ソードアート・オンライン《黒の剣士と白い悪魔》 (海苔塩イモ)
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プロローグ

……やっちまったぜ。
暖かい目で見てあげてください。
そうドラ◯もんのように。


“とあるゲーム”に1万人もの人間が囚われの身となり、超高難易度かつゲーム内での死が、現実に反映された正しく真のデスゲームとかしたゲームの名前は、

 

 

 

 

Sword(ソード) Art (アート) Online(オンライン)

 

 

 

 

そして、そのゲームに囚われた者の内である1人の少年———■■■■は、そんな死と隣り合わせのデスゲームの中で、人の皮を被った殺戮者たちによって、

 

 

ある時、愛する人と戦友を同時に失った。

 

大切な者を失った彼は、復讐の鬼と化し、

 

自らの怨敵である“笑う棺桶”達と同じように自らの剣を血に染めてしまう。

 

やがて、彼は自らが激情に駆られて人を殺めたという重い十字架によって心に深い傷を負ったが、彼に寄り添う仲間達の助力により彼は回復し、戦場へと舞い戻る。

 

だが、回復した彼の目の前で、デスゲームを創り出した者との最終決戦によって、彼の仲間であり親友————キリトとアスナの命は消えた。

 

又しても、大切な者を失った絶望と悲しみによって深すぎる傷を胸に、彼は自分の意思など、お構いなく彼の家族が待つ現実へと返される。

 

 

 

 

 

 

 

大切な者を失ってしまったことへの絶望、

 

激情によって奪ってしまったことへの絶望、

 

相反する2つの絶望を胸に、

 

彼は、殺伐とした世界でまるで死を求めるかのように、

 

戦場を今日も駆け抜けていく。

 

■■■■という名を捨て、

 

自らの存在を否定する者————Nobady(ノーバディ)として。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

2025年8月11日

 

倒壊したビルの瓦礫を避け、自身の獲物であるベレッタM92FSに装填された9mm×19パラベラム弾を、向かってくる最後の敵に撃ち放つ。しかし、その弾は、全て敵の予想であったのか、1発も掠ることはなかった。そして、無数の銃弾を放ってきたバイザーによく似た特徴的なゴーグルをした黒髪の少年————Nobady(ノーバディ)に向けて、短く切りそろえた飾り気のない色素の薄い金髪に碧眼に加えて、飾り気のないロービジで機能性重視な現代風戦闘服に身を包んだ男は、S&W M39に装填された9x19mmパラベラム弾を回避行動を取ろうとしているノーバディへと8発総て撃ち込む。すると、金髪の男から放たれた弾丸は、ノーバディの肩、足にそれぞれ2発ずつ命中する。弾丸が命中したことで、ノーバディの動きに隙ができたため金髪の男は空になったS&W M39をノーバディへ投げつける。銃弾を受けた身だが、ノーバディは向かってくるS&W M39は避けることには成功する。

しかし、ノーバディが避けることを予想していた金髪の男は、ノーバディへ投げつけた拳銃に一瞬とは言え、自らへの視線が逸れた隙を見逃さず彼の懐へ間合いを詰める。

 

「舐めるな!!」

「………wow」

 

間合いを完全に詰め寄られる前にノーバディは、腰に下げていた手榴弾を金髪の男の進行方向へと投げる。爆発する前に金髪の男は、まるで慣れているかのような動きで近くに落ちていた車のドアの残骸を手に取り、爆発から身を守る。対する手榴弾を投げたノーバディも爆風の勢いを利用して、その場から回避する。

 

回避に成功したノーバディは、近くのビルの中へ入り、物陰に身を潜め、体勢を整え直すべく敵の動きの備えようとしたのだが、

 

Your soul will be so stimulating(キミの魂は、きっと刺激的だろう)

 

背後から聴こえて来た声に背筋が凍る様な悪寒を感じ取る。

咄嗟に、腰のコンバットナイフを本能で振り抜く。すると、ガキィン!という金属音が静かすぎるビルの中に響き渡る。音の正体は、ノーバディが振り抜いたコンバットナイフと金髪の男が持っているナイフの接触音であった。

そして、激しい金属音と火花を散らしながら2人は互いのナイフを交え合う。数回の接触によってノーバディは目の前にいる男がどれほどなまでにレベルが違いすぎる相手であることを痛感したのか、時間が流れるに連れて焦燥が露わになっていく。そんなノーバディの表情を見てなのか、それとも彼との斬り合いが楽しいのか、金髪の男の顔には薄い笑みが浮かび上がっていく。

明らかに劣勢な状況を打破すべく、ノーバディは弾丸を装填し直したベレッタM92FSから弾丸を発射させる。発射された弾丸は見事に金髪の男の肩に右肩に命中するが、男は受けたダメージなどどうでもいいかの様にナイフを持っていない方の拳でノーバディの腹を殴りつける。

 

It was unlucky(残念だったね)

「ガハッ!?」

 

まるでボクサー選手かの様な拳から伝わる重みに驚きつつも、吹き飛ばされたノーバディはビルの中に建ち並ぶ柱の内の一本にぶつかる形で漸く止まる。仮想現実とは言え、肺から空気が一気に抜けたかの様な錯覚を覚えたが、ノーバディは何とか立ち上がろうとするのだが、

 

The game is over in this(コレでゲームは終わりさ)

「…ぐっ……shut up(うるせぇ)idiot(バーカ)!」

 

首を締め上げられる形で押さえ込まれる。

そして、背一杯の虚勢のようにも聴こえるノーバディの言葉に、終始無表情であった金髪の男は、まるで目の前にいる少年の姿が滑稽で仕方がないのか、口元を緩んだ。その致命的な気の緩みを見逃さなかったノーバディは、最後の悪足掻きとして、最後に残ったグレネードを起動させる。

 

「!フッ、See you, hot boy」

 

勝利確信した事への慢心ゆえに、ノーバディの最後の悪足掻きによって金髪の男は彼と共にグレネードの爆発の炎で2人は焼かれた。

 

 

これにより、記念すべき第1回バレット・オブ・バレッツ通称BOBの優勝者は、2人という中々はじめて開催された大会の結末としては、異色な結果となった。しかし、この大会を見ていた多くのゲーマー達は大いに盛り上がったのは言うまではなく、更に彼らがプレイする荒廃した世界を舞台に銃器で戦うVRMMORPG———ガンゲイル・オンライン通称GGOのログイン者数が増えたという。

 

 

 

後に、この2人が別の戦場で再び相見えることになるのは、さらに先のお話となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

2025年8月23日

 

 

あの日……キリトとアスナが死んだ………いや、エギルが2人は死んでいなかったと教えてくれたからソレは間違いだ。

だが、俺はあの日……団長いや茅場(かやば) 晶彦(あきひこ)とキリトの最終決戦の時、あの人が掛けたシステムによる麻痺をギリギリで解けたのにも関わらず、アスナとキリトを助けることが出来なかった。あの時……笑う棺桶(ラフィン・コフィン)によってアオイ(好きな人)クロト(親友)を見殺しにした時と同じ。しかし、結果的に言えば、俺が間に合っていようがいまいが、最後まで皆んなのために抗い続けたアスナとキリトは助かった。死んだと思っていた2人が生きていてくれていたことを聴いた時は、鼻水や涙を垂らしながら本当に良かったと、何度も呟きながら何時間もの間泣いていたものだ。まだ生きていることを知らなかったこととは言え、親友を2人も同時に失う苦しみと悲しみを二度も味わったのだから、当然と言えば当然だ。

 

また、小耳に挟んだことだがALOの非人道的実験を解決したのもキリトたちだということを電話で聴いた時は、思わず腹を抱えて笑ってしまったのは未だに新しい。

 

……あぁ、やっぱりオマエは英雄(ヒーロー)だよ…キリト。

 

SAOで世話になり切ったキリトたちに会って礼を言うのが、普通なのだが、大切な人を見殺し、復讐心に駆られて8人もの人間を手にかけた俺は、そんな英雄達に会う資格がないことをSAOから現実世界へ戻って来て改めて痛感した。本人達がそのことを聞けば、俺を殴り、許し、そして最後に一緒に寄り添ってくれるはずだ。そんなことをもう一度されてしまえば、俺はこの苦しみを忘れてしまう。

だから、俺はもうアイツらには会わない。

 

 

1人でこの罪で苦しんで、苦しんで、苦しんで…………

 

 

 

……………■■■■■!

 

 

そんな下らないことを考えていると、熱感知センサーが取り付けられたバイザーによく似たゴーグルに反応があった。如何やら、今回のターゲットである5人組のスコードロンが現れたようだ。

果たして、俺は何人killするのか。それともkillされるのかな。

 

「ふぅ……逃げ切れるのなら逃げ切ってみせろよ。これからお前達が相手にするのは、イカれた悪魔だから」

 

 

かつて、SAOで黒の剣士と同じ技量を持ちながらある事件によって心に深すぎる傷を負った血盟騎士団きっての剣士にして、もう1人の副団長を勤めていた少年は、キリトを含む彼に親しい者達以外のプレイヤーからこう呼ばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『血盟の白い悪魔』




如何だったでしょうか?
かなり亀更新になるとは思いますが、コレからも宜しくお願い致します。
それでは、また次回にて。


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第1章 Emptiness Bullet
第 Ⅰ 話 1人ぼっちの暗殺者(アサシン)


銃の知識がまだまだ穴だらけなため、コレを出した方が面白いのではと思う銃があれば、ぜひ感想などでも気軽に書いてください。
それでは、第二話どうぞ!

誤字と勘違いが見つかりましたので修正しました。


一切の足音を立てず気配を殺し、正に暗殺者の様に誰にも気づかれることなくノーバディは今回の標的であるmob狩りの帰りである5人組のスコードロンに視線を外すことなく、2つ球体を腰から取り出す。そして、2つ球体の内の1つの正体である手榴弾のピンを外すと、ピンの外す音に一切に此方を向いた5人の中央目掛けて手榴弾を放り投げる。

すると、カラカラと音を立ててから数瞬後に手榴弾は爆発し、1番近くにいた光学銃を持っていたグラサンの男をその爆炎で焼いた。

 

「なっ!?襲撃だ!!」「クソっ!!」「嘘だろ!?」「ピンの音するまで分からないとかマジかよ!?」

 

爆発から咄嗟にばらける様に逃げ延びた4人は慌てた様子でそれぞれが待っている銃を乱射する。しかし、その場には既にノーバディの影は無く、銃撃によって穴だらけになった空っぽのドラム缶だけだった。

 

「クソっ!敏捷(AGI)がヤバいくらいに高い上に、気配もないとか殺し屋かよ!」

「どうするよ、リーダー?このまま団体で逃げるか?」

 

スコードロンのリーダーと思しき迷彩服にサムライヘアーの男に、同じく迷彩服を着たスキンヘッドの男が意見を出す。

 

「いや、このまま纏まって逃げても、追いつかれるのに加えて、またグレネードでも投げつけられたら終わりだ。全員、反撃するぞ!!絶対に1人で対処するなよ、相手はあの闇風並みに早いぞ!!」

「「「ラジャー!!」」」

 

かつてGGOを始めた頃に組んでいたプレイヤーの名前が聞こえた上に、その人と同等に強いと初見で称されたノーバディは、物陰から薄い笑みを浮かべる。

 

「中々、高く買ってくれるのは悪い気はしないな」

 

そして、互いの死角をカバーし合うように陣形を取ろうとするのだが、彼がそんなことを許すはずもなく、もう一つの球体をスコードロンの近くへ投げ捨てる。すると、今度の球体から煙幕が勢いよく吹き出し、瞬く間にスコードロンの周囲を煙で覆い隠していく。

 

「マズい!スモークか!全員撃つなよ!同士討ちになるぞ!」

「「「了解」」」

「無駄だ」

 

リーダーが的確に指示を出すことは容易に想像できていたノーバディは、煙の中でもハッキリと見える弾道予測線(バレット・ライン)を頼りに敵の背後へと駆け抜ける。

 

「がぁっ!?」

「悪いな」

 

背後からの足音で振り返ると同時に首の頸動脈あたりからVR特有の不快感が走った。そして、自分がヤラれたのだと気づいたバンダナを付けた男はログアウト寸前に自分を倒した者の正体を確認すると、そこには赤いバイザーの様なゴーグルを付け、所々に赤いラインが入った日本警察S◯Tの様な特殊部隊風の戦闘服に身を包んだ黒髪の青年がいた。その青年の手には、自分の首を切ったと思しきコンバットナイフとベレッタM92FSが合体し、あまり原型を残していない異様な銃剣の拳銃があった。それを最後にバンダナの男のHPがゼロになり、ポリゴンとなって四散する。そして、四散した男と同じように弾道予測線(バレット・ライン)から位置を特定し、それぞれの背後へと忍び寄り、銃剣で音も無く、的確に首を狙い残りの3人内2人のHPをゼロにした。その結果、スモークの煙が晴れる頃には、リーダーしか残っていなかった。

 

「お、お前まさか、アサシンか!?」

「誠に遺憾ながらな、そしてCiao(チャオ)

 

煙が晴れたことで、ノーバディの姿を漸く視認したリーダーは、彼の正体を看破する。対するノーバディも、SAO時代の二つ名並みに気に入っていないGGOでの自分の異名で呼ばれたためなのか、何処かニヒルな笑みを浮かべ、銃剣のベレッタ————デリットを構える。因みに、デリットとはイタリア語で罪を表す言葉であり、SAO時代での出来事を一時も忘れないために自らの愛銃である銃剣型の拳銃へと改造したベレッタM92FSに付けた渾名である。

 

そして、焦燥の表情をしたリーダーは待っているM4カービンを構え直すのだが、既にノーバディの間合いに入られているため引き金を引く前に、デリットに装填されている弾丸9mm×19パラベラム弾を2発、右肩と左太腿にそれぞれ撃ち込まれてしまう。相手が銃撃によるダメージで怯んだ隙をノーバディは見逃すことはせず、アサルトライフルを構え直される前に、デリットのナイフで頸動脈を切断し、即死判定によってリーダーの男のHPは0となり、四散した。

 

「………呆気ない奴等だな。もう少し歯応えのあるスコードロンはいないのかよ。たらこさんの所やメメントモリ!おっと!?」

 

何処か物足りなさそうなノーバディは深い溜め息を吐いていたが、殺気によく似た視線を感じ取り、咄嗟に飛び退くと、遅れて聞こえてきた銃声と共に左肩の服を掠めた。

 

「おいおい、いるじゃないか。良さそうな奴等がさぁ!」

 

掠めた物の正体は、遠方からの狙撃による銃弾であった。咄嗟に、SAOで鍛えられた感覚が功を奏したため生きているノーバディ。狙撃をしてきた場所は、丁度1km先にある倒壊しかけたビル群の内の1つ。

 

「ハハっ!楽しくなりそうだな、デリット!カスティーゴ!」

 

そう言ってデリットをホルスターへしまったノーバディは、ストレージの中からもう一丁目の自身の愛銃であるSCAR-L MK16(ブラック)を取り出す。SCAR-Lとは、Special operations forces Combat Assault Rifle-Lightの略称で、SCARシリーズの内の一丁である。5.56x45mmNATO弾を使用し、有効射程は約500m、総重量は3040gとそれなりの重さはあるが、アサルトライフルにしてはまだ軽い分類に入る。そして、このSCARは、ベルギーの銃火器メーカーであるFNハースタル社がアメリカ特殊作戦軍向けに開発された汎用性が高いアサルトライフルである。敏捷(AGI)型であるノーバディは、戦闘面において拳銃とナイフによる近距離をメインとしているが、GGOはガンアクションの世界であるため中距離戦のことも視野に入れて自身のステータスでギリギリ持てるアサルトライフルを使用している。

 

「さぁて、第二回戦だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:Sniper

 

そんな……完璧に必中するタイミングだったのに避けられた!?何なのよ、アイツは!

 

『シノン、奴は?』

「ダメ、避けられたわ」

 

今回一度きりの契約上で組んでいるスコードロンのリーダーからの通信に、短いけど端的な結末を私は伝える。本来なら、先ほど私が狙った相手が倒したスコードロンを私達の7人のスコードロンが待ち伏せで狙うはずだった。しかし、その5人組のスコードロンは乱入者によって全滅させられてしまった。それも、スコープから確認してみたが、持っているのは明らかに改造しまくったせいで原型が特定できない銃剣付きの拳銃一丁だけで五人を瞬殺。

明らかに纏っている風貌やオーラはトッププレイヤーのそれと同じだ。

 

「コッチからの迎撃はどうするの?」

『奴は1人だ。それに相手がマジの敏捷(AGI)型なら、俺のKSGで脚を止めてから蜂の巣にしてやればいい』

 

無理だ。

リーダーの言葉を聴いても、全く作戦が成功するとは到底思えない。リーダーが彼の姿を見たのかは知らないが、明らかに相手を舐めている。そこまで名前が売れてもいない私が意見した所で、無視されるか、考えすぎだと笑われるのがオチだ。なら、今の私がやるべきことは、スナイパーとして射程がまだ今の内に奴を倒すしかない。

もう一度、スコープを覗き直すと、銃剣使いはすでに私がいるビル真下辺りの物陰に隠れてしまっているため、これ以上の狙撃はできない。

一足遅かった……というか脚早すぎるでしょ!

 

「そっちの現状は?」

『………………』

 

銃剣使いの迎撃に当たっているメンバーに連絡を取るものの、返ってくるのは無音のみ。敵が近づいている際で声が出せないのか、待ち伏せに集中したいのか、まだ銃声一つも聴こえない。

 

「ちょっと、そっちの状況は?」

 

もう一度、確認を取ると今度は、

 

『おい、どうなったんだよ!』

『クソ、弾が当たらねぇ!!』

『おい、全員で包囲して退路を断て!』

『無理だろ!脚早すぎるっての!』

『あ、ヤベっジャムった』

『ちゃんとメンテしろ!』

 

メンバー達の怒号と共に、けたたましいほどの銃声がインカムから聞こえてくる。さっきまでスモークと手榴弾を使っての奇襲だったのに対し、今回は位置を特定されているにもかかわらず、6人を圧倒している。

 

『やっぱり、コイツは暗殺者(アサシン)だ!シノン、作戦変更だ。お前は東側にあるビルから狙撃しろ。ヤツを外に出すように誘導する』

「了解」

 

リーダーから指示を受けて、私はFR-F2を抱えて急いでもう一つの倒壊したビルへと急ぐ。アイツ……アサシンと呼ばれたあのプレイヤーを倒せば、私は……シノンは強くなれる。シノンが強くなれば、現実の、あの悪夢に怯え続ける朝田詩乃も強くなれる!

 

 

 

 

コレが私と彼の出会いであり、

 

この先長く続く関係になるとは、

 

このときの私は全く思いもしなかった。







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第 Ⅱ 話 氷の狙撃手(スナイパー)

MIXIMさん、まっどまっくすさん、レータさん、緋戸さん、ゆうきちさん、ユーたさん、苦瓜も瓜なりさん、天パのまっさんさん、百鬼 風戸さん、高橋ひかるさん、だるま12345さん、由紀☼ ゚さん、お気に入り登録して下さりありがとうございます!!
そして、今後の期待も含めての評価9を下さった雨猫柳さん、真にありがとうございます!!

今後もご期待に答えれるようにしていきますので、感想お気に入り登録などもよろしくお願いします!!



ノーバディが5人組のスコードロンを瞬殺してすぐ、水色の髪をした女性スナイパーことシノンによる狙撃を受けたのだが、SAO仕込みでの感覚によって狙撃に失敗し、次なる獲物としてロックオンされたため現在では彼女が一時的に所属しているスコードロンと抗戦状態となっている。

そして、数分も満たない内にシノンは先程までいたビルとは違うビルの三階に到着した。

 

「こちら、シノン。配置に着いたわ」

 

また返事がない上に今度は銃声も聞こえない!?

まさか全員ヤラレた?いえ、メニューバーではスコードロン全員がHPをかなり消費してはいるものの、6人全員の生存が確認できる。なら何故、誰も通信に出ない。おかしい、この状況はかなりおかしい。明らかに静かすぎる。

 

異様なまでに違和感がある状況にシノンは不審感を募らせつつも、ノーバディがいるであろうビルの出口にFR-F2の照準を合わせる。

既に、場所を変え、認識もされていないとすれば、私の先程のように弾道予測戦(バレット・ライン)はもう見えていない。

 

狙撃するタイミングを見計らっていると、

 

「よぉ、狙撃手(スナイパー)

 

聴き覚えの無い男の声が背後から耳に入った。

咄嗟に声のする方向へFR-F2を構えるが、突然強い衝撃によって弾かれてしまう。もう一つの武器であるサイドアームのH&K MP7を取り出そうと腰に手を回そうとした所で、額に感じたくも無い硬い感触を感じ取る。

 

その感触でようやく自分の置かれている状況に気づかされた。

背後を取られた私は、FR-F2を蹴り飛ばされ、額に銃口を向けられてしまったのだということを。

 

「もう少し、周囲に気を配った方がいいぞ?俺みたいな、『当たらなければどうと言うことは無い』という迷言を鵜呑みにしている馬鹿相手には」

「自分で馬鹿って認めるの、そこは?」

 

私の額に銃口を当てているのに撃つ気配がない特徴的なゴーグルを額に掛けている彼は、突然先程まで自分がいたビルへと視線を向け始めた。コレはチャンスと感じ、サイドアームのH&K MP7へ再び手を伸ばそうとした所で、ナニカに気づいた彼はいきなり私を抱き竦めるように抱えて、隣の部屋へと飛び込んだ。思わず、きゃっ!と声を上げてしまったが、その声も数瞬遅れてとてつもない爆発にかき消され、先程まで私達がいた場所を中心に三回も起きた。何かが起こったのか分からない私は、まるで漁師が網を巻くようにポイッと床に転がされる。

 

「やれやれ、何人か途中で居なくなったと思ったら、メンドクサイことをしてくれたものだ」

「なによ?どういうことなのか、説明して!」

 

爆煙で身を隠しながら周囲を窺いつつ、いつのまにか私のFR-F2を拾ってきたのか投げ渡してきた。ちょっと扱いの雑さに腹が立つがそうも言ってはいられない。

 

「どうやら、お前は俺をここへ誘き寄せてから、さっきのグレネードランチャー……多分ダネルMGLで俺もろとも吹っ飛ばす予定だったようだな」

「私を……囮に…?」

 

ちょっと、色々な情報の所為で頭が停止しそう。

 

「大方さっきの5人組のスコードロンをやった後、狙撃スキルの高いお前からFR-F2を奪って、弱体化させる予定だったんだろう。アイツら確か、初心者(ニュービー)狩りやレア銃目的に護衛討ちもやるってのも噂に聴いことあるからな」

 

最近、腕の良い女スナイパーが活躍しつつあるって小耳に挟んだからな事実だろ……と付け加えながら、さっきまでいた部屋の入り口付近から足音が聞こえたのか、彼は私の今の様子なぞお構いなしにSCAR-Lで牽制射撃を始めた。

 

なによ、ソレ。

ふざけるな!私を……シノンを弱くさせるために裏切ったなんて、冗談じゃない!!

私を餌にして、尚且つ装備を奪う……何処までも人を舐めているアイツらにふつふつと怒りが湧き上がってくる。

 

「ねぇ、アサシン。アイツらをヤルの手伝って!」

「おいおい、自分のスコードロンを裏切るのか?」

 

ヘラヘラと私の怒りを倍増させるかのような笑みを浮かべるコイツを撃ってやろうと思ったけど、さすがに状況が悪すぎるから我慢する。後で、ぶっ殺してやる。

 

「今日だけの契約だから仲間じゃない!取り分は、7対3でどう!」

「やだね。半々だ」

 

「わかった、6対4よ」

「……仕方ない、それで行くか。後、俺をその名前で呼ぶな」

 

「分かったわよ、私はシノン」

「ノーバディだ。メンドクサイなら、ノバでいい」

 

はぁ〜とワザとらしい溜め息を吐く彼は、グレネードを取り出して突然私に手渡すと、私がいる柱まで駆け寄ってくる。

 

「シノン、もう1発ランチャーを打ち込まれる前に南方のビルに飛び移るぞ」

「は、はぁ!?何言ってんの!?」

 

「俺のSCAR-Lは、EGLMタイプグレネードランチャーの代わりにワイヤー銃を付けているからイケる。それに、幾らSTR型でも女子の体重なんてたかが知れてる。ほれ、さっさと身軽になれ」

「こん…のぉ!いいわ、分かったわよ!落としたら、下から撃ち抜いてやるわよ!!」

 

やっぱりコイツ絶対ぶっ殺してやる!

急いでストレージに武器をしまい、彼から手渡されたグレネードを裏切ったスコードロン達に豪速球で投げつける。グレネードは見事に入り口で爆発し、道を塞いだ。道を塞がったのを確認した彼は、私を荷物の様に片手で背負う。そして、背負い方に文句を言おうとしたがまたもや隣のビルからグレネードランチャーの爆撃が始まったため、何も言えなくなる。

 

 

 

しかし、その結果、

 

「いやァァァァァァァァァァ!!」

「ア~アア~〜〜〜〜〜〜~♪♪」

 

銃の世界にも関わらず、私はディ◯◯ーの初期ジ◯◯ンの気持ちを知ることとなってしまった。知りたくなかったわ、彼女があんなにも叫び声を上げる理由なんて。

 

取り敢えず、なんとか飛び移ることには成功したけど、

 

「ふん!!」

「ヘボ!?」

 

このター◯ンバカの顔面を殴ったことは間違いではない!

というか、間違いなんて言わせるか!!

 

「あ〜VRなのに、イタイ」

「さっさと、配置に付くわよ!私は後衛、アンタは前衛!」

 

「はいはい」

「さっさと行けぇ!!」

 

ワイヤー銃をストレージにしまい、いつものカスティーゴに直したノーバディは、シノンの怒号を尻目にそそくさと迎撃に向かうのであった。

 

 

 

 

 

場所は変わり、隣のビルの一階。

 

裏切り者のスコードロンは、既にシノンとノーバディがビルに居ないことを確認したのか、一階に降りて入り口付近の物陰に身を潜めていた。そして、その一階ではアサルトライフルH&K HK416を所持しているモヒカン男は、KSGを所持しているリーダーへ作戦の内容をもう一度確認する。

 

「で、リーダー。もし、アイツがアサシンなら俺とアイツで動きを牽制して、もう一回グレネードランチャーでドカン!ってことでいいんだよな?」

「ああ、奴の銃はベレッタとSCARだが、どちらも俺達に比べて射程は短い。なら、奴との間合いを見極めながらお前のアサルトライフルと、今入り口を見張ってくれているアイツのMG42で足を止めて、俺のKSGか、グレネードランチャーでドカンだ!その後、じっくりとシノンを狩ればいい」

「リーダーも悪い奴だね〜あんな可愛子ちゃんを騙すわ、アサシンの餌にするわ、一緒にヤルだなんてねぇ〜」

 

2人の会話に望遠鏡でシノンが隠れていそうな場所を探していた190㎝位あるゴツい男がニヤニヤした顔で入ってくる。そんなゴツい男の言動なんて、全く反省のはの字もしていないリーダーは鼻で笑う。

 

「ハッ!GGOなんてのは、如何にして自分達が得をするのかが肝心なんだよ」

「確かに」 

「言えてるな」

 

そんなリーダーに同調する様に他の2人も悪い笑みを浮かべていると、入り口を見張っていたMG42を持っている細身の男性が、突然乱射を始める。

 

「来たぜ、リーダー。アサシンだ!」

「よし、大物を狩ってレア銃を奪うぞ!」

「「「ラジャー」」」

 

 

 

 

MG42から放たれる7.92x57mmモーゼル弾の弾道を先読みしつつ、ノーバディは様々な障害物を利用して間合いを詰めていこうとしたのだが、他のメンバーたちによる集中砲火によって上手く近づけないでいる。

 

『そっちからは何人見える?』

「こっちは、機関銃持ちが1人、アサルト持ちが2人、ショットガン持ちが1人だ。そっちからはランチャー以外に見えるか?」

 

『いえ、ま…ん?ちょっと待って』

 

インカムから聴こえるシノンの言葉に疑念を抱きつつも、威嚇射撃を行いながら、銃撃の合間に起きるタイムラグを見極め、その場から移動していると、シノンの狙撃されそうになった時と同じモノを感じ取ったためノーバディは急いで半身を床に伏させる。

すると、背中を銃弾が通り過ぎると同じく、突然インカムからシノンの声が耳に入る。

 

『いたわよ!!目の前にあるランチャーがいるビルの4階に1人!』

「狙えるか?」

 

『誰に言ってんのよ?』

「わかった。合図はグレネードでやるから、その後爆発音に紛れて狙撃してくれ」

 

了解と短い彼女の返事を聴いたノーバディは、器用にグレネードランチャーによる爆撃の雨を掻い潜りつつ、カスティーゴをストレージにしまい、最後のプラズマグレネードを起動させる。そして、爆発までのタイムラグの間に一気に駆け抜けるため身軽になった彼は弾道予測線(バレット・ライン)だらけの道へ出て行く。無謀な突進に勝利を確信した4人組は、一斉にノーバディへ銃弾を放つ。赤い線が鬱陶しいくらいの量が真正面から来ることを視認したノーバディは、突然近くの瓦礫を使って空中へ飛び上がり銃弾の雨の回避する。突然の人間離れした跳躍に4人組は度肝抜かれていると、ピッピッと電子音が足元から聞こえてくる。不審に思い視線を向けると同時にそれは爆発した。

 

仕組みは単純明快だ。ノーバディは飛び上がる前に4人組の足元へプラズマグレネードをボーリングの様に高速に転がしただけなのだ。

その結果、ノーバディばかりに気を取られ、4人の内で1番彼に近い位置にいたMG42持ちの細身の男性が爆発によって四散した。そして、空中に飛び上がったノーバディの着地点にバレットM95の照準を合わせるべくスナイパーは、窓から身を乗り出そうとする。

しかし、それは悪手である。

 

 

「かかった!」

 

スナイパーが身を乗り出したことをスコープで確認し、着弾予測円(バレット・サークル)に従い、私はFR-F2の引き金を引いた。すると、スナイパーの頭にヒットし、即死判定が下され、スナイパーはポリゴンとなって四散する。そして、スナイパーにヤレたのを遅れて聞こえた私の銃声に驚き、グレネードランチャーの男は私目掛けて爆撃をしようとする。

 

もう遅い、私を騙した報いよ!!

「ジエンド」

 

慌てた相手よりも冷静な私の方が、次弾の狙撃は勝つ。その結果、私はスナイパーとグレネードランチャー使いを倒した。そして、ムカつくアイツの援護を行おうとしたのだが、最後の1人を倒した所だった。

それも、上下から刃を出しているフォトンソードで。

 

「何よ、ソレ?」

『ん?知らないのか、コレはムラマサM7って言って、どっちからでも刃を出せるムラマサF9と違って、コイツはどちらからでも出せる上に両方から同時に出せる男のロマンであるダブルセイバーを実現した武器だ!』

 

何でドヤ顔なのよ………

訳がわからない…ダブルセイバーなんて掌で回す程度にしか扱えない上に、下手をしたらフォトンソードの刀身で自分が斬れるかもしれないのに。

 

『所で、そっちは終わったのかよハニィ〜?』

 

ブチッ!

 

「そうね………アンタで終わりよ!!!」

『おいおい弾の無駄使いすんなよ!』

 

ふざけるんじゃないわよ!

あ゛ぁ腹が立つ!このふざけたバカに風穴開けてやる!

 

「うるさい!死ね!氏ねじゃなくて死ね!!」

『逃〜げろぉ〜〜〜』

 

鼻歌交じりながら逃げるな!死ね!

絶対ぶっ殺してやる!!

 

その後、何とかシノンの機嫌の宥めつつ、2人はそれぞれの分け前を事前に話した通り6対4の割合で分けて、それぞれ帰路につくのであった。

 

 




ちなみに、ノーバディを撃つために消費した弾丸はノーバディ自身からその分のお金をシノンは払わせたのは余談である。


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第 Ⅲ 話 現実のNobody(ノーバディ)

naonagiさん、如月 遥さん、双剣使いさん、[蜃気楼]さん、のほっほんさん、希望ってなに?さん、雨猫柳さん、カズミンさん、エボニー&アイボリーさん、お気に入り登録ありがとうございます!!

そして、苦瓜も瓜なりさんも評価してくださりありがとうございます!!
いや〜お気に入り登録と評価が増えていくのを見ると本当に嬉しいです!!

今回は短めで、現実世界の2人のお話です。
ご期待に応えれる様にしていきますので、皆さん感想なども宜しくお願いします。

修正させていただきました。


2025年8月23日20時50分

 

シノンと呼ばれた中々に面白いプレイヤーとの共闘は意外にも楽しかったのか、彼は久しぶりにログアウト後のリアルつまりは現実世界で、不思議な達成感を感じていた。

GGO内では、プレイスタイルから暗殺者(アサシン)なんて不名誉極まりない異名を持つノーバディは、ゲーム内にかなり酷似した容姿をした現実の彼…仙石(せんごく) 一利(かずとし)へと戻り、特徴的な所が普通の黒髪の頭に取り付けていたゴーグル状のゲーム機アミュスフィアを取り外す。

 

「ふぅ、久しぶりに楽しいと思えたな。シノンって奴のおかげかな?ピトの奴にサバイバーってバレるまではM(エム)の奴や闇風さんなんかとスコードロンなんか組んでいた時も楽しかったけど、今日のアレは……何というか、キリト達といるみたいで楽しかったな」

 

寂しげな瞳で見慣れた天井を見ながら何処かにいる仲間達のことを思い馳せていると、携帯にメールが入ってきた。

 

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From:アンドリュー・ギルバート・ミルズ

To:仙石一利

Re:元気か?

内容:アイツらがいつもおまえに会いたがってるぞ?

 

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エギル(本名はアンドリュー・ギルバート・ミルズ)の相変わらずの世話焼きの内容に呆れつつも一緒に送付されていた写真を確認すると、シリカ、エギル、リズベット、クライン、ユイ、アスナ、キリトと見知らぬ金髪の巨乳っ娘が巨大モンスターを討伐した時の光景が映し出された。

 

相変わらず楽しそうにゲームしてるなぁ〜

というか、さりげなく写メ撮る時でもイチャつきを見せつけんなよ。夫婦揃って肩組んでのピースとか、見せつけてやがって。絶賛大学に復帰中で忙しくて彼女なんて一度もできたことのない俺への当て付けか?

ったく………

 

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From:仙石一利

To:アンドリュー・ギルバート・ミルズ

Re:元気か?

内容:お前達といれば、俺はきっとこの苦しみを忘れてしまう。

だから、会わないよ。俺は俺で元気だと伝えてくれ。

 

追記

何で新しく金髪の巨乳っ娘までいるんだ。

またやったのかアイツは。

 

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と返信を打つと、数分後にエギルからのメールが届く。

 

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From:アンドリュー・ギルバート・ミルズ

To:仙石一利

Re:元気か?

内容:アイツらだってお前がそんな風に苦しむのを望んでいない。

いい加減に自分を許したらどうだ?

SAOクリアパーティーの時もキリトの奴が怒っていたの忘れたのか?

お前が、ウチの店に祝いの手紙だけ置いて出席しなかったこと。

 

追記

その子はキリトのリアル妹だ。

だが、それ以外はまぁ……察しの通りだ。

 

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憶えているよ。

キリトとアスナが生きていてくれたことをお前から聴いた時、改めて俺は2人にどのツラを下げて、逢いに行けばいいのかも分からなかった。そして、色々考えた結果の末に、1人で苦しむことを決めたんだ。

それにしてもマジかよ、アイツ。

リアル妹をオトすとかどんだけフラグ建築士だよ!

ラノベの主人公かよ!!※ガチの主人公です。

 

 

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From:仙石一利

To:アンドリュー・ギルバート・ミルズ

Re:元気か?

内容:俺なりに考えた結果だ。

もう放っておいてくれ、死んだりなんかはしないから。

俺は、アイツらと一緒の……人の皮を被った悪魔だ。

 

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あの掃討作戦終了直後に、アオイとクロトを殺したギルドの生き残りに言われたことを思い出している一利は、自分では気付いていないが涙を流しそうな程に歪んだ顔で送信ボタンを押す。そして、返信が来るまでの間に冷蔵庫の中身を確認するが、モヤシとバターしか無いことに絶望していると、静か部屋で携帯に着信音が虚しく鳴り響く。

 

 

——————————————————————

 

From:アンドリュー・ギルバート・ミルズ

To:仙石一利

Re:元気か?

内容:お前は悪魔なんかじゃねぇよ。

アイツらは自分のことをそういう風に責める様な精神回路はしていなかった。

なのに、お前はそんなにも自分を責めるほど思い詰めている。

ソレが決定的なアイツらとお前の違いの一つだ。

それに、あの掃討作戦の時、お前のおかげで助かった命だってあるんだぞ?

 

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ねぇよ………そんな命なんて。

クラディールの奴からアスナを護り切ったキリトでもあるまいし。

仲間であった他の血盟騎士団が俺を見る目は、ラフコフの奴らと一緒だった。その日から俺は、『■■』じゃなく『白い悪魔』になったんだよ、エギル。

 

メールを拝見し、返信を返すことなく一利は携帯をポケットにしまい、コンビニへ今夜の晩ご飯を買いに行くため、いつものように地味な色合いのジャケットを着て、靴を履いていると背後から、

 

――相変わらずの構ってちゃんだな?

 

誰かの嘲笑いの声が聴こえる。いや違う、これは他ならない自分自身の声だ。振り返るとそこには、

血盟騎士団のコートを纏った自分自身(もう1人の一利)が血塗れの刀を持って嗤っていた。

 

――苦しむため?何を言っているんだよ?

 

――2人を見殺しにし、復讐を名目に殺しまくった癖に。お前は、アイツらと変わらない…いや、アイツより酷い。お前は2人を殺したアイツらを殺しまくった後、罪の重さに耐えかねて死のうとした。だが、キリトとアスナが止めてくれた。

 

――本当は、2人が自分を助けてくれることをわかっていたんじゃないか?

 

違う。

 

――死ぬのが怖い臆病者のお前には、キリトの様に誰かを助けるなんてことは永遠に出来ない。お前にできることは誰かを殺すことだけ。

 

「うるせぇ!!」

 

――奪って、壊して、世間ではそういうのを『鬼』っていうんだよ、臆病者。

 

一頻り言い終えた血盟騎士団のコートを纏った自分自身(もう1人の一利)は、灰の様に消えていった。

 

 

「クソっ」

 

心の中で渦巻いている黒い感情に無理矢理蓋をし、部屋を出て、アパートの駐車場に止めているオカマの叔母?から退院祝いとして何故か貰ったサイドカー付きハーレーダビッドソン・XL883Rのエンジンをかけようとしたところで、今住んでいるアパートの隣の部屋から1人の少女がふらついた足取りで降りて来た。

彼女の名前は朝田詩乃。

現在、地方から出て、このアパートで一利と同じく1人暮らしをしている女子高校生。

元々は、大学生の一利はSAO事件前までは違うアパートで1人暮らしをしていたのだが、大家に今までの金を払うか、違う所に行くかの二択を迫れてしまい、渋々こちらのアパートに引っ越して来た際に隣に住む同じく1人暮らしの朝田詩乃と出会い、その後色々な縁が重なり、よくスーパーの特売などの情報交換を行う程の仲へ発展している。

 

「おい、大丈夫か?ふらついてるけど」

「え?あ、仙石さんこんばんは。一応……大丈夫です。夕飯の支度しようと思ったんですけど…材料がなくて」

 

一応って何だよ。全く大丈夫ないだろ。顔真っ青だし。ったく、仕方がない。流石に知り合いとは言え、もう9時過ぎだしな。

 

「コンビニでいいのか?」

「えっ、あ…はい、コンビニ…です」

 

一旦ここで待つ様に言いつけ、玄関にあるもう一つのヘルメットを取りに戻り、朝田に手渡す。

 

「乗れ。行き先は同じだから」

「で、でも……」

 

「女子高校生がこんな時間に出歩く方がダメだろ。いいから乗れ」

 

サイドカーに乗るよう割と強めに一利は促し、詩乃は戸惑いながらもヘルメットを被り、失礼しますと断ってからようやく乗り込む。変に気を遣う詩乃にバツが悪そうな顔をメットの下でしながら、バイクを走らせる。その後、最近詩乃の部屋を溜まり場にしていた者達からの嫌がらせはないか、または彼女の男友達である新川と仲良くしているのかなどと言った雑談を交わしながら、お互いに欲しい弁当を買い、そして、次のスーパーの特売商品の情報交換を行ってから、2人はそれぞれ自分の部屋へと帰っていった。

 

これが、現実でのシノンこと朝田詩乃とノーバディこと仙石一利のリアルの日常であった。

 




余談ですが、リアルでの一利の姿は黒髪黒眼です。筋肉はそれなりにリハビリとジムで取り戻しており、毎朝ジョギングしていますのでキリトより筋肉はあります。ちなみに、一利のイメージキャラクターは黒子のバスケに登場する黛千尋さんです。


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第 Ⅳ 話 新たなスコードロン

t24さん、kilroy was hereさん、刹那零さん、わけみたまさん評価して下さり、ありがとうございます!!
そして、Shin0720さん、gurenさん、kage7120さん、シロネコヤマトさん、kilroy was hereさん、シノビガミさん、ArayaRiverさん、准將さん、カイジくんさん、済美平成さん、水無月朧さん、Narikeiさん、魂魄りんさん、秋山勇人さん、秋山良伊武衣さん、刹那零さん、イコヒロさん、jack・the・ripperさん、キヨシさん、t24さん、くどせんでし2さん、ア=マーネさん、EVE12さん、アノスさん、コクマさん、お気に入りに登録して下さり誠にありがとうございます!!

今回は、オルタナティブに登場するあるキャラが登場しますので。


2025年8月30日

 

プレイヤーが妖精となり、空を駆け、魔法を使い、剣を取る世界《アルヴヘイム・オンライン》通称ALOでは、彼の、一利の仲間であるキリト達はある浜辺まで来ていた。

 

浅瀬で遊ぶ青い髪をしたウンディーネのアスナ、猫耳をはやしたケットシーのシリカ、ピンク色の短髪をしたレプラコーンのリズベッド、キリトとアスナの娘(AI)であるピクシーのユイ、キリトの妹であるシルフのリーファを眺めている顎髭が目立つ二十代半ばの男性の姿をしたサラマンダーのクラインと、中性的な顔立ちの少年スプリガンのキリトは寝そべりながら、一利のことを思い耽っていた。

 

「なぁ、キリトよぉ。お前、アイツと連絡取れたか?」

「いや、エギルからメアドや番号を教えて貰ったけど全部着拒されているよ」

 

「お前もか、アイツってばエギルぐらいしか連絡取ってねぇみたいだから。今頃どうしているのか、個人的に聞けやしねぇ」

「でも、エギルが調べてくれたおかげで、今のアイツはGGOって言うゲームのトッププレイヤーで、ノーバディって言う名前で恐ろしい位に強い銃剣使いで通ってるみたいだけどな」

 

キリトがウィンドウから開いた記事は、少し前にGGO内で開かれた大会のことが書かれており、

『第一回BoB優勝は、まさかの同時決着!!』という題名でお互いのナイフを振るっているのは、虚無を体現したかの様な表情の金髪の男と、彼らのよく知る■■■■こと一利(かずとし)の面影を残したアバターであるノーバディが画像として映し出されていた。

 

Nobody(ノーバディ)……存在しない者か…アイツの場合だと自分自身の存在を否定する者という意味合いが強いだろうな」

 

と、2人の会話に補足する様に入ってきたのは、リアルの方の店の仕事で忙しく来るのが遅れたガタイのいい浅黒い肌で三十代の男性の姿をしたスキンヘッドのノームのエギルであった。

 

「それにしてもよぉーアオイちゃんとクロトを失ったことで、以上なまでにプレイヤーを傷つけることを嫌うようになったアイツが、何でGGOなんて言うPvP主体のゲームをやってんだろうな?」

「それは…やっぱりアオイとクロトを失った時の事が関係しているのかもしれない」

「この間、メールで察したんだが、どうやらアイツはあのことを忘れないためにプレイしているみたいだ。それから、俺達に逢いたくないのは、2人を失った苦しみを忘れてしまいそうなんだと」

 

「んだとぉぉ!!なんで、アイツはそうまでして苦しまなきゃなんねぇーんだよ!!もうアイツは、アレだけ苦しんだんだぞ!!」

「落ち着けよ、クライン。だが、あの時…SAOクリアパーティーの時にキリト宛ての手紙をわざわざ俺に直接渡しに来た時のアイツは、まるで誰かに罰して欲しいって言う顔をしていた」

「やっぱり、アオイとクロトのことを………今でも後悔してるんだな。その気持ち……少しは俺も分かるよ」

 

一利の大切な人を失った悲しみを理解しているキリトは、かつて自分も同じく大切な人を目の前で死なせてしまったことを思い出したのか、暗い表情へとなっていく。しかし、浅瀬で遊んでいた少女達の1人がそんなキリトへ歩み寄る。

 

「それでも、やっぱり彼には逢いたいよね。東京の何処かで一人暮らしをしているって事ぐらいしか、彼に事前に口止めされていた菊岡さんは教えてくれなかったもんね」

 

暗い表情へとなっていくキリトをいち早く察知し、寄り添ってきたのは、キリトの大切な恋人であるアスナであった。

 

「あぁ、アイツのおじぃさん…仙石(せんごく)一嗣(いちつぐ)は国のお偉いさん方にも強い影響力を持つ人だって菊岡さんから聞いたからな。迂闊に、その家の孫とは言えご子息のことは口外しづらいって言ってたからな」

「ったく、俺達に会わないためにジィさんの力借りんなよ!!」

「それほど、アイツは色々考えて出した結果なんだろうな。人の心ってのは、そう易々完全に理解できる程単純でもないからな」

 

リズベッド達と遊んでいた筈のアスナも、彼の会話に参加し、大切な友人であり、自分とキリトとの仲を応援し、色々な面でサポートし、誰よりも祝福してくれた一利のことを思い、キリトが開いているウィンドウに掲示されている彼を見つめる。

 

「でも、俺達が行ってアイツの傷を抉ってしまうと思うと、迂闊に逢いに行けないな。どうしたら、アイツを……救えるんだろうな」

 

そう言ってキリトは、そっと一利のことを心配するアスナの手を握りながら、今もなお自分で自分を苦しめ続けている一利こと■■■■のことを思い、ALOの空を眺めるのであった。

 

後に、キリトとノーバディがGGOで再会し、かつてSAOで背中合わせに闘った様に、2人が共闘し、自分たちの大切な人のために剣を取り、“ある過去の亡霊”に立ち向かうのは、もう少し先の話となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場所は変わり、

同時刻のGGO首都グロッケン。

 

傭兵としての依頼やスコードロン狩りをしない時、キリト達が心配している当人であるノーバディは、現在グロッケンの外れにある自分の店でグゥー垂れていた。そんなお客様を全く歓迎する気ゼロ感が店の外から滲み出ている中で、ノーバディの数少ない友人が店を訪ねるべく、扉を開ける。

 

「帰ってぇ〜〜〜」

「来店してすぐ追い帰さないでくれるか?」

 

レジでコーヒーを飲んでいた店主ことノーバディは扉の窓から既に誰が来るのかが分かっていたので、来客者にやる気のない言葉を送る。

 

「で、今日はどうしたんだよ。お前がピトフーイ(あのイカれ女)と一緒じゃないなんて、明日はグロッケンにグリ◯◯ス将軍の船でも落ちてくるのか、M(エム)?」

 

タバコを灰皿に置きながら、ノーバディはレジの前に立つ身長190cmの巨岩のような髭のない顔を壮年男性の姿をしたMに、ニヒルな笑みを浮かべる。

因みに、リアルでの健康面を考えて、タバコは吸わない主義の一利と違い、VRでのノーバディは暇の時や落ち着く為によくタバコを吸う喫煙者であるため、よくタバコを吸っている。

 

※お酒もタバコも二十歳からですので皆様もご注意を!!

※吸いすぎ、飲み過ぎにも十分ご注意を!!

 

「辞めろ、そんな事になれば困るのはお前で、喜ぶのはピトぐらいだ」

「確かにな。あの女なら、アホみたいにイカれた様に笑い転げていそうだわ」

 

「話を戻すが、今回ピトはかなり遠くのmob狩りに出掛けているから、グロッケンにはいないから安心してくれ。俺個人としては、数少ない友人の1人であるお前の店に顔を出しと、7.62x51mm NATO弾を買いたいと思って来ただけだ。お前は安く売ってくれるからな。後、今日お前の所に行くのはピトには内緒にしているから、他言無用でお願いします!!」

「お、おう……相変わらずのキャラの変貌っぷりだな、別にいいけど」

 

「ありがとうございます!!」

 

と薄ら瞳に涙を溜めてながら、腰をきっちり90度へ曲げて礼を述べる色々残念な友人にドン引きとなるノーバディであった。

 

このMは、GGOが始まった頃にピトフーイの紹介で一時的にスコードロンを組んでいた時期があり、ノーバディ個人としては、アバターネームに書かれる程ピトフーイ限定の性癖抜きにしても、Mは人間的に気の許せる友人の1人としてカウントしている。そのためMとノーバディはフレンド登録をし、互いに情報交換をしている。また、Mが慕うドSのピトフーイとは、ある時にノーバディがSAO生存者(サバイバー)であると言う事実に気づき、その後事あるごとに付け回す程に彼に強く執着する様になったため、ノーバディは事あるごとに避けている。そのため、ノーバディはピトフーイに対し、苦手意識を持っている。

 

「助かる。せめてもの礼として中々変わったクエストが、実装されたようだから知らせておくぞ」

「おう、気が効くな。さてと、7.62x51mmちゃんは、確か〜倉庫だったな」

 

そう言ってノーバディは、かつてMに購入してもらった狙撃銃を思い出しながら、レジの後ろにある倉庫へとMを連れて向かっていく。ノーバディの店に飾っている銃はあくまで初めての来店者向けで、常連客となるとPKで獲得したレア銃が保管されている倉庫へと案内し、入念に見繕うという決まりの下で彼は商売している。その為、GGOのプレイヤー達にはあまり広く知られていない。また、場所が裏通りでもあるため尚更である。

 

「おっ!あったあったM14・EBRのままだったよな?」

「あぁ、とりあえず50発程で頼む」

 

「あいよ。何なら、もう15発ほどタダでサービスしてやるよ」

「助かる。最近、リアルの方がまた忙しくなってな。上手くGGOに入る時間を見つけれなくなって、手持ちが涼しくなりそうだったんだ」

 

おいおい、口元に笑み浮かべ始めたよ!このドMラン◯ーもどき……!?

こりゃ、リアルの方でピトフーイの馬鹿にこき使われているみたいだな……本人はたいへん嬉しそうだが。

 

話を戻すが、Mが現在使用している銃はM14・EBRというものである。コレは、以前にノーバディが倒した銃士Xというプレイヤーからドロップした銃であり、アサルトライフルとスナイパーライフルの中間のポジションであり、倉庫の中で丁寧にメンテナンスされて保管されていた銃の一つであり、Mが丁度そういうライフルを欲しがっていたため、それなりの値段で買い取らせたのである。

 

「さてと、代金はいつもの50発分だけな」

「わかった。それはそうとして、この間北北東の方で新しく出来た不時着した宇宙船型のフィールドに、2人1組でしか受けることができないクエストが出たらしいんだ」

 

7.62x51mm NATO弾を丁寧に箱詰めし、倉庫を出てレジで会計していると、ノーバディが知らないクエストの詳細をMは話していく。

 

「あぁ、確かワラスボみたいなミミズモンスターどもが蔓延るアレなフィールドか。よく、あんなキモキモのモンスターばっかりの所に新しいクエストをしかも、宇宙船の不時着オブジェクトとして出したなぁ〜」

「あぁ、一部の奴らではキモキモフィールドの改革(笑)として、笑い話にされていたが、先日罰ゲーム感覚で行ったプレイヤーたちが、口を揃えてとんでも無くメンドクさいボスが出た!と言っていたらしい」

 

なるほどね〜

このGGO に来てからあんまりモンスターなんて、狩ってなかったなぁ。ずっとあのことを忘れないために、そして自分で自分を苦しめるためにPKばかりやっていたもんな。たまには、いいかもな。

 

「誰もクリアしていないようだから、どんな銃が手に入るかは謎らしい。一部の奴らでは、クソ武器説なんて言うスレッドで更新もされていたぞ」

「よし、40秒で支度しな」

 

「断る。ピトに黙ってお前とクエストなんかに出かけたら、半殺しにされるか、機嫌が最悪だと本気で殺されるから勘弁して下さい!!」

 

今度鼻水まで垂らしている上に土下座までされてしまった…………。

ラン◯ーみたいなイカツイ見た目の癖に内面と一致しなすぎだろ、コイツ。

 

「わかったわかった。となると、2人1組だとやっぱりスナイパーがいるな。闇風さんは紙装甲だし、たらこさんは一月前に獲物横取りしたからな〜信頼できる奴なん……て…あっ!いたわ」

「ん?お前の知り合いで、そんな博打みたいなことをしてくれる奴はいるのか?」

 

「あぁ、面白い奴だよ。この前初心者(ニュービー)狩りと護衛裏切りのスコードロン《フェイスレス》との戦闘でコンビを組んだスナイパーが1人いてな。ソイツを誘ってみるさ」

「そうか、それなら終わったらどんなクエストか聴かせてくれ。その時は俺が奢ろう」

 

そう言ってMは、ノーバディがクエストをクリアすることを疑っていないのか、笑みを浮かべて店から出て行った。そんなMを見送ったノーバディは、ある人物に連絡を取るべく、ウィンドウを開く。

 

「さてと、この前フレンド登録しておいたから連絡してみま…ん?」

「ごめん下さい。ここに12.7x99mm NATO弾って置いてます?」

 

ノーバディがメッセージ文を考えていると、店のドアが開かれ新たな来来店客が入ってくる。

 

「マジかよ……」

「えっ?なんで、アンタがここにいんのよ、ノーバディ」

 

お互い、まさかこのような場所で会うとは全く思っていなかったのか、2人とも目を丸くする。それもそのはず、来店客の正体はノーバディが先程Mから教えてもらったクエストに誘おうと思っていた人物であるため驚いている。対する来店客もまた、店の店主がまさかノーバディだったとは夢にも思っていなかったため驚きを露わにする。

 

「ここは俺の店だからに決まってんだろ、シノン」

 

そうノーバディが相方として誘おうとしたのは、以前成り行きとは言えコンビを組んだ女性スナイパーシノンであったのだ。

 

「へぇ、色々と失礼なアンタにしては良い店じゃない、アサシンさん?」

「アサシン言うな。それはそうとして、さっきの弾ならあるぞ。なんなら、半額で3ダース分売ってやる」

 

「…………何が条件よ?」

 

流石に分かるようだな。

俺が対価を求めようとしているのくらい。

 

「話が早くて助かる。今回新しく実装されたコンビ限定のクエストに俺と出て欲しい。勿論、その時のクエストで消費した弾はウチの店から出す。前金として、1ダース分はタダで売る。どうだ?」

「何なのよ、ソレ。アンタにデメリットしかないじゃない。それに失敗したらどうするのよ」

 

「確かにデメリットではあるが、俺はそのクエストに興味がある。そのモンスターがどれほど厄介なのか、是非とも殺し合いたい。悪魔の俺を殺すことができる程の強さを持つのかを知りたいんでな。それからクエストの失敗はない。俺とお前が組めばの話だが」

 

 

なんなの……コイツの…この自信は。

もし、この申し出を受けたとしても、あの子…ヘカートを使いこなす為に必要な経費はかなり浮く。そして、なによりもあの時…私とコンビを組んで見せた“あの強さ”を見極めることができれば……。

 

私は……シノンはさらに強くなれる!

 

「いいわよ。組んであげる、ただし対価はきっちりと支払って貰うわよ?」

 

己の中での考えが纏まったシノンは、抗戦的な笑みを浮かべ、ノーバディへの誘いを受諾する。

 

「当然だ。それじゃあ、期日を決めてからクエストに臨むぞ」

「りょーかい。よろしく頼むわね、ノバ?」

 

こうして、利害の一致から結成されたスコードロンを組むこととなったシノンとノーバディ。

 

後にGGO最強のコンビが誕生した瞬間である。




2人がコンビを組んだ数日後

「エ〜ム〜〜、アンタさぁ〜この前、ノバちゃんの店に行ったみたいねぇ〜?ワタシにナ・イ・ショ・DE!」
「すいませんでした!」

「アハッ♪ちょうどいい機関銃が手に入ったよねぇ〜」
「……………ッ!!」ガクガクブルブル

「という訳で、ちょっと蜂の巣になれぇーー!!」
「ア゛ァァァァァァァァァ……ィィ」

その日、GGOのある荒野にノブとい悲鳴と何処か狂気を感じさせる高笑いが鳴り響くのであった。


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第 Ⅴ 話 寄生の悪魔(パラサイト・デーモン)戦《前編》

今回もお気に入りに登録していただいた上に評価までしていただき本当にありがとうございます!!
最初に比べて格段に、皆さまに読んでいただけて嬉しいかぎりです!!

それでは、今回は長期戦闘編ですので2話もしくは3話体制で終わります。その後、日常編を交えた後にファントムバレット編に突入しようと考えています。


『悪』とは……一旦なんだ。

 

『正義』ってのは………なんなだろう。

 

それでも、これだけはわかることはある。

 

奴ら[笑う棺桶(ラフィン・コフィン)]の罪は……決して許されるものでない!

 

しかし、そんな奴らを殺した俺は奴ら以下の畜生なのか。

 

それでも俺は、アオイ(好きな人)クロト(親友)を見殺しにしたことは変わらない。

 

一人一人の命を尊ぶクロト(親友)が殺されそうにも関わらず、俺は自分の命を守るのに必死で駆けつけることは出来なかった。

 

その結果、クロトは目の前で奴らの手にかかって殺された。

 

大切な親友の死という現実を受け止め切れなかった俺は、クロトを殺した男たちに囲まれ殺されそうになってしまう。

 

迫りくる刃に反応することが出来なかった俺をアオイは庇い命を落とした。

 

2人を失ったという現実に絶望と憎悪で塗りつぶされた

“俺の世界”は一瞬にして、血のような真紅に塗り潰された。

 

そして、復讐心に駆られた俺は、

 

一瞬にしてアオイとクロトを殺した3人の頸を撥ねた。

 

『オマ……ェラァ……全員…コロシテヤルゥゥ!!』

 

その時、復讐に支配された刃は鋭く敵処か、

 

■■と呼ばれていた嘗ての俺をも殺した。

 

だが、同時に悪魔の俺が産まれてしまった。

 

そんな悪魔に寄り添い、助けてくれたアスナとキリトが生きていてくれたとは言え、実質俺はあの2人を見殺したという事実は変わらない。

 

どちらも手が届くほど近くにいたのに、俺はアオイとクロト、キリトとアスナというかけがえない親友達を二度も見殺した。

 

俺は本当にどうしようないクズだ。

 

俺はすくいようのない悪魔だ。

 

いつになったら、俺は解放されるんだ(罰を受けるんだ)

 

 

なぁ………教えてくれ…クロト…アオイ。

 

俺は…………一体……どうすれば…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年9月1日

 

ボロボロとなった宇宙船が不時着している荒野を双眼鏡とスナイパーライフルに装着しているスコープでそれぞれ覗いている者がいた。

 

その正体は、高難易度クエストクリアのためコンビを組んだシノンとノーバディである。

 

「それにしても、C3◯◯モドキのNPCの話だと、どちらかのプレイヤーが一定の距離まで近づくとボスモンスターが出てくるみたいだな」

「えぇ、そのNPCの話だと今回のボスモンスターは、護送されていた宇宙船の中で休眠状態にされていた超危険生物型兵器パラサイト・デーモンの一体だげど、このボスモンスターがかなりの強敵だとするなら、やっぱり長期戦になる恐れはあるわね」

 

「だな、お互いの武器の予備弾倉は十分持って来たとは言え、無駄撃ちせず的確且つ迅速に倒そう」

「了解。それじゃあ私はさっきの打ち合わせ通り後衛で、ノバの援護に徹するわ。もしも、アンタが逃げようとするなら後ろから私とヘカートでお尻に火をつけてでも戻らせるからね」

 

こえーよ……というか、ヘカートだと1発で尻がなくなるわ!

そう言ってシノンは狙撃ポイントへ向かうため、俺と別れ離れていく。そして、シノンが狙撃ポイントを探し終えた連絡が入ったのを確認した俺はボスモンスターがいる縄張りへと侵入する。

 

すると、ノーバディがいる地面からとんでもない地響きとともに地中から現れたのは、とんでもないモンスターであった。

 

「PiGyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

全体的な特徴は、紫色の巨大な蠍のような姿をしているが、前足はカマキリのような鎌、まるで象の様な長い鼻に加えて、タコもしくはイカを想起させる口、頭にはクワガタともカブトムシとも似つかない鋭すぎる凶悪な角が生えている異形の姿をした昆虫型モンスターがとうとうその姿をノーバディの目の前に現したのだ。

 

『「キショッ!!」』

 

そんなあまりにも醜悪すぎる見た目に流石の2人も息を揃えて、思ったことを口にしてしまう。2人の言葉を理解しているのか、ボスモンスターは先程まで違い目を鋭くし、耳を塞ぎたくなる様な奇声を上げてノーバディへ鎌を振り下ろす。

 

「ヤバッ!!」

 

咄嗟にノーバディは転がる様に回避するのだが、象の様な鼻が一気に膨らみ始めていることに気がついたシノンは、援護に入るべくパラサイト・デーモンの眼に狙いを定めて、アルティマラティオ・ヘカートⅡの引き金を引く。すると、放たれた弾丸は見事に目玉に命中し、パラサイト・デーモンは突然の痛みに暴れ回りながら、ある方向へ鼻先を向ける。

 

「シノン逃げろ!!ロックされてるぞ!」

『りょ、了解!』

 

対物ライフルの弾丸を甲羅が覆われていない目玉に受けたにも関わらず、パラサイト・デーモンは鼻に溜めた高温高圧のガスをシノンに向けて放つ。パラサイト・デーモンの攻撃先に気づいたノーバディの言葉によってシノンは何とかギリギリで倒壊している建物から飛び降りる様に脱出すると、高温高圧のガスによって先程までいた建物は大爆発を上げて瓦礫の山と化した。

シノンが逃げ切っていることを祈り、ノーバディはSCAR-L MK16————カスティーゴの銃口を残っているもう一つの目玉に向けるのだが、

 

「KISYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

「キショーーーーイ!!」

 

パラサイト・デーモンの喉の奥から伸びるように出て来た芋虫型モンスターの来襲と奇襲に悲鳴を上げながら回避する。そして、回避した後も追撃として鋭い尻尾でノーバディを貫こうとするとのだが、華麗な身のこなしで回避される。

 

「シノン!生きてるか?」

『何とかね、アンタの悲鳴がよく聴こえてるわ』

 

「それだけ元気ならいい。シノンは出来るだけ甲殻で覆われていない部位である目玉または鼻、後さっき口から伸びて来た芋虫ヤローを中心に狙ってくれ。出来るか?」

『誰に言ってるの?ふざけてる場合なら、アンタから撃ち抜くわよ』

 

一々物騒だな……まるで………アオイみたいだな…。

って、何を考えているんだ!俺は!!

違う違う!!アオイは死んだんだ!クロトと一緒に!

 

「PiGyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

「うるせぇ!!」

 

あ゛ぁぁ、一々イライラさせる鳴き声だ!!

 

怒号を上げ合う1人と1匹は、攻撃を再開させる。

しかし、まるでGGO最硬と言われる宇宙船の外壁に撃ち込んでいる時と同じ感触を銃越しに感じ取っているノーバディは、銃弾が弾かれ続けている甲殻に覆われた身体の中で最も弱点となる部位を散策する。凄まじい速さで振り抜かれる両鎌の攻撃を全て紙一重で回避していく中で、ノーバディは咄嗟にパラサイト・デーモンの側面へと回り込むと左腰のホルスターにしまっていたフォトン・ソード[ムラマサM7]を左手による逆手持ちで走り抜ける様に、無数に並ぶ二本の足へその刃を振るう。すると、斬り付けられた足は緑色の体液を撒き散らしながら切断された。無数にあるとは言え、足には無数の神経が集中しているため、それをいきなり切断なんてすれば叫び声を上げずにはいられないため、パラサイト・デーモンは先程のシノンの狙撃よりも激しく暴れ回る。そこに出来た隙をシノンは見逃す筈もなく、脳があると思われる頭部を狙いヘカートⅡの引き金を引く。放たれた弾丸は、見事に命中するのだが、あまりにも硬い甲殻に覆われていることもあって、甲殻を陥没させるしか効果はなかったのだが、ノーバディは以前のシノンとのコンビを組んだ時とは違い、ワイヤー銃ではなく、本来のEGLMタイプグレネードランチャーの砲口を同じ場所へ向ける。咄嗟にノーバディの狙いに気付いたのか、パラサイト・デーモンは猛毒が仕込まれている尻尾で彼を貫こうとするのだが、遠方から放たれたシノンのヘカートⅡの狙撃によって、攻撃を逸らされてしまう。

 

ナイスだぜ!シノン!!

 

内心、シノンのアシストに対し礼を述べつつグレネードランチャーの照準を合わせる時間ができたことで、ノーバディは甲殻が陥没している一点を狙いを定め、トリガーを引く。すると、発射された弾丸は見事に命中し、発生した爆煙によってパラサイト・デーモンは隠れていく。

 

『ヤったの?』

「コラ、そう言うの辞めて。フラグたっちまうから」

「Gurraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

さっきまでの心の荒れようが嘘の様な間の抜けたノーバディの返事と同時に、爆煙を切り裂くように、彼目掛けて無数の触手が襲いかかって来た。そして、さっきとは異なるトーンの咆哮に、割とドン引きながらもノーバディは全速力で触手の嵐を掻い潜りながら後退していく。

 

「ほら〜〜」

『わ、悪かったわよ!!』

 

爆煙が晴れるとそこには、先程の一撃によって甲殻が砕けた一部を除き、いつのまにか背中から無数の触手を生やし、上体を起こしながら、2人に威嚇の構えを取るお怒りモードのティガ様ヨロシクと言わんばかりのド咆哮を上げるパラサイト・デーモンの姿があった。

すると、お怒りモードのパラサイト・デーモンはさっきまで折りたたんでいた甲殻の一部を左右にそれぞれ開かせると、

 

「うわっ、メンドクさ」

『これはメンドクサイわね」

 

いかにも『私飛びます!』と言わんばかりの羽が収納されておりました。そして、これから起こる展開を予想した2人の心中に応えるかように、パラサイト・デーモンは高速に羽を羽搏き、空中へと自らの縄張りを広げてしまう。

 

 




余談として、パラサイト・デーモンの見た目はパラサイトエンペラーというモンスターを検索していただければ出てきます。大体は其奴と同じ見た目です。



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第 Ⅵ 話 寄生の悪魔(パラサイト・デーモン)戦《後編》

中々、戦闘描写を文章化するのはやはり難しいモノですね。

それでは、ボス戦後半です!
お楽しみください!


羽を広げ、制空権を手にしたボスモンスター——————

パラサイト・デーモンの猛攻によって、シノンとノーバディは追い詰められていく。空中から降り注ぐ高温高圧のガスによる爆撃の雨が降り注ぎ続いていることにより、シノンは次々と狙撃ポイントを変えざるを得ず、ノーバディはカスティーゴの射程が届かないため回避以外の選択肢が存在しない。そのため、2人は一方的に防戦一方となっている。

 

「あ゛あぁぁクソ!マジでヤバいな!こりゃ!!」

『どうするのよ!私の方も、あの攻撃の所為でヘカートが撃てないんだけど!』

 

「仕方ない。シノンはそのまま物影で待機。でも、一旦俺は足を止めて、グレネードを投げる動作を取るからあのキモ虫が攻撃態勢を取った瞬間、羽を狙ってくれ。割とガチで」

『……仕方ないわね。意地でも当てるから、なんとかしてよね。撃った後、私は暫く別の狙撃ポイントに移動するからあまり援護に回らないからね』

 

 

大きめの溜め息がインカムから聴こえて来てたのだが、聴こえないフリをし、カスティーゴをセミオートで1発だけ自分に注意を引きつけるために撃った。すると、案の定パラサイト・デーモンは此方に残っている視線を向ける。予想通りの反応に挑発的な笑みをノーバディは浮かべながら、グレネードを投げる構えを取ろうとするのだが、パラサイト・デーモンによる爆撃によって投げることは叶わなかった。パラサイト・デーモンはノーバディの攻撃を阻止した事で、気をよくしたのか凶悪かつ鋭利な顎で彼を切り裂くべく急降下していく。

凄まじいスピードで突進してくるパラサイト・デーモンに対し、ノーバディはその場から動く事もなく、最後の1発のグレネードランチャーの弾丸を装填する。

グレネードランチャーの威力を思い出したのか、パラサイト・デーモンは先程と同様に凄まじい怒号を発しながら、大口を開けて突進していく。そして、とうとう銃口を向けているノーバディが目前に迫った所で、突然パラサイト・デーモンは自らの意思に反し、急速に真っ逆さまへ落下していく。突然の事態の急変に困惑するパラサイト・デーモンは、遅れた来た銃声によって、ようやく自分が狙撃されたのだと気付いた。

 

「ッ!!?!?!」

「ナイスショット」

 

いったい何処を撃たれたのかと地面に落下したパラサイト・デーモンは、自分の身体を確かめると、そこには片羽に大穴が空いているのを発見する。

本来なら、高速に動くパラサイト・デーモンを狙撃するのは至難の技となるのだが、ノーバディが囮となった上に、ワザとパラサイト・デーモンの目の前でカスティーゴのグレネードランチャーの弾を装填し、その銃口を向ける様に挑発行為を取った。これによりノーバディのカスティーゴに正面から対抗するべく、パラサイト・デーモンは彼の正面に突進する形で、シノンが予測する射線上にタイミングよく入って来てしまい、片羽をヘカートⅡの12.7x99mm NATO弾によって、大穴を開けられてしまったのだ。

そんな見事な狙撃を成功させたシノンに小さく礼を述べつつ、ノーバディは迫りくる触手を撃ち落としながら、残った羽をムラマサM7で斬り捨てた。

そして、その場でのたうち回るパラサイト・デーモンに最後のEGLMタイプグレネードランチャーのトリガーを引こうとする。

 

「KISYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

「ちっ!」

 

しかし、先程と同じくパラサイト・デーモン口の中から伸びて来た芋虫型の幼体であるパラサイト・ベビーは、その口からなんと冷気のガスを吹き出した。さっきまでとは違う攻撃に対し、なんとかバックステップで躱すのだが、追撃と言わんばかりにパラサイト・デーモンもカマキリの様な鎌を振り回し、ノーバディを吹き飛ばしてみせた。

 

「ガハッ!?」

 

凄まじいパワーによって、カスティーゴは破壊され、ノーバディは十数mまで吹っ飛ばされてしまう。大岩に激突する形で止まったが、痛みの代わりであるVR特有の不快感が全身に襲ってきた上に、せっかくシノンが作った隙を不意にした自分への怒りによってノーバディは、ムラマサM7をダブルセイバー状態にして立ち上がる。

 

「Gurraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

「……うるせぇなクソ虫が!」

 

猛スピードで向かって来たパラサイト・デーモンの顎の挟撃をノーバディは空中に飛び上がって回避する。しかし、背中から生えている触手が一切にノーバディへ襲いかかってきた。空中により逃げ場が無いが、ノーバディは慌てる素振りを見せず、左手に持っているプラズマグレネードを投げる。すると、時限式によりタイミングよく起爆したプラズマグレネードによって触手は大半焼かれ、残っていた触手もノーバディの剣撃でバラバラに斬り裂かれる。

 

 

その後、シノンと自分の合わせ攻撃によって、甲殻が一部剥がれている部位に対し、ムラマサM7の光刃を一刺しし、一旦距離を取る。

 

その時、ノーバディ……一利(かずとし)の脳裏には、ある男の声が蘇って来ていた。

 

『オマエは……オレタチ…と同じ………殺戮者だ!』

 

あの時……俺の手から逃れ、生き残った笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の幹部に言われた言葉がいつまでも脳裏から離れることを知らない。

いつも……いつもいつも…オレが……ノーバディが危機的状況に陥ると、奴の声がまるで耳元で囁いているかの様な錯覚になる。

 

「………お前じゃ、俺は殺せない」

 

誰に言ったかのは定かで無いが、この時、ノーバディの瞳は彼の脳裏に巣食う“赤い眼の男”に酷似した血の様な紅の光がまるで彼の心を写しているかの様に輝き始めていく。

 

その姿は正しく悪魔にでもなったかのように見えるほどに荒々しく、禍々しい剣撃へと変貌していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきまでの動きが嘘の様に…彼……ノーバディは次々とあのボスモンスターの攻撃を回避していく。

そして、まるで本当の暗殺者にでもなったかの様な感覚を覚えるほどに剣の斬撃のキレが増し、ドンドン敵を圧倒していく。

 

「……なん…なの……アレ?」

 

この時の私は、彼の強さにウチに秘められた怒りと哀しみを全く感じ取れてはいなかった。

ただ、ただ彼の純粋なまでの目を離せなかった。

分厚い甲殻の鎧で覆われていない関節部を的確に狙い、斬り落としいく彼の動きは、明らかに先までの彼とはかけ離れていた。

どうしたら、アレ程なまでの強さを………。

 

そう思っていると彼の冷たい声がインカムを通じて、私の耳へと入っていく。

 

『シノン…そっちは今どんな所にいる?』

「え?あぁ、そっちから見て二時方向にある小型宇宙船の残骸の影にいるわ」

 

『了解。悪いが、さっきから十数回ほど切り付けている左の鎌を撃ってくれないか?お前とヘカートなら、もうぶち抜ける筈だ』

「分かったわ。20秒後に狙撃するから、絶対離れて」

 

了解と彼は短く返事をすると同時に、さっきから鬱陶しく口の中から出たり、入ったりを繰り返していた芋虫型の幼体を、巧みなまでの手首の返しを使い、フォトンソードを回転させ、斬り捨ててみせた。身体を2つに斬られ、その場で数秒間のたうち回っていたが、呻き声を上げながらポリゴンとなって四散した。幼体をヤレたことでブチキレたボスモンスターは彼を串刺しにするべく、尻尾と両鎌を同時に振り下ろした。

 

チャンス!!

「くらいなさい」

 

ちょうど彼が毒のない尻尾を蹴って、後退したことで隙ができた。

その隙を私は見逃さず、ノバが何度も斬り付け続けていた左の鎌をヘカートで撃ち抜く。すると、見事に命中したことで、鎌はバラバラに崩れ去り、ボスモンスターの攻撃力は半減した。

 

よし、畳み掛ける!!

 

シノンの狙撃への反撃としてパラサイト・デーモンは高温高圧のガス爆撃を浴びせようとするのだが、

 

「コッチだ、バカやろう」

 

真下あたりから、ノーバディが事前に仕掛けた最後のプラズマグレネードによって、上空へ打ち上がらせてしまう。打ち上がったガスはノーバディの真上で爆発したが、彼はそんなものに一切目もくれず、パラサイト・デーモンの側面に再び回り込むと、無数に並ぶ脚へムラマサM7の光刃を振い続ける。左右に6本ずつあったパラサイト・デーモンの脚は、度重なるノーバディの攻撃によって右側が3本、左側が2本まで斬り落とされたこと加え、シノンのヘカートⅡの狙撃によって既に節々の甲殻はボロボロとなり、鋭い鎌も残り右しかなく、最早満身創痍となる。

 

「Pi………gigi……aa…a……!!」

 

無数にあった体力ゲージも最後の一本となりながらも、最後の力を振り絞るかのようにパラサイト・デーモンは、自分の周りを駆け回るノーバディの動きを制限するべく残った右の鎌を広範囲に振るう。カスティーゴを一撃で破壊されてしまったため、鎌の威力を危惧しているノーバディはすぐさま回避を取ると、その回避場所を見計らっていたのか、パラサイト・デーモンは限界まで尻尾を伸ばす。

 

「ちっ!メンドクサイな!!」

 

その言葉通り、ノーバディの眼前に迫って来ている尻尾の先端から無数の毒針が射出される。咄嗟に、ムラマサM7の両刃を巧みに回転させ、無数の毒針をはたき落とすのだが、ムラマサM7自身にも刺さってしまう。

 

「あっヤベ」

『一旦離れて!』

 

「いや、このままヤる!」

『ちょっと!ノバ!?』

 

何か言おうとしているシノンの言葉を無視し、ノーバディは針によってスパークを発生し始めているため、もうムラマサM7の耐久時間がもう持たないことに気付く。そのため、早期決着をつけるべく全速力で駆け抜けていく。迫り来る鎌の斬撃や顎の挟撃を巧みにムラマサM7で逸らし、牽制として最後に残った武器である銃剣の拳銃へ改造したベレッタM92FS————デリッタの引き金を引く。デリッタから放たれた弾丸は、残った目玉へ向かって行くのだが、パラサイト・デーモンは何とか身体を捻ることで躱そうとする。

 

しかし、

 

『しっかりと決めてよ、アサシン』

 

遠方から放たれた弾丸が見事にパラサイト・デーモンの顎に命中したことで、捻ろうとしていた上体は、ヘカートⅡの狙撃による凄まじい衝撃を受けたため逆方向へと本人の意思など関係なく戻される。

 

「バーロー、俺は……悪魔なんだよ」

 

戻って来たパラサイト・デーモンの上体へ詰め寄ると、ノーバディら急所である目玉に向けて、デリッタの銃剣を突き刺した。そして、痛みで悶えるパラサイト・デーモンへとどめを刺すためにデリッタに残った8発の弾丸を総て撃ち込んだ。撃ち込まれた弾丸はやがて脳へと達し、残ったパラサイト・デーモンの体力ゲージを完全に0にした。体力ゲージが無くなったことで、パラサイト・デーモンは悲鳴に似た叫び声を上げながら、ポリゴンとなって四散した。

 

すると、

 

『Congratulations!mission clear!!』

 

「ふぅー疲れたぁぁ……ん?」

「どうかしたの?」

 

クエストクリアの文字が出現したことを見たノーバディは、走ったり吹っ飛ばされたりして疲れたのか、その場に大の字に寝転がる。そして、ボスモンスターであるパラサイト・デーモンへのラストアタックを決めたことによって、ドロップアイテムがストレージに出現した。どんな武器なのかを確かようとしていると、いつのまにか埃まみれのシノンがノーバディの近くへ寄って来ていた。

 

「いや、ドロップアイテムが入って来てたんだ…えーっとナニナニ『フォトンブレード アラストル』?」

「フォトンブレード?ソードじゃなくて?」

 

「割と初期の頃からGGOをやっているが、こんな武器は聞いたことはないな。まぁ、このアラストルの意味は分かるけどな」

「どういう意味なの?その…アラストルって?」

 

「……アラストルって言うのは、ギリシア語で復讐者、復讐するの意味だ。アラストルとは、ギリシア神話の海神ネレウスの息子で、アルゴスの王クリュメノスの娘ハルパリュケと結婚したが、ハルパリュケの実父が娘であるハルパリュケを強姦してした上に実の娘を妊娠させた。愛する妻を辱め、悲しませた義父クリュメノスに対し、憎悪に燃えたアラストルは復讐と称して、ハルパリュケに実父であるクリュメノスとの間に出来てしまった子を殺させ、その肉をクリュメノスに食べさせたという。後に、その恐ろしい事実を知ったクリュメノスは絶望し、まるでアラストルへの復讐として実の娘と共に無理心中してしまった。この神話から、アラストルは復讐の神または、復讐の悪魔と称される存在となったという逸話だ。愛する妻のため、はたまた自分のための復讐をしても結果は皮肉なエンディングが待っているんだよ。復讐劇なんてものは。ふふっ、悪魔の俺には御誂え向きな武器だ」

「…………そう……なんだ」

 

この時、アラストルの話をしている彼の…ノバの背中はとても哀しそうなモノを背負っているように感じとれてしまった。まるで、アラストルと自分を重ね合わせているかのようにも、私は見えてしまった。

先ほどまで、アレほどの強さを持っていたのに。

今は……とても…とても弱々しい背中をしている。

まるで……あの過去に怯える私…朝田詩乃とよく似ている。

 

「なるほどなるほど。フォトンソードよりも威力は強い上に、出力調整ができるのか……なに!鞘にはバッテリー機能があるからバッテリー交換しなくて済むとか神かよ!」

 

そう言ってノーバディは早速入手したフォトンブレードを取り出す。すると、短剣サイズだったモノが、引き金によく似たトリガーを引くことで変形し、中々フォトンソードよりもら重力感のある紅色の光刃を持つ剣となった。

 

「いや、悪魔なんでしょソレ」

 

今度は何処か子供のように武器の性能を確かめつつ、そこら辺でブンブンと剣を振るいながら少年の様に瞳をキラキラさせる彼は一旦どれが本当の彼なんだろう。

悪魔の様な荒々しい剣士のノーバディ。

飄々とした雰囲気を出すノーバディ。

何かに押し潰されそうなノーバディ。

 

ねぇ、本当のアナタは、

一旦誰なの?

何処にいるの?

 

「はっ!そうだった。まぁ、ムラマサM7はさっきの戦闘で壊れたしな。よし、シノン今から何個かのスコードロンを襲撃しに行くぞ!」

「はぁ!?今から行くの!?」

 

「ったりめぇーだ。こんなレアな武器をゲットできたんだぞ!!試し斬りしてぇーんだよ!なっ!なっ!!イコーゼ!!ヤッタろーぜ!!」

「分かった!分かったわよ!!、その代わりコレからは私とコンビを組んでもらうわよ!いいわね!返事は、YESかはいよ」

 

もっとこの人の近くで、この人の強さを知りたい。

そして、どうして彼は自分のことをずっと『悪魔』と呼ぶのか。

 

私はアナタを知りたい。

 

私は私に何処か似ているのに少し違うアナタの強さを知りたい。

 

アナタとなら私は……シノンはもっと強くなれる気がする。

 

「えぇ〜〜〜、まぁいっかぁ最近は1人でのスコードロン狩りもちょっと限界だったしな。良い機会だ、オーケー。これから宜しくな、相棒ちゃん?」

「あんまり不甲斐ないと吹っ飛ばすわよ、相棒さん?」

 

シノンとノーバディはお互いの拳をコツンと合わせあうと、その場を後にする。

 

この時のシノンの選択によって、

 

2人の運命の歯車は回り始めいく。

 

その先に何が待ち受けているのかは、

 

まだわからない。





余談として、今回ノーバディが手に入れた武器は、キングダムハーツ3に登場したヨゾラのレーザーブレードです。
今回限りで、ダブルセイバーのフォトンソードの活躍はここまでです。今の所は、もっと見たい!という感想があれば出すかもしれませんので。


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第 Ⅶ 話 第二回バレット・オブ・バレッツ

結構早足感覚の話ではありますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、今回の話は第二回BOB戦です!
日程は適当です。10月に行われた以外に分からなかったので!


2025年10月10日

第二回BoB決勝戦の舞台≪ISLラグナロク≫。

ガンシューティングの決勝に相応しく、直径十キロの孤島には、森林や砂漠、廃棄都市といった様々なステージが内包されている。自分にとって有利なステージを選び、相手をいかに倒すかはプレイヤーの腕次第となる。

そして、何よりGGOは銃のゲーム。その頂点となるナンバー1を決めるバトルロイヤル戦ともなれば、求められるのはスニーキングスキルと、とっさの対応力など、遭遇戦に適した才能だ。

 

「「「「「アサシン覚悟ぉぉぉぉ!!」」」」」」

「やれやれ」

 

難敵を倒すのに置いても、徒党を組むことには何の問題もない。

つまり、何が言いたいかというと、

 

「ウォーミングアップには丁度良かったな」

 

弱肉強食な世界なので、弱ければ死に、強ければ生きる。

それだけなのである。

 

開始すぐの【衛星捕捉(サテライト・スキャン)】で、AGI型最強の呼び声高いプレイヤーの1人であるノーバディに対し、徒党を組んで優勝候補を潰そうとしたのだが、彼が新たにメイン武器としてフォトンブレード《アラストル》によって瞬殺されてしまった。あまりの物足りなさを感じているノーバディはその場を後にし、近くにいるプレイヤーを次々に斬り倒していく。

あまりの物足りなさに鬱憤が溜まっているのか、徐々に攻撃に荒々しさが滲み出てきた所で、

 

「さてと、そろそろ闇風さんを探すか」

「ココにいるぜ、ノーバディ?」

 

背後から声と共に、銃撃を受ける。

 

「闇風ェェェェェッ!勝負じゃぁぁぁぁッ!!」

「ははっ!望む所だぁぁ!!」

 

咄嗟に回避することに成功したノーバディはあっさりと闘争スイッチが入ったため、大声上げながら奇襲してきた相手へデリットの銃口を向ける。目の前にいるビル影に身を隠していた闇風は、ノーバディの闘争心が露わになっていることを確認すると、すぐに行動を開始した。ビル影から飛び出し、その手に持った≪キャリコ・M900A≫を此方に向けてくる。M900Aは、サブマシンガンの分類に位置し、軍や警察向けのフルオート射撃可能な比較的にAGI型にとっては軽量で有利な銃なのである。そのため闇風は、かつてノーバディとあるクエストをクリアした際に、この銃をドロップして以降はこの銃をメインとして、AGI型の闘い方を固めていったのである。

視界の大半がキャリコM900Aから放たれる弾道予測線(バレット・ライン)によって埋め尽くされかけるが、ノーバディは慌てる所か、口元に笑みを浮かべながら、闇風へ向かっていく。そして、放たれる銃弾の雨を何とノーバディは、左手に持っている拳銃型の銃剣デリットと右手に持っているアラストルで急所となる銃弾を斬り落とし、それ以外の銃弾は避けている。

 

「チートかよ、アサシン!」

「アサシン言うな!AGI型なら、『当たらなければどうと言うことはない』だろ、闇風さんよぉ!!」

 

「ハハハ!流石だな!優勝者!!」

「うるせぇよ!」

 

長年コンビを組んでいたこともあったためノーバディが気にしている的確に言い放ちながら、闇風は自分が彼よりも唯一優っている敏捷性をフルに活かし、デリットから放たれる銃弾を躱す。しかし、闇風が銃弾を避けることを分かっていたノーバディは、アラストルの光刃を振るう。すると、闇風は左肩の一部に強い斬撃を受けてしまい、体力ゲージを大幅に消費してしまう。大会前にフォトンソード対策として、防護フィールドの性能を底上げしていたのだが、それ以上にフォトンソードを遥かに超える性能を持つフォトンブレードであるアラストルには意味を為さなかった。明らかに、自分が知っているノーバディの斬撃の重みが違うことを実際に体感し、長引けば長引くほどに此方が、ノーバディが持つ銃剣型のベレッタm92fの銃撃によって動きを制限され、先読みされた状態でフォトンブレードによって高出力の光刃で斬り裂かれ続けていくことを改めて理解した闇風は勝負に出る。

咄嗟に空になったM900Aの弾倉をノーバディへ投げつた闇風は、その後すぐに腰のプラズマグレネードを左手に持ち、続けて投げつる。此方への視線を全く途切れさせないノーバディは当然この二つの投げ物の攻撃を躱すと、流れる様な手つきで素早くデリットの弾倉を装填し直すと、お返しと言わんばかりにプラズマグレネードを起動させ、闇風へと投げつける。流石の闇風も、相変わらずの素早すぎるノーバディの弾倉の装填に関心しながらも、持ち前の敏捷性でアッサリと爆撃を躱す。躱されることなど、最初から解っていたノーバディは爆撃の影からデリットの銃弾を3発闇風の脚へ目掛けて、弾道予測線なしでの早撃ち(クイックドロウ)をする。銃弾は見事に右脚に2発、左脚に1発という闇風にとって痛すぎる結果となる。いくら距離が20mも離れているとは言え、弾道予測線は引き金に指を掛けた時点で出る筈なのだが、ソレが出なかったことに闇風は驚愕せざるを得ない。

そして、銃弾を受けた脚に力を入れ、近くの建物の中へ入り態勢を立て直すためにスモークグレードを転がす。いくら銃弾を受けた脚とはいえ、そこまで速力が低下するほどスキルビルドを行なっていないため、残り弾数が少ない弾倉を捨て、新しい弾倉に取り替えながらノーバディが行った予測線なしの早撃ちの仕組みを冷静に考える。

 

「……おいおい、まさかアイツ。着弾予測円(バレット・サークル)なしで、肉眼で当てたのかよ!?」

「御明察、やっぱり鋭いなアンタは」

 

「おっと!ヤバい!!」

 

闇風の考えを補足する様に声をワザとかけたノーバディは一瞬だけ、注意が散乱した闇風の近くへ転がしていたもう一つのプラズマグレネードを起爆させる。一瞬遅れて、グレネードの存在に気付いた闇風は咄嗟に違う窓ガラスを破り、建物の外へと逃げる。後ろの爆発によって、違う建物の壁に激突するが、なんとか立て直し、ノーバディがいる方向へ駆け出す。すると、丁度お互いに出て来たタイミングが同じであったため、ノーバディは左手に新たに持ったカスティーゴを、闇風はM900Aをそれぞれ構える。ジグザグに縦横無尽に闇風は立ち回りながら、ノーバディへの距離を詰めようとするが、ノーバディは咄嗟に何を思ったのかカスティーゴを投げつけた。突然の行動に目を見開くほどに衝撃を受けた闇風は、致命的にワンテンポ遅れを出す。

 

「しまっ!?」

「流石だな、闇風さん!」

 

この致命的な隙をノーバディは見逃さず、同じAGI型として上げた速力をフルに使い、闇風へと鞘で充電させていたアラストルを抜き放つ。そして、ノーバディは何とか反応し、銃口を向ける闇風を素直に称賛しつつも、正に神速とも言える速さで向けられている銃口諸共闇風へ光刃を突き立てる。

 

「クソ!負けたぜ、ノーバディ」

Ciao(チャオ〜)♪」

 

これにより、第二回バレット・オブ・バレッツの優勝者は決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年10月12日

GGO首都グロッケン街でのある店にて、ある少女の怒りの声が店の中に響き渡る。

 

「あ゛ぁぁぁぁもぉぉぉ!!なんなのよ!ゼクシード のやつ!!あんな勝ち方して恥ずかしくないのかしら!!」

「そう言うなよ、シノン。終わっちまったもんはしょうがないだろ」

 

「でもさぁ!!ノバと闇風さんのサシの勝負に横入りして来た上に、背後からノバ諸共闇風さんを撃って優勝するなんて恥ずかしくないのかしら!!」

 

ウガー!と言わんばかりに、荒々しくグラスを置く怒り心頭の少女シノンの向かいに座るのは、第二回BoB第3位となったノーバディであった。

彼女が怒るのも無理はない話なのだ。

中継されていた第二回BoBの中で、全GGOプレイヤーが白熱するほどに闇風とノーバディの闘いは凄まじいものであったのだ。そして、最後の最後にノーバディがフォトンブレードで闇風を突き刺した瞬間をまるで見計らっていたかの様に、ゼクシードと呼ばれるあるプレイヤーが物陰から現れるや否や、背後がガラ空きとなっているノーバディ諸共闇風を撃ち、優勝となったのだ。これには、GGO内のプレイヤーは反感を持ち、ゼクシードを大批判している。

 

その結果、先に死亡判定されたノーバディが3位。

ノーバディとほぼ同時に死亡判定を受けた闇風が2位。

最後に残っていたゼクシードが1位という結果となった。

 

また、このゼクシードはあろうことか、敏捷力最強という偽情報を広め、自分は異なるタイプのビルドで強力なアイテムによって、ほぼ体力ゲージが8割以上に残っていたノーバディや闇風を騙し討ちするかの様な形で、大会に優勝したことからより一層多くのプレイヤー達から反感を買っている。また、ゼクシードはそんな敗者達の言葉なぞ意味などない言わんばかりに、大会を大いに盛り上げてるほどに闘っていたノーバディと闇風をこけ下ろす様な言葉を大会後に発してもいた。

 

この事をつい先程知ったシノンは、打ち上げ会として、ノーバディ行きつけのバー《アダムの林檎》で怒鳴り散らしている。そのため、普段から町を歩けば人目を引くほどに風貌しているはずのシノンへは、近づいたらタダではならないことを分かっているのか、相席しているノーバディ以外は誰も近づきたがらない。

 

「あんまり怒っちゃダメよ、シノンちゃん。戦場では勝利を確信した時こそ狙われやすいものなのよ。だから、闇風ちゃんとの決着が尽きかけた時に油断したノバが悪いわ」

「でも、ママさん!あんな勝方は納得はいかないわ!」

「終わったんだから気にするなよ」

 

まるで山猫の様に怒るシノンのボトルをサッと回収しながら気を落ち着ける様に諭すのは、ムキムキな筋肉を見せつけるように下腹部までファスナーを下ろしたツナギのスーツにボレロを羽織った強烈なファッションスタイルに、眠たげではあるが優しげな瞳に加えて、艶やかなパープル色の髪をした男性であった。もう一度言う男性である!!しかし、ココロは乙女である!!従業員は、オーナーである彼女?を含めて!!

 

「うるさいわね!何でアンタはヘラヘラしてんのよ!!ママさん!もう一杯、テキーラで!もう、ママさん達も一緒に飲んで!!勘定は全部ノバ持ちで良いから!」

「おい!ふざけんな!!いくらVRとは言え、飲み過ぎだぞ!」

「OKよぉ〜〜〜!皆んなぁ〜シノンちゃんと一緒にテキーラ飲むわよ〜〜♡」

「「「「「はーい♡ママァ♡♡」」」」」

 

「ヤメロ!!酔っ払いモンスターども!!」

 

野太い声返事によって、次々とシノンの誘いによって従業員のオカマ軍団はノーバディの財布によってバカ騒ぎを始めていくのであった。怒りと酔いという最悪なシンクロ状態のシノンが先導されるかのように、ココロは同じく乙女の従業であるオカマ軍団の気迫に押され、ほかの客たちはそそくさと逃げてしまい、ほぼシノンとノーバディの貸し切り状態となってしまう。

 

「何よぁ!アンタぁは、ワタシの相棒なのよぉ!相棒があんなヤラレ方されて怒らない奴がいりゅとおもってぇんりょ!!」

「「「「そうよ!そうよ!!」」」」

「うっせぇーわ!オカマども!!怒号よりも、クエストに行って銃弾撃ってこいや!」

 

「何よぉ〜そぉのりょ言いからわぁ!」

「「「「お仕置きじゃぁぁぁぁ!」」」」

「ギャアァァァァァァァァァァ!!」

 

完全に酒乱モードへと覚醒したシノンとオカマ軍団によって、プロレス技をかけられる続けていく中で、この店のオーナーであるマギーことリアルネーム仙石(せんごく)道隆(みちつか)は、静かなグラスを口に運びながら、甥っ子であるノーバディこと一利(かずとし)へ聴こえない声量で、言葉を送る。

 

「いい子じゃないの、しっかりと大事にしてあげなさいよ。アオイちゃんやクロトちゃんに似てることを抜きにしてもね」




その日の夜。
一利の隣の部屋から何やら悶える苦しむ様な声が聞こえてきたのであった。

何故、そんな声を一利のお隣さんが発しているかは、皆さんのご想像にお任せします。


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第 1 回 がんげいる・おふらいん

ちょいと息抜き感覚で作ってみました
(=゚ω゚)ノテヘ☆





本作オリジナル版のそーどあーと・おふらいん。

 

「さぁ!始まったわよ!作者の思い付き兼勢いで出来た解説話こと『がんげいる・おふらいん』の時間よ!司会担当は札束でビンタしまくろうでお馴染みのピトフーイよ!!よろしくねぇー!!」

「解説のエムです。よろしく」

 

「何よぉ〜相変わらずテンションひっくいわね。まぁ〜イイわ、本編では未だに登場していなかったから、遠慮なく進行していくわね!作者〜私の仕事っぷりをしっかりとその死んだ目玉に焼き付けて、私の出番を増やすこと。イイわね?」

 

りょ、了解致しました。

 

「ピト、あまりメタいセリフは程々にして、記念すべき最初のゲストをお迎えしてくれ」

「はいはい、分かったわよ。それじゃあ、皆さんお待ちかねのスペシャルゲストの登場だぁぁぁぁ!!」

 

「……どうも、先日凶悪な酒乱達に財布をすっからかんにされた哀れな仔羊ことノーバディです」

「うっ、ノバの相棒を務めるシノンです」

 

「きたぁぁぁ!!ノバちゃん!!やっと、やっと逢えたわね、ノバちゃん!さぁ私と激しく殺し合いましょう!!」

「クソが!だから、ピトを司会にすんなって言ったろぉぉが!作者!エム!!」

 

〜〜しばらくお待ち下さい〜〜

 

「はぁ、はぁはぁ、あ゛あ゛ぁぁッ!疲れたぁ」

「お疲れね、仔羊さん?」

 

「あ゛っ?」

「いや〜〜ハッスルしたわぁ〜」

「ピトあまり、勝手に殺し合わないでくれ。一々止めていたら話が進まないから、俺が進めさせて貰う。それでは、がんげいる・おふらいんスタートです」

 

「あっ!コラ!!」

「もう司会者は仕事しないのね」

 

 

 

 

 

 

 

《トリビア》

 

「皆さん、どうも本作では一度も出番が全くないのに、何故かトリビア役に抜擢されたシュピーゲルです。今回は、ノーバディさんのメインウェポンであり、本作のオリジナル武器である『フォトンブレード《アラストル》について、詳細を御説明させていただきます」

 

フォトンブレードとは、従来のフォトンソードよりも重く、光刃の展開時は刃を出すのではなく、剣鉈ほどの長さに収納されている刃が変形し、その周りに光刃が展開されるという仕組みを持った光剣の一種です。ですので、フォトンブレードは、フォトンソードよりも敵を斬る時の斬撃が圧倒的に強い上に、トリガーの様なスイッチを押すことで、光刃の出力を調整できるという非常に応用の幅が広い武器なんです。また、刃の長さもフォトンソードよりも長いため、かつてSAOで刀を使っていたノーバディさんからすれば、フォトンブレードは正にドンピシャな武器でもあるんです。

そして、フォトンブレードの最大の特徴は、なんと言ってもバッテリーを一々交換せずに闘えるという半永久機能にあるんです。その構造は至ってシンプルです。鞘に搭載されている振動変換システムには、走ったりして鞘に振動を伝えると、振動感知センサーが反応して一定の電力を生み出すという仕組みとなっています。コレにより、AGI型のノーバディさんは常にラン&ガンを繰り返しながら、戦闘中に消費したフォトンブレードの電力を補充しているので、戦闘中にバッテリーを交換する必要はありません。と言っても、元々の持続時間がフォトンソードよりも長いためバッテリー切れを起こす危険性はあまり有りません。

しかし、GGOは本来ガンシューティングのゲームですので、誰も好んで超近接特化型の剣を使おうとは思いません。使うとしても、バッテリー切れなんて起こさないコンバットナイフや剣鉈などを選ぶのが常識です。

ですので、光剣を好んで使う方々は、くれぐれもバッテリー切れに陥った際は迅速にバッテリー交換を行って下さい。

 

「この様な武器を巧みに使い、拳銃で相手の動きを制限し、あらかじめ制限する予定の場所に相手が入ってきた瞬間にフォトンブレードで斬るという闘い方をしているノーバディはかなりの知略と戦闘感を兼ね備えたプレイヤーであることは間違いないですね。流石は、GGOナンバー1候補に数えられる人ですね。正にAGI型の可能性を体現した人です!!あんなゼクシードみたいな卑怯者とは格が違います!以上、ガンゲイル・オンライン《トリビア》でした!」

 

 

 

 

プレイバックコーナー

 

「それじゃあ、これまでの軌跡を振り返りつつ、本編で語られなかった裏側も紹介するコーナーよ!ノバちゃんは気に入ってるシーンはある?」

「ねぇよ」

「それじゃあ、ピトとノーバディが袂を別つ時のシーンをプレイバックして行こう」

「賛成ね」

 

「おい!ちょっと待ーー」

 

 

 

『やっと!やっと!!気付くことが出来たわ!その目、その目は私と同じだけど違う目をしている。アンタは実際に人を殺して実際に身近に死を感じた者の目よ!!それは!そして、アンタは人殺しのプレイヤー達を1番多く殺したプレイヤー!!なら、誰よりもSAO(あの世界)で誰よりも死に近い場所にいたってことねぇー!』

『………うるせぇよ。俺にその話題を出すんじゃねェェよ!クソアマがぁ!!』

 

 

「いや〜懐かしいわね〜ノバちゃんの言動や仕草、そして何より目を見続けていたから気付けたから思わずテンション上がっちゃった状態で突進して、その後ボロ負けしたのよねぇー」

「それ以降、ノバはピトの奴にSAOのことを詮索され、過去の傷を抉られるのを嫌がったためピトから逃げる様に俺達のスコードロンから抜け、シノンに出逢う前の傭兵業を続けていたんだ」

「…へぇそうなんだ。でも、今は私となんだかんだで組んで、コンビでいてくれているわよね?確か、昔の友達にも似ている部分があるってマギーさんが言及していたけど」

「………………別にイイだろ。お前は他の奴らと組んでいた時と違って、本当にお前とのコンビは楽しい。自虐的な俺でも、何だろうな…お前といるとナニカが見つけられそうなんだよ」

 

「そ、そう……(な、なななんなのよ、いきなり!!)」

「ふふーん♪そうなんだぁ〜♪」

「(何かとんでもないことを考えているな)……んん!、続いてはこのシーンです」

 

 

 

『いいか、シュピーゲル。俺達の闘い方は確かに限定され、他よりもハンデがある。だが、自分が選んだ限りとことんまで突っ走っていくしかない。それで、それで本当にダメだったのならもっと良いチームを組んで、他の奴らを狩りまくれ!まだ、お前は全部試し切れてはいないから、とにかく自分にとってコレだ!と思う物を見つけるぞ』

『は、はい!よろしくお願いします!ノーバディさん!!僕も、シノンやノーバディさんの様に“シュピーゲルを強く”してみせます!!』

 

 

 

「うーん誰?コレ?」

「いや、トリビアを担当してくれていたシュピーゲルだ。さっきも本番前に会っていただろ」

 

「ふーん、どうでもいいわ。ねぇねぇ〜さっさと次のシーンへ行きましょうよ〜」

「シノンの友人なんだ。無我には出来んだろ。因みにこのシーンの時系列は、シノンとノーバディがコンビを組んで暫くのことだったよな?」

「そうよ。シュピーゲルは、ゼクシードの所為でプレイビルドに悩んでいたから、同じAGI型のノバなら何かいいアドバイスを貰えるんじゃないかと思って紹介したの。ノバは古参のプレイヤーでもあるから、結構効率の良いレベル上げの仕方もわかるんじゃないかなって思ってね」

「まぁ〜俺の意見でシュピーゲルが何処まで強くなれるかは、アイツ次第だからな。シュピーゲルの内気な性格が少々プレイスタイルに出ていたから、少し後ろ向きな闘い方でもあったのも問題点でもあった。なら、いっそのこと爆撃で相手の視界や動きを封じてのラン&ガンか、ナイフの投擲での牽制攻撃とかも教えたりもしてみた」

 

「ふーん、随分と年下には優しいじゃな〜い。アクマさん♡」

「死ね」

「煽るな、ピト。その結果、ノーバディの助力とシュピーゲルのプレイヤースキルもあって、原作では予選落ちだったが、今回では見事にシノンと一緒に決勝に進むことができたんだ。まぁ、開始してすぐにゼクシードの奴にやられてしまい、順位は23位になってしまったがな」

「ノバのおかげで結構自信がついていたけど、ゼクシードにヤラレてしまったのが結構堪えてるみたい……また、見てあげてねノバ?」

 

「別にいいけど、あんまり俺に頼りすぎるのもシュピーゲルにとってはいい影響とはならないかもしれないぞ。何でも、俺が首を縦に振っていたら、アイツは自分で自分のことをしっかりと決められなくなる男になっちまうからな」

「………うん…」

「はいはーい。次に次にいきましょー」

「わかった。続いてはこのシーンです」

 

 

 

 

『ようやく…ミツケタ……オマエ…ハ………やはり…白い悪魔………だな』

『オマエ………はは…はぁーははははは!!そうか、そうか!お前か!赤眼!!俺の前に現れたんだ………今度こそ殺してやるよ!!』

 

 

「………すまん。間違えた。コレは次の章の話だった」

「いやダメよ!!もっと見せないよ!!というか、何なの!ノバちゃんのあのギラギラした紅い目は!イイわイイわ!ゾクゾクするわ!」

「何ネタバレしてんだよ」

「というか、毎度毎度ノバが本気になったり、スイッチが入った時に黒目から紅い目になる演出なんなの?」

 

「えぇーとそれは確か作者から手紙を貰っているから読み上げるな。『キリトが金目になる演出が多々あるから、対比としてノーバディくんには血のような紅い目にしてみました』ということらしい」

「何なのよ、ソレ。まぁ〜カッコいいから別に私はイイけどね」

「あっ!ソレは言えてるわよ、シノンちゃん!」

「俺は嫌だな。ヤツと似た色なんて、吐き気がする」

 

「ま、まぁ人それぞれの好みの問題として置いておこう。以上プレイバックのコーナーでした」

 

 

 

 

《トリビア》

 

「シュピーゲルです。ノーバディさんのプレイスタイルは、ズバリ近距離でのガン&ソードです。ノーバディさんは、AGI型ですが、次に上げているのが、STR(筋力)DEX(器用)をそれぞれ均等に上げているためアサルトライフルのSCAR-Lを肩から下げて持ち運んでもいます。そのため、ノーバディさんは光剣を持ちつつ、SCAR-Lやベレッタ92FSで相手の動きを制限する銃撃を行なってもいます。また、射撃スキルも高く狙っての射撃も可能です。しかし、シノンやエムさんといった狙撃手には遥かに劣ります。あくまでも、ノーバディさんは攻撃重視型ですので、VIT(生命力)は低いので激しく銃弾を浴びてしまうとすぐにやられてしまいます。コレは全AGI型に定められた宿命ですね。それを抜きにしても、ノーバディさんは敵の行動を先読みしたり、銃弾を斬ったりしてその欠点をカバーしています。このAGI型の欠点を諸共しないノーバディさんは、数多くの強豪プレイヤー達を討ち倒し、GGO最強の1人に数えられるほどの実力になったのです。以上、 トリビア担当のシュピーゲルでした」

 

 

 

《悩み質問コーナー》

 

「このコーナーは送られてきた質問や悩みに俺やピトが答えるコーナーだ。本来なら司会のピトが進行を担当するだが、とうとうめんどくさがってしまった。初回なのに、確実に人選を間違えてると今更思うが、気を取り直してーー」

「まず1枚目!行くわヨォ!えーとナニナニ『幸せのブラッキー』って変なペンネームね」

「そう言うのがかえって分かりづらくていいんじゃないか」

「そ、そうよね(ヤバ、アバターネームとリアルネームと殆ど一緒だ)」

 

「まぁいいわ…『友人が今どんな感じでいるのか、気になってはいるんですがその友人から着拒されています。本人に会いたいのですが、その人の過去の傷を抉ってしまいそうで中々勇気ででません。どうしたら、いいんでしょうか?』…随分とチキンな内容ね。エム、同じチキンとして一言言ってあげなさい」

「(あの野郎………)」

「誰かしら?その友人って。誰かに似ているよう……な…」

「む、わかった。そうだな、その友人を大切に思っているのなら、傷つけないために何もしないのが普通だろう。しかし、それで本当に自分や相手のてめになるのかは第三者の俺からは何も言えない。だから、例え傷ついても逢いたいと思うのなら、逢いそして自分の気持ちを伝えるべきだと俺は思う」

 

「ヘェ〜チキンな変態のアンタからそんな言葉出るとはねぇ〜意外だわ。どっかの誰かさんの下僕かつ奴隷になって喜んでいるドM野郎の言葉とは思えないわwww」

「え゛ぇ!?」

「とりあえず、そのブラッキーさんには、蝋人形でも送っておくか」

「何でそうなるんだよ。これはあくまで俺の経験上からの話だ。決めるのは、このブラッキーさんだ」

 

「まっ!私はそんな相手のことなんてお構いなしに突撃するけどね〜ノバちゃん♡」

「くたばって、土に還れ」

「やめてくれ、俺の生きる意味が無くなる」

「愛って怖いわね」

 

「第1回がんげいる・おふらいんはコレにて終了よ!さぁー帰ってさっきの骸骨マスクとノバちゃんのシーンを観るわよー!!」

「あんまり、見過ぎにないでくれよ。深夜までTVの見過ぎは美容に良くないからな」

「そのまま、二度と出るな!」

「あははっ、次もこんな感じになるのかしらね」

 

「それじゃあ、読者のみんな〜まーたーねー!!」

「次回はそのままファントムバレットに進むのか、もう少しオリジナル話を続けるのかはまだ未定だが、楽しみしてくれ」

「結構グダグタだったな」

「そうね…特にノバのせいでね」

「うるせぇ〜」

 









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第 Ⅷ 話 加速する悪意

ファントムバレット編前の前日章みたいなものです。
ファントムバレット編ではキリトからの描写もいれますので、原作と同じ展開となる時もありますが、たのしんでいただけるようにしていきます!


ミツケタ。

 

あの闘い方……あの剣撃…正しくアクマ!

 

オマエの瞳には隠されたモノは…俺にはワカル。

 

お前の瞳……ココロの奥には……憎悪が渦巻いてル。

 

やっと…やっとミツケタ。

 

会いたかったゾ!■■■■!!

 

だが何故、今の奴の側にはアイツらはいない。

 

あの黒の剣士も、閃光もイナイ。

 

まさか……オマエは…オレを……死を求めているのか?

 

そうか、やはりオマエは“あの事件”をワスレテハイナイ。

 

 

オマエをコロスのは…オレだ………。

 

 

 

オマエはダレニモ渡さない。

 

 

 

オマエの魂モ心モ俺がウバウ!

 

 

 

イッツ・ショータイム。

 

 

 

赤い眼の彼の視線の先には、紅い輝きを放つ光刃を振るう1人ぼっちの暗殺者(ノーバディ)が中継画面に映し出されていた。

 

そして、彼は第二回BoBの決勝戦の結末を見届けると、現実世界へと帰っていく。そして、偶然入手した“あるプレイヤー達”の個人情報を持ち帰り、恐ろしい計画を弟と共に企ていく。

 

 

彼のココロの深層に渦巻く“棺桶の悪意”は、激しく吹き荒れ、やがてソレは大きな力となり、彼の刃となり、多くの人々の喉元へとその刃を突き立ていく。

 

 

赤い悪意と紅い悪意はぶつかり合う運命(さだめ)

 

 

一刻一刻と…時計の針が進むごとに2人の悪意は加速していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年11月31日

東京のある喫茶店にて、ノーバディこと仙石一利は“ある人物”に呼び出しを受けていた。

 

「やぁ!一利君!こっちだよ」

「何のようだ。菊岡誠二郎二等陸佐どの」

 

一利を呼ぶのは、太い黒縁の眼鏡をかけた30代半ばくらいの優男菊岡誠二郎という自衛隊の者であった。

 

「はは、流石に仙石家にはバレたか。ソレについては、キリトくん達にも黙っていてほしいかな。ただでさえ、胡散臭いって避けられてるし」

「アンタが教えてくれたエギル以外とは、連絡を取り合ってはいない。ソレに俺が貴方の正体を伏せておく条件として、俺の情報をキリトたちへある程度とは言え渡さないことが条件だからな」

 

なるほどと言いながら、本職は自衛隊だが、総務省通信ネットワーク内仮想空間管理課職員という官僚も兼任している菊岡は口元にコーヒーを運ぶ。その間に、一利は定員にオーダーを注文し、スイーツが来るのを待っていると菊岡はあるタブレットを一利に手渡す。すると、その画面に肌色が少々悪く冴えない外見をした男性の個人情報が映し出された。

 

「誰だ、この人は?」

「その前に一利くんに聴きたいことがあるんだ。仮想世界での現象が現実世界のプレイヤーの心臓を止める事が可能だと思うかい?」

 

菊岡の突然の問いかけに対して、一利は口を閉ざす。彼の脳裏には、2年間もの間閉ざされた空間の中で命がけのゲームをしていた出来事が蘇っていた。

 

「大分遠回りしたが今回の本題はこれなんだ」

「…どんな事件があった」

 

あのSAO事件から、俺はどうやら人命にかかわることととなると、過剰に反応するようになっている。

 

「話が早くて助かるよ。今月11月14日、東京都中野区のアパートで掃除をしていた大家がある一室から異臭がするのに気が付いた。インターホンを鳴らしても返事が無いので電子ロックを解錠して中に入った。そこでこの男…茂村保二26歳が死んでるのを発見した。死後五日半でベッドに横たわり…」

「アミュスフィアを被っていた…か?」

 

俺は菊岡さんに手渡されたその男の情報が載っているタブレットをようく覗く。

 

「その通り。変死ということで司法解剖が行われて急性心不全となっている」

「なに、心不全?この人の心臓がなんで止まったんだ?」

 

疑問に思った一利が質問をする。

 

「解らない」

「……」

 

「頼むからジト目で見ないでくれ」

「ザルだな」

 

「毒を吐くのもヤメテ」

 

とりあえず俺は、この茂村氏に対して目を瞑り冥福を祈った。いくら知らない人物とは言え、今この人について話をするんだ。それくらいのことはしなければ失礼だ。

 

「彼はどうやらほぼ二日間何も食べないでプレイしていたらしい」

「…確かに悲惨な話だけど…珍しくはないだろ。現に俺達は、点滴での栄養剤を注入してもらっていたが、実際に2年間何も食べてはいなかったんだから」

 

「確かに今やよくある話だ。こういう変死はニュースにはならないし、家族もゲームをしていて死んだなんて話さないから統計も取れない。これもある意味ではVRMMOによる死の侵食だがーー」

「この人の死に一体何ががあるんだ?」

 

話を遮るように一利は真っ直ぐ菊岡を見ると、彼はチラリと端末を一瞥する。

 

「彼のアミュスフィアにインストールされてたのは"ガンゲイル・オンライン"…知ってるかい?」

「俺もそのゲームのプレイヤーだ…なるほどな、あの噂関連か」

 

そう言うと菊岡は目を見開く。

 

「驚いたね、君があのゲームをやってるなんて。キリト君達がいるALOにいなかったから、何処かのゲームにいるとは思ったけど。よりにもよって、あのゲームはかなり殺伐としてるんじゃないか?」

「…まぁな。そのぶん忘れにくくて済むし、何より自分で自分の傷を抉るのに打ってつけだ」

 

そう言うと菊岡は苦い顔をしつつも、事件の話を進めていくことを選択する。

 

「彼のアバターネームはゼクシード。知ってるだろ?」

「あぁ。前の大会で背中から撃たれたからな。よく覚えているよ」

 

「なら、話は早い。ゼクシード氏はあるプレイヤーから画面越しに銃撃され、ログアウトした。そして、リアルの彼も同日に死んでいる」

「まさか、本当にデス・ガンがやったのか?」

 

一利の口から出た《デス・ガン》とは、GGOの首都であるSBCグロッケンの酒場にて、ゼクシードと闇風が映っている酒場のテレビに向かって裁きを受けろと叫んで銃を撃った。本来なら意味のない行為だが、どういうわけか画面越しにゼクシードは数秒後に突然ログアウトし、それ以降二度と現れはしなくなった。

 

「やはり知っていたんだね。このデス・ガンと呼ばれるプレイヤーは、10日前にもあるプレイヤーを銃撃した。そのプレイヤーの名前はーー」

「薄塩たらこさんだな」

 

「知り合いかい?」

「あぁ、何度か組んだこともあったし、話もしたりした。割と人柄はゼクシードよりも良い人だったよ。まさか、本当に殺されていたとはな」

 

続けて渡された薄塩たらこのリアルを確認した一利は、彼と話した事や彼と共にクリアしたクエストの出来事を思い出しながら、先ほどよりも深く冥福を祈る。

 

「やはり、このデス・ガンと彼らの死は密接に関わっていると思うかい、君は?」

「偶然にしてはあまりにも出来すぎているだろ。だが、アミュスフィアは微弱な電気信号しか出せない、脳も焼き切れないしましてや心不全なんて無理だ」

 

「いや、でももしかしたら本当に弾丸が飛び出て撃ち抜いたかもしれないじゃないか」

「そんな超能力はない。伊達に、茅場先輩と同じ重村ゼミに通っている身ではないんだぞ。アミュスフィアには危険がない事くらい何度も自分で調べもした。ソレにペインアブソーバーを引き上げたとしても、現実の人間は死なない。ソレは菊岡さんも分かっているはずだ」

 

「うん、そうだよね。だから、キミにはこの死銃(デス・ガン)と呼ばれるプレイヤーに接触して欲しい。勿論、キミがログインする場所は此方が管理する場所で、しっかりとモニターで君のバイタルもチェックする。もしものときは此方から強制的にログアウトさせる」

「分かった。ただし、条件としてキリト達を関わらせるな」

 

頼まれたスイーツを瞬く間に食べ尽くし、コーヒーを飲んでいた一利は鋭い眼差しで菊岡を威圧する。流石の菊岡もいきなり一利が、自分に対し鋭い視線を向けるとは予想していなかったのか、驚愕を露わにする。

 

「何故だい?この事件は、キミ1人に対処できるほど、そんな生優しいモノでは無いと僕は思っている」

「アイツは散々命を懸けて、大切な人の為に闘ってきたんだ。いい加減に休ませてやるべきだ。アイツはまだ17歳なんだぞ」

 

「確かに彼は遥かに若い。だが、ソレは君にも当てはまることだ。そして、このプレイヤーがもしも他のプレイヤーを殺せる力を持っているとしたら、キミかキリト君どから1人では勝てない。2人一緒でなければ危険すぎる」

「ふっ、こんな悪魔なんて死んだ方が世のため人のためじゃ無いのか、二等陸佐どの?」

 

何処までが本気か分からない一利の言動に、菊岡は思わず机を強く叩きつけるように立ち上がる。

 

「一利くん!!」

「怒鳴るなよ。マダム達に迷惑だろ」

 

そんな菊岡に対し、全く応えていない一利はニヒルな笑みを浮かべ、アイスチョコレートラテにストローを刺し、溶けたアイスと混ぜ合わさったラテを飲み干していく。流石に周りの視線に気づいたのか、菊岡は渋々座り直す。

 

「キミはあの事件に囚われすぎている…」

「あぁ、今でも生きていい理由が浮かばない上に、死ぬのが怖くて自殺もできた試しもない。まったく、死にたいのか死にたくないのかどっちなんだって話だよな」

 

「…悪いけど君のその条件はのめない。“今のキミ”にはキリトくんが必要だ」

「……………分かったよ。俺だけくたばるのなら、別にいいけど他のGGOプレイヤーが殺されるのは無我に出来ないからな。だが、俺以上の安全性をキリトに保障することは絶対条件だ」

 

「分かった。この件に関しては、キリトくんの方へは僕が直接言うからキミはGGO内で死銃(デス・ガン)の情報を集めてくれ。できる限り、慎重にね」

 

一利が無茶なことをしないように念を押す菊岡であったが、不安が拭い切れたわけでない。寧ろ、先程から冷たい笑みを浮かべている一利を見て、余計に不安が倍増した。そんな菊岡の心情を察しているのかは不明だが、一利はラテを飲み干すと立ち上がり、帰路につく。

 

「了解。できる限り撃たれないように情報を探るさ。それじゃあ、ご馳走様菊岡さん。次は別のスイーツも食べたいから、予約しておいてくれよ。まぁ、俺が生きていたらの話だけど…ね」

 

そう言って一利は菊岡が何か後ろで言っているのを聴こえないフリをして店を出て行く。そして、止めているバイクのエンジンをかけていると、

 

 

――漸く本当に意味でオマエを殺すことが出来る相手が来たな?

 

あぁ、ソイツが誰なのかは分からないがな。

 

バイクのミラーの中で、あの時と同じく血盟騎士団のコートを纏った自分自身(もう1人の一利)が血塗れの貌で嗤っている。

 

――だが、同時にあの時と同じでオマエの盛大な自殺を止める為にキリトは来るぞ?

 

正直会いたくない。

 

――相変わらずの臆病者だな。オマエは。

―― ()を求めていながら()を恐れている。

 

ダマレ。

 

――今回せいぜいキリトが自分を助けてくれることを祈るんだな!

 

「……話は終わりだ。とっと消えろ」

 

まるで自分の心を見透かされている様な錯覚に陥っている一利は、逃げる様にバイクのエンジンを蒸して、その場から去る。しかし、彼がいた場所には、先程まで鏡の中にいた血盟騎士団のコートを纏った自分自身(もう1人の一利)が残っていた。

 

――悩め!苦しめ!そして、苦痛の果てに生を感じろ!

――それこそがオレたちに与えられた罰だ。

 

一利がいないにも関わらず、まるで今の一利の姿が滑稽で仕方がないのか冷笑を浮かべたまま跡形もなく彼は消えていった。

 

 

Nobody(ノーバディ)の心の奥底に渦巻く“紅い悪意”もまた、

 

死銃(デス・ガン)の中に巣食う“赤い悪意”に共鳴する様に、

 

その激しさを加速させていく。

 




何故でしょう…他意は全く無いはずなのに、あの人がかなりヤンホモみたいな言動になってしまった。ちょっとPhoを真似てみた結果なのかな?
ヤバいどうしよう……思い付きで悪堕ちとか書いてしまいそうです。


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第2章 Phantom Bullet
第 Ⅰ 話 動き出す2つの善意


今回はちょっと短めで、一利があんまり主人公していません。今回は、シノンとある人がメインの話ですので!

それではお楽しみください!


2025年12月2日

 

私ことシノンはダイン率いるスコードロンに参加することになった。

参加すると言っても今回限りの契約。私はあの忌まわしい過去に打ち勝つためにも、私一人の力で強くならなくちゃならない。誰の力も借りずに。

でも、ソレはソレとしてコンビを組んでいるノバの強さも知り、その上でノバに勝つことができれば私は……シノンはもっと強くなれる。

 

そうすれば……彼の奥底に“ある感情”も判るかも知れない。

 

そう言えば、最近のノバはまるで探し物を見つけたかのような目をしたけど……あの瞳は普通では無かった。

それなりの月日やクエストをこなして来た相棒だからこそ分かってしまった。

アレは明らかに優しい彼がしていい瞳ではなかった。

まるで本当の悪魔に取り憑かれたかの様な目だった。

コワイ……彼が彼でなくなってしまう……そんな不安が私の頭の中を覆っていく。

 

ダメよ…このままだとまだ弱い詩乃のまま!

今の私はシノン!

 

「シノン…狙撃準備に入ってくれ」

「……了解」

 

 

私は氷、冷たい氷でできた機械。

 

 

そうして心の中の不安を奥底に沈め、敵を倒すためヘカートと心を同化させていく。しかし、彼女の予感は最悪な形で現実のものとなってしまうことを、この時のシノンは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年12月7日

俺こと桐谷和人は、菊岡さんから死銃(デス・ガン)なる人物の凶行を止めるべくガンゲイル・オンラインへの調査に赴くことを了承した。勿論、調査費として15万円も貰えることで菊岡さんへの不信感がガク下がりしたのは内緒ではある。

 

「それからキリト君には、警告をしておくことがある」

「何だよ。撃たれて来いって言った癖に、余計な仕事をさせる気かよ」

 

「彼……一利くんのことだよ」

「っ!?」

 

菊岡さんからアイツの名前が出たことで漸く気付くことが出来た。そうだ、俺みたいな頼んでいるんだ。アイツにだってこの事件に不審に思っている違いにない。そして、この菊岡さんの先程よりも真剣な顔付きになっていることから相当なことがアイツの身に起きようとしていることになる。

 

「彼は……今でもなお彼らと、実際には生きていた君達を見殺したという事実に囚われている。そして、コレは僕の予想だけど、彼はこの死銃(デス・ガン)と闘い、その果てに殺される或いは心中することを望んでいる」

「おいおい、菊岡さん幾ら何でも冗談がすぎるぞ?」

 

「いつもの冗談を言っている様な顔に見えるかい?」

「…………悪い。菊岡さん、アイツにも俺と同じくらいの安全は保障しているのか?」

 

「ソレは充分に保障する。でも、明らかに一利くんはSAO事件から帰って来ても、その心を影に落としている。このままだと、彼は本当に取り返しのつかない道へ踏み外す可能性がある」

 

アイツは、大切な人であるアオイと親友であるクロトを同時に目の前で失った。それに加えて、死のうとしたアイツをなんとか立ち直らせたオレやアスナまであの時……茅場晶彦との一騎討ちの時も生きていたとは言え俺達を見殺しにしたという現実に対し、後悔の念を抱き続けているのか。

 

今のアイツのことを思うと俺は、この事件への介入への決意がより一層固めることができた。

 

「だから、キリトくん。彼を止めるためにも、この事件を終わらせるのに協力してくれ」

「ああ、勿論だ。菊岡さん、改めて俺はこの事件を止める。そして、あのバカの目を覚まさせる。どんなことをしても」

 

こうして、俺と菊岡さんの話は終わり、アスナとの待ち合わせ場所へ行く。その道中に、アイツ……一利からメールが来ていた。内容は、今回のGGO内での打ち合わせ内容であった。それに俺は了承のメールを送ると共に、『お前を救う』という言葉を送るのだが、それ以降の返信はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六畳間の安アパートの一室。

そこに設えたユニットバスの中で、私は力尽きていた。

 

学校からの帰り道、クラスメートの待ち伏せにあい、そこを助けてもらった新川くんと喫茶店に入り、先日死闘を繰り広げた≪ベヒモス≫というプレイヤーが、集団戦では無敵とまで呼ばれた人だと聞き、そんなプレイヤーを倒したい今の私ならば『銃』へのトラウマも乗り越えられるかもと思ったのだ。

しかし、その結果は残念な形となった。

 

私は、11歳の頃、人を殺した。

東北の小さな郵便局を襲った強盗を『銃』で撃ち殺したのだ。それ以来、銃に類するものを見ると激甚なショック症状に襲われ、酷い時には嘔吐してしまうことまであった。

 

そんな弱い私の例外は、あの≪ガンゲイル・オンライン≫の世界だけだった。あの世界で戦い続ければ、いつの日か、このトラウマとも向き合えるとそんな風 淡い期待を持っていた。なのに………私は…詩乃はどうしてこんなにも弱いのか……

 

「お願い……助けて…誰か……たすけて…」

 

視界が涙で歪み、うわごとのように呟きながら、私は『銃』に触った手を何度も洗い、最後に顔を洗った。部屋に戻って忌まわしいモデルガンをタオルでくるみ、再び引き出しの奥底へとしまった。そして、制服を脱ぎ、ベッドで横になろうとしたところで、玄関の呼び鈴が鳴った。のろのろと力のない足取りで、玄関まで近付くと、ドアの向こうから聞き慣れた“あの人”声が聞こえてきた。

 

『おい!朝田!何かあったのか!?』

 

それは、このアパートに引っ越してから何かと助けてくれる隣人の声だった。なぜ、とも思ったが、すぐに自分の悲鳴を聞きつけて心配してくれたのだと察した。

 

「あ…ぁ…大丈夫です。ごめんなさい私の声、迷惑だでしたよね?」

『そんなのは気にするな。あと…出来れば、開けてくれか?流石にドア越しは……ちょっと』

 

「え…あ!す、すいません」

 

促されるままドアを開ける。この時には、まだ私は思考能力がちゃんと戻っていなかったため自分の状態をしっかりと把握していなかった。ドアの隙間から見えたのは、小さな瞳をした赤ん坊の顔であった。

 

「しーちゃ!しーちゃ!」

「立華ちゃん?」

「おう、また預かることになったな。あの時みたいに、あのアホどもがいるわけじゃないんだな」

 

私の顔を見て、キャッキャッ!と嬉しそうな表情をするのは私の隣人仙石一利さんの姪っ子の仙石立華ちゃんであった。数ヶ月前に遠藤さん達が私の部屋を遊びの場や喫煙場所に利用し、夜中にも関わらず騒いでいたことで、立華ちゃんが大泣きしてしまった。その結果、堪忍袋が切れた仙石さんが、私の部屋に注意をしに来た際に遠藤さん達が暴力で黙れらせようとしたが、彼の方が圧倒的な身のこなしで全員撃退した。そして、大泣きをする立華ちゃんを仙石さんと一緒に何とか宥め寝かせつけることを条件に許してくれた。

また、この時の仙石さんの話では、叔母がどうしても外せない学会の発表があるため甥っ子である彼が数日間娘の立華ちゃんを預かるという内容だった。そして、どういうわけか私は立華ちゃんに凄く懐かれる様にもなったため、まだまだ言葉を話せないにも関わらず、私のことをしーちゃと呼んでくれている。

 

「はい、あの時仙石さんが私の合鍵を拾ってくれておかげで、入られる心配はなくなりました」

「そうか。顔が真っ青だが大丈夫か?」

「ぶかー?」

 

立華ちゃんをおんぶ紐で抱えていながら心配げな表情を浮かべる仙石さんを部屋に入ってもらう。

 

「立華ちゃんの顔を見たら元気が出たから大丈夫よ」

「しーちゃ!ぱいぱい!!」

「ぱい?……はっ!お、おい朝田!いいか!ようく!落ち着けよ!!」

 

立華ちゃんの言葉を聞いて何かに気づいた仙石さんは慌てた様子でスーパーの袋を持っている両手を私の前に突き出し、落ち着くように静止の体制を取り始めて行く。そして、立華ちゃんの視線を追い、自分の制服へと目をやると、自分が制服を半分脱いだ状態だったことを思い出した。

 

「―――ッ!!」

 

声にならない悲鳴をあげ、急いで身支度を整えた。そうしている間は、仙石さんに向き直ると、律儀というか何と言うか、ちゃんと後ろを向いてくれていた。

 

「…………み、見ました?」

「見てしまったので、気の済むまで殴ってくれ」

 

流石にお世話になっている相手を殴るなんて出来ないから、せめてとして両頬を数十秒間引っ張ることとした。何故か、仙石さんは納得しなかったので、立華ちゃんを抱っこしながら往復ビンタをして貰った。そして、立華ちゃんにトドメとして『いーちゃん!ちらい!』(※一利!嫌い!の意味)を言って貰った。すると、数分間仙石さんはその場に崩れ落ちた。しばらくしてから、復活した仙石さんに立華ちゃんを戻す。

 

「本当に大丈夫なのか?」

「ぶかー?」

 

何も言われはしないが、心配げな仙石さんを見ていると、自分はやはり酷い顔をしているのだろうと察する。本当に優しい人なんだなと改めて理解する。

 

「はい大丈夫。本当に、大丈夫ですから」

 

やせ我慢だと自分でも分かっているけど、なんとなく目の前の仙石さんにこれ以上の心配はかけたくは無かった。

 

「でも……何も、聞かないんですね」

 

この人は、私が起こした五年前の事件については、何も知らない。私とは隣人という知人であるのに、自分のトラウマやショック症状については、本当にベストなタイミングで助けてくれる。

 

「……お前が話して楽になれるのなら聞く。でも、ツライことを話すだけでも相当な覚悟や時間がいる。お前が、本当に話したくなったら聞くさ。これでも、色々と人生経験が豊富な隣人さんではないからな」

「なぁー!」

 

……本当に、そんな少しばかりの心遣いが、今の私には本当に心地よかった。でも、同時に、目の前の彼に多大な迷惑をかけているという申し訳ない気持ちにもなってしまう。そんな私の気持ちに反して、口から溢れるのは甘えの言葉だった。

 

「いつか、気持ちの整理がついた時……聴いて下さい」

「相談くらいには乗るさ」

「るさー!」

 

私は私自身の力で強くならなくちゃいけないのに。

 

私の過去を知ったらこの人も離れていってしまう。

 

でも、この人なら……大丈夫…そう勝手に思ってしまう。

 

いつか私も仙石さんやノバのような強さを手に入れることが出来たら、絶対に今までの恩返しをするんだ。

 

そう密かに決意した私は、仙石さんと立華ちゃんと別れてから、今日も BoBに向けて強くなるためにGGOへ赴く。

 




余談として、一利の家族構成は、オカマの叔父が1人、バツイチの叔母が1人、ゲイの父が1人、祖父母が健在という感じです。


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第 Ⅱ 話 それぞれの“強さ”

そろそろ次回か、その次あたりから本格的にBoBに突入したいと思っています。そして、ずっと文句を言い続けている“彼女”も登場させる予定ですので、お待ち下さい!
今回は、オーディナルのキャラがチラッと出ます。


真っ暗な世界の中で、俺は目を覚ました。

 

周りは真っ黒な水で覆い尽くされ、底が全く見えない。

 

咄嗟に息苦しさから逃れるべく、

 

踠き、水上へ上がるために手足を動かす。

 

そして、水上へ浮上する際にとても目を開けてはいられないほどの光に包まれた。

 

しばらくして、視力が回復し、眼を開けるとソコは正しく地獄だった。

 

「あ……あぁ、あ……」

 

どういう原理で、先程まで水中にいたのに今度は立っていることには分からないが、辺りを見渡せば、血という真っ赤な色に染まって動かなくなった人々で地面は埋め尽くされていた。

 

その中には、

 

「キリ…ト……?アス……ナ……?」

 

涙を流した跡を残している親友たちの変わり果てた姿があった。手を繋ごうとしていたのか、先の無くなった腕を伸ばし、終点が合わなくなった瞳から全くの生気を感じさせず、身体中を幾つもの切り傷によって斬り刻まれており、そこから溢れ出る血と零れ落ちる内臓を見てしまった俺は、その場に崩れ落ち、嘔吐しかける。

咄嗟に別方向へ視線を向けると、そこには、上半身と下半身を真っ二つにされたピンク色の髪をした少女、四肢をバラバラにされ短剣を喉仏に突き刺され絶命したツインテールの少女、頸を撥ねられ離れてしまった頭にはバンダナをつけた男、そして、幾つもの刃物によって串刺しにされている黒人の男の死体を見つけてしまった。

 

「リズ…?シ、シリカ……ッ?…クライン………エ、エギ…ル……そんなッ!うそだ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁ!!」

 

他にも周りを見渡せば、あの世界で見知った顔が幾つものあった。その中には、当然“彼にとってかけがえない存在”がいた。

 

「アオイ…クロト!?」

 

ーーオマエがコロシタ

 

「…ヒッ……ッ!?」

 

何処から聴こえて来る声に、俺は恐怖のあまり耳を塞ぐ。

 

ーーお前の手ヲよくミテミロ

 

耳を塞いだのに聞こえてくるこの声に、俺の身体は逆えず、自分の手を見てしまう。するとそこには、血に染まり切った“人殺しの手(自分の手)”であった。

 

「うっ!うわぁぁぁぁ!!」

 

咄嗟に飛び退いたことで、近くの死体を踏みつけてしまう。

 

「イタイじゃないかぁ?」「あの時みたいになぁ?」

 

すると、俺が殺した者達(死体たち)は、冷たすぎる笑みを浮かべ始めていく。そして、周りの動かなかった人々は次々に動き出すと、俺の脚を掴み、拘束していく。バランスを崩し、尻餅をつくと、周りの俺が殺した者達(死体たち)は待っていたと言わんばかりに一斉に飛びかかって来る。その中には当然、キリト達がいた。

 

なんで!なんで!?お前たちが俺を……

 

『ソレがお前の罪だからだ』

 

何とか抵抗する俺を嘲笑う声のする方向へ、視線を向けるとそこには“赤眼のヤツ”がいた。

 

オマエは!オマエがキリト達を殺したのか!?

 

 

 

『いいや違う……俺は………オマエだ』

 

 

 

そう言って赤い眼が禍々しく光る髑髏の仮面を脱ぎ捨てると、

 

 

 

 

 

仮面の下にあったのは、

 

 

 

 

 

 

仙石 一利(おれの顔)であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年12月10日

東都工業大学電気電子工学科の重村研究室。

 

「……ごく…ん…………仙石くん」

「はっ!?」

 

最悪な夢が醒めると、そこには見知った顔があった。

 

「ちゃんと寝ているのかね?私の研究を積極的に参加して、手伝ってくれるのはありがたいが、あまり体調が悪いのは宜しくないぞ」

「うっ、す、すみません。先日まで預かっていた姪っ子の夜泣きで、中々寝てなくて、申し訳ありません。変な言い訳でして、重村教授」

 

まるで機械の様な表情に全く変化のない自分の恩師である重村(しげむら) 徹大(てつひろ)教授から差し出された缶コーヒーを手に取りながら、一利は先ほどまで見ていた夢のことを頭の隅に追いやるべく、PCのディスプレイに映し出された研究データを見せる形で現実逃避する。

 

「ウム、さすがだな。ここまで出来てくれているのならもう帰って休みなさい。それと、前にも言ったが赤ん坊ほど意思疎通が難しい時期はない。しっかりと赤ん坊の仕事である泣くという意思表現から、何を求めているのか理解してあげなさい」

「はい、ありがとうございます。それから、以前から研究していた加速思考プログラムを制御するためにはやはりデータは足りなさすぎですねよ」

 

「あぁ、君のレポートからこのシステムを実用化させるにはやはり人間1人の制御では難しい。近くで加速思考システムスピードと制御システムを担うためのAIまたは、モニタリングする者がいなければテストも難しいが、従来のAIではまだまだ実用性と安全性に欠けるのが、最大の問題点だ。しかし、このシステムは実に面白いものだ」

「やっぱりそうですよね。ZONEのデータも入れれば、かなり簡略化できるかな〜と思ったんですけどチクショ!無理かー!あ゛ぁ〜ムズイキツイヤバイ!」

 

俺の愚痴に呆れた様に溜め息を吐きながらも、何だかんで自分のAR研究を進めながら、俺の研究にもシッカリと意見を述べてくれる辺りから本当に感謝の言葉が尽きない。そんな教授から呆れた視線を受け止めながら、帰る準備をし、会釈してから帰路につく。その道中で、最近人工筋肉を取り入れたパワードスーツの実験に誰よりも参加している友人と軽く談笑を交えた後、一利はGGOにてシノンとの約束があるため走行制限ギリギリのスピードで帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は流れて、

GGO オールドサウスエリア。

シノンとノーバディのコンビは現在、mob狩り帰りのスコードロンを狩り終えて、グロッケンへ戻るべく、それぞれが各々の準備をしていた。

 

『ねぇ、最近どうしたの?』

「何がだ?」

 

『いや……何だか最近のノバって、いつものノバじゃないみたいだから気になったの』

「ふーん、気のせいだろ…………いつもの俺って何だろうな

 

最後の方は本人も気付かないほどの声量であったためか、シノンの耳に入ることはなかった。

 

『今の私って強くなれてるのかな?』

「………ステータス的なものなら、そうなんじゃないのか?まぁ、今でも接近戦は酷いけどなww。珍しいな氷の狙撃手と謳われるシノンお嬢様が弱音なんて」

 

『うっさい。一言余計よ。はぁ、リアルでの話なの』

 

なるほど。何を抱えているかは分からないが、強くなれているのかってのは、リアルのことだったのか。最近のゲーマーってのは、色々と抱えているものが重そうだな(※オマエが言うなbyキリト)。

 

「何か勘違いしていないか?いくらゲームで強くなろうが、それが現実に反映されるわけじゃない。変わるとしてもそれは物の見方、他者の価値観に対する理解ぐらいだ。要するにゲームで強くなろうが現実で強くなる訳じゃないってのが、俺の考えだ」

「…………やっぱり私は…弱いまま」

 

シノンの絞り出す様な言葉からは、後悔や恐怖といった感情が乗っている。そんな風に押しつぶされそうになりながらも抗っている時点で十分つよいと思うがな。

 

 

 

 

 

思わず仙石さんに見せた様な甘えとも取れる言葉が私の口から零れ落ちてしまった。咄嗟に、別の言葉で否定しようとする前に、インカムから聴こえるノバの声が私の耳や心に入ってきた。

 

 

『お前の言う強さってのは、心的なモノで、何かしらの事情に立ち向かおうとしているのはなんとなく判る。だとしたら、立ち向かおうとしてる時点でお前は十分強いさ。大抵の人間は自分に都合の悪いことや嫌なことから目を逸らしたがる生き物だからな』

「貴方は……ノバはどうなの?」

 

それが一番知りたい。ノバも何かを……(詩乃)に通ずる何かを抱えているのは、最近になって分かった。そして、ノバは私にない“強さ”を持っている。それを知ればきっと私も……詩乃も………

 

『…………いや、立ち向かってもいないさ』

「えっ……!?」

 

でも、待っていた答えは私の想像とは違うモノだった。

 

 

『俺は……ある世界…ソードアート・オンラインで人を殺してしまった』

「……………っ!?」

 

ノバが……人を………殺した!?

私と……詩乃と同じ。

 

この時の私は、突然すぎる事実に頭を整理するだけで精一杯だった。そんな私を置いて、ノバはまるで懺悔するかの様に話を続けていく。

 

 

『大切な人を目の前で殺されて、頭の中が真っ赤に染まった俺は、復讐を名目に人を殺した。そして、誰も俺を責めはしなかった……だが、仲間達の眼には恐怖が写っていた。それで気付いたんだ…俺もやっぱり殺しを楽しんでいるアイツらと一緒なんだってな』

 

 

その言葉を聞いて、胸が…ココロが酷く痛む。

 

 

 

『それでも向こうで出来た友達は、俺も一緒だ…俺もお前と同じで人を殺してしまったと言っていた。でも、ソイツは…年柄年中真っ黒なアイツは、いつも誰かのために闘ってきたアイツは、俺みたいな復讐という醜い感情に支配された悪魔なんかとは違う。何も護ることすら出来ず、ただ敵を怒りと憎しみで手を血に染めた俺なんかとは違うんだってな』

 

 

何処かにいるその人を思い出しているのか、彼の声から何処か懐かしげな感じもするがそれ以上に哀しみが言葉の節々に重くのしかかっている。

 

 

『俺は……その罪に苦しみ…()を受けるために生きている。要は…俺はその過去から逃げるどころか、未来に向かって立ち向かうこともせず、ただただ“その場で立ち往生している”だけの生きる屍なんだよ。そんな俺は、これからも苦しむために“誰でも無い存在”Nobody(ノーバディ)としているんだよ。分かるか、俺は過去も、未来も、剰え現実も見ていない畜生なんだよ』

 

な…なんなよ、ソレ。

私なんかよりも強いじゃない。

貴方は、その罪をずっと自分1人だけで抱えているだけじゃない。自分自身を罰するなんて、普通の人はできない。

私は……そんな…そんなことをしてなんかいない。

 

「私は……そうは………思わない」

『…………………なに?』

 

私の言葉に納得がいっていないのか、今度の彼の声には僅かばかりの怒りが含まれている。それでも、私は……言いたい!

 

「ノバは凄いよ……そんな風になりながらでも足掻いているノバは…人間よ。悪魔は……そんな風に自分を言ったりしない。だから、ノバはーー」

 

『ふざけるな!!』

 

シノンの言葉を遮る様に、憎悪が籠もった言葉が、彼の口から漏れ出る。

 

『あの2人をSAOに誘い、死なせたのは俺なんだぞ!!それなのに俺は仕方がなかったなんかで済まされるかよ!憎いヤツらを殺すことができるのに、自分自身を恐怖のあまり殺すことができない臆病者の俺が強い?ふざけるな!俺は、弱いんだよ!誰一人護ることもできない俺は……人以下の畜生…悪魔なんだよ!』

「……………ノバ……」

 

『…………すまん…カッとなりすぎた』

「うんうん……いいわよ。それに、ある人が『ツライことを話すだけでも相当な覚悟や時間がいる』って言っていたから、これだけ吐き出せるノバは凄いよ」

 

『やめてくれ………そんな言葉を俺にかけないでくれ。頼むから』

 

やっぱり……彼は…ノバは強い。

このBoBで優勝して、シノンの強さを詩乃に繋げることができるなら、彼を…ノバを助けてあげたい。

 

(シノン)にとって、(ノーバディ)は……大切な相棒なんだから。

 

「そろそろ戻りましょ。ちょっとだけマギーさんの所に寄って気分を変えたら?」

『いやだ。またお前にスッカラカンにされるから』

 

「も、もうしないわよ!!人がせっかく気を利かせているのに、本当に女々しいわね!アンタ!!」

『ふっ、今更だろ?』

 

今絶対、ドヤ顔している彼に苛立ちを覚えながらもいつもの彼に戻って来ていることに安心したシノンは、談笑を交えながら、ノーバディの最悪な運転でグロッケン街へと帰っていくのであった。

 

そして、案の定酔ったシノンによって、またもや泣くハメになったノーバディであった。





最近、シノンの方が主人公している様な……
それだとノバの方がヒロインwwwになるのかなwwwコレは。


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第 Ⅲ 話 再開のデスゲーム






2025年12月13日

千代田区の病院内で、2人の少年は会合していた。

 

「よぉ、コッチで会うのは初めてだな。キリト」

「あぁ、おまえがずっと着拒していたおかげだよ」

 

1人は真っ黒なジャケットに真っ黒のジーンズという全身黒一色にした少々中性的な顔立ちをした少年キリトこと桐谷和人。

もう1人は、水色のTシャツの上に紺色のジャケットを羽織り、ベージュ色のストレートパンツを履いた高身長の青年ノーバディこと仙石一利。

嘗て、SAOで肩を並べていた筈の彼らだったが、一利の心の内に眠る深い後悔によって袂が別れていた。しかし、今はこうして1つの事件を解決するためにまた肩を並べて闘うこととなった。

 

「相変わらずの真っ黒だな。モヤシ」

「うるせぇ、廃ゲーマー」

 

「お前程じゃない」

「どうだか?」

 

2人の仲を知らない第三者からすれば仲良さげに聴こえるが、2人の仲を知っている者達からすれば明らかに2人の間には太い壁が存在している。

 

「念のために言っておくが、GGO(あっち)に着いてもウロチョロせず、俺に連絡しろよ。迷って参加無しなんてモノになればお笑いモノだからな」

「わ、分かってるって!それから、この大会が終わったらアスナ達に絶対に会ってくれ!!」

 

一利の念押しに思うところがあるのか言葉を濁しつつも、キリトは改めて一利と向き合うために約束を取り付けようとする。

 

「さぁな、俺が生きていたら考えてやるよ」

「おい、ふざけるなよ!いい加減に前を向いて生きろ!アオイやクロトもそんな風に苦しむオマエを望んでいないんだぞ!!」

 

「俺が望んでいるからいいんだよ。俺みたいな殺人鬼に構うよりも、やることが多いだろ。さっさとログインするぞ」

「おい!待てぇ!」

 

後ろでナニカを言うキリトの言葉を無視し、一利はそのまま振り返ることなく自分が用意された病室へ入る。すると、

 

「あら、来たわねカズ」

「おや随分とお肉が付いたね、仙石くん」

「なんでいんの、叔父貴に美久さん」

 

薄紫色の長髪に、肌年齢は二十代と思えるほど若々しい一件女と見間違うほどの詐欺メイクを施している叔父こと仙石道隆と、太ましいながらも母性感を滲み出す特徴的な看護婦こと新島(にいじま)美久(みく)さんがいた。新島美久は、SAOから帰ってきた一利のリハビリ担当をしていた看護婦でもあるため一利や彼の身内である道隆とは親しい仲でもある。因みに、三児の母でもある。

 

「何よ、甥っ子が危ない仕事するから心配で来てあげたのよ。あっ!総弦(そうけん)兄さんや美空(みそら)姉さんは来させてないからね。私よりメンドくさいし、遠いし」

「私はあの菊岡って言う怪しいお兄さんに頼まれたからよ」

「納得。いくら彼氏にフラれたからって甥っ子の俺にニャンニャンするなよ、叔父貴」

 

「うっさいわね!フラれたんじゃなくて、私がフッたよ!!ソコ間違えるんじゃないわよ!!あの人とはお互いに反りが合わなくなったのよ!!あと、寝言は彼女作ってから言いなさい」

「まぁまぁ、そこは私が見張っておくから頑張って来なさい!」

「うーす。それじゃあ美久さん、男に飢えたモンスターを見張っておいてくださいね」

 

病室なのにギャーギャーうるさい叔父兼叔母の道隆を尻目に、電極パットを貼り付けるために服を最低限脱いだ一利は、ベッドへ横へなると用意していたアミュスフィアは装着する。

 

「気を付けて行きなさい、カズ」

「good luckだよ!仙石くん!」

「うーす。リンクスタート!」

 

こうして、自分を見守る2人の女性?の言葉を受け取ると、一利は恐ろしいデスゲームへと変わろうとするGGOへログインする。

 

 

 

 

 

 

 

キリトside

 

潜ったら一利……ここでのアイツ……ノーバディに連絡して、合流後にBoBへエントリーして……あと装備も整えなきゃいけないのか。前途多難だな、コレは。

 

データをコンバート、アバターは自動生成。

首都のグロッケンに転送され、周囲を見渡すと周りはイカついアバターのソルジャー達ばかりに加えて、街もゴツゴツとしていてファンタジーのALOとはまるで違い、どこか殺伐としてるな。

 

さてと、無事にコンバートできたしノーバディに早速連絡をーー

ん!?ちょっと待て待て!!

ウィンドウを開こうと腕を伸ばしたとき、なにか違和感を感じた。

まずは自分の手。周囲を見渡してもゴツい男たちみたいに全然太くない。と言うか、ここまで細くはないどころかどちらかと言えば華奢だ。いつも握るアスナの手みたいに。

 

すぐ側の鏡に映る俺を見れば、俺のコンプレックスだった女顔がより女の子らしいものに、いやいやソレよりも体の方もなんか華奢で細木のようだぞ!アスナみたいに!!

 

「なぁ、ネェちゃんそのアバター売らねぇか?」

 

ね、ネェちゃん?えっ!?ま、まさか……。

 

胸を触るがアスナのような柔らかさはない。

10割筋肉の感触に文字通りに胸を撫で下ろす。

 

「悪い。俺、男なんだ」

「何!?ソレはまさかm9000番か!?超レアじゃないか!!売ってくれ!」

 

しつこくアバターの売却を勧めてくる男には何とか断りを入れ、街の中に逃げ込む。この時は俺は選択を初めて間違えた。

ノーバディに連絡を取るためにウィンドウを開こうとしたときキリトの目に入ったのは、この殺伐としたゲームには珍しい女性プレイヤーであった。

 

「あの、すいません。ちょっと教えて欲しいことが」

 

見た目は女の子だし、第一印象は悪くないはず。

声に気を付ければ大丈夫、ちょっと道を教えてもらうだけし。

打算10割の考えだったけどあとから考えれば、大人しくノーバディに連絡すれば良かったと後悔した。コレが2つ目の選択ミスだ。

 

そして、俺を女性と思っている女性プレイヤーのシノンに手っ取り早く金を稼ぐ方法を教えてもらい、弾避けゲームをクリアし、28万くらい稼せがせてもらった。その後、装備を整えるために武器屋にも案内してもらい、光剣(フォトン・ソード)を購入。これだけで7割くらい飛んだ。高ぇーな、この世界の剣って。

 

それにしても、『あのバカみたいに躊躇いなく買うわね』って呆れたようにシノンは言ってたけど、誰のことだろ?

後、完全にナニカを忘れている様な気が……気のせいにしておこう。

その後も、牽制用のハンドガン《ファイブセブン》とホルスターにプロテクター、簡単な服を購入し、光剣を腰のカラビナに《ファイブセブン》を左手で抜けるように後ろ腰の左側にホルスターをベルトで固定して、俺の装備はもう完璧だ!ちょっと足りなかったお金を出してもらったのは流石に申し訳ないけど。この大会が終わったら絶対返そう!

 

ヤバいさっきからノーバディからの呼び出しのメールがマジでヤバい。

成り行きとはいえ、すっぽかしたんだ。コレは後でマジで殺されそうだな。いや待てよ……アイツも俺を着拒しているんだからコレでお相子にしてもらおう………。

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

「あの野郎……コロス。これでエントリー完了か」

 

キリトにメールを全部無視されているノーバディは流石に堪忍袋が切れたのか、1人でブツブツと呟き、入力ミスがないか確認して《SUBMIT》と書かれたボタンを押していた。表示されるエントリー完了のウィンドウを消し、5分もかかる予選エントリー手続きをようやく完了させた。

めんどくさいディスプレイ作業を終え、腕を1人でに伸ばしながら、死銃(デス・ガン)なる人物の情報を頭の中で整理しながら、ホログラムディスプレイの一つを一瞥する。

それはこの大会第三回《バレットオブバレッツ》が始まるまで残り十五分を表していた。いつものGGOの三倍増しで目に飛び込んでくる人の群れを前に、どう暇潰ししようかと思案していると、

 

「へぇ〜やっぱりノバちゃんも出るんだ♪」

「シット!」

 

後ろからかけられた声に対し、咄嗟にナイフを振り抜きながら振り返るとそこにはーーー

 

「なんだ痴女かよ」

「失礼ね!誰が痴女よ!」

 

痴女―――もといピトフーイは、このGGOの中でもノーバディと並ぶほどに最古参であり、ステータス状ほぼ全ての武装を使いこなすことができるファッキンプレイヤーでもある。

 

「来るな寄るな土に還れ露出狂の変態。変態が移る」

「そこまで嫌うことないじゃなーい。ほらほら、今回は着てるっしょ?」

 

そう言ってくるりとその場で一回転してみせた後、可愛くウィンクをするピトフーイ。飛んでくるウィンクを死んだ顔のノーバディははたき落としつつ、目の前にいる彼女の姿を拝見する。黒髪のポニーテールが追従するように靡き、健康的な肌の長身美女はそのスレンダーな体を覆うボディースーツを披露する。しかし、身体のラインはくっきりである(御馳走さまですbyエム)。

 

「前のよりはまだマシだ」

「イェーイ☆」

 

「いい加減にストーキングはヤメロ」

「あは、ムリ!」

 

「マジでその内ハラスメントコードで訴えるぞ」

「ドンと来なさい!!」

 

 

にゃはははと笑う痴女兼男前を睨みながら俺はふしゃー!と唸って威嚇する。

 

この《ピトフーイ》という名前のプレイヤーは、SAOに憧れるもののリアルの事情によってSAOをプレイすることが叶わなかったSAO失敗者(ルーザー)なのである。そのため彼女は事あるごとに誰よりも、人の殺し合いを体験したノーバディに執着している。

 

「あ、そうそう!昨日ねぇ親切な人がなんとこの《レミントンM1100》を譲ってくれたんだけど〜どうかしら?」

「死に去れ!氏ねじゃなくて死ね!」

 

「にゃははは!ノバちゃんも札束で人をビンタする快感を知りたいかね?」

「最低だな!流石はピトフーイ!!大魔王が!!」

 

思い出したかの様にショットガンを見せつけるピトフーイに殺意が湧いてしまうのは自然の摂理である。ちなみに、レミントンM1100は俺のアラストラルほどではないが、ショットガンの中でも上位に位置するレア度である。

ったく、なんだってRMT(リアルマネートレード)なんてものをゲームに搭載しているんだよ。こういう金持ちがめちゃくちゃ美味しい思いをするだよ!何故こんなシステムをつけたのか声を大にしてザスカーに問いたいよ。

ちなみにアラストラルのリアルマネー変換の金額を見た際にかなり揺らいだ彼が言えた義理ではないのは余談である。

また、他のVRゲームではこうはいかないのだが、GGOは唯一ゲーム内の通貨と現実の電子マネーの交換が公式に可能なVRゲームである。このため、GGOにはゲームをやり込むことで"ガチで売れる"アイテムを手に入れ、販売することで生計を立てることも可能だ。そのためグロッケンでガンショップを開いているノーバディもそれなりに稼いでいたりする。

 

そして、札束で相手の顔面をぶっ叩く廃プレイヤー筆頭のピトフーイは、性格的な意味ではとても腹が立つことが多いが、新人の頃は楽しくやっていたので無我にできないのが、ノーバディの弱点でもある。また、その腕もまた確かなものなのだ。

具体的に言えば、得意なレンジである近接戦のノーバディが勝率8割を切る程度に彼女は強い。中距離だと4割にも満たない。そのため彼女はプレイヤースキルの高い上に、課金厨という死角がないノーバディにとって天敵に近い存在でもあるのだ。

 

「露出狂!痴女!貧乳!課金中毒!!」

「あぁん♡ソッチに目醒めちゃいそう〜」

 

「ヤメロ!!ドMはテメェの彼氏だけで充分だ!」

 

先ほどと同じくふしゃー!と唸りながら威嚇するノーバディに、ピトフーイは呆れた風に苦笑する。

 

「ま、いいわ。今回は初っぱなからあんたとぶち当たるみたいだし。精々首どころか大事な所も洗っときなさいよ」

「はぁ?おい、マジかよ?」

 

「マジもマジ。ほら、上にあるじゃない」

 

彼女の言う通り上空に無数に浮かぶホログラムディスプレイへ視線を向ける。その中でも一際大きいものに表示されているトーナメント表には、なんということでしょ〜栄えある一回戦のお相手には毒鳥(ピトフーイ)の名前が輝いていたではありませんか〜。

 

「Jesus!!」

「いやーノバちゃん相手は久しぶりだわ。何がいいかなー? レミントンM1100(新しいこの子)の試し射ちでもしようかなー?」

 

「やってみろや、コラ」

「あらヤダ。殺意ギラギラね」

 

激闘の予感しかないものの負ける理由にはならないことを理解しているノーバディは、交戦的な瞳をギラギラと輝かせていく。

 

「ふーん。ノバちゃん、何がなんでも勝ちたいんだ?」

「……それはそうだろう」

「いやいや、そうじゃなくてさ。なんかいつものノバちゃんと違うような気がするんだよね〜」

 

意外そうに眉を上げるピトフーイの心情を分かっているノーバディはわざとはぐらかす様にそう返すと、今度はピトフーイが苛々とした風に頭を掻くとイキナリ吠えた。

 

「うがーーーーー!!わっかんないわ!!ま、なんでノバちゃんがそんなマジモードなのかはスッゴイ気になるけど、いいわ!今回は狙撃なしで、剣でやりましょう」

「はぁ?」

 

意味がわからない。何故いきなりそんなことを言い出したのか全くわからなかった。剣……つまりはフォトンソードを使うと言うことだ。ならば、勝率はより上がる。

たが、理解できない。

突然吠えたり、攻撃手段を教えるピトフーイにノーバディは思わず目を白黒させる。それほどなまでにピトフーイの行動の真意を測りかねている。

 

「本気ガチで殺し合いましょ。紅の暗殺者(スカーレット・アサシン)?」

「アサシン言うな。まぁいい。元から、お前程度に躓いてなんかいられないからな。こっちもこっちで俺のアラストラルで斬り殺してやるよ。毒鳥」

 

「あは、それはそれで何よりよ!白い悪魔さん?」

「…………おい、オマエがその名を口にするな」

 

僅かに紅く光る瞳をするノーバディの本気とも言える殺意を前に、ピトフーイは目の前に大好物を置かれた獣の様な獰猛な顔付きで変わる。そして、数秒間無言でそれぞれ視線を交差させていたが、やがてピトフーイの方が投げキッスをしてからノーバディに背を向けて歩き出していく。放たれたピトフーイの投げキッスをはたき落としたノーバディは今度はゲンナリした表情に変わる。そして、キリトと自分を相棒と呼んでくれる少女の姿を探すべく、歩き出す。

 

 

しばらく歩いていると、見知った少女を発見する。

 

「ようシノン、遅かったな?」

「まぁ、色々あったのよ。そこの変態のせいでね」

 

ちょっと不機嫌そうなシノンの後ろに黒い長髪をした何か顔に紅葉が咲いている女性プレイヤーが一緒にいた。

 

「変態はやめてください。死んでしまいます」

「で?変態は何したんだ?」

 

「い、いえ不幸な擦れ違いがーー」

「なにが不幸な擦れ違いよ。大方、私があんたを女だと勘違いしてるのを分かってたんでしょ?その上、装備のお金まで……!」

 

またなんとも、このアバターで男とは難儀なことだ。割とかなりビビったわ。ここまで女に寄った見た目なら、そりゃ勘違いするわな。だが、何だろうこの顔を見ているとフツフツと怒りが湧き上がる。

そして。シノンが怒っている理由とは、目の前の男が少女ではなく少年であると知らないまま、手取り足取りレクチャーしたようだ。それに加えて、それをそいつは、シノンが女だと勘違いしていることを承知だったにも関わらず、何も言わなかったようだ。また、装備を整えるためにちょいと資金も出してもらったとも言う。それは怒るわ。

 

「で変態、名前は?」

「うっ、キリトです……」

 

キリトだと!?

コイツはアレか!?

俺と落ち合うよりもシノンとデートするのを優先したわけか?

 

「ノーバディだ。クソ虫め。浮気確定だな」

「うぅ、ごめんなんか連絡するタイミングが掴めなくて」

 

「後でエギルに報告して、嫁と娘に告げ口して貰うわ」

「ヤメテくれ!他意はなかったんだよぉ!」

 

腰にすがりつくキリトに、不機嫌なシノンをそれぞれ交互に見たノーバディは、それはもう真っ黒な笑みを浮かべ始める。

 

「どっしよかなぁ〜〜」

「おい!オマエのその顔は至って悪いことを企んでいる時の顔だぞ!!」

「なんなのアンタたち知り合いなの?」

 

「まぁな。話は変わるが、シノン……もしかして裸でも見られたりしたのか?」

「女々しいアンタにデリカシーなんてものを期待した私が馬鹿だったわ!」

「うぅ………不可抗力なんだよ……」

 

「浮気か・く・て・い・Death!!」

「NO!!」

「うっさいわね(何なのよ……まるで私が除け者みたいじゃない。相棒なのに)」

 

こうして、恐ろしい事件を止めるために、

 

黒の剣士と白い悪魔が銃の世界で騒がしくも再開したのであった。

 

2人の再会をある人物は、鋭き視線で見つめていたことには、誰も気付きはしなかった。




ピトフーイさんをようやく登場させることができました。
お待ちしていた皆様、大変お待たせいたしました!


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