目的に作られている為、そのステータスはENDをやや高く、HPは非常に高く設定されているのである。

 ……更に【ブラックホムンクルス】は一度でも自分を攻撃した者も攻撃対象に含める設定にされているので、前衛ジョブとしてレントの前に立ったミカへとターゲットを変えて、そちらに襲いかか……。

 

「……私を無視するのは頂けませんね。お陰で簡単に近づけました」

『ッ⁉︎ GYAッ!』

 

 ……るよりも早く、その懐に潜り込んだミュウが放ったアッパーによって【ブラックホムンクルス】の顎はかちあげられた。

 だが、その攻撃によってミュウもターゲットと認識した【ブラックホムンクルス】は、直ぐ手の届く位置にいる彼女に対してその爪牙を振りかざした。

 

『GUッ……GYAッ! SYAッ!』

「……ふむ、見かけはクリーチャーですが中身は人間とさして変わりませんね。これなら避けられます」

 

 しかし、彼女に嚙みつこうとした牙は僅かに身を逸らされるだけで躱され、続けて振るわれた両手の爪も腕の部分を弾かれる事によって軌道を逸らされて当たらない……更に攻撃後の隙を突いて彼女の拳や蹴りが的確に突き刺さっていく。

 ……【ブラックホムンクルス】の視点では、まるで自分が向こうの攻撃だけが当たる幻影と戦っているかの様に感じる程であった。

 

「……このままミュウちゃんに任されば普通に倒せそうだねー」

「それだと俺達の訓練にならないだろ。……ミュウちゃん、俺が合図をしたら一旦離れてくれ。ミカは俺が魔法を撃ったら入れ替わりに近接戦だ、必要なら援護する」

「分かったのです」

「オッケー」

 

 このまま見物人に徹するのでは訓練にならないと判断したレントが、妹二人に簡単に指示を出すと共に魔法スキルを使い……そして、そのスキルの僅かな準備時間が終わった。

 

「ミュウちゃん今だ! 《ウインドカッター》!」

「了解なのですっと!」

『! GYAAAAA⁉︎』

 

 合図と共にレントが掲げた手の平から小型の風の刃──風属性の初歩魔法《ウインドカッター》が放たれる……それは、合図と同時に【ブラックホムンクルス】から離れたミュウが直前まで居た場所を通りその腕の一本を切り飛ばした。

 

「ナイスコントロールです、兄様!」

「まあ、このぐらいはな。……ミカ!」

「分かってるって!」

『GYAAAAAAaaaa!!!』

 

 腕を切り飛ばされた痛みに悶える【ブラックホムンクルス】に対して、下がったミュウの代わりに【ギガース】を振りかぶって突っ込んだミカが容赦なく追撃をかける。

 

「潰れろ! 《ストライク》!」

『GYAAA⁉︎』

 

 そして、大上段からアクティブスキルを伴って打ち下ろされた【ギガース】が【ブラックホムンクルス】の頭部に直撃して、相手を叩き潰し床に打ち付けた。

 ……だが、それでも【ブラックホムンクルス】はその高いHPから痙攣して動けないながらも生きており……。

 

「お兄ちゃん、トドメ!」

「分かった……《ファイアーボール》!」

『──────ッ!』

 

 直後、飛び退いたミカと入れ替わりにレントが放った小型の火球が【ブラックホムンクルス】に直撃して、その身体を跡形も無く焼き尽くして光の塵へと変えた。

 

「おー、見事に焼けているのです」

「……話には聞いていたけど、モンスターを倒すと光の塵になるってあんなの何だ」

「そうみたいだな。……経験値も入ってレベルも上がったみたいだし、これで初戦闘は終わりで良いんですね」

 

 妹二人が各々の感想を述べているのを尻目にレントはステータス欄を見て経験値が入っている事を確認しつつ、この戦闘が終わった事を壁際に立ってこちらを見ていたアイラさんに改めて確認した。

 

「はい、お疲れ様でした。……三人とも見事な戦いぶりでしたし、これなら戦闘メインで十分やっていけるでしょう」

 

 彼女のその言葉と共に、三兄妹の<Infinite Dendrogram>に於ける初めての非人型範疇生物(モンスター)相手の戦闘は終わったのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □王都アルテア<マリィの雑貨屋> 【格闘家(グラップラー)】ミュウ・ウィステリア

 

 あれからモンスターとの初戦闘を私達はアイラさんの案内で<マリィの雑貨屋>というお店にやって来ました……ここに来たのは先程のクエストの報酬である、私達に渡す初心者用アイテムを買う為だそうです。

 ……正直、こちらの方が多くの情報を教えて貰いましたし、ここまでされるのは貰いすぎでは無いかと思ったのですが……。

 

『貴方達から頂いた<マスター>関係の情報はとても参考になりましたから。今後も<マスター>が増え続けるならば、それらの情報は非常に役に立つでしょうし。……それに、私は貴方達の話を聞いてこれからの事を考えると、優秀かつ善良で話のわかる<マスター>との伝手を作っておく事は非常に重要な事だと判断しました。なので、この報酬は今後の事を考えての先行投資と言うのもありますから』

 

 と、返されてしまったので、私達は甘んじて彼女から報酬を受け取る事にしたのです……そんな事を考えていたらアイラさんが店の中に入って行ったので、私達もその後を追って中に入って行きました。

 ……店の中に入るとそこには様々なアイテムが綺麗に陳列されており、奥のカウンターには一人の女性が座っていました。

 

「いらっしゃいませ〜。……って、アイラじゃない。どうしたの?」

「ええ、今日はこちらの<マスター>の方達に依頼したクエストの報酬を買いにきたんですよ。……申し遅れました、彼女はこの店の店主“マリィ・ローラン”……私の母でもあります」

 

 そう言ったアイラさんに続いて店主──マリィさんが挨拶をしてきました。

 

「いらっしゃいませ、そこのアイラの母でこの<マリィの雑貨屋>の店主をしていますマリィ・ローランと申します」

「どうも、<マスター>のレント・ウィステリアです」

「その妹で<マスター>のミカ・ウィステリアです」

「同じく妹のミュウ・ウィステリアなのです」

 

 成る程、確かに言われてみるとこの二人は顔立ちとかがよく似ているのです……しかし、マリィさん若いですね。とてもアイラさんぐらいのお子さんがいるとは思えないのです。

 ……そして、そんなマリィさんは私達の事を興味深そうに見つめていました。

 

「<マスター>が今日から増え始めるみたいな事は聞いていたけど、まさかいきなり娘が連れて来るなんてね。……でも、クエストを発注したのなら報酬は事前に用意しておくべきじゃない?」

「……こちらも来るべき<マスター>の増加に対応するのに精一杯だったんです。その分報酬は色を付けますし……それよりも、この三人用の装備を買いたいので案内して下さい、店主さん」

「ハイハイ。……それじゃあこちらにどうぞ〜」

 

 そうして、私達はマリィさんの案内でお店の一角にあるという初心者向けのアイテム売り場に案内されました。

 ……そこには様々な武器や防具、そして初心者用のポーションなどの使い捨てアイテムが並んでいました。

 

「ここが初心者用アイテムのコーナーよ。……ここでは使い終わった中古品の装備とかを整備して安く売ってるのよ」

「ここではそこそこの性能の装備が安く手に入るので、多くの初心者が利用しているんですよ。……なので、大した金額ではないので遠慮無く受け取って下さい」

「はい、ありがとうございますアイラさん」

 

 そして、アイラさんは今の私達に合った装備を手早く選んで買い、クエストの報酬として簡単な解説付きで渡してくれました。

 

「レントさんにはそれぞれMPを固定値で200ほど増やすスキルが付いている外套【マジックローブ・1】とアクセサリーの【魔力の指輪】、杖の【リトルトレントの魔杖】を。ミカさんは武器はご自身の<エンブリオ>があるので、セットで装備すれば《ダメージ軽減》とHP上昇の効果がある軽鎧の【ライオット】シリーズのSサイズ。ミュウさんには格闘家用のAGI上昇スキルがある【青の武闘着】上下セットと、特殊な効果は無いですが軽くて頑丈な籠手【ライトメタル・ガントレット】をそれぞれ報酬として渡します」

「思ったよりめっちゃ多いんだけど……」

「ですね……」

「こんなに沢山……大丈夫何ですか?」

 

 報酬として渡されたなんか凄そうな装備の数々に、私達は思わず遠慮してしまいましたが……。

 

「これでも私はそれなり稼いでいるので大丈夫ですよ。それに先程も言った通り、これらは初心者用の中古品ですから安いですし。……ああ、初心者講習を受けた人には低級の【HP回復ポーション】を渡す事になっていますので渡しておきますね。……後はレントさんが【魔術師(メイジ)】なのでここで【MP回復ポーション】などを買っておくべきでしょう。ついでに外での活動で必要なアイテムも教えて置きますので、余裕が出来たら買ってみるのも良いと思いますよ」

 

 そうして私達はアイラさんから報酬を受け取り、ついでに必要だと教えられた各種アイテムを買ってみました……その後、私達はアイラさんの勧めで初心者用のクエストを受けるために冒険者ギルドに戻って行きました。

 ……やっぱり、アイラさんって物凄く面倒見が良いタイプですよね。

 

 

 ◇

 

 

「これらが王都周辺の低レベルモンスターの討伐クエストになります。……これらは王都周辺のモンスターが増え過ぎない様にする“間引き”としての意味の他に、初心者用救済・育成の為のクエストとしての意味があるので初めてのクエストとしては丁度いいでしょう。……おっと、言い忘れていましたが私の指導を受けた事で、貴方達には今から一時間程【教導官(インストラクター)】の奥義《教導官の薫陶》による獲得経験値・スキルレベル上昇の補正が付きますのでよろしくお願いします」

 

 あれから私達は報酬としての貰った装備を身につけて、冒険者ギルドでアイラさんオススメの初心者用クエストを受注しました……ちなみに、これらの初心者用クエストは下級職一職目の人のみが受けるモノという暗黙の了解があるので、注意して下さいとも言われました。

 ……しかし、アイラさんには本当に色々とお世話になりっぱなしですね。初日に彼女に出会えたのは私達にとって埒外の幸運でしょう。

 

「アイラさん、本当に何から何までありがとうございます」

「初めて仲良くなったティアンがアイラさんで良かったね」

「そうですね」

「いえ、これは私が好きでやっている事ですし、先程も言った通り先行投資の様なものですから。……それに、ここまでやってもこの世界では人はあっさり死んでしまうものですしね」

 

 ……そう言った彼女の顔は先程とは一転して深い悲しみと憂いを抱えていました。

 

「この世界では人間は非常に()()()()()ですからね。昔、私が冒険者をやっていた頃にも、昨日一緒にパーティーを組んでいた人が明日には死んでいるなんて事はザラに有りました。……そんな人を少しでも減らす為に冒険者ギルドの受付嬢に転職しましたが、毎日顔を合わせていた人がある日突然来なくなる事も多いです。……貴方達にここまでの援助をしたのは不死身である<マスター>が増えれば、戦いで死んでいくティアンの数が減るのではないかと思った事も理由にあるんです……」

 

 そこまで語ったアイラさんの雰囲気はとても申し訳なさそうな感じをしていました……とりあえず、私が何か言おうとするよりも早く兄様が口を開きました。

 

「アイラさん……成る程、()()()()()()

「え?」

 

 兄様が言ったその言葉にアイラさんは少し惚けた様な声を出しました……そして、兄様は更に言葉を続けます。

 

「貴女がただ優しくてお節介焼きな人だった事がですよ。……正直、ここまでしてくれるからには後々何か重い対価を支払わせる事が目的では無いかと内心疑っていましたし。……<マスター>を援助してティアンの死人を減らす程度の事なら、別にどうという事はありませんから」

「疑っていた事とかは別に言わなくても良いと思うのです兄様。 ……それにアイラさん、不死身な<マスター>達は基本的にこの世界へ遊びに来てるだけなのです。なので、そんな私達よりもティアンの命を優先するのは当然だと思いますよ」

「まあ、<マスター>って言うのは自由だから、必ずしもティアンを守る者だけとは限らないけど……貴女の様な(ティアン)がいるなら、ティアンを仮初めの命をかけて守ろうとする(<マスター>)も必ず出て来ると私は思うよ」

「皆さん……」

 

 そんな風に私達はアイラさん──この世界で初めて友誼を結んだティアンに各々の思う言葉を伝えました。

 ……私達の言葉を聞いてアイラさんは一度だけ目を伏せると、次の瞬間に今までよりも綺麗な笑顔を浮かべながら私達に自分の言葉を伝えました。

 

「ありがとうございます皆さん。私が初めて言葉を交わした<マスター>が貴方達で本当に良かった。……では、クエストは受託されましたので行ってらっしゃいませ。当冒険者ギルドは貴方達(<マスター>)の訪れをいつもお待ちしております」

 

 ……アイラさんが掛けてくれたその言葉を背に、私達は王都の外へと足を進めていったのでした。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:ティアンと仲良くなったよ
・三人ともデンドロが『世界』だとは初めから分かっていたが、アイラさんとの交流で“世界派”になった感じ。
・無論、デンドロよりはちゃんとリアルを優先しようと言うタイプである。

《ウインドカッター》:【魔術師】のスキル
・小さな風の刃を飛ばす風属性の初級攻撃魔法。

《ストライク》:【戦棍士(メイスマン)】のスキル
・スキルレベルに応じて通常よりも攻撃力を上げた一撃を放つスキル。
・【戦棍士】の初歩スキルで威力も低いが、その分出が早く消費SP・クールタイムも少ない。

【チュートリアル・ブラックホムンクルス】:別名キモイサンドバッグ
・初心者にどんな状況でも怯まず戦える精神力を養わせる事を目的として外見をデザインされた。
・だが、見た目がキモすぎてリタイアする初心者が多かったので売れなくなった代物で、現在では生産中止。

アイラ・ローラン:こういう性格で美人なので冒険者の間にはファンが多い
・生産中止の【チュートリアル・ブラックホムンクルス】を持っていたのは、彼女もコレの開発に関わっていたから。
・ちなみに外見をこうしたのは彼女のアイデアで、そこから分かる通り戦闘に関してはかなりのスパルタ。
・尚、売れ残りを責任を持って買い取ったので実はまだ何体か持っている。

《教導官の薫陶》:【教導官】の奥義
・戦闘指導をした時間と内容、指導対象とのレベル差(相手の方が高い場合、効果はほぼゼロになる)に比例して指導対象の獲得経験値・スキルレベル上昇率を増加させるスキル。
・効果起動のタイミングは使用者の任意であり、効果時間はスキルレベルで決定する。

マリィ・ローラン:アイラの母親
・三児の母でアイラさんは長女、他に娘が二人いる。
・メインジョブは【高位魔道具職人】で、自分の作ったアイテムを店に並べる事もある。
・また、サブジョブに【高位錬金術師】を持っており【チュートリアル・ブラックホムンクルス】をメイン作ったのは彼女。
・尚、名前の“ブラック”は体色では無く『ブラックジョーク』の意味で、本人的にはジョークアイテムとして作ったつもりだった。


読了ありがとうございます。
解説が書きやすいと思い戦闘シーンを三人称にしてみましたがどうでしょうか? これからもイベント戦闘シーン限定になると思いますがコレでいこうと思います。


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王都の外で出会ったモノ

前回のあらすじ:妹「色々あったけど、ようやくフィールドへ出発Da!」末妹「おー! なのです」兄「まずはレベル上げから始めるか」


 □<イースター平原> 【魔術師(メイジ)】レント・ウィステリア

 

 あれから、俺達はアイラさんオススメの初心者用クエストを達成する為に、王都の西側にある<イースター平原>へと来ていた……ちなみに受けたクエストはここに出る“【リトルゴブリン】【パシラビット】【グリーンスライム】をそれぞれ一定数討伐する”と言うものである。

 ……ここ<イースター平原>は王都の東西南北にある狩場の中で最もモンスターのレベルが低く、下級職一職目の俺達が戦うには適した場所だと言う話なのでここで狩りをしているのだが……。

 

「うらー! 《ストライク》!」

『PYUUUU⁉︎』

「テイッ! セヤァ! セイハーッ!」

『GYAAAA⁉︎』

「……分かってはいたが、圧倒的だなウチの妹達」

 

 まず、飛びかかって来た【パシラビット】をミカが【ギガース】の最適なタイミングで放たれた一振りでミンチより酷い何かに変え、横合いから襲い掛かって来た【リトルゴブリン】の内一体はミュウちゃんが拳と蹴りによる鮮やかな連撃で打ち倒していた……まあご覧の通り、前衛が強すぎる所為でここらの敵は大体瞬殺である。

 ……ジョブを後衛寄りにして正解だったな、あの天災児二人が前衛だと俺が前に出てもやる事が無いだろうし。

 

「と言っても、二人しか居ないから討ち漏らしもある訳で……《ウインドカッター》」

『GYA!』

 

 そう言いながら、俺は掲げた【リトルトレントの魔杖】から風の刃を放って、別方向から来た【リトルゴブリン】を縦に真っ二つにした……どうも、魔法は使用者が意識した地点から発射される設定みたいだな。掲げた手や杖から出たように見えるのはそこに意識が集中していたからで、その気になれば棒立ちでも放てたし。

 ……まあ、流石に背中から放つ事は出来なかったからある程度の制限はあるようだが。

 

「だが、今はこれ以上考察を深める必要な無いかな。まずは、魔法自体をちゃんと扱える様になる方が重要だろう……《詠唱》終了《マッドクラップ》」

『『GYAAAA⁉︎』』

 

 俺が一人言──先程覚えたMPを込める呪文詠唱を追加でくっつけることで、魔法スキルの威力や射程、範囲を拡大するスキル《詠唱》を使って強化した地属性拘束魔法を使い、少し離れた所に居た二体の【リトルゴブリン】の動きを止めた……別にさっきから何の意味も無く一人言を呟いていた訳じゃ無いぞ。

 

「お兄ちゃんナイス! 《ハードストライク》!」

『『GYAAAAaaaa!!!』』

 

 そうやって動きの止まった二体を、ミカが【ギガース】を横向きに振り回してまとめて撲殺した……周りを見ると既にモンスターは全滅していたので、とりあえず今の戦闘は終わった様だ。

 ……俺の《長き腕にて掴むモノ(エクスペリエンス・トランスレイション)》の効果でアイテムは落ちないから周りには特に何も残っていないので、妹達はそのままこちらに向かって来た。

 

「お兄ちゃんお疲れ〜。ナイス援護」

「流石は兄様! 魔法を上手く扱っていますのです」

「まあ、それなりにはな。……と言っても、出来ればもっと魔法の練度を上げておきたいがな。前衛との連携になると誤射が怖いし」

 

 このゲームにはフレンドリーファイアがある仕様だから、後衛にとって前衛との連携で一番重要なのは誤射しない正確性だとこれまでの戦闘で痛感したからな。魔法だと火力が高いから尚更だし。

 ……まあ、ウチの天災児二人なら戦闘中に後ろから不意打ちで魔法を撃たれても余裕で回避出来るだろう、と言う話は置いておく。兄として妹の足手まといにはなりたく無いプライドもあるし。

 

「しかし、アイラさんとお兄ちゃんのスキルのお陰でジョブレベルが凄く上がるね! 大体二時間ぐらい狩ってもう10レベルだよ」

「私は9レベルなのです。……それに、人が少なくて狩りがしやすいのも理由だと思うのです」

「俺は16レベルだな。……まあ、デンドロが始まってまだ初日だからな。多分、明日以降は物凄く<マスター>が増えるんじゃないか?」

 

 まあ、俺のスキルによるデメリットでアイテムは一切手に入っていないが、どうせこの辺りのモンスターが落とすアイテムを売っても二足三文にしかならないからレベル上げの方を優先しよう方針で狩りをしてきたからな。

 尚、俺のレベルが一番高いのはスキルによる獲得経験値上昇の他にも【グリーンスライム】を焼き払ったりしたのが原因でもある……こいつは物理攻撃無効だからミュウちゃんでは倒せないし、ミカの《バーリアブレイカー》付きの攻撃でもまだステータスが低いからか何回も叩かなければ倒せなかったので、必然的に俺の魔法で倒す事になったのだ。

 

「じゃあ、初日でデンドロを始められた私達は勝ち組だね! 今の内に一歩リードしようよ!」

「では、そろそろ狩場をより上位の所に変えましょうか? クエスト達成に必要な討伐数は既に満たしているのです」

「むしろ、大分数をオーバーしているよな。……ほら、レベルがどんどん上がって行くのが楽しかったから……」

 

 それで調子に乗ってモンスターをサーチアンドデストロイしてたからなぁ……お陰で周囲にモンスターの気配が無くなったし、レベルが上がった事も合わせて狩場を移すべきだろうな。

 そう言うわけで俺達は<イースター平原>での狩りを終えて、一旦クエスト達成の報告とその報酬を受け取る為に王都の冒険者ギルドに戻る事にしたのだった。

 

 

 ◇

 

 

 そうして王都の東門への道を歩いている最中、俺達はちらほらと<イースター平原>でモンスター狩りをしている<マスター>を見かけた。

 

「流石に私達の他にも<マスター>は居るんだね。紋章と<エンブリオ>があるから分かりやすいね」

「まあ、ログイン即自滅せずにゲームを進められたのが俺達だけ、何てことは無いだろうさ。……しかし、<エンブリオ>と言うのは本当に多種多様だな」

 

 少し遠目で見ただけでもTYPEアームズっぽい光る剣からビームを放って【パシラビット】を攻撃していた男性や、TYPEチャリオッツらしきサーフボードに乗って空を飛びながら【リトルゴブリン】を轢殺していた女性とかが居たな。

 後、俺達の様にパーティーを組んでいた<マスター>達も居て、TYPEガードナーであろう芋虫を肩に乗せた少女と初期装備っぽい剣を持った女性ともう一人後方で指示を出していた少女の三人組や、多分TYPEテリトリーであろう暗いフィールドを展開していた女性とその中で影を操ってモンスターと戦っていた男性のペアとか。

 

「……こうして見ると<エンブリオ>って本当に多種多様だな」

「そうですね兄様。……ところで、私の<エンブリオ>は一体いつになったら目覚めるのでしょうか」

 

 そう言ったミュウちゃんは、自分の左手に付いている第ゼロ形態の<エンブリオ>を見ながら溜息を吐いていた……確かに俺とミカの<エンブリオ>が孵化してからもう三時間は経っているしな。

 ……もうそろそろ目覚めてもいいと思うんだが、ひょっとして孵化までの時間は個人差が大きいのか? 

 

「大丈夫大丈夫その内目覚めるって! 多分、日曜午前のヒーローヒロインの初変身みたいな劇的な感じで! なんかそんな()()()()し」

「……まあ、そういうシチュエーションに憧れないと言えば嘘になりますが、そこまで劇的で無くても普通に目覚めてくれればいいのです」

「と言うか、劇的なシチュエーションという事はそれだけ厄介事が起きている最中って事じゃ無いのか?」

 

 規格外な直感持ち天災児のミカが言うと本当にシャレにならないんだよなぁ……この後、高確率で何かが起こる可能性が高いって事だし。

 ……そんな会話をしながら、俺達は冒険者ギルドまで戻って来てクエスト完了の報告をして報酬を受け取り、更に別のクエストを受けた後、少し休憩を兼ねて王都を見て回っていた。

 

「合わせて三千リルか……まあ、依頼の難易度からすれば妥当な額だよな」

「本来ならドロップしたアイテムとかを売るんでしょうけど、私達は兄様のスキルで全部経験値に変えていますからね」

「序盤はレベル上げを優先にして、クエストでお金を稼ぐ方向でいこうよ。……お金に困ったら普通に狩りをすればいいんだしさ」

 

 そんな会話をしながら、俺達はちょっとお腹が空いたからその辺りにあった露店で買い食いをして見たりして、王都の観光を楽しんでいた……しかし、結構美味いなこの【パシラビットの串焼き】。

 ……そうして休憩を終えた後で、俺達は次の狩場である<ノズ森林>へと向かう事にしたのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<ノズ森林> 【戦棍士(メイスマン)】ミカ・ウィステリア

 

 そんな訳でやって来た王都北部にある<ノズ森林>、ここで私達がやるクエストは【ティールウルフ】の一定数討伐だったんだけど……。

 

「……アレ、何でしょうか?」

「……()、じゃないかな?」

「……正確には熊の着ぐるみだな」

 

 森の奥にやって来た私達が見たものは、()()()()()()が左手に着いた金属製の筒の様な物を使って四方から襲い掛かる【ティールウルフ】の群れを殴り倒している、と言う実にシュールな光景だった。

 ……まあ、お兄ちゃんの言う通りよく見ればアレが熊型の着ぐるみを来た人だという事は分かるんだけどね。

 

『だーっ! 数が多いクマー!』

「喋ったし、やっぱり中の人がいるみたいだね。……あの人も<マスター>なのかな?」

「わざわざ動きにくい着ぐるみを来て戦う様なティアンは居ないだろうし、多分そうなんじゃないか? ……まあ、この世界になら着ると戦闘能力が上がる着ぐるみがあるという可能性もあるが」

「彼は相当動きにくそうにしてますし、その可能性は低いかと。……しかしあの人、着ぐるみ越しでも分かるぐらい凄い武術の技量をしているのに、何故動きを阻害する着ぐるみなんて来ているのでしょうか?」

 

 お兄ちゃん曰く『戦闘系天災児』なミュウちゃんがそこまで言うって事は、あの人(?)は相当強いって事だよね……着ぐるみ縛りのネタプレイとか、或いはそう言う修行とかかな。

 ……でも、さっきから私の直感に妙な反応があるんだよね……。

 

「……なんか、あの人の事を()()()()()()()()()()()んだけど、どうしよう?」

「お前がそう言うならそうした方が良いんだろうが……ネットゲー的に横入りはマナー違反だし……」

「いえ待ってください兄様。よく見たらあの人の足元に誰かいるのです……子供が二人、でしょうか?」

 

 遠目で見ていたらよく分からなかったけど、確かに着ぐるみさん(仮称)の足元には子供が二人程蹲っており、彼はその二人を守りながら戦っている様だった。

 

『この二人を守りながらでこの数だと流石にキツイクマー!』

「……確認しました、あの二人の左手には何も無かったのでおそらくティアンなのです」

「分かった、じゃあ助けに入るぞ……《ウインドカッター》!」

「オッケー!」

 

 ミュウちゃんが発したその言葉で助ける方向へと舵を切ったお兄ちゃんが、即座に風の刃を放って群の外側にいた一匹の【ティールウルフ】の首を切り飛ばした。

 ……それと同時に私とミュウちゃんが【ティールウルフ】を蹴散らしながら突っ込んでいき、そのまま着ぐるみさんと子供二人──大体6、7歳ぐらいの男の子と女の子に合流した。

 

「ヘイ! そこの着ぐるみさん、お困りの様だけど手助けはいるかい?」

『手を貸してくれるならありがたいクマー! 俺一人だとこの二人を守りながら狼を倒すのはちょっとキツかったクマ』

「それではさっさと倒しましょうか」

「子供については俺が守っておく……《アースウォール》」

『『『『『GAAAAAAAA!!!』』』』』

 

 そうして、私達と着ぐるみさんはお兄ちゃんが子供二人の周囲に魔法で作った土の壁を貼るのを見ながら、こちらに襲いかかって来た【ティールウルフ】の群れを相手にしていったのだった。

 

 

 ◇

 

 

「……よし! これで大体片付いたね」

『ホント助かったクマー。ありがとうクマ』

 

 あれからしばらくして、私達は周辺にいた【ティールウルフ】を全て倒し終えていた……まあ、私やお兄ちゃん、ミュウちゃんはさっきのパワーレベリングのお陰で<ノズ森林>の適正レベルを大きく上回っていたからね。

 それに着ぐるみさんもミュウちゃんが言っていた通りかなり強く、左手に付けていた筒──どうやら大砲らしき物で敵を片っ端から殴り飛ばして大暴れしていたので、特に危なくなる事は無く戦闘は終了したのだ。

 

「それで? 着ぐるみさんとこの子供達はこの森で何をしていたの? ……ああ、私はミカ・ウィステリア、<マスター>だよ」

「その兄で同じく<マスター>のレント・ウィステリアだ」

「同じく妹のミュウ・ウィステリアなのです」

『これはご丁寧にクマ。俺も<マスター>で名前はシュウ・スターリング。見ての通り愛らしいクマだクマ。……この二人は、俺が森で狩りをしていたら【ティールウルフ】の群れに襲われていたので助けに入ったんだクマ』

 

 成る程ね、着ぐるみさん──シュウさんも偶々この二人と遭遇しただけだと……それじゃあ、二人とも泣き止んでいるみたいだし話を聞いてみようか。

 

「二人共お名前は? どうしてここにいたの?」

「……わたしはマリーって言います。……今日は、お母さんに渡すお花を取りに来て……」

「俺はケン。妹のマリーについて行ったんだけど、途中で綺麗な花があったから、ちょっと奥の方に行ったらいきなり【ティールウルフ】の群れが……」

 

 ……二人の話を纏めると、彼らのお母さんが今度誕生日を迎えるからお花をプレゼントしようと思ってこの近くにあるお花畑に来たんだけど、そこで森の奥に綺麗な花があったから取りに行ったらうっかり奥に行き過ぎてしまい、そこで偶々【ティールウルフ】の群れに遭遇して逃げ回っていたら更に森の奥まで入ってしまい、もうダメだと思った時にシュウさんが助けに来てくれたとの事。

 

「まあ、お母さんの誕生日を祝おうとしたのは良い事だが、だからと言って子供二人だけで外に出るのは危ないからやめた方がいいな」

『今回は俺が偶々近くにいたから良かったが、もう二人だけで外に出ちゃダメクマよ』

「今度からはちゃんと保護者同伴で行くべきなのです」

「「ごめんなさい……」」

「はい! じゃあ後の事は親御さんに任せるとして、この二人はとりあえず騎士さんのところに預ける形でいいかな」

 

 まあ、二人共反省しているみたいだし、後は迷子を送り届けるだけかな……と、思ったその時、私の直感がこちらに来る()()()()()を察知した。

 

「ッ⁉︎ みんな何か来るよ! しかもかなりヤバいヤツ!」」

「《殺気感知》に反応! 森の奥からです!」

 

 私とミュウちゃんの警告に、お兄ちゃんとシュウさんも即座に戦闘態勢を取って森の奥に向き直った……直後、<ノズ森林>の奥から現れたのは全長3メートル程度、全身の毛が赤く染まって目を血走らせた一匹の熊だった。

 ……そして、その頭上にはその熊が非人型範疇生物(モンスター)である事を示す名前──【亜竜吸血熊(デミドラグブラッディベア)】の文字があった。

 

『GURURURURU……』

「亜竜級モンスター……! なんでこんな所に……ッ」

『タイミング悪いクマ……』

「「あ、あ……」」

 

 私達の前に現れた【亜竜吸血熊】は不気味な唸り声を上げながら、こちらを血走った目で観察していた……確かアイラさんの話では亜竜級モンスターは“下級職六人のパーティー、もしくは上級職一人”に相当する戦力を持つんだったよね。

 ……ケンくんとマリーちゃんがいるこの状況で、私達に最も最善な選択肢は……。

 

「お兄ちゃん、ケンくんとマリーちゃんを連れて王都へ逃げて。……多分、それが最善だと思う」

「お願いします兄様。……アレは私達でどうにかするのです」

「俺はそれでもいいが……シュウさんはどうします?」

『俺もそれでいいクマ。……ま、女子供を見捨てて逃げるなんてのは俺の性には合わないし、何より()()()()()ってヤツだからな』

 

 助かるよシュウさん。見た目は完全にネタだけど凄くいい人だね……だが、そんな会話をしている間にも【亜竜吸血熊】は少しづつこちらとの距離を縮めており……。

 

「それじゃあ二人共、俺が担いで王都まで走るから『GAOOOOOO!!!』

 

 お兄ちゃんが二人に注意を向けた隙をついてこちらに一気に突っ込んで来た……アイツ、こっちが隙を見せるまで行動を起こさないとか相当に抜け目がないね。

 ……でも残念、抜け目が無いのはウチのお兄ちゃんも同じなのさ。

 

「……《詠唱》終了《アースウォール》」

『ッ⁉︎ GAAAA⁉︎』

 

 突撃して来た【亜竜吸血熊】は突如目の前に現れた土の壁──お兄ちゃんが二人に話しかけていると見せかけて《詠唱》しながら準備していた地属性防御魔法《アースウォール》──にぶつかってその足を止めた……ぶつかった土の壁自体は粉々に砕かれたものの、それで出来た隙にお兄ちゃんは二人を脇に抱えて全速力で王都に向かって走っていった。

 ……直ぐに砕かれた土を振り払ったヤツはその後を追おうとするが……。

 

「おっと、ここから先へは通行止めだよ」

「まさか、私達を無視してこの先に進めるとは思っていませんよね?」

『……この二人ちょっと男らしすぎて、俺が言うセリフが無いクマー……』

 

 そこに【ギガース】を地面に突き刺した私と指を鳴らしながら不敵な笑みを浮かべるミュウちゃん、そしてなんか愚痴りながらも左手の大砲を構えるシュウさんが立ち塞がった……これであの二人の安全は確保出来たね。

 

『GUUUU……GUAAAAAAAAA!!!』

 

 ……そんな邪魔者である私達に対して【亜竜吸血熊】は一瞬だけ迷うような素振りを見せると、次の瞬間にはターゲットを変更したのか私達に向けてその豪腕に備わった爪を振りかざして襲い掛かってきた。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:アイラさんの教えとスキル効果を存分に活用中
・尚、三人の才能を分かりやすく言うと兄が『全方面万能』、妹が『直感系天災児』、末妹が『戦闘系天災児』と言った感じ。

《アースウォール》:【魔術師】のスキル
・土の壁を作る地属性の初歩的に防御魔法で、より上位のスキルなら簡単な建物を作る事も出来る。

《ハードストライク》:【戦棍士】のスキル
・《ストライク》と違いスキルレベルに応じて自身のSTRを上昇させて殴るスキル。
・あちらよりも攻撃力は高くなりやすいが、武器に負担が掛かりやすい。

【グリーンスライム】:草食性の低級スライム
・基本的に枯れた草花を食べるだけの無害なスライムで、食べた栄養の一部を土壌に還元したりもする分解者の役割がある。
・だが、数が増えすぎると危険な上位スライムに進化したりする為、大量の目撃証言があると討伐依頼が組まれる。

シュウ・スターリング:初日から【バルドル】の扱いが雑い
・一応、第一形態の【バルドル】で殴っていたのは、初期装備の棍棒を子供二人を守る為に壊したからと言う理由がある。

ケン&マリー:ごく普通のティアンの子供
・お母さんの誕生日にサプライズプレゼントを送ろうと思うぐらいには良い子達である。

【亜竜吸血熊】:詳細は次回解説予定
・逃げた三人を追わなかったのは、自分に立ちはだかった三人がまだ下級職一つ目で大して強く無いから直ぐに殺せると判断したから。


読了ありがとうございました。
亜竜級モンスターに襲われて大ピンチ()の初心者()<マスター>三人はどうなるのか! 次回をお楽しみに。


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【ミメーシス】

前回のあらすじ:三兄妹『ある日、森の中でクマさん(らしき存在)に出会った』


 □アルター王国・<ノズ森林>

 

 さて、ここで少し【亜竜吸血熊(デミドラグブラッディベア)】と言うモンスターについて解説しよう。こいつは名前の通り熊型の亜竜級ボスモンスターなのだが、ここで重要になるのは名前に付いている“吸血(ブラッド)”の文字である……この文字は獲物の血の味を覚えて、その血を啜る事に快感を覚えたモンスターが進化した際に獲得する事がある結構なレアカテゴリーなのだ。

 また、この“ブラッディ”の文字が付いたモンスターは血に纏わるスキルを習得しやすい……例えばこの【亜竜吸血熊】が覚えているモノだけでも、血の匂いを嗅ぎ分け一度でも嗅いだ血の持ち主の位置を感知できる《血臭追跡(ブラッディトレース)》、相手を傷つけた時に負わせた【出血】の状態異常を重度化・治療困難にする《出血大量(シェッドブラッド)》、血を啜る事でHPの回復及び全快時限定で経験値を獲得出来る《血潮吸収(ブラッド・ドレイン)》などがある。

 ……更にこの“ブラッディ”系モンスターの面倒な所は()()()()()()()()()()的に死体から大量の血を啜れるのがティアンだけで有るが故に、人間を積極的に襲う性質がある事である。なので、この系統のモンスターは見かけ次第討伐が推奨されているのだ。

 

『GAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 そして、この【吸血熊】は基本的に出血強要・吸血・追跡のスキルを使って獲物をじわじわと甚振る持久戦が得意な個体ではあるが、ステータスに於いてもSTRが2000代でEND・AGIも1000に迫り、更にはHPは一万を超える程の数値を持つ個体なのだ。

 故に下級職一つ目で<エンブリオ>も第一形態未満の初心者<マスター>が戦った所で、1パーティー程度ならば容易く蹴散らせてしまうだけの実力がある。

 ……ただし、それは今相対している三人の<マスター>が()()()()()()()()()()()()()()()()の話であるが。

 

「……うん、視えるね。《ハードストライク》!」

『GAAAA⁉︎』

 

 まず、三人の中では最もAGIが高いミカが先陣を切って【吸血熊】に突っ込んでいく……無論、まだ下級職一職目であるその速度は【ギガース】の第一形態としては高いステータス補正込みでも【吸血熊】の数分の一といった所だが。

 だが、彼女は自分の体感で倍近い速度で迫る爪を()()()()()()()()()()()()()()()相手が動き出すよりも早く回避行動に移る事で躱し、腕を通りに抜けた所で相手の後ろ足にアクティブスキル込みの【ギガース】を叩き込んだ。

 そして、攻撃を終えたミカはそのまま離脱して相手が反撃として振るってきた腕を避けた……そのタイミングとほぼ同時に左手の大砲を構えたシュウ・スターリングが接近する。

 

『ッ! GUAAAAA!!!』

『チッ、コイツ結構鋭いクマ!』

 

 だが、【吸血熊】野生のモンスターとして所有していた《危険察知》がその構えられた大砲に反応したため、即座に【吸血熊】は()()()()()()()()シュウへと接近してその豪腕を振るった。

 シュウは【壊屋(クラッシャー)】というSTR特化のジョブに付いている所為で他の二人よりも更にAGIが低かったが、こちらの様子を探る様な行動から相手を相当用心深い性格だと事前に読んでおり。事前にこちらが撃つより早く反撃してくる事も想定して近づき過ぎない様にしていた事で、高いSTRを使い無理矢理地面を蹴ってバックステップする事で離脱する事に成功していた。

 ……更に彼は自分の<エンブリオ>が危険視されている事を逆に利用して、【吸血熊】に隙を作らせて三人目であるミュウがその死角となる背後から接近出来る様にもしていたのだ。

 

「せいっ! ……って、やっぱり効きませんか」

『GAAAA!!!』

 

 接近したミュウは【吸血熊】の後ろ足に向けて正拳突きを放ったが、単純に相手のENDが高すぎてダメージにはならなかった……【格闘家(グラップラー)】の特性でステータスも余り高くなく、アクティブスキルも強力なものはまだ覚えていない自分では“こうなるのではないか”と半ば分かっていたとはいえその結果に内心残念に思っていた。

 まあ、だからこそ《危険察知》をすり抜けて接近出来たのだし、隙を作る役目は果たせたと判断した彼女はその場を素早く離脱し……直後、煩わしいモノを排除するために【吸血熊】は彼女がいた場所に爪を振るわれが、既に間合いの外に離脱した彼女には当たらずその隙を突いて残りの二人が態勢を立て直して再び攻撃に移る。

 ……と、この様に各々が持つ規格外の才能(リアルスキル)を活かして、この三人はステータスで圧倒的に上回る【吸血熊】と互角に渡り合えているのだが……。

 

「……さて、このまま戦い続けると相手の攻撃を躱しきれなくなって()()()()()()()ね。どうしましょう?」

「ステータスに差があり過ぎて、アクティブスキル込みでもまともに攻撃が入らないからなぁ。……シュウさん、何かドカンと一発デカイのとか無いの?」

『一応、俺の<エンブリオ>には1日1発高威力の砲撃を撃つスキルがあるが……今の俺のステータスじゃ急所にでも撃ち込まないと致命傷にはならないだろうし、何より完全に俺のスキルを警戒されている状態で当てるのは厳しいクマ』

 

 そう、【吸血熊】のSTRから繰り出される攻撃は直撃すれば彼等三人共一撃で戦闘不能になる威力があり、それが自分達よりも数倍早く繰り出されるという状況は彼等をしても長時間戦い続ける事は非常に困難であった。

 更に彼等の攻撃は【吸血熊】のENDとHPに阻まれてまともなダメージが通らず、唯一ダメージを与えられる可能性もあるシュウの<エンブリオ>【戦神砲 バルドル】の《ストレングス・キャノン》──第一形態では自身のSTRの五倍の威力がある砲撃を撃つスキル──も、現在のシュウのステータスでは1000をギリギリ超える威力にしかならず、普通に当てても致命傷にはならないのである。

 ……まあ、警戒されている事を利用してブラフに使う事で相手の動きを誘導して、この近郊状態を維持している事も軽々しく撃てない理由になっているが。

 

『GOAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 更に悪い事に、最初はステータスで劣る相手にいい様にされて所為で怒って攻撃が雑になっていた【吸血熊】も、戦っている相手がこちらに対してまともにダメージを与えられないと分かると、怒りが収まって攻撃の精度が元に戻り始めたのだ。

 ……当然、今まで辛うじて相手の攻撃を凌ぎ続けてきた彼等にとっては、そんな僅かな差でも致命傷に成りかねないのだが。

 

「ええいっ! こっちにまともな手が無い事がバレましたか⁉︎」

『向こうのAGIが高過ぎてよっぽど接近しないと急所には当てられんクマ! ……後、着ぐるみ着てるから動き辛いクマ!』

「じゃあ脱げばいいんじゃないかな(名案)……まあ、勝算が無いわけじゃないんだけど……」

 

 そう言ったミカは一瞬だけ心配そうな瞳でミュウの方を見た……その視線を受けた彼女は姉の言う“勝算”とは、自分の未だに孵化していない<エンブリオ>の事であると思い至った。

 ……それと同時に、自分が今まで()()()()()()()()()()()()()()()()()()<エンブリオ>が孵化しない理由に向き合う事になった。

 

(……ええ、本当は私の<エンブリオ>が何故中々孵化しないのかぐらいは分かっていたのです。……ただ、私はこの期に及んで自分の“戦いの才能”を活かすか殺すかで悩んでいたから、<エンブリオ>も自分の方向性を決められなかっただけなのです)

 

 ……彼女ミュウ・ウィステリア──加藤(かとう)祐美(ゆみ)はかつてあった()()()()()の所為で、自分が生まれつき有する“戦いに関する事に対する規格外に高い才能”に対して強い嫌悪感を持ってしまっているのだ。

 それを克服する事と自分の才能を制御する為に格闘技の道場にも通ったりしていたが、未だに嫌悪感を抱いたままである。

 

(師匠には『自分の才能に振り回されない程度の技術は教えたから、後は自分でどうするか決めろ』と言われましたし、兄様や姉様は私が自分の才能を殺す道を選んでも責めはしないでしょうが……)

 

 そこまで考えてから、彼女は自分の左手を見て自分の覚悟を叫んだ。

 

「そんな事で、あの二人の足を引っ張る事だけは絶対に嫌なのです! ……だから、私の才能を活かす<エンブリオ>としてさっさと目覚めなさい!」

『やれやれ、僕は中々強引な<マスター>に引き当てられたみたいだね。……まあ、それがキミの望みなら是非もないさ』

 

 その覚悟と自分が二人に置いていかれるかもしれないと言う“危機感”によって、彼女の左手にあった可能性の卵(第ゼロ形態の<エンブリオ>)は<マスター>の願いから自分のあるべき姿と力を定義して外界へと出力した。

 

「おはようマスター。……僕はTYPE()()()()w()i()t()h()()()()()()【模倣乙女 ミメーシス】だよ。よろしくね」

「メイデン……?」

 

 ミュウは聞いた事の無いカテゴリー名に首を傾げなから、目の前に現れた“彼女”の姿をまじまじと見つめた……その姿は桃色の髪をした今の自分(アバター)と同じぐらいの人型の少女であったのだ。

 ……そうしてやや困惑していたミュウに対して、ミメーシスはその手を差し出してこう告げた。

 

『GUUUUUUU……』

「その辺りの事を説明したいのは山々だけど、今はのんびりしている時間は無いからね。……アイツが様子見している間に説明を終わらせたいから、直ぐにこの手を取って欲しい」

「分かったのです」

 

 今は戦闘中なので思った疑問は後回しにしようと決めたミュウは、直ぐ様言われた通りミメーシスの手を取った……まあ、幸いにも【吸血熊】は“目の前でいきなり人間が増える”という今まで経験した事の無い現象に対して、一旦距離を取って様子を見ていたので妨害される事は無かったが。

 

「じゃあ行こうか……《憑依融合(フュージョンアップ)》」

 

 その言葉と共にミメーシスの姿は桃色の粒子となって解けていき、そして即座にその粒子はミュウの身体と重なって()()した……その結果、ミュウの髪と瞳の色は桃色に染まっていた。

 

「これは……!」

『これが僕の第一スキル《憑依融合》……僕とマスターを融合させてそのステータスを足し合わせるスキルだよ。……僕は()()()()()()()()()だからこれが基本状態かな』

 

 故にこの《憑依融合》は使用条件として『両手武器が非装備状態である事』や『融合時に<エンブリオ>と<マスター>が接触状態である事』などの条件はあるが、維持コストやクールタイムなどが一切存在しないのである。

 ……最も、普通のガードナーであれば複数の制限付きの切り札として存在する融合スキルを常時使用するにあたってのデメリットは当然あり、まずガードナー形態時の【ミメーシス】のステータスはMPこそ5000はあるもののHP・SPは100程度で、それ以外のステータスはオール一桁という有様である。また更なるデメリットとしてマスターのステータス補正もオールゼロになっている為、このスキルでのステータス強化は殆ど期待出来ない様になっているのだ。

 

「成る程、つまり融合してもステータスはほぼ伸びないと……後、変身バンクとかは無いんですかね?」

『流石にそれは無いかなぁ。……まあ、メインは()()()()()()()()の方だからステータス面の問題は特に無いんだけど……おっと、どうやら来るみたいだよ』

『GUAAAAAAA!!!』

 

 そこでいい加減に痺れを切らしたのか、様子見をしていた【吸血熊】が再び戦闘行動を開始した……それに対してミカとシュウが迎え撃つが、先程までの焼き直しの様に防戦一方になっていき、そのまま【吸血熊】がミュウに向けて突撃する事を許してしまった。

 ……だが、彼等はミュウがもう一つのスキルを確認するだけの時間は見事に稼いでいたが。

 

『GUAAAAAAA!!!』

「分かりました……では、もう一つのスキルの発動をお願いするのです」

『了解マスター……《天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》』

 

 向かって来る【吸血熊】に対して、ミュウはミメーシスにもう一つのスキルを発動させながら表情一つ変えず冷静な目でそれを見つめて……彼我の距離が更に縮まった瞬間、相手と()()()()速度で間合いを詰めて懐に潜り込みその腹に正拳突きを放った。

 ……そして、殴られた【吸血熊】はそのまま後ろに吹き飛んでいったのだ。

 

『GAAAA⁉︎』

「ふむ、増加したAGIに少し振り回されましたか。やや間合いがズレました」

『まあ、今のマスターのAGIは1147、STRは2085……()()()()()だからね』

 

 そう【模倣乙女 ミメーシス】の第二スキル《天威模倣》の効果は『敵対対象一体を指定してそのSTR・END・AGI・DEX・LUCの内高いものから二つまでのステータス数値をマスターのそれへ同期させるスキル』である……【吸血熊】は前述の五つのステータスの内STRとAGIが高かったので、そいつを対象にスキルを使ったミュウのSTRとAGIは同じ値になっているのだ。

 ……だが、このスキルはコストとして発動時とそこから1分間経過する毎に同期させた最も高いステータス──今はSTRの2085分の数値だけMPを支払わなければならないから、今の彼女達では二分程度しか維持出来ないが……。

 

『それに、今の僕じゃENDまでは同期出来ないから耐久力は変わらないよ』

「問題無いですね、当たらなければどうという事は有りませんから……それにステータスさえ互角であれば、アレを倒すのに一分も掛かりませんよ」

『GAAAA⁉︎ GUAAAA⁉︎』

 

 その言葉通りにミュウは即座に【亜竜吸血熊】との距離を詰めて懐に潜り込むと、近過ぎる事と体格差の所為で精度が落ちた反撃を全て躱しながら拳と蹴りの連打を見舞いそのHPをあっという間に削り取っていった。

 ……TYPEメイデンの特徴は強者打破(ジャイアントキリング)系の能力になりやすい事であり、この【ミメーシス】の場合は『能力さえ同じであればどんな相手でも打倒出来る』という()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()理論となっている。

 

「では、そろそろ終わらせましょうか」

『GUAA⁉︎ GAAAAAAAA⁉︎』

 

 そう言ったミュウはこちらを噛み砕こうとした【吸血熊】牙を躱してその脇を擦り抜け、そのまま後ろ脚の膝部分に全力の蹴りを打ち込んでへし折った。そして、片足が【骨折】して態勢が崩れた相手の腕を掴み、その重心を崩しながら強化されているSTRを使って投げ飛ばしたのだ。

 ……投げ飛ばされた【吸血熊】は仰向けのまま地面に叩きつけられ、足が折れている所為で中々立ち上がれず……。

 

「私を忘れて貰っちゃ困るよ。《ハードストライク》!」

『⁉︎ GAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 その隙に接近して来たミカがアクティブスキル付きの【ギガース】を()()()()()()()()()()振り下ろした……当然、そんな事をされた【吸血熊】は痛みから闇雲に暴れ回ったが、それよりも早くミカはその場を離脱していた。

 追い詰められた【吸血熊】はどうにかしてここから離れようと両手も使って無理矢理立ち上がろうとし……直後、そのこめかみに金属製の大砲が突きつけられた。

 

『ここまで丁寧に隙を作ってくれたなら、今の俺でも接近するぐらいは出来るクマ』

『GA! AA……⁉︎』

 

 それは、ずっと自分の切り札を撃ち込む隙を伺っていたシュウだった……二人が自分の為に隙を作ろうとしている事に気が付いていた彼は、相手の両腕が封じられたこの絶好の機会を逃す事無く接近したのである。

 

『終わりだ《ストレングス・キャノン》!』

『GAAAAAaaaaaaa…………』

 

 そうして、動けない【亜竜吸血熊】のこめかみに突きつけられた大砲から放たれたエネルギー弾は、その頭部を跡形もなく吹き飛ばしたのだった。

 

『……うん、スキルの効果が切れたから間違い無く倒せたよ』

「宣言通り、()()()()()()一分も掛からず勝利出来たのです」

 

 ……こうして、彼等はデンドロ初日に遭遇したボスモンスター、【亜竜吸血熊】を撃破する事に成功したのだった。




あとがき・各種設定解説

末妹:ようやく! <エンブリオ>が! 孵化したのです!
・彼女の内面や才能についてはいずれ書きます。

【模倣乙女 ミメーシス】
<マスター>:ミュウ・ウィステリア
TYPE:メイデンwithガードナー
能力特性:模倣&???
固有スキル:《憑依融合》《天威模倣》
・モチーフは西洋哲学の概念の一つで『模倣』という意味を持つ言葉でもある“ミメーシス”。
・紋章の形状は“同じ姿をした二人の少女が互いの手を合わせている”というもの。
・常時融合型ガードナーである為、単体でガードナー形態になる事は不可能。
・ガードナーとしての種族はエレメンタルであり、《憑依融合》状態だとミュウの種族もエレメンタルになる。
・融合条件の一つである接触状態は紋章の中にいる場合でも満たせる。
・《天威模倣》のコストを払う経過時間は『同期出来るステータスの最大数』引く『同期しているステータスの数』足す一分になる(第一形態の場合は同期させるステータスが二つなら一分ごとコストを支払うが、一つだけなら二分ごとになる)
・《天威模倣》のクールタイムは効果終了から一分程度だが、同一対象には24時間再使用出来ず途中で同期させるステータスを変更する事も出来ない。

妹:敵の弱点を狙うのは基本だよね!
・今回は末妹の晴れ舞台の為に全力支援に回った。

シュウ・スターリング:ラストアタック担当
・流石にまだ着ぐるみでの動きには少し慣れていない……着ぐるみも動きやすさとかは考慮されていないイベント用の代物だし。

【亜竜吸血熊】:敗因『相手が悪かった』
・実際、亜竜級の中では結構強い個体で、相手を甚振って血を啜る事を好む性格で頭も良い。
・王都周辺で目撃されていれば討伐依頼が組まれるぐらいには危険なモンスターだった。


読了ありがとうございました。
本格的にボスとの戦闘を書いてみましたがどうでしょうか? ちょっと三人称での説明がくどかったかな……意見・感想をいつでもお待ちしております。


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初日の終わり

前回のあらすじ:妹「力を合わせて大勝利!」末妹「私の<エンブリオ>が孵化したと思ったら美少女だった件」


 □王都アルテア 【魔術師(メイジ)】レント・ウィステリア

 

 あれからケンくんとマリーちゃんを担いだまま全力疾走で王都に向かっていた俺は、幸いな事に途中モンスターと遭遇する事も無く無事に王都北門に到着した。

 ……その後、北門の駐屯所に居た騎士さん達に<ノズ森林>で起きた事情を説明した上で二人を預けて親御さんの元に送り届けて貰えるように頼んでおき、俺は<ノズ森林>にいる三人の下へ戻ろうとしたのだが……。

 

「……行かない方がいいだろう。……【亜竜吸血熊(デミドラグブラッディベア)】相手では、その三人はおそらくもう……」

「あ、いえ、三人とも<マスター>なので死にはしないかと……」

「少なくともそこだけは幸いだったな。……何、亜竜級の“ブラッディ”系モンスターが王都の近くにいるのは危険だから、直ぐに討伐令が下されるだろう」

「は、はぁ……」

 

 なんか、悲壮な表情をした騎士さん達にそんな事を言われたりして止められた……でも、あの三人なら割と大丈夫な気がするんだけどなぁ。うちの妹二人は規格外っぷりは言わずもがな、それにあのシュウ・スターリングという人も動きのキレや雰囲気から、俺の見立てだと多分“規格外”側の人間だろうし。

 ……とりあえず、騎士さん達が<ノズ森林>への調査人員の派遣やら各方面への報告やらで忙しくなって居たので、邪魔にならないようにこっそりとお暇する事にした。

 

「……まあ、改めて考えてみるとティアンにとっては『仲間を死地で囮にして自分だけ逃げてきた』的な状況だから、あんな悲壮な感じになるのも無理ないか。……さて、じゃあ迎えに行く「お〜い! お兄ちゃ〜ん!」お?」

 

 そんな事を考えつつ俺は北門を出て三人の様子を見に行こうとしたちょうどその時、向こうの方から聞き覚えのある呼び名が聞こえて来た……そちらを見ると予想通りミカとミュウちゃんと熊の着ぐるみ──シュウ・スターリングさんがこちらに歩いて来る所だった。

 ……まあ、ある程度予想はしていたが、本当に三人だけで【亜竜吸血熊】を倒してしまったらしい。

 

「よう、お疲れ様。……どうやら無事に倒せたみたいだな」

「うん、どうにかね〜。……あ、お兄ちゃんあの二人は?」

「北門の詰所に居た騎士さん達に預けておいたぞ。後で親御さんの所に送り届けてくれるらしい」

『それは良かったクマ。誰も犠牲にならなくて万々歳だクマ』

「そうですね」

 

 ……ん? よく見たらミュウちゃんの髪と目の色が何故かピンク色に変わっているんだが。ちょっと聞いてみるか。

 

「ミュウちゃん、いつの間に髪と目の色を変えたんだ? イメチェン?」

「あ、そうでしたね。……ミメーシス、もう街の中なので融合を解いても良いですよ」

『了解、マスター』

 

 ミュウちゃんがそう言った直後、彼女の身体から光の粒子の様な物が溢れ出した……そして、その粒子は彼女の直ぐ隣に集合するとそのまま一人の少女の姿へと変わった。

 ……その外見は桃色の目と髪をした短髪で中学生ぐらいの少女で、服装は半袖でショートパンツのボーイッシュな感じだった。

 

「お初にお目にかかるね。僕はミュウ・ウィステリアの<エンブリオ>、TYPEメイデンwithガードナー【模倣乙女 ミメーシス】だよ。以後よろしくね、お兄さん」

「これはご丁寧にどうも。ミュウちゃんの兄のレント・ウィステリアです」

 

 その少女──ミメーシスはお辞儀をしながら挨拶をして来たので、こちらもつい釣られて頭を下げて丁寧な挨拶をしてしまった……しかし、少女型の<エンブリオ>なんてのもあるのか。本当に<エンブリオ>ってのは多種多様だな。

 

「……だが、メイデンなんてカテゴリーは聞いた事がないな」

『<エンブリオ>には既存五つの他にもレアカテゴリーがあるって話だから、多分それじゃないクマ?』

「このデンドロもまだ始まったばかりだからねー。まだ明らかになっていない事が沢山あるんでしょうよ」

 

 ……確かに、本当に情報が多いよなぁ、この<Infinite Dendrogram>は。“貴方だけの可能性”を売りにしてるだけあってオンリーワン要素も多いみたいだし。

 

「つまり、私のミメはレアなのです!」

「まあ、カテゴリーとしては希少な方だと思うけど……って、ミメってのは僕の事?」

「はい、毎回【ミメーシス】と呼ぶのは面倒なので愛称を付けてみました。……ダメでしょうか?」

「いや、マスターがそう呼びたいのなら構わないさ。……それじゃあ、僕もマスターの事はミュウと呼ばせて貰おうかな?」

「勿論なのです!」

 

 まあ、二人は普通に仲が良さそうで何よりだがな。実に微笑ましい光景だ。

 

「あ、そうそうお兄ちゃん。あの【亜竜吸血熊】を倒した時に【亜竜吸血熊の宝櫃】ってのを手に入れたんだけど、中に入っていたのは【亜竜吸血熊のコート・ネイティブ】と【エメンテリウム】って言うアイテムだったんだ」

『それでクマ、どうもコートの方は合計レベル150以上じゃないと装備出来ないし【エメンテリウム】の方は多分換金アイテムっぽいから、二つとも売ってから得たお金を山分けにしようって話になったクマ』

「? ……まあ、お前達が倒したんだし好きにすれば良いんじゃないか? ……ああ、騎士さん達が<ノズ森林>の調査をするって話してたし、一応【亜竜吸血熊】を倒した事を伝えておいた方がいいかな」

 

 そういう訳で俺達は一度駐屯所で諸々の事を報告してから、ドロップアイテムを売りに行く事にしたのだった……その際、騎士さん達に『下級職一職目三人で【亜竜吸血熊】を倒した』と報告したら驚愕されたり、ケンくんとマリーちゃんを迎えに来た彼らのお母さんに感謝されたりしたが、概ね何も問題無く用事を済ませる事が出来た。

 

 

 ◇

 

 

 さて、そんな訳で俺達はドロップアイテムを換金する為に、再び<マリィの雑貨屋>へとやって来ていた……俺達がこの王都で知っているお店はここしか無いし、シュウさんも着ぐるみ屋ぐらいしか知らないそうなのでここになったのだ。

 

「へ〜、ついさっき初めて王都の外に行ったのに、もう亜竜級モンスターを倒して来るなんて流石は伝説の<マスター>ね〜。……で、お値段の方だけど【エメンテリウム】は2万リル、【亜竜吸血熊のコート・ネイティブ】の方は【亜竜吸血熊】自体が結構なレアモンスターだからちょっとお高めで25万リルになるけど、それで良いかしら?」

「おお! 流石はボスモンスター、ドロップアイテムもめっちゃ高く売れるね!」

「苦労して倒した甲斐があったのです!」

「よかったね、ミュウ」

『よっしゃあ! これで貧乏生活ともおさらばクマー!』

「……えーっと、じゃあその値段でお願いします」

 

 そんなこんなで歓喜している他のメンバーの横で27万リルという大金をマリィさんから受け取った俺は、それを歓喜している四人に渡して適当に分配する様に言ったのだが……。

 

「え? いや、お兄ちゃんにも当然お金渡すよ?」

「いやいや、俺は討伐メンバーに加わっていないし……」

『でも、レント君があの二人を連れて逃げていなければおそらく勝てなかったクマ。だから遠慮する必要は無いクマよ』

「そうです! これはみんなで掴んだ勝利の報酬なのです! ……その方が綺麗に纏まりますし」

「諦めて受け取った方が良いと思うよ、お兄さん」

 

 その様な問答があった後、そこまで言うならと俺も報酬の分配に加わる事になった……まあ、他のメンバーと同じ額なのは流石にどうかと思ったので、話し合いの末に俺は3万リルだけ受け取り、残りの24万を三人で8万リルづつ分ける感じになった。

 それから、俺達とシュウさんは店を出てから各々の別の用事があるという事で分かれる事になった……すっかり馴染んでいたから忘れかけていたが、シュウさんとはさっき<ノズ森林>で会ったばっかりだったな。

 

『三人共、今回は本当に助かったクマ。……お陰で子供二人に怪我させずに済んだし、ボスモンスターも倒せて俺の残金20リルという大ピンチなおサイフも救われたクマ。本当にありがとうクマ』

「こちらこそ、シュウさんが居なかったら【吸血熊】を倒すのは難しかったからね。……ていうか、残金20リルって一体何に使ったのさ?」

『この着ぐるみのお値段が4980(よんきゅっぱ)リルだったクマ』

「初期費用の殆どを着ぐるみに突っ込んだのですか……。そんなに着ぐるみが好きなのです?」

 

 ミュウちゃんが発したその質問に対してシュウさんの雰囲気が一気に暗い物に変わっていった。

 

『……それは聞くも涙、語るも涙の話クマ』

「別に言いたく無いなら良いのですが……」

『このゲームの開始前には、自分のアバターを設定するキャラクタークリエイトがあるクマ』

「結局話すんだ……」

『その時、俺は一から作るのが面倒だから現実の自分の姿をベースにして設定しようとしたクマ』

「俺もそうしましたね」

『……その時間違って、うっかり何もカスタムせずに決定したクマ』

「「「「うわぁ……」」」」

 

 ……それは着ぐるみでプレイを始めても仕方がないかな。このゲームの現実視は本当にリアルと全く変わらないし、そんなところで素顔プレイは難易度が高すぎるし。

 

「しかし、後からアバターの設定を変えられなかったの?」

『……俺を担当した管理AIが面白がって変えさせてくれなかったクマ。……その上、初期装備カタログで顔を隠せる装備を必死に探している間や、各国家の空中映像から全身を隠せる装備を売っている店を探している時にもニヤニヤしながら見てきたし……おのれ! ハンプティ!』

 

 ……どうやら、管理AIにも当たりハズレがあるらしい。俺を担当したダッチェスさんは陰鬱な雰囲気で無愛想ではあったが、説明とかはちゃんとしてくれたから当たりの部類だったんだなぁ……。

 

「……て事は、最初の時にフードで顔を隠しながら着ぐるみを求めて全力疾走していた<マスター>って……」

『それは俺クマ。……あの時はめっちゃ焦ってたからろくに謝れもせずに済まなかったクマ』

「それは別に良いけど……あ、そうだ! せっかくだからフレンド登録しようよ! 一緒に戦った中だしさ!」

『オッケー、構わないクマよ』

 

 そんなミカの提案で俺達とシュウさんはお互いをフレンドに登録した……ついでに俺達三人も互いに登録しておいた。ログインしてからずっと一緒だったからすっかり忘れてたな。

 

『それじゃ俺はそろそろログアウトするクマ。そんでちょっと弟をデンドロに誘ってみるクマ。……ミカちゃん達を見てたら兄弟でデンドロをプレイするのも悪くないと思ったからな』

「うん、じゃあね〜。弟さんもいつか紹介してね〜」

 

 そう言ってシュウさんはログアウトして行った……と、横を見たらミュウちゃんが何か考え込んでいる様な仕草を取っているのに気がついた。

 

「どうしたミュウちゃん。何か気になる事でもあったのか?」

「いえ、大した事では無いのですが……シュウ・スターリング……スターリング……椋鳥(むくどり)? ……でしょうかね。あの動きは以前見たアンクラの試合のモノと同じでしたし」

「……あー、ひょっとして、シュウさんのリアルに何か心当たりがあるの?」

 

 ミカがやや気まずそうにミュウちゃんに聞くと、彼女は頷いて周りを気にしつつ声を落としながら話し始めた。

 

「……多分、昔『アンリミテッドパンクラチオン』に出場していた椋鳥修一(しゅういち)選手で間違いないかと。……師範が以前『私の知り合いの門下生がアホな勝ち方している試合があるから見ようぜー』と言って見せてくれた試合に出ていたので印象に残っているのです。顔はフードでよく見えませんでしたが、着ぐるみ越しでもあの体術で確信しました」

「ああ、確か『航海戦隊クルーズファイブ』のクルーズゴールド役をしていた子役の人でもあったかな。……まあ、ネットゲーでリアルの詮索はマナー違反だから気付かなかったフリでいいだろう」

「そうだねー。……流石にこんなあっさりバレたとか気まずいし」

「僕も気をつけるよ」

 

 そういう事で、この話は無かった事になった……しかし、椋鳥と聞くと昔出会った()()()()()を思い出すが、まあ流石に偶然だろう。

 

「それで? これからどうしようか?」

「とりあえず【ティールウルフ】討伐のクエストはさっきの戦闘で達成したし、一旦冒険者ギルドに行って報酬を受け取ろうか。……そしたら俺達もログアウトだな。もうこっちに来て六時間は経ってるし、三倍時間だとしても向こうでは二時間経っているはずだ。……ログインしたのが四時ごろだったから、そろそろ辞めないと夕食の準備が間に合わん」

「じゃあ、そうしましょうか。……ところで、三倍時間というのは本当なんですよね?」

 

 ……そう言えば、ゲームに集中し過ぎてそこの確認は忘れたいたな。

 

「……じゃあ、さっさと用事を済ませてログアウトしようか」

「……そうだな」

「……念の為にですね」

 

 そうして俺達は急いで冒険者ギルドに行って報酬を受け取ると、早々にログアウトして行った……尚、ログアウトして時計を確認したところ六時ごろだったので、ちゃんとデンドロ内では三倍時間になっていた事は記しておく。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □◾️<ノズ森林> ??? 

 

 そこは<ノズ森林>の一角、三人と【亜竜吸血熊】との戦いがあった直ぐ近くの森の中……そこには卵に似た楕円の薄い膜に覆われた中に人間の少女がいるという奇妙な存在がいた。

 ……それは見ようによっては御簾の中の貴人、あるいはヴェールをかけた花嫁にも見えるかもしれない。

 

「シュウがログインしてからの行動が面白かったから観察していたけれど、やはり亜竜級()()ではテストにもならなかったわね。……まあ、まだ始まったばかりだし、もう少し経ったら相応しい相手を用意してから改めてテストをすれば良いわね」

 

 薄い笑みを浮かべながらそんな事を話しているモノの名前はハンプティ、<Infinite Dendrogram>を管理する13体のAIの一人であり主に<エンブリオ>の管理を担当している“存在”である。

 ……彼女は自分がチュートリアルを担当した時に目を付けたシュウ・スターリングの行動を観察していたのだ。

 

「でも、<マスター>が増えてくれば私の仕事も増えるし、そうなればこちらへの干渉もし難くなるでしょうし……そうね、こちらの時間で1カ月後ぐらいがちょうどいいかしらね。……ところで、()()()も誰かを観察していたのかしら?」

 

 そう言ったハンプティが後ろを振り向くと、そこには頭に猫を乗せた男性とカジュアルな格好をした女性の姿があった……彼等はハンプティの同僚である管理AIであり、男性の方はチェシャ、女性の方はアリスと言った。

 

「まあそうね。ちょっと気になる子が貴女のお気に入りと一緒にボスモンスターと戦っていたから様子を見てたのよ」

「こっちも同じー」

『私が彼等の視覚をモニターにして様子を見ていたわ』

「……チェシャやアリスならともかく貴女がそういう事をするのは珍しいわね、ダッチェス。あの三兄妹と何かあったのかしら?」

 

 姿を見せずに声だけを発したのはグラフィック担当の管理AIダッチェスであった……性格的にこちらへの干渉が多いチェシャやアリスだけでなく、(予定される仕事量的に)こちらへの干渉を余り行わないダッチェスも観察に加わっていた事が気になったハンプティは彼らに理由を尋ねてみた。

 ……その問いに対して、彼等三人も特に隠す事でも無いので普通に事情を話しす事にした。

 

「彼等三人は、僕達がそれぞれチュートリアルを担当したんだけどー」

「その時、三人とも真っ先に『この<Infinite Dendrogram>は本当にただのゲームなのか?』と尋ねて来たのよね」

『それで少し様子を見ていたのよ』

「へぇ……でも、しょうがないんじゃ無いかしら。この<Infinite Dendrogram>は見方によってはとても怪しいゲームだし、その辺りを調べようとする人間が出る事も想定済みではあるでしょう?」

 

 実際、明らかにオーバーテクノロジーである<Infinite Dendrogram>に対して探りを入れてくる人間が出て来る事は彼等管理AI達も想定しており、それらに対しては違法な干渉は容赦無く潰して、正規ルートで来るならば1プレイヤーとして歓迎するという結論が既に出ていた。

 

「それはそうなんだけどねー。……僕が担当したミカちゃんにそう思った理由を聞いたんだけど『広告を見た時にそんな気がしたんだよ。要するに勘』って言われてねー」

「他の二人は彼女に言われていたのでそう聞いたと言っていたわね。……ただの勘と言われればそれまでだけど、そういうセンススキルもありえるし」

『初日でまだ仕事量が少ない事もあって、少し様子を見る事にしたのよ』

「成る程ね。……まあ、正規のルートで遊んでいるんだったら良いんじゃ無いかしら。それにそういうセンススキルを持っているなら<超級>に至る可能性もあるでしょうし、むしろ歓迎するべきじゃない?」

 

 そう言う形でこの話は締めくくられた……そもそも彼等にとってはこの“世界”の真実にたどり着く<マスター>が現れる事も想定の内であり、正規のルートでゲームをプレイする限りは歓迎するというスタンスである。

 

「まあ、僕は好きな子に嫌がらせするレベルの干渉とかはせずに普通に見守るだけだけどー」

「何か言ったかしら。……それに、あの【亜竜吸血熊】が彼等を襲ったのは只の偶然よ。……まあ、アレがあそこにいた事に関しては私達に遠因があるとも言えるけど」

「ああ、確かクイーンとジャバウォックが提案した“スタートダッシュキャンペーン”だったかしら。……<マスター>の成長を促すために初期開始地点に弱いモンスターを追加するイベントだったわね」

『その影響で初期開始地点周辺の生態系が少し乱れているみたいね。……まあ、彼等が行ったもう一つの()()()()の影響もあるようだけど』

 

 そんな会話を最後に彼等の姿はその場からかき消え、それぞれの職務へと戻って行った……彼等が語った“イベント”が明らかになるのはもう少し先の話になる。




あとがき・各種設定解説

兄:あいつらなら大丈夫だろ(確信)
・実は特撮好き。
・過去に椋鳥姉と会った事があるが、その話はジャンルが違うので『この作品』内で描写される事は無い。

妹:初日から大金ゲット〜

末妹&ミメ:やっぱり愛称の方が言い易いですね!
・尚、ミメーシスのメイデン体のステータスはMP以外は<マスター>の初期ステータス並み。

シュウ・スターリング:初日でいきなりリアルバレ(本人は知らない)
・この後、弟をデンドロに誘いに行ったが受験だった模様。

管理AI達:色々やっている
・ダッチェスはまだ<マスター>が少ないので、演算領域を圧迫されておらず口調は普通。


読了ありがとうございました。
管理AI達の口調ってこんな感じで良かったかな? 次回は掲示板会を予定(ハーメルンの二次ぐらいでしか見た事ないけど)


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掲示板回・初日編

今回は予告していた通り掲示板回です。ハーメルンの掲示板二次しか見た事ないので出来は微妙ですが……。


 □◾️地球 とある掲示板

 

 

 ◇◇◇

 

 

【情報】<Infinite Dendrogram>情報スレ【求む!】

1:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

このスレは本日発売のVRMMO<Infinite Dendrogram>の情報について語るスレです

このゲームは情報が少なすぎるのでドンドン情報を書き込んで行きましょう! 

荒らしはスルー推奨

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

257:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

それで? 結局デンドロって本物なの? 

 

258:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

本物だぞ! 現実視だと本当にリアルと変わらないし

……最も、俺はログイン直後走り回ったら狼に食い殺されたから詳しくは分からんが

 

259:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

俺は砂の中から出て来たムカデっぽいヤツに丸呑みにされた

そんでデスペナが24時間のログイン制限だと知った

 

260:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

グランバロアだとログイン場所が船上だからモンスターとは出会わなかったな

……まあ、道に迷って8時間ぐらい船の上を彷徨ったが

 

261:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

>>258

はーつっかえ

 

262:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/15(水)

ここがデンドロの情報を書き込む掲示板でいいのか? 

 

 

263:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

おっ、新規さん? どうぞどうぞ

 

264:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

歓迎しよう! 盛大になぁ! 

 

 

265:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

正直言って情報が少なすぎるし、何か書き込んでくれるなら大歓迎だぞ

……他の連中はログイン早々モンスターにやられたヤツらばかりでなぁ

 

 

266:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

そうそう(小鬼にリンチされた)

 

 

267:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

遠慮無く書き込むと良い(熊に食われた)

 

 

268:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

>>266>>267

お前らなぁ……

 

 

269:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

>>262

ん? よく見るとコテハンの所が『名無しの<マスター>』ってなってるんだけど、<マスター>って何だ? 

 

 

270:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

あ、ホントだ。何故に? 

 

 

271:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/15(水)

じゃあ、そこから書き込んで行こうか。まず<マスター>というのはデンドロ内でのプレイヤーの呼び名だ

あちらでは<マスター>は<エンブリオ>を持つ者の事であり、頻繁に別の世界へと飛ばされてしまう制約を背負っていて、その時間はまちまちで消えた場所に戻る事もあるが、セーブポイントという特殊な場所に飛ばされている事もある

そして、死亡した場合でも<エンブリオ>の力でその身を別の世界に飛ばして生き延びる事が出来るが、その場合は最低三日は戻って来られない

……という感じでプレイヤーのログアウトやデスペナルティを設定に落とし込んでいる感じみたいだな

 

 

272:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

早っ! そして情報多っ! 

 

 

273:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

>>271

はえー、デンドロだとプレイヤーはそういう設定なのか

 

 

274:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

これはちゃんとデンドロプレイ出来てる人っぽいから期待

 

 

275:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

そう言えば<エンブリオ>ってなんぞ? 広告でやってたけど詳しく聞きたい

<マスター>ニキ教えてくなしゃす! 

 

276:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

そう言えば、船の上であったNPCが『伝説の<マスター>』とか何とか言ってた様な……

 

277:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/15(水)

>>275

オッケー、じゃあ次は<エンブリオ>の説明なー

<エンブリオ>はデンドロの最大の特徴であり<マスター>のパーソナルによって千変万化するオンリーワンの固有システム

チュートリアル時左手に全てのプレイヤーに卵型に第ゼロ形態<エンブリオ>が移植され、その後ゲームプレイ中にいくらか時間が経つと孵化してそれぞれ違う第一形態になる(孵化時間は個人差あり)

千差万別だがカテゴリーはあり

プレイヤーが装備する武器や防具、道具型のTYPEアームズ

プレイヤーを護衛するモンスター型のTYPEガードナー

プレイヤーが搭乗する乗り物型のTYPEチャリオッツ

プレイヤーが居住できる建物型のTYPEキャッスル

プレイヤーが展開する結界型のTYPEテリトリー

があるがそれ以外のレアカテゴリーもある様で、少女の姿を取るTYPEメイデンが確認されている(正確にはTYPEメイデンwith〇〇の様に他のカテゴリーとの複合になっている模様)

……正直、まだ分からない事が多いシステム

 

 

278:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

わー、また一気に来たぜ。凄い情報量だ

 

 

279:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

あーここまではチュートリアルで言われた……ってメイデン⁉︎ レアカテゴリーとかあんの⁉︎

 

 

280:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

>>277

<マスター>ニキ情報ありがとナスー。なんか面白そーだなー

 

 

281:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

既存情報かと思ったらさらっと新規情報が混ざってた件

 

 

282:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

そこに痺れる憧れる! 

 

 

283:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

実際、ちゃんとゲームをプレイして情報収集していた人っぽいし期待大だな

……ログイン直後モンスターに食われてデスペナ食らった俺と違って

 

 

284:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

>>238

ていうか、デスペナがめっちゃ多いんだがそんなに過酷なゲームなのかデンドロ

ちゃんとプレイした<マスター>ニキ情報プリーズ! 

 

 

285:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

情報収集とかせずに外を駆け回ったのが原因っぽいが……

 

286:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/15(水)

>>284

それは多分『ジョブ』に就かずにモンスターと戦ったのが原因と思われ。じゃあついでにジョブの説明いこかー

基本的にデンドロはジョブレベル制のゲームで、ジョブに就かなければレベルは上がらずステータスも伸びない仕様です

ジョブには下級職と上級職があり、<マスター>の場合下級職6つ上級職2つまで就くことが出来る

下級職はレベル上限が50で転職条件が簡単、覚えるスキルも基本的なものでステータス上昇値も低い

上級職はレベル上限が100で転職条件が難しく、覚えるスキルも専門的な上級者向けのものでステータス上昇値も高い

種類についてはめっちゃ沢山あり数は千を優に超える模様

転職するには各国の街にあるジョブクリスタルを使う必要があり、主に各ジョブのギルドにあるからログインしたらそこのティアンにまず話を聞こう! 

……ちなみにレベル上限無し転職難易度激高、覚えるスキルも超強力でステータス上昇値も超高い先着一名だけがつける<超級職>なんてのもあるらしいが詳しくは不明

 

 

287:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

……長文回答がすぐに上がってくるのにも驚かなくなって来たな

 

 

288:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

>>286

<マスター>ニキ感謝! ジョブレベル制ゲームでジョブに就かずモンスターと戦うんじゃそれは死ぬわ

……後、やっぱり最後にとんでもない情報が出てきた件について

 

 

289:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

……そんな事チュートリアルでは言われなかったんですが……

 

 

290:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

チュートリアルに頼るな! 情報は己の足で探すんだ! (現在デスペナ中)

 

 

291:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

>>290

探した結果がそれなんですねー

 

 

292:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

じゃあログインしたらまず街に入ってギルドに行くのが鉄板なのかね……ところでティアンって誰? 

 

293:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

また知らないワードが出てきたー! デンドロ情報多いぞ! 

 

 

294:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

<マスター>ニキ情報早よ

 

 

295:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/15(水)

ティアンはデンドロでのNPCの事だぞ。管理AI曰く『人間と同じレベルの思考能力がある』とか

実際話してみた感じだと人間と全く変わらない受け答えをしたから個人的には間違い無いと思う。ここで書いた情報もティアンの人から聞いたものだし

尚、<マスター>ティアンを含めてジョブに就ける生物を人間範疇生物って言うらしい。ジョブに就けない生物は非人間範疇生物……モンスターになるみたい

ティアンもジョブに就けるが問答無用で全てのジョブに就ける<マスター>と違ってどんなジョブに就けるかは先天的に適正で決まるらしく、レベル上限も本人の才能次第で500よりも低い事があるらしい

 

 

296:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

成る程、NPCの事を言うのか

 

 

297:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

>>295

わーもう書かれてるよー。そして情報量が多いー

 

 

298:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

<マスター>ニキこれ今日だけで調べたのか……

 

 

299:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

NPC……ティアンに話を聞いたらしいが、よくもまぁ

 

 

300:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/15(水)

>>298>>299

相手のティアンの人もいきなり現れ始めた<マスター>の情報を知りたがっていたから、情報交換的な事をしたんだよねー

ちなみに現在の多くのティアンが<マスター>に抱く印象は『いきなり現れてジョブにも就かずにモンスターに殺されるやつら』って感じ

 

 

301:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

>>300

それってキ◯ガイって言うんじゃ……

 

 

302:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

>>301

グハァ! 

 

 

303:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

現実で言うと丸腰で肉食の猛獣の群れに飛び込む人間を見る感じなんだろうな

 

 

304:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

>>303

どう見てもプレイヤーがアレな連中な件

 

 

305:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/15(水)

ついでにモンスターの情報も出しとくか

さっきも言ったけどモンスターはデンドロの生物の中でジョブに就けないヤツの事で、レベル上限は100までだが人間とはステータスの上昇率とかも全く違うからレベルはそこまで当てにならないらしい

モンスターは頭上に名前表記が出るからそこで見分けるのがわかりやすいかな

モンスターの分類はいくつかあってレベルで分類する1〜50までの下級モンスター、51〜100までの上級モンスター

一般的に野生モンスターで普通にアイテムを落とすらしい通常モンスター、それより強力で倒すと【宝櫃】を落とすボスモンスター

強さの基準で下級職6人パーティーか上級職1人相当の戦力である亜竜級モンスター、上級職6人パーティー相当の戦力である純竜級モンスター、それより更に強いらしい伝説級・神話級モンスターとかもいるとか

そんで世界に一体しかおらず他のモンスターと比べても圧倒的な戦力を持ち、倒すと特典武具というユニークアイテムをMVPに贈与する<UBM>……ユニーク・ボス・モンスターとかいうのもいるらしい

正直、分類法が多すぎて俺もよく分かっていないです

 

 

306:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15(水)

はーい、お前たち<マスター>ニキから新しい情報よー! 

 

 

307:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

>>306

元気100倍! スレ住民! 

 

 

308:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

ていうか、これまでの情報を見るとデンドロってユニーク要素多すぎじゃない?

 

 

309:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

<UBM>やら超級職とかだな……<エンブリオ>もそうだが

 

 

310:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

実際ゲームとしてはどうなの? 教えて<マスター>ニキ! 

 

 

311:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/15

>>310

ゲームとしてはユニーク要素が多すぎたり、ティアンの反応が人間と同じだったり、チュートリアルが不親切だったり好みが分かれるかもしれないかな

……だが、<Infinite Dendrogram>が“本物”であるという事だけは保証しよう

 

 

312:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

>>311

……なんか<マスター>ニキの発言は意味深何ですが……

 

 

313:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

まあ、実際ログインしてみれば<マスター>ニキの言う通り“本物”だという事は嫌でも理解出来る

 

 

314:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

成る程……じゃあ買ってみようかなデンドロ

 

 

315:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

俺も買おうかな

<マスター>ニキの説明だと設定がめっちゃ細かく作られているみたいだしこういうの調べるの好きなんだよな

 

 

316:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

それじゃあ、ログインしたらその場のテンションに任せて走り回る事をオススメするぞ!

……俺をモグモグした狼はティールウルフって文字が頭上にあったな、いつかリベンジしよう

 

 

317:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

>>316

こらこら! 新規さんに変な事を教えるんじゃない! 

 

 

318:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/15

まあ、ログインしたらまずは街に入ってからティアンの人に話を聞いてギルドに行くのが妥当かな

そこで職員の人に話をちゃんと聞いてからジョブに就くといい

ジョブに就くのは<エンブリオ>が孵化してからでも遅くは無いからあまり焦らない方がいいぞ

 

 

319:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

そうそう、こういうアドバイスで良いんだよ

 

 

320:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

>>318

<マスター>ニキありがとう! 他に気を付ける事ってあるかな? 

 

 

321:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

何か新情報が出て来るかも

 

 

322:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/15

>>320

強いて言うならチュートリアル時のアバター設定かなぁ? 管理AI曰く獣人とか異形のアバターにも出来るけど性能は変わらないし、現実と違い過ぎると動かすのに慣れがいるらしいし

だから現実の姿を基準に弄ってアバターを作るのが一般的かな……ただ、現実視は本当にリアルと同じだから現実と全く同じはリアルバレの観点からやめた方がいいぞ

後、プレイヤーのデータはサーバーに保管されているらしいからやり直しは効かないっぽいし、ネタプレイをするのでなければ名前やアバターはしっかりと決めた方がいいと思うぞ

 

 

323:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

ゴボッバァァッ!!! 

 

 

324:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

<マスター>ニキが真面目な書き込みをしたらなんか誤爆したぞ

 

 

325:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

>>323

いったいどうしたんだ? 

 

 

326:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

話の流れ的にアバターか名前設定でやらかしたっぽいか? 

 

 

327:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

……デンドロもこれまでの粗製乱造VRと同じクソゲーだと思ったから適当にプレイして酷評してやろうと思ってネタ系の名前で始めたら本物だったんだ……! 

……事前に本物だと分かっていたらあんな名前には……! 

 

 

328:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

>>327

あー……ドンマイ

 

 

329:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

……名前とアバターの設定は真面目にやろう

 

 

330:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

>>327

ドンマイwww

 

 

331:名無しのゲーマー[sage]:2043/7/15

……ちっくしょォォォォ!!! 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……ふむ、名前を真面目に考えていて良かったな」

「何やってるの? お兄ちゃん」

「今日デンドロで得た情報を掲示板に書き込んでいたんだ。……まあ、掲示板への書き込みは初めてだったから大分適当だったが」

「フーン……これで少しは自滅する人が減るといいね」

「そうだな。……じゃあ、そろそろ夕飯だ。今日は親子丼だぞ」

「わーい!」




あとがき・各種設定解説

兄:実は<マスター>ニキの正体知ってた
・パソコンなどの扱いも出来て、思考入力もタイピングも物凄く早い。
・書き込む掲示板はちゃんと民度が高そうなところを選んだ。
・書き込みの口調は慣れていない所為で色々ブレているが、正体を誤魔化す為にもこの方がいいかと思い特に修正しなかった。

スレ民達:謎の<マスター>ニキのお陰で初日に情報を入手出来た
・荒らしとかも少なく比較的民度は高いスレ民。
・プレイヤーネーム選択でやらかしたのは一体何油抗菌さんなのだろうか?


読了ありがとうございました。
掲示板回の書き方はこんな感じで良かったでしょうか? 意見・感想求む。


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第1章 <Infinite Dendrogram>が始まって
三兄妹のデンドロプレイ・二日目


前章のあらすじ:三兄妹『<Infinite Dendrogram>始めました!』


 □王都アルテア 【格闘家(グラップラー)】ミュウ・ウィステリア

 

 私達がデンドロを買った日の翌日である2043年7月16日、その日も私は学校が終わってから速攻で家へと帰り兄様と姉様と一緒に速攻で家に帰って来てデンドロにログインしていました。

 ……そして、私達が王都に降り立つとそこには昨日と比べても、左手に紋章や卵を付けた<マスター>の姿を多く見かけたのです。

 

「しかし、二日目になると一気に<マスター>の数が増えたね〜」

「掲示板とかを見てもデンドロが“本物”だと言う情報が飛び交っていたからな。そうなれば当然大ヒットするだろうよ……実際、デンドロのハードは売り切れ続出らしいし」

「それに関しては、今日発表された<Infinite Dendrogram>の開発責任者だと言う“ルイス・キャロル氏”の言葉も影響していると思うのです」

 

 確か『<Infinite Dendrogram>は新世界とあなただけの可能性(オンリーワン)を提供します』って言うキャッチコピーでしたね……それを思い出して、私はつい左手にある紋章を見てしまいました。やっぱり、この“世界”のキモは無限の可能性を謳うこの<エンブリオ>なのでしょうね。

 

「まあ、それはともかくとして今日は何をしようか? 明日も学校だからあまり長くは出来ないけど」

「ですが、明日は終業式でそれからは夏休みなのです! だから、それ以降はたっぷりとデンドロが出来るのですよ」

「じゃあ、無難にレベル上げでいいんじゃないか。……この世界だと行動範囲を広げるには強くならないといけないだろうし」

 

 確かにそれが無難ですか……私達は兄様の<エンブリオ>のお陰で大分レベルが上がりやすいですし、そのメリットは十分活かしてレベル上げをして夏休みに備えるのが賢いですかね。

 ……という訳で、私達は冒険者ギルドで適当な討伐系依頼を受けた後に、昨日はトラブルで探索が中途半端に終わってしまったという理由で再び<ノズ森林>に行って狩りをする事にしたのでした。

 

 

 ◇

 

 

「いや〜結構レベルが上がったね。狩場を森の奥に変えたのは正解だったかな」

「森の浅いところには、同じ初心者<マスター>達がひしめいていましたからね。……今の私達のレベルなら、もう少し奥で戦っても大丈夫だったのは幸いでした」

「相変わらず俺のスキルを使うとアイテムはさっぱりだが。……まあ、初日に稼いだ金がまだあるから問題は無いか」

 

 そういう訳で、私達は<ノズ森林>での狩りを終えて王都への帰路についたところなのです……まあ、特に語る様な事も無く、普通に森の中の低級モンスターを三人で危なげなく倒していっただけでしたね。

 ……森の奥に居る少し強めのモンスターに狙いを絞ったお陰で、今日から増え始めた他の<マスター>とブッキングする事も無かったので。

 

『しかし、雑魚相手だと僕のスキルはあんまり役に立たないね。……まあ、僕は強敵相手の戦いに特化しているからしょうがないんだけど』

「私はミメの高いMPを活かすスキルを持って無いですからね。……今度、MPを使って殴る格闘系のジョブでも探してみましょうか」

 

 そんな中、私と融合しているミメが愚痴をこぼしてたので宥めて置きます……ちなみに融合している間はミメの声は私にしか聞こえない様です。どうやらミメには融合中に声を外に届ける機能が無い様ですね。

 ……実際、今の【格闘家】のジョブはミメとそこまで相性がいい訳では無いですし、何かこう“魔法拳士”的なジョブがあると通常戦闘でも融合で上がったMPを活かせるのですが……。

 

「……んん? ……二人とも、あっちから何か来るよ」

「何?」

『あ、なんかステータスの高い敵対対象が近づいているみたい』

「本当ですか? ミメ。……確かに《殺気感知》に反応が出て来ましたね」

 

 その時、突然姉様がまた“何か”を感じ取ったのか私達から見て右側を指差し、それとほぼ同時にミメの感覚に高ステータスの敵対対象が引っかかりました……ミメは有するスキルの関係なのか一定範囲内にいる敵のステータスが感覚で何となく分かり、その応用で比較的高いステータスを持つ敵性存在の位置を大雑把に感知する事も出来る様なのです。

 ……その直後、そちらの方向からかなり早い速度でこちらに近づいて来る()()()が聞こえて来ました。

 

「きゃぁぁぁぁ〜〜⁉︎ 助けてぇぇぇ〜〜〜!!!」

「ヒィィィィ⁉︎」

『『『『『KISYAAAAAAAA!!!』』』』』

 

 悲鳴を上げながらこちらに向かって来たのはのは青と金で塗られたサーフボードに乗って地上スレスレを飛んでいる黒髪の女性と、その腰にしがみついている獅子の意匠をあしらった籠手を付けた金髪の男性でした。

 ……そして、その後ろからは様々な種類の大量の虫──二十体前後の魔蟲系モンスターの群れが二人を追って来ていたのです。

 

「ふむ、あれがトレインとかMPKとか呼ばれている行為なのか? ……では、どうするべきかな」

「随分と必死そうだから、多分あの群れから逃げているだけじゃない? ……私の勘だと背を向けて逃げる方が危険かな」」

『後、奥に強いのがいるよ。多分亜竜級のモンスター』

「どうやら、あの群れを統率しているらしきボスモンスターがいる様なのです」

 

 そんな事を話している間にもサーフボードに乗った二人はこちらに迫って来て……突然、飛んでいたボードが失速して地面に接触、そのまま乗っていた二人は放り出されて盛大に地面を転がって行き、私達の近くでようやく停止しました。

 

「イタタ……しまった、MP切れか。やっぱ【騎兵(ライダー)】だとMPが少ないなぁ……」

「大丈夫ですかー?」

「あ、ああ。大丈夫……って! ヤバイ、追いつかれた!」

 

 起き上がった男性の方がそう言いながら魔蟲の群れの奥の方を指差しました……そちらを見てみると、群れの奥に全長3メートル程の巨大な白いカマキリの姿がありました。

 ……そして、そいつの頭上には【テンプテーション・プリンセスマンティス】の文字があり、その雰囲気から明らかにレベルの違う相手だと分かりますね。

 

「……成る程、“テンプテーション(【魅了】)”ね。種類がバラバラの虫達が何で一緒にいるか疑問だったんだが、そういう事か……《詠唱》終了《アースウォール》」

「少し《看破》してみましたが、兄様の予想通り全員【魅了】の状態異常になってますね」

「【魅了】した魔蟲系モンスターを操るモンスターってところかな? ……それで、そこの二人には簡潔に状況を説明してほしいんだけど?」

 

 そうして、兄様が予想の説明ついでに前方に土の壁を作って虫達の足止めをしている間に、姉様がやって来た二人に詳しい事情を問いただしました。

 

「ああ、私の名前はアミタリア、そっちの男はレオン・ハート。見ての通り<マスター>よ。……今日は同じ様にデンドロを始めたばかりのメンバーでパーティーを組んで狩りをしていたんだけど……その途中でアイツらに遭遇して逃げ回ってたのよ」

「他のメンバーは全員やられて生き残ったのは俺たちだけって訳。……【魅了】している大元を倒せばどうにかって思ったけど、あのカマキリ自身もめちゃくちゃ強くて俺達以外輪切りにされたし」

 

 成る程、事情は大体分かりましたのです……と、そんな事をしている間に土の壁が難なく()()()()()()、その向こう側から【プリンセスマンティス】が現れました。

 ……そいつはまるで獲物を前に舌舐めずりをする様にじわじわとこちらとの距離を詰めつつ、周りのモンスター達を動かしてこちらを包囲して来ました。

 

『KISYASYASYASYASYASYA!』

(アイツ、完全にこちらを舐めて居ますね。……まあ、油断してくれるならそれに越した事は無いんですけど)

『ミュウ、アイツのステータスはSTRとAGI特化型だよ。……後、ENDと多分HPはかなり低い』

(こちらの《看破》でもそんな感じのステータスでしたね。……これならいけますか?)

 

 そう考えた私は兄様と姉様に目配せをします……それに対して、二人もこちらの意図を分かってくれたのか頷いきました。

 

『KISYASYASYASYASYASYASYASYA!!!』

「……済みません。貴方達を巻き込む気は無かったんだけど……」

「トレインとかMPKとかする気は無かったんです……だから、掲示板とかに晒すのはやめてくなしゃす……」

 

 何故か諦めムードの二人を見て【プリンセスマンティス】は気を良くしたのか、更にこちらに近づいて来ました……では、獲物の前で舌舐めずりするのは狩人として三流だと言う事を教えてあげましょうか! 

 

「《メイス・スロー》!」

「……《マッドクラップ》!」

『KISYA⁉︎』

 

 そうして油断していた【プリンセスマンティス】に対してまず姉様が手に持った【ギガース】を勢いよく投げつけました……それをアイツは腕に付いた鎌の一本を振るって弾き飛ばしましたが、【ギガース】は姉様以外には見た目通りの重量がある為に衝撃でその態勢が大きく崩れました。

 更にその直後、兄様が発動した土属性拘束魔法によってその足の一本が地面に出来た泥の中へと沈んで、そのまま固まり拘束されました……その拘束も数秒もせずに突破されるでしょうが、それだけあれば……。

 

「ミメ!」

『《天威模倣(アビリティ・ミラーリンク)》! STR1563、AGI1835だよ! そしてENDは3桁!』

「上出来です!」

『KISYAAA⁉︎』

 

 ミメがスキルのよって【プリンセスマンティス】のステータスをコピーして、それによって大幅に上がったAGIで私がアイツに接近するには十分な隙なのです! ……ヤツも私の接近に対してもう片方の鎌を振り下ろして来ましたが、咄嗟に放たれた攻撃でかつ同じ速度であれば見切れない道理はありません。

 そして、私は振り下ろされた鎌を回避すると同時に()()()()()()()()()足場とし、そのままヤツの身体を駆け上って背中から組み付きその首に腕を絡めました。

 

「《ネックチョーク》……相手を侮ったツケはその身で支払う事ですっと!」

『KISYAaaaa──⁉︎ …………』

 

 更に私は絡めた腕を【格闘家】で覚えた数少ないアクティブスキルで固定すると、強化されたSTRを使ってそのまま勢いよく相手の首を捻りながらねじ切りました。

 ……流石に首を引きちぎられて生きていられる様な相手では無かったらしく、倒れてから暫く痙攣した後に【テンプテーション・プリンセスマンティス】は光の塵となったのでした。

 

「「…………え?」」

「はい! そこの二人ぼーっとしない! ボスを倒して【魅了】が解けたからと言ってモンスターが消える訳じゃ無いからね!」

「敵が浮き足立っている今の内に殲滅するぞ……《ファイアーボール》!」

「「……は、はい!」」

 

 そうして、兄様と姉様は【魅了】が解けた事で周囲の魔蟲モンスター達が混乱している隙をついて攻撃を仕掛けていきました……最初はあまりに急な展開に惚けていた二人もどうにか意識を取り戻して戦闘に参加し出しました。

 

「【MP回復ポーション】は飲んだからね! 《エアロバースト》!」

「なんかよく分からない事になったが、今がチャンスだ! 《レンジレス・アームズ》!」

 

 ……尚、二人の戦い方はアミタリアさんは盾に変形したサーフボードを手に持ってそこから風を出して敵を吹き飛ばしたりで、レオンさんは装備した剣から光の斬撃を放つというものでした。

 

「やっぱり<マスター>の戦い方は変わっていますね」

『……それ、ミュウには言われたく無いんじゃないかなぁ?』

 

 ……私の戦い方は至って普通ですよ? ただモンスターを殴ったり蹴ったり首を捩じ切ったりするだけですし。

 

 

 ◇

 

 

 そうやって戦う事暫く、私達は周囲に集まっていた魔蟲モンスター達を全て倒し終えたのでした……兄様のスキルが発動中だった(解除する暇が無かった)のでアイテムは手に入りませんでしたが、その分カマキリ倒した時に結構ガッツリ経験値が貰えたので良しとしましょう。

 ……と、そうしていたらアミタリアさんとレオンさんが礼を言って来ました。

 

「今回は本当に助かったよ、お陰でデスペナにならずに済んだ。……お礼と言っては何だけど、今ドロップしたアイテムは全部そっち持ちでいいよ」

「と言うか、ゲーム始めたばっかりだからまともに払えるお金とかも無いので……だから、掲示板に晒すのだけはやめて下さい……」

「別に晒したりはせんし、礼もドロップアイテムを譲ってくれるだけで良いさ」

「そんなに気にする事は無いよ、大した相手でも無かったしね」

「油断と慢心が過ぎる相手でしたから、隙はつきやすかったのです」

 

 まあ、モンスター倒したのは殆ど私達なのでそのドロップアイテムは経験値に変わっていますが……後、レオンさんは掲示板に何か嫌な思い出でも有るんですかね。

 ……そんな感じの事を私達が言ったら、二人はやや顔を痙攣らせました。

 

「……えーっと、お三方は私達と同じ<マスター>ですよね?」

「はい、先日始めたばかりなので、まだ下級職1個目の新人なのです」

「……それでボスモンスターをあんなあっさりと倒したんですか……?」

「大体はミュウちゃんとの相性が良かったお陰だけど。……やっぱりドロップアイテムの【宝櫃】は惜しかったかな?」

「仕方あるまい。スキルを解除するのもそれなりに手間がかかるのだし」

 

 まあ、デンドロを始めてから二日連続でボスモンスターと戦う事になるとは思いませんでしたが……幸い先の【テンプテーション・プリンセスマンティス】は直接戦うタイプじゃ無かったのか、昨日の【亜竜吸血熊(デミドラグブラッディベア)】と比べると総合的な戦闘能力は低かったのであっさり倒せましたし。

 

「それじゃあ、俺達はもう王都に帰るつもりなんだが二人はどうするんだ?」

「あ、あー……私達もこれ以上の狩りは出来ないし王都に戻るよ。レオンもいいよね?」

「今日は流石に疲れたしな……」

 

 そう言うわけで、私達は二人と一緒に王都へと帰って行ったのでした……まあ、王都に着いた後は二人と別れて冒険者ギルドで依頼達成を報告しつつ、まだ行っていなかった<ウェズ海道>や<サウダ山道>で時間が許す限りレベル上げをして明日からの夏休みに備えたりしましたが。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:アイコンタクトだけで連携が取れたりする
・共通見解として『敵に何かされる前に潰す』『油断している隙に倒す』と言う考えを持っている。

《メイス・スロー》:【戦棍士】のスキル
・その名の通り装備しているメイスを投げて攻撃するスキルで、スキルレベルが上がる程に威力・投擲距離が上昇する。
・妹の場合アームズ系<エンブリオ>の特性で所有者は重さを感じないので威力の高い投擲が出来るが、直接攻撃で無い為《バーリアブレイカー》は発動しないので相性は微妙。

《ネックチョーク》:本来は【力士(レスラー)】などで覚えるスキル
・一時的にSTRを上昇させて相手の首を絞め上げるアクティブスキルで、腕で首を固定する行為自体に補正も入る。
・また、相手次第では【窒息】の状態異常にする効果もあり、相手のENDと自身のSTRの差が大きかった場合にはそのまま首を引きちぎる事も可能。

アミタリア&レオン・ハート:アルター王国所属の初日組<マスター>
・二人共VRゲーム愛好家で相応のプレイスキルを持っている……のだが、それ故に末妹の体術を見て内心ドン引きしていた。
・ちなみにレオンは昔とあるMMOでうっかりマナー違反をしてしまい、それを掲示板に晒されて引退せざるを得なかった事が少しトラウマになっている。

【暴風盾板 プリトヴェン】
<マスター>:アミタリア
TYPE:チャリオッツ・アームズ
能力特性:風による移動
到達形態:Ⅰ
固有スキル:《ホバーダッシュ》《エアロバースト》
・モチーフはアーサー王伝説で語られる盾とも船とも言われるアイテム“プリトヴェン”
・第1形態としては珍しくハイブリッドしており、アームズとしての盾形態とチャリオッツとしてのサーフボード形態がある。
・《ホバーダッシュ》はサーフボード形態で使えるスキルで、MPを消費して地上・海上付近をホバー移動出来る。
・《エアロバースト》は盾形態で使えるスキルで、プリトヴェンから暴風を放ち敵を吹き飛ばす。
・ただし、第1形態の現在ではリソースの関係上チャリオッツとしては移動にMPを消費するから長時間移動出来ず、アームズとしてはホバー機能から派生したが故に放たれる暴風の威力は消費MPに比べると低い上、反動抑制機能が無いため威力をあげ過ぎると自分が吹き飛んだりする。
・アミタリア自身は《騎乗》スキルは覚えたし、MPが上がる【魔術師】にジョブを切り替えようかと思っている。

【獅支心応 ライオンハート】
<マスター>:レオン・ハート
TYPE:アームズ
能力特性:手持ち武器強化
到達形態:Ⅰ
固有スキル:《イミテーション・エクスカリバー》《レンジレス・アームズ》
・モチーフはイングランドの王であり自分の剣に『エクスカリバー』と名付けていたリチャード1世の異名“獅子心王(ライオンハート)
・形状は獅子の意匠をあしらった白い小型の籠手で、これを付けた武器にスキル効果を反映させるタイプ。
・《イミテーション・エクスカリバー》は手に持っている装備武器の性能を+50%するパッシブスキル。
・このスキルは籠手一つにつき一つの武器の性能+50%する仕様なので、一つの武器を両手持ちにすれば50+50で+100%の強化になったりする。
・《レンジレス・アームズ》はMPを消費する事で手に持っている武器の射程を延長するスキル。
・射程延長のスキルなので攻撃力などに変更は無いが、他のアクティブスキルを併用して武器を振るえば延長された射程にもその効果が乗る。
・射程延長の方法は武器の種類によって違い剣などの斬撃武器なら斬撃が飛び、打撃武器なら衝撃波が出たりして、射撃武器なら単純に射程は伸びる感じ。
・アバター名から分かる通りレオンはリチャード1世の大ファンで、こんな<エンブリオ>になったのは素直に嬉しいようだ。
・尚、後日モチーフと能力が被りまくっている脳筋がアルター王国に移籍する模様。

【テンプテーション・プリンセスマンティス】:敗因・油断と慢心
・敵を【魅力】で撹乱してその隙に狩る【テンプテーション・マンティス】が魅了による使役に特化して進化した亜竜級モンスター。
・魔蟲特化の【魅力】スキル《テンプテーション・バグズフェロモン》や【魅了】時間を延長してその対象を自在に操る《魅了統率》のスキルを持つ。
・更に高レベルの《看破》も持っていたため相手能力を見極める事も得意だった(無論、<エンブリオ>の能力は見破れない)。
・森の奥に入って来た<マスター>を次々と仕留めて調子に乗っていたが、ステータスはスキル運用と最低限の戦闘用の為にMP・STR・AGI特化でHPとENDが低かったのが運の尽きだった。
・更に進化して純竜級の【テンプテーション・クイーンマンティス】に進化すると【魅了】した配下を強化する《魔蟲強化》や身代わり系スキルを習得して、亜竜級魔蟲による軍勢を作り上げる事もあるので割りと危険なモンスターでもある。


読了ありがとうございました。この話から暫くは短編連作の間章になります。


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レントのクエスト・【ジェム】作り

前回のあらすじ:三兄妹『ごく普通の狩り風景でした』通りすがり「「えぇ……」」


 □王都アルテア・魔術師ギルド 【魔石職人(ジェムマイスター)】レント・ウィステリア

 

 さて、今日は妹達が通っている小学校では終業式が終わり夏休みに入ってから始めての土曜日、俺は王都アルテアにある魔術師ギルドの作業部屋で【魔石職人】のジョブクエストとしてチマチマと下級魔法の【ジェム】を作っています。

 ちなみに内容はギルドから貰った鉱石を《魔石精製》で【魔石】に変え、それらに《魔法封入》を使い低級魔法を込めて【ジェム】にして提出するというものなので報酬は安いが、この【魔石職人】のジョブクエストは多くの初心者【魔術師(メイジ)】が小遣い稼ぎ件レベル上げとして行っているとギルドの職員さんにオススメされたので受ける事にしたのだ。

 ……え? だから何でいきなり転職してジョブクエストをやっているのかって? それは、今現在王都周辺の狩場に廃人(<マスター>)達がひしめいていてモンスター狩りがやり難いからだよ。【魔術師】のジョブ自体は昨日の内にカンストしたから、新しいジョブに就いても特に問題は無かったしな。

 

「ある程度予想していたが、昨日から多くの学校が夏休みに入った所為でデンドロへのログイン者が物凄く増えてるんだよな。更に土曜日の今日は更に増えているし。……そして、現在ほぼ全ての<マスター>達が行動出来る範囲は初期地点周辺しか無いわけで……」

「そうなれば当然、初期地点周辺の狩場に大量の<マスター>が溢れる事になると。……まあ、序盤から生産をやる<マスター>は少ないだろうからな。生産ジョブクエストは受けるのに元手がいるのも多いし」

「さっき少し掲示板を見てみたが『フィールドに<マスター>多すぎワロタ』とか『フィールドを探してもモンスターがいない』『モンスターが現れたら周囲の<マスター>が集まって来てリンチされてた』『<マスター>がラフムに見える件www』というスレが揃っていたな。……<マスター>が強くなって行動範囲が広がれば少しはマシになるだろうが……」

 

 と、現在の初心者狩場はご覧の有り様なのである……ちなみに今回は妹達とは別行動であり、今一緒の部屋に居るのは俺と同じく魔術師ギルドのジョブクエストを受けに来た【魔術師】(今は【魔石職人】)であるエドワードとアット・ウィキという<マスター>である。

 何故この二人を一緒の部屋に居るのかと言うとこの作業部屋は貸し出し制でそこそこお金がかかる為、偶々出会った俺達はまだ始めたばかりで資金が少ない事もあって『三人で割り勘すれば安く済むんじゃね?』と考えて、お互いに金を出し合い部屋を共用する事にしたのである。

 ……それでまあ、男三人で黙々と【ジェム】を作るのも絵面的にアレなので、こうやって駄弁りながら作業を続けているのだ。

 

「まあ、この世界はモンスターが虚空からポップする仕様じゃなくて、ちゃんとした生態系がある仕様だからな。当然モンスターを狩り続ければ数は減る訳だ」

「それなら運営はもっとモンスターを事前に配置とかすればいいんじゃないか?」

「それはそれで生態系が乱れそうだが……。しかし、このデンドロでモンスターの分布を調査するのは大変そうだな」

 

 そう言いながらアット氏は軽くため息をついた……この世界では縄張り争いとかでモンスターの分布や生態系が大きく変わる事も珍しく無いってアイラさんが言っていたし、確かに調査は大変そうだな。

 ……とは言え、そう言いながらもアット氏は楽しそうに笑みを浮かべていたが。

 

「まあ、だからこそこの<Infinite Dendrogram>の情報は調べ甲斐があるんだがな」

「やっぱりアットさんって調査とか好きな人? ほら名前的に」

「アットでいいぞ。……まあ、俺は考察や調査が昔から好きでな。そしてとある掲示板に“<マスター>ニキ”という人物が<Infinite Dendrogram>の世界の情報が細かく書きこんでいたのを見て、このゲームの情報wikiを作りたいと思いプレイを始めたんだ。デンドロの人気に火がつく前にどうにかハードを入手出来たからな、今はあの書き込みには感謝してるよ」

「……へ、へーソウナンダー……」

 

 いやー、その<マスター>ニキってイッタイダレナンダロウナー()

 ……後、ログイン前の情報不足は管理AIでも問題視されたのか、二日目辺りで公式のホームページにデンドロ世界の常識についての説明が載せられる様になっていた……まあ、見ているだけで眠くなりそうな文章量だったけど。

 

「とは言え、今はコッチとリアルで同志を集めながら地力を上げる為にレベル上げに勤しんでいるところだがな。……ティアンから情報を得るにしてもまずは信用を得ないといけないし……」

「あー、確かにティアンって<マスター>への対応が塩いからなぁ。俺も錬金術師ギルドに行ってクエストを受けようとして、金と素材が無いって言ったら白い目で見られたし。……後で『普通はコネのある工房や商家の人とかから援助して貰う』って聞いたけど、それ<マスター>にはどうしようもないやつじゃんか……」

「まあ、今の<マスター>ってティアンから見ると『伝説とかで知ってるけど、いきなり大増殖し出したなんかよく分からない連中』みたいな印象っぽいしな。……まだ<マスター>もティアンも色々手探りだから、ある程度時間が経てばもう少し良くはなるだろうが……」

 

 一応、ギルドとかでの事務的なコミュニケーションとかは普通にやってくれるんだが、それ以上となると今の所は難しい様だ……初日にアイラさんと会えた俺達は本当にラッキーだったんだろうな。

 ちなみにエドワードは【錬金術師(アルケミスト)】的なプレイをしたくてデンドロを始めたらしいのだが、上述の理由で今は【魔術師】のジョブに切り替えて資金稼ぎをしているらしい。

 

「正直なところ、今のデンドロは生産志望には厳しい環境なんだよなぁ……。初期資金なんて本格的に生産活動するとあっという間に尽きるし」

「……今やっている【ジェム】作成も、素材である【魔石】をギルドから供給されているからこそ出来ているからな。……その分、失敗すると報酬から素材代が差し引かれる上、まだスキルレベルも低いから失敗率も高く報酬も安くなりやすいが」

「魔法を込める時にも魔法スキルを使った扱いになるからスキルレベルは上げられるんだがな。……経験値稼ぎも含めて新人【魔術師】の援助がメインのクエストみたいだからな」

 

 後、一応錬金術師ギルドの方にも似たような初心者向けクエストがあるらしいが、素材の代金が低級の【魔石】よりも高い所為で失敗した時の報酬減少の割合が大きく、ステータスとスキルレベルが低い現在では余り儲からない様だ。

 

「あー、何か生産活動を上手くやる良い手は無いのかなー」

「ふむ、やはり<マスター>最大の特徴である<エンブリオ>を使って自分を売り込むとか、或いは同じ生産系<マスター>を集めて互助クランでも作るとかか?」

「ほう、レントには何かアイディアがあるみたいだな」

 

 そうして俺が少し思った事を呟いたら、それを聞いたアットとエドワードが興味深そうにこっちを見てきた……そんなに期待されても困るんだが……。

 

「……いや、本当に大した考えでは無いんだが……」

「別に話の種になるならなんでも良いぞ。……正直、結構行き詰まってるし……」

「俺は自分で考察するのも好きだが、他人の考察を聞くのも大好きだからな。是非聞かせてくれ」

 

 なんかアットがめっちゃ目を輝かせながら催促してきたんだが……仕方ない、二人がそこまで言うなら少し話をするとしようか。

 

「まあ、簡単に言うとティアンに無く<マスター>にはある<エンブリオ>というシステムを使って、ティアンには中々作れない様な物を作って売り込んでコネを得るという考えだな。この世界にはちゃんと流通があって、生産者は商売で飯を食ってるんだから有用性……儲け話になりそうなら後見人とかになってくれる人も居るのではって事だ」

「要するに自分の<エンブリオ>を売り込んでコネを得るって事か。……理屈は分かるけどそう上手く行くか?」

「現在の<マスター>に対するティアンの印象は、さっきレントが言った通り余り良くは無いからな。……そんな人間が持ち込んだ怪しげな物品でコネを作るのは……いや、そういう先見の明があるティアンも何処かにはいるか?」

 

 ……まあ、俺自身そんな上手く行くとは思っていないアイディアだからな。正直、今必要なのはティアンが<マスター>という存在に慣れる事だと思っているからな。実際、このアイディアは<マスター>が良き隣人であるとティアンに印象付けるのが主目的だし。

 

「それ以前の問題として、俺の<エンブリオ>は特殊なアイテムとか作れない……というか、生産に寄与するものじゃないんだが。……とりあえず資金稼ぎが優先だと<エンブリオ>が孵化する前にフィールドに出て戦ったのが良くなかったのかなぁ。戦闘には便利な<エンブリオ>で助かってはいるんだが……」

「それに関してはどうしようもないが……<エンブリオ>は進化すれば新しいスキルを覚えるし、生産系スキルが欲しいと思っていればその方面のスキルが生えると思うぞ。……俺の<エンブリオ>も第2形態になったらちょうど“あったら便利だ”と思ったスキルが生えたし」

「レントの<エンブリオ>はもう進化したのか。……つまり、<エンブリオ>は進化するという情報は本当だったか」

 

 ちなみに俺の【ルー】が第二形態になった時に覚えたスキルは《諸芸の達人(スキル・マスタリー)》と言い、効果は『レベル50以上になったジョブのスキル及びジョブクエストの制限解除』……具体的に言うとレベル50以上のジョブをサブに入れた時に、そのジョブスキルをメインジョブが何であれ使用出来る様にするスキルの様だ。

 この世界のジョブシステムではサブジョブのスキルは汎用スキル以外だとメインジョブと関係のあるものしか使えない仕様だが、この《諸芸の達人》があるとそういった制限が無くなる様だ。

 ……このスキルは【魔術師】のレベルがカンストして次のジョブに悩んでいた時に生えて来たものだから、<エンブリオ>がマスターのパーソナルに合わせて進化すると言うのは本当なのだろう。

 

「もう一つのアイディアである生産クランを作る方は……まあ、こっちもさっきと同じ<エンブリオ>頼りのアイディアで、生産系<エンブリオ>を複数集めて凄いものを作ってコネを得ようみたいな感じだ。……他にも生産系同士で協力すれば活動がしやすくなる期待もあるし、特定の能力特化のクランを作るなら先駆者の方が圧倒的に有利だから、まだデンドロが始まったばかりの今だからこそクランを作るメリットは大きいと言う考えもある」

「ふーむ……とりあえず、実現可能かはともかくとして、ただ文句を言って腐っていてもどうしようも無さそうだし、せっかくの先駆者だから色々やってみるのも悪くないかな?」

「まあ、クランを作るなら早い方が有利というのは分かるな。……後から来る<マスター>も既に自分の目的に合ったクランがあって、そこに入れば大きなメリットがあると分かって入ればそこに加入するだろう。そうすればクランの規模を拡大させるのもやり易いだろうし……やはりwiki作成の為にはクランを作って人間を集める事が急務になるか」

 

 正直、今の段階だと<マスター>がティアンに優っている部分なんて<エンブリオ>しか無いので、そこを活かす事ぐらいしか思いつかなかったから適当に語っただけだったんだが……二人共結構真面目に考えてるなぁ。

 ……何かこういい感じに為になる意見を言った方がいいか……? 

 

「実際、<マスター>とティアンの信頼関係の構築はこのゲームを()()()()遊ぶ上では必須だろうし……<マスター>にはログインログアウトがある以上この世界の経済と商売の主役はどう頑張ってもティアンになるだろうし、デンドロの情報に関してもこの世界で生きるティアンが一番多く持っているだろうしな」

「確かにただ作って売るだけならともかく、本格的な店の経営や流通経路の確保は<マスター>だけだと難しいか? <マスター>が生産ギルドの運営とか無理だろうし。……やっぱり生産には地道な努力が必要か」

「少し調べただけでもこのデンドロ世界の設定は複雑怪奇だったからな。……やはり、学者系ティアンとの協力関係構築は必須か? <マスター>という存在に対して興味を抱いているティアンはいるだろうし、まずはその辺りから……」

 

 二人共、ちゃんと目的があってデンドロをやってるから凄い色々と考えてるなぁ……俺は妹に誘われてただ何となくプレイしているだけだし……。

 ……何かこの世界での“自分だけの目的”を探してみるのも悪く無いかもな。

 

「……よし、これでクエストの受注分は全部出来たな。じゃあ、ちょっと【ジェム】を提出して来るわ」

「おう、いってらー」

 

 そうして、俺は出来た【ジェム】を魔術師ギルドの魔石職人部門に渡してクエストを達成すると共に、新しい【ジェム】作成のクエストを受けて、また作業部屋に戻って【ジェム】作りに励んで行ったのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:この後に二人とはフレンド登録をした。
・【ルー】が第二形態になった時《光神の恩寵》のレベルが2になって獲得経験値が+200%になったのでレベルは凄い上がっている。
・本人的にはステータス補正がオールGのままなのが不満。

《諸芸の達人》:【百芸万職 ルー】の第三スキル
・ジョブクエストの制限撤廃はレベル50以上のサブジョブのジョブクエストを達成した時に、全く関係ないジョブをメインジョブにしていてもそちらに経験値が入る様になるという事。
・このスキルが目覚めた時点で兄は非魔法系ジョブをメインにして、サブに置いた【魔術師】のスキルが使えるかを確認した。

【魔石職人】:魔石職人系統下級職
・名前は原作に出てきたが詳細は書かれていないので大体捏造。
・ステータスはMPとDEXに特化しているので、初心者【魔術師】がジョブクエストで安全にMPを伸ばしたり小銭を稼いだりする為に就く事が多い。

エドワード:錬金術師志望の<マスター>
・この後、似た様に苦労している生産系<マスター>を集めてクランを作る事になった。
・実は兄とは同じ大学の同級生で、後に知った時には驚いた模様。

【幻想冶金 オレイカルコス】
<マスター>:エドワード
TYPE:テリトリー
到達形態:Ⅰ
能力特性:非金属の金属化
保有スキル:《メタル・トランスレイト》
・モチーフは神話や伝承に登場する架空の金属の名称の一つ“オレイカルコス”。
・《メタル・トランスレイト》はMP消費して発動する、周辺の任意の非金属を性質はそのままに一定時間金属化させるスキル。
・生物に使用した場合は【金属化】という【石化】派生の特殊状態異常となり、金属操作のスキルなどを持っていない限り動かすことは出来なくなる。
・だが、基本的に金属化した部分の強度は上昇し、効果時間は注ぎ込んだMPと自身と効果対象の能力差で決まる。
・また、第二形態に進化した際に自身が所有している非金属のアイテムを、一定確率で性質はそのままに完全に金属化させる《ファンタジー・メタル・ワーキング》というスキルを習得して、エドワードはその金属をティアンの錬金術師に売ってコネを作った模様。

アット・ウィキ:検証・考察大好き
・この後、アルター王国所属の同士や情報系<エンブリオ>の持ち主を集めてクラン<wiki編集部>を作り上げた。
・遊戯派だがティアンとの信頼関係は重視している……その方が多くの情報を入手出来るんだから当然なんだよね。

管理AI:頑張ってはいる
・一応こういう事態を想定して初期地点の低級モンスターを増やす“スタートダッシュキャンペーン”を行なっていた。
・だが、掲示板で『某ソシャゲの採集決戦の様だ』と称された廃人(<マスター>)達によって増産したモンスターを含めて殲滅されてしまっている。


読了ありがとうございました。
ただ、男三人で駄弁るだけの話になってしまった……次は女の子もだそう。


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ミカのクエスト・王国の騎士達

前回のあらすじ:<マスター>達「「「キャハハハハハ!!! ケイケンチ! オイシイ! アイテム! イッパイ!」」」管理AI『ちょっ⁉︎ 待っ⁉︎』

※8/20 リリアーナのレベルを少し変更


 □王都アルテア・騎士団施設内訓練場 【戦棍騎士(メイスナイト)】ミカ・ウィステリア

 

「せいっ! 《ダブルスラッシュ》!」

「おっとぉ⁉︎」

 

 私ことミカ・ウィステリアは向かい合っている凄い美少女が放った二連続の高速斬撃を、持ち前の“直感”で攻撃の軌道を先読みしそこに手に持った【ギガース】置く事でどうにか防いでいます……今、私が何をやっているのかと言うと、王都にある騎士団関係施設の訓練場で騎士団の人達と訓練をしているんだよね。

 

(まさか王都周辺の狩場が廃人(<マスター>)達の氾濫でまともに使えないとはねー。だから、王都内で各々ジョブクエストをやろうって事になったんだけど……私がメインジョブにしていた【戦棍士(メイスマン)】のジョブクエストは殆どが討伐依頼や護衛依頼とかで、今の私が受けられるものが無かったのは誤算だったねー。……おっと、これ以上追撃は受けたく無いし距離を取ろうか)

 

 だから、しょうがなく冒険者ギルドで何か適当なクエストを受けようと思ったら、そこに居たアイラさんにこの【騎士団で訓練相手の<マスター>募集】のジョブクエストを紹介されたんだよ……まあ、騎士系統のジョブクエストだからメインジョブを変更しないと行けなかったんだけど、幸い騎士系統の派生下級職にメイスを扱う【戦棍騎士】っていうのがあったので、クエスト受領ついでに騎士団の施設にあったジョブクリスタルで転職したりしてね。

 ……そんな訳で、私は今訓練場で騎士の一人と模擬戦をしているのである。

 

「くっ⁉︎ これも凌ぎますか! ……だったら《ソードスラスト》!」

「えぇ! いくら刃引きした模擬刀だからって突きは危なくないっと!」

 

 そうして連続斬撃をどうにか凌いで距離を取った私に対して目の前の超美少女──王国の騎士の一人だと言うリリアーナ・グランドリアさんは追撃の為に私の胸目掛けて突きを放って来る……よりも早く“近い勘”に示された彼女の攻撃軌道上に【ギガース】の頭部を持って来て、そこに放たれた突きをどうにか防いだ。

 ……この【ギガース】は見た目通りの重量があって、かつ<エンブリオ>だからマスター自身は重量を感じない仕様(掲示板の<エンブリオ>板で見た)なので、獲物の重量差を活かせばステータスで劣る私でもどうにか彼女の攻撃を凌げているのだ。

 

(と言ってもレベルが三倍以上差があって武術的な技術面でも劣っていると、攻撃防ぐしか出来なくてどうにもならないんだけどね。……とりあえず向こうは何故か警戒しているみたいだし、このまま逃げ続けよう)

 

 ちなみに試合開始前に聞いたリリアーナさんのメインジョブは騎士系統上級職の【聖騎士(パラディン)】──こちらは就いたばかりでレベルまだ低いらしいが、それ以外にも下級職を3つ程カンストしているらしいので彼女のレベルは150以上。【ギガース】が第二形態に進化してステ補正が上がった事を踏まえても【戦棍騎士】レベル1【戦棍士】レベル32の私より圧倒的にステータスは高いのである。

 ……まあ、お兄ちゃんやミュウちゃんと違って武術面の経験が無い私には彼女の技量がどれだけ優れているかはよく分からないんだけどね。分かるのは他の騎士さん達の剣技と比べて攻撃に重きを置いてるのかなーっていう事ぐらい。ただ、攻撃に入ったら確定で反撃喰らうと私の“近い勘”がそう言ってるから相当な技量なんだろうけど。

 

「つまり、結論としては実力差が大きすぎて私の勝ちの目が一切無いんだよねー」

「……そう言われると、技量とステータスで優っているのにまともに攻撃を入れられない私の立場が無いんですが……。これが貴女の<エンブリオ>の力なのですか?」

「……さーて、どうだろうねー」

 

 ……勿論、私の<エンブリオ>である【激災棍 ギガース】の特性は高いステータス補正と防御スキル効果減衰なので、相手の攻撃を先読みする様な効果は当然無い……この危険感知は私が生まれつき持っている“異常な直感力”によるモノである。

 この直感には主に二種類あり、一つ目は自分や周りに降りかかる直近の危険を感知してそれをどうすれば回避出来るのかを示す“近い勘“で、リリアーナさんの攻撃を防いでいるのはこちらである。

 もう一つはいつか遭遇する危険に対応するための行動を示す“遠い勘”で、<Infinite Dendrogram>を買った方が良いと感じたのはコッチ……正直言ってコッチの“遠い勘”は発動した回数も少なくて、私にもよく分からないからあんまり信用は出来ないかな。

 

「さてリリアーナさん、どうするかな? ……ちなみに、このまま戦い続ければ私が普通に負けるけど!」

「……それは自身満々に言う事じゃないと思うんですが……」

「いや、模擬戦はここまでにしようか」

 

 そう言って手を叩きながら私達の間に入って来た壮年に男性──今回のクエストを依頼したアルター王国第一騎士団団長のリヒト・ローランさんであった……苗字から分かる通り、彼はアイラさんのお父さんらしいんだよね。

 

「ミカ君の実力は見せて貰ったし、他の<マスター>達を待たせているからね。……二人はしばらく休んでいるといい」

「分かりました! リヒト団長!」

「分かりましたー」

 

 そんな感じで、私とリリアーナさんは模擬戦を終えて訓練場の端で休む事になったのだった。

 

 

 ◇

 

 

「《レンジレス・アームズ》!」

「模擬刀から光の刃を出すとは面妖な! ……だが、軌道が単純すぎる! これでは接近してくれと言わんばかりだ!」

「はい! 分かりました!」

 

 休憩中の私は他の<マスター>と騎士団の人達との模擬戦を観戦していた……さて、あそこで戦ってるのは先日<ノズ森林>で出会ったレオン・ハートさんだね。剣からビームを出して騎士さんを攻撃したけど、あっさりと避けられてそのまま接近されてるみたい。

 彼とはこのクエストを受けた時に再開して少し話したんだけど、中世の騎士物語とかが好きだから初期国家をアルター王国にして、メインジョブも【騎士(ナイト)】にしたとか言ってたね。今も楽しそうに模擬戦……というか現役騎士からの指導を受けているし。

 

「アリア、頑張ってください!」

「お任せ下さいマスター!」

「ふむ、主人を守ろうとするその心意気は良い。……ですが、そちらに気をとられ過ぎです。……後、守られる<マスター>の方も、常に守られやすい位置取りを意識するように!」

 

 別のところでは金髪緑眼の少女と同じく金髪で赤眼の女性のコンビが女性騎士と戦っていた……彼女達は少女の方が<マスター>のエルザ・ウインドベルちゃんで、女性の方がその<エンブリオ>である人型のガードナー【代行神姫 ワルキューレ】のアリアさんというらしい。

 彼女達とは私が冒険者ギルドでこのクエストを勧められた時に遭遇して、同じクエストを受けた同性同士として少し話したんだよね。何でもエルザちゃんは【従魔師(テイマー)】だけど、<エンブリオ>であるアリアさんがジョブに就く事が出来るスキルを持っていて今は【騎士】に就いているからこのクエストを受ける事が出来たらしい。

 

「しっかし<エンブリオ>ってのは本当に多種多様だねー。……でも、やっぱり今はまだティアンの人の方が強いかな。模擬戦も殆ど指導みたいになってるし」

「まあ、<マスター>の方々が現れ出してからまだ一週間程度ですから、そんなにあっさりと実力で上回られたら流石に困ります。……最も、私はミカさんに指導とか出来ませんでしたが……」

 

 おっと、うっかり呟いた独り言が隣にいたリリアーナさんに突き刺さっちゃったよ……とりあえず、私は武術とかさっぱりだからその辺りを後で指導してくれると嬉しいな! 的な事を言ってフォローを入れておく。

 実際、デンドロでは【戦棍士】で覚えた《戦棍術》の様なセンススキルがあればリアルで武術の心得が無い私とかでもある程度は戦える様にはなるんだけど、お兄ちゃんやミュウちゃん曰く『ちゃんと武術を覚えておいた方が動きは良くなる』らしいしね。

 ……と、そんな感じでリリアーナさんと話していた私の所に二人の人間がやって来たのだ。

 

「やあ、ミカ君とリリアーナ。少し話をいいかな?」

「は、はい!」

「あ、はい。別に良いですよリヒトさん。……えーっと……」

「初めまして、私は近衛騎士団所属の【天馬騎士】リリィ・ローランと申します。……もうお気づきかと思いますが、リヒト団長は私の父でアイラ・ローランは私の姉に当たります」

 

 成る程、つまりはローラン一家の次女さんだったらしい……それで、なんか凄そうな肩書きの人達が私に何の用だろうか? ちょっと聞いてみようか。

 

「それで、一体何の話何ですか?」

「それは娘のアイラが話していたウィステリア兄妹という<マスター>と一度話してみたくてね。……おっと、まだ正式に自己紹介はしていなかったね。私はアルター王国第一騎士団団長、天馬騎士系統超級職(スペリオルジョブ)天翔騎士(ナイト・オブ・ソアリング)】リヒト・ローランだ。改めてよろしく」

 

 ……超級職(スペリオルジョブ)、噂では聞いてたけど本物を直に見るのは初めてだね。さて、一体どんなお話なのだろうか? 

 

「まずは礼を言わせてくれ……君達が教えてくれた<マスター>の詳しい情報は、この国における<マスター>増加初期の混乱を収めるのにかなり役に立ったからね」

「姉さんから伝えられて驚きましたよ。……まさか、この世界に来たばかりの<マスター>は一般的な常識すら殆ど知らなかったとは……。この情報が無ければ混乱は更に助長されていたでしょうね。そう分かって入ればやり様も有りますし」

「いえいえ、そんな大した事は無いですよ。……むしろ、私達の方がアイラさんにはお世話になってますし」

 

 実際、情報量に関してはアイラさんから伝えられたものの方がはるかに多いしね……それに混乱の終息は、公式ホームページに追加された情報欄や掲示板のお陰でリアルの方にデンドロの事前情報が広がって来たのも大きいし。

 ……と思っていたら、リヒトさんの雰囲気がちょっと変わった気がした。

 

「……さて、娘が信用出来ると言った<マスター>である君に少し聞きたい事があるんだが……良いだろうか?」

「? はい、良いですよ」

「ありがとう。……聞きたい事と言うのは“<マスター>が増えた事によってこの国にどの様な悪影響があるか”を、<マスター>である君の視点から聞いておきたいんだ」

 

 ……あー、成る程ねー。まあ、国内の治安を維持する立場なら<マスター>とか言う不審者大量発生事件で一番に気にするのはそこだよねー。

 しかしどうしようかな、こういう事考えるのはお兄ちゃんが得意なんだけど、私じゃ()()()()()()()()を言うしか無いんだよねー。

 

「悪影響かー……まあ、沢山出ると思いますよ。例えば犯罪に走る<マスター>とかPK……<マスター>やティアンを殺害する事を目的としてこの世界に来る<マスター>とか。まあ、後者は<マスター>だけを狙うなら問題無いんですけどね。……今はともかくいずれはティアンだと<マスター>の犯罪者を止められなくなるだろうし……」

「⁉︎ そんな事は! 「まあ、そうなるだろうな」「でしょうね」って、リヒト団長にリリィさんまで!」

 

 私が行った“ティアンの力不足発言”にリリアーナさんが反論しようとするが、それよりも早くリヒトさんとリリィさんが肯定した。

 ……そして、二人はそのまま言葉を続けた。

 

「私がこのクエストを発注した理由の一つは“今現在の<マスター>の実力を知っておく”というものでな……そして、一通り<マスター>の実力を見たが、ばらつきこそ有っても特に技量面ではティアンの方が勝っている印象を受けたな」

「まあ、私達<マスター>で武術の心得がある人は少ないからね。……もちろん例外はいるけど」

「ですが、それ以上に彼等の<エンブリオ>の力は凄まじい。……これが生まれたばかりでまだ成長の余地が十分ある事や、<マスター>の必ずレベルを500まで上げられる万能の才能を考慮すれば、いずれ超級職などの例外を除けばティアンで<マスター>の犯罪者を止める事は難しくなるでしょうね」

「それは……」

 

 リヒトさんとリリィさんの理路整然とした意見にリリアーナさんも黙り込んでしまった……でも、このままだと<マスター>全体の印象が悪くなるし何かフォローは入れないと行けないかな。

 

「でも、<マスター>という括りだけで判断するのは辞めて欲しいかな。<マスター>一人一人で考え方や価値観も全く違うし、この国に害を齎す<マスター>も居ればこの国を守ろうとする<マスター>も居るからね。……力の過多こそあれど<マスター>とティアンの精神性には特に違いは無いから」

「……ふむ、まあティアンにもどうしようもない悪人はいくらでも居るし、個人個人を見て判断する事も必要か」

「ですが、やはり力の差がある以上は<マスター>に対抗するには<マスター>の力が必要になる時が来るでしょう。……信頼の置ける<マスター>を今から探すべきでしょうね」

 

 おお、二人共結構あっさりと分かってくれた……のかな?

 

「……というか、私の事を試しましたか?」

「ああ、まあそういう意図も有った事は否定しない。気を悪くしたのなら謝ろう。……だが、さっきもリリィが言った通り私達はこの国を守る為には<マスター>の力が今後必要になってくると考えている」

「その為に今の話には姉が言っていた有望な<マスター>である貴女の人格を確認する意図もあった事は認めます。……ですが、貴女の話を聞いて私達の考え方が間違っていなかったと確信した事も本当です」

 

 ふむう、別に試された事が不満な訳では無いし、<マスター>と繋がりを持とうとする二人の考え方は間違ってはいないと思うんだけど……うん、ここは自分の“直感”に従って言いたい事を言ってみようか。

 

「この世界に来る直前に出会った管理者(チェシャ)は、私が『この世界で何をすれば良いのか?』と聞いた時にこう答えました……『何でも。英雄になるのも魔王になるのも、王になるのも奴隷になるのも、善人になるのも悪人になるのも、何かするのも何かしないのも、この世界に居ても、この世界を去っても、何でも自由だよ。出来るなら何をしたっていい』と」

「それは……?」

「この世界に来る時に言われた中で一番印象に残っている言葉ですよ。……要するに私達<マスター>は良くも悪くも“自由”って事です。……だから皆、自分のやりたい事を、自分で考えて、自分で決めて行動すると思いますよ。……ああ、勿論“自由”って言うのは何をしても良いという免罪符じゃ無いですけどね。自由と言うのは『自分の行動全てに自分で責任を持つ事』でしょうし」

 

 ……何となくなんだけど、この国で<マスター>がそういう存在であると印象付けておいた方が良い気がしたんだよね。何故かはわからないけど。

 そしたら、少し考え込んでいたリヒトさんが改めて“私”に聞いてきた。

 

「それじゃあミカ君。……君はこの国に危機が訪れた時には私達に力を貸してくれるのかな?」

「んー、その時の状況次第では分からないですけど……少なくとも、私の手の届く範囲で悲劇が起きそうなら止めようとはしますよ。……解っていて何も出来なかったというのは気分が悪いので」

 

 悲劇が起きると()()()()()()()それを止める為に私は全力を尽くすよ……この世界の“ミカ・ウィステリア”にならそれが出来るからね。

 ……その答えを聞いたリヒトさんは何かに納得した様に頷いた。

 

「成る程、“自由”か……ありがとうミカ君、なかなか貴重な意見だったよ。どうやら私達ももう少しこの国に来た<マスター>達と、それによって変わり行くこのアルター王国を見定めて行く必要がある様だ。……さて、では訓練を再開するとしようか。せっかくだし、ここからは私が指導する事にしよう」

「ふぇ⁉︎」

「おや、やる気満々ですねリヒト団長。……さて、何人残るでしょうかね」

 

 ……何故だろう、なんか凄く嫌な予感がしたんだけど。リリィさんもなんか凄く不穏な言葉を言ってるし……。

 

「さて、ではまず私一人と<マスター>全員と見習い騎士達の模擬戦をしようか。……ああ、私はこれでも超級職だからENDは一万を超えているし、【救命のブローチ】も着けてるから遠慮無く掛かって来なさい」

「あっ(察し)……この人、基本スパルタなアイラさんのお父さんだったわー」

 

 そんな感じで行われたリヒトさんの超スパルタ指導に、その場に居た<マスター>達と騎士達は纏めて死屍累々の有り様となったのであった……まあ、流石はアイラさんのお父さんだけあって、各々への指導とかは物凄く的確だったから得るものは多かったけどさ……。

 その後、ボロボロにされた<マスター>と騎士達の間に友情が芽生えたり、治療に回ったリリアーナさんが男性<マスター>の間で大人気になったり、リリィさんがそれを見て『<マスター>相手にはリリアーナのウケが良いですね。まだ若いから余計な先入観も無いでしょうし彼女には<マスター>達と積極的に関わらせても良いかも知れないわね』とか言ってたりしたけど、クエストそのものは無事に達成出来ましたとさ。




あとがき・各種設定解説

妹:せっかく騎士の国に来たんだからこういうのも良いよね!
・【ギガース】は第二形態に進化したが、変更点はステ補正及び武器としての性能の上昇と《バーリアブレイカー》がレベル2になった事のみで新スキルとかは覚えなかった。

【戦棍騎士】:騎士系統派生下級職
・メイスを武器とする騎士系統のジョブで、他にも【槍騎士(ランスナイト)】や【弓騎士(ボウナイト)】などのジョブもある。
・主なスキルは《ダメージ軽減》《乗馬》《盾技能》などの騎士系統の汎用スキルと《〇〇砕き》と言った特定種族特効のメイス系アクティブスキル……要するに【騎士】の剣技をメイスに変更しただけ。
・ただし上級職の【重棍騎士(ヘビーメイス・ナイト)】になれば対金属製防具スキルなど独自のスキルを覚える。

リリアーナ・グランドリア:美少女なので<マスター>にもファンが出来た模様
・原作からデンドロ時間で五年以上前なので現在は15歳ぐらいであり、発言とかも大分若い感じ。
・今後、色々な<マスター>と関わり、そのやらかしに苦労する羽目になる。

リヒト・ローラン:スパルタは遺伝
・この後、個人的に信用の置けそうな<マスター>と友誼を結ぶ方針で色々やって行く事にした模様。
・自身の愛馬は【ハイエンド・セイクリッド・モノペガサス】のデュラルと言い、彼に騎乗した空中戦なら【天騎士】と【黄金の雷霆】を上回る実力がある。
・加えて指揮能力も高く人格者なので部下にも慕われており、国王や近衛騎士団長からの信頼も厚い。

【天翔騎士】:天馬騎士系統超級職
・騎士系統の派生で飛行可能な馬に乗って戦う事に特化した上級職である【天馬騎士(ペガサスナイト)】の超級職。
・ステータスは騎士系らしくHP・STR・ENDが良く伸び、自身と騎乗対象とAGIを同じにして空気抵抗・慣性・反動・各種デバフや状態異常など飛行中の悪影響を軽減するパッシブ奥義《天躯翔》を始めとする愛馬に騎乗した状態での空中機動時に効果を発揮するスキルを習得する。
・他のスキルはレベルEXの《乗馬》や《天馬強化》など下位職の正当強化版が多い。

リリィ・ローラン:ローラン家次女
・合計レベルは400超えでサブジョブには近衛騎士団として【聖騎士】を入れており、愛馬として【テンペスト・ペガサス】のティルルという純竜級ペガサスを有している近衛騎士団の中でもトップクラスの実力者。
・また、父親譲りで指揮能力も高く近衛騎士団で部隊長を任される程だが、性格がやや合理的過ぎるきらいがある。

クエストに参加した他の<マスター>達:初期に王国を選ぶだけあって騎士好きが多い
・このクエストに参加していた男性<マスター>達と騎士達を中心として後日リリアーナファンクラブが作られたとか。
・その横で妹とエルザは互いにフレンド登録とかしてた模様。


読了ありがとうございました。感想などは励みになっていますので、これからもよろしくお願いします。


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ミュウのクエスト・格闘家ギルド

前回のあらすじ:妹「超絶美少女騎士と訓練したナウ」


 □王都アルテア・格闘家ギルド 【格闘家(グラップラー)】ミュウ・ウィステリア

 

「さて、ここが格闘家ギルドですか。……成る程、皆さん何かの格闘技を収めている様なのです」

「そうなんだ。……僕は他人のステータスは分かるんだけど、それに寄らない技術とかはさっぱりだからね」

 

 そう言うわけで、私は王都周辺の狩場が満杯で使えなかったので格闘家ギルドにジョブクエストを受けに来たのです……ちなみに“格闘家”ギルドと名を打っていますが、実際には【格闘家】【拳士(ボクサー)】【蹴士(キックマン)】などの徒手格闘系ジョブ全般の総合ギルドだそうなのです。

 ……しかし、格闘家ギルドと言うからには道場っぽい感じを想像していたのですが、基本的には冒険者ギルドとそう変わりませんね。現実で言うとスポーツジム的な感じでしょうか? 

 まあ、それはともかくとして、早速受注するジョブクエストを探しに行きましょうか。えーっと……とりあえず受付の人に聞いてみましょう。

 

「すみません、ジョブクエストを受けに来たのですが」

「はい……えーと、ここは格闘家ギルドなのですが……」

 

 ふむ、何故か聞き返されてしまったのです……まあ、このギルドにいる人達は皆筋骨隆々の男性ばかりで、私の様な少女は居ませんので仕方ないでしょうか。

 ……ああ、そう言えば籠手を付けたままなので<マスター>の証である紋章が見えませんね。外しますか。

 

「はい、ですからここに来たのです……これでも<マスター>で【格闘家】レベル44なのです。確かギルド登録もしてあった筈なのです」

「あ、僕はミュウの<エンブリオ>だから、まあ付き添いみたいなものだね」

「<マスター>の方でしたか、これは失礼しました。……確かに登録してありましたね。では、こちらのカタログに受けられるジョブクエストが載って居ますので、その中からお選び下さい」

 

 そうして、私は受付の人からジョブクエスト用のカタログを貰いました……どうやら、この辺りは冒険者ギルドと変わらない様なのです。このカタログは便利ですからね、普及するのでしょう。

 ……と言うわけで、私とミメはカタログから自分の受けられるクエストを探していったのですが……。

 

「ふむむ……討伐は狩場の状況的に難しいですし、護衛依頼は時間的拘束が長過ぎて<マスター>である私には不向きなのです」

「……あ、コレとかは? なんか武術の指導とか書かれてるけど」

「推奨レベルが合計300以上ですから、まだ下級職一つ目の私では相手にされないのでは? ……それに、私は人に武術を教えるのは苦手ですし」

 

 以前、師匠からは『お前みたいにパソコンのソフトをインストールする様なお手軽感覚で武術を習得出来るヤツはまずいないから。多分感覚が違い過ぎて人に教えるのには向いていないな』と言われましたし。

 ……要するに、私は一度見て数時間程その型をなぞれば武術を習得出来てしまうので、武術を習得するのに苦労した経験というのが一切無いのですよ。

 

「そんな私には他人に武術を教えるなど出来ないのですよ。……武術なんて、一度見てやってみればその理ぐらい理解出来るでしょう? ……と言っても、同じ事を出来る人はいないのです」

「……まあ、そうだろうね。……じゃあ別のを探そうか」

 

 この話はここまでにして、私とミメはカタログを読み進めていきます……ふむむん、やっぱり戦闘系ジョブのクエストだからか討伐や護衛のクエストが多いですね。

 ……一応それ以外の依頼もありますが、どれも一定以上の合計ジョブレベルが推奨されている専門的な依頼ですし。やっぱりジョブクエストは冒険者ギルドのクエストと比べても敷居が高い様ですね。

 

「ぬぬぬ……初心者用のジョブクエストとかは無いんですかね? 皿洗いとか掃除とか荷物運びとか」

「それは【料理人(コック)】とかのジョブクエストじゃない? 多分、ジョブクエスト自体が専門家の手が必要なクエストって感じだしなぁ。……あ、コレなんかどう?」

 

 そう言ってミメは開かれたカタログの一箇所を指差しました……そこにはこう書かれていたのです。

 

「何々……【合計レベル1〜100までの低レベル帯同士での乱取り 難易度:一】ですか。……えーと、ギルドの訓練室で集まった人と模擬戦するクエストみたいですね。報酬は大したことないですがコレならば受けられそうなのです」

「ミュウなら同じレベル帯で負ける事は早々無いだろうし大丈夫じゃない? いざとなればボクも居るし」

 

 ……格闘技の模擬戦でミメ(<エンブリオ>)を使うのはどうなんでしょう? それに依頼主が格闘家ギルドのギルド長になってますし、多分コレは初心者救済用のクエストとかじゃ無いですかね。

 

「まあ、とりあえず受付の人にこのクエストの受注を伝えにいきましょうか」

「オッケー、腕がなるね!」

 

 多分、実際戦うのは私になると思うんですが……まあ、その辺りはクエストが始まってから聞いて見ればいいでしょう。

 

 

 ◇

 

 

 そういう訳で、私とミメはクエストを受注してギルドないにある訓練場にやって来ました……そこでは既に何人かの人が徒手格闘による模擬戦を行なっていて、その表情は模擬戦とは思えない程に真剣なものでした。

 ……さて、受付の人はここに来れば後はギルド長が案内してくれると言っていたのですが……。

 

「おい嬢ちゃん達、そこで何をしてるんだ。ここは格闘家ギルドの訓練場だぞ」

 

 と、そうやって私とミメが訓練場の入り口から周りを見ていると、室内に居た一人の非常にガタイのいい男性に声を掛けられました。

 ……ふむ、見た限りではこの人がこの格闘家ギルドで見た中で一番強い人みたいですね。

 

「ミュウの考えている通りだと思うよ。……この人のステータスがこのギルドで一番高い」

「ん? 《看破》でもしたのか? ……まあいいか。俺は【拳聖(フィストマスター)】ゴライアン、この格闘家ギルドのギルドマスターをしている。……それで? 嬢ちゃん達は一体何の様なんだ?」

 

 おっと、まずはちゃんと自己紹介をしなければならないのです……この人が強かったので少し見入ってしまいました。

 

「申し遅れたのです。私は【格闘家】の<マスター>、ミュウ・ウィステリアと申します。こちらは私の<エンブリオ>のミメなのです。……今日は乱取りのクエストを受けたのでここに来たのです」

「受付の人は、ここにいるギルドマスターに詳しい話を聞いてほしいって言ってたよ」

「……チッ、あの野郎面倒ごとを押し付けやがったな。……分かった、じゃあ簡単に説明するぜ」

 

 ゴライアンさん曰く、このクエストは格闘家ギルドがジョブ1つか2つまでの初心者の実力を底上げする為に定期的に開いているもので、この訓練場で模擬戦をしながら彼や他の格闘家達が指導を行うという形式の様です。

 ……指導を受けるのがクエストなのかと疑問に思いましたが騎士団の訓練などもクエスト扱いに出来る為、戦闘系ジョブの場合は自分の実力を磨く事もクエスト扱いに出来るらしいとの事です。

 

「まあ、模擬戦っつっても()()()()()()()()()にも関わっているから全員真剣にやってるけどな」

「転職条件?」

「ん? 嬢ちゃんは【格闘家】なのに知らないのか……って、この世界に来たばかりの<マスター>なら仕方ないか。……格闘系ジョブの上級職の転職条件には対人戦が条件になっている場合があってな。例えば、格闘家系統上級職【武闘家(マーシャル・アーティスト)】の転職条件は『【格闘家】をカンスト(レベル50)にする』『亜竜級以上を無手で討伐する』そして『格闘系同士の勝負で10連勝する』になってる」

 

 ちなみに格闘系同士の勝負は別に命の取り合いでは無く、模擬戦でも大丈夫の様ですが、自分より圧倒的に格下の相手と戦ったり八百長をしたりした場合はカウントされないらしいです……要するに真剣に戦って勝敗を決める必要があるみたいですね。

 

「そういうのもあって、ギルドではこのクエストを定期的に行なっているんだ。……まあ、レベル100以上の連中や、もっと本格的な試合がしたいって奴らはギデオンの闘技場を使ってるがな。ここはあくまで初心者救済用だ」

「成る程、ご説明ありがとうございましたのです。……では、早速私も模擬戦をするのです」

「ああ、一応危なくなったら止めるからな」

 

 そうして、私は説明してくれたゴライアンさんにお辞儀をしてから模擬戦に加わるのでした……最後まで気を使ってくれるとは、ゴライアンさんはとてもいい人なのです。

 まあ、師匠からは『お前が下手に戦ったら()()()()()()()()()()()』と言われて、あまり同世代の門下生と試合をさせて貰えなかったのですが……モンスターと日常的に戦っているこの世界のティアン達ならそんな問題にはならないでしょう。多分。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □格闘家ギルド・訓練場

 

「セイヤー!」

「グワー!」

「そこまで! 勝者、ミュウ・ウィステリア!」

 

 今、訓練場ではミュウ・ウィステリアと【蹴士】のジョブについているティアンが模擬戦をしており、相手のティアンが放った上段蹴りを躱した彼女がカウンターの上段蹴りを打ち込んだところだった。

 ……その攻撃が有効打となり相手の【蹴士】がダウンしたので、審判は彼女の勝利とみなした。

 

「わーい! またミュウが勝ったね。これで9連勝だよ!」

「……あー、そうだな。……しかし、とんでも無いなあの嬢ちゃん」

 

 その光景を彼女の<エンブリオ>である【ミメーシス】とギルドマスターのゴライアンは訓練場の壁際で眺めながら、各々が思った事を口に出していた……ちなみにミメーシスは自分も融合して戦うつもりだったが『僕と融合すれば亜竜級の首をネジ切れる様になるし、余裕だね!』と言ったせいで、それを危険視したゴライアンに参加を禁止させられている。

 ……尚、最初の内はふて腐れていたが、ミュウの連戦連勝を見たお陰で機嫌が治った様で今は素直に応援している。

 

「……では、次の試合はミュウ・ウィステリアとビシュマルで行う。両者前へ!」

「おや、同じ<マスター>の人が居たのですね。【格闘家】ミュウ・ウィステリアなのです。よろしくお願いしますのです」

「おう、【力士(レスラー)】のビシュマルだ。同じ初心者<マスター>同士よろしく頼むぜ」

 

 そうしてお互いが軽く挨拶した後、審判の合図によって模擬戦が開始された……開始と共にビシュマルがミュウに対して低空タックルを見舞うが、彼女はそれをギリギリで躱して距離を取る。

 それに対してビシュマルは直ぐ様方向転換をして再びタックルを仕掛けるが、それも彼女はヒラリと躱してしまう。

 

「レベル差の割にステータスに差は無い……むしろビシュマルって<マスター>の方がステータスは高いみたいだな」

「それは<エンブリオ>のステータス補正の所為かな。……僕はステ補正無いし。向こうはちゃんとあるみたいだけど」

「……成る程な。まあ【格闘家】よりも【力士】の方がステータスの上がりも良いしな」

 

 ゴライアンとミメーシスがそんな会話をしている横で、未だに珍しい<マスター>同士の戦いだからか訓練の手を止めて彼等の模擬戦を観る者も増えてきた様だ……この場に居る殆どの人間にはミュウの方がビシュマルの攻撃を辛うじて躱している様にしか見えなかった。

 ……だがその中で、ギルドマスターであるゴライアンを含めて数人の上位格闘家だけが、今戦っているミュウ・ウィステリアという少女が()()()()()()()()をしているのかを気が付いていた。

 

(……あの嬢ちゃん、最初の模擬戦からずっと相手の攻撃をミリメテル単位で完全に見切って躱してるな。……しかも、躱した時の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()様にしてやがる。……相手がまだ下級職一個目の新人とは言え、一体どんな目と体術してるんだ)

 

 そうやってゴライアンが考えを巡らせている間にも模擬戦は続いており、ビシュマルはフェイントを駆使してどうにか組みつこうとするもミュウはそれらを意にも介さずギリギリで避け続けていた。

 

(あのビシュマルって<マスター>は決して弱い訳じゃない。むしろこれまで見た<マスター>の中は殆どが武術どころか運動の素人だったが、彼はキチンと走り方が出来てるところからそれなり出来る方だろう。……だが、それ以前にあのミュウって嬢ちゃんの体術は()()()()()。……才能だけなら<マスター>で決闘ランク一位の【猫神】も遠く及ばず、俺すら遥かに凌駕してるな。ここまで桁外れな才能を見たのは【格闘王】の爺様以来だ)

 

 長年の間、格闘家ギルドのギルドマスターをしていたゴライアンは非常に目が肥えており、他者の武に於ける才能を見破る事に非常に長けているのだ……が、そんな彼を持ってしてもミュウの才能の底は見えなかった。

 そうしている間にも模擬戦は佳境を迎えておりビシュマルの低空タックルが遂にミュウを捉える……直前に彼女は逆にビシュマルの懐に潜り込むと、彼の襟と腕を掴みそのまま後ろに倒れこみながら足を使って投げ飛ばした。

 

「とりゃー!」

「巴投げだとぉぉぉぉ!!! グハァッ⁉︎」

「一本! そこまで! ……勝者ミュウ・ウィステリア!」

 

 ミュウの巴投げは見事に決まりビシュマルは背中から床に叩きつけられ、その結果を見た審判はミュウの勝利を告げた。

 ……その後起き上がったビシュマルとミュウが握手をしながら会話をしているのを見つつ、ゴライアンは今後の事について思案していた。

 

(まあ、ギルドマスターとしては有望そうな格闘家には唾をつけておくつもりだし、それは<マスター>相手でも変えない予定だが……あのビシュマルってのは兎も角、ミュウの嬢ちゃんは下手すると爆弾になりかねないしどうするかね。……とりあえず、後でもう少し詳しく話を聞いてみるか)

 

 そんな事を考えつつもゴライアンはその事を一旦置いて、ギルドマスターとしてクエストに於ける新人の指導を行う事にしたのだった。

 

 

 ◇

 

 

「ふう、中々良い経験でした」

「お疲れ様ー、ミュウ。はいお水」

 

 一通りの乱取りを終えたミュウは訓練場の端にいたミメーシスの下に行き、そこで渡された水を二人で飲んで休んでいた……と、そこにゴライアンが近づいて来て彼女に声をかけて来た。

 

「よう嬢ちゃん、お疲れ様。……少し話をしたいんだが、いいか?」

「構いませんよ。何の様でしょうか?」

「ああ……嬢ちゃんは模擬戦の時、回避する距離を意図的に一定になる様に動いてたな?」

 

 その言葉を聞いたミュウは少し困った様な表情になりながらその問いに答えた。

 

「ええ、常に回避距離が5ミリになる様に意識して回避していました。……ミメが覚えた()()()()を活かすためには見切りの鍛錬が必要だと思って行った事なのですが……やっぱり、もっとちゃんと戦った方が良かったでしょうか?」

「いや、それに関しては相手に本気を出させられなかった方が悪いから別に良い。……それにこの模擬戦はお互いの鍛錬の為にやっているんだし、自分を鍛える為に必要だと思って新しい戦い方を試すのは良くある事だしな。真剣にやった以上は【武闘家】の転職条件も満たせているだろうしよ」

 

 彼の言葉を聞いたミュウは安心した様な表情になってホッと息を吐いた……その反応を見たゴライアンは『自分の才能に傲る様な感じでは無いし、この少女は悪い人間では無いのだろう』と思い、とりあえず友誼を結んでも大丈夫だろうと判断した。

 

「しかし、嬢ちゃんの武術は凄いな。一体誰に学んだんだ?」

「えーと、リアル……じゃなくてあちら側の古流武術の道場で習いました。……習った時間は一年にも満たないですし、師匠からは『教え甲斐が全く無い』と言われましたがね」

「……お、おう。そうなのか……」

 

 ゴライアンはそれらの発言に《真偽判定》が一切反応しなかった事から彼女が本物の天才であると確信し、その“師匠”とやらも教えられる事が無くなったのだろうと察した……ただ、この年齢でこれだけの才能を持ちながら、これまでの彼女の言動や雰囲気からは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事に不自然さを感じたりもした。

 ……彼は若く才能のある武芸者が他の同レベル帯の相手と戦った時には、僅かでも相手を見下すか自分の腕を誇りたがるものだとかつての自分の経験から良く知っていたが、彼女が戦っている際には僅かたりともそういった雰囲気が見られなかったのだ。

 だが、出会ったばかりでこれ以上の事を聞くのは性急すぎると常識的に考えたので、彼はこの程度で話を切り上げる事にした。

 

「まあ、何か格闘関係で相談があったら遠慮無く言ってくれ。……こっちも<マスター>との距離間はまだ掴みかねてるから、出来る限り<マスター>との齟齬は無くして置きたいからな」

「はい、ありがとうございますゴライアンさん!」

 

 その後はミュウがビシュマルにフレンド登録を申し入れたりしたぐらいで、特に何事も無く格闘家ギルドでのクエストを終了したのだった。




あとがき・各種設定解説

末妹:戦闘特化天災児
・格闘というよりも戦闘行為全般に規格外(ハイエンド)な才能を持つ天災児で、現在はジョブスキルなどデンドロ世界での戦闘方法を学習中。
・だが、自分の才能に対する自負や誇り、奢りなどは何故か一切無い模様。
・レベルが妹と比べて高いのはたまに遭遇する亜竜級モンスターを倒す時にはメインで戦い、兄のスキル効果で大量の経験値を獲得しているから。

ミメーシス:第二形態に進化
・強化された所は新スキル以外にもMPが一万強まで上昇した事と《天威模倣》で同期出来るステータスの数が3つに増えた事。
・新スキルは()()()()()相手の攻撃をミリ単位で見切る能力が必要らしい。
・尚、人型<エンブリオ>としての食癖は“近くで誰かが食べている物と同じ物しか食べない”。

ゴライアン:格闘家ギルドのギルドマスター
・これでも合計レベルは500でカンストしている実力者で、長年の経験から人を見極める高い洞察力を持っている。
・若い頃は色々やんちゃしていた模様だが、“【格闘王】の爺様”と出会ってから色々な経験を積んで今では立派な人格者。
・メインジョブの【拳聖】は拳士系統上級職の1つで、転職条件は厳しいがSP・AGIが高く強力なジョブスキルを複数覚える技巧派ジョブ。

【武闘家】:格闘家系統上級職
・各種格闘系スキルを幅広く習得し、西方のジョブでありながら東方の格闘ジョブのスキルをいくつか習得したりするが、それらのスキルレベル上限は低め。
・MPを使用するスキルも習得する関係上ステータスはLUC以外が満遍なく上がるが、その所為で上級職としては全体的に低め。
・亜竜級以上の討伐はソロでは無くパーティーなどを組んで行っても有効だが、自分は何もせずパーティーメンバーに任せきりだったり数十人規模で討伐した場合は無効になる……と言うか、戦闘系ジョブで特殊な条件が付いていなければ大体こんな感じ。
・超級職は【格闘王】であり、そのジョブに就いていたティアンが居たらしいが詳細は現在不明。

ビシュマル:末妹とフレンド登録した
・年下の少女に盛大に投げ飛ばされても、笑ってフレンド登録とかしてくれる好漢。
・彼我の技量差を考え、体格差とジョブを活かして低空タックルからの組討に持って行こうとするなどの判断力はギルドマスターからも高評価。


読了ありがとうございました。
最近原作キャラがチョイ役になってるなぁ……いつか長編とかで大活躍させたい。


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掲示板回その2・とある日曜日

前回のあらすじ:末妹「中々良い経験でした」ミメ「お疲れ〜。これで上級職に転職出来るね」


今回は本編の裏話的掲示板回を挟みます。ではどうぞ。


 □◾️地球 とある掲示板

 

 

 ◇◇◇

 

 

【増えるマスター】<Infinite Dendrogram>アルター王国雑談スレ13【減るモンスター】

1:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/19(日)

このスレはVRMMO<Infinite Dendrogram>の“騎士の国”アルター王国の関連のスレです

基本的にアルター王国所属の<マスター>が適当に駄弁ります

専門的な事は各種専門スレを見よう!

荒らしはスルー推奨

 

 

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137:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

だー! 王都の周辺<マスター>ばっかでモンスターがいないんだが!

現れたモンスターもすぐに<マスター>供が群がるし!

 

 

138:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

休日だからログインするヤツが多いからなぁ

初心者<マスター>が大量発生してるしお陰で王都周辺の狩場は常時満席状態だぜ

 

 

139:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

モンスターが現れても<マスター>達がまるでラフムの様に群がるからなぁ

狩場の取り合いでなんか雰囲気はギスギスしてるし

 

 

140:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>139

そう言えばみんなラフムラフムって言うけどそれって一体どう言う意味?

 

 

141:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

あー、そう言えばもう随分前のネタだからなぁ、元ネタを知らないヤツもいるか

20年ぐらい前に流行ったFate/GrandOrderってソシャゲのネタだな

 

 

142:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

キャハハ! ケイケンチ! オイシイ! モンスター! タオスノ! タノシイ! アイテム! オトセ!

 

 

143:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>140

それは>>142みたいな連中の事

人間の欲望の成れの果て、或いは人類悪とも

詳しくはググれ

 

 

144:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>140

ラフム自体はバビロニア神話に登場する神の名前なのですが……そのソシャゲに登場した同名のキャラが色々とトラウマ物だったんです

それで色々ネタにされてるんですよ

 

 

145:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

そのキャラが登場した直ぐ後の最終決戦で全国のユーザーがボスドロップ目当てにラスボスの配下を殲滅した事件があって

それ以来欲望のままにモンスターを狩る行為をラフムの様だとネタにされたんだったか

 

 

146:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

つーか、ここはデンドロの掲示板だからFateネタはそっちの掲示板で喋れ

 

 

147:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>146

まあ確かに話がズレてるよな

後でググって自分で調べてみるわ

 

 

148:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

それにしてもモンスター少なすぎ

運営はもっとモンスターポップさせてどうぞ

 

 

149:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>148

このデンドロではちゃんとモンスターにも生態系があるからポップとかしません、情弱乙

 

 

150:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

モンスターとかティアンとかデンドロってリアル過ぎるんだよなぁ

設定も異常に細かいし

 

 

151:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

一応モンスターがポップする神造ダンジョンってのもあるみたいだけどねー

そしてアルター王国には全ての神造ダンジョンの中で最も入るのが簡単な<墓標迷宮>が王都にあるのだ!

クエストで一緒だったティアンの騎士さんが言ってた!

 

 

152:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>151

マジで! それならマスター満杯フィールドに出る必要無いじゃん!

詳しく情報プリーズ!

 

 

153:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

入る条件はいたって簡単、アルター王国に所属していて【墓標迷宮探索許可証】と言うアイテムに名前を書き込むだけ!

……尚、その許可証の市場相場は十万リルだそうです

 

 

154:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>153

よし、解散

と言うか、まともに狩りも出来ないのにどうやってそんな金稼げと⁉︎

 

 

155:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

これでも全ての神造ダンジョンの中で一番入りやすいらしいけどねー

それに【許可証】自体は王国が定期的に発注するクエストをこなす事でも手に入るよ

後お金ならジョブクエストで稼げば? 経験値も入るし王都内で出来るのも結構あるよ

 

 

156:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>155

それじゃあクエストで手に入れるのが一番良さそうだな

一体どう言うクエストなんだ?

 

 

157:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

ジョブクエストは固定パーティーだとジョブが違って受けづらいからなぁ

それに王都内のクエストってアルバイト的なヤツが多いからゲーム内でまでそんな事したく無い

 

 

158:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>156

王国が定期的にやってる王都周辺及び東西南北の街道周辺のモンスター掃討と生態調査だって

範囲が広くて騎士達だけじゃ手が足りないから外部からも人員を募集してるらしいよ

定期的にやらないと流通に支障が出るってリリアーナさんが言ってた

特に今は<マスター>達が無秩序にモンスターを狩りまくっていて生態系が大分変動してる可能性が高いから念入りにやるらしい

詳しくは騎士団の施設で聞いてみよう!

 

 

159:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>158

長文サンクス

……しかし、<マスター>の所為で生態系変わってんのか

そう言えばノズ森林の奥に行ったらデカイカマキリに襲われてデスペナ食らったがアレも生態系の変動が原因?

 

 

160:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

俺も空から襲ってきたワイバーンに食われてデスペナったー

まだ接近戦しか出来ないのに空飛ぶモンスター相手とか無理ゲー

 

 

161:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

<マスター>いっぱいだったから狩場を変えたらデカイイノシシに轢き逃げされてデスペナ

あの辺りには強いモンスターが居ないって話だったのに

でも生態系の変動が理由だと自業自得って事に……

 

 

162:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

<マスター>がモンスターを狩りすぎた所為で下級モンスター減少

→そのモンスターを餌にする強いモンスターが飢える

→餌を探して移動

→なんかレベルが低いのにイキってる連中(マスター)発見!

→いただきまーす!

って感じなのかね

 

 

163:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

以上の所業を持って我等の在り方は決定した

ゲームプレイヤーなど偽りの名

其は人類の誰もが持つモノにして人類史で最も有り触れた大災害

その名は<マスター>

他者と世界を顧みず己の欲望を叶えようとする『自由』の理を持つ獣である

 

 

164:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>163

ちょwww吹いたwww上手いwww

 

 

165:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>163

現状を見るとあながち間違ってないのがwww

<マスター>人類悪説www

 

 

166:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>163

こうはならない様に気を付けたいね

>>158

そう言えば気になったんだけど『リリアーナさん』って誰?

 

 

167:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>166

アルター王国の超絶美少女騎士“リリアーナ・グランドリアさん”の事

騎士団関係のクエストで仲良くなって色々教えて貰ったよ

>>163

これはデンドロのバッドエンドルートかな?

自由は自分の行動に自分で全て責任を持つ事でもあるからねー

 

 

168:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>167

何ィ⁉︎ 超絶美少女騎士だと! 実在して居たのか!

もっと詳しい情報を!

 

 

169:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

詳しくは有名ティアンスレでやってるからそっち行ってねー

さっき見たらなんかファンクラブが出来てたしー

『自由』の獣がいっぱい居たよー

 

 

170:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

分かった! ダッシュで行ってくる!

 

 

171:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

行ってらー

ところで>>170はファンクラブに入ってないの?

 

 

172:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

超絶美少女騎士と仲が良いなんて許せん!

俺の<エンブリオ>で爆散させてやる!

 

 

173:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>171

あんなアイドルオタみたい群れの中に入るのはか弱い乙女としてちょっと……

 

 

174:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>173

百合ならば許す!

 

 

175:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>174

成る程、コレが『自由』の獣か……

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

【カネが無い】<Infinite Dendrogram>生産スレ5【モノも無い】

1:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/19(日)

このスレはVRMMO<Infinite Dendrogram>における生産関連のスレです

書き込みは自由ですが情報漏洩は自己責任で

荒らしはスルー推奨

 

 

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395:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

あー今日も首都周辺の狩場は満杯だなー

……あれ? 俺って生産職だっけ?

 

 

396:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

まあ、まだ序盤だからねぇ

私も今は資料整理のクエストで資金稼ぎ&知識の獲得の下積み中だしねぇ

 

 

397:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

せっかく<エンブリオ>が生産系になっても素材を買えないと意味が無い

くそう、私の1分の1大和を作るという野望が……!

 

 

398:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

ジョブクエストで稼ごうにもクエスト自体に金がかかる始末

普通はコネのある人に援助して貰うって<マスター>にそんなコネがある訳無いじゃんか!

おのれティアン!

 

 

399:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

まあティアンもいきなり現れた不審者に援助しようとは思わないよねぇ

いきなり現れた訳の分からない存在が「金を貸してくれ!」って言っても聞く耳持たないでしょ?

 

 

400:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>399

そうかも知れないが……それではゲームとしては成り立たないだろ

せめて初心者向けクエストの拡充とかはして欲しいんだが

 

 

401:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

ちょっと聞きたいんだけどアルター王国所属の生産系<マスター>って今どれくらいいる?

 

 

402:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

はーい

私アルター王国所属の【裁縫師】件【紡績師】だよ

 

 

403:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

ワシも王国で【鍛冶師】をやっとるな

 

 

404:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

僕は王国の【木工師】〜

 

 

405:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>401

それで一体何の様なんだ?

 

 

406:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

最近掲示板も不満を愚痴るだけでマンネリになって来たから気になるねぇ

 

 

407:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>405

いや俺もアルター王国所属の【錬金術師】なんだがちょっと生産特化クランを作ってみようかなって

それでメンバーを募集してみた

目的は各々の<エンブリオ>を使ってティアンには作れない物を作って彼等のコネを得る事

つまり<マスター>である俺達の売り込みかな

 

 

408:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>407

ほう面白い事を考えるな

確かに複数の<エンブリオ>を使えばより良い品物が出来るだろうが

 

 

409:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

でもティアンのコネってNPCに媚び売るのもなぁ

 

 

410:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>409

だが今のところデンドロにおける流通や商業の殆どがティアンの物だしな

不定期にしかログイン出来ない<マスター>では金を稼ぐ事は出来てもその辺りに食い込むのは難しいし

何より生産にはカネとコネが居るしこっちの有用性を証明してティアンに<マスター>の事を認めさせないと

……全部知り合いの受け売りだけどさ

 

 

411:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

ふーんただひたすらに狩りと初心者用クエストを続けるよりは面白そうかも

 

 

412:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>410

確かにその通りだねぇ

<マスター>だけで経済回すのなんて無理だし生産やるならコネ作りも必要だしぃ

まずはこっちと組めば得するとティアンに証明する事から始めるのは良いと思うよぉ

 

 

413:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

だがいきなりクランの結成に踏み切るとはな

俺も同士を集めての生産活動の効率化は考えて居たがそれはもう少し土壌が整ってからにするつもりだったが

 

 

414:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

それにクラン運営するにもカネがかかるだろう?

 

 

415:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>413>>414

そう言った意見も最もだし俺も最初から上手く行くとは思っていないがな

……だがこのままダラダラ続けてティアンが<マスター>に慣れるのを待つのも芸が無かろうし

それにこの手の活動は先駆者の方が最終的に有利になるしな

 

 

416:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

そういうチャレンジ精神は嫌いじゃないよ!

そもそも生産というのはトライアンドエラーでやる物だからね

それに王国初めての生産系クランとか話題になるだろうし僕は入っても良いよ

 

 

417:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

まあ良いじゃろう

モンスター相手に鎚を振るうのも飽きてきたしのう

 

 

418:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

試行錯誤も物作りの醍醐味だしね

私も参加ー

 

 

419:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

クランを作るなら先に作った方が有利ではあるだろうな

 

 

420:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>416>>417>>418

加入ありがとう!

とりあえず明日月曜日の〇〇時に王都大噴水前に集合で

 

 

421:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

しかし複数の<エンブリオ>を使って1つの作品を作るっていうのは凄く興味があるねぇ

活動報告とか掲示板に上げてくれないかねぇ

今後の参考とかにしたいし

 

 

422:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>420

分かったよ

 

 

423:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>420

了解した

 

 

424:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>420

オッケー

 

 

425:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>421

生産クランの動向も気になるな

いずれ組織を作る身としては先駆者の様子は知りたい

 

 

426:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>421>>425

上手く行ったら宣伝も兼ねて掲示板にあげるかも

まあ最初は手探りになるだろうから大分後になるか?

 

 

427:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

祝え! 騎士の国において初めての生産系クランが誕生した瞬間を!

 

 

428:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>427

ウォズ湧いてて草

そう言えばもう出来たクランって他にあんの?

 

 

429:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>426

出来ればで良いさぁ

 

>>428

皇国ではまだ<マスター>がクランを立ち上げたって話は聞かないねぇ

 

 

430:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

グランバロアでも無いな

むしろ船の上という特殊な環境に慣れるのに皆苦労している感じだ

 

 

431:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

王国には確か<月世の会>ってクランが出来てて人を募集していた様な

 

 

432:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

俺は天地だけどやっぱり始まったばかりだからクランとか殆ど聞かないよな

 

 

433:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

>>431

それって現実にある宗教組織の名前じゃなかったっけ?

 

 

434:名無しの<マスター>[sage]2043/7/19(日)

とにかくクラン作ると決めた以上はなんとかやって行くのでよろしくお願いします!

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ふむん、掲示板にも結構興味深い情報が多いね。……お兄ちゃんを真似て書き込みとか初めてやってみたけど結構面白かったかな」

「……おい美希、お前夏休みの宿題はどうした」

「今日は王都周辺に人が多いから先に現実で宿題を終わらせるという話でしたよね?」

「……いやー、ちょっと息抜き?」

「夏休みの宿題ぐらいさっさと終わらせろよ。俺は小学校の頃は1日で終わらせてたぞ」

「……兄様の頭脳を基準にされても……」

「私達は普通の女子小学生だからね。……頭脳面は」

「分かったからさっさと宿題やれよ。こっちも大学の課題があるんだから」




あとがき・各種設定解説

雑談スレ:各々が好き勝手な事を書き込む場所
・これから暫くアレな<マスター>の事を“『自由』の獣”と呼ぶのが一時期極一部で流行ったとか流行らなかったとか。。

生産スレ:後の生産系<超級>愛用板
・今後は自分の作品やクランの宣伝に使われる事も増える。
・アルター王国に出来た生産クランは<プロデュース・ビルド>という名前のクランになって成功する模様。
・書き込んだ本人としては『どうせ対して集まらないだろうな』と思っていたが、意外にも有能な人材が集まって驚いたらしい。


読了ありがとうございました。
これからも本編の裏話的なものを掲示板形式でやっていこうと思います。


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PKとの遭遇

前回のあらすじ:妹「初めて掲示板やってみたナウ」兄「それより宿題やれ」


 □<ウェズ海道> 【斥候(スカウト)】レント・ウィステリア

 

 今日は7月20日月曜日、デンドロにログインした俺達は久しぶりにフィールドへと狩りに行っていた……土日は狩場が満席だった所為で王都内でのジョブクエストばかりだったからな。お陰で【魔石職人(ジェムマイスター)】のレベルは30ぐらいまで上がってしまったし。

 そして、今は【ルー】の《諸芸の達人》によるジョブスキルの制限解除を活かして、メインジョブを有用な汎用スキルや索敵スキルを多く取得出来る【斥候】にしている……え? メインジョブを選ばない汎用スキルメインなら《諸芸の達人》は意味が無いんじゃ無いかって? 

 ……いや、このスキルのお陰でメインジョブを【斥候】にしても魔法を問題無く使えるし、何だかんだ言って汎用スキルは覚えておいて損はないし、索敵スキルは妹達みたいにリアルスキルで超高精度の危険感知とか出来ない俺にとっては有用だし……。

 

「でも、お兄ちゃんが索敵系スキルを覚えてくれたお陰で、大分狩りもしやすくなったよね」

「私も上級職に転職出来て大分強くなりましたが、流石にモンスターと遭遇出来ないとどうしようもありませんし」

「……まあ、汎用ジョブとか呼ばれるだけあって【斥候】のジョブは有用なスキルをいくつも覚えるからな。役には立つんだよな」

 

 ちなみにミュウちゃんは条件を満たしたとかで【格闘家(グラップラー)】の上級職【武闘家(マーシャル・アーティスト)】に転職済みである……MPに特化したジョブに就くか悩んだそうだが、上級職の方がステータスの伸びも良いし【武闘家】でもMPはある程度伸びる事からこちらにしたとの事。

 ……まあ、ミュウちゃんは今回の狩りでも上級職になった事で覚えたスキルとかで活躍していたし、この選択は正しかったのだろう。

 

「……うーん、やっぱり上級職には早く転職した方が色々有利になるみたいだね。……私も【戦棍士(メイスマン)】はそろそろカンストしそうだし、そろそろ転職条件を満たす事も考えないと」

「俺も次は【魔術師(メイジ)】の上級職にでも就くかな。……確か、特定の魔法属性特化型上級職の転職条件は『その属性への適性』と『その属性の魔法を一定以上で使える事』とか、後は魔術師ギルドのジョブクエスト関係だったか」

 

 ……適性は<マスター>だから何とでもなるのだが、もう一つの『一定以上の魔法』には相応のMPとスキルレベルが必要らしいんだよな。

 更に【魔術師】直系の上級職は数が多いし、他にも魔術師ギルドのジョブクエストとかが関わる転職条件もあったりするから、色々とどうしたものか……。

 

「そういえば姉様は【戦棍騎士(メイスナイト)】にも就いていましたが、あちらの上級職はどうなのですか?」

「あー、騎士系統の上級職は転職条件に騎士団からの推薦とかがあるから今は保留かな。……まあ、戦棍士系統上級職【剛戦棍士(ストロング・メイスマン)】の方の転職条件は『【戦棍士】レベル50(カンスト)』『メイス装備で亜竜級以上を撃破』『メイスで生物に与えた合計ダメージが20万以上』だからどうにかなりそうだけど」

「狩りをしてる間に亜竜級モンスターとは何度か戦っているからな。……そういう連中と主に戦っているのはミュウちゃんだが」

 

 一応、転職条件的にはパーティー単位での討伐でも余程他のメンバーに負んぶに抱っこでもない限りは条件を満たせるらしい……後、戦棍士系統には条件が難しい方の上級職もある様だが『そっちは条件がちょっと面倒くさいから保留』との事。

 ……と、まあ、そんな感じで適当に妹達と駄弁りながら、俺は《魔物索敵》を使ってモンスターを探していた。

 

「とはいえ、さっき覚えたばかりだからレベルも低いし、あんまり広範囲は索敵出来ないんだがな。……使わなければスキルレベルも上がらないし、ガンガン使っていくべきだろうが」

「そうだねー。……あ! お兄ちゃん、次からはアイテム回収優先にしよう。そろそろ初日に稼いだお金が無くなってきたし」

「私もMP自動回復のアクセサリーが高かったので、ちょっと心許ないのです……」

 

 俺は【魔石職人】のクエストでそこそこ稼いでいたからまだ余裕があるが、そろそろ装備とかも上位の物に買い換えたいと思っていたので《長き腕にて掴むモノ(エクスペリエンス・トランスレイション)》をオフにした……ちなみに【ルー】が第二形態になった際、このスキルをオンオフするクールタイムも地味に20時間へ縮まっていたりする。

 ……そうやって、俺は【SP回復ポーション】を飲みつつ《視覚強化》や《遠視》なども使って周囲を探っていたのだが……。

 

「! ……んー? ……お兄ちゃん、人間の索敵って出来る?」

「ああ、一応覚えているぞ。レベルは低いがな《対人索敵》…………特に反応は無いが、何か感じ取ったのか?」

「……兄様、さっきからこっちに殺気を飛ばしてくるヤツがいるのです。この粘っこい感じは多分()()ですね」

 

 俺の《殺気感知》には反応が無いが、まだレベルが低い以上はより上位の隠蔽系スキルがあれば誤魔化せるだろう……正直、ジョブスキルよりもこの天災児達の感覚の方が信頼できるからな。

 

「で、どうするんだ? スキルに対する隠蔽と姿も見えない事から光学迷彩とかも使ってるっぽいし……多分、複数の<マスター>によるPKとかだと思うんだが」

「ティアン……の可能性は低いですかね。こんなレベルの事が出来るなら私達程度を襲う必要は無いでしょうし」

「私の勘だとお兄ちゃんの言う通り“<マスター>のPK”かな。多分複数。……それで、何と無くあっちの森に行った方がいい気がするんだけど、どうする?」

 

 ミカが指差した方向には木々が生い茂った森があった……あちらには他に人気が無いし、何よりあの森は……。

 

「まあ、ミカが言っているならそれでいいだろう。……向こうに既に気付かれている事を悟らせない意味もあるしな」

「それに、乱戦に持ち込むなら障害物があった方が有利でしょうし」

「……二人ともありがとうね。……それじゃあ、より強いモンスターを求めてあっちの森に言ってみようか!」

 

 ミカが監視している連中に聞こえる様にした提案に従う様に見える感じで、俺達はその森の中に入っていった。

 

 

 ◇

 

 

 それから、俺達は森の中に入って時折出て来る低級モンスターを倒しつつ自分達を尾けてくる連中の様子を探っていた……のだが……。

 

(……モンスターを相手にしていればその隙に襲い掛かって来ると思ったんだがな。複数の人間の姿を隠すには相応のコストが掛かる筈だし、こっちが消耗するのを待っているのか?)

(……と言うか、踏み潰されている枝や葉の音で位置がバレバレですね。これでは姿を消す意味が無いです)

(うーん、なんか全体的に雑だね。……多分、この辺りで良いっぽいしそろそろ出て来て貰おうか)

 

 そのミュウの提案に同意する形で、俺は素早く発動した《ファイアーボール》を敵と思われる者達の所に放り込んだ……その火の玉はどうやら姿を消している誰かに当たった様で、虚空から火ダルマになった男が地面に転がると共に、同じ様に何故か手を繋いでいた五人の男性が姿を現した。

 ……全員、左手に紋章があるという事は<マスター>か、これなら()()()()()()()特に問題はないな。

 

「ぎゃああああ⁉︎ 火がぁ⁉︎」

「お、おい! スキルが解けたぞ!」

「クソッ⁉︎ ……テメェ、いきなり何しやがる⁉︎」

「姿を消してこちらを尾けてくる怪しげな連中を攻撃しただけだが? そっちこそ何の用だ」

 

 姿を現した者達の一人であるモヒカンの男がなんか訳の分からない事を怒鳴ってきたので、とりあえず適当に答えておく……その隙に懐から以前ちょっとだけ作った【ジェム】を取り出しておこう。

 ……俺の質問に対してそのモヒカンが更に何か言い募ろうとするが、それを隣にいた黒服の男が制して何か語り始めた。

 

「俺達は所謂PKってやつだよ。<マスター>同士なら何をやっても罪にはならないのがこの世界でのルールらしいからなぁ。……しかしよく気付けたな、コッチの隠密には自信があったんだが」

「ネチっこい殺気がダダ漏れなのです。後、足音も消せて無いのでお話しになりません」

「おいっ! 《殺気感知》は無効に出来てるんじゃ無いのか⁉︎」

「そ、そんな筈は……ッ! 俺の<エンブリオ>のスキルは今も発動しているぞ⁉︎」

 

 ミュウちゃんが辛辣に言ったその言葉に後ろにいた男の一人が別の男に文句を言い、言われた方も慌ててステータスウィンドウを確認していた。

 ふむ、少し《看破》してみたがレベル差がある俺でも連中の全ての項目が黒塗りになっていたし、おそらくあの男の<エンブリオ>で感知系スキルが妨害されていんだろう……残念だが、ミュウちゃんのはただの技術だから意味ないが。

 ……だが、俺がそんな事を考えている間に何故か連中の言い争いは徐々にエスカレートしていった。

 

「せっかく俺の<エンブリオ>でMPを回復させてやったのに役に立ってねえじゃねえか!!!」

「うるせぇ! 俺の<エンブリオ>はちゃんと機能してんだよ! ……それに足音を立てたのは、そこで転がってるバカの<エンブリオ>が触れた物しか消せない所為で森の中をまともに歩けなかったからだろ! お陰で奇襲も出来なかったし!」

「んだとコラァ!!! そういう<エンブリオ>なんだからしょうがないだろ!!!」

 

 ……と言うか、後ろに居た三人がお互いを罵り合い始めたんだが……モヒカンと黒服の男も呆れた様に頭を抱えているし。

 

「…………随分と仲がよろしい様で」

「…………掲示板のPK板で募集した野良パーティーだからなぁ……。やっぱ、PK同士で仲良く連携とか難しいかぁ」

「…………次からはもっとちゃんとしたパーティーを組もう。……ほら、お前ら言い争いはやめろ。多分あの嬢ちゃんが感知系の<エンブリオ>でも持ってたんだろ。……それよりも向こうがやる気な以上はいつまでも言い争っていると殺されるぞ」

 

 その光景を呆れながら見ていた俺はモヒカンと黒服に皮肉をぶつけてみるが、その二人も何か疲れた様に頭を抱えながら三人を宥めていた……そして黒服の言葉でこちらの存在を思い出したのか、三人は言い争いを辞めて俺達の方に向き直った。あの黒服の男がリーダー格らしいな。

 ……しかし、さっきから最後ずっと黙り込んでこっちを見ている最後の一人が不気味だな。三人組の言い争いにも無関心だったし、一体何を考えて「……()()()()()()()()()()()?」…………へ? 

 

「…………えーっと……今一体何と?」

「お前達は両手に花のカップルかと聞いている!!!」

「「「いえ、三兄妹です」」」

 

 ……なんか、ずっと黙っていた最後の一人がいきなり訳の分からない事を叫び出したので、俺達はつい真顔になってハモりながら質問に答えてしまった。

 

「……ふむ、この私がカップル断罪の為に習得した《真偽判定》に反応が無いということは本当の様だな」

「いや、お前そんなスキル取っていたのか?」

「だが! 美少女な妹二人を侍らせてのデンドロなどこの私が認めん!!! そんなクソ羨ましい貴様の様な男はこのボッチーが断罪してくれる!!!」

「は、はぁ……そうですか……」

 

 その男──本人が言うにはボッチーと言うらしい──は俺の事を指差しながらそんな訳の分からない事を叫び出した……そのアレな様子に俺達はおろか、向こうのPK達もどうすれば良いのか分からず困惑している様だ。

 

「……あの人、どうしてそんなにカップルが嫌いなの?」

「……いや、この前付き合っていた彼女に振られたばかりでな。……その鬱憤を晴らすためにあんな感じに……色々済まない」

「また、随分と愉快な仲間達ですね」

「…………俺、この戦いが終わったらもっとちゃんとしたPKクランを作るんだ……」

 

 今もミカが疑問を訪ねるとモヒカンがやや申し訳なさそうに答え、ミュウちゃんが皮肉をぶつけると黒服の男は遠い目をしながら虚空に向けてそんな事を呟いた……後ろの三人も困惑している様だし、もうPKとかする雰囲気じゃ無くなってないか? 

 

「うーん、なんかぐだぐだになって来たし、何もせずに立ち去るなら見逃すけど?」

「ふっ、悪いがそれは出来ない相談だなお嬢さん。……この世から全てのカップルを撲滅するまで我らは戦い続けると誓ったのだ! そうだろう、我が同士モヒカン・ディシグマ、シュバルツ・ブラックよ!!!」

「え? いや一緒にデンドロやるとは言ったけどそんな事は誓って無いだろ」

「……俺は普通にPKプレイがしたいだけなんだ……」

 

 流石に呆れた様な表情になったミカがそう提案したが、未だになんかハッスルしているボッチーはそれを拒絶した上で近くにいた二人に声を掛けた……が、その二人はそんな感じの塩対応だった。

 ……後ろの三人も及び腰になってるし、このまま行けば向こうは空中分解するかな? ……と思ったのだが、黒服の男──シュバルツ・ブラックは紋章から自身の<エンブリオ>であるらしい木製の槍を取り出した。

 

「生憎、ここで引く様なら俺はそもそもPKなんてやろうとは思って無いしな。……それに、俺は強者を倒す為にこのゲームを始めたんだよ。だから、“見逃してやる”なんて上から目線の言い分に従う事は出来ないな!」

「……まあ、今更ここで引く方が阿呆らしいしな。悪いが付き合ってもらうぞ嬢ちゃん達」

「あら? 逆効果だったかな?」

「その様ですね」

 

 どうやらミカの提案は向こうのやる気を出させるだけの結果に終わった様で、シュバルツの方は手に持った槍をこちらに向かって構えて、モヒカンの方も紋章から盾の<エンブリオ>を取り出した。

 ……しかし、本当に残念だ。ここで逃げていれば()()()()()()()()()()()()のに。

 

「ふっ、流石は我が同士達だ「「違う」」……まあいい、ならば私も己が<エンブリオ>を呼び出そう! こぉい! ベンヌゥゥゥゥ!!!」

『KIEEEEEEEEEE!!!』

 

 それに(やや締まらない形で)続いたボッチーは左手を天に掲げると、そこから翼長1メートルぐらいの燃え盛る鳥型モンスターを呼び出した……どうやらTYPEガードナーの<エンブリオ>の様だな。

 ……それに応じる様に俺達も各々の武器を構えると、槍を持ったままのシュバルツが周り全てに聞こえる様に大きな声を上げた。

 

「それに俺はお前達の事を色々調べていたからな! たった三人で亜竜級モンスターを何体も討伐している<マスター>だとな! ……つまり、それだけ多くのレアアイテムを持っているという事だ! 6対3なら勝てる!」

「そ、そうだな。こっちの方が数は多いんだ!」

「よくも燃やしてくれたなクソ野郎! 美少女二人を引き連れたにやけ顔をぶっ飛ばしてやるよ!」

「ケケケ、アイテムは山分けだぜぇ!」

 

 そして、そのシュバルツの言葉にこれまで及び腰だった後ろの三人も、それに釣られる形で戦闘態勢を取った。

 

「ほう、よく調べているな。……それに、その情報を後ろの連中を釣るダシに使うとは頭もキレる様だ(アイテムは俺が殆ど経験値に変えてるんだがな)」

「やれやれ、また面倒ですね(ミメによるとあの連中は全員下級職一個目ぐらいのステータスっぽいのです)」

「それにちょっと情報収集が足りてないね。……ここが()()だか分かってる?」

「何?」

 

 前に出たミカが言ったその言葉にシュバルツは怪訝な表情を浮かべる……それに対してミカはニヤリと笑いながら更に言葉を続けた。

 

「ここはアルター王国にある<自然ダンジョン>の内の一つ<狂乱の森>……()()()()()()()()()()()()()()()()()が多数生息している王国でも結構難易度の高い危険なダンジョンなんだよねー。……ほら、もう来たよ」

『…………GAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 ミカの説明が終わるとほぼ同時に俺達から見て右方向から身長3メートル程で筋骨隆々の鬼型モンスターが現れたのだ……その鬼の頭上には【亜竜狂鬼(デミドラグ・ベルセルクオーガ)】の文字があり、血走った目で周囲に居る人間達を見回していた。

 ……突如現れたそのモンスター相手にPK連中は相当動揺しているのか、全員かなり浮き足立っている。

 

「な! 亜竜級モンスターだと⁉︎」

「クソッ! どうする……」

「お兄ちゃん壁よろ」

「ハイハイ……【ジェムー《アースウォール》】を地面にそい! そんで《アースウォール》!」

 

 そんな動揺しているPK達を尻目に、俺は準備しておいた【ジェム】と魔法を駆使して自分達と【亜竜狂鬼】の間に土の壁を展開した……まあ、亜竜級モンスターにとっては容易く壊せる程度の壁ではあるが、()()()()()()()()()()()()程度の事は出来る。

 ……そして、俺達は直ぐにその場から距離を取った。

 

「それじゃあ後は頑張ってねー!」

「程よくお互いに消耗してくれるとありがたいのです」

「あそこで逃げ帰っていれば助かったのにな」

「ッ⁉︎ ……まさか、MPKだとォォ!!!」

『GAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 いち早く俺達の目的──モンスター・プレイヤー・キルに気が付いたシュバルツが叫ぶものの時すでに遅く、タゲをPK達に移した【亜竜狂鬼】は彼等に襲いかかって行ったのだった。

 ……しかし、側から見てると俺達の方が完全に悪役なんだよなぁ。ま、だからと言って敵対を選んだ相手に容赦をしてやる義理も無いが。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:PKもデンドロの遊び方の一つではあるよね
・……それはそれとして自分達に仕掛けてくるなら容赦はしないけど、というスタイル。
・戦闘に関しては人道に反しない限りエグい戦術にも躊躇がない。

《魔物索敵》《対人索敵》:【斥候】で覚える索敵スキル
・それぞれSPを消費して周囲にいるモンスター・人間を感知するスキルで、スキルレベルに応じて精度・範囲が決定する。
・MP消費の《生態探査陣》などとの違いは、受動的な感知なので逆探知され難く燃費とクールタイムに優れる事で精度・範囲では劣る。
・索敵系は狩人系統・盗賊系統など幅広いジョブで覚えられるスキル。

《遠視》《視覚強化》:それぞれ視力を強化するスキル
・《視覚強化》は視力を上昇させるスキルで単純に目が良くなり、視野や動体視力にも補正が入る。
・《遠視》は望遠鏡の様に遠くの物にピントを合わせられるスキル
・遠くを見るスキルには、MP消費で遠くの映像を視覚に表示する《千里眼》と言ったスキルもある。

シュバルツ・ブラック:PKメンバーのリーダー格
・リアルではクラス内カースト低めの小学生で『せめてゲームの中でぐらいは強いヤツを倒したい』と思ってPKを始めた人。
・デンドロでは基本的に罪に問われない<マスター>狙いのPKであり、ティアンを狙おうとは考えていないのでPK<マスター>の中ではまだ善良な部類。
・機転も効き実力もあり不意打ちや奇襲にも躊躇いがない事もあって、これまでソロで何人かの<マスター>をキルする事に成功している。
・だが、思い付きでパーティープレイをやってみようかなとか考えて掲示板でメンバーを募集したらご覧の有り様である。

ボッチー:愛を捨て哀に生きる戦士
・カップルを確実に裁くためにメインジョブを《看破》《鑑定眼》《真偽判定》を高レベル覚える【裁判官(ジャッジ)】にしている。
・本来は理知的な性格なのだが、現在は失恋のショックで暴走気味。

【爆炎再誕 ベンヌ】
<マスター>:ボッチー
TYPE:ガードナー
到達形態:Ⅱ
能力特性:自爆・再誕
保有スキル:《爆炎鳥(エクスプロージョン)》《再誕鳥(リ・ボーン)》《爆裂羽弾(エクスプロード・フェザー)
・炎に包まれた鳥型のガードナーで、モチーフはエジプト神話に伝わる不死の霊鳥“ベンヌ”。
・《爆炎鳥》はベンヌを自爆させてその周囲を高熱と衝撃波で吹き飛ばすスキルで、威力はベンヌのステータスに比例する。
・《爆裂羽弾》は左右の翼に30枚づつある特殊な羽を分離・射出した上で爆発させるスキルで、威力は高いが一枚射出させる毎に自身の全ステータスが1%低下するデメリットがある。
・《再誕鳥》は自身のMPを注ぎ込む事で上記スキルによって負った欠損を回復させるスキル(通常のダメージは治せない)。
・だが、羽根の再装填・自爆からの再生共に大量のMPが必要になる為、今のところは回復速度を上げる程度しか出来ない。
・継戦能力が低い分一撃の威力は非常に高く、三兄妹でもまともに受ければ死にかねない代物だった。

モヒカン・ディシグマ:ボッチーのリアフレ
・リアルでは普通の会社員なのだが、ゲームの中でぐらいヒャッハーしたいと思いアバターをモヒカンにした。
・ボッチーの暴走にはやや辟易しているが、彼自身もヒャッハーしたかった為同調している。

残りのPK達:掲示板の呼びかけに集まった面子
・それぞれ『自身と接触した対象に光学迷彩を掛ける<エンブリオ>』『自身周辺への感知系スキルをジャミングする<エンブリオ>』『一定時間対象にMP自動回復とスキルによるMP消費軽減効果を掛ける<エンブリオ>』を持つ<マスター>達。
・『自分達の<エンブリオ>同士を組み合わせたら強力じゃね?』と考えて、実際結構なシナジーを生み出したので自信満々でPKに挑んだ。
・……だが、最初に狙った相手が余りにも悪かった。

<狂乱の森>:アルター王国にある自然ダンジョンの一つ
・何故かバーサーカー系ばかりが生息しており、群れを作るとお互いを攻撃してしまう為かバーサーカー系モンスターは基本的にに短期行動を取っている。
・ここのモンスターは狂化スキルを戦闘時のみ使い、更に基本的に森から出る事は少ないので立ち入りさえしなければ危険度は低いと認識されている。
・だが、縄張りに入って来た侵入者には積極的に襲い掛かる上、亜竜級モンスターでも狂化スキルを使ってステータスを純龍級に迫る程に強化してくるので難易度は高い。
・初心者エリアより少し離れたところにあり、少し強くなった人がうっかり入って殺される事が多い『初心者卒業気分キラー』なダンジョン。


読了ありがとうございました。
今回は太字などを使ってみましたがどうでしょうか? ダメそうなら修正します。
後、次回(PKとモンスターが)死闘編に続きます。


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<狂乱の森>での死闘(前編)

前回のあらすじ:兄「PKに狙われたがどうするか……」妹「そうだ! 逆にMPKを仕掛けよう!」末妹「そして程よく損耗したところを潰しましょう」


 □アルター王国・<狂乱の森>

 

 アルター王国の首都<王都アルテア>の西部にある自然ダンジョン<狂乱の森>、そこでは自らの縄張りに入って来た人間を排除しようとする【亜竜狂鬼(デミドラグ・ベルセルクオーガ)】と、とある三兄妹を狙ったら何故かソイツとエンカウントしてしまったPK達との戦いが(強制的に)始まろうとしていた。

 

『GAAAAAA◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

 

 まず、真っ先に行動を起こしたのは【亜竜狂鬼】であり、一際大きく咆哮をすると同時にその血走った目を完全に狂気に染めた……発動したスキルは《フィジカルバーサーク》という理性喪失とアクティブスキル使用不可を代償に身体ステータスを激増させる狂化スキルである。

 ……最も【亜竜狂鬼】はこれ以外のアクティブスキルは習得していないのでデメリットの半分は意味が無く、もう半分の理性喪失も元々目の前の敵を屠る事だけを目的としている彼にとっては大した問題ではないのだが。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

「ッ⁉︎ ディシグマァァァ! 障壁を展開しろォォォ!!!」

「セッ《七の青壁(セブン・シャッター)》ァァァ!!!」

 

 自分達の元へ狂気に塗れながら突撃してきた【亜竜狂鬼】を見ていち早く我に帰ったシュバルツ・ブラックは即座に大声でと指示を出し、その指示を聞いたモヒカン・ディシグマはどうにか手に持った盾型の<エンブリオ>を向かってくる相手に構える……そして彼がスキルを行使すると盾から5メートル四方の青色の障壁が展開されてその突撃を遮った。

 これがモヒカン・ディシグマの<エンブリオ>【盾備板端 アイアス】が有する障壁を一定時間展開するスキル《七の青壁》である。この障壁は名前通りストックが7つだけでストック1つの回復に1時間かかる代わりに、第二形態現在でも一枚につき十万程度の耐久力を有する非常に強固な障壁なのだ。

 

『◼️◼️◼️◼️!!! ◼️◼️◼️◼️!!! ◼️◼️◼️◼️!!! ◼️◼️◼️◼️!!!』

「ちょっ⁉︎ 連続で殴られているから、ものすごい勢いで耐久値が減ってくんだけど⁉︎」

 

 だが、自分の突撃を遮られた【亜竜狂鬼】は目の前の障害を破壊しようと、その純竜級に迫るステータス(約4000程度)にまで引き上げられたSTRによる拳で障壁を連続で殴り始めたのだ……一発一発が4000近いダメージを叩き出すそのラッシュによって《七の青壁》の耐久値はゴリゴリ削られ徐々にヒビが入っていた。

 ……だが、その不自然な行動にチャンスを見出した人間も居た。

 

「いや、これはチャンスだ! 飛び越えるか回り込めばいい筈の障壁に対してそんな行動を取っている時点で付け入る隙は有る! ……ディシグマは障壁を追加展開してヤツの動きを封じろ! そこをボッチーのベンヌで吹き飛ばす!」

「わ、分かった! 《七の青壁》! 《七の青壁》!」

「承知した。……行け! ベンヌ!」

『KUEEEEEEE!!!』

 

 そのシュバルツの指示の下でまずディシグマが《七の青盾》を左右に追加で展開して【亜竜狂鬼】の動きを制限し、そこにボッチーが上空からベンヌを突っ込ませた……そう、狂化によって理性を失った【亜竜狂鬼】には障壁を飛び越える、回り込むなどの判断が出来ていないのである。

 ……そして、それを見破ったシュバルツの読み通り、【亜竜狂鬼】は上空から来るベンヌには眼もくれず目の前にある障壁を殴り続けていた。

 

『◼️◼️◼️!!! ◼️◼️◼️!!! ◼️◼️◼️!!! ◼️◼️◼️!!! ◼️◼️◼️!!!』

「クソッ! 1枚目はもう割られるか⁉︎ 《七の青壁》! 《鋼の赤壁(ハード・シャッター)》!」

 

 その名の通り狂った様に《七の青壁》を殴り続ける【亜竜狂鬼】によって最初の障壁が限界だと察したディシグマは追加の障壁を展開し、更に《鋼の赤壁》──《七の青壁》空きスロット数×2秒間だけ展開中の全障壁の耐久値が減らなくなる代わりに、効果時間終了後に障壁が消滅するスキル──を使った。

 そして、その効果により色が赤く変わった障壁を見た彼は即座に後ろに下がり……。

 

「全員衝撃に備えよ! ……《爆炎鳥(エクスプロージョン)》!!!」

『KYAAAAAAAAAaaaaa────ッ!!!』

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️────ッ!!!』

 

 その直後、上から【亜竜狂鬼】にぶつかったベンヌが相手の身体の全てを覆い尽くす程の大爆発を起こした……ボッチーの<エンブリオ>【爆炎再誕 ベンヌ】は自爆と再誕を能力特性とするガードナーであり、その主力スキル《爆炎鳥》は自身の破壊を代償とする分その瞬間火力は亜竜級モンスターであろうと一撃で倒せる程に強力である。

 欠点として攻撃範囲が広すぎる上に威力の調整なども出来ないので自身や味方を巻き込みやすいというものがあるが、それもディシグマの障壁を使えば味方だけを守る事も出来るので問題になっていなかった。

 ……このコンボはこれまで多くの<マスター>カップルを爆散させて来た彼等の必勝戦術だったのだが……。

 

『◼️◼️……◼️◼️◼️……』

「なんと⁉︎ まだ生きているのか」

 

 爆炎が晴れたそこには全身が黒焦げになり片腕が欠損して片膝をつきながらも、未だにHPを僅かながら残して生存している【亜竜狂鬼】の姿があった……この【亜竜狂鬼】はアクティブスキルを《フィジカルバーサーク》しか持たない代わりに、《狂気》《ダメージ軽減》《HP自動回復》などのパッシブスキルを複数持っていたのでどうにか生存出来たのである。

 

「いや、あの負傷ではもうまともに動けまい。……今なら俺達でも倒しきれる筈だ」

「そ、そうだな」

「へへへ、亜竜級モンスターを倒せばアイテムもがっぽりだぜ」

「せっかく嗾けたモンスターがこうもあっさり倒されたと知ったら、アイツらはどんな顔をするだろうなぁ」

「そうですね……してやったり、という感じの笑顔ではないでしょうか?」

 

 その何故か聞こえて来た返答にPK達が振り返ると、そこには言葉通り笑みを浮かべたミュウ・ウィステリアの姿があった……彼等三兄妹は別に逃げた訳ではなく、一旦離れる事で両者を戦わせて戦力を削りつつ漁夫の利を狙うつもりだったのだ。

 ……そして()()()()()()()()()()()()()()()状況に於いて、ミュウの<エンブリオ>【ミメーシス】はその真価を発揮するのである。

 

『ターゲット【亜竜狂鬼】で《天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》を起動。ステータスはSTR4056、END2370、AGI3147だよ』

「了解なのです」

 

 融合しているミメーシスが行使したスキルによって【亜竜狂鬼】の《フィジカルバーサーク》による非常に高い身体ステータスを自身のそれに同期させたミュウは、そのステータスでもって即座にPK達の後方にいた三人に接近し……。

 

「《正拳突き》《スライスハンド》《回し蹴り》」

「ゴフゥ⁉︎」

「えッ?」

「ゲハァッ!!!」

 

 まず一人の胸部に拳を叩き込んでその肋骨をまとめてへし折りながら吹き飛ばし、次に二人目を手刀に斬撃効果を付与するアクティブスキルを使って相手が何をされたかも分からない内にその首を切り落とし、最後の一人は素早く後ろに回り込んでその延髄に回し蹴りを打ち込んでそのままへし折り即死させた……彼等がこの<狂乱の森>を戦場に選んだのはステータスを激増させる狂化系スキル持ちに対して、ミュウとミメーシスが非常に有利に戦えるからでもあったのだ。

 ……とは言え、何もかもが彼等の思い通りに行くという訳でも無かったが。

 

『◼️◼️◼️◼️aaaaa──……』

『……残念だけど【亜竜狂鬼】が死んだみたいだからスキルは解除されたよ。そんでクールタイムが終わる1分間は再使用不可能だ』

「では、仕方ないのでこのまま戦いましょうか」

 

 そう、このタイミングで彼女のステータスの同期先であった【亜竜狂鬼】が【火傷】【炭化】などの状態異常による継続ダメージで死亡して光の塵となったのだ……ミメーシスの《天威模倣》は同期先が死亡した時点で解除される仕様であり、解除後に1分間のクールタイムが発生してしまうのだ。

 ……最も、今この場には上級職に就いているミュウ以上のステータスの持ち主は居ないので、どの道スキルを使う意味は無いと考えた彼女はそのまま三人の下へ歩いて行ったが。

 

「さて、後は貴方達三人だけですね」

「クソッ! 横入りとか奇襲とか卑怯じゃないか⁉︎」

「先に不意打ちしようとした人達に言われたくありません。……それに、姉様が事前に通告した筈ですよ『今逃げるなら見逃してあげる』と」

 

 余りにもあんまりなミュウのやり方にディシグマは思わず文句を言うが、彼女は顔色一つ変える事無く正論で言い返した。

 ……それを聞いたシュバルツは苦笑しながらも手に持った槍を彼女に向けて構えた。

 

「ククッ、ぐうの音も出ないぐらいに正論だな。……ディシグマ、ボッチー、俺がアイツの相手をするからお前達は残りの2人を警戒しとけ。多分、また奇襲とか狙ってくるぞ」

「おや、中々鋭いのです」

「本当にねー」

「まあ、ここまで露骨にやれば普通は警戒するだろうよ」

 

 そんな言葉と共にPK達の後方にある森の中から二人の人間──ミカとレントが姿を現した……彼等はシュバルツの読み通り奇襲を仕掛ける為に茂みに潜んで接近していたのだが、バレているなら意味がないと判断してこうやって出てきたのである。

 ……それを見たボッチーは剣、ディシグマは片手持ちの槍を取り出して、彼等に向けて構えた。

 

「チッ! こっちは切り札のベンヌを失ったし……つーか、それが目的でMPKを仕掛けやがったな⁉︎」

「まあね〜。あの鳥さんは危険そうだったし」

「流石に私のベンヌもこの短時間では再生させられんからな。……仕方ない、ならば私は最後の力を持って()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に一矢報いる事にしようか」

「……ほう、いいだろう。……安い挑発ではあるが乗ってやる。《瞬間装備》」

 

 そのボッチーの挑発に対して何か思うところがあったのか、レントは()()()()()()()()()()()()()()《瞬間装備》で予備武器の《スティールソード》を片手に装備して前に出た。

 ……そんな兄の姿を見た妹達は少し呆れた様な顔をしながらも、各々が相手取るべき敵に向かっていった。

 

 

 ◇

 

 

「さて、それじゃあ行くよ!」

「くっ! ……だが、一対一ならまだ勝算はある《七の青壁》!」

 

 巨大なメイスを振りかぶって突っ込んでくるミカに対して、ディシグマは前方に障壁を展開する事で迎え撃つ構えを取った……この障壁は任意で解除する事も出来るので、それを利用して相手の動きを見ながら攻撃を仕掛けるつもりなのだ。

 ……だが、その戦術は今相対している人物には致命的なまでに相性が悪かった。

 

「ふははー! 見るがいい、私の【ギガース】に隠された真の力(あんまり使う機会が無かったスキル)を! 《オーバースイング・ストライク》!」

「んなぁ⁉︎ 俺の障壁が割れたァァァ!!!」

 

 なんと、ミカは眼前の障壁に対して大きく振りかぶった【ギガース】を叩きつけてそのまま叩き割ってしまったのだ……無論、これは【ギガース】の現在唯一のスキル《バーリアブレイカー》の防御スキル効果低下の力によるものである。

 ……実は、ミカは三兄妹の中でいち早く<エンブリオ>が第三形態に進化しており、スキルレベルとステータス補正も上がっていたので強固な障壁を一撃で破壊する事が出来たのだ。

 

「今まで障壁スキル持ちなんて殆ど居なかったから分からなかったけど、意外と強いねこのスキル!」

「クソッ! メタ効果持ちかよ! 《シールドガード》!」

 

 障壁を破壊してそのまま突っ込んでくるミカに対して、<エンブリオ>のスキルは意味がないと判断したディシグマは【盾士(シールダー)】のジョブスキルによって【アイアス】の装備防御力を上げて迎え撃つ構えを取るが……。

 

「残念、意味ないよ。《スタンインパクト》!」

「グアァァ! こ、これは……し、衝撃?」

 

 そのメイスを盾で受けた瞬間に全身へ衝撃が走ってそのまま動けなくなってしまった……レベルの上がった《バーリアブレイカー》は効果範囲も広がっており、現在は装備防御力の上昇などにも減衰効果が働く様になっているのだ。

 更に【戦棍士(メイスマン)】──メイスという武器種は盾や鎧、武器などの装備の破壊、或いはそれらを無視して本体に衝撃を通す事に特化している。そして、今使った《スタンインパクト》も装備で防御された際にも本体に衝撃を与える事で短時間【硬直】させる効果のあるアクティブスキルであったのだ。

 

「相性が悪すぎる……ッ! まさかこいつら最初からコレを狙って……ッ⁉︎」

「うん、さっきの戦いを見て貴方には私が一番相性がいい気がしたからね。……貴方達は強かったから、こっちも油断せずに全力で倒させてもらうよ! 《インパクト・ストライク》!」

 

 そうしてミカは動けないままのディシグマを《インパクト・ストライク》──メイスで殴った相手の身体に衝撃による追加ダメージを与えるスキル──を使って全力で横殴りにして吹き飛ばした。

 実際、自分達が戦ってもそれなりに苦戦するであろう【亜竜狂鬼】をあっさりと倒した彼等PKメンバーの実力は非常に高く、故に最初に正面から戦っていれば無事では済まなかっただろうとも三兄妹は考えていたのだ。

 ……それだけ彼等の事を高く評価しているからこそ、側から見れば卑怯だと思われる様な手段を使ってでも油断や慢心無く攻め立てているのである。

 

「 ……クソッ、狙った相手が悪すぎた……ッ!」

「こっちも貴方達に狙われて()()()()()()()よ。《ハードストライク》!」

「グハァァァ!!!」

 

 吹き飛ばされ大ダメージを負った所為で動きが鈍り立ち上がる事も覚束ないディシグマに対して、ミカは油断無く即座に追撃を掛けながら()()()()()()()PKに対する最大限の賛辞を投げ掛けた後、上段からの振り下ろしでその頭部を容赦なく叩き潰した。

 ……そして、頭部を潰されてディシグマはアイテムを撒き散らしながら光の塵となったのだった。

 

「……コレでこっちは片付いたかな。他の所に援軍に行っても良いんだけど、これ以上やるとマジでこっちが悪役に見えるし……。それにあの二人なら大丈夫だろうしね。……じゃあ、今の内にドロップアイテムを拾っておこう! まあコレもデンドロの習いという事で〜」

 

 そんな事を【ギガース】を肩に担ぎながら言ったミカは、ちゃっかりディシグマが落としたアイテムとPK達が倒した【亜竜狂鬼】の落とした【宝櫃】を拾って自分の懐に納めたのだった。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:この作品の主人公たちです(一応)
・末妹が後ろに居た三人を先に倒したのは不確定要素になり得るサポート役を先に潰した方が良いという判断から。
・そして、特に厄介な三人は連戦させて手札を使わせてから確実に潰す戦術……主人公です(再度)。

【格闘家】【武闘家】の各種アクティブスキル:種類だけは色々ある
・《正拳突き》《回し蹴り》は名前の通りのスキルで、本来は東方にある【空手家】などのスキル。
・《スライスハンド》は手刀に一定時間斬撃特性を付加するスキルで攻撃力自体は変わらない。

【激災棍 ギガース】:第三形態に進化
・強化方向が既存要素の強化なので進化速度は今のところ速い。
・なので強化点は装備攻撃力・ステータス補正・《バーリアブレイカー》のスキルレベル上昇だけ。

【戦棍士】の各種アクティブスキル:対人で有用なスキルが比較的多い
・《オーバースイング・ストライク》はメイスを大きく振りかぶって殴るスキルで、威力は高いが発動までやや時間が掛かる。
・《スタンインパクト》はメイスで叩いた相手に一定確率で【硬直】の状態異常を与える衝撃を発生させるスキル。
・《インパクト・ストライク》は衝撃で直接ダメージを与える事に特化したスキル。

PK達:死闘(彼等にとって)
・実は全員現在の王国では優秀な部類に入る<マスター>達だった。
・特にシュバルツ・ボッチー・ディシグマの三人は個人個人としても非常に優秀で、現在の王国PKの中でもトップクラスの実力がある。
・……なのだが、相手がカウンターでMPKを仕掛けて来た上で、そこから更に奇襲・不意打ちを決めてくる連中だったので窮地に陥った。
・内心『あの三人の方がよっぽどPKに向いてるんじゃ?』と思っている。

【盾備板端 アイアス】
<マスター>:モヒカン・ディシグマ
TYPE:アームズ
能力特性:障壁展開
到達形態:Ⅱ
保有スキル:《七の青壁》《鋼の赤壁》
・モチーフはギリシャ神話に登場する英雄である“大アイアスが持つ盾”。
・《七の青壁》の展開時間は最大三分程度で任意解除か耐久値全損によって破壊されない限りその場に残り続ける。
・《鋼の赤壁》は強力なスキルだが、クールタイムが約五分とかなり長い。
・実際、ボッチーのベンヌとのコンボは非常に強力で三兄妹も初手で受けていれば危なかった。

【亜竜狂鬼】:話の展開の都合上噛ませになってしまった
・狂化スキル込みでのステータスは純竜級に迫り、狂化系スキル効果を上昇させる《狂気》を始めとするパッシブスキルを複数習得している強力なモンスターだった。
・だが、理性が無くなったという弱点を的確に突いたPK達の連携により撃破された。
・三兄妹的には当て馬兼末妹のステータス上昇の為の踏み台。


読了ありがとうございました。
何故か戦闘シーンを書いていたら長くなったので前後編に分割しました。


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<狂乱の森>での死闘(後編)

前回のあらすじ:PK達「よし! 【亜竜狂鬼】を倒したぞ!」三兄妹「ご苦労でした。……では、死になさい」


 □アルター王国・<狂乱の森>

 

「リア充死すべしィィィィ!!!」

「……んな事言われても、俺は未だに彼女いない歴=年齢なんだけどなッ!」

 

 ……そんなアホな事を言い合いながら手に持った剣で斬り結んでいたのは、PKパーティーの一人ボッチーと彼等に狙われた三兄妹の長兄レント・ウィステリアである。

 先程、ボッチーが言い放った安い挑発にレントが敢えて乗った結果、彼等は<狂乱の森>の一角でこの様な剣での近接戦闘を演じているのだ。

 

「む……そうなのか。それは早とちりして済まなかった」

「……別に謝らんでいい。しかしテンションの落差が激しい奴だな……」

 

 レントの返答が《真偽判定》によって嘘では無いと分かったボッチーはさっきまでのテンションは何だったのか、途端に落ち着きを取り戻して普通に謝った……彼のその余りの変わりぶりを見たレントは頭を抱えて溜息を吐きながら愚痴を零していたが……。

 ……どうやらボッチーはレントに彼女がいた事が無いと知って別に怒りを向ける相手では無いと判断したらしく、その所為かなんか空気がグダグダした戦闘を続ける様な感じでは無くなってしまっていた。

 

「とは言っても、このまま戦いを終わらせる訳にも行かないがな」

「別に構わん。……どうせ()()()()()()()()もう終わりだろうしな」

 

 そのレントの言葉通りボッチーの身体には無数の切り傷があり、それによるダメージと【出血】の状態異常によって彼のHPは最早風前の灯であったのだ。

 ……その傷はこれまでの斬り合いでレントが付けたものであり、対してレントはこれまでの戦いで一切のダメージを負っておらず無傷のままであった。

 

「……しかし、もう少し善戦出来ると思ったんだがな」

「そりゃあ【裁判官(ジャッジ)】は戦闘向きのジョブじゃないから剣の扱いに補正など掛からんし、ステータスでもこちらが上回っていればこんなものだろう。……何の経験や補正も無く上手く戦える程、武術や武道は甘くない。特に対人戦ではな」

「……成る程、道理だ」

 

 最も近接戦においてジョブの補正が無いのはレントも同じではあるが、彼にはブランクがあるとはいえかつて剣道をやっていた経験があり、そういった各種戦闘経験によってそれなりの近接戦闘能力も持っているのだ……加えてボッチーの【ベンヌ】はスキル特化型の<エンブリオ>でステータス補正は低く、例え補正が無い魔法職であってもレベル差もありステータスはレントが上回っていた。

 ……そこまで読んでいたからこそ、妹二人が一対一で戦える様に敢えてボッチーの挑発に乗って接近戦を挑んだのである。

 

「……と言うか、お前さっきからテンションが下がってないか?」

「うむ、先程まではリア充への恨みから少しハッスルしてしまっていたが、お前が彼女居ない歴=年齢であるこちら側の人間だと知ってからは頭が冷えた。……むしろ、彼女が居た事のある自分はリア充よりになるのでは無いかと考えてしまってな。……リア充とは、非リアとはいったい……?」

「すこぶるどうでもいい」

 

 ……なんか変な哲学みたいな事を言い出したボッチーに対して、それを聞いたレントは完全な無の表情になって剣を構え直した。

 

「とりあえず、さっさと決着をつけるぞ。……これ以上付き合ってはられん」

「まあそんな反応になるのは仕方がない、先に勝手な理由で仕掛けたのはこちらだしな。…………では! 行くぞォォォォ!!!」

 

 剣を向けてきたレントに対して、ボッチーは先程までとは一転して理性的な反応をしつつ剣を上段に構えた……そして、僅かな静寂の後にその態勢のまま全力で咆哮しつつレントに突っ込んでいった。

 ……そして、その勢いのままレントに向けて全力で剣を振り下ろし……。

 

「……本当に気迫だけは凄まじいな」

「ガハァッ⁉︎」

 

 その斬撃をレントは完全に見切って半身になって躱し、そのまま手に持った剣を横薙ぎにしてボッチーの腹部を真一文字に斬り裂いた……その一閃が致命傷となってボッチーは地面に崩れ落ちた。

 ……尚、ここまでレントはボッチーを仕留めきれなかったのは、彼の無駄に凄まじい気迫に少しだけ押されていた事が大きかったりする。

 

「……ヌウ、ここまでか……ディシグマには今まで色々悪い事をしたか。後で謝っておこう……グハア!」

「…………ハァァァァッ、やっと終わったか。……色んな意味で疲れる相手だったな」

 

 それだけ行った後にボッチーのHPは完全にゼロになって蘇生可能時間が経過して光の塵となっていった。

 ……それを見たレントは本当に疲れた様な雰囲気になって、頭を掻きながら大きく溜息を吐いたのだった。

 

 

 ◇

 

 

 ……そこはこの<狂乱の森>に於ける最後の戦場、PK達のリーダー格シュバルツ・ブラックとウィステリア三兄妹の末妹ミュウ・ウィステリアが向かい合っている場所である。

 

「……ふむ、先程まで比べてステータスが大幅に下がっているな。あの【亜竜狂鬼(デミドラグ・ベルセルクオーガ)】を倒した直後にステータスが下がった以上、キミの<エンブリオ>のスキルは敵のステータスをコピーする事かな?」

『おー、大体正解だね』

「それを答える義理はないですね。……もとより、貴方程度の相手であれば素の状態で十分ですし」

 

 シュバルツが手持ちの《看破》を可能とする装備でミュウのステータスを見て彼女の<エンブリオ>のスキルを予想し、牽制も兼ねてそれについて質問を投げかけた……それに対してミュウは融合しているミメーシスの呑気な声を聞き流しつつ、適当に誤魔化しながらお返しに笑みを浮かべながら軽い挑発を返した。

 ……その挑発に対してシュバルツは歯を食いしばりながら、戦意を滾らせて己の<エンブリオ>である木槍を握りしめた。

 

「……いいだろう。その上から目線を後悔するといい! 《ダブルスラスト》!」

「おや、随分と沸点が低い様で……《気功闘法》《ウェポン・パリング》」

 

 そう言いながらシュバルツは即座に接近して【槍士(ランサー)】のアクティブスキルによる二連続の突きを放つが、ミュウは《気功闘法》──MPを消費して短時間身体ステータスを強化するスキル──と、《ウェポン・パリング》──徒手による武器防御効果を上昇させるスキル──を使ってからその軌道を完全に見切り()()()()()()()()()()()受け流した。

 ……だが、相手のその行動を見たシュバルツは先程とは態度を一転させて笑みを浮かべた。

 

「掛かったな! 《輝ける命脈よ、尽き果てろ(フォース・アベレージング)》!」

「む⁉︎ 《バックステップ》!」

 

 シュバルツが途端に雰囲気を変えて<エンブリオ>のものと思われるスキルを行使した事に対し、ミュウは咄嗟に後方に跳躍して距離を取った。

 だが、暫くしても自身や相手に一見何の影響も無い事に彼女は疑念を抱き……直後、自身と融合しているミメーシスから驚きの声が上がった。

 

『ミュウ! 僕達のMPの最大値が物凄く下がってる! ……これH()P()()()()()()になってるよ⁉︎』

「成る程、デバフスキルでしたか。……しかも、<エンブリオ>に触れるだけで効果を発揮するタイプだとは迂闊でした」

「御名答」

 

 そう、これがシュバルツ・ブラックの<エンブリオ>【滅神呪槍 ミスティルテイン】の《輝ける命脈よ、尽き果てろ》──発動時に槍と接触した事のある対象に『そのHP・MP・SPの中で最も高いステータスの最大値を、二番目に高い最大値を持つものと同じにする』デバフ効果を与えるスキルである。

 ……この<エンブリオ>のモチーフは北欧神話において無敵の肉体を持つと言われた神“バルドル”を殺したヤドリギで出来た槍“ミスティルテイン”であり、故にその能力特性は『強い力(極振り)に対する特攻』なのである。

 

「お前のステータスは《看破》で見たところ、ジョブとレベルに比べてMPだけが異常に高かったのでな。おそらく高いMPへの補正と、それをコストにしたステータスのコピーがその能力なのだろう。……故にまずはそれを封じさせて貰う」

「……成る程、よく見ていますね(ですが、この状況だと()()M()P()()()()()()()()()()()()んですけど)」

『まあ《天威模倣》はまだ使えないし、使えても相手とステータス差が対して無いからね。それにジョブスキル使う分なら今のMPでも問題無いし、僕の三つ目のスキルにはMPは必要無いしね』

 

 確かに、シュバルツが使ったスキル効果によりミメーシスとの融合で一万を超えていたミュウのMPは二千程度にまで減ってしまっているのだが、そもそも彼女はMPを《天威模倣》のコストぐらいにしか使わず【武闘家】のアクティブスキルも現在のMPで十分賄えるので特に問題にはしていなかった。

 加えて《輝ける命脈よ、尽き果てろ》の接触対象には使()()()()()()()()()()()()()仕様になっており、現在シュバルツへ三つのステータスの中で一番高かったHPにデバフが掛かっている状態になってしまっている。

 ……だが、これは無差別的なスキルであるが故に非常に少ないMP消費で強度の高いデバフをかけられるメリットにもなっており、更にこのスキルには()()()()もあるのだ。

 

「さあ、一気に行くぞ! 《アクセルスラスト》!」

「多少早くなろうとも……むっ⁉︎」

『ミュウ⁉︎』

 

 アクティブスキルによって加速しながら突きを放って来たシュバルツに対して、ミュウは籠手にある腕部分の装甲を使って受け流そうとし……そうして槍の切っ先が籠手に接触した瞬間、その金属部分が粉々に砕け散り腕の一部が切り裂かれたのだ。

 ……これが《輝ける命脈よ、尽き果てろ》の『【ミスティルテイン】の攻撃力をその対象の減ったステータスの半分の数値だけ上昇させる』追加効果である。そしてミュウが減らされてMPが約八千、つまり現在のミスティルテインの攻撃力は四千近くも上昇しているのだ。

 

「ここだ! 《輝ける身体よ、墜ち果てろ(パワー・アベレージング)》!」

「これは……またデバフですか」

 

 そのタイミングでシュバルツは第二スキル《輝ける身体よ、墜ち果てろ》──接触した事のある対象のSTR・END・AGI・DEX・LUCの中で最も高いステータス数値を三番目に高いステータス数値と同じにするスキル──を使った……そして、このスキルにもステータスの減少数値分【ミスティルティン】の攻撃力を上昇させる効果があるのだ。

 彼の狙いはこのタイミングでAGIを下げる事でミュウの動きを鈍らせると共に、急なAGIの減少によって動きが乱れた所を更に攻撃力の上がった【ミスティルティン】でトドメをさす事である。

 

「これでぇ! 《スイング・ランス》! 

『今度はAGIが下がった! ENDと同じに!』

「了解なのです」

 

 ……だが、融合している自他のステータスの把握に特化したミメーシスの言葉で自分に起きた状況を即座に把握したミュウは、顔色一つ変えずに思わぬ腕のダメージを無視し、薙ぎ払う様に振るわれたシュバルツの槍を完全に見切ってから()()()()()()()()()()()()()()()()で回避した。

 

「……ミメ、後()()()()を。《ミドルキック》」

「ガハッ⁉︎」

『あっ⁉︎ 了解!』

 

 更に、そのまま彼女はミメーシスに()()()()()の為の指示を出すと同時に、槍を振り終えたシュバルツに前蹴りを放って吹き飛ばした。

 ……蹴り飛ばされたシュバルツを尻目に、ミュウは自身のデバフの掛かったステータスとダメージを負った腕の様子を確認した。

 

『ミュウ、腕は大丈夫?』

(ええ、傷は見た目ほど大した事は無いですし、動かす分には支障は無いでしょう。……しかし油断しましたね、攻撃力が高いと掠っただけでこうなるとは。初見では分からない<エンブリオ>の固有スキルと言い、この世界での戦闘にはまだまだ学ぶ事が多そうです)

『後、さっきの攻撃はストック出来たよ』

(では、次の攻防で使用します。……掠っただけでコレですし、直撃させれば威力は十分でしょう)

 

 そうしてミュウは相手の技量だけ測って<エンブリオ>の固有スキルを考慮しなかった油断を反省しつつ、ミメーシスと簡単に現在の状況を話し合った……その後、彼女は態勢を立て直して再び槍を構えたシュバルツへと向き直る。

 

「……ダメージとデバフを食らった割には随分余裕そうだな。……追撃もしてこないとは、舐めているのか?」

「いえ、現在の自分の状況確認を優先しただけですよ。……貴方は予想以上に強かったので、ここからは全力で行かせてもらうのです」

 

 だが、シュバルツはその対応を自分が舐められたと考えて、怒りに染まった表情のまま質問を投げかけた……が、ミュウは涼しい顔をしながら言い返しつつ、()()()()()()()()()()()()リアルで習っている古流武術の構えを取った。

 ……その構えから相手が本気で来ると察したシュバルツは改めて槍の持ち手を握り直し、僅かな時間その二人の間は沈黙に包まれた……。

 

「…………行くぞ! 《デルタ・スラスト》!!!」

 

 その沈黙を先に破ったのはシュバルツの方であり、彼は攻撃力が大幅に上がった【ミスティルティン】を構えてミュウに向けて突っ込みながら三連撃を放った……彼が現在使っている二つのスキルは攻撃力上昇効果がある分、効果を維持する為にはMPを継続消費する必要があるのだ。

 ……スキルの無制御化によって消費MPもかなり少なくなっているとは言え、現在の自分のMPでは長時間の同時使用は不可能だと判断した彼はこれ以上戦闘時間を引き延ばす事を良しとせず短期決戦を仕掛けたのだ……が。

 

「掠っただけでも大ダメージになる程の攻撃力……逆に言えば、当たらなければどうという事は無いのです」

「なァッ⁉︎」

 

 ミュウはそれらの三連撃を全て見切り最小限の動きで完全回避したのだ……というか、彼女は元々相手の攻撃は完全に見切れていたので、避けようと思えば普通に避けれたのだが。

 ……そして、何故わざわざ攻撃を受けたのかは【ミメーシス】の第三スキルの発動条件に起因する。

 

『《攻撃纒装(アタック・テスクチャ)》スロット1』

「これで終わりです」

「ごっ! ……ハァァ……⁉︎」

 

 その直後、至極あっさりと槍の間合いの内側に入り込んだミュウはミメーシスのスキルが発動したと同時にシュバルツの胸部に拳を叩き込み、そこにまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を開けた……これが【ミメーシス】の第三スキル《攻撃纒装》──自分が受けた攻撃をストックして、その攻撃力と特性を自分の直接攻撃に上乗せするスキルである。

 今の攻撃では先程を籠手を砕いた『攻撃力四千の刺突』をストックして、それを上乗せした拳で相手の胴体に風穴をあけたのだ。

 

「……やっぱり……手加減……して……」

「いえ、油断していたのは事実ですが手加減はしてませんでしたよ。……単に私もまだこの世界での戦闘には慣れていなかっただけなのです」

 

 胸に風穴を開けられた所為でHPが全損したシュバルツが光の塵になりながら言った言葉に対し、ミュウはやや自嘲気味にそう独白した……実際、先程は相手の攻撃を掠らせる様に受ける事で最小の損害でストックを確保する為に籠手で受けたら、その<エンブリオ>の能力を読み違えて負傷してしまうという失敗を犯してしまっている。

 

「流石に、私は姉様の様に初見のスキル効果の危険性を正確に把握するなんて事は出来ませんからね」

『……ミュウ、とりあえず怪我を治す為にポーション飲んだら?』

「あ、そうでしたね。痛覚オフだから忘れていました」

 

 そう言われて彼女はアイテムボックスから【HP回復ポーション】を取り出して嚥下した……すると、それぞれの戦闘を終えたレントとミカがこの場に集まってきた。

 ……彼等は怪我をしたミュウを見るなり、まるで信じられないものを見たかの様な声を上げた。

 

「おー、ミュウちゃんお疲れ〜……って! ミュウちゃん怪我したの⁉︎」

「ミュウちゃんが怪我するとは、そんなに相手は強かったのか?」

「ええ、普通に強かったですよ。……負傷に関しては私自身の油断が大きいですが。やっぱり<エンブリオ>の初見殺しは怖いですね」

 

 彼等はお互いの戦況を簡単に話しながら思わぬ強敵をどうにか退けられた事に安堵し、それと同時にこの世界での戦闘はどんな相手でも油断は出来ない事を改めて確認しあったのだった。

 そして彼等は撒き散らされたシュバルツのアイテムを回収すると、連戦の消耗もあったので早急にこの<狂乱の森>を後にする事にした。

 

「それじゃあ、ここからさっさと離れようか。……あんまり此処に長居するのは私達にはまだ早い気がするし」

「この森の奥には狂化スキルを持つ純竜級モンスターや、精神系状態異常を得意とするモンスターが出て来るらしいしな」

「私達はまだまだ弱い事がこの戦いで分かりましたしね。……デスペナにならない様に“いのちだいじに”でいきましょう」

 

 そうして彼等は騒ぎを聞きつけたモンスターが現れる前にそそくさと<狂乱の森>から撤退して、そのまま王都に戻って行ったのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:彼女は居ない
・スペックは高いのでモテない訳では無いのだが、中学高校共に()()()忙しかったのと面倒ごとが重なってそんな暇が無かった感じ。

末妹&ミメーシス:第三スキル使用に気を取られてちょっと苦戦
・融合時だと基本的にジョブスキル・装備スキルは末妹側でのみ行う事が出来て、<エンブリオ>のスキルはミメーシスの側でのみ行う様にしている。

攻撃纒装(アタック・テスクチャ)》:【ミメーシス】の第三スキル
・第二形態時ではストック数が二つで、一度使用したストックは5分間再使用不可能になる。
・ストック出来るのは攻撃を受けてから30秒以内で、上乗せ出来る時間は最大10秒、一度効果を発揮したら上乗せは消える仕様。
・コピー出来る特性は刺突・斬撃・炎熱・雷撃などの攻撃に関係する物だけで、それ以外の特殊効果はコピーされない。
・コピー元の相手が倒されてもストックは残り続けるが、1時間経過でストックは自動消滅する。
・『攻撃を受ける』判定はダメージを受けなくても装備などに攻撃が当たった場合でも満たせるので、末妹は最低限の損害でストックを貯められる様に見切りの練習をしていた。

格闘家系ジョブスキル:色々種類があるがスキルレベルの上限が低い
・《気功闘法》は自身のSTR・END・AGIを短時間だけ少量上昇させる発動が非常に早いバフスキル。
・《ウェポン・パリング》は一定時間の間だけ武器攻撃を素手で防御する時に、END上昇と武器ダメージを減少させる効果を発揮させるスキル。

ボッチー:この後ちゃんとディシグマに謝った
・兄との(くだらない)問答で自分のやっている事に疑問を持ち始めたのでPKは辞める事にしたらしい。
・ディシグマも妹にボコられた事で『このゲームでヒャッハーとか無理じゃね?』と思い、ボッチーに追随する事に。

シュバルツ・ブラック:PKを辞める気は無い
・この後はちゃんとメンバーを厳選してPKパーティーを作ろうかなと考えつつ、末妹へのリベンジの為に各種準備やレベル上げなどの修行とかをしている。
・その際にはディシグマとボッチーも誘ったのだが、二人がPKを辞めると聞いて残念がった模様。

【滅神呪槍 ミスティルテイン】
<マスター>:シュバルツ・ブラック
TYPE:アームズ
能力特性:特化能力に対する特効
到達形態:Ⅱ
固有スキル:《輝ける命脈よ、尽き果てろ(フォース・アベレージング)》《輝ける身体よ、墜ち果てろ(パワー・アベレージング)
・モチーフは北欧神話において無敵の肉体を持つと言われた神であるバルドルを殺したヤドリギで出来た槍“ミスティルテイン”。
・木製の槍型アームズであり、見た目通り素の装備攻撃力はかなり低く切れ味も悪いが意外と頑丈。
・その特性上ステータス補正はいくつかが平坦気味で、シュバルツは自分に掛かるスキル効果の影響を最低限にする為に装備などで各ステータスを調整している。

<狂乱の森>:奥に行くと難易度が激増する
・精神に影響を齎すタイプの植物が生えており、浅いところでは一般的なハーブ程度しか生えていないが、奥に行くと禁制の麻薬に使えるレベルの物が群生している。
・此処にいるモンスターの殆どがこれらの植物を好んで摂取している事が、彼等が外に出てこない主な理由になっている。
・実はかつて【覇王】を神と崇める狂信者集団の本拠地があった場所であり、これらの植物はこいつらが栽培していた物が野生化した物。
・その後【邪神】一派が“色々”と便利だからと麻薬植物栽培に利用したりしていた事もある曰く付きダンジョン。
・これらの理由や下手にモンスターを減らすと麻薬の原材料が市場に流れる事などから、王都周辺にあっても実質的に放置されている。
・こんな感じに【覇王】【邪神】関連の曰く付き<自然ダンジョン>がアルター王国内には結構あるらしい。


読了ありがとうございました。
PK達との戦闘は想定よりも大分長くなりましたがどうだったでしょうか。意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。


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次への準備

前回のあらすじ:妹「よし! PK撃破! ……でもドロップはしけてるね。これじゃ大した足しにならないよ」末妹「まあ【宝櫃】が手に入っただけよしとしましょう」兄「……お前らさぁ……」


 □王都アルテア 【戦棍騎士(メイスナイト)】ミカ・ウィステリア

 

 今日は7月22日水曜日、<infinite Dendrogram>が発売されてから現実(リアル)で一週間が経ち、私達三兄妹は今日も今日とて夏休みを利用してデンドロ三昧な日々を過ごしています……勿論ちゃんと休憩は取っているし、今年の夏は暑いから冷房と水分補給はしっかりとしているけど。

 そして、今日はPKに襲われたりする事も予期せぬボスモンスターと遭遇する事も無く、無事に外での狩りを終えて王都を散策している所なんだよ。

 

「ふう、今日の狩りも無事に終わったね! ……二日目三日目みたいに狩場が<マスター>で溢れるって事も無くなって来たし」

「俺達を含めて初日あたりから始めた<マスター>のレベルが上がって、王都から離れた狩場で戦える様になってるみたいだからな。……そのお陰で王都周辺は始めたばかりの<マスター>が普通に利用出来る様になってたしな」

「このまま<マスター>の行動範囲が広がれば初心者狩場が満杯なんて事は無くなるでしょうか?」

「他の街に拠点を移す人も出て来るだろうから、その内そうなるんじゃない?」

 

 ミュウちゃんとミメちゃんの言う通り、最近では<マスター>の行動範囲が結構広がっているからね。掲示板でも<決闘都市ギデオン>など他の街に行ったってコメントが結構あったし……私達の知っている人では、確かシュウさんがリアルで三日ぐらい前に王都から出て行ってたね。

 ……何でも『アバターのキャラメイクをやり直せるかもしれない場所の情報を入手したクマ。……正直言って情報元はまったく信用出来ないが、実際に確かめてみるまで可能性はゼロじゃない筈クマ!』とか言って。

 

「確かにシュウさんはそんな事を言ってましたね。……しかし、アバターのキャラメイクをやり直せるモノなんて有るのでしょうか?」

「光学迷彩とかステータス偽装とかのジョブスキルはあるみたいだがな」

「でもお兄さん、それじゃあキャラメイクのやり直しにはならないんじゃない?」

「まーしょうがないけどねー。シュウさん『着ぐるみ着たまま店にいるとティアンの人達に不審者を見る様な目で見られるクマ』って愚痴ってたし。……ちなみに、私の勘だとちょっと丈夫な新しい着ぐるみを手に入れるだけな気がするけど」

 

 ティアンが<マスター>のやらかしに対するスルースキルを身につけるにはまだしばらくかかりそうだしね。それまでは頑張ってとしか言えないかなー。

 

「まあ、シュウさんなら遭難とかしても自分で何とかするだろうし放っておこう。……それよりも明日受ける【墓標迷宮探索許可証】入手クエストの準備をしに行こう!」

「確か騎士団の人達と一緒に王都周辺の街道沿いでモンスターの討伐をするんだったな。……<神造ダンジョン>に入る為に必要なアイテムだから確保はしておきたいな」

「これも騎士団に渡りを付けてくれた姉様のお陰ですね! 予約制だったので早めに知れたのは大きいのです」

「予約漏れの<マスター>が結構いたみたいだからね」

 

 何処からか<墓標迷宮>や【許可証】の事が<マスター>達に広がったのか、騎士団詰所はクエストを受けた彼等への対応で大わらわだったからね……私達は以前私が騎士団のクエストを受けた時にこの事を知って、そのまま直ぐに二人を誘って予約したから余裕でしたが。

 ……一応、他に<墓標迷宮>へと入る方法には『【聖騎士(パラディン)】に転職する』って方法もあるみたいだけど、転職条件が厳しいから普通にクエストに参加した方が簡単だしね。

 

「とりあえず戦力強化の為にマリィさんのお店で装備を買うか。……その為に俺の【長き腕】をオフにして亜竜級モンスターを倒していったんだからな」

「冒険者ギルドでボスモンスターの目撃情報を探して、その場所を狙い撃つ作戦が思った以上に上手く行きましたからね。……情報を教えてくれたアイラさんには感謝なのです」

「お兄ちゃんの【ルー】やミメちゃんが第三形態に進化したお陰で亜竜級モンスターも安定して狩れる様になったからね。……私達が装備出来る様なアイテムは落ちなかったけど、そこは換金すれば良いだけだし」

「僕が進化した時に覚えた《転位模倣(エフェクト・ミラーリング)》は《天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》と同時に使用出来ない……というか、()()()()()()使()()()()()()だから微妙に使いづらいけど」

 

 そう、ミュウちゃんミメちゃんが新しく取得した《転位模倣》は『指定した敵対対象一体に掛かっているバフ効果・デバフ効果・傷痍系以外の状態異常を自分に同期させる』スキルだったんだけど、《天威模倣》とは併用不可な二者択一のスキルらしい。

 

「でも、状態異常を多用してくるモンスターにはかなり有効だったじゃない。……《転位模倣》の同期効果を使うと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだから」

「まあ、以前のシュバルツ何某にデバフを食らって苦戦したのが原因でこんなスキルになったんだろうからね。……でも、《天威模倣》と違って相手にバフが掛かって無いとステータス面で優位が取れないから決め手に欠けるんだよね」

「おそらく《転位模倣》の方は状態異常への対策がメインの形態なんだろうよ。……要は使い分けが必要だと言う事だ」

「そうですよ、使い易い方(バナナアームズ)だけでなく使い難い方(マンゴーアームズ)もちゃんと特性を把握して使いこなさないとです。……それにタイプチェンジでの能力変化はロマンですからね!」

 

 まーそれは分かるかな。私も不利になった状況を姿と能力を変えて逆転するのにはロマンを感じるし……偶に番組後半になると使われなくなるヤツが出たりするけどそれもご愛顧。クライマックスとかで急に今まで使われなかった形態が出たりするのも燃えるしね! 

 ……そんな感じでちょっと話が脱線仕掛けた所で、ミュウちゃんがお兄ちゃんの()()()()について言及した。

 

「それに、切り札なら兄様の新しいスキルがありますし」

「……俺の新スキル《仮想奥義・神技昇華(イミテーション・ブリューナク)》もかなり使いづらいんだがな。……何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()スキルだし」

「えーっと、確かお兄さんのスキルは『任意のジョブ一つのジョブレベルを最大30まで下げて、その分だけ指定したアクティブスキルの効果を上昇させる』んだったね」

「でも威力は凄かったよね! 何せ【魔石職人(ジェムマイスター)】のレベルを5つ捧げただけの《フレイムアロー(火属性下級魔法)》が亜竜級の頭部を消し飛ばす威力になったし」

 

 まあ、お兄ちゃん的には『実践で上手く使う為に効果範囲とか規模とか色々検証したいんだが、レベルがコストだとおいそれとは使えないのが問題』らしいけど……進化によって《光神の恩寵(エクスペリエンス・ブースター)》のレベルも3になり獲得経験値も+300%になったとは言え、レベルを上げってのはそれ自体が大変な行為だしね。

 ……後、下手にレベルを下げるとせっかく覚えたスキルがリセットされる事もあるのが最大の問題だとも言ってたね。

 

「まあ、このスキルのお陰で【紅蓮術師(パイロマンサー)】の転職条件を満たせたのは幸いだったがな。……これで俺も漸く上級職だ」

「おめでとうなのです兄様。上級職になるとステータスやスキルも強力になりますから、戦闘もずっと楽になりますよ」

「あーいいなー二人共ー。私は【戦棍士(メイスマン)】はカンストしたけど、最後の転職条件であるダメージ総量のヤツを満たすのにはもう少しかかりそう」

 

 私の【ギガース】は新スキルとか覚えないから二人みたいに一喜一憂出来ないしなー……その分ステ補正は高いんだけど、それを活かすには元となるステータスが高い上級職に就かないとねぇ。

 ……と、そんな風に私達が話しながら歩いていると、目的地である<マリィの雑貨屋>が見えてきた。

 

「あっ、お店に着いたよ」

「……じゃあ、アイテムを換金した後に買い物するか」

「この前籠手をぶっ壊されてから有り合わせの物を使ってましたから、今日はちゃんとした物を買いたいですね」

 

 そうして私達は狩りの後にはいつも利用していて、今やすっかり馴染みとなった<マリィの雑貨屋>へと入っていった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<マリィの雑貨屋> 【紅蓮術師】レント・ウィステリア

 

「……はい、全部合わせて124万8000リルになるわ。……しかし、よくこれだけのレアアイテムを集めたわねぇ」

「ありがとうございます。……まあ、今回は比較的ドロップ運が良かったですからね」

 

 そんな訳で<マリィの雑貨屋>に入った俺達は狩りで集めたアイテムをマリィさんに渡して、その代金である124万8000リルを受け取った。

 初日は数万リルで一喜一憂していた俺達がこれだけの大金を稼げる様になるとは、何か感慨深い物があるな……まあ、これだけの大金でも、ちょっと装備を整えようとするとあっさり消え去るのがデンドロクオリティなんだが……。

 

「おお〜! 凄いねリルが百万超えたよ。……これもアイラさんがボスモンスターの情報を教えてくれたお陰だね!」

「本当にありがとうございます、アイラさん」

「……え、ええ……どうも。……確かに王都周辺に目撃情報があって討伐対象に指定されそうな亜竜級モンスターの情報を教えましたけど、まさかその殆どを倒して来るとは……」

 

 手に入れた大金を見たミカとミュウちゃんは、偶々雑貨屋にいたアイラさん──どうやら今日は冒険者ギルドが休みだったのっで実家でもある雑貨屋を手伝っていたらしい──にお礼を言っていた。

 ……まあ、彼女は俺達がここまで多くのモンスターを倒して来るとは思っても居なかった様でかなり驚いていたが。

 

「いえ、貴方達が亜竜級モンスターを倒せる実力があるのは知っていましたし、だからこそ危険なモンスターの討伐を期待して情報を渡した訳ですが……そこまで正確な位置情報は渡せなかったのに、こんな短時間で何故ここまでの数を見つけられたのですか?」

「……基本は運が良くて偶々遭遇出来ただけですよ」

「強いて言うなら()()()()()()()()()()()からかなー」

 

 ……尚、本当の理由は“危険なモンスター”の大雑把な位置を()()()()()()()()ミカの“直感”で把握してから、その近辺を俺が【斥候(スカウト)】のジョブスキルなどを駆使してボスモンスターを探し出したのが真相である。

 ……まあ、ミカの直感だってそう都合よく発動する訳ではないし、ここまで上手く狩れたのは運の様子も強いから嘘は言ってないがな。

 

「じゃあ! 資金も手に入れましたし【通行証】ゲットのクエストの為に装備を買いましょうか!」

「そうだね! 破壊された籠手の代わりを買わないと!」

「ああ、皆さんもあのクエストを受けるんですね。……では、それに対するおススメのアイテムを紹介しましょう」

 

 話が面倒な方向に転がりかけた時、ミュウちゃんとミメちゃんが話を誤魔化す為に本来の目的を声高く言ってくれたお陰でアイラさんの注意は別の方に向いてくれた様だ……彼女が空気を読んでくれただけかもしれないが。

 

「ちゃんと紹介してね〜アイラ。なるべく高いやつを〜」

「キチンと彼等の予算に合わせた物を紹介します。……合計レベルはレントさんが100以上、ミカさんとミュウさんが50以上ですか……ではこちらですね。後は外での長期間行動に使えるアイテムもついでに紹介しましょう」

 

 そう言って、アイラさんが紹介してくれたのはMPを込めると飲める水が出て来る水筒型マジックアイテム、長期保存出来る携帯食、テントなどの各種キャンプセットと言った初心者が使う野外用アイテムだった……この世界にはアイテムボックスがあるからこれだけ持って行っても嵩張らないのである。

 ちなみに携帯食や水筒が“初心者用”なのは、一定以上の実力者とかになると時間遅延・停止機能の付いた高級アイテムボックスに水や食料を詰め込んでいるからとの事。

 ……そして装備についても、彼女は俺達の戦闘スタイルや意見を聞いてから最適な物を選んでくれた。

 

「基本は魔法で妹達を支援していますね。後、たまに剣を使った近接戦も」

「では、レントさんにはまず今使っている物の上位版である【マジックローブ・3】と【マジックトレントの杖】を。そして【紅蓮術師】である貴方に合わせて火属性魔法効果及び火属性耐性が上昇する【紅蓮魔導の手套】と、魔法剣士用の剣でMPに補正が入り更にMPを込める事で一時的に攻撃力を上げる《マジックエッジ》スキルの付いた【シルバー・マギソード】がおススメですね。……後は魔法職だとMPが幾らあっても足りないので【MP回復ポーション】を沢山買っておきましょう」

「【ライオット】も良い装備なんだけど、私って回避が上手くて攻撃があんまり当たれないから《ダメージ軽減》が意味ないんだよね」

「それでは動きやすい軽鎧でAGI補正と範囲攻撃である風属性耐性がついた【ウインドスケイルアーマー】上下セットと、AGI補正と低レベルですが【麻痺】【拘束】耐性が付いた【不縛のブーツ】ですかね。……後はSTRを上昇させる籠手装備【パワーガントレット】やアクセサリーの【怪力の腕輪】辺りでしょうか」

「籠手はなるべく頑丈な物を。後スキルの都合上ダメージを受ける機会が多くなりそうなのです」

「僕のスキルの都合上HP・MP・SP以外は上がっても余り意味はないかも」

「でしたら《ダメージ軽減》《武器ダメージ減少》スキルの付いた【鋼の武闘着】上下セットと、SP補正が付いていて頑丈な【ミスリルアロイ・ガントレット】でどうでしょうか? ……後は【麻痺】【脱力】耐性付きで装備攻撃力が高めな【鬼人の脚甲】が有りましたね」

 

 ……アイラさんってこういうの本当に丁寧に選んでくれるよなぁ。【鑑定眼】で見るとどれも今装備出来る中ではトップクラスの性能で、全部合わせても今回の儲けで買える値段になっているし。

 とりあえず、彼女には丁寧にお礼を言った上でこれらのアイテムを全部買う事になった……お陰で今回の儲けが殆ど吹き飛んだが、まあ必要経費だろう。

 

「は〜い、お買い上げありがとう御座いました〜。お陰で在庫がかなり捌けたわ〜。……今後もサービスするから、またいっぱい買っていってね〜」

 

 ……ひょっとしたら、アイラさんの行動含めて全部マリィさんの計算通りな気がして来たが……気の所為と言う事にしておこう……。

 

「今日も本当にありがとうねアイラさん! ……何か困った事があったら言ってね、可能な限り力になるよ」

「分かりました、もしそんな事があったら頼みますね。……それでは、今度のクエストも頑張って下さい」

 

 そうして、俺達は準備を可能な限りの整えた上で【墓標迷宮探索許可証】獲得クエストに挑む事になったのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:最近は十万リルが端金に思えて来た
・第三形態に進化した際の他の変更点は【長き腕】のオンオフ変更のクールタイムが16時間に減ったぐらい。

仮想奥義・神技昇華(イミテーション・ブリューナク)》:【ルー】の第四スキル
・このスキル自体のクールタイムは5分で、強化したスキルは24時間再使用不能になるデメリットもある。
・消費したレベルに内包されたリソース分だけスキル効果が上昇するので、より上位のジョブ・より高いレベルの時にコストにした方が上昇率は高い。
・強化の方式はスキル効果を総合的に上昇させる仕組みで、特定の部分(魔法の威力・速度・射程など)のみを強化する事は出来ない。
・選択したスキル発動と同時にレベルが減る仕様なので、レベルが下がって選択したスキルが使えないという事態にはならない(レベルが下がった後で選択したスキルが消える事はある)。
・尚、兄のパーソナルを読み取って生まれた【百芸万職 ルー】の本来の能力特性は“才能(ジョブレベル)”である。

妹:ボスモンスターレーダー
・本人的には色々準備が必要な気がするらしい。

末妹&ミメ:ボスモンスターキラー
・進化時の他の変更点として《天威模倣》で同期出来るステータスの数が4つに増えており、更に《攻撃纒装(アタック・テスクチャ)》のスロット数が3つに増えており、ミメーシスのMPも一万五千強まで上昇している(他のステータスもある程度は上昇している)。

転位模倣(エフェクト・ミラーリング)》:【ミメーシス】の第四スキル
・コストとして発動時から1分間経過する毎に選択した敵対対象がモンスターの場合はレベル×50、人間範疇生物の場合は合計ジョブレベル×10だけMPを消費する。
・このスキルのクールタイムは1分で、一度解除した場合は同一対象には24時間再使用不能。
・このスキルの使用時に既に掛かっているバフ・デバフ・傷痍系以外の状態異常は上書きされて、スキル解除時には使用前の状態に戻る。
・当然だが選択した敵対対象にデバフや傷痍系以外の状態異常が掛かった場合は自分も同じ状態になるが、こちらもスキル解除時には元に戻る。
・同期時には他のバフ効果は効かず、デバフ・傷痍系以外の状態異常も余程強度が高いモノ以外は効かない。
・このスキルはシュバルツ何某と戦った経験から発現したものだが、その特性上術者にも同じデバフが掛かる【ミスティルテイン】には普通に使ってもあまり効果は無い(これは彼女達がそのデメリットを知らなかった所為)。

マリィさん:計算通り(ニヤリ)
・とは言え装備の値段は相場と比べても安めであり、それだけの物を用立てられるぐらいに品揃えは豊富な店である。

アイラさん:売り子としても人気
・彼女が売り子になるとファンの冒険者が訪れる所為で<マリィの雑貨屋>の売り上げが倍くらいになるとか。
・今回、三兄妹に世話を焼いたのは、最近の王都周辺での()()()モンスター目撃情報に違和感を感じて嫌な感じがしたからでもあった。


読了ありがとうございました。
次に一度掲示板回をやったらこの章は終わりで、次章の『【墓標迷宮探索許可証】入手クエスト編(仮)』に続きます。


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掲示板回その三・PKとかモンスターとか

前回のあらすじ:三兄妹『準備は万端! これで次のクエストも安心だ!(フラグ)』


 □◾️地球 とある掲示板

 

 

 ◇◇◇

 

 

【ヤルか】<Infinite Dendrogram>PK専門スレ3【ヤラレルか】

1:名無しのPK<マスター>[sage]:2043/7/19(日)

このスレはVRMMO<Infinite Dendrogram>のPK(プレイヤーキラー)専用のスレです

デンドロでPKをやって行くという人だけ書き込みましょう

荒らしは……PKの民度的にはしょうがないが出来るだけスルー推奨

 

 

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45:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

それにしてもこのスレは進みが遅いよな

 

 

46:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

そりゃあPKやる様なヤツが積極的に掲示板に書き込んだりしないだろ

 

 

47:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

書かれる内容も『◯◯をキルしたぜー』みたいなのばかりで面白みが無いし

信用出来ないから詳細をかけや

 

 

48:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

自分の手の内を明かしたくないのは理解出来るけどな

…そう言えば以前に掲示板でPKパーティーを募集したヤツが居たな

 

 

49:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

確かアルター王国のPKだったっけ

PKの野良パって上手く行くのか?

なんか空中分解しそう

 

 

50:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

>>49

空中分解はしなかったが返り討ちにはあった

…オノレあの女共、次は絶対にリベンジしてやる

 

 

51:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

あれ? ご本人登場?

 

 

52:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

ていうか返り討ちかよ、はーつっかえ

 

 

53:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

まあまあ、新鮮な話のネタが来た事だし話を聞いてみようぜ

…このスレ当たり障りの無い事しか書かれないから暇なんだよ

 

 

54:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

然り然り

 

 

55:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

>>53

各々の能力とかは書くわけにも行かないけど概要ぐらいならいいぞ

…この屈辱を忘れない為、それに何より奴らへのリベンジを誓う為に敢えて屈辱の記録を晒そう……!

 

 

56:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

き、気合い入ってんなー(汗)

 

 

57:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

返り討ちにされてもリベンジに走れる気概があるのは良いPK

 

 

58:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

例えデスペナにされても

『そのツラ覚えたからなぁ…! 地獄の底まで追い詰めて絶対に仕留めてやる…!』

と言える人間は天誅系PKの適正がある。

 

 

59:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

うーん、PKスレらしく殺伐として来たぞぅ!

 

 

60:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

というか誰に返り討ちにされたんだ?

女達って言ってたから女子パーティー?

 

 

61:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

>>60

王国にいる男一人女二人で三人組の<マスター>

本人達が言うには三兄妹らしく真偽判定で確認済み

亜竜級モンスターを倒してるって噂になってたから高価なアイテム狙いで襲った

 

 

62:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

ほーん、亜竜級倒せるとかかなり強い連中だな

そんな奴らを狙うとは中々のチャレンジャーだ

 

 

63:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

俺も亜竜級ぐらいなら倒せるがな

つーかそんな強い連中狙ったら返り討ちにされる可能性が高いだろ

相手選べよアホか

 

 

64:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

>>63

雑魚ばっかり狙っても面白く無いだろ

俺は強者を地面に這いつくばらせたいからPKやってんだ!

 

 

65:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

oh…中々ファンキーなヤツだぜ…嫌いじゃないわ!

 

 

66:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

まあPKによって目的は様々だからな

…というか話がずれ始めてるから早く詳しい話プリーズ

良い感じにスレもあったまって来たしネタを早よ

 

 

67:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

>>66

分かった。とりあえず産業で説明する

六人各々の能力を使って姿を消しながら奇襲しようとしたが相手に見破られる

止む終えずそのまま襲いかかろうとしたらカウンターでMPKに会う

そのモンスターを何とか倒したら、もう用済みと言わんばかりに皆殺しにされた

 

 

68:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

>>67

……んん??? ちょっと意味がわからないですね

 

 

69:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

姿を消しながら奇襲しようとしたが見破られる→まあ分かる

カウンターでMPK→んん?

用済みと言わんばかりに皆殺し→……有名PKでも狙ったの?

 

 

70:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

PKに失敗した負け犬の遠吠えかと思ったら妙な感じになったな

ネタにしたいから詳細を話すが良い

 

 

71:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

せいぜい嘲ってやるぜ!

 

 

72:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

>>70

何様だテメェ……まあ話すけど

まず三兄妹を狙う為に各々の能力を使って光学迷彩と探知スキル妨害を使って接近する作戦を立てた

→だが森の中に入った連中を追跡したら既に気付いていたらしい相手が先制で火球を発射して来た

→それでも数では優っていたから戦おうとしたら『ここが何処だか分かってる?』と言われる

→直後に亜竜級モンスターが襲来

→実はそこは強力なモンスターが出没する自然ダンジョンだったんだよ!

→連中は魔法で目眩ししてモンスターのタゲを押し付けて逃走

 

 

73:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

長文御苦労……しかしこれは、どういう事だってばよ?

 

 

74:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

>>72

この鮮やかな手口……MPK専門の連中かな?

追跡に気付いた上で敢えてダンジョンに誘い込む辺りプロっぽい

 

 

75:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

これってアルターと天地間違ってない?

 

 

76:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

>>75

いえ、天地のPKならそんなまどろっこしい事はせずに問答無用で斬りかかるので違うでしょう

 

 

77:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

天地ェ……

 

 

78:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

>>72の続き

現れたモンスターをどうにか倒した俺達「アイツらもザマァないぜ!」

→そこに背後から三人の内一人が背後からアンブッシュ!

→イヤーッ! グワーッ!

→デデーン! 三人アウトー! しめやかにデスペナ! ナムアミダブツ!

 

 

79:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

うわぁ……

完全に用済みになったヤツを始末する気満々じゃん

 

 

80:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

完全にプロMPKの犯行ですねコォレは

行動に迷いが無さすぎる

 

 

81:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

>>78の続き

三兄妹「ドーモコンニチハ、PKスレイヤーデス。…ハイクを読め、カイシャクしてやる」

→そうして残った俺達三人はそれぞれ一対一でヤツらと戦う事に

→俺はアンブッシュして来たヤツと戦って相手の武器を破壊するなど善戦した

→のだが、一瞬の隙を突かれて素手で胸に風穴を開けられて死亡! グワァー!

→他の二人もモンスターに手札を使い切っていたのもあって普通に敗北、ナムサン!

 

 

82:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

南無三!

 

 

83:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

素手で胸に風穴……なんというカラテの練度!

 

 

84:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

……改めて見てみると完全に計算づくだよねコレ

実はPKK専門の連中とか?

 

 

85:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

先にモンスターぶつけて戦力を削る辺りとか完全に計算づく

 

 

86:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

次こそは絶対にリベンジしてやるんだ……

その為にデスペナ明けたらレベル上げと技術を磨かないと

 

 

87:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

>>86

また一人、修羅の道を行く者が増えたか……

 

 

88:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

後はちゃんとしたPK仲間を集めたい

やっぱり野良パだと行動方針や目的の違いとかがでかいわ

 

 

89:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

まあ一口にPKと言っても色々だからな

PKやってる以上は行動にも問題あるだろうし目的意識の共有は必要

 

 

90:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

リスクが少ない<マスター>だけを狙うヤツ

ティアンも狙ってヒャッハーするヤツ

俺は自分より強いヤツに会いに行くヤツ

弱いヤツ甚振って無双したいヤツ

PKも色々

 

 

91:名無しのPK<マスター>[sage]2043/7/20(月)

まあ頑張れ、特に応援はしないけど

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

【ゴブリンとか】<Infinite Dendrogram>アルター王国モンスター情報スレ11【ウルフとか】

1:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/19(日)

このスレはVRMMO<Infinite Dendrogram>に於けるアルター王国のモンスター情報を書き込むスレです

モンスターの目撃情報・生態系・疑問点・<UBM>の事などご自由に

荒らしはスルー推奨

 

 

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137:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

アバーッ! ちくしょうデスペナだ!

一体何が起こったんだよ!

いつに間にか死んだんだけど!

 

 

138:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

おー、荒れてんなー

とりあえずモチツケ

そして冷静に情報を書き込むんだ

 

 

139:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

アンブッシュでも食らったかな?

隠密効果持ちのモンスターにやられるのは割と良くある(一敗)

 

 

140:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

>>138

俺は王都の近くで普通に狩りをしていたんだがいきなり何かに引き寄せられたんだ

そして気が付いたら生き物の体内っぽいところに居てそのまま死んだ

……今思えばアレは食べられたんじゃないかと思う

でも周りには何も無かったしなぁ

 

 

141:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

成る程、分からん

 

 

142:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

>>140

姿を消せるモンスターに丸呑みにされた感じかな?

でも王都の周辺に迷彩能力があって人間を丸呑みに出来るぐらい大きなモンスターはいたかな?

最近出来たWikiにも載ってないし

 

 

143:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

デンドロの生態系は結構変わるらしいからwikiのモンスターの分布はあんまり信用出来ない

この前目撃された影を操る狼型の<UBM>の例もあるし

 

 

144:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

<UBM>って?

 

 

145:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

>>144

ああ!

 

 

146:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

<UBM>に関しては最近出来たデンドロwikiに乗ってるからそっちを見よう! (ダイマ)

一応王都周辺のモンスターも現地のティアンに聞いたりしたのを載せてあるし!

ぶ、分布に関しては変わる事も多いけど……

 

 

147:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

あ、編集部の人かな。お疲れ様でーす

はい、そこで外来種をドーン!

 

 

148:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

>>147

ウワーーーーッ! ヤメろーーーーッ! 折角調べたのにーーーーっ!

 

 

149:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

wiki編集部は大変そうだなぁ

デンドロは情報量多いしねー

 

 

150:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

まあwikiには助かってるしコレからも果てない情報集めを頑張ってほしいですね

 

 

151:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

俺達はまだ登り始めたばかりだからよ

この果てしないデンドロwiki情報坂をよ……

 

 

152:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

止まるんじゃねえぞ……

編集部が止まらない限りwikiはその先にあるんだからよ……

 

 

153:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

何という心温まる声援(白目)

 

 

154:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

あ、デンドロのモンスターに関する質問はここで良かったでしたっけ?

 

 

155:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

お? 新規さん? 何かあるなら好きに書き込んで良いよー

 

 

156:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

情報は常に歓迎していますよ

 

 

157:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

>>155ありがとうございます

えーっと、俺は<サウダ山道>で狩りをしていたんですけど

その時に倒したゴブリンがアイテムを落とさなかったんです

……これってバグですかね?

 

 

158:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

>>157

モンスターを倒してもアイテムを落とさなかった? ……それは野生のモンスターだったんですよね?

デンドロのテイムモンスターや召喚モンスターは死んでもアイテムを落とさない設定なので

 

 

159:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

間違って他人のモンスターを倒しちゃったとか?

後はゴブリンを召喚するモンスターが居て、それは召喚獣だったとか

 

 

160:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

>>158

その場に居たのはゴブリン10体ぐらいで俺達のパーティー以外は人の姿も見えなかったですね

後、その場に居たのは全部倒しましたけど誰もアイテムを落とさなかったです

パーティーの中に探知系<エンブリオ>持ちの人がいたので召喚士やテイマーが居たら分かると思うんですが……

 

 

161:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

成る程ー……さっぱり分からん!

 

 

162:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

普通のゲームならバグを疑う所なのだが……デンドロだと不自然な現象も<エンブリオ>とかの所為と言えなくも無いしなぁ

 

 

163:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

知りたければ現地で調査するしか無いな!

……というわけで、編集部の皆さんお願いします!

 

 

164:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

……調査って物凄く大変何だが……人材が、人材が足りなイィ……!

wiki編集部はやる気のある人材はいつでも募集です!

 

 

165:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

デンドロは謎がいっぱいだから頑張ってね〜

 

 

166:名無しの<マスター>[sage]2043/7/22(水)

王都周辺もなんか騒がしくなって来たなー

……今度やるクエストは大丈夫かな?

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「よし、改めて掲示板でリベンジの誓いを立てた事だし、今度こそあの三兄妹を血祭りに上げてやる……! その為には、まず今度受けるクエストで【許可証】を手に入れてダンジョンでのレベルアップを「貴志(たかし)〜! もうご飯よ〜!」はーい! 今行く〜! ……とりあえず、()()()()()()()の内にレベル上げだな」




あとがき・各種設定解説

シュバルツ・ブラック:PK掲示板にリベンジの誓い書き込んでた
・本名は新垣貴志、小学五年生の男の子。
・クラス内では地味目の大人しい子だが、実はネット弁慶で多くのMMOでPKをやっている。
・VRプレイ経験もあるのでプレイスキルは年齢に比してかなり高い(規格外天災児の事は考えない物とする)
・現実ではイマイチパッとしない自分に嫌気がさしており、だからネットでは強者を倒して自分が強いと証明したいと思っている。
・天地では無くアルターを選んだのは、単に和風ファンタジーより洋風の方が好きだから。
・本人達は気づいていないが、実は妹とは同じクラスのクラスメイトだったりする。


読了ありがとうございました。
これで今章は終わりで、次章からは原作に於ける最凶(笑)アイテム『【墓標迷宮探索許可証】入手クエスト編』が始まります。多少遅れるかもしれませんが気長にお待ちください。


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第2章 【墓標迷宮探索許可証】を入手せよ!
今回のイかれたメンバーを紹介するぜ!


この話から新章開幕です。では本編をどうぞ。


 □王都アルテア・南門前 【武闘家(マーシャル・アーティスト)】ミュウ・ウィステリア

 

 はい、そういう訳で私達ウィステリア三兄妹は【墓標迷宮探索許可証】を入手する為のクエストである【王都周辺及びその街道沿いのモンスター討伐・調査の手伝い 難易度:三】を受けて、今は同じ様にクエストを受けた<マスター>やティアンの騎士達と共に王都アルテア南門前にやって来ているのです。

 このクエストは王国が王都と各街の交通網を確保する目的で定期的に発注していて、私達の様な外部協力者は基本的に騎士団の人達に着いて行き、彼等がモンスターを討伐したり周辺の調査をする事を手伝うのが主なクエストの内容となっています……が、今回は報酬である【墓標迷宮探索許可証】に釣られた多くの<マスター>がクエストを受けに来たので多少形式を変更して、騎士1〜3人と<マスター>複数名でパーティーを組んでそれぞれ王都周辺や街道沿いの担当する地点を回るという形式になっている様なのです。

 ……そして、私達は王都の南側にある<サウダ山道>から<ネクス平原>辺りを担当するらしいので、こうやって南門前に集まっているという訳ですね。

 

「しかし、これだけ多数の<マスター>に原価十万リルの【墓標迷宮探索許可証】を報酬としても大丈夫なのでしょうか?」

「その辺りは特に問題無いですね。……元々、神造ダンジョン<墓標迷宮>の探索は、出土したレアアイテムを王国の市場に下ろす事を含めてアルター王国の重要な()()の一つですから。なので【許可証】を持っている人間は多い方が良いんですよ。この“十万リル”という値段も『王国所属でこれだけのお金が稼げるならある程度信用が置ける』という意味での値段ですし、このクエストも騎士団の仕事の手伝いをキチンとしてくれる事で【許可証】を渡しても問題無い相手だと判断する為のものですからね」

 

 私はふと漏らした疑問に答えてくれたのは、今回私達と一緒にパーティーを組む事になった近衛騎士団所属の【天馬騎士(ペガサスナイト)】リリィ・ローランさんでした……名前からも分かりますが彼女はアイラさんの妹さんだそうです。姉様が言ってました。

 ちなみに私達のパーティーにいる騎士は彼女一人であり、これは『万が一に備えて一つのパーティーに騎士を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を持つ様に配置する』という騎士団の方針によるものだそうです。

 ……つまり、彼女は単独で亜竜級モンスターと互角に渡り合える実力を持つという事の様です。凄いですね。

 

「後、気になったのですが近衛騎士団というのは王族や王城を守る事を主任務としていると聞きました……が、この任務にも結構な数が参加している様でしたが大丈夫なのでしょうか?」

「ああ、元々近衛騎士団には王族・王城の守護以外にもアルター王国最精鋭部隊として他の騎士団への救援を行う遊撃部隊としての役割もあって、今回は多くの<マスター>がこのクエストに参加したので騎士団の人手が足りなくなって手伝いに来たのですよ。……それに王城には【大賢者】殿と【天騎士】殿が詰めていますから。……あのお二人が居れば、それ以外の近衛騎士の数が多少増減しようと総戦力的には誤差の範囲内です」

 

 私のそんな質問に対して、リリィさんは薄い笑みを浮かべながらそんな事を言い放ちました……冗談を言うような雰囲気に見えましたが目は笑っていなかったので、多分彼女が言った事は事実なんでしょうね……。

 ……ちなみに私がリリィさんとばかり喋っているのは、兄様と姉様が同じパーティーに居る別の<マスター>達に挨拶をしているからなのです。

 

「やあエルザちゃん、久しぶりだね! また一緒にクエストを受けられるなんて嬉しいよ。……しかし、前と比べるとガードナーの数が増えてるし、更にはテイムモンスターも居るとは見違えたよ」

「はい、ありがとうございますミカさん。……あれから【ワルキューレ】が第三形態になったお陰でアリアにも仲間が増えましたし、私も【従魔師(テイマー)】としてモンスターをテイムして戦力を整えてみたんです」

 

 姉様が話して居るのは今回のクエストでパーティーを組む事になった<マスター>の一人である【従魔師】のエルザ・ウインドベルさん、姉様とは以前に騎士関係のクエストで一緒になってフレンド登録をしたそうなのです。

 

「お久しぶりですミカ殿。今日はよろしくお願いします」

「初めまして、次女のセリカです。回復を担当して居るので怪我をしたら仰って下さいね」

「【ワルキューレ】三女のトリムだよ! よろしくね」

 

 そして、エルザさんの側には同じ顔をしている三人の女性がまるで従者の様に付き添っていました……彼女達がエルザさんの<エンブリオ>【代行神姫 ワルキューレ】なのだそうで、それぞれ長女のアリアさん、次女のセリカさん、三女のトリムさんと言うのだそうです。

 そして、彼女達は固有スキルの効果で<エンブリオ>でありながら<マスター>と同じ“ジョブ”に就く事が出来るらしく、それぞれアリアさんが【騎士(ナイト)】、セリカさんが【司祭(プリースト)】、トリムさんが【戦士(ファイター)】に就いているらしいです。

 

「ふーん、モンスターの【ティール・ウルフ】もこうして見ると結構カワイイね! ……普段は適当に叩き潰してミンチにしてるから分からなかったよ」

『ッ⁉︎ BAUWAU⁉︎ (主ィ⁉︎ コイツ目がマジです⁉︎)』

『KUEEE……(この少女からは何かこう恐ろしい気配を感じるのですが……)』

「え、えーっと……ミカさん、あまり怖がらせないで下さいね……」

 

 それに加えて彼女はテイムモンスターとして【ティール・ウルフ】のヴェルフと【ウインド・イーグル】のウォズを従えており、実に強力そうなチームを組んでいますのです。

 ……後姉様、ただの冗談だと思いますがその二匹は凄く怖がっている様なので自重して下さい。姉様の“直感”時の雰囲気は感覚が鋭い者からすると空恐ろしいモノを感じるので……。

 

「おうレント、今日はよろしく頼むぞ」

「ああ、こちらこそよろしく頼むアット」

 

 別の所では兄様が一人の男性──リアルでデンドロの情報が載ったホームページを作っている<Wiki編集部・アルター王国支部>のクランオーナーであるアット・ウィキさんと話していました……何でも以前【魔石職人(ジェムマイスター)】のジョブクエストで知り合ってフレンドになったそうです。

 

「しかし、その合計レベルに加えてもう既に上級職か。……やはり、お前の<エンブリオ>は獲得経験値増幅系か?」

「その辺りはご想像にお任せしよう。……それよりもデンドロWikiは俺も見たぞ。アルター王国の部分は中々良い感じに纏まっていたじゃないか」

「まだ、王都とその周辺の情報を僅かながら纏められただけだがな。……まあ、お前が言っていた事を参考にしてティアンへの聞き込みを重視しながら情報を集めたお陰で、他の支部よりはやや情報量が多くなったが」

 

 ちなみに<Wiki編纂部>の他のクランメンバー達も一緒に来ていたらしいのですが、人数分けの関係上あぶれてしまいこちらに回されたそうなのです……まあ組み分けの際には<マスター>同士の揉め事を減らす為に出来る限り顔見知り同士で組む様にしていたので、偶々この空きパーティーに兄様という知り合いが居た彼は自らこちらに来た様なのですね。

 ……それ故に、この様に都合よく知り合い同士が組むパーティーとなったのです。

 

「七大国の中で唯一侵入方法が分かっている神造ダンジョン<墓標迷宮>はこのアルター王国の目玉だから、なるべく早く自由に入れる様にしておきたい。……市場価格が十万リルもする以上<Wiki編纂部>全員分の【許可証】を用意するのは今のところ難しいからなぁ」

「まあ確かに首都の地下にある最下層不明のダンジョンとか、実にエンドコンテンツ感があるからな。情報を上げればホームページはさぞかし賑やかになるだろうさ」

 

 ……ふむ、まあこの様にパーティー同士の中も良い様ですし、これならこの【墓標迷宮探索許可証】入手クエストもどうにかなるでしょう! 

 

『……それでミュウ。現実逃避的にモノを考えるのも良いけど、あっちの()はどうするんだい?』

「……どうしましょう、ねぇ……」

「…………」

 

 そんなミメの声を聴きながら、私は先程からずっとこちらの事を睨みつけてくる男性──先日、私達を襲って来て返り討ちにあったPKの一人であるシュバルツ何某さんにどう対応しようかと途方に暮れました……以前、彼を直接デスペナにしたが原因なのか、最初に顔を合わせてからずっと私の方を睨んで来ているんですよね。

 ……ちなみにパーティー人数が七人なのは、リリィさんがサブジョブ入れている【指揮官(リーダー)】のスキルでパーティー枠が増えているからです。更に他の騎士さん達の話を聞くと、彼女なら即興で作られた<マスター>のパーティーでも上手くまとめられるだろうという事で、あぶれた人を優先的に回したりもした様ですね。

 

「……そして、その結果がコレなのです。確かに顔見知りではあるのですがね……」

『騎士さん達も<マスター>達の組み分けには凄く苦労していたから、あんまり文句を言う訳にも行かないしねぇ』

「………………」

 

 尚、この事に気が付いた姉様は『ミュウちゃんが彼のハート(胸部)を打ち抜いた(物理)んだから頑張ってね(笑)』と言い、兄様は『彼が用のあるのはミュウちゃんの様だから俺は離れておこう』と言ってそれぞれの顔見知りの所に行ったのです。ちくしょうです。

 ……とは言え、このまま放置しておいて今回のクエストに支障を出す訳にも行かないですし、最低限揉め事を起こさない様にはした方がいいでしょうし話し掛けるしか無いですよね……。

 

「えーっと、シュバルツさん。……別に私の事を敵視するのは構いませんが、最低限クエスト中はある程度協力してほしいのです」

「……そんな事は言われずとも分かっている。こうしてクエストを受託した以上、その間は私情を持ち込むことはせん」

 

 ふむ、私は《真偽判定》のスキルを持っては居ませんが、とりあえずは嘘を付いている感じはしないですし大丈夫そうですかね……どうやら彼は思っていたよりも真っ当なPKで幸いでし「だが!」……へ? 

 

「勘違いするなよ、俺は別に貴様と馴れ合うつもりは断じて無い! ……俺に初めて死を味合わせた女、ミュウ・ウィステリアよ……いつか必ずお前を打ち倒しこの屈辱を必ず晴らす! それまで首を洗って待っているがいい!!!」

「…………は、はぁ……」

 

 なんか、いきなりシュバルツ何某さんはこちらに指を突き付けてそんな事を宣って来たのです……つか、そんな大声で私の名前を呼ばないで下さい。周りにいる他の<マスター>やティアンがこっちを見ているじゃないですか。

 後姉様『おー、実にテンプレライバルキャラな台詞だね』とか呑気に言わないで下さい、兄様も『ミュウちゃんにやられたのにあそこまで吠えられるとは中々見所があるな』とか言って関心しないで下さい!

 ……そんな事をしていたら騒ぎを聞きつけて来たリリィさんが私達の所にやって来ました。

 

「ミュウさん、シュバルツ・ブラックさん、お二人の間に何があったかは知りませんが、今回のクエストでパーティーとして行動出来ない様であれば最悪辞退して頂く事になりますが」

「心配ご無用。……先も言った通り一度クエストを受託した以上は、そこに私情を挟むような事は一切無いと約束しよう」

「……私としてもそちらの方から仕掛けて来ない限りは何か揉め事を起こす気は無いのです」

「……どちらも嘘は言っていない様ですね。……分かりました。ですが、クエスト中は私の指示に従って諍いを起こさない様に」

 

 リリィさんは《真偽判定》で私達の発言に嘘が無い事を確認すると、それだけ注意をしてから立ち去って行きました……チッ、本当に面倒な事をしてくれますねコイツ、お陰でリリィさんに迷惑が掛ったじゃないですか。空気読めよ。

 ……尚、周りのティアンの騎士達はやや困惑している様でしたが、<マスター>達は『良いライバル系ロールプレイだな』とか『中々はしゃいどるねー』とか『殺し愛な関係かな!』とか呑気に宣ってました。やはり<マスター>(ゲーム)ティアン(リアル)では価値観に差がありますね……。

 

『御愁傷様、ミュウ』

「(ありがとうございます、ミメ。……まったく、変な奴に目を付けられたのです)」

 

 次、あのシュバルツ何某が私に襲い掛かってきたら容赦なく潰しましょう……後、自分達だけ厄介事から逃げた兄様と姉様も覚えておくといいのです。

 ……そんな風に私が頭を抱えていると、他の騎士達に指示を出していたリリィさんが私達の元に戻ってきました。

 

「さて、準備は整いましたので今からクエストを始めます。……私達のパーティーは主に<サウダ山道>から<ネクス平原>に入る辺りのモンスター討伐を行います。万が一、何かあった場合には私に聞いてください、その都度指示を出します。……それでは行きましょうか」

 

 それだけ言ったリリィさんが<サウダ山道>に向けて進んで行ったので、私達もその後を追って行きました……その直後、兄様と姉様がこちらにやって来ました。

 ……どうやら何かこっそり話をしたい事があるみたいなので、私はジト目になりながらもさり気なく二人に近づいて行きました。

 

「……何の用ですか、自分達だけ厄介事から逃げた兄様と姉様」

「あーごめんごめん。まさかシュバルツ何某があそこまで積極的とは、このミカの目を持ってしても見破れなかったよ」

「ただ睨みつけているだけで殺気や悪意は余り感じられなかったからな。……まさかあそこまで騒ぎになるとは……」

 

 ……とりあえず、兄様と姉様には後で王都のお高いお菓子を買わせる事を取り付けたので、さっさと姉様には本題に入って貰うのです。

 

「……それで? 何を感じ取ったのですか姉様」

「……うん。どうもこのクエストで何か厄介ごとがあるっぽい。それも()()()()()()()()()()()()()()()の」

「やっぱりそうか。……どうりでお前が事前に準備をしておこうと言うわけだ」

 

 まあ、姉様が『このクエストの前にお金を稼いで装備を整えよう』と言った時点である程度は予測していましたが……尚、もっと詳しい情報が知りたかったのですが、姉様曰く“このクエストで何らかの危険があり、私達がそれに関わらないとかなり多くの犠牲が出る”という事以外はまだ分からないそうです。

 

「……まったく、相変わらず肝心な所で役に立たない直感だよ」

「……まあ分かりました。私もよく注意しておくのです」

「今のところはよく注意しつつ、何かあったら相互に連絡を行いぐらいしか出来んか。……とりあえず、今はクエストに集中しよう」

 

 私達は一通り手早く話終わってから兄様がそう締め括った後に、何事も無かったかの様にパーティーに戻って行きました……内憂外患とはこの事ですかね。さて、このクエストはどうなる事やら……。




あとがき・各種設定解説

末妹:面倒なのに目を付けられた
・シュバルツ何某への評価は以前までは“強かったPK”だったのだが、今回の一件で“空気読めない奴”に変更された。

シュバルツ何某:戦線布告には成功
・ただ、テンションに任せてやらかした事を内心は後悔しており、リリィに話しかけられた時はテンパってキャラが変わっていた。

兄&妹:知り合いと友好を深めていた
・ちなみにシュバルツ何某へ特に何もしなかったのは妹が特に“危険”を感じなかった事と、彼があくまで()()()()()()()()()()()()真っ当なPKとして行動したから。

アット・ウィキ:既にクラン結成&Wiki作成済み
・今回参加したのは【許可証】自体の情報をWikiに乗せる為にクエストの詳細な情報を入手する為でもある。

エルザ・ウインドベル:妹のフレンド
・デンドロ初日組でガードナーとテイムモンスターを強化して戦う一般的な【従魔師】<マスター>。
・戦力としてはガードナー三体、テイムモンスター二体を有しており今現在の<マスター>の中ではかなり高い。
・だが、装備や食費がかかるので金欠気味であり生産職である友人から素材と引き換えに格安で装備を譲って貰ったりしている。
・今回のクエストでも<墓標迷宮>で資金稼ぎをする事を目指して【許可証】入手の為に参加した。

【代行神騎 ワルキューレ】
<マスター>:エルザ・ウインドベル
TYPE:ガードナー
能力特性:代行
到達形態:Ⅲ
保有スキル:《代行者(オルタネイティブ)》《主の加護》
・モチーフは北欧神話の戦乙女“ワルキューレ”、種族は天使で女性の人型ガードナー。
・姿形は髪型と髪の色以外は全て同じで、人型<エンブリオ>特有の食癖は“マスターが食べているものと同じものしか食べない”。
・現在の内訳は最初から居る金髪ロングストレートの長女アリア、第二形態に進化した時に生まれた銀髪ツインテールの次女セリカ、第三形態に進化した時に生まれた青髪でポニーテールの三女トリムである。
・各々の基本ステータスは初期の<マスター>並みと非常に低いが、スキル《代行者》により人間範疇生物と同じ下級職六つ、上級職二つのジョブに就きレベルを上げる事が出来る。
・ただし《代行者》で就く事が出来るのはマスターが転職条件を満たしているものだけで、更にマスター及び【ワルキューレ】の間で就いているジョブを被らせる事が出来ないデメリットがある。
・《主の加護》は【ワルキューレ】に基本ステータス補正を与えるスキルで、第三形態時には一人につき合計400%の補正を各ステータスにつき10%刻みで10%〜200%の割合で割り振る事が出来る。
・デメリットとしてマスターのステータス補正はゼロになり、一度補正を変更すると72時間は再変更出来なくなる。

リリィ・ローラン:引率担当
・色々アレな<マスター>の引率を押し付けられた苦労人。
・尚、彼女はまだマシな部類の模様……考察クランパーティーやら宗教クランパーティーやらファンクラブパーティー担当の騎士と比べれば。


読了ありがとうございました。
新しい章もこれからボチボチ投稿していくので、これからも応援よろしくお願いします。


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いきなりの不穏な気配

前回のあらすじ:末妹「チッ、空気読めよ」兄妹「「まあまあ、抑えて抑えて」」


 □<サウダ山道> 【紅蓮術師(パイロマンサー)】レント・ウィステリア

 

 さて、先程の顔合わせでは色々()あったが、俺達はとりあえずクエスト【王都周辺及びその街道沿いのモンスター討伐・調査の手伝い 難易度:三】を開始して、一路<サウダ山道>を南に進みつつ出て来るモンスターを倒していた。

 ……正直、このメンバーで上手くパーティーとして戦えるかが心配だったが、シュバルツ何某が先程言っていた言葉は嘘ではなかった様でちゃんとリーダーであるリリィさんの指示に従って戦っていたし、ミュウちゃんの方も大分機嫌が悪そうだったが動きには一切の変化は見られなかったので一先ずなんとかなりそうである。

 

「ふむ、この世界に現れてから長くてまだ一カ月程度でこの実力……やはり<マスター>という存在は色々と規格外ですね。……クエスト内容を()()()()()()に変えてまで、<マスター>との交流を深めようとした父上の判断は正しかった様ですね」

「……む? リリィさん、それは本来の【墓標迷宮探索許可証】入手クエストはこの様な内容では無かったという事なのか?」

 

 そんな俺達の戦い方を見ていたリリィさんがふと呟いた言葉に、偶々それを聞きつけたアットが非常に興味深そうな様子で反応した……アイツはこの【許可証】入手クエストの詳しい内容もWikiに載せるつもりだと言っていたから、今の彼女の発言は聞き逃せなかったのだろう。

 ……ちなみに今までも戦闘の合間などの空き時間にリリィさんに色々質問しており、そんなアットに対しても彼女は大人の対応で質問に答えていたので、今回のアイツのちょっと失礼な態度にも彼女は特に気にする事も無く答えていった。

 

「ええ、このクエストの本来予定されていた形式は『調査担当の騎士達とモンスター討伐担当の<マスター>に分けてクエストを行う』と言うものだったのですが、私の父上──アルター王国第一騎士団団長リヒト・ローランが『今後の事を考えると騎士達と<マスター>を積極的に交流させて、彼等との友好を深めつつその対応方法などを探して行った方がいい』からと、今の様な騎士団と<マスター>の混成パーティーを組んでモンスターを討伐する形式になったのです」

「ふーん、そんな裏話があったのか……」

「……国としても俺達<マスター>との付き合い方を探っている感じかな」

 

 ちなみに経験の無い<マスター>では不向きな生態系の調査の方には、それ専門のティアンと護衛の騎士で構成されたパーティーを事前に編成して各地に派遣しているとの事……今回は多くの<マスター>がクエストに参加して討伐の方には人的余裕があったので、生態系の調査の方にもそれなりの数の人材を回す事が出来たらしい。

 ……彼女のそれらの話から得た情報をメモに書いていたアットは、それを一通り書き終えた後に更にアイツにとっては重要な問いを投げかけた。

 

「……では、この【許可証】入手のクエスト内容は後々変わる可能性があると?」

「その可能性は高いでしょうね。……今の王国は急な<マスター>の増加に対して色々と対応している真っ最中ですから、このクエストだけでなく様々な事が今後変わって行くでしょう。このクエストに於いて父上が<マスター>との交流を優先したのも、今後起きるであろう変化に我々騎士団を慣れさせる為でも有るのでしょうし」

「成る程……だとすると、今後も何度かこのクエストを受けて情報を精査する必要があるか。……それに<マスター>の増加による王国の変化も考慮に入れて……」

 

 そんな事を言いながら、リリィさんの話を聞き終えてメモを取り終えたアットは顎に手をやって考え込んでしまった……彼女の話からすると<マスター>の増加による王国の変化は結構ありそうだからな。<Wiki編集部>も大変そうだ。

 尚、こんな風に呑気に喋りながら移動している様に見えるかも知れないが、俺はちゃんと索敵系スキルを使いながらモンスターを探しているし、他のメンバーも(アットはちょっと怪しいが)辺りをキチンと警戒している。

 ……そして、そんな中でも周辺の索敵に一番活躍しているのは、【従魔師(テイマー)】エルザ・ウインドベルちゃんが率いる二体のモンスター【ティール・ウルフ】のヴェルフと【ウインド・イーグル】のウォズであった。

 

『BAUWAU! (主! あっちに何体かモンスターがいますぜ!)』

『KEEE! KIEE! (こっちでも確認しました……あれはゴブリンの群れです!)』

「分かったよ……皆さん! ここから10時の方向にゴブリンの群れが居るみたいです!」

 

 この様に彼女のテイムモンスター達は、先程からずっと【斥候(スカウト)】のジョブをカンストしている俺より早くに敵であるモンスターを探し出しているのだ……リリィさん曰く『あの二匹は同種のモンスターの中でも索敵に長けた才能を持っている様ですね』との事らしい。

 ……何でもこの世界では同じ名前のモンスターでも個体によってレベル上限や得意分野などの才能が違うので、稀に特定の分野に特化した変種が生まれる事もあるのだとか。

 

「《遠視》……確かに向こうの山道にゴブリンの群れが居るな。ひーふー……二十匹ぐらいかな」

『『『『……gaa……gaaaa……』』』』

 

 俺はスキルを使ってエルザちゃんが言った方角を見てみると、そこには確かに武装したゴブリンの群れが辺りを警戒しながら進んでいるのが見えた……内訳は【ゴブリン・ファイター】【ゴブリン・ソードマン】【ゴブリン・アーチャー】と言った物理系の連中みたいだな。とりあえず敵の情報をリリィさんに伝えておこう。

 ……おっと、どうやら群れの中にいた【ゴブリン・スカウト】がこっちに気が付いたらしく、慌てて周囲にいたゴブリン達にその事を伝えているな。

 

「あっちにも斥候が居たみたいでこっちに気付かれました。今、連中は戦闘態勢を取ってこっちに向かってきました」

「分かりました。……では、アットさんとレントさんは魔法で壁と先制攻撃をお願いします。ミカさん、ミュウさん、シュバルツさんは私と一緒に前衛で戦って下さい。エルザさん達はそのフォローを」

 

 それだけの簡潔な指示を出したリリィさんは自身も武器である長槍を構えて前に出て行った……つまり、これまでの戦いと同じパターンだな。下手に複雑な指示を出しても寄せ集めの俺達では満足に動けないだろうし妥当な指示だろう。

 まあ、そもそもゴブリン二十体程度ならリリィさん一人でお釣りが来るだろうけど、彼女は俺達のレベル上げと<マスター>の実力を知る為に敵が弱い内には最低限しか戦わないって最初に言ってたからな。

 ……と、そんな事を言ってる間に向こうに居た三体の【アーチャー】がこっちに向かって狙いを定めて弓を引きしぼっていたので、こちらも魔法による応射の準備をする。

 

『GAA!』

「アット、壁頼む……《魔法射程延長》《ヒート・ジャベリン》!」

「まだ下級職の俺ではあまり射程の長い魔法は使えんからな……《詠唱》終了《アースウォール》!」

 

 その結果、あちらの三体の【アーチャー】がこちらの前衛に放った矢はアットが魔法で作り上げた土の壁に阻まれるか、狙われたリリィさんとミカが手に持った武器で払い飛ばす事で防がれ、俺が放った炎の槍は敵の【アーチャー】一体とその後ろに居た【スカウト】一体を焼き払った……うん、我ながら中々良い狙いだったな。

 更に、その隙にフリーだったミュウちゃんとシュバルツが敵の前衛である【ファイター】や【ソードマン】との戦いに入っていた……のだが……。

 

『『GYAAAAAA!』』

「おいっ! このゴブリン供なんか強くないか⁉︎」

「チッ、何をヘタレた事を……と言いたいのですが、妙に強いのは本当の様ですね。……少し《看破》してみましたが、コイツら()()()()()()()()()()()()()()バフが掛かっているみたいですし」

 

 確かにミュウちゃんの言う通り、このゴブリン達のステータスを《看破》で見てみるとそれぞれのステータスを倍加するバフが掛かっていた……元がゴブリンだからかそこまで劇的な強化では無いものの、これまで特に苦戦もせずに敵を倒して来たこちらの前衛達を手間取らせるぐらいには厄介な感じである。

 ……そして、その報告を聞きながら自分でもゴブリン達のステータスを確認していたリリィさんは、何か心当たりがあったのか顔を顰めていた。

 

「……まさか、近くに【キング】がいますか? ……皆さん、作戦を変更します。私が()()を出して早急にこの群れを討伐するので援護をお願いします。……《喚起(コール)》ティルル!」

『……承知しました、お嬢様』

 

 リリィさんははそれだけ言うと、右手に付けられた【ジュエル】から一頭の美しい薄緑色のペガサス──これまでは前述の理由で戦闘には参加させなかった彼女の愛馬である純竜級モンスター【テンペスト・ペガサス】のティルルを呼び出した。

 ……尚、普通に人語を解するモンスターは初めて見たのでちょっと驚いた。

 

「ティルル! 連中を蹴散らしなさい! ……《グランドクロス》!」

『了解しました、お嬢様……《テンペスト・アーマー》!』

『『『『GYAAAAaaaaaa!!?』』』』

 

 そしてリリィさんが指示を出すとティルルは即座に自身の身体に暴風を纏わせて目で追うのが難しい程の速度でゴブリン達に突撃し、その纏った暴風によってゴブリンを千切り飛ばしながら蹴散らして行く……更に彼女自身も、今まで使ってこなかった【聖騎士(パラディン)】の奥義である《グランドクロス》で持って地面から聖属性の十字型エネルギーを出してゴブリン達を消し飛ばして行った。

 ……いくらステータスが倍加しているとはいえ所詮はゴブリン。合計レベル483を誇るリリィさんと純竜級モンスターである【テンペスト・ペガサス】にとってはどうと言う相手では無く、それから間も無くしてゴブリン達は()()()()()消え去っていたのであった。

 

 

 ◇

 

 

 そうして戦闘(殲滅)が終わった後、俺はいきなり行動を変えたリリィさん疑問に思っている<マスター>達を代表してその理由を尋ねた。

 ……それに対して、愛馬のティルルに周辺の偵察を命じていた彼女はその質問に答えて状況の説明を始めた。

 

「それでリリィさん、何故あのゴブリン達を早急に始末したんですか? ……何かあの群れに対して心当たりがある様でしたが」

「はい、あのゴブリンの群れはおそらく【ゴブリン・キング】の配下である可能性が高いと思われたので、決着を急がせて貰いました」

 

 彼女曰く【ゴブリン・キング】とはその名の通りゴブリンの群れを率いる“王”としての能力を持ったゴブリンだそうで、単体としてのランクは亜竜級以上純竜級未満程度だそうだが、その【キング】が必ず保有する《ゴブリンキングダム》と言うスキルが厄介らしい。

 

「《ゴブリンキングダム》は複数の効果を併せ持つ複合型のパッシブスキルで、その効果は“配下のゴブリンの全ステータスを倍加し、配下が得た経験値が自身にも加算され、自身の受けたダメージを配下のゴブリンに転嫁する”と言うものです。……つまりは配下が生きている限り【ゴブリン・キング】にはダメージが通らないと言う事です」

 

 その特性上、配下の数が増えて質が増す程に【ゴブリン・キング】の脅威度は一気に上昇して行き、もし【ホブゴブリン】【ハイゴブリン】などの上位ゴブリンが配下にいた場合には群れ全体の脅威度のランクは純竜級にまで達する事もあるらしい。

 それに加えて配下の経験値を自身に加算するので成長も早く、もし【キング】がより上位のモンスターに進化して、更に亜竜級以上のゴブリンを複数従える様になった場合には小国を滅ぼす程の戦力になった事例も過去に有るのだとか。

 

「それに今遭遇した群れはその構成からおそらく偵察部隊……つまりこの【キング】は二十体程度のゴブリンなら偵察として派遣しても問題無い規模の勢力を持っている可能性が高く、かつ本隊がこの近くにいる可能性が高いと思われました。……なので、可能な限り早く戦闘を終わらせて周辺の状況を確認する必要かあると判断しました」

「成る程……分かりました、ありがとうございます」

 

 確かにそう言う理由なら決着を急ぐのも当然だし、先程真っ先にティルルを上空に飛ばしたのも納得だな……どうやら他のメンバーも今の説明に納得した様で周辺の警戒を始めている。

 ……だが、あのゴブリンの群れには()()()()()()()()()()()()があるんだよな。そこもちょっと聞いてみるか。

 

「ではリリィさん、その【ゴブリン・キング】には配下がやられた時に()()()()()()()()()()()()みたいなスキルを持っているんですか? さっきの群れが倒されてもアイテムを落とさなかったのが気になるんですが」

「えっ?」

 

 その俺の言葉に始めて気がついたのか、リリィさんと俺達三兄妹以外の<マスター>達は先程まで戦っていたゴブリンが倒された場所を振り返った……そう、この世界のモンスターは倒されたらアイテムを落とす筈なのに、先程倒したゴブリン達は跡形も無く光の塵になっていたから気になっていたのだ。

 

「あれ? お兄ちゃんが《長き腕》を使ってた訳じゃ無いんだ」

「いつも通りだから気にならなかったのです……が、この状況だと兄様はスキルをオフにしますよね」

「ミュウちゃんの言う通り、今はスキルをオフにしている。……ああでも、テイムモンスターや召喚モンスターはアイテムを落とさない設定だったか?」

「おい、ちょっと待て! ……状況がよく分からんからもっと詳しく説明しろレント。《長き腕》とはなんだ?」

 

 その可笑しな状況に対して動揺している他の人間を後目に、俺と妹二人がとそんな会話をしているとアットが詳しい状況説明を要求して来た……うん、ついいつもの癖で身内だけで会話を完結させてしまったか。

 ……今は野良パーティーを組んでいる訳だし、この不穏な状況をキチンと確認する為にもちゃんと説明しておく必要があるだろうな。

 

「えーっと、まず《長き腕》って言うのは俺の<エンブリオ>のスキル《長き腕にて掴むモノ(エクスペリエンス・トランスレイション)》の事で、このスキルは自分とパーティーメンバーが倒したモンスターがアイテムを落とさなくなる代わりに、その分だけ獲得経験値を上昇させるスキルなんだが……今回は野良パーティーだったから、色々と揉め事を避ける為にオフにしてあるんだよ。ほら」

 

 そう言って俺は《長き腕》のステータス欄をみんなに見せてスキルがオフになっている事を示した……このスキルは一度切り替えると16時間が再変更不可能な仕様であり、既に再変更可能な状態である事からこの現象は俺の所為では無い事が証明出来た。

 ……そして全員が納得した所で俺は更に話を続ける。

 

「それで、このスキルがオフになっているのにアイテムを落とさなかった事が気になって聞いてみて、確かテイムモンスターと召喚モンスターは倒されてもアイテムを落とさない設定だったと思い出した所だったんだよ」

「……テイムモンスターは倒されてもアイテムを落とさない設定ですがそれは無いでしょう。モンスターに使役されたモンスターは普通にアイテムを落としますし。……もう一つの召喚モンスターの方ですがこちらも時間制限がありますし、あの群れはかなり長時間活動していた様に見えたので可能性は低いかと」

 

 そうやって俺がこの状況での一通りの疑問点を並べると、リリィさんはそれに対して一つ一つ丁寧に答えてくれた……さて、いくつか予想は立っているが……。

 

「ふーん。……お兄ちゃんは消えたアイテム分のリソースを経験値に変換してるけど、このゴブリン達の()()()()()()()()()()()()()()()()んだろうね?」

「……【ゴブリン・キング】の変異種……いえ、まさか<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>?」

 

 ミカが発したその質問にリリィさんは考え込みながらも、思い至るいくつかの可能性を呟いた……正直、今のところ情報が少な過ぎて断言は出来ないが、俺のスキルがアイテムのリソースを経験値に変換している様に、このゴブリン達のアイテムのリソースを何かに利用している()()が何処かに居るというのが一番可能性が高い考えだろうな。

 ……そうやってメンバー達が考え込んで居る所で、辺りを偵察に行っていたティルルが地上に降りてきた。

 

『お嬢様。周辺一帯を捜索しましたが大規模なゴブリンの群れは発見出来ませんでした』

「そうですか……とりあえず、この事を他の騎士達とリヒト団長に知らせてから近くにいるパーティーと合流しましょう。……少なくとも【ゴブリン・キング】がいる事はほぼ確実ですし、もし遭遇したのなら1パーティーで戦うのは厳しいですから」

 

 そう言ったリリィさんは、アイテムボックスから通信用のアイテムを取り出して各所に連絡を取っていった……さて、こうなるとさっきミカが言った“直感”通りに中々厄介な事になりそうだな。




あとがき・各種設定解説

リリィ・ローラン:戦闘能力もかなり高い
・……というか、現在の“最盛期”近衛騎士団でも平均レベルは200後半から300ぐらいなので、愛馬であるティルルとの連携を含めれば王国騎士の中でも超級職の面々を除けば最強格。
・ジョブ構成は上級職に【聖騎士】と【天馬騎士】をカンスト、下級職に【騎士】【騎兵】【槍兵】【冒険家】【乗馬師】をカンストで【魔獣師】がレベル上げ途中。
・加えて頭も良くて指揮能力も高く(まともな人格の持ち主ばかりとは言え)<マスター>の野良パーティーを見事に纏め上げている。
・愛馬のティルルにこの歳で『お嬢様』と呼ばれるのは実は少し不満。

天馬騎士(ペガサスナイト)】:騎士系統派生上級職
・名前の通りペガサスなどの飛行可能な馬系モンスターに乗って戦う事に特化したジョブ。
・スキルは高レベルの《乗馬》や《天馬強化》《空気抵抗軽減》《重心安定》《高空適正》などの騎乗飛行補助のパッシブスキルと、飛行しながらの使用に特化した攻撃用アクティブスキルなど。
・また、聖属性の攻撃スキルや騎乗している愛馬限定の回復魔法なども覚えるので【聖騎士】とはジョブ同士の相性が良い。
・ただし、転職条件に『亜竜級以上の飛行可能な馬系モンスターの所持』があり、それらのモンスターが非常に希少なので転職難易度は上級職の中ではトップクラスに難しい。
・尚、飛行可能な馬系モンスターには西方だと翼の生えた馬である“ペガサス”、東方の黄河には竜の要素が入った馬である“竜馬”が居たりするが、どちらも希少な上にプライドが高く乗せる人間を選ぶ。

ティルル:リリィの愛馬である【テンペスト・ペガサス】
・純竜級のモンスターで風属性の防御魔法や飛行補助魔法に長けており、通常飛行速度でも亜音速を超え、スキルを駆使すれば一時的に超音速飛行が可能な程の能力がある。
・《テンペスト・アーマー》は暴風の鎧を纏って自身と騎手への攻撃を防ぎ、近くに居る相手に風属性の攻撃を行うスキル。
・人語を話す程の高い知能を持っており、また《人化の術》でメイド服姿の女性に変身したりも出来る。
・実は【天翔騎士】リヒト・ローランの愛馬【ハイエンド・セイクリッド・モノペガサス】デュラルの娘で、リリィとは幼い頃からの付き合い(お嬢様呼びもこの所為)


読了ありがとうございました。
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パーティー合流と情報整理

前回のあらすじ:妹「何故かゴブリンがアイテムを落とさない……謎だね」兄「謎だな」末妹「謎なのです」


 □<サウダ山道> 【戦棍騎士(メイスナイト)】ミカ・ウィステリア

 

 ……私達ウィステリア三兄妹はパーティーを組んで【墓標迷宮探索許可証】を入手する為のクエストを受けている途中、“倒したゴブリンが何故かアイテムを落とさない”という怪現象に遭遇した。更にそれらのゴブリンが強化されて居た事から、パーティーのリーダーである近衛騎士団所属の【天馬騎士(ペガサスナイト)】リリィさんは『【ゴブリン・キング】の存在はほぼ確実。

 加えてアイテムを落とさない現象の事を考えるにそれ以外の異常が発生している可能性もある』として、その異常事態を同じクエストを受けている付近のパーティーやアルター王国第一騎士団団長【天翔騎士(ナイト・オブ・ソアリング)】リヒト・ローランさんに魔道具を使って連絡を取って居たんだけど……。

 

「…………はい、分かりました。では、こちら側は部隊を合流させて異常事態の調査を続行します。……それでは皆さん、これから私達は近くにいるパーティーと合流してこの異常事態の調査を行う事になりました。とりあえず通信で分かった現在の状況を説明します」

 

 通信で情報を集め終わったリリィさん曰く、南側に居る他のパーティーでも倒したゴブリンがアイテムを落とさない現象が確認出来ており、更に複数のパーティーがゴブリンの部隊に遭遇している事から【ゴブリン・キング】が率いて居る戦力は相当なものになっていると思われる。なので二、三パーティーになる様に合流した上で<サウダ山道>周辺のゴブリンについて調査を行う事になったみたい。

 ……ただ、こちら側の最大戦力である<超級職(スペリオルジョブ)>のリヒトさんは現在<ノズ森林>の方に現れた純竜級モンスターと交戦中だそうで、<サウダ山道>に来るまでしばらく時間が掛かるのでそれまでは相手の規模を測る為の調査に集中して、もし規模が大きかった場合には可能な限り交戦を避けて援軍を待つ方針で行くとの事。

 

「……では皆さん、ここまでの説明で何か質問はありませんか?」

「特に文句を付ける所が無い説明だったから質問は特に無いですね。俺はそれで構いませんよ」

「実に分かりやすい説明だったしな。……それに編集部としてはこんな異常事態の情報を逃す手は無い」

「私も大丈夫です」

「……パーティーリーダーの指示に従うだけだ」

 

 そんな感じでパーティーメンバー全員がリリィさんの説明に納得してその提案に従う事を決めた為、私達はまず他のパーティーと合流する事になったのだった。

 

「それでは、近くにいるパーティーと合流しましょうか。……報告によると<マスター>と組んでいるパーティーが一つ、騎士だけで組んでいる調査担当パーティーが一つこの近くに居る様なので、それぞれの中間地点辺りを合流する事にしましょう。……それとティルル、貴女は上空から周辺の警戒を。何かあったら知らせなさい」

『承知しました、お嬢様』

 

 そうして私達は周囲を警戒しながら<サウダ山道>の街道を進んでいったのだった……うん、今の所は順調に進んで居るね。私の“直感”も『このままでいい』と言ってるし、後はここから先に何が待ち受けて居るかかな……。

 

 

 ◇

 

 

「……それでは、そちらが遭遇したゴブリンもアイテムを落とさず、ステータスが倍加して居たのですね?」

「はい、ローラン卿。……相手は下級のゴブリンでしたし、パーティーを組んで居た<マスター>の方の助けもあってどうにか撃破出来ました」

「それと周辺を調査した結果、この近辺でのゴブリン以外のモンスターの数がかなり減って居るようです。……確か、過去に【ゴブリン・キング】率いる群れが経験値稼ぎの為に周辺のモンスターを狩りつくす行動を取った事があるらしいので、これもその類いである可能性は高いかと……」

「【探偵(ディティクティブ)】【警邏(パトロール)】【追跡者(チェイサー)】などのジョブスキルで調べましたが【ゴブリン・キング】を見つける事は出来ず……」

 

 はい、そういう訳で私達は特に何事も無く無事に近くのパーティーと合流する事が出来ました……そして、今はリリィさんに『自分達が情報交換をしている間に、<マスター>達は今後の事を考えてお互いの自己紹介と情報交換をしておいてほしい』と頼まれたんだよね。

 ……相手方の<マスター>は男性一人、女性二人の三人パーティー(それとガードナーの<エンブリオ>っぽいのが居る)みたいだけど、どうやらアットさんの知り合いらしく……。

 

「……というか、合流するパーティーの<マスター>達はお前等だったのか。まあラッキーかな」

「いやー、組み分けでハブられたオーナーが戻ってきてくれて助かったよ。正直慣れない指揮がキツかったし」

「<Wiki編纂部>の戦闘パーティー復活ですね」

『KUEE』

「オーナーと合流出来て良かったです」

『『『よかったなー』』』

 

 実は、向こうの<マスター>達はアットさんがクランオーナーを務める<Wiki編集部>のクエストに参加した残りメンバーだったんだよ。お陰で、特に揉め事とかが起きる事無くスムーズに合流出来たね。

 ……おっと、よく見たらそれに私達に縁があった人も居るし、ちょっと挨拶しておこうかな。

 

「やぁ、アミタリアさん。久しぶりだね」

「えっ? ……ああ! ミカさん達がオーナーのパーティーに居たのか。これは頼りになりそう」

「アミタリアさんこそ、今日はよろしくお願いしますのです」

「……しかし、考察クランである<Wiki編纂部>に入っていたとは驚いたな」

 

 そう、向こうの<Wiki編纂部>パーティーには、以前どっかのカマキリをボコった時に知り合った<マスター>であるアミタリアさんが居たんだよね。

 ……しかし、お兄ちゃんの言った通り彼女が<Wiki編集部>に加入してたとはちょっと驚いたよ。人の縁とは不思議だね。

 

「まあね〜。……元々、私は適当に走り回りながら色々な景色を見たいと思ってデンドロを始めたんだけど、この世界は本当に広いからね。せっかくだからもっと色々な事が知りたいと思ってこのクランに入ったのさ」

「……アレ? アミタリアさん、お知り合いですか?」

「アミタリア、お前レント達と知り合いだったのか?」

 

 そんな感じで私達三人がアミタリアさんの話を聞いていると、それに気付いたアットさんと<Wiki編集部>の残りのメンバーである弓を持って肩に烏を乗せた男性と、周りに小さい妖精? みたいなのを連れた少女がこっちにやって来た。

 ……今後も行動を共にする訳だし、丁度いいから初めて会った人達には自己紹介もしておこうかな。

 

「初めまして。私は【戦棍騎士】のミカ・ウィステリアだよ。今日はこれからよろしくね」

「【武闘家(マーシャル・アーティスト)】のミュウ・ウィステリアなのです。よろしくなのです」

「二人の兄の【紅蓮術師(パイロマンサー)】レント・ウィステリアだ。よろしく」

「あ、これはご丁寧に。……僕は【狩人(ハンター)】の久遠(くおん)たむーです。こっちは僕の<エンブリオ>【誘導神鳥 ヤタガラス】です」

『KUEEEE!』

 

 まず、弓装備で狩人っぽい格好をした青髪の男性の名前は久遠たむーさん。その肩には【ヤタガラス】と言うらしい三本足で黒い羽毛に所々金色が入っている見た目の烏型<エンブリオ>を乗せている。

 

「私は【魔術師(メイジ)】のリゼ・ミルタと申します。……そして、この子達が私の<エンブリオ>の【支援妖精 フェアリー】達です」

『はじめましてー』

『よろしくなー』

『こんごともごひいきにー』

 

 もう一人の茶髪の少女の名前はリゼ・ミルタちゃん。彼女はお兄ちゃんも以前使っていた【リトルトレントの魔杖】と【マジックローブ・1】の女性用を装備していて、周りにはそれぞれ別の色のトンガリ帽子と服を着た身長20センチぐらいのゆるキャラ妖精──彼女の<エンブリオ>である【フェアリー】達が飛び回っていた。

 ……そんなこんなで、私達のパーティーと向こうのパーティーは一通りの自己紹介を済ませ終わり、引き続き周囲を警戒しつつ騎士達の話が終わるのを待つ事にした。

 

「現在のところ分かっている情報は以上です」

「……成る程、分かりました。……やはり、現在集まっている情報だけではこの異常事態の原因までは分かりませんか……。<マスター>の皆さんも自己紹介は終わった様ですし此方へ。現在分かっている情報とこれからの行動予定を話します」

 

 そうして情報交換が終わったらしいリリィさんが私達を呼んで現在分かっている情報を話し始めた……彼女が言うには、現在分かっている限りで『ゴブリンのステータスが倍加している』『ゴブリンが複数の部隊に別れて組織立って行動している』『ゴブリン以外のモンスターが非常に少なくなっている』『ゴブリンを倒してもアイテムを落とさない』といった感じらく、アイテムを落とさない部分以外は【ゴブリン・キング】が発生した過去の状況と酷似しているとの事。

 

「そういう訳で、これから私達はやるべき事はゴブリン達を強化・指揮している【ゴブリン・キング】らしき個体を探し出す事です。……ただし、アイテムを落とさないという前例の無い事態が発生しており、最悪<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>が発生している可能性も想定して援軍が来るまでは調査を優先して可能な限り交戦を避けます。……もし<UBM>が発生していた場合、この戦力では太刀打ち出来ないでしょうから」

 

 そう言ったリリィさんと他の騎士達の雰囲気は非常に深刻なものであり、それにつられて私達<マスター>の雰囲気も真剣なものになった……<UBM>とは今まで遭遇した事は無いけど、彼等の雰囲気からして通常モンスターとは比べ物にならない実力なんだろうね。

 ……みんながそんな雰囲気になった事に気が付いたのか、リリィさんはおそらくワザと笑みを浮かべながら雰囲気を柔らかいものに変えながら話を続けた。

 

「……まあ、しばらくすれば援軍としてこれまで多くの<UBM>を倒した経験のある超級職であるリヒト団長が来てくれますし、それまでは調査に徹すれば良いだけですからあまり緊張しないで下さい。……それでは、ここまでの事で何か意見や質問はありますか?」

「……それじゃあ、質問では無いんだが一ついいか?」

 

 リリィさんが説明を終えた後、意見を求めた彼女に対してアットさんが手を上げて一つの提案をした。

 

「うちの久遠たむーの【ヤタガラス】には設定した“目的地”に向かう事が出来る《神鳥の導き》ってスキルがあるんだが、それを使えばその【ゴブリン・キング(仮)】の居場所が分かるかもしれないぞ」

「本当ですか⁉︎」

「うん。……まあ、スキルの発動にはいくつか条件があるんだけどね」

 

 具体的に《神鳥の導き》とは“目的地”に対する情報量・現在地からの距離・自身のジョブレベル及び<エンブリオ>の到達形態・目的地の希少性や隠蔽度合いなどからスキルが発動出来るかを【ヤタガラス】が判定して、可能であれば【ヤタガラス】がそこまで飛んで行くというスキルらしい……とはいえ、“一度会ったことがある人”とかでも、余程距離が離れていなければ問題無く発動可能なぐらいには判定条件は緩いらしいけど。

 ……まあ、そんなこれまでの大前提を覆す様な爆弾発言を聞いた騎士達には少し動揺が広がったりしたけど、そこは歴戦の騎士達だけあって直ぐに冷静さを取り戻したみたい。

 

「それでは久遠たむーさん、そのスキルは発動出来るんですか?」

「んー、ちょっと待ってね……ヤタ、この辺のゴブリン達を指揮している【ゴブリン・キング(仮)】を目的地に《神鳥の導き》は使える?」

『……オッケー! イケルヨー!』

「えっ! 喋れるの⁉︎」

『チョットダケナー!』

 

 ちょっと驚いて言葉が出てしまった私に対して、そう答えた【ヤタガラス】はそのまま身体を金色に光らせながら飛び立っていった……そして、その航跡には金色に輝く光の帯の様なものが現れていた。

 

「あ、あの金の帯はスキル使用中にヤタが通った後の記す為のもので、しばらくは残り続けるのでアレを目印に後を追えば目的地に着けますよ」

「ありがとうございます、久遠たむーさん。お陰でこの事件の解決の糸口がつかめそうです。……しかし、<エンブリオ>とは本当に凄いですね。これで指名手配犯とか終えませんかね」

「うちのクランに依頼をしてくれれば報酬次第で請け負うが? うちは方針上そういう<エンブリオ>の持ち主が多いし。……尚、報酬は王国の希少な情報とかでも良いぞ」

 

 そんな会話をしつつも、私達は目印である金色の帯が消えないうちに急いで【ヤタガラス】が飛んで行った方向へと向かって行ったのだった……さて、私の“直感”は『この先に強敵がいる』ってビンビンに行ってるんだけどどうなるかな。

 ……私の“直感”ってその裏付けとかは取れないからね。お兄ちゃんやミュウちゃんには信じて貰えるんだけど、こういう時に他人へ話し難いのがもどかしいよ。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ◾️<サウダ山道> ??? 

 

 ……そこは<サウダ山道>の南側にある山岳地帯、すぐ南には<ネクス平原>があるその場所には百を超える多数のゴブリンと、それらを指揮する一体の“王”の姿があった。

 その“王”の姿は身長3メートル程、肉体は全面的に引き締まった筋肉質で、その背には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を背負っているという、一眼見るだけでも高い戦闘能力を持っていると分かる出で立ちだった。

 ……そして、今その“王”は周囲の偵察に出ていた指揮下の【ゴブリン・スカウト】の報告を黙って聞いていた。

 

『報告します。……現在、北にある大きな街から多数の人間の戦士が出てきている様です。……どうやら奴等は街道周辺の調査とそこに居るモンスターの討伐を行なっているようで、現在でも威力偵察に出ていた下級部隊がいくつかやられています』

『……ソウカ。……ダガ、死ンデイッタ者達ノ一部ハ帰リ、再ビコノ世ニ舞イ戻ルデアロウ……』

 

 その報告を受けた“王”は、どこか遠くを見ながらそんな事を呟き……直後、その雰囲気を一変させて身体中から戦意を立ち上らせた。

 ……そのまま背中に挿した大剣を引き抜き掲げて、指揮下のゴブリン達に宣言した。

 

『ダガ、我等ノ同胞ヲ殺シタ人間ドモヲコノママ放ッテ置ク訳ニハ行カヌ。……皆ノ者、出陣デアル! ソノ人間ドモヲ一人残ラズ殲滅シ、我等ノ糧ニシテクレヨウ!』

『『『『『おおおおおおおおおおおお──────っ!!!!!!』』』』』

 

 その“王”が発した宣言に周りに居たゴブリン達──【ホブゴブリン・ウォーリア】【ホブゴブリン・ソードマン】【ホブゴブリン・ランサー】【ホブゴブリン・アーチャー】【ホブゴブリン・メイジ】【ホブゴブリン・プリースト】などの()()()()()()()()()達を含む軍勢が大声で答えた。

 

『……ソウダ、我等ノ敵ヲ殲滅シ一人残ラズ糧トスル……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ノダカラ……』

 

 ……その歓声の中で“王”が呟いたその言葉を聞いた者は居なかった……。




あとがき・各種設定解説

アミタリア:編纂部メンバーその一
・クラン内での主な役割は戦闘と<エンブリオ>で必要な人材を運ぶ移動要員。

久遠たむー:編纂部メンバーその二
・編集部に入ったのは元々ゲームでは色々な所を見て回って考察とかをネットに上げるタイプだったから。
・ゲームでの名前はその場で適当なネタネームをつけるタイプ(現在の名前についても特に気にしていない)

【誘導神鳥 ヤタガラス】
<マスター>:久遠たむー
TYPE:ガードナー
能力特性:導き
到達形態:Ⅲ
固有スキル:《神鳥の導き》《金烏の炎》《誘導光》《視覚転写》
・モチーフは日本神話に登場するカラスにして導きの神“八咫烏”。
・外見は小型の三本足のカラスでステータスはMP・AGIが高く、頭も良いので短文なら喋る事も可能。
・《神鳥の導き》は一度使用を終えると1時間のクールタイムが発生する。
・《金烏の炎》はMPを消費して目視した対象を追尾する金色の炎を発射して攻撃するスキルで、弾速と追尾能力にリソースを多く割いているので威力は低め。
・《誘導光》は【ヤタガラス】が攻撃を当てた事がある敵一体に金色の光を纏わせて、その対象を狙ったマスターの攻撃に誘導効果が付加される様になるMP消費のアクティブスキル。
・《視覚転写》はMPを消費して【ヤタガラス】の視界をマスターに見せるスキルで、その間はマスターが覚えている視覚系スキルを【ヤタガラス】越しに発動させる事も出来る。

リゼ・ミルタ:編纂部メンバーその三
・実は魔法少女に憧れてこのゲームを始めた人で、魔術師ギルドでデンドロ魔法の考察をしていた所をアットにスカウトされた。
・編集部では魔法に関する考察と魔法戦力が必要な時の戦闘要員を担当している。

【支援妖精 フェアリー】
<マスター>:リゼ・ミルタ
TYPE:ガードナー
能力特性:魔法運用支援
到達形態:Ⅲ
固有スキル:《マジカル・ラーニング》《マジカル・コントラクト》《フェアリー・コーラス》
・モチーフは西洋の神話や伝説に登場する超自然的存在の総称“フェアリー”。
・見た目は20センチくらいの三頭身ゆるキャラ妖精で第三形態では三体存在し、ステータスは全て同じでMP特化で他はAGIが少し高いぐらい。
・《マジカル・ラーニング》はマスターが習得した魔法系スキルを100%の確率で、或いは発動を目撃した魔法系アクティブスキルを最大で10%ぐらいの確率で【フェアリー】がスキルレベル1の状態でラーニングするスキル。
・《マジカル・コントラクト》は【フェアリー】が覚えている魔法を、その一体につき事前に設定した一つだけマスターが使える様になるスキル。
・《フェアリー・コーラス》はマスターが使用可能な魔法一つを【フェアリー】と一緒に発動させる事で効果を大幅に上昇させるアクティブスキル。
・要するにマスターと【フェアリー】達限定で《ユニゾン・マジック》を発動させるスキルであり、使用後に十分のクールタイムが課せられる。
・メタ的にはリメイクによる話の展開上リストラされた【フェアリー】を設定を変えて再登場させた形。

リリィ&騎士達:アルター王国は人材豊富()
・王都の警備を担当している第一騎士団は犯罪の捜査なども仕事にある為、それに対して有用なジョブをメインにしている者も多数いる。
・尚、騎士団だからといって必ずしもメインジョブを騎士系統にしなければならない訳では無い(次代の【天騎士】候補を育てる理由もあって近衛騎士団は別)
・なので、事務方や捜査担当はジョブ同士の相性の関係で騎士系統のジョブに就いていない者も多い。
・と言っても、騎士の国だけあって騎士系統のジョブに適正を持つ者が多いので、戦闘系騎士団員のメインジョブは殆ど騎士系だが。

“王”:<サウダ山道>のゴブリンを指揮する存在
・詳細はまだ不明。


読了ありがとうございました。
次回からはおそらく本格的に話が動き始めると思います。


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野生の <UBM>が 現れた!

前回のあらすじ:妹「そういう訳で<UBM>捜索に出発だよ!」末妹「はーい!」兄「……多分、何かあるんだろうなぁ……」


 □<サウダ山道> 【武闘家(マーシャル・アーティスト)】ミュウ・ウィステリア

 

 そんな訳で、私達は現在<Wiki編集部>のメンバーである久遠(くおん)たむーさんの【誘導神鳥 ヤタガラス】のスキル《神鳥の導き》によって<サウダ山道>で起きた事件の原因と思われる【ゴブリン・キング(仮)】の足取りを追っているのです。

 しかし、<エンブリオ>とは本当に便利ですね。特にこの手の調査・探索作業ではオンリーワンのその能力が凄く活きるので、ジョブスキルとかよりも活躍出来る感じですかね……調査・索敵特化でジョブを埋めると戦闘能力が落ちますし、フィールドに出るならある程度のステータスは必要ですし。

 

『僕は戦闘特化……しかも、強敵とのタイマン特化だからねー。今日はあんまり活躍出来ていないよ。……ステータスを感知する感覚も基本的には近くにいる敵対対象にしか効果を発揮しないし』

「(まあまあ、ミメも進化によってMP以外のステータスもそこそこ上がっていますし、その分だけ融合している私のステータスも上がっていますので全く役に立っていない事も無いですよ。……それに姉様の“直感”ではこの先で強敵と遭遇するらしいですので、ミメが活躍するのはそこになるでしょう)」

 

 ちなみに第三形態ガードナー時に於いての【ミメーシス】のステータスはMPが15000強、SPが5000、HPが2000、STR・END・AGIが500、DEX・LUCが100弱と言ったところなので、王都周辺の雑兵を相手取るには十分過ぎるステータスバフになっているのです。

 ……さて、そんなこんなで途中にモンスターと遭遇する様なトラブルも無いままに金色に光りながら空を飛ぶ【ヤタガラス】を追っていた私達なのですが、しばらくすると突然先頭を進んでいたリリィさんの懐から何かのアラームの様な物が鳴り始めたのです。

 

「……ん? 緊急連絡用のマジックアイテムが反応している……相手はリリアーナですか。……こちらリリィ・ローラン、どうしましたか?」

『ザザザッ……こちらリリアーナ! 現在ゴブリンの群れを引き連れた<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>と遭遇して交戦中! 敵の名前は【魔刃戦鬼 ゴb……キャアアアアア!!! …………ブツッ』

「ッ⁉︎ リリアーナ! リリアーナ! ……駄目ですね、通信が切れました」

 

 そして、リリィさんが懐から取り出した宝玉の様な物からは、周囲に居た私達にすらも聞こえる様な音量でリリアーナさんの非常に焦った声が聞こえてきました……聞こえてきて内容から察するに、どうやらリリアーナさんのパーティーに<UBM>が襲来してしまった様ですね。しかもゴブリンの群れを引き連れて。

 ……その通信を聴き終えたリリィさんは雰囲気を厳しいものに変えつつ、即座にアイテムボックスから一枚の地図型マジックアイテム──パーティーの騎士に持たせている発信機的マジックアイテムの位置情報を示すための物──を取り出して、それを食い入る様に見つめました。

 

「…………チッ、やはり今現在私達が向かっている方向にはリリアーナ達のパーティーが居ますか。どうやらこちらで追っていたヤツが先に仕掛けて来た様ですね。……セイラン卿、私は先行してリリアーナ達の救援に向かいます。貴方達はリヒト団長達に<UBM>の出現情報を伝えた後に、<マスター>達を連れてこちらへ向かってきて下さい」

「ハッ! 了解しました!」

「頼みましたよ。……ティルル!」

『了解です、お嬢様』

 

 素早く状況を整理し終わったリリィさんは近くに居た騎士に声をかけた後、呼び寄せた【テンペスト・ペガサス】のティルルに飛び乗ってそのままリリアーナさん達の下に飛び去って行きました。

 また、指示を受けた騎士さん達は各々が持っている通信様のマジックアイテムを取り出して、先程リリィさんに言われた通り現在の状況をリヒト団長を始めとする他の騎士達に伝えている様ですね。

 ……さて、そんな状況なので私達<マスター>組は何をして良いのか分からない事もあって、とりあえず邪魔にならない様に大人しくしていたのですが、ただ一人ウチの姉様だけは行動を起こしたのです。

 

「ねえねえ久遠たむーさん、上で飛んでる【ヤタガラス】の追跡スキルはまだ有効? それとアミタリアさん、貴女の<エンブリオ>で人一人を運んでリリアーナさん達の所に行く事は出来そうかな?」

「え? ……ヤタのスキルはまだ有効だけど……」

「私の【プリトヴェン】も第三形態になってからは、同行者を乗せたままである程度の飛行が可能になりましたが……まさか、ミカさんは襲撃されているティアンを助けに行こうと?」

 

 まず、姉様はアミタリアさんと久遠たむーさんにそんな質問をしていました……そして、それを聞きつけた他の<マスター>組もちょっと暇していた事もあって姉様の下に集まって来ました。

 ……これ幸い(おそらくは狙い通り)に姉様は自分がやろうとしている事をみんなに話始めました。

 

「まあ、アミタリアさんの言う通り襲撃を受けている向こうに援軍を送り込もうぜ! って感じの提案なんだけどね。……もちろん案内役の久遠たむーさんと輸送役のアミタリアさんがいいのならだけど」

「僕は元々ヤタのスキルで案内するつもりだったし構わないけど……アミタリアは?」

「私も構わないよ。ミカさん達には()()も有るしね。……とはいえ、一応クランとしてはオーナーの指示を確認したいけど……」

 

 二人の方はそれなりに協力してくれる気に成っていますが、やはりそこはクランの一員と言う事でオーナーであるアットさんに伺いを立てる事に。

 

「……そうだな、一つ条件がある。出来れば今回交戦した際の<UBM>の情報をこちらに渡して欲しいのだ。<編集部>としてはまだ殆ど目撃例が無い<UBM>の情報を入手する絶好の機会を逃したくは無いしな。……それさえ守ってくれるのならばクランとして全面協力しても良い」

「オッケー、じゃあ私達三兄妹が得た今回の<UBM>に関する情報は全部<Wiki編集部>に渡すよ。……と、言うわけで援軍よろしくねミュウちゃん」

 

 ……まあ、そんな感じで<UBM>に関する情報提供を対価として割とあっさり話が付きましたので、私がアミタリアさんの【プリトヴェン】に乗って援軍に行く事になりました。

 

「え? ミカちゃんが援軍に行くんじゃないの?」

「いやぁエルザちゃん、多分私が行ったところで瞬殺されるだけだしね。……それにミュウちゃんは相手次第なら純竜級モンスター相手でも互角に渡り合えるから適任なんだよ」

「相手がステータス特化であればミメのスキルで互角には持ち込めますから」

『でも、MP特化やスキル特化の相手だとキツイけどね』

 

 まあ、姉様がそう言っている以上は今回の相手は高ステータス型のモンスターなのでしょうが、何分始めて戦う事になる<UBM>ですし気合いを入れ直して行くとしましょう。

 ……ただ、そのすぐ後に兄様から『流石に騎士さん達に話を通さずにに行くのは問題だから、ちゃんと許可を取った方がいいだろう』と言われたので、連絡中の騎士の中でリーダー格っぽいセイランさんと言う人に話を通しておく事になりましたが。

 

「…………と、言うわけでして俺達の方からも<UBM>に襲われている場所に援軍を派遣したいんですが。ウチのミュウちゃんは強いですよ。亜竜級ぐらいならタイマンで倒せますし」

「それに、どうせ俺達は不死身の<マスター>だからな。……何ならティアンの騎士達の盾として使ってくれても構わないぞ」

「ふむ分かった、いいだろう。……ただし、向こうではリリィさんの指示に従う様にな」

 

 とりあえず、割と交渉事に長けている兄様とアットさんがセイランさんに話を通してあっさりと許可を取ってくれましたね……アレはどちらと言うと兄様達の交渉が上手いのではなく、セイランさんの方に何か考えがある感じでしたが。

 ……その結果に苦言を呈している騎士達を<UBM>の脅威を引き合いに出して諌めている様子を見るに、どうやら襲撃して来た敵を相手取る為には少しでも多くの援軍が必要になると考えている様ですね。

 

【クエスト【救援──アルター王国騎士団 難易度:八】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 ……あ、何かクエストを受けた扱いになりましたね。まあいいでしょう、やる事は変わりませんし。

 

「よし! 許可も取った事だし頑張ってね! ミュウちゃん、アミタリアさん」

「分かりました、任せて下さいなのです。……では、お願いしますのですアミタリアさん」

「オッケイ! じゃあ【プリトヴェン】の後ろに乗ってくれい」

「ヤタ、二人の案内を頼むよ」

『マカセロー!』

 

 そんな訳で、私はアミタリアさんが乗っている【プリトヴェン】の後ろに乗りこみました。

 

「それじゃあ出発! 舞え【プリトヴェン】! 《ホバーダッシュ》!」

 

 そして、私達を乗せた【プリトヴェン】は底部から風を噴射しながら舞い上がり、そのまま先導する【ヤタガラス】を追って空を飛んで<UBM>との戦いに赴くのでした。

 

 

 ◇

 

 

「おお! 空を飛ぶのは初めてですが、実にいい眺めなのです!」

「でしょでしょ! 【プリトヴェン】が進化して一番良かった所は出力が上がって空を飛べる様になった事なんだよねー!」

 

 そんな感じで、私とアミタリアさんは先導する【ヤタガラス】を追いながら空の旅を少々不謹慎ながらも満喫していました……ちなみに【プリトヴェン】には移動時の空気抵抗を軽減するパッシブスキル《ウィンドリダクション》があるので、思った以上に快適な空の旅になっているのです。

 ……しかし、こんな風に空を飛びながら景色を眺める事が出来るのは良いものですね。デンドロファンタジー万歳です。

 

『……ミエテキター! モクテキチー!』

「おっ、どうやら目的地に近づいて来たみたいだね」

「そうみたいですね。……そう言えば双眼鏡が有ったので使ってみましょう。後はミメ、敵を感知したら教えて下さい」

『分かったよ』

 

 目的地が見えて来た事を【ヤタガラス】が教えてくれたので、私はアイラさんが『野外行動のおススメ品』として提示したので買っておいた双眼鏡をアイテムボックスから取り出して進行方向を覗いてみました。

 

「くっ! 《ディバイン・チャージ》!」

『《テンペスト・アーマー》!』

『ヌルイワ! 《インフェルノ・ブレード》!』

 

 そこには【テンペスト・ペガサス】のティルルに跨って手に持った長槍に白い輝きを宿しながら突撃するリリィさんの姿と、その突撃を紅蓮を纏った大剣で迎え撃ち逆にリリィさん達を吹き飛ばしてすらいる一体の大鬼の姿がありました。

 ……吹き飛ばされたリリィさんはそれでもティルルが使っていた風の鎧によって炎による熱を防ぐと共に致命傷を避けており、そのまま翼を羽ばたかせて態勢を立て直して再度大鬼に向かって行きます。

 

「……アレが<UBM>ですか。成る程、確かに桁外れですね。それに周りには大量のゴブリン達まで居ますし」

「そっちは他の騎士達と<マスター>達が戦っているのかな」

 

 そして、その周りには多数のゴブリン達が残りの騎士達や<マスター>達と戦っていました……どうもこちらの方が状況が悪いみたいですね。騎士や<マスター>達の中にはかなりのダメージを負った人もいる様ですし、ゴブリン達の質もこれまでの者より高そうで何より数で押されています。

 ……確か【ゴブリン・キング】のスキル《ゴブリンキングダム》にはステータス倍加と身代わりの効果があると言う話でしたし、リリィさんは上手くヒットアンドアウェイで時間を稼いでいますがこのままだとまずいですね。

 

「……アミタリアさん、あの大鬼の近くの地面に降ります。アレは私とミメが相手をするので他の人の援護をお願いするのです」

「分かったよ、気を付けてね。……ヤタ! あんたは私と一緒に他の人の援護だよ!」

『カラスヅカイガアライナー!』

 

 そうして、アミタリアさんは私を地上に降ろした後に【ヤタガラス】と一緒に他の人達とゴブリンの相手をしに行きました……さて、とりあえず先に【MP持続回復ポーション】──15分間だけ5秒毎にMPを最大値の1パーセントずつ回復させるポーションを飲んでから、私はあの大鬼の下に向かって行きました。

 ……幸いというか何というか、リリィさんと大鬼の戦いに巻き込まれないためかその近くにはゴブリンとかは居なかったので特に問題なく近づく事が出来たのです。

 

『……ムウ、ナニモノダ?』

「貴方の敵ですよ【魔刃戦鬼 ゴブゾード】さん(ミメ、スキルを)」

『《天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》で上から三つコピー……ステータスはSTRが7648、ENDが6316、AGIが5732だよ』

 

 成る程、この大鬼の<UBM>──頭上の表記を見ると【魔刃戦鬼 ゴブゾード】と言うらしい──は純竜級すら優に超えるとんでもないステータスをしている様ですね……MPの回復量込みでもスキルの判定を超えられるのはギリギリ三回、コピーしているステータスは三つなので維持時間は6分ぐらいでしょうか。

 ……そこに私が来た事に気が付いたリリィさんが、高度を少し下げてこちらに声を掛けて来ました。

 

「ミュウさん! 何故ここに⁉︎」

「援軍に来たのですよ。……コイツは私が引き受けますので他の人達の援護に向かって下さい。正直言って、そっちの方が状況ヤバイのです」

 

 実際、周囲のゴブリン達は数でも百体を超えており質においても亜流級に迫る個体も居るので、相手をしている騎士達と<マスター>達はかなり不利な状況に陥っているのです

 ……まあ、彼等も向こうで()()()()()()を展開している女性を中心に、ひとかたまりとなって防戦する事で辛うじて凌いでいる様ですが今のままだとあまり長くは持たないでしょう。

 

「そういう訳で、向こうに雑兵を蹴散らせるリリィさんが行かないと詰みかねませ……むっ」

『余所見ヲシテイル暇ガアルノカ? 《ダッシュ・スラッシュ》!』

「ミュウさん⁉︎」

 

 私がリリィさんと話しているのを隙と見たのか、【ゴブゾード】はおそらく加速系のアクティブスキルを使って音速に迫るぐらいの速度でこちらに突撃しながら両手持ちの大剣を振り下ろして来ました。

 ……しかし、コイツは()()()が目の前にいる敵から注意を逸らすなんて事があると思っているんでしょうかね。

 

「……確かに早いですが見切れる範囲なのです。《カウンター・ブロウ》!」

『ナッ⁉︎ ……グハァァァァァ!!!』

 

 ……【ゴブゾード】が放った斬撃を私は上昇したAGIもあり紙一重で見極めて躱しつつ、そのまま相手の懐に潜り込んでカウンター時に威力を大幅上昇させるアクティブスキル《カウンター・ブロウ》でその腹部を殴り飛ばしました。

 

「ご覧の通り、私一人でもコイツの相手は出来るので向こうの援護に行ってください」

「……分かりました。御武運を!」

 

 今の攻防のお陰で踏ん切りがついたのか、リリィさんはティルルを駆ってゴブリン達と戦っている騎士達の下に行ってくれました……よし、これでとりあえずの“詰み”は回避出来ましたかね。

 

『……油断シテイタノハコチラダッタカ。貴様ハ我ガ全力デモッテ相手ヲスル必要ガアリソウダナ』

「一切のダメージは無し、やはり《ゴブリン・キングダム》による身代わりは健在ですか」

 

 その直後、吹き飛ばされはしたが身代わり系スキルのお陰でダメージゼロな【ゴブゾード】が、よく見るとデザインが超キモい大剣を持ってこちらに歩み寄って来ました。

 ……そして、向こうは引き締まった身体中に戦意を滾らせながら大剣を構えて来たので、こちらもそれに応じる様に構えを取っておきます。

 

『【魔刃戦鬼 ゴブゾード】……貴様ハココデ斬リ捨テル』

「【武闘家】ミュウ・ウィステリア……貴方は私が押さえましょう」

 

 ……そうして、私の初めての対<UBM>戦(向こうにダメージを与えられないクソ仕様)が始まったのでした。




あとがき・各種設定解説

末妹:<UBM>をタイマンで足止めするというメイデンの<マスター>の面目躍如
・【ミメーシス】のステータスは普通のモンスター相手に使えるスキルが無い事を補う形でスキルを作って余ったリソースを注ぎ込んでる感じ。

《カウンター・ブロウ》:【武闘家】で習得したスキル
・相手の攻撃に自分が当たっていない状態でその攻撃中に当てる事で威力を大幅に上昇させるアクティブスキル。
・本来は【拳士】系で覚えるスキルなのでやっぱり上限レベルは低い。

《ウィンドリダクション》:【暴風盾板 プリトヴェン】の第三スキル
・ボード時には乗っている人間への移動時に掛かる空気抵抗を、シールド時には《エアロバースト》を使った時の反動を軽減するパッシブスキル。
・あくまで“自分の行動で起きた空気抵抗や反動を軽減するスキル”なので、“魔法で起こされた強風”ぐらいは軽減出来ても“風属性魔法の攻撃”になると効果範囲外になる。

シュバルツ何某:(最初やり過ぎたからしばらくは大人しくしてよう……)

リリィ・ローラン&ティルル:<UBM>相手でも足止めに徹すればやり合える
・その際の戦術は向こうが遠距離攻撃手段に乏しい所を突いて空中からのヒットアンドアウェイに終始している。

《ディバイン・チャージ》:【天馬騎士】の奥義
・自身の武器と愛馬に短時間だけ聖属性を付与した上で攻撃力・防御力・スピードを上昇させて、そのまま愛馬と共に突っ込むアクティブスキル。
・強力なスキルである故に消費MPとクールタイムはそれなり。

セイラン卿:本名レナート・セイラン
・近衛騎士団からの出向組でリリィの副官的ポジションの人なので、<マスター>に関してはリベラル派。
・合計レベルも350(成長限界)のベテランで指揮や事務処理の能力も高い。

【魔刃戦鬼 ゴブゾード】:<サウダ山道>周辺のゴブリン達を指揮する“王”
・高い物理ステータスを持ち、強力な剣と高性能な剣技系スキルを使って戦う正統派。
・加えて《ゴブリンキングダム》は健在の為、周囲のゴブリンを全て倒さないとダメージを与えられない。
・ある程度の人語を解するぐらいに知能も高い模様。


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ゴブリン軍団との激闘

前回のあらすじ:妹「援軍よろしく!」末妹「任されたのです。……と言ってもダメージ与えられないんですよね」


 □王都アルテア南部・<サウダ山道>

 

『シィ! 《デルタスラッシュ》!』

「ええい! 《ウェポン・パリング》!」

 

 <サウダ山道>南側にある少し開けた場所、そこでは【魔刃戦鬼 ゴブゾード】と【武闘家(マーシャル・アーティスト)】の<マスター>ミュウ・ウィステリアが激しい戦いを繰り広げていた。

 今も【ゴブゾード】が放った三連斬撃をミュウが一・二撃目を回避して、三撃目をスキル効果込みのパリィで凌いで互いに一旦距離を取った所である。

 

『フン、先程カラ避ケテバカリダナ』

「攻撃してもダメージを与えられないのだからしょうがないのです。……貴方の技量は高いので、下手に攻撃するとカウンターを喰らいかねないですし」

『現在2分経過したからMP消費だよ。……現在のMPとその回復量から考えると次の判定を超えたらその次を超えられるか怪しいね。止む終えずMP消費のスキルを使ったりしたし』

 

 そう、ミュウは【ゴブゾード】が有する身代わり効果を突破する手段を有していない為、先程から相手の攻撃を避けるかいなすかしか出来ない状態に陥っていたのだ。

 ……最初の方では相手の攻撃の隙をつき上昇したステータスからのアクティブスキルを叩き込んで周りのゴブリンの数を減らすぐらいは出来たのだが、戦闘から1分も経過した時には向こうが持つ高レベルの《剣術》の所為でミュウの動きに慣れ始めてしまい下手な攻撃は出来なくなっていたのである。

 

(それでもまだこちらの方が技量は上なので無理をすれば攻撃を当てるぐらいは出来るのですが……そこまでしてもダメージを与えられないならリスクとリターンが釣り合ってないのです)

『本当にね。……それでどうする? このままだとジリ貧だよ。とりあえず向こうが使って来た強い攻撃を()()攻撃纒装(アタック・テスクチャ)》にストックしたけど。炎熱斬撃と重斬撃みたいなやつ』

 

 とはいえミュウもただ攻撃を凌ぎ続けていた訳ではなく、相手が威力の高いアクティブスキルを使ったタイミングで《攻撃纒装》にそれらの攻撃をストックするなどしていた……だが、そのストックを使った所で【ゴブゾード】を倒す事が出来ない以上、彼女は勝機が来るまでそれを温存する戦術を取るつもりであった。

 ……しかし、相対している【ゴブゾード】は目の前の相手を自分だけの力で倒すのは困難だと判断して()()()()を打とうとしていた。

 

『マア、俺ハ剣士デアル以前ニ“王”ダカラナ。……故ニ、コウイウ戦術ヲ取ラセテ貰オウカ』

「……チッ、成る程そう来ますか」

『ミュウ、向こうの騎士や<マスター>と戦っていたゴブリン達がこっちに向かって来てるよ!』

 

 その次の一手とは実に単純なもので、何体かの遠距離攻撃可能なゴブリンを自分の援軍に寄越すというものだった……が、数発の遠距離攻撃に対応する事がミュウに取っての致命的な隙に成りかねない現在の様な拮抗した戦況では実に有効な一手であった。

 ……今の彼女のステータスを考えればゴブリンの遠距離攻撃程度では致命傷にはならないだろうが、相手はそれを避けるか防ぐかした隙を突いて戦局を有利な状態にする気なのだろう。

 

『貴様ハ強イノデ余リ時間ヲ掛ケタクナイ……ココデ確実ニ詰メサセテ貰オウ』

「全く、個人としても強いのに集団戦もある程度熟すとか嫌になるのです」

『本当にね』

 

 ……ミュウと【ゴブゾード】の戦闘開始から約2分、彼女が一対一で<UBM>を足止めするには限界に達しようとしていた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「あー、これはあかんわー。……アイツ、ウチの《月面徐算結界》の外側を囲んどったヤツらをあっちに向かわせたな」

 

 その時、騎士と<マスター>達の中心で夜の様な結界を展開している女性──今回のクエストに参加していたクラン<月世の会>のオーナー【司祭(プリースト)】扶桑月夜はゴブリン達のそんな動きを見てやや眉を顰めた……彼女を含む現在ゴブリン達と交戦中の<マスター>と騎士達は他と同じ様に近くにいるパーティーと合流して周囲を調べていたのだが、そこで運悪く【ゴブゾード】率いるゴブリンの群れと遭遇してしまったのだ。

 それに気付いた彼等はあの群れを自分達だけで相手をするのは無謀だと他のパーティーに連絡を取りつつ即座に逃走しようとしたのだが、足の速いワイバーンに乗った【ホブゴブリン・ライダー】や索敵と遠距離攻撃が出来る【ホブゴブリン・ハンター】などの追撃を受けてやむ終えず交戦状態に入ってしまったのだった。

 ……その際に勝手な行動を取った何人かの<マスター>がデスペナになったりもしたが、幸いにも向こうの本隊である【ゴブゾード】率いる部隊と交戦状態に入ってから直ぐにペガサスを駆るリリィ・ローランが援軍に来たので、彼等は<UBM>を彼女に任せる形で辛うじて防戦を行う事が出来ていたのである。

 

「うーん、レベル差の所為でこっちのスキルはあっちのボスにはあんま効かへんし、このままあの子に崩れられるとこっちも普通に詰むやろうなぁ」

「ですが、月夜様がここを離れる訳には行きませんよ」

「それは分かっとるよ。……こっちの戦況はウチの【カグヤ】のデバフで向こうのバフを相殺しとるお陰で持っとる様なもんやからな」

 

 月夜は騎士達と<マスター>が円陣を組んでゴブリン達と戦っている中心で、自身の秘書兼護衛である【暗殺者(アサシン)】月影永仕郎の言葉に答えながら周り戦況を見ていた……彼の言う通り《ゴブリン・キングダム》のバフによって亜竜級に迫る程に強化されている多数のゴブリン達と騎士や<マスター>達が戦えているのは、彼女の敵対対象への強力なデバフスキル《月面徐算結界》の効果で敵のステータスが大幅に下がっているからである。

 ……ただ、ゴブリン達も月夜の“夜”が自分達のステータスを下げるモノであると気がついており、その効果範囲外からの遠距離攻撃を主体で攻め立てているので向こうの数を減らす事は難しくなっているのだが。

 

「ちゃんと集団戦をしてくる相手はほんとに面倒やわー。……ウチの今のMPでこれ以上範囲を広げると直ぐに枯渇するやろうしー」

『此の今の到達形態でのスキル出力も考えると、このぐらいが一番範囲と消費のバランスがいいものね』

「頼みの綱は結界外でも問題なく戦えるリリィ氏ですが……彼女も上手く対応されている様ですね」

 

 主人である月夜に近づいてくるゴブリンを自身の<エンブリオ>である【影従圏 エルルケーニッヒ】で操る影で倒しながら、月影は結界の外で地上から弓や魔法による遠距離攻撃を受けながら空中でワイバーンに乗ったゴブリンを相手にしているリリィを見てそう言った。

 ミュウに【ゴブゾード】の相手を任せてからゴブリンの群れを空中からのヒットアンドアウェイで倒していたリリィとティルルだったが、それに対してゴブリン達は横入りに対する警戒の為に外側に配置していた【ホブゴブリン・ライダー】とワイバーン達6組を呼び戻して彼女の相手をさせたのだった。

 ……リリィにとって一対一でなら問題無く倒せる相手であったが、6組のライダーの連携に加えて地上からの援護もあり彼女はかなりの苦戦を強いられていたのだ。

 

「まあ、お陰で遠距離攻撃出来るゴブリン達の何割かは向こうに行っとるけど……このままやとジリ貧やね。今は【ポーション】飲んで凌いどるけど、ウチのMPもそろそろ心許ないし」

「足止めしている彼女の方も<エンブリオ>のスキルでステータスを引き上げている様ですし、コストが何かは分かりませんがいつまでも戦い続けられるという訳にも行かないでしょう」

 

 今も円陣の外側では【聖騎士(パラディン)】のジョブに就いている騎士が《グランドクロス》を放ってゴブリンを焼き払ったり、レオン・ハートを始めとするリリアーナファンクラブパーティーが彼女を守ろうと獅子奮迅の活躍を見せていたり、ミュウと一緒に援軍に来たアミタリアが《エアロバースト》でゴブリン数体を吹き飛ばしたり、物理攻撃の効かない泥状のゴーレム型ガードナーの<エンブリオ>がそのマスターのバフを受けて物理攻撃しか出来ないゴブリンの足止めを行なったりして辛うじて善戦しているが、負傷者も増えてきておりこのままではそう遠くない未来に破局が待っているだろう。

 

「あー、後もう一回ぐらい都合よく援軍が来てくれへんかなー。……つーか、もうそれぐらいしか状況を打破する術が無いんやけど……」

「……それですが月夜様、どうやらお望みの援軍が来た様ですよ」

『そうみたいね』

 

 そんな事を月影に言われた月夜がその指を指した方向を見ると、そこには九人程の騎士が後ろにもう一人乗せた馬に乗ってこちらに来ている光景があった……そう、彼等はリリィが率いていた残りのパーティーメンバーであり、騎士達が自分の愛馬の後ろに<マスター>達を乗せてどうにか短時間で援軍に来ることが出来たのだ。

 ……そうして援軍に来た騎士達は即座に<マスター>を後ろから下ろしてゴブリン達に向かって行き、降ろされた<マスター>達も各々の<エンブリオ>やスキルを使ってゴブリン達を攻撃していった。

 

「よっしゃ! 援軍来た、これで勝つる! これもウチの日頃の行いが良いからやね! ……それじゃあ、向こうと合流しつつ情報共有と態勢の立て直しやな」

「そうですね。……アミタリアさん、貴女は元々向こうのパーティーの一員という事なのであちらへの状況報告をお願い出来ますか?」

「あ、はい! 分かりました!」

 

 ……そして、月夜はそんなどっかのクマ着ぐるみが聞いたら全力でツッコミそうな事を宣いつつ、月影やアミタリア達と協力して戦局を立て直す為に動き始めたのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……と、現在の状況はそんな感じ!」

「成る程、そういう状況か。……良くやったアミタリア」

「しかし、ミュウちゃんの戦闘開始から3分経過となるとちょっと不味いな。……残りMPから考えてスキルの制限時間は後3分ぐらいだろう」

「それにミュウちゃんのスキルは一度解除すると同じ対象への再使用にしばらく掛かるからね」

「それは不味いですね。……ローラン卿は敵航空戦力と交戦中ですし」

 

 空を飛ぶ事でこちらに合流したアミタリアから現在の戦局を聞いたアット、レント、ミカ、セイラン卿を始めとした援軍は、ゴブリン達と戦いながらもお互いの情報を擦り合わせて次の行動を考えていた。

 ……とりあえず、まだお互いの連携が拙い事や指揮系統の関係から、<マスター>組と騎士組は一旦別れて行動する事となった。

 

「まずは遠距離攻撃持ちを減らした方がいいか。……今【ゴブゾード】をフリーにする訳にも行かないし、上手く対空攻撃を減らせばこっち側の最大戦力であるリリィ氏をフリーに出来るかもしれないしな。……<マスター>組全員! 遠距離攻撃持ちを可能な限り優先して狙え! 《アイスニードル》!」

「まあ、それが妥当かな。上手く空中を飛び回る相手に遠距離攻撃を当てるのは難しいし……《詠唱》終了《ヒート・ジャベリン》!」

「ヤタ《金烏の炎》と《誘導光》を! ……《ハンティングアロー》!」

『カラスヅカイガアライナ!』

 

 そしてアットが指示を出しつつ【ホブゴブリン・アーチャー】に氷の針を突き刺しその腕を凍らせて射撃を妨害し、レントの放った《詠唱》による強化が乗った炎の槍が別の【アーチャー】に突き刺さって焼き付くした。

 別の所では指示を受けた【ヤタガラス】が【ホブゴブリン・メイジ】に金色の炎を当てた上でその身体にマスターの遠距離攻撃を誘導する光を纏わせて、そこに久遠たむーが上空に狙いを定めずに全力で放った矢が引き寄せられて頭部を撃ち抜いた。

 

「……え? さっきの魔法がラーニング出来た? ……じゃあそれで!」

『おっけー。さあ、はでにいくぜ! ……《ヒート・ジャベリン》!』

『こっちもいくよー! 《ヒート・ジャベリン》!』

『おなじくー。《ヒート・ジャベリン》!』

 

 また別の所では【フェアリー】達からレントが使った魔法を運良くラーニング出来たと聞いたリゼが、早速その魔法を三体の【フェアリー】の行使させる事で三本の炎の槍をそれぞれ放ってゴブリン達を焼き尽くした……だが、それだけ目立つ事をした所為で彼女は一体の【ホブゴブリン・アサシン】に目をつけられてしまう。

 ……その【アサシン】が有する《気配操作》スキルによってリゼと【フェアリー】達はその接近に気付く事は出来ず……。

 

『BAUWAU! (主人! 気配を消してる奴がいるぜ!)』

『KIEEEEE! (何をこっそりと近づいてる! 《ウインドカッター》!)』

『GAAAA⁉︎』

「リゼさん! 敵が近づいて来ていたみたいです! アリア! トリム!」

「ええ⁉︎ と、とりあえず魔法を……」

『“こんとらくと”しとくぜー』

 

 彼女の護衛に付いていたエルザの従魔で索敵に長けた【ティールウルフ】のヴェルフと【ウインドイーグル】のウォズにその接近を気付かれて暗殺を阻まれた……エルザとその配下達はレベルがまだ低い所為で強化されたゴブリンと戦うのは自分達では厳しいと判断して、他のメンバーのサポートに集中していたのだ。

 ……更に存在がバレた【アサシン】に【ワルキューレ】のアリアとトリムが切り掛かってダメージを与えつつ足止めして、そこに《フェアリー・コントラクト》でラーニングした魔法を使える様にしたリゼが放った《ヒート・ジャベリン》が突き刺さった。

 

「《グランドクロス》! ……こちら近衛騎士団所属のセイランです! 救援に来ました!」

「おお、有り難い!」

 

 そしてセイラン率いる騎士達はゴブリン達の包囲の一角を総攻撃でもって崩し、ゴブリン達と戦い続けていたもう片方のパーティーと合流する事に成功していた……また、上空で戦っていたリリィとティルルも地上からの遠距離攻撃が減った隙をついて、空戦技能の差から【ライダー】が乗っているワイバーンを始末する事に成功していた。

 ……そうして二つのパーティーは合流する事が出来て、どうにか態勢を立て直す事が出来たのだった。

 

 

 ◇

 

 

「《遠視》《看破》《鑑定眼》……ふむ【魔刃戦鬼 ゴブゾード】ね。ステータスはSTRが7648、ENDが6316、AGIが5732、手に持ってるのは【ヴァルシオン】という銘の大剣で高い攻撃力及び高いスキルレベルの《破損耐性》や《盗難耐性》を持ってるみたいだな」

「成る程、とんでもないステータスだな。普通に戦ったらアイツ一体でこっちが全滅しかねん。……それと単騎で互角に渡り合えるお前の妹も大概だが」

「ホンマになー。……ただ、身代わりスキルのお陰でダメージを与えられへんから、このままやとジリ貧やけど」

 

 そうして戦局にある程度の余裕が出来たので、後方に居るアット、レント・月夜などのメンバーは敵のステータスを鑑定しつつ今後の方策を話し合っていた……と言っても、未だにゴブリン達の数はこちらよりも多いので中々有効な手段は思い浮かばなかったのだが。

 そこにサブジョブの【司教(ビショップ)】のスキルで回復などの後方支援をしていたセイランと、上空の敵を倒し終わって地上に降りてきたリリィが話に加わってきた。

 

「とにかく援軍として【天翔騎士(ナイト・オブ・ソアリング)】のリヒト団長がもうすぐ来てくれる筈ですし、それまで持ち堪えるしか無いのでは……」

「いえ、話を聞いた限り【ゴブゾード】の足止めをしているミュウさんの残り戦闘時間は2分程です。……リヒト団長が来るまでもたない可能性も有りますから、もう一度私とティルルが援護に言った方がいいでしょう」

 

 ……だが、この場の戦局がゴブリン側に不利な状況になったと気が付いたのは【ゴブゾード】の方も同じであり、故に彼は好んでいた“タイマンで強者と戦う”事を辞める事にしたのだった。

 

『止ム終エン、貴様ハ後回シダ。《テンペスト・ブレード》!』

「チッ! 地面に……すみません! 【ゴブゾード】がそっちに行きます!」

 

 突然、【ゴブゾード】が暴風を纏った大剣【ヴァルシオン】が地面に叩きつけた事によって発生した土煙りと衝撃波によってミュウは一瞬だけ相手を見失ってしまい、その隙に彼はゴブリンと戦っているパーティーを潰す為にそちらへと全力で走り出した。

 ……それに気付いたミュウも警告を飛ばすと共に自身も後を追うが、スキルの特性上AGIは同じにしかならないので一度距離を離されると追いつく事は難しいのだ。

 

「ティルル! 行きますよ! ……このままアイツに暴れられたら全員潰されかねません!」

『《ゴブリン・キングダム》でダメージを受けない以上、乱戦であればあちらに部がありますからね』

 

 それに気付いたリリィとティルルは即座に【ゴブゾード】の迎撃に向かっていった……身代わりスキルでダメージを受けない以上、自分に向けられる攻撃を全て無視して倒せる相手を倒す戦術を取られれば不味いという判断である。

 ……事実、向こうの狙いは彼女達が考えていた通りのものであり、だからこそ足止めに徹して戦場から隔離していた訳だが……。

 

「そりゃあ、身代わりでダメージを受けない最強の自分を前線に出すのが向こうの集団戦では一番強いよね」

「……ミカ、どうする気だ」

 

 そんな人間側の殆どの者が焦りや不安をを感じている状況で、ほぼ唯一特に心を乱す事を無かったミカはデバフを受けたゴブリン達を【ギガース】で叩き潰しながらレントの下へとやって来ていた。

 ……その姿を見たレントは彼女がこの状況を打破するすべを“直感”していると判断し、今後どうするかを問うた。

 

「流石はお兄ちゃん、話が早くて助かるよ。……大丈夫、私にいい考えがあるよ!」

「……なんかちょっと不安になって来たな。とりあえずさっさと言え」

 

 ……何故かドヤ顔で放たれたその言葉に少し呆れながらも、レントはこの状況を打破出来るだろうミカの言葉の先を促したのだった。




あとがき・各種設定解説

末妹:MPが、MPが足りないのです……
・ちなみに彼女が一本5000リルで買った【MP持続回復ポーション】は効果時間中は他のMP回復ポーションの効果を受けないデメリットがある。

キツネーサン:今回大活躍
・実際、キツネーサンの《月面徐算結界》が無ければ全滅していた可能性が高い。
・尚、現在の<月世の会>は布教活動を殆どしていないので、ティアンには『<マスター>が作ったクランの一つ』ぐらいにしか認識されておらずこのクエストも普通に受けられた。
・現地勢力との“兼ね合い”から、<月世の会>の本格的な布教活動はある程度の戦力が整ってにするつもりの模様。

アミタリア:連絡に戦力にと活躍中
・“風による移動”を能力特性とする【プリトヴェン】の《エアロバースト》はダメージをあまり与えられない代わりにノックバックや吹き飛ばしの効果が高い仕様。

《アイスニードル》【魔術師】のスキル
・氷属性の基本攻撃魔法で、小さな氷の針を飛ばして当たった相手にダメージを与えると共にその部分を凍らせる効果がある。

《ハンティングアロー》:【狩人】の弓攻撃スキル
・頭部などの急所に当たると攻撃力が上昇する効果のある矢を放つスキル。

セイラン卿:ビルドは魔法系サポートより
・ジョブの内訳は上級職に【聖騎士】【司教】下級職に【騎士】【司祭】【祓魔師】(司祭系統の聖属性魔法特化ジョブ)で350レベル。
・上位回復魔法が使える為、近衛騎士団内でも色々と重宝されている。

【魔刃戦鬼 ゴブゾード】:何故か“王”なのに強者とのタイマンを好んでいる
・だが、追い込まれたと判断すれば集団戦術を取り始めたり、身代わりスキルを活かして弱い敵を優先して屠りだしたりする。
・持っている大剣の名前は【ヴァルシオン】と言うらしい。


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<UBM>の正体

前回のあらすじ:妹「私にいい考えがある!」兄「何故か妙に不安になるな」末妹「MPが足りねぇ……」


 □◾️ ??? 

 

「……ふむ、()()()()()になったから暫く王国に投下した<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>の定期的な観察を続けていたが、それが率いるゴブリンの群れと<マスター>・ティアンとの戦闘になっていたとは」

「あー、王国が定期的にやってる【墓標迷宮探索許可証】が報酬のクエスト参加者達だねー」

 

 暗い闇の中、とあるモニターを見ながらそんな会話をしているのは<Infinite Dendrogram>を管理する十三体の管理AIの一人<UBM>担当・管理AI四号“ジャバウォック”と、主に雑用担当の管理AI十三号の“チェシャ”である。

 そして彼等が見ているモニターには現在<サウダ山道>で起きている【ゴブリン・キング】に率いられたゴブリンの群れと、<マスター>とティアンの騎士で構成されたチームの戦いが映し出されていた。

 

「大軍勢を率いる“王”に対して仲間と協力して立ち向かう……うむ、これもまた英雄叙事詩(ヒロイック)であるのだろう。……スタートダッシュキャンペーンという事で、<マスター>達の<エンブリオ>の進化を促すカンフル剤として各国の初期開始地点周辺に現在の<マスター>でも倒せる可能性のある逸話級から伝説級下位の<UBM>を投下・発生させた甲斐があると言うものだ」

「まあ、今のところはこれと言ったやらかしが無いようで良かったよー。……この序盤で<UBM>が何か訳の分からない変異とかしてもらったら困るしねー」

 

 尚、チェシャがジャバウォックの担当区域にいるのは、この“序盤の<マスター>へのカンフル剤として初期開始地点への<UBM>投下”計画で何か異常が起きていないかを調べる為である。

 一応、まだデンドロが始まってから間も無い序盤なので念の為にジャバウォックが投下・発生させた<UBM>への監視を行いつつ、何かがあれば報告を上げる事になってはいる……のだが、管理AIの中でも“やらかす”率が高いジャバウォックの監視だと微妙に信用出来ないと思ったチェシャは、まだ序盤で演算容量にも余裕がある事もあってこの様に定期的な監査を行なっているのだ。

 

「……投下した<UBM>は逸話級から伝説級下位ぐらいで、かつ能力が出来るだけ(比較的)悪辣でないモノか、条件を満たせば序盤の<マスター>でも討伐し得る可能性があるモノを選別したのだがな。何か異変が起きる可能性は低い筈なのだが」

「その“可能性が低い”でこれまで僕やドーマウスやキャタピラーが何度も()()()をしてるからねー。……<Infinite Dendrogram>が始まって<マスター>を迎え入れた以上はこれまでみたいな“火消し”は出来ないから念の為だよー」

 

 ……そんなちょっと毒のある発言をしつつもチェシャはモニターに映る<UBM>について言及し始めた。

 

「……それよりー、()()()()()()()()】は大丈夫なのー? なんか妙な所に拾われているみたいだけど」

「ふむ、確かにこの【心触魔刃 ヴァルシオン】が“あの”【ゴブリン・キング】に拾われたのは多少予想外ではあったが、そこまで問題視する事もあるまい?」

 

 その<UBM>監視用モニターに映っていたのは【ヴァルシオン】という大剣を持つ【魔刃戦鬼 ゴブゾード】……では無く、大剣型の伝説級<UBM>【心触魔刃 ヴァルシオン】を持ち、最早その面影すらないレベルで()()された【ゴブリン・キング】の姿であった。

 ……そう、初めから【魔刃戦鬼 ゴブゾード】などという<UBM>は存在しておらず、その場に居る<マスター>やティアンが【ゴブゾード】だと思っていたのは【心触魔刃 ヴァルシオン】という大剣型<UBM>を装備……否、それに()()された【ゴブリン・キング】だったのである。

 

「対象一体を強力な【魅了】状態異常にして()()()()()()()()()()()()思う通りに操る《魂縛心触》、自身及び自身を装備した対象のステータス表記や頭上の名前表記を隠蔽・偽装する《偽装消剣》、自身を装備した対象のステータス・状態異常耐性を倍加させる《凶相魔刃》、戦闘中に装備した対象のHP・MP・SPを自動回復させる《強壮魔刃》、自身の形状を装備者に合わせて変形させる《剣状変形》、自身を使った戦闘の経験から得られたデータを元に装備者の肉体・スキルを改造・追加・強化する《刃体改造》と……序盤の敵にしては盛りだくさんじゃない?」

「その分、自分自身では動く事も出来ないただの頑丈な剣でしかないという欠点も有るがな。だからこそ伝説級のランクでこれだけのスキルを詰め込めたとも言うが。……後は【ヴァルシオン】を放って持ち主だけを倒すと、その際の持ち主の怨念を使って《魂縛心触》の効果範囲をその場に居る全員に広げた上で発動出来る《怨縛心触》というトラップもある」

 

 そのモニターに映し出された【心触魔刃 ヴァルシオン】のステータスを見てチェシャが軽く苦言を呈するが、ジャバウォックは特に気にせず【ヴァルシオン】の欠点を含んだ詳しい解説をしていった。

 ……自分の作品を解説したい製作者精神があったのか、或いは自分好みの英雄叙事詩(ヒロイック)を見れてご機嫌なのかジャバウォックの解説は更に続いていく。

 

「【ヴァルシオン】はこのスキルを使って持ち主を渡り歩きながら戦闘データを収集し、自身と装備者を強化していくコンセプトで作った<UBM>だからな。……まあ、<マスター>の精神保護は抜けないから“自害”で対応されてしまうが、それも含めて仕込みさえ見破れれば勝てる条件特化型に分類されるから序盤<マスター>の壁としては丁度いい相手だろう。……昔作ろうとした()S()U()B()M()()()()()()()()()()()()()の一つだったのだが、保管しておいて正解だったな」

「待って。なんか今物凄く厄い言葉が聞こえてきたんだけど」

 

 そんな上機嫌で自分の作品を語るジャバウォックがふと漏らした聞き捨てならない言葉にチェシャは反応するが、そんな事は特に気にする事も無く彼は解説を続けた。

 

「そこまで忌避する様なモノではないぞ。単に【ヴァルシオン】は私が昔<SUBM>を作ろうと試行錯誤していた時期に作った<UBM>の一体だというだけの話だからな。……ああ、その場合は“失敗作”では無く“試作品”と言うのが正しいのか」

「……とりあえず、この【ヴァルシオン】について詳しく解説してくれる?」

 

 ……ジャバウォックはそう言うが、この同僚が作った<UBM>がこれまで巻き起こした数々の“やらかし”を知っているチェシャからするとイマイチ信用出来ないのでそのまま詳しい解説を促した。

 

「ふむ、アレは<UBM>同士をキメラ化させる事によって<SUBM>を作ろうとしていた時だったな。その際の実験結果で<UBM>同士のキメラはその成功率が余りにも低く数少ない成功例もその殆どが寿命や耐久性などに欠陥を抱える事が分かっていたので、私は“キメラ化以外の方法で<UBM>同士を融合させられないか”と考えたのだ。……その際に考えたプランの一つに『<UBM>に<UBM>を装備させる』と言うものがあってな。その為に“三強時代”に作り出された【ヴァルシオン】という名の剣がモンスター化した【インテリジェンス・カースソード】を改造して生み出された<UBM>が【心触魔刃 ヴァルシオン】だった訳だ」

「あー、あの時代ならそんな武器が生み出されていても仕方ないかなー」

 

 ちなみに【ヴァルシオン】は腕は一流だったのだが世渡りが下手で作った剣がまともに売れなかったある鍛冶師が『自分の作った武器が他者に認められる様になりたい』と願って作り上げてしまった、その剣を見た者を強力に【魅了】してしまう剣だったらしい。

 更にステータスの偽装や装備した人間を強化する装備スキルを持っていた所為で【ヴァルシオン】を奪い合う為に殺し合いまで発生してしまい、その際の怨念によって【インテリジェンス・カースソード】へと成り果ててしまったのだった。

 ……尚、その鍛冶師はその【ヴァルシオン】を巡る争いに巻き込まれて死んでしまっている。

 

「その【インテリジェンス・カースソード】が元々持っていた魅了・偽装・強化の能力を強化し、更に装備した<UBM>を<SUBM>に進化させる為のスキルである《刃体改造》を始めとしたいくつかのスキルを追加して【心触魔刃 ヴァルシオン】を作り上げた訳だ。……が、肝心の《刃体改造》が<UBM>のスキルに対しては上手く干渉出来ず、また【ヴァルシオン】自体のモンスター改造へのセンスが低かった為に失敗作扱いとなって今まで保管されていたという訳だ」

「成る程ねー。……まあ、その手の生産系スキルはスキル強度よりも使用者のセンスがモノを言うしねー」

 

 ……そう言いながら、チェシャは目の前の同僚が生み出してきた数々の“アレ”な能力を持つ<UBM>達を思い浮かべていた。

 

「まあ【ヴァルシオン】の思考が『所持者を【魅了】して自身を上手く使える様にする』だけな所為で、モンスター改造も身体強化と剣技系スキル強化ぐらいしか行わないからな。【ゴブリン・キング】を強化するなら《ゴブリンキングダム》を始めとするゴブリンの使役・指揮能力を強化した方が面白くなると思うのだが。……やはりモンスター改造に於いてセンスは重要か。今回のイベントで3号が作ったモンスターも良く言えば無骨、悪く言えば単純だったしな。序盤<マスター>相手なら丁度いいと今回は認定したが、今後はもう少し判定を厳しく……」

「……それはクイーンには言わないであげてねー」

 

 そのジャバウォックが発した唐突な同僚へのディスりに対して、今回の<UBM>投下イベントで自分が考えたモンスターが選ばれた事を実は物凄く喜んでいたその同僚の事を知っていたチェシャは余り意味はないだろうと内心思いながらもそれだけは言っておいた。

 ……そうして考え事を終えたジャバウォックは再び<UBM>についての話を続けた。

 

「まあ、そういう事で今回のイベントの一環として【ヴァルシオン】をティアンの剣士系ジョブの山賊に拾われる様に投下したのだが、その【ヴァルシオン】を拾った山賊があの【ゴブリン・キング】に敗れたのだ。……そして【ヴァルシオン】が《怨縛心触》を発動させて【キング】を【魅了】して操った結果、今の【魔刃戦鬼 ゴブゾード】に見える奴が生まれたという訳だな」

「まあ、大体分かったよー」

 

 そんなジャバウォックの一通りの説明を理解したチェシャは、最後に【ヴァルシオン】が寄生している【ゴブリン・キング】の“とある情報”を見て質問を言い放った。

 

「ところで、この【ゴブリン・キング】は“かなり特殊な生まれ”みたいだけど大丈夫? ……こんな序盤で()()()()()()とかにはならないよね?」

「問題無かろう。【ヴァルシオン】とこの【ゴブリン・キング】の“特殊性”は両立しない様だし、そちらの方も王国に居る【天翔騎士】【天騎士】【大賢者】が出張れば特に問題無く対処されるだろう。……それより、向こうの状況が動く様だぞ」

 

 ……その様な不穏な会話をしつつ、二体の管理AIは<サウダ山道>で起きている戦いの趨勢を見守るのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<サウダ山道>

 

 管理AIが見ているとはつゆ知らず、<サウダ山道>で戦っていた<マスター>の一人であるミカ・ウィステリアは自身の兄であるレント・ウィステリアに一つの提案をした。

 

「とりあえず、()()()()()()()()()()()()()()()()()! なんかそうした方がいい気がするし!」

「まあ、俺もあの大剣は怪しいと思ってたしそれで行くか。……と言うわけで、あの大剣を狙うぞ」

「いや、ちょっと待てレント。なんか二人だけで納得してるが、こっちにも詳しい事情を教えてほしいぞ」

 

 持ち前の“直感”であっさりと色々台無しになる感じな最適解を割り出したミカに対して、こちらも慣れているのかあっさりと納得したレントだった……が、流石に周りの人間はそういう訳にもいかず、代表してアット・ウィキがレントに説明を求めた。

 ……とは言え、その反応も予想の範囲内だったのかレントは即座に理由を説明し始めた。

 

「別に、あの【ゴブゾード】本体には攻撃が届かないからその武器を狙おうってだけの話だ。アイツは剣技メインみたいだし武器を奪えば戦闘能力は大きく下がるだろうからな。……それに、あの【ヴァルシオン】って大剣はアレだけ禍々しい邪気を放ってんのに鑑定したスキルにはそれらしいモノが無かったならな。それに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()筈の鑑定、しかも俺の低レベルな《鑑定眼》で情報が全部見えたのもおかしい」

「な、成る程……」

「一応理には叶っとるねー。……で? どうやってあの剣を狙うん?」

 

 周囲の人間はレントのその説明に一応納得したが、そこで扶桑月夜が肝心の剣を狙う方法について問いただしてきた……が、それについて答えたのは彼では無くその妹のミカの方だった。

 

「それはアイツの動きを止めてから剣を殴るしかないんじゃない? ……どっちみちミュウちゃんの残り時間は後1分くらいだから時間は無いし、アイツの動きを止める必要はどっちみち生じると思うけど」

「まあそうだな。……リゼ、お前の【フェアリー】の切り札は残っているな。それで拘束魔法は行けるか?」

「はい! 大丈夫ですオーナー!」

「ま、身代わり効果持ち相手なら妥当な対応やしね。影やんいける?」

「お任せ下さい」

 

 そうして方針が決まった彼等は、手の空いている者達から【ゴブゾード】の身代わり効果を突破して拘束や攻撃が可能なメンバーを早急に選別して行った……現在【ゴブゾード】はミュウとリリィがどうにか足止めしているだけだという危機感もあって、これらのメンバーはどうにか捻出する事が出来たのは彼等にとって幸いだっただろう。

 ……尚、ティアンの騎士達は彼等の方がステータスが高いので他のゴブリン達の相手をせねばならず、捻出出来た協力者は<マスター>のみであった。

 

「それじゃあ、ミュウちゃんのスキルも残り1分も無いだろうし行くとするか。……まあ、どうせ初見の<マスター>同士でロクな連携など取れんだろうし、基本的には拘束して武器を奪うだけだがな」

「ああ」

「分かっとる。じゃ行こか」

 

 ……そんな簡単なレント・アット・月夜の会話を合図として、彼等は【ゴブゾード】を拘束してからその武器を奪う為に動き出したのだった。




あとがき・各種設定解説

【心触魔刃 ヴァルシオン】:伝説級<UBM>
・三兄妹が戦っている【ゴブゾード】の正体で、ステータスは剣としての耐久性(HP)強度(END)、そしてスキルを使うためのMPに特化している。
・《魂縛心触》は対象一体への強力な【魅了】スキルで【ヴァルシオン】を持っている間は永続的に【魅了】を持続させる効果もあるが、一度に複数の相手を【魅了】する事は出来ない仕様。
・《怨縛心触》は所有者が殺された時の怨念を利用して発動するスキルなので自殺では発動出来ない。
・《偽装消剣》はステータス表記や頭上の名前表記を偽装する能力で見破るには超級職のスキルが必要な程の効果がある……が、どの様に表記するかは任意なので使用者によっては雑な偽装になる事も。
・《凶相魔刃》《強壮魔刃》は自身を装備している対象に発動するパッシブスキルで、自分自身には効果を発揮しない。
・《刃体改造》は今までの所有者や戦って来た相手のデータをラーニングして、それに基づいて所有者の肉体・所有スキルを改造するスキル。
・【ゴブリン・キング】を【ゴブゾード】に改造した時には、前のティアン山賊から得た剣術系スキルや【フレイム・ドラゴン】【テンペスト・ウルフ】などから得た属性を纏う近接攻撃スキルなどを剣術に改造して習得させている。
・肉体も自身を振るう為に最適化させるなど改造出来る範囲は非常に広いのだが、【ヴァルシオン】の思考が“剣”である事に特化しすぎているのでその応用性をイマイチ活かしきれていない。
・伝説級としては高強度のスキルを数多く所有しているが、その分他の武器系モンスターが有する自立移動能力などが無く、更に単独で使えるスキルが制限付きの《魂縛心触》しか無い事が弱点。

【魔刃戦鬼 ゴブゾード】:実はただの【ゴブリン・キング】
・受けた改造は体型変化・ステータス強化・剣術系スキル追加・耐性・回復系パッシブスキル追加といった所で、元々持っていた《ゴブリンキングダム》を始めとすると指揮系スキルなどはそのまま。
・強者との戦いを好むのは《刃体改造》のデータ収集の為に操られているからで、元々は指揮官として後方で指示を出す事が多い個体だった。
・尚、管理AI視点では特殊な個体の様だが、元々のこいつ“自体”はただの【ゴブリン・キング】である。

ジャバウォック:投下した<UBM>が予定通り活躍していてご機嫌
・【ヴァルシオン】以降もいくつかの武器型<UBM>を作ったが、その多くが自立行動するタイプの武器型モンスターになってしまったので現在は<UBM>に<UBM>を装備させる計画は凍結中。
・これについては『唯一の存在である<UBM>は我が強く、他人に自らを装備させる事を是とする個体が少ないからでは無いか』と考えている。

チェシャ:<UBM>関係の苦労人
・まだ序盤なので念を入れて“やらかし”が多い同僚を見張っている。


読了ありがとうございました。
管理AI同士の掛け合い解説は書くのが楽しい。次回で<サウダ山道>での戦いに決着がつくと思います。


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一つの決着

前回のあらすじ:ジャバウォック「ふむ、良い感じの英雄譚になってるな(ワクワク)」チェシャ「……自重してねー(無理だろうけど)」


 □<サウダ山道>

 

「ええいっ! リリィさんのお陰で追いつけはしましたが、こうも乱戦では!」

『ミュウ! 残り時間1分を切ったよ! 今のMPじゃ次の判定を超えられない!」

『チィ! 邪魔ヲスルカ!』

「行かせる訳には行きません!」

 

 当初の予定であった強者との戦いを中断して、他の倒しやすい弱者を狙おうとしていた【魔刃戦鬼 ゴブゾード】──に寄生して操っている【心触魔刃 ヴァルシオン】──だったが、まず迎撃に来たリリィとティルルの突撃で足止めを喰らい、更にそのお陰で追いつかれたミュウが協力する事でどうにか押さえ込めていた。

 だが、戦場の位置がゴブリン達と<マスター>・ティアンが戦っている場所になった所為で彼女達に他のゴブリンが襲いかかる様になってしまい、それに気を取られる所為もあって苦戦を強いられていたのだった。

 ……その様に激しい戦いを繰り広げている場所に一つの人影が踊り込んで来た。

 

「ミュウちゃん、まずは接近してそいつの足を止めるよ! そんで持っている剣を狙う!」

「姉様⁉︎ ……分かりました!」

 

 そこに現れたのは両手に大型戦棍【撃災棍 ギガース】を持ったミカであった……彼女は自分の<エンブリオ>が身代わり効果を抜ける事から前衛として【ゴブゾード】の足止め及び戦っている二人に作戦内容を伝える役目を買って出たのだ。

 彼女が発した簡潔な指示にその“直感”の事を知る身内であるが故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ミュウは相手の動きを制限しながら【ゴブゾード】が手に持った大剣を狙い始めた。

 

『──────』

 

 これに対して焦ったのはただの大剣の振りをしている【ヴァルシオン】である……彼(?)の思考パターンは基本的に他者を【魅了】して自身を使わせる事しか考えていない単純なモノであるが、自分自身が狙われていると知ってそれに対して自己保存を図るぐらいの判断は出来た。

 ……そして、思考が単純であるが故に、【ヴァルシオン】は即座に《魂縛心触》によって自身の使い手(宿主)である【ゴブゾード(ゴブリン・キング)】を自分を狙う相手を迎撃させる様に操った。

 

『ッ⁉︎ 我ガ剣ヲ狙ウカ! ヤラセン! 《ライトニング・ブラスト》!』

「範囲攻撃⁉︎ ティルル防御を!」

『《テンペスト・アーマー》』

 

 直後、膨大な雷がその大剣(ヴァルシオン)に宿り、そのまま【ゴブゾード】が剣を円を描く様に水平に振り回す事で360度全方位に強力な電撃が撒き散らされた……この《ライトニング・ブラスト》は以前に彼等が倒した電撃によって相手を【麻痺】させる事を得意とする純竜級モンスター【ライトニング・ホーネット】の能力を模倣して作られたモノで、高確率で相手を【麻痺】させる雷を剣に纏わせて攻撃するスキルである。

 そして、このスキルは直接攻撃だけでなく電源を撒き散らす範囲攻撃としても使う事が出来、その場合でも威力こそ直接斬りつけた時と比べて大幅に落ちるが電撃が当たった相手を高確率で【麻痺】させる効果はそのままに出来るのだ。

 ……剣を使って直接相手を斬る事を好む様に精神を操作された所為で【ゴブゾード】は今まで使わなかった方法だが、そのお陰で初見殺しになってしまい距離が離れていたリリィは防御出来たものの、接近していたミカとミュウはその雷撃をモロに浴びてしまい……。

 

「……はい、予測確定」

『ナ……⁉︎ 何故、()()()()()()()……?』

 

 その雷撃が当たった彼女達では無く、何故か【ゴブゾード】の方が【麻痺】の状態異常に掛かってしまっていた……こうなる事が分かっていたからこそ、ミカはわざわざ大声で“剣を狙う”と言ったのだが。

 

「……ふむ、念の為に前衛の三人をスキル効果の対象に入れていて正解だったな。これはラッキーだ」

「しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()とはアットの<エンブリオ>は強力だな」

「名前が言いにくいのが玉に瑕ですけどね」

 

 その不可思議な現象は、<Wiki編集部・アルター王国支部>クランオーナーであるアット・ウィキの<エンブリオ>【白夜洛陽 ティエンレンウーシュァイ】の“指定したパーティーメンバーに掛かった状態異常を無効化・蓄積して、状態異常を掛けた相手に増幅反射するスキル”によるものである。

 ……彼は万が一に備えて同じパーティーを組んだままだった前衛三人を自身の<エンブリオ>のスキル効果の対象に入れており、彼女達に掛かった状態異常を無効化した上で反射したのだ。

 

「うるさいぞ久遠たむー、<エンブリオ>のモチーフは選べないんだから仕方ないだろう。……っと、そんな事より蓄積量が少ないから【麻痺】もそんなに長く続かん。リゼ! 準備は?」

「……《フェアリー・コーラス》準備出来ましたオーナー! 行くよフェアリーズ……《マッドクラップ》!」

『『『おっけー! 《マッドクラップ》!!!』』』

『グゥ!!! コレハ土ガ足ニ……⁉︎』

 

 続いて<Wiki編集部>のメンバーの一人であるリゼ・ミルタとその<エンブリオ>【支援妖精 フェアリー】による地属性拘束魔法が発動した……そのスキル《フェアリー・コーラス》は自身と【フェアリー】達で擬似的な合体魔法を使用出来る様にするスキルであり、それによって大幅に強化された《マッドクラップ》は【ゴブゾード】の膝から下をガッチリと固定してしまった。

 ……だが、大幅に強化されているとは言え所詮は駆け出し<マスター>が使った下級の拘束魔法であり、高いSTRを誇る【ゴブゾード】ならば時間を掛ければ拘束を破壊して脱出出来るだろう。

 

『エエイ! ナラバ地面ヲ破壊シテ……』

「勿論、そんな事はさせへんけどなー。……カグヤ《月面徐算結界》、影やんもよろしく」

「承知しました月夜様」

「ラフム! 貴方も行ってください!」

『BO・BO・BO』

 

 咄嗟に【麻痺】している身体を無理矢理動かして地面を破壊しようとした【ゴブゾード】だったが、そこに<月世の会>クランオーナー扶桑月夜の《月面徐算結界》による“夜”が辺りを覆い、間髪入れずにそれによって出来た影を月影が操って【ゴブゾード】の下半身に纏わり付かせてその動きを制限して行く。

 更にその場に居た<マスター>の一人であり、今回の作戦に協力を申し出た【付与術師(エンチャンター)】シャルカの泥状ゴーレムのガードナー【守護泥濘 ラフム】がその上半身に覆い被さって動きを制限させた。

 ……いくら【ゴブゾード】が高いステータスを持っていてもこれだけの多重拘束を受けてはまともに動く事が出来ず、そこにダメージを回復させたミカとミュウが再び接近していった。

 

「まあ、ここまで動きが制限された相手なら外し様がありませんね。《正拳突き》!」

『《攻撃纒装(アタック・テスクチャ)》!』

 

 そうしてAGIの差から先に接近したミュウは【ゴブゾード】が手に持っている大剣の腹に向けて、先程の戦いの中で《攻撃纒装》にストックしておいた相手の《インフェルノ・ブレード》の攻撃力と炎熱を上乗せした正拳突きを打ち込んだ。

 ……そしてステータスのコピーによって七〇〇〇を超えるSTRの一撃に、それと同じSTRを持つ相手が使った炎熱攻撃の威力を上乗せしたそれは、高性能な武器として一万を優に超えるENDを持つ【ヴァルシオン】の刀身にヒビを入れるのに十分な攻撃力を発揮したのだった。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

『グウウウウウウウ!!! オノレェェェェェ!!!』

「チッ、硬いですね。ではもう一撃……」

 

 その地上に投下されてから始めて負ったダメージに思わず【ヴァルシオン】は鈍い金属音の様な悲鳴を上げてしまい、それに精神が操られているからか【ゴブリン・キング(ゴブゾード)】の方も苦しげな呻き声を上げた。

 ……が、ミュウはそれらの光景にも特に動じる事も無く、むしろ淡々と容赦無く追撃を掛けようとした。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

『舐メルナァ!!! 《インフェルノ・ブレード》!!!』

『BO・BO……』

「むッ⁉︎ 《心頭滅却》!」

 

 だが、初めて遭遇した生命の危機に【ヴァルシオン】はジャバウォックから与えられ全く使いこなせていないと酷評された、その最大の権能である《刃体改造》を全身全霊を持って行使した……とはいえ戦闘中に於ける無理矢理な改造だった為、出来た事は《インフェルノ・ブレード》のMP消費を大幅に上昇させた上で炎熱を周囲へ無差別にバラ撒ける様に出来たぐらいである。

 ……だが、制御を投げ捨てたが故にその火力は大幅に増していた所為で接近していたミュウは咄嗟に炎熱耐性を上昇させた上で一旦後退せざるを得なくなり、更にその炎の光と熱量で纏わりついていた影と泥状ゴーレムである【ラフム】を振り払う事に成功していた。

 加えて無差別攻撃特有の自傷ダメージも《ゴブリン・キングダム》による身代わり効果で無効化できる為、この改造方針こそが現在の使い手に合っていると【ヴァルシオン】は考えつつ効果時間が終わって炎熱が消えた自身で拘束した地面を砕こうとし……。

 

「……うん、お前がここで覚醒する事は()()()()()()《インパクト・ストライク》!」

『ガッ⁉︎』

 

 そこで事前に【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に移動していたミカが、その脳天に全力で【ギガース】を振り下ろしたのだった。

 ……ただ彼我のステータスに差があり過ぎる為、内部に衝撃を与えるので対象のENDの影響を受けにくい《インパクト・ストライク》、対象のENDバフ・身代わりスキル効果を低下させる《バーリアブレイカー》、対象のENDを自身のSTR基準で減少させるパッシブスキル《ストライク・ペネトレイション》を組み合わせた一撃であっても一瞬相手を怯ませるのが精々だったが。

 

「助かりました姉様。……これで近づけました」

『ヌゥ⁉︎』

『ミュウ! 残り時間が十秒切ったよ!』

 

 だが、その一瞬の隙を突いてミュウは再び【ゴブゾード】の懐に潜り込んでいたのだった……そして彼女は《天威模倣(アビリティ・ミラーリンク)》の制限時間が終わるより早く最後の攻撃を仕掛けた。

 

「時間も無いので一気に決めますよ! 《スライスハンド》《旋風脚》!」

『《攻撃纒装》スロット2、3連続使用!』

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

 

 彼女はまず《攻撃纒装》の二番目のスロットにラーニングしていた重撃を上乗せした手刀を【ヴァルシオン】のひび割れた部分に打ち込んで相手の剣を持つ姿勢を崩し、間髪入れず先程ストックしていた《ライトニング・ブラスト》の攻撃力と雷撃を上乗せした回し蹴りを()()()()()()()()()()()【ゴブゾード】の手から【ヴァルシオン】を弾き飛ばしたのだった。

 ……弾き飛ばされた【ヴァルシオン】は異音を発しながら飛ばされると共に、ダメージの所為で隠蔽が解除されたのかその頭上に【心触魔刃 ヴァルシオン】の文字が表示されてしまっていた。

 

「よっし! みんなあっちが本体だよ! こっちの名前は【ゴブリン・キング】になってるし!」

『サセルカァ!!! オ前達、アノ剣ヲ確保シロォ!!!』

『『『GAAAAAAAAA』』』

「コイツ、拘束を⁉︎」

 

 それを見たミカが大声でその真実をその場に居る全員に伝えるが、それと同じ様に【ゴブゾード】……では無く【ゴブリン・キング】も周囲のゴブリン達に【ヴァルシオン】の確保を命じて、自身も脚部の拘束を無理矢理破壊して向かおうとしていた。

 ……そうして戦場は一転、弾き飛ばされた【ヴァルシオン】の争奪戦の様相を示し始めたのだった。

 

『ヨシ、拘束ハ解ケタ! コレデ……』

「させません! 《ディバイン・チャージ》!」

『ミュウ! スキル効果が切れたよ!』

「致し方ありませんね。【ゴブリン・キング】の方はリリィさんに任せて、こちらは周囲のゴブリンを狙いましょうか」

「そうだね、行こうかミュウちゃん。……あっちはお兄ちゃん達に任せよう」

 

 まず、拘束を破壊して【ヴァルシオン】を追おうとした【ゴブリン・キング】に、ティルルに乗ったリリィが上空から【天馬騎士(ペガサス・ナイト)】の奥義による突撃を仕掛ける事で足止めする……更にそれを邪魔しようとする周囲のゴブリン達の相手はミカとミュウが請け負った。

 ……その間にも飛ばされていった【ヴァルシオン】はそこから少し離れた地面に突き刺さり、それに目掛けて多数のゴブリンと人間が群がっていった。

 

『『『GAAAAAAAAA!!!』』』

「ゴブリン供をあの剣に近づかせるな! それと誰でもいいからあの剣型<UBM>を破壊出来ないか⁉︎」

「……俺が行こう。一発限りだが大火力のスキルがある」

「では俺も同行しよう。……相手が装備では無く生物なら俺のデバフも効くかもしれん」

 

 騎士達を指揮してゴブリンと戦っていたセイランの問いに答えたのは、偶々その近くで戦っていたレントとシュバルツ・ブラックだった……彼らは自分達のスキルであれば<UBM>を破壊出来る可能性があると考え、お互いに目配せをするとすぐに地面に突き刺さったままの【ヴァルシオン】へと向かっていった。

 ……それを妨害しようとしたゴブリン達も居たがアットや月夜が率いる<マスター>達や騎士達に阻まれて、それによって出来た道を通って彼ら二人はどうにか【ヴァルシオン】の元に到着する事が出来たのだった。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!?』

「煩いな……とりあえず、お前がデバフを掛けてから俺が最大火力を撃つって事で」

「ま、複雑な作戦を考えている暇は無いしなっと……《輝ける命脈よ、尽き果てろ(フォース・アベレージング)》《輝ける身体よ、堕ち果てろ(パワー・アベレージング)》!」

 

 せめてもの抵抗なのか地面に突き刺さったまま鈍い金属音の様な叫び声を上げ続ける【ヴァルシオン】対して、二人は多少顔を顰めるつつお互いがやる事を確認して実行する……まず、シュバルツが手に持った【ミスティルテイン】で【ヴァルシオン】を軽く小突いてそのスキルを使用し、それにより【ヴァルシオン】の二十万近いHPはMPと同じ十万程度に、一万を超えて居たENDは三番目に高い3()()()()()D()E()X()()()()()()にまで弱体化させた。

 ……基本は“ただの剣”として特定のステータスに特化していた【ヴァルシオン】にとって、極振りに対して特攻がある【ミスティルテイン】はまさしく天敵だったのだ。

 

「……む、結構攻撃力が上がったしこのまま殴れば倒せ『◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』ぬおっ⁉︎ 熱!」

 

 だが、自身のステータスが大幅に弱体化した事を悟った【ヴァルシオン】は、その窮地にここで更なる覚醒を起こした……《刃体改造》を自分自身にも適応して【ゴブリン・キング】に与えた《インフェルノ・ブレード》のデータを元にして、自身に身を守る為に全方位に炎を発生させるスキルを発現させたのだ。

 その炎はかなりの勢いであり相手が直接的な抵抗をしないと油断していたシュバルツに直撃し、彼は思わず飛び退いて地面を転がり身体についた火を消す羽目になった。

 ……管理AIジャバウォックから<SUBM>に成り得ないと見限られた最大の理由である“自分自身を改造の範囲に入れられない”という弱点を克服した【ヴァルシオン】は、このまま然るべき宿主を見つけて成長すれば更に進化しうる可能性もあったのだが……。

 

「ふむ、火力はそこそこだが攻撃範囲は余り広く無いな。ならそれ以上の出力で貫けばいい……《仮想秘奥・神技昇華(イミテーション・ブリューナク)》【紅蓮術師(パイロマンサー)】のレベルを30消費。《詠唱》終了《ヒート・ジャベリン》!」

 

 短時間で無理矢理作ったスキルであるが故にただ全方位に炎を出すだけで火力そのものはまだ低レベルのシュバルツを倒せない程度のものだったので、少し離れた場所に居たレントに対しては殆ど効果が無く彼が準備していた切り札を妨害する事は出来なかった。

 ……そして彼が作り出した今までの戦闘で上昇していた上級職のレベル(才能)の殆ど、及び《詠唱》スキルによって残りほぼ全てのMPを込められた炎の槍は【紅蓮術師】の奥義《クリムゾン・スフィア》すら上回る熱量となり、放たれたそれは相手の放出している炎の壁を容易く撃ち抜いて【ヴァルシオン】本体に直撃した。

 

『!? ◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◾️◾️◾️◾️◾️◾️▪️▪️▪️▪️▪️…………』

 

 着弾した炎の槍はそのまま膨大な熱量を有する火柱となって【ヴァルシオン】の身体を焼き尽くしていく……シュバルツが事前に使っていたデバフによりENDが3桁まで落ち込んでいた【ヴァルシオン】がその熱量に耐えられる筈も無く、その刀身の大半を跡形も無く溶解させてHPを全て焼き払ったのだった。

 

【<UBM>【心蝕魔刃 ヴァルシオン】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【レント・ウィステリア】がMVPに選出されました】

【【レント・ウィステリア】にMVP特典【才集刃飾 ヴァルシオン】を贈与します】

 

 ……そうして見る影もなく溶融した【心触魔刃 ヴァルシオン】が光の塵になった後に流れたそのアナウンスによって、この<サウダ山道>で起きた激闘に一つの決着が告げられたのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:初MVP
・これは末妹が与えたダメージが少なく、シュバルツ何某はデバフをかけたもののダメージを与えられなかったので、トドメを刺した兄が一番功績を稼いだ扱いになったから。

《ストライク・ペネトレイション》:【戦棍士】などで取得出来るスキル
・打撃武器での攻撃時に対象が防御出来なかった際、自身のSTR×スキルレベル×10%だけ対象のENDを下げるパッシブスキル。
・【戦棍士】以外の西方の打撃武器を使うジョブでも取得可能。

《心頭滅却》:【武闘家】で習得したスキルその1
・MPを消費した短時間だけ自身の炎熱耐性・精神系状態異常耐性を上昇させるスキル。
・【武闘家】以外だと東方の武術系ジョブの多くで習得出来るスキル。

《旋風脚》:【武闘家】で習得したスキルその2
・威力の高い回し蹴りで攻撃するアクティブスキルで、当たった相手を吹き飛ばす効果がある。
・本来なら【空手家】などの東方の格闘系ジョブで習得出来るスキル。

シャルカ:実はこのクエスト参加していた(伏線有り)
・まだフリーの<マスター>なので寄せ集めのパーティーに参加していたのだが、合流した後に勝手な行動を取った他の<マスター>がゴブリン達にデスペナされたので騎士達の指揮下に入りつつ戦っていた。
・その後も【ラフム】を前衛に出しつつ後方からバフを掛けていたが、敵の動きを止める役回りが必要と聞いて協力した。

シュバルツ:今回は協力的
・ちなみに兄に協力したのは最初の顔合わせで迷惑を掛けた末妹への印象を良くする打算もあった。
・本人の思考としてはPKとしての行動に関しては詫びるつもり一切無いが、それ以外での行動で迷惑を掛けたなら謝罪はしようという考えを持っている。
・尚、迷惑を掛けた本人である末妹に謝ろうとはしているのだが、近づくたびに殺気をぶつけられるので謝る事が出来ない模様。

【心触魔刃 ヴァルシオン】:二回程覚醒イベントを起こしたが負けた
・今回の敗因は《刃体改造》で大きな強化を施すにはどうしても時間が掛かるので、戦闘中に行っても弱いスキルぐらいしか作れなかった事が大きい。
・二回も覚醒した事から分かる通り潜在的な資質はかなり高い部類の<UBM>であり、本人が改造スキルを最大限に活かす方向性で創意工夫をしていたら更に先の進化もあり得た。
・ちなみに【ヴァルシオン】が死んでも【魅了】による洗脳こそ解けるものの、改造された肉体が元に戻る事は無い。


読了ありがとうございました。
とりあえず【ヴァルシオン】戦のリメイクはこれで終わりです……なので、ここからはオリジナル展開がまだ続きます。


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【ゴブリン・キング】の最後

前回のあらすじ:兄「勝った! 第3部完!」妹「……なら良かったんだけどね……」


 □<サウダ山道> 【紅蓮術師(パイロマンサー)】レント・ウィステリア

 

【<UBM>【心蝕魔刃 ヴァルシオン】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【レント・ウィステリア】がMVPに選出されました】

【【レント・ウィステリア】にMVP特典【才集刃飾 ヴァルシオン】を贈与します】

 

「……む、このアナウンスは……つまりはアイツを倒せたという事か?」

「そうなんじゃないか? ……しかしMVPは取り逃がしたか。トドメ刺せなかったしな……」

 

 俺の放った極大の炎の槍が【心触魔刃 ヴァルシオン】を焼き溶かしてHPをゼロにした後、目の前にその様なアナウンスが表示された……近くにいたシュバルツ何某の言葉や周りの反応から、どうやらこのアナウンスは戦闘に参加した全員に通達されているらしい事が分かる。

 ……更にそのアナウンスと同時に俺の手元には一つの【宝櫃】が現れた。確か<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>を倒した際、最も活躍した者にはユニークアイテムである“特典武具”が与えられると言う話を以前アイラさんが言っていたから、おそらくコレがそうなのだろう。

 

「ふむ、中身を確認したいのは山々なのだが……まだ、周りにはやる気のあるゴブリン達が残ってるしな」

「ボスを倒したんだから周りの雑魚も一緒にやられてくれる仕様なら良かったんだが。……やっぱり、この群れのボスはあっちの【ゴブリン・キング】って扱いなんだろうな」

 

 そう言ったシュバルツ何某と同じ方向を向くと、そこには【テンペスト・ペガサス】のティルルに乗ったリリィさんが徒手空拳の【ゴブリン・キング】と激しい戦いを繰り広げている所だった。

 ……相手のステータスを《看破》すると、どうやら【ヴァルシオン】が強化していたのか先程までの半分ぐらいの数値になっており、更に徒手空拳な事もあって現在はリリィさんが飛行出来る事による機動力を活かしたヒットアンドアウェイで圧倒していた。

 

「<UBM>が倒された事でステータスが下がっていますね。……これなら押し切れます。《エアレイド・ラッシュ》!」

『まあ、身代わりでダメージを与えられないのは変わりませんが、足止めし続ける事は出来ますね。《エア・ハンマー》!』

『マダダッ! タトエ弱クナッタトシテモ我等ガヤル事ハ変ワラヌ! ……オ前達! ()()()ニヨリ多クノチカラヲ捧ゲル為ニ戦ウノダ!!!』

 

 今もティルルが圧縮した暴風を叩きつけて【ゴブリン・キング】の体勢を崩した所で、そのまま上空から鋭角の軌道を描く様にリリィさんが突撃してから離脱するを繰り返して相手を攻め立てている。

 ……ただ、あの【ゴブリン・キング】が何か気になる事を言っているし、その声に応えた周りのゴブリン達の士気も更に上がっている事が気になるな。<UBM>が倒されたのだからもう少し混乱すると思っていたんだが、以前として全体の戦局は押され気味だ。

 

「とはいえ、俺のMPは枯渇していてレベルも下がってるから正直厳しいな。……折角の特典武具なんだから、何かこう都合のいい装備とか出てくれないかな。開けてみるか」

「……それはペンダントか?」

 

 シュバルツ何某の言った通り、手元の【宝櫃】から出て来たのは小さな剣型のペンダントが付いた首飾りだった……少し【鑑定眼】を使ってみると名前はアナウンスにあった通り伝説級武具(レジェンダリーアームズ)【才集刃飾 ヴァルシオン】というアクセサリーで、装備補正は無いが装備スキルは二つあった。

 ……少し見た限りだと残念ながらどちらもこの状況を打破出来る様な都合のいいスキルでは無かったが、片方が装備者の合計レベル分の数値だけHP・MP・SP・STR・END・AGI・DEX・LUCと言った全ステータスを上昇させる《強装才刃》というパッシブスキルだったので、装備すれば下がったレベルを多少補うぐらいは出来そうだ。

 

「とりあえず《瞬間装着》っと……」

「って、おい! ゴブリン達がこっちにも来たぞ!」

『『GYAAAAAAAA』』

 

 幸いアクセサリー枠は空いていたので、俺はさっさと《瞬間装着》を使って【ヴァルシオン】を首にかける……その直後、シュバルツ何某が慌てた様子でゴブリン達がこちらに来た事を伝えて来た。

 ……こっちに来たのは【ゴブリン・ウォーリアー】と【ゴブリン・ソードマン】の二体だったので、片方の【ウォーリアー】をシュバルツ何某に任せて、俺はもう片方の【ソードマン】を《瞬間装備】で【シルバー・マギソード】を取り出しながら迎え撃つ事にした。

 

「……まあ、幾ら物理ステータスが劣っているとは言え、この程度の雑魚にやられたりはしないけどな」

『GYAAAU⁉︎』

 

 俺はまず【ソードマン】が振り下ろして来たそれなりに鋭い剣閃を半身になって躱しつつ、そのまま懐に潜り込み逆手に持ち替えた剣を横薙ぎに振るって相手の両目を斬り裂いて視覚を封じる。

 そこから更に相手が怯んだ所で足払いを掛けて転ばせつつ馬乗りになって、そのまま逆手に持った剣を全体重を込めて相手の喉に突き刺してその身体を光の塵に変えるのだった。

 ……まあ、俺のジョブは魔法寄りだから物理ステータスが低いしその手のスキルも持ってないから、相手とのステータス差からこうでもしないと仕留められないんだよな。今回は相手が下級のモンスターだから何とかなったけど、これ以上の相手に接近戦はキツイか。

 

「……お前、魔法職じゃ無かったっけ?」

「ミュウちゃん程では無いが、俺もこの程度の事が出来る()()()()()()は持ち合わせているさ。……しかし、状況は余り良いとは言えないな」

 

 担当していた【ウォーリアー】を倒したシュバルツ何某が唖然とした様子で問いかけて来たので、俺は適当に答えながら周辺を見渡して戦況を確認したが……その状況はお世辞にも良いとは言えなかった。

 

「あ、やっば。MPがもう切れそうや。ポーションも無くなって来たし」

「オーナー! こっちもMPが〜!」

「安心しろ……俺ももう無い」

「セイラン卿! 負傷者が増え過ぎて前線が維持できません!」

「くっ、止む終えん、私も前に出る!」

『『『『GYAAAAAAAAAA!!!』』』』

 

 ご覧の通り、数こそ減ったもののまだまだ元気……と言うか、疲労とかを感じさせない程に高い士気を保っているゴブリン達と比べて、こちら側は負傷やMP切れなどで既にまともに戦える様なコンディションな者は殆ど居ない状態である。

 これは戦力的に不利な状況を覆してゴブリン達と互角に戦う為に、これまでずっと後先考えずに全力を出し続けて戦った所為でこちらが息切れした形になるな。

 ……そうでもしなければゴブリン達の物量に飲み込まれて、俺達はあっさりと壊滅して居ただろうから仕方がないのだが……。

 

「……ふむ、このままだと普通に詰むな」

「いや! どうにかならないのかよ! その特典武具とかで⁉︎」

「残念ながら、この【ヴァルシオン】は今の所《強装才刃》で俺のステータスを多少上昇させる事しか出来ないからな。……もう一つのスキルは使()()()()()()()()()()()()が終わってないから使えないし」

 

 ちなみに、この【才集刃飾 ヴァルシオン】のもう一つのスキルは《刃技才集》──装備者が獲得する経験値の内5%を【ヴァルシオン】に蓄積して、蓄えられた経験値を使って()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()スキルと言う割ととんでもないモノだったりする。

 ……ただ、スキル自体のクールタイムが30日間もある上、経験値を蓄積する関係からか手に入れてから30日間スキル使用不能のデメリットもあるので今は何の意味もないスキルである。

 

「……とりあえず味方と合流するぞ。こっちにもゴブリンが集まって来たし、このままだと囲まれる」

「チッ、今はそれしか無いか……」

 

 まあ、規格外の“直感”持ちのミカが何も行動を起こさない以上は、このままの戦局でも()()()()()()って意味だろうし今は生き残る事を優先するべきだろう。

 ……俺がそう考えて味方と合流しようとしたその時、上空から()()()()()()()()()()()地上に飛んで来た“何か”がリリィさんと戦っていた【ゴブリン・キング】を凄まじい勢いで弾き飛ばした……その一撃は余程凄まじい攻撃だったのか、その攻撃の身代わりにされた二十体程のゴブリンが跡形も無く消し飛んでいた。

 

『ガアアアアアアアアアァァァァァァ!!!?』

「ふむ、見た目も違う上【ゴブリン・キング】にしてはステータスも高かったが、それでも純竜クラスと言ったところか。……おっと、遅れてすまなかったな。だがもう大丈夫、私が来た」

「父さ……じゃなくてリヒト団長!」

 

 そこに舞い降りたのはティルルよりも一回り大きく、頭にツノが生えている白銀のペガサス──【ハイエンド・セイクリッド・モノペガサス】のデュラルに跨った、このアルター王国が誇る超級職(スペリオルジョブ)の一人【天翔騎士(ナイト・オブ・ソアリング)】リヒト・ローランさんだった。

 ……彼は先程の【ヴァルシオン】と()()()()の気配を感じさせる黒い長槍をその手に構えて、さっき吹き飛ばした【ゴブリン・キング】に向き直りながらリリィさん達にテキパキと指示を出していった。

 

「リリィ、お前は他の騎士達や<マスター>と協力して負傷者の治療と安全確保を……直ぐに片付ける」

「了解しました」

 

 その指示を受けたリリィさんは即座にその場から離れ……直後に指示を出したリヒトさんの姿がかき消え、次の瞬間には吹き飛ばされてからようやく立ち上がった【ゴブリン・キング】の眼前に出現していた。

 

「カチ上げろ、デュラル」

『承知、《ディバイン・ホーン》!』

『ナッ⁉︎』

 

 そしてデュラルは自身のユニコーンの様なツノに白銀のエネルギーが纏わされふた回り以上に巨大化させた上で、そのツノで【キング】を掬い上げる様に打ち据えて空高くはね飛ばした……尚、その一撃の身代わりのなった周囲のゴブリンが十体程消し飛んだ事からその威力が伺える。

 ……更にそれを追ってリヒトさんも直ぐ様上空に舞い上がり……。

 

「【ゴブリン・キング】が率いる群れを倒すのは簡単だ……【キング】を攻撃し続けてその超過ダメージで群れを全滅させればいい。《エアリアル・ダッシュ》!」

『ガ! アア! アア! ア!!!』

 

 そんな事を言った直後、デュラルに乗ったリヒトさんは俺の目には映らない程の速度で飛翔して【ゴブリン・キング】に突撃して(多分)手に持った長槍で打ち据えて吹き飛ばした……と思ったら、吹き飛ばされた【キング】が更に(おそらく)急旋回したリヒトさんによる再びの突撃を受けてまた吹き飛ばされた。

 ……そうしてリヒトさんは【キング】を吹き飛ばした先に飛翔で追いついて、更に別の方向に吹き飛ばすと言った行為を何度も繰り返す事でまるでお手玉の様に相手を空中で打ち据え続けていったのだ。

 

(一見ギャグみたいに見えるけど、相手をまともな防御・回避行動が取れない空中に縫い止め続けて一方的に攻撃する為に吹き飛ばす方向や威力とかも計算してやってるみたいだな。……それに一発の威力も身代わりにされた地上のゴブリンが十数体あっさりと消し飛ぶ威力だし……確かにコレなら直ぐに終わるだろうな)

 

 ……俺がそんな事を考えている間にまだ数十体残っていた筈のゴブリン達は、彼の苛烈な攻撃の身代わりにされた所為で全て跡形も無く消滅しており、残りの敵は空中に弾き飛ばされて続けている【ゴブリン・キング】のみとなってしまっていた。

 

「終わりだ。《ディバイン・チャージ》!」

『ガアッ⁉︎ …………』

 

 そこにリヒトさんが先程もリリィさんが使っていた聖属性の突撃スキル──ただし、武器に纏わせた聖なるオーラの威力・規模共に桁外れ──を【ゴブリン・キング】に叩き込んで、その身体を文字通り跡形も無く消し飛ばしたのだった。

 ……<UBM>である【ヴァルシオン】が倒されて弱体化していたとは言え、あの【ゴブリン・キング】がまるで相手になっていないとか超級職ってヤバいなホント。

 

 

 ◇

 

 

「……成る程。それで【ゴブリン・キング】に寄生していた<UBM>【心触魔刃 ヴァルシオン】を<マスター>達が倒したが、その後もゴブリン達は戦闘を継続したので応戦していた時に俺が到着した訳だな」

「はい。……私が合流する前に向こうにいた何人かの<マスター>がやられた様ですが、合流後は<マスター>・ティアン共に死者は出ていません」

「うむ、それは幸いだったな。……死亡した<マスター>の分も合わせて追加の報酬を用意しておいた方がいいか……」

 

 あれからゴブリン達をあっさりと全滅させた後、地上に降りてきたリヒトさんはまず<マスター>・ティアン問わずに負傷者の手当てを部下達に指示して、それと共に怪我が少なかったリリィさんから今まであった事を詳しく聞き出していた。

 ちなみに怪我人の治療で一番大活躍したのはリヒトさんの愛馬であるデュラルで、彼は執事服の男性に人化すると強力な広域回復魔法を行使して俺達の負傷を瞬く間に癒していったのだ(その際、リリィさんの愛馬であるティルルもメイド服の女性に人化して手伝っていた)

 ……だが、そこで大した怪我も無かったから治療も直ぐに終わっていたミカが、話をし終わったリリィさんとリヒトさんの方に向かっていった。

 

「ねえねえリヒトさん、ちょっといいかな?」

「ん? 君はミカ君だね。……話は大体終わった所だから問題無いが、一体何かな?」

「うん、リヒトさんがさっき倒した【ゴブリン・キング】って……()()()()()()()()()()()?」

 

 ……ああ、成る程。確かに<UBM>である【ヴァルシオン】を倒した後もゴブリンを倒した後には“何も残らなかった”な。ただ光の塵になっただけだ。

 この『アイテム』を落とさない現象が【ヴァルシオン】の仕業なら倒された時点でゴブリンはアイテムを落とす筈で、そうでなければあの【ゴブリン・キング】がそう言う能力を持っていた可能性もあるが……。

 

「……いや、あの【ゴブリン・キング】も()()()()()()()()()()()()。つまり、先程から君達が目撃していた“ゴブリンがアイテムを落とさなくなっている”現象の原因はあの【キング】では無い可能性もあるという事だな」

「そう言えば、あの【ゴブリン・キング】は『あの方により多くの力を捧げる為』と言っていましたね。……ゴブリンの王である筈の【ゴブリン・キング】が奉じている“あの方”……そう呼ばれている存在がいると?」

「その可能性もあるって話だね〜。……私の勘だとこの件にはまだ黒幕がいる気がするし」

 

 そのリヒトさんとリリィさんの証言によって【キング】がそう言った能力を持っている可能性が低くなった……最もミカが“黒幕がいる”と言っている以上は、まだこの事件が終わっていない事は確定だろうがな。

 

「そんな……まさかまだ黒幕がいると……!」

「あ、これはまだ続きがあるヤツかな。でもポーションの飲み過ぎででうちの腹タプタプなんやけど……」

「ふむ、<編集部>的には美味しい展開ではあるが……」

「いやオーナー。もうポーションとかのアイテムも残って無いですし、これ以上戦うのはキツイですよ」

 

 ……セイラン卿や月夜さんやアットなど頭が回る人間達は、そのミカとリヒトさんの会話を聞いて俺と同じ結論に達したのか愚痴をこぼしたり周りの人間と相談しだしたので俄かに周囲は騒がしくなって来た。

 だが、リヒトさん以外の此処にいるメンバーは直ぐに戦える様な状態では無いし、戦うとしても疲労から十全のパフォーマンスは出せないだろうしな。

 

「……取り敢えず、<UBM>が現れたと言う報告があったから騎士団の方から一旦クエストを中断して援軍をこっちに送る手筈になっていたし、今後は彼等に事情を説明した上で協力してこの近辺を引き続き調査する事になるだろう」

 

 ……その状況を見かねたのかリヒトさんは今後の明確な方針を皆に説明し始めた。

 

「……それと<マスター>はここで抜けて貰っても構わない。無論、その場合でも後日改めてクエスト報酬の【許可証】と<UBM>討伐の追加報酬を渡す。……だが、今後の調査にも協力して貰えるなら更に追加で報酬を支払う事も出来るだろう」

 

 そして、彼は俺達<マスター>にはその様な追加説明を行った……その言葉を聞いた他の<マスター>達は今後どうするべきか少し悩んでいる様だった。

 ……まあ、どうやらミカがやる気みたいだし俺も中途半端で終わるのもアレだから今後も協力する方針だけどな。




あとがき・各種設定解説

【才集刃飾 ヴァルシオン】:伝説級特典武具
・見た目は銀色の10センチくらいの両刃剣の様なペンダントが付いた首飾りで、その剣の形は<UBM>になる前の【ヴァルシオン】に酷似している。
・装備補正は無いが、その代わりに全ステータスを装備者の合計レベル分だけ上昇させるパッシブスキル《強装才刃》がある。

《刃技才集》:【ヴァルシオン】の第2スキル
・蓄積した経験値とを使って何らかのスキルをランダムに習得出来るスキル……分かりやすく言うと“月一SR以上確定(兄限定)スキルガチャ”。
・ラーニングスキル特有の成長率減少などのデメリットが少ない分、発動条件やコストが厳し目になっている。
・獲得出来るスキルは蓄積された経験値の量で強度が決まり、その経験値のデータ(倒したモンスター・人間・受けたジョブクエスト)を参考にして装備者にアジャストされたスキルがランダムに得られる。
・実は<UBM>などの規格外の強者を倒して得た経験値があると、それに準ずるスキルが出やすくなる隠し効果がある(またの名を“<UBM>ピックアップスキルガチャ)

リヒト・ローラン:これが王国の(まともな)超級職だ……!
・超級職になってから25年近く経っており合計レベルも1000を優に超えており、当然技量も王国最高峰で神話級の愛馬との連携や保有する複数の特典武具を合わせれば並みの準<超級>を超える実力を持つ。
・王国最高峰の機動力を持っている事と【大賢者】や前任含む【天騎士】達や故【教皇】などが王都を離れ難い事から、彼等に変わって王国に出現した<UBM>への対処を長年行ってきた結果として多数の特典武具を所持している。
・作中で手に持っていた槍も【収奪長槍 ドレインドレイク】と言う【業奪死竜 ドレインドレイク】という古代伝説級<UBM>を【大賢者】【天騎士】と共に倒した際に手に入れた特典武具だったりする。
・ただ、年齢が50を超えているので最近は流石に衰えが見え始めており、本人としては【天翔騎士】を娘のリリィに引き継いでほしいと考えている。

デュラル:神話級モンスター【ハイエンド・セイクリッド・モノペガサス】
・実はペガサスとユニコーンのハーフで頭にツノが生えているのもその為であり、聖属性・風属性のスキルを多く習得していて防御・回復魔法に長ける。
・どちらかと言えばスキル型でステータス面は(神話級モンスターとしては)そこまで高い方では無いが、実際にはリヒトの各種強化スキルで大幅に強化されるので特に問題にはなっていない。

《エアレイド・ダッシュ》《エアリアル・ダッシュ》:【天馬騎士】のスキル
・それぞれ対地・対空用の突撃スキルで突撃時の速度と攻撃力を強化する。
・スキルレベルが上がると他のスキルと比べて比較的長時間効果を発揮する為、非常に高い操縦技能とAGIがあれば何度も敵に突撃する事も可能。

【ゴブリン・キング】:最後まで頑張ったが相手が悪かった
・尚、アイテムのリソースを回収するスキルは彼のモノでは無く、彼にリソースが流れていた訳では無い。


読了ありがとうございます。
第三章はもう少し続きますので応援よろしくお願いします。


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【鬼仔母身】

前回のあらすじ:兄「超級職つおい……」妹「多分、ここからが本番かな」


 ◾️<ネクス平原> ??? 

 

 そこは<サウダ山道>を更に南に進んだ先にある<ネクス平原>、その王都〜ギデオン間の街道からはかなり離れた目立ちにくい山岳地帯の一角……そこには()()の【ハイゴブリン・キング】を含む千に届く程のゴブリン達が住む、外周を囲む壁や住処となる家などが建ち並ぶ最早一つの“国”とも呼べそうな規模の集落が形成されていた。

 ……だが、基本的に群れを率いる側である筈の【ハイゴブリン・キング】などの上位ゴブリンを含む彼等は、その全員が集落の中央に作られたまるで玉座の様にも見える台座に鎮座している“存在”──上半身は通常の雌ゴブリンと変わらないのに、下半身は()()1()0()()()()()()()()()()()()()を持つと言う異形のゴブリンに向かって片膝をついていたのだ。

 

『どうやら、何か“妙な剣”に取り憑かれていた1()3()()()の【ゴブリン・キング】が討たれた様です。……おそらくその剣は私と同じ<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>でしょうし、それによって強化されていた13番目が私の制御下から離れる可能性がありましたから、念のため最低限の配下を充ててしばらく様子を見ていましたが……思ったよりあっさりと始末されましたね』

『ふん、他の<UBM>を手に入れたのなら即座に“女王”へ献上するのは筋であろうに……所詮は新参者か』

『相手も<UBM>であれば万に一つでも“女王”に危害が及ぶ可能性がある以上は近づける訳にはいくまい。……故に向こうの能力を明らかにしてから始末するつもりだったのだろう』

『問題は誰が取り憑かれていた13番目を討ったのかという話だ。……我ら程では無いにしても<UBM>に取り憑かれて強化されていたヤツを討ったのなら相応の実力者であろう。ヤツを監視していた者はまだ戻って来ないのか』

 

 そしてその異形の雌ゴブリン──彼等が言うには“女王”と、それに仕えているらしき三体の【ハイゴブリン・キング】はどの様にして知ったのか<サウダ山道>で起きた戦いについて語っていた……その発言や行動は彼等を含むその場にいる全てのゴブリンが異形の“女王”に忠誠を誓っているのが分かる程に洗練されている。

 ……その時、彼等の上空から巨大な怪鳥──亜竜級モンスターの【テンペスト・ロックバード】がその集落の一角に舞い降り、その背に乗っていた二体のゴブリン──【ハイゴブリン・ライダー】と【ハイゴブリン・ウォッチャー】が地上に降り立って、即座に“女王”の元へと馳せ参じて周囲のゴブリンと同じ様に片膝をついた。

 ……そして、その二体は顔を上げて“女王”への報告を始めるのだった。

 

『妙な剣に取り憑かれた【ゴブリン・キング】の件について報告します。……まず、妙に剣の正体は“女王”の予想通り【心触魔刃 ヴァルシオン】と言う<UBM>でした。どうやら偽装系のスキルでステータスと名前を隠していた様です。……ですが、その【ヴァルシオン】は北にある街から出て来た人間の一団に倒されました』

『そうですか……これまでの人間達は少数で実力も大した事は無かったので容易く糧に出来ましたが、とうとうその様な実力のある人間も出て来ましたか。……出来る限りその詳細を知りたいですね。続きを話しなさい』

 

 そうして“女王”に続きを促された【ハイゴブリン・ウォッチャー】は、【ヴァルシオン】に取り憑かれた【ゴブリン・キング】が騎士が率いる人間の一団を襲い、そこから援軍に来た人間達との協力による反撃で【ヴァルシオン】が倒された事までを詳しく報告していった。

 尚、このゴブリン達は“女王”の名を受けて、騎獣である【テンペスト・ロックバード】に乗って遥か上空から【ヴァルシオン】に取り憑かれていた【ゴブリン・キング】の群れを監視していたのだ……その為に【ウォッチャー】には高レベルの《遠視》を始めとする監視用スキルが、【ライダー】には騎獣を操る為に《騎乗》などのスキルを“女王”から()()()()()()()

 

『……ただ、連中が【ヴァルシオン】を撃破した後に人間達が多数住んでいる街がある方角から【ハイエンド・セイクリッド・モノペガサス】に乗ったこれまで見たどんな人間よりも強い一人の男が超超音速で飛翔してきたので、我々の事に気付かれる可能性が高いと判断してその時点で撤退しました』

『その男のステータスを《看破》しましたが【天翔騎士】という超級職でした。合計レベルも1286を数えていましたし、我々の脅威になり得るでしょう』

『ふん、人間側もとうとう本腰を入れて我々を討ちに来たという訳か。ならば返り討ちにするまでよ』

『いや、こちらの戦力には空を飛べる者は乏しい。その男相手では【テンペスト・ロックバード】程度では話にならないだろうし、まずは“女王”を守る為に対空攻撃が可能な戦力を用意しておくべきでは?』

『念の為に“出稼ぎ”に出ている【キング】を何体か呼び出して“女王”の護衛に回しておくべきか。……いや、それよりも其奴らに人間達の動向を探らせて、その間は我らが常時“女王”の護衛についた方が良いか』

 

 実際にはリヒト・ローランを始めとする人間側の陣営は、偶々行ったクエストの最中に【ヴァルシオン】を持った【ゴブリン・キング】と遭遇しただけであり彼等の詳細を知っている訳では無いのだが……問題は彼等がゴブリンの群れとは思えない程の知性と組織だった連携を可能としている所であるから。

 本来【ゴブリン・キング】などの群れを率いるモンスターは自身の群れを拡大する事を最優先とする為、他の同種族を『自身の群れを脅かし得るライバル』と見做して敵視しやすい性質を持つ筈なのだが、何故かこの集落では多くのゴブリンを率いた【キング】が進化した【ハイゴブリン・キング】が複数協力し合うと言うある程度の知識がある人間から見れば明らかな異常事態が起きているのだ。

 ……そして、その異常の原因は中央の玉座に君臨している“女王”の力によるモノであった。

 

『……成る程、状況は分かりました。元よりこれだけの大勢力になった以上はいつか人間側か、或いは他のモンスターの勢力に見つかって全面戦争になる事は想定されていた事ですからね。……“出稼ぎ”に出て行った者達から得たリソースはそれなりに溜まっていますし、まだ時間がある内に新たな戦力を()()()起きましょうか。……《産メヨ、増ヤセヨ、地ニ満チヨ》』

 

 そう言った“女王”がスキルを発動させた瞬間、肥大化した下腹部の前面が縦に割れてそこから粘液に包まれた【ホブゴブリン・メイジ】が次々と文字通り産み出されていく……これこそが“女王”が有する《産メヨ、増ヤセヨ、地ニ満チヨ》──自身が獲得する経験値の大半を蓄積し、それとSPを消費する事で好きな能力を持つゴブリンを創り出して産み出す固有スキルなのだ。

 ……そう、先程倒された【ヴァルシオン】の取り憑かれた【ゴブリン・キング】を含むここに居るゴブリン達は、全てこの“女王”がこのスキルでもって産み出したモノなのだ。ちなみに彼等が問題無く協力出来ているのも産み出した際に“女王”への忠誠心を最大限に持たせた上で、お互いに協力する思考パターンを持つ様にしているからである。

 

『ふう、とりあえず現在蓄積してあったリソースから対空攻撃用に長射程攻撃が可能な【ホブゴブリン・メイジ】を()()()()産めましたが、やはり【ホブゴブリン】はコストが重いですね。……いくら私が《ゴブリンエンパイア》によって大量の経験値を獲得出来るからと言っても、いきなり数を増やすのは肉体の負担を考えると難しいですね』

 

 そして、この“女王”がこれだけの膨大なゴブリン軍団を産み出すことが出来たもう一つの理由が、彼女が保有する《ゴブリンエンパイア》──自身が産み出したゴブリンが獲得した経験値を自身にも加算する・自身が受けたダメージ・状態異常・デバフなどの悪影響を自身が産み出したゴブリンに転化する・自身が産み出したゴブリンが倒された時のドロップアイテムに使われる分のリソースを回収する複合効果を持つスキルによるものである。

 ……尚、このスキルの効果範囲は精々()()3()0()()()()()ではあるが、“女王”が創り出した【ゴブリン・キング】には『自身とその指揮の下にあるゴブリン達を《ゴブリンエンパイア》の効果範囲に入れる』効果の《デタッチド・エンパイア》と言うスキルが与えられているので、経験値を稼ぐ為に【キング】が率いる群れを遠方に“出稼ぎ”させる事も可能になっている。

 

『どうかご自愛ください“女王”。この集落の防衛を行うのは我らにお任せを……では、新しく産まれた【メイジ】を各々の軍勢に入れてから拠点の防衛を固めましょうか』

『それと例の人間共への警戒もだ。周囲の見張りも増やしておくべきだろう』

『貴様ら! やる事が分かっているならさっさと動くがいい!』

『『『『『ハハァ!!!』』』』』

 

 そんな三体の【ハイゴブリン・キング】の指示の下に、先程産まれたばかりの【ホブゴブリン・メイジ】を含んだ千を超える数のゴブリン達が一糸乱れぬ動きで拠点の防衛戦力の強化・周囲の監視と警戒を行なっていく……その光景は見方によっては一人の偉大なる“女王”の為に臣下たちがお互い協力し合う、まさに“理想の国”の様に見えたかもしれない。

 ……最も、その発言と裏腹に“女王”が配下のゴブリン達を見る目はどこか冷めており、その内心では自分で創り出したモノが上手く動作している程度にしか思っていないのだが。

 

(各ゴブリン達の戦力増強と動作は順調。これならば人間達が相手でも早々に遅れは取らない筈。……私はもう二度と何も失わない。必ず私の()()を作り上げてみせる)

 

 ……そうして“女王”は自身が<UBM>になったきっかけについて思いを馳せて行く……。

 

 

 ◆

 

 

『GA! ……GE! ……GI……』

 

 その一匹の雌ゴブリンは、傷だらけの身体に走る痛みを無視してただひたすらに走っていた……それはまるで何かから逃げるかの様であり、実際その通りであった。

 

『GU……GU……』

 

 彼女はアルター王国の一角にあるゴブリンの集落に住んでいたごく普通の雌ゴブリンで、強いて特筆すべき事があるのなら()()()()()()()()()事ぐらいである。

 ……そんな彼女が何故必死に逃げているのかと言うと、住んでいたゴブリンの集落がゴブリン討伐を目的とする人間達に攻め滅ぼされたからであり、彼女は重症を負ったものの運良く逃げ出す事が出来たのだった。

 

『GA……(この子だけでも……どうにか……)』

 

 彼女が住んでいた集落は強力な【キング】に率いられており、更に周辺のゴブリン達の群れを吸収して辺りに敵が居ない程の勢力を持っていた……だが、それがその地を治める人間達に危険視された事によって攻め込まれる事になったのだ。

 ……ゴブリン達も【キング】を中心にして応戦したものの、相手がゴブリン達の危険性を非常に高く見積もっており、念には念を入れて高レベルの騎士や冒険者を多数用意していた事もあって敗北して攻め滅ぼされる事になったのだった。

 

『……GA……』

 

 そう言う訳で逃げ続けていた彼女だったが、その身に負った【骨折】や【出血】のせいでそのHPは既に尽きかけており、最早歩く事すら出来ずに倒れ伏してしまった。

 ……最早ここまでかと思った彼女の霞む視界の中に地面に落ちている“何か”が見えたのだ。

 

『……G……GA……』

 

 彼女にはそれが何かは分からず、いつから落ちているのかも分からなかったが、何故かまともに認識すら出来ない筈のそれに強く惹かれた……この時の彼女の中にあったのは『これがあれば自分と子供が助かるかもしれない』と言う思いだけであったのだ。

 ……彼女は最後の力を振り絞ってそれを掴んで口に入れてそのまま嚥下した……その直後、彼女の身体に莫大な変化が生じた。

 

【デザイン適合】

【存在干渉】

【エネルギー供与】

【設計変更】

【固有スキル《産メヨ、増ヤセヨ、地ニ満チヨ》付与】

【固有スキル《ゴブリンエンパイア》付与】

【スキル《出産負担軽減》付与】

【スキル《SP自動回復》付与】

【死後特典化機能付与】

【魂魄維持】

【<逸話級UBM>認定】

【命名【鬼仔母身 クインバース】】

 

 彼女には理解できない、彼女のものではない言葉が、彼女の脳裏を駆け巡った。

 ……そしてそれが終わり、頭の中の言葉が何も聞こえなくなったとき、一匹の瀕死の雌ゴブリンは下腹部が肥大化している巨大なゴブリンへと変貌していた。

 

『…………やった! これであの子を産んであげる事が出来る! 《産メヨ、増ヤセヨ、地ニ満チヨ》!』

 

 変貌した雌ゴブリン──【鬼仔母身 クインバース】はすぐさまスキルを発動して一体の【ゴブリン・ウォーリアー】を産み……即座に絶望した。

 

『GAAAAAA』

『……違うっ! コレはあの子じゃないっ!』

 

 そう、【クインバース】のスキル《産メヨ、増ヤセヨ、地ニ満チヨ》で産み出されたゴブリンは、<UBM>になる前に彼女の腹の中にいた赤子とは全く別のモノだったのだ。

 ……コレは“何か”を食べる前に彼女が瀕死であった為にそのままでは<UBM>に肉体を変異させる事が出来なかった事。そして彼女の赤子が【キング】になれる程の高い潜在能力を持っていた事が原因になっている……そう、その“何か”は新しい<UBM>を作る為に彼女と赤子を融合させて、その両者の特性を持ち合わせた【鬼仕母身 クインバース】と言う一体の<UBM>を誕生させたのだ。

 

『…………そう、あの子は私と一つになったのね。…………だったら、もう二度と奪わせない様にシナイト……《産メヨ、増ヤセヨ、地ニ満チヨ》』

 

 ……長考の末にその事を理解した【クインバース】は途端に表情を無くすと共に、今あるSPで可能な限りの能力の高いゴブリンを複数体産み出した。

 

『……貴方達はこれから私の為に(リソース)を集めなさい。ただし、人間達に私達の事が気取られない様になるべく目立たない様に』

『『『『『GAAAAAAA!!!』』』』』

 

 そうして【クインバース】は産み出したゴブリン達にそう指示を出して狩りに向かわせると、自らはSPを回復させつつ人間に見つからない様に人気のない場所を探し出して身を潜めた。

 

『……そうよ、もう二度と“私達”を奪わせたりはしない。その為の群れを……帝国(エンパイア)を作るのよ』

 

 ……こうして、一人の母親がゴブリン達を産み出し統べる“女王”となったのだった。

 

 

 ◆

 

 

 それから【クインバース】は身を潜めながら少しずつ配下を増やして行き、それらが十分に増えて己の身を守れるだけの勢力にした……そこでもう自身の戦闘能力や移動能力は必要無いと、それらを削ってゴブリン出産能力を極端に強化する形で伝説級<UBM>に進化する事で勢力を一気に拡大したのだ。

 ……同時期に<マスター>が増え始めたせいで人間側の勢力がそちらに注視する事などもあって、【クインバース】率いる勢力は二千を超える上位ゴブリンを有する一大勢力へと成長する事が出来たのである。

 

『……さて、拠点の防衛は順調に進んでいますが問題は敵に居る強大な航空戦力ですね。産み出したゴブリンに飛行能力を付与するのも出来なくは無いのですが、地上で生きる生物であるゴブリンを無理矢理飛べる様にしてもコストの割には戦力になりません。……だからといって飛行出来るモンスターをテイムするのにも手間が掛かりますしそこまで数は用意出来ませんから、やはり対空能力を持つ者を産み出すしか無いですか』

 

 ……ただ、それでも【クインバース】はかつて自分が住んでいた集落を人間に滅ぼされた経験により、一切の慢心無く人間達との全面戦争に必要な戦力の拡充を進めていた。

 

『貴方達、おそらく近くに人間達との全面戦争となるでしょう。……我らの“帝国”を作り上げる為にここで負ける訳には行きません。皆の頑張りを期待します』

『『『『『オオオオオオオオオ──────ッ!!! 我らが“女王”様! 【クインバース】様万歳────ッ!!!』』』』』

 

 ……その一糸乱れぬが故にどこか空虚な歓声を聴きながら、【クインバース】は今後の己の国の行く末について考えを巡らせ続けるのだった。




あとがき・各種設定解説

【鬼仔母身 クインバース】:コンセプトは『ゴブリン版フランクリン』
・某ゴブスレさんがゴブリンをキッチリ皆殺しにする理由がよくわかる<UBM>。
・《産メヨ、増ヤセヨ、地ニ満チヨ》は同じゴブリンを大量生産する場合に一体辺りにかかるコストが少なくなる効果もある。
・《ゴブリンエンパイア》のドロップアイテムリソース回収時には自身が産んだどのゴブリンから回収されたのかぐらいは分かる仕様で、【ヴァルシオン】を持った【キング】が倒されてのを知ったのはこの為。
・固有スキルの内《産メヨ、増ヤセヨ、地ニ満チヨ》は母体由来の、《ゴブリンエンパイア》は胎児由来のスキル。
・正直言って、総戦力だけなら古代伝説級に片足を突っ込んでいる。

【クインバース】配下のゴブリン達:側に仕えているのは全て上級ゴブリン
・レベルの低いゴブリンは成長途中の【キング】の配下に入って“出稼ぎ”がてらレベル上げに励み、一定以上の実力になったら【クインバース】の護衛を行う制度になっている。
・だが、側付きのゴブリン達も腕を鈍らせない様にローテーションを組んで定期的に狩りを行なったりしている。
・拠点には戦闘用のゴブリンだけでなく【スミス】【ウッドワーカー】などの生産スキル持ちゴブリンや、【バリアマンサー】【ガーディアン】などの防衛特化型ゴブリンも配されており隙はない。

ジャバウォック:資質がありそうなゴブリンがいたのでプレゼントを上げたヤツ
・チェシャが危惧していたのは『【ヴァルシオン】が【クインバース】に装備される事』だったが、ジャバウォックは『【ヴァルシオン】の性格上自分を振る事が出来ない相手に装備される事は無いだろう』と判断していた。
・尚、ジャバウォックが定期的に監視を続けていた主な理由は『【クインバース】が母体と胎児の双方の特性を兼ね備えた珍しい<UBM>だったから』であり、これを参考にして<SUBM>を作れないかと考えていたりする。


読了ありがとうございました。
はい、そんな訳で今回の黒幕の紹介回でした。割とやばい相手に三兄妹はどうするのか、次回以降をお楽しみに!


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調査、そして接敵

前回のあらすじ:【クインバース】ヤヴァい。やはりゴブリンは禍根を残さぬように皆殺しにすべき。


 □<サウダ山道> 【戦棍騎士(メイスナイト)】ミカ・ウィステリア

 

 さてさて、例の<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【心触魔刃 ヴァルシオン】を私達が、その持ち手だった【ゴブリン・キング】をリヒトさんが倒した事でこの<サウダ山道>で起きた戦闘は一先ずの決着を見た。

 だけど、その際に【ヴァルシオン】を倒された後の【ゴブリン・キング】がドロップアイテムを出さなかった事から、この事件には更なる黒幕がいるんじゃないかと追加調査が行われる事になったのです……尚、<マスター>はここで離脱しても良いと言われたけど、追加報酬目当てだったりここで帰るのは後で色々気になりそうだからといった理由で殆どが残る事にしたらしい。

 ……私の“直感”でも『この事件にはまだ黒幕が居る』って出てるし、そいつをどうにかしないと王国にかなりの被害が出る気がするから、このデンドロで出来た知人を守る為にも何とかして見つけ出さないと行けないんだよね。

 

「そういう訳で久遠たむーさん! 今こそ【ヤタガラス】の真の力を持って黒幕を見つけ出せないですかね!」

「確かにそろそろクールタイムも終わった事だし出来るか?」

「うーん……ヤタ? この事件の黒幕って追え『ムリー!』……ないみたいです」

 

 とりあえず『編集部としては隠された真実がある可能性がある以上、参加しない訳にも行くまい!』と黒幕の調査に協力してくれている<Wiki編集部>のメンバー、久遠たむーさんの【誘導神鳥 ヤタガラス】のスキルを頼みにしてたんだけど無理みたい。

 ……詳しく聞くと、さっき【ヴァルシオン】装備の【ゴブリン・キング】を見つけられたのは『ゴブリン達を指揮している【ゴブリン・キング】の位置』という設定条件にアイツらがピタリと当てはまって、かつ距離も比較的近めだったからだそう。

 だが、今回は情報が『ゴブリンを操っている黒幕』というかなり曖昧なものである事と、多分向こうの実力が非常高い事などが理由でスキルの発動条件を満たせないみたいです、との事。

 

「……うん、詰まったね。どうしようお兄ちゃん」

「お前の“直感”でどうにかならないのか? ……とりあえず、俺たちだけで判断するのもアレだから、リヒトさん達に相談するのが妥当だろう」

 

 ……と言うお兄ちゃんの助言で、私達は久遠たむーさんの<エンブリオ>などの事を含むこちら側の事情について相談してみる事にした。

 あちら側もリリィさんから【ヤタガラス】の事については聞いていたのと、私と同じ様に黒幕を早く探す必要があると判断したのか快く相談に乗ってくれた。

 

「……ふむ、それなら私がここに来る途中で大型の怪鳥に乗った二体のゴブリンが地上を監視しているのを見かけたな。こちらを見たら直ぐに離れていったしその時は地上の敵を倒す事を優先したから追えなかったが、私が持っている感知系特典武具によると南の<ネクス平原>に向かっていった様だが」

「ここから南側にいるヤツって情報が追加されたけど、どうかな?」

『…………ヤッパムリー!』

「ダメみたいですね、すみません」

 

 ふむむ、やっぱり情報の精度が足りないか黒幕は相当高位の相手なのが原因かな……私の“直感”は『確証のある情報』って訳では無いからなー。でも多分そろそろ状況が動きそうな気がするんだけど……。

 ……そうみんなが悩んでいた所でリヒトさんが持っていた通信用のアイテムに連絡が入った。

 

「リヒトだ、一体どうした? …………何! 王都南東部と南西部に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと⁉︎ ……お前達はそのまま監視を継続、援軍には王都から追加部隊の出動を要請する」

「リヒト団長、まさか……」

「ああ……どうやら状況が動いた様だ。これから説明する」

 

 そんな連絡を受けたリヒトさんは真剣な表情になって私達に詳しく事情を説明し出した……何でもリヒトさんの指示で周辺を調査しながらこちらに合流しようとしていた騎士団(今回のクエストに西側・東側担当で参加していた人達)が、その道中でそれぞれ別の【ゴブリン・キング】が率いるゴブリンの群れを発見したらしい。

 ……基本的に【ゴブリン・キング】は周辺にいる他のゴブリンの群れを支配下に置こうとする習性があるので、こんな近い位置に三体もの【キング】が揃っているのはほぼあり得ない事なんだとか。

 

「これらの事実から今回の黒幕は生産型の<UBM>クラスのモンスター、おそらくゴブリンを出産する事に特化した上級ゴブリン【ゴブリン・クイーン】派生のヤツだと推測される。……配下を生産するタイプの<UBM>は三十年前にも一度王国付近に現れた事があり、その時は王国と隣のドライフ皇国の超級職二人が相打ちになる程の被害が出ている。この手の相手は時間を置く程戦力が増えるからなるべく早くに討伐したい。どうか協力をお願いしたい」

 

 そこまで説明してリヒトさんは私達<マスター>に対しても軽くでは有るが頭を下げて協力を要請してきた……彼程の立場の人がここまでするという事は、多分今回の黒幕を相当に危険視しているってだよね。

 ……しかし、黒幕の何所を探るにはどうすれば……ふむん、ちょっとだけティンときたアイデアがあるね。

 

「……なら久遠たむーさん、ここから南側で大量のゴブリンが集まっている場所に案内する事は出来るかな? その黒幕がゴブリン生産が得意なら自分の護衛として大量のゴブリンを近くに置いているんじゃ無いかな」

「目的地をより弱い方に設定すると?」

「確かに【ゴブリン・キング】も【ゴブリン・クイーン】も基本的に群れで行動するモンスターだからな。その可能性は十分にあるだろうし、もしダメでもゴブリンの群れを見つければ黒幕に関係する情報が入手出来るかもしれない」

 

 そういう訳で、私は“直感”的に閃いた黒幕自体ではなくその周辺に居る(と思われる)ゴブリンの群れをターゲットとして【ヤタガラス】のスキルを使う事を提案してみた。

 久遠たむーさんの言う通り“目的地”のスペックが高い程にスキル発動は難しくなるらしいから、近くにいる弱い方を代わりに目的地にするって考えである。歴戦の精鋭であるリヒトさんからも良さげな反応を貰えたしいけるかな? 

 

「ふむ、成る程。……久遠たむー、それでいけるか?」

「こればかりは試してみないと……ヤタ『ここから南側で一番近い場所にいるゴブリンの群れ』まで誘導出来る?」

『…………オッケー! デキルゼ、マカセナー!』

 

 やったね! これで良い感じの“ルート”に乗った気がする……その後に色々と話し合った結果、まずは【ヤタガラス】とリヒトさんだけを先行させて偵察する事になった。

 これはリヒトさんからの提案で『まずは向こうの情報を集めるために機動力の高い人間で偵察する必要がある。私は超超音速で飛行出来るし、索敵・隠密に使える特典武具も持っているからね。……それに相手が<UBM>なら生半可な戦力では情報を持ち帰る事も出来ないかもしれないし、私なら少なくとも逃げるぐらいは出来るだろう』という意見によるものである。

 ……流石にこれまで多くの<UBM>を倒して来たらしいリヒトさんの言葉だったので誰も反論する人は居なかった。そもそもリリィさんですら本気のリヒトさんと組んでも足手まといにしかならないらしいし。

 

「……では、宜しく頼む久遠たむー君」

「はいはーい……《神鳥の導き》! ヤタ、ゴー!」

『イッテクルゼー!』

「行ってらっしゃーい!」

 

 そうしてスキルを発動して金色の光を纏った【ヤタガラス】は真っ直ぐに南の空に飛んでいき、それを追って【ハイエンド・セイクリッド・モノペガサス】のデュラルに乗ったリヒトさんも大空に舞い上がって行ったのだった。

 ……うん、この“ルート”なら被害は最小限に抑えられる気がするけど、大丈夫だよね? 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<ネクス平原>上空

 

 今回の“黒幕”を調べる為に飛び立った【ヤタガラス】とアルター王国第一騎士団団長リヒト・ローランとその愛馬であるデュラルは、しばらくの飛翔の後に《神鳥の導き》が示した“目的地”へと到着していた。

 ……そこで彼らが見たものとは……。

 

「……【ゴブリン・キング】に率いられたゴブリンの群れか……」

『“モクテキチ”ハココダゼ!』

 

 彼らの眼下にあったのは一体の【ゴブリン・キング】に率いられた二百体程のゴブリンの群れが行軍している光景だった……確かに【キング】が率いる群れとしては大規模で有るだろうが、その中には黒幕と思しき<UBM>クラスのモンスターは見当たれなかった。

 ……そこでリヒトは保有する片眼鏡(モノクル)型の伝説級特典武具【索視眼鏡 ラウンドシーカー】を装備して《トライブレベル・ラウンドサーチ》──広範囲に存在する生物の位置、及びその種族と合計レベルを表示するレーダースキル──と、自身の《遠視》《看破》スキルを併用して更なる詳細情報を集めていった。

 

「……ふむ、やはり基本的には通常の【ゴブリン・キング】とゴブリン達だな。平均レベルはかなり高いが。……だが、こいつらはさっきからずっと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。いくら【キング】が統率しているからと言って、知能がそこまで高くないゴブリン達がこのレベルの集団行動を可能としているのはやはり不自然だな」

『おそらくアレらは自然に生まれたゴブリンでは無いな。行動や思考に“雑味”が無さすぎる』

 

 彼等の言う通り眼下のゴブリン達は何かを喋る事すらせず隊列を組んだまま前進し続けていた……その余りに“雑味”が少ない動きを見たリヒトとデュラルは、今まで数多の野生モンスターと戦い続けて来た経験からアレらが【研究者(リサーチャー)】系統が作った人工モンスターなどに近い精神調整が成されていると当たりを付けた。

 

「だが、奴等が向かっている方向には人気の無い山岳地帯が有るぐらいだが……もしや、そこに黒幕がいるのかもしれん。後をつけてみるぞ。《オプティック・ハイド》」

『承知した、音は消しておく。《サウンド・キャンセラー》……【ヤタガラス】と言ったか、お主は主人の元に変えると良い。後は我々が調べておく』

『ワカッタ、ガンバレヨー』

 

 そして彼等は役目を終えた【ヤタガラス】を帰らせると共に、リヒトが装備していたマント型の逸話級特典武具【螢幻布 ホタルンガ】の《オプティック・ハイド》──自身とその騎獣の周辺に光学迷彩のフィールドを張って目視不能にするスキル──を使って姿を消した。

 更に、それと並行してデュラルが《サウンド・キャンセラー》──周辺の大気を操作して自身が発する音を外に漏れなくする風属性魔法──を使って聴覚でも自分達を捉えられない様にしつつ、やや高度を落としながらゴブリン達の後を尾けて行くのだった。

 

 

 ◇

 

 

 そうして彼等は行軍するゴブリン達に気づかれない様に細心の注意を払いつつその後を尾けて行く……しばらくするとゴブリン達は<ネクス平原>の外れにある人気の無い山岳地帯に足を進めていった。

 

「……この先には人里が無い上にそれなりの高レベルモンスターがいた筈だが、そんな気配が無くゴブリン達は進んでいるな。……これは()()()か?」

 

 そう考えた彼は再度【ラウンドシーカー】の《トライブレベル・ラウンドサーチ》を使って周辺のモンスターの分布を確認した……すると……。

 

「……思った通りか。……この先に千を超える鬼系モンスターの反応がある。しかもかなりの割合が高レベルの上級モンスターだな」

『だとすると相当な戦力だな。……【ゴブリン・キング】の支援や高い頭脳を与えられていると思しき奴等の連携を考えれば、ここら一体の高レベルモンスターを狩り尽くせたとしても不思議では無いか』

 

 そんな会話をしつつ彼等はゴブリン達の尾行を続行していき、ついに彼等の拠点まで辿りつく事が出来た……そこで彼等が見たモノは……。

 

「…………まさか、ここまでの勢力を作り上げていたとはな。複数の【ゴブリン・キング】が居た事から半ば予想はしていたが……」

『最早、これは集落というよりも一つの“国”の様なものだな。戦闘要員が待機する拠点では無く、生産や居住までも考えられていると言う意味でだが』

 

 そこには()()の【ハイゴブリン・キング】を含む千に届く程のゴブリン達が住む、外周を囲む壁や住処となる家などが建ち並ぶ大規模集落……デュラルの言葉で言うなら一つの“国”と呼べるモノが形成されていた。

 ……だが、それを見た彼等は少し驚いた物のそこはこれまで数多くの<UBM>と戦ってきた歴戦のコンビだけあって、即座に気を取り直すと“国”の中心にある玉座に座している“黒幕”と思しき<UBM>【鬼仔母身 クインバース】について詳しく調べ始めた。

 

「《ピンポイント・アナライズ》……やはりこの【クインバース】が今回の事件の黒幕だな。……スキルも《産メヨ、増ヤセヨ、地ニ満チヨ》と言うゴブリン生産スキルと《ゴブリンエンパイア》と言う《ゴブリンキングダム》の派生スキルと思われるモノを持っている」

 

 まず、リヒトは【ラウンドシーカー】の第二スキル《ピンポイント・アナライズ》──目視している生物一体を指定して、そのステータス・スキルなどの情報を見るスキル──を使い【クインバース】の能力を看破して、そのスキル内容から相手がこの事件の“黒幕”であると確信した。

 ……その後も彼は姿を消したままこの拠点とゴブリン達の戦力について調査を続行しようとしたのだが、そこで拠点にいるゴブリン達が突如慌ただしく動き始めたのだ。

 

『探知用の結界にゴブリン以外の反応があった! 侵入者だ!』

『本当か⁉︎』

『『『GAAAAAA!!!』』』

『だが何処だ!? 姿が見えないぞ!』

『さっきの連中が尾けられたか! 阿保どもめ!』

『『『GUEEEEE!!!』』』

『……どうやら我々の事に気付かれた様だな』

「……ああ、まさかそのレベルの探知用結界が使えるレベルのゴブリンすら生産可能とはな」

 

 そう、拠点への防備の一つとしてゴブリン達は複数の【ゴブリン・メイジ】が協力する事で、その周辺にゴブリンかその配下以外が侵入した場合にそれを感知する結界を展開していたのである。

 ……姿と音を消していた彼等であっても魔法的な感知に対する妨害は成されていなかったので、こうして侵入を気取られてしまったという訳だった。

 

『ではどうする? 今なら逃げる事も出来るが』

「いや、とりあえず一度戦おう。こいつらは放置すればするだけ厄介になる手合いだからな。……最も、俺達では()()()()()だろうから基本的には情報収集優先で危なくなれば撤退する」

『承知した』

 

 それだけ話すとリヒト達は敢えて自らの隠蔽を解いてゴブリン達の前にその姿を晒した……当然、それを見たゴブリン達は侵入者を見つけた事で全員が即座に戦闘態勢を整えて彼等の下に向かって来る。

 そんな光景をリヒトとデュラルは特に動揺する事も無く眺めながら、自分達も同じ様に戦いの準備を整えた。

 

『“女王”の護衛は我らが受け持つ!』

『対空攻撃可能な者は攻撃用意! 前衛型の者はその盾となれ!!!』

『航空部隊は騎獣に乗って順次出撃だ!』

「……指揮を執っているのはそれぞれ大剣・大斧・長槍を持つ三体の【ハイゴブリン・キング】か。それにゴブリン一体一体もまるで統率の取れた軍隊の様に淀みなく動いている。……やはり、こいつらは放置しておくには危険過ぎるな」

 

 尚、彼等が敢えて奇襲などを行わずに姿を現したのはゴブリン達が敵に対してどの様な動きを見せるかを調べる為であり、その見事なまでに統率の取れたゴブリン達の動きはリヒトが彼等の脅威度を一段階上昇させる結果となった。

 そんな風に彼等がゴブリン達を観察している間に対空攻撃可能なゴブリン達は準備を終え、その直後に指揮を執っていた大斧装備の【ハイゴブリン・キング】が号令を挙げた。

 

『対空部隊は準備の出来た者から攻撃開始! 我らが女王に仇をなす者を粉砕せよ!!!』

「では、やるか」

『応』

 

 ……そうして、千体を超える数のゴブリン達を率いる<UBM>【鬼仔母身 クインバース】と、アルター王国第一騎士団団長【天翔騎士(ナイト・オブ・ソアリング)】リヒト・ローランとその愛馬【ハイエンド・セイクリッド・モノペガサス】デュラルの戦いが幕を上げたのだった。




あとがき・各種設定解説

久遠たむー&ヤタ:索敵能力持ちはホント強い(原作でも大活躍してるし)
・尚、今回の活躍でリヒトやリリィなどの騎士団上層部は、彼等<Wiki編集部>と上手く協力関係を築けないか検討している。

リヒト&デュラル:当たり前の様に特典武具を複数持つ
・彼等の戦闘能力が十分に高い所為か特典武具の能力は補助向きにアジャストされやすい為、戦闘以外にも隠密・索敵など様々な行動をとる事が出来る。
・尚、彼等の空中での機動力や長距離の移動速度が早すぎて【黄金】と【天騎士】の組み合わせでも着いていけない為に、これまで何度も単騎で<UBM>と戦っている事が特典武具を複数持つ理由の一つだったりする。

【索視眼鏡 ラウンドシーカー】:リヒト所有の伝説級特典武具
・見た目は紫色のフレームをした片眼鏡で、MP+20%と呪怨系状態異常耐性+100%の装備補正もある頭部装備。
・《トライブレベル・ラウンドサーチ》は消費したMPに応じて自身を中心とした球体の範囲内の生物の位置、及びその種族(魔獣・魔蟲など)とレベルを把握するスキルで持続時間は五分程でクールタイムは一分。
・MPを多く消費すれば索敵範囲も広がるが半径50メートルを100メートルに広げるのと、1000メートルを1050メートルに広げるのとでは後者の方が遥かに多くのMPを必要とする仕様。
・《ピンポイント・アナライズ》は《トライブレベル・ラウンドサーチ》で捉えた生物を目視している時に発動可能で、その生物のステータス・スキルを看破出来るスキルでクールタイムは十分。
・主に自身と対照の実力差でどれだけの情報を読み取れるかが決まり、相手次第だがスキルの詳細情報を読み取る事も出来る。
・更に装備者が《看破》《鑑定眼》《心眼》などを取得していると情報の読み取りにプラスの補正が掛かる。
・元となったのは【全呪魔眼 ラウンドシーカー】という【フローター・アイ】系統の<UBM>で、見た目は直径2メートルぐらいの羽が生えた一つ目。
・360度全方位を遠視・透視能力付きで目視可能で、目視した対象に各種《魔眼》系スキルによる呪怨系状態異常を掛けてから、チャージした目から出すビームで仕留める事を得意としていた。
・だが、聖属性を得意とするデュラルが呪怨系状態異常を打ち消しながら超音速で接近する事には対応出来ず、ステータスがMP特化だった事もあってそのままリヒトに討たれた。

【螢幻布 ホタルンガ】:リヒト所有の逸話級特典武具
・見た目は黒地に赤の模様が入ったマントで、MP+装着者の合計レベル×5と精神系状態異常耐性+50%の装備補正もある外套装備。
・《オプティック・ハイド》はMPを継続消費して自身の周囲に光学迷彩のフィールドを展開して姿を隠すスキル。
・フィールド展開中でも内側からは目視可能だが、高速移動した場合や攻撃を行った場合には迷彩が歪んで位置が分かってしまう欠点がある。
・また、もう一つ《イリュージョン・ダブル》と言うMPを消費して自身(騎乗しているものを含む)と同じ姿の幻影を作り出すスキルもある。
・元となったのは【螢幻光蟲 ホタルンガ】という名前通り小型のホタル型<UBM>で、光学迷彩を自身と同じ姿の幻影展開能力を併用して姿を隠して、更に幻影から他者を【催眠】状態異常にする光を出したりも出来た。
・自分は姿を隠して【催眠】で操った者を敵に嗾ける戦術を得意としたが、リヒトは既に【ラウンドシーカー】を保有していたので位置を割り出されて討伐された。

【クインバース】配下のゴブリン達:拠点の防備は念入りに固めていた
・これは人間の脅威を知る【クインバース】の指示であり、探知結界以外にも複数の防御策がある。


読了ありがとうございました。
オリ特典武具考えるのは楽しい……名前を付けるのは大変だけど。


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【天翔騎士】VS【クインバース】

前回のあらすじ:妹「いやぁ、久遠たむーさんが居てくれて本当に良かったよ」兄「……しかし、単独行動を行ったリヒトさんは大丈夫なんだろうか」


 □<ネクス平原> 【クインバース】の拠点

 

 <ネクス平原>の僻地にある山岳地帯に作られたゴブリン達の“国”……そこでは数多のゴブリンを生み出す<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【鬼仔母身 クインバース】が率いる千を超える数のゴブリン達と、王都南部に【ゴブリン・キング】が複数存在するという異常事態を<マスター>の力を借りて調査を行いこの拠点を突き止めたアルター王国第一騎士団団長【天翔騎士(ナイト・オブ・ソアリング)】リヒト・ローラン、及びその愛馬である【ハイエンド・セイクリッド・モノペガサス】のデュラルとの戦いの火蓋が切って落とされていた。

 

『遠距離部隊一斉攻撃!!! 撃て──ッ!!!』

『『『《スナイプ・アロー》!!!』』』

『『『《トルネード・ブラスト》!!!』』』

『『『《ブラスト・アロー》!!!』』』』

『『『《サンダー・スマッシャー》》》!!!』』』

 

 まず、大斧を装備した【ハイゴブリン・キング】の号令と共に地上にいる遠距離攻撃可能なゴブリン達が、弓矢や魔法によるアクティブスキル込みの一斉射撃を空中にホバリングしているリヒトとデュラルに向けて撃ち放った。

 ……これらのゴブリン達は【キング】の《ゴブリンキングダム》によりステータスは最低でも亜竜級、中には純竜級にまで達している個体もいる。更に各々がアクティブスキルを使って強化された対空攻撃を放っているので、幾つかがまとめて直撃すれば純竜すら容易く屠る程の威力となっている。

 それに加えて【ハイゴブリン・キング】が有する《同種族意思伝達》のスキルによって威力が高い弓矢や雷属性魔法スキルを使う者はリヒトを直接狙い、効果範囲が広い風属性魔法スキルを使う者はその周囲を攻撃して逃げ場を奪うという完璧な連携を実行する事が出来ているのだ。

 その様な絶死の連携攻撃をいきなり受けたリヒトは窮地に陥っていると思われたが……。

 

「飛べ、デュラル」

『承知』

 

 その一斉攻撃が放たれる直前にデュラルは音速の三倍の速度で()()()飛翔する事で自分達を狙った高威力攻撃を回避し、更に地上から距離を取った事で密度が薄くなった範囲攻撃の間をすり抜ける様に()()()()()()()()飛ぶ事で無傷での攻撃回避を実現したのだ。

 こんな出鱈目な飛行が可能なのは飛行中に自身の行動によって発生する悪影響をほぼゼロに出来る【天翔騎士】のパッシブ奥義《天躯翔》と、デュラルの卓越した風属性魔法技術、そして長年に渡って数多の戦場を共に駆け抜けてきた二人の連携と飛行技術によるものである。

 ……こと空戦に於いてであれば【天騎士】と【黄金】の組み合わせですらその影を踏む事すら出来ない、現在この世界の人間の中で最高の飛行能力を持つ【天翔騎士】に取ってはこの程度の雑な対空攻撃は驚異ですら無かった。

 

「しかし、ゴブリンがこのレベルの連携攻撃が可能とはな。……今度はこちらから仕掛けるぞ。《グランドクロス》!」

『分かった……《エメラルド・トーネード》!』

 

 そうして彼等は次々と放たれる対空攻撃を躱しながらも、反撃としてそれぞれリヒトは【聖騎士(パラディン)】の奥義《グランドクロス》によって発生された十字型の聖属性エネルギーを地面から発生させ、デュラルは《エメラルド・トーネード》と言うスキルによって上級職の奥義に匹敵する威力の竜巻を撃ち放った。

 ……それぞれ超級職と神話級モンスターである彼等が放ったそれらの攻撃は、上級職のティアンが使う同種のものとは一線を画す威力となって地上で対空攻撃を行なっているゴブリン達に襲い掛かっていった。

 

『させん! 《カバーリング》!!!』

『《ウインド・レジスト・ウォール》!!!』

『《ワイドフォースヒール》!』

 

 だが、それらの対空攻撃部隊を狙った攻撃は割り込んで来た【ハイゴブリン・ガーディアン】が持った大盾に防がれたら、【ハイゴブリン・セイジ】が使用した対風属性用の防御魔法で威力を弱められるなどをされた為、何体かのレベルの低いゴブリンを屠はしたものの全体には大した痛手を与える事は出来なかった。

 ……更にすぐさま後方で待機していた【ハイゴブリン・ビショップ】が発動した範囲回復魔法によってダメージを負ったゴブリン達を回復して行き、直後に再びゴブリン達の対空攻撃が始まった。

 

『《テンペスト・アーマー》……予想はしていたがここまでの連携が可能だとはな。並みの人間のパーティーより連携が上手いのでは?』

「一切の私心無く自分自身をもコマだと認識して、その上で最適な行動が出来るのならこうもなるだろう。……やはりコイツらを放置しておくのは王国にとって危険過ぎる。無駄かもしれんが本丸を狙ってみるぞ。《第三の腕》」

 

 それらの対空攻撃を回避するか身に纏った暴風の鎧を使って防ぎながら戦っていた彼等は、余裕そうな会話と裏腹に眼前のゴブリン達の個々の実力とその連携制度は王国にとって十分過ぎるほどに危険であると判断していた……仮に超級職を除いた王国の全騎士達とこのゴブリン達が戦えば高確率でゴブリン側が勝つだろうと考える程に。

 ……故にリヒトは情報収集を兼ねてその大本である【クインバース】への攻撃を行おうと装備していた手甲型逸話級特典武具【虚腕手甲 フェルリッパー】のスキル《第三の腕》──MPを継続消費して不可視の念力を発生させて一つの物体を掴んで動かしたり出来るスキルを行使した。

 

「情報を集めるにしてもそれなりの損害を与える必要があるからな、出し惜しみはせん。《瞬間装備》」

 

 更にリヒトは《瞬間装備》を使って()()()()()()()()()()()赤色の円錐が六つ程重なった様な形状の突撃槍を装備した……そう、この《第三の腕》には発動中に手持ち武器に限り装備出来る装備枠を追加する特性があり、念力で保持している武器を装備している扱いにするのだ。

 ……そして装備した突撃槍型の伝説級特典武具【爆竜槍 ドラグブラスト】を構えながら(傍目には宙に浮いている様に見える)対空攻撃を掻い潜りながらゴブリン達に勘付かれない様に本丸である【クインバース】が座す玉座へと少しずつ距離を詰めていった。

 

「しかし、これだけの対空攻撃があると【ドラグブラスト】は少し使いづらいか」

『それだけでは無いぞ。……どうやら空を飛べる連中も上に登って来た様だ』

 

 デュラルの言葉通りに【テンペスト・ロックバード】に乗った【ハイゴブリン・ライダー】を初めとした飛行可能なモンスターに乗ったゴブリンライダー部隊が空へと上がって来ていた。

 ……更に向こうは地上からの対空攻撃を()()()()してリヒトの元へと突っ込んで来たのだ。

 

『……成る程、特攻と言うわけか。我らの動きを封じて自分達ごと地上から撃たせる気だな』

「自分の命すら女王を生かす為のコマだと思っているヤツらならそう来るだろう。……だが、あの程度の下手糞な飛び方で私達の足止めが出来ると思われるのは心外だな。《エアリアル・ストライダー》!」

 

 その相手の行動の意図を正確に理解したデュラルとリヒトは不敵な笑みを浮かべながら【天翔騎士】の空対空加速突撃スキル《エアリアル・ストライダー》で持って、相手の航空戦力の中で()()()()な【テンペスト・ロックバード】に乗ったゴブリンが率いる一団へと突っ込んで行った。

 

『なっ⁉︎ 舐めるなっ! 《ロング・スラスト》!!!』

「遅い。《セイクリッド・スラッシュ》!」

『KIEEEEEEEEE!?』

 

 その行動に対して【ロックバード】に乗っていた【ハイゴブリン・ライダー】は手にした長槍をリヒトに突き出すが、彼は僅かにデュラルを傾けるだけでそれを回避してそのまますれ違い様に聖属性のエネルギーを纏う【収奪長槍 ドレインドレイク】で【ロックバード】の翼を斬り裂いて地上へと叩き落とした。

 ……尚、この時に【ドレインドレイク】のパッシブスキル《リミテッド・オールドレイン》──【ドレインドレイク】によってダメージを与えた時にそのダメージ分だけ対象のMP・SPを減少させて、その数値分だけ自身のHP・MP・SPを回復させる──によって自身を回復させるというオマケ付きである。

 

「本丸に仕掛けるついでに、向こうの航空戦力は可能な限り削っておくか。行け【ドラグブラスト】」

『周辺と地上には牽制を仕掛けておこう。《カッター・トーネード》』

 

 更にそこからリヒトは《第三の腕》で保持した【ドラグブラスト】を()()()()()で射出してゴブリンが乗っている騎獣の一体を貫いて絶命させた……ちなみに《第三の腕》の出力(パワー)は装着者のSTRと同じ、物を動かす速度は自身のAGIと同じで、操れる範囲は半径100メートル程である。

 加えてデュラルが使った《カッター・トーネード》によって彼等を中心に無数の風の刃で構成された竜巻が発生した事で周囲にいるゴブリン航空部隊はズタズタに切り刻まれ、その竜巻が地上にも届いた事で一時的に対空攻撃も大幅に減少させた。

 ……それによって出来た隙をついて、リヒトは射出した【ドラグブラスト】を操って【クインバース】が座す玉座に近付けた後、その穂先を地上の【クインバース】がいる方向へと向けた。

 

「よし、狙える位置を取った。《爆ぜ燃ゆる竜炎槍(ドラグブラスト)》」

 

 そして、リヒトがスキルを発動と同時に【ドラグブラスト】の重なった円錐の一番外側に付いている物が切り離され、そのまま円錐の底面部分から火を吹いて亜音速程度の速度でミサイルの様に地上へと飛翔していった。

 

『ッ⁉︎ いかん女王を守れ!!! 《ウイングド・スラッシュ》!』

 

 だが、それに真っ先に気が付いた【クインバース】を守る【ハイゴブリン・キング】が配下のゴブリン達に指示を出すと共に、手に持った大剣を振り抜いて斬撃波を飛ばし飛来する円錐を斬り裂こうとして……その斬撃波が当たった円錐が()()()を起こして拠点の三分の一を覆い尽くす程の爆炎を撒き散らした。

 ……これが【ドラグブラスト】の唯一のスキル《爆ぜ燃ゆる竜炎槍》の効果であり、リヒトが持つ攻撃手段の中で最大の広域攻撃である。もちろん本人は爆発に巻き込まれない様に発射直後に【ドラグブラスト】を回収しつつ高空に避難しているが。

 

「さて、これでどれだけ敵に打撃を与えられるか……だが、おそらく……」

『女王! ご無事ですか⁉︎』

『ええ、問題有りません。貴方達が守ってくれましたし()()もありますから』

 

 だが、爆炎に巻き込まれた筈の【クインバース】が座す玉座の周りには四体の【ハイゴブリン・セイジ】が戦闘開始時からずっと展開していた防御結界が展開されおり、更に周囲のゴブリンが己の身を呈して守った所為で【クインバース】にはかすり傷一つつけられていなかった。

 ……加えて《ゴブリンキングダム》身代わり効果のお陰で【キング】が全員生存しており、それ以外のゴブリン達もステータスバフが掛かっていたと爆発点が地上から離れていた事もあって死んだ数は一割程度で、その他負傷したゴブリンもその半数以上が戦闘可能な状態だった。

 

「やはり駄目か。……一応、並みの亜竜級モンスターで構成された群れ程度なら壊滅させられる威力があるんだがな。【ドラグブラスト】の残弾も残り五発だから無駄撃ちは出来ん」

『下手に撃つと自分達も巻き込みかねないし、もう初見で無い以上は向こうも対応してくるだろう。……所詮我々は個人戦闘型だから広域殲滅はそこまで得意ではない上、身代わりを突破出来る攻撃手段もないからアイツらは倒してきれんか』

 

 実際、彼等は自分達が保有する戦闘手段では【クインバース】率いるゴブリン軍団を倒し切る事はまず不可能だと最初から予想しており、今回戦ったのもゴブリン達の能力などを把握しながらついでに出来る限り戦力を削るのが主な目的である。

 ……だが、実際戦った結果相手の戦力は最初の予想以上であり、リヒトを持ってして王国側が【クインバース】達を倒せる手は【大賢者】に《イマジナリー・メテオ》などの広域攻撃魔法を連発してもらうぐらいしか無いと思える程だった。

 なので、リヒトはここで戦闘を切り上げて王都に詳しい情報を伝えるべきだと考え撤退しようとしていたのだが……それより早く、今までやられっぱなしだったゴブリン達は起死回生(彼等視点)の反撃を行おうとしていたのだ。

 

『……よし! 準備は整ったか! お前達、場所を開けろ!』

「ん? 一体何を……」

 

 まず、長槍を持った【ハイゴブリン・キング】最後の一体がそう指示を出すと、配下のゴブリン達の一部が急いで拠点の外側へと移動し始めたのだ……すると拠点の一角にぽっかりと誰もいない場所が出来た。

 ……そんなゴブリン達の行動に警戒を強めたリヒトは急いで離脱しようと高度を上げようとしたが、その直前にその場所の地面が()()()()()()()()()()()()()()()()ので、彼は念のために《遠視》を使ってそこで何が起きているのかを確認した。

 

『『『『『『『────────────ー』』』』』』』

 

 そこでリヒトが見たものは地面が崩れたその場所にあらかじめ作られていた地下室と、その中には数十体の【ホブゴブリン・メイジ】達が一心不乱に何かの魔法の詠唱の様なものを行なっている光景だった。

 ……そのゴブリン達を行動を見た彼は、それがかつて【大賢者】の徒弟達が行なっていた()()()()()と同じものであると気がつくと驚愕の表情を浮かべた。

 

「まさか《ユニゾン・マジック》だと⁉︎ デュラルッ!!! 全速離脱!!!」

『承知ッ!!!』

『『『『『『『────《ライトニング・ヴァイパー》!!!』』』』』』』

 

 それに気が付いたリヒトはデュラルを瞬時に最高速度まで加速させてその場を離脱しようと試みるが、それと同時にゴブリン達の詠唱が終わり上空へと超級職の奥義すら上回りかねない威力の雷が放たれて、即座にその軌道をその名の通りまるで蛇の様に捻じ曲げて離脱したリヒトを追っていった。

 

「《ライトニング・ヴァイパー》……追尾効果付きの雷属性魔法、しかも確か当たった相手に()()()()()()を与える効果もあったな!!!」

『【ブローチ】対策か、念のいった事だ!!!』

 

 そんな事を言いながら彼等は加速系アクティブスキルを使って音速の三倍を超える速度で逃走するものの、その背後からは極太の雷蛇が電撃を撒き散らしながら急速に迫ってきていた……《ライトニング・ヴァイパー》は追尾式の雷属性魔法である影響でその速度は本物の雷速には届かないが、それでも音速の()()を優に超える速度を叩き出す。

 ……いくら世界最高クラスの飛行能力を持つ彼等でも流石に自分を追いかけて来る雷を振り切る事は出来ず、とうとう雷蛇が背後から二人を飲み込んだ。

 

『チッ! 《スフィア・サンクチュアリ》!』

「……止むを得んか。《空陣て……」

 

 その寸前にデュラルが自分達を囲む球状の防御結界を展開したが、それごと彼等を飲み込んだ極大の雷蛇は内側に向けて大威力の放電を長時間に渡って行い続けた。

 ……そうして内部にある彼等の影が見えなくなる程の雷光と轟音を伴いながら放電は続き、それが終息した後そこには塵一つ残ってはいなかった。

 

『……よし! 我等が女王を狙う愚かな敵は跡形も無く消え去った! 我々の勝利だぁ!!!』

『『『『『『オオオオオオオオオォォォォ────ッ!!!』』』』』』

 

 ……それを見た【ハイゴブリン・キング】があげた勝どきに続いて<ネクス平原>の一角にゴブリン達の大歓声が響き渡ったのであった……。




あとがき・各種設定解説

リヒト・ローラン:今回は様子見だったので引き気味に戦っていた
・尚、武芸に関しては【天騎士】の方が上(それでも超一流)だが、乗馬技術と飛行技術に関しては上回り世界最高峰の腕前を持つ。
・ちなみに特典武具は今までに出た物以外にもまだいくつか持っていたりする。
・後、全力の単独行動時には特典武具をフル装備するが、そうすると外見が騎士とは思えないデザインになるのが少し悩み。

【虚腕手甲 フェルリッパー】:リヒトが所有する逸話級特典武具
・外見は狼の頭部を模した灰色の手甲で、STR+20%・AGI+20%の装備補正がある。
・装備スキルは《第三の腕》のみで、このスキルは一つの物にしか干渉出来ない代わりに物の大きさは関係ない仕様。
・彼が保有する特典武具の中では地味な物だが、デュラルに乗っている時には手綱を掴む所為で片腕がふさがる為《第三の腕》で別の武器を保持したり片手で扱う長槍を支えたりとかなり活躍している。
・元となったのは【斬爪魔狼 フェルリッパー】という狼型<UBM>で鋭い爪を使って攻撃するモンスター……と見せかけて念力で作った不可視の爪で不意を打つ攻撃を得意としていた。
・実はリヒトが初めてMVPを取った相手で、まだ超級職にツイていない頃に同僚と一緒に戦って犠牲を出しながらも討伐した。
・最も長く使い続けている特典武具であるので扱い慣れており繊細な念力のコントロールも可能だが、【天翔騎士】の奥義《天躯翔》の効果でAGIがデュラルと同じになる様になって以降はAGI補正が無駄になっていたりする。

【爆竜槍 ドラグブラスト】:リヒトが所有する伝説級特典武具
・正確な外見は内側が空洞になったコーン型の円錐が複数重なっている感じで、モチーフはとあるロボアニメに出て来る『ショットランサー』という射出機能付き円錐槍(分かり難い)
・装備スキルは《爆ぜ燃ゆる竜炎槍(ドラグブラスト)》のみで、実は爆発の衝撃よりも発生する炎熱で周囲一帯を焼き払うスキルだったりする。
・また、複数の円錐を同時に発射して爆炎の威力を大幅に上昇させる事も可能だが、円錐一つの再生には24時間かかり最大で六つまでしかストック出来ない。
・欠点は弾速が亜音速ぐらいしか出ないので空戦だと遅すぎて空爆ぐらいにしか使えない事。
・元となったのは【爆竜王 ドラグブラスト】という天竜種の“竜王”で、空爆で地上を焼き払う事を好む凶暴な個体だったので討伐された。
・尚、この武器の最も強力な使い方は《第三の腕》で射出して敵に突き刺した後、全弾起爆して内側から焼き尽くす手法(特典武具だから再生するし)

デュラル:飛行能力という部分だけなら神話級<UBM>クラス
・基本の翼を使った飛行の他にも風属性魔法を使ったジェット噴射や煌玉馬の様な空中走行などの複数の飛行手段と【天翔騎士】の各種スキルを組み合わせて、更にお互いの技術と経験でもって360度全方位最高速自在飛行を可能にしている。
・本人のAGIは15000程だが《天馬強化》レベルEXによって30000程になっており、高速飛行しながらの魔法行使も可能。

【クインバース】率いるゴブリン達:総戦力だと超級職すら退けるレベル
・《ユニゾン・マジック》を使っていたのは以前の話で出産していたゴブリン達で、それだけに特化しているタイプなので通常戦力としては弱くなっている。
・拠点には地下室も有り、重要な生産拠点などは実はそちら側にある。


読了ありがとうございました。
日頃の応援ありがとうございます。意見・感想・評価・誤字報告・お気に入り登録などはいつでも待っています。


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私に良い考えがある!

前回のあらすじ:黒幕である【クインバース】と配下のゴブリン軍団に戦いを挑んだリヒトだったが、予想を上回る相手の戦力に敗走を余儀なくされるのだった……。


 □<サウダ山道> 【紅蓮術師(パイロマンサー)】レント・ウィステリア

 

 さて、リヒトさんが【ヤタガラス】の先導でゴブリン達を生み出していると思しき黒幕を探しに行ってからしばらく、俺達は回復を終えた後でこの近辺に例のゴブリン達がまだ残っていないかを調査していた……まあ、前回の戦闘の事を考慮して部隊を分けずに一かたまりになっての捜索だからそこまで広範囲を探せる訳ではないが。

 ……リヒトさんの報告を待つ意味でもが帰って来るまでは余り動かない方が良いのではと言う声が<マスター>から上がったりもしたが、部下であるリリィさんが『リヒト団長はマジックアイテムのお陰でこちらの位置が分かりますし、いざとなれば()()()こっちに戻って来れるから大丈夫ですよ』と言ったので全員納得して探索を行なっている。

 

「と言っても、ゴブリンどころか普通のモンスターも出てこないけどねー」

「まさか全てゴブリン達に狩り尽くされたのでしょうか?」

「それも一つの理由だろうが、多分危険を察知してゴブリン達から逃げたモンスターも相当数居るんじゃないか?」

 

 このデンドロのモンスターは普通のゲームの敵キャラと違って一体一体に人格と知性があるからな、自分達が住んでいる場所が危険地帯になったと分かったら逃亡を考えるのは当然だろう。

 これまで俺達が狩りをしていた時もモンスターは危機に陥ったら逃げようとする者ばかりだったからな……まあ、そういう連中は俺が容赦無く後ろから撃つか天災児二人に回り込まれてしまった事が殆どだったが。

 ……それに、これだけ数が多い人間達のパーティーを襲うにはモンスター側にも相応の実力や規模が必要だろうしな。普通なら関わらない様に避けるだろう。

 

「……あ、なんかヤタが目的地であるゴブリンの群れに着いたみたいですね。……んー、それで多分ヤタだけが引き返してリヒトさんが引き続きそのゴブリンの群れの後を追おうとしているのかな?」

「成る程、ありがとうございます久遠たむーさん。……リヒト団長がそう言った判断を下したのなら、おそらくそのゴブリンの群れに何か今回の黒幕に繋がる情報を見つけたのでしょう」

 

 ……と、そんな事を思っていたら久遠たむーさんとリリィさんがそんな話をしているのが聞こえてきた。どうやらリヒトさんが向こうで何か手掛かりを掴んだ感じか。

 ……それからしばらく調査を続けていると、南の空から久遠たむーさんの元に役目を終えた【ヤタガラス】が戻って来た。

 

「お疲れ様ー、ヤタ」

『ガンバッタゼー! ツカ、オレサマハタラキスギジャネー!』

「ええ、今回の事件では貴方達が居てくれて本当に助かりました。報酬の方も期待しておいて下さい」

「ほう、それは楽しみだな。一体どんな情報が手に入るのか……」

 

 まあ、本当に今回の事件では<Wiki編集部>組は大活躍だからな……俺もミカが色々と無茶振りした事も合わせて特典武具含む<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>の情報を渡す約束だったから、今の内に情報をちょっと纏めておこうかね。

 ……そう考えていたら近くにいたミカが顎に手をやって虚空を見ながら何かを思案している姿が見えた。これはミカが何かを感じ取っている時の表情だな。

 

「どうした、何か気になる事でも起きたのか? ……それともこれから“起きる”のか?」

「んー、いやそういう訳じゃないよ。私の“直感”だと今の所は、この事件に関しては順調に進んでいるし……あ、来たみたいだね」

 

 ミカがリリィさんとアット達の方向を見ながらそんな事を言った次の瞬間、いきなり向こうにいたリリィさんの近くの空間が光り輝いたのだ……咄嗟に俺やミュウちゃん、アット、月夜さん達などの場慣れした<マスター>達が戦闘体勢をとったが、直後に光が消えると共にその場所には調査に行っていた筈のリヒトさんとデュラルが現れたのだ。

 ……よく見るとリリィさんを初めとする騎士達は光を見ても驚いていなかったし、これはリヒトさん達が何らかの方法で転移して戻って来たと見るべきなのか。

 

「お帰りなさいリヒト団長、どうでしたか?」

「ああ、状況はこちらが思っていた以上に不味い事になっていた。……全員を集めてくれ、これから王都への報告を合わせて詳しく説明する」

 

 現れたリヒトさんの表情はかなり深刻なものであり、彼はそのまま全員を集めてマジックアイテムによる連絡の準備を整えながら自分が見て来た事を話し始めた。

 ちなみにリヒトさんがいきなりこの場に現れて驚いていた<マスター>達に近くにいた騎士さんが説明してくれた事によると、アレはリヒトさんが有する転移能力を持った特典武具によるもので、彼は<UBM>と戦って窮地に陥ってもそれを使って撤退出来るからこそ団長なのに単騎で威力偵察を行っているのだとか。

 ……それはつまり今回の黒幕は、超級職のリヒトさんと物凄く強いであろう彼の愛馬デュラルを持ってしてでも窮地に陥る様なヤバい相手だったって事だよな。これから始まる話はしっかりと聞いておいた方が良さそうだ。

 

 

 ◇

 

 

「……以上が、私とデュラルが<ネクス平原>で見た<UBM>【鬼仔母身 クインバース】とその配下であるゴブリン達の情報の全てだ」

「「「「…………」」」」

 

 そうしてリヒトさんが<ネクス平原>で戦った【クインバース】率いるゴブリン達の事を話し終えた後、その場に居る<マスター>・ティアン全員が口を噤んでしまった……そりゃあ上級モンスターを含む千を超えるゴブリンとそいつらを作り出せる<UBM>って言う時点でヤバいのに、超級職のリヒトさんですら防戦一方な戦力があるって分かってしまっているからなぁ。

 ……それに【ゴブリン・キング】率いる群れを自分の護衛では無く遠征させて居るって事は《ゴブリンキングダム》みたいな配下の経験値を獲得出来るスキルを持っていて、多分それでゴブリンを生産しているっぽいしな。倒したゴブリンがアイテムを落とさないのもその分を経験値に変換している可能性が高いし、下手をすると放置しておくだけで戦力がどんどん増えていく可能性が高いしな。

 

「……それでリヒト団長、今後私達はどう行動するべきでしょうか?」

「うむ、とりあえずは一旦王都に戻る事になるだろう。ここに居る戦力だけでは【クインバース】率いるゴブリンの群れ相手にはどうしようもないだろうし、クエストに参加した<マスター>達への報酬の話もあるからな」

 

 その場を覆う沈黙を破ってリリィさんがリヒトさんに今後の方針を聞いた所、彼はひとまず王都への帰還を提案した……まあ、話を聞く限りの向こう側の戦力だとここに居る人間だけではどうしようも無さそうだからな……その後もリヒトさんは深刻な表情で話を進めていく。

 

「その後は王都で【クインバース】に対する対策を話し合う事になるだろう。流石にあの規模の相手だとグランドリア卿や【大賢者】殿が出て来る必要があるだろうしな。……ヤツらは私を迎撃する時に高度な連携を取れる程の高い知性があるし、その特性上【クインバース】は時間を置くと規模がドンドン拡大していくタイプの<UBM>だから、コイツだけでも可能な限り早く倒したいんだがな」

「……その【クインバース】だけを倒す方法なら無くは無いんだけどね」

「「「「えっ⁉︎」」」」

 

 そのミカが発した言葉に対して、その場に居るミカの“直感”の事を知っていた俺とミュウちゃん以外の人間達が驚きの声を上げながら振り向いた。おそらくミカには既に【クインバース】を倒せる道筋が“視えて”いるんだろうな……早急に倒さないと被害が酷くなる事まで含めて。

 ……ミカは“直感”の所為か色々と説明を端折って話す癖があるから色々とフォローしてやらんと……。

 

「ミカ、それはお前の<エンブリオ>の防御・身代わり系スキル効果減衰を使って【クインバース】を倒すって事か?」

「そうだよお兄ちゃん。私の<エンブリオ>のスキルはさっき【ゴブリン・キング】の《ゴブリンキングダム》を抜いてダメージを与えられた事は確認済みだし」

「……ふむ、まあ確かにあの【クインバース】のステータスはSPに特化していて、それ以外のステータスはHPが多少高いぐらいの亜竜級程度だったが……」

 

 俺がミカに詳しい話を聞きながらその場に居る人間に事情を説明して行くと、やはりと言うか真っ先にリヒトさんが反応してくれた……本当にこの人は<マスター>に対する偏見も少ない上に色々と話が早くて助かるよ。

 ……とは言え、例えミカの【ギガース】が【クインバース】にダメージを与えられたとしても()()()()()()どうしようもないんだが。

 

「だが、それでもミカ君のステータスでは一撃では倒しきれない程度の能力はあったし、それ以前にあのゴブリン達の守りを突破する事は出来ないだろう」

「それはそうなんだけどね。……と言うか、私のスキルは自分の攻撃力を基準としてスキル効果を減衰させるから、多分<UBM>である【クインバース】のスキルを抜くには今の私のステータスでは無理な気がするし」

 

 そう、つまりミカ自身が弱すぎて超級職すら退ける戦力を持つ【クインバース】に太刀打ち出来ないという当たり前の事実があり、当然の事ながらリヒトさんにもそこを突っ込まれた。

 ……しかし、本当にどうするつもりなんだろうか? 正直なところ俺には【クインバース】をミカが倒せる道筋がちょっと思いつかないんだが。

 

「ではどうするのですか姉様? ……まあ、何か考えがあるのでしょうけど」

「うん、あるよ。……私だけだとどうしようもないからリヒトさんには協力して貰う必要があるけど」

「あの【クインバース】率いるゴブリン達からは人間に対する敵意の様なものがあったし、これ以上の戦力増加を防ぐ為に大元だけでも潰しておくのは賛成だからそれに関しては構わないが……具体的にどうするつもりなんだ?」

 

 幸いリヒトさんは【クインバース】を早急に倒すというミカの提案には肯定的だから、後はちゃんとした方法を提示すれば協力してくれそうである。

 ……ミカが如何するのかは俺には分からないが、うちの妹の“直感”が外れた試しはないから多分俺には見えない最適な道筋が視えているんだろう。きっと俺には思いもつかない様な提案をしてくれる筈だ。

 

「それに関しては簡単な話だよ。今回必要な要素は私が【クインバース】を倒せる攻撃力を得る事と、ゴブリン達の防衛体制を抜いて不意打ちを可能にする事……つまり! 超超音速で飛べるリヒトさんが()()()()()()()()()()()()()()()【クインバース】に直撃させればいいんだよ!!!」

「「「「「………………」」」」」

 

 ……ミカが物凄いドヤ顔で言い放ったその言葉によって、その場には先程リヒトさんの話を聞いたのとは別の意味の沈黙が包み込んだ……ワー、オレニハオモイモツカナカッタアイデアダナー(白目)

 

「……おいたわしや姉上……“直感”の使い過ぎでとうとう頭が残念な事に……」

「いやミュウちゃん、私の頭は正常だよ⁉︎ てかちょっと酷くない⁉︎」

「そりゃあいきなり『私自身が人間砲弾になる事だ』とか提案すればそうなるよ」

「お兄ちゃんまで⁉︎ ……いやこの方法が一番【クインバース】を倒せる確率が高いんだって! 私の【ギガース】は私自身の直接攻撃なら殴っても蹴っても体当たりしても減衰効果は発揮されるし、ヤツを守ってる結界もそのまま抜けるからね」

 

 ……まあ、お前がそう言うならそうなんだろうが……流石に人間砲弾戦術とか言ってもリヒトさんは協力してくれないと思うぞ。正直言って説得はかなり難しいと「……まあ、出来なくは無いな」…………えっ⁉︎

 

「俺とデュラルの能力なら人一人を超超音速で飛ばすぐらいなら可能だし、もう一度だけ【クインバース】に接近する事も出来なくは無いだろう。……だが、その方法だと君は高確率で死ぬ事になるぞ。いくら不死身の<マスター>とは言え……」

「んー、でもここで【クインバース】を放置したら後々王国のティアンに多大な被害が出ると思うけど?」

「ッ⁉︎」

 

 そう言った上でリヒトさんが懸念を口にしたが、先程までとは打って変わって表情を消したミカの言葉に黙り込んでしまった……その上で更にミカは言葉を重ねる。

 

「所詮、私は死んでも三日後には蘇る<マスター>だからね、死んだらそこで終わりのティアンが犠牲になるよりは良い結果に終わると思うよ。……それに、これ以上【クインバース】が戦力を増強させれば確実にティアンとの大規模な戦争になりそうだからね。今の内に斬首戦術で親玉を始末出来るに越した事は無いよ。……それが分かっているからリヒトさんは私の提案を“出来る”って言ったんでしょう?」

「…………」

 

 無表情のまま、ただし目だけは座っているミカの話をリヒトさんは何かを見極める様にミカを見ながら真剣な表情でただ聞いており、周りの人間達もいきなり変わったミカの雰囲気に呑まれたのか口を噤んでいた。

 ……ミカは“直感”関係になると雰囲気が身内でもちょっと怯むぐらいに変わるからな。それにデンドロでなら自分で先を変えられる所為か本気になってるからな。

 

「それに私が死なずに【クインバース】を撃破出来る可能性も十分にあるんでしょう? リヒトさんが“出来る”って言ったのはそれも理由だよね?」

「……確かに【救命のブローチ】と【身代わり竜鱗】辺りを使えばどうにかなるかもしれないが……分かった。見たところ君は本気で言っている様だし協力しよう。もし倒せなくとも手傷を与えればゴブリン達の戦力拡大を抑えられるかもしれないしな」

 

 やがて根負けしたのかリヒトさんもミカの突拍子も無い作戦を了承してくれて、直ぐに配下の騎士達に指示を出したり王都へと連絡を行なったりして準備を進めていった……後、周りの<マスター>達が『ふーん、おもろい事考えるな、あの子』とか『人間砲弾戦術を躊躇無くやるとかガンギマリすぎだろ』とか『<マスター>が超音速で飛んだ時の検証とか出来ないかな』とか聞こえてくるが面倒なのでスルーで。

 ……しかし、こんな阿保な人間砲弾作戦があっさりと認められるなんて、ひょっとしてこの世界ではごく普通の戦術なのか?

 

「それでミカ、本当にこの作戦で大丈夫なんだよな。……お前がそう言うならそれが最適解なのかも知れないが」

「まあ、()()()()()()()()し大丈夫なんでしょう。……私だって好きで人間砲弾をやりたいと思っている訳じゃないんだからね。ただそうしなければもっと酷い事になると感じたからやってるだけで」

「それは良かったのです。人間砲弾が趣味になった訳では無いのですね」

 

 ……俺達はそんな会話をしつつも俺達はリヒトさんの準備が整うのを待つのだった……まあ、ここは俺達<マスター>にとってはあくまで死んでも死なないただのゲームだから、自分のやりたい様にやればいいだろうさ。




あとがき・各種設定解説

妹:人間砲弾
・尚、内心はこれしか方法が無い事には文句がある模様。

リヒト・ローラン:凄く話が分かる人
・尚、妹の作戦に賛成したのは自分も《天躯翔》の反動軽減効果により突撃戦法をやった事があるからと、【クインバース】の様な条件特化型には相性の良い者を奇襲的にぶつけるのが有効であると経験則で知っているから。
・今回の妹との会話で<マスター>とティアンの間には“自分の命”についての価値観にかなり差があると知った。

【空天指輪 エスペーシャル】:リヒトが所有する逸話級特典武具
・外見は大きな半球の青い宝石がついた指輪で、装備補正は無いアクセサリー。
・固有スキルは《空陣天移》という自分(騎乗しているモンスター含む)を事前に登録しておいた人間・場所の内1カ所の近くに転移させるスキル一つだけ。
・登録しておける人間・場所は合計10カ所で一度登録すると二十四時間は変更出来ず、更に人間の場合には相手の許可が必要なのでリヒトは普段は同僚の騎士の何人かと王都を設定した上でいくつか空きを作っている。
・また、このスキル使用には宝石にMPを事前に蓄積しておく必要があり長距離を転移するなら数百万のMPが必要になる上、スキル使用後に宝石は壊れて再生には十日間程掛かる仕様。
・元となった<UBM>は【空天地転 エスペーシャル】という自身や他者を空間転移させる能力を持ったエレメンタルで、王国の南側でティアンを転移で誘拐する神隠し事件を起こしたのでリヒトを中心とした騎士団に討伐された。
・この特典武具があるからこそリヒトは第一騎士団団長という重要なポジションにありながら<UBM>への単騎威力偵察が許可されている。


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炸裂! 人間砲弾(妹)!

前回のあらすじ:妹「今回の作戦……それは私自身が【ギガース】になる事だ」兄・末妹「「なん……だと……」」


 □<ネクス平原>上空 【戦棍騎士(メイスナイト)】ミカ・ウィステリア

 

【クエスト【討伐──【鬼仔母身 クインバース】 難易度:九】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 そう言う訳で突発クエスト『ミカのドキドキ人間砲弾作戦(爆笑)』の発動が決まったので、私は王都への連絡など諸々の準備が終わったリヒトさんと一緒に【ハイエンド・セイクリッド・モノペガサス】のデュラルに乗って、一路空路にて【鬼仔母身 クインバース】率いるゴブリン軍団の元に向かっているのでした。

 これはどうせ行くなら出来る限り早く【クインバース】の元に赴く事で、向こうが先程の襲撃で受けた損害を補填するより早く奇襲を仕掛けるべきだと言うリヒトさんの提案である。

 ……しかし、私は今リヒトさんの後ろに乗ってるんだけど、流石は最上級のモンスターだけあってデュラルの乗り心地はいいね。向かい風やら空気抵抗やらも彼が風属性魔法でどうにかしてくれているらしいから、高空を飛んでいても全然寒く無いし。

 

「それじゃあ改めて今回の作戦を確認しておこう。……と言っても、やる事は俺とデュラルが姿を消してゴブリン達に感知されないギリギリまで接近、そこから全速力で【クインバース】に突撃しながら《第三の腕》で保持したミカ君を【クインバース】にぶつけると言うだけなんだがな」

『その際に私が君に空気抵抗軽減の魔法をかけるから大気の壁は無視出来る……が、激突時の衝撃はどうしようもないから、そこは追加で貼った結界と渡した【救命のブローチ】及び【身代わり竜鱗】を信じるしか無いがな』

「オッケー、分かりました! ちゃんとその二つも装備してるよ」

 

 ちなみに私をぶつける時には投げるのでは無くリヒトさんが持つ物体を動かす特典武具のスキルを使う事になりました……投擲だと命中率に不安があり、こっちの方が確実に当てられるとの事。

 ……ぶっちゃけ私は【ギガース】を握りしめてじっとしているだけの簡単なお仕事なので、その辺りは全部リヒトさんとデュラルに任せるしか出来ないんだけどね。気を付けなければいけないのは【ギガース】がすっぽ抜け無い様にするぐらいだし、一応布とかで縛っておけば大丈夫でしょう。

 

「後は、相手のダメージに依らず一撃入れたらその時点で全速離脱するから。……最低でも手傷さえ負わせれば時間稼ぎにはなるだろうし」

『無理に追撃などはしない事だ。……もし追撃の必要があっても、その時は私達が行おう』

「はーい、邪魔しない様にじっとしてます」

 

 まあ、今回の私の役目は言ってしまえば“武器”兼“砲弾”だからね。戦力としては一切役に立たないから、二人の邪魔にならない様にじっとしているのが一番でしょう。

 ……そんな事を考えていたらリヒトさんがややトーンを変えてこちらに話しかけて来た。

 

「さて、まだ目的地まで時間があるし少し話をしようか。……君は何故こんな自分の命を投げ捨てる様な作戦を提案したんだ?」

「それはさっきも言った通り【クインバース】を倒さないと王国のティアンに被害が出るし、私は<マスター>だから死んでも問題無いし……」

「その事に関しては《真偽判定》にも反応は無かったし嘘では無いんだろうが、私が疑問に思っているのは君が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事なんだがね。……確かに【クインバース】がこれ以上戦力を増やすと王国に居る超級職達だけでは倒し切れなくなり、総力戦になれば相応の犠牲が出ると俺は睨んでいるが……この世界に来たばかりの<マスター>で王国の戦力について詳しく知らない筈の君が、“確信”を持ってその判断が下せるのは妙だろう?」

「…………」

 

 そのリヒトさんの問い掛けは実に的を射ているものだったので、私はそれ以上の言い訳を募る事が出来なかった……まあ、別に私は自分の“直感”について念入りに隠している訳じゃないから、目端の利く人なら普通に気づかれるよね。

 ただ、現実では未来が分かる程の“直感”なんて眉唾物過ぎて誰も思いつかないけど、この世界でなら本当に当たる占いや予言とか有りそうだから私が可笑しい事には直ぐに当たりをつけられるのが原因かな。反省しよう。

 ……しょうがない、リヒトさんには無茶振りを聞いてくれたしこっちもちゃんと事情を話そうか。それにここで私の事情を彼に話しても特に問題無い()()()()しね。

 

「……信じて貰えるかは分から無いけど、私は生まれつき自分やその周りに訪れる“危険”とか“事件”を感じ取れるんですよ。……今回もこのまま【クインバース】を放置しておくと王国に多大な被害が出ると感じ取ったので、私はそれを阻止しようと動いてました。……そうなると分かっているのに放置しておくのは非常に不愉快なので」

「……成る程。そう言う事なら納得がいった」

 

 まあ、こっちの世界(Infinite Dendrogram)だと“危険”をどうにかする為に自分自身で動けるから大分気が楽なのだけど……向こうではお兄ちゃんや由美ちゃんに起きた()()をどうにかする事は出来なかったし。

 ……私がデンドロやってるのは自分の“才能”である直感に向き合う為でもあるからね。その為にもまずはこの事件を解決に導いてみよう、そうすれば何かが変わるかもしれないから……。

 

「しかし、なんかあっさりと信じてくれましたね。……私が予知・予測系の<エンブリオ>とかジョブスキルを持っているんじゃないかと聞かれると思っていたんですけど」

「ああ、それは以前に“似たような話”を聞いた事があるからな。……君には言い辛い話をさせてしまった様だし、その礼として私が知っている限りのその事……特殊超級職【先導者(ヴァンガード)】の事について教えるよ」

 

 ……どうやら言葉にはしてない部分も察せられてしまっていたらしい。この辺りはまだ子供の私との人生経験の差が出たかな……規格外の直感を持っていても人の心とかは分からないモノだからね。

 ……しかし、その【先導者】と言うのは一体何なのだろうか? 名前からしてこの世界にあるジョブの一つなんだろうけど……。

 

「【先導者】と言うのは転職に“血筋”や“特別な適性”などが条件にある超級職の事だ……本格的な説明をすると長くなるし、詳しくは後で調べてほしい」

「はあ……」

「とまあ、そんな特殊超級職である【先導者】なんだが、その資格者は『危険をなんとなく探知する才能』を有するらしいんだ。……まあ、私も建国者がその資格者だったらしいグランバロア出身のラングレイや、フィンドル侯爵に聞いた話だからこれ以上は知らないんだが」

『後はその【先導者】に就いているティアンの噂は聞かないから、未だに空位に有るのではないかと言うぐらいか』

 

 ……へー、中々面白い話だね。このゲームをやり続ける理由が増えたかな。

 

「……おっと、話し込み過ぎたな。そろそろ【クインバース】の拠点に付くから準備してくれ。《オプティック・ハイド》。デュラル消音を」

『既にやっている』

「分かりました」

 

 ……まあ、まずはこの目の前にある『いずれ起こりうる悲劇』を未然に阻止する事から始めましょうか。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □◾️<ネクス平原>僻地・【クインバース】の拠点

 

 ここは【鬼仔母身 クインバース】率いるゴブリン軍団の拠点、そこでは現在【天翔騎士(ナイト・オブ・ソアリング)】リヒト・ローランとの戦いによって負った拠点・人員の補填作業が急ピッチで進められていた。

 ……具体的には【クインバース】が出稼ぎに行っている【ゴブリン・キング】が稼いだ経験値を使って新たに即戦力のゴブリンを出産したり、地属性魔法や大工・木工系スキル持ちのゴブリンによる拠点修復などである。

 

『呼び戻していた【ゴブリン・キング】二人がようやく戻ってきたぞ』

『現在残っている【キング】は我々三人を含んで十二人。その内の半数である六人と率いるゴブリン達がここで“女王”の護衛をしている事になるか……もう少し拠点に呼び戻すべきか?』

『いや、これ以上は拠点に入らないから無意味だ。今も全体の三割程度は外の偵察を行っているしな。……だが、人間どもの全面戦争も近いのだし、他の【キング】拠点の近くまでは呼び戻しておくべきだろう。どうせここの位置は既にばれているんだからな』

 

 今までは人間達にバレない様に派手には動いて来なかったゴブリン達だが、リヒトとの戦いがあった時点で隠蔽の意味が無いと判断して拠点の戦力を大幅に増大させていたのだ。

 ……これは彼等ゴブリン達の最優先事項は【クインバース】の身を守る事だと設定されているので、この様に経験値獲得のペースを下げてでも拠点戦力の増大を優先しているのも有るが。

 ……だが、そこで彼等にとっては思わぬ来客が現れる事になったのだった。

 

『……大変です! あの()()()()()()()()()()がまた攻めてきました!!!』

『何だと! ……チッ、どうりで手応えが無いと思っていたらやはり生きていたか!!!』

『今すぐに護衛役と結界役は“女王”の守りを固めよ! 他は戻って来た者達も含めて迎撃だ!!!』

 

 見張りに付いていたゴブリンからそんな報告を受けた【ハイゴブリン・キング】達は、即座に迎撃の準備を進めると共にそのゴブリンが指差した方角の空を見上げる……すると、そこには角が付いたペガサスであるデュラルとそれに乗ったリヒトの姿があった。

 ……そのまま上空を飛んで拠点の元に近づいて来た()()は地上のゴブリン達に風属性魔法の刃と聖属性魔法の槍を放って攻撃し始めた。

 

『攻撃して来ました⁉︎』

『落ち着け! 向こうの狙いは荒いからただの牽制だ! 準備が出来た者から攻撃開始!!!』

 

 その攻撃に前回の被害を思い出して怯むゴブリンも居たが、それらは【キング】が一喝するだけで直ぐに落ち着きを取り戻して上空にいる彼等への攻撃や、相手の攻撃に対する防御など自らの役割を忠実に行い始めた。

 

『《スナイプアロー》!』

『《ヒート・ジャベリン》!』

『《スプレッド・アロー》!』

『《サンダー・スマッシャー》!』

 

 そして先程の戦闘と同じ様に地上にいる対空攻撃可能なゴブリン達が、一斉に上空にいる彼等に向かってアクティブスキル混みの矢や魔法を放ち始めた。

 ……その対空攻撃は先程と同く回避を許さぬ様に彼等の周囲を覆う様に広範囲にばら撒かれる物と、直接彼等を狙う物に分かれて放たれ……リヒト達に当たる起動を描いた攻撃は全て彼等を()()()()()

 

『攻撃が擦り抜けた⁉︎』

『今度はどんな能力……⁉︎』

『……いや! アレは()()だ⁉︎ ……不味い⁉︎ “女王”が……!』

 

 ゴブリン達が上空に居たリヒト達がよく出来た幻影だと気付くその直前、その反対側に居た【クインバース】の直上まで姿を消して接近していたリヒト・デュラル・ミカの三人はそのまま超超音速での急降下を行なっていた。

 ……これはリヒトが所有する特典武具【螢幻布 ホタルンガ】のもう一つのスキル《イリュージョン・ダブル》──本人及びその騎乗対象と同じ姿の幻影を作り出すスキル──を事前に使っていたからである。

 

 

 ◇

 

 

 ……これはゴブリン達がリヒトの幻影を発見する少し前の事である。

 

「……おお、リヒトさん達がもう一人」

「この幻影を囮にしてゴブリン達の目を引き付けて、その隙に隠密状態で【クインバース】の近くまで接近する。……どうせ十秒もあれば気付かれるだろうが、それだけあれば超超音速で近付いて一撃入れるぐらいは何とかなるだろう」

『後、幻影の中に風属性と聖属性の魔法を仕込んで遠隔発動させればよりバレ難くなるだろう』

 

 そうしてリヒトは《イリュージョン・ダブル》で作られた幻影をゴブリンの拠点に向かわせつつ、自身は姿と音を消して向こうの探知結界に掛からない様大きく上空を迂回して【クインバース】の元に接近していった。

 

「それじゃあミカ君、君を《第三の手》で保持するから準備はいいか。……一応、君のメイスを含めて念力で保持するから大丈夫だと思うが、なるべくしっかりと握っておいてくれ」

『空気抵抗軽減の魔法は念入りに掛けておいたし、衝撃対策として君の体表面に結界を張っておいたが、これから行う事が事だから気休めぐらいに思っておいてくれ』

「分かりました大丈夫です。……手と【ギガース】を布で縛ってみたけどやっぱり気休めかな」

 

 そう言ったリヒトは《第三の腕》で【ギガース】を握り締めたミカを宙に浮かせて自分の横に固定した……尚、現在のミカの姿勢は【ギガース】の柄を両手でしっかりと掴み、自分の頭の上に【ギガース】の頭部が来る様にしながら空中で横になっているという側から見るとややシュールな光景だったが。

 

「……よし、敵が囮に食いついた。行くぞミカ君!」

「はいっ!」

 

 ……そしてゴブリンの拠点の上空にまで来ていた彼等は、光学迷彩を解除しながら一気に超超音速で斜め下に居る【クインバース】の元へと突っ込んで行ったのだった。

 

 

 ◇

 

 

 その様にしてゴブリン達の裏を書く事に成功したリヒトは、各種加速系アクティブスキルを使って護衛のゴブリン達が気付くよりも早く【クインバース】を《第三の腕》の射程圏内──100メートル以内──に収める事に成功していた。

 ……尚、この《第三の腕》は“腕”であるが故に使用者であるリヒトと保持している物体は相対距離で固定される、つまりリヒトが超音速で移動しても隣に保持しているミカは《第三の腕》を動かさなくても同じ様に移動する仕様である。

 

「今だっ!!!」

「──────ッ!!!」

 

 それはつまり、超超音速で移動している最中に《第三の腕》を前方に移動させた時の速度は『移動速度+《第三の腕》を動かす速度──リヒトのAGI』になるという事である。

 ……故に、今《第三の腕》によって前方に射出された弾丸(ミカ)の現在の速度は瞬間的にだが音速の六倍を超えているのだ。

 

『……不味い⁉︎ “女王”が危ない!!!』

『“女王”を守……!』

『結界を……⁉︎』

 

 その圧倒的な速度はゴブリン達が【クインバース】を守ろうとするよりも早く玉座を守る結界までミカを到達させ、その速度によって得られた圧倒的な攻撃力は“攻撃力を基準としてあらゆる防御系スキル効果を低下させる”パッシブスキル《バーリアブレイカー》の効果を最大限に引き出している。

 その結果、先端に配置しておいて【ギガース】が結界に触れた瞬間、超級職の奥義すら一撃なら凌げる程の強度だった結界はまるで紙切れの様に消し飛び……。

 

『……あ』

 

 ……そのまま相手が何かを言うよりも早く一発の弾丸と化したミカは【クインバース】の上半身部分に突き刺さり、最後の砦である《ゴブリンエンパイア》の身代わり効果を《バーリアブレイカー》で無効化してその身体を上半分を跡形も無く吹き飛ばしたのだった。

 

【<UBM>【鬼仔母身 クインバース】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【ミカ・ウィステリア】がMVPに選出されました】

【【ミカ・ウィステリア】にMVP特典【鬼身腰帯 クインバース】を贈与します】

 

 ……後、こんなアナウンスが表示されたのだが【クインバース】を貫通して超超音速で地面に突っ込んだミカにはそれを確認する余裕は無かった様だ……。




あとがき・各種設定解説

妹:人間砲弾(生死不明)
・色々と自分の才能に思う所がある系の天災児。
・尚、MVPに関しては《バーリアブレイカー》で結界や身代わり効果を破った事と直接トドメを刺したのが大きかった模様。

リヒト・ローラン:歴戦の戦士なので人を見る目はある
・尚、観察や推理の基礎は昔世話になっていた【聖焔騎】から教えてもらったものだと言う裏設定があったりする。
・今回も幻影を上手く動かしてゴブリン達の注意を引いたり、《第三の腕》を精密に操って芋を【クインバース】に直撃させたりと要所で活躍している。

デュラル:魔法技術は非常に高い
・その技術は魔法を発動待機状態で遠隔操作しながら、妹に衝突時の反動や射出時の負担を大幅軽減する防護結界と空気抵抗軽減魔法を展開出来る程。

【鬼仔母身 クインバース】:防御貫通人間砲弾に粉砕された
・敗因としては結界と《ゴブリンエンパイア》に頼り過ぎて守りが疎かになっていた事が挙げられる。
・これは自身の子供を失った所為で【クインバース】の心にはどこか虚無的な感情があったため、フランクリンなどの様に徹底した執着が持てなかった事も理由だったりする。
・尚、彼女は死んでも産み出されたゴブリン達が消える訳では無い。


読了ありがとうございました。
実にギャグっぽい討伐の仕方だけど本人達は大真面目です……というか、これ以外に【クインバース】を倒す方法が思いつかなかった(作者が)とも言う。


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ゴブリン事件の終わり

前回のあらすじ:妹「私自身がシメの弾丸だ!」クインバース『グワーーーー!!!』


 □【クインバース】の拠点 【戦棍騎士(メイスナイト)】ミカ・ウィステリア

 

「……痛たた……まあ、痛覚はオフにしてあるんだけど。……ていうか、私生きてる? HPは減ってるけど」

 

 私は自分で発案(不本意)した人間砲弾作戦によって超超音速で【鬼仔母身 クインバース】に向けて突っ込んだ訳だが、その後に地面へ激突したのに何故か生きていた。

 ……正直なところ私のAGIでは何が起こったのかはよく分からなかったが、身につけていた【救命のブローチ】と【身代わり竜鱗】が砕けていた事と、地面に激突する寸前にスピードが落ちた様に感じたので多分リヒトさんが上手くやってくれたのだろう。

 

(ちょっとだけ【気絶】してたから分からないけど、手元にお兄ちゃんが持ってたのと同じ特典武具入りっぽい【宝櫃】があるから多分【クインバース】は倒したんだろう。そんな()()()()し。……さて、このままだと残ったゴブリン達にリンチにされそうだけど……おおっと!)

 

 未だにフラつく頭を抑えながら現在の状況を確認していると、突如として私の身体が何者かに引っ張られる様に宙へと舞い上がった……そして、次の瞬間には【ハイエンド・セイクリッド・モノペガサス】のデュラルに乗って地上に接近していたリヒトさんの後ろに乗せられていた。

 ……更に私を乗せたリヒトさんは即座にデュラルの騎手を上げて上空へと昇っていった。

 

「おお! リヒトさん【クインバース】は⁉︎」

「討伐アナウンスがあったから倒したのは確定だ! よくやってくれた!」

『それよりさっさと離脱するぞ。……あのゴブリン達【クインバース】がやられたという事実でショックを受けて今は放心状態だが、おそらくこれから……』

『『『『『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』』』』』

 

 デュラルさんが何か言おうとして途端、地上から凄まじい怨嗟と怒りが伴ったゴブリン軍団の大咆哮が辺り一帯に轟いた……うーん、戦意喪失とかじゃなくてそっちの“ルート”に行くかぁ。まあ予想はしてたけど。

 

『ヨグモ女王ヲォォォォッ!!!』

『追エェェェェェェ!!! ヤツラヲ殺セェェェェェェ!!!』

『GAAAAAAAAAAAAA!!!』

「……わーお、みんなハッスルしてるねー(棒)」

 

 ……私が思わず下を向くと、そこには血走った目をしつつ怨嗟の声を上げながら上空にいるこちらを睨みつけるゴブリン軍団の姿がありましたとさ。【クインバース】を倒したら高確率でこうなるとは解ってはいたけど、実際にこれだけの殺気をぶつけられるとちょっとビビるね。

 勿論、ゴブリン達はただ喚いている訳ではなく、こちらに向けて弓矢や魔法や投擲による遠距離攻撃を行ってもいる……が、そこはリヒトさんが上手く飛び回る事で回避しているから私達には当たらずに空を切るだけである。

 

「それでリヒトさん、あの連中から逃げきれます?」

「逃げるだけなら君を乗せたままでも容易いが……あのゴブリン達をこのまま放っておく訳にもいかん。八つ当たりで近くにある村や街を襲撃される可能性もあるからな」

『幸いと言うか今のヤツラは我々にしか目を向けて居ないから、このまま引き離さない程度に逃げ回ればそう言った被害は抑えられるだろう』

 

 ……まあ、そうするしかないよねー。【クインバース】は倒したからもう増える心配は無いとはいえ、あのゴブリン達だけでも相当な戦力になるし。

 

「……一応、【クインバース】を倒した時点でこうなる可能性も予測していたから()()も打っているし、悪いがミカ君にはしばらく付き合ってもらう。……とりあえず【クインバース】を倒した事を連絡して、事前に伝えておいた予定通りあの辺りに追い込めば……」

「分かりましたー、お任せしまーす。……まあ、私はこうやって後ろに座っているだけしか出来ないので」

 

 そうしてリヒトさんはマジックアイテムで何処かに連絡を取りつつゴブリン達が撃ってきた遠距離攻撃を避けて飛行し始める……そんな状態なのに一発も攻撃当たってないとか、やっぱ超級職凄いね。

 ……そして私達は激怒しているゴブリン軍団としばらくの間だけリアル鬼ごっこ(ガチ)を行っていくのだった……ゴブリン()だけに()

 

 

 ◇

 

 

『『『『『待ァテェェェェェェェ!!!』』』』』

「うん、アイツらしつこいね。……どうも諦める気は毛頭無いみたい」

「私達以外に注意が行かないのはむしろ幸運ではあるのだが、付かず離れず逃げ続けるのも面倒だな」

『空を飛ぶ連中は撃ち落としたから後は地上からの遠距離攻撃だけしか向こうに出来る事は無く、それらも高度を取っていれば避けるか防ぐかし続けるのは容易いがな』

 

 あれから小一時間、私達はひたすらにゴブリン達との付かず離れずの追いかけっこを続けていた……まあ、リヒトさんとデュラルの飛行技能が凄まじいから多分私を乗せてるせいで全力で飛行出来ない筈なのに殆どの攻撃を回避しているし、まれに当たりそうな攻撃もデュラルが展開した結界に防がれるからこれまで私達はノーダメージである。

 ……それ以外にも空を飛べる【ゴブリン・ライダー】が襲い掛かって来た事もあったけど、即座にリヒトさんの槍に貫かれるかデュラルの蹴りで文字通り一蹴されている。

 

『唯一の懸念は《ユニゾン・マジック》だったが、アレは複数の術者の精神と魔力を同調させなければ使えない高等技巧だからな。あそこまで精神が乱れているなら使えない様だからな』

「そう言えば聞きそびれましたけど、コイツらを何処まで誘導するんですか?」

「ああ、<サウダ山道>の街道から大きく外れた人気の無い地点だ。アイツらを相手にする際に余計な被害を出さない様にな。……む、来たか」

 

 ……その時、リヒトさんの通信手段として使えるらしきマジックアイテムに誰かから連絡が入った。

 

「……はい、予定通りゴブリン達はそちらに誘導しています。そちらの準備は? ……分かりました。では後五分程度でそちらに付く様に誘導します。……それじゃあ向こうの準備が整った様だからそろそろ詰めに入ろう」

「はーい」

 

 通話を終えたリヒトさんはそう言うと少し高度を上げてゴブリン達を何処かに誘導し始めた……そして五分後、私を乗せたリヒトさんは<サウダ山道>の山間部にある盆地の上空にやって来ていた。

 ……そして、そこの上空には黄金の機械の馬に乗ったなんかリヒトさんと同等ぐらいの実力がありそうな騎士と、その後ろに横向きに座っているローブを着た老人の姿があった。

 

「グランドリア卿、【大賢者】様、お待たせしました準備は?」

「ええ、“歓迎”の準備は出来ていますよ。何せ五分も時間を貰いましたから」

「私は【大賢者】様をここまで運んだだけだからな」

 

 どうやら、その二人とリヒトさんは知り合いの様で何処か気安く話していた……以前、アイラさんから聞いた話と彼等の特徴は一致するし。多分この二人が王国に所属している残り超級職(スペリオルジョブ)である【天騎士(ナイト・オブ・セレスティアル)】ラングレイ・グランドリア卿と本名不明の【大賢者】さんなんだろうね。

 ……私がそんな事を考えていると地上から散々聞かされてきたゴブリン達の怨嗟の叫び声が聞こえて来て、そちらを見ると山間の盆地に次々とゴブリン達が入り込んで来る光景があった。

 

『『『『『『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』』』』』』

「……これは、上級のゴブリンがこれほどか。話には聞いていたが凄まじいな。拠点で防衛するコイツらを倒すのは我々でもかなり梃子摺るだろう」

「ですが、怒りで理性を失っているのであれば御し易いですね。……何せ()()()()()()()()()()に簡単に引っかかってくれるのですから。……魔法隠蔽解除」

 

 ゴブリン達が山間部に入り込んだ丁度その時、【大賢者】と呼ばれた老人が何かを呟きながら右手を振り上げると、盆地の上空に突如として直径300メートル以上の()()()()()が現れたのだ。

 ……そのあまりにあまりな光景にあれだけ怒号を放っていたゴブリン達ですら、頭上を見上げて沈黙すらしていた。

 

「五分も時間を貰えれば()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぐらい出来ますからね。……では、落ちなさい。《イマジナリー・メテオ》」

 

 そう言った【大賢者】さんが右手を振り下ろすと上空の隕石がゴブリン達に向かって急速に落下していった……それを見たゴブリン達が慌ててその隕石に弓矢や魔法を放つが、それらは全て隕石を擦り抜けていったので何の妨害にもなっていなかった。

 ……そして、その隕石はゴブリン達の群れの中央部分に激突して彼等を跡形も無く消し飛ばしていく。よく見ると周辺の地形には一切の影響を与えていないから、多分敵対生物だけ攻撃する感じの仕様なんだろう。何そのチート。

 

『『『……GA……GGA……』』』

「おや? 【ハイゴブリン・キング】は生き残ってますね。……ああ、《イマジナリー・メテオ》の範囲外のゴブリンにダメージを写しましたか。数が多すぎて盆地に入り切らないゴブリンが結構いましたからね。……では、()()()()落としましょうか。彼等にダメージを与えればその身代わりにされたゴブリン達を殲滅出来るでしょうし」

 

 隕石が落ちた後、まだ辛うじて生き残っていた三体の【ハイゴブリン・キング】を見た【大賢者】さんは何の事も無い様にそう言って、おそらく事前に準備しておいたもう一つの隕石を上空に出現させた……どうやら、あの隕石は複数用意してあったみたいだね(白目)

 ……それを見て呆然としている【ハイゴブリン・キング】に向けて先程と同じ様に隕石が落下していき、今度はその落下地点には何も残らなかったのだった……。

 

「……ふむ、これでここに来たゴブリン達は倒しましたかね」

「《トライブレベル・ラウンドサーチ》……この一帯にはもうゴブリンの姿は無い様です。……まあ、まだ【クインバース】によって産み出されたゴブリンが残っている可能性もあるが……」

「そこは<サウダ山道>から<ネクス平原>の監視を強化して対応するしか無いだろう。……王都の騎士だけで無くギデオン伯爵にも連絡して協力を頼むべきだな」

 

 あれだけいたゴブリン達をサクッと殲滅した御三方はそんな感じの会話をしながら周辺の確認をしているみたいだね……とりあえず、これで事件は解決して一件落着って事で良いのかな? 私の“直感”でも『この事件はこれで終わり』って感じがするし。

 ……そんな事を考えていたら私を放置していた事に気が付いたリヒトさんが話しかけて来た。

 

「おっと、それよりもまずはミカ君を送り届けなければならないな。……ミカ君、今回は本当に助かった。君達が早期に【クインバース】を発見・排除してくれたから楽に対処出来た。報酬の方も【許可証】を含めて相応の物を用意しよう」

「確かにあのゴブリン達は更に勢力を増した状態で正面からの戦いになっていれば、ここまで楽に済む事は無かっただろうしな」

「まあ、報酬の方は王都に戻ってから話し合う事になりそうですがね」

「は、はあ……」

 

 実際、この人達がいれば【クインバース】とか普通に倒せたんじゃない? と思ってしまったので恐縮しつつリヒトさんの背に隠れる私なのでした……まあ、そっちのルートだと勢力を増した【クインバース】達が人里を襲い始める気がするから、こっちの方が私的には良かったんだけど。

 ……後、本当に何となくだけどあの【大賢者】さんには余り関わらない方が良い気がするんだよね。何かこう“直感”がイヤな感じで反応しているというか……。

 

「それじゃあリリィ達と合流して王都に戻ろうか。報酬に関しては色々と話し合う事もあるから後日になりそうだが……」

「あー、それで良いですよ。私も今日は疲れたので」

 

 主に人間砲弾になった事とかね……そんな訳で本当に妙な事になった私達の【墓標迷宮探索許可証】入手クエストは終わりを迎えたのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □◾️??? 

 

【孤狼群影 フェイウル】

 最終到達レベル:37

 討伐MVP:【壊屋(クラッシャー)】シュウ・スターリング Lv48(合計レベル:48)

<エンブリオ>:【戦神砲 バルドル】

 MVP特典:逸話級【すーぱーきぐるみしりーず ふぇいうる】

 

【絶界虎 クローザー】

 最終到達レベル:58

 討伐MVP:【闘士(グラディエーター)】フィガロ Lv46(合計レベル:46)

<エンブリオ>:【獅星赤心 コル・レオニス】

 MVP特典:伝説級【絶界布 クローザー】

 

【擬音色獣 サウンドカラレス】

 最終到達レベル:42

 討伐MVP:【盗賊(バンディット)】ゼクス・ヴュルフェルLv39(合計レベル:39)

<エンブリオ>:【始源万変 ヌン】

 MVP特典:逸話級【偽音色布 サウンドカラレス】

 

【心蝕魔刃 ヴァルシオン】

 最終到達レベル:51

 討伐MVP:【紅蓮術師(パイロマンサー)】レント・ウィステリアLv8(合計レベル:140)

<エンブリオ>:【百芸万職 ルー】

 MVP特典:伝説級【才集刃飾 ヴァルシオン】

 

【鬼仔母身 クインバース】

 最終到達レベル:69

 討伐MVP:【戦棍騎士】ミカ・ウィステリアLv45(合計レベル:95)

<エンブリオ>:【撃災棍 ギガース】

 MVP特典:伝説級【鬼身腰帯 クインバース】

 

「……ふむ、これは予想外と言うべきか。投下した<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>の多くが<マスター>に倒されるとは。……“こちら”に来たばかりの<マスター>に対する最初の壁として程々の強さのモノしか投下しなかったとは言え、これは嬉しい誤算か」

「やっぱり地球の<マスター>は優秀みたいだねー。……最初はどうなる事かと思ったけど、これなら何事も無く終わるかなー」

 

 そこは管理AI達が住まうとある場所、その一角ではジャバウォックとチェシャが今回の<UBM>投下イベントの成果であるその討伐情報を眺めていた。

 ……そこにはアルター王国を始めとした全ての国での<Infinite Dendrogram>を始めて内部時間で1カ月程度にも関わらず、投下した<UBM>を倒して特典武具を獲得した<マスター>達の情報が載っていた。

 

「結果を見ると今回の投下イベントは大成功と言って良いだろう。……まあ、本来は<UBM>が多くの<マスター>を打ち倒して、それによって彼等の発奮を促す予定だったのだがな。地球の<マスター>達は期待以上の逸材が多い様だ」

「まー、<マスター>達が強い分はいいんじゃない? 僕らの“目的”にはさー」

 

 それを見ていたジャバウォックは満足気であり、チェシャは懸念が悉く外れてくれたお陰で安心した雰囲気だった。

 

「ふむ、とすると今回のデータを参考にして今後のイベントで使用するモンスターの強度は上方修正した方がいいか。……例えばハロウィン用の<UBM>として【カボチャ化】の特殊な状態異常を他者に与えて操るモンスターとか。それと今後はクイーンの<UBM>判定はキツめにしよう」

「……影響が広範に及ぶイベントの<UBM>はティアンへの被害が少ないヤツにしてねー。……後、クイーンにはもうちょっと優しくしてあげて」

 

 ……そんな会話をしてから彼等は各々が<Infinite Dendrogram>で為すべき作業へと戻って行ったのだった。




あとがき・各種設定解説

妹:ギリ生存
・生存出来たのは【クインバース】に激突した時の衝撃をデュラルが貼った結界と【竜鱗】で防がれ、地面への激突時はリヒトが直前で速度を緩めた(止めるとGで潰れる)事と【ブローチ】のお陰。
・もう<UBM>を倒す為に人間砲弾はこりごりなので、しばらくレベル上げに徹したいと思っている。

リヒト・ローラン&デュラル:真のMVP
・【クインバース】を襲撃に行く前に【天騎士】と【大賢者】の二人に後詰めを頼んでおくなど油断無く詰めるタイプ。

【天騎士】【大賢者】:リヒトから連絡を受けた後に【黄金】に乗って全速力で駆け付けた
・これまでも<UBM>相手にリヒトが先行して情報収集を行い、それから援軍として彼等が駆け付けると言うのが何度かあったので対応は手慣れている。

ゴブリン達:流れ作業の様に討伐された
・尚、理性が残っていればもう少し善戦はしていた(勝てるとは言っていない)
・まだ残っている【ゴブリン・キング】とその配下も居るが、上が居なくなったので闇雲に行動する様になり人間や他のモンスターに討伐されて行く模様。

管理AI達:とりあえずイベントが無事に終わって満足(クイーン除く)
・【カボチャ化】<UBM>は適当に書いた物なので実際に出るかは不明です。

悪いスライム:名前だけゲスト出演
・ジョブが【盗賊】なのは『とりあえず悪人っぽいジョブに就きましょう』と思ったからだとか。


読了ありがとうございました。
最後はやや駆け足になりましたがこれで第二章本編は終わりになります。次回はオマケの掲示板回になる予定です。


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掲示板回・宣伝とか

前回のあらすじ:妹「なんか隕石が降ってきてゴブリン達は全滅したよ! ……あの【大賢者】さんには近寄らない様にしよう」


 □◾️地球 とある掲示板

 

 

 ◇◇◇

 

 

【クエスト中に】<Infinite Dendrogram>アルター王国モンスター情報スレ36【<UBM>が!】

1:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

このスレはVRMMO<Infinite Dendrogram>に於けるアルター王国のモンスター情報を書き込むスレです

モンスターの目撃情報・生態系・疑問点・<UBM>の事などご自由に

荒らしはスルー推奨

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

510:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

それで? なんかサウダ山道でのクエスト中に<UBM>と遭遇したんだって?

 

 

511:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

確か【墓標迷宮探索許可証】が入手出来るクエストだったな

俺も申し込んだんだが定員で受けられなかったんだよなぁ

……くそぅ、神造ダンジョンとか行ってみたいのに!

 

 

512:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

>>510

そうなんだよ! せっかくクエストに参加出来たのに現れやがって!

<UBM>とは初遭遇だったから特典武具ゲットのチャンス!

……だと思って飛び出したら速攻でぶった斬られたし

 

 

513:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

迂闊に前に出て来るから!

……真面目な話、格上に無策特効とか自殺行為では?

 

 

514:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

で? その<UBM>はどんな奴だったの?

話のタネにするから情報早よ

 

 

515:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

<UBM>の情報は希少……特典武具欲しさにみんな黙るから

 

 

516:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

でも、クエスト中だから騎士沢山いたしもう討伐されているのでは?

 

 

517:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

>>514

【魔刃戦鬼 ゴブゾード】って言う大剣持ったマッチョゴブリンだった

それと配下のゴブリンを百匹ぐらい引き連れてた

後、俺の<エンブリオ>の攻撃を当てたけどノーダメージ……自信あったのに

 

 

518:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

一応勝算はあったけど<UBM>の理不尽防御スキルには意味が無かった感じか

 

 

519:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

あー、俺も大量の影狼に群がられてモグモグされたからなぁ

攻撃力高いアームズ持ってても使えなきゃ意味ないって事がよく分かった

 

 

520:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

>>516

俺がデスペナ食らった後も騎士達は残っていたがその後どうなったかは分からん

あーあ、折角美人の騎士さんとパーティー組めていい感じだったのに

 

 

521:名無しのwiki編纂部[sage]:2043/7/25(土)

そんな皆さんにご朗報です!

なんとサウダ山道に出て来た<UBM>の情報がwikiに追加されました!

詳しくはこちらをチェック! http://◯◯◯◯◯◯◯

 

 

522:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

ナニィ⁉︎

 

 

523:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

知っているのか編纂部⁉︎

 

 

524:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

宣伝乙

 

 

525:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

随分と情報をあげるのが早いな、もしかしてクエに参加してたのか?

 

 

526:名無しのwiki編纂部[sage]:2043/7/25(土)

>>525

Yes!!! 編纂部戦闘班がクエスト中に遭遇して戦闘も行いましたよ!

騎士達や他の<マスター>と強力して撃破に成功しました!

MVPは他の<マスター>達が獲得しましたがね

 

 

527:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

なあこの【ヴァルシオン】って何だ? 俺が見たのは【ゴブゾード】ってヤツなんだけど

後、【クインバース】って一体?

 

 

528:名無しのwiki編纂部[sage]:2043/7/25(土)

【ゴブゾード】の正体は自分を持った【ゴブリン・キング】を操った【ヴァルシオン】

【クインバース】はサウダ山道で起きたゴブリン異常発生の原因

詳しくはwikiに載ってるのでそちらをどうぞ

 

 

529:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

wikiの宣伝必死すぎwww

 

 

530:名無しのwiki編纂部[sage]:2043/7/25(土)

私達はwikiの充実とサイトの閲覧数を稼ぐ為にデンドロやってるので

後、配信サイトでの再生数と広告収入

 

 

531:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

世知辛い……

 

 

532:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

<UBM>の情報や行動は載ってるけど特典武具は名前しか載ってないけど

MVP取れなかったからか?

 

 

533:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

頑張ってちゃんと載せろよー

 

 

534:名無しのwiki編纂部[sage]:2043/7/25(土)

>>532

私達はあくまでwikiを作っているので個人情報は余り載せないスタイルです

主に汎用的なデータを主体に載せていくのがクランの方針なので

……個人情報載せるとコメント欄とかデンドロでの活動とかが酷い事になりかねないし

 

 

535:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

MVPの名前すら書いてないからな

まあ、自分のプレイヤーネームが勝手にwikiに書かれていたらちょっと嫌だが

 

 

536:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

無闇やたらと個人情報を拡散しようとする連中は余り良い印象を持たれないだろうしな

 

 

537:名無しのwiki編纂部[sage]:2043/7/25(土)

>>535

リアルとデンドロを股にかけている以上はその辺りの線引きはキッチリしよう

……と言うのが各国の編集部オーナー達が話し合って決めたルールになりますから

 

 

538:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

ここモンスタースレなんだけどいつのまにかwiki編集部宣伝になってるんだが

 

 

539:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

まあ、そういった宣伝は専門のスレとかでやるべきだな

……と言うわけで話を戻す為に<UBM>との戦闘について語って♡

 

 

540:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

wikiには<UBM>自体の情報は載っていてもその戦闘経過とかは載って無いからな

 

 

541:名無しのwiki編纂部[sage]:2043/7/25(土)

>>539

まあいいでしょう……じゃあまずは【ヴァルシオン】から

クエスト中に別のパーティーがゴブリンに襲われていると騎士さんが連絡を受けて私達が援軍に

→【ヴァルシオン】持ちゴブリンキングを相性の良いマスターがタイマンで押さえ込みつつ他のメンバーで周りのゴブリンを相手に

→そこで持っている剣が怪しいと言う意見が出たので手の空いている者で総攻撃して剣を手放させる事に

→ゴブリンキングの動きを封じ【ヴァルシオン】をどうにか手放させて最後はMVP取った人が最大火力で焼き尽くす

……とこんな感じでした。私もキングの拘束に参加したよ

 

 

542:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

成る程……って、あのゴブリンをタイマンで押さえ込んだヤツがいんの⁉︎

 

 

543:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

やっぱ<UBM>相手に今の<マスター>じゃタイマンでは無理……そう思っていた時期が俺にもありました

 

 

544:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

でも、結局は集団で戦っているんだしソロで挑むのは無謀って事に変わりないんじゃ

 

 

545:名無しのwiki編纂部[sage]:2043/7/25(土)

じゃあ次【クインバース】ね

ゴブリン増殖事件の黒幕をうちのクランメンバーのスキルで探し出して超級職の騎士さんを案内する

→その騎士でも倒しきれなかったのでそこにいた<マスター>の一人が自分のスキルを使って【クインバース】を倒す作戦を提案

→「私が人間砲弾になればいいんだよ!」

→撃破

以上です

 

 

546:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

成る程、人間砲弾……んん⁉︎

 

 

547:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

どういう……ことだ……⁉︎

 

 

548:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

まるで意味が分からんぞ!

 

 

549:名無しのwiki編纂部[sage]:2043/7/25(土)

私達もその作戦には参加出来なかったので詳細は分からないんです

何でも自分自身を音速の数倍の速度で【クインバース】に投げ飛ばして貰ったとか

 

 

550:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

<UBM>を倒すにはそこまでしなければならないのか……

 

 

551:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

そいつガンギまっててヤバイ

俺鳥系モンスターに上空からスカイダイビング(強制)された事あったんだけどめっちゃ怖かったんだが

 

 

552:名無しのwiki編纂部[sage]:2043/7/25(土)

作戦を聞いたその場の人間達も殆どがドン引きでした

……ただその人のパーティーメンバーと超級職の騎士さんは平然としてたけどね

 

 

553:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/25(土)

デンドロはシグルイなり……

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

【カネはどうにか】<Infinite Dendrogram>生産スレ37【モノはギリギリ】

1:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

このスレはVRMMO<Infinite Dendrogram>における生産関連のスレです

書き込みは自由ですが情報漏洩は自己責任で

荒らしはスルー推奨

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

78:名無しの錬金術師[sage]:2043/7/26(日)

と、言うわけでアルター王国にクラン<プロデュース・ビルド>結成!

及び、王都アルテアにその店舗を構える事に成功したぞ!

 

 

79:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

パチパチー(拍手)

 

 

80:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

おめでとー

 

 

81:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

おめでとうだねぇ……しかしクランは兎も角、よく店舗まで建てられたものだねぇ

土地も建物もそれなりに高く付く筈なんだけど

 

 

82:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

確かに、王都って事は土地代も高いだろうにどうやったんだ?

 

 

83:名無しの錬金術師[sage]:2043/7/26(日)

>>81>>82

うむ、うちのクランメンバーの<エンブリオ>に特殊な素材を作れるヤツがいたからな

それをダシにして生産ギルドの偉い人にコネを作って人が居なくなった安い店舗を譲って貰った

……ローンを組む羽目になったし店舗も小さくて表通りから離れているが

 

 

84:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

世知辛い……

 

 

85:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

まあ自分の店を持てたのは大きな一歩だと思うねぇ

その偉い人的には<マスター>が使えるかどうかの試金石を兼ねてる気がするけど

 

 

86:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

というか人が居なくなった安い店舗って前は誰が居たんだ?

 

 

87:名無しの錬金術師[sage]:2043/7/26(日)

>>85

ご明察、向こうもこっちを試してる雰囲気があったからそれで正解だと思う

利益を出してくれるならよし、そうでなくても異邦人の<マスター>なら後腐れは無いって感じかな

 

>>86

前も何かの店をやってたらしいけど、その一家全員が自殺したらしいよ

だから値段は超安かった。

 

 

88:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

事故物件じゃねぇか!!!

 

 

89:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

確かに後腐れは無さそうだねぇ

それじゃあティアンは来ないだろうけど

 

 

90:名無しの錬金術師[sage]:2043/7/26(日)

まあ自分達が生産作業出来る場所が出来たのがこの店舗を得て最大のメリットだな

ティアン相手だとそもそも現在の<マスター>の信用度的に難しいし

しばらくは特殊素材をその偉い人に卸すかまだ低レベルの<マスター>相手に地道にやってくよ

 

 

91:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

でもデンドロって幽霊も普通にいるんだよなぁ……

その事をバラしたのは失敗じゃね?

 

 

92:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

……流石にもうちょっと準備期間を置いた方が良かったんじゃ

 

 

93:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

いやぁ、ティアンは兎も角<マスター>なら気にしないかネタで訪れる人もいるだろうしねぇ

ほら、悪名は無名に勝るってヤツ?

 

 

94:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

まあ有名にならねばどうしようもない業界だからな

 

 

95:名無しの錬金術士[sage]:2043/7/26(日)

>>93

まあそんな感じ、しばらくは王国初の生産クランとそのネタで宣伝して行こうと思っている

……勿論、軌道に乗って資金を稼げたらちゃんとした店舗を買うつもりだが

ところで他にはクラン作ったヤツとかは居ないのか?

 

 

96:名無しの研究者[sage]:2043/7/26(日)

こっちはまだだねぇ、モンスター生産関係は中々ニッチな業界だからやってる人も少ないから

でも<エンブリオ>の宣伝でティアンとのコネ作りは上手くいきそうだよぉ

後、意見言うから分かりやすい様にそっちを真似てコテハン変えておいたよぉ

 

 

97:名無しの船大工[sage]:2043/7/26(日)

俺は同志達と共に貿易船団と渡りを付ける事に成功した

クラン設立ももうすぐだろう

これでようやく長年の夢だったリアル大和建造の第一歩が……

 

 

98:名無しの鍛治師[sage]:2043/7/26(日)

天地の鍛治師さん達はまず腕を見せてみろ的な事から始まるのが多いかな

……<エンブリオ>頼みで自分の腕が伴ってないとめっちゃ駄目出しされるけど

 

 

99:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

はえー、みんながんばってるなー……私は未だにモンスター狩りでもう完全に戦闘職だよ

レジェンダリアは狩りがかなりやり難いから大変だし

生産クラン作ったなら初心者への援助とか無いの?

 

 

100:名無しの鍛治師[sage]:2043/7/26(日)

>>99

(そんな事をする金銭的余裕は)ありません

 

 

101:名無しの船大工[sage]:2043/7/26(日)

こちらが援助をするメリットを提示せよ

 

 

102:名無しの研究者[sage]:2043/7/26(日)

生産に有用な<エンブリオ>を持っているなら相性の良いクランに自分を売り込むのもアリかもねぇ

採用されるかは知らないけど

 

 

103:名無しの錬金術師[sage]:2043/7/26(日)

クランに入りたいなら面接して<エンブリオ>の能力と人格次第で採用する事もあるかな

……こっちも店が出来たばかりで余裕がある訳じゃ無いから誰でもとは行かないが

 

 

104:名無しの<マスター>[sage]:2043/7/26(日)

ですよねーやっぱ地道にやってくしかないか

……俺の夢である最強のハイレグビキニアーマーを作る為にな!!!

 

 

105:名無しの錬金術師[sage]:2043/7/26(日)

前言撤回、来んな

 

 

106:名無しの船大工[sage]:2043/7/26(日)

レジェンダリアンぇ……

 

 

107:名無しの研究者[sage]:2043/7/26(日)

まあ、レジェンダリアンだしねぇ……

 




あとがき・各種設定解説

wiki編纂部:事が終わった後に速攻でwikiを纏めた
・今回掲示板に書いたのは【フェアリー】のマスターであるリゼ・ミルタで、彼女は魔法系などの掲示板を愛読していたりする。
・三兄妹は特典武具の情報も渡そうとしていたのだが、本編で語った理由と三兄妹と今後も良い関係を続けた方がクランの利益になると考えたアットによって却下された。

生産クラン:やっと軌道に乗り始めた者がチラホラ出てきた
・これ以降、このスレで宣伝と分かりやすさの為にコテハンを変える事が増えて来て、他のスレにも自分の意見を書く際に分かりやすい様にコテハンを変えるのが広がっていった。
・尚、今回出てきたハイレグビキニアーマーレジェンダリアンはレジェンダリアの生産プレイヤーの中ではまともな方……具体的には他者に強制的に着用させたりしないので。


読了ありがとうございました。
これで第二章は終わりになります。次章は再び王都での中・短編集になると思います。


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第3章 王都アルテアでのアレコレ
<墓標迷宮>へGO!


この話から第三章が開幕です。


 □王都アルテア 【剛戦棍士(ストロング・メイスマン)】ミカ・ウィステリア

 

「さて、いざ行かん神造ダンジョン<墓標迷宮>! 音速の数倍で投げ飛ばされるなどの凄まじい苦労の果てに手に入れた【墓標迷宮探索許可証】を今こそ活用する所だよ!」

「辛く厳しい戦いの果てに獲得したアイテムですからね。大事に使いましょう」

「実際、<UBM>二体と戦ったからねー」

「……本来は精々十万リルぐらいのアイテム何だがな、この【許可証】。……これ一枚手に入れるのにここまでドラマチックな事になるとは」

 

 そんな感じで、私達何時ものメンバー(三兄妹+ミメちゃん)は手に入れた【許可証】を早速活用すべく、アルター王国・王都アルテアにある神造ダンジョン<墓標迷宮>へと向かっています……あれだけ苦労して手に入れたんだからしっかりと活用して元を取らないとね。

 それに私は漸く転職条件を満たして就く事が出来た戦棍士系統上級職【剛戦棍士】のレベル上げもしないと行けないし、お兄ちゃんも()()()()()でレベリングを急がないといけないし。

 

「まあ、あのクエストでは苦労した分、高額のリルの初めとした報酬はたんまりと貰ったからね。……それに()()()()()()()()()()()()()()()とかいい事もあったし」

「うん! 僕も第四形態になれたしね! 」

「……と言うか、あの戦いが終わってから私達三人の<エンブリオ>が全て第四形態に進化しましたから。あの戦いで経験値的な何かを得たのでしょうか?」

「さあ? <エンブリオ>の進化に関してはよく分からんから何とも言えんな」

 

 そう、あのクエストを達成し終えた翌日、私達がデンドロにログインするとそれぞれの<エンブリオ>が第四形態に進化していたのだ……まあ、ログアウト前にミメちゃんがなんかダルそうにしてた(彼女は進化前にちょっと気怠い気分になるらしい)ので、そうじゃないかとは思ってたけど。

 ……ちなみに私の【ギガース】はいつも通り《バーリアブレイカー》のレベル上昇とステ補正・装備性能の強化だけだったから、ちょっと損した気分。

 

「まあ、第三形態以前までの進化時とは比べ物にならないぐらいに強化はされてるけど。具体的にはHP・STR・END・AGIの補正がAになってたりしたしね。……確か第四形態からは<上級エンブリオ>って呼ばれて能力が大幅に上昇するんだっけ?」

「そうらしいな。アット曰く、ギデオンに居る【猫神(ザ・リンクス)】トム・キャットという<マスター>からの証言らしいが。……他にも上級になると“必殺スキル”という<エンブリオ>の名前を冠するスキルを覚えるとか」

「確か()()()から決闘王者をやっているらしい<マスター>でしたね。……もろに運営側の人間ですかね?」

 

 だよねー。まあ別に私達は決闘王者を目指す予定はないから別に良いんだけど……ちなみに以前ちょっと調べた所、この世界の伝説に出て来る有名<マスター>ってその殆どがキャット姓で【猫神】のジョブに就いてるみみたい。

 ……ここの運営って妙な所で雑だよね。チュートリアルとか……人手が足りないのかな?

 

「……まあ、それはそれとしてミメも進化に際してスキルこそ増えませんでしたが五万強ぐらいまでに上昇したMPを筆頭に融合時のステータスがそこそこ上昇しましたし。更にスキルが強化、及びデメリットのいくつかが解除されたので大分戦いやすくなったのです」

「僕の名前も【模倣天女 ミメーシス】に変わって、TYPEもメイデンwith()()()()()()()()()()()()になったしね! ……後は衣装もなんか追加されたたけど、変じゃないかな?」

「大丈夫、凄い似合ってるよそのコート」

「元の素材がいいからな、そういう衣装を着ても違和感はないだろう」

 

 ミメちゃんが私とお兄ちゃんに新衣装を褒められて照れてる。可愛い! ……前までのミメちゃんの衣装は半袖とハーフパンツというさっぱりとして感じだったんだけど、進化した際に白を基調とした可愛らしいデザインの長袖ロングコートを上に羽織る様になったんだよ。

 外見的にも進化して名前に付いた【天女】の文字にぴったりだね! ……でも、何で乗り物でもないのにTYPEにチャリオッツが付いたんだろう?

 ……と、そんな会話をしていたら突如お兄ちゃんが肩を落として溜息をついた。

 

「しかし、お前達は良いよなぁ、進化してパワーアップしてさぁ。……俺はむしろ第四形態になって折角必殺スキルとやらを覚えたのに何故か()()()したからなぁ……」

「別に弱くなった訳ではないのでは? ……ただちょっと兄様の()()()()()()()()()必殺スキルが現在のところ意味ないだけで」

「まあちょっと進化する間が悪かったよねー」

 

 お兄ちゃんの<エンブリオ>【百芸万職 ルー】の必殺スキル《我は万の職能に通ず(ルー)》は自身が就く事が出来るジョブの数を下級職20個、上級職15個、合計2500レベル分だけ増やす事が出来るパッシブスキルである。

 ……元々就ける500レベル分のジョブを合わせて今のお兄ちゃんの最大合計レベルは3000に届くので、超級職を除けば基本的に500までしかジョブレベルをあげられないこのデンドロに於いては非常に強力な“必殺”の名に恥じないスキルなのだが……。

 

「“ジョブ枠拡張”とか言うデンドロのゲームシステムに喧嘩を売ってる効果だからか相応のデメリットがあるんだよな……具体的には『就いているジョブ系統の超級職への転職不可』と『全ステータス補正()()()()50%』と言うね。……超級職に関しては目処が立たない以上どうでも良いんだが、正直全ステ常時半減はキツイ……」

「最終的にレベルが六倍になるんだし、ステ半減でも別に良いよね! って感じかな」

「ステータス補正マイナスなんてあるんですね。私の補正はゼロのままですが」

「スキルのデメリットとしてならそういうのもあるみたいだよ」

 

 そういう訳で、今のお兄ちゃんは進化前と比べてステータスが大幅にダウンしているのであった……一応、進化によって獲得経験値が+400%になるなど強化された部分もちゃんとある模様。

 なので、この<墓標迷宮>でさっさとレベルを上げてステータスをどうにかしようとしているらしい。他と比べてステータスが半減しているなら他人の倍レベルを上げれば良い理屈だね。

 

「それにお兄ちゃんは【ヴァルシオン】があるんだしステータスはある程度どうにかなるでしょう。……私の【クインバース】は色々と()()だし。主にデザインが」

「ああ……確かに中々ファンキーなデザインですよね」

「でも性能は普通に強いだろう。俺の【ヴァルシオン】は合計レベル分のステータス上昇だから、他のステと比べて数値が多いHP・MP・SPの上昇に不安があるし……特に俺は魔法系だからMPが少ないのが痛い。他の装備で補ってはいるが」

 

 ちなみに私が入手した特典武具【鬼身腰帯 クインバース】のデザインは正面に生前の【クインバース】に似たゴブリンの顔を模したエムブレムがあり、左右にこれまたゴブリンの頭部を模したキーホルダー的な物が付いているという見た目が物凄くファンキーでパンクでアレな感じのベルトなのである。

 ……まあ、能力はSP+50%のステ補正を初めとして、10秒毎にSPを1%ずつ回復するパッシブスキル《SP自動回復》と、SPを消費して自身に掛かった状態異常・デバフ効果を移し替えて治す事が出来るゴブリン頭キーホルダーを作る《インスタントエンパイア》と()()()強力なアクセサリーなので装備するんだけどね。

 

「……しかし、能力だけじゃなくて外見もアジャストしてほしいね。お兄ちゃんの【ヴァルシオン】は土産物屋に売ってそうなオサレペンダントみたいな感じなのにどうしてこうなった」

「まあ、この手の剣型アクセサリーって小学生ぐらいの時に買った記憶があるな」

「あーよく道の駅とかで売ってますよね。……おっと、二人とも情報交換はここまでにしましょうなのです」

「着いたみたいだよ<墓標迷宮>」

 

 ミメちゃんの言葉通り前方に<墓標迷宮>の入り口に続く墓地が見えてきたので、私達は日課の情報交換を辞めてその墓地に入っていった……しばらく墓地を歩くと二人の騎士に守られた石造りの門が見えて来た。

 ……どうやらアレが<墓標迷宮>の入り口の様なので私達は騎士さんに【許可証】を見せる事にした。

 

「……確認しました。どうぞお通り下さい」

「ありがとうございまーす!」

 

 ……さて、これから初めての神造ダンジョンアタックだね。張り切っていこう! 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<墓標迷宮> 【紅蓮術師(パイロマンサー)】レント・ウィステリア

 

 そんな訳で、今俺達は<墓標迷宮>地下五階に居た巨大な骨剣が付いた六本の腕、及び頭部の代わりに先端に骨剣が付いた骨の職種が付いた大型スケルトンであるボスモンスター【スカルレス・セブンハンド・カットラス】との戦いを繰り広げていた。

 ……尚、道中の事は出て来るゾンビやスケルトン、レイスを片端から蹴散らすだけの作業だったので描写はカットである。強いて言うならミュウちゃんがゾンビを殴るのを嫌がって《波動拳》による遠距離攻撃に徹していたぐらいかな。

 

「いい加減にしつこいのです。骨もゾンビもそろそろ見飽きたので消えてください《インパクト・フィスト》!」

「さっさとくたばるが良いわこのデカブツ! 《アンデッド砕き》!」

「お前も経験値になるんだよ! ……《ヒート・ジャベリン》!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!?』

 

 そして全員で容赦無くフルボッコにしています……確かにコイツは身体に付いた7本の骨剣で連続攻撃してくるそれなりに強いモンスターなんだが、うちの前衛二人(天災児達)にその程度の攻撃が当たる訳も無く攻撃の予備動作が大きく所を突かれて的確な反撃を食らってダメージを受けていた。

 ……そこに二人が与えたダメージで怯んだ隙に、後方に居る俺が【紅蓮術師】のレベルを上げて覚え直した火属性魔法を当てる事でHPをガリガリ削っているのだ。

 

「ゾンビと違って骨なら殴っても汚れないので楽で良いのです《真撃》《正拳突き》!」

『素手だと感触が気持ち悪いもんねー《攻撃纒装(アタック・テスクチャ)》!』

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!?』

 

 乱舞される7本の骨剣をあっさりと躱しながらミュウちゃんは【カットラス】の足元まで接近して、そのまま【武闘家(マーシャル・アーティスト)】の奥義《真撃》──次に使用する格闘系アクティブスキルの効果を大幅に強化するスキル──とミメちゃんのスキルで強化した拳で相手の足を一本砕いて転倒させた。

 

「やれやれ、やはりMPが下がっているのが痛すぎるな。火力が出せん……《詠唱》終了《ブレイズ・バースト》!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

 

 それによって出来た隙に、俺が《詠唱》によって強化された豪炎の奔流を倒れた【カットラス】に撃ち込んでその腕を二本程吹き飛ばした……やっぱり威力が落ちてるよなぁ。もっとレベリングしないと。

 

「よっしゃ! ナイス二人共! ……これで終わりだよ《インパクト・ストライク》!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

 

 そうして死に体になって倒れ伏した【カットラス】にミカが飛び乗り、その胴体部にステータス補正特化の【ギガース】の進化と上級職になった事を合わせて更に上昇したSTRによる一撃を叩き込んでトドメを刺した。

 ……今回はレベリング重視で俺の《長き腕》をオンにしていた為【カットラス】はアイテムを落とさなかったが、階層ボスを倒した際に出て来る追加の宝箱は普通に入手出来た。

 

「それで宝箱の中身は……人数分の【エレベータージェム】と換金アイテムか。時化てるね」

「まあまあ姉様、今回はレベリング重視という方針なので良いでしょう。私の【武闘家】もだいぶレベルが上がりましたし」

「それで地下六階への階段と情報通りなら地上に繋がっているワープポータルが出てきたけど、予定通り先に進む感じでいいか?」

 

 事前の話し合いでしばらくは<墓標迷宮>で経験値稼ぎマラソンをする予定だからな……地下五階までのゾンビやスケルトンは大したアイテムは落とさないけど獲得経験値は悪くないし、まだ<マスター>で【許可証】を持ってる人は少ないから狩り場がブッティングする事もないのも良い。

 

「そうだねー、ここまで大した消耗もしていないし。……それに次の地下六階からは植物型エレメンタルがポップするらしいから、火属性魔法が使えるお兄ちゃんならカモでしょう」

「これまでのゾンビ達も片っ端から焼き尽くしていましたからね。……お陰で匂いが酷かったですが」

「あー確かに……必殺スキルのお陰でジョブ枠増えたしアンデッド対策に【司祭(プリースト)】でも取るかな」

 

 ウチの妹二人が滅多にダメージを貰わないから後回しにしていた回復スキルだが、以前の戦いの事もあるし就いておいても良いかもしれないな……そんな会話をしながら俺達は地下六階へと続く階段を降りていったのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:現在弱体化中
・第四形態になった必殺スキル以外の【ルー】の強化点は《長き腕にて掴むモノ》の切り替え時間が12時間になった事、《光神の恩寵》のレベルが四になり獲得経験値が+400%になった事がある。
・更に《仮想奥義・神技昇華》でコストに出来るレベルが最大40までになり、以前までは指定したジョブ一つからしかコストに出来なかったが、進化によって現在就いているジョブの中から複数のジョブを選んでそれぞれから任意のレベルをコストに出来る様になっている。
・後、TYPEもルールになった。

我は万の職能に通ず(ルー)》:【百芸万職 ルー】の必殺スキル
・第四形態時点で兄が就く事が出来るジョブの数を下級職20、上級職15だけ増やす常時発動型必殺スキル。
・ただしデメリットとして『現在兄が就いているジョブの同系統超級職への転職不可』と『全ステータス補正がマイナス50%』が課せられている。
・ちなみに【ルー】は兄の『妹達に追いつける様にもう少し才能が欲しい』という願いから生まれた<エンブリオ>であり、故に『才能(ジョブ)技術(スキル)』を能力特性としている。

《ブレイズ・バースト》:【紅蓮術師】のスキル
・炎をやや狭い範囲の放射状に発射する攻撃魔法で消費MPはやや多いが、威力が高く攻撃範囲も味方を巻き込み過ぎないぐらい広いので扱いやすい魔法。
・ただ、範囲が広い分だけ単純な威力・燃費・射程は《ヒート・ジャベリン》に劣る。

ミカ:進化+上級職+特典武具でかなり強化された
・【ギガース】の進化によりレベルの上がった《バーリア・ブレイカー》はスキル強度の他にも効果の適応範囲も広がっており、壁を作って防御する魔法や物質の強度を上昇させる効果なども範囲内になった。
・ただし他ののステータス補正はほぼGのままという清々しい割り振りとなっている他、TYPEはアームズのままで武器としては装備攻撃力よりも単純な硬度と耐久力を重視して強化されている。

【剛戦棍士】:戦棍士系統上級職
・【戦棍士】の上級職でステータスはSTRに特化しており、ステータスの伸びがいいタイプのジョブなのでAGI・HPもそこそこ伸びる。
・スキルは下級職のソレを順当に強化したヤツが多く、両手持ちの大型メイスに対する補正もつく。
・また、戦棍士系統には転職条件が厳しく特殊なスキルを多く覚える別の派生上級職もあるらしい。

【鬼身腰帯 クインバース】:伝説級特典武具
・アクセサリーの装備枠を一つ消費してSP+50%と《SP自動回復》のスキルが付くので、デザインが少々アレでも装備せざるを得ない(妹談)
・《インスタントエンパイア》でゴブリンヘッドキーホルダーを作る方法は【クインバース】にSPを任意の量込める→腹部に着いた頭部の口からキーホルダーが出て来る、と言った感じ。
・一つのキーホルダーに移せる状態異常・デバフの量は製作時に消費したSP量によって決まり、このスキル自体のクールタイムは一時間でストック出来るキーホルダーの数は最大10個まで。

末妹&ミメ:何故チャリオッツが付いたんでしょうか?
・まず《天威模倣》はコピー出来るステータスが五つになりSTRからLUCまで全て適応可能になった他、同一対象への24時間使用不能のデメリットも解除されている。
・《転位模倣》の方も同じ様に24時間使用不能のデメリットは解除されたが、どちらも使用後1分間のクールタイムは健在。
・《攻撃纒装》はストック数が一気に六つまで増えており、更にストックした攻撃を肉体に付加するだけでなくコストを支払ってストックした攻撃をそのまま使う事も可能になっている。
・例としてはMPを消費して放つ火炎ブレスをストックした場合、肉体に火属性とブレスの攻撃力を付加するか、MPを消費して火炎ブレスを放つかを選べる感じ(当然ながらコストが支払えない場合にはそのまま使う事は出来ない)
・また、TYPEが“フュージョン”では無くチャリオッツとのハイブリッドなのは、スキル《憑依融合》が一部のレイスのエレメンタルが有する憑依系スキルがベースの“半憑依半融合”的なスキルでマスターを乗機に見立てて乗り込む感じだから。
・《憑依融合》中は種族はエレメンタルになっており、更に属性耐性や状態異常耐性などのマスクデータや肉体の再生能力などもエレメンタルとして結構上がっていたりする……が、()()()()弱めの常時融合スキルでしか無い。

《波動拳》:【武闘家】のスキル
・MPを消費して拳から衝撃波を飛ばすスキルで、本来なら東方の格闘系ジョブで習得出来るスキル。
・MP消費なのでミメ憑依時の末妹にとっては使いやすいスキル。

《真撃》:【武闘家】の奥義
・次に使用する格闘系アクティブスキルのクールタイムを十倍にする代わりに威力・効果を大幅に引き上げるスキルで、このスキル自体のクールタイムは長め。
・【武闘家】で覚える中で唯一スキルレベル10まで上げられるスキルであり、レベルを上げれば増幅倍率が上がりこのスキル自体のクールタイムは下がっていく。


読了ありがとうございました。
今回は説明回だったからあとがきが長くなりました。やっぱオリ設定書くのは楽しいです(笑)


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緑の迷宮

前回のあらすじ:妹「やって来ました<墓標迷宮>!」兄「とにかくレベリングだ! 早く弱体化状態から抜け出さないと!」末妹「頑張って下さいねー」


 □<墓標迷宮>地下六階 【紅蓮術師(パイロマンサー)】レント・ウィステリア

 

 さて、地下六階に降りてきた俺達の目にまず飛び込んできたのは鬱蒼とした木々と草花だった……と言っても内部がジャングルになっている訳ではなく、基本的な構造はこれまでの迷宮と同じで壁や床や天井に様々な植物が生えている感じである。

 ……事前に調べた情報によると高価な薬草などが生えていたりする場合もある為、採取師系のジョブを取っていれば思わぬ臨時収入が手に入る事もあるとか。

 

「最も生えているのは無害な植物だけではないがな……《魔物索敵》《フレイムアロー》」

「そうみたいだねー。《ハードストライク》!」

『『KYAAAAAA!?』』

 

 索敵スキルに反応のあった位置に生えていた植物へ俺が炎の矢を叩き込む……すると無害な植物に擬態していた【ミミクリー・ポイズンプラント】が炎に巻かれてその正体を表しながら消し炭になる。

 また、ミカがその辺に生えていた木をぶっ叩くと、同じ様に擬態していた【ミミクリートレント】が奇声を上げながら正体を現してそのまま砕け散った。

 ……この様に擬態能力持ちの植物系モンスターが周辺の植物に紛れている事があるので、何らかの探知スキルが無ければ痛い目を見る事もあるのがこの階層の特徴でもあるのだ。

 

『『『『『KYASYAAAAAAA!』』』』』

「おや、毒ガス……いえ、毒の粉ですかね。ミメ、《転位》でお願いします。《波動拳》!」

『オッケー。《転位模倣(エフェクト・ミラーリング)》!』

 

 そして俺とミカが擬態モンスターを駆除している間に現れた五体の【ポイズン・リトルトレント】はミュウちゃん達が対処していた……今もトレント達が広範囲にばら撒いた“どくのこな”的な攻撃に対して、()()()()()()()()()()()()()()()ミュウちゃんが拳からの衝撃波をその効果範囲外から当てる事でダメージを与えていく。

 ……とはいえ、狭い通路に五体ものトレントが毒の粉をばら撒いた所為で、その効果範囲が一気に広がってそのままミュウちゃんを飲み込んだ。

 

「……やはり自分達には自分で出す【毒】に対して耐性があるのですね。《発勁》!」

『KYAAAAAA!?』

 

 ……だが、事前に敵対対象一体の状態異常・バフデバフをコピーする《転位模倣》を使い、持っていた耐性のお陰で()()()()()()()()()()()()()()()()()を自分に貼り付けていたミュウちゃんに毒の粉は効かなかった。

 そのまま彼女は一体のトレントに掌底を放ってその樹体を内側から弾けとばさせるのを皮切りに、コピー対象のトレントを除いた敵を次々と仕留めていった。

 

「兄様〜。この毒の粉があると効果切れと共に【毒】状態になるのです」

「はいはい、吹き飛ばせばいいんだろう。《ウインドブロウ》」

 

 そんなミュウちゃんの要望で俺は《ウインドブロウ》──一方方向に風を起こすだけの風属性基本魔法──によって彼女の周りに舞っていた毒の粉を吹き飛ばしておいた。

 ……それにより、もう【毒】になる事は無いと判断したミュウちゃんが最後に残ったコピー元のトレントに拳を叩き込んでトドメを刺したので、とりあえずここでの戦闘は終わったのだった。

 

「……ふぅ、しかし地下五階までと違って難易度が大幅に上がっていますね」

「どちらかと言えば大分“ダンジョンらしく”なって来たというべきだろう。……主にダンジョン内のトラップとか状態異常を使う敵とか」

「ああ成る程。確かに地下五階までは何も無い通路にただアンデッドが出て来るだけだったからね」

 

 要するにこの<墓標迷宮>の地下五階まではチュートリアル的な感じでダンジョンに慣れさせる為にただ通路にモンスターが配置されているだけの様だが、この地下六階の植物ゾーンからはトラップ的に配置されたモンスターや状態異常を駆使するモンスターなど本格的な“ダンジョン”といった趣になっているのだろう。

 ……尚、この階からはランダムでレアアイテムの入った宝箱なども配置されるらしいが、当然それがミミック的な罠である可能性も十分あるのでパーティーに【斥候(スカウト)】【盗賊(バンディット)】などのジョブを納めた者がいた方がいいと<墓標迷宮>関係の情報にはあったな。

 

「俺達の場合は俺が【斥候】をカンストしている事と、ミカの“直感”で罠を見破れるお陰で大分楽に攻略は出来てはいる。……ただ、状態異常やダメージの回復がアイテム頼りなのが気になるな。状態異常に関してはミュウちゃんの《転位模倣》とミカの【クインバース】どうにかしているが、やはり次のジョブは【司祭(プリースト)】にするべきかな」

「まあとりあえず行けるとこまで行けばいいんじゃない? ヤバそうになったら撤退で」

「これからしばらく<墓標迷宮>経験値稼ぎマラソンをする予定ですし、今回は初回ですから気軽に行きましょう」

 

 ……ふむ、まあ確かにちょっと考え込み過ぎたかな。今後の予定は今は置いておいてダンジョン攻略に集中するか。

 

 

 ◇

 

 

『『『『『CYAAAAAAA!』』』』』

「ふむ【ウォーキング・マンイーター】の群れか。確か対人特攻系のスキルを持っていて人間をバリバリと食らうんだったか。……じゃけん、全部燃やしましょうね〜《詠唱》終了《魔法多重発動》《フレイムアロー》」

「おー燃えてる燃えてる。やっぱり“くさタイプ”には“ほのおわざ”だよね! ……でも問題は周囲にある植物に延焼してる事なんだけど」

「あんまり燃やし過ぎるとこっちにも火の手が来ますし」

「だから威力が低くて効果範囲が狭い魔法を使ってるんだがな。……それに閉所で物を燃やし過ぎると酸欠状態になる可能性もこのゲームならありそうだ。連中は物理特化だからお前らなら問題無いだろうし行ってこい」

「「はーい」」

 

 

 ◇

 

 

「……あ、ミュウちゃん。そこに擬態してるヤツがいるよ」

「ふむ、この木ですか。……《波動拳》!」

『KYAAAAAAA!?』

「またも【ミミクリートレント】か。……擬態系は隠蔽能力に特化している分だけステータスは低いから見破れるなら倒しやすい」

『大体直ぐにミカちゃんが見破っているから僕達にとってはカモだよね』

「まあねー。……って、ミメちゃん融合状態で喋れたの? そういえばさっきも喋っていた時があった様な……?」

「第四形態になったからか、或いは融合に慣れたからか最近私の口を使えばミメも話す事が出来るようになったのです」

「戦闘時は大体ミュウちゃんが喋ってばかりだから気付かなかったな」

 

 

 ◇

 

 

「……む、索敵スキルだとそこの壁に違和感があるな。少し調べてみてくれ」

「え? 危険とかは感じないけど……あ、壁に生えていた植物を退けたら向こう側に隠し部屋があったね。しかも中には宝箱まで。……私の直感って“危険”じゃないと反応が悪いからなぁ」

「姉様の“直感”に反応が無いという事はミミックとかでは無いのでしょうし、とりあえず開けてみれば?」

「そうだねー、んしょっと……ふむふむ、中身は一冊の本だね。……あ! これって以前アイラさんに見せて貰った【適職診断カタログ】じゃない?」

「どうやらそうみたいだな。……そこそこの値段がする物だった筈だし、これからジョブビルドを考える必要のある俺達には使えるアイテムだから当たりだろうな」

『良かったね。僕達はドロップアイテムを経験値に変えてるからこういう宝箱は嬉しいかな』

「これぞダンジョンって感じになって来たね! よーし、これからドンドン宝箱を見つけていこう!」

 

 

 ◇

 

 

「ぎゃ────ーっ⁉︎ 宝箱の中から大量のスライムが!!!」

「出て来たのは【パラライズ・トラップスライム】か。……ダンジョンお約束の宝箱トラップだな」

「姉様の“直感”なら分かっていたのでは?」

「私の“直感”は危険かどうかは分かるけど中身が正確に分かる訳じゃないからね! それにコイツはワンパンで倒せるぐらいの雑魚だったから反応薄いし!」

『危険だと分かっていれば開けなければ良かったんじゃ……』

「私は宝箱の中身がミミックだと分かっていてもとりあえず開けたくなるタイプだから。モンスターでも倒せばいいし」

「分かる分かる。“ちいさなメダル”とか落とすからな」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<墓標迷宮>地下十階 【武闘家(マーシャル・アーティスト)】ミュウ・ウィステリア

 

 そんなこんなで私達は植物エリアのボス部屋前までやって来ていたのです……本当は植物エリアをある程度回ってから引き返す予定だったのですが、今回は色々とスムーズに進んだ事もあってついボス部屋前まで来てしまったのです。

 ……ここまで来たのならボスを倒して地上に帰った方が早いし安全でしょうからね。

 

「さて、植物エリアのボスは亜竜級上位から純竜級下位ぐらいの植物モンスターいくつかの内の一体がランダムに出現だったな。確か物理型、魔法型、状態異常型、擬態型といったところだったか。……後、これで最後だから《長き腕》は切っておくか」

「どれが出るのでしょうかね?」

「ま、この扉を開けてみれば分かるでしょう。……たのもー!」

 

 そんな軽い感じで扉を開けた私達の目に飛び込んで来たのは鬱蒼とした森林でした……どうやらこのボス部屋は内部に多数の木々が生えている構造になっているようですね。

 ……そして、しばらく森の中を進むと前方に周りの木々とは明らかに様相の違う一本の巨大な黒い木が見えて来て、それは私達が近づくとゆっくりと動き出したのです。

 

『OOOOOO……』

「ふむ【ウォーロック・ブラックトレント】か。魔法型のボスだな。……援護するから接近戦に持ち込め《フレイムアロー》!」

「オッケー。魔法使いは物理で殴るのが基本だね」

『ミュウ、向こうのステータスはENDだけがこっちより高いみたいだけど、スキルはどうする?』

「辞めておきましょう。……他の物理ステータスに大差ないのでは意味ないので、MPは別のところに使います。《気功闘法》!」

 

 それが敵だと確定した時点で私は自分のステータスを強化した上で、姉様と共に兄様が放った炎の矢に続く形で【ブラックトレント】に別方向に散らばりつつ突っ込んで行きました。

 ……しかしMP特化の魔法攻撃型は物理ステータスをコピーする意味がないからミメとは相性悪いですね。一応ミメと融合している間は魔法耐性もやや上昇する(最近魔法ダメージを食らう様になって気付いた)みたいなので、色々スキルと技術を駆使すれば戦えますが。

 

『OOOO……《Fire・Regist》……《Earthwall》!』

「チッ、火耐性付加か……なら上から押し切る《ブレイズ・バースト》!」

「それに加えて土の壁で近接を妨害かな! ……でも、それごと砕いて進めば問題ないよね! 《ストライク》!」

「私は姉様の様に砕けないので普通に避けて進みましょう。以前動画で見たパルクールの要領で行けますね」

 

 だが、向こうも流石にボスを張っていると言うべきか兄様の炎の矢を自身に炎への耐性を付与する事で防ぎ、私と姉様には足止めとして進行方向に土の壁を展開して対応してきました……まあ、姉様は【ギガース】のスキル効果で防御毎粉砕し、私はこのぐらいなら足を止めずに飛び越えられます。

 ……ちなみにパルクールの動画とかはちゃんと訓練を積んだ人がやってるものなので、普通の人は見よう見まねで真似してはいけません。私との約束です。

 

『……いや、誰にいってるのさミュウ?』

「気にしないで下さい、ただの戯言です。……それより来ますよ」

『《Water・Splash》! ……《Stone・Pile》! ……《Thorn・Whio》!』

 

 そうして防御魔法で守りを固めた【ブラックトレント】は即座に攻勢に転じて来た……まず兄様が放った豪炎に対して高圧水流を撃ち放って押し返し、近づいてきて姉様には地面から複数の石の槍を生やして攻撃と足止めを同時に行い、私には棘が生えた蔓の鞭を差し向けて捕縛しようとして来たのです。

 ……流石は魔法特化のボスだからか苛烈な魔法攻撃ですね。兄様と姉様はちゃんと回避はしているものの足が止まってしまっていますし、ここは攻撃が一番緩い私が行くしかないですね。

 

「ストックを! 《スライスハンド》《旋風脚》《波動拳》……ミメ、撃って!」

『《攻撃纒装(アタックテスクチャ)》MP消費《ソーン・ウィップ》!』

『OOOO⁉︎』

 

 こちらに襲い掛かって来たイバラの鞭を私は手刀で切り飛ばすと同時に《攻撃纒装》にそれをストック、そして回し蹴りで明後日の方向に吹き飛ばしました……更にそのまま流れる様に体勢を整え拳からの衝撃波を【ブラックトレント】に放って牽制しつつ、ミメにストックした《ソーン・ウィップ》をそのまま使わせて相手をイバラの鞭で拘束します。

 ミメが第四形態に進化してから使える様になった《攻撃纒装》の別パターンは結構良いですね。相手次第ですが応用が効くので戦い易くなったのです。

 ……ですが、相手は魔法特化のボスモンスター、身体が拘束されていようが関係無く魔法を行使してこちらを攻撃しようとして来ました。

 

『《Branch・Needle》!』

「おっと、枝で出来た針ですか。……数は多いですが威力は然程でも無いので、身体に当たるものだけを見切って弾けば良いですね」

『……百本近いの太い枝が高速で飛んで来るのにあっさり対応出来るものなんだねー』

 

 まあ、確実に当てる為なのでしょうが攻撃範囲はかなり広く散ってるので、実際私に向かって来るのは三十本強といったところですからね。それに速度も亜音速に満たないので一番攻撃密度が低い場所に体を置いて、後は籠手で払えば良いだけですし。

 それに向こうは自分の身体から枝の針を飛ばしているのからか、注意が完全に私へ向いていますし……お陰で二人が攻める隙が出来たのです。

 

「ナイスだミュウちゃん……《魔法発動加速》《ヒート・ジャベリン》!」

「攻撃技は砕き難かったけどようやく近づけたよ。《ギガント・ストライク》!」

『OOOOOO!?』

 

 私が【ブラックトレント】の意識を引き付けている所で横合いから兄様が放った炎の槍が相手に突き刺さり、更に接近して来た姉様が全力で【ギガース】をその幹に叩きつけました……特に姉様の一撃が向こうに齎したダメージは大きく、それなり高いHPとENDを持つ筈の樹体の一部を粉砕する程でした。

 ……どうやらヤツが魔法には強いですが物理攻撃には弱い様で、そのまま密着した姉様の連続攻撃によってその樹体をどんどんと砕かれて行きます。

 

『OOOO《Hail・Storm》!』

「おおっと! 氷の嵐かな? とりあえず下がるよ」

「む、鬱陶しいですね!」

 

 ですが、向こうもこのまま終わるつもりは無いのか自身を中心として周辺に大きな霰交じりの嵐を巻き起こす事で姉様を引き剥がすと共に、近ずいていた私を攻撃して来たのです。

 最も、姉様は得意の“直感”で事前にそれを察知して飛び退いていたのでダメージは少ないようで、私も距離は離れていたので霰を払いつつ一旦距離を取りました。

 ……この氷嵐を物理で突破するのは骨が折れそうですし、ここは()()()()()()()()()()()兄様に任せましょうか。

 

「……まあ、接近して来た対象への広域攻撃は鉄板だからな。だが効果範囲が広い分だけ威力は下がる以上、一点突破は十分可能だろう……《詠唱》終了《ヒート・ブラスター》!」

『OOOOOO!?』

 

 そこで後方に居た兄様が【ブラックトレント】に向けて大量のMPを注ぎ込んだ熱線を放ち、吹き荒れていた氷嵐を突破してその樹体の一部を焼き払いました……流石に戦略的な“読み”だと兄様は頼りになりますね。

 

「ここは更に追撃です、ミメ!」

『了解! 《攻撃纒装》MP消費《ヘイル・ストーム》!』

『OOOOOOOOOO!!?』

 

 そこで更に私はミメに追撃として先程ストックした《ヘイルストーム》を使うように指示を出し、それに答えたミメが大量の霰交じりの暴風に指向性を持たせて【ブラックトレント】に叩きつけました……どうやらストックした技をそのまま使う場合、こうやってある程度の効果範囲を変化させる事も出来る様ですね。要検証です。

 ……そしてこれらの攻撃が収まった所で再び姉様が接近していきました。

 

「あんまり時間を掛けたくないし、ここで決めさせて貰うよ! 《インパクト・ストライク》!」

『OOOOOO!!!』

 

 そのまま姉様の全力の一撃が【ブラックトレント】に叩き込まれました……これまでの攻撃でダメージが蓄積されていた樹体は衝撃波による内部ダメージを伴うその一撃に耐えられなずへし折れました。

 ……このダメージがどうやら致命傷となった様でヤツは魔法運用すらままなら無くなり、その後は私達にまともな抵抗も出来ずに倒されて光の塵と成り果てました。

 

「ふぃー、お疲れー。やっと地上に帰れるね。……後、出て来た【宝櫃】と追加の宝箱の中身は何かな〜」

「……【宝櫃】の方は【魔導黒樹の杖・ネイティブ】と【エメンテリウム】だな。……杖の方は俺が貰ってもいいか?」

「魔法系の兄様向けの装備ですし良いんじゃないでしょうか? ……宝箱の方は【エレベータージェム】と【救命のブローチ】ですね」

 

 ……そんな感じで戦利品を確かめた私達はボスを倒す事で出現したワープポータルに乗って地上へと帰還したのでした。




あとがき・各種設定解説

兄:新しい杖ゲット! ラッキー!
・ちなみに【魔導黒樹の杖・ネイティブ】の性能はMP固定値上昇に、戦闘時MP自動回復と地属性・海属性魔法効果強化のパッシブ装備スキルと、強力なのだが火属性魔法メインの兄とは微妙に噛み合わなかったりする。

《ヒート・ブラスター》:【紅蓮術師】の魔法
・炎と熱エネルギーを圧縮して熱線として放つ魔法で火属性としては珍しく効果範囲が狭く速度・貫通性重視のスキル。
・威力は高いが熱量を圧縮して指向性を持たせる関係上、発動にやや時間がかかるのが欠点。

妹:宝箱を見たらとにかく開けたくなるタイプ

《ギガント・ストライク》:【剛戦棍士】のスキル
・自身のSTRを大幅に強化して相手をメイスで殴る《ハードストライク》の強化版スキル。
・破壊力は高いが武器に負担が掛かりやすいので安定して使うには頑丈なメイスが必要になり、ENDが足りないと腕に負担が掛かるデメリットがある。
・妹の場合は頑丈でステ補正の高い【ギガース】のお陰で問題なく使えるので主力スキルになっている。

末妹&ミメ:進化で色々と仕様が変わったがそのセンスで使いこなしている
・《攻撃纒装》でストックをコスト消費で使う場合、ミメーシスの意思と技術が許す範囲である程度の仕様変更も可能。
・ただし、今回のは《ヘイル・ストーム》が元々霰交じりの暴風を吹き付ける魔法だったのが大きい(全方位攻撃はボスの技術による改良)

【ウォーロック・ブラックトレント】:地下十階のボスの一種
・その場から殆ど動けない代わりに地属性・海属性の様々な魔法を高速・連続使用しつつ、HP・MPの自動回復スキルで粘り強く戦うタイプのボスモンスター。
・《ヘイル・ストーム》を全方位攻撃にアレンジしたり、自分の枝を使う事で《ブランチ・ニードル》を高速・多重・高威力で使用したりと魔法技術も高いモンスター。
・だが、この階層のボスの中では弱い方なので難易度調整の為に挑戦者の人数が四人以上だった場合、事前に地属性ゴーレムや水属性エレメンタルを相手の数に応じて召喚する仕様になっていたりした。
・故に三人以下の精鋭相手だとあっさり倒されたりする。


読了ありがとうございました。
筆が乗ったのともう一つの小説が準備中なので感覚短めで更新しました。次からはいつもぐらいのペースに戻ると思います。


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<プロデュース・ビルド>へようこそ!

前回のあらすじ:末妹「ダンジョン地下十階まで攻略なのです!」妹「まあ、実入りは良かったね」兄「それじゃあレベリングの為にマラソンだな」


 □王都アルテア 【司祭(プリースト)】レント・ウィステリア

 

 俺達三兄妹が初めて<墓標迷宮>に潜ってからしばらく経ったある日の事、俺達は久しぶりに三人で王都を散策がてら()()()()()に向かっていた。

 ちなみに<墓標迷宮>レベリングに関しては俺のリハビリに付き合ってくれた妹達もゾンビや植物と戦ったり、それにちょっと飽きた二人が別行動を取っていた間も俺は一人でアンデッドを焼き払ったりしていたお陰でどうにか【紅蓮術師(パイロマンサー)】をカンストさせて次のジョブにパーティーでも個人でも腐らないだろう回復魔法を覚える【司祭】のジョブに就けたりしている。

 ……だが、流石の俺でも<墓標迷宮>上層部往復マラソンをデンドロ内で数日も行うと飽きが来ていたし、ソロ行動の間放置していた妹達の機嫌がちょっと悪くなっていたので、こんな風に気晴らし件ご機嫌取りも兼ねて二人を連れ出したのだ。

 

「それで本当にこっちで合ってるのお兄ちゃん? どんどん表通りから離れていくよね」

「アットから貰ったマップを見たらそう書いてあるしな……エドワードが作ったというクランのホームの位置は」

「確か<プロデュース・ビルド>という名前の生産クランでしたか」

「でも、こんな人気の無い場所にホームを建ててもあんまり売れなさそうだけど」

 

 そして今向かっているのは俺のフレンドである【錬金術師(アルケミスト)】エドワードがオーナーを務めている<プロデュース・ビルド>というクランのホームへと向かっている所である……先日、偶々アット・ウィキの奴と会った際に『なんかエドワードがクラン作ったみたいだから冷やかしを兼ねて見に行ってみれば?』と言われて、その場所を教えてもらったのでせっかくだから行ってみる事にしたのだ。

 

「……でも、本当に道はこっちで会ってるの? なんか物凄く入り組んでいるみたいだけど」

「ここら辺は昔の再開発とかで少し道が入り組んでいるという話らしいからな。……まあ、ちゃんとマップに位置情報は書いてあるしどうにか……あれ? さっきの道を右だったか?」

「……兄様、本当に大丈夫何ですか?」

「利便性最悪過ぎない?」

 

 ……ええいっ! 聞く所によると、この辺りは昔に何か新しい商店街的なものを作ろうとして盛大に失敗したらしい区画だそうで、多くの店が閉まってるし区画整理もお金の関係で遅々として進んで無いとかの所為で道がちょっと分かりにくいんだよな。

 ……まあ、落ち着いてマップを読み解けば迷う程のものでも無いんだが面倒な事に変わりは無いのである……ふむふむ、成る程こっちの道だな。

 

「……ん? あっちに誰かいるな。こんな寂れた所で珍しい」

「お兄ちゃん、それは私達が言ってもブーメランだよ。……あれ? でもあの人達何処かで見た事が……」

「彼女達は以前のクエストでお会いしたエルザ・ウインドベルとその<エンブリオ>の【ワルキューレ】達ですね。あのワルキューレ達は全員動きのクセが同じなので分かり易いのです。……後、一人知らない人もいますね」

 

 いつも通りミュウちゃんがサラッと規格外な行動をしたので、とりあえず俺も《遠視》を使ってみると確かに向うにいるのはエルザさんと()()の【ワルキューレ】達、そしてあと一人知らない女性が居たな。

 ……どうやら向こうもこちらに気付いた様なので、フレンドであるミカがちょっと声を掛けてみる事にした様だ。

 

「おーい! エルザちゃん久しぶり! ……という程でも無いけど。こんな寂れた所で何をしているの?」

「ああミカちゃん、【許可証】のクエスト以来ですね。……後、何をしているかとかはこちらの台詞でもあると思いますが……今日は友達のターニャが作ったクランに制作を頼んでいた装備が出来たみたいなので引き取りに行く所だったんです」

 

 彼女がそう言ったら同行していた茶髪を三つ編みにした小柄な少女の<マスター>が自分を呼ばれた事に気付いて前に出てきた。

 

「初めまして、クラン<プロデュース・ビルド>所属【紡績師(スピンワーカー)】のターニャ・メリアムだよ。エルザとはリアフレなんだ。宜しくね!」

「【剛戦棍士(ストロング・メイスマン)】のミカ・ウィステリアだよ。……って言うか<プロデュース・ビルド>所属? 私達もそのクランのホームに行くつもりだったんだけど」

「そうだったんですか?」

 

 何か意外な展開になって来たので、とりあえずお互いの自己紹介をしつつ詳しく話し合う事にした……どうやら話を聞いた所ターニャさんがエルザさんをようやく結成した自らのクラン<プロデュース・ビルド>に招待して、今はそのホームへと向かっているのだそうだ。

 

「成る程ねー。レントさん達はエドワードがクランを作ったから訪ねに来たのか。……じゃあ一緒に行こうか、暫定ホームまで案内するよ」

「それは助かる。ここは道が少し入り組んでいて分かりずらかったからな」

 

 そういう訳で俺達はターニャさんの案内で<プロデュース・ビルド>のクランホーム(なんか暫定らしい)に向かう事になったのだった……そして早速、ウチの妹達と彼女達は仲良くなった様で親しげに話し込んでいた。

 

「そう言えばエルザちゃん、よく見たら【ワルキューレ】の数がまた増えてるね?」

「はい、第四形態に進化したのでもう一人、四女のフィーネが加わりました。ターニャ達に装備を作って貰ったお陰で大分戦力も強化されましたよ」

「紹介されたフィーネ。ジョブは【魔術師(メイジ)】をやってる。宜しく」

 

 そう言ってエルザさんに紹介されたのは緑髪の【ワルキューレ】でフィーネという名前らしい……よく見ると彼女や【ワルキューレ】達の装備も以前と比べて強化されている様で、どうやら彼女達も着実に強くなっている様だ。

 

「まあ、私達が色々な練習で作った失敗作を格安で提供したり、素材集めの依頼の報酬で割引した装備を販売しただけなんだけどね」

「それでも全員分の装備を整える事すら苦労していた私にとっては物凄く有り難かったですよ、ターニャ。……【従魔師(テイマー)】って仲間の食費や装備に本当にお金がかかりますから……」

 

 そんな事を話すエルザさんの背中は何処か煤けていた……ま、まあ、話を聞くと彼等はちゃんと生産系ギルドをしている様だな(目逸らし)

 ……しかしだとすると、どうしてホームがこんな分かり難い場所にあるんだ? 生産物を販売するなら少し目立つ場所にした方が宣伝し易いのでは? 少し聞いてみるか。

 

「と言うか、そもそも何故こんな寂れた所にクランホームを作ったんだ? 生産系クランならもっと人通りの多い所でやった方が……」

「……今私達のお金で買える生産活動な住居がここにしか無かったんですよ。開発が失敗した時に()()あったらしく、未だに買い手が付かなかったので凄く安かったんです……」

 

 ……成る程、まだクランが出来たばかりだから単純にお金を用意出来なかっただけか。デンドロが始まってからまだ半月程、内部時間でもようやく1カ月を過ぎた所だし仕方ないのかな。

 ……とまあ、和やかなムードで会話をしつつ俺達は裏通りを歩いて行ったのだった……アレ? ここって地図にある所からちょっとズレている様な……。

 

 

 ◇

 

 

「……はい! そんな訳でちょっと迷った気もしたけど、ここが私達<プロデュース・ビルド>の暫定クランホームになります!」

「まあ、道を一本間違えただけだから大事には至らなかったがな」

「道順が分かりにくいと言うより、どこも閉まったお店ばかりだから見分けがつき難いんだよね」

「そういう意味では、この<プロデュース・ビルド>のホームは目立っているから分かりやすいですね。看板とか結構洒落ていますし」

 

 ……そんな訳で、多少手間取ったが俺達はようやく<プロデュース・ビルド>の暫定クランホームに到着した。

 尚、この辺り一帯が寂れているからどれだけアレなホームかと思ったが外観は意外と綺麗にされており、更に<プロデュース・ビルド>の名前が彫られた木製看板やちょっとした布飾りや金属製の飾りなども付けられていたので、その部分だけならちゃんとしたお店に見えた。

 

「でしょでしょ! 正直生産活動が出来れば良いな程度の気持ちで買った仮のクランホームで、お金が貯め終わったらちゃんとした物を買うつもりなんだけど……せっかく手に入れたんだから見た目ぐらいはどうにかしようとメンバーみんなで頑張ったんだよね!」

「まあ確かに良いセンスしてるな。これなら期待出来そうか」

 

 自分の作品を褒められたからか結構なハイテンションになったターニャさんに連れられて俺達は<プロデュース・ビルド>のクランホームに入っていった。

 

「おーいエドワード! あんたの客を連れてきたわよ!」

「なんだターニャ、騒々しいな。……というか客って……」

「久しぶりだなエドワード、客は俺だ。……今日は以前アットにお前がクランを作ったと聞いてちょっと寄ってみたんだよ」

「お邪魔しまーす」

 

 外観と同じ様にクランホームの中もちょっとした小物などが置かれていて意外と小綺麗にされており、きちんとホームとして気を使っているのが分かる。

 ……そして室内には作業台に向かいながら金属を弄っていたエドワードと、もう一人如何にも職人といった風情の男性<マスター>が居た。

 

「あれ? ゲンジ、“ワカバ”と“マジカ”は居ないの?」

「ああ、フレンドリストを確認してみたのじゃが二人はまだログインしておらん様じゃ」

「……とりあえずちょっと待てターニャ、まずは事情を説明しろ」

 

 エドワードのその言葉で一旦俺達はそれぞれの自己紹介をする事になった……それによると、あちらの男性<マスター>は<プロデュース・ビルド>のクランメンバーの一人である【鍛治師(スミス)】のゲンジさんだそうで、他にも二人程メンバーがいるみたいだが今日はログインしていないらしい。

 

「ほーん……つまりレントは友人のエドワードがクランを作ったと聞いて見にきたんじゃな。……良い友人を持ったじゃないかエドワード」

「まあ、別に例え冷やかしでも来てくれるのは有難いが……はっきり言って、今俺達が提供できる物は何も無いからなぁ。……今の<プロデュース・ビルド>は地道に資金繰りと生産スキルのレベルアップに励んでいる時だし」

 

 そう言ったエドワードは頭を抱えながら溜息を吐いていた……立地条件は兎も角としてこんな立派なクランホームがあるのに、随分とテンションが低いな。

 

「自分で作った生産物とかは売ってないのか? クランホームがあるんだから店を開くとか」

「売る程の物が作れないんだよねー。……主に資金と素材とスキルレベルとジョブレベルとその他諸々が足りないお陰で」

「足りない物が多過ぎー」

 

 詳しく話を聞くと、彼等はクランを作った後で自分達が使える生産拠点を得る為にこのホームをちょっとした伝手を使って格安で買ったのだが、流石に無茶な買い物だった所為でクランの資金源はかなりピンチらしい。

 更にアイテムや装備を作るにしても各々のレベルが低いので余り良いものが作れず、今の所は<エンブリオ>で作った特殊素材を売ったり地道にジョブクエストをこなして資金稼ぎとレベリングを急いでいるとの事。

 

「俺達が作った素材を買ってくれる生産ギルドの人に『自分達で使える生産場所があった方がいい』と言われてホームを買ったけど早まったかなぁ。……以前の持ち主が自殺したとか言う事故物件だったって言うからめっちゃ安かったしつい……」

「それは事故物件の処理と<マスター>の囲い込みを同時にやる策略では? (名推理)」

「それは私もそう思ったけど他にウチの特殊素材を高値で買ってくれる人は居なかったからねー。少なくとも商取引に関しては<マスター>相手でも公平にやってくれるし」

「このホームも裏に空き地があるお陰でワシやワカバのキャッスルが大分使いやすくなったし、事故物件である事と立地条件以外は悪い所ではないぞ」

 

 そこは生産クランのホームとして致命傷では? ……と俺は少し思ったが黙っておこう。商売の為のコネと生産場所が確保出来たのなら悪い事だけでは無いだろうと思うし。多分。

 

「ちなみに商売をやっていない訳じゃないぞ。素材の買い取りとか個人レベルで装備の受注とかは可能な限り行なっている。……ああ、装備と言えばエルザ嬢には渡す物があったな」

「うむ、以前の素材集めの報酬の残りである盾はもう出来ているぞ。……これだな【ウッドメタル・カイトシールド】じゃ」

 

 そう言ってゲンジはアイテムボックスから木目の様に模様がある金属製の盾を取り出した……確かエルザさんはここに報酬を受け取りに来たと言っていたから、おそらくそれなのだろう。

 

「ありがとうございます。これまで使っていたアリアの盾は大分ボロボロになっていましたから」

「……これは良い盾ですね。軽くて振り回しやすい」

 

 その盾を【ワルキューレ】の一人であるアリアが受け取って腕に装備して軽く振り回している……うん、話を聞いていたらちょっと不安だったがちゃんと生産クランとして活動出来ているみたいだな。

 

「しかし、その盾は変わった模様だな。どうやって作ったんだ?」

「ああ、これは俺の<エンブリオ>で()()()()()()したら木目みたいな模様が付いた金属が出来るんだよ。それでその金属を使って作ったから盾もこうなったんだ。……折角ホームに来てくれたのだし実際にやってみせようか。宣伝にもなるしな」

 

 そうしてエドワードがアイテムボックスから取り出したのは一枚の木板……《鑑定眼》で見てみると【リトルトレントの木版】と言う特に珍しくないアイテムだった。

 ……板や枝とかは植物系下位モンスターを倒すと高確率でドロップするアイテムで、俺も《長き腕》がオフの間に<墓標迷宮>の植物ゾーンを回っていたら大量に手に入ったしな。

 

「そんでこれを俺の非金属アイテムを金属化させるスキル《ファンタジー・メタル・ワーキング》を使うと……こんな風に【リトルトレントの金属板】に変化する訳」

「おおすごい! メタリックになったね」

「ほー、確かに金属になっているな」

 

 エドワードが手に持った木版に対してスキルを使うと、その木版の木目や色合いなどはそのままに金属の光沢が付いた……成る程ね、そうして作った物を素材に装備を作っているのか。

 

「ちなみにエドワードのスキルはある程度元の素材の特性を残したまま金属化するからの。この【リトルトレントの金属板】なら木材の様に軽量で柔軟性がある上に金属としての硬度もあると言った具合じゃ。……最も元が木材であるからか普通の金属と比べると硬度が低く、融点もかなり低くなっておる様じゃが」

「それに特殊な素材だから既存の生産【レシピ】は基本的に使えないからなぁ。……今は素材そのものを売りに出すのが俺達のメイン活動になってるし」

「ちなみに私も同じ様な事が出来るよー。ちょっと貸してねー。出ておいで【クロートー】」

 

 そう言ったターニャさんがエドワードから金属板を受け取ると、左手にある“繭”の様な紋章から体長1メートルはありそうな一匹の蚕を呼び出した。

 

『KYUUUUU』

「この子が私の<エンブリオ>TYPEガードナー【天糸紡蚕 クロートー】だよ。……それじゃあクロートー、この金属板を()()()《天糸紡ぎ》をお願いね」

 

 更にターニャさんはその蚕──クロートーに手に持った【リトルトレントの金属板】を差し出すと、クロートーは目の前にある金属板をバリバリと食べ始めた……そうして食べている間にターニャさんはアイテムボックスから一本の棒──鑑定してみると【糸巻き棒】と出た──を取り出した。

 ……そしてクロートーが金属板を食べ終わるとその口から金属の様な光沢の糸を吐き出し始め、それをターニャさんは手に持った【糸巻き棒】で巻き取って行く。

 

「いーとーまきまき、いーとーまきまきっと……はい! これで【リトルトレントの金属糸】とか言う、名前からして訳の分からないアイテムが完成しました! ……私の【クロートー】は食べた物の性質をそのままにして糸に出来るのですよ」

「ウチのメイン商品その二だな。……まあ、今はこんな感じで特殊な素材を売って資金を稼いでいるが、いずれはちゃんとした装備とかアイテムを作って店を開くのが俺達の目標だな」

 

 ……今日は生産系<マスター>も色々と大変だという事が分かりました(小並感)……そんな感じで俺達が彼等の生産活動を見て感心していると、突然ターニャさんがこんな提案をして来た。

 

「そうだ! ミカちゃん達、私達とフレンド登録しようよ! 生産関係でやってほしい事があれば報酬と力量次第で力になるよ」

「まあ、俺達も固定客は喉から手が出る程ほしいしな。……せっかくここまで来てくれたんだ、逃がさんぞ……」

「ちょっと怖いぞエドワード。……別にフレンド登録ぐらいは構わないさ」

「生産系<マスター>に繋がりを作っておけば後々いい事がありそうな気がするしね」

 

 そんな訳で俺達はお互いにフレンド登録を行ったのだった……まあ、ミカも言っていたが生産系<マスター>に伝手を作っておくのは今後装備を整える必要がある時に役立ちそうだからな。あの盾とか二人の<エンブリオ>を見た限りでは今後に期待が持てそうだし。

 ……その後は俺が持っていた植物系モンスターのドロップアイテムを彼等に売ったり(残りのクランメンバーで活躍出来る人がいるらしい)、彼等が試験的に作った物を見せて貰ったりした。

 

「……まあ、次にお前達が来る時にはもう少しちゃんとしたアイテムを見せるさ」

「今度は何か買っていってねー!」

「その時までにワシらも腕を上げておこう」

 

 そんな感じで俺達の<プロデュース・ビルド>初訪問は終わったのだった……ウチの妹達も気晴らしは出来たし、生産クランへの伝手も出来たし今日は中々良い1日だったな。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:レベルはかなり上がった
・具体的に末妹は【武闘家】をカンストして新たに【魔拳士(マジックボクサー)】に就いたり、妹も【剛戦棍士】のレベルが50を超えていたりする。

<プロデュース・ビルド>のメンバー:現在は地道に活動中
・外装や内装はホームが手に入った事でテンションが上がったメンバーが総掛かりで仕上げた(予算も結構使った)
・今は扱い難い<エンブリオ>製特殊素材を生産スキルにバフを与える<エンブリオ>の力で加工する取り組みに挑んでいる。

【天糸紡蚕 クロートー】
<マスター>:ターニャ・メリアム
TYPE:ガードナー
到達形態:Ⅳ
能力特性:製糸・捕縛
保有スキル:《天糸紡ぎ》《運命の縦糸》《運命の横糸》《天命紡績》
・体長1メートル程の蚕型ガードナーで、モチーフはギリシャ神話の運命の三女神の一人「紡ぐ者」を意味する名を持つ“クロートー”。
・ステータスはMP・SP・DEXに特化しており、蚕型の見た目通りAGIが低いので直接戦闘は苦手。
・《天糸紡ぎ》は素材を捕食する事でその素材と同じ特性・性質を持つ繊維を生産出来るスキルで、一度に生産出来る繊維の量は捕食した素材のリソース量で決定する。
・《運命の縦糸》はSPを消費して巻きついた相手に【拘束】の状態異常を与える高い強度の白い糸を吐くスキル。
・《運命の横糸》はMPを消費して触れた敵に【呪縛】の一定確率で状態異常を与える呪いで構成された非実態の黒い糸を吐くスキル。
・《天命紡績》は《天糸紡ぎ》で作った繊維でマスターが生産活動を行った場合、その生産成功率及び生産物の性能を上昇させるパッシブスキル。

【紡績師】:紡績師系統下級職
・衣類を作るジョブである【裁縫屋】系統と違い、糸系の素材を作る事に特化したジョブ。
・主なスキルは糸を紡ぐ《紡績》や紡いだ糸の品質を上昇・維持する《品質維持・糸》など。
・糸系素材をモンスターが落とす様になってからはやや廃れたが、現在でも羊型や蚕型のモンスターを飼育してそれらから糸を紡ぐ為に就く事がある。

【改訂工房 ヘパイストス】
<マスター>:ゲンジ
TYPE:キャッスル・ルール
到達形態:Ⅳ
能力特性:生産スキル効果及び生産物の効果改竄
保有スキル:《プロダクション・エンハンスメント》《プロダクト・リビルド》
・少し小さめの生産工房型のキャッスルで、モチーフはギリシャ神話の鍛冶の神“ヘパイストス”。
・《プロダクション・エンハンスメント》は工房内で発動した生産系アクティブスキル効果欄の数字表記の内、効果がプラスになる部分のみを倍加(第四形態現在では三倍)させるスキルで、更にマスターとパーティーを組んでいる人間にも効果が発揮される。
・《プロダクト・リビルド》は自身及び自身のパーティーメンバーが工房内で作った生産物の効果を改竄・変更するスキルで、デメリットとしてクールタイムが長く生産物を工房から出した時点でこのスキルの対象には出来なくなる。
・また、制限としてリソースそのものは上昇させられないので強化したり新しいスキルを追加する際には装備制限などのデメリットつけたりスキルを削除する必要がある。
・尚、クランの名前はメンバー内で色々と揉めた後にゲンジが【ヘパイストス】のスキル名をもじって付けたもの。

【ウッドメタル・カイトシールド】:エルザへの報酬
・耐久性の高い【ウッドゴーレムの材木】を金属化させてから逆三角形の盾に加工した物。
・裏地に金属化させていない【ウッドゴーレムの材木】を使っているので軽く、<エンブリオ>のスキルを駆使して《衝撃耐性》《耐久性上昇》などのスキルを付ける事に成功した現時点での<プロデュース・ビルド>が作れる最上級の品。


読了ありがとうございました。
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野良パーティーを組んでみた件

前回のあらすじ:兄「生産ギルドへの伝手を作ったぞ」妹「フレンドも増えたね」末妹「機会があれば何か頼むのもいいかもです」

※名前を『小鳥遊梢』から『小鳥遊雲雀』に変更……ビースリー先輩とリアルネームが被ってる事に今気付いた(泣)


 □王都アルテア・冒険者ギルド 【剛戦棍士(ストロング・メイスマン)】ミカ・ウィステリア

 

「さてさて、お兄ちゃんは<墓標迷宮>でアンデッド狩りに行ったし、私達はどうしようかなミュウちゃん」

「とりあえず何かクエストでも受ければいいんじゃないでしょうか……ここ最近は<プロデュース・ビルド>の所に行った時以外はそればっかですが」

「最近、お兄さんずっとレベリングしてるもんね」

 

 本日も私はデンドロにログインしてから、レベリングに行ったお兄ちゃんと別れてミュウちゃんとミメちゃんの三人で冒険者ギルドにやって来ていました……お兄ちゃん最近レベリングばっかだからなぁ。

 まあ、必殺スキルのデメリットでステータスが下がった所為で私達の足を引っ張るのが嫌だと思っているのは分かるんだけどね。デンドロで一番効率的なレベリング方法は単独で大量の雑魚を殲滅する事だし。

 

「ですが、私達三人だけだと狩りは安定しないんですよね。兄様の支援が無いと亜竜級はともかく純竜級以上になると相性次第では不味い(負けるとは言ってない)でしょう」

「お兄ちゃんって基本的に()()()()()()()()って人だから。どんな状況でも活躍出来るんだよねー。……本人はそれを割り切ってはいるが、納得はしてない感じだけど」

「複雑な兄妹関係……なのかな?」

 

 基本的には凄くいいお兄ちゃんなんだけど、どうも私達みたいな規格外な才能を持っていない事に引け目を感じているというか……というか、お兄ちゃんもあらゆる方面に於いて十二分に“天才”と呼べる才能を持っているんだけどねー。

 ……現実では()()あったらしいから完全に割り切っているけど、せめてゲームぐらいは私達の足を引っ張りたく無いと思ってる節があるんだよね、お兄ちゃん。

 

「……そもそも現実では私達の才能なんてなんの役にも立たないのですが……」

「お兄ちゃんなら将来の就職先とか困らないだろうしねー。……私達の才能が活かせる場所なんてこのデンドロの中ぐらいだし……」

「……うーん、これは根が深い問題なのかな?」

 

 お兄ちゃんの『兄としての意地』的なものと、私達の『自分の才能に対するコンプレックス』が複雑に絡み合っている感じだからねー……まあ、それで何か私達の関係が悪くなるとか、そういう問題が起きるという訳でも無いんだけど。

 ……今も要するにただステータスが低くなったお兄ちゃんが、それを補う為に私達をほっぽり出してレベリングに励みまくっているだけだし。

 

「……はい! やめやめ! これ以上この話題を続けるとテンション下がるだけだし、さっさと何かクエストを探そうか!」

「そうですね。……何か手頃な依頼が有れば良いんですが」

「とりあえずカタログを見てみようか」

 

 そういう訳で私達は冒険者ギルドのクエストカタログを開いて何か丁度いいクエストが無いかを探す事に……ふむむ、戦闘型の私達でやるとなるとやっぱり討伐系のクエストが妥当かな。

 えーと【討伐──【バイオレンス・ファング・ボア】の群れ 難易度:五】王都北部に目撃情報あり、通商の邪魔になる可能性があるので討伐願う……血の匂いに惹かれて人を襲うモンスターだからか報酬は結構高めだけど、群れで行動するから何パーティーかでの受注推奨か……。

 他には王都西での【ブレイズ・デミドラグウルフ】率いる【ブレイズ・ウルフ】の討伐とか、王都東での【メイル・デミドラゴン】の群れ討伐の依頼とかもあるね。

 

「……むむ、何故かモンスター群れ討伐の依頼ばかりだね。こう言うクエストって複数パーティー前提のヤツばかりだから、お兄ちゃんを欠いた私達二人じゃちょっとキツイかも」

「群れの討伐の依頼が多いというよりは、少数のモンスター討伐の依頼が少なくなっているみたいですね。……これはみんな考える事は同じという事でしょうか?」

 

 あー、個人や少数で出来る討伐クエストはレベルが低くグループや固定パーティーとかが余り作られていない今の<マスター>達には人気だよね。私達もお兄ちゃんが居ない間に少人数で受けられるクエストを何度もやってるし、採取やお使いみたいな地味なクエストよりも討伐系の方が人気だろうしねー。

 ……しかし、こうなると選択肢は不得手なのを覚悟して少人数で受けられる採取かお使いのクエストを受けるか、或いは……。

 

「複数パーティー前提のクエストを()()()()()()()()を組んで受けるかかな? ……でも、私達って身内だけの固定パーティーばっかり受けてたからなぁ。野良パーティーはVRMMOのお約束らしいけどどうしたものか」

「でも、同じ事を考える人も多いのか、この冒険者ギルド内でも<マスター>による野良パーティーの募集は結構やっていますよ」

「さっきから呼び掛けとかはそこら中でやってるもんね」

 

 確かにミメちゃんの言う通り冒険者ギルドのあちこちで色々な<マスター>達が『回復が出来る人が居ませんかー』とか『【バイオレンス・ファング・ボア】の群れの討伐クエストの参加者募集ー』とか言ってたりするからね。

 ……別に私達は野良パーティーを組みたくないって訳でも、他人と会話するのが怖いコミュ障って訳でもないから何処かに入った方が良いかもね。

 

「それじゃあちょっと野良パーティーを探して組んでみようか。私達は二人とも近接型だから前衛を募集してる所とかで良いかな」

「そうですね」

 

 そういう訳で私達は冒険者ギルドで組める野良パーティーを探してみる事になったのでした……んだけど、探してみるとこれがなかなか見つからないんだよね。何故か前衛が既に埋まっている所が多くて。

 ……どうも今日は野良パーティーを募集している<マスター>は前衛系が多かったみたいで、募集対象が後衛系や回復系に偏っているみたい。

 

「あー、魔法も回復も出来るお兄ちゃんがいればなぁ」

「……兄様がいると多分いつも通りに身内パーティーで済ませられると思いますよ」

「いっそ何処か顔見知りとか居ないかなぁ」

 

 まあ、そんな都合のいい事は早々「誰か〜、ウチらと一緒にパーティー組まん〜」……と思っていたら、向こうから聞き覚えのある声がしたので思わずそちらを向くと……。

 

「……あかんわー。いくら声掛けても誰も野良パーティー組んでくれんわ。<月世の会>のクランオーナー件その教主様が声掛けとるのに何でやー?」

「怪しげな現実逃避型宗教の教主が声を掛けているからに決まっているだろJK。後本人が凄く胡散臭いし」

「酷ない⁉︎ あおやん!」

「まあ、ティアンと違って<マスター>には<月世の会>の事を知っている人が多いからね」

「でも、私達だけだと前衛がいないからパーティーのバランスが悪いわよ。永仕郎君から月夜ちゃんの面倒を見てほしいとは言われてるけど、私レベル低いし……」

 

 そこに居たのは以前の【許可証】入手クエストで一緒に戦った事のあるクラン<月世の会>のオーナー扶桑月夜さんと、確かその<エンブリオ>であるメイデンの【カグヤ】さん、そしてその月夜さんに毒舌をかましている白髪赤眼の少女<マスター>と黒髪黒目の女性<マスター>の四人だった。

 どうやら、その三人も野良パーティーを募集している様だったがどうにも上手くいって居ないらしいね……上手くいってない者同士丁度いいかもしれないしちょっと声を掛けてみようかな。

 

「はーい、月夜さん久しぶりー。野良パーティーを募集してるの?」

「あ、確かミカちゃんとミュウちゃんやったね。実はそうなんよー。……今日は影やんもリアルの用事でログイン出来へんから、クエスト受ける為に野良パーティーを募集しとったんやけど何故か誰も来てくれへんのやー」

「他のクランのメンバーも今日はそれぞれ別のクエストを受けにいったから誰も予定が合わなくて。色々と間が悪かったのよね」

「……月夜ちゃん、この人達は知り合い?」

「……オーナーにクランの信者以外で親しげな知り合いが居たなんて……っ(驚愕)」

 

 そうして挨拶をしていると初対面の女性<マスター>から質問が入ったので、とりあえず私達はお互いに自己紹介をする事にした。

 

「私は【剛戦棍士】のミカ・ウィステリアだよ。月夜さんとは以前にクエストで一緒になった事があるんだ」

「その妹の【魔拳士(マジックボクサー)】ミュウ・ウィステリアとその<エンブリオ>のミメなのです」

「これはご丁寧にどうも……私は()()<月世の会>クランメンバーの【魔術師(メイジ)日向(ひなた)(あおい)と言う。よろしく」

「同じく<月世の会>クランメンバーの【付与術師(エンチャンター)小鳥遊(たかなし)雲雀(ひばり)と言います。よろしくね」

「んで、知っとるとは思うけどウチは<月世の会>クランオーナーの【司教(ビショップ)】扶桑月夜。そんでその<エンブリオ>のカグヤや」

 

 ……ふむふむ、白髪赤眼の毒舌系少女<マスター>が日向葵ちゃん、黒髪黒目の温和そうな女性<マスター>が小鳥遊雲雀さんだね。覚えたよ。

 

「それじゃあ本題だけど野良パーティーを募集しているなら私達と組まない? こっちも今はお兄ちゃんが別行動中で前衛二人しか居ないから後衛が欲しいんだよね」

「よっしゃ、強力な前衛キタ、これで勝つる! 勿論オッケーやで!」

「それじゃあ今日は宜しくお願いする。……ただ、私は最近始めたばかりだから、大学があるにも関わらず廃人プレイしているオーナーと違ってレベルはまだ低いのでそこは注意して欲しい」

「私もログイン時間が余り取れなかった所為でレベルは低いのよね」

 

 ふむ、確かにミュウちゃんが《看破》した所によると二人ともレベルは30前後だったね……まあ、月夜さんと私達ならクエストを選べばどうにかなるだろうし大丈夫でしょう。

 ……強いて気をつける事があるとすればお兄ちゃんみたいに放っておいても問題無い訳じゃ無さそうだから、ちゃんと後衛を守る様に意識しておくぐらいかな。

 

「それでパーティーを組んだ訳だけど受けるクエストはどうする?」

「せやねー。……ミカやん達が協力してくれるなら多少は難易度の高いクエストでも大丈夫やろうし……この王都西での【ブレイズ・デミドラグウルフ】の群れ討伐とかがいいんちゃう?」

「……こいつらは火炎ブレスによる遠距離攻撃が主体ですから後衛の皆さんを守るのが難しくなると思いますが」

「それに関しては私の<エンブリオ>が火属性吸収を持っているから大丈夫。オーナーはともかく雲雀さんを庇うぐらいはどうにか出来ると思う」

 

 ふーん、成る程ね。月夜さんは葵ちゃんの<エンブリオ>混みで提案したみたいだね……それはそれとしてさっきから月夜さんに対する葵ちゃんの発言が超塩いね。仲が悪いって訳でも無くて気安く接しているだけみたいだけど。

 

「それじゃあコレにしようか。……まあ、ボスも亜竜級ぐらいだしどうとでもなるでしょう」

「亜竜級ぐらいまでならカグヤの効果範囲内やしねー。んじゃクエスト受注して西門いこかー」

 

 そんな訳で私達女性オンリーな野良パーティーはクエスト【<ウェズ海道>近辺で目撃された【ブレイズ・デミドラグウルフ】率いる群れの討伐 難易度:五】を受けて、一路西に向かう事になったのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<ウェズ海道> 【魔拳士】ミュウ・ウィステリア

 

「《ブーステッド・パーティー・アジリティ》!」

「ありがとう雲雀さん! 《ウィールド・メイス》!」

「助かるのです。《フレイム・フィスト》《カウンター・ブロウ》!」

『『『KYAAAAAAA!?』』』

 

 雲雀さんの掛けてくれたパーティー全体AGIバフの支援を受けつつ、姉様は額に生えたツノを向けて突っ込んで来た二体の【ホーンラビット】を【ギガース】を振り回して挽肉にし、私は【魔拳士】のスキル《フレイム・フィスト》を使って拳に炎を纏わせつつ同じく突っ込んできた【ホーンラビット】にカウンターを入れて倒しました。

 ……あれから西門を出て<ウェズ海道>にやって来た私達は月夜さんの『とりあえず適当なモンスターを相手にして連携を確認せえへん?』という提案を受けて、その辺りにいた【ホーンラビット】の群れと戦い……これを一方的に殲滅していました。

 

「……《ファイアーボール》……うん、実に楽勝。……というか、前衛姉妹二人とカグヤさんが強すぎる件」

「せやろー。やっぱりあの二人を引き入れたウチの眼に狂いは無かったな!」

『まあ、この程度のモンスターだと(これ)の《月面徐算結界》が普通に効くからねえ』

 

 そもそも前衛系上級職である私と姉様にとって【ホーンラビット】程度の下級モンスターは敵では有りませんし、そこに月夜さんとその<エンブリオ>である【カグヤ】が展開する“夜”──強力な広域デバフスキル《月面徐算結界》が掛かるので【ホーンラビット】達のステータスは見るも無残な事になってますし。

 ……まあ、まだ余り戦闘経験のない葵ちゃんと雲雀さんの動きの把握やパーティー内での各々のポジションでの連携確認は出来たので目的は達成されましたが。

 

「じゃあこれで終わりだね! 《ギガント・ストライク》!」

『KYAAAAAAA!?』

「……うわお、ミンチより酷えや」

 

 そうして最後に残った群れのボス【グレーターホーンラビット】を姉様が叩き潰した事によって戦闘は終了しました……後、敵がミンチより酷い事になるのはこのデンドロに於いて良くある事なので慣れて下さい。特にリアル視点では。

 ……その後、私達は<ウェズ海道>を西に進んで目的である【ブレイズ・デミドラグウルフ】を探す事にしました。探知系スキル持ちが居ないのが不安ですが、そこはもうしょうがないので自分達の運を信じる事になるでしょう。

 

「うんうん、このパーティーはバランスも取れとるし良え感じやない? クランメンバーが捕まらんかった時はどうしようかと思ったけど、これでクエストもどうにかなりそうや」

「クランホームを建てるためには資金を稼がなければいけませんからね」

「ん? 月夜さん達はホームを買う気なんだ?」

 

 そういう感じで私達はのんびりと喋りながら海道沿いを歩いて行きます……勿論、周辺の警戒は怠っていませんが。

 

「そうやよー。<月世の会>の宣伝も兼ねて王都の目立つ所にでっかい屋敷を建てるのが今の目標やね」

「ただし、王都の一等地は物凄く高い。……そのお陰でクランメンバー全員がクエストを受けまくった所為で今回捕まらなかったんだけどね。王都だけだと限界があるから他の街に行ったメンバーも多いし」

「まあ、メンバーの皆さんがこの世界を各々で満喫しているのも理由ですけどね。……その中でクランホームを建てる為のお金稼ぎをしている感じですね」

 

 ……以前の<プロデュース・ビルド>さんの時も思いましたが、現在の<マスター>が作ったクランというのは何処も大変なんですねぇ……。

 

「……んん? これは……」

「どうしたん? ミカやん」

 

 そんな時に姉様が虚空を眺めながら訝しげな表情を浮かべました……あ、これは何時もの“直感”が起動しましたね。他の人達が居ますしちょっとフォローしましょうか。

 

「姉様、何かに()()()()()んですか?」

「あーうん。海道沿いのあっち側に何かが居た気がするんだけど、もしかしたら目的の相手かもしれないね」

「……ふうん、ウチは気が付かんかったけど……まあ、今の所手掛かり無いし探してみよか」

 

 そうして割と自然な感じで姉様が示した方向を調査する事が出来たのです……示した方向が殆ど進行方向と同じ海道沿いだった事と他に手掛かりがない事もあって特に揉め事が起きる事も無かったですし。

 ……そして姉様が示した方向を行く事しばらく、前方から何やら人の叫び声や獣の唸り声、そして()()()()()()()()()()()がしたので、もしやと思った私達は急いで何かが起こっている場所まで向かって行きました。

 

『『『GARURURURURURURU!!!』』』

「クソォ! こいつら⁉︎」

「まずい! 馬車に火が!」

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 そこで見たものは数台の馬車が【ブレイズ・ウルフ】の大群に取り囲まれて、そのまま火炎ブレスなどによって焼かれようとしている光景でした……むむ、目撃情報よりも数が多い気がするのです。

 

「いけない! 早く助けないと⁉︎」

「はいちょっと待ち、雲雀さん。本当に助けたいなら闇雲に突っ込んだらあかん。……ウチらはあの馬車を助けようと思うけど、二人はどうする?」

 

 それを見て慌てて飛び出そうとして雲雀さんの襟元をふん掴んで止めた月夜さんが私達に向けてそう聞いてきました……勿論、私達の答えは決まっています。

 

「当然助けるのです。……それに元々あの連中を倒すのがクエストでしたから、多少数や戦力が多くなっていても関係ないでしょう」

「それに見殺しにすると気分が悪いからねー。……私達二人が突っ込んで敵を撹乱するから、その隙に月夜さん達は馬車の人達の護衛と治療を頼めるかな?」

「分かったわ。後、雲雀さんは二人にバフをよろしゅう」

「はい……《ブーステッド・パーティー・ストレングス》《ブーステッド・パーティー・エンデュランス》《ブーステッド・パーティー・アジリティ》!」

 

 そうしてバフを受けた私と姉様は馬車を襲う【ブレイズ・ウルフ】達を逆に襲いに行ったのでした……この人数で守るのは難しいですし、先に敵を殲滅する方がいいでしょうからね。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:才能関係だと色々とめんどくさい
・何だかんだで割とブラコン気味なので兄がいないとテンションが下がりそうな会話をする事が。
・それはそれとして各々割り切ってデンドロをエンジョイしてはいる。

【魔拳士】:魔拳士系統下級職
・拳士の派生で魔法と格闘を使う……のでは無く、MPを使った格闘系スキルを習得するジョブ。
・下級職の魔拳士の場合は主に《フレイム・フィスト》などの拳に属性を纏わせるスキルをメインとし、それで他の格闘スキルの威力を増大させる戦い方が主体。
・他にもMP消費系の格闘系スキルをいくつか習得し、更に上級職になるとMPを使った攻撃系アクティブスキルなども覚えていく。

扶桑月夜:野良パーティーを募集しても集まらなかった人
・これは掲示板や噂などで<マスター>間に『<月世の会>が現実逃避系宗教組織である』と日本人以外にも広がった為。
・ちなみにティアンにはデンドロを“真なる世界”と思うクランメンバーの行動から、真面目にクエストを受けたり率先して挨拶や手伝いとかをしてくれる善良クランだと()()()は思われている。

日向葵:<月世の会>メンバーその1
・現実ではアルビノの病弱中学生であり、通院している病院が<月世の会>関係で月夜とはリアルで知り合いだったので、その伝手で入信&クラン入りした。
・ただ、キチンと日光対策をすれば学校に通うなどの日常生活は送れる為、余り<月世の会>の教義には興味が無く入信も実質名前だけ。
・デンドロは月夜の話を聞いて興味を持った事と『まともに日の光が浴びたい』という本人の希望もあって両親が最近手に入れた物。
・月夜の事は教主ではなく歳の離れた友人として接しているので非常にフランク(&毒舌)に接している。

【日天鎧皮 カルナ】
<マスター>:日向葵
TYPE:アームズ
到達形態:Ⅲ
能力特性:光・熱エネルギー吸収&蓄積
固有スキル:《日天吸蓄(サンシャイン・アブソーブション)
・モチーフはインドの叙事詩『マハーバーラタ』に登場する皮膚と癒着した黄金の鎧を持って生まれてきた英雄“カルナ”
・全身の皮膚を置換した()()()()()の<エンブリオ>で装備枠はアクセサリー枠を一つ消費する。
・《日天吸蓄》は自身への光・熱エネルギーによるダメージを吸収・蓄積して、更にMP・SPを使う自身のスキルを使用する際に代わりとしてその蓄積エネルギーを使う事が出来るパッシブスキル。
・吸収効果自体は常時発動だが一度に吸収出来るエネルギーの量には限度があるので、許容量以上の熱量の攻撃を食らった場合には吸収しきれなかった分のダメージは受ける。
・加えて蓄積出来る量にも上限があるが、完全な一芸特化型の<エンブリオ>なので吸収・蓄積量の上限は第三形態現在でも非常に高い。
・また、人口皮膚とはいえアームズなので通常の皮膚より遥かに強靭であり、刺突・斬撃に対する防御力が上昇する副次効果もある。
・葵の『日の光を浴びたい』という願いの元で生まれた<エンブリオ>だが、アバターの時点で日光下での活動は問題無かったので光熱エネルギー蓄積の方がメインになった。

小鳥遊雲雀:<月世の会>メンバーその2
・リアルでは<月世の会>関係の病院に所属している終末期医療担当の看護師であり、業務の一環としてデンドロ内部での患者のケアやデンドロが患者に与える影響の調査をしていた事もあるのでアカウントを持っている。
・だが、最近は仕事が忙しい事とデンドロの安全性がある程度保証されたのでハードを患者に優先して渡した事からログイン出来なかった。
・なので月夜や月影とは彼等が幼い頃からの顔見知りであるので『月夜ちゃん』『永仕郎君』呼び。
・今回は久しぶりの休日な事と月影から『自分がログイン出来ない間に月夜様をお願いします』と言われたハードを貸してもらった。
・本人もゲーム好きなので、デンドロハードが安定して手に入る時期になったら自腹で買おうと思っている。
・ちなみに月影には『月夜が最近教主として振る舞う事が多かったので、今日はその必要がない二人と一緒に羽を伸ばして欲しい』という狙いもあった模様。

《ブーステッド・パーティー・◯◯》:【付与術師】のスキル
・その名の通り自分と同じパーティー内の対象に何らかのバフを掛けるスキルで、選択した人数によって消費MPが変動する。


読了ありがとうございました。
キツネーサンのキャラや口調とかはこんな感じで良かったかな? キャラは動かしやすいんだが口調にクセがあると書きにくい。


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馬車を救出せよ!

前回のあらすじ:末妹「最近兄様が構ってくれません」妹「なので野良ギツネさんを捕まえましたナウ」

※名前を『小鳥遊梢』から『小鳥遊雲雀』に変更……ビースリー先輩とリアルネームが被ってる事に今気付いた(泣)


 □<ウェズ海道>西部

 

 その馬車の一団に乗っていた者達の何が悪かったのかと言うと、有り体に言って()()()()()()のだろう……彼等は複数の商家や冒険者達で構成されており、全員で協力して戦力やお金を出し合う事で王都までの道中の安全を確保しつつ旅をしようとしていた一団であった。

 実際、彼等の多くが街々の移動を何度も行なっていた事もあってかなり上手く行っており、事前に調べたモンスターが出現し難いルートを選ぶ事で戦闘を最小限に抑え、稀に起こる戦闘でも護衛の冒険者が即座にモンスターを倒す事で安全に旅が出来ていた。

 ……他の【ブレイズ・ウルフ】の群れを取り込んで拡大し、自身も純竜級モンスター【ブレイズ・ドラグウルフ】に進化したボスに率いられた狼の群れに遭遇するまではだが。

 

『『『GAAAAAAAAAAA!!!』』』

「クソッ、馬車に火が⁉︎」

「御者もやられたぞ⁉︎」

 

 その馬車の一団に狙いを定めた【ブレイズ・ウルフ】達は、まずボスである【ブレイズ・ドラグウルフ】を中心として群れ全体で一斉に得意とする《火炎ブレス》を馬車を中心とした広範囲にばら撒き、護衛に付いていた冒険者達にダメージを与えつつ馬車の動きを止めた。

 ……更に彼等にとって運が悪い事にボスの使った《火炎ブレス》の上位スキル《ブレイズ・ブレス》が御者の一人に直撃してしまった為、一つの馬車の動きが完全に止まってしまったのだ。

 

「嫌ァァァァァァ⁉︎ お父さんっ⁉︎」

『GURUAAAAAA!!!』

『『『『『GAU!!!』』』』』

「不味い、囲まれる⁉︎」

 

 その御者の娘の悲鳴が響き渡るのを無視して【ブレイズ・ウルフ】達はボスの指示の元、足を止めた馬車を取り囲んでいった……その機動力を持って群れ全体で獲物を取り囲み、遠距離から広範囲に攻撃出来る《火炎ブレス》を全方位から放つのが彼等の必勝法であるのだ。

 これは一発一発の《火炎ブレス》の威力は然程ではなく戦闘職に就いていれば耐えられる程度なので、全方位から立て続けに放ってダメージは蓄積させると共に炎によって逃げ場を無くし、それで獲物が弱って逃げられなくなったら接近戦でトドメを刺す安全重視の戦術でもある。

 

『……GUUU……』

 

 そして更に群れのボスである【ブレイズ・ドラグウルフ】は配下に経験を積ませる為と不測の事態に対応する為に、後方で指示を取りながら待機して戦局を見渡すという徹底ぶりである。

 ……そんな群れのボスとして相応しい冷静さと判断力を兼ね備えていたからこそ、ボスは真っ先にこちらに向かってくる()()の気配を察知出来たのだが。

 

『ッ⁉︎ ……GUAAAAAAA!!!』

「あら、気付かれたか。……てゆーか、名前が【ブレイズ・ドラグウルフ】になっているんだけど。情報と違うじゃん」

「進化したのでしょうか? ……兎に角、あのボスっぽいのは私が相手をしますので、姉様は馬車の方へ救援を。《ウォーター・フィスト》」

『アイツがこっちより明確に高いのはSTRとAGIだからその二つで行くよ。ターゲット【ブレイズ・ドラグウルフ】《天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》STR2489、AGI4156!』

 

 そこに向かって来たのは馬車を助けに全速力で走って来たミカ・ウィステリアとミュウ・ウィステリアの二人であった……彼女達は即座に戦局を把握するとミュウの方は自己強化をしつつ新たな敵を倒そうと向かって来た【ブレイズ・ドラグウルフ】の迎撃に移った。

 ……そしてミカの方はその間に馬車の方へ向かい、馬車を取り囲む【ブレイズ・ウルフ】達の背後から襲い掛かった。

 

「はーい、お邪魔しまーす! 《ウィールド・メイス》!」

『『GAAUUU!?』』

 

 ミカはそのまま両手に持った【ギガース】を大きく振り回して二体の【ブレイズ・ウルフ】を葬り去った……が、襲撃者に気が付いた【ブレイズ・ウルフ】達は直ぐに群れの何割かをミカに差し向けて、得意の《火炎ブレス》を一斉に放ってきたのだ。

 

『『『GAAAAAAAA』』』

「ええいっ! 対応が早いね。よく鍛えられてるのかな⁉︎ 《ブラスト・スウィング》!」

 

 そうして放たれた火炎をミカはスキルによって振るった【ギガース】から発生させた衝撃波によって相殺しつつ、その余波で怯んだ【ブレイズ・ウルフ】を一体一体殴り潰していった。

 ……だが、敵の数が多い事と向こうが動き回りながら《火炎ブレス》による遠距離攻撃を主体で戦闘している事、そしてミカが馬車に向かう致命的な攻撃をフォローしている事などからかなりの苦戦を強いられていた。

 

「き、君は一体⁉︎」

「通りすがりの<マスター>です! クエストのターゲットが馬車襲ってたんで救援に来ました! ……っていうか、数が多いし素早いからやり難い! AGI(速さ)が足りない!」

『『『『GAUAAAAAAAAA!!!』』』

 

 物理的なステータス補正に特化した【ギガース】のお陰で純竜級モンスターに迫る身体能力を持つミカだったが、攻撃手段はメイスによる打撃のみであるので徹底した遠隔からの集団戦を仕掛けてくる【ブレイズ・ウルフ】達には攻めあぐねていた。

 ……援軍は来たがこのままでは押し切られると馬車の人間達が思った時、突如として辺りが“夜”に包まれた。

 

「なっ、なんだっ⁉︎ 暗くなったぞ」

「どうなっている⁉︎」

「あ、やっと来たんだね、遅いよ月夜さん」

「いやーごめんごめん。……向こうでボス狼とタイマン張っとるミュウちゃんの邪魔にならんよう迂回したら思ったより時間がかかったわ」

「魔法系ジョブだからAGIも低いしね」

 

 そこに現れたのはミカ達とパーティーを組んでいた<月世の会>オーナー扶桑月夜とそのクランメンバーである日向葵、小鳥遊雲雀の三名だった。

 

『『『『GUUUUUUU……!?』』』』

「うん、カグヤの《月面徐算結界》によるデバフは聞いとるみたいやね。……ウチと雲雀さんは負傷者を治療するから、そいつらの相手は頼むわ」

「オッケー、これなら何とかなる!」

 

 そして“夜”──広域デバフスキル《月面徐算結界》の中に入ってしまった【ブレイズ・ウルフ】達はそのステータスを大きく減じさせて動きを鈍らせてしまい、そこを突いたミカが【ギガース】で次々と狼達を殴り倒していった。

 

「了解。《日天吸蓄(サンシャイン・アブソーブション)》解放《ウインドカッター》!」

「感謝する! これならば!」

「動きが鈍ってるなら俺たちでも!」

『『『『GYAAAAAAA!?』』』

 

 更に葵が自身の<エンブリオ>【日天鎧皮 カルナ】に蓄積されていた光熱のエネルギーを大量の魔力に変換する事で、風属性下位魔法の《ウインドカッター》を限界まで強化して極大な風の刃として放ち複数の【ブレイズ・ウルフ】を両断する。また、護衛に付いていた他の冒険者達もコレを逆転のチャンスと見て【ブレイズ・ウルフ】達を攻撃していった。

 ……とはいえ【ブレイズ・ウルフ】達もやられっぱなしでは無く、何匹かのウルフが反撃として前に出ているのに魔法を準備して動けない葵に向かって《火炎ブレス)を吐き出した。

 

『『『GAAAAAAAAA!!!』』』

「……おや、自分からエネルギーを充填してくれるとはお優しいですね。……ではお返しです。《日天吸蓄》解放《ライトニング》!」

 

 だが、その《火炎ブレス》は全て【カルナ】が《日天吸蓄》による光熱エネルギー吸収効果によって葵にエネルギーを与えるだけに終わり、反撃として放たれた強化された雷属性下位魔法である雷撃によってその狼達は一層された。

 ……その様に戦闘を得意とするメンバーが戦いを優勢に運んでいる中、月夜達治療系の人間も負傷したティアン達を魔法やアイテムで治していたのだが……。

 

「お父さんっ! お父さんっ!」

「……いかん、この人もう事切れとる。損傷が酷すぎてウチのまだスキルレベル低い回復魔法や蘇生魔法じゃ治せん」

 

 最初に【ブレイズ・ドラグウルフ】のブレスを受けた御者は、肉体の多くに【火傷】や【炭化】の状態異常を負う程のダメージを受けてしまい手立ての甲斐無くHPがゼロになって事切れてしまったのだ……その亡骸に縋り付く娘の泣き声が痛々しく響き渡り周りの人間も思わず顔を伏せたが……。

 

「……うん、これは()()()()()()()やな。……雲雀さん!」

「分かったわ。来なさい【アスクレピオス】……《パーフェクト・リザレクション》!」

 

 その中でまだ希望を失っていない月夜は彼のHPがゼロになった直後に雲雀を呼び、それに答えた彼女は左手にある“杖に巻き付いた一匹の蛇”の紋章から同じ様な巻き付いた蛇の模様が描かれた杖──自身の<エンブリオ>【回生杖 アスクレピオス】を取り出し掲げスキルを行使した。

 ……すると彼女の手にある【アスクレピオス】から光の粒子の様なものが溢れ出して事切れた御者を覆い、その身体に負った【火傷】や【炭化】を含むあらゆる傷を直して彼を蘇生させたのだ……これが【アスクレピオス】唯一のスキル《パーフェクト・リザレクション》の効果──死亡者をHP・状態異常含めての完全蘇生である。

 

「……ここは……」

「お父さんっ!」

「うんうん、損傷が激しかったから蘇生可能時間が不安やったんやけど上手くいってよかったわ」

「そうね。……さて、まだ戦闘は続いているんだし援護ぐらいはしましょうか」

 

 ……そうして生き返った父親に抱き着く娘を見た彼女達は再び自分達の戦いに戻っていったのだった。

 

 

 ◇

 

 

『GAUUUU!!!』

「チッ、逃がしません。《波動拳》!」

 

 所変わって《月面徐算結界》の外、そこでは展開された“夜”の危険性を察知して離脱しようとしている【ブレイズ・ドラグウルフ】と、それに対して拳から衝撃波を放ちつつ追撃しているミュウが激しい戦いを繰り広げていた。

 ……しかし【ドラグウルフ】が瞬間的にAGIを上昇させるスキルを持っていた事と、背後に追いすがるミュウに攻撃出来る火属性魔法を覚えていた事もあって結局は結界の外まで逃げられてしまったが。

 

『GAA!!!』

「くっ! また炎弾ですか。ブレスと比べて威力は低いですが全方位に撃てるのは厄介ですね。AGIは同じなので引き撃ちされると追いつけません」

『加速スキルもあるしね。……勿論、向こうが加速すればこっちも加速するんだけど、タイミングが完全に向こう持ちだからこっちにとってはいきなりAGIが変動する形になるし』

 

 敵対対象とステータスを完全に同期させる《天威模倣》ではあるが、それ故にいきなり敵のステータスが大きく変動した場合には自分も同じ様に変動するので肉体の操作が付いていか無い恐れがあるデメリットにもなっているのだ。

 まあ、ミュウの場合はその圧倒的な戦闘センスでステータスが大きく変わっても問題なく肉体を完全に制御するだけでなく、敵の動きが読めていれば加速タイミングを計って逆用する事すら出来たりするが……それでも、単純に逃げる相手に追いつくのはAGIが同じにしかならない以上は難しい。

 ……そして【ドラグウルフ】は結界から距離を取った所で即座に反転、追い縋っていたミュウを中心とした広範囲に向けて《ブレイズ・ブレス》を吐き出した。

 

『GAAAAAAAAA!!!』

「うげっブレスですか! この範囲とタイミングではッ! 《クロスガード》!」

 

 そのブレスを回避し切れないと判断したミュウは咄嗟に《クロスガード》──腕を交差した構えを取る事でENDを二倍にするスキル──と腕に纏わせていた《ウォーター・フィスト》を使って炎によるダメージを抑えつつ、地面を転がって身体の炎を消しながら急いで範囲外へと離脱した。

 

『今のはストックしたよ!』

「分かりました! ですが、やはり近づけなければどうにもなりませんね。……やってみますか《魔力放出》!」

 

 そしてミュウは直ぐに体勢を整えると《魔力放出》──肉体の任意の部位から魔力による推進力を発生させるスキル──を使って加速しながら全速力でブレスを撃ち終わって隙が出来た【ドラグウルフ】に向けて突っ込んだ。

 ……《天威模倣》の影響を受けたステータスは他のバフ・デバフ効果を受けないが、この《魔力放出》の様にA()G()I()()()()()()()()()()()()()だけならば関係ない。

 

『GA⁉︎』

「捉えました! 《ソニックストレート》!」

 

 そうして【ブレイズ・ドラグウルフ】を間合いに捉えたミュウはスキル込みの高速ストレートを相手の顔面に叩き込んだ……更に【魔拳士(マジックボクサー)】のスキル《ウォーター・フィスト》によって水属性の追加ダメージが発生した事で相手は大きく怯む。

 ……その好機を逃す事無くミュウは再び相手にブレスを撃たれない為にも、発生が早く発動後の隙も少ない格闘スキル特有の連続攻撃で攻め立てた。

 

「更に《正拳突き》! 《旋風脚》! 《スライスハンド》! 《回し蹴り》! 《発勁》!」

『GUUUUU……GAAAAAAAAA!!!』

 

 だが、相手も為すがままに攻撃を受けている訳ではなく魔力が篭った掌底が腹に打ち込まれるのを無視して身体を捻り、そのままミュウを噛み砕こうと炎を纏った牙で喰らい付こうとした。

 

「……甘い《魔力放出》」

『GAU⁉︎』

 

 ……が、ミュウは()()()()()魔力を放出して推進力にすると、嚙みつこうとして来た相手の顔に手をつきながら前方へ一回転する様に飛び上がってその攻撃を回避した……そして、そのまま放出を続行して倒れ込みつつガラ空きの相手の背を蹴りつけたのだ。

 

『《攻撃纒装(アタック・テスクチャ)》!』

「《踵落とし》!」

『GAAAAAAAAA!?』

 

 ミメーシスの《攻撃纒装》にストックされた先程の《ブレイズ・ブレス》の炎と攻撃力を上乗せされた踵落としが背中に直撃した【ブレイズ・ドラグウルフ】は、その衝撃とダメージによって悶絶しながらよろめいた……が、火を使うが故に《火属性耐性》のスキルを持っていた為か直ぐに持ち直して再びミュウにブレスを吐こうとし……。

 

「……吐かせません《フリーズ・フィスト》!」

『AGOGA⁉︎』

 

 その寸前、効果が切れた《ウォーター・フィスト》の代わりにMPを目一杯籠めた《フリーズ・フィスト》による強烈な冷気を纏わせたミュウの拳が()()()()()()()()()()()()……口内の極大の冷気は即座に気管までを凍結させてブレスを使用不可能にさせると共に、相手を呼吸困難にさせる。

 ……突然ブレスと呼吸を封じられた事で動揺した【ブレイズ・ドラグウルフ】は距離を取ろうとするも、呼吸困難と蓄積したダメージでよろめいてしまう。

 

「これで終わりです。《真撃》《ハンマーナックル》!」

『──────ーッ!?』

 

 そんな致命的な隙をミュウが見逃す事は無く冷気が吹き荒れる両手を握りしめてスキルによる強化を掛けた上で【ブレイズ・ドラグウルフ】の脳天に振り下ろし、その頭蓋を凍らせながら砕いて絶命させたのだった。

 

「……《フリーズ・フィスト》解除。……あ、魔力を大量に籠めた所為か腕がちょっと凍ってますね。ダメージはポーションで回復出来る範囲ですが」

『それよりも馬車の方が心配だね、急いで戻ろうか』

 

 そうして【ブレイズ・ドラグウルフ】が光の塵になったのを見届けたミュウ達はポーションを飲みつつ出て来た【宝櫃】を回収して馬車の元へ向かったのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<ウェズ街道> 【剛戦棍士(ストロング・メイスマン)】ミカ・ウィステリア

 

「<マスター>の皆様、この度は我々の窮地を救って頂き本当にありがとうございました。このお礼は必ず」

「別に気にせんでええよー。クエストのターゲットが偶々馬車に襲われたから倒しただけやし。……でも、御礼なら今後もクラン<月世の会>をご贔屓にー」

「ちゃっかり布教してるし……」

「まあ、自分のクランを宣伝するのは普通の事ですし別にいいのでは?」

 

 そんな訳でボスを倒されて有象無象となった狼達を全滅させてクエストを完了した私達は、助けた馬車に乗せてもらって王都へと帰還していました。

 ……幸い馬車のティアン達は危ない人も居たけど死人は出なかったのは良かったね。お陰で色々と感謝されたしとりあえず一安心って所かな。

 

「成る程、では皆様は月夜殿がオーナーを務める<月世の会>というクランのメンバーだと」

「そうなんよー「はい、流れる様に嘘を言わない。私と雲雀さんはそうだけどミカちゃんとミュウちゃんは違うでしょ」……えー、あおやんのいけずー。せっかく外堀から埋めていこうと思うたんにー」

「えーっと、申し訳ありませんが今の所クランに入る予定は無いので……」

「出来ればこの世界を旅して回るとかしてみたいし」

 

 実は以前からお兄ちゃんとも相談してこのデンドロ世界の色々な場所を巡ってみようと計画してるんだよね……最も、今はこの世界で旅をするのに必要な実力を手に入れる為のレベル上げと資金稼ぎをしてる段階だから、本格的な旅行はまだ先の話だけどさ。

 

「んー、別に名前だけウチのクランに置いて後は自由行動でもええよ? そうしとるメンバーも結構おるし」

「ウチの教義は『真なる魂の世界で自由を謳歌せよ』ですから、クランとしてメンバーを縛り付ける事は無いんですよ」

「……まあ、傍目から見れば胡散臭さ全開の宗教クランだけど、運営自体は割とまともにやってるから」

「へー。……やっぱり今の所クランはいいかな。フレンド登録とかはオッケーだけど」

「まずはお友達から始めましょうなのです」

 

 ……そんなノリで私達は月夜さん達とフレンド登録を交換したりしつつ、短い王都までの馬車の旅を楽しんだのだった。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:現在旅行準備中
・旅行するにしても戦闘能力が必要になるデンドロ世界なので念入りに。

《ウィールド・メイス》《ブラスト・スウィング》:戦棍士系統のスキル
・《ウィールド・メイス》はメイスを広範囲に振り回して範囲攻撃を行うスキルで、僅かながら衝撃波を発生させてリーチを上げる効果も。
・《ブラスト・スウィング》はメイスを振って衝撃波を発生させて攻撃するスキルで、衝撃波の威力は振った時の攻撃力になる。

《◯◯・フィスト》:【魔拳士】のスキル
・自身の腕に特定の属性を纏わせて腕部での格闘攻撃時にその属性の追加ダメージを与えるスキルで、一定時間持続して使えば使うほどに効果時間は減る。
・種類は火・風・雷・水・氷・土などから適正のあるものを取得でき、上級職になると光や闇など取得出来る種類が増える。
・スキルレベルが低い状態で過剰にMPを籠めると自傷ダメージが発生するデメリットがある。

《魔力放出》:【魔拳士】のスキル
・【魔拳士】以外にもMPを使う前衛系ジョブで取得出来るスキルで、肉体を加速させるだけなので応用は効くが扱い慣れないとコケたりする事も。

《ハンマーナックル》:【格闘家】のスキル
・両手を合わせて握ってそのまま振り下ろす格闘スキルで、威力は高いのだが動作が大振りで攻撃範囲も狭くて当てにくい。

<月世の会>組:勧誘(布教)に熱心
・基本的にクランとしてメンバーを縛り付ける事は無いが、月夜は何だかんだで慕われているので彼女のお願いは無茶じゃなければ大体聞いてくれる。
・ちなみに月夜が葵をあだ名で呼んでいないのは本人が嫌がっているからだったり。

【回生杖 アスクレピオス】
<マスター>:小鳥遊雲雀
TYPE:アームズ
到達形態:Ⅲ
能力特性:蘇生
固有スキル:《パーフェクト・リザレクション》
・モチーフはギリシャ神話に登場する名医であり医神“アスクレピオス”で、ステ補正はMPに特化した杖型アームズ。
・スキル《パーフェクト・リザレクション》はMPを消費して蘇生可能時間内の死者を蘇生させるという【司教】などが覚える蘇生魔法と同種のもの。
・だが、<エンブリオ>のリソースをほぼその一点に集中しているが故に効果は強力で、第三形態現在でもHP完全回復・【炭化】や軽度の部位欠損すら治せる状態異常回復・発動までほぼノータイム・消費MP低・短いクールタイム・複数人同時使用可能な超高性能蘇生スキルになっている。
・当然だが蘇生スキルなので生者には使用不可能。
・尚、“終末期医療担当の看護師が持つ蘇生能力特化の<エンブリオ>”という由来となったパーソナルに関しては突っ込んじゃいけないモノだったりする。


読了ありがとうございました。
感想・評価・お気に入りに登録・誤字報告はいつでも歓迎。次の話は同じ時期の兄視点の話になると思います。


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兄のレベリング風景

前回のあらすじ:妹「馬車がピンチだね。なろう系小説でよくありそうな感じで」末妹「まあ助けましたが、特にお約束の展開とかは無かったです」


 □<墓標迷宮> 【騎士(ナイト)】レント・ウィステリア

 

「レイスは邪魔! 《ピュリファイ・アンデッド》! ……残りはさっさと経験値になれや! 《アンデッド切り》!」

『『『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!?』』』

 

 さて、俺は今<墓標迷宮>の地下四階でアンデッド相手のレベリングに励んでいた……とりあえずMP吸収と【恐怖】状態異常を操る面倒な【テラー・レイス】はアンデッドに対するデバフ、及び低位アンデッドへの即死効果がある【司祭(プリースト)】《ピュリファイ・アンデッド》で殲滅。

 そしてデバフが掛かった武器を持つ骸骨【ソルジャー・スケルトン】と、こっちに食おうとして来るゾンビ【ハングリー・グール】を【騎士】のアンデッド特効斬撃で斬り伏せていく。

 ……ちなみに【司祭】の次に【騎士】のジョブを取ったのはソロ行動だと近接戦への備えも必要だと思ったからだが、一対多数の乱戦だと魔法を使う余裕が無い時だと近接用種族特効スキルが大活躍。お陰で大分狩りも楽になった正解だった。

 

「アイテムは落とさなくて良いから経験値をハリー! ハリー! ハリー! 《魔法多重発動》《ホワイトランス》!」

『『『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!?』』』

 

 そうしてある程度近くにいたアンデッド供を切り捨てた後、《詠唱》による上乗せ込みで散髪の聖なる光の槍の魔法《ホワイトランス》を離れた場所に居るアンデッドへと放って消滅させた……【司祭】で覚える数少ない聖属性攻撃魔法だがアンデッドには覿面に効くな。

 ……しかし、妹達が見ていない事とレベリングの為の狩りのし過ぎでちょっと口調が変になって来てるな。誰かに見られたらアレだし気を付けよう。

 

「ふぅ、とりあえずここら辺のアンデッドは片付けたか。……おっと【騎士】がやっとカンストしたな」

 

 ステータス欄を見るとメインジョブにしていた【騎士】のレベルが50になっていた……やっぱり下級職のレベルを上げるだけなら地下三階から四階辺りでアンデッドを乱獲するのが今の所一番効率的か。

 地下六階で植物狩りでも良いんだが罠や不意打ちがあるから今の俺のソロでは事故の可能性があるし、地上に戻るのも【エレベータージェム】を使う必要があるからな。

 ……まだ余裕はあるし引き続き狩りを続行しても大丈夫そうだし、()()を使ってメインジョブを変えようか。

 

「……テレレレッテレー! 《ジョブチェンジロッド》〜!」

 

 この一見ただの杖に見える《ジョブチェンジロッド》には、装備スキルとして自身が就いているメインジョブを変更出来る《ジョブチェンジ》が備わっているのだ〜……うん、この某有名青狸の真似はアイテムボックス(四次元)から物を取り出す時に一度やってみたかったんだだけです……。

 ちなみに、これは以前【司祭】のジョブレベルを上げきった時にジョブ入れ替えの為に<墓標迷宮>から出ざるを得なかったので、レベリング中でもメインジョブを変更出来るように<マリィの雑貨屋>で100万リル程で買ったやつ。お陰で手持ちが結構減ったよ。

 ……まあ、使い捨ての【ジョブクリスタル】でも10万はするし、この杖も本来なら300万近い値段がするんだけど『そもそもフィールドでジョブを変更する必要なんて滅多にないから使い捨てで十分じゃね?』と言う理由で売れ残っていたから安くしてくれたし。

 

「それじゃあさっさとメインジョブを変えますか。《ジョブチェンジ》──【祓魔師(エクソシスト)】」

 

 とりあえずアンデッド狩りの効率を更に上げる為に聖属性攻撃魔法と悪魔・アンデッドへの聖属性ダメージ及びスキル効果上昇特効パッシブスキル《エクソシズム》を覚える【祓魔師】へとメインジョブを変更した……今後の育成方針としてはドンドン下級職をカンストさせていくつもりだからな。

 ……本来なら上級職の方がステータスの伸びは良いんだが俺の場合は必殺スキルの所為でステータスが半減しているし、装備している【才集刃飾 ヴァルシオン】の《強装才刃》によって合計レベル分ステータスが上がるからな。同じレベル50上げるのでも下級職なら上級職の半分くらいの経験値で済むし、こっちの方が手早く強くなれると考えての事だったりする。

 

『『『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️』』』

「……おっと追加が来たか。じゃあレベリングの続きを始めますか」

 

 一通りの作業を終えた辺りで追加のアンデッドモンスター達が生者の気配を探り出したのかこっちに近づいて来たので、引き続き俺は両手に剣と杖を持って引き続きレベリングの為の狩りを行っていったのだった。

 

 

 ◇

 

 

 あれから<墓標迷宮>でレベリングを行なっていた俺はキリの良い所で雑魚狩りを辞めてから、地下五階のボスを倒して地上に戻って来ていた……ちなみに倒した方法はデバフを掛けてから自作の火属性魔法入り【ジェム】を叩き付け続けるという力技である。

 それから【司祭】で覚えた浄化魔法でアンデッド臭くなっていた自分の肉体や装備を清めてから、ちょっと近くの喫茶店で一服している所だ……ゾンビ臭いままだと文句を言われるからな、前までは一旦ログアウトする必要があったぐらいだし。

 

「……よしよし、漸く合計レベルが300を超えてそろそろ400に届きそうだな。これでステータスも少しは……うん、つまりステ補正の無いティアン150レベル分だからなぁ。全ステータス+300ぐらい上昇するのをを込みでもどうにかレベル100ぐらいの<マスター>レベルかな。……<エンブリオ>の固有スキルとか抜きで」

 

 そんな感じでステータス欄を呼び出した俺はその内容を見て溜息を吐いてしまった……やっぱり全ステータス半減が思った以上に足を引っ張っているな。特に数値の桁の関係で【ヴァルシオン】による補助が少なくなってしまうHP・MP・SPが。

 それに俺の【ルー】は戦闘に使えるスキルが、レベルをコストにするからどうしても使う場面が限定されてしまう《仮想秘奥・神技昇華(イミテーション・ブリューナク)》しか無いのもキツイ……特に戦闘に使える固有スキルを持つ妹達と比べると。

 

「……ふむ、やはり今後は強力なスキルを覚える上級職も取っていった方がいいかな? ……ただ転職条件を満たすのが面倒だからな。モンスター討伐条件なら亜竜級ぐらいならどうにかソロで倒せる俺なら何とかなるんだが、ジョブクエストが条件になると時間が掛かるからな……」

 

 一応、レベリングの合間にジョブクエストを受けたりもしているんだが、ジョブによっては面倒な転職条件があったりするからな……例えばこのアルター王国の目玉ジョブとも言える【聖騎士(パラディン)】には“騎士団関係者からの推薦”が条件になってるから、その手のコネが無い<マスター>が転職するには時間を掛けてティアンの騎士から信頼を勝ち取る必要があるしな。

 ……俺が早期に【紅蓮術師(パイロマンサー)】に転職出来たのも色々と運が良かったからだしな。まあジョブクエストは達成すれば経験値を貰えるから、今後はもう少し頻度を増やした方がいいか。

 

「特にこの王国の主要ジョブである騎士系統や司祭系統の上級職には、それぞれ騎士団や教会関係者の推薦が条件になってる事が多いからな。……じゃあ【司祭】のジョブクエストはこの前受けたし、今日は【騎士】のジョブクエストでも受けに行きますか」

 

 ……そうして俺は勘定を済ませてからジョブクエストを受けに騎士団の詰所まで行く事にしたのだった。

 

 

 ◇

 

 

「さてと、どんなクエストがあるかね……」

 

 そういう訳で特に何事も無く騎士団の詰所にやって来た俺は、そこに備え付けられた騎士系統ジョブクエストが乗ったカタログを眺めていた……このカタログは冒険者ギルドで使われている物と同じで現在受けられるクエストが分かるマジックアイテムで、他にも各専門ギルドなどジョブクエストが受けられる場所にそれぞれ専用のヤツが置かれているのだ。

 

「騎士系統のクエストだと一番ポピュラーなのは騎士団の手伝いとしてのモンスター討伐とかか。後は街中の見回りの手伝いや合同訓練などか……どうも騎士団員と合同でやるのが多いみたいだな」

 

 まあ、ジョブクエストは冒険者ギルドで受けるクエストと違ってそのジョブ系統でなければ出来ない専門的なヤツばかりだからな……モンスターや犯罪者を相手に戦って国や人を守る公務員──と言うのがこの国の騎士の仕事内容である以上はジョブクエストもそういう内容になるんだろう。

 ……魔石職人系統なら【ジェム】作り、司祭系統なら治療とか悪霊払いといった具合にジョブクエストは専門的なだけあって時間が掛かるものが多いからな。やはり割とお手軽に受けられる冒険者ギルドのクエストと比べると敷居が高い。

 

「特にログイン時間が限られてる<マスター>だと長期的なタイプのクエストは受けられんしな。……まあ、今日はまだ時間があるから大丈夫だが「おや、レントさん」……ん? 貴女はリリィさん、お久しぶりです」

 

 そんな風にカタログを捲っていた俺に突然声を掛けてきた人がいたので顔を上げると、そこには以前クエストで行動を共にしたアルター王国近衛騎士団の一人リリィ・ローランさんが立っていた。

 

「はい、久しぶりですねレントさん。……そのカタログを見ていると言う事は、貴方も騎士系統のジョブに就いたのですか?」

「ええ先日【騎士】のジョブに就きましたので、折角だからジョブクエストも受けてみようかと。……それで? リリィさんは何か私に御用でも?」

「む、用が無ければ声を掛けてはいけないので?」

「いえ、そんな事は無いですが。何か用がありそうな雰囲気だったのと……()()()()()()の後の騎士団の方達は色々と忙しそうだったので、そんな中わざわざ俺に声を掛けたのは何か用があったからじゃないかと思ったんですよ。気に障ったならすみません」

 

 尚、誘拐事件というのは先日この国の第三王女がとある犯罪者<マスター>に誘拐された事件の事である……幸いその王女は騎士団に助けられたらしいのだが、守るべき王女を一度誘拐されたとあって騎士団は王都・王城の警備の強化を急いで行っていたらしいからな。

 ちなみにこの話は先日司祭系統ジョブクエストを受けた時に一緒になったティアンの【司教】さんに聞いた話で、掲示板とかでも犯行声明が出たとかで<マスター>間でも結構話題になってた。

 ……しかし、そんな馬鹿をやる<マスター>がいずれ出るとは予想していたが、まさかいきなり王女誘拐をやらかすとは。その指名手配された“ゼクス・ヴュルフェル”とかいう<マスター>は余程アレなヤツなんだろうな。

 

「……やっぱり誘拐事件の話は広がっているんですね」

「あ、すみません。不謹慎でしたね」

「いえ、あの事件は王城に居る王族は安全だと慢心していた私達近衛騎士団が愚かだったのが原因の一つですから、それについての批判は甘んじて受けましょう。……それに貴方に頼み事があるのは本当ですし」

 

 いかんいかん、王女の誘拐事件なんてどう考えてもこの騎士団詰所で出す話題じゃ無いだろ俺! ……ぬぬぬ、やっぱり無理なレベリングのし過ぎでちょっと疲れているのか? ジョブクエストまでやるのは辞めとくかなぁ

 ……とにかく、リリィさんが何か用があるのは事実みたいだし、とりあえずそれを聞いてから今後の予定を考えようか。

 

「……それで、俺に頼み事と言うのは?」

「はい、確か以前のクエストでレントさんの<エンブリオ>に“倒したモンスターのドロップアイテムを経験値に変換する”スキルがあると言っていましたね。……そして、そのスキルはパーティーを組んでいる者にも有効であると。妹さん二人のレベルも<マスター>としては非常に高いですし」

「ああはい、そうですが」

 

 そのスキルとは最近のレベリングで経験値増幅の《光神の恩寵(エクスペリエンス・ブースター)》と並んで非常にお世話になっている《長き腕にて掴むモノ(エクスペリエンス・トランスレイション)》の事だな……これがオンオフかで獲得経験値量が大分違うからな。布切れか骨片しか落とさないアンデッドであっても。

 どうもデンドロのモンスターが倒された時にはアイテムの方に内包するリソース的なサムシングが多く割り振られる仕様だからな。それも高位のモンスターだと【宝櫃】という形でより多く。

 ……ふむ、何となく彼女が何を頼みたいのかは予測出来るな。

 

「もう気付いているかもしれませんが、レントさんに頼みたいのは騎士団のメンバーのレベリングの手伝いです。……先日の誘拐事件もあって騎士団全体の地力の強化も必要だという話が出たのですが、警備体制の強化などで時間や人員の余裕が少なくなって中々ジョブレベル上げが出来ない状況だったのです。……経験値増大のアイテムもありますが高い上にそこまで劇的な効果はありませんし」

「それで俺の<エンブリオ>で短時間の内にレベルを上げたいと」

 

 あの手のアイテムって使い捨てで高価な割には効果が微妙だからな。俺もレベリングの足しになればと覗いてみたが《ジョブチェンジロッド》買ったばかりで懐に余裕が無かったし辞めたが。

 

「そういう事です。……クエスト内容としてはこちらで選んだ騎士団の人間とパーティーを組んでのモンスター討伐になりますが、出来れば何度かに分けて行う形にしたいですね。時間に関しては出来るだけそちらに合わせますが、メンバーを招集する必要があるので早くとも明日からになるでしょう。報酬に関しては現金を予定していますが、何か他に欲しい物があれば言ってください」

「……それじゃあ【聖騎士】に転職する為の推薦状とかは?」

 

 リリィさんに何か欲しい物はと聞かれたので転職用の推薦状を要求してみた……【聖騎士】にはちょっと興味があったし、俺としては現金よりも上級職の転職条件を満たせる方がいいしな。

 

「現金の代わりの報酬としてなら構いませんよ。私が一筆書くだけですし、前回のクエストの事もありますから()()()ならいいでしょう」

「……分かりました、そのクエストをお受けします。報酬は推薦状で」

 

【クエスト【騎士団員のレベル上げの手伝い 難易度:三】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

「ありがとうございます。……それでは明日のこの時間からで大丈夫でしょうか?」

「……ふむ、この時間なら空いているので大丈夫です」

「では、明日のこの時間までに再びこの詰所に来て下さい。そこで狩り場などは詳しく説明します」

 

 そんな感じで俺はリリィさんからのクエストを受ける事になった訳だ……とりあえず今日はもうログアウトして寝るか。今休んでおけば三倍時間込みで丁度いい具合にログイン出来るだろう。

 ……まあ、その前に妹達に事情を説明しておく必要があるだろうがな。




あとがき・各種設定解説

兄:最近ではアンデッドのグロも気にならなくなっている

《ピュリファイ・アンデッド》:【司祭】のスキル
・周囲のアンデッドに対してステータスデバフを掛けて、更に自身のレベルとスキルレベルを基準にして低位のアンデッドを一定確率で成仏させる聖属性魔法。

【ジョブチェンジロッド】:兄のお高い買い物
・装備補正などは皆無だがMPを消費して装備者のメインジョブとサブジョブを変更出来る《ジョブチェンジ》の装備スキルを持ちクールタイムは一時間程。
・昔に【ジョブクリスタル】の研究の一環で作られて少数量産されたが『そもそも屋外でのジョブ変更なんてサブジョブのレベルを上げている時に何かメインジョブのスキルが必要になった時ぐらいだし、それなら使い捨てでも十分では?』という意見が出て、コストも馬鹿にならないのでそのまま生産中止になった代物。
・尚、<マリィの雑貨屋>に置いてあったのはマリィも【ジョブチェンジロッド】の制作に関わっていたからで、余った在庫を引き取ったのだが売れずに困っていたらしい。

リリィ・ローラン:誘拐事件のせいで仕事量が増えた
・そんな中で騎士団員の地力を上げる為の案の一つとして兄の<エンブリオ>に目を付けていて、休憩を取っていた時に偶々見つけて声をかけた形。
・また、信用出来る<マスター>との繋がりを深める目的もあり、特に誘拐事件の所為で<マスター>へ不信を抱く一部の騎士団員への対応策の一つでもある。

第三王女誘拐事件:デンドロ内外で結構噂が広がっている
・尚、本当に第三王女を取り戻したのはとある<マスター>なのだが、その彼が『あんまり目立ちたく無いんで、俺がこの件に関わった事は秘密にして欲しいク……ワン』と言ったので広まっていない。
・これは第三王女誘拐という大事件が大っぴらになった時の悪影響や、情報を知った一部の<マスター>が軽率な行動に出かねないという理由で、暫くの間は指名手配はしつつも出来る限り騎士団内で解決するために一般には噂を広がり難くする思惑もあった。
・……のだが、この事件の犯人が『あ、誘拐事件の情報があまり広まっていませんね。これではこの私の悪名が世界に広がりません』とか言ってデンドロ内外で事件の事をさっさと公開した為、やむ終えず騎士団はとある着ぐるみの人以外の情報を積極的に公開する方針に切り替えた。


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クエスト・騎士団のレベル上げ

前回のあらすじ:兄「リリィさんから騎士団のレベリングを頼まれたので、報酬の【聖騎士】推薦が欲しかったし受ける事にした」妹達「「オッケー」」


 □<墓標迷宮> 【祓魔師(エクソシスト)】レント・ウィステリア

 

 そういう訳で翌日、俺はちゃんとぐっすり休んでからデンドロにログインしてリリィさんから依頼されたクエストを受ける為に騎士団の詰所まで行き、そこでリリィさん彼女が連れてきた近衛騎士団の希望者である数人の騎士達(中には以前会ったリリアーナさんも居た)と共に<墓標迷宮>にレベリングへ行ったのだった。

 ……まあ、流石は聖属性剣技を得意とする【聖騎士(パラディン)】達で構成された近衛騎士団員だけあってアンデッドが出現する階層では文字通りの外周一色で、地下5階のボスモンスターも容易く撃破してしまっていた。

 そんで今はレベル上げの為に【魔獣師(ビーストテイマー)】をメインジョブにしたリリィさんと一緒に、後方から他の騎士達を援護しながら地下7階を探索している。

 

「しかし、皆さん<墓標迷宮>の探索は手慣れているみたいですね」

「ああ、近衛騎士団の業務には<墓標迷宮>の探索とそこで手に入る希少なアイテムの回収も含まれていますからね。……だからこそ【聖騎士】に就いていれば<墓標迷宮>に入る事が出来る様になっていますから」

 

 リリィさん曰く、この<墓標迷宮>では様々なレアアイテムが発見・発掘されるので、それらの入手も王国の重要な()()の一つとなっているだとか……それらのアイテムは基本的に王国の市場に流されて産業が活性化される感じみたいだな。

 また<墓標迷宮>では希少なレアアイテムや先々期文明の遺物が発掘される事もあり、個人の実力が国の戦力の多くを占めるこの世界ではそれらを強化できるレアアイテムの収集は国家事業として扱われている様だ。

 

「有用なレアアイテムやダンジョンでの経験は団員達の実力の向上にも繋がりますから<墓標迷宮>へのアタック定期的に行われていますよ。私も地下20階までは潜った事がありますし……まあ、今回は地下10階ぐらいまででレベル上げを優先する予定ですが」

「ふむふむ、成る程。……あ、壁に擬態したヤツがいます! 《フレイムアロー》!」

『KYAAAA!!!』

 

 リリィさんの話を聞きながらも周囲を警戒していた俺は前方で戦っている騎士達の近くの壁に違和感を感じたので、警告を発しつつそこに炎の矢を撃ち込んだ……すると擬態していた【ミミクリー・ポイズントレント】が炎に巻かれた所為で擬態が解かれて姿を現したので、それを見かけた近くの騎士が剣でトドメを刺した。

 ……今回はまだレベルの低い騎士達のレベリングがクエストの主目的だとリリィさんが言っていたので、こんな風に俺と彼女はチマチマ援護するだけである。まあ今ぐらいの援護でも少しぐらいこっちに経験値は入るし、彼女はテイムモンスターであるティルルをメイド服を着た人化状態で出して戦わせる事でレベリングをしている。

 

「ありがとうございます! レントさん!」

「…………」

 

 ……ただ、俺のこの援軍に対してリリアーナさんは御礼を返してくれたのだが、直接助けた騎士がムスッとした顔で黙礼しただけなのが少し気になるが……それを見たリリィさんも軽く溜息を吐いていたし、ちょっとこっそり聞いてみるか。

 

「……やっぱり、この前の誘拐事件の所為で<マスター>への評判は悪くなって居るんですか?」

「まあ、騎士団員の一部で<マスター>に対する悪印象を抱く者がいますが……今の所は一部犯罪者<マスター>への警戒や対抗心で済んでいます。大部分の騎士はそう言うのは一部だけで、ちゃんと良い<マスター>も居るとわかっていますし。……ただ、やはり個人的に<マスター>に対して隔意を持つ人間は出てしまっていますね」

 

 まあ、対抗心とかは彼等の立場的にはむしろ当然だろうし、第三王女を誘拐なんてされたのにその程度で済んでいるのは彼等が高い良心と判断力を持っている証拠だろう。

 

「……とは言え、今後増えるであろう力ある<マスター>の犯罪を止めるには同じ<マスター>の力は必要になるでしょうし、最低限割り切れる様になって貰わないと困りますが。……実はあの誘拐事件で王女を連れ戻してくれたのは()()()()()()()()()()<マスター>でしたしね」

「……ナルホドネー」

 

 ……うん、着ぐるみ着た<マスター>とか絶対あの人(シュウさん)の事だよな。第三王女救出とかなんか凄い事やってるね。

 

「……じゃあ、今回のクエストは<マスター>と騎士達の仲をよくする事も目的に含まれていると?」

「そうですね、それが出来れば良いですがね。……ああ、レントさんは特に何かしなくても結構ですよ。“騎士団が依頼したクエストをキチンと熟す<マスター>がいる”と騎士団員が理解していけば、最低限割り切れる様にはなるでしょうし。……それすら出来なければ処置無しですが」

 

 ……ふむ、リリィさん的には内心はどうあれ騎士団員として<マスター>相手でも任務の為なら割り切って協力、或いは利用出来れば最低限良しって感じかな……まあ、これは俺が考えてもしょうがない事だし、今はちゃんとクエストを達成する事に集中しようか。

 

 

 ◇

 

 

 そんな訳で俺達は順調にレベルを上げつつ地下9階まで足を踏み入れていた……ここまでのレベルの上がり具合から俺の《長き腕》がちゃんと獲得経験値増加の効果があると騎士団員達も理解してくれた様で、リリィさんやリリアーナさん以外の騎士団員も俺に礼を言ってくれたり話しかけて来たりしてくれる様になった。

 ……ただ、さっき助けた時にムスッとしてた騎士──リンドス卿と言うらしい人は俺に話しかけては来ないのが少し気になったが、戦闘中は普通に声掛けなどはしているので問題は無いだろう。後は個人の好みの問題だろうし。

 

「それで、今日は最終的にどこまで潜るんですか?」

「そうですね、しばらくの間はこの階層でレベルを上げてから《エレベータージェム》で地上に戻る事にします。……今の戦力だと地下10階のボスモンスターとの戦いは出て来る相手次第ですが厳しくなるでしょうし。それで良いですね?」

「「「はいっ!」」」

 

 そんな感じで俺達は地下9階を探索しながら出て来たモンスターを片っ端から狩っていった……この階層ぐらいになればドロップするアイテムの質もそれなりの物になるので《長き腕》の効果で増幅される経験値の量も結構なものになる為、レベル上げもスムーズに進んでいた。

 ……そして今は広めの通路で複数の硬い木で出来た身体を持ち高い再生能力を持つ【ウッドゴーレム】と、いくつかの魔法を使うトレントである【マジック・トレント】で構成された群れと交戦していた。

 

『『『GAAAAAAAAA!!!』』』

「くっ! ゴーレムが邪魔で……!」

『《Waterball》!』

「チッ! 後方から魔法攻撃が! 《マジックシールド》!」

 

 連中は前衛の【ウッドゴーレム】が騎士達の攻撃を受け止めている間に、後衛の【マジック・トレント】が魔法で攻撃すると言うテンプレな連携を取っているだけだがそれ故に崩し難い……今も放たれた魔法を盾持ちの騎士が辛うじて受け止めたが中々ゴーレムを突破出来ない様だ。通路が広めとは言えゴーレムが複数横並びになると流石に擦り抜けるのは難しいしな

 しかし、基本的に迷宮に侵入した者を襲うだけの植物系モンスター達がここまで見事な連携を取って来るとは……ん? よく見たらトレント達の更に奥に何か小さい人魂みたいなのが居るな。

 

「アレは……【コマンダー・ドライアド】? ……まさかアイツが指揮を執っているのか?」

「その様ですね。ドライアド系のモンスターは植物に対して回復やバフを与える事に特化したモンスターですが、“コマンダー(司令官)”と付いている以上あの個体には配下を指揮する能力もあるのでしょう。……しかし、<墓標迷宮>の植物エリアにあんなモンスターがいるとは初めて聞きましたね。新種でしょうか?」

 

 ふむ、確かに《看破》で見たらゴーレムやトレント達にはバフが掛かっている上に騎士達が減らしたHPが回復している、これは近衛騎士団達でも苦戦する訳だな。

 

「……ふむ、あのコマンダーは亜竜級上位か純竜級下位ぐらいですね。……流石に彼等だけでは苦戦するので私も前に出ます。メインジョブの所為でジョブスキルはまともに使えませんが、このぐらいで丁度でしょう。レントさんは援護をお願いします」

「分かりました。大威力の魔法を撃つので気を付けて下さーい! ……《詠唱》終了《ヒート・ブラスター》!」

 

 そう言ったリリィさんは両手に迷宮用なのか程々の長さの槍を持って前衛に移り、俺は騎士達に合図を送ってから準備し終わった大威力の熱線を体勢を崩した例のリンドス卿を狙っていた【ウッドゴーレム】に撃ち放ってその上半身を吹き飛ばした。

 うむ、流石に上半身の大半を吹き飛ばせば再生は出来ないみたいだな。或いはコアでも潰したか……しかし、妹達なら合図無しで魔法を撃っても合わせられるか最悪回避してくれるから連携が楽なんだが、普通のパーティーだとこういう狭い場所では誤射に気を付けないといけないから結構面倒だな。別に出来なくはないけど。

 

「さあ、一体減りましたしここから押し返しますよ。……どうやら向こうのコマンダーは蘇生までは出来ない様ですから、ゴーレムは一体づつ集中攻撃で潰していきます。盾持ちと遠距離持ちは後衛のトレントにも注意しなさい! …ティルルは一体足止めを」

『御意』

「は、はいっ! 《セイクリッド・スラッシュ》!」

「了解! 手足を狙うぞ! 《植物切り》!」

『GAAAAAA!?』

 

 ゴーレムが一体減った事で体勢を立て直した騎士達は、前衛に出て来たリリィさんの指示通りに一体のゴーレムに集中攻撃を行って手足を斬り落とすなどの大ダメージを与えていく……流石に部位欠損までになると簡単には再生出来ない様で、手足が無くなって動きが鈍った所を俺が《ブレイズ・バースト》を放って焼き払った。

 ちなみにこれが上手くいったのはリリィさんが人化状態にティルルに指示を出してゴーレムの一体に張り付稼ぎ足止めしてくれていたからでもあったりする。

 

『《Wood Spear》!』

「牽制する! 《ホワイト・ランス》!」

「防御は俺が! 《ワイド・ガード》!」

 

 そして後方のトレントがうって来た木の槍は盾持ちの騎士が味方を庇って受けて、更に反撃として魔法攻撃が可能な騎士が聖なる光の槍を放って倒せないまでも向こうの魔法発動を妨害していく。

 ……ふむ、ゴーレム達はリリィさんを初めとする騎士達が抑えているし俺は【コマンダー・ドライアド】を牽制するかな。

 

「俺がドライアドを攻撃します! 《魔法多重発動》《ホーミング・ブレイズ》!」

『KYUIII……《Heat Regist Wall》!』

 

 とりあえず前衛の騎士達に声を掛けてつつ複数展開した《ホーミング・ブレイズ》──目視した対象一体を追尾する炎弾を発射する魔法──を前衛の頭上へ弧を描く様に撃ち放ってみたが、向こうも即座に対応して火属性攻撃を無効化する障壁を展開して全てに炎弾を防いでしまった。

 ……まあ、アイツが防御に集中していれば回復や支援は行えないだろうしこのまま攻撃を続行して釘付けにしよう。そうすれば騎士達にも余裕が出来るだろうし。

 

「……よし、支援が止まってゴーレムの数が減りましたね。手の空いた者は後衛を攻撃! これ以上援護をさせない様に!」

「はいっ! 《グランドクロス》!」

『KYAAAAA!?』

 

 そして俺の予想通りドライアドの回復と支援が止まった所為でゴーレムの内一体が崩れ落ちる……それによって余裕が出来たリリアーナさんが確か【聖騎士】の奥義だと言う聖なる光の十字をトレント達が居る場所で発生させた。

 流石に耐久力がそこまで高くない【マジック・トレント】では上級職の奥義に耐えられなかった様で、その半数近くが倒されるか戦闘不能になった様だな。

 

『KYUIIIIII!!!』

「悪いが、これ以上何かをさせる気は無いぞ。《エアスピアー》!」

 

 そうした形勢の不利を察してか慌てて逃げようとする【コマンダー・ドライアド】に対して、俺はその周辺に向けて風の槍を数発撃ち込んで逃げ道を塞ぎながら行動を妨害していく。

 ……そうこうしている内に前衛のゴーレムの数が残り一体に減ったので、それに足止めされていた騎士達がフリーになると状況は一変した。

 

「残りのゴーレムは私とレントさんが足止めします! リリアーナは騎士達を率いてコマンダーを討ちなさい!」

「分かりました! 皆さん行きますよ、まだトレントは残っているので魔法には注意! 《クレセント・エッジ》!」

「「「了解!」」」

 

 そんなリリィさんの指示の元にリリアーナさんが三日月型をした聖属性の斬撃波をコマンダーに放って牽制しつつ、フリーになった騎士達を率いてトレント達に突っ込んで行った。

 ……しかし、流石はちゃんと訓練を受けた騎士団だけあって連携がしっかりとしてるな。こんな通路の中でも一糸乱れぬ動きで突き進んでいるし。

 

『疾ッ! ……レント氏、足は潰したのでトドメをお願いします』

「了解。……《ブレイズ・バースト》!」

『GAAAAAA!?』

 

 そんな事を頭の片隅で考えている間にもティルルは風を纏わせた手刀で鮮やかにゴーレムの脚部を斬り裂いて歩行不能にしてしまっていたので、彼女に指示通りその蹲ったゴーレムに俺は《ブレイズ・バースト》による炎の奔流を叩き込んで焼き尽くした。

 

「これで終わりです。《セイクリッド・スラッシュ》!」

『KYUIIIIIIIIIIII──ッ!?』

 

 そして突撃していった騎士達も問題なくトレント達を殲滅し終わっており、丁度今リリアーナさんが【聖騎士】得意の聖属性剣技で【コマンダー・ドライアド】を斬り捨てた所だった。

 ……さて、目の前の敵を倒し終わったし一応周辺の索敵をしておきますか。フィールドやダンジョンでは戦い終わった後に奇襲を受ける事がそれなりにあるからな。

 

「……俺の索敵スキル範囲内には敵はいませんね」

「こちらも同じですね。とりあえずこれで戦闘終了と言っていいでしょう。……しかし、今の【コマンダー・ドライアド】は今まで<墓標迷宮>で目撃情報が無かった新種のモンスターでしたね。一応これまでも新種のモンスターが追加される例はありましたが、後で報告を上げないと……」

 

 そういう訳で戦闘を終えた俺達は周辺を警戒しつつも回復魔法や各種ポーションでHP・MPを回復していく……と、そうやって俺が【MP回復ポーション】を飲んでいる所に例のリンドス卿が近づいてきた。一体何だろうか? 

 

「何か用ですか?」

「いや……先程は助かった。礼を言う」

 

 彼は少しムスッとした表情のまま軽く頭を下げてそれだけ礼を言うと、そのまま踵を返して立ち去って行ってしまった……まだ思う所はあるけどちょっとは気を許した感じかな。

 まあ、内心がどうあれ表向きはちゃんとしてれば社会人として問題は無いだろうし、リリィさんの狙いは上手くいっているみたいかな。

 

「さて、それでは探索を続行しましょうか。……先程の様にこの階層にも強力なモンスターが現れる事もあるので、各々十分に注意する様に」

「「「了解!」」」

 

 まあ、そんな感じで以降も俺達は<墓標迷宮>に住まうモンスターを倒しまくってレベルを結構あげる事が出来たので、キリのいい所で地上に帰還してクエスト完了と相成ったのだった……その後にリリィさんが今回の報酬である【聖騎士】の推薦状を一筆書いてくれたので漸く【聖騎士】への転職の目処が立ったのは良かったな。

 ……まあ、その時に彼女からは『今後も機会があれば【聖騎士】のクエストとして発注するからよろしく』とも言われたが、今回のクエストはそれなりに楽しめたし暇があれば受けてもいいかな。




あとがき・各種設定解説

兄:この後【聖騎士】に転職した
・最後の条件である二十万リルがちょっと痛かったが、有り金で足りる範囲だったので支払った。
・……が、この前の【ジョブチェンジロッド】や減ったMPを補う為に買った装備の所為で資金がカツカツなので、今は【ジェム】系のクエストで金を稼げないか挑戦中。

《ホーミング・ブレイズ》:【紅蓮術師】の魔法
・目視範囲内の対象を追尾する炎弾を発射する魔法で、追尾機能にリソースを割り振っているので威力・速度・射程は低め。
・誘導性能は高いが魔法の軌道が変化するので誤射しやすく、狭い場所では作中の兄の様に一旦上に撃って前の味方に当たらなくする工夫も必要。

ティルル:メイド服は趣味
・人化状態だと亜竜級レベルの戦闘能力だが、この状態でも問題無く戦える様に父親から訓練させられている。

リリィさん&近衛騎士達:色々と戦力強化方法を模索中
・今回はリリィ以外は見込みのありそうな新人を連れてきて、レベル上げと有望な<マスター>へのコネ作りによる戦力強化が目的。
・ただ、どこかの悪いスライムとかを始めとする犯罪者<マスター>の所為で、<マスター>に対する心象が悪くなっている騎士も結構いる。
・リリィさんやリヒトさん的には国を挙げて<マスター>との協調姿勢を取った方が良いと考えているのだが、王様や【大賢者】【天騎士】が難色を示しているので出来る範囲で独自行動をしている感じ。

《セイクリッド・スラッシュ》《クレセント・エッジ》:【聖騎士】のスキル
・それぞれ悪魔・アンデッド特効の聖属性オーラを纏った斬撃、剣を振って聖属性の斬撃オーラを飛ばす遠距離攻撃という聖属性剣技。
・習得するにはそれぞれ《アンデッド斬り》《鳥獣斬り》で対応した種族のモンスターを一定数撃破という条件になっている。
・原作で全然【聖騎士】の聖属性剣技スキルが出ないから作ったオリスキル。主人公のメインジョブの筈なのに……。

【コマンダー・ドライアド】:植物エリアの徘徊型亜竜級モンスター
・地下6階から9階をランダム徘徊して戦闘を行なっている植物モンスターを回復とバフで援護する小ボスみたいなモンスター。
・バフと回復に特化しているので直接戦闘能力は皆無だが、植物モンスターに熱耐性を持たせたり回復させたりするので結構厄介。
・実はジャバウォックが『<マスター>も【許可証】を手に入れ始めた頃だし、折角だからランダム徘徊型のボスモンスターを増やしてみてもいいか。……今後、迷宮に配置する<UBM>の試験も兼ねて』という感じで追加したモンスターの一体。


読了ありがとうございました。
【聖騎士】のジョブスキルについては今後原作でもし出て来れば変える予定……ただ、まともな聖属性剣技が通用する相手が出て来るとは思えないから、リリアーナさんの【天騎士】転職イベに期待。


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昔話と準備と

前回のあらすじ:兄「騎士団も色々と大変なんだなぁ……。多分、これからもっと苦労する事になるんだろうけど」


 □王都アルテア・とある喫茶店 【聖騎士(パラディン)】レント・ウィステリア

 

「……とまあ、そんな訳で俺は【聖騎士】に転職してそのジョブクエストとして近衛騎士団のレベリングに付き合っていたんだよ。……俺の合計レベルもそれなりに上がったし奥義の《グランドクロス》も覚えたから、それなりの収穫があったと言えるだろう」

「こっちは普通に冒険者ギルドのクエストを受けただけだから特に変わった事は無かったかな。……強いて言うならそれなりにお金が稼げたぐらい」

「後は私が【魔拳士(マジックボクサー)】をカンストして、新しく【拳士(ボクサー)】に就いたぐらいですかね。魔拳士系の上級職はまだ条件を満たしていないので、とりあえずアクティブスキルを覚えられるジョブに就いたのです」

「……ただ、どうも【魔拳士】のスキルって多くが魔法系スキル扱いなのか【拳士】をメインにしていると使えないヤツが出て来るのが問題なんだよねー」

 

 そう言う訳で俺は久しぶりに妹達と一緒にパーティーを組んで、行きつけの喫茶店でお互いに別行動していた時の事を報告し合っていた……連携とかの関係上お互いの状況は知っておいた方が良いからな。

 ……ちなみに【聖騎士】のジョブスキルには《聖別の銀光》とか言う対アンデッドに超強いスキルがあるみたいなんだが、何でもリリィさん曰く『騎士団の秘奥』らしくて取得条件は教えて貰えなかったのは少し残念だったな。

 その代わりに他の【聖騎士】のジョブスキルの取得条件は奥義の《グランドクロス》含めて全部教えて貰ったし、奥義取得の為に騎士団のレベリングを【聖騎士】のジョブクエストを回して貰ったけどね……俺は奥義を取得出来て、向こうはレベルが上がるというwin-winの関係だったよ。

 

「さて、じゃあ近況報告はここまでにして本題に入ろうか。……お兄ちゃん、そろそろ王都を出て他の街に行ってみない?」

「……ふむ? それは別に構わないが随分といきなりだな。もう王都には飽きたのか?」

「そういう訳では無いのですが……兄様、私と姉様はこの<Infinite Dendrogram>の世界でなら自分達に与えられた“才能”の意味が見つけられるかもと思っているのです。だからもっとこの世界を見て回りたいのです」

 

 そう言った妹達の表情はこれ以上ないぐらいに真剣なモノだった……あー、まあこの二人の“直感”と“戦闘”の才能って現実だと普通は活躍する機会が殆ど無い代物だから、こっちの世界でなら『自分の才能で何か出来るかも』『才能を存分に使えるかも』と思ってそういう考えになるのも無理はないか。

 ……“人間”の領域を半歩ぐらい超えた才能を持つこの二人と比べれば大して深刻では無かったとはいえ、俺も自分の才能について色々と悩んでいた時期があるから気持ちは分からなくは無いしな。

 

「……まあ、お前達がそうしたいと言うなら兄として助けるのは吝かではないし、俺もデンドロの世界を巡ってみるのは面白そうだと思うから旅に出るのは一向に構わないが。……そうだな、何か参考になるかは分からないが少し俺の昔話でもしようか」

「「え?」」

 

 ……と言っても、そんな御大層な話では無いんだが……俺は努力とかしなくても大抵の事が上手く出来てしまっていたから、小学校高学年から中学に掛けて自分は正真正銘の天才だとイキっていた時期があってな。

 ……うむ、今思い出してもちょっと悶えたくなるぐらいに当時の俺はイタいヤツで、剣道をやっていたのも自分より才能が無い他人を打ち負かして悦に浸る気持ちもあったぐらいだしな。

 

「まあ、そんな中途半端な気持ちでやってる剣が本物の天才に勝てる訳もなく始めて敗北を経験した上で挫折。更に自分よりも才能がある人間に対して醜い嫉妬心を抱いた上、その後にあった航空機事故を言い訳にして剣道から逃げた訳だが……」

「……あれ? お兄ちゃんが剣道辞めたのって事故の後遺症が原因じゃ?」

「実を言うと今は後遺症は治ってるし剣道をやろうと思えば出来るな」

「……えぇ……(困惑)」

 

 俺の話を聞いた妹達が困惑した表情を浮かべているが、それはとりあえずスルーして話を続けよう……そんな昔の俺だが事故の後に出会った友人や、中学・高校での学園生活とその中で自分がやりたい事を探すために行った様々な活動の中で、自分なりに自分の才能への“答え”を得て納得したという訳だ。

 ……うん、今思い出しても当時の俺は実に無様でイタい男だったな。正直こうやって話している間もちょっと心が痛い(泣)

 

「……それで、兄様が得た自分の才能への“答え”とは?」

「うむ……ぶっちゃけ()()()()()()()()!」

「……えぇ……(2回目)」

 

 二人は何か困惑しているが、そもそも『自分がこの才能を生まれ持った意味』とかそんなのある筈ないじゃん! 人間は生まれを選べない以上は偶々そう生まれついただけでしか無いのだし。

 ……大学生にもなった今なら、あんな風に『生まれた意味』とか『運命』とか『やるべき事』とか考えてしまうのは、誰もが中学生ぐらいで一度は考える様になってしまう麻疹の様なモノなのだろうと分かるしな。

 

「……と言っても、他人から言われた“答え”では()()は出来ない事ぐらいは分かっているしな。……お前達がそれで納得出来る様になるのなら兄として可能な限り手助けしよう。まあ、後数年もすれば今の自分を思い出して悶えたくなるかもしれんがな!」

「お兄ちゃん……」

「兄様……」

 

 なんか二人が嬉しい様な呆れた様な表情をしているが、言いたい事は言えたし良しとしよう……それに妹達が抱えている悩みは俺のと比べると遥かに深刻だからな。

 ……余り深刻にならない様に出来るだけ軽い感じで過去話をしてみたけど、二人とも大人びてはいるがまだ小学生だし“納得”するには時間が掛かるだろうしな。一度に色々と話し過ぎてもアレだし、一旦この辺りで話を切り替えよう。

 

「……さて! この話はこれまでにして具体的な旅行プランを練っていこうか。どんな旅行にする?」

「え? ……あ、うん……どうしようか?」

「ええーっと……」

「……お兄さん、それなら王都近くの街に行く感じでいいんじゃないかな。南にある『ギデオン』っていう街とかは決闘が盛んだって格闘家ギルドで聞いたけど」

 

 いきなり話を切り替えた事で妹二人はちょっと困惑してしまった様だが、そこで空気を読んでくれたミメが助け舟を出してくれた事で何とか話題の転換には成功した。

 まあ、それに噂で聞く限りギデオンは決闘好きの<マスター>が多く滞在しているらしいし、デンドロで初めて出掛ける街としては丁度いいだろう。

 

「確かに格闘家ギルドでそんな話を聞きましたね……じゃあ、まずはギデオンに行ってみるという事で良いんじゃないでしょうか。その後に関しては応相談で」

「私も別にそれで良いよ。……()()()()はしないし」

「じゃあ決まりだな」

 

 そんな感じで俺達の最初の旅行の行き先は<決闘都市ギデオン>に決定したのだった……さて、これまでのひたすらなレベリングのお陰で、戦闘能力的にはギデオンに行く()()なら今から歩いて行っても良いぐらいなんだが……。

 

「じゃあ次は移動手段かな。……別にギデオンまでなら徒歩でも問題ないっちゃあ無いんだが……」

「今後も色々な所に行くならちゃんとした移動手段は欲しいですね。ずっと徒歩だと疲れますし……何か良い手段は無いでしょうか?」

「この国での移動手段としては馬車を始めとしたテイムモンスターを利用したものが主流みたいだよ。この前に騎士団の詰所で聞いたー」

 

 確かクエストの時のリリィさんも『騎士系ジョブはAGIが低いから馬系モンスターに乗る事が多い』と言っていたか……まあ、彼女やリヒトさんのペガサスの様に強力な馬形モンスターは少ないので、普通の騎士が乗っているのは下位の馬型モンスターらしいが。

 ……とは言え、そんな下位の馬型モンスターであってもAGI換算で最低2000以上は出せるらしいし、移動・戦闘共に非常に役に立つとの事。

 

「まあ、移動手段としてのテイムモンスターは馬型以外にも結構種類があるらしいがな。……確かそういうテイムモンスターとかの専門店もあるみたいだし、この後ちょっと見に行ってみるか?」

「おお! いいね! そういうのは初めてだから面白そう」

「テイムモンスターを扱う気は無いですが興味はありますね」

 

 そんな訳で、俺達は移動手段を探すために王都にあるテイムモンスター専門店に向かう事に決めたのだった……ただ、肝心の場所がよく分からないので、まずは近くにある<マリィの雑貨屋>に買い物を兼ねて聞き込みに行く事となったが。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □王都アルテア 【剛戦棍士(ストロング・メイスマン)】ミカ・ウィステリア

 

「……ふむ、マリィさん曰く『この王都のテイムモンスター専門店で貴方達に一番おススメのは従魔師ギルドの近くにある店かしらねー。ギルドの管理下にあって騎士団も利用してるから信頼出来るしー』との事だったな」

「お兄ちゃんの声真似と演技が無駄に上手い件。……それはともかく、ギルド管理下だから初心者向けのモンスターが多くて私達でも選び易いみたいだし」

「まあ、その分だけ品揃えは無難なモンスターばかりなので、ベテランの【従魔師(テイマー)】は別の店に行く事も多いそうですが私達には関係無いですね。別に従魔師じゃ無いですし」

 

 あれから<マリィの雑貨屋>で買い物ついでに王都でおススメのテイムモンスター専門店を聞いた私達は、マリィさんのおススメだというギルド直轄のお店に向かっていました。

 ……さっきのお兄ちゃんの過去話には色々と思う所はあったけど、それは今は置いておいてまずは真っ当にゲームを楽しもうか。

 

「……あ、あそこじゃないかな、従魔師ギルド。看板にそう書いてあるし」

「確かにそうだな。……マップによるとその隣に<ギルド直轄・テイムモンスター専門店>がある筈だが……あそこか」

「入ってみよう」

 

 ミメちゃんが見つけたギルドの隣にそんな分かりやすい名前のお店があったので入ってみると、店内には沢山のショーウィンドウが置かれており、その中には確かテイムモンスターを入れるアイテムだという【ジュエル】が置かれていた。

 ……よく見ると【ジュエル】の隣にはモンスターの写真や能力や値段が書かれた商標が張ってあったので、どうやらこれらの【ジュエル】には全て売り物であるテイムモンスターが入っているみたい。

 

「……実は私テイムモンスターの専門店には、もっとこうモンスターが入っている檻とかが並んでいるイメージがあったんだけど……」

「こんな街中でモンスターをたかが檻に入れただけで放置とかしたら色々ヤバいだろう。必要なスペースや衛生面とかも馬鹿にならないだろうし。……一応、店員さんに許可を取ってその立ち会いの元でなら中にあるモンスターを解放して見定めるぐらいは出来る様だが」

 

 確かにモンスターを格納出来る【ジュエル】なんて便利な物があるなら現実みたいに檻とかを使う必要は無いよねー……さて、店内地図を見てみるとここは初心者テイマー様の低レベルモンスターが売っているエリアみたいだね。

 ……えーっと、他には高レベルモンスターが売っているエリアや【ジュエル】などのテイマー向けアイテムが売っているエリアとかがあるね……お?

 

「お兄ちゃん、騎乗用・移動用テイムモンスターが売ってるエリアがあったよ!」

「でかした!」

 

 そんなこんなで私達は店員地図に載っていた『騎乗・移動用モンスター売り場』に向かった……そこには【ランドウィング】や【ブラックホース】などの移動手段として使えるモンスターが多数【ジュエル】に入った状態で展示されていた。

 

「……ふむふむ、移動用ってだけでも結構色々な種類があるみたいだね。馬とか鳥とかトカゲとか……あとドラゴンまであるよ」

「基本的には地上を移動するモンスターばかりか。……空を飛べるモンスターも居るには居るがどれも亜竜級以上な上、地上型モンスターと比べても遥かに値段が高いな」

「空を飛べて人も運べるモンスターはお高いみたいなのです。……大体亜竜級で300万リル以上、純竜級だと1000万は超えてますね。飛行可能だと更に二倍・三倍の値段がする感じでしょうか」

「今の僕達の資金だと地上用の亜竜級一体ぐらいまでが限界かな?」

 

 ミメちゃんの言う通り私達の有り金を集めてもそのぐらいが限界かな……一応、各々クエストとかを受けたりして稼いでは居るんだけど、その分アイテムや装備で消費する額も多くなってるからね。お兄ちゃんのスキルで経験値優先で稼いでいるのもあるけど。

 ……どうやら商標には各々のモンスターの用途とかも書かれているみたいだし、自分達に必要な物を調べてみようか。別に今日買わなきゃいけない訳でもないから、資金が足りなくても後日また稼いで買えば良いし。

 

「とりあえず移動手段として買うなら馬かな? 俺とミカは騎士系統のジョブのお陰で《乗馬》スキルを持ってるし……使った事はないからレベル1だが」

「スキルレベルに関しては使っていれば上がるでしょ。……四人で移動するなら馬車を使えば良いし、なるべく優れた馬を一体買えば良いかな」

「馬型モンスターの種類は結構あるしね。足が速いのとか力が強いのとかがあるって紹介に書いてある」

「値段も多少お高いですが亜竜級程では無いですしね。……て言うか、亜竜級以上の馬型モンスターは殆ど売ってないみたいですが」

 

 尚、近くの店員さんに聞いて見たところ馬型のモンスターの殆どはあまり強くならないらしく、亜竜級以上まで進化するものは非常に稀らしい。ただその分、足が速くて使役しやすいので一般的な移動手段としては優れているとの事。

 ……勿論【天翔騎士(ナイト・オブ・ソアリング)】のリヒトさんとかが持つペガサス系モンスターなど亜竜級以上の種族もいるのだが、そういった種族が悉く貴重なので殆ど入荷せず値段も亜竜級で最低500万リル以上する事もあると非常に高いのだとか。

 

「……まあ、別に私達は【従魔師】って訳でもないし、とりあえず移動手段として使えれば良いからそこまでのモンスターは要らないかな?」

「強力な馬系モンスターを買う事が出来れば、俺が【従魔師】やら【騎兵(ライダー)】を取る考えもあったんだがな。必殺スキルのデメリットも従属キャパシティには及ばないし。……ただ、今の所は資金不足だしこの案は無しか? まあ育てると言う案もあるが……」

「少しだけ売られている亜竜級の馬は凄い高いですからね。……一頭最低でも700万リル以上しますし」

「亜竜級まで進化出来る馬の見分けでも付けばいいんだけどねー」

 

 そんな感じで自分達が欲しい馬について私達は話し合いをしていき、最終的には『四人乗りぐらいの馬車を引けるSTRがあって乗馬経験の無い私達でも扱い易いもの。戦闘も出来れば尚よしで予算は200万リル以内』という無難な意見に落ち着いた……ただ、それだと亜竜級未満のそれなりに高級な馬型モンスターの殆どが当てはまるので、ここから更に選ぶのに時間が掛かりそうなんだよね。

 ……まあ、時間はあるしゆっくり選んで行けばいいでしょう。テイムモンスター専門店とか始めてくるから色々と面白そうな物があるし、それらを見ながら考えればいいかな。




あとがき・各種設定解説

兄:昔はイタいヤツだった
・今は色々人生経験を積んで真っ当になっており、色々と悩みがちな妹達を導く立場になれればいいなと思っている。
・尚、色々と事情があった余り自分の私生活の事は妹達にはこれまで話さなかった。

妹達:兄の話を聞いて色々と考えている
・それはそれとしてゲームとしてのデンドロ旅行は楽しもうと思っている。

ギルド直轄のテイムモンスター専門店:非常に真っ当なお店
・ギルドのクエストなどで確保したテイムモンスターを売りに出す店で、基本的にはテイムしてあるモンスター及び普通に言う事を聞くモンスターしか置いていない。
・その為テイマーや騎士にとって使いやすいモンスターや【ジュエル】などの各種テイムモンスター用アイテムなどが沢山置いてあり、初心者から上級者まで利用する人は多い。
・……だが、その性質上テイムし難かったり使役し辛かったりする強力なモンスターは置いていないので、そういったモンスターを求める人は別の店に行く事もある。


読了ありがとうございました。
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馬を買おう!

前回のあらすじ:兄「馬を買いに来た……のだが、思ったより種類が多いな」妹「これだけ多いと迷うね」末妹「ですねー」


 □テイムモンスター専門店 【拳士(ボクサー)】ミュウ・ウィステリア

 

 さて、兄様の昔の話を聞いたりと色々ありましたが、現在私達は移動用の“足”となるテイムモンスターを手に入れる為に従魔師ギルド直轄の専門店に来て、そこで売られている馬型モンスターを見ています。

 ……別に移動に使えれば馬型モンスターである必要は無いのですが、兄様と姉様が《乗馬》スキルを覚えているので馬型モンスターなら上手く使えるのではないかと考えてそこから選ぶ事にしたのです。

 

「……しかし、この店には馬型モンスターが沢山置いてありますね。騎士は馬に乗る事が多いらしいですし、騎士の国と呼ばれるアルターらしいとも言えますが」

「騎士系のジョブだと《乗馬》スキルを覚えるからな。……低いAGIを騎馬の機動力で補うのが騎士系ジョブの基本だと騎士団の人達から聞いた事がある」

「……ふむふむ、キチンと躾けられていて騎手の言う事を素直に聞いてくれる【ウォーホース】に、気性は荒いが高い物理ステータスを有する【ワイルドホース】ねー。他にも色々取り揃えているみたい」

 

 姉様の言う通り、他にもAGIに特化している速度重視の【疾風駿馬(ゲイルホース)】とか、HP・ENDが高い耐久型の【ブラックホース】、火属性攻撃が可能な【フレイムホース】、雷属性攻撃が可能な【ライトニングホース】などなど様々な種類のモンスターが売られているのです。

 ……しかし、こうして売られている馬型モンスターを見ていると、少し気になる事がありますね。

 

「……同じぐらいのステータスの馬型モンスターでも属性攻撃が出来るタイプのやつは、それ以外のやつと比べても値段が二、三割程安いですね。如何してでしょうか?」

「確かに本当だね。……こういうのは属性攻撃とかが出来る方が高くつくのが普通じゃなかったっけ?」

「ふむ、どうやら“属性攻撃が出来る”馬型モンスターの値段だけが、他の同格の馬型モンスターと比べてやや低くなっている様だな。……気になるしちょっと店員さんに聞いてみるか」

 

 そういう訳で兄様がその事について詳しく聞く為に近くにいた中年の店員さんに声を掛けました……このお店でモンスターを直に見たい時には【従魔師(テイマー)】のジョブに就いている店員に頼んで【ジュエル】から出してもらう形式になっているので、その為に何人かの人が店のいくつかの場所に分かれて常駐しているのです。

 ……その定員さんも流石はプロと言う事なのか私達の疑問に対して丁寧に回答してくれました。

 

「ああ、それはですね属性攻撃を持った馬型……と言うか、騎乗用モンスターはかなり使()()()()()人気が無いから値段が下がっているんですよ」

「それはどうして? 馬が攻撃出来れば手数が二倍になって強そうじゃない?」

 

 姉様の言う通り騎馬と騎乗者が同時攻撃とか出来たら強そうなのです……以前に見たリリィさんは騎馬であるティルルとの連携で自分達よりも強い<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>の【ヴァルシオン】と互角に渡り合っていましたし。

 

「“それが出来る”騎乗用モンスターなら、むしろ大人気で同格のモンスターの二倍から三倍以上の値段がするんですが……問題はその手の訓練を積んでいない普通の騎乗出来るモンスターだと、騎乗者に影響を齎さずに属性攻撃が出来ない事なんですよね」

「……それは騎乗用モンスターの攻撃で騎乗者にまでダメージを受けてしまうと言う事ですか?」

「そうなりますね。特に天属性攻撃を行うモンスターの場合には騎乗者を避けて攻撃するのが難しいので、そうなる事が多いです。……また、海属性でも氷属性などでは同じ事になりますし、地属性でも騎乗者に考慮した地面の操作が上手く行かずに落馬するなどのケースがありますね」

 

 尚、ペガサスやユニコーンの様な元々高度なスキル運用技術を持っている種類のモンスターであれば、騎乗者に影響を与えずにスキルを行使出来るそうですが……そういったモンスターは希少なので店にも殆ど出回らず、売られたとしても先程言った通り非常に高値になるとの事です。

 ……勿論、テイムしたばかりでは騎乗者に考慮した戦闘が出来ないモンスターであっても、ちゃんとした訓練によって技術を身に付ければ騎乗者との連携攻撃とかも出来る様にはなるのですが、それは非常に手間がかかり専門の【調教師(トレーナー)】や【飼育者(ブリーダー)】などで無ければ難しいそうです。

 

「特にこの国だと馬型のモンスターを求められるのは騎士のジョブに就いている人が多いので、そこまでの訓練を行うのが難しいのです。なので結果として余計なスキルがある馬型モンスターよりも単純にステータスが高い馬型モンスターの人気があるんですよ」

「成る程……色々教えて下さってありがとうございました」

「いえいえ、これも仕事ですから。モンスターが見たいなどの要件が有ればまたご遠慮無く声を掛けて下さって結構ですよ。……それでは引き続き当店をお楽しみ下さい」

 

 そうして大変丁寧な説明をしてくれた店員さんは去っていきました……しかし、騎乗用のモンスターにはそう言った注意点もあるんですね。馬車を引かせるだけなら問題は無いみたいですが、騎乗したままの戦闘だと色々と気を使わなければならないみたいです。

 

「では、色々と騎乗モンスターについての裏事情が聞けた所でどうするべきか。……改めて整理すると欲しいモンスターの条件が『馬車が引けてそこそこの値段』だけだと曖昧過ぎて決め手に欠ける感じか。もう少し条件を明確にした方がいいか」

「戦闘が出来るか出来ないか、騎乗しながらそれをやれるかとかですかね。……とりあえず条件を改めて設定して該当するのが無ければ条件を緩める感じでしょうか」

「店内を見てるとテイムモンスターの種類が思ったより多かったからね。馬型に限定しても」

 

 そう言う訳で私達は改めて『自分達が欲しいテイムモンスター』について話し合ったのですが、これがなかなか難航したのです……最初から“とりあえず移動用の乗り物として使えるヤツが有れば買ってみても良いかな”ぐらいの気持ちで来たので、明確な基準を設定するのに手間取ってしまったのです。

 ……このまま長時間話し合うと店内に居る他の客の迷惑になりそうだったので、とりあえず私達は店にあった休憩スペースに移動する事にしました。

 

「やっぱりテイムモンスターとはいえ新しい仲間を迎えるのですからもっと真剣に話し合っておくべきでしたね。……駒として使い捨てるなら適当でも良かったかもしれませんが、私達は皆そう言う事が出来る性格では無いのです」

「そうだねー。……とりあえず選ぶのは馬型モンスターからにしよう。ここでブレると延々と店内にある様々なモンスターを見て回る事になりそうだし」

「それと戦闘能力もだな。……俺達はミカの“直感”によって厄介事に巻き込まれる確率が高いし、資金が許す限りで強いモンスターを買うべきだろう。……騎乗して戦うかに関しては二の次で。俺は今の所騎乗戦闘を行う気は無いし、馬車を引かせるだけなら問題無いという話だしな。訓練次第では出来る様になるみたいだし、先を見据えて将来性重視で」

「……でも、確かモンスターってティアンと同じ様に最大レベルが決まってるんだよね? 将来性重視でって事は潜在能力とかも見るの?」

 

 ミメが言ったその言葉を聞いた私達はちょっと黙り込んでしまいました……以前に掲示板とかで調べた所によると普通はモンスターの潜在能力とかは分からないらしいです。テイムモンスターの紹介にも潜在能力までは書かれていませんでしたしね。

 ……と、本来なら分かり用の無い潜在能力なんて考えずに強いモンスターを選べばいいのでしょうが、幸か不幸か私達には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()技術を持っている人が居る訳で……。

 

「……ミカ、お前の“直感”でモンスターの潜在能力とか分からないのか?」

「無茶言わないでよお兄ちゃん。私の“直感”って基本的に危険が事前に分かるとかぐらいなんだからね。……むしろ、そう言うのはミュウちゃんの専門じゃない? 見ただけで相手の実力を見破れるとか言ってたじゃん」

「まあ、以前見たティルルさんやデュラルさんを参考にして馬の実力を図るぐらいは出来るかもしれませんが……そもそも、私では“相手が強いか”は分かりますが“相手がこれから強くなるか”は分かりませんよ」

 

 ……ええ、人間と言うのは出来ないと分かっていれば諦めもつくんですが、“出来るかもしれない”と分かるとその可能性を考えてしまうんですよねー。

 

「……よし、潜在能力の事は考えない様にしよう。ミカのもミュウちゃんのもどちらも確実なものでは無いしな。……それにあんまりこだわり過ぎるとポケモンのタマゴ厳選みたいになりそうだ」

「普通のゲームなら『逃がす』コマンドだけで済みそうだけど、この世界で同じ事やったら大変な事になりそうだからね。……自転車走らせるだけでタマゴが孵化する訳でも無いだろうし」

「なんかゴメンね。ボクが変な事を言ったから……」

「別にミメは悪く無いですよ。ただ私達がちょっと優柔不断だっただけですし。……三人共ポケモンで最初の三匹を選ぶ時には結構悩むタイプですからね」

 

 さて、ちょっと話が別のゲーム(ポケモン)の事になって来たので、私達は一旦潜在能力に関する話は切り上げました……ですが、実物を見てから決めるのは悪く無い方法だと思ったので、条件に合いそうなモンスターをいくつか選び店員さんに頼んで見せて貰う事にしたのです。

 ……まあ、今日中に決めなければならない訳でも無いですし、じっくりと考えましょうか。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □テイムモンスター専門店 【聖騎士(パラディン)】レント・ウィステリア

 

「……すみません。見たいモンスターを色々と頼んでしまって」

「いえいえ、お気になさらないで下さい。お客様達の様にいくつかの候補から直に見て決めるという人は結構多くいますから」

 

 そう言う訳で俺達は候補のテイムモンスターを直に見て欲しいものを選ぶ為、さっきと同じ店員さんに連れられて店舗の裏手にある大型の檻がある広場までやって来ていた。

 ……ちなみにこの檻は外側から操作する事で【ジュエル】内のモンスターを檻の中に召喚出来る仕組みになっているらしく、客の安全確保の為に内側に結界が貼ってあると店員さんに説明された。

 

「まあ、ここで売られているモンスターは全てテイム済みなので危険はそこまで無いんですけどね。……万が一の事があれば私がどうにかしますし」

「店員さん結構強そうですからね」

 

 ……ミュウちゃんの言う通り、この店員さんを《看破》したところ合計レベル400の【高位従魔師(ハイ・テイマー)】だったし、手にも自分用の【ジュエル】をつけてるからな。

 

「ハハハ、これでも昔はテイマーとして戦っていましたからね。……それではご指定のモンスターを見ていきましょうか」

 

 そう言った店員さんは檻に備え付けられたパネルの様な物に【ジュエル】を取り付けて操作して、その中にモンスターを檻の内側に解放していった。

 

 

 ◇

 

 

『HIHI〜〜〜N!!!』

「まずはこの【ブレイズ・ワイルドホース】ですね。高い物理ステータスを持ちながらも身体に炎を纏う事が出来て、炎を纏った物理攻撃を得意とするモンスターです」

「……ふむ、中々強そうな雰囲気を感じるのです」

「でも、この炎って騎乗者や引いている馬車には干渉するんですか?」

「それに関しては身体の炎はオンオフ出来る仕組みになっていますよ。……言う事を聞かせる事が出来ればですが」

「ちょっと気性が荒そうな感じだし、直ぐにこっちの言う事を聞かせられるかどうか。……とりあえず保留で次を見ていこうか」

 

 

 ◇

 

 

『BURURURU……』

「次はこちらの【疾風亜竜駿馬(ゲイル・デミドラグホース)】です。……これはオススメですね。属性攻撃などを覚えていない分ステータス……特にAGIが高く、瞬間的にそれを強化するスキルもあるので騎馬として使うならいい選択だと思いますよ」

「ふむ《看破》……STRもそこそこあるから馬車を引かせる事も出来そうだな。気性も大人しめみたいだし」

「ただ、戦闘は余り好きそうな雰囲気がしないですね。どちらかというと逃げる方が得意そうな気がします」

「それに亜竜級だから値段も高いよ。300万リル以上する」

「うーん、予算的にちょっとオーバーかなー。……これも保留にして次行ってみよう」

 

 

 ◇

 

 

『GUUUUU……』

「皆さん中々見る目がありますね。……それはともかくとして、次はこちらの【グランド・ウォーホース】です。名前通りに地属性のスキルを覚えていて、高いHPとENDを持つ耐久型のモンスターですよ」

「これも中々強そうですね。とても戦闘に慣れている雰囲気があるのです」

「……うーん、でもなんか危険な感じがするんだけど……」

「うむ、こちら……というか人間に恨みを持っている感じなんだが。目に憎悪の色がある」

「……ええと、どうやら全滅させて最後に残った一頭をテイムしたと資料には書かれていましたね。……モンスターには個人主義が多いんですが、仲間思いの個体もそれなりに居ますから」

「新しい仲間とは仲良くしたいしこれは無しかな」

 

 

 ◇

 

 

 ……と、その後も色々な馬型モンスターを見て来たのだが“コレ”と言った個体を見つける事は出来なかった。

 

「……うむ、ちょっとえり好みをし過ぎているか?」

「いえ、どちらかと言うと皆さんの見る目が()()()()()のが原因ですかね。……普通の新人テイマーではモンスターのステータスは見れても個性や性格までは見抜けませんが、皆さんはそう言った所まで気にしていますからね」

 

 店員さん曰く、ステータスだけ見てモンスターを買って性格や個性の不理解で苦労するのが新人テイマーのお約束らしい……まあ、そう言った経験を積んでテイマーは成長するものだと店員さんはしみじみと言っていたが。

 

「うーん、でもなんかアラ探しになってる気がする。……次で最後だし買うと決めた時にはこれ以上モンスターを見ずに今まで出た中から選ぼう」

「まあ、そうだな。……それじゃあ最後のヤツをお願いします」

「はい、分かりました。最後のはコレですね……【ライトニング・ストライクホース】です」

『BURURURU!』

 

 そうして現れたのは深い青の身体に金色の鬣を持ち全身が僅かに帯電している一頭の馬型モンスターだった……ふむ、帯電していると言う事はこっちを威嚇しているのか? 

 ……いや、これは威嚇して見せる事でこっちの反応を観察してる感じかな。コイツの目は何というかコッチを見定めている様だし。

 

「なんか威嚇してるね、気性が荒いのかな?」

「違いますよミメ。コイツは凄く冷静ですし、威嚇もブラフですね。……後、雰囲気的には今までの中で一番戦い慣れてる感じがします」

「帯電はしてるけど危険な感じはしないしねー」

「それに反応から見てこちらの言葉は理解出来ているようだしな。知性も高い様だ」

『……BURURURU』

 

 その【ライトニング・ストライクホース】はこちらの会話を理解したのか帯電を引っ込めて大人しくなった……また《看破》でステータスを見ても同レベル帯のモンスターとしては中々だし、属性攻撃が出来るという事で値段も50万リルとリーズナブルだし。

 

「もう、コイツでいいんじゃないか? こっちのいう事を聞いてくれそうな知性があるのは中々いないと思うが」

「戦闘センスも高そうなので騎乗戦闘も少し訓練すれば大丈夫な気がします」

「何より私の“直感”でも致命的な危険は無さそうだし……それにこれ以上グダグダしたくはないし、ここではっきりと決めちゃおう。……すみません店員さん、この仔を買います!」

「はい、分かりました。中々良い買い物をしたと思いますよ。……それではご精算に参りましょうか」

 

 そんな訳で俺達は表の店内に戻ってカウンターでこの【ライトニング・ストライクホース】を購入したのだった……ついでに割と軍資金が余ったので、主に騎士が使っているという高級【ジュエル】──収納出来るモンスターが一体のみである代わりに各種機能が充実していて値段もそこそこ安いタイプ──も買っておいた。

 ……これは自身の騎馬しか持つ事が無い騎士みたいにテイムモンスターを一体しか持たない人間用の【ジュエル】らしい。俺は今の所本格的にテイマーをやる気はないからこれでいいだろう。

 

「それで【ジュエル】は俺持ちでいいか?」

「それでいいと思うよ。お兄ちゃんは騎士系の上級職に就いてるし」

「後、兄様であれば後で【従魔師】に就いたりも出来るでしょうしね。……では、これからフィールドでその子と本格的な顔合わせになりますか、テイムモンスターを街中で出す訳にもいきませんし」

「名前も決めないとね」

 

 そんな感じで、俺達は新しい仲間である【ライトニング・ストライクホース】を手に入れたのだった……これで本格的な旅行に行くのも大分現実味を帯びてきたかな。




あとがき・各種設定解説

兄:性格判断担当
・性格判断担当なのは元々観察力が普通に高い+小学生の妹達と比べた人生経験の差。

末妹:戦闘技術判断担当
・尚、末妹が判断しているのはあくまで“戦闘に於ける技量”であって、レベル・ステータス的な潜在能力などはジャンルが違うので判別出来ない。

妹:万が一の時の危険察知担当
・致命的に危険な地雷モンスターを回避するのが役割。

店員さん:昔は結構な腕前のテイマーだった
・実は年齢と怪我のせいで現役を引退した後に従魔師ギルドから現在の職を斡旋された元テイマー。
・保有するテイムモンスターはまだ現役であり自身も確かな腕前を持っているので、商品であるモンスターに万が一があった時の対応要員でもある。
・彼の様に現役を引退した信頼出来る人間に職を斡旋するのもギルドの業務の一つであり、同じ様にギルド直轄の店舗やギルド自体に就職した人は他にも結構いる。

【ライトニング・ストライクホース】:名前は未定
・そこそこレアな進化をした全体的に高いステータスを持つ【ストライクホース】という種類の馬型モンスターの雷属性スキルを覚えた亜種。
・三兄妹が買った個体は強力なモンスターが多数住まう場所で生まれたかなりの実戦を潜り抜けた個体であり、その際の経験から馬型モンスターの中では珍しく“より強くなりたい”と思っている。
・素直に買われたのは三兄妹がかなり強そうだったので『このまま店に飾られているだけでは意味が無いし、コイツらについていけば強くなれるかもしれない』と思ったから。


読了ありがとうございました。
三兄妹のチームにペット枠()のお馬さんが追加。次回からは彼の名前を決めつつ旅行前の準備や王都でのやり残しをやっていく感じになるかと。


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<墓標迷宮>への再挑戦

前回のあらすじ:妹「よし、馬ゲット! 名前は何にしようかなー」末妹「新しい仲間なのですから、ちゃんとしたのを考えないといけませんね」兄「……まあ、そうだな。ちゃんとしたのをな」

※<墓標迷宮>の地下11階層以降の情報が確認出来たのでそれに合わせて本文のいくつかを修正。


 □<墓標迷宮>地下1階 【壊屋(クラッシャー)】ミカ・ウィステリア

 

 さて、本日私達はこれで何回目かの<墓標迷宮>へとやって来ていました……そして今回の目的はこの前に新しく仲間になった【ライトニング・ストライクホース】“ヴォルト”のレベリングがメインなのです。

 ちなみに名前を決める時に私達三人で色々と案を出して紛糾したりしたけど、最終的に『彼が言葉を理解出来るのだから、彼自身に決めてもらえば?』とミメちゃんが提案して、お兄ちゃんが出した案の一つである“ヴォルト”が選ばれた感じだったりする。

 ……他の案には私の『ウマ太』や『青吉』とか、ミュウちゃんの『キラポン』や『パチリン』とかがあったんだけどお気に召さなかったんだよね。残念。

 

『……BURURU……(その選択肢ならマスターの案を選ぶしか無いんですが……)』

「……ウチの妹達はネーミングセンスが微妙だから。プレイヤーネームも本名もじって付けさせたし……俺もネーミングセンスとかはそんなでも無いんだがな」

『BURURU(まあ、ヴォルトというのは中々良い名前だと思いますよ)』

 

 うん、ちょっと離れてるから何を話しているのかは分からないけど、名付けとその後の訓練のお陰かお兄ちゃんとヴォルトはかなり仲が良くなったみたい……基本的にヴォルトはお兄ちゃんのテイムモンスターだから良い関係を作れている様で何よりだよ。

 勿論、これまでにヴォルトと何度か一緒に戦ったお陰で私やミュウちゃんともそれなりに仲は良くなったけどね。そのミュウちゃんやお兄ちゃんが言うには『ヴォルトは“より強くなりたい”と思っており、その為に自分より強い私達に従った方が良いと思ってる』みたいらしいけど。

 

『BURURU、BURURU、BURURURU(最初はまた年若い人間に買われたものだと少し不安でしたが、一緒に戦ってみると実力は確かでしたし、今回のレベリングなど私の強化もキチンと考えてくれているので相当無茶な事を言われない限りは従いますよ)』

「まあ、不満が無さそうなら問題は無いからな。レベリングだけでなく戦闘技術の習得にも積極的なのは有り難いし、本当にいい買い物だったよ」

「そうですね。連携に関してもヴォルトはキチンとコッチの指示を聞いてくれるのでやりやすいですね」

 

 まあそんな感じで、私達は新しく仲間になったヴォルトと今の所は上手くやっていけそうなのでした……しかし……。

 

「……お兄ちゃん、さっきから気になっていたんだけどヴォルトの言っている事が分かってるの?」

「いや、何となく雰囲気とかからヴォルトの言いたい事を察してるだけだが? コッチの言葉に“はい”か“いいえ”と思ってるかぐらいは正確に分かるから、ある程度の意思疎通は可能だから。……まあ、正確な事は分からないから【聖騎士(パラディン)】をカンストさせた後は【従魔師(テイマー)】のレベルを上げて《魔物言語》を使える様にはしたいな」

『BURURU(会話が出来た方が連携などの面で便利ですからね)』

 

 ……実は本当に会話出来ているとかじゃ無いんだよね? なんかめっちゃ以心伝心出来てる気がするんだけど……。

 

『『『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️……』』』

「……おっと、お喋りはここまでだな。<墓標迷宮>何時ものお約束であるアンデッド達が来たぞ」

「ハァ……連中は弱いのですが素手で触りたく無いので苦手なのです」

「まあ、ここは遠距離持ちのお兄ちゃんとヴォルトに任せようよ」

 

 アイツらはぶっ叩くと肉片とか肉汁(グロ)が飛ぶからねー。接近戦を挑むとお兄ちゃんに浄化魔法を事前に掛けて貰ったり、洗剤や洗浄液が必須なのが面倒くさいんだよなー。

 ……まあ、アンデッドは知性が無くて動きも単純だから、慣れてくれば誘き寄せてからの遠距離攻撃で一掃出来るから経験値の稼ぎは結構良いんだけど。ドロップアイテムもショボいから《長き腕》を使っても損した気分にはならないし。

 

「それじゃあまずは《ホーリーライト》……そんで《魔法多重発動》《ホワイトランス》!」

『……HIHIEEEEN!!! (《サンダーバースト》!)』

 

 そうして向かって来るアンデッドの群れに対して、まずはお兄ちゃんが《ホーリーライト》──辺りを淡い光で照らす光球を作り出し、その光で照らされてアンデッドを弱体化させる魔法──を使い自分の頭上に光球を展開して連中の動きを鈍らせる。

 そして更にお兄ちゃんが多数の聖なる光の槍を放ってアンデッド達の半数ぐらいを浄化し、ヴォルトが()()しながら前方へ放射状に雷撃を放って残りのアンデッド達を焼き払った。

 

「さて《ホーリーライト》は暫く持続する上、俺の動きに合わせて移動するからこのまま維持してアンデッドを狩ってくぞ。……しかし、ヴォルトが雷属性スキルを使った時に帯電するのはどうにかならないものか。お陰で騎乗戦闘がかなり難しいんだよな、痺れるし」

『BURURURU……(私も抑えようと思ってるんですが、どうも生態みたいで……)』

「以前試したけ時にはお兄ちゃん感電してたもんねー」

「しっかりとダメージ食らってましたね」

 

 どうも、このヴォルト君は雷属性スキルの制御がまだ荒いらしくスキル使用時に肉体が強力に帯電してしまう様である……なので騎乗戦闘をしようものなら乗った人間まで感電させてしまうのだ。

 ……詳しく調べてみると、彼のスキル欄にはその名の通り《帯電》と言う肉体に電気を纏わせる事で直接攻撃に雷属性を追加、更に纏わせた電気を別の雷属性スキルに上乗せして威力をアップさせられるスキルがあった。

 更には《雷の鬣》と言う運動する事で鬣に電気を蓄積し、雷属性スキルを使う時にそれをコストに出来るパッシブスキルがあったりしたし。

 

「これまでのヴォルトの戦い方から見て、どうも種族的に肉体に雷を纏わせて戦う事が前提みたいですね。……ヴォルトのこれまでの戦いを見る限り多分ですが、接近戦では帯電する事で敵からの直接攻撃を牽制しつつ反撃というのが主体だったのでしょう」

「後、遠距離戦では雷属性の特徴である“速度”を活かして多少の制御不足と引き換えにスキルを即座に発動、更に威力よりも範囲を重視して電撃で敵の動きを止める事を重視してる感じだからな」

『BURURURU、BURURU(確かに野生にいた時は強力なモンスター相手にそうやって生き残ってましたが、よくそこまで分かりますね)』

 

 そんな風にお兄ちゃんとミュウちゃんがヴォルトの能力や戦い方を考察しながら、今後の育成方針を練っていた……ちなみに私とミメちゃんはそこまで分からないので置いてけぼりである。

 

「まあ、ヴォルトのセンスからして騎乗戦闘に関しては今後も練習を続けて技術やスキルを磨けばどうにかなりそうだし、俺も育成や騎乗に補正が掛かるジョブを今後は取っていく予定だからな」

「とりあえず今はレベリングの時間なのです。今回は脱出用の【ジェムー《エスケープゲート》】も三人分手に入れていますし行ける所まで行ってみましょう」

「旅行に行ったら<墓標迷宮>には潜れなくなるし、一回ぐらいは私達で本格的にダンジョン探索をしてみたいしね」

『BURURU(脱出手段があるなら文句は無いですよ)』

 

 実は以前地下10階のボスを倒した時の【エレベータージェム】は持っているのでそこから始める事も出来るんだけど、ヴォルトのレベリングと折角だから腕試しも兼ねて最初から探索したいという事で今回は使いません……そうして私達は<墓標迷宮>ダンジョンアタックを始めたのでした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<墓標迷宮>地下16階 【従魔師】レント・ウィステリア

 

 そんな感じで俺達は地下5階のボスを《ピュリファイ・アンデッド》《ホーリーライト》の対アンデッドデバフ重ね掛けからの《グランドクロス》で蒸発させたり、地下10階のボスを作り貯めしておいた火属性【ジェム】を連発して焼き払ったり、地下15階の獣系ボスをなんとか倒したらして順調に地下16階へと足を踏み入れていた。

 ……まあ、ご覧の通り終始俺が活躍して経験値を稼いだので【聖騎士】がカンストし、メインジョブを【従魔師】に変更したりしている……勿論、ヴォルトや妹達も相応に活躍していたが。

 

「……というか、お兄ちゃんが無双し過ぎ。ボスとかほぼ単騎撃破じゃん」

「伊達に今までソロで<墓標迷宮>に潜って経験値稼ぎをして来た訳では無いからな。地下10階までは俺の庭だ。16階以降の獣型もパーティーで連携を組めばどうにかなる」

「流石兄様、頼りになるのです」

 

 ただ、ここから始まる地下16階以降には、俺もまだ行った事が無いんだよな……近衛騎士団のクエストでも『これ以降の階層では組織立ったモンスターの襲撃やタチの悪いトラップが増えて来て、危険度が高くなるので経験値稼ぎでは進みません』と言われたし。

 ……そして、その危険度が大幅に上がるらしい地下16階から20階までのエリアに出現するモンスターの種類は……。

 

『……GYA⁉︎ GYAGAGA!』

『GUGAGA! GYAGEGO!』

「……おっと、どうやら【ゴブリン・スカウト】に見つかった様だな」

 

 そう、このエリアに出現するのは多種多様な脅威のゴブリン達なのだ……ゴブリンなら大して強くなくね? と思うかもしれないが、連中の最も厄介な所は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()所なのである。

 ……具体的に言うと狭い通路とかで前衛と後衛が連携したり、ダンジョンにある罠にこちらを率先して嵌めようとして来たりする事はザラらしい。

 

「なので、まず偵察は速攻で潰そう。《魔法多重発動》《フレイムアロー》!」

「つまり連携される前に数を減らすって事! 《ブラスト・スウィング》!」

『BRUAAA! (分かりました。《サンダーアロー》!』

『『『GYAAAAA!?』』』

 

 そういう事で俺が複数の炎の矢を、ミカが【ギガース】から放たれる衝撃波を、ヴォルトが雷の矢をそれぞれゴブリン達の一団に放って連中を一掃した。

 ……この程度の攻撃で倒せたって事は低位の種族しか居なかったという事だし、となると連中は偵察班だろうから()()の群れが何処かにはいるだろうな。とりあえず《魔物索敵》っと……。

 

「……ふむふむ、ここから少し離れた所の11時の方角に二十体ぐらいのモンスターの群れを確認したぞ。どうも動く様子は無いみたいだが」

「偵察役を直ぐに倒したからこっちに気がついていないのかな?」

「結構派手に戦闘音がしましたし、それは無いと思いますよ姉様。……待ち伏せか罠でしょうか」

 

 これまでの階層では戦闘音を聞きつけたら何も考えずに向かって来る連中が殆どだったんだが、ここのゴブリン達はこういう厄介な対応を取って来るみたいだな。

 

「……とりあえず、無難に罠や待ち伏せに注意しつつ慎重に進むという事で」

「オッケー」

「分かりましたのです」

『BURURU(承知したマスター)』

 

 ……まあ、初見の階層で何があるか分からないから無難に安全策で行こうか。

 

 

 ◇

 

 

 ……という訳で警戒しながら迷宮を移動する事暫く、俺達は曲がり角の向こう側に陣取ってこちらを待ち受けているゴブリン達を発見したので、今は身を晒さない様に向こうから見て角の死角に身を潜めた。

 ……少し見ただけだが、どうも【ホブゴブリン・コマンダー】に率いられた部隊みたいだな。通路の狭さを活かして前衛に壁役を布陣、後衛に魔法や弓が使えるゴブリンを置いてるから正面から普通に挑むのはキツイか。

 

『『『GIGIGIGI……』』』

「……全然仕掛けて来ないな。こっちには気付いていると思うんだが……」

「お兄ちゃん、多分これ罠だよ。何となくだけど連中の手前の床が怪しい気がする」

 

 ミカにそう言われたので《トラップサーチ》で探ってみると、確かにゴブリン達から十メートルぐらい先の床に何かの罠の反応があった……その種類までは分からないが、多分床に接触した際に発動するヤツだろう。

 ……まあ、これで向こうの目的はこっちを罠に嵌める事だと分かったんだがどうするか。迂回して撤退も視野に入れるべきかな。

 

「ですが迂回ルートだとかなり遠回しになりますし、逃げ続けるだけではまともな探索は出来ないと思うのです」

「そうだねー。……とりあえず私が突っ込もうか? 床の罠をどうにかする()もあるし」

「ふむ……まあ今回は可能な限り挑戦する予定だったしな。だが援護射撃ぐらいはやらせて貰うぞ。ヴォルトも頼む」

『BURU(了解)』

 

 そんな感じで手早く作戦を纏めた俺達は曲がり角から出てゴブリンの一段へと戦いを挑むのだった。

 

「まずは牽制。《魔法多重発動》《魔法発動加速》《ヒートジャベリン》!」

『BURUAAA! (《サンダーアロー》!)』

『ッ⁉︎ GYAGYAッ!』

『『GAAA!』』

 

 角から出て直ぐに俺とヴォルトが炎の槍と雷の矢をゴブリン達に向けて放つが、コマンダーの指示によって前に出た【ゴブリン・ウォーリア】や【ゴブリン・シールダー】に防がれたので大した被害は与えられなかった……が、向こうが一瞬怯んだ隙を突いてミカが高いSTRとAGIを活かした踏み込みを使って全速力で突っ込んで行った。

 ……それに気付いたゴブリン達も魔法や弓矢で攻撃するが、ミカは得意の“直感”でそれらの攻撃を躱すか【ギガース】を盾にして防いで進んでいき床の罠の数メートル手前ぐらいで停止した。

 

「……まあ、解除の手段が無いので遠間から強制起動させるだけだけどね! 《クエイク・インパクト》!」

『『『GEA⁉︎』』』

 

 そしてミカは大上段に振り上げた【ギガース】を地面に叩きつける事で放射状に地を這う振動波を発生させた……成る程、これなら罠を発動又は破壊した上で、足元を揺らしてゴブリン達の動きを止められるから一石二鳥というヤツだな。

 ……さて、この振動であの罠は一体どうなるかと思って見ていたら床から毒々しい色合いの煙が勢い良く噴き出した。これは毒ガスの罠みたいだな。

 

「うおっと! 毒ガスの罠だったか! ……あ、これ無視しても大丈夫なヤツだ。《インスタントエンパイア》」

「……毒ガスならこちらに来る前に吹き飛ばせばいいだけだしな。《ウインドブロウ》」

『『『GAAAA⁉︎』』』

 

 そういう訳でまずミカは【クインバース】のスキルを使って状態異常対策をしながら毒ガスの中に突っ込んで行き、俺は魔法で強風を起こして毒ガスをゴブリン達の方向へと吹き飛ばした。

 ……うん、ゴブリン達が毒ガスに巻かれて混乱している所を見ると向こうも罠の種類は把握出来てなかったのか? この毒ガスなら普通に発動するだけでゴブリン達も影響範囲に入りそうだし。

 

「邪魔だよ! 《ウィールド・メイス》! ……そんでまずは指揮官から潰す! 《ギガント・ストライク》!」

『『『GYAAAAA!?』』』

『GI⁉︎ GEHAAッ!!!』

 

 そうしてミカは【毒】の状態異常によって混乱しているゴブリン達に突っ込みながら【ギガース】を振り回して前衛を固めていたゴブリンを吹き飛ばし、陣形が崩れて後衛への道が開けた所で【ホブゴブリン・コマンダー】に接近して文字通り叩き潰して地面の染みへと変えた。

 ……個々の実力自体は今の俺達なら問題無く相手に出来る範囲だし陣形さえ崩れればこんなものか。しかし狭い通路で乱戦になっている上、毒ガスで見えにくいから魔法での援護がやり難いな。

 

「……こういう敵含む無差別状態異常だと《転位模倣(エフェクト・ミラーリンク)》は意味ないですね。……エレメンタル化のお陰で酸素はそんなに必要無いですし息を止めれば行けますかね?」

「いや、俺は【司祭(プリースト)】も取ってるから毒性を軽減するぐらいは出来るし。《ホーリー・ゾーン》」

 

 それを見たミュウちゃんがそんな事を聞いて来たので、俺はとりあえず周辺の病毒・呪怨系状態異常を軽減する結界を張ってからゴブリン達を倒すべく毒ガスが蔓延する向こうへと向かっていった。

 ……幸いというか毒ガスと指揮官の不在によってゴブリン達は最後まで混乱から抜け出せなかったので、特に問題無く俺達はゴブリンを各個撃破していき程なくしてゴブリン達の全滅によって戦闘は終了した。

 

「よし終わった! ……しかし、罠を利用して待ち伏せとか難易度が一気に上がった気がする……」

「確かにな。……ゴブリンは個々の実力は低いけど頭はそこそこ回るのが厄介なんだよな」

「馬鹿ですが愚かでは無い感じですね」

『BURURURU……(野生だった時にもゴブリンを舐めてかかった同胞が逆に餌にされてたなぁ……)』

 

 ……とにかく、俺達は油断や慢心せずに気を付けて行動する事を改めて確認し合いつつ、引き続きダンジョンの探索を行うのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:ネーミングセンスはそこそこ
・ヴォルトとはそれなりに良い信頼関係を気付けており、将来的にはちゃんとした騎乗戦闘が出来る様になる事が目標に加わった。
・……そのお陰で取得予定ジョブに従魔師系統や騎兵系統が加わった為、レベル上げが大変になったのが悩みの種。

《トラップサーチ》:【斥候】などで覚えるジョブスキル
・周囲にある罠の位置を察知するアクティブスキルで、位置は分かっても罠の種類までは分からない。
・【斥候】で覚えられる罠対処系のスキルはこれと《心眼》ぐらいで、罠の判別や対処のスキルは盗賊系や罠師系のジョブが担当。

《ホーリー・ゾーン》:【司祭】のジョブスキル
・一定範囲内の呪怨系・病毒系状態異常を軽減、一定以下の強度なら無効化するスキル。
・要するに【女教皇】の《ホーリー・ゾーン・ホライゾン》の下位スキル。

妹:ネーミングセンスはアレ
・本編前のヴォルトとの連携訓練中に【剛戦棍士】はカンストしたので、打撃メインでSTRが上がるからと【壊屋】に就いた。
・【クインバース】の《インスタントエンパイア》は発動してから数分間ゴブリンキーホルダーに状態異常を移し替え続ける仕様で、移し替えに必要な時間は状態異常の強度で変更される仕様。

《クエイク・インパクト》:【剛戦棍士】のスキル
・メイスで地面を叩き前方放射状の地面を振動させて、接地している範囲内の対象にダメージを与えつつ一定確率で【硬直】の状態異常にするアクティブスキル。

末妹:ネーミングセンスは普通の小学生
・《憑依融合》でエレメンタル化している場合には必要な酸素の量が少なくなるので無呼吸でも十分以上の活動が可能など、肉体構造などの生態的には人間と同じだがステータス以外の生物的な能力や強度が向上している感じになっている。
・ちなみに肉体構造が人間と変わらないのは、自分の身体を完全に把握して使いこなせる末妹の体術センスを活かす為にアジャストされているから。

ヴォルト:無事に名前は決定した
・名付けの際のフォローとその後の戦闘で見せた実力のお陰で兄には信頼関係を抱いており、妹達に対してもその実力から悪い感情は抱いていない。
・ステータスはMPとAGIに長けながら他もそこそこ高く、スキルも結構レアなヤツを複数覚えていて、頭脳や戦闘センスも高いという当たり枠なテイムモンスター。
・ただやはり草食系魔獣である馬型モンスターなので、単騎での戦闘になると特に格闘能力面においては肉食系魔獣モンスターには劣ってしまう。
・本人もその事を自覚している事と野性だった時に厳しい環境で生きてきた事があって、自らの技術の上昇や更なるスキル獲得や進化にも積極的。


読了ありがとうございました。
この妹達は自身の才能に関する事と多少大人びている以外は普通の女子小学生です。


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<墓標迷宮>を進め

前回のあらすじ:妹「馬の名前が決まって良かったね! 私達の案は選ばれなかったけど」末妹「そうですね、可愛い名前だと思ったのですが」兄「ヴォルトって一応オスだからな」(流石にあの名前は無いだろ)

※<墓標迷宮>の地下11階層以降の情報が確認出来たのでそれに合わせて本文のいくつかを修正。


 ■<墓標迷宮>地下19階 ??? 

 

 ……王都の地下にある神造ダンジョン<墓標迷宮>、その内ゴブリンなどの鬼系モンスターが出現する階層に一つの影があった。

 

『……』

 

 ……“ソレ”は身長2メートル程の細身の人型で両手は薄く鋭い刃となっており脚は鳥の様な三本の爪があって、その全身は闇の様に真っ黒な鉱石で構成されていた……そして“ソレ”は獲物を求めて<墓標迷宮>を徘徊していた。

 

『……』

 

 ……“ソレ”はこの<墓標迷宮>を運営する管理AIの一人であるジャバウォックが作り上げたモンスターで、与えられた役割は地下15階以降をランダムに徘徊して遭遇した人間を始末する……所謂『徘徊型のボスモンスター』として作られたモノの一体であった。

 

『……』

 

 ……だが、“ソレ”が他のランダム徘徊型のボスモンスターと違う点はその一体しか作られていない……否、()()()()()()()()()()と言う事である

 

『……!』

 

 ……そうして“ソレ”──逸話級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【刻傷黒晶 ブラックォーツ】は発動中のスキル《人間探知》の効果範囲内に反応があったとみると、《気配操作》と《消音》のスキルを使いつつ<墓標迷宮>内の()()()()()()()()()()()()()()()真っ直ぐにその反応があった地点へと進んでいった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 □<墓標迷宮>地下17階 【拳士(ボクサー)】ミュウ・ウィステリア

 

 あれから更に下に降りて現在地下17階、私達は探索中に遭遇したゴブリンの群れと何度目かになる戦いを行なっていました……今回は一つの群れと戦っている間に後方から追加でゴブリンが現れたので、まだ残っている前方のゴブリンを私と姉様が、後方から来た連中を後衛だった兄様とヴォルトが反転して迎え撃つ形になっています。

 

「よっと《カウンターブロウ》!」

『GA⁉︎』

「そっちは《旋風脚》!」

『GI⁉︎』

「後ろは《バックナックル》!」

『GU⁉︎』

 

 まず、私は正面から来た両手剣を装備している【ホブゴブリン・ソードマン】の上段からの振り下ろしを半身になって避けると共にカウンターで顔面を殴り飛ばし、横合いから襲い掛かって来た槍装備の【ゴブリン・ランサー】をその槍ごと回し蹴りで吹き飛ばし、更に背後から気配を消して奇襲を仕掛けて来た【ゴブリン・アサシン】を()()()察知して裏拳で迎撃しました。

 ……このぐらいの相手であれば、威力の低い格闘系スキルでも一撃で倒せるぐらいには私もレベルが上がりましたからね。格闘系スキルは出が早く技の後の隙も少ないので、連続使用で多数相手でも無双っぽい事が出来るのです。

 

『いや、“ぽい”じゃなくて実際無双してない? ゴブリン達が群れている真ん中に飛び込んで片っ端から殴り倒している訳だし』

「そんな事は無いですよミメ。私がそう見えるのは単に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけですから。……それに無双と言うなら姉様の方が相応しいでしょう。ほら」

「纏めて吹き飛べ! 《ウィールド・メイス》!」

『『『GYAAAAAA!!!』』』

 

 そう言って私が横を指刺すと、そこには両手に持った巨大メイス型<エンブリオ>【ギガース】を横薙ぎに振り回して、周囲のゴブリン達を片っ端から肉片に変えている姉様の姿がありました。

 ……やっぱり雑兵相手だと細かい技術よりも圧倒的なステータスが正義ですね。特に姉様のSTRは既に5000に迫りますから下位のゴブリン程度なら掠っただけで致命傷ですし。

 

「《ウェポン・ブレイク》! 《ハードストライク》! 《インパクト・ストライク》! 特典武具のお陰でSPは幾らでもあるからアクティブスキル連発も可能なのだ! メイスのスキルは大振りのヤツが多いから連続攻撃にはならないけど!」

「というか、一回殴る度にゴブリンが一匹ミンチになってますからね。それでは連続攻撃にはならないでしょう」

 

 姉様の高いSTRと<エンブリオ>やジョブスキルによる防御減少のコンボ攻撃はまさに文字通りの一撃必殺ですからね……さて、奇襲を仕掛けて来た連中の相手をしている兄様達は……。

 

『BURUAAAA! (《迅雷の蹄》!)』

「全く、雑魚ではあるが後ろから襲われると面倒極まりないな! 《セイクリッド・スラッシュ》」

『『GUGYAAA!?』』

 

 勢いよく嘶いたヴォルトが雷を纏った後ろ脚で【ゴブリン・バンディット】の頭部を蹴り砕き、兄様が愚痴りながらも手に持った剣に聖なる光を纏わせた斬撃で【ホブゴブリン・アサシン】を防御しようとした短剣ごと斬り捨てました。

 ……後方から来たのは《気配遮断》スキル持ちの隠密部隊で、戦闘能力は然程でも無かったので二人にあっさりと蹴散らされていますね。肝心の奇襲も姉様の“直感”のせいで意味無かったですし。

 

「……よしっ、終わったー! しかし、背後からのアンブッシュとかちょっとヒヤッとしたかな」

「まあ、敵が雑兵ばかりだったので対処出来ましたが。……このゴブリンエリアからは敵のステータスよりも()()()()()()()()()()()()が上がっている気がするのです」

「お試し的だった植物エリアに対して、このエリアから本格的にダンジョンギミックが導入されている感じかな。……こうなると【盗賊(バンディット)】とかの探索系ジョブも欲しくなる」

 

 まあ多分、このエリアからは“キチンとしたダンジョン探索の為の役割分担が出来たパーティーで攻略する”事が前提って感じですかね……敵が連携して来たり状態異常系の攻撃や罠も多いので、ソロプレイだと余程の実力が無い限りは途中で倒れますね。

 

「私達も決してバランスの良いパーティーでは無いし数も少ないですからね。……今は各々の能力が高く敵の能力が低いからどうにかなっていますが」

「今後もそうとは限らないし気を付けて行動しようって事だね、ミュウちゃん。……それに何か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()し、その上で先に進んだ方が良い気もしてる」

「……それなら行こうか。今日はダンジョンに挑戦する為に来たんだからな」

 

 姉様が“何かを感じ取った”という事はほぼ確実にこの先で『何か』が起こるのでしょうし、兄様の言う通り今日は挑戦する為に来たのですから油断せずに行きましょう。

 ……まあ、本当に危険なら姉様は『先に進んだ方が良い』とは言わないでしょうし、最悪でも私達がデスペナするぐらいで済むでしょう。

 

 

 ◇

 

 

「……ふむ、そこの床にトラップがあるな。とりあえず離れて遠隔で発動させるか。《ストーンバレット》」

「……あ、床に大きな落とし穴が。古典的だね……モンスターが居なければ対応は可能かな」

「落とし穴の深さは2メートル程で戦闘系ジョブであればひとっ飛び出来るでしょうが、戦闘中に嵌ったら面倒ですね」

『BURURURU(馬的には天敵ですね。垂直ジャンプは苦手です)』

「罠は単体ならどうにでもなるんだがモンスターと一緒に来られると面倒なんだよな。戦闘時には罠の位置は常時把握出来た方がいいか」

 

 

 ◇

 

 

『GAOOOOOO!!!』

「ワオ、デカイのが一体、【オーガ・ファイター】か。……ここってゴブリンエリアじゃ無かったっけ?」

「正確には鬼系のモンスターのエリアという事なんだろうよ。オーガってゴブリンの進化種だと聞いた事があるし」

「……ですが、集団で連携を取ってくるゴブリン達と比べればやりやすい相手なのです。特に私とミメには」

『《天威模倣(アビリティ・ミラーリンク)》STR2470だよ。それ以外はコッチとそんなに変わらない』

「ステータスは姉様よりは低い様なのでどうとでもなりますね」

「それじゃあさっさと倒そうか」

『……BURURU(……まあ、そうなりますよね)』

『GAOOOOOO⁉︎』

 

 

 ◇

 

 

「わーい、宝箱見つけたー。ウレシイナー(棒)……真面目に言うとこれは罠な気がするよ。私の勘だと中身はちゃんとした物っぽいんだけど……」

「まあ、あの宝箱は何故か結構広い部屋の中央にこれ見よがしに置いかれているしな。余りにも胡散臭すぎるし……宝箱自体からは罠の反応はしないんだが部屋に何かあるとか?」

「この手のお約束だとモンスターハウスとかですかね。……宝箱を取った瞬間に扉が閉まって大量のモンスターがってヤツです」

「じゃあ扉につっかえ棒でもすれば良いのかな? ……引き戸みたいだし【ギガース】を間に差し込んでおけば良いか。長さも丁度良いし」

「<エンブリオ>の扱いが随分雑だな。……それはさておき、あの宝箱をどうするかだが……」

「じゃあ、私がちょっと取って来るのです。……姉様はここで扉を抑える必要がありますし、兄様には万が一の事に備る援護の役割がありますから」

「……分かったよ、気を付けてミュウちゃん。私の勘だとそれで大丈夫な気がするけど油断出来ないからね」

 

 

 ◇

 

 

 ……ビィーッ! ビィーッ! ビィーッ!!! 

『『『『『GUGYAAAAAAA!!!』』』』』

「はい! 宝箱を開けたら中に凄く強そうな剣が置いてあったので取り出したら警報が鳴って隠し扉が開き大量のゴブリンが!」

「早口で説明ありがとうミュウちゃん! それより早く戻って来て! この扉が閉まりそうで抑えてる【ギガース】がガタガタ言ってる!」

「まあ準備はしていたが! 足止めする! 《ファイアーウォール》!」

「ナイスです兄様! ゴブリンが炎の壁に怯んでいる間にっ!」

「よっしゃ! 扉を閉めるよ!」

「……ついでに()()も入れておくか」

 

 

 ◇

 

 

「さて、どうにか脱出出来ましたがどうしましょう? この扉の向こう」

「……それよりお兄ちゃん、さっき扉が閉まる前に部屋の中に何か入れてたけどアレは?」

「アレは【ジェムー《オキシジェン・バーン》】と言ってな……あの中に込められた《オキシジェン・バーン》は周辺の大気中にある酸素を燃焼させて酸欠にする火属性魔法で、屋外だと直ぐ効果範囲から酸素が補充される為に大した効果は無いが、密閉された室内とかだと酸素濃度を一気に下げられるってヤツだ」

「……あっ(察し)」

「……本当に抜け目ないですね兄様」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<墓標迷宮>地下18階 【従魔師(テイマー)】レント・ウィステリア

 

「いやあ、見事に数十体はいたっぽいゴブリン達が殆ど全滅してるね。……酸欠って怖い」

「兄様の策が完璧に嵌ってましたからね、お見事です」

「俺もあそこまで上手く行くとは思わなかったんだがな」

 

 そんな事を話しながら俺達は扉を少し開けて先程のモンスターハウス(全滅)の様子を伺っていた……詳しく部屋の中を調べてみるとどうやらさっきの扉以外は隠し部屋があっただけで、そこには通気口とかが無い密閉空間だったから酸欠戦術が完全に嵌った様だ。

 ……実を言うと嫌がらせと牽制ぐらいの気持ちで、作ったけど売れなかった【ジェム】を投げ込んだんだけどな。【ジェムー《オキシジェン・バーン》】って効果を発揮するには場所を選ぶ上に自分を巻き込む可能性も高いから人気が無くて……。

 

「まだ生きているヤツもいるけど酸欠でまともに動けないみたいだし、さっさとトドメを刺しちゃおうか。……あ、どうせならヴォルトにやらせて経験値を稼がせるとか」

『……BURURU(……まあ、やれと言うならやりますが)』

 

 平然とそんな事を言うミカにヴォルトがちょっと引くと言う一面もありはしたが、それ以外は特に何事も無くモンスターハウスの後処理は完了した……ああ、そう言えば……。

 

「ミュウちゃん、あの宝箱に入っていた剣はどんな物だったんだ?」

「ええと、特に見もせずにアイテムボックスに突っ込んだのでよく分からないのですが……あった、コレですね。良い物だといいんですが……」

 

 そうしてミュウちゃんはアイテムボックスから豪奢な装飾が付いた黒っぽい片手剣を取り出した……ふむふむ、見た目は近衛騎士団の人達が使っていた騎士剣に似てる気もするが、どれ《鑑定眼》っと……。

 

【ナイトブレード・カースペイン】

 かつて憎悪に取り憑かれた【聖騎士】が魔物を斬り殺し続けた結果、使用していた聖剣が変質して呪われた魔剣となった物。

 高い強度・攻撃力を持ち、魔物に対する特攻と呪いと闇属性を併せ持つ斬撃を放つ力があるが、その呪いは使用者をも蝕む。

 

・装備補正

 攻撃力+666

 防御力+42

 

・装備スキル

《魔物特攻》Lv8

《破損耐性》Lv4

《闇属性適正》Lv3

《呪術適正》Lv6

《ファントムペイン》Lv6

《怨讐の闇刃》Lv7

 

 ・呪い

【呪詛】【狂化】【幻痛】

 

※装備制限:合計レベル300以上

 

 ……高い装備攻撃力とか強力な装備スキルがある代わりに呪いがいくつか着いてるのかー……うん。

 

「やっぱり呪われてるじゃ無いですかヤダー!」

「モンスターハウスの宝箱の中身が呪いの武器とか、この迷宮を作ったヤツは性格が悪いね」

 

 ……この【ナイトブレード・カースペイン】性能は確かに優秀なんだが、装備すると【狂化】の呪いで見境なく暴れる上に【幻痛】の呪いで身体に激痛が走り、更には【呪詛】でそれらが強化される仕様みたいだな。

 まあ、<マスター>なら痛覚オフがあるから【幻痛】は無視出来るかもしれないが【狂化】で制御不能になるのはどうしようもないな。はーつっかえ! 

 

「……私は武器を装備出来ないので兄様に預けて置きますね」

「まあ、一応騎士剣みたいだし【聖騎士(パラディン)】のお兄ちゃんなら行けるんじゃない?」

「呪いの武器を扱うのは【暗黒騎士(ダークナイト)】とかの領分なんだがな。……とりあえず何かに使える時が来るかもしれないし仕舞っておこう」

 

 俺が受け取った(押し付けられた)【ナイトブレード・カースペイン】をアイテムボックスに仕舞った後、俺達は再び<墓標迷宮>の探索を続行しようとし……直後、ミカが何かを感じ取ったかの様に足を止めて通路の向こう側を見た。

 

「……全員警戒、向こうから何か来るよ」

「分かった」

「了解です」

『……BURURU(……何かあるのか?)』

 

 その先程までと比べると明らかに張り詰めた雰囲気になったミカを見て、俺とミュウちゃんは即座に本気での警戒態勢を取り、それを見たヴォルトも何かを察したのか警戒を強めた。

 ……すると通路の向こう側から何かが近づいて来る足音が聞こえてきた。《魔物索敵》が反応しないからモンスターでは無いし、《殺気感知》や《危険察知》も反応が無いのだが……。

 

「……ハァ……ハァ……ハァ……ッ! ……クソッ! まだ追って来てるか⁉︎」

「わ、分かんないですぅ!」

『うしろにはいないみたいだけど〜』

「……ん? アレってアットじゃ無いか? もう一人は確か同じクランのリゼ・ミルタだったか」

「あの浮遊している妖精さんには見覚えがありますね。……今は()()()()()()()みたいですが」

 

 そう、通路の向こうからやって来たのは俺達にとっても顔見知りば<Wiki編纂部>のメンバー達だったのだ……彼等もこの前のクエストで【許可証】をてに入れているからここにいるのは可笑しくは無いが、しかしどうやら何か焦っているみたいだな。

 ……とりあえず声を掛けてみるか。よく見ると彼等は激しい戦闘をした後の様にボロボロであるり、装備は血塗れになっているので周辺への警戒はそのままでな。

 

「ようアット、そんなに焦ってどうしたんだ?」

「ッ⁉︎ ……なんだレントか、脅かすなよ。……って、そんな事を言ってる場合じゃ無い! “ヤツ”が来る!」

 

 そうアットは焦った声で後ろを向きながら俺にそう言ったので、それに釣られて俺も通路の向こう側を見たが……そちらには暗闇があるだけで何も無かった。

 

「……ッ⁉︎ お兄ちゃん後ろ!!!」

「何っ⁉︎」

 

 ……その直後に発せられたミカからの警告を聞いた俺は反射的に後ろを振り向いた……するとそこには()()()()()()()()()()()()()身長2メートル程の黒いマネキンの様なモンスターが、俺に向けて両手に備え付けられた剣を振り抜こうとしていた所だった。

 

『……』

「ちぃ!!!」

 

 ソイツの速度(AGI)は俺を遥かに上回っているので回避は不可能だと判断した俺に出来た事は、咄嗟に手に持っていた剣をどうにかその斬撃の軌道に割り込ませる事だけであり……その相手の斬撃は掲げた剣を()()()()()俺の首を刈り取る軌道を描いた。

 

「なっ⁉︎」

「レント⁉︎」

『BURUA⁉︎ (レント殿⁉︎)』

 

 ……そんなアットとヴォルトの声が聞こえる中、その黒いマネキンーー【刻傷黒晶 ブラックォーツ】の斬撃は俺の首を薙いだのだった。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:兄のその命運は次回!
・何だかんだ言ってもゲーム好きなので、ダンジョン攻略は満喫している。

《ファイアーウォール》:火属性魔法
・地面から炎の壁を吹きあがらせて接触した相手にダメージを与える魔法。
・名前に“ウォール”と付いているが実態の無い炎なので攻撃を防ぐ様な効果は無いが、火を恐れる生物相手なら目の前に展開して足止めさせる事は出来る。

《オキシジェン・バーン》:【紅蓮術師】の魔法スキル
・火属性魔法の中でも数少ない直接火力以外の攻撃スキルで、大気干渉もしているので習得には風属性の適正も必要。
・ただ、前述の理由で非常に使い難い上、複雑な魔法なので発動に時間が掛かるので不人気な魔法。

ヴォルト:兄妹との連携にも慣れて来た
・とは言え、まだ長年の付き合いで以心伝心とも言える様な三兄妹の連携に混ざるとかは出来ないので、基本的には後方で邪魔にならない様に援護する形。
・ちなみに三兄妹からは“そういう判断が出来る”所を含めて頼れる仲間だと認識されている。

【ナイトブレード・カースペイン】:高性能(ただし呪い)
・《魔物特攻》はこの剣でモンスターに与えるダメージが増加するパッシブスキルで、《ファントムペイン》は剣で与えたダメージによる痛みを増幅するパッシブスキル、《怨讐の闇刃》はHP・MPを消費して刀身に闇属性攻撃・【呪縛】・【呪詛】効果を持つ黒いオーラを纏わせるアクティブスキル。
・武器としての性能は迷宮の同じエリアで手に入る物より頭三つぐらい上だが、これはモンスターハウス内の宝箱にはワンランク上のアイテムが入っている事と、呪われたアイテムはハズレ枠としてダンジョン内配置時のランクが落ちる事が重なったのが原因。

【刻傷黒晶 ブラックォーツ】:逸話級<UBM>
・高レベルの《人間探知》で獲物(人間)を見つけ、同じく高レベルの《気配操作》《消音》と固有スキルによる壁抜け能力で不意打ちを仕掛ける暗殺系徘徊型ボスモンスター。
・最初に感知したのは<墓標迷宮>のデータ取りをしていた<Wiki編集部>パーティーで、六人パーティーだった彼等の内既に四人をデスペナにしている。
・強力な<UBM>だが、これはジャバウォックが『<マスター>が【許可証】を手に入れた事だし、ここらで新しい<UBM>でも迷宮に配置するか』って感じで最近放たれたモンスターだから。
・徘徊範囲は中級者ゾーンとも言える地下16階より下に設定されており、ダンジョンを探索する<マスター>への最初の試練的な目論見で放たれた。

<Wiki編纂部>:パーティーが崩壊したが<UBM>のデータが取れたのは少し嬉しい


読了ありがとうございました。
次回は<UBM>との対決編! 感想・評価・誤字報告とかもお待ちしています。


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VS【刻傷黒晶】

前回のあらすじ:兄「ぐわー、やられたー(棒)」妹「あーお兄ちゃんがやられたー(棒)」末妹「大変ですねー(棒)」ヴォルト(……余裕そうですね)


 □<墓標迷宮>地下18階

 

『……!』

「グッ⁉︎」

 

 ……突如として<墓標迷宮>の壁面から現れてレントの首を刈り取った逸話級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【刻傷黒晶 ブラックォーツ】に対して、その場の者達の対応は大きく二種類に別れた。

 

「なっ⁉︎」

「レント⁉︎」

『BURUA⁉︎ (レント殿⁉︎)』

 

 まずは動けなかったアット、リゼ、ヴォルトの三名……この内アットとリゼの<Wiki編纂部>組は事前の【ブラックォーツ】との交戦で()()()()()()()()()()()と思っていたが故に、ヴォルトはテイムモンスターとしての経験不足が原因となって咄嗟の行動が出来なかったのだ。

 尚、ヴォルトは同種の中でも人間と遜色無いレベルの高い知能を持っているので、もし野生のままであれば『全力で逃亡』という“最適解”を選ぶ事が出来たのだが、テイムモンスターとして信頼を抱きつつあったマスターがやられた事で咄嗟の判断が出来なかった形である。

 ……そしてもう一つは【ブラックォーツ】に対して即座に対応した()()()()()()()()()()()()ウィステリア三兄妹である。

 

「……【ブローチ】が無ければ即死だったぞっと!!!」

『……⁉︎』

 

 自らの命の代わりに砕けた【救命のブローチ】を懐から零しながらも、レントは己の首を刈り終わった【ブラックォーツ】に対してカウンターの蹴りを放って押し出しつつ距離を取った。

 ちなみにこの【救命にブローチ】は以前<墓標迷宮>のボスを倒した際に手に入れた物で、その後レベリングの為に単独で行動する兄に付けておいて欲しいと渡した物だったりする……それから一度も命の危機には合わなかったので装備したままだったのが幸いした形になったのだ。

 ……更に蹴り飛ばされて態勢を崩した【ブラックォーツ】に対し、三兄妹は即座に三方向に散って攻撃範囲を被らせる事無く同時攻撃が出来る位置を取った。

 

「お返しだ! 《クレセント・エッジ》!」

「《波動拳》!」

「《クエイク・インパクト》!」

 

 そしてレントが降った剣から放たれた三日月型の聖属性斬撃波が、ミュウの正拳突きから放たれた衝撃波が、ミカが【ギガース】で地面を叩いた事で生じた地を這う振動波がそれぞれ【ブラックォーツ】に襲い掛かった。

 

『……⁈』

「……ふむ、()()()()()か」

 

 ……だが、聖属性の斬撃波と魔力による衝撃波は【ブラックォーツ】の身体を擦り抜けてしまったのでダメージを与える事は出来ず、唯一地を這う振動波によって態勢を若干崩す事が成功した程度だった。

 ……これは【ブラックォーツ】のスキルの一つである《暗黒晶身(ダークネス・クリスタル)》による物質透過能力によるものであり、これによって武器や魔法による攻撃全てを無効化された事が<Wiki編集部>半壊の原因なのだ。

 

「レント! そいつには武器も魔法も擦り抜けてしまう! 後、攻撃を受けると【治癒阻害】の状態異常を受けるぞ!」

「……ふむ、だが()()()()()()()()()()()()()()? それにその時の感触からして……ミュウちゃん、ミメ、迎撃を頼む」

「了解しました」

 

 それを見たアットは【ブラックォーツ】が警戒して様子見をしている間に自分達が交戦した結果得た情報を簡潔にレント達へと伝え、それを聞いたレントは先程の攻防から得た情報を踏まえて“最適”と思われる指示を出した。

 ……それとほぼ同時に様子見を終えた【ブラックォーツ】が亜音速を超える速度でレント達に向かって来た。

 

『……!』

『《天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》! ……STR2479、AGI8545! 後、多分ENDは低いよコイツ!』

「分かりましたよミメ……では殴り合いましょうか」

 

 だが、その突撃はスキルによって【ブラックォーツ】と同じ速度を得たミュウが割り込んだ事によって止められた……眼前に立ち塞がった相手に【ブラックォーツ】は即座に両腕の刃を振るうが、ミュウは立て続けに放たれるそれらの斬撃を次々と躱していく。

 ……この際に【ブラックォーツ】は《断刻傷深(スティグマ・ブレード)》──MPを消費する事で生物に対する攻撃力を大幅に増加させて、更に負わせた傷に魔法やポーションでの回復がし難くなる【治癒阻害】の呪いを与える効果を自身に付与するスキル──を使っているが、そもそも攻撃が当たらない以上は意味が無い。

 

『……! ……⁉︎』

「……まあ、殴り合う分には問題無さそうですね。《ソニックフィスト》!」

 

 その内【ブラックォーツ】が自分の攻撃が中々当たらない事に焦れて僅かに斬撃が大振りになった隙をミュウは見逃さず、その一閃を紙一重で回避しながら懐に潜り込んで出の早いパンチを胸部に叩き込んで、相手の鉱石の様な身体の一部を砕きながら殴り飛ばした。

 ……それを見たミュウは僅かに下がりながら殴った拳を眺めて、少し思案した後に【ブラックォーツ】の能力に対する自分の考察を述べた。

 

「……アレを殴った際に籠手では無く生身の拳が当たりました。おそらく、あの透過のタネは()()()()()()()()()()()()()()辺りじゃないかと」

「まあ、俺の剣を擦り抜けて首に直接当たっていたからな。闇属性魔法みたいな感じか」

「走ってたし、地面を揺らすのも効いてたから“接地”はしてるっぽいけどね」

 

 そう、彼らの推理通り()()()()()()()()()()()()の<UBM>である【ブラックォーツ】のスキル《暗黒晶身》は『生物以外のあらゆる物質・能力を透過する』という物であり、一部の闇属性エレメンタルが保有する《物質透過》のスキルを魔法やスキル効果にすら適応出来る様に強化した物である。

 更にMPを微量に消費する事で任意の生物以外の対象に接触する事も可能であり、接地程度であれば自然回復で賄える程度のMPしか消費しない事もあって高いAGIを使って走る事も問題無い。

 ……人間が使う“ほぼ”あらゆる武器や魔法・スキルを無効化出来るこのスキルは非常に強力な物であり、高いAGIと《断刻傷深》や奇襲戦術を組み合わせれば、武器や魔法が主軸だったからでもあるが現時点での<マスター>達の中でも高い実力を持つ<Wiki編集部>パーティーを無傷で半壊させられる程である……のだが……。

 

「……まあ、これ以上何か“奥の手”でも無ければ()()()()()()()()()()()()()()()()()。軽く小突いてあれだけのダメージな所やミメの感覚からして、どうもアレはENDが相当低い様ですから」

「これだけ強力な防御スキルがあればENDやHPなんて基本的に無駄だろうからな。……じゃあミュウちゃん任せた」

『……!』

 

 そう言ったミュウはレントと僅かに言葉を交わした後に、再び【ブラックォーツ】に突っ込んで格闘戦を挑みに行った。

 確かに【ブラックォーツ】は強力な<UBM>であり《暗黒晶身》は最高クラスの防御スキルなのだが、それだけのスキルを身に宿すが故に“いくつかのデメリット”を背負ってしまっているのだ……例えば、ステータスの内HPとENDが亜竜級以下ぐらいまで低い事などとか。

 

『……! ……⁉︎ ……⁈』

「確かに貴方は速いですし、攻撃の威力も高いのですが……余りに技術と経験が足りません。師匠や格闘家ギルドのティアン達と比べても劣ります」

 

 そんな事を言いながら、ミュウは当たり前の様に【ブラックォーツ】が立て続けに振るう両腕を回避しながら、スキルすら使わないただの拳による通常攻撃でその身体を徐々に砕いていった。

 この【ブラックォーツ】はスキルとして高レベルの《剣術》《体術》なども保有しているが、【許可証】を手に入れた<マスター>に対応する為に最近<墓標迷宮>に派遣されたので、戦闘経験自体は<Wiki編集部>との戦いを含めても数える事しか無いのだ。

 ……故にスキルによる技術に経験が追い付いていないので攻撃の組み立てや間合いの取り方が甘く、そこをミュウに付け込まれて徐々に追い詰められている状態である。

 

「まあ、技術云々はともかく戦術が未熟なのは事実だよな。……奇襲が失敗した時点で床抜け・壁抜けで逃亡して、再度奇襲を仕掛けた方が良いだろうに」

「……それは分からなくも無いが、妹が一人で戦っているのに随分と余裕だな」

「ミュウちゃんなら問題無いかな。私達が迂闊に攻めると足手まといになりそうだし。……それに相手の逃亡や切り札にも気をつけないといけないしね。ミュウちゃんもそれを警戒してスキルを使わない手数重視で攻めてるからね」

『BURURU……(成る程……)』

 

 そうやって外野が邪魔にならない程度に話している間にも、ミュウは【ブラックォーツ】の攻撃に対応してしまい双剣を掻い潜ってその懐に潜り込んだ……が、突如として【ブラックォーツ】の胸部から()()()()()()()が生えてきて、懐に潜り込んできたミュウを迎撃した。

 ……直前にその攻撃に気付いたミュウは咄嗟にバックステップで距離を取って直撃を避けたが、それでもいくつかのかすり傷を負ってしまう。

 

「チッ! やはり奥の手を隠し持っていましたか!」

『……!!!』

 

 そして距離が開いた所で【ブラックォーツ】は胸部の剣を引っ込めると同時に後退、間合いを広げた所で両腕を高速で伸長させて両手に付いた剣による()()()()()()()()をミュウに繰り出して来たのだ。

 ……これが【ブラックォーツ】の奥の手であるMPを消費して自身の肉体の鉱石をある程度変形させる事が出来る、いくつかの鉱物系エレメンタルが簡易的な肉体修復や環境への適応の為に所有しているスキル《マテリアル・ディフォーム》である。

 

「ッ! 距離を取られましたか!」

『……! ……!!!』

 

 不意打ちの遠隔斬撃をミュウはギリギリで回避し続けるが、いきなり攻め手のパターンが変わった所為か完全には避けきれず肉体にいくつかの切り傷が付いてしまった。

 それをチャンスと見たのか【ブラックォーツ】は腕部の伸縮を更に高速化させてミュウを攻め立てていく……生物による直接攻撃以外が通用しない【ブラックォーツ】にとって“距離を離して戦える”というのは非常に強力であり、それがただの形状変形スキルである《マテリアル・ディフォーム》が“奥の手”となっている所以である。

 

『……! ……! ……!!!』

「……さて、このままだと近づくのは少々面倒ですね……私一人なら」

 

 このまま攻め続けて【治癒阻害】の状態異常で体力を削っていけば勝てると【ブラックォーツ】は考えていたが、ミュウは()()()()勝利を確信しているが故に涼しい顔で淡々と攻撃を捌き続けていた。

 

『ミュウ、受けた攻撃は全部“ストック”出来てるよ』

「……ふむん、こういう奥の手だったか。遠隔攻撃とは予想していたけど、アレならどうにかなるかな」

「アット、少し聞きたいんだがアイツと戦った時に使った魔法で……」

 

 ……自分の“頼りになる味方達”による反撃の準備が整うまでの時間を稼ぐ為に。

 

 

 ◇

 

 

「……いや、()()()()の魔法はヤツには使わなかったな。だが確かにヤツの特性を考えれば……」

「やってみる価値はありますね! 私達も使えますよ!」

『まかせろー。わがはらからのかたきうちだー』

「じゃあアット達は準備しながら俺のが効いた時に追加で頼む」

「……話は終わった? それじゃあ私はミュウちゃんの援護に行ってくるよ」

 

 レントがアット達にした確認が済んだ所で、ミカは攻撃をさばき続けているミュウを助ける為に【ギガース】を構えて【ブラックォーツ】の攻撃範囲内まで高いSTRを使った踏み込みで突っ込んで行った。

 

『……⁉︎ ……!!!』

「ミュウちゃん! 一発だけ防ぐ!」

「了解なのです!」

 

 いきなり突っ込んで来たミカに【ブラックォーツ】は一瞬怯むものの、即座に相手が自身よりも遥かに遅い上に手に持っている武器では自分を傷つけられないと判断して一刀両断するべく腕の一本を伸長させて大上段から斬撃を放った。

 ……だが、持ち前の“直感”で斬撃のタイミングと軌道を先読みしていたミカは、それに被せる様にして同じく大上段から【ギガース】を振り抜いた。

 

「《ハードストライク》!」

『……⁉︎ ……! ⁉︎! ⁉︎』

 

 振り下ろされる刃にドンピシャなタイミングで激突した【ギガース】は、防御系スキルを低下させる《バーリアブレイカー》の効果で《暗黒晶身》を無視して【ブラックォーツ】の片手を粉々に打ち砕いた。

 ……そして、大きなダメージに【ブラックォーツ】が動揺した隙をついてミュウは再度の接近を試みた……のだが、一瞬早く正気を取り戻した【ブラックォーツ】は一旦全力で距離を取って時間を稼ぎつつ、壁か床を擦り抜けて逃げようとしたのだ。

 

「……《魔法射程延長》《魔法威力拡大》《ダークリング》」

『ッ⁉︎』

 

 ……だが、バックステップしようと地面を蹴る直前に黒いリングが【ブラックォーツ】の右足に嵌って、その動きを一瞬だけ止めた……その正体は対象に黒いリングを嵌めて動きを短時間【拘束】する闇属性の下級魔法《ダークリング》であり、それを使ったのは後ろで待機していたレントであった。

 

「やっぱり闇属性は効くみたいだな……アット!」

「分かってる! 《ダークリング》」

「《ダークリング》!」

『《だーくりんぐ》』

 

 それが効いたと見るや否や<Wiki編集部>メンバー達も同じ魔法を行使して【ブラックォーツ】に次々と黒いリングを嵌めていった……そう、スキル《暗黒晶身》は生物にのみ干渉する闇属性の特性を利用している為、『闇属性は同じ闇属性で干渉出来る』という特性が付いてしまっているのだ。

 ……尚、作成時に同じ闇属性の弱点である光属性や聖属性を透過させる事には成功したのだが、スキルに使えるリソースと闇属性エレメンタルである【ブラックォーツ】が《闇属性耐性》を持っていた関係でこの特性は修正せずに放置されていたのである。

 

『……⁉︎ ……! ……!』

 

 しかし、所詮は下級魔法である事と【ブラックォーツ】に備わっている《闇属性耐性》のお陰で数秒【拘束】した程度でリングは砕け散ってしまった……が、それだけの時間があればAGIが亜音速を超えるミュウが接近するには十分な時間だった。

 

『《攻撃纒装(アタック・テスクチャ)》!』

「捉えた《ブラストアッパー》!」

『ッ!?』

 

 接近したミュウは、そのまま【ミメーシス】のスキルで攻撃力を増大させたアッパーで【ブラックォーツ】の顎を打ち抜いて砕きながら空中に打ち上げて逃走を阻止した。

 

『《攻撃纒装》《攻撃纒装》《攻撃纒装》!』

「《スライスハンド》《回し蹴り》《掌底》!」

『ッ! ッ⁉︎ ッ!?』

 

 そして、ミュウが空中にいる【ブラックォーツ】が床や壁を擦り抜けて逃げられない様に、吹き飛びにくいスキルによる連続攻撃を行なっていき、更にミメが先程の攻防で限界までストックした《攻撃纒装》を次々と消費して威力を増大させた。

 ……結果として【ブラックォーツ】は空中に固定されたまま、その肉体を端から砕かれていった。

 

『《攻撃纒装》!!!』

「《真撃》《瓦割り》!」

『ッ!!! ……』

 

 最後に《攻撃纒装》と【武闘家(マーシャル・アーティスト)】の奥義で強化された鉱物特攻の拳を胸部に叩き込まれた【ブラックォーツ】は、それまでの連続攻撃によるダメージが蓄積していた事と胸部にあった弱点のコアが砕かれた事で粉々に砕け散ったのだった。

 

 

 ◇

 

 

【<UBM>【刻傷黒晶 ブラックォーツ】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【ミュウ・ウィステリア】がMVPに選出されました】

【【ミュウ・ウィステリア】にMVP特典【黒晶首巻 ブラックォーツ】を贈与します】

 

「……ふぅ、このアナウンスが出たという事は倒せた様ですね。後、MVPは私ですか」

「まあ、終始ミュウちゃんが戦っていたしな。おめでとう」

「おめー」

 

 そのアナウンスを見て残心を解いたミュウは手元に出てきた特典武具入りの【宝櫃】を手に取りながら眺めていたが、ふと何かに気が付いた様に後ろに居た<Wiki編集部>の方に振り向いた。

 

「そんな訳で特典武具は私が頂く事になりました。……先にそちらが遭遇したのにすみません」

「……え? ああ、いや私達は実質敗北してましたし……」

「今回のMVPに関して文句をつける気は一切無いから。……しかし、俺達があれだけ苦戦した<UBM>をこうもあっさりと討伐するか……正直、驚きを通り越して言葉が出ないな」

「あの【ブラックォーツ】は相性的にミュウちゃんが完全に突き刺さっていたからな」

「私だと防御は突破出来てもAGI差がキツイしね」

 

 そうして彼等は自分達の今後の行動について話し合ったのだが、ミュウが【治癒阻害】付きの傷を負った事と<Wiki編集部>のメンバーがこれ以上の戦闘は無理だと言う事で全員が【エレベータージェム】を使って地上に帰還する事になった。

 

「……ただ、この【エレベータージェム】って発動に少し時間が掛かるから、戦闘からの離脱には使えないんだよな」

「ヴォルト《送還(リ・コール)》っと。……まあ、それが出来ると<墓標迷宮>の難易度が大きく下がるから仕方ないだろう。ログアウトとかと同じだな」

「しかし<墓標迷宮>って<UBM>も出るんだね」

「今度Wikiに乗せて、掲示板にも書き込みましょう」

 

 ……そんな会話を最後に彼等の<墓標迷宮>探索は終わったのだった。




あとがき・各種設定解説

末妹:初特典武具ゲット・詳細はいずれ
・ちなみに《攻撃纒装》の連続使用は前々から<UBM>クラスの相手を想定して練習していた。

《瓦割り》:【武闘家】で覚えたスキル
・鉱物系オブジェクトや鉱物系のモンスターに対して攻撃力を増大させる拳を放つスキル。

《ソニックフィスト》《ブラストアッパー》:拳士のスキル
・それぞれ加速しながら殴るでの早いアクティブスキルと、殴った相手を打ち上げるアッパー攻撃のアクティブスキル。
・尚、末妹はこれらのスキルの特性を全て把握している。

兄:闇属性魔法の特性については以前に魔法ギルドとかで調べていた

《ダークリング》:【魔術師】で覚えられる闇属性下級魔法の一つ
・目視している生物の肉体に黒いリングを嵌めて、その部分だけに【拘束】の状態異常を掛ける魔法。
・リングが嵌った部分の肉体にしか【拘束】の効果は及ばず、効果時間も短くて発動にもやや時間が掛かるが、その分効果の強度は下級魔法としてはそこそこ高い。

妹:今回は要所で活躍
・今回は相手が普通に倒せる範疇だったので“直感”はそこまで機能していない。

<Wiki編集部>:無事帰還
・特典武具こそ手に入らなかったが<墓標迷宮>での<UBM>情報が入手出来たのは大きく、掲示板などで宣伝する事でWikiの<墓標迷宮>項目の閲覧数が増えたらしい。

【刻傷黒晶 ブラックォーツ】:狙った相手が悪かった
・基本格闘か闇属性しか効かず、殆どの防御を擦り抜けて生身を高攻撃力で斬り裂く刃などの各種能力で奇襲性も高く、更に高いAGIと変形で直接戦闘も出来るという逸話級としては強力な部類の<UBM>。
・……だったのだが、格闘特化でステータスも互角に出来る末妹や防御効果を無効に出来る妹相手では優位性が活かせず、弱点である耐久性の脆さを突かれてあっさりやられた。
・最大の敗因は活動時間が少なかった事による経験不足により“侵入者を倒す”という命令に忠実過ぎた為、“相性の悪い相手とぶつかった際にすぐ撤退”という選択を選べなかった事。
・尚、この結果を受けてジャバウォックは『直接戦闘に拘り過ぎて透過能力による奇襲を活かしきれなかったのが問題だったな。……次の透過系<UBM>は直接戦闘ではなく【石化】などの致命的に状態異常と隠密に特化したヤツにするか』とコメントしたとか。


読了ありがとうございました。
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掲示板回:ダンジョンスレと有名人スレ

前回のあらすじ:兄「<墓標迷宮>に<UBM>が!」末妹「倒しました!」妹「でかした!」


 □◾️地球 とある掲示板

 

 

 ◇◇◇

 

 

【レッツ】<Infinite Dendrogram>アルター王国<墓標迷宮>情報スレ3【ダンジョン】

1:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/4(火)

このスレはアルター王国にある神造ダンジョン<墓標迷宮>に関する情報を書き込むスレです

ダンジョン内でのモンスターの目撃情報・獲得アイテム・ダンジョンの内部構造・質問などご自由に

荒らしはスルー推奨

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

36:名無しの冒険家[sage]:2043/8/4(火)

Wikiで見た迷宮内のモンスター分布は地下5階までがアンデッド

地下10階までは植物系エレメンタル

地下15階まではゴブリンという感じか

 

 

37:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/4(火)

リアル視点だとアンデッドがキツくて【許可証】手に入れたけどあんまり潜ってないんだよな

匂いとかも酷いし

 

 

38:名無しの編纂部[sage]:2043/8/4(火)

>>36

ウチのクランメンバーが潜った範囲ではそんな感じ

ティアンの資料ならそれより下の階層のデータもあるんだけど

編集部的には自分達で調べた情報を載せたい……!

 

 

39:名無しの冒険家[sage]:2043/8/4(火)

情報待ってるよ頑張れ編集部(言うだけ)

 

 

40:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/4(火)

>>37

リアル視点とかマゾか?

それだと普通のモンスター相手でもキツイし普通はアニメか3Dだろ

 

 

41:名無しの騎士[sage]:2043/8/4(火)

いや、リアル視点の方が現実と同じな分動きやすいぞ

アニメや3Dだと間合いとか測れないだろう

 

 

42:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/4(火)

その辺りは個人の自由だから余り騒ぐなよ

それにここはダンジョンスレなんだからそう言った話は別スレでな

 

 

43:名無しの冒険家[sage]:2043/8/4(火)

しかし中々いい感じのネタが上がらないな

<マスター>が地下15階以降に潜れたって報告も無いし

 

 

44:名無しの騎士[sage]:2043/8/4(火)

<マスター>のレベルがまだ低い上に【許可証】もまだ余り出回ってないからな

俺はクエストで手に入れたが十万リルはやっぱり高いんだろう

 

 

45:名無しの編纂部[sage]:2043/8/4(火)

後は単純にレベルと経験が足りないんだよな

ウチのクランの連中もダンジョンの攻略には特化したジョブとかが必要だって言ってたし

モンスター相手でも連戦になるならもう少しレベルが上がらないとキツイみたい

 

 

46:名無しの付与術師[sage]:2043/8/4(火)

そんな貴方達に朗報だよ!

私達Wiki編集部パーティーは本日迷宮内で<UBM>に遭遇したぜ!

 

 

47:名無しの編纂部[sage]:2043/8/4(火)

>>46

ま、まさか貴女は⁉︎

 

 

48:名無しの冒険家[sage]:2043/8/4(火)

知っているのか編集部⁉︎

 

 

49:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/4(火)

え? 墓標迷宮ってUBM出んの?

 

 

50:名無しの編纂部[sage]:2043/8/4(火)

>>48

ああ、彼女こそ編集部の掲示板書き込み担当の一人である妖精使い(仮)さんだ!!!

確か今日は墓標迷宮に潜っていた筈なのになぜここに⁉︎

逃げたのか⁉︎ 自力で脱出を⁉︎

 

 

51:名無しの付与術師[sage]:2043/8/4(火)

>>50(無言の腹パン)

単に<UBM>に遭遇してパーティーが半壊したから迷宮を脱出しただけだよ

遭遇した<UBM>の詳しい情報はコッチね→http://〇〇〇〇/〇〇

 

 

52:名無しの騎士[sage]:2043/8/4(火)

オッケー、早速見てくる

 

 

53:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/4(火)

流石は編集部、情報あげるのが早いね

俺でなければ見逃しちゃうね

 

 

54:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/4(火)

掲示板見ながら別ブラウザで…ふむふむ、ブラックォーツね

…壁抜けに生物の接触以外はすり抜けって強くね?

AGIが8000超えてるってあるけど

 

 

55:名無しの冒険家[sage]:2043/8/4(火)

でもこれだけ情報が分かっていれば討伐も出来そうだな

攻撃も強力なガードナーか格闘系ジョブ持ちを使えば何とかなりそう

上手くいけば特典武具も……

 

 

56:名無しの騎士[sage]:2043/8/4(火)

……いや、もう討伐済みって書かれてるぞ

 

 

57:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/4(火)

>>56

あ、ホントだ

まあ、これだけ情報が分かってるって事は長く戦ったんだろうし倒しても不思議じゃないか

編集部の妖精使いさんも普通に脱出出来てるって言ってたしね

 

 

58:名無しの冒険家[sage]:2043/8/4(火)

あら残念……ところで特典武具はどんな感じだったんだ?

世界で一つだけのアイテムとか私気になります!

 

 

59:名無しの編纂部[sage]:2043/8/4(火)

>>58

ウチはそういった個人情報は扱ってないから教えられんぞ

特に特典武具とかクランとしても切り札になるし迂闊には話せん

 

 

60:名無しの付与術師[sage]:2043/8/4(火)

>>59

ああ言い忘れてたけど、そもそも倒したのは編集部じゃないですよ

私達パーティーが半壊した後に生き残りが逃亡した時にそこで別のマスターのパーティーがいたんです

そして彼等が追ってきたUBMと交戦して撃破した感じです

なので特典武具は編集部が手に入れた訳じゃないです

 

 

61:名無しの編纂部[sage]:2043/8/4(火)

え? そうだったのか?

 

 

62:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/4(火)

……でも、それって実質UBMのトレインでは? ボブは訝しんだ

 

 

63:名無しの騎士[sage]:2043/8/4(火)

あー、編集部の人も悪気は無かったとはいえね

その人達がUBM倒せるだけの実力があったから問題無かったけど

 

 

64:名無しの冒険家[sage]:2043/8/4(火)

>>62

別に特典武具を手に入れられたんだから良いのでは?

 

 

65:名無しの編纂部[sage]:2043/8/4(火)

編集部パーティーがトレインしたとかの噂が立つとネームバリューに支障が出るからやめてほしい(必死)

妖精使いさん達もワザとじゃなかったんだし…

 

 

66:名無しの付与術師[sage]:2043/8/4(火)

>>62

ま、まあ、その辺りは後日御礼をするつもりですよ

それにそのパーティーにはウチのオーナーのフレが居たので特に揉める事も無かったです

 

 

67:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/4(火)

揉め事が無かったなら何より

例え意図しないものでもトレインしたらちゃんと謝っておくべきだよね

……トレインしてそのまま逃げるヤツは許さん(怒)

 

 

68:名無しの騎士[sage]:2043/8/4(火)

……何かトレイン関係で嫌な事でもあったのか?

 

 

69:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/4(火)

>>68

まあ、以前フィールドでモンスターを押し付けられてデスペナった事があってちょっとな

加えてそいつら謝りもせずにドロップアイテム寄越せとかほざきやがったんでな

つい一人残らずPKしてしまったよ

 

 

70:名無しの騎士[sage]:2043/8/4(火)

ア、ハイ、ゴシュウショウサマデス……

 

 

71:名無しの編纂部[sage]:2043/8/4(火)

みんなもマナーには気を付けようね!

 

 

72:名無しの付与術師[sage]:2043/8/4(火)

助けてもらったらちゃんと御礼ぐらいは言っておくべきですよね

これからは墓標迷宮に潜る人も増えるでしょうしマナーを守って楽しくダンジョン!

 

 

73:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/4(火)

無理矢理話を墓標迷宮ネタに戻した感が凄いな

まあ、ここは墓標迷宮スレなんだからこれが普通なんだが

 

 

74:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/4(火)

>>72

迷宮スレで愚痴ってしまってすまぬ

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

【有名人】<Infinite Dendrogram>有名<マスター>情報スレ【いらっしゃい】

1:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

このスレは<Infinite Dendrogram>内の有名<マスター>の情報を書き込むスレです

目撃した有名っぽい<マスター>の紹介・偉業・珍行動などを書き込みましょう

ただしネットリテラシー的にアウトな書き込みは厳禁・自重しましょう

荒らしはスルー推奨

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

12:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

なんか新しいスレが出来てた

有名ティアンスレは見た事あるけど

 

 

13:>>1[sage]:2043/8/5(水)

その有名ティアンスレで目立ち始めたマスターの話題が出たからそれ用に作ったスレだよ

書き込みは向こうと同じ様に目撃した凄いマスターの事を書き込む感じで

 

 

14:名無しの騎士[sage]:2043/8/5(水)

デンドロが始まって結構経ったから目立つヤツも増えて来たからな

俺もアルター王国の王都で熊の着ぐるみ着た(おそらく)マスターを見かけたし

なんか子供に飴ちゃん渡して仲良くなってた

 

 

15:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

着ぐるみとか着るヤツなんて<マスター>しかいないからね

アレ装備枠アクセ以外全部使う割に性能はクソ低いからな

そもそもイベント用とかで戦闘用着ぐるみなんてキワモノなんて早々無いからしょうがないけど

 

 

16:名無しの裁縫師[sage]:2043/8/5(水)

>>14

アレ? 私も王都で着ぐるみの人を見かけたけどその人が来てたのは犬っぽいヤツだったよ

なんか子供達に纏わり付かれて小山みたいになってた

別人かな?

 

 

17:名無しの>>1[sage]:2043/8/5(水)

>>14>>16

そうそう、こんな感じで良いんだよ…じゃあ私も子供関連で一つ話をしようか

レジェンダリアの首都で覆面を被った全身タイツの男マスターが孤児院で子供達と戯れていました

 

 

18:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

子供関連のほのぼのとした話題がいきなり犯罪っぽくなったたんだが

これだからレジェンダリアは

 

 

19:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

もしもしポリスメン?

 

 

20:名無しの>>1[sage]:2043/8/5(水)

ちなみにその覆面さんは孤児院への出資やボランティアとかをしているらしいよ

ちょっと話してみたけど外見と性癖と言動と行動以外はまともな人だったね

 

 

21:名無しの裁縫師[sage]:2043/8/5(水)

なんだ、それなら安心……なのかな?

 

 

22:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

いや、外見と性癖と言動と行動がおかしい時点でアウトだろう

まともな部分が残ってないじゃないか

 

 

23:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

>>22内面とかかな?

何というか有名マスターっつっても可笑しな外見や奇行をしてるヤツばっかだな

もっとこう高い戦闘能力で有名なヤツとかは居ないのかね

 

 

24:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

デンドロが始まってリアルではまだ一カ月も経ってないからな

正直殆どのマスターがドングリの背比べレベルの差しかないだろ

 

 

25:名無しの騎士[sage]:2043/8/5(水)

>>23

王国のフィールドで戦車乗り回してモンスターを殲滅してるヤツとかいたな

危なそうだから近づかなかったけど王国に戦車なんて無いしアレはエンブリオだろう

 

 

26:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

皇国でなら戦車は珍しくないんだがな

まあ、エンブリオだとその国の世界観に合わないのは珍しくないが

 

 

27:名無しの>>1[sage]:2043/8/5(水)

>>24

やっぱり今の時期だと目立つマスターは外見がおかしいか奇行に走るヤツばっかかな

例えば人外アバターの人達とか

レジェンダリアでもケンタウロスとかハーピー的なアバターの人が居たけど超動きにくそうだったし

 

 

28:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

<マスター>のアバターの外見を変更しても性能には関係ありません(公式設定)

人型から離れすぎたアバターにすると動作に支障が出る場合があります(管理AI)

 

 

29:名無しの武士[sage]:2043/8/5(水)

そう言う無茶なアバターってやっぱりそこそこ居るんだな

俺は猫耳付けたマスター見た事あるぐらいかな

 

 

30:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

デンドロ始めたばかりの頃に動きずらそうにしてたヤマアラシを見たけど

アレも面白アバター勢なのかな

 

 

31:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

戦闘で目立つマスターの話題は無いのかね

例えば<UBM>を倒したとか決闘で活躍したとか

 

 

32:名無しの武士[sage]:2043/8/5(水)

天地では戦闘面で目立つマスターはあんまり見ないかな

決闘も野試合も上位ティアンが強すぎて挑みにいったマスターが片端から散ってるから霞む

 

 

33:名無しの>>1[sage]:2043/8/5(水)

天地って噂通りの修羅の国みたいだね

レジェンダリアは奇行が目立つマスターが多くて戦闘面が際立つのは見ないかな

 

 

34:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

>>32

俺も天地出身だけど凄腕ティアンに勝ちを拾える極一部は噂になり始めてるぜ

……俺? 散った側ですが何か?

 

 

35:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

ドライフでもあんまり目立つヤツは見ないかなぁ

というかマスターはどいつもこいつもエンブリオを使って変な戦い方をするからな

 

 

36:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

多少変な戦い方をしても埋もれてしまって逆に目立たない感じか

 

 

37:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

やっぱり<UBM>を倒したヤツとかなら目立つかな

アルター王国のWikiには討伐済み<UBM>は載ってたし討伐者も載らないかな

 

 

38:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

というか討伐済みとはいえ<UBM>の情報載ってるのアルターだけじゃん

他の国の編集部はちゃんとやってんの?

 

 

39:名無しの編纂部[sage]:2043/8/5(水)

>>37

ウチは個人情報は載せない主義だからな…詳しくはWikiの注意事項を見てくれ

 

後、こんな短期間に<UBM>に三体も遭遇してるアルター王国支部が可笑しいんだよ!

他の支部は未だにその国の一般常識とかを纏めている所だぞ!

 

 

40:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

俺も<UBM>なんて見た事無くて噂しか聞かないしな

遭遇したヤツに話を聞いても返り討ちにされたとしか言わないし

 

 

41:名無しの騎士[sage]:2043/8/5(水)

俺はWikiに載ってる【ヴァルシオン】ってUBMと遭遇した事があるけどめちゃくちゃ強かったしな

勝手に戦いを挑んだマスター数人が一撃で消し飛んだし

最終的には援軍に来たマスター・ティアン総掛かりでどうにか倒したけどアレをソロで倒すとかは無理だな

 

 

42:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

それで誰がMVP取ったの?

 

 

43:名無しの騎士[sage]:2043/8/5(水)

超大威力の火属性魔法で【ヴァルシオン】にトドメを刺した人

……最も、その後に援軍に来た超級職ティアンの無双っぷりの方が目立ってたけど

 

 

44:名無しの武士[sage]:2043/8/5(水)

超級職ティアンは桁違いだからね(天地感)

エンブリオがある程度じゃどうしようもない

 

 

45:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

>>43

成る程、つまりUBM戦に割り込んでトドメを刺せば特典武具ゲットもワンチャン?

……みたいな事を考えるヤツも出そう

 

 

46:名無しの>>1[sage]:2043/8/5(水)

そう言うヤツはこのスレに晒して悪い意味で有名にしちゃおう!

 

 

47:名無しの編纂部[sage]:2043/8/5(水)

後、アルター支部にはUBMを倒す事に特化した秘密の特殊部隊がいるという噂がある

……そうでも無ければあんなにUBMの情報が集まる訳が無い! (断言)

 

 

48:名無しの裁縫師[sage]:2043/8/5(水)

……編纂部って支部同士の仲は悪いのかな?

 

 

49:名無しの>>1[sage]:2043/8/5(水)

閲覧数とかを競い合ってるとかは聞いた事があるよ

 

 

50:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/5(水)

広告料とかに直結するからな

 

 

51:名無しの編纂部[sage]:2043/8/5(水)

アルター王国支部には負けん!

 




あとがき・各種設定解説

<墓標迷宮>スレ:他に普通のダンジョンスレとかもある
・<墓標迷宮>の様な神造ダンジョンや難易度の高い自然ダンジョンには今後随時専用スレが作られる事になる。
・今回の様な情報の書き込みの他にも、手に入れたレアアイテムのスクショとかダンジョン内でデスペナった時の愚痴とかが書き込まれたり。

有名マスタースレ:最近になって有名人スレから分岐
・尚、某子供山さんは街中でお菓子を上げている姿とフィールドで戦車を乗り回している姿のイメージが合致しないので、長い間同一人物とは知られなかった。
・ちなみに某悪いスライムが現れてからは有名犯罪者マスタースレも立ち上がった(本人も偶に書き込んでる)


読了ありがとうございました。
あけましておめでとうございます。今年もボチボチ話を書いていこうと思いますのでよろしくお願いします。
次回からは“決闘都市ギデオン”編をやっていく事になりますのでお楽しみに。


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第4章 決闘都市へ
1日遅れのリザルト


それでは第4章『決闘都市編』の開幕です……やっとここまで来てな……。

※従属キャパシティについて感想で指摘があったので本文の一部を修正。


 □<イースター平原> 【獣戦士(ジャガーマン)】レント・ウィステリア

 

 無事<墓標迷宮>から帰還して疲れもあったのでそのままログアウトして一晩が経った翌日、俺達は()()()()()の為に王都東の<イースター平原>の端の方へとやって来ていた。

 ……一応、俺達にとって切り札となる情報なので秘匿しておきたいので、とりあえず人目につく街中を避けてフィールドの人気の無い所に来た感じである。

 

「……《魔物索敵》《対人索敵》共に反応無しっと」

「じゃあ大丈夫そうだね。……じゃあまずはミュウちゃんが手に入れた特典武具の紹介からかな」

「はいはいなのです。……私が先日手に入れた逸話級特典武具【黒晶首巻 ブラックォーツ】のステはこんな感じですね」

 

 そうしてミュウちゃんがアイテムボックスから取り出したのは、まるで水晶の様な光沢を持った黒いスカーフだった……そして見せて来たステータスはこんな感じだった。

 

【黒晶首巻 ブラックォーツ】

逸話級武具(エピソードアームズ)

 非生物を透過する呪いの刃を振るう黒晶の概念を具現化した逸品。

 装着者に闇と呪いへの耐性を与えると共に、僅かな間だけ命無き攻撃を透過する。

 ※譲渡・売却不可アイテム

 ※装備レベル制限なし

 

・装備補正

 MP+30%

 闇属性耐性+100%

 呪怨系状態異常耐性+50%

 防御力+10

 

・装備スキル

《人間探知》

暗黒転身(ダークネス・シフト)

 

「……まず装備枠は外套部分で、スキルはMPを消費して周囲にいる人間範疇生物の位置を把握出来る《人間探知》と、10秒間だけ自身への生物及び闇属性以外の攻撃を透過する《暗黒転身》といった所です。後《暗黒転身》は無消費発動ですがクールタイムが10分あるので連発は出来ないですね」

『ステータス補正的にはMP+30%が嬉しいね。これで少しは僕のスキルも使い易くなりそう』

 

 そんな事を言っているミュウちゃんと融合している(フィールドなので念の為)ミメは嬉しそうに【ブラックォーツ】を装備して首に巻いていた。

 ……さて、実は態々こんな所に来たのはもう一つ理由があるのだ。

 

「……さあ、次はいよいよ俺の特典武具【ヴァルシオン】の第2スキル《刃技才集》によるスキルガチャの時間だぜ! デンドロ時間で1ヶ月間貯めて来た経験値が火を噴くぞ!」

「イエーイ! ……正直言って私は忘れてたけどね!」

「どんなスキルが出るのか楽しみですね!」

 

 ……うん、ぶっちゃけ俺もこのスキルの事はちょっと忘れてた。実はこの《刃技才集》って昨日には既に使える状態だったし、俺のテンションが妙に高いのもそれを誤魔化す為だからな(妹達が誤魔化されるとは言っていない)

 ……ま、まあ! あの時は疲れてたからさっさと休みたいと思ってたからしょうがないよね! それに初めて使う特典武具のスキルがどんな風に発動するのかとか分からないから街中で使う訳にも行かないし、だからこそ態々フィールドまで来たんだからな。

 

「まあ、とにかくスキルを使ってみよう……《刃技才集》起動」

 

 俺は自分のキャラじゃない変なテンションをさっさと辞めて、サクッと首から下げられた【ヴァルシオン)を手に取って《刃技才集》を使用した……するとその【ヴァルシオン】から淡い様々な色の光の粒子が溢れ出して、俺の身体を取り巻きながら徐々に包み込んで行った。

 ……思ったよりも演出が派手だなぁ。もっとただサクッとスキルが追加されるだけだと思ったのに、これは人気の無い屋外に来たのは正解だったな。もし街中でコレやったら目立ち過ぎる。

 

「虹演出来た! これはSSRか星5確定だね! (ソシャゲ感)」

「おお、なんか綺麗ですね。……しかしこの虹色の粒子、モンスター倒した時とかに身体に流れ込んでくるエネルギーと“感じ”が似てますね」

 

 なんか妹達が好き勝手言っているのを他所に、俺の身体を取り巻く光の粒子は徐々にその量を増やしながら全体で見るとまるでオーロラの様に次々と色を変えていった。

 ……そしてしばらくしたら粒子の色が『透き通った黒色』に変わった所で、周りを取り巻いていた粒子が次々と俺の肉体に吸収されていった。

 

「……ふむ、粒子? は全部身体に吸収されたみたいだし、スキルの説明を見たら『クールタイム30日』って書かれていたからこれで終わりみたいだな」

「それでお兄ちゃん、肝心のスキルは?」

「ちょっと待て……えーっと、ステータス欄にジョブで習得したもの以外のスキルがあったな。名前は《黒晶刃》Lv1か」

「もろに【ブラックォーツ】からのヤツですねソレ」

 

 スキルの説明文には『MPを消費して肉体から物体を透過する闇属性の刃を展開・変形する魔法』って書かれているけど、取り敢えず使ってみて効果を確かめて行くしかないか……えーと、じゃあ右掌から生やす感じで……。

 

「……《黒晶刃》ってなんか生えて来たな」

「黒い水晶の刃って感じ? まあ予想通りだけど」

「やっぱりあの【ブラックォーツ】のスキルですね。質感とかがそっくりです」

 

 そうやってスキルを使用したら右掌から長さ50センチメートルぐらいの黒い刃が生えてきた……妹達が言う通り外見や質感はあの【ブラックォーツ】の身体にそっくりなので、そこからラーニングしたものだと分かるな。

 ……この《黒晶刃》はミュウちゃんが触れるので生物には干渉するみたいだが、試しに剣を触れさせてみると擦り抜けたのでやっぱり物体透過能力を持ってるみたいだな。

 後、説明文に“変形”と書かれていたから試しに『曲がれ!』と念じてみるとMPが微量消費されて刃が曲がってフック状になったり、そんな感じでしばらく刃をグネグネさせていると30秒ぐらいで効果が切れたのか消滅した。

 

「……ふむ、消費MPは変形分含めても少なめで発動までの時間は非常に早いが、その分効果時間は短くクールタイムも長めな魔法といった感じか。攻撃力や実際の使い勝手は戦闘で使ってみないと分からないがな」

「じゃあその辺りのモンスターで試し切りしてみたら? せっかくフィールドにるんだし」

「そうですね。私も特典武具のスキルを試したいので」

「そうだな。……ついでに新しく就いた【獣戦士】の《獣心憑依》とやらも試してみるか。《召喚(コール)》ヴォルト」

『BURURU(お任せを、狩りですね)』

 

 妹二人の提案に対して、俺も新ジョブのスキル効果を試したい事もあってヴォルトを召喚した……この《獣心憑依》は従属キャパシティ内のモンスター一体のステータスの何割かを自身に加算する強力なジョブスキルなのだが、肝心の【獣戦士】のキャパシティが低すぎて強力なモンスターを使役する為にはジョブ枠全てを直接戦闘向きではないテイマー系ジョブで埋めねばならない事から産廃扱いされていたモノである。

 ……まあ俺の場合は合計レベル3000分のジョブの内いくつかをテイマー系ジョブにしても一向に問題は無いしな。現在でも【従魔師】【騎士】【聖騎士】のお陰で()()ヴォルト一頭ぐらいなら問題無くキャパ内に収められるし。

 

「それで新しいジョブの使い心地はどうかな、お兄ちゃん」

「今の所スキルレベルが1の10%強化だからステの上昇数値は僅かだが、これが【獣戦鬼(ビーストオーガ)】になってレベル10の60%強化になるかヴォルトが進化すれば、常時使いの強化スキルとしては破格の強化数値になるだろうな」

「……まあ、兄様みたいに大量のジョブに就けないと従属キャパシティが足りず強力なモンスターを使役出来ないので人気が無いそうですが」

「必要な従属キャパシティがゼロのガードナー系統<エンブリオ>と組み合わせるとかすれば流行りそうだけどな。……融合型のミュウちゃんとミメには相性悪そうだが」

『それはちょっと残念だね』

 

 ……そんな会話をしながら俺達は手に入れた新しい力を試す為にフィールドを進んでいった。

 

 

 ◇

 

 

 そうして歩きながら襲い掛かって来たフィールドのモンスターを《黒晶刃》で辻切り()していったお陰で、このスキルの有効な使い方も大分わかって来た。

 まず攻撃力に関しては消費MPに比してかなり高く、そこら辺の下級モンスターなら耐性でも無い限りは撫で斬りに出来た。また自分の肉体のどんな場所にも生やす事が出来る上、変形の応用でオリジナルの【ブラックォーツ】みたいに鞭っぽく中距離攻撃してみたり、変形の際に切り離して投剣みたいに投げるとかも可能(流石に切り離すと変形は不可)

 後、オリジナルと違って生物や闇属性以外にも光属性・聖属性なども透過不可能……というかそれらに当たったら砕けたので、流石にこの辺りはオリジナルと違って普通の闇属性魔法と同じ判定という事だろう。

 

『HIHIEEEENN! (《サンダーバースト》!』

「よっしゃ、電撃で動きが止まったな《黒晶刃》《ドラゴン斬り》!」

『GYAAAAAA!?』

 

 そして今は喧嘩を売って来た【メイル・デミドラゴン】数体相手にしてヴォルトと共に試し斬りの最中である……こいつらはドロップアイテムの遺骸を取り込んで外骨格を生成する防御型の地竜なんだが、まずヴォルトが電撃を外骨格に通電させる事で動きを封じて、その隙に俺が物体を透過出来る《黒晶刃》で本体を切り裂いて始末した。

 ……まあ基本的に『ただ闇属性の刃を生やしたり動かしたりするだけの魔法』なので、自力で振ったり変形させたりして動かさないと攻撃力は発生しないので近接用の奇襲スキル的な使い方になるだろうか。そこは剣技系のジョブスキルを使ったりも出来るメリットにもなってはいるが。

 

「鎧があるならそれごと砕く! 《インパクト・スマッシャー》!」

『GAAAAAA⁉︎』

「とりあえず内部攻撃ですかね《発勁》……ああ、鎧をパージして早くなりましたか……ではAGIを同じにして殴ります《正拳突き》」

『GA、GYAAAAAA!!!』

 

 そんで向こうではミカが《インパクト・スマッシャー》──【剛戦棍士(ストロング・メイスマン)】の奥義で攻撃した装備の強度を自身のSTR×スキルレベル×10%下げた上で衝撃波を発生させて装備と装備者を破壊するスキル──で【メイル・デミドラゴン】の外骨格ごと本体を砕いていた。

 また別の所ではミュウちゃんに《発勁》で外骨格を無視してダメージを与えられるのに嫌がった個体が《外殻剥離(パージ)》で外骨格を周囲に飛ばしつつ防御力と引き換えにAGIを大幅に上昇させたが、その外骨格の散弾は全てあっさりと回避されるか弾き飛ばされた上で【ミメーシス】のスキルで追い付かれた彼女の拳で打ち倒された。

 ……うむ、各々で亜竜級を倒せる程度には俺達もデンドロでの戦闘にだいぶ慣れて来たな。

 

「……よっし終了! 何時もの通りお兄ちゃんのスキルがオンになってるのでドロップアイテムは無しです!」

「まあ、昨日の<墓標迷宮>でそれなりに稼いだから問題は無いだろう。……スキルの確認も大体終わったしそろそろ王都に戻るか」

 

 そうして突如現れた【メイル・デミドラゴン】の群れを排除した所で俺達は王都に戻る事にした……主な理由はミカとミュウちゃんのメインジョブがさっきの戦闘でカンストしたからでもあるが。

 

「さて、次のジョブはどうしましょうか。……無難な所で【蹴士(キックマン)】とかですかね。それとも魔拳士系統の上級職でも狙ってみましょうか。……姉様はどうしますか?」

「……うーん、どうしようかな。【戦棍士(メイスマン)】のもう一つの上級職の【戦棍鬼(メイス・オーガ)】はまだ転職条件を満たしてないしね。……あのジョブ転職条件に『メイスによる()()()()()()の一定数討伐』ってのがあるから。それ以外は満たせているんだけど」

 

 そんな感じで二人は次のジョブに悩んでいる様だった……まあ就くジョブに悩むのはデンドロの楽しみの一つだからな。こうやってゲームのキャラの育成計画を建てている時が一番楽しいっていうのもあると思う。

 ……尚、俺の場合は就いただけでレベルを上げていない下級職が沢山あるから、まずはそれらのレベルを上げるとこからかなぁ……。

 

『BURURU。BURURURU、BURURU(私もレベルが上がりましたよ。体感ですが亜竜級に進化する時期も近いと思います)』

「そうか、進化も近いか。……じゃあ騎乗戦闘の練習とかもやった方がいいか」

 

 確かモンスターの進化の方向性は保有するスキルや技術によって決まると聞いたし、騎乗の練習をすればそっち方面のスキルを覚える方向に進化出来るかも。

 ……ちなみに俺は《魔物言語》のスキルレベルが上がったので、ある程度ならヴォルトが話している事を理解出来る様になっている。意思疎通を積極的に行ってスキルレベルを上げた甲斐はあったな。

 

「とりあえず騎兵系統のジョブ……いや、まずはモンスターのスキルを強化・操作出来るジョブの【調教師(トレーナー)】とかの方がいいか? 従属キャパシティも追加で必要だし」

『BURURURU(その辺りはお任せしますよ)』

 

 本当に何度思ったか分からないがレベル上げをしなくてはならないジョブが多過ぎて困る……そんな事を考えていると、向こうで話していたミカとミュウちゃんがこちらに来て話しかけてきた。

 

「お兄ちゃん、やっぱりギデオンに行くべきだよ! ……真っ当に対人の討伐数を稼ぐなら決闘が一番手っ取り早いしね。PKとかしたくないし」

「格闘系ジョブも対人戦の戦歴が転職条件に関わる事が多いので、私も決闘が出来るギデオンには一度行っておきたいです」

「……まあ、そこまで言うならいい加減ギデオンに行くか。ヴォルトとの連携やらレベル上げや資金稼ぎが理由で延び延びになっていたしな」

 

 ここまで予定が伸びたのは、新しく仲間になったヴォルトがどのくらい使()()()のかを見るのが最も大きい理由だったからな……それも先日<墓標迷宮>で“十分信頼出来る”と分かったし、後は貯めた資金で馬車とかの必要な物資を買えばすぐにでも出発出来るからな。

 ……ま、この辺りは身軽な<マスター>だからこそだがな……ただ……。

 

「デンドロの方の準備は直ぐに終わるから問題は無いんだが……お前達、あっち(リアル)側の準備は大丈夫なのか? 夏休みの宿題とか」

「「ギクッ!」」

「まあ、デンドロに入り浸っている時点で予測はしていたがそっちも疎かにはするなよ。……というか、小学校の夏休みの宿題ぐらい7月中に大半は終わらせておけよ。俺は大学の課題は終わらせたぞ」

「……偏差値70代がデフォなお兄ちゃんを基準にされても……」

「……小学校の宿題って量だけは多いんですもん……」

 

 そんな事を話しながら俺達は王都に帰って来たのだった……デンドロ(ゲーム)が面白いのは認めるがリアル側の事もちゃんとやっておかないとな。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:この後兄が準備している横で妹達は頑張って宿題した
・また、ヴォルトは『この三人なら自分主人や仲間として見ても問題ない』と言える程度には三兄妹の事を信頼出来る様になっている。

【黒晶首巻 ブラックォーツ】:特典武具としてはサポート系
・《人間探知》は人間範疇生物の位置情報と反応の大小による大まかな強さぐらいしか分からないが、その分消費MPに比して効果範囲が広く隠蔽も余程のものでなければ見破る。
・《暗黒転身》はあくまで“自分への生物及び闇属性以外の攻撃”だけを透過するので壁や床や相手の防具とかは擦り抜けない他、自分が行なった攻撃が擦り抜ける事とかも無い。
・尚、こんなスペックになったのは物理ステータス上昇は《天威》があるから無駄、【治癒阻害】の呪いは《転位》を使うと自分にも掛かる、《気配操作》《消音》は素で出来るという末妹の能力にアジャストされた形。

《黒晶刃》:スキルガチャの中では当たりの部類
・ちなみに闇属性魔法ではあるが刃による斬撃自体は単なる物理攻撃なので、生身のENDやダメージ軽減スキルなどには阻まれる。
・ラーニングスキルだからかスキルレベルの上昇はやや遅いが、ジョブレベルや他のスキルには影響は無い。
・ラーニング時の光の粒子は溜め込んだリソースを身体にスキルとして反映させる時にああなっているだけでありレアなスキルなら虹演出とかでは無い。

《ドラゴン斬り》:【騎士】のスキル
・文字通りドラゴン系に高い威力のある斬撃を放つ【騎士】をカンストさせてドラゴンの討伐経験がある事で覚えるスキル。

《インパクト・スマッシャー》:【剛戦棍士】の奥義
・装備強度減少と衝撃波で装備を破壊して、更にその衝撃波で生身にもダメージを与える感じの強力なスキル。
・だが、その特性上対人向きでありSP消費も大きいので妹は今まで使わなかった。


読了ありがとうございました。
ちなみに《黒晶刃》のモデルは『ワールドトリガー』という漫画に登場する『スコーピオン』という武器(トリガー)……尚、この作品には漫画やラノベの設定をパクrもといオマージュした武器・スキル・魔法とかの名前や設定が時折登場しますのでご了承下さい。“他作品ネタあり”のタグも付けてるので。


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そうだ、ギデオン行こう!

前回のあらすじ:末妹「特典の確認終わりました。これでいつでも旅立てます」兄「その前に宿題な」妹「えー!」


 □王都アルテア 【壊屋(クラッシャー)】ミカ・ウィステリア

 

 私とミュウちゃんが夏休みの宿題を終わらせる為に自室で缶詰になる事リアル時間で三日ぐらい、どうにか日記とかの毎日やらなければならない宿題以外を終わらせる事が出来た……まあ、小学校の宿題なんて量が多いだけだし元々少しずつはやってたからね。私達もお兄ちゃんと比べなければ頭は普通に良い方だし。

 ……尚、私達が宿題に掛り切りになってる間お兄ちゃんは自室で悠々とベッドに寝ながらデンドロしてましたとさ。まあ私達のリルを渡してギデオン行きの準備をさせていたから文句は無いんだけど。

 

「そんでお兄ちゃん、準備の方はどんな感じ?」

「まず少し値段は高く付いたが《重量軽減》と《悪路走破》とかのスキルが付いた小型の馬車を買ったぞ。ヴォルト一頭で三人を引っ張るならそう言ったスキルがあった方が良いからな。それと【快癒万能薬(エリクシル)】をどうにか一本だけ入手出来たぞ。馬車より高かったが。後【救命のブローチ】は五百万リル以上したから買わなかったが【身代わり竜鱗】は人数分手に入れたし、それ以外の各種消耗品やそれを入れる為の小型高性能アイテムボックスも買っておいた。そろそろ初期のヤツじゃ使い難くなって来たしな」

「おおう……流石は兄様、準備は万端ですね。ありがとうございます」

「楽しい旅になりそうだね」

 

 そうして私とミュウちゃんはお兄ちゃんが用意してくれたアイテムボックス──私が嵩張らない指輪型でミュウちゃんが格闘の邪魔にならないポーチ型、お兄ちゃんは少し容量が大きい小袋型だった──と各種消耗品を受け取りつつ、今まで使っていたアイテムボックスのアイテムを新しいヤツに詰め替えていく。

 

「……よし、詰め替え終わりって事で出発前にジョブを変えに行こうか。この前は宿題の為にカンストしてからそのままログアウトしちゃったし」

「そういえばそうでしたね。……私も【拳士(ボクサー)】はカンストしたので【僧兵(モンク)】にでも転職しようかと。何でも回復しながら殴る魔法拳士系ジョブっぽいので」

 

 成る程、ミュウちゃんはこのまま魔法拳士的なジョブ構成にする感じか……じゃあ、私はどうしようかな。一応候補の下級職はいくつか見繕ってるんだけど……。

 

「うむむ、私はジョブ構成を戦棍士系統をメインにした前衛型で行きたいから、サブジョブもそれに準じた物にしたいと思ってるんだよね。だから汎用スキルを覚えるヤツか戦棍士系統をメインにしていても使える前衛系ジョブを考えてるんだけど、中々ピンと来るヤツが無くて」

「じゃあ【適職診断カタログ】でも使うか?」

「使うー」

 

 私はお兄ちゃんから渡された【カタログ】の質問によるジョブ検索機能を使い、今の私にオススメらしいジョブを表示させてみた……えーっと前衛系サブジョブ候補として【戦士(ファイター)】【狂戦士(バーサーカー)】汎用スキル系のサブジョブとして【斥候(スカウト)】【冒険家(アドベンチャラー)】とかが候補に上がったね。

 他にもメイス含む打撃武器全般を使う【棍棒士(クラブマン)】とか打撃武器を使う僧兵系統の【戦僧兵(バトルモンク)】とかも出て来たけど、前者は【戦棍士(メイスマン)】と出来る事はあんまり変わらないし、後者は戦棍士系統をメインにすると覚えた回復魔法が死ぬし。

 ……そもそも私は勘で攻撃を察知出来る以上《殺気感知》や《危険察知》は要らないよね。じゃあ【ギガース】の特性を活かすために物理ステータスに特化したジョブに就くのもありかな。今メインにしてる【壊屋】もジョブスキルは殆ど使って無いけど高いSTRも役に立っているし。

 

「……うん、じゃあ次のジョブは【狂戦士】にしようかな。ステはSTRとAGI特化だから相性は悪く無いし《バーリアブレイカー》はパッシブスキルだから、アクティブスキルが使えなくなる事が多い狂化系スキルも最終手段としてぐらいは使えるでしょう」

「姉様も就きたいジョブが決まったみたいですし、さっさと済ませてギデオンに行きましょうか」

「それと冒険者ギルドで何かギデオンに行くついでに熟せるクエストも探してみるか」

 

 そうして私とミュウちゃんはそれぞれのジョブに就けるジョブクリスタルでメインジョブを変更した後、そのまま冒険者ギルドでカタログを見繕って適当なお使い系クエストを受注する事にした。

 内容は難易度:二ぐらいの【配達依頼ー決闘都市ギデオン ギルド間配送】という当たり障りの無い物だったけど、報酬が3万リルと結構良かったからね。

 ……まあ、期限は三日以内だし荷物を持ち逃げした場合には刺客を送るとか言う物騒な注意書きが書いてあったけど……冒険者ギルドってその手の懲罰部隊とかいるのかな? 

 

「で? そこの所はどうなのアイラさん?」

「当冒険者ギルドにはそのような物はありません(大本営発表)……というか、この冒険者ギルドは現役を引退した冒険者の再就職先の一つでもありますから結構高レベルの職員とかもいるんですよ、私とか。……犯罪者はそういったギルド職員や騎士や雇った冒険者で捕まえる様になってます」

「説明ありがとうございます、アイラさん。……ミカ、あんまり変な事を聞くんじゃない」

 

 テヘペロ、ごめんなさーい! でもあんな注意事項が書いてあったら気になるよね? ……まあ、そんなこんなで私達はクエストを受注したのだった。勿論アイラさんにもちゃんと謝りました。

 

「……では、こちらが皆様に運んでもらう荷物になります。それと最近、王都からギデオンへの街道を行く商隊で行方不明者が時折出ているのでご注意下さい」

「分かりました、気を付けます」

「まあ、今の私達なら道中に<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>でも襲って来なければ無事にギデオンに着けますよ」

「……姉様、それはフラグと言うのでは?」

 

 大丈夫大丈夫、私の“直感”だとギデオンまでの道中では何か強敵と遭遇する感じはしないし……ただ、何故か“何も無い”気もしないんだけどね。

 ……そんな会話をしているとアイラさんが何か感慨深そうな顔になっていた。

 

「? どうしたんですか、アイラさん?」

「いえ、最初に指導した時と比べて皆さん見違えましたねと思っていたんですよ。いずれ強くなるのは分かっていましたけどここまで早いとはね。……最近では【教導官(インストラクター)】のジョブスキルを使って王都に来たばかりの<マスター>に戦闘指導を行うクエストもやってるんですが、貴方達程の資質と才覚を持つ人は余り居ませんし」

「へー、そんな事もやってるんですか?」

 

 何でも教師ギルドと冒険者ギルドの共同でやっているんだとか。この世界で戦闘者としてやっていくのに必要な常識とかも教えてるから、非常識な行動が減る・やる事が分かりやすいとティアン・<マスター>共に結構好評らしい。

 ……でも、ちょっと長く話しすぎたのか受付に列ができ始めてきたね。お兄ちゃんとアイラさんもそれに気付いたみたい。

 

「……余り長く話をする訳にもいかんな。次の人が待っている」

「そうですね。……それでは皆様お気をつけて」

 

 ……とまあ、そういう訳で私達はクエストの荷物を受け取った後、アイラさんの見送りを受けて王都の南にある決闘都市ギデオンへと向かうために南門を潜って<サウダ山道>へと出たのだった。

 

 

 ◇

 

 

「おー! 馬車なんてのに乗るのは初めてだけど意外と乗り心地がいいね。もっと揺れるかと思ってたよ」

「速度も思った以上に早いですし、振動の方もリアルの車と対して変わりませんね」

「クッションもあるしね」

 

 そうして王都を出て<サウダ山道>を南に進んでいた私達は思ったよりも乗り心地が良い馬車の旅を満喫していた……ちなみに私達が乗っている馬車は御者を含めて五人ぐらいが乗れるサイズの小型二輪馬車であり、それを引いているのは()()()()()()()()亜竜雷電馬(デミドラグ・ライトニングホース)】に進化したヴォルトである。

 

「まあ、この世界にはリアルと違って『スキル』と『ステータス』があるからな。この場合は馬車に付けられてる《悪路走行》のお陰だろう。現実と違って街と街を繋ぐ道もモンスターがいるせいでまともに舗装されていないから、こういうスキルはこの世界での主要な移動手段である馬車には必須らしいぞ。STRがある程度あればモンスター一体でも普通に馬車を引けたりするしな」

『BURURU、BURURU(亜竜級まで進化すれば普通に馬車を引くぐらいは問題無いですね)』

 

 ちなみにヴォルトは進化前だとMPとAGIが高いタイプだったので、馬車を買った後に試しに引いてみたら人間三人を乗せて長時間馬車を引くのはちょっとキツかった事が分かったらしい。

 それに気が付いたお兄ちゃんは急いで【獣戦士(ジャガーマン)】をカンストさせて、すぐさまパッシブで騎乗している物を強化出来る《騎乗強化》スキル狙いで【騎兵(ライダー)】に転職して狩りや魔石職人系クエストをこなしまくってレベルを上げたんだと。

 ……まあ、そうやって経験値稼ぎをしていたらヴォルトが亜竜級に進化してSTRはどうにかなってしまったのだが、今度は従属キャパシティの方がキツくなったので【調教師(トレーナー)】に就いてレベルを上げ……みたいな感じだったとか。

 

「……それはまた二転三転したんですね。色々と準備をして下さってありがとうございました兄様」

「まあ気にするなよ、お陰で俺もヴォルトもレベルも大分上がったしな。それに転職条件を満たして【高位魔石職人(ハイ・ジェムマイスター)】にも就けたから」

『BURURURURU(まさかここまで早く亜竜級に進化出来るとは思いませんでしたが)』

 

 まあ、お兄ちゃんの場合どんなジョブのレベルを上げても無駄にはならないだろうからね……っと、右の森から何か来るね。

 

「お兄ちゃん右からー」

「ああ分かってる。《魔物察知》にも反応があったからな」

『BURURU(来ますね)』

『『KISYAAAAAA!!!』』

 

 私がお兄ちゃんに警告した直後、街道の右にある森から二匹のクワガタムシ型魔蟲系モンスター【スラッシャー・スタッグ】が名前通り鋭い刃になった顎をキチキチと鳴らしながらこちらへ飛んで来た。

 ……モンスターの少ない街道とは言えフィールドだからね、こうしてそれなりの頻度で襲われる事もある訳ですよ……お兄ちゃんやヴォルトも周囲の索敵は欠かしてないしね。

 

「ああいう下級モンスターならどうとでもなるんだがな、俺は右をやる……《ヒート・ジャベリン》」

『BURUAA! (《ライトニング・ジャベリン》!)』

『『SYAAAA!!!』』

 

 そして飛来して来た【スラッシャー・スタッグ】二匹は、お兄ちゃんとヴォルトがそれぞれ放った炎と雷の槍で貫かれて出オチ気味に倒されたとさ。

 ……とまあ、モンスターに関しては一向に問題は無いんだよね。大体お兄ちゃんとヴォルトの遠距離攻撃で先に倒せるし、それで倒しきれない程に多ければ私とミュウちゃんが馬車から降りて相手をするだけで済んでるから。

 

「お兄さんもヴォルトもお疲れ様。索敵に戦闘に大変だね」

「索敵に関してはミカが事前に報告してくれるし、ヴォルトも手伝って交代でやってるからな。お陰でMPやSPにも余裕がある」

『BURURURU、BURURU(野生の草食系モンスターにとって周囲の索敵は重要でしたからね)』

 

 ちなみにヴォルトは元々《殺気感知》や《危険感知》を高レベルで持っていた──ヴォルトの言葉を翻訳したお兄ちゃん曰く『コレがないモンスターは直ぐに死ぬ』そうである──上に、自分より強い存在の位置が分かるパッシブスキル《強者感知》まで持ってるので索敵役としても問題無い模様。

 ……尚、肝心の騎乗戦闘はもうちょいらしい。何でも進化した時に雷属性スキルの制御能力が上がる《雷電制御》というパッシブスキルを習得したので、スキルレベルを上げればいけると言う見込みだとか。

 

「うん、実に順調な旅路だね。これなら無事にギデオンに着きそう」

「姉様がそう言うなら安心ですね」

 

 そんな感じで私達は馬車での旅路を楽しみながらギデオンまで進んで行ったのでした……ただ、危険は無い気はするんだけど()()()()()()()()()も少しするんだよね。危なくないトラブルでもあるのかな? 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ■□<ネクス平原> 【怪盗(ファントムシーフ)】??? 

 

 そこは決闘都市ギデオンの北にある<ネクス平原>……その深夜の街道沿いで一つの顔の下半分を隠す覆面と帽子を付けた黒尽くめの人影が()()()()()()()()()()()()()()()()、まるでギデオンから逃げる様に全速力で北に向かって走っていた。

 ……よく見るとその人影は小柄であり身体に丸みを帯びている事、そして覆面に隠されていない青い眼や帽子から見える金髪から人影は少女だと分かる。

 

「ハァ……ハァ……重いね。《懸架重量軽減》も効果は薄いか……」

 

 ……もしその少女を誰かが見ていればアイテムボックスに物体を収納出来るこの世界において態々荷袋を使って物を運ぶ事に不自然さを感じるかもしれないが、それ以上に運んでいる等の少女の必死さの方が目に付くかもしれない。

 

(どうにかこの『忌まわしき呪物』を盗み出す事には成功したけど、追っ手を巻く為とはいえ逃走ルートを北にしたのは失敗だったね。南や西なら森に隠れて離脱出来たのに……このルートに気付かれるのも時間の問題だし、なるべく早くギデオンから離れないと)

 

 そう考えながらも少女は更にスピードを上げて<ネクス平原>を駆けて行く……一見小柄で華奢に見えるその少女だが、盗賊系統派生上級職【怪盗】の他に【荷運(キャリアー)】の上級職である【輸送隊(コンボイ)】のジョブにも付いており、合計レベルも400に達する凄腕のティアンである。

 

(なるべく遠くに離れてこの『呪物』を誰にも知られない場所に……チッ!)

『『『GYAAAAA!!!』』』

 

 そうして走っている途中、少女は取得していた《危険察知》に反応を感じて咄嗟に短剣を引き抜いた……直後、夜闇に紛れていた三体の黒い狼型モンスター【ブラックナイト・ウルフ】が少女に襲い掛かった。

 

「邪魔っ! 《スリーピング・ファング》! 《パラライズ・ファング》!」

『GEE⁉︎』『GAA⁉︎』『GUU⁉︎』

 

 だが、少女は素早く短剣を振るって狼達を斬りつけて【強制睡眠】や【麻痺】の状態異常にする事でその動きを封じ、そのままトドメも刺さずに走り抜けていった。

 

(こんな所で足止めを食らう訳にはいかない。……この『呪物』を盗み出すのに予定より時間が掛かったからもうすぐ夜が明けてしまう……その前になるべく遠くへ……!)

 

 ……そうして狼の群れを切り抜けた少女は再び夜闇の中を駆けて行くのだった。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:宿題は無事終了

亜竜雷電馬(デミドラグ・ライトニングホース)】:ヴォルトの進化系
・名前通り雷属性のスキルを駆使する亜竜級の馬型モンスターで、MP・AGIに長けておりHP・STR・ENDもそこそこ高い万能型のステータスを持つレアモンスター。
・ヴォルトの場合だとよりMPに特化している分だけ物理ステータスはやや低めだが、サイズはそんなに大きくなってはいないので騎乗も充分に可能。
・更に《雷電制御》《ライトニング・ジャベリン》など兄との訓練の影響を受けた制御性上昇スキルや、効果範囲が狭い代わりに威力の調節が効きやすいスキルを追加で習得している。

【調教師】:調教師系統下級職
・テイムモンスターを育成するジョブの内『モンスターのスキルや技術』を成長させる事に特化したジョブ。
・主なスキルとして一つのスキル指定して、それを成長させられる訓練をする事でスキルレベルの上昇率に補正が掛かる《調練》などがある。
・また上級職である【名調教師(グレイト・トレーナー)】になると扱う人間次第ではモンスターの進化先に影響を及ぼしたりする事もあるらしい。

謎の怪盗少女:『呪物』と呼ぶ何かを盗み出した様だが……?

【輸送隊】:荷運系統上級職
・物を運ぶ事に特化した【荷運】系統の上級職で、奥義であるパッシブスキル《大量輸送(マス・トランスポート)》で輸送量が多い程に各種輸送用補助スキルの効果を上昇させたり、効果範囲をパーティー全体や馬車などに拡大する事が出来る。
・この場合の輸送補助スキルとは【荷運】で覚える輸送物の重量を軽減する《懸架重量軽減》やアイテムボックスの容量を拡大する《収納容量拡大》の他、《悪路走破》《持久力上昇》《盗難防御》などのいくつかの輸送に使える汎用スキルなども含まれる。
・戦闘用のジョブでは無いので戦闘スキルは覚えないが輸送に必要なSTRとAGIはそこそこ伸びる上、“物を運ぶ”と言う共通項から盗賊・強盗系統がメインでもジョブスキルを使えたりする。


読了ありがとうございました。
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謎の【怪盗】と復讐鬼

前回のあらすじ:妹「やっと宿題終わった!」兄「はいお疲れさん。準備は出来てるから早速出発だ」末妹「はーい」


 □<ネクス平原> 【僧兵(モンク)】ミュウ・ウィステリア

 

「おー! 綺麗な朝日だね!」

「そうですね、姉様。現実では朝日なんて中々見る機会は無いですし」

「お前ら朝起きるの遅いからな。俺は日課の早朝マラソンとかしてるから向こうでも結構見てるぞ」

「へー、ミュウの記憶で知ってたけどそんな感じなんだ」

 

 地平線から半分くらい太陽が昇る程度の早朝、私達が乗っている馬車は漸く決闘都市ギデオンの北にある<ネクス平原>北部の森林地帯に足を踏み入れていました。

 ちなみに王都を出たのがちょっと遅かったので道中すっかり暗くなってしまい一旦ログアウトしようと言う意見も出たのですが、姉様の『このまま夜間行軍した方が()()()()()()。夜営とかもしてみたいし』と言う鶴の一声で途中夜営を挟みながら進む事になったのです。

 ……まあ、夜営や野宿なんて現実ではやる機会なんて無いので結構楽しめましたがね。

 

「地図によるとこの森林地帯を越えればギデオンまでは平原だから、地形的にも一気に進めるだろう。頼むぞヴォルト」

『BURURU(お任せあれ)』

 

 御者席ではこれまで頑張って馬車を引いてくれたヴォルトに声を掛けていたのです……ある程度舗装されているとは言え山道と林道は物凄くガタついてて《悪路走破》がある馬車でも結構移動し難かったですからね。加えて山や森だと下級とは言えそれなりの頻度でモンスターが襲い掛かってくるので結構面倒でしたし。

 まあ一般的なティアンでも使える移動ルートだったので戦闘自体には苦労はしませんでしたが。どちらかと言うと初めての馬車での移動に慣れていなかったのが原因ですかね。

 ……とまあ、そんな感じで馬車の旅をしていた私達ですが突然ヴォルトが雰囲気を訝しげな物に変えました。これは道中何度か見た『ヴォルトがスキルで何かを感じ取っている』時の雰囲気ですね。何でも野生に生きている草食モンスターにとって感知系スキル複数持つのは基本だとか。

 

『BURU……(む? これは……)』

「どうしたヴォルト?」

『BURURU、BURU、BURURU(《強者感知》に反応があります。森の中から何かが近づいて来ますね……多分人間かと)』

「ん、分かった。……森の中からおそらく人間がこちらに向かって来ているとヴォルトが言っている、注意しろ」

 

 まあ予想通りと言うか私達には分からないヴォルトの言葉を翻訳した兄様がそう言ったので、私は即座にミメと《憑依融合(フージョンアップ)》で融合し、姉様はいつでも【ギガース】を取り出せる様に(重量があるので馬車の上で取り出すとバランスが崩れる)身構えました。

 ……あ、忘れるところでした。

 

「そう言えば【ブラックォーツ】のスキルに《人間探知》がありました。近付いてくるのが人間であれば使えるでしょう」

『今までモンスターとばかり戦っていたから使う機会が無かったしね』

 

 このスキルはその名の通り人間しか探知出来ないので使う場面が限定されますからね、使える時に使っておいて扱いに慣れなければ……と言うわけで《人間探知》起動なのです。

 ……ふむふむ、確かにここから二時の方向に人間の反応がありますね。数は一つ、レベルは結構高い感じもしますが随分と弱っている様な? 何かフラフラ移動してますし。

 

「……と、そんな感じなのです」

『BURURU(こちらも同じですね。手負いの相手だと思います)』

「成る程、さてどうするかな。モンスターに襲われたティアンの旅人とかだったら見捨てるのも後味が悪いし……ミカ、危険は感じるか?」

「ううん、その人から()そんなに危険を感じないよ」

 

 姉様もそう言っているみたいですし、本当に怪我人とかなら助けた方が良いのではという話になったので……。

 

「……何なら私が様子を見てこようか? 多分無いと思うけど私なら万が一があっても大丈夫でしょう」

「そうだな、じゃあ頼んだミカ」

「ほいほーい」

 

 そういう訳で念の為に【ギガース】を手に持った姉様が反応のあった森の中へ様子を見に行きました……まあ姉様が警告をしない以上は特に問題は無いでしょう。念の為に《人間探知》は続行して姉様と謎の人物の動向が伺っておきますが。

 ……そうして待つ事しばらく、姉様と謎の人物が接触した事が感じ取れましたが……。

 

「……アレ? 何か一緒になってこっちに来ますね……いえ、これは姉様が謎の人物を()()()()()()みたいです?」

『BURURU(確かにその様ですね)』

「ふむ……念の為にポーションと回復魔法の準備をしておくか」

 

 その反応から状況を察した私達は怪我人を治療する準備を進めておきます……そして、その少し後に姉様が森の中から出て来たんですがその背中には気絶している凄いボロボロな一人の女性が背負われており、更に片手には何か大きな物が入っているらしき荷袋を重そうに引きずっていました。

 

「お兄ちゃん、怪我人一人お待ち!」

「別に待ってないが……《フォースヒール》!」

 

 とりあえず兄様が背負われている女性に準備していた上位回復魔法をかけましたが目を覚ます事はありませんでした……呼吸はしてますし心音もありますから生きてはいるみたいですね。

 

『HPはちゃんと回復してるから大丈夫だと思うよ。後ステータス的にはAGI特化って感じ』

「分かりましたミメ。……では姉様、簡潔に説明を」

「森の中でこの人に出会ったらいきなり気絶したので、とりあえず背負っていた荷物を引きずってここまで持って来ました」

 

 そうして姉様が説明している間に背負っている女性を馬車の後部座席に寝かせました……少し状態を見た限り怪我は兄様の回復魔法で大体治っていますし、呼吸や脈拍も安定しているので命に別状は無さそうなのです。

 ……とは言え、HPが回復した後でもその女性が【気絶】から覚める気配は無かったので、とりあえずさっさと森を抜けて安全な場所で彼女の目覚めを待とうと言う方針になりました。

 

「じゃあ後はその荷物だが……しかし他人の荷物を引き摺るのは駄目では? お前のSTRなら纏めて持っていけると思うんだが」

「いやいやお兄ちゃん、中身がなんだか分からないけどこの荷物めちゃくちゃ重いんだよ。気絶した時に彼女がちょっと押し潰されそうなぐらい。ほら」ベリベリィ!!! 

 

 ……そう言って姉様が荷袋を持ち上げようとした瞬間、既にボロボロであった荷袋が中身の重量に耐え切れずに出来ていた裂け目が一気に広がって荷袋が真っ二つになり“中身”がこぼれ落ちたのでした……あーあ。

 

「……やっちゃいましたね姉様」

『やっちゃったねー』

「いやいや! この荷袋、私が見た時には既にボロボロだったし! 偶々私が持ち上げた時に耐え切れなかっただけだし! ていうか、なんでこんなに中身が重いの⁉︎」

 

 何か姉様がテンパってますが流石にこれは偶然でしょう。姉様の“直感”も危険が特にないトラブルには大して反応しない以前言ってましたし。

 ……しかし、既にボロボロだったとはいえ少し持ち上げるだけで頑丈そうな荷袋が破れるとは、一体この中身は何なのでしょう? と気になったのでこぼれ落ちた物を見てみると……。

 

「……これは『金庫』ですかね? 随分大きいですが」

「しかしなんでアイテムボックスがあるこの世界でこんなデカい金庫を背負ってたんだよう……」

「……いや、ちょっと《鑑定眼》を使ってみたんだが、どうもこれは()()()()()()()()()()()()みたいだな」

 

 その荷袋に入っていたのは高さ1メートル、幅50センチぐらいのダイヤルの付いた黒い金庫──兄様曰く『金庫型のアイテムボックス』らしい──でしたのです……でも、まともに持ち運ぶ事も出来ないアイテムボックスとか何か意味があるんでしょうか?

 

「物をお手軽に運ぶ事が主な用途のアイテムボックスがクソ重いとか意味無くない? なんでこんな物が存在しているんだか……」

「いや、確かこれは据え置きで使うタイプの()()()()()()()()()()()だったな。この前、新しいアイテムボックス買う時に店で見た覚えがある。……アイテムボックスはアイテムボックスに入れられない事を利用して敢えて重量を増やして盗まれ難くしたタイプで、更に強力な盗難対策が施されているから貴重な物品を保管する様として売られてたな」

「成る程、見た目通り現実で言う金庫ポジションとして作られたアイテムボックスだと……つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と」

 

 ……この時、私達三人は同じ事を考えていました……『アレ? これ厄ネタじゃね?』と……。

 

「ちなみにこの子に《看破》を使った所、メインジョブが【怪盗(ファントムシーフ)】になってたな」

「いや、ジョブの選択自体は個人の自由だし、盗賊系統は探索に役立つスキルとか覚えるから普通に取ってる人も多いしね。……私の“直感”だと危険は感じないんだけどなぁ」

「では、何処か人眼に付かない場所で休んで彼女の目覚めを待ちませんか? 詳しいことは彼女自身に聞くのが手っ取り早いと思うのです」

「「異議なし」」

 

 そんな感じで私達が顔を見合わせて色々と話し合った結果、とりあえず何処か適当に所で休みながら彼女の目覚めを待って事情を聞くという無難な選択に落ち着きましたのです……正直言って詳しく事情が分からないと何も出来ませんしね……。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<ネクス平原> 【調教師(トレーナー)】レント・ウィステリア

 

 そういう訳でどうも厄ネタっぽい少女を連れて一旦<ネクス平原>の森林部を出て、その近くにあった馬車を止められるスペースのある平野で彼女が目覚めるまで待つ事になった。

 ……尚、あの謎の金庫はミカに運ばせた。どうも『運ぶ際に重量が増加する』類のスキルが組み込まれてる所為で馬車で運ぶのが難しかったからな。

 

「ふー、重かった。私これでもSTR5000近くあるんだけどねー」

「多分防犯用の呪いみたいな物だろうな。……それで彼女の方は?」

「呼吸は安定してますし多分もう少しで目覚めると思いますよ」

 

 ……そんなミュウちゃんの見立て通り馬車の後部座席で寝かせていた少女が身じろぎしながら目を覚ました。

 

「……ううん……ここは……?」

「あ、起きたー? 私の事覚えてる? 貴女が<ネクス平原>の森の中でいきなり倒れたから運んだんだけど」

「それで今は<ネクス平原>の北の方で休んで貴女が目覚めるのを待っていた所なのです」

 

 とりあえず彼女への事情説明は妹達二人に任せる方針で行く……こういう状況なら同性相手の方が色々と余計な面倒が無いだろうし、ウチの妹達って見た目は普通の少女だから安心感が与えられるだろう。万が一彼女が凶悪犯とかでも問題無く制圧出来るし。

 ……とまあ、そんな感じで目覚めた彼女に妹達が事情を説明する事しばらく、一通りの事情を理解したらしい彼女は馬車から降りてこちらにお礼を言ってきた。

 

「ええと、この度は助けてくれたみたいでありがとうございます。私は【怪盗】のシルビィ・マグノリアと言う者です」

「俺は<マスター>で【調教師】のレント・ウィステリアだ」

「その妹で同じく<マスター>のミカ・ウィステリアだよ」

「同じく<マスター>で妹のミュウ・ウィステリアと申しますのです」

 

 そんな感じで自己紹介をしたのだが、その直後からシルビィさんは何かを探し求める様に辺りを見回し始めた。

 

「……あの、私が背負っていた荷袋があったと思うんですけど……」

「あの荷袋はもうボロボロだったからシルビィさんを運ぶ時に破れちゃったよ。中身の金庫はあそこに置いてあるけど」

 

 そうやって絶妙に嘘を言わない範囲で荷袋が破れた事を告げたミカの指差した先に置いてある金庫を確認したシルビィさんは、直後()()()()()()()()()()()()()()()目をした後に安堵の溜息を吐いた。

 

「……運んで来て貰ったんですね、ありがとうございます。荷袋に関しては予備がありますから御心配無く。……申し訳ありませんが私は先を急いでいるので……」

 

 そう言った彼女はアイテムボックスから予備の荷袋を取り出して金庫の方に向かっていった……ふむ、実際あからさまに怪しくはあるんだが偶々出会っただけの関係だし、態々引き止める程の理由も無いからどうしたものか「待った!」……ほう?

 

「ええと、ミカさんでしたか。一体何か……?」

「シルビィさん、その金庫を持って一人で行くのはオススメしないよ……今の貴女には()()()()()()から」

 

 金庫の方に行こうとしていた彼女に対し、その身に迫る危険を感じ取ったのか非常に真剣な表情をしてミカがそう言って呼び止めた……成る程、どうやら何としても引き止めるだけの理由が出来たみたいだな。

 ……ただ、そんな事をほぼ初対面な彼女が理解出来る訳がなく、その顔には有り有りと困惑の表情が浮かんでいた。まあいきなり“死相が見える”とか言われれば当然だよな。

 

「……心配してくれるのは有り難いのですが、私はどうしても行かなければならない理由が……」

「いや、別に心配とかじゃ無くてこのまま見過ごすと私の精神衛生が非常に悪くなるから止めるだけだよ。……例え力付くでも」

 

 そうして何か言い訳をしようとしたシルビィさんの言葉を遮って、ミカは即座に【ギガース】を召喚して彼女に突き付けた……残念ながらシルビィさん、ミカのそれは善意というより『そうしないと気分が悪くなる』からやってるだけなんだよなぁ。

 ……まあ、ここまで性急な行動をとるって事は“そうしないと彼女がすぐ死ぬ”レベルで切羽詰まってるって事だろうが。

 

「……え? いやあの……えぇ?」

「姉様、彼女に迫る危険とはどのくらいですか?」

「うーん、シルビィさんがその金庫持って私達から離れたら十分ぐらいで死ぬんじゃないかな? 私の“直感”がそう言ってる」

 

 こっちの余りの態度の変化に物凄く困惑しているシルビィさんを差し置いて、ミカとミュウちゃんは彼女に迫っている危険について話を進めて行く……あ、彼女がどうにかして隙を見つけて逃げようとしてるな。

 ……まあこの状況なら当然なんだが、いつの間にやら彼女と金庫までの道を塞ぐようにしてミュウちゃんが廻り込んでるから逃げ出せない様だ。そんでウチの頼れる探知要員ヴォルトが何か見つけたらしいし。

 

『BURURU、BURURU(マスター、何かが迫っていますよ。おそらくモンスターでしょうが結構な大群です)』

「分かったヴォルト《魔物索敵》……何故かモンスターの大群がこっちに迫って来てるんですが、シルビィさんは何か心当たりでも?」

「えぇ⁉︎ ……いや、まさかさっき襲われた()()()()()はちゃんと巻いた筈……」

 

 ……そんな彼女の言葉に答える訳では無いだろうが、地平線の向こうから三十体ぐらいのゴブリンの群れが真っ直ぐこっちを目指してにやって来た。

 彼女の発言から推測するにあのゴブリン達は一度襲った彼女を追って来た様だが、ここまで来る時には付けられてはいなかった筈だが……。

 

『BURURU、BURURU、BURURU(おそらく《マーキング》系のスキルでも使われたんでしょう。肉食のモンスターが良くやる手です)』

「ヴォルト曰く、彼女に居場所が分かる何かを付けられたっぽいので戦闘準備!」

「「了解!」」

 

 そんなヴォルトの意見で疑問が解消された俺は、とりあえず簡単な指示だけ出してからヴォルトから馬車を外してアイテムボックスに入れて戦闘準備を終えた……後、妹達は特に準備とか必要無いので既に戦闘態勢である。

 ……尚、事態が色々と急展開(大体ミカの行動の所為)過ぎて困惑していたシルビィさんだったが、そこはこの世界で生きるティアンだけあって直ぐに気を取り直してアイテムボックスから短剣を取り出し戦闘準備を行っていた。

 

「待って! 私が後を付けられた以上は私も戦うよ!」

「ではよろしくお願いします」

「気絶から目覚めたばかりだから無理はしないでね」

 

 ここでゴブリンを俺達に押し付けて逃げるんじゃ無く、俺達との共闘の選択肢を選ぶって事は悪人では無さそうかな……それはさて置き向かって来たゴブリンの群れは結構な規模で、かつキチンと統率も取れているのか整然と隊列を組んでこっちに向かって来ていた。

 ……何かいつかどこかで見た光景だよなぁ。具体的にはデンドロ内で一カ月ぐらい前に<サウダ山道>で。

 

『『『GUGUGUGUGUGUGU……』』』

「うわぁ、やっぱり【ゴブリンキング】が率いている群れじゃん。もう見飽きたんだけど」

 

 予想通りと言うか何というか、そいつらこれまで何度も見た【ゴブリンキング】に率いられるゴブリン達の群れであった……のだが、何故かそれを見て辟易していたミカを見た連中は途端に激怒し始めたのだ。

 

『GYAAAAAAAAAAA!!! MITUKETAAAAA!!!』

『『『『GAAAAAAAAAAAAA!!!』』』』

「うわっ⁉︎ いきなり何なのさ!!!」

「……あの姉様、連中は()()()()()()()()()()を見て怒ってる気がするのですが……」

 

 確かにミュウちゃんの言う通り、あの【ゴブリンキング】を含むゴブリン達はミカが装備しているベルト──ゴブリンを生み出す<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>の成れの果てである特典武具【鬼人腰帯 クインバース】を見て激怒している様だった……あ(察し)

 

「……あー、ひょっとして【クインバース】から生まれたゴブリン達の生き残りとか?」

『『『『『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』』』』』

「大当たりみたいだな」

 

 ミカの疑問に答えた訳でも無いだろうが、ゴブリン達は怒り狂いながらこちらに向けて全速力で突っ込んで来た。

 

「おいミカ、この旅路に危険は無いとか言ってなかったか?」

「私の“直感”だって万能じゃないしー。……それに今の私達にとって()()()()()()()()()()()()()()()()()()? まあMVPを取った身としてキチンと始末を付けてあげるよ」

 

 そう言ったミカは【ギガース】を振りかぶってゴブリン達を迎え撃つ態勢を取った……まあ俺達だけなら問題無いんだが今回は初対面のティアンであるシルビィさんが居るしな。()()()()は気をつける必要があるだろうが。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:危険は(自分達には)無い
・妹は“直感”で命に関わる危険を感知した場合、それをどうにかする事を最優先にするが故に周りの心情などを無視する様な行動を取る事がある。
・他の二人も基本的に妹の“直感”には従うが、やり過ぎる場合にはフォローする事も。

ヴォルト:野生で生きてきた経験からモンスターの知識は豊富
・《強者感知》は自分の実力を基準とした一定以上のステータスを持つ相手の位置情報・大雑把な強さ・種族・現在の状態を感知する割と希少なスキル。

シルビィ・マグノリア:謎の怪盗少女
・ちなみに前回の最後でギデオンから離れた後に運悪くゴブリン達と遭遇してしまい、荷物を背負っている事もあってかなりの怪我を負うもどうにか逃げ延びた所で三兄妹に保護された感じ。
・実は背負っていた金庫の“中身”に関してどうしても成し遂げたい目的があったりするのだが、目が覚めてからは変な三兄妹の行動やゴブリン達による怒涛の展開の所為で混乱中。

ゴブリン達:復讐鬼達
・【クインバース】によって産み出されたゴブリン達の中で経験値を稼ぐ為に遠征に行っていた群れの一つで、本能的に妹が持っているのが【クインバース】の成れの果てだと気付いた感じ。
・【クインバース】が倒されてからもどうにか生き延びていたが、モンスターや人間との戦いで徐々に数を減らしており最盛期の半分程度の数だったりする。
・シルビィを追跡出来たのはこの群れを纏める【ゴブリンキング】が狩りを効率化する目的で《ゴブリンブラッド・マーキング》という配下のゴブリンを殺して返り血を浴びた者を追跡出来るスキルを狩りを試験的に【クインバース】から与えられていたから。
・また、彼女をしつこく付け回しているのは、彼らが【クインバース】が人間に討たれた事だけは知っていたので人間に対する怨みは元から酷かった事が原因である。


読了ありがとうございました。
決闘都市に行く筈なのに中々ギデオンに辿り着かない模様。もう暫くお待ち下さい。


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忌まわしき呪物

前回のあらすじ:妹「何やら厄ネタの匂いがする怪盗少女を拾ったよ」兄「そう思ったらいきなりゴブリン達のエントリーだ」末妹「さっさと片してしまいましょう」


 □<ネクス平原> 【狂戦士(バーサーカー)】ミカ・ウィステリア

 

 謎の怪盗であるシルビィさん(多分厄ネタっぽい)を拾ったら【ゴブリンキング】率いるゴブリン達が襲い掛かってきた今日この頃……まあ、今の私達なら亜竜級モンスター率いる三十体程度の下級モンスターなら、例え多少強化されていたとしても大した問題無く撃破はできる。

 ……問題はコイツらが私がぶっ殺した<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【鬼仔母身 クインバース】が生み出したゴブリンの生き残りで、その恨みからか()()()()()()()()()()()が私に向いているって事なんだよね! 

 

『『『『『GAAAAAAAAAAAA!!!』』』』』

「《クエイク・インパクト》! まったく、文字通りの“復讐鬼”ってヤツかな。《ウィールド・メイス》!」

 

 忿怒の形相を浮かべてこちらに突っ込んで来るゴブリン達に対して、私はまず地面を【ギガース】で叩いて前方に衝撃波を発生させる《クエイク・インパクト》で接近してくるゴブリンの足を止めて、間髪入れずに【ギガース】を横薙ぎに振り回して連中の何匹かを薙ぎ払った。

 ……だが、ゴブリン達は味方が吹き飛ばされ様が一向に意に介す事すらなく、変わらぬ忿怒の表情で私に向かってただひたすらに突っ込んで来た。

 

『GAAAAAAAAAAAA!!!』

「うわぁ……ヘイトがまったく減らないや。《インパクト・ストライク》!」

『GAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 とりあえず私は突っ込んで来た中で一番近くにいた【ゴブリン・ウォーリア】を殴り潰すものの、すぐさま横の死角から【ゴブリン・ランサー】が槍を突き刺そうと躍り掛かって来た……まあ、私の“直感”でそう来る事は事前に分かっていたから前に出て回避は出来たんだけど、更に背後に回ったゴブリンがしつこく攻撃して来たりするから中々面倒な状況なんだよね。

 ……流石に私一人に全方位からゴブリンだと迫り来る“危険”が分かっても手数が足りないね。下級のゴブリン相手なら多少のダメージを覚悟すれば無理矢理切り抜けられるだろうけど、それはちょっと面白くないので……。

 

「お兄ちゃん! ミュウちゃん! ボスに突っ込むので援護お願い!」

「分かりました。……まあ、姉様にしか目が向いていないので倒すのは楽ですしね。《ライトニング・フィスト》《ハードナックル》!」

「こっちで可能な限り数は減らすから後は頑張れ。《グランド・クロス》!」

『『GAAAAAAAAAAAA!!!』』

 

 援護を頼みつつボスを殴り倒しにいく事にします! ……そんな私のいきなりな提案だったけど付き合いが長くて戦闘センスも高い二人はきっちり対応してくれて、お兄ちゃんが地面から発生された聖属性攻撃《グランド・クロス》で前方のゴブリン達を排除し、後方には拳に雷を纏わせたミュウちゃんが陣取ってくれて私への追撃を防いでくれた。

 ……これで巨大な両手斧を振り上げながら()()()()()()()()()()()()【ゴブリンキング】を迎え撃つのに邪魔される事は無いね! ……お兄ちゃん達だけならともかく今は後ろに“怪我は治ったけど疲労までは抜けていない”シルビィさんが居るし、コイツに突っ込まれると万が一もあるしね。だから突っ込んでなるべく前で戦う必要があるんだよ。

 

『GAAAAAAAAAAAA!!!』

「《ウェポン・ブレイカー》!」

 

 そうして接敵した【ゴブリンキング】が振り下ろす両手斧と私が振り上げた【ギガース】が激突して激しい火花を散らしながらも互いに弾き飛ばされた……むむ、今のSTRなら押し勝てると思ったんだけど向こうもかなりSTRが高いみたい。鎧とかも纏ってるから重武装だし重量差もあるかな。

 ……まあ、向こうは振り下ろしでこっちは振り上げだったからね。それに打ち合うには支障は無いぐらいの差だしこのまま殴り合おう。

 

『GAAAAAAAAAA! GAAAAAAAAAAAA!!!』

「うむっ! まあっ! 打ち合うっ! 事はっ! 出来るんっ! だけどねっ!」

 

 その後もまるで親の仇の様に──まあその通り何だけど──私に向けて大斧をただひたすらに打ち付けて来る【ゴブリンキング】に対して、私はその大斧の起動を“直感”で先読みしつつそこに【ギガース】を叩きつける事でそれら全てを弾き返して行く。

 ……お兄ちゃんやミュウちゃんみたいに戦闘技術があれば避けたり受け流したりして反撃に繋げるとか出来るんだろうけど、先読みは出来ても技術的には大した事無い私じゃあこうやって力任せに撃ち払いながら()()()()()()()()事を狙うぐらいしか出来ないんだよねー。

 

「ここっ! 《アームズブレイク》!」

『GU⁉︎ GAAAA!!!』

 

 そうして向こうが焦れて全力で大斧を叩きつけるタイミングで、私も【戦棍士(メイスマン)】で覚えた“殴った武器の耐久力を減らす”アクティブスキルを使った上で撃ち払い……その大斧を粉々に粉砕した。

 ちなみ最初に使った《ウェポン・ブレイカー》は武器・防具問わず耐久力を減らす【剛戦棍士(ストロング・メイスマン)】で覚えた上位スキルだったりするから、この展開は狙い通り。

 ……そして私は持っていた武器が壊れた一瞬の隙を突いて【ゴブリンキング】の懐に潜り込み……。

 

「これでトドメ! 《インパクト・スマッシャー》」

『GYAAAAAAAAA!?』

 

 装備防御力減少+衝撃に寄って敵の装備と肉体を纏めて破壊する奥義《インパクト・スマッシャー》を叩き込んで、鎧ごと【ゴブリンキング】の胸部を粉砕した……ENDを減少させる《ストライク・ペネトレイション》もあるから十分に致命傷だね。

 ……むむ、でも頭部がギリギリ残っているからかまだ生きてるね。キチンと潰して禍根は絶っておこう。えいっ。

 

「……あ、あれ? 確か【ゴブリンキング】にはダメージを部下に移し替える《ゴブリンキングダム》のスキルが……」

「ああ、そこはミカの<エンブリオ>の力ですね。……それに配下のゴブリンもそろそろ全滅しますし。《ブレイズ・バースト》」

『『GYAAAAAAAAA!?』』

 

 そんな私を見て【ゴブリンキング】の知識があったからか驚いているシルビィさんのフォローをしながらも、お兄ちゃんは得意の火属性魔法でゴブリン達を複数体焼き払って行く。

 

「向こうも終わりましたしこっちも片付けましょうか。《ラッシュナックル》!」

『BURURU……HIHIIIIN!!! (そうですね……《ライトニング・ジャベリン》!)』

『『『GYAAAAAAAAA!?』』』

 

 そして残りのゴブリン達もミュウちゃん雷を纏った拳のラッシュや、ヴォルトの雷属性魔法によってあっさりと打ち倒されていった……【ゴブリンキング】が居なくなって強化が無くなればこんなものだよねー。

 ……それからしばらくの後に全てのゴブリン達は【ゴブリンキング】の後を追っていったのだった。

 

「……よし、全部倒したしこれで一件落着……」

「な訳ないだろう。……余計な茶々を入れた連中を倒しただけで、一番重要な話がまだ残っているからな」

「そうですねぇ。しかし、シルビィさん自身が話す気がないなら無理して聞く訳にも「あ、あの!」……んん?」

 

 そんな風に私達が今後どうするかを話し合っていると、いきなり何か焦った感じがするシルビィさんが話に割り込んで来た……まあ、向こうから何か話す気ならそれでいいんだけどね。こっちからは話を切り出し辛かったし。

 

「何でしょうか? シルビィさん」

「ミカさんの<エンブリオ>はスキルを無視して対象にダメージを与えられるんですよね。……お願いします! どうか貴女の力で()()()()()()()()()()()()()()()⁉︎」

 

 ……そうしてシルビィさんが切り出した話は中々衝撃的なものだった……さてさて、どうしたものかね。私の“直感”には反応してないから危険は無いと思うんだけど……。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<ネクス平原> 【調教師(トレーナー)】レント・ウィステリア

 

 さて、いきなり焦った様子で妙な事を言い出し始めたシルビィさんを落ち着かせる為に、俺達はキャンプセットの椅子をアイテムボックスからだして自分達と彼女を座らせつつ“あの金庫”について詳しい話を聞く事にした。

 

「それで、あの金庫を破壊して貰いたいという話だっだが、そもそもあの金庫はなんなんだ? それが分からない以上はその依頼を受ける訳には行かないぞ。……下手をすると犯罪になる可能性もあるし」

「それは……」

 

 これに関してはちゃんと聞いて置かないといけないしな。もしあの金庫が盗品なら犯罪の片棒を担ぐ事になるし……とりあえず【祓魔師(エクソシスト)】で覚えた《真偽判定》を使いつつ、妹二人に目配せして彼女の発言に裏が無いか探ってもらう。

 ……ミカは“直感”で彼女の発言に危険は無いか、ミュウちゃんは彼女の雰囲気から不審な点が見られないかを探る感じだな。目配せされた二人み頷いたし、後はシルビィさんがどう出るかだが……。

 

「……分かりました。確かに今の私は何も事情を知らなければ金庫を盗み出した犯罪者に見えるでしょうからね……実際、そう間違ってはいないんですが。……この金庫は私の父の物で()()()()()()()()()()形になりますから」

 

 しばし考え込んだ後、意を決したらしい彼女は自分が何故その金庫を持っていたのかを話し始めた……しかし、自分の父親の金庫を盗み出したとは穏やかでは無いな。

 ……とりあえず俺の《真偽判定》には反応が無いし、妹二人も何も言っていない以上は本当なのだろうからもう少し話を聞くべきだろうな。

 

「私の実家であるマグノリア家は父が一代で財を成した裕福な商人の家で、ほんの数年前まではその父と母と私の三人で仲睦まじく暮らしていたんです。特に父と母は大恋愛の末に結婚したので娘の私から見ても非常に仲のいい夫婦でした。……しかし、数年前に流行病で母が亡くなってから、そんな幸せな生活は脆く崩れ去ってしまったのです……」

 

 彼女はそんな事を悲しげな表情で語っていった……少なくとも俺の《真偽判定》には反応は無いし、妹二人も何も言ってこない以上彼女の話は真実なんだろうから引き続き聞いていこうか。

 

「母を失った父はそれまでとは別人の様に塞ぎ込んでしまいました。仕事も手につかず私が声を掛けてもまともに反応してくれなくて……そして、いつの日か父はこの金庫の中に入っている“ある物”に溺れて、ひたすらに家の資産を食い潰す様になってしまったのです」

「ある物?」

「はい、それはかつて探検家だった父が<墓標迷宮>で手に入れた物で、父が商売をキッカケになったアイテムなんです。……何でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()代物でして、父はそこから偶々出たレアアイテムを売る事で商売の元手にしたそうです」

 

 ……んん? 何だろうな、そんな特性で資産食い潰すアイテムにはちょっとだけ聞き覚えが……。

 

「……えーっと、シルビィさんそのアイテムの名前は?」

「はい、そのアイテムの名前は【ガチャ】と言って、投入したリルに応じたアイテムを何処からか召喚する誰が作ったのかも分からない謎のアイテムです」

 

 やっぱりかー。しかしこのデンドロにもガチャとかあるんだな……それでティアンがガチャ破産とか運営は何考えてるんだろうね。どうせ言っても意味ないだろうけど。

 ……この事実を聞いて妹二人も大分微妙な顔をしているが、それが目に入っていないのか或いはそれだけ切羽詰まっているのかシルビィさんは更に話を続けた。

 

「どうやら父は母を失った悲しみをかつて自分を成功に導いた【ガチャ】に縋る事で誤魔化しているみたいで、最初はただ1日1度使う程度だったのですが次第に頻度が増えてきて……今では仕事もまともに行わず破産寸前まで資産を食い潰してガチャに耽る日々を父は過ごしているんです。私も何度も辞めるように言ったのですが聞き入れてもらえず……」

 

 まあ、<マスター>から言わせるとガチャで破産しても笑い話で済むんだろうが、この世界で生きるティアンにとっては笑い事じゃあ済まないよなぁ。

 ……シルビィさんの深刻な表情と話から、いつの間にか妹二人もそれに気付いて真剣な雰囲気になって話の続きを聞いているし。

 

「……なので【ガチャ】を破壊して父の目を覚まさせようとしたんですが、父は普段から貴重品をこの金庫に入れて身内にも触らせないので手を出す事は出来ませんでした。……そこで【怪盗(ファントムシーフ)】と【輸送隊(コンボイ)】のジョブを取ってレベルを上げきってから金庫ごと盗み出し、その上でこの金庫を誰にも見つからない何処かに始末して仕舞えばいいと考えて、実際に盗み出して外に出たら運悪くモンスターに襲われて皆さんに拾われたのです」

「……はえー」

「中々アグレッシブな感じですね」

 

 何というか色々と凄いシルビィさんの話に俺たちは一周回って感心してしまった……実際、そんな理由だけで戦闘向きでは無い上級職二つのレベルをカンストさせるとか、ティアンの身では物凄く大変だっただろうに……。

 ……まあそれと彼女の依頼を受けるのは別問題なんだがな。流石に俺達が犯罪者扱いになるのは嫌だから色々と確認しないと。

 

「でも、その金庫の中にガチャ以外の貴重品とか入っていたなら何処かに隠すのは問題じゃないの?」

「大丈夫です。……今のうちの資産は最早破産寸前で、この中にあった貴重品も父が全て売りに出してガチャ資金に変えた後だと確認済みです」

「よくそこまでレベルを上げられましたね。……というか、物理系統のジョブにして金庫を盗まずに破壊すれば良かったんじゃ……」

「レベル上げに関しては知り合いの傭兵団の皆さんに協力して貰いましたし、そもそも私には強力な戦闘系のジョブへの適性が無かったので。……後、この金庫はオリハルコン(伝説級金属)をベースにして重量と強度を大幅に上げた合金で出来ていて、更に無理矢理破壊しようとすると強度が上がるスキルなどもあるので私では破壊出来なかったんです」

 

 ……妹達が適当に質問して彼女もそれに答えているが、今の所《真偽判定》には引っかかっていないな。その二人も特に何も言わないし少なくとも彼女に悪意は無いんだろうが……俺も質問してみるか。

 

「事情は大体分かった……が、そもそも親父さんの所から無駄で金庫を持ち出した時点で泥棒扱いでは無いのか? はっきり言うが俺達は自分達が犯罪者扱いされる事に関して基本的には拒否させて貰うぞ。……というか、今の貴女に必要なのは親父さんとしっかり話をする事だと思うが」

「ええと……すみませんご迷惑をお掛けして。……一応、父の元には私が何でこんな事をしたのかを書いた《予告状》を置いておきましたし、世話になった傭兵団の人達にも同じ内容の手紙を渡しておきました。……後、このガチャさえ無くなれば父も私の話を聞いてくれるのでは無いかと思って……」

 

 ふむ、少しきつめに聞いてみたが《真偽判定》には反応無しと……事前に周囲の人間に行動の意図を伝えておくなど周りの事をある程度は考えてはいるみたいだが、その反面こんな無鉄砲な行動に出るぐらいには追い詰められてるって感じかね。

 ……さてと、多分この調子だと俺達が手伝わなくても一人で金庫を始末しに行きそうだしな。どうしたものか……。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:前座のゴブリン達は一蹴
・尚、本番はこれからの模様。

《アームズブレイク》《ウェポン・ブレイカー》:戦棍士系統の装備破壊スキル
・他にも【戦棍士】で覚える防具の耐久力を減らす《アーマーブレイク》というスキルもあり、《ウェポン・ブレイカー》はこれと《アームズブレイク》を複合して強化した上位スキルという扱い。
・メイスという武器種は対人戦における装備破壊や防具を無視した内部攻撃に長けた武器種という設定。

シルビィ:ガチャ破産寸前の身内を止める為に奮闘している
・兄の見立て通り冷静に行動出来ているように見えてかなり思いつめており、ガチャを“忌まわしき呪物”と呼んだりモンスターが彷徨くフィールドで重い金庫を持って出てしまったりと視野が狭くなっている。
・性格は普通に善人であり色々と周りに対して気が効くタイプなのだが、その分自分一人で問題を抱え込みやすいタイプ。

ガチャ:忌まわしき呪物()
・後の時代で呪われた強力な装備を使いこなす“不屈の英雄”にすら膝を突かせて、或いは虜にしてしまう(ある意味)恐ろしい呪いのアイテム。
・皆さんも無(理の無い)課金を心掛けましょう。


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呪物()と怪盗少女の結末(前編)

前回のあらすじ:妹「家族がガチャ廃人かぁ」末妹「リアルでも昔問題になってましたしね」兄「この件は“あくまで他人”である俺達に出来る事は少ないだろうな」


 □<ネクス平原> 【狂戦士(バーサーカー)】ミカ・ウィステリア

 

 そんな訳で私達はシルビィさんが金庫を運びながらフィールドに出ていた事情──母親の死が切っ掛けでガチャ狂いになってしまった父親を元に戻す為、そのガチャが入ってくる金庫を盗み出して始末しようとしているらしい──を聞いた訳なのですが……一つ彼女に言っておく事があるかな。

 

「とりあえずシルビィさんは一度ギデオンに戻った方が良いんじゃないかな?」

「……やっぱり協力はして貰えないんですね。……いえ、流石に出会ったばかりの貴方達にこんな犯罪の片棒みたいな事をやらせるのは、自分でもおかしい事は分かってました……」

「ああいや、そうじゃなくて……お兄ちゃんも言ったけどもう一度お父さんと話すべきだって事。……シルビィさんがそこまで思いつめてこんな行動を取った事をお父さんが知ったのなら、ガチャについても考え直すかもしれないじゃん」

 

 少なくともその父親に真っ当な親としての情が残っていれば、クソ重い金庫を持ち出してまで家出した娘を見て自分の行いを反省ぐらいはすると思うんだよね。

 ……それでもダメだったら? 流石に他所様の家庭環境をどうにかするのは私達でも難しいしなぁ……。

 

「……ええと……それは……」

「まあ、ミカの言う事も最もだろうよ。その親父さんは奥さんを失った悲しみからガチャに逃げるぐらいに家族思いなんだろう? だから娘が悩んでここまでしたと知ったらガチャ狂いの酔いも覚めるんじゃないかね。……それでもダメなら目の前でガチャをぶっ壊すとかすれば良いだろ」

「確かにそっちの方がインパクト有りそうですしね」

 

 私の提案を聞いたシルビィさんは冷静さを取り戻したのか顔を俯けて、そこにお兄ちゃんとミュウちゃんのフォローが入って更に深く何かを考え込む様に黙ってしまった。

 ……よしよし、どうもかなり思い詰めていて視野が狭くなっていた彼女も私達の言葉を聞いて大分冷静さを取り戻して来たみたいだね。このまま放置していると、多分一人で向こう見ずな行動を取ってそのまま死ぬ可能性が高いみたいだし。

 

(こうやって知り合ってしまったから、このまま死にに行くのを見過ごすのは私の精神衛生的に悪いし……貴女がどうなろうとも()()()()助かって貰うよ)

 

 ……私がそんなある意味“自分勝手”な事を考えている間に、シルビィさんは気持ちが落ち着いたのかどこかスッキリした顔を上げた。

 

「……そうですね。まずはもう少しお父様と話をしようと思います。……改めて思うとちょっと私は色々と思い詰めすぎていたみたいですね。皆さんのお陰で気付く事が出来ました。本当にありがとうございます、何かお礼が出来れば良いんですが……」

「いやいや、一人では“これしか無い”と思い詰めていた事でも、他人に相談してみたらあっさりと解決策が思い付くとかはよくある事だからね。私達は話を聞いただけだしそんなに気にしなくて良いよ」

「そうですよ」

「これからは単独で荷物を持ってフィールドに出るとかしなければ構わないさ。……今回は運が良かったが次は無いだろうし」

 

 そんな感じでシルビィさんはお父さんともう一度話をしてみる事にした様です……ふう、これで彼女がモンスターに喰い殺されそうなルートは回避出来たかな。私の考えを読んだお兄ちゃんも忠告してくれたし。

 ……さて、後は彼女を連れてギデオンに行けばひとまず解決になると思うんだけど……。

 

「じゃあ、この金庫を開けるとかの話はどうする? お兄ちゃんの『目の前で金庫ぶっ壊そうぜ!』作戦には中のガチャを取り出す必要があるし……付いてるダイヤルを適当に回せば開かないかな?」

「あの案はものの例えで言った事だから別に実行する必要は無いんだが……」

「ああ、その話は無しで良いですよ。今度はちゃんとお父様が分かってくれるまでじっくりと話会う気ですから。……それに、そのダイヤルは正しい数字を合わせない事が三回続くと、ダイヤルを回した人間に強力な呪いがかかるスキルが付いていますから」

 

 ほうほう、強力な呪いねー……ふーん……それなら行けるかな。三回でアウトなら二回はダイヤルを回しても安全って事だし……早速二回程適当に回しました(過去形)

 

「ちょっ⁉︎ ミカさん何を⁉︎」

「……よし、これで次間違えたら“危険”って訳だね。……つまり()()()()()()()()を選べば……」

 

 そんな訳で慌てて静止してくるシルビィさんをスルーしつつ、私は“直感”をフル稼働させて金庫のダイヤルをチキチキ回していく……まあ、ダイヤルを弄りながら危険じゃない数字を選んで回して行くだけの、私にとっては簡単な作業なんだけど。

 ……えーっと、これとこれとこれと……ふむ、それとこれかな? 

 

「……よしっ! 開いたよー! シルビィさんどうぞー」

「嘘ぉ⁉︎ ……【怪盗(ファントムシーフ)】のジョブを収めた私ですら、金庫の所有権は身内だったからどうにかして変えられてもこの扉を開く事は無理だったのに……これが伝説の<マスター>の力……」

「流石にこんな事が出来るのはウチのミカ含めて何人も居ないだろうがな」

 

 なんか驚愕しながら考え込んでいたシルビィさんだったが、しばらくすると落ち着いたのか開いた金庫の中身を探り始めた……ふむ、この人はどうも一人で考え込む癖があるっぽいね。

 

「……まあ、何か色々と理不尽を見た気がしますが置いておいて、とりあえずこの金庫の中身を全部出してしまいましょう。……重量増加の呪いは中身が空っぽなら発動しませんからね」

「そういう仕様なんだ」

「そうしないと売る時や部屋に置く時とかに金庫を運べないしな」

 

 成る程〜確かにね〜……と、私がお兄ちゃんの解説に納得している間にシルビィさんは金庫の中から一つの長方形に箱の様な物を取り出していた。

 ……よく見るとその箱の上半分ぐらいは透明な素材で中に“複数のカプセル”が入っているのが見えており、下半分には回して使うらしきレバーと如何にも何か出てきそうな排出口が取り付けられていた……って、何処からどう見ても現実にある『ガチャ』そのまんまだね。

 

「これが私の父を狂わせた忌まわしき呪物……【ガチャ】です」

「……まあ、どう見てもガチャだな」

「ガチャだね」

「ガチャなのです」

 

 正直言って、このデンドロ世界には似つかわしくないぐらいに現実にあるガチャそのままのデザインだね……尚、こんな外見だけど中にはアイテムとかは入っておらず、投入したリルに応じたアイテムを何処からか呼び出している召喚器の様な物らしい。

 ……このデザイン的にどう考えても<マスター>相手にする前提で作ったでしょ運営ェ……。

 

「まあ、私が嫌っていただけで別にこのガチャ自体が呪われている訳では無いのですが。……まだ母が生きていた頃には遊びで回したりしていましたし」

「ふーん……ちょっと回してみても良いかな? 一回だけ、一回だけで良いから! お礼代わりに!」

「いや、ちょっとは空気読もうぜミカ」

 

 いやぁ、だってこういうゲームの中にあるガチャとか回したくなるじゃん……それにシルビィさんがこのガチャに向ける感情も大分柔らかくなってる感じがするしね。

 ……後は彼女が私達に対して申し訳なさそうな風にしてるから、このガチャを回す事をお礼って事にしてやろうと思ったんだよ。

 

「ええと……お礼をするのは構わないんですが、この盗みをする為の準備とかで今私はリルをあまり持っていなくて、このガチャから高価なアイテムを召喚する事は難しいかと……」

「ああいや、お金は当然コッチで出すよ。ただちょっとガチャを回させてくれれば良いだけだから。……<マスター>の場合だと『ガチャが回せる』というか事実だけでお礼になるからね!」

「そんな<マスター>は一部だけだと思うが……まあ、記念に一回ぐらい回すのも面白そうか」

「そうですね。沼に嵌ったりしないお遊び程度なら良いんじゃないでしょうか」

 

 私の提案を聞いてガチャから出て来るレアアイテム狙いだと勘違いしたのかシルビィさんが的外れな事を言ったけど、そこはしっかりと『<マスター>は未知や娯楽を求めるからガチャが回せるだけでお礼になる』的な事を言って納得して貰った。

 ……最も彼女からは『決して連続で回さず一回きりです!』と念を押されたりもしたが……別に私達は物珍しいガチャを回してみたいだけでガチャ狂いではないと説得するのは大変だったね。彼女の事情を考えれば当然だけど。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<ネクス平原> 【調教師(トレーナー)】レント・ウィステリア

 

 そんな訳でガチャを引く引かないに関して、俺達とシルビィさんの間で色々と話し合った結果『三兄妹で一人10万リルを1回ずつ回す』という事になった。

 ……なんかグダグダな感じの話し合いだったが、だからこそ彼女が抱いていた申し訳無さやらちょっと暗い雰囲気とかが大分薄くなった様な事だけは良かったかな。

 

「さあ、やって来ました! ガチャ十万リル一発勝負! まずはお兄ちゃんからだよ!」

「はいはい……俺は妹二人程リアルラックに恵まれていないんだがな」

 

 妙にハイテンションなミカに促されるままに、俺はガチャに一度に投入出来る最大額である十万リルを突っ込んでレバーを回した……ミカ曰く、適当な額を入れる様なチキン戦術は認めないそうだ。

 ……このガチャ、ステータスのLUCが影響とかしないかな。それなら各種補正のお陰で俺はこのパーティー内で一番高い数値なんだが……。

 

「……おお! カプセルが出て来たね。この辺りは現実のガチャと同じか……そんでカプセルには『C』って書いてある」

「Cなら投入した額を等価値のアイテムが出る筈です。なので十万リル相当のアイテムが入っている筈ですね」

「説明ありがとうシルビィさん。……まあ損はしてないなら良いかな。とりあえず開けるか」

 

 そうして俺がカプセルを開けると中から一つの赤い指輪が出て来た……《鑑定眼》で見た所【ウォーム・リング】という名前で、装備者への氷属性のダメージを僅かに軽減し、寒冷な環境でも体温を一定に保つ《寒冷耐性》スキルが付いていた。

 ……シルビィさん曰く、主に寒冷環境で行動する時に使うアイテムであり、その中でもアクセサリー枠で済むので割と高性能なアイテムらしい。

 

「……ただ、今の所は寒い場所に行く予定は無いんだよなぁ」

「まあまあ兄様、そう悪いアイテムじゃないんだからいいじゃないですか。次は私ですね」

 

 ミュウちゃんにはそうフォローされたが、昔から俺はゲームでのランダムアイテム入手イベントだと『性能は良いんだけど今求めてるやつじゃないよね』的なヤツしか当たらないんだよな。

 ……そんで、その横でリアルラックが高めな妹二人がレアアイテムを出すのが何時ものパターンで「おや? このカプセル『X』って書いてますね。ガチャ表にも無いレアリティですが」……ほらー。

 

「……『X』? そんなレアリティは私でも見た事が無いんですが……」

「シルビィさんでもそうって事は隠し要素みたいな物なのかな? とりあえず開けてみなよミュウちゃん」

「はい、分かりましたのです。……おっと、なんか()()()()()()()()()が出て来ましたね」

 

 ミュウちゃんが当てやがった『X』などという謎レアリティのカプセルを開かれると、その中には『銀色をしたメカニカルなデザインの大型拳銃』が入っていた。

 とりあえず《鑑定眼》っと……んん? 名前が【シルヴァ・ブライト】という事は分かったが、説明やスキル効果が殆ど見えないな。

 ……どうやら俺の《鑑定眼》スキルレベルではよく見えないレベルの代物の様だし、ジョブ的にスキルレベル高そうなシルビィさんに頼んで見て貰……なんかその銃を見てる彼女の顔が青いんだけど……。

 

「……えーっと、シルビィさん?」

「この金属光沢、まさか神話級金属(ヒヒイロカネ)ベースの合金⁉︎ しかもこの特異な形状からして火薬式の銃器では無く、現在では生産出来ないとされる魔法式の銃器ですか⁉︎ 加えて私の最大レベル《鑑定眼》でも完全にはステータスが分からないとなると……まさか先々期文明の……⁉︎」

 

 ……うん、さっきから彼女は俺達が声を掛けているのにも気が付かずに、顔を引攣らせながら【シルヴァ・ブライト】を凝視して、何やらぶつぶつと呟いている。

 ……なんか凄く不安になって来たんだが。相当に“ヤバい”アイテムなのか? 

 

「シルビィさん! シルビィさん!」

「ハッ! ……す、すみません! ちょっと集中していて……」

 

 ミカが彼女の名前を呼びながら肩を揺すったお陰でシルビィさんはようやく我に返った……さて、ちょっと怖いがこの銃が何なのか彼女に聞かねばならないか。

 

「それは別に良いです。……それでシルビィさん、この【シルヴァ・ブライト】は一体どういった物なのですか?」

「はい……私が鑑定出来た範囲ですが、この【シルヴァ・ブライト】は神話級金属合金で出来た超高性能な光属性の魔法式銃器だと思われます。装備レベル制限が“合計レベル1000以上”になっていたので、恐らく超級職(スペリオルジョブ)専用に調整された特注品かと。……また、デザインや私の《鑑定眼》でも機能が完全には分からなかった事から先々期文明の物品である可能性もありますが詳細不明ですね。単に現在ロストしている魔法式銃器の詳しい知識が私に無いのが原因かもしれませんし」

 

 ……確か神話級金属ってこのデンドロに於ける最高の金属の事だったよな。価格は1kg1000万リル以上だって聞いたんだが……。

 

「……ちなみにこれのお値段はどのくらいで」

「……私には専門的な知識が無いので詳しくは分かりませんが、神話級金属製な事や現在では希少な魔法式銃器である事から考えると()を下回る事はないでしょう。……由来が本当に先々期文明の物なら更に数十倍とかするかもしれませんが……」

「「うわぁ……」」

 

 ……俺と妹二人は彼女の見立てに思わず絶句してしまった……こんな代物が手に入るならガチャに溺れるのも無理はないかもと、ちょっとだけ思ってしまった。

 

「と、とりあえず私は手持ち武器を使わないのでコレは兄様にあげますね! 装備レベル制限的にも兄様の方が相応しいでしょうし! ……正直、高価過ぎて持ってるのが怖いです」

「まだ装備レベルには足りないんだが……まあ、受け取っておくよ。……ギデオンに着いたら早急に盗難対策のアイテムボックス買わないと。それと盗難防御が出来るジョブに就く必要もあるかなぁ」

「こんな序盤に手に入って良い装備じゃないよねコレ。……こういうのが出るから溺れていくんだろうね。ホントにガチャって怖いわぁ……」

 

 そんな訳で、基本的に庶民派の俺達にとっては出鱈目に高価な装備を突然手に入れても戸惑うばかりと言うのが分かったとさ……シルビィさんは『そんな貴方達ならガチャに溺れる事は無いと思いますよ』と言ってくれたけどな。

 ……実際、本当にどうしようかなコレ。<マスター>の場合『ころしてでもうばいとる!』が普通にあるから、デンドロ序盤の現在下手に使うのも怖いし……ホントにどうしてこうなったorz




あとがき・各種設定解説

兄:当たったけど要らないレアアイテムを妹から貰う事も良くある
・ただ、それでも今回はモノがモノなので真剣に困っている模様。

妹達:リアルラック高い組
・ただ、それでも今回はモノがモノなので真剣に(ry

シルビィ:ヤバいモノを見て驚愕
・家が商人(ほぼ潰れかけ)なのでスキルレベル以外の目利きの技術も高く様々なアイテム関連の知識も豊富な人。
・ただ、それで今回は(ry

【シルヴァ・ブライト】:先々期文明製魔法式銃器
・先々期文明時のとある国に仕えていた超級職【魔銃王】の為に作られた超高性能【魔銃王】専用魔法銃の一つで、国での最強格の人物の為の国家規模の計画において先々期文明の技術を結集して作られた代物であり、現在出回っている魔法式銃器と比べると遥かに高性能。
・基本的はMPを消費して光属性魔法を放つ魔法式銃器で、燃費と連射性能を極限まで追求していて光属性魔法の欠点をほぼ克服しており、その上で一度に籠められる最大MP量は数十万規模という代物。
・更に威力を籠めるMPによって自在に変動させたり、MPを追加消費して聖属性を付与する機能の他、神話級金属合金なので非常に頑丈で《破損耐性》や当時の()()()()である《自動修復》まで備えている。
・尚、この計画は『フラグマン氏から齎された技術で自国の超級職を強化しようぜ!』的なものだったので、フラグマン由来の技術は使われているがフラグマン製と言う訳では無い。
・とは言え、先々期文明の武器としては特殊な機能などは無い『超高性能なレーザー銃』止まりの武器なのだが、これは【魔銃王】自身が戦場に於いて己の技術と壊れない武器を重視する質実剛健な性格だった為。
・……実際、彼が“武装の化身”と戦った際にも『運良くこの武器だけは残った』ぐらいには彼の愛銃達は頑丈だった模様(その後回収されたが)


読了ありがとうございました。
書いていたら思ったより長くなったので前後編に分けます。意見・感想・評価・誤字報告待ってます。


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呪物()と怪盗少女の結末(後編)

前回のあらすじ:末妹「なんかヤッベーイアイテムが当たったのです」兄「スゲーイ!」妹「モノスゲーイ!」


 □<ネクス平原> 【僧兵(モンク)】ミュウ・ウィステリア

 

「……よしっ! 最後は私がガチャる番だよ!!!」

「この空気でまだやる気なのですか姉様」

「もう回さなくて良いんじゃねえ? また変なのが出るかもしれないし……」

 

 ……私がガチャを回して【シルヴァ・ブライト】とか言う推定数億リル以上のとんでもアイテムを出してしまった所為で、ちょっと微妙な感じになってしまった空気を払拭する様に姉様はそう声を張り上げました。

 ……申し訳なさそうなシルビィさんへの気遣いを兼ねたお礼としてガチャを回そう! と言ったのは姉様なので、どうも引っ込みが付かなくなってる気がしますが……。

 

「いや、この空気を払拭する為には私がガチャを回してFランクのカプセルを出す事でオチをつけるしか無いんだよ!」

「……お前のリアルラックはミュウちゃんと遜色無いレベルだろうが。またとんでもアイテムが出るんじゃないか?」

「いやいや、このガチャの排出率的に考えても二連続であんなとんでもアイテムが出るなんて事は無い筈(フラグ)……まあそれに多少いいアイテムが出たとしても、あの【シルヴァ・ブライト】程の価値があるアイテムは流石に出ないでしょう(フラグその2)から、それでオチは付けられる! ……ではいざガチャァ!!!」

 

 そうして姉様は兄様からの忠告を無視しながら、半ばヤケになったかの様に言い募りつつ勢いよく十万リルをガチャの中に突っ込んでレバーを回しました……何というか、姉様のあのテンションはむしろ自分に言い聞かせている気もするんですが。

 ……その結果、ガチャから出て来たカプセルは、なんかもう形状からしてゴツくてめっちゃ虹色に煌めいていて大きく『S』の文字が刻印されている……どう見ても大当たりのSランクアイテムですね。本当にありがとうございましたのです。

 

「…………ヴァカな!!!」

「まあ、ある意味でオチはついたんじゃないか? まあここまで見事にフラグを踏み抜くのは流石に予想外だったが」

 

 その結果を見た姉様は目を見開きながら驚愕し、兄様は一周回って諦観の表情を浮かべながら頭を抱えていました……ちなみにシルビィさんはカプセルが出た時点で時が止まったかのように硬直しています。

 ……しかし、たった三回ガチャを回すだけでここまで訳の分からない当たり方をするなんて、何か大いなる運命(シナリオ)のご都合主義的な導きを感じるのです。

 

「……とりあえずさっさと開けてしまえ。そうしないと話が進まん」

「うぐぐ……適当にガチャを回してお茶を濁す予定だったのに〜」

 

 なんか凄く投げやりな感じで兄様がカプセルの開封を促し、それに答えた姉様も当たりガチャを開けるとは思えないぐらいに低いテンションでカプセルを開けていきました。

 ……そして私と兄様は今度は一体どんなとんでもアイテムが出てくるのかと内心戦々恐々しながら開封作業を見ていたのですが、そのカプセルの中から出て来たのはなんと()()()()だったのです。

 

「……ふむ? これは予想外のアイテムが出て来たね。……ネタアイテムならオチが付いたと言えるのでは……?」

「往生際が悪いぞ。……しかしデフォルメされてはいるが、見た目からして多分『ドラゴンの着ぐるみ』みたいだな」

「こうしてみるとちょっと可愛いかもなのです。……ですが、確かSランクのカプセルって投入した金額の100倍とかではなかったかと思うのですが、この着ぐるみのお値段は億超えるんですかね?」

 

 ……私のその発言を聞いた二人は『出来るだけ考えないようにしてたのに……』的な表情を浮かべながらその着ぐるみの詳細を調べて行きました。

 実際、この着ぐるみは見た目こそ『全身が暗い黄色のデフォルメされた二足歩行ドラゴン』ですが、よく見てみると着ぐるみを構成している鱗とか革は今まで見て来た売り物の装備品よりも高級っぽいので、おそらくかなりの値打ち物だと思われるのです。

 

「とりあえずステータスを見てみましょう姉様。……さっきの【シルヴァ・ブライト】の時はとんでもアイテムが当たった衝撃でちょっと忘れてましたが」

「オッケーミュウちゃん、ステータス欄を出すよ。……えーっと、名前は【Q極きぐるみシリーズ どらぐている】だって」

 

 そう言って姉様は他人にも見える様に設定してステータス欄を私達に見せて来ました……あれ? その“説明文”と“モンスターの名前”で命名されるアイテムって確か……。

 

【Q極きぐるみしりーず どらぐている】

古代伝説級武具(エンシェントレジェンダリーアームズ)

 強靭で伸縮自在の尾を持つ地竜の概念を具現化したQ極な着ぐるみ。

 凄く頑丈かつ強靭で中の人をすっごく強く出来る! 更に尻尾を自由自在に伸ばせるんだ! 

 ※譲渡売却不可アイテム・装備レベル制限なし

 

・装備補正

 攻撃力+1065(どらごん)

 防御力+1065(どらごん)

 STR+30%

 END+30%

 AGI+30%

 

・装備スキル

《アラウンドビュー》:中の人の視界を完璧に確保する。望遠・暗視機能つき。

《フリーサイズ》:中の人のサイズに合わせて変形する。急に体格が変わっても大丈夫。

《冷暖房内蔵》:外部気温に関わらず中の温度を適温に保つ。夏でも冬でも安心。

《万能竜爪》:不思議と物を掴めるし器用に使える。更に爪を展開して攻撃も出来る。

《竜尾剣》:SPを消費してブレードが付いた尾を自由自在に伸ばす。パワーとスピードは自分と同じ。

《重位圏》:MPを消費して周囲の物体の位置を把握する。効果範囲は自分のレベルに比例。

《???》※未開放スキル

 

 ……これはまた説明文はアレですが、とても着ぐるみとは思えない程の高性能で強力なスキルが多数……って。

 

「これ()()()()じゃないか⁉︎」

「……そりゃあ億越えの着ぐるみなんて普通はないよなぁ……」

「名前の付け方を何処かで見た事があると思ってましたが……」

 

 そう、この【Q極きぐるみしりーず どらぐている】はなんと<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>を倒して、その中でも最も活躍したMVPにのみ与えられる筈である世界に一つだけのユニークアイテム……通称“特典武具”だったのです! 

 ……いや、だからなんでガチャからこんなのが出て来るんですかねぇ……。

 

「……確か<墓標迷宮>などの神造ダンジョンの深層では、かつての英雄が使っていたとされる特典武具が見つかる事もあると聞いた事があるので、おそらくその着ぐるみもそれに近い物かと」

「あ、シルビィさん復活したんだ」

 

 そこで漸くフリーズ状態から復帰したシルビィさんがその様に解説をしてくれました……確か特典武具を所持しているティアンが死亡した場合、それらの特典武具も消滅すると以前アイラさんに聞いた事がありましたね。

 ……つまり、この着ぐるみも元は昔のティアンが所持していた特典武具だと……MVPにアジャストされる筈の特典武具で着ぐるみが出るとか、そのティアンの方は一体どういう人だったのでしょうね。ちょっと気になります。

 

「……しかし見た目と説明文はアホくさいのに、今私が付けてる【クインバース】と【ギガース】除く装備品一式を合わせたよりも高性能なんだよねーコレ。流石は古代伝説級の特典武具ってとこかな」

「古代伝説級ともなると国の存亡を賭けて挑む天災の様なモノですからね。滅多には現れませんし。……一番最近だと数年前に【天騎士】【天翔騎士】【大賢者】の御三方に討伐されたと聞く、“あらゆる生物を喰い尽くす”とされた【業奪死竜 ドレインドレイク】ぐらいしか聞いた事が無いですね」

「確か<UBM>は古代伝説級になると一気に強くなるとリリィさんに以前聞いた事があるな」

 

 まあ、私達がこれまで戦った【ヴァルシオン】【クインバース】【ブラックォーツ】などよりも格上の<UBM>がベースの特典武具ですから、それは見た目はともかく高性能になるでしょうね……見た目はともかく。

 

「……正直かなり悪目立ちするヤツだしミュウちゃんみたいにお兄ちゃんに押し付け「残念ながら特典武具は譲渡不可能だ」……ですよねー。……それじゃあいっそ装備してみるか。このファンシーな外見ならオチがつくかもしれないし。【瞬時装着】でいけるかな」

 

 そう言った姉様は、いそいそと【どらぐている】を身につけ始めた……どうにもこの空気を払拭する為、何かオチをつける事に意地になってる感じがしますねー。

 ……そうして姉様の着替えが終わると、そこには手に2メートル弱の大型メイスを持つ身長150cmぐらいの二足歩行デフォルメドラゴンが誕生していました……こうして見るとギャグとしか思えませんね。

 

『んーなかなか良い着心地だねドラゴン。《フリーサイズ》のお陰か動きも阻害されないし、《アラウンドビュー》で視覚の確保も十分にされているから充分戦闘も出来そうドラゴン』

「……語尾はそれで良いのか?」

「ていうか姉様、なんで語尾付けてるんです?」

『やっぱり四文字だと長いドラ? 後、着ぐるみを着たら何故か語尾を付けなければいけないって思ったゴン』

 

 そんなどこかのクマさんじゃ無いんですから……まあ、意外と満足そうで何よりですね。私は当たったアイテムが使えなくて兄様に譲る事になりましたし。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<ネクス平原> 【調教師(トレーナー)】レント・ウィステリア

 

 さて、ガチャ関連でなんやかんやあったがいい加減にシルビィさんをギデオンに連れて行かなければならないという事で、アレらのとんでもアイテム達の事は後回しにする事に……。

 ……この場で考えてもいい案は浮かばないだろうからな。明日の俺達がなんとかしてくれるだろう(願望)

 

「それじゃあシルビィさん、そろそろギデオンに行きましょうか。道中危険なので送りますよ」

「何から何まで本当にありがとうございます。……何かちゃんとしたお礼が出来れば良いんですが……」

「あ、いえ、これ以上変なアイテムが増えても困るので、あの十万リルガチャ三連で十分です(真顔)」

『落ち着いて考えてみると特典武具と超高性能装備が手に入ったんだから、金庫を開けた報酬としては過剰すぎるドラ』

 

 ちなみにミカは存外気に入ったのか【どらぐている】を着たままである……まあ、性能自体は凄まじいし特典武具である以上は盗まれる心配も無いので、見た目がネタにしか見えない問題を除けば普段から使っても構わないだろうからな。

 ……そんな俺達に対して苦笑いを浮かべながらシルビィさんは金庫を持っていこうとした。

 

「あはは……ここで見た事は誰にも言いませんよ。ガチャに溺れる人が(ウチの父含めて)増えそうですし……アレ?」

 

 ……そうやって金庫を持ち上げようとしていたシルビィさんだったが、何故か金庫は中々持ち上がらなかった。

 

「これはまだ重量増加の呪いがかかってますね。……中の物はガチャだけだと思っていたんですが、まだ何か入っているみたいですか……」

 

 どうも金庫の中にはまだアイテムが残っていた所為で重量増加の呪いが続いていたらしく、シルビィさんは扉を開けて中を調べていった……そして、しばらくした後に彼女は金庫の中から()()()()()()()()を取り出したのだった。

 ……そのペンダントが何なのかは少し気になったが、彼女がとても懐かしそうで、かつ悲しそうな表情を浮かべていたので空気を読んで黙っておく事にしよう。妹二人もそんな感じだし。

 

「……これは……お母様がお父様の初めての結婚記念日に送ったペンダントだった筈。……確かまだ裕福でなかった時の物なので安物ですが……そうですか、これだけは残していたんですね」

「「「…………」」」

 

 ……つまりはそういう事らしい。これなら彼女の先行きに希望が見えてきたかな。

 

「……皆様、今日は本当にありがとうございました。……これから必ずお父様を説得してみせます」

「分かりました、頑張って下さいシルビィさん。……じゃあ今度こそギデオンに向かいましょうか」

 

 実に晴れやかな表情になったシルビィさんのお陰で、これまでの(主にガチャ結果の所為で)微妙だった空気も良くなったしな……そういう訳で俺達は再びヴォルトの引く馬車に乗って、一路ギデオンを目指して行ったのだった。

 

 

 ◇

 

 

 そんなこんなで<ネクス平原>を行く俺達だったが、これまでの様に何かトラブルが起きる事も無く順調に進み大体お昼頃に“決闘都市”ギデオンの北門へと到着していた……そして俺達はここでシルビィさんと別れる事になる。

 ……まあ、後は彼女達家族間の問題だから俺達がどうこう言える事も無いしな……何より今の彼女は初めて会った時と違って希望に満ちた表情をしている事だから、決して悪い事にはならないだろう。

 

「それでは皆様、私はここで失礼いたします。……改めて色々と助けて頂いてありがとうございました」

『どういたしましてドラ。シルビィさんも説得頑張って下さいゴン』

「実質ほとんどガチャ回しただけみたいな物なので気にする事は無いですよ」

「頑張って下さいね」

 

 ……そうして彼女は深々と俺達にお辞儀をした後、そのまま金庫を背負ってギデオンの街の中へと消えていったのだった。

 

『さて! じゃあ私達もギデオンを満喫しようドラ!』

「……それはいいんですが姉様、その着ぐるみは着たままなので?」

「なんか結構しっくり来てるけどさ」

『道中使ってみて中々強かったからね。メイン装備でもいい気がして来たドラ』

 

 ミュウちゃんとミメ(街中なので融合解除)のツッコミを受けたミカin着ぐるみは、そう呑気な感じで答えていた……確かに道中のモンスター相手に尻尾を伸ばして攻撃したりもしてたからな。

 ……曰く、この《竜尾剣》は遠距離の直接攻撃だから【ギガース】の《バーリアブレイカー》の効果も乗るから相性は良いと言っていたが……。

 

「……とりあえず街中では抜いどけよ。悪目立ちするだろ」

『まあそうだねー。街中専用の《着衣交換》付きの服でも買おうかな?』

 

 実際、街中でも着ぐるみとかネタ装備万歳な人間か、余程退っ引きならない事情がある人間(例:シュウ・スターリング)ぐらいだからな。それでもメイン装備にするならそういった備えも必要だろう。

 

「それじゃあまずは何処から周ろうか。とりあえず決闘場とか見てみる?」

「元々それが目的で訪れましたからね。いいんじゃないかと」

「俺は決闘には余り興味が無いから店とか見てみたいな。……それに例のアイテムを収める盗難防止機能付きアイテムボックスも買わねばならんし」

 

 ……そんな感じで俺達は各々の目的の為にギデオンの街へと繰り出して行ったのであった。

 

 

 ◇

 

 

 ……尚、これは少し後の話になるのだが、俺達はギデオンにある<アレハンドロ商会>のお店で再び例の【ガチャ】と再会したのだ……何でも最近入荷した物で買い物をした人が一回だけ回せるサービスになっているのだとか。

 そしてお店の人に加えて話を聞いた所、この【ガチャ】は()()()()()()()()()()()()()から買い取った物なのだと言う……更に話を聞いた店員さんはその時に買取を担当していたらしく、彼等は一緒に“高級な金庫”も売りに出してそれで得たお金を使って別の街で新しい生活を始めるのだと言っていたとか。

 ……それを聞いた俺達はちょっと嬉しくなったので記念にガチャを回してみたが、今度は笑い話になる程度のハズレだったとさ。




あとがき・各種設定解説

兄:ガチャは笑い話になる程度のハズレで十分だと思う
・ギデオンではアイテムボックスを買う資金稼ぎの為に【ジェム】作りに邁進しつつ、その為に新しく上級魔法系ジョブや盗難対策が出来るジョブを少しずつ取ってレベルを上げている。

妹:着ぐるみ勢になった
・ゲーム内なので別に着ぐるみ着て街中歩いても気にしないが、兄と末妹に配慮して街中では普通の衣服を着る事に。
・ただし、ギデオンでの決闘では着ぐるみ(古代伝説級)を着ながら無双している模様。

【Q極きぐるみしりーず どらぐている】:ガチャのオチ担当
・《アラウンドビュー》の暗視・望遠機能はSPを微量消費するアクティブ系機能で、視界確保《フリーサイズ》《冷暖房内蔵》《万能竜爪》の爪は消費なしのパッシブ系機能。
・《竜尾剣》はSPを消費してブレードが付いている尻尾を自由に伸縮・操作出来るスキルで、尾を伸ばせる長さは合計レベル×1メートルまでで最大パワーと速度はそれぞれ装備者のSTRとAGIと同じ。
・《重位圏》は周囲の物体の質量を感知する重力属性のスキルで、感知範囲は自分を中心とした半径“合計レベル×1メートル”分。
・元となったのは【尾竜王 ドラグテイル】という三強時代より前に活動していた地竜種の竜王で、尻尾に神話級金属並みの強度を持つブレードが付いていてそれを音速の数倍の速度で数十キロ伸ばして超遠距離攻撃をする事が出来た<UBM>だった。
・更に強力な《竜王気》と純粋性能型故の高いステータス、そして“あらゆる物を切断出来る”切り札によって近接戦闘も問題無くこなす事が出来る直接戦闘に長けた竜王だった。
・だが、某人外さんより前の【龍帝】と戦いになり、あくまで“直接攻撃が単純に強い”タイプだったので不死身に近い再生能力を突破しきれず三日三晩の持久戦の末に敗北した。
・尚、着ぐるみなのはその【龍帝】が変化後の自分の姿を晒す事を嫌って、よく全身装備を身に付けていた事にアジャストした結果。

末妹:内心ガチャはもういいかなと思ってる
・ちなみにギデオンでは妹に付き合って決闘に参加して並み居る対戦相手を殴り倒している模様。

シルビィ・マグノリア:新たな人生へ
・この後、都合5時間ぐらいの説得(物理込み)によって無事に父親と和解して、残ったガチャ含む売りに出せる資材を売って別の街で慎ましい生活を送る事にした。
・三兄妹に会わなかったのは大当たりを出しまくった彼等に会うと父親のガチャ狂いが復活しそうだったからで、状況が落ち着いたら改めてお礼を言いたいと思っている。

ガチャ:後にいくつものドラマを生んだり生まなかったりする


読了ありがとうございました。
次回からは掲示板回を挟んで三兄妹のギデオンでの活動編になると思います。感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


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掲示板回:ギデオンの日常風景

前回のあらすじ:妹『新しい装備が当たっちゃったドラ』末妹「その語尾はもう固定なのです?」兄「まあゲームの装備ぐらい好きにすれば良いが、流石に街中ではやめろよ」


 □◾️地球 とある掲示板

 

 

 ◇◇◇

 

 

【戦え……】<Infinite Dendrogram>アルター王国決闘情報スレ27【戦え……!】

1:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

このスレはアルター王国での決闘に関する情報を書き込むスレです

決闘の参加者や戦術や決闘都市ギデオンに関する質問や話題などご自由に

荒らしはスルー推奨

 

 

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127:名無しの剛剣士[sage]:2043/8/10(月)

あー、負けたー! 何だよあの着ぐるみ!

 

 

128:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

勝つ時もあれば負ける時もある

それが決闘(デュエル)

 

 

129:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

しかし着ぐるみとは珍しい装備だな?

犬の着ぐるみ着て子供にお菓子上げてる人? ならギデオンの広場で見たけど

 

 

130:名無しの剣聖[sage]:2043/8/10(月)

てゆーか【剛剣士】とか甘え

ちゃんと【剣聖】取れよ

 

 

131:名無しの剛剣士[sage]:2043/8/10(月)

>>129

いや俺が戦った相手はドラゴンの着ぐるみだった

手に持った2メートルぐらいの大型メイスで叩き潰された

 

>>130

後で取る予定なんだよ!

 

 

132:名無しの剛闘士[sage]:2043/8/10(月)

でも着ぐるみってアクセサリー枠以外の全防具装備枠使うネタアイテムだよな

そんなネタ枠に負けるとは……

 

 

133:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

いや着ぐるみ自体かそれに関するエンブリオという可能性もあるぞ

マスターの場合にはシナジー次第でネタ装備がヤバい事になるかもだし

 

 

134:名無しの紅蓮術師[sage]:2043/8/10(月)

自分の鰤に合わせた装備とジョブは基本

特に一対一での決闘に挑む時は

 

 

135:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

シナジーによるわからん初見殺しはやめろ下さい

 

 

136:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

気が付いたら状態異常五つぐらい掛かってた……

 

 

137:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

>>135>>136

ギデオンでの決闘あるあるネタだな

まあ決闘においては対策出来ない方が悪いって事で

 

 

138:名無しの剣聖[sage]:2043/8/10(月)

決闘ではやられる前にやるのが基本

 

 

139:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

今の決闘は先手必殺系一強みたいな所があるしなぁ

初手で威力の高い必殺スキル撃たれると俺のAGIじゃかわしきれないんだよう

 

 

140:名無しの剛剣士[sage]:2043/8/10(月)

>>138

俺も初手で不意打ち系高威力必殺スキル使ったんだけど

その着ぐるみにはあっさり回避されたんですがそれは……

 

 

141:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

不意打ち系高威力必殺スキルとか決闘当たり鰤じゃねえか

俺まだ必殺スキルなんて覚えてねえよ……

 

 

142:名無しの紅蓮術師[sage]:2043/8/10(月)

まあティアンの高位ランカーとかには自分の技術と経験で不意打ち回避するのもいるからね

……一部リアルスキル高い勢の鱒とかも同じ事出来るから技術は重要

 

 

143:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

シナジーと技術……マスターにとってはどっちが重要なんだ?

 

 

144:名無しの剛剣士[sage]:2043/8/10(月)

VRMMOでリアルスキル持ち込み無双とかなろう小説じゃないんだしやめろよ〜

引きこもりネトゲオタクの俺じゃあ勝てないだろ〜(泣)

 

 

145:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

リアルでは寝たきりでもデンドロではバリバリ動くって鱒もいるんだから頑張れよ

 

 

146:名無しの紅蓮術師[sage]:2043/8/10(月)

>>143

勿論どっちもだ……と言いたいがまずは自分の鰤とシナジーするジョブ探しから始めればいいぞ

そのジョブの転職条件とかを満たしている内に技術は身に付いてくるし

 

 

147:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

それでもリアルスキルチート勢には勝てないという

何せ元から持ってるモノが違うし

 

 

148:名無しの剛闘士[sage]:2043/8/10(月)

マスターの間に技術差があるのはしょうがないだろ

ゲームの腕に差があるなんて当たり前だし

その上でどうやったら勝てるのかを考えて努力するべきだ

 

 

149:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

↑ぐう正論

 

 

150:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

まあ決闘は勝ち負けある対人戦だしなぁ

 

 

151:名無しの剣聖[sage]:2043/8/10(月)

こんな所で駄弁ってないで腕を磨くべきだろ、常識的に考えて

 

 

152:名無しの剛剣士[sage]:2043/8/10(月)

>>151

今書き込んでるお前が言うな!!!

 

 

153:名無しの大魔槍士[sage]:2043/8/10(月)

うーん、このジョブなら決闘に勝てる! みたいな鉄板ジョブとかって無いんですかね

決闘始めようと思って情報収集してたけどよく分からん

 

 

154:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

そもそもまだ500レベルカンストした鱒も少ないからね

 

 

155:名無しの紅蓮術師[sage]:2043/8/10(月)

>>153

歓迎しよう! この鱒同士が互いを喰らい合う終わりなき決闘沼に!!!

……まあそれはともかくデンドロには千差万別の鰤があるからなぁ

その辺りはジョブ掲示板とかの方が詳しいが鰤にシナジーするジョブ選ぶのが無難感がある

 

 

156:名無しの剣聖[sage]:2043/8/10(月)

そもそも今だに上位ランカーティアンの牙城は崩せていないんだからまずはレベル上げからじゃね

同じ500レベルなら鰤の差でティアンとの技量を覆せるだろうし

 

 

157:名無しの剛剣士[sage]:2043/8/10(月)

ティアンランカーはデンドロ内で戦い続けているからな

基本ネトゲオタクしかいない鱒よりも技術は上(一部例外あり)

……まあ、アルターの決闘一位は数年前から『とある鱒』なんだけどね

 

 

158:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

あの運営側かベータテスターらしき疑惑がある猫さんか

そう言うのが決闘一位に居座ってるのってどうなの?

 

 

159:名無しの大魔槍士[sage]:2043/8/10(月)

このゲームベータテスターなんていたのか? 初耳だけど

 

 

160:名無しの紅蓮術師[sage]:2043/8/10(月)

正確に言えばアルターの決闘一位が合計レベル1000のマスター【猫神】トム・キャットであり

その彼が現地時間で『数年前』から決闘ランク一位の座にあるって話ですね

詳しくは決闘関連のデンドロWikiに書いてあるのでそちらをどうぞ

 

 

161:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

ベータや! ベーターや!!!

 

 

162:名無しの剣聖[sage]:2043/8/10(月)

考察班の考えだと鱒に対しての壁としての役割を担っているんじゃないかとも言われてるがな

直接話してみたらベーターでイキる様なタイプじゃ無かったとか

 

 

163:名無しの剛剣士[sage]:2043/8/10(月)

例えそうだとしてもアルターだけ決闘一位になるハードルが高い気がするんだが

 

 

164:名無しの大魔拳士[sage]:2043/8/10(月)

友人から聞いた話ですが上位ランカーがほぼ超級職ティアンの天地よりマシかと

 

 

165:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/10(月)

ランキング自体を賄賂か暗殺で操作しまくってるカルディナとかの話は聞いたな

他にもグランバロアだと決闘に船が必要な所為でまだ鱒が参加出来ないとか

 

 

166:名無しの大魔槍士[sage]:2043/8/10(月)

決闘にもお国柄は出るんだな

他の国の決闘系掲示板とかも覗いてみるか

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

【多々買え……】<Infinite Dendrogram>アイテム関連情報スレ35【多々買え……!】

1:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

このスレは<Infinite Dendrogram>における様々なアイテムに関する情報を書き込むスレです

レアアイテム自慢や変なアイテム発見の話題や質問などご自由に

荒らしはスルー推奨

 

 

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17:名無しの司教[sage]:2043/8/12(水)

ギャァァァァァァァ!!!

せっかく稼いだ五十万リルがお掃除セットと安物ポーションにぃぃ!!!

 

 

18:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

まーた例のガチャの爆死者が出たか

ていうか司教がギャンブルなんてすんなよ

 

 

19:名無しの冒険家[sage]:2043/8/12(水)

え? デンドロにガチャなんてあったの? 初めて聞いた

 

 

20:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

最近アルター王国にあるアレハンドロ商会って言う店に置かれる様になったらしいぞ

何でも買い物をしたら一回回せるんだと話題になってた

俺はカルディナにいるから見た事無いが

 

 

21:名無しの大狩人[sage]:2043/8/12(水)

>>19

見た目はよくデパートに置いてあるガチャっぽくて投入金額は十万リルまで

そして入れた金額の1/100から100倍までの価値のアイテムがランダムで出て来るんだ

詳しくはデンドロWikiに載ってる

 

 

22:名無しの冒険家[sage]:2043/8/12(水)

ありがとうございます、よく分かりました

 

 

23:名無しの司教[sage]:2043/8/12(水)

>>18

俺の鰤はLUC上昇させるやつだからLUC伸びるジョブに就いただけだし

3000越えのLUCならいけると思ったんだが……

 

 

24:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

残念ながらガチャに必要なのはリアルラックの模様www

 

 

25:名無しの大狩人[sage]:2043/8/12(水)

ガチャには無(理の無い)課金を心掛けましょうって事だな

 

 

26:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

でもアルターにしかガチャが置いてないのはズルくね

各国に一つずつ置くべきだろう

 

 

27:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

ほんそれ

俺もガチャやってみたい

 

 

28:名無しの冒険家[sage]:2043/8/12(水)

それで爆死するんですね分かります

 

 

29:名無しの高位魔石職人[sage]:2043/8/12(水)

あのガチャって元は墓標迷宮から出たアイテムらしいから探せば他にも見つかるかもよ

多分運営がマスター用としてデンドロ内に配置したアイテムだと思うし

 

 

30:名無しの大狩人[sage]:2043/8/12(水)

それってどこ情報? Wikiにも載ってないんだけど

 

 

31:名無しの高位魔石職人[sage]:2043/8/12(水)

最近ガチャを入荷した店の人から聞きました

どうもデンドロのガチャはコンテンツって訳じゃなくて

入れた金額に応じたアイテムをランダムに召喚する物らしいね

 

 

32:名無しの破壊者[sage]:2043/8/12(水)

成る程、大体分かった

 

 

33:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

でも結局墓標迷宮でしか出ないならガチャは王国専用じゃね?

 

 

34:名無しの大狩人[sage]:2043/8/12(水)

いや運営が巻いたアイテムなら他の神造ダンジョンでも出土する可能性もあるが

ガチャが元からデンドロに巻かれたアイテムならまだ見つかってないだけかもしれないし

 

 

35:名無しの司教[sage]:2043/8/12(水)

それよりもガチャを回すのにいちいち買い物しなければならないのが面倒なんだが

 

 

36:名無しの高位魔石職人[sage]:2043/8/12(水)

何故わざわざ買い取った物をタダで使わせなければならないんだ?

その店の利益的にも当然の話だろう

 

 

37:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

鱒は買い物するだけでガチャが出来る

店はガチャ目当ての鱒が買い物に来て潤うというかwin-winの関係

 

 

38:名無しの破壊者[sage]:2043/8/12(水)

後はある程度不便にする事で>>35みたいな爆死者が減るかもしれないしな

頭を冷やす時間があれば爆死する程回す事も減るだろうし

 

 

39:名無しの司教[sage]:2043/8/12(水)

>>36>>37>>38

愚か者!!! 爆死を恐れてなにがガチャか!!!

 

 

40:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

これはもうダメみたいですね

 

 

41:名無しの冒険家[sage]:2043/8/12(水)

しかし神造ダンジョンから出るなら探してみようかな

……と思ったけど肝心のダンジョンに行く手段が無いorz

 

 

42:名無しの大狩人[sage]:2043/8/12(水)

神造ダンジョンはどこも入るのに条件がありますからね

一番簡単な墓標迷宮でも王国所属と許可証(クエスト報酬・十万リル)が必要ですし

 

 

43:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

やっぱ王国優遇されすぎじゃねー

 

 

44:名無しの破壊者[sage]:2043/8/12(水)

神造ダンジョンの数はレジェンダリアが最も多い筈だが

ちなみにそれ以外の国は大体一個ずつぐらいで黄河とグランバロアには無いと聞いた

 

 

45:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

地形上グランバロアは仕方ないとして何故黄河には無いんだ(黄河出身鱒感)

運営バランス調整ミスってんよー

 

 

46:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

まあガチャがデンドロの1アイテムだとすれば既に出回っているかもしれんし探してみればいいのでは?

案外誰も見つけていないだけで王国と同じ様に使えるかも

 

 

47:名無しの高位魔石職人[sage]:2043/8/12(水)

>>45

バランス調整のバの字も無いこのゲームで今更何を(エンブリオとか特典武具とか)

 

まあ流石にガチャが一つしか無いとは思えないから何処かにはあると思うぞ

 

 

48:名無しの大狩人[sage]:2043/8/12(水)

それにデンドロのアイテム数から考えてガチャで狙った物を引くのは天文学的な確率だろう

 

 

49:名無しの司教[sage]:2043/8/12(水)

俺はアイテムが欲しいんじゃない……俺はガチャで当たりを出したいんだ!!!

 

 

50:名無しの破壊者[sage]:2043/8/12(水)

最早手遅れか……

 

 

51:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

>>49

ガチャに溺れた物の末路

 

 

52:名無しの冒険家[sage]:2043/8/12(水)

まあリアルの金を使う訳では無いから多少はね(精一杯の擁護)

 

53:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

リアルマネートレード禁止法万歳

 

 

54:名無しの高位魔石職人[sage]:2043/8/12(水)

こうしてお店はどんどん潤っていくのだった

本当にマスター相手だと上手い商売だよなぁ

 

 

55:名無しの<マスター>[sage]:2043/8/12(水)

>>49

ティアンに貢ぐ<マスター>の鏡(笑)

 

 

56:名無しの司教[sage]:2043/8/12(水)

うぉぉぉぉ!!! 行くぞぉぉぉ!!!

俺達の多々買いはここからだ!!!

 




あとがき・各種設定解説

鱒:“ます”と呼ぶ
・ネットで使われる<マスター>の略称の一つ、使用頻度には個人差あり。

鰤:“ぶり”と呼ぶ
・ネットで使われる<エンブリオ>の略称の一つ、使用頻度にry

ギデオンでの決闘事情:最近着ぐるみメイス装備で殴り込んだヤツが出たらしい
・カンストしている者が少なく<マスター>のステータス・技量が低い現在では高威力の必殺スキルを覚えたヤツが有利な風潮がある。
・他にも自身の<エンブリオ>とシナジーするジョブを見つけた者やリアルスキルおかしい勢とかが頭一つ抜けているが、それでも全体的には勝ったり負けたりのほぼ団子状態。

アレハンドロ商会:ガチャのお陰で売り上げがそこそこ伸びた
・ただ、問題として<マスター>の買い物額よりもガチャに突っ込む金額の方が多かったりするのが悩みのタネ。
・まあ今はガチャの物珍しさから盛況だが、排出率とかが明らかになってくれば(一部のガチャ廃を除き)落ち着く模様。


読了ありがとうございます。
三兄妹のギデオンでの話を考えるために次回は少し間が空くかもしれません。


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ギデオンでの三兄妹・その一

 □決闘都市<第五闘技場> 【戦棍鬼(メイス・オーガ)】ミカ・ウィステリア

 

『……それでは次の決闘に参りましょう! まずは東門。最近決闘に参加し始めた謎の着ぐるみ<マスター>! ですが、格好と裏腹に立ち塞がる相手を次々と巨大メイスのシミに変えていった期待のルーキー! 【戦棍鬼】ミカ・ウィステリア選手の入場です!!!』

『どらごーん!』

 

 そんなアナウンスと共に【Q極きぐるみしりーず どらぐている】を着た私は、適当な叫び声を上げなから決闘場の東門を出て闘技場へと上がっていった……ちなみにこの声に関してはパフォーマンス的なものだよ。プロレスでの叫び声的な。

 ……このギデオンでの決闘でずっと【どらぐている】を装備してたらすっかり着ぐるみキャラだと思われる様になっちゃったからねー。だから開き直って決闘ではネタキャラ路線で行く事にしたんだ。こっちの方がウケが良いし。

 

『続いて西門! こちらも同じく<マスター>! 強大な魔獣の<エンブリオ>を従え、自身もハルバードによる強撃を得意とする女戦士! 【獣戦鬼(ビースト・オーガ)】アマンダ・ヴァイオレンス選手の入場です!!!』

 

 そうしてアナウンスと歓声と共に入場して来たのは手に身の丈程のハルバードを持った筋肉質な長身の女性<マスター>だった……アマンダと言うらしい彼女は対面の私を見ると不敵な笑みを浮かべながら話しかけて来た。

 

「へぇ、アンタが決闘界隈で今噂になってる着ぐるみの<マスター>かい」

『どらごん』

「何でも同じ時期に決闘に参加し出した妹と一緒に、あのビシュマルを筆頭とした腕利きの<マスター>やティアンを次々と打ち倒してるとか」

『どらごん』

 

 ちなみにビシュマルって人と戦ったのはミュウちゃんの方だね。何でもリベンジに燃える(物理的)彼には中々苦戦させられたって言ってたっけ。

 ……まあ、ミュウちゃんは上級職への転職条件を満たしたらあんまり決闘には参加しなくなったけどね。私も転職条件は満たして【戦棍鬼】に就いたけど、技術を磨くのも兼ねて決闘を続けてるのだ。

 

「……ところで気になってたんだけど、さっきから『どらごん』としか言ってないがアンタは普通の言葉は喋れないのかい?」

『いや、普通に喋れるゴン?』

「喋れるんかい!」

 

 だって、これはネタ的な意味でのキャラ付けでしか無いし……そう言ったらアマンダはため息を吐きながらも左手を上げた。

 

「まったく調子が狂うねぇ……でも、戦うからには容赦は無しだ。こい! べフィー!!!」

『GAOOOOO!!!』

 

 そして彼女の呼びかけと共に紋章から高さ3メートル、全長5メートル程の四足歩行で太い手足と鋭い牙を持つ巨大な魔獣が現れた……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、やはりガードナーの<エンブリオ>か。

 お兄ちゃんが『ガードナーと【獣戦士(ジャガーマン)】の組み合わせって強くね?』とか前に言ってたし、そんな感じのジョブ構成なんだろうね。

 ……とりあえず私も紋章から【ギガース】を呼び出して戦闘準備を整えると、選手の準備が完了したと見たのか試合開始のアナウンスが闘技場に響き渡った。

 

『それでは決闘開始ィ!!!』

「行けっ! べフィー!」

『GAAAAAAAAA!!!』

 

 ……と同時に、アマンダの指示を受けた<エンブリオ>──べフィーが巨体とはちょっと思えないぐらいの速度でこちらに突っ込んで来た……ふむ、まあ私のAGIなら問題無く見える範囲だけど、その巨体を目隠しにして彼女自身もコッチに向かって来てるのがイヤらしいね。

 

『《重位圏》《サンダー・インパクト》!』

『GAAAAAA!!!』

 

 なので、私はまず周辺の物体位置を把握する【どらぐている】の《重位圏》を使って彼女の位置を把握しつつ、眼前にまで迫って来たべフィーが振るう前足を【戦棍鬼】の《サンダー・インパクト》──雷を纏ったメイスで攻撃しつつ、相手に電撃を流し込む事でダメージ+【麻痺】を与えるスキル──で迎撃した。

 ……この《重位圏》も最初は周囲の物体位置が流れ込んで来る所為で目の前の敵への対応が疎かになったりした物だけど、元々“目に見えないモノを感じ取る”のが得意な私なので、何度かの決闘を経てようやく実戦で使い物になるレベルで運用できる様になったのさ。

 

『そっちドラ! 《竜尾剣》!』

「チッ、バレてたか! 《パワーアックス》!」

 

 なので、私が目の前のべフィーの相手に集中している間に背後に回っていた彼女を、スキル《竜尾剣》によって伸ばしたブレード付きの尻尾で迎撃する事も出来るんだよ。

 ただ《竜尾剣》の方はまだ操作に慣れてないんだよね。なんか()()()()()()()様な感じで……今も《獣心憑依》で強化されたアマンダに尻尾を弾き飛ばされて再操作に手間取ったから、その隙にハルバードを槍のように構えた彼女の接近を許しちゃったしね。

 

「だが、距離は詰めたよ! 《スラストチャージ》」

『なんのドラ! 《瞬間装備》!』

 

 そして彼女が突撃系のスキルを使って一気に私を刺し貫こうとして来たけど、()()()()()()()()()()()()私は《瞬間装備》によって竜の皮で出来た大型の盾を片手で構えてその刺突を防いだ。

 ちなみにこれは【ヘビーアイアン・タワーシールド】と言うギデオンの防具屋で買った物で、私は【戦棍騎士(メイスナイト)】のジョブで《盾技能》取ってるから多少ならば扱えるのさ。

 ……最も今までは【ギガース】が両手の装備枠を使ってたから使えなかったけど、【戦棍鬼】で“両手の装備枠を使う大型メイスを片手の装備枠だけで装備出来る”パッシブスキルを覚えたからどうにかなったのだ。

 

『……と言っても、この状況はちょっと頂けないドラ』

『GAAAAAAOOOO!!!』

「べフィー合わせな! 挟むよ! 《アクスブレイク》!」

 

 だが、彼女は攻撃を盾に防がれても構わず攻め続け私をその場に釘付けにし、更に【麻痺】から回復したべフィーと挟み撃ちにする戦術をとって来た……STRで勝っていて《万能竜爪》のお陰で盾をしっかりと保持出来ているから今の所は崩されていないが、二体一になったらそのまま押し切られるかな。

 ……なので、まず《竜尾剣》を引き戻してアマンダを攻撃しつつべフィーに対して盾をSTR任せにぶん投げて牽制、その隙にSTRを使った踏み込みで彼女に接近して【ギガース】で殴り掛かる! 

 

『ッ⁉︎ GAA!』

「何ッ尻尾⁉︎ それに()()()()()()()()()『隙ありドラ《インパクト・スマッシャー》!』しまっガハァッ⁉︎」

 

 投げた盾はあっさり弾かれたが名前通り結構重いので怯ませる事には成功、そしてアマンダの方も《竜尾剣》によって僅かだが不意のダメージを受けた事に怯んだのか隙を見せたので上級職の奥義による一撃を叩き込んで吹き飛ばした。

 ……のだが、現在STRが8000に迫る私の奥義を食らったにも関わらず彼女はダメージこそ受けているものの、直ぐに態勢を立て直してこちらに向き合って来た……そして、何故か攻撃しなかった筈のべフィーの方にまるで()()()()()()()()()()()()()が見られた。

 

『む? ダメージが思ったより少ないドラね……ああ、ダメージを自分の<エンブリオ>に肩代わりさせてるドラか』

「ご名答。……ただ、本当なら私のダメージを100%肩代わりされる筈なんだけどねぇ。防御を抜くのがアンタの<エンブリオ>か特典武具の能力なのかい?」

『ご想像にお任せするドラ』

 

 成る程、この状況は彼女の身代わりスキルの効果を私の《バーリアブレイカー》が減少させた結果みたいだね……スキル強度の差から完全には無効化出来ないみたいだし、ここは先に<エンブリオ>の方を倒した方が良い……。

 

『……だが、ここは敢えて<マスター>を集中攻撃するドラ!!!』

「チッ、そう来るか! べフィー!」

『GAAAAAAAOOOOO!!!」

 

 ……と言う戦術は何か“嫌な感じ”がしたので、私はダメージを負ったアマンダを仕留めるべく全速力で突っ込んだ……まあ、決闘なら<マスター>倒せば勝ちだしね。後さっきの発言も何か露骨に“べフィーを先に倒させよう”としてた気がするし。

 だが、彼女も直ぐに後退して距離を取りつつ私を自分とべフィーで挟み込める様な位置どりになる様に動いて来た……むむ、ステータス高い二人が連携を取って動いて来るのがこれほど厄介だとは。ガードナーと【獣戦士】の組み合わせが強いというのも納得だね。

 

「ダメージは負ったがまだ動けるよ! 《ツインスラスト》! 《ウィールドアックス》!」

『GAAAAAOOOO!!!』

『どらどら、どらごん! 《ウィールド・メイス》!』

 

 私も彼女達に挟まれない様に立ち回りつつ接近して来たアマンダの二連続の突きから斧部分での薙ぎ払いを【ギガース】で防ぐが、その間にべフィーが背後に回って攻撃を仕掛けて来たので、その軌道とタイミングを“直感”で先読みして後ろを見ずに回避する事で凌いだ。

 ……そのまま【ギガース】で薙ぎ払ってみるものの、前後を挟まれた状態では彼女達を退ける事が出来ず上手く防がれてしまった。

 

『ぐぐぐ、流石に二体一だと中々キツイドラね』

「挟み撃ちにしても仕留めきれないヤツがよく言う! つーか、何で後ろからの不意打ちにも対応出来るんだ⁉︎」

『GAAAOOO!!!』

 

 主に“直感”と《竜尾剣》のお陰です。単純に動かせて伸び縮みするだけでなくパワー(STR)も私と同じだから、上手く使えば後ろからの攻撃を弾くぐらいは出来るのさ。

 ……とまあ、こんな風に見ている観客が結構盛り上がるぐらいの接戦を演じていた私と彼女達なのだが、長期戦で集中力が途切れたのか私が《竜尾剣》の制御をミスりべフィーに突き刺してしまい、更にはそのまま前足で尻尾を掴まれた事で状況は一変した。

 

『GAOOOO!!!』

『あ、やべドラ』

「よしっ! べフィーそのまま掴んでおきな! 《スラッシュアックス》!」

 

 そうして、こちらの動きが制限されたと見たのかアマンダは一気にこちらへと接近して大上段に構えたハルバードを振り下ろして来た……むむ、後ろから尻尾を掴んだままのべフィーも迫って来てるし、このまま回避出来ない様に押さえつけて一気に潰す気かな。

 なので、私は全力でバックステップしながら()()()()()()()()()()事で一気に後方へと高速移動して、こっちに向かって来ていたべフィーの懐に潜り込んだ。

 ……この《竜尾剣》、今の私でも300メートル以上伸ばせるし、私一人分の体重を動かせるぐらいのパワーもあるからこんな事も出来るのだ。

 

「な、速い! べフィー!」

『ピンチはチャンスドラ。《テンペスト・ストライク》!』

『GAAAAAAA!?』

 

 べフィーは体格差から懐に潜り込まれた私への対応が遅れ、その腹部に私の《テンペスト・ストライク》──暴風を纏ったメイスで相手を殴ると同時に吹き飛ばす【戦棍鬼】のスキルの直撃を喰らい闘技場の端の方まで吹き飛ばされた。

 その際に尻尾を掴んでいた手も離されたので、私は身を翻すと同時に《竜尾剣》を操作して横向きに薙ぎ払う様に反対側のアマンダを攻撃した。

 

『どらー!』

「くっ! だがまだだよ! ここさえ凌げばまだ……!」

 

 だが、彼女も即座に反応してハルバードを盾に《竜尾剣》を防ごうとする……確かに一時的に二人を引き離せただけだし、吹き飛ばされたべフィーも既に態勢を立て直しているから直ぐに合流されるだろうね。

 ……だから、私はここで確実に仕留めないとジリ貧になると考え、最近使える様になった【どらぐている】の()()()()()()を開帳する事に決めた。

 

『いや、これで終わりドラ。《重破断(グラビトロン・ディバイダ)》』

「なっ……⁉︎」

 

 そうして私がスキルを使用した直後、ブレードが()()()()()()()()()()彼女の構えたハルバードへと激突……した瞬間、金属製の筈のハルバードごと彼女の腹部を真っ二つに切断したのだ。

 ……これが【どらぐている】最後のスキル──ブレード側面に光を捻じ曲げる程の()()()を左右に発生させ、その始点である切っ先に触れた物体を“割り裂く”事で切断する(お兄ちゃんの考察)スキル《重破断》である! 

 

(……ただ、このスキル消費するMPが多すぎて、私のジョブ構成だとこっそりと付けてたMP補正付きのアクセサリー込みでも二秒ぐらい使えばMPの大半が吹き飛ぶんだけどね。……やっぱり私にアジャストされてないガチャ産の特典武具だからかなぁ)

『決着ゥゥゥゥ!!! 激戦を制したのは着ぐるみ【戦棍鬼】ミカ・ウィステリア選手ですっ!!! 本当に何なんだあの着ぐるみ⁉︎』

 

 ただの特典武具(古代伝説級)です……と、そんな感じで決闘が終わったので闘技場の結界が解除されると、真っ二つになって臓物を撒き散らしていた筈の彼女は完全に元通りになっていた。

 ……今まで何度も見て来たけど本当に不思議な光景だね。まるで“ゲームみたい”。まあデンドロは『ゲーム』だけどさ。

 

「いやぁ、負けた負けた。アンタ見た目の割に本当に強いねぇ。技術も凄いし」

『この着ぐるみが私の持ってる装備の中で最も強いから着てるだけドラ』

 

 そんな感じで試合が終わった後の私達は和やかに会話をしながら握手した……うんうん、戦いが終わったらノーサイドで済むのも決闘のいい所だよね。偶にそうじゃないヤツ(<マスター>)もいるけど。

 

「しかし、本当に何なんだいその着ぐるみ? 色々性能がおかし過ぎるだろう。特典武具じゃないかとは聞いてるが」

『色々あって手に入れた特典武具ドラ。由来は聞かないでくれると助かるゴン。……せっかくいい試合だった貴女を盤外で潰したくないしね』

「……あー、その言い分だと何かバカ言うヤツがいたのか」

『いた(過去形)ドラ。……<マスター>の中にはその辺りの配慮が出来ていないヤツもいたから、余りにもしつこいヤツは潰した(“潰す”では無い)ドラ』

 

 ここギデオンは決闘都市と呼ばれるだけあって参加する()()()()()()()()のモラルは高く、基本的に人の秘密を積極的に聞いてくる人などいないんだけど……ゲーム感覚の<マスター>は違うんだよねー。

 まあ、その殆どは彼女みたいにちょっと質問するだけではぐらかしたらそのまま引いてくれる常識的な対応なんだけど、偶に『偶々手に入れたレアアイテム頼り〜』とか『ネタキャラの癖に〜』とか言って粘着してくるアホもいるんだよね。

 ……まあ、<マスター>なら潰しても心は痛まないから“対応”自体は楽なんだけどね。血糊とかも光の粒子になるから街も汚れない(実体験)

 

「……まあ、その辺りは深く聞かないでおくよ。アンタが装備頼りのヤツじゃない事はよく分かってるし」

『ありがとうドラ』

 

 うんうん、やっぱり決闘はこんな感じで爽やかに終わるのがいいね。




あとがき・各種設定解説

妹:着ぐるみネタキャラ決闘者としてデビュー
・本人的には【どらぐている】に慣れる事と戦闘技術を磨く事、後はファイトマネーを稼ぐ事がメインでランキングには興味がない模様。
・今回のアマンダの様に戦った決闘者系<マスター>とはフレンドになった者も結構いる。

重破断(グラビトロン・ディバイダ)》:【どらぐている】の最終スキル
・切っ先にある超重力の起点の幅は単分子レベルなのであらゆる物体を切断可能で、更に重力は光を含む万物に干渉する故に《竜王気》などのエネルギー防壁なども割り裂く事が可能。
・ただ、特典武具化しているので展開時間は短く消費MPも非常に多いし発動後のクールタイムもかなり長く、重力操作能力を一点に集中しているので発動中は《重位圏》は使えなくなる(それ以外の装備スキルは使用可能)
・尚、解放条件は『合計レベル350以上』『<UBM>のMVP討伐一体以上』『発動に必要な最低限の最大MP』だった。
・後、元となった【尾竜王】さんは隔世遺伝的に重力属性のスキル(弱め)を発現した地竜の変種で、この《重破断》は自身の重力操作能力を徹底的に磨き抜いて作り出した切り札的スキルだった。

【戦棍鬼】:戦棍士系統上級職
・【戦棍士】の上級職の一つでステータスはSTRに特化しているが、【剛戦棍士】と比べるとスキル重視のジョブ。
・主に《サンダー・インパクト》《テンペスト・ストライク》などの属性付きや状態異常効果を持つスキルや、《戦棍鬼の剛腕》などの特殊なパッシブスキルを覚える。

《戦棍鬼の剛腕》:パッシブスキル
・両手の装備枠を使う大型メイスを片手の装備枠だけで装備出来る様になるパッシブスキル。
・ただし、スキル適応条件として『その大型メイスを片手で持てるSTR』が必要であるが、妹の場合【ギガース】が重さを感じない<エンブリオ>なので問題無かった。

アマンダ・ヴァイオレンス:決闘参加<マスター>の一人
・名前や見た目と違って普通に良い人だが、これはリアルでは良いところの真面目な女子中学生で『ゲーム内では名前とアバターは強そうな感じにしよう。出来るだけリアルと違う風に』と思って設定したから。
・口調もそれに合わせて粗野な物に変えているが、堅実な連携戦術を好んだり『ガードナー獣戦士理論』に早期に気がつくなどプレイスタイルは理論派。
・本人が真面目で努力を惜しまない性格な事もあり実力は高く、更に<エンブリオ>の能力とガードナー獣戦士理論の強さで決闘ではかなりの成績を叩き出していた。
・だが、妹に負けた事で『自分達の戦い方は高いステータスで殴るだけなので、同等以上のステータスを持った相手だと決定力が足りない』と考え、残りのジョブ枠でどうこう出来ないか考えている。

【再生贄獣 ベヒーモス】
<マスター>:アマンダ・ヴァイオレンス
TYPE:ガーディアン
到達形態:Ⅳ
能力特性:自動再生・身代わり
スキル:《完全ナ生命》《英傑ノ代糧》《我ガ身ハ死ストモ贄トナラン(ベヒーモス)
・モチーフは旧約聖書に登場するリヴァイアサンと戦い負けた方が贄と捧げられるという陸の怪物“ベヒーモス”。
・見た目は怖いが性格は以外と温厚で、ステータスはHP・STR・END・AGIが高い物理パワー型だがそれ以外は必要ないので死んでいる。
・スキル《完全ナ生命》は自身のHPを持続回復させ、状態異常も時間経過で回復させるパッシブスキルだが、回復範囲が広いパッシブなので回復量・速度共に低く自然治癒力を強化する程度の効果。
・《英傑ノ代糧》はマスターのダメージと状態異常を【ベヒーモス】に移す常時発動型パッシブスキル。
・必殺スキル《我ガ身ハ死ストモ贄トナラン》は【ベヒーモス】が倒された時に自動発動し、マスターと融合して“その直前まで”のステータスを足し合わる状態となる融合スキル。
・融合時間は第四形態時で三分間で融合している間は《英傑ノ代糧》が停止する代わりに《完全ナ生命》の回復効果が上昇する。
・だが、【ベヒーモス】が誰かに倒されるかダメージの肩代わりでHPがゼロになった(自殺・マスターによる直接殺害では発動不可)時に自動発動するので任意で使えず、更に効果時間終了後に【ベヒーモス】は最低24時間紋章の中で休眠状態になるデメリットがある。
・また、マスターが先に死んだ場合にも発動しないので身代わりを突破出来る妹の様な相手は苦手。


読了ありがとうございました。しばらくはボチボチ短編的なのを投稿していくと思います。


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ギデオンでの三兄妹・その二

前回のあらすじ:ドラ妹『美少女着ぐるみ決闘者デビュードラ!』末妹「姉様は決闘では常に着ぐるみなので中が美少女かは分かりにくいのです」

※字面的な問題で超級職の名称を変更しました。原作に出てきた【武王】と被るし。


 □決闘都市ギデオン・第八闘技場 【魔導拳(マジック・フィスト)】ミュウ・ウィステリア

 

『《ライザァァァキィ──ック!!!》』

「グワァァァァァァ!!!」

「おー、ビシュマルさんが爆炎を上げながら吹き飛ばされました。見事な跳び蹴り(ライダーキック)ですねー」

「ミュウ、あの爆炎って彼自身の<エンブリオ>じゃなかったっけ?」

 

 そうとも言いますがねミメ、これはお約束と言うものなのです……まあ、ビシュマルさんもガードしながら後ろに飛んでダメージを殺してますし、彼が身体に纏う炎でライザーさんもダメージを受けているのでこの戦いはまだ続きそうです。

 ……そんな訳でこの私“ミュウ・ウィステリア”とその<エンブリオ>である【ミメーシス】は友人(フレンド)になった二人の決闘を観戦していました。ちなみにビシュマルさんは以前の王都の格闘家ギルドで会った時、ライザーさんはギデオンで決闘した後にビシュマルさんの紹介でフレンドになったのです。

 

「……ううむ、これが<マスター>同士の試合か。決闘試合でなら何度か見ているが、ここまで間近で見られる機会はなかなか無いな」

「フルフェイスヘルムと軽鎧の方はかなりの格闘術を収めているな……妙に派手な動きが多いのが気になるが。ただ、あの戦い方なら防具はもう少し軽い方がいいんじゃないか」

「ズボンだけの半裸の方はあの炎の<エンブリオ>が格闘戦では厄介だな。……長時間使うと自分も燃え尽きるみたいだが」

 

 まあ、今回の試合はファイトマネーが出る試合ではなく“格闘家ギルドが主催している練習試合形式のジョブクエスト”なので、この闘技場の周りには私達以外にもあの二人の試合を見学している格闘家ギルド所属のティアンや<マスター>がかなりの数いるのですが。

 ……ちなみにライザーさんはあの動き的に多分本職のスーツアクターさんっぽいですね。以前有名な特撮ヒーロー(仮面ライダー)っぽいスーツを探していると言ってましたし。

 ビシュマルさんの方は手に入ったレベルが高い《火炎耐性》持ちの防具があのズボンだけだったそうです。ズボンで良かったですね。

 

「まあ、あの二人のこだわりがある部分っぽいので私は深く言いませんが」

「リアル情報を言う訳にもいかないからね。……<マスター>の格好が変なのは今に始まった事じゃないし、着ぐるみとか」

 

 ……まあ、姉様やシュウさんの格好(着ぐるみ)と比べれば十分まともですかね……と、私達がのんびりと観戦していたらこちらに近付いてくる気配がしたので振り向くと、そこには王都の格闘家ギルドのギルドマスターであるゴライアンさんがいました。

 

「よう嬢ちゃん、久しぶりだな」

「ああ、ゴライアンさんお久しぶりです。貴方もギデオンに来ていたんですね」

「俺も決闘には出てるからな。最近はギルマスの仕事が忙しかったが、今回の闘技場での練習試合には王都所属の格闘家も参加するからようやく来れたんだが」

 

 彼の言う通り、この練習試合はギデオン以外の格闘家ギルドからも参加者がいるぐらい結構大規模に行われているんですよね。

 

「しかし、随分と盛況なんですね。……私のジョブクエスト参加報酬もかなり良かったですし、<マスター>の能力を見るのが目的でしょうか?」

「お兄さんが言ってた“<マスター>との伝手を作る”ってやつじゃない?」

「まあ、今回の練習試合に<マスター>を招いた理由としてはどっちも正解なんだが……この練習試合が大規模なのは()()()()があるぞ」

 

 そんな私達の疑問にゴライアンさんそう答えた後、私達の隣に座って更に話を続けました。

 

「……今から二十年くらい前に死んじまったんだが、昔アルター王国の北西にある“クレーミル”って街に格闘家系統超級職(スペリオルジョブ)格闘王(キング・オブ・グラップリング)】に就いていた“アスカ・グランツ”って爺様がいてな。俺もまだ若い頃に一度会った事があるだけの人何だが、彼が死ぬ十年前ぐらいに自分が就いている【格闘王】の転職条件を王国全土に公表したんだよ」

「ふむ? それは自分の後を継ぐ者を探すとかの目的で?」

「うーむ、それも有ったかもしれないが……俺の見立てだと主な目的は()()()()()()()()()()()()()事を期待してたんじゃないか? あの爺様、自分の“武”を極める事と強者との戦い以外あんまり興味を抱かない感じの人だったし」

 

 ゴライアンさん曰く、基本的に超級職に就いた人間は“自分の身を守る為に”可能な限りその転職条件を秘匿するものであるとの事……超級職は一種一人しか就く事が出来ないので、条件が公開されると『俺も転職条件を満たしたんだから、今超級職に就いてるヤツさえ殺せば……!』的な人が沢山出るからだそうです。

 何でも超級職の転職条件を満たすと専用のアナウンスが聞こえるそうですが、既にそのジョブに就いている人がいると『転職条件を満たしていない』扱いになるのでアナウンスは出ないそうです……なので、転職条件が分かっていなければ『例え条件を満たしていても自分が既存の超級職に就職出来るかも分からない』仕様という訳ですね。

 

「まあ、転職条件が明らかになっても彼に挑むヤツは殆ど居なかったんだがな」

「それはどうして?」

「まず一つに()()()()()()()()()()()()()だった彼の強さは王国全土に知れ渡っていた事、それに加えて彼は既に老人だったから下手に手を出すより寿命で死ぬのを待った方が良いと考えたヤツが多かった事があるんだが……それよりも、そもそも公開された転職条件を満たせなかった事が一番大きいな」

「ほう? 話の流れ的にその条件がこの練習試合クエストに繋がる様ですが……」

 

 私は戦いが終わって闘技場から降りて行くライザーさんとビシュマルさんを眺めながら、ゴライアンさんの話に耳を傾けていきます……私もゲーマーの端くれなので、この手のユニーク要素には興味がありますし。

 

「ああ、アスカ氏が公開した【格闘王】への転職条件はまず『【格闘家(グラップラー)】【武闘家(マーシャルアーティスト)】のジョブを最大レベルまで上げ、習得出来る全てのジョブスキルを習得する』……まあ、これは特定のジョブ系統の超級職では良くあるヤツらしい。……それでもう一つが『自身と()()()()()()()()()()()()()()()()1()0()0()()()()()』だ」

「それはまた……格闘家系統の超級職なので【武闘家】の転職条件のスケールアップ版だという感じですが」

 

 しかし成る程、つまり最後の『100連勝する』の条件を満たす為にこの練習試合ジョブクエストは行われているんですね……と、思ったのですがゴライアンさん曰くそう上手くはいかないみたいです。

 

「……アスカ氏は『真剣勝負の最低条件は“闘技場での全力戦闘”ぐらいじゃないか? 儂は若い頃決闘に出たり修行の旅の途中で野試合したらいつの間にか条件を満たしていたからよく分からないが』という言葉を残していて、それからこう言った練習試合を定期的に行なっているが……少なくともアスカ氏が死んでから、俺が知る限りではアルター王国の格闘家は誰も【格闘王】の座には就いていないんだ。多分この“同格以上との真剣勝負”はかなり厳しい判定なんだろう」

 

 今まで確認出来た範囲内では『相手のやる気が無い』『相手に勝利を譲る気』とかではカウントされず、悪質な『八百長で超級職を』『不意打ちで倒す』とかだと逆に敗北判定になるのでは推測されているようです。

 それと“同格以上”の判定も『勝率が高い同格の相手と連戦』とかしても条件を満たせなかったらしいので、連戦だと判定基準が上昇している可能性が高いとの事。

 

「そもそもこんな練習試合をやっても二十年間【格闘王】に誰も就けなかった以上、闘技場での戦いだと“真剣勝負”の条件を満たす判定が厳しくなるんじゃないかとも推測されてるけどな。……まあ腕を磨くのには使えるし、この王国では噂に聞く天地と違って下手に野試合なんてすれば高確率でお尋ね者扱いだしな」

「上手くはいかないものなのですね」

 

 なので、今ではこの練習試合クエストはギルド内の格闘家同士で技量を磨くための交流戦に近い感じになってしまっているのだとか。

 

「しかし、その【格闘王】の転職条件を私に条件を教えても良いのですか?」

「ん? ああ、どうせ過去に一度公開されてる情報だから調べればすぐに分かるしな。……それに嬢ちゃんなら条件を満たせるんじゃないか? さっきから()()()()()()()()()だっただろ」

「……うーん……」

 

 ……まあ、確かにライザーさんとビシュマルさんにも私は勝っていますが、その二人クラスの相手に100連勝するのは難しい……というか無理でしょうね。それだけ戦えば私への対策取った二人に何処かで負けると思いますし。

 それに超級職欲しいのは誰でも同じですから、勝負の時に相手が条件を満たせない様に撤退的なメタとか妨害とかに出る人も……。

 

「……この転職条件って公になった方が条件満たし難いのでは? こう熾烈な取り合いになる的な意味で」

「現状を考えればある意味そうだろうな。……条件を満たすのにどうしても()()()()()()()が必要な訳だから」

 

 件の【格闘王】さんは何を思って転職条件を公開したんでしょうね。特に<マスター>が条件を知ったらロクでも無い事になる気がします。

 ……そんな話をしている内に闘技場の貸し切り時間が過ぎたので練習試合はお開きとなりました……就けそうな超級職の転職条件が明らかになりはしましたが、無理をして条件を満たそうとすると(悪目立ちして)失敗しそうなので今は保留にしておきましょう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □決闘都市ギデオン・八番街

 

 格闘家ギルドによる練習試合のクエストが終わった後、参加者であったミュウ・ウィステリアとその<エンブリオ>の【ミメーシス】は友人(フレンド)であるマスクド・ライザーとビシュマルと一緒にすっかり暗くなった八番街を後にしていた。

 尚、三人が一緒なのはこのギデオン八番街は治安の悪い場所なので少女二人で帰らせるのは危ないと、男二人が街を出るまでの同行を申し出たからである……少女二人の方が戦闘能力が高いとかは言ってはいけない。

 

『やはりフルフェイスと軽鎧では格闘戦だと動き難いか。……だが、今まで売っている防具を吟味した中で、この装備が最も俺のイメージする“ヒーロー”の姿に近かったんだが……』

「まあ、このデンドロには特撮ヒーローなんてやってないからな。ヒーロースーツなんて売ってないだろ」

「そこまで拘るなら求めるデザインを提示してのオーダーメイドしか無いのでは?」

「お金は掛かるけどそれが確実だよね」

 

 そして今は装備が原因で練習試合での戦績が振るわず肩を落とすライザーを、他の三人が励ましたりしている所だった。

 

「確かゴライアンさんが言ってましたが、王国の北西にある『クレーミル』という街では武器・防具の生産がこの国トップらしいですし、そういった場所ならライザーさんが求める“ヒーロー”の姿をカタチに出来る人もいるのでは?」

「ヒーローの姿を知ってる<マスター>でも良いかもしれないけど、以前にあった生産系<マスター>達は『まだオーダーメイドを作れる程の技術と材料がない』って言ってたし」

『そうだな……ありがとう二人共。今度【ヘルモーズ】を飛ばしてその『クレーミル』に行ってみる事にするよ』

「お前の【ヘルモーズ】は足が速いからな!」

 

 その様に街の雰囲気とは似つかない和やかな感じで話をしていた四人は、特に何事も無く八番街の出口へと辿り着き……不意にミュウが()()()()()()()()()()()その目を鋭いものに変えてあらぬ方向へと顔を向けた。

 

「……すみません、ちょっと用事を思い出したのでこれで失礼します」

「あ、ああ。気を付けてな」

 

 ……そして僅かな時間だけ考え込んだ後、彼女は男二人に別れを告げるとそのままミメーシスを連れてギデオンの西側に向かっていった。

 

「《人間探知》……ミメ」

「了解。《憑依融合(フュージョンアップ)》」

 

 その道中でミュウは特典武具のスキルを使ったりミメと融合状態になる、更に装備のいくつかを戦闘用の物に変えるなど戦う為のの準備を済ませていった。

 ……そして準備を終えた彼女はピンク色の髪を棚引かせながらそのままギデオン西門を出て、その先にある<ジャンド草原>へと向かって行ったのだった。

 

 

 ◇

 

 

「……ふう。見晴らしも良いですし、この辺りにしましょうか」

『不意打ちされるのは避けたいしね』

 

 そうして彼女達は<ジャンド草原>の人気の無い平原地帯にやって来ると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()相手が居る方向を振り向いた……すると彼女達から少し離れた所の薄暗い夜闇の中から金属製の鎧を着込み、手に“木製の槍”を持った一人の男性が現れた。

 

「……ハァ、分かってはいましたが、また貴方ですかシュバルツ何某」

「シュバルツ・ブラックだ。……ククク、態々この人気の無い場所を戦いの舞台に選ぶとは、貴様も我らの再びの戦いに邪魔をされたく無いと見える」

「いえ、街中で貴方をPK()したら他の人の迷惑になるでしょう?」

 

 そう、現れたのは以前に彼女達兄妹を襲って返り討ちに遭ったPKであるシュバルツ・ブラックだった……尚、彼自身は待ち望んだリベンジの機会に高揚しているのか笑みを浮かべていて、対照的にミュウは非常にウンザリした表情で溜息を吐いているが。

 ……そしてシュバルツが何かを言うのを適当に無視しながらミュウはさっさと倒そうと戦闘態勢に入った。

 

「……前にも行った通り、仕掛けて来たのはそちらが先なので躊躇なく潰します。《フレイム・フィスト》《フリーズ・フィスト》」

 

 彼女はウンザリした表情のまま、ミュウは魔拳系スキルにより右手に炎、左手に氷を纏わせた上で、自分のAGI(速度)STR(筋力)を使った踏み込みと《魔力放出》による加速を上乗せした高速移動でシュバルツに向かっていった……ちなみに別属性の魔拳系スキルを同時使用出来ているのは、二種類の魔拳系スキルを同時使用出来る様になる【魔導拳】のパッシブ奥義《双魔拳》によるものである。

 ……だが、一見自分に酔っている様に見えるシュバルツだったが、その実ミュウ相手に一切油断はしていなかった。

 

「その戦い方は闘技場で見たぞ! 《魔力放出》!」

「む、距離を取りましたか。こっちの動きを研究して来てますね」

 

 そのミュウの行動を読んでいたシュバルツは、同じく自身のメインジョブ【魔法槍士(マジック・ランサー)】で覚えた《魔力放出》を使って即座に後退したのだ……彼はこのリベンジの為にミュウが出ている決闘を可能な限り観戦し、更に決闘の映像を見る事が出来るマジックアイテムまで買って彼女の動きを研究して来ていたのである。

 更にミュウは以前の戦いで彼の<エンブリオ>【ミスティルテイン】に手傷を負わされているので、そのスキルの発動条件と思っている“槍への接触”を警戒して下手に踏み込まなかった事も後退を許した理由であった。

 

「……では、それを推し量った上で動きましょう。《アクセルステップ》」

 

 とは言え、そこは戦闘に関してなら“天災児”と言える才能を持っているミュウは即座にシュバルツの動きを読み切りながら、数歩の間だけAGI上昇させる歩法系スキルを行使して相手の持っている槍に接触しない様に回り込む形で接近した。

 ……だが、その慎重な戦術を選んだ事と、戦闘開始時に距離が少し離れ過ぎていた──シュバルツが彼女相手でも()()()()()()を発動する時間がある程度の距離を取っていた事が彼等の命運を分けた。

 

「遅い! 《ヤドリギの枝よ、天へ伸びよ(カース・ルート)》!!!」

「ッ⁉︎ これは……」

 

 シュバルツがそのスキルを行使すると彼を中心として淀んだオーラで出来た半径10メートル弱の半球型のフィールドが展開され、接近して来たミュウを飲み込んだ後に消失した。

 ……これこそが【ミスティルテイン】が上級に進化してTIPEテリトリー・アームズになった際に発現したスキル《ヤドリギの枝よ、天へ伸びよ(カース・ルート)》──消費したHP100につき半径1メートルの球状フィールドを展開し、そのフィールドに接触した者全てを『【ミスティルテイン】が接触した対象』として扱うスキルである。

 

『《転位模倣(エフェクト・ミラーリング)》……駄目だ! このオーラの効果は“あの槍に接触したものとして扱われる”感じみたいだけど、同じ効果が向こうにも掛かってる!』

「じゃあ何かされる前に潰します。《波動拳》!」

 

 それを見たミメーシスは即座にデバフ対策の《転位模倣》を使うが、掛かっている効果は判別出来たものの【ミスティルテイン】の能力がマスターを含めて無差別に掛かるものだった為にデバフ対策としては機能しなかったのだ。

 とは言え、それを聞いたミュウは即座に状況を理解してシュバルツに遠距離攻撃を行い、既に攻撃力が上がると知っている槍での接近戦を避ける様に立ち回りを変更した……が、彼が使う“もう一つのスキル”にとって距離は余り関係の無いものだった。

 

「ここだっ! 《輝ける才覚よ、消え失せよ(レベル・ブラスト)》!!!」

 

 ……シュバルツがそのスキルを発動した瞬間、ミュウの右腕の肘部分が()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「なっ……⁉︎」

「今だっ! 《瞬間装着》《輝ける命脈よ、尽き果てろ(フォース・アベレージング)》《輝ける身体よ、墜ち果てろ(パワー・アベレージング)》《アクセルスラスト》!」

 

 ……流石に自分の右腕が肩口から手首の辺りに至るまで粉々に弾け飛んだ所を見て僅かに動揺したミュウに対し、シュバルツは腕部装備を“特注の籠手”から動かしやすいグローブに変えた後、更なるスキルを行使して攻撃力を上げた【ミスティルテイン】を彼女に突き込むのだった……。




あとがき・各種設定解説

末妹:デンドロ始まって以来の大ピンチ
・STRとAGIを併用した移動法はAGIによる移動時に更にSTRによる踏み込みを上乗せする感じで、格闘家ギルド所属のティアン達から教えてもらった(ついでに《魔力放出》を追加してアレンジした)
・【ミメーシス】の《転位模倣》は発動時に対象に掛かっているバフ効果をある程度なら理解する事も出来る。

【格闘王】:格闘家系統超級職
・実は闘技場での真剣勝負の判定は“原作での決闘ランク戦”ぐらいのガチさが求められ、実力差もレベル・技術・装備・コンディション・<エンブリオ>などから総合的に厳しく判断される仕様。
・野試合ならこれらの判定は若干緩くなるが天地でもない限り途中で捕まり、その天地だと武芸者の実力的に100連勝がキツイ。
・実際、アルター王国では転職条件が明らかになった事で足の引っ張り合いが起きていて、後に転職条件を知った<マスター>もそれに加わったりする模様。
・他にも格闘家ギルドで『100連勝させて超級職を誰かに就かせよう』という動きもあったが譲り合いだと真剣勝負の条件を満たせず、更に漫然と同じ相手と戦い続けると判定が厳しくなる仕様だったので無理だった。
・ちなみに前任者のアスカ氏は典型的な求道者タイプで『死期も近いからって超級職を継がせてくれとかいうヤツが湧いて来たから修行の邪魔だな。……じゃあ転職条件公表すれば文句も出ないだろ』とか思って公表しただけだったり。

シュバルツ・ブラック:リベンジなるか?
・こいつもリアルでは小学生なので大概天災児よりで、特に分析と対策に関して高い才能を持っている。
・これまでのネトゲでも『極振りとかレアスキルとかでイキってるヤツを平均的なステの自キャラで念入りに対策してPKザマァする』とかやって来たので、<エンブリオ>も極振り特効的な能力になった。
・現在のジョブは【槍士】【呪術師】【魔法槍士】にレベル上げ途中の【剛槍士】で、対末妹時にスキルを万全に使う為にメインを【魔法槍士】にしている。

ヤドリギの枝よ、天へ伸びよ(カース・ルート)》:新スキルその一
・消費するHPは100単位で設定可能であり、クールタイムは1分。
・今回は地上で使ったので末妹の目には半球状に見えたが、実際には球状で地下にもフィールドは広がっている。
・コストがHPなので相応に重いが、シュバルツは後々デバフで下がる分だけのHPを捧げたり、固形ポーションを口の中に仕込むなどする事でデメリットを少なくしている。
・実は呪術系スキルなので【呪術師】の《呪術強化》スキルが乗ったりする。

輝ける才覚よ、消え失せよ(レベル・ブラスト)》:新スキルその二
・末妹に始めて大ダメージを与えたスキルで、色々特徴があるので詳しくは次回説明。


読了ありがとうございました。
※超級職の【武王】は既にいるらしいので、語呂はちょっと悪いけど【武闘王】にします。……痛恨のリサーチ不足orz


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ギデオンでの三兄妹・その三

前回のあらすじ:黒黒「前回のリベンジだ!」末妹「……マジウゼェ……」


 □<ジャンド草原>

 

 時刻は夜、場所はギデオンの西に位置する草原地帯<ジャンド草原>、そこでかつて倒したPK(プレイヤーキラー)シュバルツ・ブラックの襲撃を受けたミュウ・ウィステリアは相手の使ったスキル《輝ける才覚よ、消え失せよ(レベル・ブラスト)》によって右腕を奪われてしまった。

 

「なっ……!」

「《アクセルスラスト》!」

 

 そして、ミュウが動揺した隙を突いてシュバルツはスキルにより攻撃力を上げた木槍──【滅神呪槍 ミスティルテイン】で彼女を貫こうとする……が、その直前にミュウの目から一瞬で動揺の色が消えた。

 ……そして彼女は冷徹で感情の無い様な表情のまま、一切の淀みなく即座に現在の戦局に於ける()()()を実行していく。

 

「《暗黒転身(ダークネス・シフト)》」

「チッ!」

 

 ミュウは槍が自分の身体を貫く直前に首に巻いた【黒晶首巻 ブラックォーツ】の非生物による攻撃を透過する《暗黒転身》を使いながら()()、シュバルツの槍を擦り抜けながら最短距離で接近して《双魔拳》によって強化された冷気を纏う左拳を振り被った。

 

「《レバーブロー》」

「《魔力放出》! ……グハッ⁉︎」

 

 そのままミュウは強烈な左フックを相手の脇腹に叩き込むものの、シュバルツは()()()()()()()()《魔力放出》を使って無理矢理左に飛ぶ事で威力を殺す事に成功していた。

 ……だが、それを見たミュウはすぐに彼から距離を取る様にバックステップし、更に【僧兵(モンク)】の《セルフヒール》でHPを回復させつつ吹き飛ばされた右腕の断面に左手の冷気を押し付けて凍らせる事で無理矢理に止血を行った。

 

『ミュウ! 大丈夫⁉︎』

(ええ、大丈夫ですよミメ。止血は終わりました……しかし、我ながら少々油断が過ぎましたね。……まずは状況確認を行いますよ)

 

 そうしてシュバルツからある程度に距離を取ったミュウは、自分を心配して声を掛けて来たミメに答えつつ冷静に状況の確認を行った。

 

(現在右腕欠損、止血は終わりこれ以上の継続ダメージは無し、右腕が無い事による重心の変動は()()()()()。向こうは吹き飛ばしたけど“こちらの動きを読んで”自分で飛んでいたからダメージは軽微、今はこっちの様子を見ながらポーションを飲んで回復中。……《暗黒転身》を使った武器使いに対するカウンターは以前()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で使ったのでそこから分析されましたか。よっぽど私の事を研究して来た様ですね)

『一応、さっきの体内からの攻撃は“ストック”しておいたよ。それとやっぱりアイツのデバフは自分にも掛かってるよ。《転位模倣(エフェクト・ミラーリング)》はMPの無駄だから切るね』

(分かりました。……自分含めてのデバフ、制御を手放すデメリットと引き換えの効果強化ですかね。決闘でも無差別破壊が得意な<エンブリオ>がありましたし。ですが先程私の右腕を奪った攻撃は……ヤツのスキル効果適応条件は槍への接触、吹き飛んだのは右腕の()()()()、後はさっき付けていた籠手を仕舞っている……)

 

 そう、彼女の兄をして“戦闘系天災児”と呼ばれるミュウの才能は単純な体捌きだけでなく、こう言った“戦闘時に於ける思考の速さと鋭さ”や“戦闘中に何があっても動揺から即座に立ち直る精神性”も含めたモノなのである。

 

(事前に私を接触状態にするスキルを使った事から、あの“レベル・ブラスト”は槍に触れた相手に……名前からしてレベルを基準にしたダメージを与えるスキルですかね。向こうにダメージが無い様に見えるのはあの籠手で槍からのダメージを防いだ事と、()()()()()()ダメージ軽減系のアクセを付けてましたか)

『ミュウも戦闘になる前、念の為にダメージを減らす系の使い捨てアイテム【身代わり上級人形】と【身代わり羽飾り】を装備してたもんね。二つとも今は発動し終わって砕けてるし。……でも、ミュウの腕は内側から吹き飛んだよ?』

(なので恐らくダメージの発生場所が違うのでは? 槍に触れている場合は槍から、そうでなければ体内……無制御が特性ならランダムな場所とかですかね。狙って体内攻撃出来るなら胴体か頭部を狙うでしょうし。あの金属製の籠手は槍からのダメージ身代わり用だったとか)

 

 この彼女の推測はおおよそ当たっていた……【ミスティルテイン】の第三スキル《輝ける才覚よ、消え失せろ》は『【ミスティルテイン】に触れた対象全てにその合計レベル×50の固定ダメージを与える』という効果であり、ダメージの発生場所は【ミスティルテイン】触れている場所か、そうで無い場合は()()()()()()()()()()()()()で発生する仕様なのだ。

 ……この“ランダムな位置”というのが中々の曲者で、生物の体表面と体内の体積の差からダメージの発生が高確率で体内で発生するので多くの装備や防御系スキルが効果を発揮し難いのである。

 また、シュバルツ自身は【ミスティルテイン】を両手で持つ事でダメージを分割しつつ、その接触点からのダメージを掌に金属板を仕込んだ特注の籠手と【身代わり竜鱗】などのダメージ軽減系アイテムを複数装備する事で凌いでいた。

 

(……ヤツはこっちを相当研究して来てるみたいですし、こちらは『周囲の迷惑を気にする』など油断して先制を許したのではこうなるのも当然ですか。こんな有様では現実(リアル)の“師匠”に怒られそうなのです)

『それでどうするの、ミュウ? アイツも回復を終えてこっちに向かって来そうだけど』

(向こうは私の決闘を見て分析している様ですし……そうですね、丁度思い出したので“師匠”が最初に教えてくれた()()()()使()()()()『水面流古武術護身心得』を実践しましょうか)

 

 そして現実の時間で10秒程度の思考を終えたミュウは、回復を終えたシュバルツに対して欠損した右腕をかばう様に半身になって構えを取った。

 

 

 ◇

 

 

(よし、腕を一本奪ったし例の『透過スキル』も使わせた。カウンターは貰ったがそれも予想して横に飛んだからダメージは軽微。……向こうはまだやる気みたいだが、このままなら押し切れる)

 

 構えを取ったミュウに対して冷静に状況を把握しながらシュバルツは同じく【ミスティルテイン】を構えた……彼のPKとしての最大の武器はこの分析能力と冷静さであり、目的の為ならどんな手間の掛かる事前準備も厭わない性格であるとも言える。

 ……今回の襲撃に関しても事前に彼女の試合映像を何度も見返して徹底的に動きを分析するのは()()として、このリベンジの一戦の為()()に稼いだ資金の殆どを使って高価な装備(使い捨て含む)を整える事すら当たり前の様にやっていた。

 

(ゲーム内でユニークスキルやら極振りで活躍してイキってる有名人を、事前の分析と対策によって普通のキャラで打ち倒す快感……これだからオンラインゲームでのPKは辞められないんだよな。……まあ、このゲームの<マスター>でユニーク(固有)スキルを持ってないヤツは居ないんだが。<エンブリオ>的に)

 

 尚、彼の基準的にミュウは優先してターゲットにするべき『イキってる』タイプとは少し外れていたりするのだが、最近のギデオンで有名人である事には変わりないし、前回やられたリベンジも兼ねているのでヤル気十分である。

 

(だが、まだ油断は出来ない。彼女はフィガロとの決闘試合では今みたいに片手を切り落とされても当たり前の様に戦闘を続行していたし、既に不意打ちによる動揺からは立ち直ってるからな。リアルで格闘技でもやっているのか俺よりも動きのキレが鋭いし、ここは失われた右腕側から慎重に攻めていくか。例のカウンター系らしきスキルもあるし)

 

 そして徹底的にミュウの情報を分析したが故に、自分にとって圧倒的に有利に見える状況であっても十分に敗北の可能性はあると考えて、一切の油断なくシュバルツは再びの戦いに挑もうとしていた。

 ここまでの彼の行動や判断には決して落ち度は無く、むしろこの場に於ける最善の対応を取っていると言えるだろう……が、強いて彼の分析の間違い(と言えるかは分からない程度のもの)を指摘するなら、ミュウは“格闘”では無く“戦闘“の天才であるという点だろう。

 ……故に決闘試合と前回の戦いだけでミュウの戦い方を分析していた彼は、彼女が次に取った()()を予測する事が出来なかったのだ。

 

「……護身心得その一! 危なくなったら大声を出しながらさっさと逃げる!!!」

 

 そう、ミュウはそんな事を大声で叫びながら左手の《フリーズ・フィスト》を解除して身を翻し、そのまま全力疾走でギデオンの方角へと“逃亡”し始めたのだ。

 ……その光景を見たシュバルツは余りにも予想外の行動だった為に一瞬だけポカンとした表情を浮かべるものの、即座に逃げる彼女を追い掛けに入った。

 

「おいコラ! 待てっ!!!」

「待つわけないでしょバーカ!!! 危なくなったらまず逃げるのが現実に於ける護身術の基本です!!!」

『身を守るなら最適解かもしれないけど、ちょっと言葉が汚いよミュウ』

 

 そんなミメの苦言をスルーしつつ後ろのシュバルツの制止の声に罵倒で返しながら、ミュウは右腕を失っているとは思えない綺麗な走りで逃走を続けていった……まあ当然彼女も散々付け狙われて腕を奪われた事に内心かなり怒っていた様だ。

 ……だが、彼もいくつかのゲームでPKとして名を馳せた者、自分に罵倒を向けられる事も逃げる相手を追う事にも慣れていたので、走りながらも即座に右手で彼女を指差した。

 

「止まれっ! 《カースバインド》!」

「む、呪いですか」

『大丈夫、レジスト出来てる』

 

 そしてシュバルツは《カースバインド》──指を指した相手に軽度の【呪縛】を掛ける【呪術師(ソーサラー)】の基本スキル──で足止めを試みるが、融合と装備した【ブラックォーツ】によって呪怨系状態異常耐性が上がっているミュウにはレジストされてしまった。

 ……だが、彼もスキルレベルの低い呪術はあくまで僅かな時間稼ぎの為に使ったに過ぎず、その一瞬で彼は本命である《瞬間装備》によって取り出した“投槍”を振りかぶっていた。

 

「喰らえっ! 《ブースタージャベリン》!」

 

 そしてシュバルツは【魔法槍士(マジックランサー)】のMPを使って投げた槍を加速させるスキル《ブースタージャベリン》を使って、手に持った投槍を逃げるミュウの背中に向けて投擲した……その投槍は魔力によって急加速しながら正確に彼女の背に迫り……。

 

『ミュウッ⁉︎ 後ろ!』

「問題有りません。“音”で把握出来ています」

 

 その投槍の()()()()()()()()()()()()()()()()ミュウが走りながら身体を反転させた所為で外れて、そのすぐ脇を通り過ぎて行った……が、その回避行動によって彼女の走行速度が落ちたと見たシュバルツは、更に《魔力放出》まで使って一気に距離を詰めて行く。

 ……しかし、それを見たミュウは笑みを浮かべながら、走っている最中にアイテムボックスから取り出していた【ジェム】を残った左手で彼に投げつけた。

 

「護身心得その二! 変質者が迫って来たら手近な物を投げつけよう!!!」

「誰が変質者だっ!!! ……って、【ジェム】だと⁉︎」

 

 変質者扱いに思わず言い返したシュバルツだったが、飛来した物体が【ジェム】だと分かると慌てて避けようとした……のだが、《魔力放出》によって推進力を得ていた身体は簡単には止まれなかったので、やむ終えず【ジェム】を槍で弾き飛ばそうとした。

 ……だが、ミュウが起動までの時間すらも計算に入れて投げていた所為で、槍が触れる直前に【ジェム】──彼女の兄がお守り代わりに持たせていた【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】が起動した。

 

「なっ……⁉︎」

「たーまやー……《人間探知》も使っておきましょう」

 

 解放された【紅蓮術師(パイロマンサー)】の奥義は“上級職までの最大威力の魔法”という巷の評判通りに凄まじい熱量の爆炎でもってシュバルツを飲み込んだ……が。

 

「……ゲホッ! ……クソ、予備の【身代わり竜鱗】を付けてなければ即死だったぞ」

 

 その爆炎の中からシュバルツは身体のあちこちを焦げ付かせながらも、念の為に付けていた【身代わり竜鱗】によって無事に五体満足で離脱した……この一戦の為に手持ちの資金とアイテムをほぼ全て使って装備を整えていた事が功を奏した形である。

 ……だが、そこに《人間探知》で彼の生存と詳細位置を把握していたミュウが()()()()()()()()()()()()()()()()爆炎とそれによって生じた煙に紛れて接近して、彼が反応するよりも早く左手でその首を掴んだ。

 

「なっ⁉︎ ……カハッ」

「《ライトニング・フィスト》」

 

 そのままミュウは気道を締め上げてスキル発動に必要な発声を封じると共に、その手に纏わせた雷をシュバルツに流し込んでその身体を【麻痺】状態にした。

 ……そして動きが鈍った彼の身体の重心を崩す事で片手一本で地面に押し倒して馬乗りとなり、槍を持った腕の肘部分を自分の膝で抑え込んで完全に抵抗を封じた。

 

「ァ……カ……」

『《攻撃纒装(アタック・テスクチャ)》』

「《握撃》」

 

 そうして最後に先程ストックした『自らの右腕を奪った18000越えの固定ダメージ』を上乗せした《握撃》──握力を上昇させて掴んだものを握り潰す格闘スキル──で、彼の首ごと頭部と上半身を吹き飛ばしてその身体を光の塵へと変えたのだった。

 

「……水面流古武術・護身心得その三『それでも、本当にどうしても戦う時になってしまったら、とにかく一手でも相手の虚を突いてそこから確実に仕留めろ』……長くパーティーでの野生モンスター戦や興行要素のある決闘で戦ってたからちょっと忘れてましたね。やはり戦いは奇襲・不意打ち・騙し討ちとかの方が効率的ですね」

『……まあ、ミュウがそう思うならそれでいいんじゃない?』

 

 シュバルツの肉体が完全に光の塵になって消え去るまで油断なく見ていたミュウだったが、完全仕留めたと確認すると立ち上がってそんな台詞を言った……融合していたミメが苦笑いしているのは内緒だ。

 ……だが、戦闘が終わった所で彼女はつい失われた右腕を見て溜息を吐いてしまった。

 

「……ハァ、確か部位欠損は通常の回復魔法やアイテムでは治せないんでしたね。本当に高い授業料になってしまいました。……まあ、<マスター>なのでデスペナすれば元通りではあるんですが……」

『お兄さん達にはどう説明しようか…………ん? なんだろコレ……?』

 

 そんな風にミュウが頭を悩ませていると融合しているミメが何かに“変なもの”気がついた様に唸り始めた。

 

「どうしたんですか、ミメ?」

『うん……ええと、何かがあっちの方にある……? ミュウ、さっき戦いを始めた場所まで戻って見てくれないかな?』

「? 分かりました」

 

 そのミメの言葉に従い、ミュウは早足で先程戦闘を開始した地点まで戻っていく……そこで彼女達が見つけた“もの”とは……。

 

「コレは“千切れ飛んだ私の右手首”ですね。……流石にこうなって仕舞えば再生は無理っぽいでしょうか」

『……いや、もしかしたらイケるかもしれないよ。その右手首にも()()()()()()()()()()のを感じるんだ。……流石に遠隔で操作とかは出来ないし、自己治癒だけでは再生は無理っぽいけど……』

「それは……ああ、確か融合している時の私の種族は『エレメンタル』になっていましたね。……コレはもしかしたらワンチャンあるかもしれません。ちょっと兄様に頼んでみましょうか」

 

 ……そうして『とある可能性』に思い至った彼女達は千切れた右手首を持ちながら、ギデオンに居る兄の元へと急いで戻って行ったのだった。

 

 

 ◇

 

 

「……とまあ、そんな感じで私はこのザマという訳なのです兄様。……ちょっと油断と慢心が過ぎたのです」

「……事情は大体分かったが……いきなり腕が千切れた状態で手首を差し出して『兄様ちょっと治してほしいのです』は無いと思うんだが」

 

 三兄妹がギデオンでの長期滞在の為に借りていた宿屋の一室、そこではミュウは兄であるレント・ウィステリア相手に先程までの事情を説明していた所だった。

 

『ゴメンねお兄さん。……でも、手首から感じる“僕の気配”は徐々に薄くなってる気がするから急いでたんだよ』

「別に責めている訳では無いんだがな。……まあ良い、そういう事情ならさっさと始めるぞ。とりあえず傷口を縛って止血した上で凍っている部分を溶かす」

「お願いしますのです」

 

 そう言うとレントはアイテムボックスから取り出した紐を手慣れた動きでミュウの右腕を縛って止血し、その上で解凍の魔法で凍っている断面を手早く溶かした。

 ……そして更に【ジュエル】からヴォルトを呼び出して《獣心憑依》の効果で自分のステータスを引き上げつつ、いくつかのアイテムを使って次に発動する魔法の効果を増大させていく。

 

『……必要なのは私のMPだけの様なので待機しておきますね』

「済まんなヴォルト。じゃあミュウちゃんは手首を持っていてくれ。……さてと、今の俺の最大の回復魔法で治るかどうかは分からないが、やれるだけやってみるとしよう……《魔法威力拡大》並びに《詠唱》終了。《仮想秘奥・神技昇華(イミテーション・ブリューナク)》【聖騎士(パラディン)】のレベルを40消費……《フォースヒール》!」

 

 そうして可能な限りの強化が成された《フォースヒール(上級回復魔法)》がミュウの身体に降り注いだ……すると、千切れ飛んだ筈の右腕がみるみると再生していき、同じく再生し始めた右手首とくっ付いて元通りの右腕となったのだ。

 

「おお! 本当に治りましたね!!! 正直いけるとは思ってなかったんですが!」

『僕も《憑依融合(フュージョンアップ)》こんな能力があったなんて初めて知ったよ。ただ融合してステータスをちょっと上げるぐらいだと思ってた!』

「無事に治った様なら何よりだ。……確か一部の自然系エレメンタルの特徴だったか?」

『魔力で肉体を構成するタイプのエレメンタルはMPさえあれば肉体を再構築出来ると聞いた事がありますが』

 

 そう、肉体が非実態のエネルギーでで構成されたエレメンタルである【ミメーシス】と融合している状態だと、ミュウの肉体はそのタイプのエレメンタルに近似した特性を持つ様になっており、多少の部位欠損であれば強力な回復魔法で直す事も出来るのだ。

 ……最も、ここまであっさりと腕一本が回復したのはレントによって過剰に強化された回復魔法の恩恵も大きいが。

 

「いやー、本当に助かりましたよ兄様。後で今回下がったレベル分のレベリングはお手伝いしますね」

「それはいいんだが……今回ミュウちゃんを襲って来たPKであるシュバルツ何某はどうする? もしまたやって来たら……」

「今度は油断しないのです。……次は私の認識範囲内に入った時点で問答無用にPK()します」

『お、おう……』

 

 ……そんな事を()()()()()()()()で言ったミュウに対して『これなら大丈夫かな。……むしろシュバルツ何某ご愁傷様』とレントとヴォルトは思ったそうな。




あとがき・各種設定解説

末妹:次からはこんな舐めプはしないと誓った
・融合時はエレメンタルになっていてその特性を持つ肉体によって損壊にもある程度の耐性があり、四肢欠損ぐらいなら高位回復魔法があれば再生可能。
・ちなみに『現在』は戦闘時にしか頭の回転が働かなく“している”ので、今回のシュバルツの様な盤外戦術は少し苦手としている。

水面流古武術:末妹が現実で習っている古武術
・元々は“力の無い人間でも肉体を上手く使う事で最大の力を出す技”を伝える古武術で、はるか昔に貴人の護衛を生業としていた一族で立ち上げたらしい。
・だが、護衛するなら『的確な逃げ方』とか『そもそも危険に会わない事』を護衛対象に教えた方が良いのでは? となって、危険を回避する立ち回りを含めた護身術が主体になった。
・末妹の“師匠”は前述の『古武術』の方を覚えている人で、末妹に“肉体と頭脳を自分で自由に使う”方法を教えた。
・ただ、“師匠”は『護身するならこんな技術よりも防犯ブザーでも持ってた方がよっぽど役に立つし、そもそも今のご時世セキュリティシステムが発達してて護身術なんて需要が無いんだよな。……なので、これからは女性向けのダイエットエクササイズ主体で行くぜ!』とか言ってたりする。

【身代わり上級人形】【身代わり羽飾り】:身代わりシリーズ
・それぞれ『ダメージを5000減らす』『ダメージを半分にする』効果の使い捨てアイテムで、資金稼ぎの狩りの時に手に入れたドロップアイテム。
・ミュウは《攻撃纒装》の仕様上あえて攻撃を受ける必要が出て来るので、こういったアイテムをいくつか携帯して必要に応じて装備する事にしている。

シュバルツ:惜しくもリベンジならず
・こんなPKになった理由は昔始めたばかりのMMOで極振りユニークスキルでイキってたプレイヤーにPKされたから。
・だが、彼はかなりの負けず嫌いだったのでその相手にも後日きっちりお礼参りをして、その際にPKの魅力に取り憑かれて自分もPKになった。
・PKとしては極振りユニークスキルなトッププレイヤーやイキってる害悪プレイヤーを優先して狙い、更に一度負けると必ず念入りに対策してから再戦して来る賛否両論あるタイプ

《輝ける才覚よ、消え失せろ》:デンドロあるある初見殺しスキル
・カンスト相手なら25000の固定ダメージが高確率で体内に入るかなり厄介なスキルで、無差別スキル故にコストは固定ダメージ系スキルとしては控えめになっている
・【ブローチ】や【身代わり】シリーズなど体内ダメージを防げるアイテムは苦手だが、自分へのダメージを抑えるのにも使えるので一概に弱点とも言えない。
・欠点はクールタイムが10分と長めな事と、発生点がランダムなので効果が安定しない事、再使用にはもう一度槍を触れさせる必要がある事、そしてレベルでダメージが決まるのでレベル上限が低いモンスター相手では大した威力が出ない事。
・それ故にシュバルツはこのスキルを『ダメージを与えられればラッキー。最悪【ブローチ】が消費されるだけでもいいか』ぐらいに思っている。


読了ありがとうございました。
ちなみにヴォルトが喋っているのは兄が通訳が面倒だからと翻訳アイテムを買い与えたからです。決して括弧を書くのが面倒になった訳では……。


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ギデオンでの三兄妹・その四+α

前回のあらすじ:末妹「アレは返り討ちにしましたし、腕も治りましたから結果的に私の完全勝利と言っても過言ではないでしょう……次に会ったら勝負になる前に始末しますし」ミメ「ほどほどにねー」


 □決闘都市ギデオン・とある宿屋 【黒土術師(ランドマンサー)】レント・ウィステリア

 

「……《魔石作成》《クリムゾン・スフィア》……《魔石作成》《クリムゾン・スフィア》……《魔石作成》《クリムゾン・スフィア》」

『今日もまた【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】作りですか』

「しょうがないだろう、上級盗難防止機能付きアイテムボックス買ったら資金が尽きたんだから。まさか一千万リルもするとは……」

 

 現実では8月もそろそろ終わりそうな今日、俺は借りている宿屋で資金稼ぎの為に魔石職人ギルドの『難易度:五【【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】の作成と納品』のジョブクエストに励んでいた……報酬の良いこのクエストを受けるのも何度目になるだろうか……。

 ……それもこれも先日買ったポーチ型の盗難防止機能付きアイテムボックスが高いのが悪い。そのくせ入れられるアイテムは10種類までだしな。肝心の【シルヴァ・ブライト】を入れるのには問題無かったから良いんだけど。

 

『それと、この部屋そこそこ広いとはいえ亜竜級モンスターである私にとっては手狭なんですが……』

「それに関しては本当に済まん。……だが、外に出して従属キャパシティ内に入れて置かないと《獣心憑依》によるバフが掛からないんだ」

『私のDEXはそこまで高くないんですが』

「《魔石作成》にはMPも必要だから……」

 

 俺のステータスは【ルー】の必殺スキルのデメリットで半減してるから、ジョブスキルや装備でステータスを補正しないと成功率が下がるんだ……まあ、戦闘系バフスキル(獣心憑依)を生産にも応用出来るのは、【ルー】のスキル《諸芸の達人(スキルマスタリー)》のお陰なのだが。

 それにギデオンに来てから盗難対策に【盗賊(バンディット)】、更に【魔術師】では覚えられない属性の魔法を習得する為に【付与術師(エンチャンター)】【呪術師(ソーサラー)】【幻術師(イリュージョニスト)】をカンストさせている。

 更に転職条件を満たす事が出来た【黒土術師】と、【シルヴァ・ブライト】を実際に使ってみたら転職条件をクリア出来た【魔銃士(マギガンナー)】のジョブにも就いたしな。

 

『しかし、よく飽きずに同じ作業を続けられますね』

「元々単純作業は嫌いじゃないしな。……後は2回目の《刃技才集(スキルガチャ)》で引き当てた《職能補助:火石作成》のお陰で成功率も上がってるから、資金稼ぎの効率が良いんだ」

 

 ちなみにこの《職能補助:火石作成》は『魔石職人系のジョブクエストを行う時に火属性【ジェム】作成の成功率が5%上昇する』というパッシブスキルである……最近は火属性【ジェム】を作るジョブクエストばかりで経験値を稼いでいたのが原因かな。

 ……効果は地味だがパッシブスキルなお陰で無駄に成り難いのが良いな。火属性の【ジェム】は人気だからジョブクエストの実行にも困らないし。

 

『……ふむ、そろそろ暇つぶしに話すネタも無くなって来ましたね』

「翻訳アイテムを買ってから本当に良く喋る様になったよな、ヴォルト」

『部屋の中では他にやる事が無いので。……じゃあ、色々な問題になった【シルヴァ・ブライト】の使い心地とかはどうでしょう? 先日試し撃ちしてましたよね』

「後で外に連れてってやるから。……それと【シルヴァ・ブライト】に関してなんだが、まあ普通に強いんだがちょっと使い難いかな……多分、俺のMPが足りないのが主な原因だろうな」

 

 何度かモンスター相手に試し撃ちをした所、あの【シルヴァ・ブライト】だが威力的には同じ量のMPを使った火属性魔法の三分の一くらいだったからな……最も、普通の光属性魔法の場合だと火属性と同じ威力を出すにはその5倍程のMPが必要である事を考えれば物凄い効率なんだが。

 加えてそんな光速のレーザーが引き金を引くだけで即座に発射出来て、しかも連写まで出来るとくれば【シルヴァ・ブライト】が非常に強い武器である事には疑いの余地は無いだろう。

 ……燃費に関しては【魔銃士】のスキルに《魔銃威力強化》《魔力装填効率化》などのスキルがあるみたいだし、今後に期待かな。

 

「……しかし、ヴォルトは本当に喋るのが好きなんだな」

『そう見えますかね? ……まあ、生まれつき他の同世代の同族よりも頭が良かったので、こうして会話する機会とかも無かったですからね。確かに新鮮な気分ではありますか』

「ふーん……そう言えば、なんでヴォルトがテイムモンスターになったのかとかは聞いてなかったな」

『大した理由でもないですよ。……私が居た群れが<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>に襲われて壊滅、その中で運良く負傷しながらも生き残った私が偶々出会ったテイマーに捕まって売られたってだけの良くある話ですよ』

 

 何でも、ヴォルトが居た【ライトニングホース】系統の群れはボスである【雷電純竜馬(ライトニング・ドラグホース)】に率いられて、そこらの肉食モンスターでは手出し出来ない程の規模を持っており、ヴォルト自身も生まれつき賢かった事や雷の扱いに長けていた事から群れの未来の主力候補としてボスには良くして貰っていたとか。

 

『……今思えば私は周りより賢かったせいか少し調子に乗っていたかもしれないですね。ボスからも『この世界には上には上がいる』『強者に会ったら生き残る事を最優先にしろ』と言われていましたが話半分に聞いていました』

「あー、分かる分かる。……若い時に周りより自分が優れていると思い込むとそうなるよな。実際は『周り』なんて世界と比べればごく狭いモノでしか無いのに」

『本当にそうですよね。……まあ、ボスの事は自分より上だと思っていたので彼の言う事は良く聞いて《強者感知》《危険察知》などの危機回避スキルは磨きましたし、そのお陰であの<UBM>──【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】から逃げ延びる事が出来たのですが』

 

 ヴォルト曰く、その【ラーゼクター】との戦い……とも呼べない一方的な“狩り”の始まりは、まずいきなり『地面から』噴出した猛毒の煙──【猛毒】【魔毒】【魂毒】【衰弱】【酩酊】【麻痺】の六重状態異常を有するガスから始まったらしい。

 ……ヴォルト自身は周囲の警戒の為に群れの外側にいたからかこの内【猛毒】【魔毒】【魂毒】しか掛からなかったらしいが、群れがいきなりの猛毒のガスで混乱した次の瞬間にはボスである【雷電純竜馬】は二メテル程の人型の魔蟲に殺されていたのだとか。

 

『ガスで姿は良く見えませんでしたが、その頭の上には<UBM>の証である【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】の文字があり……それが見えて、更に自分より強いボスが瞬殺されたのを見た私は全速力でその場から逃げ出しました』

「……あー、軽い気持ちで聞いてすまなかったな」

『いえいえ。……そもそも野生のモンスターの間でなら殺し殺されは良くある事ですし、群れやボスを殺された事や群れの仲間を置いて逃げた事も特に気にしてませんから。そんな事を気にしてたらこの世界では生きていけません』

 

 ヴォルトの雰囲気や《真偽判定》スキルでも嘘は言ってないみたいだが、死者を悼む様な気配は感じたので多分割り切っているんだろう……それで、その後【ラーゼクター】からは逃げ切れたらしいが途中で毒が回って動けなくなり、そこに偶々通りがかったテイマーに珍しいモンスターだからと捕まって売られて今に至ると言う事らしい。

 

『その後にマスター達に買われたのは幸運だったと思いますよ。テイムモンスターでしかない私にも気を使ってくれますし、亜竜級に進化するまで面倒を見てくれましたし。……何より<UBM>と戦って倒せるだけの強者ですしね』

「不満が無いならそれでいいんだが……俺達は今後も<UBM>と戦う機会は結構あると思うぞ」

『それは普通に野生で生きている間も変わりませんからね。それならいっそ<UBM>を倒せるマスターに仕えた方が勝算も生存率も上がるでしょう』

 

 成る程ね、理由はどうあれテイムモンスターとしてある事には不満が無い様で何よりだな……おっと、もうジョブクエスト分の【ジェム】はこれで終わりか。

 

「……よし、これでジョブクエスト分の【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】は作り終わったな」

『お疲れ様でしたマスター。……それでこの後はどうします?』

「さっきも言った通り、この【ジェム】をギルドに納品した後はフィールドにでも行こうか。最近はだいぶ騎乗戦闘も様になって来たしな」

『分かりました。ではそのように「頼もう! お兄ちゃん!!!」……おや』

 

 ジョブクエストを終えてどこかに行こうと話していた俺とヴォルトを遮るように勢いよく部屋の扉を開けて現れたのは、やはりと言うか妹のミカだった……よく見るとミュウちゃんとミメも連れているみたいだな。

 ……せめてノックぐらいはしろと思うんだが、ミカがいきなり突拍子の無い行動に出る時は大体()()()()()時だからな。話は聞いておかないと。

 

「……それで一体何のようだ? 可能な限り結論だけでなく過程を含めて話してくれ」

「うん分かった。……お兄ちゃん、冒険者ギルドの方で『クルエラ山岳地帯の山賊討伐のクエスト』に行かない?」

「……姉様、それ過程を結構省いていますよ」

 

 ミュウちゃんのツッコミ通り、ミカは『あらゆる過程を無視して危険回避の最適解を提示する』事が出来てしまう“直感”を持っている所為でか、それが関わる際に色々と過程を無視して普通の人間には理解出来ない行動を取りがちな癖があるからな。

 付き合いの長い俺やミュウちゃんならある程度察する事も出来るし、そもそも“直感”の話は俺達ぐらいにしかしないから私生活では余り問題にはなってないけど。

 ……しかし、山賊討伐ねぇ。冒険者ギルドや騎士団が不定期に行なっているとアイラさんやリリィさんから聞いた事があるが、俺は意図的にその手の話……()()()()()()()()()()()()に成り得るクエストは避けてたんだがな。

 

「……別に俺は必要であればティアンを殺傷する事に躊躇はしないし、それなりに現実(リアル)での経験から対人戦には慣れているが……」

「兄様ってリアルでも大概ジャンル違いな経験してるみたいですからね。師匠が言ってましたよ」

「私も詳しくは知らないけど現代ファンタジーものの主人公系な気がするよー」

「言っとくが、俺自身は普通の人間だからな。……ただ、ちょっと中高で『その手のジャンル』の人間が偶々クラスメイトにいて、何故か俺まで妙な事件に巻き込まれたぐらいで」

 

 あの頃は俺も若かったから、つい『ジャンル違いの連中』が起こす問題に首を突っ込んでしまってな……まあそのお陰で『あの事故とそれに関する諸々』以来、少しだけ燻っていた“自分は特別である”と言う認識は消し飛んだが。

 ……なので正直言って今は反省してるし、出来る限りこの<Infinite Dendrogram>は“ただのゲーム”として楽しみたいと思ってるので、その『秘密』とかは出来るだけ考えない様にしているし。どうせ異世界とか別惑星とか神の箱庭とかだろ(適当)

 

「……っと、話がズレたな。そもそも“この世界”には一切関係の無い話だからここまでとして……話を戻すが『山賊討伐』って事はティアンを殺傷する事が前提な訳だが」

「別に私達はその辺りに躊躇はしませんよ。命を奪うのならこれまでモンスター相手に散々やってますし」

「私も必要なら躊躇いはしないよ?」

「……()()()、心配なんだがな……」

 

 ミカの場合は自分の“直感”が示したのなら他人を踏み躙る事すら躊躇無く出来て“しまう”し、ミュウちゃんは生まれつきの戦いの才能の所為で戦闘行動に対する躊躇いなどの悪影響などを一切“抱けない”んだよなぁ。

 このデンドロをやってるのは、現実では持て余し気味なこの二人の“才能”に折り合いを付けられる事を期待しての事でもあるが、流石にこう言う展開は兄としては心配になるんだよな。

 ……といった感じの事を俺が考えていると、それを見た二人は苦笑しながらも明確な“覚悟”を持った瞳でこちらを見ながら話を続けた。

 

「兄様の心配も最もだと思うのですが、私達は自分の“才能”に負けて人道を外れる様な事は絶対にしないのです。……それにクエストでは“生け捕りの場合には追加報酬”ともありましたし、基本的には制圧をメインで行くのです」

「それに、今このクエストに参加しないと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()気が物凄くするんだよね。……ミュウちゃんの言う通り基本は制圧がメインにするよ。……私達は自分の“才能”には負けたくない、自分だけの可能性が欲しいの」

「……分かった。……まあ、別に山賊退治自体は“悪い事”では無いしな」

 

 この世界的の一般常識的にだと『人殺し』自体は悪とも言えないからな……勿論、無為な殺戮は忌避しなければならないモノであるべきだし、だからと言って正当防衛や守る為に或いは救う為に殺したりとかを全否定する気も無いが。

 ……この二人が道を謝らない様にするのも俺の役目だと思って頑張るか。要は『ゲーム(デンドロ)』と『現実(地球)』の区別をつければ良いだけの話だし。

 

「そう言うわけだヴォルト、これからやるのは山賊退治になる」

『分かりました。……マスター達の話はさっぱり理解出来ませんが、私は貴方のテイムモンスターですからお供しますよ』

「……ありがとうヴォルト。《送還(リ・コール)》」

 

 俺達の側から見れば意味不明な会話にも空気を読んでか特に何も言わずに付いてきてくれるヴォルトに感謝の意を示しつつ、俺はヴォルトを【ジュエル】に帰還させてクエストを受ける為に妹達を連れてギデオンの冒険者ギルドへと向かって行ったのだった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ■<クルエラ山岳地帯>・廃砦

 

 アルター王国の東部に存在する古戦場跡に建つ廃砦、そこは現在とある山賊団が根城として使っていた……そして、その内の一室では【大盗賊(グレイト・バンディット)】のジョブに就いた長身の男が、今部屋に入ってきた【大戦士(グレイト・ファイター)】の大柄な男に話し掛けていた。

 

「……おい、この前に襲った馬車で捕まえてきた奴隷達の様子はどうだ?」

「へいアニキ、全員ちゃんと飯をやって大人しくさせてやす」

「それでいい。……そっちの方が大人しくなるし、裏の奴隷商でもなるべく健康な方が高く売れるからな」

 

 彼等は主に<クルエラ山岳地帯>を通る商隊を襲って物品を奪ったり、その際や近くの村落から人を攫って繋がりのある違法業者に売り渡すなどの山賊活動を行なっていた。

 ……何故かこの山賊団は彼等の様に上級職に付いたメンバーを擁していたり、王国やカルディナにある裏の業者とのコネクションを持っているなど、基本食い詰め者ばかりの山賊団と違ってそれなりの勢力を持った者達だった。

 

「しっかし、奴隷が【ジュエル】に入れられれば良いんですがね」

「仕方ないだろう。【奴隷師】に就いてるメンバーは今カルディナの“本部”に行っているんだからな」

「そうなんすけどねぇ。……じゃあアイツが帰ってきたらこの『山賊団』も潮時ですかね?」

「そうなるだろうな。……()()()()()金になる奴隷とアイテムだけ持って、適当に集めた食い詰め者を囮にトンズラだ。どうせそろそろ冒険者ギルド辺りが山賊討伐のクエストを出すだろうからな」

 

 そう、実は彼等はカルディナを中心として活動する“とある犯罪組織”の一員であり、需要のある『資材』を本部に売り捌いて資金稼ぎを行う為に適当な食い詰め者達を集めて山賊団を組織、ある程度活動して潮時になったところで用済みの食い詰め者を切り捨てて逃走を繰り返しているのだ。

 ……そんな二人だったが【大戦士】の方が部屋の中に置いてある金属製の檻の中身を見て【大盗賊】の方に話し掛けた。

 

「それでアニキ、あの『エレメンタルの嬢ちゃん』も持っていくんですかい?」

「当然だ。……むしろ他は置いていってもアレだけは持っていくぞ。()()()()()()()()()()()()()など然るべき所に流せば大金になるからな」

「…………」

 

 そう言った二人が見つめる檻の中には銀髪の5歳ぐらいの幼女──の姿をしたエレメンタル系モンスターが眠っていた……見た目は殆ど人間にしか見えなかったが、モンスターである証拠にその頭上には【リトル・ネイチャーエレメンタル】の文字が表示されていた。

 ……と、ちょうどその時に眠っていたエレメンタルの幼女は目を開けて身体を起こした。

 

「ふぁ〜、よく寝たのじゃ〜。……お腹空いたから何かお菓子とかないかのぅ?」

「ハァ〜……貴様、ここに囚われてから食っちゃ寝しかしてないよな」

「あ、クッキーならあるぜ」

「ありがとうなのじゃ〜……モグモグ……ウマ〜! やっぱり人間の食べ物は美味しいのう」

 

 囚われているにも関わらずそんな呑気なエレメンタル幼女に【大盗賊】はため息を吐いたが、何故か【大戦士】が持っていたクッキーをいい笑顔で食べる光景を見て呆れた様に黙り込んでしまった。

 ……彼女は少し前に彼等が<クルエラ山岳地帯>で行き倒れているところを捕まえたモンスターで、聞いた事の無い種族だから高値で売れるだろうと捕獲したものである。

 

(まあ、クッキー程度で大人しく捕まっているなら別に良いか。【従魔師】を兼任してるアイツが出ている以上はテイムして【ジュエル】に収める事も出来んし。……それに《看破》したところレベルが1でステータスがMP以外はリトルゴブリン以下の本当にティアンの子供レベルだからな。下手に暴力を振るったら殺しかねんし、傷物にしたら売値が落ちる)

 

 尚、彼も《看破》を駆使して保有するスキルが【魔術師】レベル1で覚えられる《ティンダー(種火)》《ライト()》レベルの戦闘で使えない魔法ばかりだと確認しており、その行動や発言にも《真偽判定》《危険察知》《殺気感知》に反応が無いので危険性は低いと考えて放置しているのだが。

 また、それ以外には《高速思考》《分割思考》《魔石還元》《魔力感知》などエレメンタルの中でも一部の者しか覚えないレアなスキルがあったので、おそらくごく稀に生まれる突然変異のレアモンスターだと判断していた。

 

(……コイツは上手くいけばここに集めた奴隷とアイテムを合わせたよりも高く売れるだろうからな。【従魔師】が帰って来るまでは扱いも多少は丁寧にするしかないか)

「それで? ワシは売られると聞いたが誰が買うんじゃ?」

「俺らも闇のテイムモンスター業者に売り渡すだけだからなぁ。そこから先は分からん」

「そうかー」

 

 ……だから、こんな呑気な会話も必要経費だと【大盗賊】の男は自分に言い聞かせていた……と、そこでエレメンタル幼女が何かに気付いた様に顔を上げた。

 

「ん? どうしたんだ?」

「……御主らには行き倒れていたワシを拾って貰った恩があるからのぅ。……御主ら、なるべく早くこの<クルエラ山岳地帯>を離れた方が良いぞ。この地が少し騒めき始めておるし、おそらくそう遠くないうちに()()()じゃろう」

「はぁ? ……外の天気は晴れ渡ってるぞ」

「……まあ、“今のワシ”では確たる事は分からんのじゃが、ただそんな気がするぐらいかのう」

 

 そんな幼女の言葉に二人は顔を見合わせつつも戻って来るメンバーの事を考えればまだ逃げる訳にも行かず、その幼女も彼等の事情を聞けば『ま、確証は無いしな』とだけ言って再びクッキーを食べ始めたのでこの話はここまでとなった。

 ……その後【大盗賊】の男は冒険者ギルドの討伐隊を警戒して見回り(兼囮)を増やしておくかと指示を出しに行き、もう一人の【大戦士】はいざと言う時の逃走用隠し通路を確認しに行ったので部屋の中は檻の中の幼女一人となった。

 

「……さてさて、()()()姿()()()()()()()()()ワシに出来る事はほぼ無いしなぁ。どうなる事やら」

 

 ……その部屋にはそんな誰に聞かせる訳でも無い幼女の声だけが響いたのだった……。




あとがき・各種設定解説

兄:リアルにジャンル違い連中がいる事は知っている
・ちなみにリアルでは妹達をそちらに巻き込まない様に全力を尽くしているので、妹達は多少察してはいるが詳しくは知らない。
・デンドロにもそちら系が関わっているとは思っているが、あくまでゲームとして楽しみたいので首は突っ込まない方針。

《職能補助:火石作成》:今月のスキルガチャの結果
・補正が掛かるのはジョブクエストに必要な物を作っている場合に限り、それ以外の火属性【ジェム】を作っても補正は乗らない。
・《刃技才集》はパッシブスキルも出て来るが、大体複雑な条件で発動するもので効果も低くスキルレベル上限も低い。

【魔銃士】:銃士派生魔銃士系統下級職
・魔力式銃器の運用に特化したジョブで、転職条件に『魔力式銃器の保有と装備』があるので製法がロストしている現在では就いている者が殆ど居ない希少なジョブになっている。
・ステータスはMPとDEXに特化しており、魔力式銃器の補助スキルの他にもMPを使った銃撃スキルも覚える。

ヴォルト:意外とお喋り好き
・かつての群れの事は完全に割り切っているので、例えば再び【ラーゼクター】が目の前に現れても激昂したりはしない。
・三兄妹についてはその実力と人格から『マスター』として信用している感じで、少しずつ情も湧き始めている。

妹達:兄の気持ちは分かっているので可能な限り配慮している
・特にリアルでのジャンル違いの事に関しては、自分達を巻き込まない為だと分かっているので深くは聞かない様にしている。
・何故彼女達が山賊討伐のクエストを受ける事になったかの詳しい理由は次回。

山賊団の頭目:……のフリをして“出稼ぎ”に来ているヤツら
・実は二人とも合計レベル500の凄腕で、新しい山賊団を作るたびに顔や名前は《フェイス・チェンジ》や偽装系のスキル持ちアイテムで別の物に偽っている。

【リトル・ネイチャーエレメンタル】:謎の幼女
・ちなみに彼女の名前もステータスもスキルも発言も“一切の虚偽や偽装は無い”。


読了ありがとうございました。
次回からは長編になると思いますのでよろしくお願いにします。感想・評価・誤字報告などはいつでも歓迎です。


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何故彼女達は山賊討伐に行く事になったのか

前回のあらすじ:妹「山賊討伐に行こう!」兄「まあ、覚悟が出来ているなら良いが……」末妹(ちゃんと何故そうなったのかの事情もあるんですが言ってませんね姉様)


 □<決闘都市ギデオン>・冒険者ギルド 【重戦士(ヘビーファイター)】ミカ・ウィステリア

 

 そんな訳で私とミュウちゃんは説得に成功したお兄ちゃんを連れて、()()()()()()()()と合流する為に冒険者ギルドまでやって来ていた。

 

「はーい、お待たせー。()()()()()()()()()。お兄ちゃんを連れて来たよ」

『こっちも例の山賊に関する資料を集め終わったから丁度いいワン。……女狐が呼んだ方はまだ来てないしな、資料集めも遅いし』

「クマやんが早すぎるんやー。ウチこういう資料集めとかレポートとかは苦手なんやもん。何時もは影やんが手伝ってくれるのにー」

「……月影さんを酷使し過ぎ……」

 

 そう、冒険者ギルドで待っていたのは私達のフレンドで犬の着ぐるみを着た“シュウ・スターリング”さんと、クラン<月世の会>のオーナーで同じフレンドの“扶桑月夜”さんとそのクランメンバーの“日向葵”ちゃんでした。

 ……実は今回の山賊討伐のクエストは彼等と一緒に受ける事になってたんだよね。

 

「……おいミカ。他にメンバーがいるとは聞いていないぞ」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「何故山賊討伐のクエストを受けるのかは言ってませんでしたね、姉様」

「クエストを受ける事だけは言ってたけどね」

 

 ……と、そんな彼等を見てお兄ちゃんから小声でツッコミがありミュウちゃんやミメちゃんもそう言ったので、とりあえず何故私達が山賊討伐のクエストを受ける事になった理由を掻い摘んで説明する事にした。

 ……そう、あれは私達がこのギデオンにある教会で『着ぐるみチャリティーパーティー』を行なっていた時の事……。

 

 

 ◇

 

 

『はーい、お菓子は沢山あるドラ〜』

『犬じるしの手作りポップコーンもあるワン〜』

「「「「わ〜い!!!」」」」

 

 今からほんの少し前、私とシュウさんは着ぐるみ(両方とも特典武具)を着たままパーティーの為に集まった子供達にお菓子を配っていた……このパーティーはギデオンの領主と教会が協力して定期的に開いているもので、教会が経営している孤児院の子供達への娯楽や他の子供達との友好を深める意味で小規模ながら行なっているのだとか。

 そしてパーティーにはボランティアで教会の有志の人員やギデオンで有名な決闘者の参加なども募集されており、私は『最近話題の着ぐるみ<マスター>決闘者』として声を掛けられたので一緒に居たミュウちゃんと共に参加する事にしたのだ。

 ……ちなみにシュウさんは『子供に美味しいお菓子を配る謎の着ぐるみ』として孤児院の院長さんと知り合いになり、その伝手で今日のパーティーの事を聞いて参加する事にしたのだそうだ。

 

「ドラゴンさ〜ん! クッキーちょうだい!!!」

「俺も俺も!!!」

『はいはいドラ〜』

「ワンちゃんポップコーンおかわり!!!」

「私も〜!」

『は〜い、慌てないでワン? まだまだポップコーンは沢山あるワン』

 

 しっかし、子供達は本当に元気だねぇ。さっきから私とシュウさんは働きっぱなしだよ……着ぐるみがそんなに珍しいのか私達二人の元にばっかり子供達が集中しているし。ジョブで得たステータスのお陰で体力は問題ないけどさ。

 後、あのポップコーンはシュウさんのリアルスキルによる自作らしい。試しに食べてみたけどめっちゃ美味くて子供達にも好評である……私? 小学校の家庭科の授業で『まあ……普通?』って言われるレベルの腕前ですが何か? お兄ちゃんなら……。

 

「大変そうですね姉様。……はい、麦茶っぽい飲み物です」

『ありがとうドラ、ミュウちゃん』

「大変そうやねクマやん。……はい、麦茶っぽい醤油や」

『おーありがと……って、いるか女狐ェッ!!! 似てんの色だけじゃねーかワン!!!』

「チッ、引っかからんかったかー」

 

 そんな私達に近づいて来たのは、同じくパーティーにボランティア枠で参加していたミュウちゃんと月夜さんだった……彼女はギデオンの教会から今回のパーティーの事を聞き、ボランティアとして何人かのクランメンバーと共に参加したらしい。

 ……後、シュウさんと月夜さん前に何かあったらしく顔見知り(友達かと聞いたら双方から全力で否定された)みたい。まあボケに対してノリツッコミするぐらいには仲が良いみたいだけどね。

 

『まさか女狐とクエストでブッキングするとワン』

「それはこっちのセリフやー。ちょっと“フレンドの”ミカやんミュウやんが活躍しとるっちゅうギデオンに観光に来て、この後パーティーに参加するって聞き付けてメンバー連れて参加したんに……まさかクマやんがいるとはなー」

『……ああ、数少ないクランメンバー(信徒)以外のフレンドだからか』

「おりますー! ウチにだってメンバー以外にもフレンドおりますー! ……それに基本ボッチプレイヤーのクマやんに言われたくないわ」

『メンバー以外のフレンドの数には言及しなかったな。後ボッチじゃないワン、ソロプレイヤーと呼べワン。……最近は『ちょっと格好が変わった普通のプレイヤー』扱いされて来たから、野良パーティーとかも組んでるワン!』

「結局ネタプレイヤー扱いなのは変わらんやーん!」

「……はいはい二人ともそこまでそこまで。子供達が見てるからねー」

 

 ちょっと二人の掛け合いがヒートアップして来たので私が仲裁に入る事に……まあ、二人とも子供達に変なところは見せない程度の良識はあるので直ぐに辞めてくれたし、子供達もこの二人の掛け合いは漫才みたいに面白がって見てたから問題にはならなかったけどね。

 ……そんなこんなで私達は子供達にお菓子を配ったり、葵ちゃんなどの参加していた<月世の会>の人と話したり、シュウさん達の料理の手伝いをしたり(余り戦力にはならなかった)とパーティーを楽しんでいたのだが……。

 

『……んんん?』

「どうしましたか姉様?」

 

 そんな最中、久しぶりに私の“直感”……しかも、遠い危機に対して事前の準備を進める“遠い勘”が、このデンドロに来てから()()()()()()()()()で私に対して『危険に対する準備をさっさとしろ』と訴えて来たのだ。

 ……しかし何で平和なパーティーの日に? と私は疑問に思ったが無視するには後が怖すぎるので、とりあえずミュウちゃんに簡単に事情を説明してから“直感”の示した方向──教会の裏口の方に足を向けると、そこには……。

 

「……そんな……それは本当なのですか⁉︎」

「……うっ……ぐす……」

「済まない、サリーちゃん……」

 

 そこでは、このパーティーの主催者の一人であり私に参加の依頼を出したシスター服を着た孤児院の院長さんが、全身に包帯を巻いている冒険者っぽい男性に焦った様子で何かを訪ねており、その足元では一人の少女が蹲って泣いているという、明らかに何かがあった事が分かる光景が広がっていた。

 ……状況はよく分からないけど“直感”が無くてもこの光景を見過ごすのは後味が悪いし、ちょっと何があったのか聞いてみるか……と、考えて行動に移すよりも先に蹲っていた少女が私がいる事に気が付いて、必死な表情でこっちへと走って私の着ぐるみにしがみ付いてこう言ったのだ。

 

『おっと』

「お願いドラゴンさん! ケリーお姉ちゃんを助けて!!!」

「サリー⁉︎」

 

 泣き顔で必死に私に向けてそう言う少女──サリーちゃんに気が付いた院長さんがこっちにやって来たので、私は彼女に詳しい事情を聞く事にした……最初は彼女も私に事情を話す事に躊躇した様だが、サリーちゃんの方が泣きながら事情を話そうとしたので根負けして詳しい事情を話してくれる事になったのだった。

 

『それで院長さん、この子の言う“ケリーお姉ちゃん”に一体何があったんですか?』

「はい、ケリーはこの子……サリーの姉で少し前に孤児院を出て行商人として働き始めたんです。……それで少し前からカルディナまで商品の売り買いの為に行っていたのですが……」

「ここから先は俺が。……俺はその商隊に護衛として雇われていた冒険者なんだが、王国との国境沿いにある街からの帰り道にある<クルエラ山岳地帯>で山賊に襲われて……俺以外の護衛は全滅、乗っていてケリーさんを含む何人かの人間は山賊に捕らえられてしまったんだ。……俺は辛うじて逃げる事しか出来なくて……」

 

 そう言った護衛の人──彼も同じ孤児院の出身らしく院長さんが宥めていた──はとても悔しそうな顔をしていた……まあ、その身体に残る傷跡からかなりの激戦を潜り抜けた事は伺えるし、私からは何も言わないけど。

 ……それに彼等の事情がどうあれこの依頼(クエスト)を受けるのは()()()()なので、私は未だにしがみ付いたままのサリーちゃんの頭に手を置きつつ彼等に話し掛けた。

 

『分かったドラ、ケリーお姉ちゃんは私達が助けに行くドラよ』

「ほんとう!!!」

「……本当に良いんですか? <クルエラ山岳地帯>は山賊が多い危険な場所ですし、こちらには<マスター>様を雇う報酬を出す余裕は……」

『別に報酬は良いですよ、私がこのクエストを受けたくて了承したんですし。……強いて言うなら司祭系クエストや上級職転職条件の口利きとかしてくれるだけでも良いですし』

「そんな事で……?」

 

 院長さんは驚いているが、ぶっちゃけ<マスター>にとっては下手な報酬よりこの手のティアンとのコネができる方が有難いしね……この前ミュウちゃんが大怪我した事もあって『司祭系上級職取ろうかな。でも他にレベル上げするジョブが多過ぎてジョブクエストを受ける時間が……』とか言ってたし。

 

「……分かりました、それではどうかお願いします」

「お願いします!!! 可能な限り例の山賊団の情報はお渡ししますので……!」

「お願いしますドラゴンさん!」

『分かったドラ』

 

【クエスト【救出ーケリー・メイティス含む商隊員 難易度:九】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 そんな訳で私は山賊に囚われたケリーさん達商隊員を救出しに行く事になったのだった……しかし、予想通りではあるけど()()()()()とかめっちゃ高いねぇ。

 ……正直言って私とお兄ちゃん達だけだと失敗する“気しかしない”し、何処かに一緒にクエストを手伝ってくれる凄腕の<マスター>が……。

 

『……おーい、ミカちゃんどこワン〜。子供達が『ドラゴンさんが居ない』って言ってるワン〜』

「クマやんよりも人気あるしな〜」

『人気は五分五分ぐらいだワン』

 

 ……うん、丁度都合のいい面子がいたね。今回は彼等の助けが必要かな。

 

 

 ◇

 

 

「……と、そういう訳で私はシュウさん月夜さん達と一緒に、<クルエラ山岳地帯>の山賊達からケリーさん達商隊員を救出する事になったんだよ」

「まあ事情は大体分かった。……ただ、そういう事情は事前にちゃんと説明してほしいぞ。討伐じゃなくて救出がメインならそこまでどうこうは言わなかったし」

「すみません兄様」

 

 ……まあ、今回はただでさえ()()()の案件だったから色々焦ってたしねぇ。ちょっと色々先走り気味だったかな。

 

「シュウさん月夜さん葵ちゃんも、今回は大した報酬も無い高難度クエストを手伝ってくれてありがとうね」

「ええよええよ〜。清廉潔白で善良な<月世の会>のオーナーとしてはティアン救出を手伝うのも吝かではないしなー」

「……清廉……潔白? ……善良? ……正直ツッコミどころしか無いけど、今回は救出依頼自体は受けてるからとやかくは言わない。……後、ゲーマーとしては高難度クエはむしろご褒美」

『まあ、あの孤児院の子達は着ぐるみを着た俺と初めて遊んでくれた子達だからな。お陰で俺が善良な着ぐるみだと広がった事もあるから、彼等の為に一肌脱ぐのは吝かではないワン。……それにこのクエストの難易度は気になるしな』

 

 そうシリアスな感じ(着ぐるみだけど)で言ったシュウさんは、冒険者ギルドやあの護衛の人から聞き出したケリーさん達を攫った<クルエラ山岳地帯>の山賊団について話し始めた。

 

『ケリーさん達を攫ったのはスミス山賊団と呼ばれている、<クルエラ山岳地帯>の古戦場にある砦跡を根城にしている連中ワン。……その構成員は頭目である【大盗賊(グレイト・バンディット)】のジョン・スミス、大剣を持つ【大戦士(グレイト・ファイター)】のダリー・スミス、亜竜級魔獣を使役しているらしい【高位従魔師(ハイ・テイマー)】のライル・スミスという三人のカンストレベルの戦闘能力を持っているティアンが率いている、基本食い詰者ばかりの山賊団としては珍しく討伐依頼を受けた冒険者を返り討ちに出来るぐらいの実力を持っているらしいワン』

 

 そうやって話しながら、シュウさんは冒険者ギルドが調べた<スミス山賊団>の拠点位置や人員などの各種資料を机の上に並べていった。

 

『……が、それ以外の人員は数こそ多いが精々が下級職一職目の食い詰者ばかり……正直言って人質を救出する事を込みにしても難易度:九は少しおかしいワン。……ちなみに以前俺とフィガ公が受けた逸話級と伝説級<UBM>討伐クエストの難易度は()()()()『八』だったワン』

「ふーん、つまり今の<クルエラ山岳地帯>には山賊団以外に“何か”があるっちゅうんかねぇ?」

「そもそもクエストの難易度ってどういう基準で決めてるのか」

『確か管理AIのクエスト担当が現地情報を参考に決めてるらしいワン。多分正確性ならギルドの難易度より上だワン』

 

 成る程、つまり<UBM>討伐よりも難易度が高くなる要因が今の<クルエラ山岳地帯>にはある可能性が高いという訳だ……幸い、ここにいる面子で油断や慢心をする人は居なかったので、みんな真剣に今回のクエストについて考えてくれた。

 

「……でも、時間が経ち過ぎれば救出自体が失敗する可能性が上がるよね」

『だから出来るだけ早く救出に行く必要があるワン。……でも、まだ女狐が呼びに行かせた人が戻って来てないワン』

「大丈夫大丈夫、影やんの事やからきっちり間に合わせて「遅くなりました月夜様」ほら来た」

 

 そんな事を話していると実に良いタイミングで月影さんが四人の<マスター>──20代くらいの青年と30代くらいの男性、そして十代後半くらいの二人の女性を連れて戻って来た。

 

「ギデオンに来ていた<月世の会>のメンバーで実力があり、今回のクエストの説明を聞いて同行しても良いと言う者達を集めて来ました。……ただ、こちらに来ていた数が少なかった事とその多くが非戦闘要員だった事もあって四人しか集められませんでしたが」

「今回ウチらがギデオンに来たのは観光メインやからしゃーない。殆どの戦闘系メンバーは今王都で行動しとるしな。……それに今回は救出がメインやし少数精鋭の方がええやろ。とりあえず自己紹介しとき」

「<月世の会>メンバーの【大魔戦士(グレイト・マジックファイター)】の立花(たちばな)(かける)です。事情は月影さんから聞きました。微力ながらお手伝いしますよ」

「同じく<月世の会>の【薬効戦士(ドーピング・ファイター)鈴木(すずき)健太(けんた)と申します。必ず助け出しましょう!」

「えーと、佐藤(さとう)結奈(ゆな)、【疾風騎兵(ゲイル・ライダー)】です。宜しくお願いします」

「結奈の双子の妹で佐藤(さとう)利奈(りな)でーす! 宜しくねー! ……あ、ジョブは【魔砲兵隊(マギ・アーティレリー)】ね」

 

 月夜さん曰く、四人とも合計レベルは200〜300ぐらいで十分に戦力にはなるとの事……とりあえず私達やシュウさんも改めて自分のポジションとかを含めて自己紹介をしつつ、ケリーさんの安全的にも時間もあまり無いので早速<クルエラ山岳地帯>にある砦跡へと向かう事になった。

 

「それじゃあ<クルエラ山岳地帯>までは結奈やん利奈やんの<エンブリオ>に乗っていこか。この二人の<エンブリオ>なら全員を乗せた状態でもクマやんの戦車より早く目的地につけるえ。クマやんの戦車よりも早く!」

『なんで二回行ったワン。……そもそもバルドルは戦闘能力の方にリソース割り振ってるし……』

 

 ……ちょっとチームワークが不安な気もして来たけど、個々の実力は確かだし大丈夫でしょう! ……まあ、私の“直感”だと『これだけの面子』でもうまく行くかはギリギリな感じなんだけどね……。




あとがき・各種設定解説

妹:可能な限りの最大戦力は揃えられた
・原作時間軸では到底実現出来なさそうなクマニーサンとキツネーサンのタッグを組ませるという何気にすごい事をしている。
・これに関してはティアンの命が掛かっていて、かつ二人とも原作時間軸程の力が無いので『難易度:九』のクエストにかなり警戒しているのが大きい。

【重戦士】:戦士派生重戦士系統下級職
・戦士系統のジョブで大型武器や全身鎧など“装備枠を複数使う装備”に対して補正がかかるジョブ。
・ステータスはSTRとENDが伸び、装備枠を二つ以上使うアイテムに対して“スキルレベル×装備枠数%装備攻撃力・装備防御力を上昇させる”パッシブスキル《重装強化》などを覚える。
・他にも装備重量軽減・耐久力上昇や一時的な装備スキル強化などのスキルがあり、武器系のスキルに属するので多くの前衛系ジョブで使用可能なので対応する装備を持っている人には人気なサブジョブ。
・妹の場合は特典武具着ぐるみを強化する為に取得しており、クマニーサンもサブに入れてる。

クマニーサン:最近ようやくイメージ回復に成功
・パーティーの途中抜けに関してはポップコーンを子供達に振りまく事で誤魔化した。
・尚、キツネーサンと組む事に関しては『業腹だがティアンの命が掛かっているならある程度は信用は出来るだろう。信頼は出来ないが』と思っている。

キツネーサン:まだ比較的穏当(に見える)
・今回ギデオンに居たのは<月世の会>で『リアルでは出来ない旅行に行きたい』という非戦闘要員の要望を叶える為に企画した旅行ツアーの為。
・ギデオンに来てからはほぼ自由行動であり面白そうだからパーティーに参加したのだが、更に面白そうなクエストの提案を受けた事と報酬の『教会とのコネ』に魅力を感じて参加した模様。
・尚、クマニーサンと組む事に関しては『業腹やけど実力は確かやからね。最悪肉壁としては機能するやろ』と思っている。

<月世の会>メンバー:詳しくは次回以降で説明
・<月世の会>の方針的にクエストに関しては自由参加で、全員事情を全部聞いた上でデスペナのリスクがあると分かった上でティアンに救出の為に参加した人達。

【魔砲兵隊】:大型魔力式大砲運用特化上級職
・名前に関しては大砲運用の下級職を【砲兵(キャノニアー)】上級職を【砲兵隊(アーティレリー)】として、魔力式大砲の下級職を【魔砲兵(マギ・キャノニアー)】とした感じ。
・どっちかと言うと備え付けや戦車搭載などの大型砲の運用に長けたジョブで、個人用大砲運用だと別のジョブがある。


読了ありがとうございます。
語呂がいい感じのルビを振るのは難しい……。何か意見・感想・別案とかがあったら是非。参考にします。


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いざ! <クルエラ山岳地帯>へ!

前回のあらすじ:妹「……と言うわけで、捕まったティアンの人達を助ける為に山賊討伐に行く事になったよ」末妹「優先するのは人質救出の方ですが」兄「そう言う事情は先に言え」


 □<ウェスダ平原> 【蹴拳士(キックボクサー)】ミュウ・ウィステリア

 

 そんな訳で山賊に誘拐された人達を助ける為に集まった私達三兄妹とシュウさん、そして月夜さん達<月世の会>メンバー達はその内の【疾風騎兵(ゲイルライダー)】佐藤結奈さんと【魔砲兵隊(マジックアーティレリー)】佐藤利奈さんの<エンブリオ>に乗って、一路ギデオンを出て東にある<クルエラ山岳地帯>を目指して進んでいました。

 

『このまま進めば後5分ぐらいで<クルエラ山岳地帯>へ着きます』

「分かったでー、流石は結奈やんの【スレイプニル】と利奈やんの【チャリオッツ】やね。クマやんの【バルドル】よりはや〜い!」

『……事実だから別に言い返さないが、そもそもお前が自慢する事じゃねえだろ女狐。……しかし、地面を滑走しているから()()()()()で動いても揺れがほぼ無いのは素直に羨ましいワン。無限軌道は揺れが結構酷いからなぁ……』

「結奈の【八速騎動 スレイプニル】には搭乗者への揺れとかを軽減するスキルもあるからねー。“足を使って”移動する時もあんまり揺れないのだ〜」

 

 今は通信によって話している結奈さんの<エンブリオ>【八速騎動 スレイプニル】は一言で言うと多脚戦車型の<エンブリオ>で、外見は短めの砲塔が付いた戦車にキャタピラの代わりに八本の足が付いていると言った感じです。

 そして普通にその多脚で移動する他に《滑走機動(スライドムーブ)》というMPを消費して脚部に特殊な斥力力場を形成し、それによって地面を滑りながら“亜音速以上の速度で”移動出来るのだとか。

 ……これに【疾風騎兵】の騎乗物の速度強化スキルや長距離移動時に消費MP・SP軽減するスキルを組み合わせる事で、ギデオンから<クルエラ山岳地帯>までの道のりを短時間で移動する事が可能になるのだとか。

 

「……それで今乗っているのは利奈さんのチャリオッツ系列の戦車(チャリオッツ)型<エンブリオ>である【チャリオッツ】でしたか」

「そうやって並べられるとチャリオッツがゲシュタルト崩壊しそうだねー。私の<エンブリオ>、正式名称は【棄動戦車 チャリオッツ】なんだけど名前が凄く紛らわしいのが欠点なんだよね。最近進化した時にはTYPEアドバンスになったし〜」

 

 そう言う利奈さんの<エンブリオ>【棄動戦車 チャリオッツ】は【スレイプニル】に接続されながら引かれているメカニカルな大型カーゴ……名称の由来からして文字通りの戦車(チャリオッツ)でした。

 この【チャリオッツ】は《コネクション》というスキルで【スレイプニル】と連結していて、その間は繋がっている相手と同じ様に移動・加速・旋回・停止する上に騎乗・移動系スキルを共有出来るので、この【チャリオッツ】自体も《滑走機動》で移動出来て中にいる私達にも揺れの軽減などの恩恵を得られるのだとか。

 

「まあ、進化して覚えた《兵団輸送》で内部空間が拡張されたお陰で旅行の移動要員にされたけどね〜」

「二人には本当に感謝しとるよ。お陰でウチのクランの移動範囲が大きく広がったしな」

 

 そして今私達が乗っているのは、利奈さんが座っている【チャリオッツ】の後部に備え付けられた小学校の教室ぐらいの広さの部屋になります……明らかに外見と内部空間の体積が違いますが、どうやらスキルによって空間が拡張されている様ですね。

 ……まあ、外から見た時にはカーゴの頭上に大口径の砲台や左右に付いたパラポラアンテナの様な副砲、後はミサイル発射管の様なパーツとかもあったので本来は連結した乗機の戦闘能力を増大させるのが役目の<エンブリオ>なのでしょうが、今回のクエストではこの輸送能力がメインになりそうですね。

 

「まあ、救出した人間の輸送が出来るのは大きいな。この移動力なら最悪の場合には誘拐されたティアンを乗せて全速力で街に引き返せばいいし」

「せやねー。……まだ少し時間はあるし人質になっとるティアン救出時の各々の役割ぐらいは話し合っといた方がええかな? ……ちなみにウチとカグヤは回復と敵へのデバフが使えるえ」

「此の《月面除算結界》ならレベル50未満のティアンならほぼ戦力外に出来るわね」

 

 そして兄様と月夜さんがそう言ったのを皮切りに今回のクエストで各々がどんな役割をこなせるかを話し合っておく事になりました。

 

「俺は基本的に魔法型だな。上級職で就いているのは【紅蓮術師(パイロマンサー)】と【黒土術師(ランドマンサー)】だから火属性と土属性は得意かな。……ああでも、一応サブに【盗賊(バンディット)】と【幻術師(イリュージョニスト)】も入れてるから人質救出の為の潜入も出来るか」

「私は完全に物理で殴る系ビルドだからなぁ、人質救出には役に立たなさそう。……着ぐるみを来て無駄に目立つ囮役でもやるかな」

「私も戦闘特化ですが特典武具のスキルで人間の位置を探知出来ますから、上手くいけば人質が何処にいるか分かるかもしれません」

 

 ちなみに私達三兄妹のパーティーでの役割分担は私が近接戦、姉様が近接戦、兄様が近接戦と遠距離魔法と魔法支援と索敵と移動手段と生産です……兄様の万能性が高すぎて役割分担になっていない件。

 

『俺も戦い方がどうしても目立つから囮役の方がいいワン』

「STR極振り着ぐるみ戦車とかいうキワモノビルドやからね。無駄に目立つから囮役にはぴったりやなー」

『うるせーワン。プレイスタイルから自然とそうなっただけだワン。……後はこの着ぐるみのスキルで偵察用の狼が作れるぐらいか』

 

 私達に続いてシュウさんも月夜さんが入れる茶々に言い返しながら自分が出来そうな役割に付いて話してくれました。

 ……ちなみにクランオーナーが他の<マスター>と言い合いなっていても良いのかと月影さんに聞いたら、『アレでも月夜様はシュウ氏との掛け合いを楽しんでいるので温かい目で見てください。他のメンバーにも言ってありますし』と言われたので、これが原因でパーティーの雰囲気が悪くなる事は(シュウさんが怒らない限り)無さそうです。

 

「私はジョブと<エンブリオ>両面で隠密行動が出来るので誘拐されたティアン救出にはお役に立てるでしょう」

「そういう意味だと俺は誘拐されたティアン救出には役に立ちそうにないですかね。<エンブリオ>も隠密行動どころか集団戦に向いているタイプじゃないですし……出来る事は普通の戦闘要員ですね」

「私は直接戦闘と<エンブリオ>のお陰で薬の扱いに長けているので治療や支援も出来ます」

「それで私と結奈は助け出したティアンを街まで運ぶ役だね」

『そうだね利奈。……【チャリオッツ】の中に入れてさえくれれば、カンストティアンや純竜級モンスターからでも逃げ切って街まで送り出しますよ』

 

 続いて月影さん、翔さん、健太さん、結奈さん、利奈さん達<月世の会>メンバーも話し合いに参加して救出作戦の概要を練っていきます……現地の地形やスミス山賊団が根城にしていると思しき砦跡の地図はギデオンの冒険者ギルドから入手出来ていたので、大雑把な作戦を立てる事自体は出来ました。

 ……まあ、現地の詳しい状況やそこからどんなイレギュラーが起きるかはまだ分からないので、建てた作戦は『囮の人達が人質なんて関係なく山賊を殲滅しようとしているフリをしつつ、潜入組が人質を助けて即逃げる』程度の大雑把な方針だけのものですが。

 

「……とりあえず方針はこんな所で。後は現地の状況に注意して高度な柔軟性を保ちつつ臨機応変に行きましょう」

「実質無策っぽい言い方やけどオッケーやで。……トラブルに会う確率が高そうなクマやんとミカやん達がいる時点で現地で何が起こるか分からんしな」

『人をトラブルの元凶みたいに言うなワン。……まあ、とにかく行ってみなければ分からんだろ』

『まもなく<クルエラ山岳地帯>の麓に到着します』

 

 ……そうして私達の『難易度:九のティアン救出クエスト』が幕を上げたのでした。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ■ ??? 

 

 ……かつての()()は猛毒を持つ植物が群生する森の中に生きる【リトル・ポイズンローカスト】と言う小さな毒飛蝗であった……そこでは環境に適応した結果、強力な猛毒を持つに至った上位モンスター達が多数生息しており、ソレは文字通り吹けば飛ぶような存在でしかなかった。

 ……ただ、ソレが他の同個体のモンスターとの違っていた部分は周辺の有毒植物を食べる為の免疫スキルが多少強力だった事と、他の同族と比べて偶々『賢かった事』ぐらいのものである。

 

『……KITIKITIKITIKITI(私は弱い。生き残る為にも上手く立ち回らなければ)』

 

 ……まず、ソレがその森の中で生き残る為に行った事は周りを観察して学習する事だった……強力な有毒植物にやられた同族から食べられる植物・食べられない植物を学び、他の強力なモンスターにやられた同族からはその失敗の原因から身の隠れ方を覚え、そのモンスターからは他の獲物を狩る仕方と彼等が使うスキルを参考にしてと……他にも森で起きた事から様々な事を学んでいったのだ。

 そしてそのあとソレは身を隠しながら少しずつ(リソース)を蓄えていき【ポイズンローカスト】に、更に学んだ狩りの方法や他のモンスターの情報を駆使して上手く狩りを行って【ポイズン・デミドラグローカスト】に、そこから学んだ有用な他者のスキルを自身でも使える様に身体を変化させ【ヴェノム・ドラグインセクター】という人型の魔蟲へと進化していた。

 そして、スキルに頼らない狩りの技術なども磨いてその森の中で自身が最も強くなった時に、何処からか膨大な力が流れ込んで自身が変化するのを感じ、気が付いたら逸話級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】となっていたのだった。

 

『(どうやら私はこの森の近辺を徘徊していた、魔蟲を食らい喰らった魔蟲の形とチカラを得る“異形の魔蟲”と同じ存在になったようだな。……ふむ、元々持っていた毒と免疫のスキルは強化され、更に新しく狩った獲物のスキルを覚える力を得たのか)』

 

 ソレ──【ラーゼクター】の有するスキルは、まず今まで捕食した毒の種類内いくつかを選択して“自身すら汚染するレベル”で強化した上で噴霧する《蠱毒瘴気》、自身に掛かった状態異常を時間を掛けて回復させる《免疫生能》、これによって治した事のある状態異常の効果を反転させる《害毒反転》と言った元々の毒虫としての能力が強化されたものがあった。

 ……そして、単独で生物を殺傷した時に対象が覚えているスキルの中で自身が使える物を一定確率でランダムに一つラーニング出来る《ソリチュード・ラーニング》という、周りを見て学習しながら一人で生きてきた彼を象徴する様なスキルを習得していた。

 

『(……確かに凄まじい力だが、力を持った魔蟲である私自身をあの“異形の魔蟲”は見逃さないだろう。……いつか私がヤツに狩られる前にこちらからヤツを狩らねばならん)』

 

 その為に【ラーゼクター】は強くなった力でより強い獲物を相手に更なる狩りを重ねて経験値とスキルを蓄え、更に“異形の魔蟲”をこっそりと付け回しながらその行動パターンを把握して入念な策を練り……ついに“異形の魔蟲”を討ち取る事に成功したのだった。

 ……更に<UBM>が<UBM>を倒した事によって【ラーゼクター】に莫大なリソースが流れ込み、その身を伝説級<UBM>に進化させたのだった。

 

『(まあ、倒せたのは“異形の魔蟲”が他の魔蟲の形とチカラを取り込み過ぎて脆くなっていたのが大きいが……やはり、他の者の力を詰め込みすぎると肉体に何らかの弊害が出るのか。私自身もスキルを覚える程に成長自体が遅くなるのを感じていたからな)』

 

 そう考えられたからこそ、彼は進化した際に『習得したスキルを削除・合成・改造するスキル』である《取捨戦択》を習得したのかもしれないが……それからの【ラーゼクター】はスキルを厳選しつつ活動範囲を広げて行き、様々な獲物を狩って自身の力を上げて更に活動範囲を広げるという事を繰り返していた。

 ……その途中でモンスターよりも人間の方が獲得経験値の効率が良く、ラーニング出来るジョブスキルも有用なものが多い事に気が付いて積極的に人間を獲物とした結果、それを聞きつけてやって来た『天馬に乗った人間の強者』に危うく討たれかけたと言ったトラブルもあったが。

 

『(……どうやら少し慢心していた様だな。上には上がいるという事を忘れるとは、必死に知恵を絞って生きてきた小さな毒蟲だった昔なら考えられないことだ。今後は気を付けねば……まずは私を能力・技術共に圧倒した“天馬乗り”から何か学ぶ事がないか考えてみるか。この知恵こそが私がこれまで生き残って来れた最大の武器なのだから)』

 

 そして彼は大きな人間の街に近づき過ぎない様にしながら、これまで以上にモンスターや人間達の行動を積極的に学習していき、より効率的に狩りが出来るようにスキルだけではなく戦術や技術に関しても磨きをかけて行った。

 ……そうして経験と研鑽と学習を重ねていく中で『人間が獲物にしている人間──山賊とかを狩るのなら自分を脅威と見てヤバい追っ手が来る事は無い』と考え、更に連中が街から離れた所にいるから狩りやすい事もありそういった連中が多数いる<クルエラ山岳地帯>で狩りをする事にしたのだった。

 

『(これで潰した山賊団とやらは五つか。……人間はレベルが低くても経験値の効率が良い上に、低レベルであっても使えるスキルをラーニング出来る可能性も高いから良いな。他にもいくつか()()もあったからこの選択は上々か)』

 

 ……だが、そんな【ラーゼクター】の悩みはおそらく現在の自分が既に頭打ちでレベルが殆ど上がらず、おそらく伝説級<UBM>としての『壁』にぶつかっているだろうと言う事だ。

 

『(おそらくこの『壁』を乗り越えるには、以前“異形の魔蟲”を倒した様に<UBM>を狩る事で大量のチカラ(リソース)を得る必要があるのだろうが……<UBM>というのは実力的にも早々に狩れる相手では無いからな)』

 

 実際、以前に遠目に見かけただけの『万物を切断する剣虎』には今の自身の実力ではどうあがいても勝てないと判断していたし、同族の群れを率いる外竜や鎧竜の【竜王】達にも彼ら全員と自身単騎だけでは勝率は薄いだろうと考えていた。

 ……なので狙うのは『自身の実力と手札で狩れる同格以下で単独行動している<UBM>』と言う事になるのだが、そんな都合のいい相手とあっさり遭遇出来る訳もなく……。

 

『(……まあ良い、今は最後に残った砦跡に住む人間達を狩る事を考えよう。あそこにはかなりの実力を持つ人間もいたから後回しにしていたが、色々と()()も手に入ったしそろそろ狩りに出ても良いだろう……む?)』

 

 そんな事を考えていた【ラーゼクター】は周辺警戒の為に使用していた《強者感知》──かつて狩った【ライトニング・ドラグホース】からラーニングしたもの──に『この山の中に入って来た強者の反応』を感知して、その方向へとラーニングした複数のアクティブ索敵系スキルを行使して詳細を探った。

 

『(……ふむ、これはかなりの大物がこの山の中に入って来た様だな。都合良く数は()()の様だし狙えるか……んん? そちらに高速で向かっている反応が……こっちは生物では無い? このままだと……であれば……)』

 

 ……そうして複数の索敵系スキルでそれらの反応の位置を把握した【ラーゼクター】はどうすれば上手く立ち回れるかを考えながら詳細な状況を把握する為、複数の隠密行動用スキルを使って誰にも悟られぬ様に反応があった場所へと向かっていったのだった。




あとがき・各種設定解説

【八速騎動 スレイプニル】
<マスター>:佐藤結奈
TYPE:ギア
到達形態:Ⅳ
能力特性:斥力力場・滑走
スキル:《滑走機動(スライドムーブ)》《機動負荷軽減》《リパルジョンブラスト》《リパルジョンバリア》《リパルジョンブレード》
・モチーフは北欧神話に出て来る八本足の馬である“スレイプニル”。
・《滑走機動》は斥力を使ったホバー機動の様なもので加速・旋回性に優れておりドリフトや超信地旋回なども容易くこなせるが、地上の起伏に合わせて滑走する仕組みなので道が険しすぎると上手く動けない欠点がある。
・その場合はスキルを使わず普通に足で走るのだが実はそれでもかなり速く、多脚部分はパワー・強度共に高いので険しい悪路の走破や大ジャンプとかも出来る。
・その際に掛かるマスターへの負荷・慣性などは《機動負荷軽減》のパッシブスキルで軽減し、この二つの移動方法を組み合わせたアクロバティックな高機動が本来の能力。
・戦闘手段としては斥力力場を応用した砲台からの衝撃波の弾丸や脚部分からの斥力障壁・斥力ブレードが使えるが、機動力を重視した<エンブリオ>なので威力は余り高くない。
・ちなみにマスターである結奈の悩みはMPを使うスキルが多いのに王国ではMP特化の操縦士系統の幅が狭く、特に上級職に就けるクリスタルが中々見つからない事。

【棄動戦車 チャリオッツ】
<マスター>:佐藤利奈
TYPE:アドバンス・アームズ・キャッスル
到達形態:Ⅳ
能力特性:騎乗物の火力・輸送能力強化
スキル:《コネクション》《カートリッジ》《多機能型魔力式砲塔機構(マルチプル・マギカノンシステム)》《兵員輸送》
・モチーフは古代の戦争で用いられた戦闘用馬車……『戦車』の総称“チャリオッツ”。
・《コネクション》は()()()()()()()騎乗物に【チャリオッツ】を接続し、その騎乗物に掛かる【チャリオッツ】の重量軽減及び騎乗系スキル効果の共有を行い、騎乗物の移動・加速・停止に合わせて自身も動く様になるスキル。
・《兵員輸送》は【チャリオッツ】内の空間を拡張するスキルだが、名前通り兵員を輸送する事がメインなのでただスペースがあるだけで居住性は低い(作中では自前の椅子などを使っていた)
・《カートリッジ》は1日に一定数(第四形態現在では十二個)の【チャリオッツ】のスキル行使に使えるMPを蓄積出来る弾丸を生産して、それにMPを装填して保管しておけるスキル。
・《多機能型魔力式砲塔機構》は【チャリオッツ】に備え付けられている上部の大口径主砲、左右の自在稼働型副砲、各部に分散配置されたミサイル発射管から《カートリッジ》で作ったMP弾丸を使って様々な属性の魔力砲撃を放つ事が出来るスキル。
・その種類は主砲の《火属性爆裂魔弾》《光属性徹甲魔弾》、副砲の《雷属性照射魔弾》《風属性拡散魔弾》、ミサイル発射管の《闇属性誘導魔弾》《氷属性誘導魔弾》などがある。
・この様に多様な属性の高火力武装や輸送能力を持ってはいるが、その反面【チャリオッツ】自体には移動能力が存在せず、更に《コネクション》を使用した状態でなければ《カートリッジ》以外のスキルが使用不可能になってしまうデメリットが存在している。
・つまり戦う為には“騎乗物を持った協力してくれる他人”が必要というピーキーな<エンブリオ>であるが、彼女の場合には姉の【スレイプニル】と連携する事で純竜すら倒せる火力を十全に運用出来ている。

【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】:趣味はレベリングとスキル厳選
・高い頭脳で戦術を練る・スキルをラーニングする・弱小モンスターからの成り上がりなど、なろうのモンスター系転生者みたいな事をやってる<UBM>(笑)
・その能力特性は『学習(ラーニング)』で、強いて言うなら“戦闘”よりも“狩猟”に特化した戦いをするタイプ。


読了ありがとうございました。
ちなみに【ラーゼクター】の名前の由来は『ラーニング』と『インセクト』を繋げてもじった感じです。……後、難易度:九の理由は彼だけでは無く……。


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灼熱の竜

前回のあらすじ:妹「<クルエラ山岳地帯>に向かってる途中! 以上!」兄「あらすじの意味がない……」末妹「私達の視点ではそうなりますよね」


 ■<クルエラ山岳地帯> 【熱態己竜 ヒートライザ】

 

『GURURURU……』

 

 そこはアルター王国とカルディナの国境地帯の一つである<クルエラ山岳地帯>、そこには全身に傷のような模様があり肉食恐竜の様な姿をして背中に長さ2メートルぐらいの短い翼を持った全長10メートル級のドラゴン……逸話級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【熱態己竜 ヒートライザ】がゆっくりと歩いていた。

 ……最も、その周囲はまるで高温で焼き尽くされたかの様に焼け焦げた木々と燃え盛る地面、そして全身が黒焦げになった純竜級モンスター【アーマード・ドラグワーム】が()()()倒れていると言う焦熱地獄の様な光景だったが。

 

『……KI……TI……』

『GAA!』

 

 辛うじてまだ息の合った【ドラグワーム】だったが、近づいて来た【ヒートライザ】の超高温を纏った足による踏みつけで頭を()()()()()()()そのまま光の塵となった。

 ……そうして【ヒートライザ】は同じ様に他の【ドラグワーム】を始末すると、ドロップしたアイテム(ドラグワームの肉)を食べる為に固有スキル《熱態圏》を解除しつつ、背中の翼に備わった身体に篭った熱を外に逃がす固有スキル《熱羽》によって身体の温度が下がるのを待った。

 

『……GURURU……』

 

 ちなみに【ヒートライザ】としては()()()()()()でしか無い自分がここまでの力を得た事に関しては文句はないが、習得したスキルの効果が残ったままだと食べようとした肉が炭になってしまうのが不便だと少し思っていた。

 ……実はこの【ヒートライザ】元々は生まれつき羽が短くて飛行能力が無い畸形種の【ヒート・ドラゴン】で、それが理由で群れから放逐されたという過去を持っているのだ……これが<天竜山>で生まれたのであれば生まれた直後に処分されていたかもしれないが、彼は地上を住処にする群れで生まれたので雑に放逐される程度で済んだのだ。

 

『GUU……MOGUMOGU』

 

 自身の温度が下がった事を確認した【ヒートライザ】は早速余熱でこんがり焼けた肉を食べていく……何故自分の親が天竜の掟に従って己を殺す事をせず、ただ放逐するだけだったのかは分からなかったが、群れを追われた当初から自身が不具であるが故に捨てられた事は理解していた。

 ……そして、その事に関して彼がまず思った感情は()()()()()()であり、その上で必ず強くなって自分を捨てた者共を見返してやると思いながら行動し始めたのだ。

 

『……GUUU』

 

 幸い飛べない天竜とは言えこの世界における最上位の種族であるドラゴン、追放された当初は【ティールウルフ】や【パシラビット】を狩るのにも苦労したが直ぐにレベルも上がり、翼の代償なのか他の同族と比べてステータスや熱量を操るスキルの強度も高かったので一人でも生きていけるだけの強さを得る事に成功はした。

 ……だが、所詮は天竜種であるが故に格下の相手ならともかく同格の地竜などが相手では物理ステータス面で劣っており、彼自身が怒りと克己心を元に積極的に同格以上の相手と戦う事が多かったので、その結果として敗北を喫する事もまた多かった。

 

『……GEFU』

 

 そんな彼が今の【ヒートライザ】となったのは先日とある【グランド・メイル・ドラゴン】の群れを戦って敗北し、もう何度目かの屈辱感を味わいながらの逃走の最中の事だった……まあ、その逃走劇の最中に地面に落ちている『何か』を見つけて、それを惹かれるがままに食らったら<UBM>になっていたと言うだけの話なのだが。

 その後、力を得た彼はその【グランド・メイル・ドラゴン】の群れを焼き払い、この新たに得た力を試す為に次々と強力なモンスターの群れを襲撃しながらこの<クルエラ山岳地帯>までやって来たのだ。

 ……そうしてカルディナの砂漠から流出した【アーマード・ドラグワーム】の一団と遭遇して、これを一方的に殲滅して今に至ると言う訳である。

 

『……GURURU?』

 

 ……と、事情で<クルエラ山岳地帯>に来ていた【ヒートライザ】だったが、食事が終わった直ぐ後に何かが高速でこちらに接近して来る事に気が付いた。

 これまでの数々の戦いで磨かれた野生の感覚は近づいて来る“何か”がかなり強力な相手だと告げており、元より誰が相手でも戦わずに逃げるという選択肢を持たない【ヒートライザ】は即座に戦闘状態へと移行して、先手を取って戦いを優位に進めるべく気配のする方向へと亜音速で駆けて行ったのだった、

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<クルエラ山岳地帯> 【黒土術師(ランドマンサー)】レント・ウィステリア

 

 さて、山賊からの人質救出クエストを受けた俺達は<クルエラ山岳地帯>に到着した事もあって本格的な戦闘準備を整え始めた……この【チャリオッツ】の内部が広いお陰で装備変更とかは問題無く出来るのはありがたいな。

 ……とりあえず、俺達はお互いに連絡を取る手段として月夜さんと月影さんから貸し出された【テレパシーカフス】を装備したり、戦闘用の装備をアイテムボックスから取り出して装備したりしている。俺も万一に備えて【シルヴァ・ブライト】を腰に提げておくなど本気の装備である。

 

「おや? 葵さんも【デモンズガントレッド】を持っているのですね」

「うん、これ【インフェルノ・デモンズガントレッド】……装備すると()()()()焼くレベルの強力な炎が出せる神アイテム。デメリット付きだから安かったし、これを使う為に【賢者(ワイズマン)】から拳士系統に転職した。今は【魔拳士(マジックボクサー)】」

「分かります、デメリットはありますがそれさえどうにか出来れば強いですからねコレ。……まあ、私の【アンチウェポン・デモンズガントレッド】は結構高かったので、以前に渡した物の対価として兄様からお金を出して貰いましたけど」

 

 ああ、あの【アンチウェポン・デモンズガントレッド】は以前シュバルツ何某の襲撃で使っていた籠手が壊れたからと、俺のレベル上げ前に買ったヤツだな……この【シルヴァ・ブライト】をくれたお礼も兼ねて金を半分くらい出したんだった。

 装備者に【武器装備不能】の呪いを掛ける代わりに接触した武器を呪う装備スキルのあるって言う強力な格闘用装備だから、基本武器を装備しない自分には相性が良いとミュウちゃんが珍しく欲しがったんだよな。

 ……本人は何も言わないが、どうやら余程シュバルツ何某に手傷を負わされたのが悔しかった様で自分達の戦力増強に積極的になってるしな。

 

(この前も『ミメとの融合では単純なステータス以外の部分も上がっているので調べておきたいのです。五感や反射神経や肺活量などが上がってるのは直ぐに分かったのですが、この世界特有の属性耐性や状態異常耐性はまだよく分からないので』とか言って、自分に呪いや魔法を融合状態と非融合状態で当てろと言ってきた事があったし)

 

 融合時にはMPも上がってるし肝心の属性耐性とかはマスクデータなので分かり難かったが、低位の呪いや属性攻撃のダメージとかなら大体三〜五分の一ぐらいに減っている感じだった。

 ……さて、ミカも最強装備(着ぐるみ)に着替えた様だし、他のメンバーも戦闘準備を終えたみたいだから最後の作戦確認をしよう……と思った所でミカの雰囲気が(着ぐるみで分かりにくいが)鋭い物に変わった。

 

『……む、敵が来るよ。前から!』

「へ? 『ッ⁉︎ 前方から何か来ます!』……全員注意!」

 

 そのミカの警告に【チャリオッツ】内の操縦席に座っていた利奈さんは困惑した声を上げたが、前の【スレイプニル】からの通信から聞こえて来た結奈さんの報告を聞いて車内の人間へ注意を飛ばしつつ前方に着いた広域モニターに目を凝らし始めた……直後、前方にあった森を()()()()()()()一体の巨大なドラゴンが飛び出して来た。

 ……そして、そのドラゴンの頭上には【熱態己竜 ヒートライザ】の表示が浮かんでおり、その口からは今にも“ドラゴンの切り札であるブレスが放たれる直前”の様にエネルギーが集中して……ってそのままじゃん! 

 

『GUAAAAAAAAAAA!!!』

「ブレスだ!」

「やばっ⁉︎ 結奈ちゃん回避!!!」

『分かってます! 《ストーム・アクセラレイション》!!!』

 

 直後に【ヒートライザ】の口からビームの様な熱線が放たれたが、ほぼ同時に結奈さんが【疾風騎兵(ゲイル・ライダー)】の奥義《ストーム・アクセラレイション》──短時間乗機にかかる空気抵抗はゼロにしつつAGIを二倍にするスキル──を使いながらそのままの態勢で90度直角に曲がる事によって辛うじて熱線の回避に成功した。

 ……いや、【ヒートライザ】はまだ熱線の照射を継続して……まさか⁉︎

 

「攻撃はまだ続いてる!」

『横に薙ぎ払う気だ!!!』

『AAAAAAAAAAA!!!』

 

 俺とシュウさんが警告した直後、あの【ヒートライザ】は熱線を照射したまま首を振ることで、横方向に回避した【スレイプニル】を追撃して来たのだ。

 ……こちらも超音速で移動しているのだが、向こうはただ首を振るだけで良いので薙ぎ払われた熱線は直ぐに【スレイプニル】を捕捉……。

 

『皆さん捕まって下さい! 飛びます!!!』

「うおっ⁉︎」

 

 ……しかけた直後、結奈さんの気合の入った声と同時に【スレイプニル】とそれに繋がれた【チャリオッツ】が大ジャンプして、薙ぎ払われた熱線を飛び越える様に回避したのだ。多脚戦車だけあってこんな事も出来るのか。

 

「散々やってくれたね、お返しだよ! 《魔弾出力増大》《雷属性照射魔弾(サンダー・メーサー)》《氷属性誘導魔弾(ブリザード・ミサイル)》発射ァ!!!」

 

 そして跳躍すると同時に、流石双子と言うべきか利奈さんがまるで示し合わせたかの様に【チャリオッツ】の武装で【ヒートライザ】を攻撃した……横部の副砲から放たれた二条の雷撃が真っ直ぐ【ヒートライザ】へと飛ぶが、向こうも亜音速は出ていそうな機動でその雷撃を横っ飛びに回避する。

 ……だが、その回避方向に予め放っていたらしい追尾能力を持っているらしい氷のミサイルが飛来して……【ヒートライザ】が放っていた高熱によって着弾するよりも早くあっさりと全弾溶けてしまった。

 

『GAAAAA!!!』

「嘘ぉ⁉︎ 威力上げたのに! 弾種の選択ミスった!!!」

「二人共、まずは一旦距離を離しぃ」

『分かりました! 横道に逸れます!!!』

 

 その月夜さんの指示で結奈さんは着地して直ぐに近くにあった横道に入り込んで行った……それを見た【ヒートライザ】もダッシュで追い掛けて来たが、流石に純粋な速度なら【スレイプニル】の方に部がある様で徐々に速度を離していく。

 

『GAAAAAOOO!!!』

「今度は間違えないよ! 《魔弾射程延長》《闇属性誘導魔弾(ダークネス・ミサイル)》《風属性拡散魔弾(ウインド・バースト)》!!!」

 

 更に【チャリオッツ】の後ろを向いた副砲から暴風が放たれて【ヒートライザ】を打ち据えて、そこに今度は闇属性らしいミサイルが飛来して相手が纏う高熱を無視して本体に着弾してその足を止めて更に距離が離された。

 ……だが、その程度で倒せるなら<UBM>などとは呼ばれないと言うべきか、それらの攻撃でも【ヒートライザ】には大したダメージが無い様で走るペースを更に上げてこっちを追撃してきた。

 

「うへぇ、強化してもミサイルと副砲じゃ全然効いてない。闇も風も威力低い弾種だって事差し引いてもEND高すぎー」

『距離は取りましたが未だに追ってきます。どうしますオーナー?』

「流石は難易度:九って事やね、まさかいきなり<UBM>と遭遇するとは……そや! クマやんを単騎特攻させて足止めしつつ、それ以外で誘拐された人達の救出に行くのはどやろ?」

『……微妙に有効な手だから反論しにくいのがムカつくワン』

 

 まあ、俺達のクエストの目的は『山賊から誘拐された人達を助ける』事だからな。<UBM>ばっかりに構っていく訳にもいかない……が、アレを放置したままだとクエスト達成も難しいだろうし。

 ……と考えて来たら、ミカが(着ぐるみで分かりにくいが)こっちを見てから喋り出した。ハイハイ何時ものフォローだな。

 

『クエスト達成の為にはアレは撃破した方が良い()()()()よ。人質救出の為に必要な最低限の人員以外はアレの撃破に向かわせた方が良いと思う』

「それだと山賊団の方に行くのは俺とミュウちゃん、後は月影さんと利奈さんと結奈さんになるか。……まあ、あの【ヒートライザ】を放置したままだと誘拐された人達を助け出したとしても、ギデオンまで送り届けられるのが難しそうだからな」

 

 そんな感じでいつも通り“直感”に任せて最適解を発言するミカと、同じくいつも通り俺がその最適解にそれっぽい理由付けして捕捉して説明したのだが、さてどうなるか……。

 

『確かにアレはかなりしつこくこっちを追って来てるからな。放置したら確かにクエストの邪魔になりそうか』

「せやねー……まあ今回のクエストはミカやんが受けたんやし、その提案なら採用でええやろ。そろそろ日も暮れて来たから影やんも全力出せるしなー。任せたで三人共」

「お任せ下さい、月夜様」

「オッケー」

『了解しました』

 

 ……そうしたらシュウさんと月夜さんが賛成してくれた事で、どうにかミカが提案した作戦通りに行く流れになってくれた。

 ただ、その際に月夜さんがこっちにウィンクして来たので、多分この二人にはこっちの事情を何となくだが察せられている気もするが……まあ、この二人ならそれでどうこうとはしないだろうし、今は気にする余裕も無いし考えるのは後回しで良いか。

 

「それじゃあ【ヒートライザ】が来る前に足止め班は降りよか。救出班はレント君リーダーで山賊団から誘拐された5人の救出を頼むで」

「分かりました。……では宜しくお願いします、レントさん」

「え? 良いんですか?」

 

 ……と思っていたら、月夜さんからいきなりそんな事を言われた。<月世の会>メンバーの数の方が多いんだし月影さんがリーダーだと思ってたんだが……。

 

「ミカやんとミュウやんが言うには、そっちのパーティーのリーダーは君やろ? それにこのパーティー分けを提案したのもレント君やし、これまでの会話でリーダー任せても大丈夫っぽいしなぁ。それに何かあっても影やんがサポートしてくれるさかい」

「微力ながらお手伝いさせて頂きます」

「……分かりました。誘拐された人達の救出は任せて下さい」

 

 ……しょうがない、ここまで来たからには俺も覚悟を決めよう。何とかして山賊団から誘拐された人達を救出しないとな……一応、策と言える程のものじゃないが勝算はあるし。

 

「さて、それじゃあアレがこっち来る前に迎撃班は急いで降りて戦闘準備や。……向こうは炎熱攻撃主体みたいやし、葵ちゃん頼むで?」

「了解。炎や熱相手なら任せて」

『それじゃあ私も行くよ。お兄ちゃん、()()()()()()()()()()()宜しく』

「分かった」

『それじゃあやるかワン』

 

 ……そうして、俺達は二手に別れてクエスト攻略の為にそれぞれの敵と戦う事になったのだった……ただ、ミカの言葉と雰囲気からして難易度:九の理由はまだありそうだし、気を付けていった方が良さそうだな。




あとがき・各種設定解説

【熱態己竜 ヒートライザ】:今回の中ボス“地を這う天竜”
・熱線ブレスの名前は《ヒートブラスト・コンバージェンス》と言う《ヒート・ドラゴン》時代から使っていたスキルだが、<UBM>化によって威力は《クリムゾン・スフィア》並みで発射速度は超音速、しかも断続照射可能になっている。
・この様に<UBM>化した事によって覚えた“三つ”のスキルの他に、いくつもの戦いの中で磨いて来た【ヒート・ドラゴン】時代で習得したスキルも健在で強化もされている。
・固有スキル《熱羽》は排熱版として機能する翼のパッシブスキルであり、スキルが強力になり過ぎた所為でそれ使うと上がってしまう体温を活動可能なレベルまで下げる役割がある。
・ステータスはSTR・ENDが一万前後でAGIは5000ぐらい、HPも三十万以上と言う伝説級モンスター並みのステータスを持ち、<UBM>としては“複雑な”ギミックとかは無いスタンダードに強いタイプ。
・かつて捨てられた経験から『戦って強くなって己が強いドラゴンである事を証明する』と言う考えを持っているので、どんな相手にも積極的に戦いを挑む好戦的な性格だが、先制攻撃を行ったり不利な条件なら逃げる事もするぐらいには冷静に考えられるタイプでもある。

佐藤結奈&佐藤利奈:二人合わせれば純竜すら屠るのは本当
・彼女達の操縦技術と連携が無ければ先制攻撃で輸送手段が潰されていたので実質MVP。
・ちなみに【チャリオッツ】の主砲を使わなかったのは可動域が上下に僅かに動くだけで後ろは向けない仕様だったのと、反動があるので空中ではまともに狙えないから。

【デモンズガントレッド】シリーズ:末妹の新装備
・格闘家用の手首から肘まで覆うタイプの籠手装備で共通して高い強度・手首から上の攻撃力防御力上昇パッシブスキル・STR補正を持ち、更に強力だがデメリットのある装備スキルを有するシリーズ。
・【インフェルノ】の方は非常に高い耐熱性と《インフェルノ・バーンナックル》というMP消費で籠手に超高温の炎を纏う装備スキルを有するが、炎の制御能力が低いので籠手は耐えられても装備者まで焼いてしまうデメリットがある。
・【アンチウェポン】の方はMP消費で接触した装備に『装備した対象を【呪物】にする』呪いを掛ける《アンチウェポン・カースナックル》という装備スキルがあるが、装備した時点で装備者に“籠手を外しても長時間持続する”ぐらい強力な【武器装備不可】呪いを付加する。
・ちなみに【インフェルノ】の方は自傷ダメージが酷すぎるので欠陥装備扱いでかなりお安く、【アンチウェポン】の方は武器を使わない格闘家タイプの人間ならデメリットはほぼ無視出来るので結構人気があって値段は高め。
・尚、お値段はこれを買ったお陰で兄はしばらく【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】を作るマシーンと化していた(笑)


読了ありがとうございました。
次回は中ボス【ヒートライザ】戦。滅多に見られないクマニーサンとキツネーサンの共闘が見られる予定(おそらく)


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VS【熱態己竜 ヒートライザ】

前回のあらすじ:妹「ここは任せて先に行って! なぁに、アイツを倒したら直ぐに追いつくから!」兄「フラグ乙」末妹「お約束ですね」


 □<クルエラ山岳地帯>

 

『GUUUUAAAA!!!』

 

 そんな雄叫びを上げながら逸話級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【熱態己竜 ヒートライザ】は逃げていった乗り物に乗った人間達を追撃すべく、周囲にある木々を高熱で焼き払いながら<クルエラ山岳地帯>を駆けていた。

 ……ちなみに木々を焼いているのは戦闘中故に発動し続けている《熱態圏》の効果であり、雄叫びも《熱態圏》の所為で位置を隠せないのもあり獲物を追い立てる意味も兼ねて敢えて上げているだけで彼自身は冷静であり、だからこそ()()()()()()()()()()()()()()()()の気配を感知しても特に動じる事なく即座に行動に移せたのだ。

 

『GAA!!!』

 

 その気配に向かって【ヒートライザ】は口から熱光球《ヒートブラスト・スフィア》を撃ち放つ……これは最初に使った《ヒートブラスト・コンバージェンス》と比べると威力・弾速は低いがほぼノータイムで使えて、更に着弾と同時に爆発して高熱を撒き散らして広範囲を攻撃出来るスキルなのだ。

 ……加えて《熱態圏》の()()()()である“効果範囲内での熱系スキル効果上昇”によって直撃すれば亜竜級にも致命傷を与えられるので、初手としては非常に使いやすいスキルであり……。

 

「……そちらから熱量(エネルギー)を供給してくれるとは有り難い」

『葵ちゃんナイス!』

『GUA⁉︎』

 

 ……故に放たれた《ヒートブラスト・スフィア》が前に居た人間に()()された際には、いかに【ヒートライザ】といえど驚きの感情を露わにしてしまった。

 

「これだけ熱に満ちた場所ならスキル使いたい放題……《日天吸蓄(サンシャイン・アブソーブション)》解放《ブーステッド・ストレングス》《ブーステッド・エンデュランス》《ブーステッド・アジリティ》」

『こっちも行くよ! 《ブラスト・スウィング》!』

 

 そして、高熱を吸収した人間──日向葵は【日天鎧皮 カルナ】に蓄積された大量の熱エネルギーをスキルを介して、サブジョブに入れた【付与術師(エンチャンター)】の単体バフに注ぎ込み自身の物理ステータスを大幅に強化し、その後ろに居たミカ・ウィステリアは素早く前に出て【ギガース】を振るって【ヒートライザ】の顔面を狙って衝撃波を放った。

 

『ッ⁉︎ GAAA!!!』

『おっとぉ!』

 

 だが、それを見た【ヒートライザ】は首を振って衝撃波を躱すと同時に、再びの《ヒートブラスト・スフィア》を着ぐるみ(ミカ)の方に向けて撃ち放った……その攻撃自体は“直感”によって発生を先読みしたミカに回避されたが、その()()()()()()()()()だけで次に取る行動を決めるには十分だった。

 

『GAAA! GUAAAAA!!!』

『うおっとぉ⁉︎ ……葵ちゃん! そっち行ったよ!』

「む、そう来る」

 

 【ヒートライザ】は追加でいくつかの高熱球をミカに放って牽制しながら自身に高熱を纏わせるスキル《ヒートボディ》を使って、そのまま葵に接近しての肉体を使った物理攻撃を仕掛けたのだ。

 ……詳しい理屈こそ分からなかったが片方の人間が自分と同じ様に高熱を無効化しているが、もう片方の着ぐるみが高熱攻撃を避けた以上は高熱無効スキルはそちらしか保持していないと判断しての行動だった。

 

『(……見た所、あの人間の速さ(AGI)は俺よりも下──であれば、接近して爪牙による格闘で叩き潰せば「《月面徐算結界・薄明》」GIA⁉︎』

 

 そうして【ヒートライザ】が葵に近付こうとした瞬間、その周辺一帯が『曇り空の夜』へと切り替わると同時に彼のAGIが()()()()になる……その結果、亜音速域だった彼の速度は千未満にまで下がり、自身から離れて行く彼女よりも低くなったので格闘に持ち込む事は出来なかった。

 

『GIAA! GAAA!』

「本当にあのオーナーは実力に関しては文句の付け所が無いんだよな……《マッドクラップ》」

『ふむ、動きが止まったのでまずは足狙いかな』

 

 まるで鉛の様に重くなった自分の身体から、この『夜』がAGIに対するデバフ効果のスキルだと判断した【ヒートライザ】はその発生源を探そうとしたが、それよりも早く葵が発動した大量の熱エネルギー(MP)を込めた《詠唱》付き地属性の拘束魔法が彼の片脚を捉えた。

 ……そして、それを隙と見たミカが拘束された足を潰そうと接近するが、【ヒートライザ】も全身から熱波を放つスキル《ヒートブラスト》で接近を牽制……それも先読みで後方に飛ぶ事でダメージを抑えたミカだったが、彼はその間に拘束された足を(STR)付くで外してしまった。

 

『……むぅ、私の炎熱耐性は葵ちゃん程万全じゃないから、“接近する程に温度が上がる”らしいアレに近づくのは難しいか。……まあ、()()()()()()()()()()()()()()するけど』

『……バルドル、撃て』

了解(ラージャ)

 

 ……彼女がそう言った瞬間、拘束から抜けた直後で体勢が崩れていた【ヒートライザ】の脚部に()()()()()()()()()()が直撃し、そのまま彼はバランスを崩して地面に倒れこんでしまったのだ。

 

『GYAAAAAA!?』

『流石はシュウさん、狙いとタイミングが正確過ぎるね。《インパクト・ストライク》!』

「そのまま倒れていて欲しい、無理だろうけど……《グランド・ホールダー》!」

 

 そうして倒れ込んだ【ヒートライザ】を葵が発動した地属性拘束魔法によって地面から生えた腕が押さえ込み、そこに接近したミカが頭部を狙って大型メイスを振り下ろした……が、倒れた【ヒートライザ】は振り下ろされたメイスを咄嗟に拘束させていなかった腕で防ぎつつ、再び全身から熱波を発生させて周囲一帯を攻撃しながら拘束を破壊した。

 ……だが、【ヒートライザ】が立ち上がった時には葵とミカはその場から離れており、同時にAGIが下がった彼には回避できないタイミングで再びの砲撃が次々とぶち当たっていく。

 

『GUU⁉︎ ……GAAAAA!!!』

 

 ……しかし、【ヒートライザ】の一万程あるENDと三十万はあるHPの前ではその砲撃も大したダメージにはならず、それを自覚した彼はまず鬱陶しい砲撃とデバフを掛ける相手を潰そうと砲撃がやって来る方向に顔を向けて、そこに居た砲撃を放つ戦車と周囲にいる三人の人間に狙いを定めた。

 

「熱で土が溶ける……けど、向こうに行かせる訳にはいかない。《ライトニング・ジャベリン》!」

『そうだね。……殴った【ギガース】も赤熱するぐらい体表の温度はヤバい事になってる。熱対策は念入りにしたつもりだけど長く持たないよ月夜さん……《竜尾剣》!』

『GAAAAAAOOOO!!!』

 

 それを阻止しようと雷の槍と伸びる剣尾が襲い来るが、【ヒートライザ】はそれらの攻撃を捌きながら《ヒートブラスト》と《ヒートブラスト・スフィア》を周囲にばら撒いて二人を攻撃、それによって彼女達に攻撃する余裕を無くさせた隙に減ったAGIではなくSTRによる踏み込みを駆使して砲撃する戦車に多少のダメージを無視して突っ込んで行った。

 

 

 ◇

 

 

『バルドル、後退しながら砲撃を続行。……あの【ヒートライザ】、最初の奇襲といい俺が戦った<UBM>の中でもかなり戦い慣れてる部類だな。少なくとも固有スキル頼りとかじゃなさそうだ』

「せやねー、二人とも下がるえー」

「分かりました」

「了解」

 

 戦闘が起きている地点から50メートル程離れた場所、そこには戦車形態の【バルドル】に乗ったシュウ・スターリングとその上部に腰掛けている扶桑月夜、その横には<月世の会>メンバーの立花翔と鈴木健太が居て、自分達に向かって来る【ヒートライザ】から離れる様に移動していた。

 ……彼等は“ある事情”で離れた場所から月夜の<エンブリオ>【カグヤ】の《月面徐算結界・薄明》とバルドルの砲撃によって前線で戦う彼女達の援護をしていたのだ。

 

「さて、砲撃あんまり効いてないみたいやけど徐算はこのままAGIのままでええ? ENDかSTRの方がええかな?」

『いや、このままAGIで良いだろう。ヤツが展開しているこの()()()()()()()()を考えると追い付かれたら熱耐性が少ない俺達では詰みかねん』

「ミカちゃんからの報告やとアレに近づけば近づく程に温度が上昇するらしいしな。……けど、アレに近付いた()()に気温が高温に変化したのは驚いたなぁ。事前に健太の処方した耐熱ポーションが無ければ危なかったわ。今もめっちゃ暑いけどー」

『おそらく高熱を発生させるだけじゃなく、一定空間内の熱量を保持する……<エンブリオ>で言えばテリトリー系列のスキルを使っているみたいだな』

 

 そう、それこそが【熱態己竜 ヒートライザ】の《熱態圏》──自身を中心とした半径100メートル圏内に熱量を保持するスキルである……これにより【ヒートライザ】が放った熱量は霧散する事なく《熱態圏》の内側に篭り続けて内部温度を上昇させ続けている訳である。

 更に《熱態圏》内の温度は【ヒートライザ】に近づく毎に急上昇する仕組みになっており、現在では50メートル以上離れた彼等の位置なら約50℃程度だが、彼女達が居た半径20メートル以内なら200℃を超え、そして【ヒートライザ】自身の体表面ともなれば使用している《ヒートボディ》の効果も合わせて2000℃を優に超えているのだ。

 

「それに気温も徐々に上がってきとるな。……まあ、温度を保持するフィールドなら熱量を放てば当然その分だけ気温も上がるわなぁ」

『時間を掛けすぎると俺達の熱耐性を突破して来るだろうな。その前に片を付けたいところだが……』

「熱耐性特化の【カルナ】がある葵ちゃんはともかく、ミカやんの方は不味いかな。……それはウチらもやけど」

 

 ちなみに【カルナ】のスキルで《熱態圏》を無効化している葵と違い、ミカの方は特典武具【どらぐている】の古代伝説級冷房スキルを始めとして、事前に処方された飲んだ者に《炎熱耐性》を与える【耐熱ポーション】、《炎熱耐性》付きアクセサリー、【重戦士(ヘビーファイター)】の装備の炎熱耐性を上昇させる《アームズ・ファイア・レジスト》の重ねがけで辛うじて熱を防御している状態である。

 ……そうやって【ヒートライザ】への対策を話し合っていたシュウと月夜だったが、そこで横にいた鈴木健太が手に持った短銃の様な物を掲げながら月夜に声を掛けた。

 

「オーナー、《皆癒の落涙》のクールタイムが終わりました。次はどうしましょうか?」

「んー、あの二人が戦いやすい様にAGIバフかなぁ。どうせ短期決戦するしか無いし、効果がキッツいおクスリ頼むで」

「……オーナー、その言い方だと色々誤解を招くのでやめてくれると……《瞬間充薬》【アジリティ・ドーピング】セット。《霊薬は口に易し》《皆癒の落涙》」

 

 そうして健太は短銃の様な物──“無針注射器”の中に摂取した物のAGIを上昇させるドーピングポーションを入れ、それを上に向けて引き金を引いた……すると、まるで輝く噴水の様な光が上空に打ち上がり、それが光の雨なって辺り一面に降り注いでそれに触れた味方全員に内部のポーションの効果が()()()()()()()()上で適応された。

 ……これが<月世の会>メンバー鈴木健太が有する無針注射器型<エンブリオ>【良薬来効 ヒュギエイア】のスキル、“装填した薬品の効果・持続時間の上昇と副作用・悪性効果の軽減を行う”《霊薬は口に易し》、及び“薬品の効果を周囲の味方全体に付与する”《皆癒の落涙》の効果である。

 

『よっしゃ! AGIバフ感謝! 《ライトニング・インパクト》!』

「お陰で追い付いた。《ウィンド・ジャベリン》!」

『GUUAAA⁉︎』

 

 それによってAGIが上昇したミカと葵が【ヒートライザ】に追い付き、各々雷を纏ったメイスと風の槍で後方支援役である月夜達に接近されない様に攻撃を仕掛けて行った。

 ……ちなみに彼等が《熱態圏》内部で活動出来るのは、事前に製薬特化<エンブリオ>持ちの<月世の会>メンバーが作った【耐熱ポーション】を【ヒュギエイア】によって効果を増強した上で処方されている事が大きい。

 

「……さて、あの二人が頑張っとるけど、このまま熱圏の温度が上がり続ければ先に参るのはこっちやね。ウチの結界もクマやんの砲撃も距離を取り過ぎると届かへんから熱圏の外に出る訳にもいかんし……クマやん、なんか都合のいい弱点とか見つからんの?」

『強いて言うならあの“翼”だな。さっきからアイツは翼への攻撃だけは全力で回避してやがる。……多分だが、あれは放熱板じゃないのか?』

「あー、翼があるのに飛ばへんと思っとったらそう言う事か? アレが熱圏の中心におるのに無事なんも……ミカやん、葵ちゃん」

 

 その仮説を聞いた月夜は即座に【テレパシーカフス】を使って前線で戦っている二人に『翼』についての確認を取った……すると、二人も翼に攻撃しようとしたら全力で防がれていると答え、更に葵が翼から常に熱が発せられているみたいだと言う報告もあった事で仮説は確信へと変わった。

 

「ほんならあの翼を壊せば熱で自滅するかな。そうでなくとも高熱の発生はある程度抑えられそうか」

『問題はどうやって翼を破壊するかだが……さっきから翼を狙って砲撃してるのに上手く避けられてる。しまいには蜃気楼まで使って来るし』

 

 そう、AGIが下がった所為で砲撃を避け難くなった【ヒートライザ】は、それに対抗して熱で光を屈折させて自身の蜃気楼を作り上げる《ヒート・ミラージュ》というスキルを使っているのだ。

 ……他の熱系スキルと違って練度が低いので一歩ズレた場所に像を結ばせる程度しか出来ず、接近すれば直ぐに見破られる代物だったのでシュウは即座に見破ったが、それでもお互いに動いている事もあって遠距離からピンポイントで砲撃の命中率を下げる効果は十分に発揮していた。

 

『俺の“切り札”を当てられればアイツを倒せる可能性がある……最悪でも翼を奪うぐらいは出来るだろうが、その為にはどうしても接近する必要があるな。遠間からでは当てられん』

「あの翼が排熱版なら破壊した上でウチの【カグヤ】と葵ちゃんの“必殺スキル”を使えば倒せるかもやけど……カケやんの【コロッセウム】ならアレの熱量は下げられるか?」

「不可能ではないと思いますが必殺スキルは“数の問題”がありますし、そもそも【コロッセウム】の効果は無差別ですから葵君のスキルまで制限するかと。それに内部に取り込むにはアイツに接近しないと……」

『GAAAAAAAAAAA!!!』

 

 そうこうしている間にも《熱態圏》の温度は更に上昇を続け、砲撃に慣れてきた【ヒートライザ】も徐々に後方支援役への距離を詰め始めていた……これ以上時間を掛ければ近く事すらままならなくなると判断した彼等は、【テレパシーカフス】を使って手早く【ヒートライザ】を撃破する算段を立てて行く。

 

「とりあえず多少のダメージは覚悟で接近してからクマやんが特攻、それでダメならウチと葵ちゃんで仕掛ける、それでまだ仕留められんならカケやんの【コロッセウム】で囲って殴るって感じで。後は高度な柔軟性を保ちつつ臨機応変に対応してこか」

『……まあそれしか無いか。後特攻言うな、算段はあるワン』

 

 そうして全員が乾坤一擲の決戦を【ヒートライザ】に挑もうとした……その直後、“直感”によって『新たな脅威』を感じ取ったミカが焦った声で全員に警告を飛ばした。

 

『ッ⁉︎ 新しい敵が来る! 下から……! 『コドクショウキ(蠱毒瘴気)』なっ……!』

 

 その警告とほぼ同時に()()()()()()()()()()()()毒々しい色合いの瘴気を勢いよく吹き出して彼等を覆い尽くし、その瘴気を吸った彼等と【ヒートライザ】を【猛毒】【魔毒】【魂毒】【衰弱】【酩酊】【麻痺】の六重状態異常に陥れた。

 

『GUUUU⁉︎』

「これは……六重の状態異常やと⁉︎」

『まさか新手か⁉︎』

 

 継続して吹き出し続ける瘴気によって状態異常を受けた【ヒートライザ】は【衰弱】【麻痺】【酩酊】の効果の所為で勢いよく地面に倒れ込み、人間側もそれらの状態異常の効果で動く事もままならずにその場に蹲ってしまい……そんな中で【ヒートライザ】の近くの地面が盛り上がりそこから一体の人型の魔蟲──<UBM>【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】が地上に這い出てきた。

 ……彼は人間達と【ヒートライザ】の戦いを《熱態圏》の効果を受け難い地中で監視しながら、彼等の進行方向先に瘴気を吹き出させる罠を仕込んで待ち構えていたのだ。

 そして自身にラーニングした《炎熱耐性》《ファイア・レジスト》《コールド・フィールド》と言った炎熱対策スキルと、《害毒反転》《ブーステッド・エンデュランス》《セルフ・リジェネレーション》と言った防御・回復スキルを重ねがけにして《熱態圏》を突破したのである。

 

『GUUAAA……』

コドクゼッサツ(蠱毒絶殺)

 

 そして【ラーゼクター】は左腕の一部を鉢の腹と針の様な形状に変えて、そこに《蠱毒瘴気》を集中して行く……これは【ラーゼクター】が編み出した《蠱毒瘴気》の病毒系状態異常を一つに絞り、更に自身の肉体の一点に圧縮する事で効果を大幅に引き上げるバリエーション《蠱毒絶殺》である。

 

『……TIE!!!』

 

 ……そうして【ラーゼクター】は【猛毒】を圧縮した対HP用の《蠱毒絶殺》でもって一撃で葬らんと、全速力走りながらで左腕の針による刺突を【ヒートライザ】の喉元に突き立て様としたのだった……。




あとがき・各種設定解説

【良薬来効 ヒュギエイア】
<マスター>:鈴木健太
TYPE:テリトリー・アームズ
到達形態:Ⅳ
能力特性:薬品強化
固有スキル:《瞬間充薬》《瞬時注射》《霊薬は口に易し》《皆癒の落涙》
・モチーフはギリシャ神話の医神アスクレピオスの娘で健康の維持や衛生を司る女神ヒュギエイア……が持つ、薬学のシンボルにも用いられている“ヒュギエイアの杯”。
・形状は短銃サイズの無針注射器で中に入れたポーションを人体に注射する事で最高効率で効果を発揮させる《瞬時注射》というパッシブスキルを持つ。
・《瞬間充薬》はSPを消費して所有しているポーションを【ヒュギエイア】内に瞬時に装填する《瞬間装備》とかの薬品版スキル。
・《霊薬は口に易し》はMPを消費して装填したポーションの効果・持続時間強化と副作用・デメリットの大幅軽減を行うスキル。
・《皆癒の落涙》はMPを消費して想定したポーションの効果を範囲内の味方に付与するスキルで、消費するMP量は味方の数に比例するがパーティーメンバーやクランメンバーと設定してスキルを使う事で消費MP量を減らす効果もある。
・この際に雨の様なエフェクトが発生してそれに当たった味方に効果が付与される仕様だが、これはテリトリーとしての効果を視覚化したものなので液体では無いから高温で蒸発とかはせず、物体に遮られる事も無い。
・マスターである鈴木健太はリアルだと複数の副作用がキツイ薬を飲まなければならない状態であり、そんなパーソナルだからか効果上昇よりも副作用の軽減にリソースが多く使われている。

【耐熱ポーション】【アジリティ・ドーピング】:安心と安全の<月世の会>製
・これらの薬品は鈴木健太の【ヒュギエイア】用に作られた物なので、彼の<エンブリオ>に合わせて効果を高める代わりにそれぞれ“氷耐性低下”や“効果時間終了後にAGI大幅低下のデメリットがある。
・ちなみに彼の戦闘方法はこれらデメリットのある薬品を自分に打ち、<エンブリオ>と【薬効戦士】のジョブがそれぞれ『効果上昇・デメリット軽減』スキルで最大限活かすスタイル。
・その成り立ちから<月世の会>にはこの手の医療・回復系<エンブリオ>持ちが多い。

【熱態己竜 ヒートライザ】:ステータスだけでなく小技も駆使するタイプ
・これらの小技は<UBM>になる前の“地を這う天竜”だった時代に磨いたものであり、<UBM>化による大幅なステータス上昇に伴って非常に倒し難くなっている。
・《熱態圏》は熱で地面を溶かさない様に周囲と上方向に範囲が偏っている他、保温によって熱量が維持されるので熱系スキル効果が上がったり、熱が篭るので《熱羽》なくよる排熱がないと自傷ダメージを食らうデメリットがある。
・ちなみに彼が<UBM>化によって獲得した新スキルは“三つ”である。

【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】:人間の言葉も話せる
・腕を蜂型に変形させたのはキメラ魔蟲<UBM>を倒した際にラーニングした“捕食した魔蟲の形質を肉体に自由に反映する”スキル《混蟲代百化》による物。
・更に彼はこのスキルに《高速再生》《脱皮》《分体生成》などのラーニングスキルを複合させて、“欠損した部位を再生させる”や“肉体の一部切り離して自立して動く様にする”事すら可能になっている。
・今回の複数の地中からの瘴気も生成した《蠱毒瘴気》の発生器官を分離させて地中にいくつか配置し、それらを遠隔操作したものである。


読了ありがとうございました。
ちなみに【ラーゼクター】のモチーフは“敵ポジション仮面ライダー”だったり。スキル名も最新のヤツを参考にしました。


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蠱毒の蟲/灼熱の竜

前回のあらすじ:妹「よし、一気に【ヒートライザ】を倒そう!」ラーゼクター『ドーモ、コンニチハ』妹「ゲェー! ナンデ⁉︎ <UBM>ナンデ⁉︎」


 □<クルエラ山岳地帯>

 

 伝説級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】は自身を次の位階(古代伝説級)へと至らせる為、近くにいた逸話級<UBM>【熱態己竜 ヒートライザ】に狙いを定め、その場で人間達と戦っている隙をついて《蠱毒瘴気》による病毒系六重状態異常の罠に掛ける事に成功した。

 

コドクゼッサツ(蠱毒絶殺)……TIE!!!』

 

 そして【酩酊】の効果で倒れ込んだ【ヒートライザ】に向けて、腕に集中させた圧縮状態異常スキル《蠱毒絶殺》を叩き込もうとしていた。

 ……HP減算系の【猛毒】【溶解毒】と言ったの効果を圧縮した直接ダメージ特化”の一撃なら例え相手が<UBM>であれ致命傷を与えられ、《免疫生能》《害毒反転》の許容量を超えた圧縮状態異常の反動ダメージや相手の高熱によるダメージで腕一本犠牲になるだろうが、それも《混蟲代百化》によって再生可能と考えての一撃だった……が。

 

『それは“危険”過ぎるみたいだからさせないよ……《重破断(グラビトロン・ディバイダ)》《竜尾剣》!』

『ナッ⁉︎ KITIE!』

 

 そうして突っ込もうとした【ラーゼクター】に突如として『漆黒の刃を持った剣尾』が割り込んだ……当然それはミカの【どらぐている】による攻撃であり、彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()と“直感”して、状態異常を【クインバース】の《インスタント・エンパイア》によって快癒させ【ラーゼクター】を奇襲したのだ。

 ……その攻撃自体は《危険感知》《殺気感知》で気が付いた【ラーゼクター】だったが、敵対対象であるが故に月夜の《月面徐算結界・薄明》の効果でAGIは亜音速レベルにまで下がっていた事と、その“漆黒の刃”から感じる危険な気配を警戒したが故に剣尾を掻い潜って【ヒートライザ】に攻撃する事が出来ずに一旦下がるしかなかった。

 

『あまりお前に好き勝手はさせたくないんだよね! 《テンペスト・ストライク》!』

『TI! 《ピアースニードル》!』

 

 そこにAGIバフのお陰で亜音速での移動が可能なミカが【ギガース】に暴風を纏わせて殴りかかっていく……が、それを躱した【ラーゼクター】の方もミカが何らかの方法で毒を無効化したと判断して反動が大きい《蠱毒絶殺》を解除、即座に腕の『蜂の針』の元になった【グレーター・ヴェノムホーネット】からラーニングした貫通力に特化したスキルで迎え撃った。

 ……【ラーゼクター】のステータスはSTR・ENDが5000、AGIが8000程度と伝説級としては低い方だが、自身にも状態異常を齎す《蠱毒瘴気》と状態異常による悪影響を反転させる《害毒反転》によってステータス半減の【衰弱】とAGI9割減の【麻痺】をそれぞれ“ステータス倍加”と“AGI90%増加”にしている。

 

『……《サンダースラッシュ》!』

『うげっ⁉︎ 今度は腕がカマキリの鎌に……おっとぉ!』

 

 よって【ラーゼクター】はSTR・ENDは一万以上でAGIは徐算を食らって尚5000に迫り、更に長年の修練や単独で狩りを続けていた事で正面戦闘の技巧においても()()()()()()()()()()に匹敵する実力を持ち、ラーニングしたスキル群を十全に運用出来る。

 ……今ももう片方の腕に【スラッシャー・ドラグマンティス】の鎌を生やして、全身を着ぐるみで覆われたミカにも通じうる【剣聖(ソードマスター)】のティアンからラーニングした雷の斬撃を放っていた。

 

『……ふむ、それは直接受けたらやばい感じだね……こっちは受けよう』

『TIE! 《パラレルスティング》!』

 

 だが、ミカは持ち前の“直感”で《サンダースラッシュ》の攻撃軌道を先読みして回避、逆の手から放たれた【細剣士(フェンサー)】の二連続刺突は威力が大してないと見抜いて【ギガース】を盾代わりに受け止めた……この様にミカは数多のスキルを使う【ラーゼクター】を相手にして、それら全てを先読みする事で辛うじて凌ぎ続ける事が出来ていた。

 ……そうして彼等が戦う間に状態異常を食らって蹲っていた月夜達もまた動こうとしていた。

 

「六重の病毒系状態異常とかウチじゃ完全に治すんは無理やけど、効果を軽減するぐらいなら……《ホーリーゾーン》! 健やん!」

「了解! 《瞬間充薬》【快癒万能薬(エリクシル)】セット! 《霊薬は口に易し》《皆癒の落涙》!」

 

 まず月夜が【司教(ビショップ)】の一定範囲内の病毒・呪怨系状態異常を軽減する《ホーリーゾーン》を使って周囲の人間を多少動けるぐらいに回復させ、その後に健太が【ヒュギエイア】に病毒系状態異常を回復させる【快癒万能薬】を入れ上に向けて引き金を引き、その効果を味方全体に作用させる事で彼等に掛かっていた状態異常を全て回復させた。

 

『よし、動ける様にはなったな……助かった』

「もっと感謝してもええんやで〜クマやん……ん?」

 

 シュウからの(微妙な雰囲気だったが)感謝の言葉に上機嫌な月夜だったが、ふと視界に目に入った物を見て目を細めた……その彼女の視界の先には肉体が【麻痺】し地面に倒れ伏したままもがいている【ヒートライザ】の姿があった。

 

「アイツ倒れたまま……ああ、この【衰弱】と【麻痺】に加えてウチの《薄明》の所為でAGIが下がり過ぎとるんやな。……アレ? これはチャンスでは?」

『まあ、奇襲を仕掛けてきた【ラーゼクター】の方はミカちゃんが抑えているしな。……ここでさっさと【ヒートライザ】の方を倒して向こうの援軍に行ければ一番良いだろうな』

「せやね〜、折角の機会を逃す必要は無いわな。……全員攻撃準備や」

 

 当然、彼等がそんなあからさま過ぎるチャンスを逃す訳がなく即座に【ヒートライザ】へと一斉攻撃を仕掛けようとして……その直前に【テレパシーカフス】からミカの慌てた声による警告が飛んできた。

 

『ストップ! 今【ヒートライザ】に攻撃したらダメ! むしろ少し離れた方が良い!!!』

「え? 一体どういう……」

『ッ⁉︎ おい見ろ!』

 

 その警告に疑問を呈する月夜だったが、直後にシュウから発せられた警告に従って【ヒートライザ】の方を見て目を見開いた……何と【ヒートライザ】の身体にあった古傷の様に模様が全て開き、そこから『赤い蒸気』を吹き出しながら先程までとは明らかに違う異常な雰囲気を纏って立ち上がったのだ。

 

『GURURURU……GUAAAAAAAAAAA!!!』

「な……熱ぅ⁉︎」

『これは……まだ奥の手を隠してやがったな!』

 

 そうして立ち上がった【ヒートライザ】が大咆哮を上げるとともに全身に付いた傷口から大量の『赤い蒸気』を噴出して、それと同時に先程までとは比べ物にならない程の熱波を放出し始めたのだ……シュウの言葉通り、これが【ヒートライザ】が<UBM>になった際に覚えた三つ目のスキル《熱体血放(ヒートライズ)》──自身の体温を急上昇させて病毒系状態異常を熱消毒する事で無効化し、更にSTR・AGI・熱系スキル効果を()()にするという超強力スキルである。

 ……それによって状態異常から回復した【ヒートライザ】は自身の近くで戦っていた【ラーゼクター】とミカに目をつけ、熱系スキル強化により5000度を優に超える超高温となった《ヒートボディ》付きの爪牙を使い、先程とはまるで違う荒々しい暴力的な動きで二人を噛み砕かんと攻撃を仕掛けていった。

 

『あ、ヤベ、全力で離れないと死ぬ……《竜尾剣》!』

『GUUUUAAAAAAAAAA!!!』

『TIE!!!』

 

 その直前に“直感”で【ヒートライザ】の攻撃を感知したミカは、即座にその場から飛び退ると共に《竜尾剣》を地面に突き刺して全力で伸長させる事で自分の身体を無理矢理移動させた……それに僅かに遅れて【ラーゼクター】も攻撃に気が付きその場から逃れようとしたが、その一瞬が致命的となり本能のままに動いている【ヒートライザ】に“最も脅威度に高い敵”としてロックされてしまった。

 ……予想外の展開になったもののAGIに関しては自分の方が上なのでどうにか逃れようとした【ラーゼクター】だったが、距離を取った瞬間に【ヒートライザ】が()()()()()()()で放った《ヒートブラスト・コンバージェンス》によって片腕を吹き飛ばされてしまった。

 

『GI⁉︎ 《コドクショウキ(蠱毒瘴気)》《ウィングド・リッパー》!』

『GAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 それでも【ラーゼクター】は口から目眩し代わりとしてMP消費を抑える為に【毒】のみに効果を限定した瘴気を撒き散らしながら《混蟲代百化》を使って新たに腕を生やしつつ、残った方の腕から斬撃波を放って【ヒートライザ】を牽制して離脱を試みた……が、今の【ヒートライザ】にとってはむしろ逆効果でしか無く、本能のままに自身を攻撃して来た【ラーゼクター】に向かって攻撃を続行していったのだった。

 

 

 ◇

 

 

 ……そうして【ヒートライザ】と【ラーゼクター】が熾烈な攻防を繰り広げている横で、戦闘から離脱したミカはシュウや月夜達と合流していた。

 

『はいお待たせ。それでこれからどうする? ……ちなみにあの戦闘を放置したままだと()()()()()になるし、このままだと私達は蒸し焼きだけど』

「ただいまミカやん。……それで最悪の事態って? ウチはあのままアイツらに戦闘を続けさせれば自滅してくれへんかな〜って思っとるんやけど」

『……えーと……』

 

 戦闘を続けてややハイテンションになっているからかフォロー役(レントとミュウ)が居ない事を忘れて“結果”のみを話すミカに対して、月夜は冷静に状況を見つつ詳しい事情の説明を求めた……が、理屈を無視して結果だけを理解しているミカは言い淀んでしまった。

 ……なので、それに答えたのはキチンとした理屈としてこの状況の先を読んでいたシュウであった。

 

『いや、確か<UBM>が<UBM>を倒すと勝った方に大量の経験値が与えられて進化するって話を聞いた事があるワン。……それにさっきから気温の上昇率が急激に上がってやがる。多分後数分もしないうちに俺たちの熱耐性を抜いてくるぞ』

「あー、アイツらの戦いが終わったら残った方が更にパワーアップして襲い掛かってくる上、このまま待機したら葵ちゃん以外は全員焼け死ぬと。今もサウナみたいに暑いしなぁ」

「……流石に私一人じゃ勝てない」

『とにかく、どうにかしてアイツらのどっちかを倒さないと……何かいいアイデアは無いかな』

 

 そのシュウと月夜の説明によって現在実に面倒な状況になっている事を理解した彼等は、下手に割り込む事も難しそうな二体の戦いを見ながらどうしようかと悩んで居たが、そこで二体の<UBM>に《看破》を使っていた<月世の会>メンバーの立花翔が取得出来た情報を提示した事で状況は動き出した。

 

「オーナー、看破したところ【ラーゼクター】の方は先程の我々と同じ六重状態異常に掛かっていますが、逆にステータスにバフが掛かっている様です。そして【ヒートライザ】の方はあの状態に()()()()()H()P()()()()()()()()()

「うーん【ラーゼクター】の方は状態異常効果の反転って感じかな? 敵には状態異常をばら撒いて、自分は強化するっちゅう感じで」

『【ヒートライザ】の方はデメリット付きの強化スキル……いや、さっきまでの知性のある動きと違って今は本能のままに敵に襲い掛かってるから()()スキルと言った方が正解か』

 

 そう【ヒートライザ】のスキル《熱体血放》はステータス強化の際に《熱羽》でも放熱しきれないぐらいに体温が上昇してしまうので、体温を無理矢理下げる為に全身の古傷から自身の沸騰した血液を放出して強制的に放熱しているのだが、そのせいで十秒毎に最大HPの1%が減るデメリットが課せられるのだ。

 更にそれによる激痛で正常な思考が難しくなり、本能のままに戦闘する狂化系スキルとしてのデメリットを持ってしまっているスキルでもある……まあ、その分だけ強化値は非常に高い上、激痛によって精神系状態異常を無効化出来るというメリットもあり、更に好き勝手暴れるだけで《熱態圏》と放熱や強化された熱系スキルの組み合わせで周囲の全てを焼き尽くす灼熱空間が完成するが。

 ……それが分かっていた彼等もどうにかしてあの二体を倒す方法が無いかと考え、そこで翔が一つの案を提示した。

 

「【ラーゼクター】の方は状態異常に掛かったままスキルでその効果を反転させている……それなら俺の【コロッセウム】の()()()()()でなら対処出来るかもしれません。最悪でもあの二体を分断出来ます」

「成る程、カケやんの<エンブリオ>ならいけるか。今の【ヒートライザ】ならウチらが接近してもギリギリ死なへんやろし、さっき考えた作戦を実行するぐらいは出来るか」

『……どうも悠長に話している暇はなさそうだぞ。アイツらがこっちに来てる』

 

 そうシュウに言われた彼等は二体が戦っている方を見ると、そこには【ヒートライザ】に追われながら全速力でこちらに向かってくる【ラーゼクター】の姿があった……今の【ヒートライザ】がただ本能で獲物に襲い掛かっていると気が付いた【ラーゼクター】は、それなら近くにいる人間達に押し付けれ(MPKすれ)ばいいと考えたのだ。

 ……仮に人間達に攻撃されてもそれでターゲットが移るだろうから問題なく、もし押し付けられなくとも人間達を巻き込んで乱戦に持ち込んだ方が勝算は高いと判断しての戦術である。

 

『GAAAAAAAAAAAAAA!!!』

『TIE!!!』

「……うんしゃーない、カケやん必殺スキルを頼むわ。とにかく【ラーゼクター】の足止めをお願いや」

「了解しました。……後、足止めは構わないんですが……別に倒してしまっても構わないんでしょう?」

「一向にオッケーやで〜……てゆーか、それが言いたかっただけやろ?」

 

 バレました? といい笑顔を浮かべながら翔はパーティーから離れて向かってくる二体の前に出て行き、自身の<エンブリオ>が宿った左手を前に出した。

 

「味方側は俺一人、敵対象は【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】同じく一体……各スキル設定完了。では行きますか……《絶対平等決闘場(コロッセウム)》!」

 

 そうして彼が必殺スキルの発動を宣言した直後、彼自身と【ラーゼクター】のみを囲む様に高さ10メートル程の壁が直径50メートル程の円形状に超高速で展開され、それ以外の【ヒートライザ】や他の人間達はまとめて外に弾き飛ばされた。

 

『GAAAAA!?』

「おっと、範囲内に入っとったか。でもこれで分断完了やな」

『成る程、TYPEキャッスル系列の<エンブリオ>だったんだね』

 

 ミカの言う通り、<月世の会>メンバー立花翔の【同一戦場 コロッセウム】はTYPE:テリトリー・キャッスルの円形闘技場型<エンブリオ>であり、その効果は……。

 

 

 ◇

 

 

『KITI……』

「おっと、温度も下がってるね。……まあ、以前の実験ではオーナーのスキルも外から中には届かなかったし、多分スキルが遮断されたからだろう」

 

 ところ変わってそこは展開された【コロッセウム】の内部……そこに居る【ラーゼクター】はいきなり周囲に壁が展開された事に驚きはしたが、目の前に一人の剣を持った人間がいた事からそいつが自分を閉じ込める目的で何かのスキルを使ったのだと直ぐに思い至った。

 ……更には男の発言と先程まで地獄の様な超高温だった気温が大幅に下がっている事から、上方は空いている様に見えても外部との繋がりが遮断されている事を察し、これまでの経験からこの手のスキルは術者を倒せば解除出来ると考えた……その直後、彼は自身を蝕む()()()()()()によって膝をついてしまった。

 

『KTI⁉︎』

「……どうやらキチンと【コロッセウム】の効果は効いているみたいだな。()()()()()()()()()()()()()という大雑把な設定だったから上手くいくか不安だったんだが……」

 

 ……立花翔の<エンブリオ>【コロッセウム】の能力特性は決闘場、及びその中での平等(無差別)なバフとデバフであり、現在は必殺スキルと緊急展開・格納用のスキル以外に三つのスキルを有している。

 まず一つ目が“内部にいる者の任意のステータス一つを半減させ、別の任意のステータス一つを倍加させる”《特殊規則:能力偏向》。二つ目が“内部にいる者の攻撃手段一つによるダメージ量を半減させ、別の攻撃手段一つのダメージ量を倍加させる”《特殊規則:攻撃偏向》。三つ目が“内部にいる者に任意のスキル種別一つの効果を半減させ、別のスキル種別一つの効果を倍加させる”《特殊規則:技能偏向》と言った具合だ。

 ……そして必殺スキル《絶対平等決闘場》は自身と味方を任意の数だけ指定して、それと同数の指定した敵対対象を【コロッセウム】内部に強制的に取り込み、更に上三つのスキル効果を強化及びスキル指定の為の“任意”の()()()を大幅に増した上で適応するという物である。

 

「現在、この【コロッセウム】内部では『AGI7割減、MP三倍』『生身の肉体を使った攻撃のダメージ7割減、武器によるダメージ三倍』……そして『<エンブリオ>以外のスキル効果7割減、<エンブリオ>のスキル効果三倍』のバフとデバフが掛かっているのさ。後、この必殺スキルを使った【コロッセウム】が敵味方のどちらかが全滅しない限り俺にも解除不可能だから」

『……ッ⁉︎』

 

 そう、この『<エンブリオ>以外のスキル効果7割減』のデバフによって《免疫生能》《害毒反転》の効果が弱まった所為で【ラーゼクター】は自身の六重状態異常の効果を受けてしまっているのだ。

 ちなみに彼が態々掛かっているバフデバフの効果を説明したのは、これらのスキル全てに『自身がこれらの説明前に攻撃した場合、コストである一分ごとの消費MPが百倍になる』というデメリットが課せられているからである。

 ……どこまでも“平等”を要求する(平等とは言っていない)自身の<エンブリオ>に苦笑を浮かべつつ、説明を終えた翔は手に持った剣を膝をついた【ラーゼクター】に向けて構えた。

 

「さて、平等とは名ばかりの一方的にこっちが有利な決闘場ではあるが、容赦なく行かせてもらうぞ!」

『……⁉︎』

 

 ……そうして【コロッセウム】内部における<月世の会>メンバー立花翔と伝説級<UBM>【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】の“決闘”が始まった。




あとがき・各種設定解説

【同一戦場 コロッセウム】
<マスター>:立花翔
TYPE:ラビリンス
到達形態:Ⅳ
能力特性:決闘場・無差別バフデバフ
保有スキル:《高速展開:緊急収納》《特殊規則:能力偏向》《特殊規則:攻撃偏向》《特殊規則:技能偏向》
必殺スキル:《絶対平等決闘場(コロッセウム)
・モチーフは古代ローマに於ける円形闘技場の名称“コロッセウム”。
・自分が中に居る事が前提の<エンブリオ>なので、内側に自身を置いた状態ででしか展開出来ずスキル効果も機能しない。
・第四形態では直径50メートルぐらいで、それ以前の形態のより小さい決闘場を展開する事も出来る。
・《高速展開:緊急収納》はSPを消費して【コロッセウム】を高速で展開又は紋章で収納するスキルで、クールタイムは一時間。
・スキルを適応する条件は【コロッセウム】の展開前に設定する必要があり、展開後の再変更は不可能で変える場合には一度紋章にしまう必要がある。
・また、バフとデバフは“自身に全ての効果で適応出来る”様な設定でないといけない制限がある(例えば火属性魔法を覚えていなければ《技能偏向》で“火属性魔法”を指定出来ないといった具合)
・必殺スキルのクールタイムは24時間でバフデバフの効果は第四形態時でそれぞれ三倍と七割減であり、この部分は色々と矛盾が生じるので自身のスキルによる“<エンブリオ>の強化”を指定しても変更されない(レジストの難しさとかは上がっている)
・必殺スキル発動時には外部と内部は隔たれており、決闘場の上と下に半球状の結界が展開されて壁自体の強度も大幅に上がっているので外部からの干渉や脱出は困難(不可能とは言っていない)

立花翔:個人的にはあの決め台詞が言えた時点で満足
・現実では寝たきりの重病人でアニメの戦闘シーンが好きであり、デンドロのPVでの決闘シーンに憧れて自分もギデオンで決闘者をやっている。
・【コロッセウム】の効果を活かすために魔法も物理も出来る万能系ステータスになっており、事前に相手の情報を調べてメタになるバフデバフを掛けて戦うスタイル。
・ただ、<エンブリオ>無しではただの器用貧乏であり、特性的に集団戦が苦手なのでクランやパーティーでの戦いでは足を引っ張りがちなのを悩んでいる。
・なので、今回パーティーで自分が役に立っているのは内心喜んでおり、デスペナも辞さない覚悟で戦うつもり。

【ヒートライザ】:《熱体血放》を使うのは初めて
・なので大分能力を持て余しており暴走しているがスキルの解除だけなら任意で可能。
・《熱体血放》によって減った最大HPは時間を掛けて徐々に元に戻るが、それには24時間で5%程度と長い時間が掛かる。

【ラーゼクター】:人間のジョブスキルすら自在に使える
・《蠱毒瘴気》は自身が掛かった事のある毒を任意で選んで放出するスキルで保有する毒は二十を超えるが一度に選べる量には個々の毒の強度に応じて限度がある。
・普段使っている瘴気が強力な【溶解毒】ではなく【猛毒】なのもその辺りが原因で、この六つは色々試した上で自分にバフを掛ける事も考えて一番バランスの良い組み合わせである。
・《蠱毒絶殺》はその中から一つを選んで圧縮しながら自身の肉体に纏わせて直接相手に打ち込むスキルで、纏わせた部分にも毒が回るデメリットがあり直接攻撃にしか使えないがその分強力。
・そのダメージも《混蟲代百化》があれば治るが欠損部位を生やすのはかなり負担が大きく、一時的に最大HPが減るなどのリスクもある。


読了ありがとうございました。
思ったより長くなったから【ヒートライザ】との決着は次回。後かっぽーの新情報が色々と凄かった、特にドラム缶。予想通りだったけど予想以上にヤバいヤツだった。


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灼熱の竜の最後

前回のあらすじ:妹「色々な敗北フラグをインターセプトォ! ……だってそうしないと“この後で”詰むし……」


<クルエラ山岳地帯>

 

『GAAAAAAAAA!!!』

 

 最終スキル《熱体血放(ヒートライズ)》を使って【ラーゼクター】と戦っていた【熱態己竜 ヒートライザ】は、逃げる敵を追っていた最中に突如現れた“壁”に弾き飛ばされた事に対して怒りの咆哮を上げた。

 ……これが普段の【ヒートライザ】であればいきなり現れた壁に対して警戒を向けていただろうが、スキルの反動で完全に血が上っている彼にはそこまでの思考は出来ず、ただ単純に目の前の邪魔な障害物へ攻撃するという行動しかとらなかった。

 

『GIYAAAAAAAAA!!!』

 

 だが、必殺スキルによって強度も上がっている【コロッセウム】の壁は、現在の【ヒートライザ】の超高熱の爪牙や熱線であっても僅かしか破壊出来ない程の強度を誇り……そして、それによって消費された僅かな時間が【ヒートライザ】の命運を分ける事になってしまった。

 

『バルドル、プランDだ。撃ちまくりながら全速力で突っ込め!!!』

『……了解(ラージャ)

 

 そんな壁の破壊に注意を向けていた【ヒートライザ】の側面に次々と砲撃が突き刺さった……無論、その正体は【コロッセウム】の壁沿いに回り込んでいたシュウ・スターリングが駆る【バルドル】であった。

 

『GAAAAAAAA!?』

命中(ヒット)、続けて砲撃を続行』

『壁沿いだと回避ルートが制限される! 離れながら大回りに接近するぞ!』

 

 身に覚えのある砲撃を受けた【ヒートライザ】は本能のまま攻撃が飛んで来た方向へと振り向き、こちらに突っ込んでくる“上に犬の着ぐるみを乗せた戦車”を発見、即座に《ヒートブラスト・スフィア》を連射して反撃に移った。

 ……それらの熱球をバルドルは最低限だけ蛇行しながら躱しつつ距離を詰めて行くものの、近づく毎に密度の増す弾幕に加えてこちらからの砲撃を意にも介さず熱球を連射してくる【ヒートライザ】の苛烈な攻撃を受けて徐々に追い詰められていった。

 

『GUUUUAAAAAAAA!!!』

『【ヒートライザ】、熱球を吐き出しながらこちらに接近』

 

 そして、ある程度バルドルが接近した所で【ヒートライザ】は熱球を連射しながら一気に駆け出して距離を詰めて来た……元より今の【ヒートライザ】は圧倒的なSTRと身に纏う高熱による接近戦の方が強く、それを本能的に理解しているが故に相手を確実に仕留める際には己の爪牙を使う事を優先しているのだ。

 

『……()()()()距離を詰めて来たか。さっきの【ラーゼクター】との戦いでも執拗に距離を詰めようと追いかけて来ていたからな』

『大気温度の急激な上昇を確認』

『接近するだけで焼き殺せる以上は当然の対応だが……バルドル、通常弾頭砲撃の後にB弾頭セット』

『……了解(ラージャ)

『GEEEEAAAAAAAA!!!』

 

 だが、その行動を読んでいたシュウは冷静にバルドルへと指示を出し、それにより放たれた砲弾が【ヒートライザ】に突き刺さる……が、それでも相手の足は止まらず、遂に《熱態圏》の逸話級特典武具【ふぇいうる】が焦げるレベルの温度となっている距離まで接近されてしまった。

 ……そこまで接近されて仕舞えばバルドルの砲撃よりも【ヒートライザ】の爪牙が届く方が早く、そのまま戦車の正面装甲すら溶かす超高音を纏った牙によってバルドル毎上に乗っていた【ふぇいうる】は噛み砕かれ……。

 

『残念だが……“中の人など居ない”ぞ?』

『GAAAAA!?』

 

 それによってバルドル内にセットされていたB弾頭──ブラフ用の煙幕と派手なだけの炎を撒き散らす弾──と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()【ふぇいうる】の中に入れてあった【煙玉】が起爆して【ヒートライザ】の周囲を炎と煙によって覆い尽くした。

 ……何の事は無い、単にシュウはバルドルに無線で指示を出しながら遠隔操作させて【ヒートライザ】へと突っ込ませ、わざと攻撃させる事で相手の視界を奪って隙を作ったのだ。

 

『……バルドル回収、そして第一形態』

 

 そして、相手が囮に気を取られている隙にこっそりと【コロッセウム】の反対側から回り込んでいたシュウは、破壊されたバルドルを紋章内に回収して再度第一形態の腕部装着型大砲として展開した。

 ……尚、もしバルドルが第五形態以降(大型戦艦)を発現させていたら形態間の構造に差があり過ぎるデメリットとして形態変更に硬直時間が発生していたが、現在は第四形態(戦車)である為まだ硬直時間のデメリットは無く、それ故にシュウは即座に次の行動に移る事が出来ていた。

 

『最近手に入れたヤツだが頼むぞ【らびふっと】……《アームズ・ファイア・レジスト》《大跳躍》!』

 

 更にシュウは来ている“白いウサギ型の着ぐるみ”──逸話級特典武具【すーぱーきぐるみしりーず らびふっと】に火炎耐性を付与した後、その跳躍の飛距離と速度を大幅に強化する装備スキル《大跳躍》を使って地面を蹴り一気に【ヒートライザ】との距離を詰めた。

 ……この着ぐるみはシュウが以前に逸話級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【跳躍兎殺 ラビフット】を倒した時に手に入れた物で、超音速の跳躍による一撃必殺の奇襲を得意としていた致命兎(ヴォーパルラビット)の能力を反映した跳躍強化・気配操作の特性を宿しているのだ。

 

『ッ⁉︎』

『遅い! 《ストレングス・キャノン》!!!』

 

 その《気配操作》スキルと目くらまし煙幕によって【ヒートライザ】はこちらに向けて跳躍してくるシュウに気付くのは一手遅れてしまい、そちらに振り向いた時には既にシュウは【ヒートライザ】の回避が間に合わない距離まで接近して大砲から巨大な光球を撃ち放っていた。

 ……この《ストレングス・キャノン》は第四形態時にはシュウのSTR約8000の二十倍……つまりは15万以上の攻撃力を持っており、直撃すれば【ヒートライザ】と言えど致命傷は免れない一撃だったのだが……。

 

『GAAAAAAA!!!』

 

 そもそも目の前の敵を倒す事しか考えられない【ヒートライザ】が必殺の光球を前にして取った行動は迎撃……口から可能な限りの最大威力で《ヒートブラスト・コンバージェンス》を光球に向けて放つ事だった。

 ……《熱体血放》の効果によりノータイムで放たれた熱線は超威力の光球とぶつかり合い僅かな時間だけ拮抗した後に押し切られてしまったが、その軌道を僅かに逸らす事には成功した。

 

『GUUUUUAAAAAAAA!?』

『……逸れたか。片腕と片翼は奪えたから最低限の仕事は出来たが……本能だけで動いているから意外な最適解を取って来るな』

 

 それでも放たれた超威力の光球は【ヒートライザ】の顔を僅かに逸れて直ぐ横を通過し、熱線により多少威力を落としながらもその片腕と片翼を消しとばした。

 ……しかし、元より《熱体血放》のデメリットで理性を失うだけの激痛を味わっている【ヒートライザ】にとって今さら腕を失う程度の痛みは誤差の範囲であり、新しく出来た傷口から血の蒸気を噴き出させながら目の前の(シュウ)に向かって突撃を敢行した。

 

『GAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

『やっぱり痛みやダメージでは止まらないか! 《大跳躍》《空中跳躍》!』

 

 だが、仕留めきれなかった時点でそう来ることを読んでいたシュウは即座に後方へと跳躍しつつ、更に装備スキルによって空中を蹴って後ろに飛ぶ事で自身を加速させながら距離を取った。

 そうして装備補正で強化されたAGIもあって【ヒートライザ】の近接での間合いから離脱する事に成功したシュウは、耐久力が【ふぇいうる】と比べて高くない【らびふっと】が燃えかねない高温圏に入らない様に、その上で逃げながらも相手を引きつけつつ【テレパシーカフス】で“本命の人員”に連絡を取った。

 

『今なら【ヒートライザ】の注意は片腕と片翼を奪ったこっちに向いてる。仕掛けるなら今だ、ミカちゃん、葵ちゃん……後女狐』

『ありがとうシュウさん! じゃあ行こうかな!』

「……健太さん、おクスリをお願い。ステータスが足りないかも」

「分かった。《瞬間充薬》【オーバーブースト・ドーピング】セット……《霊薬は口に易し》《オーバードーズ》《瞬時注射》」

「……ウチだけなんかおざなりちゃう?」

 

 そうしてシュウを追う【ヒートライザ】の背後に【コロッセウム】の左側からミカが、右側から葵と健太が現れた……そして右側に居る健太はデメリットと引き合えにSTR・END・AGIを大幅強化するドーピング薬を、【ヒュギエイア】だけでなくステータス強化薬剤の効果を強化する【薬効戦士(ドーピング・ファイター)】の奥義《オーバードーズ》まで使った上で葵に注射する。

 ……そして、その間にミカは本命である彼女達に注意を向けさせない為にも、視線がそちらに向かない位置から大声を上げながら全速力で【ヒートライザ】に突っ込んでいった。

 

『うら────!!!』

『GUU⁉︎ GAAAAAAAA!!!』

 

 そんな雄叫びを上げながら突っ込んできた着ぐるみ(ミカ)に対して、これまでの戦いから炎が効く相手だと判断した【ヒートライザ】は即座に《ヒートブラスト・スフィア》を連射しながら接近する、

 ……スキルの所為で本能的に『攻撃して来た相手か向かって来る相手を優先的に攻撃する』程度の思考しか出来ない【ヒートライザ】はそうするしか無く、その辺りも読んでいたミカは上手い感じに葵達の方に注意が向かない様にしつつ引き気味に戦っていた。

 

「……オーナー、合図をしたら……」

『分かっとるえ、いつでも切り替えられる様に準備しとる。行ったれ葵ちゃん』

「了解……じゃあ行く!」

 

 そして、ミカが【ヒートライザ】の注意を引き付けている隙に準備を終えた葵は、月夜に通信を送った後で()()()()()で駆けていった……健太が使った【オーバーブースト・ドーピング】は効果時間終了後のステータス激減、及び効果発揮まで1分以上かかるデメリットを代償に、STR・END・AGIと言った物理ステータスを3000近く上昇させるという代物である。

 ……彼はそこに《霊薬は口に易し》の効果上昇・デメリット軽減とステータス上昇薬の持続時間を半減する代わりに効果を倍加させる《オーバードーズ》を使い、更に『どんな薬でも即時に効果を反映させる』《瞬時注射》を使う事で効果発揮までの時間をゼロにしたのだ。

 

『GA⁉︎』

「遅い! 動きがスロウリィ! もう何も怖くない!!!」

『なんか凄いフラグっぽい⁉︎』

 

 その結果として薬による物理ステータス上昇値は8000を優に超え、現在の葵のステータスは戦闘型超級職に匹敵するものとなっており、ミカのツッコミを無視して彼女は【ヒートライザ】が何かするよりも早く接近する事に成功していた。

 ……咄嗟に【ヒートライザ】は尻尾を振るって迎撃するものの、葵は強化されたステータスでもってそれを()()()()()そのまま相手の背中へと組み付いた。

 

「オーナー!!!」

『徐算対象変更、END!』

「《エンチャント・フィスト》! せやっ!!!」

 

 その葵からの合図で月夜は《月面徐算結界・薄明》の対象をENDに変更し、その直後に葵は【インフェルノ・デモンズガントレット】を付けた腕を片翼が吹き飛んだ時に出来た背中の傷口に打ち込んだ……その腕は脆く(ENDが六分の一に)なっていた事と、事前に掛けておいた腕部攻撃力強化のスキル効果もあって肘ぐらいまで相手の体内に埋まってしまう。

 

『GIE⁉︎ GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

「ぐおっ⁉︎ でもこれなら離されない!」

 

 そんな自分の背中で好き勝手する葵を振り落とそうと【ヒートライザ】は全身から熱波を放出しながら全力で暴れるが、熱波は葵の《日天吸蓄(サンシャイン・アブソーブション)》に吸収され、振り落そうにも突き刺した腕を起点に強化されたSTRでしがみつく彼女はそう簡単に離れない。

 ……それでもある程度時間を掛ければ振り落とせたかもしれないが、それよりも早く彼女の<エンブリオ>【日天鎧皮 カルナ】の“必殺スキル”が発動した。

 

『GUUUUUAAAAAAAA!!!』

「お前は体内の熱を翼や傷口から排熱している……なら排熱仕切れない程の“熱量”を体内に直接叩き込んだらどうなる? ……《日輪殲洸(カルナ)》!!!」

 

 彼女が必殺スキルの宣言をした瞬間、その【ヒートライザ】に埋め込まれた腕から()()()()()が発生した……これが【カルナ】の必殺スキル《日輪殲洸》の効果──《日天吸蓄》によって蓄積した全エネルギーを光熱に再変換・増幅した上で指向性を持たせて放出する──である。

 ……非常にシンプルな必殺スキルであり発射時には『一度にエネルギーを全て使う』しか選べないので威力調整も不可能と扱いは難しくあるが、それ故にこれまで蓄積して来たエネルギーに応じた圧倒的な大火力を有するのだ。

 

『GU……AAAAAAAAAAAAAAAAAA◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

 

 いきなり体内に発生した熱量は排熱しようと【ヒートライザ】の肉体は全力で《熱羽》と《熱体血放》による血液の蒸発を駆動させるが、片翼だけになった《熱羽》では彼女が放った膨大な熱量を排熱仕切れず、体内の血液も蒸気を通り越して一瞬で気化・消滅していく。

 ……対外・体内問わず非常に高い熱耐性を持っていた【ヒートライザ】ではあるがENDが徐算されていた事、何より今まで《熱態圏》での戦闘で【カルナ】には大量の熱エネルギーが蓄積された所為で放たれた熱量もそれに合わせて膨大なものとなっていた事が決め手になり、その肉体は内側から焼き尽くされていった。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

 

 そんな言葉にならない断末魔を上げる【ヒートライザ】だったが、体内に発生した熱量が完全に許容量を超えるとその肉体はボコボコと泡立ち始め……その次の瞬間にはその肉体は熱量に耐え切れなくなって大爆発を引き起こし跡形もなく消滅したのだった。

 

 

 ◇

 

 

「……ぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁ……」

 

 そうして【ヒートライザ】が大爆発を起こした直後、その上に乗っていた葵はそんな棒読みの悲鳴を上げながら爆発の衝撃波によって吹き飛ばされていた。

 

『はい、ナイスキャッチ!』

「センキュー。おクスリによる強化が無ければ即死だった」

 

 そんな風に飛ばされていた葵も近くにいたミカにキャッチされて無事に地上に着地した……そして二人は【ヒートライザ】をちゃんと仕留めたかどうかを確認する為にそちらへと視線を向けると、そこには足先や尻尾の残骸しか残っていない【ヒートライザ】の姿があった。

 ……そして彼女達が見ている前でそれらの残骸は光の塵となって消えていき、その死によって《熱態圏》が解除され熱量が拡散して気温が大幅に下がった。

 

【<UBM>【熱態己竜 ヒートライザ】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【日向葵】がMVPに選出されました】

【【日向葵】にMVP特典【熱竜冠 ヒートライザ】を贈与します】

「やったぜ、初MVPアンド特典武具ゲット」

『おめでとう。……まあ、序盤から最前線で戦ってトドメも刺したんだし当然かな』

 

 更にその場にいる彼等へとそんなアナウンスが流れたので、ようやく【ヒートライザ】を倒せたと安堵した彼等はMVPを取った葵の元へと集まっていた。

 

「おめでとー葵ちゃん。これで<月世の会>ではウチに続いて二人目の特典武具持ちやな。他のクランよりも一歩リードや」

「保有特典武具の数がクランの価値を決める物でも無いと思うけど……ちなみにミカちゃん、貴女達のパーティーで保有する特典の数っていくつ? 差し支えなければで良いけど」

『私が二つ、お兄ちゃんとミュウちゃんで一つずつだから合計四つだね』

「……<UBM>との遭遇率おかしない?」

 

 そんな月夜の疑問をスルーしつつ、集まった彼等はまだ残っている問題──未だに屹立している【コロッセウム】の内部について考える事になった。

 

『えっと月夜さん、確かあの【コロッセウム】は中に居るどちらかが死なない限り解除は出来ないんですよね?』

「せやね。しかも内部と外部を完全に隔絶しとるから、ウチのスキルはおろか【テレパシーカフス】での通信も出来へんから中の状況は分からへんし」

『パーティーメンバーのHP表示は見れるから無事かどうかぐらいは分かるんだが……少しずつHPが減っていってるな』

「事前に私の【ヒュギエイア】でHPの持続回復ポーションを打っておきましたが……」

 

 そうして彼等は念の為に減ったHP・MPの回復や装備の調整などをしつつ、中で戦っているであろう立花翔の細かく増減しているHPゲージを見ていたのだが……突如、そのHPが()()()()()()()()()

 

「翔ッ⁉︎」

「……カケやん、あかんかったかー」

 

 唐突なクランメンバーのデスペナルティに驚く健太と言葉とは裏腹に厳しい雰囲気で目を細める月夜の前で、主人を失った【コロッセウム】が光の塵となって消えていき……完全に消え去った跡には人型の魔蟲──【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】が()()()()()()()()()()()()()立っていた。

 ……その【ラーゼクター】が“武器”持っている事、そして状態異常が完全に治っているのを《看破》した月夜は、事前に聞いていた翔が【コロッセウム】でデバフを掛ける要素を照らし合わせて一つの結論に至った。

 

「あの両手の武器はカケやんが持ってたんと違うな。それに<エンブリオ>以外のスキルは制限されとった筈やし……アイツ、ひょっとして()()()()()使()()()んちゃうか?」

『…………』

 

 その月夜の言葉に答えるように【ラーゼクター】は両手の武器を()()()()()()()()()()()()()()()に仕舞う事で消し去ってみせた……そう、彼はこれまで狩って来た人間が使っていた中で容量が大きく頑丈で小さいアイテムボックスを回収し、外からは分からない様に《混蟲代百化》を使って外殻の内側に身に付けていたのだ。

 そしてそのアイテムボックスにこれまた狩った人間から回収した中で使えそうなアイテムを仕舞ってあり、その中には先程装備していた一流のティアンが使う様な高性能装備や状態異常を回復させるアイテムも入っていた。

 ……つまり【コロッセウム】内でスキルを封じられた【ラーゼクター】は即座にアイテムボックスに入っていた【快癒万能薬(エリクシル)】を使用して自身の状態異常を治し、更に《瞬間装備》で武器を取り出して翔を始末したという訳である。

 

『…………』

「……仕掛けてこおへんな」

『こっちの様子を見ているみたいだが……』

『狙っていた【ヒートライザ】が先に倒されたからガッカリしてるのかな?』

 

 だが、直ぐにでも戦闘が始まると思っていた彼等の考えに反して、武器を仕舞ったその場を動かずに警戒しながら【ラーゼクター】は辺りの様子を確認していた……実はミカの意見は結構惜しい所を突いており、今の【ラーゼクター】は狩る予定だった【ヒートライザ】を先に狩られた事、そして<UBM>を倒せるだけの戦力を持つ人間と戦うリスクを考えて行動が慎重になっているのだ。

 ……加えて【ラーゼクター】はこれまでに何度か<マスター>を倒した事があり、その際に『痣持ちの人間は強さの割に倒した時の経験値が少ないから割に合わない』と思ったので、態々ここで目の前の人間を倒しても大したメリットは無いとも思っていたので、彼の内心は『撤退』に傾き始めていた。

 

「ウチはMP回復させたからまだ戦えるけど、クマやんは?」

『……主戦力の第一と第四が壊されたから戦力はかなり落ちてるな。後は肉弾戦ぐらいか』

「私も必殺スキル使ったし、おクスリのデメリットが……」

「まだ薬は残っていますが、肝心の【快癒万能薬】が後一つしかありません」

『【ギガース】は少し溶けてるけど十分戦えるかな』

『…………』

 

 ……だが、そんな事までは分からない彼等は現在の状況を確認しつつ戦闘態勢のまま様子を見ており、それを見て逃走時に攻撃される可能性を考えて【ラーゼクター】の方も彼等から目を離せずに戦闘態勢のまま警戒を続けていた……そんなお互いに微妙に噛み合わない状態で、彼等は不気味な沈黙と共に膠着状態のまま睨み合いを続けるのだった。




あとがき・各種設定解説

クマニーサン:囮は当然バルドルが行く(笑)
・尚、このプランD(デコイ)でバルドルを使い捨てたので、戦車形態が治り次第に原作より早く轢かれた模様。

【跳躍兎殺 ラビフッド】:着ぐるみコレクションの一つ
・大体身長1メートルぐらいの二足歩行の兎で、超音速で跳躍しながら手に持った斧や蹴りで戦う<UBM>だった。
・その上でAGI分だけ相手の防御力を減らす《ヴォーパル・ペネトレイション》や、急所に直接攻撃を当てた場合に攻撃力三倍・防御スキル無効となる《ヴォーパル・ストライク》を使った一撃必殺を得意とした。
・だが、攻撃と速度に極振りしており防御・HPは致命的に低かったのでクマニーサンの先読みからのカウンターで倒された。
・特典武具の【らびふっと】は十分な攻撃力を持つクマニーサンにアジャストした結果、攻撃系スキルはオミットされAGIに対する固定値での装備補正と跳躍・気配遮断・聴覚による探知に特化したスキル構成になっている。

日輪殲洸(カルナ)》:【日天鎧皮 カルナ】の必殺スキル
・光熱の発射点は皮膚である【カルナ】の任意の地点から選択可能でクールタイムは24時間。
・デメリットとして発動後には十分間《日天吸蓄》の『MP・SPの代わりに蓄積エネルギーを使う』能力が使用不可能になる(光熱吸収の方は使用可能)

【熱態己竜 ヒートライザ】:逸話級の中では強い方
・クマニーサンでも倒しきれないぐらいに強かったが狂化によって判断力が落ちた事と、相手に致命的なメタ効果持ちの葵がいた事が敗因となった。
・特典武具の【熱竜冠 ヒートライザ】は額部分に竜の飾りが付いたサークレット型の頭装備で一応の防御力があるが、MPを消費して自身に高熱を纏いその間に受ける病毒系状態異常を熱消毒でレジストする《熱体圏》と、竜の飾り部分から熱線を放つ《ヒートブラスト・コンバージェンス》の装備スキル特化型。
・どちらも威力重視で制御力が低くスキルを使う度に自分も焼く仕様だが、葵にとってはスキル用のMPを自動で貯めてくれるので、完全にメリットにしかならないアジャストになっている。

立花翔:戦闘シーンはカットされた
・一応、状態異常を治しステータスで上回る【ラーゼクター】と、相手が武器の扱いに慣れていなかったとはいえかなり善戦してはいたが最後には首を落とされた事による傷痍系状態異常で倒された。

【ラーゼクター】:正直さっさと逃げたい
・アイテムボックス破壊時の特性も把握しているので、万が一壊れた場合に備えて覆っている外殻は即座にパージしてボックスを外に出せる仕様にしている。
・尚、実はこっそり熱耐性スキル持ちのアクセサリーを装備しており、全力で戦うなら山賊のアジトなどで手に入れた【救命のブローチ】とかの便利アイテムを装備し出す模様。


読了ありがとうございました。
今回の感想編かっぽーも情報量が多かった。本当にデンドロには魅力的な設定が多過ぎて困る。


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難易度が九である本当の理由

前回のあらすじ:妹「よしっ、【ヒートライザ】撃破!」ラーゼクター「ドーモ、コンニチハ、ラーゼクターデス」妹「アイエエエエエエ⁉︎ <UBM>ナンデ⁉︎」


 □<クルエラ山岳地帯> 【重戦士(ヘビーファイター)】ミカ・ウィステリア

 

 どうにか<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【熱態己竜 ヒートライザ】を倒した私達だったが、パーティーメンバーの一人である立花翔さんが倒された事で彼の<エンブリオ>で足止めしていたもう一体の<UBM>【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】が解放されてしまったのだ。

 

『…………』

「「「…………」」」

 

 そして現在、その【ラーゼクター】と私達はお互いに戦闘態勢を取りながらも何もせずに只睨み合っていた……こっちは【ヒートライザ】との戦いでかなり消耗してるから、このまま【ラーゼクター】との戦いになったらキツイってもんじゃ無いし。

 ……加えて今仕掛けたら詰むって私の“直感”が言っている上、目の前の【ラーゼクター】がまったく隙を見せないからシュウさんや月夜さんも手が出せないんだよね。

 

(さて、真面目にどうしよか? このまま睨み合っても拉致があかんやろ)

(俺の見立てだと女狐の徐算があれば俺とミカちゃんなら接近戦で抑えられるだろうが……決め手に欠けるな)

(勘だけど今の戦力じゃアイツは倒し切れないと思うよ。どっか行ってくれないかな?)

(……あ、やばい、そろそろドーピングの反動が……)

(抗ドーピング薬はあるが……)

 

 そんな感じで私達は【ラーゼクター】の様子を見つつ小声で話し合っていたのだが……突然、私の“直感”が『何か別の脅威が迫って来る』事を示した。

 ……直後、明後日の方角から何やら“多数の足音”が聞こえてきたので、私達と【ラーゼクター】はそちらに目を向け……。

 

『……アレは……』

「えぇ……なんか来るんやけど……」

『どうやらここからが()()みたいだね』

『……KIE……』

 

 ……そうして、そちらから近づいて来る“モノ達”を見た私達と【ラーゼクター】は思わず呻きながらも、ここで硬直した状況が動くと判断していつでも戦闘に入れる様に身構えた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ■<クルエラ山岳地帯>廃砦

 

「おっ、お頭ぁ⁉︎ 大変です!!!」

「……何だ、騒々しい」

「まあ一旦落ち着きけ。何があったのかゆっくり話しな」

 

 アルター王国とカルディナの国境地帯にある<クルエラ山岳地帯>にある廃砦、そこを根城にしている<スミス山賊団>の首魁【大盗賊(グレイト・バンディット)】ジョン・スミス(仮名)とその相方(共犯者)である【大戦士(グレイト・ファイター)】のダリー・スミス(仮名)は、慌てた様子でいきなり自室に入って来た配下の一人に辟易しながらも何があったのかを問いただした。

 

「へ、へぇ……お頭達に言われて辺りの監視を強化していたんですが、そしたら【斥候(スカウト)】のヤツが山の中程ぐらいで<UBM>を見たって……」

「詳しく話せ」

 

 その山賊の口から<UBM>という言葉が出た瞬間、ジョンとダリーの雰囲気が鋭いものへと変わった……彼等もこの世界のティアンとしてはレベルを500でカンストしている幾多の戦いを潜り抜けた強者であり、それ故に<UBM>の恐ろしさをよく理解しているのだ。

 ……そして山賊の一人は<UBM>の名前が【熱態己竜 ヒートライザ】である事、そいつがこの山に入って来た《鑑定眼》が効かない機械的な馬車を引いた多脚戦車と交戦状態に入った事、そして直ぐにどこかに逃げていった戦車を追って【ヒートライザ】もまた何処かに行ってしまった事を伝えた。

 

「……機械的な戦車か。こんな所に居るって事はドライフ製でも無さそうだし、鑑定が効かなかった事を考えると<マスター>の<エンブリオ>の可能性が高いか」

「そ、それでお頭! 俺達はどうすれば……」

「落ち着け、まだその<UBM>がこっちに来ると決まった訳じゃない(ティアンは経験値が高いからそうなる可能性は高いだろうが)……とにかく周囲の監視を強化して、万が一<UBM>がこっちに来るようならば即座に撤収すればいい(そんな余裕が無い可能性も十分あるから俺達は先に撤収するが)だから落ち着いて行動しろ(そんで精々囮になれ)」

「は、はいっ⁉︎」

 

 そんな風に完全に配下を見捨てて逃げる気な本心を隠しながら、ジョンは配下の山賊に指示を出して部屋から追い出した……彼は自分が比較的才能に恵まれたお陰でカンストレベルの強者になれたが所詮はそこ止まりだと考えており、自分が<UBM>に勝てる程の規格外(超級職)には慣れないと自覚しているが故に引き際は弁えていたのだった。

 ちなみに見張りに出た山賊が【ヒートライザ】を見た時点でアジトに戻ったので彼等は新たに現れた【ラーゼクター】の存在は知らないが、仮に知ったとしても逃亡という選択は変わらなかっただろう。

 ……そうして配下が出て行った後、彼は気取られぬ様に相方のダリーと共に砦から逃げる準備をして行った。

 

「それで兄貴、持っていくものは?」

「<UBM>と遭遇する可能性がある以上、動きやすい様に身一つだ……と、言いたかったんだがそっちの小娘はどうするか……」

「んお?」

 

 そう言ってジョンは部屋の隅にある檻の中でさっきからずっとお菓子を貪っていた【リトル・ネイチャーエレメンタル】の少女の方を見た……ジョンが当初希少なモンスターで高く売れるだろう彼女だけは連れて逃げようと思っていたが、それと同時に近くに<UBM>がいる以上は万が一を考えると足手纏いを連れて行く事に不安を感じていてどうするか悩んでいたのだ。

 加えて彼女が先程言った『この山は荒れる』という言葉通りに<UBM>が現れたので、彼の中では『この少女は本当にただのレベル1モンスターなのか?』という疑問が浮かんでおり、それを確かめる為に改めて問い詰めるつもりで声を掛けたのである。

 ……だが、彼が問い詰めるよりも早く、食べながらも話を聞いていたエレメンタルの少女はともすると呑気な口調で()()()()()を口にした。

 

「……ああ、話は聞いておったぞ。中々物騒な事になって来た様じゃな……まさかワシが()()()()()()()()()<UBM>まで現れるとは」

「…………待て、お前は一体何の話をしているんだ?」

 

 ……その口から放たれた余りにも意外すぎるその言葉にジョンは思わず聞き返してしまったが、彼女は特に気にせずに『少々説明不足だったか』と考えて先程自分が感じ取った事について詳しく話し始めた。

 

「うむ、“今のワシ”の種族である【ネイチャーエレメンタル】は様々な属性の自然魔力の扱いに長けた種族でな、それ故に自然魔力を感知する能力も高いのだが……その感覚でどうもこの山の地脈に流れる自然魔力に()()()()()()()()()()()を感じ取ってな。殺された生物の怨念が地脈に染み込む事はままある事ではあるが、それにしては怨念が異常に広範囲から感知されておるでな。……普通ならばその手の怨念は地脈の自浄作用で時間をかければ浄化されるものなのだが、ここまで溜まっておるのは明らかに不自然じゃからな。故に山岳地帯の地脈に怨念中心のロクでもない干渉できる“何者か”の意思が関わっておる可能性が高いと思って忠告したんじゃよ」

「「…………」」

 

 彼女が語ったその内容を聞いたジョンとダリーは思わず黙り込んでしまった……それが明らかに『只の感覚だけでなく異常なまでの知識と経験に基づくモノ』だと理解してしまったが故に、目の前の少女が只の『レベル1エレメンタル』などでは無くもっと計り知れない()()()では無いのかと思い付いてしまったからだ。

 ……その解説が終わった後、部屋の中は張り詰めた様な沈黙に包まれたが、やがて堪り兼ねたジョンが口を開いた。

 

「……お前は一体何者なんだ?」

「んー、ワシか? ……まあ普通のエレメンタルと言うには違うじゃろうが、単にちょっと転せ『ギャアアアアアアアァァァァァァ!!!』……む、なんじゃ?」

 

 重苦しい雰囲気で放たれたジョンの質問に対して彼女は軽い口ぶりで答えようとしたのだが、その直前に砦の外から山賊達の悲鳴が聞こえてきた所為で話は中断されてしまった。

 ……そんな立て続けに起こった異常事態にとうとう冷静さを失い始めたジョンは、頭を書きながらも外の見張り役に持たせておいた通信用アイテムを手にとって連絡を取った。

 

「今度は一体なんだ⁉︎」

『お、お頭! いきなりこの砦に襲撃を掛けてきたヤツが! アレはまさかゴー……グワァァァァッ!!?』

「おいっ⁉︎ どうしたっ! おいっ!!! ……くそっ⁉︎ 切れたか。……一体この山で何が起きてるってんだ!!!」

 

 向こうの使用者がやられた所為で通話が切れてしまった通信用アイテムを握りしめながら、ジョンは思わず余りにも悪い条件になってしまっている現状への苛立ちを吐き出す様に叫んでしまった。

 ……彼等<スミス山賊団>の拠点を襲ったモノ、それは……。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<クルエラ山岳地帯>廃砦前 【黒土術師(ランドマンサー)】レント・ウィステリア

 

 いきなり襲い掛かって来た<UBM>【ヒートライザ】をミカとシュウさん、月夜さん達に任せて、俺達は山賊団のアジトである廃砦前にやって来ていた。

 ……まずは廃砦の偵察を行う為にデカくて目立つ【スレイプニル】と【チャリオッツ】を乗り手である佐藤結奈さんと佐藤利奈さんと一緒に離れた場所に待機させて、俺とミュウちゃんと月影さんで廃砦前までやって来ていた。

 

「……それでミュウちゃん、あの砦の内部に居る人間の位置はどうなってる?」

「んー……私に分かるのは位置情報と大雑把な強さだけなんですが。……あの砦内部には大体下級職一つ目の人間が多くいますね。それがあちこちに」

 

 そして今は砦から少し離れた茂みの中で、俺が就いているジョブの一つ【幻術師(イリュージョニスト)】で習得した《オプティカル・カモフラージュ(光学迷彩)》を使って姿を消しながら、ミュウちゃんの【ブラックォーツ】の《人間探知》で廃砦の内部を探っている所だ。

 ……ちなみに月影さんは単独で動く方は隠密能力が高いとの事なので、俺達よりも更にアジトに近づいての偵察を頼んでいる。

 

「……砦の内外にレベルが低めの連中が慌ただしく動いています、多分コイツらが山賊団でしょう。それと他と比べてレベルが高いのが二人程二階の一箇所に留まっていますね。……後、地下にレベルが低い人間が六人一箇所に留まって動いてないです」

「……地下の人間が誘拐された人達かな、事前情報と数が一致するし。……二階のヤツらは山賊団の首魁かな。三人いるって話だったが一人いないのか……」

 

 目を閉じて集中しながら内部を探ったミュウちゃんの報告に対して答えつつ、俺はどう人質を救出するかを考えて行く……と、その時に偵察に行っていた月影さんから【テレパシーカフス】で連絡が入った。

 

『こちら月影です。……少し山賊達の話を《盗み聞き》したんですが、どうも【ヒートライザ】と私達の戦いの一部が目撃された様で【スレイプニル】と【チャリオッツ】の存在にも気づかれている様です。今も<UBM>を警戒して見張りを強化しているみたいですね』

「ありがとうございます、月影さん。……さてどうするか」

 

 見張りが強化されているとなると潜入は難しいし、その上で【スレイプニル】と【チャリオッツ】の事も気付かれているとなると……とりあえず【テレパシーカフス】を結奈さんと利奈さんに繋げて現在の状況を知らせてから話し合うか。

 

「…………と言うのが現在の状況ですね」

『うえー、難易度爆上がりじゃん』

『難易度:九のクエストだけあって面倒な状況ですね』

「潜入して人質だけ連れ出して逃げると言うのは……」

『私とレントさんなら潜入する“だけ”なら出来るかも知れませんが、中に居る人質を山賊達に気付かれずに連れ出すのは厳しいでしょうね』

 

 結局の問題は月影さんが言う通り人質を連れ出すって所なんだよな。今回のクエストの目的はそこな訳だし……これは多少荒っぽく行くしかないか。

 

「やっぱり囮役が派手に暴れて山賊の注意を引き付けている隙に、やや強引にでも人質を連れ出すしかないかな。……ちょっと戦力が足りないのが不安だが」

『山賊達は<UBM>の登場で浮き足立っていますから案外上手く行くかも知れませんが……誰が囮役になります?』

「囮役は当然俺が行く……と言うか、人質までの案内と潜入役にミュウちゃんと月影さんは必要だし、結奈さんと利奈さんは必要の回収をしてもらわないといけないしな。ヴォルトと一緒なら俺だけでもまあ何とかなるだろう」

 

 基本方針としては俺とヴォルトが派手に暴れると同時にミュウちゃん月影さんが潜入、それと共に結奈さんと利奈さんにもこっちに来てもらって潜入した二人が人質を連れ出した所で回収、そのまま逃亡……って感じで行ければ理想なんだが。

 ……正直、自分で考えておいて大分雑な作戦ではあるが、何でも月影さんの<エンブリオ>には影の中に他者を入れるスキルがあるらしいので、山賊の注意を引き付けさえすれば人質を逃がす事は可能だろうって事でこういう作戦に決まった。

 

「……よし、じゃあやりましょうか。この作戦は連中が何かする前に人質を逃がせれば勝ちなのでスピード重視でいきましょう」

『そうですね、では私とミュウさんが合流次第救出に……ん? ……レントさん、砦の正門前の道の先から“何か”が来ています』

 

 そうして作戦を実行に移そうとしたその時、通信を繋いでいた月影さんがそんな事を言って来たので俺とミュウちゃんが砦前の道の方を見ると、そこには()()()()()()()()()()()()()()()()が整然と整列しながら真っ直ぐに砦に向かって来ていたのだ。

 

『『『『『『………………』』』』』』

「……アレは人間……ではなさそうだな」

「はい、動き方が人間……いえ、生物のモノでは無いのです」

『《遠視》を使った所、頭上に名前表記があったのでモンスターの様です。……【クルエラソルジャー・ゴーレム】と』

 

 そう言われて俺も《遠視》を使った所、そいつらは金属製の鎧や武器を身につけている土で出来たゴーレムである事が見て取れた……また、そのゴーレム達はいくつかの種類がある様で、月影さんの言う槍を持って鎧を身に付けた【クルエラソルジャー・ゴーレム】の他にもメイスを持った【クルエラブリガンド・ゴーレム】や短剣を持った【クルエラスカウト・ゴーレム】などが確認出来た。

 ……そんなゴーレムが三百人も隊列を組みながら無言で進軍して来る光景は異様な迫力を醸し出しており、見張っていた山賊達すら一瞬呆気に取られる程だったが、流石にいつまでも惚ける事は無く山賊達はすぐに各々が迎撃態勢を取った。

 

「な、なんだぁ⁉︎ アイツら!」

「大量のゴーレムだ! とにかく迎え撃つぞ!」

「お、お頭達にも連絡を……!」

『『『……《Stone bullet》』』』

 

 だが、それよりも早くゴーレムの後方にいた【クルエラメイジ・ゴーレム】が石を発射する地属性の下位魔法《ストーン・バレット》によって山賊達を先制攻撃したのだ。

 ……下位魔法とはいえ三十体近いゴーレムから一斉に発射された大量の石飛礫は下級職の山賊達にダメージを与えるには充分な威力を持っており、それによって動きの鈍った山賊達に武器を持ったゴーレムが次々と襲い掛かっていった。

 

『…………』

「なっ⁉︎ コイツ……ガァァ!?」

『…………』

「このっ……喰らえ! コイツッ! ……ゴフッ⁉︎」

『…………』

「いきなりこの砦に襲撃を掛けてきたヤツが! アレはまさかゴー……グワァァァァッ!!?」

 

 そのゴーレム達は一体一体の平均ステータスは下級職二つか三つ程度のティアンレベルで山賊とそこまで変わらないレベルであったが、山賊の数は精々五十人程しか居ないのに対してゴーレムは三百体も居たため文字通りの“多勢に無勢”と言った結果となり次々と山賊は始末されていった。

 ……そんな酷い光景に目を奪われながら【クルエラ】の名を持つあのゴーレム達が一体何なのかを考えていた俺だったが、その戦っているゴーレムの一部が砦の中に入って行くのを見て即座に【テレパシーカフス】を起動して全員に連絡を取った。

 

「作戦変更だ、現在此処にいる全員で砦に突っ込むぞ。……あのゴーレム達人間を積極的に殺してやがるから中に居る人質達も危ないから、その前に全員救出する。どうせこんな騒ぎになった以上は連中にこっちを気に掛ける余裕は無いしな」

『成る程、では私は先に砦内部に潜入します。確か地下でしたね』

「お願いします月影さん。……結奈さんと利奈さんも来てくれ。そして退路の確保の為に可能な限り外のゴーレムを倒してほしい」

『分かりました』

『りょうかーい! ……って、ただの山賊討伐なのにどうしてこんな事に……』

 

 多分、難易度:九のクエストだからだろうな……そして俺は光学迷彩のまま戦闘態勢を整えた上でミュウちゃんと一緒に砦への潜入を試みる事にした。

 

「……と言っても、この位置からだと戦闘を回避するのは難しそうですが。ゴーレムに光学迷彩がどこまで有効かですかね」

「一般的なゴーレムはコスト面の問題から基本的に再現しやすい視覚か聴覚で情報を取得している筈だが……どう見ても、アレらが一般的なゴーレムには思えないからな。最悪戦闘も覚悟で進もうか」

「どうせ退却の為にはある程度数を減らさねばなりませんしね」

 

 ……そうして俺とミュウちゃんは気配を消しつつ足音を立てない様に、だが可能な限り急いで未だに山賊とゴーレムの死闘が行われている砦まで向かっていったのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:難易度が九と言ってもトラブル起きすぎだろ
・そう思いつつもも妹の“直感”が働いている以上はロクでも無い事が起きるだろうと覚悟はしていたので、すぐさま最優先事項である人質の救出に動く事が出来た。
・ちなみに目の前でティアンの山賊が虐殺されていっているが『まあ自業自得だろ。むしろ妹達が手を下す事が無くて良かった』とドライに考えている。

末妹:索敵要員(重要)
・【ブラックォーツ】の《人間探知》は詳しい情報が分からない代わりに位置情報はかなり正確に分かる。
・目の前の虐殺に関しては不快には思うものの、彼女は『戦闘の才能』によって戦いに不都合な精神的影響を受けづらいので冷静に『助けるのは無理』と受け止めている。

《オプティカル・カモフラージュ》:【幻術師】のスキル
・自身及び指定した対象の姿を光学的に不可視にするスキルで、乗り物系の超級エンブリオならオマケみたいに類似スキルを覚えたりする。

《盗み聞き》:【盗賊】【暗殺者】などで覚えるスキル
・自分の存在が相手に気付かれていない状態でのみ、効果範囲内の指定した相手が発する音を聞き取る事が出来るアクティブスキル。

ジョン・スミス:ティアンの犯罪者としては非常に優秀
・……なのだが、今の魔境と化した<クルエラ山岳地帯>の状況では流石に普段の冷静さを失いかけている。

【リトル・ネイチャーエレメンタル】:知識量がおかしい
・【ネイチャーエレメンタル】は自然魔力の操作に長けたエレメンタルの中でも、天・地・海の三属性……自然(ネイチャー)全てに干渉出来る種族。
・その特性上、長年生きてきて自然魔力への干渉技術を磨いてきたエレメンタルが進化する場合が多い希少種である。

【クルエラ】のゴーレム:いつから難易度が九の理由が二体の<UBM>だと錯覚していた?
・原作において味方が『下級職一職目のクマニーサンとフィガロ、後土竜人』で敵が『<UBM>二体』かつクエスト達成条件がその撃破で援軍のアテもないという条件での難易度が“八”だったので、それより上の“九”ならただ<UBM>二体だけじゃ足りないよね!
・個々の戦闘能力は低いがゴーレムとは思えないぐらいに組織的に動く事が出来る事や、名前に【クルエラ】が付いている理由とかは次回。


読了ありがとうございました。
難易度:九の本番はこれからなのさ……でも、<クルエラ山岳地帯>に居るヤベーやつらは別に人質を優先して狙うなんて事はないので救出自体は上手くやれば出来ない事も無い。


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エレメンタルの少女・その真価

前回のあらすじ:【クルエラ】のゴーレム達『難易度:九の本番はここからだ…』


 ■<クルエラ山岳地帯>廃砦

 

「クソッ⁉︎ ゴーレムだと! 一体どうなっている!!!」

 

 ジョン・スミスは見張り役からの連絡が途切れた後、即座にジョブスキル《遠視》と《透視》を組み合わせて外の様子を確認し……現在この砦に謎のゴーレム軍団が現れて次々と山賊を虐殺している事を知って、頭を搔きむしりながら立て続けに訳の分からない事が起きる現状の意味不明さに思わず苛立ちを露わにしながら叫んでしまった。

 

「兄貴! 落ち着いてくだせぇ!」

「そうじゃぞ、冷静にならねば拾える命も拾えなくなろう」

「……あ、ああ、そうだな。済まん。……後そこのエレメンタル、俺が頭を痛める原因の一つは貴様だからな」

 

 だが、動揺しているジョンを見て逆に冷静になれていた側近のダリー・スミスと、この状況になっても檻の中で残りのお菓子を食べている【リトル・ネイチャーエレメンタル】の言葉でジョンは冷静さを取り戻した……原因の一つである謎過ぎるエレメンタルにはしっかりと突っ込みを入れたが。

 ……そうして冷静さを取り戻した以上、歴戦のティアンであるジョンは即座に最適な行動を選択した。

 

「よし、じゃあダリー【常夜の外套】を出せ。こんな面倒ごとが起きている場所からはさっさとおさらばだ。隠し通路から外に出るぞ」

「へ、へぇ。……ところでそっちのエレメンタルは……」

「置いて行くに決まってるだろう、こんなあからさまに『何かある』と言っている様なエレメンタルなんぞ。……今の俺たちには女一人連れて行く余裕もないし、とにかくここから離れるのが第一だ」

「うむ、残念でも無く当然な正しい判断であるな」

 

 そう言いながらジョンは【常夜の外套】──装備者に短い間だけ強力な《光学迷彩》と《気配遮断》を齎す装備スキルを持った黒い外套で、これまで何度も彼等が逃亡できていた理由になる物──を装備して、この部屋に備え付けられていた隠し通路から早急に外に出ようとした。

 ……それを見て【リトル・ネイチャーエレメンタル】の少女は檻の中に放置されたままなのに平然としながら、むしろ二人の判断を賞賛するぐらいの謎の余裕を持っていたのだが……直後に彼女は目を細めながら彼等に忠告を放った。

 

「……む、その隠し扉の先から“何か”が来るぞ?」

「は? 確かこの隠し通路の先は外側からじゃなかなか見破られない様に……って⁉︎ 《瞬間装備》!」

『…………』

 

 そう彼女に言われて足を止めた思わずジョンだったが、直後に今から出ようとていた隠し通路から当たり前の様にゴーレム──両手に短剣を持った【クルエラデッドハンド・ゴーレム】が現れたのをを見て、咄嗟に足を止めながらも愛用の短剣を取り出して身構えた。

 ……次の瞬間、そのゴーレムは表で暴れている連中とは比べ物にならない速度でジョンまでの距離を詰めて、流暢な声で喋りながら両手の短剣に“【麻痺】の効果を宿して”斬りかかって来たのだ。

 

『《パラライズ・ファング》』

「コイツスキルをっ⁉︎ しかも早い……表の連中とは違う()()()のゴーレムか!」

 

 この【クルエラデッドハンド・ゴーレム】はその名に暗殺者系統上級職【兇手(デッドハンド)】を冠する通り、1000程度のSTR・END・3000程度のAGIと短剣系や気配操作系、そして暗殺系のいくつかのジョブスキルを与えられているのだ。

 だが、所詮はゴーレムであるので有するジョブスキルの数は必要最低限のものでしかなく、ステータスや技術においてもレベル500で高性能な装備を身につけて、そこに至るまで多くの実戦経験を積んで来たジョンには及ばないので左程時間も掛からずに敗北するだろう……この砦に潜入したゴーレムが()()()()()()()

 

「兄貴っ⁉︎ 隠し通路から追加のゴーレムが!!!」

『『『『…………』』』』

「チィ! 更に四体だと⁉︎」

 

 そのダリーの言葉を聞いたジョンが隠し通路の方を見ると、そこには更に四体の【クルエラデッドハンド・ゴーレム】の姿があった……ゴーレム軍団はこの砦を“奪還”する為にまず囮役のゴーレム部隊を正面から進軍させて山賊達の注意を引き、その間に破壊工作に長けた上級ゴーレム部隊を()()()()()()()()()()()隠し通路から潜入させる戦術を取っていたのだ。

 ……とは言え、それでもこの二人は高い実力を持ったティアンであり亜竜級ゴーレム五体を相手取っても尚互角に戦い続けていたが、そこまで広くない部屋で七人が入り乱れている事などあってどうしても長期戦になってしまっていた。

 

『《パラライズ・ファング》』

『《スリーピング・ファング》』

『《ポイズン・ファング》』

「クソッ⁉︎ 状態異常攻撃ばかり……部屋が狭いせいで躱さずに受けざるを得ない!」

「一体一体はそこまででも無いですし、ゴーレムだから動きも単調ですから時間をかければ倒せるでしょうが……」

 

 ゴーレム達から次々と放たれる状態異常付きの短剣をジョンとダリーはそれぞれ短剣と片手剣で防ぎながらカウンターで徐々にダメージを与えていくが、相手はゴーレム故に多少の切り傷では動作に支障を起こさせる事は出来ず、狭い室内である事と状態異常にかかる事を警戒しなければならない為に下手にゴーレムを破壊出来るだけの大振りな攻撃が打てないので苦戦してしまっていた。

 ……それでもこの二人の技術と連携であれば時間を掛けて一体ずつゴーレムを始末して行く事も可能ではあるだろうが、その“時間”こそがこの場においては最大のネックとなっていたのである。

 

「……むむ! 正面から砦内部に侵入したゴーレム達もこっちに来てるな。多分そいつらが苦戦しているから援軍を呼んだ感じか? どうも地脈を通して何やら“リンク”している感じがするし」

「ハァ⁉︎ ……この状態で更に援軍は……!」

 

 そう、この二名が自分達だけでは倒せないと判断した【クルエラデッドハンド・ゴーレム】は他のゴーレム軍団を援軍に呼んだのである……上級ゴーレムには高い状況判断能力と近くの下級ゴーレムへと指示を出す機能を付加されているのだ。

 ……その事をエレメンタル少女から聞いたジョンは本人が暗殺者や盗賊系統のジョブを有しているが故に、この部屋に近づいて来るゴーレム達の気配を感じ取ってそれが本当であると判断してどうすべきか一瞬悩んでしまい、その所為で一体のゴーレムの攻撃を受け損ねて体勢を崩してしまった。

 

『《パラライズ・ファング》』

「チッ⁉︎ ミスった!」

「兄貴! フォローしやす! 《パワースラッシュ》!」

 

 幸い多少よろめいたぐらいだったので素早くダリーがその【クルエラデッドハンド・ゴーレム】を弾き飛ばして難を脱したのだったが、その間に援軍のゴーレム達が部屋の前までやって来てしまったのだ。

 

『『『『…………』』』』

「ギャー! 兄貴なんかワラワラ入ってきました!!!」

「だークソ! ホントクソ! ……ていうか部屋が狭すぎてまともに戦えなくな……ああもう! ゴーレムだから同士討ちとかを考えずにこっちを押し潰す気かよ!!!」

 

 そうしてゴーレム達は部屋の中に一気になだれ込んでジョンとダリーが動ける空間を大幅に制限し始めたのだ……援軍のゴーレムは一体一体であれば二人なら瞬殺出来る程度だがそこに居るだけで動きを制限される上、その雑魚ゴーレムを相手にしている隙に上級ゴーレム達が襲い掛かって来るので状況はかなり不利になってしまっていた。

 ……そうして文字通り物量に押し潰されそうになっていた二人を見ていた【リトル・ネイチャーエレメンタル】が、僅かに何かを考える素ぶりをした後におもむろに檻の中で立ち上がった。

 

「……まあ、拾ってくれた恩もあるしお菓子を奢ってくれたしな、ここはワシが何とかしてやろうぞ。……んあー」

「何やってんだ⁉︎ 菓子でも吐く気か⁉︎」

 

 そして彼女は何故か唐突に口を大きく開けて、その中に片手を突っ込んで何やらもごもごさせ始めたのだ……そんな傍目から見ればちょっと間抜けな行動にジョンから突っ込みが入るが、彼女はそれを無視して口の中から“虹色に輝く小さな宝石の様なナニカ”を取り出した。

 ……その虹色の石は見る者が見ればそこらの【ジェム】などとは比べ物にならない程の膨大な魔力(MP)を秘めている事が分かるぐらいの代物であり、現に地脈の自然魔力を深く繋がったゴーレム達の意識はその石に釘付けになってしまっていた。

 

『『『『…………⁉︎』』』』

「流石に体外に出せば気付くか。……まあよい、さてさて“以前のワシ”が作った物じゃが“今のワシ”にどこまで扱えるかな……では【魔神石】起動」

 

 彼女がそう呟いた瞬間、手に持った虹色の石が跡形も無く霧散して解放された膨大なMPが彼女の肉体に流れ込み、その最大MPを遥かに超過した()()()程のMPが供給された。

 ……これがかつての彼女が“この世界の理を解した極一部の【竜王】が使う《竜神装》と呼ばれるスキル”を参考に作り上げた『蓄積してあるMPを自身のMP最大値に関係なく付与させる』効果を持つ【魔神石】の効果である。

 

「……むう、蓄積したMPは百万ぐらいはあった筈なのじゃが、今のワシの“器”ではこの程度しか供給されんか。残りは霧散しとるし……まあ連中を倒す分なら支障は無いがの……《メタル・ディフォメーション》《マニュピレート・メタル》」

『『『『…………⁉︎』』』』

 

 そのまま彼女は自身を捉えていた檻に手を当てると、ほぼ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()地属性金属操作魔法である《メタル・ディフォメーション(金属変形)》《マニュピレート・メタル(金属操作)》と同じ術式を構築・実行して、触れた金属製の檻を無数の極細ワイヤー状に変形させてゴーレム達を拘束させる様に動かした。

 ……ゴーレム達も咄嗟にそれを避けようとしたが狭い室内だった事、そしてワイヤーの速度が()()()()()だった事もあってゴーレム全員がワイヤーに絡め取られて拘束されてしまった。

 

「なっ⁉︎ これは……!」

「金属操作魔法⁉︎ しかも以前見た【鋼姫(フルメタル・プリンセス)】のものと同等か、それ以上の……!」

「……ふむ、地脈とリンクするタイプのゴーレムか。……解析は終わったしもう良いじゃろ『ワイヤーカッター』」

 

 その余りにデタラメな光景を見て驚愕を露わにする二人を他所に、捕えたゴーレム達を観察していたエレメンタル少女はその凡その構成を読み取った後、ワイヤーを攻撃力を強化した上で引き絞ってゴーレム達をバラバラにしてしまった。

 ……その後、余りの急展開に部屋の中はしばらくの間だけ沈黙に包まれたが、エレメンタル少女が残った二名が自分を恐怖の表情で見ている事を気が付いて少し気まずそうに声を掛けた。

 

「……あー、ワシは別にお主らをどうこうするつもりは無いぞ……と言っても信じられんじゃろうから、さっさと逃げる事をオススメするぞ。今なら隠し通路の先にはゴーレムはおらん。それにこのゴーレム達はこの山の地脈とリンクして動いている様じゃから、この山から降りてしまえば追ってこれんじゃろう」

「……あ、あんたは一体……?」

「おいバカやめろ⁉︎ どう見ても面倒ごとだろうが! ……良いからさっさと逃げるんだよぉ!!!」

 

 エレメンタル少女の発言を聞いてダリーの方は思わずその素性を聞こうとしてしまったが、これ以上厄ネタに巻き込まれたくないジョンは余計な情報を得ない為にそれを止めて、急いで【常夜の外套】の《光学迷彩》と《気配遮断》を起動して隠し通路の奥へと走っていった。

 ……それを見たダリーも急いで隠し通路の奥へと続いていったのを見て、エレメンタル少女は『達者でなー』と呑気な声で見送りながらも現在の状況を確認していった。

 

「まあ、あの二人の実力なら山から降りて逃げるぐらいは出来るじゃろ。このゴーレムは数で押すタイプで質自体はそこまで高くない様じゃし。……おっと、付与したMPがもう霧散を始めとるな。やはり今の器では【魔神石】の力もまともに使いこなせんか。……さて、体内の【魔神石】は残り二つ、この山から脱出する為にどう使うべきか……そうじゃの」

 

 そう言いながらエレメンタル少女は残ったMPを使ってマニュアルで術式を構築しつつ、周囲の自然魔力を操作する《ネイチャー・コントロール》を使って霧散したMPを檻の残骸に込めていった……が、どうも不満があるのか彼女は眉を顰めている。

 

「……うむむ、自然魔力の操作が上手くいかん。今のワシってスキルレベル低いし、技術で補うにもこの器では限度がある。……だが、【魔神石】の魔力を十分に込めたこの元檻のワイヤーを使えば残りMPでもそれなりの物は作れるか。今のクソ弱いワシがこの山から脱出する為にも使えるモノは無駄なく有効に使わねば……《メタルゴーレム・クリエイション》」

 

 そして発動したのは金属製のゴーレムを作る魔法によって檻の残骸は更に形を変え、形が残っていた残骸を骨格としてワイヤーになった部分がそれに巻きついて肉付けする様な形で瞬時に人型へと整形されていった。

 ……その結果出来上がったのは片膝をついた身長2メートル強の()()()()()()()()()()()()()()金属性の人型ゴーレムであり、それを見たエレメンタル少女は満足気に頷きつつ再び口の中に手を入れて例の【魔神石】を一つ取り出した。

 

「むごむご、あー……さて、後はこの【魔神石】の一つを胸部内にセットして、ゴーレムの駆動に必要なMPをこっちから供給出来る様にラインを繋いで……今のワシではゴーレムを動かすのに必要なMPを供給するのも難しいしなぁ……後は胸部装甲を閉めてっと……よし出来た」

『……GOO』

 

 ……そうしてエレメンタル少女が作業を終えるとそのゴーレム──【スチールゴーレム】は低い唸り声を上げながら立ち上がった。

 

「……ふむ、まあ亜竜級のゴーレムといった所じゃな。今のワシの器と有り合わせの材料、そんで即興で作った事も考えればこんなもんじゃろ。……必要なのはティアンの幼子レベルのワシを運ぶ足じゃしな」

『GOGOGO』

 

 そう言いながらエレメンタル少女は【スチールゴーレム】に指示を出して自身を肩に担がせた……ちなみに【魔神石】に込められた魔力をフルに使えば純竜級ゴーレムにする事も出来たが、素材の質が低すぎた事や現在の彼女のステータスの関係で魔力のロスが酷いので、長時間の稼働を重視して【魔神石】から僅かづつ魔力を引き出してゴーレム維持に使う仕様にしているのだ。

 それに万が一の時には【魔神石】を取り出して通常の用途で使う事も出来るので、現在の異常な<クルエラ山岳地帯>から脱出するにはこの選択が一番だろうとエレメンタル少女は考えつつ、ゴーレムに乗って廃砦から脱出しようとして……ふと、この部屋に近づいて来る()()()()()()()()()()に気が付いた。

 

(……む、誰かがこっちに近づいて来るな。魔力波長から山賊や下にいるらしい人質とかでは無さそうだが……ふむ、対象を人間範疇生物・非人間範疇生物に限定して砦周辺を索敵)

 

 そして彼女は少し考えた後、残された僅かなMPで砦周辺の生物(死体含む)の位置情報と大雑把な強さを計り取る魔力波を発生させた……その結果として近付いて来るのが“非常に高レベルな人間である”事、そして地下付近にも高レベルな人間二人が外に脱出しようとしている事に気が付いた。

 

(レベルから考えてもやはり山賊の生き残りと言う訳でも無いか……態々この砦に潜入してから脱出しようとしている時点で、おそらく人質の奪還に来たか、火事場泥棒で金目の物を盗みに来た人間達か? ……人質の死体を感知出来なかった事を考えると【ジュエル】か何かに仕舞って外に出そうとしているのか……態々このレベルの人間が火事場泥棒する必要は薄いし悪意とかは感じぬから奪還目的っぽいの)

 

 ……そこまで考えた彼女は、おもむろに【スチールゴーレム】へと指示を出して『非常に高レベルな人間』が近付いて来る廊下側へと進ませたのだ。

 

「……む? ああ《光学迷彩》で姿を消しておったか」

「ッ⁉︎ 《喚起(コール)》!」

 

 そうして彼女は当たり前の様に《オプティック・ハイド》と《気配操作》を使っていた非常に高レベルの人間──人質を救出し終わった後、ゴーレム達が向かった先から()()()()()を感じ取ったので警戒しながら様子を見に来たレント・ウィステリア──の方を向いて声を掛けた。

 ……声を掛けられたレントは即座に目の前の金属ゴーレムに乗った少女がこの砦を襲うゴーレム達とは比べ物にならないぐらいに()()()()()だと“直感”し、即座に光学迷彩を解除しながら【ライトニング・デミドラグホース】のヴォルトを呼び出して全力での戦闘態勢に移行した。

 

「……ほう、なんじゃテイマーじゃったか」

『……主人、私のスキルだと彼女のステータスは低レベルのエレメンタルでしか無いと出ていますが……』

「そんな低レベルエレメンタルが亜竜級上位のステータスを持ったゴーレムを従えてる時点でどう考えても厄ネタだろう。……ゴーレムって所から見てこの騒ぎの元凶かもしれん、気を付けろ」

 

 ……(ミカ)末妹(ミュウ)程では無くても“現実での経験”からヤバい相手を見破る直感や観察力に優れているレントは、目の前の【リトル・ネイチャーエレメンタル】がスキルで読み取れる通りの相手では無い事を確信して全力で警戒していたのだ。

 ……その反応を見た彼女は『あ、流石にこの状況じゃ誤解されるのも止むなしか。失敗失敗』と思いつつも、これだけの実力と判断力を持っている相手なら“丁度いいか”と考えて弁明と説明を試みた。

 

「言っておくがこの砦を襲うゴーレム達とワシは関係無いぞ。この【スチールゴーレム】もさっき作った別物じゃし」

「……それじゃあ何でこの砦に居たのだ?」

「行き倒れている所をここの山賊に拾われて売りに出される所だったんじゃよ。……まあ、捉えていた山賊の頭目達は既に逃げ出しておるし、ワシもこの砦から脱出しようとしておった所じゃ」

「……《真偽判定》には反応が無いが……正直言って胡散臭すぎてこのスキルも信用出来ん」

「嘘や偽装はしておらんのじゃが……」

 

 ただ、状況と余りにも物凄く怪しいエレメンタル少女(ゴーレム付き)の相乗効果でどれだけ会話をしてもレントの警戒は解かれなかった……彼女としては『このレベルの相手に補足されたら今の自分ではあっさり殺されるだろうし、人質を助けに来た善性の人間なら説得すれば山を降りるのを手伝ってくれるかも。今の自分はかなり高値で売れるみたいだからそれを対価にすればいけるいける』と考えての行動だったのだが、レントの判断力と警戒心が高過ぎたせいでこんな状況になってしまっているのだ。

 ……そんな全力で警戒するレントを見て困り果てたエレメンタル少女だったが、唐突に『何か良いアイデアを思いついた』的なドヤ顔をしながら手をついてこう提案した。

 

「ならば御主がワシを《従属契約(テイム)》すれば良い。それがすんなりいけばワシに御主への拒絶の意思が無い事を証明出来るじゃろう。契約すれば行動もある程度縛れるしな。今ならゴーレムもついて来るぞ」

『GOO』

「……はぁ?」

 

 ……そんな余りにも怪しいエレメンタル少女から齎された提案を受けて、レントはどういう行動をとっていいのか一瞬迷ってしまい思わず惚けた声を出してしまったのだった。




あとがき・各種設定解説

【リトル・ネイチャーエレメンタル】:少女の皮を被った何か
・魔法技術に関しては『全属性をスキルによる補助無しで超級職の奥義相当で使用できる』レベルであるが、現在は素のMPが低いので単独では余り大した事は出来ない模様。
・なので、今の自分ではこの世界で生きていくのは難しいと考えており、それ故に生活基盤を手に入れる為に人間のテイムモンスターになる事に積極的。
・ただ“彼女自身で”他者と接触した経験が少ない事や“現在の器”に慣れていない事、そして何より価値観がかなり普通の生物とはズレているのでコミュ力はかなり微妙になっている。

【魔神石】:アイテムの分類としては【ジェム】の一種
・有り体に言うと『《竜神装》一歩手前ぐらいの技術で作られた超高性能【ジェム】』であり、魔石作成に於ける一つの極致とも言える代物。
・同格の存在が使う《竜神装》程の性能は無いが、“一歩手前”であるが故に汎用性や運用性は高く、MP付与の他にもゴーレムの動力炉として使ったり術式を設定する事で普通の使い捨て【ジェム】として運用したりも出来る。
・『かつての彼女』が作って『現在の彼女』に持たせておいた物だが、『現在の彼女』ではステータスが足りずに生産不可能なので扱いには慎重になっている。

ジョン&ダリー:この後無事に下山出来た模様
・これはゴーレム達は基本的に視覚と地脈を介しての気配感知で敵の位置を把握しているので、彼等が装備した【常夜の外套】の光学迷彩と気配遮断が有効に働いたのが原因。
・ジョンの口調が大分変わっているが、これは今まで山賊団の頭領をやる為に口調を作っていたからでこっちの方が素。

兄:なんかヤバい少女が現れて困惑中
・あらゆる分野において“ハイエンド一歩手前レベル”の高い才能を持っているので、それぞれは特化した妹達程では無くても『直感』や『観察力』もかなり高い。


読了ありがとうございました。
今回エレメンタル少女について色々語られましたが、その正体に関してはまだまだ秘密。だいたい本章のエピローグで明らかにするのでお楽しみに。


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エレメンタル少女との契約

前回のあらすじ:エレメンタル少女「お前がワシのマスターになるんじゃよ!」兄「えぇ……」


 □<クルエラ山岳地帯>廃砦 【黒土術師(ランドマンサー)】レント・ウィステリア

 

「ならば御主がワシを《従属契約(テイム)》すれば良い。それがすんなりいけばワシに御主への拒絶の意思が無い事を証明出来るじゃろう。契約すれば行動もある程度縛れるしな。今ならゴーレムもついて来るぞ」

『GOO』

「……はぁ?」

 

 いきなり山賊団の拠点に大量のゴーレム軍団が攻め込んで来たので、止む終えずミュウちゃんと月影さんと共に砦内に潜入して囚われている人質を救出しようとした俺は、現在何故か表のとは別種っぽいゴーレムの肩に乗ってドヤ顔をかましている【リトル・ネイチャーエレメンタル】の()()()()少女にテイムを迫られていた……いや本当にどうしてこうなった?

 ……ゴーレム襲撃のドサクサに紛れて地下に囚われていたケリーさん含む商隊員の人達を救出する事には成功し、彼らに事情説明した上で(《真偽判定》があるから楽だった)月影さんの<エンブリオ>である影の中に入って貰って後は脱出するだけだったのだが……。

 

(そしたら、いきなり二階から馬鹿げた出力の魔力が放たれたからな。……最悪ここに攻めて来たゴーレム軍団の親玉がいる可能性もあったから二人には救出した人達を連れて先に逃げて貰い、俺は偵察と最悪足止めも兼ねてここに来たんだが……)

「むむ、これでもワシは今のレベルこそ低いが将来性は多分凄いからお買い得じゃぞ。今なら三食昼寝とオヤツ付きでそこそこ働いてやろう!」

「図々しいヤツだなオイ」

 

 そんな事を言う目の前のエレメンタルに思わず突っ込んでしまったが、コイツからは『悪意』の類いは感じないんだよなぁ……それにミカが『大変だろう』といった場所に態々俺を向かわせたって事は、俺がここに居るのが“この状況を打破する重要な要素”になるって事だからな。

 ……ここでコイツをテイムするのが『ソレ』に当てはまるってのはありそうだが、まずは少し質問してみるか。余り時間は無いが……。

 

「ところで、さっき発せられた莫大な魔力はお前がやったモノか?」

「ん? ……ああアレか、そうじゃよ。裏手からゴーレムの精鋭別働隊がやって来ていたから倒したんじゃ。一体一体が亜竜級じゃったから切り札を使わざるを得なかったがの」

「切り札だと? ……そのゴーレムと言いお前のステータスでどうやってアレだけの魔力を……」

「それに関してはこの【魔神石】を使ったんじゃよ。これ一つに大体百万くらいの魔力が蓄積されているのでな。……これとゴーレムの動力炉に使ってるのを合わせて後二つしか無いがの」

「MP百万⁉︎」

 

 俺の質問に対してエレメンタル少女は何故か口の中から虹色の石を取り出してそう答えた……いやなんでそんなデタラメな代物を持ってるんだよ! どう考えても低レベルエレメンタルが持っていい物じゃ無いだろうが! 怪しさが一気に増したぞ。

 

「なんでそんな物を持ってるんだ……というか、本当にお前は一体何者なんだ」

「ん? ああ言っておらんかったな。……この【魔神石】は()()()()()が作って今のワシに持たせておいた物なんじゃよ。ワシは所謂『転生体』と言う奴じゃからな」

「転生体……? どっか異世界から転生したとかか?」

「異世界? それは“化身”の領分じゃと思うが。……ここで言う『転生体』と言うのは、一部の上位自然系エレメンタルが持つ『死んだ際に記憶や能力の一部を次に生まれるエレメンタルに引き継がせる』スキル《輪廻転生(リインカネーション)》などで前世の記憶やスキルを引き継いで居るモンスターの事じゃよ。めちゃくちゃ希少なんじゃ」

 

 成る程成る程、つまりこのエレメンタル少女は前世で上位エレメンタルだったから強力な魔力を操れた……などと言うとでも思ったか。その《輪廻転生》と言うスキルでは()()()()()()()()()()()()()()()()()だろうに。

 ……自分が転生体という発言に《真偽判定》は反応しなかったが、コイツは『自分の前世が高位エレメンタル』だとか『自分が《輪廻転生》で転生した』とは言ってないからな。

 

「……で? お前は《輪廻転生》とやらで転生したわけじゃ無いんだろう?」

「そうじゃよ。正確には《輪廻転生》とかを参考にした別の方法で転生したんじゃ。……前世のワシは自分が死んだ時の為にこのエレメンタルの肉体を用意しておってな、自身の死亡時に記憶と精神を写す様にしておったんでな。【魔神石】も万が一の為に入れておいただけじゃ」

 

 それでその辺りを問い質したらエレメンタル少女はあっさりとそれを認めて、詳しく事情を説明し出した……嘘をつかずに意図的に情報を伏せて相手をミスリードさせる騙しの手口だとも思ったが、その割にはやり方が雑だったし悪意も感じないから深読みし過ぎたか? 

 

「それで? 【魔神石】なんてヤバい代物を作れるんだったら前世では相当なモンスターだった筈だろうに、何故俺のテイムモンスターになりたがって居るんだ? それだけの実力なら自由に生きられそうなものだが」

「それはこの世界の事を甘く見過ぎじゃろう。今の貧弱な器では【魔神石】があっても何処かで死ぬ……と言うか、この山を無事に降りられるかどうかも怪しいしな。……ワシが()()()()()のが良い証拠じゃろ」

 

 ……まあ、このエレメンタル少女が転生してるって事は、相当なモンスターだったらしい“コイツの前世”も死んでしまったって事だからな。

 

「だから、今のワシが長く生きる為にも庇護者が欲しいんじゃよ。……この肉体も潜在能力高めに作ったからレベルを上げれば“ハイエンド”までは行くじゃろうし、これでも前世では長い時を生きてきて相応の経験と知識を蓄えて来たから色々と役に立つぞ。……例えば現在()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とかの」

「⁉︎ 何か知っているのか?」

「うむ、今から大体600年ぐらい前の所謂『三強時代』と呼ばれている時期、この<クルエラ山岳地帯>は<山岳国家クルエラ>と言う国だったんじゃ。確かそこでは豊富な地脈の魔力を活かした都市結界やゴーレム運用によって防衛を行なっていた筈じゃから、多分現存している施設かマジックアイテムか何かが暴走しているのでは無いかの。……あの時代の物品は『先々期文明』の次ぐらいで、『聖剣王の時代』と同じぐらいに暴走や<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>化が多いからな」

 

 エレメンタル少女の説明だと、ゴーレムの名前に【クルエラ】と付いている上に地脈を介して<クルエラ山岳地帯>全域でコントロールされている様なので、おそらく国家規模で作られたマジックアイテムか何かの仕業である可能性が高いらしい。

 ……また、ゴーレムの造形や命名が明らかに人の手による物なので、自然発生的なゴーレムでは無く人間か人間が作った物が関わっている可能性が高いだろうとの事。

 

「後、ゴーレムからは僅かだが生物への恨みの様な物を感じ取ったから、古戦場やらに溜まった怨念が原因の一端かもしれんな。……昔の器物が怨念でモンスター化するのは良くある事じゃし」

「ふむ、確かこの<クルエラ山岳地帯>は山賊の名所とか呼ばれていたな」

「ここの地脈には『淀み』の様な物を感じるし、そうして殺された者達の怨念が溜まっていったのかもしれん。昔も<山岳国家クルエラ>はあの時代の国家のお約束として【覇王】の配下と激しい戦いを繰り広げおったし……まあ、最終的には山頂にあった首都を、前線に出て来た【覇王】によって()()()()()()()()()()()()()んじゃけどな。今は谷間の通行路になっとる」

「何それ怖い」

 

 それはともかく、ここまで詳細に事情を話した以上は本当に自分を売り込みたいだけなんだろうな……ミカが俺をこっちにやった事を踏まえても、あのゴーレム達をどうにかするにはこの少女の力が必要なのだろう。

 ……と、そこまで考えていた時に【テレパシーカフス】にミュウちゃんからの連絡が入った。

 

『兄様、こちらは無事に脱出を完了。月影さん、やって来た結奈さんと利奈さんと共に辺りにいたゴーレム達を倒して今から脱出するところなのです。そちらはどうですか?』

「こっちはちょっと名状しがたい事になっているが、あのゴーレム達について知っていそうなヤツを見つけたからそっちに連れて行くかもしれん」

「お! テイムじゃな! テイムしてくれるんじゃな!!!」

 

 ……俺の会話を耳聡く聞き付けたエレメンタル少女が目を輝かせながら催促してくるがスルーしつつ、ミュウちゃんとの通話と続けていく。

 

「……とにかく、今から向かうから」

『分かりまし……待って下さい兄様! ……また新しいゴーレムが、今度はこの近くの地面から生成されているのです! 数は三百以上!!!』

「なんだと⁉︎」

「……ふむ、ゴーレムを地脈を介しての遠隔生成かの。やはり地脈の自然魔力を使っているか」

 

 そうしたらミュウちゃんが更なるゴーレムの増援が現れたと報告すると同時に、エレメンタル少女は()()()()()()ここからでは見えない外のゴーレムの発生を感知してみせた。

 ……やっぱり、この状況を優位に進めるにはこの少女? の力が必要になりそうだな。

 

「分かった、俺の方はヴォルトも居るし単騎でも脱出は出来るから直ぐにここを離脱してくれ「ああ、あのゴーレムから逃げるならさっさと山を降りる事をオススメするぞ。この山の地脈とリンクしている以上、山さえ降りれば追ってこない筈じゃ」……こっちの情報提供者曰くこの山岳地帯を降りればゴーレムは追ってこないらしいから。とにかくケリーさん達を無事にギデオンに送り届けるのが最優先だ」

『……分かりました、兄様の方もご武運を』

 

 その会話を最後に通信が切られた後、外の方から砲撃音と爆発音が聞こえ始めたので向こうの戦闘が始まったと察した俺はこちらの“案件”も手早く済ませる事にした。

 

「そんなにテイムして欲しいんならテイムするし三食昼寝お菓子付き生活が欲しいならくれてやるが、とにかく何か事件が起きた時にはしっかりと俺のテイムモンスターとして働いてもらうぞ。まずはこの山のゴーレムへの対処だ」

「無論だ我が主人よ。……御主の協力があれば地脈を介してゴーレムを操っている『何か』の位置を探れるだろうし、そいつを倒すなら残りの【魔神石】の使用も行うぞ」

「それならいい。……じゃあ《従属契約》だ」

 

 ……そうして俺は新たなテイムモンスターとして謎のエレメンタル少女(+彼女製のゴーレム)との契約を行い、クエスト達成の為にこの“魔の山”と化した<クルエラ山岳地帯>のゴーレム達へと挑む事になったのだった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ■<クルエラ山岳地帯> ??? 

 

 どこかの廃砦で【リトル・ネイチャーエレメンタル】の少女が言った通り、現在では<クルエラ山岳地帯>と呼ばれているこの場所には、かつて<山岳国家クルエラ>と呼ばれる小国があったのだ……そこは山岳地帯にある国故に生産力や規模こそ小さかったが西と東を結ぶ交易の中継点として栄えており、また南にあるレジェンダリアとの交易も行われていた。

 また、山の強力なモンスターに対抗する為に兵の質は高く、当時所属していた【山賊王(キング・オブ・ブリガンド)】を筆頭に山での戦闘に慣れており、更にレジェンダリアから輸入した魔法技術である地脈に流れる上質な自然魔力を活かした防衛装置──ゴーレムの運用に長けていたので小国ながらかなりの戦力を持っており、通商路の維持管理や地の利を活かした防衛戦術で総戦力で上回る他の小国を退けたりとそれなりに名を知られていた国だったなのだ。

 ……まあ、最終的には当時の西方小国のお約束として【覇王】に滅ぼされたのだが、それでもその配下(【覇王】的には手が空いてなかったから適当に向かわせただけ)を何度も退けるなど武勇に優れた国だったのである。

 

『……前線基地奪還の為に向かわせたゴーレムの八割は沈黙。追加戦力として【クルエラブリガンド・ゴーレム】【クルエラソルジャー・ゴーレム】【クルエラメイジ・ゴーレム】計三百体と【クルエラグレイトブリガンド・ゴーレム】二十体を作成。前線基地周囲の戦力への攻撃を開始』

 

 そして山賊達が根城にしていた廃砦も元々は<山岳国家クルエラ>が作った前線基地の一つであり、“【クルエラ】のゴーレム”を生み出し操っている『何者か』は既に廃墟になっているそこを奪還しようとしていたのだった。

 ……何故そんな事になったのかと言うと、これまたエレメンタル少女の推測通り『何者か』の正体はかつて<山岳国家クルエラ>に所属していた【像将軍(ゴーレム・ジェネラル)】を始めとしたゴーレム使い達が作り上げた『地脈を利用したゴーレム作成の魔道具』だったからである。

 

『……その近辺にいる<UBM>と人間のパーティー一団に向かわせたゴーレムも半数が撃破。追加で()()()()()()()()を作成して対応』

 

 その魔道具が作られたのは当時の【像将軍】が将軍系超級職に於ける共通の悩み──《軍団》スキルによって使役する配下の数を用意できない事を解決しようとした事が発端である。

 他のモンスターと比べれば資材があれば作成出来て、魔力を用いたインスタント召喚も可能な種別があるゴーレムは数が用意しやすい方ではあったのだがそれでも3000以上を用意するのは至難であり、《軍団》で使役できる数が上がる毎にどうしてもパーティー枠に大量の空きが出来てしまったのだ。

 ……そこで【像将軍】を始めとするゴーレム使い達は『地脈に流れる自然魔力を蓄積・使用してインスタントのゴーレムを作成・使役する魔道具』を開発したのだ。

 

『……第一、第四、第五前線拠点のロストを確認。各()()()のゴーレムによって周囲に存在する敵性生物の掃討を開始』

 

 その魔道具は国土に於ける地脈の魔力を運用する為に地中深くに埋められ首都に居る【像将軍】が操作する仕組みになっており、作成されるゴーレムのステータスは最大でも亜竜級下位程度だったが【像将軍】の配下になる事で《魔像強化》レベルEXが乗る仕組みになっていた。

 更に地脈を介する事で山岳地帯の任意の場所にゴーレムを遠隔生成する機能や【像将軍】の使役可能範囲を国土内限定で大幅に広げたり、更に地脈を用いた探知機能や作った【偵察隊(リコノイター)】のジョブスキルを応用したゴーレムと視覚を同調させる機能なども兼ね備えていたのだ。

 ……これにより山岳地帯内部限定だが使い捨ての偵察隊を幾らでも作成可能になったお陰で攻め込んでくる敵陣の調査がやりやすくなったり、敵軍の背後や側面からゴーレムを作成して不意打ちに向かわせると言った戦術が可能になったので、<山岳国家クルエラ>の防衛能力は大幅に上昇する事となった。

 

『……山岳中腹部に住んでいたゴブリンの群れの掃討を確認。引き続き戦力補充の追加ゴーレムを()()生成して次のモンスター群生地帯は移動』

 

 まあ、そんな風に山岳地帯の防衛とゲリラ戦に特化した<山岳国家クルエラ>でも、流石に山脈ごと斬り裂ける【覇王】相手にはどうしようもなくあっさりと滅ぼされたのだが、運が良かったのか地中深くに埋め込まれた『ゴーレム作成魔道具の本体』は首都が両断された後も無事だったのだ……最も首都が消滅した事で指示を出す者が居なくなったので“自動的に地脈の魔力を集める”以外の機能は停止し、その存在は国家機密として秘匿されていた為に存在を知る者も居なくなってしまったので長い間放置されていたのだが。

 ……ここで終わればただ無意味に地脈の自然魔力を集めるだけで終わったのだが、やっぱりエレメンタル少女の予想通り地脈に染み込んだ戦争で死んだ者達や<クルエラ山岳地帯>となった後に山賊に襲われて殺された者達の怨念を取り込んだせいで徐々にその在り方を『呪われた魔道具』として変質させて行ったのだった。

 

『……北部に於ける亜竜級地竜の群れとの戦闘でゴーレムが全滅。()()()()()()及び【クルエラソードマスター・ゴーレム】を三十体生成して対応』

 

 取り込んだ怨念が『殺された人間』のモノだった事、そして怨念によって元々魔道具に組み込まれていた『自国の人間には手を出さないセーフティ』と『敵対対象を倒し国家を守る為の戦術をインプットしたゴーレムの自動操作プログラム』が変質した事で、『<山岳国家クルエラ>を守る為、<クルエラ山岳地帯>に存在する国家に所属しない生物全ての殲滅』を行動基準とする呪われた魔道具へと生まれ変わってしまったのだ。

 ……そうして変質して僅かな自我を得掛けていた所に地脈を介して『国土内で二体の<UBM>の反応を検知』してしまった事によって、その魔道具は<山岳国家クルエラ>を守る為、そして“敵”を滅ぼす為に完全な非人間範疇生物(モンスター)として覚醒する。

 

『……現在稼働中のゴーレム()()()()()による国土内の生物の殲滅戦は順調に進行中』

 

 そして既に滅んだ国の産物であるが故にその在り方が唯一(ユニーク)であると世界(システム)に認められた魔道具は逸話級<UBM>【山核型骸 クルエラン・コア】となり、それによって得た《ゴーレム・クルエラアーミー・クリエイション》のスキルと6()0()0()()()()()()()()()()()()()を使って<クルエラ山岳地帯>に存在する敵性生物の殲滅を開始した。

 ……<クルエラ山岳地帯>で理不尽に殺された者達の怨念(願い)を受けた【クルエラン・コア】は、その魔道具としての在り方通りにその命令(怨念)を遂行して、この場所からあらゆる理不尽(生命)を排除する為に動き続けるのだった……。




読了ありがとうございました。

兄:新しいテイムモンスターをゲットした
・尚、控えめに言ってちょっとヤバいレベルの厄ネタテイムモンスターな模様。

【リトル・ネイチャーエレメンタル】:人間のお菓子は気に入ったらしい
・前世では“そういった物を食べる事は出来なかった”ので、今世の肉体に食事の機能をつけたのは正解だったと思ってる。
・ちなみに【クルエラン・コア】の正体をほぼ看破出来たのは『自然魔力の感知が非常に得意』だった事と、前世で『特殊な物品が長い年月を掛けて怨念に晒されて変質する所を数多見てきた』からでもある。

輪廻転生(リインカネーション)》:強くてニューゲームが出来るスキル
・……と言う訳では無く、このスキルを習得している自然系エレメンタルが死亡した際、その場の自然魔力に自身の記憶やスキルの情報を溶け込ませる感じのスキル。
・それによって以後その場で発生する自然系エレメンタルが低確率でその記憶やスキルを得て生まれてくる様になる効果であり、どちらかと言うと種族全体の質を上昇させるのが主な用途のスキルである。
・エレメンタル少女はこのスキルを始めとする記憶転写やら何やらのスキル群を参考にして、“前世の彼女”が作り上げた『完全に記憶と人格を転写する』スキルによって生み出された。

【山核型骸 クルエラン・コア】:デンドロお約束『暴走する昔のアイテム』
・ゴーレム5000体の生成・使役とか逸話級ランク詐欺に見えるかもしれないが、これは600年間蓄積した魔力を湯水の様に行使している所謂『決戦型』のスタイルだからで、このペースの全力戦闘を続けると一ヶ月程度で魔力切れになる。
・まあ、山岳地帯の状況次第でペース配分出来るだけの知性と判断力はあるし、元となる魔道具がレジェンダリア系の“意思があるエレメンタル系列”の技術で作られたので成長性もあるのだが。
・《ゴーレム・クルエラアーミー・クリエイション》は魔道具に登録されていた様々な種類のゴーレムを生成して、<クルエラ山岳地帯>内限定で最大5000体まで同時に使役出来るスキル。
・最大で亜竜級のゴーレムまで生成出来るが一度に使役出来る亜竜級ゴーレムの数には限度があるので、基本的に下級ゴーレムとの連携戦術で行動させている。
・更に山岳地帯の地脈から地上の様子を探る《レイライン・サーチ》や、山岳地帯の地脈を介してゴーレムの遠隔生成・感覚の同調・自然魔力の吸収を行う《レイライン・コネクト》などの魔道具だった時の機能も強化された上で健在。
・他には吸収した自然魔力をMPの最大値を超えて蓄積出来る《魔力超過蓄積》のスキルを持っているが、本体は只の魔道具のままなので動く事も出来ず直接戦闘能力が皆無なのが欠点。
・だが、そもそも本体は地中深くに埋まっているので手出しが難しく、既に<山岳国家クルエラ>が存在しない以上その場所を知る者はまずいない為に探す事自体も困難になっている。


読了ありがとうございました。
ちなみに【像将軍】はゴーレム使役に特化した超級職の中でも“数”に特化したヤツ。そしてエレメンタル少女の前世はまだ秘密。


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それぞれの脱出

前回のあらすじ:エレメンタル少女「契約早よ。ゴーレム連中の手の内は大体分かるし」兄「分かった分かった……厄ネタっぽいなぁ……」


 □<クルエラ山岳地帯> 【重戦士(ヘビーファイター)】ミカ・ウィステリア

 

 お互いにどう出ていいのか分からず睨み合いとなっていた私達と【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】だったが、その均衡は突如現れた乱入者達──大量のゴーレムの群れによって破られたのだった。

 

『『『『…………』』』』

『《テンペスト・ストライク》! 全く数が多いね!』

『撃っても殴っても終わらないウサ!』

 

 槍を構えて襲いかかる【クルエラソルジャー・ゴーレム】達を私が暴風を纏わせた【ギガース】によって吹き飛ばし、向こうではメイスで殴り掛かってくる【クルエラブリガンド・ゴーレム】をシュウさんがガトリングガンで蜂の巣にしながら、時折片手持ちにしたハンマーで接近して来た【クルエラスカウト・ゴーレム】をカウンターで殴り飛ばしていた。

 まあ、一体一体は雑魚だから倒すのには苦労しないんだけど、相手は数百体はいるから中々面倒なんだよね……私みたいにENDがある程度高ければ囲んで棒で叩かれても死にはしないんだけど、他の人達はジョブが魔法寄りだったりSTR極振りだから数の暴力はそれなりに有効な手段になってる。

 

「武具など前座……真の英雄は目で殺す。《ヒートブラスト・コンバージェンス》!」

「目って言うより額から出てへん? 遠目から見ればそんな風に見えるかもやけど……とりあえず【ラーゼクター】は逃げて行きよったし、《薄明》から通常の《月面除算結界》に変えとこか」

『分かったわ』

「《瞬時注射》……護衛はお任せを」

 

 向こうでは葵ちゃんが手に入れたばかりの【熱竜冠 ヒートライザ】から熱線を放って遠間から魔法攻撃をして来ていた【クルエラメイジ・ゴーレム】を焼き尽くし、月夜さんが健太さんに守られながら回復魔法とデバフ結界を駆使して味方を援護していく。

 ……ちなみに【ラーゼクター】は月夜さんの言った通り私達とゴーレム軍団と戦い始めたドサクサに紛れてさっさと逃げていった。ゴーレムはあっちにも向かったんだけど、ヤツは斬撃波を出すスキルを使って蹴散らした後こちらには目もくれずに。

 

『まあ、お陰でゴーレムに集中出来るんだけどね! もし同時戦闘してたら酷いことになってた!』

『それよりも更に追加のゴーレムが来るウサ!』

『『『『…………』』』』

 

 月夜さんの《月面除算結界》によって全ステータスがダダ下がりしているお陰でゴーレム達は瞬殺出来ており数に押し切られずに済んでいたのだが、倒しても倒しても次々と地面から追加のゴーレムが現れるのできりが無いんだよね。

 ……しかも、追加ゴーレムには【クルエラソードマスター・ゴーレム】とか【クルエラグレイトブリガンド・ゴーレム】などの亜竜級に届くものもあったのだ。

 

『《サンダー・スラッシュ》』

『《インパクト・ストライク》』

『げっ⁉︎ コイツらスキルまで使って来る! 《アームズブレイカー》!』

 

 加えて亜竜級ゴーレムは当たり前の様にそこそこ強力なスキルを使うので、こちらに与えるダメージが大きく集団で囲まれた時の脅威度が段違いに高いのだ。

 今のところは月夜さんのお陰で弱体化してるのもあって、私は“直感”で攻撃軌道を見切りカウンターで武器を砕くとかして対処出来ているが、それでもパーティー全体としてみると徐々にダメージが積み重なっているし。

 ……加えて<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>との連戦だったから徐々にMPやSPが底をつき始めていて、正直これ以上戦闘を続けるのはかなり不味い状況になってしまっていた。

 

「まあ、ウチがおれば雑魚はどれだけ集まっても大した脅威では無い……と言いたい所なんやけど、完全に向こうは消耗戦の構えやなぁ。弱体化しようが全方位から数で押し続ければって感じか?」

『どれだけ倒しても百体以上のゴーレムを次々と辺りの地面から生成されている上、場所を移動しようとしても移動先にゴーレムを生成されてるからどうも位置を捕捉されている様だし、完全にこっちを狙って来ているな』

『それにこっちからはゴーレムを作っている“何者か”が何処にいるのかさっぱり分からないからジリ貧だよね。山を降りるルートで移動してるけど逃げ切るのは難しいかな』

 

 とりあえずシュウさんや月夜さんと話し合って打開策を考えるものの、向こうがやってるのは単純にゴーレムを大量に作って嗾けるだけの『物量によるごり押し』なので対抗手段が思いつかないでいた。

 ……とは言え、私の“直感”だと『ここでもう少し待てば事態は好転する』感じもしてるからね。だから後少しだけ頑張ろうか。

 

「《インフェルノ・バーンナックル》! 《ヒートブラスト・コンバージェンス》! ……必殺スキル使った後で蓄積した熱量が少ないからあんまり派手な事は出来ないか」

『《インパクト・スマッシャー》! ……亜竜級のゴーレムは私が優先して倒しておくよ!』

『雑魚は任せるウサー!』

「《皆癒の霊薬》……HP回復はこっちで行います!」

「じゃあウチは結界に集中しよか。MPポーションMPポーションっと……」

『『『『…………』』』』

 

 それでも私達は各々の得意分野を活かした連携を駆使してどうにか持ち堪えていたのだが、どうも倒される端から補充されているのか、ゴーレムの数は一向に減る事が無く戦線は膠着状態に陥っていた……と思われたその時、後方から一発の火球が凄まじい速度で飛来して後方にいたゴーレム達に着弾して炸裂した。

 ……それによってゴーレム達の何割が吹き飛んだ所に、更に追加で氷属性の誘導弾を放ちながら見覚えのあるカーゴを引いた多脚戦車──山賊のアジトに向かっていた筈の【スレイプニル】と【チャリオッツ】が突っ込んで来た。

 

『ようし! 《火属性炸裂魔弾(フレイム・カノン)》命中! 続けて《氷属性誘導魔弾(ブリザード・ミサイル)》連続発射! 更に《魔弾出力増大》《雷属性照射魔弾(サンダー・メーザー)》掃射!!!』

『こっちも行きます! 《リパルジョンブラスト》発射!!!』

 

 そうして雨霰と多種多様な砲撃による圧倒的な火力でゴーレム達を吹き飛ばした【スレイプニル】と【チャリオッツ】は、そのまま進路上に残っていたゴーレムを亜音速で轢き潰しながらこちらに来た……そうして私達の側に停車すると【チャリオッツ】の後部からミュウちゃんと月影さんが降りて来たのだ。

 

「ミュウちゃん! 誘拐された人達は?」

「山賊に誘拐された人達の救出は完了しました……ですが、山賊達はゴーレムに襲われて壊滅。私達も急いで山を降りる所だったのです」

「ですが、その途中で月夜様達が交戦している場面に遭遇してこうして助けに来たという訳ですね」

『そもそも進路上にいたから突破しなきゃいけなかったし』

『それよりも早く乗ってください! ゴーレムが再生成され始めています! この【スレイプニル】の足なら奴らを振り切れますから!』

 

 とりあえず簡単に彼女達の事情を聞いた後、再生成が始まってこっちに向かって来たゴーレム達を各々の遠距離攻撃で牽制しながら結奈さんに言われた通り【チャリオッツ】へと騎乗していく。

 ……その中にはサリーちゃんから救出を頼まれていたケリー・メイティスさんを含む誘拐された商隊員達も居たので、私はクエストそのものは達成出来たのだと安堵のため息を吐いた。

 

『全員乗り込みましたね。では発進します……《ストーム・アクセラレイション》!』

「追ってくる連中には《風属性拡散魔弾(ウインド・バースト)》と《闇属性誘導魔弾(ダークネス・ミサイル)》を喰らえ!!!」

「ついでに《月面除算結界》を使ったままにしておこか。これで追いつけんくなるやろ」

 

 そうして全員が乗り込んだ所で結奈さんがスキルを使って【スレイプニル】を急加速させ、利奈さんが追いすがってくるゴーレム達を暴風で吹き飛ばし、暗黒の魔弾で粉砕しながら追撃を妨害していく。

 更に月夜さんの結果のお陰で近づくゴーレムはステータスが大幅に下がるので追い付く事が出来ず、前に立ちはだかるものも普通に轢殺出来るので私達はあっさりとゴーレム達の囲みを抜ける事に成功していた。

 

『じゃあこのまま逃げ切れればとりあえずクエストは完了かな? サリーちゃんには良い報告が出来そうで良かったよ』

「……あの、妹の事を知っているんですか?」

「ウチらはサリーちゃんの依頼であんたらの救出に来たからな。まあ無事で何よりや」

「それは……本当にありがとうございます。このお礼は必ず……」

 

 ……そんな感じでケリーさん達誘拐された人達と話せる程度には状況が落ち着いた所で、シュウさんが何かに気が付いた様に声を上げた。

 

『……そう言えばレントはどうしたんだ? 姿が見えないんだが』

「兄様なら山賊のアジトに残りました。……そこで凄まじい魔力を感じ取ったので様子を見に行ったら、あのゴーレム達について知っている情報提供者に遭遇したとか。援軍のゴーレムが来たから誘拐された人達の救出優先で自分は置いて先に逃げろ、この山から降りればゴーレムは追ってこないとも言ってたのです」

 

 ふーん、まあ私の“直感”的には今のところ上手くいってる感じがするし大丈夫でしょう……このクエストを受けた()()()()()である『遠い未来に訪れる脅威に対抗する為の“何か”を山賊のアジトに向かわせたお兄ちゃんに確保させる』事も無事に達成出来たっぽいしね。

 

『まあ、あのゴーレム達の対処はお兄ちゃんに任せておけば大丈夫な気がするし、私達はクエスト達成の為にケリーさん達を山から降ろしてギデオンに送る事に集中しようか』

「そうですね、兄様ならこの山で単独行動でも問題ないでしょう。何せ私や姉様とは()()()()()()()()が違いますしね。……それよりも今はこの山からの脱出を優先しましょう。家に帰るまでが遠足です」

「……まあ、身内である二人がそれで良いならええやろ」

 

 ……お兄ちゃんが単独で山に残ったと聞いても私とミュウちゃんが何でもない様に平然としていたので、他のメンバーや救出された人達もやや困惑しながらも、気をとりなおして完全な危険地帯と化した<クルエラ山岳地帯>を抜ける事に集中するのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<クルエラ山岳地帯>廃砦 【黒土術師(ランドマンサー)】レント・ウィステリア

 

「……よし、これで契約完了だ」

「うむ、今後ともよろしく頼むぞ主人よ」

 

 そんな感じで俺は山賊のアジトで出会ったエレメンタル謎少女をテイムした(させられたとも言う)のだが……正直言って物凄い厄ネタを背負い込んだ気がしなくも無い。

 

「まあ、それに関しては後で考えるとして……まずはこの砦から脱出せんとな。あのゴーレム達は光学迷彩と気配遮断は有効みたいだが」

「解析出来た範囲ではあのゴーレム供の感知機能は視覚メインで補助に聴覚、更に固有の探知スキルを付けられたものもおるな。……それとおそらくじゃがあのゴーレムを操っておる存在は地脈を介して生物の位置を探知しておる。地脈の自然魔力を読み取ったらその手の術の反応があったし」

 

 ……やっぱコイツヤベェ(震え声)……俺もこの世界の魔法技術にはそこまで詳しい訳じゃ無いんだが、それでもコイツの魔法技術が色々おかしいって事ぐらいは分かるぞ。

 

「それじゃあどうやって連中の目を誤魔化す? ミュウちゃん達が全速力で逃げていったお陰で今ゴーレム達の注意はあっちに向いているが、追いつけないと分かればこっちに来るぞ」

「基本は光学迷彩と消音でどうにかなるじゃろ。地脈からの生態探知に関してもワシならどうとでもなる、これでも自然魔力の扱いには長けておるしな。……ただ、今のワシの魔力じゃと“裏技”混みでもあまり多人数を誤魔化せんから、そっちのヴォルトとゴーレム君を一旦【ジュエル】に仕舞って……」

「……待って、この【ジュエル】一体だけしかモンスターを入れられないタイプなんだけど」

 

 正直テイムモンスターを増やす気は無かったからな、移動用のヴォルトだけ入れられれば良いってそう言うタイプの【ジュエル】にしたからなぁ。

 

「ふむ? ヴォルトに《魔物強化》が掛かっておったから【従魔師(テイマー)】だと思っとったんじゃが」

「【従魔師】のジョブも取ってはいるがヴォルトを強化するのと従属キャパシティを稼ぐ為に取っただけだから……」

「ああ、なるほど。その異常な高レベルは【勇者】と同じタイプか。……ま、そのぐらいならゴーレムを()()()()()()()()()()()じゃろ」

 

 そう言うとエレメンタル少女はおもむろにゴーレムの胸部に手を当てて、何やらぶつぶつと呟きながら俺には理解出来ないレベルで何かの魔法を使い始めた。

 ……そうして十秒ほど何かの作業をした後、エレメンタル少女はゴーレムの胸部を開いて中に入れてあった虹色の石(多分前に言っていた【魔神石】ってやつ)を取り出し、それと同時にゴーレムは膝をついて機能を停止した。

 

「これで【スチールゴーレムの素体】と【魔神石】の二つのアイテムになったからの。これならアイテムボックスに仕舞えるし、戦力が必要になったら素体に【魔神石】を入れれば直ぐにゴーレムとして使えると言う寸法よ」

「器用な事をするな」

「アイテムをゴーレムにする手法もあるからな。そのちょっとした応用よ」

 

 とりあえず俺は【スチールゴーレムの素体】と【魔神石】をアイテムボックスへと仕舞いヴォルトを【ジュエル】へと戻すと、さっさとこの砦から脱出する事にした……どうも表のゴーレムはミュウちゃん達を見失って、追跡を諦めてこっちに来ているみたいだからな。

 

「それで生態探知を妨害する手段があると言う話だったが」

「その前に手を出してくれ。……今のワシのMPでは少々術の維持には心許ないでな。【魔神石】は本命の為に温存しておきたい故、《従属契約》の繋がりを用いて主人殿のMPをワシが使える様にするパスを繋いでおきたいのじゃ」

「そんな事も出来るのか。……まあ良い、分かった」

 

 もういい加減このエレメンタル少女の出鱈目さには慣れたので、俺はさっさと済ませる為に手を差し出した……すると少女は俺の手を両手で取って目を瞑りながら、俺では理解出来ないレベルの術を行使していく、

 

「……さて、じゃあ《従属契約》を踏み台に《ライフリンク》と【精霊術師(エレメンタルマンサー)】の魔力供給系統のスキルを参考にして……いや、今後の事と長時間の使用に備えてこれはスキルとして習得しておいた方がいいか。MPを確保する手段はあった方が良い……よし、出来た《主従契約・魔力共有(サーヴァント・マジックリンク)》」

「む、これは……」

 

 ……エレメンタル少女がそのスキルの発動を宣言した途端に、俺と彼女の間に『何か』が繋がった様な感覚があった。

 

「魔力のパスが繋がった様じゃな。ちなみに接触状態じゃないと共有効率が大きく落ちるからこのままな。……それじゃあ地脈からの探知を誤魔化す為に『ジャミング・ライフサイン』……それと『オプティック・ハイド』と『サイレンス』もこっちで使っておこう。……よし、これで見つからないだろうから後はワシを運んでくれ。今のワシはティアンの子供にも負けるレベルの身体能力なのでな」

「実にトントン拍子に進むなぁ……まあ分かった」

 

 そうして俺はエレメンタル少女を小脇に抱えて廃砦から出る為に廊下を進んでいった……途中で砦に入って来たゴーレム部隊にも遭遇したのだが彼女が使った“隠密術式セット”の効果は絶大だった様で、ゴーレムの直ぐ横を通ろうが一切こっちに気づかれる事なく進む事が出来てしまった。

 

『『『『…………』』』』

「……本当に効果バツグンだな。全くこっちに気が付いてない」

「まあ、このゴーレム自体にそこまで強力な探知機構は組み込まれていない様だからの。おそらく地脈からの生態探知と視覚・聴覚情報の共有で周辺情報の探知を行うタイプの様じゃからな。そこを誤魔化してしまえばこんなものよ」

 

 ……そんな感じで俺達は特に何事も無くあっさりとゴーレム軍団の包囲網を突破して砦から脱出、そのままゴーレム達から離れる事に成功したのだった。

 

「……さて、無事に連中を巻けた訳だがこの後はどうする主人殿。このまま山を降りる事も出来るだろうが」

「お前、さっきはあのゴーレムを操る黒幕を倒す気まんまんな感じの事を言ってなかったか?」

「アレは売り込みの為の宣伝も兼ねて言ってみただけだ。……まあ、地脈を探ってみたらあのゴーレム達はかなり遠隔から操られている上、この<クルエラ山岳地帯>全域に多数展開されておる節がある……このまま時間を置けば経験値を稼いで更に()()()()になるやもな」

 

 ……もし<UBM>なら経験値で進化する可能性もあるし、そうで無くともこの<クルエラ山岳地帯>がゴーレムの領域になるって感じか。

 

「アイツらは山賊を積極的に殺して回っていたからな……良いだろう、厄介事はさっさと済ませるに限る。黒幕の位置は分かるんだろう?」

「うむ、地脈の自然魔力の流れを読んでゴーレムを操っているラインから逆探知すればな。……黒幕そのものを倒せるかは分からんが」

「それに関しては黒幕を見つけてから判断するさ。駄目なら撤退すれば良いしな」

 

 そういう訳で俺はエレメンタル少女の案内の下、この<クルエラ山岳地帯>にゴーレムを展開している黒幕の所まで行ってみる事にしたのだった……ミカが俺をこっちにやったって事は『そういう事』だろうからな。

 <UBM>とかなら倒せる時に倒した方が良いだろうし、ミカに負担が掛からない様に可能な限り悲劇が起きない方が良いだろうしな。




あとがき・各種設定解説

妹達パーティー:この後は無事に山から脱出出来た
・ちなみに何人か兄を助けに行った方が良いのではという意見も出たが、妹二人が『クエスト達成が最優先』と強く主張したのでそのままギデオンに帰還した。
・尚、こんな主張をしたのは妹の“直感”が『兄だけの方が勝率が高い』と出たからでもある。

【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】:こっちも撤退
・基本的にリスクを可能な限り減らして確実に獲物を狩る『狩人』な行動パターンなので、自身で対処が難しい不測の事態が起きた場合には撤退を最優先にしている。

兄&エレメンタル少女:無事に契約及び脱出成功
・エレメンタル少女の名前はまだ決めていないが、その辺りは向こうの事情(前世)をキチンと聞いてからで良いだろうと兄は考えている。

主従契約・魔力共有(サーヴァント・マジックリンク)》:エレメンタル少女が習得したスキル
・このスキルを習得しているテイムモンスターは主人のMPを使う事が出来る、又は逆にテイムモンスターの魔力を主人が使う事が出来る様になる。
・ちなみに接触状態では100%の効率で魔力を共有出来るが、離れていると最大でも50%程度の効率でしか共有出来ない仕様になっている。
・このスキルを“新しいスキルとして習得させている”事から分かる通り、エレメンタル少女はマニュアルで魔法を自分のスキルとして習得する事も出来るが、現在のレベルでは容量に限度もあるのでマニュアルで構わない術は習得させない様にしている。


読了ありがとうございました。次回は兄&エレメンタル少女VS【クルエラン・コア】なる予定。


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『運が悪かったな』

前回のあらすじ:妹「脱出成功!」兄「これで後顧の憂いなく黒幕を倒しに行けるな」


 □<クルエラ山岳地帯> 【黒土術師(ランドマンサー)】レント・ウィステリア

 

【クエスト【救出ーケリー・メイティス含む商隊員】を達成しました】

「……ふぅ、どうやらミカ達は無事に山を降りられたみたいだな」

 

 俺は山の中を歩いている最中にクエスト達成のアナウンスが入って来たので、どうやらミカ達は無事に彼女達を<クルエラ山岳地帯>から脱出させたのだと安堵のため息を吐いた……さて、向こうは片付いた様だし、こっちはこっちでは『山中のゴーレム』への対処に集中しよう。

 

「……それで、あのゴーレム共を操っている相手の位置は分かったのか?」

「まあ待て、そう逸るでない……ふむふむ、まああの時代の人間が使っていた術式としてはそこそこ高度な物じゃが、ワシならば……」

 

 そう言いながら先程紆余曲折あってテイムモンスターになった【リトル・ネイチャーエレメンタル】は、俺と手を繋ぎながらしゃがんで地面に手を当てながら何かを探っていた。

 曰く、地脈に流れる自然魔力を読み取る事で、地脈を介して操られているゴーレム達と操っている『黒幕』とのラインを読み取ってその位置を逆探知しているらしいが……正直【魔術師(メイジ)】系統のジョブを複数持っている俺でも何をやってるのかさっぱり分からん。

 

「しかし自然魔力ね……俺も《魔力感知》とか持ってるんだがさっぱり分からないな」

「あのスキルは生物の魔力(MP)を感知出来る様になるスキルじゃからな。自然魔力の感知には別のスキルと技術が必要になるんじゃよ」

 

 やっぱりこのエレメンタル少女の魔法技術はとんでもないレベルっぽいな……俺もデンドロを始めてまだ大して経っていないからこの世界の魔法技術に関してそこまで詳しい訳では無いけど、魔術師ギルドとかで少し調べた限りでは『自然魔力の操作』の情報は僅かしか無かったし。

 

「向こうから逆探知される事とかは無いんだな?」

「まあ大丈夫じゃろう。……これでも前世では『【天竜王】や【アムニール】の様な例外を除けば』トップクラスの自然魔力操作技術を持っておったと自負しておるし、何より地脈の自然魔力を介して配下の操作や感覚共有は()()()()()()()()()()からな。大きく弱体化した今のワシであっても“この程度の相手に”そんなヘマはせんよ」

 

 ……後、前世で“それなりの長い時を生きてきた”って言うのも多分本当かな。さっきから【天竜王】やら【アムニール】やら、後は『化身』って言う単語も聞こえて来たし。

 以前に王国の図書館で調べた時、前者二つは古い時代から存在する超有名<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>が紹介された本に名前があったし、後者の方に至っては『先々期文明の伝説』とかいう本に出て来た単語だし……しかも、雰囲気とか話し方的に聞いた話とかじゃなくて実体験っぽい感じだしなぁ。

 

「厄ネタ……と言うよりもゲーム序盤で仲間にしてはいけないユニットな気がする……」

「? どうしたんじゃ」

 

 まあ、このエレメンタル少女と初めて会った時から『絶対にヤバい相手』だと言うのは分かってたし、ミカの発言から今後の事を考えるとコイツが強いに越した事は無いんだろう……ただ、その後の話を聞くにつれて想定よりも二三段ヤバいヤツだっただけで。

 ……と、そこまで考えたところで、俺は『そういえばコイツの事を“エレメンタル少女”としか読んでないな』と思い至った。色々とインパクトのある出来事の連続だったからなぁ。

 

「そう言えば、お前の事はどう呼べば良い? 前世とやらの名前があるならそれで呼ぶが」

「むむ? ……うーん、前世のワシと今のワシでは似ても似つかぬしなぁ。……そうじゃ! せっかくだから主人殿が今のワシに名前を付けてくれい。テイムモンスターは主人が名前を付けるのが一般的なんじゃろう? 何せテイムされるのは初めてじゃから、そういった事も楽しみたいのじゃよ」

 

 そう聞いてみたらエレメンタル少女は僅かに考え込む様な素振りを見せた後、とても楽しそうな事を思い付いた表情でそんな事を宣った……俺にテイムしろと迫って来た時と言い、このエレメンタル少女は結構酔狂な性格をしてるんじゃないか? 

 ……それと同じぐらい()()()()()()()()()()()()()()()がそれは俺も同じではあるし、どんな理由があれテイムした以上はちゃんと面倒を見るつもりだが。

 

「……さて、それじゃあ名前ねぇ。……うーむ、こう言うのは複雑に考えても決められないからフィーリングで……種族名が【リトル・ネイチャーエレメンタル】だから適当に捩って『ネリル』とかどうだろう?」

「ネリル……ネリルか、良い響きじゃな。……それでは【リトル・ネイチャーエレメンタル】のネリル、改めてよろしく頼むぞ主人殿」

 

 俺が(種族名の中の単語をそれっぽく組み合わせて)考えた『ネリル』ていう名前を聞いたエレメンタル少女は何度かその名前を反芻した後、どうやら気に入った様で笑顔を浮かべながら俺に改めてよろしくと言ってきた。

 ……多分何か裏があるとかそういうタイプでは無いと言うか、俺のテイムモンスターになった事を含めて現在の状況を楽しんでいる感じかな。長生きしてると経験していない事に遭遇すると新鮮味を感じて楽しくなると“昔の友人”も言っていたから、その類かもしれん。

 

「ああ、こちらこそ宜しく頼む」

「うむ……さて、早速じゃが主人殿、ゴーレムを操っている者がいる方角は分かったぞい」

 

 少なくともエレメンタル少女──ネリルの事を信頼しても良いだろうと思った俺は同じ様に改めてよろしくと伝え、それに頷いた彼女はスックと立ち上がって本題である『ゴーレムを操っている者の探知結果』を伝えて来た。

 

「地脈の自然魔力を辿った所、ここから北東の方角からゴーレムを操作している魔力が流れている事が分かったぞい」

「流石に詳細な位置までは分からないのか? まあ方位が分かるだけ凄いのだが」

「流石に一回ではのぅ。これから移動しつつ近づきながら何度か探知を行えば詳細な場所も分かるじゃろう。……それにこの方角は<山岳国家クルエラ>の首都があった方じゃしな」

 

 ……ふむ、確かその国は昔ゴーレムを運用していたから、そこで作られた魔道具か何かが暴走した可能性があるとか言っていたか。

 

「成る程、その<山岳国家クルエラ>が国防目的でゴーレムを使っていたのなら、当然扱いやすい様に首都の近くに魔道具も配置しているか」

「うむ。……加えて地脈を介する類いの魔道具であれば、運用効率を上げる為に複数の地脈が交差する“要”に配置されておる可能性も高いじゃろうて。その辺りを重点的に探れば何か見つかるかもな」

 

 そんな感じで考えを纏めた俺達はゴーレム達に見つからぬ様にネリルの隠密魔法セットで姿を眩ましつつ、一路<クルエラ山岳地帯>の北東へと歩みを進めていったのだった。

 

 

 ◇

 

 

 そうして山中を歩く事だいたい二時間ぐらい……途中途中でネリルの地脈探知で足を止めたり遭遇したゴーレム達をやり過ごしたりしていたので時間は掛かってしまったが、俺達は漸くかつて<山岳国家クルエラ>の首都があったという場所までやって来ていた。

 

「……ふむ、やはりかつて首都のあったあの<二つ山>の方から魔力が流れて来ておるな」

「<二つ山>……確か縦長の山が二つ並んでいて、その間の渓谷が王国とカルディナを結ぶ通商路になっているんだったか。冒険者ギルドで見た資料だと逃げ場が少ないから山賊の多発地域の一つだと書いてあったが」

「ちなみに元は<クルエラ山岳地帯>でもトップクラスの巨大な山じゃったんだが、例の如く【覇王】の弱攻撃でああなった」

 

 尚、何故『弱攻撃』なのかと言うと、もし【覇王】が本気で戦ったのなら今頃<クルエラ山岳地帯>は地図に載っていないかららしい……どうも【覇王】という人物は『俺一人なら地図を書き換える範囲が少なくて済むからな』とか言えちゃうヤツだったらしい。どこぞのインフレ(ジャンプ)漫画じゃ無いんだから……。

 

「……とりあえず隠蔽に気を付けつつもう少し近付いてみるかの。少なくとも<二つ山>に入ればゴーレムを操っている黒幕の詳細な位置も分かるじゃろうて」

「そうだな。とりあえず森に紛れつつ行くか」

 

 そういう訳で俺達は隠蔽を維持したまま森に隠れつつ<二つ山>の麓にまで辿り着いた……のだが、そこに付いたら渓谷の中程に三十体程のゴーレムが配置されている事に気が付いた。

 

『『『『『…………』』』』』

「……ふむ、あからさまなぐらいに待ち伏せているな」

「探ってみたところあのゴーレム達が配置されている場所が地脈の要になっている様じゃ……んで、あの真下、地下500メテルぐらいからゴーレム達を操っている者が発している自然魔力を感じ取れる」

 

 まあ、万が一に備えて護衛戦力を配置しておくのは当然だよなあ……よく見て《看破》するとゴーレムの陣容も【クルエラグレイトブリガンド・ゴーレム】【クルエラリコノイター・ゴーレム】【クルエラソードマスター・ゴーレム】【クルエラデッドハンド・ゴーレム】【クルエラワイズマン・ゴーレム】と言った亜竜級ゴーレムばかりだし。

 

「じゃあどう攻めるかね。亜竜級ゴーレム達なら倒せなくは無いが、地下の黒幕をどうにかしないと再生産されるだけだろうし……そもそも地下500メートルに居るヤツにどう攻撃すればいいのやら」

「そこはワシが地上に引っ張りだすか地属性魔法で直接攻撃かじゃな。残った【魔神石】一つを使えば可能じゃろう。……だが、地下に埋めてある魔道具にならば当然地属性魔法への対策がされておるじゃろうし……」

「一息には難しい可能性があるのならあのゴーレム達が邪魔になるか……俺が囮になってゴーレムの注意を引くか?」

「いや、囮にはゴーレム君を使った方が良いじゃろ。裏技を使ってちょっと強化すればいけるじゃろうし。……それに引っ張りあげる事になったらトドメを刺す者も必要じゃからな」

「じゃあゴーレムを囮にして俺達がこっそり接近、そのまま一気に黒幕を倒すって事でいいか?」

「それでええじゃろ」

 

 あまり時間を掛けて追加のゴーレムが現れるとかするのもアレなので、俺とネリルは手早く作戦を決めるとアイテムボックスから【スチールゴーレムの素体】を出して【魔神石】をセットして再び【スチールゴーレム】へと戻した。

 

『GOGO』

「さて、流石に亜竜級三十体相手に単騎では囮にならんし出力を上げるか。素体の質が低いから負荷は大きくなるが仕方ないの……『ゴレムス・オーバーロード』」

『⁉︎ GOGOGO!!!』

 

 そして更にネリルがゴーレム君に何かの魔法を掛けると、その体から虹色のオーラ的な何かが吹き出した……曰く、埋め込んだ【魔神石】内の多量な魔力を使って【スチールゴーレム】のステータスを一気に純竜クラスにまで引き上げる魔法らしい。

 ……加えてネリルは《マテリアル・レジスト》《ファイア・レジスト》などの防御魔法を可能な限り掛けていった。

 

「……なんか魔力がちょっと可視化したが目立つし囮には丁度いいじゃろ……よし行け」

『GOOOOOーッ!!!』

「……それじゃあ俺達も行くか」

 

 ……雄叫びを上げながら渓谷に突っ込んで行ったゴーレム君を見送りつつ、俺達はステルスを続行しながら<二つ山>側の森を迂回して目的地点に接近して行ったのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<二つ山>渓谷

 

『GOOOO!!!』

『《サンダー・スラッシュ》』

『《インパクト・ストライク》』

『《チャージ・スラスト》』

『《ロック・ジャベリン》』

 

 そんな雄叫びを上げながら渓谷に突入して暴れ回る【スチールゴーレム】がその拳で敵のゴーレムを叩き潰し、それに対抗する様に各亜竜級【クルエラゴーレム】達がそれぞれ覚えているスキルを次々と繰り出してダメージを与えて行く。

 ……だが、いくら【スチールゴーレム】が強化されていようとも流石に多勢に無勢、加えて攻撃用のアクティブスキルまで駆使してくる【クルエラゴーレム】達相手では流石に劣勢であり、何体かのゴーレムを倒しても直ぐに補充される事もあって徐々に追い詰められて行った。

 

「……まあ、注意を引きつけるならこれで良いんじゃがな。余りにも無双させ過ぎると援軍とか呼ばれそうじゃし」

「ゴーレム達の目は全員向こうに向いてるからな。お陰で目的地点まで来れた」

 

 だが、その間にレントとネリルは<二つ山>側から回り込んで【クルエラゴーレム】達の後方──逸話級<UBM>【山核型骸 クルエラン・コア】がいる地中に近い位置まで気付かれぬ様に到着出来たのだから、ゴーレム君は十分にその役目を果たしたと言えるだろう。

 ……そして、今ネリルは最終確認として地面に再び地面に手を当てて地中にいる【クルエラン・コア】の詳細な情報を探っていた。

 

「……ふむふむ、まあ予想通り地属性魔法攻撃には対策がある様じゃな。地脈との接続によって周囲の土石を操りにくくしている上に……これはゴーレムを操っている何かが()()()()()()()()()()で覆われておるか。地中に魔道具を埋めるなら箱に入れるぐらいは必要じゃからな」

「どうするんだ。向こうも押されてるし余り時間は無いぞ」

「問題は無い、要は地脈と魔道具の接続を切れば良いんじゃからな。一時的にしか出来んがその間に地上へと引きずり出せばほぼ何も出来まい。……ただ、その間は隠蔽が切れるからな」

「分かった。作業が終わるまでは俺が守ろう」

「うむ……では、いくぞ」

 

 それだけ言い終わるとネリルは取り出した【魔神石】を砕きその身に膨大な魔力を宿らせ、俺はヴォルトを呼び出すと共に準備してあった【シルヴァ・ブライト】を向こうで戦っているゴーレム達へと向けた……同時に膨大な魔力が発せられた事で隠蔽が意味を無くし、地上のゴーレムと地中の【クルエラン・コア】がようやく彼等に気がつくが……。

 

「【魔神石】起動! 自然魔力強制注入! そして地属性魔法《ディグアウト》じゃ!!!」

「ヴォルト! ゴーレム共を撃って牽制! 《ヒート・ジャベリン》!」

『承知! 《ライトニング・ジャベリン》!!!』

 

 彼等が何かするよりも早く、まずネリルが両手を地面に付きながら【魔神石】から溢れた自然魔力を地脈に無理矢理叩き込む事でその流れを乱して地脈関係のスキルとゴーレムの遠隔操作を一時的に使用不能にし、更に増加した()()()()()MPを使って“地中にある物を掘り出す”地属性魔法を行使する。

 それと同時にレントとヴォルトはその魔法を邪魔させぬ様に光の銃撃・炎の槍・雷の槍を【クルエラゴーレム】達へと撃ち込んで、何体かのゴーレムを破壊した。

 

『ッ⁉︎ 《レイライン・コネクト》を行使……不可⁉︎』

『『『『…………⁉︎』』』』

 

 自身を地上へと引き上げ様とする地属性魔法を妨害する為に【クルエラン・コア】は地脈の自然魔力を操ろうとするが、その分野に於いては()()()()()()()技術を持ったネリルの妨害をどうにかする事など出来ずどんどん地上まで引きずり出されていく。

 そして地上にいるゴーレム達も【クルエラン・コア】が地脈を介した指示を出せなくなった事で自立行動による場当たり的な行動しか出来ず、未だに暴れ回る【スチールゴーレム】とレント・ヴォルトの魔法攻撃もあってネリルに対しては何も出来なかった。

 ……そうしている間に渓谷の中程の地面がひび割れながら盛り上がっていき、そこから約5メートル四方の古代伝説級金属で出来た立方体に入った【クルエラン・コア】が地上に叩き出された。

 

『■■■■■■■■⁉︎』

「出て来たな……【山核型骸 クルエラン・コア】か」

「地中で使う魔道具だから地上に出して仕舞えば何も出来ない……が<UBM>なら何かしてくる可能性はゼロでは無いから早急に倒す事をお勧めするぞい」

「分かっている。《仮想秘奥・神技昇華(イミテーション・ブリューナク)》レベル合計40消費……《クリムゾン・スフィア》!!!」

 

 いきなり地上に放り出された【クルエラン・コア】に対してレントは迷う事なく自身のレベルを捧げて()()()()()()に迫るまで強化された《クリムゾン・スフィア》を撃ち込んだ……が、その古代伝説級金属合金は単純な強度も高い上に魔法耐性を持つ金属との積層構造になっていたので、着弾した部分を溶解させて内部の【クルエラン・コア】本体であるクリスタルの様な結晶体を露出させるだけの結果に終わった。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️⁉︎』

「うげ、これでも仕留められないか」

「じゃが、あのクリスタルが本体の様じゃし破壊してしまえばこちらの勝ちじゃ。ワシの残りMPも貸すからさっさとやってしまえ。《主従契約・魔力共有(サーヴァント・マジックリンク)》」

 

 ……だが、地上に放り出されて地脈との接続も阻害された【クルエラン・コア】に出来る事は何も無く、ネリルの手を取ってMPを共有したレントが【シルヴァ・ブライト】へ彼女に残った10万程のMPを注ぎ込む所をただ見ているしか出来なかった。

 

「まあアレだ、色々()()()()()()な」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

 

 そしてレントが苦笑いしながら【シルヴァ・ブライト】の引き金を引くと同時に、放たれた大出力レーザーが【クルエラン・コア】の本体であるクリスタルを撃ち抜いたのだった。

 

『『『『『…………』』』』』

「うむ、本体が倒されれば使役していたゴーレムも消えるタイプじゃったか」

 

 ……そして【クルエラン・コア】が倒された事でゴーレム達を使役していた《ゴーレム・クルエラアーミー・クリエイション》も解除され、<クルエラ山岳地帯>を徘徊していた全てのゴーレムは元の土塊と金属に戻って崩れ去ったのだった。

 

【<UBM>【山岳型骸 クルエラン・コア】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【レント・ウィステリア】がMVPに選出されました】

【【レント・ウィステリア】にMVP特典【創像地衣 クルエラン・コア】を贈与します】

「特典武具獲得おめでとうなのじゃ主人殿。……これで“信頼”頂けるかな?」

「俺はほぼ何もしてないけどな。……“これからも”よろしく頼む」

 

 ……そうして特典武具入りの【宝櫃】を手に取ったレントは、悪戯っぽい笑みを浮かべて『信頼出来るか』と聞いて来たネリルに対して、溜息を吐きつつも“仲間として”迎え入れる様に手を差し出したのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:ネリルを“仲間”とは認めた
・これまでの行動から何かを隠しているか厄介事を抱えているとしても、少なくともテイムモンスターとしては真面目にやろうとしていると判断した感じ。
・まあ、それはそれとして彼女の“前世”についてなどは妹達も交えてキッチリと聞くつもりではある。

ネリル:真のMVP
・あらゆる魔法技術において“最低でも超級職ティアンぐらい”の技術を持っているが、その中でも『地属性魔法』『自然魔力操作』『魔石作成』を得意とする。
・本人としてはこれまでの行動からレントの事を『中々面白そうな主人』と見ており、テイムモンスターとしての活動も楽しんでいる。

【スチールゴーレム】:かなり活躍した
・だが、過剰な強化によって【スチールゴーレムの素体】が大きく損耗した為、戦いの後に【魔神石】を取り外してアイテムボックス行き。
・取り外した【魔神石】をどうするかはまだ未定だが、再びゴーレム用のコアにする事も可能。

【山岳型骸 クルエラン・コア】:強いて言うなら間が悪かった
・自然魔力を介した山岳地帯一つを範囲内にする生体索敵と配下との感覚共有で非常に高い探知能力を持っており、生半可な隠密スキル持ち相手なら容易く見付け出せる。
・また、敵に対して相性のいい配下を作る事も出来て遠隔展開も可能なので、もし敵対対象が自身の討伐の為に向かって来ても魔力が尽きない限り配下を送り込み続けてすり潰す事も出来た。
・更に地中深くに埋まっている上に地脈操作の応用で周囲で発生した地属性魔法に対して妨害を仕掛ける事も出来るので討伐は非常に難しい強力な<UBM>。
・……だったのだが、偶々“自身の完全上位互換”な相手が近くにいたせいで手の内を全て看破され、得意分野全てで一方的に上に行かれてあっさりと討伐されてしまった。
・ちなみに古代伝説級金属の箱は魔道具を保護するケースであり<UBM>化後には装備品扱いだったので討伐後も残存し、兄とネリルに臨時報酬扱いされて回収された。


読了ありがとうございました。
ネリルの前世の詳しい情報や兄が新しく手に入れた特典武具の詳細に関しては次回詳しく説明します。


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打ち上げ〜前世のお話

前回のあらすじ:ネリル「よし、倒したのじゃ」兄「俺殆ど何もしてないな」


 □決闘都市ギデオン 【黒土術師(ランドマンサー)】レント・ウィステリア

 

「……まあ、そんなこんなでなんやかんやあって<クルエラ山岳地帯>でゴーレムを生み出していた<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【山岳型骸 クルエラン・コア】は討伐して来た。後このズボンが特典武具ね」

「……いや、“そんなこんなでなんやかんや”ってなんやねん」

『特典武具は本物だし嘘は付いてないみたいウサ』

 

 そんな訳で<クルエラ山岳地帯>での事件があってから現実で24時間、デンドロでは3日程経った後、俺はクエストに参加したパーティーメンバー達と合流して無事を報告すると共に【クルエラン・コア】を討伐した事を報告していた。

 ……ちなみに【クルエラン・コア】を討伐してから俺はヴォルトに乗ってギデオンに戻って来ていたのだが、ちょっとリアル側で用事があったのでネリルの為に新しく【ジュエル】を買い換えた後さっさとログアウトしており、1日経ってようやくリアル側が落ち着き片付いたのでこうしてログインしている形である。

 

「お兄ちゃんが大丈夫だとは“分かってた”けど、お陰で冒険者ギルドに『<クルエラ山岳地帯>に謎のゴーレム出現』って報告したのが無駄になっちゃったね」

「『事件に関する情報募集』ってクエストも出てましたし」

「これは先に冒険者ギルドとかに報告しに行った方がええかな」

 

 そういう訳で俺達は冒険者ギルドまで行って『<クルエラ山岳地帯>でのゴーレム事件に対する情報募集』のクエストを受けた上で、既に原因となった【クルエラン・コア】を討伐した事を特典武具を見せながら説明した。

 ……その時に余りのスピード解決からやらせとかを少し疑われたりもしたが、シュウさんと月夜さんの交渉力と物的証拠(特典武具)、そして何より《真偽判定》に反応が無かった事で説明は特に何事も無く信じて貰えた。

 

「……とは言え、クエストの報酬まで大量にせしめたのはちょっとどうかと……」

「ウチの交渉術の勝利や!」

「……がめついだけでしょ……」

『自重しろや女狐』

 

 ……まあ、その際に月夜さんが『“<UBM>を討伐して王国とカルディナを結ぶ行路にゴーレムが居なくなった”という最大の()()を持ってきたのだから報酬は大目にお願いな。出来れば<UBM>の討伐報酬とかも』てな感じの交渉を持ち掛けて、すったもんだの末にクエスト報酬増えたりした事件も起きたが。

 最も、出現してから直ぐに討伐された所為で【クルエラン・コア】には懸賞金などは掛けられておらず、被害も山賊やモンスターが殺された程度とほぼ出なかったので精々クエスト報酬が倍になったぐらいだが。

 

「……と言うか、その情報を持ってきたのも<UBM>を討伐したのもレントさんだがら、その報酬もほぼ全部彼の物では?」

「え⁉︎ ……い、嫌やなー葵ちゃん。そもそもちょっと<UBM>を討伐したレンやんへの報酬が低かったから善意で口添えしただけやし(震え声)」

「別に独り占めしようとは思ってませんよ、このメンバーで受けたクエストの結果ですし。……なんならクエスト達成の打ち上げとかで盛大に使いましょう」

「わーい! お兄ちゃん太っ腹〜!」

『まあいいんじゃないかウサ』

 

 ……とまあ、そう言う成り行きで言ってみた俺の『このクエスト報酬を使っての打ち上げをする』と言う提案だったんだが、その場にいたパーティーメンバーにあっさりと受け入れられたので、俺達はそのまま冒険者ギルドの帰りに打ち上げに行く事になったのだった。

 

 

 ◇

 

 

「それじゃ、難易度:九のクエスト達成を記念して乾杯!」

「「「「かんぱーい!」」」」

 

 ここはギデオンにあるレストラン<樋熊食堂>、ここで俺達はクエスト達成の打ち上げを始めていた……何でもこの店は大人数で入れて多少騒がしくしても文句はでず、その上料理もそこそこ美味いと冒険者行きつけの場所らしいので丁度いいだろうと思ってここにしたのだ。

 

「いやぁ、色々あったけど終わってみれば葵ちゃんは特典武具を手に入れたし、王国の教会とも“仲良く”出来たしクランとして得る物は多かったな。カケやんはデスペナったけど」

「俺としてはあのセリフを言った上で時間稼ぎが出来たので満足でしたが。……ま、負けっぱなしは嫌なのでこの後はもう少し鍛えますよ」

「そう言えば救出された人達はどうなったんだ?」

「今は教会で療養中だった筈だよ。後日お礼をしたいとか言ってたかな」

「そこまで悪い扱いは受けていなかった様なので少し休めば大丈夫だとも言ってたのです」

『結果的には万々歳ウサ』

 

 ……まあ、色々あった濃ゆいクエストだったが終わってみれば人質も無事、<UBM>も2体倒せたしクエストクリアって事で良いだろう。

 

「……モグモグモグ、ムグムグムグ……」

「かわいい〜! ネリルちゃんだったっけ? これも食べる?」

「頂くのじゃ、モグモグ」

「……銀髪のじゃロリとかポイントが高い。こんなテイムモンスターを持っているなんて、レントさん恐ろしい人」

「葵ちゃんってば……(苦笑)」

 

 ……後、何故かいつの間にやら【ジュエル】から出ていたネリルが<月世の会>女性陣に囲まれて飯を食べさせられていたんだが……後、ネリルの見た目は大体小学校高学年ぐらいだからロリとか言えるかもしれないが、俺は別にのじゃロリだからテイムした訳では無いぞ(強弁)

 

「で、お兄ちゃん。あの子が?」

「ああ、先日<クルエラ山岳地帯>で新しくテイムした【リトル・ネイチャーエレメンタル】のネリルだ……詳しくは後で話す」

「ふーん……そう言えばゴーレム達の情報を得たって言っとったみたいやけど「企業秘密です」返答早いな! ……じゃあ特典武具の能力は「禁則事項です」知ってた!」

『手の内の秘匿は基本ウサ』

 

 この後にキチンと聞き出す予定だが、ネリルの正体は秘匿しておいた方が良い類のモノだろうからな……戦力秘匿的にも厄ネタ的にも諸々の情報的にも。

 ……ちなみに特典武具【クルエラン・コア】はMPへの補正と自動回復スキルがあったんだが、もう一つ《???》のスキルがあったので能力はまだよく分かっていないのが実情だったりするんだが。

 

「ま、別に無理に聞き出そうとは思わへんし別にええけど〜。……とりあえず今後は王国の教会と<月世の会>で“仲良く”していければええなー。ウチらは医療系の<エンブリオ>持ちも多いし、王国の医療担当な司祭達が所属する教会とは“協力”していけると思うんやー」

『……この女狐の発言に一々裏を感じるのは俺の気の所為であってほしいウサ』

「……まあ、ウチのオーナーはとても善人とは言えない腹黒だけど、それでも外道や非道な事はしないだろうから……」

「モグモグモグ、やっぱり人間の食べ物は美味いのじゃ〜」

「……兄様、あの子ただの子供にしか見えないんですが……いや、何か凄いモノを秘めてるのは分かるんですよ?」

「……安心しろ、俺も不安になって来た所だ。……まあ、凄いヤツなのは確かだから」

「可愛いよね〜ネリルちゃん」

 

 ……月夜さんの発言にシュウさんと葵ちゃんが突っ込んだり、ネリルの食べっぷりに俺とミュウちゃんが苦笑いしたりと色々あったが、打ち上げ自体はかなりの盛り上がりを見せたのであった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □決闘都市ギデオン・とある宿屋 【重戦士(ヘビーファイター)】ミカ・ウィステリア

 

「いや〜食った食ったのじゃ」

「アホみたいな量食べやがって……太るぞ」

「この身体はエレメンタルじゃから肉体の変化は自由自在なので問題ないのじゃ」

「「羨ましい……」」

 

 そうして結構盛り上がった打ち上げが終わった後、私達は新しく仲間になったネリルちゃんの“事情”を聞くために借りていた宿屋に戻っていた……お兄ちゃんに少し聞いた所『色々面倒そうな出自をしている』らしいけどどうなんだろう。

 ……私の“直感”だと『彼女の力が今後の私達がこの世界で戦う為には必要不可欠』だと出ているんだけど……。

 

「さて、新しく仲間になったネリルなんだが……コイツは異常なレベルの魔法技術とか知識とかを持っていて、昨日の【クルエラン・コア】を撃破出来たのも99%ぐらいはコイツの活躍によるものだ。ぶっちゃけ俺なんて只のMPタンク代わりだったしな」

「いやぁ、それほどでも」

 

 そんな感じで、お兄ちゃんは<クルエラ山岳地帯>でネリルちゃんと出会ってから【クルエラン・コア】を倒すまでにあった事を詳しく説明してくれたのだが……うむ、予想以上にネリルちゃん無双だった件について。ミュウちゃんやミメちゃんも驚いてるよ。

 

「えぇ……」

「只者じゃないとは思ってましたが……」

「しかし、そこまで凄いとネリルちゃんの前世が気になるね」

「ああ、俺もそこを聞くつもりだった。……じゃあネリル、話して貰うぞ」

「んー良いぞー。ワシの前世は()()()()U()B()M()()【魔鉱地蟲 アニミズヮーム】と言ってなー。元は“先々期文明”のしがない【ミネラルワーム】だったんじゃが、長生きしてるうちに<UBM>になったんじゃー」

 

 そんなネリルちゃんが間延びした口調で告げたその言葉に、私達は驚きながらもその実力に見合う前世にどこか納得した感じになった……今の彼女からは宿屋のベッドでゴロゴロしてる彼女からはちょっと想像出来ないけど。

 ……とりあえず彼女は質問に関しては普通に答えてくれるみたいだし、他にも色々と聞き出してみようと私達はアイコンタクトで意思疎通しつつ質問に入った。

 

「というか【ミネラルワーム】って確か蚯蚓型のモンスターだったよな」

「そうじゃぞー、鉱石を食べてその排泄物で土壌の自然魔力を整える役目のモンスターじゃなー。前世のワシは全長500メテルぐらいあったけどー」

「それでなんで今はエレメンタルなの?」

「んー、前世ではエレメンタルの扱いに長けていてな。よく地中で食っちゃ寝しながら感覚を同調させたエレメンタルを地上にやって観光したりしとったんじゃ。……最も、今のこの肉体は()()()()()()()()()()()()として作ったモノじゃからな」

 

 その後のネリルちゃんの説明曰く、その『万が一の為の緊急離脱手段』とは作成したエレメンタルに《輪廻転生(リインカネーション)》の応用で自身の記憶と人格を写してからランダム転移魔法で離脱させるという物だったらしい。

 ……加えてその後に残った肉体が全力で暴れて敵の注意を引きつけると同時に転移が行われた事を悟られぬ様にし、更にその状態の本体が倒されると<UBM>としての特典武具や経験値はちゃんと入るので、相手は【アニミズヮーム】を倒したと考えて離脱したネリルちゃんを追う事も無いという完璧な離脱手段……とネリルちゃんはドヤ顔で説明していた

 

「……神話級<UBM>なのにそんな手の込んだ逃走手段を用意してたのか」

「そんな事するぐらいなら戦闘能力を上げた方がいいんじゃ?」

「いやいや、戦闘能力面だとこの2000年の間に頭打ちじゃったしな。かつてのワシは()()()()1()0()0()()()()()()()()()()()()()し。……それに前世のワシは【ミネラルワーム】種の“鉱石を食べてそのリソースの一部を経験値とする”スキルを2000年使った結果レベル100になった様なもんじゃから、戦闘能力は神話級<UBM>の中ではそこまで高い訳では無いんじゃよ」

 

 ……そう言ったネリルちゃんはベッドでゴロゴロするのを辞めて、その縁に座りながら前世の自分の事について語り始めた。

 

「実際、同じレベル100の神話級でも【輝竜王】や【凍竜王】辺りと戦えば勝つのは難しいし、そもそもこの世界には神話級<UBM>()()ではどうしようもない様な“イレギュラー”もおるからな。……ワシは【天竜王】みたいな『なんでか死なねー』的なインチキは出来ないから、こういった小細工をするしか無かったんじゃよ」

「へー……ちなみに前世のネリルちゃんってどんな事をしてたの?」

「ん? さっきも言った通り基本的には地中深くで食っちゃ寝しながらエレメンタルを地上にやって色々なモノを見ながら暇を潰したり、退屈しのぎに新しい魔法を作ってみたりしてたな。……後は偶に同族に指示を出して地脈の自然魔力が乱れた所を調律したり、餌である鉱脈の状態を維持したり、地上にある珍しい鉱石を食べに行く事もあったか」

「……神話級<UBM>ってもっと物騒なものだと思ってたのです」

「種族的に鉱石が主食じゃから他のモンスターを狩る必要も無いしな。戦闘に関しても偶に現れる地中系<UBM>が襲い掛かって来るのを地属性魔法で潰したりしたぐらいじゃよ。……それに下手に人間に手を出したら【覇王】とか【龍帝】とか【聖剣王】とか【妖精女王】とかに目を付けられるしの……人間のハイエンドと特殊超級職怖い」

 

 お兄ちゃんの話と彼女のこれまでの行動からそんなに心配してなかったけど、性格に問題がある感じでは無くて良かったよ……まあ、ちょっと人間とは価値観が違う気がするけど、そこはモンスターだし上手く折り合いをつけて行ければ良いでしょう。

 

「それじゃあネリルちゃん、君がここにいるって事は【アニミズヮーム】は死んだって事みたいだけど、どうして死んだの?」

「あー、それが分からないんじゃよなぁ。……記憶転写時に不備があったのか大体“転生する直前から3ヶ月前までぐらいの前世の記憶が無い”んじゃよな。この身体の記憶は<クルエラ山岳地帯>で行き倒れていた時からじゃし。まあ何分記憶と人格の転写なぞ初めてだったからその程度の不備で済んだのは幸運じゃと思いはするが、お陰で前世のワシが死んだ時の状況はさっぱりじゃ」

「何か心当たりとかは無いのか?」

「うーむ、寿命はまだ大丈夫の筈じゃったし……やっぱり神話級以上の<UBM>に襲われたかしたかの? 突如現れた地中戦闘系条件特化型とか対魔法特化とかの神話級と戦えばやられる可能性は十分にあるし……正直、この世界には前世のワシより強いのが幾らでもいるからの。そんな連中にかち合えばレベル100の神話級でもやられる事はある」

「……ちなみに前世の貴女の戦闘能力とか戦闘方法とかってどんな感じだったのです?」

「基本は()()()()のMPと長年鍛えて来た魔法技術による魔法戦じゃな。物理系ステータスは巨体故にHP・STR・ENDはそこそこじゃけど、そもそも【ミネラルワーム】自体が戦闘には不向きな種族じゃからの。……まあ、種族的に秀でた鉱石と自然魔力の扱いから【魔石(ジェム)】を作るのは得意で、それらを《鉱物貯蔵》によって大量に溜め込んでおったからのう。MP換算で()()()ぐらいのそれらを一気に消費すればかなりの攻撃力を得られるぐらいか」

 

 ……とりあえずネリルちゃんの言ったMPの量が色々おかしい件について(困惑)……これで戦闘能力がそんなに高く無いとか絶対に嘘でしょ。お兄ちゃん達もちょっと引いてるし。

 

「……では最後に、ネリルちゃんはお兄ちゃんのテイムモンスターになって何かやりたい事とかはあるかな?」

「とりあえず前世では直接食べられなかった人間の食べ物をもっと食べたいな! 感覚を同調させたエレメンタルで食事をした事はあるが、直接食べるのは無理じゃったからの!」

「確かにそういう契約だったからな。テイムモンスターとしての仕事をしてくれるのなら食事の保証はするさ」

「まあ、頼りになる仲間が増えたって事にしておこうなのです」

 

 そんな風に目をキラキラさせながら語るネリルちゃんを見て、その前世の話を聞いてちょっと困惑していた私達もすっかり毒気を抜かれた感じになってしまった……まあ、ミュウちゃんの言う通り頼りになるのは確かだろうし、そもそも信頼関係とは一朝一夕で得られるものじゃ無いからね。時間を掛けてじっくりと仲良くなれば良いかな。




あとがき・各種設定解説

【創像地衣 クルエラン・コア】:兄の新特典武具
・見た目は焦げ茶色のズボンで下半身装備、装備補正は装備防御力が100ぐらいでMPを合計レベル×10上昇。
・装備スキルは二つで、まず一つは地脈から自然魔力を吸収してMPを自動回復させる《レイライン・アブソーブ》と言うパッシブスキル。
・地脈から自然魔力を吸収する関係で地上に立っている時のみ有効であり地脈の自然魔力量によって回復量が変動し、更に戦闘などで激しく移動する程に回復量が落ちる欠点がある。
・もう一つのスキルは未だに未開放だが、兄は特典武具の名前や【クルエラン・コア】の能力からゴーレム作成に纏わるスキルではないかと予想して解放条件もゴーレム作成が関わるのではと考えている。

クエストの報酬:教会と<月世の会>は“仲良く”なった
・尚、月夜的には現実の宗教組織を相手にするつもりで分離工作とかも考えていたが、王国の教会は殆ど『医療組織』であり全面的に<月世の会>を歓迎された為その手の黒いやり方は出来ない模様。
・基本的に世界派の善人が殆どな<月世の会>なので、こちらの“自由”を阻害してくる王族貴族相手なら悪どい手を打っても言い訳は効くのだが、教会の様に全面歓迎されると色々と配慮しないと反発が起きてしまうのが理由。

【魔鉱地蟲 アニミズヮーム】:ネリルの前世である神話級<UBM>のミミズ
・名前の由来はアニミズム(精霊信仰)+ワーム(ミミズ)で、自然魔力の操作と地属性魔法による土壌や鉱脈の活性・維持など魔法が得意であり戦闘はそんなでもない(自称)
・最も『ジェム貯蔵連打理論』を2000年かけて大量に蓄積した魔石を多種多様な魔法を使う多重技巧型神話級で運用するので神話級最上位と比べなければ十分強い部類。
・エレメンタルと同調して擬似的な肉体とし地脈を介して超長距離で使役する事を得意としたので地上で起きた様々な事件についても詳しく、そのお陰でエレメンタルの肉体に転生しても特に違和感なく行動している。
・ちなみに転生後のネリルだが元が長い時間を生きた<UBM>なので価値観は人間とはかなりズレており、前世の自分が死んだ事もそこまで気にしておらず現在は“かなり変わっている”三兄妹に出会ったのでそれを楽しもうと考えている。


読了ありがとうございました。
これで第4章は終わりになります。ネリルに関してはまだ秘密があったりするかもしれませんが、それは今後の展開次第。


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間章 色々な<マスター>達
とある大学での一コマ


 □地球・とある大学 加藤蓮

 

 デンドロでネリル(元神話級)をテイムしてから数日、夏期休暇も終わってしまったので俺はごく普通に大学へと通っていた……デンドロやる時間は減るがリアル優先である以上はしょうがない。

 そんで今は昼休みなので食堂できつねうどんを啜りつつ、同じ大学一年生で中学からの付き合いがある友人の加茂(かも)姫乃(ひめの)と話していた。

 

「……ふーん、蓮もデンドロ始めたんだ?」

「ああ、妹達と一緒にアルター王国でな。……その言い方だと姫乃もか?」

「ええ、一月ぐらい前からレジェンダリアで始めたわ。今は気の合った<マスター>とパーティーを組んで色々やってるわね」

 

 そんな事を言いながら姫乃は天ぷらそばを啜っていた……ちなみに彼女は身長175ぐらいの長身でスレンダーなモデル体型、かつ長い黒髪に整った顔の美人なのでさっきから結構注目されていたりする。

 ……俺の方にも視線が来ているが多分姫乃のついでか嫉妬の視線だろう。中学の頃から良くあったし。

 

「……言っとくけど蓮も普通にイケメンだから見られているのよ。話題の美男美女で座ってるから注目されているんだし」

「姫乃はともかく俺はそんなに話題になっていたか?」

「貴方この大学にトップの成績で入学したじゃない」

「それを言うならそっちは推薦入学だろう」

 

 コイツは外見だけでなく中身までハイスペックだからな……まあ、それを言うと『お前にだけは言われたくない』って突っ込まれるから言わないけど。

 ……とは言え所詮は珍しい物見たさの視線なので、しばらく時間が経って食堂に人が増えて皆が食事に入っていくと自然にそう言った視線は消滅していった。

 

「さて、注目も逸れた事だし本題の<Infinite Dendrogram>の話の続きをしましょうか。……実は私がデンドロ始めたのって“仕事”も兼ねてのものでもあるのよね」

「それって“巫女さん”の方の仕事か? ……()()の」

「ええ、何故か巡り巡って私にしわ寄せが来たのよねぇ。……いくら私が“霊視”出来るとはいえゲーム内の情報収集はまた畑が違うんだけど……」

 

 実は姫乃の実家は古くから続く神社であり、彼女自身も“本物”の巫女──この世界では一般には知られていないが『怪異』やら『異能力』などの“裏の世界”とも言えるモノが存在している──であり、“有らざるモノを見る”眼を持っているのだ。

 ……ちなみに俺と姫乃の出会いは中学の時に巻き込まれた裏側関係の“とある事件”での事で、その時に色々と世話になったのがきっかけだったりする、

 

「……まあ、一応これでも国内最高峰である私の霊視が全く通じない時点で只のゲームではないでしょうからねぇ。ログインして肉体がアバターに変わってからは霊能力全ての行使が不可能になったし。……アレ、多分だけど魂か情報体か何かを別の器に入れるヤツね。根本的なレベルが違いすぎるから断言は出来ないけど」

「それでログインして普通のゲームプレイヤーとして情報収集していると。……正規以外の方法ではやらなかったのか?」

「分かってて聞いてるでしょ。……そうしたら()()()()()()()()()()()()のよ。実際私以外にデンドロの調査依頼を受けた電脳系の異能者が不正ログインしようとして、逆に精神が破壊されて廃人になったって聞いたし」

 

 ……まあ、先日ネリルから聞いた『先々期文明に現れた“化身”』の話を聞いた限りだとそうなるよなぁ。ニュースでもデンドロに不正アクセスしようとしてスーパーコンピュータがアボンされたってのがやってたし。

 

「……そんな危険な仕事をよく受ける気になったな」

「まあ、正規ルートで行けば問題無いって“視えた”し、チュートリアルの時に担当になった“クイーン”と言う管理AIから『正規の方法でログインして普通にゲームをプレイするのなら、こちらからは一切の干渉はしない』って言質を取ってるから」

「ああ成る程、こっちのも確かに『<マスター>に取っては最初から最後までただのゲーム』と言ってたな」

「そういう意味ではゲームを楽しみながら給金が貰えるから悪くない仕事よ」

 

 やっぱり、あの“管理AI”達は正規の<マスター>に関しては基本的に不干渉で間違いなさそうだな……先々期文明を始めとした『あの世界における重要情報』を数多く知るネリルを仲間にしたり、彼女から情報を多く聞いても俺は一切問題なくデンドロをプレイ出来ているからそうだと思ってはいたが。

 

「それで、情報収集はどのくらい進んでいるんだ?」

「それがさっぱり。普通にプレイするだけだと集まる情報はwikiで手に入るもの以下だしね。……まあ、依頼主達の方もデンドロの余りの難攻不落っぷりにもう諦めムードだから、情報無しでも給金が減るぐらいで何か言われる事も無いんだけど」

「まあそうだな。まだデンドロ発売からこっちでは1カ月半だし、早々有用な情報が手に入るなんて事は()()()無いよな」

 

 尚、先々期文明から世界を見続けてきた神話級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>の転生体なんて仲間にした俺とかは例外だが、正直言ってネリルから聞いた情報はどれもこれもヤバい厄ネタだから扱いに困るんだよな……。

 

「とりあえず今は普通にゲームをプレイしているわよ。固定パーティーも出来たし<UBM>を討伐して特典武具をゲットしたりと割と順調な方ね」

「成る程な。……ところで、レジェンダリアには変なプレイヤーが多いと聞いたが「私はロリショタでもバ美肉でも無い」ア、ハイ」

 

 そうやって軽い気持ちで聞いてみたら姫乃がいきなり物凄く据わった眼をしてそんな事を言った……これは地雷を踏んだか? 

 

「大体私は現実で背が高いからちょっとゲームの中では小さい身体でもいいかなと思って小型のアバターにしただけなのよ。なのにあのクソ覆面変質者と来たら困っていた小学生ぐらいの<マスター>を連れた私に『瞳がだいぶ曇っているので本物のロリではありませんな。しかし俺と同じくロリショタを愛し助けようとするその姿勢は見事。同士として手助けしましょうぞ』とか公衆の面前で言ってくれたお陰で私までレジェンダリアの<マスター>達にはバ美肉ロリショタ扱いされる羽目になったし新しく出来た<YLNT倶楽部>の連中には同類を見る目で見られるし……」

「どうどう、落ち着け」

 

 暗いオーラを滲ませながら早口で捲したてる姫乃を落ち着かせつつ、俺は食い終わった後のドンブリ二つを返却場所へと持っていく……美人がいきなりぶつぶつ言いだしたからめっちゃ目立ってるしな。ここはさっさと食堂を出た方が良いだろう。

 

 

 ◇

 

 

「……あー、落ち着いたか?」

「……ええ、大丈夫よ。悪かったわね」

 

 そんな訳で姫乃を連れて食堂から出た俺は適当なベンチに彼女を座らせた……次の講義まではまだ時間があるしここでしばらく休むか。

 

「噂には聞いていたが、レジェンダリアってそんなに酷い所なのか?」

「いえ、基本的に全体の半分ぐらいの<マスター>は真っ当な部類だし、ザ・ファンタジーと言える様な神秘的な街並みは和風の怪異は嫌という程見てきた私にとっても新鮮で悪くないわよ。……ただ、<マスター>の残り四割が性癖を隠してる変態で、残り一割が性癖を隠してもいない変態なだけで。後ティアンの一部から現実にもよく居る()()()()()()()()()()()()()()長命種特有のの気配がするぐらいで」

 

 ……話を聞く限り悪い事しか無い気もするが、姫乃曰く『それでも殆どの<マスター>とティアンは(変態である事を除いて)真っ当な生活を送っているわよ。……ただ、私は霊視無しでも“眼が良い”方だから、どこの社会にもある全体から見れば僅かな悪性が目につくだけよ』との事。

 

「それにパーティーメンバーには性癖がまともな……性癖がまともな! 人間を選んだから楽しくやってるわよ」

「なんで二回言ったんだ?」

「レジェンダリアでパーティーを組む際に一番重要な要素だからよ。……今までの裏稼業で磨き抜かれた観察力を駆使して集めたパーティーだから、実は異常性癖持ちとかって言うのも(おそらく)無いわ」

 

 俺は安心安全な妹達との固定パーティーが組めて良かったと思いました(小並感)

 

「強いて他に文句があるとすれば<エンブリオ>の名前かしら」

「何か変なネーミングにでもなったのか? 【モモタロウ】とか【ジュゲムジュゲムゴコウノスリキレカイジャリスイギョノスイギョウマツウンライマツフウライマツクウネルトコロニスムトコロヤブラコウジノブラコウジパイポパイポパイポノシューリンガンシューリンガンノグーリンダイグーリンダイノポンポコピーノポンポコナーノチョウキュウメイノチョウスケ】とか」

「……よく一息で言えるわね……」

 

 とりあえず思い付いた<エンブリオ>名になりそうな変な名前を言ったら姫乃に呆れた目で見られた……実は早口言葉は結構得意なのさ。

 ……最もこんな長い名前だと必殺スキルがまず戦闘中に使えないから、もしそういうモチーフの<エンブリオ>があるとしても名前は題名の方で【ジュゲム】とかだろうけど。

 

「流石にそこまでネタに振り切った名前じゃ無いよ。単に私の<エンブリオ>の名前が【アマテラス】だったから、本職の巫女である私としてはちょっともにょっただけで」

「日本神話の主神だからなぁ、納得。……まあ、俺もケルト神話の太陽神の名前である【ルー】が<エンブリオ>名だからね。この国のゲームでは良くある事だし」

「アマテラスがラスボスのゲームとかも普通に出るからねぇ。日本宗教色薄いから。……うちのパーティーメンバーにも【シャカ】って名前の<エンブリオ>の持ち主がいるし」

 

 そんな訳で<エンブリオ>の名前が神話とかもモチーフになるならそういう事もあるよねってお話でしたとさ。

 

「それで、そっちのデンドロの様子はどうなの? まさか私にだけ話させて自分は話さないなんて事は無いわよねぇ」

「ん? ……まあ大した事は無いぞ。普通に妹達とデンドロをプレイしながらモンスターを狩ったりクエストをこなしたり神造ダンジョンに潜ったり、後はガチャを回したり<UBM>を倒したりして特典武具をパーティーで五つ手に入れたりとかな」

「……いや。十分大した事してるじゃない。私達でも<UBM>は一体倒したぐらいなのに……いや、美希ちゃんの“直感”があればおかしくはないかしら。アレは私の“異能”とは違って純然たる“才能”だからあちらでも使えるでしょうし」

 

 ちなみに姫乃はウチの妹達の事情についても知っていて、良く相談に乗ってもらっているのだ……あの二人の才能は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、そちら側に関わらせない様に色々と手伝って貰っている。

 ……そういう意味では色々貸しもあるし、こっちで得た情報を渡しても良いかもしれないな。姫乃なら上手くやってくれるだろうし。

 

「確かデンドロの情報を集めてるって言ってたし、こっちが得た情報を教えようか?」

「え、良いの? 貰えるなら有り難く貰うよ。その方が報酬は増えるし……でも、wikiに乗ってるレベルの情報ならいらないかな」

「大丈夫だ、<wiki編集部>には言うつもりの無い情報だしな。……まず、こっちの情報筋だと管理AI達は先々期文明に現れた『無限』の位階にいる“化身”達と同一の存在であろうと推測されるな。更に元々デンドロ世界は“化身”とは別の『無限』である<無限職(インフィニット・ジョブ)>と呼ばれる者達が、自分達の同類を生み出すために作ったモノであるらしい」

「いやちょっと待って⁉︎ なんか物凄い重要っぽい情報が出てきたんだけど!!!」

 

 とりあえず一番重要そうな情報を初手ブッパしたら慌てた様子の姫乃からストップが入った……勿論、これらの情報は先々期文明を生きてきた前世を持つネリルから聞き出したモノである。

 最もネリルの前世【アニミズヮーム】が生まれたのは先々期文明末期の“化身”が表れる直前の事だったんだが、彼女の母親である【ハイエンド・クイーン・ミネラルワーム】からその才能を見込まれて昔の事なども教わっていたらしい。

 ……何でも【ミネラルワーム】という種族は<無限職>が環境調整用に生み出したモンスターの一種で、彼女の母親である【クイーン】は“無限職”に直接生み出された【ミネラルワーム】の最期の生き残りだったから世界の根幹に関わる事も幾らか知っていたらしい。

 

「まあ、その“無限職”達は成果の出ないティアン達に愛想を尽かして何処かへと去り、それから先々期文明まで発展するも他所からきた“化身”達に滅ぼされて、今は彼等がドロップアイテムやら<UBM>や<マスター>……そして<エンブリオ>と言った新しい法則を強いて世界を管理してるらしい」

「……どうやってそんな情報を仕入れてきたの……」

「昔の事について知っているヤツを仲間にして聞いた。……流石に今の管理AIの目的までは分からないが、先代管理者である<無限職>と同じ様に自分の同類……おそらく<無限エンブリオ>みたいなのを生み出すのが目的では無いかと推測してる。それなら態々<マスター>に<エンブリオ>を持たせてあの世界に向かわせた理由も説明が付くし」

「ああ……成る程ね……」

 

 ちなみにネリルが態々これだけの情報を吐き出したのは、<マスター>がこれらの事情知った時に管理AI(化身)達がどういう行動に出るかを試す為なのが主な目的だったりする。

 そのネリル曰く、<マスター>も<UBM>を始めとするモンスターも“化身”の力の影響下にある以上は監視されてるだろうし、知った情報に応じて連中がどの程度干渉してくるか試してみたいと言って、一切の躊躇遠慮無くヤバげな情報を俺に教えまくったのだ。

 ……結果としてはそういった情報を知っても一切の干渉は無かったので、おそらく管理AIは<マスター>の“自由”を歪める様な干渉は表立ってしないのだろうと言う結論になったが、正直垢BANされるかどうかでヒヤヒヤしたな。

 

「……ハァ……まあ、管理AIが“無限”──超越者かそれに準ずる連中だってのは予想してたけど何よ前任者の無限職って。こんなの私程度にどうにか出来る問題じゃないじゃない。依頼主に報告しても同じだろうし」

「こっちの世界の超越者達はどうしてるんだ? 椋鳥さんとか」

「そんなの私みたいな木っ端巫女に分かるわけないでしょ。超越者なんて迂闊に関わったら消されるし……蓮の方こそ昔会った事があるんじゃなかったっけ?」

「いや、昔『友人』と一緒に戦っていた時に一言“忠告”をされただけだからな。連絡先も知らんぞ」

 

 ……とりあえず色々と話し合った結果、デンドロの根幹情報に関しては保留という事になった。あっち(デンドロ)でもこっち(現実)でも下手に藪をつついたら蛇どころか竜が出てきそうな話題だしね。

 

「少なくとも蓮の情報に加えてこっちの超越者が動いたって話は聞かない以上、<Infinite Dendrogram>が地球に影響を与える事は無いと今は考えるとしましょう。……もし何かあっても私達じゃどうしようもないし」

「あちらの世界でならレベルを上げれば案外出来る事もあるかもしれないが……まあ、力をつける事も含めて何かあるまでは普通にゲームをプレイするので良いだろう」

「確かに、私としてもゲーム内の様子をレビューするだけでお小遣いが貰えるバイトは悪くないしそれで行こうか」

 

 まあ、今すぐ行動しないと世界が滅びるとかそういう問題では無いのでデンドロに関しては先送り、或いは保留するって事に決定した……世界が滅びる様な問題になったら俺達に出来る事は何も無いだろうけどね(笑)

 

「……おっと、そろそろ次の講義だし行かねばな。大学ではゲームよりも勉強優先だ」

「まあ、それもそうね。……確かデンドロのサークル作るって話があるって聞いたけど」

「雰囲気が良さそうなら参加してみるのも良いかもしれないかな」

 

 ……そんな会話をしつつも俺達は次の講義の為に指定された教室へと向かっていったのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:厄ネタが思った以上だったので相談
・ちなみに姫乃とは友達以上恋人未満ぐらいの関係で、お互いに信頼しあっている親友だが付き合っている訳では無い。
・尚、周りの人間からはよく一緒にいるから付き合っている物だと思われており、事情を知っている妹達も『どうして付き合わないんだろう?』と思われてる。

ネリル:監視の目もあってどこまで話すか悩んでいた
・だが、それを気にして話さないというのは面白く無いので、兄から<マスター>や管理AIの事を聞いた後『おそらく<マスター>に直接手を出す可能性は低いだろう』と考えた。
・なので初手に“化身”にとって面倒そうな情報をブッパしてどんな反応を返すか見る事にしたという感じ。

加茂姫乃:唐突に生えてきたヒロイン候補
・ガチな退魔系巫女さんで兄とはかつて共にとある事件で戦った戦友……みたいな設定もあるんだけど、リアル側の話はほぼフレーバーなので本編で語られる事は無いです。
・デンドロではロリショタ扱いされたどこぞのLSに対する恨みや対抗心、そして本人の面倒見の良さが合わさって『あんな変質者に幼い少年少女を任せては置けない』として、幼い<マスター>の保護や孤児院への寄付とかを積極的に行っている。
・だが、そのせいで<YLNT倶楽部>からは『オーナーと仲が悪いからウチに入っていないだけで同類(ロリショタ)だよね。アバターも凄い気合いの入った美少女だし』と思われてる。
・ちなみにアバターはリアルの自分をそのまま小学生にしただけである。

【光炎矢如 アマテラス】
<マスター>:ひめひめ
TYPE:アームズ
到達形態:Ⅳ
能力特性:光・火属性魔力矢の生成
スキル:《光炎之矢》《閃光之矢》《炎勢之矢》《聖浄之矢》
必殺スキル:《天地一切大祓之矢(アマテラス)
・モチーフは日本神話の太陽神にして主神である“天照大御神”。
・MPを消費して様々な特性を持つ光炎の矢を生成する魔法弓型のアームズで、ステータス補正はMP・DEX特化で後はSTRとAGIにそこそこ。
・現在生成出来る矢の種類は、光熱による単純威力重視の《光炎之矢》、光属性で貫通性が高い《閃光之矢》、火属性で延焼による継続ダメージを与える《炎勢之矢》、威力は低い聖属性で強力な浄化能力を持つ《聖浄之矢》がある。
・必殺スキル《天地一切大祓之矢》はまず矢の種類一つを選択し、それを自身の上空に向けて射って太陽エネルギーをチャージする光球を形成、そして任意のタイミングで光球を選択した特性を持った超威力の矢へと変換させて指定した場所に放つという物。
・その特性上日照下でしか使えずクールタイムも24時間と長い上、矢を打ち上げてからクールタイム終了まで選択した種別の矢も使えずチャージ時間も最低五分は必要と使い難いが、その分チャージ時間に応じて威力・射程・弾速・効果範囲を大幅に引き上げる特性がある。
・アームズ系としては比較的捻った所の無いスタンダードな<エンブリオ>だが、姫乃本人の“魔法弓を扱うリアルスキル”が図抜けているので戦闘能力はかなり高い。


読了ありがとうございました。
この章ではオムニバス形式の短編集をやっていこうと思います。三兄妹以外のキャラを主役とした話とか。


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超級職の条件

前回のあらすじ:兄「とりあえずデンドロは普通にゲームとして楽しむ方向性で」姫乃「異議無し」

※<墓標迷宮>の地下11階層以降の情報が確認出来たのでそれに合わせて本文のいくつかを修正。


 □<墓標迷宮>地下16階 【砕屋(スマッシャー)】ミカ・ウィステリア

 

 夏休みが終わり小学校二学期が始まったのでデンドロにログイン出来る時間は減ったけれども、すっかりデンドロに嵌った私は家に帰ってから早速ログインして“とある目的”の為にソロで<墓標迷宮>へと潜っています。

 

『GIAAAAA!!!』

『甘い! 《刃砕》!!!』

 

 今はこっちに向かって鋭い剣撃を浴びせかけて来た【ゴブリン・ソードマスター】の一閃を“直感”で先読みし、見切った軌道に合わせる形で左手の【破砕戦棍・四式】を振るって刃の側面に叩きつける事で相手の剣を砕いた。

 ……ちなみにこの【破砕戦棍・四式】は長さ1メートル程の片手持ちのメイスで、私の“目的”の為に<プロデュース・ビルド>の皆さんに頼んで作って貰った()()()()()()の装備スキルに特化させた一品なのだ。

 

『うん、流石は<プロデュース・ビルド>いい仕事をするね。オーダーメイドに大量のドロップアイテムや資金をつぎ込んだ甲斐はあったよ。《鎧穿》!!!』

『GEAAA⁉︎』

 

 新装備の出来に満足しつつ私は自分の剣を砕かれて動揺している【ゴブリン・ソードマスター】に向けて、間髪入れずに右手に持った【ギガース】を相手が身につけている鎧に突き込んで砕きながらダメージを与えた。

 ……この《刃砕》《鎧穿》はそれぞれ刀剣と鎧に対する攻撃力を上昇させる効果があり、現在私がメインジョブにしている打撃による装備破壊に特化した【砕屋(スマッシャー)】のジョブスキルである。

 

『……もう壊す装備は残ってないか。じゃあ○ねい! 《ハードストライク》!』

『GYAAAAAA⁉︎』

 

 ダメージを受けてフラフラになった【ゴブリン・ソードマスター】の脳天に、私は【ギガース】を振り下ろしてトドメを刺したのだった……コイツは単独行動系の亜竜級モンスターだったから辺りには他に敵はいないかな。スキルとかは無いから良く分からないけど“直感”には特に反応は無いし。

 

(やっぱり()()()()()()()()()を稼ぐにはこの階層のゴブリンを相手にするのが一番効率が良いかな。アンデッド階層にも装備を付けたヤツが出るけど、出現率と装備の質的にこっちの方が効率が良い)

 

 ……そもそも何故私がソロで<墓標迷宮>に潜ってまで装備を破壊しているのかと言うと、先日お兄ちゃんが新しく仲間にしたネリルちゃんから“戦棍士系統超級職(スペリオルジョブ)の就職条件”を聞いたからなのだ。

 

 

 ◇

 

 

「んも? 戦棍士系統超級職の就職条件なら知っとるぞ」

「本当! ネリルちゃん!」

 

 とある日の事、私達はギデオンにある<カフェ水蜜堂>にてお菓子を食べてながら駄弁っていたのだが、その会話の中で私が『なんか都合のいい超級職が何処かに落ちてないかな』と冗談混じりに話したらネリルちゃんがそんな言葉を返したのだ。

 彼女は聞かれた事には普通に答えてくれるんだけど、別に聞かれてもいない事や頼まれてもいない事は先日管理AI(“化身”)を試す為に色々と重要情報をブッパした以外だと基本的には話さないんだよね。

 ……多分だけどそういった私達の対応を見て試すと同時に楽しんでいる感じ……こんな風に美味しい物を食べてる時は結構口が軽くなるみたいだけど。

 

「モグモグ……前世のワシが地下で食っちゃ寝しながら感覚を同調させたエレメンタルを地上にやっていた事は話したな。その時にたま〜にじゃが縁のあった魔術師系ティアンに情報や貢物を対価として魔法の知識を授ける事もあったんじゃよ。……向こうは先々期文明から研鑽を積んだワシの魔法知識を得られて、こっちは地上の面白い情報を得られるという所謂win-winな関係というヤツじゃ」

「明らかに得られる情報が釣り合っていない気もするがな」

「別にワシにとって“面白い”と思う情報であれば実際の価値はどうでも良いんじゃよ。それに時には他の魔術師との議論とかで新しい魔法知識を得る事もあるし、こう言った『人間との交流』は中々に良い娯楽になるんじゃよ。……長生きすると言うのも中々に大変でな、ずっと地下にいるだけだと精神が摩耗していくからの。それ故に些細な出来事を楽しんで暇つぶしをするのは結構重要なんじゃ」

 

 そう言ったネリルちゃんの雰囲気には見た目によらない年月を重ねた様な雰囲気が見え隠れしていた……直ぐに満面の笑顔で水蜜堂のドーナツを頬張り始めて霧散したけど。

 

「それで話を戻すが、大体600年ぐらいの所謂“三強時代”に魔法都市で客分をしていた事があって、そこで手に入れた情報に戦棍士系統超級職【戦棍王(キング・オブ・メイス)】の情報もあったんじゃよ。……うむ、大分思い出して来たぞ。確かアレは魔法都市と契約を結んでいた“とある傭兵団”に所属していた【魔術王(キング・オブ・ソーサリー)】から聞いた情報だったな。その傭兵団の団長が代々受け継いで来たジョブだったとか」

「そんな情報を良く教えてくれましたね。魔法知識の対価とはいえ」

「ワシはモンスターじゃから就職条件を知っても超級職になれる訳ではないからな。テイムもされない<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>のワシ相手ならジョブを巡るライバルも増えないから、超級職の転職条件を教えても問題は無いだろうと考えた者がそこそこいたのじゃ。……それに当時は圧倒的な力で急速に勢力を伸ばしていた【覇王】と魔法都市の戦いが目前に迫っていたからな。その実力を()()()()()()()()()超級職レベルの人間達は勝率を少しでも上げる為に形振り構わず行動しておったんじゃよ」

 

 それでも結局【覇王】さんによって魔法都市は滅ぼされ、その【戦棍王】のジョブを受け継いで来た傭兵団も“消滅”してしまったので転職条件も一緒にロストしてしまったのだと言う。

 

「それで肝心の【戦棍王】への就職条件じゃが、まず一つ目が『【戦棍士(メイスマン)】【剛戦棍士(ストロング・メイスマン)】【戦棍鬼(メイスオーガ)】のカンスト及びこれらのジョブに於ける全てのジョブスキルを習得する』じゃな。武器運用の超級職であればよくある条件じゃの」

「……うん、その条件は満たしてるね」

「ならば良し。……それで二つ目は『メイスを用いて純竜級以上の“生物”をソロで一定数撃破する』じゃな。何でも十体以上は倒す必要があるとか言っとった様な」

「そのぐらいであればミカなら出来るだろう」

「ただ、姉様はいつも私達とパーティーで行動していましたからね。改めてソロでの行動が必要でしょうか」

 

 うん、この二つの条件なら私でもどうにか満たせそうかな……ネリルちゃんの記憶が曖昧だから二番目の条件で倒さなければいけない数が曖昧だけど、余裕を持って三十体も倒せば条件を満たせるでしょう。

 

「そんで三つ目の条件が『装備状態の装備品への与ダメージ合計が5000万以上』じゃな。この三つをクリアすると転職の試練へと挑戦出来ると言っておったな」

「……累積系の条件かー……」

「ログイン時間が限られてる<マスター>には少し厳しい条件ですかね」

 

 まあ、メイスは打撃武器の中でも装備品を無視して生物にダメージを与えたり、装備品その物を破壊する事に長けた武器種……もっと言えば()()()に長けた武器種だからね。超級職への転職条件がそう言った物になるのは納得だけどさ。

 

「しかし条件を満たすには相手の装備をぶっ壊し続ける必要があるのか。どうするかなぁ」

「【戦棍王】がロストしたのには就職条件を受け継いで来た傭兵団の消滅以外にも、【聖剣王】の時代以降に人間同士の大規模な争いが無くなったのも理由の一つじゃからな。……装備にダメージを与える機会が多いのは、やはり高性能な装備を身に付ける人間相手の戦いじゃろうし」

「パッと思いつく方法としては<墓標迷宮>に出て来る装備を身に付けたアンデッドやゴブリンを狙うぐらいか。神造ダンジョンなら装備毎リポップするだろうし」

 

 やっぱりお兄ちゃんの提案が無難かなぁ……後は大量に巨大な盾とかを買って、それらをお兄ちゃんにでも持ってもらって殴り続けるとか思いついたけどコストがかかり過ぎるしね。

 

「まあ、ロストした超級職の条件を知っていると言う事自体が最大のアドバンテージだしね。後は装備品を殴り続ければ良いんだし」

「そうですよ姉様。一度の敗北で条件がリセットされる【格闘王(キング・オブ・グラップリング)】よりはマシでしょう」

「……俺の場合は超級職よりもレベルカンストを目指さないとな。後は技術面か……ネリル、頼みがある。俺にもお前の魔法技術を教えて欲しいんだが」

「別に良いぞ。報酬は美味しいお菓子で手を打とう」

 

 そういう感じで私達はしばらく話し合った後、今の所は何かやりたい事がある訳でも無かった事もあって、しばらくの間は各々更なる力を得るための“修行パート”に入る事にしたのだった。

 

 

 ◇

 

 

『……そんな訳でお前達は私の超級職転職の為の偉大なる肥やしになるが良い! 《インフェルノ・ブレイク》!!!』

『『『GYAAAAA!!!』』』

 

 場面は再び<墓標迷宮>、私は目の前にいる三体の【ゴブリン・メイジ】を【戦棍鬼】の奥義であるメイスに豪炎を纏わせて殴り付ける《インフェルノ・ブレイク》によって焼き潰していっていた……布装備は打撃では破壊出来ないから、これまでイマイチ使う機会が無かったこの奥義で焼いた方が与ダメージを稼げるからね。

 ……さて、遭遇したゴブリンの群れ相手に装備破壊を優先しながら戦ってみたけど中々面倒だね。装備を攻撃する間もなく本体を潰す事もしばしばだし。

 

『……さて、残りは……』

『GISYAAAAAAA!!!』

 

 そうして私が【ゴブリン・メイジ】を倒して一息付いた所で、その横合いから遭遇したゴブリンの群れを率いていた【ゴブリン・ジェネラル】が手に持った棍棒を勢いよく振り下ろして来た……まあ、お約束の“直感”でどこからどう来るのかは分かってたんだけど。

 

『《アームズブレイカー》! んで《アーマーブレイカー》!』

『GAHAAA⁉︎』

 

 振り下ろされる棍棒を【破砕戦棍・四式】と武器破壊スキルで砕き、そのままもう片方の【ギガース】と防具破壊スキルで相手の鎧を砕きながら殴り飛ばす。

 

『……これだけじゃダメか。なら《竜尾剣》! 《重破断(グラビトロン・ディバイダ)》!!!』

『GYAAAA⁉︎』

 

 現在一万を超えるSTRを持つ私であるが流石に片手で殴ったぐらいでは【ゴブリン・ジェネラル】を仕留めきれなかったので、殴られた勢いで少し離れた相手に漆黒に染まった剣尾を伸ばして鎧毎袈裟懸けに斬り裂いてトドメを刺した。

 ……とりあえずこれでゴブリンの一団は全滅させたみたいだね。

 

『しかし、与ダメージ5000万は遠いねぇ。STR1万なら一回殴れば一万ダメージ……なんて単純なものじゃないからなぁ。今どのくらいなんだろう』

 

 確か【破砕戦棍・二式】を受け取った時に<プロデュース・ビルド>のメンバーに聞いた話では、武器・防具には装備攻撃力や防御力以外にも生物でいうENDに相当する硬度、HPに相当する耐久値が設定されているらしいからね。

 多分、防御スキルや硬度分ダメージは減らされて耐久値以上のダメージを与えてもその分は判定されないだろうし。

 

『うーむ、ここはとりあえずもう一つの条件である“純竜級以上の生物の一定数ソロ討伐”の方をやっていこうか。適当なボス部屋のモンスターを一人で討伐すればいけるでしょう。ログアウトに地上に戻るのもやりやすくなるし』

 

 やはり最大の問題は学校が再開した事によるログイン時間かなぁ。幾ら何でもデンドロの為にリアル生活を犠牲にする訳にもいかないから、流石にこれはどうにもならない問題だね……最近では地下16階まで降りるのめんどいので、“直感”を駆使してダンジョン内でログアウトするとかもしてるぐらいだし。

 考えても仕方がない問題だし今はボス戦に集中しようか。確か出て来るのは純竜級の【ゴブリン・キング】に率いられたゴブリン達とかSTR特化な上位純竜の【デストロイ・オーガ】とかだったっけ。

 ……何が出ても私一人では少し厳しくなるだろうし頑張ろう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □地球 加藤美希

 

「……はい、ログアウト〜。そろそろ夕飯の時間だね。少し時間が掛かってしまったかな」

 

 流石に【ゴブリン・キング】に率いられたゴブリン達を一体づつ殴って倒すのは時間が掛かるよね。今日はちょっとハズレを引いちゃったかな。

 

「おーい美希、夕飯が出来たぞ。まだログインしてるのかー」

「はーい、今行くよー。……そういえば今日は叔父さん叔母さんは遅くなるんだったね」

 

 お兄ちゃんは普通に料理も上手いからね、お陰で叔父さん叔母さんが居なくても夜に冷凍食品を温める必要はないのさ……私? 小学校の家庭科の授業で目玉焼きを少し焦がすぐらいのネタにもならない腕前ですが何か?

 ……それはともかくとしてリビングに降りた私が見た物はテーブルの上に並べられた三つの親子丼と、椅子に座ったお兄ちゃんと祐美ちゃんだった。

 

「わーい、お兄ちゃん特性の親子丼だ〜。いただきまーす」

「いただきますなのです」

「いただきます」

 

 そうして三人揃った私達は手を合わせた後に親子丼を食べ始めたのだった……ウチの家では晩御飯だけは家族揃って食べる事にしているのだ。

 

「やっぱり5000万は遠いよ……いまどのくらいダメージを稼いだのか分からないし」

「全ての条件を達成すればアナウンスがあるらしいがな。まあ頑張れ」

「こっちはそもそも戦える相手がいないんですよね。私が連勝を続けている事を知った格闘家ギルドの人の目が少し怖くなってきましたし」

 

 ……そういう意味では条件がロストしているお陰でライバルがいない私の方が恵まれているのかな。

 

「そう言えば大学でデンドロのサークルが出来てたな。まあ偶に部屋で駄弁ったり情報交換をするぐらいの場所になりそうだが、せっかくだし姫乃と入る事にしたよ。……他にも何人かデンドロをやっているヤツがいるみたいでそこそこ人数は増えそうだな。小学校の方はどうなんだ?」

「小学校にはあんまりデンドロやってる子はいない……というか、リアリティがあり過ぎて怖くなって辞めちゃった子の話をよく聞くね。一応まだやってる子もいるみたいだけど」

「私と同じクラスの“樫宮”君はデンドロやってると言ってたのです。何でも天地所属だとか」

 

 デンドロ友達とか増えればいいかなと思ってたんだけど中々上手くは行かなかったね……まあ、普通の小学生には敷居の高いゲームではあるから。

 

「んむんむ……多分だけど超級職は早めに取っておいた方が良い気がするね。しばらくは各々で強くなっておいた方が良い感じ。……言われるまでも無い事かもしれないけど」

「先着一名だからな、取れるなら取っておくべきだろう。……俺は必殺スキルのデメリットで取れそうな超級職が見つからないんだが。ネリルも『神系は本人の才能次第じゃし、系統無し超級職の条件は知らんな』と言ってたし」

「じゃあ、しばらくの間は修行パートですね。インフレ展開に追い付ける様に」

 

 インフレに追い付けなくなった者は物語からフェードアウトするのが無常なる世の理だからね……デンドロだと条件が合えばジャイアントキリングが起きたりするから一概にそうとも言えない気がするけど。




あとがき・各種設定解説

妹:しばらくはひたすらに装備を叩くターン
・他の二人と違って装備が特典武具の着ぐるみと<エンブリオ>なので資金に余裕があり、その大半を使って<プロデュース・ビルド>に装備作成の依頼をした。

【破砕戦棍・四式】:そこそこ高く付いた
・『とにかく装備にダメージを与えられるメイスを作って欲しい。金はあるだけ出すから』という依頼を受けて<プロデュース・ビルド>が素材から金に糸目をつけず現在可能な限りの高性能を目指して作った武器。
・性能は高い装備攻撃力と攻撃した装備の硬度を減らす《武器破壊》や装備へのダメージを上昇させる《破砕の一撃》を持ち、更に程レベルだが《破損耐性》を持つ。
・“四式”と名前にある通り妹の資金を使って三本ほど試作品を作った末に作り上げられた物で、その三本も妹が貰いアイテムボックスの中にしまってある。

【砕屋】:砕屋系統下級職
・打撃でオブジェクトを破壊する【壊屋】に対して装備を破壊する事に特化したジョブで、ステータスはSTR特化だが戦闘も行うのでAGIも若干上がる。
・スキルは装備へのダメージを割り増しするパッシブスキル《破砕の心得》などがあり、上級職は【破砕者(ブレイカー)】になる。

《インフェルノ・ブレイク》:【戦棍鬼】の奥義
・メイスに炎を纏わせて高熱と打撃で装備やその中身にダメージを与えつつ、その炎に接触した物にも炎を纏わりつかせ延焼による継続ダメージを与えるスキル。
・欠点としてクールタイムが長く、更にメイスに掛かる負担が大きいので相応に頑丈な物でないと耐久値を消耗してしまうが妹の【ギガース】なら特に問題は無い。

ネリル:かつてはエレメンタルを介して結構人界に干渉していた
・【覇王】の敵対勢力に少し助成したので目を付けられかけた事もあったが、地下深くにいるので見つけるのが困難かつ戦えば結果はどうあれ国土が壊滅するので無視された。
・ちなみに現在の肉体になった所以である転生離脱スキルは、この時期に【覇王】対策として急ピッチで作った物だったり。


読了ありがとうございました。
妹達が通ってる小学校は何故か妙に天災児の所属割合が高い説(昔は兄や姫乃も通っていたりした)


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ネリル先生による魔法+αの解説講座

前回のあらすじ:妹「ゴブリンを装備ごと潰す、ゴブリンを装備ごと潰す、ゴブリンを装備ごと潰す……」


 □王都アルテア・宿屋 【拳闘士(ピュージリスト)】ミュウ・ウィステリア

 

「さて、ではまずMPとSPの基本について解説するぞい。……簡単に言うとMPとは外なる万能。(リソース)に法則を与える事でこの世界のあらゆる現象に成り代わるモノ。SPは内なる変革。(リソース)を器に触れさせて在り方を変えるモノ……と言った所じゃな」

「……なんかいきなり難易度が高そうな話なのですが……」

「うーん、ちょっとよく分からないなぁ」

『そんな風に意識して使った事は無かったですね』

 

 とある日のデンドロプレイ時、私は兄様とミメとヴォルトと一緒にネリルちゃんから魔法やスキルに関する指導を受けていたのです……ちなみに姉様は超級職就職条件を満たす目的で<墓標迷宮>に籠っているので不参加なのです。

 ……私はそろそろジョブの方もカンストしそうですし姉様と違ってジョブリセットの必要も今の所は感じず、超級職の就職条件を満たすのも少し難しそうなので、それ以外の分野で戦力を強化しようと()()()()()()()もあって指導に参加しているのです。

 

「……ふむ、つまりMPは魔法などの現象を引き起こす……いや、現象に変換される物で、SPは自分自身に干渉する物といった感じか。……外に創り出されれる物と内を変換させる物とかか?」

「うむ、今の所はそんな認識で大丈夫じゃよ。この辺りの話は“本質”を理解するのに時間が掛かるから、今はフィーリングで覚えておけば良い。……そもそも今回の目的は各々の戦力強化に使えそうな知識や技術を教える事じゃからな」

 

 そう、この指導が行われている理由は以前姉様が超級職の就職条件を彼女から得た様に、前世では先々期文明から生きてきて様々な知識を持つネリルちゃんの知識や経験の中で私達の戦力強化になりそうなモノを教えてほしいと頼み込んだからなのです。

 ……この頼みを引き受けて貰う為に、私と兄様で王都で評判な高級お菓子とか高品質の魔石(前世と同じくこっちも普通に食べられるらしい)を彼女に貢いだ甲斐がありました。

 

「改めて言っておくが、御主らが強くなるのに一番手っ取り早い方法は普通にレベルを上げて装備を整えて戦闘経験を積む事じゃからな。御主らなら何か超級職を取ってレベルを上げるだけで普通に最高峰の実力を手に入れられるじゃろ。……今から教える知識や技術はある意味寄り道とかオマケとかみたいなもんじゃと思っておけ。上手くいく保証は無いからな」

「優先するのはレベルや地力を上げる事だと言うのを間違える気は無い。……だが、俺の場合だと超級職を取れるか怪しいからな」

「それに技術を覚えるなら早い方が良いと思うのです」

 

 レベルを上げて装備を整えるのは時間と手間を掛ければ確実に出来る事ですが、技術を覚えてそれを極めるにはどれだけ時間があっても足りませんからね。

 

「まあ、分かっているなら良い……と言っても。ワシに教えられるのは魔法技術とかMP系のスキルの運用に関しての物ぐらいじゃからな。元【ミネラルワーム】じゃから武術とかは全く知らんからの。……じゃあ、まずは“魔法”について教えようか」

 

 ……そうやって私達への確認と前置きを終えたネリルちゃんは早速この世界の“魔法”についての説明を始めた。

 

「魔法というのはMPを消費して発動するスキルで、属性は天・地・海の三属性を始めとして複数存在する……と言うのはもう知っておるじゃろうから飛ばすぞ。……そんでこの魔法なんじゃが実はスキルが無くても設定さえ知っておれば、その通りに魔力を操作する事で発動できる。つまり“魔法スキル”とは<アーキタイプ・システム>によってこの設定を簡略化させたモノになる」

「いきなり知らない単語が出て来たのですが。<アーキタイプ・システム>とは?」

「先代の“管理者”が遺した世界を管理するシステムの一つで『ジョブ』を管理するものじゃ。ジョブクリスタルを通じてティアンにジョブを与えたり個人の適性や才能や人生などを測定して“試練”によって超級職に相応しい者を選別する機能を持っておる。またスキルとしての確立による魔法の簡略化、料理や格闘などのセンススキルの一般化なども担っておると昔母様から聞いたな。……まあとにかく、魔法スキルによって詳しい設定を知らずともスキルさえ覚えれば誰でも簡単に魔法を使える訳じゃ」

 

 尚、その<アーキタイプ・システム>がどこにあるのか、そもそもどんなモノなのかはネリルちゃんにも分からないのだとか……先代管理者やそれに仕えていた“古龍”がいなくなった以上はシステムについて知る者は()()いないだろうとの事。

 

「それで今から教えるのはスキルに寄らず魔法を使う方法になる。これが出来る様になれば魔法スキルの設定改変とかオリジナル魔法の開発とかが出来る様になる訳じゃ。その辺りはジョブスキルによって簡略化された“魔法の仕組み”に切り込める頭脳と才能を有しているかによるがな。……まず、本来魔法とは魔力の変換・操作・制御等の要素を組み合わせてできており、個々の魔法の要素・構成・仕組みを理解して手を加えれば魔法の設定を変化させることができるのじゃ。例えば《ファイアーボール》などの火属性魔法なら魔力の熱エネルギーへの変換、不要な拡散を防ぐための制御、攻撃にベクトルを与える指向性を持たせる操作と言った具合じゃな」

 

 そう言ったネリルちゃんはおもむろに人差し指を上げると指先に小さな火球を作り出してみせた。

 

「これは《ファイアーボール》の設定から『真っ直ぐ飛ばす運動ベクトルを与える』操作部分の術式を削除して、その場に留まらせているんじゃ。設定的には『魔力を熱・光エネルギーの複合である炎に変化』させ『球体に制御』している感じじゃな。ちなみにこのままだと重力に引かれて下に落ちるから消すぞ」

 

 それだけ説明するとネリルちゃんは徐々に下に落ちていっている《ファイアーボール》を消し去った……成る程、私にはさっぱり分かりませんね(笑)

 ……まあ、隣の兄様は何か頷いているので分かってるっぽいですが。

 

「じゃあこれから魔力制御や術式とかについて教えていくぞい。……まあ、役に立つかは御主ら次第じゃがな。この技術はティアンの魔法系超級職等が専門の知識や研鑽によって自身の魔法を突き詰める事で至る物じゃから一朝一夕には身に付かんし、身に付いたとしてもオリジナル魔法の開発とかちょっと魔法が使いやすくなるぐらいにしか役に立たんが。……まあ、主人殿の場合だと魔法系の“神”の転職条件を満たす事が出来るかもしれないがの」

「それもネリルの指導を受けようと思った目的の一つだからな。早速教えてくれ」

 

 そうしてネリルちゃんによる<Infinte Dendrogram>に於ける“魔法”の本格的な講義が始まったのでした……正直言って私の戦闘能力向上には余り役に立たなさそうですが、兄様やミメはやる気ですし知識を得ておく分には損は無いでしょう。

 

 

 ◇

 

 

「……ふむ、主人殿は中々魔法の才能がある様じゃな。……と言うか、かなりこの手の術式を編むのに慣れておる感じがするのじゃが。特に魔力の操作部分がな」

あちら(リアル)側で少し()()()()()()()()()()()()()があるだけだ。あちらのとは大分法則や術式が違うから各種設定をきっちりと覚える必要があるがな」

「成る程のー」

 

 そんな感じで指導を受ける事小一時間、どうやら兄様はかなり順調に魔法技術を覚えているみたいですね……後、現実の方での“兄様の秘密”とかに関しては私も詳しくは知らないのです。兄様が私や姉様を巻き込まない様にしているのは分かってるので聞かない様にしてますので。

 

「まあ、主人殿の場合だと魔法系ジョブをさっさと複数取ってレベルを上げた方が手っ取り早く強くなれるんじゃがな。マニュアル魔法に関しても多くの魔法スキルを使って、簡略化された魔法を使う感覚を体験するのが一番の近道じゃし」

「それはちゃんと分かってると言っているだろう。今回は知識を得ておくのが目的だから技術の習得は後回しにするさ。ジョブに関してもこの前のクエストで就職条件を満たした【司教(ビショップ)】などの魔法系上級職や、【戦像職人(ゴーレムマイスター)】や【防術師(ディフェンダー)】系統のジョブを取ってレベルを上げてるし」

「うむ、主人殿の場合は魔法剣士系ジョブも良いかもしれんな。アレには近接戦闘しながら魔法の行使を行える様になるジョブスキルもあるし。大量のジョブ枠があるなら必然万能型になるじゃろうからその手のスキルがあった方がいいじゃろ」

 

 そしてネリルちゃんの講義は前世で魔法都市のティアンに講義をした事があると言っていただけあって意外と分かりやすく、更に魔法技術だけではない各々の適正に合わせたより強くなれる方法を教えたりしてくれるなど長い時を生きてきたからかタメになる知識が多いのです。

 ……私の場合は『魔法系の才能はそこまででも無いけど、武術系の才能が図抜けてるからそっちを突き詰めた方が良いじゃろ。ワシに教えられる事はほぼ無いけどな』と言われただけでしたが。

 

「ヴォルトの方も中々筋がいいな。雷属性に特化しているとは言え魔力の扱いやスキルの開発能力もかなりのもんじゃ。……モンスターの場合、ジョブでスキルを得る人間と違って高度なスキルを会得する為には自力開発する必要があるから本人のセンスはかなり重要じゃ。現在はどんな雷属性のスキルが使えるんじゃ?」

『雷の矢を発射する《サンダーアロー》、その上位版《ライトニング・ジャベリン》、雷に指向性を持たせて放射する《サンダー・スマッシャー》、全方位から雷を放射する《サンダーバースト》、蹄に雷を纏わせて踏みつける《迅雷の蹄》、身体に雷を纏わせて突撃する《雷電疾走》ですね。……ただ、制御が荒いので主人を背に乗せたまま戦うとそちらにもダメージが行きますが』

「ふむ、雷は元々操作難度の高い属性じゃからな。魔力制御技術を覚えるのは当然じゃが、それとは別に絶縁系の雷属性レジストスキルを覚えるのも良いかもしれん。威力を上がってくると自分にその余波がいかぬ様にする対策も必要じゃしの。……後はワシが使える雷系スキルをいくつか教えよう、各種雷属性攻撃魔法や電磁波レーダー、電磁防壁とかその応用である空中走行能力とかも良さそうじゃ」

 

 ちなみにヴォルトとネリルちゃんの仲は普通に良好……と言うよりは、ヴォルトの方がネリルちゃんを『自分より遥かに上位のモンスター』として敬意を払っている感じですね。兄様曰く、ネリルちゃんが<UBM>を倒した所を見たのが原因だそうです。

 

「そうじゃのう、最終的にはスキルの運用・開発能力が《竜王気》とかを覚えられるレベルになれば言う事無しなんじゃがな。……まあ、技術を磨くというのは時間のかかる物じゃからじっくり行くと良い」

『……《竜王気》って確か【竜王】専用のスキルでは?』

「いや? 《竜王気》は覚えようと思えば誰でも覚えられるぞ。……アレは魔力(MP)魂力(SP)によって練り上げるモノ。具体的に言うと魔力を擬似的な()()()()に成り代わらせてオーラという緩衝材とし、それに器に干渉する魂力を使う事で変革させ別の特性を与えるモノじゃからな。元は世界創造の力の片鱗であり世界の最古の理に刻まれた力で、かつての管理者の補助ユニットとして作られた古龍と、その類似品である【竜王】には現在も使用権限があるのじゃよ。逆に言えば理屈さえ理解出来れば【竜王】以外でも使えるぞ。前世のワシは使えたし」

「……本当、唐突にヤバめな情報をぶっこんで来るな」

 

 まあ、私も兄様も【竜王】や《竜王気》については気になったので、その後も続いた『ネリルちゃんによる《竜王気》講座』をしっかりと聞きましたけどね……正直習得出来る気がしないのですが、今後【竜王】とかと戦う時になったらこの知識は役に立つでしょう。

 

『……聞けば聞くほど私程度で習得出来る技術では無い様な……』

「《竜王気》の特性上、器がジョブで紐付けされている人間よりも、器そのもので構成されたモンスターの方が比較的習得しやすいんじゃがな。……まあ、流石にすぐ習得出来る物でも無いし今は普通にスキル制御や新スキルを覚えていけば良い」

 

 そうしてネリルちゃんはヴォルトにいくつかのアドバイスをした後、私とミメの元へとやって来ました。

 

「さて、御主らへの指導じゃが、まずミュウの方に関してはさっきも言ったがワシから指導出来る事は殆ど無いな。そもそも前世のワシは手足のない蚯蚓じゃったから人間の武術とかは大して磨いてこなんだしな。人型エレメンタルの遠隔操作時に少し体術の練習をした事はあるが、とても御主に教えられるレベルでは無い。【魔拳士】のスキルで多少のアドバイスは出来るだろうがそのぐらいじゃ」

「分かりましたのです」

「それでミメーシスの方じゃが、そちらも<エンブリオ>のスキルとか進化関連でワシが力になれる事はほぼ無い。そもそも専門外じゃからな。……まあ、御主が覚えたいのはスキルの運用法に関しての様じゃが」

「うん、《攻撃纒装(アタック・テスクチャ)》でラーニングしたスキルを使う時の参考になれば良いと思ってね。……ボクのスキルって使用状況が限定されているから普段の戦闘だと融合してミュウの戦いを見ているだけだし、こう何か出来る事があればいいなと思って」

 

 確かに雑魚が相手の時にはミメ自身のスキルは余り使ってませんが、直接戦闘していないが故に余裕をもって戦局を見てくれていますし、ステータスを感知する特性で周辺を見張ってくれたりしてるので十分役に立ってると思うのですが。

 ……それにミメの能力が純粋に戦闘に特化していないのは、多分私のパーソナルが“この世界で強くなりたい”という気持ちがあるのに“強い自分”への()()()があるのが原因なんじゃ……。

 

「……ふむ、まあミメーシスはラーニングスキルをある程度制御して使っているのだし、そちら方面での才能もありそうではあるが……とにかく主人殿と同じ様にワシが様々な種類の魔法を撃ち込むから、ラーニングしたそれら魔法を使い続けてスキルを使う感覚に慣れるのが良いじゃろう。ワシも出来る限りアドバイスをするし、普段の戦闘でも可能な限りラーニングスキルを使う事じゃな」

「分かりました。……ではミメ、行きましょうか。《憑依融合(フージョンアップ)》」

「了解」

 

 そうして私とミメはネリルちゃんのアドバイスを受けつつラーニングスキルの運用技術上昇や、効率的な使い方などを練習していくのでした……まあ、そうやって練習してみても自分への嫌悪感は消えませんでしたが。自分の肉体なら筋繊維一本に至るまで自在に制御出来る私ですが、自分の心に関しては自由に操る事も出来ないんですよね。

 

『ミュウ、今は練習に集中しよう。……ボクは君の相棒だからね。ミュウが先へ進める様になるまでは今のままでも構わずにずっと側にいるよ』

「……ありがとうございます。私はミメの力が共に歩める融合系で良かったと思うのですよ」

 

 そんな事を考えていたら融合したミメにそんな事を言われてしまいました……そうですね、それでも先に進むためには今出来る事を少しづつやっていくしかないんでしょうし頑張って練習しましょうか。




あとがき・各種設定解説

末妹&ミメ:カンスト近いので技術面からの強化方法を模索中
・ミメーシスの方は<エンブリオ>なので末妹の内心や“事情”も当然知っているが、彼女が踏ん切りをつけられるまで見守りながら手伝うスタンス。

拳闘士(ピュージリスト)】:闘士系統派生下級職
・闘士系の中でも徒手空拳での戦いに長けたジョブで防具の効果を上昇させて相手の攻撃に耐え、正面から素手での殴り合うなど“闘技場受けする拳闘”に長けたジョブ。
・主なスキルとして素手の時限定で装備した防具とアクセサリーを強化するパッシブスキル《拳闘衣装》や、同じ条件で拳の攻撃力と硬度を引き上げるアクティブスキル《ハードグローブ》と言ったスキルを覚える。
・覚えるスキルの多くが『右手・左手装備枠が空いている時』に効果を発揮するのでデメリットが被っている末妹とは相性が良いのだが、就職条件が『徒手空拳で決闘に勝利する』と言うものだったのでジョブに就くのは最後になった。

兄:リアルでの経験(異能系)あり
・ネリルを仲間にしてから就いたジョブは【司教】【白氷術師】【戦像職人】【防術師】といった所で、特典武具【クルエラン・コア】のスキル解放目当てにゴーレムの作成訓練も行なっている。

【防術師】:防術師系統下級職
・魔法系下級職の一つで《〇〇・レジスト》《〇〇・レジスト・ウォール》などの各種下級防御魔法を習得出来る。
・原作の《抵抗術師》《障壁術師》の描写やバババ先輩が防御魔法使ってた所からあるだろうと思って捏造して防御魔法下級職(原作で正式名称が出たら変えます)

ヴォルト:ネリルの指導で修行中
・本人的には格上の存在に師事して強くれる機会を拒む意味も無く、また兄を騎乗させながらの戦闘が出来ない事も気にしてたので訓練には積極的。

ネリル:情報に関しては三兄妹相手なら教えても問題ないだろう物のみ話している
・実は兄のレベリングに付き合っていて進化したので、種族はリトルが取れ【ネイチャー・エレメンタル】になっている。
・【ネイチャー・エレメンタル】自体は純竜級の種族なのだが、現在はレベルが低いので亜竜級下位程度のステータス。
・ちなみに前世の【アニミズヮーム】は《竜王気》の第二段階として鉱物と魔力・魂力を練り合わせて、更に様々な魔法術式を組み込んで多種多様な属性を付与する《ミネラル・エンチャント》と言うスキルが使えた。
・このスキルで【魔神石】を始めとする様々な【ジェム】を作成・蓄積したり、鉱脈や地脈の調整を行なって自分の住む場所や食料の確保なども行なっていた。
・尚、現在はステータスが足りない事と、根本的に“器”が別物になってしまったのでこのスキルは使用不可。


読了ありがとうございました。
今回ネリルの《竜王気》についての説明には独自設定・解釈が入っているので、原作で詳しい設定が発表されたら変更するかもしれません。ご了承ください。


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あの<マスター>の今:エルザ・ウインドベル編

前回のあらすじ:末妹「特に語る事も無い修行回でした」兄「ネリルの発言は今更だしな」


 □<イースター平原> 【高位飼育者(ハイ・ブリーダー)】エルザ・ウインドベル

 

「それでは、この先にあら<イスターデ森林>にターニャが欲しがっている素材があるんですね?」

「そうだよー。そこに居る【カース・トラップスパイダー】の素材が欲しいんだよね。……でも、生産職の私一人だとキツい場所だからさ」

 

 デンドロのとある昼下がり、私は友人である【紡績職人(スピンマイスター)】ターニャ・メリアムの頼みで王都の東にある<イスターデ森林>へと向かっていました……ちなみに報酬は彼女が所属する生産クラン<プロデュース・ビルド>の装備をいくつか貰う事になってます。

 ……テイマーである私は仲間のモンスターや【ワルキューレ】達が使う装備をいくつも用意しないといけないので、こんな風に戦力を貸す代わりに彼等クランが求める素材を手に入れる手伝いをよくやっているんです。

 

『マスター、10時の方向から【バイオレンス・ファング・ボア】が三体こちらに向かって来ています』

「ありがとうヴォルフ、そのまま私の護衛を宜しく。……アリアとトリムは前に、アーシーは穴と壁を、ウォズとフィーネは援護の準備。ターニャは私のそばで待機して」

『了解!』

 

 その途中で索敵担当である【グレイウルフ】のヴォルフが敵の接近を感知したので、私はいつも通り皆んなに指示を出してから手に持っていたいた【従魔師の鼓旗】を掲げました。

 進化したヴォルフの種族である【グレイウルフ】は、直接戦闘能力が低い代わりに《危険察知》《殺気感知》《索敵》《罠感知》などの各種探知系スキルに特化しているので、パーティーの斥候役を担ってくれています。

 ……そして私が持つ【従魔師の鼓旗】は掲げる事でテイムモンスターのステータスを微増させるパッシブスキル《従魔鼓舞》を持つ、<プロデュース・ビルド>製の一品です。

 

『『『BURUAAAAAAA!!!』』』

『じゃあ作るよー。《ディグ》ー、そんで《アースウォール》ー』

 

 更に向かって来た【ファング・ボア】の前方に、私の肩に乗っている拳大の石──【アース・コアエレメンタル】の“アーシー”が魔法で地面に開けた穴と、その後ろで土で作り上げた壁が発生しました……突然作り上げた穴を全速力で突っ込んで来たボアは避ける事が出来ず、そのまま壁にぶつかって三体とも穴の中に落ちていった。

 ……アーシーは私がフィールドを探索している時にフラフラ彷徨いていた所を偶々見つけてテイムしたモンスターで、その見掛けによらず強力な地属性魔法を駆使する亜竜級モンスターなのです。

 

『BUMOOOO⁉︎』

「穴からは出しません! 《シールドバッシュ》!」

「そういう事! 《大切断》!」

 

 慌てて穴から出ようとする【ファング・ボア】に対し、接近していた【守護者(ガーディアン)】アリアの盾と【蛮戦鬼(バーバリアン・オーガ)】トリムの大斧が叩き込まれて相手を再び穴の中に落とした。

 ……そうして即座に次の準備をしていたアーシーと上空にいる【テンペストイーグル】のウォズ、そして【ワルキューレ】が第四形態になって新しく生まれた四女である緑髪ショートカットの【紅蓮術師(パイロマンサー)】フィーネが行なっていた魔法の準備が終了します。

 

『《カッター・サイクロン》!』

「《ブレイズ・バースト》!」

『《魔法多重発動》《ロックグレイブ》ー』

『『『GUOOOOOO⁉︎』』』

 

 そして上空のウォズが巻き起こした敵を切り刻む竜巻、フィーネのワンドから放たれた業火、アーシーが穴の中から発生させた岩の槍が【バイオレンス・ファング・ボア】へと突き刺さってその息の根を止めたのだった。

 ……やっぱり陸戦突撃系には穴に落として集中攻撃が一番手っ取り早いですかね。高速かつ連続で魔法を発動出来る技術を持ったアーシーが仲間になったからこその戦術ではありますが。

 

「マスター、ドロップアイテムの【暴走猪の毛皮】です」

「ありがとうアリア。……ターニャ、毛皮系アイテムだけど買う?」

「そうだねー、じゃあ買い取るよ。最近大口の依頼があって懐に余裕があるしね。……しかし流石はエルザ、私やクロートーが手を出す暇も無かったね」

『KYUUU』

 

 まあ、今回の依頼はターニャ達の護衛が主ですから、彼女達が戦う事には出来るだけならない様にする方針です……そんな会話をしつつ、時折現れるモンスターを狩って素材をターニャに友情価格(高値)で売りながら、私達は<イスターデ森林>へと向かって行ったのでした。

 

 

 ◇

 

 

 そうして到着した<イスターデ森林>ですが、ここには魔蟲系……特に蜘蛛系のモンスターのモンスターが多数生息しており、それらによる糸を使ったトラップが多く設置されているので一種の<自然ダンジョン>と化している場所になります。

 ……鬱蒼として視界が効かない森と至る所に設置された“蜘蛛の巣”によって、それらに対応出来る能力が無ければカンストしていようが森を進むに連れて『詰む』ぐらいに攻略難易度が高い所でもあります。

 

『マスター、ターニャ殿、前方に蜘蛛の巣がいくつかあります』

「《鑑定眼》……ふむふむ、アレは粘着性に特化して触れると張り付いて動きを封じるタイプかな。可燃性が高いから焼いた方がいいかも」

「分かりました。フィーネ、お願いします」

「了承する……《ファイアーボール》」

 

 最も、こちらには《罠感知》が使えるヴォルフと、ジョブスキルによって“糸”に対する鑑定に補正が掛かるターニャがいるのでどうにか進めていますが。

 さて、今回のターゲットである【カース・トラップスパイダー】はその名の通り呪い(カース)を帯びた糸を使って罠を作るタイプの蜘蛛型モンスターで、その蜘蛛の巣に囚われれば呪怨系状態異常に掛かってしまいます。

 ……なので呪怨系状態異常を治せて、サブジョブの【祓魔師(エクソシスト)】の《呪詛感知》で呪いを感知出来る【司教(ビショップ)】セリカを中心にしつつ探索を続ける事小一時間、私達ようやくターゲットである【カース・トラップスパイダー】を見つけました。

 

『KIISYAAAAAA!!!』

「やっと見つけたよ【カース・トラップスパイダー】! クロートー《運命の横糸》!」

『KYUUA!』

 

 目的の相手をようやく見つけてテンションが高いターニャは、肩に乗ったクロートーに網状に織られた黒い糸を口からいくつも発射させた……アレは粘着性が高くて触れた敵に【呪縛】の状態異常を掛ける糸なのだが、所詮は糸なので速度はそこまででも無い上に呪いに長けて意外と素早い【カース・トラップスパイダー】はあっさりと回避してしまったが。

 ……まあ、一時的に向こうの注意を引いてくれただけで充分なんだけど。

 

「セリカは呪い対策、フィーネは周りの巣を排除して」

「分かりました……《ホーリーゾーン》!」

「了承する……《バーンウェイブ》!」

 

 そうして出来た隙にセリカが周囲の呪怨・病毒系状態異常を軽減する結界を展開し、フィーネが弱目の炎を周囲を舐める様に放って貼られた蜘蛛の巣を排除していった。

 ……とりあえず呪い対策と周囲のトラップの排除さえ出来れば、あの【カース・トラップスパイダー】自体のステータスは低いからね。十分倒せる。

 

『マスター、辺りのトラップは全て解除されましたぞ』

「分かったヴォルフ。……アーシーは相手の動きを封じて。アリアとトリムは糸に注意しつつ接近戦。ウォズは二人の援護」

「了解です、マスター!」

『おっけー。《マッドバインド》ー』

 

 そうして蜘蛛の巣が排除された所でアリアが盾を構えながら突っ込んで行き、それと同時にアーシーがスパイダーの左右と後ろの地面から縄状に形成した泥を襲い掛からせる。

 ……咄嗟にその泥の縄をスパイダーは避けようとするが、泥縄の無い前方からはアリアとトリムが迫っていた事もあって、回避出来ず泥に纏わり付かれてその動きを鈍らせた。

 

『KIISAAA⁉︎』

「隙あり! 《魔蟲斬り》!」

「いっくよー! 《バーバリアン・クラッシュ》!」

 

 そこにアリアの剣による一閃がスパイダーの足の内一本を斬り飛ばし、その後ろから飛び出したトリムが両手に持った大斧を勢いよく振り下ろして相手の頭部を真っ二つに叩き割った。

 ……まあ、【カース・トラップスパイダー】は格的には亜竜級未満といった所ですし、罠と呪い重視で物理ステータスは決して高く無いので今の私達なら接敵さえすれば問題なく倒せるんですがね。

 

「……ふーむ、ドロップは【呪怨罠蜘蛛の節足】か。出来れば【呪怨罠蜘蛛の糸玉】の方が良かったんだけどね。……まあ、クロートーの《天糸紡ぎ》で糸素材に変えれば良いんだけど。質量はこっちの方が多いし」

「ドロップアイテムの種類は問わないのは楽で良いですね。この手の採集クエストは運次第では少し面倒な事になるから『マスター! 新手ですっ!!!』っ! 全員警戒!!!」

 

 私とターニャがが目的のドロップアイテムを拾って一息吐いていると突然ヴォルフが警告を飛ばして来たので、私はすぐさま全員に警戒を指示して皆もそれに応えて即座に戦闘体勢を取った……<墓標迷宮>の様なダンジョンでは常に敵を警戒しなければならないので、すっかりこういう指示出しがクセになってしまいました。

 ……そうして戦闘準備を終えた直後、森の木々をなぎ倒しながら()()()が私達でも見える場所まで姿を現したのです。

 

『GAAAAAAAAA!!!』

『KISYAAAAAAAAA!!!』

 

 怒号を上げながら口から光の束を放って辺りを薙ぎ払っているのは一対の翼とがっしりとした手足を持つ白い竜【シャイニング・ドラゴン】で、そのブレスに擦りながらも反撃として毒の針を飛ばしているのが巨大な毒毒しい色の蜘蛛【デッドリー・ヴェノムスパイダー】……どちらもここらでは珍しい純竜級のモンスターでした。

 ……どうもドラゴンの方の動きが鈍い様でしたが、よく見ると翼に毒々しい色の糸が絡み付いている所為で飛べなくなっており、《健康診断:非人型範疇生物》で見てみると【溶解毒】と【衰弱】の状態異常に掛かってるのが分かりました。

 

『GIIIAAAAAAA!!!』

『KESYAAAAA!!!』

 

 だがそれでもこの世界でも最強の種族であるからか、ドラゴンは毒に犯された身体でも構わず光熱を纏った爪牙で【ヴェノムスパイダー】を斬り裂いています……やっぱ良いですよねドラゴン、ファンタジー好きの私としてはいつかテイムしてみたい物ですが……。

 

「うへぇ……もう怪獣大戦争じゃん。……幸い向こうは戦いに集中してこっちに気付いてないみたいだし逃げようよ」

「……まあ、今回の収集依頼は一応果たしましたし……っ⁉︎ アーシー! 私達を地下へ!!!」

『《ピットフォール》! 《アースウォール》!』

 

 そんな光景をどこか他人事の様な雰囲気で見ていた私達でしたが、すぐに私の指示により普段はのんびり間延びした口調のアーシーが焦った様子で全力の地属性魔法を使って地面に穴を掘り、私達をその中に入れると共に土の壁で上を覆いました。

 ……その直後、スパイダーが口から放った粘着性の糸で囚えた【シャイニング・ドラゴン】を勢いよく振り回してこちら側へと投げつけて来たのだ! 

 

『GAAAAAAAAA!?』

「わっきゃ────!!!」

 

 こちらに飛ばされたドラゴンは直前に展開していた土の壁を突き破り、穴に入った私達の上を通り過ぎて後ろにあった木々にぶつかって動きを止めました……不味いですね、位置的に私達は蜘蛛とドラゴンに挟まれる形になってしまいました。ここは……。

 

「セリカ以外の総員! 前の蜘蛛を足止めして下さい!」

「了解! 《ワイドシールド》!」

「《トマホーク・ブーメラン》!」

『《マッドクラップ》!』

『《ウインドカッター》!』

『KISYAAAAAA⁉︎』

 

 私の指示の元に穴から飛び出した仲間達はこちらに迫っていた【ヴェノムスパイダー】へと足止め目的で集中攻撃し始めた……幸い相手の注意がドラゴンにしか向いていなくて奇襲になった事、そしてこれまでの戦闘でスパイダーがダメージを負っていた事によってどうにか足止めに成功していた。

 

「……さてターニャ、確か持ってきたアイテムに【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】と【快癒万能薬(エリクシル)】が有ると言っていましたね」

「う、うん、お得意様から報酬代わりに貰ったヤツと生産ギルドの伝手で入手したヤツが……何するの?」

「そうですね、ちょっとテイマーらしくモンスターとの“交渉”の時間ですよ」

 

 不安そうに聞いてきたターニャに対して私は少し悪戯っぽく笑みを浮かべながらそう答えながら、糸と状態異常によって地面に倒れ伏して動けずにいる【シャイニング・ドラゴン】の元へと向かっていった。

 

「やぁ【シャイニング・ドラゴン】ちゃん、私のテイムモンスターにならないかな? 今なら【快癒万能薬】が付いて来るよ。……拒否したらこっちの【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】を投げるけど」

『何だと……⁉︎』

「ああ、ウチの子達が時間を稼げるのは後少しだから十秒以内に決めてね。勿論十秒過ぎたら後顧の憂いを断つために【ジェム】だけど。いーち、にーい……」

『ま、待てぇ⁉︎』

 

 何か焦っている【シャイニング・ドラゴン】の言葉を意図的に無視しながら、私はターニャから預かった【ジェム】と【快癒万能薬】を両手に持ちながら制限時間である十秒を数えて行く。

 ……状況が状況なので相手に深く考える余裕を無くさせて勢いで押し切る作戦である。今の状態異常では十秒以内に動ける様になるのは無理だしね。

 

『わ、ワカッタ! お前のテイムモンスターになってやるから!!!」

「その言葉が聞きたかった。んじゃ《従属契約(テイム)》」

 

 私の穏便な交渉術──ダウト! byターニャ──によって【シャイニング・ドラゴン】はテイムモンスターになる事を同意してくれたので、私は直ぐに【快癒万能薬】を彼女に与えて、更にセリカに回復魔法を掛けてさせておく。

 ……そうして状態異常とダメージが回復して動ける様になった彼女は、即座に自分の身体へと光熱を纏わせて張り付いていた蜘蛛糸を焼き払った。

 

「それじゃあ、貴女の名前は“シャイナ”で良いかな。まずはあの蜘蛛を倒して貰うよ……誇り高きドラゴンが一度した約束を破るとかは言わないよね?」

『言われなくても分かってる! お前達は下がっていろ!!!』

『KISYAAAAA!!!』

 

 そんな風にシャイナはちょっと苛立たしそうにしながらも私の指示を聞いて【デッドリー・ヴェノムスパイダー】へと襲い掛かって行った……まあ、今戦っていたアリア達を下がらせてから突っ込んでいますし、口調の反面テイムモンスターとしてはキチンとやる気みたいですがね。

 ……それで肝心の戦いの方だが、そもそもシャイナは状態異常と蜘蛛糸によるデバフを受けた状態である程度戦えていた上、今は私のテイムモンスターになった事で私の《魔物強化》などのバフが掛かっていて、かつ相手はこれまでの戦いで相応のダメージを負っているので……。

 

『いい加減に沈め! 《ストライク・レーザークロー》!!!』

『KEEESYAAAAA⁉︎』

 

 散々ボコボコにした後に光の刃によって伸長させた爪による一閃で身体を断ち割られて【デッドリー・ヴェノムスパイダー】は絶命したのであった。

 

「お疲れ様シャイナ。流石は純竜だね」

『当然だ、毒さえ貰わなければあの程度の相手に苦戦するものか』

「うんうん、これからも宜しくね」

『……ハァ……コンゴトモヨロシク』

 

 うん、とりあえずシャイナとは少し無理矢理な契約だったけど私に従ってはくれるみたいだし、この関係が良いものになるかどうかハァ今後の付き合い方次第かな……まずは他のみんなに新しく加わった彼女と仲良くする様に言っておこうかな。なんか面倒見は良さそうだし。

 

「まあ、少々トラブルもありましたが結果的には純竜級蜘蛛の素材も手に入って、純竜までテイム出来たので万々歳ですかね」

「……エルザ、本当に強く……ってか、色々と図太くなったわねぇ。以前はおっとり系お嬢様だったのに……」

 

 ……そうして諸々の事態を解決したらターニャからそんな事を言われて少し引かれた。解せぬ。




あとがき・各種設定解説

エルザ:順調にテイマー街道を驀進中
・ちなみに自身の現状は装備が全て従属キャパシティ拡張に割り振られていて、<エンブリオ>である【ワルキューレ】は現在第四形態で必殺スキルはまだ未習得と言った所。
・彼女自身は観察力こそ高いものの天然物《審獣眼》持ちの様にモンスターの資質を見極める事は出来ない……が、本人のリアルラックと巡り合わせの良さで優秀なテイムモンスターを手に入れるタイプ。

【高位飼育者】:飼育者系統上級職
・【飼育者(ブリーダー)】はモンスターの育成に特化したジョブだが、【調教師(トレーナー)】の様にスキルを伸ばす事は出来ず単純にレベルを上げる事しか出来ない。
・だが、従魔の世話をする事で経験値を微量獲得させられる《ブリーディング》、従魔を使役している数に応じて獲得経験値を上昇させる《飼育事業》などレベル上げ補助スキルを複数取得出来る。
・上級職の【高位飼育者】になると従魔の病毒・傷痍系状態異常耐性を上昇させる《健康管理:従魔》や従魔のHP・MP・SPを持続回復させるパッシブスキルなども取得可能。
・その特性上“レベルを上げる事が出来る”<エンブリオ>である【ワルキューレ】との相性が良く、獲得経験値が分散してレベルが上がりにくいという欠点をある程度補っている。

アーシー:性格は甘えん坊で、性別はメス
・【コアエレメンタル】とは通常の自然系エレメンタルが対応する属性の肉体を持っているのに対して、意思を持つ宝石の様な“コア”だけが存在して対応する属性を操る事に特化した種族で、肉体が無い分ステータスはMPに極特化している。
・【アース・コアエレメンタル】の場合は地属性魔法全般が使用可能で、普段は魔法で作った岩石でコアを覆って物体操作魔法で浮遊している。
・その特性上耐久性が非常に低いので、戦闘時にはエルザの肩に乗って一緒に守られながら魔法による援護を行うスタイル。
・実は【アニミズヮーム】が作ったエレメンタルの一人であり、最近生みの親との繋がりが何故か突然途切れて困りながら放浪していた所をエルザに拾われた。

シャイナ:成り行きでテイムされた純竜、性別はメス
・ちなみに【デッドリー・ヴェノムスパイダー】にやられていたのは、ちょっと美味しそうな果物があったので地上に降りたら不意打ちで状態異常と糸を食らってそのままズルズルと押し切られたから。
・ステータスに関しては純竜らしく全体的に高く、特に物理ステータスが高めで光を肉体に纏わせる事による格闘戦に長けている。
・光のブレスも吐けるが光属性特有の燃費の悪さやチャージ時間から余り使わず、その弱点を補う手段として格闘能力を磨いたという一面もある。
・人語を理解し話せる事を含めて頭は良くて人化スキルとかも使え、性格はプライドが高いが基本的に善良なのでエルザ達とはそれなりに上手くやっている模様。

ターニャ:親友の変わりっぷりに内心かなり驚いている
・リアルでのエルザは運動音痴のおっとり系お嬢様といった感じだったのだが、デンドロではすっかりテイマーとしてブイブイ言わせてるのでギャップが凄いと思ってる。


読了ありがとうございました。
ここからしばらくは三兄妹以外の者の視点で短編を書いていく事になると思います。お楽しみに。


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あの<マスター>の今:ひめひめ編

前回のあらすじ:エルザ「交渉の結果新しい仲間をゲットしました!」ターニャ「交渉()ね……」

※【魔弓手】系統のスキル名が分かりにくいので全面的に変更しました。


 □霊都アムニール 【大魔弓手(グレイト・マギアーチャー)】ひめひめ

 

 ここは妖精境レジェンダリアの首都アムニール、私加茂姫乃ことアバター名“ひめひめ”は今日も仕事と趣味を兼ねてデンドロにログインしていたのだった……まあ、仕事に関しては私がそれとなく“超越者”が関わってるらしい事を伝えたお陰で、依頼主の方が殆ど諦め気味だから実質趣味だけどね。

 

「さて、何時ものパーティーメンバーかまともな知り合いは居るかなっと……ここで野良パはちょっとねぇ」

 

 とりあえず私はフレンドリストを見ながらパーティーを組めそうな人間が居ないか探してみた……野良パガチャすると結構な確率で変態をドローするしね、この国だと。

 

「ふむふむ、アリマちゃんとでぃふぇ〜んど君とシズカちゃんはログインしてるみたいだね。じゃあ【テレパシーカフス】っと……」

 

 幸い何時ものパーティーメンバーの何人かはログインしてるので連絡を取ってみる事に……え? 後半の人の名前? まあアバター名は本人の自由だし、私も人の事は言えないし、性格と性癖はまともだから……。

 

「……うんうん、アリマちゃんは来てくれるんだね。ありがとう! ……さて、でぃふぇ〜んど君とも連絡が付いたけどシズカちゃんとは連絡が付かなかいか。いつも通り何処かをフラついてるんだろうしこっちはしょうがないね」

 

 とりあえず、待ち合わせはアムニールの名スポットの一つである『噴水聖樹』と呼ばれる木の前って事になったので向かっていった……ちなみにこの噴水聖樹は枝先から霧のような水を常に噴き出していて、それがレジェンダリアの自然魔力の影響で虹色に輝くから凄く見栄えがいいので良く待ち合わせ場所として使われているのだ。

 

「さて、噴水聖樹に付いたけど流石に他のメンバーはまだ来てないかな。それじゃあ今の内にアイテムの確認でも……『おやぁ? 可愛いロリかと思ったらひめひめ殿でしたぞ。残念ですな』死ね」

 

 そうして噴水聖樹の前で待っていた私の後ろから忌々しい不快な声が聞こえて来た瞬間、私は左手の紋章から即座に【アマテラス】を召喚しつつ無詠唱で《炎勢之矢》を生成、そのままノールックで炎の矢をその声の主へと撃ち込んで火達磨にした。

 そうして火達磨になった全身タイツの変質者──レジェンダリア<マスター>内のトップクラン<YLNT倶楽部>クランオーナー“LS・エルゴ・スム”は、全力で地面を転がりながら身体についた火を消そうとした。

 

『アチチチチチ⁉︎ いきなり攻撃とか酷いですぞ!!!』

「貴様が私の後ろに立つ方が悪い」

『何処の13な殺し屋ですかな?』

「……チッ、耐火系の装備で固めてたか。次は《閃光之矢(貫通特化レーザー)》を使おう」

 

 街中だから余計な延焼しないように威力を落としたのは失敗だったか……ちなみにいきなり私がHENTAIを燃やしたので周りは一瞬騒然としましたが、私とコレが<マスター>でその後も普通に話しているのを見て『ああまた<マスター>の奇行か』『今度も公開SMとかかな?』『俺もひめひめたんに撃ち殺されたい』と言うだけでスルーされましたが。後最後。

 ……私がコイツと同類扱いされるのは気に入らないんだけど、レジェンダリアでは<マスター>の奇行は日常茶飯事だから騒ぎにならない所は良しとしましょう。

 

『いやいや⁉︎ ちょっと待ってほしいですぞ! 今日はひめひめ殿に頼みたい事がありましてな!!!』

「断る。今は貴様を蜂の巣にするのに忙しいからな」

『MATTE⁉︎ ストップ! 例えひめひめ殿が偽ロリだとしても話せば分かり合える筈ですぞ!!!』

「残念ながら私とお前(HENTAI)では戦う事でしか分かり合えないのよ」

 

 そんな事を言いながらも私はLSの眉間に《閃光之矢》の照準を合わせ「アレ? ひめひめさんにLSさん、何やってるんですか?」……後0.1秒で撃ち抜こうとしていた所に“その声”が聞こえて来たので、私は渋々【アマテラス】を下ろして紋章の中にしまった。

 ……そうしてやって来たのは、私が待ち合わせていたパーティーメンバーである小学生ぐらいの赤髪の女の子な【狂信者(ファナティック)】アリマ・スカーレットちゃんと、褐色金髪の青年な【城塞衛兵(キャッスル・ガード)】のでぃふぇ〜んど君だった。

 

『おお! アリマちゃん、久しいですな』

「はい、LSさんもお久しぶりです」

「……俺もいるぞー」

 

 そしてLSは私と違ってリアル小学生ロリのアリマちゃんが現れたからか、先程までのダメージなど無かったかの様に立ち上がって彼女に話し掛けていた……まあ単に懐に入れてあった回復魔法【ジェム】を使っただけだけど。

 アリマちゃんはデンドロを始めたばかりの時にLSに色々とお世話になって、更に格好とかを気にしない性格だからヤツの事を慕っているのよね。

 ……勿論こんな不審者に任せるとか私の良心が許さない(後、公衆の面前で偽ロリ扱いされた恨み)ので、彼女は私達のパーティーに保護したんだけどね。

 

「それで、LSさんは一体何の用だったんですか?」

『実はですな、アムニール郊外にある孤児院の近くに【カンニング・クロウ】の群れが縄張りを作ったらしく、そこに住む幼気な子供(ロリショタ)達が外で遊んでいる時に襲われたのですぞ。コレはロリショタを守る事を使命とする俺的には見過ごせぬと思いましてな、同士であるひめひめ殿を誘って彼奴等の討伐を行おうと思ったのですぞ』

「同士じゃねえっつってんだろ(怒)……そもそも【カンニング・クロウ】程度相手なら手前のクランメンバーを頼ればいいでしょうが」

 

 確かに【カンニング・クロウ】は悪知恵(カンニング)の名の通り頭が良くて低レベルだが魔法を使ってくる上、それなりの速度で空を飛びながら集団で連携してくる厄介な烏型モンスターであり、戦闘速度や有効射程に難がある呪術師スタイルなLSにはキツい相手ではあるのでしょう。

 ……それでも、HENTAIの集まりのくせに無駄に高スペックな<マスター>ばかりな<YLNT倶楽部>のメンバーであれば特に苦戦する事なく討伐出来る筈なのだ。

 

『いやーそれがですな、今<YLNT倶楽部>はこのレジェンダリアにいると言う“子供を攫って魂を抜き取って殺す謎の<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>を全力で探しておりましてな。……クランで援助している孤児院にもコヤツに攫われたと思しき子供達が何人もいる以上、我らにとっては不倶戴天の敵に他なりませんので只今全力でもって捜索中なのですが……そのせいでクランメンバーが出払っておるのですよ』

 

 成る程、どうやらその調査の途中で【カンニング・クロウ】の一件を知り、単独での討伐を難しいと判断して知り合いと言えなくもないかもしれない私達に声を掛けたと言うことみたいね……と、そこまで考えていたら横に居たアリマちゃんが何やら決意に溢れた表情をしていた。

 

「そんな事情だったんですね……分かりました! 私も孤児院の子供達の為に【カンニング・クロウ】の討伐をお手伝いさせて頂きます! ……それでひめひめさん……」

「……ハァ、まあ別に構わないわよ。どうせ適当なモンスターの討伐依頼でも受けようと思ってたんだし、孤児院の子供達の為に動くのは嫌は無いから」

『おお! ありがとうございますぞ、アリマちゃん! 同士ひめひめ』

「だから同士じゃない」

「……俺もいくぞ……」

 

 アリマちゃんって基本的に凄く良い子だからねぇ、こうなる事は予想できていたわよ……ああ、ちゃんってでぃふぇ〜んど君がいる事も忘れてないよ。

 

 

 ◇

 

 

 さて、そう言うわけで私達と(超絶不本意だけど)LSは件の【カンニング・クロウ】の縄張りの近くにあるそこそこ開けた場所にやって来ていた……実はLSが【鳥寄せの餌】という鳥獣モンスターを呼び寄せるアイテムを持って来ていたので、今回は敵を開けた場所に誘き寄せて撃退するという作戦で行くことになった。

 

「それじゃあ、でぃふぇ〜んど君はちょっと“高台”を作ってね。誘き寄せるのと()()()()()()()()()()的には目立った方が良いからね」

「おお、やっと出番だ。……とりあえず了解、それじゃあ行くぞ《フリーダム・ランパート》!」

 

 でぃふぇ〜んど君がそう言った瞬間、私達が立っている地面から縦幅三メートル、横幅二十メートル、高さ十メートル程の“城壁”が一瞬でそそり立って一つの高台を作り上げた。

 ……これが彼の<エンブリオ>である【自在城壁 パラスアテナ】はその名の通り城を囲えるぐらいに巨大な城壁型であり、スキル《フリーダム・ランパート》によって本体の一部のみを任意のサイズ・形状にして好きな場所に高速展開出来るので、今回は高台代わりとして展開して貰ったって訳。

 

『『『KAAAAAAA!!!』』』

「あら、早速来たわ。そのアイテム凄い効き目ね」

『ウチのクランメンバー謹製の一品ですからな! 元はロリショタ達を引き寄せるアイテムを開発するつもりだったのですが、それはクランの方針にそぐわないと言う事で俺の“説得”の末にこの様なアイテムを作らせたのですが』

「その情報はいらない……とりあえず戦闘準備。私がなるべく撃ち落とすから近付いて来たのをお願いね。《瞬間装着》」

 

 LSの戯言をスルーしつつ私は【アマテラス】を向かって来る【カンニング・クロウ】へと構えながら、マント型の特典武具【竜葉外套 ドラグリーフ】を羽織ってから3()0()0()()()()()()離れた相手に向けて射撃を開始した。

 

「《閃光之矢》《スプレッドアロー》!」

『『『KAAAAAAA』』』

 

 ……魔弓士系統のスキルは魔力式弓矢の魔力矢に別の特性を追加する物が多く、今は射る矢が散弾となるスキルを使いながら光属性の矢を放ち十数羽の【クロウ】を纏めて撃ち抜く。

 

『……よくこれだけ離れた場所に、しかも散弾となった矢を全弾個別に命中させるとか出来ますな』

「そうなる様に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からね。そもそもたったの“三百メートルしか”離れていない相手にスキルの保持まであって外す訳ないでしょ」

 

 双眼鏡で【クロウ】の群れを覗きながら呪術発動の準備をしているLSを横目に、私は【アマテラス】の矢に追尾性を付与しながら連射して近づいて来る連中を次々射抜いていった……ちなみに私が離れた相手を正確に目視出来てるのはサブに入れた【観測手(スポッター)】の遠視系スキルのお陰だけどね。

 ……ホントこっちの世界はスキル発動が半ば自動化されてるから楽で良いね。スキル連続使用で消費されるMP・SPも【ドラグリーフ】の自動回復系装備スキル《陽力装》のお陰でしばらくは問題無いから。

 

『『『KAAAAAAA!!!』』』

「《ハウンドアロー》《光炎の矢》! ……と言っても、あくまで一羽一羽撃ち落としてるだけだから私だけだと殲滅には時間が掛かり過ぎるわね。……アリマちゃん、準備は?」

「《フィジカル・バーサーク》……《絶望セシ預言者》……《狂乱セシ聖戦士》……《狂喜スル守護聖人》……《狂イ果テル司祭》……もう少しです」

 

 私が追尾機能付きにした《光炎之矢》を連射している横で、アリマちゃんは自身に次々と【狂戦士】の狂化スキルや【狂信者】の『自身が精神系状態異常になる引き換えに強力なバフを掛ける』スキルを使用していった。

 ……これだけのデメリットスキルを重ね掛けすれば普通のティアンなら発狂、<マスター>でもまともな行動が取れなくなるのだが、彼女の<エンブリオ>【正心偽脳 シャカ】の『自身の精神系状態異常及び精神に干渉するスキルの悪影響・デメリットを受けずに行動出来る様になる』パッシブスキル《悟りの境地(マインド・セット)》によってメリット効果のみを享受出来るのだ。

 

「……《狂走スル巡礼者》……後は《悟りし者の御業(ソウル・コントローラー)》で《伝播スル狂信》を起動……終わりました! ここからは私も戦います! 《ウィングド・ブレード》!」

『『『KAAAAAAA!!!』』』

 

 そうして一通りの狂化バフを掛け終わてから“とあるスキル”を使用した彼女は、それによって得た超級職に迫るステータスでもってサブ上級職である【剣聖(ソードマスター)】のスキルを使い手に持った剣から斬撃波を飛ばして複数の【クロウ】を纏めて薙ぎ払った。

 だが、悪知恵が働く【カンニング・クロウ】達はその一撃に対して個々で一定の距離を取って一掃される事を防ぎつつ、私達から距離を取りながらの遠距離戦にシフトしてきたのだ。

 

『KEEEEAAAAAA!!!』

『おや 【グレーター・カンニング・クロウ】……群の長ですかな?』

「そうみたいね。完全に向こうもこっちと戦う気になったみたいだしでぃふぇ〜んど君は城壁を解除、アレは私が相手をするから他の連中を足止めしなさいな。……どうせアリマちゃんが戦いに入った以上、後()()()()()()から」

「了解です《フリーダム・ランパート》」

 

 それに加えて連中のリーダーっぽい大鴉も現れたので、私達は城壁を下げて動きやすい地上へと降りて戦闘を続行した……リーダーの大鴉は私が矢を射かけて足止めしつつ、回避を中心にして向こうの魔法攻撃をしのぎ続ける事1分、急に全体の三割程の【クロウ】の動きがおかしくなり始めた。

 

『KEEEEE!!!』『KYAAAAA!!!』『KIEAAAAA!!!』

 

 ある者は【混乱】したかの様に回りの【クロウ】を攻撃し、またある者は【狂喜】した様な叫び声を上げ、また別の者は【恐怖】したかの様に動きを止めて地面に落下していく……これがアリマちゃんのメインジョブ【狂信者】の()()()()()()()()()()()()()《伝播スル狂信》の効果『戦闘時間1分ごとに自身を“認識している全ての者”に、現在掛かっている精神系状態異常及び狂化系スキル効果を伝播させる』である。

 ……まさに精神災害の様な凶悪なスキルに思えるかもしれないけど、判定が“精神状態異常・狂化スキル一つ毎に個別に発動する”とは言え成功率自体は最大で一割程度、当然精神耐性やレベル差の影響も受けるから実際にはさらに低くなるので大量の精神異常に掛かっていなければ有効には使えず、無差別系スキルなので味方にも判定が発生してしまう普通なら非常に使い難いスキルなのだが……。

 

『KIIIIEEEEE⁉︎』

「相変わらずアリマちゃんはジョブと<エンブリオ>のシナジーが強力ね《炎勢乃矢》!」

「それほどでも《ウィングド・ブレード》!」

 

 彼女の場合には《悟りの境地》で悪影響を受けない事を利用して精神汚染が掛かる呪いの装備を複数身につけて判定回数を増やし、無差別というデメリットも“自身の精神系スキルを制御・操作する”【シャカ】の第2スキル《悟りし者の御業》によって『敵対対象のみにデメリット効果だけを押し付ける』形にしているので問題にはなっていない。

 ……そして、それから数分も彼女が戦い続けた結果ほぼ全ての【カンニング・クロウ】が精神汚染を食らってほぼ戦闘不能となったのだった。

 

『KEEEEAAAAAAA!!!』

『後はあやつだけですな。まずは動きを封じますぞ。《シャドウ・スタンプ》《カースバインド》』

 

 そうして配下の殆どを失って動揺した【グレーター・カンニング・クロウ】の下にいつの間にやら潜り込んでいたLSは、その影を踏みながら相手を指差す事で呪術を掛けてその動きを封じてみせた。

 

「本当に抜け目のないヤツ……《光剛勢》《光炎之矢》!」

『GYAAAA……!!!』

 

 そんなヤツの行動に関心半分呆れ半分な私だったが、その隙を見逃す事無く【ドラグリーフ】のスキルで強化したの光熱矢で相手の頭部を撃ち抜いて始末したのだった。

 ……ふむ、まあボスも倒したし他の【カンニング・クロウ】もほぼ全滅したから、これで郊外の孤児院に被害が出る様な事は無いでしょう。

 

『これで孤児院の子供達はまた元気に遊べる様になるでしょうな。ひめひめ殿とアリマちゃんも色々付き合ってくれてありがとうですぞ』

「いえ、LSさんのお役に立てて良かったです」

『これで気兼ねなく我が魂の故郷の空気を集める事が出来ますぞ。子供(ロリショタ)達が落ち込んでいると空気も不味くなりますからな!』

「おっと、ここにもう一人孤児院に悪影響を及ぼしそうなヤツがいたわね」

 

 ……とりあえず目の前に居るHENTAIに再び《炎勢乃矢》をぶち込んで火達磨にしつつ、私達は孤児院に【カンニング・クロウ】の群れの討伐を報告すべくアムニールへと戻っていったのだった。




あとがき・各種設定解説

ひめひめ:周囲からはLSと仲が良いと思われてる
・【竜葉外套 ドラグリーフ】は彼女が以前倒した伝説級<UBM>【葉竜王 ドラグリーフ】の特典武具で、高い防御力とMPへの補正が付いている葉を織り合わせた様なマントである。
・尚、LSの頼みを引き受けたのは彼が“穢れのない子供”に関する事には誠実だと理解しているからでもある。

【自在城壁 パラスアテナ】
<マスター>:でぃふぇ〜んど
TYPE:キャッスル
到達形態:Ⅳ
能力特性:城壁
固有スキル:《フリーダム・ランパート》
・モチーフは都市の守護神としても扱われるギリシャ神話の女神アテーナーの別名“パラスアテナ”。
・キャッスルとしては珍しく一切の特殊能力を持たない単なる城壁であり、それ故に第四形態現在でも小さな城を囲める程の質量と非常に高い耐久力・強度を持つ。
・《フリーダム・ランパート》は【パラスアテナ】の高速展開・高速収納・部分展開・複数展開などを行う事が出来るスキルで、イメージ的には城壁の一部を切り分けて展開してる感じ。
・その特性上展開出来る最大質量や形状は大元の【パラスアテナ】の質量と形状までが限界だが、それ以下であれば高さ・幅・厚さなどの設定は自由自在で戦闘中に小型の壁を複数出して味方を守ったりと応用も効く。
・更に彼の場合には【城塞衛兵】の“自分が守る城を強化する”各種スキルを使って強化しているので、普段はパーティーの防御役として活躍している。
・なのだが、今回は敵が空中にいたので壁や地面など“城壁を支えられる地盤がある場所にしか展開出来ない”特性が足を引っ張ってイマイチ活躍出来なかった。

【正心偽脳 シャカ】
<マスター>:アリマ・スカーレット
TYPE:ルール・カリキュレーター
到達形態:Ⅳ
能力特性:精神制御
固有スキル:《悟りの境地(マインド・セット)》《悟りし者の御業(ソウル・コントローラー)
・モチーフは仏教の開祖である覚者の仏名“釈迦”。
・実は彼女の脳の一部を置換した世にも珍しい『人造補助脳』型の<エンブリオ>。
・《悟りの境地》は“現在掛かっている”精神系状態異常や精神系スキルの悪影響・デメリットを受けないスキルなので、効果が無いだけで状態異常とかには掛かったまま。
・それ故に状態異常に掛かることが条件の【狂信者】のスキルも問題無く使えるし、《フィジカル・バーサーク》を使っていても問題なく話せてスキルも使える。
・《悟りし者の御業》は自身が使う精神系スキルを操作・制御するスキルで、効果範囲を敵限定にしたりオフに出来ない精神系パッシブスキルをオフに出来たりもする。
・消費コストは操作するスキルによって追加でいくらかMP・SPを消費する感じで、パッシブスキルをオフにする程度ならノーコストで可能だが無差別スキルを制御するならそこそこコストが掛かる。

【狂信者】:狂戦士系統派生上級職
・就職には【狂戦士】の他にも【司祭】や【催眠術師】などのジョブも必要なレア複合上級職だが、習得スキルのデメリットが厳し過ぎるので就く者が殆ど居らず条件は知られているのに実質ロストジョブと化していた。
・デメリットを全て踏み倒せる本物ロリならともかく、過去にこのジョブに就いたティアンはほぼ全て周りを巻き込んで発狂死しているのでジョブ自体が危険視されていたり。
・だが就職条件とデメリットが厳しい分だけ習得スキルは強力で、単にステータスを上げるだけでなく精神汚染と引き換えに高レベルの危険察知能力やMP・SPの継続回復、状態異常耐性上昇の効果などを得たりも出来る。
・ちなみに《伝播スル狂信》はオフに出来ない奥義なのに一番最初に習得出来るという罠仕様。


読了ありがとうございました。
初めて書いてみたレジェンダリア編、ひめひめパーティーはいずれ本編にも登場予定です。


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あの<マスター>の今:<プロデュース・ビルド>編

前回のあらすじ:ひめひめ「(変態)は滅びた」アリマ「いや、倒したのはカラスですよ?」


 □王都アルテア・<プロデュース・ビルド>本拠 【裁縫職人(ニードルマイスター)】ターニャ・メリアム

 

 しがない生産系<マスター>の私は先日エルザに頼んで入手した【カース・トラップスパイダー】の素材から、私と【クロートー】で作成した【呪怨蜘蛛の糸】を<裁縫屋ギルド>に納品して来た所だ。

 ……加えてエルザから買い取った【デッドリー・ヴェノムスパイダー】素材を使って作った【致命毒蜘蛛の糸】も一緒に売りに行っていい値段で売れたんだよね。この手の素材は状態異常耐性の衣服を作るのに使われるから結構需要があるのだ。

 

「はいただいまー! ギルドへの納品クエは終わったよー!」

「やあ、お帰りターニャ。僕の方も木工ギルドに素材を下ろして来た所さ」

 

 そうしてクランホーム(小)に帰ってきた私を迎えてくれたのは<プロデュース・ビルド>メンバーの一人であるアカイ・ワカバちゃんだった……彼女は【木工師(ウッドワーカー)】系統をメインジョブにするクランの木材系生産担当の<マスター>だ。

 更に<エンブリオ>【九製界樹 イグドラシル】によって高品質な木材を生産出来るので、サブジョブには【育樹家(ツリー・グロウワー)】を入れて木材系アイテムの生産も担当している。

 ……とりあえずまだ他のメンバーは来てないみたいだし、お茶菓子でも食べながらワカバちゃんと話そうかな。

 

「ほーん、ウチのクランも結構生産職として様になって来たね。ギルドから指名依頼も届く様になったし」

「僕達は特殊で高品質の素材を作れるメンバーが多いからね。素材を調達するギルドとしては有名になって来たんじゃないかな? ……まあ、肝心の生産アイテムとかはまだまだだけど」

「自分達が作った高品質・特殊素材を加工出来る能力やノウハウが無いからねー。……最近ではレベルの上昇やゲンジの【ヘパイストス】やマキアちゃんの【ゴブニュ】のお陰で大分いい物が作れる様になったけど」

 

 この二人の『生産スキルへのバフ効果持ち<エンブリオ>』のお陰でスキルレベルの低さや生産成功率の低さに関してはある程度下駄を履けるんだけど、特殊な素材を使って“どんな物を作るか”のノウハウや経験に関してはその道のプロであるティアンの職人達にはどうしても劣るんだよねー。

 ……私達も素材を売って出来た彼等とのコネを使って色々と生産について教えて貰ったりもしてるけど、詳しい事に関してはその工房内の秘伝だったりするからガードが固くてね。

 

「まあ、今は経験を積んで研鑽に当てる時期なんだろう。……複数の<エンブリオ>を組み合わせる事によってより高い性能のアイテムを作ると言う目論見は今の所上手くいってるしね」

「適当に募集したクランメンバーがみんな自分の<エンブリオ>の能力を晒しても問題無い人格だったのが大きいけどね。……良くも悪くも私達は『生産系クランとか面白そう』ってノリの生産系エンジョイ勢だったから上手くいってる感がある」

 

 実際『自分が王国の生産<マスター>の頂点に立つ』『俺が最も利益を上げる』みたいな人がいたらここまで上手くは回らなかっただろうし……多分、生産クランをやるなら私達ぐらい緩く行くか、或いは強固な目的意識が必要なんじゃないかなと思ってみる。

 ……そうして私達がしばらく駄弁っていた所、噂をすれば影と言うかホームの扉が開いてメンバーの一人である【高位手順書士(ハイ・レシピスクリブナー)】マキア・マジカちゃんが入って来た。

 

「ただいまー、【レシピ】売り捌いて来たよー」

「お帰りーマジカちゃん、クッキー食べるー?」

「食べりゅー」

 

 そうしてマジカちゃんは気怠げな表情で席に着くと私が渡したクッキーをムシャムシャと食べ始めた……ちなみにマジカちゃんの言う【レシピ】とは、彼女の<エンブリオ>【図面改竄 ゴブニュ】によって使()()()()()()()()()()()()()()が付与された特注品である。

 ……本来【レシピ】とは生産職がスキルでの自動アイテム生産に使うガイドアイテムでしか無いのだが、彼女は【ゴブニュ】のスキル《成功の秘》と《昇華の印》によって【レシピ】や設計図にそれぞれ『使用時の生産スキル効果上昇』『作成した生産物の品質上昇』を効果を付与出来るのだ。

 

「要するに【レシピ】を使うだけで生産スキル・生産物へとバフが掛かる魔法のアイテムに変える<エンブリオ>なのでした」

「誰に話しかけてるのー。……後、そんなに便利な物じゃないけどねー。ただ【レシピ】に付与するだけだと精々数%の効果上昇に留まるし、スキル《改造の判》で使う人間とかスキルとか使い捨てにするとか色々条件を付け加えて効果を上げないとー。工程を簡略化する為の【レシピ】なのに工程を追加しないと目に見えたバフが掛からないとか意味無くない?」

「強力な効果のスキル程、手間かコストが掛かるから仕方がないだろう。特に生産系は」

 

 まあ、微量とは言え自動生産時にバフがかかるからマジカちゃん謹製の【レシピ】は大量生産を生業としているティアンの人に売れてるみたいだけど……ちなみにリピーターを確保する為に『一定回数使ったらロストする』条件を付け加えて効果を上昇させてたり。

 ……こんな風に私・ワカバちゃん・エドワードが特殊な素材を作成して、ゲンジ・マジカちゃんの生産バフで各々の生産作業を強化しながらそれらの素材からアイテムを作るのがウチのクランの主な活動ではあるのでした。

 

「さて、今日の予定はエルザ嬢への報酬として専用装備を作るんだったかな?」

「うん、エドワードとゲンジが帰ってきたら作業を始めるつもり。最近出来た【ワルキューレ】の四女フィーネちゃんのレベルが上がってきたから新しい武器が欲しいんだって。……彼女は攻撃魔法系のジョブに適切があるからそっち方面を強化する感じのヤツ」

「じゃあ、二人が鍛治ギルドから帰ってきたら相談からの私が設計図を書く作業が始まりますねー」

 

 そしてお菓子を食べ終えた私達は、残りの二人が帰って来るまでに今日の予定──ウチのクラン専属の<マスター>であるエルザへの報酬装備を作る作業について相談を始めたのでした……エルザにはクラン全体で素材調達とか色々とお世話になってるからね、ここは奮発しないと。

 ……それに本人には自覚が無いみたいだけど純竜をテイムした事でテイマー界隈でエルザはちょっとした有名人になってるからね。そこで私達が作った高性能装備を付けて貰えば宣伝にも使えると言う寸法よ。

 

「それじゃあ僕は最近出来上がった【ウォーロック・ブラックトレント】の遺伝情報をベースに、《第一樹層・神》で作った高品質の【魔導黒樹】を出そうか。魔法系装備の素材としては悪くない筈だ」

「確か火属性メインで行くって言ってたから炎系モンスター素材で作った糸も準備しておくかな」

「……ムムム、魔法使い系の装備だし特に捻りも無く杖とかでいいかな。魔法系木材ベースに金属化させた同種木材を組み合わせつつ魔法系効果増幅の宝石を……こっちは生産出来る人が居ないから買わないとかー。ターニャのは布飾りとか持ち手部分に巻くとか……」

 

 ……何だかんだ言っても我ら<プロデュース・ビルド>は生産活動好き<マスター>が集まった生産クランなので、女子メンバー同士の話し合いもこの手の話の方が盛り上がるんだよねー。

 

「おーい、帰ったぞ」

「とりあえずノルマの納品は終わったぞい」

「はい、お疲れ様ー。……それじゃあ今日の予定である『エルザへの報酬・新装備開発会議』を始めるよ」

 

 そうして生産話が弾んで来た所で納品を終えた残りの二人が帰って来たので、早速私達はクランとしての本格的な生産活動を始めたのでした……帰って来たばかりの二人には悪いけど、ログイン時間の関係で全員が揃う機会はそこまで多くはないからさっさと作業を進めるよ。

 ……何、こっちの世界でなら生産職でもある程度レベルを上げていれば、それなりに上がったステータスのお陰で長時間労働とかもそこまで苦にはならないからね! 

 

 

 ◇

 

 

 そういう感じで各々が出来る事を持ち寄っての喧々轟々な話し合いの末に新装備の作成過程を決めた私達は、早速ホーム裏手にある空き地に展開した【ヘパイストス】内で生産作業を行う事になった。

 ちなみにこの空き地は再開発失敗時に店が建てられる予定が無くなってそのままになってる所で、キャッスル系の【ヘパイストス】【イグドラシル】を展開する場所としてホームと一緒に買い取った物である……というか、この隣接する空き地があったからこのホームを買ったんだけどね。

 

「……ええと、形状は長杖でベースは【魔導黒樹】で加工はワカバ。そんでエドワードがそれを金属化させて【魔導黒樹鋼】にしてゲンジが装飾に加工。更にターニャが【火炎竜の糸】を織って作った飾り布を……」

 

 まずはマジカちゃんが設計図としてレシピを書いて行く……彼女の【ゴブニュ】のスキル《改造の判》は普通はレシピに書き込めない様な要素(使用する<エンブリオ>のスキル、作業する人間など)を書き込める様にする効果もあり、作業工程を増やして条件を細かく書き込む程に他二つのスキルで付与されるバフ効果を引き上げる事が出来るのだ。

 更に【レシピ】を書く事に特化した【手順書士】や設計図を書く事に特化した【製図師】のスキル効果もあって、彼女は現実ではありえない様な凄まじい速度でペンを動かして設計図を作り上げていく。

 

「……ふぃー! 書き終わったよー。後はこの設計図通りに生産作業を行えばバフが入るよ。後効果時間を24時間にして使い捨てアイテムに設定したりしてバフ効果を引き上げてるから。……それじゃあ私は少し休むねー」

「お疲れ様」

 

 そう言ってマジカちゃんは書き上げた【レシピ】を私達に手渡すとそのまま机に突っ伏して眠ってしまった……彼女、生産作業は好きだけど少し面倒くさがりというちょっと変わった性格をしてるからね。だからこそ自動生産アイテムである【レシピ】へのバフ付与なんて<エンブリオ>になったんだろうけど。

 ……まあ、とにかく彼女は自分の仕事をした訳だから後は私達が実際に作るだけだ。私の作業はおまけみたいな物だし【ヘパイストス】と【ゴブニュ】による生産作業バフに重ね掛けがあれば失敗する事は無いでしょう。

 

「まずは【織手(ウィーバー)】の《機織り》で【火炎竜の布】を作って、それを【裁縫職人(ニードルマイスター)】のスキルで飾り布と持ち手に巻く布加工するっと……デンドロは生産スキルを使うだけで(DEXとスキルレベル次第で)サクッと生産可能なのは楽で良いね」

 

 現実で裁縫する時もこのぐらい楽なら良いのに……とか考えているうちにあっさりと【火炎竜の飾り布】及び【火炎竜の包帯】が完成した。生産バフの重ね掛けのお陰かラッキーな事に両方とも高品質な出来になっている。

 ……ふむ、他のメンバーの作業はまだ時間が掛かるみたいだし、終わるまでは【クロートー】と別の生産作業をしておこうかな。【ヘパイストス】内での作業なら成功率が上がるしね。

 

「よし、加工終わり! 素体の【魔導黒樹の長杖】は高品質で出来たよ」

「こちらも終わったぞい。【魔導黒樹鋼の装飾】をいくつか。注文通りの出来の筈じゃ」

「錬金術による付与も成功したから良い出来の筈だ」

 

 そうこうしている内に他のメンバーの作業も済んだみたいなので、最終工程である杖の組み立てに入る事に……これは各々の得意分野であるジョブスキルで分担する感じに【レシピ】は設定されてるからその通りに……。

 

「はい完成……名前は私が考えてクジで決まった【ブラックウィザーワンド・フレイム+】で」

「俺の【インフェルノ・ウォーロック・シュバルツワンド】の方が良かったんだが……」

「いや、なんかカッコ良さそうな単語繋げて微妙になってるからね。……やっぱり私の【舞い踊る火竜と黒き大樹の杖】の方が……」

「……【魔導黒樹の長杖・一番】ー」

「ムゥ、ワシの考えた【黒賢樹の魔杖・火竜式】が選ばれなかったのは残念だが、まあ出来は良いし文句はあるまい」

 

 ……という訳で、完成した【ブラックウィザーワンド・フレイム+】がこちらになります。デザインは黒い樹の杖に黒くて木目調の模様がついた金属細工があしらわれ、持ち手には真紅の布が巻かれて、更に同じ色の布飾りが先端に付いていると言った所。

 魔法補助用の杖だから装備攻撃力は低いけど、装備スキルとして《MP増加》《魔法強化》《魔法発動加速》《火属性適性》《火属性耐性》《盗難防御》のパッシブと、長時間のクールタイムと引き換えに魔法の効果範囲を広げる《マジックブースト・ワイドレンジ》が備わってるからいい感じだね。

 ちなみにこの手の合作アイテムの名前は事前にメンバーでそれぞれの案を出した上でクジで決める事にしてる……各々のネーミングセンスが微妙なのには突っ込まない方向で。

 

「……では最後にワシの【ヘパイストス】の《プロダクト・リビルド》でいくつかの制限を付けた上でスキルを強化するか」

「ええと、装備制限を非人型範疇生物限定装備、合計レベル200以上、メインジョブが魔法系ジョブにする代わりに《魔法強化》《火属性適正》《火属性耐性》スキル効果を引き上げるんだったか」

「それらスキルなら強化しても損は無いだろうしな」

「その組み合わせだとエルザ嬢の【ワルキューレ】達以外には装備出来なくなるがね」

「後は装備攻撃力と防御力を限界まで落として《MP増加》を強化する予定になってるよ」

 

 スキル効果上昇・ステータス上昇の“装備しておくだけで効果を発揮する”パッシブスキルは汎用性が高いから、とりあえず効果を上げておけば腐る事は無いしね。

 ……そうして暫くの間ゲンジがスキルによって【ブラックウィザーワンド・フレイム+】のステータスを弄ってようやく完成品が出来上がり、それと同時に使い捨ての【レシピ】は光の塵となって消滅した。

 

「よっしゃ完成!」

「乙ー」

「中々の出来だな。装備制限の事が無ければ300万は下らないだろう」

「その装備制限の所為で売り物にはならないんじゃがな。だが報酬として渡すには充分な出来じゃろう」

「エルザ嬢に取ってきて貰っていた素材の合計額は数百万リル相当だからね。報酬ならこれぐらいじゃないと」

 

 うんうん、結構な自信作だしこれならエルザも満足してくれるでしょう……後日、エルザが内に来てくれた時フィーネちゃんに【ブラックウィザーワンド・フレイム+】を渡した所、かなり使いやすいと好評だったので今回の生産は大成功と言っていいだろう。

 ……テイマーのエルザが一番のお得意様だし、今後はテイムモンスターに装備出来るアイテムの開発にも力を入れても良いかもね。彼女達の装備をオール<プロデュース・ビルド>にして宣伝効果を狙う意味も兼ねて。




あとがき・各種設定解説

<プロデュース・ビルド>:結構繁盛してる
・基本的に各々が自分の好きな生産をしつつ協力出来る時には協力する緩い感じの生産クランとして活動している。
・生産系ギルドに高品質・特殊な素材を下ろしたり、かなりの性能の装備を売りに出したりしてるのでティアンの生産者とか商人からはそれなりに目を付けられている。
・商売の形式は素材系アイテムを売るか、基本的に個人の依頼でオーダーメイドの装備を作るかといった感じ。

アカイ・ワカバ:木材加工・生産担当
・本人としては【イグドラシル】で作った木材で生産プレイを出来れば良いと思っていたエンジョイ勢だったが、【イグドラシル】自体がそこそこ大きく展開する場所が中々確保出来ないのが悩みだった。
・展開しないと植物の生産が出来ないのでどうしようかと悩んでいた所で掲示板でもクラン募集を見て、クランに入れば場所の確保が出来るのではと思い入った形
・運良く生産エンジョイ勢が集まったので今では楽しくデンドロ生産プレイをやっている。

【九製界樹 イグドラシル】
<マスター>:アカイ・ワカバ
TYPE:フォートレス
到達形態:Ⅳ
能力特性:植物複製
保有スキル:《樹界図》《第一樹層・神》《第二樹層・人》《第三樹層・深》《樹洞拡張》
・モチーフは北欧神話に登場する九つの世界を内包するという架空の木“イグドラシル”
・形状は三階建ての塔で採集した植物の遺伝情報をストックするスキル《樹界図》から任意の植物を選んで育樹・生産する事が出来、それぞれの階で植物素材の生産の仕方が違う。
・一番上の《第一樹層・神》は生産した植物の性能・品質を強化するスキルで、その代わりに生産までかなりの時間が掛かる。
・真ん中を《第二樹層・人》は普通に植物を育成するスキルで、他の二層よりも生産速度が早く生産量も多い大量生産用。
・一番下の《第三樹層・深》は生産した植物がそこの他の植物・ストックした遺伝情報の影響を受けてランダムに変異するスキル。
・一つの階層で生産出来る植物の種類は三種・それぞれ三つまでであり、植物系モンスターの遺伝情報を使った場合でも生産されるのは普通の植物になる仕様。
・生産する植物の大きさに応じて《樹洞拡張》である程度内部空間を拡張される機能はあるが、限度もあるので植物の成長には限界がある。
・また、成長した木を自動で木材にして排出する機能もあるが、中に入って自分で採取・伐採した方が取れる量は少し多くなる模様。

マキア・マジカ:【レシピ】担当
・<プロデュース・ビルド>に於ける生産活動の要その二、自分が楽して生産プレイする為にクランに入った人。
・基本的に【レシピ】だけ作って後は他のメンバーに任せるスタイルだが、自身も生産系汎用職【生産者(マニュファクチャー)】を取っているので一通りの生産は行える。
・彼女個人としては【レシピ】を売ったり、自作【レシピ】を使った簡単な小物を売ったりしている。

【図面改算 ゴブニュ】
<マスター>:マキア・マジカ
TYPE:ルール
到達形態:Ⅳ
能力特性:レシピ・設計図
保有スキル:《改造の判》《成功の秘》《昇華の印》
・モチーフはケルト神話において槌を三振りするだけで完璧な武器を製造したとされる工芸神“ゴブニュ”
・《改造の判》はレシピ・設計図の内容・特性を自在に改造するスキルで、その内容の工程が細かく詳しい程他の二つのスキルの効果が上昇する。
・《成功の秘》は自身が作ったレシピ・設計図における生産スキル効果・成功率を上昇させるスキルで、《昇華の印》は自身が作ったレシピ・設計図通りに作った生産物の性能を上昇させるスキル。
・他者の<エンブリオ>のスキルすら工程に加えてバフをかけられるが、その場合にはスキルの詳細を知っていないと書けないので相応の信頼関係がある相手でないと難しい。


読了ありがとうございました。
デンドロの生産に関しては描写が少ないのでジョブとか工程は大体想像。意見・感想・評価などお待ちしております。


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現実での一幕

前回のあらすじ:エルザ「<プロデュース・ビルド>絶賛活動中! 是非来てね!!!」エドワード「前書きで宣伝するのか」


 □とある大学・仮想現実電子遊戯研究会 加藤(かとう)(れん)

 

 九月も半ばに差し掛かった頃、俺は大学に新しく出来たクラブ『仮想現実電子遊戯研究会』の部室で姫乃(ひめの)と一緒にお菓子を食べながら駄弁っていた……ちなみにこのクラブは名目上は『最近出来たVRゲームが社会に与える影響を調べる』とか最もらしいテーマを掲げているが、実際のところは大学にいるデンドロユーザーが集まって適当に過ごす感じの集まりである。

 

「え? 志津香さんもデンドロやってるのか? ……というかログイン出来たんだ」

「ええ。……まあ、()()()()()()()()()()()()()()()辺りデンドロは只のゲームじゃないわよねぇ。今更だけど。……それに<エンブリオ>も全身置換型の“ボディ”ってカテゴリだったし」

「全身置換型ねぇ……<エンブリオ>は<マスター>のパーソナルを読みとって生まれるんだから、“人間の肉体にこだわっていない”ならそうなるのかね」

 

 尚、“志津香さん”とは姫乃の()()()()()()であり、その関係で俺とも面識がある方である……どうも彼女も<Infinite Dendrogram>を調べるという依頼を受けて『彼女でもちゃんとログイン出来てゲームをプレイ出来るか』を調べる為に一緒にログインしていたらしい。

 ……尚、彼女の<エンブリオ>は【負有幽霊 ゴースト】と言って、『自身を非実態型のレイス系アンデッドへと変える』スキルを持っているとの事だ。まあ“そのまんま”だな。

 

「彼女も今は普通にデンドロを満喫してるからね。頭上にモンスターを示すネームが浮かばないから、偶に本物の幽霊とか言われる事もあるけど」

「普通に本物なだけでは? それにデンドロ内なら本物の幽霊ぐらい普通にいるだろ」

「知り合いになったティアンの【死霊術師(ネクロマンサー)】に聞いた話だと、あっちの幽霊はレイス系モンスターと普通の幽霊の二種類がいて普通の幽霊の方は死霊術師系統のジョブスキルが無いと感知できないみたいよ」

 

 その辺りの話は俺も以前の司祭系ジョブクエスト『怨念溜まりの浄化』の時に一緒になった教会の人達から聞いたな……あちらでは怨念の発生は()()()()()で、怨念を放置しておくと強力なアンデッド系モンスター発生の温床になるから司祭系統や死霊術師系統の人に頼んで怨念溜まりの対処を定期的に行っているのだ。

 故に【死霊術師】は一見如何にも悪者っぽいジョブに見えるかもしれないが、デンドロではむしろキチンとしたギルドで運営されている立派な仕事の一つなのである……まあ、イメージ通りの悪い【死霊術師】も居るが、それは他のジョブも変わらないし。

 

「……まあ、志津香さんが幽霊っぽい行動を取って、それを見た<マスター>やティアンが勘違いするのが原因なんだけど」

「見た目が完全に浮遊霊じゃなぁ」

 

 ……まあ、頭上にネームの無い幽霊は普通の人には見えないから志津香さんは『本物の幽霊』とか言われてるって事らしいな。尚、本人はそれを面白がって“いつも通り”幽霊っぽい行動を取って人を驚かせてるみたいだが。

 

「……よー、邪魔するぜ……本当にお邪魔だったか?」

「別に部室なのだからクラブに所属している者は普通に入ってくれば良いって思うが、江戸川」

「そもそも単にお菓子食べながら駄弁ってただけよ、江戸川君」

 

 そんなたわいの無い事を話していた途中で、部室の扉を開いて中を見た瞬間に何故か遠慮しだしたのがクラブのメンバーの一人である江戸川(えどがわ)(りく)であった……後、別にお邪魔とかじゃ無いからさっさと室内に入って来ると良い。後ろがつかえてるだろ。

 

「なんだ江戸川、またあの二人がいちゃついてたのか?」

「あー、何時ものバカップルが?」

「お菓子を食べながら話すのが“いちゃついている”と見えるならそうなんでしょう、貴方達の中ではね」

「まあ、客観的に見て男女二人部屋の中で喋っていれば“いちゃついている”と見えなくも無いんだろうが」

 

 そんな茶化す様な事を言いながら江戸川の後ろから入って来たのは、同じくクラブのメンバーである赤城(あかぎ)譲治(じょうじ)結城(ゆうき)奈々(なな)だった……尚、こうやってからかわれるのは俺も姫乃も慣れているので適当にスルーである。

 ……まあ、この二人にこの手の事を言われてそれをスルーするのは何時もの事なので、そのまま彼等は部屋の中に入って一緒にお菓子を食べ始めた。

 

「しかし、お前ら本当に付き合ってないんだよね? めっちゃ仲良く見えるのに」

「別に仲のいい男女=恋人同士という訳でもないだろう。仲は普通に良いが」

「……というか、今付き合うと色々と()()なのよねぇ。……それよりも一応クラブ活動なのだからデンドロについての話をしましょう」

 

 そうしつこく聞いてくる結城を俺達は適当にあしらいつつ話をデンドロの話題に切り替えていく……ちなみに“面倒”なのは姫乃の『実家』関係である。特に語る意味もないので言わないが。

 

「じゃあ江戸川、最近の<プロデュース・ビルド>の調子はどうなんだ?」

「まあ、ようやく商売と生産活動が軌道に乗ったって所かな。俺達が作る特殊素材の売れ行きは上々だし、生産物に関してはオーダーメイドの少数生産に特化するっていう方針に固めたしな」

 

 そう、この江戸川のデンドロでのプレイヤー名は“エドワード”……アルター王国の生産クラン<プロデュース・ビルド>のオーナーであり俺のフレンドでもあったのだ。まさか同じ大学にいたとは思ってもいなかったので、最初にこの事を知った時には世間は予想以上に狭いと思ったな。

 

「成る程な……それじゃあ何かいい金属素材とかはないか? 最近ゴーレムを作り始めたからそれに適した素材を集めてるんだが」

「それなら生物素材を金属化させた物とかはどうだ? 俺は金属素材が専門だから他にも色々あるぞ。値段は応相談だが」

 

 それに最近ようやく【クルエラン・コア】の()()()()()が使える様になったから、ネリルの指導の下で本格的にゴーレム生産を始めたのだ……最もその第二スキル《クリエイション・ゴーレムアーミーズ》の運用にはまだ色々と準備が必要ではあるので、生産クランである彼等に相談しているのだが。

 ……その時に回収した古代伝説級合金の箱の残骸もあるが、今の俺とネリルではスキルレベルやMPの関係で複雑な加工が難しいし。

 

「……それで? 奈々の“お城作り”はどうなっているのかしら?」

「まあボチボチ? 【ハルファス】に素材を貢いで少しずつ大きくしてる所。……ただ、私と言うか【ハルファス】は“戦闘”ならともかく“狩り”は苦手だから中々素材が集まらないんだよねぇ。ジョブクエストで稼いでもいるが効率が……」

「アイテム要求系の<エンブリオ>は大変だな。……まあ俺もだけどさ」

 

 ちなみに結城は天地所属の<マスター>で大の城マニアであり、デンドロでも資材を使って増築が可能なTYPEキャッスルの【ハルファス】という<エンブリオ>を最強の城にする為に活動しているのだとか。

 そして赤城の方はドライフ所属でパワードスーツ着ながら戦ってるとか聞いたが詳細は分からん……まあ、自分の能力を隠すのは基本だし俺も姫乃も<エンブリオ>や特典武具について肝心なところは言ってないからな。自分の作品の宣伝をする江戸川と結城が例外なのだ。

 

「なら必要な金属素材があるなら今度向こうで相談に乗ろうか? 金か素材とかと引き換えに色々と用立てるが。……こっちとしても実力のある<マスター>とのコネは多い方が良い、自分達では取ってこれない強いモンスターの素材とか」

「そうしてくれるなら有り難い。……これでもLUCは高いからドロップ運は良い方だ」

「それは頼もしい」

 

 最も普段はドロップアイテムを経験値に変換してるから余りLUCの恩恵は感じられないが……ふむ、ドロップアイテムの量や質が上昇するタイプのスキルも取得しておくべきかな。上手くいけば経験値への変換量も増えるかもしれんし。

 ……確か【狩人(ハンター)】か【屠殺者(ブッチャー)】辺りのジョブで覚えられるんだったかね。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □地球・とある小学校 加藤(かとう)美希(みき)

 

 今日も今日とて小学校の授業を終えた私は早速家に帰ってデンドロをやろうと手早く帰りの準備を行っていた……最近はほぼ<墓標迷宮>に篭っていたお陰か、多分そろそろ【戦棍王】の転職条件を半分ぐらいは満たせているんじゃないかと思っていたり。

 ……とはいえ、ただひたすらにゴブリンの装備を壊し続けるのも飽きてきたからね。そろそろ気分転換にちょっとだけ別の事をしようかな。

 

「……あの……加藤さん、これ落としたよ」

「へ? ああ、シャーペンを落としてたね。拾ってくれてありがとう、新垣(にいがき)君」

 

 そんな風に考え事をしていた私におずおずとした声で話し掛けて来たのは隣の席の新垣貴志(たかし)君だった……どうやら慌てて準備したせいでシャーペンを落としてしまってたらしい。気を付けないとね。

 

「う、うん、どういたしまして……良かった、ちゃんと話し掛けられた……」

「え? 何か言った?」

「い、いや、何でもないよ!」

 

 まあ、彼は気が弱くて大人しい性格でクラスでは少し浮いてるけど悪い人じゃないからね……ただ、そのせいで一昨年辺りに彼を対象としたイジメが起きそうな時もあったけど、少し“目に余る光景”だったから私が色々と動いて()()()()()()()()けどね。

 ……流石に彼が『イジメを苦に自殺する未来』を視せられて何もしないのは私の精神衛生に関わるしね。その時の事は彼には気付かれてないだろうけど、今年席が隣同士になって少し話すようになったのは縁を感じるかな。

 

「そ、そういえば加藤さんもデンドロやってるって聞いたんだけど……」

「うん、アルター王国でお兄ちゃんと祐美(ゆみ)ちゃんと一緒にやってるよ。その言い方だと新垣君も?」

「う、うん、僕もアルター王国で……」

 

 すると新垣君はいつも一言二言で話が終わるのに、今日は何故か吃りなからもデンドロの話を続けてきた……それにしても彼もデンドロを、しかも私達と同じアルター王国でやってるとはね。人の縁とは分からない物だよ。

 ……と思っていたら、彼は何でか知らないけど何やら考え込む様に顔を伏せてブツブツと呟き始めた。

 

「……アルター王国の三兄妹……加藤……藤…………ウィステリア?」

「あらバレちゃったか。まあ安直な名前だしねー」

 

 彼の口から出てきた自分達のプレイヤー名を聞いて、私は苦笑いを浮かべながら実質的に正解を認める発言をした……実際只の本名の捩りだしデンドロとリアルで両方で私達の事を知ってれば推測は出来ちゃうかな。

 ……と、特に危険も感じないので私はそんな風にお気楽に考えてたんだけど、またまた何故か新垣君は顔を真っ青にして何やら慌てだした

 

ヤベェよ……襲撃どころか妹さんに闇討ちして……

「ん? どうしたの?」

「なんでもない! です……よ、用事を思い出したので俺はこれで!!!」

 

 そう言った新垣君は急いで荷物を纏めると直ぐに教室から出て行ってしまった……一体何だったんだろうね? 危険な感じは一切しなかったから大丈夫だろうけど。まあ、気にしてもしょうがないし私も家に帰ろうか。

 

 

 ◇

 

 

「……ほーん、そっちは樫宮君って子とデンドロの話をしてるんだ」

「はい、同じクラスでデンドロやってるのは彼だけだったので少しだけ。……武術に関しての考えはお互いに結構違いますが、その辺りに気を付ければ普通に話せる仲なのです」

 

 そうして私は同じく家に帰ろうとしていた祐美ちゃんと一緒に警備ロボが彷徨く道を歩きながら学校であった事を話していた……こっちは同じクラスでデンドロやってるのがさっき明らかになった小森君だけだからね。隣のクラスにはグランバロア所属の子がいるんだけど。

 

「お互いに武術やってるなら話が合うんじゃないの?」

「いえ、彼のとって武術は“極めるもの”、或いは“好きでやってるもの”ですが、私にとっては“必要だったから納めているもの”で“出来て当たり前のもの”なので。……まあ、そう言った所に深く突っ込まなければ普通に武術の話も出来ますけどね」

 

 どうも彼等にしか分からない“一線”みたいなのがあるらしいね。武術とかはさっぱりな私には何が何だか分からないけど……と、そんな会話をしていたら突然祐美ちゃんが前方を見ながら足を止めてしまったのだ。

 ……よく見ると彼女の顔は()()()()()()()()()歪んでおり、更に前方の一点だけを注視していたので私もそちらを見ると、そこには私達が通っている学校と同じ制服を着た女の子がこちらを見ていたのだ。

 

「……真里亞(まりあ)ちゃん……」

「……ッ⁉︎」

 

 その女の子──祐美ちゃんの友人()()()赤城(あかぎ)真里亞ちゃんは、こちらに気付くと同じ様に気まずそうな顔をしながら慌てて身を翻して走り去ってしまったのだ。

 ……うむむ、それを見た祐美ちゃんは悲しげな表情で顔を伏せながら立ち尽くしているし、これは二年ぐらい前の“あの事件”以来ずっとこんな感じみたいだね……。

 

「祐美ちゃん、あの事件以来まだ仲直りしてなかったの?」

「……はい。……話しかけようにもいつもこんな風に逃げられますし、私も()()()()()()()()追い掛ける事が出来ていないのです。……情け無い話ですね。これが戦闘であれば恐怖など一切感じない身体なのに……」

 

 そう言いながら祐美ちゃんはどんよりとした雰囲気の中で自嘲する様に溜息を吐いた……別に彼女達が悪いという訳でもなく、一昨年の“あの事件”は色々と魔が悪かったからなぁ。他にもイジメへの対応とかもあって忙しかったから私の“直感”でも少し対応が遅れてしまうなど時期も悪かったし……。

 ……その事件の本当に悪い人はお兄ちゃんと姫乃さんが“根絶やし”にしてくれたらしいから事件そのものは解決してるんだけど、この二人の関係はまだ修復出来てないんだよね……。

 

「……とりあえず帰ろうか祐美ちゃん。帰ってデンドロやろ?」

「はい……」

 

 そうして私は落ち込む祐美ちゃんを半ば無理矢理連れて家まで帰っていったのでした……こういう時に気の利いた事が思いつかない辺り、私の“直感”は本当に使えないよね。基本『命の危険』ぐらいにしか正確に反応しないし……情け無いなぁ……。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……あー……また逃げちゃった……」

 

 ……さて、全速力で姉妹から逃げていった赤城真里亞だったが、彼女は自宅に駆け込んだ後に自室のベッドに沈んで雰囲気で倒れ込んでいた。

 

「……ううう……今度こそ話かけようと思ってたのにいきなり遭遇なんて……いや、どの道怖くて動けないんじゃ同じだよね……」

 

 ……実を言うと彼女の方も祐美と話したいと思っているのだが、かつての事件のトラウマから思わず逃げてしまって未だに仲直り出来ずにいるのだ。

 

「……ハァ、気分転換にデンドロでもやろうかな。……こっちの私──アリマ・スカーレットなら【恐怖】で身体が動かなくなる事は無いのにね……」

 

 そうして彼女は<Infinite Dendrogram>のハードを起動し、決して精神系状態異常(身を縛る恐怖)に負ける事がない自分(アリマ)としてあれる世界へと向かっていったのだった……彼女達二人の運命が交差するのはまだ少しだけ先の事である……。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:現実の人間関係は結構混沌としている
・兄と姫乃は昔一緒に色々と死線を潜っているので両思い通り越して殆ど熟年夫婦みたいなノリになってるが、今は“色々”面倒なので付き合ってはいない。
・妹は“直感”によって危険には敏感なのだが、その反動か“危険では無い分野”においては結構鈍感だったり。

大学のクラブメンバー:変な宗教とかは無い普通のクラブ
・他にもクラブメンバーは何人かおり、気が向いた時に部室に集まって駄弁る感じ。
・苗字から分かる通り譲治は後述の真里亞の兄であり、兄程シスコンでは無いが色々悩んでるっぽい彼女にデンドロを勧めるぐらいには仲が良い。

新垣貴志:その正体はシュバルツ・ブラック
・妹はバレてないと思っているがイジメられそうになっていた時にフォローしてくれた事を彼は勘付いており、それによって彼には好意を抱かれている。
・それでデンドロをやってる事を聞きつけて話を振ったのだが、実は既にPK仕掛けていたり妹さんを付けねらってた事に気がついて頭を抱えている。

赤城真里亞:末妹の友人だった
・彼女の【正心偽脳 シャカ】は『恐怖で竦む自分への嫌悪』から生まれた『精神の異常を受けても問題なく行動出来る』<エンブリオ>である。


読了ありがとうございました。
とりあえず現実側の人間関係を書いてみましたが、この作品の基本はデンドロ内での話になるので今後ここで言った設定は少ししか出てこないと思います。


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第5章 死者の森
ひめひめからの救援依頼


 □<サウダーテ森林> 【暗黒騎士(ダークナイト)】レント・ウィステリア

 

 現実では十月の半ば頃、俺はいつも通り妹達とデンドロにログインしてギデオン南西にある<サウダーテ森林>を馬車に乗って進んでいた。

 

「……ふーん、今から行く“ニッサ辺境伯領”は通称<自然都市>とも呼ばれていて領内に広大な森林と山岳を持ち、山岳に沿った道でレジェンダリアと古くから交易をおこなっている地域である……と、このパンフには書いてあるね」

「レジェンダリアとの仲が良いから住んでいる亜人種の数がギデオンと比べても多いとか……楽しみですね、兄様」

「後はレジェンダリアから輸入したマジックアイテムとかも売ってるらしいね……それに自然が多いから観光業も盛んで、それ故にこんな観光ガイドが作られてると」

「もっきゅもっきゅ……」

 

 まあ、俺が馬車を運転する後ろで妹二人とミメはこれから向かう“ニッサ辺境伯領”の情報が書かれたパンフレットを見ながらキャイキャイ騒いでいたが……尚、ネリルは一人我関せずといった風情でギデオンで買ったパフェを貪っていたが。

 ……まあ、この<サウダーテ森林>は最大でも精々亜竜級レベルのモンスターしか出ない地域だから、今の俺たちであれば特に問題無い場所ではあるんだが……。

 

「一応言っておくが、ニッサ辺境伯領には遊びに行く訳では無いんだぞ」

「分かってるよお兄ちゃん……何せあの()()()()()()()だもんねー。お兄ちゃんも凄いやる気でてるよねー」

「そうですねー、準備も万全ですからねー」

 

 そう俺が気の緩みを指摘したら妹二人がニヤニヤしながら揶揄って来た。コイツらお年頃だからか俺と姫乃の話題を面白がって揶揄う事がよくあるんだよな……まあ姫乃との関係は今更そんな事言われてもどうこうなる様な事は無いので適当に答えているが

 ……とにかく、今回俺達がニッサ辺境伯領に行くのは姫乃から『自分達のパーティーが“ある事情”でアルター王国に行く事になったからちょっと合わない? 出来れば“事情”を解決する為の手伝いをして欲しいけど』と言われたからである。

 

「そもそも俺が準備に全力を入れたのは、その事情が『アルター王国方面に逃げた<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>を倒す事』だったからだ。……それに今回の一件ではお前の“直感”も反応してるんだろ?」

「うん、しかもかなり強い感じだね。……以前の【クインバース】や【クルエラン・コア】の時()()()()()()感じがするよ。出来れば超級職(スペリオルジョブ)に就いてから向かいたかったぐらい」

 

 ……さて、そんなあからさまにヤバ目の頼みを姫乃が俺に持ち込んだのは今から数日前の大学での事で、その時に詳しい事情も聞かされたのだが……。

 

 

 ◇

 

 

「……事情は大体分かったしデンドロで会うのは別に構わないんだが、そのお前達が追っている<UBM>と言うのはどういう相手何だ? 協力する以上は詳しい情報を知っておきたいんだが」

「そうね……まず、私達がその<UBM>を追う事になったのは付き合いのある“とあるティアン”からの依頼なんだけど、そのティアン──ペルシナさんは志津香さんがお世話になってる【高位霊術師(ハイ・ネクロマンサー)】なのよね」

 

 何でも志津香さんは<エンブリオ>のお陰でデンドロ“でも”霊体系アンデッドなのでジョブに関してもシナジーする死霊術師系統に就いていて、あちらでの死霊術師としての振る舞いを学ぶ為にレジェンダリアの死霊術師ギルドには良くお世話になっていたらしい。

 そして、その中でも特に世話になっていた一人がそのペルシナさんという人で、彼女は死霊術師ギルドの中でも合計レベル400を超える期待のホープなのだとか。

 

「彼女はレジェンダリアのティアンの中でも<マスター>と友好関係を結んだ方が良いという考え方の人で、志津香さんとの伝手もあって私達は色々と便宜を図ってもらう代わりに依頼を受けるって感じの関係だったのよ。……そして、その彼女には死霊術師としての師匠がいてね。名前をハイデスさんと言ってエルフ族で死霊術師系統超級職【冥王(キング・オブ・タルタロス)】のジョブに就いている人なんですって。……今回の依頼はそのハイデスさんに纏わるモノなのよ」

 

 姫乃曰く、そのハイデス氏は長命なエルフ族で超級職にまで至ったレジェンダリアに於ける最高の死霊術師だったのだが、同族であるエルフや妖精の上層部の腐敗っぷりに嫌気がさして政治の場である首都を離れて辺境の村で家族と共に暮らしながら迷える魂を導いていたらしい。

 一応、死霊術師ギルドには偶に顔を出したり弟子を取ったりと政治に関わる連中以外なら世間との繋がりもそれなりにあって、実力の確かな人格者という事で【妖精女王】からの覚えもめでたい人だったのだとか。

 

「だけど、<マスター>が現れる少し前にレジェンダリア議会からの依頼でペルシナさんや死霊術師ギルドの人達と一緒に怨念溜まりを対処のする為に彼が村から離れた時に“その悲劇”は起こったらしいわ。……彼が依頼を終えて村へと帰ったら、彼の家族を含めて村の人間は全員()()()()()()()()()()()()()()そうよ」

「それは……」

 

 この事を姫乃達に説明したペルシナさんもこの時はハイデスさんの家族に会う為に同行していたので詳しく事情を聞く事が出来たのだが、その村人達は一切抵抗した様子もなくまるで眠っている間に魂でも抜かれたかの様に死んでいたそうだ。

 ……実際、ハイデス氏──【冥王】の奥義である《観魂眼》を持ってしても村人の魂を確認する事は出来なかったので、レジェンダリアではこの事件を“魂喰らい”の仕業だと判断したらしい。

 

「“魂喰らい”?」

「ええ……何でもレジェンダリアに古くから語り継がれる謎の<UBM>と思わしき『存在』らしくて、誰もそいつの姿を見る事が出来ず、そいつに襲われた者はまるで魂を抜かれたかの様に傷一つ無く死んでいる事から“魂喰らい”と名付けられたらしいわ。……実際の所はかなり特殊な隠密系スキルと、魂を抜く事による即死スキルを備えた特殊な高位<UBM>ではないかと言われてるわね」

 

 その“魂喰らい”にやられた者は大体二百年程前から確認されており、その間捜索に特化した超級職のティアンだけでなくレジェンダリアでなら最強の広域殲滅型である【妖精女王】にすらその姿を捕捉出来ていないのだとか。

 

「それじゃあ、その“魂喰らい”を追ってお前達はアルター王国に行こうとしている……訳じゃないよな? そもそも、その“魂喰らい”とやらの所在は分かってないんだし、多分レジェンダリアから出ないんじゃないかソイツ」

「隣国のアルター王国でこの二百年間被害が確認出来てない以上はレジェンダリアを住処にしてると見るべきでしょうからね。……その通り、その“魂喰らい”に関しては何処にいるのかもサッパリよ。子供を良く狙う性質があって<YLNT倶楽部>が支援してる孤児院の一つ昔被害にあった事もあって、現在“魂喰らい”を目の敵にしたアイツらも探してるみたいだけど未だに見つからないらしいわ。……アイツらロリショタを見守る(ストーカーする)為なのか索敵・追跡系<エンブリオ>持ちが結構いるんだけど、それでも見つからないらしいのよね」

 

 ……さて、彼女達がペルシナさんから追跡の依頼を受けた<UBM>がその“魂喰らい”では無いとすると……。

 

「……成る程。じゃあ、追跡する必要があるのは()()()()()()()か?」

「流石に察しが良いわね。……そう、私達がペルシナさんから依頼を受けたのは“<UBM>に堕ちたハイデス氏の追跡と討伐”よ」

 

 ……自分の愛する妻子を含めて全滅した村を見たハイデス氏は大いに嘆き悲しみ、更に自らの《観魂眼》を持ってしても妻子の魂を確認出来ない事もあってまるで全てに絶望したかの様にその亡骸を抱えて僻地にある拠点に引きこもってしまったそうだ。

 どうにか立ち直ったペルシナさんも何度も励まそうとしたが全く効果は無く、その間に<マスター>が現れ始めた事もあって彼女はハイデス氏とやや疎遠になってしまっていたらしい。

 

「まあ、彼女が<マスター>を引き込む事に熱心なのは、伝説の<エンブリオ>の力で村を壊滅させた“魂喰らい”を見つけて倒す事が目的でもあったみたいなんだけど……先日、首都にある【アムニールの枝】を保管してあった施設に<UBM>が襲撃を仕掛けて来たのよ」

「……話の流れからすると、その<UBM>が……」

「ええ、ハイデス氏がアンデッドに堕ちた<UBM>だったそうよ。名前は【冥樹死王 ハデスブランチ】、格は伝説級だけど複数の上位アンデッドを従えている上に人間だった頃の技術と知識も持ち合わせているから【妖精女王】でも倒しきれなかったそうよ」

 

 最もハイデス氏──【ハデスブランチ】は肝心の【アムニールの枝】の奪取は失敗しており、更に【妖精女王】から逃れる為に使役していたアンデッドの殆どを失ったという事だが。

 ……その後のハイデス氏が使っていた住居を調査したところ、そこには【アムニールの枝】の様な高い魔力伝導率を持つ植物とアンデッドを組み合わせた死者蘇生の術を研究していた痕跡が残っていたそうだ。

 

「大体読めて来たな。<UBM>化もその研究によるものか」

「おそらくはね。【ハデスブランチ】やその配下は植物とアンデッドが融合した様な見た目をしていたと聞いてるし……それと、その研究資料を見たペルシナさんを始めとする死霊術師ギルドの人達は『こんな方法で死者蘇生が出来るはずがない』と悲しそうに言っていたわ」

「……つまりは“そんな判断すら出来ないレベルで狂ってしまっている”という事か……」

 

 人間がアンデッドなどのモンスターに変化する時に無茶な方法だと急激な“器”の変化に精神が耐えきれず異常をきたす事がままある、そうで無くともモンスターになった以上は徐々に精神がそちら寄りになる……と、ネリル先生の授業でやってたし。

 

「そういう事。……それでペルシナさんと死霊術師ギルドは恩師でもあるハイデス氏が堕ちた【ハデスブランチ】をこれ以上見ていられない事と、死霊術師ギルドに深い関わりのある彼が首都を襲撃した事で議会からギルドへの当たりが強くなった事から、ギルドを上げて【ハデスブランチ】の討伐を決定。その為の戦力として志津香さん経由で繋がりがあり、伝説級<UBM>を討伐した私達に声が掛かったという訳」

「成る程な……それでその【ハデスブランチ】がアルター王国に逃亡したから手を貸してくれと」

「ええ、最後の目撃情報がレジェンダリアと王国のニッサ辺境伯領を結ぶ山岳地帯手前だったから多分ね。……他国に行かれると国防上の問題から超級職を複数送り込むとかは難しくなるから。まあ、<マスター>なら関係ないし、ニッサはレジェンダリアとも仲が良いからペルシナさんを始めとする死霊術師ギルドのメンバーを何人か送り込むぐらいなら大丈夫みたいだけど」

 

 まあ、最近は王都でばかり活動してたから偶には遠出も良いだろうし、美希も<墓標迷宮>には飽きて来たと愚痴っていたしな……ついでに<UBM>討伐に協力するぐらいは良いだろう。

 

 

 ◇

 

 

「……それでちょっとした遠出のつもりだったらミカの“直感”が反応したから急いで万全の準備を整えて出発したんだがな」

「ふむふむ、大体事情は分かりましたのです」

「魔法系アンデッドだと僕はまたイマイチ役に立たなさそうだ……」

 

 そういう訳でミカからの忠告を受けた俺は時間が許す限り火属性・聖属性の【ジェム】を作ったり、呪怨耐性のある【暗黒騎士】についてレベルを上げたりと死霊術師上がりのアンデッドに対する対策を整えたのだ。

 まあ、ジョブの【暗黒騎士】に関しては光と闇が合わさって最強に見えそうなジョブ構成だから……ではなく、条件が【聖騎士(パラディン)】と少し被っていて条件達成が楽そうだったから以前から少しずつ就職条件を満たしていたのでどうにかなったが。

 ……それに以前からネリルと作っていた『新しい戦力』もようやく形になったしな。お陰で準備自体は現在出来る限りで万全である。

 

「まあ<UBM>がいる時点で只の旅行にはならないでしょうよ。……そう言えば、ネリルちゃんは今の話で何か気になった事はあった?」

「んむー? ……その話だけでは特に何も分からんのー。【冥王】や【死霊王(キング・オブ・コープス)】辺りがアンデッドモンスターに成るのは良くある話じゃしな」

 

 そんなミカの問いに対してパフェを食べ終わったネリルは興味なさそうにそう言った……ちなみに話に出て来た“魂喰らい”に関しても何も知らないらしい。曰く『別にワシは<UBM>とかの事を何でもは知らん、知っとる事だけじゃ』との事。

 

「そもそもワシって死霊術はあんまし得意ではないからのぅ。配下が必要ならエレメンタルかゴーレムを作成すれば済む話じゃったし……一応、知識としては持っているし出来ない事もないが実戦で使えるレベルではない(ネリル基準)」

「そうか、何か気付いた事があったら教えてくれ。……ミカの“直感”に反応があったって事は姫乃にも現実(リアル)側で電話して伝えておいたし、詳しいことは向こうと合流してから『お話中失礼します主人、9時の方向から敵の気配です』……《レイライン・サーチ》」

 

 そうして駄弁りながら馬車を牽いているとヴォルトがそんな注意を飛ばして来たので、俺は直ぐに地脈を介して周囲の様子を把握するスキルを使うとたしかに左側の森からここらでは珍しい亜竜級ぐらいのモンスターがこちらに向かって来るのが感じ取れた。

 ……ちなみにこの《レイライン・サーチ》は少し前の【ヴァルシオン】による《刃技才集(スキルガチャ)》によって取得したスキルで、多分【クルエラン・コア】が使っていたスキルを引いたんだろう。

 

「敵ですか兄様」

「ああ、亜竜級のモンスターっぽいのがこっちに向かって来る。多分魔蟲系っぽいかな」

「亜竜級以下だとヴォルトが牽くこの馬車を襲おうとは思わないからね」

『私が出している気配に引き寄せられたみたいですね。意図的に気配を出して雑魚を散らすのは上手くいったんですが……』

 

 実はヴォルトが新しく覚えた《気配操作》スキルの応用で意図的に亜竜級モンスターの気配を出して雑魚を散らしていたのだ……お陰で道中はモンスターが寄り付かずに楽だったんだが、こんな風に亜竜級に戦いを挑む好戦的なモンスターを引き寄せる事になった様だ。

 

「まあしゃーない、亜竜級以上が珍しいここらで遭遇したのは運が悪かっただけだ。……それに“コイツ”の実践テストには丁度いいだろうしな。雑魚相手はやったが亜竜級モンスターと戦わせる機会はなかったし。ここは俺に任せてもらう」

「ふむ、そういえばそうじゃの。“ソイツ”はまだ試作段階じゃからな」

 

 そう言いながら俺は馬車を降りて他を下がらせながら右手の【ジュエル】を掲げ、その直後に向かって来た敵はようやく森から飛び出て来てこちらでも目視出来る距離に現れた。

 

『KITIKITIKITIIII!!!』

「【亜竜突撃兜虫(デミドラグストライクビートル)】か、確か魔蟲系の中でも好戦的でツノによる突撃を得意とするんだったか」

 

 現れたのは昆虫図鑑の見開きに乗ってそうな“テンプレ日本のカブトムシ”をそのまんまデカくした感じのモンスター【亜竜突撃兜虫】であった。

 ……まあ、向かい合った瞬間に《殺気感知》と《危険察知》に反応があったので俺は即座に【ジュエル】を起動し、その直後【亜竜突撃兜虫】は背中の翼を広げて突っ込んで来た。

 

『KITIIAAAAA!!!』

「《喚起(コール)》……【()()()()()・プロトゴーレム】」

『……GOOOOO!!!』

 

 そして【亜竜突撃兜虫】のツノが俺に当たる寸前、【ジュエル】から呼び出された三メートル程のゴーレムがそれを受け止めたのだ……これこそが【巨像職人(コロッサス・マイスター)】にまで転職した俺とゴーレム作成の達人であるネリルが合同で作り上げた【クルエラン・プロトゴーレム】である。

 

「……ふむ、亜竜級モンスターの突撃を受け切れるだけのSTRとENDは問題ないか」

「前衛役として作ったもんじゃからの」

『GOOOOO!!!』

『KITIII⁉︎』

 

 俺とネリルがそんな事を言いながら観察している間にも、【クルエラン】は受け止めた【突撃兜虫】を掴んでそのまま投げ飛ばした……さて、次は動作確認含めた戦闘テストだな。

 ……では見せて貰おうか、新しいゴーレムの性能とやらを(作ったの俺らだけど)




あとがき・各種設定解説

兄:【クルエラン・プロトゴーレム】に関する解説は次回。
・【ヴァルシオン】のスキルガチャは《レイライン・サーチ》以外にも二回程引いたが、《火炎ブレス》と《体当たり》というハズレスキルだった模様。
・この事から<UBM>を倒した際にそのスキルが高確率で当たる、及び獲得経験値が低くなった(大学によるログイン時間減少)場合スキルの質が大きく下がると考え、次からは<UBM>を倒すかしなければもう少しガチャの間隔を開けようかと思っている。

《レイライン・サーチ》:スキルガチャの当たり枠
・【クルエラン・コア】が使っていたものの様に山岳地帯一つをカバーする程の範囲は無いが、消費MP次第でそれなりの範囲内の生物や地形をかなり正確に把握出来る。
・どのくらい正確かは消費MP次第だがモンスターか人間の区別とか大雑把な強さなどや、地脈を介して探知するので地面の起伏などは少ないMPで分かる模様。

ヴォルト:元々得意だった気配関係のスキルに更に磨きが掛かった
・元々使えた《強者感知》に《気配察知》やネリルから習った《エレクトロ・レーダー》を組み合わせて感知能力は更に強化されている。

ひめひめ:今回の依頼主
・彼女としては王国に行くついでに三兄妹と一緒に遊ぼうかなと思って誘ったのだが、妹の“直感”が発動したと聞いてからは念の為に自腹を切ってまでまで更なる準備を整えた。
・三兄妹への依頼の報酬としてレジェンダリア製のアイテムなどを渡す為に色々買った事もあって、実は現在懐が非常に寂しい。


読了ありがとうございました。
とりあえず新章開始。これからもボチボチ投稿していきますので感想・評価とかよろしくねー。


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【クルエラン・プロト】

前回のあらすじ:ひめひめ「ちょっと助けてくんない?」兄「オk」妹達「「ニヤニヤ」」


 □王都アルテア 【巨像職人(コロッサス・マイスター)】レント・ウィステリア

 

「……うん、とりあえずこれで一先ず完成かな」

「まあ、試作品件データ収集用としてはこんな物じゃろう」

『…………』

 

 俺達が<ニッサ辺境伯領>に向かう少し前の事、王都にあるレンタルアトリエ(金を払えば一定期間使わせて貰える生産施設の事)の一つで俺とネリルは目の前に鎮座するようやく完成したゴーレムを見て達成感を抱きつつ一息吐いていた。

 ……尚、ゴーレムを作ろうと思ったのは手に入れた特典武具【クルエラン・コア】の未開放スキルの解放条件が“ゴーレムの作成”に纏わる物だという事もあるのだが、もう一つネリルからの()()()()()があっての事だったりする。

 

「それでネリル、コイツ自身はモンスターのゴーレムなんだよな? ……その割には動かないが」

「【従魔師(テイマー)】でもある主人殿なら“アイテムとしてのゴーレム”よりも“モンスターとしてのゴーレム”の方が相性はいいじゃろうからそうしておるよ。……動かぬのはまだ『コア』と『躯体』の接続が馴染んでおらんからじゃろ」

「『コア』ね……以前の<クルエラ山岳地帯>でゴーレムに入れた【魔神石】とやらを改造した物だったか」

「うむ、あの時の【魔神石】は魔力を中途半端に使ってしまっておったからの。だから外部魔力タンクとして使うより、一時的にゴーレムのコアにする術式をベースに本格的な『ゴーレムコア』に改造した方が良いかと思ってな」

 

 ネリル曰く、この『ゴーレムコア』とは文字通りゴーレムの中枢部分になるパーツの事であり、今回は使いかけの【魔神石】をそこに残った魔力で改造して“器”とし、その中に何処からか取ってきた精霊を詰め込んでゴーレムの自立思考を行う核及び魔力源として再構築した物だとか。

 ……なので、このゴーレムは普通のゴーレムと自然系エレメンタルが融合した“ハイブリッドゴーレム”みたいになっているらしく、ステータスの内HP・STR・END・AGIなどの物理ステータスは躯体部分、MPに関してはコアのエレメンタルが基準となった数値になっているのでかなり高いステータスを誇る様だ。

 

「……しかし、MPと比べると物理ステータスは少し低いか……躯体の方は主に俺が担当したからなぁ。まだゴーレム作り関係のスキルレベルが低いのが原因か」

「だからこその『ゴーレムコア』じゃよ。……コアを別のより高性能な躯体に付け替えれば戦闘経験を積んだ思考はそのままにステータスを強化出来るし、躯体と核が分かれているお陰で躯体側を自由に改造出来るしな」

 

 ちなみに躯体の方の素材は<墓標迷宮>の植物階層で取ってきた【ウッドゴーレム】の素材をエドワードに頼んで金属化して貰った【樹木戦像の鋼】を素体に、ネリルが【クルエラン・コア】戦の戦利品である『古代伝説級金属と対魔法金属の箱だった物』の一部を加工して手足と胴体に鎧の様に纏わせる様に融合させた物になる。

 元はゴーレムだった【樹木戦像の鋼】を使ったお陰でSTR・AGIなどのステータスは上がり各種動作もより俊敏に、古代伝説級と対魔法金属の積層装甲を組み込んでいるのでHP・ENDが上がり《魔法耐性装甲》のスキルすら組み込めたとネリルは言っていた。

 また、ゴーレムの見た目は身長三メートルで手足が太く、茶色の木目の様な色合いな金属の身体とその胴部・頭部・手足に鈍い銀色をしている金属の装甲が張られていると言った無骨な外観で、いかにも『試作型』といった感じで個人的には好みな感じだ。

 

「……それに、主人殿の手が入らなければ特典武具のスキルは使えんじゃろう?」

「まあね。……この《クリエイション・ゴーレムアーミーズ》を活かすためにはもう少し各種スキルレベルを上げる必要あるか」

 

 そう言いながら、俺は今も履いている焦げ茶色のズボン──特典武具【創像地衣 クルエラン・コア】を軽く叩いた……この【クルエラン・コア】の新しく解放されたスキル《クリエイション・ゴーレムアーミーズ》は二つの効果を内包したスキルである。

 まず一つ目の効果は『人型のゴーレムを作成した場合の品質及びスキル効果を約二〜三割程上昇させる』という物だ。お陰で人型に限れば今の俺でも素材を厳選してネリルの保持があれば亜竜級相当のゴーレムをどうにか作る事が出来ている。

 ……そしてもう一つの効果は『自分が作った人型のゴーレムに()()()()()()()()()()()()を付与・習得させる事が出来る』というものだ。

 

「とりあえずこのゴーレムには騎士系統の《聖騎士の加護》とか《ダメージ軽減》と言った前衛壁役に向いたスキルと、高いMPを活かすために【付与術師(エンチャンター)】や【魔法剣士(マジックソードマン)】から自己強化系のバフ魔法を取得させてみたが」

「パッシブスキルの方はともかく、アクティブスキルはどの程度使えるかはまだよく分かっておらんからの。……その為の自立思考付きコアであるし、スキル構成がダメなら躯体だけ作り直す事も出来るしな」

 

 ちなみにゴーレムに付与出来るジョブスキルの種類や数は作成したそのゴーレムの出来で変わってくるらしく、少し前に練習がてら適当な素材で作った物には下級職のスキルをスキルレベルを下げた状態で一つ二つしか付与させる事は出来なかったが、このゴーレムに付与出来るスキルには上級職の物も含まれておりスキルレベルもそのままで五つ以上付与する事に成功している。

 ……後、多分だが付与出来るジョブスキルの種類とかはゴーレムの性質にも影響を受ける感じだと思われる。氷で出来たゴーレムには火属性魔法スキルは付与出来なかったし。

 

『……GO……』

「お? どうやら『コア』と『躯体』が馴染み終わったみたいじゃな」

 

 そうこうしている内に目の前に鎮座するゴーレムは僅かに唸りを上げながら身動ぎし始めた……ようやく『コア』と『躯体』の接続が終わった様だが……。

 

『……GGGU……』

「……生物系のゴーレムは作成した時点で作成者に使役されている設定になっているが、内部の精霊を含めてコアを作ったのはネリルになるからこの場合はどうなるんだ?」

「そこは心配要らぬよ。きちんと主人殿に従属する様に“調整”しておるし。……内部に入れた精霊も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃからゴーレムの駆動も問題無い筈じゃ」

「いやちょっと待て、それは聞いてないぞ」

 

 確かに中に入れる精霊にはゴーレムと相性の良いものを選んでおいたとは言ってたが、俺が倒した<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>である【クルエラン・コア】由来のモノだと言うのは初耳なんだが……かなり理不尽な方法でぶっ倒したし反逆とか起こされるんじゃ……。

 

「まったく主人殿は心配性じゃのう。……そもそも【クルエラン・コア】由来と言っても【魔神石】に一部残っていた残留思念とヤツが収められていた例の箱を触媒に《精霊紹介》を行っただけじゃから怨念とかは無いぞ。お陰でゴーレムの操作に長けた精霊を呼び込めたし、ちゃんと契約で縛っておるぞ」

「なら良いんだが……ネリルって意外と凝り性だよな」

「前世では人間と技術交流してみたり、そこで得た技術を地下深くで数十年ぐらい弄り回すぐらいにはな……おっと、接続も終わった様じゃな。調子はどうじゃ?」

『GO』

 

 そうして話している間にゴーレムは完全に目覚めたらしく、ネリルの問いに何か答えらしき唸りを上げてからはただジッとしていた……出来を確認する様にネリルがペタペタと身体を触っても動かないし、特に悪意や害意も感じないのでどうやら俺の懸念は杞憂だった様だ。

 ……とりあえず俺も《看破》などを使ってゴーレムのステータスを確認していったのだが、突然ゴーレムは俺に向けて控えめに唸りを上げて来たのだ。

 

『……GOGOGO……GOGO』

「うおっ……ええと、何か言いたい事があるのか? すまんがゴーレム語は履修してなくて……」

「そもそも発声機能は積んでおらんから唸りしか上げられんのじゃが……まあ、コアの精霊の意思を読み取るぐらいは出来るのじゃがな」

 

 そう言ったネリルはゴーレムに手を当てながら目を瞑ってコアに宿る精霊の意思を読み取ろうとしていった……一体、俺に何が言いたいのか。

 

「……ふむふむ、成る程のう。……主人殿、このゴーレムは忠誠を誓う代わりに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そうじゃぞ。多分【クルエラン・コア】の未練の様なモノが残っておった様じゃな」

『GO』

「……成る程、そういう事もあるのか」

 

 ネリルは【クルエラン・コア】をかつて<クルエラ山岳地帯>にあった<山岳国家クルエラ>が作った魔道具が変質した物ではないかと言っていたし、おそらく国を守る為に作られたであろう魔道具の未練としては納得のいく内容か。

 ……しかし、“名を残す”と言われてもどうするか……そうだな。

 

「それならお前の名前を【クルエラン・プロトゴーレム】としておく。まだ試作段階だから“プロト”の文字が付いているが、今後改良を加えていっても名前の『クルエラン』に関しては残し続けて、呼び名もクルエランにする事を約束しよう……どうだ?」

『……GO!』

「『それで良いです。ありがとう、今後とも宜しく』だそうじゃ。……ふむ、思ったより自立意思の発達が早いの」

 

 ……そういう事があって俺の従属モンスターに新しく【クルエラン・プロトゴーレム】が加わったのだった。

 

 

 ◇

 

 

『GO──!!!』

『KIISYA──!!!』

 

 そうして仲間になったクルエランは【亜竜突撃兜虫(デミドラグストライクビートル)】の突撃をほぼノーダメージで受け止めて、そのまま投げ飛ばしていた……尚、彼は“クルエラ”の名前にこだわりがあるので個別の名前は要らず正式名称で呼んで欲しいと言われてる。

 ……古代伝説級金属は一部に薄くしか使われていないとは言えENDは4000ぐらいあるし、《聖騎士の加護》を始めとする防御系スキルと合わせれば亜竜級モンスターの攻撃も受け止められるか。

 

『GOO!』

「……ふむ、アレは《フィジカルブースト》じゃな。魔法系アクティブスキルも十分使用可能と」

『KISYA!!!』

「ただ強化して殴り掛かったは良いが普通に避けられてるな。AGIが低い事もあるがそれ以前に格闘技術面が余り高くないか」

 

 自身のSTR・END・AGIを上昇させる即時発動可能な魔法を使ったクルエランは【亜竜突撃兜虫】に殴り掛かったが、大振りなその一撃は咄嗟に飛び退った相手には当たらなかった。

 ……まあ、ゴーレムはAGIが低かったり動作自体が余り精密でない傾向があるのが普通だからしょうがないけどね。前衛壁役として耐久性特化に作ったから尚更。

 

「戦闘技術に関しては自立意思が経験を積めばなんとかなるじゃろ。……いっそ攻撃魔法か武術系アクティブスキルでも覚えさせるか? まだ容量はあった筈じゃが」

「攻撃魔法に関しては俺とネリルがいるからな、これ以上増やしても余り意味はないだろう。……それより前衛壁役に特化させるのが良いと思うがな。後はセンススキルでも習得させるのはありか」

 

 ただ、俺が覚えてるセンススキルは《剣技能》《盾技能》ぐらいだから、武器とか使いにくいゴーレムには向いてないか……いっそ格闘系のジョブでも新しく取ってみるかな。五体があれば使えるから俺のサブウェポンとしても問題ないだろう。

 ……そんな品評を俺とネリルがしている間にもクルエランは【突撃兜虫】の角による打撃にも一切怯まず、逆に攻撃を受けながらカウンター気味に打撃を放つ事で相手に当てる事に成功していた。

 

『GOO──!!!』

『KISYA⁉︎』

「おお、今のは上手いな。これは格闘系スキル習得も視野に入れるか」

「内包した精霊はゴーレム運用に長けておるから、それも悪くないじゃろうて。……ただ、攻撃系スキルは持っとらんからそこそこ高いENDを持つ相手には致命傷を与えられん様じゃ」

 

 確かにクルエランの拳は当たってはいるが単にSTR任せの攻撃だからか、相手の甲殻に阻まれてそこまでダメージを負わせられない様だな……まあ、前衛壁役としては十分な性能があると確認出来たしそろそろ終わらせるか。妹達も暇そうにしてるし。

 

「それじゃあ最後に連携の確認でもしておくか。……ヴォルト、アイツの動きを止めろ」

『了解……《サンダー・クロウラー》!』

 

 俺の指示を受けたヴォルトは雷を纏わせた蹄を地面に叩きつけながら()()()()()()を【突撃兜虫】に向けて放った……死角である真下からの攻撃に相手は反応出来ず、その電撃によってダメージを受けると共に一時的に動きが止まってしまった。

 

『KIIE⁉︎』

「クルエランは俺の射線が取れる位置までそいつを殴り飛ばせ! ネリルは俺に火属性強化」

『GOOO!!!』

「あいあい」

 

 そうして俺は魔法の準備をしながらそんな指示を出し、それを聞いたクルエランは動きが止まった【突撃兜虫】を真横に殴り飛ばした……ふむ、ちゃんと俺と【突撃兜虫】の間に誰もいない位置まで飛ばしてるな。

 ……実はワザと曖昧な感じの指示を出してどのくらい対応出来るか見たんだがほぼ満点の回答だ。ここまで判断出来るとは自立意思って凄いな。

 

「ほれ《フレア・ブースター》じゃ」

「助かる……《魔法威力拡大》《魔法射程延長》《ブレイズ・バースト》!」

『KISYAAAAA!?』

 

 殴り飛ばされた【突撃兜虫】はそのまま地面に叩きつけられ蓄積したダメージによって動きは鈍り、その隙を突いて俺はネリルの火属性強化魔法を含む各種魔法強化スキルで威力を増幅させた豪炎の奔流(ブレイズ・バースト)を相手に叩き込んで焼き尽くしたのだった。

 ……そうして戦いを終えたクルエランがこっちに戻って来たので、ちょっと労いの言葉と妹達への紹介とかもしておこうか。

 

『GO』

「ああ、よくやってくれたクルエラン、正直想像以上だったよ。……という訳で、新しく俺の手持ちになった【クルエラン・プロトゴーレム】君だ。みんな仲良くする様に。

「お兄ちゃん、ゴーレム作って戦力に加えたのは聞いてたけど、また凄いの作ったね」

「えーと、宜しくお願いしますのです」

「パーティー的には前衛壁役なのかな?」

 

 高性能なゴーレムを作った事は妹達にも言っていたが、クルエラン自体をキチンと見せるのは初めてだったからな……興味深そうにペチペチとその身体を触るミカや、礼儀正しくお辞儀をするミュウに対してもクルエランは特に嫌がる様子を見せないし、とりあえず初顔合わせは上手くいったかな。

 

「クルエランは見てもらった通り前衛壁役だから後衛のネリルの護衛とかで出す事が多くなるかな。俺達のパーティーには明確な壁役がいなかったから、これで戦術のパターンも増えると思う」

「うんそうだねお兄ちゃん……クルエラン君は()()()()()()()()()()()()()よ」

「それは良かった。……出番が来たら呼び出すから、それまでは【ジュエル】で待機していてくれ。《送還(リ・コール)》」

『GO』

 

 いつも通り意味深な事をいうミカに対して頷きつつ、俺はクルエランを【ジュエル】内に帰還させた……AGIはそこまで早くないから移動時には置いてけぼりになりかねないしね。

 ……そんな感じで新メンバーとの顔合わせを終えた俺達は再び<サウダーテ森林>を進んで、一路<ニッサ辺境伯領>へと向かっていったのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:ゴーレム作り始めました
・【クルエラン・プロトゴーレム】作成以前にもいくつかジョブクエストやスキルレベル上げ、及び《クリエイション・ゴーレムアーミーズ》のテストがてらゴーレムを作っていたが資金稼ぎの為に殆ど売ってしまっている。

《クリエイション・ゴーレムアーミーズ》:【クルエラン・コア】の第二スキル
・スキル解放条件は『ゴーレムを一定数生産』と『一定数以上のジョブスキル習得』であり、人間の代わりの防衛戦力として人型の兵隊系ゴーレムを作る事に特化した【クルエラン・コア】由来のスキル。
・スキル適応の条件である“人型”に関しては割と緩く、手足と頭部があって二足歩行なら全長10メートルの巨人型とかでも該当する。

《フィジカルブースト》:自己強化魔法
・自分自身だけを対象とする単体バフ魔法スキルで、他者を対象と出来ない代わりにSTR・END・AGIを一度に強化出来て即時に発動可能。
・【魔法剣士】や【魔戦士】などの魔法を使う前衛系ジョブの多くで習得可能なスキル。

ネリル:意外と凝り性
・現在の最大MPは大体10万と言った所なので大規模な魔法行使はまだ出来ないが、それでもゴーレム作成・金属加工共に世界で上から数えた方が早く技量を持っているので作成する物の質も異様に高い。
・だが、本人的には兄の成長を促す意味もあってそこまで本気で生産作業は行なっていない模様。

【クルエラン・プロトゴーレム】:“山岳国家クルエラ”の残滓
・兄とネリルが大体2対8ぐらいの割合で協力して作り上げたゴーレム。
・HP・ENDに特化させた壁役ゴーレムであり、本編中に紹介した各種防御スキルの他に【ウッドゴーレム】由来の《自動再生》スキルがあるので耐久性なら純竜クラスに迫る。
・ただ、攻撃面に関しては製作時に力を入れていない事もあって大した事は無いが、そもそも三兄妹は攻撃力過多なのでパーティーバランス的には丁度いい感じ。
・自立意思にはネリルが直々に各種動作プログラムを組み込んだのでスムーズに駆動し、兄の指示を正確にこなす判断力も備えているがまだ生まれたばかりなので所々にアラがある。
・だが、コアの自立意思には学習機能があり、躯体の改良も可能なので今後の成長に期待。


読了ありがとうございました。感想・評価・誤字報告などはいつでもどうぞ。


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レジェンダリアより来る者達

前回のあらすじ:兄「フハハハハ! これが俺(とネリル)が開発した高性能ゴーレム【クルエランプロト】だぁ!」ネリル「ここからどんどん改造していくぞい」


 □ ペルシナ・デミテル

 

 ……懐かしい夢を見ていた。

 

『いいかいペルシナ、私達【死霊術師(ネクロマンサー)】は死者に寄り添い、彼等の未練を晴らし、その魂が怨念に侵されぬ様に成仏させる事を役目とするんだ。他にもアンデッドの退治や怨念溜まりの対処もあるし、むしろそちらの方が仕事としては多いのだが、だからこそ【死霊術師】としての本来のあり方を忘れてはいけないよ』

『はい、師匠』

 

 ……この会話は私がまだ師匠の元へと来たばかりの頃だったか……この頃の私は、様々な自然干渉魔法に長けたエルフの母とレジェンダリア有数の天属性の攻撃魔術師である父の間に生まれたハーフエルフなのに、その二人の才能を一切受け継がず死霊術師系のジョブにのみ適正があって死霊術師ギルドに通わされていた事でやさぐれていた。

 ……まあ、父方の祖父は生前腕の立つ【死霊術師】であり私は隔世遺伝的にその才能を受け継いだのだろうし、死霊術師ギルドに通わせられたのも父と母なりに私の将来の事を考えてくれていたのだと今なら分かるが、当時の私は父と母がモンスターとの戦いの果てに帰らぬ人になった事もあって心配してくれた死霊術師ギルドの面々に当たり散らす様な愚か者であったのだが。

 

『ふむ、君がピスティアの娘か。……私は【冥王(キング・オブ・タルタロス)】ハイデス、君の母親であるピスティアの親類だ。今日から私が君の面倒を見る事になった』

『え……?』

 

 ……そんな時にいきなりこの世界における超越者である超級職(スペリオルジョブ)の人間が現れたのだから、思わず当時の私が間抜けな声を上げてしまったのも仕方のない事だろう。

 確かこの時の師匠は《ネクロ・オーラ》の応用でこっちを威圧する雰囲気を出していたし……後から聞いた話だと『やさぐれている相手なら初手で威圧するのが手っ取り早い』と言っていたか。

 ……無論、死霊術師ギルドの方も死霊術師の最高峰である【冥王】に文句をつけられる訳がなく、むしろ超級職の指導を受けられるのだからと大歓迎ですと私は師匠の元へと送り出されたのだが。

 

『ほう、やはりスジがいいな。かつて共に研鑽を積んだジュリオの事を思い出すアンデッド捌きだ』

『……祖父の事を知っているんですか?』

『ああ、君の祖父とはかつて共に死霊術師として研鑽を積んだ中でな。君の父と母の馴れ初めなども知っているよ』

 

 ……衝撃的なファーストコンタクトとは打って変わって師匠の元での生活は実に穏やかなものだった。昔の両親達についての話も色々と聞く事が出来て、それが改めて両親が私をどう思っていたかを考えさせられる事にも繋がり徐々に私は更生していったのだ。

 

『ペルシナお姉ちゃん! 一緒に遊ぼう!』

『……はぁ、分かったわよ』

『ふふふ、いつもありがとうねペルシナちゃん』

 

 ……それから師匠の奥さんと娘さんとも仲良くなってもう一つの“家族”として思えるようになって、それにより過去の自分の身勝手さを理解出来るぐらいに成長も出来た。

 

『成る程、死霊術師ギルドで働きたいと』

『はい。……昔あそこには色々と迷惑を掛けてしまいましたし、何より師匠の下で学んだ死霊術を祖父の様に誰かの為に使いたいと思って』

『そうか……成長したな、ペルシナ。いいだろう、行ってこい』

 

 ……それからは師匠の名に恥じない様にギルドで働き続け、いつしか私は死霊術師ギルドのエースとして名を馳せる様になった……まあ、私がギルドに来たお陰で余り首都に寄り付かなかった師匠が偶に訪れる様になった事の方がギルドにとっては重要だったかもしれないが。

 ……そんな大変だけど幸せな日々が続くと私は心の何処かで思ってしまっていたが、父と母が死んだ様にこの世界はいつも思いも寄らぬカタチで悲劇を運んでくるのだった。

 

『………………』

『………………』

 

 ……あの時、まるで時が止まったかの様に静まり返ったあの村で、目の前で魂が抜けた様に奥さんと娘さんの死体を抱えて蹲る師匠に私は何も言えなかった……その時の師匠の顔が、まるで感情の全てが無くなった“真性のアンデッド”にでもなったかの様なその顔を見てしまった私はなんと声をかければいいか分からなかったのだ。

 ……その後の私は師匠が村を離れる依頼を議会から持って来てしまった負い目もあって彼とは疎遠になり、この事件から目を逸らす様にギルドの仕事に邁進した。同時期に<マスター>の急速な増加が起きた事もそれに拍車を掛けたのだろう。

 ……或いは伝説の<マスター>なら村を襲ったと思われる『魂喰らい』を見つけ出せるかもしれない、そうすればもう一度師匠と……などと思ってギルドに働きかけて<マスター>の取り込みを行ない、いくらかの(性癖はともかく)有用な協力者も得る事に成功はした。

 

『【冥王】ヘイデス氏が【アムニールの枝】を奪う為に首都の保管庫を襲撃しました。その際に彼は<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>になっており……』

『………………へ?』

 

 ……だからこそ、ある意味自分とは違う至高の存在とさえ思っていた師匠がそこまで追い詰められていた事にまるで気が付かなかったのだ……結局、私は大切な人達の為に何も出来ずにいる単なる無能でしか無かったという訳である。

 ……だが、だからこそ、師匠が教えてくれた死霊術師としての在り方に則って、今度こそ私はこの手で師匠を……。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □レジェンダリア国境地帯 【大魔弓手(グレイト・マギアーチャー)】ひめひめ

 

「……ペルシナさん、ペルシナさん、もうすぐニッサ辺境伯領に着きますよ」

「……んん……すみません、どうやら少し眠ってしまっていた様です」

 

 レジェンダリアからアルター王国へと向かう山岳地帯の街道、そこを馬車に乗った私達パーティーとペルシナさんは進んでいた……この世界の馬車は魔法的な加工で《振動軽減》や《重量軽減》があるからこんな山道でも問題なく移動出来る上に振動も殆ど無いから寝る事だって出来るのよね。

 ……まあ、今回の馬車は引いている“馬”も含めて死霊術師ギルドが用意してくれた、山道や林道すら余裕で進める結構な高級品だからと言うのもあるけど。

 

「大丈夫? ペルシナちゃん。最近疲れてるみたいだからもっと寝てていいのよ?」

「いえ、大丈夫ですシズカさん。……それにこの馬車を動かしているのは私のアンデッドですし、余り長い時間目を向けていない訳にも行きません……《シャイン・レジスト》」

 

 馬車の中で()()()()()()()()()()ペルシナさんに心配そうな声を掛ける【幽霊術師(ゴーストマンサー)】のシズカに礼を言いつつ、彼女は馬車を引く青ざめたアンデッドの馬【アンデッド・ストライクホース】に再度光属性耐性付与魔法を掛けた。

 ……今は日中だから何の対策も無いとアンデッドのステータスは大幅に下がるからね。あの馬にも光属性耐性・日光耐性の使役アンデッド用アイテムを装備させているらしいし。

 

「そういえばひめひめさん、なんかアルター王国側の知り合いの<マスター>に声を掛けたと聞きましたが」

「そうよアリマちゃん、ちょっと頼み込んで今回のクエストに協力して貰う事にしたのよ。……ああ、人格面でも実力面でも申し分無いから、その辺りは安心してね」

「まあ確かに、今回のクエストを俺たちのパーティーだけで達成するのは困難だろうからな。折悪くレジェンダリアにいる他の<マスター>やティアンは捕まらなかったし」

 

 でぃふぇ〜んど君の言う通り、私があの三兄妹に援軍を頼んだのは今回のクエストに協力してくれそうな実力を持ったレジェンダリアの<マスター>が悉く都合が付かなかったからなのよね。

 ……と、私達がそんな話をしていたら馬車の隅っこに座っていたアリマちゃんと同じぐらいの年頃の少年──私のパーティーメンバーである<マスター>の一人【白氷術師(ヘイルマンサー)】クロード君が不満そうな声を上げた。

 

「でもよー、そんな援軍なんて連れて来たら俺達の分の報酬が下がるんじゃね? そもそも伝説級<UBM>なら俺たちだって倒してるし、その知り合いってのが使えるか分からないし」

「こらクロード、今回のクエストで援軍を呼ぶ事は既に決まっていたでしょう? 今更文句を言うんじゃないよ」

「でも姉ちゃん……」

 

 そんな彼を咎めたのは隣に座っている金髪の女性<マスター>──クロード君の実姉である【大戦僧兵(グレイト・ウォリアーモンク)】クラリスさんであった……この二人はクロード君が変態(ロリショタ)供に付かず離れずの距離で粘着されて困っていた所を、私が(変態全員の脳天を撃ち抜いて)助けた事が縁でウチのパーティーに入ってくれたのよね。

 ……まあ、援軍の事に関しては今回のターゲットである【ハデスブランチ】の事を聞いた際に『このパーティーメンバーじゃちょっとキツイ』と思って私が無理にねじ込んだからねぇ。不満が出るのもしょうがないか。

 

「一応、今回援軍を頼んだ三人の<マスター>は今まで五体の<UBM>と戦ってその内四回ぐらいMVPに選ばれてるらしいから実力は本物よ」

「うさんくせぇ……幾ら何でも盛りすぎだろ。俺らでも今まで<UBM>に勝てたのは【ドラグリーフ】一回だけだったじゃんか。まだデンドロ始まってからこっちの時間でも半年がやっと過ぎたのに、<UBM>にそんなに出会える訳がないじゃん」

「クロード!」

 

 んんー、実際あの三人の事を知らなければそう思うのも仕方ないわよねぇ……巫女である私の視点から言わせてもらうと『才ある者』『選ばれた者』には“運命”が収束する性質があったりするから、そういう人達にはトラブルが多く舞い込んで来る事はままあるんだけど。

 ……さてどう説明したものかと悩んでいると、ずっと話を聞いていたペルシナさんから助け舟が出された。

 

「クロード君、今回の援軍に関しては私がひめひめさんとシズカさんに『【ハデスブランチ】を確実に倒せる様に協力して欲しい』と頼んだのがきっかけです。当然報酬に関しても援軍の有無に関わらず当初の予定通りの額を支払います。……どうか、私の師匠を今度こそ終わらせる為に御助力をお願い致します」

「うぐ……」

「…………」

 

 そう言って真剣な表情で頭を下げたペルシナさんを見てクロード君は非常に気まずそうにして黙り込んでしまった……まあ、彼は自分の力でこの世界(ゲーム)を冒険する事にこだわってる節があるから、いつものパーティーメンバーならともかく見ず知らずの<マスター>を援軍にしなければならないのが不満でちょっと口に出てしまっただけなんでしょう。

 ……それに対してものすごく真剣な表情で答えたペルシナさん相手に居たたまれなくなった事と、横から凄い怖い視線で睨みつけてるクラリスさんの事があるからこんな感じになってると。

 

「……うう、もう決まった事に関して文句を言ったのは悪かったよ。……でも、相手がアンデッドなら前の【ドラグリーフ】の時みたいに、初手ひめひめの必殺スキルでなんとかなるんじゃ……」

「あの戦術は事前に何時間かチャージしておく必要があるから突発的な戦闘には対応して無いのよ。【ドラグリーフ】の時は相手が余り動かず自分の縄張りに籠るタイプだったから使えた戦術だし」

「それに忘れたのクロード。ひめひめの必殺スキルが直撃しても【ドラグリーフ】は完全には仕留めきれずに、その後10分くらい私達が総掛かりで攻撃してようやく倒せたって事を」

 

 以前【ドラグリーフ】を倒した方法は戦闘開始()()()()に私の必殺スキル《天地一切大祓之矢(アマテラス)》を使って頭上に《炎勢之矢》ベースの光球を展開、そのまま相手の縄張りまで行ってから、クロード君の【スロウス】によるAGIデバフとでぃふぇ〜んど君の【パラスアテナ】で相手を取り囲んで動きを封じた後で上から最大威力の矢を落として溶鉱炉みたいに焼き尽くすってハメ技だったからね。

 ……アンデッドである【ハデスブランチ】にも対アンデッド聖属性の《聖浄之矢》を使った必殺スキルなら勝算はあるんだけど、やっぱり事前準備が必要な戦術だから使えない状況も考えるとねぇ。

 

「……ええ、師匠……【ハデスブランチ】はあの【妖精女王】からも逃げ切ったレベルの相手ですから。可能な限り戦力は多い方がいいでしょう」

「相手がアンデッドのプロだと幽霊である私は不利になるしねー」

「アンデッドは精神系状態異常が効きにくい事も多いので、私も余り有利に戦える相手では無いです」

「光や聖属性が使える私やひめひめなら有利に戦えるけど、<UBM>を格殺出来るかどうかは怪しいわよ」

「あーもう! 分かったよ! 援軍が必要なのは理解したし、もう文句は言わないよ!」

 

 うんうん、クロード君も納得してくれた様で何より(笑)……それにさっきログアウトした時に確認したメールに『美希ちゃんの“直感”に反応があった』と書いてあったし、多分私達が協力しなくても彼等だけで勝手に【ハデスブランチ】の所に行くだろうからね。

 

「……皆さん、どうやらそろそろニッサ辺境伯領に着きますよ」

「ありがとうペルシナさん」

 

 とまあ、私達がそんな会話をしているとペルシナさんが目的地への到着を教えてくれた……さて、三兄妹との合流に各種打ち合わせ、後は肝心の【ハデスブランチ】の捜索とやる事は沢山あるからね。頑張ろうか。




あとがき・各種設定解説

ペルシナ・デミテル:覚悟完了済み
・とにかく連続で不幸が襲い続けて、その度に何も出来なかった後悔から割とガチ目に覚悟を完了してしまった人。
・ただ、それでも自分程度の実力では伝説級<UBM>を倒せないだろう事は分かっているので、とにかく実績のあって信用出来る<マスター>達であるひめひめ達に協力を頼んでいる。
・攻撃魔法の適正や自然干渉魔法の適正は皆無だが、死霊術や補助魔法の適正が高いタイプなので使役したアンデッドに補助魔法を掛けて戦うスタイル。

ひめひめ:初手大出力技ぶっぱは正義
・必殺スキル《天地一切大祓之矢》の準備段階の光球は自身の頭上の“一定の相対距離”で静止するので、発動後に自身が移動すればそれに合わせて移動する。
・現在だと三時間もチャージすれば超級職奥義に数倍する威力になるが、それでも【ドラグリーフ】を仕留めきれなかったのは単に相手が光エネルギーを吸収して自己回復したり蓄積した光を使って《竜王気》による防御を展開出来る耐久型だったから。

シズカ・クロード・クラリス:ひめひめのパーティーメンバー
・基本的に仲は良いが方針に関して議論する事もある極普通のまともで善良な<マスター>パーティー。
・尚、レジェンダリアでは“善良”はともかく“まとも”な<マスター>でパーティーを組める確率が低いので、まともな人は彼等の様に最初に出会ったまともな人同士で固定パーティーを組み続ける事が多い。

幽霊術師(ゴーストマンサー)】:死霊術師系統派生上級職
・死霊術師系統の中でも霊体系アンデッドの使役・運用に特化した上級職で、転職条件に『霊』に纏わる要素があるレア上級職。
・主なスキルは霊体系アンデッドの火・光属性耐性を引き上げて日照下でも活動出来る様になるパッシブ《ゴースト・コンサベーション》や、霊体を物質に憑依させたりドレイン系スキルを強化したりする物を覚える。
・また、奥義である怨念を霊体系アンデッドに宿らせて強化する《デッドリー・グラッジレイス》を始めとして霊体を介した呪怨系スキルや、アンデッドでない幽霊を知覚・干渉出来るスキルなどにも習得する。
・シズカの場合、転職条件は自分が幽霊なので問題なく満たせて、前述のスキルによって霊体系アンデッドである自分が日照下でも問題なく活動出来る様になるので重宝している。

【減速領域 スロウス】
<マスター>:クロード
TYPE:ワールド
到達形態:Ⅳ
能力特性:減速
固有スキル:《足引きの呪縛域(ディーセライレーション・ゾーン)》《届かじの闇衣(ディクリース・フィールド)
・モチーフは七つの大罪の一つである怠惰を意味する言葉“スロウス”。
・《足引きの呪縛域》は効果範囲内の敵対対象のAGI及びそれらが使う魔法や飛び道具などの速度にデバフを掛けるスキルで、現時点では最大で八分の一に出来る(対象との実力差で効果は変動する)
・《届かじの闇衣》は自分の身体を中心とした狭い範囲に『自分への攻撃の運動エネルギーや熱エネルギーなどを大幅に減()させる結界』を展開する防御用スキル。
・スキルは全てMP消費制でありステータス補正もMPに特化しているので、彼のジョブビルドもMPに特化した魔法型。
・ちなみに彼は小学生ながら結構なゲーマーなのでジョブも考えられており、メインの【白氷術師】はパーティーで被らない攻撃魔法で減速効果と合わせて動きを封じる事と氷属性耐性スキルによって《闇衣》が機能しない氷属性攻撃についての対策が狙い。
・また、サブに【暗黒術師】を入れて減速と合わせて闇属性攻撃を確実に当てたり同じく《闇衣》が機能しない闇属性攻撃に対応したり、スキルがそれぞれ呪怨・エネルギー減衰系なので【呪術師】【抵抗術師】を入れて補助したりしている。


読了ありがとうございました。ひめひめパーティーの残り設定は随時開示していくのでお楽しみに。


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到着! ニッサ辺境伯領

前回のあらすじ:妹「ひめひめさん達も今頃王国は向かってるのかな?」兄「多分なー、パーティーは変態ではないとやたら強調してたが」末妹「変態…?」


 □ニッサ辺境伯領 【戦棍鬼(メイス・オーガ)】ミカ・ウィステリア

 

「はい、そういう訳でやって来ましたニッサ辺境伯領! 姫乃さんはもう着いてるんだっけ?」

「予定ではこちらの時間で明日辺りに着くと言っていたが……後、こっちでのアバター名は『ひめひめ』と言うらしいから気を付けろよ」

 

 あれから特に何かトラブルに会う(野生の<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>が飛び出して来たりする)事も無く、私達はニッサ辺境伯領に到着していた。

 ……しっかし、ここはレジェンダリアが近いからか亜人の数が多いね。ギデオンにも結構居たけどこっちは見た限りでも三割ぐらいがケモミミ生えてたりするし。

 

「ネットリテラシーには気を付けなければいけませんからね。それでは兄様、今日はどうするのですか?」

「今日はもう遅いからしばらくしてからログアウト。明日からの休日に向こうと合流して例の<UBM>を探す予定になってる」

「その辺りはちゃんと計算してるんだね。主にお兄ちゃんとひめひめさんが」

 

 とりあえず夕飯は向こう(現実)で食べ終わってるので、デンドロ側の時間で後10時間ぐらいはログイン出来るからその間は各々観光でもしていよう、ついでの例の<UBM>の情報も少し調べようとなってその場は解散となった。

 ……本当に三倍時間は便利だよねー。学校のある私達でもちょっとした空き時間で長くゲームが遊べるのは最高だと思いましたー(小並感)

 

「さて、私はいつも通り(直感のままに)街を回ってみるかな。何かあるにしてもこれが一番早いしね」

 

 まずは観光しつつ出店とかを冷やかしに行こうかな。<墓標迷宮>篭りでお金には余裕があるし、何か面白そうなとか使えそうな御当地アイテムでもあれば買っておこうかな。

 

 

 ◇

 

 

「はいお嬢ちゃん、【ジェムー《マナ・ディフュージョン》】三つと【高濃度除草剤】と【高品質聖水】がそれぞれ五つづつだ」

「ありがとうねおじさん。これはお代だよ」

「へい毎度あり……しかし、<アクシデントサークル>対策の空間中の魔力避けアイテムに、対植物系モンスター用と対アンデッドモンスター用アイテムとは、これからレジェンダリアにでも行くのかい?」

「今はそんな予定はないかな。……ただ何と無く()()()()()()()買っただけだし」

 

 訝しげな表情を浮かべる魔道具屋のおじさんに礼を言いながら、私は買ったアイテムをアイテムボックスに収めてその店を後にした……まあ、相変わらずの“直感”が『これこれこういう物を買った方が良い』と告げて来るので買っただけなんだが。

 ……どれも結構な高級品だったので数は揃えられなかったしそれなりの出費にはなったが、『このレベルじゃないと意味がない』と出たからしょうがないよね。

 

「ふむん、一通り見て回った範囲だとここではレジェンダリア産っぽい高性能なマジックアイテムを多く取り扱っているみたいだね。『レジェンダリアから取り寄せました!』『あのレジェンダリアでも使われてるマジックアイテム!』みたいなポップが沢山あったし」

 

 ちなみにデンドロの《真偽判定》はこんなポップにも対応しているので、嘘を書いてもすぐに見破れるから殆ど本当の事しか書かない模様……尚、書いた人間が本当だと思っていれば《真偽判定》には引っかからないので、元から商品が偽物で店員が気付いてないとかなら偽りの紹介文もあり得るんだけどね。

 ……まあそんな事はどうでも良い話ではあるんだが、この街を一通り歩き回って見ても件の<UBM>に対する“直感”の反応は買い物に纏わるモノだけだったね。

 

(つまり例の<UBM>の知っておいた方が良い情報とかはこの街には無い、情報がこの街に知られない様に目立たず潜伏しているという事。……私の“直感”ではこの街自体へ()()()()()()()()()()()()()()()()()って出ているんだけどね)

 

 具体的に言うと、今回の案件を解決出来なかった場合はこのニッサ辺境伯領が『半壊』ぐらいはする気がするんだよね……城壁の上に魔力式の砲台とかを備え付けられていたりと、かなりの防衛力を持ってそうなこの街を半壊させるとか分かっていたけど今回の敵は大分厄介そうだ。

 ……問題は『この街が半壊する事』は分かるんだけど、それが『どんな相手で』『どんな手段で』そうなるのかが現時点ではさっぱり分からないって事なんだけど。

 

(まあ、私の“直感”が最終的に上手く行くにしても、その過程に与えられる導きが結構曖昧なのは今に始まった事じゃ無いから別に良いんだけどね……多分、レジェンダリア組が合流してからが本番な気がするし)

 

 とりあえず今の私に出来る事は『来るべき時』に向けて出来る限りの準備をしておく事だけだろうと気を取直し、私はこの街でやっていたバザーに足を踏み入れた……こういった出店には意外と掘り出し物が質のいい中古品とかがあったりするんだよね。

 ただ、商品のチェックをちゃんとしている普通の店と違って偽物とか不良在庫も普通にあるから、本当にいい物を手に入れたければ《鑑定眼》と欲しい物に巡り合うリアルラックは必須とか言われてるけど。

 

「まあ、私は《鑑定眼》とかは持ってないけどね。一応【鑑定のモノクル】はあるけど」

 

 最も、私の場合は“直感”のお陰で『買った方が良い商品』が何と無く分かるから掘り出し物を見つけるのは非常に得意なのである……装備枠が着ぐるみ(特典武具)とかで殆ど埋まってるから、そもそも普段使いで装備出来そうなヤツが少ないっていう別の問題があるけど……。

 

「ふーむ、これは【魔法カメラ】ね。中古品だけど性能は良さそうだし面白そうではあるから買っておこうか。……こっちのは【オキシジェン・リング】、込めたMP分だけ装備者に酸素を供給するのね。一応買おうか。……これは【幸運のお守り】ね。割と良くあるLUC値上昇アクセサリーだけど性能はそこそこだしデザインが気に入ったから買いで」

 

 ……ちなみにこれらの代物が今回の事件で役に立つとかは無いんだけど、せっかくだから現実では(お小遣いの関係で)余り出来ない衝動買いと言うのをやってみたかっただけである。

 

「ククク、ちょっといいかなお嬢ちゃん」

「ん?」

 

 そんな風にバザーを見て回っていた私だったのだが突然変な笑い声と共に声を掛けられたのでそちらを振り向くと、そこには全身真っ黒なフード付きローブを着ている一人の男が、フードの奥で怪しげな笑みを浮かべながら裏路地にあるゴザの上に座っていた。

 ……左手に紋章があるって事は<マスター>みたいだし、ゴザの上には商品が並んでいるから多分バザーの出品者なんだろうけど。

 

「それで、何か用なの?」

「へぇ、こんな怪しげな男に声を掛けられて平然としているとは、やはり俺が見込んだ通りの女みたいだなぁ」

 

 まあ、見た目や言動はあからさまに過ぎるぐらいに怪しいんだけど“危険”は一切感じなかったからね……ていうか自分が怪しい事自体は自覚あったんだ。

 ……そう私が少しの呆れと疑問を抱いていると、目の前の男は笑みを浮かべながら話を続けて来た。

 

「おっと、“何の用か”だったが、俺は『闇商人』だからもちろん商売さ。今のお前に一番必要とされている物を売ってやろう」

「……うーん、そもそも闇商人って自称する様なモノじゃない様な気がするけど。というかそんな怪しげな格好で路地裏に店を置いても誰も寄り付かないでしょうに」

 

 ……実際、さっきからこの自称『闇商人』さんを見たバザー客は『あ、ヤベーやつだ』みたいな表情で遠ざかっているし。

 

「俺はこういう闇商人ロールプレイをしたいからデンドロをやってるんだからこれでいんだよ。……それにこの程度の怪しげな見た目だけでチャンスを不意にする程度の相手なぞ、俺の『客』には相応しく無いからなぁ」

「いや、怪しげな格好の男に話しかけられたら逃げるのが普通だと思うけど」

「その割にお前は逃げなかったじゃないか。俺は()()()に関しては自信があるからな。一眼でアンタが只の<マスター>じゃないって事に気がついたぜ」

 

 何やらドヤ顔で語る闇商人さん(自称)に対して常識的なツッコミを入れたらそう返された……うーん、彼から『危険』は一切感じないから悪意はないと思うんだけど発言はすっごい自信満々なんだよね。初対面で私の“直感”に気がついた訳じゃないとは思うけれど……。

 

「……じゃあ本題に入るけど、貴方は一体何を売ってくれるのかな?」

「ほう、こっちの流儀に乗ってくれるとはやはり俺の目は正しかった様だな。……見たところアンタはメイス使いで戦闘に極特化してるみたいだからな。おそらくこの武器が合う筈だ」

 

 私の問いに対して相変わらずの不適な笑みを浮かべながら、闇商人さんはおもむろにアイテムボックスから『商品』を取り出した……そうして出てきた物は長さ約1メートルぐらいで白い持ち手に金色の星の装飾が散りばめられて、先端には大きなビンク色のハートが取り付けられた上でその周りに何やらカラフルでファンシーな装飾があしらわれている一本のステッキだった。

 ……というか、完全にどっかのアニメの魔法少女が使ってそうな、或いはそこらのオモチャ屋さんの女の子向けコーナーで売ってそうなプリティーファンシーな見た目何ですけど……。

 

「今回オススメする消費はこちらの【ラブリーリリカルスターハートステッキ】で「あ、今回はご縁が無かったって事で」ちょっと待って⁉︎」

 

 私はそのふざけたステッキを見た時点でさっさと踵を返して立ち去ろうとしたのだが、闇商人(笑)さんが必死で呼び止めて来るので思わず足を止めてしまった。

 ……それに非常に、ひっじょ〜に不服なんだけど、私の“直感”がこのステッキを『買った方が良い』って囁いて来るんだよね……とりあえず話だけでも聞いてみますか。

 

「言っとくけど私は完全に物理特化なビルドだから、こんな魔法少女のステッキを渡しされても困るんだけど」

「それに関しては《看破》したから分かっている。……というか、コレは名前に『ステッキ』と付いてはいるが実際の武器種別は『メイス』だからな。しかも物理的ステに特化した」

「え? 《鑑定眼》……うわ、本当だ」

 

 闇商人さんに言われた通り【鑑定のモノクル】で見てみると、確かにこの【ラブリーリリカルスターハートステッキ】の武器種は『メイス』となっており、装備攻撃力も1000以上ある完全な物理攻撃仕様であった。

 

「ちなみに装備スキルとしてMP消費で攻撃に強力な聖属性と【硬直】効果を付与する《スターハートアタック》、相手を殴る度にファンシーなエフェクトと効果音がなって周囲の弱めな呪怨系スキル効果やアンデッドを浄化するパッシブスキル《ラブリーリリカルエフェクト》、女性にしか装備出来なくなる代わりに高い破損耐性と盗難耐性を獲得する《魔法少女は砕けない》と言ったものを取り揃えている」

「……スキルの名前とか効果音とか凄まじくアホくさいのにスキルの効果だけはモノ凄く有用だね……」

 

 悔しい事にこれから戦う【ハデスブランチ】はアンデッドだから相性は非常に良さそうなんだよね……まあ、本気を出したら着ぐるみ装備で暴れ回るから見た目を気にしてもしょうがないかな。

 事実、コレを装備したところで私の外見は『ドラゴン風の着ぐるみがラブリーな魔法少女ステッキを振り回して敵を撲殺する』という、非常にシュール極まりない感じになるだけだし。

 

「しかし、こんなアホな装備を何処の誰が作ったのか」

「製作者はレジェンダリアの<魔法少女連盟>というクランだな。ちょっとした伝手で失敗作を安く買い取ったんだ」

「とりあえず何処からツッコミを入れたら良いのか分かんないけど、闇商人さんはレジェンダリアに居たの?」

「つい先日までな。……アソコだと怪しげな格好をする<マスター>が多過ぎて、俺程度の『闇商人ムーブ』では全然怪しく見えないから国を移る事にしたんだ」

 

 何その地獄絵図……レジェンダリアから来るひめひめさん達は大丈夫だよね? お兄ちゃんは『性癖がまともな者達を集めてパーティーを組んだらしい』って言ってたけど、ちょっと不安になって来たよ。

 

「うーん、魔法少女ロールプレイをネトゲでするぐらいならまだ普通の範疇だし、ミュウちゃんも仮面のライダー的ロールプレイをする人もいたと言ってたから大丈夫な範囲かな? ……後、気になる事が聞こえて来たんだけど失敗作ってどういう意味?」

「(アソコには魔法少女衣装を着た筋肉モリモリマッチョマンの変態とかも居たけど言わなくていいか)ああ、失敗作と言ってもアイテムとしての性能面には一切問題はないぞ。……ただ、この【ステッキ】はクラン内の『物理で戦う魔法少女も良いよね』勢が作ったんだが、完成した後に『コレ魔法少女の杖じゃなくて単なるメイスでは? そもそも販促アイテムで殴るのは良い子のみんなが真似するかもしれない以上はアウトでは?』という意見が出て失敗作としてお蔵入りになったらしい」

「ええぇ……」

 

 まあ確かに、もうそろそろ生誕四十年になる某『プリティでキュアキュアな肉弾系魔法少女モノの大御所』も販促アイテムを打撃武器として使う事は可能な限り避けてるから、そういう考えになるのもしょうがない……と思い込んでおこう。深く考えると頭が痛くなりそうだし。

 

「……んで、肝心のそのステッキのお値段は?」

「え⁉︎ マジで買う気なの……ああいや、値段に関しては100万リルで良いぞ」

「へぇ、性能の割に随分と安いんだね」

 

 何か一瞬闇商人ムーブが崩れた気もするけど、性能と比べれば【ラブリーリリカルスターハートステッキ】がかなりの格安だったのでスルーしようか。

 

「ククク、俺は闇商人だからな。必要なモノを必要な人間に売るのが仕事なのさ。……それにここで売らないともう売れる気がしないし……」

「安さに免じて後半は聞かなかった事にしてあげるよ……はい、コレ代金」

「ククク、毎度ありぃ……」

 

 そういう訳で私は新武装【ラブリーリリカルスターハートステッキ】をゲットしたのでした……しかし、着ぐるみといい私の装備欄がドンドンネタに走った感じになって来たよねぇ。性能だけを見て外見が異様な事になるのはRPG良くある事だけどさ。

 ……後、件の闇商人さんは私が商品を買った後に少し目を離した隙に消えていた……最も光学迷彩で姿を消して走ってる事には気付いてたけど、多分闇商人ムーブのつもりみたいだからスルーしてあげたけど。

 

「さて、そろそろ時間だし今の買い物で所持金も残り少なくなったから、今日はもうログアウトして明日に備えようか。……せっかく大金を払って買ったんだから活躍してもらわないと許さんよ」

 

 そうして私は手に持った【ラブリーリリカルスターハートステッキ】にちょっと恨み言を言いつつアイテムボックスにしまい、お兄ちゃんとミュウちゃんに連絡を取ってからログアウトしたのだった……出来る限りの準備は整えたけど、どうなるかは明日の()()次第になりそうかな。




あとがき・各種設定解説

妹:新装備(尚見た目)を手に入れた
・今回の様に“直感”の赴くままに街をぶらつく事は良くあり、その度に将来的に必要になるかもしれないアイテムや新しい事件のネタを手に入れる子。
・なので、事件に遭遇する度に『こんな事もあろうかと!』みたいなノリで対応出来るアイテムを出したりする。
・全力戦闘時の格好がネタまみれな事に関しては余り気にしない様にしているが、内心『何とかならないか』と思ってる。

【ラブリーリリカルスターハートステッキ】:変態が作った頭の悪い高性能装備
・装備制限として合計レベル300以上が課せられている。
・《ラブリーリリカルエフェクト》で出て来るエフェクトは☆と♡の形で短時間で消えるが当たると弱い浄化効果を発揮する他、効果音を聞いても同じ浄化効果がある仕様。
・《スターハートアタック》によって発生する【硬直】は拘束系状態異常の一つで、1秒未満という短い時間だけ動きが止まる効果がある。
・作成者の<魔法少女連盟>は<YLNT倶楽部>とは比較的仲が良いが、『私達が好きなのは魔法少女であってロリショタじゃない』という細かい性癖の不一致により別クラン。

闇商人さん:アバター名は『ダーク・バイヤー』
・なんか意味深な事を言いながら高性能なアイテムを格安で売り付ける、どっかのなろう系小説でいそうな怪しげな商人ロールプレイをする為にデンドロをやっている人。
・尚、彼の<エンブリオ>は『視覚を介するジョブスキルを強化する』特性を持つTYPEルールの【視覚過敏 イーヴィルアイ】というもので、コレにより強化した《看破》や《鑑定眼》で手持ちの装備を売れそうな人間を見定めて声を掛けている。
・妹の時もアイテムボックスの肥やしになりそうな【ラブリーリリカルスターハートステッキ】を使える『戦棍士系統ジョブに付いている高レベルの女性で、特典武具【クインバース】を持っている凄腕』と判断して、それっぽい意味深な事を言いながら声を掛けただけである。


読了ありがとうございました。
かっぽーで【抵抗術師】【障壁術師】などの新情報が公開されたので、これまでの本文の一部をそれに合わせて変更しました。


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予期せぬ再開

前回のあらすじ:【ラブリーリリカルスターハートステッキ】これで君も魔法少女だ! 妹「いや、完全に鈍器じゃん」


 □ニッサ辺境伯領 【暗黒騎士(ダークナイト)】レント・ウィステリア

 

「それでお兄ちゃん、ひめひめさん達との待ち合わせはセーブポイントの前って事になったんだよね?」

「ああ、ちゃんと電話で『ニッサ辺境伯領のセーブポイントである大樹の前』と言っておいたから間違う事は無いだろ。……それに『ひめひめ一行ウェルカム』と書かれた立て看板も用意しておいたから合流も問題ない筈だ」

 

 そういう訳で一晩明けた翌日、俺達はひめひめ(姫乃)のパーティーメンバーとの待ち合わせ場所に指定したセーブポイントの前に集合していた。

 ……特に捻りのない待ち合わせ場所だがこういうのは分かりやすいのが良いだろう。俺が立て看板持ってるのと割りかし美少女な妹二人とミメーシスとネリルが、その辺で買ったパフェを食ってるから妙に目立ってしまってるがしょうがない。効率優先だ(強弁)

 

「……それで改めて確認しておくけど、皆んなは今回の一件でどのくらいの準備をしたの? 私は昨日対アンデッド用のメイス(おそらく)を買っておいたけど。後は聖水と除草剤」

「俺はミカと違って必要な物が分かる訳じゃ無いからな。ひめひめからも詳しい話は合流してからって事になってるし。……一応、新戦力の【クルエランプロト】以外は聖属性魔法の【ジェム】を少し量産したぐらいだぞ」

「ワシも手伝ったしな。……後は主人殿との『連携』で使える手札を一つ増やしただけかの」

 

 連携で使える手札……ああ、以前ネリルに言われて一度試した()()か。その時はとりあえず上手くいったんだが今の俺達だとそこまで劇的に強くなると言う訳じゃ無くて、状況次第では十分使える手札の一つって感じだが。

 

「二人はちゃんと準備しているのですね。……私の場合はレベルもカンストして装備も更新出来そうなのは無かったので、余ったお金でポーションとか状態異常回復アイテムを買い込んだぐらいですが」

「僕も特に変化は無しかな。……そんな都合よく進化して新能力を獲得とかは出来ないし」

 

 そんな少し申し訳無さそうな雰囲気で言ったのはミュウちゃんとミメーシスであった……まあ、この二人は現行の装備とジョブ構成でほぼ完成されてるからな。

 多少ジョブ構成を弄ったり装備を更新するぐらいは出来るだろうが、超級職の取得や【ミメーシス】の進化や特典武具の獲得ぐらいしないと劇的に強くなるのは難しいだろう。

 

「まああんまり気にする事は無いよミュウちゃん、ミメちゃん。……それに今の二人のままでも十分に強いし、今回の事件では二人の活躍が重要になる気がするしね」

「ありがとうございます姉様。……おや? どうやら待ち人が来た様なのです」

 

 ミカに励まされて雰囲気が元に戻ったミュウちゃんだったが、その直後に誰かが来るのに気が付いた様子でこの場所に繋がる道の一つの先を向いた……言われた俺達もそちらを向くと、そこには雑多な格好をした七人の男女の姿があった。

 その中の小柄なツインテールの少女が俺の持っている立て看板を見て『えぇ……?』と言った表情をしている事や、その内の一人がまるで幽霊の様に宙に浮いていて尚且つリアルで見覚えのある顔立ちをしている事などから、彼等が待ち人である事に間違いは無いのだろう。

 ……そうしていると何故か彼等はこちらにどう声をかけようか悩んでいる素ぶりを見せていたが、そんな中で件のツインテ少女が溜息を吐きながらこちらへと歩いて来た。

 

「とりあえずこっちではレントだったわね。……ていうかその立て看板は何よ。目立ちすぎでしょ」

「昨日その辺の雑貨屋で安く売ってたから買ってみた、フレンドリーかつ分かりやすいだろう? ……それにしても随分盛った……じゃなくて削ったな」

「うっさいわ」

 

 そのツインテ少女──ひめひめ(加茂姫乃)を見下ろしながら俺はごく普通に話し始め、それを見た他の向こうのメンバーも少し安心した様子でこちらに向かって来た。

 

「今回は手伝ってくれてありがとうねぇ、蓮……じゃ無くてレント君」

「お久しぶりですシズカさん。まあ暇でしたので」

「再開を喜ぶのは良いけどまずは自己紹介から始めましょう。顔見知りだけで話してたら事が先に進まないわ」

 

 その中でも顔見知りであったシズカさんと軽く挨拶をした後、ひめひめの提案でまずはお互いに自己紹介をする事になった。

 

「じゃあ俺からか、ひめひめのリアフレで現在のメインジョブは【暗黒騎士】のレント・ウィステリアだ。こっちは俺のテイムモンスターであるネリル」

「どうもなのじゃー、モグモグ」

「その妹で【戦棍鬼(メイス・オーガ)】のミカ・ウィステリアです。宜しくね!」

「同じく妹の【魔導拳(マジック・フィスト)】のミュウ・ウィステリアとその<エンブリオ>のミメなのです。宜し……ッ⁉︎」

「どうしたのミュウ……え?」

 

 ……そんな自己紹介の最中にミュウちゃんが()()()()()()()()()()顔を歪めたのだが、ほんの些細な事だったので気が付いたのは付き合いが長い俺とミカ、そしてその<エンブリオ>であるミメーシスだけで、それ故に俺達の自己紹介を聞いた彼方は普通に自己紹介を返して来た。

 

「それじゃあ次はコッチね。レントのリアフレで【大魔弓手(グレイト・マギアーチャー)】のひめひめよ。ミカちゃんとミュウちゃんは久しぶりかしら。それでこちらが今回の件の依頼主である……」

「レジェンダリア死霊術師ギルド所属の【高位霊術師(ハイ・ネクロマンサー)】ペルシナ・デミテルです。今回はこちらの“不手際”を解決する為に協力してくださるそうで誠に有難うございます」

 

 そうしてひめひめから紹介されたペルシナさんは非常に丁寧に挨拶をしてくれたので、こちらもしっかりと頭を下げて挨拶を返しておく……話を聞く限り今回の依頼は彼女にとって重要なものであるだろうし、そんな依頼を信頼しているひめひめからの紹介とは言え初対面の人間が受けたのだから不安はあるだろうから丁寧に対応しておいた方がいいだろう。

 ……その甲斐もあったのか、或いは気を使って貰ったのかペルシナさんの雰囲気は少し柔らかいものになり、今回の依頼の報酬などの話を少しした後に他のパーティーメンバーの紹介に移っていった。

 

「じゃあ改めて【幽霊術師(ゴーストマンサー)】のシズカです。こうして幽霊になってるけど、これは<エンブリオ>によるものだから安心してね。パーティーではゴーストを使った支援担当よ。レント君とは久しぶりだけど妹ちゃん達とは初めましてかな」

「えーっと、じゃあ次は俺かな。【城塞衛兵(キャッスル・ガード)】のでぃふぇ〜んどです。主に前衛での壁役をやってます。今回は宜しくお願いします」

「……【白氷術師(ヘイルマンサー)】クロードだ。パーティーでは魔法による支援を担当してる。足は引っ張らないでくれよ」

「こら、クロード! どうして最後に余計な一言を付けるのよ。……ウチの愚弟が済みません。私は【大戦僧兵(グレイト・ウォリアーモンク)】のクラリスと言います。パーティーでは基本的にアタッカーですね」

 

 そんな感じで多少ギクシャクした様な所もあったが概ね自己紹介は問題なく進んだ……まあ、ひめひめやシズカさん以外の初対面のメンバーとは今後の行動で徐々に信用を築くしか無いからこんな物でいいだろう。

 ……そうして、彼等パーティーの最後の一人である今のひめひめと同じくらいの背丈の赤髪の少女が自己紹介に移った時に()()は起こった。

 

「最後は私ですね。パーティーでは前衛を務める【狂信者(ファナティック)】アリマ・スカーレットです、宜しくお願い……あの、どうかしましたか? ミュウさん」

「……あ……え……嘘……?」

 

 アリマちゃんが自己紹介を行った直後、彼女を見たミュウちゃんの顔色が誰にも分かるレベルで真っ青になって何やら譫言を言い始めたのだ。

 ……その気になれば自分の代謝機能すら任意で制御出来るミュウちゃんがこうなるなんて只事では無いと判断した俺とミカは直ぐに駆け寄って声を掛け、それを見たひめひめとアリマちゃんも何があったのかと近付いて来た。

 

「ちょ、ミュウちゃんどうしたの⁉︎」

「一体何があったんだ? とりあえず落ち着いて事情を話せるか?」

「え⁉︎ ちょ⁉︎ どうしたの?」

「……あの、私何かしてしまいましたか……?」

 

 そんな風に何かあったのかをミュウちゃんに聞く俺達だったが、彼女は何かを堪える様に顔を俯けながら肩を震わせて黙り込んでしまっていた……どうもアリマちゃんの方を必死に見ない様にしているみたいだが、向こうの反応を見るに彼女とは今日が初対面の筈だし……。

 

(……いや、ミュウちゃんの観察力なら動きの癖からアバターの中身を特定出来てしまうか。いつかのシュウさん着ぐるみバレ事件の時みたいに。となるとミュウちゃん……祐美ちゃんがここまで動揺する事なんて“あの一件”ぐらいだから、もしかしてそういう事か?)

「……ネリル、向こうの人達にこっちの声を聞かれない様には出来るか?」

「ふむ? まあ問題ないが……何やら厄介ごとの様じゃな。風属性魔法で適当な雑音にしか聞こえぬ様にしておこう」

 

 おそらくミュウちゃんがこうなったのはリアル側の問題だと俺は考え、とりあえずミュウちゃんの側に俺達三兄妹のリアル情報を知っている(おそらく)人間が集まってる事を利用して、ネリルに小声で向こうで困惑した表情で様子を伺ってる他の面々に声が聞こえない様に頼んでおく。

 彼等には少し悪いがこれからする話は割とデリケートなリアル側の問題だからこのぐらいの対策は取らせて貰いたい……さてと、何処から話を聞き出すかな。とりあえず事情を知ってる姫乃に……。

 

「……ミュウ、いや僕の<マスター>である加藤祐美はそこのアリマ君に謝りたい事があるみたいだよ。厳密に言えば中身の赤城真里亞って子にみたいだけど」

「ふぁ⁉︎」

 

 ……とか思っていたら、これまで妙に大人しく突っ立っていたミメーシスがいきなりリアル側の情報をほぼ全オープンする感じでぶっこんで来たので、思わず俺は口から変な声が出てしまった。

 確かに改めて考えるとシステム的に<エンブリオ>は<マスター>と記憶を共有したりある程度意識を読む事が出来るらしい以上、当然ミメーシスはミュウちゃんの心情を把握してるって事なんだろうけど……普段は一歩引いた視点でミュウちゃんに追随する事が殆どな彼女がいきなりこんな事を言うとは流石に予想外なんだが……。

 

「……あの……祐美ちゃん……何ですか……?」

「〜〜〜〜ッ!!?」

 

 そんなカミングアウトで俺とミカとひめひめがどうするべきか分からず狼狽えている間に、いち早く気を取り直したアリマちゃんがミュウちゃんにそう聞いた……瞬間、ミュウちゃんは悲鳴を閉じ込める様に口をつぐみながら全速力で身を翻して走り去ってしまったのだった。

 ……ヤベェ、ホントにどうしよう(滝汗)

 

「あ⁉︎ ……待って……」

「ちょ、これはどういう事なの⁉︎」

「……俺が聞きたいぐらいだが……多分、ミュウちゃんが昔巻き込まれた()()()()があっただろ。そこのアリマちゃんが一緒に巻き込まれた子だったっぽい」

 

 逃げるミュウちゃんに手を伸ばすアリマちゃんの横で、ひめひめが小声で聞いて来たので俺も素早く推測を答えた……あの事件にはこいつも後始末で関わってるから大体の事は知ってるので、俺の言葉を聞いたひめひめは『え⁉︎ マジで⁉︎』と言いながらも事情を理解してくれたらしい。

 ……とりあえず大分ややこしいリアル側の話になるのでひめひめにはあっちで呆然としている事情を知らない組への執り成しと説明を任せて、まずは同じく事情を知ってるミカに話し掛ける。

 

「それでミカ、これも想定通りなのか?」

「私の“直感”もそこまで万能じゃないよお兄ちゃん……基本的に『危険』なもの以外にはまともに反応しないし、今回のは別にそうじゃないしね。どっちかと言うと『ミュウちゃんにとって必要なこと』じゃないかな」

「……まあな」

「それにこの一件が()()()()()()()()()()な気もするし」

 

 まあ、ミカの“直感”がそう言っているならこのトラブルも必要な事なのだろうし、俺もミカもミュウちゃんが『あの一件』を未だに引きずってるのを気にしてたからそれが解決出来るのなら歓迎するべきなんだが……このタイミングだと面倒ごとが多いんだよなぁ(泣)

 ……とにかく、ミカの方にはリアル側でそれなりに親しかったアリマちゃんへの説明を任せて、俺は今のトラブルのある意味では元凶とも言えるミメーシスへと向き合った。

 

「……それで、何故いきなり事情をぶっちゃけたんだ」

「僕はミュウの<エンブリオ>だからね。彼女が“真に望む事”の手伝いをするのが僕の役割だからだよ」

 

 そんな俺の質問に対してミメーシスは何時ものミュウちゃんの後ろに控えている時の様な何処か一歩引いた様な態度では無く、その目に確かな()()が垣間見える堂々とした態度で答えた。

 

「僕はミュウの『今のままの自分では兄や姉に置いていかれる』『でも普通の人とは違う自分は嫌だ』という危機感と嫌悪感から誰かと同じになる能力を持つメイデンとして生まれ、『普通の人とは違う自分が信じられない』『誰かこれ以上間違えない様にその背を押してほしい』という思いから常に側にある(融合している)人格を持ったガードナーとして在る<エンブリオ>だ。……故にミュウが普通に歩める時には黙って後ろで支えるし、恐怖で動けなくなるならミュウが行きたい方向へとその背を躊躇無く押すのが僕の役割だよ」

「……成る程、これは少し君の事を見誤っていたかな」

 

 普段ミメーシスが大人しかったのは『背を押す必要が無かったから』って事か……思い返してみると、今まで俺やミカと一緒にいる間にはそんな事をする必要がある出来事は無かったからな。

 ……だからこそ、今この場でミメーシスは積極的に動いているんだろうが。

 

「後、僕はミュウの<エンブリオ>だから彼女が今何処にいるのかが分かるから、出来ればそっちのアリマって子を連れて行きたいんだけど」

「ホント一転してアグレッシブになったな。……とりあえず向こうの人達を説得して話を纏めるから少しだけ待ってくれ」

 

 ……まあ、俺としてもミュウちゃんが過去にケリをつけて前に進める様になるのは願っても無い事だし、その為なら頭を下げるのも苦労するのも全く構わないんだがな。ここは『お兄ちゃん』として頑張りましょうか。




あとがき・各種設定解説

兄:シスコン全開
・ちょっと今回はシスコンフィルターのせいで判断力とかが低下してたけど、この後は頑張って説得と執り成しを行なった。

妹:流石に今回のは予想外
・そもそも危険では無いし『今後の展開』的にも『妹の内心』的にもやっておいた方が良いイベント扱いだったので“直感”は反応しなかった。

ひめひめ:とりあえず兄に協力して説得担当
・兄とパーティーメンバーに頭を下げたお陰で大事にはならずに済んでいる。

アリマ・スカーレット:予期せぬ再開にめっちゃ困惑
・それでも妹とミメーシスの説明で状況を理解したので……彼女がどう行動するかは次回。

末妹:予期せぬ再開に即逃亡
・元より着ぐるみの中身と少し戦い方を見ただけの人物を同一人物だと判断出来る観察眼を持っているので、親しい仲で長時間一緒に居た経験のある人であればアバターの僅かな動きのクセなどでリアルを割り出す事が出来てしまう。
・他の天災児達と比べて精神面が成熟していないと言うか、普段は敬語や戦闘時の精神制御で誤魔化してるが基本的には小学生女子のメンタル。
・戦闘面の才能ならハイエンドに匹敵するのだが、それと精神面が釣り合っていないので今のところ総合的には天災児達の中でも下の方のスペックしか無い。

ミメーシス:今までと違って背景では無い
・これまでは単に必要無かったから最低限の行動しかしてこなかっただけで、実は末妹の為に必要と判断すればガンガン行動するタイプである。
・最初から末妹が進むべき方向が分かっているのに踏み込めない時、その背を押す事が自分の最も大きな役割だと思って今まで行動していただけであり、常に自分が“生まれた理由”に忠実な<エンブリオ>だった。


読了ありがとうございました。
次回からは末妹の過去編ですね。今章は末妹掘り下げ&活躍回なので、<UBM>戦はもうちょっと待って。


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少女達の過去/これから

前回のあらすじ:妹「祐美ちゃん大丈夫かな?」兄「……今は彼女達を信じるしかあるまい」


 □ 加藤(かとう)祐美(ゆみ)

 

 ……あれは今から約一年程前、私が小学校に入学してから少し経った頃の話です。当時の私は武術などは学んでおらず、自分が『戦闘における異常な才能』を持っている事にも気付かずごく普通の子供として生活していました。

 まあ、無意識の内に肉体の最適な使い方などは分かっていたので運動能力は他の子と比べても図抜けており、そのせいで周りからやや浮いてしまう事もありましたが所詮は幼稚園や小学生の中での事だったのでそこまで問題にはなっていませんでした。

 

『わあ! すごいねゆみちゃん! バク転とか出来るんだ!!!』

『まりあちゃん……ありがとうなのです』

 

 ……ですが、そんな少し浮いていた私にも話しかけてくれて友達になってくれた人──赤城(あかぎ)真里亞(まりあ)ちゃんが居たのです。

 彼女とは幼稚園の頃からの付き合いで、自分の才能を自覚出来ていない所為で周りからやや浮いていてボッチ気味だった私に声を掛けてくれた、私の初めての友達でした。

 

『うぐぐ、このままだと見たいテレビの時間に間に合わない……祐美、ちょっと近道しようか』

『別に良いですよ』

 

 ある日、私と彼女は一緒に学校から帰っていたのですが、その時彼女がそう言って家への近道となる脇道に入っていったので、私もついて行ったのです……学校からは『登下校には監視カメラや警備ロボットがあるところを行きなさい』と言われていましたが、私も彼女も少しぐらいなら大丈夫だろうと思ってしまったのです。

 ……今の時代、街中には監視カメラがあり警備ロボットが巡回する様になっていますが、それらにだってどうしても死角というものがあり、そして悪意を持った人間や事件が無くなる訳でもないにも関わらず……。

 

『……これは……? 真里亞ちゃん直ぐに引き返して『…………“光ノモノ”ノ気配ガスル……』

『え? 何……?』

 

 その道を歩いてからしばらくした時、私は前方から嫌な気配を感じたのですが私達はそのまま前に進んでしまい……その先で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()異様な雰囲気を放っているフードを被った怪しい男と遭遇してしまったのです。

 ……それを私は本能的に『この男は危険過ぎる』と感じ取って慌てて彼女を連れて引き返そうとしましたが、それよりも早くその男は手にナイフを持ってこちらに突っ込んで来ました。

 

『“光ノモノ”ノ縁者ヨ! 我ラノ怨ミ思イ知レ!!!』

『いっ、いやァァァァァァッ!!?』

『ッ⁉︎ …………させません』

 

 異常な怨嗟の声を上げながら迫り来る真っ黒なフードの男と、その場に響き渡る真里亞ちゃんの悲鳴……そして今までズレていた“ナニカ”がぴったりとハマって()()()()私自身の恐ろしく冷たい声を最後に、私のこの時に何があったのかの記憶は一部途切れています。

 

『……グゥ……ガァ……⁉︎』

『…………』

 

 気がついた時には私は無表情で棒立ちしながら男が持っていたナイフが血塗れになって握られており、その目の前にはフードの男が全身を切り刻まれた上で路上に蹲っていました……今なら分かりますが、私の武術の才能は初めて武器を握った時でもその最適な使い方をある程度は理解でき、敵がどう動くかを完全に見切る事も出来て、そしてその武器をどう使えば人体を的確に破壊出来るかも解ってしまう程のモノだったのです。

 この時はおそらく突っ込んでくるフードの男の小指辺りを掴んでへし折り、そのままナイフを奪って筋肉の筋や腱などを斬り裂いて行動不能に持って行ったのでしょう。当時の私は武術を学んでいなかったのですが、兄様の剣を少し見る機会があったので対人戦における手加減などがギリギリ出来ていた事と、人殺しに対する一般的な忌避感そのものは持っていた事でどうにか男を殺さずに済んだのでしょう。

 

『……あっ⁉︎ 真里亞ちゃんは!?』

 

 それからしばらく、私は蹲る男を見ながら目の前の現実を受け入れられず放心していましたが、一緒に居た真里亞ちゃんの事を思い出して慌てて後ろを向くと、そこには腰を抜かして地面に座り込んでいる彼女の姿がありました。

 ……私は彼女が無事に事に安心しつつ、手を伸ばしながら彼女の元へと歩いて行き……。

 

『嫌! 来ないで!』

『え……?』

 

 そうして近づいて来た私に対して掛けられたのは、彼女の私に対する明確な拒絶の声と恐怖の表情……そして彼女の瞳に写る血塗れのナイフを持って全身が返り血に塗れた私の姿でした。

 ……今なら理解出来ますが、あの時の彼女に取って私は『異様な雰囲気を持つフードの男を機械の様な無表情で八つ裂きにする少女』だったのでそんな反応をされるのは当然だった訳ですが、その時の私は友人からの拒絶の感情を受けてどうして良いのか分からず呆然としてしまっており……背後の男が“暗黒のオーラの様にすら見える”異様な雰囲気を更に膨れ上がらせて立ち上がるのに気付くのが遅れたのです。

 

『……オノレヨクモ! 死ネェ小ムス『テメェ人の妹に何してくれてんじゃこのクソがァ!!!』ヒデブゥッ⁉︎』

 

 まあ、フードの男が襲い掛かってくる直前に颯爽と現れた兄様が怒りの声を上げながら物凄い勢いの飛び蹴りをその顔面に叩き込んでくれたので、その男の魔の手が私や真里亞ちゃんに襲い掛かる事は無かったのですが。

 

『大丈夫祐美ちゃん⁉︎ お兄ちゃんと姫乃さんを連れて来たよ!!!』

『……ふむ、その血は返り血みたいね。人払いは解除したしとにかくここを離れましょう。……蓮、“ソレ”は任せて良いわよね』

『ああ、その二人は任せるぞ姫乃。……どうやら『影法師』の残骸が取り付いているみたいだが、このぐらいなら今の俺の『借り物の光の残滓』でも払えるだろう』

『……オオノレエエエェェェッ!!!』

 

 その後に私は初めて肉体を最高効率で動かした負荷による疲労で倒れてしまったので余り記憶に残っていませんが、再び襲い掛かって来た男は兄様がカウンターの拳の一発を見舞って打ち倒していました……まあ、その時に兄様の拳が“光っていた”様な気もしましたが、その辺りの事を兄様は私や姉様には出来るだけ話さない様にしていると姉様から言われたので深くは聞いていません。

 ……一応その後は警察にも連れて行かれましたが、男に前科があった事と何より姫乃さんと兄様が()()()動いたようなのであの場に居た私達に関してはお咎め無しになりました。

 

『あ、真里亞ちゃん……』

『ッ⁉︎ 〜〜〜〜ッ⁉︎』

 

 ……ですが、それ以来彼女はあの時の私に対する恐怖が忘れられないのか、私を見かけても近づく事が無く直ぐに離れてしまう様になり……私の方も情け無い事にあの時の彼女の表情がトラウマになってしまって、彼女に近づこうとすると身体が竦んでしまう様になってしまっていたのです。

 ……所詮、私に与えられた戦闘の才能なんてモノは他者を傷つける事に長けるだけのモノでしかなく、何かのキッカケになればと兄様の紹介で学び始めた水面流古武術も自分の才能の制御には役立ちましたがそれだけでした。これは私の心の問題なので当然と言えば当然ですが。

 そして今は<Infinite Dendrogram>の世界で遊びながらも、敢えて自身の才能を活かせる戦いの場に身を置きながら己の才能の“意味”を探し続けていますが……それでも、未だに私と彼女の関係は途切れたままなのです。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □ニッサ辺境伯領 【魔導拳(マジック・フィスト)】ミュウ・ウィステリア

 

「……それで今度は私が逃げてれば世話無いですよね……」

 

 そんな風に過去の事を思い返しながらも、私はニッサ辺境伯領の人気のない街角で蹲りながら自嘲の溜息を吐いていたのです……あれだけ毎回逃げられて落ち込んでるのに、幾らいきなりな遭遇だったとは言え全速力で逃げてしまうとか……。

 ……あああああああ〜! 本当にもう何やってるんでしょうか私。自分の肉体を代謝機能レベルで制御出来るのが自慢じゃなかったでしたっけ⁉︎

 

「……ハァ、駄目ですね、混乱して頭が上手く纏まりません。……本当に私の才能は“戦闘”という事象にのみ特化しているので、こう言った日常的な極普通の事についてはそこらの小学生と何も変わらないんですよね……」

 

 いきなり逃げ出した所為で兄様やひめひめさん達にも迷惑を掛けまくってますし、特に今回の依頼主であるペルシナさんには多大過ぎるご迷惑を……ああああああ〜ホントに色々とやらかしてしまったのです、どうしましょう……。

 

「うぐぐ……とりあえず戻るしかないでしょうかねぇ……ううう、でも「やれやれ、こんな所に居たのか。やっと見つけたよミュウ」うおう⁉︎ ……って、なんだミメですか」

 

 そんな感じで私はしょげ込みつつどうしようか悩んでいたのですが、いきなり声を掛けられたので思わず驚いてしまいました……まあ、声を掛けてきたのはミメだったんですがね。

 私の<エンブリオ>である彼女なら私の居所を探し当てるぐらいは出来るでしょうから、多分探し出して連れ戻す様に言われて来たんでしょう……普段ならここまで近付かれる前に気が付ける筈なんですが、やはり今の私は相当に参っているんでしょうかね。

 

「……それで? 私を連れ戻す様に言われたんですか? 言われなくてもそろそろ行こうかと……」

「いや? 僕はミュウと話をしたいって言う()()をここまで連れて来ただけだから。……ほら」

「……えーっと、久しぶりだね祐美」

 

 そう言いながらミメの後ろから出て来たのは、先程私が全力で逃げてしまったアリマ──真里亞ちゃんでした……そうしてオドオドとした様子ながらも迷いの無い歩きで前に出て来た彼女を見て、色々と混乱していた私は思わず後ずさってしまいましたが……。

 

「待って⁉︎ 《催眠暗示・忘却》!!!」

「え⁉︎ 身体が……⁉︎」

 

 次の瞬間に彼女がこちら向けて何かのスキルを行使した瞬間、私の肉体は自分の意思で動かせないかの様に殆ど停止していました……咄嗟に自身のステータス欄を見ると【忘却】の状態異常に掛かっている事が分かりました。

 

「【忘……却】? 身体の動かし方を忘れたとでも……⁉︎」

「あ、つい……ご、ゴメンね! 祐美! ……後、【忘却】の状態異常は<マスター>相手だと保護システムに引っかかって記憶の消去とか出来ないから、その代わりに肉体の動きが阻害される形になるだけだから!」

 

 成る程、確かに<マスター>にはリアルの自分に影響を及ぼさない精神保護システムの様な物があると以前聞いた事がありますね……しかし、こうもあっさりと状態異常に掛かってしまうとは。

 ……私の状態異常対策は基本的にミメ頼りですから融合していなければこんな物と言えるのでしょうかね……しかし……。

 

「ここまで容赦なく状態異常を掛けて来るとは……強くなりましたね、真里亞ちゃん」

「ッ⁉︎ ……うん、この世界で祐美ちゃんと()()()()()()()()()()()()()()()に色々と頑張って来たから。まあ今も祐美から逃げ出さない様に自分自身の行動を縛る精神干渉を使ってるけど……後、いきなり状態異常にしたのはホントゴメン」

 

 ここまで綺麗に状態異常へと嵌められたのは初めてなのでついついそんな変な感想が出てしまいましたが、それに対して彼女は真剣な表情で今までは合わせてくれなかった目を合わせながらそう言ってくれたのです。

 ……彼女がここまでしてくれているのですし、私もいつまでも逃げている訳には行きませんよね。普段は何気なくやってる身体制御を今だけは全力で使用して『今度は絶対に逃げない』と言う意思を持って彼女を見据えて、まずは謝罪しようと……。

 

「……ごめんなさい!」

「ふぇえ⁉︎」

 

 ……思っていたら、それよりも早く真里亞ちゃんが頭を下げて謝って来たのでめっちゃビックリして変な声が出てしまいました……お、落ち着け私! こういう時は深呼吸するんだ! ヒッヒッフーって、それは違うやつなのです! ええい、戦闘の時には常時平静でいられる私の脳もこういう時には役立たずですね!

 ……私が突然の事態に内心物凄くテンパっている(それを見ているミメはやや呆れている)のを他所に、頭を上げた彼女は引き続き真剣な表情で話を続けました。

 

「……一年前のあの日、祐美は必死に戦って私を守ろうとしてくれたのに、私は祐美ちゃんを見て怖くなって拒絶してしまって本当にごめんなさい。この世界で戦って漸くその事が分かったんだ。……あれからずっと謝りたかったけど、ずっと勇気が出せなくて……」

「あ……」

 

 ……ああ、そうだったのですね。彼女も私と同じ様にこれまでずっと一歩を踏み出せずに悩んでいたのですか……なら、私も勇気を出して……。

 

「……こちらこそ、ごめんなさいなのです。……あの日、真里亞ちゃんを怖がらせてしまった事、そしてそれ以来ずっとあなたを避けてしまった事……本当はすぐにお話がしたかったのですが、どうしても貴女に嫌われるのが怖くて勇気が持てなかったのです……」

「祐美ちゃん……」

 

 そうして、或いは一年ぶりに真っ直ぐ見た彼女の顔は目に涙を滲ませての泣き笑いの様な表情でした……まあ、私も同じくそんな変な表情なのでしょうが。

 ……そして、私はこの一年間ずっと言いたかった言葉を改めて彼女に伝えました。

 

「……真里亞ちゃん、もう一度私と友達になってほしいのです」

「……はい!」

 

 そう泣き笑いの顔で頷いた真里亞ちゃんが勢いよく抱きついて来たので、私も彼女を受け止めて抱きしめ返しました……ただちょっとステータスだと『アリマちゃん』の方が幾らか高いみたいなので、重心移動とかを駆使して受け止める必要があったりしましたが(苦笑)

 ……こうして、私達の一年間にも渡るすれ違いは傍目から見れば実にあっさりと、私達にとっては漸く解消されたのでした。

 

「うん良かったね二人共。まあちゃんと話さえすればいつでも解決出来た問題なんだけどさ」

「まあそうなんですけどね。……後、ミメもありがとう。私の背中を押してくれて」

「それが僕の生まれた意味だからね。……それと出来ればさっさと戻った方が良いよ。みんなに心配を掛けてるし」

 

 ……そうですよねー。ちゃんと兄様や姉様、ひめひめさんのパーティーメンバーにも謝らないといけませんよね。頑張りましょう。




あとがき・各種設定解説

末妹:無事に和解
・過去話の披露から和解まで実にスピード解決だったが、これは元より二人とも仲直りしたいと思っていた故に話さえすれば解決出来た問題だからである。
・今回の一件で自分の『戦闘の才能』への拒否感がある程度薄まったので、戦闘技術面で今まであった“枷”が幾らか外れた。
(メタ)的に言うとパワーアップイベント。

ミメーシス:為すべき事を果たせた
・今回で末妹のパーソナルに変化が生じたので、彼女の今後の進化にも影響が出る……かもしれない。

真里亞ちゃん:感極まってうっかりステータスを戦闘モードにしちゃった
・彼女の【シャカ】のスキル《悟りの境地(マインド・セット)》は自身の精神影響の有害・無害のフィルターをある程度操作可能。
・また《悟りし者の御業(ソウル・コントローラー)》による精神系スキル操作もコストと時間を掛ければ単純に効果範囲を設定するだけでない複雑な『精神スキル改造』も可能なので、今回はそれらを組み合わせて『ミメーシスの後を自身の意思によらず付いていく』設定の状態異常を自分に掛けた。
・更に《悟りし者の御業》には『一度使った精神スキル改造のパターンを記録・学習して、次に同じパターンの効果発動の時にその所要時間を減少させる』効果もあり、後述のスキル使用時に活かされている。

《催眠暗示・忘却》:アリマのサブジョブである【催眠術師】のスキル
・指定した対象の記憶を消す【忘却】の状態異常を掛けるスキルで、本来このスキルを始めとする【催眠術師】の精神系状態異常を掛けるスキルは長時間・持続的に掛け続ける必要がある。
・しかし、今回アリマは《悟りし者の御業》を中心に《瞬間催眠》などの補助パッシブスキルを組み合わせて『超短時間しか効果が無い代わり、相手を瞬時かつ高確率で【忘却】の状態異常にする』と言う、一種の“スキル効果圧縮”の形にして使った。

兄:妹達の和解の為に裏で謝り倒していた
・妹達に『本気の悪意』を向ける様な連中には一切の容赦はしないが、ゲーム内のお遊びのPKとかならそこまで怒らない。
・尚、フードの男の『黒いオーラ』や兄が使った『光』とかは“ジャンル違い”のお話なので、この作品の中では語られないフレーバー要素だと思って下さい。


読了ありがとうございました。
末妹の問題はスピード解決。まあ、この章の本題って訳じゃないサブイベントなので長引かせるのもあれかなと。次回から本題の<UBM>討伐の話に移ります。


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作戦会議/未だに残る繋がり

前回のあらすじ:末妹「ようやく心の中のしこりが取れた気分です……もう何も怖くない!」ミメ「死亡フラグかな? そんな事は僕がさせないけど」


 □ニッサ辺境伯領 【戦棍鬼(メイス・オーガ)】ミカ・ウィステリア

 

「……色々とご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

「ホントにごめんなさい!」

 

 ニッサ辺境伯領にある冒険者ギルドの貸し出し用個室、そこでミュウちゃんとアリマちゃんの二人は私達に向けて深々と頭を下げながら誤っていました……うん、二人の表情や雰囲気を見るにキチンと仲直りは出来たみたいだね。

 ちなみに此処は流石に外での話し合い(謝り倒し)は周りの人に迷惑という事で、冒険者のちょっとした話し合い用としてギルドが貸し出しを行っている部屋の一つを借りただけである。

 

「全く、あちら(リアル)で知り合いだったかなんだかは知らないが、こちら(ゲーム)内にあちらの揉め事を持ってくるなよな」

「本当に申し訳ないのです」

「えーっと、ホントにゴメンね、クロード君」

 

 ただ、会議室の椅子の一つに座り憮然とした表情でそう言うクロード氏に関してはどうしようかな……言ってる事そのものは彼の方が正論ではあるんだよね。ネットリテラシー的に。

 ……これまでの会話から彼が悪意を持って文句を言ってる訳ではなく、多分ネトゲでのマナーやルールとかに凄くうるさいタイプみたいって事は分かってるんだけど、どうしたものかな……。

 

「全く、もうその辺のしときなさいなクロード。二人もちゃんと謝ってるし、レントさんもお詫びに彼等のパーティーは今回のクエストでは可能な限り雑魚敵の相手や、<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>戦での支援に徹してくれるって事で話は付いてるでしょ。これ以上グチグチ言わない」

「でも姉ちゃん、ネトゲのマナーは……」

「別にこの二人は意図的にマナー違反をした訳じゃないでしょうに……ゴメンねー。コイツったら昔ネトゲで嫌な目にあってから、なんかこんなしつこい性格になってさー。そんなんだからスクールで友達出来ないんだよ」

「ボボボボッチちゃうし!!!」

 

 そこでクロード君を執り成してくれたのは姉のクラリスさんでした……ちなみに支援に徹するとかはお兄ちゃんの交渉の結果。<UBM>戦でMVPをひめひめさんのパーティーの取らせやすくして、今回へ特典武具を譲りますよーっていう感じの。

 ……まあ、“可能な限り”という伏線は入れているし実戦ではどうなるか分からないけどね。そもそも私達は特典武具にガッつく程に困ってないから特に損は無いのだ。

 

「はいはい、二人ともそこまでね。……今回の一件には私も少し関わってるから強くは言わないけど、私達はペルシナさんからのクエストを達成する為に集まったんだからそこを忘れちゃダメよ」

「うぐ……分かったよ、もう何も言わないさ。受けたクエストはちゃんと熟すべきだしな」

 

 最終的にひめひめさんが話を纏める事によって、ミュウちゃんとアリマちゃんの予期せぬ再開から仲直りまでの一連の騒動は終わりを告げたのでした。

 ……そして、随分遠回りした様な気がするけどようやく本題である『【冥樹死王 ハデスブランチ】討伐』に関する話し合いが、依頼主であるペルシナさん主体で行われる事になった。

 

「ごめんなさいねペルシナさん、とりあえずこれでようやく本題に入れるわ」

「いえお気になさらず、無茶な依頼を頼んだのはこちらですから。……では改めまして、貴方達にはかつて私の師匠“だった”<UBM>【冥樹死王 ハデスブランチ】の討伐に協力して欲しいのです」

 

 そう言ったペルシナさんは私達に頭を下げてから、彼女自身と師匠であるヘイデスさんの関係とその身に起こった出来事を話し始めました……彼女の事情は事前に聞いてはいたけど、改めて本人の口から聞くと色々と居た堪れないね。こう誰が悪いと言うよりも間が悪かった感じがして。

 ほらー、彼女の話を聞いたミュウちゃんとアリマちゃんが『こんな事情を抱えてる人の前で私情で騒動起こしちゃったかぁ……』みたいな表情でめっちゃ申し訳無さそうに縮こまってるし。

 

「少しいいだろうかペルシナさん。事情は分かったし【冥樹死王 ハデスブランチ】を討伐するのは一向に構わないが、その詳しい能力や現在地などは分かっているのか?」

「ああ、レントさん達にはまだ詳しく説明してませんでしたね。……まず【ハデスブランチ】の能力ですが襲撃事件の際に戦った人達から聞いた情報によると強力な呪いや配下アンデッドの強化、更には森林内に於ける各種バフや植物操作などを使っていたそうなので、おそらく生前の師匠の能力はほぼ全て使えると考えられます。師匠は【冥王(キング・オブ・タルタロス)】などの死霊術師系をメインに【森司祭(ドルイド)】系統をサブに入れていましたから」

 

 そうして一通りの過去話が終わった後、お兄ちゃんの質問もあり本題とも言える【冥王】ヘイデス氏の成れの果て、<UBM>【ハデスブランチ】の能力の解説へと移っていった。

 

「また、師匠はアンデッドに植物の要素を持たせた【プランツアンデッド】と呼ばれる種類のオリジナルアンデッドを作り出す技法を編み出しており、<UBM>になった際に自分自身にもその術方を使ったのかアンデッドと植物が混ざり合った様な外見をしていたそうです」

「ふむ、アンデッドと植物の融合か。アンデッド化した植物などはそれなりに居るがそれとはまた違うのかの。その術式などの資料とかがあれば見たいのぅ」

「え? ……え、ええ、師匠の家から回収した資料などはありますが、読めるんですか?」

 

 ペルシナさんの解説を聞いていたら、突如ネリルちゃんが何やら目を輝かせながら詳しい情報を催促し出していた……ヘイデス氏が作ったと言う『植物を合成したアンデッド』には魔法のプロである彼女の琴線に触れる様な“何か”があったみたいだね。

 ……そんなネリルちゃんを見て少し困惑した様な表情を見せたペルシナさんだったが、いきなり真剣な表情になって聞き返した。

 

「うむ? まあこの大陸で使われておる言語なら読めるぞ。……内容を理解出来るかの意味であればワシに理解出来ない魔法理論は早々無いと言っておこうか。これでもワシは転生個体じゃからそれなりの知識はあるぞ」

「《輪廻転生(リインカーネイション)》済みのエレメンタル⁉︎ レジェンダリアでも十年に一体、詳細な知識を受け継いでいるなら百年に一体見つかるかどうかなのですが……分かりました、資料はこちらです」

 

 そんな言葉を聞いて何か納得した様な表情を浮かべたペルシナさんは、意を決した様子でアイテムボックスから少し古めな紙束の資料をネリルちゃんに手渡し、それを受け取った彼女はかなりの速さで紙束をパラパラと捲りながら目を通していった。

 ……自然系エレメンタルの本場であるレジェンダリア出身のペルシナさんだから、ネリルちゃんみたいな特殊なエレメンタルの存在も直ぐに理解出来た(勝手に理解してくれた)みたいだね。

 

「ふむふむ……ほほう、植物をアンデッド化させる訳ではなく、生きている植物をアンデッドと融合させる形式なのかの。分類としてはフレッシュゴーレムに近いか。……《光合成》のスキルを応用して日照下での活動可能なアンデッドに仕上げておるようじゃな。……それ故に光耐性がアンデッドとしては高く、水分を含む生きている植物だから多少なりと火属性に耐性も……欠点としては複雑な構成である分、製作者以外が運用する事は難しい感じじゃな。破損の修繕とかはアンデッドと植物操作の両方のスキルがいる様じゃし」

「ネリル、一人で納得してないで俺達にも分かりやすく説明してくれ……と言っても聞いてないか。ペルシナさん、コイツは無視してもいいので説明の続きをお願いします」

「あ、はい」

 

 実の所、ネリルちゃんって自分の趣味(魔法関連)に関しては割と凝り性と言うかマッド気味って言うか……まあとにかく、そんな彼女をスルーしつつペルシナさんからの説明によると、その【プランツアンデッド】とやらは通常のアンデッドと比べると以下の様な特性を持っているとの事だ。

 

 ①《植精死霊》というスキルでアンデッドと植物の両方の特性を持ち合わせていて、どちらかの種に対応したスキルであればその効果を受けられる。

 ②《光合精気》という光を吸収してエネルギーに変えるスキルを持っているので、アンデッドでありながら日照下で弱体化せず、逆にパワーアップ者もいたり光・火属性攻撃にもある程度耐性がある。

 ③制作方法はアンデッドモンスターに相性が良くて魔力資質が高い植物を融合させる形式で、融合させた組み合わせに応じてステータスへの補正や新規スキルを獲得する事も。

 ④だが、制作や維持にはかなり手間が掛かるので量産は難しく、ヘイデス氏ですらそう多くは運用出来ないレベル……といったところらしい。

 

 そんな情報を聞いて部屋にいるメンバー(資料を熱心に読み込んでいるネリルちゃんを除く)は真剣な表情で考え込んでいたが、そんな中でいち早く自分の考えを整理出来たらしいひめひめさんが口を開いた。

 

「ふうん、かなり強力なアンデッドではあるけど量産は難しいか。確か【ハデスブランチ】は【妖精女王】に配下ごと手酷くやられたって言ってたし、今なら戦力は減ってるから普通に倒せるかな」

「それなんですが……レジェンダリアでの【ハデスブランチ】の襲撃事件の際、配下の【プランツアンデッド】は()()()はいたらしいです。そのアンデッドは全て【ハデスブランチ】が逃げる際の囮として【妖精女王】に殲滅されている様なのですが……」

「量産が難しい【プランツアンデッド】をそれだけ作れるという事は、<UBM>になった事で【ハデスブランチ】にそれが可能になるスキルが発現してる可能性が高いという事じゃな!」

「ネリルお前ちゃんと聞いてたのか」

 

 資料を高速で読み込みながらも周りの話をキチンと聞いていたらしいネリルちゃんが言う通り、おそらく何らかの方法で【プランツアンデッド】を量産化するスキルを【ハデスブランチ】は持ち合わせている可能性が高いだろうというのがペルシナさんの考えの様だ。

 ……しかし、私達が相手にする<UBM>って配下量産系が多いよねぇ。まあ私の“直感”は『自分か周りにとって危険度の高いモノ』を察知するから、予想被害が広範囲に及びそうな軍勢タイプを感知しやすいから何だろうけど。

 

「それに、おそらく師匠は自身を【ハデスブランチ】に改造した際に、かつて【妖精女王】から賜った【アムニールの枝】の一部を使用している筈なので、おそらく本体の実力も相当なモノだと考えられます。……残念ながらレジェンダリアでの戦いでは基本的に配下の【プランツアンデッド】達に戦いを任せ、自身は前線には殆ど出てこなかった様なので能力の詳細は分からないんですが」

「まあ、そこは出たとこ勝負しかないんじゃないかな。とりあえず今ある情報の中から対策を立てるべきでしょう。【プランツアンデッド】の弱点とかないの? ネリルちゃん」

「あくまでアンデッドじゃから普通に聖属性やアンデッドメタは効くじゃろ。光属性や炎属性も普通のアンデッドと比べれば耐性があるだけで、それなりに効きはするじゃろうし。……後、植物の特性を合わせ持っている以上、そちらのメタも効くのではないか?」

 

 そんな感じで私がネリルちゃんに対策とかを聞いてみたら、実にあっさりとした答えが返ってきた……早速【高濃度除草剤】が役に立つかもしれないね(私の場合は直接殴った方が強いかもとか言わない)

 ……そうやって【ハデスブランチ】対策を話し合っている所で、お兄ちゃんが()()()()()()()をペルシナさんに聞いていた。

 

「そう言えばペルシナさん、【ハデスブランチ】への対策を話し合うのは良いんですが、肝心の相手の居場所とかは分かってるんですか? まあ、わざわざアルター王国に【ハデスブランチ】が居ると確信して来た以上は、何らかの探知手段があるんでしょうが……」

「それ関しては貴方達にはまだ言ってませんでしたね。……私は生前、師匠からこの【比翼の羅針盤】というアイテムを貰っていたんです。これは昔の【匠神】が作った一品で登録してある人間の位置情報が分かる他、超長距離念話を可能とするマジックアイテムなんです。……師匠が<UBM>に堕ちてからは念話機能は使えなくなりましたが、位置情報を指し示す機能は生きてるので……」

 

 うん、手のひらサイズの方位磁石みたいなアイテムをじっと見ながら呟くペルシナさんを見て、室内の空気が再び重くなったね。

 ……とにかく、その【比翼の羅針盤】が指し示す方角に【ハデスブランチ】は居るという事らしい。彼女に討伐が任されたのも【羅針盤】が使えるのが最初に設定した人間だけだからという理由もあるのだとか。

 

「まあ、それで目撃情報とこの【羅針盤】による探知で【ハデスブランチ】がアルター王国に居るであろう事を掴んだんです。……現在はどうもこのニッサ辺境伯領の東側に居るみたいですね。しかもかなり近い」

「東側と言うと……確かここらの地理が載ったパンフレットを買っておいたんだが」

 

 お兄ちゃんが机の上にこの辺りの地理や情報が詳しく書かれた旅行者用パンフレットを広げたので、私達はそれを覗き込んでニッサ辺境伯領の東側に何があるかを確認してみた。

 ……すると、まだ資料を読んでいたネリルちゃんが唐突にパンフレットの情報の一つを指差したのだ。

 

「多分ここじゃないかのう、この自然ダンジョン<サウダーテ霊林>。……この研究資料の最後に『高純度の霊木と高い魔力を宿した土地で儀式を行う事によって死者蘇生がなされる』とか書いてあったし、確かそれが目的で<UBM>になったんじゃろ? ここから東にあって条件を満たすのはここしかないぞ」

「確かに……この<サウダーテ霊林>はアルター王国内にある森林地帯でありながら、レジェンダリアの森林地帯に匹敵する自然魔力を保有するが故に自然ダンジョン扱いになった場所。【ハデスブランチ】の目的を達成するならこれ以上の場所はありませんね」

 

 そういう訳で【ハデスブランチ】が居そうな場所はあっさりと見つかった。私の“直感”でも間違い無いって出てるし、あの【羅針盤】ってアイテムが優秀過ぎるお陰で何とかなった感じか。

 ……尚、後でこっそりネリルちゃんに『その術式で本当に死者蘇生が出来るのか』を聞いてみると、『“死者蘇生”の概念の度合いにもよるが、これで出来るのは高性能な【プランツアンデッド】だけじゃろうから魂がおらん者達を生前と同じ様に蘇生させるのは無理じゃな。精々見た目が同じぐらいが限界では無いか? ……そもそも、そのレベルの死者蘇生は【天りゅ……ともかく、こやつの目的が果たされる事はないじゃろうな』との事。

 

「<サウダーテ霊林>には少し準備する時間を設けても、今から向かえば昼前には着くぐらいの距離か。向こうに戦力を用意されない為にも、後は私の必殺スキル的にもその方が良さそう。……他のみんなはどうする?」

「俺達は問題無いがペルシナさんは……」

「私も問題ありません。一刻も早く【ハデスブランチ】を止めなければ」

「それじゃあ決まりだね」

 

 紆余曲折あったものの、こうして私達は【冥樹死王 ハデスブランチ】を討伐する為に自然ダンジョン<サウダーテ霊林>へと向かう事になったのでした……ただ、私の“直感”も『これが最善』とは出てるんだけど、それと同時にどうもイマイチ不透明な気がするんだよね。

 ……私の“直感”が微妙なのは何時もの事だけど、何というか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というか……上手く討伐が成功すれば良いんだけど。




あとがき・各種設定解説

妹:とりあえず買った物が無駄にならなそうでホッとしている

クロード:ネトゲのマナーにうるさい
・彼がそうなったのは昔ネトゲで嫌な思いをした他に、レジェンダリアのロリショタコン変態に粘着されたからでもある。
・その変態達はひめひめに処刑された上で、光の変態であるLSに『ロリショタを見守るならともかく迷惑を掛けるとか論外ですぞ』と言われて“再教育”を受けた。

【冥樹死王 ハデスブランチ】:植物とアンデッドを操る伝説級<UBM>
・生前のヘイデスの能力・技量・スキルをほぼ全て引き継いでいるが、妻子の魂を見つける事が出来なかった故に失望した所為か《観魂眼》だけは引き継がれていない。
・その代わり生物に自らの肉体(最大HP)をコストに作り上げた『種子』を埋め込む事で、強制的に【プランツアンデッド】へと変貌させて使役する《死界ノ冥種(ハデス・シード)》というスキルを有する。
・このスキルはある程度の実力差が無いと成功率は大幅に落ちるが、それでも植え付けた者に【死樹化】という特殊状態異常を与えるので戦闘にも使え、減った最大HPもアンデッド化した肉体のお陰で時間経過により回復する。
・これは生者を強制的に死者植物へと変えてその魂ごと支配するスキルであり、かつての死者の魂に敬意を払って送り出して来た【冥王】の心は最早無い。

【比翼の羅針盤】:高級連絡用アイテム
・指定した二人の人間の遺伝情報(血など)を登録して、その片方が使った時にもう片方の居場所を指し示して、更には超長距離の念話が出来るというアイテム。
・念話が届く距離なら相手の正確な位置情報や距離などを知る事が出来て、それ以上の距離でもどの方角にいるのかだけは分かるという凄いアイテム。
・その特性上相手に自分の位置を常に知られてしまうので余程信頼関係を気付いた者同士でしか使えず、ヘイデス氏は死霊術師ギルドからの連絡用も兼ねて最も信頼する弟子に渡した。
・今は相手が死したので念話は使えないが居場所を指し示す機能は動き続けており、かつての師を終わらせる為の一助となっている。


読了ありがとうございました。
次回から本格的な自然ダンジョン攻略&<UBM>戦に移るのでお楽しみに。デンドロweb版も新しいの始まったし楽しみ。


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<サウダーテ霊林>

前回のあらすじ:ネリル「本当に人間って面白!」兄「悪意は無いんだがな…」


 ◾️<サウダーテ霊林>最深部

 

『……実験はおおよそ上手く行っているな。……この森の魔力溜まりと、中心にある霊木を利用する術式の調整も終了した』

 

 アルター王国にある自然ダンジョン<サウダーテ霊林>の中心部にして最深部、虹色の霧の様に漂う程に自然魔力が濃いその場所には一本の巨大な霊木があり、その根元には一つの影──伝説級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【冥樹死王 ハデスブランチ】の姿があった。

 ……この<サウダーテ霊林>は地脈の魔力の流れの関係で<ニッサ辺境伯領>の中で最も自然魔力が濃い場所であり、その濃さからお隣のレジェンダリアと同じ様にアクシデントサークルの発生や自然魔力に適合した強力なモンスターの縄張りとなっている事から自然ダンジョンへと認定された場所である。

 

(……我が研究成果……()()()()()()()()()()と、それに必要な魔力を集める為のこの森一帯にある自然魔力と地脈の魔力を吸収させる術式は、その触媒としてこの森で最も古く巨大な霊木を使う事によって完成した)

 

 そして【ハデスブランチ】の足元には霊木を中心として描かれた大型の魔法陣が敷かれていた……この霊木は<サウダーテ霊林>の地脈の自然魔力が最も濃い場所で生まれたので、その影響を受けて巨大に成長した樹木である。

 また、この霊木は<サウダーテ霊林>のボスである樹木系エレメンタル【アドミニストレーター・ドライアド】が管理していて、更にこの森全体の自然魔力のバランスを整える役割を成していたからか、多量の自然魔力を浴びているにも関わらず<UBM>化どころかモンスター化すらしていない稀有な樹木オブジェクトでもあった。

 

『この森の管理者であるドライアドは既に排除し、森の管理者としての“制御権”も簒奪し終えている以上は既に儀式の邪魔をする者は居ない。作業を急ぐとしよう』

 

 最も、管理者であったそのエレメンタルは既に【ハデスブランチ】に倒された後であり、更に彼が生前磨いた【森司祭】系統の森林管理スキルによって<サウダーテ霊林>全体を管理する術は乗っ取られてしまっていたが。

 ……そうして至極あっさりと自然ダンジョンのボスとなった【ハデスブランチ】は引き続き“儀式”の準備をしつつ、手に付けられている生前から使っていた【ジュエル】より四体の()()()アンデッド──【プランツアンデッド・グリーンドラゴン】【プランツアンデッド・フォレストオーガ】【プランツアンデッド・レイドタイガー】【プランツアンデッド・メイガストレント】を呼び出した。

 

『『『『…………』』』』

『お前達は辺りを警戒して先に作っておいた【プランツアンデッド】と協力しつつ、侵入者が居たら排除しろ。後はこの森のモンスターを可能な限り《死界ノ冥種(ハデス・シード)》を使ってアンデッド化させて戦力を増やせ』

 

 そんな雑な命令を受けた【プランツアンデッド】達は黙ったまま四方に散って森の中へと消えていった……この四体は元々この森に住んでいた丁度良さそうな純竜級モンスターを《死界ノ冥種》で改造したモノであり、限定的だが同じ《死界ノ冥種》スキルで自身よりも弱いモンスターをアンデッドに改造する能力を与えられている。

 ……まあ、この四体は【妖精女王】にやられた手持ちの代用として即興で作ったモノであり、先に適当に《死界ノ冥種》で配下に変えた低級モンスターと共に、これから始める儀式の方が終わるまで稼働すれば良いとして活動時間は一週間程度ではあるが。

 

『一応あの【フォレストエレメンタル】が使っていた魔力経路を介して、この森にいる配下に我がパッシブスキルの効果が及ぶ様にしておいたから念の為の防衛に関してはこれで良いだろう。……さて、ようやくだ、ようやくお前達と再会出来る』

 

 そうして伝説級<UBM>が作る物としてはかなり適当に防衛網を整えた【ハデスブランチ】は、一転して狂気を滲ませた声音で虚空に向けて話しつつ懐から二つのアイテムボックス──生前の彼の妻と娘の遺体が収まった【棺桶】を取り出して魔方陣に設置した。

 

『あの忌々しい【妖精女王】とクソ議会の手の者に妖精郷を追い出されたが……この森の自然魔力と【アムニール】にこそ遥かに劣るが十分な魔力を宿すこの霊木があれば、我が死者蘇生の儀式を十分に実行する事が出来る。……待っていてくれ、二人とも、もうすぐみんなで永遠の時を生きる事が出来るぞ……』

 

 そうして狂い落ちた冥王は地面の魔方陣に魔力を流しながら、霊木を起点に周囲の自然魔力を集めて自身が完全な死者蘇生の術式だと()()()()()()()儀式を進めていった。

 ……自身の名前はおろか、かつて愛した妻子の顔と名前も思い出せない程に狂い果てたまま……。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<サウダーテ霊林> 【暗黒騎士(ダークナイト)】レント・ウィステリア

 

「《インクリース・カースド》《怨讐の闇刃》」

『GYAAAAAAAA⁉︎』

 

 俺が振るった【ナイトブレード・カースペイン】の装備スキルによる闇を纏った一閃が、こっちへと飛びかかってきた全長2メートルぐらいの全身緑色をした猿型モンスター【亜竜緑猿(デミドラグ・グリーンエイプ)】の脇腹をカウンター気味に斬り裂いた……その傷自体は大して深く無いが、暗黒騎士系統の呪いの武器を強化するスキルと【カースペイン】の《ファントムペイン》の組み合わせにより発生した激痛に悶え苦しんだ。

 ……この【亜竜緑猿】は森の中限定で自身と群れにバフと気配遮断能力を掛ける様で、特にAGIは亜音速に迫るレベルだったがそのぐらいならカウンターで捉え切れるし、気配遮断は《レイライン・サーチ》初め各種索敵スキルで対応出来たので問題無かった。

 

「しかし、この【カースペイン】は結構使えるな。正直言ってずっとアイテムボックスの肥やしになると思っていたんだが……《野獣斬り》」

『GIGYA……⁉︎』

 

 そして俺は激痛と《怨讐の闇刃》による【呪縛】で動けない【亜竜緑猿】に近付いて、その首を斬り落とした……《魔物特効》のスキルもあるからそこまでSTRが高くない俺でも問題無く亜竜級に攻撃を通せるし、やはりこの武器目当てで【暗黒騎士】に就いたのは正解だったか。

 ……俺は【亜竜緑猿】が光の塵(リソース)となり宝櫃を残したのを確認してからその部下と戦っていた妹達と従魔達の方を確認すると、そこには【亜竜緑猿】が率いていた全ての猿系下級モンスターを倒し終えた彼女達が居た。

 

「……まあ、心配はしてなかったが」

『色々な猿系モンスターが居て結構大変だったんだけどねー。魔力いっぱいの自然ダンジョンの中だからか魔法を使う連中も結構居たし。……ネリルちゃんの支援と絶好調のミュウちゃん無双が無ければもう少し手間取ったドラ』

 

 確かに、これまでは自分の“才能”への忌避感からほんの僅かに戦闘時の動きが鈍っていたミュウちゃんだったが、先程色々な悩み事が解決したお陰か忌避感が薄くなって明らかに動きが良くなっていたからな。

 ネリルに関しても普段はそんなにやる気が無いとは言え2000年に渡る経験と魔法に関する研鑽は伊達では無く、少なくとも魔法戦闘の技術に関しては俺程度では及びも付かないレベルなので、下級の猿モンスターがどれだけ魔法を使おうが問題無く封殺出来るだろうし。

 

「さて、粗方片付いたぞ」

「亜竜級率いるモンスターの群れを一蹴とは流石ね」

 

 そうして戦闘を終えた俺達は後ろに控えていたひめひめのパーティーに声を掛けた……彼女達が後ろに居るのは先程した【ハデスブランチ】と遭遇するまでは俺達のパーティーが前に出て消耗を引き受ける約束もあって、森に入ったらいきなり襲い掛かって来た【亜竜緑猿】の群れを相手取っていたのだ。

 ……それじゃあ、さっさと先に進もうかと思ったその時、ひめひめパーティーの一人で先程のトラブルの所為でこっちへの印象が悪いっぽいクロード君がこっちに声を掛けて来た。

 

「なあ、ちょっといいか?」

「なんだ? 今の戦闘に何かあったか?」

「いや、アンタがした『<UBM>までの戦いはそっちのパーティーが受け持つ』って言う提案は撤回してくれ。……いきなり亜竜級モンスターが現れるレジェンダリアに近い環境の森で、アンタらだけに負担を押し付けるのはクエスト達成に於いては効率的じゃない」

 

 ……彼がして来た提案はそんなちょっと予想外なものだった。

 

「ふむ、MVPは良いのか?」

「別に特典武具が欲しくてこのクエストを受けた訳でも無いし、クエストを受けた以上はその達成の為に可能な限りの手を尽くすのが最低限のマナーだろう? ……そもそも敵を受け持つ提案はそっちが勝手にして来た事じゃん。トラブルに関してももう気にして無いし」

「……それもそうだな。どうも余計な気を使ってしまった様だな、済まなかった」

 

 どうも俺は少し彼の事を誤解していたみたいだな。多分彼は彼なりにこのゲーム(Infinite Dendrogram)()()()()()()真剣に取り組んでいるからこそ、そうじゃない者に対してああいう態度を取るんだろう。

 ……そんな色々と早とちりしていた所為でちょっと気まずい感じの俺の前に、ふよふよと宙に浮いたシズカさんがやって来た。

 

「はいはーい! それじゃあ蟠りも無くなった所で自然ダンジョンの探索を続けましょうか。今度はみんなで協力してね」

「分かりましたよ、シズカさん」

「分かってる、クエスト達成が最優先だ」

「はい良くできました。……それじゃあ早速私から行こうかしら。まずは偵察を出すわね……《多重同時召喚》《御霊顕現・亡霊召喚》【グレイウルフ・ゴースト】【スカウトイーグル・ゴースト】」

 

 そんな感じで空気を変える様に明るい調子で宣言したシズカさんはスキルを行使すると、身体が透けている狼と鷲がそれぞれ五体ずつ召喚された。

 

『『『『『GURURURURU……』』』』』

『『『『『KYUEEEE…………』』』』』

「これが私のスキルの一つ《御霊顕現・亡霊召喚》……まあ、色々な種類の霊体系アンデッドを召喚出来るスキルよ。この子達は偵察向きだから辺りに放って周囲を索敵させるわ。後ついでに《ゴースト・レポート》っと。じゃあ行きなさい」

 

 そうしてシズカさんが指示を出すと【グレイウルフ・ゴースト】は生い茂る草木を意に介さず四方に散り、【スカウトイーグル・ゴースト】は木々を擦り抜けながら空へと飛び立って行った……どうも霊体だからかオブジェクトを擦り抜けるみたいだな。これなら鬱蒼とした森の中でも普通に行動出来るか。

 

「【幽霊術師(ゴーストマンサー)】のスキルであの子達が得た情報が私にも伝えられる様になってるから……それでペルシナさん、目的の【ハデスブランチ】はこの森の中にいるのよね」

「……はい、この【比翼の羅針盤】が指し示す先はこの<サウダーテ霊林>の奥になっていて、そこから動いている様子はありません。……それにこの【羅針盤】はある程度近づけば彼我の距離もわかるのですが、その距離を地図と照らし合わせれば丁度森の最深部に居ます」

「ふむん? じゃあ例の高性能な【プランツアンデッド】を作る儀式でもやっとるのかの。資料を見た限りだと相応に時間が掛かる様じゃし……さっさと攻略せんと向こうの戦力が増えるな」

 

 確かにネリルの言う通りでもあるが……問題は【ハデスブランチ】がその儀式を『亡き妻と子供を蘇生させる儀式』だと思い込んでるらしい事なんだよな。その儀式で生まれるのが只の高性能な【プランツアンデッド】なら、それを見た【ハデスブランチ】がどんな行動を取るかが予測出来ん。

 ……同じ懸念をしたのか発言したペルシナさんや、それを聞いたひめひめとシズカさんはやや眉根を寄せていた。

 

「とにかく時間をかけても状況は悪くなるから、クロード君の言った通り全員で協力して速攻ダンジョンを踏破するのが一番って事よ。……上空に()()()()()をピカピカさせている以上は直ぐに侵入には気付かれるだろうしね」

「ああ、私の《天地一切大祓之矢(アマテラス)》か……やっぱクッソ目立つわよねぇ……」

 

 そんな二人に釣られて俺達は森の遥か上空、大体ひめひめの真上に位置する場所で木々の間からでも見えるぐらい光っている光球を仰ぎ見た……それはひめひめの<エンブリオ>【アマテラス】の必殺スキルの待機状態であり、時間経過と共にあの光球が周囲から光エネルギーを吸収して威力を増す仕組みであるらしい。

 ……ちなみにあの光球はひめひめとの相対位置で固定される仕様であり彼女が移動すればその分だけ移動するので、こうしてダンジョンに入る前に準備してから移動時間の間にエネルギーをチャージして、ターゲットの<UBM>に遭遇したら即座に発射するという戦術も可能な訳だが……。

 

「この戦術の難点は頭上の光球が目立ち過ぎて奇襲には向いていないという事だ。光を吸収してるからか光球の周りだけ暗くなってるからすごい目立つ」

「元魔法系超級職の<UBM>なら普通に気がつくよね。……だからこそ向こうが儀式を終えるまでに辿り付かないといけないわ」

「確かにクエスト達成には急ぐべきだったな。……気付かせてくれて助かったよクロード」

「あ、いや別に……」

 

 俺がお礼を言ったらクロードは少し気まずそうに目を逸らしてしまった……シスコンシスコンとよく言われるが、妹関連で少し視野が狭くなる悪癖は直さねばな。

 ……そういう訳で俺達は早急に【ハデスブランチ】の元へと向かうべく、互いに協力しながら<サウダーテ霊林>を進んでいった。

 

 

 ◇

 

 

「ここからは私も前線に出るわね。……多分、聖属性攻撃が乱舞する【ハデスブランチ】戦ではうっかり死にそうだから、あんまり役に立たないだろうし」

「シズカさん【ブローチ】とか付けてないの?」

「こんな身体(ボディ)だからまともな装備品が付けられないのよー。代わりに火属性や光属性耐性のスキルは()()()()けど、アンデッド特効の聖属性は普通に死ねるわ……あら、偵察に出た子達が敵を見つけたみたいね。先制を仕掛けるわよ《御霊顕現・亡霊召喚》【ブラッディベア・スペクター】。更に《ポルターガイスト》っと」

『GURUAAAAA!!!』

 

 ある時はシズカさんが呼び出した血塗れのクマ型ゴーストが、発見したトレントをその鋭い爪で斬り裂いたり……。

 

 

 ◇

 

 

「む、危ないのですアリマちゃん! せいっ!」

「ありがとう! ミュウちゃん!」

「……今アンタが手を触れたオーガがいきなり吹っ飛んだんだけど、何かのスキルか?」

「いえ? 単に重心を崩して投げ飛ばしただけの只の技術ですよ。特に何かスキルは使ってませんね」

「ミュウちゃんならそのぐらいは当然だよね! ……あ、トドメは刺さないと《レーザーブレード》」

「えぇ……」

 

 またある時は、そんな絶好調なミュウちゃんとすっかり仲直りしたアリマちゃんの妙に息のあった連携を見たクロードが困惑してたり……蟠りは無さそうです良かったな(目そらし)

 

 

 ◇

 

 

 そんな感じで<サウダーテ霊林>を歩く事三時間程、俺達は順調と言えるペースで森の奥まで入り込む事が出来たのだが……突然、ネリルが足を止めて警戒を促した。

 

「……ふむ、気を付けろよ主人殿。どうも侵入者を感知する結界の内部に入り込んだ様じゃし、向こうからこれまでの連中とは違うアンデッドモンスターの反応がある」

「《レイライン・サーチ》《魔物索敵》……確かに純竜級レベルのモンスターの反応があるな」

「……これは、間違いありません。師匠の【プランツアンデッド】の反応です」

 

 俺やペルシナさんの索敵結果を聞いた全員は一様に真剣な表情になって森の奥を警戒しつつ戦闘態勢に入って行き……その直後、森の奥から木々をなぎ倒しながら緑色をした全長5メートル程のやや細長い四足歩行のドラゴンが現れてこちらに突っ込んで来た。

 ……だが、よく見るとその目は白濁しており身体の一部が黒色の樹皮に覆われたり湾曲した枝葉が生えていたり植物によって侵食されている様に見え、その頭上には【プランツアンデッド・グリーンドラゴン】の文字があった。

 

『GUGYURABAAAAAAAAA!!!』

「こっちに来るわね……全員気を引き締めなさい! これまでとは違う相手よ!!!」

 

 ……そんなひめひめの号令とほぼ同時に、俺達と()()()()()()()()()()こちらに突っ込んで来た【ハデスブランチ】配下の【プランツアンデッド・グリーンドラゴン】との戦いが始まったのだった。




あとがき・各種設定解説

【冥樹死王 ハデスブランチ】:狂い堕ちた【冥王】
・<UBM>化により最早生前の妻と子供との生活すらまともに思い出せないぐらいに狂い果てており、今は『死者蘇生によって永遠に共に生きる』という妄念に取り憑かれたハイデスという男の残骸。
・それ故に儀式の実行を最優先しており、更に技量は一切衰えていないので、森の管理者から奪った監視網と純竜級アンデッドをリンクさせて範囲内に入った者をアンデッド達に襲わせる防衛網を構築している。
・ただ、本人は儀式に集中しているので戦闘には関心を向けていない。

兄:ちょっとシスコンの悪い面が出た
・今回は久し振りに前衛をやっており本人の剣技と【ヴァルシオン】のステ補正、そして対モンスター特化の【カースペイン】で亜竜級下位ぐらいなら相手取れる。

クロード:プレイスタイルは遊戯派
・別に特典武具が欲しくない訳ではないが、それ以上にパーティーの和を乱したりクエストに悪影響を出す方が凄く嫌いなタイプで自分にも他人にも強制する感じ。
・尚、彼の姉のクラリスはこの事について『間違ってはいないけど、デンドロみたいに自由度の高いMMOにはあんまり向いてないわよね』と思っており、彼自身も自覚があるので譲れる所は譲る様にはしている。

【不有幽霊 ゴースト】
<マスター>:シズカ
TYPE:ボディ
到達形態:Ⅳ
能力特性:霊体・怨霊集積
固有スキル:《幽霊体》《斯の身は怨嗟の受け皿也》《供物を捧げ、御霊を祀れ》《御霊顕現・霊装将来》《御霊顕現・亡霊召喚》
・モチーフは幽霊や怨霊を意味する言葉である“ゴースト”。
・《幽霊体》は自身を“霊体系アンデッド”に置換するスキルで、種族をアンデッドに変え物理攻撃無効・浮遊可能・物体透過などが出来る様になり、実体が無いので多くの状態異常を無効化出来る他にも生物でないからか闇属性に高い耐性を持つ。
・だが、アンデッド故に火・光・聖属性弱点と日光下での弱体化が課せられ、更に物質透過故に装備品を装備出来ないどころかアイテムボックスや【ジュエル】すら所持出来ない重いデメリットもある。
・《斯の身は怨嗟の受け皿也》は周囲の怨念を蓄積し、それらを自身のHP・MP・SP・怨念を消費するスキルのコストとして使用出来るスキルで、彼女は死霊術師ギルドの怨念溜まりの除去や呪いの解呪クエストをこのスキルで達成しているのでかなりの蓄積量がある。
・《供物を捧げ、御霊を祀れ》は自身が所有するアイテムをコスト捧げる事で上記の《斯の身は怨嗟の受け皿也》にそのリソース分の怨念を蓄積し、更に生物由来であれば代わりに後述のスキルの為の情報としてストック出来るスキル。
・ストック出来る情報である生物のステータス・レベルなどは捧げたアイテムの質に比例し、ストックの最大数は自身の合計レベルの十分の一の数までで、同じモンスター由来のアイテムを捧げた際に既にあるストックに上乗せしてステータス内容の強化も可能。
・また、ボディ故にステータス補正がSP・STR・ENDがマイナス75%、HP・DEX・LUCがマイナス50%となっており、普通の人間なら味覚や触覚の欠落や霊体系アンデッド故の怨念感知や霊的感覚など発狂しかねないが、“リアルの事情”からそれらに慣れているシズカの場合は特に問題無い模様。

《御霊顕現・霊装招来》:パッシブスキル
・上述のストック一つを選択して、その生物のスキルの内一つを選択して自身のスキルとして使用可能にするラーニング系スキルで、獲得しても使えないドロップアイテムを無駄にしない為に発現した。
・選択できるストックの数は自身の使われていない装備枠までで、選択しているストックは《御霊顕現・亡霊召喚》による召喚不可能。
・彼女はこのスキルで火属性・光属性耐性を得る事で防具を装備出来ないデメリットをある程度補ったり、蓄積した怨念でモンスターの強力なスキルを使ったりしている。

《御霊顕現・亡霊召喚》:アクティブスキル
・上述のストックを一つを選択してMPを消費する事で、そのストック内のステータス・スキルを有する霊体系アンデッドを召喚するスキルで、死霊術師系統なのに【ジュエル】使用不能でアンデッド使役が出来ないので代わりに発現した。
・召喚時間は消費MPによって変わり一度召喚に使ったストックは1分間再使用不可になる他、《御霊顕現・霊装将来》で使用中のストックは選択出来ない。
・召喚されるモンスターは霊体系アンデッドなので物理攻撃を透過するが、逆に物理系スキルを当てる事も出来ないので、彼女の場合は霊体に物理干渉を可能にさせる《ポルターガイスト》を併用する事が多い。


読了ありがとうございました。何時もの事だけどちょっと後書きが長くなったな…。


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霊林での戦い/冥樹降誕

前回のあらすじ:末妹「身体が軽い……! もう何も怖くない(2回目)!」兄「と思ってたら純竜が出たよ」

※【魔弓手】系統のスキル名が分かりにくいので全面的に変更しました。


 □<サウダーテ霊林>奥部

 

『GUGYURABAAAAAAAAA!!!』

「ッ⁉︎ 速い!」

 

 現れた【プランツアンデッド・グリーンドラゴン】は、AGI換算で5000(亜音速)以上の速度でレント達へと突撃した……元となった【グリーンドラゴン】というモンスターは全長5メートル程度と地竜種の純竜としては小型だが、これは木々が生い茂る森の中でも動きやすくなる様に進化した結果でステータスは十分に純竜級と言えるものを持っており、更に植物や毒物に纏わるスキル持ちである(グリーン)の名前を持っている通り森林内での自己バフなども駆使する<サウダーテ霊林>でもトップクラスのモンスターである。

 ……とは言え、そもそも【グリーンドラゴン】は()S()T()R()()E()N()D()()の種族であり亜音速以上の速度が出せるのは些か可笑しいのだが、それでも現実としてドラゴンがそれだけの速度を出して彼等へと突っ込んで行き……。

 

「《フリーダム・ランパード》《鉄壁の城壁》!」

『GUGYUAAAA!!?』

 

 そのドラゴンの突撃は彼等に到達する直前、両者を別つ様に地面から生えてきた厚さ1メートル・幅10メートル・高さ5メートル程の城壁にぶつかった事で止められた。

 彼、でぃふぇ〜んどの<エンブリオ>【自在城壁 パラスアテナ】は普通のTYPEキャッスルが持っている様な特殊性が高いスキルを何一つ持っていない代わりに非常に高い耐久力と強度を持ち、そこに彼のメインジョブである【城壁衛兵(キャッスル・ガード)】のパッシブスキル《城塞強化》と、城壁への物理的ダメージを減少させる《鉄壁の城壁》を乗せた上で分厚く展開すればドラゴンの突撃でもヒビが入る程度で済む強度を誇るのだ。

 

「止まったな、《足引きの呪縛域(ディーセライセーション・ゾーン)》!」

「まずはデバフを掛けるぞ、《ピュリファイ・アンデッド》!」

「じゃあ私は牽制ね、《ヴァイパー・アロー》《光炎之矢》!」

『GIEEE⁉︎』

 

 そうして動きが止まった相手にはクロードの【減速領域 スロウス】による凡ゆる敵を減速させる領域(テリトリー)に捕まってAGIを2000弱まで落とされ、そこにレントの掛けた聖属性アンデッドデバフ魔法を追加された上で、ひめひめが【アマテラス】の五本の光熱の矢を番えて上空に射ち、それが城壁を乗り越える様に直角に曲がる軌道を描いてドラゴンの背に突き刺さった。

 この《ヴァイパー・アロー》は魔弓手系統ジョブの魔法矢に特性を付与するスキルの一種で、放った矢が事前に設定した軌道を描いて飛ぶと言うもので、彼女は《魔矢多重展開》と合わせてそれぞれの矢の軌道を()()()()()()()()()()()()()()()()()城壁の反対側から攻撃したのだ。

 

『GUGYUAAA!!!』

「《透視》……あら、あんまり効いてないわね。聖属性が使えないとは言え火・光属性ならそこそこ効くと思ったんだけど。《ハウンドアロー》《光炎之矢》」

 

 ……が、それらの矢はドラゴンの樹木に侵食された表皮を僅かに貫いた程度で大したダメージは与えられておらず、その様子を城壁を透かして見たひめひめは想定以上のステータスを訝しみながらも目の前の城壁を壊そうとするドラゴンを妨害すべく誘導効果を付与した光熱の矢を上から射かけていく。

 

「《看破》……ッ⁉︎ S()T()R()()E()N()D()()()()()()ですって⁉︎ しかもこれは全ステータスに+100%のバフが掛かっています!」

「《メタ・アナライズ》……ふむ、これは《死霊強化》のレベルEXか。加えて【森司祭(ドルイド)】の森の中限定で植物の耐久性と魔法耐性を上げる《森の守護者》も掛かっとるか」

 

 その【プランツアンデッド・グリーンドラゴン】の異常なステータスの秘密を見破ったのは、ハイデスが作ったアンデッドに詳しく《死霊知識》スキルで解析能力が強化されているペルシナと、特殊な解説スキルと圧倒的な知識量を有するネリルだった。

 ……まあ、そこまでの秘密と言う程でも無く、このドラゴンは【ハデスブランチ】のレベルEX《死霊強化》などのパッシブスキルなどで強化されているだけなのだ。この霊林の管理者から権限を奪った所為でパッシブスキルの有効範囲も大幅に上昇している故に。

 

「でも【冥王(キング・オブ・タルタロス)】の《死霊強化》レベルは最大で10だった筈……<UBM>化で強化されたの……⁉︎」

「《死霊強化》のレベルEXは“アンデッドを征する”【冥王】では無く、“アンデッドを使役する”【屍王(キング・オブ・アンデッド)】か【屍将軍(アンデッド・ジェネラル)】の領分じゃからの」

『GYU! GYUAAAAAA!!!』

「それよりもアイツ壁壊すの諦めて回り込もうとしてるぞ……《魔法遠隔起動》《魔法多重発動》《ホーリーライト》」

「回り込みはさせません、囲みます! 《フリーダム・ランパード》《キネティック・レジスト》!」

 

 そんな二人の詳しい解説の間にもドラゴンはようやく壁を破壊出来ないと判断して横から回り込もうとするが、その周囲にレントが展開した聖なる光を放つ複数の光球によるデバフと浄化効果を受けて一瞬足を止めた隙に、でぃふぇ〜んどが追加の城壁を左右と後方にまで展開してドラゴンを囲んでしまった。

 

『GU⁉︎ GIGEEEEE!!!』

「よし、パターン入ったわね。削り殺すわよ、《スコール・アロー》《炎勢之矢》!」

「成る程、そういうパターンな訳ね……《瞬間装備》【パラディンブレード】《グランドクロス》!」

 

 四方を囲まれて一瞬狼狽えるドラゴンに対してひめひめは容赦なく上空から数十本の炎の矢を射かけて火達磨にし、それを見て()()の意図を察したレントは以前騎士団のクエスト報酬で貰った《聖属性適正》の付いた剣を装備しつつ、城壁の内側の地面のみから聖属性の光の奔流を吹きあがらせてドラゴンを焼き尽くした。

 ……これがひめひめ達パーティーが飛行能力を持たない相手へ行う『AGIデバフを掛けて四方を城壁で囲んで動きを封じ、その外側から一方的に攻撃する』と言う必勝パターンであり、ガチガチに物理抵抗スキルを重ね掛けされた城壁に囲まれれば高いSTRを持つドラゴンと言えど破壊しての脱出は出来ず、猛毒のブレスを浴びせる《グリーンブレス》も使い用が無い。

 

「……アレだけの純竜がこうもあっさり……」

『ハメ殺しはこの世界での戦いの基本ドラ』

「壁の向こうは聖属性が乱舞してるから、今回は呪怨系スキル乗せた怨霊軍団を送り込むのは無しね」

「強力なバフが掛かってる状態異常攻撃出来る相手なら私の出番かと思いましたがそんな事はありませんでしたのです」

「しょうがないよミュウちゃん、このパターンに入ったら私も周辺の見張りか万が一乗り越えるられた時の為の準備しかやる事無いし。……視線が通ってないと精神干渉し難いんだよね」

「やる事無いのは私も同じだけど、今回は相手のステータスがかなり高いから飛び越えられる可能性もゼロじゃ無いわよ」

 

 そんな一方的な展開を見て、包囲と攻撃に参加していないメンバーは呑気に(ちゃんと周囲の警戒はしている)喋っているが、自身の<エンブリオ>である“赤いラインの入った白い槍”を持ったクラリスが発した警戒通り一方的な攻撃に晒され続けたドラゴンは、度重なる聖属性攻撃とデバフを耐えながら頭上から降り注ぐ矢を無視して無理矢理城壁を登ろうとしていた。

 

「判断が遅い。ヴォルト、ネリル、お前達もだ。《魔法多重発動》《魔法遠隔起動》《ホーリー・ネイル》」

『承知……《サンダーボルト》!』

「了解了解……《魔法遠隔起動》《魔法威力拡大》《セイクリッド・バースト》」

『GEGYAGYAGYA⁉︎』

 

 だが、よじ登ろうとした途中でレントが上空から10本程の聖属性エネルギーで出来た釘──直接ダメージが無い代わりにアンデッドなどの聖属性弱点の相手に突き刺す事で【拘束】と継続ダメージを与えるスキル──が放たれ、それが突き刺さったドラゴンは動けなくなり地面に落ちた。

 更にそこへ間髪入れずにヴォルトが上空から落雷を落としてダメージと【麻痺】を与え、その直後にネリルが聖属性・火属性複合の聖なる炎を城壁内部に放ってドラゴンを焼き尽くし光の塵へと変えた。

 

「……ようやく倒れたか。しかしアンデッドでありながら、これだけの聖属性攻撃を撃ち込んでようやく倒せるとはな」

「ステータス倍加や魔法耐性だけでなく、アンデッドと植物の複合による再生能力の高さもあったからのう。……このレベルのモンスターを量産出来るなら厄介じゃろうて」

「こんな連中を大量に使役出来るとかだと厄介ね。……でも、今は手勢の数は減ってる筈だしこれ以上戦力を増やさない内に急いで『ひめひめさん! 右!!!』ッ⁉︎」

 

 念の為に【プランツアンデッド・グリーンドラゴン】が完全に消滅した事を確認した彼等はようやく一息吐いていたが、突然大声で発せられたミカからの警告を受けたひめひめは咄嗟に右側を向くと、そこには辺りの森に溶け込んだ同じく体表の幾らかが黒色の樹皮に変質した虎──【プランツアンデッド・レイドタイガー】が今にもこちらに飛び掛かろうとしている光景があった。

 ……この【レイドタイガー】はレイド(急襲)の名の通り気配を消してからの不意打ちを得意としており、今回も《気配遮断》と《森林迷彩》によって姿を消して《不意打ち(スニーク・レイド)》による奇襲を狙っていたのだ。

 

『GUUAAAAAAA!!!』

 

 目視されたが故に《スニーク・レイド(非発見時攻撃力上昇)》は機能しなくなったものの、クロードがMP回復の為に《足引きの呪縛域》を解除していた事もあり、タイガーはレベルEXの《死霊強化》により超音速に到達した速度でひめひめに飛び掛かってその首を食い千切ろうとし……。

 

「 《堅樹光球》! ……舐めるな!」

『GEEGAAAA!!!』

 

 その牙は、直前に反応したひめひめが身に付けていたマント型の特典武具【葉竜外套 ドラグリーフ】の第三スキル《堅樹光球》によって発生させた光の半球状バリアに阻まれた。

 更に高出力の光エネルギーに触れた所為でタイガーの口部と頭部は焼かれ、それにより思わず飛び退って距離を取ってしまい……その一瞬が致命傷になった。

 

「クソッ、もう一度《足引きの……「HP6()()消費! 《我が命を捧げ破壊の一投を(サクリファイス・バスタージャベリン)》!!!」

『GAAAA⁉︎』

 

 奇襲に対して他のメンバーが反応するよりも一瞬早く、真面目に警戒を続けていたクラリスが瞬時に自身の<エンブリオ>【命捧血槍 ロンギヌス】のスキルを使用した上でそれを全力でタイガーへと投擲した。

 ……それに気付いたタイガーは慌てて避けようとするが、“音速の三倍で飛翔し尚且つ追尾機能まである”その槍を躱す事など出来ずに横腹に直撃、そのまま着弾部を中心にした肉体の八割以上を消し飛ばされて倒された。

 

「よし撃破! この森に来てからあんまり活躍出来てなかったけど漸く活躍出来たわ! ひめひめ大丈夫?」

「ええ、大丈夫だけど……助けて貰った身でこんな事を言うのもアレだけど、クールタイム24時間あるスキルをポンポン使うのは……」

「姉ちゃんはボスキラーなんだから節約とかしろよ」

「《セルフ・フォースヒール》……でも、使わずに死んだら意味ないじゃない? それに私は宵越しのエリクサーは持たない主義なの」

 

 そんなひめひめとクロードのツッコミに対してクラリスは戻ってきた【ロンギヌス】をキャッチしながら、自己回復魔法で減らしたHPを回復させつつあっけらかんとそんな事を言った……彼女の<エンブリオ>【ロンギヌス】は世界一有名な聖遺物をモチーフにしている通り多様かつ強力なスキルを複数持っているが、その性能を発揮する為は多量のHPをコストに捧げる必要がある上、クールタイムは全てのスキルが24時間と言う非常にピーキーな代物なのだ。

 ……そんな<エンブリオ>なのだが、彼女自身が決断力に溢れた所謂『エリクサー症候群』から程遠い性格なのもあって、必要な時にスキルが使えない事も結構あったりする。

 

「それに、これ以上時間を掛ける方が危なくない? あの虎AGI高いからでぃふぇ〜んど君でも捉えられなさそうだし」

「……まあそうね。ここで無駄に時間掛けるぐらいなら一気に先に進む方がいいかな、レント達も居るし……足を止めてゴメンね! 先に進むわよ!」

 

 だが、クラリスの決断力はその場その場での咄嗟の判断力に優れているからでもあり、今までも本当に致命的なタイミングでミスを犯す事は無く、その辺りを理解しているひめひめは話を切り上げて今はとにかく先に進むべきだと判断して森の更に奥へと進む事にした。

 

「森の奥に向かうなら急いだ方がいいじゃろ……先程から大気中や地脈の自然魔力が森の奥へと流入しておるからな。既に儀式は始まっているのかもしれぬ」

「後、なーんか森の奥から微弱な怨念っぽいモノを感じるのよね。何かが起きようとしているのかも」

「そういう事はもうちょっと早い言いなさいよね……とにかく警戒しつつ急ぐわよ!」

「……師匠、今度こそは間に合わせます」

 

 ……そんな各々の思いを抱きながらも彼女達は森の奥へと進んで行ったのだった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ◾️<サウダーテ霊林> 【冥樹死王 ハデスブランチ】

 

『……ようやくだ、ようやく儀式の準備は整った……』

 

 彼女達が襲撃して来たアンデッド達を退けた頃、<サウダーテ霊林>深部で堕ちた【ハデスブランチ】は彼だけがそう思っている“完全な死者蘇生の術式”準備を終えていた。

 

『……待っていてくれ、お前たち。すぐに永遠の命を与えてやれる。……さあ、死者蘇生の儀式を始めよう……地脈接続、自然魔力吸収開始……』

 

 そう言った彼は魔方陣の中で霊木に触れながら儀式魔法発動の為に呪文を詠唱し始め、その呪文に呼応して魔法陣と霊木が光を放ち、魔法陣に刻まれた術式に従って周囲の魔力を吸収しだす。

 

『冥樹死者化術式正常起動……続けて蘇生術式を……』

 

 普通の言葉ながらどこか狂気を感じる呪文の詠唱が進むと共に、魔法陣と霊木の光が強まりながら吸収した膨大な魔力を使って魔法陣に刻まれた術式が効果を発揮し始める……そうして順調に儀式を進めている様に見える彼だが、そこで二つのイレギュラーがあった。

 

『肉体から抽出した霊的情報固定……知性復旧……』

 

 まず一つ目はこの魔法陣に刻まれた術式は『あらゆるモノを知性のあるアンデッドにする術式』であり、彼はそれによって妻子の遺体をアンデッド化させようとしていたのだが……魔法陣の特性上、当然ながらその術式の効果範囲内には()()()()()霊木が入っていた事。

 

『……◾︎◾︎◾︎……』

 

 そしてもう一つは彼が狂気の中で作り上げたその術式が、彼が思う以上の効果を持っていた事……膨大な魔力を抱えながらもモンスター化しなかった程に安定していた樹齢数百年の霊木を()()()()()()()()()()()()()()()程の効果があった事である。

 ……生前の彼ならばそれらの不備も当然気付く事が出来ただろうが、今のモンスターとなり狂い果てたソレには気付く事が出来ず……故にここに“最悪の事態”となって結実した。

 

『このまま引き続き霊的情報の固定を……これは……⁉︎』

『……◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

 

 アンデッドモンスター【ハイ・アンデッド・ジャイアントウッド】と化した霊木は、術式の効果でかつての管理者の残留思念をすくい上げて知性が芽生えた事により、自身の領域に侵入して管理者を鏖殺した【ハデスブランチ】を敵性存在と認識してしまった……この術式は妻子を蘇らせる為であるが故に、アンデッド化した後の制御などは一切考えられていなかったのが災いした形だ。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎』

『何を⁉︎ ……ガアア‼︎』

 

 そしてジャイアントウッドは【ハデスブランチ】の一瞬の動揺の隙を突いて魔法陣に干渉し、自身の膨大な魔力を術式を行使していて無防備な彼へと逆流させてダメージを与えながら僅かな時間だけ魔力を行使する感覚を麻痺させた。

 ……その間にジャイアントウッドは魔法陣に刻まれた『アンデッド化』と『魔力吸収』の術式を、管理者から引き継いだ技術で無理矢理統合し『アンデッドを吸収する術式』として起動させた。

 

『がアアアアアァァァ◾️◾️◾️◾️……』

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️……』

 

 魔力感覚が麻痺していた【ハデスブランチ】はその吸収術式に抗う事が出来ず、そのまま彼の妻子の遺体と共に霊木アンデッドに吸収されてしまった……のだが、無理矢理統合した術式だったからか、或いは彼の狂気に侵された妄念が霊木に芽生えた知性を上回ったからなのか、【ジャイアントウッド】と【ハデスブランチ】は、その肉体と精神が混じり合って一体のモンスターへと変成してしまった

 

『……◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️……』

 

 そうして変質した霊木の姿は周りの木々と比べても大きさが倍以上に成長して黒い幹と紫色をした葉を生い茂らせ、その上部には【ハデスブランチ】の上半身に似た形のウロがある禍々しい姿となっていた。

 ……そして、自然ダンジョン内の樹齢数百年の霊木が変化した高位(ハイ)の樹木アンデッドと伝説級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>が融合してしまった“コレ”は、世界(システム)唯一(ユニーク)と認められるに十分過ぎるモノだった。

 

 

【(<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>認定条件をクリアしたモンスターが発生)】

【(過去に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知)】

【(<UBM>担当管理AIより承諾通知)】

【(対象を<UBM>に認定)】

【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】

 

【(対象を()()()()()──【冥樹屍界 バイオハーデス】と命名します)】

 

 

 そんな複雑な経緯で生まれた【バイオハーデス】であったが、そこには【ハデスブランチ】が残したたった一つの意思(妄念)……『皆と共に永遠を生きる』という意思だけしか残っていなかった……故に【バイオハーデス】はその意思に従って行動する。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️……』

 

 まず【バイオハーデス】は<UBM>化した事により動かす事が出来る様になった枝や根を触手の様に伸ばして周辺にあった木々に接触し、自身の固有スキル《冥樹侵食・屍界拡大(ハデス・ハザード)》を行使した……すると接触していた枝や根から禍々しいオーラが木々に流れ込み、それらの木々は即座に【バイオハーデス】と同じ黒い幹と紫の葉の樹木アンデッドになっていった。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️……』

 

 そうして変異した木々も同じ様に周囲にある普通の樹木へと枝葉を伸ばして禍々しいオーラを流し込んで変異させ……それを鼠算式に続けていった結果、<サウダーテ霊林>深部の森はあっという間に黒と紫に染まった樹木が不気味な唸り声の様なモノを響かせる場所へと変わってしまった。

 また、それと同時に固有スキル《魔力集積賦活》──魔法陣の自然魔力吸収機能が【バイオハーデス】のスキルとなったモノ──によって周辺の自然魔力を吸収する事で消費したHP・MP・SPを回復していく。

 

『◾️◾️◾️◾️『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……』

 

 ……そうして【バイオハーデス】は残された一つの思いに従い、どんどん<サウダーテ霊林>を呑み込んでいく……全てを(皆と)吸収して(共に)同じ【バイオハーデス】にする(永遠を生きる)為に……。




あとがき・各種設定解説

でぃふぇ〜んど:地味だがパーティーの要
・彼の【パラスアテナ】はシンプルな機能でありながら汎用性は非常に高く、防御に捕縛に足場作成などでパーティーを強力に支援する。
・……と、非常に重要なポジションで他のメンバーも認めている程なのだが、本人は『イマイチキャラが地味じゃ無いかな』とか悩んでいるそうな。

《死霊知識》:死霊術師系統パッシブスキル
・アンデッドに纏わる事物への解析系スキル効果を上昇・拡大させるスキルで、その事物に関する知識量によって効果が増減する。
・例えば今回の様に【プランツアンデッド】に詳しいペルシナがそれに使えば、ステータスだけでなく保有スキルや掛かっているスキル効果なども《看破》スキルで表示される。
・様々な種別の事物に応じたジョブには、それぞれに対応する《○○知識》のスキルがある。

【葉竜外套 ドラグリーフ】:ひめひめ所有の伝説級特典武具
・外見は緑色の葉っぱを折り重ねた様なフード付きの外套で、装備防御力が100、装備補正がMP+20%と光属性耐性+100%で装備スキルが3つ。
・1つ目の《陽力装》は【ドラグリーフ】に後述する2つのスキルを使う為のコストとした光エネルギーをチャージするスキルで、最大まで溜まっている時に光エネルギーを吸収すると装備者のMPを回復する効果もある。
・太陽光以外にも何かの光属性スキルを当ててのチャージも可能だが、某【モノクローム】と違って100%吸収ではないので加減が必要。
・2つ目の《光剛勢》は装備者が使う光属性を含むスキルへ蓄積した光エネルギーを追加する事で強化するスキルで、追加する光エネルギーは任意で決定可能。
・3つ目の《堅樹光球》は蓄積した光エネルギーを使って自身を守る光の球状バリアを展開するスキルで、展開範囲と時間に応じて光エネルギーを消費する。

【命琫血槍 ロンギヌス】
<マスター>:クラリス
TYPE:アームズ
到達形態:Ⅳ
能力特性:生命力消費・奇跡
固有スキル:《我が命を捧げ無双の力を(サクリファイス・ブーストアップ)》《我が命を捧げ聖なる守りを(サクリファイス・ホーリーシールド)》《我が命を捧げ奇跡の癒しを(サクリファイス・ミラクルヒーリング)》《我が命を捧げ破壊の一投を(サクリファイス・バスタージャベリン)》《我が命を捧げ光の裁きを(サクリファイス・ディバインバスター)
・モチーフは神の子の血を浴びて聖遺物となった“ロンギヌスの槍”。
・奇跡を能力特性とする通りスキルはそれぞれ『物理ステータス・装備攻撃力大幅上昇』『高強度聖属性シールド展開』『全状態異常回復』『高速高威力追尾投槍』『高威力聖属性拡散ビーム』と強力かつ多種多様。
・だが、全てのスキルにおいて高い効果を出すにはコストとして多くのHPを捧げなければならず、更にクールタイムが24時間と非常に長いので継戦能力にも乏しい。
・加えてステータス補正がHP以外全てGで装備としての攻撃力も低く、各スキルは併用不可のデメリットもある。
・クラリスの場合は自己回復に長けた僧兵系統の武器使用可能な派生である【戦僧兵(ウォリアーモンク)】系統とHP極特化で他者へのダメージを転嫁する【肉盾(ライフ・シールダー)】系統を組み合わせコストであるHPを確保し、スキルを使い切ったら文字通り仲間の肉盾になるという割り切ったビルド。

《我が命を捧げ破壊の一投を》:アクティブスキル
・自身のHPを任意消費した上でターゲットを設定、その対象に追尾機能及び対象に命中するまで支払ったHPの半分の数値分だけ速度と攻撃力が上昇する効果を持たせた【ロンギヌス】を投擲するスキル
・クールタイムは24時間で、おまけに投げた【ロンギヌス】は自動で手元に戻って来る仕様。

【ハデスブランチ】:枯れ果てた冥界の枝の末路は新たな樹の養分になる事だった
・妻子の魂が見つからなかった絶望から、<UBM>になった際【冥王】の『アンデッドを征する力』の殆どを失った代わりに『アンデッドを使役・製作する能力』や『呪怨系攻撃スキル』などを獲得及び大幅な強化していた。
・だが、“征する力”を失った故に対アンデッドの能力は生前よりも下がってしまっており、それが今回の末路に於ける原因の一端となった。

【冥樹屍界 バイオハーデス】:新たに生まれた“冥樹”にして“屍界”
・伝説級<UBM>と高位の霊木が融合したので最初から古代伝説級判定されており、現在もその規模を拡大中l
・そのスキル詳細は次回から説明するが、どうやら典型的な『条件特化型』の古代伝説級の様だが……。


読了ありがとうございました。
今回はあとがき含めてかなり長くなった……登場人物が多くて場面も2つだったからね。次回からは場面が統一……対【バイオハーデス】に入るのでもう少しスッキリするかな。


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侵食スル屍界

前回のあらすじ:末妹「純竜級アンデッドもサクッと倒せたし余裕ですね(フラグ)」兄「この調子なら【ハデスブランチ】を倒せるだろう(フラグ2)」【バイオハーデス】『チーッス、誕生しました!』妹「くんな」


 □<サウダーテ霊林>深部

 

「……む。これは……《メタ・アナライズ》……多量の自然魔力が森の奥に()()()何者かに吸われておるな。どうやら少々遅かったらしい」

「うわぁ……森の奥から物凄い怨念が……これはまずい感じ?」

「何ですって?」

 

 彼等【ハデスブランチ】討伐パーティーは森の奥へと向かっている途中、突然顔を顰めながらそんな事を言い出したネリルとシズカを見て思わず足を止めた。

 

「どう言う事? 詳しく説明して頂戴」

「えーっと、私は<エンブリオ>のスキルとサブジョブに入れた【怨霊術師(レイスマンサー)】の《怨念感知》とリアルスキルの組み合わせで怨念を知覚出来るんだけど……この先からスゴイヤバイ感じの怨念がするんだよね。これは以前見た純竜級怨念駆動アンデッドを遥かに超えてる……」

「さっきまでの魔力吸収は資料に書かれておった儀式に使われる量に近かったが、今のはそれを遥かに上回る量を吸収しておるんじゃ。……このレベルの魔力を運用可能なら、下手をすると古代伝説級レベルのモノが生まれたのかも知れんのぅ」

「そんな……師匠……」

 

 二人の言葉を聞いてティアンであり【ハデスブランチ】に関わり深いペルシナを中心にパーティー内に動揺が走るが、それでもレントとひめひめの場数を潜ってる組は即座に対応し出した。

 

「ネリル、シズカさん、森の奥で何が起こっているのか、そして【ハデスブランチ】に何があったのかは詳しく分からないか? ここからだと森が鬱蒼としていて先が見えん」

「流石にそこまでは……」

「《マルチ・クレイヤボヤンス》《ハイ・アナライズ》《クリーチャーサーチ》対象アンデッド……ふむん、ここから500メテルぐらい離れた場所に反応……いやこれはまさか()()()()()()()()()()()()のかの?」

「……成る程、でぃふぇ〜んど“高台”をお願い。私が見てくる」

「了解……皆さんちょっと離れてて下さい。《フリーダム・ランパード》!」

 

 そんなレントとネリルの不穏な推測を聞いたひめひめが指示を出すと、それに応えたでぃふぇ〜んどは直ぐに彼女の足元から周囲の木々の倍以上の高さがある塔のような細長い城壁に変形させられた【パラスアテナ】がせり上がり、その身体を一気に森の上へと移動させた。

 

 

 ◇

 

 

「うわぁ……何アレ……?」

『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎『◾️◾️◾️◾️◾️『■■■■■『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』

 

 そうして森の上へと到着したひめひめだったが、遥か先の眼下に広がる光景を見て思わず絶句してしまった……そこには森の木々が半径200メテルぐらいの円周上で紫色に染まり、更に木々の幹にある口の様な樹洞から悍ましい唸り声の様な音を鳴り響かせながら加速度的にその円を拡大している光景だったのだ。

 ……更にその中心部には他の木々よりも三倍は大きく、頂点が禍々しいオーラを放つ不気味な人型の樹洞になっている樹木が屹立していた。

 

「《遠視》《看破》《遠隔識別》……【冥樹屍界 バイオハーデス】ねぇ。例の儀式によって生まれた<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>って事で間違いなさそうかしら。……私のスキルレベルじゃ識別しきれないけど、だからこそ古代伝説級ってのも頷けるわね」

『⬛️⬛️⬛️⬛️『■■■■『▪︎▪︎▪︎『▪️▪️▪️▪️▪️』

 

 少なくとも【ドラグリーフ】の時は識別出来たし……そう考えながら得た情報を【テレパシーカフス】を介して下の仲間に送るひめひめだったが、そうしている間にも森がどんどん【バイオハーデス】となっていく光景を見て『これはマズイ』と思い始めた。

 ……そんな彼女の考えに呼応してか、或いは彼女の上空に光り輝く必殺スキルの光球に気が付いたのか紫の森の中心部にある巨木【バイオハーデス】がそちらへと意識を向けながら騒めき始めた。

 

『▪️▪️▪️▪️『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎『◼️◼️◼️◼️◼️◼️『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

「こっちに気付かれた? それとも上の必殺スキルに……もしあの森が無制限に拡大するなら、最終的にこの<サウダーテ霊林>全てが【バイオハーデス】の支配下になる可能性もあり得るか。……今から必殺スキルを撃つわ!」

 

 時間を置いたらマズイと思ったひめひめは地上の仲間に連絡した後、数時間のチャージによって超級職の奥義すら上回る威力となった【アマテラス】の必殺スキルで中央にある本体っぽい巨木を撃ち抜こうと狙いを定めた。

 ……だが、そのひめひめの行動が危険な物だと融合した【ハデスブランチ】から得た知識と《危険察知》《殺気感知》のスキルで把握した【バイオハーデス】は、即座にこれまた【ハデスブランチ】から得た“対応策”を実行する。

 

『◼️◼︎⬛️■▪︎◾︎⬛️◼️◾️▪︎◾️■⬛️《Forest blessing(森司祭の祝福)》『《Fire・resist(炎熱耐性付与)》『《Shine・resist(光属性耐性付与)》『《Holy・resist(聖属性耐性付与)》』

 

 木々に付いた樹洞の多くから悍ましい唸り声(詠唱)を上げた【バイオハーデス】は、更に保有する()()()()の膨大なMPの一部を解放して自身でもある紫の森へと各種耐性バフを掛けてしまた。

 これは森司祭系統の森林内限定全体バフにアンデッドが弱点とする各属性のレジストスキルを組み合わせた、“アンデッドの弱点を一時的に人並みにする”という【ハデスブランチ】が生前から得意としていたオリジナルスキルであり、古代伝説級に進化して膨大なMPを注ぎ込んだ今では()()()()()()()()()()強度になっていた。

 

「ッ⁉︎ アレは面倒そうね……《天地一切大祓之矢(アマテラス)》!!!」

 

 ……それを見たひめひめは即座に必殺スキルを使用して自身の上空に待機させていた光球を巨大な聖光の矢へと変形、その長時間のチャージを得た必殺スキルを中央の巨木へと射ち放った。

 

『⬛️⬛️◼️◼︎◼︎▪️▪️『■■⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『■■▪︎◼️◼️◼️◾︎『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️…………!!!?』

 

 そうして放たれた聖光の矢は超級職の奥義すら防ぐ障壁を紙切れの様に貫通して、彼女の狙い通り本体と思しき中央の巨木に直撃して跡形もなく消滅させ、更に貫通した矢は熱と光と浄化のエネルギー撒き散らす余波で辺りの木々を根こそぎ消し飛ばして地面に着脱して大爆発を起こした。

 ……その閃光が収まった後、そこには紫の森をくり抜いたかの様な直径30メテル、深さに至っては千メテル級の深い大穴が出来上がっており、その地面の一部は攻撃の余波で発生した高温によってガラス化している程であったた。

 

「……さて、これでやったか『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎『◼️◼️◼️◼️『■■■■■『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』……だよね知ってた(溜息)」

 

 だが本体である筈中央の巨木が消滅しても尚、残った紫の森──【バイオハーデス】は速度こそ落ちたものの変わらず周囲の木々を侵食してアンデッドへと変えていっていた。

 ……そんな光景を見たひめひめは溜息を吐きながらも、気持ちを切り替えて冷静に【バイオハーデス】の様子を観察してその能力を探りに掛かった。

 

「やはりあのあからさま過ぎる巨木は本体やコアでは無かった……いや、どの木々を《看破》しても同じ【バイオハーデス】のステータスが見えるわね。……つまりはスライムとかと同じで、何処かにコアがあるんじゃなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事?」

 

 そんなひめひめの予測は凡そ的中しており【冥樹屍界 バイオハーデス】が有する固有スキル《冥樹侵食・屍界拡大(ハデス・ハザード)》は自身に接触した生物を侵食して強制的に植物型アンデッドへと変成させ、その上でそれらを自分の肉体の一部として取り込み【バイオハーデス】として扱うスキルなのだ。

 更にこのスキルには【バイオハーデス】はスライムや一部エレメンタルなどと同じ様に『体積=HP』の生態として扱う効果もあり、加えて《冥樹侵食・屍界拡大》には取り込んだ生物の質量が増えれば増える程に最大HPだけでなくMPもSPも上昇する効果もある。

 

『■■■■■『◼️◼️◼️◼️◼️『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️……』

「うわぁ、中央のクレーター無視してドンドン外側に拡大してるわ。……私の必殺スキルってあくまで超強化した矢を放つタイプだから、弾速や威力は高くても攻撃範囲はそこまでじゃ無いってのが致命的だったか」

 

 故に彼女の必殺スキルで森の何割かが削られたとしても【バイオハーデス】は未だ活動可能かつ()()()()()のHP・MP・SPを保有しており、それも周囲の木々を再び取り込んでどんどん元通りどころか元を上回るレベルまで拡大しようとしているのだ。

 ……もちろん生者を直接アンデッドに変えるスキルである《冥樹侵食・屍界拡大》はコストとして少なくないMPとSPを要求されるが、前述の最大MP・SP増加に加えて周囲の自然魔力を吸収しての自動回復スキル《魔力集積賦活》により、この自然魔力が豊富な<サウダーテ霊林>内でなら消費分を即座に回復でき、先程の大規模魔法で消費されたMPすらも十分程度で完全回復してしまうのである。

 

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『◾️◾️◾️◾️◾️◾️『▪️▪️▪️▪️▪️▪️『◼️◼️◼️◼️◼️◼️……』

「あー、私の予想が正しかったら、あの【バイオハーデス】相手にこっちの戦力じゃ現状打つ手無いわよ。……レント達が良い感じでアレに有効な手段とか都合良く持ってないかしら……兎に角、一旦降りて他のメンバーと相談ね」

 

 弱点を突いた必殺スキルを撃ち込んで尚、全く問題なさそうに自分自身でもある“屍界”を広げる【バイオハーデス】を見て頭を抱えつつも、ひめひめは今後の動向をどうするかを相談すべく地上に降りたのだった。

 

 

 ◇

 

 

「……で、私が見た範囲ではこんな感じだったんだけど……ねえレント、なんかこう都合良く【バイトハーデス】を倒せる手段とか持ってない?」

「流石にそんな都合のいい手段は持ち合わせて無いな……ネリルお前は?」

「聞く限り今のワシでは倒せんヤツじゃな。増殖と魔力回復特化で倒すには体積全部吹き飛ばす必要がある典型的な条件特化型、必要なのが森ごと消し飛ばす超広範囲大火力ではのう。……【バイオハーデス】はこのままだと森全部飲み込んで神話級に至りかねない古代伝説級最上位といった所か」

『…………』

 

 ……そうして偵察と先制攻撃を終えて降りてきたひめひめの話と、その情報から語られたネリルの推測を聞いた事によってその場には重苦しい沈黙が広がった。

 

「その【バイオハーデス】が使った《森司祭の祝福》と各種レジストスキルの組み合わせは生前の師匠が得意としていた技術です。……もしや【バイオハーデス】は師匠が使役しているのでは……?」

「いや、その防御スキルは【バイオハーデス】自身が発動してたよ」

「おそらく儀式の際に何らかの事故があって取り込まれたんじゃろうな。……そもそも古代伝説級を作り上げるのは並大抵の事では無いし、それがいきなり現れたのなら素材として伝説級<UBM>を含む物を使いでもしない限りは無理じゃろ」

「……そうですか。……どうやら私はまた間に合わなかった様ですね」

 

 そんな事を言いながら溜息を吐くペルシナを見て更に空気は重くなるが、今はひめひめが与えたダメージのお陰で動きが鈍っているとはいえそう遠く無いうちにここまで到着するであろう【バイオハーデス】にどう対応するのかを決める必要がある事は全員が理解していたので、とにかく彼等はひめひめが音頭をとる形で早急に方針を決める事にした。

 

「まずは逃げるか戦うかを決めましょう」

「いや、勝ち目がないなら逃げ一択じゃね?」

『<マスター>だけなら敗北覚悟で特攻って手もあるけどね。<マスター>なら死んでも大した問題じゃないし』

「命なんて軽い物だ……主に<マスター>のは。……という冗談はさておき、放置しておくのは危険過ぎる相手だから倒せなくとも可能な限り情報は入手しておきたいな」

 

 ひめひめ・ミカ・レント達が中心になって『敗北覚悟で【バイオハーデス】に挑む』か『<サウダーテ霊林>から脱出して逃げる』かの二択に今後の行動を絞る所までは行った。

 

「つーか<マスター>だって死んでも問題ない訳じゃないだろ、装備ロストとか」

『別に特攻は強制じゃないよ、あくまで自由参加だから逃げても良いし。要するにチーム分け?』

「まあ、あの【バイオハーデス】についてニッサ辺境伯領に知らせるメンバーも必要だから必然的にそうなるわよね。ペルシナさんの護衛も兼ねて」

「待って下さい! 【バイオハーデス】が師匠によって生み出されたモノであるのなら私がそれを止めなければ……!」

「いやそれはホント勘弁してくれペルシナさん。今回は実質全滅前提の特攻だから、それで一緒にいるティアンの貴女に死なれたらこっち(主に妹)の精神状態が最悪になって勝算が下がる。……それにこの事を街に伝えるには社会的信用のあるティアンの方が良いし」

 

 その際にペルシナが付いていくと言い、それをレントが合理的(に見える)説得によってやり込めると言う事もあったが……とりあえず全滅覚悟で挑む者達と街へ報告に行く者達に分かれて行動する事となった。

 

「……くっ、仕方ありませんね。分かりました……後の事はお願いします」

「すみません、ペルシナさん……後は任せて下さい」

「このひめひめに任せて頂戴! それに<UBM>に挑む(ユニークコンテンツへの挑戦)<マスター>(ゲーマー)の花だからね!」

 

【クエスト【討伐──【冥樹屍界 バイオハーデス】 難易度:十】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 悔しげな表情をしたペルシナがそれでも自分の成すべき事をしなければならないと覚悟を決め、これから死地へ向かう<マスター>達へと頭を下げると共にクエストが発生した。

 

「……難易度が『十』なんて初めて見たよ……【ハデスブランチ】の討伐でも難易度『八』だったんだけど」

『クロード君はどうするの? さっきから否定的な意見ばかりだし嫌なら報告側でいいけど』

「俺は行かないとは言ってないだろ。アレはあくまで一般的な意見を言っただけだし……と言うか、姉ちゃんを始め<マスター>はみんな<UBM>に挑戦する気満々みたいだけど、護衛に回るヤツはいるのか?」

「じゃあ私が護衛役に回るわ。……アンデッドである私が一緒だとレント君達が全力の聖属性魔法使えないっぽいし、妥当な人選でしょう」

 

 時間もない事もあって手早く話し合った結果、街への報告にはペルシナとその護衛であるシズカが向かい、それ以外の全員で【バイオハーデス】へと挑む事になった。

 ……各々『最も犠牲の少ない未来を掴むため』や『折角の<UBM>だしとりあえず戦っておこう』とか『クエスト達成に全力を尽くす』など考えは違うが、デスペナも厭わないし足の引っ張り合いをする気も無く<UBM>と戦う思考だったのが幸いした形だ。

 

「まあ、このままお別れってのもアレだし置き土産ぐらいは置いておくわね……《多重同時召喚》《御霊顕現・亡霊召喚》【キングバジリスク・スペクター】×三!!!」

『『『KYASYAAAAAAAAAA』』』

 

 そうして特攻チームが森の奥へと進もうとした時、唐突にシズカがスキルを起動すると共に全長10メートルはある大型の蛇型の霊体アンデッドを三体も召喚したのだ。

 ……ちなみにこれらはかつてシズカが()()()()()()()特級危険生物【キング・バジリスク】の“群れ”からドロップした素材全てを注ぎ込んで作られた、現状保有する最強の霊体アンデッドのストックである。

 

「ちょ⁉︎ シズカさんそんな危険生物を……!」

「さーらーにー、これだけじゃないわよ〜! 怨念解放《デッドリー・グラッジレイス》! 更にもう一つ《スピリット・オブ・リヴェンジ》!」

 

 そんな唐突な危険生物召喚に動揺するメンバーを尻目に何故かテンション高めでノリノリなシズカは身体(ボディ)から《斯の身は怨嗟の受け皿也や》に蓄積されていた身の毛もよだつ程の膨大な怨念が放出し、それらを発動したスキルに沿わせて完璧に三体の【キングバジリスク・スペクター】に注ぎ込んでいく。

 ……【幽霊術師(ゴーストマンサー)】の奥義《デッドリー・グラッジレイス》は使役している霊体アンデッドに大量の怨念を注ぎ込んで超強化するスキルで、【怨霊術師】の奥義《スピリット・オブ・リヴェンジ》はこれまた霊体アンデッドに怨念を注ぎ込んで凶悪な呪いを纏わせ、更にそれらが倒された時に倒した者へと超強力な呪いを掛けるスキルであり……。

 

『『『ッ⁉︎ AAAAAAAA! GIYEEEAAAAAAAAAAA!!! 』』』

「よし、良い感じに仕上がったわね」

「……いや、どう見てもヤバイ感じに暴走してませんかコレ」

 

 その特性上、どちらのスキルも一歩制御を間違えば対象にした霊体系アンデッドが暴走して辺りに呪いを撒き散らしかねない非常に危険なスキルである……少なくとも今のシズカの様に『良い仕事したわ〜』みたいな表情で平然としていられる様なモノではない。

 それ故に他のメンバーは明らかにヤバいオーラを漂わせながらのたうち回る【キングバジリスク・スペクター】から距離を取って構えているし、その二つのスキルと【キング・バジリスク】の恐ろしさをよく知っているペルシナに至っては顔を真っ青にしている。

 

「ふむ、見事な怨念制御じゃな。ここまで出来る者はそうおらんじゃろ」

「その辺りの技術には自信があるのよねー、お陰で蓄積してきた怨念はすっからかんだけど。……ほらみんなもそんなに怯えなくて良いわよ。ちゃんとこの子達には【バイオハーデス】だけを狙う様にしてあるから『『『GIYEEEAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!! 』』』……ほらね」

「……指示を受け付けずに森の奥へと突っ込んで行った様にしか見えない件」

 

 唯一、シズカが行った術理を理解出来たネリルだけは平然としていたが、最早暴走としか思えない様な勢いで森の奥へと突撃していった【キングバジリスク・スペクター】達を見て他のメンバーはドン引きしていた。

 ……実際、制御出来ていると言うよりは暴走の方向性を【バイオハーデス】のみに向けて他は攻撃しない様にしていると言った方が正確だが、危険度の高い二つのスキルを併用しながらそこまで出来る者はティアンでも殆ど居ないので凄い技術である事には変わりない。

 

「まあ、あの子達は二十分ぐらいは戦えるから共闘は無理でも囮か<UBM>の能力を探る捨て石にでもしてくれれば良いから。……それじゃあペルシナさん、行きましょうか」

「……色々言いたい事は出来ましたが分かりました。……必ずこの情報は街に使えますので皆様も御武運を」

 

 ……その辺りの事をシズカから説明されたので一応他のメンバーが納得したのを見て、彼女はアンデッド馬に乗ったペルシナに憑いていく形で森の外へと向かっていった。

 

「……さて! じゃあ気をとり直して【バイオハーデス】討伐特攻隊! 進軍開始よ!!!」

「「「『おー!』」」」

「……少女三人に混ざって何やってんの姉ちゃん」

「討伐するのか特攻するのかどっちなのか」

「討伐目的で特攻するんだろ」

 

 そして、そんなちょっとヤケ気味なひめひめの号令の下、この世界が彼らにとっては遊戯(ゲーム)であるが故の気楽さでもって<マスター>達は屍界と化した<サウダーテ霊林>の最奥へと進んでいったのであった。




あとがき・各種設定解説

《メタ・アナライズ》:ネリルのオリジナルスキル
・あらゆる対象のステータス・材質・魔力・リソースの詳細や流れや構成など、ありとあらゆる情報を把握・解析する解析系の最上位魔法。
・《看破》《鑑定眼》の使用時にはシステム的に自動処理されている情報をマニュアルで処理するが故、殆どの隠蔽系スキルを突破して<エンブリオ>の解説すらも問題無く可能。
・しかし対象の“あらゆる”情報を把握してしまうので、それらを理解出来る頭脳・知識と処理出来る演算能力がなければまともに使えないピーキーなスキル。
・ネリルの場合は本人の破格の技術・頭脳によって使いこなしているが、現状の彼女だとMPの消耗や演算能力の問題があるので《看破》《鑑定眼》《心眼》などのスキルを普通に複合した《ハイ・アナライズ》などと使い分けている。

ひめひめ:必殺スキルは強力だが相性が悪かった
・それでも撤退を良しとしていない三兄妹の考えを読んでフォローしながら皆を纏めたりとリーダー格として活躍。
・必殺スキル《天地一切大祓の矢》はチャージ時間が掛かる上にクールタイムが長く、日照下でしか使えず選択した矢も使えなくなると言う複数のデメリットが課せられている代わりに威力が高く、長時間のチャージを得たなら神話級金属すら融解させる熱量を生み出す事も可能。
・ただしあくまで『一発の矢』であり貫通力が高すぎる事もあって、威力に比べて攻撃範囲は余り広く無い。

ペルシナ:本懐を達する事は出来なかった
・それでも冷静に自分の成すべき事をしようとしている人格者なので、そういう方向に誘導したとある兄妹はちょっと申し訳無く思ってる。

シズカ:実は単騎戦闘が一番強い
・【キング・バジリスク】に対しては霊体に有効な攻撃手段が無かった事もあり、一方的に召喚アンデッドを嗾しかけながら【テンペスト・エクスプロシヴエレメンタル】からラーニングして無差別広範囲物理風攻撃&広域酸素濃度減少スキルではめ殺した。
・ちなみに最後ペルシナに付いて行った方法は、《ポルターガイスト》を使って捕まりながら体重ゼロの霊体である事を活かして引っ張られていった感じ。

《デッドリー・グラッジレイス》:【幽霊術師】の奥義
・死霊術師上級職お約束の怨念運用系スキルであり、大量の怨念を霊体系アンデッドに注ぎ込んでステータス・スキルの大幅強化・接触時に実体化してしまう《ポルターガイスト》とは違った一方的な物理干渉能力を与える。
・ただ、大量の怨念を注ぎ込まれる故に怨念運用の技量が拙いと暴走してしまい、そうで無くとも対象のアンデッドの精神がすり減って成仏も出来ず消滅する事も多いので真っ当な死霊術師からは禁じ手として扱われている。
・尚、シズカの場合は使い捨てのアンデッドなので気にする必要が無く、更に本人の卓越した怨念制御の“リアルスキル”によって問題無く運用可能。

怨霊術師(レイスマンサー)】:呪術師系統派生上級職
・【呪術師】に加えて死霊術師系統の要素もある派生上級職で、霊体に呪いを付加して怨霊に変えた上でコストとして使い捨てる事で強力な呪術を行使するジョブ。
・手間がかかる分だけ呪術の効果は強力だが、アンデッドを使い捨てにする他にも普通の霊を怨念に変えて使役するスキルまで持っていて、その方がコスト的に安上がりだからよく使われるなどの理由で真っ当な死霊術師からは忌避されている。
・奥義である《スピリット・オブ・リヴェンジ》は霊体に大量の怨念を纏わせて攻撃した相手を呪う上、それを倒した相手に復讐系スキル特有の自傷扱いで多くの耐性無視&強力な呪いを掛けるスキル。
・だが、霊体の怨みや復讐心を煽って呪いに変換しているので、その矛先が術者自身に向く事も多いという罠スキルでもある……のだが、シズカの場合は<エンブリオ>のスキルで生み出したアンデッドなので制御は問題ない模様。

【冥樹屍界 バイオハーデス】:古代伝説級条件特化型
・融合元である【ハデスブランチ】と【ハイ・アンデッド・ジャイアントウッド】のスキルを幾らか引き継いでおり、本編で使った防御魔法や枝葉を動かす《樹木可動》などの地属性魔法スキルも有する。
・だが、知性や精神は劣化して基本的に本能のままに行動しているので多重技巧型と言える様な技術や戦術は行使出来ず、基本的に《冥樹侵食・屍界拡大》《魔力集積賦活》による自己の拡大の為の補助スキル扱い。
・最も殆どの生命を自身へと変成・同化させ、その全てを滅ぼさなければ死滅しない特性は厄介極まりなく、更にスキルによって得た膨大なMPとSPなら本能的にスキルを行使するだけでも十分過ぎる脅威となる。
・現在はひめひめの必殺スキルによる浄化効果で動きが大きく鈍っているが、保有する【ハデスブランチ】由来の浄化効果を相殺するスキルを使いながら着々と自身を拡大し続けている。


読了ありがとうございました。
最近デンドロ二次が増えて嬉しい。感想・評価・誤字報告・お気に入りに登録とかは待ってます。


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VS【冥樹屍界】

前回のあらすじ:シズカ「置き土産は置いていくから頑張ってねー」キンスペ『『『KYASSYAAAAA!!!』』』兄・ひめひめ「「どう見てもヤベー奴等なんですが」」


 □<サウダーテ霊林>深部・【冥樹屍界 バイオハーデス】勢力圏

 

『『『GUSYABRUGSYAAAAAAAAA!!!』』』

 

 そんなとても正気とは思えない叫び声を上げながら、三体の【キングバジリスク・スペクター】はそこら一帯にに存在する黒色の幹と紫色の葉をした木々──古代伝説級<UBM《ユニーク・ボス・モンスター》>【冥樹屍界 バイオハーデス】の肉体の一部へと当たる触る攻撃を仕掛けていた。

 

『BWERRUSYAAAA!!!』

『GEEESSSYAAAA!!!』

『KIIUEEEEE!!!』

 

 まず一体のバジリスクが吸い込んだ者に【猛毒】【衰弱】の状態異常を齎す《ヴェノムブレス》を辺りにばら撒き、別の一体が【バイオハーデス】の一本に噛み付いて牙から強力な【溶解毒】を送り込む《デッドリー・ファング》で攻撃し、最後の一体は目視した対象を【石化】させる《ペトラアイ》によって木々を石に変えてから体当たりで砕く。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️『■■■■■『◾️◾️◾️◾️◾️!!!』

『『『KYABESAESYAAAAAA!!!』』』

 

 更に三体とも状態異常系スキルを使う度に周囲の物体を毒によって汚染する《ヴェノムフィールド》というパッシブスキルによって、辺りの土壌は既に毒性を帯び始めており、そこに根を貼る【バイオハーデス】を猛毒によって徐々に衰弱させていっていた。

 ……これらの強力な各種状態異常攻撃こそ【キングバジリスク】が純竜級モンスターの中でも恐れられている原因であり、加えて今の彼等は霊体なので物理攻撃は効かずシズカから付与された呪詛によって上位純竜に迫るステータスと攻撃して来た相手に呪怨系状態異常までも齎す力を得ている事から、霊体に有効な攻撃手段の無い相手なら超級職や伝説級レベルの<UBM>すらも打倒出来る程の戦力となっていたが……。

 

『◼️◼️◼️◼️『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

『『『KIGISYAAAAA!!!』』』

 

 そもそも【キングバジリスク・スペクター】が攻撃・汚染している範囲が【バイオハーデス】が現在有する領域の5()()()()()()()()()()でしか無い以上は決定打にはなり得なかった。それに加えて【バイオハーデス】はアンデッドである故に各種状態異常に高い耐性を持っており、固有スキル《冥樹侵食・屍界拡大(ハデス・ハザード)》によって膨大な体積を有しているので状態異常を与えてもその箇所にしか効果が無いので悪影響が希釈されていた。

 ……そして【バイオハーデス】は基本的にその身に刻まれた本能(怨念)によって自身を増やす事を最優先で行動しているが、それを妨害する相手にはひめひめに対して防御結界を展開した様に【ハデスブランチ】から継承した知識から最善と思われる対処法を機械的に実行するぐらいは出来るのだ。

 

『■◾︎◼️◾️◼︎◼️◾️《Soil Purification(土壌浄化)》『《Toxin Neutralize(毒素中和)》『《Poison・Prevention(病毒予防)》『《Grow Up(急速成長)》』

『『『GEASYAAAAA!!!』』』

 

 まず、手始めに【バイオハーデス】は継承した【森司祭(ドルイド)】系統の森林環境保護スキルにより土壌の毒素を浄化、木々の毒素の中和排出、病毒系状態異常耐性の上昇を実行し、更に植物系モンスターがそれなりに持っているスキルである《急速成長》に多量のHP・MP・SPを注ぎ込んで損耗した木々(肉体)を補う新たな【バイオハーデス】を生やして自身を再生させて行く。

 更にそれと並行して《冥樹侵食・屍界拡大》を使いバジリスク達の近くにあるにある木々や逃げ遅れたモンスターなどを片っ端から取り込んで、彼等を自身の肉体によって完全に包囲してしまおうと試みた。

 

『《Undead Restriction(死霊弱体化)》『《Spirit Hand(心霊の手)》『《Vine Whip》『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Branch Needle》』

『GIGIGYA⁉︎』

『GUGI⁉︎』

『GYASYA⁉︎』

 

 そして死霊術師系統のアンデッドへのデバフスキル、及び霊体への直接接触と直接攻撃時に固定ダメージを与える事が可能になる《心霊の手》を使った上で、侵食・再生させた多数の木々の枝や根を操っての《ヴァインウィップ(蔓の鞭)》による直接打撃や、鋭く尖らせた枝を飛ばす魔法によって【キングバジリスク・スペクター】達へと全方位から攻撃を始めたのだ。

 ……本来ならオブジェクトである木々が変質した【バイオハーデス】の物理ステータスはAGIが300前後、STR・ENDも2000前後という<UBM>としては非常に低い数値であるので純竜級であるバジリスクに対して与えるダメージは少ないのだが、微量とはいえステータスに関係無く固定ダメージを与える《心霊の手》と、何より()()()()()()()()()()()()()()()()()()故の圧倒的な物量によって徐々にバジリスクのHPを削っていく。

 

『GESYAAAA!!!』

『SYAHAAAAAA!!!』

『KYEEEEEEE!!!』

 

 それに対して三体の【キングバジリスク・スペクター】達も辺りの【バイオハーデス】へと猛毒の牙やブレスで果敢に反撃を仕掛けていくが、既に病毒対策を固められているので毒は効果が無く、直接攻撃も相手の侵食・再生速度が上回っている所為で焼け石に水。

 一応、付与されている《スピリット・オブ・リヴェンジ》の効果で攻撃してきた【バイオハーデス】にバジリスクの怨念を具現化した対象腐敗・HP継続低下の【呪毒】という呪いを与えてはいるが、そもそも怨念で動くアンデッドである【バイオハーデス】には効きが悪く、更に《魔力収束賦活》によるHP回復によって相殺されるので余り効果が無かった。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

『GYEGYAAAAE!!?』

 

 更に一体のバジリスクが森の奥から現れた巨大な鬼型アンデッド──【ハデスブランチ】が森に配置していた【プランツアンデッド・フォレストオーガ】によって殴り飛ばされたのだ……が、よく見るとその鬼型アンデッドの頭上にある名前表記は【冥樹屍界 バイオハーデス】になっており、その脊髄の辺りには一本の黒い蔓が生えて森の奥へと続いていたのでソレも【バイオハーデス】の一部だと分かる。

 ……ちなみにスキルによって体積と共有されているHP・MP・SP以外の【バイオハーデス】のステータスは取り込んだ生物を基準にして()()()()()()()()()()設定されており、純竜級モンスターを取り込んだ場合ならば植物アンデッド化によって多少は変質するがその部位だけは純竜級相当のステータスとなり、更にそのモンスターのスキルもある程度は使用可能になっているのだ。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

『『『『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』』』』

『《Vine Whip》『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Branch Needle》』

『『『GYEGYAAAAAAAAAA!!!』』』

 

 そうして同じく《心霊の手》の効果を受けたフォレストオーガ部分の打撃、他に侵食して戦闘用の部位とした後に脅威を排除する為に集めた<サウダーテ霊林>のモンスター達の攻撃、そして変わらず降り注ぐ周囲の木々からの攻撃を受け続けたバジリスク達は徐々にHPを削られていった。

 ……それでも怨念による狂化を受けたバジリスク達は文字通り“死にモノ狂い”になりその牙で、猛毒のブレスで、強化されたステータスによる打撃で全方位から迫る【バイオハーデス】を破壊し続けたが、まさに()()()とも言える物量を覆すまでには至らなかった。

 

『『『GIGIGI……AAAAA⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

『◼️◾️◾️◾️◼︎⁉︎『◾️◼︎⬛️⬛︎◼️◼️◼️◾️! 『⬛︎■◾︎◼️◼️◼️⁉︎『⬛︎◼️◼️⬛️⬛︎■⬛︎◼️⬛️!!!?』

 

 ……だが、HPがゼロになったバジリスク達は《スピリット・オブ・リヴェンジ》の最後の効果により、自分達を倒した【バイオハーデス】に対して報復の超強力な【呪毒】状態異常を掛ける事によって、その付近の【バイオハーデス】全てを腐敗させて道連れにした辺り最後の意地を見せたと言えるかもしれない。

 そして何より、そうやって派手に戦った事によって“後に控える彼等”に【バイオハーデス】の情報と対策を練る時間を与える事が出来て、バジリスク達は主人(シズカ)に願われた『敵の情報を探る為の囮』という役目を十分果たしたと言えるのだから本望であろう。

 

 

 ◇

 

 

「……うーん、やっぱりあの【バイオハーデス】を倒す方法とかちょっと思いつかないわねぇ……」

「根本的に広域殲滅型、しかも相当な大火力を継続的に出せる者でないと勝てない相手じゃしのう」

 

 最も、そんなバジリスク達の奮戦を《遠視》と《透視》、更に《視界共有》などを駆使して観戦していたレント・ひめひめのパーティーの台詞はこちらである……まあ、純竜級上位モンスター三体でも大した損害を与えられない相手を見ての感想だからしょうがないが。

 一応言っておくがバジリスク達の犠牲は無駄では無く、彼等は解析能力に長けたネリルを中心に【バイオハーデス】の能力や特性などを凡そ把握する事が出来ており、その上で『自分達では現状打つ手が無い』と判断してしまっているだけなのだ。

 

「……おっと、森の侵食がこっちまで来てるわね。アンデッド特有の生物探知で気付かれたか、或いは単に領地を広める先に私達がいただけか……どうする?」

「ここまで来れば戦うしかなかろう。元より今からでは向こうの増殖速度からは逃げられん」

「んな事は言われなくても分かってんだよ! こうなったらやってやらぁ!!!」

「あら、やる気ねクロード」

 

 そして、ひめひめが遠視によって【バイオハーデス】の侵食がこちらまで近付いている事を知った彼等は各々戦闘準備を整えて迎え撃つ構えを見せた……そこでレントは先程から“地面に幾つもの【ジェム】を設置した陣を敷いて何やら準備をしていた”ネリルに向けて声を掛けた。

 

「ネリル、準備の方はどうだ? ……今回に限っては()()を出して貰うぞ」

「分かっておる……流石に今回は相手が相手じゃし、ワシが全力出しても勝てんヤツじゃから遠慮なく行くぞい。……そんでもって準備は完了じゃから行くぞ! これぞ【森王(キング・オブ・フォレスト)】が最終奥義(ファイナルブロウ)! 《魂の森(ソウル・フォレスト)》じゃ!!!」

 

 いつに無い気合を入れたネリルがそう宣言すると共に地面の【ジェムーマギ・トランスファー(魔力譲渡)】が一斉に砕け散り、そこから大量の魔力が放出されながら【ネイチャー(自然の)・エレメンタル】たるネリルのスキル《自然魔力操作》によって掌握された自然魔力と混じり合って辺り一帯にある普通の木々へと浸透して行き……直後、周囲の木々や植物全てが光の塵──()()()()へと変換されて消滅した。

 そうして発生したリソースを更にネリルが周囲の自然魔力と混ぜて操作して行き、彼等を中心とした半径30メテル程の周辺環境を『聖なる光で輝く半透明の木々で出来た森』へと再構築したのだ……これこそが森司祭系統超級職【森王】の最終奥義《魂の森》、周囲の植物全てと自然魔力をコストにして、その範囲内に任意の森林内バフ効果を超強化した上で展開するスキルである。

 

「……ふぅ、とりあえずこの《魂の森》の範囲内では常時『聖属性の対アンデッドデバフ効果』と『生物に対する呪術耐性・聖属性バフ』と『植物の成長阻害』と『諸々のステータス上昇及びHP・MP・SPの自動回復』が掛かる様にしておいたからのー。……しかし、今のワシでは【ジェム】の補助があってもこの程度の範囲を変換するのが限界か」

「これまでチマチマと作っていた魔力タンク代わりの【ジェム】も半分くらいは吹っ飛んだけどな。……まあ、さっきのバジリスク達の戦いを見るに辺りが只の森だと、あっという間に侵食からの包囲で詰むからしょうがないんだが」

「……ペルシナさんが居なくて良かったわね。ティアンの彼女が見たら突っ込みどころ満載の光景だったわよコレ」

 

 亜竜級でしか無い筈のエレメンタルが最終奥義まで行使した事にネリルの事情を詳しく知らないひめひめパーティー側の人間は若干引いているが、疑問の声を発する前に【バイオハーデス】の侵食が《魂の森》との境界まで迫った事によって追求は免れた。

 ……そして【バイオハーデス】はこれまでと同じ様に生物を取り込んで自身を増やそうと根や枝を伸ばして《魂の森》の木々に触れようとしたが()()()()()()()()()()、更には領域内に入った枝や根は聖属性の浄化効果によってデバフとダメージを受けて徐々に朽ちていく。

 

『■■■■『◾️◾️◾️◾️◾️『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎⁉︎』

「これらの木々はスキルの効果範囲を視覚的に表示するだけの幻影じゃからな。……先程は霊体系アンデッドであるバジリスク達を侵食する様子が無かった所から、彼奴の同化侵食スキルは植物系モンスターの寄生能力と強制アンデッド化の高位呪術を組み合わせたモノというのは分かっておる」

「ホントだ、すり抜けるね」

「てことは木々の破壊とかは気にしなくても良いのかしら?」

「うむ、この木々はあくまでそういう仕様なだけじゃから、この範囲内でどれだけ暴れても問題無いぞい」

 

 その言葉を聞いたクラリスは自身の<エンブリオ>である【命捧血槍 ロンギヌス】をクルクルと回しながら、結界に阻まれた【バイオハーデス】が集まっている方向まで歩いて行く。

 

「それじゃ、私が集まってる奴等を散らすからその間に戦闘準備を終わらせて頂戴な。……HP8()()()()! 《我が命を捧げ光の裁きを(サクリファイス・ディバインバスタァァァ)》!!!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️『⬛️⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛️⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!?』

 

 そして結界の境界付近で立ち止まった彼女は【ロンギヌス】の穂先から()()()1()6()0()0()0()に達する聖属性熱線が放射状に放ち、そのまま槍を横薙ぎに動かす事で接触できない《魂の森》を警戒して範囲外の木々を侵食して包囲しようとしていた【バイオハーデス】の一角を纏めて消し飛ばした。

 ……ちなみにこのスキル《我が命を捧げ光の裁きを(サクリファイス・ディバインバスター)》は支払ったHPの五分の一の攻撃力を持つ聖属性拡散熱線を放つ強力な固有スキルだが、やはりと言うか“奇跡”を能力特性とする【ロンギヌス】の基本通りクールタイムは24時間と長大である。

 

『◾️◾️◾️◾️◾️『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎『■■■■■■■……』

「……まあ、拡散ビームである以上は距離が離れると威力が落ちるのが難点だけど、有利属性でも焼け石に水かー。《セルフ・フィフスヒール》、後ポーション」

 

 そんな事を言いながら自己回復魔法とHP回復ポーションで消費コスト分を回復させたクラリスは、聖属性で浄化した筈の前方部分から既に黒の幹と紫色の葉をした植物が生えようとしているのを見て溜息を吐いた。

 ……本来なら浄化特化の聖属性にやられたアンデッドはその再生能力を大きく損なわれる物なのだが、この【バイオハーデス】は再生では無く植物としての特性を使って()()()()()()()()()()()事により肉体の再構築を行なっているので浄化効果による再生阻害が余り機能していないのだ。

 

『やれやれ、まさか敗北前提で古代伝説級<UBM>と戦う羽目になるとは』

「悪いなヴォルト。……まあ、危なくなったら【ジュエル】に戻すから勘弁してくれ」

「この辺りは不死身な<マスター>の従魔特有のメリットじゃな。ワシとヴォルトには【救命の首輪】が装備されておるし……クルエランには無いが『GOGOGO!』……ふむ、自分の力を示す為にやる気満々じゃし、生存用の“カラクリ”も仕込んであるから問題無いじゃろ」

「《フィジカル・バーサーク》《絶望セシ預言者》《狂乱セシ聖戦士》《狂喜スル守護聖人》《狂イ果テル司祭》《狂走スル巡礼者》……よし、全部のせ最大バフも慣れたから大分早くなった。正直精神系状態異常とか凄く効き難いだろうけど」

「私も特殊性特化でステータス低い相手は苦手ですから気にしないで下さい。……とりあえず《聖拳》と《フレイム・フィスト》を重ねがけで殴るぐらいです」

『ふふふ……どうやらこの新武装【ラブリーリリカルスターハートステッキ】の力を示す時が来たみたいドラ』

「いや待って、そのどう見ても魔法少女ステッキなソレは『レジェンダリアの<マスター>が作った物だってニッサにいた闇商人から買いました』

「「「知ってた」」」

 

 だが、そうして動きが鈍っている間に、他のメンバーも戦いの準備を終えて【バイオハーデス】が迫り来る方向へと歩んでいく……絶望的な戦いではあるが、彼等は不死身の<マスター>であるが故に臆する事無く死地へと向かうのだった。




あとがき・各種設定解説

【キングバジリスク・スペクター】:凄く頑張った
・元となった【キング・バジリスク】はステータスは純竜級としてはやや低めだったが、石化邪眼で動きを止め猛毒ブレスで弱らせて溶解毒牙で仕留めて、それでもダメなら周囲を猛毒で汚染しての持久戦を群れで挑むかなりタチの悪いヤツらだった。
・そいつらを殲滅したシズカが群れ全部のドロップアイテムを注ぎ込んで作ったストックによる召喚モンスターなのでスペックは高く、上記の戦闘方に加えて物理攻撃無効・ステータス大幅上昇・カウンター復習呪術まで駆使するのが今回の三体だった。
・尚、こんな連中をストックさえあれば召喚出来るシズカは現状でも準<超級>クラスの実力者。

魂の森(ソウル・フォレスト)》:森司祭系統超級職の最終奥義
・最終奥義にしてはコストが周りの植物だけと低すぎる様に見えるが、効果終了後にはその範囲内が草木一本生えず自然魔力も無くなる“死の大地”へと変貌するので森を守るジョブである森司祭系統にとってはかなり重いコストとなっている。
・また、消費MPも多い上に生物を直接リソースに変換するので、相応の技量で制御しなければ術者の寿命などが“持っていかれる”リスクもある。
・だが、ネリルの場合は今の自身が自然干渉系のエレメンタルであり、前世は自然環境調整用モンスターである【アースワーム(蚯蚓)】種の頂点だったので自然環境操作スキルは【ジェム】作成と並んで最も得意な分野なので技術面では問題無い。
・更に魔力タンク代わりに作っておいた【ジェム】と【バイオハーデス】が多量に集めていた自然魔力を掠め取る形で使う事でMPの問題をクリアし、そもそも戦いが終わったらどうあれ霊林の自然環境は滅茶苦茶になるのでリスクも気にしてない。
・後、ネリルは『将来性のある彼等が経験を積んで成長する所が見たい、その方が面白そうだし』と言う理由で、通常の戦闘や三兄妹だけでも解決出来る事件ではヌルゲーにならない様に適当に手を抜いている。

我が命を捧げ光の裁きを(サクリファイス・ディバインバスター)》:【ロンギヌス】の固有スキル
・消費HPに比べて威力はそこまででは無いが消費HPに比例して射程が伸びて拡散率も上がり、更に2〜3秒間は放射されるのでクラリスとしては薙ぎ払いによる広範囲攻撃用のスキルとして扱っている。

【救命の首輪】:珍しいテイムモンスター用のアクセサリー
・【殿兵(リア・ソルジャー)】の《ラスト・スタンド》と同じく、装備モンスターが致命ダメージを受けた際に数秒感だけHPが『1』残る装備スキル《臨死の救命》をなど持つ。
・勿論それだけだと直ぐに死ぬが、そこそこ高級な【ジュエル】には備わっている『HP一定以下のモンスターを自動回収する』『内部の時間を止める』効果と組み合わせてテイムモンスターの命を守る仕組み。
・尚、ヴォルトは翻訳アイテムである【翻訳の首輪】の代わりに装備していたが、既に修行の成果で《人間範疇生物言語》を習得しているので問題無く会話が可能。

【冥樹屍界 バイオハーデス】:条件特化型にして“個人”生存型
・尚、現在は【ハデスブランチ】と【ハイ・アンデッド・ジャイアントウッド】を取り込んだ“最強の部位”がひめひめによって消滅させられたので、単純な戦闘能力は大きく弱体化している。
・保有スキルに関しては上記二体のモンスターが持っていたものを基本的に引き継いでおり、それらは木々を侵食した部位なら全て使用可能だが、モンスターを取り込んだ部位だとそのモンスターのスキルが使える代わりにそれらのスキルの大半が使えなかったりする。
・ただ、作中でもやった通り部位ごとに別のスキルを併用させる事すら可能なので大した欠点にはなっていない。


読了ありがとうございました。
最近デンドロ二次の更新が多くて嬉しい。乗るしか無いなこのビッグウェーブに!!!(笑)


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勝算の見えない戦い

前回のあらすじ:兄「……勝ち筋が見えんな」妹「諦めなければ例え小数点の彼方だろうと可能性はあると思う!」末妹「姉様それパクリですよね」


 □<サウダーテ霊林>深部

 

『◼️◼️◼️◼️『■■■■■■『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『《Branch Needle》『《Vine Whip》』

「ええいっ! 数の多い……《簡易聖別》《ウィールドスピア》!」

 

 自身の前方を埋め尽くす様に存在する黒と紫の森──【冥樹屍界 バイオハーデス】が無数に放ってくる枝の矢と木製触手に対して、クラリスは()()()()()()()()()()()()()()()逆に接近し、自身の<エンブリオ>である槍【ロンギヌス】に【戦僧兵(ウォリアーモンク)】のスキルで聖属性を付加した上で超音速で振り回す事で邪魔になる触手を打ち払いながら死霊化した木々を薙ぎ払った。

 ……現在彼女は『コストにしたHPの四分の一だけ自身のSTR・END・AGI・【ロンギヌス】の攻撃力を上昇させる』固有スキル《我が命を捧げ無双の力を(サクリファイス・ブーストアップ)》に()()のHPを捧げる事で、物理ステータスが一万以上という前衛系超級職並の能力を有している。

 

『《Branch Needle》『《Vine Whip》『◼️◼️◼️『《Curse Bullet(呪詛弾)Curse Bind(呪縛付与)

「げっ⁉︎ 呪いはMP判定なの! 《ブレッシング》!」

 

 だが、クラリスが超級職相当のステータスで幾ら木々を砕こうが森の奥から次から次へと追加で【バイオハーデス】が現れる為にキリがなく、更に物理攻撃では倒せないと判断するや相手は攻撃手段を【呪詛】を齎す呪いの弾丸と【呪縛】を与える呪いの連射に切り替え来たのだ。

 咄嗟にクラリスは司祭系統の聖属性の防護を掛けて呪い・闇属性を軽減するスキルを使って凌ぐが、拡大・成長を続ける【バイオハーデス】の最大MPは既に()()()()()()()()()レベルにまで達しており、大量に全方位から放たれる事もあって只の下級呪術ですら呪怨系耐性がある【大戦僧兵(グレイト・ウォリアーモンク)】の彼女でも無視出来ない威力になっていた。

 

『《Curse Bullet》『《Curse Bind》『《Curse Bullet》『《Curse Bind》』

「ぎゃあ! しかもスキルの残り時間が!」

「いいからこの“結界”の中まで下がれ馬鹿姉! 《アイス・ブリザード》!」

 

 加えてクラリスに《我が命を捧げ無双の力を》の効果時間は自身の合計レベル分の秒数──カンストしている彼女の場合は500秒であり。クールタイムも24時間と長大なので時間切れの際に敵に囲まれていれば当然詰む……故に慌てて彼女は後方の《魂の森(ソウル・フォレスト)》の内部に走って行き、それを追いかけて来た触手は援護を担当していたクロードが氷混じりの強烈な冷気を吹き付けて氷漬けになりながら砕かれた。

 

「……うむむ、これで自己強化も使い切ったし、後は『状態異常回復』と『結界展開』しか残ってないから直接戦闘能力は皆無になったわ。どうしよ?」

「とりあえず消費した分を回復させながら【司祭(プリースト)】か【肉壁(ライフ・ウォール)】のスキルで援護でもしてろ! ……済まん! こっちは姉が出涸らしになった!!!」

「……でぃふぇ〜んど、他のフォローはいいから東側の穴埋めに向かって。《アローエフェクト:フリードロウ》《光炎之矢》!」

「了解」

 

 そんなクロードの声を聞いたひめひめは《魂の森》に於ける西側の戦場で戦っているミカを囲もうとしていた木々に援護の矢を放ちながら、でぃふぇ〜んどを東側からの【バイオハーデス】の侵食を抑える役回りへと向かわせた。

 ……そう、現在彼等は半径30メテル程度に展開された《魂の森》の四方に散らばり、その()()()()()の森を侵食し終えた【バイオハーデス】相手に絶望的な防衛戦を演じている所だったのだ。

 

『おお、流石はひめひめさん狙いが凄く正確だね! 《スターハートアタック》《インパクト・ストライク》!』

『◼️◼️◼️⁉︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⁉︎『◾️◾️◾️◾️◾️……『《Branch Needle》『《Vine Whip》』

『……と言っても、状況は大して好転しないんだけど! 《双棍撃》《インフェルノ・ブレイク》!』

 

 そんな《魂の森》西の外側ではミカが援護射撃によって出来た隙に、左手の【ラブリーリリカルスターハートステッキ】のスキルを使ってからファンシーな音とエフェクトを撒き散らしながら【バイオハーデス】の内数本を聖属性と衝撃波で粉々に砕いた……これは単純な本人のSTRに加えてメイスの攻撃力と強度を強化する基本スキル《戦棍強化》と、その効果を()()()()()にまで拡大する《戦棍鬼の怪腕》と言ったパッシブスキルでの底上げもある。

 それでも未だに生い茂り増殖を続ける【バイオハーデス】は反撃に枝矢と蔓鞭を多方向から見舞うが、ミカは持ち前の“直感”で安全位置を即座に把握して退避、更に【双棍士(デュアルストライカー)】のスキルによって両手で同時にアクティブスキルを行使して炎を纏わせた【ギガース】と【ステッキ】の両方を振り回して辺りの木々を焼き払う。

 

『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎『◼️◼️◼️◼️◼️『■■■■■■!!!』

「《ウィングド・スラッシュ》! 《レーザーブレード》! ……うぐぐ、やっぱり精神系状態異常は効きにくい……と言うか、“一部”にしか効いてない感じ?」

 

 北の外側で戦っているのはミュウとアリマの親友(に戻った)タッグである……アリマの方は物理ステータス上昇の《フィジカル・バーサーク》、STR・AGI大幅上昇&消費SP軽減の《狂乱セシ聖戦士》、強力な危険察知や罠感知などの感知能力を与える《絶望セシ預言者》、物理・魔法被ダメージ割合軽減&END大幅上昇《狂喜スル守護聖人》、HP自動回復&病毒・呪怨系状態異常耐性上昇の《狂イ果テル司祭》、AGI大幅上昇&制限系状態異常耐性上昇の《狂走スル巡礼者》と言ったスキルを使う事で得た超級職に迫るステータスで剣を振るい木々を片端から斬り裂いていた。

 更にそれらのデメリットである【狂乱】【絶望】【被虐】【狂気】【惑乱】などを【シャカ】のスキル無効にしつつ、敵のみを対象とする様に設定した《伝播スル狂信》によってそれらの状態異常を【バイオハーデス】に与えてもいたのだが…。

 

「そうですね、時折木々の何本かの動きがおかしくなってますが、どうも【バイオハーデス】全体には効果が届いていない様です……おっとアリマちゃん危ない《スライスハンド》《正拳突き》《アッパー》《コークスクリュー》!」

「ありがとう、ミュウちゃん《サンダースラッシュ》!」

 

 ……その隣で拳に聖属性と炎を纏わせてアリマでは対処しきれない不意打ちなどを的確に見切って殴り飛ばしているミュウの言う通り、相手が自身を認識している事が条件である《伝播スル狂信》では【バイオハーデス】全体に効果が届いてはいなかったのだ。

 

『うむむ……【バイオハーデス】はステータスが部位毎に異なるから《模倣》がやり難い、部位別に対象にも出来るけどそもそもステータスが低いし。……《纒装》の方も弱い攻撃を連射するタイプだから余り意味がないか……ごめん、相性が悪くてイマイチ僕のスキルが刺さらないや』

「仕方ありませんよミメ。MPは《聖拳》と《フレイム・フィスト》に回しましょう。相手のステータスなら貧弱な素の私でもなんとかなるでしょうし、アリマちゃんの妨害もこの戦場に限れば結構効いてますから」

『■■■■『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⁉︎『▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎!』

 

 どうにも相性が噛み合わない事に凹むミメーシスを励ましつつ、ミュウは呪弾や枝矢を躱しながら精神汚染を受けた妙な動きをしている部位とそうで無い部位を即座に見切り、正常な部位だけを聖炎を纏った拳で撃ち砕いてその場の戦況を優位にしていく。

 

『◾️◾️◾️◾️『《Fear・Scream(恐慌の叫び)》『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!』

「あ、精神系は効かないので。ただやっぱり幾ら戦っても奥から奥から追加が来るから結局はジリ貧だね……こうしてミュウちゃんとゲームをするのは楽しいけど詰み確定じゃ……」

「《精神統一》《心頭滅却》……それは私も同じですよ。折角の仲直りしてから始めての共同戦線なので、出来れば勝ちたいのですが……」

 

 そんな見てる方がほっこりする様な会話をしながら、彼女達は倒した奥から新しく追加で生えてきた【バイオハーデス】が聞いた相手に【恐怖】の状態異常を与える叫びを使って来たのに対して各々で精神防御で防ぎながら、お返しに凶悪な多重精神汚染と聖炎の拳を叩き込んだのだった。

 

 

 ◇

 

 

【とりあえず東側にはでぃふぇ〜んどを向かわせたわ。三人がかりなら暫くは抑えられるでしょう】

【了解、他にヤバくなった所があったら俺の方からヴォルトかクルエランを回す……と言っても、その前に壊滅かもしれんが】

【しかし《魂の森》の四方を壁で囲み、その間に戦力を配置して敵を削る防衛戦というアイデアは上手いのう。お陰でかなり長く戦い続けられておる】

 

 そんな念話をしているのは南側で自身のテイムモンスター達と共に戦っているレントと西側で戦っているひめひめ、そして《魂の森》の中央でそれの維持と全体支援ついでに《テレパシー》スキルで二人を繋いでいるネリルの三人だった……指揮官ポジの二人からの指示や、二人への会話をネリルが念話で繋げる事で人員を分けた状態でもスムーズな連携が出来る様になっているのだ。

 ちなみに現在の彼等は《魂の森》の北東・北西・南東・南西の境界付近四ヶ所にでぃふぇ〜んどの【パラスアテナ】による城壁を築いて、その間の東西南北から戦力を出して【バイオハーデス】を攻撃、危なくなったら《魂の森》内部に戻って防戦するという、所謂『籠城戦』を行う事で古代伝説級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>相手に長時間戦う事が出来ていたのだ。

 

【……まあ、援軍のアテも敵を倒す術もない籠城戦は敗北までの延命策でしかないがの】

【そんな事は分かっている……が、ウチのミカが勝算があるっぽい事を言ってたしな】

【ミカちゃんが言うならまだ何とかなるかもしれないけど……その辺り詳しく分からないの? ミカちゃん】

【うぇ⁉︎ いきなり念話は……わっとと⁉︎】

 

 いきなり念話を繋がれたミカはそれに一瞬気を取られた所為で危うく【バイオハーデス】の触手に捕まりそうになったが、その寸前でひめひめの《光炎之矢》による精密狙撃が触手を砕いたので難を逃れた。

 ……ちなみにレント・ひめひめ・ネリルの3名は念話で現状を打破する術を話し合いつつ他のメンバーに指示を出しながら、更に自分達の役目である戦闘も完璧にこなしてたりするが。

 

【ちょっと⁉︎ こっち結構ギリギリの戦いなんだからいきなりはやめてよね! 私はお兄ちゃん達みたいに念話と並行して戦闘とか器用な事は出来ないんだから!】

【このぐらいなら並行思考と高速思考に慣れればいけるだろう……む、ヴォルトちょっと下がれ。《セイクリッド・バースト》】

【ごめんねー、とりあえず暫くは私が受け持つからー……とりあえず《炎勢之矢》と《スプレッドアロー》で焼き払いつつ話を聞くわ】

【このリアルハイスペックチート共め、こちとら“直感”以外は凡人なんだよ……後、正直この戦いの先はよく分からないんだよ。“今は無いがこのままなら勝算はある”気がするけど、何かこう曖昧なんだよね】

 

 ミカ曰く自身の“直感”は色々と不安定だから明確に『ビジョン』が観える時もあれば曖昧な感覚だけの時もあり、今回は後者との事……これ以上は分からなさそうなので、三人は念話を切って話し合いを続けた。

 

【でどうする? このまま戦い続けるだけなら『ペルシナさん達の準備が整うまでの時間稼ぎ』とかを言い訳にすればいけるけど? 元々みんなそれ覚悟で来てるしね】

【それは構わないが……問題はこのまま戦い続けられるかだな。あの【バイオハーデス】はこれまで“下級職レベルのスキル”しか使って来てない】

()()()()()()()U()B()M()()()()()()()()()()()()()()のう】

 

 そう、スキルを多数同時発動していたから分かりにくいかったかもしれないが、これまで【バイオハーデス】が使って来たスキルは最初にひめひめの必殺スキルの効果を軽減した広域防御結界以外は《カースバレット》《カースバインド》《フィアー・スクリーム》など呪術師・死霊術師系統の下級状態異常スキルか、《ブランチアロー》《ヴァインウィップ》などの森司祭系統の地属性樹木操作下級魔法スキルだけであり、三人はこれ以上のスキルを持っているのではないかと警戒していたのだ。

 

【私の必殺スキルの時には対応して防御して来たし、大元の【ハデスブランチ】を取り込んだ大木を私が消滅させたから下級スキルしか使えなくなったんじゃ】

【それなら良いんだがな……問題は使()()()()のか使()()()()のかが分からん事だ。後者なら警戒しない訳にもいかんし……ネリル、例の“融合スキル”の準備は?】

【既に発動待機状態にあるから互いに触れればいつでも使えるぞい……じゃが、ミュウとミメのそれと違ってMPを継続消費するから長期戦には向かんぞ】

【それでも最大MPはある程度上がるならお前には十分だろう。もし向こうが本気を出して来たら使う】

【了解じゃ】

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ■【冥樹屍界 バイオハーデス】について

 

 さて、そんな用心深い三人の警戒は()()()()()……元【冥王(キング・オブ・タルタロス)】である【冥樹死王 ハデスブランチ】と【ハイ・アンデッド・ジャイアントウッド】の融合体が大元である【バイオハーデス】は当然上級以上のスキル、死霊術や植物操作に関しては超級クラスのスキルも使用可能だ。

 ……それでも【バイオハーデス】が下級スキルの大量使用しか行わないのは、【バイオハーデス】というモンスターの存在意義が『全ての生物を自分と一体化させて同じ永遠を生きる』という考え(怨念)に基づいて動いているからだ。

 

 そして【バイオハーデス】が生物と遭遇した時の行動パターンは【ハデスブランチ】から受け継いだ知識を元にした機械的なものであり、まず『その生物を《冥樹侵食・屍界拡大(ハデス・ハザード)》によって取り込む』事が最優先。それで抵抗する様なら『状態異常スキルや弱めの攻撃スキルで可能な限り肉体を保ったままで制圧する』次善策を実行する様になっている。

 ……これは《冥樹侵食・屍界拡大》で取り込む際に肉体が綺麗な方が得られるHPなどが多いという理由の以外にも、【バイオハーデス】が多生物を『共に生きる為に取り込むべきモノ』としか思っていない……つまり基本的に敵として見ていないからでもあった。

 

 加えて“共に生きる”……自身という存在を保存する事が優先的な行動パターンに設定されているので、自分自身を大きく自傷する様な大規模攻撃に関してはブレーキが掛かる仕様になっている事も下級スキルの大量使用を優先する理由になっている。

 ……もし【ハデスブランチ】を取り込んだ大元の巨木が残っていれば、ひめひめの必殺スキルへ事前に結界を展開して対応した様にある程度行動パターンに融通を効かせる事も出来たのだが、大元の巨木が破壊されてそれ以外の部位だけでは判断力も大きく落ちる事からそう言った事も出来なかったのだ。

 

 しかし、判断力が落ちて融通が効かなくなっているとは言え【バイオハーデス】自体の行動パターンは変わらない……つまり『自身を攻撃している生物の脅威度』が『自身の肉体を増やして共に生きる優先度』を上回る事があるならば、“共に生きる対象”ではなく自身を脅かす“敵”として侵食や自傷によるダメージを脇に置いた“対処”に移るだろう。

 ……例えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その上で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()時ならば。

 

 

 ◇◆◇

 

 

『▪︎▪︎▪︎『▪️▪️▪️『◾️◾️◾️『◼️◼️◼️『⬛️⬛️⬛️『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!』

【むっ! おいマズイぞ、どうも向こうが本気になったらしい。 超級クラスの魔法を撃とうとしておる!】

【何だと⁉︎ どんな魔法が来るか分かるか?】

 

 そんな【バイオハーデス】の異変に真っ先に気が付いたのは各種観測系魔法で常に敵を見張っていたネリルだった……彼女は念話でそれをレントとひめひめに伝えつつ、その観測結果と自身の有する膨大な知識から【バイオハーデス】の成そうとしている事を読み取っていく。

 

【これは……闇属性呪怨系と怨念変換複合の魔法砲撃かの。自分の肉体の一部をコストにする最終奥義(ファイナルブロウ)に準ずるスキルじゃな。単純な威力だけでも超級職の奥義を上回るじゃろう。……しかも複数展開しておるな】

【それで何処から何発放たれるかとか分かるかしら?】

【……この《魂の森》の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。流石にこんなものを全方位から撃ち込まれれば《魂の森》でも耐えきれんぞ】

【【ッ⁉︎】】

 

 そんな【バイオハーデス】が使おうとしているのは【ハデスブランチ】が対【妖精女王】様に開発した『アンデッドをコストにして超強力な呪怨・闇属性複合砲撃を放つ』オリジナル超級魔法《デッドリー・ワールドエンド》。彼が<UBM>になった後アンデッドである自分自身に合わせて【大死霊】や【死霊王】のスキルを参考に作ったモノである。

 ……尚、もしこの《デッドリー・ワールドエンド》の八つ同時使用を【ハデスブランチ】が行うなら肉体の大半と当時有していた背景の全てをコストにしなければならないだろうが、【バイオハーデス】にとってはM()P()()()()()()()5()()()()()を消費すれば使える程度の、自傷ダメージを含めても許容範囲内の損害で“敵”を排除出来る都合のいい手段でしかないのだ……まあ、流石に【バイオハーデス】と言えどもこのレベルの魔法の八つ同時使用には時間が掛かるが……。

 

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛️⬛️⬛️⬛️『◼️◼️◼️◼️!!!』

【《遠視》と《透視》で見たけど少し離れた所にそれっぽい黒い魔力の塊が見えたわね。加えて未だに木々はこっちへの攻撃を行なっているから発射阻止は無理そう……ネリルちゃん、念話を全体に】

【もうやったぞい】

【ありがとう……相手が全方位から超威力の闇属性魔法を撃とうとしているわ! 全員《魂の森》の中央に急いで退避! 守りを固めるわよ!!!】

 

 全方位を囲まれて逃げ場もなく、包囲を突破しての発射阻止も出来ない今の彼等には全力で防御するぐらいしか対処の方法は無かったのだが。

 ……幸いと言うか、もとより彼等はデスペナ覚悟で戦っていたのでその指示に対する混乱も無く、全員が直ぐにネリルがいる《魂の森》の中央に集まる事が出来た。

 

「よし! 全員集まったわね! でぃふぇ〜んど、まずは壁を「うむ、中央に面子を集めたのは良い判断じゃ。……さて主人殿、早速融合じゃ」

「分かった。……お前達は戻っていろ《送還(リ・コール)》ヴォルト、クルエラン」

「うむ、準備は良いようじゃな。では行くぞ……《フュージョニック・ユニオン・エレメンタル》!」

 

 ひめひめの言葉に被せる形で真っ先に動いたのはネリルだった……彼女がテイムモンスターをしまったレントの手を取って融合スキルを発動させると二人を光が包み込み、次の瞬間そこには髪が銀色に染まり両目の色が赤と青になったレントの姿があった。

 ……それを見て驚く他のメンバーを後目にネリルと融合したレントが地面に手を突いた瞬間、展開されていた《魂の森》の範囲が半径10メートルぐらいにまで()()されたのだ。

 

「結界が狭く……⁉︎ これは……?」

【《魂の森》の範囲を圧縮して効果を高めただけじゃよ。主人殿と融合して肉体強度と最大MPを増やせばこのくらいはな。気休めかも知れんがついでに結界も追加しておこう《ハイエンド・セイクリッド・バリア》】

「おい、ぼーっとしている暇はないぞ。向こうの攻撃までもう時間が無い……《詠唱》終了。《ホーリーゾーン》!」

 

 驚くメンバーに融合したネリルが《テレパシー》で簡潔に説明した後に既にある城壁の外側に更なる聖属性の結界を展開し、それと同時に他のメンバーに注意したレントも呪怨系状態異常を軽減するフィールドを形成した。

 

「おっとそうだったわね。でぃふぇ〜んど!」

「了解! 《フリーダム・ランパード》最大展開! 更に《奇跡の城壁》!」

「私も行くわ! HP八万消費! 《我が命を捧げ聖なる守りを(サクリファイス・ホーリーシールド)》!!!」

 

 それを聞いて即座に気を取直した他のメンバーも直ぐに各々の防御スキルを使用して行く……まずでぃふぇ〜んどが既に展開していた城壁と圧縮された《魂の森》の間のスペースに可能な限りの【パラスアテナ】を全方位に追加展開し、それに加えて【城塞衛兵(キャッスル・ガード)】の城塞への魔法ダメージ軽減スキルを行使して防御を固める。

 また、クラリスがそれらの城壁と自分達の間に消費したHPの十倍の耐久値を持つ聖属性の結界を作り出す固有スキルを使用して自分達を囲った。

 

「《足引きの呪縛域(ディーセライセーション・ゾーン)》! 《ドーンウォール》!」

「クラリスさんHP! 《サードヒール》!」

「私は全体防御とか出来ないのよね……《堅樹光球》!」

『それは私も同じなんだけど……《ヘビーディフェンダー》!』

「まさかこのスキルを使う事になろうとは……《結跏趺坐結界》!」

 

 更にクロードは飛び道具の減速狙いで固有スキルを使いつつ闇属性の防御魔法を使い、アリマはサブジョブである【司祭】の回復魔法でHPを減らしたいクラリスを回復させ、ひめひめは特典武具のスキルで自身に光の障壁を張り、ミカは余り効果はないかなと思いつつ【重戦士(ヘビーファイター)】の装備強度上昇スキルを【ドラグテイル】に使い、ミュウは魔法ダメージ半減と状態異常耐性を三倍にする【僧兵(モンク)】のスキルを使う為に胡座をかいて座り込んだ。

 ……そうして彼等は自分達に出来る限りの防御系スキルを重ねがけして【バイオハーデス】の攻撃へと備え……。

 

『◼️◼️◼️◼️……『『『『『『『『《DEADLY・WORLDEND》!!!』』』』』』』』

 

 ……その直後、全方位から超級魔法と比べても尚数倍する威力を持った、極大の闇と呪いと怨念によって凡ゆる生物を抹殺する八条の砲撃が放たれ、展開されていた防御の尽くを粉砕してその名の通り彼等の世界を闇に包んだのだった。




あとがき・各種設定解説

兄&ネリル:融合スキルを初披露
・この《フュージョニック・ユニオン・エレメンタル》は精霊術師系統超級職【精霊王】の奥義である配下エレメンタルとの融合スキルと、解析した末妹の《憑依融合》を合わせて開発したネリルのオリジナルスキル。
・なので融合中は全ステータスが足し合わされスキルも共有される上、兄とネリルの意思は別々に存在してそれぞれ別々にスキルを使ったり出来る。
・だが、ステータス自体はステータス半減の兄と魔法特化のネリルの物理ステータスが低い事もあって、それぞれジョブと自身の割合上昇スキルが重ねがけされる最大MP以外のステータスは大して上がらず、維持にMPもかなりの量を継続消費するから長期戦も不可能。
・なので一度事前に使ってみた二人からは『普通に分かれて戦った方が強いのでは?』と思われていて微妙スキル扱いされてた。
・今回は最終奥義である《魂の森》の圧縮を行う為には強靭な肉体が必要だった事と、少しでも魔法の効果を上げる目的で融合した。

ひめひめパーティー:かなり強い
・侵食目的だったとは言え古代伝説級相手に包囲状態でも十分以上大した傷も負わずに戦い続けられる技量と胆力がある。

《ブレッシング》:司祭系統のスキル
・特定の生物に弱めの浄化効果を付与して闇属性や呪怨系状態異常の効果を軽減する聖属性の基本魔法スキル。

《精神統一》《心頭滅却》:汎用スキル
・【僧兵】【格闘家】などいくつかのそれっぽいジョブで覚えるスキルで、それぞれ自身に短時間『軽度の精神系状態異常回復&精神干渉効果軽減』と『精神系状態異常耐性&炎熱耐性上昇』の効果。
・どちらかと言うと東方の方が覚えるジョブが多いスキル。

我が命を捧げ聖なる守りを(サクリファイス・ホーリーシールド)》:【ロンギヌス】の固有スキル
・展開した結界の形状はある程度変形可能で最大維持時間は(合計レベル)秒であり、破壊されるまでは途中解除不可能でクールタイムはやっぱり24時間。

【バイオハーデス】:“戦闘”をする気なら古代伝説級に相応しい能力で戦える
・怨念に縛られている上に【ハデスブランチ】の知識をベースにしたある種機械的なプログラムで活動するせいか、“共に生きる対象”と“排除すべき敵”への対応がかなり違う。
・現在の自然魔力が豊富な環境であれば、今回使った《デッドリー・ワールドエンド》×八での消耗も十分もあれば完全に回復する模様。


読了ありがとうございました。
古代伝説級は超級職パーティーとほぼ同等の戦力らしい……原作に於ける最近の超級職<マスター>達の活躍っぷりを見てるともっと戦力を盛らないとダメかなって思った。


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掴んだ可能性

前回のあらすじ:妹「よしこの調子ならいけるかも……」バイオハーデス『じゃあちょっと本気出しますね」妹「爆発オチなんてサイテー!!!」


 □<サウダーテ霊林>深部

 

 本気で“敵”を排除する気になった【冥樹屍界 バイオハーデス】が使用した最終奥義(ファイナルブロウ)《デッドリー・ワールドエンド》×8による全方位からの砲撃はレントやひめひめ達が展開した防御の悉くを粉砕、その後にお互いの砲撃同士がぶつかり合い闇属性と呪いの大爆発を起こして辺り一帯を吹き飛ばした。

 

「……ぐぐ、少し【気絶】してましたか……アリマちゃん! 大丈夫ですか?」

「おおう、まだちょっと頭がフラフラするけど何とか……《狂喜スル守護聖人(ダメージ軽減)》掛けといて良かった……」

「はーい、みんな無事〜? 死んだ人は返事して〜」

「……死んだら返事出来ないだろ……」

『【死兵】とか取ってれば出来るかもドラ……』

 

 ……しかし、そんな大爆破の真っ只中に居た筈の<マスター>達はズタボロになりながらも辛うじて生存していたのだ。

 

「スキルのコストでHP減ってた私は死ぬかと思ったんだけど……付けてて良かった【救命のブローチ】」

「うう、でも呪怨系状態異常が……アンデッドの<UBM>と戦う予定だったから【高位聖水】は準備してあるけど……」

「《フィフスヒール》《ディスペル・カース》……とりあえず自分は動ける程度には治したが、他は……」

「私は特典武具のバリアのお陰でダメージは一番少ないから他優先で……後、助かったわよレント。貴方達が()()()()()()()()お陰で死なずに済んだわ」

『《ピットフォール》を使ったのはワシじゃがのう。どうにか直撃だけは回避出来たらしい』

 

 そう、彼等が助かった最大のは《デッドリー・ワールドエンド》が防御を抜いて自分達に当たる寸前、レントとネリルが“落とし穴を掘って敵を落とす”土属性魔法《ピットフォール》を真下の地面に使い、その場に居たメンバー全てを深さ30メテルぐらいの穴の中に落とす事でギリギリ直撃だけは回避したのだ。

 それに加えて全員が総掛かりで展開した各種防御によって《ワールドエンド》の威力が少しは下がっていた事と、ネリルが追加で穴の上に聖属性障壁を展開した事でその後に起こった大爆発の威力が穴の中に届き難くなったお陰でギリギリ彼等は生存出来たのである。

 

『こんな事もあろうかと買っておいた【高位聖水】だ!』

「状態異常耐性高くて助かったのです」

「《ディスペル・カース》《ディスペル・カース》《ディスペル・カース》っと」

「……ただ、HPは何とか回復出来ても全員MPとSPは枯渇寸前なのよね」

「流石に古代伝説級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>相手に十五分以上も戦闘すればな」

「ダンジョン攻略にもそれなりに消耗してたしね……」

 

 だが、事前に準備していた回復アイテムなどでHPや呪怨系状態異常を回復させたとしても、これまでの戦闘により既に彼等の残りMP・SPは殆ど残っておらずこれ以上の戦闘を行うのは厳しいと言わざるを得ない状況であった。

 ……彼等は全員腕の立つ<マスター>なので現状を正確に把握しており、故にその場には『やはりダメだったか』と言った諦念と落胆の雰囲気が立ち込めていた。

 

『さて、今は先程の闇と呪怨属性の爆発の余波で誤魔化せておるが、時期我らが生きておる事はアンデッドの《生命感知》で知られるじゃろう。ちなみに今の攻撃で《魂の森(ソウル・フォレスト)》もほぼ吹き飛んだぞ』

「<UBM>の規格外さは【ドラグリーフ】で知ってたつもりだったが、まさか古代伝説級だとここまでのバケモノになるとは……」

「元からデスペナ覚悟で来たつもりだけど殆ど嫌がらせしか出来てないわね……もう少し削れると思ってたんだけど」

「せめて時間は稼げたと思いたいけど……」

「後はデスペナになってリアル側で詳しい情報を伝えるしかないかしらね」

 

 防衛戦の切り札であった《魂の森》も《デッドリー・ワールドエンド》の彼等<マスター>へのダメージと呪怨系状態異常の効果を大幅に下げると言う最後の役割を果たした後、効果範囲のフィールドが破壊し尽くすされた事で消失しており……端的に言えば『もう打つ手がバンザイ特効ぐらいしか思いつかない』と言うのが、その場にいるメンバーの()()共通した考えだった。

 

「……姉様、何か手は無いんですか?」

『…………』

 

 そして、ようやく友人と仲直りした直後の共同クエストが失敗に終わるのは嫌だと思っていたミュウは、こんな時には何時も事件を解決出来る道筋を指し示してくれる姉のミカに最後の希望を込めて問い掛けたが、彼女は着ぐるみの中で黙して何も語らなかった……否、語()なかった。

 

『ゴメンねミュウ、偉そうな事を言った割に今回は役に立たなくて……』

「せっかくのミュウちゃんとの初クエストがこんな結果だったのは残念だけど……」

「…………うぐぐ……ええいっ! 二人ともそんな空気でどうするのですか! 確かにアリマちゃんとの初クエストがクソ難度なのは思うところありますが、だからこそ最後まで全力で後悔ない様に挑むべきなのです! せめて一矢ぐらいは報いましょう!!!」

 

 暗い雰囲気になっている相棒と親友を見たミュウはとうとう我慢の限界になった様に勢い立ち上がりながら、周りのメンバーから注目されるのも気にせずやけっぱちになったかの様にそう叫んだ……尚、これまでの彼女の性格とは明らかに違う行動だと思うかもしれないが、むしろメンタル面では基本的に普通の小学生である加藤(かとう)祐美(ゆみ)と言う人間にとってはこちらの方がデフォルトの性格なのだ。

 単に今まではかつての“事件”のトラウマから周りに合わせた『良い子』の様に振舞っていただけであり、そんなある種の『枷』が親友との仲直りで緩んで本来の子供っぽい性格が戻ってきた感じと言った所だ。

 ……そして現実では一人の小学生でしかない彼女の変化は、この<Infinte Dendrogram>のプレイヤーの一人であるミュウ・ウィステリア──T()Y()P()E()()()()()()()()()()()()にとっては大きな意味を持っていたのだった。

 

『……えっとミュウ、演説中に悪いけどコレを見てくれる?』

「別に演説はしてないんですが……何です?」

 

 ……そんなミュウのやけっぱち宣言の直後、彼女はミメが展開したウィンドウの中に見知らぬ赤いウィンドウがある事に気が付いた。

 

同調者(マスター)生命危機感知】

【同調者生存意思感知】

【<エンブリオ>TYPE:メイデン【模倣天女 ミメーシス】の蓄積経験値──グリーン】

【■■■実行可能】

【■■■起動準備中】

【停止する場合はあと20秒以内に停止操作を行ってください】

【停止しますか? Y/N】

 

「……え? 何ですかコレ『来たァァァァァァ!!! やっとこの状況で勝利出来る可能性が掴めたよおう!!!』ひゃぁ⁉︎」

 

 ミュウがその表示をもっと詳しく見ようとした矢先、いきなりミカが飛び上がりながらそんな事を叫んだので思わず驚いてしまい、その姉の奇行に注意を向けてしまったが故に彼女はそのままウィンドウを放置してしまった。

 

【カウント終了】

【■■■による緊急進化プロセス実行の意思を認めます】

【現状蓄積経験より採りうる一五八パターンより現状最適解を算出】

【対象<エンブリオ>:【模倣天女 ミメーシス】に対して■■■による緊急進化を実行します】

【負荷軽減のため次回進化までの蓄積期間を延長します】

 

『コレは……! まさか進化⁉︎ でもコレなら……!』

「ちょっと待ってください! なんかいきなり何かが始まったんですが姉様⁉︎」

『うんうんナイスだよミメちゃん、ミュウちゃん! これであの【バイオハーデス】に勝てる目が出て来たから!』

 

 自分と融合している【ミメーシス】が何か変化しようとしており、それによって名状しがたい感覚を味わっているミュウは何か知ってそうなミカを問いただしたが、彼女はまるで『攻略に必要な低乱数のイベントが発生する様に乱数調整して、それがようやく発生してくれたのでハイテンションになったRTA走者』の如き有様だったので見事にスルーされた。

 ……尚、穴の中でそんな彼女達を見ている他のメンバーは、事情をある程度察しているレントとひめひめ以外一様に困惑した表情になっていたが。

 

【■■■──完了しました】

【──FormⅤ 【The Identify You And Me】】

「……終わったみたいですね。大丈夫ですかミメ。……後姉様は事情説明」

『私も何が起こってるのかは分からないよ? ミュウちゃんとミメちゃんに起きた現象がこの状況を打開するのに必要なのは分かるけど……詳しくはミメちゃんの方が良く知ってると思うよ』

 

 虫食いの表示があるウィンドウが“何か”を終えた事を示し、更に融合している【ミメーシス】の変化が終わった事を感じ取った事でミュウは“何か”が終わった事を察してミメの安否を確認した。

 ……後、姉にジト目を向けながら説明要求したが『詳しくは知らん』と返されたので、溜息を吐きながらも【ミメーシス】からの話を聞く事にした。

 

『うん大丈夫だよミュウ。……それでだけど、どうも僕は“第五形態”に進化したみたい』

「まあ『緊急進化プロセス』云々と表示されてましたものね。……それで姉様の喜びようがアレな事になる感じな凄いスキルでも覚えましたか?」

『うん、進化によって既存のスキルはだいぶ使いやすく調整されたし、僕自身のステータスもかなり上がったけど……まあ、それらはオマケみたいなものだね。多分ミカが期待してるのは新しく覚えた()()()()()の事だろうけど……』

 

 ミュウは姉のハイテンションを見た所為で一周回って冷静になりながら、相棒である【ミメーシス】が進化した事と新たに覚えた“必殺スキル”の詳細を聞き……確かにこのスキルであれば【バイオハーデス】に()()()()()()()()()と判断した。

 

『一つ目の発動条件である“対象との最低五分以上の戦闘”──古代伝説級である【バイオハーデス】相手だと十五分は戦う必要があったみたいだけど、これまでの戦いでその条件は満たしてる』

「後は二つ目の条件である“対象との接触状態”を達成すれば必殺スキルは使用出来ますね。その後に相応のデメリットも課せられますが。……そういう訳で皆様、あの【バイオハーデス】を倒す目処が立ったので、私がアイツに接触してスキルを使用出来る様に援護をお願いするのです」

「「「え、マジで?」」」

 

 かなりの絶望的な状況に対していきなり齎された福音に、状況が理解出来ず成り行きを見守っていた他のメンバーは思わず聞き返していた……だが、ミュウから彼女達の必殺スキルの詳細を聞いていく内に『確かにそれならワンチャンあるかも』と考え、どのみちこのままではデスペナ確定だった事もあって彼等はそれに残った余力の全てを賭けた乾坤一擲の反撃を行う事に決めたのだった。

 

「ネリル、今の【バイオハーデス】の様子は?」

『ふむん……どうやらワシらが生きておる事を知ったみたいじゃな。地中から根を伸ばしてこちらに向かわせつつ、吹き飛ばされた地上に再びアンデッド樹木を生やしてこちらを包囲するつもりのようじゃな』

「成る程、向こうからこっちに近づいて来るなら高都合だ。……あの【バイオハーデス】にどれでも良いから触れられれば良いんだな?」

「はい、ミメ曰く『アレらは全部繋がってるから一つの個体扱いで行けると思う』そうです」

「それじゃあ最後の攻撃に移ろうか! 作戦はシンプルに地上に上がったらミュウちゃんが【バイオハーデス】に触れてスキルを発動させるのを全力で援護で!!!」

 

 ……そうしてひめひめの号令の下で彼等<マスター>達と古代伝説級<UBM>【冥樹屍界 バイオハーデス】の最後の攻防が幕を上げたのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □【模倣天女 ミメーシス】について

 

 ミュウ・ウィステリアの<エンブリオ>TYPE:メイデンwithアドバンス・ガーディアン(進化により上位カテゴリ化)【模倣天女 ミメーシス】だが、そのモチーフである“ミメーシス”とは模倣・再現を意味する単語であり、西洋哲学においては『人・物の言葉・動作・形態の特徴を模倣することによってその対象を如実に表現しようとする行為』という意味でも使われている。

 ……まあ、哲学に纏わる言葉なのでそれ以上詳しい意味を理解するのは難しく、ミュウ自身も以前ネットで自分の<エンブリオ>のモチーフを調べようとした時は『……つまり何かを真似する意味の単語なのですね!』と思考放棄して詳しく調べなかったぐらいなので意味はそこまで重要では無いが、それ故に【ミメーシス】の能力特性は他者のステータス・状態異常・攻撃などをコピーして自身に運用する『模倣』……()()()()()()

 

 そもそも【ミメーシス】の『他者の性質のコピー』という特性は、ミュウ(祐美)がかつて巻き込まれた事件で自分の才能──異常性を見られた所為で友人(真里亞)と疎遠になってしまった(少なくとも彼女自身はそう思った)トラウマに端を発している。

 ……その際に抱いた『何故自分は他の子と同じではないのか』という憤り、それが転じて『自分が他人と同じ“普通”なら誰かと共にいられるのでは』という願望が根幹となり『他者の性質を自身に貼り付ける』という()()()()()()()()を能力特性として生まれたのが【ミメーシス】なのだ。

 

 また【ミメーシス】が意思を持ったメイデンであるのも孵化時の感情以外にも『異常な私と共にある誰かが欲しい』という思いも原因になっており、更にTYPEが能力的により適したテリトリー(実態が無い)でもフュージョンガーディアン(異常な自分と一つになる)でも無くアドバンス・ガーディアン(常に側に寄り添ってくれる者)なのもそのパーソナルが由来である。

 ……故に【ミメーシス】は常にミュウの側に侍り、時には彼女の思い通り成したい事に向けて背を押したり、或いは異常な戦闘能力を忌避しながらも兄姉について行く力は欲しいという願いに応えて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()事もしていた。

 例えば《憑依融合(フュージョンアップ)》で“ステータス補正ゼロ”と“両手装備不可”のデメリットがある割にステータスの上昇値を低くして直接戦闘能力に関わりづらい耐性などを引き上げていたり、各スキルの使用条件が微妙に厳しかったり、第四形態進化時にスキルが追加されなかった割には余り強化されなかったりと……『<マスター>の戦闘センスを活かす』という名目で彼女が()()()()()()()()()()()()()()()()()()<エンブリオ>の能力を少しだけ使い難く調整していたのだ。

 

 だが、今回のアリマとの和解によってミュウが自分のパーソナルに向き合うきっかけが出来た事、そして■■■による状況を打開する為の強制進化なので余らせていたリソースも全て使わざるを得なくなった事により【ミメーシス】はその本質である『自他を同じにする同一化』の特性を最大限に適用した、メイデンとしての強者打破(ジャイアントキリング)の力を宿す“必殺スキル”を発現させたのである。

 ……友人との復縁を果たし頼りになる兄姉がいる今の<マスター>ならば、己の本質の暗い部分──『何故誰も私と同じになってくれないのか』という負の感情の一端を具現化した必殺スキルと向き合っても大丈夫だと考えて【ミメーシス】はその進化を許容したのだ。

 

 

 ◇

 

 

『◼️◼️◼️『◾️◾️◾️◾️『■■■『⬛️⬛️⬛️……』

 

 先程の最終奥義ですら排除対象が消えていない事を知った【バイオハーデス】だったが、それでも特に動揺する事無く──そもそも動揺する様な精神では無い事もあって引き続き対象を排除する為、根や枝を操作してその周辺に再び自身でもある木々を生やし対象を包囲しようとしていた。

 ……それは損耗した排除対象を包囲して倒せればそれで良し、それが無理なら足止めしつつ再びの【デッドリー・ワールドエンド】か別の上級魔法を叩き込めば良いという考えであり……。

 

「《フリーダム・ランパード》!」

「全員やる事は分かってるわね! 一瞬で良いから【バイオハーデス】を引きつけるわよ! 《光炎の矢》!」

「《足引きの呪縛域(ディーセライセーション・ゾーン)》最大展開!」

「《悟りし者の御業(ソウル・コントローラー)》効果時間圧縮強化! 《催眠暗示:混乱》!」

『■■■『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Curse Bullet》『《Curse Bind》『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Curse Bullet》『《Curse Bind》』

 

 故にエレベーターの様に地下からせり上がらせた【パラスアテナ】に乗った<マスター>達が自身に攻撃を仕掛けてきた時も、ただ機械的に彼等を対象に全方位からの下級スキルによる一斉攻撃による足止めからの上級魔法の使用準備に取り掛かったのだ。

 

「ミュウちゃんを対象に《ダメージコンバート》! これでダメージは私が引き受けるわよ!」

『《ハイ・キネティック・レジスト》……残りMPから効果時間は短いが物理耐性はこれで良しじゃ』

「《ホーリー・ブレッシング》……呪怨系もこれで良し」

「ありがとうございます……姉様、ステータスをお借りします」

『《天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》! STRとAGIを同一化!』

『オッケー、道中は壁になるよ!』

 

 だが、この時【バイオハーデス】は真っ先に出て来て自身へと戦闘行為を行ったメンバーへの攻撃を優先してしまったが故に、その少し後ろで反撃の要であるミュウに可能な限りのバフを掛けていたメンバーへの対応が遅れてしまったのだ。

 ……そうして残されたリソースで可能な限りのバフを掛けられたミュウは、進化により()()()()()()()()()()()()()()()()()()()固有スキルで物理ステータス特化であるミカの4000に迫るAGIと一万を優に超えるSTRを自身に写し取った後、彼女と共に全速力で【バイオハーデス】に向けて突撃した。

 

『■■■『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Curse Bullet》『《Curse Bind》』

「遅い上に数が少ないですね、これなら突破は容易です」

『私も居るしね! 普段はやらないけど今回はタンク役!』

 

 当然【バイオハーデス】は向かって来たミュウとミカにも攻撃を仕掛けていくが、それらの遠距離攻撃はクロードのスキルによって大きく減速している上、先のひめひめの狙撃やアリマの精神汚染などによって攻撃を行う木々が減っていたのでこの時だけは彼女達の進行を阻害出来るだけの物量を出せない。

 加えてそれらの攻撃も前に出たミカが【ドラグテイル】の強度と【クインバース】の状態異常置換を頼りに壁となった事で後ろのミュウには届かなかった。

 

『■■■■……』

「遅い! ……触れましたよミメ!!!」

『ああやろう!!!』

 

 そうして皆の働きによって出来た一瞬の隙を突き、彼女は強化されたSTRによる踏み込みとAGIによる機動を組み合わせた移動術で一気に【バイオハーデス】である一本の木々へと接近してそれに触れ……相手が何かをするよりも早く必殺スキルを発動させた。

 

「『《汝は正しく我を模倣せよ(ミメーシス)》!!!』」

 

 そうして彼女達のその宣言の直後、ミメとの融合によって桃色に染まっていたいたミュウの髪と目の色が元の茶髪と黒目に戻り……それと同時に<サウダーテ霊林>を侵食していた【バイオハーデス】が使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その動きを止めたのだ。

 

『■■■⁉︎『◼️◼️◼️◼️◼️⁉︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⁉︎『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⁉︎』

「成る程、自分の身体を動かすのも植物操作のスキルによるものでしたかね? ……だとすればどれだけ喚こうがもう貴方は何も出来ませんよ。何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 自身が持っていた筈の《冥樹侵食・屍界拡大(ハデス・ハザード)》や《魔力集束賦活》などの数多のスキルが()()使()()()()()()()()、更にはそれぞれ一千万を超えていた筈のHP・MP・SPが各()()()()()()()()()()()()()()()()事に気が付いた【バイオハーデス】は何がどうなっているのか分からず混乱しながら喚くが、それを見ている“ミメーシスとの融合が解除された”ミュウは悠然とそう言い放った。

 そう、これこそが彼女達の必殺スキル《汝は正しく我を模倣せよ》の効果──『【ミメーシス】を条件を満たした対象一体に強制憑依させ、ミュウの元々のステータス・スキル・耐性をその対象に上書きして同一のものにする』効果なのだ。

 

『⬛️⬛️⬛️! 『■■■■! 『◾️◾️◾️! 『◼️◼️◼️◼️! 『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!』

「ふむ、初めての必殺スキルで効果の程は不安でしたが、少なくとも古代伝説級<UBM>であれ解除不可能な様ですね。……まあ、今のスキルとステータスが()()()()()()になっているのですから然もありなんですが」

 

 これが《汝は正しく我を模倣せよ》の最も恐ろしい部分……ミュウと同じステータスとスキルに上書きされるが故に、元々持っていた<マスター>や<UBM>を強者足らしめる各々の固有スキルが完全に使えなくなってしまう所なのだ。

 ……必殺スキルとはその<エンブリオ>の集大成。だからこそ“相手を自分と同じ領域に引きずり降ろす”このスキルは『模倣と同一化』を能力特性とし『相手と同じ能力であればマスターの技量があれば勝てる』という意味での強者打破の性質を有する【ミメーシス】の“必殺”に相応しい強力なスキルだと言えるだろう。

 

「まあ、今現在だと効果時間は十分程なので、余り悠長にはしていられませんが……」

『つまり後はカンストティアン程度のスペックになった<UBM>を殴り倒す簡単な作業って事だね! 《インパクト・ストライク》!!!』

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⁉︎』

 

 そうして初の必殺スキルが問題なく通用していると確認出来たミュウが必殺スキルの時間切れ前に仕掛け様とした時、未だにハイテンションが続行しているミカが全力で【バイオハーデス】である木の一本に殴りかかり……その一撃は殴った木を砕いて【バイオハーデス】のHPを僅かに減らしたに留まった。

 

『……アルェ〜?』

「むむ、ステータスは確かに私と同じになっている筈なのに……?」

『おそらく体積=HPだから減った体積分しかHPが削れんだけじゃろ。スライムとかのコレはスキルではなく生物としての“生態”じゃからな』

「《液状生命体》ってスキルもあるがソレが無くなってもスライムがいきなり固体になる事は無い、或いは生態に纏わるスキルは完全に消せる訳じゃ無いとかか……その辺りは後日検証が必要だな」

 

 その結果に疑問を抱く二人に答えたのはレントとネリルだった……まあ、元々のステータスとスキルと耐性を同一化させるだけであり、生物としての生態や体積が変動する訳では無いのでしょうがないのだが。

 

「じゃあ結局この森を全部伐採しないと倒せないのでは……間に合いませんよ」

「いや、HPの最大値が減ってるのは確かなんだから、HPを直接減らす固定ダメージか状態異常なら削れるんじゃないか? ……そういう訳で固定ダメージ【ジェム】をどーん」

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎!?』

 

 それを聞いて少し不安がるミュウに対してレントは軽い調子で答えながら適当な木に500程の固定ダメージを与える魔法が篭った【ジェム】を投げつけると付近に存在した【バイオハーデス】がごっそりと消え去ったのだ……これがHP=体積故に減らされたHPと同じ割合の体積分【バイオハーデス】の肉体が吹き飛んだ結果起こった現象である。

 ……それを見たレントは予想通りだと頷き、同じくそれを見た他のメンバーもこぞって【バイオハーデス】への固定ダメージ攻撃を仕掛けた。

 

『成る程! ここは折角買った【高濃度除草剤】の出番だね。喰らえー!』

「確か【吸命】の状態異常にする【吸命牙の矢】を買ってあったかしら」

「闇属性にも固定ダメージ魔法があったな……だがもうMPが……」

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⁉︎』

「あ、HPを回復して……? ……そういえば私【僧兵(モンク)】の自己回復スキル持ってました」

「でも低級の回復魔法じゃ木をいきなり生やすって訳にもいかないみたいよ。HPだけが減ったのと傷痍系状態異常を治すなら後者の方が手間取るし」

 

 だが、薬品や矢による【枯死】【吸命】の状態異常はこれまた大質量によって効きが悪く、固定ダメージ魔法が使えるクロードもMPが足りず、更には自身の使えるスキルを把握した【バイオハーデス】がミュウも覚えている自己回復魔法まで使い始めた事でダメージを稼ぎ難くなっていた。

 

「どうしましょう兄様! このままだと時間切れですが!」

「……安心しろ問題ない、準備は整ったしな。ネリル」

『うむ、対アンデッド用聖属性固定ダメージ魔法《光の裁き(パニッシュメント)》、準備完了じゃ』

 

 折角の必殺スキルなのにこのままでは無意味に効果時間を終了すると思って焦り始めたミュウに対して、レントは落ち着く様に声を掛けながら掌の上に光輝く小さな十字架──ネリルがたった今開発した対アンデッド用固定ダメージ魔法を浮かべながら手近な【バイオハーデス】へと近づいて行く。

 

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!』

『しかし、今のワシの残り魔力ではHPを完全に削るには少し足りんかの……と言うわけで主人殿、スキルとしては登録したでな』

「ああ……《仮想奥義・神技昇華(イミテーション・ブリューナク)》【暗黒騎士(ダークナイト)】のレベルを40消費してコイツへ」

 

 その十字架を見た【バイオハーデス】は『それが自分を滅ぼすモノである』と判断してどうにか抵抗しようと叫び声を上げるが、体術系のスキルが殆どなミュウの能力を上書きされているせいで文字通り“手も足も出ず”、レベルを捧げた事で更なる輝きを放ち始めた十字架を持ったレントが向かってくる事に対して何も出来ず……。

 

「じゃあさようなら……《光の裁き(パニッシュメント)》」

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……!!!』

 

 その光輝く十字架が木の幹に押し付けられると同時に発生した二十万以上の固定ダメージが【バイオハーデス】の現在のHPを跡形もなく消し飛ばし、それによって<サウダーテ霊林>を半径数キロにまで侵食していた全ての【バイオハーデス】の身体も跡形も無く消滅して光の塵となったのだ。

 

【<UBM>【冥樹屍界 バイオハーデス】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【ミュウ・ウィステリア】がMVPに選出されました】

【【ミュウ・ウィステリア】にMVP特典【霊樹冥冠 バイオハーデス】を贈与します】

 

「……おや、トドメを刺した兄様では無く私がMVPですか。……まあ今はとにかくお疲れ様でした、ミメ」

 

 そんなアナウンスの内容に少し驚いたミュウだったが連戦の疲れもあってスルーしつつ、必殺スキルの代価として『24時間の休眠状態』となった【ミメーシス】を労わるように自身の“手を取り合う二人の少女”の紋章を優しい表情で撫でたのだった。




あとがき・各種設定解説

汝は正しく我を模倣せよ(ミメーシス)》:【模倣天女 ミメーシス】の必殺スキル
・発動条件である『対象との最低五分の戦闘時間』は対象の能力と【ミメーシス】の到達形態及び末妹のステータス・スキル数次第で五分以上になる事があり、今回の【バイオハーデス】相手では十五分以上の時間が必要だった。
・要するに対象がどれだけ弱くても最低五分は戦闘する必要があり、対象の実力が一定以上ならそれと自分の能力に応じて必要時間が延長される感じ。
・もう一つの条件である『対象との接触』は直接では無く保持している装備への接触でも問題無く、<マスター>の半身である<エンブリオ>とかの場合は独立したガードナーなどに触れても本体である<マスター>にまで憑依されて効果が及ぶ仕様。
・能力の同一化に関しては基本ステータスとHPなどの場合は最大値が反映される形であり、お互いに装備の効果やバフ・デバフなどは基本的に反映されない。
・ただし、HP・MP・SPの最大値を減らす・基本ステータスそのものを削る・スキルを一時的に失うなどの特殊な効果の場合は、それによる末妹側の効果が対象に及ぶ事もある。
・対象に末妹のスキルが上書きされた場合、元々持っていたスキルは無かったものとして扱われて効果も消えるが、一部生態に纏わるスキルの効果は僅かに残る事もある。
・具体的にはスライムの《液状生命体》の場合は無くなってもいきなり液体スライムが個体に変わる事はないが、物理攻撃無効などの効果が正しく働かなくなると言った感じ。
・効果時間である十分が過ぎるか憑依した対象の死亡(蘇生可能時間経過含む)すると、憑依していた【ミメーシス】は紋章の中に強制収納されて24時間休眠状態になり、当然その間末妹は【ミメーシス】のスキルを一切行使不可のデメリットを課せられる。
・かなり仕様が複雑なスキルなのでまだ妹やミメも正確には効果を把握しておらず、今後時間を見て使っていき色々と検証しようと思っている。

末妹&ミメーシス:進化&MVP
・第五形態への進化の際に《天威模倣》《転位模倣》のスキル対象が『敵のみ』から『敵味方問わない効果範囲内の対象一体』に変更された。
・また《攻撃纒装》の方もストックが一つ増えて七つになり、更にストック使用後のストック使用不能時間が『五分間』から『ストックしたスキルに応じた可変式』に変更された。
・具体的には弱いスキルをストックした場合はすぐにストックが再使用出来る様になって手軽に使える様になり、強すぎるスキルだと大幅に使用不能時間が増える代わりに五分間固定の時と比べてスキルの再現率が上がっている。
・これまでの経験から使い難くて余り役に立たなかった固有スキルを大幅に使いやすくした形だが、必殺スキル習得と合わせて今まで余らせていた進化時のリソースをほぼスキルの方に振ったのでステータスはほぼ上がっていない。
・獲得した特典武具の詳細は次回。

妹:【バイオハーデス】討伐RTA成功
・今回は微妙に曖昧な“直感”に従って乱数調整しながらランダムイベント(末妹の緊急進化)を狙ってたので実は相当疲れており、その反動で途中から変なテンションになってた。

【冥樹屍界 バイオハーデス】:メタ能力をその場で獲得されて撃破された。
・分体を作るのでは無く全て本体であるタイプで、肉体も樹木操作スキルで動かしていたので末妹の必殺スキルがブッ刺さった(そうなる様に進化したとも言うが)
・また末妹がMVPになったのは彼女が条件特化型としての真髄であるスキルとステータスを封じた事以外にも、HPを全損させた兄と最も強い部位を消滅させたひめひめの二人でダメージ面での貢献度が分散した所為でもある。
・ちなみに撃破後は侵食された森やモンスターも全て本体扱いで一緒に消滅したので、<サウダーテ霊林>深部は草木一つない荒れ果てた荒野になった模様。


読了ありがとうございました。
九十話超えてようやく末妹の必殺スキルお披露目ということで、つい筆が乗って文字数が多くなってしまった件。


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彼女達のリザルト

 □自然都市ニッサ・冒険者ギルド 【魔導拳(マジック・フィスト)】ミュウ・ウィステリア

 

「……はい、そういう訳でどうにか【バイオハーデス】は倒して来たのでクエスト達成です。お疲れ様でした」

「いやいやちょっと待って下さい! 本当に倒したんですか⁉︎」

「本当ですよ。ほらこのサークレットが特典武具です」

 

 事実を告げたらめっちゃ動揺し出したペルシナさんに対して、私は獲得して頭に付けていた木製のサークレット──【霊樹冥冠 バイオハーデス】を見せて私達の報告が真実だと証明しました……私達が【冥樹屍界 バイオハーデス】を倒した後、その肉体になっていた森が纏めて跡形も無く消えた所為で<サウダーテ霊林>の一部が荒野となったりしましたが、流石にそれは私達ではどうにかなる問題では無いのと、先に【バイオハーデス】の討伐報告をすべきという意見が出たので私達はニッサ辺境伯領にまで戻ったのです。

 ……それで今は冒険者ギルドで何やら慌ただしく作業をしていたペルシナさんとその隣で浮かぶシズカさんを見つけて、こうして【バイオハーデス】撃破の報告をしていたのですが……。

 

「まあ、ちょっと報告が遅かったわねー。私達全速力でここまで戻って来てから、直ぐに冒険者ギルドなどを介して古代伝説級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>の発生を領主を始めとするニッサ全体に伝えた直後だったから」

「「「……あー……」」」

 

 成る程、道理で冒険者ギルドに様々な人が居て慌ただしくしている訳ですね……実際、<サウダーテ霊林>全てを侵食しかけていた【バイオハーデス】はあそこで倒せなければ更に酷い事になっていたでしょうし、その脅威をいち早く伝えるのは当然必要でしょうから。

 ……そうして事情を聞いたニッサ側は党首の娘さんが卒倒しながらも領内の騎士団や様々なギルド、更に王都にまで使いを出して自分達の窮状を知らせながら、領内の<マスター>にまで声を掛けて大規模な【バイオハーデス】討伐隊を結成しようと動いていた……所で私達が『【バイオハーデス】討伐しちゃいました! テヘペロ!』とか言っちゃった訳ですか。これは気まずい(苦笑)

 

「……それで本当に倒したんですよね? いや、皆さんの発言に対して《真偽判定》が反応しないのは分かってますし、犠牲なく<UBM>が討伐されたならそれに越した事は無いんですが……」

「本当ですよ。なんなら特典武具の詳細でも見せましょうか?」

 

 多分、事態の急展開の連続でまだちょっぴり混乱してる感じのペルシナさんを落ち着かせる意味もあって、私は獲得した特典武具の方の【バイオハーデス】のステータスを見せる事にしました。

 ……ちなみに急いで戻って来たので特典武具の詳しい能力とかは説明してなかったからか、姉様を始めとする他のメンバーも覗き込んで来ましたけどまあ良いでしょう。それではお待ちかねのスペック表はこちらなのです。

 

【霊樹冥冠 バイオハーデス】

古代伝説級武具(エンシェントレジェンダリーアームズ)

 凡ゆる生物を自らに同化させる冥樹の概念を具現化した至宝。

 自身と周囲の魔力を純粋な力に変換すると共に、装着者の致死の負傷を肩代わりする。

 ※譲渡売却不可アイテム

 ※装備レベル制限なし

 

 ・装備補正

 なし

 

 ・装備スキル

 《霊樹の万器》

 《冥冠の加護》

 《デッドリー・ワールドエンド》

 

 ご覧の通り装備補正こそ有りませんが、その分だけ保有する三つのスキルはどれもが非常に強力なのです。

 まず第1スキル《霊樹の万器》は周辺の自然魔力を自動収集、或いは任意で装備者のMPを込める事で魔力を蓄積し、装備者のHP・MP・SPを使うスキルの使用時に蓄積した魔力を代わりに消費して使う事が出来るというものでした……『蓄積するのが魔力(MP)なのにHP・SPの代替も出来るとか強すぎる』『この手の蓄積系は魔法使い垂線のアイテムじゃしのう』とは兄様とネリルの言葉でした。

 そして第2スキル《冥冠の加護》は装備者が致死のダメージを受けた時、代わりにその分だけ蓄積した魔力を消費する事でダメージを無効化するという【救命のブローチ】とほぼ同等の身代わり系スキルでした……最もあちらと同じで一度使えば24時間のクールタイムが課せられますが。

 最後の第3スキル《デッドリー・ワールドエンド》は多分あの時に【バイオハーデス】が使って来た砲撃がベースっぽいスキルで、蓄積した魔力と装備者のHP・MP・SPの()()()を任意で消費して闇属性・呪怨系複合の魔法砲撃を撃つスキルみたいですね……まだ使ってないので詳細は分かりませんが、消費したHP・MP・SPの最大値は24時間で回復する代わりにその間は【バイオハーデス】の機能そのものが停止するデメリットがあるみたいです。

 

(改めて見ると《霊樹の万器》は《模倣》系のコスト確保の為、《冥冠の加護》は《纒装》で攻撃を受ける時があるから、《デッドリー・ワールドエンド》は多分必殺スキルとの併用が前提でのアジャストですかね。本当にそうなるかは分かりませんが自分の最大HPを下げると共に相手のHPも下げて、そこに大出力の対生物特化闇属性攻撃を撃ち込むハメ技が出来るかもです)

「確かに古代伝説級の特典武具ですね、間違いなく。……手間を掛けさせてすみません。ではこれから領主や各ギルドの面々や集まった<マスター>含む人々に事情を説明して来ますので、本当に申し訳ありませんが皆さんも事情を説明して頂けると……」

「まあそこはしょうがないわね……疲れてるだろうけど、もうちょっと頑張りましょ」

 

 そうして私達はペルシナさんと一緒に【バイオハーデス】の討伐完了を色々な人に説明する事となったのでした……まあ、正直言って私達では討伐出来るとは“姉様以外”思っていなかったでしょうから、色々とごたつくのは仕方ないですけどね。

 

 

 ◇

 

 

「……あー、やっと一息つけるよー……」

「思ったよりも説明に戸惑ったな」

「お疲れ様でした、皆さん」

 

 そういう訳で諸々事情を領主さんとか各ギルドマスターに説明したり【バイオハーデス】討伐時の様子や<サウダーテ霊林>の現状を説明したりする事大体二時間ぐらい、外も暗くなり始めた辺りで私達はようやく説明を終えて解放されたのでした。

 ……まあ、特典武具と《真偽判定》のお陰で【バイオハーデス】の存在とそれを討伐した事自体は信じて貰えましたし、領主さんや各ギルドマスターなどのティアン勢からは感謝されましたけど、集まった<マスター>達は『デンドロ初のレイドイベントだと思ってたら既に終わっていた件』『特典武具羨まC!』『超スピードとかそんなちゃちなもんじゃ無い、もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ』『只のフカシじゃね?』などと少しだけ騒ぎになったりしましたが、別に何か損害を被った人は居なかったので『なんだ、誤報か』という感じでそのまま解散しました。

 

「しかし、古代伝説級の<UBM>を倒したのに懸賞金とか貰えないのか。【ドラグリーフ】の時は結構貰えたのに」

「そもそも『<UBM>への懸賞金』自体が<UBM>による人的被害が出た場合、早急に討伐する為にギルドや国や領主や被害者が積み立てる感じで出来てるからな」

「つまり被害を出してなかったり、人里離れた場所で突発的に現れた<UBM>を倒しても懸賞金はそもそも掛からないという事よ。【ドラグリーフ】の時も【プラントドラゴン】の大量発生があって懸賞金が掛かってたからだし」

「ええと、一応【ハデスブランチ】の方には懸賞金が掛かっていましたが……」

「討伐したのは【バイオハーデス】なんですが大丈夫なのですか?」

 

 実の所【バイオハーデス】が【ハデスブランチ】を取り込んだというのは状況から考察された推測でしか無いのではとも思いましたが、私達が【バイオハーデス】を討伐したのとほぼ同時期にペルシナさんが持っていた【比翼の羅針盤】──今までずっとハイデス氏だった【ハデスブランチ】指し示していたそれの反応が途絶えたので十分な証拠になるだろうとの事。

 ……問題は懸賞金を掛けていたのは()()()()()()()()死霊術師ギルドが中心となった各ギルドや議会なので、受け取りたければレジェンダリアまで行く必要があるという事です。特に特典武具持ってる私は。

 

「すみません、流石にギルドでの積立金までは持ってくる事は出来なかったので、お手数をお掛けしますが」

「私は別にレジェンダリアに行くのも構いませんよ。アリマちゃんと一緒に居られるのは嬉しいですし。……兄様達は?」

「俺も特に問題無いが……ミカはどうする? 例の件(超級職)とかもあるだろ」

「そっちは多分大丈夫な気がするし、最悪お兄ちゃんに頼るから。私もレジェンダリアに行くよ」

「よーし決まりね! せっかくだから私達が案内するわよ!」

 

 そんな訳で私達は急遽予定を変更して報酬を受け取る為にレジェンダリアまで行く事になったのでした……最もペルシナさんはニッサ側の領主などにまだ幾らかの説明や事後処理の手続き諸々が残っているので、レジェンダリアへの出発はもう少し後の事になるでしょうが。

 私的には他国に行くのは初めてなので少し楽しみですし、アリマちゃんも『ミュウちゃんともっと一緒に居られる』と嬉しそうにしていたので私も嬉しくなりましたが、ふと見るとペルシナさんが物憂げな雰囲気で溜息を吐いていました。

 

「あー……ごめんねー、ペルシナちゃん。『今度は師匠を止めるのに間に合わせてみせる』って言ってたのに【バイオハーデス】……【ハデスブランチ】との決着に連れて行けなくて」

「…………いえ、皆さんの話を聞く限り私がその場に居た所で足手まといにしかならなかったでしょうから。……それに、もう師匠が残したモノが災いを呼ばなくなったのならそれで十分です」

 

 シズカさんの慰め言葉に対し、ペルシナさんはそう言って笑みを浮かべてはくれましたが……ああ、姉様がちょっと気まずそうに視線を逸らしていますね。

 でも実際【死霊術師(ネクロマンサー)】の彼女がいても展開された聖属性特化《魂の森(ソウル・フォレスト)》でほぼ役に立たなかったでしょうし、姉様が無理に遠ざけたのなら多分()()()()()()()()()って事なのでしょうから仕方のない事だと思いますが。

 

「まあ、人間生きていれば後悔を背負ったままだろうと“先”はあるものよ。私は幽霊だけど(笑)」

「……そうですね。……改めて皆さん、今回は師匠が生み出してしまった<UBM>を大した犠牲もなく討伐して頂いて本当にありがとうございました。お陰でこれ以上【冥王】ハイデスの名前が穢されずに済みました」

 

 ……まあ、こうして誰も死なず大した犠牲や被害も出ずに【バイオハーデス】との戦いを乗り越えられたのならそれで十分なのでしょうと、目の前で例を言うペルシナさんを見て私はそう思いました。願わくば【冥王】ハイデス氏の魂に安らかな眠りがあらん事を……。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■??? 

 

【鉄工刃鬼 ジンオーガ】

 最終到達レベル:61

 討伐MVP:【雷忍(サンダー・ニンジャ)】退魔・忍 Lv100(合計レベル:500)

<エンブリオ>:【迅雷薄衣 ヤクサイカヅチ】

 MVP特典:伝説級【錬鉄双刃 ジンオーガ】

 

【漂白病粘 ルーゴサイト】

 最終到達レベル:53

 討伐MVP:【竜騎兵(ドラグナー)】メアリ・ボニー Lv68(合計レベル:418)

<エンブリオ>:【純水飲竜 アポピス】

 MVP特典:伝説級【白病水砲 ルーゴサイト】

 

【殲葬鉄竜 メタルドライガー】

 最終到達レベル:75

 討伐MVP:【戦車操縦士(タンク・ドライバー)】ジョージ・グレン Lv95(合計レベル:495)

<エンブリオ>:【憑器巫女 ツクモガミ】

 MVP特典:古代伝説級【換装機竜 メタルドライガー】

 

【兜防愚 ビートレス】

 最終到達レベル:32

 討伐MVP:【呪槍士(カースド・ランサー)】シュバルツ・ブラック Lv86(合計レベル:436)

<エンブリオ>:【滅神呪槍  ミスティルテイン】

 MVP特典:逸話級【愚防手甲 ビートレス】

 

【冥樹屍界 バイオハーデス】

 最終到達レベル:82

 討伐MVP:【魔導拳(マジック・フィスト)】ミュウ・ウィステリア Lv100(合計レベル:500)

<エンブリオ>:【模倣天女 ミメーシス】

 MVP特典:古代伝説級【霊樹冥冠 バイオハーデス】

 

「……ふむ、予想よりも早く<マスター>のみの手で古代伝説級<UBM>を討伐する事例が出始めているか。地球の<マスター>の成長は予想以上だな、喜ばしい誤算だ」

「いやいや、この時期に出るには割とやばい<UBM>だったからねー。()()()()()()()が暴走した【メタルドライガー】とか、伝説級<UBM>を取り込んで成長速度が異常な【バイオハーデス】とか」

 

 管理AI達が住まうとある場所で<UBM>の討伐記録を見て笑みを浮かべるジャバウォックに対して、自分が活動している王国でヤバめの<UBM>が出たと聞いて確認しに来たチェシャがツッコミを入れた。

 

「だが、結果的に被害は最小限で討伐されているのだし問題は無かろう。加えてこの二つの古代伝説級との戦いの中でそれぞれのMVPはメイデンの緊急進化を発動させて勝っているのだから、<超級>を揃えると言う我々の目的にも十分意味のある結果だった。……それに戦いの顛末も十分に英雄的(ヒロイック)な物だったしな。<UBM>製作者冥利に尽きると言うものだ」

「……まーそうなんだけどねー」

 

 実際、この二体の古代伝説級はデータを見る限りだと偶々居合わせた<マスター>達によって最小限の被害で討伐されているので、チェシャもそれ以上は何も言わなかった。

 

「しかし、既に古代伝説級すら討伐出来る<マスター>が出始めているとなると、次のハロウィンイベントで隠しボス扱いとして投下予定の<UBM>ももう少し強化しておいた方が良いか? せっかくのイベントボスがあっさりと討伐されても拍子抜けだろうし、期間限定モンスターを配置する初のイベントだからもう少し煮詰めておくか」

「いや、ハロウィンイベントは僕達がポップさせたモンスターを倒して期間限定アイテムを手に入れるのがメインのイベントだからねー。それにこっちでもイベントまで後一カ月ちょっとしか無いんだからさー」

 

 それでも内心『ジャバウォックが煮詰めると変なヤツ(<UBM>)が出来上がる時がままあるんだよなぁ』と思っているチェシャは(多分無駄だろうと考えつつも)次のイベントで()()()()()()様に釘を刺しておくのだった。




あとがき・各種設定解説

【霊樹冥冠 バイオハーデス】:古代伝説級特典武具
・形状は黒い枝が複雑に絡まって出来たサークレットで額部分に紫色の葉っぱを模した装飾が付いていて、防御力は無いものの古代伝説級特典武具として強度は頭突きをしても壊れないぐらいに頑丈。
・装備補正は特典武具としては貧弱だが、装備スキルにデンドロに於ける二大強効果である『コスト蓄積』と『身代わり』を兼ね備えているので超強い。
・第一スキル《霊樹の万器》で自身のMPを込める効果の使用後、それを再度使用してMPを込める為には一時間程のクールタイムがある。
・第二スキル《冥冠の加護》起動時に肩代わりする魔力が足りなかった場合は、魔力を全て消費した上でその超過分のダメージを受ける。
・第三スキル《デッドリー・ワールドエンド》のコストとして支払われる最大HP・MP・SPは一割刻みで最大九割まで、付随する呪怨系状態異常は数十種類の中からコスト一割につき一つランダムで選ばれる。
・《デッドリー・ワールドエンド》発動後の最大HP・MP・SPの回復は【バイオハーデス】の機能を停止する代わりに24時間掛けて行われているので、その間は【バイオハーデス】を装備変更する事も出来ない仕様。

ペルシナ:本懐は果たせなかったが納得はしている
・この後は色々とモヤモヤする気持ちを抱えながらも、それを吹っ切って前に進むために師が自分に残してくれた『死霊術師としての道』を邁進する模様。

三兄妹:この後レジェンダリア行き
・実の所、妹の“直感”は『自身に訪れる危険、或いは他者に訪れるものでそれによって()()()()()()()()危険』を感知、それに対する最も効率的な対処法を示すモノ。
・そしてかつて事故で両親を失った妹の気質的に“直感”が示すルートは徹底的に生命の犠牲を少なくする事が多くなっており、今回の事例の様に『個人の心情を切り捨ててでも犠牲を最小限に抑える』道筋を示す事も多々ある。
・妹とその事情を理解している兄と末妹は犠牲を減らす為なら個人の心情を容赦なく無視する事も辞さず、基本的に『大多数の最善である次善』を目指す事が多い。

管理AI達:イベント準備で忙しい
・流石に時間が無いからイベント用<UBM>の強化とか無理だろ! とモンスター担当のクイーンから文句が出たので、ジャバウォックも()()()強化を行わず投下地点の変更による難易度増加や通常のイベントボスモンスターの追加で手を打った模様。


読了ありがとうございました。
尚、前書きの『妹』は本編には特に関係ないメタ世界の存在なのであしからず。


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間章 様々な掲示板/色々な短編
ダンジョンスレ/超級職の試練


 □◾️地球 とある掲示板

 

 

 ◇◇◇

 

 

【自然ダンジョン】<Infinite Dendrogram>ダンジョン情報スレ43【変化が激しい】

1:名無しの大探索者[sage]:2043/10/19(月)

このスレは<Infinite Dendrogram>のダンジョンに関する情報を書き込むスレです

ダンジョン内でのモンスターの目撃情報・獲得アイテム・ダンジョンの内部構造・質問などご自由に

荒らしはスルー推奨

 

 

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350:名無しの紅蓮術師[sage]:2043/10/19(月)

近場の自然ダンジョンに<UBM>が現れたと聞いて街が戦力を募集してたから参加したが

準備を終えた時に「<UBM>は既に別の<マスター>によって倒されました」と言われた件

 

 

351:名無しの高位召喚術師[sage]:2043/10/19(月)

まあタイミングを逃すのは良くある事かな?

 

 

352:名無しの高位書士[sage]:2043/10/19(月)

>>350

だが、<UBM>の討伐街が戦力を募集する程と言う事は相当に危険度が高い相手なのだろう?

<UBM>相手だと下手に手を出すと危険だから普通は懸賞金を掛けるぐらいなんだが

 

 

353:名無しの水忍[sage]:2043/10/19(月)

<UBM>相手に討伐隊が編成されるのは放置するデメリットが戦いを挑むデメリットを遥かに上回る場合だけだしな

ちょっと前の【ゴブゾード】戦みたいにゴブリンの国を作って街に侵攻して来たりとか

 

 

354:名無しの大探索者[sage]:2043/10/19(月)

そもそも自然ダンジョンに発生した<UBM>は大体そこに住み着いて出てこないから

基本的に街とかへの危険度は低い筈なのだが……追加情報早よ

 

 

355:名無しの高位祓魔師[sage]:2043/10/19(月)

>>350のパーティーメンバーだけどその<UBM>が現れたのはアルター南の<サウダーテ霊林>ってとこ

お隣のレジェンダリアみたいに自然魔力が濃くて独自の生態系を構築してたから自然ダンジョン認定された場所

 

 

356:名無しの装甲操縦士[sage]:2043/10/19(月)

隣の国の環境が限定的に再現されてる自然ダンジョンだな

国境付近の地域には稀に良くあるやつだ

 

 

357:名無しの霊道師[sage]:2043/10/19(月)

稀に良くあるとは一体?

まあ黄河の東の果てには天地系ジョブに付けるクリスタルがあるって話は聞いたが

 

 

358:名無しの紅蓮術師[sage]:2043/10/19(月)

アルター南のニッサでもレジェンダリア要素がある【竜騎士】とか【精霊術師】に就けるけど

より専門的な上級職とかのご当地系ジョブは無理って感じだったな

それより話の続きだが現れた<UBM>は古代伝説級【冥樹屍界 バイオハーデス】ってヤツだったらしい

 

 

359:名無しの大戦士[sage]:2043/10/19(月)

古代伝説級はマジでヤバイ

俺も【ドラグエッジ】って言う古代伝説級竜王に瞬殺されたことあるし

 

 

360:名無しの高位祓魔師[sage]:2043/10/19(月)

実際討伐したパーティーの人達に話を聞いた限りでもかなりヤバそうだったし

具体的には発生から数十分で自然ダンジョン深部の森を数キロに渡って侵食して自分の身体にしたとか

 

 

361:名無しの紅蓮術師[sage]:2043/10/19(月)

何でも周囲の自然魔力を吸収して近くの生物を植物系アンデッドに変更して融合吸収増殖してたらしい

加えてスライムとかと同じコアの無いタイプで変質した森を全部倒さないと仕留められないとか

質量が増える度にHPMPSPが増大してそれを使って超級職奥義レベルの魔法を使ってくるとか

 

 

362:名無しの高位召喚術師[sage]:2043/10/19(月)

ホント強い事しか書かれて無いわね、バランス調整ミスった禁止カード(超魔導竜騎士)かしら

自然魔力たっぷりの森林なレジェンダリアに現れてたら更に酷い事になってたわ

 

 

363:名無しの水忍[sage]:2043/10/19(月)

むしろ良くそんなの倒せたな

その<マスター>パーティーって何者なんだ?

 

 

364:名無しの高位祓魔師[sage]:2043/10/19(月)

倒したのはアルターだと複数<UBM>討伐で有名な“怪異殺し”の三兄妹パーティーだな

後レジェンダリア出身の<マスター>パーティー……と何故か幽霊がいた

 

 

365:名無しの大探索者[sage]:2043/10/19(月)

アルターの“怪異殺し”……有名人スレでは<UBM>討伐や特殊な事件を解決している三人とあったが

しかし幽霊? 死霊術師でもいたのか?

 

 

366:名無しの高位召喚術師[sage]:2043/10/19(月)

ああ、幽霊って事は伝説級竜王を討伐したあのパーティーね

確かこの前アルターに行くとか言ってたかしら

 

 

367:名無しの高位書士[sage]:2043/10/19(月)

レジェンダリアの中でも変態では無いのに実力の高いパーティーだとそこそこ有名な彼女達か

ただリーダーはクラン一位のオーナーと仲がいいと聞くが

 

 

368:名無しの高位呪術師[sage]:2043/10/19(月)

>>367

彼女とは志を同じくする同士ですからな

そして2人のロリの心を曇らせていたモヤが晴れたようで実に喜ばしいですぞ

 

 

369:名無しの大戦士[sage]:2043/10/19(月)

つまり<マスター>の中でもやべー上澄み勢のパーティーだった訳だ

それなら古代伝説級も討伐出来るか

 

 

370:名無しの霊道士[sage]:2043/10/19(月)

>>368

え? 一体誰……?

 

 

371:名無しの高位書士[sage]:2043/10/19(月)

バカ触れるな! お前もロリショタになるぞ!!!

 

 

372:名無しの紅蓮術師[sage]:2043/10/19(月)

>>369

まあそのパーティーも初めから【バイオハーデス】を倒す気は無かったって言ってたけど

たまたまクエストを受けてダンジョンに潜ってた時にその<UBM>発生に立ち会って

ヤバすぎる相手だったから同行していたティアンに街への連絡を頼みつつデスペナ覚悟で特効したらしい

 

 

373:名無しの高位祓魔師[sage]:2043/10/19(月)

それでそのティアンの人から事情を聞いた領主や各ギルドマスターは急いで討伐・調査隊を募集したんだけど

その後に街に戻ってきたパーティーが「なんか倒せちゃいました」ってなった感じ

 

 

374:名無しの装甲操縦士[sage]:2043/10/19(月)

はーん、なるほどね

 

 

375:名無しの大盗賊[sage]:2043/10/19(月)

しかしスペック草見るにその<UBM>1パーティー程度で倒せる相手じゃないと思うんだけど

一体どうやって倒したんだ?

 

 

376:名無しの水忍[sage]:2043/10/19(月)

せっかくのレイドボスで集まったのに挑む前に倒されてて草

 

 

377:名無しの紅蓮術師[sage]:2043/10/19(月)

>>375

偶々必殺スキルの一つが上手く弱点をつけて何とか倒せたとか言ってた、詳細は教えてくれなかったけど

後でダンジョンを調査したら深部の数キロが草木一本無い荒野になってたらしいから激戦だった様だし

 

 

378:名無しの高位召喚術師[sage]:2043/10/19(月)

メタが上手くハマれば倒せる事もあるわよね

後、荒野化は森を自身の肉体にした<UBM>が倒されたからかしら?

 

 

379:名無しの大盗賊[sage]:2043/10/19(月)

てか方法は秘密かよ

 

 

380:名無しの高位書士[sage]:2043/10/19(月)

まあ手の内を隠すのは当然だし討伐の証明も特典武具と《真偽判定》があるからな

討伐証明にわざわざ基本詳細を話す必要はないのだ

 

 

381:名無しの機甲戦士[sage]:2043/10/19(月)

でも、せっかくの<UBM>だったのに先に倒されて文句を言うヤツはいなかったのか?

 

 

382:名無しの船長[sage]:2043/10/19(月)

いや、<UBM>なんて早い者勝ちだし文句言ってもしょうがないでしょ

そもそも被害拡大の前に討伐が基本でしょうに

 

 

383:名無しの大盗賊[sage]:2043/10/19(月)

特典武具は盗めないしドロップもしないから倒した後に襲っても意味ないしな

……<UBM>との戦闘中に諸共攻撃してMVP狙いとかはあるけど

 

 

384:名無しの大戦士[sage]:2043/10/19(月)

まあユニーク要素満々<UBM>相手だとそう言うドロドロとしたのもまあ……あるかな

 

 

385:名無しの高位書士[sage]:2043/10/19(月)

やっぱユニーク狙いの<マスター>は怖いな、とづまりしとこ

 

 

386:名無しの霊道士[sage]:2043/10/19(月)

つまり信頼出来る仲間(キョンシー)と共にダンジョンアタックが一番と言う事だな!

 

 

387:名無しの高位召喚術師[sage]:2043/10/19(月)

そうね、信頼出来る仲間(召喚モンスター)と共に行く冒険はいいわね

 

 

388:名無しの司令官[sage]:2043/10/19(月)

えーっと、人間範疇生物は……?

 

 

389:名無しの水忍[sage]:2043/10/19(月)

知ってるか? ダンジョンから出た所でお宝狙いで襲い掛かってくるPKとかもいるんだぞ

……アイテムやMPSPが切れた所で襲いかかってくるのはやめろぉ⁉︎

 

 

390:名無しの高位祓魔師[sage]:2043/10/19(月)

>>381

……実はその後に討伐パーティーを狙った襲撃事件もあったんですけどね

どうもPKが不満を持っていたフリーの<マスター>を焚きつけたみたいで

 

 

391:名無しの紅蓮術師[sage]:2043/10/19(月)

まあ普通に全員返り討ちにされたみたいだけど

俺たちが見た時には1人残った全身鎧のヤツをドラゴンの着ぐるみが一方的に殴り続けていたな

しかも他のメンバーは遠巻きに見てるから実質嬲り殺し

 

 

392:名無しの機甲戦士[sage]:2043/10/19(月)

討伐パーティーがやべーヤツらだった件

 

 

393:名無しの船長[sage]:2043/10/19(月)

<マスター>の中でも上澄み勢は能力か人格か格好かどれかがヤバイですからねぇ

グランバロアでも海を爆発させたり液体黄金召喚とかあるし

 

 

394:名無しの重装戦士[sage]:2043/10/19(月)

そのボコボコに殴られ続けた俺が通りますよっと

いやー<UBM>の討伐パーティーに恥じない実力者達だったな!

 

 

395:名無しの大盗賊[sage]:2043/10/19(月)

うわぁ! なんか出た!

まさかご本人様登場⁉︎

 

 

396:名無しの高位召喚術師[sage]:2043/10/19(月)

掲示板でこういう展開は珍しいわね

それに嬲り殺しにされた割には元気そうだけど

 

 

397:名無しの重装戦士[sage]:2043/10/19(月)

>>396

まあ先にこっちから仕掛けたんだし嬲り殺しされてもしょうがないかなって

せっかく強敵である<UBM>と戦えると思ったのにお預けされたから

代わりとしてPKの口車に乗ってみたけど見事に返り討ちだったよ!

 

 

398:名無しの水忍[sage]:2043/10/19(月)

あー、これウチ(天地)でよく見るバトルジャンキーなタイプのヤツだわ

とりあえず強敵と戦えれば良いってヤツ

 

 

399:名無しの重装戦士[sage]:2043/10/19(月)

機会があれば彼女にはリベンジしたいけどね!

……まあ、俺の鎧を殴り続けていたのには何か理由がありそうだったけど

最後に『これで多少は進んだかな。ご協力ありがとうね』とか言ってたし

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<霊都アムニール>・棍棒士ギルド

 

【装備状態の装備品への与ダメージが五千万を突破しました】

【条件解放により、【戦棍姫(メイス・プリンセス)】への転職クエストが解放されました】

【詳細は戦棍士系統への転職可能なクリスタルでご確認ください】

 

【転職の試練に挑みますか?】

 

【試練の番人を打倒せよ】

【成功すれば、次代の【戦棍姫】の座を与える】

【失敗すれば、次に試練を受けられるのは一か月後である】

 

『……ふふふふふ、フハハハハははははあゲホッ! ゴホッ!! ……苦節デンドロ内時間で四カ月ぐらい、<墓標迷宮>でゴブリンを叩き潰したりPKをちょうど良いサンドバッグにしたり、お兄ちゃんの作ったゴーレムにネリルちゃんが作った耐久値特化の最低限装備と認識される金属鎧を着せて殴りつづけたり! それでようやく【戦棍王】……じゃなくて【戦棍姫】の就職条件を満たしてやりましたよコラァ!!!』

 

 そこはまるで円形の闘技場の様にも見える舞台が設置されている奇妙な空間であり、その一角にある【戦棍姫】の転職試練の内容が書かれた石版の前でドラゴンの着ぐるみを着た少女が異様なハイテンションで叫んでいるので更に奇妙さが増していた。

 ……まあ、上のアナウンスを見れば分かる通りここは【戦棍姫】への転職試練の為の特殊空間で、着ぐるみの少女とはその転職条件達成の為に繰り返した正直あんまり好きではない単純作業をようやく漸く終えてはしゃいでいるミカ・ウィステリアその人であった。

 

『……おっと、いつまでもこうしている訳にはいかないよね。流石にもう一カ月待つとか嫌だし、その間に誰かに超級職取られたらデンドロ引退案件だから気を引き締めないと』

 

 改めて気合いを入れたミカが両手に【ギガース】と【破砕戦棍・四式】を持ったフル装備状態で闘技場へと上がっていくと、その舞台には銀色の光沢を持つ金属で出来た大盾とメイスを両手に持ち同じ色合い全身鎧を着た戦士が立っていた。

 

『さて、あれが石版に書かれていた試練の番人みたいだね。よく見たら頭上の名前も【メイスキング(戦棍王の)トライアルズ(試練)】ってあるし……来るか』

『────』

 

 そうして舞台に上がったミカに対して、それを試練の開始と判断した【メイスキング・トライアルズ】は無言のまま即座に左手の盾を前方に構えながらの突撃を敢行する。

 大型の盾で身を隠しながらAGIに換算して3000程度の速度で突っ込んで来るメイスキングに対し、ミカは一先ずその場で迎え撃とうと両手のメイスを構えた。

 

『《シールドチャージ》』

『……ここっ! 《盾割》《連棍撃》!』

 

 そのまま大盾による体当たりを見舞って来たメイスキングだったが、その攻撃を見切った大盾に向けてミカが【ギガース】でカウンター気味に【砕屋(スマッシャー)】の盾破壊打撃を叩き込み、間髪入れずに【双棍士(デュアル・ストライカー)】のスキルでもう片手の武器でも同じアクティブスキルを大盾に当てて弾き飛ばす。

 ……だが、メイスキングは弾かれた勢いのまま身体を反転させつつ、右手のメイスに雷を迷わせながら更なるカウンターを見舞って来た。

 

『《サンダー・インパクト》』

『それも視えてる! 《竜尾剣》!』

 

 それは大盾を目隠しにして放たれた技だったが、類稀な“直感”を持つミカはメイスを【どらぐている】から伸ばした剣尾で受け止める事で防ぎつつ、感電による【麻痺】に対しては【クインバース】の《インスタント・エンパイア》で防ぐ。

 

『《アームズブレイク》《シールドバッシュ》《インパクト・ストライク》《テンペスト・ストライク》』

『ちぃっ! 《ウェポン・ブレイカー》! 《グランド・インパクト》!』

 

 だが、その攻撃を防がれた後もメイスキングは高い技術(センススキル)でもって様々なメイス系と盾系のアクティブスキルを組み合わせる事で、ミカに対して怒涛の連撃を繰り出して行く。

 それに対してミカは咄嗟に武器破壊を試みるが銀色の金属──高品質なオリハルコン(伝説級金属)で出来た武器はSTR一万を超える彼女と言えど易々とは砕けず、止む無く地面を衝撃波で揺らして足止めしつつ一旦距離を取った。

 

(やっぱり見覚えのあるあの金属はオリハルコンか。私がクエスト報酬でネリルちゃんにお菓子と一緒に貢いで、条件達成の為に今まで散々砕いてきたミスリルより高品質・高強度の。ステータスはSTR8000・AGI5000ぐらいだけどメイス系のスキルレベルと装備品の性能が高い感じ。鎧の性能を合わせると防御力は一万を優に超えてるかな……つまり()()()()()()()()()()()()()()()()相手って事?)

 

 ミカの推測通り、この【メイスキング・トライアルズ】の伝説級金属装備は“それを如何に破壊・突破するか”を試すものであり、有している高レベルのメイス系・防具系アクティブスキルは“自身を上回るメイスの戦技を持っているか”を判定する為──つまりは挑戦者の『武器破壊と衝撃による対人戦に長けたメイスという武器種』の扱いを判定する為の試練として設定されているのである。

 

(さて、ネリルちゃんとかの話を聞くに超級職の試練はティアンが受ける事を前提としてるから、ステ補正がある私なら殴り続けるだけでも多分ギリギリ突破出来る……というか、私はそれしか出来ないんだけど。新しく覚えた()()()()()は大火力が出せるタイプでもないし)

『──ー《インフェルノ・ブレイク》』

『おおっと』

 

 そんな事を考えながらも、ミカは“直感”と高いステータスを駆使してメイスキングの攻撃を凌ぎ続けていく……が、流石に兄や下の妹程の戦闘技巧が無い彼女では回避に集中しながら反撃を見舞うのは難しく、徐々に防戦一方となっていった。

 

『《パラライズ・インパクト》《スタンストライク》《インパクト》』

『うぐぐ、遠慮なく撃ちおって……でも分かってきたかな。コイツは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいだね』

 

 ミカの考え通りメイスキングは前述の理由からメイス系アクティブスキルを積極的に使って挑戦者を攻撃する様にプログラムされている……が、それは挑戦者がメイス系スキルを連撃を掻い潜ってダメージを与えられるかを判定する為であり、途中でSPが切れにくい様に高レベルの《SP自動回復》も有しているので持久戦にも対応している。

 ……最も彼女にとって重要なのは“相手がスキルによる攻撃を主体とする”という点だけだったのだが。

 

『それに私だと回避しながらだとまともな攻撃を当てられないからー……しょうがないし必殺スキルを使って全力で攻撃に集中しようか。ターゲット(脅威対象)【メイスキング・トライアルズ】……設定完了《我は禍ツ神を砕く巨人なり(ギガース)》』

『────』

 

 ……そしてミカは膠着した戦況を動かす為に自身の<エンブリオ>【激災棍 ギガース】の必殺スキルを使い……。

 

 

 ◇

 

 

『ー…………』

『……ふう、やっと倒せたよ。SPもすっからかんだし結構ギリギリだったか』

 

 ……約10分後、舞台の上にはS()P()()()()()()()()()()()H()P()()()()()()()()のミカと、装備していた伝説級武器防具を一通り砕かれて全身を徹底的に殴られた様なダメージを受けて光の塵となって行く【メイスキング・トライアルズ】の姿があった。

 

『……色々大変だったけど、やっと【戦棍姫】ゲットだぜ。……何とかギリギリ今度のハロウィンイベントには間に合ったかな。それに今後訪れる“脅威”相手にも』

 

 そうして試練を達成したミカは自身のステータス欄を見てメインジョブが【戦棍姫】になっている事を確認し、ホッとした様子で一息吐いた……彼女の“直感”が示す所では『今後のデンドロ世界で起こる事件に対しては超級職への就職が必須』となっていたので、一先ず条件を達成出来て安堵しているのだ。

 

『まあ流石に就いただけじゃ何もスキルは覚えてないけど……しばらくお兄ちゃんを頼ってレベル上げかな! 後は掲示板のジョブスレに書き込んで阿鼻叫喚の渦を巻き起こすとか!』

 

 ……まあ、それはそれとしてミカとしても1人のゲーマーとしてユニーク要素をゲット出来た事への喜びもあるので、割とテンション高めになりながら彼女は試練の空間を後にしたのだった。




あとがき・各種設定解説

【大地巨鎧 アンタイオス】
<マスター>:ガイアー
TYPE:エルダーアームズ
到達形態:Ⅳ
能力特性:接地
固有スキル:《チューニング・アーマー》《大地の加護》《代打鎧(ピンチヒット)》《ガイア・インパクト》
必殺スキル:《大地に立つ不屈の巨人(アンタイオス)
・モチーフはギリシャ神話のポセイドンとガイアの息子であり、大地に足が付いている限り無限に復活して強化される巨人“アンタイオス”。
・高い強度・装備攻撃力・装備防御力を持った全身鎧だが、装備した時はアクセサリーと特殊装備品枠以外の両手装備枠も含めた全身の装備枠を消費する。
・《大地に立つ不屈の巨人》は戦闘中に【アンタイオス】がダメージを受ける度に装備攻撃力・防御力が上昇し、更にSTR・END・AGIに対する装備補正が追加・強化されるというパッシブ型の必殺スキル。
・それと大地のリソースを吸い上げて鎧を自動修復するパッシブスキル《大地の加護》や、発動中に自分自身が受けるダメージや状態異常などを鎧へのダメージに変換するアクティブスキル《代打鎧》を駆使してドンドン能力を引き上げながら戦うスタイル。
・だが、モチーフ通りと言うか【アンタイオス】の固有スキルは全て“地面に接地している状態”でのみ発動可能で、必殺スキルも地面から1秒以上離れたら強化が解除されるデメリットがある。
・それ故に妹との戦いでは装備破壊を誘いながら自身の能力を大きく強化してカウンターを狙ったが、“直感”を駆使する妹に攻撃を中々当てられず、更に大地のリソースを吸収している事をネリルに見破られて重力反転魔法で宙に浮かされてあっさり強化を解除されてボコられた。

【メイスキング・トライアルズ】:中身は人型の純竜級ホムンクルス
・尚、想定されていた真っ当な攻略法は伝説級ぐらいのメイスを用意して、プログラム制御故の戦術面の拙さから表れるアクティブスキルの隙を突いて装備か中身を破壊して戦局を優位に運ぶ感じだった。
・更にENDも8000近く鎧にもにも相応の防御スキルが備わっているので耐久型としては純竜上位のスペックだったが、スキル効果を無効に出来る妹には特に意識されなかった。
・ただ、妹の技量だとちょっと難しかったので必殺スキルとステータス補正によるごり押しで倒された。

妹:祝!【戦棍王】就職!
・通り名の“怪異殺し”に関しては本編で描写している以外にも妹の“直感”で三人揃って事件に首を突っ込んだり、個別でも割と色々事件を解決してるから総称として着いた感じ。
・尚、必殺スキルの解説はまた本編で詳しくやる予定なので詳細は秘密、ちなみに転職の試練の時間軸は本編掲示板から少し後ぐらい。

【戦棍王】/【戦棍姫】:戦棍士系統超級職
・メイス系武器スキルの超級職であり、ステータスの上昇率はSTR特化で次は前衛系超級職らしくAGI・HP・END・SPぐらいの順で上がりMPとLUCはほぼ上がらない。
・武器系超級職のお約束として《戦棍強化》レベルEXや、メイス装備時にSTRが割合上昇する《マッスルフォース:メイス》の最大レベルが10まで上がるなどの既存スキルレベルの上限が解放される。
・勿論、新規のスキルとして奥義を含む強力なメイス系アクティブ武器スキルも習得するので、それと高い物理ステータスと合わせて武器系の『王・姫』としては“スタンダードでクセが無く普通に強い”超級職。


読了ありがとうございました。
久しぶりの掲示板回。しばらくはこんな風に掲示板と短編を投稿して行く事になるので感想・評価・お気に入りに登録よろしくお願いします。


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生産スレ/デンドロの生産クラン達

前回のあらすじ:妹「ついに……ついに! 超級職へと転職!!!」兄「おめでとうー、ひたすらにゴーレムと鎧を再生させ続けた甲斐があったよ」ネリル「鎧を再生させたのはワシじゃけど」


 □◾️地球 とある掲示板

 

 

 ◇◇◇

 

 

【生産クラン】<Infinite Dendrogram>生産スレ73【続々誕生!】

1:名無しの刀匠[sage]:2043/10/21(水)

このスレはVRMMO<Infinite Dendrogram>における生産関連の情報を書き込むスレです

クラン宣伝などの書き込みは自由ですが情報漏洩は自己責任で

荒らしはスルー推奨

 

 

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56:名無しの高位錬金術士[sage]:2043/10/21(水)

<プロデュース・ビルド>の運営はまあ順調かな

<エンブリオ>製希少素材の取り引きやオーダーメイド装備の発注で結構有名になってる

 

 

57:名無しの紡績職人[sage]:2043/10/21(水)

新しいメンバーも加入したしね!

 

 

58:名無しの宝石職人[sage]:2043/10/21(水)

<プロデュース・ビルド>新メンバーその1です

希少鉱石素材生産担当&アクセサリー担当です

 

 

59:名無しの装飾職人[sage]:2043/10/21(水)

<プロデュース・ビルド>新メンバーその2でーす

モンスター用のアクセサリー生産担当してるよー

 

 

60:名無しの木工職人[sage]:2043/10/21(水)

これからもアルター王国初の生産クラン<プロデュース・ビルド>を宜しくね!

以上自クランの宣伝広告書き込みでしたー!

 

 

61:名無しの大農家[sage]:2043/10/21(水)

88888888888888888

 

 

62:名無しの刀匠[sage]:2043/10/21(水)

しかし最近は生産クランの数も増えてきたな

天地では刀剣作成目的のクランが乱立して大刀鍛冶時代になってるし

 

 

63:名無しの魔道具職人[sage]:2043/10/21(水)

レジェンダリアはやっぱり魔道具的なアイテム生産が盛んかなぁ

後は魔法少女ものとかロリショタ用のとかケモっ子用とか

 

 

64:名無しの高位符札職人[sage]:2043/10/21(水)

>>63

なんか変なのが生産されてる……

黄河も魔道具生産が盛んだけどどちらかと言うと符とか消費アイテムが盛んな印象

 

 

65:名無しの猛毒術師[sage]:2043/10/21(水)

カルディナは交易特化で生産はあんまり人気が無いかな

その分色々な生産活動が細々とやられてる感じ

 

 

66:名無しの高位匣職人[sage]:2043/10/21(水)

各国で色々と特色があるんだなぁ

後はグランバロアとドライフかな

 

 

67:名無しの船匠[sage]:2043/10/21(水)

>>62>>63>>64>>65

お前らは順調そうでいいよなぁ……

俺ら<グランバロア架空戦記協会>は現実の兵器の再現に悪戦苦闘してると言うのに

 

 

68:名無しの建築家[sage]:2043/10/21(水)

資金と資材と資料と人材と技術と……何もかもが足りん!

大和を再現出来るのはいつの日になるのか……

 

 

69:名無しの教授[sage]:2043/10/21(水)

<叡智の三角>でも人型ロボット開発はかなり厳しいねぇ

上述の理由に加えて成果が無いからクラン内の空気がちょっと……

 

 

70:名無しの高位操縦士[sage]:2043/10/21(水)

金を稼ぐテストパイロット組と実際に開発する生産組の軋轢がねー

生産は上手くいかないと稼いだ金が泡となって消えるから穀潰しとかって意見も

 

 

71:名無しの高位錬金術士[sage]:2043/10/21(水)

ああ、最終目標が高い組の面々か

<マスター>の万能の適正と<エンブリオ>があればそこそこの生産は普通に出来るけど

彼らのようにデンドロ内に無い新しい概念を作ろうとしてればそりゃあ大変だよね

 

 

72:名無しの刀匠[sage]:2043/10/21(水)

まあ、そのロマンは理解出来る(現実に出来るかはさておき)

 

 

73:名無しの紡績職人[sage]:2043/10/21(水)

やっぱりドライフやグランバロアみたいな技術レベルが特殊な国の生産は大変なのかな?

 

 

74:名無しの大農家[sage]:2043/10/21(水)

>>73

私もドライフの生産職だけど上の二つは目的が高いのが問題だと思うよ

最近食料生産量が落ちて来てるとかだから私は食料生産特化<エンブリオ>でも大儲けしてるし

 

 

75:名無しの銃匠[sage]:2043/10/21(水)

同じくドライフ生産者だけど銃器などの既存の生産は普通に盛ん

機械鎧作って『私がアイアンマンだ』とかやってるヤツもいた

 

 

76:名無しの船棟梁[sage]:2043/10/21(水)

グランバロアでも既存の船舶の改良強化とかは結構やってるよ

<エンブリオ>に期待したティアンからの依頼だから料金はあっち持ちだし

 

 

77:名無しの木工職人[sage]:2043/10/21(水)

<エンブリオ>の力目当てのティアンは結構いるしね

 

 

78:名無しの高位技師[sage]:2043/10/21(水)

>>74

ぐぎぎぎ……妬ましい……!

こっちはボロ小屋でチマチマ生産するしか出来ないのに……⁉︎

 

 

79:名無し建築家[sage]:2043/10/21(水)

>>76

ぐぬぬぬ……現実の艦艇とかデンドロには影も形もないからティアンからの理解が中々得られんのだ!

だから何とか自前でやらねばならないと言うに……!

 

 

80:名無しの教授[sage]:2043/10/21(水)

ウチなんて現実にすら存在しないからねぇ

ファンタジーなデンドロなら技術的にはいけると思うんだけど

ティアンの理解を得られるかと言うと……

 

 

81:名無しの銃匠[sage]:2043/10/21(水)

全く新しい技術と言うのは現実でも敬遠されるもの

既存の応用とかなら受け入れられやすいんだけど

 

 

82:名無しの宝石職人[sage]:2043/10/21(水)

そもそもデンドロの生産や商売はその地に根付くティアンの方が色々と有利だからね

ウチのクランも希少素材とかを対価に彼等と“仲良く”しているし

 

 

83:名無しの高位操縦士[sage]:2043/10/21(水)

仲良く(賄賂をやってスポンサーに)しているですね分かります

 

 

84:名無しの高位錬金術士[sage]:2043/10/21(水)

>>83

賄賂とかイメージダウン的な事を言わないでください

普通に希少素材とかを取引してこちらの有用性を証明した上でスポンサー的な事をやって貰ってるだけだ

 

 

85:名無しの大農家[sage]:2043/10/21(水)

まあ私もバルバロス伯爵領で第三皇子様や農家ギルドからの支援を受けてるしね

不作で食えなくなったティアンの農家の人を派遣してもらったり

 

 

86:名無しの刀匠[sage]:2043/10/21(水)

天地の場合はティアンの鍛治師に弟子入りとかあるな

……めっっっっっちゃ厳しいけど!!!

 

 

87:名無しの猛毒術師[sage]:2043/10/21(水)

カルディナだとティアンのスポンサーとか信用出来るか怪しいんだよなぁ

 

 

88:名無しの高位整備士[sage]:2043/10/21(水)

人型ロボットに投資してくれる酔狂なティアン貴族とかいないのか

なろうとかではお約束じゃん

 

 

89:名無しの教授[sage]:2043/10/21(水)

その辺りはウチのサブオーナーが金策がてら動いて貰ってるけど芳しくないねぇ

まず人型ロボットの有用性を証明出来ないとスポンサーにはなれないって言われたとか

 

 

90:名無しの高位技師[sage]:2043/10/21(水)

その人型ロボットを作るためにお金がいるんですよぉ〜!!!

 

 

91:名無しの船匠[sage]:2043/10/21(水)

誰だってそう思う、俺だってそう思う

 

 

92:名無しの高位符札職人[sage]:2043/10/21(水)

みんな大変だなぁ(符の生産だからコスト低め)

 

 

93:名無しの魔道具職人[sage]:2043/10/21(水)

レジェンダリアは変態達が独自ルートを突っ走ってる感じだから

こういう意見を見てるとちょっと楽しい

 

 

94:名無しの装飾職人[sage]:2043/10/21(水)

と言うか人型ロボットとか現実の艦艇とかじゃなくてさ

もっと簡単に作れる物で技術力をアピールするべきでわ?

 

 

95:名無しの教授[sage]:2043/10/21(水)

ふむ詳しく

 

 

96:名無しの建築家[sage]:2043/10/21(水)

話を聞こうじゃないか

 

 

97:名無しの銃匠[sage]:2043/10/21(水)

>>95>>96

判断が早い

 

 

98:名無しの船棟梁[sage]:2043/10/21(水)

必死だなぁ

 

 

99:名無しの装飾職人[sage]:2043/10/21(水)

要するに既存のアイテムを改良して高性能に作って

“<マスター>ならこれこれこう言う事が出来ますよ”って技術力をアピールしてスポンサーを募る感じ?

 

 

100:名無しの紡績職人[sage]:2043/10/21(水)

まあ私達<プロデュース・ビルド>も最初は作ったアイテムじゃなくて

<エンブリオ>製希少素材の方を取引に出して自分達の宣伝を行ったし

 

 

101:名無しの高位錬金術士[sage]:2043/10/21(水)

人型ロボットや現実の艦艇の研究で得た技術を使って既存のガイストや船舶を強化して売り込むとか

この<エンブリオ>と<マスター>の技術力なら更にいいものを作れるんじゃないかとアピールする感じ

 

 

102:名無しの宝石職人[sage]:2043/10/21(水)

その手の試作品を作れればモチベーションの維持やノウハウの積み重ねも出来るしね

 

 

103:名無しの木工職人[sage]:2043/10/21(水)

そもそもデンドロで大規模な生産がしたければティアンの助成は必要だよ

生産資材の大部分は生産ギルドや大商人達が握ってるから

 

 

104:名無しの教授[sage]:2043/10/21(水)

成る程ねぇ……確かに“自分達で人型ロボットを作る”って事にちょっとこだわり過ぎてたか

とりあえずガイストを一部だけ人型にして技術力のアピールとノウハウの蓄積を……

 

 

105:名無しの建築家[sage]:2043/10/21(水)

まあ、最終的に現実とは違うデンドロの海で戦うつもりなのだし

こちら側の船舶ノウハウも必要か……とりあえず貿易船団に声を掛けてみるか

 

 

106:名無しの高位整備士[sage]:2043/10/21(水)

つまり……どう言う事だってばよ?

 

 

107:名無しの高位操縦士[sage]:2043/10/21(水)

要するにガンダムを作る前にガンタンクを作って技術レベルを上げつつ

それをプレゼンしてスポンサーからお金をせびろうって訳だね!

 

 

108:名無しの高位整備士[sage]:2043/10/21(水)

成る程、完璧に理解した

つまりRX計画とV作戦をやればいいんだな

 

 

109:名無しの高位技師[sage]:2043/10/21(水)

ガチタン……いいよね

 

 

110:名無しの船匠[sage]:2043/10/21(水)

オタク特有の超速理解www

まあ俺らも似たようなもんだが

 

 

111:名無しの教授[sage]:2043/10/21(水)

理解してくれるならそれでもいいんだけどねぇ

まあスポンサーが見つかるかは分からないけどこのままじゃ煮詰まりそうだし

サブオーナーとも相談して色々やってみようかねぇ

 

 

112:名無しの猛毒術師[sage]:2043/10/21(水)

いいなー、みんなでワイワイ楽しそうで

まあティアン商人の権益とか諸々は凄い面倒くさいけど頑張れ

 

 

113:名無しの魔道具職人[sage]:2043/10/21(水)

ティアンの政治とか商売って凄くドロドロしてる所もあるからなぁ

刺客雇って闇討ちとかも……

 

 

114:名無しの高位匣職人[sage]:2043/10/21(水)

そういった設定までちゃんと作り込んでるデンドロ

でもそんな商売の負の面とか要らないんだよなぁ

 

 

115:名無しの戦車操縦士[sage]:2043/10/21(水)

でもガンタンク的なガイストはどっかで作られてるって聞いたけど

後、<叡智の三角>がいる掲示板ってここかな?

 

 

116:名無しの高位操縦士[sage]:2043/10/21(水)

おっと新入りさんいらっしゃい! ところで何の用かな?

クラン入り希望ならテストパイロットとかも絶賛募集中だよ!

 

 

117:名無しの高位整備士[sage]:2043/10/21(水)

現在<叡智の三角>は一人でも多くのやる気ある人材を募集中さ!

 

 

118:名無しの高位技師[sage]:2043/10/21(水)

何せ人材は何人いても足りない状況だからな!

みんなで作ろう人型ロボット!

 

 

119:名無しの建築家[sage]:2043/10/21(水)

必死だな、気持ちは凄い分かるが

 

 

120:名無しの戦車操縦士[sage]:2043/10/21(水)

いや、先日手に入れた特典武具が二足歩行の機械系特殊装備品でな

それに追加パーツを付けたりして強化出来る装備スキルがあるんだが

サブで生産職取ってるだけの俺だと上手く使えなくて専門家に相談しようかと

 

 

121:名無しの高位整備士[sage]:2043/10/21(水)

ガタッ!

 

 

122:名無しの高位技師[sage]:2043/10/21(水)

ガタタタッ!!!

 

 

123:名無しの高位操縦士[sage]:2043/10/21(水)

ドンガラガッシャァァァァンッ!!!

 

 

124:名無しの教授[sage]:2043/10/21(水)

>>121>>122>>123

とりあえず落ち着きなさい君達

……それで、幾ら支払えばウチに来てくれるのかねぇ?

 

 

125:名無しの宝石職人[sage]:2043/10/21(水)

うわぁ、すごいさわぎ

 

 

126:名無しの高位錬金術士[sage]:2043/10/21(水)

特典武具素材は使用出来るのは所有者だけだが他者でも加工は出来ると聞いたが

 

 

127:名無しの高位整備士[sage]:2043/10/21(水)

それでスペックは⁉︎ 外見は⁉︎

 

 

128:名無しの高位技師[sage]:2043/10/21(水)

人型ロボット特典武具来たーーーーーー!!! 詳細キボンヌ!!!

 

 

129:名無しの高位操縦士[sage]:2043/10/21(水)

教えてくれたらお姉さんがイイコト♡してあげるぜ!

 

 

130:名無しの戦車操縦士[sage]:2043/10/21(水)

あ、そういうのは間に合ってるんでいいです

失礼しました他を当たります

 

 

131:名無しの装飾職人[sage]:2043/10/21(水)

あ、帰っちゃった

 

 

132:名無しの高位整備士[sage]:2043/10/21(水)

MATTE⁉︎ >>129のアホな寝言は無視していいから⁉︎ お願い待って!

 

 

133:名無しの高位技師[sage]:2043/10/21(水)

>>129お前ホント何やってるんだよこの色情狂!

 

 

134:名無しの教授[sage]:2043/10/21(水)

はいはい>>129は黙ってようねぇ、今は真面目な話をしているんだよ

確か先日皇国の東側の遺跡でロボットドラゴン型の<UBM>が出て

それが<マスター>によって討伐されたって話を聞いたから本当くさいしねぇ!

 

 

135:名無しの木工職人[sage]:2043/10/21(水)

逃した魚は大きかったとさ

 

 

136:名無しの高位操縦士[sage]:2043/10/21(水)

そんな〜(;´д`)

 

 

137:名無しの戦車操縦士[sage]:2043/10/21(水)

まあいるんですけどね

ちなみに人型じゃなくて二足歩行のドラゴンロボな特典武具でした

後口から荷電粒子砲を発射可能

 

 

138:名無しの高位整備士[sage]:2043/10/21(水)

逃してなかった!

しかしガンダムじゃなくてゾイドだったか

 

 

139:名無しの高位技師[sage]:2043/10/21(水)

口から荷電粒子砲……ジェノザウラーかな?

 

 

140:名無しの教授[sage]:2043/10/21(水)

ガンダムでもゾイドでも何でもいいけど二足歩行の参考資料はマジで欲しい

出来れば皇都の郊外にある<叡智の三角>本拠地に来て欲しいんだけど

今なら人材はタダで供給するよ

 

 

141:名無しの高位操縦士[sage]:2043/10/21(水)

>>140

どうせ何も言わなくても新鮮な動くロボットドラゴンとか持ってくれば

現在ロボ成分不足で飢えてるロボマニア達が群がるだろうからね!

 

 

142:名無しの戦車操縦士[sage]:2043/10/21(水)

うーん、今の【メタルドライガー】はウチの相棒の新しい身体になってるからなぁ

あんまりしつこいと相棒の方から文句が出るかも

 

 

143:名無しの教授[sage]:2043/10/21(水)

MATTE! その辺りは丁寧に扱わせる様に念を入れておくからねぇ!

後聞いた<UBM>の名前と一致したからやっぱりあの事件のMVPか!

 

 

144:名無しの船棟梁[sage]:2043/10/21(水)

特典武具が肉体って事はTYPEアドバンスの<エンブリオ>かな?

 

 

145:名無しの高位整備士[sage]:2043/10/21(水)

預かったロボに関しては元より高性能にした上でピカピカに磨き上げて返すと約束するから⁉︎

 

 

146:名無しの高位技師[sage]:2043/10/21(水)

だからどうかウチに来て下さいお願いします!!!

 

 

147:名無しの戦車操縦士[sage]:2043/10/21(水)

それじゃあ今度お邪魔させてもらおうかな

ウチの相棒も『性能は凄いのですがちょっと見窄らしいですわ』って言ってるし

整備は問題ないんだけどパーツのカスタムとかは専門家の伝手が欲しいし

 

 

148:名無しの高位操縦士[sage]:2043/10/21(水)

フィィィーッッシュ!!!

 

 

149:名無しの教授[sage]:2043/10/21(水)

>>147

上の発言はスルーしてくれていいからねぇ

それと歓迎するよぉ、ようこそ<叡智の三角>へ

 

 

150:名無しの紡績職人[sage]:2043/10/21(水)

特典武具素材とかいいなぁ

ウチも扱ってみたい

 

 

151:名無しの高位錬金術士[sage]:2043/10/21(水)

常連客の何人かに<UBM>を倒せそうな者もいるからそっちに期待だな

 




あとがき・各種設定解説

【果樹宝咲 ゴールデンアップル】
<マスター>:鵜崎
TYPE:フォートレス
到達形態:Ⅳ
能力特性:希少鉱石生産
固有スキル:《金の生る木》
必殺スキル:《黄金と成る樹(ゴールデンアップル)
・モチーフはさまざまな国や民族に伝承される民話や説話の果実である“黄金の林檎”。
・大きな一本の木の姿をした<エンブリオ>で、スキル《金の生る木》によって大地からリソースを吸収して一定間隔で様々な金属や宝石で出来た果実を付ける。
・また自身のHP・MP・SPを注ぎ込んだり所有するアイテムをコストとして捧げる事で、生成される宝石・金属の質と数を上昇させたり次の果樹が生る間隔を短くする事も可能。
・だが、基本的にどんな金属・宝石が生成されるかは完全なランダムであり、木に果実として生る特性から一度に取れる量は平均的な果実程度の質量は余り多くないが、その分だけ高品質の物が生成されやすい。
・必殺スキルは【ゴールデンアップル】そのものを何らかの金属・宝石素材へと変換するという効果で、<エンブリオ>自体をコストにしているので相応に高品質で大質量な素材を獲得出来る。
・無論、コストにする関係上一度【ゴールデンアップル】は消滅するので当然再構成されるまでは使用不能になり、必殺スキル自体のクールタイムも30日と長い。
・<プロデュース・ビルド>の新人メンバー鵜崎の<エンブリオ>で、彼は既に希少素材の流通ルートを確保しているクランなら高率的に自身の有する希少鉱石を売る事が出来ると考えて参加した。
・ぶっちゃけ完全な鉱石ガチャだが、第四形態現在でも稀に神話級金属や特殊な性質を宿した希少鉱石が取れる事もあるので結構重宝されている。

【専要装造 ドヴェルグ】
<マスター>:ドワガール
TPYE:ルール・カリキュレーター
到達形態:Ⅳ
能力特性:オーダーメイド装備作成
固有スキル:《依頼者は神魔も問わず(エニワン・オーダー・メイキング)》《汝の血肉で完成させん(ジーン・インクルード)》《因子解析》
・形状は二の腕部分に機械がついたオープンフィンガー型の長手袋で、モチーフは北欧神話で対価に応じて神々の象徴となる魔力のある武器や宝の制作をする優れた匠としても描かれる闇の妖精“ドヴェルグ”。
・他者から装備を作成する依頼を受けた時のみ自身の生産スキルの効果を大きく引き上げる《依頼者は神魔も問わず》と、対象の許可を得てその遺伝情報の一部を機械部分に取り込む事で作る装備品を対象専用にする代わりにスペックなどを強化・改造する《汝の血肉で完成させん》によるオーダーメイドの装備を作る事に特化している。
・《汝の血肉で完成させん》の遺伝情報はモンスターの物でも問題無く、その場合は例え人間用の装備でも装備条件やサイズなどを改変してそのモンスターに装備出来る様にする事すら可能で、遺伝情報先のスペックや潜在能力によって強化・改造範囲が変動する。
・<マスター>であるドワガールはこの特性を利用して従魔師ギルドなどを相手に競争他者が余り居ないモンスター用装備を作って繁盛しており、そこでエルザと出会って<プロデュース・ビルド>を紹介してもらった。
・実は兄がネリルとヴォルトに渡した【救命の首輪】も彼女に依頼して作って貰った専用装備であり、他にも《MP増大》《雷電適切》など各々に合わせた装備スキルなども追加させられている。

【殲葬鉄竜 メタルドライガー】:ドライフ東側の遺跡から出現した古代伝説級<UBM>
・元は“化身”から逃れてシェルターに避難した技術者達が、対“化身”兵器としてフラグマン氏の煌玉竜を模して作ろうとしていた地竜型模造煌玉竜。
・だが、搭載兵器は作れたがそれを動かす動力炉がどうにもならなかったので、自動進化機能を付けた上で【生贄】に転職した自分達をMP生産用生態動力炉として組み込んだら案の定暴走して<UBM>認定を受けた。
・その後はプログラム通りに“化身”に対抗するレベルになる為に遺跡深部で自己進化を繰り返しながら待機していたが、<マスター>(劣化“化身”)が遺跡を発見・侵入して来た事で起動した。
・その後は凡ゆる生物・生態素材を動力炉内に取り込んでMPへと変換する《生葬炉心》と、凡ゆる兵器を自身に組み込んで自己強化する《戦殲付刻》の組み合わせによる無尽蔵の動力と荷電粒子砲を始めとする多数の兵器で暴れまわった。
・最終的にはその場にいた<マスター>達の奮戦と報告を聞いて現れた【衝神】と【無将軍】の協力によって討伐され、最初から最後まで戦い必殺スキルで動力炉を粉砕したジョージ・グレンがMVPとなった。
・特典武具の【換装機竜 メタルドライガー】はフレームだけの二足歩行機械竜でサイズは元とほぼ同じだが、元より効率が悪い感じで生体素材をコストにMPを作り出す《生命炉心》、かなり低出力になった《荷電粒子砲》、改造は出来るが作業は人力で改造部分にまで特典武具の再生能力は及ばない《換装機構》など全体的に弱体化した。

<叡智の三角>:その後どうにか特典武具ロボットを迎え入れられた
・その際「完全にジェノザウラーじゃね? ワイルドな感じだけど」「いや装甲を換装出来るしバーサークフューラーだろ」「ツクモちゃんもモロにアニメ版オーガノイドシステムだし」「とりあえずジェノブレイカーまで強化しようぜ!」「そんな資材は無い……それよりも技術協力としてちょっと分解させて」『不埒な手で触らないで欲しいですの。ガブリ』「ぎゃーーーー!」「あ、なんかバカが一人食べられました」「ロボに食われるならアイツも本望だろう」みたいな事があったとか。


読了ありがとうございました。
いつも評価・感想・お気に入りに登録ありがとうございます。毎度大変励みになっております。なので連続投稿。


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職業スレ/レントとひめひめ

前回のあらすじ:謎の教授「さあ、貴重な資料件戦力との伝手も出来た事だし、これから人型ロボット開発を進めていこうかねぇ」謎の高位操縦士「つまりゾイドを弄りながらガンタンクを作っていく感じだね!」


 □◾️地球 とある掲示板

 

 

 ◇◇◇

 

 

【最強の】<Infinite Dendrogram>職業スレ66【ジョブビルド】

1:名無しの獣戦鬼[sage]:2043/10/29(木)

このスレは<Infinite Dendrogram>のジョブに関する情報を書き込むスレです

ジョブについて・ジョブスキル・ジョブビルド・就職条件の質問などご自由に

荒らしはスルー推奨

 

 

 ・

 

 

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616:名無しの獣戦鬼[sage]:2043/10/29(木)

やはりガードナー獣戦士理論が最強なのは確定的に明らかだろう

上級ガードナーのステータス加算とサブに入れられる豊富な物理スキルで実質純竜級二体だし

 

 

617:名無しの剛剣武者[sage]:2043/10/29(木)

まあ、掲示板を見ても各国の決闘で獣戦士系統が結果を残してるからなぁ

……天地では超級職ティアンやそいつらに対抗できる一部の上澄みを突破出来ない程度ですが!

 

 

618:名無しの船長[sage]:2043/10/29(木)

後グランバロアの決闘だと船の性能の方が重要だし

船型チャリオッツと船員系ジョブのコンボが流行り

 

 

619:名無しの獣戦鬼[sage]:2043/10/29(木)

>>617>>618

そう言った特殊例を挙げられても……

それにガードナー獣戦士理論は<エンブリオ>がガードナーなら誰でも直ぐに出来るお手軽さがあるし

 

 

620:名無しの黒騎士[sage]:2043/10/29(木)

つまりはガードナーじゃ無いと出来ないって事ですよね?

正直言って千差万別の<エンブリオ>がある以上はそれに合わせたジョブにするのが一番なのでは

<マスター>の中でも上澄み勢はそれとリアルスキルと特典武具とを兼ね備えた連中だし

 

 

621:名無しの高位精霊術師[sage]:2043/10/29(木)

>>620

それを言っちゃうと汎用ジョブビルド考察の意味が無くなっちゃうんですが……

 

 

622:名無しの金雷術師[sage]:2043/10/29(木)

こっちはゲームのシステム的なジョブビルドの考察がしたいのであって

そこにユニーク要素とリアルスキルを入れて貰っても困る

まあ<マスター>全てがユニーク要素の塊である<エンブリオ>を持ってる時点でアレなんだけど

 

 

623:名無しの硬拳士[sage]:2043/10/29(木)

デンドロで汎用ジョブビルド論が余り盛り上がらない理由→ユニーク満載<エンブリオ>

 

 

624:名無しの疾風操縦士[sage]:2043/10/29(木)

ガードナー獣戦士理論も『ガードナーは従属キャパゼロ』って言う共通項と

《獣心憑依》との相性に気がついたから盛り上がったんだしな

 

 

625:名無しの隻剣聖[sage]:2043/10/29(木)

奇しくも>>619の言う通り多くのガードナー使いで採用出来たから話題になったので

その人だけのエンブリオとジョブのシナジーだと自己完結するだけだから

 

 

626:名無しの戦棍鬼[sage]:2043/10/29(木)

他に汎用性のあるシナジーだとアームズを対応する武器強化スキルで強化するとか?

専門の上級職になれば装備スキルも強化出来るからエンブリオのスキル強化にも使える

 

 

627:名無しの船長[sage]:2043/10/29(木)

それチャリオッツでも同じ事出来ますよね

上級職の《船舶強化》や《操縦》とかならかなり強化されます

 

 

628:名無しの高位精霊術師[sage]:2043/10/29(木)

後はMP消費系エンブリオと【生贄】を組み合わせた“生贄MP特化理論”かな

ジョブスキルの数が減ると言うデメリットをエンブリオのスキルで補う感じで

 

 

629:名無しの剛剣武者[sage]:2043/10/29(木)

天地だと野伏初撃必殺理論とかも流行ってる

武士系ジョブなら【野伏】をサブに入れておけばいいし

 

 

630:名無しの硬拳士[sage]:2043/10/29(木)

エンブリオの効果で高いステータスに出来る貴方には素手ビルド

素手でしか使えないしジョブのステも低い分強力な素手スキルを重ねがけして超強化だ!

 

 

631:名無しの金雷術師[sage]:2043/10/29(木)

誰でも使えると言うなら【ジェム】貯蔵連打理論も忘れちゃいけない

やり方は簡単、ただ【ジェム】を沢山作るか買うかして投げるだけ!

……尚、その際の値段は考えないものとする

 

 

632:名無しの黒騎士[sage]:2043/10/29(木)

えーっと何の話をしてたんだっか、汎用ジョブ理論の売り込みだっけ?

 

 

633:名無しの獣戦鬼[sage]:2043/10/29(木)

こうして様々な汎用ビルドが生まれてはデンドロの圧倒的なユニークパワーに飲まれて消えていくのさ

ガードナー獣戦士理論だって何処まで続くか、先着一名の獣戦士系統超級職を探し始めてるし

 

 

634:名無しの戦棍姫[sage]:2043/10/29(木)

先着一名の超級職を取られたらその人がガードナー獣戦士理論最強って事になっちゃうもんね

 

 

635:名無しの祟神[sage]:2043/10/29(木)

超級職は早い者勝ちだから〜

 

 

636:名無しの戦棍鬼[sage]:2043/10/29(木)

んん? 名前表記が誤字じゃないか? “鬼”が“姫”になってるけど

 

 

637:名無しの疾風操縦士[sage]:2043/10/29(木)

>>636……あっ(察し)

 

 

638:名無しの船長[sage]:2043/10/29(木)

え、マジですか?

ひょっとしてこの掲示板では初の報告ですか? しかも二人⁉︎

 

 

639:名無しの高位精霊術師[sage]:2043/10/29(木)

どうやらとうとう“その時”が来てしまったようだな

 

 

640:名無しの剛剣武者[sage]:2043/10/29(木)

えーっと、何となく察したがとりあえず戦棍鬼ニキはドンマイ(笑)

 

 

641:名無しの獣戦鬼[sage]:2043/10/29(木)

とりあえずお二人は詳しい報告をプリーズ、転職条件とか

 

 

642:名無しの戦棍鬼[sage]:2043/10/29(木)

いや……まだ、まだ焦るような時間じゃない……!

 

 

643:名無しの戦棍姫[sage]:2043/10/29(木)

>>641

まあ別にいいよ、どうせ不死身のマスターである私が就いた時点で条件は明かしても問題ないし

そういう訳で戦棍士系統超級職である【戦棍姫】に就く事が出来ました!

 

 

644:名無しの戦棍姫[sage]:2043/10/29(木)

就職条件は以下

①【戦棍士】【剛戦棍士】【戦棍鬼】のカンスト及びそれらの全メイス系ジョブスキル習得

②メイスでボスモンスター級生物をソロ討伐した数が一定以上

③装備状態の装備品への累計与ダメージが5000万以上

④上記を達成して解放される転職の試練をクリア

ちなみに試練は逸話級金属武装された純竜級メイス特化人型モンスターを打倒だったよ

 

 

645:名無しの戦棍鬼[sage]:2043/10/29(木)

グワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

646:名無しの隻剣聖[sage]:2043/10/29(木)

せ、戦棍鬼ニキダイーン!!!

 

 

647:名無しの金雷術師[sage]:2043/10/29(木)

草草の草

こういうのを見てるとジョブスレに来てて良かったって思う(笑)

 

 

648:名無しの祟神[sage]:2043/10/29(木)

いやーいい怨念ね

ちなみに私の【祟神】は怨念操作スキル特化超級職らしいわね

なんか怨念操作してたらいきなり条件満たしましたアナウンスが来たから詳しくは分からないけど

 

 

649:名無しの硬拳士[sage]:2043/10/29(木)

おおう、爆弾情報が次々と……

 

 

650:名無しの船長[sage]:2043/10/29(木)

>>648

え? 怨念操作特化超級職って掲示板越しの怨念まで操れるの?

 

 

651:名無しの祟神[sage]:2043/10/29(木)

流石に【祟神】のジョブスキルでは掲示板越しの怨念までは無理ね〜

ちなみに転職の試練は怨念に溢れた場所にある転職のクリスタルに触れるだけの簡単な物だったわよ

 

 

652:名無しの獣戦鬼[sage]:2043/10/29(木)

しかし、とうとう<マスター>の中でも超級職を取る者が現れたか

……ていうか早くね? まだデンドロのサービスが始まって三カ月、中でも一年経ってないんだけど

 

 

653:名無しの戦棍姫[sage]:2043/10/29(木)

私は偶々条件を知れたしジョブと強敵撃破は実力があれば難しくないから

正直累積ダメージが一番面倒くさかったけど知人に頼んで破壊される用の防具を作って貰った

 

 

654:名無しの祟神[sage]:2043/10/29(木)

聞いた話だけど“神”系のジョブはその分野で相応しい技術と成果を出せば達成出来るらしいわね

私もちょっと多くの怨念を使ったら条件を達成出来たし案外簡単かもね

 

 

655:名無しの高位精霊術師[sage]:2043/10/29(木)

多分一般<マスター>にとっては絶対簡単じゃないやつダゾ

掲示板でよく言われる極一部の上澄み勢しか達成出来ないやつだ

 

 

656:名無しの戦棍鬼[sage]:2043/10/29(木)

ええい、先に取られてしまったモノはしょうがない

メイス系統か打撃武器系の超級職ってなにかあったか……?

 

 

657:名無しの疾風操縦士[sage]:2043/10/29(木)

おお、戦棍鬼ニキ復活した

 

 

658:名無しの戦棍姫[sage]:2043/10/29(木)

メイスという武器種自体が打撃系武器派生の一種だからね

私が知ってる限りだと騎士系統派生メイス運用特化の【戦棍騎士】ぐらいかな

勿論アルター王国でしか就けません

 

 

659:名無しの剛剣武者[sage]:2043/10/29(木)

確か打撃武器系のジョブは天地にもあったかな

いや、あれは棒術系やトンファー系だったか

 

 

660:名無しの戦棍鬼[sage]:2043/10/29(木)

そうかアルターに行けばいいんだな⁉︎

レジェンダリア所属だからお隣だしいける!

 

 

661:名無しの黒騎士[sage]:2043/10/29(木)

必死だねぇ、でも騎士系統の上級職は転職に騎士団関係者からの推挙が必要だったりするから

騎士団の信頼関係を得てないと厳しいけど

 

 

662:名無しの戦棍鬼[sage]:2043/10/29(木)

じゃあどうしろと言うんだ⁉︎

 

 

663:名無しの黒騎士[sage]:2043/10/29(木)

そんなあなたにご紹介するのがクラン<アルター王国自由騎士団>!!!

主に騎士ロールプレイを行うクランなので騎士団の手伝いをよくやってるから信頼関係もあるから

加入後の行動次第では早期に上級職の推薦を貰うことも!

 

 

664:名無しの金雷術師[sage]:2043/10/29(木)

よく出来た宣伝かな? まあジョブ達成条件の話だからスレチとも言えんが

 

 

665:名無しの祟神[sage]:2043/10/29(木)

掲示板も意外と面白いわね〜

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<霊都アムニール>・とある宿屋 【古株(ベテラン)】レント・ウィステリア

 

「ねーレントー、今度のハロウィンイベントは二人で一緒にデートしない?」

「別に構わないが……こっちだとネリルを始めとするテイムモンスター達もいるが?」

「別にそこまで拘らないわよ。そもそも現実(あっち)じゃおいそれとデートなんて出来ない代わりだし、その内容がイベントモンスター狩りだからロマンチックな雰囲気にはならない事は分かってるわよ」

「それもそうか」

 

 俺が宿の一室でジョブクエストを兼ねた【ジェム】作りをしていると、偶々一緒にいたひめひめが後ろから抱き着きながらデートの誘いをして来たので承諾した。まあ、俺達は今更デート程度で恥ずかしがる様な仲でも無いのでさっくりオーケーを出したけど。

 ……そんな俺達の会話を聞いていた、備え付けのベッドに座りながらミカから貢がれたレジェンダリア産高級お菓子【レインボー・シュークリーム】を頬張っているネリルが唐突に口を開いた。

 

「……お主ら夫婦か? 他の者がいる所では大分態度が違うが」

「別に付き合ってるとか彼氏彼女な関係じゃないぞ。お互いに()()()()()()()()が」

「リアルだと色々と“しがらみ”があるから、今は付き合ったりとかは出来ないんだけどデンドロでは違うからねー。表立たせない為に他の人には隠す必要があるから普段は隠してるけど」

 

 まあ実はそう言う事だったのである……以前何処かの誰かに『俺に彼女がいた事が無い』と言ったかもしれないが、ひめひめ(姫乃)とは告白したり互いの想いを確認しあったりしたが付き合ってはいないので嘘ではない(強弁)

 

「ほーう、ならワシはデートの時は空気を読んで引っ込んでようかの」

「そんなに気を使わなくて良いわよ? 私は好きな男の側に別の女が居るからって嫉妬に狂うタイプじゃないし。……そもそも、貴女は今レントの事をそんな目で見てないじゃない。楽しい事を見出す長命種特有の面白そうなモノを見る目だし」

「……ほう、よく見ておるな」

 

 茶化す様な口調でそう言ったネリルだったが、ひめひめから返された言葉を聞いて『面白そうなモノを見つけた』とでも言うような笑みを浮かべた……まあ頰にレインボーなクリームが付いてるから迫力はないが。

 

「貴女は自分の楽しみの為に自分のルールだけには従うけど、逆に言えば自分のルールは曲げないタイプでしょ。結構義理堅いタイプみたいだし。……()()()()()()()()()()()の長命種だから、私にとっては自分の命と利権に拘るタイプの連中と比べれば付き合いやすいわよ」

「まあ、長命種は世界を娯楽として楽しむか自分の命を死守するか、そうでなくば只生きるだけかじゃからの。……主人殿には生活の場を確保して貰った恩もあるし、妹御の“直感”を合わせればこの世界に於いて<マスター>によって起こされるあろう動乱を目の当たりに出来るだろうからな。()()()()()()ちゃんとするわい」

 

 ……うん、仲が良さそうで何よりダナー(棒)……まあ、女の戦いって言うよりはお互いに相手の“線引きやルール”を探って落とし所を見つけようとしてるだけだろうが。

 ……しかし間に挟まれてる俺がちょっと気まずくなって来たんだが……。

 

「そう言えばシズカさんも超級職(スペリオルジョブ)に転職したんだよな。確か【祟神(ザ・ヴェンジェンス)】だったか」

「露骨に話題を変えて来たわね。……まあ良いわ。聞いた話だと怨念操作スキル特化超級職、名前も含めてシズカさんのイメージにぴったりのジョブね。この前の【バイオハーデス】戦であのバジリスクを作った時に条件を満たしたから転職しといたって後から言われたわ」

「あの時の怨念操作技巧なら“神”に選ばれてもおかしくは無いの」

 

 確か“神”系統の超級職はその分野で相応しい成果を出せば条件を達成出来るらしいからな。ミカも【戦棍姫(メイス・プリンセス)】に就いたし、ミュウちゃんも古代伝説級特典武具を手に入れた上に今は【格闘王(キング・オブ・グラップリング)】の座を虎視眈々と狙ってるし……。

 

「……とは言え【祟神】は就いたティアンのほぼ全てが怨念に取り込まれて派手に自滅する末路を迎えておる曰く付きの超級職じゃが……」

「その辺りはシズカさんなら問題無いでしょ。現実の彼女はこちらで言うなら()()()()()ぐらいだし……むしろ超級職を得てはしゃぎ過ぎないかが心配ね。こっちではあくまで“遊戯”として振る舞う様に約束してるけど、抑止力として私も超級職に就きたい所ねー」

「そこまで警戒する事は……あるかもしれんが。彼女の好み(オモチャ的な意味で)な“死に囚われた人”とかを見かけたらやらかす可能性もある」

 

 ちなみに魔弓士系統超級職は魔弓という武器種がかなり希少な事もあって絶賛ロスト中だそうで、ネリルも『【魔弓王(キング・オブ・イリーガルボウ)】は三強時代にレジェンダリアに居たと聞くが直接面識は無いの。そもそもこの辺りの地下は【アムニール】の縄張りじゃから余り近寄らんかったし』との事で条件までは知らないそうだ。

 

「サブジョブの【高位幻術師(ハイ・イリュージョニスト)】側も見つからないし、取れそうな弓系の“神”も既に在位者がいるしね。……何処かに手頃な超級職でも落ちてないかしら」

「そんな超級職があったら俺が拾う(断言)……こっちは超級職への転職制限が課せられてる中で、少しでも強力なジョブビルドを探して日々創意工夫してると言うに」

「そう言えば貴方見慣れないジョブに就いてるわね。【古株】ってどんなジョブ?」

「【古株】は【見習(アプレンティス)】の上級職だな」

 

 まず、見習系統下級職【見習】はステータスがほぼ伸びない代わりに獲得経験値を上昇させる《職業訓練》とスキルレベルが上昇しやすくなる《技能練習》と言うパッシブのジョブスキルを覚えるジョブだ(ちなみにこの二つにはジョブクエスト受託時や他者から指導されている時には効果が増す副次効果もある)

 ……これだけではレベルが上がりやすくて他にジョブスキルを覚えないのにスキルレベルが上がるだけのジョブなのだが、三つ目のスキル《職能連結(ジョブリンク)》によって『メインジョブのレベル以下のサブジョブ一つを選択してそのジョブスキルを使用可能とし、更に獲得経験値を選択したジョブと分割する』事によって、対象のジョブレベルとスキルレベルを効率よく上げる事が出来る様になる仕様になっている。

 

「まあ、わざわざステータスが伸びず使えるスキルも覚えない【見習】に貴重なジョブの枠を使うぐらいなら、普通に下級職のレベル上げをした方が良いって理由で余り人気の無いジョブなんだが、俺にとってはレベルとスキルレベルが上がりやすくなるだけで十分有用なジョブだな。……【ルー】が第五形態に進化して《我は万の職能に通ず(ルー)》も強化されてジョブ枠が更に増えたからな。最終的な戦闘力よりもレベル上げの速度を優先する事にしたんで取った」

「成る程……で、上級職の【古株】の方は?」

「基本は【見習】と同じでステータスはほぼ伸びず《職業訓練》と《技能練習》の最大レベルが上昇してよりレベルが上がりやすくなり、《職能連結》も最大三つまでのサブジョブを選ぶ事が出来る様になる。……まあ上級職なのにレベル上げしか出来ず、就職条件が【見習】のカンストに加えて『ジョブレベルの合計上昇数400以上』と『スキルレベルの合計上昇数200以上』と結構厳しいから実質ロストしてたぐらいに人気が無いけど」

 

 一応、他人への指導時に《職業訓練》と《技能練習》の効果を引き上げて、その効果を指導対象にも及ぼせる《職能指導》とかも覚えるけど……それを目当てにするぐらいなら、より指導面で効果の高いスキルを覚えて就職条件も楽な【教師(ティーチャー)】や【教官(コーチ)】系統の上級職を取るよねって話なので不人気ジョブである事に変わりはない。

 最も多くのジョブ枠を持つ俺にとっては就職条件はどれも容易く満たせる物でしか無く、見習系統ジョブスキルのレベルはジョブレベルに連動して上がる仕様だから楽にスキルレベルが上がるのも良いし、何より【古株】の奥義が()()()()()()()()()()

 

「奥義?」

「【古株】をカンストさせる事で覚えるスキルで《百専練磨(オールド・ハンド)》ってスキルなんだけど。これが効果」

 

百専練磨(オールド・ハンド)》:パッシブスキル

 自身の合計レベルの五倍の数値だけHP・MP・SPを上昇させ、自身の合計レベルの数値だけSTR・END・AGI・DEX・LUC・従属キャパシティを上昇させる。

 また、自身のジョブスキルのレベルの合計数『200』につき『1』%自身のアクティブジョブスキル効果を上昇させる(スキルレベルの存在しないスキルはスキルレベル『1』として扱う)

 

 ……見て分かる通り俺の常備アイテムである【ヴァルシオン】の《強装才刃》と同じ『ジョブレベルを基準にした自己強化パッシブスキル』である。言うまでもなく膨大なジョブレベルを持つ俺とレベル基準強化スキルや補正の相性は最上だし、数多のスキルを持つ俺ならジョブスキル上昇効果率もかなり高い。

 

「まあ貴方にとっては相性が良過ぎるスキルね。むしろなんで今まで就かなかったのか」

「これまではパーティーバランス的に魔法スキル習得を優先してたしな。後はほぼロストしてたからか気付くのが遅れたんだよ。【見習】カンストして上級職になってから気付いた」

「ティアンにとっては難易度の割に効果が微妙なジョブだからワシも知らんかった。別にワシはジョブの専門家ではないしの」

 

 尚、現在は【古株】をカンストさせた上で《職能連結》を使って経験値稼ぎ用としてサブに入れた【狩人(ハンター)】【傭兵(マーセナリー)】【餓鬼(イーター)】に経験値を落としてる。経験値稼ぎにジョブ変える必要がないから超便利。

 

「まあ、妹さんに置いて行かれない様に自己強化が順調なら良いわ。デンドロでまた才能コンプレックスを拗らせても困るし」

「うるさいわ。……確かにそういうコンプレックスが無ければ【ルー】はこんな『才能と技能の追加』に特化した<エンブリオ>にはならんだろうが」

「はいはい、ちょっと言い過ぎたわよ。……これで許してちょうだいな」

「む」

 

 そう謝りながらひめひめは俺に軽くキスをすると『じゃ、ハロウィンデート楽しみにしてるわね〜』と言いながら部屋から出て行った……リアルでは隠す必要がある反動かね。こっちでは妙に大胆になってる。

 

「おーおー、お熱いのー。……ちなみに今の光景を妹御達やあの<YLNT倶楽部>に見られたら面白い事になるじゃろうか」

「妹連中なら問題ないがロリショタ共はちょっと……ただでさえ妹二人(リアルロリ)とネリル(見た目はロリ)とひめひめ(アバターはロリ)を連れてる所為で、()()()()()()()()()()のメンバーからは同類(ロリコン)を見る様な目で見られるんだから」

 

 ちなみに何故かこっちの事情を全部察してるオーナーからは『いいお兄さんですな』とか親しげに話しかけられるんだがな。あからさま過ぎるHENTAIなのにロリショタへの危険や悪意が一切無いからミカやミュウちゃんは特に警戒なく接してるし。

 ……ひめひめ曰く『多分、そう言うのに気が付いてしまうからこそ“無垢なもの”に惹かれてるタイプなんでしょうね。持ってしまったもので嫌な思いをしてると言う点なら妹さん達と同じかも……HENTAIなのは事実だけど』って事だが、“お前も同じなのでは?”とは言わないでおこう。撃たれたくないし。




あとがき・各種設定解説

兄&ひめひめ:普通に両想いだったりするが付き合ってはない
・リアルだと色々なしがらみがあって隠しているが、姫乃側は大学卒業を機にそれらを一掃してやろうと準備している。
・兄の【ルー】の第五形態進化時の強化は必殺スキルによって就けるジョブ数が下級職10個と上級職5個追加された以外にも、獲得経験値の+500%や《長き腕》のクールタイムが8時間まで減った、《神技昇華》でコストに出来るレベルが最大50になった事だけと既存スキルの強化のみである。
・兄が新しくとったジョブで【狩人】は《解体》などの有用なスキル狙い、【傭兵】はクエストを受ける事に特化した前衛系でジョブクエストの経験値を含めたクエスト報酬を上昇させる《達成報酬(クエスト・リワード)》と言うスキル目当て、【餓鬼】は捕食で経験値を獲得出来るのでオマケ的に取った。

見習(アプレンティス)】【古株(ベテラン)】:レベル上げ特化ジョブ
・《職能連結》で選択したどれかのジョブがカンストしている場合はカンストしてないジョブに経験値が全て流れる仕様で、そのネーミングから【勇者】の《全連結》のプロトタイプか量産品ではとネリルは考えてる。
・奥義は普通のカンストだとHPとかは2500、それ以外は500アップでスキル強化も【見習】【古株】で覚えられるスキルが少ないの事もあって1〜2%強化出来ればましと言う代物だったが兄が使うとバグる。
・具体的に言うと合計レベル2000近い兄が【ヴァルシオン】と併用すれば全物理ステータスが4000弱引き上がるのでステ補正半減のデメリットがほぼ克服された。

祟神(ザ・ヴェンジェンス)】:怨念スキル特化超級職
・暇つぶしに書き込んでジョブスレ阿鼻叫喚の渦に陥れたシズカのメインジョブにして、“死霊術”や“呪術”ではなく『怨念』に特化した超級職。
・ステータスは一応MP型だが直接戦闘系のジョブでは無いので“神”の中でもかなり低く、保有するスキルに一応戦闘で使えるものもあるが使い難いものばかりのピーキーなジョブ。
・だが、シズカの場合はジョブレベルが上がればラーニングのストックが増えるので超級職に就くだけで大幅な戦力強化になり、加えて後日【祟神】の詳細を知った兄とひめひめが『これ“戦えない”んじゃなくて“戦う必要がない”って意味の非戦闘ジョブなんじゃ?』と言うぐらいには相性がいい模様。
・尚、試練で転職クリスタルが配置されている場所の怨念は生半可なティアンでは瞬時に発狂、<マスター>でも多くの精神・呪怨系状態異常を受けながら怨念の声を聞かせられ続けるので酷い精神的ダメージを受ける感じ……だが、シズカの場合は消耗した怨念を吸収して補充するだけのイベントになってた。
・ちなみに元々シズカの超級職は幽霊術師系統の【霊姫(スピリット・プリンセス)】か怨霊術師系統の【怨霊姫(レイス・プリンセス)】とかにしようと思っていたが、語呂がいい“祟神”と言う言葉を思い付いて急遽こっちにしたという裏事情が。

<アルター王国自由騎士団>:王国のクランの一つ
・騎士ロールプレイがしたいから“騎士の国”であるアルター王国を選んだ<マスター>達が集まって出来たクランで、普段はティアンの騎士団の手伝いをしながら騎士系ジョブクエストを受けているので上級職の推薦をしてくれるぐらいの信頼関係もある。
・その特性上リリアーナや王女三姉妹と関わる機会もそこそこあるので彼女達のファンが集まって規模が大きくなったりもしたが、後にファン勢とガチ勢の軋轢が激しくなったのでファンクラブクランを別に作って住み分けする事になったり。
・流石にファン勢の方が人数が多いので規模は大きく縮小したがその分少数精鋭になったり、別に軋轢を避ける為に別れただけなのでファン勢とは普通にクエストとかで協力する事もあるし、王国の危機なら再合併する……みたいな展開も考えてる。


読了ありがとうございました。
多分兄のイチャイチャシーンは作者の執筆力の限界から今後はあんまり書かれない(笑)次回からは現実と合わせてハロウィンイベントの掲示板と短編をやって行くのでお楽しみに。感想・評価も待ってます。


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ハロウィンスレ/少女達の戦い

前回のあらすじ:ひめひめ「と言うわけでハロウィンはデートね」兄「はいはい……妹達には『ひめひめと二人でイベントやる』って言っとけば大丈夫だろう。なんか騒ぐかもしれないが」


 □◾️地球 とある掲示板

 

 

 ◇◇◇

 

 

【トリックオア】<Infinite Dendrogram>ハロウィンイベントスレ【トリート!!!】

1:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

このスレは<Infinite Dendrogram>ハロウィンイベントに関する情報を書き込むスレです

イベント内容・イベントモンスター・イベント交換アイテムの質問などご自由に

荒らしはスルー推奨

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

759:名無しの鎧巨人[sage]:2043/10/31(土)

アバー⁉︎ 雑魚イベントモンスターの攻撃防いだら状態異常食らってタコ殴りにされて死んだ!

なんだこのクソイベントォ!!!

 

 

760:名無しの炎忍[sage]:2043/10/31(土)

ご愁傷様www

しかし俺はそんな事無かったけど状態異常食らったって報告は結構聞くな

 

 

761:名無しの剛剣士[sage]:2043/10/31(土)

まあ、ハロウィンイベントのモンスターらしくアンデッド系統が多いからな

他にはご当地ジョブのスキルを使ってそれっぽい格好してる“仮装”系とかいるし

 

 

762:名無しの大海賊[sage]:2043/10/31(土)

総称すると昼は仮装パーティー、夜はアンデッド祭りなイベントだね

【海賊】や【船大工】の仮装をした魚人が何処で作ったのか船に乗って襲撃してきたのは驚いたけど

 

 

763:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

アルターの編集部のメンバーによる解析でイベントモンスターは共通スキルを持っていると判明

 

《トリック・オア・トリート》:パッシブスキル

与えたダメージの10%分だけHP・MP・SP回復する

与えたダメージが『1』以下の時は代わりに数十種類の中からランダムで一つの状態異常を掛ける

 

 

764:名無しの鎧巨人[sage]:2043/10/31(土)

これの所為か⁉︎ なんだこの耐久型殺し!!!

 

 

765:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

レジェンダリア編集部でも同スキルを確認

どうもスキルが微妙な上に隠蔽が掛かってたから発見が遅れたらしい

 

 

766:名無しの疾風槍士[sage]:2043/10/31(土)

ドレイン割合も少ないしダメージ1以下なんて逆に滅多にないから大したスキルじゃないんじゃ?

 

 

767:名無しの大気功士[sage]:2043/10/31(土)

>>766

ダメージ軽減スキルがあって相手の実力が低ければダメージ0とかあるからな

ノーダメージ雑魚狩りポイント取得に対する罠スキルかね?

 

 

768:名無しの大銃士[sage]:2043/10/31(土)

つまりトリック(ドレイン)かトリート(状態異常)のどっちか選べって事か

実にハロウィンらしいスキルだな!(尚被害)

 

 

769:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

後、この状態異常交換は発動条件が厳しい+ランダムだからかかなりレジストし難い様だ

どうも状態異常の強度自体はそこまで強くない様だが要検証だな

 

 

770:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

壁役のメンバーに弱めイベントモンスターの攻撃を受けさせ続けて状態異常の種類を調べるか

イベント日数も限りがあるし他の支部と協力した方が良いな

 

 

771:名無しの鎧巨人[sage]:2043/10/31(土)

>>769

【麻痺】と【猛毒】と【吸命】と【呪縛】と【拘束】と【混乱】その他諸々を食らったんですが

アイツら動けなくなった所を集中攻撃しやがって……!

 

 

772:名無しの炎忍[sage]:2043/10/31(土)

運が悪かったのでは?

 

 

773:名無しの大海賊[sage]:2043/10/31(土)

アンデッド系は普通の状態異常スキルも使って来るからねー

 

 

774:名無しの剛剣士[sage]:2043/10/31(土)

状態異常系の敵がいるのにソロ狩りするからだろ

 

 

775:名無しの疾風槍士[sage]:2043/10/31(土)

ハロウィンはパーティープレイ推奨イベント

 

 

776:名無しの鎧巨人[sage]:2043/10/31(土)

>>774>>775

うるせぇ!!! パーティー組んでくれるヤツなんていないんだよ! コミュ障舐めんな!!!

 

 

777:名無しの竜騎兵[sage]:2043/10/31(土)

レジェンダリアで空飛んどったら【ハイ・パンプキン・ドラゴン】っちゅう上位純竜レベルのイベモン見つけたで

なんか青い炎を吐いてきてステータスも高かったから逃げたけど

アレはソロじゃ無理やな

 

 

778:名無しの大銃士[sage]:2043/10/31(土)

似たような【パンプキン・ワイバーン】とかはドライフでも見かけた

でも単に体色がオレンジと頭部がカボチャ型なだけのドラゴンモンスターだったからこれじゃない感

 

 

779:名無しの青龍道士[sage]:2043/10/31(土)

【ジャック・オー・ランタン】とか【ウィル・オ・ウィスプ】とかはハロウィンらしいよ

……中華感満載な黄河に出ると違和感があるけど

 

 

780:名無しの炎忍[sage]:2043/10/31(土)

天地ではキュウリとナスに足が生えた植物系イベントモンスターを見かけたぞ

……ドロップは美味しかったけど、それはお盆じゃね?

 

 

781:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

まあ運営もハロウィン系モンスターを考えるのが色々と大変なんだろう……多分

 

 

782:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

一応仮装系モンスターはご当地っぽい感じだったが

アルター・ドライフ・レジェンダリアの西方三国はゴブリンだったけど

 

 

783:名無しの大弓狩人[sage]:2043/10/31(土)

カルディナと黄河は【ディスガイズ・〇〇・アントマン】っていう魔蟲

見た目は二足歩行のアリだな

 

 

784:名無しの大海賊[sage]:2043/10/31(土)

さっきも言ったけどグランバロア……というか海には【マーマン】っていう魚人

夜は船幽霊とか幽霊船とかも出たよ

 

 

785:名無しの炎忍[sage]:2043/10/31(土)

天地は仮装鬼系……西方三国の名前変えただけな気もする

 

 

786:名無しの装甲操縦士[sage]:2043/10/31(土)

操縦士のジョブをあてがわれたのに乗る機体が普通の馬なんてゴブリンもいたけど

 

 

787:名無しの大銃士[sage]:2043/10/31(土)

逆に複数名で戦車を操縦するイベントボス的なヤツ等もいたが

 

 

788:名無しの大気功士[sage]:2043/10/31(土)

中位ぐらいの狩場だと仮装系複数名でジョブのシナジーが噛み合った連携をしてくる時があるからな

そこに他のイベントモンスターが加わったら侮れない

 

 

789:名無しの剛剣士[sage]:2043/10/31(土)

逆に初心者狩場付近の初級モンスターは連携してこないから歯応えのある丁度いい難易度なのかな

前述した通りに事故や罠とかもあるがそれは普通の狩りでも同じだし

 

 

790:名無しの長槍騎士[sage]:2043/10/31(土)

イベントボスを付与術師とかが強化して襲い掛からせて来たから全滅したんだけど

 

 

791:名無しの賢者[sage]:2043/10/31(土)

こっちは従魔師系統が野良モンスターをテイムから強化して来たのに遭遇したが

 

 

792:名無しの炎忍[sage]:2043/10/31(土)

俺も指揮官っぽい鬼が複数の小鬼と連携組んで戦ってるのは見た

 

 

793:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

仮装系は大多数が下級職をあてがわれた下級モンスターだが

数は少ないが上級職をあてがわれた上級ボスモンスターも確認されているな

 

 

794:名無しの高位霊術師[sage]:2043/10/31(土)

多分怨霊術師っぽい上位ゴブリンが辺りに沢山いた【ウィル・オ・ウィスプ】をコストにして

強力な呪術をばら撒いて狩場が阿鼻叫喚の地獄絵図になってるんですが

 

 

795:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

こうして報告を聞いているだけでも面白いなwww

 

 

796:名無しの刀匠[sage]:2043/10/31(土)

しかし狩り系のイベントだから生産職的には暇なイベントだな

 

 

797:名無しの紡績職人[sage]:2043/10/31(土)

素材系イベントアイテムの持ち込みに期待かなー

 

 

798:名無しの高位技師[sage]:2043/10/31(土)

生産職が蚊帳の外気味なイベントな気もするが……初の大規模イベントならこんなものか

それよりこっちはロボット開発で忙しいし

 

 

799:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

情報だと装備品よりも素材アイテムの方が質が高くなっているから

生産職にもある程度考慮されている様だがな

 

 

800:名無しの鎧巨人[sage]:2043/10/31(土)

まあ結局デスペナになった俺にはもう関わりのない事ですけどねorz

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<魔霧の森> 【魔導拳(マジック・フィスト)】ミュウ・ウィステリア

 

 遂に始まったハロウィンイベント、私はアリマちゃんとその()()()だと言う人達とパーティーを組んで霊都から少し離れた所にある、自然魔力の関係で常に濃霧が立ち込めると言う場所──<魔霧の森>でイベントモンスター狩りを行なっていました。

 

『GYIAAAA!』

「おっと、中々鋭い拳ですね」

 

 そして今私はイベント上級モンスターの一体である格闘家の様な仮装をした筋骨隆々のゴブリン──【ディスガイズ・ハードパンチャー・ゴブリン】と一対一で戦っていました。掲示板などではハロウィンらしく“仮装系”などと呼ばれる彼等ですが、実際には与えられた職業のジョブスキルを身に付けているので、その実力は決して仮装(見掛け倒し)では無いのです。

 その証拠に()()()()()()()()()()()こちらと違って、魔力の篭った濃霧の所為で単純な視覚だけで無く探知系スキルも制限されるこの<魔霧の森>の中であっても【ハードパンチャー】の拳は正確に私を狙ってきていますし。

 

『GII! GAA!』

「ほう、ステータスは“バフ込み”で上位純竜級。加えて高い《拳術》のセンススキルと……確か【硬拳士(ハードパンチャー)】には攻撃力を上げるスキルがありましたね」

『《我が拳、巌の如く》だよミュウ。ENDの三倍分だけ拳の攻撃力と防御力を上げるスキル。《天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》に干渉しない攻撃力と防御力を上げるスキルだから就く上級職候補にも上がったでしょ』

 

 最も流石に視界のハンデは大きいからか拳撃には余りキレが無く、ステータスも《天威模倣》のお陰でSTR・END・AGIが同じになっているので避けるには苦労しませんが。

 

「さて、そろそろ片付けましょうか」

『そうだね……【バイオハーデス】よりM()P()()1()0()()()()()()()()《エンハンスフィスト》起動』

『GIA⁉︎』

 

 直後、ミメが発動させたMPを消費して拳の攻撃力と防御力を強化する魔拳士系統の()()()()()に【霊樹冥冠 バイオハーデス】から汲み出されたカンスト魔法職<マスター>の最大MPに匹敵する魔力が注ぎ込まれ、相手の【硬拳士】の奥義に迫るレベルの強化を私の拳に齎しました。

 ……先も言った通り《天威模倣》はステータスだけに関わるスキルなので、この様に攻撃力や防御力を上昇させるスキルと併用が可能です。加えて自然魔力が豊富なレジェンダリアに居るお陰で【バイオハーデス】の蓄積も十分なので、この程度の消費なら特に問題は無いですしね。

 

『ついでに一万ぐらい使って《ダークネス・フィスト》も追加だ』

「では行きましょう……まずは片腕」

『GIIAAA⁉︎』

 

 更に追加で闇属性のオーラを纏わせた《スライスハンド》で私はすれ違いざまにハードパンチャーの片腕を切断しました……ちなみにネリルちゃんとの訓練の成果か、或いは第五形態に進化したお陰か融合しているミメは私の各種スキルを使う事が出来る様になってました。

 

「闇属性の拳はENDでの防御がし難くなりますので……これで終わりです」

『GAAAAA……⁉︎』

 

 そして私は片腕を失ってバランスを崩したハードパンチャーに対して強化された拳と《正拳突き》《リバーブロー》《掌底打ち》の連携で打ち据えた後、頭部を《ジェットアッパー》で吹き飛ばして蹴りを付けました……格闘スキルの無詠唱発動も中々様になって来ましたし、これなら十分に実践でも使えるでしょう。

 ……さて、今の【ディスガイズ・ハードパンチャー・ゴブリン】を()()()()()()()()()()()を倒しに行った他のパーティーメンバーへ連絡しておきましょう。

 

『……は、はい、こちらミマモリです……どうしたのミュウちゃん、まさかやられ……!』

「いえ、こちらはもうハードパンチャーを倒しました。そちらはどうですか?」

『え、上位純竜レベルまで強化された相手をあっさり? ……やだ濡れ……こっちはバフを掛けていた【ディスガイズ・エンチャンター】と【ディスガイズ・ドルイド】と【ディスガイズ・コマンダー】を見つけたよ。向こうも最大戦力がやられて動揺しているみたいだし今から叩くよ』

「分かりました、私もそちらに向かいますね」

 

 ……まあ、支援特化の相手なら私が来る前に終わるでしょうが。何せ向こうには新しい“特典武具”を手に入れておそらく私以上の実力になったアリマちゃんと、このレジェンダリアに於ける()()()()()()()()()()()()()()()()が居ますからね。

 

 

 ◇

 

 

「……やっぱり終わってましたね。予想通りです」

「あ、ミュウちゃん。あの強化された純竜級をあっさり倒すなんて流石だね! 出来ればもう少し早く支援役を見つけて倒したかったんだけど、連中の中にイリュージョニストも居たみたいで」

「そんなに気にしなくて良いですよ、普通に倒せましたし」

 

 そんなアリマちゃんでしたが戦闘を終えたばかりなのか手に持つ刀身が二股に分かれた剣──伝説級特典武具【音叉角剣 ヴァニフォーク】が細かく振動しながら甲高い音を発していました。

 

「それの使い心地はどうですか? まだ鳴ってますけど」

「あ、もうスキルはオフにしてるんだけど暫くは震え続けるみたい……ミュウちゃんを始めとするパーティーメンバーへ【強制睡眠】の対象から外してあるから大丈夫だけど」

 

 元となった【音響角鹿 ヴァニフォーク】は私達がアルターからレジェンダリアに向かう際に偶々遭遇した鹿型の<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>で、音叉の様なツノを振動させる事で発生させた音に触れた者に強力な【強制睡眠】の精神干渉を発生させたり、神話級金属に匹敵する強度の角による超振動打撃や音速の音響衝撃波によって戦う強敵でした。

 ……まあ精神干渉が効かない上、カリキュレーターである【シャカ】の特性から自分が受けている精神干渉の種類を看破出来るアリマちゃんが居たので早々に手の内を明らかにされて、スキル特化型だったから物理的な戦闘能力は純竜級レベルだった事もあり《転位》で状態異常が効かない私と彼女のタッグと他メンバーからの遠距離支援によって撃破されましたが。

 

「使い心地に関しては武器としても高性能だし、装備スキルも剣から出た音に触れた相手()()を【強制睡眠】にする《スリーピング・ソプラノ》はかなり強いよ。……その分、敵味方の区別は付かないからパーティー戦では【シャカ】の補助が必須だけど」

「そこは精神汚染が効かないアリマちゃんにアジャストされたからこそですね。デンドロのスキルはセーフティを取っ払って無制御にした方が高出力化するみたいですし」

 

 剣から出た音全てと言うのは、当然ながら【ヴァニフォーク】を手に持つアリマちゃん自身にも効果があるという事ですが、精神系状態異常を受けても一切問題なく行動出来る彼女にとってはデメリットになってませんものね。

 これと【ヴァニフォーク】の()()()()()()()()()()を組み合わせた今のアリマちゃんの戦闘能力は、推定ですが【バイオハーデス】を使う私をも上回るでしょう……ところで。

 

「……何故皆さんは私達から遠くへと離れているんですか?」

『ふふふ……それは再び友人に戻れた二人の尊い会話を邪魔しない為ですぞ。俺は空気の読める男ですのでな』

「ああ〜、少女達の無垢な絡みは最高なんじゃ〜。尊死ぬ〜」

「そんな尊みに溢れる空間に我々の様な不純物が踏み入って良い筈がない(断言)」

「見てるだけで現実(リアル)の汚濁に包まれた我が魂が浄化される……」

 

 そんな事を言いながら私達から30メートルぐらい離れた所に居るのはアリマちゃんのフレンドだと言うレジェンダリアの上位クラン<YLNT倶楽部>のオーナーの【高位呪術師(ハイ・ソーサラー)】LS・エルゴ・スムさんと、そのクランメンバーであるゴツいバイザーを付けた女性の【邪眼術師(イヴィルマンサー)】ミマモリさん、顔の下半分を覆うマスクを付けて手には翡翠色の杖を持った男性の【翆風術師(エアロマンサー)】KNKAさん、背後に大きな蟹型のガードナーを従えた男性の【獣戦鬼(ビーストオーガ)】剛雅さんの四人でした。

 ……少々個性的なメンバーですが、視界が封じられスキルによる探査が阻害される上に環境に適応した強力なモンスターが跋扈する<魔霧の森>で安定した狩りが出来る凄腕の<マスター>達なのです。

 

「……しかし、ミマモリさんの【ヴィルーパークシャ】は凄いですね。この数メートル先も見えない筈の濃霧の中でも普段と変わりなくものが見えるんですから」

「あっ……幼女に褒められた……ふへへへへへ〜……!」

『おっと、少々ロリショタの尊み成分を摂取し過ぎてトリップしておる様ですな。ほれ斜め45度チョップ!』

 

 ……そんな手刀を食らって再起動しているミマモリさんの【監視感撮 ヴィルーパークシャ】は強力な《透視》《遠視》《心眼》の効果を持つ強力かつ正確な視覚系固有スキル有するバイザー型の<エンブリオ>だそうです。

 更にその内の一つだけを自身のパーティーメンバーにも付与出来るスキルもあるという優れ物であり、彼女のお陰で濃霧が立ち込めるので狩りにはとても向かない<魔霧の森>でも私達は問題なく行動が出来ると言うわけなのです。

 

「LSさん達仲良いんですね、やっぱり上位クランだとメンバー同士の絆とかもしっかりとしてる感じ何ですか?」

『我々は同じ“(ロリショタ)”の元に集った同士達ですからな。仲は基本的に悪くないですぞ』

「……まあ偶に些細な意見(性癖)の不一致で喧嘩になる事はあるが、それでも目的(ロリショタ)の為になら皆で協力して行動するだろう」

「それに考え(性癖)が違っていても<魔法少女連盟>みたいに仲良く協力出来る所もある……どうしても合わない奴等も居るが」

 

 ……ちなみに彼等の様子を見てそんな質問が出て来るアリマちゃんは意外と呑気と言うかおおらかな性格してます。そんな些細な事を気にしない性格だから割と面倒臭い私と友達になってくれたとも言えるんですが……む。

 

「……何かいますね《人間探知》……十時の方向、高レベルの人間が五人ほどいます」

『何ですと? ……ミマモリ、KNKA、剛雅』

「了解《四天の読心眼》《四天の透視眼》並列起動。出力調整・隠蔽看破特化」

「《エアー・エクスプロレーション》……確かに居るな。起きろ【アイテール】」

「【カルキノス】前に出ろ、彼女達を庇え」

『KISYASYA!』

 

 その時、私はこちらを見る誰かの視線を感じ取ったので、直ぐに【ブラックォーツ】のスキルを使って霧に隠れながらこちらを伺っていた五人の人間を見つけ出しました。人間範疇生物の位置と大雑把に強さしか分からない《人間探知》ですが、効果が限定的なある分だけ殆どの隠蔽を看破可能な探知能力を有するのです。

 そして私の言葉を聞いた<YLNT倶楽部>のメンバーは先程までの緩んだ雰囲気から一変して、即座に探知スキルによる対象の補足と戦闘準備を整えました。そんな私達の様子を見て隠れていても無駄だと思ったのか、潜んでいた者達は《光学迷彩》を解いて姿を現します。

 

「……ふふふ……中々勘のいいお嬢さんだ」

『お前は……ペロセウス! まさか今回の一件を嗅ぎつけたと言うのか!』

「えーっと、お知り合いですか?」

「……彼奴等は<LPT小隊>。我らと同じ(カルマ)を背負いながらも決定的な部分で道を違えた宿敵よ」

 

 そして<YLNT倶楽部>の四人と、ペロセウスと言うらしい盾を持った<マスター>を先頭とした<LPT小隊>と言うクランの五人は、困惑する私とアリマちゃんを他所にお互いに戦闘態勢に入りつつ剣呑な雰囲気を放ちながら睨み合います。

 ……その光景を見てどうやらクラン同士の抗争に巻き込まれた様だと判断した私とアリマちゃんは、それぞれいつでも戦闘に入れる準備を整えながら彼等の様子を見守る事にしたのでした。




あとがき・各種設定解説

末妹:※次回はギャグ回です
・大量のMPを基本スキルに注ぎ込んだのは属性を纏わせるタイプのスキルだと、余りに多量のMPを使った際に制御しきれず自分の肉体にもダメージが行くケースがあったからで、それ故に単純に攻撃力が上がるスキルに使った形。
・尚、<YLNT倶楽部>のメンバーに対しては多少変わった人達だとは思っているが、アリマの紹介な事と悪意や敵意の類いが無い事もあって普通に接している。

アリマ・スカーレット:特典武具の獲得で更に酷い事に
・【ヴァニフォーク】の《スリーピング・ソプラノ》はMPを消費して催眠音波を出すスキルで、音波に触れたものへと効果を及ぼすので耳を塞ごうが意味は無く、振動している刀剣に触れても効果を発揮するので接近戦でも使える。
・その分無制御なので自分も【強制睡眠】になったりスキルを止めてもしばらく音が鳴り続けたりするが、能動的に精神干渉が出来る武器を手に入れたお陰で彼女の戦闘能力はかなり上がった。
・尚、末妹は『もう一つのスキルの方が数段タチが悪い、むしろそっちがアリマちゃんにアジャストされた本命のスキル』だと考えているが、そちらは目の前に生贄が出たので次回紹介。

<YLNT倶楽部>:ロリとパーティーが組めて内心凄まじくハッスルしている
・一応、彼女達に引かれない様に外面は(ある程度)取り繕っている(出来てないが)
・尚、兄と妹がそれぞれ別行動だったので末妹がアリマをハロウィンイベント誘ったら『折角だし他にもメンバーを募集しようよ』と、何故か偶々側にいたフレンドのLSに声を掛けたのがきっかけ。
・他のメンバーに関してはLSがクラン内の他のメンバーにロリに誘われたと声を掛け、その結果巻き起こった骨肉の内乱(クジ引き)の結果選ばれたメンバー。

【監視感撮 ヴィルーパークシャ】
<マスター>:ミマモリ
TYPE:カリキュレーター
到達形態:Ⅳ
能力特性:千里眼
固有スキル:《四天の千里眼》《四天の透視眼》《四天の解析眼》《四天の読心眼》《広目の天眼》
・モチーフは仏教の四天王の一角『広目天』の梵名にして、千里眼や尋常でない眼・特殊な力を持った眼とも解釈される“ヴィルーパークシャ”。
・見た目は大きな目のマークが描かれたゴツいバイザーで、それぞれ強力かつ高精度な『千里眼』『透視』『看破鑑定』『隠蔽看破』の固有スキルを有する。
・それぞれのスキルを同時に使用する事も出来て、その場合は個々の出力は落ちるが併用している個々のスキルの出力を状況に応じて変更させる事も出来る。
・また、現在自分が使っている固有スキルの効果を七割程度の出力でパーティーメンバーに付与する《広目の天眼》と言うスキルもあり、その出力でも<魔霧の森>内でも通常行動可能になるレベル。
・ちなみに通常の《透視》と違って服だけ透過出来るレベルの精度を有しているが、ミマモリ自身が『私如きが穢れなきロリショタの肢体を視姦するなど言語道断』として少年少女に透視は使わないので安全()
・その代わりそれ以外の相手には体内透視からの、目視した対象に効果を及ぼす魔眼系スキルの併用で内臓への直接攻撃とかしてくる。

<LPT小隊>:ネタ枠(断言)
・性癖と主義の違いによって<YLNT倶楽部>から分派したクランらしいが詳細は次回。


読了ありがとうございました。
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レジェンダリアのHENTAI達

前回のあらすじ:末妹「ハロウィンイベントはアリマちゃん“達”と一緒に回るので兄様達は安心してデートを楽しんで下さい!」兄「ああ分かった、気を付けてな」(まあ、あの二人ならいきなり古代伝説級にでも襲われない限りは大丈夫だろう)


 □<魔霧の森> 【魔導拳(マジック・フィスト)】ミュウ・ウィステリア

 

『……それでペロセウス、態々こんな辺鄙な場所まで一体何の様ですかな? 折角のハロウィンイベントなのだから、何処か適当な所で狩りでもして来たらどうですかな?』

「ふん、そんな“辺鄙な場所”に少女達を連れ込む貴様らに言われたくないな。いやはやまったく、こんな所でナニをしようとしていたのやら」

「私の<エンブリオ>のお陰でこの森でも行動に支障が無いから狩りに来ただけよ。……まったくこれだから童貞は。思考が全部下半身に直結しているわね」

「何をしようと聞いただけでそんな返答を返す方がアレなんじゃ無いのかぁ? この喪女熟女が」

 

 ……さて、ハロウィンイベントをしに来た私達でしたが、何故か目の前で<YLNT倶楽部>のメンバー四人と、その敵対クランらしい<LPT小隊>のメンバー五人が凄い剣呑な雰囲気でレスバしているのです。

 

「……ええと、これは私達いったいどうすれば良いのかなミュウちゃん。LSさん達も見た事無いぐらいおっかない雰囲気になってるし」

「襲い掛かって来たPK<マスター>相手なら有無を言わさせず皆殺しで問題ないのですが、今回はどうもクラン同士の争いが関わっている様ですし……」

 

 アリマちゃんがこっそり近づいて来て耳打ちして来たので、私も同じく小さな声で喋りましたが……おや、何か向こうの言い争いが止まってますね。そしてみんな私達の方を見てます。

 

「……少女同士が顔を寄せて……はっ! キスシーン!」「幼女同士の百合描写尊い」「ハァハァ……ウッ!」「チッ、これだから解釈違い共は……尊いロリ同士の友情描写の方が良いに決まってるでしょ!」「ああああ〜浄化される〜」「汚物共と会話して汚れた魂が浄化されていく……」『やはりロリショタの友情はいつ見ても尊いものですな』

「……うーん、イベントの時間も限られてるし、とりあえず向こうの人達を殲滅すれば良いのかな?」

「……ええとアリマちゃん、まずは二つのクランの事情を聞いてみましょう」

 

 ……彼等を見てこのままだと話が進まない様な気がしたので、とりあえず【ヴァニフォーク】から()()()()()()()()を鳴らし始めたアリマちゃんを制止しつつ、私は二つのクランが何故敵対しているのかを聞く事にしました。

 

『ふむ、巻き込んでしまった二人には事情を説明する必要があるでしょうな。……まあ簡単に言えば彼等は元々<YLNT倶楽部>に所属していたか、我らと同じ考え(ロリショタ)を持っていた者達なのですが、我々にとって“最大の禁忌”を犯したが故に追放・敵対する事となり、そういった者達が集まって出来たクランが<LPT小隊>なのですぞ』

「我らはこの自由なる世界で己が望みを叶える為に来たと言うのに、そこの<YLNT倶楽部>の連中は狭量な考えから我らを否定して追いやったのだ!」

 

 ……そのLSさんと彼方の盾を持った男性『ペロセウス』氏の証言によると、要するに<YLNT倶楽部>の主義主張とは相反する考えを持つ者達で構成されたのが<LPT小隊>であり、それ故に敵対する事になったと言う訳ですか。

 

「じゃあ、結局<LPT小隊>は私達に何の様? 敵対PKのつもりなら相手になるけど」

「おっと、早合点はよしてくれ“少狂女”。こちらとしても君達の様な可憐な少女(ロリ)達に手を出すつもりは無い……そちらから仕掛けて来るなら防戦ぐらいはするが」

 

 そう言いながらペロセウス氏は手に持った『蛇の頭髪を持った女性が描かれた盾』をこちらに向けて牽制して来ました……ちなみに“少狂女”とはアリマちゃんの通り名らしく、以前《伝播スル狂信》の設定をミスって辺りのモンスターや<マスター>を纏めて狂乱状態に叩き込んで地獄絵図に変えた所から付けられてしまったのだとか。

 まあ、本人は『やらかした事的にしょうがないけど、もうちょっと可愛い通り名なら良かった』とも言ってましたが、通り名というのは他人が付けるモノですからね。

 

『気を付けて下され二人とも。ペロセウスが持っている盾は彼奴の<エンブリオ>【反視逆盾 アイギス】。盾で攻撃を受けた相手に対して【石化】や【精神休眠】の状態異常を掛けてくるカウンター型ですぞ』

「ちなみに盾で防げない、特にそちらの“少狂嬢”が得意とする精神系状態異常は別の<エンブリオ>で対策されている。だからそんな音を出しても無駄だよ」

 

 まあ、先程の戦闘で潜伏していた彼らにも無差別型であるアリマちゃんの精神干渉が届いている筈なのに、ああやって無事って事は対策はされているって事ですよね……最もそれには()()()()()()()()()()()、とにかく今は肝心の『彼らの目的』を聞きましょうか。

 

「それで、結局貴方達は何をしに来たんですか?」

「ふふふ、決まっているだろう? 我々を理不尽に放逐しながら、ぬけぬけと可憐な少女(ロリ)達と共にイベントを楽しんでいる<YLNT倶楽部>の連中を粛正して……その後はどうか俺達と一緒にハロウィンイベントを回って下さい! 出来ればお手手繋いで! お願いします!!!」

「「「「お願いしまぁす!!!」」」」

 

 そう言いながら彼等<LPT小隊>のメンバーは私とアリマちゃんに向けて腰を90度に曲げながら懇願して来たのです……それを見て困惑する私達でしたが、何かを返答しようと思うよりも早く<YLNT倶楽部>の皆さんが彼等へと怒鳴り始めます。

 

『ハァァァァァァッ⁉︎ ロリショタ達をパーティーに誘うならまだしも“お手手繋いで”とか緊急時以外はあり得ませんぞ!!! Y(イエス)L(ロリショタ)N(ノー)T(タッチ)こそ我らがクラン名にも掲げる紳士淑女の掟ですぞ!!!』

「うるせぇんだよぉ!!! 俺達はリアルだとセクハラとか言われて出来ないロリショタ達との触れ合いが目的でデンドロをやってるのに、そんな下らない掟で俺達の自由を縛りやがってぇ!!! だからこそ俺達のクラン名はL(ロリショタ)P(ペロペロ)T(タッチ)()(たい)! 虐げられた者達の誓いの名前なんだ!!!」

「ハァ? 貴様ら直結厨の性犯罪者達の汚物のごとき舌がロリショタ達に触れるなど考えるだけで悍ましいんだが⁉︎ 我々紳士淑女に許されるのはロリショタの残り香をクンカクンカする所までに決まってんだろぉぉ!!!」

「別に俺達は無許可でペロペロとかしねーし! むしろペロリストなのはオーナーだけで、俺らはちょっとだけロリショタ達と手を繋げれば良いぐらいのロリショタコンだし! それも拒否されたら素直に引き下がるから、ロリショタの衣服から残り香を全力吸引してるお前らよりもマシだから!!!」

「うっせぇバーカ! 孤児院の洗濯を手伝ってる時にたまたまロリショタの香り成分が鼻孔に入るだけですぅ〜! お前らと違って不可抗力ですぅ〜!!!」

「うっせぇバーカバーカ! 俺らだって孤児院の子供達の面倒を見る時に必要だから触れてるだけですぅ〜! お眠のロリショタ達をベッドに運ぶ時とかさぁ! それをいちいち咎めやがって!!!」

「うっせぇバーカバーカバーカ!!!」

「何だとこのバーカバーカ!!!」

 

 ……途中から語彙力が酷いことになってますが二つのクランの言い争いは続きました。姉様なら『盛大にブーメラン投げ合ってるねー』とか言いそうですし、現在兄様とデート中なひめひめさんなら『え? あそこにいるHENTAI共は全員ぶっ殺したわ。ぶっ殺すなんて下品な言葉は使わないわよ』と既に全員の頭を撃ち抜いた後になりそうですが……さてどうしましょうか。

 

「……えーっと、<LPT小隊>の皆さんでしたっけ? 申し訳ないですけど今回のハロウィンイベントは私がLSさん達と誘ったので、言い出した以上は最後まで付き合おうと思ってますから貴方達の誘いは受けられません。ごめんなさい」

『ナニィ⁉︎』

「……おおう、流石はアリマちゃん。こんな状況でも躊躇なく行きますね」

 

 正直言ってあの言い争いに介入するのは私でも二の足を踏むんですが、そこに痺れる憧れます……そして、そのアリマちゃんの御断りの言葉を聞いた<LPT小隊>のメンバーは絶望の表情を浮かべ、逆に<YLNT倶楽部>のメンバーは(マスクを付けてるLSさん以外)鬼の首でも取ったかの様な笑みを浮かべました。

 

「フハハハハァ!!! ほらロリショタに断られたんだから素直に帰りな! それともその程度のマナーすら守れない程に落ちぶれたか!」

「ぐぬぬぬぬぬ……貴様らの様なHENTAIをパーティーに誘ってくれるロリ<マスター>なんて言う都市伝説が本当に実在したとは!」

「ハロウィンイベント中に『せっかくロリに誘われたのにクジが外れた!』と騒いでる<YLNT倶楽部>のバカ共を見て来てみたが、正直また連中の妄想で本当は金でも積んだんだと思ってたのに……」

「……あの阿呆共……後で〆る」

『……ペロセウス、お前達の言いたい事に関しては後で彼女達がいない所にてじっくりと聞きますので、ここは一旦引いては貰えないですかな?』

 

 そんな何やらヒートアップしそうな雰囲気の中、一歩前に出たLSさんが他のメンバーを制止しながら<LPT小隊>へそう言った……どうも彼は穏便に話をつけようとしている様なのですが……。

 

「ええいっ! ここまで来て引き下がれるか! ロリ<マスター>達とイベントを回るのは諦めるが貴様らはデスペナにして、ロリショタと一緒に居られないリアルで悶々としたハロウィンを送らせてやる!!!」

『……ペロセウス、お前達をそこまで追い込んだ事には俺達の無理解や至らなさも原因であった事は認めよう。……だが、イベントを楽しんでいる彼女達の邪魔をする言うのなら、<YLNT倶楽部>のオーナーとしてお前達を打ち倒す』

 

 半ばヤケになったかの様に己の<エンブリオ>である【アイギス】とミスリル製っぽい片手剣を構えるペロセウス氏と、彼に呼応する様に各々の武器や<エンブリオ>を構えた<LPT小隊>。それに対してLSさんはこれまでに無い真剣な声を上げながら足元に魔方陣を展開し、同じく他の<YLNT倶楽部>のメンバーも目の前の敵を打ち倒さんと戦闘態勢に入りました……まあ、このクラン同士の抗争の原因は『ロリショタに関する性癖の不一致』なんですけどね。

 それに向こうが戦闘態勢に入った所為で完全に迎え撃つ気となったアリマちゃんが前に出てしまいましたし、彼女の攻撃が()()()()()()()()以上、彼等<LPT小隊>はもう詰んでるんですけど。

 

「……うん、引く気が無いならしょうがないか。私もミュウちゃんとのハロウィンイベントをこれ以上邪魔させたく無いし、貴方達を排除するよ。……最後に行っておくけど、このまま何もせずに帰るなら見逃してあげるよ」

「君達と戦う気は無いんだがな。……それに幾らかつて事件の報復として自分をPKしに来た<マスター>十数人を逆に精神汚染で返り討ちにした君とは言え、精神耐性能力持ちの<エンブリオ>相手では……「その情報は古いよ? ……今の私に“耐性”は意味がないから《スリーピング・ソプラノ》」……ぐがーzzz」

 

 余裕を崩さないペロセウス氏でしたが、アリマちゃんが【ヴァニフォーク】から発生させた催眠音波を聞いた瞬間、まるで付加されていた筈の()()()()()()()()()()()()()()他のクランメンバー諸共あっさりと【強制睡眠】に落ちてしまいました。

 

『「「「……え?」」」』

「うん、あくまでも精神耐性を上げるスキルで音波や精神干渉そのものを無効化している訳じゃ無かったみたいだね。限界まで耐性を“引き下げれば”一瞬で状態異常に落とせるのが分かったのも収穫かな?」

「……まあ、彼等は騒いでいる間にずっと聞かされてましたものねぇ。第二スキル」

 

 いきなり相手が眠りこけた事に唖然とする<YLNT倶楽部>の面々でしたが、これこそが先程から【音叉角剣 ヴァニフォーク】が発生させていた少し低い音の正体──触れた者の精神系状態異常耐性を()()()()()音波を発生させる第二スキル《ウィークネス・テノール》なのです。

 ……今回は音波を長時間聞かせ続けて十分に耐性を減らしてからの【強制睡眠】と言う地味な使い方でしたが、アリマちゃんが本気ならこれと《伝播スル狂信》を組み合わせて超強化されたステータスによる直接戦闘+耐性減弱精神汚染による広域制圧・殲滅すら可能な超凶悪スキルです。自分ごと巻き込む特性的に《転位》も無意味なのでまともに戦えば私でも勝てないですね。

 

「さてと、なるべく穏便に片付けたつもりだけど彼等はどうしようかな。LSさんはどうします?」

『……そうですな。折角のお二人とのハロウィンイベントにわざわざPKをしたくは無いですし、このまま放置して我々は別の場所でイベントの続きとしたいですな。……このイベントが終わり次第、彼等とはかつて同じ志を持った者同士(同じロリショタ)として俺がしっかりと話し合っておきますので』

「分かりました、私もそれで良いですよ」

 

 そういう訳で私達は【強制睡眠】にされた彼等を放置して、また別の狩場へと移動してハロウィンイベントに戻る事となりました……まあ、精神減弱は放置しておけば時間経過で元に戻るらしいですし、【強制睡眠】も軽く掛けただけだから直に起きるでしょとはアリマちゃんの弁です。それまでにモンスターとかに襲われるかも知れませんが、先にちょっかいをかけて来たのは向こうなので自業自得という事で。

 ……そして狩場を変える為に移動する途中、私達は<YLNT倶楽部>のオーナーとしてのLSさんから『巻き込んでしまった以上はある程度の事情を話しておかねば不義理に当たりますな』と彼等<LPT小隊>の因縁について少し聞きました。

 

『……元々は彼等も子供達(ロリショタ)の為に慈善事業を積極的に行う善良な<マスター>であったのですが、無垢なる少年少女達とのささやかな触れ合いを求めた彼等に対して、我々がその名(YLNT)の通り“ノー”を突き付けてしまったが故にあそこまで拗れてしまったのです』

「……まあ、私達が言える事でも無いけどこのレジェンダリアには変態が多いからねぇ。その中には私達と違って善良では無い、直接的な害を成そうとするタチの悪い連中もいるから、そんなヤツらから子供達(ロリショタ)を守る為には徹底的な線引きが必要だったのよ」

「当時はクランを立ち上げたばかりで色々とゴタついてたから、少し過剰すぎる排斥になっているのに気がつくのが遅れた」

「それにティアンの子供達(ロリショタ)を狙う“魂喰らい”の<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>の情報や、今は活動を縮小しているが幼女(ロリ)<マスター>専門のPKクラン<メスガキわからせ隊>とかの活動で俺達もピリピリしてたから」

「あ、そう言えば私とひめひめさんとサリーちゃんを襲って来たので返り討ちにした<マスター>達がそんなクラン名を名乗ってましたっけ」

 

 そんな彼等の話を聞いてクランの経営も色々と大変なのだと思いました。多数の<マスター>が混在する上位のクラン故に人間関係も複雑な様で……。

 

『まあ、幾ら思い詰めたとは言えど子供達(ロリショタ)をオモチャとお菓子で釣って、その代わりにペロペロさせるようとしたのは完全にアウトですが』

「連中が子供達(ロリショタ)をベッドに運んでる間に、その無垢なる肢体をさり気なく撫で回してたから内臓を溶かしたのはやむ終えない」

「手の甲ならセクハラじゃ無いとかそういう問題じゃ無い」

「やはりイエスロリショタノータッチは徹底すべきだな」

「あはは……」

 

 ……でもこんな感じのしょーもないオチが付くのがレジェンダリアクオリティ(苦笑)……まあ、彼等は基本的に良い人たちなので付き合っていて不快な気分にはなりませんが。

 

 

 ◇

 

 

 そんな訳で私達は次の狩場へと向かう為に一旦<アムニール>にまで戻っていたのですが、そこで着ぐるみ装備の戦闘態勢な姉様と遭遇したのです。

 

『ちょうど良かったミュウちゃん達。一緒にこれからレイドボスを倒しに行かない?』

「え? ……私は構いませんが、他の人達はどうです?」

「私もいいよー。レイドボス戦とか楽しみだし」

少女(ロリ)達の頼みを断るという選択肢は我ら<YLNT倶楽部>には存在しませんぞ』

「「「うんうん」」」

 

 ……とまあそんな訳で、私達は姉様の誘いでハロウィンイベントに於ける『レイドボス』と言える相手と戦う事になったのでした。どうやら私達のハロウィンはまだまだ続く様です。




あとがき・各種設定解説

【音叉角剣 ヴァニフォーク】:伝説級特典武具
・装備スキルは高音催眠音波発生の《スリーピング・ソプラノ》と低音精神耐性減弱音波発生の《ウィークネス・テノール》の二つで、刀身を振動させて音を出す関係上どちらか一つしか使えない選択式。
・元となった【音響角鹿 ヴァニフォーク】の音を出していた角が神話級金属レベルの強度を持っていた事から、流石にそれには劣るもののそれを元にしたこの剣も高い強度と1000近い装備攻撃力を有する。
・尚、<UBM>である【ヴァニフォーク】は分かりやすい振動波や催眠音波に混ぜて、隠し球の可聴域外の超低周波による精神耐性減弱音波を放ってくるレイレイ+ベルドルベルみたいなヤツだった。
・その性質上初見殺し性能が非常に高い<UBM>だったのだが、アリマの《悟りの境地(マインド・セット)》は自分が受けた精神干渉の種別も把握出来るので手の内をあっさりと見破られた。
・その後は角と音波スキル特化だから物理ステータスは純竜級程度だった事が災いし、精神干渉が効かないアリマと末妹に他のメンバーが範囲外から援護する戦術で接近戦に持ち込まれて討伐された。

アリマ:レジェンダリア慣れしてるのでスルー力は高い
・【ヴァニフォーク】のお陰で戦闘能力は上がったが、複数の無差別精神干渉スキルを併用する場合には《悟りし者の御業(ソウル・コントローラー)》による制御でMP・SPを相応に消費するので燃費はまだ悪い。
・逆に言えば一切制御を行わない無差別広域殲滅型としてならば、現状でも無差別故の低燃費と高出力によって準<超級>トップクラスの性能を長時間発揮させる事が可能。
・ただ、本人の気質的に普段の狩りでも『ティアンを対象外にする』などの事故防止措置を取っているので、イベントの様に長期間戦う必要がある時は《フィジカルバーサーク》+《スリーピング・ソプラノ》のみと言った低燃費・手加減モードで戦う事が殆ど。

<YLNT倶楽部>:HENTAIばかりだが色々と苦労はある
・それでもやっぱりHENTAIなのでイベントが終わった後の<LPT小隊>との話し合いも、最終的にはお互いの性癖を大声でぶつけ合って周りから距離を取られます(笑)
・ちなみに本編に出番の無かった他のメンバーの<エンブリオ>は、KNKAの方は【空輝清杖 アイテール】という大気中の不純物を吸収してMPへと変換蓄積出来る杖型アームズで、周囲の大気の清浄化や蓄積したMPを使った大出力の魔法攻撃を得意としている。
・もう一人の剛雅の方は【守護星蟹 カルキノス】というEND特化の蟹型ガードナーで、味方を庇う際だけAGIを十倍化させたりカウンターで相手のSTRとAGIにデバフを掛けたりする事が出来るカバーリング特化という設定(今後出番があるかは未定なので出しておく)

<LPT小隊>:この後はイベントモンスターに集られる直前で起床
・今回はこれまでのトラブルとロリショタ成分の不足によって正常な判断力を失っていてこんな暴挙に出たが、基本的にはレジェンダリアのHENTAI達の中では善良な方の<マスター>達。
・流石にロリに眠らされて反省したのかイベント中はこれ以上何もしない事にしたが、イベント後の話し合い(性癖のぶつけ合い)ではガチバトルになるレベルでヒートアップした。
・一応、話し合いの後では『自分達の抗争にロリショタを巻き込まない』と言ったいくつかの紳士(HENTAI)協定が結ばれた模様。


読了ありがとうございました。
レジェンダリアのHENTAIキャラの描写はこんな感じで良かっただろうか。一応ロリショタ達の前だから自重していたという裏設定があって本当はもっと酷いとかにも出来るけど。意見・感想お待ちしてます。


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ハロウィンスレ2/ボスモンスター攻略に向けて

前回のあらすじ:LPT『ウオオオオ! 俺達はロリショタにタッチしたいんだぁぁぁぁ!!!』YLNT『イエスロリショタノータッチは紳士の鉄則ですぞぉぉぉぉ!!!』アリマ「まだイベント中だからとりあえず眠ってね」


 □◾️地球 とある掲示板

 

 

 ◇◇◇

 

 

【レッツ!】<Infinite Dendrogram>ハロウィンイベントスレ2【ハロウィン!】

1:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

このスレは<Infinite Dendrogram>ハロウィンイベントに関する情報を書き込むスレです

イベント内容・イベントモンスター・イベント交換アイテムの質問などご自由に

荒らしはスルー推奨

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

8:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

イベント中・後半になったら

【ディスガイズ・ウェアウルフ・ゴブリン】や【ディスガイズ・バンシー・ゴブリン】と言った

新規にポップされたと思しきモンスターも確認されたぞ

 

 

9:名無しの鷹匠[sage]:2043/10/31(土)

そんな新規モンスターなど詳しいステータスとかはwikiを見よう!

 

 

10:名無しの大斧士[sage]:2043/10/31(土)

ここぞとばかりに宣伝する編纂部の鏡

 

 

11:名無しの高位精霊術師[sage]:2043/10/31(土)

ギャー⁉︎ イベントボスモンスターにやられた!

何あの【ハイ・パンプキン・ドラゴン】ってヤツ!

カボチャ頭のオレンジドラゴンとかいうクソデザインなのに強すぎない!!!

 

 

12:名無しの影[sage]:2043/10/31(土)

デザインはアレでも上位純竜級でござるからなぁ

天地に出てきた【デッドリー・キューカンバー・ペイルホース】なども

広域に【死呪宣告】【脱力】【飢餓】と言った凶悪な状態異常をばら撒いておりましたし

 

 

13:名無しの聖騎士[sage]:2043/10/31(土)

アルター東部に現れた【ファーマーキング・パンプキンゴーレム】とか

【プランティング・パンプキンゴーレム】を育てて大軍勢を作ってたんだけど

<アルター王国自由騎士団>は只今討伐メンバー募集中

 

 

14:名無しの戦車操縦士[sage]:2043/10/31(土)

イベントモンスターだからかティアンには手を出さないのは色んな意味で幸いだったが

ドライフでは【ジャイアント・イグニス・ファトス】って巨大な火の玉モンスターがいた

物理や熱系攻撃に強いみたいで相性悪いんだよなぁ

 

 

15:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

各国の情報を総合するとイベントモンスターの中でも上位純竜級の特に高い能力を持つ

……所謂『レイドボス』レベルのモンスターが存在しているようだな

 

 

16:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

それらのレイドボスモンスターは基本的に一箇所の決められた範囲内に留まっており

近くに<マスター>が現れた場合には攻撃を仕掛ける……要は固定ボスと言った所か

 

 

17:名無しの黄龍道士[sage]:2043/10/31(土)

後はティアンが範囲内に入っても襲わない様だぞ

流石に攻撃されれば別の様だが

 

 

18:名無しの海賊剣豪[sage]:2043/10/31(土)

【ハイ・パンプキン・シーサーペント】討伐成功!

闇属性物体透過ブレス呪い付きは厄介だったけど

一定範囲内にしか動かないから知人が爆破して弱った所を一斉攻撃

 

 

19:名無しの蒼海術師[sage]:2043/10/31(土)

やっぱりレイドボス想定だったからかドロップアイテムは凄い大量に出たぞ

普通の上位純竜倒した時よりも多かったな

 

 

20:名無しの提督[sage]:2043/10/31(土)

まあそれなりの大人数で挑んだから一人一人に当たった量はそんなでもないが

 

 

21:名無しの大斧士[sage]:2043/10/31(土)

じゃあ少人数のパーティーでレイドボスを倒せればアイテムがガッポガッポか!

 

 

22:名無しの高位精霊術師[sage]:2043/10/31(土)

>>21

そう皮算用して散って言った<マスター>達がいっぱい居るんですよね、俺とか

 

 

23:名無しの鷹匠[sage]:2043/10/31(土)

イベントのレイドボスなのだから大人数で挑むのが普通なんだろうが

……一部少人数で撃破する様な連中もいそうではあるが

 

 

24:名無しの影[sage]:2043/10/31(土)

種類にもよるがレイドボスは物理ステだけでも一万越えがザラでござるからなぁ

HP・MPとかも高くて二十万超えてる上に強いスキルをきっちりと揃えてるでござる

 

 

25:名無しの戦棍姫[sage]:2043/10/31(土)

まあ、上位純竜級モンスターは<UBM>みたいな特異なスキルはないけど

その分ジョブスキルにもなってる汎用性の高い普通に強いスキルを揃えてるからね

正直言って種が分かれば攻略可能な<UBM>より手強いのはそこそこ多いよ

 

 

26:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

特異(ユニーク)でないのが弱いとは限らないという訳だ

まあイベントモンスターは普通にないスキルを使って来たりするが

 

 

27:名無しの祟神[sage]:2043/10/31(土)

そう言えば倒された【ランタン】や【ウィスプ】は偶に他のイベントモンスターを強化してるみたいよ

ボスモンスターとかは強化される前にさっさと倒した方がいいんじゃないかしら

 

 

28:名無しの黄龍道士[sage]:2043/10/31(土)

え? それどこ情報?

 

 

29:名無しの海賊剣豪[sage]:2043/10/31(土)

そう言えば【シーサーペント】もステータスが二割ぐらい強化されてた様な

イベントボス補正だと思ってたけど

 

 

30:名無しの戦車操縦士[sage]:2043/10/31(土)

編集部ー!

 

 

31:名無しの戦棍姫[sage]:2043/10/31(土)

祟神さん、出来ればもうちょっと詳しく

 

 

32:名無しの祟神[sage]:2043/10/31(土)

そうねー、イベントのモンスターを倒した時に末期の怨念が別の所に流れてたのよ

それを辿ってみると他のモンスターに怨念が付加されて強化されてたのよね

怨念操作特化の超級職のお陰か怨念への感知能力も上がってるのよね

 

 

33:名無しの提督[sage]:2043/10/31(土)

実に早いレスをありがとう……検証はーん!

 

 

34:名無しの扇動者[sage]:2043/10/31(土)

おやぁ? これは丁度タイムリーでしたねぇ、ドライフ支部から新鮮な新情報ですよぉ〜

 

《未練の灯火》:アクティブスキル

自身が死亡した時に効果範囲内にいる最も合計ステータスの高いモンスター一体に全ステータス+1%のバフを掛ける

持続時間は72時間

このスキルによるバフの最大値は+300%まで

 

 

35:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

くっ、先を越されたか…しかし【ウィスプ】も【ランタン】もちゃんと調べた筈なんだが

 

 

36:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

俺の<エンブリオ>で調べた【ウィスプ】はこんなスキルを持っていなかった筈なんだが

 

 

37:名無しの扇動者[sage]:2043/10/31(土)

>>35>>36

それは貴方達の調べ方が足りなかっただけではぁ?……と言いたい所ですが

どうもこのスキルはイベント中盤辺りから新たにポップした個体の半分しか持ってない様で

序盤に【ウィスプ】などを調べて終わりでは気付かない仕様でしたよぉ

 

 

38:名無しの蒼海術師[sage]:2043/10/31(土)

【ウィスプ】と【ランタン】は全国展開されてる雑魚敵だからなぁ

運が悪いと後半は超強化されたボスモンスターになるかもな

 

 

39:名無しの戦棍姫[sage]:2043/10/31(土)

ふむ、じゃあボスモンスターへのリベンジは早めがいいか

 

 

40:名無しの高位精霊術師[sage]:2043/10/31(土)

え? 超級職取ってんのに負けたの? 宝の持ち腐れでは?

 

 

41:名無しの戦棍姫[sage]:2043/10/31(土)

>>40

良い度胸だ、丁度今はレジェンダリアにいるし後でキルしてあげよう

幾ら超級職でも飛べないんじゃ空からブレス撃ち下ろしてくるヤツにはどうしようもないんだよ

 

 

42:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

何にせよ、イベントが終わるまでに全てのボスモンスターを討伐出来るかどうかだな

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<霊都アムニール> 【戦棍姫(メイス・プリンセス)】ミカ・ウィステリア

 

「……そんな訳で掲示板で煽られたのがムカつくので、戦力を揃えてあの憎たらしい【ハイ・パンプキン・ドラゴン】にリベンジする為にミュウちゃん達に声を掛けたんだよ。臨時のパーティーメンバーだけだと戦力が足りなくてね」

「事情は大体分かりましたが姉様、とりあえず掲示板での煽り程度でPKは辞めて下さいね」

 

 ははは、流石にちょっと掲示板で煽られたぐらいでそんな事はしないよ。あのコメントも売り言葉に買い言葉ってだけで別に本気じゃないしね……半分くらいは。

 

「まあそれはともかくとして、予定が入ったお兄ちゃんやミュウちゃんの代わりに臨時パーティーを組んだ人達とセーブポイントで待ちあわせだから行こうか。他の人達も出来るだけ戦力を集まめるって言ってたし、これで再戦の準備が整う筈!」

「分かりました……そう言えば姉様、そのパーティーを組んだ<マスター>ってどんな人達なんです?」

「ああ、冒険者ギルドで募集して集まった人達で、普通の男性<マスター>その1のブラッド・Oさん、普通の男性<マスター>その2のGandorL(ガンドール)さん。それと魔法少女<マスター>その1サリー・クリィミーちゃんと、魔法少女<マスター>その2のバーニング・ハートさん。後は魔法少女マスコット<マスター>のモップルさんが一匹」

「マスコット……?」

 

 臨時で集まったにしては皆んな普通に良い<マスター>達で、各々の実力も高かったからイベントモンスター狩りも問題なく順調に進んでたんだけどね。

 それで『折角だしこのままボス戦に行くか!』みたいなテンションで向かったんだけど……まず向こうは空を飛んでるから地上近接戦型な私とOさんがほぼ戦力外に、モップルさんの支援を受けた魔法少女二人の魔法攻撃も亜音速を超える速度で飛んでるから中々当たらない上に展開されたオーラ型防御魔法に阻まれて致命傷にならず、<エンブリオ>がドラゴン型戦闘機故に唯一の飛行戦力だったガンドールさんも単純なスペック差で歯が立たずに撤退って感じ。

 

『モップル氏は<魔法少女連盟>のクランオーナーですな。『魔法少女のマスコットになりたい』という願いのみで小型アニメ妖精系人外型というまともに行動する事すら難しいアバターを作り、それによって何度も踏みつけられモンスターと間違われ十何度ものデスペナの味わってもなお諦めず、最終的には“始まりの魔法少女(ファーストレディ)”サリー・クリィミー氏と出会ってそのマスコットになったシンデレラストーリーの持ち主ですな。その逸話から満場一致でクランオーナーに推薦されたとか』

「ちなみにサリーちゃんは<魔法少女連盟>に所属している魔法少女で、日頃から様々なクエストを受けて人助けに勤しんでいる魔法少女的ロリっ子だ」

「“爆炎の魔法少女”バーニング・ハートさんも同じクランに所属している魔法少女で、サリーちゃんの友達だから良く一緒に行動してるわね。……ちなみに二つ名に関しては<魔法少女連盟>のサポートメンバーが総力を挙げて考えて広めてるのよね」

「後の男二人は知りませんし興味ないです」

「あ、はい、分かりました」

 

 ちなみにOさんとガンドールさんはごく普通の性格の<マスター>で、それぞれ<エンブリオ>とジョブの組み合わせもしっかりと考えられている普通に強い<マスター>だよ……レジェンダリアで普通では無い=HENTAIって事だから、普通ってのは一般的には褒め言葉です。

 

 

 ◇

 

 

「えーっと、まあ援軍の当てが潰れて誰も連れてこれんかったワイら言うのもアレなんやけど……もっとマシな連中は連れてこれんかったんか? ミカちゃん」

「そちらのミュウとアリマは問題ないどころか、後者はレジェンダリアでも最強格の<マスター>と有名だから良いんだが……他のメンバーはレジェンダリアでもトップクラスのHENTAI達だろう」

「でも実力は本物だよ。……それにミュウちゃんアリマちゃんがこっち側なら絶対に背後から撃つとかも無いし、後々の報酬で揉める事も無いよ」

「むしろ我々がロリショタの盾になる所存ですが?」

「イベントアイテムなんて全部ロリショタに貢ぐつもりでしたが?」

「「あ、はい」」

 

 そんな感じで私が連れて来た援軍達に(当然ながら)二人は難色を示したが、その後の説得によって問題なく受け入れられた(強弁)ので後は<魔法少女連盟>組の到着を待つだけとなった。

 

「あ、ミカちゃん待ったー? ……ごめんねー、手が空いていた戦闘系のメンバーが二人しか居なくて……って⁉︎ なんでアンタが居るのよLS!」

『お久しぶりですなバーニング殿。それは勿論ミカ殿にイベントボスの攻略に誘われたからですぞ』

「えぇ……もっとまともな援軍は居なかったの? そっちの二人(ミュウとアリマ)以外は全員HENTAIじゃない」

 

 そうして暫く待っていると<魔法少女連盟>組のメンバーである炎っぽい意匠があしらわれた『これぞ魔法少女』っていうデザインのフリフリ衣装を着た赤髪の少女──バーニング・ハートさんがやって来て、予想通りLSさん達がいる事にツッコミを入れた

 その後ろにはハートの意匠があしらわれた魔法少女服を着て肩に妖精っぽい少女──サリー・クリィミーちゃんとその肩に乗っているモップルさん、そして初見であるそれぞれ違うデザインの魔法少女服を着た二人の魔法少女の姿があるし、見ての通り彼女達が援軍みたいだね。

 ……とりあえずバーニングさんにはさっきと同じ様に事情を説明しておこう。

 

「いやまあ、それはそうかも知れないけど……コイツら明らかな危険人物よ?」

「え? 別に彼等からは一切の“危険”は感じないけど」

「こちらを害する気が一切無いのは見れば分かります」

「私達に悪意とか抱いて無いしね」

「……この子達の危機管理意識ってどっかズレてるわね。……LS含むHENTAI共! 言っておくけどこの子達やウチのメンバーに変な事をするんじゃ無いわよ!」

 

 そんな感じでやや呆れながらも納得してくれたバーニングさんは、鋭い目をしながらLSさん達を指差して注意をするが……。

 

『HAHAHA、その辺りはご心配なく。俺も同志達も我らの掟『イエスロリショタノータッチ』を破る事はありませんぞ。そもそもサリー殿はともかくそちらの二人は中身15歳ぐらいの女子中学生だから守備範囲外ですし、中身アラサーのバーニング殿に関しては言わずもがなですぞ』

「え、なんで分かるの? 怖……」

「実物は伝聞と想像以上にキモい」

「だからデンドロでアバターの中身のある事ない事ぶっちゃけるのは辞めろって言ってるでしょ! そんなだから毎回ひめひめさんにボコられてるのよ!」

 

 ……とりあえずキレそうなバーニングさんを宥めつつ、LSさんには中身についての言及を避けるように言っておいて、更に距離を取ろうとする新規魔法少女組を逃がさない様に……ほら、そこの『自分達は関係ありませんよ』的な表情で距離を取ってる男二人も手伝って。『えぇ……』とか言わない。

 

「安心せよ、“爆炎の魔法少女(バーストレディ)”バーニング・ハート。そして“飛翼の魔法少女(フライ・ハイ)”イーグレットと“氷晶の魔法少女(クリア・クリスタル)”スノー・ホワイトよ。魔法少女にとって重要なのは中身の年齢などという下らんモノではなくその在り方だ。我が女神は当然だとしても、例えアラサーだろうがJSだろうがJCだろうが魔法少女足らんとするその心があるのなら、このモップルは“魔法少女のマスコット”として全力で君達を手助けしよう。……例えアラサーであろうとな!」

「だからアラサーアラサー連呼するなって言ってるでしょうがこのクソ淫獣!」

「お、落ち着いてバーニングちゃん。モップルも悪気はないんだよ」

 

 ……尚、この後はミュウちゃん達と協力してバーニングさんを宥めたり、やっぱり立ち去ろうとする二人の魔法少女を割と協力的だったサリーちゃんに手伝って貰ったりと手を尽くして、どうにかこのメンバーでのボスモンスターの攻略を納得させたのだった。

 ……ううむ、まさかLSさん達を誘ったのがここまで影響を及ぼすとは、この私の目を持ってしても見抜けなかった(節穴)……だって“危険”は一切感じないし、人の悪意に敏感なミュウちゃんとアリマちゃんも普通に気を許してるし……。

 

「……ハァ〜、まあ良いわよ。私もあのドラゴンにはリベンジしたかったしね。……それで、作戦はどうするの?」

「うーん、一度戦った感想だと先ずは地上に叩き落とさないと勝負にならないかな。……これでも超級職だし、手の届く範囲に来てくれれば殴り勝つ自信はあるよ。ミュウちゃんもいるし」

『それでは地上に叩き落とすのと動きを止めるのは我ら<YLNT倶楽部>にお任せを。我らが参加する事を不安視している方も居るようですので、まずは働きを持ってそれを払拭してみせますぞ』

「……成る程な。やけどその為にはあの【ハイ・パンプキン・ドラゴン】をおびき出す必要があるし、そこはワイ等がやらなあかんかな。空戦で負けたままっちゅうのは悔しいし」

「それには私も同行するよ。これでも空を飛ぶ事に特化した“飛翼の魔法少女”なんて呼ばれてるのは伊達じゃない」

「ちなみに私は魔法少女のマスコットだから魔法少女達への支援しか出来ない!」

「ええと、じゃあ火力は十分に足りてるみたいなので、私は他の皆さんへの回復をやりますね。《魔法転身(マジカルトランス)》【司教(ビショップ)】」

「ああ成る程、サリーちゃんは()()()()()()()()()の<エンブリオ>なのですか。……しかし、魔法少女の皆さんは通り名が可愛くて良い感じですね」

「ありがとう……通り名を考えて広めてるのはウチのサポートメンバーだけどね。<魔法少女連盟>に魔法少女として所属すると、まずコードネーム的な二つ名が決められるんだよ」

「それはちょっと惹かれるものがあるね。……私の通り名は“小狂女”とか“狂乱舞踏”とかアレなのばっかりだし。まあ戦闘スタイルが精神汚染前提だからしょうがないけどさ……」

「通り名なぞ他人が勝手に言うものなのだから気にしても仕方ないだろう。それにここのHENTAI共のアレ過ぎる通り名と比べれば大分マシだと思うぞ。少なくともゲーム内の有名プレイヤーの通り名としてはな」

 

 ……最後のブラッド・Oさんの発言が遠い未来でフラグになる気が少ししたけど、それは気にしてもしょうがないのでスルーしつつ作戦の概要を決めた私達はイベントボスモンスター【ハイ・パンプキン・ドラゴン】の討伐に再挑戦する事となったのでした。




あとがき・各種設定解説

妹:イベントボスリベンジ!
・久しぶりに“直感”による危険とか事件とかは関係ないボス戦なので凄く楽しくハッスルしている。

ブラッド・O&GandorL:まだ普通の<マスター>だった時期
・原作キャラだからもっと目立たせてあげたいけど、レジェンダリアで目立とうとすればHENTAIになってしまうから仕方ないのだ。

<魔法少女連盟>:魔法少女RPガチ勢で構成されたクラン
・メンバーは実際に“魔法少女”として活動する者達と、各種装備生産・情報取集・通り名の認定と宣伝などによってその支援に回るサポートメンバーに分かれている。
・本編に出て来た魔法少女達が着る衣装も、サポートメンバーである生産班がそれぞれの特性や容姿に合わせて性能や外見を丁寧に作り込んだオーダーメイドの高級品。
・基本的な活動内容は魔法少女メンバーによる様々なクエスト受注やボランティアと、サポートメンバーによる魔法少女的魔法研究や量産化した魔法少女装備や魔法少女フィギュアとかの宣伝用アイテムの一般販売などと、レジェンダリアでも<YLNT倶楽部>と並ぶ善良なクランである。

【魔包証助 アラディア】
<マスター>:サリー・クリィミー
TYPE:ルール・アームズ
到達形態:Ⅴ
能力特性:魔法職
固有スキル:《奇跡の軌跡(ホープ・レコード)》《魔導記録(マジカルコレクト)》《魔法転身(マジカルトランス)
必殺スキル:《出会いと笑顔が私の魔法(アラディア)
・モチーフはウイッカ(魔女宗)で信仰されている女神の一人で、迫害される貧しい者達を救うとされる女神“アラディア”。
・外見は『ザ・魔法少女』と言った感じのピンクでハートとかが付いたデザインのコンパクト型でアクセサリー枠を消費し、普段は付属の専用ポシェットに入れられている。
・《奇跡の軌跡》はメインジョブが魔法系の時に限定して自身に向けられる正の感情を経験値に変換するスキルで、サリー自身がデンドロ初日から魔法少女RPで人助けを積極的に行っている割と有名人な事もあって幾つかの魔法系ジョブをカンストしている。
・加えて《魔導記録》はカンストした魔法系ジョブをステータス・スキルをそのままにジョブ枠から外したコンパクトの内部にある水晶ーー専用ジョブクリスタルに収納する事が出来、収納したジョブは《魔法転身》によって自由に空きジョブ枠にセットしたり他のカンストした魔法系ジョブと入れ替えられる。
・ちなみに<マスター>であるサリーは別に天災児でもないごく普通の魔法少女好き小学生だったのだが、踏まれてボロボロになったモップルを助けた事で『おお……! この無償の善意と曇りなき瞳……まさしく私が追い求めていた魔法少女そのもの! どうか我が女神たる魔法少女よ、私をマスコットとして貴女に跪かさせて頂きたい』とか言われてついオーケーしてしまい、あれよあれよと言う間に<魔法少女連盟>の魔法少女メンバーの代表みたいになっちゃった子。

【ハイ・パンプキン・ドラゴン】:固定配置イベントボスモンスターの一体
・見た目はカボチャ頭に全身オレンジ色という微妙な感じだが、全長三十メテル以上、HPは四十万MPは二十万越えでSTR・END共に一万、AGIも五千は超えていて飛行も可能という上位純竜に相応しい性能。
・加えて口から吐く闇・火属性複合【呪詛】効果付きのブレス《カースド・ブレイズ》や、《竜王気》を疑似模倣した物理・魔法複合防御魔法《ハイ・マルチアタック・レジスト》、更には闇・火属性の魔法や呪術に物理攻撃スキルも備わっている。
・そして妹達が挑む個体には、ジャバウォックが難易度上昇用に途中追加した《未練の灯火》によって+50%弱のバフが掛かっているので伝説級以下の下手な<UBM>よりも総合的には普通に強く、多くの<マスター>達を返り討ちにしている。
・ちなみに固定配置ボス以外にも各国に一体ずつイベント用のハロウィンっぽい<UBM>が投下されているが、これらは徘徊型の隠しボス扱いで指定された範囲とかは無く自由に行動しているので中々発見されていない模様。


読了ありがとうございました。
次回はハロウィンイベントボス戦闘、原作キャラもなるべく活躍させる予定だけど出演者が多いので希釈されても許してね。感想とかはいつでも受け付けているので。


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ハロウィンボスのカボチャ竜(前編)

前回のあらすじ:妹「うらー! ハロウィンボスリベンジすっぞコラー! 超級職の力見せたるわ!」末妹「姉様、大分フラストレーションが溜まってたんですね」


 □<樹霊の森>上空

 

 レジェンダリアの首都からやや離れた所にある植物系モンスターが多く生息する<樹霊の森>、その上空でカボチャ頭のオレンジ色ドラゴンというコミカルなデザインをした【ハイ・パンプキン・ドラゴン】が、ドラゴンの意匠がある戦闘機【竜紋機 ワイバーン】に騎乗したGandorL(ガンドール)と、羽飾りが付いた金色のブーツ──TYPE:エルダーアームズ【白翼天靴 タラリア】から白い翼を展開した“飛翼の魔法少女(フライ・ハイ)”イーグレットを追いかけ回していた。

 

『GOAAAAAAAAA!!!』

『だああああ⁉︎ 《翼の紋章》使っとってもAGIで差がないから振り切れへん!』

「くっ! これは《ヒート・ジャベリン》⁉︎ 魔法まで使って来るの⁉︎」

 

 ……それだけ聞くと何かファンシーな字面に見えるが、実際には『カボチャ頭から呪いの炎を吹きあがらせながら雄叫びを上げて亜音速を超える速度で迫り来る全長30メテル強のドラゴン(遠距離攻撃魔法付き)から逃げ回る』と言う、レジェンダリア<マスター>の中でも一二を争う空戦技術を持つ二人をして正直生きた心地がしないレベルの死地だったのだが。

 今もドラゴンは複数の炎の槍を放って二人を牽制しつつ、そのままAGIで劣っているガンドールに狙いを定めて追い詰めて食い千切ろうとし……。

 

『こなクソォ!!!』

「だったら一旦吹き飛ばします! 《エメラルド・バースト》!」

『GAAAAA⁉︎』

 

 そうして危うく追い付かれそうになったガンドールが咄嗟に機体をロールさせてドラゴンの牙を躱し、代わりに音速の三倍の速度で攻撃を回避しながら接近したイーグレットがそこに割り込んで、すれ違いざま即座に発動させた【翆風術師(エアロマンサー)】の奥義による暴風を顔面に叩きつけて吹き飛ばし難を逃れた所だ。

 ……尚、飛行速度は“【生贄】MP特化理論”とMPのステ補正によって十五万近い最大MPを持つイーグレットと、その<エンブリオ>【タラリア】のMPを消費して自身のAGIと同じ速度で飛行する《飛行(アビエーション)》、飛行時に元々の最大MPの二割をAGIに加算する《飛翔(ソアリング)》と言う二つのスキルの組み合わせ。

 そして奥義クラスの魔法を即時発動出来たのは飛行速度が一万を超える毎に()()()()()()自身が使用するアクティブスキルの発動までの時間・消費MP・クールタイムを二分の一にする常時発動型必殺スキル《飛翼(タラリア)》によって、音速の三倍で飛行していた彼女のスキル発動までの時間が八分の一になっていたからである。

 

『済まん! 助かったわ! ……こっちも攻撃したいけど迂闊に飛行形態以外にしたら即落とされそうやからな』

「まあ仕方ないよ。こっちの魔法も向こうの防御魔法とENDに阻まれてあんまり効いてないし、当初の予定通り交互にアレのヘイトを取りながら目的地点に誘い込もう……来るよ!」

『GAAAAAAAAAAAOOOOO!!!』

 

 ……しかし、そんな超超音速で飛行しながら魔法を連射すると言う非常に強い戦術を駆使するイーグレットと言えど、ENDが一万五千を超えている上に物理・魔法ダメージを軽減する防御魔法まで使って来る【ハイ・パンプキン・ドラゴン】相手では致命傷を与えるのは難しく、故に二人は協力して“作戦”の地点まで相手を誘導すべく再び危険過ぎる“鬼ごっこ”を続けるのだった。

 

 

 ◇

 

 

「……《四天の千里眼》《四天の透視眼》……目標である【ハイ・パンプキン・ドラゴン】はガンドールとイーグレットの後を追って目標地点に接近中。後1分ほどで到着するかと。JC魔法少女とタンデム飛行とか羨ましいです」

「それは俺も同意見だが、今はロリショタ達に良いところを見せる為にも作戦に集中だ」

「はいはい分かってるわよ……《広目の天眼》パーティーメンバーに視界補正を」

 

 そんな二人が必死になって誘導しようとしている場所は<樹霊の森>の中でも木々が少なくて開けた地点であり、そこには【ヴィルーパークシャ】を使ってドラゴンと二人の様子を観測しているミマモリや、今回の作戦の要だとミカ(ロリ)に言われていつになく真剣な表情で自身の<エンブリオ>である杖を構えるKNKAを始めとして他のパーティーメンバーが揃っていた。

 ……さて、そんなヤル気満々のKNKAの<エンブリオ>はTYPE:アームズ【空輝清杖 アイテール】という長杖であり、澄み渡った輝く大気を神格化したギリシャ神話の神であり天体を構成する第五元素であるエーテルの由来となった“アイテール”がモチーフ故にか、そのスキルは空気中の不純物を吸収してMPに変換して蓄積・運用する《輝く空を我が手に(エーテリック・コンバーター)》のみである。

 だが、その特性上酸素や窒素は吸収出来ず、基本的に空気中に微量しか存在しない不純物のみしかMPに変換出来ない事から、大量にMPを蓄積するには余程大気が汚染された場所にでも行かなければならないと少し使い辛いスキルではある。

 

『ふむ、大気中の自然魔力が少し濃くなって来ましたな。……<アクシデントサークル>が発生しても困りますし、KNKA頼みますぞ』

「了解。【アイテール】周囲にある()()()()()()()()()()()()()を対象に《輝く空を我が手に》を起動」

 

 ……最も、それはここが可視化する(不純物と扱われる)程に自然魔力の濃いレジェンダリアでなければの話だが。

 加えて自然魔力なのでMPへの変換効率は当然100%であり、更にこれまでも今と同じ様に<アクシデントサークル>対策として何度も自然魔力を吸収し、膨大な量のMP蓄積しているが故に、彼は<YLNT倶楽部>の中でも屈指の実力を持つ魔法使いとして知られているのだ。

 

「……ほい、吸収完了。これでしばらくは<アクシデントサークル>は発生せんよ。MPの蓄積も十分だから作戦はいつでも始められる……が、流石に亜音速を超える速度で飛ばれると避けられる可能性が高いから足止めが欲しいが」

「……ホントこいつらって変態の癖に能力だけは優秀なのよね……まあ今は良いわ。モップル、こっちにもバフを寄越して」

「うむ良かろう、魔法少女バーニング・ハートよ。《魔法少女達の宴(マジカル・シェアリング)》」

 

 そんな彼等(HENTAI)を見て微妙な気持ちになった“爆炎の魔法少女(バーストレディ)”バーニング・ハートだったが、それでも今は戦いに集中するべきとモップルからの『パーティーメンバーの魔法職限定バフ』を受け取って赤色のオーラを纏いながら、自身の<エンブリオ>である炎を象った意匠の杖を構えた……最も、それは武器(アームズ)では無く。

 

「《ブレイズ・バースト》《ヒート・ジャベリン》《クリムゾン・スフィア》《オプティカル・カモフラージュ》セット《多重同時召喚》《火鳥召喚(サモン・フレイムバード)》」

『『『『KITITITI!』』』』

 

 自身の炎熱系魔法をエレメンタルとして変性・召喚する為の『召喚触媒』であり、その名も【奇炎伴杖 イグニス・ファトゥス】と言うTYPE:レギオンの<エンブリオ>である。そして今回使った《火鳥召喚》は高速飛行しながら突撃する火の鳥型エレメンタルを召喚するスキルである。更に変性出来る魔法は最大4つまでで、魔法を追加すればその特性を付加しステータスも上昇する。

 ……そんな事をしている間、遂にガンドールとイーグレットを追って【ハイ・パンプキン・ドラゴン】が彼等の待機する地点にまでやって来た。

 

『連れて来たで!』

『……GAAAAAAOOOOO!!!』

「良い? あの【ハイ・パンプキン・ドラゴン】に姿を消しながら体当たりしなさい……行け!」

『『『『KIKE──!!!』』』』

 

 また、魔法を付加したモンスターが存在している間は自身がその魔法を使用する事が出来ないデメリットがあるとはが、例えば【幻術師(イリュージョニスト)】の光学迷彩を付与すれば今の様に召喚モンスターの姿を一時的に見え難くするなどの応用も効くのだ。

 ……さて、先程バーニングが付加したそれ以外の3つの魔法は【紅蓮術師(パイロマンサー)】の奥義を含む上級魔法であり、召喚された【イグニス・バード】はAGI特化で高速飛行しながら突撃して()()()()モンスターなのであり……。

 

『『『『KIKE────!!!』』』』

『⁉︎ GGAAAAAAAAAAAAAAA!?』

 

 その結果は鬼ごっこに集中していたドラゴンは姿を隠した火の鳥達に気付く事が出来ず、彼等はガラ空きの胴体部に次々とぶつかって灼熱を纏った大爆発を引き起こすと言う光景となって目の前に現れたのだ。

 ……だが、ガンドールとイーグレット相手の空中戦から防御魔法を継続していたドラゴンはダメージこそ受けたものの未だに健在で……それでもその動きは一時的に止まった。

 

「よし! サリー今こそ君の出番だ! そこに居るKNKA君に君の魔法少女パワーを込めた声援を送るんだ!!!」

「え⁉︎ えーっと……頑張って下さいKNKAさん!」

「フオオオオオオオオオ! 漲ってキタァァァァ! ロリの声援が身体に染み渡るゥゥゥゥ……全てのロリショタにいい所を見せる為! 【アイテール】全魔力解放ォォ! 《ダウンバーストォォォォ》!!!」

『GA、GAAAAOOOO!!!』

 

 そこに割とアレな感じの《詠唱》を言ったKNKAが【アイテール】内の膨大な蓄積魔力を解放し、それを使って【ハイ・パンプキン・ドラゴン】を対象に超大出力の下降気流を魔法で発生させたのだ。

 ……直前の寸劇の所為で周りからの視線は冷めたものになっているが、それでも数十万以上のMPを持って発生させられた下降気流の勢いは凄まじく、上位純竜であるドラゴンですら飛行は困難にさせて無理矢理地面へと叩き付けようとしていた。

 

『GAAA……GAAAAAAAOOOOOO──!!!』

 

 だが、それでも【ハイ・パンプキン・ドラゴン】は万能ダメージ軽減スキル《ハイ・マルチアタック・レジスト》の出力を上げて風属性魔法の効果を軽減すると同時に、強化されたSTRによってどうにか飛行を維持しながら効果範囲外に出ようと風の勢いを利用して斜め下に向けて移動しようとして……。

 

「範囲外に出るのはダメですよ……落ちなさい《氷晶創造(アイスメイク)》ジャベリン《氷晶操作(アイスムーブ)》」

『GOOAAAAA!?』

 

 その直後、ドラゴン目掛けて上から無数の巨大な鋭い氷柱が風に乗って降り注いで次々とぶち当たり飛行体勢を大きく崩したのだ……これは“氷晶の魔法少女(クリア・クリスタル)”ことスノー・ホワイトの『製氷』に特化したTYPE:フォートレスの<エンブリオ>【氷室晶界 ニブルヘイム】によるものである。

 この【ニブルヘイム】は周囲の空間そのものを工房に、大気中の微量な水分を起点となる素材として自身のMPを消費する事で氷を作り出すと言う珍しい非実体型のフォートレスであり、今はモップルからのバフ効果もあって《ダウンバースト》の更に上で多数の巨大な氷柱を作り出してから風に乗せて落としたのだ。

 

『GUGUGU……GUUAAAA!!!』

『諦めが悪いで……良い加減に落ちぃ! 《弓の紋章》《竜騎砲哮(ドラグーン・ファイア)》!!!』

「さっきまでのお返し! 《魔法多重発動》《グリント・パイル》!!!」

 

 だが、それでも強化されたENDで耐えながら脱出しようとしていた【ハイ・パンプキン・ドラゴン】に対して、これまで散々追いかけ回されたお返しと言わんばかりに翼が生えた銃へと【ワイバーン】を変形させたガンドールのジョブスキルを乗せた砲撃と、イーグレットが放った【閃光術師(フラッシュマンサー)】の奥義である三発の光の槍が突き刺さった。

 ……流石の上位純竜でもこれだけの攻撃を受けながら飛行を維持する事は出来ず、とうとう下降気流に押されて地面へと墜落して行ったのだった。

 

 

 ◇

 

 

『……よし、撃墜班は上手くやってくれたみたいだね。ここからは私達地上班の出番、アイツが再び空に戻る前に倒す!』

「最低での翼を奪う必要があるでしょうね。2度も同じ手は使えないでしょうし、再び空に戻られたらアウトです」

「それは分かっているが……()()()()()()()()()()()()()()と言う作戦で本当にいいのか?」

 

 そして【ハイ・パンプキン・ドラゴン】が墜落した場所には既に残りである地上戦担当のパーティーメンバーが急行していた……そんな中でブラッド・Oがミカに向けて彼女自身から今回の作戦の確認を行なっていた。

 

『うん、例え地上に落ちても相手が強敵なことに変わりないし、多分初手で魔法かブレスを使ってくるだろうから誰かが囮になる必要があると思うから』

「それなら俺と壁型ガードナーである【カルキノス】が囮になった方が良いと思うが。むしろ幼女を庇うのが俺の仕事なんだが!」

『気持ちは有り難いけど、剛雅さん達にはドラゴンの再飛行の阻止をやって貰いたいしね。……それに私ならアイツの魔法やブレス受けられる()()を持ってるから、超級職(スペリオルジョブ)は伊達じゃないって所を見せてあげるよ』

 

 熱弁するロリショタコンに対して別の役目を頼んみつつ、墜落した【パンプキン・ドラゴン】がその衝撃から立ち直って再び空へと舞い上がろうとしている場面を見たミカは即座に一万五千越えのSTRと亜音速を超えるAGIを駆使して正面から突っ込んで行った。

 

『GUUUU……』

『それじゃあ行くよ! 他のみんなは側面から翼狙いで攻撃をお願い!』

「おいっ! ……仕方ない、後衛のメンバーが追い付くまで飛ばされない様に足止め! 出来れば翼を破壊して機動力を奪うぞ。《疾蒼(シッソウ)》!」

「まあ姉様なら大丈夫でしょう。《天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》!」

「《狂走スル巡礼者》《悟りし者の御業(ソウル・コントローラー)》精神干渉対象を【ハイ・パンプキン・ドラゴン】のみに固定! 《ウィークネス・テノール》!」

「むう、幼女(ロリ)の頼みなら断れんが……【カルキノス】はいつでもサポート出来る様にしておけ《ウィンドダッシュ》!」

『KISYASYA!』

 

 それを見た他のメンバーはそれぞれのAGI強化系スキルを使いながら、ミカを避けて大きく回り込む形で【パンプキン・ドラゴン】へと迫って行く……が、当然それを見逃すドラゴンではなく、即座に飛行準備を取り止めて迎撃の体勢を取り、複数の羽の生えた黒い弾丸を複数彼等に向けて撃ち放って来た。

 

『GRUUU……GRUAAAAA!!!』

「む、アレは何かの闇属性魔法ですか?」

「【暗闇術師(ダークマンサー)】の奥義《グルーム・ストーカー》だ! 追尾性があるから気を付けろ!」

 

 加えてそれらの闇の弾丸にはドラゴンが《エンチャント・カース》によって当たった者に【呪縛】の追加効果を発生させる効果が仕込まれており、それを察した彼等は誘導判決を見切ってどうにか追い縋って来る誘導弾をどうにか回避して行ったが、それに手間取った所為で接近をドラゴンに近づく事が妨害されていた。

 

『でも、正面から来る私を狙わないのはどうかな!』

 

 ただ一人、持ち前の“直感”によって『闇の弾丸は包囲を崩す為の牽制で自分は狙われてない』と見破り、そのまま一切速度を落とさずに正面突破を続けていたミカを除いてはだが。

 ……最も、イベントボスモンスターとして相応の知性を与えられている【ハイ・パンプキン・ドラゴン】がそれに気づいていない訳が無く、単に包囲しようとしている者には誘導弾で牽制し、正面から来る愚か者には並行して準備していた《カースド・ブレイズ》による広範囲攻撃で焼き尽くす戦術だっただけなのだが。

 

『UUUUUU……GUUAAAAAAA!!!』

「ブレス⁉︎ マズいぞあの距離では避けきれん!」

「しまった⁉︎ ロリをカッコよく庇うタイミングを逃したぁ!!!」

 

 そうして他のメンバーが誘導弾を躱す中で、ドラゴンのカボチャ頭から放たれた呪炎のブレスは無謀にも正面から突っ込んできたドラゴンの着ぐるみを飲み込んで……。

 

『それは私が既に視た未来だよ……《我は禍ツ神を砕く巨人なり(ギガース)》』

 

 その直前、予想した通りの展開故に一切の動揺もないミカは自身の<エンブリオ>である【激災棍 ギガース】の必殺スキルを行使した。




あとがき・各種設定解説

妹:次回は必殺スキルをお披露目

【魔導契約 デーモン】
<マスター>:モップル
TYPE:アドバンス・ルール
到達形態:Ⅴ
能力特性:魔法職の支援
固有スキル:《僕と契約して魔法少女になってよ(マジカル・コントラクト)》《契約ある限り悪魔は滅びず(セルフ・プリザベーション)》《魔法少女達の宴》《仮初めの契約(テンポラリー・コントラクト)
・モチーフは悪魔を意味する言葉“デーモン”だが、どちらかと言うと中世に魔女と契約して人を害する魔力や薬を与えたと言われた悪霊(デーモン)の方が本来のモチーフ。
・《僕と契約して魔法少女になってよ》は魔法系ジョブに付いた者一人を選んで、相手の許可を得て“主人”と設定する事で自分へのデバフと引き換えに強力なバフを主人に掛けるパッシブスキル。
・現在のバフの種類は『全ステータス最大値半減と引き換えにMP倍加、HP・SPに自身の合計レベルの二十倍、それ以外に合計レベルの五倍加算』『戦闘系アクティブスキル使用不可と引き換えに魔法系スキル効果倍加』『アクセサリー以外の装備不可と引き換えに全状態異常耐性が自分の空き装備枠数×20%上昇』『経験値獲得不可と引き換えに獲得経験値大幅増加』『従属キャパシティ消失と引き換えに被ダメージ合計レベルの倍だけ減少』
・これらのバフはそれぞれオンオフは可能だが一度切り替えると24時間再変更出来ず、また契約自体も一度結べば一ヶ月以上経ってから相手の許可無く解除出来ない。
・《契約ある限り悪魔は滅びず》は主人とパーティーを組み自身の戦闘不可を引き換えに凡ゆる攻撃によってダメージを受けなくなるスキルだが、主人の一定距離内に居なければ効果は発動せず主人が死亡した場合には自身も死亡する。
・《魔法少女達の宴》は主人とパーティーを組んでいる魔法職にも主人と同じバフを掛けるスキルだが、一人を対象にする毎に全ステータスが元々の最大値の一割削れるので、前述のデメリットを含めると最大四人までしか対象に出来ない。
・当然モップルが主人に設定しているのは“始まりの魔法少女”サリー・クリィミーであり、数多のデメリットも『彼女のマスコットでいられる』と言う(彼にとっての)最大のメリットがある時点で一切気になっていないのだが。

<魔法少女連盟>の魔法少女達:全員が<マスター>としては上位レベルの実力者
・イーグレットの魔法少女衣装には事故防止の為に『飛行時にENDが固定値で上昇』『空間把握』『空気抵抗軽減』などの高速飛行を補助する装備スキルがあり、超音速飛行からの風属性範囲攻撃と準備時間を大幅に短縮した光属性魔法で攻撃する戦闘スタイル。
・バーニング・ハートの【イグニス・ファトゥス】で付与出来る炎熱系魔法とは火属性・爆発魔法・幻影魔法など熱エネルギーを操る事が主体の天属性魔法の一部と言う設定。
・スノー・ホワイトのジョブは<エンブリオ>を活かす為に氷属性魔法特化【白氷術師(ヘイルマンサー)】の他、戦像職人と氷細工師の複合上級職である【氷像職人(アイスゴーレム・マイスター)】や氷を作る事に特化した【氷屋(アイスメイカー)】などに就いている。
・そんな戦闘特化の彼女達と比べると汎用型であるサリー・クリィミーの戦闘能力は少し劣るが、『性格はアレなのに能力だけは無駄に優秀なモップルの<マスター>』と言う大業(笑)を担っているので満場一致で魔法少女達の代表であるサブオーナーとして認められている。


読了ありがとうございました。
次回は妹の【ギガース】についての詳しい解説からカボチャドラゴン相手の後半戦の予定。感想・評価・誤字報告・お気に入り登録お願いします。


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ハロウィンボスのカボチャ竜(後編)

前回のあらすじ:妹「よっしゃー! レイドボスじゃー! 喰らえ必殺スキル!」末妹「しかしせっかくの100話なのに最初が微妙に暗い話なんですよね」妹「そこは作者の構成が悪い!」


 □ 【激災棍 ギガース】について

 

 ミカ・ウィステリアの<エンブリオ>TYPE:エルダーアームズ(第五形態への進化で上位カテゴリ化)【激災棍 ギガース】は物理的なステータス補正と装備としての性能、そして凡ゆる防御スキル効果を減少させる《バーリア・ブレイカー》のみをスキルとして有する、言ってはアレだが割とよくあるタイプの単機能特化型アームズ系<エンブリオ>である……最も、能力がシンプルだからと言って、それを発現させたミカ(加藤美希)のパーソナルが単純と言う訳では無いが。

 

 ……加藤美希と言う少女が自らの『危険を察知する直感』と言う異質な才能を自覚したのは今から約六年程前、海外旅行に行く為に両親と兄が乗った飛行機が墜落して、両親が死に兄が命に関わる重症を負った……その時に自分一人だけ“直感”によって危険を感じた飛行機に乗るのを避けて叔父夫婦(祐美の両親)の家で留守番をしていたからである。

 勿論、彼女は自分だけ助かろうとした訳ではなく未だに小学生にも上がっていなかった故に“直感”が告げている『危険』が何か分からず、ただ『旅行には行きたくない』と駄々をこねるしか出来なかっただけなのだ。両親と兄も単に初めての海外旅行を嫌がっているだけだと思って彼女を親戚に預けたので、“直感”と言う異才を持っている事には気が付かなかったのだからやむ終えない事だったのだろう。

 最も『阻止出来たにも関わらず危険を回避させる事もせず、その結果として両親を失った』と言う事実に後で気が付いてしまった彼女の心に残されたトラウマは並大抵のモノでは無かったのだが。

 

 実際、事故後の彼女は『あの時ちゃんと止められていれば』『なんでそうしなかったのか』『どうして私にはこんな力が』と思い悩んで塞ぎ込んでしまっていたが、その後は奇跡的に一カ月くらいで回復した兄や叔父夫婦の励ましで日常生活を送れるぐらいに回復した……のだが、今度は事故をきっかけに完全に目覚めた“直感”が未来で自分が不快に思う事を知らせて来る事が悩みとなった。

 まだ小学生である彼女にとって『下の妹がナニカに襲われる』や『同級生が自殺する』などの情報を告げられても精神的な負担になるだけ

 それでも彼女はもう事故の時の様にはならない様に同時に告げられる解決法を頼りに行動して行くが、所詮は小学生でしかない以上は手に負えずにどうにも出来ない事も多々あった。

 

 故に、今はある程度割り切れる様になったとは言え、こんな経験をしてしまった彼女の内心には『危険をどうにか出来ない自分への無力感』と『“直感”などと言う形で理不尽を一方的に告げて来るナニカ──この世界にあるかもしれない“神”の様な存在への憤り』が生まれたのだ。

 そして、そのパーソナルと“直感”によって<Infinite Dendrogram>世界において“神”や“危険”に関わりの深い概念──【神】系統のジョブが司るモノで<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>や<エンブリオ>を象徴するモノでもある『スキル』の存在を無意識のうちに把握した事で『高いステータスによるスキル効果の無効化』を能力特性とする【ギガース】が生まれたのである。

 

 まあ、流石に<エンブリオ>のリソース的な問題で高ステータスとスキル無効の併用は不可能だったので、高めの物理ステータス補正と物理攻撃力を基準とした防御系スキル効果の減少と言う形で発現し、更にパッシブスキルである《バーリアブレイカー》をこの世界の()()に対抗する為に単純な防御スキルだけでなく攻撃を遮断する“法則”などにまで効果を発揮する様にしたので単機能特化型としては出力が大分低くなったりもしたが。

 ……それでも<マスター>の願いを叶えるのが<エンブリオ>であり、【ギガース】も常に主人の真の望みを叶える為に戦闘経験の分析と思考を続け……その結果として条件を付ける事でスキル無効の力を引き上げる形で発現したのが必殺スキル《我は禍ツ神を砕く巨人なり(ギガース)》である。

 

 この必殺スキルはマスターが認識している敵対対象一体を選択する事で発動する事が出来て、その際に“二つの効果”を新たに得る……まず一つ目は『《バーリアブレイカー》の効果が選択した対象にしか働かなくなる代わりに防御系スキル減少効果を大幅に強化する』と言うものだ。これまでの経験から基本的に単騎で戦う事の多い<UBM>などのボスモンスターに対抗する為のデメリットを付けてでも更なる効果の強化を図った形であり、一体だけに限定されるが<UBM>や上位<エンブリオ>にも攻撃を通す事が出来る可能性が生まれた。

 ……だが、それだけでは奇々怪界なスキルを持つ<UBM>や<エンブリオ>に対抗するには不十分だと考えた【ギガース】は、更に自身のモチーフ元である『ギリシャ神話において“神”には殺されない能力を持つ巨人』を参考にしてもう一つの効果を発現させており……。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<樹霊の森>

 

『……《我は禍ツ神を砕く巨人なり》脅威対象(ターゲット)【ハイ・パンプキン・ドラゴン】』

『GOOAAAAAAAAAA!!!』

 

 そうしてミカが必殺スキルを使用した直後、【ハイ・パンプキン・ドラゴン】のカボチャ頭から放たれた呪いの豪炎が彼女を呑み込み……その直後、その呪炎の中を()()で通り抜けたミカが【ギガース】を振りかぶりながら驚愕するドラゴンへと肉薄した。

 ……これが必殺スキルの第二の効果『対象が使用したスキルによる自身への悪影響を、自身のHP・STR・END・AGIの現在値に応じて大きく減少させる』であり、その効果によってミカは《カースド・ブレイズ》のダメージと呪いをほぼ無効化したのである。

 最も必殺スキルの使用中にはSPが対象の能力に応じて継続消費される上にスキル効果の減少率は使われたスキルの強度によって変動するが……特典武具【クインバース】の効果でSPが継続回復するミカならかなり長時間使用でき、<UBM>でない上位純竜故にスキル自体は汎用的なものであるイベントボス相手であれば現在のミカの物理ステータスでもスキル効果をほぼ無効に出来る。

 

『まずは一撃目! 《ノックバック・インパクト》!!!』

『GAOッ⁉︎』

 

 そのままミカは《カースド・ブレイズ》を突っ切ってドラゴンの顔の前まで迫り、相手が自身の炎でも燃えず呪いすら掛からない相手に動揺して一瞬動きを止めた隙を突いて、新たに覚えた【戦棍姫(メイス・プリンセス)】のスキルを使いながらその顎を【ギガース】で大きくカチ上げた。

 そして《ノックバック・インパクト》は与えるダメージがゼロになる代わりに相手を大きく弾き飛ばし、更に【硬直】と【部分麻痺】の状態異常を与えるスキル。加えてドラゴンが有する防御魔法と耐性スキルは強化された《バーリアブレイカー》で無意味なものになった以上、その効果をドラゴンはモロに受ける事になり……。

 

『GA……AA……』

『よし! 頭部に【部分麻痺】が入れば脳震盪みたいな状態になるみたいだね。今が総攻撃のチャンスだよ! 《インパクト・ストライク》!』

『DEHAA!』

 

 その結果、ドラゴンはまるで目眩でも起こしたかのように振らつきながら地面へと倒れ込んでしまった……これは攻撃を当てた部位の動きを大きく鈍らせる【部分麻痺】を頭部に受けた結果、三半規管の働きが鈍った影響で所謂『立ち眩み』を起こしたからである。

 ……当然、中途なく内部破壊系の打撃を胴体に叩き込んで追撃しているミカに言われなくとも、他の<マスター>達はその隙を見逃す事無くそれぞれ《グルーム・ストーカー》に対処しながら一気に接近してそれぞれの全力攻撃を叩き込んで行く。

 

「地上に落としさえすれば負けないと言っていたのは本当だったか……《暴緑(ボウリョク)》《ブラッディ・インパクト》!」

「流石は超級職のスキル、上位純竜をタコ殴りに出来るとは……ミメ、MPを回しなさい、翼を狙います《真撃》《正拳突き》!」

『了解、MP十万使って《エンハンスフィスト》《ライトニング・フィスト》』

「私も行きます。各種狂化自己バフ並行起動! 《レーザーブレード》!」

「【カルキノス】はヤツの足に組み付け! 《ストーム・スティンガー》!」

『KYASYSYA!』

 

 緑色の血液置換<エンブリオ>を身体に纏ったブラッド・Oの拳が【ハイ・パンプキン・ドラゴン】の顔に突き刺さり、ドラゴンの一万越えのSTR・END及び五千超えのAGIをコピーしたミュウが拳に雷を纏わせながらその背に登って翼の付け根部分に拳を打ち込む。

 更に自身の<エンブリオ>の力で必要な強化スキルを瞬時に並列使用したアリマが光熱を発する【ヴァニフォーク】でドラゴンの足を斬り裂き、もう片方の足には剛雅が【疾風槍士(ゲイル・ランサー)】の奥義により超音速の突きを放ちながら、自身の<エンブリオ>である【守護星蟹 カルキノス】の鋏で挟んだ相手を離されにくくしつつそのAGIを下げる《邪魔大鋏(ジャマーシザース)》で組みつかせる。

 ……が、それでも一万五千に達するENDを持ちHPもバフ込みで五十万を優に超えるドラゴンは総攻撃を耐えながら脳震盪から回復。即座に《ヒートボディ》で身体に高熱を纏わせつつ直接攻撃をして来た相手に【呪詛】を掛ける《リヴェンジ・カース》を使った上で出鱈目に暴れ回り纏わりつく人間を退けようとした。

 

『GAAAAAAAAAAAA!!!』

「チッ《装紅(ソウコウ)》! 流石に上位純竜だけあって簡単には倒れてくれないか!」

「ですが翼の片方はへし折りましたし飛行は難しいかと! 姉様は今だに攻撃を続けてますし!」

「後、俺の【カルキノス】も食らいついているが!」

『どりゃあ! 熱も呪いも今の私には効かないよ! 《サンダー・インパクト》!」

 

 高熱と呪いと巨体から繰り出される近接系アクティブスキルに押されて接近していた<マスター>達は一旦下がるが、そんな中でもミカ(と足を挟んだまま攻撃を受け続けている【カルキノス】)は今だにドラゴンとの近接戦を続けていた。

 今も高熱と呪いを継続中の必殺スキルで無効化し、ドラゴンの放った《ブレイククロー》すらも威力を減衰させながら反撃に雷を纏った【ギガース】で弾き返すが……。

 

『GEEEAAAAA!!!』

『! おっと、それは勘弁!』

 

 そこでドラゴンが苦し紛れに振るった尻尾を見たミカは慌てて飛びすさりながら回避した……これは《我は禍ツ神を砕く巨人なり》では()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()には効果を発揮しないからである。これが武技系のアクティブスキルなら攻撃力や運動エネルギー含めて減衰させるのだが、通常攻撃だとSTR強化などの掛かっているパッシブスキルの効果だけは減衰できるが単純な腕力(STR)から発生する攻撃力には干渉しないのだ。

 また、兄との必殺スキルの試験運用では装備している装備品の装備スキルの効果は対象でも、【ジェム】などの消費アイテムの効果は対象外である事が分かっており、これについて兄は『元ネタのギリシャ神話の巨人は神には殺されなくても、人間であるヘラクレスの怪力(通常攻撃)ヒュドラの毒矢(消費アイテム)で倒されてるから原作再現かな』とコメントしている。

 

『……さて、残りのSPは半分ぐらい。事前に飲んでおいた【SP持続回復ポーション】の効果含めても維持できるのは十分ぐらいか』

「流石にボスだけあって精神耐性も高いわね……ところでさっきからドラゴンに組みついている蟹が凄い殴られてるんだけど大丈夫なの?」

「ああ、俺の【カルキノス】はロリショタを庇って攻撃されるのが仕事だしな。直接攻撃を受けると相手のSTRを下げたり、HP自動回復や魔法と状態異常の効果を軽減するスキルも持ってるから」

「お陰でこちらが攻撃する隙も出来てますしね! 《ソニックブロウ》!」

「一応妨害もしておくか《ブラッディ・チェーン》!」

『GIIIIAAAAAAAAAOOOOOOOOOOO!!!』

 

 その後も翼へのダメージと組み付いた【カルキノス】のお陰(時折アリマが回復魔法を飛ばしてる)で【ハイ・パンプキン・ドラゴン】が再び飛び上がる事も無かったが、それでも上位純竜のステータスによる豊富な近接用アクティブスキルと魔法を駆使して暴れ回る相手に<マスター>達は一進一退の攻防を繰り広げていった。

 ……そんな戦況が動いたのは()()()()()()()がドラゴンに向けて撃ち放たれた時からだった。

 

『済まん遅れた! 加勢するで! 《弓の紋章》……ファイア!!!』

『《魔法多重発動》《エアハンマー》!』

『GAHAA⁉︎』

 

 空から援軍に来たガンドールとイーグレットの銃撃と魔法が、何度目かの攻防で地上部隊を振り払って体勢整えようとしていたドラゴンに突き刺さってダメージを与えた。その攻撃で与えたダメージ自体は少なかったが、ドラゴンを怯ませて前衛組が攻撃に移る隙を作るには十分な効果を発揮していた。

 

『GUUAAAAAAA!!!』

『よし、メンバーが増えたお陰でDPS(秒間火力)も増えたしこのままなら行けるかな……《ギガント・ストライク》!』

「多分ヤツはHPの自動回復も持ってるだろうから。反撃の魔法も痛いし、なるべく彼方に攻撃の隙を与えない様に攻め続けたい所だが……《ブラッディ・インパクト》!」

『向こうが飛べへんならこっちは一方的に空から攻撃出来るしな……おっと⁉︎ 魔法がこっちを追いかけて来るな!』

「誘導弾による対空攻撃までやって来るのね……ん? 通信……光を? 《ライト》!」

 

 それでも尚、狂ったかの様に暴れ続けるドラゴンに対して歴戦の<マスター>である彼等は多少もたつきながらもお互いの隙をフォローする様に代わる代わるに連携攻撃を仕掛けていったが、そんな中で突然イーグレットが攻撃力の無い光源を作り出す魔法を使用した。

 発生した光源はただその場の者達を強めに照らすだけで攻撃力などは一切無く、一瞬僅かに警戒したドラゴンも直ぐに目眩しだと思い直ぐに戦闘を続行しようとし……その直後、光源によって伸びきったドラゴンの()を何者かが踏んだ。

 

『《シャドウ・スタンプ》ですぞ』

『GII⁉︎ GAAAA!!!』

 

 その足の正体はガスマスクに全身タイツの変質者……もとい<YLNT倶楽部>オーナーLS・エルゴ・スムであり、彼のメインジョブ【高位呪術師(ハイ・ソーサラー)】の相手の影を踏む事で【呪縛】【恐怖】【吸魔】の三重状態異常を与える呪術によりドラゴンの動きが止まった。

 そしてAGI差とMPなどの回復で遅れていたサリー・クリィミーやバーニング・ハートと言った魔法少女組や、ミマモリ・KNKAと言った<YLNT倶楽部>後衛組が戦場に現れて前衛組の援護へと回り始める。

 

「とりあえず壁を出しましょうか……《氷晶創造(アイスメイク)》《氷晶成型(アイスカット)》《クリエイト・フロストゴーレム》」

「なら私はアタッカーを出すわね……《ヒート・ジャベリン》《フレアボム》《ヒートボディ》《カラーチェンジ》セット《焔騎士召喚(サモン・ブレイズナイト)》。とにかく突っ込んでドラゴンに近接攻撃をしなさい」

「私は回復を! 《魔法射程延長》《魔法多重発動》《フィフスヒール》!」

「フハハハハ! 魔法少女達の支援を有り難く受け取れい!」

 

 まず彼女達は自分達を守る為にスノー・ホワイトが氷で出来たゴーレムを複数召喚し、更にバーニングがアタッカー役も兼ねている槍を持ってカラフルな色合いをした近接攻撃用騎士型の炎エレメンタルを召喚、更にサリーが減った前衛組のHPを回復させながらその肩に乗ったモップルが意味もなくドヤる(一応【司令官(コマンダー)】のパッシブスキルなどで支援はしている)

 

「うむむ、【アイテール】の蓄積MPはさっきノリで殆ど使い切ったしな。普通に支援しか出来ん」

「まずはDPSを更に増やしましょう……《四天の透視眼》ターゲットの内臓に照準。《ヴェノムアイ》」

『守りを固めるなら急いだ方が良いですな。向こうは呪術も使える上位純竜である以上、俺程度の呪術ではそう長くは……おや?』

『GI……GIGI……』

 

 おそらく自分の呪術はそろそろレジストされるだろうと考えたLSだったが、視線の先にいるドラゴンを見るとまるで何かに()()しているかの様に身体を震わせて動きを止めていた。

 それを見たLSは直ぐに《シャドウ・スタンプ》の内【恐怖】の状態異常だけがレジストされなかったのだろうと当たりを付けたが、一体何故一番レジストされやすい精神系状態異常だけが残ったのかを考えて、先程“とある幼女”がやってみせた芸当を思い出した。

 

「……やっと《ウィークネス・テノール》が効いてきたみたい。やっぱり上位の純竜となると精神耐性も高いのか、或いはスキル自体の効きが悪いのか……多分両方かな」

 

 その幼女……アリマは手に持った二又の剣【音叉角剣 ヴァニフォーク】から()()()()()()()()()()()()をドラゴンに向けて放ち続けながらそう言った。ドラゴンは戦闘開始からずっと精神減弱スキルを浴びせられていたが故、精神系状態異常である【恐怖】をモロに食らったと言うわけである。

 

『GUGUGU……GIGYAAAAAA!!!』

「うん《伝播スル狂信》による狂化系デバフも入り始めたか、ちょっと遅かったね。……でもあの巨体とステータスで暴れ狂われても困るし眠らせようか……効果範囲圧縮《スリーピング・ソプラノ》!」

 

 そして何かに恐怖しながらも狂った様に暴れ始めたドラゴンに対して、アリマは本来無差別に放射されるだけの【ヴァニフォーク】の音波を《悟りし者の御業》で無理矢理に圧縮した音波斬撃をその頭部に叩き込みそれによる圧縮状態異常の【強制睡眠】に落とし込んだ。

 

「んぐんぐ……よし、これで後は全員で総攻撃して倒すだけだよ! 状態異常が解けそうならもう一回撃ち込むし!」

「流石はアリマちゃんですね! 早速殴りましょう!」

『……お、おう……』

 

 幾らか減ったMPとSPを回復させる為にポーションを飲みながら『一仕事終えた』みたいないい笑顔でそんな事を宣うアリマに対し、基本彼女の事は全肯定ヨイショなミュウ以外の面々は『え? 増援も到着してこれから激戦が始まる雰囲気だったのにもう終わり?』みたいな事を内心思いつつも、このチャンスを逃すわけにも行かないと気を取り直して眠りこけた【ハイ・パンプキン・ドラゴン】へと一斉攻撃を行うのだった。

 ……その結果はと言うと、まあ当然ながら幾ら上位の純竜とはいえ完全に状態異常へ嵌ってしまった状況でこれだけの<マスター>達の一斉攻撃をどうにか出来る筈もなく、汎用スキルしか持たない普通のボスモンスターだったのでそのまま特に何かドンデン返しも起きずにサックリ討伐されたのであった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

『……はい乙ー。これでイベントボスモンスター【ハイ・パンプキン・ドラゴン】の討伐は終了ですねお疲れ様でしたー』

「いやぁ、流石はイベントボスだけあって【ハイ・パンプキン・ドラゴン】は強敵でしたね!」

「そうですねアリマちゃん。ですがパーティーの連携もあって無事倒せましたし、ドロップアイテムもがっぽりです」

「……最後は眠っているドラゴンをタコ殴りにするだけの作業だったけどな」

『やはりデンドロに於いて状態異常は重いですな。うわようじょつよいですぞ』

 

 眠っている所への総攻撃の末に【ハイ・パンプキン・ドラゴン】が光の塵となった事をしっかりと確認して勝鬨(おざなり)を挙げたミカが切っ掛けで、他のメンバーも漸く緊張を解いてドロップアイテムの分配など戦後の処理へと移っていった。

 

『あ、我らへのドロップアイテムは彼女達(ロリショタ勢)に渡しても良いですぞ』

「後出来ればフレンド登録もお願いしたい」

「どさくさに紛れて何やろうとしてるのよアンタら。……ドロップアイテムは全員で山分けで良いわね? コイツらを只働きさせるのは逆に怖いわ」

「LSさん達も活躍してたしドロップアイテムは受け取っておくべきだと思います!」

 

 その際の報酬の分配で<YLNT倶楽部>のメンバーが『自分達の分をロリショタへ貢ぐ』と言い出したのを、バーニング(HRNTAI達への警戒から)とアリマ達少女組(こっちは普通に善意)が止めてとりあえず全員で山分けにしたりなんて事もあったが、基本ロリショタが言う事には素直に従うHENTAI達含めてがめついタイプはいなかったので報酬について特に揉める事は無かった。

 

「あ、そうだ! ミュウちゃんとミカちゃんにお願いがあるんだけど、私とフレンド登録してくれないかな?」

「ん? サリーちゃんと? 別に良いけど」

「私も構いませんよ」

「ありがとう! 今度機会があったら私達<魔法少女連盟>に遊びに来てよ」

「君達にも中々の“魔法少女”の資質がありそうだからな。私達が作って廃棄したアイテムも存分に使いこなしているようだし、制作アイテムの販売などもやっているから気軽に来ると良い」

 

 また、ミカとミュウが<魔法少女連盟>組とフレンド登録したりなどもあって、互いに(一部HENTAIと常識人勢除く)友誼を結ぶなどして和やかな雰囲気で今回のイベントボス攻略臨時パーティーは解散したのだった。




あとがき・各種設定解説

我は禍ツ神を砕く巨人なり(ギガース)》:【激災棍 ギガース】の必殺スキル
・対象一体限定の防御スキル効果大幅減衰+自身へのスキル効果大幅減衰のスキルで、発動中は常時SP継続消費、クールタイムは1時間と長め。
・自身へのスキル効果減衰の基準となるHP・STR・END・AGIの数値は現在値であり、HPの減少や物理ステータスへのデバフを受けていれば効果は下がる。
・対象にした相手の保有するスキルと装備品・消耗品のスキルが効果減衰の範囲であり、また使役している生物のスキルは従属キャパシティ範囲内か《軍団》スキル範囲内なら適応されるがパーティー枠に入っているだけだと効果範囲外。
・現時点での妹の物理ステータスでは上位純竜のスキルをほぼ無効化出来るぐらいで、特典武具越しならノーダメージで凌げるぐらいに減衰可能なぐらい。

《ノックバック・インパクト》:【戦棍姫】のアクティブスキル
・メイスで殴った相手に与えるダメージがゼロになる代わりに、装備による影響を受けずに相手を大きく吹き飛ばした上で【硬直】と【部分麻痺】の状態異常を与えるスキル。
・吹き飛ばしや状態異常の度合いは自身の攻撃力と相手の防御力の差で決定し、ガードされない場合に相手のENDをSTR分減少させる《ストライク・ペネトレイション》の効果なども反映される。
・【部分麻痺】の状態異常は殴った部位辺りまでしか効かない代わりに効果と持続時間が高い【麻痺】と言った感じで、装備による影響を受けないので武器や盾で防いだ場合でもそれを持っている腕に効果がある。
・本来はこれと弾き飛ばしと【硬直】を合わせる事で『相手の腕を痺れさせて武器を弾き飛ばす』と言った使い方がメインのスキルだが、当然普通に身体に当てても【部分麻痺】で行動を大きく制限出来る優良スキル。
・尚、妹はジョブレベルがまだ低いので【戦棍姫】のスキルはこれしか覚えていないが、これはメイスの特徴である『対人』に長けたスキルであり他にも『対装備』『対生物』のアクティブスキルと『奥義』がある模様。

アリマ:時間を掛けると大体詰む系の子
・彼女の《悟りし者の御業》は脳の一部を置換している【シャカ】が彼女の考えを読み取って、それに合わせて精神干渉系のスキルを自動で改造するスキル。
・精神系のスキルであれば保有スキル・装備スキルは問わず改造可能で、そのスキルの運用データが集まる程に改造の効率が良くなる特性もある。
・スキル効果範囲の設定に関しては『特定対象のみを対象・非対象にする』『効果範囲そのものを操作する』『効果範囲そのものを圧縮する』などによって行われており、前二つと比べると圧縮はコストがかなり掛かる模様。

【守護星蟹 カルキノス】
<マスター>:剛雅
TYPE:ガーディアン
到達形態:Ⅴ
能力特性:カバー・妨害
固有スキル:《友の危機に駆けよ(レスキュー・フレンズ)》《邪魔大鋏(ジャマーシザース)》《邪魔甲羅(ジャマーシェル)》《巨蟹宮の加護》《自動再生》
必殺スキル:《魔蟹は砕かれ星となる(カルキノス)
・巨大な蟹型のガードナーで、モチーフはギリシャ神話のヒュドラの友であり後に蟹座となった魔物“カルキノス”
・HP・END型のステータスをしておりSTR・AGIはそこそこだが、組み付きに補正が乗る《邪魔大鋏》や味方を敵の攻撃から庇う際のみAGIを十倍のにするアクティブスキル《友の危機に駆けよ》で補っている。
・攻撃能力は低いがカバーリングと耐性・再生系のパッシブを組み合わせての守護、そこにデバフ効果を織り交ぜての敵の弱体化が得意なサポート型ガードナー。
・必殺スキルは【カルキノス】が死亡した際に<マスター>へと憑依融合して、両者のステータスを合計してスキルも全て使えるようになるスキルで、チャージ時間は無いが持続時間は五分間でその後は最低24時間復活の為に【カルキノス】が紋章の中で休眠する。
・<マスター>の剛雅はAGIよりのジョブに付いて【カルキノス】に自分を庇わせる形で高速移動させたりしており、今回の様に相手に組みつかせてから殴り続ける戦術も使うなど割と酷使しているが、その分好物をやって機嫌を取ったりもしてる。


読了ありがとうございました。
仕方ないんや……三兄妹の<エンブリオ>は自分の“才能”に対するコンプレックスから生まれてる設定なんだから……。感想・評価・誤字報告いつもありがとうございます。


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ハロウィンスレ3/裏側の事情

前回のあらすじ:妹「イベントボス撃破! 早速掲示板に書き込んで自慢しよう!」末妹「はいはい、お疲れ様でしたのです」


 □◾️地球 とある掲示板

 

 

 ◇◇◇

 

 

【レッツ!】<Infinite Dendrogram>ハロウィンイベントスレ2【ハロウィン!】

1:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

このスレは<Infinite Dendrogram>ハロウィンイベントに関する情報を書き込むスレです

イベント内容・イベントモンスター・イベント交換アイテムの質問などご自由に

荒らしはスルー推奨

 

 

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 ・

 

 

 ・

 

 

363:名無し戦棍姫[sage]:2043/10/31(土)

よっしゃー! 【ハイ・パンプキン・ドラゴン】討伐やってやったぞコラー!

これが超級職と優秀なパーティーメンバーの力じゃー!

 

 

364:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

乙ー、アルターでも編集部と自由騎士団とバビロニア戦闘団と月世の会の協力で

【ファーマーキング・パンプキンゴーレム】とその配下をどうにか討伐出来たぞ

 

 

365:名無しの剣聖[sage]:2043/10/31(土)

配下の【プランティング・パンプキンゴーレム】が百体以上いたからな

クラン一つだけではどうしようもなかったからフリーの者達も合わせた大規模討伐作業になった

 

 

366:名無しの司教[sage]:2043/10/31(土)

ほんま大変やったわー

倒しても倒してもボスが更に追加を作り出すんやからー

 

 

367:名無しの黒騎士[sage]:2043/10/31(土)

最終的には配下を足止めしつつ精鋭部隊をボスに突っ込ませてどうにかって感じ

幸いというか生産能力特化で本体の戦闘能力はそこまででも無かったから

 

 

368:名無しの黄龍道士[sage]:2043/10/31(土)

しかし次々とボスモンスター討伐の報告が上がってくるな

100スレぐらい上では敗北報告ばっかりだったのに

 

 

369:名無しの大海賊[sage]:2043/10/31(土)

まあ、ちゃんと情報集めて対策取って人数揃えて連携すれば

個々のマスターの実力が相応なら倒せるぐらいの難易度みたいだしね

 

 

370:名無しの戦車操縦士[sage]:2043/10/31(土)

うぐぐ、あの【ジャイアント・イグニス・ファトゥス】は俺だけじゃ倒せんな

多分《物理無効》と《炎熱吸収》を持ってるっぽいし

ドライフのバルバロス領北側なので討伐パーティー募集

 

 

371:名無しの雷忍[sage]:2043/10/31(土)

【デッドリー・キューカンバー・ペイルホース】討伐パーティー現在募集中よ

西白塔領東側にいるやつで状態異常耐性に長けた人とかは歓迎

 

 

372:名無しの高位精霊術師[sage]:2043/10/31(土)

みんないいなー、デスペナした俺らは掲示板見てるだけー

 

 

373:名無しの高位木工職人[sage]:2043/10/31(土)

イベントモンスターが落とす植物素材の【ハロウィン・パンプキン】各種高価買取中

byアルター王国生産クラン<プロデュース・ビルド>

 

 

374:名無しの大農家[sage]:2043/10/31(土)

イベントモンスターが落とす食物素材の【ハロウィン・パンプキン】各種高価買取中

byドライフ皇国農業クラン<ドライフ農業復興委員会>

 

 

375:名無しの猛毒術師[sage]:2043/10/31(土)

>>373>>374

被ってるwww

まあ【ハロウィン・パンプキン】シリーズって食べても素材にしても優秀だからね

 

 

376:名無しの高位薬師[sage]:2043/10/31(土)

種によって特性は違うけど薬にも出来そう

イベント終わったら栽培出来ないかな

 

 

377:名無しの魔女[sage]:2043/10/31(土)

金属素材だと【ホロウメタル】って言うのを確認

どうも霊体系アンデッド的要素のある金属っぽいね

 

 

378:名無しの大戦士[sage]:2043/10/31(土)

武器アイテムだと【イグニス・ブレード】みたいな呪い系や

逆に【鎮魂の盾】とかの浄化系が落ちるみたいだな

 

 

379:名無しの弓聖[sage]:2043/10/31(土)

でも性能面だとレベル50〜150帯ぐらいのヤツばっかりだけど

正直微妙

 

 

380:名無しの蒼海術師[sage]:2043/10/31(土)

イベントに余り参加出来ない生産職に配慮して素材の方が高品質になっている

……のではないかとパーティーメンバーが言ってた

 

 

381:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

まあ、ごく稀に高性能な装備が落ちない事もないようだがな

生産素材の方がだいぶ出やすいだけで

 

 

382:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

まあ、腕のいい生産職に素材を持ち込んだ方が

ドロップよりも良い物が作られるのは普通だし仕方がない

 

 

383:名無しの大気功士[sage]:2043/10/31(土)

Q、生産職にツテがない場合はどうすればいいですか?

 

 

384:名無しの高位木工職人[sage]:2043/10/31(土)

>>383

A、初見さんでも大丈夫で素材持ち込みOKなお店を探しましょう

冒険者ギルドや対応する装備の生産系ギルドの人に質問するのも良いでしょう

私達アルター在住<プロデュース・ビルド>も初見・素材持ち込みOKです

 

 

385:名無しの剛剣武者[sage]:2043/10/31(土)

天地だと初見さんお断りの店が多いからなぁ

この大量の素材を持っていける店を探さないと

 

 

386:名無しの高位薬師[sage]:2043/10/31(土)

その辺りの詳しい話は生産系スレに詳しいからそっちでね

 

 

387:名無しの高位操縦士[sage]:2043/10/31(土)

イベントしてたらなんかヤベー<UBM>に襲われてデスペナしたんだけど

名前は【予次源匣 ケイオスキューブ】っていうなんか色々なパーツで構成されたゴーレム

これもハロウィンイベントのモンスターなのか?

 

 

388:名無しの司教[sage]:2043/10/31(土)

只の野良<UBM>やないのー?

道を歩い取ったら<UBM>にぶつかるのもままあるしな

 

 

389:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

実はイベント用に配置した隠しボス説も考えられるが情報が足りないな

 

 

390:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

<UBM>はなぁ……特典狙いであまり情報が広まらんから

デスペナしてもリベンジの為に情報を秘匿する人が多いし

 

 

391:名無しの戦棍姫[sage]:2043/10/31(土)

野良かイベントかの区別が付かないんじゃない?

特定の地点で動かないとかボスと同じ特徴があれば分かりやすいけど

 

 

392:名無しの高位操縦士[sage]:2043/10/31(土)

【ケイオスキューブ】は皇都の東から皇都付近まで追って来たぞ

後はカボチャとか仮装っぽいデザインの【ケイオスゴーレム】を引き連れてた

後は本体のパーツにもハロウィン的な意匠があったような

 

 

393:名無しの魔女[sage]:2043/10/31(土)

そこまで来るとイベントボス臭いねぇ

隠しボスとか?

 

 

394:名無し扇動者[sage]:2043/10/31(土)

情報が足りませんねぇ、場所は皇都の東ですか

ドライフの編集部でちょっと調べて来ますよ

 

 

395:名無しの船長[sage]:2043/10/31(土)

イベントしてたら【万掴千手 ワイルドハンド】って言う幽霊船に襲われた

なんか念動力みたいなので海上に現れた嵐と大渦の中に引きずり込まれそうになったぞ

 

 

396:名無しの大海賊[sage]:2043/10/31(土)

あら、グランバロアからも目撃情報が出てきたわね

 

 

397:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

ふむ、イベント<UBM>の有無は少し調べてみるべきかな

 

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

472:名無しの高位陰陽師[sage]:2043/10/31(土)

各国の編集部と協力した結果それらしい<UBM>は何体か発見出来たみたいだな

天地では大量の霊体系アンデッドを引き連れた【霊縛将帥 ダイテンオウ】がいたぞ

 

 

473:名無しの高位鑑定士[sage]:2043/10/31(土)

カルディナでは【発火葬霊 イグニッション】という火の玉の<UBM>を確認

一定距離に近づくとなんの予兆も無く肉体が燃え出す能力があるっぽい

 

 

474:名無しの青龍道士[sage]:2043/10/31(土)

黄河では敵に【カボチャ化】の特殊状態異常を与える

見た目もカボチャな【禍墓致也 パンプジン】ってのを発見

正直言ってまんま過ぎて吹いた

 

 

475:名無しの扇動者[sage]:2043/10/31(土)

>>474

これはイベント<UBM>で確定ですかね

【ケイオスキューブ】含めてマスターを見かけたら襲いかかってくる性質があるみたいですし

ティアンは見かけても追ってこなかった上に街に近付いても入る様子はありませんでした

 

 

476:名無しの翆風術師[sage]:2043/10/31(土)

グランバロアの【ワイルドハンド】もティアン船よりマスター船優先だったかな

 

 

477:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

アルターでは見つからなかったが……もう討伐されたか

或いはそもそも配置されていないか

 

 

478:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

レジェンダリアではイベント狩りをしていたらいつの間にか首を落とされた報告があり

現在追跡調査中

 

 

479:名無しの扇動者[sage]:2043/10/31(土)

>>477

この感じだと多分アルターにも配置されてると思いますよぉもっと頑張って探して下さぁい

まあ既に討伐されて情報秘匿と言うのもあり得ますけど

 

 

480:名無しの高位精霊術師[sage]:2043/10/31(土)

今までのスレから総合するとこれらの<UBM>はボスみたいな固定配置ではなく

基本的の自由に動き回りながらイベント中の<マスター>を発見次第攻撃する性質があると

 

 

481:名無しの高位操縦士[sage]:2043/10/31(土)

徘徊系の隠しボスかな?

 

 

482:名無しの高位木工職人[sage]:2043/10/31(土)

しかしこんな短時間で徘徊<UBM>を見つけ出すとか編集部の探査力ヤバイね

 

 

483:名無しの高位陰陽師[sage]:2043/10/31(土)

まあ向こうがマスターを見かけたら積極的に襲いかかってくるから見つけやすかったしな

 

 

484:名無しの高位鑑定士[sage]:2043/10/31(土)

知恵のあるモンスター程そういった下手な行動を取らないから分かりやすかったとも言える

 

 

485:名無しの扇動者[sage]:2043/10/31(土)

ちなみに現在掲示板<UBM>情報が拡散したお陰でマスターがワラワラと集まってますねぇ

そしてお約束の同士討ちが始まってます

 

 

486:名無しの翆風術師[sage]:2043/10/31(土)

え? <UBM>の前なのにアイツ等何やってるの? バカなの死ぬの? byティアン

 

 

487:名無しの魔女[sage]:2043/10/31(土)

<マスター>の業は深い

 

 

488:名無しの船長[sage]:2043/10/31(土)

こんな所にいられるか! 俺は普通のハロウィンイベントに戻らせてもらう!

 

 

489:名無しの青龍道士[sage]:2043/10/31(土)

その後>>488の姿を見た者はいなかった……

 

 

490:名無しの高位陰陽師[sage]:2043/10/31(土)

珍しく掲示板芸がうまく繋がったな(笑)

後イベント<UBM>の討伐にマスター達の意識が向いてイベントボスの討伐に影響が出そう

 

 

491:名無しの高位鑑定士[sage]:2043/10/31(土)

というか<UBM>にも例の《未練の灯火》のバフが乗ってるっぽいんですが

 

 

492:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

さて、アルターでは<UBM>は見つからないし普通にイベントを攻略するか

まあ他の皆さんは同士討ちの方が怖い<UBM>討伐を頑張ってな(笑)

 

 

493:名無しの高位精霊術師[sage]:2043/10/31(土)

>>492

洒落になってないんだよなぁ

UBMごとマスターを攻撃すればMVPと邪魔者の排除がまとめて出来るぜ!

みたいな事を考える連中はよくいるし

 

 

494:名無しの高位操縦士[sage]:2043/10/31(土)

この掲示板も俺みたいなデスペナ組と生産職と編集部しか書き込みが無くなったしな

やはりイベントUBMの方に行ってしまったか

 

 

495:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

まあ、掲示板に書き込みばっかするよりもイベントに参加する方が普通ではあるよね

 

 

496:名無しの高位薬師[sage]:2043/10/31(土)

UBM相手だとデスペナのリスクも高いしな

 

 

497:名無しの扇動者[sage]:2043/10/31(土)

こちらの【ケイオスキューブ】戦はお互いの同士討ちに加えてドロップしたアイテムとかを回収してますかね

それらを撃ち返して来たり素材にして新しいゴーレムを作ってる感じですか

とりあえず動画も撮ってますし相手の質量と他のマスターが減った辺りで一斉攻撃を掛けましょうか

 

 

498:名無しの高位陰陽師[sage]:2043/10/31(土)

UBMの前で同士討ちなんてしてたら残念でも無く当然なんだよなぁ

 

 

499:名無しの白氷術師[sage]:2043/10/31(土)

横入りはマナー違反なんだがマスター同士なら罪にもならんしな

 

 

500:名無しの翆風術師[sage]:2043/10/31(土)

ティアンも討伐に関わってるならその限りでは無いんだけどねー

そもそも同士討ちするなら討伐なんて出来ないだろうにみんな馬鹿なのかな?

 

 

501:名無しの高位書士[sage]:2043/10/31(土)

今日もユニークという魔力がマスター達を狂わせるのであったとさ

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □■??? 

 

「……ふむ、途中でテコ入れをしたがイベントボスモンスターは<マスター>達によって討伐されているし、もう後半だがイベント隠しボス扱いである<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>もほぼ発見されているか。通常のモンスターの討伐状況も含めて初の大規模イベントにしては順調だな」

「そうだねー、いつもみたいにもう少し何かトラブルでも起きるかと思ったけど順調だねー、珍しく。掲示板とかを見るにマッドハッターの『生産素材のランク引き上げ』もイベントに直接参加出来ない生産職の<マスター>には好評だしね。マッドハッターにしては良い提案だったよ」

「ジャバウォックに『ボスモンスター対象のバフスキルを新たに追加する』と聞いた時は大丈夫かと思ったが、蓋を開けてみれば現状の上位<マスター>達ならバフの掛かったボスモンスターも討伐しているしな。カンフル剤としてはこの方が良かったかもしれんな」

「<マスター>達の反応も上々みたいね。初心者は下級モンスターを狩りつつ割と高性能なアイテムをゲット、上級者はレイドボス挑戦や高品質な素材アイテムを馴染みの生産職に持っていくって感じで」

 

 管理AI達が座すとある場所、その一室ではジャバウォック・チェシャ・クイーン・アリスの四名がモニターを介して現在進行中の『ハロウィンイベント』の推移を見守っていた。

 ……ちなみに他の管理AI達はモンスターの配置やアイテム管理でイベントで絶賛仕事中だったり、そもそも興味が無かったり、普段と変わらず仕事量が多かったり、別の用事があったりで不参加である。最もこの四名もイベントの監視と同時に不測の事態の把握と対処の担当でもあるので仕事をしていない訳では無いが。

 

「それにしても、この【ケイオスキューブ】ってアイテムボックスが<UBM>化したモンスターよね。中身をハロウィンっぽいアイテムにしてそれっぽさを出してるけど、戦闘で消費と回収を繰り返す毎にどんどんハロウィンらしさが無くなってるわね」

「まあハロウィン系のモンスターと見せかけて本質は別の所と言う狙いもあるが……そもそも通常のボスモンスターと違って<UBM>を用意するのは簡単では無いから、流石に7大国全てのハロウィン要素を持たせたものを配置するのは難しい。全てカボチャとゴーストにする訳にもいかんしな」

「モンスターを用意するのも結構大変なんだがな。地球の資料からハロウィンの情報を集めてそれらしいモンスターを作ったりとか。……通常のモンスターを用意するのにもそこまで手間が掛かるのに<UBM>までハロウィン仕様など何体も出来るか」

「そこはしょうがないよねー。地球のMMOのハロウィンイベントの資料とか取り寄せたけど、<Infinite Dendrogram>じゃダメってのも多いしー。イベントの進行方法とかは凄く参考にはなったけどー」

 

 そんな風に初の大規模イベントで特に大きなトラブルも無く順調に進行しているからか管理AI達もどこか余裕を持って過ごしていた……流石に細かいミスなどはあったが、それも次回のイベント時に参考にしようと考えられる程度のものであった。

 

「そう言えばー、掲示板ではまだアルターとレジェンダリアに投下した<UBM>が見つかってないみたいだけどー?」

「その二つは隠密性能が高いタイプだからな、存在は確認出来るが見つけるのは難しい故に隠しボスとして配置した。……まあ、クイーンが作ってアルターに投下した【鏡影像 シャドウミラー】はイベント開始すぐに討伐されたが」

「うう……昼間は姿を消しつつ光エネルギーをチャージし、夜限定で敵の見た目・ステータス・スキル・装備品をコピーした上で敵の数に応じたバフが掛かってチャージしたエネルギー分コストが必要なスキルも使えるハロウィンの仮装と掛けた感じにして開発に一カ月掛かった力作だったんだが……“ハンプティのお気に入り”と早期に遭遇して普通に倒された……」

「あらあら」

 

 ちなみにその時の某着ぐるみは『どっかの悪いスライムの所為で同キャラ対戦には慣れてるワン!』とのコメントを残している……それはともかくとして、折角のイベント用<UBM>がイマイチ活躍出来なくて落ち込んでる同僚(クイーン)の気をそらすべく、チェシャは未だに発見されていないもう一体の<UBM>について聞いてみた。

 

「それじゃあもう一体のレジェンダリアの方はどんな感じなのー?」

「そちらは【夜行殺断 グリムリープ】という、ハロウィンは死者が現世に現れる日からそれを狩る死神のイメージで抜擢した<UBM>だな。能力は幻術とクリティカルと……ふむ、どうやら丁度現在交戦中の様だな」

「む、どうやら交戦中なのはティアンのパーティーの様だが」

「あら? 確かイベントモンスターにはティアンには攻撃しない縛りを入れていた筈じゃなかったかしら?」

 

 趣にジャバウォックが映し出したモニターにはレジェンダリアの森の中で、大鎌を持った死神【グリムリープ】と褐色の肌を保つ女戦士の一団が戦闘を行ってる光景が映し出されていた。

 

「確かに<UBM>を含むイベントモンスター達には『開催期間中は<マスター>を積極的に襲え』『ティアンにはこちらから攻撃するな』『街には入るな』といった縛りを設けているが、<マスター>と行動を共にしているティアンやそもそもティアンから攻撃を受けた際には普通に戦闘を行うぞ。そうしなければ<マスター>のイベントでティアンがモンスターに一方的に攻撃して行くだけになる可能性がもあったからな」

「まあそこはしょうがないねー。一応その情報は各国に流布しておいたけど<UBM>まで対象とまでは教えてないし、そもそもティアンにはイベントモンスターとそうでない物の見分けはつき難いしねー。戦ってるのはレジェンダリア随一の武闘派民族である『アマゾネス』の人達みたいだしー」

「超級職も居ないし普通に全滅かしらね。<マスター>にぶつけるのが目的の<UBM>なのだからそちらの方が良いんだけど」

「いや、ティアンの中に()()()()()()()()()の持ち主がいるようだな。ドライフの神話級武具保持者と同じくMVPとしてはややイレギュラーな形ではあるが……」

 

 そんな事を話す管理AI達の前には『竜の装飾を持つ大剣』を振るうポニーテールの少女を中心としたアマゾネス達が、幻術と大鎌を駆使する【グリムリープ】とどうにかやりあっている光景があった……が、その戦いが五分を過ぎた所でアマゾネスの内の一人の首が、()()()()()()()()()()()【グリムリープ】の大鎌によって刈り取られたのだ。

 

「うわー、あれって空間転移? 分身の幻術と組み合わせて使うとかエグいねー」

「まあ色々と制限や条件は付いているがな。【グリムリープ】は投下した<UBM>の中でも初見での殺傷能力に長けている」

「アマゾネス達のメインジョブである【女戦士(アマゾネス)】は女性によるパーティーでの集団戦闘に特化したジョブ。パーティーを纏める指揮役がやられた様だし、これで終わりか」

 

 画面の中では指揮官をやられて動揺するアマゾネス達に対し、分身と光学迷彩による幻惑の中に空間転移を混ぜるという手法で彼女達に何をしているのかを悟らせずにその首を狩る【グリムリープ】によって次々とアマゾネス達の数が減り、とうとう大剣を持った特典武具持ちの少女一人だけとなってしまっていた。

 ……そんな中でアバター管理担当(<マスター>至上主義)で画面を興味無さそうに無表情で見ていたアリスが唐突に笑みを浮かべた直後、少女の背後に転移した【グリムリープ】に“複数の光の矢”が突き刺さった。

 

『え?』

『幻術……じゃなくて転移かしらね。この二つの複合とか嫌な相手を思い出すわ』

『ああ、昔二人であっち(リアル)で戦った“魔幻の狩人”か。幻術を見せ札にして切り札の転移で仕留めるヤツ』

「……ふふふ、どうやら面白い事になって来たわね」

「その様だな。窮地に陥ったティアンを救うと言うのもまた英雄的(ヒロイック)な展開か。……見せてもらおうか、地球(あちら)での“異端者”達の力という物を」

「……この二人はホントにもー……」

 

 ……相変わらずな同僚二人を見て溜息を吐きつつ、チェシャは画面の中に現れてアマゾネスの少女を助け出した()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の行動を見守るのだった。




あとがき・各種設定解説

【予次源匣 ケイオスキューブ】:逸話級<UBM>
・昔のとある【匣王】が『生物以外ならなんでも入れられるアイテムボックス』を目指して作ったら、何故バグってモンスターとなったアイテムボックス由来の呪いの武器。
・アイテムボックスとして近くにある装備品以外のあらゆるアイテムを収納出来る他、近くにある魔法や飛び道具を自身の内部に収納してそれらを放出してのカウンターや、内部のアイテムをゴーレムに作り変えて使役操作する能力などを持つ。
・元がアイテムボックスなので自身のステータスは低いが、【匣王】がアイテムボックス保護の為に組み込んだ『ダメージ転化機能』を改造して自分が所有するアイテムにダメージを移し替える能力がある。
・ゴーレムの外見はアイテムによって変動するのでジャバウォックによってハロウィンっぽいアイテムを詰め込まれて投下され、ハロウィンっぽいゴーレムを上述の能力で多くの<マスター>を返り討ちにしつつドロップアイテムを回収していった。
・だが、最終的には連戦によってアイテムの在庫が切れ、飛び道具などは使わない物理戦闘系の戦いが出来る<マスター>達に殴り倒されて、所有者へのダメージ転化機能によって絶対に壊れない小型高性能アイテムボックスの特典になったとか。

【鏡影像 シャドウミラー】:行殺されたがこれでも伝説級<UBM>
・クマニーサンとの戦いでは特殊装備品である【バルドル】の能力を完全にコピーした上で、貯めたエネルギーを使っての砲撃や必殺スキルで暴れまわった。
・だが、最終的にはバフによる多少のステータス差ではクマニーサンとの技量差を覆せず、バルドルVSにせバルドルの原作よりちょっと早めなロボットバトルの末に討伐された。

兄&ひめひめ:二人でハロウィンイベントを満喫していた
・割と普通にゲーム内イベントとしてハロウィンを楽しみつつ、兄の補正による無駄に高いLUCと《解体》スキルによってドロップアイテム美味しいですしてたらVS<UBM>のエクストララウンドに突入。
・ちなみにこの二人は中学高校時代には何処の現代ファンタジーかSFものラノベかって言う感じの生活をしていたらしく、普段は誤魔化してるけど二人だけの時はうっかり話に出たり。


読了ありがとうございました。
デンドロ書き下ろし17巻ついに発売! ……作者は最寄りの本屋にまで入荷してなかったので今日改めて買いに行く予定だけど。


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アマゾネス達の戦い

前回のあらすじ:掲示板民「え? イベント用の<UBM>がいるってマ?」管理AI「争え……もっと争え……<エンブリオ>の進化の為に!」

※【魔弓手】系統のスキル名が分かりにくいので全面的に変更しました。


 □<夜灯の森>

 

「……ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 そこは夜になると可視化した自然魔力が淡く光る事から<夜灯の森>と呼ばれる場所、それ故に深夜でもほの明るいそこで褐色の肌を赤いコートで身を包み、金色の髪を“竜の装飾があしらわれた髪飾り”でポニーテールに結わえた150センチ小柄な少女が息を切らせながら身の丈程のある竜の装飾を付けた大剣を正眼に構えていた。

 よく見るとその少女の頭部のこめかみ辺りからは()()()()()()()()、腰部からはコートのスリットから出る形でまるで蜥蜴の様な尻尾が生えていると言うレジェンダリアでもそこそこ珍しい亜人的な特徴が目立つ外見をしていた。

 彼女はレジェンダリアに於ける部族の一つであり、高い戦闘能力とその全てが女性と言う特徴のある種族『アマゾネス』である【竜戦士(ドラゴン・ファイター)】ティアモ・ウル・ヒュポレと言い、定期的な部族パーティーでのレベリングと修練により遠征を行っていた三パーティー18人程いた内の一人で……その最後の一人であった。

 

『『『『『『『KIHIHIHIHI……』』』』』』』

「くっ……私以外は全員やられた……」

 

 そしてティアモの眼前には全身に黒いボロ切れの様なローブを纏い顔には髑髏の面を付けて手には大鎌を持った、まるで<マスター>達がイメージする“死神”の様な存在──伝説級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【夜行殺断 グリムリープ】が()()も宙に浮きながら彼女の周りを取り囲んでいた。

 ……そして辺りには彼女の仲間であり今回パーティーを組んでいた合計レベルは最低でも100強、中には自分以上よりも上の500レベル(カンスト)に達する強者もいたアマゾネスの戦士達が()()()()()()()()()絶命し地面に倒れ伏していた。

 

『『『『『『『KIHIHIHIHHIHII……』』』』』』』

(こっちを嘲笑ってる……訳じゃ無い。単に残った私を最大限に警戒しているから確実に始末しようとタイミングを計ってるだけか。嘲笑いでもしてくれれば逃げる隙も出来たかもしれないのに……これが伝説級<UBM>……!)

 

 ……何故ティアンとしては卓越した戦闘能力を持つアマゾネス達がこんな事になっているのかと言うと、話は少し過去に遡る……。

 

 

 ◇

 

 

 まず『アマゾネス』は女しか存在しない種族であり、主に近接戦闘系のジョブに高い適正を持つレジェンダリアの諸種族の中でも武力に長けた種族でもある。更に種族単位での平均合計レベルも300近く、それ故に強者を尊ぶ気風があるので定期的に新人のレベリングや戦闘経験を積む為のパーティー単位での遠征によるフィールド巡りや自然ダンジョン踏破などを行なって日々鍛錬を行なって自らを磨いているのだ。

 ……実の所は他にも色々とアマゾネス特有の“理由”などはあるのだが、まあとにかくティアモ含めたアマゾネス達は新人アマゾネス(それでもレベルは100近い)の育成も兼ねての遠征に赴いており……そこでハロウィンイベントに参加していた<マスター>達の首を刎ねて始末する【グリムリープ】と偶々遭遇してしまったのだ。

 

『<UBM>……! 全員戦闘準備! 遠距離攻撃班攻撃開始! 奥義【ジェム】投擲!』

『分かった! 《アローレイン》!』

『了解! 【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】投擲します!』

『お前達! 全体バフを順次発動していけ! 《アマゾネス・ウォークライ》!』

『《アマゾネス・ウォーシャウト》!』

『《アマゾネス・ウォーハウル》!』

 

 そして超音速機動でその場にいる全ての<マスター>の首を落として光の塵へと変えた【グリムリープ】を見た彼女達の行動は、可能な限りの遠距離攻撃による先制と【女戦士(アマゾネス)】のジョブスキルで自分達にバフを掛ける戦闘準備だった。

 尚、ジョブとしての【女戦士】は『パーティー内の女性の数』を基準とした自己強化のパッシブスキルと、パーティー内の女性を対象としたアクティブバフスキルを使う特殊条件下(パーティー内の女性対象)での自己・他者の物理ステータス強化に特化した前衛系ジョブである。更に上級職の【女戦士長(アマゾネス・リーダー)】ならば女性限定時でパーティー枠を拡張したり、奥義である《アマゾネス・トライブ》によって他の【女戦士長】が率いているパーティーも女戦士系スキルの対象に出来たりする

 そしてアマゾネスは全員がこのジョブへの適性を持っており、戦闘ではパーティー内の全員が女性であるが故に最大効率で運用出来る【女戦士】の全体アクティブバフと単体パッシブバフを行使して、物理ステータスを大きく引き上げての集団戦法によって亜竜級どころか純竜級モンスターさえも討伐してのける事から彼女達はレジェンダリアでもトップクラスの武勇を持つと言われてるのだ。

 

『KIHIHI……』

『【ジェム】も遠距離攻撃も超音速機動で回避されたか……まずは<UBM>の能力を見極めるぞ。最悪殿を置いて撤退する』

『全員死力を尽くせ! 最低でもこの<UBM>の情報を持ち帰る! 我らアマゾネスはレジェンダリアの守護者! この国を脅かす者と戦うのが我らの役目だ!』

『相手は急所攻撃に長けた大鎌を使う! 【救命のブローチ】を装備していた<マスター>をそのまま殺している以上は防御スキルは無意味な可能性が高い! 注意せよ』

『『『はい!』』』

 

 ……最もアマゾネス達はこれまでも他の国からは魔境と呼ばれるレジェンダリアで戦い続けてきた武力も知力も優れた精鋭であり、それ故に()()()()()()()()()()()()()()で倒せるほど伝説級<UBM>は甘い相手では無いとよく知っていた。初手で攻撃を仕掛けたのはアクティブバフを準備する時間を稼ぐ為と、能力の分からない<UBM>相手に全員で背を向けて撤退する方が全滅の可能性が高いと判断したからである。

 ……まあ、この【グリムリープ】には『イベント中にこちらからティアンを攻撃しない』という縛りがあったので背を向けて全力で逃げれば追って来なかったのだが、そんな“ゲーム的な理由”をティアンである彼女達に見抜けと言うのは酷だろう。

 

『KIHIHIHIHI……《ファントム・エイリアス》』

『『『『『『KIHIHIHIHI……』』』』』』

『七体に増えた⁉︎』

『いや、あのスキルは【高位幻術師(ハイ・イリュージョニスト)】も使う高位の幻術だな。その内六体は幻影だ』

『確か姿だけでなく音や熱源、気配なども本体と同じ幻影を作り出す魔法だった筈。並みの術者では一体か二体程度作るのが限界の筈だが、そこは<UBM>か』

『幻影で撹乱して急所を狙う気か?』

 

 そして己を攻撃してきたアマゾネスを認識した【グリムリープ】の縛りは解け、即座に得意の幻術によって六体の幻影を展開して眼前の敵を須らく始末せんと戦闘態勢へと入り……六体の幻影を含め七体の【グリムリープ】全員が亜音速を超える速度でアマゾネス達へと襲い掛かった。

 

『『『『『『『KIHIHIHIHI〜!』』』』』』』

『早い! 幻影も亜音速以上⁉︎』

『でも、そんなあからさまに幻術を使うなら本体はどれだかすぐに分か……』

『まて! まずは遠隔攻撃で幻影を攻撃! 前衛はティアモに任せろ!』

『ティアモ、済まんがヤツの手札を見極めてくれ』

『……了解。《竜闘気(ドラゴニックオーラ)》』

 

 それに対してバフ効果で超音速機動も目で追えているアマゾネスの若手が前に出ようとしたが、それを【女戦士長】であるベテランが止めて遠距離攻撃を指示、それと共に自分達に中で最も高い実力を持つティアモに【グリムリープ】の相手を任せた。

 それに応えたティアモも【竜戦士】の奥義である身体能力・攻撃力・防御力・魔法耐性・状態異常耐性を全上昇させるオーラをその身に纏い、亜音速を超える速度による踏み込みで遠距離攻撃を掻い潜って積極して来た【グリムリープ】の幻影の一体に突っ込んで両手に持った大剣──父親の形見でもある【剛竜剣】によって斬り払い霧散させた。

 

『KIHi……』

『ん……《破魔竜剣(ハマノツルギ)》は有効」

 

 これがティアモが頭に付けている竜の髪飾り──特殊な事情によって“手に入れてしまった”古代伝説級特典武具【竜剣飾 ドラグソード】の『装備している剣の攻撃力以下のMPで使用されたスキルを斬り裂く事で無効化する』パッシブスキル《破魔竜剣》の力である。

 しかし、あくまで斬り裂いた物のみを無効化するので残りの幻影は健在であり、その中の幻影だと分かっている一体がティアモに向けて大鎌を見舞って来たので……彼女は即座に150センチ以上がある【剛竜剣】を鮮やかに降るって斬り返し、その大鎌を()()()()()

 

『KIHI⁉︎』

『流石に<UBM>が只の幻影を嗾けると思う程にバカじゃない……この幻影は実体化出来るみたいだから気を付けて!』

『やはりそういうスキルも持っていたか! 全員幻影一体に付き複数名で当たれ!』

『<UBM>が汎用の幻術系スキルを只使う訳が無いからな!』

『『『『『KIHIHIHIHI……』』』』』

 

 彼女達の言う通り、これは夜の間だけ幻影の鎌による攻撃を本体と同じ性能で実体化させる《幻夜の大鎌(ファントム・サイズ)》という【グリムリープ】の固有スキルによる物である。更にそこには夜間限定で大鎌の攻撃が急所に当たった際に相手の防御力・【ブローチ】などの防御スキル・《ラスト・コマンド》《ラスト・スタンド》などの食い縛り系スキルを無効化する《夜天の死鎌(ナイト・デスサイズ)》の効果も乗っているので、単純に即死攻撃の手数を大幅に増やす役割も担っている。

 

『チッ、当然そのぐらいはやって来るか。急所だけは絶対に外しな!』

『鎌は防げるけど本体は幻影のまま……釜の攻撃だけ実体化させるスキルか。向こう攻撃は防ぐか躱して、本体へは幻影を破れる光か炎系の攻撃を使え! 《レーザーブレード》!』

『ヤツの動きに対応出来ない者は【ジェム】を使え! 対応出来る者達は協力して攻撃を捌くんだ!』

『本体は……こっちに来た!』

『《ファントム・エイリアス》……HIHI〜!』

 

 そして【グリムリープ】はティアモに消された幻影を再展開して六体に戻すと、それらをアマゾネス達に向かわせつつ自分自身は幻影を消滅させるティアモを相手取るために斬りかかって行った。

 だが、アマゾネス達も歴戦の【女戦士長】を中心としてティアモの言葉から【グリムリープ】の手の内を大凡読み切り、迫り来る六体の幻影の攻撃を熟練の戦士達が中心となって防ぎ、そこにやや若手の戦士が火属性・光属性の【ジェム】や属性を武器に纏わせる装備を使って幻影を破壊して行く。

 

『『『『『『HIHIHIHI〜』』』』』』

『ふん、どうやら幻影の方は流石に本体程に強くは無いみたいだね。打ち合った感触だとAGIに関しては七割程、普通の攻撃力の方も似たようなもんか』

『とは言え、武器が大鎌である以上は急所に攻撃を受ければ私達では普通に死ぬから油断するなよ! あの伝説の<マスター>達でも一撃でやられたんだからね!』

『ティアモ! 本体はそっちに任せるよ! 幻影だけなら私達でも対処出来る!』

『委細了解……《ヘビースラッシュ》!』

『HIHI! 《ファントム・エイリアス》』

 

 それでも【グリムリープ】は幻影が破壊される度に再度幻術を使って補充して行くが、幻影の戦闘能力は本体程では無い事も手伝ってアマゾネス達は【女戦士長】達を中心に連携しつつ互角の戦いを演じていた。

 そして本体の方は超音速機動からのクリティカルでティアモを始末しようとするが、各種バフに加えて“元々のステータス”が高い彼女はその動きを見切る事が出来ており、かなりの技量で振るわれる大鎌もアマゾネスとして幼い頃から鍛錬を積んで、更にサブの上級職である【剣巨人(ソード・ジャイアント)】の大剣重量軽減・慣性制御・空気抵抗軽減などのスキルを組み合わせた彼女の大剣捌きを上回る程では無かったので互角の打ち合いとなっていた。

 

『思ったよりも<UBM>と互角に打ち合えているね……カチュア、シャニー、エスカ、あんた達三人はここから離脱して【グリムリープ】の情報を街まで持って行きな』

『えぇ⁉︎ でも有利に戦えている状況で戦力を減らすのは……』

『馬鹿が……()()有利に戦えているからこそ<UBM>の情報を持ち帰れる最大のチャンスなんだよ』

『それにレベルと技術がまだ低いあんた達は幻影にまともな対処が出来ていない。抜けても戦力減少は最低限で済むから情報を伝えるのはあんた達が最適なんだよ。……分かったら行きな!』

『『『は、はい!!!』』』

 

 その途中で【女戦士長】達はパーティー内で一番戦闘能力の低いアマゾネス三人を戦闘から離脱させるという一手を打っていた……彼女達は相手の動きの違和感や、彼我の戦力差から本来なら誰か一人でも致命傷を負う筈の戦いなのに未だ『互角の戦い』にしかなっていない事から、今の【グリムリープ】は意図的に時間を稼ぐ為に引き気味の姿勢で戦っていると見抜いていたのだ。

 故に相手はまだ切り札とも言える強力な固有スキルを隠し持っていて、それを使われたら自分達が全滅する事もあり得るとまで読んでおり、今の内に抜けても問題ないメンバーを離脱させて全滅だけは回避させようとしたのだ。

 ……そして幸いな事に【グリムリープ】は他の強力なアマゾネスたちの方を危険視していて優先的に狙っている事もあり、三人の逃亡は特に妨害される事も無く成功して……これから始まる()()()()()()()だけは避けられた。

 

『KIHIHIHIHI〜!』

『む、ちょこまかと動いていたのに遠ざかって……《タイタン・ブレイク》!』

 

 超音速機動と亜音速未満の機動による緩急をつけた移動を駆使してこちらの隙を伺っていた【グリムリープ】がいきなり距離を取ったのを見て、ティアモは相手の行動が時間稼ぎから別の物に変わったと判断し咄嗟に踏み込んで【剣巨人】の攻撃力倍加・大剣重量に応じた防御力減少を伴う斬撃を見舞う奥義を叩き込んだ。

 ……彼女も【グリムリープ】はまだ手の内を隠していると考えており、自分の最大の一撃を叩き込めばそれに対する相手の対処によって少なくとも手札の一つは把握出来ると言う思惑の下での攻撃であり……そうして大上段から振るわれた斬撃は()()()()()()()()【グリムリープ】を捉えて《破魔竜剣》の効果で跡形も無く霧散させた。

 

『なっ⁉︎ 幻影……本体が消えた! 全員注意を……!』

『KIHIHI……』

『ガッ……⁉︎』

 

 直ぐに本体と幻影がいつの間にか入れ替わっていると気付いたティアモは仲間に注意を促したが、その的には既に一人の【女戦士長】の背後に転移していた【グリムリープ】が大鎌によってその首を刎ねた後であった……これが【グリムリープ】の切り札とも言える固有スキル《暗夜行渡(ナイトリープ)》──夜間限定で自身と五分以上戦闘を行った相手の背後に転移して、更にその際には転移後の攻撃終了まで強力な気配隠蔽効果を発揮するスキルである、

 それに加えて【グリムリープ】が展開出来る《ファントム・エイリアス》の総数は実は七体であり、転移と同時に自分がいた位置に幻影分身を配置して転移自体気付かれない様にする事で熟練のアマゾネス達相手に完璧な奇襲を決める事が出来たのだ。

 

『このリーダーをよくもぉ! ……消えた⁉︎』

『KIHIHI……』

『……え?』

『アリサ! コイツまさか転移を……⁉︎』

 

 ……そして《暗夜行渡》の最も厄介な所はデメリットが前述の状況及び事前準備と一度転移した相手の背後には十分間は再転移出来ない事ぐらいで、スキルの発動自体はかなりのローコストかつ連続で行う事が出来ると言う点である。加えて【グリムリープ】には夜間限定の消費MP軽減やMP自動回復スキルもあるので、幻影の再展開や転移の連続使用によるMP切れも期待できない。

 

『コイツ連続して転移してって幻影が……ガハッ⁉︎』

『『『『『『『KIHIHIHIHI〜!!!』』』』』』』

『くっ⁉︎ 直ぐにそっちに……⁉︎ こっちにも幻影! 足止め⁉︎』

『クソォ!!! 《ブレイズ・スラスト》!』

『また消えた! こんどは誰の背後に……カッ⁉︎』

『KIHIHIHIHI〜!』

『コイツ……まさか光学迷彩まで⁉︎』

 

 ……その後の戦いは正に一方的な虐殺と言うのが相応しい展開であった。リーダー格であった【女戦士長】がやられた事によって指揮系統の混乱と《アマゾネス・トライブ》によるパーティー連結が途切れてアマゾネス達に掛かっていたバフの効果の減少が発生し、それによって特に動揺した若手の戦士を狙って【グリムリープ】は次々と転移からの首刈りを行なっていった。

 更に厄介なティアモに対しては複数の幻影を消される度に再展開する波状攻撃を掛けて足止めし、残った幻影を足並みが乱れたアマゾネス達へと向かわせて更に隙を作り出す。加えて動揺が少なく転移のカラクリにも気が付いたベテラン相手には、これまで温存して来た高位光学迷彩スキルを使って転移したと見せかけつつ接近して首を刎ねて始末した。

 ……そうして暫くの後、その場に於いて動いているのは幻影に足止めされたティアモとそれ以外のアマゾネス全員の首を刎ねた【グリムリープ】のみとなっていたのだった。

 

 

 ◇

 

 

『KIHIHIHIHI〜』

『『『『『『『KIHIHIHIHI……』』』』』』』

(《破魔竜剣》で幻影は消せるけど直ぐに再構築されるから意味がない。本体を倒そうにもあの大鎌は攻撃力が一万に届く【剛竜剣】でも破壊出来ないぐらいに頑丈だし、技量も低くはないからバフが切れた私じゃAGI差から本体を狙うのは厳しい。……一か八か【ドラグソード】の“第二スキル”を使う? でもこの相手にはそこまで劇的な効果は得られないだろうし……)

 

 どうにかこの状況でせめて一矢報い様と考えを巡らせるティアモだったが、これまでの戦闘で彼女を危険な相手だと判断していた【グリムリープ】は『囲んで様子を見ても何もしてこない以上は今すぐにこちらをどうにか出来る手段は無い、これ以上何かする前に首を刎ねた方が勝算は高い』との考えから七体の幻影を全方位から斬り込ませたのだ。

 

『『『『『『『KIHIHIHIHI〜!』』』』』』』

「チィ! セヤァッ!!!」

 

 バフが切れた以上は既に幻影ですらティアモよりも速かったが、それでも彼女は鍛え抜かれた技術と幻影と《幻夜の大鎌》すらも無効化出来る《破魔竜剣》の力によって七体の幻影を次々と斬り裂いていったが……それによって本体への注意が一瞬逸れた所を突いて【グリムリープ】は彼女の背後に転移してその大鎌を振るった。

 

『KIHI……』

(しまっ……父さん、母さん⁉︎)

 

 自らに迫り来る大鎌に気が付いた時には既に回避も防御も出来る状態では無く、ティアモに出来た事は今は亡き両親の事を走馬灯の様に思い出す事だけであり……その直前に彼方から放たれた光の矢が【グリムリープ】に直撃して大鎌の軌道を僅かに逸らした事で、その斬撃は彼女の背を浅く斬り裂くに留まった。

 

『キガッ⁉︎』

「くっ⁉︎ 《ドラゴンテール》!」

「……ほら追加よ《ヴァイパー・アロー》《爆裂之矢》!」

「《ファイアーウォール》! ……おい! 今の内に離れろ!」

 

 そうして間一髪で難を逃れたティアモは咄嗟に尻尾で背後の【グリムリープ】を打ち据えながら離れ、そこに彼女を避ける軌道を描いた魔法の矢が次々と【グリムリープ】やその周囲に突き刺さっては爆発して距離を無理矢理離させる。

 更に追撃を掛けようとしていた幻影はその間に展開された炎の壁に阻まれ、その間に声が聞こえて来た方向に転がり込んだ彼女はレジェンダリアでも珍しい純竜クラスの馬形モンスターである【ライトニング・トライコーン】に乗った男女二名の<マスター>の姿を目撃した。

 

「途中で出会ったアマゾネス三人に助けを請われて来たんだけど……ちょっと遅かったかしらね」

「少なくとも一人は助けられたと考えよう……そこの君、今は下がって怪我を治しておけ《喚起(コール)》ネリル、クルエラン」

「……ん、分かった」

 

 ……そして【ライトニング・トライコーン】──純竜級に進化したヴォルトから飛び降りたひめひめは首が無く横たわるアマゾネス達を見て顔を顰めながらも弓を構え、同じく目を細めて真剣な表情をした騎乗したままのレントは疲労からか少し顔の赤いティアモを下がらせつつネリルを後方に、クルエランを前方に呼び出して【グリムリープ】と相対するのだった。




あとがき・各種設定解説

アマゾネス:レジェンダリアの種族の一つ
・女性しか存在しない種族で主に物理戦闘型ジョブの適正が高く、子供を作った場合には大体7割ぐらいの確立でアマゾネス女の子が、それ以外だと夫の種族の男の子が生まれる生態をしている。
・ちなみにアマゾネスの女の子の場合には夫の種族特性やジョブ適正を受け継いでいるハーフアマゾネスになる事もあり、男の子の場合でもアマゾネスの物理戦闘型ジョブの適正などを引き継いだりする事もある感じ。
・また、種族的に戦闘意欲が高く強い男に惹かれやすいので、アマゾネス達自体の高い戦闘資質+強い=合計レベルの高い男との婚姻を長年続けて来た結果として平均最大レベルや戦闘の才能が高くなっている。
・だが、それ故に繁栄の為には他種族の力を借りなければならず、また一夫多妻制で恋愛に関してはかなり情熱的な事もあり婿を迎える以外にも部族を出て他の種族へと嫁に出る者も多数いる事から、部族としてはレジェンダリアの種族間の争いには一歩引いた位置にいる。
・なのでアマゾネスという部族を守る為かレジェンダリアという国を守る時だけ種族としての武力を振るう事にしている、一種の中立勢力的なポジションにいる模様。

女戦士(アマゾネス)】:戦士系統派生下級職
・こちらはジョブの方のアマゾネスであり女性限定での自己パッシブバフ・パーティーアクティブバフに特化した前衛職で、スキル型なのでステータスはMPとLUC以外がバランスよく低めに上がる。
・主なパッシブスキルはスキルレベル×パーティー内・自身の従属キャパシティ内の女性の数%だけHP・SP・STR・END・AGI・DEXを上昇させる《アマゾネスの闘気》や、同条件で精神・傷痍・病毒系状態異常耐性を上昇させる《アマゾネスの誇り》など。
・アクティブスキルの方はパーティー内・自身の従属キャパシティ内の女性の攻撃力を上昇させる《アマゾネス・ウォークライ》、防御力を上昇させる《アマゾネス・ウォーハウル》、AGIを上昇させる《アマゾネス・ウォーシャウト》など。
・上級職の【女戦士長(アマゾネス・リーダー)】になるとパーティー枠拡張やバフの種類増加などの『統率者』的な要素が強くなるが、その分【女戦士】と違って物理戦闘系ジョブや狩人・騎兵系ジョブがメインだと使えないスキルも出て来る。
・故にアマゾネスの戦士達の多くは『【女戦士長】をメインとしたパーティー戦優先型』と『【女戦士】はサブの補助ジョブ扱いで上級職は専門の戦闘職にする個人戦闘優先型』の2パターンに分かれる事が多い。

ティアモ・ウル・ヒュポレ:古代伝説級特典武具を持つアマゾネスの少女
・見た目はアマゾネスでは普通の褐色と金髪の少女だが“生まれつき”持つ頭の両側にある角が目を引き、口数は少ないがアマゾネスらしく戦闘意欲は旺盛で戦闘時には冷静な判断力と鍛錬に裏打ちされた高い技量を持つ。
・保有する【竜剣飾 ドラグソード】は装備補正は無く固有スキルが二つある髪飾りで、頭部装備のそれを使って長髪をポニーテールにまとめている。
・その固有スキル《破魔竜剣》はドラゴン系素材の刀剣でMP消費系スキルを斬った際、そのスキルの元々の使用MPがその剣の装備攻撃力以下なら無効化、それ以上でもその数値分だけ使用MPを減らして弱める事が出来るパッシブスキルだが、使用時には剣にそれなりの負担が掛かる。
・だが、彼女の“父親”から受け継いだ【剛竜剣】は非常に高い装備攻撃力・神話級金属以上の強度・強力な自己再生能力を持っていて、彼女にしか装備出来ない限りなく特典武具に近い武器なので問題ない。
・また、メインジョブである【竜戦士】は種族をドラゴンに変更してジョブスキルとして竜の力を限定的に使えるというつい最近までロストしていたレア上級職であり、総じて彼女はアマゾネスの中でもかなり“特別”な少女らしい。

《爆裂之矢》:第五形態に進化した【アマテラス】の新スキル
・何かに着弾するか一定以上の時間が経つと爆発する魔法矢を放つスキルで、爆発の威力や矢が爆発までの時間は事前にある程度自由に設定可能。

【夜行殺断 グリムリープ】:伝説級<UBM>
・幻術系汎用スキル以外の固有スキル全てが夜にしか使えない代わりに、一万越えのAGIや数十万あるMPの他にも物理ステータス全般が純竜級レベルで高く保有する大鎌も攻撃力は低いが強度は神話級金属に届くと言う高い基本性能を持つ。
・作中ではキヒヒしか言っていないが普通に喋る事が可能であり、笑い声しか上げないのは幻影維持の負担を減らす為であるなど技巧・知性にも優れている。
・弱点として昼間はスキルが使えずステータスも若干落ちるという欠点があるが、その分だけ夜間での戦闘能力は伝説級<UBM>の中でも上位の個体でありまだ固有スキルはいくつか隠し持っている。


読了ありがとうございました。
完全書き下ろしの17巻は新情報てんこ盛りで実に素晴らしい物でしたね。作者も読んだのでネタバレありの感想でもOKです。


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夜に踊る死神

前回のあらすじ:兄「また<UBM>か。最近はよく遭遇するな」ひめひめ「普通はこんな頻度で遭遇しないんだけどね」

※【魔弓手】系統のスキル名が分かりにくいので全面的に変更しました。


 □<夜光の森>

 

「さて、治療しながらで構わないんだが、あの<UBM>の能力や特徴を簡単に説明してくれないか?」

「う、うん……アイツは幻術による七体の分身と大鎌による【ブローチ】も無効にするクリティカル攻撃を使ってくる。それと分身の大鎌でも相手を攻撃出来るし透明化の幻術もある。そして相手に背後に転移する能力も持っていて隠密発動出来るのかタイミングがよく分からない。戦闘直後には転移を使ってこなかったから何か条件があるのかも……」

 

 質問されたティアモは傷を直すためにポーションを背中に振りかけながらも、レント達に知る限りの【夜行殺断 グリムリープ】に関する情報を早口で話していった。この辺りの切り替えの早さは流石は戦闘民族であるアマゾネスらしいと言えるだろう。

 ……だが、それを見た【グリムリープ】はいきなり現れた“不確定要素”にこれ以上準備されるのは危険と判断して、目くらましに展開されていた炎の壁を斬り裂きながら七体の分身を撹乱させる様に散らしつつレント達へと斬りかかっていく。

 

『『『『『『『KIHIHIHI〜!!!』』』』』』』

「⁉︎ 来た!」

「あの程度の壁では足止めにならんか……《ブースト・エンデュランス》。クルエランは前に出ろ、幻影は任せる。俺達は手始めに本体を狙う」

『GO』

 

 向かって来た【グリムリープ】達に対してレントはクルエランにバフを掛けて壁役にしつつ、自身はアイテムボックスから魔法銃【シルヴァ・ブライト】を取り出して、最初から今までずっと補足し続けていた本体へと向けた。

 ……これまで余り出番が無かった【シルヴァ・ブライト】だが、そもそもレントが普段の戦闘においてコレを使わないのは雑に使うだけでも強すぎるが故にデンドロでの実戦経験がまともに積めないからである。そして<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>など戦闘中の修練を考えるべきでない相手であれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──先々期文明での最強レベル装備としての力が振るわれる。

 

「さて、本体はアレだな……《ラピッドシュート》」

『ッ⁉︎ KIHII⁉︎』

 

 そしてレントは向かって来る【グリムリープ】に対して、まず手始めに【シルヴァ・ブライト】を光属性奥義魔法(グリント・パイル)()()()()()()()()()()()()()()。最初の二発は銃口と引き金の動きから射線を先読みした【グリムリープ】に超音速機動で回避されたものの、それはレントの想定内であり回避先を先読みして放たれた残り三発の光速の魔弾が見事にその身体に直撃したのだ。

 ……だが、光属性の弾丸が当たったにも関わらず【グリムリープ】はまるで応えた様子も無く距離を詰めようとし、更にこの攻撃でレントを脅威と認識したのか七体の幻影も彼を狙って突っ込んで行った。

 

『『『『『『『KIHIHIHI〜!!!』』』』』』』

「……まずはその邪魔な幻影をどうにかしましょうか。《イリュージョン・ジャミング》」

「そうじゃのー。《イリュージョン・ジャミング》」

『『『『『『KIH……K……H……』』』』』』

 

 だが、幻影が彼等に到達する直前、ひめひめとネリルが発動した【高位幻術師(ハイ・イリュージョニスト)】の幻術妨害スキルの効果により、それらの幻影はその像をまるでモザイクの様に乱されながら消滅してしまった。

 ……ちなみにこの《イリュージョン・ジャミング》は『幻術の光・音・熱エネルギーなどの制御に干渉して周囲で発動されている幻術を()()()()阻害する』スキルであり、当然自分が発動した幻術も妨害してしまう上に習得には面倒な条件があるので【高位幻術師】でも習得者が少ないレアスキルである。

 

「悪いけど幻惑とかには昔から嫌な思い出が多くてね。対策は取る様にしてるのよ」

「まあ基本は魔法制御への干渉技術じゃし……《ハイ・フィジカル・ブースター》《ブーステッド・グループ・アジリティ》」

 

 ……のだが、そもそも幻術対策の為に【幻術師(イリュージョニスト)】系統を取っていたひめひめと、上級職以下の魔法など全て使えて当然なネリルは問題なく使用可能であった。加えてネリルの方はついでに【グリムリープ】に相対しているクルエランに物理ステータス上昇バフを、その場にいる味方全てにAGI上昇バフを掛ける事すらしていた。

 

「《ワン・アンド・オール・エンチャント》ぐらいなら素で出来るのじゃよ」

「助かった二人共! クルエラン、ヴォルト、俺たちは本体だけを狙うぞ!」

『承知! 《ライトニング・ジャベリン》!』

『KIIHIII!』

 

 そうして残された【グリムリープ】本体に対してレントは先程よりも威力を落とした状態で【シルヴァ・ブライト】を練習し、彼を乗せたヴォルトも頭部の三つの角から雷電を迸らせ槍状に変形させて射出した。

 ……尚【ライトニング・トライコーン】へと進化したヴォルトに新たに追加されたツノは決して飾りでは無く、この三本の角を中心とする事で雷属性スキルの高精度運用を可能とする《征雷の角》というパッシブスキルを有しているのだ。これとこれまでの騎乗戦闘しながらの雷電制御訓練が身を結んだ結果として進化時に発現した《防雷の鞍》と言う騎乗者を雷属性から保護するスキルを合わせて、ようやくヴォルトはレントとの騎乗戦闘が可能になったのである。

 

『KIIHIIE!』

「……とは言え、回避に徹せられると早々当たらんか……だが追い込んだ、やれクルエラン」

『GOOO!!!』

 

 だが、それでもレント達の遠隔攻撃を超音速機動躱した【グリムリープ】だったが、そうして回避される方向すらも計算に入れて射撃していたレントの策によって前に出ていたクルエランの近くにまで移動させられていたのだ。

 ならばと【グリムリープ】は自身よりも巨体なクルエランを壁にして彼等の遠隔攻撃を封じようと懐に潜り込んでの接近戦を挑むが、ENDにバフを重ねられたクルエランには自慢の大鎌でも切り傷を付けるだけしか出来ず、急所を狙おうにもゴーレム故に装甲に覆われた胸部内のコア以外に弱点が無いクルエラン相手ではクリティカルヒットを発生させる事も出来ないので仕留め切れなかった。

 

『GOOOOO!!!』

『KIHIIII!!!』

「まあ流石にAGI差で攻撃は当てられんか……《ゴーレム・リペア》」

 

 それでも【グリムリープ】はAGIの差を活かしてクルエランの拳を躱しながらその身体を斬り裂いて行くが、ゴーレムであるが故にレントの使う【戦像職人(ゴーレム・マイスター)】のスキルであっさりと修復されたのを見て、これではキリがないと一旦距離を取った……が、そこに『このタイミングで距離を取るだろう』と先読みしていたレントに指示によって。全身から電撃を走らせたヴォルトが突撃を敢行したのだ。

 

「突っ込めヴォルト、遠距離では拉致があかないから近接戦だ。急所攻撃には気を付けろよ! 《瞬間装備》《ルミナス・コーン》!」

『相手に態勢を整えられる方が危険な気もしますしね……《エレクトリカル・エンハンス》! 《サンダー・トライデント》!』

 

 制御系スキルの恩恵によってようやく騎乗中の発動が可能になった『電気を纏う事での身体強化』と、進化して新たに覚えた『角に近接用の雷の刃を展開するスキル』を使ったヴォルトは一気に【グリムリープ】を突き刺さんと突撃した。

 更に騎乗しているレントも武器を【パラディンソード】に切り替えつつ、刀身に聖属性の馬上槍の様なエネルギーを纏わせて刺突とリーチに特化させる【聖騎士(パラディン)】の馬上戦闘用スキルを使って近接戦を挑む構えをとる。

 

『⁉︎ KEHYAAAA!!!』

『狙いはこちらか! だが進化して手に入れたこの角は伊達では……!」

 

 だが、それでも一万越えのAGIを持つ【グリムリープ】は即座に反応して『そちらから来るならむしろ好都合』と薙ぎ払う様にヴォルトの首を狙って大鎌を振るい、それに対してヴォルトも雷刃を纏わせた三本角で迎撃しようと頭部を振るって……。

 

「……違う、本命は上だ」

『KIHIE⁉︎』

 

 直後、突然レントが何も無い自身の上に剣を振るったと思ったら薙ぎ払いの構えを取っていた筈の【グリムリープ】の姿が歪み、代わりに()()()()()()()()()()()()()()()()レントの剣に展開された《ルミナス・コーン》に払い飛ばされた【グリムリープ】の姿があったのだ……実は直前に【グリムリープ】は自分の身体に被せる形で自身の幻影を作り出して、本当の自分とは別の攻撃をさせる事での不意打ちを狙っていたのだ。

 ……本体と同じ座標にある幻影故に気配やヴォルトの電磁波による探知といった探知系スキルなどで見破る事も難しい高度な幻術技巧だったのだが……。

 

「済まんがソレは以前に(リアルで)見た事があってな……突っ込めヴォルト!」

『了解! 《サンダー・トライデント》最大出力!!!』

『KIKAKAKAKAKAKAKAKAKA⁉︎』

 

 それはリアルでの経験則と《イリュージョン・ジャミング》によって僅かに乱れていた幻影を見逃さない観察眼を持つレントに見破られ、その結果として攻撃を捌かれて大きく隙を晒した【グリムリープ】にヴォルトの雷の三本角が突き刺さってその身体に大電流を叩き込まれた。

 そうして放たれた大電流によって【グリムリープ】が身に付けていた仮面やローブが破壊されて行き、その内にあったまるで夜の様に暗い色合いをしたエレメンタルの肉体が見えたのだ。

 

「む……成る程【ナイト(夜の)・エレメンタル】の亜種じゃったか。夜という空間や概念に纏わる能力を持つ希少種じゃな」

「……凄い、これが<マスター>の力……あの<UBM>をこんなあっさり……」

「んー、如何かしらね。アマゾネスの精鋭を倒した割にあっさり過ぎるし、まだ何か隠している気がするんだけど……まだ夜だし必殺スキルは使えないけど準備はしておこうかしら」

 

 一方的に電流を叩き込まれている【グリムリープ】を見て傷の治療を終えたティアモは驚いていたが、それに対してひめひめはどうにも“嫌な感じ”がする事から油断なく【アマテラス】を構えてその様子を見守り……その直後、まだレント達が戦いを始めてから3分程度しか経っていないにも関わらず、《サンダー・トライデント》に貫かれて電流を流され続けられていた筈の【グリムリープ】の身体が()()()()()()()()()のだ。

 それによっていきなり手答えが消えた事でヴォルトは一旦《サンダー・トライデント》を解除して辺りを探り、相手の転移に何度も煮え湯を飲まされてきたティアモは今度こそ捉えようと背後を中心に警戒した。

 

『消えた⁉︎ どこに……!』

「また転移⁉︎ 今度は誰の背後に……!」

「む? いやあれは……」

「……違う! 転移じゃなくてまだ居る!」

 

 だが転移程度なら感知出来るネリルと異能・戦術問わずに対幻惑に非常に長けたリアルスキルを持つひめひめ、側から見ていた内その二人は【グリムリープ】が転移したのでは無く()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()だけという事に気が付いていた。

 ……そして、姿を消している大鎌は今まで閉じていた先端部分にあった眼を開き、月の様な淡い黄色の単眼を覗かせながら独りでに宙を舞いレントの首を刈ろうとして……。

 

「《黒晶刃》……()()()武器が本体のタイプだったか。そういう<UBM>が流行ってるのか?」

『KITITI!』

 

 以前に似たような相手(【ヴァルシオン】)と戦った事がある故に大鎌がまだ残っている事に気が付いていたレントが、咄嗟に首と刃の間に割り込ませた剣と首を起点に二股に別れた形に生やされた黒い刃に阻まれた。

 ……そして物体は透過する筈の《黒晶刃》で受け止められた事からレントは『大鎌の方が本体である』疑惑を確信に変えつつ、手綱から手を離して【グリムリープ】の持ち手を掴んで無理矢理引き剥がし5000近いSTRを使って投げ飛ばした。

 

「あの大鎌が本体だ! 《リバース・クルセイド》!」

『承知! 《サンダー・スマッシャー》!」

「成る程ね! 《ハウンドアロー》《光炎之矢》!」

「ふむ……《グルーム・ストーカー》」

 

 そうして投げ飛ばされた【グリムリープ】に対して地面から吹き上がる闇のエネルギー、指向性を持たされた雷撃、視線による追尾機能付きの光炎の矢、生物のみに当たる追尾式の闇の魔弾が次々と突き刺さっていく……が、夜間限定だが神話級金属並み(END四万以上)の防御力と<UBM>として相応に高いHPを持つ本体を倒すには威力が足りなかった。

 

『KIKITI! 《闇夜の死神(デス・オブ・ザ・ナイト)》』

 

 そして攻撃の衝撃を利用して距離を取った【グリムリープ】がスキルを行使した途端、先程と同じ夜色のエレメンタルの肉体が構築されて本体である大鎌を手に取った……これが【グリムリープ】に取って本当の意味での切り札と言える《闇夜の死神》──夜間限定で本体のENDを中心としたステータス上昇と、伝説級相当のスペックのあるエレメンタルの肉体を作成してそちらを本体だと偽装するスキルである。

 このスキルのお陰でMPが残っている限りはエレメンタルの肉体が幾ら破壊されても問題なく、そもそも神話級金属並みの強度となった本体を傷付けるのも至難の技となるという、夜間限定とは言え【グリムリープ】は異常な生存性能を有する<UBM>となっているのだ。当然、戦闘時間を稼ぐ必要のある《暗夜行渡(ナイトリープ)》との相性も最高である。

 

「ふむふむ、どうも【ナイト・エレメンタル】と器物系のエレメンタルのハイブリッドだったようじゃな。加えてアレだけのスキルを使ってもMPが二割も削れておらん。おそらく夜間限定でのMP消費削減と自動回復じゃな」

「加えて本体がクソ硬い。多分殆どのスキルに『夜間限定』のデメリットを付けている分だけスキルの性能やステータスが高くなってるんだろうが……」

「夜が明けるまでは後5時間ぐらいはあるから時間切れを狙うのは現実的じゃないね。夜間だと私の必殺スキルも使えないし」

「……私だと神話級金属レベルでは傷を付けるぐらいしか出来ないし……特典武具の第二スキルなら可能性はあるけど今は使えない」

「……とりあえず詳しく」

 

 それに対してレント達は一旦集まって現在分かった情報を整理していたが、そこでティアモが特典武具【ドラグブレード】のスキルに付いて【グリムリープ】に聞かれない様に小声で話した。

 

「……成る程、確かにそれなり条件は厳しいが……俺ではまともにダメージを与える手段だと《神技昇華》でワンチャンあるかと言った所だしな」

「単純にENDの影響を受けにくい闇属性か雷属性を使う手もあるが……それでは先にこっちがやられるのう」

「とりあえずティアモさんだったかしら、第二スキルに方はまだ少し待って頂戴。MPの総量と私の勘だけどアッチにもう切り札が無いとは限らないから、まずはこっちの攻撃手段を試すわ」

「分かった」

 

 それだけ手早く話し終えた彼等は戦闘態勢を整えて再び【グリムリープ】に向き合ったが、それに対して【グリムリープ】は再び《ファントム・エイリアス》を行使して二体だけ分身を作り出してみせた。

 

『『『KIHIHIHIHI……』』』

「数を絞ってその分だけ制御力を上げた《イリュージョン・ジャミング》二つ分の妨害を突破したようじゃな。それでもやや精度は落ちておるが」

「とにかく敵が三体に増えようがやる事は変わらないわ。あの本体である大鎌を何とかしてぶっ壊すのよ」

 

 ……そうしてお互いに準備が整った所で分身と共に超音速で斬りかかって来た【グリムリープ】にレント達が対応する形で第二ラウンドが始まったのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:ようやく騎乗戦闘が出来る様に
・妹二人が天災児で基本そのサポートに徹していたから目立ってないが、現実での戦闘経験値と本人の『全方面に於いてハイエンド一歩手前の才能』によって普通に戦っても強い。
・【シルヴァ・ブライト】の使用頻度が低い理由は強すぎる他にも燃費が悪く攻撃範囲も狭いからと言うのがあり、長期戦想定及び面の攻撃が必要だった【バイオハーデス】戦で使わなかったのはそのせい。
・現在のジョブは【古株】と経験値稼ぎ用下級職のレベルを上げ終わったので、レベル上げ途中だった【暗黒騎士】をメインにしつつ純竜級になったヴォルトに合わせて今までコツコツと就職条件を埋めていた【高位従魔師】【幻獣騎兵】【獣戦鬼】のジョブを新たに取得して経験値を流している。

【ライトニング・トライコーン】:進化したヴォルトの種族
・レジェンダリアの秘境で少数生息していると言う『ユニコーン』や『バイコーン』などを代表とする有角馬系モンスターの一種である三本角の雷属性の馬で、有角馬系は非常に希少なので亜竜級でも従魔としての値段は一千万越え、純竜級であれば億は余裕で超える。
・有角馬系モンスターは主に魔法系のスキルに長けており、頭部の角は特定の属性の魔法制御に使われるスキルの発動媒体であるが強度も高く頑丈なので接近戦でも使える。
・ヴォルトの場合は親である【純竜雷電馬】がこの種族の血を引いており、ネリルのよる制御が難しい雷属性魔法の制御訓練を経た結果として魔法制御に長けた進化を遂げた感じ。
・ただ、魔法制御に特化させた分スキル重視でステータスはMP以外の物理ステータスは純竜級としては低めだが、その辺りは兄の《魔物強化》《騎乗強化》などのスキルでカバーしている。
・ちなみに進化したてでスキルレベルが低いので騎乗者への保護は完璧では無いので、現在のところ兄はレジェンダリア産の《雷電耐性》《麻痺耐性》付き高級アクセサリーを装備している。

ひめひめ:幻惑系を相手にするのが嫌い
・なのでそれに対抗するために高レベルの幻術と幻術対策技術を習得しており、デンドロでもMPを稼ぐためのサブ魔法職に迷い無く【幻術師】系統を入れる人。
・ちなみに敵に回すのは嫌いだが自分で使う分には問題無いので、ソロ戦ではサブの【弓狩人】や【観測手】と合わせて隠密からの狙撃をしたりと有効活用している。
・尚、苦手な理由は幻術が得意なストーカーに付き纏われたり、兄との馴れ初めの時に幻惑系で嫌な思いをしたからだとか。

【夜行殺断 グリムリープ】:武器が本体系<UBM>その二
・厳密に言うとエレメンタルとしてのコアが大鎌に組み込まれていて、それを運用する為に必要に応じて《闇夜の死神》で戦闘用の肉体を作っているタイプ。
・大鎌単体でもある程度動けるが速度は亜音速にも届かず攻撃力やパワーも低いので夜間でも急所狙いぐらいしか出来ず、昼間に至ってはずっと光学迷彩と気配操作を駆使して姿を消すしか出来ない模様。
・幻術による分身でわざわざ《イリュージョン・エイリアス》の様に映像だけでなく音や気配や熱源まで再現する高位幻術を使っているのは、幻術の精度に応じて《幻夜の大鎌》で再現される攻撃力が変動するからである。


読了ありがとうございました。
次回はVS【グリムリープ】の決着。いつも意見・感想・評価・誤字報告・お気に入りに登録などいつもありがとうございます。


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夜を払う竜の剣

前回のあらすじ:兄「ええいっ! やっぱり<UBM>は面倒だ!」ひめひめ「面倒じゃない<UBM>とか見た事無いけどね!」

※【魔弓手】系統のスキル名が分かりにくいので全面的に変更しました。


 □<夜光の森>

 

『『『KIHIHIHI〜!!!』』』

 

 何処から声が出ているのか分からない様な不気味な笑い声は発しながら、三体の【グリムリープ】は大鎌を構えながら亜音速を超える速度で緩急を付けたフェイントを織り交ぜつつレント達との距離を詰めていく。

 ……それに対してレントは徐に即時放出機能付きのアイテムボックスから三つの【ジェム】を取り出し、三体の【グリムリープ】の進行方向上に投げ放った。

 

「ネリル、壁」

「《ハイ・アイス・レジスト・ウォール》……人使いが荒いのう」

『『『KIHIE⁉︎』』』

 

 その直後、まるで示し合わせたかの様にネリルが対氷属性の障壁を前方に展開した……その瞬間に投げ放たれた【ジェムー《ホワイト・フィールド》】(自作)が起動して、超音速移動が出来る【グリムリープ】でも回避できないタイミングと範囲に上級職の奥義に相応しい極低温の冷気を発生させて前方を白く覆い尽くした。

 

「ちょ⁉︎ この近距離で上級奥義魔法を……⁉︎」

「大丈夫よティアモさん、直前にネリルちゃんが障壁を展開してたから」

「しかし主人殿、いきなり自分達を巻き込む規模の【ジェム】を投げるとはな。ワシの障壁が間に合わなければどうするつもりだったんじゃ?」

「お前が【ジェム】の運用に対応出来ない筈がないだろう? ……さて、本体にダメージを与えるのは難しそうだから【凍結】を狙ってみたが……クルエラン、前に出ろ」

『GO!!!』

 

 そうレントが指示を出し、ゴーレムらしく基本的に主人には忠実なクルエランが白煙に包まれたままの前方に躊躇なく足を踏み入れて……白煙を突き破って現れた【グリムリープ】の斬撃を受け止めた。

 ……不意打ちで極低温の冷気を受けて幻影は構成に使われていた熱エネルギーを奪われて消滅、身体の方も【凍結】された【グリムリープ】だったが、先程と同じ様に身体を消滅させて【凍結】されていない新たなエレメンタルの身体を再構成して凍ったままの大鎌(本体)を使って攻撃したのだ。

 

『GOOO!!!』

『KIHIHI……《ファントム・エイリアス》』

「そのまま本体を抑えろ! ……チッ、やはり【凍結】程度では止まらんか!」

 

 大鎌に斬り裂かれてもそれを意に介さず【グリムリープ】に向けて拳を繰り出すクルエランだったが、相手は超音速機動で躱しながら再度幻影を二体召喚して後ろにいるレント達に嗾しかけた。

 だが、クルエランの方も『急所がない自分にとってあの大鎌は防御力と自己再生でどうにでもなる攻撃』だと割り切って、本体を抑えろと言う主人の命令を成すために相手の攻撃を無視して拳を振るい続ける。流石にその攻撃を無視する訳にも行かず、結果的に【グリムリープ】はクルエランによって足止めされる事になった。

 

『『KIHIHI〜!』』

「行くぞヴォルト、クリティカルだけには注意しろ《アイス・ブリザード》!」

『了解! 《ライトニング・ジャベリン》!』

「ティアモさん、前衛を任せて良いかしら? 《ヴァイパー・アロー》《光炎之矢》」

「分かった! イヤァァァッ!!!」

 

 突破して来た二体の幻影も、一体はレントが広範囲に放った冷気の奔流によって熱エネルギーを奪われて構成が揺らいだ所にヴォルトの雷の槍を叩き込まれて霧散、もう一体もひめひめの矢を回避しようとして()()()()()()()()()()()()()()()設定してあった矢に穿たれて動きが止まった所へティアモの《破魔竜剣(ハマノツルギ)》によって断ち切られて消滅した。

 展開中の《イリュージョン・ジャミング》によって脆くなっている事もあってあっさりと消滅する幻影だったが、それも織り込み済みだったのか【グリムリープ】はクルエランの攻撃を回避しながらも新たに二体の幻影を展開してレント達に嗾しかけた。

 

『『KIHIHIHI〜!』』

「不味い……あいつ明らかに時間を稼いでる。仲間達を転移で皆殺しにした時と同じ展開。あの時は5分ぐらい戦ったら転移を使い始めたけど……」

「ふむ、とすると背後転移の条件は戦闘継続時間と言った所か? 連続行使したって話だしクールタイムの線は薄いか。ネリル、クルエランに対氷バフ。彼女に使ってこない所を見ると同一対象には連続使用出来ない様だが……《詠唱》終了《ホワイト・フィールド》」

「ほいほい……《ハイ・アイス・レジスト》」

 

 自分の考えを《詠唱》として口に出しながら纏めたレントは、ネリルに指示を出してから【グリムリープ】の本体と幻影をクルエラン毎巻き込むレベルの前方広範囲に【白氷術師(ヘイルマンサー)】の奥義である極低温の冷気を発生させて纏めて凍結させた。金属製ゴーレムであるクルエランであればダメージは最小限で住むだろうと考えて巻き添え攻撃である。

 

『……GO……』

「うん、いきなりクルエランを巻き込んだのは正直悪かったと思ってる。《ゴーレム・リペア》」

「氷も溶かしておくぞ《ヒートボディ》」

 

 ……まあ、奇襲の為とは言えいきなり主人から攻撃されたのは不満だったのかクルエランは文句を言いたそうな雰囲気をしながら下がって来たので、レントとネリルは謝りつつ回復と高熱付与による体表の氷の除去を粛々と行うのだった。ちなみに前衛のクルエランの耐久性なら問題ないレベルの広範囲魔法による巻き添え戦術はもう何度もやっているので、クルエランの方も慣れてはいる。

 

「でも、さっきと同じ【凍結】狙いじゃ時間稼ぎにしかならないし、向こうに時間を稼がせるのは危ないんじゃない?」

「あの肉体の再構築にはそれなりの魔力を使うみたいだしMP切れ狙いだよ。……それに()()()()()()()()()()()()()()()からいつ転移を使って来てもおかしくは無い。だから広範囲攻撃で……『KIHIHI!』

 

 そうレントが説明していた直後、冷気によって出来た白煙が目眩しになっていると思った【グリムリープ】は先程と同じ様に【凍結】した肉体を再構築した上で彼の背後に転移してその首目掛けて大鎌を振るい……その刃は直前に彼が後ろも見ずに首を守る様に掲げた右腕を貫いた所為で急所である首からは逸れてしまった。

 

『KIHIA⁉︎』

「……その隙に乗じて一番ヘイト(脅威度)を稼いでいた俺の背後に転移する様に誘導したんだが、上手くいった様だ」

 

 そう、五分が過ぎた時点でレントは【グリムリープ】が自分の背後に転移してくるだろうと予測し、いつ転移して来ても問題ない様に警戒していたのだ。ちなみに『自分の背後に来るだろう』との予測は自身とヴォルトが一番ダメージを与えてる以外にも、これまでの戦闘でティアモに転移攻撃を使わなかった以上は同一人物への転移には制約があると考えた他、攻撃が効かないクルエランに使う事はまず無くひめひめとネリルなら背後に転移されても自分で対応できると考えての判断である。

 そしてレントはそのままもう片方の手も使って大鎌を抑え込み、それに【グリムリープ】は抗おうとするもSTRに於いては大した差がなく、急所に当たらなければ攻撃力は低い事もあって本体を彼から一息に離させる事は出来なかった。

 

「それにテイマーである俺を倒せばテイムモンスター全員消えるし、こいつは頭良いみたいだからそう来ると思ってた……《詠唱》終了《アヴェンジブースト》。ヴォルト、やれ!」

『《迅雷の蹄》!』

『KIHIE⁉︎』

 

 レントが使ったのは【呪術師(ソーサラー)】のスキルである自身にダメージを与えた相手に対する呪術を強化する《アヴェンジブースト》であり、それによって本体(大鎌)に滴る血──【暗黒騎士(ダークナイト)】のスキル《ブラッド・カース》の効果が増幅されて【グリムリープ】に【呪縛】の状態異常を掛けた。

 直後、レントの指示に従ってヴォルトが雷を纏った後ろ脚で勢いよく【グリムリープ】を蹴り付けようとして……その直前に腕に突き刺さっていた大鎌も含めて跡形も無く【グリムリープ】は掻き消えた。

 

『消えた⁉︎』

「転移だ! 次はどこに……ネリルの後ろ!」

『KIHIHI!』

 

 そうして転移した【グリムリープ】が現れたのはネリルの背後であった……《ブラッド・カース》による呪縛も動かしているエレメンタル側に血が付着しなかった事が原因で余り効果を及ばなかったのだ。加えて《闇夜の死神》で作られたエレメンタルも【グリムリープ】の肉体の一部と言う判定なので、大鎌だけを状態異常に掛けてもエレメンタル側からスキルを行使するなども可能な事も原因にある。

 ただ、それでも動きはやや鈍っていたのでレントが転移先を特定するぐらいは出来たが、声を掛けた時には既に大鎌がネリルの無防備な首筋に振り下ろされた後であり……その刃は首筋の寸前で“見えない何か”に阻まれたかの様に停止した。

 

『KIHII⁉︎』

「……まあ、背後から首を狙うと分かっていたし対策は取ってあるんじゃがな。《グランド・ホールダー》」

「《クイックファイア》!」

「《ヴァイパー・アロー》《光炎之矢》!」

 

 そのカラクリは単純、事前に自分の急所の周りだけ《ハイ・マテリアル・レジスト・ウォール》を展開していただけである。【グリムリープ】の攻撃力は急所に当たらない限りは亜竜級上位程度のクルエランの防御を突破出来ないレベルだと判断しての防御術である。

 ……そして攻撃を止められて動きが一瞬止まった【グリムリープ】に対して、まずネリルが地面を操作して作り上げた三本の腕によって拘束し、そこにレントがスキルによって瞬時にアイテムボックスから出した【シルヴァ・ブライト】による射撃とひめひめの【アマテラス】による射撃が放たれ……それらが当たる寸前、またしても【グリムリープ】は今度はひめひめの背後に転移してその首に大鎌を振り下ろした。

 

「《堅樹光球》……ワンパターン過ぎるわよ。予想通りね」

『KI……KIKIA⁉︎』

 

 ……が、その大鎌はひめひめの周りに展開された光の障壁に阻まれて、更に先程放たれた《光炎之矢》が軌道を180度変えて彼女の元に戻りその背後に居る【グリムリープ】を撃ち抜いた。

 この《アローエフェクト・フリードロウ》は()()()()()()()()()()その軌道を自由に設定出来るスキルであり、レント・ネリルと続けて奇襲に失敗した以上は残った自分の背後に転移してくれだろうと予測したひめひめが、これを使って外れた後に自分の背後を撃ち抜く様に設定しておいたのである。

 そしてひめひめは【グリムリープ】が攻撃を受けて怯んだ隙に《堅樹光球》を解除、そのまま背後を振り向きつつ本体である大鎌に狙いを定めて【アマテラス】を引き絞る。

 

「《光剛勢》《サクリファイス・ボウ》《光炎之矢》!!!」

『GIAAAA⁉︎』

 

 そうして放たれた【ドラグリーフ】に蓄積された光エネルギーと【大魔弓手(グレイト・マギアーチャー)】の奥義である魔法弓の耐久値を犠牲に攻撃力を大きく引き上げる《サクリファイス・ボウ》の効果が上乗せされた、必殺スキル以外なら彼女の最大火力である光熱の矢が狙い能わず大鎌の単眼部分に突き刺さり……その眼球部分を僅かに溶かす程度に終わった。

 

「だぁ! これでもダメなの⁉︎」

「ふむ、ならば防御を無視する闇属性はどうじゃ《グルーム・ストーカー》!」

『防御が効きにくいなら雷属性も付けましょう《サンダー・ボルト》!』

「《仮想奥義・神技昇華(イミテーション・ブリューナク)》レベル50消費《リバース・クルセイド》!!!」

 

 奥義の反動で破損して【アマテラス】を紋章にしまいつつ下がったひめひめに変わり、ネリルの闇属性追尾弾とヴォルトが放った落雷が【グリムリープ】の本体に突き刺さり、そこに己のレベルを捧げて攻撃力を大幅に引き上げた闇の奔流がエレメンタルの肉体ごと大鎌を呑み込んだ。

 ……それぞれ必殺の意思を込めて放ったスキルであり、特にレントの攻撃は純竜級モンスターでさえ葬り去れる威力があったのだが……それでも倒せたのはエレメンタルの肉体側だけであり、本体である大鎌はダメージを受けながらもまだ無事であった。

 

『ギギッ……GIGI……』

「HPは削れてるけどこれでも駄目か。こいつENDだけじゃなくて魔法耐性も高いみたいだ」

「強度や耐久値、魔法耐性など武器としての性能も神話級金属レベルと言った所かの」

 

 彼等の予想通り《闇夜の死神》による本体の()()()()()()強度強化は単純なENDの強化だけでなく、魔法耐性や耐久性(HP)などもEND程では無いが引き上げているのだ。それに元となった大鎌の武器性能が高い事もあって超級職の奥義レベルの魔法攻撃でも1発2発程度では倒せなくなっているのである。

 ……しかし、それでも【グリムリープ】にとって本体のHPをここまで削られた事は初めてであり、更に幻術や転移やクリティカルなどの自身のスキルにも悉く対処して来る目の前の人間はこれまで敵対して来た中でも最大の“脅威対象”だと認識したが故に、自身が持つ『切り札』を持って確実に仕留めるべきだと判断したのだ。

 

『ギギ……ギギギ……殺ス。《殺断死鎌(アブソリュート・スレイ)》』

 

 そうして再びエレメンタルの身体を再構築した【グリムリープ】は、これまでの取ってつけた様な笑い声とは違う本気の殺意を彼等に向けて二十万と言う残されたMPの大半を消費して切り札であるスキルを行使すると、本体である大鎌の周りの風景が歪に捻じ曲がり始めたのだ。

 

「アレはまた幻術……って訳じゃ無さそうね」

「うむ、どうやら空間干渉系スキル……しかも転移などでは無く、直接空間に作用する攻撃系スキルの様じゃな」

 

 そう、【グリムリープ】の切り札である《殺断死鎌》は《夜天の死鎌(ナイト・デスサイズ)》の防御無視効果を《暗夜行渡(ナイトリープ)》の空間操作能力を応用させて()()()()()()の守りを無効化する様に変更し、そのまま範囲内の敵対対象を空間諸共切断すると言う荒技である。

 ただ、当然の如く夜間にしか使えない上、使用には夜間限定の消費MP軽減や自動回復スキルを考えても膨大となるMPが必要な事と、発動中に《夜天の死鎌》《暗夜行渡》は使用出来ず【グリムリープ】自身もスキルの制御に集中する為に幻術などは使えなくなるリスクもあるのでこれまでは使って来なかったが、目の前の敵はなんとしてでも排除するべきだと判断したが故に使用へと踏み切ったのだ。

 

「⁉︎ 来るぞ!!!」

『キイイィィィィエエェェェェェェ!!!』

 

 そして【グリムリープ】は奇声を上げながら空間の歪みを伴った大鎌をレント達に向かって超音速で振り抜き、その周辺にある空間諸共ズタズタに引き裂く空間歪曲を発生させたのだ。

 相手が逃げられない様に消費するMPを増やしてでも効果範囲を広げて、このタイミングならば範囲外への移動は絶対に不可能だと確信して放たれた空間歪曲の斬撃波はレント達を呑み込む……直前に前方に躍り出て来たこれまでティアモの【剛竜剣】に受け止められた。

 ……これまで大して活躍していなかったが故に半ば意識の外にあった彼女の行動に多少驚く【グリムリープ】だったが、幻影をかき消した剣であってもこれだけのMPを込めた空間断裂なら問題なく諸共屠れると確信し……。

 

「ここ! 《破魔竜大剣(ハマノオオタチ)》!!!」

『ナァニィ⁉︎』

 

 それ故に彼女の【剛竜剣】によって《殺断死鎌》によって発生させた空間歪曲が切断されて霧散した光景を見た【グリムリープ】は思わず驚愕の声を上げてしまった……これがティアモが有する【竜剣飾 ドラグソード】の第二スキル、使用後に24時間のクールタイムがある代わりにドラゴン系素材製の刀剣で斬りつけた凡ゆるMP消費のスキルを完全に無効化する《破魔竜大剣》のスキルである。

 更にこのスキルには続きがあり、その刀剣の装備攻撃力をその後の三分間だけ無効にしたスキルに使われていたMP数値分だが上昇させる効果があるのだ。

 

「凄い魔力、これなら! 《アマゾネス・ウォーシャウト》!」

「うむ、思った以上に良い展開となったの……《ハイ・フィジカル・ブースター》」

『グッ!』

 

 なので《殺断死鎌》を無効にした【剛竜剣】の攻撃力は二十万近く上昇しており、それによって濃密な燐光を放ち始めた大剣を持ったティアモはここが勝機と【女戦士(アマゾネス)】のAGI上昇バフを自身に掛けて【グリムリープ】へと突っ込んで行き、更にネリルの物理ステータスバフを受けて加速した。

 ……それを見た【グリムリープ】は『あの大剣は自身を殺しうる』と瞬時に判断したが、スキルの反動によって《暗夜行渡》も使えずMPも殆ど残っていなかったので、やむ終えずAGIによる超音速機動と残ったMPによる光学迷彩で逃亡を図ろうとした。

 

「逃す訳ないでしょう、《ヴァイパーアロー》《アクセルアロー》《ブリザードアロー》」

「まあシンプルに逃げ道を封じるか……《魔法射程延長》《魔法威力強化》《ロックウォール》』

『ナッ⁉︎』

 

 ……が、その後方の逃走経路にはティアモが魔法を無効化すると知って準備していたレントが展開した岩の壁によって塞がれており、それを突破しようと一瞬足が止まった所でサブの魔法弓に持ち替えたひめひめからの射撃がエレメンタルの肉体へと当たって【凍結】させた。

 そして本体が【凍結】した事によって動きが止まってしまった【グリムリープ】の元へ、後の“物理最強”の通常攻撃にすら迫る攻撃力を得たティアモが迫り来る。

 

「皆の仇……《タイタン・ブレイク》!!!」

『ガ……ガァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!?』

 

 そうして追い付いたティアモが攻撃力を倍にする奥義も併用して大上段から振り下ろした【剛竜剣】の一閃は【グリムリープ】の本体である大鎌を保持していたエレメンタルの肉体諸共まるで紙切れの様に斬り飛ばし、その圧倒的な攻撃力によって前方の地形諸共【グリムリープ】を跡形も無く消しとばしたのだった。

 

 

 ◇

 

 

【<UBM>【夜行殺断 グリムリープ】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【ティアモ・ウル・ヒュポレ】がMVPに選出されました】

【【ティアモ・ウル・ヒュポレ】にMVP特典【夜天手甲 グリムリープ】を贈与します】

 

「このアナウンスは……皆、仇は取れたよ。せめて安らかに……」

「《フィフス・ヒール》……よし、ちゃんとアナウンスは鳴ったし復活とかもしないみたいだな」

「流石にそれは警戒し過ぎじゃない? ……とにかく、まずはアマゾネス達の遺体を【棺桶】に入れて弔いましょう」

 

 彼等は討伐報告のアナウンスとティアモの手元に現れた特典武具を見てようやく【グリムリープ】討伐を確信して一息吐き、まずは首を狩られて息絶えたアマゾネス達の遺体を弔う事となった。

 

「……あー、相手が相手だったから躊躇なく広範囲攻撃をぶっ放したから結構遺体が損壊してるな」

「そこは気にしなくていい。彼女達もアマゾネスの戦士である以上は遺体がまともに残らないぐらいは覚悟の上。むしろ仇を取ってもらった事に感謝する筈。……それよりも<UBM>のMVPを私が取る事になったけど……」

「戦闘時間とラストアタック的に当然の結果じゃないかしら? 私達は途中参加だった訳だし。……ああ、私もレントも他の<マスター>と違って特典武具にがっついたりはしないから」

 

 そんな話をしつつアマゾネス達の弔いを終えたレントとひめひめはイベントを楽しむ空気じゃ無くなった事と、ティアモが逃げた三人のアマゾネスと合流する為に緊急時の合流地点に定めていた霊都へ向かうと言った事で彼女に付いて街へと戻る事になった。

 

「今回は色々とありがとう。偶々出会ったばかりなのに<UBM>の討伐の手助けをしてくれて……このお礼はアマゾネスの名にかけて必ずする。……えーっと……」

「ああ、そういえば慌ただしくて自己紹介もしてなかったな。俺はレント・ウィステリア、レジェンダリアには旅行に来た感じのしがない<マスター>だよ」

「私はひめひめ、レジェンダリアの“まともな! ”<マスター>でレントの友人よ」

「私はティアモ・ウル・ヒュポレ、アマゾネスの戦士をやってる。……改めてよろしく」

 

 ……そうして戦いの後の自己紹介を終えた彼等は疲れた身体を休める為にも霊都へとゆっくり歩いて行ってのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:デンドロでは手札の数こそが長所
・ダメージがダメなら状態異常を掛けたりアイテムを駆使したりと、持っている手札を可能な限り駆使して相手に有効な対応を続けるのがメインの戦術。
・万が一自分の背後だけでなくティアモの背後に転移して来てもいい様には警戒していたし、“背後”の数を減らす為に騎乗したまま戦ったりと色々と手を尽くしていた。

ひめひめ:夜だと必殺スキルも使えないので終始支援役
・ちなみにサブの魔法弓は【凍竜の魔弓】と言う【フリーズ・ドラゴン】の素材から作られた物で、とあるクエストの際に手に入れて【アマテラス】の破損時や光熱耐性のある相手用に所持していた。

《ヴァイパーアロー》:【大魔弓手】のスキル
・弓を番えた際に設定した軌道通りに魔法矢を飛ばすスキルであり、《ハウンドアロー(視線誘導)》や《ホーミングアロー(熱源誘導)》と違って弾速に誘導効果が追いつかない光速の光の矢の軌道も変更可能(但しそれなりのMPが掛かる)
・だが、発射した後に軌道を変更出来ないので闇雲に設定しても関係ない方向に矢が飛んでいくだけであり、扱うには敵味方の動きを先読みする高い予測技術と一瞬で必要な弾道を描く空間把握能力が必要。
・尚、その両方を兼ね備えているひめひめにとっては誘導機能付加よりも使いやすい模様。

ティアモ:今回のMVP
・【グリムリープ】を倒せるだけの攻撃力を得られるのが彼女しかいないのでこうなったが、以前<マスター>達が<UBM>の取り合いで争う所を見ていたのでちょっと不安だった。
・《破魔竜大剣》には上昇させた攻撃力に応じて刀剣にそこそこのダメージが入るデメリットがあるが、超強度と自動再生能力を持つ【剛竜剣】にとっては今回の事でも少し刃こぼれする程度であり問題無かった。
・特典武具である【夜天手甲 グリムリープ】は腕部装備の黒い籠手で、高い強度・防御力とHP・MPへ合計レベル×10・END+30%の装備補正がある(本体である大鎌のステータスはHP・MP・END特化)
・装備スキルは使用中に手持ち武器を急所に当てた時に防御スキルと食い縛りを無効にするアクティブスキル《夜天刃(ナイトエッジ)》と、スキル自体に24時間のクールタイムは付いたが【グリムリープ】と同じ様に五分以上戦った相手の背後に転移出来る《暗夜行渡(ナイトリープ)》の二つ。
・高い装備補正と強力な装備スキルを持つが、その代償として両スキル共に【グリムリープ】の特性に合わせた『夜間でしか使えない』デメリットがある。

【グリムリープ】:夜間しか戦えないが単純な戦闘能力はイベント<UBM>の中でトップレベル
・幻術による撹乱、からの攻撃能力付与、それでもダメなら不意打ち背後転移、そこに防御・食い縛り無効急所攻撃、本体は神話級金属並みで身体は自由に再生可能、切り札に物理強度が意味をなさない空間断裂攻撃と初見殺しと殺傷に特化した<UBM>。
・だったがアマゾネス達との連戦で手札を把握されて、更に自分のスキルへのメタ効果持ちのメンバーが揃ってしまった事で討伐された。
・尚、戦闘をモニターしていた管理AI達の反応はティアンがMVPになって微妙な気分のアリスとか、中々にヒロイックな展開の戦闘が見れて満足しているジャバウォックとそれに呆れる二人と様々だったそうな。


読了ありがとうございました。
これで掲示板とか混ぜたハロウィン編は終わりになります。次回はリザルトからの次章への接続会かな。感想とかもお願いします。


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ハロウィンリザルト

前回のあらすじ:ひめひめ「<UBM>撃破! MVPは取れなかったけどね」兄「まあ途中参加だったし。……しかしアマゾネスか、こっちにも居たのか」


 □<霊都アムニール> 【戦棍姫(メイス・プリンセス)】ミカ・ウィステリア

 

「ふむん、流石はボスモンスターのドロップアイテム、結構いい値段で売れたね」

「サリーちゃんに<魔法少女連盟>の生産担当の人達を紹介して貰いましたからね。お友達価格でかなり色を付けて貰いましたし、ついでにかなり良い装備も買う事が出来て満足です」

「あそこで売ってるのは殆ど女性専用の装備群だったけど、私達なら問題なかったしね」

「まあ『お前も魔法少女にならないか?』『魔法少女はいいぞぉ』って勧誘がしつこい所以外は良いクランだったね」

 

 ハロウィンイベントが終わってから何日か経った後、私とミュウちゃんとミメちゃんとアリマちゃんはハロウィンイベントで手に入れたアイテムを売り終わって霊都の市街地を歩いていました。

 今回のイベントではボスモンスターを倒した事もあってドロップしたアイテムは中々の物だったんだけど、装備品に関しては今の普段使いの装備から変える程の性能の物は無かったので、とりあえず特典耐性特化のアクセサリーをいくつか残して売り、それ以外の素材系に関してもお兄ちゃんが欲しいって言ってたヤツ以外は売ってお金にした感じである。

 

「魔法少女と言っても私は完全な物理戦闘職なんだけどねー。これで魔法少女とか言うのは無理では? 着ぐるみでメイス振り回す魔法少女とか、関節技主体の魔法少女レベルのイロモノじゃん」

「うーん、一応魔法剣士とか魔法拳士的な魔法少女も<連盟>には所属しているらしいよ? こうプリキュア的な感じで」

「姉様はともかく魔法戦士系ジョブである【魔導拳(マジック・フィスト)】の私や【狂信者(ファナティック)】のアリマちゃんなら大丈夫! ……とか言われましたね」

「精神汚染系魔法少女とかどう見ても悪役じゃん?」

「呪術系魔法少女も所属してるからセーフ! とも言ってたけど」

 

 魔法少女とは貴女がそう思うモノが魔法少女なのです! ……とかサブオーナーのサリーちゃんが言ってたので、その辺り<魔法少女連盟>は割と自由なクランみたいなんだよね。

 まあ、アリマちゃんは今の固定パーティーの居心地が良いので一人で何処かのクランに所属する気は無いらしく、私とミュウちゃんはそもそもレジェンダリアには一時的に所属しているだけだからね。

 

「それで次はどうしようかな? イベントも終わったし」

「そうだねー、何時ものメンバーとレントさんを誘って霊都以外の都市に行ってみるのはどうかな? ミュウちゃん達は霊都しか見てないから他の都市にも行ってみない?」

「それは面白そうですね。この霊都も神秘的で見ていて飽きない所ですが、どうせレジェンダリアに来たのなら別の所にも行ってみたいのです」

 

 まあ、レジェンダリアに来てからは私の超級職就職の為のゴーレム装備千本ノックやら、ミュウちゃんとアリマちゃんのイチャイチャ(笑)やらで霊都周辺での行動ばかりだったからね。確かクロードさんクラリスさんでぃふぇ〜んどさんは三人でパーティー組んでて、シズカさんは新しく就いた【祟神(ザ・ヴェンジェンス)】の試運転って事で独自行動してるんだったっけ。

 ……このレジェンダリアは<アクシデントサークル>を始めとする特有の自然現象があるぐらい自然環境が厳しく、更に様々な部族が集まって作られた連合国家である関係上その個々の部族が定めたルールで禁足地とかがある所為で『うっかり立ち入って指名手配』とかが割とあるの、慣れていないと国内旅行とかはし難いのもあるしね。

 今は<Wiki編集部・レジェンダリア支部>が各部族毎のタブーや禁足地の情報をWikiホームページや掲示板に挙げていたり、デンドロ内でも冒険者ギルドと協力してそれらの情報を纏めたガイドブックを格安で販売してるから大分マシにはなったらしいけど、サービス開始直後は情報不足による指名手配犯がかなり出たとか。

 

「まあ、特定の部族が住まう『村落』とか『秘境』には伝手がないと難しいけど、この霊都みたいに多種族が入り混じって利用する『都市』ならそう言った禁則事項とかも無くて普通に行けるから大丈夫だよ。道中も私達なら問題ないし、<アクシデントサークル>もミュウちゃんが居れば大丈夫だし」

「【バイオハーデス】が自動で自然魔力を吸ってくれますからね。私の周りでは自然魔力が一定以上になる事は無いみたいです」

「お陰で蓄積魔力もギュンギュン溜まるよ」

「せっかく買った魔力霧散系アイテムが割と無駄になったけどねー」

 

 そんな風に私達はのんびり駄弁りながら霊都を歩いていたのだが、ふと前を見るとお兄ちゃんとひめひめさんの姿があった……よく見ると、他に褐色肌の女性が四人ぐらいいるね。紋章はないからティアンみたいだし、一人は角とか尻尾とか生えてるけど亜人が多いレジェンダリアではよくある光景だからおかしくは無いか。

 

「……今日……助かっ……お礼…………」

「「「今回…………くれ……助け…………た!」』」

「どう……して……人間…………で」

「別に…………いいの…………わ」

 

 ……ふむ、話してる雰囲気的に何かトラブルという訳では無さそうかな。どうも僅かに聞こえる声から女性四人がお兄ちゃん達にお礼を言っているみたいだね。

 とりあえず無視するのもアレなので声だけは掛けておこうと私達は近付いて行って……。

 

「……そういう訳でレント、どうか私を貴方の()()()()()()()のだけど」

「「いやちょっと待て、一体どういう訳だ(よ)?」」

「「「「…………なん……だと……?」」」」

 

 何故か角と尻尾の生えた褐色金髪美少女がお兄ちゃんの妾になろうとしていた……何を言っているのか分からないかもしれないが、告白とか婚約とかそんなちゃちなモノじゃない。もっと恐ろしいモノの片鱗を感じ取ったよ……。

 ……ていうか一体どういう事なんだってばよ⁉︎ とにかくお兄ちゃんは詳しい事情を話すべき……と思った私達は彼等の下に詰め寄るのでしたとさ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<霊都アムニール> 【暗黒騎士(ダークナイト)】レント・ウィステリア

 

「……レント、ひめひめ、二人とも今回は本当にありがとう。お陰で助かったよ。……ほら、貴女達もお礼を言って」

「「「今回は私達の頼みを聞いてくれて、その上で<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>からティアモさんを助けて頂いてありがとうございました!」」」

「どういたしまして。まあ人間に敵対的な<UBM>を見かけたらとりあえず倒しておく方針なので」

「別にそこまで畏まらなくていいのに。大した事はしてないわ」

 

 例の【グリムリープ】と戦ってハロウィンイベントを終えてから暫くした後、霊都で要らないイベントアイテムの換金などを終えた俺とひめひめはだったのだが、そこに先日の戦いで共に戦ったティアモとその時に俺達へと助けを求めた三人のアマゾネス──カチュア、シャニー、エスカという少女三人と遭遇してこうしてお礼を言われている。

 ……あの後はティアモが『別れた三人を探しに行く、後でお礼はする』と言って解散だったからな。どうやら無事に合流は出来たらしい。

 

「じゃあ前に言った通りまずは救援に対する礼を渡しておく。……とりあえず戦死したアマゾネスのアイテムから適当なのを見繕って……」

「いやいや、流石にそれは不謹慎では? ご家族の元への遺品とかあるし」

「ん? いや別にそこは気にしなくていい。彼女達も自分達の仇を討ってくれた人達の報酬に所持品が使われるなら文句は言わないと思う」

 

 何でも彼女達曰く、戦いの中の生きるアマゾネス的には戦いの場で助けて貰った或いは仇を取って貰ったなら、その相手には最大限の礼を尽くすべきというのが基本らしい。

 それと死者に関しては出来れば死体の弔いぐらいはするが、戦場では死体が残らない事も多いので基本的に『死ぬまでの生き様を生者が覚えておく』ものであり、死んでからの葬儀とかは殆ど行われないかあったとしてもあっさり済ませるのが普通だとか。

 ……彼女達のそんな説明を聞くに、この辺りは現実と違って一般的にモンスターが跋扈するデンドロだとまあある死生観だけど、戦いを好んで戦士としての誇りを高いアマゾネス達はそれが更に強い感じみたいだな。

 

「まあここは素直に受け取っておきましょう。……レジェンダリアではその部族特有のマイルールを持ってる事が多いから、下手に断ると面倒な事になるわよ」

「一応、私達アマゾネスは種族特性的に他種族から婿を迎える事が多い事もあって、そう言った独自の面倒極まりないルールとかは余り無いけど。さっき言った『アマゾネスの戦士としての在り方』も、この世界の戦士の多くが持っているものをはっきりと明文化しただけだし」

「それに愛用の装備とかは家族へ渡す用として残しますよ」

「……まあ、なら良いか。郷に入っては郷に従えとも言うし」

 

 そう言う訳で俺たちは報酬として【グリムリープ】との戦いで死んだアマゾネス達が保有していたアイテムを貰う事になった……まあ、装備品の予備とかは殆ど女性前衛戦士系専門とかだったので、あの戦いで消費したアイテムを補填出来るだけの【ジェム】やらポーションやらを貰うぐらいで済ませたが。

 

「うむむ……消費アイテムしか報酬に支払える物が無いとは。装備品はアマゾネス製だとどれも尖り過ぎてるのが問題か」

「いや、消費した消耗品を補填してくれただけでも有難いから気にしなくてもいいんだが」

「それでも<UBM>討伐の報酬にはまるで足りないし、あの戦いでレントが使った【ジェムー《ホワイト・フィールド》】三つとかはレジェンダリアでも軽く百万リル以上するし」

「アレは全部自作だから……」

 

 俺は上級職複数取れるから【高位魔石職人(ハイ・ジェムマイスター)】と各種魔法系上級職を揃えて上級魔法【ジェム】を色々作れるからな。レア魔法の【ジェム】は高く売れるから《長き腕》の効果でドロップアイテムが手に入らない事なんて関係無いぐらいには稼げるし。

 

「でも<UBM>討伐の報酬としては少ないし……そうだ、丁度いいからアレにしよう……そういう訳でレント、どうか私を貴方の()()()()()()()のだけど」

「「いやちょっと待て、一体どういう訳だ(よ)⁉︎」」

「「「「…………なん……だと……?」」」」

 

 それでも何か納得が行かなそうにしていたティアモだったのだが、少し考え込んだ後にそんなめっちゃ訳の分からない提案をして来たのだが……と言うか何だ『妾』って⁉︎ こっち(デンドロ)のアマゾネスも向こう(地球)の南米にいた連中と同じ様に男に飢えてるのか⁉︎

 ……と、俺とひめひめが彼女の意味不明な提案に混乱していたら、いつの間に居たのかミカとミュウちゃんとアリマちゃんが慌てた様子でこっちに駆けてきた。

 

「どどどどどう言う事お兄ちゃん⁉︎ 何でいきなり妾を迎えてるの⁉︎」

「いや別に迎えて無いんだが……」

「そうですよ⁉︎ ひめひめさんという者がありながら!」

「そこは大丈夫。私達アマゾネスは一夫多妻製だから正妻はひめひめさんで私は愛人的な感じで良いから」

「いや貴女もちょっと待ちなさい」

「これが大人の恋愛……⁉︎」

 

 ……あーもうめちゃくちゃだよ。妹達も珍しく動揺しているみたいだし、これはどう収拾を付けるべきか。

 

 

 ◇

 

 

「……さて、それでどうしてレントの妾になろうと思ったのかしら? 詳しく説明して頂戴」

「命を助けて貰った時にピンと来たし、実力に関しては言うまでもなくその後の対応から人格面でも問題無さそうだったから『旦那様にするにはこの人がいいな』って思ったから告白した。妾なのはひめひめさんが既に居たから」

「えぇーっと! 一応アマゾネスは恋愛に関しては積極的なので、気に入った男がいたらとりあえず想いを伝えるのは良くある事です!」

「愛なら付き合ってからでも深められるみたいな考えですね。アマゾネス内では割とよくある考え方です」

「後、ティアモは割と口下手な上に天然気味なので結構変な発言もあるんです! だからそんなに怒らないで下さい正室さん!」

 

 あれから騒ぎ立てる妹達をバフ込みSTR五千くらいチョップで(物理的に)黙らせて、少し目立った所為で他の人に迷惑を掛けそう(後なんか変態も寄って来そう)だったので、その場の者達を連れて事前に取ってあった宿屋に駆け込んで詳しい事情を聞いたらこんな感じだった。

 ……まあそれに別にひめひめはこの程度で怒ったりはしないし、顔が強張ってるのは単に状況が面倒になってるから頭を痛くしてるだけだから。

 

「……やっぱり文化の違いかねぇ」

「いや、なんか余裕そうだけどこの状況をどうするのお兄ちゃん?」

「それよりもひめひめさんは正室なのですか兄様?」

「もっかいチョップ食らわすぞ」

 

 後、ウチの妹二人が何故か意外と食い付いているんだよな。まあメンタル面では基本女子小学生だから色恋沙汰に興味深々でもおかしくはないんだが……しかし、どうするかな。

 俺にはひめひめ(姫乃)がいるから『彼女にして欲しい』なら断って終わりなんだが、今回は『ひめひめは尊重するから妾にして欲しい』だからな。それにアマゾネスだから()()()()()()()みたいに断ってもアプローチ()を掛けてくるかも。

 

「……ふむ、どうやらいきなりの告白で動揺させてしまったみたい? お婆様からも『アマゾネスの恋愛感は性急な所もあるから、相手に引かれたら一旦時間を置きつつ地道に好感度を稼いだ方が良い』って言ってたし……うん、今は別に返事をしなくて良いよ。時間を置いてゆっくり考えてくれれば良いし」

「あ、はい」

「とりあえずそういう事を目の前で言うのは度胸があると言うべきかしらね?」

「ティアモは天然なだけです! ちょっと天然なだけなんですぅ⁉︎」

 

 ……とか思っていたら、ティアモがあっさりとそんな事を言って来たので何かを言う機会を逃してしまった。アマゾネスって色々割り切りが早すぎないかと思ったが、後ろでオロオロしている三人娘を見る限りティアモが特にそういう(天然)な性格みたいだけど。

 

「そういう訳で次の話に行こうか」

「「この空気で⁉︎」」

「? ……今回【グリムリープ】の所為で遠征隊が私達以外が全滅したから、この霊都からアマゾネスの本拠地である<麗都アンティアネラ>まで戻るのが不安なので護衛を頼みたい。後二人には出来れば麗都で戦闘時の報告も頼みたい。勿論報酬は追加で出すし、麗都につけば族長あたりからかなりの報酬を貰えると思う」

 

 なんか本当にティアモの切り替えが早すぎて俺もひめひめも状況に対応出来ないんだけど……今までシズカさんを代表例としてそれなりに『アレな性格の女性』とは会ってきたが、彼女は今まで居なかったタイプだなぁ。

 

「……実は都市についた瞬間に大量の男日照りのアマゾネス達が襲いかかって来るとかは無いわよね?」

「えぇ……流石にそんな事はしない。邪妖精とかじゃあるまいし。……まあ、良い男を見かけたら声を掛けるアマゾネスは居ないことも無いけど、アマゾネス全体のイメージにも関わるからそういう無理矢理な迫り方はしないよ」

「<アンティアネラ>はアマゾネスだけではない様々な種族が仲良く暮らす平和な都市ですよ! 【女帝】を筆頭としたアマゾネス精鋭戦士達が守りに付いているので、レジェンダリアでも屈指の治安を誇ってますし!」

「そもそもアマゾネス達の恋愛アプローチはあくまで個人でするもので種族を上げてとかはしないです。恋愛・結婚・妊娠・出産の各種サポートは充実している街ではありますが」

「少なくとも禁足地とか言って問答無用で攻撃を叩き込んで指名手配する事もある所と比べれば、<マスター>にとっても遥かに過ごしやすい都市だと評判」

 

 ……少なくとも《真偽判定》に反応は無いから嘘では無いだろうし、そもそも<麗都アンティアネラ>の情報はガイドブックにも普通に載ってたしな。

 

「……成る程、こっち(デンドロ)のアマゾネスはアッチ(地球)の連中よりも遥かに理性的らしい」

「二人は何か昔アマゾネスから被害を受けた事でもあるの? もしそうなら同族として謝るけど……」

「ああ気にしなくて大丈夫よ。アマゾネスはアマゾネスでも私達が元いた世界に生息していた連中の事だから。……昔南米でちょっとね」

「アレは……嫌な事件だったな……」

「ひめひめさんとお兄ちゃんが凄い遠い目をしてる……二人の過去に一体何が?」

 

 正直言ってスーパー超人アマゾネス軍団に追いかけ回されるのはもう勘弁願いたいかなって……まあ、デンドロのアマゾネスは大丈夫そうだし、妾云々はさておき彼女達の依頼を受けるぐらいはしても良いかな。




あとがき・各種設定解説

<魔法少女連盟>:様々な魔法少女が所属しており新規勧誘にも余念がない
・尚、彼等の言う“魔法少女”とは『魔法少女っぽい格好で魔法少女らしい行動をしている』ぐらいの割とファジーな感じなので、所属している魔法少女達の種類は多種多様。
・各種属性特化魔法少女や付与呪術系魔法少女、更には魔法剣士系姫騎士魔法少女とか打撃系プリキュア的魔法少女などなど……色物枠で銃火器特化魔法少女とか歌いながら戦う魔法少女とかマッスルビルダー魔法少女とかサブミッション魔法少女とかが居るとか居ないとか。
・実際の所、クラン所属の魔法少女になると高級オーダーメイド装備を格安で提供して貰えるからそれ目当てで加入する人もいて、宣伝も兼ねて一部商品を売りに出したり魔法少女的に各種ボランティア活動をしてたりするのでクランとしては上手くやってる。

兄&ひめひめ:アマゾネスに関しては少しトラウマあり
・まあちょっと用心深くなっているだけなので、誤解が解けた後はティアモ達“デンドロのアマゾネス”とは普通に接する事が出来る模様。
・尚、ティアモの告白に関しては二人共現実ではそれなりにモテるので経験が無いわけでは無く、更に『まあ昔のファンタジー系殺し愛希望とかと比べればマシかな?』とか思ってるのでそこまで動揺してない。

ティアモ:天然口下手系マイペースアマゾネス
・尚、アマゾネス的には好意を抱いた相手にまず自分の想いを伝えてからアプローチするのは割とよくある事で、それで断られたとしても『自分の魅力が足りなかったから鍛え直そう』とさっぱり切り替える事が多い(個人差あり)
・彼女の場合、命を救ってもらって<UBM>も倒して貰ったのに報酬を大して渡せなかったので『じゃあ私自身を報酬にすれば良い。レントも伴侶として欲しいし』みたいな考えで行動した。
・また、彼女自身『戦場で<UBM>相手に命を救われた』という状況に“何かの拘り”があり、それが『二人』に執着する原因になっていたりもするのだがそこは追い追い。
・ちなみに麗都への護衛依頼は『これを機会に二人の好感度を稼ごう』と言う狙いもある。

アマゾネス三人娘:ティアモとは同年代の幼馴染
・なので、独自のペースを持っていて偶に突拍子も無い発言をする彼女をフォローする事は良くある模様。
・ちなみに彼女達の合計レベルは大体150前後だがこの年代のアマゾネスとしては普通かそれよりも少し優秀ぐらいで、それに比べてティアモのレベルが高いのは特典武具持ち故に特別な訓練をしていたからである。


読了ありがとうございました。
そんな訳で次章は『アマゾネス編』になる予定。これからもちょくちょく更新して行くので、感想・評価・誤字報告などお願いします。


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第6章 麗しの都
【女帝】との邂逅


前回のあらすじ妹達「「きゃあきゃあきゃあ!」」兄「……うるせぇ。ちょっと告白されたぐらいで騒ぐな」


 □<麗都アンティアネラ> 【高位従魔師(ハイ・テイマー)】レント・ウィステリア

 

「……そう言うわけで此処が<麗都アンティアネラ>。このレジェンダリアでもかなり発展してる都市になると思う」

「まあ確かに<アムニール>と比べても遜色無いわね。外からは頑強な城壁に覆われてたから分からなかったけど、中は結構豪奢だし」

「あちらと比べるとやや硬い感じはするが。アルターの要塞系都市に雰囲気が近いと言うか」

 

 結局ティアモからの依頼を受けた俺たちは『お兄ちゃん(兄様)の恋愛模様を見届けないと!』とかヤケにはしゃぐ妹達と、話を聞きつけて面白そうだと合流したシズカさん達ひめひめパーティーメンバーと共にレジェンダリアの北東側に存在する<麗都アンティアネラ>へとやって来ていた。

 ……その過程でティアモが俺と『正妻の覚えを良くする為』とか言ってひめひめに積極的に話しかけて来たり、その結果として俺とひめひめが付き合ってる事が妹達にバレたり──実のところ隠す理由もそんなに無いので“今は事情があってリアルでは付き合えない”とだけ言って終わりだが──したが、問題なく無事に着いた(強弁)

 

「まあアマゾネスにとって強さ=美しさ、みたいなとこがありますし。後はアルターとカルディナの国境が近い事や、周りに強力なモンスターの縄張りがいくつかあるから防衛力は高くないと」

「此処はレジェンダリアの自然魔力の要なので都市を置かない訳にもいかず、でも周りに強力なモンスターが多いから戦闘に長けたアマゾネスに任されたんです」

「面倒な所を押し付けられたとも言う。アマゾネスは議会での発言力が微妙って婆様も愚痴ってたし」

「ティアモ、裏話を言うのはやめとこう?」

 

 まあアマゾネス娘達の話はともかく、街の中は活気に溢れていてアマゾネス以外にも様々な種族が入り乱れて生活している様だった。どうも見た限り武器屋が多いから、戦いに長けたアマゾネスの街らしく強力な武器の生産が盛んな要塞都市としての面もある感じかな。

 ……うん、どうやら『実は南米の奥深くに住むガチ蛮族で男を見ると飢えた獣の様な目を向けてくる』とかそんな訳では無い様だな。アマゾネスと異種族男性(<マスター>なども含む)の普通に仲睦まじいカップルはよく見かけるから、その辺りはキチンとしているみたいだし。

 

「じゃあ私達は報告の為に族長の所に行くけど」

「分かったわ」

「それじゃあ私達は適当に街を回ってみるよ」

「新しい街に着いたらとりあえず観光だよねー」

 

 そういう訳で俺とひめひめは街の観光に繰り出す他のメンバーと別れ、ティアモ並びにアマゾネス三人娘と一緒にこの<アンティアネラ>の長……アマゾネス達の長であるという族長に会いに行く事になったのだった。

 

 

 ◇

 

 

「……着いた。事前に連絡した時には此処に族長は居ると言っていた筈」

「大きな屋敷ねー。何かこう独特のエキゾチックな雰囲気がする外観かしら」

「アルターの領主の住まいとかよりも小さいが」

「それは族長が『無駄に広い所に住んでも落ち着かん』とか言って普段は此処に住んでるから。流石に小さ過ぎると見栄えの問題があるからそこそこ大きいけど」

「政治やその他業務時には別の大型施設を使ったりもしますよ」

 

 そうして街中を歩く事暫く、ティアモの案内で俺達は街の中心部にある大きな屋敷の前までやって来ていた……そして自分達のトップに会うと緊張しているアマゾネス三人娘をスルーしたティアモが、まるで勝手知ったる場所の様に堂々と扉の前にいる門番らしきアマゾネスに話し掛けた。

 

「来た、入れて」

「おや、お帰りお嬢。……事情は聞いているからさっさと入りな。後ろの人達もね」

 

 そんなティアモも簡潔に過ぎる言葉に対しても、門番は嫌な顔一つせず俺達を屋敷の中に案内してくれた……そして通されたのは大広間であり、そこには一目でどれも高い実力を持つと分かる数名のアマゾネス達がいた。

 ……そして、その中心に座る外見はティアモ同年代ぐらい見えるアマゾネスの少女──最も、纏う雰囲気は周りの戦士達と比べても尚()()()()()だと一目で分かる人物が座っていた。

 

「お帰りティアモ。それとそっちの<マスター>二人は初めましてだね。……私がアマゾネスの族長である女戦士系統超級職(スペリオルジョブ)女帝(エンプレス)】レイソア・デル・ヒュポレだ。今回は孫が世話になったみたいだね」

「私の祖母。後見た目が若過ぎるのは()()()()()()()()()()()()()()()だから寿命が長いの」

「……成る程、俺はレント・ウィステリア。<マスター>だ」

「同じくひめひめよ」

 

 どうやらティアモは族長の孫だったらしい、俺もひめひめも初耳である……まあ、この屋敷に来た時点で全く緊張していなかったから察せられたが。本人の性格(天然)によるものなのかは判別し難かったが。

 後、俺もひめひめも多少はお偉いさんの相手は慣れているので大して動揺せずに挨拶を済ます事が出来……そんな俺達の反応を見たレイソア氏は『面白いものを見た』と言った雰囲気で笑みを浮かべた。

 

「ふむ、どうやら二人ともかなりの“やり手”みたいだねぇ。……まあそこは後回しにするとして、ティアモは遠征先で何があったのかを話しな。先に通信である程度は聞いているが直接詳しく聞きたいからね。説明を頼むよ」

「ん、分かった。……私達は遠征の途中で夜でも明るくて狩りがしやすい<夜光の森>に行ったんだけど、そこで伝説級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【夜行殺断 グリムリープ】に遭遇して……」

 

 そうしてティアモはアマゾネス達による遠征部隊と【グリムリープ】の戦いの一部始終を語り、更に妙に力がこもった口調で途中で俺とひめひめが助けてくれた事を念入りに語り出した。

 ……今までから口数が少ない割に突拍子の無い発言をする印象だったティアモなので少し不安だったが、そこは戦闘に関しては真面目なアマゾネスだからなのか状況説明は普通にしっかり分かりやすく伝えていた。そして時折俺やひめひめ、更にはアマゾネス三人娘の口添えなどを絡めてティアモは【グリムリープ】遭遇に関する話を終えたのだった。

 

「……それで遠征隊は私と後ろの三人を残して全滅したけど、レントとひめひめ達の協力で【グリムリープ】は倒す事が出来た。MVPは私が取って、これが特典武具の【夜天手甲 グリムリープ】になる」

「族長、確かにあの手甲は伝説級特典武具の様です」

「うむ、遠征部隊の壊滅は不運なことだったが、それでも御主等だけでも生きて帰って来て特典武具まで手に入れたのは目出度い事だね。遺族への説明や遺品に関してはこちらでやっておこう」

 

 ティアモの両手に装備された“手の甲部分に黄色の目の様な紋様をあしらった黒い手甲”──【夜天手甲 グリムリープ】を見ながら頷いたレイソア氏は、側に居るアマゾネス達に指示を出してこの一件の後処理を行なっていた。

 

「……うむ、このぐらいでいいだろうね。後は任せるよ。……さて、ウチの孫を助けてくれた上、<UBM>の討伐まで手伝ってくれた以上はあんた達にも何か礼をしないとねぇ」

「後は依頼を受けて私と後ろ三人をここまで護衛してくれた事もあるから報酬は奮発して。……今ちょっと妾になれる様にアプローチ中だから、二人の好感度が上がるように一番良いのを頼む」

「いや、そこで族長にタカるの?」

 

 ……まさか妾云々の話を持ってくるとはな。なんか族長の娘だしどう対応するのが正解なのか……くっ! 南米で見た『アマゾネス女王(クイーン)』と名乗るクリーチャーの姿がフラッシュバックして思考がイマイチ纏まらん! 

 

「カネとコネは使ってこそ意味がある。それに欲しい男がいたらゲスな手段以外の可能な限りの手段を使って落とすべきだと婆様から教わったし」

「カカカ! 確かに昔そんな事言ったかね。……しかし、ティアモもようやく色を知る歳か。その祝いに夫候補と正妻候補殿に渡す報酬にはちょいと色を付けておくか。二人とも凄腕の戦士みたいだし宝物庫にある武具とかで良いかい?」

「ええと、別に構いませんが……」

「いや、別に妾に迎える訳では……」

 

 昔のトラウマによりアマゾネス・リアリティ・ショックの所為でイマイチ対応が鈍い俺とひめひめを見たレイソア氏は、意味深な笑みを浮かべつつ部下らしきアマゾネスの一人に頼んで宝物庫にある武具のリストを用意させていた。

 ……なんか順調に外堀を埋められている様な気もしたが、どうすべきかを考えてる間に部下の人が宝物庫のリストを作って持ってきてしまった。仕事が早い。

 

「ほれ、これが宝物庫の中身の中で渡しても良い物のリストだよ。この中から一つ選んで持って行くと良い」

「功績を成したアマゾネスやこちら側に引き込んで起きたい者に婆様が宝物を渡すのは良くある事だから遠慮無く貰って。性能に関しては超級職の所持品だから申し分無いと思う」

「……まあ確かに、リストを見る限りだとかなりの高性能な物ばかりだが……」

 

 うむむ、いかんな。どうやら完全に向こう側のペースだ……とりあえずひめひめとアイコンタクトで『リストを見るフリをしながらちょっと落ち着こう』という方針を共有しつつ報酬の装備を選んで行く。

 ……思ったより『岩盤を素手で砕きながら追ってくる女王』の事はトラウマになっていたみたいだな。あの頃の俺が()()()()()()()()確実に捕まって酷いことになってただろうし。

 

「……それじゃあ私はこの【幻影樹のティアラ】で良いかしら。MP+20%と《幻術適正》《幻術運用効率化》《MP自動回復》の装備スキルがあるから丁度いいわね。頭部装備は良い物が無くて間に合わせの装備を付けてるだけだから。……魔弓でもあれば予備に貰っても良かったけど無いみたいだし」

「ああ幻術使いがウチにいないから死蔵されてたヤツだね。持っていきな。……後魔弓はな。レジェンダリアでもエルフの一部でしか使ってないマイナーで扱い難い武器だからねぇ」

 

 狙いを定めて引き金を引くだけで使える魔力式銃器や拠点に備え付けで使う事が殆どの魔力式大砲と違い、魔弓は弓を引いて射る技術とある程度のSTRとDEXが必要だからな。魔法職のサブウェポンとしては使いにくいらしい。

 他にも機械技術とのハイブリッドである前者二つと比べると純粋に魔法技術のみで作られている故にMP効率が悪く、魔力式銃器よりマシとは言え生産難度も技術面・コスト面共に高いので、生産技術があるレジェンダリアでもかなり希少な武器なのだとか。

 ……同じMPを使う弓なら魔法矢を放つよりも、普通の矢を射る行為を強化する類の装備スキル持ちの方が強いらしいしな。サイズと発射機構的な問題で同じ消耗品でも矢には銃弾と比べてかなり強力な特殊効果を付与出来るからだとか。

 

「俺は【戦舞の衣(上)】にするか。HPとSPに合計レベル×5の装備補正に、いくつかの《病毒耐性》の装備スキルがあるから丁度良い。下の方は【クルエラン・コア】があるから要らんし」

「合計レベル参照の装備補正は値段に比しての効果が低いからあまり人気が無いが……【勇者】の同類であるアンタならそっちの方が良いか。……後、何に萎縮してるのかは分からないがこの報酬はあくまで<UBM>の討伐を手伝った事に対する物だからね。アンタらとティアモの色恋問題には関係無いから、アタシらアマゾネスはその辺りあくまで自己責任だしねぇ」

 

 そうして俺達が報酬を選び終わるとレイソア氏は部下のアマゾネスを宝物庫に向かわせた後、何かを見透かしたかの様にそう言った……うん、だいぶアマゾネス・リアリティ・ショックも落ち着いたしな。

 ……うん、デンドロのアマゾネスと現実のアマゾネスは別物別物。何故なら普通に会話とコミュニケーションが成立するから。

 

「まあアンタ達二人が夫婦なのは見れば分かるし、ティアモを妾に迎えるかはそっちで決めてくれ。別にフった所でアマゾネスとしてとやかく言う事は無いからね。……まあ、種だけ貰って現地妻扱いとかでもお互いが納得するなら構わないよ(笑)」

「ムムム……出来ればちゃんと認められて側室になりたいけど……」

「いや流石にそれはちょっと……そもそも<マスター>との子供とか難しいでしょう。システム的に」

「まあログアウトがあるからこっちで子供を産むのは難しいでしょうね」

 

 ログアウトやデスペナルティになった時点で『<マスター>の身体から離れた体液』の類いも消滅するからな。今まで相手してきたPKを返り討ちにした時も飛び散った血や内臓も消えてたし。

 

「ああ、その問題ならこっちでも確認してるよ。既に<マスター>と“深い仲”になったアマゾネスも居るからね。今もこっちの専門家に何組かの有志の協力、そんで妊娠や出産に纏わる<エンブリオ>持ち<マスター>の協力で、現在は<マスター>とティアンの妊娠を可能とする技術を研究中だ。……とりあえず着床から妊娠までの時間を早めるか、体外に出た体液を保存する手段が出来ればいけると思うんだけどね」

「いやそこまでするのか?」

「戦闘・恋愛・妊娠・出産に於いて私達アマゾネスは常に全力。それらに対する各種福祉支援などでもこのレジェンダリアで最も力を入れている」

「……妊娠出産に纏わる<エンブリオ>って……まあ居るか、レジェンダリアだし」

 

 この辺りは基本女性しか居ないアマゾネス特有の傾向みたいかね……まあそんな感じでレイソア氏やティアモと雑談をしている内に報酬を取りに行ったアマゾネスの人が戻って来たので、それぞれの報酬を受け取った俺達は屋敷を後にする事となった。

 

「よし、報酬も貰ったし婆様との顔合わせも終わったから次はどうする? この麗都のオススメデートスポットでも回る?」

「やれやれ、はしゃいじゃってまあ……悪いけどこの子の事を宜しく頼むよ。妾にするでも現地妻にするでもフるにするでもそっちで決めてくれれば良いし、私はそれについて何か言う事は無いけど、こんなでも孫だし色々と面倒な事情を抱えてるからねぇ。関係をどうするにしても出来れば仲良くしてやってくれ」

「まあそのぐらいなら……」

「……これって外堀を埋められてるだけじゃないの?」

 

 ……それを言うなひめひめよ。正直言ってティアモは今までにないタイプだから、前述のARS(アマゾネス・リアリティ・ショック)とかもあって微妙に距離感を測りかねているんだよな。

 まあとりあえずお互いに話し合って良い感じに軟着陸させるから……アンタの性格だとそれでなぁなぁになって面倒を見る事になりそう? まさかそんな……。




あとがき・各種設定解説

レント&ひめひめ:ARS(重度)
・アマゾネス組にかなり押されていて状況に流されっぱなしだが、これはARSのせいで精神面が本来のパフォーマンスが出せていない事が大きい。
・まあそれ以外にも『まあ別にこのぐらいなら自分達の関係が変わる事は無いよね。今までのアレな連中と比べればティアモは“何の問題もない”レベルだし』とお互いに思ってるのも原因。

ティアモ:とりあえず外堀は埋めたな、よしっ!
・どれだけアプローチしても二人の関係が全く揺らがない事は察してるので、上手い感じに妾として認められる様に二人の好感度を稼ぐ方向へ頑張ってる。

レイソア:孫の行動には内心苦笑い
・まあ長年生きてきたが故の観察眼から二人は悪人という訳でもなさそうと判断し、その初恋の結果が如何あってもティアモにとってはいい経験にはなるだろうと放置する方針。
・ちなみに【女帝】は吸血氏族の【鮮血帝】と同じ様に『このジョブに就いている者がアマゾネスの代表』と議会で定められており、その二の舞にならない様に就職条件を満たした者を常に確保する様にしている。
・そしてジョブとしての特性は女戦士系ジョブの正統強化的な味方の女性に関係するバフ効果で、条件が整っていれば“個人戦闘型<超級>並みの戦闘能力”を発揮出来る模様。
・それに長命種の血を引くお陰で得た長年研鑽し続けた技術と、様々な経験を合わせる事でレジェンダリアでも最強クラスのティアンになっている。

今回の報酬:両方とも値段的には最低でも千万リル以上はする模様
・【幻影樹のティアラ】は【ハイ・イリュージョン・トレント】の素材などを使って作られた一品で、装備スキルは幻術の効果を五割増し、消費MPを二割減するぐらいの効果がある。
・【戦舞の衣(上)】は本来なら割合強化の装備補正をレベル基準に弱体化させた改造品で、その分装備スキルが病毒系状態異常全てに対応する《病毒耐性》になっている。
・ちなみに【戦舞の衣(下)】というズボンも存在し、こちらはAGIへの補正にHP・SPの回復速度上昇と制限系の状態異常への耐性スキルがある模様。
・他にも低レベルだが《破損耐性》や《盗難耐性》という補助スキルがそれぞれ適した感じに付いていたり、単純な防御力とかも結構な物なので装備レベル制限も高い。


読了ありがとうございます。
そういう訳で新章『レジェンダリアのアマゾネス』編を開始します。これからもボチボチ投稿していくので感想・評価・誤字報告などお願いします。


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ティアモの過去/竜の血統

前回のあらすじ:【女帝】「孫を助けてくれてありがとう、お礼は奮発するよ。後孫も一緒に持っていっていいよ」兄・姫「「は、はぁ……(ARS発症中)」」


 □<群獣の森> 【高位従魔師(ハイ・テイマー)】レント・ウィステリア

 

 ここは<麗都アンティアネラ>北部にある獣系モンスターが群れをなして生息している<群獣の森>、そこでは木々の間を飛び回りながら連携して襲い掛かって来た【フォレスト・ウルフ】の群れを三人のアマゾネス達が迎え撃っていた。

 

『『『GURURUUUUAAAAAA!!!』』』

「シャニー! そっち行ったよ!」

「オッケー、カチュア。エスカ、カバー宜しく。《ピンポイントアロー》!」

「分かった! 《シールドバッシュ》!」

 

 両手に持った双剣で【フォレスト・ウルフ】を斬り払った【双剣士(デュアル・ソードマン)】のカチュアが別のウルフ二匹が木々を足場に後方へと向かって飛んだのを見て注意を出し、それを聞いた【弓狩人(ボウ・ハンター)】のシャニーが飛び上がって動けない一瞬を狙い済ました急所狙いの一矢によって一匹の頭部を撃ち抜き、突撃して来たもう一匹は【盾士(シールダー)】のエスカが盾で弾きとばしながらカウンター気味に片手剣で斬りつけた。

 ……彼女達三人はそれぞれ下級職四職目の合計レベル150強ぐらいだが、幼い頃からアマゾネスとして訓練を積んでいるだけあって下級モンスターとは言え優れた連携を見せる【フォレスト・ウルフ】達と互角に戦えている。

 

「……うん、レントのバフ混みとは言え森の中ではそれなりに厄介な【フォレスト・ウルフ】の群れに対応出来るとは、あの三人も大分強くなった。これもレントの経験値増加バフと各種援護のお陰だね」

「まあ散々レベリングしたからステータスは上がるし、技量は三人とも元々十分なものがあったからな。援護に関しても以前騎士団で受けたクエストでその辺りのコツは掴んでる。ヤバそうなモンスターを先に始末するから」

「レントの【ルー】はパーティーメンバーにも効果を発揮するのは強いわよねぇ。私はカンストしてるから恩恵を受けられないけど」

 

 そんな彼女達の戦いを俺とひめひめとティアモはそう評価しつつ後ろから眺めていた……今回俺とひめひめが彼女達と一緒に狩りを行なっているのは、以前の【グリムリープ】騒動のせいで本来の目的であるレベリングが出来なくなっていたカチュア・シャニー・エスカ三人の修行に付き合ってくれと依頼されたからだ。

 尚、この<獣群の森>は都市周辺の狩場の中で一番モンスターの平均レベルが低いので、俺の《長き腕》込みでなら彼女達のレベリングには丁度いいと選ばれたのだが、レジェンダリアの特殊環境で生きているだけあって此処で群れを構成する獣型モンスターは高い連携精度と地形を利用する知恵を持っている事が多く……。

 

『『『GURURURU……』』』

「おっと群のボスだね。【亜竜森狼(デミドラグ・フォレストウルフ)】が三体と配下の【フォレスト・ウルフ】が沢山。やっぱりあの連中は偵察だったかな」

「成る程な……《喚起(コール)》ヴォルト、ネリル、クルエラン」

 

 この様に亜竜級クラスが群れを作って行動する事も無くは無いのだ……アンティアネラ周辺にある他の狩場と比べると平均レベルは低いな分、群れによる連携とか協力を行うモンスターが多いのが此処の特徴なのである。

 まあ、麗都周辺の狩場の中では特殊な自然環境も少なくモンスターの最大レベルも亜竜級なので、合計レベル100以上の者にレベリングと戦闘経験の獲得をさせるには丁度いい場所なのだとか。勿論事故防止に護衛を付けて。

 

「あの連中は私とレントで対応する。丁度【竜戦士(ドラゴン・ファイター)】のレベルも上げたかったし。ひめひめにはあの三人の援護をお願いしたい」

「はいはい、私はもうカンストしてるし経験値泥棒にならない範囲で援護するわよ」

「経験値はいくらあっても足りん。特に俺は」

『『『GUUUUAAAAAAAAA!!!』』』

 

 そうして俺達はアマゾネス三人娘をサポートしつつ、襲いかかって来た【フォレスト・ウルフ】の群れを迎え撃つ事になったのだった。

 

 

 ◇

 

 

「……あー! 終わったー!」

「はいはいお疲れ様。ほい《フィフスヒール》」

「ありがとうございます、レントさん」

「やっぱり回復魔法が使えるメンバーがいるといいね。アマゾネスって殆どが物理的なジョブにしか適正が無いから魔法職貴重だし」

 

 そういう訳で亜竜級含む【フォレスト・ウルフ】の群れを倒した俺達は、負傷した三人娘を治療しつつモンスターの気配がしない場所で一休みしていた。まあ今更亜竜級三体ぐらいなら敵では無いしね。

 だいたい【亜竜森狼】の一体はティアモが正面から挑んで斬り伏せ、もう一体はクルエランが押さえ込んだ所をヴォルトに踏み潰され、最後の一体は俺が普通に倒したって感じだった。三人娘の方もひめひめの援護によって多数の【フォレスト・ウルフ】を倒して大分レベルが上がってるから、レベリングとしては一先ず成功と言っていいかな。

 

「しかしレントの<エンブリオ>、亜竜級を倒しただけでレベルが上がるのは凄いね。お陰で【竜戦士】のレベルも上がってもう一度500レベルになれそう」

「亜竜級以上は【宝櫃】のリソースがまるごと経験値になるからな。ドロップするであろうアイテムの質で変化するが、平均して獲得経験値は二十倍から三十倍以上になるみたいだから」

「ふえー、凄い」

「これが<マスター>……」

「ひめひめさんの弓の腕も凄かったし……」

「それは自前の技術よ」

 

 なので《長き腕》を使っている状態なら雑魚の殲滅よりも亜竜級モンスターを何体か倒す方が獲得経験値の効率は良かったりする。亜竜級を安定して倒せる実力がある事が前提だし、純竜級までになると倒すのに手間取るから時間当たりの効率が悪くなるけど。純竜以上ならドロップアイテムの方が欲しいのもあるから。

 

「そういえばティアモ、【竜戦士】ってどういうジョブなんだ? 余り聞いたことの無いジョブだから気になったんだが」

「ん……この【竜戦士】ってジョブは()()()()()()()()()()()()()()()種族変更系上級職の一つ」

「じゃあ、ティアモの角や尻尾もドラゴンの物なんだ?」

「それはそうだけど、この角と尻尾は“生まれつき”」

 

 ……ふむ、確か【大死霊】や【鬼武者】など種族が変わるジョブは幾らか存在するし、【竜戦士】もその類ならアマゾネスに竜の角と尻尾が生えてもおかしくは無いと思ったが……生まれつきという事は、成る程。

 

「つまりティアモは()()()()()()()()()()()()という事か?」

「うん、そう。……私は古代伝説級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【剣竜王 ドラグソード】と、人間である母【剣姫(ソード・プリンセス)】アミティア・ウル・ヒュポレの間に生まれた竜人(ハーフドラゴン)。だから種族がドラゴンなのは生まれつき」

「ふむ、どうりてドラゴンとしての血が濃いと思ったら……ちなみにドラゴンは殆どの他種族と交配出来るから人間とのハーフもおる。またその場合の人間範疇生物とモンスターのどちらかで生まれるかは基本的に母体の種別と同じになる傾向があるのじゃ」

 

 俺や妹達が色々と質問するせいですっかり解説役が板について来たネリルの言によるなら、ドラゴンの<UBM>と人間の母親との間に生まれた者は種族:ドラゴンの人間範疇生物になるって事か……しかし【ドラグソード】とはティアモが持っていた特典武具の名前では……? 

 

「……うん、この【竜剣飾 ドラグソード】と【剛竜剣】は父さんが残してくれた形見みたいな物。……かつてレジェンダリアを襲った神話級<UBM>【滅光核魔 ガンマレイザー】と両親が戦った時に父さんが私を庇ってね。そいつ自体は援軍に来た祖母達アマゾネス達が倒したけど両親を始めとする多くの戦士が犠牲になって、どうもその時に私を庇った傷が致命傷になって父さんが死んだからMVPに選ばれちゃったみたい」

「……つらい話なら話さなくても良いが。別に少しジョブについて気になっただけだし」

「別にもう割り切ってるし。後は良いタイミングで過去話をすればレントの同情を引けるかもって祖母が言ってた」

 

 頭に付けた髪飾りを撫でながら神妙な表情で辛い過去を語るティアモに俺は少し申し訳ない気持ちになった……俺はただ珍しいジョブについて聞きたかっただけだったんだが。

 それと後半の発言に《真偽判定》は反応せず、ひめひめは『アレはしおらしくしてるだけの演技ね。目の奥では獲物を捕らえようとしている雌の人が宿ってるわ』とか言ってるけど。男の俺には分からない世界だなぁ(白目)

 

「私としても好きになった人に自分の事とか知ってほしいし……まあそれより【竜戦士】の事だけど、このジョブはアマゾネスの里にあった先々期文明の資料に情報が載っていたジョブ。確か当時のアマゾネスと交流があった竜人種族(ドラゴニュート)って言う部族が就いてたとか」

「ふむ、黄河の王族が古龍の血を引いていると聞いた事があるが似たような種族なのか」

 

 これはリアルで見たデンドロWiki・黄河支部サイトからの情報だが。ネリルも先々期文明時に居た古龍が戯れに人間と子を成したと母親から聞いたと言っていたし。

 

「おそらくはね。文献にも『高位の竜の血を引く部族』とか書かれてた。それ以上は断片的に情報しか残ってなかったし、今のレジェンダリアにそんな種族は居ない以上はもう絶滅したらしいから詳しくは分からないけど。……それで肝心の【竜戦士】なんだけど、運良くその文献に一部の就職条件が載ってたから色々試行錯誤して転職出来たの。具体的な条件は『合計レベル400以上』『亜竜級以上のドラゴンのHPを50%以上削って討伐』『人間と従属関係に無い種族がドラゴンのモンスターから【竜戦士】への推挙を受ける』ってものだったけど」

「それは上級職としてはかなり厳しい条件だな、特に三番目」

 

 所謂『レア上級職』ってヤツか。一番目と二番目なら<マスター>など実力のある人間なら条件を達成するのは可能だろうけど、三番目に関しては知恵を持った人間に友好的なドラゴン系モンスターへの伝手が必要だから、<マスター>の間でも知られていないのは当然か。

 

「まあ『竜を打ち倒して竜に認められた者がつく事が出来る』とか文献には書かれてたし。ちなみに私の推挙は文献を見た父さんが残しておいてくれた『私を【竜戦士】に推挙する』書状で満たせた。後、父さんが生きてる時に従兄弟の何人かを推挙したけど就職は出来なかったから、多分ティアンで適切のあるのは私みたいなドラゴンの血を引く者だけとかだと思う」

「万能の適正を持つ<マスター>なら就けるだろうが、ドラゴンの推挙なんて貰えるヤツはほぼ居ないだろうからな。従属してないのが条件ならテイムモンスターやガードナーでも無理だから<マスター>が就くのも難しいだろう」

「そんなレアな上級職なら強いのかしら? ここまで聞くとどんな能力があるのかちょっと気になるわね」

 

 まあ確かにレア上級職の情報は気になるな。最初は軽く聞くつもりだったのに話が妙に重くなったけど、ここまで聞いたなら情報を得ておかないとそんな気がする……なんて思いつつティアモの方を見ると、彼女はひめひめの疑問に対して何故か少し困った様な表情をしていた。

 

「うーん、上級職としては【竜戦士】も別に弱いジョブじゃないんだけど……初めから使える固有スキルは種族をドラゴンに変えて生命力や身体能力を向上させるパッシブ《竜血炉心(ドラゴン・ブラッド)》と、奥義であるMPを消費して自身に攻撃力・防御力・身体強化・魔法耐性などの複合バフを与えるオーラを纏うアクティブ《竜闘気(ドラゴニック・オーラ)》の二つ」

「最初から奥義が使えるのね。しかしそれだけの効果がある複合バフって上級職にしては強すぎない?」

「おそらく上級職のスキルの範囲内になる何らかのデメリットがあるんだろう。消費コストか個々の効果の強度辺りで」

 

 まあ、上級職スキルのリソース範囲内でそんな効果を盛り合わせにすれば、効果の何処かを削るかコストを法外にするかしかないからな……その俺の予想を裏付ける様にティアモは軽く溜息を吐きながら首をすくめつつ話を続けた。

 

「うん当たり。《竜闘気》の個々の能力の強化度合いは上級職の奥義としてはかなり低い、特定ステータスを強化する事に特化した下級職のスキルぐらいなレベル。……まあ、他のスキルが《竜闘気》との併用前提でSPを消費して強化する効果範囲を偏らせるヤツばかりだから、単体運用は想定していないみたいだけど。STR強化特化の《ドラゴンアーム》とか物理防御強化特化の《ドラゴンスケイル》とか」

「聞く限りは色々な状況に対応出来る強そうな上級職に思えるが」

「最も《竜闘気》は使っている間に少なくないMPを消費するから生まれつきステータスの高い私でも長時間の維持が出来ないし、派生スキルも燃費が良いとは言えない上に似たような特化型上級職のスキルと比べると効果が低いし。加えて【竜戦士】自体のステータスもDEXとLUC以外がバランスよく伸びる所為で個々の数値は上級職にしては低めだから、バランス良いんだけど個々の分野に於いては他の特化型上級職の方が強いんだよね」

「まあ、バランス型ジョブの悲哀ってヤツね。対応力が高いのは良いけど、いざと言う時には特化型の方が使いやすいって感じ」

 

 成る程、確かに【竜戦士】は弱くは無いジョブではあるだろうが、ジョブ枠が少ない上級職ともなれば『切り札』になり得る奥義とかがある方が優先されるか。弱くは無いが就職条件の厳しさに釣り合った性能かどうかと言われると微妙って感じに思える。

 

「父さんが残した推薦状で転職出来た形見みたいなジョブで、転職条件も異様に厳しいから正直もっと強いと思ってたんだよね。……いや、弱くはないのは分かってるし、ドラゴンである私には何となくだけどスキルが使いやすく感じるから相性は悪くないとも思うんだけど……私は父さんや母さんみたいに強くなりたいから、ジョブの構成にもちょっと悩んでる」

「まあ、苦労して取った装備やジョブが思ったより強くないとかは(ゲームでは)よくある事だし余り気にしなくても良いんじゃない? 決して弱くはないんだから」

「それに希少なジョブなら超級職は空いてるだろうし取得を目指せば良いだろう。多分<マスター>含めてもライバルは少ないと思うぞ」

「やっぱり強くなるにはそれ(超級職)が一番かな」

 

 まあ、()()()()()()()()超級職は取ってレベルを上げてしまえば、どんなジョブで誰が使おうが上級職以下とは隔絶した強さを手に入れられるからな。上級職以下のジョブ構成で悩むぐらいならさっさと超級職を取れ……とか言う身もふたもない意見を言っても問題ないレベル。

 ……何処をどう考えてもレベル制限があるゲームのシステムで『レベルの上限が無い』と言うのはブッ壊れなんだよなぁ。それが先着一名様限定とか普通のゲームなら暴動間違いなし。

 

「よし、過去話や雑談で好感度を稼いだ事だしそろそろレベリングの続きをしようか。空気を読んで黙ってくれてたそっちの三人娘もそろそろ行くよ」

「「「はーい」」」

 

 ……なんか俺もひめひめも順調に絆されてると言うか攻略されている気もするが。まあ彼女達は友人として付き合う分なら悪い相手でもないし別に良いかな……そんな事を考えつつ、俺は引き続きレベリングの為のモンスター狩りを続けて行くのだった。




あとがき・各種設定解説

ティアモ:順調に好感度稼ぎを実行中
・両親に庇われた事を気にしていない訳では無いが、そこはアマゾネスらしく『両親よりも強くなる事が親孝行』と考えて割り切って自分を鍛えている。
・古代伝説級<UBM>の子供だけあって現在のレベル0の状態でもHP・MP・SPが4000代、STR・END・AGIが500代はあるなど人間範疇生物としては破格のステータスを持っている。
・自らの過去や想いに関してはまだ話していない事も幾らかあるが、そこは好感度稼ぎの状況に応じて段階的に語った方が効果があるかなと思っている。

【竜戦士】:戦士系統派生上級職
・種族がドラゴンになる《竜血炉心》や《竜王気》に近似した《竜闘気》を運用するなどでドラゴンの力を身に纏うレア上級職。
・《竜血炉心》は竜の生命力として自然治癒力上昇や状態異常耐性の上昇、更に基本物理ステータスを中心に補正がかかる……のだが、こちらも上級職のスキルに多様な効果を詰め込んだ所為で個々の補正はかなり低い。
・《竜闘気》の強度は消費MP・スキルレベル・自身のステータスによって決定されるが、やはり上級職のスキルなので《竜王気》と比べると効果は低い。
・とは言え《竜闘気》使用時の派生スキルは一通りの状況で使えるものが揃っているので、汎用性は前衛系超級職の中でもトップクラスと普通に強いジョブでもある。
・それでも酷評されるぐらいにそれぞれの効果が低いのは、単に最強の生物種である“ドラゴン”の力を上級職の器では再現しきれないからでもある。
・<マスター>以外だとドラゴンの血を引く者しか適正が無く、西方のジョブだったので昔のレジェンダリアに住んでいた竜人種が絶滅してからは就ける者がおらずロストしていた。

【剣竜王 ドラグソード】:実力は古代伝説級の中でも最上位
・角により攻撃を得意とする【角竜(ホーンドラゴン)】の亜種で、成長と共に角を分離させて肉体であると同時に手持ちの剣として扱わせる《剣竜同体》を有する【剣竜(ソードドラゴン)】という種の竜王。
・【剣竜】は基本的に群れを作らず単独で放浪しながら自身でもある剣と剣技を磨く求道者的性質があり、その例に漏れず彼も群れを率いてはおらず単に種の中で最も強いから竜王に選ばれたタイプ。
・能力は《竜王気》の応用であり特定武具と同じ『剣で魔法を切って攻撃力上昇』だが、純粋性能型古代伝説級のステータスとそれに比例して性能を上昇させる愛剣、そして修行の果てに手に入れた超級職ティアンレベルの剣技によって神話級一歩手前ぐらいの実力を持っていた。
・その道中にアマゾネスの【剣姫】アミティアと遭遇して死闘を演じたのだが、その末に向こうから実力を見込まれてアマゾネスの強者好き性質にクリーンヒットして惚れられてしまい、その後の積極的なアプローチにより陥落して夫婦となってしまった。
・まあ本人としては長く寿命の中での一興であるとしており、更に自身を上回るアミティアの剣技に惚れ込んでいたのもあって夫婦仲も良く、生まれたティアモも『子供が自分の剣を得るまでは育てる』という【剣竜】の性質からちゃんと面倒を見ていた。
・だが、凡ゆる生命を滅ぼす核分裂光を無尽蔵に連射する神話級【滅光核魔 ガンマレイザー】と遭遇してティアモを庇って致死のダメージを負い、その後は妻と共に剣士としての意地半分親としての意思半分で決死の戦いを挑んで援軍に来た【女帝】達の協力もあって相打ち気味に討伐してみせた。
・また、死する直前に自身の半身である剣を【剛竜剣】としてアイテム化させて娘に残しており、その際にリソースも幾らか削れたので特典武具の【ドラグソード】はギリギリ古代伝説級下位程度になっている(装備補正が無い所やスキル使用に条件がある所など)


読了ありがとうございました。
ちなみに【ガンマレイザー】の特典武具はトドメを刺して生き残った【女帝】が保有しています。強すぎるので滅多に使わないですが。


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少女達の討伐クエスト

前回のあらすじ:ティアモ「実は私の父親は竜王」兄・姫「「そのツノと尻尾は自前だったのか……」

※【魔弓手】系統のスキル名が分かりにくいので全面的に変更しました。


 □<巨妖樹の森> 【魔導拳(マジック・フィスト)】ミュウ・ウィステリア

 

 ここは<麗都アンティアネラ>南西部に位置する<巨妖樹の森>、何でもかつては巨人族の住処である肥沃でレジェンダリアでも珍しく安定した土地だったのだが、彼等と妖精族との資源と住処を巡る争いがあった際に何らかの禁術系の魔法具が使われた事によって汚染され生態系が変動、今は亜竜級から純竜級の凶暴なモンスターが住み付き危険度の高い自然現象もよく起きる危険な場所になってしまったそうです。

 しかし、最近この森に【アフォレスト・マギロード・ゴーレム】と言う自然魔力を吸収して自身の配下であるゴーレムを生産、更に周囲の魔力・自然環境を自分に優位なものに変えるモンスターが目撃されたのです。コイツは放っておくと生態系を大きく乱すため特級の危険生物に指定されていて、今回も麗都にいた<マスター>・ティアン問わずに討伐クエストが発令されたので私達も参加する事にしたというのが現状ですね。

 

「《フレイム・フィスト》《正拳突き》!」

『GIGIGI……《Fire Regist》《Kinetic Regist》』

 

 そして今現在私は全長5メートル程の黒い樹木で出来たゴーレム型モンスターである【プランティング・ブラックゴーレム】に炎を纏った拳を叩き込む戦闘中です。コイツは【アフォレスト】が作り出して分体ゴーレムの一体で、既に似たようなゴーレムがこの森に多数目撃されているとの事。

 しかしながら、ゴーレムの使った炎熱防御と物理防御の魔法で威力を減衰させられたので、相手がHP・END型である事もあってさしたるダメージを与える事は出来ませんでした。

 

『KIKIKI……《Plant Repair》』

『GUUU! 《Wood Strike》!』

「チッ、回復されましたか」

 

 そのダメージも後方にいた【プランティング・ホワイトゴーレム】の回復魔法で治されてしまい、それで万全の状態となった【ブラックゴーレム】の太い木の幹の様な拳が唸りを上げてこちらに迫り来ました。

 ……まあ。AGIは低いし単に腕を振り回しているだけなので、紙一重で回避しながら腕に触れて《回し受け》を使いその運動ベクトルを捻じ曲げて転ばせてやりましたが。

 

「……姉様、ステータスを借ります。ミメ」

『オッケー《天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》《フリーズ・フィスト》!』

『分かったよ! そっちも頑張って……ねっ!』

 

 とは言え、今の私のステータスでは倒しきれないので向こうで別の【ブラックゴーレム】と戦ってる姉様のステータスをコピーしつつ、奥義《双魔拳》により《フレイム・フィスト》の炎熱を左手に移動させ、右手には【バイオハーデス】から引き出した魔力を使って極寒の冷気を纏わせます。

 

「敵が防御するなら、それ以上にパワーを上げて物理で殴ればいいのです。《瓦割り》」

『GUUU⁉︎』

 

 そのまま私は超級職になった事で二万以上となった姉様のSTRと木石を砕く事に特化した格闘スキルの合わせ技で倒れたゴーレムの胸部に一閃、その硬質な樹木で出来た表皮を粉々に砕いた後に纏わせていた冷気によって凍結させて再生を阻害します。

 ……おっと、凍らせた奥にゴーレムのコアが見えましたね。追加で左手の炎熱拳を凍結した部分に叩き込んで一気に砕いてしまいましょう。

 

『GUU……』

「よし、私は後ろの回復役を潰しに行きますので他の足止めは任せました!」

『了解! ……はい防御とか無駄ァ! 《インフェルノ・ブレイク》!』

「分かったわ。向こうの魔法役はこっちで抑えるから……《ヴァイパー・アロー》《光炎之矢》!」

「頑張ってねミュウちゃん! 《ディバイド・ブレード》!」

 

 コアを破壊して【プランティング・ブラックゴーレム】を倒した私はパーティーを組んでいた他のみんな──防御魔法がかかった【ブラックゴーレム】を圧倒的なステータスと防御無効の固有スキルによって殴り倒している姉様、ゴーレム軍団のリーダー格である【プランティング・ワイズマンゴーレム】の使う攻撃魔法を躱しながら反撃に光熱の魔法矢を放つひめひめさん、自己強化を掛けながら【ブラックゴーレム】の一体と斬り捨てているアリマちゃんの三人に声を掛けておきます。

 あの三人なら他のゴーレム達相手に遅れをとる事は無いでしょうからね。私は早急に回復・支援役である【ホワイトゴーレム】を潰すべきでしょう。

 

『KIKI……《Earth Wall》!』

「む、足止めの為の壁ですか」

 

 ですが【ホワイトゴーレム】も自身が狙われていると判断したのか、私との間に地面を隆起させた壁を作り出して足止めを図ろうとしました……砕くのは可能でしょうが隙が出来ますので飛び越えましょう。先日<魔法少女連盟>さんから丁度いい装備を買いましたし。

 

「起動せよ【エアロ・タラリア】《エアロジェット》」

 

 そう言った直後、私は足に履いた銀色の羽飾りが付いた脚甲の足裏からジェット噴射の様な暴風を発生させて反動で上へと飛び、目の前の土の壁を飛び越えた所で身体を反転させつつ《エアロジャンプ》の装備スキルで空を蹴り【ホワイトゴーレム】へと突っ込みました。

 この【エアロ・タラリア】は<魔法少女連盟>の生産班の人達が『魔法少女なら空を飛ぶべきだろ、常識的に考えて』という目的の下で、所属している魔法少女の一人“飛翼の魔法少女(フライ・ハイ)”イーグレットさんの<エンブリオ>【タラリア】を参考に作られた“魔法少女を飛ばせる為”の装備の一つだそうです。

 ……まあ、生産技術や運用に際してのコストの関係で飛行能力の装備スキルを再現出来ず、代わりにジェット噴射による加速と空中跳躍のスキルを入れたが『これ飛行じゃ無くて跳躍じゃない?』『魔法少女って物理ステータス低めなのが多いから跳躍だと』『ジェット噴射であらぬ方向へと飛んで壁や地面のシミになった件』という理由で余り普及はしなかったモデルらしいです。

 

『KIII⁉︎』

「遅い《フィストバースト》」

 

 慌てて【ホワイトゴーレム】は逃げ出そうとしますが姉様のステータスを得ている私にとっては遅過ぎる動きだったので、そのまま左拳を頭部に叩き込みながら纏っていた炎に追加のMPを注ぎ込んで炸裂させて上半身を吹き飛ばして撃破しました。

 ……最も前衛型の私にとっては空中跳躍が出来る装備は有り難いですし、コストとして要求されるMPも【バイオハーデス】があれば考慮する必要がなくなります。それに『狭い場所では使わないでね』と言われたジェット噴射機構も、少し練習すればレジェンダリアの木々の間を飛び回れる程度には扱える性能はあったので私的には大満足です。頑丈なので蹴りに使っても平気ですし。

 

「……さて、こっちは倒しましたが……」

『いい加減にシツコイ! これで五体目だよ! 《インパクト・エクスプローダー》!』

 

 別の方向では姉様が【ブラックゴーレム】の胸部を殴り付けた途端、まるで()()()()()()()()()()()()()()その樹体が吹き飛んで内にあったコアを粉砕してしまいました……姉様曰く、アレは最近【戦棍姫(メイス・プリンセス)】のレベルを上げたら覚えた《インパクト・エクスプローダー》と言う、殴った相手の体内へと衝撃を通して炸裂させるアクティブスキルだそうです。

 超級職になってレベルもある程度までは上がった姉様の実力はこのパーティーの中でも頭一つ抜けており、<エンブリオ>の補正も合わせての高い物理ステータスと本人のリアルスキル(直感)によって純竜級すらも容易く倒せる領域にまで至っています。

 

『ひめひめさん! 加勢するよ!』

「助かるわミカちゃん。あの【ワイズマン】自分も純竜級な上、防御魔法や地属性・風属性の攻撃魔法を使って来るからかなり強いのよね。《ピアースアロー》《閃光之矢》!」

『GUGIGI……《Shine Regist Wall》《Aero Javelin》!』

 

 ひめひめさんが貫通力を強化した光の矢を【ワイズマン】に向けて放ちますが、相手は光属性防御の障壁を展開してダメージを減らしつつ反撃に風の槍を複数放ちました……広範囲を攻撃する亜音速の槍を避けきれないと判断したひめひめさんは迷わず特典武具による光の壁を展開して凌ぎ、姉様は直感と亜音速超えのAGIによって回避しました。

 ……まあ、今まで純竜級の【ワイズマン】相手に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()足止めしていたひめひめさんですからね。姉様が援軍に入った以上はそう遠からずケリが付くでしょう。

 

「そう言うわけで私はアリマちゃんの援護に行きますか。なぁに、今の姉様のステータスがあればそこらの敵など問題にはなりません」

『他人の褌で相撲を取るってヤツかな。僕の能力はそう言うことに特化してるんだけど』

「それより出来れば援護急いでほしいよ! コイツら物理耐性があるのか剣が効きにくくて!」

 

 おっと、今はアリマちゃんの援護に急がねば……今回はちょっと長期的なクエストであり複数のパーティーが参加していて乱戦の可能性もあるので、彼女の広域精神汚染は封印して狂化スキルと剣技だけで戦って貰ってますからね。どうも少し相性が悪かったようです。

 

 

 ◇

 

 

「よし! やっと片付いたよ〜」

「お疲れ様ですアリマちゃん。……どうやら姉様達も終わったみたいですね」

 

 それからアリマちゃんが戦っていた【ブラックゴーレム】を私が残っていた《フリーズ・フィスト》に《フィストバースト》を上乗せした上で凍らせて砕いた後、姉様達の方もリーダー格の【ワイズマン】を倒し終えた事で一先ず戦闘は終了となりました。

 

『とりあえずこれでここらのゴーレムは全滅だね。こっちのドロップは【賢樹霊の宝櫃】か、中身は期待出来るかな?』

「実力的には純竜レベルはあったからね。他もそれなりに強くて連携も取れてたし、超級職のミカちゃんとそのステータスをコピー出来るミュウちゃんがいなければもっと苦戦してたかしら」

 

 そのまま私達は慣れた様子でテキパキとドロップアイテムを回収してアイテムボックスへと回収していきます。まだここら辺は不意打ちや奇襲の可能性もある危険地帯ですし、アイテムの分配に関しては街に戻って落ち着いてからって事になってます。

 ……今回は信頼出来る身内だけのパーティーなので問題無いですが、これが野良パーティーだと偶に持ち逃げとかも有るんですよねって思いつつ回復用のポーションを煽る私でした。

 

「しかし情報によると【アフォレスト・マギロード・ゴーレム】は純竜級でも高位のモンスターではありますが、それでも生産出来るゴーレムは亜竜級が最大だと聞きました。ですがあの【ワイズマン】の実力は純竜に届いて他のゴーレムに指示を出せるレベルでしたね」

『ふむ、偶に良くある何時ものイレギュラーかな? そこまで“危険”な感じはしないけど』

「それは下調べ不足ね。ティアモに聞いた話だと【マギロード】は周囲の自然魔力を使って魔法行使や眷属生成を行うけど、稀に多量の自然魔力を使って眷属を強化するスキルを持っている個体もいるらしいわよ」

「成る程〜」

 

 同じ種族のモンスターでも取得しているスキルが違うのは普通にある事ですからね。そもそもモンスターのスキルはその個体が積んできた経験と生まれ持った資質でどんなものを覚えるのか決まるそうですし。

 ……しかしティアモさんですか。兄様の妾になりたいとか言うとんでも宣言をぶっ放したアマゾネスの女性……今回も『レベリングクエストの続き』と言う理由で他のアマゾネスのティアンと一緒に兄様とパーティーを組んで、私達とは別行動でクエストに挑んでいるんですが。

 

『と言うか、ひめひめさんはお兄ちゃんとティアモが一緒にパーティー組んで平気なの? 私達はつい最近まで知らなかったけど、長く付き合ってる恋人同士なんでしょ?』

「カンストしてる私が組んでもレベリングの邪魔だし、向こうには何故か面白がって付いてきた【女帝】レイソア氏もいるから戦力的には妥当な振り分けでしょう? 私の見立てだと【マギロード】ぐらいならレイソア氏一人で始末出来るわよ」

「いえそう言う事ではなく……」

「ああ、妾云々に関しては貴女達が気にする事ではないわよ。……()()()()で私とレントの関係がどうこうなる事は無いし、ティアモの方もリアルでレントに粉かけて来た“連中”よりはマシだからね。そもそも私は妾の一人や二人では文句は言わないわよ、私が正妻なら」

「……ふえぇ……これがオトナの恋愛……」

 

 ……おおう……ここまではっきりと宣言されると私も姉様も何も言えませんね。ごまかしや虚勢では無い事が一目で分かるぐらいに堂々としていますし……無駄に気を回そうとした私や姉様の余計なお世話でしたか? 

 

「まあ、貴女達が気を回す必要は無いわよ。少なくともこの程度の事なら私もレントもリアル側の人間関係とかには影響出ないし……全員、戦闘体勢、敵よ。それも()()()()()()()()()

『おっとそうみたいだね。ちょっと危険を感じる』

「ですね、さっきからこっちに視線が来てます……《人間探知》」

「……あ、はい!」

 

 ……と、そうして駄弁っていたら唐突に何者かがこちらに悪意を向けた嫌な気配を察知したので、私は戦闘体勢に入ると共に【ブラックォーツ】の索敵スキルを使います……ふむ、ひめひめさんの言う通り十二名二パーティー分の人間の反応がありますね。

 

「……10時から3時の方向に計12人の人間を確認。こちらを包囲する動きですね」

「それで姿が見えず音も聞こえないとなると……【高位幻術師(ハイ・イリュージョニスト)】の光学迷彩と音波遮断、それのパーティー付与か<エンブリオ>ね。とりあえずアリマは()()()()()戦闘準備をして……まずは邪魔な幻術を剥がすわ《イリュージョン・ジャミング》」

 

 小声で指示を兼ねた《詠唱》を終えたひめひめさんは私が言った方向に向けて威力強化と指向性を持たせた幻術を阻害する魔法を放った……すると、私達から三十メートル近く離れた地点でこちらを包囲しようとしている者達──左手に紋章があるので<マスター>──の一団が姿を現しました。

 

「なっ⁉︎ 幻術が!」

「落ち着け! 既に包囲は完了している!」

「そうだ! 今こそ我ら<メスガキわからせ隊>による復讐の「死ね《光剛成》《アクセルアロー》《ヴァイパーアロー》《爆裂之矢》」

 

 それに動揺した彼等が何かしようとした瞬間、まるでゴミを見るかの様な目になったひめひめさんが瞬時に【アマテラス】で強化された五本の矢を放ちました……それらの矢は五方向に分かれて複雑な軌道を描き木々の間をすり抜けながら彼等の内の5名へ見事に命中、その周りにいた連中を巻き込みながら大爆発を起こして彼等に大打撃を与えました。

 ……しかし<メスガキわからせ隊>と言う単語はどこかで聞き覚えが……ああ、確かLSさんが言っていたひめひめさんとアリマちゃんを狙ったPKクランの名前でしたね。

 

「つまり倒しても問題ない相手と言う訳ですね《心頭滅却》《賦活の息吹》《エンハンスフィスト》」

『了解《天威模倣》。対象はミカで』

「しかしPKって姿を消しての奇襲が多いよね。流行ってるのかな?」

 

 まあ、この世界の戦闘──特に千差万別の<エンブリオ>を持つ<マスター>相手の戦闘では相手に何もさせずに倒す『先手必殺』が基本ですからね。姿を消しての不意打ちはそう言った意味でも有効な戦術ですからみんなやってるんでしょう。

 ……故に、これから私と姉様が行うのもひめひめさんの先手で浮き足立った<メスガキわからせ隊>の連中の数を可能な限り減らす事なんですけどね。誰がどんな<エンブリオ>(切り札)を持っているかは分かりませんから、精神耐性と病毒耐性を上げつつ今の内に敵を可能な限り倒して不確定要素を潰しておかなければ。




あとがき・各種設定解説

【アフォレスト・マギロード・ゴーレム】:常時討伐対象上級モンスター
・原作に出てきた【アフォレスト・キング・ゴーレム】の亜種でありレジェンダリアの環境に適応して高密度の自然魔力を運用するスキルを覚えた強化種。
・生み出されるモンスターや使用する魔法も自然魔力を利用した強力なものになっている代わりに、レジェンダリアなどの自然魔力が濃い場所以外ではまともに行動出来なくなっている。

《フィストバースト》:【魔法拳士】のアクティブスキル
・属性を纏わせる《〇〇・フィスト》系スキル使用時に発動出来、そのスキルに追加のMPを込めて拳を基点に指向性を持たせて炸裂させる攻撃魔法。
・纏わせている属性を全て一撃の攻撃に転化するので使用後は《〇〇・フィスト》系スキルが強制的に解除され、威力はそのスキルに使われたMPと残りの効果時間、追加で込めたMPの量で決まる。
・ただし、あくまで指向性を持たせて炸裂させているだけなので有効射程はそこまで長くなく、最大の威力を発揮させるには拳を打ち込んでゼロ距離で使う必要がある。

《インパクト・エクスプローダー》:【戦棍姫】のアクティブスキル
・《インパクト・ストライク》などの戦棍士系統におけるメイスによる打撃時に衝撃波を発生させる内部攻撃系スキルの超級職版で“対生物”に特化したスキル。
・最大の特徴は打撃時に発生する衝撃波の指向性が非常に高い事であり、これにより相手の体内に浸透した後で内部の一点に威力が集中して爆発したかの様に内側が爆ぜる様になっている。
・ただし、超級職のスキルらしく消費SPやクールタイムは重め。

【エアロ・タラリア】:<魔法少女連盟>製高性能装備の一つ
・装備補正は少し高めの防御力のみで、空気を固めて瞬間的に足場にする《エアロジャンプ》と足裏から暴風を発生させてその勢いで移動する《エアロジェット》の二種の装備スキルによって魔法少女の空中戦を可能にする。
・……予定だったが、予報バランス感覚や身体制御能力が高い者でないと足にジェット噴射を付けて移動するなぞ出来ず、更に両者のスキルが相応にMPを消費する事などがあってお蔵入りしていた代物。
・一応、この装備を元に空気を固めて空中に足場を作って歩行する感じの装備を開発している模様。

<メスガキわからせ隊>:基本<マスター>しか狙わないので存続はしていた
・最もレジェンダリアのロリショタ軍団にボコボコにされており勢力はかなり減っていて、今回の襲撃も有名なロリ<マスター>を分からせて勢いを取り戻す為に行ったがご覧の有り様である。
・ちなみに麗都にいたのは此処が孤児院を始めとする福祉施設がしっかりとしているので、それらへの援助も行なっている<YLNT倶楽部>が余り寄り付かないからだったり。
・尚、光学迷彩からの奇襲は先手必殺の対<マスター>PKでは流行りの戦術であり、特にレジェンダリアでは“何故か”光学迷彩などの幻術や透視・遠視系スキルを覚えている者が多いのでよく行われているとか。


読了ありがとうございました。
尚、<魔法少女連盟>では箒型の飛行用特殊装備品などの色々な飛行用装備を開発してコンペを行なっている感じ。落選した装備も相性のいいメンバーの専用装備に改修されて使われたるする。


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PK達をわからせろ!

前回のあらすじ:わからせ隊「「「ヒャッハー! わからせぇぇぇぇ!!!」姫「分かったタヒね」


 □<巨妖樹の森>

 

「クソッ、いきなり先制攻撃とは……被害は⁉︎」

「爆発矢に当たった後衛魔法職は【ブローチ】付けてたヤツら以外は粉々です! 周りにいた連中も爆発のダメージが!」

「変態軌道で脆い後衛の相手だけをピンポイントで狙って来やがって!」

 

 襲撃者がHENTAIだと分かって一切の容赦を捨てたひめひめの先制狙撃は、そのターゲットである彼女達を包囲しようとしていた<メスガキわからせ隊>に多大な打撃を与えていた。

 ……具体的に言うと彼女は矢の軌道を後衛に居る魔法職らしい装備をした者に向かう様設定して見事に直撃させたので、防御力に劣る後衛達は広範囲に及ぶ爆発により【ブローチ】を付けていなかった3人はデスペナ、他のメンバーも爆発によって死にこそしなかったがダメージを貰うなど大打撃を負っていたのだ。

 

「無事な者は態勢を立て直して攻撃準備だ! これで終わらないなら追撃が来るぞ! 《万軍の王(ツァバト)》!」

「よくもやりやがったな! メスガキ共め、わからせてやる!」

「行くぞ【オンギョウキ】!」

 

 だが、その中でもクランオーナーである【司令官(コマンダー)】の男は爆発矢が直撃したものの【救命のブローチ】のお陰で無事であり、すぐに指示を出しつつ自身の<エンブリオ>の必殺スキルによってクランメンバーのステータスと状態異常耐性を引き上げた。それに答える様に無事だった前衛もそれぞれの武器を取ったり、ガードナーの<エンブリオ>に指示を出したりと戦闘準備を整えていった。

 

『……まあ準備が終わるまで待つ必要は無いよね。《ハードストライク》!』

「なっ速げハァッ⁉︎」

 

 ……が、そうして準備を整え終わる前に()()()()()で接近した着ぐるみ──【戦棍姫(メイス・プリンセス)】ミカ・ウィステリアが大型メイス【ギガース】を勢いよく振り下ろしてメンバーの一人を一瞬でミンチに変えた。

 更に体勢を立て直すついでに彼女は【どらぐている】に付いた『装備者のSTRと同じパワーを持ち、AGIと同じ速さで伸縮・稼働させられる』ブレード付きの尻尾──《竜尾剣》を伸長させて爆発のダメージによってふらついていたメンバーの一人を容赦なく串刺しにした。

 

「このメスガキめ! 《バスターアックス》!」

『ふむ……《ウェポン・デモリッシャー》!』

 

 そこにステータス補正特化の<エンブリオ>持ちでミカの動きを把握出来たメンバーが、バフ込みで超音速に迫る速度で接近して両手持ちの大斧を大上段から振り下ろした……が、その攻撃も“直感”による危険予知で見切っていた彼女は、迎え撃つ機動で【ギガース】を振り上げて大斧を跡形もなく粉砕した。

 尚、装備が粉砕されたのはは【戦棍姫】の“対装備”に特化したアクティブスキルであり、装備への攻撃時にその強度(END)を自身のSTR分下げる(ゼロ以下にはならない)効果である《ウェポン・デモリッシャー》の力が大きいが。

 

「なぁっ⁉︎ 俺の斧が高かったのにビィッ⁉︎」

『《瞬間装備》《インパクト・ストライク》……ステータス自慢みたいだけど、私に勝ちたければSTRが後一万ぐらい足りないんじゃない?』

 

 相手が武器の破壊により動揺した隙を突いてアイテムボックスから呼び出した【破砕戦棍・四式】を片手で振り上げてその顎を打ち砕き、付随して発生した衝撃波によって頭部を内側から爆ぜ飛ばしたミカはそんな事を呟いた。

 ……現在の彼女のステータスは超級職を取ってから地道に、時に兄に手伝って貰ってレベリングをしていた事もあり、<エンブリオ>のステータス補正と【どらぐている】の装備補正を合わせればSTRは二万・AGIも超音速に迫り、物理ステータスの中では一番低いENDでも5000近いというカンスト<マスター>程度では太刀打ち出来ないスペックになっているのだ。

 

『さてと、とりあえず超級職(スペリオルジョブ)と言うものの理不尽さをたっぷり味わって貰おうか。ユニーク要素でマウント取るとか一回やってみたかったんだよね』

「生意気なメスガキめ! これは全力でわからせなければなるまい! ……お前たち、やれい!!!」

「「「うおおおおおおお!!!」」」

 

 ミカは片手で【ギガース】を突き付けながら敵のリーダーに向けてそう宣言し、それを見た彼等<メスガキわからせ隊>は『生意気なメスガキを絶対にわからせる』と言うクラン全員が共有している信念()に火を付けられたのか雄叫びを上げて彼女に一斉攻撃を仕掛けてきた。

 

「まずは状態異常に掛けてやれ!」

「オレの魅力でわからせてやる! 《雄性の誘惑(メール・テンプテーション)》!」

「【猛毒】と【酩酊】と【衰弱】の毒を混ぜて喰らえ! 《疫病の風》!」

「アバダケダブラなんまいだぶなんまいだぶ……《デッドマンズ・バインド》!」

 

 まずリーダーの指示の下、生き残っていた状態異常スキルが使えるメンバーがミカに向けて一斉に女性への【魅了】の波動、複数の毒を混ぜた風を浴びせる<エンブリオ>の固有スキル、<エンブリオ>と《詠唱》の効果で強化・即時発動された複合呪詛が放たれた。

 彼等はメスガキを分からせる事が目的でPKをしているので自分達へのバフと、敵への複数の状態異常を駆使して徹底的に有利な状況を作り出す事に特化した連携を好んでおり、この複数種の状態異常による一斉投射もどれかが敵の耐性を突破すれば良いと言う狙いで行われた彼等の常套手段だったのだが……。

 

『《インスタント・エンパイア》……悪いね、そのタイプの状態異常は効かないんだ』

「「「なニィッ⁉︎」」」

 

 それらの状態異常はミカが装備していた特典武具【鬼身腰帯 クインバース】のスキルにより、それに事前に作ってぶら下げていた“鬼の頭キーホルダー”へと移し替えられて彼女自身には一切の効果を発揮しなかった。ちなみにキーホルダーは定期的により多くのSPを込めた物に作り直しているので複数の状態異常を食らっても十分に余裕がある。

 そのまま彼女は状態異常の雨を突っ切りながら超音速で接近し、まず病毒から近接戦に切り替えようとした【毒手拳(ポイズン・フィスト)】を撲殺。ついでとばかりに近くにいた【大死霊(リッチ)】も新たに取り出した【ラブリー(略)】で滅殺。最後の【女衒(ピンプ)】は自分の<エンブリオ>である《液状生命体》持ち液体エレメンタルを壁にして凌ごうとしたが、そんなの知らんと言わんばかりに防御スキルを無効にする【ギガース】によってまとめて殴り潰された。

 

「俺の【ウンディーネ】は水の精霊なのにヒデブッ⁉︎」

『《ストライク》っと。そういうスキルも私にはあんまり効かない……おっと後ろか。《重意圏》《竜尾剣》』

『GIE⁉︎』

「なっ⁉︎ 俺の【オンギョウキ】に気付いただと⁉︎」

 

 その隙を突いて姿と音を消して背後から奇襲しようとして来た鬼型ガードナーの攻撃も“直感”で看破して躱し、すぐに【どらぐている】の周囲にある物体の位置を把握するスキルによって割り出した位置にテイルブレードを放って串刺しにする。

 それに対してマスターの【獣戦鬼(ビースト・オーガ)】はミカを攻撃してガードナーが離脱する隙を作ろうと強化されたステータスで駆けるが、それよりも早く彼女は《重破断(グラビトロン・ディバイダ)》を使いながらブレードを動かしてガードナーを両断して始末し、それによって《獣心憑依》が切れたマスターを返す刀で叩き潰した。

 

「そんな……2パーティー12人がもう3人に……」

「くそっ! 超級職だからってここまでデタラメなのか⁉︎」

「落ち着け! まだ勝機はある! ……喰らえ《アクセルスロー》!」

『おっと【ジェム】か。……下がらないと不味そうだね!』

 

 超級職・上級<エンブリオ>・二つの特典武具によって圧倒的な戦力を得ているミカの戦い振りに怖気付き始めた<メスガキわからせ隊>だったが、それでもまだ戦意を失っていないリーダーは虎の子であった【ジェムー《ホワイト・フィールド》】を投擲した。

 彼がサブジョブに入れてあった【投手(ピッチャー)】のスキルによってかなりの速度で飛来した【ジェム】は彼女の手前にあった木に突き刺さって周囲一帯を極低温の冷気によって包み込んだ。

 

『……ふぅ、ギリギリ離脱出来たか。やっぱりAGIは正義だね』

 

 しかし、その【ジェム】の危険性と効果範囲を“直感”していたミカは全速力で後退する事で凍結範囲内にいる時間を短くしており、身に付けている【どらぐている】の寒冷体制もあってダメージは最小限に収まっていた。

 

「まだだ! 《突撃司令》《攻撃司令》《強襲司令》《行軍司令》!!!」

「うおおおおおおお! わからせェェェェェェ! 《神力の戦帯(メギンギョルズ)》!!!」

「《我が望みを叶えよ魔剣(ティルフィング)》……物理ステータス強化! 攻撃力強化! 走行強化!」

『おっと、仕掛けて来たか』

 

 だが、その間にリーダーは【司令官】のアクティブスキルを使って残りのメンバーを可能な限り強化し、その二人の内【硬拳士(ハードパンチャー)】の方はSTRを中心とした自己ステータス強化の必殺スキルを、【剣聖(ソードマスター)】の方は三つまで効果を指定して発動出来る魔剣型アームズの必殺スキルを全て自己強化に回す事で、現在のミカに匹敵するか一部は上回りかねない物理ステータスを得て攻撃を仕掛けたのだ。

 

「超級職でイキってるとかムカつく! 絶対にわからせる! 《我が拳、巌となりて》! 《ストーム・ストレート》!!!」

「最早わからせの為に時間をかける余裕は無い! せめて苦しませずに斬り捨ててやろう! 《レーザーブレード》!!!」

『余り強い言葉を使うなよ……弱く見えるよ?』

 

 片方が【硬拳士】の奥義で拳の攻撃力を増した上でスキルにより加速込みで超音速での正拳突きを放ち、もう片方も光熱を纏わせた魔剣を超音速で振るってミカを攻撃する……が、それらの攻撃の軌道を彼女は全て“直感”によって先読みする事で回避していく。

 

「何故だ! 何故攻撃が当たらない⁉︎」

『高いステータスによるごり押しだけじゃね。お兄ちゃんやミュウちゃんと比べれば技量が足りないから、私程度に動きを先読みされるだけで回避されるんだよ』

「何を⁉︎」

 

 実際の所、彼等の<メスガキわからせ隊>の戦術は状態異常を始めとする敵へのデバフと自分達へのバフを併用する事で徹底的に有利な状況を作り出した後、その優位でマウントを取りながらじっくりと時間を掛けて相手をわからせると言うものであり、故に同格の相手と戦う技量は決して高くは無いのだ。

 ……最もここまで攻撃を回避出来るのは“直感”によって完全に攻撃を先読み出来る事と、ミカ自身の技量が兄や妹と比べると劣るとは言えデンドロで<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>を始めとする強敵と戦って来たお陰で相応に高かったからなのであるが。

 

「だが、そちらも防御と回避で精一杯の様だな!」

「このまま攻め続ければわからせられる!!!」

『……まあ、やっぱり攻撃(危険)を先読み出来るだけじゃ、回避はともかく反撃は本人の技量と戦術眼次第になるんだよね。……お兄ちゃん達ならどうとでもなるんだろうけど、私程度じゃこの状況だと防戦一方かな』

 

 とは言え、流石に自身と互角のステータスを持つ相手に二体一では“直感”による先読みがあっても反撃に移る隙を見出せずに防戦一方になってしまっていたが。防御に使っている【ギガース】も《戦棍強化》レベルEXで強度を倍加させているとは言え、相手の攻撃力が高過ぎて傷が付き始めているのでこのままでは彼女に不利な状況になるだけだろう。

 

『……まあ、それは私が()()()()()()()()()()だけどね』

「……《ヴァイパー・アロー》《ピアースアロー》《光炎之矢》」

「なびゃっ……」

「「何ィ⁉︎」」

 

 ミカがそう言った直後、五本の光の矢が複雑な軌道を描いて指揮を執っていたリーダーの頭部や胴体部の急所へと次々と突き刺さり、付加されていた『貫通力強化』の効果もあって頭部や心臓などの主要臓器を撃ち抜いて絶命させたのだ。

 ……言うまでもなく、それを行なったのは先制攻撃をした後は後方で“作業”を行なっていたひめひめである。

 

「とりあえず指揮官であるバフの大元を先に潰すのはお約束でしょう。……それと向こうに居たそこのHENTAI共の()()()はミュウちゃんとアリマが潰したそうよ」

「なっ⁉︎ 気づいていたのか⁉︎」

『まあね〜。派手に暴れて注意を引きつけた甲斐があったって訳よ』

 

 実は今回<メスガキわからせ隊>には姿を消して接近していた部隊の他、有利な状況で調子に乗ったメスガキを戦況を逆転させてわからせる為の援軍役として後方に別働隊を配置していたのだが、探知範囲が非常に広いミュウの《人間探知》によってこちらを伺っている者達が居ると看破され、ミカが暴れている隙にこっそりと向かったミュウとアリマの二名に討伐されていたのだ。

 ちなみに二人が他の<メスガキわからせ隊>の目を搔い潜った方法はアリマの場合はひめひめに光学迷彩を掛けて貰っただけだが、ミュウの場合はミカに注意が行っている間に自前の気配遮断(技術)で敵の死角に潜り込んで誰にも気付かれずに後方の部隊へ奇襲を掛けると言うものだったりする。

 ……コピースキルにより物理戦闘型超級職のステータスを得ているミュウと全力の狂化スキルによって自己強化されているアリマの二人に奇襲されれば、サポートメインで本隊程の戦闘能力が無い別働隊ではどうしようもなく潰されたという訳である。

 

「さて、こっちもそろそろ終わらせるわ……《イリュージョン・アバター》」

「なっ⁉︎ 分身しただと⁉︎」

「落ち着け! 只の幻術だ!」

 

 実に面倒そうな雰囲気のひめひめが行使したのは他者の実体の無い分身を作り出す幻術であり、それによってミカが一見五人に増えた様に見えて彼等は一瞬戸惑ってしまった……所詮は外見だけが同じなだけの幻術なので冷静に時間を掛ければ見破る事が出来るのだが、リーダーがやられた事でバフが切れてステータスが落ちていた彼等にとってその一瞬の戸惑いは致命的だった。

 

『はい隙あり《インパクト・エクスプローダー》!』

「オゴバァッ⁉︎」

 

 まず、ミカが幻影の拳を振り上げて空振りした【硬拳士】の横腹に【ギガース】を叩き込み、打撃によるダメージに付随して発生した衝撃波の炸裂によって内臓を破壊して致命傷を与えた。

 ちなみに彼は【救命のブローチ】を付けていたが《バーリアブレイカー》によって効果が弱められていた事と、そもそも強化されたステータスによってギリギリ死んでいなかったので発動せず放置しておくだけで死亡する状態になっていた。

 

「まあ、ダメージで動けない所をキチンと複数回殴って始末しておくけど」

「ぶびっ! ぶぺらっ⁉︎」

「くそぅっ! こうなったらお前だけでも!!!」

「あら、私が狙い? ……舐められたものね《ハウンドアロー》《爆裂之矢》!」

 

 しかし、もう一人の【剣聖】はミカが念入りにトドメを刺している隙に、後方で援護していたひめひめに狙いを変えて全速力で突っ込んで行った。それに対してひめひめも視線誘導の効果を付与した爆発矢を相手や地面に向けて放ち、爆風によりノックバックを狙いながら牽制する。

 ……だが、覚悟を決めたのか【剣聖】は強化された物理ステータス任せに爆風に耐えながら彼女に向けて突っ切って来たのだ。

 

「うおおおおおお! わからせぇぇぇぇ!!! 《ストーム・ストラッシュ》!!!」

「……この国ってどの変態も根性だけは立派よねぇ…… 」

 

 更に【剣聖】はスキルによる加速も合わせて遂に超音速を超える速度となり、放たれる無数の矢を掻い潜ってとうとうひめひめに必殺の斬撃を放っってみせた。

 

「……仕方ないから【ブローチ】はくれてあげる。《フラッシュ》」

「がっ! 目が……」

 

 だが、ひめひめは呆れた様子ながらもその斬撃を敢えて致命傷になる部分で受ける事で【救命のブローチ】を発動される事で凌ぎ、更にゼロ距離から相手の顔に向けて魔法による強烈な光を浴びせて怯ませつつ【盲目】の状態異常にしながら距離を取った。

 それでも諦めずにメスガキの気配を感知して剣を振るう【剣聖】だったが闇雲に振るわれる剣を回避するぐらい歴戦のひめひめにとっては訳無く、反撃として貫通力を強化した《閃光之矢》で手足や目を撃ち抜いて戦闘能力を確実に削いで行く。

 

「【ブローチ】を発動させない様に撃つのも面倒ね」

「声が……そっちか!」

「残念外れ……《シャッフル・ミラージュ》で声と気配の発生点を誤魔化したりもしてるのよね。……もう終わりだけど」

『……やっと追いついたよ《インパクト・スマッシャー》!!!』

「がひゅっ⁉︎」

 

 そんな風に【剣聖】がひめひめに翻弄されている間に【硬拳士】を始末し終えたミカが追い付いてしまい、最後には背後から振り下ろされた身代わりスキルすら減弱させる【ギガース】により【ブローチ】が発動する事すら無くミンチにされたのだった。

 

『ゴメンねひめひめさん、まさかそっちに行くとは。仲間を助けるか散々挑発した私を狙うかでこっちに来ると思ったんだけど』

「レジェンダリアの変態の根性は色々と無駄にアレだからね、気にしなくていいわよ。直ぐに仕留められなかった私にも非があるし、【ブローチ】はまた手に入れればいいわ。……疲れたでしょうけど、とりあえずアリマ達を迎えに行きましょう」

 

 そうして突発的に始まった戦闘を終わらせた彼女達は疲れた様な雰囲気を漂わせながらも、別働隊を血祭りに上げていたミュウとアリマを迎えに森の中を歩いて行ったのだった。




あとがき・各種設定解説

他称メスガキ達:戦闘は一方的だったが精神的にはちょっとげんなりした
・殲滅を終えた後はそのままクエストの続きでしばらくゴーレムを討伐したが、HENTAI達との戦いで疲れた事とボスが兄達に討伐されたと報告されたので早めに切り上げた模様。
・ちなみにひめひめが【ドラグリーフ】の防御障壁を使わなかったのは継戦の影響と先制攻撃によって蓄積していた光の量が少なかったからで、相手の攻撃を防ぎきれる強度に出来るかが不安だったから。

《ウェポン・デモリッシャー》:【戦棍姫】のスキル
・装備されている装備品に攻撃を加えた時に自身のSTR×スキルレベル×10%だけその装備品の強度(所謂END)を下げるアクティブスキルで、強度はゼロ以下にはならずクールタイムも長め。
・装備品に攻撃する必要があるのでメイスで攻撃を受け止めるなどの場合は効果は発動しない(作中では相手の武器を迎え撃つ形で攻撃を加える事で発動させた)

《戦棍強化》レベルEX:【戦棍姫】によるレベル上限解放
・装備している武器を強化する武器系ジョブには良くあるパッシブスキルで、これの場合はメイスの攻撃力と強度を+100%強化する。
・妹の場合、更に《戦棍鬼の怪腕》の効果で装備スキルにも効果を及ぼすので、装備品である【ギガース】の《バーリアブレイカー》や必殺スキルの効果も倍加している。

<メスガキわからせ隊>:リベンジ失敗
・今回リベンジを仕掛けたのはリーダーの<エンブリオ>の必殺スキルに『一定時間クランメンバーに対する指定した種類の状態異常無効化』が発現したので、前回やられたアリマの精神汚染に対抗出来ると考えてのものだった。
・更に拠点にしていた麗都に彼女達がやって来たので、戦術や戦力をキチンと準備してリベンジわからせを実行に移した……が、超級職と妹及び末妹という理不尽を完全には理解していなかったのが原因で返り討ちにあった。
・実際、幻術からの不意打ち状態異常や全体バフによる戦力強化、更には万が一に備えて別働隊を後方に待機させて初手での全滅を避けるなど結構工夫はしていた……が、それを踏み潰す理不尽があるのもまたデンドロであったとさ。


読了ありがとうございました。
わからせ隊の個人名は考えるのが面倒なので未描写(笑)まあ雑に処理されるモブだし良いでしょう(酷)感想・評価・誤字報告などはいつでも歓迎。


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討伐クエストside兄

前回のあらすじ:妹「PK達をわからせた!」末妹「なんか疲れましたけどね。精神的に」


 □<巨妖樹の森> 【高位従魔師(ハイ・テイマー)】レント・ウィステリア

 

 麗都南西部に位置する<巨妖樹の森>に現れたと言う【アフォレスト・マギロード・ゴーレム】及びそれが生み出したゴーレムの討伐依頼を受けた俺は、経験値稼ぎのクエストの続きも兼ねてティアモと三人娘……そんで何故かついて来たアマゾネス族長にして超級職(スペリオルジョブ)女帝(エンプレス)】レイソア氏とパーティーを組んでいた。

 ……いや何で? って俺も思うんだが『一応アマゾネスの危機だから私が自ら出陣するのは自然だろう? それに孫の成長ぶりも見たいし』と言って押し切られてしまった。

 

『『『《Poison Body》GOAAAAA!!!』』』

「【プランティング・ポイズンゴーレム】……あからさま毒持ちだし接触は危険か。クルエラン、やれ」

『GO!』

 

 まあ、今は戦闘中なので余計な考え事は後にするが……とりあえず近付いて来たあからさまに毒々しい色合いの液体を体から滲み出してるゴーレム三体には、金属故に腐食系以外の病毒が効かないクルエランを当てる。敵は三体だが【巨像職人(コロッサス・マイスター)】の《戦像強化》と【高位従魔師】の《魔物強化》でステータスが倍近くなってるし大丈夫だろう。

 

「ネリルは俺と一緒にクルエランを援護、ヴォルトはあっちで群れてる【プランティング・ウッドゴーレム】を一掃してくれ。《フリーズ・ジャベリン》」

「ふむ、了解したぞい《ロック・グレイヴ》」

『承知、雑魚の掃討ですね《サンダー・スマッシャー》!』

『『『『GOGAAAAAA⁉︎』』』』

 

 幸い相手は腐食系の攻撃は使ってこなかった様で大したダメージを受けていないクルエランを援護する為に俺が冷気の槍を【ポイズンゴーレム】の一体に打ち込んで凍結させ、残り二体にネリルが地面を操作して作り出した複数の石の杭が突き刺さる。

 更に別方向から来た多数の下級ゴーレムは攻撃範囲に優れたヴォルトの雷撃で消しとばされた。バフが乗った純竜級であるヴォルトの前では下級モンスターが幾ら集まっても大した敵じゃないし、得意とする雷属性魔法は制御が難しくてフレンドリーファイアが多いから前衛の支援には向かんしな。

 

「ほーら、バフを私自ら掛けてやったんだから頑張れよー」

「3人とも上級職に就けたんだし亜竜級のゴーレムぐらいは倒さないと」

「いやまだ就いたばかりでレベル低いんですけど!」

「攻撃が重いぃ! しかも硬いし!」

「コイツ亜竜級の中でも強い方じゃない? ……純竜級に近い気がする」

『GAAAAAAAA! 《Wood Strike》!!!』

 

 そして別の場所では亜竜級の【プランティング・ブラックゴーレム】とアマゾネス三人娘が、後ろでバフを掛けてるレイソア氏と偶に邪魔してくる下級ゴーレムを雑に斬り裂いて排除しているティアモの二人に見守られながら割と必死な様子で戦っていた。

 ……確かカチュアが【剛剣士(ストロング・ソードマン)】、エスカが【守護者(ガーディアン)】、シャニーが【大弓狩人(グレイト・ボウハンター)】に就けたと言っていたな。

 

『《Kinetic Regist》! GOA!』

「物理防御魔法⁉︎ こっち物理攻撃しか出来るヤツが居ないんだけど!」

「矢が通らない……」

「ど、どうすれば……⁉︎」

「《アマゾネス・ウォーマーチ》《アマゾネス・ウォーディフェンス》……ほれ、バフは掛けてやったから何とかなるだろ」

「アマゾネスは物理型が殆どだから物理耐性持ちに弱い……故にそう言った相手と相対した時の戦い方も学んでおく必要がある」

「「「ひ〜ん⁉︎」」」

 

 ……まあ、後ろの二人が見守っている間は三人娘も大丈夫だろう。上級職に就きたてで亜竜級上位レベルのモンスターと戦わせるのはかなりのスパルタだと思うが、以前の【グリムリープ】の一件で麗都の主力戦力が減ってしまっているから次代の戦力を出来るだけ早く育てたいと言っていたし。

 とりあえず彼女達が戦っている間に近づいて来る敵ゴーレム達をどうにかするか……って、ネリルから教わった探知技術と《レイライン・サーチ》の組み合わせを使ってみたら思ったよりもこっちに来てるゴーレムの数が多いな。

 

「下級モンスターレベルのゴーレム27、亜竜級レベルのゴーレム6……数が少し多いな。……済まんがそっちの指導はもう終わらせてほしい。“本命”が近いのかどうも敵の数が多い」

「ほう、成る程……やはり優秀だね。出来ればウチに欲しいもんだが。《瞬間装備》」

 

 そう言いながら恐らくは【ヒヒイロカネ】製であろう大型の斧槍(ハルバード)を取り出したレイソア氏は、そのまま大体俺よりも遥かに早い──()()()()()()()()()で【ブラックゴーレム】に接近して一瞬にして胸部のコア毎ゴーレムを両断してみせたのだった。

 ……分かってはいたがやっぱり超強いなあの人。俺でも辛うじて目で追えるぐらいの速度だったし、斬撃の鋭さから技量の凄まじさも伺える。『私が戦ったら一瞬で決着が付いてしまうし雑魚相手では出る気は無いよ』って最初に言ってたのは伊達じゃないな。

 

「ほら、ボサッとしてるんじゃないよ、どうやら大軍さんのお出ましみたいだからね。数は私が適度に減らしてやるから頑張りな」

「いや、私達さっきの戦闘でダメージが……」

「《魔法多重発動》《フィフスヒール》……とりあえずHPはこれで良いか」

「MP・SPは各々ポーションを使って。……数が多いから私も戦うし頑張って」

「「「……はーい……」」」

 

 そうしてお疲れ気味の三人娘を回復させた所で、俺達はぞろぞろとやって来たゴーレムを迎え撃つ事になったのだった……まあ、レイソア氏が半分近くを即座に殲滅してくれたお陰で楽に片付いたけどね! 

 

 

 ◇

 

 

「……やっと終わった……」

「あばー……」

「疲れた……」

「ふむ、ここまでゴーレムが多いと“本命”が近い感じかねぇ」

「とすると少し消耗し過ぎたかな。今の内に回復しておきたいけど……レント、周りに敵は?」

「探知した範囲にモンスター及び人間の反応は無いな。……ヴォルトやネリルの探知でも危険は無さそうだし、しばらく休むぐらいは何とかなるだろう」

 

 戦いが終わった後に一通り周辺を探知した俺がそう言うと、ティアモと三人娘は身体を休ませつつ減ったHPなどを回復させる為にポーションを煽った。ちなみにレイソア氏はアクティブスキルを一切使わず被弾もしなかったので回復は不要な様だ。

 ……とりあえずクルエランは結構ダメージを受けてるから《ゴーレム・リペア》で回復させて、ヴォルトにも【MP回復ポーション】与えておくか。ネリルはダメージ受けてない上にレジェンダリアなら《自然魔力吸収》のパッシブスキルで回復出来るだろうから問題ないな。

 

「しかし、レントは戦闘も魔法も回復もモンスター使役も出来るとは優秀だね。おそらく<エンブリオ>の効果で多数のジョブに就いているんだろうが、それらのスキルを十全に使えているのは本人の才覚故か。テイムモンスター達も粒ぞろいだしね」

「ありがとうございます。ヴォルト達に関しては巡り合わせが良かったので」

 

 ヴォルト達を回復させた後、ポーションと特典武具であるズボン【創像地衣 クルエラン・コア】の《レイライン・アブソーブ》でMPを回復させていたら唐突にレイソア氏に話し掛けられたので無難な回答をしておいた。

 ……もうアマゾネス恐怖症は治ってるけど、これまでも主にティアモとの関係について根掘り葉掘り聞かれたので少し彼女には苦手意識があるんだよなぁ。後、これまでデンドロで出会ったティアンの中ではリヒトさんと並んで強者オーラが凄いし。

 

「むむ、ちょっとしつこく聞き過ぎたか……それでティアモ、妾になるアプローチは上手く言っているのかい? こうして狩りに誘えるんだから悪い様にはなってないみたいだが……本命にはなれそうかね」

「とりあえず気軽に話せる友人ぐらいには仲良くなった。……後。正妻枠に入るのはひめひめさんの正妻力が高過ぎて絶対無理。今回のパーティーでも『その程度で私とレントの関係がどうこうなる事は無いから気にする事は無いわよ』と特に気負った様子も無く言われたし」

「幼い見かけによらず威風堂々とした正妻の貫禄があった」

「何があっても自分と彼の関係は変わらないと確信してる圧倒的な女の強さがあったよ!」

「実はレントさんが少女趣味なだけとか……」

「待て、俺は別にロリコンでは無いぞ。そもそもひめひめがロリなのはこの世界でだけだ」

 

 流石にレジェンダリアによく居るHENTAI(ロリショタ)と同列扱いは不本意なので、デンドロに於ける<マスター>のアバターの話を含めて詳しく事情を説明する羽目になった。クッソ精神的に疲れた。

 ……後、それを見てネリルがニヤニヤしてるのもちょっとイラッと来た。お前どんどん俗っぽくなってるよな……と、思っていたらネリルが唐突に何かに気が付いた様に顔を上げた。

 

「ふむ? ……マスター、どうやら本命が来た様じゃぞ?」

「何? 《レイライン・サーチ》……特に反応は無いが、何か偽装か隠蔽を行なっているのか?」

「うむ正解じゃな。相手は()()()()()()()()()()()()()()()上、自然魔力の操作で地脈の流れまで正確に擬態しているから《レイライン・サーチ》起点の探知では相性が悪いじゃろう。よく見れば通常の地脈と比べての違いが分かるんじゃが……何かこっちに奇襲を仕掛けようとしている様じゃし、先手を打って少しつついてみるか《ガイア・エンチャント》」

 

 そこまで言ったネリルはパチンと指を鳴らすと共に地面──そこにある地脈へと魔力を流し込んだ……すると、いきなり地面が大きく揺れだしたのだ。それを受けて姦しい話し合いを続けていたアマゾネス達も(三人娘は多少まごついていたが)すぐに戦闘態勢を取った。

 

「とりあえずいきなり行動するのはやめろ。……それで何をやったんだ?」

「地脈を介して隠れている相手に攻撃性の魔力を流し込んでみた。ちなみにゴーレムを倒した所為か向こうはこっちに気が付いているし、隠蔽を施した地属性魔法で先制攻撃をしようとして来ておったぞ」

「へぇ、その知恵と言い魔法技術と言い随分と優秀なエレメンタルだね。転生体だってのは伊達じゃないか」

 

 本当に説明とかで便利な設定だよね転生体エレメンタル。ネリルの実力に疑問を抱かれた時には“前世は上位のモンスターだった”とか言っておけば、勝手に向こうが『前世は上位エレメンタル』だったと勘違いして嘘をつかずに適当にボカして説明出来るから。

 まあ、超一流の使い手であるレイソア氏の目をどこまで誤魔化せているかは分からんが。多分こっちとの関係を悪化させる必要もないから、敢えて深く聞く必要も無いだろうって思われてるかな。

 ……と、そうしている間にも揺れはどんどん強まっていき、その揺れがピークに達した瞬間20メートル程離れた所にある地面が大爆発でもしたかの様に弾け飛び、数十メートルはある巨大なゴーレムへと姿を変えて立ち上がったのだ。

 

『……GUOOOOAAAAAAAAA!!!』

「おっと出て来たな。《遠視》《看破》……頭上に【アフォレスト・マギロード・ゴーレム】って表示が出てるし、看破したステータスにもそう書かれている」

「まさか森と同化していたとは。どうりで見つからない筈」

「いやデカ過ぎないですか⁉︎」

「あのぐらいなら可愛いものだろ?」

 

 まあ、動揺する三人娘の気持ちも分からんでもないが。【アフォレスト】の見た目は様々な木々が生い茂った大地が数十メートルの人型となっていると言うサイズ差的にもインパクトの強い外見だし。ステータスはHP・MPが三十万越えと非常に高く、STRとENDも一万近いと高い上にバフまで掛かってると相当なものだし。

 今まで戦って来た<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>達よりも単純なステータスや戦闘能力では上回りそうだな。サイズ差に関しては昔『友人』と似たような大きさの“怪獣”と戦った事があるから気にならないが。

 

「あの時と違って“変身”も“巨大化”も出来んが……まあ、今現在(デンドロ)の俺なら戦えない事は無いだろう」

「向こうもやる気満々みたい。こっちを見てる」

『GOOOOAAAAAA!!!』

「自分が制御を握ってる筈の地脈越しの攻撃にプライドを傷つけられたか? ……ハッ、貴様の技量が未熟なのが悪い」

 

 立ち上がってからこちら──ネリルの方を睨みつけていた【アフォレスト】だったが、そんな彼女の挑発に怒ったのか周辺の自然魔力を急速に吸収しながら頭部に周囲の光を集め始めた。

 

『GUOOOOO……』

「アレは【閃光術師(フラッシュマンサー)】の奥義《グリント・パイル》。しかも自然魔力の上乗せで威力を大幅に引き上げてるか」

「ちょ⁉︎ 早く逃げないと……!」

「いやアレは光魔法を発動寸前の状態で待機させて、発射時にだけ射角を調節するタイプになっておるな。下手に動くと移動先を光速で撃ち抜かれるぞ」

 

 確かにネリルの言う通り【アフォレスト】は光球を作り出してこっちを睨みつけている。発動に時間がかかり発射タイミングや方向も読まれやすい光属性魔法を運用する技術の一つと以前ネリル自身が言っていたな。かなり高度な技術らしいがそんな事が出来るレベルの技量は持っていると言う事か。

 

「それじゃあ避けられないの⁉︎」

「いや、向こうのAGIを上回っていれば避けられん事は無いだろうが……ネリル、今回挑発したのはお前なんだしお前が防げ」

「まあ良いじゃろう」

 

 このままバラバラに動き回ればAGI的に俺とティアモとレイソア氏は避けられるだろうが三人娘が怪しいしな。ここは責任を持ってネリルに任せるか。

 

「どうせネリルが防ぐからそこまで焦らなくていいぞ。危なそうならクルエランの後ろにでも隠れてればいいから」

「「「は、はい!」」」

「随分信頼してるんだね。……一応、発射するタイミングを見極めて動けば避けられるかな」

「いや、光球を明滅させてタイミングを図られにくくもしているな……まあ撃たれても私なら問題は無いが、ここはお手並み拝見と行くかね」

『GUUUU……《Glint Pile》!!!』

 

 念の為に防御体勢を取らせたクルエランの後ろに三人娘を待機させた直後、不敵な笑みを浮かべて前に出たネリルに向かって【アフォレスト】が極太の輝く杭を光速で打ち出し……。

 

「《シャイン・リフレクション》……発射タイミングが丸わかりじゃ」

『GUAAAAAAA⁉︎』

 

 その直前にネリルによって展開された光属性反射魔法障壁で光の杭はそっくりそのまま跳ね返され【アフォレスト】の頭部を撃ち貫いた……おそらく向こうが《グリント・パイル》を使って来ると分かった時点で、こちらも反射魔法を発動寸前の状態で待機させておいたんだろう。

 

「自分を狙わせれば反射角の調節も簡単だろうしな。……さて、顔面を撃ち抜いても生きてる……と言うか再生までしてるが、やっぱゴーレムだしコアを破壊しないとダメか」

「でも流石にあれだけのダメージを与えたのならしばらくは動けないだろうし今の内に『《Purge Magi Trent》!』……と思ったけどそうでも無いみたい」

 

 ダメージを受けて動きが止まった【アフォレスト】だったが、その身体に生えた木々を切り離して木製ゴーレムへと作り変えて自身の守りに付けたのだ。回復までの時間を稼ぐ気か。

 

「配下を増やして守りを固めて来たか。今の内に接近してコアを砕こうと思ったけど……」

「まあパージ系スキルは基本奥の手じゃからアレも相当に追い詰められているだろうよ。ダメージでしばらく動けないのは事実じゃろうし」

「とは言え、回復されれば面倒な事になるだろうから早めに倒さねば」

「ま、今回は私も戦うからそこまで焦る事は無いさ。……どうもアレはゴーレム系モンスターにしてはかなり知恵と技量に長けてるみたいだし、このまま放置しておいたら麗都に被害が出るかもしれないしねぇ。アマゾネスの長としての仕事をさせて貰おうか」

 

 そうして先程までの観戦気分と違い完全に自分達への脅威となる対象を打ち倒すと決めて臨戦体勢になったレイソア氏を筆頭として、俺たちはこのクエストのボスモンスターである【アフォレスト・マギロード・ゴーレム】へと戦いを挑む事になったのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:結構絆されてる
・最近はテイマー的に戦い方も覚え始めて、テイマー兼魔法使い兼騎士みたいな感じで戦い方が広まってどんどん隙がなくなっている。

ネリル:珍しく前に出た
・尚、その理由は【アフォレスト】がガンつけて来たり自然魔力操作でマウント取って来てムカついたからという雑な理由。

レイソア氏:孫の恋愛模様が気になったのでノリで参戦
・今回使用したハルバードは【エンプレス・ハルバード】と言う彼女専用に作られたヒヒイロカネ製の逸品で、非常に頑丈な上に自動再生機能もあり【女帝】の“とあるスキル”によって超ステータスを得ている彼女が振るっても壊れない。
・更にSPを消費する事で斧部分ではEND減少・槍部分では防御スキル貫通・スパイク部分では装備品破壊の効果が得られる、使い勝手の良い普段使い用のメイン武装。
・ちなみに【女帝】のジョブは女戦士系統故にステータスは超級職の中では低く、自身及び配下の女性に対するバフ効果に特化しており超ステータスはそれによるもの……詳しくは次回。

三人娘:スパルタ指導でひーこらしてる
・これは3人ともレベル500までジョブに付ける逸材の為に期待されているからで、【女帝】的にはレベリング以外にも技術や度胸を身に付かせようとしての指導。

【アフォレスト・マギロード・ゴーレム】:上位純竜級ボスモンスター
・同種のモンスターと比べると知性や魔法技術に長けた個体であり、自分は姿を消しながら徐々に森を自身の領域に変えつつ邪魔なモンスターなどを配下のゴーレムで排除したりしていた。
・ただ、あくまでゴーレムとしては知性が高いレベルなので、ネリルの挑発にあっさり引っかかって最大威力の光属性魔法を使ったりしてしまっている(地属性や植物操作で攻めた方がカウンターされ難く有効だった)


読了ありがとうございました。
あけましておめでとうございます。今年もぼちぼち各作品を書いていこうと思うのでよろしくお願いします。


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【女帝】の力

前回のあらすじ:兄「なんかデカイのが来たな。慣れてるけど」ネリル「アイツガンつけて来てムカつく」


 □<巨妖樹の森>

 

『GOGOGO……《Boosted Trento Strength》《Boosted Trento Endurance》《Boosted Trento Agility》!!!』

『『『『GOOOOOOO!!!』』』』

 

 自身の攻撃を反射されて暫く動きが鈍る程のダメージを受けた【アフォレスト・マギロード・ゴーレム】だったが、即座に《甲殻剥離(パージ)魔樹霊(マギトレント)》によって配下である3メテル程の【プランティング・マギゴーレム】を数十体生成。更にソレ等にバフを掛けて亜竜級上位レベルまで物理ステータスを引き上げて、自身を脅かす敵を排除する為に進撃させた。

 また、周囲の自然魔力を吸収する《マギ・アブソーブ》で消費したMPを、周囲の木々から生命力を吸収する《ジオ・ドレイン》で減少したHPを回復させるなど、いきなりの大ダメージに対しても間違いなくその状況に於いて“最善の行動”を取って敵を迎え撃とうとしていた。

 

「流石に完全回復されると少し面倒な事になるねぇ。……仕方ない、ボスの【アフォレスト】は私が倒すから、それまで配下のゴーレムの足止めを頼むよ」

「ん、了解」

「分かりました」

 

 ……ただしそれは、このレジェンダリアに置いて()()()()()()()()である【女帝(エンプレス)】レイソア・ウル・ヒュポレを敵にしてはいなければの話であったが。

 彼女はティアモとレント(後三人娘)に【プランティング・マギゴーレム】の足止めを頼んだ後、瞬時にゴーレムの群れの眼前に音速の五倍以上の速度で移動して手に持った【エンプレス・ハルバード】を振りかぶった。

 

「とりあえず道を開けて貰おうかね……《ブラスト・アックス》!!!」

『『『GOAAAA⁉︎』』』

 

 そのまま五万を超えるSTRを基準として衝撃波を巻き起こすアクティブスキルで10体程のゴーレムを薙ぎ払いながら粉々にし、その直後に瞬時に跳躍しつつブーツ型の伝説級特典武具【硬空翔靴 マテリアル・ハイ】のスキルによって空中に大気を固体化した足場を作り上げ、それを使って空を駆ける事で一気に【アフォレスト】へと接近していった。

 ……STR・AGIと共に五万以上と言う超級職(スペリオルジョブ)としても絶大なステータスを発揮しているレイソアであるが、そのメインジョブである【女帝】のステータス自体は同じ前衛系超級職と比べても非常に低く、長年【女帝】としてアマゾネスの長を務めて合計レベル1000を優に超える彼女でもHP十万、SP五万、STR・END・AGI・DEXが五千弱と言った所である。

 

『GO⁉︎ 《High Kinetic Regist》!!!』

「物理防御魔法か……だが緩い。《ピアース・スピアー》!」

 

 ……にも関わらず、彼女がハルバードによる突きでENDが一万を優に超え、更に防御魔法まで使っている【アフォレスト】を容易く穿って風穴を開けているのは、【女帝】が有する『自身の女戦士系統のスキル効果を配下の女戦士系統のジョブに就いている女性全てに適応させる』パッシブスキル《女帝の威光(エンプレス・マジェスティ)》の効果によるものだ。

 その効果を具体的に言うと女戦士系統のパーティー対象の全体バフを配下の女性全てに掛かり、パーティー内の女性の数に応じた自己強化のパッシブスキルを配下の女性全ての数に応じて反映させるといったもので、彼女の圧倒的なステータスも【女戦士(アマゾネス)】のパーティー内の女性人数に応じた自己強化スキル《アマゾネスの闘気》の効果をこれにより大きく引き上げる事によって成り立っている。

 

『GAAAAAA! 《Stone Bullet》!!!』

「おっと、自分の肉体の一部を飛ばして来たか。……何が仕込まれているか分からんから普通に弾くし避けるが」

 

 現在レイソアの配下であるアマゾネスの数は万を優に超えており、元の【女帝】のステータスが低かろうがスキルレベル×対象人数%だけ物理ステータスを強化するパッシブスキル《アマゾネスの闘気》の強化倍率が跳ね上がっている為にボスモンスターの圧倒すら可能なのだ。

 ただし《女帝の威光》の効果範囲は配下が増えれば増える程に無尽蔵で拡大していく訳では無くスキルレベルに応じての限界があり、アクティブスキルの効果範囲はスキルレベル×500メテル内にいる配下のみ、パッシブスキルの対象人数も最大スキルレベル×10名までとなっている。

 

「そら、吹き飛べ《アックス・ウェイブ》!」

『GAAAAAAA!!?』

 

 最も長年【女帝】を務めて来た彼女のスキルレベルは当然最大値の10であり、故にアクティブスキルの有効射程は5キロ。パッシブスキルの最大強化値はそれぞれのスキルレベルが超級職となった事により10となっているので10×100で+1000%。

 ……つまり現在の彼女のステータスはHP100万、SP 50万、STR・END・AGI・DEXがそれぞれ5万という規格外な値となっており、その一撃は数十メートルあるゴーレムを単なる衝撃波を発生させるスキルで容易く吹き飛ばす程になっているので充分過ぎるのだが。

 

『GIGIGIGIGI! ……《Light Ray》!!!』

「チッ、光属性魔法による弾幕か。一発一発は下位魔法の様だから威力は大した事は無いが……」

 

 その圧倒的なステータスにより後の個人戦闘型<超級(スペリオル)>にも迫る戦闘能力を持つレイソアであるが、膨大な質量と防御魔法と自動回復、更に空を駆ける彼女に対して弾幕の如く大量の石弾やレーザーを撃ち込んでくる【アフォレスト】相手にはやや手間取っていた。

 ……勿論、このまま戦い続ければ普通に撃破は出来るだろうし、例えば彼女が切り札として有する神話級特典武具【殲滅光斧 ガンマレイザー】を使えば一瞬で【アフォレスト】を()()させる事が出来るだろうが……。

 

(【ガンマレイザー】は周辺環境への被害がデカすぎるから使えないのよね。この<巨妖樹の森>は特殊な素材が群生してる麗都の産業に重要な場所だから“今後十年草木一本生えない荒地”にする訳にも行かないし……ま、配下ゴーレムとの戦いは下のティアモ達の実戦経験には丁度いいだろうし、他の攻撃用特典武具も使わず適当な時間を掛けて倒しましょうか)

 

 そんな風にレイソアは地上で戦うティアモやレント達の様子を見て今後の行動を決めた後【アフォレスト】の攻撃を下に行かせない様に気を付けつつ、相手が放つ弾幕を【マテリアル・ハイ】のよる空中機動で回避しながら再びハルバードを構えて突っ込んで行ったのだった。

 

 

 ◇

 

 

『『『GOGOGO、GOGOGO……』』』

「なんかめっちゃ来てますけど⁉︎」

「とりあえず先制攻撃で数を減らすか……《魔法射程延長》《魔法範囲拡大》《ホワイト・フィールド》!」

「了解了解……《アースイーター》」

『承知しました……《サンダー・スマッシャー》!』

 

 地上では進軍してくる30体強の【プランティング・マギゴーレム】の軍勢に対して、レントが射程距離と効果範囲を増幅させた極低温の冷気で、ネリルが地面に出来た亀裂にゴーレムを放り込んでから土砂で砕く事で、ヴォルトが角から放たれる雷の砲撃による先制攻撃をお見舞いしていた。

 ……だが、ゴーレムは全て【アフォレスト】からのバフを受けている上、甲殻剥離(パージ)系スキルによって作られた謂わば【アフォレスト】の分体であるが故に劣化版とは言え本体のスキルも運用可能であり、攻撃に対する防御魔法などを行使して被害を抑えていた。

 

「全然矢が効いている気配が無いんだけど……」

「ふむ防御魔法が使えるなら纏めて薙ぎ払うのは難しいか……ネリル、防御」

「《ハイ・シャイン・レジスト・ウォール》っと」

『『『《Light Ray》』』』

 

 そして当然本体の使う攻撃魔法も分体は使用可能であり、反撃として何体かのゴーレムが光属性魔法によるレーザーを撃ち込む事すらして来た……最も発生までに時間のかかる光属性魔法だったので、発射される前にネリルが対光属性用の防御障壁を展開した事で全て防がれたが。

 とは言え、上級職の奥義レベルの攻撃にも耐えられる上に魔法による遠距離攻撃も可能なゴーレム軍団が迫り来る光景はかなりの威圧感を持っており、それを見たアマゾネス三人娘は少し涙目になっていたぐらいだが。

 

「それでどうするのレント。向こうの婆様の戦いはまだ掛かりそうだし、流石に数十体のバフ付き亜竜級ゴーレムを纏めて相手取るのはキツイけど」

「別に正面から挑む必要も無いだろう、こっちの目的は足止めだし連中はバフ込みでもAGIはそこまで高く無いからな。引き気味に戦えば向こうの決着が付くまで持ち堪えるぐらいは出来るだろうさ。……それに危なくなればレイソア氏は瞬時に勝負を決めるだろうし」

「流石はレント、気付いてたか。……ウチの婆様があの程度のモンスターに苦戦するとかあり得ないから。どうせ『数で負けている状況での足止めの経験が積めるだろう』とか思ってるに違いない」

「「「えぇ……」」」

 

 まあ、経験から来る観察眼に長けているレントと身内故に大体の思考を読めるティアモはレイソアの目的を大凡把握していたので、さして慌てる事なく遅滞戦術からの敵戦力の減少に舵を切った。

 基本的には逃げ回りつつゴーレムからの遠距離魔法攻撃をネリルが防ぎつつレントとヴォルトが遠距離攻撃、近づかれたらクルエランとティアモが主軸になって一体づつ倒しながら切り抜けて再び離脱。アマゾネス三人娘はその隙を埋めるフォロー要員といった所である。

 

『『『《Light Ray》』』』

『『『《Earth Hand》』』』

「ウォールは継続しつつ、地属性魔法は《アース・コントロール》で干渉して相殺……しかし随分と機械的な駆動じゃな。おそらくパージで作ったゴーレムは【アフォレスト】がセミオートで動かす使用なのじゃろうが」

「消し飛べ《クリムゾン・スフィア》……これまでの自立起動型のゴーレムと比べると行動パターンが単純に過ぎるな。おそらく本体がリアルタイムで指示する事が前提なんだろうが……そんな余裕は無いらしい」

 

 そう言ったレントが見た先には空中を超高速で移動しながら【アフォレスト】をめった斬りにしているレイソアの姿があった。【アフォレスト】の方も防御魔法やレーザーで抵抗しているが、反撃は全て見切られた上で圧倒的なAGI差により回避され、防御魔法も防御スキル減衰の効果もある武器と高いSTRの前では焼け石に水の様だった。

 それはともかく、お陰で敵や状況に応じて【アフォレスト】の指示で戦闘パターンを変えて連携する事が前提のゴーレム達は『敵を追い詰めて攻撃する』という戦闘パターンのまま切り替える事が出来ず、それ故にパターンを読んで遅滞戦闘に徹している彼等を倒しきる事は出来なかった。

 

『『『GIGIGIGIGI……《Physical Boost》!』』』

「《タイタン・ブレイク》! ……一体一体はそこまで強くないんだけど、囲まれると厄介かな」

『GOOOO!!!』

「あ、ありがとうございます、クルエランさん!」

 

 自己強化魔法を使った上で近付いて接近戦を挑んで来るゴーレムも何体かいたが、同じくネリルが片手間で施した強化魔法を受けたクルエランが壁となって足止めしつつ、ティアモが【剛竜剣】を振るって両断していく。

 また、アマゾネス三人娘も【女帝】やネリルからのバフで強化された上で3人がかりで一体のゴーレムを攻撃する形で戦果を挙げているが、やはりステータスと技術がまだ追い付いていない所為か壁役のエスカがゴーレムの打撃を受け切れずに転倒してしまい窮地に陥ってしまった。

 

「キャッ⁉︎ 不味っ⁉︎」

「エスカッ⁉︎」

『GOOOO《Wood Stri《我が命を捧げ破壊の一投を(サクリファイス・バスタージャベリン)》!!!」GOGAAAA⁉︎』

 

 だが、ゴーレムの拳が彼女に振り下ろされる直前、横合いから超音速で飛来した()()()()()()がゴーレムのコアを貫いて粉々に粉砕した……その白い槍──アームズ系<エンブリオ>【ロンギヌス】は直ぐに持ち主の手元に戻って行き、当然その先にはひめひめのパーティーメンバーであるクラリスと、彼女と今回のクエストを一緒に受けていたクロード・でぃふぇ〜んど・シズカの姿があった。

 彼等もこの森でのゴーレム討伐クエストに参加しており、偶々近くに居た所で巨大な【アフォレスト】を見てここまでやって来たのだ。

 

「おーい、レントくーん! 大丈夫ー!」

「明らかにボスモンだと分かるデカいヤツがいたから来てみたら知り合いが戦ってた……一応、聞いておくが援軍はいるか? 横入りにはならないよな?」

「いや、正直言って数が多くて面倒だったから援軍は大歓迎だぞ」

「じゃあとりあえず向かってくるゴーレムに壁を作って分断するか……《フリーダム・ランパード》!」

 

 そうでぃふぇ〜んどが手を翳した瞬間、ゴーレムの軍勢を大体半分ぐらいに分断する様に城壁型<エンブリオ>【パラスアテナ】が展開される。そうして後ろのゴーレムを足止めしている隙に彼等は前方に居たゴーレムへと集中攻撃を仕掛けて行く。

 

「とりあえず動きは封じるぞ……《足引きの呪縛域(ディーセライレーション・ゾーン)》《フリーズ・ジャベリン》!」

「よっしゃ今の内に攻撃……したいけど今日の【ロンギヌス】のスキルは全部使い切っちゃったんだよね。なので凍った相手に通常攻撃します《スラスト》!」

「《フリーダム・ランパード》……《フリーダム・ランパード》……《フリーダム・ランパード》……これでしばらくは出てこれないな。《サジタリアス・アーク》!」

「それじゃあ壁の中にアンデッドを入れましょうね〜。《御霊顕現・亡霊召喚》【ギロチンスタッグ・スペクター】《ポルターガイスト》《怨念憎与》」

 

 クロードがAGIデバフと凍結で動きを止めたゴーレムに対してクラリスが槍を突き込んで砕き、壁の向こうにいるゴーレムに対してはでぃふぇ〜んどが更なる追加の城壁を展開して取り囲み、更に空いている上から【曲射弓手(インダイレクト・アーチャー)】の奥義による弧を描いて放たれる弓矢の一撃が襲い掛かる。

 加えてシズカが召喚した物体の切断に特化した亜竜級モンスター【ギロチン・スタッグビートル】の霊体アンデッド仕様を召喚し、更に物理干渉と【祟神(ザ・ヴェンジェンス)】のスキルでの怨念付与による強化を付与して壁の中にいるゴーレムへの攻撃を命じた。

 

「ふむふむ、物質破壊に長けた【ギロチンスタッグ】ならゴーレム相手にもいい感じに戦え……って、光属性魔法まで使うのね。流石に少し不利だし自爆させましょうか。《デッドリー・エクスプロジブ》」

「シズカさん、前衛ゴーレムがレーザーでそっちを狙ってますので下がってください。《グランドクロス》!」

「あらありがと。コイツら作られたばかりで“業”を溜め込んでないから【祟神】の力はイマイチ使い難いから、今までと同じで溜め込んだ怨念を使うしかないわ。《御霊顕現・亡霊召喚》【ブラッディベア・スペクター】《怨念憎与》」

「それでも十分に強いじゃないですか。後ネリルはシズカさんの防御も頼む。《セイクリッド・スラッシュ》!」

「ホントに精霊使いが荒いのう……《ハイ・シャイン・レジスト・ウォール》」

 

 その後もシズカは次々と霊体系アンデッドを壁の中へと送り込み、倒されそうになったら怨念を物理的破壊力に変換させて自爆させるを繰り返してドンドンゴーレムの数を減らして行く。彼女は怨念操作に長けた【祟神】に就いた事で《斯の身は怨嗟の受け皿也や》に怨念を蓄積しやすくなったので、その使用にも大分遠慮が無くなっている。

 まあ、本体が脆い事は一切変わっていないが、そこはレントが近付くゴーレムを排除したりネリルが追加で彼女の周りに防御障壁を展開する事でカバーしていた。

 

『GOAAAA!!!』

「《ドラゴン・クロウ》! ……カチュアは足の関節を狙って! シャニーは胸のコアを! エスカはフォロー!」

「了解! 《ディバイド・ブレード》!」

「《カバームーブ》! 《シールドパリィ》!」

「コアは……そこっ! 《ピンポイント・アロー》!」

 

 援軍が来た事によって一人で複数のゴーレムを相手取る必要がなくなり余裕が出来たティアモは三人娘と合流、四人がかりで一体のゴーレムを集中攻撃して敵の数を減らす戦い方にシフトしていた。今もティアモが胸部を斬り裂いてコアを露出させ、カチュアとエスカが体勢を崩し、そこにシャニーが急所に当たった時に威力を大幅に上昇させる一射でコアを撃ち抜いて撃破していた。

 ……そうした彼等の奮闘もあり30体以上居たはずのゴーレムは次々と打ち倒されていき、やがて最後の一体をレントが《クリムゾン・スフィア》で焼き払った事で地上の戦闘は終了したのだった。

 

「よし、これでゴーレムは全部倒せたよな。次はようやくボスゴーレムの相手だ……誰か戦ってるみたいだけどまずは横入りにならない様に……」」

「……あー、悪いがクロード。多分俺達が出るまでもなく終わるぞ」

「こっちが片付いた以上は婆様が加減をする必要も無くなるし」

「……なんだもう片付いたのかい。じゃあコッチも終わらせるか《瞬間装備》」

 

 そんな地上の様子を見たレイソアは武器を【エンプレス・ハルバード】から一本の黒い槍──古代伝説級特典武具【剋死无槍 デモンズトレード】へと切り替えた。

 更に“次の一撃のみダメージを消費したHP分の固定ダメージに変更する”《相剋槍砕(デモンズトレード)》の装備スキルに()()()()H()P()を注ぎ込み、既に全身がボロボロになってまともに動けない【アフォレスト】のコアがある胸部に向けて突っ込んだ。

 

「じゃあな、ウチの子達の実戦経験には丁度いい相手だったよ」

『GU、GAaAAaAaAAAA!!!』

 

 そうして彼女が【アフォレスト】の胸部に槍を突き刺した瞬間、それに込められたHPが五十万の固定ダメージへと変化して数十メートルの巨体を誇るゴーレムの肉体の数割を消し飛ばし、その範囲内にあったコアも消滅した事で【アフォレスト】は撃破された。

 

「……えぇ……数十メートルのゴーレムを一人で倒すとかどんだけー……」

「アマゾネスの族長である超級職の人だってよ。……やはり超級職は色々と規格外だな」

「ティアンのヤバい組はホントヤバいわー(小並感)」

 

 ……そんな<マスター>達の驚嘆と呆れの声を最後に<巨妖樹の森>で起こったゴーレム騒動と、それらの討伐クエストは終わりを告げたのであった。




あとがき・各種設定解説

【女帝】:女戦士系統超級職
・基本的に女戦士系統の『味方女性を基準としたバフ』をそのままスケールアップして戦う超級職で、配下の女性を率いながらも自らも最前線に立つ“アマゾネス”の在り方を象徴するジョブ。
・スキル特化型のジョブでありステータスは前衛系超級職としては非常に低いが、本編であった通り配下の女性さえいれば《女帝の威光》によって自己強化能力を大幅に引き上げるので問題にはならない。
・スキルは奥義含めて三つあり全てがパッシブスキルで、スキルの適応範囲を拡大する《女帝の威光》と、それによるアクティブスキルの効果範囲拡大に際した消費SP増加を配下の数に比して軽減する《女帝の号令(エンプレス・オーダー)》、後は奥義が一つと行った具合。
・奥義含めて配下の【女戦士】ジョブに就いた女性がいなければ一切機能しない割とピーキーなジョブだが、レジェンダリアの一部族の長として万を超えるアマゾネスを率いているレイソア始めとした歴代アマゾネス族長にとってはデメリットにならない。

レイソア:レジェンダリアでも最強格の個人戦闘型
・伝説級特典武具【硬空翔靴 マテリアル・ハイ】の装備スキル名は《エアブロック》と言い、SP消費で空気を短時間だけ固体化・固定させるもので足場以外にも防壁として使える。
・だが、空気を伝説級金属相当の個体へ変換させて自在に操る元の<UBM>【硬空気精 マテリアル・ハイ】と比べれば強度・自由度共に劣る上、そもそも自分のENDの方が硬いので専ら空中移動用の足場として使われている。
・長年【女帝】をやっているので本編で挙げた以外にもいくつか特典武具を保持しており、更にレジェンダリアの魔法技術で作られた最高位の防具でステータスとスキルで防げない攻撃魔法や呪術などへの対策も取っている。

《怨念憎与》:【祟神】のスキル
・人・物などあらゆるものに怨念を付加する【祟神】の怨念操作系基本スキルで、呪術師や死霊術師系統にも似たようなスキルはあるがそれらよりも自由度が高い。
・これ単体よりも他のスキルと組み合わせて保持的に使うタイプのスキルで、今回シズカは【怨霊術師】の怨念バフスキルを組み合わせて【ギロチンスタッグ】のSTRと攻撃力を重点的に強化したりしていた。
・ちなみに《デッドリー・エクスプロジブ》はこのスキルとの組み合わせを前提とし【高位霊術師】の奥義《デッドリー・エクスプロード》を模して作り上げたオリジナルスキルで、あちらと比べて怨念の一部のみを爆破するなど応用性が高い仕様。


読了ありがとうございました。
【女帝】の設定をようやく開示。奥義に関しては一応条件付きパッシブスキルとだけ。条件が面倒過ぎるので本人も余り使いたがらない代物です。


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掲示板回:限定イベントと……

前回のあらすじ?:妹「そもそも前回なにやったっけ? なんか数ヶ月ぐらいデンドロから離れてた気がするからよく覚えてないな」兄「何を言ってるんだ。ほぼ毎日ログインしてたじゃないか」末妹「そうですよ姉様」妹「まあそうなんだけどさ」


 □◾️地球 とある掲示板

 

 

 ◇◇◇

 

 

【招待状?】<Infinite Dendrogram>イベント情報スレpart7【限定イベント?】

1:名無しの空振術師[sage]:2043/11/11(水)

このスレは<Infinite Dendrogram>のイベントに関する情報を書き込むスレです

イベント内容・イベントモンスター・イベント交換アイテムの質問などご自由に

荒らしはスルー推奨

 

 

2:名無しの破砕者[sage]:2043/11/11(水)

建て乙

 

 

3:名無しの抜刀剣士[sage]:2043/11/11(水)

おつかれです

 

 

4:名無しの猛毒狩人[sage]:2043/11/11(水)

それでハロウィン終わった後に新イベの情報が入ったとか聞いたけど

 

 

5:名無しの呪槍士[sage]:2043/11/11(水)

意見メールに対して全て『仕様です』としか言わない運営にしては

イベントのサイクルが早いな

 

 

6:名無しの剛弓士[sage]:2043/11/11(水)

それより情報はよ

 

 

7:名無しの白氷術師[sage]:2043/11/11(水)

>>6 うむ、先日パーティーでボスモンスターを倒したらこんなアイテムが手に入ったんだ

 

【<バトルロイヤル>参加券】

 運営主催の特別イベント、<バトルロイヤル>への参加券。

 この参加券を所有している者がログインしていた場合、十一月15日の〇〇時(“プレイヤー出身地”時間)に専用のイベントエリアに転送される。

 この参加券は『獲得プレイヤー名』のみ使用可能。

 

 

8:名無しの空振術師[sage]:2043/11/11(水)

ふーん、アイテムゲットした人限定のイベントって感じかな

 

 

9:名無しの剣聖[sage]:2043/11/11(水)

うらやまC!

 

 

10:名無しの破砕者[sage]:2043/11/11(水)

YO☆KO☆SE!!!

 

 

11:名無しの赤龍道士[sage]:2043/11/11(水)

ちゃんと個人情報は伏せてんのな

 

 

12:名無しの白氷術師[sage]:2043/11/11(水)

>>10 獲得した者しか使えず譲渡も出来ない仕様だったから無理

盗難系スキルでも奪取不可能な事は確認している

 

>>11 流石に掲示板に個人情報載せるのはNGなのでアイテム表示は一部変更してる

 

 

13:名無しの抜刀術士[sage]:2043/11/11(水)

イベント名がバトルロイヤルという事は呼び出された<マスター>同士で戦う感じでしょうか

僕も手に入れたのですがそれなら面白そうです

 

 

14:名無しの高位操縦士[sage]:2043/11/11(水)

これから皆さんには殺し合いをしてもらいます

 

 

15:名無しの猛毒狩人[sage]:2043/11/11(水)

この形式だと他にも参加券ゲットしたヤツはいそうだけど持ってる人挙手ー

 

 

16:名無しの雷忍[sage]:2043/11/11(水)

 

 

17:名無しの大魔弓士[sage]:2043/11/11(水)

 

 

18:名無しの戦車操縦士[sage]:2043/11/11(水)

 

 

19:名無しの白氷術師[sage]:2043/11/11(水)

結構いるな

それとジョブを見るにおそらく全ての<マスター>からランダムで当たってる感じか

 

 

20:名無しの抜刀術士[sage]:2043/11/11(水)

世界中から<マスター>が集まって戦い合うイベントですか

実に面白そうですねこの参加券

 

 

21:名無しの剛槍武者[sage]:2043/11/11(水)

成る程、つまりは他の国の強者と戦える訳だな! 実に楽しみだ!

 

 

22:名無しの雷忍[sage]:2043/11/11(水)

腕がなるわね!

 

 

23:名無しの空振術師[sage]:2043/11/11(水)

うーんこのまるで水を得た魚のような頭天地

 

 

24:名無しの戦車操縦士[sage]:2043/11/11(水)

しかし思ったんだがこのチケット戦闘出来ない<マスター>に当たったらどうするんだろうな

 

 

25:名無しの呪槍士[sage]:2043/11/11(水)

>>24 ボスモンスター倒したマスターに当たるらしいから

自動的に参加者はそれなりの実力者になるんじゃないか

 

 

26:名無しの赤龍道士[sage]:2043/11/11(水)

ボスモンスター倒したメンバーに生産職がいるケースもゼロじゃないだろうが

参加券のドロップ率的には考慮しなくてもいい確率じゃねぇ?

 

 

27:名無しの戦車操縦士[sage]:2043/11/11(水)

>>25 いや、俺の参加券は十万リルでガチャ回したら出てきたんだけど

 

 

28:名無しの高位操縦士[sage]:2043/11/11(水)

なんだと⁉︎ これはやはりガチャを回さねば!

 

 

29:名無しの白氷術師[sage]:2043/11/11(水)

>>28 やめておけ、その先は地獄だぞ

 

 

30:名無しの剣聖[sage]:2043/11/11(水)

じゃあやっぱり参加者の戦闘能力にはバラツキがありそうなのか?

 

 

31:名無しの大魔弓士[sage]:2043/11/11(水)

多分参加者はある程度運営が調整してるとは思うんだけどねー

 

 

32:名無しの破砕者[sage]:2043/11/11(水)

まあ弱い者がリンチに合うイベントとかつまらんだろうからな

 

 

33:名無しの剛弓士[sage]:2043/11/11(水)

参加者の戦闘能力に差は無いとは言わないけど

 

 

34:名無しの空振術師[sage]:2043/11/11(水)

デンドロが始まってもう四カ月、内部時間だと一年ぐらいだから結構差は出来てそう

 

 

35:名無しの高位陰陽師[sage]:2043/11/11(水)

やっぱり初期組が有利なのか

 

 

36:名無しの雷忍[sage]:2043/11/11(水)

ヤバイヤツは始めたばかりでもヤバイですわよ、リアルスキルとか

 

 

37:名無しの白氷術師[sage]:2043/11/11(水)

>>31 もしそうなら世界各地の有名マスターが集まって戦い合うイベントになるのか

気を引き締めて行かなければ

 

 

38:名無しの大魔弓士[sage]:2043/11/11(水)

まあ<マスター>だけのイベントなら気楽に行けるでしょ

……いつものティアンを巻き込む突発イベントより

 

 

39:名無しの戦車操縦士[sage]:2043/11/11(水)

周りが全員ぶっ○しても問題ないマスターだしな

 

 

40:名無しの呪槍士[sage]:2043/11/11(水)

ううむ、今からボスモンスター狩りをすれば参加券が手に入るだろうか

 

 

41:名無しの高位操縦士[sage]:2043/11/11(水)

これから十万リル十連ガチャやってくる

 

 

42:名無しの猛毒狩人[sage]:2043/11/11(水)

オイオイ、死んだわアイツ

 

 

43:名無しの赤龍道士[sage]:2043/11/11(水)

まあ手に入ったら運が良かったぐらいに思っておけばいいだろうな

 

 

44:名無しの抜刀術士[sage]:2043/11/11(水)

では今から他の参加者の首を落とす準備をしておきましょう

 

 

45:名無しの大魔弓士[sage]:2043/11/11(水)

>>44 やだこの子怖い

 

 

46:名無しの剛槍武者[sage]:2043/11/11(水)

天地では挨拶の様なものだからな

 

 

47:名無しの空振術師[sage]:2043/11/11(水)

天地民がイキイキし過ぎてるな

 

 

48:名無しの剣聖[sage]:2043/11/11(水)

やっぱり修羅の国じゃん

 

 

49:名無しの白氷術師[sage]:2043/11/11(水)

運良く限定イベントのチケットを手に入れられたのだし色々と情報を仕入れねば

 

 

50:名無しの雷忍[sage]:2043/11/11(水)

私をマンゾクさせてくれる強者は居るかしらね

 

 

51:名無しの大魔弓士[sage]:2043/11/11(水)

>>34 今思ったけどこれってデンドロ始まってから内部で一周年記念っぽいわね

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

【鍵付き】レジェンダリア紳士・淑女専用スレpart78【鍵付き】

1:名無しの邪眼術師[sage]:2043/11/13(金)

このスレはレジェンダリア所属の“紳士・淑女”の為の掲示板です。

普段は自重している熱いパトス溢れる書き込みをしても構いませんが他者への批判や煽りはやめましょう。

あくまでスレ内ではっちゃけるのでありデンドロや現実ではキチンと良識と常識に沿って行動しましょう。

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

364:名無しの追跡者[sage]:2043/11/13(金)

やはり《透視》《聞き耳》《隠密》は必須スキル

 

 

365:名無しの翆風術師[sage]:2043/11/13(金)

本日も孤児院でのボランティア活動を行って来たぞ

やはりロリショタの空気は汚れた俺を浄化してくれる

 

 

366:名無しの邪眼術師[sage]:2043/11/13(金)

>>364 影から推しを見守る為には当然スキルレベルもカンストさせるべき

 

 

367:名無しの高位精霊術師[sage]:2043/11/13(金)

ふぅ、今日も【妖精女王】様は麗しかった……ライブ最高

 

 

368:名無しの司令官[sage]:2043/11/13(金)

うむ、やはり魔法少女の活躍を宣伝する為にはライブステージなどがあっても良いか?

いやあまりにそちらに偏りすぎると魔法少女の本分を忘れてしまう事になりかねん

 

 

369:名無しの蛮戦鬼[sage]:2043/11/13(金)

今日は<迷いの森>を全裸疾走してきた

 

 

370:名無しの守護者[sage]:2043/11/13(金)

>>369 通報しますた

 

 

371:名無しの高位魔道具職人[sage]:2043/11/13(金)

>>369 通報しました

 

 

372:名無しの高位呪術師[sage]:2043/11/13(金)

>>369 まあ人気のない場所でやってるなら好きにすれば良いとも思いますが

流石に人がいる場所ならパンツぐらいは履いた方が良いですぞ

 

 

373:名無しの蛮戦鬼[sage]:2043/11/13(金)

>>372 流石に街中では上半身半裸で済ませてるぞ

いやぁ装備さえしっかりとしてれば上半身裸で街を歩いても文句言われない辺りデンドロは素晴らしいな!

 

 

374:名無しの大狩人[sage]:2043/11/13(金)

やだこのスレ変態しかいない?

 

 

375:名無しの邪眼術師[sage]:2043/11/13(金)

>>374 つ鏡

 

 

376:名無しの大盗賊[sage]:2043/11/13(金)

今日のコップの縁は実にクリーミーな味だったまる

 

 

377:名無しの追跡者[sage]:2043/11/13(金)

ここに居るヤツ全員変態定期

 

 

378:名無しの怪盗[sage]:2043/11/13(金)

今日のロリの寝顔も美しかった

やはりロリショタの眠りを邪魔せず視か……もとい見守るには【怪盗】のジョブが最適だな

 

 

379:名無しの翆風術師[sage]:2043/11/13(金)

真面目に怪盗やってるヤツに謝れ

 

 

380:名無しの助産師長[sage]:2043/11/13(金)

うむむ、やはり<マスター>とティアンの子供を作るのには色々とクリアせねばならん要素多いな

 

 

381:名無しの守護者[sage]:2043/11/13(金)

え? マスターとティアンで子供って作れんの?

 

 

382:名無しの高位粘体師[sage]:2043/11/13(金)

そこんところ詳しく!

そんな方法があれば私もスライムちゃんの子供が!!!

 

 

383:名無しの邪眼術師[sage]:2043/11/13(金)

いやティアンじゃなくてモンスターじゃん

 

 

384:名無しの高位呪術師[sage]:2043/11/13(金)

ああ、確かアマゾネス部族の一部で研究されているのでしたな

 

 

385:名無しの助産師長[sage]:2043/11/13(金)

>>381 理論上は可能だが現実的には非常に難しい

 

>>384 うん、アマゾネスとマスターの恋仲が増えたから依頼を受けたの

 

 

386:名無しの高位精霊術師[sage]:2043/11/13(金)

つまりドユコト?

 

 

387:名無しの助産師長[sage]:2043/11/13(金)

まずマスターとティアンで子供を作る事は“生物学的”には可能だ

検査の結果マスターの精子でティアンの卵子を妊娠させる事が出来る様だしな

少なくともこれまでの調査結果ではマスターとティアンに生物学的な違いは無いと結論されてる

 

 

388:名無しの助産師長[sage]:2043/11/13(金)

ただ問題はマスターがログアウトした時点で体液(精液)も消えるんだよな

ログアウト時の処理としてマスターの切り離された肉体とかも消滅する仕様だから

 

 

389:名無しの大狩人[sage]:2043/11/13(金)

つまり中○しした精液がログアウトで消えるから子供が作れないと

 

 

390:名無しの守護者[sage]:2043/11/13(金)

つまり俺がロリショタと遊んだ後『ちょっとトイレ』した時にログアウトすれば証拠は消える……?

 

 

391:名無しの高位精粘体師[sage]:2043/11/13(金)

↑クッソキモい

 

 

392:名無しの邪眼術師[sage]:2043/11/13(金)

↑スライム姦志望が何か言ってら

 

 

393:名無しの高位呪術師[sage]:2043/11/13(金)

つまりマスターとティアンの間で子供を作るにはマスターが子供が出来るまでログアウトしなければ良いと

……普通のマスターには難しいですな

 

 

394:名無しの助産師長[sage]:2043/11/13(金)

一応マスターの一部が食われた後にログアウトした場合にも食った物が相手の体内から消えるけど

消化されて相手の肉体の一部になった場合は栄養やらがログアウトして消える事は無かった

 

 

395:名無しの助産師長[sage]:2043/11/13(金)

だからマスターの精子が受精した卵子は『一つの命』となるまでログインし続ければ妊娠は可能だと仮説が立てられた

どの段階で『命』と判定されるかは現状調査中ではあるが少なくともそれなりに時間は掛かる様だ

 

 

396:名無しの翆風術師[sage]:2043/11/13(金)

まあ普通のマスターでも丸一日ログインし続ける事も難しいだろうからな

 

 

397:名無しの追跡者[sage]:2043/11/13(金)

デンドロが三倍時間でも丸一日ログインすれば現実では8時間経過だもんなぁ

 

 

398:名無しの高位粘体師[sage]:2043/11/13(金)

もし一週間以上はログインし続けなければならないとかなら普通は無理よね

 

 

399:名無しの大狩人[sage]:2043/11/13(金)

卵子が『命』として確立される時間を短くするとか出来んのか?

成長促進系スキルとか結構あった筈だけど

 

 

400:名無しの助産師長[sage]:2043/11/13(金)

>>399 理論上出来なくは無いが一番デリケートな時期の母子に使うのはリスクがある

試算では生物として頑丈なモンスターならともかく人間だと障害や流産とかの可能性が高そうだ

 

 

401:名無しの助産師長[sage]:2043/11/13(金)

そもそもいくつかの生物の成長促進系ジョブスキルも効果がそこまで劇的では無いし

エンブリオのスキルで強化すると前述のリスクが高まる恐れがある

 

 

402:名無しの高位精霊術師[sage]:2043/11/13(金)

じゃあマスターがログアウトしても精子をそのままに出来る手法とか

 

 

403:名無しの助産師長[sage]:2043/11/13(金)

>>402 そちらの線でも研究中だが未だに方法は見つかってない

何しろデンドロのシステム面での話だからな

 

 

404:名無しの守護者[sage]:2043/11/13(金)

まあ難しいか

 

 

405:名無しの助産師長[sage]:2043/11/13(金)

勿論千差万別のエンブリオなら出来るヤツもあるかもしれんが

我ら研究チームは妊娠出産生命活動に関わるエンブリオ持ちはいつでも歓迎だぞ

このレジェンダリアならそんなエンブリオを持ってるヤツも一定数いるだろうからな

 

 

406:名無しの高位呪術師[sage]:2043/11/13(金)

まあエンブリオはマスターのパーソナルから生まれますからな

 

 

407:名無しの追跡者[sage]:2043/11/13(金)

まあ居るよねwww

 

 

408:名無しの邪眼術師[sage]:2043/11/13(金)

他国マスターからは『変態の国』とか呼ばれてるし(事実)

 

 

409:名無しの翆風術師[sage]:2043/11/13(金)

ちゃんとまともなマスターもいるよ

このスレにはいないけど(笑)

 

 

410:名無しの高位粘体師[sage]:2043/11/13(金)

私が見た限り性癖がアレなのは全体の半分ぐらいかなー

んでオープンにしてるのが全体の一割ぐらい

 

 

411:名無しの追跡者[sage]:2043/11/13(金)

つまり四割はムッツリwww

 

 

412:名無しの助産師長[sage]:2043/11/13(金)

俺は真面目に生命の神秘を研究してるだけなんだがな

保健体育の教科書の文面に興奮するぐらいだ

 

 

413:名無しの大狩人[sage]:2043/11/13(金)

もうちょっと隠せ

 




あとがき・各種設定解説

<バトルロイヤル>:<マスター>限定の隔離スペースで行うイベント
・<マスター>がデンドロ世界に入ってから大体一周年を記念して行われる事になったイベントで、今後の超級<エンブリオ>進化誘発限定イベントの実験も兼ねている。
・参加者に関しては管理AIが選んだ『現在において高い実力を持つ<マスター>』の中からランダムに選ばれており、カンスト・特典武具保持などの<マスター>が優先して選ばれている模様。

レジェンダリア紳士淑女スレ:今回は真面目な話題だったので大人しめ
・レジェンダリア民なのにかなり大人しいスレだと思うかもしれないが、これは上記の理由の他に以前お互いの性癖の不一致からくる煽り合い炎上が20スレぐらい続いたので『とにかくお互いの性癖の煽り合いはやめよう』と暗黙の了解があったから。
・まあそれでも新人が入ったりうっかり地雷踏むとかしたりで時折炎上するけど、隔離スレなのが幸いして大事にはなってない。


読了ありがとうございました。
原作も面白くなってるし気分転換にちょっとだけデンドロの続きを書いてみた。感想・評価・誤字報告はいつでも歓迎です。


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竜の少女の歩む道

前回のあらすじ:妹「掲示板回」兄「終了」


 □<麗都アンティアネラ> 【竜戦士(ドラゴン・ファイター)】ティアモ・ウル・ヒュポレ

 

 ……自分で言うのもアレだが、私──ティアモ・ウル・ヒュポレと言うアマゾネスは割と恵まれていた方だと思う。

 

『さて! それじゃあ今日も剣の訓練をしましょうか!』

『そうだな、この世界で生きていくのに力はいくらあっても足りん。剣竜的には最低限一人で自立出来る程度の腕を得るまでは鍛えるつもりだ』

『分かった』

 

 快活で明るくアマゾネスでも最高の剣の使い手である【剣姫(ソード・プリンセス)】アミティア・ウル・ヒュポレ、寡黙だが私を気遣ってくれた優しさを持つ古代伝説級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【剣竜王 ドラグソード】ヴィルティウス。

 この二人を両親に持つ私は生まれながらにして他のティアンと比べても高いステータスと竜の尾と角を持ち、その力を使いこなす為に幼い頃から神域の剣技を持つ二人からの剣技の指導を受けるという、この世界のティアンとしては非常に恵まれた生まれであると言えるだろう。

 

『その年から剣の修行とはの。まあ別に構わんのだが花嫁修行もしておきな、お前みたいに家事全滅とかだと嫁の貰い手がいなくなったりするだろう?』

『げっ、ババァ……け、剣の腕があればステキな旦那さんぐらい手に入れられるし(震え声)』

『まあアミティアの剣の腕に惚れた俺みたいな男もいるしな。……それはそれとして食い物は美味い方がいいが』

『父さんの料理は美味しいよ。……母さん? 不味い』

『Σ(゚д゚lll)』

 

 曾祖母も竜王とのハーフである私と普通に接してくれたし、他の親戚や友人ともまあ普通に遊んだりしていたと思う。そもそもこのレジェンダリアでは尻尾と角ぐらいは珍しいものでは無いし、それこそ非人型範疇生物(モンスター)とのハーフだって少しはいるからね。

 ……そんな風に幼い頃の私はこんな少し変わった、でも普通で楽しい日々が続いていくんだと思っていたんだけど……。

 

『……と、父さん……私を庇って……』

『子供が独り立ちする前は命を賭けて守るのが剣竜の掟だ。……しかし、俺が纏っていた対魔法耐性特化の《竜王気》すらも抜いて来るとはな。あの光線による波状攻撃を全て剣で斬り裂くしか無い訳か。……アミティア、そちらは?』

『私達家族とティアモのお付きで近くにいたから貴方がついでに庇えたマリエ以外は全滅ね』

『申し訳ありません……それよりアミティア様、ヴィルティウス様、早く治療を……』

『無駄よ……あの光線、単なる光属性攻撃じゃないみたい。掠っただけの私でも徐々にHPが削られているし、ステータス見たら【被曝】って状態異常が出てるわ。【快癒万能薬(エリクシル)】も【高位霊水】も効かないし、むしろ回復魔法の【ジェム】を使ったら逆にHPが減った……回復阻害付きの特殊状態異常かそれに近いモノね』

 

 そんな日々が終わったのはアマゾネス達が定期的に行なっている経験値稼ぎの為の遠征、今回は麗都からの距離も近いという事なので実践の空気を体感させる為にと両親が私も連れてきた時の事。

 超級職と古代伝説級<UBM>がバックに居るので割と余裕を持って亜竜級モンスターを狩っていたアマゾネス達の前に突如現れたのは美しくも禍々しい光によって構成された人型のエレメンタル──神話級<UBM>【滅光核魔 ガンマレイザー】だったのだ。

 

『それにしても三十人以上いたアマゾネス達が一瞬で……』

『あの全身から放つ光線は一発一発の威力が超級魔法奥義にすら匹敵する上に連射までしてくる。速度も光属性故の光速で全身から放つから技の起こりも捉えにくい……俺でも防御と斬り払いに集中せねば直ぐにやられる』

『代わりに私が貴方の《破魔竜剣(ハマノツルギ)》を纏わせた一点集中型《ソード・アヴァランチ》で一度は細切れにしたのに、すぐさま本体っぽい光の塊が虫の息だったアマゾネスに乗り移って再起動したわね。……その後に細切れにされた人間()()()残骸が落ちてたけど……』

『憑依型のエレメンタル……その手の相手も問答無用で斬り裂けるのが俺の《竜王気》の筈なんだが。おそらく相手は神話級、まだなにか固有スキルがあるんだろう。……攻撃自体は通ったのか今は大人しいが……』

 

 いきなり現れた【ガンマレイザー】は全身から放つ光線によって自力で回避した母さんと、光線を斬り払った父さんに庇われた私達を除くその場にいたアマゾネス達を瞬時に絶命させたのだ。

 加えて攻撃を掻い潜って接近した母さんの奥義でも倒す事が出来なず、その際の攻防で父さんは私を庇って腹に風穴を開ける大ダメージを受けてしまったという絶望的な状況だった。

 

『……とにかく、マリエはティアモを連れて麗都の方へと逃げて頂戴。既にババァには連絡したし、上手くいけばこっちに向かってきてるのと合流出来る筈よ』

『分かりました。……それでお二人は……』

『あの【ガンマレイザー】に死力を尽くして戦いを挑むわ。貴女達が逃げる為にも麗都に近づかせない為にもアレの足止めも必要だろうし、多分この状態異常だとどの道長くは動けない感じだしね……いけるわよね』

『愚問、やられたのなら相手を殺すまで斬り刻むのが俺の【剣竜王】としての流儀だ。……それに俺の負傷であればもう長くはないだろうしな。幸い肉体の動作に今すぐ支障があるタイプの状態異常では無さそうだから、最後に一花咲かせるぐらいは出来るだろう。お前と一緒ならな』

『……ッ!』

 

 ……そんな絶望的な状況でもヤケにならず凄絶に笑ってみせる両親を見て、私は思わず胸に浮かんだ疑問を叫んでしまっていた。

 

『どうして……どうして父さん達はこんな状況なのにお互い楽しそうなの?』

『んーそう見える? ……だとしたらとなりに旦那がいるからかしらね。アマゾネス的に生死を賭けた戦いで愛する者と一緒とかむしろ興奮するし』

『己が認めた番と死力を尽くした戦いをするのは悪くないものだ。俺の生まれ故郷である天地の武芸者夫婦は大体そんな感じだったからな』

『ま、好きな男と一緒に居られるなら戦場だろうが日常だろうが楽しく感じるもんだよ。ティアモにもいつか分かる時が来るさ。……だから今は生き延びなさい』

 

 そう言いながら私の頭を撫でてくれた母さんは楽しそうな雰囲気を変えないままに父さんと絶望的な戦いへと赴き、その後ろ姿を私はマリエさんに抱えられて麗都に逃がされながら見ている事しか出来なかった。

 ……その後は連絡を聞いて急遽討伐隊を編成した【女帝(エンプレス)】レイソアお婆ちゃんに私は保護されて麗都に避難し、それからしばらくした後に何故か父さんの特典武具が私の元に来ると共に【ガンマレイザー】が討伐された報告を聞いたのだった。

 

『……ふむ、まさかティアモがMVPに選ばれるとはね。直接彼を殺した【ガンマレイザー】は先に死んで、この【剛竜剣】を貴女に残す為に残された自分の命を全部使った結果か。或いはここまで見越してたか』

『後は私を庇って大ダメージを受けてた。……どうして』

『気にするな……って言ってもこういうのには意味ないからねぇ。まあ自分が納得行くまで考えて、精一杯生きていきなってぐらいか、私が言えるのは』

『……父さんと母さんぐらい強くなれば、あの時二人が笑っていた理由も分かるのかな』

『そこでそういう考えになる所があの二人の子供って感じもするね。……まあ特典武具とそれに匹敵する剣を得たアンタを放置しておく選択肢はないから、私が面倒を見ながらしっかり鍛えてやるよ。……生きていけばいつかは自分が納得出来る答えは見つかるかもしれないからね』

 

 そんな理由で私は父さんから特典武具と剣を受け継いで、お婆ちゃんやアマゾネスの先輩達の指導を得ながら戦士としての修練を積む事となった。

 ……まあ元々両親の下で修行してきたので厳しめの訓練でもすぐに適応出来たし、あの【ガンマレイザー】との戦いで多くの戦士が倒されたからいち早く次代の戦士を育てねばならないと麗都を上げて次世代育成に取り掛かっていたので順調に強くはなっていった。

 

『……むう、やっぱり私には父さんや母さん程の剣才はない』

『貴女の武才も私と同じぐらいにはあるんだけどね。既に上級職の【剣巨人(ソード・ジャイアント)】にも就いているしね。まあ、あの二人の才覚は私すら遥かに超えていたけど……そうだ。アマゾネスの文献にあったあのロストジョブ、貴女なら就けるかもしれないね。そろそろヴィルティウスが残した最後のモノを渡しても良いだろう』

 

 まあ途中で自分の武芸関連の才能が両親に届いていない事を知って悩んだりもしたが、父さんが最後に残してくれた【竜戦士への紹介状】によって【竜戦士】のジョブに就く事が出来て、就いてから自分はおそらく“こちら”の方が向いていると分かったので更なる修練を積む事にした。

 少なくともアマゾネス達……というかこの世界のティアンとして見てもトップクラスの才能はあったから特に問題なくカンストまで至り、特典武具と父さんの剣とかもあったので麗都の最高戦力扱いをされてきたりもした。

 

『『『『『『『KIHIHIHIHI……』』』』』』』

『くっ……私以外は全員やられた……』

 

 ……だが、どれだけ強くなろうともこの世界ではそれ以上の理不尽(UBM)が当たり前の様に存在して、こちらがそれを覆せる規格外(超級)と称される力でも持っていない限りは当たり前の様に悲劇が襲い来てしまうのだ。

 そんなかつてのあの時を思い出させる様に<UBM>との戦いで共に戦っていた戦友達がほぼ全員やられ、どれだけ力を得ても無意味だと嘲笑われるかの様に死神の鎌が私に振り下ろされ……。

 

『……途中で出会ったアマゾネス三人に助けを請われて来たんだけど……ちょっと遅かったかしらね』

『少なくとも一人は助けられたと考えよう……そこの君、今は下がって怪我を治しておけ』

 

 その死神の鎌を打ち払ったのは、かつて私が()()()()()()()()()()()()()()関係性であると一目で分かる程の絆で結ばれた二人の<マスター>だった……少し恥ずかしい話ではあるが、あの時の私はそういった“二人”に一目惚れしてしまったのだろう。

 勿論、その後の完璧な連携で<UBM>を倒した所とか、その後『妾にしてくれ』というアレな要求の後にも嫌な顔せずに行動を共にしてくれる優しい所とかにも惹かれたが。

 

『……彼らと一緒に居れば、私は答えを見つけられるのかな……』

 

 ……そして、或いは彼らと一緒にいれば両親の最後の笑顔の答えが見つかるかもしれないとも思って、私は今日もちょっと鬱陶しく思われたとしても彼らの元へと向かうのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<麗都アンティアネラ>喫茶店 【高位従魔師(ハイ・テイマー)】レント・ウィステリア

 

「……とまあ、そんな理由で私は二人の繋がりのエモさに惚れたのです」

「うん、まあ事情はなんとなく分かった。しかし“エモさ”って……」

「なんかこの国の<マスター>(レジェンダリアン)がよく言ってるのでティアンにも浸透した言葉の一つですね」

 

 ……俺が食事してる喫茶店にいきなりやって来て、そんな回想&自分語りをし終えたティアモは何時もの真顔で引き続きエモさについて語りながらデザートを食べていた。わりかしハードな過去語りではあったのだが相変わらず真顔で喋り続けるので反応に困る。

 

「……まあ『自分でも分からない“答え”を見つけたい』というのであれば無碍にも出来んか」

「おお割と好感触? マリエさんに言われた『男には殊勝な感じの過去語りが効く』ってのは本当だったのか」

「だからそういう事言われると反応に困るんだが」

 

 ……俺自身かつては“答え”を求めて色々と迷った身であるし、今も自分なりの“答え”を求めてこの世界を歩いている妹達を見ているとな。

 

「だが、俺達兄妹はそろそろアルターの方に戻ろうと思っているんだが。ひめひめとも別れて行動する事になりそうだし」

「……え? あんなに仲睦まじい感じなのに? ひめひめさんの方は付いていくと思ってた」

「あいつもレジェンダリアに愛着が湧いてるからまだ居るつもりみたいだし、俺達もアルターの方でやりたい事とかもあるしな。……今回は少し長い旅行だったがそろそろ終わりって事だ」

 

 元々レジェンダリアにはちょっと寄ってくだけぐらいの気持ちだったしな。ハロウィンイベントとかアマゾネス関係で色々とあったから長引いてしまったが。

 

「……ひめひめさんと別れても大丈夫なの?」

「別にこちらで別れたぐらいで変わる様な関係性では無いしな。それに個人個人で楽しむ時間も必要だろうし……そもそも俺達は<マスター>だから“彼方側”では普通に毎日会ってるからな」

「ああ、<マスター>は別の世界から来てるんだよね。そっちで会ってるなら此方でも一緒にいなくても問題ないのか……ふむ」

 

 そう言ったティアモはデザートを食べ終えると共に何やら考え込んでしまった……まあ、俺と姫乃の関係性に惚れたらしい彼女だから色々と思う所があるんだろう。

 ……まあ正直これで諦めるならそれまで「分かった、私も貴方に着いてアルター行く」へ? 

 

「確かに二人の関係性に惹かれたのは事実だけど、それはそれとしてレントの事を好きになったのは嘘じゃないし。それに“答え”を見つける為にも旅に出て自分を鍛えなおすとかはやってみたいと思っていた」

「この麗都やレジェンダリアを離れる事になるが……」

「惚れた男に着いて行って国から出るアマゾネスは沢山いるから問題なし。……後、例え一緒に行事を貴方が許さなくても追いかけるから」

 

 そんな事を《真偽判定》を使わずとも本気だと分かるガンギまった表情で言ったティアモを見て、俺は彼女の事を正直どうしようかと頭を抱える事となった。

 ……好き嫌いはともかく彼女に情が湧いているのも事実だし、勝手に着いて来るって言うならいっそのこと一緒に旅をした方が良い気もする。この世界はカンストティアン一人で旅出来る程に緩くはないし、それで彼女が死んだら流石に寝覚めも悪い。ミカの“直感”問題もあるし。

 

「……分かった、君が俺達のパーティーに加わっても良いよ。まあどんな感じになるかは後々妹達と相談する事になるけど」

「よっしゃ、とりあえず一緒にいれる免罪符ゲット。後はなし崩しに既成事実を作って妾に……」

「悪いがパーティー入りは認めてもそういう事は別の話だからな」

「拒絶されてない以上は充分チャンスがあるから今はそれで問題なし」

 

 ブレないなぁ。やっぱりどの世界でも男が掛かったアマゾネスはヤバいわ……さて、ひめひめに関しては『こういう展開』になる事は予測出来てるから好きにすればって言ってたし問題ないんだが、価値観が普通に女子小学生の妹達への説明が面倒な事になりそうだ。

 

「そう言えばひめひめさんと妹さん達は? 一緒じゃないの?」

「アイツらはアリマちゃんと一緒に【バトルロイヤル】って<マスター>専用の催し物に参加してるから不在だな。なんでも以前のクエストでボスモンスター倒した時に参加券を手に入れたとか」

「へー、ウチで偶にやる闘技大会みたいなモノかな? 不死身の<マスター>なら殺し合いでもルールを決めれば催し物になるのか」

「まあそんな感じだ」

 

 こちらの時間でデンドロ一周年記念だし、多分そのイベントだろうから気楽に楽しめそうなんでちょっと行ってくるぜ! ……って感じであの四人は何処かに転移していったからな。

 あの四人なら全国の<マスター>が集まるバトルロイヤルでもいいセン行くだろうし、ティアンが関わらない以上は事件とかになり様もないからまあ気楽に楽しめばいいんじゃないって感じである。

 

「レントは参加しなかったの?」

「参加券が当たらなかった。……まあ俺はドロップアイテムを大体経験値に変換してるからな」

「ああ成る程」

 

 まさかドロップアイテム廃止にこんな落とし穴があるとは。まあ俺がイベントに“選ばれる”かどうかは別としてもなんか損した気分になるな。

 

「じゃあレントは今日どうするの?」

「まあ適当にクエストでも受けるかね。何か良いジョブクエストでもあれば良いんだが」

「勿論私も着いて行くよ」

「……まあ好きにすれば良いさ(拒否しても着いてきそうな凄みを感じるし)」

 

 そういう訳で俺は『よっしゃ二人きりでデートだ』とガッツポしてるティアモを連れて喫茶店を出たのだった……美少女を連れてれば悪目立ちするとか思ったが、この町ではカップルが珍しくないので大して気にもされないのが良い所だな。




あとがき・各種設定解説

ティアモの両親:ガンギマリ武芸者夫婦
・母親の方は先に埋まってた(天地)ので同時期に自分が就ける【神】系ジョブがなかっただけのヤバい技術枠ティアンであり、ステータスで圧倒的に劣る【剣竜王】相手に互角に戦えるレベルの実力だった。
・【剣竜王】の特典武具に関しては壁役やってたので最もダメージを食らった【ガンマレイザー】が先に死んだ事で候補から除外されたのと、娘を庇った事による大ダメージ+最後に娘へ残った命を使って【剛竜剣】を作ったのが貢献度として判定されたからです。
・二人ともややズレた所はあるが親として娘に注ぐ愛情は本物であり、最後の最後までそれは変わる事は無かった。

【滅光核魔 ガンマレイザー】:稀によくある唐突に出現する神話級
・放射線によって構成されたトンデモエレメンタルであり、超級職奥義並みの威力で生物に当たったら特殊“傷痍系”状態異常【被曝(継続ダメージ・回復阻害仕様)】を齎すビーム《ガンマレイ・ブラスター》を使う対生物に長けた条件特化型<UBM>。
・更に生物に取り憑いて放射線で細胞を異常活性化させ寿命を犠牲にHP・MP・SPを超高速回復させる《オーヴァードライヴ・ポゼッション》を使い、生物を電池代わりにビームを連射する事も出来る。
・加えて憑依した生物にダメージを移すスキルまで持っているので異常回復と合わせて倒し難く、更に周囲に他の生物がいれば使い終わったモノを廃棄して再憑依するなんて事もしてくる。
・その特性によりティアモの両親含めアマゾネスの討伐部隊をほぼ壊滅させる甚大な被害を齎らしたが、“それ故に”【女帝】に討伐される事となった。

レントとティアモ:パーティー入り
・尚レントとひめひめがデンドロ内で同行しないのは『それぞれちょっと厄介事(妹関系とシズカの監視・二つは噛み合わせ悪し)を抱えてるから合流しても面倒になるだけだし、まあゲームぐらいはお互い好きにやればいいか』って考えだから。
・また特典武具二つ持ちの超戦力であるティアモが麗都を抜けるのには一悶着……とかは特になく普通に認められたのがスーパー恋愛脳のアマゾネスクオリティ。


読了ありがとうございました。
そんな訳で過去語りと設定をいくつか。バトルロイヤル編はもうちょっと麗都編を書いてからかな。感想・評価・誤字報告お願いします。


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祟リノ神

前回のあらすじ:ティ「『黙って俺に付いて来い』って言われたし、これは実質プロポーズでは?」兄「過去を捏造すんな」


 □<異樹の荒地>

 

 そこは<麗都アンティアネラ>の北西部に位置する森が多いレジェンダリアでも珍しい、疎らに僅かな草が生えるだけの荒野で構成されたエリア<異樹の荒地>。

 ……最も、ここは昔は単なる森であり環境もレジェンダリアとしては安定していて、生息しているモンスターも低レベルなので更に北西にある小国家群やアルター王国・カルディナなどへの通商路として使われていた。

 

「……と言ってもそれは10年前、あの神話級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【滅光核魔 ガンマレイザー】とアマゾネス達との戦いが起こるまでの話だけれども。あの戦いの余波で森と生物は消し飛んで、更には放射能汚染と呼ばれる現象で草木一つ生えない場所になったからね」

「でも、今俺たちはそんな汚染された場所を歩いている訳だが大丈夫なのか? まあ俺は最悪デスペナすれば良いんだが」

「少なくとも既に放射能汚染は除染済みだから大丈夫。その事件の後にこの近くで発見された核やら放射能について研究していた先々期文明の遺跡から資料が出て来て、そこから得られた知識やアイテムで何とか【被曝】や放射能汚染をどうにかする方法が分かったのが幸いだったね。……まあ件の【ガンマレイザー】はそこで研究されていたエレメンタルだったらしいだけど」

「それはまたなんとまぁ」

 

 そんな場所に【ライトニング・トライコーン】のヴォルトに馬車を引かせている移動している【高位従魔師(ハイ・テイマー)】のレント、及び馬車に乗っている【竜戦士(ドラゴン・ファイター)】ティアモと【祟神(ザ・ヴェンジェンス)】シズカが居た。

 ……あの後、適当に冒険者ギルドでクエストを見繕っていた二人だったが、そこでひめひめとアリマがイベントに行き他のメンバーも予定が合わずに暇を持て余していたシズカがやって来て『ひま〜ひま〜、なんか面白い事ない〜』とか言ったので、とりあえず彼女が好きそうなクエストをレントが選んで受けたという次第だったりする。

 

「ともかく遺跡の技術で時間をかければ【被曝】や放射能汚染を治す事が出来る様にはなったんだけど、戦場になった此処はまともな生物が住めない環境になっていた上に放射能で変異した植物が特異なモンスター、果ては<UBM>にまで変異して住み着くという悲惨な状況だったみたい」

「放射能変異植物モンスターとかビオ○ンテかな?」

「日本人には馴染み深い概念よね、放射能で変異する怪獣って」

 

 そんな風に半分くらい冗談で某怪獣王閣下が出る映画シリーズを思い浮かべている二人であったが、実際【ガンマレイザー】が倒された直後の当時には生き残った生物の極一部が高濃度の放射線に適応出来る様に変異した自然魔力の影響で異常な進化を遂げる様な現象が起きていたので笑い事では済まなかったという状況だった。

 故に特殊環境であるレジェンダリアにおける貴重な通商路の確保、及びに変異したモンスターによるこれ以上の勢力拡大を阻止する為に【妖精女王(ティターニア)】を中心とする妖精郷の総力でもって汚染された一帯の生物全てを殲滅した結果が現在の<異樹の荒地>となっているのだ。

 

「でも今は汚染もモンスターも完全に除去出来たから問題は起こってないよ。むしろ環境が変わり過ぎてモンスターがあまり近寄らなくなったから、輸送の為の通商路としては大分使いやすくなったぐらい」

「それはなんというか逞しいな」

「まあね、ちょっと生態系が変わるぐらいどうにか出来なきゃレジェンダリアではやってられないよ。……最もまた変異モンスターが現れる可能性や新しいモンスターが他所から住み着く事も十分にあるから、今回みたいな生態系調査のクエストが定期的にあるんだけど」

 

 今回彼らが冒険者ギルドから受けたクエストは【<異樹の荒野>での生態系調査】と言い、その名の通り生態系が大きく変異してしまった<異樹の荒野>の様子を調査、及び出現したモンスターの掃討による通商路の安全確保を行なってギルドに報告するというものだ。

 まあ、殆ど何もない荒れ果てた場所を調査する事か稀に遭遇するモンスターとの戦闘する程度なのでつまらない事。後はそこまで良くもない報酬からはっきり言って不人気の塩漬けクエストであり、麗都でも基本的に時期が来たらアマゾネス達が物資の輸送ついでに調査するか稀にデータ目当てで<Wiki編纂部・レジェンダリア支部>の<マスター>が受ける事がある程度のクエストなのだが。

 

「……さてシズカさん、貴女が好みそうな()()()()()()()()()()()受けられるクエストだが暇つぶしににはなったか」

「そうねぇ、確かに無念の内に死んだアマゾネスやモンスターの怨念を私の《観怨眼》で読み取れるんだけどねー。……そもそも麗都自体がアムニールとかと比べれば怨念が薄いのよね。アマゾネス達って死んだ時もあんまり怨念残さないみたいなのよ」

「まあ私達アマゾネスは基本的に『全力で戦って死ぬなら本望』って思考だから」

「だから麗都自体が私の好みから外れるのよね、良い街ではあるんだけど。……アムニールみたいに『様々な種族の陰謀や欲望や無念が絡み合った怨念』とかは味わえないから少し退屈なのよねぇ」

 

 そう言ったシズカは口が弧を描く様な恐ろしい笑みを浮かべており、それを初めて見たティアモは思わず身体を固めて警戒態勢へと入ってしまった。

 ……彼等がこのクエストを受けたのは最近シズカが趣味の“怨念観察”がイマイチ出来ずにストレス溜まると文句を言ったので、レントが『下手に鬱憤を溜められても困るというか面倒な事になりかねない』と判断して彼女が好みそうなものを見繕ったからなのだ。

 

「……彼女、最初に会った時と雰囲気が全然違うんだけど。もっとまともな人だと思ってた」

「シズカさんはこっちの方が素だ。最初の方は単なるロールプレイ(猫被り)

 

 そもそも、まともな性格の人が『他人の怨念を取り込む自分の身体(TYPE:ボディ)の<エンブリオ>』なんて発現しないだろう……とレントは考えつつ、やっぱりこの人は色々と放置出来んから見張り(ひめひめ)は必要だしミカとの相性も良くないからデンドロ内では別行動で正解だななどと改めて思い直していた。

 

「そんな不安そうな“怨念”を出さなくても、この世界でひめひめとの『契約』もあるから自ら怨念を生む様な大事件は起こさないつもりよ。……そもそも私は自分で事件を起こすよりも他人が起こした事件に横からちょっかい掛ける方が好きだし、このレジェンダリア<マスター>の現状とか上の方の腹黒さとかを考えればそう遠からず災いが起きるでしょうから自分で何かをする必要は無いし」

「まあレジェンダリアの上の方は婆様が『アイツら陰険腹黒過ぎてめんどくせぇ……』ってしょっちゅう愚痴るレベルだけど」

「やっぱ貴女はウチの妹とは相性悪いな、起きうる事件を引っ掻き回すタイプは」

 

 そう遠くない未来にレジェンダリア、或いは<Infinite Dendrogram>全体で起こるであろう『災厄』を己の経験則から予測し、それに想いを馳せながら邪悪な笑みを浮かべるシズカに対し、比較的良識のある二人はやや呆れながらもため息を吐いていた。

 

「そこまで心配しなくても良いわよ。少なくともこの遊戯で私は善玉寄りのロールプレイで遊ぶつもりだから、むしろ起きうる悲劇を少しでも減らす様に動くつもり。……私の勘だけど今後この世界で起きうる災厄はかなり酷いものになるだろうし、この【祟神】のジョブを考えるとその災厄を存分に味わうには善側の立ち位置の方が()()()な気がするのよね」

「……そういう方向性で“遊ぶ”なら別に良いさ。むしろ貴女の場合は“遊ばなくなった”時の方が怖そうだしな」

 

 実に『愉しそうな』笑顔でそんな事を語るシズカを見て内心頭を抱えるレントであったが、問題を起こさないと言っている以上は自分に何か出来る事は無いだろうと一先ずこの問題を置いておいてクエストに集中する事にした。

 

「まあ良い、今はとにかく受けたクエストをこなそう。……と言っても今の所モンスターの一体も見当たらないんだが。索敵系スキルを幾らか使っても反応は無いし、このまま適当に見て回って『異常なし』と報告すれば良いのか?」

「それでも最低限の報酬は貰えるとは思うけど、とりあえず前回の調査資料と比べて環境が復旧しているかどうかぐらいは調べるべき。……後、最近ここを通った行商隊が壊滅したって話も聞いたからそこも気をつける感じで」

 

 そう言いつつレントは辺りを見渡しながら《魔物索敵》《レイライン・サーチ》などを使って周辺を調べ、ティアモも辺りを警戒しつつアイテムボックスから取り出した資料と実際の荒野の様子を見比べていく。

 

「シズカさんの方では何か分からないのか? ここらの怨念から情報を読み取るとか」

「《観怨眼》ならそういう事も出来なくは無いけれど、そもそも怨念自体が生前の無念とかを喚き散らしてるのが殆どだから望む情報を得るのは難しいのよね。この辺り人の魂を観て死者と対話出来るらしい【冥王(キング・オブ・タルタロス)】の《観魂眼》とかには劣るわ。怨念はこっちと対話とかしてくれないし……まあやっては見るけどね。ティアモちゃん、襲われた人達の詳しい情報はある?」

「この資料に書いてある」

 

 ティアモから手渡された資料をシズカは《ポルターガイスト》を使いながら摘んで読んでいった……その資料には行商隊が霊都アムニールから小国家群へとマジックアイテムを運んでいた事、レジェンダリアでも腕利きのティアン冒険者を護衛にしていた事、そんな彼等の写真などがそれなりに詳しく載っていた。

 資料によると彼等はアムニールからアンティアネラを経由して小国家群へと向かった途中で連絡を絶った様で、後日アマゾネス達の調査隊が訪れた時に彼等の遺体と馬車の“残骸”が発見されたらしい。

 

「まあ外に出たパーティーが消息を断つのは良くある事だけど、この護衛に付いていた冒険者達はレジェンダリアでも有数の腕利きだったみたいだし、発見された遺体及び馬車の残骸の状況も少しおかしかったみたい」

「『その遺体は食い残しの破片しか残っておらず、頑丈な高級馬車が残骸になるまで砕けていた』ねぇ。彼等が食われた事と輸送中のアイテムボックスは残っていた事からモンスター、手練れを倒して馬車を砕いた事から純竜級以上の相手だと推測されるが、後の調査隊が調べても付近にそれらしいモンスターは発見出来なかったと」

「ふーん、成る程ねぇ。まあ写真があれば少しは見つけやすいか…………さて」

 

 二人の話を聞きながら資料に載っていた冒険者の写真を一瞥したシズカは虚空……【祟神】たる彼女にしか見えない、辺りに揺蕩う数多の悪意・悲嘆・憎悪・忿怒・絶望と言った多種多様な怨念を《観怨眼》にて見据えた。

 そして彼女は自身の<エンブリオ>【不有幽霊 ゴースト】のスキル《斯の身は怨嗟の受け皿也や》によって周辺の怨念を自身の身体の中に取り込み、それらが奏でる負の感情溢れる叫びを涼しい顔のままに一つ残らず余さず聞き取りながら有している情報を読み取っていく。

 

「……ハラヘッタ……痛い……苦しい……無念だ……カユウマ……一体何処から……これね、手練れのティアンの怨念は分かりやすくて良い。《怨霊保持》《観怨眼・禍魂視》……馬車がいきなり吹き飛び……啄まれ……風……上から……。どうも上空からいきなり現れた“何か”にやられたみたいね」

「成る程、相手は飛行型のモンスターだった訳か。確かにレジェンダリアで良くある森林地帯と違って、この荒野であれば上空から攻撃する事も出来るか」

「後の調査隊が何も発見出来なかったのは、単に相手の行動範囲が広すぎて既にその場にはいなかったから。……でも、こんな見晴らしのいい場所で、空からとはいえ手練れのティアン相手に奇襲を行えるとなると相当な隠密能力を……」

 

 シズカがジョブと<エンブリオ>のスキルを駆使して護衛が残した怨念から読み取った情報を元として、レントとティアモは行商隊を襲った相手の大凡の特性を推測しながら日が落ちかけている空を見上げて……そのやや離れた地点に“何か”の影が見えている事に気が付いた。

 

「ッ! 敵襲! 散開!!!」

「切り離す! ヴォルト走れ!」

『了解!』

「あらあら……」

 

 それなりに近い距離にも関わらず()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()何かを瞬時に敵と判断した彼等は、各々馬車を置き去りにしてその場から急いで離脱し……。

 

『……KITTE!』

 

 直後、上空から音も無く接近して来た影──怪鳥種“上位純竜級”モンスター【ハイ・ダークゲイル・ステルスガルーダ】が放った風属性上級職奥義魔法《エメラルド・バースト》による破壊的な暴風が地面へと撃ち放たれて彼等が乗っていた馬車を粉々に粉砕した。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 □■<異樹の荒野>上空

 

『KUE! KIEEEE……!』

 

 その【ハイ・ダークゲイル・ステルスガルーダ】はその名の通り視覚で捉えにくくなる《視覚迷彩》、飛行時の音を消す《無音飛行》、《殺気感知》をすり抜ける《殺気隠蔽》、《危険察知》を無効化する《潜伏奇襲》などの隠密系スキルからの風・闇属性魔法による奇襲を得意とするモンスターである。

 最近ではこの荒野を縄張りの中の狩場の一つとして、経験値的に実入りの良いティアンの集団などを狙って奇襲攻撃による狩りを何度か成功させて気分が良かったのだが……それ故に今回奇襲が失敗に終わった事には苛立ちを隠せず、それを成した眼下の獲物を睨みつけていた。

 

「庇ってくれてありがとうねティアモちゃん」

「霊体なら風属性は余り効かないでしょうに」

「覚えてて良かった【聖騎士(パラディン)】の盾スキル……《喚起(コール)》ネリル」

『電磁障壁の練習をしておいて正解でした』

 

 あの時、まずティアモが《竜闘気(ドラゴニックオーラ)》を使って風を防御しながら《エメラルド・バースト》の直撃点から離脱しつつ、同時に《破魔竜剣(ハマノツルギ)》で風を切る事で込められた魔力を減じる事で威力を落とした。

 そしてレントも同じく即座にヴォルトを馬車から切り離しつつ騎乗、更に《瞬間装備》した盾から聖属性防御障壁スキル《ホーリークロス・シールド》を展開して、同時に張られた《エレクトロ・シャッター》と合わせて暴風を凌ぎきったのだ。

 ……後、シズカがいくつかの物理現象を透過する霊体であり、その中には風属性も含まれていてダメージを受けていないので当然無事である。

 

「ほう、上位の怪鳥か。対空攻撃手段が無ければ下手な<UBM>よりも厄介じゃぞ?」

「分かっている……《詠唱》終了。《ヒート・ジャベリン》」

『《サンダー・スマッシャー》!!!』

 

 そしてレントは騎乗しながら呼び出して後ろに乗せたネリルの言葉に返しつつ、上空にいる【ステルスガルーダ】に向けて射程と弾速を強化した《ヒート・ジャベリン》を十発以上放ち、同時に放たれたヴォルトの広範囲電撃による対空攻撃を仕掛けた。

 

『KEEE!』

「速い……超音速機動か、距離を取られた」

 

 だが、それらの魔法は直ぐに超音速で上空へと飛翔した【ステルスガルーダ】には一発も当たらず、加えて相手が高空へと移動した事でレントとティアモ達には有効な攻撃を撃てる手段が無くなってしまった。

 これが【ステルスガルーダ】の対地上戦力用の戦術……奇襲が失敗した場合には上空に登って距離を取りつつ、超音速で飛翔しながら地上へ遠距離攻撃を一方的に行うという単純だが攻撃を当てる手段が限られる地上の相手にとっては厄介な戦術である。

 

「距離が遠い上にあの速度では攻撃を当てる事は至難だな。どうするか」

「私みたいな前衛型は出来る事が無くなるんだけど。……やっぱり高位の飛行型は厄介」

『KYUEEEEEE……』

 

 実際レント達は高空を飛翔する【ステルスガルーダ】に対して迂闊に手を打てなくなっており、それを見たガルーダはこの戦術がハマる相手だと判断して闇属性追尾攻撃魔法【グルーム・ストーカー】による追撃を仕掛けようと準備した……直後、その身を()()が襲った。

 

「さて、アレが貴方達を殺した相手よ。怨みを晴らす機会を与えてあげる……《怨結び》からの《怨御籤・大凶》」

『KIII⁉︎ GIEEAAAA!!!』

 

 シズカがそう呟くと同時に高空を超音速で飛んでいた【ステルスガルーダ】へ【呪縛】【吸魔】【呪詛】の三重呪怨系状態異常、及びLUCに対する()()()()デバフが掛かりその動きを封じ込めたのだ。

 ……本来なら相手に掛ける場合なんらかのアクションか事前準備が必要な呪怨系状態が即座に、かつ超音速で移動する相手に掛けられた訳は【祟神】の有する『怨念が負の感情を向ける相手へと使った怨念運用スキルが距離などを無視して必中する』アクティブスキル《怨結び》によるものである。

 

『GIIIII!!! GUAAAAAAA!!!』

「ああ、蓄積した怨念を追加してスキル出力を上げてるから、例え上位純竜であってもそう簡単にはレジスト出来ないわよ。防御スキルも《怨返し》で無視出来るしねぇ」

 

 自らを襲った“祟り”をどうにかレジストしようとする【ステルスガルーダ】だったが多量の怨念を追加されている上、『怨念が負の感情を向ける相手へと使った怨念運用スキルが防御系スキルを無視する』パッシブスキル《怨返し》の効果もあってただもがくだけに終わっていた。

 これこそが【祟神】というジョブの本質──他のジョブの様に怨念をエネルギーとするのでは無く、怨念が持つ『何かへの怨み』をただ無為に消えゆくモノではなく明確な『祟り』として運用する文字通り“祟りの神”の力なのだ。

 ……そして“祟り”はまだ終わっていない。この魔境とも言われるレジェンダリアに於いてL()U()C()()()()()()()()()とどうなるのか、それは【ステルスガルーダ】へと急速に集まりつつある膨大な自然魔力が示しているだろう。

 

「あ、<アクシデントサークル>……アレはやばそうだね」

「まあこのレジェンダリアでLUCがマイナス一万を越えればねぇ」

「のんびりとしてる場合じゃないぞ。この距離じゃ巻き込まれかねないからさっさと離脱だ」

『……AAAAAAAAAAA……!!!』

 

 状況を見た彼等が全力でその場から離脱した直後、集まっていた自然魔力が風属性へと変じながら風属性魔法超級職【嵐王(キング・オブ・テンペスト)】の奥義《大嵐(テンペスト)》に匹敵する破壊の颶風と化して不運たる【ステルスガルーダ】を包み込んだ。

 ……祟りによって生み出された大竜巻は風属性に高い耐性がある筈のガルーダを容赦なく斬り刻んで行き、その余波が地上にいるレント達にまで襲い来るレベルだったのでネリルが《ハイエンド・ウインド・レジスト・ウォール》を展開して守る必要があった程だ。

 

『GEEEEEUUUUUUAAAAAAAAAAA!!!』

「……おお、まだ耐えておるな」

「怪鳥種は風属性に耐性があるヤツが殆どだから」

 

 だが、それでも上位純竜級怪鳥としての意地か【ステルスガルーダ】は自身の耐性と風属性の防御魔法を駆使して必死に大竜巻に耐えていた。あくまで嵐はガルーダの不幸の結果起こった<アクシデントサークル>によるものなので、防御無視などの【祟神】のスキル効果の対象にはならないのだ。

 ……まあ、マイナス一万越えの不幸が耐性のある属性の攻撃で終わる筈もなく、それを証明するかの様に荒れ狂う竜巻の全体が徐々に帯電し始めた。

 

「ふむ、アレが本命か。魔力を回せ主人殿……《ハイエンド・サンダー・レジスト・ウォール》」

「全員、閃光防御」

 

 そうしてネリルがレントから回された魔力を使って対雷属性の障壁を重ねて展開した直後、竜巻の帯電が瞬く間に勢いを増して中心にいる【ステルスガルーダ】へ向けた超級職奥義クラスの雷撃となってスパークした。

 

『AAAAAAAAAAAaaaaaaaaaa…………!!!』

 

 その雷はまさしく“天罰”と言える程の威力となって【ステルスガルーダ】を焼き尽くし、魔法型故に上位純竜級モンスターとしては余り高くないHPを一気に削り飛ばす。

 そして少しの後に雷と竜巻が消滅した所には黒焦げの炭へと変わった魔鳥のみが残されており、それもそう時間も経たないうちに光の塵へと変わったのだった。

 

「……いやぁ、思ったよりも凄い事になったわね。正直状態異常とデバフで向こうの動きを制限出来れば良いぐらいだったんだけど」

「しかし、上位純竜クラスを一方的に倒すとか【祟神】やばいな」

「流石にここまでの事になったのはアイツの運が悪かっただけよ。なのでこの荒野が更に酷い事になってても私は悪くない」

「まあ上位純竜を倒せてこの程度の被害で済んだのはむしろ幸運だと思う」

 

 そうして彼等は大嵐と雷の余波で幾らか抉れて焼け焦げた荒野を見つつ、とりあえずクエストとして一旦この事を報告すべきだと思い麗都へと戻る事にしたのだった。

 ……まあ、馬車が壊れたのでヴォルトにレントとティアモが二人乗りになり、そこにシズカが《ポルターガイスト》でしがみ付きながら憑いて行く(誤字にあらず)という少し間抜けな光景になってしまったが。




あとがき・各種設定解説

シズカ:本性も能力もヤバい人
・尚、最後にしがみ付いて移動したのは【ゴースト】の浮遊が『土台(主に地面)を起点とした相対距離に浮く』仕様だからで、馬車などなら荷台部分を土台として浮く事が出来るが生物相手では土台として機能しないから。

【祟神】:正しく“祟り”を齎すジョブ
・主に怨念の知覚・操作系スキルと怨念が向ける負の感情を“祟り”という形で具現化させる様なスキルを習得するジョブであり、それらの怨念が求める応報を代行するジョブでは無いか、この辺りがデンドロ世界の『怨念』の本質ではないか……などとシズカは考えている。
・ただし、攻撃・状態異常スキルの使用には対象へ負の感情を持つ怨念が必要であり、それが無い場合は使用出来ないか出力が大きく落ちるスキルばかりなので条件が整わない相手には弱い。
・他にも強力なスキル行使には追加でMPや怨念が必要なので事前の準備が重要なジョブであるが、シズカの場合は<エンブリオ>で怨念を蓄積出来るのである程度カバー出来る。
・また、他にもデメリットとして起点となる怨念は他社のものである事がスキル行使の条件になっているので、自身が抱いた怨念ではスキル行使は不可能となっている……最終奥義を除いて。

《観怨眼》:【祟神】の奥義
・怨念を正確に知覚し、その怨念が持つ負の感情を始めとした詳細情報を読み取るパッシブスキルなのだが、オフに出来ない常時発動型なので常に他者の負の感情に晒されて続けるという大きな欠点がある。
・歴戦のティアンでも四六時中悪意に晒されるので容易く精神を病み、<マスター>の精神保護でも『超リアルな鬱映画か罵詈雑言を常時実体験』みたいな状況になるのでやっぱり余程ネジが外れていなければリタイア案件になるレベル。
・尚、シズカは完全に使いこなしており<エンブリオ>や他のスキルと合わせて高精度な情報の読み取りや、単体の怨念に限定してその大元の存在の情報なども読み取れるオリジナル派生スキル《観怨眼・禍魂視》を編み出したりしている。

《怨御籤・大凶》:【祟神】のアクティブスキル
・保有する怨念が負の感情を向けている相手に対して呪怨系状態異常の中からランダムに選ばれたものを与え、更にLUCへのデバフを与えるスキル。
・状態異常の数やLUCへのデバフ数は使用した怨念の強度と対象のスペックにより決まるが、状態異常の種類に関しては怨念の感情に結構左右されるので対象に不利なものが比較的出やすい。

【ハイ・ダークゲイル・ステルスガルーダ】:豪華なかませ
・まあレジェンダリア上空のかなり広域に渡って縄張りとしていて、奇襲と遠距離攻撃を中心とした戦術で超音速機動から近接戦も可能と生半可な<UBM>より強いレベルのモンスター。
・……だったのだが、不運による<アクシデントサークル>で周辺自然魔力集束→《大嵐》→超雷撃のコンボが発生するぐらいに運が悪かった。


読了ありがとうございました。
その特性上【祟神】は強く怨まれてる犯罪者にはめっぽう強いので善玉ロールに向いていたり。感想・高評価・誤字報告などはいつでも歓迎です。


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妖精境でのやり残し

 □<麗都アンティアネラ>・教会

 

「…………………………」

 

 妖精境レジェンダリアにあるアマゾネス達が治める都市<アンティアネラ>、麗都とも呼ばれる煌びやかなその街の教会内部の礼拝堂で一人の<マスター>……【抵抗術師(レジストマンサー)】レント・ウィステリアが跪きながら一心不乱に祈りを捧げていた。

 この世界の教会は地球の様に宗教施設というよりは司祭系ジョブにのサポート施設という面が強く、主に司祭系ジョブ用のクリスタルがある場所に建てられるので彼の様な外部の人間が転職やジョブクエストの為に使用する事も多いのだ。

 

「………………………………」

 

 しかしレントが祈りを捧げているのは別に何かのクエストを受けた訳ではなく、また彼自身が何かの神を崇めているとか宗教にハマったとかいう事でもない。

 

「…………………………………………」

 

 では何故こんな事をしているのかと言うと司祭系ジョブで習得出来るアクティブスキル《礼拝》の効果条件を満たす為である。このスキルは1日に1度宗教系の施設で一定時間祈りを捧げる事によって、24時間の間スキルレベルとその施設の規模に応じてLUCにバフがかかるという物だ。

 ただし、バフ系のジョブスキルとしては長時間祈りを捧げる必要があるので戦闘中は当然使えず、更に丸一日と長時間効果が持続する反面バフの強度はスキルレベル最大の【司教(ビショップ)】が大陸最大規模の教会であるアルター王国王都アルテアの大聖堂で使ったとしても200前後LUCが上がるだけの微妙な効果なのだが。

 

スキルガチャ(刃技採集)でSSRスキルガチャでSSRスキルガチャでSSRスキルガチャでSSRスキルガチャでSSRスキルガチャでSSRスキルガチャでSSRスキルガチャでSSRスキルガチャでSSRスキルガチャでSSRスキルガチャでSSRスキルガチャでSSR……)

 

 ……まあ色々とガバガバなデンドロのスキルなので捧げてる祈りがこんなんでも普通に効果が発揮されるし、司祭関連のジョブには《礼拝》使用時にLUC以外にもバフが掛かったり特殊効果が付与されたりする派生スキルがあったりするので1日の始めにちょっと祈っておくかという者は一定数いるが。

 そうして《礼拝》の効果が発揮された事を確認したレントは施設を利用させてくれたアマゾネスの司祭に礼を言った後、面で待っていたティアモと合流した。

 

「終わった? 結構掛かったね。《礼拝》スキル使う人なんてアマゾネスではあんまりいないからというか、そもそも司祭系ジョブに就く人がウチでは少ないから。後は長い時間祈るという行為に向いていないのも多いし」

「これでも一度使えば丸一日効果が続くから始めに使っておくだけの価値はあると思うがな。俺は《礼拝》関連派生スキルもいくつか持ってるから色々とバフが付く。……流石にこの規模の施設だと効果は薄いが」

 

 そういう性質なので《礼拝》に長い時間を取られる事もあって<マスター>で使っている人は少ないが、世界最大の教会を有していて【聖騎士(パラディン)】のジョブの都合から司祭派生ジョブを取る事が多いアルター王国の騎士団のティアンなどでは些細なバフでも有難いので毎日使ってる人も多い模様。

 ……さて、そんなレントだが今日はアルター王国に戻る前にレジェンダリアでやり残した事を済ませる為にログインしていた、尚妹二人は予定が合わなかったのでログインしておらず、ひめひめ達には既にレジェンダリアを出る事を伝えていてホームである<アムニール>へと戻っていたので現在はソロで行動している。

 

「そういえば俺のログアウト中はどうだったんだ? テイムモンスターはともかく()()を取るのは初めてでな、システム的にはモンスターと同じ様に時間停止機能つきのジュエル内に格納される筈だが」

「特に問題はないし大丈夫。私の主観的にはレントがログアウトしてからすぐに貴方がログインしてきたみたいになってるし。……それにしてもやっぱり“貴方の雌奴隷”というフレーズはいいね」

「変な言い方をするな、“雌”はいらん“雌”は。あくまで<マスター>とティアンが一緒に行動するにあたってログアウトやログインの問題を解決出来る『奴隷』という形式が一番効率が良かったのであってな……」

 

 そう、実はレントはティアモと契約して自分の奴隷にしていたのだ……勿論(妹達にはツッコまれたが)そこに疚しい感情とかは無く、自分に同行する以上はログアウト時にティアモだけがこちらの世界に取り残されるのに対処する為のものなのだが。

 実際この世界での奴隷契約は一種の雇用形態であるのが大半なのでそこまで問題になる事は無く、自分達に同行する以上は<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>レベルの相手と戦う機会がある事も考えればティアモの生存率を上げる為に必要な措置でもあると妹二人は説得したが。

 

「まあひめひめ(正妻)さんは『生存率上昇なら必要な措置よね。あの兄妹に付き合う以上は大変だろうけど私の代わりに力になってあげてね』で華麗にスルーして首都に戻っていったけど。……やっぱり正妻力が高過ぎる……」

「……お前がどう思うかについてはもう何も言わん。俺はジョブに【女衒(ピンプ)】と【従竜師(ドラゴン・テイマー)】を追加したから、新しく仲間になったお前を十全に活かす事にするだけだ」

「パッシブスキルで《女奴隷強化》と《従竜強化》が掛かるのは有難いね。私も言われた通りジョブを【女戦士(アマゾネス)】から【殿兵(リア・ソルジャー)】に切り替えて、いざとなったら【ジュエル】の自動回収機能と合わせて生還出来る様にしたし。使う機会がないのが一番の保険だけど」

 

 ちなみにアマゾネスの象徴とも言える【女戦士】をリセットする事について何か言われるかもと思っていたレントだったが、ティアモは『このジョブアマゾネスの集団で戦うなら役に立つけどそれ以外だとスキルが使い物にならないしステータスも低くて要らないよ。それにウチから出て他の街に嫁いだ人とかもさっさと別ジョブに変える事が多いから問題ない』と言ってあっさりと頷かれたとの事。

 自らが奴隷になる事をあっさりと承諾した事と言い、この辺りは実戦・実力主義であるアマゾネスらしい思考とも言えるだろう(ティアモに邪な狙いが無かったとは言わない)

 

「それで今日は何をするの? 確かスキルを習得出来る珍しい力を持ってる特典武具を使うと聞いたけど」

「それに加えて【クルエラン】の強化だな。せっかく自然魔力の濃いレジェンダリアに来たんだからゴーレムの改造を行わない手は無い。ネリルと相談して必要な素材も集め終わったし、この麗都の周囲にある作成に最適な自然魔力がある場所にも当たりは付けた」

「でもわざわざ生産活動を屋外でやるのは危険が多過ぎると思うけど。……勿論貴方が望むならどこへでも付いて行くけど」

「そこは主に生産を行うネリルの都合だな。曰く工房よりも自然の中の方がやりやすいんだと……一応モンスター対策は考えてるし大丈夫だろう」

 

 こうしてあっさりと危険に飛び込む当たりは<マスター>特有かなとティアモは思いつつも、そういった事に自分を連れて行くつもりで色々と手を回してくれた事を内心嬉しく思いつつ、彼女はレントについていって街の外へと向かっていったのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □麗都南東部・<ギガイアス鉱山跡地> 【抵抗術師】レント・ウィステリア

 

「……よし着いた、ここだな」

「うーん早い。まさかレジェンダリアの森をこの速度で移動可能とか。それにここって自然ダンジョンの<ギガイアス鉱山跡地>? 確か昔に希少鉱石を掘り尽くして、今は鉱石蚯蚓(ミネラルワーム)種のモンスターが住み着いている場所よね」

「ああ、ワーム種は生息している場所の地質や鉱物資源を回復させる性質があるから、今は再び資源が回復するまでほぼ放置されている鉱山だな。一応モンスターも住み着いているが、主に生息しているミネラルワーム種は基本臆病でこちらから攻撃するか鉱石を過剰に掘らなければこちらを襲ってくる事は殆ど無いから生産場所にするには丁度いい。ネリルからのお墨付きだ」

 

 そんな訳で俺はティアモを伴って麗都の南東にある自然ダンジョン<ギガイアス鉱山跡地>へとやって来ていた。ちなみに移動方法はヴォルトにティアモとネリルを乗せて疾走、道中のモンスターとの戦闘を最小限にしつつレジェンダリア特有の自然現象による障害をネリルの自然魔力操作技術で無効化するというレジェンダリア在住のティアモも驚く力技である。

 

「うむ、ワーム種は鉱石などの再生の他にも地脈の自然魔力を調整・賦活する能力を持っているからの。金属ベースのゴーレムを作る際に練り込む自然魔力として、この地にある地属性かつ金属属性よりの魔力が最も適しておる」

「……話には聞いてたけど本当にとんでもないエレメンタルだね彼女は。麗都周辺にはそこまで特異な環境が無いとはいえレジェンダリア特有の自然現象をあっさりと無効化するなんて……あの様々な逸話が残る神話級<UBM>【アニミズヮーム】の生まれ変わりというのも本当なのか」

 

 ちなみにティアモには仲間になった時点で隠しておくのも無理だしネリルの正体とかミカの“直感”についての事情をおおよそ話している。多少は驚かれたが色々な不可思議が常識として存在しているデンドロ世界のベテランティアンだからか、或いは本人の性格なのかあっさりと信じてはくれて良かったが。

 

「しかしネリルの前世は結構有名なんだな。本人は以前に『ずっと地下に籠ってたからそんな目立ってない』と言っていたが」

「長く活動している<UBM>ならそれなりに話題になるし、私達アマゾネスみたいな戦闘重視の勢力ならいざ遭遇した時の備えとして近隣の<UBM>の情報は可能な限り集めるから。まあ情報にない<UBM>がいきなり現れたり、情報持っててもやられる事も珍しくは無いけどね」

 

 やはりこの世界で長く過ごしているベテランのティアンの方がこう言った情報は多く持ってるものなんだな。ネリルも色々知ってるがモンスターだから情報はどうしてもそっち寄りになるし。

 

「【アニミズヮーム】で有名な逸話には希少鉱石が眠る鉱山で発見され、そこを一瞬にして縄張りである自然ダンジョンに変えたとかがある。或いはお隣さん(アルター王国)における【聖剣王】の伝説で神話級金属を求めていた聖剣王パーティーが出会って、彼等に神話級金属の鉱脈への道筋を示したとか」

「鉱山を自然ダンジョンに変えたのはお気に入りの鉱石がある場所を確保&保全しておこうと環境調整用の同種の配下や精霊を置いたからじゃな。……それと【聖剣王】の時には神話級金属(ヒヒイロカネ)の鉱脈を探していた連中と偶々かち合って、流石に【元始聖剣】で斬られたくはなかったから鉱脈がある場所を教えて見逃して貰ったんじゃよ。まあワシとしても【邪神】に暴れられるのは困るから“フィルター”を抜ける余り自分の手が入っていない鉱脈を紹介したりと真面目にやったが」

「なんか凄い歴史の裏側を聞いた気がする……」

「ネリルが話す時には割と良くあるぞ。偶に聞いちゃいけない様な情報も混じるが」

 

 ……今の『【邪神】の“フィルター”』云々とかな。まあネリル意外と情報管理がガバいからなぁ、本人基準では話す情報を厳選してるらしいがその基準点が彼女の価値観によって成り立ってるから……。

 ちなみに【聖剣王】達へ与えた神話級金属は生産系超級職ティアンの手で各種最高級装備品や【ベルクロス】というらしい伝説級レベルの超高性能ゴーレムに加工されたらしい。実はその際の生産工程をちょっと見学させて貰っていて、ネリルが【クルエラン】を作成するにはその技術や発想の一部を反映させてみたとかいう事実もあった模様。生産技術はともかく発想とかはモンスターである自分よりもティアンの方が上回る事は多いのだとか。

 

「まあ無駄話はここまでにしてそろそろここに来た目的を果たすとするか。……まずはスキルガチャの時間だ。無駄に目立つから街中でやりたくないんだよな」

「ふむ、今のところ周囲にモンスターはおらんぞ」

『同じく私の探知範囲内にはいませんね』

「警戒はしておく」

 

 そうしてティアモ達が周囲を警戒している間に俺は首元から下げられた小剣型のペンダント【才集刃飾 ヴァルシオン】を手に取り、そのスキル《刃技才集》を起動してその中から溢れ出した虹色の光が自分の中に浸透していくのに身を任せる。

 ……ちなみにこのエフェクトは習得するスキルの強度には関係ない模様。<UBM>由来らしき《黒晶刃》《レイライン・サーチ》そして【バイオハーデス】倒した後に引いた対アンデッドデバフスキル《冥王の威圧》と、それ以外っぽい《ファイアブレス》《ポイズンスティンガー》《職能補助:火石作成》を引いた時でも全部同じエフェクトだったしな。

 

「…………よし終わったな」

「思ってたより派手で時間もかかったね。これなら街中でやりたくないのも分かるかな……正直野外じゃなくて部屋の中とかでいいと思うけど」

「初めて<UBM>由来らしきスキルを引いた時は野外だったからこの方がいいスキルが引ける気がするんだ(思い込み)……それよりも今回のスキルは……《闇夜の衣》? やっぱり【グリムリープ】由来のスキルを引いたか」

 

 さて、見た所パッシブスキルみたいだな。それと効果は……『自分よりレベルが1000以上低い相手(モンスターからの場合は相手のレベルを10倍として計算)からの鑑定系スキルを無効にする。夜間の場合は自分への感知系スキルも無効に出来る。レベル差が大きい程に効果が上昇』とステータス欄には書かれてるな。

 確か【グリムリープ】は自分を武器に偽装するスキルがあった筈だしそこからか? 後レベル差が1000以上とかやっぱり《刃技才集》で得られるスキルは現在の俺にアジャストした形になるみたいだな。《冥王の威圧》もアンデッドに対して彼我のレベル差分だけ全ステータスをマイナスするデバフ効果だったし。

 

「……とまあそんな感じのスキルだったな。パッシブスキルだから持ってるだけ損は無いし十分に当たりの部類だろう」

「ふーん、じゃあ《看破》……確かにステータスが隠蔽されてるね。条件厳しい気もするけど貴方ならこの世界のほぼ全ての相手に問題なく効果を適応出来るでしょうしね」

「教会で祈った甲斐があったようじゃのー。関係あるかは知らんが」

 

 とにかく強いスキルが出たのだからよしっ! これからも《礼拝》と野外ガチャは欠かさない様にしよう! 多分システム的には無関係な気がするけどもうジンクスになってるからね! 

 

「さて、それじゃあ本題のゴーレム作りに入るぞ。確か自然ダンジョンの内部でやった方が良いんだよな?」

「ああ、この辺りの地脈の中心点はこの洞窟の内部にあるじゃろ。ミネラルワーム達はこっちから仕掛けなければ攻撃してくる事は無いし、他にはエレメンタル系列のゴーレムが出る事もあるみたいじゃがそれなら()()()()()()()

「……自然ダンジョン内部で生産活動とか普通じゃないんだけど……元神話級<UBM>だからなのかな」

「ネリルは意外と凝り性だから生産活動に関しては信頼できる。それと自然干渉及び魔法の実力もな」

 

 そんな会話をしつつも俺達は自然ダンジョン<ギガイアス鉱山跡地>へと足を踏み入れたのだった。さて【クルエラン】の強化がどうなるかな。




あとがき・各種設定解説

《闇夜の衣》:SSRガチャスキル
・【グリムリープ】の隠蔽偽装能力及びレジェンダリアには自然環境への擬態系能力持ちモンスターが多くいたので、それらを倒した事によって発現したスキル。
・隠蔽効果は自分への看破系スキル、自分の装備への鑑定系スキルなどが対象であり、最低条件の1000レベル差と厳しい事もあってレベル10の《看破》《鑑定眼》を無効に出来るが超級職のスキルや一部必殺スキルなどなら突破可能。
・ただしレベル差が1000を超えれば超える程に隠蔽の強度は上がるので、相手のスキルの強度とレベル差次第では上記のような超級レベルのスキル相手でも隠蔽が可能になる。
・夜間時の感知系スキル隠蔽は鑑定妨害と同じ条件で自分が対象の感知系スキルを無効にするもので、相手が使って自分を感知する《生体探査陣》や《危険察知》などは無効に出来るが、自分の行動を相手が察知する《殺気感知》などや単純に五感を強化する《遠視》などによる目視等には効果が無い。
・現状の兄のレベルは3000に迫るので効果範囲外になるには人間でもレベル2000以上、モンスターだとレベル200以上は必要になるのでまず腐る事は無い有用スキル。

《冥王の威圧》:実は取ってたSSRその二
・【バイオハーデス】……というかその元となった“アンデッドを征する”【冥王】由来のスキルであり、一定範囲内にいるアンデッドの全ステータスに自分と対象のレベル差分のデバフを掛けるアクティブスキル。
・こちらのレベル差はモンスターの種族レベルをそのまま適応するので特にアンデッドモンスターには効果が高い仕様だが、超高レベルの兄が使えば最大レベルの【大死霊】相手でも全ステータスマイナス2000以上という凶悪なデバフスキルとなる。
・尚、以前のハロウィンイベントでイベモンの種族がアンデッドだからこのスキル使えば余裕だな! と使ったらLUCが大幅にマイナスされた所為でアクシデントサークルが発動して酷い事になったのでレジェンダリアでは使用を自重してる。

《ファイアブレス》《ポイズンスティンガー》:昔当てたRガチャスキル
・《ファイアブレス》はその名の通りMPを消費して口から火を吐くスキルで、王国にいた際に倒した【フレイム・デミドラゴン】由来のスキルだと兄は考えてる。
・【紅蓮術師】で覚えた火属性魔法と比べるとMP効率が悪くて威力も低いので余り使われなかったが、魔法と違ってノータイムで使えて口から出すから奇襲性も高いと決して弱いスキルでは無いとは兄も考えてる。
・《ポイズンスティンガー》は【猛毒】を迷わせた武器で刺突の構えを取りながら突進するアクティブスキルで、王国にいた際に倒した【亜竜猛毒蜂(デミドラグ・ヴェノムホーネット)】由来のスキルだと兄は考えてる。
・貫通力を強化された突きと突き刺した相手にある程度の耐性を無視して【猛毒】を浴びせるコンボ攻撃でそこそこ強いのだが、突進する際の隙が大きい上にそもそも兄が余り近接戦をしなかったので使われなかったスキル。


読了ありがとうございました。
ここしばらくはメガテン書いてたけどデンドロ最新刊発売とweb版が盛り上がって来たので書いてみた。ただバトルロイヤルイベの方はまだ先の展開が固まって無いのでもうちょっと後。


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クルエラン、新たなる姿!

前回のあらすじ:ティ「め……奴隷になった。やったぜ」兄「本当に深い意味はなくて利便性の問題だからな!」


 □<ギガイアス鉱山跡地> 【抵抗術師(レジストマンサー)】レント・ウィステリア

 

 あれから俺達は侵入口である洞窟から<ギガイアス鉱山跡地>へと入り、自然ダンジョンを歩むとは思えないぐらいその中のかつて鉱夫達が使っていたらしい通路を順調に進んでいた。

 ここの鉱山は遥か昔に今はレジェンダリアから消えた『巨人族』が使っていた事もあるらしく、その名残なのか通路はかなり広くに作られていたので人間サイズの俺達には歩きやすかったりするのだが、モンスター蔓延る自然ダンジョン内部を順調過ぎるぐらいに進める理由は他にあり……。

 

『UGOGOGO……「はいはい大人しくしておれ。《エレメンツ・カームネス》《エレメンタル・チャーム》……ワシらには関わるな。向こうへ行っておれ」……KYUUUU……』

 

 今も通路の横から現れた純竜級エレメンタル【グレーター・ミスリルゴーレム】がこちらに戦意を向けて来たが、相手が何か行動を起こすよりも早くネリルが手を掲げると借りて来た猫の様に大人しくなってスゴスゴと引き下がってしまった。

 この様に先程からダンジョン内で遭遇するエレメンタルモンスターをネリルが精霊とエレメンタルを鎮静化させる《エレメンツ・カームネス》と、同じく精霊とエレメンタルを【魅了】する《エレメンタル・チャーム》によって片っ端から戦闘不能にして退けているのだ。

 

「相変わらず凄いね。精霊の鎮静化や魅了は【精霊術師(エレメンタラー)】にとっては基本的なスキルだけど、それを通常の精霊よりも効きにくいエレメンタルモンスター、しかも純竜級にすらあっさりやってみせるなんてこのレジェンダリアでも出来る人はあんまり居ないんだけど」

「精霊を構成する自然魔力の流れを理解してスキルの波長を調整してるだけだからそこまで珍しい技術では無いぞ。それにここの精霊やエレメンタルは此処を住処とする精霊達の影響で『自身と鉱石を守る・鉱石を発掘しに来た者を攻撃する』のが基本パターンになっとる様じゃから、そこを踏まねば敵意を抑制して退けるだけなら容易い」

「つまりエレメンタルモンスターに攻撃せず鉱石を取らなければ進むのは簡単だと」

 

 最もこの自然ダンジョンの目玉は採掘される希少鉱石、及び先程出てきた【ミスリルゴーレム】の様な鉱物系モンスターからのドロップだからな。

 自然と此処に来るのはそういったレアアイテム採取を目的とした者達のみとなり、そういった連中に対しては積極的に襲い来るエレメンタルモンスターと防衛本能を刺激された精霊達による魔法攻撃、そして地中から【ミネラルワーム】達の奇襲なども受けるという結構な難易度のダンジョンへと早変わりする訳だ。

 

「俺達の目的は此処の自然魔力を少し使わせてもらうだけだから問題ない……んだよな? 自然魔力取られても怒るとかは?」

「その辺りは問題ない、さっき此処に入ってきた時点で精霊とは話を付けた。そもそも自然魔力豊富なレジェンダリアの魔力溜まりの一つがこの鉱山じゃからな。枯渇させるぐらい使うなら襲って来るじゃろうが、ゴーレム一体に注ぎ込む程度ならそんな事にはならん」

「成る程、杞憂だったか」

 

 そんな感じで俺達は時折出て来るゴーレムをあしらいつつ、ネリルの案内の元でこの鉱山内において最も自然魔力が濃く作業がしやすい地点まで向かっていくのだった。ホントにネリルが便利過ぎるんだよなぁ。

 

 

 ◇

 

 

「……うむ、まあ此処でいいじゃろう。あんまり奥に行き過ぎると精霊やこのダンジョンのヌシレベルのモンスターとかを刺激するし、ゴーレム作るなら此処ぐらいの自然魔力で十分」

「入り口も一箇所だから見張りもしやすい」

「ていうか“ヌシ”とかいるのか」

 

 そうして俺達は鉱山にある通路の一つの行き止まりでスペースが広く取られている所までやって来て、あまり俺がログイン出来る時間は残っていない事もあって此処で【クルエラン】の再作成及び改造強化作業を行う事にした。

 とりあえずティアモとヴォルトに入り口の見張りを任せつつ、俺はアイテムボックスから【クルエラン】の躯体と【クルエラン・コア】の一件で回収した古代伝説級金属(アダマンタイト)合金含む幾つかの素材アイテムを取り出し、更にジュエルからあらかじめ分離しておいた『クルエランの本体であるコア』も呼び出した。

 

「そう言えばその【クルエラン】ってゴーレムってアイテム系なの? それともモンスター?」

「躯体の方はアイテム扱いだがコアの方はエレメンタル系統に近いモンスターって設定になってる。その所為か躯体だけならアイテムボックスにしまえるが、コアを入れて融合させると完全なモンスターになるから【ジュエル】にしか入れられなくなるんだよな」

 

 基本的に職人に作られたゴーレムはアイテムでありモンスターでもあるって設定が多いんだが、この【クルエラン】はエレメンタルモンスターのコアにゴーレムの躯体を纏わせて融合させてるからそんな複雑な仕様になってるみたいだ。

 まあ、入れる先がジュエルかアイテムボックスかで変わるぐらいなので運用には特に支障はないので構わないのだが……とそんな事を考えている間にどうやらネリルがこの部屋に自然魔力を集まりやすくする術式を敷き終わった様だな。

 

「ふむ、とりあえずこれで下準備の為の陣は敷き終わったな。……さて主人殿、これから【クルエラン】の改修を行う訳じゃが手順は頭に入っておるよな」

「無論だ。……今回はスキルの共有によって作業効率を上げる為に《フュージョニック・ユニオン・エレメンタル》を使った融合状態で製作作業を行う。その際には此処に敷いた陣とネリル自身の自然魔力吸収能力、そして俺の【クルエラン・コア】の《レイライン・アブソーブ》による地脈からの魔力吸収の合わせ技でMPを高速回復させて融合コストと生産スキルのコストを賄う。それに加えてゴーレムへの自然魔力付与も陣によって効率化されてるんだったな」

「うむ、融合スキルも前回の仕様からいくらか燃費を改善させておるし、万が一に備えてMP譲渡の魔法を込めた【ジェム】も多数用意してあるから作業には十分足りるじゃろう。製作予定としては古代伝説級金属を使った躯体強度・ステータスの大幅強化。更に《クリエイション・ゴーレムアーミーズ》を使って主人殿が新たに覚えた【格闘家(グラップラー)】系統から格闘系パッシブスキルの付与、及び融合状態のワシの魔法スキルから使えそうなものの付与と言った所かの」

 

 うん了解、生産作業前の確認行為は重要だからな。特に今回は融合状態の作業という事で複雑な作業が必要になるし慎重にいかなければならないのだ。

 まあ圧倒的な技量差もあって今回のメイン作業はネリルで俺は補助、融合スキルに関してもメインはネリルの魔法スキルを付与するのが目的だしな。スキル運用特化の人形と違ってステータス特化のゴーレムだと格闘系アクティブスキル入れても余り活用出来んし、それならコアがエレメンタルである事によって適正があり、今までは無駄に余っていた高いMPを活用できる魔法スキルを習得させた方がいいって感じだ。

 

「それじゃあ早速作業を始めるかの……《フュージョニック・ユニオン・エレメンタル》」

「……オッケー、融合完了だ。さてとまずは《メイクゴーレム》のスキルで躯体に干渉しつつ《インクルード・ネイチャーマナ》で自然魔力を込めて……」

『それと並行して《メタル・ディフォメーション(金属変形)》でこっちのアダマンタイト合金も加工しつつ、《アロイ・メイキング(合金製作)》で組み合わせて……』

 

 そうして作業内容の確認を終えた俺とネリルは融合スキルを行使して合体、まずは手始めにコアを取り除いた【クルエラン】の躯体に俺がゴーレム創造と自然魔力付与のスキルで干渉と下準備。それと並行してネリルがアダマンタイト合金及び素材を魔法で加工しつつ、ゴーレムと最も相性の良い組成になる様に合金を再構成しながら形状を変形させていく。

 ……とりあえず俺はこれまでの訓練と融合によるスキル共有で出来るようになった自然魔力操作に集中して躯体への付与と自分のMP回復に集中しつつ、その間にネリルがクルエランの新躯体を加工するって感じだ。

 

『ふむ、躯体の方は【クルエラン】がこれまで獲得した経験値(リソース)が残っておるから、それを使って剛性を強化しつつ素材アイテムの内で物理防御力の高いやつを混ぜ込みながら関節単位で作り直して内部フレームとする。そんでコアを胸部に埋め込んで此処には魔法スキルを付与、フレームの方には格闘系パッシブスキルを付与しよう。最終的に統合されるがそれが一番効率が良さそうじゃ』

「了解。《クリエイション・ゴーレムアーミーズ》《格闘技》《拳闘》《足技》付与」

『魔法に関しては事前に付与用スキルとして“覚えておいた”ものを付与すればいいな。ホイホイホイッと』

 

 そしてネリルの錬金術系スキルによって【クルエラン】の躯体だった物がアダマンタイトを始めとする物理強度が高い金属と混ぜ合わされ高強度の合金と化し、それが金属加工の魔法スキルによって形を整えられて以前のクルエランよりふた回りは大きい全長を持つ金属の人型骨格となった。

 更に“自分が習得しているスキルを付与出来る”《クリエイション・ゴーレムアーミーズ》で融合して俺のスキルとして扱われているネリルのスキルがクルエランのコアへと付与されていく。

 

『前回は融合スキル未完成じゃったからワシの魔法スキルは付与させられんかったからな。それにクルエランのコアはワシの【魔神石】ベースで作ったから全ての属性の魔法に適正があるし、どうやら付与出来る魔法の数も多い様じゃからゴーレムとは思えない数のスキルを与えられるな。……とりあえずゴーレムの躯体強化・金属の各種耐性を引き上げる地属性・海属性魔法、攻撃用に火・雷・光・氷属性の攻撃魔法、後は自然魔力吸収による再生とMP回復のパッシブスキルと魔法補助のパッシブスキルも入るか?』

「相変わらずこういう作業になると凝り性になるな」

 

 まあ本来は俺専用の特典武具である【クルエラン・コア】のスキルを俺よりも遥かに上手く使いこなしている辺り、やはりネリルはスキル運用技術に関して俺では及びもつかないレベルだと再認識したが。

 俺もデンドロにログインしている間に暇さえあれば魔法スキルを中心に色々と使いながら練習してスキル運用の技術を磨き、ネリルの指導もあって最近では魔法スキルをマニュアルで調整や改造とかも出来る様になったが……この世界のスキルを把握すればする程にネリルの技量が異常なレベルである事が理解出来てしまうのだ。

 

『まあワシレベルの技術の持ち主は“稀によく居る”ぐらいじゃし、なんなら前世のワシよりも遥かにヤバいのが複数いるのがこの世界なんじゃがな』

「そんな連中とは出来れば関わりたくないんだが……そういう連中が起こす問題の規模はデンドロ世界全体に及ぶだろうしそうもいかないか」

『そんな時の為にも戦力になる【クルエラン】は良い仕上がりにせんとな。……次は外装じゃな。残りのアダマンタイト合金を変形させつつ、元々の積層装甲を活かす形でフレームに肉付けする形で行くかの。とりあえず外装は対魔法・対エネルギー耐性重視でダメージは受ける前提で再生能力を強化して……』

 

 確か融合しているから考えている事の表層部分はネリルに読み取られるんだったな……そんな事を思っている間にもアダマンタイト合金が次々と分離・変形を繰り返してフレームへと纏わされて癒着・融合されていく。

 ネリルは凄くあっさり変形させている様に見えるけど、多分一般<マスター>・ティアンの上級職レベルの人間が数十人がかりで何日も掛けてやる作業を単独かつ超高速でやってるんだろうなぁ。

 

『再生機能に関してはコアさえ無事なら外装は幾らでも再生出来る様に自動修復機能も……そうじゃ、先々期文明技術の《相互互換修復機能》をパクって外装がある程度無事ならコアが損傷しても再生する様にしとくかの。流石にあそこまで完璧な再生にはならん超劣化品じゃが、これで生存能力も少しは上がるじゃろう』

「まあ外装と違ってモンスター扱いのコアがロストするのは避けたいし良いんじゃないか。これなら早々はやられないだろ」

『最も本物の《相互互換修復機能》と違って設定した遠隔地の対象を再生させるなんて事は出来ず、あくまでも自己修復の延長線上にある機構じゃからな。例えば火属性魔法奥義を連射されれば再生する前にコアと外装を跡形もなく蒸発させられるじゃろうから過信は禁物じゃよ』

 

 逆に言えばそのレベルでも無ければ対魔法装甲及びスキルとして発言させた熱変動耐性と魔法耐性のパッシブスキル、更には耐性強化のアクティブスキルを併用すれば防げるらしい。まあ壁役として運用する予定だから頑丈なのは良い事だけどさ。

 そうこうしている内にフレーム全身に外装部分が装着されて以前よりのふた回り程デカくなった金属のゴーレムが目の前に鎮座していたのだった。

 

『後は関節部の稼働が問題なく可能なように細部を調整して……外装へのスキル付与は耐性系パッシブを置くとして、デザインももう少し弄れるがどうする?』

「そうだな、余りゴテゴテさせる気はしないし細部を弄るぐらいでいいか。実用性重視で機能美溢れるデザインにしよう」

 

 あんまり地球式のスー○ーロボット風味にするのもアレだしリ○ルロボット風味の外見でダサくはならない感じのシンプルなデザインで行くか。アダマンタイト合金とか硬くて外見を細かく弄るのも面倒だしな。

 ……そんな感じで稼働の邪魔にならない範囲で外装のデザインを整えていき、出来上がったのは鈍色の装甲と太い手足を持って頭部には赤いモノアイが光るロボットっぽいデザインのゴーレムであった。

 

『ふむ、とりあえずこれで完成かの。ENDとHP以外のステータスは前と余り変わっておらず作り直した影響で種族レベルは下がっておるが、習得スキルの数と質は比べ物にならん。それに何よりアダマンタイト合金を始めとする高級素材を使い切って自然魔力もふんだんに付与したからレベル上限も大幅に上がっておる故、今後のレベルアップで更に強くなれるぞ』

「これ以上の改造だと神話級金属(ヒヒイロカネ)レベルの素材を大量にぶち込むぐらいしかないし、当然ながらそんな金もないからモンスターとして成長させる方向の方がいいか。……それでクルエラン、新しい身体の調子はどうだ? 動作確認をやってみてくれ」

『UGOGOGO…………GGO!』

 

 ひとまず作業が終わったので眠らせていた【クルエラン】を起こして動作確認をさせ、その命令を聞いたクルエランは手足や腰を動かしたり軽く歩いてみたり頭部のモノアイを光らせてみたりして、その結果特に問題は無い事を伝えて来た。

 流石に戦闘機動やスキルの使用はこのスペースだと難しいか。下手に暴れてこのダンジョンのエレメンタルを刺激する訳にもいかんし……とりあえずそろそろMPが切れそうだから一旦融合を解くか。

 

「よっと……ふむふむ、ワシが見た限り不具合とかはなさそうじゃな。敢えてコアとフレームと外装の複数種のパーツに分けて、最後にそれを融合させて一つのゴーレムにするという特殊な複合型の製法じゃから通常のゴーレムよりも難易度が高い生産作業じゃったが流石はワシ」

「まあ今の俺では到底出来ないレベルの技術で作られてたからな。……ティアモ、ヴォルト、こっちの作業は終わったぞ」

「もう終わったの? 思ったよりも早かったね……って、また凄いのを作った」

『ステータスは現時点でも純竜級上位でしょうか。特にENDとHPがすごい事に』

『GO!』

 

 完成したクルエランの出来をみて二人も驚いているみたいだな。実際ステータスもスキルも凄い事になってるし……さて、後残ってるのは……。

 

「それじゃあ最後にクルエランのゴーレムとしての名前を決めるか。……そうだな【カスタムゴーレム・クルエラン二型】でいいか。どうせ通称の【クルエラン】でしか呼ばないし」

「シンプルだね。まあ下手に捻るよりもいいんじゃない?」

『GO、GO』

「クルエラン自身も【クルエラン】の名前が付いていれば文句はないみたいじゃしな」

 

 はい決定。変に捻るとロクな事にならないし、俺自身ネーミングセンスがそんなにある方じゃないからな(妹達よりはマシだが)

 

「じゃあ作業は終わったし帰るか。あんまり自然ダンジョンに長居するのも危険だからな」

「うむ了解。ああ主人殿、ここの半径100メートル圏内に敵性存在は居ないし、他者のスキル効果範囲内という事は無いぞ」

「そうか。じゃあ全員【ジュエル】に戻ってくれ、ログアウトから次ログインの転移で麗都のセーブポイントに戻るから」

「「『『はーい(GOO)』』」」

 

 そうして作業を終えた俺は皆を【ジュエル】にしまってからログアウト処理を実行、特にイレギュラーな妨害が入る事もなく無事にログアウトしてダンジョンから脱出する事が出来たのだった。

 ちなみにティアモを奴隷扱いしたのはこうしたログインログアウト、それとデスペナルティなどの『<マスター>にしか無い恩恵』を受けさせる為でもある。テイムモンスターや奴隷のシステムは色々と悪用もとい有効活用出来そうだからな。




あとがき・各種設定解説

《エレメンツ・カームネス》《エレメンタル・チャーム》:精霊術師系統のスキル
・それぞれ自然魔力が意思を持った精霊やエレメンタルモンスターが興奮した時にそれを沈めるスキルと、精霊達の自分への印象を良くして魅了するスキルで、どちらも自然魔力や精霊への理解を深めてスキルの波長を調整する事で効果を引き上げられる応用技術がある。
・自然魔力が豊富で精霊やエレメンタル関連の問題が多いレジェンダリアでは非常に役に立つスキルなので、【精霊術師】が普及してる事もあってティアンの習得者は多くて応用技術の習得者は多い。
・ただし本来は興奮する精霊を沈めて自然魔力を整えるのが主体のスキルなので、モンスター化したエレメンタルモンスター相手にはかなり効きが悪くなり効果を及ぼすには非常に高度な自然魔力操作技術が必要になる。
・尚、これらのスキルが効果のあるエレメンタルモンスターは自然魔力から生まれた精霊がモンスター化したものに限り、それ以外のエレメンタル種族モンスターには効果は無い。

【カスタムゴーレム・クルエラン二型】:超強化版クルエラン
・融合による作業の効率化や多量の自然魔力が無かったので中途半端な性能(初期亜竜級成長後純竜級)で終わったプロトタイプと違い、現状手に入る最高の素材と今の自分に許された技術の粋を集めて作り上げたネリル(あと兄)の渾身の作品。
・アダマンタイト製の躯体はEND換算で一万を超える防御力を有していて、更に高いHPとダメージコントロールに優れた構造、そしてアクティブパッシブ問わず豊富な防御系スキルを身につけているので壁役としての性能は上位純竜クラス。
・《相互互換修復機能》を模した自動再生機能だが、あくまで『コアが破壊されない限り躯体を自動修復機能強化』『コアに大きなダメージを受けても躯体が無事なら一時機能停止はするが自動で回復する』程度のものだが高い防御力と合わせて耐久性を大幅に増している。
・攻撃面では格闘系パッシブスキルを追加して動きのキレを増しており、更にフレーム構造による動きの柔軟性と躯体の大幅な強度強化によって格闘攻撃の精度・速度・パワーも向上している。
・だが最大の攻撃能力は追加された各種魔法スキルであり、モノアイから火・光属性の光線撃ったり全身に炎や冷気や雷を纏わせて接近戦の威力を向上させるなど前衛壁役でも使いやすい攻撃魔法を習得させている。
・ただ魔法は覚えたばかりで効率的な運用は難しく格闘スキルもまだレベルが低いのが欠点だが、エレメンタルモンスターに近い構造故にゴーレムとしては成長性と潜在能力が非常に高く作られているので今後の成長と活躍に期待。

読了ありがとうございました。
尚、次からはまたバトルロイヤルイベント書くので改造されたクルエランの活躍はしばらく先。今後もアイデアが思いついたら書いていきます。


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特別章 争乱の孤島
バトルロイヤルイベント


※時系列的にこっちの話の方が先なので投稿します。麗都編の続きはこの特別章が終わった後になります。


 □<麗都アンティアネラ> 【戦棍姫(メイス・プリンセス)】ミカ・ウィステリア

 

「……うーん、じゃあコレとコレとコレかな。はい料金」

「身内に【ジェム】職人がいるとアイテム確保が楽でいいわね」

「ここのジェムは少々お高めでしたからね。魔法系ジョブに就いている人がレジェンダリアとしては少なめだかららしいですが」

「色々と用意して貰ってありがとうございます!」

「……まあ、料金と素材は貰ってるから良いんだがな。ネリルも手伝ってくれたし」

 

 とある日のデンドロ内にて、私はミュウちゃん・ひめひめさん・アリマちゃんと一緒にお兄ちゃんから事前に頼んでおいたいくつかの高位魔法入り【ジェム】を受け取り、その代金として相当なリルを手渡していた。

 ……流石はお兄ちゃんとネリルちゃん、当たり前の様に上級奥義魔法【ジェム】を用意出来るとはね。お兄ちゃんネリル先生からの魔法指導を得て最近『コツを掴んだ』らしく、ある程度マニュアルで魔法スキルを効率的に運用出来る様になったらしいし。

 

「さて、各種ポーション類も可能な限り買い込んだし、コレで『バトルロイヤルイベント』の準備は出来たかな」

「掲示板で調べてみても初めての限定イベントっぽいし、何があるか分からないからね」

「出来る限りの準備はしておくべきでしょう」

「まあ、お前らなら心配ないだろうけど頑張れよ。じゃあなー」

 

 そう、今回私達は色々と準備をしているのは以前の討伐クエストの時、何か湧いて来たPKを倒した後に偶然純竜級ボスモンスターと遭遇して撃破した際に【<バトルロイヤル>参加券】という運営主催の特別イベントに参加できる権利を手に入れたので行ってみようって感じになったからだ。

 決闘と違ってアイテム制限とかは余り無さそうだからね、それなら消費アイテムの準備をしておくのは戦術としてはありだろう……まあ具体的な内容までは分からないから出たとこ勝負だけど。

 

「お兄ちゃんも行っちゃったし、参加券に記された時間もそろそろだね。どういう方針で行く?」

「バトルロイヤルと言ってもどういうルールで来るかは分からないし、とりあえず出来るだけここの四人で協力して勝ち残ろうってぐらいかしら? 幾ら何でも一人で参加者全員全滅させるなんて無理というか、よっぽどの脳筋以外は考えないだろうから他も協力する連中は出るだろうし」

「バトルロイヤルのお約束として途中まで協力して勝ち残ると言うのはよく聞きますね」

 

 ミュウちゃんの言う通り、バトルロイヤルに於いては一度死んだらお終いなので生存率を上げる為に途中まで他の参加者と協力しながら勝ち残るのは有用な戦術だろう。

 まあ漫画やラノベで良くある展開だね、その後に裏切りやら騙し討ちが横行したり、最後に勝ち残った仲間同士で雌雄を決したりとかもあったり。

 

「でも『最後の一人になるまで戦え』とかだったらどうするの?」

「掲示板で見た限りの参加者数だと流石に複数名残らせるとは思うけど……まあ、もしそうなったら途中まで協力して最後に残ったら戦う感じで良いでしょう。どうせ<マスター>しか参加しないイベントなんだし気楽にいけば良いわ」

 

 そんな少し不安そうなアリマちゃんの疑問に対して、ひめひめさんがあっけらかんとした口調で『普通に最後の一人になるまで戦えば良い』と答えてくれた。

 

「まあ気楽にいこう。ひめひめさんの言う通りどうせ<マスター>同士のイベントなんだから最後まで楽しめば良いと思うよ」

「そうですよ。勝ち負け含めて楽しむイベントでしょうから、もしこのメンバーで戦うとなっても全力でやってやれば良いんです」

「ミュウちゃん……うん、そうだよね。ここのメンバー相手に勝てる気はあんまりしないけど、もしそうなっても全力で頑張るよ!」

「……アリマちゃんなら十分に勝算あると思うけどね」

 

 主にミュウちゃんの説得でやる気を出してくれたアリマちゃんだったが、ひめひめさんがボヤいた通りバトルロイヤルというルールなら無差別精神汚染を得意戦術にする彼女の勝算はかなり高いと思う。

 実際超級職取ってる私でもアリマちゃん相手では【クインバース】の状態異常置換に頼って近接戦するしか無いし、ミュウちゃん相手ではステータスが高いとか意味なくなるからクッソ不利……ひめひめさん? 何とかして近づかないと死ぬ(断言)

 

「……ん? そろそろ参加券に書かれた時間になるわね」

「よし、それじゃあ頑張ろうか!」

 

 ……そうして全ての準備を終えた私達はイベントの開始時間になると同時に何処かへと転送されていったのだった。

 

 

 ◇

 

 

 転送の直後、私の視界には麗都の広場の光景では無く、どちらかと言えばチュートリアル時に管理AI(チェシャ)と出会った空間に似た雰囲気を持った白くて広大な空間を映していた。

 その側にはちゃんとミュウちゃん達三人が居て、更に周囲には私達と同じ参加者らしい<マスター>達が次々に転送されて来ている。

 

「……ふぅん? やっぱり各国から腕利きの<マスター>を集めてるみたいね。まあ私達が参加券を入手出来た時点でそうじゃないかとは思ってたけど」

「そもそも参加券自体が純竜級モンスターを倒したりする事で入手出来るみたいでしたし、必然的に参加券を手に入れた<マスター>はそれが出来る腕前を持ってるって事ですからね」

「強そうな人がいっぱい……」

「そうだねー」

 

 まあ、ひめひめさんは運営が狙って腕の立つ<マスター>に参加券をそれとなく配布したんじゃないかって考えてるみたいだけどね。実際どうかは分かんないけど、とにかく戦闘能力が高い<マスター>が集められてるのは間違いなさそう。

 転送されて来ている参加者の服装を見ると見慣れない和風や中華風の服を着ている人が多く感じるね。多分黄河や天地出身の<マスター>だろうけど。

 

『はーい、只今をもって、ログイン中の参加者の転送が完了しましたー。これにてイベントの参加を締め切らせていただきまーす』

 

 そんな事を考えていると突然どこか間延びした()()()()()()()声が聞こえてきて、その直後に白い空間の明かりが落ちて真っ黒になった。

 ……そして少しの間を置いて空中の一点にスポットライトが当てられると、そこには私のチュートリアルを担当した管理AI『チェシャ』が何か見えない足場の様な物に立っていたのだ。

 

『皆様ようこそいらっしゃいましたー。本日はイベント、<バトルロイヤル>にご参加いただきありがとうございまーす』

「ふおおおおおお! チェシャちゃん!!!」

 

 何やら何処からか奇声と共にパシャパシャパシャパシャとカメラのシャッター音が聞こえてきた……チェシャさんのファンな<マスター>でも居たかな? 

 

『これからルール説明をさせていただきますのでー、お静かにお願いしまーす』

「分かったわチェシャちゃん!」

 

 チェシャさんがそう言ったらピッタリ黙るのには草なんだよ……それはともかくとして、直後空中にホログラムの大スクリーンが浮かび上がり、海に囲まれた大きな島の写真を写し出した。

 ぱっと見だと森があり山があり川があり湖がありと自然あふれる結構大きめの島に見えるけど、文明が栄えてる様子はないからまあ所謂無人島ってヤツかな? 

 

『こちらが今回のイベントエリアでーす。正確には島の陸地、島の上空500メテル、島から20メテルの海まで。島を覆う結界に触れたら失格になるので気を付けてねー』

 

 スクリーンにチェシャさんが今言った範囲を示す図が表示される。まあ私は空も飛べないし水中戦が得意な訳でもないから普通に陸上で行動すれば良いかな。

 

『それで今回のイベントのルールだけどー、“バトルロイヤル”の名前通りこれから皆さんには殺し合いをしてもらいまーす。正確には開始と共にここにいる参加者達がこの島のランダムな地点に転送されて、それから島にいる<マスター>の数が()()になるまで戦いあって貰う感じー。勝ち残った人には豪華報酬があるからがんばってねー』

「……あちゃー、三人までなのか」

 

 うーむ、四人組の私達が勝ち抜くと一人は必ず脱落する事になるのか。バトルロイヤルである以上は予想してたけど思ったよりもクリア人数は少なかった様だ。

 

「……ど、どうしましょう?」

「さっき言った通り可能な限りこのメンバーで協力して勝ち進むって所は変わらないけど、その最大人数が三人になるだけよ。残った一人は可哀想だけどこれもルールだから。……まあ集まった<マスター>達は精鋭ばかりだし、この四人が揃ってクリア出来るなんて確率はかなり低いだろうから余り気にしなくて良いと思うわよ」

 

 アリマちゃんとひめひめさんが小声で話し合っていたので私とミュウちゃんもその方針で問題ないと答えておく。思ったよりも勝ち残り人数が少なかったけどまあしょうがない、どうやら運営達はちゃんとしたバトルロイヤルがお望みらしいしね。

 

『さて、今回のイベントには普段とは違う要素がいくつかあるんだー。……まず、今回のイベントでプレイヤーが死亡した際には、特別にデスペナルティ無しで自分のセーブポイントに転送されるよー。ついでにアイテムのランダムドロップも無しになってるー』

「マジで⁉︎」

「至れり尽くせりだな」

「じゃあ普段からそうしてくれよ……」

 

 ふーん、私はこれまでデスペナになった事は無いけど、それならリスクも少ないし気軽に参加出来るかな。バトルロイヤルを積極的にやって欲しい運営からの心遣いって事かな。

 

『ああでも、死亡した従魔や奴隷の蘇生は出来ないし、壊れた装備も修復機能がある奴以外は直らないからそこは気を付けてねー。他にはさっきも言ったけどイベントエリアのスタート位置は個々人でランダム、かつ他の参加者とは一定以上離れて配置されるからねー。それとイベントエリアには無関係の野生モンスターは入れない様になってるよー。後は【救命のブローチ】の使用は今回禁止ー。でもそれ以外のアイテム……例えば身代わり効果持ち特典武具なんかは大丈夫だからねー。アイテムの禁止に関してはこれだけー』

 

 まあ【ブローチ】の禁止は決闘とかでもそうだから参加者の動揺は少ないみたいだね。むしろ他のアイテムは好きに使って良いらしいから、お兄ちゃんをこき使った甲斐はあったみたいな。

 

『最後にイベント内容についての詳細ねー。さっきも言った通りイベント自体はプレイヤー同士によるバトルロイヤルなんだけど、島内にはイベント用の特殊モンスターも配置されてるんだー。そして特殊モンスターを倒すとそのモンスターの強さに応じてHP・MP・SPが一定割合回復する上、各種消費アイテムをドロップする様になってるよー。上手く使ってねー』

 

 特殊モンスター上手く使えばバトルロイヤルで消耗したHPとかを回復出来る……とはならない気がするなぁ。モンスターを倒すのにも手間が掛かるし、戦闘中を狙われる可能性もあるからその辺りも警戒しないと。

 

『更に島の各地にはレアアイテムが入った宝箱がいくつも配置されてるからねー。どれも希少なアイテムだから欲しい人は探してみるのも良いんじゃないかなー。……それと今言った事以外にも“隠しギミック”がこのイベントにはあったりするからお楽しみにー』

 

 何か『バトルロイヤル』って要素から離れたギミックばかりな気もするね。単なるサービスなのかそれとも罠なのか、或いはギミックを増やす事で状況を混沌とさせてそこから各<マスター>達がどうするのかを見定める気なのか。

 ……そんな風に思わず深読みしてしまう説明だったね。他の<マスター>達も半分ぐらいは何か考え込んでいるし。

 

『説明はこれで終わりねー。……それでは一斉転送を始めるよー。みんな頑張ってねー』

 

 ……そんなチェシャさんの声と共に、私達は一斉にイベントエリア(戦場)へと転送されたのだった。さてどうなる事やら。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □■イベント用管理AI作業領域

 

「各<マスター>達をエリア内への空間転移は完了した。イベントエリアとなっている島に敷いた隔離・強制転送の結界にも今のところ異常は無い」

「……イベントエリアに張った……偽装結界も問題ない……わ」

「こちらでも確認した。少なくとも現在島に気付いたモンスターは周囲にはいない。島内に配置したイベントモンスターも問題無く稼働中だ」

「死亡した<マスター>のアバターの即時復活準備も出来てるわよ」

「配置したアイテムも問題ありませんねぃ」

「島内の自然環境にも今のところ問題は見られない」

「ご苦労さまー……初めての限定隔離イベントは今のところ順調だねー」

 

 そこは今回のイベント用に用意された管理AI達の作業領域。今回の『バトルロイヤルイベント』は<Infinite Dendrogram>に於ける初めての限定隔離イベントであるので、今後の同型イベント運用の為の各種機能確認や不具合の調整の為にこの様な場所で管理AI達は各種データの解析を行っているのだ。

 

「少なくともシステム面に於いての不具合は見つからないね〜。データは集まったし〜次からは忙しいダッチェス達とかには楽させてあげられるかも〜?」

「問題は参加した<マスター>達の動向だな。データ収集の為に敢えて<マスター>同士の戦い以外の要素も加えてみたが……」

「隔離イベントの目的は<エンブリオ>を進化させるカンフル剤の一つだもの。普段とは違う環境での<マスター>達の行動がどう影響するのかを見るんだからそれでいいじゃない?」

「今回のイベントでは第六形態に至った<マスター>は参加していないが、特典武具持ちや超級職持ちもいるからな。進化の為のカンフル剤としては悪くないだろう。……私も“隠しギミック”を用意したしな。時間が来れば投下しよう」

 

 そうして彼等はデータを集めつつも島内の<マスター>達の様子を覗き見ていた……ちなみに何名かの管理AIは個人的に目を掛けている<マスター>に参加券が渡る様に仕向けたりしたりする。

 

「しかし、今後のデータ収集の為とはいえ今回はややイベントとしては混沌とし過ぎているな」

「まあ、ジャバウォックの用意した“隠しギミック”と言い、純粋な『バトルロイヤル』とはいかない感じになってるかなー」

「今回は実験みたいなものだし〜今後はちゃんと特典分野に特化したイベントをやっていけばいいんじゃない〜?」

「そうね。……とにかく今はどの<マスター>がこのバトルロイヤルを勝ち残るかを見守る事にしましょう」

 

 こうして裏方で頑張る管理AI達を他所に、イベントエリアでは世界中から集まった<マスター>達による熾烈な『バトルロイヤル』が始まっていったのだった。




あとがき・各種設定解説

妹:結構深読みするタイプ
・普段の事件では直感を前提にして色々と考えながら最適解を選ぶので、今回の様にそれが働かない危険性がない事に関しても色々と考えて深読みしている。
・尚、今回の様にゲーム的な展開であれば知り合い同士で戦い合うのに躊躇しないタイプだが、直感に従ってる状態なら普通の事件で知り合いが敵に回っても容赦なく排除出来るタイプでもある。

バトルロイヤルイベント:実験的要素が強い
・今回は隔離イベントにおけるアイテム・モンスター・自然環境・空間転送・アバター修復などの実験データを得る為、本来ならバトルロイヤルイベントでは使われない要素も複数入れている。
・尚、今回管理AI達の中でラビットは忙しいから、バンダースナッチは興味なし、ドーマウスは幼女乗せてると言った理由で不参加。


読了ありがとうございました。
他の参加者に関してはまだ秘密。初登場含めて色々考えます。感想・評価・誤字報告はいつでもオッケーです。


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孤島で戦う者達

前回のあらすじ:妹「バトルロイヤルの時間だ!」


 □イベントエリア北部 【大魔弓手(グレイト・マギアーチャー)】ひめひめ

 

「よっと。……さて、ここは……森の中か。悪くないわね」

 

 転送が終わった後、私が立っていたのは木々が深く生い茂る森の中だった。

 周囲を見渡しても木と地面、後は木々の隙間から見える空以外には見える物もなかったので、とりあえず【ドラグリーフ】のフードを被りつつ辺りの木々に紛れ込む用に身を隠す事にする。

 

(……まずバトルロイヤルと言っても、ルール上では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のよね。あくまで勝利条件は“最後の三人になるまで生き残る事”だし、迂闊に参加者と戦っても消耗するだけだから序盤は潜伏が安定かしらね)

 

 実際、参加している数多の<マスター>を全員皆殺しにするなんて普通は不可能だし、もしそれが目的で戦い続ければどこかでリソースが切れてやられるだろうから、まずは身を隠しつつ他の三人を探してその内の誰かと合流するのが優先でいいでしょう。

 私はどちらかと言うと決戦型で継戦能力高いタイプじゃないし、一対一で一対多数で有利に戦えるタイプでもないから出来るだけ早く味方とチームを組みたいしね。

 

(まあ同じ事を考える参加者は多いだろうから序盤はかくれんぼになりそう。最初からガンガン敵をぶっ倒そうって考えるのはよっぽどの脳筋バトルマニアか、余程継戦能力とバトルロイヤルに向いた<マスター>ぐらいでしょうしね。……運営(管理AI)達が何もして来なければだけど)

 

 このままだと序盤はかくれんぼ合戦になる可能性が高いだろうし、それを“バトルロイヤル”を提案した運営がどこまで許容するかって所になるかしらね、問題は。

 ……考え過ぎかもしれないけど多分管理AI達は参加者を戦わせたがってるみたいだし、流石に潜伏型が圧倒的に不利な状況にはしないまでも戦いをさせやすくする事ぐらいは『GAAAAAAAAAA!!!』…………ふぅん? 

 

(えっと方位磁針、方位磁針……南側から()()()()()()()()()()()()()()が聞こえてきたか。どっかの<マスター>がやらかしたかでなければ多分……とにかく様子見ぐらいはしておきましょう。このイベントの詳細についても早く知っておきたいし)

 

 そう考えた私はサブジョブである【弓狩人(ボウ・ハンター)】の《気配操作》、及び【幻術師(イリュージョニスト)】の《サイレンス》で自らの気配と音を隠しつつ声の聞こえてきた方角へと身を隠しながら歩いて行ったのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ■イベントエリア北部

 

『GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

「くそっ、うるさいな! 《轟雷一閃》《疾風突き》!!!」

 

 イベントエリア北部の森林部で少し開けた場所、そこでは凄まじい叫び声を上げながら手に持った武器を振り回す【シャウト・ハンター】という名の鉱物性ゴーレムと、その攻撃を躱しながら反撃に放電する黄金の槍を突き入れる和装の青年<マスター>の姿があった。

 修羅の国とも言われる天地でもそこそこの実力を持つ彼の放った突きは容易く【シャウト・ハンター】の胴体を貫き、更に彼の<エンブリオ>である金色の槍──【轟雷槍 ヴァジュラ】が上級職の奥義レベルの大電流を追加で流した事によりゴーレムはあっさりと消し飛んだ。

 

「……本当にMPとSPは回復するみたいだな。簡単に倒せたしボーナスキャラではあるんだろうが……多分コイツの役割って()()()()()()()()()()()()()事だよなぁ。めっちゃ叫んでたし」

 

 そう、彼の考えた通り今回のイベントモンスター【シャウト・ハンター】は戦闘能力こそ亜竜級下位〜上位レベルではあるが、保有する高レベルの《人間探知》により殆どの隠蔽を無視して参加者を発見、そこから《ハイパーシャウト》によって大声を上げながら襲い来る性質を持っているのだ。

 まあ【シャウト・ハンター】はボーナスキャラと言うよりは要するに見つけた参加者に片っ端から襲い掛かりながら、大声で自分の他の参加者に位置情報を知らせる事で参加者同士が戦い合うバトルロイヤルを促進するのが役割のモンスターなのだ。

 

「……しゃーなし切り替えよう。要はこっちに向かって来るヤツを全員返り討ちにすれば良いんだ。元より俺は光と音を出しまくるから隠密には向いてないし」

 

 とは言えそこは天地の修羅勢<マスター>、元々色々な強者と戦える事に期待してイベントに参加したので、他の参加者の方から向かって来るなら好都合とポジティブに考えつつ油断なく辺りを探り……その直後の背後で《殺気感知》に反応があった。

 

「ッ⁉︎ 《轟雷一閃》!!!」

「どわぁっ⁉︎」

 

 アンブッシュは『野武士一撃必殺理論』が流行っている天地では良くあるので即座に反応した彼は、その場から飛びすさりつつ【ヴァジュラ】を背後に向けてその矛先から電撃を放射して背後に迫っていた男に叩き込んだ。

 ……だが、直接流し込んだ訳ではないので威力は落ちているが、それでも上級職が使う中位電撃魔法程度の出力はある雷撃を食らったにも関わらず、その男の<マスター>は来ていたフード付きローブに僅かに焦げ目を付けた程度で無事だった。

 

「イテテ……奇襲はダメだったか〜、やるねぇお前さん」

「威力落ちてるとは言え電撃食らって余裕そうだな……成る程【身代わり竜鱗】か。確かそっちは禁止されてなかったな」

 

 その男の懐から零れ落ちた竜の鱗の残骸を見て彼は自分の攻撃で相手が無事だった理由を察し、即座に『あの高いアイテムを何個も持ってはいないだろう』と判断して今度は直接電撃を流し込んで仕留めようと駆け出した。

 

「うおっと、いきなりか!」

「投げナイフ……!」

 

 だが、彼が駆け出すと同時に男は後ろに下がりながら複数のナイフを投擲、それに毒の様な物が塗られていると見た彼は<エンブリオ>のスキルを警戒して念の為にナイフを回避して……それによって出来た一瞬がこの戦いの勝敗を分ける事となった。

 

「やっぱ欲張るもんじゃねぇなぁ。《財宝は誰の物でも無く(アリババ)》」

「必殺スキ……なにぃ⁉︎ これは……!!?」

 

 そうして男が自らの<エンブリオ>の名を宣言し、それを攻撃系の必殺スキルを警戒した彼の考えに反していきなり持っていたアイテムボックスの中身が全て周囲にばら撒かれたのだ。

 ……これが男の<エンブリオ>【財櫃開閉 アリババ】の『対象一人の亜空間収納の中身を全て外に出して、その所有権を消去する』必殺スキル《財宝は誰の物でも無く(アリババ)》である。

 

「くっ、俺のアイテムをばら撒いたのか⁉︎」

 

 アイテムボックスの中身を出すだけのスキルが必殺スキルなのかと疑問に思うかもしれないが、この世界のアイテムボックスは安物でも数百キロを優に超える物品を収納可能であり、ベテラン勢であれば複数のアイテムボックスにトン単位での物品を入れている事もあるのでそんな中身がいきなり周囲に放り出されたら少なくとも動きは止まってしまう。

 現に彼のアイテムボックスにはイベントに備えて準備していた予備武器や多量の消費アイテム、狩ったモンスターの素材などが一斉に辺りにばら撒かれた事で即興の障害物となって足を鈍らせる……が、そこは天地の修羅勢というか『これ以上何かされる前に殺す』と即座に【ヴァジュラ】を投擲体勢で構えて必殺スキルを発動しようとした。

 

「一手遅いなぁ! 《ガベージ・スイーパー》!」

「なっ……⁉︎ 俺のアイテムがっ!!!」

 

 だがそれよりも事前に流れを決めていた男が動く方が早く、発動された掃除屋系統上級職【大掃除屋《グレイト・クリーナー》】の《ガベージ・スイーパー》──一定範囲内のゴミを自分のアイテムボックス内に回収するスキルによって散らばったアイテムは全て男のアイテムボックスの中に入ってしまった。

 本来掃除屋系統は他人が持っているアイテムや落としたアイテムなど所有権が設定されている物は“掃除すべきゴミ”と判定されないのでスキルが対応する事ないのだが、男の『所有権の消去』の効果がある必殺スキルと組み合わせる事で最悪クラスの盗難スキルと化してしまったのだ。

 

「ヒャハハハハハハハハァッ!!! これでお前のアイテムは全部頂いた「とりあえず死ねぇ! 《極・轟雷一閃(ヴァジュラ)》《クリティカル・ジャベリン》!!!」アババババババババァ!!!」

 

 ……まあ直後、攻撃体勢に入っていた彼が超音速で投げ放った【ヴァジュラ】が男の直撃して、そこから超級職の奥義レベルの轟雷が流し込まれた事によって男は黒い炭の塊となって絶命したのだが。

 最も男は奪った物を保管する為のアイテムボックスに関しては物凄く頑丈なモデルを選んだので必殺スキルを受けても無事であり、最初からデスペナになってもアイテムを落とさないイベントで上位<マスター>のアイテムを奪うだけ奪って死ぬつもりだったので実質勝ち逃げだったが。

 

「……くっそ〜、倒したけど奪われたアイテムは返ってこないよなぁ。しかも()()()()を食らうとは最悪……だ……」

 

 そうして“背後から頭部・頸動脈・心臓・両足の関節部を撃ち抜かれていた”彼は、散々な目にあったと落ち込みながらそのまま地面に倒れ伏してしまった。

 

「……まあバトルロイヤルに横入りは基本だからね。少し気の毒だとは思うけど……」

 

 それを成したのは当然彼らから100メートル以上離れた森の中から光学迷彩など各種幻術を駆使して隠れながら監視していたひめひめであり、彼女は彼が槍を投擲した直後の《殺気感知》を使っても回避出来ないタイミングで光速・貫通性特化の《閃光之矢》を使って狙撃したのだ。

 光属性故に生成時間が長くコストも嵩む《閃光之矢》だが光速で放たれるという最大のメリットから【アマテラス】の中でも狙撃に一番向いたスキルであり、今回は《ピアース・アロー》による貫通力の上乗せと《ヴァイパー・アロー》による軌道変更を合わせて木々の間をすり抜けて彼の急所を射抜いたという訳である。

 

「……くそう、今回のイベントは踏んだり蹴ったりだぁ……とりあえずあの男の顔は覚えたから次あったら絶対にぶっ殺してやるぅ……」

「……よし死んだね。喉狙った矢が外れて発生妨害の為の気管支じゃなくて頸動脈掠らせるだけだったけど、他が当たったしまあ良し」

 

 そんな嘆きの声を上げながら彼は急所を撃ち抜かれた事でHPが尽きて光の塵となり、それを遠くから見て確認したひめひめは幻術を最低限の消音以外は解除しつつ【MP回復ポーション】を飲みながら油断なく周囲を警戒した。

 

(さて、あんなモンスターがいると分かった以上は下手に隠れるよりも合流優先の方が生存率は上がるかな。消耗したMPは【ドラグリーフ】の自動回復があるからまだ大丈夫だけど、やっぱり単騎での連戦は避けたいしね)

 

 ……そう考えた彼女は周囲への警戒と索敵を続けながらも可能な限り気配を消して森の中を歩いていくのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □イベントエリア西部 【戦棍姫(メイス・プリンセス)】ミカ・ウィステリア

 

『当たれぇ!』

『おっと、当たらないよ!』

『よく動く、ニュータイプとでもいうの⁉︎』

 

 目の前にいる脚部キャタピラのロボットが手に持ったマシンガンを撃ち込んでくるが、私はそれを“直感”で先読みして回避しつつ反撃に【どらぐている】の《竜尾剣》を伸ばしてロボットを刺し貫こうとする。

 ……転送されてから勘のままに適当に歩いていたら紅白のロボアニメで出て来そうなパイロットスーツを着た女性<マスター>と遭遇、とりあえず殴り倒そうと迫ったらアイテムボックスから廃材や爆弾や煙幕を出されて牽制された間にロボットに乗られたのでこうやって戦ってるんだ。

 

『なんとぉ! 伝説級合金シールドだ!』

『む、これも防がれたか……アレは()()()()()()()()()()()()()ね』

 

 控えめに言ってあのロボットと戦闘系超級職である私とのステータス差は圧倒的の筈なのにさっきから攻め込めない。相手の操縦技量もあるんだろうけど、初手から不意打ちにいちいち的確な対処をしている所を見るに、多分私と同じで危険を事前に察知出来るんだろう。

 たったこれだけの戦闘で深読みし過ぎと思われるかもしれないが、相手の動きがいつもの私とよく似てるから多分そうだと思う。それが技術か<エンブリオ>かまでは分からないけれど……なので対策も直ぐに思いつく。

 

『不意打ち奇襲には頼らず、シンプルに圧倒的な性能(ステータス)差を持って、先読みが介在しない正面戦闘で叩き潰すのが一番かな』

『ゲェッ⁉︎ ええいっ連邦のモビルスーツ……もとい超級職(スペリオルジョブ)は化け物か!!!』

 

 私は超級職のSTRとAGIを全力で使って相手に向かって走り出しつつ、更に《竜尾剣》を地面に叩きつけて追加の加速を行い突撃した。

 あちらも危険を察知したのか近付かせまいと手持ちの銃を連写しながら下がろうとするが、脚部がキャタピラなので機敏な動きは出来ず銃撃も当たりそうなヤツを【ギガース】で弾くか【どらぐている】の防御力とEND頼りで凌いで一気に吶喊する。

 

『機体が私の反応に付いて来れない⁉︎ ……てゆーか、テイルブレードに大型メイスってどこのバルバ○スルプス○クスよ! ガンタ○クで戦える相手じゃないでしょ⁉︎』

『鉄○は私も好きだよっと!』

 

 そのまま接近した私は相手が分かっていても対応出来ない速度で《竜尾剣》を銃を持っている腕に突き刺して動きを止め、それと同時に引き戻す勢いを利用して跳躍してキャタピラの上に飛び乗って【ギガース】を振りかぶる。

 

『……フーちゃん、やっぱり二足歩行機能は必要……』

『それじゃあね。《インパクト・スマッシャー》!!!』

 

 莫大なSTRによって振り下ろされた【ギガース】は容易くロボットの装甲を粉々に砕き、スキル効果によって発生した衝撃波は内部に乗っていた物理ステータスの低いパイロットをすり潰してそのHPをゼロとしたのだった。

 

『……よし、何とか倒せたね。あの機体の性能がもっと高かったら危なかったかも』

 

 さて、次はどうするかと考えたが何と無く()()()()()()()()()()()()()()()ので、とりあえず嫌な感じがしない北側に向かう事にする。

 まあ見ず知らずの<マスター>だけのイベントだから私の“直感”は直近のものしか明確には感じられないんだけど、このまま留まっていても話が進まないので動きながら他のメンバーと合流を願いつつ参加者を倒す方針で行こう。

 

『隠れながら進むのが最善なんだろうけどこの格好(着ぐるみ)は目立つし隠密系スキル持ってないし……まあ不意打ちには強いから即殺される事は無いでしょう』

 

 それに今回は事件やら悲劇のないイベントだから、適当に頭空っぽにして楽しむのでも良いでしょう。勿論生き残りと豪華報酬は狙うけどね。




あとがき・各種設定解説

【轟雷槍 ヴァジュラ】
<マスター>:佐奈田雪村
TYPE:エルダーアームズ
到達形態:Ⅴ
能力特性:放電
固有スキル:《轟雷一閃》
必殺スキル:《極・轟雷一閃(ヴァジュラ)
・外見は三又の刃が付いた金色の槍で、モチーフは密教やチベット仏教における法具、金剛杵とも呼ばれる『ヴァジュラ』。
・固有スキルである《轟雷一閃》の効果はシンプルで『穂先に接触した対象に電撃を流す』だけであり、槍を保持している自身には感電しない特性もある。
・基本的にはメインジョブの【剛槍武者】のスキルと合わせて相手に突き刺すか武器越しに電撃を流し込む使い方をするが、“穂先に接触している大気”を対象にする事で放射状の電撃を放つ応用技もある。
・必殺スキルもシンプルに穂先から威力を大きく引き上げた放電を発生させるというものだが、“自身には感電しない”セーフティを外して威力を跳ねあげているので使用時にはサブジョブの【大投槍士】のスキルと併用しながら投擲して使っている。
・固有スキルがシンプルなもの一つで必殺スキルもその強化版故に放電の出力は非常に高く、防御を無視して【麻痺】齎す電撃故に対人性能が高い<エンブリオ>。
・その特性を活かした接近戦と切り札の投擲の組み合わせによって<マスター>である雪村は天地でもそれなりの実力の武芸者だった……が、天地らしく戦い方がシンプル過ぎるので今回の様な“戦いでの勝利を目的としない搦め手”には弱かった模様。

【財櫃開閉 アリババ】
<マスター>:V・D
TYPE:テリトリー
到達形態:Ⅳ
能力特性:物質収納亜空間への干渉
固有スキル:《ひらけゴマ(オープン・セサミ)》《とじろゴマ(クローズ・セサミ)
必殺スキル:《財宝は誰のものでもなく(アリババ)
・モチーフは千夜一夜物語の一編“アリババと40人の盗賊”の主人公『アリババ』であり、その盗賊達の財宝が入った扉を開く場面から。
・《ひらけゴマ》は何人かの相手の持っているアイテムボックスに仕舞われたアイテムをランダムに強制排出して所有権を消去するアクティブスキル。
・排出される量はスキルレベルと対象となったアイテムボックスや中のアイテムの格で決まるが、特典武具の様な譲渡不可アイテムや一部人工知能付きのものなどは所有権の消去が効かない仕様。
・《とじろゴマ》は自分が持っているアイテムボックスの内部への干渉を強力にレジストするパッシブスキルで、更にデスペナルティ時にアイテムボックスからのランダムドロップを減らす効果もある。
・必殺スキルは一体のみを対象としてアイテムボックスや収納系の特典武具・<エンブリオ>など『亜空間に収納されている物品』を全て強制排出して所有権を放棄するというもの。
・《ひらけゴマ》と同じ様に特典武具や<エンブリオ>の格次第では全部排出出来ない事もあるが、それでも『アイテムを外に出す』だけの必殺スキルなのでその分効果の強度は高い。
・ただし、デメリットというかスキルの射程は余り長くないので接近して使う必要がありリスクは高いのだが、V・Dは最悪デスペナによるデスルーラで逃げる戦術によりカルディナで多くの<マスター>を餌食にしてきた(指名手配を避ける為にティアンは狙わない)
・ちなみに参加券は奪ったアイテムを売却した金でガチャをやったら出てきたので、せっかくだからイベントでアイテム奪いまくるぜと参加した感じなので早期に退場こそしたが満喫した模様。


読了ありがとうございました。
最後に妹が戦ったのは現在は<叡智の三角>に所属する後の【撃墜王】です。超音速機動出来る機体じゃないと真価を発揮出来なかった模様。感想評価誤字報告おなしゃす。


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集められた強者達

前回のあらすじ:姫「横入りは基本」妹「とりあえず危険を避けながら敵を潰していこう」


 □■イベントエリア南西部

 

「……旦那様、開始からずっと隠れたままですけど私は使わないんですの?」

 

 イベントエリアの森にある茂みの中に身を潜めながら黒髪黒目で和装の小柄な少女──TYPE:メイデンwithアドバンス【憑器巫女 ツクモガミ】は少し不満そうな声音で肩を寄せ合っているパイロットスーツを着た青年に問いかけていた。

 

「いや、ツクモが今の戦闘形態になるとすっごく目立つ。今回はバトルロイヤルだから一人目立つヤツがいたら集中攻撃されるだろ。だから序盤は隠れながら敵の数が減るのを待つ作戦だ」

 

 彼女の問いに対して青年──<叡智の三角>特別戦闘員【戦車操縦士(タンク・ドライバー)】ジョージ・グレンはバトルロイヤルを勝ち抜く為に必要な戦術だと答えて、自分の活躍の機会がない事で機嫌を悪くしている相方を宥めていた。

 ……ちなみにツクモガミの方は外見が小学生ぐらいなので、茂みの中で男と一緒にいる光景は側から見ての犯罪臭が凄かったりする。

 

「……なんかどこかで凄く失礼な事を言われた気がするが……まあとにかく俺達の戦闘は目立つからな。戦力温存の為にも今は待ちだ」

「そう上手くいきますの? 私達どちらも操縦特化で隠密とか苦手ですし、旦那様も私に乗っていなければ雑魚じゃ無いですか」

「それはそうなんだが……流石に他の参加者に遭遇したら隠れるのは諦めるさ。どうせ一度戦闘に入ったら俺達は嫌でも目立つし、そこからは群がる敵を殲滅する方向にシフトするさ」

 

 そんな主人の提案に渋々ではあるが同意したツクモガミはメイデンとしての部分変化を応用する事で自身の機能の一つである【対生物索敵レーダー】を腕に展開、それを見ながら辺りを警戒しつつ身を隠した。

 それから遠方で【シャウト・ハンター】の叫び声や何かの戦闘音が聞こえてくる事もあったが、彼らは息を潜めながら茂みの中に隠れ続けていたのだが……。

 

「……旦那様、どうやら見つかってしまった様ですの」

「……まあ、こんな雑過ぎるかくれんぼが上手くいくはずもないよな。……ツクモ、戦闘準備だ」

 

 ツクモガミがレーダーにこちらへ真っ直ぐ向かってくる生体反応を感知した事で、ショージ曰く『雑過ぎるかくれんぼ』は終わりを迎えたと判断した彼らは茂みから出て敵手の迎撃に移っていった。

 

『GUUAAAAUUUU!!!』

「ヒャッハー! 見つけたぜェ! もう俺様の【ガルム】の鼻からは逃れられねぇぞ!!!」

 

 そんな彼らの前に現れたのは一匹の黒い大きな犬型のガードナーを連れたモヒカンの大男で、彼らは二人を見つけると犬の方は牙と爪で相手を引き裂こうとし、男の方は《獣心憑依》で強化されたステータスを活かして接近戦に持ち込もうと剣を構えて突っ込んで行った。

 最も考えなしに突撃している様に見えて実は男は必要なら撤退する事も視野に入れており、更にこの<エンブリオ>【追撃猟犬 ガルム】は匂いを記憶した相手の位置を把握するスキルを持っているので、仮に戦闘を仕切り直しても再び追跡して奇襲する事も考えているなど確かに彼はこのイベントに招かれるだけの実力を有していた。

 

「じゃあとりあえず【スモークディスチャージャー】をポイっと」

「む、煙幕か。……だが無駄だァ! 俺の【ガルム】の鼻の前ではその程度の目くらましは無意味! 行け!!!」

『GAAAAAAAAAU!!!』

 

 それ故に彼はジョージが煙幕を焚いた事でその場から逃走する気だと判断して、視覚に頼らずとも敵を見つけ出して攻撃出来る【ガルム】に敵を噛み砕けて指示を出した。

 上級のガードナーである【ガルム】なら乗機に乗っていない操縦士など容易く倒せるとの判断であり、その狙い通りに【ガルム】はジョージに飛び掛かって……ツクモが()()()()()()()()に変形させて右腕に防がれて弾き飛ばされた。

 

『GAA!?』

「なに⁉︎ ……アレはまさかメイデン、<エンブリオ>が乗機のパターンだったか!」

 

 だがそれでも<マスター>が搭乗していない今なら倒せると男は考えたが、直後そこに見覚えのある僅かな揺らぎ──《瞬間装備》系統スキルの前兆が発生すると同時に腕部のハードポイントに大型の大砲が接続されてその砲口を彼らへと向けた。

 

「《四次元展開》【試作マルチプルカノン】セット散弾(ショットガン)、ラピッドファイアですの」

「うおおおおおお! 回避ィ!!!」

 

 その砲口から連写された散弾が彼らを襲うが、鳴り響いた《殺気感知》に従って咄嗟に全力で回避に専念した事で散弾の一部に被弾する程度の軽傷で済ませる事が出来た。

 ……だが、その間にツクモガミの肉体変容は一気に進んでいった……両手に花鋭い伝説級金属(オリハルコン)で出来た爪を、足は十メートル程の長さの鋼鉄の脚部に、背部からは複数の金属関節で構成された尾が生えて、頭部は竜を模した鋭い牙を持つ機械竜のそれとなり、胴体は人間が騎乗できるコックピットブロックを備えたものに変異してそこにジョージが乗り込む事で完成した。

 

『【メタルドライガー・スウィッチングカスタム】アクティブ。各種機能正常駆動、いつでもいけますの』

『了解だ。……では戦争の時間と行こうか』

「……なっ、巨大な機械の竜だとぉ⁉︎」

 

 そこに現れたのは身長15メテル、頭部か尻尾までの全長が30メテルに届き、全身にミスリル合金製の装甲と複数の銃火器を取り付けられた大型ドラゴン型の機械であった。

 これはかつてジョージが倒した古代伝説級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【殲葬鉄竜 メタルドライガー】の特典武具【換装機竜 メタルドライガー】へ、<叡智の三角>のメンバーが中々完成しない人型ロボットへの鬱憤を晴らすかの如く現在出来る限りの強化改造が施された機体【メタルドライガー・スウィッチングカスタム】である。

 

「くっ、ここは一旦引くぞ! 《チェイサー・ファング》を……!」

『逃す気は無い』

『《四次元展開》対人射撃装備セットですの』

 

 この【メタルドライガー】は【ツクモガミ】の『装備品に憑依してそれを自身の<エンブリオ>として扱う』スキル《神の宿る器》によってTYPE:アームズやチャリオッツの<エンブリオ>の如く自由自在に運用出来るので、男が逃げ出そうとするのを見て対応しようとする主人の意思を即座に、かつ正確に組みとって己の機能を行使するのだ。

 そうしてツクモガミは瞬時に右手のハードポイントにガトリングガン、腹部に対人用のマシンガン、背部と脚部にはミサイルランチャーを装備して、既に左手に装備していたカノン砲と合わせて逃げようとする男に照準を向けてジョージにコントロールを移した。

 

『《一斉掃射(フルファイア)》』

「グ、ぐわァァァァァァッ!!!」

『AAAAOOOOON!!!』

 

 それらの砲口はジョージの【戦車操縦士】が有する特殊装備品の砲撃威力強化スキルを受けて一斉に火を吹き、回避行動に移っていた男達にマシンガンとガトリングガンの掃射によって動きを止め、そこにミサイルランチャーから放たれた焼夷弾が降り注いで焼き尽くし、トドメに弾種を徹甲弾に切り替えたカノン砲の直撃してそのHPをゼロにしたのだった。

 ……この【メタルドライガー・スウィッチングカスタム】はそれだけでも純竜級に匹敵する性能を持つ古代伝説級特典武具に、<叡智の三角>謹製の装備品による改造とジョージのジョブスキル、そして憑依した装備を使い込む程に強化する【ツクモガミ】のパッシブバフスキル《神へと至りうる器》によって上位純竜級に匹敵する総合戦闘能力を有するのだ。

 

『目標の撃破を確認しましたの。次はどうしますの?』

「このまま森を抜けるぞ。騒ぎを起こした以上は他の参加者も寄ってくるだろうし、流石に障害物が多い場所は戦い難い」

『了解ですのー。《四次元格納》』

 

 ツクモガミは主人の指示に従い一旦装備品をコックピット内部に備え付けられたアイテムボックス型逸話級特典武具【四次元箱 ケイオスキューブ】にしまい込むと、周りの木々をなぎ倒しながら南側にあった平原部へと向かっていった。

 尚、この特典武具はハロウィンの時に現れた【予次元箱 ケイオスキューブ】を<叡智の三角>メンバーと共に倒した際に獲得した特典武具であり、機能としては大容量の物体の収納やダメージ置換による不壊、中身を特典武具の一部とする事による盗難防止と自在かつ瞬時に物品の展開・収納を行うという普通のアイテムボックスの延長線上にある地味なものである。

 

『とりあえず頭部装備を【有線偵察用ドローン】に、脚部・腕部装備に【シールド型伝説級金属追加装甲】に変えておきますの』

「いくらコイツでも複数の<マスター>から必殺スキルを受ければ流石に倒されるしな。索敵と防御重視でいこう」

 

 だが、その【ケイオスキューブ】を【メタルドライガー】の《換装機構》を活かして【ツクモガミ】の一部として組み込み、自在に運用出来る<エンブリオ>とした上でスキル《四次元展開》と《四次元格納》及び《換装機構》を連動させる事で内部に収納した数々の装備を自由に付け替える事が出来る様になったのだ。

 故にその名は【スウィッチングカスタム(装備変更特化型改修機)】であり、<叡智の三角>の技術者達が(趣味とロマンと実用性とロボット開発が進まない鬱憤を込めて)開発した様々な装備を使い分ける事で高い汎用性を発揮出来る様になっているのだ。

 

『ドローンに反応あり、他の参加者ですわ。登録してある<叡智の三角>メンバーでは無いですの』

「背部装備を長距離攻撃用の大口径キャノンに変更、遠距離攻撃で先制する。……どのみちこの姿を晒した以上は向かってくる他の参加者を殲滅するしか無いからな。AR・I・CAとかの他に参加したクランメンバーと合流出来ればいいんだが」

 

 そうして最初に隠れていた森から見て南側にあった平地に出た彼らは、騒ぎを聞きつけて寄ってきた参加者達に対してロボットマニア達が作り上げた数多の武装による圧倒的な攻撃力による洗礼を与えていったのであった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □■イベントエリア中央部

 

「この痴女! しつこい! 召喚(サモン)【グレーター・ウッドゴーレム】【ロックゴーレム・トルーパーズ】!」

「違います、これは日本のクノイチの正式な衣装です。《裂雷神剣》」

 

 イベントエリア中央部の山岳地帯、そこではゴシック調のローブを纏い手に持った本から複数のゴーレムを召喚している少女と、全身を身体のラインがモロに出ているぴっちりスーツを纏い手足に僅かな装甲を付けて両手には小刀を持っているぶっちゃけ痴女にしか見えない女性が激しい戦いを繰り広げていた。

 ……少女の方はレジェンダリアクラン<魔法少女連盟>の一員である【高位契約者(ハイ・コントラクター)】“契約の魔法少女”ティア・ラメント、女性の方は天地からの参加者【雷忍(サンダー・ニンジャ)】退魔・忍である。

 

「あの痴女の足を止めなさい! 《多重同時召喚》【ライトニング・ストライクバード】【ブレイズ・ワイバーン】!」

 

 迫る忍に対してティアは()()()()()()()()()()()のゴーレムを前に出して壁にすると共に、手に持った本から更に亜竜級クラスの雷を纏った怪鳥と炎の力を持つ翼竜を召喚して上空から敵に攻撃の指示を出した。

 これだけ強力なモンスターを多数召喚出来るのは彼女が持っている本──召喚触媒の<エンブリオ>【契約法典 ゲーティア】によるものだ。この【ゲーティア】は最大72体の召喚モンスターと契約出来る召喚触媒であると共に、ここから召喚したモンスターにステータス上昇と召喚時MP軽減のパッシブ効果を与える事が出来る召喚師垂涎の<エンブリオ>。

 そしてティアはそれと召喚師系統のジョブスキルを組み合わせる事で、複数人亜竜から純竜クラスのモンスターを自在に使役しながら戦う事が出来る強力な<マスター>である。

 

「成る程、強力な召喚モンスターの物量で戦うスタイルと……ならば全て正面から押しつぶせばいいわね。《デュアル・スラッシュ》!」

『KISYAAAA⁉︎』

「なっ⁉︎ 純竜級の【ウッドゴーレム】を一撃で⁉︎」

「まだまだ行くぞ……《雷遁・雷撃波》!」

 

 ……だが、そんな強力な召喚モンスターの軍勢であるにも関わらず忍の雷を纏った双剣による斬撃で【グレーター・ウッドゴーレム】はあっさりと斬り裂かれ、群れを成して迫っていた【ロックゴーレム・トルーパーズ】も彼女が超音速で武器をしまうと共に印を結んで放たれた大威力の雷によって粉砕された。

 その理由は彼女が纏っているぴっちりスーツの<エンブリオ>【迅雷薄衣 ヤクサイカヅチ】の《火雷神熱》──『戦闘時間5秒毎にSTR・END・AGI・DEXが1%づつ上昇する』継続バフスキルの効果によるもの。そしてこの戦いに至るまで彼女は【シャウト・ハンター】を利用するなどして十分以上は戦闘時間を稼ぐ事で、自身のステータスを前衛系超級職クラスにまで引き上げていたという訳である。

 

「次は飛ぶ鳥を落とす! 《鳴雷神撃》!!!」

『KIEEEEE⁉︎』

「くッ⁉︎ ワイバーンは撃って!」

「悪いが防がせて貰う! 《黒雷神壁》!」

 

 更に彼女は雷属性に耐性のある【ライトニング・ストライクバード】に対しては蹴りと共に放たれた衝撃波によって粉砕し、ティアの指示によって放たれた火球に対しても帯電する黒雲を自分の前に展開する事で全て防いでしまった。

 これらは【ヤクサイカヅチ】のスキルであり、それぞれ強力な効果を持っているが発動条件として『《火雷神熱》の使用時間が1分毎にスキルが順番に一つづつ使用可能になる』という条件が付けられている。

 それ故に【ヤクサイカヅチ】は本来なら戦闘開始から数分経たなければ全力で戦えないデメリットを負った<エンブリオ>なのだが、今回の様なバトルロイヤルでの連戦であれば事前に準備さえ整えれば初手から全力で戦う事も出来るのだ。

 

「なら追加召喚「させん。モードチェンジ【テンペストシューター】」あぐっ⁉︎」

 

 次々と配下の召喚モンスターが倒されていったティアだが尚も諦めずにアーチャー達を盾にしつつ新たな召喚モンスターを呼び出そうとするが、それよりもAGIで圧倒的に上回る忍が再び手に持った双剣──伝説級特典武具【錬鉄双刃 ジンオーガ】の片方が()()()()()し、そこから放たれた雷を纏う風の弾丸に肩部撃ち抜かれた事によって召喚は中断されてしまう。

 ……特典武具【ジンオーガ】は装備スキル《武装合成》によって手持ち武器を最大4つまで自身に融合させる事が出来て、更に形状と能力を融合させた武器へと自由に変形・変更させる事も出来る。今回は融合させた風属性の魔弾を放つ魔力式銃器【テンペストシューター】へと片方の剣を変形させて武器に雷を纏わせる《裂雷神剣》の効果と合わせて銃撃したのだ。

 

「これでトドメよ、モードチェンジ【十文字手裏剣】《迅雷飛刃》!」

 

 そうして忍はもう片方の【ジンオーガ】を大型の十字手裏剣へと変化させて投擲、雷を纏いながら飛翔した手裏剣はワイバーンを斬り裂きながらティアの胴体を真っ二つにしてそのHPをゼロにしたのだった。

 戻ってきた手裏剣をキャッチした彼女は両手の武器を再び双刃へと戻しながら、直ぐに次の敵を探す為に周囲を索敵し始めた。《火雷神熱》の効果は戦闘終了から300秒程で効果が解除されて再び一からやり直しになってしまう為である。

 

「さて、バフが切れない内に次の参加者を探さないとね……《土雷神波》」

 

 そう言った忍から電磁波が全方位に放たれる……この《土雷神波》は一種のレーダーであり電磁波の反射によって物体の位置を探る他、電磁波が当たった対象に距離を無視して《看破》などの解析系スキルを使う事も出来る強力な索敵スキルである。

 そうして周辺を索敵して敵か【シャウト・ハンター】のどちらかを見つけ出して戦闘すれば……と考えていた忍だったが、その電磁波が“何者か”の反応を察知するとほぼ同時にそいつから()()()()()が自身に向けて超音速で放たれた事を感知してそれを慌てて斬り払った。

 

「重っ⁉︎ しかもこの強度は……!」

 

 咄嗟の斬撃とは言え今の強化された自分の攻撃……しかも【ジンオーガ】の『戦闘時間に比例して自身の性能を上昇させる』もう一つのスキル《戦刀錬刃》による強化、及び《武装合成》の『元の双刃形態では合成した武器の装備攻撃力・防御力の合計の半分が加算される』効果を合わせて各形態の中でも最大の攻撃力となっている筈の剣でも完全には斬り裂けなかった鎖を見て彼女は警戒心を強めていく。

 

「……へぇ、この強化された【紅蓮鎖獄の看守】を斬るのか……やっぱり世界中から<マスター>が集まるイベントだけあって強い人が多いね」

「お前は……何者だ?」

 

 そして鎖が引っ込むと同時に恐らくは特典武具らしき青いロングコートを羽織り、一目でかなりの業物だと分かる軽鎧や小手などを身に付けた実に楽しそうな雰囲気の青年が超音速機動で忍の前に現れた。

 ……その全体的なコーディネイトはチグハグだったが、彼女はそれが天地でもよく見る『特典武具を中心にとにかく性能の高い装備を付けまくっている』タイプだと看破し、何より男の雰囲気から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であると見なして戦闘態勢を取った。

 

「僕はフィガロ、アルター王国所属の<マスター>だよ。……さぁ、やろうか」

「天地所属<マスター>退魔・忍……参る!」

 

 ……そうして、このバトルロイヤルというルールの中で<エンブリオ>のスキルによる最高に近い戦闘能力を有する事の出来る二名の戦いが始まったのだった。




あとがき・各種設定解説

【憑器巫女 ツクモガミ】
<マスター>:ジョージ・グレン
TYPE:メイデンwithアドバンス・ウェポン
到達形態:Ⅴ
能力特性:装備品への憑依・<エンブリオ>化
固有スキル:《神の宿る器》《神へと至りうる器》《神器の担い手》
必殺スキル:《九十九の年を経て只一時のみ神へと至らん(ツクモガミ)
・モチーフは日本に伝わる、長い年月を得た道具などに宿るとされる精霊・霊魂『付喪神』。
・メイデンではあるがデフォルトだと<エンブリオ>形態を持たず、マスターが所有する装備品の一つに《神の宿る器》で憑依してそれを<エンブリオ>形態として扱う。
・《神の宿る器》を使った装備品は通常のアームズ・チャリオッツ系<エンブリオ>と同じ様にメイデン体からの変身・部分変形、紋章への収納、自動再生、通常の方法ではロストしないなどの特性を得る。
・また、通常の装備品に様に改造・修復も可能であり<エンブリオ>と違ってデスペナを得ても改造はそのままなので、現在は古代伝説級特典武具の【メタルドライガー】に憑依して<叡智の三角>による魔改造を施す事で並みの上級チャリオッツを超える能力を得ている。
・《神へと至りうる器》は【ツクモガミ】が憑依して装備を使い込んだ時間に応じて憑依した装備品への永続バフを掛けるパッシブスキルで、装備品の格と現在の到達形態に応じて上限は設定される。
・ただし永続のバフ故に効果が増すまでには非常に時間がかかり、更に憑依している装備の格に応じて必要な時間も変わるので現在憑依している【メタルドライガー】へのバフ効果は3%程度しか無く上限には程遠い。
・《神器の担い手》は【ツクモガミ】仕様時にマスターへ掛かる反動・重量などを軽減するパッシブスキルで、これにより上位純竜レベルの【メタルドライガー】を問題なく運用出来る。
・必殺スキルは【ツクモガミ】が憑依した装備の使用時間に応じて限界を超えたステータス上昇を10分間だけ齎すと言うものだが、使用後に憑依していた装備品がロストするので【メタルドライガー】に憑依している現状ではほぼ使えないスキルとなっているのが悩み。

【迅雷薄衣 ヤクサイカヅチ】
<マスター>:退魔・忍
TYPE:エルダーアームズ
到達形態:Ⅴ
能力特性:雷・自己強化
固有スキル:《火雷神熱》《裂雷神剣》《伏雷神速》《黒雷神壁》《若雷神恵》《鳴雷神撃》《土雷神波》
・外見は肌にぴっちり吸い付いている薄手のラバースーツで上半身と下半身装備枠を使っており、モチーフは伊邪那美命の体に生じた8柱の雷神の総称『八雷神』。
・基本スキルである《火雷神熱》は継続自己強化と効果時間1分毎に上記の固有スキルが左から一つずつ使用可能となる重要スキルで、第五形態現在での最大強化値は500%までとなっている。
・二つ目の《裂雷神剣》は手持ちの装備に自身のAGI分の攻撃力を持つ電撃を纏わせて強化するアクティブスキルで、三つ目の《伏雷神速》は自身の思考速度をAGIの二倍とするパッシブスキル。
・四つ目の《黒雷神壁》は自身のEND分の強度を持つ雷が宿った黒雲の壁を展開する防御スキルで、四つ目の《若雷神恵》は《火雷神熱》のバフ効果がHP・MP・SP・自身の雷属性ジョブスキルにも及ぶ様になるパッシブスキル。
・五つ目の《鳴雷神撃》は脚部から自身のSTR分の攻撃力のある衝撃波を放つアクティブスキルで、六つ目の《土雷神波》は自身のDEXの十分の一メテルの範囲まで電磁波を発して索敵するスキル。
・これらのスキルや特典武具の【ジンオーガ】の能力から忍は長期戦や連戦に長けた<マスター>だが、今回は同じく長期戦・連戦が得意なバトルロイヤル禁止カード枠と遭遇してしまったので……。


読了ありがとうございました。
ちなみに忍氏は露出狂という訳ではなく間違った忍者感+ゲームでは装備性能優先の戦闘狂なので格好を気にしてない感じです。大体どっかの脳筋と同じ天然枠。


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合流する者/潜伏する者

 □イベントエリア東部

 

 イベントエリア東部、この地区は荒れ果てた荒野が広がるエリアであり森林地帯や山岳地帯と違って身を隠せる障害物が無いので、この付近に飛ばされた<マスター>達はお互いの姿や戦闘中の他の参加者達をすぐに見つけてしまえていた。

 故に一度戦闘が始まるとその事は付近の参加者にも直ぐに知られてしまい、更に隠れて不意打ちも難しい拓けた場所なので必然的に正面戦闘が多くなり、それが複数の参加者同士で連鎖した結果今回のイベントで最も多くの<マスター>達が入り乱れる大乱闘が起きていたのだった。

 

「ギャァ⁉︎ か、身体が勝手に……!」

「これは【魅了】か⁉︎ マズイ避けてく……⁉︎」

「くっ⁉︎ ならば《心頭滅却》で精神状態異常耐性を……なんで俺に【惑乱】の状態異常が⁉︎」

「《不動心》とかも持ってるのに……ぐわぁっ⁉︎」

「おいこっちに来るんじゃない⁉︎」

「クソッ! 魅了攻撃を撒き散らしてるのは()()()()だ! 先にアイツらを……な、待てガハッ!!!」

 

 ……最もそれは少し前の話であり、今のイベントエリア東部の現状は【魅了】を始めとする複数の精神系状態異常に掛かった参加者達がお互いに殺しあうある種の地獄絵図と化していたのだが。

 

「アリマちゃん、とりあえず最優先で範囲攻撃を持ってそうな<マスター>を潰しますよ。その次ぐらいに精神異常に掛かっていない相手を狙います。《スライスハンド》」

「分かったよミュウちゃん。《精神分析》……《レーザーブレード》!」

「「ギャァァァァァッ⁉︎」」

 

 そんな光景を生み出した張本人達こそが混乱している参加者に紛れて危険な相手の首を後ろから手刀で斬り落としている【魔導拳(マジック・フィスト)】ミュウ・ウィステリアと、精神汚染を受けずに正気を保っている相手を発光する剣によって斬り捨てている【狂信者(ファナティック)】アリマ・スカーレットの二人である。

 尚、正確にはアリマの両手に持っている異様な形状の剣──右手に持った伝説級特典武具の二又の剣【音叉角剣 ヴァニフォーク】から発せられる精神耐性を減弱させる音色《ウィークネス・テノール》と、左手に持つまるで“魔法少女モノ”に出てくるアイテムの様にハートなどをあしらった剣【ラブリーチャーミングハートソード】から発せられる万民を【魅了】する波動《チャーミングウェーブ》の組み合わせによるものだが。

 

「だったら纏めて吹き飛べ! 《ラピッドファイア》《アグネヤストラ》ァ!!!」

「わっとと⁉︎」

「おっと、やっぱり範囲攻撃持ちは乱戦を一掃されるからダメですね」

 

 それでも未だに精神汚染を受けていない一人の参加者が手に持ったアサルトライフル型の<エンブリオ>から多数の炎弾を発射する事で、元凶二人ごと周りの参加者を撃破しようと試みたが、既に複数の狂化系スキルによって前衛系超級職に迫るステータスを得ているアリマとそのステータスをコピーしたミュウはその攻撃を超音速機動で回避してしまった。

 

「……ちょっと掠りましたし、そっくりお返ししますね」

『《攻撃纒装(アタック・テスクチャ)》解放《アグネヤストラ》』

「ギャァァァ⁉︎」

「なっ⁉︎ これは俺の……!」

 

 それに加えてミュウが滅多に使わない【ミメーシス】のスキル《攻撃纒装》の食らった攻撃のコストをそのまま支払う事で、自分がその攻撃を使用できる効果によってカウンターの炎弾を放つ事でアサルトライフルを持った男を含む何人かの参加者を蹴散らしてしまう。

 だが、それでもこのイベントに出られるだけの強者達だけあってまだ動ける者の中には後の副作用と引き換えに精神系状態異常を回復させ、更に一定時間精神状態異常を無効にする【高濃度覚醒剤】を服用して対抗する者も居た。

 

「後の副作用なんて考えてられるか! 《雲耀・疾風》《抜刀・千鳥》! チェストォォォォ!!!」

「む、速い……ですが太刀筋が単純です」

『《エンチャント・フィスト》《アンチウェポン・カースナックル》』

 

 その内の一人の男がAGI強化のジョブスキルと斬れ味を強化する刀型<エンブリオ>のコンボを使いながら、近くにいたミュウに向かって大上段から斬りかかる……が、その必殺の意思を入れた斬撃はあっさりと見切られて、素手による武器防御のスキル《ウェポン・パリング》と拳の強化魔法を込めた裏拳で刀身の横部分を殴られて捌かれた。

 更に彼女が装備している手甲【アンチウェポン・デモンズガントレット】のスキル、手首から上に触れた装備を呪怨系状態異常【呪物】とする効果で一時的に刀が使用不可能となり、それによって出来た隙を突かれて《攻撃纒装》でコピーした刀の斬れ味を上乗せした《貫手》によって心臓を貫かれて男は息絶えた。

 

「……1分経過。《伝播スル狂信》の判定時間です。ついでにクールタイムの終わった《チャーミングウェーブ》も」

「なっ、足が⁉︎」

「【高濃度覚醒剤】を飲んでるのになんで⁉︎」

「まさか精神耐性そのものに……⁉︎」

 

 そうした混乱によって時間が経つにつれてアリマの常時発動型パッシブスキル《伝播スル狂信》によって、彼女に掛かった狂化スキルの副産物である精神系状態異常、及び精神状態異常のデメリットがある装備による精神汚染を伝播されて同じ精神状態異常される<マスター>が次々と増えていく。

 更に《ウィークネス・テノール》を長時間掛け続けられていた事によって、此処にいる参加者達はジョブスキルや【高濃度覚醒剤》ですら効果が無い程にまで精神耐性が下がってしまっていた。

 

「身体が動かなくなって……!」

「スキルが発動しない⁉︎ これはなんの効果だ!」

「戦闘開始からもう3分経過、これでこの場の参加者の全てが私の術中に落ちたよ」

「明確な状態異常対策持ちが居なかったのが幸いでしたね。では迅速に気を付けつつ全員倒しましょうか」

 

 そうしてその場の参加者の全てが精神汚染によってまともに動けなくなった事を見た二人は、万が一<エンブリオ>などによる不意打ちや分からん殺しなどを受けない様に気を付けつつも一人づつ参加者を始末していった。

 側から見ていると外見少女の二人が動けない<マスター>を淡々と始末しているという中々ホラーな光景であり、此処で倒された<マスター>達の話から彼女達へ“処刑少女”や“認識災害”などの二つ名が付いたりするのはまた別の話だ。

 

「よし、蘇生したり自爆したりする様な能力持ちは無し。全員光の塵になる所も確認したしこれで大丈夫でしょう。念の為に《人間探知》も使って……姿を消している人とかは居ませんね」

「とりあえずバフを解除して……やっぱり狂化スキルをフルに使うとMPSPがキツイね。まあいきなり荒野に飛ばされて大乱闘だったから使わないとやられてただろうけど」

 

 尚、彼女達はイベントが始まった後に比較的すぐに合流出来たのだが、遮蔽物が無い荒野故その直後に大乱闘に巻き込まれてしまい、そこでアリマが広域魅了スキルを不意打ちで食らわせて主導権を握ってどうにか対抗出来たと言った所だ。

 実際こうしてぶじなのは精神系状態異常対策持ちが少なかったなど運に助けられた所も多い事は自覚しているので、彼女達はこれ以上拓けたこの場所に留まる事をよしとせず直ぐに西にある森林・山岳地帯へと進んでいった。

 

「仕方ありません、私達で範囲攻撃が出来るのはアリマちゃんの精神攻撃だけですからね。私はこういう乱戦には余り強くないですから負担を掛けてしまいますが……」

「いや普通に乱戦に紛れて首刈りしてたじゃん。しかも私を狙いそうなヤツから優先して。……それに新装備の【邪妖精】シリーズのお陰でMPSPにもまだ余裕があるし」

 

 そんな事を言ったアリマは回復ポーションを飲みながら首に着けられた黒字に白のハートがあしらわれた金属製の首輪──MPの割合上昇と自動回復の引き換えに精神状態異常耐性減弱と【服従】の精神状態異常を装備者に齎す新装備【邪妖精の首輪】に触れた。

 ちなみにこのアイテムは【ラブリーチャーミングハートソード】と同じく<魔法少女連盟>が作成に関わった一品であり、使用者含めて【魅了】してしまうあちらと合わせて彼女を能動的に精神状態異常にする事で《伝播スル狂信》の効果を高めながらデメリットを相殺している。

 

「しかし【エアロ・タラリア】といい<魔法少女連盟>が作る装備は本当に性能が高いですね」

「あれでも<マスター>による魔法系アイテム生産クランとしてはレジェンダリア(魔法大国)でもトップクラスだから。女性専用アイテムしか作らないけど」

「レジェンダリアのアイテムって性能は高いけどキワモノが多いイメージがあるよ。……さて、とりあえずこのまま西に向かって森がある場所に入るよ。流石に遮蔽物がない場所で遠隔武器無しは辛いし」

「うん分かった。私もまだ連戦はキツイし精神攻撃の射程距離の外から攻められるのには弱いしね。《伝播スル狂信》は私を認識してればかなり離れてても大丈夫だけど準備期間がいるし」

 

 そうして彼女達は周囲を警戒しつつも急いで西にある山岳地帯の森林部へと向かっていったのだった……荒野の外側にはバトルロイヤルを勝ち抜く為にいち早く離脱した参加者や、未だに戦い続けている強者がいると覚悟しながら。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □イベントエリア北西部

 

「……だったらこっちよ! 《ハウンドアロー》《ブリザードアロー》!」

「氷の矢? でもそれじゃあ通らない。《熱体圏》」

 

 イベントエリア北西にある森林部、そこでは予備武装の【凍竜の魔弓】を手に宙を自在に飛翔する氷の矢を放つレジェンダリアの<マスター>【大魔弓士(グレイト・マギアーチャー)】ひめひめと、迫り来る氷の矢を特典武具のスキルで超高温のフィールドを自分の身体の周囲に展開して溶かし防いだアルター王国<月世の会>所属<マスター>【疾風拳士(ゲイル・ボクサー)】日向葵の姿があった。

 ……ひめひめはこっそり隠れながら漁夫の利を得る形で戦っている参加者を弾道を操って自分の位置がバレない様に狙撃し続けていたのだが、少しやり過ぎたせいで葵に見つかって【アマテラス】による光熱矢の攻撃を【カルナ】の光熱吸収で無効化されてしまいここまで追い詰められているのだった。

 

「予備武器も駄目か……って⁉︎ 《堅樹光球》!」

「遠距離攻撃ならこちらにもある。《ヒートブラスト・コンバージェンス》」

 

 相性の悪さに歯噛みするひめひめだったが咄嗟に嫌な気配を感じた為、光の防壁を張りつつ地面へと転がった……その直後、葵は【カルナ】内に蓄積された膨大な熱エネルギーをMPに変換して頭部に付けられたサークレット型逸話級特典武具【熱竜冠 ヒートライザ】から超高温の熱光線を発射した。

 放たれた熱光線は周囲の森を焼き払い炭化させながら突き進み、更に葵はそのまま首を振る事でひめひめが居た位置を薙ぎ払う様に熱線を移動させて前方一帯を纏めて焼き払ったのだった。まあそこは百戦錬磨のひめひめであるので光の障壁で防ぎつつ、射線を見切って薙ぎ払われた反対側に避ける事で長時間照射される事を防いで凌いだのだが。

 

(あっぶな、バリア使ってなかったら即死だったわね。しかし今ので蓄積した光もごっそり持っていかれたし。……さっきの動きからしてステータスとジョブビルドはおそらく前衛系なのにこの火力、コストのMPはどこから……さっき私の光熱矢が当たった瞬間に消滅した事から【ドラグリーフ】と同じ光熱の吸収蓄積かしらね。そこに熱攻撃のスキル持ちを組み合わせてこの惨状と。どっちがどっちかはわからないけど<エンブリオ>と特典武具のコンボ。それなら……)

「……仕方ない、本当はもう少し練習したかったんだけど……【アマテラス】第2形態」

【──FormⅡ 【Twin Bowgun】】

 

 それでもひめひめはその戦闘経験と明晰な頭脳からここまでの短い戦闘で相手の能力を大凡看破してみせ、その上で『このまま撃ち続けられれば負ける』と判断してこちらからも反撃を行うべく【凍竜の魔弓】をしまいながら左手の紋章より二丁の片手持ちボウガンを呼び出した。

 このボウガンは【アマテラス】が第五形態へと進化した際に追加されていた新形態であり、通常の和弓モードよりも魔法矢の威力と射程距離が減る代わりに二丁持ちによる手数の倍加と魔法矢の連射性・速射性が向上する事による近接戦に特化した姿である。

 

「さて、光や熱エネルギーは吸収するみたいだけど()()()()()()()()()()とかはどうかな? 《ヴァイパーアロー》《爆裂之矢》!」

「チッ、《クロスガード》!」

 

 そして瞬時にひめひめは両手のボウガンに爆発属性の魔法矢を5本づつセットしながら弾道を設定して発射、敵の360度全方位から時間差付きで襲い掛からせて葵を爆撃していった。

 咄嗟に腕を交差させて防御力を上げるアクティブスキルで防御した葵だったが、爆発によって発生した熱エネルギーは【カルナ】で吸収出来ても純粋な物理エネルギーである衝撃波は吸収出来ず、また《熱体圏》もあくまで熱エネルギーを纏わせるだけなので物理攻撃に対する防御には効果が薄くそのまま衝撃波によって吹き飛ばされてしまう。

 

「ふむ、やっぱり吸収可能なのは光と熱エネルギーだけか。このまま撃ち続けて押さえ込む」

「むむ、こっちが射撃しようとしたら潰される……見かけによらず戦闘技術オバケ枠?」

 

 そのままひめひめはボウガン形態の速射性を活かした絶え間ない連射によって爆撃を行いつつ、それによる衝撃波で葵の耐性を適時崩す事で遠距離攻撃手段である《ヒートブラスト・コンバージェンス》を撃たせない様に立ち回っていた。

 葵も反撃しようとするが全方位から襲い来る爆撃の回避と防御に手間取って、更に熱戦を撃とうとするタイミングでピンポイントに体勢を崩されて頭部の前方にしか撃てない特性からまともに相手の方向に撃つこともままならなくなっていた。

 

「でも威力はそんなでもない……突っ込んで接近戦に持ち込めば。《ストーム・ステップ》」

「チッ、やっぱりこっちじゃ威力が低いから仕留めきれないか。ストッピングパワーが足りない」

 

 しかし、それならばと葵は高速移動系のスキルを使いながら弾幕を避けつつ、避けきれない物には防御を固めて無理矢理に突破する事でひめひめに対して近接戦闘に持ち込む事で仕留める方に作戦を変更した。

 当然近づかせない様に応射するひめひめだったがボウガン形態の【アマテラス】では威力が低くなり過ぎ、加えて《爆裂之矢》は爆発の衝撃と熱エネルギーによる広範囲攻撃なので単純な威力は低く、その上で熱エネルギーは吸収されているので相手を倒すだけの火力を出す事が出来ずに接近を許してしまった。

 

「……止めきれないわね」

「捉えた。《インフェルノ・バーンナックル》《ストーム・ラッシュ》!」

 

 そして葵は両腕に装備した【インフェルノ・デモンズガントレッド】のスキルによって両拳に豪炎を纏わせながら、【疾風拳士】の奥義によって目にも留まらぬ速さのパンチのラッシュをひめひめへと打ち込……もうとしたが最初の一発が入った瞬間、ひめひめの身体はまるで霞の様に消えてしまった。

 

「えっ⁉︎ まさか転移⁉︎ ……いや幻術だったの? いったいいつの間に……」

 

 その光景に流石の葵も今までの冷静な表情を崩しながら慌てた様子で周囲を見渡すが、辺りは彼女達の戦闘の余波によって焼き払われた森が広がるばかりで誰かがいる気配は無かったのだった。

 

 

 ◇

 

 

「……ふう、流石に相性が悪過ぎるわね。だからこそバトルロイヤルなら“逃げる”一択よ」

 

 先程の戦闘地点から更に西へと進んだ場所にある森林部、そこまで全速力で走って逃げて来たひめひめは光学迷彩を解いて漸く一息吐いたのだった。

 ……実は彼女が【アマテラス】第2形態を出した時点で《イリュージョン・エイリアス》による幻影も一緒に展開しており、更に自分は光学迷彩で姿を消しつつ魔法矢の軌道を操作して一見幻影の自分が矢を放っている様に見せかけながら爆炎に紛れて戦闘地帯から離脱していたのだ。

 

(しかしMPを消費し過ぎた、ポーションだけでも完全には回復出来ないか。仕方ないから他のメンバーとの合流は後回しにしてしばらくは潜伏優先ね)

 

 そう考えたひめひめは【ドラグリーフ】のフードを被ると共に光学迷彩と比べて消費MPが少ない体色変化の幻術で森林柄の迷彩を自分に描いて森の中に溶け込み、更に周囲を警戒しながら木々の間を音をなるべく立てない様に移動するというゲリラみたいな動きをし始めた。

 彼女は追い込まれた事によってこれまで少しあった油断を消して今までの参加者を積極的に減らす方針から、可能な限り戦闘を避けながら潜伏して生き残る事を優先する方針へとシフトしたのであった。




あとがき・各種設定解説

【ラブリーチャーミングハートソード】:安心と安全の<魔法少女連盟>製
・ジョブスキルである《雄性の誘惑》《雌性の誘惑》を参考に魔法少女が男女問わず【魅了】出来る様になる装備として作られたが、いざ作ってみると使用者すら【魅了】してしまう無差別装備スキル《チャーミングウェーブ》が発現したのでお蔵入りになった代物。
・だが、無差別故に効果は非常に高く能動的に自分と敵を精神状態異常に出来る武器という事でアリマとの相性が非常に良く、更に見た目によらず武器としての性能もそこそこ高いので彼女の戦闘能力向上に一役買っている。

【邪妖精】シリーズ:実は名前の通り昔の邪妖精が作った物
・MP割合上昇の代わりに他者からの命令を聞かなければならなくなる精神状態異常【服従】を付与する【邪妖精の首輪】、SP割合上昇の代わりに他者への攻撃を一定確率で不可能にする精神状態異常【萎縮】を付与する【邪妖精の手枷】、HP割合上昇の代わりに【恐怖】を付与する【邪妖精の足枷】のセット装備。
・それぞれアクセサリー・腕部・脚部の装備枠を使い、全て同時装備するとHPMPSPの自動回復と精神状態異常耐性大幅低下のセット効果が付与される主に奴隷にスキルを使わせ続けてこき使う為に作られたものらしい。
・結構前に何処からか流れ着いた物がバザーに投げ売りされていたのを見たアリマがまとめて買い取った物であるが、デザインが『ザ・奴隷用』と言った感じでしかも手枷足枷は鎖で繋がれていたので戦闘に不向きだと判断されて死蔵されていた。
・しかし効果は自分と相性が非常に良かったので<魔法少女連盟>に所属する『装備品の効果をそのままにデザインや外観を自由に変える<エンブリオ>』の持ち主に依頼して仕立て直された事で戦闘に使える様になった。

【アマテラス】第2形態:二丁拳銃ならぬ二丁ボウガン
・外見は【アマテラス】と同じ色合いのボウガンであり、形成される魔法矢の威力と射程の減少と引き換えに連射性と速射性が上昇するモードで、スキル的には形態変化のスキルが追加されたのではなく各魔法矢のスキルに『弓の形態に応じて性質変化』効果が追加された感じ。
・第2形態と言っているが実際には紋章内部に第一形態の弓と第2形態のボウガンが一緒に入っており必要な方を取り出して使っているイメージ(別形態の同時展開は不可能な制約あり)
・なので片方の形態が破損しても別の形態は無事なので継戦能力も上昇しており、魔法弓を犠牲に火力を引き上げる【大魔弓士】の奥義も使いやすくなった。
・ちなみに今まで使わなかったのは流石に現実でボウガン二丁持ちの経験はなかったので、まともに使いこなせる(神クラスの技術があるひめひめ基準)様になるまで実戦では使う気がなかったから。

日向葵:アルター王国の参加者
・蓄積したエネルギーを運用出来る【ヒートライザ】を手に入れたので魔法系ジョブをリセットして、代わりにAGI型格闘系ジョブをセットして自分自身に装備スキルによる高熱を纏わせて殴りかかるスタイルになった。
・戦闘時は超高温を発し続けるので近接戦闘ではかなり強く、熱戦による遠距離攻撃もあるので蓄積したエネルギーをフルに使って良い状態ならば準超級レベルの戦闘能力がある。
・当然ながら今回のイベント参加において<月世の会>のバックアップがあり蓄積エネルギーは十分なので、この後戦闘の気配を察知した他の参加者を返り討ちにしつつ他のクランメンバーを探しに行った模様。


読了ありがとうございました。
ようやく展開がまとまった(様な気がする)のでバトルロイヤル編を再開。ボチボチ投稿していきます。


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潰し合う参加者達

前回のあらすじ:末妹「転送運は良かったです」姫「エンカ運が欲しい」


 □イベントエリア南側

 

『《四次元展開》【大型滑腔砲】を二挺前腕肩部ハードポイントへ、【対人榴弾】セット。背部ミサイルランチャーには【対人誘導炸裂弾頭】を追加装填ですの』

『全く、俺はレイドボスじゃないんだぞ。《ハウザーインパクト》!』

「「「ウワァァァァァァァァァッ!!!』

 

 イベントエリア最南端にある海岸に面した草原地帯、そこでは地面で両手両足掴んで四足歩行状態になった機械の竜【メタルドライガー・スウィッチングカスタム】がパイロットであるジョージ・グレンの操縦の下、機体各部に装着した重火器を自身を取り囲む他の参加者達へと一斉に発射していた。

 そして放たれた砲弾とミサイルは【戦車操縦士(タンク・ドライバー)】のアクティブスキル効果も加わって大爆発を起こして周囲の<マスター>を飲み込んでいく……が、地球の歩兵相手であれば有効であった榴弾も、人間が戦車以上の防御力を持つことも珍しくないこの世界(Infinite Dendrogram)においては必殺の兵器とは言えなかった。

 

「無駄無駄ァ! 《絶対具足》《アストロガード》!」

「直撃を避ければ! 《硬気功》!」

「他を囮にして全力で避ければいいな。《アクセラレイション》!」

「全て斬り払う……《玉弾き》!」

 

 ある者は<エンブリオ>とジョブスキルを組み合わせて自身の防御力を大幅に上昇させてミサイルの直撃を無傷で防ぎ、またある者は地面から土の壁を展開して砲撃を防ぎつつ爆発を自身の防御力を上昇させる事で凌ぎ、更に別の者はミサイルを誘導を上手く他人に押し付けて回避し、果ては向かってくる砲弾を全て刀で斬り払っている者までいる始末。

 

『全然数が減らないですのー、取り敢えず砲弾を【HEAT弾】に変えますの』

『やっぱり目立ちすぎたせいで袋叩きにされてるなぁ。《貫徹甲弾》!』

「ゴフッ⁉︎ 俺の鎧が……!」

 

 それでもジョージは愚痴りつつも搭載されたセンサーによって爆風の中の敵の位置を割り出し、装填された対物貫通力に特化した弾頭を対物攻撃に特化した砲撃スキルで撃つ事で全身鎧を纏った<マスター>を始末していた。

 ……【ツクモガミ】を戦闘形態にして戦い始めたグレンであったが、やはりその巨体は目立ちすぎた上にその高い戦闘能力を見た他の参加者が『まずはヤツから狙え』と言わんばかりに即席の同盟を組んで攻撃を仕掛けて来たので今の様な多勢に無勢を強いられてしまっているのだ。

 

「ヤツは砲撃特化だ! 接近戦を狙え! 《ストーム・スティンガー》」

「斬る……! 《斬鉄》!」

『チッ、だが接近戦が出来ない訳じゃないんだがなっ!』

『普通の戦車だった頃とは違いますの!』

 

 そして爆撃を高いAGIで搔い潜った禍々しい槍を持った<マスター>と日本刀を持った<マスター>が左右から【メタルドライガー】へと接近戦を仕掛けるが、ジョージは瞬時に機体を操作して肩の大砲を犠牲に槍を受け止めつつその場から跳びのきながら相手を振り払い、更に機体を一回転させる事で長い尾を鞭の様に奮って刀の男を殴り飛ばした。

 元より地竜を模して作られた【メタルドライガー】は自由に三次元機動が出来るレベルの運動性を持っており、その上で【ツクモガミ】と融合して<エンブリオ>化する事でジョージの意思通り自在に動き回る事が出来るのだ。

 

「ヒャッハー! 隙を見て漁夫の利だぜぇ!!! 《ミサイルパレード》!!!」

「うおっ⁉︎ テメェ!!!」

『背部ユニットを迎撃用ガトリングガンに』

 

 ジョージ達にとって幸いだと言えるのはこれがバトルロイヤルであり彼等があくまで即興で連携を取っているだけなので付け入る隙があり、更に今の様に他の参加者が割り込んでくる事もあるので状況が混戦じみて一人だけが狙われる事がまだ少ない事か。

 だが、それでもこの戦場で一番目立つのはサイズがデカくて強い自分達であると彼等は考え、今もモヒカンの<マスター>が手に持ったミサイルランチャーから発射されたミサイルの三割程が自分に向かってきた辺り、此処にいる参加者は常に自分達から意識を逸らしていない以上は逃げるのは最早無理だろうと判断した。

 

『まあ逃走の選択肢が無い事は最初から分かりきっていた事だがな……ツクモ、近接戦特化形態に移行!』

『了解ですの。射撃武装収納、直立モードに変形。腕部【ヒートブレードシールド】【対人ガトリングガン】展開、背部には【ミサイルランチャー付きランドセル】、腰部には【対人機関砲】を装備』

 

 故にジョージは逃走ではなく闘争の選択肢を選び、それに答えたツクモは【メタルドライガー】のフレームを稼働させてあたかも古き良き特撮番組に出て来る二足歩行の怪獣の様な姿へと変形させた上で全身に近接戦闘用の装備を装着した。

 元々【メタルドライガー】には<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>だった時代から四足歩行形態、前傾姿勢の二足歩行形態、直立姿勢の二足歩行形態に可変する機構が組まれていた。そして特典武具になった現在でもフレームにはその機構は健在だったので、変形機構というロマンが大好きな<叡智の三角>メンバーは当然改造時に装甲を変形機構に干渉しない様に取り付けて、更にはそれぞれの形態での運用に特化した専用装備も作ってしまっていたのだった。

 

『これまでは引き気味に戦っていたが、ここからは消耗度外視でいかせてもらう! 《モータースラッシュ》!』

『背部ミサイル一斉発射ですの!』

「なっ速……ガハァッ⁉︎」

 

 まずジョージは近接戦に持ち込もうと近付いてきた<マスター>へ逆に接近しながら右腕に付けられた先端がブレードになったシールドを掬い上げる様に奮って両断し、それと並行してツクモが背部ユニットから左右及び上方向に多数のミサイルを発射して敵陣へと襲い掛からせる。

 それによって混乱した敵群に対して更に左腕に固定されたガトリングガンと腰部の機関砲から無数の弾丸をばら撒き、加えてその巨体からは想像出来ない程の運動性とAGIで動き回りながら敵を踏み潰したり尻尾で薙ぎ払ったりとこれまでとは打って変わっての大暴れを披露してみせたのだ。

 

「コイツいきなり動きが……うわぁっ⁉︎」

「仕方ない……《彼方よりの閃き(リュウセイトウ)》《紫電一閃》!」

「こっちも出し惜しみはしてられないか……《龍脈の主はここに(コウリュウ)》!」

「ヒャッハー! まとめて粉砕だぜぇ!!! 《三千世界灰燼と化せ(ブラフマーアストラ)》!」

 

 しかし、それでもこの場にいるのはそれぞれこのバトルロイヤルの参加証を手に入れられた者──純竜級以上のモンスターをも倒せる凄腕の<マスター>達故、その中でも上澄みの者達は巨体を誇る【メタルドライガー】の圧倒的な暴力を掻い潜ってそれぞれの“必殺スキル”を用いて反撃に移る。

 侍風の格好をした<マスター>は刀型<エンブリオ>の『斬撃のみを転移させて対象に当てる』必殺スキルと上級職奥義の剣技スキルを合わせて相手の尾を半分近く斬り裂き、チャイナドレスを着た中華風<マスター>は地面の下に隠していた龍型の上級ガーディアンと融合しながら周囲の大地と一体となって相手を地面に沈めて動きを封じ、モヒカンの<マスター>は手に持ったミサイルランチャーを単発式のミサイルランチャーへと変形させて胴体部を狙って撃ち込み咄嗟に掲げたシールド毎相手の右腕を吹き飛ばす大爆発を起こした。

 

『ええいっ腕が……やはり多勢に無勢か! 必殺スキルを一斉に喰らえば流石の【メタルドライガー】でも……!』

『こっちは必殺スキルが実質使えないのが辛いですの……でもまだまだ身体は動きますし、この近辺にレーダーには残った他の<マスター>は後()()ですので頑張るですの!』

 

 それでもジョージとツクモは諦める事なくダメージを受けた【メタルドライガー】を無理矢理動かして反撃に移る。手始めに残ったミサイルを一斉に発射して侍風<マスター>を牽制しつつ、腰部と脚部にグレネードランチャーを装備して下方に発射して地面ごと敵を吹き飛ばしながらその場を脱した。

 そのまま四足歩行形態に移行しつつ【メタルドライガー】の切り札である《口部荷電粒子砲》に動力炉、及び追加装備した予備バッテリーのMPの大半を注ぎ込んで更には【戦車操縦士】の奥義まで使って残った敵をまとめて屠ろうとした。

 

『【荷電粒子砲用追加バッテリー】展開及びMP急速充填!』

『《破城砲撃》……いけるか?』

「まだ動くのかよぉ〜!」

「斬り捨てるのみ……!」

「マズイ! ヤツを止めろ「《ヤドリギの枝よ、天へ伸びよ(カース・ルート)》」何?」

 

 ……その直前に先程の攻撃に参加しなかった槍使いの<マスター>がどこからか“木製の槍”を取り出し、瞬時に何か異様な雰囲気を漂わせる球状のフィールドを展開してその場にいる参加者全員を飲み込んだ。

 今までは声を上げるだけで余り目立たなかったその男の行動に他の参加者は警戒するが、既にその男──アルター王国所属の<マスター>【呪槍士(カースド・ランサー)】シュバルツ・ブラックの攻撃準備は終了していたのだ。

 

「《輝ける命脈よ、尽き果てろ(フォース・アベレージング)》《輝ける才覚よ、消え失せよ(レベル・ブラスト)》」

 

 直後、彼の<エンブリオ>【滅神呪槍 ミスティルテイン】のスキルによって他の参加者の内前衛型の者の数万を超えているHPは1000以下まで下がり、続け様に使われたスキルによって合計レベル×50──カンストしている彼らにとっては25000に及ぶ威力の固定ダメージを叩き込まれてシュバルツ以外の参加者は一瞬で消し飛んだのであった。

 

 

 ◇

 

 

「……よしよし上手くいったな、丁度いい相手がいたから他の参加者を扇動して争わせる作戦。正直危なかった気もするが最終的に俺の一人勝ちだからまあよし。……やっぱりPK以外は上手くいくんだよなぁ」

 

 そうしてシュバルツは【メタルドライガー】など他の参加者の痕跡が跡形もなく消えた事を確認した後、素早くその場から離れて近場の茂みに隠れながらポーションを取り出して戦闘での消耗を回復させる為に飲んでいた。

 彼の《輝ける命脈よ、尽き果てろ》は進化の結果条件を満たした相手にHP・MP・SPの内最も高い数値を最も低い数値とする効果になっており、それと《輝ける才覚よ、消え失せよ》を組み合わせる事によって例え前衛型でもHPを強制的に下げた上で回避不可で格殺級の固定ダメージを叩き込む必殺のコンボ攻撃となっていたのだ。

 最も彼の【ミスティルテイン】はスキルの対象とする条件が『ミスティルテイン自体に接触するか《ヤドリギの枝よ、天へ伸びよ》効果範囲に入る事』であり、更にスキルを使用するには必ず<エンブリオ>を保持して自分自身にもスキル効果が及ぶ状態で無ければならないデメリットがあったので本来なら自爆気味の手段にしかならない筈が何故か今の彼には一切のダメージがなかった。

 

(【救命のブローチ】が無い今回のイベントではこのコンボは有効だな。【ビートレス】のお陰で俺には一切の悪影響は及ばないし……消耗は激しいが)

 

 その理由は彼が手に入れた籠手型の逸話級特典武具【愚防手甲 ビートレス】のパッシブスキル《坊愚忘業(ボーグガード)》の効果──装備者はこの特典武具を装備した腕で持っている手持ち武器からの悪影響を受けなくなる──によって【ミスティルテイン】による自分へのデバフやダメージを無効化しているからである。

 ただし《輝ける才覚よ、消え失せよ》は固定ダメージを与える特性上無差別かつ条件付きのスキルにしては非常に燃費が悪く、対象者の数とレベルによって変動はするが先程の様にカンスト四人に使うだけでMPを最大値の半分近く持っていかれる。なので今回の様に連戦が予想される状況では使うタイミングは限られているし、今回もわざわざ敵の数が減った後に使う事で使用後にも最低限の継戦能力を確保できる様に戦術を練っていたりするのだが。

 

「……うん、やっぱりこのゲームの俺ってそこまで弱くないよな。一応エンドコンテンツみのある<UBM>を倒したり今回のイベントでも上手くやってるし。……でも普通にPKすると何故かす……クラスメイトの妹にかち合ったり、このコンボもPKに使おうとしたら相手が“レベル0縛りプレイ<マスター>”で効かなかったりするし……はぁ、やっぱりデンドロは普通にプレイしようかなぁ」

『GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!?』

 

 そんな事を愚痴りながらもシュバルツは騒ぎを聞きつけて寄って来ていた【シャウト・ハンター】を見つけると、とある普通のクエストで入手した高性能な呪いの槍で貫いてあっさりと撃破してHPMPを回復させる。

 ……その槍も【ビートレス】が無ければ装備者を呪い殺すレベルの強力な呪詛とその代償として非常に強力な効果を持つ逸品であり、それを扱うシュバルツ自身の技量も単純なジョブスキルには頼らない<マスター>としてはかなり高いものがあったのだが、それでも彼はPKやる気でこのゲームを始めたので“なんかコレジャナイ”感を味わうシュバルツ君だったのでしたとさ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □イベントエリア北西部

 

『……クチュン! ……誰か私の噂でもしているのかな? って今はそれどころじゃ無いんだけど』

 

 所変わってイベントエリア北西にある森林部、そこではクラスメイトが愚痴ってる事など知る由もない【戦棍姫(メイス・プリンセス)】ミカ・ウィステリア(着ぐるみ状態)が、何故か周囲に自分以外誰もいない状況であるにも関わらず【ギガース】を構えながら周囲警戒していた。

 ……その瞬間、誰の姿も見えない森の中から突如として()()()()()()()が彼女の後頭部に向けて放たれた。

 

『おっと、またビームが来たよ。さっきから鬱陶しいね』

 

 だが、ミカは得意の“直感”に寄ってレーザーが発射される直前に僅かに首を横に傾げる事で回避しながら直ぐに後ろを向くが、そこには森が広がるだけでおそらくは光属性魔法であろう攻撃を発射した術者の姿はどこにもなかった。

 直後、左右から見えない攻撃点より時間差で計4条のレーザーが襲い来るが、彼女は最低限の動きでレーザーを回避して回避先を読んで放たれた少し出力の高いレーザーも【ギガース】を盾代わりにしてあっさり防いで見せた……実は少し前に彼女がこの地点に入ってから今の様な攻撃が立て続けに繰り出されていたのだ。

 

(ビームって事は光属性の攻撃だろうし姿が見えないのは光学迷彩によるものか。虚空からいきなり放たれた様にも見えたし多分それ。……でも全方位から放たれるし魔法の発射点自体を別に置く能力ってのも考えられるか。或いはロボアニメでよく見るビットみたいなのを隠してるとかかな?)

 

 今の森の中は全方位からの発射点が見えない光速レーザー弾幕が降るという普通の者にとってはキリングゾーンにしかならない場所と化していたが、直感だけで発射タイミングと攻撃の軌道が読めるミカにとっては攻撃範囲が狭く真っ直ぐにしか飛ばないレーザーはむしろ回避しやすい部類のものでしかなくこうして考え事をする余裕すらあった。

 ……とはいえ、この攻撃を行なっている“何者か”の位置は分かっておらず、ならばと“発射点”を潰そうにも下手に攻撃体制に入ればその隙を突かれて回避しきれない量の攻撃が飛んでくる可能性が彼女は高いと考えていたので今は回避に徹するしか無い状況であり……実際それをかなり離れた森の中から見ていた“何者か”もそれを狙っていた。

 

(ほう? 死角から時間差でのレーザーも全て回避か防御ですか。……天秤座(ライブラ)で見た彼女のジョブは【戦棍姫】、<マスター>で超級職を取った人と戦うのは初めてなので良い“取材”になると思いましたが、この回避能力は武器運用特化のジョブの力ではなさそうですね。あのメイスの<エンブリオ>の力でしょうか?)

 

 そいつは黒髪の男性であり片目を瞑りながら、その目の裏に全方位からのレーザーを余裕を持って回避するミカの姿を映して僅かに笑みすら浮かべていた。

 そうして彼は光属性魔法のレーザーを放ち更には自分の目の代わりにもなっている空中浮遊する黒い玉──【光輝展星 ゾディアック】という名の<エンブリオ>を引き続き操りながら“取材”を続けていった。

 

(偶々手に入ったバトルロイヤルの参加券、初のイベントであればこれまで体験した事のない経験出来るだろうと参加しましたが良かったですね。<マスター>では未だ数少ない超級職に加えて私の攻撃を全て回避する異様な立ち回り、こんな経験はこの世界に来てから始めてですからとても良い“作品の為の材料”になりそうです)

 

 そうしてその男──【閃光術師(フラッシュマンサー)】エフはとても嬉しそうな笑みを浮かべながらも、どうすればミカの力の底を測り体験出来るかを考えつつ【ゾディアック】を更に高速かつ精緻に動かして彼女への攻勢を強めながら“取材”を続けていったのだった。




あとがき・各種設定解説

【メタルドライガー】:変形機能あり
・各部のフレームを伸縮稼働させる事で走行能力と射撃安定性に秀でた某ライガー系的な四足歩行形態、格闘射撃のバランスが良く俊敏性が高いジェ○ザウラー的な前傾形態、格闘能力に長けて人間っぽい動きも出来るメカゴ○ラ的な二足歩行形態を使い分ける事が可能。
・変形機能とハードポイントによって高い汎用性を誇るがその分操作は非常に複雑になっておりジョージの素の技術では扱いきれないが、融合した【ツクモガミ】が動きをサポートする事で問題なく動かせるというか特典武具としてはそういう方向でアジャストされている。
・その結果として試作実験段階の現在でも上位純竜レベルの性能を誇ってはいるが、最初にジョージが警戒していた通り目立ちすぎた結果複数の<エンブリオ>による分からん殺しに対応仕切れなかったので敗退した。

【戦車操縦士】:操縦士系統派生上級職
・操縦士系統の他に砲手系統も必要な複合上級職で特殊装備品に騎乗した状態での射砲撃戦に特化したジョブであり、他の操縦士系統と同じでMP・DEX特化だがどちらかといえばスキル重視のジョブなのでステータスの最大値はやや低め。
・主に奥義である機体を静止させて射撃待機状態に移行してその時間の長さに応じて次の砲撃威力を増大させる《破城砲撃》や、機体の移動中の砲撃制度を上昇させる《行進間射撃》などの乗機での砲撃スキルを覚える。
・また乗機への物理射撃ダメージを軽減する《防弾装甲》や物理攻撃の入射角に応じて乗機の強度を上げる《被弾経始》、悪路走破性を中心に走行能力を上げる《無限軌道》やその場で乗機を高速旋回させる《超信地旋回》など独特な防御・移動系スキルも覚えたりする。
・尚、特殊装備品でさえあれば別にキャタピラと砲台が付いた普通の戦車である必要はないのでジョージが乗機を【メタルドライガー】に変えた後もスキルは問題なく機能しているが、ドライフにいる戦車マニア達からは『もうアレ戦車じゃないだろ』と言われる事も。

シュバルツ・ブラック:相変わらずPK活動は上手くいってない
・ただし今回のイベントでは暴れてるジョージを見かけたら直ぐに周囲の参加者を扇動しながら、更に自分も一見控えめに見えない様に戦う事で粗方潰し合わせて最後に漁夫の利を得るなど戦術眼も優秀……何故かPKしようとすると巡り合わせが悪くなるだけで。
・特典武具である【ビートレス】の大元【兜防愚 ビートレス】は小型のカブトムシ型モンスターで自分自身を銃弾代わりにして敵をぶち抜くのが得意であり、加速スキルと自身が一定速度以上で一時的無敵状態かつ防護無効の固有スキル《坊愚殲到(ボーグバトル)》を持った特攻野郎だった。
・だが固有スキル使用による攻撃後にAGIが元に戻るデメリットがあり、パーティーがやられた後に再加速する隙を突いてシュバルツが最も高いAGIを最も低いLUCと同数値にされた所為で加速出来ずスキルを使えなくなってその間に倒された。
・【愚防手甲 ビートレス】はステータス補正も無いパッシブスキル《坊愚忘業(ボーグガード)》のみの特化型であり、無敵状態の範囲を大幅に限定化した代わりにパッシブ化したアジャスト。
・ちなみにもう一本の呪いの槍は【CBR(カースドブラッディリジェネレート)ランス】という短槍で、高い攻撃力に加えてダメージを与えた相手に【出血】を齎した上でその分自身のHP・MPを回復させる《流血吸収》の装備スキルがある
・それ以外にも血を吸収する事で自己修復する《流血修復》のスキルも持っているが、デメリットとして自分に【呪い】【吸魔】が付く上に的に他者に与えたダメージ分だけ自分にもダメージと【出血】を負う呪いが付与されている。


読了ありがとうございました。
今後出る予定は不明だがモブ参加者の<エンブリオ>設定も一応考えてはいる。斬撃射程延長の【リュウセイトウ】とか地中でしか活動できないガードナー【コウリュウ】とか実は召喚獣強化より契約ガチャ上振れが強い【ゲーティア】とか。


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星の光を超えて

前回のあらすじ:妹「なんかビームが降ってきた」


 □イベントエリア北西部

 

 イベントエリア北西にある森林の一角、そこでは参加した<マスター>の中でも選りすぐりの強者である【戦棍姫(メイス・プリンセス)】ミカ・ウィステリアと【閃光術師(フラッシュマンサー)】エフの激しい戦いが繰り広げられていた。

 

『うわっとぉ! ドンドンビーム攻撃が激しくなるね!』

 

 とは言っても実際の光景はエフが操る光学迷彩によって姿を消して、宙を自在に飛翔する球体型の彼の<エンブリオ>【光輝展星 ゾディアック】から放たれるレーザーをミカが必死に回避しているというかなり一方的なものだったが。

 加えてミカを“非常に興味深い取材対象”と判断したエフは攻撃を行う【ゾディアック】の数を更に増やし、それと並行して使用される光属性魔法をより強力なものへと切り替えて、それに対して彼女がどこまでやれるのかを見極める為に更なる苛烈な攻撃を行い始めたのだ。

 

(おっと、更に攻撃の密度と出力が上がったね。回避も防御も出来ないレベルの密度の攻撃でこっちを仕留めに来る算段かな。……さてと正直状況はかなり悪いね。近接戦しか出来ない私じゃ、見えない相手の射程外からの遠距離攻撃を撃たれ続けたら何も出来ないし)

 

 それらの攻撃に対してミカは己の“直感”に従って高いAGIによる回避と【撃災棍 ギガース】を盾代わりにした防御で凌いで行くが、彼女は超級職とはいえ近接戦に特化した自分では反撃出来ない遠距離からの攻撃を撃たれ続ければ、いずれはジリ貧になってレーザーに蜂の巣にされるだろうとも考えていた。

 実際彼女の“直感”でも回避や防御を仕切れずに【どらぐている】の強度任せでレーザーを喰らわざるを得ない状況も何度かあり、またレーザーの発射点にメイスから衝撃波を放って攻撃しても、エフが撃った後すぐに【ゾディアック】を移動させる事を徹底していたので破壊する事は叶わなかった。

 

(うむむ、これだけ撃ち続けられるって相手のMPはどうなっているのか。なんか蓄積とか回復とかで補ってるんだろうけどさ。……それとさっきからそれなりに動き回ってるのに操ってる<マスター>が見当たらない。光学迷彩で姿を消してるか或いは更に遠距離からビットを操ってるか、後者ならこっちを状況を把握する手段が必要だけど、ビットにカメラでもついてるの?)

 

 それでもミカは全方位から襲い来るレーザーを“直感”に身を任せながら動く事で直撃だけは避けて凌ぎつつ、敵手の能力特性を暴くべく頭を働かせていた。

 ……内心では光学迷彩した端末ぐらいなら空気の振動とかで位置情報を正確に把握出来るミュウ()や、優れた頭脳で敵の<エンブリオ>の能力を明らかに出来るレント()ならこの状況も楽に突破出来るだろうとかも考えていたが、現状では意味ない思考だったので頭の隅に置いておいて自分に()()()()で現状を打破しようと動き出した。

 

(仕方ないしいつも通り“直感”を活かして突破口を割り出そう。……超音速機動で無理矢理突破して離脱……ダメだね移動先を置き撃ちされて危険な気がする。このまま回避行動を継続してエネルギー切れ狙い……論外こっちが先に死ぬ。後は……)

 

 そうしてミカはいくつかの手を頭に思い浮かべて、その選択肢の先にある危険を“直感”で読み取っていく……彼女の“直感”は自身に訪れる危険を察知するものであり、更に危険を乗り越える為に必要な行動を事前に示唆する事もあるのだが、その性質を応用する事でこの様に自分が取り得る行動が危険かどうかを判断して、逆説的にそれらの選択肢の中で最も“安全”──成功率の高い答えを選ぶ事も出来るのだ。

 

(……よし、この状況になった以上はこれが一番安全な手法みたいだし行くか)

『まずは《重位圏》!』

 

 打つ手を決めたミカはまず【どらぐている】の装備スキルである《重位圏》を発動──このスキルは重力属性の応用で物質の質量を感知する事によって周辺の物体位置を知覚するものであり、その特性上例え光学迷彩で姿を消していても質量さえあればその物体の位置を把握出来る。

 ……ただしガチャで当てた特典武具である為か、この《重位圏》による感知は元の持ち主の魔力や“特殊な気”の運用・感知技術を前提にしたもので質量の位置をかなり大雑把な感覚的に装備者へと伝える仕様になっており、今の彼女では森の様な障害物の多い場所で小型の物体位置を把握するのは困難なので使用しなかったスキルなのだが……。

 

『うぐ……やっぱりこの辺りの物体の位置が分かる感覚は慣れないね。特に障害物が多いと……でも見つけた。流石に()()()()()()()()()()()()のは分かりやすい! 《竜尾剣》!』

 

 それでも何もない上空に浮いている一つの球体──エフ自身と視覚を共有する事でミカの戦闘を観察していた【ゾディアック】の一機を見つけだす事は可能であり、彼女は即座にテイルブレードを伸ばしてその球体を切断して破壊した。

 それにより一時的にだがエフは戦場を見る“目”を失う事となりレーザーの発射も一時的に止まってしまう。当然彼は“取材”を続行する為即座に別の端末で視覚を確保しようとするが、それに先んじてミカは《ブラスト・スウィング》による衝撃波や《テンペスト・ストライク》による旋風をレーザーの発射点に向けて放って【ゾディアック】を辺りの木々ごと破壊し始めた。

 

『障害物がなくなれば少しは見やすくなるでしょ! そういう訳で危険そうな方向に《ブラスト・スウィング》!』

 

 これらのスキルは上級職のスキルではあるが衝撃波や旋風の威力は使用者の攻撃力に比例する仕様なので、超級職としての圧倒的なステータスと装備攻撃力を持つミカが振るえば周囲の森を薙ぎ払って簡単な平地を作るぐらいは容易い。

 加えてエフが彼女の実力の底を見ようと追加で【ゾディアック】を近付けていた事もあってその多くが攻撃に巻き込まれて損傷してしまい、加えて視点を別の端末に切り替えようとすると“直感”がそれを危険とみなして彼女がそちらに衝撃波を放つので状況の把握がし難くなる有り様だった。

 

『とりあえず危険っぽい方向に衝撃波を撃ったら攻撃の頻度が低くなったね。辺りもさっぱりしたしこれなら……『GUAOOOOO!!! 』むっ!』

 

 そうして有利な状況を作って辺りを見回したミカだったが、突如としてまだ無事だった森の中からリアルの像程の巨躯と屈強な四肢を持つ獅子が飛び出し、更には前脚の爪を光らせながら襲い掛かってきたのだ。

 咄嗟に彼女はその光刃爪(レーザークロー)を【ギガース】で受け止めて防いだが、その五本の爪の一本一本が【剣聖(ソードマスター)】の奥義《レーザーブレード》に匹敵する熱量を放っていたので思わず顔を顰めた。

 

『GAAAAAA!!!』

『うおっと。イベント用のモンスターには見えないしテイムモンスターか召喚辺りかな?』

 

 屈強な獅子の正体はエフが《天に描く物語(ゾディアック)》──星に蓄積された光エネルギーを消費して黄道十二星座をモチーフとした多様な召喚獣を呼び出す必殺スキル──の一つ《獅子(レオ)》によって呼び出した純粋性能型の召喚モンスターである。

 そのステータスは物理前衛型の上位純竜級モンスターに匹敵するレベルであり、主人であるエフの命令に従ってそのステータスからレーザークローを繰り出す近接戦をミカに仕掛けていった……のだが、その光刃は強度と耐久性も強化されている上級アームズの【ギガース】を壊せるレベルではなく、STRなどにステータスにおいても物理補正特化かつ前衛型超級職である彼女の方が上回っていたので逆に振るわれた【ギガース】によって弾き返される羽目になっていた。

 

『GYAOOOO⁉︎』

『うん、まあ強いけど倒せないって程じゃない……んだけどねっ!』

 

 圧倒的なSTR差によってあっさりと弾き飛ばされる獅子だったが、ミカはそれに追撃を掛けようとはせずに慌ててバックステップした……その直後、彼女がいた場所を見慣れたレーザーが貫いたのだ。

 視線を向けた先にはエフがこれだけ避けられるならもう意味はないと光学迷彩を解除した黒い球体──【ゾディアック】がかなり離れた所に浮かんでおり、更に彼女と獅子を囲む様にして破壊を免れたのと新たに追加した物を合わせて十数個の球体が距離を取って浮かんでいたのだ。

 

『……ふぅん? 微妙に遠い位置にあるし……次はコンビネーションかな』

『GAOOOO!!!』

 

 ミカがそう呟いて直後に包囲していた【ゾディアック】から高出力のレーザーが放たれ、彼女がそれを最小限の動きで回避した所に体勢を立て直した獅子が再び光刃爪を振りかざして躍り掛かって来たので今度は止まった所をレーザーで撃たれるのを嫌がって受けずに下がり回避した。

 厄介な事に【ゾディアック】は彼女の衝撃波やテールブレードで破壊するには微妙に面倒な距離を保ったまま攻撃をしていた。これは今までの戦闘からエフが相手の射程距離を見切って対処し難い距離に配置したからであり、言うまでもなく光速のレーザーは多少距離が開こうが問題にはならないので獅子を全方位のレーザーが援護し、レーザーをどうにかしようにも獅子が邪魔をするという状況になっていた。

 

『ううむ、流石にレーザーを避けながらライオンの相手をするのはキツいかな。……まずは片方を急いで潰そう。《ノックバック・インパクト》!』

『GYAA⁉︎』

 

 そこまでの状況に追い込んで尚ミカは“直感”と超音速機動を駆使して獅子とレーザーによる波状攻撃を躱し続け、遂に持ち前の勘の良さで獅子が攻撃する一瞬の隙を見つけ出し、振り下ろされた右の爪に合わせる様に【ギガース】をアッパー気味に振るって相手の腕を勢いよく弾き飛ばした。

 それでもダメージはないと判断した獅子は直ぐに体勢を立て直そうとするが、ダメージの代わりに当てた部分を【硬直】【部分麻痺】させるスキルで右前脚が動かなかった所為でその場に倒れ伏し、当然その隙に彼女はトドメを刺す為に超音速機動でレーザーを振り切りながら接近する。

 

「……《グリント・パイル》」

『むっ』

 

 ……だが、そのタイミングで戦場に接近していたエフ本人が光学迷彩を解除、それと同時にチャージしていた上級職の奥義である光属性魔法を解放して機動が一直線になっていたミカへと光に槍を放ったのだ。

 複数の端末を、しかも遠距離からの関節視点で自在に操りながらレーザーで敵を攻撃出来る彼の空間認識力と射撃の腕は非常に高く、光属性故の光速の攻撃である事もあってその光の槍は超音速で動くミカを正確に捉えており真っ直ぐ彼女へと向かいその身体を貫く……。

 

『……それは解ってた。《重破断(グラビトロン・ディバイダ)》』

 

 ……筈だったが、その奇襲すらも“直感”で読み切っていたミカは《グリント・パイル》が発動する直前その射線に《竜尾剣》を置き、更にその刀身を光すら通さない様な漆黒に染めながら光の槍を受け止めたのだ。

 この《重破断》は光すら捻じ曲げる超重力波を刀身に展開するスキル、それ故に漆黒の刀身に当たった光の槍はそのまま真っ二つに裂けて彼女の両側へと通り過ぎてしまう。そして彼女がわざわざ敵の本体を見過ごす筈もなく、そのままテイルブレードを超音速で伸長させてエフの心臓を正確に貫いた。

 

『これで……嫌違う『GAAAAA!』チィ! まだ動くか!』

 

 しかし、確実に仕留めたと思ったそのタイミングでミカは自身の“直感”が警報を鳴らした事に気付いて辺りを警戒するが、そこに最後まで主人の命令を守ろうとする忠実な獅子がまだ動く手脚を持って彼女へと突撃を仕掛けたのだ。

 その突撃自体はSTR差によってあっさり受け止められてしまうのだが、彼女の脳裏には獅子が突撃を仕掛ける事が出来た事──<マスター>が死ねば従魔や召喚獣も送還される筈であるにも関わらず獅子が未だに存在している事への疑問がよぎっていた。

 

『……まさか、さっきのは偽「《天に描く物語──溢瓶(アクエリアス)》」後ろ⁉︎』

 

 その疑問の答えにミカが辿り着くと同時にその背後から男の声がしたが、現在絶賛獅子を受け止めている彼女には後ろを振り返る余裕はなく体格差もあって弾き飛ばすにも僅かに時間がかかってしまう状況だった。

 そして現れた“本物の”エフはその僅かな時間の間で既に【ゾディアック】の必殺スキルで水瓶座を描き終えており、その星座からは膨大な光エネルギーが蓄積された一つの『瓶』が召喚されていたのだ。

 

『回避は……間に合わないか』

「発射」

 

 直後、その瓶が倒れると共に内蔵されていた膨大な光エネルギーが解放、無数の広域拡散レーザーと化して獅子諸共押さえつけられていたミカを光の奔流にて呑み込んだのであった。

 

 

 ◇

 

 

「……ふむ、このタイミングで拡散レーザーを放てば回避しきれないみたいですね」

 

 高域拡散レーザーによって残っていた木々をも焼き払われるか消し飛んでいて、その余波で煙と砂埃が立ち込める更地となった眼前を見たエフをそう一人心地た。

 彼はミカの戦闘を見て『相手は何らかの方法でレーザーが来る方向とタイミングを完全に読みきっている』と考え、それなら発射された時には既に回避する場所がない広範囲攻撃ならば有効かもしれないと仮説を立てて、自身の必殺スキルの中で最大の攻撃範囲を持つ水瓶座を当てる為の戦術を組み立てたのだ。

 それを実行する為に獅子を囮にしつつ自身に光学迷彩を使って接近、更に何かの防御手段を持っているかを見るのと油断を誘う為に必殺スキルで作った自身そっくりの分身《双星(ジェミニ)》を囮として使って拡散レーザーを当てる隙を作ったのだ。

 

(さて、こちらの手札の中でも最大級に火力がある《溢瓶》が当たりましたし、着ぐるみの特典武具の強度を考えても十分貫通可能なので中身は致命傷の筈ですが。無数のレーザーが当たる使用上《身代わり竜鱗》の様な使い捨て防御アイテムも連続攻撃の判定で突破できますし。……ただあの回避能力のカラクリはまだ分かってないですし、超級職相手だからと必殺スキルを奮発して四つも使ってリソースが心許ないんですよね)

 

 それでもエフは未だに相手の先読みと回避のカラクリが完全に分かっていないので思考は続けていた。<エンブリオ>や特典武具のスキルで説明出来なくもないのだが、これまで様々な対象を“取材”してきた彼自身の観察眼がその安易な答えに疑問を表していたからだ。

 或いは以前に似たような着ぐるみを着た<マスター>を取材した際に純粋な技術でレーザーに対処された経験があったからこそ違和感を感じたのかもしれないが、彼にはその思考に長く浸る事は許されなかった……何故なら拡散レーザーが直撃した筈のミカが土煙を突っ切って超音速で自身の元に突撃してきたからだ! 

 

『やっと見つけた本体ィ!』

「ッ⁉︎ 《グリント・パイル》!」

 

 だが、ミカの今まで好きにやられてきた怒りとストレスを込めた突撃に対しても万が一を備えていたエフは即座に対応しており、あらかじめ自分の周囲に待機させておいた【ゾディアック】と共に既にチャージ済みの《グリント・パイル》を向かって来る彼女に向けて放ち迎撃する。

 当たればそれで良し、躱されてもその間に再度必殺スキルを使って盾役か逃走用の召喚獣を呼び出す狙いの攻撃だったが……その考えは放たれた光の槍が彼女の着ぐるみに当たった瞬間に霧散した事によって打ち砕かれた。

 

「防御スキ『《インパクト・スマッシャー》!!!』ゴファッ⁉︎」

 

 それを見てエフは直ぐに相手が何らかの強力な防御スキルを発動していると判断したが、そこから何か行動するよりも速く光の槍を無視しながら超音速で接近したミカがその懐に潜り込みアクティブスキルを乗せた【ギガース】をフルスイングする。

 ジョブ構成が魔法系と非戦闘型の書士系統のみの彼の貧弱な物理ステータスで前衛型超級職の一撃に耐えられる筈もなく、着けていた防御装備も《バーリアブレイカー(防御スキル効果減少)》によって突破された結果、衝撃波を伴い打撃と内部破壊を合わせた一撃を撃ち込まれた彼の肉体は一瞬でミンチより酷い感じになった後すぐさま光の塵となって消えていった。

 

『……よし、今度は本物だね。必殺スキルも対象者死亡で解除されるし』

 

 ミカがあれだけの高威力レーザーを受けても無事だった理由は拡散レーザーが当たる直前にエフを対象として《我は禍ツ神を砕く巨人なり(ギガース)》を使っていたからである。その効果対象にした相手が自身に向けるスキル効果の大幅減少の力によって光属性魔法スキルの威力を減らし、更にこっそり着けていた光熱ダメージ軽減のアクセサリーと特典武具着ぐるみの強度によって耐えたのだ。

 尚、必殺スキルは使おうと思えば最初から使えたが、ただ使うだけでは遠距離から撃たれ続けてSP切れで敗北していたのは明白なので、それを考えて敵の本体の位置が分かるまで我慢強く温存した彼女の戦術勝ちである。

 

『誰だか知らないけど超強い相手だったね。温存予定の必殺スキルも切っちゃったし……むむ!』

 

 そうして念の為に当たりを警戒しながら戦闘跡地から離れる様に移動していたミカだったが、彼女にとっては慣れ親しんだ“危険”を知らせる感覚を覚えて眉を顰めながら足を止めた。

 

『うーむ、危険は迫って来る気はするんだけど“今はいない”? 参加者ならそんな事には……とりあえず安全そうな方向に進もうか』

 

 その感覚はやや妙なものであったがレーザーが当たって損傷した着ぐるみや疲弊した自分自身など消耗している現状ではまず安全を確保して休む時間が欲しいと思ったので、ひとまず彼女は警戒しながら危険が少ない方向に移動しつつ今後何が起こるかについて考えを巡らせる事にしたのだった。




あとがき・各種設定解説

妹:エフが近付かずに遠距離攻撃に徹していたら全力逃亡しかなかった
・実は本人のダメージは殆ど無いが、これは高い熱耐性と強度がある着ぐるみで全身を覆っていたのでレーザーが掠った程度なら問題なかったのが大きい。
・防具の大半が着ぐるみで十分なので浮いた金を使ってアクセサリーを買い集めており、各種耐性系や【どらぐている】運用用にMPの固定値増加アクセなどを保有して必要に応じて着ぐるみの中で付け替えてる。
・必殺スキルの効果範囲は使役モンスターに関しては従属キャパシティ範囲内か《軍団》などの対象のぶたいけい特殊スキル範囲内のものが使うスキルも含まれるが単にパーティー枠に入れているだけでは範囲外……なのだが対象のガードナー系<エンブリオ>に関しては例外でそれ自身も対象の一部として扱うので効果範囲内。

エフ:普段出来ない経験が出来たのでイベントには割と満足
・ただし妹の『感知か危険回避っぽい能力』に関しては完全には分からなかったと思っているので、いずれ機会があれば追加取材をしたいなとか考えている。


読了ありがとうございました。
ちなみにエフが超級職に就いていると奥義による広範囲攻撃が出来たので結構不利になっていた模様。光属性魔法の威力も上がるし。


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小康状態/次なる戦いは……

前回のあらすじ:妹「光速クソゲー弾幕シューティングクリア!」


 □イベントエリア北側

 

『……ポーションで僅かに損耗したHPも回復したし、SPも【クインバース】の自動回復で回復済み。MPは最大値低いから使い切っちゃったしもう少し掛かるかな』

 

 イベントエリア北側森林部、そこではドラゴンっぽい着ぐるみを着た【戦棍姫(メイス・プリンセス)】ミカ・ウィステリアが人気のない森の中を歩いていた。

 彼女は“直感”を駆使して可能な限り危険を避けながら進む事で厄介な参加者と戦う事無くここまで辿り着けたのだ。まあ途中で遭遇した【シャウト・ハンター】を瞬殺して回復薬代わりにしたり、大して危険ではない(超級職基準)参加者<マスター>を即殺したりする程度の戦闘はあったが概ね損耗無しな状況である。

 

『しかし回復薬(シャウト・ハンター)も見なくなったね。全員倒しちゃったかな? まあ五月蝿いのが居なくなって有り難いけど』

 

 ちなみに彼女の考え通りイベントエリア内に配置された【シャウト・ハンター】は大体倒されている。まあ対人間に特化した探知スキルと大声を上げるスキルがメインでステータスは亜竜レベルだし戦闘スキルも最低限、更に参加者を見つけたら大声上げて突っ込む思考回路だから悉く回復薬扱いされるのも当然だが。

 尚、モンスター投下を行ったジャバウォックとしては“バトルロイヤル”を“かくれんぼ”にしない為に潜伏引きこもり参加者を炙り出すカンフル剤扱いで配置した【シャウト・ハンター】だったが、戦闘力が低過ぎる事や投下数が少なかった事でイマイチ思った程の効果は無かったという所感の様だ(データは取れたので次回に生かす予定だけど)

 

『……さてと、私の“直感”だとこの辺りが一番安全の筈だけど、まあ命が掛かってないイベントだから少し先を読む方の精度は低いかな……そこのところどう思う? ()()()()()()

「……“それ”に関してはミカちゃんの特有の感覚だから私に言える事はないわね。知り合いの“占い師”ならもう少しまともなアドバイスが出来るかもしれないけど、私は“未来を視る”事は出来ないし」

 

 そうしてミカが独り言を口な出しながら後ろを振り向くと、木々の間からまるで滲み出すかの様に緑色のフードローブを被った【大魔弓士(グレイト・マギアーチャー)】ひめひめが姿を現したのだ。

 ……まあ、かなりワケありというか狙い通りみたいなシチュエーションに見えるかもしれないが、単にひめひめはあれから幻術と下級職狩人スキルと本人の技術を駆使して頑張って潜伏しながら逃げ隠れして偶々ミカと合流出来ただけなのだが。

 

「ま、それはともかくとして合流出来て助かったわ。私単独だとこのバトルロイヤルイベントで勝ち進むのは厳しいし。……ミカちゃんの“直感”に期待してなかったといえば嘘になるけど」

『バトルロイヤルだけあって強い人が多いもんねー。危険を避けるなら味方がいる場所を示してくれるかもしれないとは考えてたし。……私もガンタンクに乗ったニュータイプとか、全方位からビーム撃ってくるファンネル使いとかと戦って大変だったから』

「ガ○ダム好きの参加者でもいたのかしら? ……まあこっちも光と熱全吸収する相手には逃げるしか無かったし」

 

 とりあえず二人は今考えてもしょうがない事は頭の隅に追いやりつつ、まずはバトルロイヤルイベントをクリアする事に集中しようと考えて合流するまでにお互いにあった出来事や現状を掻い摘んで説明していった。

 

『……うーむ、炎攻撃全吸収は多分葵ちゃんかなぁ? アルターいた時の知り合いで<月世の会>のメンバーだった子。特典武具の性質からして間違いなさそう』

「アルターの<マスター>だったのね。もしもう一度戦う事になったら私は戦力外だから貴女に任せるわ」

『うん、厳しい相手だけど力技で殴り倒せないって事はないだろうし。……ただ、多分これから参加者より厄介な“何か”が来そうな気がするんだよねー』

「なに? いきなりイベントエリアにイレギュラーな<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>でも襲撃を掛けてくるの?」

『多分違うよー、イベントにおけるイレギュラーではなさそう。でもそれに近い事は起きるかも。……やっぱり安全なイベントだからか“遠い勘”はイマイチ精度が荒いね。それは逆にいえばイベント自体は安全なんだって事だと思う』

「てことは最初にチェシャが言っていた“隠しギミック”とかが怪しいわね。……何となく予想は出来る気もするけど」

 

 そうして話し合いの結果『おそらくこのバトルロイヤルイベントには後もう一波乱あるだろう』と予想した二人は、今後起こりうる“何か”に備える為に可能な限り万全の態勢を整えるべく牙を研ぐのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □イベントエリア中央東側

 

「……むむ、《人間探知》に反応あり。ここから北西方向300メートルぐらい先ですね」

「それじゃあ迂回する?」

「あっちの方が森が濃いので身を隠しつつ進みましょう」

 

 イベントエリア中央にある山岳地帯の森林部、そこには他の参加者との交戦を避ける為に移動して来た【魔導拳(マジック・フィスト)】ミュウ・ウィステリアと【狂信者(ファナティック)】アリマ・スカーレットのコンビが周囲を警戒しつつ移動していた。

 また、この際ミュウの特典武具【黒晶首巻 ブラックォーツ】の《人間探知》が大活躍している。人間しか探知出来ない欠点も参加者が<マスター>のみであれば問題にはならず、自分との大雑把な距離と方角程度しか分からない分だけ消費MPも少ないので【バイオハーデス】の蓄積MPがあれば常時使用も可能なので戦闘回避や先制攻撃など非常に役に立っていた。

 

「……む、向こうもこっちから離れていきますね。気づかれましたか?」

「さっきからこんなのばっかりだね。さっきまでと違って遭遇する参加者も少ないし、近くに行っても戦闘を避けて逃げていく参加者が殆ど」

「バトルロイヤルで生き残るにはそれが一番効率的ですからね。序盤からイケイケドンドンで戦ってる参加者は途中で息切れするか、或いはどこかで倒される人が多いのでは? それで今生き残ってるのは逃げるか隠れるかを戦術にした人が多いのかと」

 

 実際おおよそは彼女の言う通りであり序盤から積極的に戦って来た参加者は初見殺しが当たり前な<マスター>が跋扈するバトルロイヤルという場もあって多くが倒されており、勝ち残った者もその殆どが相応に損耗して別の参加者に倒されるか逃げ隠れして生き残る方に舵を切っている。

 最初から完全に戦闘を捨てて隠蔽特化の<エンブリオ>の力で隠れ潜む者などを含めると現実のイベントは『かくれんぼ』の様相を呈して来ていると言えるかもしれない……最もそんな状況でも戦い続けて敵を片端から撃破する事が出来る“ごく一部の例外”な参加者もいるにはいるが。

 

「ふぅむ、追撃するのもそれはそれでリスクがあるしスルーで良いですかね。どうせ別の誰かが倒すでしょう」

「……みんなそう思ってたらイベント終わらないんじゃないかな?」

「流石にそこまではいかない……と思いますが。いずれ誰かが痺れを切らすか、或いはまだ残ってる『うるせぇぶっ飛ばす!!!』思考の人が動くでしょう。多分」

 

 そんな彼女達が選んだ戦術も可能な限り戦闘を避ける生き残り重視というバトルロイヤルでは鉄板だがゲームだと特に面白味のない戦術なのだが。

 まあミュウの方は使える手札が微妙に使いにくかったりクールタイムが長過ぎて連続戦闘に向いてなかったり、アリマの方は安定して強くはあるが精神汚染に掛けるのにどうしても長期戦にならざるを得ず消耗が激しいという理由で必要以上の戦闘を避けたいという判断だったが。

 

「……あ、あそこに何かありますね。罠でしょうか?」

「いや……アレって『宝箱』じゃない?」

「ああそう言えば最初にチェシャが言ってましたね。すっかり忘れてました」

 

 ……と、そんな方針で人目につかない山岳地帯の森の中を前衛系ステータス任せに進んでいた彼女達だったが、偶然山肌の一部にある窪みに木と金属で出来たファンタジーモノでよく見るデザインの宝箱を見つけてしまったのだ。

 とりあえず興味本位で近付いてみた二人だったが、宝箱を間近にした時点で何かに気が付いた様に足を止めた。

 

「……これ罠とかじゃないですよね?」

「どうだろう?」

 

 まあ要するに宝箱自体が罠じゃないかの疑念を持ったのだ。まあこれまで殺伐としたバトルロイヤルイベントで戦い続けだったし、何よりチェシャが『隠しギミック』があるとか言ってたのが大きい。

 

「とりあえず周囲に人間はいませんね。これがモンスターという可能性もありますが」

『僕の感覚でもこの宝箱にステータスがある様には感じないけど……』

「それじゃあ範囲圧縮《スリーピング・ソプラノ》……反応はないね。やっぱり考え過ぎかな?」

「じゃあ開けますか。……もしミミックでも殴り飛ばせばいいんですし」

 

 なので彼女達は念入りに周囲を警戒したり実はモンスターじゃないかを探って見たり、果ては催眠音波をぶつけてみても宝箱はうんともすんとも言わなかったので覚悟を決めて宝箱を開けると……そこには一つの透明な球状のアイテムが鎮座していた。

 

「ふむ、これは……【リソース・チャージャー】? 使えば経験値が手に入る消費系アイテムみたいですね。……私もうカンストしてるんですが」

「私もー。なんかガッカリ感がスゴイ」

 

 まあこのアイテムもイベント用に管理AIが用意した物なので一つ使えば下級職一個カンスト出来るぐらいのリソースが込められた一品ではあるのだが、散々警戒と覚悟を経て開いた宝箱の中身が今の自分達では使えない物だったので彼女達のテンションは低めである。

 その後の話し合いの結果、とりあえずレベル上げの頻度が非常に多い(レント)へのお土産にでもすればいいかと自分を納得させた彼女達は再び殺伐としたバトルロイヤルへと戻っていったのであったとさ。

 

 

 ◇

 

 

「……では気を取り直してバトルロイヤルを最後まで生き残りましょう! せっかく参加したイベントだし楽しまねば!」

「そうだね!」

 

 そんなイベントアイテムが微妙だった事は脇に置きつつ二人は再び周囲を警戒しながらの移動を再開するが、今度はもし戦いになった時に自分達が戦いやすい場所を見繕いながら移動する事にした。

 いくら他の参加者から逃げたとしても足場が悪い場所に行ってしまったら動きが封じられて不利になるからという考えだが、宝箱を見つけた時に『今回はあくまでゲームだったね』と思い至って流石に逃げ回ってるだけではいつまでたってもイベントが終わらないと気付いたのもある。

 

「まあ結局は戦わないといけない気もしますし、せっかくのバトルロイヤルイベントで隠れんぼはつまらないでしょう」

「そうだねミュウちゃん」

「……後は『バトルロイヤルイベント』と銘打ってある以上はあの【シャウト・ハンター】以外にも運営が戦いを促進する“何か”を仕掛けてくる気もしますしね」

 

 この手の“直感”はミカの専売特許ではあるが、特に“戦闘に関する勘の良さ”であればミュウもその才覚からかなりのものを持っていたりする。

 ……そのお陰かは知らないが、彼女達が移動してからしばらくした後にミュウが前方からこちらに向かってくる複数の人間の反応を察知したのだ。

 

「……前方から何人か人が来てます。かなりの速度でこっちに向かって来てますね。どうします?」

「さっき戦うって決めたんだし迎え撃とうよ」

「まあそうですね。とりあえず剣が振りやすい様なある程度拓けた場所に移動しましょう。そういう場所ならアリマちゃんの精神干渉もハメやすいですしね」

 

 そう素早く話を纏めた彼女達は森の中で少し拓けた場所に陣取りつつ、各種自己バフや攻撃準備を整えていった……のだが、敵を探知していたミュウが人間の反応がいきなり一人減った事に気が付いたのだ。

 

「む、反応が一人減った? まさか戦闘中……いや」

「どうしたの?」

「……こっちに向かって来る人間の反応が一人づつ、しかも早いペースで消えています。消えた後に別の人間の反応があるのでおそらく戦闘中……というか何者かが参加者を次々と撃破しているみたいです。というかこれってこっちに向かってるんじゃなく“襲撃者から逃げてる”?」

 

 彼女がそう言っている間にも五人は反応があった筈の《人間探知》内の反応が次々と消えて行き、あっという間に反応は襲撃者だと思われる一つのみとなってしまった。

 ……そしてその反応はゆっくりとした速度で彼女達の元へと近づいていき、やがて目視で見られる範囲内へと入ると共に反応と同じ位置の藪の中からリアルの彼女達と同じぐらいの年齢の『身体に付けた鎖に刀を帯びている和装の少年』が現れたのだ。

 

「おや、次の“仕合”の相手は貴女達ですか。……成る程、これは手強そうです」

「そちらも僅か1分足らずで四人の<マスター>を斬り捨てるとはなかなかのお点前で。……ああ、ドーモコンニチワ、ミュウ・ウィステリアと申します」

「これはご丁寧に、カシミヤと言います。天地で<マスター>をしています」

「……あ! えっとアリマ・スカーレットです?」

 

 尚、“カシミヤ”と名乗る少年とミュウの会話は一見すると和やかな挨拶に聞こえるかもしれないが、それを少し離れた後方から見ていたアリマには二人の間の空気が徐々に研ぎ澄まされていく様な気がして思わず冷や汗を流す程であった。

 しかし、そうして少年の名前を聞いたミュウが──研ぎ澄まされている気配はそのままに──相手を観察しながら何か合点の入った様な表情を浮かべた。

 

「ああ、やっぱり『樫宮くん』でしたか。よく見るとアバターもリアルとそう変わってないですね」

「ふむ、成る程『加藤さん』ですね? このゲームをやってると聞きましたがまさかこんな所で出会うとは」

「え、えーっと、知り合いなの?」

「同じ学校のクラスメイトで隣の席の子ですね。数少ないデンドロやってるクラスメイトなのでよく話をする友人ですよ」

「その様な感じです。そっちのアリマさんもウチの学校の人ですかね? 加藤……じゃなくてミュウさんと一緒にいた気がしますね」

 

 尚、これもクラスメイト同士がゲームで顔合わせしたので友好的に話をしてる様に見えるが、やっぱり二人の間の空気は張り詰めたままで後ろで見ているアリマは温度は更に下がった様な気すらしていた。

 

「……え、えっと、友達同士なら協力してバトルロイヤルを勝ち抜くっていうのは……?」

「申し訳ありません、僕は今回のイベントで自分の腕試しの為に一人で戦い抜くと決めているので。……それにミュウさんとは一度戦ってみたいと思っていましたし」

「まあでしょうね。……リアルならともかくゲーム内のイベントでなら一戦ぐらいは構いませんよ。後アリマちゃんは後ろに下がって精神攻撃と防御に集中して下さい。貴女が接近戦を挑もうとしたらカウンターで首が落ちます」

「ア、ハイ」

 

 どうにか勇気を出して協力の提案をしてみたアリマであったが出会った瞬間から『戦いになるのは確定ですね』と確信して意見を一致させていた二人にあっさり断られたので、とにかく気を取り直して後方に下がりながら《スリーピング・ソプラノ》による精神干渉によるミュウへの援護に徹する構えを取った。

 それに対してカシミヤは自身の精神耐性パッシブスキルが反応している事を見て瞬時に東方武士系の精神耐性アクティブスキルの起動、及び精神耐性アクセサリーの《瞬間装着》を行いつつ刀の唾に手を掛け戦闘態勢へと移る。

 

「精神系状態異常ですか」

「卑怯とは言いませんよね?」(ミメ、ステータスコピーと拳への強化を)

『《天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》《エンハンスフィスト》《メタル・フィスト》《硬気功》』

「いえ、これは決闘ではなくバトルロイヤルですから。二体一だろうが対応出来ない方が悪い」

 

 それに対してミュウの方も即座に戦闘態勢を取り、更に瞬時に彼女の考えに応えたミメーシスが自身のAGIをカシミヤのそれと同期させつつ両拳に強化と硬度上昇のバフを掛ける。

 

「……《雲耀・瞬光》」

「《ウェポン・パリング》」

 

 そして二人の間の空気が最大まで研ぎ澄まされながら張り詰めた瞬間、カシミヤが足元に魔法陣の様な紋章を展開しつつ超超音速で接近しながらの抜刀術を放ち、ミュウは武器防御のスキルを使いながらそんな彼と全く同じ速度で拳を振るって自身に迫る刃の閃きを迎撃戦とする。

 ……こうして二人の“武の天災児”同士の戦いが幕を上げたのだった。




あとがき・各種設定解説

《メタル・フィスト》:魔拳士系統のスキル
・固体強化に地属性魔法の応用で拳、及び腕部に装備している格闘用装備の硬度(防御力)を大幅に引き上げるアクティブスキル。
・“メタル”と付いているが別に金属を纏わせる訳ではなく、素手でも金属並みの硬度に出来るという意味のネーミングで硬度のみが上がって攻撃力は上がらないので使いにくい部類。
・ただし末妹はこのスキルに攻撃力・防御力強化の《エンハンス・フィスト》、武器防御系の《ウェポン・パリング》や【アンチウェポン・デモンズガントレット】の効果を重複させて武器運用特化ジョブが有する高性能刀剣を素手で殴る事を可能にしている。

《雲耀・瞬光》:抜刀術士の奥義
・東方の剣士系統や刀武者系統からの派生でその名の通り抜刀術の運用に特化した上級職【抜刀術士(アンシース・ブレイダー)】の奥義。
・効果は発動した後に抜刀時限定で自身のAGIを十倍化させるというもので、一度使えば効果時間内に行った抜刀動作全てに効果が反映されるがその度にSPを消費する。
・ちなみにシステム的には『AGIに+900%』する仕様なので《神域抜刀》と併用しても109倍になるだけで余り意味がなく、それよりAGIの最終発揮値を倍加させる系のスキルの方が効果が高い。
・また、東方の剣士系統の奥義には特定の斬撃動作時にAGIなどを瞬間的に引き上げる《雲耀・○○》というスキルがいくつか存在する模様。


読了ありがとうございました。
ちなみに本作のオリジナルスキルには色々な作品からのパク……オマージュが含まれる場合があります。だって正直スキルやモンスターの名前考えるのが一番大変なんだよね。


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刃と拳

前回のあらすじ:末妹「なんかエンカ運が悪い気がします」


 □■回想・樫宮刃

 

 ……僕と彼女──“加藤祐美さん”が出会ったのは実は小学生で同じクラスになる前、父さんが古い知り合いが開いている『水面流古武術』と呼ばれている武術の道場へと行った時に偶然出会ったのです。

 同じ地方にあるマイナー武術の道場主通しだったからなのか父さんとあちらの師範代はそこそこ親しい関係だったらしいので仲良く談笑しており、その間僕は暇だったのと少しの好奇心からあちらの道場内を見学する許可を得て散策をしていました。

 

「……ん?」

「……フ……ハ……」

 

 すると庭の方で僅かに声がするので気になってそちらに行ってみると、そこには非常にゆっくりとした動作で尚且つ一目で分かるぐらいに流麗な動きで古武術の型を繰り返している彼女の姿があったのです。

 ……それで終わっていれば良かったんですが、この時の僕はまだ若かった(小学一年生時、ちなみに今は小学二年生)ので思わず見たままの感想を言ってしまったのです。

 

「……どうして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですか?」

「……私は“コレ”がキライなんです」

 

 あの時の彼女は一目見て分かるぐらいの規格外な“武の才”を全力で封じ込めようとしていたので思わずそんな言葉が口に出てしまいましたが、それに対して彼女がとても困った様な、或いは悲しそうな顔をして返答されてしまったのでその後に言葉は続きませんでした。

 ……それからは気まずくなったので父さんが帰るのに付いてそのまま帰宅したのですが、後日さわりだけですが彼女の“事情”を聞いて非常に申し訳なく思い、二年生に上がった時のクラス変えで偶然同じクラスになったので謝りにいったりしましたが」

 

「……あの時はそちらの事情も知らずに無神経な事を言って申し訳ありませんでした」

「……別に構いませんよ。特に気にしてはいないので」

 

 まあその時は微妙に気まずい空気になったりしましたが、夏休みが終わった辺りでお互いに<Infinite Dendrogram>をやっている事を知って共通の話題が出来たのでそれなりに話す友人ぐらいの関係に落ち着きました(他のクラスメイトプレイヤーはデンドロがリアル過ぎるという理由で辞めてて、未だにデンドロやってると言ったらやや引かれましたし)

 その後も何度か彼女と話す機会がありましたが、ある時を境にして彼女が自分の才能に掛けた“枷”が少し緩んでいるのに気がつきました。詳しく聞いてみると友人と仲直りしたそうで、確かに同世代の少女と共に登下校する姿を見る機会が何度かありました。

 

「今はレジェンダリアでデンドロやってますね。自然環境や住んでる人達が中々独特で面白い所ですよ」

「そうなんですか。僕は相変わらず天地で楽しく遊んで(戦って)いますよ」

 

 それからは彼女とも前よりいくらか蟠りが解けた様に多少話す頻度が増えましたが、それでも心の何処かで“痼り”の様なモノがある気がしていました……なので今回のイベントはいい機会かもしれない、一度しっかり彼女と剣を交えれば自分の心にある程度の区切りをつけられるかもしれない……と少し考えてしまったのです。

 ……それに、やはり武芸者としては自身よりも遥かに高い才覚を持つ相手との戦いは楽しみですしね。自分で思っててかなり不器用な気もしますが、何だかんだで僕にとってはコレが一番手っ取り早いんです(天地脳)

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □イベントエリア中央東側

 

 そして、そんな二人は今イベントエリア中央に聳え立つ山の東側の麓の森、その一角にある空き地にて【抜刀術士(アンシース・ブレイダー)】カシミヤと【魔導拳(マジック・フィスト)】ミュウ・ウィステリアとして、武に特化した“天災児”同士としての戦いを演じる事となっていた。

 

「《雲耀・瞬光》」

 

 まずは初手としてカシミヤが抜刀時限定でAGIを十倍にする《雲耀・瞬光》を使い、それと併用して自身の刀を保持している鎖型補助腕の<エンブリオ>【自在抜刀 イナバ】のAGIと同じ速度で自分を自由に動かす魔方陣を足元に展開する固有スキル《鮫兎無步(コートムーブ)》を使いながら接近しながらの抜刀をミュウの首筋へと見舞う。

 ……カシミヤの現在のAGIは約4000であり、つまりその十倍である約四万という戦闘系超級職すら優に上回る速度による移動と抜刀速度、更に抜刀術に関して天部の才と血の滲むような修練を積んだ彼の技術を合わせた一閃はこれだけでも数多の<マスター>達の首を落として天地の修羅達にも恐れられる一撃である。

 

「《ウェポン・パリング》」

「む、速い……?」

 

 ……のだが、その一閃に対してミュウは対象一体のステータスを自身にコピーする《天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》によって自身のAGIをカシミヤのAGIと同じにし、更に拳の強化と素手での武器防御スキルを組み合わせて音速の四倍で振るわれる刀を“ブン殴る”事により必殺に一閃を防いで見せたのだ。

 まあ正確に言えば抜刀の起動を先読みして刀の側面を弾く事によって受け流したというのが正しいのだが、例え同じ速度であろうとも卓越した技術から放たれるカシミヤの一閃に対処できるあたりミュウの格闘の才もまた規格外と言えるだろう。

 

「《閃》」

「《裏拳》」

 

 最もカシミヤは『彼女なら自分の抜刀を捌くぐらい出来るでしょう』と思っていたので特に動揺などはせず、そのまま流れる様な動作で逆の手による抜刀術に移行。更に今度は抜刀威力を引き上げるジョブスキルも併用して斬り込むが、それに対してミュウも同じくジョブスキルを追加した裏拳によって先程と同じ様に刀の側面を叩いて払う。

 ちなみに《剣速徹し》は防御されていない状態でのみ発動するので素手で武器を受け止めた時に“防御判定”となる《ウェポン・パリング》で防がれており、超超音速で拳と刀を打ち合わせている事もお互いに剣戟時の反動軽減やEND上昇のスキルで反動を消しているのでダメージを受けるなどは無い。

 だが、それでも両腕による抜刀を繰り出し終えたカシミヤには隙が出来ており、逆に防御に徹していて素手故に小回りが利くミュウはそこをついて刀の間合いの内側に接近して勝負を決めようとし……その思惑は刀を振り切った体勢のまま180度後方へとスライド移動したカシミヤによって阻まれた。

 

「チッ(あの魔方陣、おそらくAGIと同じ速度で自分を自由に動かせるみたいな能力ですか、厄介な。こちらは移動に“踏み込む”必要がある分どうしても一手遅れますね)」

「《納刀術》(《雲耀・瞬光》の効果が切れた時には彼女の速度は落ちていた……いえ、こちらと同じになってましたね。加速時もそうでしたしおそらくAGIを同期させるタイプのスキル。速度による優位性はありませんか)」

 

 刀を高速で鞘に収めるジョブスキルと【イナバ】の操作を併用して瞬時に再びの抜刀体勢に移ったカシミヤに対し、相手が後ろに移動した時点で『接近すればカウンターを貰う』と判断していたミュウは逆に一旦距離を取って体勢を整えた。

 ……彼と戦った天地の<マスター>の多くにも“抜刀時の動けないデメリットを無くす為のスキル”と思われている《鮫兎無步》だが、その真価は“どんな状況でも慣性や空気抵抗を無視して自身を自由に移動させられる”事であり、カシミヤ自身の立ち回りのセンスと合わせれば“踏み込みでは不可能な軌道で接近する”や“隙が出来てしまった緊急時に自分を移動して回避する”などの応用も出来るのだ。

 

「(さて問題は彼女がどれだけ“手札”を隠しているか……)《火走り》」

「(やはり踏み込み必要が無い分立て直しも早い!)《風拍掌》」

 

 そして再攻撃の準備を終えたカシミヤは即座に抜刀と共に接近、今度はフェイントをかけつつ側面から回り込む様に迫りつつスキルによって炎を纏わせた一閃を放ち、それに対してミュウの方もフェイントを看破しながら旋風と共に放たれる掌底によって炎の威力を弱めながら刀の側面を弾いて受け流す。

 そこでミュウは先程の様にもう片方の刀による再度の抜刀に備えて迎撃の体勢を取り、そこにカシミヤは流れる様な連続抜刀を……行わなずに納刀状態のまま一呼吸おいた。

 

「(ッ⁉︎ “変速”ですか!)《受け流し》!」

「《雷閃》」

 

 一拍置いた事によりカシミヤの抜刀時加速効果が切れてAGIが通常のものに戻り、当然それによりAGIを同期させていたミュウの速度も一気に落ちてしまって僅かだが対応が遅れてしまう。AGIを自分の意思で変えられるカシミヤに対し、それに合わせて変化するAGIに対応した動きをせざるを得ないが故に対応が半歩遅れてしまうミュウとミメーシスに欠点を突いたフェイント技である。

 それでも彼女は自身の首を狙う刀を辛うじて腕部の【デモンズガントレット】で受けつつ、それを斜めに構える事で受け流して防いでみせる……が、彼の使ったジョブスキルは『抜刀後に同じ速度で刀を斬り返す二連撃』であり、その効果によって今度は無防備な逆側から再び刀が向かってくる。

 

『【エアロタラリア】にMP充填。《エアロジェット》《エアロジャンプ》起動』

「せいっ!」

「わっ! 壁ですか!」

 

 だが、最初の一閃を受け流した時点で『僅かに攻め気が薄いからコレが本命ではない』と読んでいたミュウは即座に対応、それにノータイムで融合しているミメーシスが答えて足に装備した【エアロタラリア】へと【バイオハーデス】に蓄積した膨大なMPを注ぎ込む。

 そして間髪入れずに足裏からジェット噴射を“真横に”放って自分の身体をバック宙に要領で真横に倒して刀をギリギリの所で回避。更に相手の方向へと向いた足裏から大気の踏み台を発生……本来なら空中跳躍の足場に使う為に一瞬だけ展開される小規模な踏み台だが、多量のMPが注がれていた事で擬似的に『巨大な大気の壁』と化して勢いよく噴出されたのでカシミヤを押し出したのだ。

 

(危なかったですね。やはり読み合いや技術勝負だと全霊を掛けて武術に打ち込んでいる彼と武術自体そんなに好きではない私なら不利ですね。どうしても才能任せのメッキが剥がれます)

(あんな対処をするとは。やはり戦闘センスにおいては僕よりも彼女の方が数段上ですか。今は経験でカバーしてますが打ち崩すのには時間が掛かりそうであり……そうなった場合、後方にいるあちらの彼女(アリマ)の力で僕は確実に敗北しますね)

 

 大気の壁に押し出されるも《鮫兎無步》で体勢を崩さず距離を取ったカシミヤは、同じく超人的なバランス感覚でジェットバック宙を決めて着地したミュウを警戒しつつ、その30メートル程後方に下がって《スリーピング・ソプラノ》を奏で続けているアリマに目をやった。

 彼女は戦闘が始まってからずっと自身の<エンブリオ>のスキルと特典武具を駆使してカシミヤに精神干渉をし続けており、今は耐性スキルでレジスト出来ているがコレが長引けば耐性を抜かれて精神系状態異常に掛けられるのは明らかだった。

 

(ミュウさんを無視して彼女を狙う……のは不可能ですね。少し距離がある事もあって下手に背を向けたらそれこそ一瞬で倒されますし、何よりアリマさんの方もこちらの攻防を目で追えてるのでこちらから仕掛けて一撃で仕留められるかどうかは怪しい。……選ぶべき選択肢はミュウさんを一気に倒し、その後精神汚染になる前にもう一人を仕留めるのが最適解なのは分かりきってますが……問題は()()()()()()()()()()()()という所です)

(読み合いを続けるとどうしても不利になるので短期決戦、しかも一度の交差で決着がつく様な戦いの方が読み合いの選択肢を減らして一本道に出来るから勝算が高いんですよね。だからこそアリマちゃんを後方にやって長期戦という選択を潰しましたし。……それにこちらには彼の一閃を凌ぐ防御手段が“二つ”あります)

 

 ミュウの狙いは自身が保有する二つの特典武具──【黒晶首巻 ブラックォーツ】のほぼあらゆる武器を透過させる《暗黒転身(ダークネス・シフト)》と【冥樹霊冠 バイオハーデス】の【ブローチ】が使えないイベントにおける数少ない即死回避スキル《冥冠の加護》でカシミヤの一閃を防ぎながらカウンターを叩き込む事による勝利であった。

 その為にミュウはわざわざアリマが精神干渉を行う事を知らせる事で長期戦の選択肢を潰し、更に彼女に注意を向けさせる事でカシミヤの注意を分散させるなどの布石を打っていたのだ。ちなみに今までの攻防で防御スキルを使わなかったのは相手の攻め気が薄いと見て、ここで使えばカウンターを入れられず無駄打ちになると判断したからである。

 

(まあ彼相手にタイマンだと勝率3割あればいい方なぐらい実力に差があるので、ここは可能な限り布石を撃ちますが……ですのでミメ)

『……ん、了解。ちょっと不安だけど頑張るよ』

(おそらく狙いはこちらの必殺の一閃を凌いでのカウンター、加えて長期戦になれば彼女ほどの戦闘センスであれば僕の剣術の“理”まで掌握されかねませんし……いえ、少し複雑に考え過ぎましたね。どのみち他に道がないのなら……)

 

 そうして実時間では数秒も経っていない読み合いの後にカシミヤから放たれる気配が一気に鋭いモノへと変動し、それを見たミュウの方も“ついに来るか”と同じく辺りの空気が張り詰める程に集中していく。

 

「元より抜刀術の基本は“一斬必殺”。それしか道がないのなら須らく斬って捨てるまで」

「来ますか」

 

 色々と相手の手を読むなど考えた末『元より長期戦では確実に敗北する以上、例えそこが虎口であろうとも踏み込んで手持ちの“全て”を使って相手の手札を全て斬り破るしか道は無し。つまり全力かつ最速ででミュウさんを打ち倒し、そこから自分が精神汚染を受ける前にアリマさんを倒せばいい』と思い至ったカシミヤは己の全霊でもって眼前の大敵を斬り捨てる覚悟を固めた。

 そしてミュウもそんな彼の考えを察して自分に出来る“全て”でもって決戦に赴く覚悟を決めて……その一瞬後、カシミヤが超超音速で接近し、ミュウがそれを迎え撃つ形で二人の“天災児”の最期の激突が始まったのだった。




あとがき・各種設定解説

末妹:正直彼相手にタイマンとか勝算低すぎるので事前に布石は打ちました
・融合状態の時には半身である<エンブリオ>である事もあって末妹とミメーシスはお互いの考えている事を完全に把握してノータイムで意思疎通が出来たりするが、普段は味気ないので全力戦闘時以外は念話してる(戦闘時の会話描写も実際にはノータイム)
・ここまでになったのは進化によって《憑依融合》の性能が向上したからであり、最初は末妹が身体操作とジョブスキル使用・ミメーシスがエンブリオ固有スキル使用しか出来なかったが今はお互いがそれら全てを運用出来る。
・【エアロタラリア】の《エアロジェット》は足裏から空気を噴出させて移動するスキルだが、実はブーツの左右と後方に噴出口語ありそこから空気を出しておりその噴出口は噴出方向をある程度稼働させられるのでやろうと思えば真横に噴出させる事も可能(それで制御は更に難しくなっているが)

カシミヤ:現状のままだと負けるのでとりあえず斬ります(天地脳)
・過去にあった事と末妹の布石で序盤はやや控えめな攻め手になっていたが、それは自身の本来の戦い方ではないと思い直して策ごと全身全霊で斬って捨てる道を選んだ。
・まあ精神汚染攻撃してくる敵がいるので速攻掛けないと敗北の可能性がチラつくのでやむを得ない選択だが、だからと言って何の“勝算”もなく仕掛ける様なタイプではない模様。
・ちなみに彼と末妹の間に恋愛感情などは一切無いが、お互い『規格外な武芸の才能』『武芸に全力で打ち込める姿勢』に対して憧れとか嫉妬とかを少し抱いている複雑な関係。
・なので基本は“よく話すクラスメイト”ぐらいの仲の友人関係ではあるのだが、お互いに微妙にモヤっととしない部分が僅かにある……なので一度全力で“死合”をすればスッキリ出来ますよね(天地脳)なのが今回。


読了ありがとうございました。
少し長くなりそうなので分割、この戦いの決着は次回になります。感想・評価・誤字報告などはいつでもお待ちしています。


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決着、そして終盤戦へ……

前回のあらすじ:末妹「カシミヤ強すぎワロタ」アリマ「側から見れば互角の勝負だと思うけど」末妹「タイマンだと勝率3割もないですよ?」


 □イベントエリア中央東側

 

 カシミヤとミュウ、二人の“天災児”は孤島の一角にて雌雄を決するべく互いに『この激突で決着をつける』という意志の元に最後の決戦を繰り広げ様としていた。

 

「……それしか道がないのなら須らく斬って捨てるまで」

「来ますか」

 

 そして二人の間の空気が最大限にまで張り詰めて研ぎ澄まされた時、遂にカシミヤが動き出した……最も彼がやる事はこれまで現実、そして<Infinite Dendrogram>で行ってきた『己の抜刀術に全てを賭ける』もの、故に抜刀の体勢をとったまま《鮫兎無步(コートムーブ)》によって超音速でミュウを斬り捨てるべく接近する。

 それに対してミュウはその場で迎撃の構えを取るだけで動かず待ちの構え……元より彼女は最初から相手の必殺を誘って特典武具の防御スキルを利用してのカウンター狙い、故に下手に動いて隙を見せるより動かずに迎え撃つ事を選んだのだ。

 

「(やはり刃を通せる隙など見せませんか……ではこじ開けるまで)《紫電一閃》」

「《寸勁》(電撃ですか……!)」

 

 カシミヤの初手は電撃を伴う斬撃を放つジョブスキルと抜刀術を組み合わせた一閃。雷光を纏うその斬撃は狙い違わずミュウの首を目指して振り抜かれるが、それに対して彼女は最小の動きのみで大威力の打撃を与えるスキルの応用で直前に迫った刀の側面を打ち抜き軌道を逸らす。

 しかし、それがカシミヤの狙いでありそうして接触した事によって刀に纏わせていた電撃が通電する。彼女は《憑依融合(フュージョン・アップ)》》によってエレメンタルとなり各種属性耐性も上がってはいるが、それでも悪影響をゼロには出来ずほんの刹那の間だけ僅かに動きを鈍らせてしまい……その刹那の隙をカシミヤは見逃さなかった。

 

「(ここですね)《居合い》」

 

 そうして僅かな隙をこじ開けた彼が次にもう片方の手で発動したスキルは《居合い》──抜刀術の基本スキルであり抜刀時に自身のAGIを現在値の倍とするジョブスキルであり、それにより彼のAGIは八万近くまで上昇する。

 もちろん《天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》によってAGIを同値にしているミュウのAGIも引き上がるが、やはり自分の意思によらず引き上がってしまう事によって上昇したAGIに対する行動はカシミヤよりも半歩遅れてしまう……先程と同じ変速のフェイント、ただし今度は急加速によってタイミングをずらした一閃は無防備な彼女の首へと吸い込まれていき……。

 

「(……ええ、こんな隙を見せたなら貴方は必ず私の防御を抜いてきますよね。それは分かっていました)《暗黒転身(ダークネス・シフト)》」

「ッ⁉︎」

 

 その一閃はミュウが()()()()()()()()()()()()()()()()()()《暗黒転身》の“生物と闇属性以外を擦り抜ける”効果によって首に当たりながらも一切のダメージを与える事なくそのまま通り抜けて空を切ったのだ。

 彼女は初太刀を防いだ時点で『彼なら次の斬撃を確実に自分に当ててくる』と判断して即座に防御スキルを発動しており、そして両手装備不可のデメリットと引き換えに防御スキルとしては珍しく自身の移動には制限がない特性を生かして狙い通り両手を振り抜き終わったカシミヤを仕留めるべく一気に接近して刀の触れない懐へと潜り込もう……とした所で融合しているミメの意思が“まだAGIの加速が終了していない”と認識した事を知覚した。

 

「(……やはり防御スキルがありましたか。二太刀目で使ってくれて助かりました。《瞬間装備》)」

「(三本目!)ッ⁉︎」

 

 そこでミュウはカシミヤが最初に居合いを放った手に再び“鞘に収まった刀”が握られて、それが補助腕である【イナバ】によって保持される事によって一般的な抜刀術の体勢とは異なれど確かに3回目の抜刀術へと入っている事に気が付いた。

 これは装備をアイテムボックス内部の物と入れ替える《瞬間装備》を応用し、抜刀が終わった後の手に納刀状態の刀を補助腕である【イナバ】も駆使して保持させる事で途切れない連続の抜刀術を放つカシミヤの秘技であり、未だに習熟不足とスキルのクールタイムの関係で3度目までが限界であったがこれまでの攻防によって“抜刀術は両手で交互の二連続まで”と思わされていたミュウを驚かせた。

 

「(ですが《暗黒転身》の効果時間は十秒。仮に闇属性攻撃などでも《霊冠の加護》で……いや、あれはまさか特典武具⁉︎)」

「(僕のとっておきです、この【ダントウジン】は)」

 

 防御スキルとしては珍しく自身の移動には制限がない《暗黒転身》の特性、更にもう一つの一度だけダメージを蓄積MPで肩代わりできる【バイオハーデス】があれば例え3度目の攻撃であろうが対応出来ると攻撃を続行しようとした所でミュウは3本目の太刀が異質な雰囲気を有する──自分も持っている特典武具の一種であると気が付いた。

 その刀の正体は逸話級特典武具【命斬刀 ダントウジン】という代物であり、抜刀した直後の一閃にのみ限定してあらゆる防御スキルを発動させず、及びその一閃で殺傷した相手の《ラスト・コマンド》を始めとする食い縛り系スキルによる延命をも無効化する《一斬絶殺(ダントウジン)》の装備スキルを有する格殺の魔刃である。

 

「(回避不可ならこのまま突っ込む! この間合いでAGIが同じなら先にこちらの攻撃が当たる!)」

「(同期しているのはAGIのみであれば“AGIはそのままに斬撃のみを加速させる”スキルなら!)《鞘走り》!」

 

 更にカシミヤ抜刀時に刀身のみを加速させる《鞘走り》──“AGIには影響を与えずに斬撃のみを加速させる”スキルを使用して、同期しているAGIにSTRを加えた踏み込みによる加速で先制を狙っていたミュウの思惑に先んじる速度で抜刀術を放った。

 その一閃は不安定な抜刀体勢、刀身の無理矢理な加速から放たれたとは思えない精度の斬撃として接近の為に前傾姿勢となっていた彼女の首に吸い込まれていき、【ダントウジン】の力によって彼女の特典武具の防御を発動させずにその首を斬り飛ばしたのだった。

 

「ミュウちゃん⁉︎ だったら私が!」

「そう来ますか……」

 

 宙を舞うミュウの首を目にしたアリマは決意を秘めた顔つきで今度は自らが前衛となるべく強化されたステータスで前へと進もうとし、それを見たカシミヤは素早く再度の抜刀体勢に入って彼女の方も斬り捨てようとした……が、その直前に腕を()()()()()()()()事によって物理的に、また有り得ない事象を前にした精神的動揺もあって動きを止めてしまった。

 

「なっ⁉︎」

『……捕まえた。《攻撃纒装(アタック・テスクチャ)》《スライス・ハンド》!!!』

 

 彼の腕を掴んだ者の正体は首を斬り飛ばされて首無しになっている筈のミュウ……の身体に憑依してそれを動かしている【ミメーシス】であり、彼女はそのままカシミヤの防御無視斬撃の効果を上乗せした手刀を一閃させて掴んでいる【ダントウジン】を持っているほうの腕ごと彼の胴体部を袈裟懸けに斬り裂いたのだ。

 ……ミメーシスと融合しているミュウは『種族:エレメンタル』となっている事から分かる通り生態的な構造も人間のものではなく、憑依しているミメーシスが無事であれば【頸部切断】の状態異常であっても“生物としての特性”によって即死はしない(スキルによる食い縛りではないので【ダントウジン】の効果範囲外)

 そしてミュウは事前に『カシミヤ相手なら防御スキルで相打ち狙いでも先にこちらの首が落ちる可能性も十分ある』と予想しており、事前にミメーシスに対して『もし自分の首が落ちた時にはそちらで身体を操って攻撃して』と頼んでいたのだ。流石に首が飛ばされて脳と肉体の神経が切断された状態だとミュウ自身で首から下を動かす事は不可能なので。

 

『少し浅いか! やっぱ僕だとミュウみたいには……《回し蹴り》!!!』

「くっ! ですがこれなら!」

 

 しかし、肉体を動かした経験が薄いミメーシスであるのでどうしてもスキルアシスト頼りの攻撃に成らざるを得ず、不意打ちで打ち込んだ先程の攻撃もギリギリ致命傷にならない程度だったのでカシミヤは片腕が斬り落とされ胸部から腹部に裂傷を負わされてはいるがまだ動けた。

 それを見たミメーシスは追撃の回し蹴りを放つものの、カシミヤは重症だろうが問題なく動ける《鮫兎無步》を使って型通りの動きでしかないそれを回避しつつ残った片腕と【イナバ】を動かして抜刀体勢へと移行する。

 

「ミュウちゃんはやらせないとよ!」

「チッ!」

 

 どれだけの重症を負おうがまだ動ける以上勝負を捨てる道理はないと天地の<マスター>らしく考えて“勝つ為”に動き続けるカシミヤだったが、そこに超音速で移動して来たアリマが彼とミュウ(首無し)の間へと割り込んで来た。

 そのまま彼女は両手に持った【ヴァニフォーク】と【ラブリーチャーミングハートソード】の二刀流で斬りかかっていくが、その太刀筋はミュウや天地の武芸者と比べればセンススキル頼りの拙いものであったので、彼はその斬撃を見切って回避しつつ《雲耀・瞬光》の効果で加速した抜刀術を残った片腕のみで放って彼女の首へと放ち……。

 

「《如来転心唯我独尊(シャカ)》!!!」

「なっ⁉︎」

 

 その《剣速徹し》の効果でENDの大幅減少を伴う一刀は、しかしアリマの首に当たりながらも薄皮一枚裂くことなく停止していたのだ……それを見たカシミヤは一瞬のみ驚くものの、直前に相手が使用していたのが“必殺スキル”である事から何らかの防御効果で防がれたと判断した。

 だが、防御スキルを突破出来る【ダントウジン】は片手ごと持っていかれており、それでなくても一度使用すれば十分程のクールタイムを課せられる装備なので使えない。それでも彼は諦める事なく後方に下がりながら効果時間切れを狙い、カウンターで振るわれた相手の横薙ぎの斬撃を回避する……。

 

「《伝心》並びに《レーザーブレード》!!!」

「でもまだ避けられ……なっ⁉︎」

 

 その光熱を纏った一刀の範囲から完全に逃れた筈のカシミヤだったが、しかしその腹部がまるで焼き切られたかの様な裂傷を生じさせた上で肉体を上下真っ二つに切断されて地面に倒れ伏したのだった。

 ……この奇妙な現象はアリマの<エンブリオ>TYPE:ルール・カリキュレーター【正心偽脳 シャカ】の必殺スキル《如来転心唯我独尊(シャカ)》の効果──自身を一時的に精神生命体へと置換し、その際に自身が関わる物理現象と精神的現象の境界を曖昧とする力によるものである。

 

「……悪いけど今の私の攻撃は必中だし、殆どの物理攻撃も効かないよ。……それよりミュウちゃん大丈夫⁉︎」

『まだ死亡はしないけど……って融合してると僕の声は外部に聞こえないんだよね。とりあえずミュウの首を持ってこよう』

 

 それだけだと分かりにくいかもしれないが要するに“自分が関わる物理現象を精神的現象としても扱い、逆に精神的現象を物理現象としても扱える”効果であると考えれば良い。

 これによって敵からの物理攻撃を精神的悪影響と同じ様に扱って《悟りの境地(マインド・セット)》で防いだり、他者に思念を送るスキル《伝心》と剣技ジョブスキルを《悟りし者の御業(ソウル・コントローラー)》で複合させて『斬撃のみを遠距離の対象に届けて斬り裂く』などと言った芸当も可能になるのだ。

 ……そしてアリマは必殺スキルを維持したまま倒れ伏したカシミヤを尚も警戒しつつデュラハン状態のミュウを庇うが、その身体を動かしているミメーシスは斬り飛ばされた首を取ってくると徐に身体にくっつけながらイベント用にレントから貰っていた高位回復魔法の【ジェム】を使用した。

 

『……よしくっついたね。ミュウ大丈夫?』

「……ええどうにか。流石に首を斬り落とされるのは初めてでしたが兄様の【ジェム】で治せて良かったです」

「うわ本当にくっついた。……大丈夫なんだよね?」

「大丈夫ですよアリマちゃん……ですがまだ戦いは終わってません。あの状態でも移動スキルと残った片腕で抜刀術を放って来るかも……」

「いや流石にこの負傷では後十秒ぐらいで死にますし、スキル起動条件である抜刀体勢を取るのも無理なんですが……それにもし抜刀術を打てても貴女はもう接近戦をする気すらないでしょう?」

「そんな事は当然です。何故好き好んでカシミヤ君に近接戦を挑まねばならんのですか。遠距離戦で封殺出来るならそうします」

 

 そこ言葉通りにミュウはカシミヤがまだ戦うつもりなら必殺スキル起動状態のアリマを盾にしつつ、拳士系の遠距離攻撃系スキルや範囲攻撃の【ジェム】を使って彼が傷痍系継続ダメージで死ぬまで近づけすらさせない気まんまんであったが(これまで使わなかったのは万全の彼相手では全部避けられて無駄だからである)

 

「ふぅ、首を落とした後の残心を怠るとは僕もまだまだ修行が足りません」

「というか今回の勝因はアリマちゃんが居たからですけどね。私ばかり見て彼女に注意を割けなかったのが主な敗因でしょう……この世界での彼女は私よりも強いですよ。最後はしっかりと決めてくれましたし」

「いや私は殆ど見てただけだし、最後も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って思っただけで……」

「……成る程、これは僕の負けですね。……ですが次はリベンジさせて貰いますよ」

 

 そうして二人の会話を聞いてどこかスッキリとした笑みを浮かべたカシミヤは継続ダメージによってHPがゼロになり光の塵となったイベントから脱落したのであった。

 

「……まあ、こちらの世界でもし機会があれば請け負いますよ」

 

 ……こうして天災児達の戦いは彼女達“二人”の勝利に終わったのだった。

 

 

 ◇

 

 

「うーん、やっぱり結構消耗しちゃったね。私の必殺スキルは効果が微妙な割に消耗が激しいよ」

「いやあらゆる攻撃を無効にして自分からの攻撃は必中とか十分過ぎるぐらい強いと思いますが。発動条件が厳し過ぎて中々使えない私のそれと比べれば」

『発動出来ればどんな相手でも詰ませられるから。メイデンはジャイアントキリングが真骨頂だし!』

 

 そうしてカシミヤとの死闘を制したミュウとアリマはポーションを煽りながら損耗を回復させつつ、先程までと同じ様に周囲を警戒しながら森の中を歩いていた。

 ……強敵を一人倒そうともこの島にいる参加者が三人になるまでバトルロイヤルは終わる事は無く、彼女達もそれは分かっているので即応体勢を維持したまま動いていた。

 

「……む、また《人間探知》に反応があります。今度は一人ですね」

「他の参加者かな。どうする? とりあえず戦闘準備を……」

 

 そこでミュウがまたしても他の参加者らしき反応を感知したので彼女達は戦闘準備を整えようとし……その直後に探知範囲内ギリギリに居たはずの“それ”が()()()()()()()()()()()()()()()()でこちらに接近して来たのを感じ取ったミュウは慌てて声を上げた。

 

「不味いもう来ます! 準備を……きゃぁっ!!?」

「ミュウちゃん!!!」

 

 警告の声を上げつつ前に出たミュウだったが言い終える前に前方から超超音速で飛来した“鎖”に弾き飛ばされた……幸いまだ使われてなかった《霊冠の加護》によって致命傷は肩代わりされたが、ただの鎖の一撃が致命傷になるレベルの異常な攻撃力を持つ事。そして何よりその鎖に見覚えがあった彼女はよりにもよって“最悪な相手”と遭遇したらしいと内心歯噛みした。

 

『《転位模倣(エフェクト・ミラーリング)》! 《ライトニング・フィスト》! 《エンハンスフィスト》!』

「チェアァァッ!!!」

 

 吹き飛ばされた彼女に追撃の鎖が二本迫るもののミュウの考えに答えたミメーシスが“鎖の持ち主”を対象にバフ効果を写し取るスキルを使用、それによって相手の“絶大なステータスバフ”をコピーした彼女は瞬時に体勢と立て直し雷を纏う両腕で鎖を弾き飛ばした。

 ……しかし最初の攻撃で使われた物を含む合計3本の鎖は異常な硬度と攻撃力を誇っており破壊は出来ず、その間に自己バフをノータイムで実行して敵に対する精神汚染を行おうとしていたアリマに超超音速で接近する一人の男がいた。

 

「ミュウちゃん⁉︎ 《スリーピング……」

「……疾ィ!!!」

 

 その男は手に持った伝説級特典武具【竜鳴槍 ドラグソング】が発する超振動波でアリマの【ヴァニフォーク】から鳴り響く強化された催眠音波を力技でかき消して無効化、そのまま彼女の反撃を許さぬ速度と精度で槍を胸部に突き刺して強化された攻撃力と振動波によって上半身を消し飛ばしてあっさりとリタイアさせたのだった。

 

「アリマちゃん⁉︎ ……まさか貴方がいるとは思いませんでしたよフィガロさん!!!」

「君は……ミュウちゃんだったね、ギデオンでの決闘以来だね久しぶり。……やっぱりこのイベントは強者と沢山戦えて良いね」

 

 そうして仲間を失ったミュウはイベント開始から戦い続けて中央部の他の参加者を壊滅させていた長時間戦闘済(ロングウォーミングアップ)状態のアルター王国決闘ランカー【剛闘士(ストロング・グラディエーター)】フィガロと対峙してしまったのであった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □■イベント用管理AI作業領域

 

「……ふむ、これでバトルロイヤルの残り人数は38人。かなり早い段階で大分減ったな」

「大規模戦闘がいくつかあったからな。尚今のところ空間操作に異常は無し」

「各システム面でも特に異常は起きてないねー。まあ空間に強力に作用する<エンブリオ>持ちはいなかったけどー」

「しかぁし、配置した宝箱はあまり拾われてませんねぇ。取られにくい場所には相応のレア度のアイテムを配置したのでぇすが」

「あくまで主目的はバトルロイヤルだからな、そんな中で宝箱を探す余裕などないだろう。それより【シャウト・ハンター】はギミックとしては微妙だったな」

「試験の為に色々と要素を追加したのだから仕方がないけど、やっぱりイベントの目的は一つに絞るべきね。そこは次回に活かしましょ」

 

 バトルロイヤルが佳境を迎える中、それを観戦しながら隔離スペースにおける各種システム動作を確認していた管理AI達は各々の感想を言い合う程度には余裕はあった。

 まあ、総評としては『システム面では問題なし』『イベントとしては余計な要素を多くし過ぎて全体的に薄味になった?』と言った所であり、次回以降はもう少し趣向を凝らすべきかと思っていたが。

 

「……さて、ではイベント最終盤の隠しギミック……参加者達を刈り取る()()の<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>を投下するとするか」

「改めて聞くと<UBM>のイベントエリアでの行動時におけるデータ取りの為とはいえ多いな」

「でも未だに隠れてバトルロイヤルをクリアしようとしてる人もいるし、このままだとグダグダ時間だけが過ぎる可能性もあるわね」

「まあバトルロイヤルなら生き残り優先なのは間違いじゃないし」

「生き残り特化のチェシャが言うと説得力があるね〜」

 

 ……そうしたどこか呑気にも聞こえる会話が行われた後、イベントエリアの孤島に参加者達を刈り取る最悪の狩人達が放たれたのだった。




あとがき・各種設定解説

末妹:勝因・二体一だった事
・融合状態でエレメンタルになっていれば首を切断されても即死はしないが、肉体構造は人間のままなので脳に酸素が回らなかったり頸動脈が斬られてたりと大ダメージである事は変わりなく十分ぐらいで死亡する。
・肉体が切断された場合だとミメーシスの意識は最も質量が大きい場所に宿る仕様であり、今回は首から下の肉体に宿って動かせたが切り離された首には干渉できない。
・実は彼女の特典武具のスキルのいくつか(主に防御スキル)には『両手部未装備状態でのみ使用可能』というデメリットがあり、融合時のデメリットに合わせて導入する事でスキル性能を底上げするアジャストになっている。
・だが流石に最後のクソエンカには思わず叫ぶぐらいイラッと来てる(笑)

【命斬刀 ダントウジン】:逸話級特典武具
・装備スキルは《一斬絶殺(ダントウジン)》一つのみで、カシミヤにアジャストされた結果抜刀時の一太刀のみ防御無効・食い縛り無効の効果で使用後には十分程度のクールタイムが必要な代わりに逸話級としてはスキル性能が非常に高くなっている。
・ただその分武器としての攻撃力は低めであり、あくまで斬撃による死亡時に踏み止まるスキルを無視するだけなのでダメージ自体の回復も可能だし死んだとしても蘇生は出来る。
・この防御効果無効は『斬撃時に防御効果を発動させずに擦り抜ける』感じの効果であり、それ故に末妹の《霊冠の加護》は発動していなかったので後の一撃を防ぐ事が出来たみたいな事情もある。
・元の<UBM>は【斬愧死刃 ダントウジン】と言うとある介錯人の一族の装備が怨念によって変異したリビングアーマー及びリビングウェポンで攻撃全てが防御食い縛り無視で攻撃力自体も非常に高いと言うものだったが、元が介錯人や処刑者がベース故か戦闘技術がそこまででもなかったので噂を聞きつけて腕試しに来たカシミヤと運悪く遭遇して討伐された。

如来転心唯我独尊(シャカ)》:アリマの必殺スキル
・実は『自身を現実世界と精神世界の狭間にある“精神生命体”へと一時的に変性させる』スキルであり、その結果として自分に関わる物理現象と精神現象の境界が曖昧になって相互に干渉出来る感じ。
・そんな特異なスキルだからか使用中にはHP・MP・SPを持続消費するとコストが重いので戦闘出来るのは万全な状態でも3分程度であり、更に使用後には仕様時間の100倍の時間クールタイムが課せられる。
・アリマ自身にもまだスキルの詳細が完全には分かっておらず、それ故に今後の理解と発想次第では更なる運用法を思いつくかもしれない応用性が高いスキルとも言える。
・……ただクールタイム中に脳筋に襲われればどうしようもなかったが。


読了ありがとうございました。
フィガロはギデオンにいた時に末妹と一度決闘しており、その時の経験から現状の自分でも負ける可能性があると考えて初手から全力でまず何をしてくるか分からない仲間を格殺しに来ました。ちなみに末妹は現状のフィガロとタイマンすれば自分に勝率は1%未満ぐらいと見積もってる。


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