閃の軌跡if~もしも銀の叙事詩と混じったら~ (氷桜)
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習作:閃の軌跡if~もしも銀の叙事詩と混じったら~

Q:閃の軌跡キャラにシルヴァリオキャラをインストールしてみたら
A:大惨事に決まってんだろ

そんな話。


いつかのどこかの《銀》の御伽噺。

誰かが望み、誰かと結ばれ、故に起こり得た見知らぬ世界。

もし、そんな場所で。

願った願いが、偶然にも似通った世界に繋がってしまったら?

力が、上流から下流へと流れるように。

自意識が誰かに流れ込んだ結果、世界の流れが変わってしまったら?

これは、そんなどこにでもあるお話。

 

※※※

 

『目覚めたか、我が片翼。』

「……………………はい?」

 

普段通りに目覚めたはずの、とある朝。

俺――――リィン・シュバルツァーの脳裏に響いたのは、そんな誰とも知らない声だった。

 

『む。 何かおかしな点でもあるのか?』

 

いや、そのどこから何を言っていいのかがわからないのだが。

とりあえずは、この胸元から響くように聞こえる声。

其れ自体がわからない。

昨日寝る前の時点でも、特に。

こんな――――妙ちきりんな声がしてた覚えはまったくないのだが。

 

「あー……すまない、正直に言って俺には何も理解できてないんだ。」

『ふむ。 どういうことだ?』

「俺が言いたい事なんだが……。」

 

そんな、俺が恐れていた。

誰かに危害を加えるんじゃないか、そんな想像をずっとしていた。

《鬼の力》の代わりに何故か宿っていた、俺を『片翼』と呼ぶ良くわからない声の持ち主。

そんな存在との出会いは、自分も良くわからない朝だった。

 

 

 

 

「ねえ、リィン。 その……ううん、何でもない。」

 

そんな風に話しかけてくる、妙に露出度が高い年下の少女だったり。

 

「覚えていないのです、か? ……いや、その方がいいのかも知れませんね。」

 

そんな風に話しかけてくる、眼鏡を掛けた秀才のような女性だったり。

 

「……兄様。」

 

そんな風に話しかけてくる、妹のような気がしないでもない、何かが引っかかる少女だったり。

 

「……なあ。」

『どうした、我が片翼。』

「俺の記憶が所々どころか大部分欠けてるのはお前のせいでいいのか?」

『さてな。 そうであるともそうでないとも言えんよ。』

 

そんな、誰とも知らない少女達や少年、大人達。

気付けば大部分の記憶が欠けているはずなのに、何かが狂っているような。

そんな違和感を抱き続けながら。

 

「……お前じゃないとしても、礼は言っておく。」

『必要などないのにか?』

「いや、何故かな。 ……もし記憶があったら、って考えると震えが止まらないんだ。」

 

そんな、文字通りにどこにでもある話。

己の中にもう一人がいて、けれど他人は見覚えがある他人のようで。

そんな何処か大本が狂った世界での、《至宝》を巡るお話。

空に輝く、鋼の星に祈りを込めて。

我らは新たな星を導き出す、そんな話。




友人と諸々話しながら大体の配役は決まりましたけど物凄いコレジャナイ臭がする……!
ヨシュアにゼファーさんが入ってるってドラマCD時空としか思えねえ……


※続きが気になる人がいるようなら書きます、タブン


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1.「誰だよ。」

大分うろ覚え知識で書くなんか変な話始まるよー(気分転換


『ふむ、目覚めたか我が片翼よ。』

 

朝、目が覚めたら妙な声が聞こえてきた時。

正直どんな反応して良いのかが分からないというのは卑怯だろうか。

今、俺はそんな気分で一杯だ。

 

「………………いや、誰だよ!?」

 

七耀歴1203年、3月。

今いる場所は、俺の故郷――――帝国の田舎、《温泉郷》ユミルから遠く離れた場所。

《クロスベル》と呼ばれる、帝国と共和国の間に位置する都市の一角だった。

 

こんな場所にいるのは他でもなく。

俺が修めている武術、《八葉一刀流》と呼ばれる太刀を主体とした武術にほぼ必須になる太刀が折れてしまったことに由来する。

ユン師父からは初伝で打ち切られ、その場を離れ。

迷いながらも、日々の鍛錬だけは欠かさずに行ってきていたからか。

ふとした気の緩みから、間違った角度からの一撃を木に当ててしまい。

あ、と言葉を漏らした時には既に遅く。

半ばから折れてしまったそれの代わり……を求めて、両親に頼み込み。

元々俺を強く心配してくれていた両親も、力強く送り出してくれたその翌々日の朝。

 

『……分からないか?』

「分かるわけ無いだろ!?」

 

いつもの習慣のように、日の出と同じに目を覚ませば。

胸元から響く見知らぬ声と、薄く見える金髪の男性の影が部屋の隅にあった。

正直叫びださなかったのを自分で褒めたい。

 

『ふむ。 幾つか思い当たることはあるが。』

「勝手に納得して勝手に自分で答え出せるのなら聞くな……というか、俺の質問に答えてくれ。」

『質問?』

「誰なんだよ、お前は!」

『誰……ふむ、何と言えば良いのか。』

 

日が出たばかり、早朝だと言うのに叫んでしまった俺。

ある程度防音がしっかりしたホテルでなかったら、恐らく叫び声は周囲に聞こえていただろう。

叫び、自分の声の大きさに驚き。

慌てて口を閉じたが、それを気にすることはなく目の前の()()は何かを紡いだ。

 

『私は、片翼の《力》の代わり……いや、片翼の呼ぶ《鬼の力》の化身のようなものだ。』

「…………は?」

 

当たり前のように告げられた言葉に、思考が止まる。

 

『正確に言えば色々とあるのだがな。お前は何も感じていないのか?』

「いや……いや、待ってくれ……。」

 

何を言っているんだ、この人(?)は。

力の化身?

確かに、胸元から声が聞こえるような感覚もそれなら理解できる。

目覚めたら唐突に同じ部屋にいたのも理解は出来る。

ただ、それなら一つ疑問が浮かぶ。

 

「……なんで唐突に?」

『まあ、端的に言えば一言で済む内容ではあるが。』

「言えよ。」

 

今まで恐れていたモノのはずなのに。

妙に――――何と言えば良いのか、そう。

正体を知らなかったのでなく、知ったからこその蛮勇にも思えるような言葉。

だからこそ、今こうして話せているような気がしないでもない。

 

空の至宝(オーリオール)か、幻の至宝(デミウルゴス)の影響……なのだろう、な。 いや、それだけではない気がするが。』

「……至宝? 御伽噺の?」

『今は然程重要ではない。 今の我が片翼に取って重要なことはたった一つだからな。』

「重要なこと?」

『ああ。』

 

鸚鵡返しのように出る言葉は、自分で理解できていない事柄だからこそ。

そして、次に放たれた言葉で更に混乱の渦へと叩き落されることになった。

 

『今のこの場所は、我が片翼が良く見知った場所――――と、()()()()位相が違う世界だ。 それだけを理解しておけばいい。』

「……………………は?」

 

その言葉に。

知らない記憶と、知った記憶が混在した記憶が流れ出した。




リィンくん≒《イカロス》=アッシュ枠(+幾つか)
鬼パワーさん≒《ヘリオス》枠。

尚諸々の理由のお陰で大分優しくなっててよかったな……!


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2.見知らぬ幼馴染(+α)


???「ね、ねえ……リィンなの?」

リィン「いや誰だよ!?」

だいたいそんな環境に置かれ続ける主人公。


 

残った記憶。

子供の頃に雪山で拾われた記憶。

ユミルにやってきた客と、所々で会話した記憶。

義妹を救うために、獣を小さい刃物で殺した記憶。

老師に学び、《八葉一刀流》を身に付け始めた記憶。

 

そして、見知らぬ記憶。

拾われる前に、同い年くらいの誰かと話していたような。

何人いたのか、男なのか女なのか。

一人ではないはずなのに、大人の姿の覚えは一切残っておらずに。

ただ、誰かと話していた記憶だけがある。

 

そんな不可思議な混在した記憶。

記憶が一冊の本だとすれば、その間に()()()()()記憶とでも言うべきか。

忘れていた、というよりは後から追加された感覚に震えすら浮かぶ。

 

「……なんだ、これ。」

『片翼が今までに経験してきた()()()()()記憶だな。』

 

事になった?

……というか、なんで俺はそんな記憶と前の差異に気付けている?

こいつの影響か何かか?

気付けば、気絶していたように時間は大分進んでいた。

 

「……なあ。」

『何だ?』

「お前が知ること、全部話せ。 その……お前の名前を含めて。」

『ならば、歩きながらでも構わないだろう? それに、言葉に出さずとも私には通じる。』

 

武器屋に向かいながらでも、多分話はできる。

……本来ならセピスで刀を作る、というのも簡単なんだが。

東方から流れてくる一品を元のデータにした刀、というのはやはりそれ相応に近い場所でなければ中々巡り会えない。

それに――――この地には、俺の兄弟子に当たる人もいるはずなのだ。

故に、刀に関しては良品を求めていたわけなんだが。

妙なものの方に先に出会ってしまったわけで。

 

『……こうか?』

『ああ。 私のことは……そうだな、煌翼(ヘリオス)とでも呼ぶがいい。 正しい名など存在しない、意識体に過ぎないがな。』

 

はっきり言ってしまえば。

俺は、その自分しか見えない影に。

恐怖と、もう一つのナニカの感情を抱いていた。

 

 

****

 

 

武器屋前……ではなく。

出る際になって、自分の空腹の存在に気付いて外での外食。

頼んだメニューに少しだけ興味があって、食べながら覚えつつ。

 

『……一度整理してもいいか?』

『無論だ。』

 

但し、脳裏では煙を吹き出しそうになりながらの情報整理を継続していた。

それら全てを嘘だ、と切り捨てられればよかったが。

運良くか、或いは運悪くか。

そういった()()()()()()()()は、経験していたので。

 

『お前が、俺の……何だ、《力》の化身だって言ってたな。』

『正しくは、《黒の呪い》とそれに対抗する《精神力》の相克の結果、と言った具合だがな。』

 

ただ、目の前に座られていると違和感が凄い。

自分しか見えていないのだから尚更に。

 

『それが良く分からないんだが、詳しくは言えないんだったな?』

『自ら掴み取るまではな。 言ったところで無為に帰すだけだ。』

 

そして、何を言ってるのか分からないのも余計に痛い。

何だ黒って。 《魔界皇子》じゃねえんだぞ。

……駄目だ、思い出してはいけないものを思い出しかけてしまった。

 

『それで……残りは何と言った?』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と言ったまでだ。』

 

一番意味がわからないのがこの発言だ。

……詳しく話すつもりがないらしいから、これ以上言うだけ無駄だろうが。

 

『……分からないが分かった。 結局お前は何を求めてるんだ。』

()()。 片翼の道行きを助言するだけだ。』

『それが一番怖いんだが……。』

『――――予言しておこう。 本来は俺が言うことではないのだがな。』

 

何をだ、と呟いて。

 

『何をどうしようが――――()()()()()()()()()()()()。 忘れるな。』

 

は、と言葉を吐き出して。

 

「…………もしかして。」

 

テーブルの先の、道の脇。

そちらの方から、見知らぬ誰かの声が聞こえた。

 

「リィ、ン?」

 

……少なくとも、見た覚えがないような。

そんな誰かの声が、俺のことを呼んでいた。

 





???≒どっかのグラビティトンチキその1枠(+α)

年齢的な面でブレがありますが多分遭遇経験は記憶喪失前と暴走直前or直後位を想定。


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3.”銀”の少女。


アリサ「あのー……。」
シャロン「お嬢様……。」



 

声の主に最初に気付かなかったのは、予想よりも低い場所にいたからだろうか。

銀髪に、季節外れの首巻き(マフラー)を首に纏った見知らぬ誰か。

恐らくは、俺と同じか少し下か。

それが、俺の名前を呼んでいる。

 

『ほう――――■■■か?』

「は?」

 

そんな言葉が表と裏に、同時に放たれる。

最初に反応したのは、幸か不幸か。

体内の煌翼(ヘリオス)の方だった。

 

『む? どうした?』

『いや、知ってるのか……というか今の言葉のノイズは何だよ。』

 

名前……なのだろうか。

そんな風にも聞こえたが、また別の何かを圧縮したかのようにも聞こえて。

何より、妙に上から目線なのが気になった。

 

『お前が忘れていることでも、この身体は経験している。 不思議ではあるまい。』

『当人が忘れててかよ。』

『当然だ。 それに私には、別の意味で見覚えがある、というだけの話だ。』

 

向こうがこちらを見ることが出来れば何を言ってきたかわからない。

下手をすれば争いになっていたかもな、等と。

何を言っているんだこいつは、という目をして。

一度、そちらから視界を離した。

 

「な……なんで此処に?」

 

目の前の少女……少女、でいいのか?は。

信じられないものを見たかのような目で、此方に近づいてくる。

こう聞くのも失礼かとも思ったが。

実際の所、事実なのだから。

 

「……あー。 すまん、誰、だ?」

 

その言葉に、目を見開いて止まる。

覚えていないのか、と問うような目に。

申し訳ないが、正直な話――――。

 

「いつ会ったかもはっきりしないが、所々記憶がなくてな。」

 

特に、雪山で拾われる前はほぼ記憶がない。

ヘリオスが降ってきて、妙な記憶を思い出した時。

誰かの声を思い出した程度。

そして、暴走した際の衝撃なのか、妙な記憶のせいなのか。

所々の重要な記憶を除いて、忘れているというか抜け落ちている感覚だけは確かに残っている。

 

「じゃ、じゃあ――――。」

 

その言葉を聞いて、硬直し。

そして立ち直るまでほんの数秒。

更に一歩、近付こうとして。

 

「おい、どうした?」

「勝手にどっか行くなって言うたやろ?」

 

そんな彼女を呼ぶ、誰かの声がしていた。

そちらに気を向けているようで。

けれども、俺に意識をずっと向けているような奇妙な状況。

正直に言えば、これだけ特徴的な格好してる相手なら最近会ったのなら忘れないと思うのだが。

……実力というか、戦闘能力を備えていそうなのは体の筋肉の付き方で想像できるし。

 

「呼ばれてるが、良いのか?」

 

俺の言葉に、どうするべきか悩んだように。

立ち去る前に、呼び掛けを飛ばしていた。

 

「……ねえ、いつまで此処にいるの?」

「……後2~3日くらいだと思うが。」

「なら……なら、夜! また此処で!」

 

そんな言葉を投げ掛けて、呼び掛けていた二人。

筋肉質と、痩せ型の男性の元へ駆けていく。

その視線の先には、後ろ姿しか見えないけれど。

妙な圧力を感じる誰かが待っていて。

 

「…………えー、結局誰なんだ彼奴は。」

『さてな。 自分で聞くが良い。』

 

何か含みのある言葉を残した金髪。

無視して、既に開いていた武器屋へと駆け足で移動した。

…………周囲の目線が、俺達に集中していたからだが。




■■■≒■■■(+α)

だって外見一緒じゃん……特に逆襲劇前っていうか通常時っていうか……。(一部分を除く)


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4.気付けば。


■■■「なんで覚えてないの……?」

■■■「当然では……?」

■■■■「お嬢様方は大変ですわね。」

■■■■■「それが普通だと思いますが。」


 

「風切」と名付けられたセピスで作られた刀……というよりは、やや大きめの太刀にも近い武器。

それを手に入れ、自分に合うように更にセピスや強化素材(Uマテリアル)をつぎ込んで調整して貰うだけで約半日近くを消費した。

というのも。

直接接しているわけではないのだが南西、《リベール王国》と呼ばれる土地で《導力停止現象》とされる奇妙な事が起こって以降。

その被害が此方にも来るのではないか、と一部の市民の間で警戒されていて満足に使用できなくなっていたのが原因なのだとか。

段々とその影響は小さくなっていた――――のだが、なんだか奇妙な浮遊都市が浮いたとか浮かないとか。

そのせいで帝国では緊張が走り、更にその影響が、と。

自分の暮らす国の影響だからこそ、声を大にして何かを言うことも出来ずにいた。

 

『しかし刀、か。』

『何か違和感でもあるのか?』

 

《八葉一刀流》は八つの型から構成される東方の剣術の複合体。

刀を用いた型が七つ、無手の型が一つ。

その内俺が叩き込まれたのは、主に七の型である《無》と八の型である《無手》。

とは言っても、全ての型の基礎だけは叩き込まれているのだし。

日常の訓練というか、既に日課として取り入れている以上慣らしを兼ねて許可を得て宿の庭で振っている。

本来なら町の外、街道外れで魔獣を狩る鍛錬でもしたいところだが。

手配魔獣と呼ばれる巨大、且つ危険なものに遭遇すれば一人ではとてもではないが太刀打ちできるかも怪しい。

その為、今の俺が出るならば最低限二人は必須なわけだが……こんな場所(クロスベル)に知り合いがいるわけもなく。

 

『いや、その武器に少々親しみがあるだけだ。』

『……刀に?』

『私自身が、というわけでもないがな。 今の動き、右肘が下がっているように思えた。』

 

そんな事を口にしながら、所々で指摘してくる内容は大分的確。

その部分に注力しながら振るえば、伝わる力は先程より確かに上。

流派に精通しているというわけでもないのに、見ただけで看破してくるその眼力には少しばかりの嫉妬を覚える。

そんな感情を抱くこと自体が、不遜なのだろうが。

 

『所でだ、片翼。』

『どうした変人。』

『先程の少女が待っている時間になると思うが。』

 

空を見れば、確かに暗く。

修行に熱が入るといつもこれだ。

良く()()()()()()()()()()()()()()――――。

 

「ん?」

『口から漏れているぞ。』

『いや今はそれはどうでもいい。』

 

今何かおかしい記憶が頭を過ぎったような気がする。

見知らぬ、親しい誰かがユミルの家で待っているような感じ。

それに気がつくとなんだか気持ち悪さのほうが増してくる。

あれは、確か…………。

 

「メイド……?」

『どうかしたのか。』

『知らないような知ってるような誰かが頭の片隅に残っていてな。』

『結局戻った際に分かることだろう。 今はどうするのか、決めるが良い。』

 

こいつは優しいのか厳しいのかどっちなのか。

……まあ、意に反しすぎれば()()()()()()()()()()と。

自分の直感が常に囁いているのだから、未だ優しい部類なのだろうが。

 

『……会いに行く。 せめて名前くらいは思い出したいしな。』

『思い出せるかは分からなくてもか?』

『それが努力しない理由になるのか?』

 

そう言えば、満足したように押し黙った。

確か、待っているのはあの食事をしたところだったか。

刀を腰に納め、汗を流したら向かうことにしよう。

そう思って、宿の入口へと視線を向けたら。

 

「…………。」

 

入り口……というよりは、そこが見える場所の角。

隠れているようで隠れていない姿が見えた。

 

「…………。」

 

何をしてるんだ、あの子は。




どっかの■■■≒どっかの■≒■■枠(+α)。
限りなく原作崩壊要素。


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5.夕暮れの中の。


リィン「しかし何してるんだろうな俺……。」

親馬鹿共「「誰だあのガキンチョ……。」」


 

結局隠れてるようで隠れてない子と、偶然出会ったように装いながら移動して。

やってきたのは、昼と同じ軽食店だった。

俺の記憶する限り、女性と食事する機会なんて殆どない。

精々が故郷の人々とたまに道中で話すくらい。

だからこそ、義妹とメイドに叩き込まれた持て成しを必死で思い出しつつ。

飲み物と食事を幾つか頼んで、相向かいの席に座る。

……それは良いんだが。

 

『……気の所為か?』

『気付いたのか?』

 

背中の方から感じる……視線?

いや、もっとこう獲物を見定めるような殺意的な何か?

そんな物を感じる。

 

「……。」

 

目の前の誰かは口火を切ろうとして、押し黙り。

そんな事を繰り返していて、互いに話が進む気配も見えず。

 

「……まず、自己紹介からでいいか?」

 

……結局、話を切り出したのは俺の方からだった。

まあ、向こうは知っていても俺は記憶にない。

失われた記憶の何かしらの欠片にでもなれば、と思ったことは否定しないけれど。

相手は、子供から少女へとなり始めているような相手だったから。

そういう意味合いでも、決して口にはしなかった。

 

「え……あ、うん。」

「なら改めて。 リィン・シュバルツァー。 ユミルを治めてる男爵家の長男だ。」

 

養子である、とかそんな言葉は多分不必要だろう。

俺を知っているとするなら、その辺りは知っているものと思って進めて良いのだろうし。

 

「……シュバルツァー、か。」

「ああ――そうだな。」

 

過去の名前を仮に覚えていたとしても。

今の俺は、そういう立ち位置にいるのだと改めて口にすれば。

 

「私は……フィー。 フィー・クラウゼル。 猟兵団……《西風の旅団》に所属してる猟兵。」

「猟兵……。」

 

通り一遍の知識しかないが、確か超一流の傭兵団を指す言葉だったはず。

生憎、どの程度の知名度なのかなんて知識は俺は持ってはいなかったけれど。

確かに、格好を見れば理解できる部分がないとも言えない。

 

「その年でか?」

「うん。 これでも異名だってあるんだよ?」

「それは確かに……。」

 

具体的な年齢を聞くわけではないが、大体の意味は理解してもらえたのだろう。

自分のことを話す姿は、少しばかり自慢げだった。

そして、俺を見る目は何処か潤んでいるように見えたのは多分――――気の所為なのだと、そう思う。

そんな目で見られる理由が、無いのだから。

 

「リィンは……えっと、その腰のって。」

「これか? さっき作って貰った、俺の武器だよ。」

 

さっき見てたことは知らないフリなのだろうか。

まあそれに乗っかるとして。

 

「剣じゃない……よね?」

「刀……東洋の武器だからなぁ。」

 

店の中で鯉口を切るわけにもいかず、鞘の上から一度叩く。

そういうものなのだ、と口で説明するように振る舞えば。

 

「あ、これが刀なんだ。」

「戦場では見たこと無いのか?」

「どっちかと言えば……そうだね。 銃とか、後は近接用で武器は色々だけど。」

 

まあ、《八葉一刀流》を学んだ剣士が傭兵団のような場所に所属する……というのは余り考えにくいし。

兄弟子がリベールや此処にいる、というのは老師から聞いてはいたけど。

遊撃士として活躍しているらしいし、忙しいだろうし。

それに俺自身まだ未熟だと思う部分だらけだ。

会うのなら、ある程度自分でも納得した上でにしたい。

 

『ならば、鍛錬に励むことだな。』

 

その思いに何処か満足した部分があったのか、煌翼は微かに頷いているようにも思えた。

 

「それなら、フィーはどんな武器を?」

「私は……これ、かな。」

 

そう言いながら、腰の後ろから取り出してきたのはやや異形とも言えるような武器。

銃を放てるような短銃に、短い刃がついたようなそんな形。

遠近両用、と口にするのは容易くても使い所に迷うようにも思える高難易度な武器にも思えた。

 

「……変わってるな。」

「あ、やっぱり?」

「自分でも自覚してるのかよ。」

「あまり重い武器だと私には合わないし、身軽な方が合ってるからね。」

 

しかし、そんな簡単に武器の情報を教えて良いものかとも思ったが。

それを踏まえた上で対処できるからこその傭兵なのだろう、と思い直し。

 

「あ~……。 俺は、あんまり傭兵には詳しいわけじゃないから。 幾つか聞いていってもいいか?」

「……うん。 何でも聞いて。 私も、色々と聞きたいことはあるから。」

 

少なくとも、今するような話ではなかったが。

記憶に、互いに踏み込まないようにしているのは……ちょっとだけ、奇妙だった。




改めて。
フィー・『クラウゼル』≒『レイン』枠。
まあトリニティやった人なら何がいいたいかは理解してくれると思います。


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6.帰り際。


フィー「また会えるよね、きっと。」



 

結局、その話が終わったのは日が沈みきって少ししてから。

導力灯が点灯しているのは確かなのだが、万が一に備えているのか何なのか。

どうにも不安そうに見上げている人が何人かいるのが印象的だった。

妙な視線も、俺が街中を歩く限りは付き纏っていたようで。

立ち去るまでの間、それが離れたのは……多分、導力バスが来るのを待っている間だったと思う。

妙に背の高い、というより大柄にも思える男性と多少話した後からは。

その奇妙な状態から離れられたので。

 

「――――シッ!」

「ピギュウ!?」

 

幾つかの乗り物を乗り継ぎながら、《帝都》ヘイムダルを経由しての帰宅途中。

帝国中に張り巡らされた鉄道は、確かに移動を簡略化させてはいたが。

どうしてもそんなものがなく、次の場所までは街道を進まなければ辿り着けない場所もある。

クロスベルとは違い、ある程度の魔獣の癖などは師父からの修行の副産物で見覚えがある土地。

そんな場所の一角を通り抜けながら、振るった刃を鞘に収める。

 

『良かったのか?』

「何がだ。」

 

周囲には特に人の存在は感じない。

だからこそ自分の口で話すことも出来るわけだが……此処数日、《煌翼》の様子を見ていて分かってきたことがある。

こいつが自分自身で言っていた()()()()()()()()()()()()()()()について。

 

銀の少女……フィーと話を終えた後はやや荒々しく、蔑むように俺へと言葉を投げ捨てた。

その姿が《幻》のオーブによる幻覚のように何度かブレ、獣のような姿が見えたときは何事かと思った。

そして、今こうして落ち着きながら言葉を振るっている時であれば。

言葉自体は鋭いが、何処か賢人のような何かを理解し、指導しようとしている口調へと変貌する。

物理的と言うよりは精神的な、心に応じて変動している。

そんな事があるのか、と言われればあるんだろう、としか返せない事柄だが。

……ユン老師に連絡がつくのなら、聞いてみたいが今何処にいるのやら。

 

『行き先や連絡先についてだ。』

「……俺から連絡取る機会もほぼ無いだろうしなぁ。」

 

猟兵、傭兵である以上命を最も大事にするとは思うのだが。

そうであっても、命を落とさないとは決して言い切れない。

それは俺自身が刀を扱う以上理解しているつもりのことだし。

それに、常に場所を変えるのだろう相手に連絡を取るのはやや非効率的とも言える。

 

「俺が何処に住んでるか、それだけは伝えたんだ。 何かあればフィーが連絡してくるとは思うぞ。」

『ふむ――――それもまた道理か。』

 

その答えで満足したのかどうなのか。

姿を薄く、周囲に溶け込むようにして佇み直した。

……しかし、将来か。

 

「どうしたもんなんだろうな。」

 

歩き出しながら、そんな事を呟いた。

男爵家を継ぐ……というのは、この妙な力と養子である二つの理由から考えては居らず。

そうするとなれば、義妹のように何処かの学校で勉強するのも。

それとも、老師のように刀の修行として流浪という選択肢だって取れる。

……以前より、プラス方面に意識が向いている理由は謎が少しだけ解けたからなんだろうか。

 

(いけない、こんな事を考えてちゃ駄目だ。 周囲の気配を……。)

 

もう少し進めば、ユミルへと最も近い場所。

そして、自分の知らない記憶がそこで誰かが待っていると告げている。

木の陰に、新たに魔獣の気配を感じ。

刀を抜き、意識を整え――――。

 

「――――《孤影斬》!」

 

未だ形としては不格好な、斬撃を飛ばして奇襲を駆けた。

一歩ずつでも、進まねばと。

そんな心に揺り動かされるように。





書けるようなら本日二話書きたい……
ユミルパートもそうですけどまだまだ登場人物少ないしな……!


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7.歪みと軋みと。


■■■■「私が此方に来て大丈夫なのでしょうか?」



 

「お帰りなさいませ、リィン様。」

 

ユミルへと通じる最後の街道。

そこへの道というか、門衛が守る場所のような入口側。

顔を知らないはずなのに良く見知った相手のような。

名前を知らないはずなのに口はその名を軽く呟く。

こんな奇妙な、まるで乗っ取られた感覚のような物が一番奇妙。

けれど、そこで待っているメイド服を着た女性を見て思ったのは。

「出来る」と、そんな戦闘方向への認識だった。

……確か、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()相手。

 

「今戻りました――――()()()()()()。」

「ふふ。 心配はしておりませんでしたが……。」

 

やや薄紫色の髪をした、豊かな肢体をした万能メイド。

彼女が此処に来たのは……俺が引き取られて数年した後だったか。

もう一人の自分、とでも呼ぶべき記憶を辿るなら。

それを妙に強く覚えているのは、自分の《鬼の力》とやらに目覚める直前だったからだろう。

嫌な記憶と結びついてしまっているからこそ、はっきりと覚えてしまっている感じ。

 

ユミルへ通じるロープウェイの真下、つまりは対岸……とでも呼ぶべき場所で。

人気がない、目立たない場所で大怪我を負って倒れているのを見つけたのが俺だった。

大慌てで両親を呼び、何とか命は助けたものの。

何故そんな場所にいたのか、一体何をしていたのかは。

その時も、そして今も俺には知る余地もなかった。

テオ父さんだけは、その理由を聞いているらしいのだが――――。

少なくとも、普通じゃないものに関わってそれを受け入れる度量は見習いたいとは思う。

 

「それにしても、ずっと此処で?」

「いえいえ。 少々此方での買い物と……後は時間帯が被りそうだったので、待ってみただけです。」

 

にこやかに笑う笑顔に苦笑を返しながら、絶対嘘だろうと思う心を黙らせる。

勘、という単語一つで片付けられないくらいにはタイミング良く姿を現す彼女には慣れていた、らしい。

慣れたからと言って驚かないというわけではないのだが。

 

「買い物、ですか。」

「ええ、調味料などが少々。」

 

買ったものを何処に格納しているのか、などとは聞くに聞けず。

そして押し黙ったままの煌翼もまた、何かを考え込むようにし続けている。

()()()()()()()()()()()、という感覚からしてどう話していいのかも難しいと言うのは厄介で。

それらしいことを呟いて、自分の違和感をすり合わせていく作業をしていくしかない、というのが現状の所。

 

「リィン様は……お目当ての刀は手に入ったのですか?」

「ええ、自分に合うものに調整して貰うのに時間も掛かりましたが。」

 

坊ちゃま、みたいな呼ばれ方でないのは俺自身が何度も拒否したからで。

そうでなければ、多分妙な気恥ずかしさで顔を合わせるのも難しかった気がする。

何しろ、ユミルのような小さい領地にいるには相応しくなさすぎるメイドなのだし。

外見も、行動力もすべてを含めて。

 

「そうですか、それならば旦那様方も送り出した甲斐があったというものです。」

「俺がいない間、何か有りましたか?」

 

街道沿いを歩きながら、談笑……というには、少しだけ違う何かを混ぜた会話が続けられる。

よく見知っている魔獣達とは言え、警戒が薄くなっている理由は……明らかに、隣にいるメイドの影響がある。

懐に隠した鋼線と、短剣。

そしてある種の特殊な足捌きによる視界の撹乱と上空・地面沿いを含めた高低差からの奇襲。

『暗殺者』とでも呼んだほうが相応しいようで、そしてそれ故のものなのだろうと。

決して話そうとしない過去に関しては、そんな認識を抱いていた。

 

「いえ。 お嬢様が少しだけ不機嫌だっただけで。」

「……もう少し淑女らしくしてほしいんですけどね。」

「まぁ。 ()()()()()()も色々と悩んでいるんですよ?」

 

かも知れないが……女学院に入ってから、妙に余所余所しい気がしている義妹のことを思うと。

少しばかり、溜息を漏らした。

 

「お疲れですか?」

「いえ。 ……少し考え事があっただけです。」

 

そんな会話を、続けながら。

ゆっくりと、しかし確かに。

自分の今の家へと向かい続けていた。





というわけでシャロンがシュバルツァー男爵家にいます。
基本的な部分は原作沿い、唯色々と弄ってる感じ。
鋼線・短剣使用的な意味でアヤの成分を半分インストール。

…………脳内ピンクェ……


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8.影響。


早めに閃(+碧)開始時期まで行きたいっすね……


 

「お帰りなさいませ、御兄様?」

「お、おう……。」

 

3月、と言うよりは義妹が現在通う聖アストライア女学院から戻ってきているのも、ちゃんとした理由あってのこと。

他国、つまりは今起こっているリベールでの異変に際して帝国の一部が影響下に巻き込まれたのが原因であり。

それに伴って、学年が切り替わるというのも重なり一時帰宅と相成っている訳……らしい。

だからこそ、別に屋敷にいるのは不思議ではない。

疑問というか焦る理由になったのは、帰った時間が普段であれば鍛錬か部屋に籠もっている時間帯にも関わらず。

玄関口で待ち受けていて、()()()()()()()()を浮かべていたからに過ぎない。

 

「どうかされましたか?」

「……あー、いや、何でも無い。」

「シャロン、何か有りました?」

「いえいえ。 単に照れているだけでは?」

 

以前までの記憶も欠損している俺からすれば、何かが切り替わるよりも前で同じだったかは曖昧だが。

少なくとも、義妹――――エリゼはもっと距離感があった覚えがあるんだが。

なんだかこう、接し方が近い。

 

「別に何でもないさ。 ……で、何してたんだ?」

細剣(レイピア)での日課は済ませましたので……それ以外の部分をどうしようか悩んでいたところです。」

 

成程、と頷く自分がいた。

護身用として基礎的な宮廷剣術の一種である細剣を用いていたのは、確か。

それに加えて鋼線と短剣を仕込み、万が一に備えているというのは若干やりすぎ感があるのだが。

義理の両親は何方も歓迎しているのは、体力の大事さを理解しているからなのだろうか。

……まあ、エリゼに手を出すやつがいれば俺とシャロンが黙っては置かないのも間違いないのだが。

 

「学院の勉強は?」

「それも朝のうちに。 普段でしたら、姫様のお付きなどをする時間ではあるのですが……。」

「あー……。」

 

アルフィン・ライゼ・アルノール。

エリゼとは同級生に当たる、《帝国の至宝》と評される双子の姉で。

何故かはよく分かっていないが義妹の親友に当たる。

将来的には大変そうだよな、とは薄々思っているが直接会ったことは未だ無い……会いたい、と思ったこともないが。

 

「ですので、時間がありますから御兄様にでも付き従おうかなと。」

「待て。」

「あらあら。 仲がよろしいことで。」

 

そして、エリゼが言った言葉に反応を返せば面白そうにシャロンも笑う。

彼女がこういう時は大概二つの感情を混ぜ込んだ言葉だから対処に困る。

つまりは、「面白そう」という意味合いでの笑みと。

更に一歩踏み込んで、真剣な意味合いで「何か」を求めているという二つ。

何だかんだで一番接する機会が多い異性でもあるからこそ、追い払うわけにもいかない……らしい。

多分、というか絶対にそれだけの感情とは思えないんだが「俺」よ。

 

『護る者があるからこそ強くなるような人物も存在するぞ、我が片翼よ。』

『そんな事実は今は良い! 俺は未だ未熟にも程があるんだよ……! 初伝だぞ!?』

 

初伝の時点で全ての技術を叩き込まれたとは言え未だ未熟。

自分なりに納得してしまえばそこで成長は止まるだろうし、それよりも、だ。

 

『将来的に考えれば義妹が誰かを迎えてこの家を継ぐんだ、そんなこと言ってられる状況でもないだろ。』

 

勿論、その相手は徹底的に試し続けるが。

 

『…………難儀だな。』

『何がだ。』

「……あの、御兄様?」

「……どうしたのでしょうね、リィン様。」

 

内側と外側。

同時に話し続けているからこそ。

妙な目で見られることは避けられなかった。



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9.巡り。

時間軸スキップ!
未だにSC~3rd時空なので原作キャラも出しにくい……!


 

ざぁっ、と砂を滑る。

目の端に見えたのは、細い糸のような一瞬の何か。

背筋が凍る――――とまではいかないが、アレを受ければ次の動きは確実に阻害される。

咄嗟に一歩前へ進み、そのままの勢いを消すこともなく刃を向けた。

 

「二の型――――《疾風》ッ!」

 

移動からの攻撃を行う、八葉一刀流の中でも一対多に優れた型。

ただ、今は移動と攻撃を兼ね備えたモノとしての判断だ。

目の前の……そんな時でも微笑みを絶やさない彼女は、当然のように俺の攻撃を短剣で受け流す。

武術で言えば《化勁》と呼ばれるものに近い、まともに受けない力を消す技術。

自分自身も身体を回しながら、俺の攻撃を背後へと擦り抜けさせ。

 

「糸の動きを見切ったのは結構ですが。」

 

そして、その刃を腰の辺りに押し付けようと押し付ける。

()()()()()()()()()()()

だからこそ、目の前の彼女の背後に回った時点で身体を無理にでも回転させていた。

二の型・《疾風》からの連携、一の型・《螺旋撃》。

後は、攻撃が何方が先に当たるか。

そして、刃の長さの関係上俺がどれだけ身体を逃がせるかの勝負だ。

押し付けるのが早いか、俺が攻撃を当てるのが早いか。

そう思っていたはずなのに。

 

「リィン様の動きは、幾度も見ておりますから。」

 

脚が急にがくり、と折れ。

その場に倒れ伏し、顔の真横に短剣が立てられる。

刀を手放すことはなかったが、今の状況。

 

「はい、これで終わりです

「……ですね、俺の負けです。」

 

少しでも気を変えれば、いつでも喉を掻き切れる状況。

こんな状況に持ち込まれた時点で、剣士としては敗北だ。

 

「ふふ。 それにしても強くなりましたね。」

「そう言われても、自分では全然分からないんですけどね……。」

 

青い空を見上げながら、鍛錬後特有の熱気とは別に。

周囲の暖かさというか、短い暑さを否が応でも理解させられる。

既に、季節は七月後半。

ユミルの地も、短い夏を迎えていた。

 

「比較対象がなければ……ということでしょうか?」

「どうなんでしょうね。 実感というか、まあそういうのが薄いようにも感じますけど。」

 

女学院が再開し、エリゼが再び皇都へと戻り数ヶ月。

リベールの地で起きていたらしい異変も無事に解決し、妙な緊張感が漂っていた新聞記事もある程度元に戻っていて。

今まで通りの日常が、戻ってきたようなそうでもないような。

ただ、変わってしまったことも幾つかあった。

 

「ご安心を。 リィン様は間違いなく実力は付いてきていますよ。」

「そうやって褒められるのもむず痒いんですけど……。」

 

その中の一つが、来年の春からの士官学校への入学だろうか。

実際の所、将来をどうするか悩んでいた俺にとっての渡りに船のようなモノ。

トリスタ、という皇都からも程近い街に存在する二年制の士官学校、《トールズ士官学校》。

そちらへの入学を打診され、両親と話し合った結果入学試験を受ける事になった訳だ。

まあ、当然今まで以上に修行や勉強をすることになったけれど。

そこは目の前のスーパーメイドが教えてくれることで解決した。 してしまった。

 

『ある程度は技も使えるようになったか。』

『いや、全然未だだ。 老師の《疾風》なら受け流す暇すら与えなかっただろうしな。』

『当然だ。 鍛錬は積み重ねるもの、一時に跳ね上がるものではあるまいよ。』

 

そして、修行に関しても一人で息詰まることも大分減っていた。

シャロンとの一対一での修行や、型の練習を外の目線で見つめ、指導する煌翼。

自分一人とは違い、気付き難い事柄であっても他者の目線から言われる事柄を吸収し、飲み込み。

自分の血肉として取り込む。

一端の武術家として、それが楽しくないわけがない。

現に、初めた当初に比べて彼女と打ち合える時間は確実に伸び続けていた。

……未だに勝てないのは、少々気恥ずかしさのほうが先に立っているが。

 

「それはそれとして、ですね。」

「はい?」

 

で、言うべきか迷った事柄を彼女に告げる。

 

「いい加減、上から退いて貰えますか……?」

「あら。」

 

押し倒されているようなこの状況。

幼い時から良く見知っている、年齢の近い近所の姉というのが近いのだろうか。

年齢が離れすぎているのならば兎も角、こうして近いと()()()()()()()()()()()()

それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……いえ、もう少しこのままで。」

「なんでですか!?」

 

上から見下されるようなこの形。

下から見上げる姿は、彼女の顔と肩口ほどまでの姿を嫌でも視線に入れてしまう。

メイド、という割には動きやすさを重視した姿はあちこち動き回るユミルの土地ならではの格好であり。

そしてうっすらと上気するような熱は、彼女自身からも漂ってきて自然と目を逸らす羽目になっていた。

 

「……なんでだと思います?」

 

その笑みの答えは、どうにも浮かばず。

暫くの間、されるがままのように。

鍛錬場として設けられた、人が来ない場所で二人。

長いような短いような時間を過ごさざるを得なかった。





エリゼ優先、という訳でもなく純粋に単ヒロインでもあるシャロンさん。
立ち位置とか設定とか凄い好きなんですけどあんまり出番見ないよねーって。


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10.来客。

最後の一人を出せる機会……。
尚当SSでは原作死亡キャラとか過去死亡キャラが生存していたりする可能性があります。


 

『リィン、元気? 私はいつも通り。』

 

そんな文章から始まる、何枚かに亘る手紙。

所々の文字が掠れているのは、落ち着いた場所で書いたものではないからだろうか。

それでも、十二分に読めるのだから気にするようなことでもない。

 

「……いつも通り、って書くのはどうかと思うんだけどな。」

 

そんな苦笑いを浮かべながら、今日届いたばかりの手紙を読み進めていく。

未だに戦場にいること。

《赤き星座》というもう一つの有名な猟兵団との仲が悪化し始めていること。

リベールで起こっていた異変はある程度収まったらしいが、代わりに妙な現象が起こり始めているらしいこと。

そんな、この場所にいるだけでは知り得ない情報の宝庫。

そんな合間に挟まれる、今何をしているのか、早く会いたいと言ったような事柄。

 

こんな手紙が届き始めたのは、クロスベルから帰ってから一月ほどが経ってから。

それから一月に一回か二回くらいのペースで届き続けて、けれど俺から返す当てもない。

正確に言えば、一度送ったけれど送った相手が既にそこに居らずに戻ってきてしまったから。

受け取るだけで、未だに元気だということを知れるだけのものへと成り果てていた。

 

『探しに行く、という選択は?』

『流石に無理だ、手紙の遅延ですらああだったんだぞ?』

『偶然、という可能性も考えていいと思うがな。』

 

そんな事を言い出せば全てが偶然で解決できるだろう。

向こうが元気な証は受け取った。

送られてきた封筒に手紙を収め、纏めて入れてある箱の中へと落として蓋をする。

何となく大事なものとして、ぞんざいに扱うのを拒否したかったのだ。

 

こんこん、と音が鳴る。

失礼致します、との声の主は、聞き覚えが有りすぎるような彼女のもので。

がちゃり、と扉を開けた先には予想通りのスーパーメイド。

 

「リィン様……おや、何かされていたのですか?」

「いや、いつものです。 どうかしたんですか、シャロンさん。」

 

日々を過ごすにつれて、最初に抱いていた違和感が少しずつ自分のものへと変わっていった。

同一化している、とでもいうのだろうか。

以前から知っていることを、当然のように自分のものとして受け入れられる。

精神性に少しでも余裕が出たのは、多分。

二人と一人のおかげであったのは間違いなかった。

 

「いえ、それが……。」

 

そして、シャロンさんの次の発言を待てば珍しくはっきりしない何かを口にしている。

モゴモゴ、というよりは何と説明していいかを迷うような口ぶりで。

珍しいな、と思いながら。

 

「どうかしたんですか?」

「……いえ、私の……()()の知り合い、のようなものが尋ねてきまして。」

 

その発言が出てくるまでにも、妙に時間が必要で。

そして、その内容自体が普段の彼女であれば出ることではなかったから余計に。

 

「……え、場所教えてたんですか?」

 

つい、そんな言葉が出てしまった。

何かから逃げてきたとばかり思っていたから、誰にも伝えていないものだとばかり。

……いや、仮にそうだとしても俺に話を持ち出す理由がわからない。

 

「いえ、お互いに運が悪かったというか……探しものをしていて、とでも言うのでしょうか。」

「探しもの……?」

「旦那様方は少し手が離せないらしく……その、不躾で申し訳ないのですが。」

 

そこまで言わせた時点で、立ち上がった。

普段から世話になっている姉のような相手の困りごと。

そして、仮にも貴族の名前を持った男性として。

 

「いえ、構いませんよ。」

「申し訳有りません。」

「普段からお世話になってますし……まあ、大量にある借りを一つ、ということで。」

 

そう、照れくさそうに呟けば。

それに同じように笑みで返し。

 

「……でしたら、私も何かでお返しさせて頂かないとでしょうか。」

 

そんな事を、呟いて。

移動しようとして――――明らかな、違和感にそこで気がついた。

屋敷の外、入口あたりを眺めるようにしている煌翼の姿。

疑問を聞こうとして……小さく首を振って、取りやめた。

どうせすぐに、分かることなのだからと。

 

……結局、それが正しかったのかは。

聞くだけ無駄だったという意味合いも合わせ、未だに分からないことではあるのだが。



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11.古巣。

大本から弄ってみました by 因果改変


 

「急に失礼する。 少々探しものと、暫しの湯治を頼みに来たのだが……。」

 

現れたのは複数名。

妙な機械に抱かれた()()()()()を背景に、ややくすんだ金色の髪の毛を持つ男性。

そして鎧を身に着けた女性の奇妙な組み合わせだった。

 

「……湯治ですか? でしたら宿の方で手続きさえすれば大丈夫ですが。」

 

男性が一人しかいない、とかこんな場所で鎧?とか。 幾つも疑問はあったけれど。

その全員が漂わせている雰囲気に呑まれそうになって腰辺りへと手を伸ばしそうになり。

一度、小さく息を吐くことで自分の心を落ち着かせる。

 

(間違いなく、全員が強い――――どころか、一対一でも勝ち目が見出だせる気がしない、か。)

 

底が見えない、相手の強さが読みきれないというのではなく。

明らかに強すぎる、というのが読み取れるのは自分が強くなったからなのか。

或いは、と自分の心内へと意識を向ける。

 

『自分が強くなっただけとは思わないのか?』

『強くなったからこそ、相手の強さが読み取れるってのは否定したくはないが……間違いなく、お前がいる影響もあるだろ。』

『俺は飽く迄お前の一部に過ぎないのだがな。』

 

まず間違いなく、煌翼当人は認めることはないだろうが。

《鬼の力》が暴走するような兆候が欠片も見えない状況は、こいつが宿っている部分が多分にある。

感謝を口にすることはないのだが……言わずとも、互いに分かってしまうことで。

多分、そんな()()()()()()()()()()()は分からないから。

 

「ああ、無論そちらにも手続きは行うが……やや()()()()するかも知れないのでな。」

「……騒がしく? それは、どういう――――。」

 

それを尋ねようとして、彼の視線が俺の横のシャロンさんに向いている事に気付き、黙り。

そして、同時に背後の女性が俺へと視線を向けていることに気がついてしまった。

 

「さて……久々だな、《死線》。」

「久しぶり……というよりは、出来ればお会いしたくなかったのですけれどね、《剣帝》。」

 

そんな呼び名は、今までに聞いたことがあるものでなく。

そしてその声色を含め、冷たい別人にも感じるような切り口だった。

 

「《結社》から離れて何を?」

「何を……と問うのなら、貴方こそ。 彼女を連れ出しているなんて、貴方らしくもない。」

「ああ。 俺は抜けた、というだけだ。」

 

一体何の話をしているのか。

その内容に踏み込むのも躊躇われるような会話なのだが。

そもそも、横から口を出せる状況ですら無く話はどんどんと進んでいく。

 

「……抜けた? のに、後ろの方々は。」

「飽く迄興味本位で協力して貰っているだけだ。」

「まあ、元々私達が何かを言えるような方でもないですか。」

「俺達に()()()()()()()自由故に、見逃されてはいるがな。」

 

それで、と。

妙な話し合いは一度打ち切られ、俺へと向けられた視線に一度小さく唾を飲んだ。

 

「探しているもの、というのは他でもない。 この付近の《霊脈》に関してだ。」

「《霊脈》…………?」

「ああ。 ……彼女を目覚めさせる方法を探してな。」

 

そんな彼が見たのは、機械に抱かれた女性。

その視線に含まれる感情を形容する言葉は、俺は持ち合わせては居らずに。

 

「俺は……そうだな。 唯の、()()()()()()という。 レーヴェと呼ぶ知り合いもいるな。」

 

短い付き合いになるだろうが、と。

彼は、自分のことをそう評したのだ。




というわけでそもそもの話カリン生存ルート……!
なんで生き延びてるのに結社に入ってるのかはその内ィ!

レーヴェが生き残った理由?
ワイスマンが張った《この世の存在全てを通さない》障壁ですけど、そもそもの話《星辰光》に対して対処できるんでしょうかね……と。
(外の理を利用した攻撃で破壊可能なのは原作が記してる通りなので)


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12.『彼女』の過去。

Q:時系列は?
A:【影の国】最中。 黒騎士=サンの出番が大分カットされている光景。

Q:カリン生きてるならなんで結社にいるのさ
A:本編参照。 ヨシュアが原作みたいになったのはクソ教授のせいです。

※アンケートを追加しました。 暇なら答えてやって下さい。


「ううん……。」

 

暫くは自分で探すが、もしかしたら協力を頼むかも知れない。

鍛錬で広場を使用させて貰いたい。

そんな幾つかの頼み事を、条件をつけることで了承し。

屋敷の中、食堂で呟いていれば。

 

「……申し訳有りません、リィン様。」

 

ことり、と中に茶を入れたカップを二人分運んできたシャロンさんが呟いた。

俺のためと……後は、自分用だろうか。

元々この場所は民に寄り添う、というよりもほぼ貴族らしくない行為をして日々の生活を行っている領地だ。

テオ父さんの趣味だって鷹狩りとか銃を持ち出しての狩猟だし。

それ故に、こうしてメイドらしくないことをしても咎める相手もいるわけがない。

それどころか母さんの話し相手をしたり、帰っていればエリゼの相手をしたり。

そんな意味合いで重宝されるというのだから変わっている、という言葉で済むのかは曖昧な所だろう。

 

「いえ、さっきも言ったけど気にしてないです。 ……ええと、あの二人が知り合いですか?」

「あの二人……というよりは、あの男性、レーヴェの方でしょうか。」

「ああ、あの妙に親しそうに見えた。」

「とんでもありません……というか()()()()()()()から、そういう事は言わないで頂けますか?」

 

ついつい見ていた感想を呟けば。

前のめり気味に、笑顔の上に多分になにかの感情を混ぜ込んだ顔で少しずつ近付いてくる。

分かりました、と早めに答えて何とかその妙な圧力から逃れて一息を吐いた。

 

「簡単に説明すれば、あの機械に抱かれていた方を()()()為に色々と動き回っている方ですよ。」

「そういえば、確かにおかしいとは思っていたんですけど……あの人は?」

「カリン様、と。 ()()に少々あったらしく――――命は助かったようですが、それ以降目を覚まさずに。」

「ええと……そのために動いている時に、ってことですか?」

 

そうですね、と。

何処か寂しそうにも思えるような言葉で呟いてはいたが。

既に何年も暮らしているのだし、彼女はある意味身内のようなものだと思っている。

困っているのなら助けたいけど、それを口に出す前にもう一つの疑問を問い掛けていた。

 

「それで……あの、後ろにいた鎧の人は?」

「あまり詳しいわけでは有りませんが……レーヴェ様とたまに鍛錬を行っていた方だった、ような? いえ、伝え聞いた話なのですが。」

「……そうですか。」

 

彼女が詳しいわけではない、というのならば本当にそれ以上は知らないのだろう。

そうなると、俺を見ていた理由が良くわからない。

自意識過剰というか、そう思われていた可能性は否定できないが……。

《観の目》と呼ばれる考え方、捉え方で判断しても。

見ていたのは明らかに俺の顔そのものだった。

 

『また()()()()()()知り合いか?』

『どうだかな。 或いは……()()()()()()だけかもしれんが。』

『まあ、直接聞かなきゃそこも分からないよな。』

 

結局、落ち着く結論はそこで止まる。

だとすれば、動いたほうが早いのも間違いなく。

 

「シャロンさん、少し頼みたいことが。」

「……頼みたい、事ですか?」

 

そう、声を投げ掛けて。

言葉を呟こうとしたときに。

先ほどと同じように、扉を叩く音がして。

俺と彼女は、一度顔を見合わせる羽目になった。



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13.剣の少女、刀の少年。

元辺境の貴族。
そう考えると温泉郷って設定ホント便利っすね……。


 

シャロンさんが出ていって数分(すこし)後。

リィン様、と呼ぶ声が聞こえた。

 

『千客万来、というやつか?』

『どうなんだろうな。 良いことなのかは兎も角、顔見知りが増えて困ることは無いとは思うぞ。』

『お人好し……いや、そこが利点か。』

 

角が生えた兎みたいな魔獣がいる、というのは置いておいて。

老師から教わったそんな事を思い浮かべながら、呼び出した当人の元へと動き出す。

 

「ぁ……。」

 

そこにいたのは、予想通りと言うべきか。

先程立ち去りながらも、此方へと視線を向けていたような鎧姿の娘。

今は鎧を脱いでいるようで、着ている服装は街中であれば普通に溶け込めそうな姿。

けれど何処か、気品さとでも言えば良いのか……そんな雰囲気が抜けない、剣を腰に佩いた一人の少女だった。

 

「シャロンさん、どうしたんですか?」

「お客様です。」

「俺に?」

 

ええ、と呟く言葉は少しだけ口元を歪めていて。

あ、なにか面白いものを見た時の顔だ。

そんな印象を抱かせるには十分過ぎる程だった。

 

「……知ってる人ですか?」

「彼女の……何と言えば良いんでしょう。 師匠? 上司? には何度かお目通り()()()()()()間柄でしょうか。」

「……その内話させますからね。」

「どうでしょう。 口が軽くなれば良いんですけども。」

 

絶対そこ以外に何か理由があるんだろうと含ませる話し方。

彼女が正常の時のごまかし方でもあり、日常的に見るものでもあったから。

まあ良いや、と一旦横に置いておいた。

 

「ええと、俺に用とのことですけど。」

「リィン・シュバルツァー?」

「そうですが……。」

 

フルネームで呼ぶ相手?

……何というか、本当に何処にでも埋没しているような少女で。

例え、()()()()()()()()()()似たような背格好で上書きしてしまったのかもしれない。

それこそ、避暑や冬にはある程度以上の老若男女が訪れる土地だし。

仮ではあるが領主の息子である以上、対応した経験も十や百では効かないのだから。

 

「私は以前貴方に世話になりました。 その礼を、と思いましたが……。」

「……すいません、覚えてはいないですね。」

「完全に忘れられてるとは思いませんでしたわ……!」

 

無茶言うな、と口走りそうになったけど一旦抑える。

ええ、と……そうだ。

 

「あー……名前を聞いても?」

()()()()()()()。 敬愛するマスターに仕える一人の騎士です。」

「デュバリィさん、ですか。」

「呼び捨てで構いませんわよ、その程度には世話になりましたから。」

 

一体何をしたのだ。

……取り敢えずは、置いておく。

 

「要するに、挨拶に来たってことでいいのか?」

「そうですわね。 後は、()()()()()()。」

「は?」

 

今、何と言った?

 

「……いや、すまない。 俺の聞き間違えかも知れないからもう一度頼む。」

「仕方有りませんわねえ。 貴方を鍛えに来たと言ったのです、シュバルツァー。」

「何でだよ!?」

「幾つか理由はありますが……まあ、一番大きいのは。」

「大きいのは。」

 

確かに最近きちんとした「剣士」を相手にしていないのは事実ではある。

主に軽く嗜んでいたテオ父さんや変則的、という意味でシャロンさん。

そして周囲を脅かす、セピスを溜め込んだ魔獣達。

その中で、各種型を磨いてきたのは間違いなく。

自分の欠点やそれを補う手段も、薄ぼんやりとは見えてきた。

けれど、()()()()()()()()、という。

其れ自体は、どうしても見出だせずにいた。

そんな折の、この提案。

 

「貴方がその程度では――――私自身が納得できないからです。」

「全く納得できる理由じゃないんだが……。」

 

玄関口の騒ぎ合い。

それを眺めていたのは、一人のメイド。

そして大分遠くで、誰かが一人。




強化パッチその2:デュバリィによる鍛錬


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14.特訓。

ルビ:ごうもん。

やったねリィン、閃始まる前なのに嫌でも強化するよ!
精神性がアレなのは致命的だけどな!


 

びちゃり、と音を立てて地面の上へと倒れそうになるのを片足を立てることで防ぐ。

荒い息……を通り越して、呼吸をするのにも力を込めねばならない程。

そして俺の視線は、見下ろす二つの影へと向けていた。

 

「立ちなさい、リィン! まだ終わってませんわよ!」

「《神速》……いや、()()()()()の言葉通りだ。 立て。」

「分かってる……!」

 

無理矢理にでも身体を動かそうとすれば、四肢の……特に足回りに鋭い痛みが走る。

それだけ普段に比べ酷使しているという証であり、同時に()()()が付いていた証でもある。

そんな点を一つ一つ明らかにし、叩かれながら、技を磨き上げていく。

ユン老師……師父から教わっていた頃とは少しだけ違う、自分だけの技として高めていく工程。

それを楽しめないのならば、剣士ではないのだと俺は思う。

 

「根性だけは一人前だと思いますが……どう思われます?」

「叩けばその分鍛えられる素材だとは思うがな。 ()()()が俺を鍛えた時に面白そうだったのも納得がいく。」

「うぐ。 ……確かに、マスターはそういう事する人ですけども。」

 

誰のことを指してるのかは分からないが、少なくとも二人の師に当たる人物。

尋常じゃない強さを持っているのは聞かずとも、分かった事。

 

「悪い、待たせた!」

「では、もう一度だ。 受けるのか、見切るのか。 その判断から再開でいいな?」

「お任せしますわ。 能力の判断は貴方の方が上でしょうし。」

 

――――今しているのは、俺への「訓練」と表した数日に一日の立ち会いだ。

彼等がやってきて凡そ一月。

長期滞在する、ということだけは聞いていたがその方針が少しだけ変わったらしい。

つまりは、場所を移りながら彼女……カリンさんを目覚めさせる手段を模索するのではなく。

この場所、ユミルを拠点としてあちこちに向かい。

目ぼしい場所があればそちらへと向かい試す、という形へと。

その理由を問い掛けてみたけれど、返ってきた答えは至極単純。

 

「以前に住んでいた場所を思い出す部分が幾つかあってな。 それに、下手に都会よりも動きやすい上に任せておける相手までいる。」

 

そんな簡潔なもの。

恐らく、その相手というのはシャロンさんなのだろう。

デュバリィ(呼び捨てにしろ、としつこいので気付けば同い年に話すような口調になっていた)は……何と言えば良いのか。

戦闘面ではまず間違いなく天賦の才能があるのだと思う。

ただ、どこかが人間臭いというか抜けているというか。

失敗しては騒動を起こし、住民に笑いを提供している。

……個人的には、彼女も滞在し続けて良いのかを問いたいのだが。

 

『構わんのだろう、片翼を鍛えてくれるというのならそれに従え。』

『いや、でもな……。』

『そうして、その分の借りを返せばいい。』

 

そんな、相談のような自分の心との話の結果。

彼女たちの立ち会いに混ざり、磨き上げ。

立てなくなる程度に疲労すれば、二人の立ち会いを見て自分の動きに取り入れる部分を探す。

剣技や脚の使い方、立ち回り方。

恐らくは()()()()の差もあるのだろう、それらの値千金にも違いない武術を取り入れて。

最近分かり始めた、見知らぬ遠くからの視線を感じながら。

足技と、自身の体内に宿る魔力と、《気》と呼ばれる概念と。

それらを駆使し、目の前の二人が当然のように使用する技を模倣する。

 

「――――行くぞ。」

「来い!」

 

二人、三人。

自身の分身体のような物を短時間具現化する、《分け身》と呼ばれる武技(クラフト)

実体の有無、発動時間、操作精度。

それら全てが劣りながら――――。

目の前の分かりやすい縦振りを弾き、一瞬遅れ振るわれる攻撃を()()()()()()()()()()

 

かきん、かきんと。

金属の音が、小さい広場の中に響き渡っていた。




《分け身・劣化》……CP:30 遅延CT:0 《絶対回避》一回、《心眼》:10CT、回避率+20%:10CT

※何方かと言えば防御寄りに覚えたクラフト。
実体を武器にだけ持たせることで自分に被せるような形で使っている。


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15.外へ。

明らかに戦闘面/知識面では強化済み。
……実際旧Ⅶ組で入れ替えてもシナリオ的に問題ないキャラってどれだけいるんだろう。
必須の役割持ってる人物とそうじゃない人物で格差が凄いんですよね……。

将来的にフィーを成長させてレインクラスにする……?(妄想)


「はい、そこまで!」

「うぅん……。」

 

そんな言葉を切っ掛けに、筆を置く。

周囲からは騒ぎ声というか、あちこちから聞こえるのは悲鳴もあれば溜息もある。

まあ何にしろ、今日行うべき物は全て終了した。

 

『……。』

『どうかしたか?』

『いや――――()()片翼には関係のないことだ。』

 

そうか、とだけ呟いて。

荷物を片付け、立ち上がりながら。

自分のいた部屋……教室から外へ出た。

後から追いかけるようにして着いてきたのは()()

 

「リィン!」

「おう、フィー。」

 

片方は、大分前に会って以降は手紙でやり取り……というよりも一方的に送ってきていた銀の少女。

此処二月ほどは送ってこなかったので心配していたのだが、教室で見かけて互いに驚いた。

ただ、その背は明らかに以前見た時より成長を見せていた。

()()()()は余り変動がなかったが……多分それを口に出したら首を裂かれる気がする。

飛びついてきた彼女を何とか受け止め、その場に降ろす。

 

「ああ、えっと……先程は、ありがとうございました。」

「いや、困ってる時は助けろって教わってきただけだから。」

 

そして、後から追ってきた少女に声を掛けた。

息を切らしている姿からして、フィーに追いつくような突発的な運動面は余り経験がないか薄いようにも思える。

顔の中、目立つように。

薄いセピスで作られた補助具――――眼鏡を掛けた、桃色と言うには紅さを混ぜ込んだ髪色をした。

フィーと並ぶとその差がはっきりする、豊満な肢体を持つ少女へと。

 

「それで、問題はもう無いのか? ()()。」

「はい、良く言って聞かせましたから。」

 

むー、と口から漏らす少女と話す時間は後に設けてある。

それよりも、困っている様子だったことへの問い掛けは問題がないことを示す肯定の返事。

 

「しかし、ペットを連れてきたってのも凄いな……。」

「家に置いておくと、どうしても駄目みたいで。」

 

彼女が困っていた内容は単純なことだ。

俺が試験を受ける事になっていた帝都近郊の都市、トリスタに存在するトールズ士官学校。

帝国各地から集まる受験者たちはどうしても遠ければ近郊、或いはその間だけ寮の一室を借り受けて試験を受けることになる。

貴族かそうでないか、貧乏か金持ちか。 それによっても対応は変わるものの。

そんな中、俺は寮でなく近くの宿の一室を借りていた。

そうしたのは簡単な話で、寮を借りる受験者数は平民が大多数。

貴族用と平民用、と分けられている上に卒業するまでは何処の建物も一杯になるのが当たり前。

そんな事を帝都から見知っているエリゼから、そしてなぜか知っているシャロンさんから聞いていたから。

 

受験当日の朝方、宿から出た所で黒猫を追いかける彼女を目撃。

逃げようとする猫を先回りして捕まえた、というだけの話。

後は忘れていたらしい筆を一本貸したが、精々その程度。

俺だって忘れていたら借りるなりしていただろうから、当然のことをしたまでなんだが……。

その猫は今は知らんぷりというか、我関せずと寮の部屋の中にいるらしい。

一食くらい抜かすほうが罰になる、と怒っているのも印象的で。

だからこそ、名前を覚えてしまったという部分もある。

 

「で、二人は試験どうだった?」

「んー……多分?」

「一応、全力は出せたと思います。」

「そうか。 俺はまあ、多分頑張れたとは思うんだが。」

 

二人の試験結果を問い掛け。

それぞれの答えが戻ってきて、大体予想通りと言えば予想通り。

 

「頑張れた?」

「色々と叩き込まれてな。 勉強も結構面白いもんだと分かったのは収穫だ。」

「うわ、なんか気持ち悪いこと言ってる……。」

「楽しいと思いますよ、フィーちゃん。」

 

もし、受かっているのなら同級生になる異性の知り合い。

少しだけ寄っていこう、と。

三人で同意して立ち寄った先は、街中の一角にある宿と併設した料理店だった。

 




ほぼ必須キャラその1:エマ≒『眷属』。

※ちょっと記憶違いがあったので訂正。


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16.変動。

Q:原作との相違点を述べよ
A:《鬼の力》をめっちゃ自覚してる

そして、ほんの少しの。
もしかしたらの食い違い。


 

街の住民が時折寄るような、宿と一体化した食堂。

酒場などを併設して、そちらでも稼いでいるような誰もが利用する店舗。

俺が宿泊していた《キルシェ》とはそんな店であり。

そして、試験を終えたことでそれなり以上に騒々しい店ともなっていた。

三人、と告げて手近なテーブルが開くまで待って。

それまでの間、外を眺めていれば何人かの生徒が去っていく姿が見える。

 

導力車で立ち去っていく、貴族らしい金髪の少年。

運動能力を測る試験で好成績を残していた様子の青髪の少女。

余りこの辺りで見かけない褐色肌の少年に栗色の髪をした少年が話しかける様子。

何の気なしにそれらを眺めていれば、袖を引かれ。

 

「ん?」

「リィン、空いたみたい。」

 

そんな声にテーブルを見れば、何処か手慣れていない感じを受ける少女が席を指していた。

昨日は見かけた覚えもなく、単純に巡り合わせが悪かったのかと思いながらテーブルに着く。

幾つかの料理を頼み、お待ち下さいという声に小さく頷きながら。

どう切り出して良いのか分からない、同年代の異性との対話を開始する。

 

「あー……一応、改めて自己紹介でいいか? 俺は二人を知ってるが、二人はお互いを知らないだろ。」

 

どうにも居心地というか、妙な空気を漂わせていたのはそれが理由なのだろうと思いながらの発言。

一対一が二つならば会話はできるが、発生するのは知り合いの知り合いと言った立ち位置。

それなら同性同士知り合ってもらった方が絶対に早いのだから。

二人は互いを見て、妙に間隔を取り合うようにしながら頷いた。

それを見て、野生の獣同士のような幻視をした気がするが多分気の所為だろ。

確かにフィーは猫っぽいが、未だ知り合って数日のエマがどんなのかは予想もつかないし。

 

「フィー、フィー・クラウゼル。 今は……この街に住んでる、でいいのかな?」

「エマ・ミルスティンです。 田舎に住んでいて……ちゃんとした勉強がしたくて、此処を受験しました。」

「勉強?」

「ええ。 生憎日曜学校も余り通えないような場所でして。」

 

そうすれば、二人は勝手に話し始める。

フィーの場合は立ち位置、今までの積み重ね的に親しい同性も殆ど作れなかったのだと思ってはいたが。

エマの場合はどうなのか、と聞こうとして――――。

 

『我が片翼よ。』

『……また急だな、どうしたんだよ煌翼(ヘリオス)。』

 

いつの間にか、姿を現した金髪の偉丈夫の声に意識を傾けることになった。

 

『以前言ったな、様々な事象が絡み合って位相が違う世界に紛れてしまったと。』

『ああ……一年は経ってないが、お前と出会った時のやつな。』

 

忘れたくても忘れられない。

疑問が解決し、その倍以上に疑問が膨れ上がった日のことなのだから。

 

『俺から片翼に告げておくことが一つある。』

『……告げておくこと?』

『そうだ――――極めて単純で、故に常に心構えを要する事だ。』

『大分今更な感じはあるんだが。』

 

そんな文句は聞かないように。

目の前の二人の会話が、鏡を介した別の世界での話にも聞こえるような状況で。

至極当然のように、俺の力はその言葉を告げる。

 

『大きな変動要因……いや、言い方を変える。 《至宝》が介入したことでの、()()()()()()()が迫っている。 上手く扱え。』

『は?』

 

一体何を、とこの一年で何度言っただろうか。

そして、彼奴と話していると周囲への感覚が薄れてしまうのだと何度体験したのか。

にも関わらず。

ばしゃり、と言う物音と。

頭から被った妙な熱と、その直後に感じた全身の濡れた感覚に焼かれる状況。

 

「熱っっ!???!?」

「す、すいません~!?」

 

頭から、恐らくはスープを被る羽目になって。

目の前の二人は目を白黒としながら、焦るように少し遅れて動き出し。

運んでいた、見知らぬ店員――――()()()()()()()()()は、大慌てで対処に回り出した。

 

 

※※※

 

『――――()()()、気付かないか。』

 

そんな光景を、自分とは関係無さそうに眺める内面の男性(ヘリオス)

知っていることはそう多くなく、新たな予言が時折内側の獣経由で流れてくる程度。

だからこそ、俯瞰した光景なのではあるが。

 

『あの少女の足取りは、まず間違いなく……。』

 

その内容を、片翼(リィン)に告げることはない。

言ってしまえば、無意識下の当人の判断なのだから。

――――気付いて当然だと。

いつかの誰かに語り掛けるように、それ相応の期待を掛けながら。

目の前の喜劇を、眺めているだけだった。

 

 




ワー、ダレダロウナー


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17.謝罪。

Q:クロスベルどうなんの?
A:明確にヤバいポイントをキャラ入れ替えて対応ですかね……。

あ、UA8000近くまでありがとうございました。


 

「す、すいませんでした!」

 

頭から被った熱湯……というかスープか。

それをシャワーで洗い流し、念の為というか鍛錬で汗をかいた時用の着替えへと変えていれば。

軽いノックの後で訪れたのは実行犯。

そして、開幕一番がこの謝罪だった。

 

「いや、今更ですから。 謝罪は受け取りますけど。」

「すいません……まだ慣れて無くて。」

 

謝罪を受け取り、それで済ませる。

誰にだって失敗はあるのだし、細かく考える必要性もない。

……いやまあ。

|失敗らしい失敗を見たことがない姉のような人《シャロンさん》とか。

|何処か抜けているようで一日に一回はなにか騒動を起こす人《デュバリィ》とかを知ってるから、というのもあるが。

 

「慣れてない、ってやっぱり勤め始めたばかりなのか?」

「はい。 東の方から出てきて……少々、旅の資金が足りなくて。 暫くは此処で働かせてもらうつもりだったんです。」

 

そんな言葉に、改めてその対象を見る。

宿の制服らしき服を着た姿、そしてその上から見て分かる全身の()()()

ある程度は見慣れているが、人が違えば感じ方も違うので内心に収める。

けれど、こんな状態になってやっと気付いた何かの違和感。

それが何なのかは、突発的に起きた出来事で頭がよく回らずに。

急いで聞くべきことではない、と後回しにし。

 

「俺の連れの二人は?」

「私が悪いので……これを渡すように頼まれてお先に帰られました。」

 

手渡されたのは、店で分けて貰ったのか何かしらの裏紙。

そこに記されていたのは、二つの連絡先と謝罪文。

元々短時間の話の予定だったから、帰宅の導力バスや電車の時間の都合とか。

フィーの場合は純粋に用事があるとか何とか。

 

そして、片方はこの街……というか、トールズ士官学校の宛先が記されたもの。

もう片方は良くわからない……というか、知らない何処かの収集箱宛のものだった。

手紙すらもこうして一括で集めている場所、というと疑問も浮かぶが。

まあこうして連絡先を手に入れたのだし、後で手紙でも出すとして。

 

「そうか……。」

「えっと、それで……どうしましょう?」

「俺に聞かれても困るんだけど……店主は何だって?」

「お客様に聞いてこい、と。」

 

そりゃそうだ、と思い直る。

下手に気が短いような相手……悪い意味で「貴族」のような相手だったらどうなっていたか分からない。

あまり詳しいわけではないが、帝国ではそういった身分制度が特に強く出ているとか。

以前にレーヴェやシャロンさんから聞いた覚えがある。

今は何をしてるのか、確かクロスベル方面を調べるとかで出ていって半月程になるが。

 

「さっきも言ったが、俺は謝罪を受け取ってそれで終わりでいい。」

「それでも……私は。」

 

妙に責任感が強いのか。

或いは()()()()()()()()()()()

その差異までは理解できないが、強い感情か理由があることは理解した。

 

「まあ……そこまで言うのなら、一つお願いしてもいいか?」

「は、はい!」

「そんな気合い入れるようなことじゃないんだが……。」

 

自分のことを紹介する際に言っていた、一言。

それについて問い掛けることを、謝罪の代わりとして聞く。

まあ、その前にだ。

 

「まずは、名前くらい聞いてもいいか?」

「そう……ですね。」

 

慌てていたのか。

それとも、其れ自体演技なのか。

そう思えてしまうのは、先程の煌翼の呟きの()()

あの直後に起きたからこそ、感覚が妙に動いているのだか沈んでいるのか不安定。

未だ修行不足なのだと、実感する。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

「……リィンだ。」

 

後になって思うのは。

()()()()()()()()()()()()()()

ただ、それだけだ。




リーシャ≒「レイン」その2。

元々給仕、踊り子みたいな部分と見た目とでダブルヒロインにしたかった部分。
そのために色々理由付けしてます。 はい。


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18.その間の彼女達。

絆イベントに似た何か。
別名舞台裏。

※それぞれ時系列が少しずつ違います。


 

()()()と何も変わっていなかった。

 

思ったのは、そんな事。

ずっとずっと前。

団長に拾われる前、もう顔も覚えてない誰かと出掛けた先で出会った彼と。

その時に一緒にいたのは、私だけじゃなくて。

彼と、彼の……覚えてない誰か達と。

それと、私達と同じくらいの年の何人か。

 

あの頃から、皆の中心にいたのは彼で。

それに付き添うように集まっていた皆は、多分彼に好意を持っていたのだと思う。

靄が掛かったように、皆が誰だったのか思い出せないのは。

多分、それ以外の部分を思い出さないようにしているから、なのかな。

 

団長に拾われて、猟兵になって。

毎日を生き延びるのに必死になりながら、新しいことを取り込んで。

世界をあちこち旅しながら、猟兵団や傭兵と争う日々。

楽しいばかりの日々じゃなくて、家族のように思っていた団員と死に別れることだってあったし。

団から離れて新しい何かを探しに出た人だっていた。

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だからこそ、あの時偶然出会った彼に迫ってしまったし。

私のことを何も覚えていなかったからこそ、悲しくもなった。

それも仕方がないことなのかも。

私が覚えているのと、彼が覚えていること。

生きる上での根底に置いていたことと。

遥か彼方に置いてきてしまったこと。

今までの生き方一つで覚えていることは違うんだって。

私自身も、理解していることだから。

 

団長たちから学んだのは、戦場の煙の中での生き方。

色んな武器の扱い方に、罠の見分け方に身体の動かし方。

私はどうしても身体が小さいし、重いものを持てるだけの筋力が身に付かなかったから。

代わりに銃と短剣と、それらを合わせた一瞬変な武器にも見えるものの扱い方。

そんな、戦い方。

 

……でも。

団長が、《赤い星座》の団長と一騎打ちをして。

帰ってくるって言ったまま、戻ってこずに。

私の居所は――――《西風の旅団》はバラバラになって。

団長たちと付き合いのあった遊撃士の場所に引き取られた私は、どうすればいいのだろう。

半ば強制的に、士官学校の入学試験を受ける準備をさせられながら。

毎月のように続けていた、唯一の繋がりとも言えるような手紙を送ることも忘れてしまって。

未来が見えないまま、誰も何も教えてはくれないまま。

戦場でも、街中でも同じ。

空の月を、眺めていた。

 

 

※※※

 

 

黒月(ヘイユエ)()()()()()()()()のは、自分でも良く分からない理由から。

 

お父さんから《銀》の名前を継いで。

依頼を受けながら、東方から出てみたいと思い当たったのも自分では良く分からない。

代々名前を継いで、百年を生きる魔人としての名前を闇の世界に響かせて。

それが当たり前だと、当然のことなのだと知っているし分かっているはずなのに。

日曜学校でも思わなかった理由から、何というか()()()()仕事を引き受けずに。

帝国に入る間際くらい、だっただろうか。

旅費を稼ぐために受けた、一つの依頼で。

少しだけ聞いていた――――《怪物》に遭遇したのは、そんな時だった。

 

避けた筈なのに、割られた仮面。

相手が振るうのは、人が振るうには大きすぎる程の騎乗槍(ランス)

私の動きを見て、何か言葉を漏らしていたようにも思える。

何とか逃げ切って……いや、()()()()()

依頼自体は完遂しながらも《銀》の名前を穢したことが辛くて、苦しく思いながら。

二度と繰り返さないと、自分に誓った翌日のこと。

化け物が、私の泊まっていた宿へやってきたのはそんな時。

 

貴女に依頼したいことがあります、と。

何処から聞きつけてきたのか、見透かすような口調で。

彼女が告げた言葉は、想定もしていなかったような内容。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

理由は詳しくは言えない、とはっきりした口調で告げていたけれど。

何となく、()()()()()()()()

何となく、()()()()()()()()()()と後ろから押されていたような気がしないでもない。

 

期間は長期。

報酬は前金、後金合わせても膨大な程。

連絡手段、として渡されたものは見たこともないオーブメント。

そして、()()()()()()()()

 

どう扱うかは任せると。

それだけを残し、去っていった化け物を呆けたような目で見ながら。

 

人らしい部分もあるんだ、なんて。

見当違いなことを考えてしまっていた。

 

その少年は、士官学校に入学するらしい。

少女が目覚めるのを待って、動き出そうと想っていた。

 

――――その時の私は、未だ知らない。

()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな違和感と。

眠っていた少女が引き起こす、想定もしていなかったトラブルと。

そこから波紋のように広がった間柄で、得ることになる感情を。




Q:なんでOz奪ってんの……?
A:一応は《蛇の使徒》なので命令権くらいはあるでしょう恐らく。
盟主の指示に従いつつ、蒼の深淵の計画に従いつつ。
彼女は彼女なりの考えのもとにめっちゃ動いてます。 アクティブに。


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19.入学前。

日常編。


 

届いた制服は、()()()()()()()()()だった。

 

「んー……?」

「どうかしましたか?」

「ああ、シャロンさん。 少し気になったことがあって。」

「気になったこと、ですか?」

 

届いたそれを前に、違和感というよりも純粋な疑問を思う。

首を捻っていれば、仕事を片付け終えたのかシャロンさんが顔を出し。

知っているとは思えないが、気になっていたことを口に出す。

 

「この間、士官学校で入学試験を受けたじゃないですか。」

「そうですね、リィン様が無事に受かってホッとしました。」

「……ご心配おかけしました、でいいんですか?」

「旦那様方も口には出さずとも、心配しておられましたから。」

 

そうですか、と口にして。

後で礼を言っておこう、と心に決めた。

普段から俺のすること、したいことに殆ど否定もせずに応援してくれる二人なのだから。

こういう機会にこそ、きちんとしておきたい。

そして、彼女もそれを見越しての発言なのだろう。

薄く笑うその顔に、熱を覚え。

少し目を逸らしながら話を続ける。

 

「それで……学校で手伝ってた先輩? の服装って緑だったんですよ。」

「制服の色が違う……今年に入ったからでは?」

「何か意味があるのか、と考えてしまったら止まらなくて。」

「恐らくは――――士官学校で説明があると思われますが。」

 

少しだけ。

ほんの少しだけ、一瞬だけ。

シャロンさんの顔が歪んだようにも見えたが、次の瞬間には元の顔に戻っていて。

何かを思い出したのか、それとも引っ掛かったのか。

 

「……シャロンさん?」

「はい?」

「何か、引っ掛かることとかあるんですか?」

「いえいえ。 そんな事はありませんが……どうかしましたか?」

 

ごまかしている、という雰囲気ではなく。

何かが浮かび上がってしまったかのような、微妙な応答のやり取り。

そう感じてしまうのは、それなりに長く暮らしているからなのだろうか。

 

「いや、一瞬顔が……。」

「気のせいだとは思われますが……そうですねえ。」

 

だからこそ、理由を口に出せば。

見間違い、俺の間違いなのだろうと淡々と語りながら。

そうだ、と何かを思い出したかのような笑みへと変貌する。

 

「そんなに私のことが心配ですか?」

「へ?」

「ほんの少しの違いでさえも気付いて下さったのでしょう?」

 

何を言っているのか、という意味合いなのだが。

それを理解していないのだろうか。

取り敢えず、本心から気持ちを伝えておく。

 

()()()()()()()()()

 

あ、笑顔が固まった。

 

「ずっと一緒にいるんですから、気付かないってのも難しいと思うんですけど……。」

「……そ、そうですよね。」

「……一体どんな事を考えたんですか?」

 

結局。

そんな問い掛けも、固まった理由に関しても答えてくれることはなく。

()()()()()()()訪ねてきたデュバリィの到着で有耶無耶になった。

……こいつもこいつで、彼女の言う所の「敬愛するマスター」から離れていて良いのか。

聞いてもしょんぼりするだけだから、聞けることでもないのだが。

 

…………時間が、唯過ぎていく。

そんな、冬に入り始めた一日の出来事。



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20.幾つかの。

実際このルートだとクラスメイトに悩みますねえ。
シャロンは無理でもリーシャ……デュバリィ学生は見たら笑ってしまいそうだ……。


 

2月。

ユミルの地には未だにあちこちに残雪が残り、厚着を必要とする時期。

けれど、そんな事は毎年の行事のようなことだから。

誰しもが積もっていた雪を払い除け、最低限歩けるだけの道を確保する。

 

「今戻った。 ……長く戻れなくてすまなかった、シャロン。」

「いえいえ。 レーヴェ様がご無事でしたらカリン様も喜ぶでしょうから。」

 

レーヴェが戻ってきたのは、そんな時期だった。

 

「結局何処まで行ってたんだ?」

 

その間、ずっと眠る女性……カリンさんの面倒を見ていたのもシャロンさん。

無論テオ父さん達には了承を受けた上で、屋敷の使っていない一室に眠らせていた。

頭を下げる姿に、困った時は……と礼を固辞する姿に改めて尊敬の念を抱きつつ。

レーヴェの家、ではなく屋敷の食事場での対話と相成って。

その場にいるのは、俺を除けばレーヴェにシャロンさん、デュバリィ。

……戦力が過剰過ぎないか? と言われると、何とも言えなくなる集団だった。

 

「クロスベル近郊を回った後、帝国の幾つかを見てきた。 途中で《鉄騎隊》や《蒼の深淵》も見かけたぞ。」

「……何してやがりました?」

「遠巻きから気付かれない程度に見ただけだが――――計画とはまた別の方向で思惑があるようだな。」

「やはり、ですか。」

 

一体何の話をしているのか。

視線を向けても、意図的に介入させないようにしているようで。

……ただ、何故だろうか。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『……聞いているだけか?』

 

こいつのせいだと確信するのも当然だと思う。

未来が――――とまではいかないが、様々な事象が浮かんでは消える。

泡沫と消える、幾つかの選択肢のように。

 

「それで?」

「霊力……とやらが濃い場所を調べてみたが何処も安心できるかと言われると難しいかもな。」

「あー……悪い。 レーヴェ、その前に基本的なことを聞いてもいいか?」

 

そう言えば、というよりも。

どうにも聞く機会を逃し続けていた一つの事象。

出来る限り深く踏み込まないようにしていた、というのも理由なのだろうけれど。

聞こうとすると頭痛に苛まれてしまうから。

ただ――――今日は、そんな異常が欠片も見えず。

だからこそ、問い掛ける。

 

「その霊力云々がどうカリンさんに関わるんだ? 眠り続けている、という時点で異常なのは分かってるつもりなんだが。」

「その事か。 俺も専門というわけではないので受け売りになるが良いか?」

 

勿論、と頷いた。

何も知らないで協力し続けていたのと、知って協力するのでは色々と違うだろうから。

 

「肉体の怪我は導術での治療が間に合ったらしいが、精神を繋ぐ……何と言ったか、紐のような部分が負傷しているらしい。」

「紐、ね。」

「霊脈が強く噴出している場所か、その付近で吸収させるしか無いとは言っていたが……あの口調、他の手段もあるのだろうな。」

「ああ……そういう部分で隠しておいて後で想定外な事態に直面して混乱するタイプですものね、あの方。」

 

…………全員の視線がデュバリィに向いて。

 

「その目線はどういう意味ですの!?」

「答える必要があるか?」

「無いですわね。」

「二人に同意、だ。」

 

きいぃ、と騒いで。

外を見れば、また塵のような雪。

霊脈の活性化地点、か。 意識にだけ入れておいて。

……早く良くなればいい、とは思い続けることにした。

 



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