魔術師の少女の、ブリテン旅の物語 (斉藤さん)
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キャスター:アルトリア・ペンドラゴンの召喚用触媒

出ろ。
書いたから、出てくださいっ!


 それは、ティンタジェル、キャメロット城に至るまでの合間と中途と、そして隙間の物語。

 選定の杖を授かり、災厄の獣を引き連れる一人の魔術師にして、野原を駆け回る研究者。

 純真であった頃の、アルトリアの旅の幕間。

 

 

 

 

 

 

 アルトリアは激怒していた。嘘である、激怒まではしていない。だが延々と根に持ってはいる。

 ともかく、アルトリアは腹を立てていた。何にかって?、それはあのろくでなしの師匠に対してだ。

 いきなりごめんと言って、下手しなくても世界を滅ぼせてしまうキャスパリーグを押し付けて姿を晦ました師匠にお冠なのだ。ぷんすかである。

 

 かといって、いつまで怒っていても仕方がない。旅というのは自由なようで、意外と不自由なのだ。

 天候が荒れれば足を止めねばならないし、少ない食料が尽きるまでに次の村まで着かなければならない。更に、村についても、金があっても、食料が買えるとは限らないのだ。

 交渉に交渉を重ね、相場に上乗せし、粘って粘って、或いは恩を売って。手を変え品を変えてあらゆる手段を模索する。

 そこまでして漸く次の村までの食料を買えるか、という程度なのだ。ひどい。

 

 それも当然である。何せ、この頃の村はどこも一様に余裕がない。備蓄があっても、来年の備えにしておきたいはずだ。そうそう売りたがるような人はいない。

 

 今までこういう交渉事は、師匠であるマーリンがやっていた。口が上手いし、女を乗せるのも得意な彼は、それこそ魔法のように相手の意思を口説き落とす。正直、この時の師匠が一番格好いいです。

 しかし、今はそのマーリンがいないのだ。つまり、自分で食料を調達しなければいけない。できなければそこらの恵みを頂くしかなくなる。

 だが、それもだいぶリスクがある。まず食べれる草などそうそう見分けがつかないし、ランクを落として食べても死なない草を食すのはひもじいにも程がある。かといって木の実も虫食いだらけで、まともに食べれるのは殆ど見つからない。見つかれば運が良いくらいだ。どのくらい運が良いかというと、呼符で星5を招来するくらい運が良い。

 というか時たま、此処は自分たちの狩場だ。手に入れた恵みは置いてってもらおう。などと抜かす奴らもいるのだ。本当に居るのだ。まあ、知った事ではないのだが。こっちも食わなければやっていけない。こういうところは師匠に汚染されたのだろう。初めの頃は盗みを働いたような罪悪感もあったが、今となっては逃げ切った後に師匠のように笑って恵みを頂くようになった。思えば、随分と図太くなったものだ。

 

 では魔獣はどうか? 畑を荒らす彼らを狩れば近隣の村からも感謝され、何なら食料の提供も受けれるのではないのか?

 これもあまりいい策ではない。確かに体力のある時はいい策なのだろうが、まず魔獣を狩るというのが一苦労だ。

 そして、魔獣を狩ったからと言って必ずしも近隣の村で歓迎されるわけではない。一部では報復を恐れたり、あろうことか魔獣を神聖視する村まであるのだ。そういう村に魔獣の死体を持っていくと、間違いなく死体だけ持ってかれる。最悪、村のどこかの納屋か何かに監禁されたり、或いは何かの儀式の生贄にされる。

 更に解体するのも一苦労だ。そも、アルトリアは解体が得意ではない。アルトリアは魔術師なのだ。そりゃあ剣も使えるし、肉弾戦もこなせるが、魔獣の解体は本当に苦労する。そこらのイノシシではないのだ。下手すれば自身の何倍も背丈がある魔獣を解体するには、それなりの道具が必要だ。

 

 道具だけなら投影魔術(グラデーション・エア)を使えばいい。強度が足りないと途中で砕けてしまうが、解体の役には立つ。

 ここまでして、更に血の臭いを嗅ぎつけた他の魔獣という問題まである。そんなものに襲撃されれば村などひとたまりもないし、アルトリアも連戦はきつい。というか、きりがない。

 

 仮に運良く周囲に魔獣がいなかったとして、じゃあ余った肉はどうするのか、という問題が出てくる。

 村に持っていけば抜け目のない村人に、素知らぬ顔で盗まれる。これは自身が少女のなりで、嘗められてるからである。こういう時は本当に師匠の幻術が恋しい。

 かといって村で魔獣を仕留めたり、村で解体して実力を分からせた場合でも大変さは変わらない。

 余分な肉は処分しましょうなどと言って、無料で大半の肉を持っていこうとする村長。

 大体このくらいでいかがでしょう、と人のいい顔で相場の半分以下の値を提示する、ガリガリの交渉人。

 つぶらな瞳をする子供たちを連れてくる、親たち。

 朝起きると村人たちが村一つ放棄していて、代わりに肉を全て持ち去った後を確認し、そこまでするのかと呆れたりもした。

 

 或いは、単純にしつこい粘りを見せる交渉。

 

 魔獣を討伐して疲れたアルトリアが、そんなことを好き好んでしようと思うだろうか? 否である。考えるまでもなく、否である。

 いっそのこと一部だけ切り取って、後はその場に置き去りにしてしまえばいいのではないか? 村に立ち寄らなければいいのではないのか?

 それも、駄目である。

 何故なら生肉は保存がきかないからだ。都合良く乾燥肉を作る魔術は、未だに開発できていない。時間を操るのも大変なのだ。空間を指定すると、更に大変。そもそも、魔獣を討伐したアルトリアにそんなことをする魔力は残っていない。

 

 故に、魔獣も好ましくない。

 

 

 

 

 

 ああ、おなかへったなぁ……

 

 難しいことをごちゃごちゃ考え、更に空腹が進む。

 フォーウと可愛く鳴くキャスパリーグが、何処か旨そうに見えてきた。

 あ、キュッ!? っていって逃げちゃった。

 

 ……まあ、いいか。どうせ少ししたら戻ってくるでしょう。

 そういえば、あの子。何を食べてるのでしょうか。

 餌をやった記憶はありませんが、私がやらなければいけないのでしょうか。

 

 はぁ……

 

 ごそごそと背嚢に手を突っ込み、最後の一切れの干し肉を取り出す。

 ここから次の村まで、後二日は歩かないといけない。水は両手で掬える程度しか残ってない。

 次の村まで、干し肉一切れと少しの水で過ごさないといけないのだ。

 最後に食べたのは何時だっただろうか。じーっと見つめていると、干し肉が段々と二重に見えてくる。

 

 切実に、何かを食べたかった。

 

 

 

 

 

 ……はっ! 今、私は何を?

 

 手元を見ると、干し肉が消えていた。

 背嚢に仕舞ったのだろうか。しかし、漁っても見つからない。

 

 何故か異様に喉が渇く。

 

 やって、しまいました。

 

 

 

 まあ、食べてしまったものは仕方ないです! 次の村に着くまで持てばいいのですから!

 

 しかし、次の村まで僅かな水でどう過ごすのか。運良く湧き水に行き当らなければ、水も足りない。既にガンガンと頭が痛んできているが、アルトリアは長年の経験でまだまだいけることを察していた。

 

 こういう時はどうすればいいのだろうか。確か獣の血も水分になるというが、こういう時はあの、リスに似たナマモノを頼ればいいのだろうか?

 

 ぐるぐると悩み事が脳裏を駆け、朦朧と霞がかっていく。

 

 ひもじいのは、イケナイコトです。

 

 

 

 「……きゅう」

 

 ぱたんと、脈絡もなく。

 アルトリアは、空腹に目を回して大地に伏せた。

 

 あ、つめたくてきもちいい。

 

 そんなことを考えながら、頬を舐めるキャスパリーグの舌も鈍く、遠くにあったこともないお爺さんの声を着て眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 がつがつがつがつ。もぐもぐもぐもぐ。ごっくん。がつがつがつがつ……

 暴飲暴食、というわけではない。

 どちらかといえば、底なし沼に飲み込まれる旅人のよう、だろうか。

 川の流れるのと遜色のない勢いで、卓上の食物が飲み込まれていく。

 

 「ほっほっほ、随分といい食べっぷりだ」

 

 「あ、すいません、食べすぎでしたか」

 

 「いや、気にすることは無い。もっと食べてええぞ」

 

 もとより遠慮している気配のないアルトリア、言葉を放つ際にも咀嚼を続けていた。行儀が悪すぎる。というかどうやって発言したのか。魔術である。師匠の作った魔術である。後世の魔術師が見たら発狂しそうな無駄遣いだ。

 老人の言を聞いて、頷いたアルトリアは相も変わらず品のいい手つきで、しかし時間を四倍速にしているのではないかという速度で食事を続ける。

 

 ソレを見て、老人が昔話を始めた。

 

 「儂にもなぁ、子供がおってなぁ」

 

 がつがつがつがつ。

 

 「これがまたかわいくてな、小さい頃はあんたの様にかわいらしくてなぁ」

 

 もぐもぐも、もきゅもきゅ。

 

 「それが、ある日突然独り立ちするとか言い出してなぁ……」

 

 ごっくん……

 

 器用に咀嚼音で返事を返すアルトリア。だから行儀が悪いぞ。しかしそれすら絵になるというのだから、真に美人は得だ。

 そうして、延々と独り言を紡ぐ老人と、延々と食べ続ける少女という、中々に怪しい絵面が出来上がった。

 

 

 

 

 

 

 「……ふぅ、ごちそうさまでした。ご老体」

 

 「……うん、遠慮なく食っていきおったなぁ」

 

 もはや老人の備蓄は0である。

 

 「私は旅をして、一つの真理に行きついたのです」

 

 「ほう、唐突に何かね」

 

 「食える時に食う、ということです」

 

 「リスじゃあるまいし」

 

 人、それを食い溜めと言う。

 というか人間には食い溜めの為の器官など無いというのに、いったいどこにエネルギーを保管しているのだというのだろう。流石未来の騎士王である。

 これには老人も驚いて、突っ込みを入れてしまう。

 

 「まぁ、ええか。もとより老い先短い身。備蓄が無くなろうと、さして変わることは無い」

 

 「流石ご老体!」

 

 さらっと不謹慎なネタを零すが、未来の騎士王はそんなことはさらっと流す。

 何せどろどろの円卓を統べることになるのだ。この程度でへこたれる様な、柔な精神はしていない。

 

 「その代わりと言っては何なのだが、お前さん、この先の村へ行くのだろう?」

 

 そう言って指さした先は、アルトリアがやってきた方角です。

 

 「もし、請け負ってくれるというのならば、儂の娘夫婦に届け物をして欲しいのだ」

 

 とは言え、此処までご馳走になったのです。そんな些細な……些細なっ、頼みご、頼みごとを、聞き届けないわけにはっ! い、いきません……

 

 すっごい嫌そうな内心をおくびに出さず、二つ返事でそれを引き受け、ついでに今夜の宿まで手に入れた。

 流石幸運Bは伊達じゃない。

 

 

 

 

 

 

 翌朝、いつの間にか戻っていたキャスパリーグ(気付くのが遅い)を引き連れ、アルトリアは来た道を引き返します。

 おじいさんに託されたのは、木彫りのお守り。ここらではありふれた魔除けです。

 

 てくてくと歩き続けるアルトリアの顔つきは、昨日までの衰弱した顔つきが嘘みたいにキラキラしている。お腹が膨れたことで機嫌が良くなったのだ。

 

 今なら獲物を奪われても許せそうです。いえ、流石にそれは許せません。

 

 即座に前言を撤回するが、心の中なので、みっともないと思う人はいない。

 そう歩き詰めて、一夜を木陰で過ごせば。

 目の前には、煤けた村がありました。

 

 出た時とは大きく異なる様子で、これにはアルトリアも驚く。

 何があったのかと、傍でそこらへんで項垂れているおじさんに問いかけます。髭は生えてませんがおじさんでいいのです。

 

 「……ああ? ひっ! あ、あんた、あんときの旅人!? いや悪いその、肉はもうねぇんだ!」

 

 何のことでしょう? 獲物を取られたことは気にしてません。

 

 そんな感じの意を込めた笑顔を浮かべると、男は後退りしていく。不思議である。

 

 「じっ、実は、あんたが去った後、盗賊が襲ってきて……」

 

 どうやら、大量の肉を手に入れたことを嗅ぎつけた盗賊たちが、この村を襲ったらしい。

 

 「ほ、ほんとだ! だからその……すまねぇ! あんたの肉はもうねぇんだ!」

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 

 「それより、アストロ村から来た娘夫婦はいませんか?」

 

 「は?」

 

 「アストロ村から来た、娘夫婦はいませんか?」

 

 「あ、アストロ村……? ああ! 麦刈りの妻か!」

 

 どうやら、心当たりがあるようだ。

 

 「その、この村に居た女は全員……」

 

 そこで口をつぐむが、それである程度の事を察したアルトリアはため息をついた。

 びくりと肩をすくませたおじさんは気に留めず、手に持った「選定の杖」をガッと大地に突き立て、波紋状に魔力を流す。

 魔力に乗せて、師匠直伝の魔術式を起動する。広域生命探知の魔術だ。

 この村は除外して、周囲で人の集まった場所を探す。

 すると、一か所。森の中に、数十の大きな生命反応が密集しているのを感じ取った。

 その方を向き、軽く膝を曲げる。地面に突き立てた杖を抜き、構える。

 キャスパリーグが背中に飛び乗り、頭の帽子に強くしがみついたら準備は完了だ。

 そしてアルトリアは深く息を吸い、体内の魔術回路からありったけの魔力を捻出する。そこから垂れ流される魔力に形を与え、或いは背中から放出し、かっ飛ぶように森を駆け抜け始めた。

 

 

 

 景色が後ろに流れる。

 もし、キャスパリーグの視界を現代人が共有したら、まるでジェットコースターのようだ。という感想でも抱くだろう。しかし恐怖を抱くことが無いのは、ジェットコースター特有の緩急が無く、一定の速度だからだろう。或いはそいつが絶叫狂いかだ。

 息が出来なくなるぐらいに強く吹く風。空気の壁が、加速を押しとどめる。

 それに構わず、頭の帽子を左手で抑え、吹き飛ばされそうなキャスパリーグにも構わず、木の根の上を跳ぶ。

 何故木の根の上を跳ぶのかというと、足跡を残さないためと、摩擦の高い足場であるためだ。

 ほぼ鋭角に跳ぶ姿は兎と呼称することさえはばかられる。それゆえに、目的地にはさほど時間をおかずに着いた。

 

 予想通り、何人かの見張りがいる。彼らが騒ぐと、まるで準備していたかのように武装している兵が出てきた。

 襲撃が予期されていたのだ。感知の逆探知か、それとも予知か。何れにせよ奇襲は失敗であり、そのことに歯噛みする余裕があるなら一人でも多くを倒すべきである。

 森を駆け抜けた勢いを殺さず、そのまま杖を盗賊たちの腹に叩き込んで吹き飛ばす。ヒット、ヒット、おっとホームラン。大丈夫かあいつ。

 

 剣を振り回すが、その中に師匠程の技量の者はいない。多少大きな剣を持つ奴も一人いるが、誤差だろう。全員かっ飛ばす。

 

 「てっ! 敵しゅ――――――かはっ!」

 

 「おいてめぇ! よくもやっがっ!」

 

 「しにさらぁぁぁぁぁぁあああああ!」

 

 「いいどきょぺっ」

 

 虐殺。或いは蹂躙。

 相手の名乗りを聞くまでもなく、相手の遺言を聞くこともなく。

 ただただ速やかに殲滅を続行するアルトリアを恐れ、盗賊は蜘蛛の子を散らして逃げ出した。

 盗賊といえど、唯の村を無くして逃げ出した農民の集まり。かつての村長を頭に抱くものの、さほど忠誠があるわけではない。

 彼らを見て、アルトリアはやはり忠誠は大事であると認識した。因みに彼女は、作った円卓が自分の代で崩壊する未来の騎士王である。

 

 「ふん、少しはやるようだな。小娘」

 

 「魔力障壁、か」

 

 その時、出てきたのはこの盗賊たちの頭目。元村長である。

 魔術の心得があるようで、きっとアルトリアの襲撃を察知したのもこいつだ。

 故に即殺しよう。固い? HAHAHA! ならフルスイングすればいいんだよ!

 魔力放出を乗せた杖を振りぬき、まだごたごたと宣っている村長を吹き飛ばす。容赦遠慮の欠片も見えない、盗賊退治の見本だった。

 

 

 

 

 

 

 

 盗賊は全滅し、戻ってくるものがいないことを確認した後。

 アルトリアは縄で縛られ、暴行されている様子の有る女性を一か所に集め、焚火を焚き始めた。

 空はいつの間にか黒く染まっており、この状況で村に返すのは得策ではないと考えたためだ。

 ぱちぱちと弾ける音を背中に、アルトリアは一人一人問いかける。アストロ村から来た娘ではないか、と。

 ついでに盗賊の盗った物資を一か所に集め、可能な限り女性たちを焚火の明かりの中に入れる。万が一、獣に襲われても即座に対処できるように。

 

 そしうて声をかけ続けると、やがて一人の金髪の婦人が反応を返し、アルトリアは持ち前の直感でその婦人がおじいさんの娘であると確信した。

 

 「貴女がアスロト村から来た娘ですね」

 

 「え、ええ、そうですが……」

 

 「これを」

 

 「これは……と、父さんのお守り!?」

 

 訳の分からない顔で見上げる婦人に、アルトリアは届け物を届けた。

 

 これでよし、と頷くと、ポロポロとお守りを抱きながら泣く婦人に背中を向け、焚火を見る作業に戻った。

 

 

 

 

 

 

 日が昇ると同時に、寝ずの番をしていたアルトリアは、盗賊に奪われた荷物を持った女性達を先導して森の中を踏破して行く。

 杖を振って木々を退かせる姿を見て、彼女たちはアルトリアの実力を目の当たりにした。

 その時になって自分たちがいかに強大な相手から簒奪を働いたのかを知り、真っ青になっている。

 まあ、アルトリアの知った事ではないのだが。

 

 結局のところ、村に着いたのは日が落ちかけた頃合いだった。

 村では焚火の明かりが灯り、アルトリアに気づいた男が声をあげ、次々に歓声が広がる。

 

 アルトリアは自分のやるべきことは終わったと、もみくちゃになってる村人から離れて旅路に戻る。

 そのアルトリアに、話しかける影がある。

 

 婦人とその夫であった。

 

 胸にお爺さんのお守りを下げ、涙の跡を残しながらもにこやかにする夫人と、罪悪感たっぷりの暗い顔つきの夫。

 その二人は、アルトリアに救助への感謝と、無礼への謝罪を述べる。

 アルトリアはそんなことは良いとばかりに手を振り、引き留めようとする村人たちを尻目に、旅路を行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は、たっぷりの魔獣の肉と水を持って。



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キャストリアに捧げる召喚成功への祈り

願わくば、これを読んでるあなた方にも旅路の幸運(キャストリアの訪れ)がありますように。


 旅をしていると、しばしばありふれたことのすさまじさに気づかされる。

 例えば町にあふれる食料であったり、或いは普段使う道具の意外な使い方を知ったり。

 ないがしろにしていた道具が意外と便利であったりするというのは、旅をしてから気付いたことだ。

 魔術を習っている頃は、こんなちっぽけなもので何ができるのだろう、などと思っていたものだ。しかし、いざ旅をしてみると、小さな風の刃を出すもので木枝を切り払ったり、劣化の劣化品の投影魔術が生命線に成ったり。

 こんなに魔術が便利だとは、旅をする前は気付かなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 「フォウ、フォーウ!」

 

 「ハイハイ、ちょっと待ってくださいね。直ぐに煮上がりますから」

 

 火打石? 薪?

 いいえ、そんなもの、焚火用の魔術で事足ります。

 馬鹿げた魔力を食う、非効率にもほどがある魔術ですが、初めて自分だけの力で組み上げた魔術ともあって、思い入れの有る魔術です。

 基本的に私は波の魔術師よりかは多めの魔力を持っているので、このくらい非効率でも平気で扱えるのだ。これ使ってる間はすごく無防備になりますが。

 それに、これは唯魔力食いなだけではない。なんと、火力の調節ができるのです!

 いや、自分でも中々気付かなかったが、どうやら調理というのは火力調整が重要なようで、生煮えなスープに焦げだらけのお肉を生産してしまったときは、思わず涙目になってしまいました。

 それからというもの、急務となったのはこの魔術の開発。何とか目途が立った時は歓喜の余り、あの師匠に抱き着いてしまったくらいです。

 

 それだけの苦労をして組み上げた術式です。いくら師匠であろうと、馬鹿にする輩には容赦しません。うちの子を馬鹿にする連中は魔力満載の鉄拳でせいやっ! です!

 

 深呼吸をしながら宙に浮き火を眺めているのは、傍目にはとても奇怪な光景でしょう。

 改良は続けているのですが、どうにも火力調節の術式を組み込むと重くなるのですよね。風の魔術を並列起動して代用すると馬鹿にならない集中が必要ですし、こっちのほうが楽に感じます。

 

 じっくりとお鍋―――これも投影魔術で生み出したものです―――の底を焦がす火に照らされ、少しだけ眩しさを感じます。しかし、泡も浮いてきたのでそろそろいいはず。

 

 右手に投影した匙で一掬い。うん、これならお肉にも火が通っていることでしょう。

 お肉を数個、そこらへんで拾った野草も掬い出して、左手の皿に盛りつけます。そのままキャスパリーグの前に置き、自分は鍋に残った方を直接。

 キャスパリーグがひたひたになった野草を見ていやそうにしていますが、好き嫌いはいけません。そう諭して、抗議の視線からは目を背けました。

 

 野草の青臭さや、血生臭い魔獣の肉が混ざって大変な臭いです。ですが、それを無視してスープを啜ります。喉を通ってお腹に届き、そこから広がる温かさにほうっと息を吐きました。

 浮いてきた肉を片っ端から口に運び、後は底に残った野草だけです。

 

 うっ、視線を背けると、こっちは食べたんだしそっちも食べるよな? な? とでも言いたげな視線と向き合ってしまいました。いや、仕方ないじゃないですか。臭いんですよ。

 

 「……」

 

 「フォーウ」

 

 「むむむ……」

 

 「フォウ! フォフォウ!」

 

 「むー!」

 

 「フォーウ!!」

 

 ……仕方ありません。これ以上粘ると、キャスパリーグに髪の毛をかじかじされそうです。

 覚悟を決めて、鍋と向き合いました。

 コツは何も考えないこと。冷めてきた鍋の縁に口を付け、勢いよく鍋を持ち上げます。大丈夫。身体強化の魔術を発動してるので、重くありません。

 

 そのまま、流れ込んできたスープや野草を流し込みます。何処かって? 私の可愛いお口にですよ。

 ……ゴミを捨てている気分でした、とだけ答えます。

 

 けぷっ、と可愛らしいゲップが漏れ、手に持っていた鍋を遠くに投げ捨てました。もう見たくもないです。お腹は膨れましたが。

 私の内心の動揺に同調して激しく揺れていた焚火に目をやり、未だに消えていないことを確認しました。

 キャスパリーグに差し出したお皿も、手の中の匙も破棄してその場に寝っ転がります。

 色々と物の詰まった背嚢を枕に、杖を抱きかかえて星を見上げました。

 食事はあんなにも楽しくないですが、お腹が膨れるのは良いことです。

 空はお腹を膨らましませんが、見ていると楽しいです。

 キラキラと光を落とす星々を見て、何の気もなしに占星術でもしてみることにしました。

 所詮は聞きかじりですが、練習に意味が無いわけがありません。

 では、まずブリテンの未来を占ってみるとしましょう。

 

 むー。

 

 むー。むぅー。

 

 むむむぅぅぅぅー!!

 

 ふぅう、やはり占星術は疲れます。主に目を凝らすことが辛いですね。

 それで、占った結果ですが、どうやら滅亡のようです。きっと間違いですね。もう一度占うことにしましょう。

 そうですね、今度はこの世界の道行き、というのはいかがでしょうか。

 

 むっ。

 

 むむぅ。

 

 むむむむむ!

 

 相変わらず滅亡しかないじゃないですか! 何ですか! 神々の座はそんなにもこの世界を滅ぼしたいんですかっ!?

 もういいです! 占星術なんかもうやりません! だってどう占っても滅亡以外出てこないんですもん!

 

 ケイ兄さんと過ごしていた頃は、占星術師の未来予知に強い憧れを抱いたものです。しかし、まさかこんなにも扱い辛いものだったとは……

 神様たちは、どうやってあんなに凄い的中する占いをしているのでしょうか。気に成りますが、気にしても詮の無いことでした。

 さ、もう寝てしまいましょう。そうしましょう。

 

 「ん? キャスパ、リーグ?」

 

 「フォウ」

 

 目を瞑っていると、わき腹辺りにくすぐったさを感じました。目を開けると、白い毛皮が目につきます。

 どうせなら、とキャスパリーグを胸に抱きしめ、大地に敷いたローブに包まって眠りにつきます。

 おやすみなさい。

 

 

 

 どこかで、キャスパリーグが返事を返してくれた気がしました。

 

 

 

 

 

 

 程無くして、その場には一人の少女と一匹の獣の寝息のみが梢の間に消えていった。

 時折吹き抜ける夜風に身を縮こませながら、仲良く眠る姿には一点の曇りもなく。

 自身が占った結果の事など、少しも気に留めていない穏やかさを月に見せていた。

 

 

 

 

 

 

 木漏れ日がチラつく朝に、アルトリアは目覚める。

 常より遅い起床は、昨晩の解体作業とその場から離れていた分遅く寝たからだろう。

 ゴロつく腹を抱えて、見慣れない野草は食べるものではないなと後悔しつつ、元気そうに飛び跳ねるキャスパリーグに恨みがましい視線を向けていた。

 浅い呼吸で生成した魔力を転用したからか、それとも無意識か。焚火は昨晩の半分もなく、ともすれば木漏れ日に紛れて見失ってしまいそう……というのは過言だっただろうか。

 背嚢からだいぶ前に手に入れた魔獣の干し肉を取り出し、物欲しげな目をするキャスパリーグを諫める。

 

 「フォーウ」

 

 「駄目ですよ。安心して食せる食物は貴重なのですから。というかあなた、食べなくても平気でしょうに」

 

 「フォーウ、キュー」

 

 「うっ、そ、そんな小首をかしげても、駄目なものは駄目です!」

 

 「……」

 

 「ううううう~!!!!」

 

 鋼の意思で干し肉を咀嚼し終え、パサついた口の中を牛の膀胱で作った水筒の中の水で潤す。

 可能な限り塩の付いた部分は削ぎ落としたが、それでも塩辛さは健在なのだ。

 手に味が残っているんじゃないかと思い、ぺろぺろと指先を舐めていると、ジーっと見つめてくるキャスパリーグに気づく。

 

 「さ、さあ、行きましょうか!」

 

 勢い良く立ち上がり、アルトリアはそう宣言した。

 地面に敷いたローブを羽織り直し、杖を二、三度握りしめ、そしてキャスパリーグに手を差し出して笑顔を浮かべる。ローブははたいたが、帽子に土がついているのは気付いていないようだった。

 

 「フー、フォウ」

 

 そんなことでは誤魔化されないぞ、とばかりにテシテシと足を叩き、それから飛び上がって腕伝いにアルトリアの帽子まで駆け上がった。

 

 さあ、次の村まではもう少し。

 全力で急げば、陽が沈む前に着くかもしれない。そうすればまともな宿を借りられるかもしれないのだ。

 

 土の上に布一枚を敷く野宿にも慣れたアルトリアだが、藁があるのらそっちの方が良かった。

 生活の質の向上は、旅人にとって当然の欲求だった。

 

 

 

 「ところで、キャスパリーグ」

 

 「フォウ?」

 

 人の通った跡の有る森の中の道を駆けながら、アルトリアはキャスパリーグに問いかける。

 

 「あなたはどうして師匠についていかなかったのですか?」

 

 「マーリンシスベシフォーウ!」

 

 「……ああ、うん。それで大体察しました。というかあなた喋れたんですね」

 

 「キュー?」

 

 「いまさら惚けたって無駄ですよー」

 

 呑気な会話とは裏腹に、その走りの生み出す余波はとんでもないことになっていた。

 まず後方。所々が深く抉れている。アルトリアの馬鹿げた脚力が原因である。

 次に粗方木の葉の散った木々。アルトリアが魔力放出でブーストなんてするもんだから、駆け抜ける際の風と魔力放出の残滓がソニックブームにも似た被害をまき散らしている。幸い、吹き飛んだ木は無いようだが。

 

 ただ、この後にここを通る旅人は恐怖にかられることになるだろう。アルトリアの走破の跡は、まるで大型魔獣の駆け抜けた跡にも見えてしまうからだ。

 そうすると、旅人は近隣の村にそのことを伝え、結果として流通が滞ってしまうことになる。

 

 そんな二次被害、三次被害が起こることなど夢にも思わないアルトリアは、顔に吹き付ける風を感じて心地よさげに目を細める。その上では、風での結界を張られた故に風圧を感じていないキャスパリーグが、悠々自適に毛づくろいしている。そんな余裕が出るほどに、アルトリアの走りには上下のブレが無かった。

 それはしっかりした体幹と、確かな歩法の染みついた体があってこそである。

 師匠の方針で、呪文を噛む魔術より肉弾戦の方が役に立つ、とのことで数多の武術を叩きこまれたアルトリア。

 千里眼で見知った武術を粗方叩き込んだ師匠は、その実は魔術より剣の方が得意であったりする。

 

 果たして、魔術師とは。

 実は研究者とは肉弾戦を行う者たちの総称ではないのかと思うほど、アルトリアはおかしい鍛錬をしていた。

 だが、師匠が師匠なのでそんな異常には気付かない。魔術師なら接近戦はできて当たり前という固定観念が染みついている。

 先日、元村長の魔術師と出会った時もそう思い込み、手加減無しで杖を叩きこんだ結果は悲惨な物であった。

 

 キャスパリーグは、そんな、ズレた常識を抱える少女を心配し、彼女の旅に付き添うことにしたのだ。

 まあ、どこぞのロクデナシに付き添いたくないというのも本音だが。ロクデナシの男か可愛い少女か、旅の道連れを選べるなら、間違いなく大多数はかわいい少女を選ぶだろう? つまりそういうことである。

 

 

 

 アルトリアの知らないところで、保護者気質を発揮させるキャスパリーグ。

 その度では数多の苦難(主に食料関係)が待ち受けているぞ。

 がんばれ、キャスパリーグ。負けるな、キャスパリーグ。

 

 星視の台(カルデア)エミヤ等のご飯(うま飯)はすぐそこだぞ。

 

 ……いや、フィニス・カルデアは滅んでるが。

 まあ、レーションでもないよりはましである。そういうものなのだ。

 

 案外、誰よりも召喚を心待ちにしているのは彼かもしれない。

 自分がついていけないと知ったら、一体どれほど悔しがるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 景色は流れる。

 その紫水晶(アメジスト)の眼は遥か遠くの星を睨んで、その内心は窺い知れず。

 ただ、自身が獣にならないように願いながら、遠い平行世界の未来に希望を抱いて。

 

 

 

 

 これはいずれ騎士王となる、閉じた異聞の世界の話。

 魔術師の少女の、ブリテン旅の物語。




キャストリアキャストリアキャストリア。
来てくださいお願いしますゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!


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マーリンの弟子に送る懇願/前編

来て……?


 それは、とても大きかった。

 見上げて思うは小山の如き巨人。しかしその実、それは唯の魔獣であった。

 アルトリアを覆いつくし、尚余りある影を落とす体躯は周囲の木々すら超えて。なぜそんな体躯を持つ魔獣が今まで見つかっていなかったのか。

 体に刻まれているのは数多の戦傷……いや、青白く輝くそれは、紛れもない神秘を纏っていた。

 高濃度の神秘の塊は、それだけで一種の武器となり、鎧となる。師匠の教えだ。

 

 これは……それだけではないことが、一見しただけで理解できる。

 その有り得ない巨体に反し、目を逸らしたら見失ってしまいそうな、矮小な存在感。

 最も原初の魔術。「祈り」と呼ばれる、意志による神秘への性質付与である。

 付与されているのは「隠蔽」であろうか。もっとも原始的であるがゆえに、獣ですら扱える技術。

 しかし、今の世でそれを行使するには、あまりにも神秘が薄れている。

 

 あくまでも「祈り」が簡単に神秘を操るのは神代の話。

 神々と決別したこの時代において、そうそうそんなことができるほどの神秘など、起こりうるはずが()()()()

 

 そう、()()()()のだ。

 

 いま、実例が目の前にある。

 何故「祈り」による神秘操作ができるのか? 馬鹿馬鹿しいような答えだが、余りに単純な答えが存在する。

 

 神代ほど高濃度な神秘が無ければできない?

 なら、それだけの神秘を集めればいいじゃないか。

 

 

 

 ああ、馬鹿馬鹿しい。頭が可笑しくなるような、机上の空論。

 だがしかし、それをやってのけたというのがこの魔獣なのだ。

 堂々と佇む姿はまるで王者の如く。しかし、その風格は感じられない。

 或いはそこらの平民より弱いのではと侮ってしまいそうになるが、アルトリアは理性でもって敵の格付けを上昇させる。

 

 幻覚ではない。幻覚の筈がない。

 あの師匠の幻覚を受け続け、一般の幻覚など感覚で見破れてしまえるアルトリアは、それが紛れもない実態であると見破っている。

 むしろ、そんなアルトリアであるからこそ、その隠蔽を超えて魔獣を見つけられたのだ。

 

 ギュウッ、と杖を胸の前で握りしめ、帽子に寝そべっているキャスパリーグを、頭を振って落とす。

 

 「キュウ!?」

 

 「すいません、キャスパリーグ。貴方はどこか遠くに逃げてください。これは……私でも、きつそうです」

 

 「フォーウ……」

 

 暫くして、後ろから存在感が消えたことを察し、きっとどこかへ逃げてくれたのだろうとアルトリアは判断する。

 それから右足を引き、杖の先で相手の心臓を指し、関節を常に視界に収められるように遠くから戦うことを決める。

 

 真に不本意ながら、アルトリアは魔術を持って、神秘の理不尽(魔獣)を打破することに決めた。

 

 

 

 旅は異なもの。袖振り合うも他生の縁とは言うが、一体彼女と彼の魔獣に如何なる縁があったのか。

 微睡んでいた穏やかさから、一転して気の抜けない戦闘に入ったアルトリアの思考は、そんなことを考える暇もなく、余裕もなく、高速で混乱していた。

 

 相手は魔術に対する天然の結界を所持する魔獣。かといって、肉弾戦を挑めば容易く吹く飛ばされるだろう。

 故に、遠距離から魔術で一方的に攻撃するしか選べる手段は無い。

 とはいうものの、自身の魔力がそこまで持つのだろうか。

 

 ……ああ、師匠の幻術が、とても恋しいです。

 

 弱音を吐いてしまう思考も、当然のこと。

 何故なら彼女は、まだ至高の王作り(キングメーカー)に師事しただけの、なんてことの無い魔術師なのだから。

 時代が時代なら、野原を駆け回る姿こそ尊ばれる幼子。

 だが、危機は相手の年齢など気にしてはくれないのである。

 

 

 

 

 

 

 さあ、生存競争を始めよう。

 

 初めに動き出したのは魔獣――――――ではなく、アルトリアだった。

 当然のことだ。あのような巨体が動き出し、大きな歩幅で駆けだした場合に。万が一にも見失ってしまえば再度の視認は困難となる。

 あの巨体にも拘らず、だ。

 ソレが、その身を覆う隠蔽の祈りの恐ろしさ。

 故にこそ、その場に釘付けにしなければいけない。

 

 魔獣を中心に円を描くように回りながら、アルトリアは徐々に魔獣から離れ、その全貌を確認する。

 

 大地に根を張るかのような、巨木の四肢。

 小娘など容易く切り裂けてしまうと確信できる、恐ろしき爪。

 黒鉄で鍛え上げられたらこうなるのだろうかという、硬質な毛皮。

 如何程の家屋であろうと超えることのできない、馬鹿げた体躯。

 神秘の霧を吐き、そこらの名剣よりも鋭いであろう牙の並ぶ口元。

 木々を貫き、世の果てまでも届こう、獲物を追う鋭き双眸。

 

 まるで、神話の時代に住まうとされた、太陽を呑む魔狼。フェンリルの如き勇士に、知らず知らず唾をのむ。

 

 こんな相手に勝てるのか。いや、勝てるわけがない。逃げるのだ。どうにかして、逃げ切るのだ。

 

 それが現実的でないことぐらい、アルトリアにもわかっていた。

 分かっていたのだが、そんな甘えた考えを抱いてしまうくらい、現状は絶望的であった。

 

 「ッ! 行きますよぉぉおお!」

 

 意を決し、アルトリアは自身の放てる最大出力で魔術を行使する。

 術式は単純な魔力砲。しかし、単純故に最も魔力の変換ロスの少ない術式。

 正しくアルトリアの最大火力。純粋な火力で言えば、森を荒野に変え、山に風穴を開けるだろう、鬼札。

 

 その、アルトリアの最大の一撃は隙だらけのどてっ腹にぶち当たり。

 

 

 

 ――――――そして、何の痛痒も見せない魔獣だけがその場に残った。

 

 アルトリアは目を疑った。

 幾ら神秘を纏っているとはいえ、少しぐらいは傷を付けれるだろう想定が、全くの無傷だったのだ。

 しかし、考えてみれば当然だ。

 あの身に纏うのは神秘の鎧。であれば、神秘、率いては魔力のみを用いた魔力砲は、その力を最も発揮できるだろう。

 

 せめて、何かしらの物質か法則に変えてから放つべきだった。そう歯噛みする。

 脳内でため息をつき、肩まで手を挙げて「やれやれ」等と首を振るう師匠を吹き飛ばし、使用する属性を選んでいく。

 

 火はダメだ。木が燃えれば、隠れる場所がなくなる。

 水はどうだろう。あの巨体なら、私の生成できる程度の量の水で窒息させられない。

 土は鈍い。万が一避けられてしまえば、終わりだ。

 

 となれば風しかない。咄嗟に用意できる術式が属性変換しかない以上、これが最善の選択。万が一の時は、かっくれることもできるのだ。今すぐ変換を開始しよう。

 ここまでを無意識下に判断し、自身の未熟さに呆れる。生き延びたら、苦手な術式も万全に扱えるよう、研究のし直しである。

 

 まあ、生き残れたら、の話だが。

 

 

 

 彼我の差は、話に聞く王都の大通り。街門から城までの距離はあろうか。

 それほど離れてなお、全貌を収めるしかできない大きさには驚く以外の感情が無い。

 

 だが組み上げた術式は完成した。ここからはもう、驚愕に浸る余地など無い。

 ただ殺そう。そうでなければ生き残れない。

 そして、風刃を放つ。

 

 それは、厚みが無い。故に何よりも鋭い刃になる。

 それは、色が無い。故に何人たりとて見定められない。

 それには、ただ、自然の殺意のみがあった。

 

 

 

 風刃が空気を掻き分けて突き進み、刹那の内に魔獣の毛皮を切り裂く。

 はらはらと黒い毛が刈り取られただけのように見えたが、視力を強化したアルトリアにはその下の小さな裂傷が見えた。

 やった、と小さく喜び、しかしその傷の小ささに、自身の魔力量ではどうあがいても殺せないと悟る。

 それでも最後の一瞬まで生き足掻く為、アルトリアは次の刃を用意しようとする。

 

 その時だった。

 

 傷が煙を上げて治っていく。自己再生能力があるのだ。

 ああ、なんてことだろう。ならば幾ら魔術を放とうが、彼の魔獣から逃げきれる道理ない。

 少女の命運は、此処で尽きるのか――――――

 

 

 

 

 

 

 ――――――いや、そうではない。

 

 少女は見た。魔獣が首を垂れる姿を。

 少女は見た。深みのある藍の瞳が、此方を見返したことを。

 

 そして、少女は見た。魔獣が引き返していく姿を。

 

 アルトリアは呆然とした。これから死力を尽くして戦う気だった相手が、簡単に引き返していくのだ。そりゃあ、呆然ともしよう。酷すぎる肩透かしだ。私には食べるほどの肉が無いという事か? 失礼な。未来の姿はきっとぼいんぼいんです。

 

 しかし、それに喜ぶことは無い。むしろ、戸惑うばかりで、魔獣の姿が認識できなくなってからようやく気付くのだ。

 

 先ほどの魔獣後ろ姿が、自然と思い返される。

 

 

 

 

 引き返すその背は、どこか悲しげで。

 

 ああ、思えば。その魔獣は、害意を持って現れただろうか。私にその爪を振るっただろうか。

 

 何より、あんなに警戒心の高いキャスパリーグが、何故あそこまで()()()()()()()()()

 

 

 

 もしかしたら私は、とんでもない思い違いをしていたのではないのか?

 

 それに気づいたとき、私は魔術も掛けずに駆け出していた。




時間が無いので前後編に。
とりあえず今日は此処まで。
怠慢ですいませんっ!

でも、今のピックアップはロリンチちゃんだし、別にいいよね……?


どうか汝に主のご加護(キャストリア)があらんことを。


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マーリンの弟子に贈る懇願/後編

そろそろネタが切れる。てか切れました。




 「――――――待ってください!」

 

 居もしない魔獣に向けて、そう叫ばずにはいられなかった。

 何か、致命的に選択を間違えた気がして。何か、正しくないことをしてしまったのだと気が付いて。

 

 そうして、私は駆けだすしかなかった。

 

 どこに行ったのかは分からない。魔術の存在に息が切れてから気づき、休憩がてら立ち止まって術式を組んだのだから時間が余計に掛かったのだろうか。

 ただ只管にまっすぐに走り続け、あの魔獣に謝ろうと、その思いだけで限界まで。

 

 そして、魔力も底を尽きようとしたとき、魔獣は姿を見せてくれた。

 私が追いついたわけではない、疲れ果て、立ち止まってしまったとき、ふと顔を上げるとそこに居たのだ。

 

 時刻は既に夜。

 その姿は、まるで夜の訪れに従って玉座に着いた夜の王で。

 やっと探していた人――――――ではなく、魔獣? を見つけ、一気に言葉が溢れ出てくる。

 たどたどしく纏めようとして、でもその間に立ち去ってしまったらと怖くなり、私は支離滅裂な言の葉を紡ぐ。

 

 「あの、攻撃してしまってすいません、その、あなたがさみしそうで、ちがう、つい、あなたにおびえて、その……うううう」

 

 言葉が纏まらずに、目から感情があふれてしまいそうになる。

 そんな私を置いて、魔獣はその場に腰を下ろした。いや、寝転んだ。

 前足に顎を乗せ、尚変わらぬ眼光で私を言う様は威圧的で。

 でも、何処かどこまでも話に付き合ってくれる、ケイ兄さんのような優しさも灯っているような。そんな感じがして。

 

 だから、私も腰を据えて、魔獣さんに語り始めた。

 

 あなたの姿におびえたこと。

 あなたに魔術を放ってしまったこと。

 あなたに謝りたい。

 あなたの事を、知りたい。

 

 ああ、あなたは何故、そんなにも寂しげなのですか?

 

 

 

 当然ながら、普通の魔獣は寂しさを感じない。感じるとすれば、群れからはぐれたことによる、生存率低下の恐怖ぐらいだ。

 だからその魔獣さんの姿が気に成った。魔獣が感じない筈の感情を、何故あなたは持っているように見えるのかと。

 ああ、白状しよう。私は安心の中にいる。安堵の情に塗れている。だからこそ、私より遥かに個として勝るであろう魔獣さんに、あろうことか「哀れみ」を向けられるのだ。

 でも、そう思ってしまったらもう止まらなくって。

 どうしても魔獣さんの悲しみに寄り添いたくなった。せめて、私が攻撃してしまった分の無礼は晴らすべきだと思ったから。

 

 私は話し終わり、漸く気付く。

 あ、魔獣さんの意思なんてどう知ればいいのか、と。

 魔獣の声帯と、私たちの声帯は大きく違う。それは当然のことで、むしろ喋れる(?)キャスパリーグの方が可笑しいのだ。

 そんな初歩的なことに気づいて、私が落ち込んでしまったとき。

 

 魔獣さんは、口を開いた。

 

 『俯くな、娘よ』

 

 は? これは、一体――――――?

 

 それは(鼓膜)からではなく、直接、聴覚という感覚に語り掛けているような、そんな不思議な声で。

 私は、それが魔術であると気づいた時には、魔獣さんは次の言を放っていた。

 

 『案ずるな。人の子に毀せるほど、この身は柔ではない』

 

 重く、重く。岩よりもずっしりとして、息の詰まりそうな、恐怖に泣き震えそうな、そんな恐ろしい声。

 そんな声には、確かに矮小な存在()に向けた優しさが籠っていた。

 

 『故に、落ち着くがいい。それまでは、幾らでも待とう』

 

 怖がらせないよう、ゆっくりと。

 

 『なに、この身は基より、不滅の身』

 

 怯えさせないよう、小さく囁いて。

 

 『夜が明けるまで語り明かそうぞ』

 

 そこには、確かな慈しみがあった。

 

 「あの、あなたは――――――」

 

 気づけば、とうに震えは消えていて。

 

 「どうしてそんなに、寂しそうなのですか?」

 

 ずけずけと、そんなことを宣った。

 

 

 

 ああ、感覚がマヒしていたのだろう。恐怖と安堵、再びの恐怖に、確約された安全。

 その緩急、落差の激しさに、私の口もゆるゆるになってしまったのだ。

 その時は自分の発した言葉に何の疑問もなく、後で思い返してから恥ずかしさに身悶えする。そんな失言を、私は零してしまった。

 

 『ふむ、昔の話だ』

 

 意外にも、魔獣さんは私の何気ない問いに、真摯に向き合ってくれた。

 本当に寂しさを感じていたのか、それとも超越者の気まぐれか。

 どうあれど、私は短く纏められた、魔獣さんの半生を聞いたのだ。

 そこに懐かしさがあった。そこに愛があった。そこには、人の熱意があった。

 

 魔獣さんの歩んだ道筋は、さながら神話の如く。出会い頭に感じた、神話の住人という評価は間違っていなかったのだと思った。

 

 三度の世界の崩壊を見て、愛する主にも拒まれて、最後には世界を滅ぼそうとした邪悪な獣。

 

 魔獣さんは、自身の事をそう語った。

 でも私には、どうにも彼がそこまで邪悪には見えなかった。

 何というか、そう、魔獣さんは天邪鬼なのだ。

 だって、世界を滅ぼそうとした自分を倒したという、その人間について語るとき。

 

 魔獣さんはどこまでも誇らしげだったのですから。

 

 だから邪悪なはずがない。

 少なくとも、私は心を許せると。

 

 「フォーウ」

 

 いつの間にかここに来ていたキャスパリーグも、私の主張に同意するように鳴く。

 キャスパリーグに驚いた魔獣さんは、4だかなんだがを呟き、頭を振るった。

 その後、思い出したように私を向き、問いかけた。

 

 『そういえば、君の名前は何なんだ?』

 

 そこには既に、王の威厳も、災害の恐怖もなく。

 ただ、気安い友人の様な口ぶりに、私はつい笑ってしまう。

 

 『どうした? ……だからって、笑うことは無いだろうに』

 

 すいません、と謝って。

 それから、私は自分の名前を告げる。

 親から貰い受けた、未来の王たる自身の名を。

 

 「私の名前はアルトリア。アルトリア・ペンドラゴンです」

 

 すると魔獣さんは優しげに笑い、その口を開きます。

 

 『そうか、良い名前だ』

 

 自分の名前を誉められた私は無性に照れ臭くなり、しかし誇らしく胸を張った。

 そうでしょうそうでしょうとばかりに、私は自身の誇りを掲げる。

 

 それから、どう流れたのか。

 私はその一夜、夜の王たる彼と語り明かすことになりました。

 

 彼は、旅路を語る。

 私は、夢を語る。

 

 彼は、人間(強さ)を語る。

 私は、魔術(無力)を語る。。

 

 とても、楽しいひと時だった。

 

 

 

 

 

 『――――――こんなところか、ああ、もう太陽の光が昇り始めた』

 

 「お別れ、ですか」

 

 楽しい時間が過ぎ去り、とうとう終わってしまうことに、寂寥の念が浮かぶ。

 だから不満の様に漏らしてしまった内心も、彼は真摯に受け止めて、返してくれた。

 

 『ああ、お別れだ』

 

 そこには一切の誤魔化しが無く。私を対等として見てくれている、誠実さに満ちていた。

 

 『俺は、元々この異聞帯、いや、この世界のものではない。だから、長居してはいけないんだ』

 

 「また、会えますか?」

 

 『……分からない。俺が住むのは虚数の海。この世界とは、時間の流れが違う』

 

 「そう、ですか」

 

 別れの時間は何時も訪れる。

 だから、泣きたくなってしまう。

 でも、笑わないと。

 それこそが、私が彼から受け取った誇りなのだから。

 

 別れを笑顔で迎えよう。

 例えどんなに悲しいものであっても、最後は幸せなものにするために。

 私は、無理やりに笑った。

 

 「では、さようならですね」

 

 『ああ、さようならだ』

 

 「フォウ、フォーウ!」

 

 『フォウもさようなら』

 

 彼はキャスパリーグを変な呼び方で指し、別れを告げる。

 

 『さあ、君は君の道を行くと良い。その道にはきっと、確かな輝きがある』

 

 最後の、格好つけた物言いに笑いが零れ、似合っていませんよと言いたくなる。

 それを押し隠し、私も格好をつける。

 

 「ええ、私は私の道を行きます。そこにはきっと、星の輝きにも負けない光があるから」

 

 意表を突かれたような、何処か嬉しげな彼に私まで嬉しくなる。

 畳みかけるように、私は続ける。

 

 「ですから、貴方の治世にも陰らぬ人の輝きがありますように」

 

 すると、彼は笑った。

 笑って、こう言った。

 

 『ああ、またな。アルトリア』

 

 

 

 そして、陽の光に追いやられる夜闇の様に、霞と溶けた彼の残滓を探すような私を、キャスパリーグが現実に戻す。

 

 「フォーウ!」

 

 「あ痛っ! ……ああ、キャスパリーグですか」

 

 「フォウフォーウ」

 

 「ん? ……ああ、そうですね。そういえば」

 

 私は今更ながら、随分と簡単に彼に心を許したことに気づく。

 それは、彼の人柄故か。威厳の裏の、優しさと愛に触れ、つい、そうなった。

 それに気付いて、再度の認識をする。

 

 「ああ、やはり」

 

 あなたは。

 

 「素晴らしい、王なのでしょうね」

 

 

 

 これは、私が異界の王。夜と厳冬と死を統べる、かつて獣であった知性の王との一夜の邂逅。

 

 王としての在り方を見た、私の物語の一幕。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みにこの後、一晩寝ずに過ごしたせいで、うつらうつらとしながら歩くはめになりました。

 その上更に、道を見失っていたものだからさあ大変。

 ああ、歩きたくないと、そう愚痴ってしまいそうになったのは別の話。




因みにこの作品。実は作者の別作品と微妙に繋がっています。
まあ、そうはいってもあっちの作品では最低でも(現実時間で)五年以上後に出てくるだろう話題ですが。
ぶっちゃけネタバレです。誰も気づかないと思いますが。

え? なんでこんなことしてんのかって?
息抜きとキャストリアの為だよ言わせんなっ!
はいはい、大体百連してもキャストリアの引けなかった作者が通りますよっと
……来ましたよ、キャストリアァ!(2020/08/15)
しかし、今日、この日にパールヴァティーと来たってことは、暗にHFでキャストリア版書けと申してる……?

いやまってそんな、プロットもないのに……

まあ、出来たらやるけど。

次回投稿はだいぶ後になります。何故かって?
余韻に浸るためだよ。
皆さんの応援、ありがとうございます!



【夜と厳冬と、死を統べる最新の王】
別作主人公の最終形態。
その姿は、巨狼であり、模作でありながらも世界を滅ぼす獣である。

三度の厳冬を越え、太陽を飲もうとした獣は、しかし自身の信じた人の輝きに照らされ、敗れ去る。
そこには、何よりも人類に憎まれた呪いからの愛があり、納得故に彼の旅は終幕を迎える。



ああ、愛こそは、何にも勝る最秀の魔法であろう。


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次回予告。

それは、未来への――――――


 冬木市で起きた聖杯戦争。

 

 死んだはずの少年に宿った蒼い令呪とお転婆魔術師。

 

 ――――――召喚に応じ参上しましたっ! わわっ、どういう状況ですか、これ!

 

 赤い悪魔と同盟を組む最中、突如として訪れた病弱なセイバーを連れた男の正体とは。

 

 姉を名乗る雪の少女。少年を狙う味方の弓兵。

 七組の転生者。十四組の主従。

 

 奮い立つ少年は、無力な従者を引き連れて星に手を伸ばす。

 狂い咲いた彼岸花は、より最善を目指し。

 この物語に悪意は無く。その結末に不幸は無く。彼らの終わりには意義がある。

 

 少年と少女は騒乱の末、遥か遠い真実を知る。

 

 その時、少年が定めた答えとは。

 

 その時、少年が進む道は。

 

 一人は姿を消し、一人は茨の道を行く。

 

 世界には救いが無く、終わりは覆しがたかろうと、決して諦めない。

 

 

 

 

 

 

 ――――――大丈夫。

 

 

 

 その旅路は、必ず完遂すると決めたのだから。

 

 これは、世界を救う物語。

 異常と異常が織り交ざり、混沌の坩堝で少年少女は何を願うか。

 

 Fate/Stay Night。

 始まりの夜は、冬の只中に。

 凍り付くような夜天。青い星々の下に、青き魔術師は高らかに。

 桜の少女は鋼鉄に寄り添い、彼の鞘は杖を収めるだろう。

 

 

 

 ならばこそ、この物語はハッピーエンドで終わると決めた。

 

 だって、私は。

 

 ――――――いや、()()。ハッピーエンドの方が好みなのだから。

 

 あの慟哭を見た以上、人の生に惚れた以上。人でなしであろうが、非人間ではありたくない。

 

 僕は僕のやりたいように。星の未来なんて知った事ではない。

 でも、どうせならついでに救ってやろう。

 

 大丈夫だ。なんせ、君たちには正義の味方がいる。選ばれた凡人もいる。

 

 

 

 だから、その道行きにはきっと、祝福がある。

 

 

 

 

 

 

 ――――――それでも、私たちは決してあなたたちに譲らない。

 

 ああ、あなたたちがハッピーエンドを望むのは分かった。正義の味方よ、その心意気には敬服を示そう。

 

 だが、駄目だ。

 

 私たちは、私たちの救いを目指す。

 それには、あなたたちは邪魔だ。ここで死んでもらおう。

 

 我ら転生者の目的の下、諸君らの敗退を約束しよう。

 

 ああ、ようやく歩みだした少年よ。その歩みは無駄になる。

 ああ、道を見つけた絡繰り少年よ。その覚悟に意味はない。

 ああ、優雅に叫ぶ魔術師の少女よ。その誇りに価値はない。

 ああ、雪の城の、凍て付く幼子よ。その温もりに憐れみを。

 

 

 

 我らが主よ。気高き主よ。

 

 安心してくれ。貴方は最後まで、気高かった。

 

 

 

 

 

 

 

 青と白の、七人の転生者と七人の魔術師の乱戦は、果たしてどちらの幸せを世に示すか。

 

 

 

 

 

 

 輪廻転生生誕祭。

 

 全ては、雪中に生まれた卵が孵るまで――――――




――――――福音を巡る物語。

2021年、春。公開予定。



以下、登場サーヴァント。

Saber:                      それは、譲れぬ在り方を抱く者


青のセイバー陣営:病弱な女剣士
                      白のセイバー陣営:海逝く王子


Archer:                     それは、幸せを目指した果て


青のアーチャー陣営:抑止の守護者
                      白のアーチャー陣営:海辺にて、残影の幸


Lancer:                     それは、力を振るう幼子


青のランサー陣営:クランの猛犬
                      白のランサー陣営:病愛の蛇姫


Rider:                      それは、焦がれた物を掴めざる者


青のライダー陣営:怪物に至った末妹
                      白のライダー陣営:彼方を目指す者


Caster:                     それは、未だ未熟な学徒


青のキャスター陣営:未だ幼い魔術師の少女
                      白のキャスター陣営:蛇の杖


Assassin:                    それは、担い手への優しさ


青のアサシン陣営:希望と友好の象徴
                      白のアサシン陣営:魔神の腕


Berserker:                    それは、ただ守るために狂う


青のバーサーカー陣営:とある女神の栄光
                      白のバーサーカー陣営:狂い咲く彼岸花



そして、未だ居座る過去。


アヴェンジャー:この世全ての悪
                      四次アーチャー:最古の英雄王




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