自作小説の世界に転移したから別ルートから魔王討伐を阻止する (片倉政実)
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第1話 転移

政実「どうも、初めましての方は初めまして、他作品を読んで頂いている方はいつもありがとうございます。作者の片倉政実です。今回からこちらの作品の投稿をさせて頂きます。色々拙い点などもあるかと思いますが、温かい目で見て頂けるとありがたいです。よろしくお願いします」
創「どうも、今作品の主人公の幾世創です。それにしても……どうして今回はこの作品を書こうと思ったんだ?」
政実「そうだね……あまり書いた事ないタイプの作品だから、書いてみたくなったっていうのが理由かな」
創「そっか。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第1話をどうぞ」


「よし……完結、と」

 

 よく晴れたある日の事、部屋の中で手の中にある携帯を見ながら俺はそう独り言ちた後、携帯を操作してちょうど書き上げたばかりの文章をコピーし、そのままあるサイトを開いた。その後、サイト内にある作品の投稿用ページを開き、俺はコピーした文章を貼り付け作業などを行い、「これで……よし」と言いながら作品の投稿を終わらせ、座っている椅子の背もたれに身体を預けた。

 

「ふう……なんとか今回も完結させられたな。作品を書くのは疲れるけど、やっぱり楽しいから止められないよな」

 

 作品を完結させられた嬉しさを感じながら俺は自分のページを開き、ついさっき投稿をした作品の名前を見てニッと笑った。『勇者の戦記』、それが俺が書き上げた作品の名前だ。物語を簡単に説明すると、田舎町に住む一人の少年が女神様からの祝福を受けて勇者となり、旅の中で出会った仲間達と共に魔王討伐を目指して旅をし、最後には魔王討伐を果たすという良くある物だが、結構色々な人から感想などを貰えており、これを書いている間、とても楽しかったのを覚えている。

 

「あーあ……こんな世界に行けたら良いのになぁ……なんて、そんな事あり得ないよな」

 

 自分が口にした言葉に対して苦笑いを浮かべていたその時、口から不意に欠伸が漏れ、それと同時に急に強い眠気に襲われた。

 

「ふあ……せっかくだし一眠りするか。そして、起きたらまた別の作品を書い……て……」

 

 意識が薄れていくのを感じながらどうにか机に突っ伏し、俺はそのまま静かに目を閉じて眠りについた。

 

 

 

 

「……ん」

 

 小鳥の(さえず)りと土の匂いで目が覚め、俺はゆっくりと目を開けた。そして、体を起こして周りを見回すと、まず目に入ってきたのは鬱蒼(うっそう)とした森の光景だった。

 

 は……も、森……!? なんで……だって俺は、自分の部屋で寝てたはずじゃ……!?

 

「夢……じゃないよな……。土の匂いや吹いてくる風もしっかりと感じるし……」

 

 でも……なんでだろう。本当に突然の事なのに、少しだけ安心感みたいなのを感じるんだよな……?

 

 その事に疑問を覚えながら俺はゆっくりと立ち上がり、もう一度辺りを見回そうとしたその時、近くにあった茂みからガサガサッという音が聞こえ、俺は体をビクリと震わせながら茂みに視線を向けた。

 

 な、なんだ……? 物語だとこういう時に何か出てくるのが定番だけど……?

 

 そして、茂みを注視し続けていると、茂みは大きくガサリと音を立てながら揺れ、その中から半透明な緑色をした小さくて丸い生き物が現れた。

 

「コイツ……もしかしてスライム、って奴か?」

 

 スライムらしき何かを見ながらポツリと呟いていると、突然頭の中に落ち着いた男性の声が響いてきた。

 

『スライム、『リューオン』の各地に生息するモンスターの一種で、あらゆる物を取り込める性質を持ち、取り込んだ物によってあらゆる姿に身体が変化していく事が研究によって明らかになっている』

「へー……そうなのか──って、その特徴は……」

 

 聞き覚えのある特徴を聞き、俺が思わず声を上げると、スライムは俺の方に顔を向け、不思議そうな顔をしながら俺の事を見始めた。

 

「襲ってこない……という事は、まさか……」

『スライムはモンスターでありながら人間に非常に友好的で、その体液が傷薬の原料にもなる事から、スライムと共に暮らす薬師(くすし)や道具屋も多い』

「……やっぱり。それに、さっき『リューオン』っていう言葉も聞こえたし、ここは──()()()()()()()の世界なんだ……」

 

 俺が先程書き上げた『勇者の戦記』の舞台となる世界、『リューオン』に飛ばされた事を知り、俺は少しだけワクワクしていた反面、不安も感じていた。何故、『リューオン』に飛ばされたのか。どうやったら元の世界に戻れるのか。そもそもどうして俺が書いた物語の中の世界のはずの『リューオン』が実在しているのか。そういった疑問が頭の中をグルグルと回り、俺は徐々に焦りを感じていった。

 

 ……ここが本当に『リューオン』なら、この世界には『ある理由』から世界を掌握しようとしている『あの魔王』がいて、魔王討伐を目指す勇者達もいる。つまり、このままだと俺もその争いに巻き込まれ、最悪命を落とす事になる。

 

「……嫌だ。それだけは絶対に嫌だ……!」

 

 嫌だ、と口にはしてみたものの、今の俺には何の力も無く、このままだとそれが現実の物となるのは明らかだった。

 

 何か……何か無いのか……? この状況を打開できる良いアイデアは……!?

 

 頭を抱えながら何か無いかと必死になって考えていたその時、さっきから聞こえている謎の声が再び聞こえてきた。

 

幾世創(いくせはじめ)、現在装備している称号は『創世神(クリエイター)』。これらを総合した結果、『リューオン』を生きぬける適性はありと判断』

「……ん、『創世神』? 称号のシステムはたしかにこの世界にあるけど、そんな称号、考えた覚えが無いぞ?」

『『創世者』、己の魔力等を用いて、あらゆる魔法を扱える他、武具や食糧等の創造を可能とした者が持つ称号で、 この『リューオン』を創り出した幾世創のみが持つ称号』

「それって……」

 

 つまり、俺は所謂(いわゆる)ところのチート能力を持って、この世界に飛ばされたって事か。けど……。

 

「どうしてお前はそれを知っているんだ? そもそもお前は誰なんだ?」

『私はクルス、『創世神』の称号を持つ事で使用できる『創世(クリエイト)』のスキルによって生まれた幾世創専用のナビゲーターで、私のマスターである幾世創がこの世界に来た際、無意識の内に生み出した存在。『創世』のスキルはその名の通り、世界に存在するあらゆる物体や現象を魔力等を用いて創造する事が出来るスキルで、本来であれば条件を満たさなければ得られない称号も自由に得る事が出来る』

「俺専用のナビゲーターに『創世』のスキル……たしかにこれならこの『リューオン』を生き抜くのは容易だな。よし、それなら……!」

 

 俺は自分の中にある魔力が形になっていくのを頭の中に思い浮かべながら『ある称号』とスキルを作り始めた。そして、それが出来たという確信を持った後、俺は頭の中にRPGのステータス画面のような物を思い浮かべ、そこに今作り上げたばかりの称号が装備された瞬間、『ねえ』と小さな子供のような声でスライムが話しかけてきた。

 

『さっきから訊こうと思ってたんだけど、君は……誰?』

「……お、早速『魔物使い(モンスターマスター)』の効果が出たな。俺は幾世創、一応……旅人だ」

『ハジメ、だね。ボクは名前も無いただのスライム。この辺に一匹で住んでるんだ』

「そうなのか」

 

 スライムと会話を交わしながら、俺は『創世者』と『創世』のスキルの凄さを改めて実感した。そもそも称号システムとは、この『リューオン』の世界に古代からいるとされる神様が創り出した物という設定で、それを手に入れると頭の中にその称号の名前が浮かび、それを装備する事を決めると、その称号に応じた能力の一部を得る事が出来るという物だ。因みに、称号にも色々な種類があり、『人間(ヒューマン)』や『王族(ロイヤル)』などの生まれた時から備わっている物から『魔導師(ソーサラー)』や『剣士(ブレイダー)』のように条件を満たさなければ得られない物もある。そして、そんな俺が創り出した称号とスキルが、モンスターと心を通わせた者が得られ、装備したらモンスターとの会話が可能になる『魔物使い』、本来ならば一度に一つしか装備出来ない称号を複数装備出来る『複面(アマルガム)』の二つだ。

 

『魔物使い』は『リューオン』では普通に存在する称号だから、誰かに自己紹介をする時はこの称号持ちなのを伝えて、『複面』は本来存在しないスキルだから、普段は隠す事にしよう。

 

『魔物使い』と『複面』についてそう決めた後、俺はスライムに再び話し掛けた。

 

「ところでスライム、お前って称号は何を持ってる? 俺は『魔物使い』の称号を持ってるけど」

『僕? 僕は『モンスター』の称号だけだよ』

「そっか。まあ、モンスターが生まれ持ってくる称号だもんな」

『うん。それにしても、古の神様はどうしてこんな物を創り出したんだろうね?』

「さ、さあ……?」

 

 い、言えない……そうした方が面白そうだったからなんて絶対に言えない……。

 

 称号システムが誕生した理由を思い出しながら冷や汗をかいていたその時、『ねえ』とスライムが話しかけてきた。

 

「ん、なんだ?」

『ハジメは旅人なんだよね?』

「ああ、そうだけど?」

『それなら……僕を旅に連れていってくれないかな?』

「お前を? それは良いけど……どうしてだ?」

『そうだね……強いて言うなら、この『リューオン』にある色々な物を見たいから……かな? 僕、生まれてからこの辺り以外の場所に行った事が無いんだ。だから、色々な物を見てみたいんだ』

「なるほどな」

 

『リューオン』では、モンスターは空気中にある魔力の元である『魔素』が形を持って生まれる形や強力な魔物が自分の力を使って創り出す形など色々な方法で生まれてくる。だから、このスライムのような奴も珍しくないのだ。

 

 色々な物を見たいから、か……そういう事なら拒む必要は無いよな。それに、一人よりは仲間がいた方が心強いし。

 

「わかった。それじゃあ、一緒に行こうぜ、スライム」

『うん。あ、そうだ……せっかくだから、僕に名前を付けてよ。スライムって呼ばれるよりも名前で呼ばれてみたいし』

「そういえば、名前は無いって言ってたもんな。そうだな……それじゃあ考えてみるから、少し待っててくれ」

『うん』

 

 スライムが答えた後、俺はスライムの名前について考え始めた。そしてそれから数分後、俺はある名前を思いついた。

 

「……うん、これかな」

『あ、思いついたんだね』

「ああ。スライム、お前の名前はこれから『フォル』だ」

『フォル……うん、なんか良い感じの名前だね。ありがと、ハジメ』

「どういたしまして」

 

 スライム改めフォルからのお礼に答えていた時、クルスの声がまた頭の中に響いた。

 

『マスター幾世創、スライムのフォルとの仲を深めた事で、『魔物使い』の熟練度が向上。フォル、マスター幾世創との仲を深めた事で『モンスター』の称号が『人に味方するモンスター』の称号にクラスアップ』

「称号のクラスアップ……そのシステムまでしっかりとあるんだな。フォル、『モンスター』の称号がクラスアップしてないか?」

『うん、してるよ』

「やっぱりか。それなら、『モンスター』の称号の最高ランクを目標にしてみるか?」

『最高ランク……ああ、たしか『魔王に比肩する者』……だっけ?』

「そうだ。こうしてランクも上がった事だし、目指してみたいだろ?」

『……うん、そうだね。僕なんかに出来るかはわからないけど、目指すだけ目指してみるよ』

「ああ。よし……それじゃあまずは街に着きたいけど、この近くに人間が住んでる街ってあるかな?」

『えーと……たしかこっちにあったはずだよ』

「そっちか……よし、行くか、フォル」

『うん』

 

 そして、スライムのフォルを肩に乗せた後、俺は鬱蒼とした森の中をゆっくりと歩き始めた。

 

 フォルの目標はこうして決まったけど、俺はどうしようか……最終目標は元の世界に戻る事だけど、この世界に来たからにはもっと別の目標も欲しいよな。

 

 そんな事を考えながら歩いていたその時、俺は『勇者の戦記』で魔王がこの世界を掌握しようする理由が何なのかをふと思い出した。

 

 魔王がこの世界を手に入れようとしている理由、それはあの目標を達成するためだったよな。でも、それを達成するためには自分を倒そうとする人間達が邪魔で、その中でも勇者が一番の邪魔者になっていた。そして、物語の最後では勇者が魔王にとどめをさす前に魔王がこの世界を手に入れようとした理由を本人の口から聞き、魔王を倒した事を世界中の人から賞賛される中で勇者は魔王を倒した事は本当に良かったのかと悩み、数年かけてその結論を出した後、新たな目標を達成するために旅立つところで終わらせた。だったら、俺がやるべき事は一つしか無いよな。

 

「……勇者の魔王討伐を阻止する」

『ハジメ、何か言った?』

「いいや、何でも無いよ、フォル」

『そっか』

 

 独り言ちた内容について誤魔化した後、俺はその事について再び考え始めた。

 

 俺が勇者にそうさせた理由は、普通のハッピーエンドじゃ面白くないと思ってしまったからだ。けど、それはこの『リューオン』の世界が創作の中の世界だからと思っていたから。でも、理由こそわからないもののこうして『リューオン』が実際にあるとなったら、俺は勇者の魔王討伐を阻止したい。そうすれば、魔王は本当に達成したかった目標を達成出来るし、勇者も自分のした行いを後悔する事も無くなる。この『リューオン』は俺が本来用意したエンディングとは全く違うハッピーエンドを迎えられるんだ。もっとも、そうする事が正しいのかはわからない。けれど、この世界を創り出した者の責任として、俺は全員が笑顔でいられるハッピーエンドを迎えさせてやりたいんだ。

 

「……よし、絶対に為し遂げるぞ」

 

 フォルに聞こえないような小さな声で呟いた後、俺は人間が住んでる街を目指してフォルが教えてくれた方角に向かってゆっくりと歩いていった。




政実「第1話、いかがでしたでしょうか」
創「今回は俺がリューオンに転移して、スライムのフォルと一緒に旅を始めるところからだったけど、次回からはもっとキャラクターも増えていくのか?」
政実「そうなるね」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第2話 出会い

政実「どうも、RPGでは近距離で戦う職を選ぶ事が多い片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。例を挙げるなら、剣士とか聖騎士みたいな奴だな」
政実「そうだね。まあ、その分、体力管理には気をつけないといけないけどね」
創「だな。さて、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第2話をどうぞ」


 スライムのフォルと一緒に森の中を進む事一時間、俺達は一つの街に辿り着いた。因みに、何故一時間と断言出来るのかというと、歩いている最中に『創世(クリエイト)』のスキルでこの世界の言葉を理解する事が出来る『言理(アンダスタンド)』の他に体感時間などを確実に把握出来るスキルである『絶対感覚(フルセンス)』を作っていたからだったりする。

 

「フォル、ここはなんていう名前の街なんだ?」

『ここはね、『ガルス』だよ。『王国』の領地にあって、たしか色々な種族が住んでるっていう話だよ』

「『ガルス』……」

 

 なるほど、ここが『ガルス』だったか。フォルの言う通り、『ガルス』の街は『王国』の領地にあるあらゆる種族が平和に暮らす街で、リンゴなどの果物や小麦などの農産物を特産にしていたはずだ。そして、主人公である勇者達が途中で訪れる街でもあるんだが……まだ来てる様子は無いみたいだな。

 

 そんな事を思いながら街の入り口を通り、中に入っていくと、とても活気に溢れた『ガルス』の街の様子が目に入ってきた。

 

「……スゴく賑やかだな」

『そうだね。でも、ここで何をするの?』

「そうだな……とりあえず、この近くの街の情報を集めたり、野宿の道具なんかの買い物をしようかな」

『でも、お金はあるの?』

「……そうだった」

 

 フォルの言葉を聞いて俺は項垂れた。ここまで歩きながらポケットの中を調べてみたものの、普段からポケットの中には何も入れずに生活しているせいかポケットの中には何も入っていなかった。

 ……たしかこの街にはギルドがあったはずだから、まずはギルドに登録した方が良いか。そうすれば、この世界のどのギルドでもクエストを受注出来るからな。

 

「よし……まずはギルドに登録しに行こう。フォル、行こうぜ」

『うん』

 

 そして、ギルドに向かって歩き始めたその時、タッタッと誰かが走る音が聞こえ、俺は『絶対感覚』を使いながらその音に意識を集中させた。

 

 ……この音、ただ走ってる、というよりは、誰かに追われてるって感じだな。

 

「……フォル、この足音が聞こえるか? 」

『足音……ああ、これだね』

「ああ。まあ、気にはなるけど、進んで関わり合いになる事もな──」

 

 その時、足音がこっちに近付いてくるのを感じ、俺は小さく溜息をついた。そして、足音がする方へ視線を向けると、ボロボロの衣服を着た頭から耳が生えた烏の濡れ羽色の髪の少女とそれを武器を持ちながら追う醜悪そうな顔をした二人の男の姿が見えた。

 

 ……見た感じ、奴隷(どれい)が逃げ出して、それを奴隷商達が追ってるって感じだな。でも、おかしいな……。

 

「俺が覚えてる限り、この世界に奴隷商や奴隷なんて物を作った覚えは無いぞ……?」

 

 こういう創作物に奴隷商や奴隷というのは結構出て来るけど、俺はそういうのは苦手だったため、奴隷商や奴隷という物を作らずに物語を書いていた。なのに、俺の目の前には実際に奴隷商や奴隷らしき少女がいる。

 

 ……考えられるのは二つ。ここが実は俺が作った物語の世界の『リューオン』に似た異世界だという可能性と『リューオン』に俺とは違う誰かの力が働いてる可能性の二つだ。

 

「……もし後者だとしたら、俺も他人事じゃいられないな。この世界の創造者としてもこの世界を愛する者としても……。でも、まずは……あの子を助けないと、だな」

 

 俺は『創世』のスキルでロングソードを一本創り上げ、それを持ちながらこっちに向かって走ってくる奴隷らしき少女へ向かって近付き、少女の手を取った。

 

「君、こっちだ!」

「え……? あ、あなたは……?」

「いいからこっちに!」

「は、はい……」

 

 そして、少女の手を取りながら街の外に向かい、さっきまでいた森の中に戻った後、少女を後ろ手に庇いながら俺が男達を通さないように手を横に伸ばすと、奴隷商らしき男達は怒りに満ちた表情を浮かべながら俺に話し掛けてきた。

 

「おい、ボウズ。そこをどけ」

「俺達はその女に用があるんだからな」

「嫌だ、と言ったら?」

「お前を痛めつけさせてもらう」

「せっかくの商品を逃がすわけにはいかないからなぁ!」

「……そうか。だったら、俺だって容赦しない」

 

 男達に対してそう言った後、俺はロングソードを握りなおしながら『創世』で『剣皇(ソードマスター)』の称号と幾つかのスキルを創り出し、『剣皇』の称号を装備した。

 

 よし……これで問題ない。後はスキルを活かして戦うだけだ。

 

 そして、俺がロングソードを構えると、男達は声を上げながら一斉に襲いかかってきた。しかし、『創世』のスキルで創り上げた『俊足(ハイスピード)』のスキルを使って少女を抱きかかえながら躱すと、男達はとても驚いた様子を見せた。

 

「なっ、速い……!?」

「てめえ……只者じゃねえな……!」

「……いや、俺はただの『魔物使い』だ。まあ、少し変わった事は出来るけどな」

「変わった事……だと?」

「ああ。見せてやるよ、俺の力!」

 

 そう言いながら俺が指をパチンと鳴らすと、手に持っていたロングソードは俺の手を離れて宙に浮かび、『分裂(ディビジョン)』という言葉と同時に光を放ちながら二本に分裂した。そして、「行け!」と声を上げると、二本のロングソードは意思を持っているかのように男達へ向かって飛び、独りでに攻撃をし掛け始めた。

 

「な、何だ……これ……!」

「あ、あり得ん……! 剣が独りでに攻撃をしてくるなんて……!」

「ふふ……『剣舞(ソードダンス)』のスキルは効いてるみたいだな」

「て、てめえ……本当に『魔物使い』か……!?」

「だから、言っただろ? 少し変わった事は出来るけどな、って。さて……この子を置いて逃げるならこれ以上は攻撃しないでおくけどどうする?」

「逃げる、だと!?」

「そんなことするわけ無いだろ!」

「……そうか」

 

 それなら、ちょっと驚かしてやるか。さっき作った『あのスキル』を使って。

 

「……だったら、覚悟しろよ。『変身(チェンジ)』」

 

 その言葉と同時に、俺の身体は光に包まれていき、身体や手足には次々と鱗が生えだし、大きくゴツゴツとした物へと変わっていった。そして、完全に光が消えると、俺は大きな龍へと姿を変えていた。

 

「なっ……!?」

「ド、ドラゴン……だと!?」

「ひっ……!」

『うわぁ……なんだか眺めが良くなったねぇ……』

 

 男達と少女が怯えたような声を上げ、フォルがのんびりとした声で言う中、俺はいつでも戦える準備をしながら男達へ声を掛けた。

 

『さて……まだやるか、お前達?』

「う、あ……」

「く、くそ……! 仕方ない、ここは撤退するぞ!」

「だ、だが……!」

「いいから行くぞ! 商品が一人いなくなったところでアンタには痛くも痒くも無いんだろう?」

「……わかった」

 

 奴隷商らしき男は悔しそうに答えると、もう一人の男と一緒にそのまま森を後にした。そして、それを確認した後、俺は『変身』を解除して元の姿に戻り、手元に戻ってきた二本のロングソードを『異空(アイテムルーム)』のスキルで創り出した収納スペースへとしまった。すると、フォルは少しだけ残念そうな声を上げた。

 

『あ、眺めが戻っちゃった』

「まあ、機会があったらまた『変身』を使って、高いところからの景色を見せてやるよ。それにしても……フォル、俺が龍に姿を変えても驚かなかったな?」

『え、驚いてたよ?』

「そ、そっか……」

 

『創世者』の称号や『創世』のスキルを持ってる俺が言うのもあれだけど、フォルってよくわからないな……。

 

 そんな事を思った後、少女の方へ視線を向けると、少女は俺に恐怖を感じた様子で体をビクリと震わせた。

 

 あー……これはちょっとこの子にも怖い思いをさせちゃったみたいだな。となったら、ここでも『創世』に──。

 

「……いや、少しは『創世』に頼らずにやってみるか」

 

 そう独り言ちた後、俺は少女に話し掛けた。

 

「えっと……自分から言うのもあれだけど、俺は怪しい者じゃない。さっきアイツらに言ったようにただの『魔物使い』だ」

()()()()変わった事が出来る、ね』

「そうそう。だから、怯えなくていい。俺は君の敵じゃないからな」

 

 すると、少しだけ恐怖が薄れたのか少女は小さく笑みを浮かべた。

 

「は、はい……わかり、ました。あ、あの……さっきは助けて頂きありがとうございました」

「どういたしまして。けど、どうして奴隷商なんかに?」

「それは──」

 

 その時、少女から突然グーッという音が聞こえ、フォルは納得顔で頷いてから俺に話し掛けてきた。

 

『ねえ、ハジメ。この子、お腹空いてるみたいだし、まずはどこかでご飯にしようよ』

「そうだな。けど、さっきも言ったように金は無いぞ?」

『あ、そうだったね……うーん、それなら……』

 

 フォルが腹拵えの手段について考え始めたその時、頭の中にクルスの声が響いた。

 

『マスター幾世創。この森には食用の果実が多数あるため、それを取りに行くのが得策だと私は判断する』

「食用の果実……それならそれを取りに行くか。クルス、教えてくれてありがとうな」

『礼は不要。私はマスター幾世創専用のナビゲーターであるので』

「それでも、だよ。よし……フォル、まずは食用の果実を探すぞ」

『食用の果実、だね。わかった』

「君もそれで良いかな?」

「あ……はい、大丈夫……です」

「よし。それじゃあ早速行こうか」

『うん』

「はい」

 

 こうして元奴隷の少女を仲間に加えた俺達は、腹拵えのために食用の果実を探しに森の中へと入っていった。




政実「第2話、いかがでしたでしょうか」
創「今回は奴隷の少女との出会いがあったけど、名前とかは次回明かされるんだよな?」
政実「そうだね」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第3話 危機

政実「どうも、モンスターと一緒に旅がしたい片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。モンスターとの旅か。たしかに楽しそうだけど、大変ではあるよな」
政実「そうだろうね。けど、その大変さと引き換えに楽しさを得られるならやってみたいかな」
創「そっか。さてと、それじゃあそろそろ始めていこうか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第3話をどうぞ」


 奴隷の少女を連れて森の中を歩く事数分、俺はその間も『創世』のスキルを使って幾つかスキルを作っていた。そして作り終えた後、その内の一つである『索点(ポイントサーチ)』を使って勇者と魔王の現在地を探った。すると、勇者は『ルハラ』という町に、魔王は自分の城にいる事がわかり、俺は少しだけ安心していた。

 

『ルハラ』は勇者の生まれ故郷である町。つまり、まだ勇者は旅立ってないという事になる。俺の知る限り、勇者が旅の最中に『ルハラ』に戻る事は一度も無かったからな。けど、もしもこの子の存在みたいに俺が知らない展開があったとしたら、その時はどうにかして対応をしないといけないな。

 

 奴隷の少女を見ながらそんな事を考えていた時、俺はふとある事を思い出し、少女に話し掛けた。

 

「なあ」

「は、はい……!」

「君の名前、まだ聞いてなかったけど、なんていう名前なんだ?」

「私は……イア、イア・アリスと言います」

「イア、か。俺はハジメ・イクセ、それでコイツは俺の仲間でスライムのフォルだ」

『フォルだよ。よろしくねー』

「ハジメさんにフォルさん……あ、あの……ハジメさん」

「ん、何だ?」

「ハジメさんは本当に『魔物使い(モンスターマスター)』なんですよね?」

「ああ。さっきの戦いで見せた通り、『ちょっと変わった事』が出来るけどな」

『持ってなかったはずのロングソードを出現させたり、ドラゴンに姿を変えたりする事がちょっと変わった事って、ハジメの中の常識はどうなってるのさ?』

「どうなってるって普通だよ」

『ふーん……まあ、良いけどね。ところで、イアはどうして奴隷になっていたんだろうね?』

「たしかに……なあ、イア。差し支えなければ奴隷になっていた理由について教えてくれないか?」

 

 すると、イアはビクリと体を震わせながら立ち止まり、その姿にフォルと顔を見合わせながら同じように立ち止まった後、俺はやってしまったと思いながらイアに話し掛けた。

 

「ご、ごめん……やっぱり、今の質問はな──」

「い、いえ……大丈夫です。今、お話ししますね」

「イア……」

「……私は『ミドガ』という獣人達の里の里長の娘として、この世に生まれました。『ミドガ』はとても平和なところで、色々な獣人達が毎日を楽しく過ごしていました」

『『ミドガ』……僕も聞いたことがあるよ。たしか遙か昔に勇者のお供をしていた獣人が旅を終えた後に友達の獣人達と一緒に創り上げた獣人達のための里だって』

「へえ、そうなのか。でも、そんな事どこで聞いたんだ?」

『それは──あれ、どこで聞いたんだっけ?』

「……まあ、良いや。それで、その『ミドガ』の里長の娘として毎日を楽しく過ごしていたんだよな?」

「はい……ですが、一月位前の事でした。突然『へイム王国』の兵士達が攻めてきて、里の皆を次々と連れていこうとしたんです」

『『へイム王国』……ああ、あまりあそこについて良い噂は聞かないね。あそこの国王は毎日奴隷達をコロシアムで殺し合わせているとか気に入らない国民や旅人の話を聞けば、兵士にすぐに連れて来させて自分の手で殺すとか聞くし』

 

 そのフォルの話を聞いて、俺は辛さを感じながらも不思議にも思っていた。何故なら、『勇者の戦記』では『へイム王国』はその話とは真逆の王国だからだ。『へイム王国』は誇り高い騎士達の国で、悪事や曲がった事は許さないという設定で作ったはずなのだから。

 

 ……やっぱり、何かがおかしい。もし、ここが俺の書いた作品の世界その物だとしたら、確実に何者かが設定をねじ曲げている。でも、作者の俺以外がそんな事出来るのか? もちろん、俺は『勇者の戦記』のストーリーに満足しているから、そんな事は出来てもしない。するはずがない。

 

「……魔王の討伐阻止を目的にしてきたけど、もしかしたら新しい目的も出来たかもしれないな……」

『……ハジメ?』

「……ああ、ごめん。話を続けてくれ」

「……もちろん、里のみんなは抵抗しました。けれど、『へイム王国』の兵士達はとても強く、里長だったお祖父様や年老いた獣人達は全員が兵士達の手によって殺され、若者は檻に囚われて次々と馬車に積み込まれていきました」

「…………」

「そんな中、私はお父様達が助けてくれた事でどうにか捕まらずに済み、兵士達に見つからないようにしながら必死になって逃げました。けれど、その途中で……」

「あの奴隷商達に捕まったのか……」

「はい……」

「なるほどな……まあ、これからは安心してくれて良いぜ。何があっても俺達が守るからさ」

『そうだね。そんな話を聞かされたら、放ってはおけないよ』

「ああ。ここで放っておいたら、男が廃るってもんだからな」

 

 フォルと一緒に笑い合っていると、イアは俺達の事を見回してからようやく安心したような笑みを浮かべた。

 

「ハジメさん……フォルさん……本当にありがとうございます」

「どういたしまして。まあ、俺達の旅についてきてもらう事にはなっちゃうけど、それでも良いかな?」

「はい、大丈夫です。私、これでも魔法は得意なので、足手まといにはならないと思っています」

「そっか。それじゃあ……改めてよろしくな、イア」

『よろしくね、イア』

「はい、よろしくお願いします」

 

 イアがペコリと頭を下げた後、俺は創っておいたスキルを使う準備をしながらイアに話し掛けた。

 

「ところで、イア。何か着てみたい服とかはないか?」

「着てみたい服……ですか?」

「ああ。なんでも良いから思い浮かべてみてくれないか?」

「は、はい。わかりました……」

 

 そして、イアが目を瞑りながら着てみたい服を思い浮かべ始めた確認した後、俺は準備をしていたスキルを発動した。すると、イアの身体は突然白い光に包まれだした。そして光が消えると、そこには上質そうな生地で織られた青いローブに身を包み、しっかりとした作りの杖を持ったイアの姿があった。

 

「おっ、良い感じじゃないか。スゴく似合ってるぞ」

「あ、ありがとうございます。このローブに杖……私のイメージその物です。でも、どうやってこんな物を……?」

「俺はちょっと変わった事が出来る『魔物使い』だからな。これぐらいはお茶の子さいさいなんだよ」

『えー、それなら僕にも何か頂戴』

「ん、何か欲しい物でもあるのか?」

『んーん、今は特にないかな』

「いや、無いのかよ!」

 

 フォルの発言に俺がツッコミを入れ、それを見ていたイアがクスクスと笑い始めたその時、近くからこっちへ向かって歩いてくる音が聞こえてきた。

 

「……またモンスターか?」

『そうじゃない? まあ、何が来てもハジメなら余裕でしょ』

「だと良いけどな」

 

 そう言いながら音が聞こえた方を向き、『異空(アイテムルーム)』のスキルを使って収納スペースからロングソードを取り出していたその時、視界にフラフラと歩く人影が見え、俺は更に警戒心を高めた。

 

 ……少なくともアイツらでは無さそうだ。でも、イアとフォルを護るためにも警戒を緩めないようにしないと……。

 

 ロングソードを構えながら気持ちを引き締めつつ、その人影が近付いてくるのを待っていると、人影はまるで警戒心を持っていないかのようにそのまま俺達へと近付き、やがてその姿を露わにした。

 

「……え? つ、角……?」

 

 その人物は頭からヤギのような角を生やした若い男性であり、上質そうな黒いシャツやズボン、赤いマントといった服装からこの人がただの旅人といった印象は受けなかった。

 

 この角の特徴……もしかして、この人は『魔人族(デビナス)』か?

 

「あ、あの……」

「は、腹が……」

「……え?」

「腹が、減っ……た」

 

 そう言うと、『魔人族』らしき男性はそのままバタリと倒れ込み、そのまま動かなくなった。

 

「……今、この人……腹が減ったって言ってたよな?」

「は、はい……」

『それで思い出したけど、僕達も食べられそうな物を探すために森の奥に入ってきたんじゃなかった』

「……あ、そうだったな。けど、この人も放置は出来ないし……」

 

 そして、どうするべきかしばらく考えた後、俺は一つの結論を出した。

 

「よし、ここは二手に分かれよう。俺はこの人が起きるのを待ちながらここに残るから、フォルはイアと一緒に食べられそうな物を探してきてくれ」

『それは良いけど、僕の言葉は今のところ君にしか理解できないよ?』

「それについてはちゃんと考えてるよ。ちょっと待っててくれ」

 

 俺は肩の上に乗っているフォルを抱きかかえた後、称号とスキルを一つずつ創り、あるスキルを発動した。そしてそれが終わった後、俺はフォルをイアに渡した。

 

「これで良いはずだ。フォル、どこか調子が悪いとかは無いよな?」

『うん、無いけど……何だか知らない称号とスキルを持ってるみたいだよ?』

「それが俺の考えだよ。イア、フォルが何を言ってるかわかるか?」

「は、はい……!」

「それなら良かった」

 

 新しい経験をして少し興奮気味なイアに微笑ましさを感じながら、俺はフォルに()()()()称号とスキルについて想起した。俺が付与したのは、本来ならスライム専用の称号で、付けているだけで身体中に魔力が満ち、様々な魔法が使えるようになる『マジシャンスライム』と『魔物使い』以外とも話が出来るようになるスキルの『複音(ダブルボイス)』の二つだ。イア一人でも戦えなくは無いだろうが、今のイアは結構空腹の状態のため、いざという時に力を発揮出来ない可能性は高い。そのため、フォルが魔法を使えるようにしておき、護衛としてついて行かせた方が良いと判断したのだ。

 

 本当ならこの人を俺が負ぶってみんなで行った方が良いんだろうけど、またアイツらが来た時に俺が戦えないのは流石にキツい。それなら、これからのためにフォルも戦えるようにした上で、イアとも意思の疎通を図れるようにした方が好都合だからな。

 

「さて、フォル。これでお前も戦えるようにはなったはずだから、イアの護衛をしっかり頼むぞ?」

『うん、それは良いんだけど……本当に良いの? 僕が活躍しすぎて君の彼女さんを奪っちゃうかもよ?』

「……何を言ってんだ。イアは彼女じゃないって」

「そ、そうですよ……! あ、でも……もしそうなれたらそれはそれで嬉しいかも……」

「ん?」

「い、いえ! 何でも無いです! それでは、早速行ってきますね!」

『行ってきまーす』

「ああ、行ってらっしゃい」

 

 そして、仲良く話をしながら歩いていくイアとフォルを見送った後、俺は男性の横に腰を下ろした。

 

 ふぅ……なんかようやく休んだって感じするな。この世界に来てからすぐに色々あったし、この人が起きるまで少しのんびりするのもありか──。

 

 そう思ったその時だった。

 

「……今だ……!」

「え……?」

 

 聞こえてきた声に驚いている内に男性はスッと体を起こすと、すぐに俺の身体を強い力で抑え込み、俺の首に顔を近付けてきた。

 

「なっ……!?」

「ふふ……久し振りの馳走だ。こんなにも上質そうな肉体なら、さぞその血も美味いに違いない……!」

「血って……」

 

 ……そうだ。『魔人族』の中には、吸血鬼みたいに他種族の血を食糧にする奴がいる設定にしていたのを忘れてた……! おまけに日が昇っている時にこんなにも早く動けるとなると、この人はだいぶ力が強いという事に……!

 

「あはは……さあ、その血を私に……!」

 

 そう言いながら男性は鋭い牙を剥きながらゆっくりと俺の首に口を近付けていった。




政実「第3話、いかがでしたでしょうか」
創「3話目にして結構な危機だな、俺」
政実「そうだね。そしてそんな創がどうなるか。それは次回のお楽しみという事で」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第4話 新たな旅立ち

政実「どうも、好きなゲームのジャンルはRPGの片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。まあ、予想通りではあるよな」
政実「色々なゲームが好きではあるけど、一番はどれかって訊かれたら、RPGって答えるかな」
創「そっか。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第4話をどうぞ」


「さあ、お前の血を私に寄越せ……!」

 

 そう言いながら男性が鋭い牙を俺の首筋に近付けてくるのを横目で見ながら、俺は急いで『創世』のスキルを使ってスキルを創り上げた。そしてそれを発動した瞬間、男性の牙が俺の肌に触れた。けれど、いくら待っても男性の牙が俺の肌を貫く事は無かった。

 

「な、何故だ! 何故、牙を立てられないのだ!?」

「……俺はちょっと変わった事が出来る『魔物使い』ですから、ちょっとした細工をさせてもらったんですよ。肌を鋼鉄と同じくらいに硬くするという細工を」

「何だと!?」

「さて……これであなたは俺から血を吸う事は出来ない。それでも、あなたは俺にその鋭い牙を向けるつもりですか?」

「ぐ……!」

 

 男性は悔しそうな様子で声を上げていたが、やがて諦めたように項垂れた。

 

「……降参だ。空腹でなければまだ手段はあったが、今は本来の力の半分も出せないのだからな」

「……わかりました」

 

 そして、男性が俺から離れた後、俺は使っていた『変質(オルター)』のスキルを解除しながら体を起こしつつ男性に話し掛けた。

 

「それで……あなたは誰で、どうしてこんなところに来たんですか?」

「……私はアーヴィング・ハイド、先代の魔王様の生まれ変わりを捜して旅をしている先代の魔王様の元側近だ」

「先代の魔王の生まれ変わり……?」

「そうだ。私達の魔王様はとても素晴らしいお方だったが、先代の勇者とその仲間との戦いで命を落とされた。しかし、私が手に入れた情報によれば、魔王様はご自身に転生の術をかけておられたらしく、次世代の魔王が誕生するのと同時にご自身がこの世に再び生まれるように設定されていたらしいのだ」

「それで、アーヴィングさんはその生まれ変わりを捜すために旅を……でも、どうして先代の魔王の生まれ変わりを捜しているんですか?」

「元側近としてそのお側にいたいからだ。もっとも、魔王様がどのようなお姿でいらっしゃるかはわからん。だが、必ず再会を果たし、再びお側に置かせてもらう。それが私の悲願でもあるからな」

「なるほど……」

「それで、お前は何者なのだ? 先程、『魔物使い』と名乗っていたが……」

「俺は幾世創、ある理由から今の勇者が今世代の魔王を討伐するのを阻止するために旅をしている『魔物使い』です」

「ほう……? 本来、我々の敵であるはずの人間が、今世代の魔王様が討たれるのを阻止するために旅をするとは……」

「まあ、まだこの事は仲間達には言ってないですけどね」

「そうか……」

 

 アーヴィングさんは俺の言葉を聞いて考え込むような素振りを見せた後、「ならば、その方が良いか」と言ったかと思うと、俺の目を真っ直ぐに見ながら静かに口を開いた。

 

「ハジメ、その旅に私もついていっても良いだろうか」

「え、俺は別に構いませんけど……一体どうしたんですか?」

「なに、お前についていけば魔王様に再びお目にかかれると思ってな。それに、その目的を達成するためにお前も戦力は欲しいところだろう?」

「……たしかにそうですね。一応、全員戦う事は出来ますけど、先代の魔王の元側近であるあなたが仲間に加わってくれるなら、スゴく心強いです」

「今世代の魔王様が討たれるのを阻止するために旅をしていると聞いて、良い顔をする者は多くないからな」

「はい」

「しかし……何故、お前は今世代の魔王様の命を守ろうとするのだ? 先代の魔王様に命を救われ、そのご恩に報いるために側近となった私のように何か魔王様にご恩でもあるのか?」

「……いえ、そういうのはないですし、どちらかというなら勇者達を応援している側です。ですが、今世代の魔王を討つ事でこの先苦悩をする人が最低でも一人はいる事を知っている。ただそれだけです」

「……そうか」

 

 俺の返答にアーヴィングさんが納得顔で頷くのを見て、俺はそれを疑問に思いながら話し掛けた。

 

「……詳しく訊かないんですか?」

「訊いたら答えるのか?」

「…………」

「なら、お前が話せると感じた時までは何も訊かんさ。誰しも秘密というのはある物だからな」

「……ありがとうございます。そして、これからよろしくお願いします」

「……ああ、こちらこそよろしく頼む」

 

 そして、俺とアーヴィングさんが固く握手を交わしていたその時、こっちに向かって歩いてくる足音が聞こえ、俺達は揃ってそちらに顔を向けた。すると、頭にフォルを乗せながら両手一杯に美味そうな果実を持ったイアの姿が見え、俺は安心感を覚えながらイア達が近付いてくるのを待った。そして、俺達の目の前で足を止めた後、俺はニコリと笑いながら声を掛けた。

 

「おかえり、二人とも。だいぶ採れたみたいだな」

「はい。こういう物を採るのは、故郷でもやっていたので簡単でした」

『ところで、そこの人も起きたみたいだね』

「ああ。この人はアーヴィングさんっていうんだけど、俺達の旅についてきたいんだってさ」

「わあ、そうなんですね……! でも、どうしてなんですか?」

 

 そのシアの問い掛けにアーヴィングさんは少しだけ話しづらそうな表情を浮かべたものの、覚悟を決めたような表情を浮かべた後、血を吸うために俺を襲った事や俺に話したのと同じ内容をイア達にも話した。すると、イアはとても驚いた様子を見せた。

 

「先代の魔王の側近だった方……そんな方が旅についてきて下さるんですね」

「ああ。まあ、ハジメからは了承を得ている故、後はお前達さえ良ければだが……」

「私は賛成です。自分の命を救って下さった方の側にいたいというそのお気持ちはわかりますし、とても心強いです!」

『僕も賛成だよ。まあ、ハジメにそんな危機が起きていたとは知らなかったけどね』

「たしかに……でも、ハジメさんはもうその事は水に流してらっしゃるんですよね?」

「ああ。いきなり襲われたのは驚いたけど、空腹を満たすためだったわけだし、仕方ないと思ってるよ」

『……まあ、ハジメが良いなら僕も良いけどさ。けど、お人好しが過ぎると後々後悔するかもしれないよ?』

「かもな。だからこそ、そうならないようにみんなに俺の舵取りをお願いしたいんだ。俺だけの判断だと間違う事も多いだろうからさ」

「ハジメさん……わかりました。私、精いっぱい頑張りますね!」

『僕も了解したよ』

「私もわかった」

「ありがとう、みんな。よし……それじゃあそろそろ集めてきてもらった物を食べようか。そして、食べながらこれからの事を話そう」

 

 その俺の言葉に全員が頷いた後、俺達は円形になって座り、いただきますの挨拶をしてからイア達が集めてきてくれた果実を食べ始めた。

 

「……うん、美味いな」

「はい。甘くて瑞々しくて……これならいくらでも食べられそうです」

『そうだね。それで、これからどうするの? また街に戻ってみる?』

「そうだな。街に戻ってまずは冒険者ギルドを探してみよう」

「冒険者ギルドか……たしかに、冒険者としてギルドに登録する必要はあるな。私やハジメの目的を達成するためにもな」

「ハジメさんの旅の目的……」

『そういえば、まだ聞いた事が無かったね』

「そうですね。それで、ハジメさんの旅の目的は何なんですか?」

「それは──」

 

 俺が旅の目的を話すと、二人は少し不思議そうな顔をしながら顔を見合わせた。

 

「勇者による今世代の魔王の討伐の阻止……」

『人間のハジメがそれを目指すなんて珍しいね』

「そうだと思う。けど、阻止をしないと確実に一人の人物が苦悩に満ちた人生を送る事になる。だから、俺は阻止をしたいんだ」

「なるほど……そういう事なら私もそれをサポートします。ハジメさん達に助けられなかったら、私はこの先も奴隷として辛い日々を送る事になっていたと思いますから。全力でお手伝いさせて頂きます!」

『僕もサポートさせてもらうよ、ハジメ。魔王が討たれる事で誰かが辛くなると聞いて、ほっとくわけにはいかないからね』

「イア……フォル……ありがとう」

「ふふ、どういたしましてです」

『それじゃあさっさと食べ終えて街に戻ろうよ。冒険者ギルドに登録しておけば、各地の色々な情報を知る事も出来るから、その内に勇者達の動向もわかってくると思うよ』

「そうだな。よし……それじゃあみんな、改めてこれからよろしくな」

「はい!」

『うん』

「うむ」

 

 みんなが返事をするのに頼もしさを感じた後、俺達は再び果実を食べ始めた。そして、仲良く話をしながら果実を食べる仲間達の姿を見ながら、俺は幸福感と安心感に満ちていた。

 

 突然飛ばされたこの『リューオン』で出来た新しい仲間達。これから色々な事に巻き込まれると思うけど、この仲間達と一緒ならきっと大丈夫だ。

 

 そう思った後、俺はイア達の話へと混ざっていった。




政実「第4話、いかがでしたでしょうか」
創「また新しい仲間が増えたけど、しばらくはこの四人でやっていく感じか?」
政実「そうだね。もっと仲間を増やしたいところだけど、それは後々になるかな」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第5話 勇者志望の少年

政実「どうも、勇者よりは勇者の仲間になりたい片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。仲間の方か……まあ、変に重い使命を負わされる勇者本人よりは気は楽か」
政実「まあね。それに、自分はメインを張るよりもサポーター向きだから」
創「なるほどな。さてと……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第5話をどうぞ」


 イア達に取ってきてもらった果実を食べ終え、『ガルス』の街に戻ってきた後、俺は俺専用のナビゲーターだというクルスの声に従いながら冒険者ギルドを探すフリをしつつ街の中を歩いていた。

 

「さて、冒険者ギルドはどこかな……?」

「ふむ……そうだな。そういった施設は、大凡(おおよそ)街の中心にある物だと思うが……イア、おまえは何か知らないか?」

 

 アーヴィングさんがイアに問い掛けると、イアは少し落ち着かない様子で周りをキョロキョロと見ており、その様子にアーヴィングさんは少し不思議そうに声を掛けた。

 

「イア、どうかしたか?」

「……え?」

「先程から周囲をキョロキョロとしているようだったが……何か探し物でもしているのか?」

「あ、いえ……そうじゃなくて……」

「……イア、もしかしてだけど、周りの人の目が気になってるんじゃないか?」

「周囲の目……なるほど。たしか、イアはこの街には奴隷商が持ってきた商品の一人として来たんだったか」

「はい……なので、それを知ってる人に見られたらと思うと……」

「イア……」

 

 不安げなイアの顔を見た後、俺は静かにイアの手を取った。

 

「ハ、ハジメさん……?」

「大丈夫だ、イア。今のお前は奴隷なんかじゃなく、俺達の立派な仲間だ。だから、胸を張ってこの街の中を歩いていればいい。それに、もしもお前の事を悪く言う奴がいたら、俺達が倒してやるさ」

「……そうだな。ハジメの言う通り、イアは私達の仲間だ。となれば、仲間の事を思いやるのは当然の事だ」

『だね。だから、安心しなよ、イア』

「皆さん……はい、ありがとうございます」

「どういたしまして。さてと、それじゃあそろそろ冒険者ギルド探しをさいか──」

 

 そう言いながら再び歩き始めようとしたその時、『マスター幾世創よ』というクルスの声が聞こえたため、俺は皆に聞こえないような声でそれに答えた。

 

「……何だ?」

『後方よりこちらに向かって走ってくる者あり。注意されよ、マスター幾世創』

「こっちに向かって走ってきてる奴……?」

 

 疑問に思いながら後ろを振り返ってみると、クルスの言う通り、少し離れた所からこっちに向かって誰かが走ってきているのが見えた。

 

 あ、ほんとだ。けど、一体誰だ……?

 

 そう思いながら首を傾げていたその時、その後ろから突然何かが飛んできているのが見え、俺はすぐに『絶対感覚』を使い、スキルの力で上がった動体視力を活かして、飛んできたそれを二本の指で受け止めた。そしてそれを見てみると、それは一本の矢であり、それを見たイアはとても驚いた様子を見せた。

 

「ハジメさん……その矢、一体どこから……?」

「どうやら向こうから飛んできたみたいなんだけど……もしかして、あそこにいる奴が原因かな?」

「あそこ……ああ、こちらに向かって走ってきている奴がいるようだな」

『でも、あそこにいる奴が撃ってきたわけじゃないとすると……アイツ目がけて誰かが撃ったって事になるよね』

「そうなるな。とりあえず、あそこにいる奴がここに来るまで待つか。その間、飛んできた矢は出来る限りどうにかするよ」

「どうにかするって……もしかして、矢がどう飛んできているか見えるんですか?」

「ああ。だから、さっきも受け止められたんだ」

『いつもの『ちょっと変わった事が出来る』って奴だね』

「そんなところだな」

「……そうか。だが、ハジメ。それはちょっとに入らないと私は思うぞ?」

「そうかもしれませんが、今はそれで納得していてもらえると助かります」

「……わかった」

 

 アーヴィングさんが静かに頷いた後、俺達が視線を戻すと、こっちに向かって走ってきていた人物との距離が縮まっており、その人物が俺と同じくらいの年齢の赤い鉢巻きを締めた緑色の服に藍色のズボン姿の男である事がわかった。そして、ソイツは息を切らしながら俺達の目の前で足を止めると、必死そうな表情で俺に話し掛けてきた。

 

「な、なあ! ちょっと隠れさせてくれないか?」

「隠れるって……お前、何かしたのか? さっき、矢も飛んできたし……」

「あ、本当か? それは迷惑を掛けたな……本当にすまん」

「まあ、受け止められたから良いけどな。それで、何をしたんだ?」

「実は……」

 

 ソイツが説明を始めようとしたその時、「はあ……ようやく追いついたわよ……」という声が聞こえ、そちらに声を向けると、そこには若草色の衣服を身に纏った金髪のポニーテールのエルフの女の子が息を切らしながらソイツの事を睨んでいた。

 

「エ、エスメラルダ……」

「アルフレッド……アンタ、本当に逃げ足だけは速いわね……。勇者志望の冒険者じゃなく、盗賊志望にでもなったら……?」

「いいや、嫌だね! 俺は魔王を倒して、勇者としてみんなから崇め奉られるのが夢なんだ!」

「……いや、無理でしょ。アンタを含め、アタシ達はまだGランク冒険者なんだから」

「ランクなんて関係ない! 大切なのは強くなりたいという気持ちと向上心だ!」

「はあ……ほんと、暑苦しい奴。それで……そこにいるのは誰?」

 

 エスメラルダが不思議そうに俺達に視線を向ける中、アルフレッドは更に不思議そうな様子で首を傾げた。

 

「そういえば……お前達、誰だっけ?」

「誰だっけって……はあ、まあ良いや。せっかくだから、自己紹介するか」

「あ、申し訳ないけど、それならもう少しだけ待ってくれる? もう少しでアタシ達のパーティメンバー達が来るはずだから」

「おいおい……アイリスはともかく、アンガスを置いてきたのはマズくないか? アンガス、メッチャ足遅いだろ?」

「最初に置いてきたのはアンタでしょ? それに大丈夫よ。アイリスにはパワーグローブを持たせてきたから、アンガスくらいなら持ち上げながら走れるでしょ」

「ああ、それなら大丈夫だな」

 

 アルフレッドが納得顔で頷いていたその時、向こうから何かを持ったままとても速いスピードで走ってくる人物の姿が見え、それを見たアルフレッドは嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「おっ、来た来た。おーい、アイリスー! アンガスー!」

 

 アルフレッドが手を振りながら大声で呼びかけている内に、黒いフードが付いた黒い軽装に黒いマントを付けた小柄な『魔人族(デビナス)』の女の子はアルフレッドの目の前で足を止めると、持ち上げていた銀色の鎧姿のドワーフらしき男性を傍に下ろし、ズイッと自分の頭をアルフレッドに近付けた。

 

「アンガス、連れてきた。撫でて」

「ああ、偉い偉い。よくアンガスを持ち上げたまま来てくれたな」

「……これくらい楽勝」

 

 アイリスは静かに言うものの、その顔はとても嬉しそうで、それを見たエスメラルダはまた溜息をついた。

 

「はあ……この幼馴染みコンビは本当に見てて胸焼けしそうだわ……」

「はっはっは! まあ、良いじゃないか、エスメラルダ。仲が良いのは良い事だろう?」

「アルフレッドとアイリスのは、ただ仲が良いというか口の中が甘くなって、苦い物が欲しくなるレベルなのよ!」

「くく、そうかそうか。それで……そこにいるの若者達は何者だ?」

「……ああ、彼らはアルフレッドが迷惑を掛けてた人達よ」

「おい、迷惑を掛けてたのはお前もだぞ、エスメラルダ。お前が撃った矢がコイツに当たりそうだったみたいだからな」

 

 アルフレッドが俺の手の中にある矢を指差しながら言うと、エスメラルダは申し訳なさそうな表情になりながら静かに頭を下げた。

 

「あ、本当だわ……ごめんなさい……」

「別に良いよ、当たったわけじゃないし。さてと……それじゃあそろそろ自己紹介しようぜ?」

「んー……そうだな。こっちも全員揃ったし、そうするか。それじゃあ俺達からするな。俺はアルフレッド・ラファティ、見ての通り『人間族(ヒューマン)』で、勇者を目指してコイツらと旅をしているんだ」

「勇者を目指してって……勇者は女神からの祝福を受けた奴じゃないとなれないぞ?」

「いいや、なれるね。そういう生まれつきの勇者じゃなく、魔王を倒した勇ましい者という意味の勇者なら誰でもなれるんだ」

「まあ、簡単にアルフレッドの事を説明するなら、勇者志望のアホね」

「誰がアホだ!」

「アンタよ。さてと、次はアタシね。アタシはエスメラルダ・セラーズ、『亜人族(デミヒューマン)』のエルフ種で、『亜人族』が多く住む『イオース』の出身よ」

「……私はアイリス・エンジェル。『魔人族』で、アルフレッドと同じ『アテヌ』の出身」

「最後はワシじゃな。ワシはアンガス・アドラム。『亜人族』のドワーフ種で出身は『パルテー』じゃ。よろしく頼むぞ」

「あ、はい。それじゃあ今度は俺達が自己紹介します。俺はハジメ・イクセ、『人間族』で『魔物使い』をしてます」

「えと……私はイア・アリス。ハジメさんの仲間で、種族は『亜人族』の狼型の獣人種(ビースト)。出身は『ミドガ』です」

「『ミドガ』って……あの『ミドガ』?」

「は、はい……そう、です……」

「……そっか。まあ、色々あったんだろうけど、詳しくは訊かないわ」

「……ありがとう、ございます」

「良いわよ、お礼なんて。さて、それじゃあ自己紹介の続きをお願い」

「……私はアーヴィング・ハイド。『魔人族』で出身は『レイテ』だ。よろしく頼む」

『最後に僕はフォル。出身はここの近くの森で、見ての通りのスライムだよ』

 

 フォルが自己紹介をすると、アルフレッド達はとても驚いた様子を見せた。

 

「う、嘘だろ……『魔物使い』じゃない奴に声を伝えられるスライムなんて見た事が無いぞ……!?」

「あはは、まあそうだろうな」

『正直、僕も驚いてるけどね。こうやってハジメ以外と話せるようになったのは、ついさっきの事だし』

「え、そうなの?」

『うん、そうだよ。どうやらハジメは『ちょっと変わった事』が出来るみたいで、僕が話せる事やエスメラルダの矢を受け止めたのも全部それが理由みたい』

「その『ちょっと変わった事』……って、結局なんなんだ?」

「うーん……今は『ちょっと変わった事』としか説明出来ないかな。まあ、何かの折には話すよ。ところで、ちょっと訊きたいんだけど、冒険者ギルドってどこにあるか知ってるか?」

「冒険者ギルド? ああ、それなら今から行くから案内するぜ」

「ありがとうな、アルフレッド」

「へへ、良いって事よ。んじゃ、行こうぜ」

 

 そのアルフレッドの言葉に全員が頷いた後、俺達はアルフレッドの後に続いて歩き出した。




政実「第5話、いかがでしたでしょうか」
創「次回は遂に冒険者ギルドに到着する感じだな」
政実「そうだね。そして、その冒険者ギルドでは何があるのか、それは次回のお楽しみという事で」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第6話 冒険者ギルド

政実「どうも、旅をするなら仲間と一緒が良い片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。たしかに仲間と一緒の方が楽しいからな」
政実「うん。一人旅も気にはなるけど、やるなら仲間と一緒かな」
創「そっか。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第6話をどうぞ」


 アルフレッド達と話をしながら一緒に歩く事数分、一軒の大きな建物が見えてくると、アルフレッドはそれを指差した。

 

「見えたぜ。あれがこの街の冒険者ギルドだ」

「あれが冒険者ギルドか」

『冒険者ギルド。この『リューオン』の各地に存在している冒険者を支援するための建物で、『リューオン』を旅する冒険者になるためには、必ず登録を済ませないといけない』

「……そっか。ありがとうな、クルス」

 

 俺専用のナビゲーターを自称するクルスに対してこっそりお礼を言っていた時、アルフレッドは首を傾げながら話し掛けてきた。

 

「ところで、訊くまでもないと思うけど、冒険者としての登録はどこかで済ませてるよな?」

「いや、まだだな。俺が住んでたところには冒険者ギルドは無かったから」

「わ、私もまだです……」

「私もだな」

『僕なんかはそもそも野良のスライムだったからね』

 

 俺達のその言葉にアルフレッドはとても驚いた様子を見せながら立ち止まった。 

 

「え、マジか!? それなら、さっさと登録を済ませちまおうぜ! 冒険者ギルドに登録しておけば、色々な特典があるからさ!」

「特典……ですか?」

「そうよ。例えば、冒険者ギルドと提携をしている宿屋に無料で泊まれるとか武器屋や防具屋で冒険者としての資格を見せればそのランクによって値下げをしてもらえるとか色々あるわ」

「ランク……そういえば、先程エスメラルダは自分達の事をGランクだと言っていたな」

「……Gランクは一番低くて、一番高いのはSSランク。登録したての冒険者はみんなGランク。受けられるクエストも簡単な物ばかりだけど、報酬もそんなに多くない」

「ただ、そのクエスト内で自分のランクよりも上位のクエストと同等の成果をあげれば、それ相応の報酬が手に入る。まあ、そうそう無いことじゃがな」

『そっかぁ。でも、ウチはみんな強いし、クエスト中に何かあっても安心だね』

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、基本的には何も無いのが一番だな。さてと、それじゃあそろそろ登録をしに行こうか」

 

 俺のその言葉に全員が頷いた後、俺達は再び歩き出した。そして、冒険者ギルドに着き、中に入ってみると、中では数多くの冒険者達で賑わっていた。

 

「す、スゴい人の数ですね……」

「まあね。ここはクエストを受けに来た冒険者の他にも新しい仲間を探しに来た冒険者や情報屋を尋ねてきた冒険者までいるから」

「ふむ、情報屋か……お前達は情報屋から情報を買った事はあるのか?」

「……ある。それもその情報で助けられた事が結構ある」

「そうだったなぁ……それに、情報を買った事でエスメラルダとアンガスに会えたわけだし、情報屋には頭が上がらないぜ」

「そうだったのか」

「ああ。さて、その話は後にしてまずは登録だな。登録をするには受付に行けば良いぜ」

「受付……ああ、あそこか」

「そうだ。さあ、とりあえず行ってこい」

 

 それに対して頷いた後、俺達は揃って受付に向かって歩いていき、そこにいた女性に話し掛けた。

 

「すみません。冒険者登録をしたいんですけど……」

「冒険者登録ですね? 畏まりました。えーと、登録をなさるのは……」

「俺達3人と……フォル、お前はどうする?」

『うーん……興味はあるけど、そもそもモンスターは冒険者になれるの?』

 

 フォルがまるで首を傾げるように身体を軽く曲げながら訊いてきたその時、受付のお姉さんはとても驚いた様子でフォルに視線を向けた。

 

「……今、そちらのスライムがお話をされたんですか?」

『うん、そうだよ。ここにいるハジメの力で『魔物使い』以外とも話せるようになったんだ』

「そうなんですね! わあ、スゴいスゴい!! 私、モンスター──特にスライムが好きで、いつかお話してみたいと思っていたんです!」

「そ、そうなんですね……」

「はい! まさか、こんな形でその夢が叶うなんて……はあ、今スゴく幸せです……」

 

 受付のお姉さんがとても幸せそうな笑顔を浮かべていたその時、コホンと隣の受付の人が咳払いをすると、受付のお姉さんはハッとした様子を見せた後、とても申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「失礼しました……あまりにも嬉しくてつい……」

「大丈夫ですよ。それで、フォルは冒険者になれるんでしょうか?」

「そうですね……そもそも『魔物使い』以外と話せるモンスターの前例が無いので、私では何とも……今、上の者と相談してきますので、少々お待ち下さい」

「わかりました」

 

 そして、受付のお姉さんが奥の方に引っ込み、戻ってくるのを待ち始めた時、ふと冒険者達の視線が俺達に注がれているのに気づいた。

 

「……まあ、仕方ないよな。『魔物使い』以外と話せるスライムを連れた奴なんて今までに見た事がないだろうから」

「そうですね……」

「その上、魔法まで使えると知られたら、その手の研究者がどんなに金を積んででもフォルの事を手にいれたいと思うだろうな」

『だろうね。けど、僕はどこにも行かないよ。僕はあくまでもみんなの仲間だからね』

「ああ、俺達だってフォルの事を誰かに渡す気なんて無いよ」

「はい。私、フォルさんともっと一緒にいたいですから」

「金で手放すくらいの仲間だとは私も思ってはいない。まあ、どんな条件でも手放すつもりはないがな」

『みんな……うん、ありがとう』

「どういたしまして。それにしても……やっぱり、結構掛かってるみたいだな」

「そうですね……前例が無い分、すぐには決められないという事でしょうか」

「そうだろうな」

 

 イア達とそんな話をしていたその時、受付のお姉さんは奥から戻ってくると、まるで自分の事のように嬉しそうな笑みを浮かべながら俺達に話し掛けてきた。

 

「お待たせしました。ギルド長と相談したところ、あるクエストを達成すれば、そちらのスライムを冒険者として認定するとの事でした」

「そうですか……良かったな、フォル」

『うん。でも、そのクエストって一体何?』

「あ、たしかに……」

「クエストの内容や 難易度、達成条件はどうなのだ?」

「クエストの内容は……この近くで目撃されたドラゴンの討伐もしくは使役(テイム)です」

 

 その受付のお姉さんの言葉にその場にいた冒険者達がざわめきだす中、「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」とアルフレッドがエスメラルダ達を連れて受付に近付いてきた。

 

「アルフレッド」

「ドラゴンの討伐って……本来ならDランクから受けられるクエストのはずじゃないんですか?!」

「その通りです。ですが……ギルド長はそれを達成すれば認めるとしか言わなくて……」

「何よそれ! ハジメ達がどれだけ強いかはわからないけど、駆け出しの冒険者にやらせる内容じゃないのは確かでしょ!?」

「けど、それを達成すればフォルは史上初のモンスターの冒険者になれる。だったら、やるしかないな」

「ハジメ!」

「大丈夫だよ、アルフレッド。俺は『ちょっと変わった事』が出来る『魔物使い』だし、イアとアーヴィングさんだって一人でも戦える程の強さの持ち主だって信じてるからさ」

「は、はい! 私の魔法で皆さんを精一杯サポートします!」

「……私の目的を達するためには、その程度で怖じ気づいてなどいられないのでな。そのクエスト、受けさせてもらうとしよう」

『……みんな、自分の事じゃないのにそこまでやる気になっちゃって。まあ、それなら僕も全力で頑張るよ』

「お前達……」

 

 俺達の言葉にアルフレッドが少し不安そうな表情を浮かべる中、同じように俺達を不安そうに見つめる受付のお姉さんに俺は話し掛けた。

 

「それで、ドラゴンが目撃されたのはどの辺りですか?」

「基本的には空を飛んでいるところを目撃されているのですが、最近はこの近くの森の奥深くにある洞窟の付近で目撃される事が多いみたいです。そして、達成条件はドラゴンの討伐または先程も言ったように使役する事です。討伐だけではなく、使役も達成条件に含まれるのは『魔物使い』の方がいるためです」

「なるほど……フォル、その洞窟に心当たりはあるか?」

『洞窟……うん、バッチリわかるよ』

「オッケー。それじゃあ、早速行くか」

「はい……!」

「うむ」

『レッツゴー』

 

 そして、冒険者達と受付の人達が見守る中、俺達がギルドを出ていこうとしたその時、「お前達!」とアルフレッドが声をかけてきた。

 

「……何だ?」

「必ず……必ず、生きて帰ってこいよ!」

「……ああ、もちろんだ」

 

 アルフレッドの言葉に親指を立てながら答えた後、俺達は洞窟に棲むドラゴンに会いに行くため、ギルドを後にした。




政実「第6話、いかがでしたでしょうか」
創「旅も序盤なのに次回はドラゴン戦か。そういえば、この作品の外伝を書こうとしてるんだっけ?」
政実「うん。タイトルやおおよその内容は決まってるから、近日中に投稿していきたいと思ってるよ」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第7話 洞窟に棲む竜

政実「どうも、RPGの世界に行けたら魔法剣士や竜騎士になりたい片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。魔法剣士に竜騎士か……ゲームなんかだとどっちも上級職として扱われるイメージだよな」
政実「そうだね。まあ、そもそも魔法剣士は魔法の適正が、竜騎士は相方の竜が必要になりそうだけどね」
創「そうだな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第7話をどうぞ」


『ガルス』の街を後にし、件のドラゴンが出るという洞窟へ向けて歩いていた時、「そういえば……」とイアが何かを思い出した様子で声を上げ、俺達を見ながら不思議そうに首を傾げた。

 

「私達が受けたクエストの内容は、今から向かう洞窟に棲むドラゴンの討伐か使役(テイム)ですが、どうしてそのドラゴンは討伐されないといけないんでしょうか?」

『うーん、そうだねぇ……例えば、そのドラゴンが何かをしたとか? ほら、そのドラゴンのせいで『ガルス』の住人の誰かが被害を被ったとか』

「でも、そうだとしたら私達のような実力も未知数な人達に頼むでしょうか? アルフレッドさんが言うには、本来ならこのクエストはDランクの冒険者から受けられるクエストらしいですし……」

「私達がそれ以上の実力があるように見られた……というのは考えづらいな。その指示を出したというギルド長は、私達の事をまったく見ていないからな。もっとも、そのギルド長が『鑑定士(アペレイザー)』の称号を持っていれば、話は別だが」

『『鑑定士』……ああ、色々な道具や武具の様子からあらゆる人物の強さまで調べられるっていう奴だね』

「そうだが……フォル、お前は思っていたよりも知識が豊富なのだな」

『んー……まあ、そうなのかもね。でも、流石になんでギルド長がこんなクエストを僕達にやらせようとしてるのかまではわからないよ』

「そうだろうな。ハジメ、お前はどう思う?」

「そうですね……実はギルドの方もまだそのドラゴンがどんな奴かは把握しきれていないから、クエストという体で実力が未知数な俺達にドラゴンの調査をさせようとしているというのはどうでしょう?」 

「ドラゴンの調査……ですか? でも、私達が受けたクエストの内容はドラゴンの討伐か使役のはずじゃ……」

「そのクエストの内容がわかった時、他に行こうとするグループや代わりに行こうというグループはいなかった。それはたぶん、あの場にはDランク以上の冒険者がいなかったからなんだと思う。そして、ギルド長はそれをわかっていたから、わざとドラゴンの討伐か使役を達成目標という事にして、俺達にクエストを受注させた。そうじゃなきゃ、他にやりたいっていう奴も出てくるかもしれないからな」

「な、なるほど……」

「まあ、たぶんだけど、ギルド側はドラゴンが自分達にとって危険な物じゃなくなれば良いと思ってるんだろうし、ドラゴンについては俺達の好きにさせてもらおう。友好的だったり、俺が使役出来る程度なら仲間にしたいし、もし無理そうならこの近くから立ち退いてもらう程度にするしな」

「え? でも、使役するなら未だしも逃がしたらクエストを達成出来ないんじゃ……?」

「ギルド側の考えが俺の思ってる通りなら、とりあえずドラゴンの情報を持ち帰れば良いんだと思う。向こう的にも下手に死人は出したくないだろうし、どんなドラゴンだったかや身体の一部でも持ち帰れば特例って事で認めてくれるよ」

『そういう物かなぁ……』

「そういう物だよ」

 

 そう言いながら進行方向に視線を戻すと、そこには一つの洞窟があった。

 

「どうやら着いたみたいだな、件の洞窟に」

「中はとても暗そうですね……灯り、どうしましょうか?」

「……ハジメ、『ちょっと変わった事』が出来るお前なら、なんとか出来るのではないか?」

「そうですね……ちょっと待っててください」

 

 そう言った後、俺が『創世(クリエイト)』のスキルで松明を3本作り出してみせると、それに対してイアは心から驚いた様子を見せた。

 

「何もないところから松明が3本も……!」

「ふむ……やはり、お前は不思議な奴だな、ハジメよ」

「あはは、そんな事無いですよ。さてと、それじゃあ早速……」

『うん、行こうか』

 

 フォルの言葉に頷いた後、俺達は松明を持って洞窟の中へと入っていった。そして、歩き続ける事数分、クルスの声が突然頭に響き渡った。

 

『マスター幾世創、遥か前方より数種のモンスターの気配を察知。注意されたし』

「モンスターの気配……わかった、ありがとうな」

 

 クルスに対してお礼を言った後、俺はどこからモンスターが出てきても良いように収納スペースロングソードを取り出して少し身構えながら洞窟内を進んだ。そして、歩き続けて更に数分が経った頃、とても拓けた場所に出ると、そこには多くのモンスターの姿があった。

 

「この洞窟、こんなに多くのモンスターがいたんですか……!?」

「どうやらそのようだが……」

「アーヴィングさん、どうかしましたか?」

「いや、あそこにいる者達……どこかで見た事があるような……」

 

 不思議そうにしながらアーヴィングさんがモンスター達に近付くのと一緒に近付いていったその時、モンスターの内の一体がアーヴィングさんに気付くと、そのモンスターはとても驚いた様子を見せた。

 

「アーヴィング様!? ど、どうしてあなたがこのような場所に!?」

「……やはり、か」

「やはりって……」

「どういう事ですか?」

「コイツらは先代の魔王様の部下だったモンスター達、言ってみれば私の同胞達だ」

『先代の魔王の部下……でも、なんでそんな奴らがこんな洞窟にいるの?』

「ふむ、たしかにな……さて、何故お前達がここにいるのか話してもらっても良いか?」

「は、はい……実は──」

 

 モンスターが話を始めようとしたその時だった。「んむ……?」という声が聞こえ、俺達は揃ってそちらに顔を向けた。するとそこには、表面が黒光りした巨石のような物があった。

 

「……今、あの巨石が喋ったのか……?」

「は、はい……たぶん……」

「……お前達、あれは恐らく巨石じゃないぞ」

『巨石じゃない……じゃあ、何だって言うのさ?』

 

 そうフォルが問いかけたその時、巨石らしき物がゆっくりと動き出し、その内に首や手足のような物が伸び出すと、それを見たアーヴィングさんは「やはり、か……」と少しだけ懐かしそうに言った。そして、巨石らしき物が完全に竜の姿になると、アーヴィングさんは竜に対して親しげに声をかけた。

 

「久しぶりだな、先代の魔王様の四天王の一人である『獄炎竜ルスム』よ」

「ほう……その声はアーヴィングか。何やら『人間族』や『亜人族』の匂いがするが、もしや手土産として人間を連れてきたのか?」

「残念だが、コイツらはお前の食事なんかではない。私の大切な仲間だ」

「仲間……くははっ! 先代の魔王の側近であったお前が『人間族』や『亜人族』の仲間になるとは、なかなか面白い冗談だ」

「冗談ではないぞ、『獄炎竜ルスム』。ハジメ達は生まれ変わりを果たされた先代の魔王様を探して旅をする私の大切な仲間だ」

「ふん……そうか。まあ、良いだろう。それで、お前達はここに何をしに来たのだ?」

「受けたクエストを達成するためだ。」

「クエスト、だと?」

「そうだ。それもお前の討伐または使役が達成目標のクエストだ。もっとも、お前に戦う意志が無いのなら、私達はどんなドラゴンがいたかだけをギルド側に話す事にする。私とてかつて共に魔王様の世界征服のために戦った仲間に無駄に血を流させたくは無いからな」

「……そうか。仲間として共に戦ったお前からそのような言葉が聞けて我は嬉しいぞ。だが……!」

 

『獄炎竜ルスム』はその大きな身体を起こすと、怒りに満ちた眼差しをアーヴィングさんに向けた。

 

「四天王としてあらゆる敵を相手に戦った我に容易に勝てると考えているのだけは気に食わん! その(おご)り、必ずや後悔させてやる!」

「……はあ、その血の気の多さは治っていないようだな。ならば、仕方ない。お前に私の仲間達の力を証明してやるとしよう」

 

 そう言うと、モンスター達が次々と武器を取るのを見ながらアーヴィングさんは俺達に話し掛けてきた。

 

「という事だ。やるぞ、お前達」

「はい」

「わ、わかりました……!」

『いっちょやってやりますかねー。でも、アーヴィングはどうやって戦うの?』

「それはだな……これを使うのだ」

 

 そう言いながらアーヴィングさんが取り出したのは、血液が入った小瓶だった。

 

「それは血……ですか?」

「そうだ。これを使ってどう戦うのは……まあ、見ていればわかるだろう。そして、戦う前に一つだけ頼みがある」

「何ですか?」

『もし、私が死したその時は戸棚にしまってある菓子を食べても良いぞ……とか?』

「違う。部下のモンスター達の事だ」

「モンスターの事、ですか?」

「ああ、出来る限りで良いが、アイツらを傷つけないように戦ってほしい。甘い考えなのはわかっているが、アイツらの中に死者を出したくないのだ」

「アーヴィングさん……」

「……わかりました。出来る限りやってみます」

「感謝する。よし……では、行くぞ!」

「「はい!」」

『レッツゴー』

 

 そして、俺達は戦う気満々の『獄炎竜ルスム』とその部下のモンスター達へ向かって走り出した。




政実「第7話、いかがでしたでしょうか」
創「次回はようやくバトル回だな」
政実「そうだね。そして、アーヴィングは血液でどう戦うのか、そこは次回のお楽しみということで」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第8話 獄炎竜ルスム

政実「どうも、竜全般が好きな片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。ドラゴンって結構どれもかっこいいよな」
政実「うん。それに、大抵の物語では強いイメージもあるし、仲間に出来るタイプのゲームなんかでは是非とも仲間にしたいよね」
創「そうだな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第8話をどうぞ」


 さてと、『獄炎竜ルスム』の方も気にはなるけど、アーヴィングさんからの頼みをどうにかするために、まずは部下のモンスター達の事をどうにかしないといけないな。

 

 俺達を見ながら武器を手に取り出したモンスター達をチラッと見た後、俺は立ち止まってから『創世(クリエイト)』のスキルを使って、幾つかスキルを作り上げた。そして、その内の一つを使う準備を整えた後、俺は天井に右手を向けながらスキルを発動した。

 

「『磁力(マグネ)N極(ノース)』!」

 

 すると、俺の手からバチバチと火花を散らす黒い球体が現れ、それは広間の四方へ向かってすごい勢いで飛び、そのまま姿を消した。

 

 よし、それじゃあ次は……!

 

「『自動照準(オートエイム)』!」

 

 その名の通り、視界に入れていなくても遠距離系の攻撃の照準を自動で合わせてくれる『自動照準』のスキルで周囲のモンスター達に照準を合わせた後、俺は今度は左手を天井へと向けた。

 

「『磁力・S極(サウス)』!」

 

 すると、さっきと同じような黒い球体が現れ、天井へ向かってすごい勢いで飛んだ。そして、天井すれすれのところで止まると、それは小さな黒い球体となって周囲のモンスター達へ飛び、そのままモンスター達の中へ入り込んだ。

 

「な、何だ今のは……?」

「何かはわからんが、ダメージを受けていないなら、問題は──」

 

 モンスター達が余裕そうな笑みを浮かべたその時、モンスター達の身体が急に宙に浮き、『磁力・N極』を打ち込んだ方へと次々()()()()()()()()()()

 

「なっ……!?」

「何だこれは──うわぁっ!?」

「お前達!」

 

『獄炎竜ルスム』の声が広間に響く中、部下のモンスター達の身体は広間の四方の壁に叩きつけられ、そこから逃げようとしても身体を壁から引き剥がせなくなっていた。

 

「くっ……貴様、部下達に何をした!」

「少なくともこの戦いの間は、貴方の援護を出来ないようにしただけですよ。俺が使える術の一つ、『磁力』によってね」

「『磁力』……だと?」

「ええ。その名前の通り、ある場所をN極かS極に定め、誰かを反対の極に定める事で、その場所にその人物を引き寄せ、最終的にはそこから動けなくさせる。それが『磁力』です。本来なら、魔法対策もした方が良いですけど、見たところ貴方の部下達は誰も魔法を使えなそうだったので、とりあえずこれだけにしました」

 

 クスリと笑いながら説明を終えると、『獄炎竜ルスム』は警戒した様子で俺に話しかけてきた。

 

「……貴様、只者ではないな」

「俺はただの『魔物使い』ですよ。『ちょっと変わった事』が出来るだけの、ね」

「……そうか。だが、部下達を封じただけで勝った気になるな!」

「勝った気になんてなってませんよ。一番の脅威は他でもない貴方ですからね。だからこそ、ここからは本気で臨ませてもらいます。みんな、行こう!」

「はい!」

「ああ」

『はいはーい』

 

 返事をした後、イアとフォルは『獄炎竜ルスム』を見ながら詠唱を始めた。

 

「数多を凍てつかせる吹雪よ、いまここに! 『氷魔法(ブリズド)』!」

『天より降りそそげ、怒りの雷。『雷魔法(ライトニング)』』

 

 イアの杖から出た吹雪が吹き荒び、『獄炎竜ルスム』の頭上に次々と雷が落ちる中、『獄炎竜ルスム』はそれをものともしない様子で鼻を鳴らした。

 

「ふん、その程度か。ならば、この『獄炎竜ルスム』の炎で全てを焼き尽くしてくれる!」

 

 そう言うと、『獄炎竜ルスム』は大きく息を吸い込みだし、その様子からヤバイと感じた俺はすぐにみんなの前へと出た。そして、急いでスキルを作り上げた瞬間、「はあぁーっ!!」という声が聞こえると同時に、『獄炎竜ルスム』の口から灼熱の炎が吐き出され、俺はそれを見ながら作り上げたばかりのスキルを発動した。

 

「『魔障壁(マジックバリア)』!」

 

 すると、俺達の目の前に大きなバリアが現れ、『獄炎竜ルスム』の口から吐き出された灼熱の炎をいとも容易く受け止め始めた。

 

「なっ……!?」

「よし! アーヴィングさん、今の内に『獄炎竜ルスム』にダメージを!」

「……ああ、任せておけ」

 

 アーヴィングさんは頷きながら答えると、血液が入った小瓶の蓋を開けた。すると、入っていた血液が独りでに動き出し、それはやがて一本の大鎌の形に変わった。

 

「血液が……」

「大鎌に……!?」

『わあ……これはすごいねぇ』

「……これが私の持つ能力、『血液操作(ブラッディ・コントロール)』だ。今は小瓶に入れていた血液を操作して武器を生成したが、本気になれば対象から流れる血液を操作してそれを更なる武器に変えたり、相手の血流の向きを変えたり止めたりも出来る」

「え……それじゃあ、アーヴィングさんはほぼ無敵なんじゃ……」

「いや、無敵ではない。私が操作出来るのは、私が視認している血液だけだからな。つまり、血流の操作も相手が流血していなければどうにも出来ない」

『そっか。まあ、今みたいに血を武器に変えるだけでも十分そうだけどねー』

「そうだな。さて……『獄炎竜ルスム』よ。行くぞ!」

 

 アーヴィングさんは大鎌を振り翳しながら俊敏な動きで『獄炎竜ルスム』に近づくと、『獄炎竜ルスム』の身体に大鎌の一撃を見舞った。

 

「はあっ!」

「ぐうっ……!」

 

 大鎌が『獄炎竜ルスム』の身体を切り裂くと、『獄炎竜ルスム』の身体からは鮮血が吹き出し、その血は独りでに動き出すと、アーヴィングさんが持つ大鎌に次々と吸収され、大鎌は更に紅くなっていった。

 

「ぐ……流石だな、『深淵の吸血鬼』」

「……ふ、その名も懐かしいものだな」

「だが、我とてそう簡単に負けるわけにはいかんのだ! たとえ、相手が魔王の側近であったお前であろうともな!」

「……良いだろう。来るが良い、『獄炎竜ルスム』!」

「言われずとも!」

 

『獄炎竜ルスム』はアーヴィングさんへ向かって走り出すと、その大きな爪をアーヴィングさんへと振りかざした。

 

「があぁっ!!」

「真っ正面から来るか。ならば、それに応えるとしよう!」

 

 そう言うと、アーヴィングさんは『獄炎竜ルスム』の爪での一撃を大鎌で受け止めた。

 

「ぐっ……!」

「ぐむむ……!」

 

 アーヴィングさんと『獄炎竜ルスム』が押し合いを続ける中、イアは不安げな様子で話しかけてきた。

 

「ハジメさん……」

「大丈夫だよ。アーヴィングさんなら勝てる」

『そうだね。ところで、僕達は何もしなくて良いの?』

「ああ。むしろ、何もしない方がいい。これはアーヴィングさんと『獄炎竜ルスム』の戦いだからな」

 

 そう言いながら二人へと視線を戻したその時、「はあっ!」という気合いのこもった声を発すると同時に、アーヴィングさんは『獄炎竜ルスム』の爪を押し退けると、大鎌を上に放り投げてから静かに目を瞑った。

 

「これで終いにしよう。『深紅裂爪(ブラッディスラスト)』!」

 

 すると、宙に浮いた大鎌は複数に分裂し、次々と『獄炎竜ルスム』の身体を切り裂いていった。そして、『獄炎竜ルスム』の身体から血が流れるのと同時に大鎌の数は増えていき、更に『獄炎竜ルスム』の身体を切り裂いていった。

 

「ぐ……あぐっ……!」

「己の血によって切り刻まれろ、『獄炎竜ルスム』!」

「……ま、まだだ! 部下達のためにもこのようなところで負けるわけには……!」

「いや、お前の沙汰は決まった。そして──」

 

 大鎌は一つに合わさり、一本の巨大な鎌になると、『獄炎竜ルスム』の頭上で振り翳された。

 

「これが最後の一撃だ」

 

 その言葉と同時に『獄炎竜ルスム』に向けて深紅の大鎌が振り下ろされ、イアが「うぅっ……!」と言いながら目を背けたその時、大鎌は寸でのところで動きを止めた。そして、それを見ながら『獄炎竜ルスム』は怒りに満ちた目でアーヴィングさんを見た。

 

「……何の真似だ、アーヴィング……!」

「……仲間が、イアがお前が傷つくのをこれ以上見たくなさそうだったからな。それに、お前の命を刈り取るのは私の本意ではない」

「なんだと……!」

「『獄炎竜ルスム』、私達と共に来い。お前とて先代の魔王様が復活したとあれば、馳せ参じないわけにはいかんだろう?」

「そんな事……!」

「……誰よりも仲間を想い、仲間が傷ついたとあれば、その敵を完膚なきまでに倒すために勇敢に戦ったお前の事だ。この気持ち、わからないわけではないだろう?」

「ぐ、ぐぐぐ……!」

 

『獄炎竜ルスム』はアーヴィングさんの言葉に唸り声を上げていたが、やがて諦めたように項垂れると、その場に崩れ落ちた。

 

「……我の負けだ、アーヴィング」

「……そうか。ハジメ、頼む」

「あ、はい」

 

 俺は『磁力』を解除した後、『獄炎竜ルスム』に近付きながらスキルを一つ作り、それを『獄炎竜ルスム』に向かって使用した。

 

「『神聖治癒(セイントヒール)』」

 

 すると、『獄炎竜ルスム』の身体は白い光に包まれ、『獄炎竜ルスム』が安らいだ表情を浮かべる中、アーヴィングさんとの戦いで負った傷がどんどん癒えていった。そして、傷が完全に癒えると、『獄炎竜ルスム』はとても驚いた様子を見せた。

 

「あそこまでの傷が一瞬にして……」

「これが私の仲間、ハジメの力だ」

「……は、はははっ! ここまでの事が出来る奴を我は相手にしていたのか。まったく……世の中というのは広いものだ」

「そうだな。さて、『獄炎竜ルスム』よ。先程は私達と共に来いと言ったが、お前はどうしたい?」

「そうだな……せっかくだ、我もお前達の旅に同行しよう。お前の言う通り、我も先代の魔王が生まれ変わったとあれば、その下に行かないわけにはいかないからな。だが、部下達は……」

 

『獄炎竜ルスム』が部下のモンスター達に視線を向けると、モンスター達は頷き合ってから『獄炎竜ルスム』に話し掛けた。

 

「俺達は大丈夫です、ルスム様」

「俺達なんかよりも先代の魔王様の方を優先してください」

「お前達……ああ、わかった。では、我が留守の間は任せたぞ」

『はい!』

 

 部下のモンスター達が同時に返事をすると、『獄炎竜ルスム』の身体が白い光に包まれ出し、その光が消えた頃には『獄炎竜ルスム』の身体はフォルと同じくらいにまで小さくなっていた。

 

「身体が小さく……」

「こうすれば、『ガルス』の住人達も驚かんだろう」

『たしかにねー。それで、『獄炎竜ルスム』はこれからはハジメが使役(テイム)してるモンスターの一体っていう扱いになるのかな?』

「いや、お前と同じで使役という形は取らないよ。『獄炎竜ルスム』さんも俺達の大切な仲間だからな」

『ふーん、そっか。でも、それじゃあクエストは達成出来ないんじゃない?』

「いや、ここに来るまでに言ったように、たぶんギルド長だって俺達がドラゴンをどうにか出来ると思ってないだろうから、仲間にしたという形でも認めてはくれると思うぜ?」

「そうですね。どうにか出来ると思ってないところに仲間にしたという報告が来れば、その人も認めざるをえないと思います」

「ああ。さて、それじゃあみんな行こうか」

「はいっ!」

『うん』

「ああ」

「うむ」

 

 そして、『獄炎竜ルスム』さんの部下のモンスター達に見送られながら、俺達は『ガルス』の街に戻るために洞窟を後にした。




政実「第8話、いかがでしたでしょうか」
創「次回はガルスの街に戻るわけだけど、一体どうなるもんかな」
政実「それは次回のお楽しみということで」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第9話 平穏

政実「どうも、敵だったキャラクターが仲間になる展開が好きな片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。確かにそういう展開って燃えるよな」
政実「うん、そうだね。ゲームなんかだとちょっと弱体化されてるけど、それでも心強い事には変わらないかな」
創「そうだな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第9話をどうぞ」


 先代の魔王の四天王である『獄炎竜ルスム』さんを仲間にした俺達は、クエストの結果を報告するため、『ガルス』の街へ向けて森の中をゆっくりと歩いていた。

 

 ……そういえば、勇者と魔王は今何をしてるのかな……。

 

 そう思った俺は『索点(ポイントサーチ)』を使って勇者と魔王の現在位置を探った。すると、勇者は生まれ故郷である『ルハラ』に、魔王は魔王城に変わらずいる事がわかった。

 

 どうやら勇者はまだ旅に出ていないみたいだ。でも、勇者がいつ旅に出るかまではわからないし、この『索点』で何度か確認はした方が良いかもな……。

 

 顎に手を当てながらそんな事を考えていた時、『そういえば』とフォルは何かを思い出した様子で声を上げたかと思うと、俺のもう片方の肩に乗る『獄炎竜ルスム』さんに声をかけた。

 

『ねえ、どうしてルスム達はあの洞窟にいたの?』

「あ、それは私も気になっていました」

「ふむ、そういえば話していなかったか。これも良い機会だ、話すとしよう。あれは先代の魔王が先代の勇者によって討ち滅ぼされた頃、我は別の任務を命じられ、この近くに部下達と共に隠れ住んでいたのだ」

「その任務っていうのは何なんですか?」

「あの部下達と共にこの近辺に小さな拠点を置き、魔王から次の任務が告げられるまで待機をしている任務だ。その頃の我は何故四天王たる我に対してそのような任務を命じたのかと思ったが、他の四天王達にも同じような任務を命じたと聞き、渋々我もその任務に就く事にした。そして、あの洞窟を拠点とし、次の任務を待っていた時に魔王が討たれたという報せを聞き、すぐに魔王城へ戻ろうと思ったが、今戻ったところで何も出来ないと感じ、そのまま洞窟に住み続けていた」

「……やっぱり、魔王が亡くなったと聞いた時は哀しかったですか?」

「……そうだな。我は四天王ではあるが、先代の魔王とは度々酒を酌み交わす仲ではあったからな」

『そっか……ところで、アーヴィングはその時何をしてたの?』

「私か。私も先代の魔王様よりその頃の人間達の生活の様子について調査をするように命じられ、各地を巡っていた」

『ふーん……そっか。話を聞く限り、先代の魔王は本当に誰も喪いたくはなかったから、アーヴィングやルスム達を勇者に会わせないためにそういう任務を命じたんだろうね』

「そうだろうな。先代の魔王様はとても心優しく、争いを好まない穏和なお方だったからな」

「けど……それなら、どうして先代の魔王は討たれないといけなかったんでしょうか……」

 

 イアが少し哀しげに呟く中、俺は自分の中にあった答えを口にした。

 

「正確なところはわからないけど、この『リューオン』に伝わる伝承のせいで魔王という存在は自分達の脅威だという認識、そして勇者によって討たれるものだという認識がその頃の人達の頭の中にあったからなんだろうな」

「恐らくハジメの言う通りだろう。先代の魔王様はこの『リューオン』を手中に収めようとはしていなかったが、それ以前の魔王は全員世界の征服を目論んでいたと聞くからな。先代の魔王様がそういうお方だと知らなければ、ただの脅威にしか見えんのだろう」

『そっかぁ……』

「まあ、その先代の魔王様よりも脅威だと思われそうな相手がここにいるのだがな」

 

 そう言いながらアーヴィングさんがチラリと俺を見ると、『獄炎竜ルスム』さんは納得顔で頷いた。

 

「そうだな。ハジメ、お前は自身の事を『ちょっと変わった事』が出来る『魔物使い』だと称していたが、あれ以外にも様々な事が出来るのだろう?」

「えっと……まあ、そうですね。『魔物使い』以外にもフォルの言葉がわかるようにしたのも俺ですし、こことは違う空間から道具を取り出す事も出来ます」

「そうか……くく、ますますお前という存在に興味が湧いてきたぞ」

「あはは……先代の魔王の四天王である『獄炎竜ルスム』さんにそう言ってもらえて光栄ですよ」

「ルスムで良いぞ。一々獄炎竜と付けるのは面倒だろうからな」

「わかりました」

 

 ルスムさんの言葉に頷きながら返事をしていたその時、「おーい!」という声が進行方向から聞こえ、立ち止まりながらゆっくりと顔を向けてみると、こちらに向かってアルフレッド達が走ってくるのが見えた。

 

「アルフレッド……それに、エスメラルダ達まで……」

「もしかして、私達を心配して来てくださったんでしょうか?」

「恐らくな」

『まあ、まったく心配は要らなかったんだけどね』

「まあな。けど、その気持ちは嬉しいよな」

「ふふ、そうですね」

 

 そんな事を話しながらアルフレッド達が近付いてくるのを待っていると、アルフレッドはエスメラルダ達と一緒に俺達の目の前で立ち止まり、少し苦しそうに息を切らしながらにっと笑った。

 

「また生きて会えたな、お前達」

「ああ、なんとかな」

「それで、クエストは──って、そこにいるのってまさか……?」

「ああ、件のドラゴンだよ。もっとも、『ガルス』の人達を怖がらせないように小さくなってもらってるけどな」

「これが例のドラゴン……」

「……む?」

「ん……アンガス、どうかしたのか?」

「いや……恐らく勘違いだと思うが、このドラゴン……先代の魔王が従えていたという四天王の『獄炎竜ルスム』に似ているような……」

「あはは、そんなまさか──」

 

 アンガスの言葉をアルフレッドが笑いながら否定しようとしたその時、「ほう……我の事を知る者がいるとはな」とルスムさんが楽しそうな声で言うと、それを聞いたアルフレッドはとても驚いた様子でルスムさんに視線を向けた。

 

「え……今、このドラゴンが喋ったのか……?」

「そうだが、『人間族』の小僧」

「というかちょっと待って……今、我の事とか言った!?」

「言ったぞ、エルフの小娘。我は先代魔王の四天王、『獄炎竜ルスム』だ」

「うそ……」

「お前達……そんな相手を使役(テイム)したのか……!?」

「いや、使役はしてないよ。ルスムさんはあくまでも同じ目的で旅をする事になった俺達の仲間だし、ルスムさんと戦って勝ったのはアーヴィングさんだからな」

「勝ったって……先代の魔王の四天王相手にか!?」

「あなた……どれだけ強いのよ……」

「さてな。だが、私よりもハジメの方が強いのは間違いないぞ」

「先代の魔王の四天王相手に勝ったアーヴィングさんよりも強いって、そんなの一発でSランク──いや、SSランク入りじゃないのか!?」

「うーん……たとえそうだとしても、これはあくまでもフォルを冒険者として認めてもらうためのクエストだったわけだし、俺達はGランクからのスタートで良いかな」

『そうだねぇ。あ、せっかくだからルスムも冒険者登録したら?』

「む、我もか?」

『うん、冒険者として認められれば色々な特典があるらしいよ?』

「ふむ、そうか……それならば我も冒険者となってみるか。何やらその方が面白そうだからな」

『あはは、だねぇ』

 

 ルスムさんとフォルが笑いながら話す中、アーヴィングさんは小さくため息をついてからアルフレッド達に話し掛けた。

 

「それで、お前達は私達を迎えに来てくれたのか?」

「あ……ああ、そうだ。お前達がギルドを出ていった後、やっぱりお前達の事が気になってさ」

「私達なんかでサポートが出来るかはわからないけど、何か出来る事はあるかもしれないって話して、私達もその洞窟に向かって出発したの」

「でも、いくら歩いても貴方達に追い付かなかった。それで、もう少し歩いて見つからなかったら、一回戻る事にしたら」

「偶然見つけたというわけじゃ」

「なるほど……」

「けど、そんなに強いんじゃあ本当に助けはいらなかったみたいだな」

「そうね。先代の魔王の四天王を相手にしてまったくの無傷で勝てる程なんだし、伝承の勇者なんて待たずに貴方達が魔王を倒しちゃえば良いんじゃないかしらね」

 

 エスメラルダが冗談交じりに言うと、それを聞いたアルフレッドはムッとした表情を浮かべた。

 

「おい、魔王を倒すのはこの俺だぞ?」

「そんな事を言う前にまずはもっと修練が必要でしょ? 魔王を倒すなら最低でもSSランクの冒険者にならないと無理よ」

「う……SSランクの冒険者って事は、ハジメくらいにはならないといけないのか……」

「あはは……俺を参考にされてもな……。あ、そういえば……SSランクの冒険者って今は何人くらいいるんだ?」

「噂ではまだ四人しかいない。でも、その人達も本当にいるのかすら怪しいと言われてる」

「SSランクというのはそれくらいなるまでが過酷じゃからな……まあ、なった後に受けられるクエストも中々の物と聞くが……」

「そうなんですか?」

「ああ。じゃが、そのクエストはギルド長達を束ねるギルドマスターからのみ受けられ、内容も他言無用だとされているため、どんな内容なのかは受けた本人達しか知らないのじゃよ」

「それくらい大変なクエストって事なんですね……」

 

 アンガスの話を聞いてイアが身体を震わせる中、俺は自分で書き上げた『勇者の戦記』の内容を想起していた。

 

 アイリスの言う通り、SSランクの冒険者はこの『リューオン』には四人しかいない。そしてその四人は、いずれ勇者の仲間になり、最終的には勇者と一緒に魔王を討伐する。つまり、勇者の魔王討伐阻止を目的にする俺達にとっては、とても強力な敵になる。『創世者(クリエイター)』である俺や先代の魔王の部下だったアーヴィングさんとルスムさんならまだ問題はないけど、今のイアとフォルにその相手を務めさせるのはとても無理だ。

 

「……魔王討伐の阻止、先代の魔王の生まれ変わりの発見の他にSSランクへの到達も俺達の目標になったな……」

「ん、何か言ったか?」

「……いいや、何でもない。さて、クエストの結果を伝えないといけないし、そろそろまた歩き始めようぜ」

 

 その言葉に全員が頷いた後、俺達は色々な話をしながら『ガルス』の街に向けて再び歩き始めた。




政実「第9話、いかがでしたでしょうか」
創「次回はガルス帰還回だけど、フォルはともかくルスムさんはどんな反応をされるかな」
政実「まあそれは、次回のお楽しみということで」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて、それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第10話 再び冒険者ギルドへ

政実「どうも、好きな属性は光属性の片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。光属性か……ゲームなんかだと勇者や聖騎士がよく使うイメージだな」
政実「そうだね。そして対になる闇属性は魔王や暗黒騎士みたいなのが使うイメージだね」
創「そうだな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第10話をどうぞ」


 アルフレッド達と合流してから数分後、俺達は『ガルス』へと到着した。そして、冒険者ギルドへ向かって歩いていた時、街の人達の視線がルスムさんに注がれているのに気付いた。

 

「……やっぱり、身体が小さくても、ドラゴンを連れてるのは珍しいのかな」

「そうだろうな」

『その上、その正体が『獄炎竜ルスム』だと知ったら、街の人達はどう思うんだろうね』

「大層驚く……いや、それよりも恐怖を抱くだろうな」

「それはそうだろ。だって、ルスムは先代の魔王の四天王なんだろ? 事情を知らなきゃ、怖くなるのも当然だよ」

「そうね……まあでも、アーヴィングとハジメはルスムよりも更に強いわけだし、それを聞けばみんなも安心するでしょ」

「そう……だと思う」

「まあ、一番驚くのはハジメ達にクエストを受けさせたギルド長じゃな。力が未知数だったとはいえ、冒険者見習いを『獄炎竜ルスム』と戦わせたわけじゃからな」

「たしかに……」

 

 そんな会話を交わしながら歩く事更に数分、冒険者ギルドに到着した後、ドアをゆっくりと開けた。すると、ギルドにいた冒険者達の視線が一斉に俺達へ注がれ、その中を歩いていくと、受付のお姉さんは驚きと嬉しさが入り交じったような表情で話しかけてきた。

 

「皆さん! よくぞ御無事で──って、その肩のところにいるドラゴンはもしかして……!」

「はい。今は小さくなってもらってますけど、俺達が受けたクエストの討伐または使役目標になっていたドラゴンです」

「やっぱり! 一緒にいるという事は、使役に成功したんですね!」

「あはは……正確には使役じゃなく、目標が一致した事で仲間になってもらったんですけどね」

「それでもきっと大丈夫ですよ! 皆さんが出発した後、ギルド長は討伐または使役が出来なくてもドラゴンの情報を持ち帰って来られればクエスト達成にしても良いと言っていましたし」

「情報を……ハジメさんが予想していた通りですね!」

「そうだな。それで、クエスト結果の報告はどこで……」

「ああ、それなら──」

 

 そう受付のお姉さんが言ったその時だった。

 

「……その報告、私が受けましょう」

 

 そう言いながら奥から長い銀髪の『人間族』の女性が姿を現すと、受付のお姉さんはとても驚いた様子を見せた。

 

「グレイスギルド長!」

「この人が……ここのギルドのギルド長……」

「はい。私がこの『ガルス』の冒険者ギルドのギルド長であるグレイス・ドイルです。よろしくお願いします」

「あ、はい……こちらこそよろしくお願いします」

「それで、例のクエストを達成したのですね?」

『そうだよ。まあ、他にもドラゴンがいるって言うなら、もしかしたらそっちなのかもしれないけど』

「いえ、このドラゴンはこのギルドの情報屋や冒険者達から報告されている姿とほぼ一致するので間違いないでしょう。なので、あなた方が受注したクエストは達成とします。おめでとうございます」

「クエスト達成……という事は、フォルさんも一緒に冒険者になれるんですね!」

『うん、そうだね。あ、そうだ……ねえ、グレイスギルド長』

「はい、何でしょうか?」

『このルスムも冒険者にしてもらう事って出来るのかな?』

 

 グレイスギルド長に対してフォルが問いかけると、受付のお姉さんはルスムさんを見ながら嬉しそうな様子を見せた。

 

「……あ、やっぱりそのドラゴンってあの『獄炎竜ルスム』ですよね!」

「そうですけど……やっぱりというのは?」

「私、昔からモンスターに興味があって、小さい頃は『魔物使い』になってドラゴンを使役するのが夢で、その過程で魔王の部下なんかも結構調べていたんです。まあ、『魔物使い』の適正は無かったので、今はこうして適正があった『鑑定士』の称号を装備しながら冒険者ギルドの受付をしているんですけどね」

「そうだったんですね」

「はい。それにしても……あの『獄炎竜ルスム』さえも仲間にしてしまうなんて、皆さんは本当にお強いんですね」

『まあ、その中でもハジメとアーヴィングは圧倒的な強さを持ってるよ。ハジメは一瞬でルスムの部下を無力化したし、アーヴィングは一人でルスムを倒したからね』

「……そうなんですね」

 

 フォルの話を聞くと、受付のお姉さんは楽しそうな笑みを浮かべ、それを見たグレイスギルド長は小さくため息をついてから受付のお姉さんに話しかけた。

 

「アナ、久しぶりに強い人に出会えて嬉しいのはわかりますが、まずは仕事をして下さい」

「……あ、わかりました。それでは、早速冒険者ライセンスの発行に移りますね」

「はい」

「まず、冒険者ライセンスについてですが、これは『リューオン』の冒険者であれば誰もが持っている物で、これを提示すれば冒険者ギルドと提携している宿屋を無料で利用出来たり、武器屋などで幾らかの値引きを受ける事が出来ます」

「それはありがたいですけど、宿屋を無料で利用出来たら、宿屋は儲からないんじゃ……」

「ああ、それなら大丈夫です。その分の代金はそこにある冒険者ギルドから支払われているので、冒険者の皆さんは安心してその制度を利用してください」

「なるほどな」

「それでは、次に冒険者のランクについてです」

『ランク……たしか、GからSSまであるんだっけ?』

「その通りです。冒険者登録を済ませたら、まずはGランクからのスタートになります。Gランクで受けられるクエストは本当に簡単な物ばかりですが、それらを一定数こなす事で次のFランクに上がるための昇級クエストを受ける事が出来ます。そして、その昇級クエストを達成出来れば、皆さんはFランクへと上がる事が出来ます」

「ランクが上がる事で何か良い事ってあるんですか?」

「はい、それはもちろんです。先程お話しした値引きの額が上がったり、他の冒険者からのスカウトがあったりしますし、現状四人しかいないSSランクになれば、グレイスギルド長達よりも上のギルドマスターからの依頼を受けるなんて事もあるそうです」

「SSランク……やっぱり、目指すならそこかな」

「ふふ、それならより一層頑張らないとですね。さて、それではそろそろ登録に移りましょうか。まずは、そこにあるオーブに順番に手を触れて頂けますか?」

 

 そう言いながらアナさんが手で指し示した方を見ると、そこには白紙のライセンスと紫色の台座の上に置かれた透明なオーブがあった。そして、俺達がそのオーブの前に立つと、アナさんはワクワクした様子で説明を始めた。

 

「それは録名殊(レコードオーブ)という物で、それに手を触れて頂く事で、皆さんの魂から情報を収集し、魔力で接続されている白紙のライセンスに収集した情報が浮かび上がるという仕組みです」

「その収集される情報というのは、具体的にはどういったものなんですか?」

「まずは皆さんのお名前や生年月日、現在装備している称号や主に使う能力、後は腕力や魔力などの強さを文字で表記した物などが表示されます。因みに、ライセンスを手に持ちながら『全表示(ディスプレイ)』と言って頂ければ、省略されたスキルなども確認出来ます」

「なるほど……」

 

 ……そうなるとちょっとマズイな。本来存在しないはずの『創世神(クリエイター)』の称号や『魔物使い』と一緒に装備している『剣皇(ソードマスター)』の称号も一緒に表示される事になるから、いらない混乱を招く事になりかねないよな……。

 

 そう思いながらどうしようかと考え始めた時、頭の中にクルスの声が響いてきた。

 

『マスター幾世創、『創世神』と『剣皇』の称号、『創世』や『剣舞』のスキルは、マスター幾世創のみが有する物のため、マスター幾世創がその存在を話すか上位の『鑑定士』が鑑定をしなければ見られる事はない。安心されたし』

「そっか……わざわざありがとうな、クルス」

 

 誰にも聞こえない程度の声でクルスにお礼を言っていると、アナさんはにこりと笑いながら俺達に話しかけてきた。

 

「それでは、まずはどなたから登録をしますか?」

「そうだな……それじゃあ、俺からにします」

「はい、わかりました。それでは、録名殊に触れてください」

「はい」

 

 返事をした後、俺が録名殊に触れると、透明だった録名殊は虹色に輝いた。

 

「虹色……」

「録名殊が虹色に輝くなんて……グレイスギルド長、こんな事ってあるんですか?」

「いえ、私も見た事はありませんね……」

「あの……虹色に輝くのはそんなに変わった事なんですか?」

「はい。本来、録名殊はその人が一番適正を持つ魔力の色に反応する物です。ですが、虹色となると……もしかしたら歴代の勇者が使ったとされる神聖属性や歴代の魔王が使ったとされる暗黒属性まで使えるのかもしれません」

 

 そのアナさんの言葉を聞いて周りがざわめく中、アーヴィングさんは俺を見ながら小さくため息をついた。

 

「……やれやれ、お前の事は規格外な存在だと思っていたが、まさかそこまでとはな……」

「まったくだな……」

「あはは……自分でも正直驚いてるんですけどね……」

「まあ、お前ならばその力を悪事には使わんだろうが、自分が有するのは世界を簡単に掌握出来る力だという事は忘れるなよ?」

「……はい、もちろんです」

 

 アーヴィングさんの言葉に返事をした後、俺は俺の情報が浮かび上がった冒険者ライセンスを手に取った。

 

 アーヴィングさんの言う通りだ。強い力を持つという事は、それ相応の責任が伴うわけだし、この力に溺れる事無く、みんなを守るためや俺の目的のためにだけこの力は使わないと。

 

 自分の中に流れる魔力や『創世神』の称号で得た『創世』の強さを改めて噛み締めながら俺はそう誓った。そして、イアやアーヴィングさんの冒険者登録を終えた後、俺達はアルフレッド達と一緒に冒険者ギルドから出た。すると、空はすっかり夕焼け空になっていた。

 

 ……さて、そろそろ今日の宿を探さないとだな。

 

「なあ、アルフレッド。この街の宿屋ってどこにあるんだ?」

「ん? ああ、それなら案内してやるよ。俺達もそろそろ宿屋に戻ろうとしてたしな」

「そっか。それじゃあ頼む」

「おう!」

 

 そして、アルフレッドの後に続いて、俺達は『ガルス』の街の宿屋に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

「……ふう、今日は本当に色々な事があったなぁ……」

 

 その日の夜、入浴や夕食を済ませた後、俺は『創世』で出した寝巻き姿で部屋に置かれたベッドに腰掛けながら独り言ちた。突然の異世界転移に仲間との出会いと今日だけでもかなり多くの出来事があり、そのせいか転移直後に感じた不安などはいつの間にか無くなっていた。

 

 ……まあ、こうなった以上、覚悟を決めて魔王の討伐阻止を果たすまで頑張るしかないな。

 

「よし……頑張ろう」

 

 拳を軽く握りながら小さな声で独り言ちていたその時、部屋のドアがガチャリと音を立てながら開くと、フォルを頭に乗せたアルフレッドがゆっくりと入ってきた。

 

「アルフレッド、フォル、おかえり」

「おう、ただいま!」

『アーヴィング達成人組は食堂で酒盛り、イア達女の子組は部屋で楽しそうに話をしてたよ』

「そっか」

「ところで、ハジメは何をしてたんだ?」

「ん……今日一日の事を思い出してた。フォル達との出会いやルスムさん達との対決まで色々な事があったからさ」

「ははっ、なるほどな。そういえば、明日からはガンガン依頼を受けていくんだろ?」

「そのつもりだ」

「そっか……それなら、明日の朝にちょっと付き合ってほしいんだけど……良いか?」

「別に良いけど……」

『どこかに一緒に行こうとか?』

「そんなとこだ。さて……と、それじゃあその用事のためにそろそろ寝ようぜ」

「ん……そうだな」

『さんせーい……』

 

 そして、魔力で動いている照明を消した後、俺とアルフレッドはそれぞれのベッドに入り、フォルは俺の枕元で静かに目を瞑った。

 

「それじゃあおやすみー……」

「ん、おやすみ」

『おやすみー』

 

 返事をした後、俺は静かに目を瞑った。その瞬間、意識はスーッと遠退いていき、その内に俺は眠りについた。




政実「第10話、いかがでしたでしょうか」
創「これで冒険者になれたわけだけど、アルフレッドの用事が気になるところだな」
政実「まあ、それは次回のお楽しみということで」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第11話 交わる剣

政実「どうも、一対一の決闘というものに憧れがある片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。一対一か……物語だと良くあるやつだな」
政実「そうだね。この作品でもそういった場面を多く入れていくつもりだよ」
創「わかった。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第11話をどうぞ」


 翌日の早朝、着替えを済ませた後、俺はフォルを肩に乗せてアルフレッドの後に続いて街の中を歩いていた。

 

「んー! 今日も良い天気だな!」

「そうだな」

『ふわあ……こんなに良い天気だと思わず寝ちゃいそうだね』

「へへ、そうだな!」

「それで、俺達はどこに向かってるんだ?」

「この街の広場だよ」

『広場?』

「ああ。今なら誰もいないはずだから、そこで頼みたい事があるんだよ」

「頼みたい事……それって何なんだ?」

「それは着いてからのお楽しみだよ──と、着いたぜ。ここがこの『ガルス』の中心にある広場だ」

「ここが……」

 

 そこに広がっていたのは、大きな噴水が中心に置かれたとても大きな広場だった。

 

『へー……結構な広さだね』

「ここでは色んな露店商が店を開いてたり、旅芸人が興行をしたりしてるんだ」

「なるほどな……それで、頼みたい事って何なんだ?」

「それはな……」

 

 すると、アルフレッドは背中に差していたロングソードを右手、盾を左手に持つと、ロングソードの切っ先を俺に向けてきた。

 

「ここで俺と一対一で戦ってほしいんだ」

「お前と一対一で……」

『へえ……面白そうだけど、何でそんな事を考えたの?』

「……お前達も知ってる通り、俺の夢は魔王を倒して勇者になる事だ。でも、その夢を叶えるにはもっと強くならないといけない。少なくとも、お前達に勝てるくらいには、な」

「……まあ、そうかもな」

『魔王に勝てるかはさておき、ハジメなら魔王の四天王相手くらいなら余裕そうだからね』

「ああ。だから、お前と一対一で戦う事で、今の俺の力を試したいんだ。もちろん、勝つ気ではいるけどな」

「……そうか」

「それで、どうだ? この勝負、受けてもらえるか?」

「……良いぜ。その勝負、受けてたつ!」

『まあ、そうだろうね。それじゃあ僕は、湖の特等席から観戦をさせてもらうよ』

「それは良いけど、振り落とされるなよ?」

『それは大丈夫だよ。しっかりと掴まってるからさ』

「わかった。それじゃあ早速……」

「ああ、始めるとしようぜ!」

「ああ」

 

 そして、俺が『異空(アイテムルーム)』からロングソードを取り出すと、アルフレッドは一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「なるほど……武器を持ち歩いてないのはそういうわけか……!」

「まあ、やろうと思えば拳でも戦えるけど、せっかくなら剣を交えたいからな」

『なんだったら、ドラゴンにもなれるしね』

「ドラゴンにもって……それ、本当か?」

「ああ。けど、今やったら確実に騒ぎになるから、やらないけどな」

「ははっ、そうだな。さて、それじゃあ……行くぜ!」

 

 アルフレッドは駆け出すと、そのままロングソードを斜めに振るってきた。

 

「はあっ!」

「くっ……!」

 

 俺はすぐにそれを受け止めた後、『創世』で称号を一つ創り出し、それを装備した。そして、そのままアルフレッドの足元にもう片方の手を向けた。

 

「水よ吹き上がれ! 『水魔法(アクア)』!」

 

『水魔法』により地面から水が吹き上がろうとした瞬間、アルフレッドは「うおっ!?」と言いながらすぐに後ろへ跳びすさると、その場には勢いよく水が吹き上がった。

 

「……まあ、このくらいなら避けられるか」

「……はは、と言ってもけっこうギリギリだったけどな」

「そうかもな。けど、次はどうかな?」

 

 そう言いながら俺はロングソードを一度『異空』でしまい、身体の中の魔力が両手に集まっていくようなイメージを頭の中でした後、両手をアルフレッドに向けた。

 

「聖なる炎よ、ここに来たれ! 『白焔魔法(セイクリッドフレイム)』! 並びに邪なる雷よ、我が敵を貫け! 『黒雷魔法(ダークライトニング)』!」

 

 その瞬間、アルフレッドの足元から白い火柱が上がり、上空から黒い雷がアルフレッドに向かって落ちた。

 

「なっ──ぐあぁーっ!!」

 

 白焔と黒雷、二つの魔法を受け、アルフレッドの顔が苦痛に歪む中、フォルはそれを見ながら俺に話し掛けてきた。

 

『おおー、大分ヤバそうな魔法が出たけど、これって神聖属性の魔法と暗黒属性の魔法って奴?』

「……まあ、そんなとこだな。けど、これでも結構手加減はしてるぜ?」

『手加減をしてこれって……相変わらずハジメは規格外だね』

「そうかもな。さて……次の準備をするか」

 

 そして、『創世』のスキルで剣を一本創りあげた後、ロングソードを杖のようにする事でどうにか立っているアルフレッドに声を掛けた。

 

「アルフレッド、まだやるか?」

「はあ、はあ……やるに決まってるだろ……! 勇者を目指す者として、これくらいはどうって事無いって言えないといけないからな……!」

「わかった。けど、無理だけはするなよ」

 

 ……少しやりすぎたな。仕方ない。ここは一気に決めて、さっさとアルフレッドの回復をしてやるか。

 

 そう決めた後、俺は剣の柄に填められたオーブに手を翳した。

 

「……炎、水、雷、風、氷、そして土。六属性の力をここに宿し、今全てを切り裂く!」

 

 そう言い終わり、オーブがそれらの色に染まった頃、「はあぁーっ!!」と言いながらアルフレッドがロングソードを振り上げつつ向かってきた。そして、アルフレッドの剣が俺に向かって振り下ろされようとしたその瞬間、俺は小さく息を吐きながらアルフレッドの剣を受け止めるように剣を振るった。

 

「オールエレメンタルスラッシュ!」

「ぐうっ!?」

 

 その瞬間、アルフレッドのロングソードの刀身は真っ二つになり、切り離された方はカランという音を立てながら少し離れたところに落ちた。

 

「俺の剣が……こんな簡単に斬られるなんて……」

「……ここまでだな。さすがに剣がそんな状態で勝負をする気にはならないだろ?」

「……そうだな。俺自身も結構ギリギリだし、これ以上は動けないよ……」

「そうだと思った。それじゃあ少しだけ待っててくれ」

 

 そう言った後、俺は創り上げた『精霊剣レインボーソード』を『異空』でしまい、苦しそうに息を切らすアルフレッドに手を翳した。

 

「『神聖治癒(セイントヒール)』」

「……何だ……? 疲れや苦しさが急に無くなっていく……?」

『この『神聖治癒』は大分傷ついた相手でも一瞬で治しちゃう魔法みたいだからね。アルフレッドもそろそろ楽になったでしょ?』

「……ああ、もうすっかり元気だ!」

「それなら良かった。後は……」

 

 俺は飛んでいったロングソードの片割れに視線を向けた後、アルフレッドに声を掛けた。

 

「アルフレッド、ちょっとそれを貸してもらって良いか?」

「良いけど……何する気だ?」

「んー……さっき、真っ二つにしちゃったお詫びに、そのロングソードを新しい剣にしてやろうかなと思って」

「俺のロングソードが新しい剣に……」

 

 アルフレッドが少し気が進まないような表情を浮かべていると、フォルはそれを見て首を傾げるかのように身体を曲げた。

 

『あれ、何だか不満?』

「不満じゃないけどさ……なあ、ロングソードを少し強化した状態で元に戻すみたいなのって出来るかな?」

「ああ、もちろん」

「それじゃあそれで頼む。そのロングソード、実はアイリスから貰った物だからさ」

「アイリスから?」

「ああ。まだ故郷にいた頃、アイツから貰った物で、俺にとっては大切な物なんだ」

「そっか……それなら、尚更悪い事したな。本当にごめん」

「良いよ。旅の中でいつかはこうなると思ってたからさ」

「アルフレッド……」

 

 ……よし、こうなったらやりすぎにならない程度に強化して返してやろう。

 

「『錬成(フォージング)』」

 

 その言葉と同時に、アルフレッドが持つ部分と切り離された部分は白い光を放ち出すと、切り離された部分は独りでに動き出しながら白い小さな光の玉へと変わった。そして、白い小さな光の玉はアルフレッドが持つ部分にくっつくと、ぱあっと強い光を放ち、光が消えた頃にはアルフレッドの手には真っ二つになる前のロングソードが握られていた。

 

「……よし、これで良いな」

「……すげぇ、本当に元通りだ……!」

「けど、その強さは段違いだ。そうだな……試しに今から出す物を斬ってみろよ」

 

 そう言いながら俺が『創世』のスキルで巨大な岩を創り上げると、アルフレッドはとても驚いた様子を見せた。

 

「え、ええっ!?」

『おおー、またでっかい岩が出てきたねー』

「いやいや、そんなのんびりと言えるような大きさじゃないって! というか、どうやってこんな岩を──」

「俺は『ちょっと変わった事』が出来る『魔物使い』、だからな」

「……そうだったな」

「さあ、この岩を斬ってみろよ。今のその剣なら簡単に斬れるはずだからさ」

「……こんなに大きな岩を……簡単に……」

 

 アルフレッドは手の中のロングソードを見つめると、覚悟を決めた様子でロングソードを握り直した。

 

「そこまで言うならやってやるよ。けど、あまりに凄すぎて腰抜かすなよ!」

 

 アルフレッドは剣を構えると、目を瞑りながら意識を集中させた。そして、目をカッと開くと、「てやあぁーっ!」と気合いのこもった声を上げながら剣を振り下ろした。すると、岩はいとも簡単に切り裂かれた。

 

『おおー』

「……出来た。はは、すげぇ……こんなに大きな岩を簡単に斬れた……!」

「そのロングソードなら、相手の武器も簡単に斬れるはずだ。それと……」

 

 そう言いながら俺はアルフレッドの額に手を当て、『付与(ペースト)』のスキルを発動した。すると、アルフレッドは「ぐ……!?」と苦しそうな声を上げ、それを見たフォルは少し眉を潜めた。

 

『なんだか苦しそうだけど、何をしてるの?』

「ちょっとな。けど、そろそろ良いはずだ」

 

 そして、俺が額から手を離すと、アルフレッドは滝のような汗を流しながら苦しそうに息を切らし始めた。

 

「はあ、はあ……なんだ、これ……」

「さっきまで無かったはずの力が巡ってる感じがするだろ?」

「あ、ああ……でも、これって……?」

「魔力だよ」

「魔力……?」

「それと、新しい称号があるはずだから、装備してみろよ」

「新しい称号……って、これは『魔法剣士(マジックブレイダー)』の称号じゃないか?!」

「ああ。お前の中に魔力を宿したついでに付与したんだ」

「称号の付与って……ハジメ、お前は本当に何者なんだ?」

「俺は……ただの『魔物使い』だよ。『ちょっと変わった事』出来るだけのな」

 

 そう言うと、アルフレッドは一瞬ポカーンとしたものの、すぐに愉快そうに笑い始めた。

 

「……はは、はははっ! そうだよな、お前は『ちょっと変わった事』が出来る『魔物使い』だもんな!」

「ああ。まあ、これでお前も色々な魔法や『魔法剣』が使えるようになった。その力、大事に使ってくれよ?」

「ああ、もちろんだ」

 

 そして、俺とアルフレッドが握手を交わしていたその時、「見事ですね」という声が聞こえ、俺達は揃ってそちらに視線を向けた。すると、そこにいたのはアナさんとグレイスギルド長だった。

 

「アナさん……」

「グレイスギルド長まで……もしかして、さっきの俺達の戦いを見ていたんですか?」

「はい、その通りです」

「ふふ……さっきの戦いを見て、ますますハジメさんに興味が湧きましたよ」

「俺に……ですか?」

「はい。録名殊を虹色に光らせるその不思議なところ、そして──」

 

 アナさんは一度言葉を切ると、目をキラリと光らせてから俺達が驚く事になる言葉を口にした。

 

「その『()()()』という謎の称号に」




政実「第11話、いかがでしたでしょうか」
創「アナさんがなんで俺が創世神の称号を持ってるのかわかったのは、次回で明らかになるんだろうけど、それ以前の話の中の情報だけでも何となくはわかるんだよな?」
政実「そうだね。具体的には前回かな」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第12話 真実を語る時

政実「どうも、主人公についての秘密が明らかになるシーンが結構好きな片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。まあ、定番ではあるけど、盛り上がるところではあるよな」
政実「そうだね。まあ、主人公以外の仲間や敵の過去や隠していた秘密が明らかになるシーンももちろん好きだけどね」
創「だろうな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第12話をどうぞ」


「……え?」

 

 アナさんの口から飛び出した言葉に俺が疑問の声を上げていると、隣にいるアルフレッドが不思議そうに首を傾げた。

 

「『創世神』……? 聞いた事が無い称号だな」

『そうだね。でも、名前的にこの世界を創り出した神様が持ってそうな称号だけど……』

「……あ、たしかに──って、ちょっと待てよ! それだと、ハジメはこの『リューオン』を創った神様って事になるぞ!?」

 

 アルフレッドがとても驚いた様子で俺を見たが、フォルは特に驚いた様子を見せずにアルフレッドの言葉に答えた。

 

『まあ、そうだね。でも、僕的にはそんなに不思議では無いかな?』

「え、何でだよ?」

『だって、ハジメは僕達が持っていなかった称号をいとも簡単に付与したり、折れた剣を打ち直す事なく強化して直して見せたんだよ? それなら、神様だって言われてもあまり驚かないでしょ』

「それは……まあ……」

『……それで、実際のところはどうなの?』

 

 そうフォルから訊かれ、アルフレッド達の視線が俺に集まる中、俺は小さくため息をついてから頷いた。

 

「はあ……そうだよ。この世界、『リューオン』は俺が創り上げた世界だ」

「って事は……ハジメは本当に神様なのか?」

「この世界の住人から見ればそうなるんだろうけど、俺自身はただの人間だよ。ある目的のために旅をするただの人間だ」

「目的……そういえば、ハジメの旅の目的ってまだ聞いた事無かったな」

「ああ、それは──」

 

 俺がこの世界を旅している理由を話そうとしたその時、辺りから『ガルス』の人達が集まってくる声が聞こえだした。

 

「……仕方ない。他のみんなにも説明したいし、話の続きは宿屋でする事にしよう」

「ああ、わかった。けど、そんなに他の人には聞かれたくない事なのか?」

「うーん……まあ、そうかな」

「わかった。えーと、アナさんとグレイスギルド長はどうしますか?」

 

 そのアルフレッドからの問いかけにアナさんとグレイスギルド長は顔を見合わせて頷き合ってから答えた。

 

「私達も同行します」

「謎の称号を持つハジメさんの事も気になりますが、その旅の目的も気になりますから」

「わかりました。よし、それじゃあ宿屋に戻るか」

 

 それに対して頷いた後、俺達は揃って宿屋へ向けて歩いていった。

 

 

 

 

 宿屋に戻ってみると、宿屋の入り口ではイアがとても心配そうな顔をしながら椅子に座っており、俺達の姿を見ると、安心した様子で椅子から立ち上がり、急ぎ足で俺達に近づいてきた。

 

「皆さん……おかえりなさい!」

「ああ、ただいま、イア。その様子だと……心配をかけちゃったみたいだな」

『ただいま、イア。でも、僕達の部屋に置き手紙を置いてなかった?』

「はい、置いてありました。けれど……その御用事の途中で何かあったらどうしようと思っていたら、だんだん不安になって……」

「……そっか。心配してくれてありがとうな、イア」

 

 そう言いながら俺がイアの頭を撫でると、イアは一瞬驚いた様子を見せたが、すぐにとても嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「えへへ……ハジメさんの手、とても暖かくてホッとします……」

「それならよかった。それで、イア。他のみんなは?」

「皆さん、お部屋にいますよ」

「そっかぁ……良いなあ、ハジメは。こんなに可愛い子に出迎えてもらってさ」

 

 アルフレッドが心底羨ましそうに言うと、それを聞いたイアは急に顔を真っ赤にし始めた。

 

「か、可愛いって……! そ、そんな事ありませんよ……!」

「いや、イアは普通に可愛いと思うけど?」

「ハ、ハジメさん……!?」

「イア、イアはもっと自分の容姿や性格に自信を持って良いと思うぞ? その烏の濡れ羽色の長い髪も綺麗だし、笑った時の顔もとても愛らしい。それに今みたいに身を案じて心配してくれる程の気の使い方も出来るし、正直イアが恋人だったらどんなに良いかって思うくらいだ」

「わ、私が……ハジメさんの……!?」

 

 イアの顔が更に赤みを増す中、それを聞いていたフォルとアルフレッドは同時にため息をついた。

 

『……ねえ、ハジメ。もはや、それは告白だよね』

「俺もそう思うぞ、ハジメ。というか、何でそんな言葉がすらすらと出てくるんだ?」

「何でって……思った事を言っただけだぞ? まあ……言ってる時は流石に気恥ずかしさがあったけどさ」

『そっか……まあ、それはさておき。イア、嬉しさと恥ずかしさを感じてるのも良いけど、まずはみんなを僕達の部屋まで呼んできてくれる?』

「……はっ! わ、わかりました!」

 

 我に返ったイアが急いで他のみんなを呼びに行った後、俺達は俺やアルフレッドが泊まっている部屋へと向かった。そして部屋に着くと、アナさんはクスクスと笑いながら俺に話しかけてきた。

 

「それにしても……ハジメさん、イアさんからとても愛されてますね。正直、羨ましいくらいでしたよ」

「イアとはまだ昨日出会ったばかりなんですけどね。あそこまで想ってもらえてるのは、本当に嬉しい限りですよ」

『まあ、イアから見たらハジメは奴隷商の魔の手から救ってくれた勇者みたいなものだからね。そりゃあ恋い慕うのもわからなくはないよ』

 

 フォルの発言を聞くと、グレイスギルド長は眉を潜めた。

 

「奴隷商……ですか?」

「はい。昨日追い払ってからはどこにいるかわからないですが、イアは元々奴隷だったんです。それで、イアが逃げているところに偶然俺とフォルが出会って、奴隷商と用心棒みたいな奴を追い払ってイアを仲間に加えたんです」

「なるほど……という事は、その奴隷商達はまだ近くにいるかもしれませんし、もしそれらしい姿を見かけたら、クエストの一つとして加えるのも良いかもしれませんね」

 

 グレイスギルド長が顎に手を当てながらそう言っていた時、「皆さん、お待たせしました」という声が聞こえ、俺達は揃ってそちらに顔を向けた。そして、アーヴィングさん達が揃っているのを確認していると、アーヴィングさんはグレイスギルド長達の姿を見て、少し驚いた様子を見せた。

 

「……ほう、ギルド長までいるとは、余程重要な話でもあるのか?」

「まあ、たしかにそうですが、正確にはハジメさんからお話があります」

「ハジメから……?」

「はい、実は──」

 

 俺は自分が異世界から来た事や『創世神』の称号などの事、そしてこの『リューオン』は俺が書いた『勇者の戦記』の舞台である事を話した。すると、イアやエスメラルダはとても驚いた様子だったが、アーヴィングさん達はフォルのように特に驚いた様子を見せなかった。

 

「『創世神』の称号に『創世』の能力……なるほど、それがお前の『ちょっと変わった事』の正体だったか」

「この世界を創り出した神……くく、なるほど。道理で勝てないわけだ」

「あはは……」

「でも、どうしてこの世界に来たのかはわからないのよね?」

 

 そのエスメラルダからの問いかけに俺はコクリと頷いた。

 

「ああ、それはまったく。でも、こうして転移してきたからには、何か達成しないといけないんだと思うし、とりあえず旅の目標の達成を目指しながらそれは見つけていくよ」

「ハジメの旅の目標……現在の魔王を勇者が討伐するのを阻止する事、か……」

「ああ。俺が書いた物語だと、魔王を討伐させた事で主人公である勇者に色々と悩ませてしまった。けど、まだ勇者が魔王と出会っていない今だからこそそれを阻止したいんだ」

「なるほどな……でも、勇者と魔王が今どこにいるのかはわかるのか?」

「わかるぞ? スキルの内の一つ、『索点』を使えば、探したい存在が今どこにいるのかを瞬時に知る事が出来るんだ」

「おいおい、そんな事まで出来るのかよ……!」

 

 アルフレッドが心から驚いた様子を見せていると、「それなら……」とアーヴィングさんは期待を込めた視線を俺に向け始めた。

 

「ハジメ、先代の魔王様が生まれ変わった存在がどこにいらっしゃるかもわかるのか?」

「えっと……たぶんですが、わかると思います。ただ、まだ目覚めていない場合は見つけられないかもしれませんが……」

「そうか……わかった、もし万策尽きた時は頼らせてもらう」

「わかりました」

 

 アーヴィングさんの言葉に頷きながら答えていると、アナさんはクスクスと笑いながらアーヴィングさんに声を掛けた。

 

「やはり、先代の魔王の側近としては自分の主の居所が気になるんですね」

「そうだが……まさか、その情報は私を鑑定して得たのか?」

「いいえ。昨日もお話しした通り、私は魔王の部下も結構調べていたので、アーヴィングさんの事も知ってたんです。まあ、その本人と会う事になるとは思っていませんでしたが……」

「そうか。だが、ハジメの『創世神』を探り当てたのは、『鑑定(アプレイズル)』の能力によるものなのだろう?」

 

 アーヴィングさんの問いかけにアナさんは静かに頷いた。

 

「はい。私は『鑑定士』の中でも上位に位置するので、『鑑定』のスキルで様々な物が見られるんです」

「そういえば……この『リューオン』に来てからずっと声だけでサポートをしてくれてるクルスも上位の『鑑定士』なら見られるって言ってたな……」

「あ、そうなんですね。まあ、私がアーヴィングさんとルスムさんの事を知っていた理由はそれだけじゃないんですけどね」

「……というと?」

 

 イアが首を傾げながら訊くと、アナさんはアーヴィングさんとルスムさんを見ながらある名前を口にした。

 

「『氷魔姫ニヴル』、この名前に聞き覚えはありますよね?」

「……もちろんだ」

「我と同じ先代の魔王の四天王の一人だが……まさかお主は奴の関係者か?」

「はい、そうなんですが……」

 

 アナさんはチラリと時計を見ると、少し残念そうな顔をした。

 

「……そろそろ仕事の時間みたいですね。皆さん、この話の続きは今日の夕方頃でも良いですか?」

「あ、はい……」

「もちろん、構わん」

「ありがとうございます。それじゃあ、行きましょうか、グレイスギルド長」

「ええ。では、皆さん。また後程」

 

 そして、アナさんとグレイスギルド長が宿屋を去っていった後、アルフレッドは不満そうな表情を浮かべた。

 

「うぅー……あんな話の切られ方したら、余計に気になるってぇ……」

「あはは、まあな。けど、今日の夕方にはわかるわけだし、その時の楽しみにしとけよ」

「……はあ、そうだな。それじゃあ俺達もクエストを受けるためにそろそろ食堂に行くか」

「ああ」

 

 アルフレッドの言葉に返事をし、アルフレッド達は食堂に行くために部屋を出ていった。そして、同じように食堂に行くために歩き始めたその時、「ハジメ」とアーヴィングさんから声を掛けられた。

 

「はい、何ですか?」

「お前が何であろうとお前は私達の仲間だ。それだけは忘れるなよ?」

「え……」

「アーヴィングさんの言う通りです! ハジメさんはとても大好きな人で、大切な仲間です!」

「イア程真っ直ぐな言葉を言う気は無いが、お前が仲間だという事は変わらん。それは約束しよう」

『むしろ、もっと頼りたくなるくらいだけど、それだとハジメが潰れちゃうからね。ハジメも何かあったら僕達を遠慮無く頼ってよ?』

「みんな……」

 

 恐らくだけど、俺がみんなに『創世神』の事などを言わなかったのは、それを知られたらみんなが離れていくと心の奥底で思っていたからだと思う。でも、みんなはそれを知ってもなお俺の傍にいてくれて、そういう言葉を掛けてくれる。こんなにも嬉しい事はたぶん今まで無かったと思う。

 

 このみんなとなら、魔王の討伐阻止も夢じゃないし、どこまでも行ける気がするな……。

 

「みんな、本当にありがとう。そして、改めてこれからよろしくな」

「はい!」

「「うむ」」

『はいはーい』

 

 みんなの返事に対して頷いた後、俺達は揃って食堂へと向かった。




政実「第12話、いかがでしたでしょうか」
創「これでイア達やアルフレッド達は俺が創世神の称号なんかを持ってる事を知ったわけだけど、この先仲間になる奴以外にも話す感じなのか?」
政実「相手による、かな」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第13話 意外な依頼者

政実「どうも、意外なところに強者が潜んでいたという展開が好きな片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。前回の前書きで言ってた事もそうだけど、ありがちだけど盛り上がるパターンだよな」
政実「そうだね。まあ、その強者が出てくるのが作中のどの辺りかによって盛り上がり方も変わってくるけどね」
創「そうだな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第13話をどうぞ」


 食堂に入ると、そこにはとても美味しそうなパンや料理が並んだテーブルがあり、アルフレッド達は既に思い思いの席に座っていた。そして、テーブルに近づくと、アルフレッドはニッと笑いながら話し掛けてきた。

 

「よっ、遅かったな」

「ああ、ちょっとみんなから嬉しい言葉をもらってたんだ」

「……そっか。まあ、みんなからも言われたろうけど、俺達だってお前の事はこれからは同じ冒険者仲間で良いダチだと思ってるぜ」

「そうね。色々と驚いたけど、アンタの事は良い奴だってわかってるし、これからも仲良くしていきましょ」

「……私もハジメと仲良く、する……」

「ワシらでは頼りないかもしれんが、何かあったら遠慮無く頼ってくれ」

「……ああ、ありがとう、みんな」

 

 アルフレッド達の言葉に嬉しさを感じながら椅子に座り、イア達も椅子に座った後、俺は同時に手を合わせた。

 

『いただきます』

 

 そして、声を揃えて言った後、俺達は朝食を食べ始めた。

 

 うん……昨夜も思ったけど、ここの料理は美味いな。

 

『ムグムグ……うん、美味しいね』

「はい、とっても!」

「へへっ、だよな! 俺達は三日前からここのお世話になってるけど、ここの料理にはすごく力を貰ってるんだ!」

 

 アルフレッドがニカっと笑いながら言うと、それに対してクスクスと笑いながらおかみさんがテーブルに料理を置いた。

 

「ふふ、ありがとうね、アルフレッド君。そう言ってもらえて私達も嬉しいわ。ねえ、あなた?」

「おう! 宿屋冥利に尽きるって奴だ! みんな、いっぱい飯を食って、今日も冒険者としてクエストに励んでくれよ?」

 

 その言葉に頷いた後、再び朝食を食べていたその時、ふと厨房の陰からこちらを覗く女の子の姿が目に入ってきた。

 

「……あれ、あの子は……?」

「あの子……あ、たしかにこっちを見ている子がいますね」

「ん? ああ、あの子はおかみさん達の子供だよ」

「そうなのか」

「ああ。たぶん、お前達が珍しくてこっちを見てるんじゃないのか?」

「なるほどな」

 

 まあ、スライムのフォルとドラゴンのルスムがいるし、珍しいといえば珍しいかもな。

 

 そんな事を思って納得した後、俺は女の子から視線を外し、朝食を食べ進めていった。

 

 

 

 

『ごちそうさまでした』

 

 朝食を食べ終え、声を揃えて挨拶をした後、俺は椅子から立ち上がりながらアルフレッドに話しかけた。

 

「そういえば、アルフレッド。Gランクのクエストってどんなのがあるんだ?」

「ん……例を挙げるなら、『ガルス』の街の人の素材採集の護衛や薬草なんかの採取だな。モンスターの討伐もあるけど、俺達Gランクはゴブリンやスライムくらいだな」

「なるほどな」

「あ、けど……この辺のモンスターってなると、ルスムの配下もいたりするよな?」

「そうだが、我らは基本的にこの街の住人達には危害は加えず、自分達で訓練を行いながら平和に暮らしている。街の住人達に危害を加えているのは、おおよそ現在の魔王の配下達だ。よって、気兼ね無く倒しても良い」

「そ、そっか……」

 

 ルスムさんの言葉を聞いてアルフレッドは苦笑いを浮かべた後、傍に置いていたロングソードを背負ってからニッと笑った。

 

「よし……それじゃあ行こうぜ、みんな!」

「ああ、お互いに目指すはSSランクだ」

「へへ、だな!」

 

 笑い合いながらアルフレッドとコツンと拳をぶつけ合った後、俺達はおかみさん達にお礼を言ってから宿屋を出た。

 

 さてと、せっかくだから勇者と魔王の現在位置を調べとくか。

 

 アルフレッド達と一緒に歩きながら『索点』を使って勇者と魔王の位置を探ると、魔王は変わらず魔王城にいたが、勇者の位置が少し変わっていた。

 

「……あ」

「ハジメさん、どうかしましたか?」

「……勇者が『ルハラ』から移動してる」

「勇者が? 今、どこにいるんだ?」

「……『ユグド王国』だな」

 

『ユグド王国』は女神の祝福を受けたとされる伝説の大樹がある国で、『勇者の戦記』では勇者であるダイアナ・スノーとその幼馴染みが『ユグド王国』からの使いに連れられて『ユグド王国』を訪れ、そこで魔王討伐の依頼を受けるんだが、どうやら今日がその日みたいだな。

 

『『ユグド王国』ならここからは遠いし、まだ出会いそうにないね』

「そうだな。しかし、勇者が行動を始めたとなれば、魔王達も黙ってはいないだろう」

「そうですね……となれば、他の先代四天王達にも協力を仰いだ方が良いかもしれませんね」

「そうだが……奴らも簡単には首を縦に振らんだろうな。『氷魔姫ニヴル』はまだしも『黒闇妃ヘルア』と『剛獣王トオイ』は我のように力を示さなければいけないだろう」

「『黒闇妃ヘルア』に『剛獣王トオイ』……また名前だけでも強そうな方々ですね」

 

 イアが感想を述べていると、アーヴィングさんはそれに対して深く頷いた。

 

「ああ、四天王というだけあってその強さはたしかだ。まあ、我々にはハジメがいるが、何かしらの策で分断をされ、イアとフォルが一人で相手をしないといけない場合もあるだろうな」

「となると、そうならないように俺はイアとフォルとは離れないようにしていた方が良いですね」

「そうだな。だが、もしものためにイアとフォルにもそれなりの力はつけてもらう必要がある。SSランクを目指すためにも勇者のパーティーと将来戦うためにもな。良いな、お前達」

「は、はい……! 私、精一杯頑張りますね!」

『僕も了解だよ、アーヴィング』

 

 アーヴィングの言葉にイアが拳をぎゅっと握りながら、そしてフォルがいつものように落ち着いて答えていた時、徐々に冒険者ギルドが見え始めた。

 

「そろそろ冒険者ギルドに着くな」

「だな! よっし……まずはFランク冒険者目指して今日もひたすらクエストをやるぞー!」

「はあ……暑苦しい。けど、そろそろFランクに上がりたいのはたしかだし、頑張るしかないか……」

「……うん。今日も精一杯頑張る」

「はっはっは、そうじゃな!」

 

 そして、冒険者ギルドに着いた後、中に入ってみると、中にいた冒険者達の視線が俺達へ一斉に注がれた。

 

「……あ、えーと……?」

「なんか……俺達、注目されてる……よな?」

「は、はい……」

「……まさか、朝食前にアルフレッドとハジメが一戦交えたのが、話題になってるとか?」

「それは……ありそう」

 

 冒険者達の視線に困惑しながら中を進んでいくと、受付にいたアナさんが俺達を見てにこりと笑った。

 

「いらっしゃいませ」

「あ、アナさん。あの……なんだか俺達注目されてるみたいなんですけど、何か知りませんか?」

「そうですね……あ、()()()()()を見ればわかるかもしれませんよ?」

「指定掲示板……」

 

 そういえば、冒険者ギルドには冒険者全体に依頼出来る普通掲示板と冒険者を指定して依頼出来る指定掲示板がある事にしたんだった。という事は、誰かが俺達かアルフレッド達を指定して依頼をしたって事か?

 

 そう思いながら指定掲示板に近付き、それらしい依頼を探していたその時、ある依頼が目に入り、思わず「えっ……」と言ってしまった。

 

 たしかに指定掲示板を見たらわかったけど、でも……この依頼って……。

 

「……アナさん、この依頼って……」

「ふふ、早速見つけましたね。そうです。それは私からのハジメさん達とアルフレッドさん達への依頼です」

「やっぱり……」

「さあ、受けて頂けますか? 私との力比べの依頼を」

 

 そう、依頼の内容は朝にアルフレッドと一戦交えた広場でのアナさんとの力比べ。それも各パーティーから一人ずつ代表者を出しての力比べだった。

 

 この依頼を出した理由は、やっぱり……。

 

「……アナさん、この依頼を出したのは、さっきの戦いを見たから、ですよね?」

「はい。さっきも言ったように、私は先代魔王の四天王の一人、『氷魔姫ニヴル』の関係者です。なので、実力は保証しますよ?」

「それはそうですけど……」

「それとも……自信、無いですか?」

 

 アナさんが妖しい笑みを浮かべながら挑戦的な口調で訊いてくると、アルフレッドはムッとしながらそれに答えた。

 

「そんな事無いですよ!」

「それでは、受けて頂けますね? ああ、そうそう。そこに書いてある通り、依頼の達成条件はどちらか一人でも私に『参った』と言わせる事で、依頼を達成出来れば一発でFランクに昇格出来ます」

「え、でも……良いんですか?」

「はい、これはグレイスギルド長が決めた事ですから。もっとも、私に参ったと言わせたら、ですけどね」

「つまり……私達が圧倒的に勝っていても、アナさんが参ったと言わなかったら、依頼は達成にならないという事ですか?」

 

 そのイアからの問いかけに対してアナさんはにこりと笑いながら答えた。

 

「そういう事ですね」

「それ、アナさんに有利すぎる……」

「そんな事無いですよ。私だって参ったと思ったら素直に言いますから」

「それなら良いが……」

「さて、受けて頂けるならその依頼書をこちらに持ってきて下さい。もっとも、その勇気があるならですが」

 

 クスクスと笑いながらアナさんが言う中、俺とアルフレッドは顔を見合わせた。

 

「さて、どうする? 俺は受けたいと思うけど……」

「もちろん、受けるさ! そんで、俺とお前でアナさんと戦うんだ!」

「……そう言うと思った。まあ、俺もあそこまで言われて戦わないわけにはいかないからな。みんな、俺が出ても良いかな?」

「みんな、良いよな?」

 

 すると、イア達は期待を込めた眼差しを俺達に向けながら静かに頷いた。そして、俺とアルフレッドは頷き合った後、貼ってあった依頼書を掲示板から剥がし、それを受付にいるアナさんに渡した。

 

「その挑戦、受けますよ」

「でも、負けてから言い訳はしないで下さいね」

「しませんよ。そんな事したら、あの人やグレイスギルド長に叱られちゃいます♪ さて、それでは受ける人の名前をさらさら~……よし、これでオッケーです。それでは、行きましょうか」

 

 それに対して頷いていると、「……では、私も観戦させてもらいましょうか」と言いながらグレイスギルド長が奥から出てきた。

 

「あ、グレイスギルド長」

「アナ、わかっていると思いますが、やり過ぎないで下さいね?」

「それくらいわかってますよ。けど、二人とも実力はありますし、それなりに力を出しても良いですよね?」

「……許可します」

「……ふふ、ありがとうございます」

 

 グレイスギルド長の言葉に対してアナさんはふんわりとした笑みを浮かべながらお礼を言った後、グレイスギルド長と一緒に俺達の方へと出てきた。そして、歩き出そうとしたその時、「……あ、そうだ」と何かを思い出したように声を上げた。

 

「さっき、ハジメさんが創り出した岩、まだ広場に残してたので、それで私の力を軽く証明して見せますね」

「岩……あ、そういえば片付けるのを忘れてたな……」

「……だったな」

「ふふ、そのまま宿屋に行ってしまいましたからね」

「すみません……」

「良いんですよ。そのおかげで私は力を証明出来ますから。では、早速行きましょうか」

 

 その言葉に頷いた後、俺達はアナさん達と一緒に朝にも行った広場に向かった。そして、広場に着いてみると、そこでは真っ二つになった岩の前で街の人達が集まって話をしていた。

 

「あ、あったあった」

「あの岩……すっごく大きいんだけど、本当にハジメが出したの……?」

「ああ。んで、真っ二つに割ったのは俺だ」

「アルフレッドが……?」

「そうだ。まあ、ハジメに俺の剣を強化してもらったお陰で出来たんだけどな。それで、アナさん。どうやってこの岩を片付けるんですか?」

「ふふ、そんなの簡単ですよ」

 

 そう言うと、アナさんは岩に近付いた。すると、それを見た街の人達は期待を込めた眼差しをアナさんに向け出した。

 

「おお、アナちゃんじゃないか!」

「その様子だと、またアナちゃんの力を見られるんだね」

「はい。ここで今からちょっと力比べをしますし、皆さんの邪魔にもなってしまいますから。では……行きます」

 

 そして、アナさんが両手を空に向けたその時、突然空にバチバチと火花を散らす黒い穴のような物が出現した。

 

「え……な、何なんだ、あれ……!?」

「あれってまさか……『転送魔法(ムービング)』か……!?」

「『転送魔法』って、そんなのあったか!?」

「あるよ。古代魔法の一種で、使える人なんて本当に限られてるはずだけど……」

「ふふっ♪ 実は使えちゃうんですよね~。では、これは手頃な火山の中にポイっとしちゃいますね」

 

 アナさんが楽しそうに言うと、岩はゆっくりと穴に引き寄せられ、そのまま中へと入っていった。そして、穴が静かに消えると、街の人達からは拍手が上がった。

 

「あははっ、どうもどうもー」

「……すげぇ。あれがアナさんの力、なんだな……」

「ああ……そうだな。でも、おかしいな」

「おかしいって、何がだ?」

「『鑑定士』は初級魔法なら光と闇を除く全部の属性の魔法を使えるけど、あの『転送魔法』は無属性の最上級魔法のはず。それなのに、アナさんは『転送魔法』をいとも簡単に使って見せた。なんだかおかしいと思わないか?」

「……たしかに」

 

 古代魔法を知っていてそれを使えるのは、たぶん『氷魔姫ニヴル』から教えてもらったからなんだろう。けれど、いくら上位の『鑑定士』でも無属性の最上級魔法を使えるのは、やっぱりおかしい。

 

 となると、考えられるのは……。

 

「……アナさん。あなたの称号は何ですか?」

「……ふふ、やっぱり()()()が『鑑定士』ではないのはバレましたか。でも、普段が『鑑定士』なのは本当ですよ。あなた方の鑑定がもう済んでいるから、違うのを装備しているだけです」

「…………」

「ふふ、改めて自己紹介をしますね。普段『上位鑑定士』兼冒険者ギルドの受付嬢をしている『古代魔導師(エンシェントソーサラー)』のアナ・エニスです。以後、よろしくお願いしますね?」

 

 アナさんはにこりと笑いながら自己紹介を終えると、俺と同じようにどこからか赤い薔薇の装飾が施された銀色の杖を取り出し、片手で持ちながらクスリと笑った。

 

「さあ、始めましょうか。楽しい楽しい力比べを」




政実「第13話、いかがでしたでしょうか」
創「次回はアナさんとの戦いの回だな」
政実「そうだね。古代魔導師のアナさんがどんな戦い方をしてくるか、それは次回のお楽しみという事で。そして、今作品の別視点の物語である『好きな小説の世界に転移したので勇者に不殺の道を歩ませる』という作品も投稿しているので、良ければ読んで頂けると嬉しいです」
創「まあ、あっちの紹介も必要だな。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第14話 襲い掛かる古代魔法

政実「どうも、魔力が欲しい片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。魔力か……たしかにあれば魔法が使えるけど、使えたら使えたで色々な苦労がありそうだけどな」
政実「そうかもね。でも、それ以上に楽しい事も待ってると思ってるよ」
創「そっか。さて、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第14話をどうぞ」


「さて……せっかく『古代魔導師』だという紹介をしたので、戦いの中でまた別の古代魔法をお見せしますね。でも……このままだと皆さんを巻き込んでしまいますので、その前に下準備をしましょうか」

 

 アナさんがクスクスと笑いながら言い、杖を構えながら静かに目を瞑った時、俺は小さくため息をついてからアナさんに話しかけた。

 

「いえ、俺がやりますよ。岩の除去をしてもらったので、その代わりという事で」

「……わかりました」

 

 そして、アナさんが杖を下ろした後、俺は目を瞑りながらスキルを一つ創り上げ、目を開けてからそれを行使した。

 

戦場生成(バトルフィールド)

 

 すると、辺りは眩い光に包まれ、俺達は光から目を守るために目を瞑った。そして、目を開けると、俺達は辺りを壁で囲まれた広場に立っていて、イア達や街の住人達は壁の上に作られた観客席に座っていた。

 

「……ここは……」

「ここは俺の能力で創り出した特別な戦場で、観客席には俺達の攻撃は届かない仕様になっています。なので、安心して攻撃をしてきて下さい」

「……ふふ、やはり『創世神』というだけあってこんな物まで創れるんですね。ますます戦うのが楽しみになってきましたよ……!」

「俺達もですよ。だよな、アルフレッド」

「ああ! そして、絶対にアナさんに参ったと言わせてみせる!」

 

 アルフレッドがやる気満々な様子で言うと、アナさんは杖を構えながらクスリと笑った。

 

「……では、やってみてもらいましょうか。けど、その前に倒れないで下さいね?」

 

 アナさんは不敵な笑みを浮かべながら言うと、杖を構えた状態で詠唱を始めた。

 

「……永久(とわ)に燃え続ける焔よ、我らの敵を完膚なきまで焼きつくせ。『極炎魔法(オーバーヒート)』!」

 

 その言葉と同時に、杖からルスムさんが吐き出してきたのよりも強力な炎が放出されると、それを見たアルフレッドは焦った様子を見せた。

 

「ハジメ……!」

「ああ、わかってる! 『魔障壁』!」

 

 俺が目の前にバリアを張ると、杖から放出された炎はそれに阻まれ、やがて静かに消えていった。

 

「ふぅ……これで防げて良かった……」

「へえ……面白い魔法を使いますね」

「魔法というかは能力で、俺はこれらをスキルと呼んでますよ」

「そうなんですね。でも、私が使えるのはこれだけじゃありませんよ?」

 

 そう言い、アナさんが杖を構えながらもう片方の手を杖の先に翳した時、俺は横目でアルフレッドを見ながら声をかけた。

 

「アルフレッド。さっきの『極炎魔法』を見た通り、あっちの魔法は結構な範囲に広がる」

「……ああ、そうみたいだな」

「つまり、分かれて攻撃してもたぶん魔法で薙ぎ払われて終わりだ。だから、ちょっと変わった攻め方をしようと思う」

「変わった……攻め方……?」

 

 俺の言葉を聞いてアルフレッドが不思議そうにする中、俺はアルフレッドの前に立ちながらあるスキルを使った。

 

「『変身』」

 

 そして、『変身』のスキルを使って巨大なドラゴンの姿に変わると、観客席は大きくどよめき、アナさんは少し驚いた表情で杖を下ろし、アルフレッドからは恐る恐るといった様子で声をかけられた。

 

「お前……ハジメ、なんだよな……?」

『ああ、そうだ。『変身』のスキルで一時的にドラゴンになってるけどな』

「……そういえば、フォルがハジメはドラゴンになれるって言ってたな。それで、変わった攻め方っていうのは?」

『俺が上を飛び回るから、お前は俺の背中に乗って、相手の魔法を避けながらその剣と魔法で攻めるんだ』

「なるほど──って、そんな戦い方、今までした事無いぞ!?」

 

 アルフレッドが大声を上げる中、俺は首を横に振りながらアルフレッドに話し掛けた。

 

『それでもやるしかないんだよ。お前は勇者になりたいんだろ? だったら、それくらいの事も出来ないと』

「け、けど……」

『大丈夫だ。俺を信じろ』

「ハジメ……」

 

 アルフレッドは俺の事をじっと見つめた後、覚悟を決めた様子でこくんと頷いた。

 

「……わかった。こうなったらやってやるさ!」

『よし……それじゃあ背中に乗れ、アルフレッド』

「おう!」

 

 そして、アルフレッドが俺の背中に乗ると、アナさんは愉快そうにクスクスと笑いながら話し掛けてきた。

 

「……まさかドラゴンにもなれるなんて思いませんでしたよ。ですが、私に参ったと言わせるにはまだまだ足りませんよ?」

『ええ、それはわかってます。でも、絶対に言わせてみせますよ』

「そして俺達は、絶対にFランク冒険者になるんだ!」

「では、やってみせてもらいましょうか……!」

 

 アナさんは楽しそうな笑みを浮かべながら杖を構え直すと、再び杖の先に手を翳しながら静かに目を瞑った。

 

「……吹き荒び続ける吹雪よ、その力を今ここに! 『極氷魔法(グレイシャ)』! そして、数多を蝕む猛毒よ、吹雪に更なる力を! 『毒撃付与(ポイズングラント)』!」

 

 すると、杖の先からは紫色の吹雪が放たれ、俺はそれを受けてはいけないと感じ、すぐにその場から飛び立った。

 

『……危なかったな』

「ああ……というか、今の吹雪は何かおかしくなかったか?」

『今のは受けた相手の身体に毒を与える効果が付与された吹雪だ。だから、紫色をしていたんだよ』

「毒って事は……」

『ああ、受けたらひとたまりもない。だから、俺は『魔障壁』や回避を優先する。その間、アルフレッドは魔力を操る練習をしていてくれ』

「……わかった」

 

 アルフレッドが頷き、魔力を操る練習を始めた後、俺はアナさんの動きに注目しながら少し速めに飛び回った。そうでもしないと、狙いをつけられて魔法で打ち落とされかねなかったからだ。

 

 ……一応、この身体でも色々スキルは使えるわけだし、ここは他のスキルにも頼ってみるか。

 

 そう思った後、俺は『異空』を使って『精霊剣レインボーソード』を空中に出現させ、再びアナさんの動きに気をつけながらスキルのうちの一つを使用した。

 

『これはどうだ。『剣舞』!』

 

 すると、『精霊剣レインボーソード』はまるで生きているかのように独りでに動き出し、空中を舞いながらアナさんに襲い掛かった。

 

「くっ……!」

『流石にそれの対処をしていたら、魔法なんて唱えられませんよね?』

「……ふふ、そうですね。前の私なら、ここで音を上げていたでしょう。ですが、ニヴル様との修行をやりきった私にはこのくらいへっちゃらなんですよ!」

 

 そう言うと、アナさんは『剣舞』による攻撃を軽やかな動きで避けながら魔法の詠唱を始めた。

 

「古の賢者よ、その偉大なる力で我が敵の動きを止めよ! 『時間拘束(タイムバインド)』!」

 

 すると、俺の動きはその場で止まり、いくら動こうとしても俺の翼や手足はピクリとも動かなかった。

 

『ぐ……!』

「おい、何なんだこれ!?」

『い、今のは……古代魔法の一種、『時間拘束』……だ。そして、その効力は……掛かった相手の動きをしばらく止める、物……!』

「つまり……しばらくの間、俺達は動けないって事か!?」

『……ぐ……そういう事、だ……』

 

 しくじった……! 古代魔法の中にそれがあるのをすっかり失念していた……!

 

 動きを止められている中、『時間拘束』の事を忘れていた事を悔しがっていると、アナさんは少し驚いた顔をしながら『剣舞』による攻撃を避け続けていた。

 

「くっ……驚きましたね……! この『剣舞』というスキル、ハジメさんの動きを止めても止まらないとは……!」

『……俺自身が魔力で操っているんじゃなく、剣自体に魔力を持たせて、それを使って動かす。そういう仕様ですからね』

「ふふ、なるほど……! ですが……そろそろ厄介になってきたので、止めさせてもらいましょうか……!」

 

 アナさんは軽やかにバックステップをすると、向かってくる『精霊剣レインボーソード』を見ながら大きな声で詠唱を始めた。

 

「……この世界に宿りし氷の精霊。大いなる力を以て彼の者を氷獄へ閉じ込めよ! 『氷縛魔法(フリーズプリズン)』!」

 

 すると、『精霊剣レインボーソード』を囲むようにして地面から幾つもの氷柱が出現し、『精霊剣レインボーソード』は一瞬にして氷の牢獄に閉じ込められ、辺りには『精霊剣レインボーソード』が氷にぶつかるガンガンという音だけが響き渡った。

 

『ぐ……『剣舞』まで封じられたか……!』

「ふふ、これでようやく安心して魔法が使えますね」

「くっ……ハジメ! 何か動くための手立ては無いのか!?」

『俺もある古代魔法を使うかこの状態を解除出来るスキルを今から創れば良いけど、アナさんの詠唱速度を考えると、それより先にアナさんの方が魔法を使える……!』

「そ、そんな……!」

 

 アルフレッドが絶望的な表情を浮かべる中、アナさんは俺達を見ながらにこりと笑った。

 

「では、行きましょうか。邪なる者を戒める雷、その怒りの一撃を──」

 

 アナさんが雷属性の最上級魔法を使うための詠唱を始め、それによるダメージを覚悟しながらどうにかスキルを創ろうとしたその時、「アナちゃん!」と言う声が聞こえ、俺達はそちらに顔を向けた。すると、そこにはとても焦った様子でアナさんを見る宿屋のおかみさんの姿があった。

 

「アレクシアさん、どうかされたんですか?」

「はあ、はあ……大変なのよ! ウチの子や鍛冶屋さんの家の子供達が裏山の方へ向かっていったようだって、鍛冶屋さんが言ってたのよ!」

「裏山に!? あそこは今、ゴブリンキングの目撃例がありますよ!?」

「ええ! だから、お願い! ウチの子達を連れ戻して!」

「はい、わかりました!」

 

 アナさんは真剣な表情で答えると、俺達に視線を移しながら声を掛けてきた。

 

「ハジメさん! アルフレッドさん! 申し訳ありませんが勝負は中止です! 今から一緒に裏山まで来て頂けますか?」

「はい、もちろんです! そうだよな、ハジメ!?」

『ああ。でも、その前に『時間拘束』を解かないと……!』

「……っと、そうですね! 古の賢者よ、彼の者達に光の祝福を! 『古代治癒(エンシェントヒーリング)』!」

 

 すると、俺達の身体は白い光に包まれ、その内に俺達の身体は再び動くようになっていった。そして、完全に動くようになった後、俺はアルフレッドを乗せたまま真下に降り立ち、アルフレッドを降ろしてから『変身』と『戦場生成』を解除した。

 

「あの闘技場が一瞬で……」

「さあ、行きましょう、アナさん!」

「早くしないと子供達が!」

「……そうですね。では、行きましょう!」

 

 それに対して頷いた後、俺達はアナさんと一緒に裏山へ向かって走り出した。




政実「第14話、いかがでしたでしょうか」
創「この感じだと次回は裏山の探索回か」
政実「そうなるかな」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第15話 意外な出会い

政実「どうも、相手の死角から攻撃をする戦い方も嫌いじゃない片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。やる分には楽しいけど、やられたらすごくイラっと来る奴だな、それ」
政実「そうだね。後は相手の状態を変化させる技を使って相手が何も出来ない状態の時に攻める戦い方も嫌いじゃないかな」
創「そっか。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第15話をどうぞ」


 広場を出発してから数分後、件の裏山を登り出した時、エスメラルダは「そういえば……」と何かを思い出した様子で声を上げた。

 

「さっき、この裏山でゴブリンキングの目撃例があったってアナさんが言っていたけど、ギルドの掲示板にゴブリンキングの討伐依頼なんて貼ってあったかしら……?」

「ああ、その件についてですね。ゴブリンキングが目撃され始めたのは実はごく最近で、被害が出ない内に私達の方で処理をしようと話をしていたところだったんです」

「そうだったんですね」

「はい。ゴブリンキングはその名前の通り、ゴブリン達の王様で、力が強いだけじゃなく、頭も良いですから、相手をするのも本当は結構面倒なんです。もっとも、私やグレイスギルド長ならまだ楽に相手が出来るんですけどね。私には古代魔法がありますし、グレイスギルド長もギルド長になる前はある王国の王宮魔道士だったそうですから」

「なるほどな……」

 

 そんな会話をしながら裏山の中へどんどん入っていったその時、頭の中にクルスの声が響き渡った。

 

『マスター幾世創、周辺よりゴブリン達の気配を察知。注意されたし』

「ゴブリンの気配……」

「ん、どうかしたのか?」

「いや、クルスから周辺にゴブリンの気配がするって言われてな」

「クルス……そういえば、ハジメさんには案内をしてくれている方がいるんでしたよね?」

 

 そのイアの問いかけに俺は頷いた。

 

「ああ。クルス本人曰く、クルスは俺がこの世界に来た時に『創世』のスキルで無意識に作った存在なんだってさ」

「なるほどな……ん、それじゃあそのクルスに訊いたら、何でも答えてもらえるのか?」

「どうだろうな……よし、せっかくだからちょっとやってみるか」

 

 そして質問を思い付いた後、俺はクルスに話し掛けた。

 

「クルス、先代の魔王の生まれ変わりはどこにいる?」

「なっ……! ハジメ、一体何を……!」

「……勝手に訊いてすみません、アーヴィングさん。でも、もしも既に先代の魔王の生まれ変わりがいて、仲間になってくれるなら心強いなと思ったので」

「それは……そうだが……」

「……さあ、クルス。答えてくれるか?」

 

 クルスに対して問いかけると、暫くの沈黙の後、頭の中にクルスの声が響き渡った。

 

『……マスター幾世創、この言葉を回答の代わりにさせてもらう。『灯台もと暗し』』

「灯台もと暗し……? って事は、先代の魔王の生まれ変わりは俺達の身近な人物って事か?」

 

 クルスにもう一度問いかけたが、クルスは一切返事をしなかった。

 

 灯台もと暗し……その意味は、探し物や大切な物は身近にあるけれど見えにくいものだ、だったよな。という事は、やっぱりクルスはこの『リューオン』の事は何でもわかっている上、先代の魔王の生まれ変わりは少なくとも俺達の身近な人だって事になるな……。

 

 クルスの言った言葉からそんな予測を立てていると、アルフレッドは何かを期待したような顔で声を掛けてきた。

 

「ハジメ、クルスは何て言ってた?」

「……灯台もと暗し、だってさ」

「灯台もと暗し……って、どういう意味なんですか?」

「それは──」

 

 イアの質問に対して俺が答えると、アーヴィングさんは少し嬉しそうな顔をした。

 

「つまり、先代の魔王様は既に生まれ変わっておられるわけだな」

「そういう事になりますね。ただ、問題は……」

「……その生まれ変わりが誰か、だな。先代の魔王が先代の勇者に討たれたのは、今からおよそ100年前。よって、先代の魔王の四天王である我や側近であったアーヴィング、この世界を創りあげたハジメは除かれる。そして、クルスとやらが言った灯台もと暗しという言葉から、その生まれ変わりは我らの身近な人物だと言えるが……」

「ハジメさん、クルスさんはその生まれ変わった人が誰にとって身近な人物だとは言っていなかったんですよね?」

「……ああ」

 

 そう、イアの言う通り、クルスは誰にとって身近な人物なのかは言っていなかった。だから、今わかるのは先代の魔王の生まれ変わりは確実に存在していて、それは俺達の内の誰かの身近な存在だという事だけだ。

 

 でも、それを特定するにはどうしたら良いんだ? 流石に先代の魔王の生まれ変わりもバカじゃないだろうから、自分からそれを名乗るわけもないだろうし……。

 

 そんな事を考えていたその時、「……あ」とアルフレッドが何かを思い付いた様子で声を上げた。

 

「どうしたのよ、アルフレッド?」

「……その先代の魔王の生まれ変わり、俺達の内の誰かの可能性もあるなと思ってさ」

「つまり、さっきルスムさんが名前を挙げた三人以外の誰かに先代の魔王の生まれ変わりがいるかもって事か?」

「ああ。言ってみれば、俺達だってもうそれぞれにとって身近な存在だろ? だったら、クルスが言った言葉にも当てはまるんじゃないか?」

「たしかに……」

『アルフレッドの言う通りだけど、もし僕達の中に先代の魔王の生まれ変わりがいたとして、それらしい記憶を持ってる人はこの中にいる?』

 

 そのフォルの問いかけに対してアルフレッドを含めた全員が沈黙すると、フォルは『やっぱりね』と納得顔で頷いた。

 

『アルフレッドの言う事もわかるけど、それらしい記憶を持ってる人がいないんじゃ、僕達の中にいるというのは考えづらいよ』

「け、けど……その記憶を失くしてる可能性もあるだろ?」

『そうだね。それじゃあ、この中で一回でも記憶喪失になった人はいる?』

 

 再びフォルが問いかけたが、それに答えた人は誰もいなかった。

 

『……いないね』

「そうだな……はあ、ハジメの言う通り、先代の魔王の生まれ変わりが仲間だったら、すごく心強かったのになぁ……」

「たしかにそうだけど、アルフレッドがそう言われるくらいに強くなれば良いんじゃないのか?」

「俺が強くなる、か……」

「ああ。俺達の目的とは逆だけど、今の魔王を討伐して勇者になるのが夢なんだろ? だったら、そう言われるくらいに強くなる必要はあるんじゃないか?」

「……まあな」

 

 そう答えるアルフレッドの顔には少しだけ不安の色が浮かんでいた。

 

 ……やっぱりアルフレッドもさっきのアナさんとの戦いで自分の実力を思い知ったみたいだな。まあ、俺も『創世』のスキルに頼りきりなところがあったし、これからはそれに頼らなくても良いくらい強くならないといけないな。でも、今は──。

 

「……子供達の安全の確保が先だな」

 

 そして俺は、『索点』のスキルを使ってゴブリンとゴブリンキングの位置を探った。すると、クルスの言う通り、ゴブリン達の反応は周辺に幾つもあり、少し先からはゴブリンの他、ゴブリンキングの反応もあった。

 

「……アナさん、この先には何がありますか?」

「この先……ですか? この先には小さな洞窟がありますが──って、まさか……」

「……はい。この先からゴブリンキングの反応がします」

「って事は、ゴブリンキングは洞窟に住処を作ってるわけか……」

「そういう事だな。それで、どうする? 件の洞窟まで行くのにゴブリン共が邪魔だと言うなら、我が追い払うが……」

「……いえ、大丈夫です」

 

 そう言いながらスキルを二つ作った後、俺はそのスキルをみんなを対象にして行使した。

 

「……よし、これで良いな」

「これで良いって……特に何も変わってない……?」

「まあ、見た感じはな。でも、これでゴブリン達には気付かれずにゴブリンキングの所へ行ける」

「え、そうなのか?」

「ああ」

 

 俺が返事をしていた時、前方から一体のゴブリンがゆっくりと近付いてくると、みんなは戦闘をするための体勢を整えた。けれど、そんなみんなに対してゴブリンはまるで目の前には誰もいないかのようにその隣をゆっくりと過ぎていき、その姿をアルフレッドは信じられないといった様子で見ていた。

 

「……本当に気付かれなかった……」

「だろ? 因みに俺が使ったのは、俺が解除するまでは余程力の強い奴以外には姿が見えなくなる『透過(インビジブル)』とスキルの対象者以外に全ての行動の音を聞こえなくする『静寂(サイレント)』のスキルだ」

「……『暗殺者(アサシン)』の称号持ちなら喉から手が出るほど欲しいスキルですね」

「ですね。さて、問題は子供達の位置だけど……」

「ん、それもわかるんじゃないのか?」

 

 その問いかけに対して俺は首を横に振った。

 

「俺の『索点』は探したい対象の名前や特徴がわかっていないと探せないんだ。だから、探せるとしても宿屋の子くらいだな」

「そっか……」

「でも、とりあえずゴブリンキングの反応だけは常に感じ取りながら行くつもりだから、まずはゴブリンキングの事をどうにか──」

 

 その時だった。さっきまで感じ取れていたゴブリンキングの反応が突然消失したのだ。

 

「……え?」

「どうした、ハジメよ」

「……まさか、ゴブリンキングが……倒された?」

「倒されたって……どういう事だよ?」

「『索点』は生存している相手にしか効かないスキルなんだ。つまり、生存さえしていれば、反応が消える事はない。でも、反応が消えたっていう事は……」

「……誰かがゴブリンキングを倒したから、という事ですね」

「はい」

 

 でも、勇者ダイアナはまだここに来てないし、そもそもゴブリンキングを倒せる程の力はまだ無い。そして、俺達以外の冒険者がいる様子もない。

 

「……まさか」

 

 一つの考えが頭を過った俺は()()()()()()()の位置を『索点』で探った。すると、その考え通り、その人物達の反応は件の洞窟の辺りにあった。

 

「……マジか」

「まさか、ゴブリンキングを倒した相手がわかったのか?」

「ああ。そして、宿屋の子は洞窟にいるみたいだ」

「洞窟に……」

「それで、ゴブリンキングを倒したというのは誰なのだ?」

「……それは自分の目で確かめた方がいいかもしれません。正直、俺自身もまだ信じられないですし……」

「……わかった」

 

 そして、俺達はゴブリン達がうろうろする中を急ぎ足で進み、数分の後に件の洞窟まで辿り着いた。

 

「ここがその洞窟……」

「はい。ですが、そんなに深くは無いので、その人達はすぐに見つかると思います」

「わかりました。よし、行こう」

 

 その言葉にみんなが頷いた後、俺達は洞窟の中に入っていった。そして、中を進む事数分、前方に広場のような場所が見えてきた時、その中心に大きな何かが立っているのが見え始めた。

 

「あれ……何でしょうか?」

『うーん……まだ少し遠いからよくわからないけど、氷の柱みたいに見えるよね』

「氷の……柱……」

「……まさか、な」

「うむ……」

 

 アナさんやアーヴィングさんが何かに気付いた様子を見せる中、俺達は広場へ向けてそのまま進んでいった。そして、広場に着いた時、俺達の目に入ってきたのは、苦悶の表情を浮かべながら氷漬けになったゴブリンキングの姿だった。

 

「うわぁ……綺麗に凍らされてるな……」

「……ええ」

「でも、こんな事を一体誰が……」

「それは──」

 

 その時、「あら……懐かしい顔がちらほらと見えるわね」という小さな女の子の声が聞こえ、俺達は氷の向こうに視線を向けた。すると、氷の向こうから水色のドレス姿の青みがかった長い黒髪の女の子が姿を現し、その姿にアナさんは少し緊張した表情を浮かべた。

 

「……お久しぶりです、()()()()

「ええ、久しぶりね。アナ」

 

 アナさんの言葉に対して『氷魔姫ニヴル』さんは妖しい笑みを浮かべながら答えた。




政実「第15話、いかがでしたでしょうか」
創「次回はなんで氷魔姫ニヴルが洞窟にいたかなんかがわかる回だな」
政実「そうだね。まあ、それに関しては次回のお楽しみということで」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしているので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第16話 氷魔姫との語らい

政実「どうも、好きな状態異常は眠りの片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。眠りか……結構色々な物語に出てくるよな」
政実「うん。まあ、他の状態異常も好きだけどね」
創「そっか。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第16話をどうぞ」


 この人が『氷魔姫ニヴル』さん……パッと見は俺やイアと変わらない感じだけど、この人もルスムさんと同じ先代の魔王の四天王なんだよな……。

 

『氷魔姫ニヴル』さんを見ながらそんな事を考えていたその時、氷の向こうから宿屋の子を含めた数人の子供達がひょこっと顔を出し、その姿にアナさんはとても安心した様子を見せた。

 

「みんな……良かった、無事でしたか」

「ええ、もちろん。私が保護をしたのだから、それくらい当然よ」

「そうですね。ニヴル様、本当にありがとうございます」

「どういたしまして。ところで、アナ?」

「はい、何でしょう?」

 

 アナさんが首を傾げながら訊くと、『氷魔姫ニヴル』さんはアナさんに近付きながら再び妖しい笑みを浮かべた。

 

「あなた……暫く見ない内にまた綺麗になったんじゃない?」

「そうですか? 最近は冒険者ギルドの仕事が楽しくて、美容にはあまり気を使っていなかったはずですけど……」

「いいえ、このまま氷像にして傍に置いておきたいほど綺麗だわ。ふふ……やはり、私の目に狂いは無かったわね」

「あはは……ニヴル様、未だにその嗜好は変わってらっしゃらないんですね」

「もちろん。綺麗なものは変わらないまま置いておきたい。そう思うのは当然でしょう?」

「まあ……その気持ちはわかりますけど……」

 

 アナさんが少し困ったように答える中、フォルはこっそりアーヴィングさんに話し掛けた。

 

『ねえ、アーヴィング。『氷魔姫ニヴル』って昔からこんな感じなの?』

「……そうだ。奴は自分の気に入ったものをすぐ近くに置いておきたがるところがあり、それは物体であろうと生き物であろうと変わらん。そして、その中でも特に気に入ったものは、ああやって氷像にしたがるのだ」

「うわ……それは流石に勘弁ね」

「うん、普通に寒そう」

「いや、アイリス。寒そうの前にあのゴブリンキングのように死んじゃうから」

 

 エスメラルダが氷漬けになっているゴブリンキングを指差すと、『氷魔姫ニヴル』さんは少しムッとした。

 

「あれはこの洞窟に迷い混んだこの子達を襲おうとしたから罰を与えただけ。あんな醜いもの、傍に置いておきたくはないわ」

「そ、そう……」

「まあ、そこにいる『亜人族』の子なら話は別だけれど」

 

『氷魔姫ニヴル』さんがイアを見ながら言うと、イアはとても驚いた様子で自分を指差した。

 

「わ、私ですか……!?」

「ええ。そのローブや杖もとても似合っているし、容姿もすごく整っている。あなたもそう思うでしょう? 隣にいる『人間族』のぼうや」

「あ、はい……イアはとても可愛いと思いますし、仲間になってくれているのはとても嬉しいです」

「ふふ、そうよね。けど、氷像にしたらもっと綺麗になると──」

「あ、それには流石に賛同出来ません。イアは今のままが一番だと思いますから」

「……ふふ、冗談よ、冗談。良かったわね、イアちゃん。あなたの恋人はあなたの事をしっかりと見てくれてるみたいよ?」

 

 その言葉にイアは一瞬驚いた表情を浮かべた後、顔を真っ赤にしながら慌てた様子で首を横に振った。

 

「わ、私はハジメさんの恋人なんかじゃないですよ!? 私はただの旅の仲間で!」

「あら、そう。すごくお似合いの二人だと思うけれど……」

「『氷魔姫ニヴル』さん! それ以上は止めてください……は、恥ずかしいですから……!」

「……ふふ、本当に可愛いわね、あなた。ああ、それと……私の事はニヴルで良いわよ。一々氷魔姫を付けるのは面倒だから。もちろん、他のみんなもね」

「わかりました。それで、ニヴルさん。先代の魔王の四天王であるあなたがどうしてここに?」

「まあ、それは疑問に思うわよね。簡単な話よ。旅のついでに私の可愛い弟子の仕事ぶりを見に来た。ただそれだけよ」

 

 ウインクをしながらニヴルさんが言うと、アナさんは不思議そうに首を傾げた。

 

「私の仕事ぶりを……ですか?」

「ええ。私、これでも今は一冒険者として旅をしているから、あなたが勤めているギルドを訪れて、あなたがどんな風に仕事をしているか見たいと思ったのよ」

「冒険者……あ、それならアーヴィングさんとルスムさんと同じですね。お二人も今はハジメさんのお仲間の冒険者として新たな一歩を踏み出されたんです」

「あら、そう。となると……その旅の目的も同じよね?」

 

 その問いかけにアーヴィングさんは静かに頷いた。

 

「先代の魔王様の生まれ変わりを探すというものであればそうだな。そして、先代の魔王様を見つけた暁には、今度こそはそのお傍にずっとおかせてもらうつもりだ」

「ふふ、やっぱりね。あなた、先代の魔王様には色々お世話になったみたいだし、誰よりも先代の魔王様の事を思っていたもの。まあ、先代の魔王様を大切に思っていたのは、私達四天王も同じだけど。ねえ、ルスム?」

「……ふん、我は先代の魔王の四天王としてその傍にいた方が良いと思っているだけだ」

 

 ルスムさんがぷいっとそっぽを向きながら答えると、その様子を見てニヴルさんは懐かしそうな表情を浮かべた。

 

「……ほんと、あなたは素直じゃないわね。さて、ハジメ君から感じる大量の魔力の件とかあなた達の出会った経緯とか色々訊きたい事はあるけど、まずはこの子達を『ガルス』に帰してあげないといけないし、そろそろ外に出ましょうか」

「はい。ところで、ニヴル様。このゴブリンキングの事はどうしましょうか?」

「うーん……このまま放っておいても良いのだけど、冒険者ギルドとしてはそうもいかないのだろうし、氷を融かしてからこのまま連れていって──」

 

 その時、頭の中にクルスの声が響き渡った。

 

『マスター幾世創。ゴブリンがこの広間へ向けて進行中。注意されたし』

「……ゴブリンが?」

 

 俺はすぐさま『索点』を使って、周辺のゴブリンの位置を探った。すると、クルスの言う通り、裏山や洞窟内をうろついていたゴブリン達がこちらに向かって次々と近付いてきていた。

 

「ひいふうみい……マジか、こんなに数がいたのかよ……」

「ハジメ……またクルスが何か言ってたのか?」

「ああ。どうやらこのゴブリンキングの部下のゴブリン達がこっちに向かって次々と近付いてきているみたいだ」

「ゴブリンが……ああ、なるほど。このゴブリンキングには『警報魔法(アラーム)』が掛けられていたのね。ゴブリンキングの死をスイッチにして、部下達がその下手人を仕留められるように」

「えっと……ハジメさん。ゴブリンは全部で何体程いるんですか?」

「……合計で30近くだ」

 

 それを聞いて子供達の顔からサーっと血の気が引いていく中、「30、ねえ……」とニヴルさんは呟いたかと思うと、すぐに何かを思い付いた様子で俺に話し掛けてきた。

 

「ねえ、ハジメ君。ちょっと良いかしら?」

「はい、なんですか?」

「私がこの子達を無事に親の元へ送り届けると約束するから、あなた達にゴブリンの大群を任せても大丈夫?」

「え? それは大丈夫ですけど……」

 

 俺が答えると、ニヴルさんは安心した様子でにこりと笑った。

 

「なら、良かったわ。それじゃあ、アナ。あなたもこっちに来なさい」

「私もですか?」

「ええ。何かあった時にあなたがいてくれた方が心強いのよ。それに、それはこの子達も一緒だと思うから」

「……わかりました。それでは、お供します」

「ええ、お願いね」

 

 アナさんがニヴルさんの近くに寄ると、ニヴルさんは目を瞑りながら詠唱を始めた。そして、詠唱を終えると同時に、ニヴルさんは目をかっと開けた。

 

「『転移魔法(テレポル)』!」

 

 そして、『転移魔法』でニヴルさん達の姿が氷漬けのゴブリンキングと一緒に消えると同時に、ゴブリン達は俺たちのいる広場へ次々となだれ込み、俺たちの姿を見て舌なめずりを始めた。

 

「うわ……ほんとに多いわね」

「合計で約30……でも、私達なら勝てない相手じゃない」

「そうだな」

「我としてはもう少し多くても問題はないが……」

『いやいや、これより多かったらもっと面倒だから……』

 

 みんながそんな事を言いながら戦闘をする体勢を整える中、アルフレッドは少しだけ緊張した様子で剣を構えていた。

 

「アルフレッド……大丈夫か?」

「……あ、ああ……ちょっとさっきのアナさんとの戦いを思い出してただけだよ」

「……そっか。でも、その反省会は後にしよう」

「……ああ。このゴブリン達の相手が先だからな」

「そういう事だ。よし……行こう、みんな!」

 

 そして、その声にみんなが揃って頷いた後、俺達はゴブリン達へ向かって走り出した。




政実「第16話、いかがでしたでしょうか」
創「次はゴブリン戦だな」
政実「そうだね。まあ、ゴブリン戦と+αっていう感じにはなると思うよ」
創「そっか。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第17話 ゴブリンの大群との戦い

政実「どうも、キャラクターを育成する時はオールラウンダーに育てる事が多い片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。ステータスを自由に割り振り出来るゲームでの育成は、その人の個性が色濃く出るよな」
政実「そうだね。でも、そういうところがその手のゲームの醍醐味だよね」
創「そうだな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第17話をどうぞ」


 ゴブリンに向かって行きながら俺は頭に乗っているフォルに声をかけた。

 

「とりあえず、フォルはルスムさんと一緒に後衛に回ってくれ」

『オーケー』

「ルスムさん、フォルをお願いします」

「ああ、任せておけ」

 

 そして、ルスムさんが前足でフォルを持ちながら後衛部隊のイアとエスメラルダのところへ向かうのを見ながら俺は自分の役割について考え始めた。

 

 ……さて、俺はどうするかな。後衛をイア達に任せて、前衛で戦う手もあるけど、せっかく色々な戦い方が出来るわけだから、状況に応じて前衛と後衛をチェンジして戦う方が良いか。

 

 そう思いながら『異空』を使って『精霊剣レインボーソード』を取り出した後、俺は向かってきたゴブリンの棍棒を剣で受け止めながらゴブリンに話し掛けた。

 

「おい、お前達は魔王の部下なのか?」

『キキッ、そうだ!』

「やっぱりか……それで、お前達がここにいたのは何故だ? この近くにある『ガルス』の町の侵略でも考えていたのか?」

『いいや、そんなつまらない事は考えていない。俺達はある目的の元にゴブリンキング様と共にこの洞窟をその拠点にするために活動していたのだ』

「ある目的……どんな目的か訊いたところで答えるわけはないよな?」

『キキッ、当然だ!』

「……そうだろうな……!」

 

 そう言いながら剣を持つ手に力を加え、そのままゴブリンの棍棒を弾き飛ばした後、俺は驚くゴブリンの腹を勢いよく切り裂いた。そして、腹から真っ二つになったゴブリンの姿と切り裂いた時の感触に少しだけ気持ち悪さを感じながらもすぐに次のゴブリンへと向かい、次々とゴブリンを倒していった。

 

 ……慣れろ、慣れるんだ。この先も色々なモンスターを相手にして、こうやって命を奪わないといけないんだから……!

 

 そう自分に言い聞かせながらゴブリンを倒していき、ゴブリンの数が半分くらいになった頃、ふと近くにアーヴィングさんがいる事に気付くと、アーヴィングさんも俺に気付いた様子で俺に近付き、俺はゴブリンの動きに気を付けながらアーヴィングさんと背中を合わせながら話し掛けた。

 

「アーヴィングさん、そっちの首尾はどうですか?」

「無論、問題ない」

「ですよね。ところで、さっき相手をしたゴブリンからこいつらがある目的からここを拠点にするために活動をしていると聞きました」

「……それは魔王の命か?」

「そうみたいです。アーヴィングさんは何か心当たりはありますか?」

「……無いな。とりあえず、お前はイアやエスメラルダのところへ向かえ。私やお前のように前衛と後衛の両方で戦えるメンバーは貴重だからな」

「わかりました」

 

 会話を終えた後、俺はアーヴィングさんから離れ、そのまま後衛で魔法や矢での攻撃を続けるイア達の元へと向かった。

 

「みんな、大丈夫か?」

「ハジメさん……!」

『僕達は大丈夫だよー』

「でも、後衛に来てくれたのは助かるわ……! そろそろキツいと思ってた頃なのよ……!」

「わかった。それじゃあ、まずは……」

 

 俺はスキルを三つ作った後、その内の一つを行使した。

 

「『分与(ディストリビューション)』」

「……魔力が……漲ってくる……!」

『おー、これは魔力を回復させるスキルな感じ?』

「正確には、俺の魔力を対象に分け与えるスキルだな」

「そんなスキルまであるのか……だが、それでは創の魔力が少なくなるぞ?」

「それは大丈夫です。これを作るついでに常時発動するタイプの傷が徐々に回復するスキルと魔力の自然回復速度を高めるスキルを作りましたから」

「……オーケー、もう何が起きても驚かないわ」

 

 エスメラルダが半ば呆れ気味に言った後、俺は『精霊剣レインボーソード』を『異空』でしまってからこちらに向かってくる複数体のゴブリンを見ながら『創世』である弓を作り上げた。

 

「出来た……後はこれを使うだけだ!」

 

 そして、作り上げた『魔弓エレメントボウ』の弦に魔力で出来た矢をつがえ、そのまま引き絞った後、俺は手を離した。すると、魔力で出来た矢は途中で分裂しながらゴブリンに向かって飛んでいき、ゴブリンに命中すると、当たったゴブリンの体を炎で包んだり、雷で痺れさせたりした。そして、それが消えると同時にゴブリン達は次々とその場に倒れこんだ。 

 

「……ふう、何とかなったな」

「すごいですね、その弓……」

「ああ。この『魔弓エレメントボウ』は魔力で矢を作るから、いくらでも分裂させられるし、どの魔法をイメージしてるかによって当たった相手に与えられる効果も変わる優れ物なんだ」

「……ここまで来ると、ハジメが味方だという事が本当に幸せな事に思えるわね」

「……違いない」

『だねー』

 

 エスメラルダの言葉に対してルスムさんとフォルが答えるのを聞きながら前衛のアルフレッド達に視線を向けると、アルフレッド達もゴブリン達を既に倒しており、揃ってこちらに向かって歩いてきていた。

 

「お疲れ様、みんな」

「ああ、お疲れ。思ったより早く終わったな」

「ああ、それにしても……」

 

 そう言いながら広場を見回すと、広場にはゴブリン達の死体がゴロゴロ転がり、それから流れた血の臭いが立ち込めていた。

 

「うっ……こんなに血の臭いがすると結構キツいな……」

「そうだな……ところで、このゴブリン達はどうする? 魔石を採取するにしても流石に30体分は持ちきれないぞ?」

『ああ、それなら大丈夫じゃない? ハジメがいつも剣を取り出してるところにしまっていけば、持ち運びは楽だろうし』

「たとえそうでも、今から魔石を傷つけずに30体分採取するのは難しいんじゃ──」

「それなら、採取用のスキルを今から作るか?」

「……そうね。お願いするわ」

「わかった」

 

 そして、スキルを作り終えた後、俺は『異空』で収納スペースを出してからゴブリンの死体を対象にしてスキルを行使した。

 

「『採取(コレクト)』」

 

 すると、ゴブリンの死体から小さな珠のような物が浮かび上がり、それらは次々と収納スペースへと吸い込まれていき、全部が収納スペースに消えた頃には、ゴブリン達の死体も霧のようになりながら姿を消していった。

 

「死体が……」

「ああ、イアはこういうのを見るのは初めてなのね。モンスター達は『魔素』から出来たり、力の強いモンスターが自分の力を分け与えて生まれるのは知ってるわよね?」

「あ、はい」

「それで、その『魔素』の一部が固まって、モンスターの核となったのが、さっきハジメが採取した魔石で、そのモンスターが命を落とすまで魔石は採取する事が出来ないけれど、命を落とした後に身体の中にある魔石を取り出すと、今のように身体は形を保てなくなって消えるってわけ」

「因みに魔石は武具の強化や錬成を含めた色々な事に使えるから、強いモンスターの魔石であれば欲しがる人は本当に多い。さっきのゴブリンの魔石もアンガスが使ってるようなハンマーの強化や魔力を発揮する物の製作に使うから、それを持ってくるクエストなんかもある」

「なるほど……」

 

 エスメラルダとアイリスの解説にイアが納得顔で頷く中、アルフレッドは収納スペースの入り口を見ながら不思議そうな表情を浮かべた。

 

「それにしても、この空間ってどのくらい物が入るんだ?」

「ん? 一応、無限に入るようには作ったはずだ。この収納スペースは、物をしまっておく専用の世界みたいな物で、この中にある物はしまった当時のまましまわれるようになってるしな」

「という事は、食物等をしまっても腐らずに済むという事か」

「そういう事です」

「へー……あ、因みに生き物ってしまえるのか?」

「しまえるぞ」

 

 俺がそう答えると、アルフレッドはとても驚いた様子を見せた。

 

「しまえるのか……冗談で訊いたつもりだったのに……」

「あはは……まあ、俺が死んだ時にはこの収納スペースも無くなるから、しまった物も全て外に出てくるけどな」

「そうなのか……」

「ああ。けど、俺は死ぬつもりはない。俺の目的を達成するまでは絶対にな」

「……そうだろうな。さて、それじゃあそろそろ『ガルス』に帰ろうぜ」

「ああ。でも、その前に……」

 

 俺は血の臭いが立ち込める広場を見回した後、ついでに作ったスキルを使った。

 

「『消失(デリート)』」

 

 すると、酷かった血の臭いは一瞬で無くなった。

 

「血の臭いが……ハジメ、何をしたんだ?」

「血の臭いを対象にして、それを消したんだよ」

「血の臭いを消した……ね、ねえ……そのスキルって生き物にも使えるの?」

「……使える。けど、使う気はないし、ここでゴブリンの命を奪った事を忘れる気もない。忘れてしまったら、ゴブリンを対象にしたのと同じでゴブリン達がいた事自体も“消してしまう”事になるからな」

「ハジメ……」

「……さあ、帰ろう。俺達が生きて帰るのを待ってくれている人達がいるからな」

 

 その言葉に全員が頷いた後、アルフレッド達は洞窟の出口へ向けてゆっくりと歩き始めた。そして俺は、ゴブリン達と戦った広場を軽く見回した後、ゴブリン達の魂が安らかに眠れるように祈ってからその場を後にした。




政実「第17話、いかがでしたでしょうか」
創「次回はガルスの街への帰還回だな」
政実「そうだね。後、他にも考えている事はあるけど、それは次回のお楽しみという事で」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第18話 悩める創世神

政実「どうも、主人公が悩みを抱え、それを解決するシーンが好きな片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。まあ、そういうシーンって良くあるよな」
政実「うん。自分で解決するパターンもあれば、仲間の言葉がきっかけで解決するパターンもあるから、どういうパターンで解決するのかなっていうのを予想しながら読むのも楽しいんだよね」
創「そうだな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第18話をどうぞ」


 洞窟を抜け、みんなが少し先を歩くのを見ながら『ガルス』へ向けて歩いていた時、俺はふとさっきの戦いの事を思い出していた。

 

 ……人間に危害を加えているのは、現魔王の配下だから気兼ね無く倒して良いとルスムさんから言われていたから倒したけど、あのゴブリン達は本当はどうだったんだろうな……。実はまだ人間達には危害を加えていなかったんじゃないか……?

 

 そんな思いが頭の中をぐるぐると回り、その内にある恐怖が俺の中で募り始めたその時、「ハジメ」といつの間にか隣を歩いていたアーヴィングさんから声を掛けられた。

 

「あ……はい、何ですか?」

「今、何を考えていた?」

「……アーヴィングさん。アーヴィングさんはゴブリン達の事を倒して、その命を奪った時に何かを感じたりしましたか?」

「……いや、特には何も感じなかったな」

「そう……ですか。俺はゴブリンの腹を切り裂いた時、肉体を切り裂いた感触に気持ち悪さを感じました。でも、それ以外には何も感じなかったです」

「……そうか。しかし、それがどうかしたのか?」

 

 そのアーヴィングさんの問いかけに俺は声を震わせながら答えた。

 

「……今更ながら、そんな自分が怖くなってきたんです」

「怖い……か」

「……はい。アーヴィングさん、イアは俺の仲間になる前は奴隷だったのは知ってますよね?」

「ああ、知っている」

「その時、俺はイアを助けたい一心で色々なスキルを活用して奴隷商と用心棒らしき男を撃退したんです。まあ、正式な取引をしたわけではないので、あまり褒められた方法では無いですが……」

「…………」

「……人間相手だったその時はただ撃退しただけなのに、ゴブリンが相手だった今回は明確に命を奪った。相手が人間に危害を加えた個体だったのかもまだわからないのに……」

「……つまり、お前は自分自身が命の重さに差を設けていて、その事に恐怖を抱いていると言いたいわけだな」

「……はい」

 

 誰かを殺すのは元の世界でもこの世界でももちろんご法度だ。けれど、モンスターはこの世界でギルドのクエストや冒険者の旅の中で普通に殺されている。それはこの世界においてモンスターは『魔物使い』が使役している個体以外は、基本的に言葉が通じない上に『人間族』を含む様々な種族に害を及ぼすとされているからだ。だから、アルフレッドやエスメラルダはもちろんの事、ルスムさんがアーヴィングさんの攻撃によって命を奪われそうになった時に目を背けていたイアも普通にゴブリン達の命を奪っていた。けれど、俺はモンスターの言葉を理解する力を持つ『魔物使い』の称号を持っている。なのに、元の世界でその辺の虫を殺すのと同じようにゴブリン達の命を奪った。同じ“倒す”でもルスムさんの部下達にしたようにただ無力化するだけという方法も取れたのに。

 

「……アーヴィングさん。俺はやっぱりさっきの自分の判断は間違っていたと思います。『磁力』のスキルを使って、全員を無力化した上で、もう少し会話を──」

「ハジメ」

「……何ですか?」

「……たしかにお前ならばその方法も取れただろう。しかし、中には『磁力』のスキルを使っても無力化出来ない個体も含まれていた可能性はあった。その場合、会話をしようとしたお前は確実に反撃にあっただろうな」

「それはそうですけど……!」

「ハジメ、お前は本来戦列には加わってはいけない存在だ。その考え方では、いつその命を奪われてもおかしくはないからな」

「……それはわかってます。俺の考え方はこの世界を生き抜く上では甘いという事も」

「ああ。だが……私はお前が戦列に加わっている事でとても助かっているのだ」

「……え?」

 

 アーヴィングさんの言葉を聞いて、俺が疑問の声を上げると、アーヴィングさんは真剣な表情を浮かべながら静かに口を開いた。

 

「ハジメ。先程、お前は広間を出発する前に祈りを捧げていたな。あれは私達が命を奪ったゴブリン達のための祈りなのだろう?」

「……はい。命を奪った本人が言うのもあれですけど、せめて安らかに眠って欲しいと思って……」

「……やはり、そうか」

「でも、それが一体……?」

「先程、お前は命を奪った時は肉を切り裂く時の気持ち悪さ以外は何も感じなかったと言った。だが、戦闘後は命を奪った相手の冥福を祈っていた上、戦闘時の事を振り返り、自分のやり方は間違っていたのでは無いかと悩んでいる。そんなお前の甘さがあるからこそ、私は今もこうして命の重さという物を再確認出来ている。そうでなければ、私は自分自身の空腹を満たすためだけに何の罪もない相手の血を吸い尽くしたり、何も思わずに相手の命を奪い続けていただろうな」

「アーヴィングさん……」

「ハジメ。私はそんなお前だからこそ、旅に同行しようと思ったのだ。お前がいれば先代の魔王様に再びお目にかかれると思ったという言葉は嘘ではないが、初めて会った私に血を吸われそうになっても身体を硬質化させて身を守るだけでそれ以上の反撃をしなかったお前のその“優しい甘さ”に頼りたいと感じたからこそお前について行く事を決めたのだ」

 

 真剣な表情を浮かべながら言うアーヴィングさんのその言葉を聞き、俺の目から自然に涙が溢れ始めた。

 

「アーヴィングさん……」

「……ハジメ、この先の戦闘で命を奪うのが辛いと思った時は、無理にしなくても良い。お前にはそれを可能にするだけの力があるのだからな」

「……はい。でも、相手の命を奪うのが必要な時が来たら俺はそれが意志疎通が出来る相手でも迷わずにその相手の命を奪います。それはこの世界を生きていく上で必要な事ですし、死こそが相手が望む救済の場合もありますから」

「……そうか。ならば、私はそんなお前の事をこれからも支えるとしよう。それが今の私のなすべき使命だからな」

「……ありがとうございます、アーヴィングさん」

「礼には及ばない。さて、そろそろ皆に追いつくとしよう」

「……はい!」

 

 そして俺達がみんなに追いつくと、フォルを抱えながら飛んでいたルスムさんが声をかけてきた。

 

「悩みの答えは見つかったか、ハジメ」

「はい──って、どうしてそれを?」

「……アーヴィングの奴がハジメが何かを悩んでいるようだから少し話を聞いてくると言っていたからな」

「そうだったんですね……ところで、俺の悩みが何だったのかは訊かないんですか?」

「訊かん。おおよそ予想はつくからな」

「そうですか」

「ああ。だが、お前が見つけ出した答えは大切にしろ。お前のその思いや答えは、お前だけなく我らにとっても貴重な物だからな」

「……もしかして、話聞こえてました?」

「……ああ、全てな。その上で、お前に言う事があるとすれば……」

 

 ルスムさんは少し溜めた後、さっきのアーヴィングさんと同じように真剣な表情を浮かべながら静かに口を開いた。

 

「お前がその思いや答えを捨てぬ限り、我もお前の事をしっかりと支えてやる。まだ敵であった我の事を癒してもらい、部下達の事を傷つけずにいてもらった恩義もあるからな」

「ルスムさん……ありがとうございます」

「礼などいらん。私にとって、お前はそれだけの価値がある相手だからな」

『そう言っている割に本当は嬉しかったり?』

「……フォル、我の業火で燃やされたいのか?」

『ううん、遠慮しとく。僕も仲間としてハジメの事を支えたいと思ってるからね』

「フォルもありがとうな」

『どういたしまして。でも、辛いと思った時は正直に言ってよ? 誰だって辛さを心の奥底に隠し続けたら、いつか知らない内に心が壊れちゃうんだからさ』

「ああ、わかってるよ」

 

 フォルの言葉に対して笑みを浮かべながら答えていた時、アーヴィングさんとルスムさんが少し驚いた顔でフォルを見ているのが目に入ってきた。

 

「お二人ともどうかしたんですか?」

「……いや、先程のフォルの言葉が先代の魔王様もよく仰っていた言葉と同じだった物でな」

『あ、そうなんだ』

「うむ……先代の魔王は部下が悩みを抱えていると感じたら、何かと世話を焼きたがる性質(たち)で、悩みを解決した後は決まってその言葉を言っていたものだった」

『へー、そうだったんだ』

「ああ。前にも言ったと思うが、先代の魔王様は争いを好まない穏和な方だったからな。それ故に他者の気持ちについては敏感だったのだろうな」

『そうかもね』

 

 そんな会話を交わしていたその時、「おっ、『ガルス』が見えてきたぞ」というアルフレッドの声が聞こえ、俺達は前方に視線を向けた。するとその言葉通り、『ガルス』の街がもう目前まで迫っており、その光景に俺は安心感を覚えていた。

 

「帰ってきたんだな、俺達」

「ふふ、そうですね」

「後は子供達やアナさん達の無事さえ確認出来れば問題ないな」

「そうだな。それじゃあ、さっさと戻ろうか、みんな」

 

 その言葉にみんなが揃って頷いた後、俺達は『ガルス』の街へ向かって歩いていった。




政実「第18話、いかがでしたでしょうか」
創「次回はついにガルスの街に戻るけど、この後も何かありそうだよな」
政実「そうだね。でも、それは次回のお楽しみということで」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第19話 帰還

政実「どうも、RPGは街の近くでレベル上げをしてからストーリーを進める片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。まあ、その方がレベル上げはやりやすいよな」
政実「まあね。けど、それでもレベルが足りない時があるんだけどね」
創「まあ、その時は仕方ないよな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第19話をどうぞ」


 歩き続けること数分、俺達が『ガルス』に足を踏み入れたその時、そこにいた街の人達から大きな歓声が上がった。

 

「な、なんだ……!?」

「……皆さん、なんだかすごく嬉しそうですけど、これは一体……?」

 

 俺達が困惑していると、「ずいぶん遅かったわね」と言いながら街の人達の中からニヴルさんが姿を現した。

 

「ニヴル……」

「この喧騒はなんだ。騒がしくてたまらん……」

「それだけあなた達が帰ってきたのが嬉しいのよ。それで、ゴブリン達はどうしたの?」

「しっかりと倒したとも」

「今は別のところにしまってるが、魔石も採取してきた」

「そう。それなら、早めに冒険者ギルドへ行きましょう。あの子達もあなた達の帰りを待ちわびているから」

「わかりました」

 

 頷きながら返事をした後、俺達はニヴルさんと一緒に冒険者ギルドに向かった。そして、冒険者ギルドの中に入ると、そこにはアナさんとグレイスギルド長の他にアナさん達が保護をした子供達の姿があった。

 

「あ、皆さん! お怪我はありませんか?」

「はい。みんな特に傷を負うことなく帰ってきました」

「そうですか……それは良かったです」

「アナさん達も大丈夫でしたか?」

「はい。ニヴル様にゴブリンキングの後処理をして頂いた後、すぐに山を降りたので問題はありません」

「それなら良かったです」

「それで……どうして子供達は裏山に入っていったんですか?」

 

 そのアルフレッドの問いかけに子供達が少し答えづらそうにしていると、アナさんも少し困った様子で静かに口を開いた。

 

「それが……わからないらしいんです」

「わからない……?」

「ええ。いつものように街の中で遊んでいたら、誰かに話しかけられて、そして気づいたらあの洞窟の中にいたそうで、その間の記憶はまったく無いらしいんです」

「それで、どうしようかと思っておろおろしていたところにあなた達より先に話を聞いた私が駆けつけ、この子達を襲おうとしたゴブリンキングを始末した直後にあなた達が来たってわけ」

「なるほど……」

 

 たぶんだけど、その誰かに『催眠魔法(ヒュプノ)』か何かを掛けられて、ゴブリン達のいた洞窟へと連れていかれたんだろうな。でも、その犯人は一体誰で、何のためにそんな事をしたっていうんだ?

 

 そんな事を考えていた時、ニヴルさんは子供達を見ながら妖しい笑みを浮かべた。

 

「それにしても……この子達も将来とても綺麗な顔立ちになりそうね。ねえ、アナ?」

「たしかにそうですけど、今の内からロックオンをしないで下さい」

「はいはい。とりあえず、この子達からはこれ以上の話は聞けなかったし、そろそろ帰してあげましょうか」

「そうですね。それじゃあ、私が今から全員お家に送ってきます。良いですよね、グレイスギルド長?」

「はい。ですが、早めに帰ってきてくださいね」

「わかっています。それじゃあみんな、行こうか」

 

 それに対して子供達が頷いた後、アナさんが子供達を連れて冒険者ギルドを出ていくと、「さて……」と言いながらニヴルさんはとても真剣な表情を浮かべた。

 

「そろそろあなた達が一緒にいる理由などについて聞かせてもらおうかしら?」

「ああ、良いだろう」

「ありがとう」

 

 そして俺達は、俺の事や俺達が出会った経緯についてニヴルさんに話した。その間、ニヴルさんはたまに相槌を打つ以外は静かに聞いていたが、話が終わると小さく息をついた。

 

「なるほどね……道理でハジメ君から膨大な魔力を感じると思ったけれど、あなた達はどうしてハジメ君がこの世界の創世神だという話を簡単に信じられるのかしら? 別に疑う気はないけれど、かなり眉唾物な話よ?」

「そうだな。だが、称号を創り出す称号など聞いた事が無い。本来、称号というのは特定の条件をこなした際に自動的に得られる物で、自分で創り出せる物ではないからな」

「まあ、たしかにそうだけれど。そして、ハジメ君は自分で創った称号を誰かにあげる事も出来るんだったかしら?」

「あ、はい」

「それ、私にも出来る?」

「出来ますけど……何か欲しい称号があるんですか?」

 

 その問いかけにニヴルさんは小さく首を振った。

 

「そうじゃないわ。ただ、その話を信じるためには実際に体験した方が良いでしょう?」

「あ、なるほど」

「それで、お前はどんな称号を付与してもらうつもりだ?」

「……そうね。せっかくだから、誰も持ってないような称号が良いから……あ、良いのを思いついたわ」

「何ですか?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()称号って創ってもらえるかしら?」

 

 その言葉に俺を除いた全員の表情が凍りついた。

 

「ニヴル……お前は何を考えているのだ……?」

「え? だって、ハジメ君は創世神なのよ? それなら、死者の蘇生(そせい)くらい余裕でしょう?」

「そうなのかもしれぬが、しかし……」

「それで、ハジメ君。あなたはこの魔法を使える称号を創れるのかしら?」

 

 ニヴルさんが挑戦的な視線を向けながら訊く中、俺は小さく息をついてからそれに答えた。

 

「それは出来ません」

「その“出来ません”は、創れないからかしら? それとも、創りたくないからかしら?」

「後者です」

「へえ、どうして?」

「それだけは手を出してはいけないと思っているからです。ゴブリンを殺しておいてこんな事を言うのは変かもしれませんが、死というのはいつかは訪れないといけないもので、その自然なものを誰かの勝手な考えで妨げてはいけないと思うからです」

「へえ……」

「だから……すみません。それだけは出来ません」

 

 俺が頭を下げると、頭の上からクスクスと笑う声が聞こえてきた。

 

「……良いわ、あなたの話を信じてあげる」

「ニヴルさん……」

「ごめんなさいね、意地悪な事を言って。さっきのはあなたの事を試すためだったのよ。あなたという存在がどんな性格で考え方をしているかを知りたかったから」

「…………」

「だって、そうでしょう? 『人間族』でありながら勇者の魔王討伐を阻止しようとしているなんて普通に考えてあり得ないし、何の条件も無しにアーヴィングとルスムを手伝って先代の魔王様の生まれ変わりを探すなんてお人好しが過ぎるもの」

「それは……そうですね」

「でも、あなたは大事な事をしっかりとわかっている。そう、亡くなった人を私達の勝手な考えで生き返らせるのは自然の摂理に反しているし、亡くなった相手に対しても酷い事をしているのだから」

 

 そう言うニヴルさんの目にはうっすらと涙が浮かんでおり、その様子から先代の魔王が亡くなった事を悼んでいるのがハッキリとわかった。そして、ニヴルさんは軽く涙を拭うと、アーヴィングさんとルスムさんを見ながら静かに笑った。

 

「あなた達もそんなハジメ君だからこそ一緒に旅をする事にしたのでしょう?」

「……ああ。ハジメの考えは、この世界を生き抜く上で甘いと言う他無い。しかし、その優しい甘さは私達を救うものであり、命の重さというものをしっかりとわからせてくれる物だ」

「そうだな。そして、ハジメならば我らが見失いそうになっている事も再び見つけさせてくれると信じているからな」

「……そうでしょうね。あーあ……アーヴィングとルスムがすごく羨ましいわ」

 

 本当に羨ましそうな様子でニヴルさんが言うと、アーヴィングさんは小さく笑いながらニヴルさんに話しかけた。

 

「そう思うなら、お前もついてきたらどうなのだ?」

「そうだな。いずれ、我らは勇者の一団や今の魔王とも合間見える事になる。それならば、一人でも戦力が多いに越したことはない」

「そうね……たしかにそれはそれで楽しそうかも。でも、ついていくかに関してはもう少し考えたいかしらね」

「え……どうしてですか?」

「……内緒。でも、良い返事が出来るようにはしておくわ」

「……わかりました」

「ええ。それじゃあ、私は少し街中をブラブラしてくるわ。みんな、またね」

「はい」

 

 そして、ニヴルさんが冒険者ギルドを出ていくと、それと入れ代わりでアナさんが中へ入ってきた。

 

「ただいま戻りました」

「お帰りなさい、アナ」

「はい。ところで……ニヴル様がだいぶ楽しそうな顔をされていたんですが、何かあったんですか?」

「あ、はい。もしかしたら、ニヴルさんが俺達の仲間になってくれるかもしれなくて」

「え、そうなんですか!? もし、そうなったらハジメさん達のパーティはだいぶ豪華な事になりますね!」

「たしかになぁ……創世神のハジメだけでもすごいのに、『ミドガ』の里長の娘に魔法が使えるスライム、先代魔王の関係者の内の三人が集まってるパーティなんて他には無いからな」

「まあ、たしかにな」

 

 アルフレッドの言葉を聞いて苦笑いを浮かべていた時、アナさんが「あ、そういえば……」と何かを思い出したように声をあげたかと思うと、イアを見ながらにこりと笑った。

 

「イアさん、あなたを奴隷として売ろうとしていた奴隷商らしき人物とその用心棒が捕まりましたよ」

「え!?」

「そ、そうなんですか……!?」

「はい。懲りずにこの近くで商売をしようとしていたのを他の冒険者さんのパーティが見つけて、戦いの末に捕まえて、憲兵さんのもとへ連れていったようですが、その時にまた売り物を奪うつもりかなんて言ってたらしいので、ほぼ確定ですね」

「そうなんですね……それじゃあ、売り物になっていた他のみんなも……」

「はい、無事に保護されていますよ。まったく……そもそも奴隷なんて本来はどの国でも許されていないのに、堂々と商売をしようなんてどうかしてますよ。まあ、昔と変わってしまった『ヘイム王国』では、日常的に奴隷の売買が行われているそうですけど」

「『ヘイム王国』……あ、そうだ。みんなにちょっと話しておかないといけない事があるな」

 

 そう言ってから、俺は『勇者の戦記』の作中の設定とこの『リューオン』の現状の違いについてみんなに話した。すると、みんなはとても驚いた様子を見せた。

 

「そうなのか……」

「同じ世界に見えて、実はそんなに違いがあるんですね……」

「ふむ……そうなると、ハジメとは違う何者かが何らかの目的で動いていると見ても良いかもしれんな」

「そうだな。ハジメ、もしも旅の中で他に違いを感じたら、その時には教えてもらっても構わないか?」

「はい、もちろんです」

『それにしても……その誰かさんは何のためにこの世界を変えてるんだろうね?』

「さてな……考えられるのは、同じように世界に影響を与えられるだけの存在という事になるか。例を挙げるなら、勇者に祝福をもたらすとされる女神、世の中に災厄をもたらすとされる邪神、この『リューオン』を創り出した創世神、世界が闇に包まれた際に光をもたらすとされる救世主(メシア)などだが……」

「そうそ──って、え?」

 

 

 救世主……? そんな設定、俺は作った覚えないぞ……?

 

 その事に俺が戸惑いを感じていると、ルスムさんはそれを悟った様子で小さく息をついた。

 

「……どうやら、ここでも違いがあったようだな」

「はい……『勇者の戦記』の中には、救世主なんていう存在は出てこないです。どちらかと言うなら、その立場にいるのが勇者なわけですし」

「あ、言われてみれば……」

「でも、女神を信仰する『女神教』に邪神を信仰する『終末教』の他にも創世神を信仰する宗教や救世主を信仰する宗教も昔からあるぞ?」

「……もしかして、その認識もその誰かさんによって植えつけられた物だったってこと!?」

「その可能性……大、かも……」

「ふむ……そうなると、ワシらが真実だと信じてきた物が実は真実ではなかったという事も容易にある事になるのう」

「だよな……うぅ、もう何が真実なんだよ……」

 

 アルフレッドが頭を悩ませながらしゃがみこみ、それに対してアイリスがアルフレッドの頭をポンポンと叩きながら見守る中、俺は静かに口を開いた。

 

「でも、これでこの旅の中でやる事は増えたし、次に行くべき場所は決まったな」

「次に行くべき場所……なるほど、『ヘイム王国』か」

「はい。『ヘイム王国』に行って、変わってしまった理由を調べて、最終的に元の『ヘイム王国』に戻す。この世界を創り、この世界を愛する身としてはそれは絶対にしないといけませんから」

「たしかにそうかもだけど、勇者や魔王の事は良いのか?」

「ああ、覚えている限りだと勇者はまだ『ユグド王国』にいるはずだし、最悪『索点』で位置を調べて、『転移魔法』で移動するからな」

「なるほどな……」

「まあ、旅の準備をするためにしばらくは『ガルス』に留まって、ギルドのクエストを──」

 

 その時、俺はある事を思い出した。

 

「そういえば……アナさん、俺達の戦いはどうしましょうか」

「戦い……あ、言われてみればまだ途中だったんだよな」

「そうですね……私もあのままでは消化不良ですし、ハジメさん達のパーティが『ガルス』を発つ前日にもう一度戦いましょうか。なので、それまであのクエストは継続中という事にしておきますね」

「わかりました」

「それと、先程の件については、緊急で受けて頂いたクエストという事で処理しますので、今からその報酬をお支払しますね」

「わかりま──あ、そういえばゴブリン達の魔石も採取してきたので、それもお願いして良いですか?」

「はい、もちろんです。それで、魔石はどちらに……?」

 

 それを聞いた後、俺は『異空』を使い、収納スペースから採取したゴブリンの魔石を次々と取り出し、それをカウンターに並べ始めた。すると、それを見ていたアナさんは苦笑いを浮かべた。

 

「あ、あはは……やっぱり、ハジメさんは規格外ですね……」

「ここまで来ると、それしか言いようが無いですよね……」

「まったくね……武器を生成したり、私達に魔力を分け与えたりも出来るし、出来ない事なんて無いんじゃない?」

「やりたくないという意味では、蘇生魔法やそれを使える称号の創造は出来ないけどな──と、これで全部です」

「わかりました。それでは、ちょっと数えますね」

 

 そして、アナさんがゴブリンの魔石を数えているのを眺めていた時、「ハジメさん」とグレイスギルド長が小さな声で話しかけてきた。

 

「はい、何ですか?」

「今夜、フォルさんとルスムさんを連れて、広場まで来ていただけますか?」

「それは良いですけど……一体どうして?」

「それは来て頂いてからお教えします」

「……わかりました。今夜、広場ですね」

「はい、それではお願いします」

 

 そう言うと、グレイスギルド長は奥の方へと入っていった。

 

 フォルとルスムさんを連れて、か……この二人をわざわざ指定したという事は、『魔物使い』とモンスターじゃないと出来ない何かでもあるのかな?

 

 そんな疑問が浮かんだが、その理由については行ってから聞く事にし、アナさんの作業の様子に意識を集中させた。

 

 

 

 

『ふあ……やっぱり、夜だから眠たいねぇ……』

「そうだな」

 

 その日の夜、俺はグレイスギルド長に言われた通り、フォルとルスムさんを連れて、広場まで向かって歩いていた。夜の街はとても静かで、俺の歩く足音だけが響き渡っていた。

 

「それで、グレイスは我とフォルを連れて来いと言ったのだったな?」

「あ、はい。ただ、その理由まではわからないですが……」

『…………』

「フォル、どうした?」

『……ううん、呼ばれた理由がちょっとだけ予想がついたかなぁと思って』

「あれ、そうなのか?」

『うん。でも、あくまでも予想だから確証はないけどね』

「そっか」

 

 そんな事を話している内に俺達が広場に着くと、「来ましたね」と言いながら陰からグレイスギルド長とニヴルさんが姿を現した。

 

「こんばんは、グレイスギルド長、ニヴルさん」

『……やっぱり、ニヴルもいたんだね』

「あら、やっぱりっていう事は、呼ばれた理由がわかっていたのかしら?」

『あくまでも予想だったけどね。僕とルスムを呼んだ理由、それは僕達が冒険者になるための試験を行うため。そうでしょ?』

 

 その問いかけにグレイスギルド長は少し驚いた様子を見せた後、小さくクスリと笑った。

 

「半分正解半分不正解といったところでしょうか。正確には、フォルさんとルスムさんの正確な力を知りたいから、お手合わせを願いたいのです」

「二人の正確な力を……つまり、二人の冒険者認定はやっぱり無しみたいな事ではないんですね?」

「もちろんです」

『まあ、なんかおかしいとは思ってたんだよね。僕の実力がわからないとはいえ、ルスムの件は僕の冒険者認定試験のはずなのに『魔物使い』のハジメはまだしも、イアとアーヴィングまでついていって良かったのは変だもん。』

「あれは皆さんの力を合わせればそれ相応になると思ったからです。まあ、実際はそれ以上の力を有していたわけですが」

『まあね。後、もう一つ不思議だったのは、本来そのクエストを受ける時の冒険者ランクかな?』

「あら、そう?」

『そうでしょ。“調査”ならDランクでも納得だよ。でも、“討伐”または“使役”なんてAランクレベルの話じゃないの?』

「いえ、間違ってはいませんよ。昔ならそうかもしれませんが、今は冒険者の質も上がった上、今代の魔王の力の影響か普通のドラゴンよりも強力なモンスターが増えましたから、Dランクでもドラゴンの討伐や使役のクエストを受けられるようになったんです」

『……なるほどね』

 

 説明を聞いてフォルが納得顔で頷いていると、ニヴルさんは待ちきれない様子で話しかけてきた。

 

「さて、それじゃあそろそろ始めましょうか?」

「……仕方あるまい。だが、このままでは街が壊れてしまいかねん。ハジメ、スキルでまたあのコロシアムを出してくれるか?」

「わかりました」

 

 そして、俺は『戦場生成』を使用して、再び広場に特別な戦場を創りあげた。すると、突然現れた戦場にニヴルさんは少し驚いた様子を見せた。

 

「ここがスキルで出来上がった戦場……ふふ、ワクワクするじゃない」

「ワクワクするのは良いですが、うっかりして負けたりしないで下さいね?」

「ふふ、心配はいらないわ。楽しみながら勝つつもりでいるもの」

「……そうですか」

 

 ため息混じりに言った後、グレイスギルド長は俺達を見ながらアナさんや俺と同じように何もないところから杖を取り出した。

 

「では、アナのように改めて自己紹介をしましょうか。『超級魔道士(イスペシャルウィザード)』のグレイス・ドイルです。お二人とも、どうぞよろしくお願いします」

「先代魔王の四天王、『氷結の祝福』こと『氷魔姫ニヴル』よ。ふふ、楽しい戦いにしましょう」

『本当に楽しい戦いになれば良いけどね』

「そうだな。よし……では、我も元の姿に戻るとするか」

 

 そう言うと、ルスムさんはフォルを一旦離した後、身体に力を加え始めた。すると、ルスムさんの身体は光に包まれだし、光が消える頃には元の大きさに戻っていた。

 

『おぉー、やっぱりおっきいねぇ』

「当然だ。では、行くぞ。フォル!」

『ほいほーい』

 

 いつもののんきな調子でフォルが返事をした後、フォル&ルスムさんとグレイスギルド長&ニヴルさんの戦いが幕を開けた。




政実「第19話、いかがでしたでしょうか」
創「次回はフォル&ルスムさんVSグレイスギルド長&ニヴルさんの戦いか」
政実「うん。因みに、次回はちょっといつもとは違う形で書く予定だよ」
創「そっか。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第20話 氷魔姫と超級魔道士との決戦

政実「どうも、主人公以外のキャラがメインで戦うシーンも結構好きな片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。まあ、良くあるシーンではあるけど、たしかに燃えるよな」
政実「うん。そして、こいつってこんな戦い方も出来るんだっていう風にもよくなるよね」
創「そうだな。さて、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第20話を始めていきます」


『さて……どうやって戦おうかな』

 

 グレイスギルド長とニヴルのコンビを見ながら、僕は小さな声で呟いた。一応、僕には『マジシャンスライム』の称号があるから、神聖と暗黒以外の属性の初級魔法、一通りの状態異常にする魔法を使う事が出来る。けれど、この相手には正直その程度では力不足だ。僕とルスムが相手にしているのは、神聖と暗黒以外の属性の最上級魔法などを使える『超級魔道士』とルスムと同じ先代魔王の四天王なのだから。

 

 まあでも、負けるつもりはないし、不思議と負ける気はしない。本当になんでそう思えるのかはわからないけど。

 

 そう思いながら僕は隣にいるルスムに声をかけた。

 

『ねえ、ルスム。せっかくだから、僕を乗せてくれないかな?』

「む、お前をか?」

『うん。だって、僕だけ動きづらいんだもん』

「それもそうか……わかった、少し待っていろ」

 

 そう言いながらルスムが頭を近付けてきた後、僕はぴょんっと跳んでその頭に乗った。すると、ルスムは大きく翼をはためかせ、そのまま静かに空へと飛び上がった。

 

『おぉー、良い眺めだねぇ』

「そうかもしれぬが、今は奴らとの戦いに集中しろ」

『はいはーい。それで、ルスムはどう戦うか考えてるの?』

「簡単な話だ。我の業火とお前の魔法で攻めたてればいい」

『そう簡単に行くかな……まあ、良いや。それじゃあ早速──』

「ああ、攻撃開始だ!」

 

 ルスムの言葉に頷いて答えた後、僕は身体の中に巡る魔力を高めながら詠唱を始めた。

 

『炎よ燃え上がれ、『炎魔法(フレイム)』』

「燃え尽きろ! 『紅蓮業焔(クリムゾンフレイム)』!」

 

 僕が放った『炎魔法』とルスムの灼熱の炎は、互いに混ざり合いながらグレイスギルド長達へ向かっていった。けれど、グレイスギルド長達はそれに対して怯む様子はなかった。

 

「たしかに強力な攻撃です。ですが……」

「その程度なら、余裕でどうにか出来るわ。そうよね、グレイス?」

「はい。では……吹き荒び続ける吹雪よ、その力を今ここに。『極氷魔法(グレイシャ)』」

「凍てつきなさい。『永久凍結(エターナルフリーズ)』」

 

 グレイスギルド長が放った『極氷魔法』とニヴルの『永久凍結』は僕達の攻撃と違って混ざり合わずに向かってきたけれど、僕達の攻撃を打ち消すには充分すぎる威力だった。そして、吹き荒ぶ吹雪とキラキラと輝く氷の光線は、そのまま僕達に向かって飛んでくると、ルスムの翼をいとも簡単に凍りつかせた。

 

「ぐっ……!」

『うわわ、落ちるー!』

 

 その言葉通り、羽ばたけなくなったルスムは速いスピードで地面に向かって落ちていき、そのまま強く身体を打ち付けた。

 

「ぐう……!」

『いてっ!』

「フォル! ルスムさん!」

「ぐ……やはり、そう簡単にはいかんか……」

『だね……というか、僕達結構ピンチじゃない?……』

「ああ……属性の相性があっても押し負けるという事は、こちらの威力を上げるしか……」

『こっちの威力を……』

 

 でも、僕が使えるのは初級魔法くらいだ。つまり、今から他の魔法を使えるようになるのは──。

 

 その時、僕はある事を思いついた。

 

 ……これはかなり分の悪い賭けだけど、最悪ルスムがいれば大丈夫だよね。

 

『……ねえ、ルスム』

「はあ……はあ……なんだ?」

『少しそこで休んでて。流石に結構辛いでしょ?』

「……フォル、一体何を──」

『だいじょぶだいじょぶ。君の事は僕が守ってみせるから』

「その言葉……お前、本当に一体……」

『……どうやら、また先代の魔王と同じ台詞を言ったみたいだね。ふふ、先代の魔王にもっと親近感が沸いてきた気がするよ』

 

 そう言いながら前に出ていくと、ニヴルは不思議そうに首を傾げた。

 

「あら……あなただけで戦おうというの?」

『そうだけど、それが何か?』

「あなた、初級魔法しか使えないのに勝てると思っているの?」

『うーん、どうだろうね? でも、不思議と負ける気はしないよ』

「……そう。なら、その自信がどれ程の物か見せてもらおうじゃない。行くわよ、グレイス」

「……はい」

 

 そして、グレイスギルド長とニヴルが目を瞑りながら同時に詠唱のを始める中、僕はさっき考えついたアイデアを実行に移すべく、捕食の体勢に移った。

 

 ……さて、この考えはうまく行くかな?

 

 そう思いながら待っていたその時、ルスムはとても焦ったような声で話しかけてきた。

 

「何をしている、フォル! 早く回避する準備をするのだ!」

『ううん、良いんだよ、これで』

 

 にこりと笑いながらルスムに返事をし、再びグレイスギルド長達の方へ向いたその時、二人は同時に目を開けて魔法を発動した。

 

「……『極雷魔法(ケラノウス)』」

「『極氷魔法』」

 

 その瞬間、強大な力の雷と吹雪が僕に向かって飛んできた。

 

「フォル!」

『……よし、今だ……!』

 

 ここだと思えるタイミングを見つけた後、僕は身体を大きく広げ、向かってきた二つの魔法を大きく広げた身体で包み込んだ。

 

『うぐ……!』

「なっ!?」

「魔法を……包み込んでいる、だと……」

「……まさかあなた、二つの最上級魔法を同時に身体に取り込もうとしているの!?」

『そ、そうだよ……これが、僕の秘策……だから、ね……!』

「無茶だ! そんな事をしては、お前の身体が持たんぞ!?」

『無茶かどうか、試さないと……わからない、じゃない……』

「試さなくともわかる! おい、ハジメ! 今すぐフォルを止めろ!」

 

 ルスムの声を聞き、ハジメが僕をチラッと見たけれど、僕がにこりと笑うと、ハジメは小さくため息をつきながら静かに頷いた。

 

 えへへ……ありがとう、ハジメ。さて、それじゃあそろそろどうにかしていきますか……!

 

 ハジメに感謝の念を抱きながら、僕は二つの魔法を僕の身体にゆっくりと馴染ませていき、少しずつその魔力を蓄えていった。けれど、二人の魔法はやはり強力で、僕は寒さと痛さに顔をしかめた。

 

 くっ……やっぱり、キツイ……。でも、信じてくれたハジメや一緒に戦っているルスムのためにも絶対に乗り越えてみせる……!

 

 その思いで僕は必死になりながら二つの魔法を少しずつ馴染ませていった。そして、どれだけの時間そうしていたかわからなくなってきた頃、遂に全部の魔力を取り込み終え、僕の中からとても強大な力が沸き上がってきた。

 

『……ふう、ごちそうさまでした』

「……まさか、こんな事が……」

「……ただのスライムが二つの最上級魔法を体に取り込んだ……!?」

「フォル、お前……」

『……お待たせ、ルスム。とりあえず、その翼と傷をどうにかしてあげるね』

 

 そう言った後、僕は“ある称号”を装備してから、ルスムに向かって魔法を使った。

 

『行くよ……『極大回復(ギガントヒール)』』

 

 すると、ルスムの身体は優しい光に包まれだし、翼の氷は熱されたかのように融けていき、落下で受けた傷もみるみる内に無くなっていった。

 

「……翼の氷が……あっという間に融けていく……!」

『ふふん、どう? 大分体が楽になったでしょ?』

「大分どころか戦う前と同じくらいになっている……だが、どうしてお前がその魔法を使えるのだ?」

『簡単な話だよ。さっきの魔法を取り込んだ事で、僕は『セージスライム』の称号をゲットしたんだ』

「『セージスライム』……強大な魔力をその身に宿した事で、神聖と暗黒以外の属性の最上級魔法や回復魔法、状態異常魔法まで使用出来るようになったスライムのみが達する事が出来る称号か」

『その通り。これで、僕も結構な戦力になれたんじゃないかな?』

「フォル……」

『さあ、行くよ、ルスム。僕達の力をあの二人に見せつけるんだ』

「……うむ。ここまで無様な姿しか晒していないからな。ここから巻き返していくぞ!」

 

 その言葉に頷いて答えた後、グレイスギルド長達の方へ向き直ると、グレイスギルド長達の顔にようやく焦りの色が見え始めた。

 

「くっ……油断しましたね……!」

「……ええ。どうやら規格外なのは、ハジメ君だけじゃなかったようね……!」

『ふっふっふ、ここからは僕達のターンだよ』

「ああ。見せつけるとしよう、我らの力を!」

 

 そして、ルスムの周りに巨大な火球が次々と現れる中、僕は魔法を使うために詠唱を始めた。

 

『永久に燃え続ける炎よ、我らの敵を完膚なきまでに焼きつくせ。『極炎魔法(オーバーヒート)』。並びに、我が力よ、さらに膨れ上がれ。『強化魔法(リインフォース)』』

「食らうがいい。『炎獄(ムスペルヘイム)』!」

 

『強化魔法』によって強化された『極炎魔法』とルスムの放った幾つもの火球がグレイスギルド長達へ向かっていくと、グレイスギルド長達は焦りの色が浮かんだ顔で魔法の詠唱を始めた。

 

「くっ……神の怒りを体現せし嵐よ、戦場に吹き荒れろ……! 『極風魔法(ギガストーム)』……!」

「咲き乱れる氷の花に抱かれなさい! 『氷華(アイシクルフラワー)』!」

 

 グレイスギルド長の『極風魔法』とニヴルの『氷華』が僕達の攻撃に向かって飛んでいくと、それらは中央で強くぶつかり合った。

 

『負けない……負けるもんか……!』

「ああ。この試合、我らが勝利する……!」

「私達にも意地があるのです……そう簡単には負けられません……!」

「そうよ……簡単に負けてあげるもんですか……!」

 

 そんな僕達四人の思いを乗せた攻撃は、中央でしばらく押し合いを続けた。そして、程なくして僕達の攻撃はグレイスギルド長達の攻撃を打ち消すと、僕達の攻撃は巨大な炎としてグレイスギルド長達を飲み込んだ。

 

「くっ──ああぁー!!」

「ぐっ──ああぁー!!」

『おおー、よく燃えてるねぇ』

「……フォル、今の状況でその発言は適切なのか?」

『さぁてね』

 

 僕の言葉にルスムが小さくため息をついている内に巨大な炎は消えると、グレイスギルド長達はその場にバタリと倒れこんだ。そして、僕達がゆっくりと近付くと、グレイスギルド長は息を荒くしながら僕達に視線を向けた。

 

「はあ……はあ……くっ、まさかここまでの力とは……!」

『ふっふっふ、恐れ入ったかな? その様子だと魔力は残っていてももう戦えなそうだね』

「はあ……はあ……そう、ですね……」

「……ふふ、まさか魔法を取り込まれて、そのまま敗北するなんてね。こんな展開は予想してなかったわ」

「それは我も同じだ。しかし……フォル、お前は本当にただのスライムなのか?」

『うーん……僕自身はそのつもりなんだけど、実は自分で気付いてないだけで僕も程度こそ違えど『ちょっと変わった事』が出来るスライムだったりしてね』

「……あり得ない話ではないな」

『だよね』

 

 正直な事を言えば、僕の中にある知識はいつの間にかあった物だし、もしかしたら自分では気付いてない秘密でもあるのかな……?

 

『……まあ、良いや。それよりもグレイスギルド長達の傷を癒す方が優先だよね。ハジメ、あれ頼んでも良いかな?』

「ん、わかった」

 

 返事をすると、ハジメはグレイスギルド長達に近付き、二人に手をかざした。

 

「『神聖治癒』」

「……傷が……」

「みるみる内に癒えていく……」

『二人とも、もう大丈夫そう?』

「は、はい……」

「傷はもう大丈夫よ」

『それなら良かった。それで、これで僕達の力試しは良い感じなのかな?』

 

 そう訊くと、グレイスギルド長は静かに笑いながらコクンと頷いた。

 

「……はい。これならば、冒険者として申し分ないと言えるでしょう」

「まあ、申し分ないどころじゃないけれどね。それにしても……あなた達は本当に面白いわね。これなら、私も退屈しなそう」

『ん……って事は、僕達の旅についてくるって事かな?』

「ええ、そうよ。こう言ったらなんだけど、あの時はあなた達についていく事が私にとって有益かわからなかったからあんな事を言ったけど、今回の手合わせであなた達についていけば私はもっと色々な事を学べると感じたわ。是非、あなた達の旅についていかせてちょうだい」

『僕は大丈夫だよ』

「俺も大歓迎です」

「無論、我もだ」

「ありがとう。明日になったら、イアちゃんとアーヴィングにも言わないといけないわね」

『だねー』

 

 これで僕達のパーティに新しい戦力としてニヴルが加わった。こうなったら、先代魔王の四天王全員を仲間にしてみるのも面白そうかもなぁ……。

 

 そんな事を考えていた時、ふいに僕の体がぐらりと揺れた。

 

『おっとと……』

「……まったく。お前も結構無理したよな」

『えへへ……でも、そのおかげで『セージスライム』になれたし、僕としては大満足だよ』

「そうだろうけど、次からはあまり無茶するなよ?」

『はいはい。それと……ハジメ、ありがとう。僕の事を止めないでくれて』

「どういたしまして。とりあえず、回復させるからな」

『はーい』

 

 そして、僕の回復や戦場の片付けが終わった後、僕達はグレイスギルド長とニヴルに別れを告げて、泊まっている宿屋に向けて歩き始めた。

 

『それにしても……これで先代魔王の関係者が三人になったね』

「ん、そうだな。このまま行くと、どこかで他の四天王にも会ったりしてな」

『そして、ルスムやニヴルみたいに仲間になったりしてね』

「あ奴らが仲間、か……そうなれば頼もしいが、果たしてどうだろうな……」

「そんなに仲間にならなそうな人達なんですか?」

「そうだな……少なくとも、二つ返事で仲間になるような奴らではないな」

『そっか。でも、最終的にはなんとかなるんじゃない?』

「……なれば良いがな。とにかく、残りの四天王はそう簡単には仲間にならないと思っておけ」

「わかりました」

『はーい』

 

 ルスムの言葉にハジメと一緒に返事をした後、僕達は色々な話をしながら綺麗な夜空の下を歩いていった。




政実「第20話、いかがでしたでしょうか」
創「まだガルスから旅立ってないのにもう20話か……まあ、次の目的地も決まってるし、そろそろ旅立ち回にもなりそうだな」
政実「そうだね。そろそろそうするつもりだよ」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第21話 始動、エルピス

政実「どうも、登場人物が決意を新たにするシーンが好きな片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。そういうシーンって何か重大な事があった後にある事が多いよな」
政実「そうだね。だからこそ、そういうシーンが際立つんだろうね」
創「かもな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第21話をどうぞ」


 翌日、お世話になっている宿屋で朝食を食べていた時、宿屋のドアが静かに開き、「あら、朝ごはん中だったのね」と言いながらニヴルさんが中へと入ってきた。

 

「あ、ニヴルさん。おはようございます」

「ええ、おはよう。フォル、ルスム、今朝の調子はどうかしら?」

『うん、バッチリだよ』

「無論、我も問題ない」

「そう、良かった」

 

 フォル達の返事を聞いてニヴルさんが笑みを浮かべていると、アーヴィングさんは少し警戒した様子でニヴルさんに声をかけた。

 

「……それで、私達に何か用か?」

「……あ、もしかして私達の旅についてきて下さるとか……!」

「その通りよ、イアちゃん。昨日の夜、フォル達と戦って迷いは断ち切れたから、あなた達の旅についていかせてもらおうと思って」

「そうか……まあ、私としては構わん。戦力は多いに越した事は無いからな」

「私も賛成です、ニヴルさん」

「ありがとう、二人とも。それじゃあ私は先に冒険者ギルドに向かってるわね。朝ごはんはもう食べ終えたし、早めに行かないと良さそうなクエストはすぐに取られちゃうから」

「わかりました」

 

 そして、ニヴルさんが宿屋を出ていくと、アルフレッドは小さくため息をついた。

 

「……お前のとこ、これでまた強くなったよな。創世神のお前に先代魔王の関係者が三人、『セージスライム』のフォル、上級魔法までなら神聖と暗黒以外の属性の魔法が使えるイアって、本当にどうなってるんだよ……」

「あはは……まあ、そう思うよな」

「しかし、欲を言うならばもう少し戦力が欲しいところだな。我らは今でも充分バランスは取れているが、ハジメやアーヴィングのように近距離と遠距離の両方で戦う事が出来る者がいれば、より戦いやすくなるだろう」

「それかサポートに特化した者だな。今回、フォルが『セージスライム』になった事で、回復役の数が増えたが、出来るならそれを専門とした者がいた方がいい」

「そうなると……『魔法剣士(マジックブレイダー)』や『聖騎士(セイントナイト)』、後はイアと同じ『魔導師(ソーサラー)』辺りが欲しいですね」

「そうだな。まあ、私達の目的を知っても尚、旅についてくると言うような相手がいればの話だがな」

「そうですね……」

 

 俺達の目的は生まれ変わった先代の魔王の発見と今代の魔王が勇者によって討たれるのを阻止する事だ。先代の魔王の生まれ変わりの発見はまだしも魔王の討伐の阻止の件を知って、それでも旅について来てくれる相手なんてそうそういないだろう。言ってみれば、それを目的にする俺達はこの世界の住人達の希望である勇者に仇なすものなのだから。

 

 ……こうなってくると、他の四天王にも協力を仰ぐ方が良いのかもな。ルスムさん達は残りの四天王は簡単には仲間にならないと言っているけど、俺達の力を証明すれば話くらいは聞いてくれるはずだからな。

 

 そう思いながらふかふかのパンを口に運んでいた時、「ん、そういえば……」とアルフレッドが何かを思い出したように声を上げた。

 

「なあ、ハジメ。お前達のパーティにもそろそろ名前が必要じゃないか?」

「名前か……」

「ああ。クエストを受けていって冒険者ランクが上がれば、必然的に名前も知られていって、お前達指名でクエストを受けて欲しいと言う人も増えてくる。なのに、パーティに名前が無かったら、そういう人達もやりづらいだろうからな」

「そういうもの……なんですか?」

「ええ。実際、高ランクの冒険者には異名があるし、パーティに名前をつけているところが殆どよ。私達もそうだしね」

「因みに、俺達のパーティの名前はブレイブリーだ。勇者を目指す俺が率いるパーティにはピッタリの名前だろ?」

 

 胸を張りながら言うアルフレッドに対してエスメラルダは呆れたようにため息をついた。

 

「……勇者を目指してるならもう少し落ち着いた行動を心掛けて欲しいわね」

「それはお前も同じだろ? あの時だって俺を止めるためとは言え、街中で矢を射ってきたし」

「それについてはもちろん反省してるわ。ハジメが受け止めてくれなかったら、誰かを傷つけていたわけだし」

「……その言い方、俺は傷ついても良いって聞こえるんだけどな」

「別にそうは言ってないけどね。とりあえず、話を戻すけれど、パーティを組んでいるならパーティ名があった方が色々得なのは間違いないわ」

「なるほど……ですが、私達にピッタリなパーティ名ってなんでしょうか?」

 

 イアが首を傾げながら訊くと、アーヴィングさんは少し難しい顔をしながら顎に手を当てた。

 

「そうだな……どうせ名付けるならば、何か明るい意味を持った名前が良いが……」

『明るい意味……“希望”とか“平和”とか?』

「希望に平和か……確かに良いかもしれんが、何かもう一捻りほしいところだな」

「もう一捻り……」

 

 うーん、なんだろう……たしかにそのまま何かの単語を使うよりは、何かもう少し欲しい気はする。例えば──。

 

「それを司る神様か何かの名前を使う……とか」

 

 ふとそんな事を呟いた時、イアが不思議そうに首を傾げた。

 

「ハジメさん、何か言いましたか?」

「ん? ああ、名前をつけるなら、神様とかの名前を使わせてもらうのもありかなと思ってさ。俺の世界でもそういうパターンで名前をつけてるところがあるから、無しではないと思って」

「なるほど……」

『まあでも、この『リューオン』の神様の名前をそのまま使うと、それを信仰してる宗教団体から何か言われそうだよね』

「そうだな。となれば……ハジメ、お前の世界の神々で何かパーティ名に良さそうな神はいるか?」

「そうですね……ちょっと色々思い出してみますね」

 

 そう言ってから俺は色々な神様の名前を頭の中に思い浮かべた。

 

 さて、どの神様なら合うかな……名前の響きも大事にしたいけど、意味も大事にしたいよな。

 

 それらを踏まえて考えていた時、俺はある言葉を思い出した。

 

「……エルピス」

「え?」

「こっちの世界にある国の一つ、ギリシャで使われている言葉で希望っていう意味を持つ言葉だよ」

『へー、そうなんだ。でも、なんでその言葉にしようと思ったの? 別に神様の名前ではないんでしょ?』

「いや、そのギリシャの神話では希望の神様だと言われてるし、そのエルピスという言葉が関係する神話が今の『リューオン』にちょっと似てる気がしてな」

「ふむ……?」

「ちょっとだけ説明を省きますけど、ギリシャ神話の神様の一柱がある理由から地上最初の女性であるパンドラを作り上げ、パンドラにある箱を持たせて神様の内の一柱の元へと送り込みました。その後、その神様とパンドラは結婚するんですが、ある日、そのパンドラは好奇心に負けて持たされていた箱を開けてしまう。すると、箱からは疫病や悲嘆などが飛び出し、パンドラは箱を閉じてしまうんです。その中にはまだ希望が残っていたのに。こうして、世界には災厄が満ち、人々は苦しむ事になってしまったという話なんです」

「世界に災厄……なるほど、少し強引なところはあるが、たしかに今代の魔王によって様々な国が被害を受けている事を考えれば、この『リューオン』は災厄に満ちていると言っても良いかもしれんな」

「はい。だからこそ、俺達が箱の中にまだ残っている希望に、エルピスになれればと思って」

「……なるほどな」

 

 俺の話を聞いてアーヴィングさんはフッと笑いながらそう言うと、イア達を軽く見回した。

 

「私はエルピスで良いと思う。お前達はどうだ?」

「私も賛成です!」

『僕もさんせー』

「無論、我もだ」

「……との事だ、ハジメ」

「みんな……ありがとう」

「礼には及ばん。まあ、ニヴルにも話は聞かないといけないが、ニヴルも反対はしないだろう」

「……そうかもしれませんね。よし……それじゃあこれからはエルピスとして頑張っていこう!」

 

 その言葉に対してみんなが力強く頷いていると、それを見ていたアルフレッドはどこか楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「これは俺達も負けてられないな」

「ええ、そうね」

「……ハジメ達よりも先輩なの、見せつけないと……」

「そうじゃな。アルフレッド、これからも儂らを引っ張っていってくれよ?」

「ああ、もちろんだ! そうと決まれば……!」

 

 そう言うと、アルフレッドは目の前の朝食をガツガツと食べ始めた。そして、みるみる内に食べ終えると、「ごちそうさま!」と大きな声で言い、足元に立て掛けていた剣を手に持った。

 

「よし……それじゃあ早速冒険者ギルドへ行くか! ニヴルが言ってたように良い条件のクエストは早くしないと取られちゃうからな!」

「それはそうだけど……はあ、私達まだ食べ終わってないのに……」

「でも、アルフレッドの言う事も正しい」

「そうじゃな。それなら、儂らも早く食べ終えるとするか」

「……そうね。早くしないとアルフレッドが一人で行っちゃいそうだし、ここは素直に従っておく方が得かしらね」

 

 そう言ってエスメラルダ達も食べるスピードを上げたのを見て、俺達もニヴルさんをこれ以上待たせないようにするため、急いで朝食を食べ始めた。そして、朝食を食べ終えた後、俺達はそれぞれの武器を手に取り、おかみさん達に声をかけた。

 

「ごちそうさまでした。それじゃあ、行ってきます」

「ええ。みんな、今日もクエスト頑張ってね」

「はい! よし……みんな、行くぞ!」

 

 そのアルフレッドの言葉に頷いた後、俺達は冒険者ギルドへ行くべく、宿屋の扉を開けた。

 

 

 

 

 ハジメ達が冒険者ギルドへ向かって歩き始めた頃、『ガルス』の入り口に金色の長い髪を一本に結い銀色の鎧を纏った若い人物の姿があった。

 

「……ここが『ガルス』……聞いていた通り、とても平和そうな街だ。こんなに良い街なら少し見て回りたいけど、まずは用事を済ませないとだね。えーと、冒険者ギルドは……」

 

 その人物は周囲を軽く見回し、近くにいた住人を見つけると、静かにその住人へと近付いた。

 

「あの、すみません」

「ん、何かな?」

「この街の冒険者ギルドはどこにありますか?」

「ああ、ここをずっと行った先にあるよ」

「わかりました。ありがとうございます」

「どういたしまして。ところで……冒険者ギルドへは何の用事だい? 見たところ……どこかの騎士様のようだが……」

 

 住人からのその問いかけに騎士は優しい笑みを浮かべながら答えた。

 

「ある目的を達成するための仲間を探しているんです。と言っても、ボクは冒険者というわけではないですが」

「仲間、か……それなら、強い冒険者の方が良いよな?」

「はい、そうですけど……誰か心当たりでも?」

「ああ。最近、冒険者になったばかりのメンバーばかりのパーティなんだが……そのパーティにはなんと先代の魔王の関係者や誰も見た事がない魔法を使う冒険者がいるんだ」

「先代の魔王の関係者……!? 何故、そんな人が冒険者のパーティに?」

「さあね……だが、そのパーティなら間違いはないよ。特にそのパーティのリーダーは、他の駆け出しのパーティのリーダーと協力してではあるが、先代の魔王の四天王の弟子で『古代魔導師』でもあるギルドの受付嬢ととても良い勝負をしていたからな」

「そうなんですね……わかりました、冒険者ギルドに着いたら、そのパーティを探してみます」

「ああ」

「では、失礼します」

 

 騎士は丁寧に一礼をして住人から離れると、冒険者ギルドへ向かって歩き始めた。

 

「……先代の魔王の関係者と見知らぬ魔法を使う冒険者がいるパーティ……そのパーティが一緒ならボクの目的を達成出来るに違いない。まあ、そのパーティが協力をしてくれるなら……だけど……」

 

 騎士は少し不安げな顔をしたが、その不安を追い払うようにすぐに頭を横に振った。

 

「ううん、きっと協力をしてくれるはずだ。もし、断られても何度でも頼み込もう。そうじゃないと、故郷は──『ヘイム王国』は救えないからね」

 

 騎士はやる気の炎を燃やしながら言った後、冒険者ギルドへ向かってゆっくりと歩を進めた。




政実「第21話、いかがでしたでしょうか」
創「そういえば、最後に新しいキャラが出てきたな」
政実「うん。あのキャラが創達とどう関わっていくのか、それは次回のお楽しみということで」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第22話 強襲と出会い

政実「どうも、健気なヒロインをよく好きになる片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。そういう人って結構多そうだよな」
政実「うん。つい応援したくなるタイプではあるからね」
創「まあな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第22話をどうぞ」


 宿屋を出発し、クエストへのやる気を高めながら冒険者ギルドへ向けて歩いていた時、隣を歩いていたイアがふと何かを思い出したような顔で声をかけてきた。

 

「ハジメさん、『ヘイム王国』へはいつ頃出発しましょうか」

「そうだな……まずは旅立ちの準備が必要だから、それの資金を集めてからだな」

『資金……昨日納品したゴブリンの魔石の分だけだとやっぱり足りない感じ?』

「足りないな。旅をするには人数分の食料や夜営用の道具、他にも色々な物を揃える必要があるから、資金もそれ相応の額が必要になるんだ」

「ふむ……となれば、(しばら)くは出発出来ないかもしれんな」

「はい。本当なら、イアのためにも早く出発したいところですけど……しっかりと準備をしないと『ヘイム王国』に辿り着く前に何かしらの問題が発生して、それどころではなくなりそうなので、準備だけはちゃんとしたいんです」

 

 そう言いながらイアをチラリと見ると、やはり囚われている故郷の仲間達が心配なのかイアは心ここにあらずといった様子で歩いていたが、俺の視線に気付くと、それを誤魔化すようににこりと笑った。

 

「私は大丈夫ですよ、ハジメさん」

「でも、イア──」

「たしかに故郷の仲間達の事は心配です。でも、私はそれと同じくらいハジメさん達を何かしらの理由で(うしな)うような目には遭いたくないんです。まだ出会ってから数日しか経ってませんが、それくらい皆さんの事を大切に思ってますから」

「イア……ありがとうな」

「ふふ、お礼なんて良いですよ。さあ、早く行きま──」

 

 イアが前方に顔を向けたその時、横の道から突然誰かが飛び出し、イアの事を捕まえたかと思うと、イアの首元にナイフのような物を突き付けた。

 

「きゃっ!?」

「動くな! 動くとこの娘の命は無いぞ!」

「お前、何をす──って、お前は……あの時の奴隷商か!」

 

 そう、イアに刃物を突き付けていたのは、他の冒険者によって捕まった(はず)の奴隷商だった。奴隷商の男はいやらしい笑みを浮かべると、震える手でイアに更に刃物を近付けた。

 

「へへ……久しぶりだな、小僧」

『どうして? アナさんの話だと、用心棒と一緒に捕まった筈じゃ……』

「そんなもん決まってんだろ! 逃げ出してやったのさ! まあ、あの用心棒の野郎は足を洗うとかほざいてやがったから、そのまま置いてきたけどな!」

「お前……イアを離せ!」

「やなこった!」

「なんだと──」

「おっと! さっきも言ったが、動いたらこの娘の命はないぜ? お前は不思議な術を使えるようだが、そんな素振りを見せたらすぐにこの娘を刺し殺してやる!」

「くっ……!」

 

 どうする……スキルを使おうとすれば、こいつは本気でイアの事を刺すつもりだ。でも、このままイアを捕まえさせておくわけには……!

 

 辺りが騒然とし、誰も動けずにいたその時、イアは覚悟を決めた様子で俺に話し掛けてきた。

 

「ハジメさん! 私には構わずスキルでこの人を捕まえてください!」

「イア!」

「てめえ、なに勝手に喋ってんだ! ぶっ殺されてえのか!」

「殺すならお好きにどうぞ。けれど、そんな事をしたら、あなたに待っているのはもっと辛い罰ですよ?」

「なんだと……!」

「イア……!」

 

 イアに声をかけると、イアは俺を見ながらにこりと笑った。

 

「……大丈夫です。刺された程度では私は死にません。だから、ハジメさんはスキルでこの人を捕まえてください。そうじゃないと、この人は他の人にまで危害を加えかねませんから」

「でも、万が一ということも!」

「その時は私の人生はそれまでだったと諦めるだけです。まあ、後悔があるとすれば……故郷のみんなを助けられなかった事とハジメさん達のサポートを続けられない事くらいですね」

「…………」

「さあ、早くスキルでこの人を──」

 

 その時だった。後ろから足音が聞こえたかと思うと、一人の騎士らしき人物が俺の横をすり抜け、イア達へ向かってゆっくりと近付き始めたのだ。

 

「……平和な街だと思ったら、まさかこんな下衆(げす)な人物に出会おうとはね」

「あ!? なんだ、てめえは!」

「……君のような奴に名乗る名前はない。さあ、早くその子を離すんだ」

「うるせえ! それ以上近付くと、この娘の命は──」

「……それなら仕方ない、か……」

 

 そう言った次の瞬間、騎士らしき人物の姿はイア達の目の前に移動しており、奴隷商の首元には綺麗な装飾が施された宝剣が突き付けられていた。

 

「な!?」

「……そこの君」

「は、はい……!」

「ボクがこの男をどうにかしている内に君は早くこの子を」

「わ、わかりました……!」

 

 そして俺は、イアと俺の横の空間を対象にしながらある魔法を唱えた。

 

「『転送魔法(ムービング)』!」

 

 すると、イアの姿は一瞬にして俺の隣へと移動し、それと同時に騎士らしき人物は奴隷商の男を組み伏せた。

 

「がっ!」

「まったく……本来はどこの国でも禁じられている奴隷商なんていう物に手を染めるなんてね。憐れと言う他無いよ」

「う、うるせえ……!」

「まあ、なんにせよこれで君は憲兵の元へ逆戻り。そして、もっと厳重な牢に囚われる事になる。少しはその中で反省し、真っ当な人間になる事だね」

「く、くそ……!」

 

 奴隷商の男が心から悔しそうな声を上げる中、俺は『転移魔法』で移動させたイアに話し掛けた。

 

「イア、怪我はないか……!?」

「ハジメさん……はい、大丈夫です」

「良かった……イア、本当にゴメン。イアが覚悟を決めてたのに、俺……すぐに行動出来なかった……」

「自分を責めないで下さい、ハジメさん。ハジメさんは私の身を案じて下さっただけですし、その事はとても嬉しかったですから」

 

 笑みを浮かべながらそう言ったかと思うと、イアは突然俺に抱きつき始めた。

 

「イア……?」

「でも……本当はとても怖かったです……。刃物を突き付けられたのもそうですけど、奴隷として捕まっていた時の事を思い出してしまって……」

「そう……だよな。あんな目に遭ったんだ。怖いのは当然だよ」

「ハジメさん……もう少しだけこのままでいても良いですか?」

「……ああ。イアの気の済むまでそうしてて良いよ」

「……ありがとう、ございます……」

 

 涙混じりの声でお礼を言った後、声を押し殺しながらイアが泣き出す中、俺が何も言わずにイアの背中を優しく叩き、事の成り行きを見守っていると、慌てた様子で憲兵が現場へと到着した。そして、騎士らしき人物から奴隷商の男を受けとり、その場を去っていくと、街の人達はすぐに騎士らしき人物を取り囲み、賛辞の言葉を投げかけた。

 

「そういえば……あの人は一体何者なんだろうな」

「さあな……でも、只者じゃないのは間違いないよな」

「うむ……あの場面でも冷静な態度を崩さず、距離を詰めると同時に宝剣を奴隷商へと突き付けられる辺り、腕の立つ者なのは間違いないだろうな」

『そうだねー』

 

 どこか照れたような顔で街の人達からの賛辞を受ける騎士らしき人物を見ながらそんな事を話していると、騎士らしき人物はゆっくりと俺達へと近付き、安心したようににこりと笑った。

 

「どうやら、その子に怪我はないようだね」

「はい。あの……ウチの仲間を助けて頂き、本当にありがとうございました」

「いや、礼には及ばないよ。ボクは騎士としてあの手の卑怯者が許せなかっただけさ」

「あ、やっぱり騎士さんなんですね」

「ああ、これでも『聖騎士』の称号を装備しているからね。ボクはアーリン、アーリン・スタンフォードだ」

「アーリンさんですね。俺はハジメ・イクセ。このパーティ、エルピスのリーダーです」

「ハジメ君だね。ところで、ちょっと訊きたい事があるんだけど……良いかな?」

「はい、何ですか?」

「さっき、街の人から先代の魔王の関係者や見た事がない魔法を使う冒険者が所属するパーティの話を聞いたんだけど、ハジメ君は何か知らないかな?」

「え、それって……」

 

 明らかに俺達の事だよな……街の人達の中では、もうそんなに噂になってるのか……。

 

 その事実に俺が少し驚いていると、フォルはなんて事無い調子でそれに答えた。

 

『ああ、それは僕達の事だよ』

「あ、そうなのか──って……どうしてボクはスライムの言葉がわかるんだ……?」

『それはね、ハジメがくれたスキルのお陰だよ。このスキル、『複音(ダブルボイス)』の効果で僕は『魔物使い』以外とも話が出来るんだ』

「スキル……聞き慣れない言葉だけど、それが誰も見た事がない魔法の正体なのかな?」

「そうだと思います。それで、アーリンさんは俺達に何か用でした?」

「ああ。でも、それは冒険者ギルドへ行ってから話すよ。言ってみれば、これは君達への依頼のような物だからね」

「……わかりました」

 

 アーリンさんの言葉に返事をした後、イアに視線を戻すと、話している内に泣き止んだらしく、俺を見ながら信頼しきったような笑みを浮かべていた。

 

「イア、もう良いのか?」

「はい、もう大丈夫です。それに、アーリンさんからのご依頼の方が大事ですから」

「……わかった。それじゃあ──そろそろ行こうか、みんな」

 

 その言葉にイア達が頷いた後、俺達は再び冒険者ギルドへ向けて歩き始めた。




政実「第22話、いかがでしたでしょうか」
創「前回のラストに出てきたアーリンさんの名前と称号が今回明らかになったわけだけど、他の詳しい情報は次回以降になりそうだな」
政実「まあ、そうなるかな」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第23話 アーリンの依頼

政実「どうも、騎士系のキャラが好きな片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。たしかに騎士系のキャラは良いよな」
政実「うん。パーティに一人いるだけで、パーティ内の空気が引き締まる感じがするし、強いキャラも多いんだよね」
創「そうだな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第23話をどうぞ」


 アーリンさんと一緒に歩くこと数分、俺達は冒険者ギルドの中に入った。すると、とても心配した様子のアナさんがカウンター越しに話し掛けてきた。

 

「あ、皆さん! さっき、例の奴隷商が逃げ出したという報告がありましたが大丈夫でしたか!?」

「はい。襲われはしましたけど、こちらのアーリンさんに助けて頂いたんです」

「そうでしたか……それじゃあ誰も怪我はしていないんですね?」

「はい、そうみたいです」

『でも……どうやって逃げ出したんだろ?』

「それは今調査中です。恐らく、『開錠魔法(アンロック)』を使ったんだと思いますが……」

「ふむ……そうだとすれば少し妙ではないか? 詳しくは知らんが、流石に魔法を使える状態で牢には入れんだろう?」

「はい……魔法の使用を阻害するマジックアイテムは着けさせていた筈なんですが、開け放された牢にはそれがこじ開けた様子もなく落ちていたという話ですから、その奴隷商の男が外して牢まで開けたというのは考えづらいんです」

「そうですよね……」

 

 つまり、奴隷商の男が逃げられるように手引きをした人物がいるわけだけど、それは一体誰なんだ……?

 

 その謎の人物について俺達が考え始めたその時、「……あら、どうかしたの?」という声が入り口の方から聞こえ、俺達はそちらに視線を向けた。すると、そこには不思議そうな顔で俺達を見るニヴルさんの姿があった。

 

「ニヴルさん……あれ、先にここに来てたんじゃ……?」

「さっきまでね。でも、あなた達が少し遅いから、その辺の様子を見に行ってたのよ。それで、何があったの?」

「実は──」

 

 俺達が奴隷商の男に襲われた事などについて話すと、ニヴルさんは「なるほど……」と納得顔で頷いた。

 

「たしかにそれは謎ね。まあ、あのマジックアイテムを無効化するアイテムはあるけど、結構高価な物だし、そもそもそれを持ち込めないようにはしてるわよね?」

「それはもちろんです」

「そうよね……でも、その誰かさんは恐らくそれを持ち込み、奴隷商の男を牢から出してみせた。これは結構な問題よ。もし、そんな人が色々な国で捕らえられている犯罪者を外に出そうものなら、世界は大混乱になるもの」

「世界が大混乱に……」

 

 ニヴルさんの言葉を聞いてイアが恐怖で体を震わせていると、ニヴルさんはそれを見て優しい笑みを浮かべた。

 

「大丈夫よ、イアちゃん。今のはあくまでももしもの話だから。それに……もしそうなってもハジメ君やアーヴィング達がいれば大丈夫よ」

「あはは……そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、ちょっとプレッシャーが……」

「でも、そうでしょう? たしかに私とルスム、アーヴィングは先代の魔王様の関係者だけど、そんな私達よりもあなたの方が強いもの」

「え……そうなのかい?」

 

 とても驚いた様子でアーリンさんが俺を見る中、それを聞いていたアーヴィングさんとルスムさんは深く頷きながら答えた。

 

「……違いないな」

「うむ……少なくとも、ハジメを相手にして一対一で勝てるとは思わん」

「先代の魔王の関係者にそこまで言わせるなんて……ハジメ君、君はそんなに強い人なんだね……」

「強いと言っても、それはあくまでもスキルのお陰ですよ?」

「それでもだよ。やはり、そんな君達にならこの件を依頼しても問題なさそうだ」

「依頼……そういえば、その依頼って何なんですか?」

 

 その俺の問いかけにアーリンさんは少し暗い顔で答えた。

 

「……君達には、ボクと一緒に『ヘイム王国』まで来て欲しいんだ」

「『ヘイム王国』に……」

「ああ、そうだ。『ヘイム王国』が今どういう状況かは知っているよね?」

「はい、もちろんです」

「本来、『ヘイム王国』は誇り高き騎士達の国で、国王もとても正義感が強い人だった。けれど、いつからか『ヘイム王国』は真逆の国へと変わってしまった。日夜、コロシアムで奴隷達を殺し合わせ、自分の気に入らない相手は問答無用で処刑する。そんな残虐非道極まりない国になってしまったんだ……」

「アーリンさん……」

「だけど、ボクはそんな『ヘイム王国』を変えたい。こうなってしまった原因を突き止め、元の『ヘイム王国』に戻したいんだ。でも、その為には腕の立つ人が必要となる。だから、ボクはそんな人達を求めて『ヘイム王国』を旅立ったんだ」

「アーリンさん……」

「みんな、お願いだ。『ヘイム王国』を救うためにどうか力を貸してくれないか?」

 

 アーリンさんの目の奥では決意の炎が燃え盛っており、心から『ヘイム王国』をどうにかしたいという気持ちがひしひしと伝わってきた。そして、俺はパーティメンバーのみんなと頷き合った後、にこりと笑いながらアーリンさんに話しかけた。

 

「そういう事なら喜んで手伝わせてもらいます」

「本当かい!?」

「はい。それに、俺達も囚われたイアの故郷の仲間達を助けるために『ヘイム王国』には行く予定だったので」

「囚われた故郷の仲間……もしかして、君の故郷は……」

「……はい、『ミドガ』です」

「やはりか……国王達の行動を『ヘイム王国』の国民として謝罪するよ。本当に申し訳ない……」

「いえ、アーリンさんが謝る事ではないですよ。それに、『ヘイム王国』の皆さんがそのような事をし始めたのは恐らく何か理由があると思うんです。それこそ、私達には計り知れないような理由が……」

「ボク達には計り知れないような理由……か」

 

 イアの言葉をアーリンさんが繰り返していると、アルフレッドは真剣な顔をしながらアーリンさんに話しかけた。

 

「アーリンさん、何か心当たりは無いですか?」

「心当たり……いや、特には無いかな」

「そうですか……」

「ふむ……となれば、現地に赴いて調べるしかないな」

「うむ、しかし……出発するにはまだ時間が掛かるな」

「はい。まずは旅の準備が必要ですから」

 

 俺達がそんな事を話していると、それを聞いていたニヴルさんが少し不思議そうな顔をしながら話し掛けてきた。

 

「あら……旅の準備なんて必要? 『転移魔法』で飛んでいけば済む事じゃない?」

「たしかにその手もありますけど、『ヘイム王国』やその近くに飛んでいった場合、それを見られて騒ぎになったら、兵士達に捕まりかねませんから、今回は『転移魔法』は使わない事にしたいんです」

「なるほど。まあ、そういう事なら仕方ないわね」

「はい。アーリンさん、そういう事なので、申し訳ないんですが、旅立ちまでにはもう少し時間がかかってしまいます。それでも良いですか?」

「ああ、構わないよ」

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

 アーリンさんがにこりと笑いながら言うと、それを見ていたニヴルさんは「へえ……」と言ってからアーリンさんの顎に手を当てた。

 

「あ、あの……?」

「あなた……顔も綺麗な上に性格も優しいのね」

「い、いや……これくらい普通ですよ……?」

「ふぅん……? 普通って言えちゃう辺り、やっぱり心が広いわね。ふふ……あなたも中々良い氷像になりそうね」

「ひ、氷像……? あ、あの……これって一体……?」

 

 アーリンさんが心から困った様子を見せていると、アーヴィングさんは小さくため息をついた。

 

「すまないな……ニヴルは自分の気に入った相手を氷像にして、手元に置いておこうとするのだ」

「そ、そうなんですね……」

「まあ、アナとイアちゃんの事もまだ諦めてないけどね♪」

「はあ……弟子の私はまだしもイアさんの事は諦めて下さいね、ニヴル様」

「考えておくわ」

「さて、それじゃあこれからどうやってクエストを受けていくかですけど、何か案がある人はいますか?」

 

 その問いかけにニヴルさんは静かに手を上げた。

 

「せっかくだから、ここは二チームに分かれてクエストを受けていかない?」

『二チームに?』

「ええ。自分で言うのもあれだけど、私達のパーティーは戦力は申し分ないでしょう? それなら、手分けをしてクエストを受けていった方が効率的だと思うのよ。ねえ、アナ。実際にそういうパーティーもいるわよね?」

「はい、もちろんいますよ」

「なるほど……それじゃあどうやってチーム分けをしましょうか」

「それならば……ハジメとイアとフォルの組、そして我ら先代魔王の関係者の組に分けるのはどうだ?」

「なるほど……たしかにその分け方なら戦力差もちょうど良いかもしれませんね」

「では、私達のチームのリーダーは私が務めよう。ハジメ、そちらのチームは任せたぞ」

「はい、任せてください」

 

 アーヴィングさんの言葉に対して自分の胸をポンと叩きながら答えていた時、隣からアーリンさんに肩に手を置かれながら声をかけられた。

 

「ハジメ君、よければボクにもクエストを手伝わせてもらえないかな?」

「え、でも……良いんですか?」

「ああ。ボクもただここで待っているよりももう少し色々な人の助けになりたいんだ。まあ、その前に冒険者登録をしないといけないけれどね」

「……わかりました。それじゃあお願いしても良いですか?」

「ああ、任せてくれ」

 

 アーリンさんがにこりと笑いながら答えた後、ルスムさんはアーヴィングさんの肩に乗りながら声をかけてきた。

 

「では、我らは先に行くぞ」

「わかりました。あ、そうだ……ニヴルさん、俺達のパーティについてなんですけど……」

「ああ、名前の事なら知ってるわよ。たしか『エルピス』だったかしら? 理由も名前も結構気に入ったわ」

「ありがとうございます……って、あれ……教えましたっけ?」

「ふふ、アーヴィングとルスム以外は気付いてなかったと思うけど、私の魔力を使って氷のコウモリを作って話は聞いてたのよ。まあ、話が終わったのを確認したらすぐに解除しちゃったから、あなた達が奴隷商の男に襲われていたのは知らなかったけどね」

「なるほど……」

「さて、それじゃあ私達は先に見つけていたクエストを受けてくるわね」

「わかりました」

 

 そして、アーヴィングさん達がクエストの紙が貼ってある掲示板へ向かう中、俺はイア達を見回しながら声をかけた。

 

「よし……それじゃあアーリンさんの冒険者登録が終わったら、俺達もどんどんクエストを受けていこう!」

「はい!」

『ほいほーい』

「ああ!」

 

 イア達が返事をした後、俺達は俺達を見ながらにこにこと笑うアナさんがいるカウンターへ向かって歩き始めた。




政実「第23話、いかがでしたでしょうか」
創「今回からアーリンさんが仮のメンバーとして加わったわけだけど、これからどんな風に活躍していくんだろうな」
政実「それは次回からのお楽しみという事で」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第24話 聖域の森

政実「どうも、聖域と呼ばれるところに入ってみたい片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。聖域なぁ……まあ、基本的に入れないところだからこそ入ってみたいという気持ちはわかるけどな」
政実「だよね。すぐにはもちろん無理だけど、もしその機会があったら入ってみたいな」
創「そっか。さて、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第24話をどうぞ」


 アーリンさんの冒険者登録を済ませた後、俺達は受けるクエストを決めるためにクエストが貼ってある掲示板へと向かった。すると、そこにはどのクエストを受けるか悩んでいる様子のアルフレッド達がいた。

 

「みんな、まだクエストを決めかねてるのか?」

「ん? ああ、まあな」

「ハジメのおかげでアルフレッドも前より強くなったけど、全体的に見ればまだまだだからね。クエストも慎重に選びたいのよ」

『なるほどね』

「たしかに自分の実力よりも上のランクを選んだところで、上手くいかなくなるのは目に見えているからね」

「でも、このまま悩み続けるわけにもいかない」

「そうだな……」

 

 早めに『ヘイム王国』に行くなら、報酬が良い上のランクのクエストを受けていく方がいい。ただ、そうする事で仲間達に無駄な怪我をさせるわけにもいかない。さて、どうするかな……。

 

 クエスト掲示板を見ながら悩んでいたその時、ふとあるクエストが目に入ってきた。

 

「ん……?」

「ハジメさん、どうかしましたか?」

「いや……今、『ミドガ』っていう文字が見えた気がして……」

「『ミドガ』……あ、これじゃないかな?」

 

 アーリンさんがある一枚を指差すと、フォルは興味津々な様子でそれを見始めた。

 

『どれどれ……“ミドガ周辺で発見されるゴールデンスライムの粘液が欲しいです”だって』

「ゴールデンスライムの粘液……たしか錬金術(アルケミー)に使われるはずだけど、依頼主は錬金術士(アルケミスト)かな?」

「どうやらそうみたいですね。それで、必要数以上採れたら、その分は私達が貰って良いようですけど……これにしますか?」

「そうだな。ゴールデンスライムの粘液は結構貴重な物だから、高値で売れるはずだ」

「だけど、ゴールデンスライムは中々見つけられないモンスターとして有名だ。何か策はあるのかい?」

 

 そのアーリンさんの問いかけにフォルはいたずらっ子のような笑みを浮かべながら答えた。

 

『まあ、ハジメがいれば大丈夫でしょ』

「そうなのかい?」

『うん。ハジメは『ちょっと変わった事』が出来る『魔物使い』だから。ね、ハジメ』

「ん……まあな」

「……それも、例のスキルというのが関わっているのかな?」

「そんなところです。ただ……イア、お前は平気か? 今回のクエストを受けるなら、もしかしたら『ミドガ』の近くを通る事にもなるけど……」

 

 その言葉に対してイアは少し辛そうな顔をしていたが、すぐに覚悟を決めた表情を浮かべた。

 

「……私は大丈夫です。それに、もしかしたら今回のクエストの最中に生き残ったり逃げ延びたりした誰かと出会えるかもしれませんから、私はこのクエストを是非受けたいです」

「……わかった。それじゃあ、このクエストを受ける事にしよう」

 

 そして、掲示板からそのクエストの紙を剥がし、俺達はカウンターにいるアナさんのところへ持っていった。

 

「アナさん、お願いします」

「こちらですね──はい、承りました。それにしても、まさかこのクエストを受注するとは……流石はハジメさん達ですね」

「……と言うと?」

「このクエスト、受けようとする人がやっぱり殆どいなくて、たとえ受けてもゴールデンスライムが見つからなくて途中で諦める人しかいなかったんです」

「それは仕方ないです。ゴールデンスライムは希少なモンスターな上、スライムの中でも特に知能が高く『鷹の目(ホークアイ)』のスキルで見つける前に見つけられて穴の中などに隠れてしまうという特性上、中々見つけられないモンスターとして有名ですから」

「はい。なので、依頼者の方も結構諦め気味だったんですが、ハジメさん達なら大丈夫ですね」

「あはは……そう簡単に行くなら良いんですけどね」

「ふふ、そうですね。さて、それでは皆さん、気をつけて行ってきてくださいね」

『はい!』

『はいはーい』

 

 そして、カウンターから離れ、そのまま入り口へ向かっていると、掲示板の前にいたアルフレッドから声をかけられた。

 

「まあ、お前達なら問題ないと思うけど、アナさんの言う通り、気をつけて行ってこいよ」

「ああ、もちろんだ」

「皆さんもクエストに行った際は、怪我などに気を付けてくださいね」

「ええ、ありがとう」

「それじゃあ、行ってきます」

『行ってらっしゃい』

 

 アルフレッド達に見送られながら冒険者ギルドを出た後、街の外に向かって歩いていると、アーリンさんがクスリと笑いながら話し掛けてきた。

 

「彼らと仲が良いんだね」

「ええ、まあ。まだ出会ってから数日しか経ってませんが、一緒にクエストを受けたり戦ったりしたので、絆は深い方だと思います」

「そうか。それで、『ミドガ』の近くまではどう行くつもりなんだい?」

「ああ、それなら『転移魔法』で行こうかと」

 

 俺の返答にアーリンさんはとても驚いた様子を見せた。

 

「え……君も『転移魔法』が使えるのかい?」

「はい。まあ、今回のように少し急ぎたい時くらいしか使うつもりはないですけどね」

「そ、そうか……」

『正直、僕達くらいになるとハジメが『転移魔法』を使えるぐらいじゃ驚かなくなったけどね。なんだったら、古代魔法を含めた全部の魔法が使えるでしょ?』

「ああ、まあな」

「古代魔法まで……!? ハジメ君、君は本当に何者なんだい……?」

「フォルの言う通り、『ちょっと変わった事』が出来る『魔物使い』ですよ。さて……それじゃあそろそろ行きましょうか」

 

 そう言った後、俺は俺達を対象にし、自分が『勇者の戦記』で描写した『ミドガ』の様子を思い浮かべながら『転移魔法』を唱えた。

 

「『転移魔法』」

 

 その瞬間、俺達は強い光に包まれ、光が消えるとそこは『ガルス』の街ではなく、豊かな自然が広がる森の中だった。

 

「よし、到着。それで、ここは……」

「ここは……『ミドガ』の中にある『聖域の森』です」

『『聖域の森』?』

「はい。『ミドガ』を見守ってくださっている守り神様を祭る祭壇がある場所で、普段は限られた人物しか入る事が許されない場所なんです」

「なるほど……でも、そんな神聖な場所に僕達が入ってしまって大丈夫なのかな?」

「大丈夫ですよ。ここは里長とその家族、そして里長達が親愛を示した人達なら誰でも入れますから。ただ、今は……」

「『ヘイム王国』の兵士がいてもおかしくはないって事か……」

「はい……本当ならお祖父様が専用の結界を張っているのですが、先日の襲撃の際に亡くなってしまった事で、その結界も無くなってしまいましたから、本当に誰でも入れるようになってしまいました……」

 

 そう言うイアの顔は本当に哀しそうで、アーリンさんはそんなイアに対してどう声をかけたら良いかわからない様子でただイアの事をじっと見ていた。

 

 ……正直、イアの悲しむ顔は見ていて気持ちの良いものじゃない。焦っても仕方ないのはわかるけど、それでも早めに『ヘイム王国』まで行かないといけないな。

 

 イアの事を見ながら心の中で強く誓っていたその時、こちらに向かって歩いてくる足音が聞こえてきた。そして、その音にイア達が警戒した様子を見せる中、俺は『創世』のスキルであるスキルを創った。そして、それを早速使うと、足音がする方から吐き気がする程の強い悪意を感じ、思わず俺は口に手を当ててしまった。

 

「くっ……」

「ハジメさん!?」

「大丈夫かい、ハジメ君!?」

「は、はい……」

『その様子だと……何か感じ取ったのかな?』

「ああ。向こうから強い悪意を感じてな……」

「強い悪意……つまり、向こうから来ているのは恐らく『ヘイム王国』の兵士か魔王の手先辺りだね……」

 

 そう言いながらアーリンさんが宝剣を手に取るのに続いて俺達も自分達の武器を手に取り、足音の主が来るのを待った。すると、程なくして銀色の甲冑に身を包んだ二人の人物が姿を現し、俺はさっき感じたのと同じ悪意をその二人から感じ取った。

 

 なるほど……さっき、『感知(センシング)』のスキルで感じ取った悪意はこの二人の物だったのか。

 

「アーリンさん、あの二人はもしかして……」

「ああ、『ヘイム王国』の兵士だ。だけど、襲ってきたら容赦はしなくて良い」

「……わかりました」

 

 アーリンさんとの会話を終えた後、俺は前に一歩踏み出してからその二人に話し掛けた。

 

「お前達、ここに何の用だ?」

「……あ? 誰だ、お前は?」

「クエストのためにここを訪れた冒険者だ」

「冒険者、だぁ? へへ、ちょうど良い。男は奴隷にして、スライムは虐殺。女の方は俺達で楽しませてもらうとするか!」

 

 兵士達がイアを見ながらイヤらしい笑みを浮かべていると、アーリンさんは嫌悪感を露にした様子で兵士達の事を睨み始めた。

 

「……なんて低俗なんだ。同じ『ヘイム王国』の人間として呆れるよ」

『本当だね。こんな奴ら、さっさと倒しちゃおうよ』

 

 珍しくフォルが嫌悪感を露にしながら言うと、兵士達はそれに一瞬驚いたものの、すぐに楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「へえ、喋るスライムか。予定変更だ。そいつは見世物小屋にでも売り払うぞ」

「そうだな。そして、その金でまた新しい女を買うとしようぜ」

「ひひっ、そうだな」

 

 そして、兵士達が持っていた剣を構える中、俺達は各々の武器を持つ力を更に強めた。

 

「……みんな、さっきも言った通り、容赦はしなくて良い。むしろ、本気で叩き潰してくれ」

「……はい」

『……僕達の恐ろしさ、思い知らせてあげよう』

「そうだな。よし……行くぞ!」

 

 その声を合図に俺とアーリンさんは兵士達へ向かって走り出した。




政実「第24話、いかがでしたでしょうか」
創「次回は兵士戦+αみたいな感じか?」
政実「そうだね」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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第25話 兵士との戦闘

政実「どうも、戦いの最中に戦い方を変えるやり方が結構好きな片倉政実です」
創「どうも、幾世創です。戦いの最中にバトルスタイルを変更するのは中々大変だけど、上手くやれば相手を混乱させられるから、覚えたい技術ではあるよな」
政実「うん。まあ、自分も混乱しないようにしないといけないけどね」
創「そうだな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・創「それでは、第25話をどうぞ」


 さて……戦いに夢中でこの森を荒らさないようにしないといけないし、イア達には攻撃系魔法は控えてもらわないといけないな。もちろん、俺もだけど。

 

 そんな事を考えた後、俺は兵士の一人に向かって『精霊剣レインボーソード』を振るった。

 

「はあっ!」

「ぐうっ……!?」

 

 兵士は俺の攻撃を持っていた槍で受け止めると、まだ少し余裕がある様子でニヤリと笑った。

 

「へえ……そこそこやるじゃねえか……!」

「お褒め頂きどうも。アーリンさん、そっちはお任せしても良いですか?」

「ああ、任せてくれ!」

 

 アーリンさんの返事を聞いた後、俺は一度兵士から距離を取り、後方にいるイア達へと近付いた。

 

「イア、フォル。攻撃は基本的に俺とアーリンさんでやるから、二人は今回はサポート系の魔法に専念してくれ」

「わかりました!」

『僕も了解だけど、向こうが魔法を使って僕達に攻撃してくる可能性もあるんじゃない?』

「もちろん、それについては考えてある」

 

 そう言った後、俺は『創世』でスキルを一つと銀色のナックルダスター──『聖拳ジャスティスナックル』を一組、『拳闘士(グラディエーター)』の称号を作り上げ、『聖拳ジャスティスナックル』と『拳闘士』を装備しながらスキルを使用した。

 

「『分身(アバター)』」

 

 すると、俺の隣にもう一人の俺が現れ、イアはとても驚いた様子を見せた。

 

「え……ハジメさんがもう一人……!?」

『おおー、これはすごいねぇ』

「これは『分身』のスキルで生み出した俺の分身だ。まあ、『創世』のスキルは使えないけど、他のスキルなんかは使えるから、向こうからの攻撃に関してはこいつに任せてくれ」

「は、はい……!」

『ほいほーい』

「という事で……任せたぞ、俺」

『ああ。イア達には指一本触れさせないさ』

 

 分身が力強く頷いた後、俺は『俊足』のスキルを使いながら再び兵士に向かって走り出し、その勢いを利用して兵士に拳を振るった。

 

「はっ、はあっ!」

「ぐぅっ……!?」

 

 鎧越しでも結構なダメージを受けたらしく、兵士は息を切らしながら信じられないといった様子で俺の事を見始めた。

 

「はあ、はあ……お、お前……『剣士(ブレイダー)』だけじゃなく、『武闘家(ウォリアー)』の称号まで持っているのか……!?」

「残念だけど、俺は『剣士』でも『武闘家』でもない。ただの『魔物使い』だ」

「『魔物使い』だと!? そんな馬鹿なことが──」

「あるんだよ、これが。さて……そろそろケリをつけさせてもらうぞ」

 

 そう言った後、俺はイア達に声をかけた。

 

「イア! フォル!」

「は、はい! 風の精霊よ、我が仲間に祝福を! 『俊敏魔法(クイック)』!」

『我が仲間の力よ、更に膨れ上がれ。『強化魔法』』

 

 イアの『俊敏魔法』とフォルの『強化魔法』を受け、俺は目にも止まらぬ早さで重い一撃を兵士へと次々に浴びせた。

 

「はあっ、はっ、はあっー!」

「ぐっ、ぐぅっ、ぐぁっ!」

「これで終わりだ……『ブレイキングナックル』!」

「ぐ……ああぁっー!」

 

 兵士は『ブレイキングナックル』を受けた衝撃で遥か後方に吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がった後、近くに生えていた木に激突し、その場にバタリと倒れこんだ。

 

 ふう……これで良いな。さて、アーリンさんの方は……。

 

 そう思いながらアーリンさんへ視線を向けると、アーリンさんは宝剣を鞘にしまっており、その足元には兵士が倒れていた。そして、俺達がアーリンさんに近付くと、アーリンさんはにこりと笑いながら話し掛けてきた。

 

「お疲れ様、みんな」

「アーリンさんもお疲れ様です。それで、この兵士達はどうしましょうか?」

「そうだね……出来るなら、彼らが変わってしまった理由を知りたいところだけど、たぶん話してはくれないだろうね」

「そうですね──あ、一つ考えがあるので試してみて良いですか?」

「それは良いけれど……」

『ハジメ、何をするつもりなの?』

「ん……ちょっとな。でも、まずは……兵士達を一ヶ所にまとめないとだな」

 

 そう言った後、俺は吹っ飛ばしてしまった兵士のところまで行き、その体を支えながらもう一人の兵士のところまで運んだ。そして、スキルを一つ創り出した後、そのスキルを兵士達へ使った。

 

「『浄化(プリフィケーション)』」

 

 すると、兵士達の体から紫色の小さな珠が現れ、それが粉々に砕け散ると、兵士達は小さな呻き声を上げながら静かに目を開けた。

 

「目が覚めたかい?」

「あ……はい──って、いてて!」

「か、体が……死ぬ程、痛い……!」

「あはは……まあ、気絶する程のダメージを与えたからね。ハジメ君、彼らを治してあげてくれるかな?」

「はい」

 

 返事をした後、俺は兵士達に手を翳した。

 

「『神聖治癒』」

「……体が……楽になっていく……!」

「もう、全然痛くない……!」

「それは良かった。それで、さっきまでの記憶はあるかな?」

 

 そのアーリンさんの問いかけに対して兵士達は暗い顔をしながら頷いた。

 

「はい……」

「皆さんには多大なご迷惑をおかけしました……本当に申し訳ありません……」

「……うん、それは良いんだけど、その様子だとどうやらさっきの珠のような物が何か関係しているようだね。ハジメ君、さっきのスキルはどういったものなんだい?」

「『浄化』は対象にかかっている呪いや魔術などを消し去るスキルです。なので、この人達は何かしらの呪いや魔術にかかっていたんだと思います」

「そうか……君達、『ヘイム王国』で妙な魔具などを見ていないかな?」

「妙な魔具……あ、見てます見てます!」

「あの不気味な鏡を見てから、自分を抑えきれなくなった記憶があります!」

「不気味な鏡……それを見たのはいつだい?」

「俺達はつい最近ですが、鏡自体は少し前からあるみたいです。それで、突然国王に謁見する事になったと思ったら、その鏡を見せられて……」

「さっきみたいな性格になっていた、と……いや、自分を抑えきれなくなったと言っていたから、自分の奥底にある欲求などを増幅させてしまい、それが暴走したというのが正しいのかな……」

 

 兵士の様子から色々推測をするアーリンさんの顔はどこか哀しげだった。それはそうだろう。もし、アーリンさんの推測が正しければ、『ヘイム王国』の国王や騎士達は心の奥底で奴隷制を推奨し、奴隷や旅人達を殺し合わせたいと思っていた事になるからだ。

 

 そうではないと信じたいけど、たぶんその推測は合っている。そして、それはアーリンさんももちろんわかっている。だからこそ、より悲しいんだろうな。

 

 そんなアーリンさんの姿を見ていた時、兵士の一人が恐る恐るといった様子で俺達に話し掛けてきた。

 

「あ、あの……俺達はこれからいったいどうすれば……」

「……とりあえず、今は『ヘイム王国』には戻らない方が良いですね。戻ったら、またその鏡を見せられると思いますから。なので、『ヘイム王国』が元に戻るまでは近くの町に身を潜めるのが良いかと」

「そうだね……けれど、この格好のままではどこかの兵士というのは丸わかりで、最悪『ヘイム王国』の兵士というのがバレてしまうからどうにかしてあげたいね」

「あ、それなら良いスキルがありますよ」

「本当かい?」

「はい。それでなんですが、お二人の称号を教えてもらって良いですか?」

「称号……俺は『槍使い(ランサー)』で」

「俺は『魔槍使い(マジックランサー)』だけど……」

「『槍使い』と『魔槍使い』ですね。それじゃあ……行きます」

 

 そして、俺は兵士達に『装着(ウェアー)』のスキルを使用した。すると、兵士達は戦国時代の足軽のうな姿へと変わった。

 

「お、俺達の姿が……!」

「すごい……一瞬で変わってしまった……!」

「この姿は……東方にある『ヤマト国』の兵士達が着ている物と似ているね」

「はい。この姿なら動きやすいはずですし、『ヘイム王国』の兵士だとは思われないはずです。それと、せっかくなので槍も普通の物から魔術で鋭さを増した物と魔法を使う時に魔力の減少を軽減する物に変えておいたのでモンスターに襲われても並大抵の事では負けないと思います」

「そうか……! あ、でも……事が済んだ後、支給品の鎧と槍について訊かれたらどうしようか……」

 

『槍使い』の称号の兵士が少し心配そうに言う中、アーリンさんはクスリと笑いながらそれに答えた。

 

「それはたぶん大丈夫だと思うよ。『ヘイム王国』はしばらくそれどころじゃないと思うし、緊急事態だったから仕方ないと思ってもらえるよ」

「それなら良いんですが……」

「とりあえず、まずは身を隠した方が良い。もしかしたら、元に戻った事に気付かれて、追手を寄越されるかもしれないからね」

「わ、わかりました……あの、本当にありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

 

 そして、兵士達が去っていった後、俺はアーリンさんに話しかけた。

 

「さて、それじゃあそろそろゴールデンスライム探しを始めましょうか」

「そうだね。でも、どうやって探そうか……」

『それなら、ハジメの『索点』のスキルで探したら?』

「『索点』……それはどういうスキルなんだい?」

「それは──」

 

 その時、兵士達が去っていった方向とは逆の方からこっちに向かって歩いてくる足音が聞こえ、俺達は警戒心を持ちながらそちらに視線を向けた。

 

「……奥の方から誰かが来る……」

「また『ヘイム王国』の兵士だろうか……」

『まあ、たとえそうだとしてもまた倒して、『浄化』のスキルで治したら良いでしょ』

「そうだな」

 

 そんな事を話しながら足音の主が近付いてくるのを待ち、前方に肩に何かを乗せたイアと同じ狼型の獣人種の『亜人族』が見え、その人物が俺達の目の前来た時、イアは信じられないといった様子で「え……」と声をあげた。

 

「トラヴィス……お兄様……?」

「……久しぶりだね、イア」

 

 トラヴィスと呼ばれた男性はその端整な顔で優しい笑みを浮かべた。




政実「第25話、いかがでしたでしょうか」
創「今回の最後にイアの家族らしき人が出てきたな」
政実「そうだね。この人がなぜここにいるのか。それは次回のお楽しみという事で」
創「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしているので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
創「ああ」
政実・創「それでは、また次回」


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