ガンダムビルドモバイル Puzzle G/B (ウルトラゼロNEO)
しおりを挟む

プロローグ ガンプラバトルはじめました
ガンプラバトルはじめました


 気持ちの良い日差しと雲一つない晴天の空。

 昨日が土砂降りだったことを踏まえてもこれ以上なく晴々とした良い天気だ。

 そんな澄み渡る空の中で輝く太陽の恵みを受けながら商店街通り近くで一軒の喫茶店が今日も通常営業を行っていた。

 

 喫茶店の名前はセレクトM。

 店内に流れる穏やかなBGM、コーヒーをメインにしてはいるが、それだけではなくパンやサラダを中心にした軽食やケーキやアイスクリームなど豊富なデザートは中々好評で名の知れた名店……というわけではないが、それでも開店から今日に至るまで地元の人々に愛されている店だ。

 

「こちらレシートです。いつもありがとうございますっ!」

 

 そんなセレクトMのレジでは今まさに来店客の会計を済ませ、人当たりの良い笑顔と共に見送っている従業員と思わしき人物がいた。背中まで伸びた茶髪を赤色のリボンで纏めたその人物はその整った顔立ちを相まって──。

 

「タツヤー? ちょっと良い?」

「どうした、母さん」

 

【挿絵表示】

 

 ……美少女と錯覚してしまいそうな青年だった。

 彼の名はマトイ・タツヤ。このセレクトMを切り盛りする夫婦の間に生まれた子の一人だ。今も母親であるマトイ・アキに呼ばれて、先程の来店客が使用していたグラス類を片づけながら厨房で戻ってくる。

 

「ちょっと商店街の方でお豆腐買ってきてくれない? 今日の晩御飯、すき焼きだったんだけど買い忘れちゃって」

「仕方ないなぁ……。じゃあ、ちょっと行ってくるよ」

「悪いわね。学校から帰ってきてすぐに店の手伝いしてもらってるのに」

 

 たははーと誤魔化すように笑いながら両手を合わせてウインク交じりに頼んでくるアキに先程まで着用していたエプロンを脱ぎ、近くにかけてあったタツヤが通う奏海高校のブレザーを手に取ると手早く買い物に出かける準備を済ませる。

 

「そう言えば、アヤトとヒマリも商店街の方に行ってるのよね」

「アヤトは確か“ガンプラバトル”のゲリラバトル大会があるからって言ってたよな」

「そっ。それでヒマリもついていったのよ。ほら、あの子、アンタとアヤトが通う奏海高校に今度、入学するじゃない? それで仕立ててもらった制服を取りに行くついでにね」

 

 アキが口にしたアヤトとヒマリとはタツヤの弟と妹だ。

 そのアヤトは商店街で執り行われているガンプラバトルのゲリラバトル大会目当てに商店街へ出向いているらしい。

 

 ──ガンプラバトル。

 

 機動戦士ガンダム及びそのシリーズに登場する機動兵器・MSをプラモデルとしたのがガンプラである。

 ガンプラの歴史は長く、それぞれスケールが違うガンプラをそのまま組み上げて楽しむも良し、塗装や加工処理により更なる完成度を求めても良し、将又、自分だけのアイディアを元にオリジナリティ溢れる作品を作るも良しと楽しみ方はそれぞれ異なり、今日まで親しまれている。

 

 ガンプラバトルとは文字通り、そのガンプラを用いてのバトルである。

 かつては大きなドーム型の筐体に乗り込み、そこにセットしたガンプラをデータとして読み取ってバトルをしていたが、年月も進み、専用のGBと呼ばれる携帯端末だけではなく今ではスマートフォンのアプリで読み取ってゲームセンター等々に設置されている筐体と繋げることでバトルが出来る程となった。

 

 より身近になったガンプラバトルの盛り上がりはまさに世界規模の大流行となり、老若男女問わず自分の魂と共にデータによって構築されたフィールド上を日夜駆け巡っている。

 

「ついでに迎えに行ってくるよ。それじゃあ行ってきますっ!」

 

 スマートフォンで弟達に今から商店街の方へ向かう旨をトークアプリで伝えて、ブレザーを羽織ると同時に軽快な足取りでセレクトMから出ていくのであった。

 

 ・・・

 

「……アヤトの奴、何やってんだ?」

 

 商店街にて買い物を済ませたもののタツヤは今、眉を顰めたまま腕を組んで立ち尽くしていた。

 今、彼がいるのは商店街に程近いショッピングモールだ。弟からこの場所で待っていてくれとのメッセージを受けてこの場に訪れたわけだがガンプラバトルのゲリラバトル大会が行われているというだけあっていつも以上に人で溢れており、タツヤもご機嫌斜めだ。

 

「ママ、どこぉ……?」

 

 そんな時であった。

 不意にタツヤの耳に今にも泣きだしそうな子供の声が聞こえてくる。誘われるように見てみれば、そこには兄弟だろうか? 顔立ちが似ている小学校低学年くらいの二人組がいた

 どうやらあの二人はこのゲリラバトル大会の人混みも相まって親とはぐれてしまったらしく、すっかりその表情は悲しみに帯びてしまっている。

 

「うえぇっ……!」

「な、泣くなよぉっ……」

 

 やがては悔しさから弟の方が泣き出してしまったようだ。

 最も年が近いということもあって兄の方も何とか宥めようとはするが、やがて伝染するように今にも泣きだしそうだ。

 

「──よーし、大丈夫か? 二人とも」

 

 遂には兄の方も泣き出してしまい、周囲の人々も困惑し、声をかけようかと悩んでいた時であった。

 突然、二人揃って頭を撫でられ、驚いた兄弟が顔を上げれば、そこにいたのは先程の機嫌の悪そうな顰めっ面から一転、柔和な笑みを浮かべたタツヤの姿があった。

 

「飴ちゃん舐めるか? ハッピーになれるぞ」

 

 すると豆腐ついでに自分用にでも買ったのか、キャンディーを取り出すと右手の親指と小指を立てて軽く振りながら幼い兄弟にそれぞれ渡す。二人は順に渡されたキャンディーとタツヤの顔をそれぞれ見るが、その笑顔に心が解れたのか、キャンディーを口に放り込む。

 

「おいしいっ」

「そうか。この飴ちゃんはな、ウチの妹が気に入ってるんだ」

「妹、いるの?」

「ああ、弟と妹がいるんだ」

 

 やがて飴の効果もあってか、兄弟は笑顔を咲かせ、泣き止んでくれたことに安堵しながらタツヤは頭を再び撫でる。どうやらキャンディーは自分用……というよりは妹の事を考えて購入したようだ。そんな何気ないタツヤの言葉に兄の方が食いついてくるとタツヤはそのまま頷く。

 

「い、いたっ! 二人ともーっ!!」

 

 すると遠巻きに焦ったような女性の声が聞こえてくる。

 その声に聞き覚えがあるのだろう、幼い兄弟はビクリと体を震わせると込みあがる嬉しさと共に顔を見合わせ、声の方向を見てみれば、買い物袋を持った女性が慌ただしく駆け寄ってきた。

 

 ママー!と幼い兄弟はそのまま駆け寄ってきた母親に抱き着くと母親は心底安堵したように二人を強く抱きしめると幼い兄弟から迷子になってからタツヤとの顛末を全て話すと母親はタツヤにしきりに感謝しながら頭を下げている。

 

 買い物の続きがあるのだろう。母親と手を繋ぎながら幼い兄弟はタツヤを真似てか、親指と小指を立てながら手を振る。そんな姿に心を癒されながらタツヤは大きく手を振り、安堵のため息をつく。

 

「……あの、すみません」

 

 ……のだが、次から次へとというべきか、幼い兄弟を見送ったタツヤに声がかけられた。

 

「今、ちょっとだけ時間いいですか? 折り入ってお願いがあるんですけど……」

 

 そこにいたのは目を引くような桃色の髪をツーサイドアップに纏め、まだあどけない顔立ちの少女であった。タツヤと同じ制服に身を包んでいることから同じ奏海高校の生徒なのだろう。

 

「って、あれ……アナタ、誰かに似てるような……」

「ち、近いよッ」

 

 声をかけたのもつかの間、少女はタツヤの顔に覚えがあるのか、じーっと身を寄せてタツヤの顔を覗き込む。その距離、僅か数センチであり、流石のタツヤも狼狽えてしまっている。

 

「ご、ごめんっ! そ、それでね、お願いっていうのは、えっと……私のパートナーになって欲しいんだ!」

「パ、パートナー……?」

「そうっ! ガンプラバトルのパートナーになってほしいのっ! お願い、人助けだと思って!」

 

 覗き込んだタツヤの顔の焦りを見て、我に返ったのだろう。頬を紅潮させながら距離を置くと単刀直入にまっすぐ切り出してきた。しかしパートナーという単語に啞然とするタツヤだが、少女は畳みかけるように両手を掴んで頼み込んでくる。

 

「ガ、ガンプラバトルって……。昔、付き合いで何回かくらいしかやったことないんだけど」

「大丈夫っ! 何だったら今、私のデータを使って練習しても良いからっ!」

 

 弟ならば兎も角、ガンプラバトルについて造詣が深くない為、他を当たった方が良いのではないか、と言おうとするタツヤではあるのだが、少女は一分一秒が惜しいとばかりにガンガンと詰め寄って終いにはガンプラのデータが入ってあるであろう自分のスマートフォンを取り出して差し出すレベルだ。

 

「分かった、分かったよ! とりあえずやるだけな?」

「ありがとうっ! じゃあ早速……と、その前に……」

 

 お人好しの性分なのか、少女がどうしてここまで急いでいるのかは分からないが、一先ず彼女の頼み事を受け入れることにして少しでも冷静になってもらおうと両肩を掴んで承諾すると、少女は何とかなったと安堵した様子で胸を撫で下ろす。

 

 タツヤが承諾してくれた事により、善は急げとばかりに少女は筐体が置いてある場所へと向かおうとする。ゲリラバトル大会が行われるだけあって今日だけはそこらかしこにガンプラバトルを行うための筐体……ガンプラシュミレータが置いてあるのだ。だがその前に彼女自身、大事な事を忘れていたのだろう。改めてタツヤに向き直ると……。

 

「私はミヤマ・サナ。奏海高校の一年生、よろしくね、パートナーさんっ!」

 

 にっこりと微笑んで名乗る少女……ミヤマ・サナ。その無邪気な笑顔と共に差し出された手をおずおずとタツヤは握る。それはまさに彼が新しい世界に足を踏み入れた瞬間であった……。




なんだかんだでガンブレ小説は四作目。流石にNewガンブレ小説でもう終わりだろうと思ってたら、一周年を迎えたガンブレモバイルと最終回を迎えたリライズの勢いに押されて気付けば書いてました。まあ、公開するまでに結構時間がかかってしまいましたが……。

……とはいえ原作が完結していないなか、手探りで書くのでもしかしたら齟齬が生まれるかも知れません、ご容赦ください。

最後に主人公達の母親であるアキさんから一言。……本編中にイラストを載せるタイミングが掴めなかった……。


【挿絵表示】

アキ「うん? あら、見ない顔ね。若そうだけどウチの子達の知り合い? ウチの子達、迷惑かけてないかしら? 三兄妹揃ってクセがあるからねー。まあでも仲良くしてくれると嬉しいわ。そしたらオバサンも少しはサービスしてあげるから」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

セレクト!

 練習用にと近くのガンプラシミュレータに訪れたタツヤ達。こうなったら流れに身を任せようとシミュレータにスマホをBluetooth接続してセッティングを行っているサナの後ろ姿を眺める。

 

「出来た! それじゃ、はじめるよっ!」

 

 準備が出来たのか、振り返って声をかけるサナに仕方なしと頭をかいたタツヤは練習相手としてバトルを行うサナとシュミレータを挟んで対峙する。

 するとシュミレータはまるで何かの基地を思わせるようなフィールドを形成するとアプリのデータを元にタツヤが使用するガンプラがデータとなってフィールドに出現した。

 

「天使……?」

 

 それはまさにタツヤが抱いた感想通りのガンプラであった。

 白と青を基調とした色合い、美しく輝くツインアイと額の四本角のようなアンテナ。ガンプラはおろかガンダムシリーズについて詳しくないタツヤでも、それが“ガンダム”であることは認識できた。しかしガンダムに疎いタツヤでもガンダムをはじめとしたMSがロボット及び兵器の類であることは何となく理解していたのだが、そのガンダムにはまさに天使の翼があったのだ。

 

 そのガンダムの名前はウイングガンダムゼロ(EW)。

 新機動戦記ガンダムW~Endless_Waltz~に登場する主役機であり、天使の翼も相まってどこか神々しさを感じる機体であった。

 

「──準備は良い?」

 

 ウイングゼロ(EW)の姿に思わず見惚れていたタツヤだがスピーカー越しのサナの声に我に返ってモニターを見てみれば、そこにはスマートフォンのデータなしで遊ぶ際に自動的に選択される機体の一機であるザクⅡであった。

 

 ウイングゼロ(EW)とは対照的に左肩のスパイクアーマーに右肩にシールド。頭部の単眼カメラであるモノアイを光らせた緑色の無骨な機体……。ガンダムの造詣に深くはないタツヤであったもRX-78-2 ガンダムと並んでこのザクⅡという機体は知っており、一般的にもメジャーな機体だ。

 

「それじゃあ好きに動いてみてっ!」

 

 付き合いで数える程度しかガンプラバトルをやった事がないタツヤは詳しいテクニックは知らなくても基本の操作技術は何となく分かっているのだろう。ザクⅡを操るサナに促されて薄っすらと緊張帯びた様子で生唾を飲み込みながらジョイスティックを操る。

 

「すげぇ……」

 

 ガンプラバトルはガンプラのデータを読み込んで行われる。だからこそガンプラバトルを有利に行う条件の一つはまずその作りこみであろう。サナが手掛けたであろうウイングゼロ(EW)もタツヤが見惚れただけの事もあってその出来栄えは申し分なく半ばビギナーであるタツヤであったもストレスなく動けた。

 その後もウイングゼロ(EW)の挙動を確かめるようにあちこちを移動したり、手足の稼働を確認したり、武装を実際に使用したりと練習を行う。何回かやったことがあるというだけあってタツヤは呑み込みは早く、事はスムーズに運んでいた。

 

「じゃあ残り時間も少ないし、軽くバトルしてみようかっ!」

 

 練習も十分だと判断し、残り時間も少ないことからサナは締めにとウイングゼロ(EW)に武装であったザクマシンガンを向けるといくよーと前置きをした後、引き金を引く。

 マシンガンというだけあって連射されたウイングゼロ(EW)に向かっていく。流石にビギナーであれば無数の弾丸を受けてしまうだろう。とはいえ作りこんだウイングゼロ(EW)の装甲であれば問題はない。そう考えていたサナだが何とウイングゼロ(EW)は瞬時に機体を動かして弾丸の全てを避けたではないか。

 

「……うん、イイ感じだね!」

 

 呑み込みの早さか、才能か。ともあれ今の動きを見たサナは彼で間違いないと笑みを浮かべながら続いて攻撃を仕掛ける。とはいえ必要最低限の動きに留めながらザクマシンガンを撃つだけであり、言ってしまえば動く砲台程度のものだろう。

 

 ……それだけに留めておくはずだった。

 

「──ッ」

 

 バトルを進めているうちにコツを掴んだのだろう。

 ウイングゼロ(EW)は大きくその翼を広げて軽やかに飛び上がるとビームサーベルを引き抜き、緑色に輝く光の刃を走らせながら一気にザクⅡとの距離を詰める。

 出来栄えを考慮したとしてもその一瞬の出来事に息を呑んだサナだが既にザクⅡは腹部に刃を受け、致命打にはならないまでも大きく切り裂かれた部分は赤熱化しており、背後に回ったウイングゼロ(EW)に振り向いて対応しようとする以前に反転して返し刀と共に今度こそ腹部を両断され撃破されてしまった。

 

 ・・・

 

「あらら、負けちゃった」

 

 シュミレータも稼働を終え、スマートフォンの接続を解除しながら、サナはいやぁー参ったと芝居臭い様子でタツヤの元に歩み寄る。

 

「ビギナーなのに凄いね、君。センスあるよっ」

「……って言っても明らかに手を抜いてたよな」

「あー……バレた? ごめん、勝った方が楽しさが伝わると思って」

 

 手放しでタツヤを褒めるサナだが、当の彼女は明らかに経験者であることは分かっている。そんな彼女が歩く砲台程度の動きしかしなかった点や今の態度などおだてられている事に気付いているのだろう。何とも微妙な様子のタツヤを見て、無理があったかと苦笑交じりに謝る。

 

「……気を遣っての事なんだろうってのは感じてたけど。でもさ、負ける事よりもこうもあからさまだとあんまり嬉しいもんじゃないな」

「ごめんって。もう絶対しないからっ。あ、でもセンスがあるっていうのはホントだよ。その調子で本番もよろしくっ!」

 

 とはいえサナの気遣い自体はタツヤも理解してはいるのだろう。とはいえ負けず嫌いのところがあるのか、釈然としない様子のタツヤを見て、もう愚弄するような真似はしないと謝罪しつつそれでもザクⅡ撃破の際の動きから彼のセンス自体は嘘ではないとこのまま事を進めようとする。

 

「分かったよ。じゃあ本番も……。本番?」

《間もなくガンプラゲリラバトル大会のエントリー受付終了のお時間となります。出場希望の方は─》

 

 しかし本番と言われてもタツヤにピンと来るはずもなく頭に?を浮かべた瞬間、その答えが町内アナウンスによって流れた。

 

「やば! エントリーまだなんだった! ほら走るよっ!」

「お、おおおいっ!? 大会だなんて聞いてないぞっ!」

「だってまだ言ってないもんっ! 今は兎に角受付へダッシュ!」

 

 まさか、と思ったのも束の間、強い力と共に腕を掴まれたタツヤはサナに引っ張られ、エントリーを行うために走り出す。ガンプラバトルのパートナーはまだしも大会について聞いていなかった為、タツヤは慌てるがお構いなしに半ば拉致同然に連れていかれるのであった。

 

 ・・・

 

「オノさん、エントリーまだ間に合うっ!?」

「おう、サナ。遅刻ギリギリやんか!」

 

 タツヤを引っ張って雪崩れ込むようにサナが入店したのはガンプラ専門の模型店であった。

 ところ狭しと並べられるガンプラの陳列棚を抜け、レジ近くにいる金髪のソフトモヒカンの男性に声をかける。

 店名とロゴが記されたエプロンを着用していることからこの店の関係者なのだろう。オノと呼ばれた男性は関西弁を口にしながら気の良い態度でサナを迎える。この人物の名はオノ・マサヨシこの模型店の店主である。

 

「受付こっちやから急げ、ってぇ……。ちょい待ち。隣の姉ちゃんは誰や? 男モンの制服何か着て変わっとr「男です」……お?」

「俺は男です」

「……お、おう。カミーユの逆版っちゅーかなんちゅーか……。まあ下手なことは言わんほうがええな」

 

 ポニーテールと柔らかな顔立ちから一見、少女と見間違えたオノであったがその言葉の最中に有無を言わさない様子で訂正するタツヤにオノは頬を引き攣らせる。なぜわざわざポニーテールにしているのか分からないが、下手なことを言えばポニーテールを男の髪型にして何が悪いんだと殴られそうなため、これ以上は止めておこう。人の個性って大事、うん。

 

「しかしトウマの代わりを見つけられて安心したわ。全国大会の日程と被るなんてなぁ」

「トウマ?」

「ガンプラ部のチームメイトだよ。同じ学校だし、見たことあるかも。本当はトウマと大会に出る予定だったんだけど昨日の土砂降りで今日になっちゃったんだ」

 

 トウマの代わり、という言葉に眉を顰めてどういうことだとサナを見れば、どうやら昨日の土砂降りと日程の問題から本来、組む予定だったチームメイトは全国大会に向かってしまったようだ。

 

「トウマの代わりは中々荷が重いで。戦いとは非常なものだ。勝つ者がいれば必ず負ける者もいる」

「──勝負の世界とはこういうものだ。ネオイングランドの英雄だね」

 

 とはいえ話に聞く限り、全国大会に出場できるだけの実力がある人間の代わりはオノが言うように荷は重いだろう。知らず知らずのうちに生唾を呑んでいるタツヤにオノは芝居がかった態度で話していると不意にタツヤ達の後ろから声が聞こえてくる。

 

「やっほー、タツ兄。まさかオノさんの店にいるとは思わなかったよ」

 

 そこにいたのは奏海高校の制服を着用し、アキに似たオレンジがかった鮮やかな長髪を腰の辺りで青色のリボンで纏めたタツヤに似た顔立ちの人物がいた。

 

【挿絵表示】

 

 彼の名前はマトイ・アヤト。タツヤの双子の弟であった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紅蓮の炎

「おう、アヤトやないかい。ジェントル・チャップマンを知っとるなんて相変わらず見所ある奴やなぁ!」

 

 タツヤの弟であるマトイ・アヤト。少なくとも先程のオノの言葉は何かの真似だったらしく、それを言い当てたアヤトに上機嫌で笑い、対してアヤトもまあねーと軽く流しながら手を振っている様子を見る限り、二人は知り合いなのだろうか?

 

「アヤトも大会に来てたんだねっ」

「あー……まあね」

 

 知り合いはオノだけではなかったらしく、サナもアヤトに反応している。

 しかし出会えて嬉しそうなサナとは対照的にどこか気まずそうに目を逸らしながら答える。

 

「あれ、待てよ……。アヤト、お前確かガンプラ部にいたよな」

 

 模型店を切り盛りするオノと奏海高校のガンプラ部に所属するサナ。そしてその二人と知り合いと見られるアヤト。この三人を繋ぐものを考えれば、自ずと出てきたのはガンプラであった。その事でアヤトも奏海高校のガンプラ部に所属していた事を思い出したタツヤはその事を切り出す。

 

「だったら俺よりお前が出た方が良いんじゃないか? 俺、この娘に誘われたんだけどずっとガンプラを作ってるお前の方がよっぽど詳しいだろ」

「……タツ兄、悪いんだけどさ。俺は別にバトルに参加しに来たんじゃないんだ。バトルを見に来ただけで……」

 

 であれば少なくとも自分よりも経験者かつサナとも知り合いなアヤトが出た方が良いだろう。

 そう考えていたタツヤだが、アヤトはその首を縦に振ることはなかった。しかもガンプラに関してなにかあったのか、どこか陰を見せている。

 

「ミヤマさんもごめん。俺……バトルは……」

「……ううん、良いんだよ。寧ろアヤトがまだちゃんとガンプラを作ってるって事が嬉しいんだ」

 

 アヤトはガンプラ部でなにかあったのだろうか?

 タツヤの何気ない言葉をきっかけにアヤトもサナも何とも言えない面持ちで話す。しかしサナの言葉は紛れもない本心なのだろう。寂しそうながら笑顔を見せるサナにだからこそなのかアヤトは俯いて顔を背けてしまう。

 

「っていうか、タツ兄って言ってたよね? 二人ってもしかして……」

「ああ。兄弟なんだ」

 

 暗くなった空気を変えようとサナは先程、気になったタツ兄という言葉を話題に出すとタツヤはいまだに俯いているアヤトの隣に立つ。髪色にこそ差はあるが流石兄弟というべきかその柔らかな顔立ちは瓜二つであり、これにはサナも感嘆の声を漏らす。

 

「まあ、その辺にしとき。それよりもエントリーシートや。名前とガンプラを登録するんや」

 

 オノもその一人ではあったが、時間は有限だ。

 このままでは大会にエントリー出来なくなると項目欄の記された用紙をレジ下の引き出しから一枚、取り出してタツヤとサナにエントリーを促す。

 

「マトイ・タツヤ……か。学年章からすると同学年みたいだし学校でもよろしくねっ!」

「ってぇ、兄ちゃんはガンプラ持っとらんのか」

 

 手早く項目を埋めながらサナはタツヤの名とその学年章から同学年であると知って改めて挨拶をしているとふとガンプラの項目でスラスラと走らせていたペンを止めたタツヤにもしかしてガンプラを持っていないのではと察したオノの言葉にタツヤは苦笑気味に頷く。それもそうだ、こうしてサナに連れてこられただけでタツヤはガンプラに詳しくなく、日ごろからガンプラを持ち歩いているわけでもない。

 

「……だったら俺が作ったガンプラ使いなよ」

 

 店のガンプラを貸したるかと気前よく提言していたオノだが、今まで黙っていたアヤトがボソッと口を開く。

 一同がアヤトに視線を向けると彼は持っていた鞄からゴソゴソと一つのケースを取り出すとタツヤに差し出した。

 

「ガンダムソラーレ・ロッソ。中距離戦を主にした万能機だから、ガンプラバトルに殆ど触ったことがないタツ兄でも扱いやすいと思うよ」

 

 アヤトとケースを交互に見ながら受け取ったケースを開け、その中に眠るガンプラが姿を現す。

 それはビルドストライクガンダムをベースに赤と白を基調にしたカラーリングとバックパックとなる背部にガンダムF91の二門のヴェスパーを装備したガンダムであった。常日頃からガンプラを作成し、ガンプラ部に所属していたアヤトが手掛けただけあって基本のゲート処理に留まらず、ディテールアップや全塗装など今のタツヤには決して真似できない完成度を誇っていた。

 

「まあ、選ぶのはタツ兄だから別にこれを使わなくたってオノさんにガンプラを借りても……」

「何言ってんだ。お前が作ってくれたガンプラを使うに決まってるだろ。それに母さんが言ってたろ。一人じゃ無理でも二人なら……兄弟なら何でも出来るって」

 

 とは言え素直にとはいかないのか、自分の出がけたガンダムソラーレをまじまじと見つめるタツヤから視線を逸らして頬をかくアヤトに言葉通り何を言っているんだとあっけらかんとした様子を見せ。幼少期から聞かされていた母親であるアキの言葉を口にしながら……。

 

「んっ」

 

 アヤトに手を差し向けたのだ。一体、どういう意図なのか、サナとオノが顔を見合わせて首をかしげるなか、ただ一人、その行動の意味を知っているアヤトは今までの暗い表情から少しずつ口元に笑みを見せ、タツヤに一歩踏み出した。

 

【挿絵表示】

 

 そして二人は両手をそれぞれリズミカルに交差するようにパンッパンッと小気味良く打ち鳴らしながら最後にグッと拳を打ち合わせる。これは二人で何かする際の合図、もしくは癖なのだろうか。しかしタツヤもアヤトもその表情は晴々としている。

 

「なんかまさに兄弟って感じで良いねっ! アヤトが作ってタツヤが戦う……。セイとレイジみたいっ」

「まぁ、アヤトに参加する気がないんやったらセコンド式は無理なんやけどな」

「分かってるよー。でもアヤトはモデラーとしてもスジが良いし、タツヤはバトルのセンスがあるっ! 私達が組めば優勝待ったなしっ! 優勝賞品のオリジナルガンプラは貰ったも同然だねっ!」

 

 そんな二人の様子にうんうんと満足げに頷いているサナはオノのツッコミを受けながらも改めてマトイ兄弟の実力を認めながら優勝への意欲を燃やす。

 

 《ガンプラゲリラバトル大会のエントリー受付は終了しました。ただいまより、大会を開始いたします。制限時間は2時間です。大会ルールをご存じでない方は協力店舗かホームページをご確認ください》

 

 ふとショッピングモール全体にアナウンスが流れる。賑やかなやり取りをしているうちにエントリー受付時刻を過ぎてしまったようだ。すると途端に先ほどまで意気揚々としていたサナの表情が僅かに強張る。

 

「いよいよ始まったね! うー……震えてきた」

「ここまで来たらやるしかないか……!」

 

 緊張するサナを尻目にタツヤはスマートフォンを取り出す。

 こうして連れてこられたはいいもののそもそも大会のルールを知らない。であればとアナウンス通り大会ホームページを検索し、そこに載っているルールを参照する。

 

 どうやら今大会はガンプラ普及を目的にガンプラ制作会社主催のバトル大会のようだ。それぞれに散っている大会参加者達とバトルして制限時間内の勝利数で競い、優勝を決めるようだ。

 

「気負わずに頑張ってね、タツヤ! みんなブッ飛ばして優勝すればいいだけだから」

「あー……とりあえずなるようになれってな。それはそうと生まれたての小鹿みたいだぞ」

「はっ、足がガクガクしてるっ!?」

 

 力んだ様子でタツヤの手を握り、捲し立ててくるサナだがその力加減や様子からしても一番に緊張しているのはサナであろう。逆にあまりのサナの様子に緊張が解れたタツヤは苦笑交じりに指摘すると何とかサナは手で抑えてでも震える足を何とかしようとする。

 

「本番ってのは固くなるもんや。ムリに緊張を解そうとせず、とにかく全力でぶち当たってこいや」

「りょーかいっ! 行こう、タツヤっ!」

 

 そんなサナを見かねてオノは彼女の背中を後押しするように優しく叩き、快活な笑みを浮かべる。オノの気配りに少しは緊張も解れたのだろう。ビシッと敬礼をしたサナはタツヤの手を取って走り始める。

 

「しっかし、よくもまああんなガンプラ持っとったな。アヤトのガンプラは海みたいな色のガンプラやったろっ!」

「あれは……お守りみたいなもんですよ」

 

 サナとタツヤの姿を見送りながらふとオノはアヤトにソラーレ・ロッソについて尋ねる。オノが記憶している限り、あのガンプラは初めて見たのだ。するとアヤトは鞄を再び漁ってまた新しいケースを取り出し、白と“紺碧の海”のようなカラーリングのガンプラを取り出す。

 

「“一人じゃ無理でも二人なら、兄弟なら何でも出来る”……。あのガンプラはタツ兄を意識して作ったんですよ。タツ兄はガンプラバトルをやらないけど、少しでも自分を鼓舞できるように……。兄弟だっていつまでも一緒にはいられませんしね。でも……日の目を見る事が出来て良かった」

 

 その瞳に寂しさを宿しながらアヤトは自身のガンプラと去っていくタツヤの後ろ姿を見ながら呟く。とはいえソラーレがバトルを出来ること自体には喜んでいるようだ。

 オノはアヤトに兄がいたことは今日初めて知ったが、アヤトの中でタツヤという存在がどれほど大きいのか、すぐに分かってしまった。

 

「それじゃ俺は妹を迎えに行ってきます。タツ兄に制服を見せたいって行って一回帰りましたから。そろそろこっちに来てる頃でしょ」

 

 オノが何と声をかけようかとしている間にスマートフォンに入った着信を見て、アヤトはオノに別れを告げてガンプラ屋を去っていく。しかしそれを見送るオノにはアヤトの後ろ姿に重い陰が差しているように見えて仕方がなかった。

 

 ・・・

 

「それじゃあ行くよ、タツヤ!」

 

 一方、タツヤとサナは早速、大会参加者達とバトルの時を迎えようとしていた。

 サナの手解きで専用のアプリとデータスキャンを終えたタツヤはスマートフォンを筐体に接続して、マッチング終了を合図にモニターがカタパルト画面に切り替わったのを確認する。

 

「よしっ、行くかっ」

 

 アヤトが託したソラーレはデータとして構築されるが、その出来栄えは遺憾なく発揮され、パラメータに加算される。頼もしい弟の存在を感じながら、タツヤはガンダムソラーレと共に初陣を迎えるのであった。




ガンプラ名 ガンダムソラーレ・ロッソ
元にしたガンプラ ビルドストライクガンダム

WEAPON 強化ビームライフル
WEAPON ビームサーベル
HEAD ビルドストライクガンダム
BODY ビルドストライクガンダム
ARMS フリーダムガンダム
LEGS ビルドストライクガンダム
BACKPACK ガンダムF91
SHIELD ラミネートアンチシールド(フリーダム)
AI PILOT シーブック・アノー

詳しい外観は活動報告の【ガンブレ小説の俺ガンダム】に某画像投稿サイトへのリンクがありますので、興味がありましたらそちらを参照して下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紺碧の海

「よーしっ、張り切っていくよっ!」

 

 ゲリラバトル大会に参加したタツヤとサナの二人は早速、参加者達とのバトルに臨んでいた。

 地球連邦軍総司令部ジャブローを彷彿とさせる熱帯林のステージであった。周囲を確認しながらサナの操るガンプラが木々を抜けて姿を現す。

 

 それは機動新世紀ガンダムXに登場するガンダムX ディバイダーをベースに白と鮮やかなピンク色を基調に塗装されたディアンサスの名を持つガンダムであった。

 

「あの羽のガンダムも凄かったけど、流石、アヤトだな」

 

 一方、その隣ではアヤトに託されたソラーレ・ロッソがその姿を現す。

 出来栄えがパラメーターとして加算されるガンプラバトルに製作技術は一つの要だ。調子を見ようと軽く動かしたソラーレRの不自由のない動きにタツヤは自分の弟ながら感心してしまう。

 

 そうこうしているうちにソラーレRとディアンサスのセンサーに反応がある。相手にロックオンされたのだろう。確認してみれば、砂漠・熱帯用の機体として改良されたドム・トローペンと、徹底的な軽量化によって誕生した高機動強襲機であるケンプファーであった。

 

「あんなにずんぐりむっくりなのに……!」

 

 どちらもホバー走行による機動力を活かした戦いを主とする機体だ。その事はガンダムを知っている者からすれば当然のことではあるがそうではないタツヤからすればケンプファーは兎も角、ドム・トローペンの機動力は外見から想像できなかったようで早くも翻弄されてしまっている。

 

 ラケーテンバズによる砲弾の直撃を受けたソラーレRは近くの通信施設に倒れこみ、施設は無惨にも倒壊しまう。瓦礫の上に倒れこんでしまったソラーレRにドム・トローペンは畳み掛けるように近づき、ヒートサーベルを引き抜いて上段に振り下ろそうとする。

 

 この状況下でなにが出来るのか、そもそもガンダム作品を知らなければ、ソラーレRでさえ自分で作成していないため、アヤトから説明された内容でしか把握していない半人前。しかしそれでも負けたくない、勝ちたいと強く思う気持ちは人一倍なのだ。

 

「このォっ……!」

 

 ヒートソードを振り下ろした刹那、タツヤの瞳は紅蓮の炎の如く強い意志を宿したと同時にソラーレRの腰アーマーに装備されている回転軸が設けられたホルダーを回転させ、ビームサーベルを発生させてドム・トローペンの左肩に突き刺すと、それが動揺となったのか動きが鈍ったドム・トローペンをそのまま蹴り飛ばす。

 

「凄い……!」

 

 ケンプファーを相手にしつついつでもタツヤのサポートが出来るようにと気を配っていたサナだが一連の動きを見て、純粋にタツヤのバトルセンスに感心してしまう。彼の腕は直にバトルをして分かっていたが、まさか反射的にあんな行動を起こせるとまでは思っていなかったのだ。

 

 一方でソラーレRはバーニアを利用して起き上がると倒れた衝撃で手放した武装を拾おうともせず、そのままマニピュレータで殴り掛かっていた。

 

「負けるッ……かァッ!」

 

 ドム・トローペンがその巨体をよろめかせている隙に何とソラーレRは近くに倒壊していた通信施設の折れた鉄塔を持ってそのまま叩きつける。それは戦術など何もない。ただただ本能的に我武者羅なまでの行動であった。

 

 アヤトが作成したソラーレRはアヤト自身のスキルもあってか、バトルフィールド上にデータとして投影された時点からその作りこみはある種の美しさがあった。しかしそれがタツヤが操る今となっては地面に転がり、泥を被り、負った損傷も相まって痛ましさがあった。

 

「……タツヤはやっぱり見所があるっ!」

 

 しかしいくら泥を舐めようとタツヤはただ負けたくない、それだけの一心で立ち向かっているのだ。そのどこまでも負けず嫌いな性分にサナは自分の見る目は間違っていなかったのだと相手のケンプファーを何とか撃破しながら強く実感する。

 

「もらったァッ!」

 

 一方、ソラーレRは頭部アンテナも折れ、損傷も目立つなか、ビームサーベルを引き抜き、ヒートソードを構えるドム・トローペンとすれ違いざまに切り結ぶ。ソラーレRの左腕が切断されるなか、ドム・トローペンの機体を一刀両断にし、このバトルをタツヤとサナのコンビの勝利で収めるのであった。

 

 ・・・

 

「やったぁ、勝ったぁあっ!!」

 

 何とか手にした勝利に喜ぶサナ。やはり自分が見込んだとはいえ、バトル初心者を連れてのバトルは彼女自身にも大きな緊張があったのだろう。だからこそこの勝利の反動は大きい。

 

「か、勝てた……」

 

 それはタツヤとて同じことだろう。ギリギリだったとはいえ、だからこそ勝利を勝ち取ったことにいまだ実感が湧かないようだ。

 

「よっしっ!」

 

 だがそれもスマートフォンの高々と記されているYou Win!の文字で強い実感となったのだろう。両拳をギュッと握り、ガッツポーズをとる。確かにギリギリではあったが、だからこそ勝利の喜びはひとしおだ。

 

「なあ、サナ! 次行こうっ! はやくはやくっ」

「タ、タツヤ!?」

 

 相手チームと別れながら調子が出てきたタツヤはすぐにでも次のバトルを咄嗟にサナの手を取って走り出す。

 いくら顔立ちが柔らかいとはいえ、タツヤは男性だ。異性に手を引っ張られる状況にサナが頬を赤く染めるが、夢中になって「早くバトルしたいな」と声を弾ませるタツヤの笑顔を見て、釣られるように「うんっ」とサナも笑顔で頷くのであった。

 

 ・・・

 

《──タイムアップです。バトル結果を集計いたしますので、しばらくそのままでお待ちください》

 

 それからおよそ一時間後、サイレンと共にゲリラバトル大会の制限時間を知らせるアナウンスが一帯に響き渡った。

 

「ど、どうなのかな。悪くない戦績だったと思うんけど……」

「で、でも負けたりもしてるしなぁ……っ」

 

 集計している最中、タツヤとサナはハラハラと固唾を呑んで待っている。タツヤの言うようにその後のバトルで勝った負けたりの繰り返しだ。もしかしたら自分達よりも戦績の良いチームがいるのかもしれない。

 

《お待たせ致しました、結果を発表します。優勝は─……マトイ・タツヤ&ミヤマ・サナペアです!》

 

 全身が震えた感覚を味わった。正直、どこかで優勝を諦めていたところもあったのかもしれない。しかし事実として確かにアナウンスされた内容に二人はわなわなと顔を見合わせ、思わず喜びを体現するように飛びついて抱きしめ合う。

 

「キャーっ! やったよ、タツヤぁっ! 私達が優勝だってぇ!」

「ゆ、ゆゆゆ夢じゃないよなぁ!? あぁでもこの感触は本物だもんな!? 実物を触った事ないから分からんけどもぉっ!」

 

 抱きしめ合ったままぴょんぴょんと飛んでいるタツヤとサナ。喜んでいることに夢中なサナと同じように喜んでいるものの何やら異性であるサナに抱き着かれているタツヤの思考は別の方向へ飛んでいこうとしている。

 

「おーおー、見せつけてくれんのはええけど、先に大会本部に行って表彰されてこいや」

「「はーいっ」」

 

 そんな二人を冷やかすようにオノが声をかけてきた。二人とも喜びに夢中だったとはいえ、異性に抱き着いていたことを半ば思い出さないように敬礼しながらそそくさと大会本部へ向かうのであった。

 

 ・・・

 

「思ったより盛大に表彰されちゃったね。大会に優勝するの初めてだから賞状の受け取り方、分かんなかったよ。その点、タツヤは妙に慣れてたけど……」

「えっ、あっいや、まあな……」

 

 それから数十分後、オノのガンプラ屋にタツヤとサナの姿があった。表彰式を思い出して、浮ついた様子のサナはふとこなれた様子だったタツヤに話を振ると、彼は何とも言えない面持ちで視線を逸らす。

 

「で、お目当てのガンプラはどうやった?」

「へへー、勿論ゲットしたよ。ペアで一つしかもらえなかったけどタツヤが譲ってくれたんだ」

「まあ、大会が目的だったのはサナだし」

 

 別に表彰に慣れていた事自体、寧ろ普段のタツヤが凄いのではと考えていたが微妙な面持ちを見せた為、怪訝そうにしているとオノが話を振ってきた。その事で話題が移り変わり、じゃーんと景品のオリジナルガンプラを見せるサナにタツヤも異論はないのか、微笑交じりに頷く。

 

「今日はホントにありがと、タツヤ! 滅茶苦茶感謝してるっ。良かったら……またペア組んでほしいな」

「おいおい、トウマって人がいるんだろ? それに俺、ガンプラ部じゃないし」

「今は、ね。ふっふっふっ……」

 

 改めてタツヤに感謝を伝える。彼をスカウト出来なければ大会に出場することすら危うかった。それにタツヤとバトルをする束の間の時間の充実感は素晴らしいものであった。それ故、ペアを申し出るとタツヤに苦笑されてしまうが、完全に目を付けたのだろう。非常に怪しい笑みを浮かべている。

 

「──タツ兄ーっ!」

 

 サナの笑みに悪寒を感じていると溌溂とした声と共にタツヤは背後から突進じみた勢いで抱き着かれる。サナとオノが啞然とするなか、何とか踏ん張って受け止めたタツヤが振り返ると……。

 

「アナウンス、聞いてたよっ! 優勝おめでとーっ!」

 

 そこにいたのはタツヤと同じ翡翠色のクリッとした無邪気な瞳と赤いリボン装飾が施されたカチューシャをつけた少女であった。その服装はタツヤやサナと同じように奏海高校のものであり、同じ学校の生徒だろうか。

 

「あっ、もしかしてタツ兄とペアを組んでたサナさん!?」 

「そ、そうだけど……。アナタは?」

 

 まさに天真爛漫と言った様子の少女に若干押され気味のサナは少女に尋ねる。

 タツ兄と呼ぶことからアヤトのように血縁者なのかもしれない。最もこの少女は顔立ちこそタツヤやアヤトに似ているものの出るところはしっかりと出ているので実は男性……ということはないようだが。

 

「おい、ヒマリ。いきなり飛び出すなよー」

「……そうだぞ、ヒマリ。誰かにぶつかってからじゃ遅いんだって何度言ったら分かるんだ」

 

 そうこうしていると後からアヤトが飄々と顔を出し、少女と思われる名前を口にすると何とか抱き着いてきたヒマリと呼ばれた少女を踏ん張って受け止めたタツヤは注意しながら彼女を背中から降ろす。

 

「改めましてマトイ・ヒマリですっ! ハッピーなこと大好きなマトイ家の末っ子ですっ!」

 

【挿絵表示】

 

「ごめんねー」と二人に謝りながら親指と小指を立てて軽く振りながらサナとオノに自己紹介をしながら自身がお気に入りのキャンディーをそのまま配る。

 

「っていうかタツ兄もガンプラやってたの!? アヤ兄だけじゃなくて? 珍しいねー。ねえねえタツ兄のガンプラ見せてよー! っていうかここめっちゃガンプラあるねっ。あっ、アレはヒマリも知ってるよ。シャー専用ザクだよね「シャ“ア”専用ね。少し静かにしてようか、ヒマリ」はーい」

「……今日は楽しかったよ。それじゃあ俺達はこの辺で……」

「うんっ、次は学校でねっ!」

 

 マシンガントークを繰り広げるヒマリとそれを宥めるアヤトを横目にタツヤは改めてサナに良い機会をくれたと感謝していると二人を引き連れて帰っていくタツヤをサナとオノは見送るのであった。

 

 ・・・

 

「ねえ、タツ兄? どぉ? 制服似合ってるー?」

「ああ。ヒマリの入学が楽しみだな」

 

 ガンプラ屋を出てタツヤによりかかるように抱き着きながら歩くヒマリは上機嫌で自身の制服姿について尋ねると上機嫌な妹の姿に苦笑しながら頷くとふと隣を歩いているアヤトを見やる。

 

「なあ、アヤト。少しバトルしないか?」

「……は?」

「ちょっと寄り道だよ。まだバトルの熱が冷めてないしな。お前がタッグなら俺も心強いし」

 

 ふと何を思ったのか、アヤトをバトルに誘い、当のアヤトは面喰っている。それをおお構いなしに話すと僅かに迷った結果、「……仕方ないなー」とタツヤの申し出を受け入れて三人はゲームセンター内の筐体に向かう。

 

「……タツ兄に気を遣わせたかな」

 

 背後で声援を送るヒマリの声を聞きながらアヤトは自身のスマホを接続しながら、チラリと隣のタツヤを見やる。

 自分は大会に参加する気はない、その気持ちは嘘ではなかった。しかしバトルがしたくないというわけではないというのも嘘ではなかった。

 

 では何故大会には出なかったのか、それはサナとのやり取りに関係があるのだろうか。とはいえ、今は兄の気遣いに内心感謝しながら自身のガンプラを取り出し、ジッと見つめる。

 

「ガンダムルーナ・ブル、マトイ・アヤト行きますっ!」

 

 それはタツヤに託したソラーレRとは対照的な白と“紺碧の海”のような青いカラーリングのガンプラであった。

 ルーナ・ブルを近くに置き、そのデータをスマホ越しに筐体に投影しながらアヤトはタツヤと出撃するのであった。




ガンプラ名 ガンダムルーナ・ブル
元にしたガンプラ フォースインパルスガンダム

WEAPON ビームライフル(ライトニングガンダム)
WEAPON ビームサーベル
HEAD ガンダム試作一号機 ゼフィランサス
BODY フォースインパルスガンダム
ARMS ライトニングガンダム
LEGS ストライクノワール
BACKPACK フォースインパルスガンダム
SHIELD 機動防盾
AIPILOT コウ・ウラキ

詳しい外観は活動報告の【ガンブレ小説の俺ガンダム】にリンクがありますので、そちらを参照して下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺の色

 バトルフィールドとなったのは建造物が立ち並ぶ昼の市街地ステージであった。

 協力プレイということで敵となるCPU機が出現するなか、一斉に空を見上げ始めたではないか。すると間髪入れずに太陽を背に二機のガンダムが落下してきて、ビルの合間に着地する。

 

 膝をつき、音を立てて降り立ったのはソラーレRとルーナBだ。二機はCPUを確認するようにゆっくりと頭部を上げると静かに起き上がって並び立つ。

 

「まさかソラーレと並び立つ日が来るなんて……」

 

 チラリと隣のソラーレRを見ながらアヤトが感慨深そうに呟く。どちらもアヤト製のガンプラだ。だがそれ以上にアヤトからしてみれば、ソラーレRを操るのがタツヤであるのが嬉しいようで上機嫌だ。

 

「しっかし前々から思ってたけど、ビルの作りこみ凄いよなぁ。窓の中まで作りこまれてるし、ミニチュアみたいだ」

 

 そのソラーレRは近くのビルをペタペタと触りながら窓から中の無人のオフィスの様子を見て、その作りこみに感心している。最初のバトルで鉄塔を武器にしたことはあったがどれも本物に遜色ない作りこみであった。

 

「ガンプラバトルはフィールドも売りにしててね。フィールドは実際にモデラーが作成したジオラマをスキャニングしてステージにしてるんだよ。だからビルにぶつかったり、触れられたりするわけ」

「へぇー」

 

 フィールドの作りこみに圧倒されているタツヤに苦笑しながらフィールドについても触れるアヤト。その説明を耳にしながらひょいと拾い上げた自動車を見つめては「凄いもんだなー」と唸るとそのまま地面にそっと戻す。

 

「俺さ、ジオラマとかミニチュアとかよく知らないんだけど、でも見てて飽きないんだよな」

「タツ兄って結構子供っぽいところあるもんね」

「はぁ? 良いか、アヤト。そういうのは自分が子供じゃないって思ってる奴がよく言うんだよ」

「いやいや、俺はタツ兄ほど子供じゃあ──」

 

 改めて作り込まれたステージに感心していると夢中になっている姿を見て何気なく放ったアヤトの言葉にからかわれたタツヤは眉尻をあげながら言い返すとそれはそれでアヤトの顰蹙を買ったのか、言い合いが勃発しそうになるなか、ふとセンサーが緊急を知らせるアラートを響き鳴らす。

 

 誘われるように見てみれば、既に横一列に並んでいたNPC機達が一斉に装備していた重火器のトリガーを引き、豪雨の如くソラーレRとルーナBに注ぎ込まれる。

 

「「あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”っ”っ”っ!!!!?」」

 

 喧嘩していたのも束の間、ソラーレRとルーナBは回避するのもままならず、それだけではなく先程まで感心していたビルの崩落に揃って巻き込まれてしまう。

 

「うわぁ……だっさー」

 

 それを端から観戦モニターで見ていたヒマリは兄達の醜態に嘆息してしまっていた。

 

「もぉーっ! タツ兄の馬鹿話に付き合ってるからっ!」

「いやいや、言い出しっぺはお前だろっ!」

 

 妹の呆れも知らず、瓦礫から状態を起こした二人は尚も口喧嘩をしてしまっている。

 だめだこりゃとヒマリがバトルの結末を予感するなか、二機のセンサーにアラートが鳴り、それと同時に再びソラーレRとルーナBに対して攻撃が仕掛けられようとしていた。

 

「危ない、アヤトっ!」

「あべっ!?」

 

 これ以上の攻撃を受ける気はない。咄嗟に隣で顔を突き合わせて喧嘩していたルーナBの顔を押し退けながらバックパックの二門のヴェスパーを放つと光り輝く二つの一線が二機のNPC機を貫き爆発させる。

 

 まだNPC機は残っている。強化ビームライフルの銃口を向けようとした瞬間、ソラーレRの真横からビームが走り、鋭い一撃がまた一機撃破する。

 

「タツ兄、思いの外、ソラーレRを使いこなせてるね」

 

 そのままメインカメラを動かしてみれば、押し退けられた影響で横たわっているもののビームライフルをさながら狙撃手のように構えているルーナBの姿があった。瞬時にヴェスパーの使用に踏み切った瞬発力など今日、本格的にガンプラバトルを始めた人間にしては上出来だ。

 

「だったらこっちも負けてらんないかな」

 

 だがガンプラバトルであればアヤトの方が一日の長がある。

 ルーナBはビームライフルを肩部の高性能センサーに接続すると瞬時にNPC機達を瞬く間に狙撃していく。機体特性としてソラーレRが中距離戦を主とするならルーナBは遠距離による狙撃戦を主とするのだろう。

 

「よし、タツ兄、援護は任せて好きに戦ってっ!」

「分かった!」

 

 先程までの喧嘩が嘘のように兄弟は短く意思疎通を交わすとグッと握ったマニピュレータ同士を打ち合わせてそれぞれの行動を起こす。一時はどうなるかと感じていたが結果、ソラーレRとルーナBの勝利で幕を閉じるのであった。

 

 ・・・

 

 セレクトMに帰ってきたタツヤ達は言われた通り買ってきた豆腐をアキに渡し、今日は三兄妹の大好きなすき焼きを食べてほくほく顔で舌鼓を打っていた。その後、閉店作業が行われるなか、厨房ではタツヤの姿があった。

 

 エプロン姿で包丁を握るタツヤの前には皮が剥かれた玉ねぎが何個か置かれており、それを手慣れた様子で0.数ミリかの極薄にスライスしていく。これはサラダやサンドイッチなど多岐に渡って使用するため、仕込みの作業ではまず欠かせない。

 

「おいおい、タツヤーっ。聞いてくれぇぃ」

「……なんだよ、父さん」

 

 用意した全ての玉ねぎをオニオンスライスに切り終えたタツヤは辛味を抜くために水で浸す。作業の一つが終わり一息ついている矢先、ハット帽子をかぶり、タツヤと同じくセレクトMのエプロンを着用した中年男性が絡んできた。

 

 彼はタツヤの言うように父親であり、このマトイ家の大黒柱でもあるマトイ・トモハルだ。

 

「新商品でなっ、杏仁珈琲を出そうと思ってんだよ! これ、試作品」

「また妙ちくりんな……。杏仁自体、好き嫌いが別れるだろうに」

「食べ物なんてそんなもんだ。何であれこういう積み重ねが大事なんだ。父さんなぁ、何れこのセレクトMをカフェの本場イタリアでも構えたいんだよっ」

「子供の頃から聞いてるよ」

 

 グイグイと子供のように瞳を輝かせて新商品の試作品を勧めてくるトモハルだが、タツヤ自体、あまり杏仁が好ましい方ではないのか顔を顰めていると「あれ、お前杏仁嫌いなの?」と首を傾げながら一口飲んで改めて自分の夢を語るも幼少期から耳に胼胝ができるほど聞いているのか、苦笑気味だ。

 

「ねーねー、タツ兄」

 

 父親と何気ない会話をしていると厨房に部屋着姿のヒマリがひょっこりと現れて、タツヤに声をかけてきた。

 

「なにか甘いの飲みたいの」

「おい、ヒマリ。こんな時間に飲んだら太るぞ」

「でも、飲みたいんだもん。ねーねー」

 

 どうやらタツヤに何か飲み物を作ってもらいたいようだ。しかし時間にしてみればもう少し経てば日付も変わる時間だ。ヒマリも年頃のため、一応注意するものの駄々っ子とまではいかないまでも我儘な子供のように背後からタツヤに抱き着いてぐらぐらと揺する。

 

「……分かった分かった。いいよな、父さん」

「ん? まあ一杯くらいならなー」

 

 観念したようにため息をついたタツヤはいまだ新商品の開発に頭を悩ませているトモハルに声をかけると父の承諾もあって、ヒマリは手放しに「やったー!」と喜んでいる。

 

「太っても泣きつくなよ」とヒマリに釘を刺しつつタツヤはアイスドリンク用のグラスにハチミツを底が浸るまでかけるとその上に熱々のコーヒーを少量をかけて、ロングスプーンでかき混ぜるとそのままアイスコーヒーを三分の一注ぎ、そこに更に牛乳を同様に注ぐと最後に氷を何個か入れる。

 

「はい、アイスハニオレ」

 

 手慣れた様子でドリンクを完成させるとそのままヒマリにカフェオレ特有の薄茶色のハニオレを渡すとヒマリは「ありがとー」と礼を口にしながら用意したストローでちゅーと一口。

 

「おいしーっ! はあぁ……ハニオレ飲むとね、アヤ兄を思い出すんだ」

「なんでまた」

「タツ兄もアヤ兄も声質も中性的って言うかね、アヤ兄はハニーボイスでタツ兄はキャラメルボイスなんだよねー。だからキャラメルマキアートとか飲むといっつもタツ兄を思い出すんだー」

「キャ、キャラメル……?」

「カラオケとか行くとさ、二人とも甘ったるくて蕩けるような声で歌うじゃん? でもくどくなくてもっと聴いてたいくらいな感じ」

 

 幸福感を表すように蕩けた顔を見せながら片付けられた客席の一角で何やらガンプラだけではなくノートを広げてペンを片手に頭を悩ませているアヤトを見やる。

 あまり自分の声を意識したことはないのか、アヤト共々甘味料に声質を例えられて何とも言えない面持ちを見せるタツヤだがヒマリはその間に飲み終えたのか、グラスを手早く洗うと「おやすみー」と礼の言葉と共に自身の部屋へ向かっていく。

 

 その後も売り上げ処理をしているアキに代わって仕込み作業をこなすタツヤだがアヤトは変わらず何か悩んでいる様子で店内にいる。その姿を横目で見ていたタツヤはチラッと近くに置いてあるサンドイッチ用に薄く切られたブレッドを見やる。

 

 ・・・

 

「よっ」

 

 いまだ頬杖をついてペン先でノートを叩いているアヤトだがふと頭上から声を掛けられる。

 そこには気さくな兄の姿があり、手に持った皿ごと向かい側に座ると邪魔にならない位置に皿に乗ったサンドイッチを置く。

 

「差し入れ。あんま根を詰めすぎるなよ」

「うん……。まあちょっとガンプラで悩んでて」

「コンテスト用のジオラマとか?」

「それもあるけど……今は違う。ソラーレとルーナのこと」

 

「父さんと母さんには内緒な」と人差し指を鼻筋に当てながら話すタツヤに「共犯だね」と微笑んだアヤトはサンドイッチを手に取って二人で食べる。キュウリとハム、レタスで彩られたハムサンドは辛子マヨネーズのアクセントも加わって中々美味しく手軽に食べられた。

 その最中、タツヤは気分転換になればと何気なく話を続けてみれば、アヤトは近くに置かれているソラーレとルーナを見やる。

 

「ソラーレとルーナは兄弟機みたいなもんなんだよ。だから二機を作る上で互換性を重要視して作ったんだ」

「へぇ……」

「ソラーレはロッソパック、ルーナはブルパック。それぞれ中距離と遠距離に対応したパックなんだけど実はこの二つは装備を入れ替えて戦う……“ビルドチェンジシステム”を採用したんだ」

「えーっと……つまりはブルをソラーレに組み込んで、逆にロッソをルーナに……って感じか。その時々の自分に合わせられるんだな」

 

 話に付き合っているタツヤだがガンプラどころかガンダムに対して詳しい知識がない為、アヤトとは少し温度差があるもののソラーレとルーナを交互に見ていると目の前でアヤトによってひょいと二機とも持ち上げられ、そのままガチャガチャとソラーレとルーナのパーツを外して取り付けていた。

 

「そういうこと。"俺色に染め上げろ"……いや、俺色に組み上げろってとこかな。とまぁここまでは良かったんだけどね。そろそろ違うパックを用意しようとは思ってるんだけど、中々案が浮かばなくて」

「コンセプトは?」

「色々浮かんでるんだけどね。パーツを買うにもお小遣いの範囲内とかそれを手掛ける俺の技量とか考えるとより複雑になってくって感じ」

 

 両腕とバックパックを取り替えた二機はそれだけなのにまた違う印象を受ける。

 とはいえアヤトとしてはまだロッソ、ブルに続くパックを作りたいのか、その為に悩みに悩んでいるらしく、そんな弟の姿にタツヤは苦笑気味だ。

 

「そうだ、タツ兄。ちょっと気分転換にガンプラバトルに付き合ってよ」

「……こんな時間にガンプラバトルは出来る場所はやってないだろ」

 

 このままでは埒が明かないと気分転換に無邪気にガンプラバトルを提案するアヤトだがもうそろそろ日付も変わる時間ということもあってタツヤは厳しく眉を顰めて渋い面持ちを見せる。

 

「ここで出来るんだよ、スマホさえありゃね」

 

 しかしタツヤのその反応も織り込み済みだったのか、「ふっふーん」とシートにもたれながら自身のスマホを見せつけてくる。

 

「スマホで通信してバトルが出来るんだよ。まあ流石に筐体を使った本格的な事は出来ないけど、慣らし運転とかちょっとした暇つぶしなんかで手軽にね」

「そんなことも出来るんだなぁ……。まあそれくらいなら」

「よしきた。じゃあ早速、ソラーレとルーナの装備を戻しって、と……」

 

 何と手持ちのスマートフォンでも簡易的ではあるもののバトルが出来るらしい。

 家で手短にやる程度ならタツヤも文句はないのか、自分のスマートフォンを取り出すとアヤトは早速、お互いに扱いやすいパックにソラーレとルーナを換装させる。

 

「……ありがと」

 

 ソラーレRをスマートフォンを操作しているタツヤの前に置き、その姿を重ねながらふと何か思うように目を細めたアヤトは静かにか細い声で感謝の言葉を口にする。

 タツヤはガンダムについて詳しくない。ただサナにしろアヤトへの対応にしろ、お人好しなのだ。今だってわざわざガンプラバトルに付き合う理由も自分の為にわざわざサンドイッチを作る理由もないはずだ。そんな兄の存在を改めて感じて自然に出た感謝だった。

 

「なにか言ったか?」

「うぅん。それじゃあスタート、ってことで!」

 

 とはいえあまりにか細い声だったため、タツヤには何か話したのは認識できても何の言葉だったのかまでは分からなかったようだ。聞き返すタツヤに首を横に振ったアヤトは誤魔化すようにバトルをはじめ、結局二人はアキに怒られるまでバトルをしてしまうのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ビルドチェンジ

 朝日が少しずつ昇り、 東の空が紅黄色に染まるなか、マトイ家の一室、その部屋の主はむくりと起き上がり、まだ覚醒しきれていない頭でスマートフォンの時間を確認するとまだ体温が残る心地の良いベッドから降りて洗面所へ向かう。

 

 蛇口を捻り、ぬるま湯に温度調節するとそのままパシャッと顔を洗い、タオルで拭う。この家で行動を起こしているのは自分だけだろう。手早く動きやすい服装に着替えて靴を履いて家を出て親しんだランニングコースに繰り出す。さあ、この瞬間からマトイ・タツヤの新しい一日の始まりだ。

 

 それから時間にして30分ほどであろうか。長年続けているランニングコースを終えてタツヤがセレクトMであり、実家であるマトイ家に帰ってきた。ランニングだけあって肌はじんわりと汗ばんでおり、頬もわずかに紅潮していて呼吸も僅かに乱れている。服の裾で軽くむず痒い鼻先の汗を拭ったタツヤはそのままシャワーを浴びに行く。

 

「おかえりー」

 

 シャワーで汗を流し終えたタツヤは手早く髪をポニーテールに纏めるとワイシャツとズボンを着用し、ネクタイを締めながらセレクトMの店内に顔を出す。するとそこには既に両親が開店への向けての準備を進めており、レジに入金していたアキがタツヤに声をかける。

 

「タツヤ、今日はどっちだ?」

「んー……バター」

 

 厨房にいるトモハルが縦に半分にカットされたモーニング用の3cmほど厚みのある食パンを片手に問いかけるとトモハルの近くにあるバターとイチゴジャムを一瞥し、今日の気分で答えると「あいよ」と手慣れた様子でコンベアトースターに流す。

 

「おはよぉ……」

 

 すると今度は寝間着姿のままのヒマリが眠い目を擦ってやってきた。

 まだ完全に目覚めてはいないようで力のないふんわりとした様子であくび交じりに挨拶してきた。

 

「ほら、ヒマリ。早く顔洗ってこい、いつも以上に覇気がないぞ」

「……タツ兄達と一緒に学校に行けるって思ったら眠れなくて……」

「……遊びに行くわけじゃないんだ。入学式はもう終わったんだから学生の本分をだな」

「わかってるよぉ……。顔洗ってくる……」

 

 普段に比べて眠たそうに重い動きをしているヒマリだが、入学式を終え、今日から始業式ということもあって兄達二人と通学出来ることが嬉しいようで少々夜更かししてしまったようだ。その事で口うるさく説教を始めようとする長男をあしらいながら洗面所へ向かっていく。

 

「……」

「嬉しそうね」

「……まあ、ヒマリは高校生活を楽しみにしてたからな」

「いや、アンタが」

「……はぁあ!?」

 

 ヒマリの姿を見送っていると不意にアキが隣に立って声をかける。

 あんな理由で夜更かしをした妹にやれやれと言わんばかりに肩を竦めるタツヤだが、本人は自覚していなかったのだろう。頬が緩んでいる顔を指しながら何を言ってるんだとばかりにサラッと言われた為に途端に顔を真っ赤にして狼狽えている。

 

「ほらほら、さっさとアヤトを起こしに行って」

 

 何か弁明をしようと言い訳を考えて口をあわあわとさせているタツヤの背中を微笑みながら押す。そう、いまだにアヤトは姿を見せていないのだ。いまだ気恥ずかしさはあるのだろう。精一杯の照れ隠しで真っ赤に染めた頬のまま顔を顰めたタツヤはアヤトの部屋へ向かう。

 

 ・・・

 

「……」

「おー、起きてたか。おはよう」

 

 アヤトの部屋に向かってみれば、既に彼は起きておりベッドから降りてはいないものの上体を起こしてはいた。しかしタツヤが顔を見せてはいるもののアヤトはボーっとしたまま心ここにあらずと言った様子だ。

 

「時間がないんだ。早く制服に──」

「……うるせェ」

「相変わらず寝起き悪いな!?」

 

 ハンガーにかけられた制服を差し出すタツヤだが焦点の合わない目のまま舌打ち交じりで開口一番に言われた言葉に即座にツッコミを入れる。低血圧が関係しているのか、寝起きのアヤトの態度はいつも悪い。

 

 とはいえアヤト自身、このままではいけないことくらいは分かっているのだろう。もぞもぞとした動きでタツヤから制服を受け取ると着替え始める。

 

 ・・・

 

「アヤトとヒマリはどっちが良い?」

「私、ジャム」

「……タツ兄はバターだって」

「俺の食べながら言うなっ」

 

 身支度も整えた三兄妹が続々と揃う中、トモハルは例によって残り二人にも問いかけるとヒマリは希望を口にするなか、アヤトはタツヤに用意されていたパンを頬張りながら塗られていたのがバターだった為、そのまま言うと即座にツッコミが入る。

 

「「「いってきまーす」」」

「「いってらっしゃーい」」

 

 ドタバタとするなか、登校時間を迎えた三兄妹は両親に声をかけ、見送りを受けながら家を出るのであった。

 

 ・・・

 

「──それでは奏海高校、始業式を終えまして。有志クラブによる部活紹介を始めます」

 

 始業式、全校生徒が集まり、粛々と進められていくなか、司会となる教師が次のプログラムに移す。すると今まで静かに、中には退屈そうに聞いていた生徒達も表情に活気が宿っていく。

 

「おっ、メインイベントだな。第2部活はどうするかなー? なあ、タツヤはどうする?」

「メインイベント? なにかあったか?」

「新年度の始業式のお楽しみだろ。各クラブが部員獲得のために繰り広げるド派手なアピール合戦だよ」

 

 にわかにざわついているなか、ふと同級生の一人が何気なく聞いていたタツヤに声をかけると、タツヤ自身は特に何も思っていなかったのか、寧ろなんでこんなに色めき立つ理由を聞き返せばどうやら部活紹介においてどれだけのアピールが行えるかをみんな注目しているらしい。

 

「タツヤは部活に入ってなかったろ? この機会にどうだ? お前割と何でもこなせるし」

「……俺は家のこともあるから」

「あー……お前の家、一時期大変だったらしいな」

 

 同級生の勧めに複雑そうな表情で目を逸らすタツヤ。タツヤは普段からセレクトMの手伝いをしていることは同級生達は知っているのだろう。その反応に何か思い当たる節があるのか、話しかけた同級生は苦笑している。

 

「……」

 

 その話を近くで聞いていたのはアヤトだった。彼自身、思うことがあるのだろう。タツヤの顔を横目に心なしかその表情は暗くなっている。

 

「──どうもー、明るく楽しくがモットーのガンプラ部ですっ」

 

 そんな矢先のことであった。ふと壇上に以前知り合ったサナが現れ、タツヤもアヤトも関心がそちらに向く。最もアヤトは相変わらず苦い顔なのだが。

 

「紹介するのは私、2年のミヤマ・サナと──」

「同じく2年。アイゼン・トウマです」

 

 今回はサナだけではなかった。その隣には額縁のメガネをかけたベージュ色のマッシュヘアの青年の姿もある。自己紹介の通り、彼がゲリラバトル大会において本来、サナとペアを組む存在だったのだろう。

 

「キャーッ! アイゼンくーんっ!」

 

 トウマが声を発するや否や途端に女子生徒を中心に黄色い声が沸き起こる。とはいえ、彼の整った容姿を考えればモテるのは容易に想像が出来るがここまで歓声が沸き起こるものなのか?

 

「流石、1年で全国大会に出た有名人だな」

「あのサナちゃんって子も可愛いし、普通なら入部希望が殺到するだろうにな」

(“普通”なら……?)

 

 そう考えていたタツヤだがどうやらトウマはルックスだけではなく、輝かしい功績も残しているらしい。ふと近くで話していた生徒の話を耳に挟んだタツヤだがその言葉に引っ掛かりを感じてしまう。

 

「ガンプラ部の活動のメインになるバトルの実演をしたいのですが、誰か手伝ってくれる人っ!」

 

 トウマが学校による備品として購入されたシミュレーターを用意するなか、サナが元気よく手を上げながら生徒たちに求める。しかしその結果は乏しくなく誰からも手が上がらない。

 

「あれ、手が上がらない。困ったな……。これじゃあ実演出来ないので、こちらから指名してもいいですか?」

「……いやバトルの実演なら二人でそのままどうにかなるだろ」

「マトイ・タツヤ! 壇上へお願いします!」

「いや、だから……」

「壇 上 へ お 願 い し ま す !」

 

 ここまでは予定調和なのだろう。しかし話が進みにつれ、タツヤは悪寒を感じていると早速指名を受ける。お陰で衆目を集める結果となり、うんざりとした顔を見せるなか、半ば強引に壇上へ誘われてしまう。

 

「……嫌な予感がするなぁ。おい、アヤト。行くぞ」

「はあ!? 何で俺まで……!」

「俺はガンプラ持ってないんだから仕方ないだろ。悪いけどなんかあった時の為にサポートしてくれ」

 

 悪乗りも加速して同級生達から背中を押されるなか、タツヤは重い溜息をつきながら我関せずと知らん顔をしていたアヤトの腕を掴むと道連れとばかりに壇上に連れていく。

 

「二人とも凄い可愛いなぁ。さっきすれ違った時いい匂いしたぞ」

「でも、あの制服からしてどっちも男だろ」

「いやもしくはアニメキャラみたいに男装してる線もあるぞ。それに男なら男でそれはそれで美味しいって!」

 

 壇上では腹を括ったタツヤと彼に手を引かれたままうんざりしているアヤトに注目が集まっている。どうやらその容姿はどうも余計に一目を引き付けるらしい。

 

「マトイ・タツヤ……だな。サナから話は聞いている。サプライズですまないが手合わせ願う。アヤトも……ここに来るとは思わなかった」

「……いや別に」

 

 もしかすれば顔を合わせているかもしれないがこうして面識を持ったうえでは初めてだろう。トウマが率先して非礼を詫びつつバトルを求めると隣にいるアヤトを見やる。先程までうんざりしていたアヤトも今となって気まずそうに視線を逸らしていた。

 

「……こうなったら仕方ない。タツ兄、行くよ」

「その気になったな。よし!」

「けど今回は1on1のバトルだから俺はルーナで参加は出来ない。あくまでサポートだよ」

 

 アヤトもこのままにしても仕方ないとは思ったのだろう。タツヤ同様に腹を括るとタツヤも満足そうに頷く。しかし今回はトウマとの一騎打ちのため、ソラーレとルーナとのコンビは組めないらしい。

 

「セコンド式でやろうと思う。操縦によるメインのファイターを据え、それをサポートする感じだね。大体はモビルアーマーやスケールの大きいガンプラとか一人だと手に余るガンプラを使う場合に最大三人までで採用されるんだけど、タツ兄はまだガンプラバトルどころかガンダムを知らないし、流石に身内に赤っ恥はかけさせたくない。トウマもそれで良いよね」

「勿論だ。無理を言っているのはこちらだからな」

 

 どうやら僚機としてではなく、操縦面のサポートを行ってくれるようだ。タツヤにどのようなサポートかを説明した後にトウマに了承を求めるとトウマ自身、悪いとは思っているのか頷いてくれた。

 

「トウマのガンプラはバスターガンダムをベースにしたカイゼル・バスターだ。中距離をメインしているガンプラだから同じ距離をメインにするロッソだと経験の差が露骨に出る可能性がある」

「ってなると、ブルになるのか?」

「うん、だからこそ俺がいるんだ。こうなった以上、ちゃんとサポートするよ」

 

 ガンプラ部だっただけあってトウマのガンプラの特性を理解しているのだろう。ソラーレのパックをブルに選択しながらアヤトは笑いかける。どちらかと言えばアヤトはロッソよりもブルに適正がある。そんな彼のサポートを受けられるならまだ良いだろう。

 

「タツ兄ーっ! アヤ兄ーっ! 頑張ってーっ!」

「……聞こえたな、アヤト」

「うん、あんなに妹が応援してくれてるんだから無様には終われないよ」

「よし、いつも奴、あの言葉でやるかっ」

「えっ? あぁ、あれか。気に入ったんだね」

 

 換装を終え、バトルへの準備が進んでいくなか不意に二人の耳に活発な妹の声が届く。見てみれば視線に気付き、ぴょんぴょんと飛びながら大きく手を振っているヒマリの姿が見え、あの期待に絶対に応えるんだと二人は頷き合う。

 

「「俺色に組み上げろ、ガンプラ!」」

 

 ゲリラバトル大会同様、両手をリズミカルに交差するよう打ち鳴らしながら最後にグッと拳を打ち合わせた二人はバトルに臨む。妹の声援を受け、二人ともやる気に漲っていた。

 

「それじゃあカタパルトを抜けてバトル開始。タツ兄、あの言葉で出撃だ」

「あの言葉?」

「アムロ、行きまーすとかガンダム知らないタツ兄も聞いたことぐらいあるでしょ?」

「言うわけないだろ、恥ずかしい」

「俺色に組み上げろとか言っておいて!?」

 

 いよいよ出撃画面に切り替わった。アヤトが所謂、お約束を求めるなか、その気はなかったタツヤはアヤトのツッコミを受けながら共にソラーレ・ブルで出撃するのであった。




ガンダムソラーレ・ブル

WEAPON ビームライフル(ライトニングガンダム)
WEAPON ビームサーベル
HEAD ビルドストライクガンダム
BODY ビルドストライクガンダム
ARMS ライトニングガンダム
LEGS ビルドストライクガンダム
BACKPACK フォースインパルスガンダム
SHIELD 機動防盾
AIPILOT コウ・ウラキ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

聖剣、兄弟と共に

「サナの話では見込みがあるとの事だが果たしてどれ程のものか」

 

 バトルフィールドとなったのは建造物が立ち並ぶ市街地ステージであった。大きな一本道から街路樹のように設置されたビル群を抜け、現れたのはバスターガンダムをベースにジェスタ・キャノンのパーツを組み込んだカイゼル・バスターだ。

 

 操るは勿論、作成者でもあるトウマであり、周囲を索敵しつつ相手の出方を伺う。ゲリラバトル大会を優勝しただけあってサナはタツヤを高評価していた。確かに結果は残っているし、サナやその辺のファイターを捕まえただけでは優勝までは出来ないだろう。しかしそれを直で見ているわけではない。

 

 俗に言う上から目線という奴か。そう考えると傲慢に感じてしまう自分がいる。しかしマトイ・タツヤがどれだけの実力の持ち主であるのかは自分が直に正当に見極めたいの。……それだけガンプラ部は切迫した状況なのだから。

 

「……来たな」

 

 一瞬の思考の波が過ぎたのと同時にアラートが響く。センサーが指し示す方向を確認してみれば、そこには太陽を背に轟音と共に地面に降り立ったガンダムソラーレ・ブルの姿があるではないか。

 

「隅々までディテールアップが施されたガンプラ。流石、アヤトが作成したといったところか……。ガンプラ部に顔を出さなくなったのが惜しい程の逸材だったな」

 

 全国大会にまで進出しただけあって相対するトウマはソラーレBの細部まで拘った完成度を一目で見抜いたのだろう。そしてそれを作成したであろうアヤトに対しても口惜しさを滲ませる。

 

「良い、タツ兄。バトルに重要なのは地形も利用することだ。市街地ステージはその名の通り建造物が建ち並んでる。障害が多くて射撃の妨げになるけど逆に言えば相手の攻撃だって防げるんだ」

「見た感じ、射撃寄りって感じだな。上手く立ち回れれば……ッ」

 

 そんなアヤトは市街地ステージの特性を説明する。確かにところ狭しと建ち並ぶ建造物の数々は上手く立ち回れるのであればバトルを優位に運べるだろう。

 素人のタツヤから見てもカイゼル・バスターは中距離から遠距離にかけての射撃機。この建造物の数々を利用できるのであれば少しはまともに戦えるだろう。

 

 その矢先のことであった。カイゼル・バスターがビームライフルの銃口を向け、一瞬の間を置いた後、その引き金を引いたのだ。

 

 一閃。ビームが宙を走るなか、ずぐさまソラーレBは機体を翻してビルの影に隠れる。

 今の一瞬でトウマの実力を垣間見た。彼の射撃には隙がない。今、回避が成功したのも彼がそう出来るように一瞬の隙を作ってくれたことに他ならなかった。

 

 その後もビルを死角に銃撃戦を繰り広げるソラーレBとカイゼル・バスター。

 ある程度、トウマが気を遣っているのとタツヤとアヤトのコンビのお陰で目立った損傷もなくバトルは続いている。それがただのバトルならば良い。しかしこれは違うのだ。

 

(アヤトのサポートがあるとはいえ、確かにセンスはあるようだ。しかし……)

 

 そう、今、このバトルのきっかけは人を惹きつける程の魅力が必須の部活紹介だ。

 このままただ物陰に隠れての撃ち合いでは地味な印象を残したまま終わってしまう。

 

「意地悪をさせてもらうッ!」

 

 それではいけない。目を細めたトウマは素早くコンソールを叩き、カイゼル・バスターの両肩に装備されるミサイルポッドと両腰のハンド・グレネードを同時に発射すると一目散にソラーレBが隠れるビルに飛び込んでいく。激しい爆発と轟音によってビルが崩れていくなか、立ち上る爆炎を飛び出してソラーレBが空へ舞い上がった。

 

「──ッ!」

 

 ここでタツヤとアヤトが息を吞む。

 何とカイゼル・バスターは既に周りこんでビームサーベルを振りかぶっていたのだ。カイゼル・バスターは機動力に特化したガンプラではない。ではなぜ、こんな真似ができたのか。それは至極単純。トウマがソラーレBの行動を先読みしていたに過ぎなかった。

 

 しかしそれはタツヤにとって動揺に繋がり、咄嗟に回避しようとするものの間に合わず、ビームライフルを両断されそのままタックルを受けて地面に叩きつけられる。

 

「人目を惹くのであれば……斬り合いだろうッ」

 

 タツヤは素人であると考えれば高度な技術戦は期待できない。であれば至近距離での斬り合い。それがパフォーマンスのような派手なバトルを考慮した上での選択だった。

 

「来るよ、タツ兄ぃっ!」

「分かってるッ!」

 

 向かってくるカイゼル・バスターに瞬時にソラーレBはビームサーベルを二本抜いて、二刀流で構えると真正面から向かっていく。タツヤはどちらかと言えば遠距離戦よりも近接戦の方が自信があった。トウマの意図は気づけないまでもこの状況はまだ喜ばしいことだった。

 

(まだ太刀筋は粗雑……ッ)

 

 カイゼル・バスターと幾度も切り結ぶ。確かに先が楽しみなファイターではあるがまだそれでも今のタツヤの行動はトウマには手に取るように分かる。だから真正面から斬り合っていたとしてもすぐに背後を取ることが出来てしまった。

 

(タイムアップまでもう少し。だがそこまで待つ気はないッ)

 

 チラリと時間を確認してみればもう制限時間が迫っていた。とはいえ引き分けにするまで手を抜く気はない。これで終わらせるとビームサーベルをコックピット目掛けて突き刺そうとした。

 

「ッ!?」

 

 ──瞬間。背後を取られていたソラーレBは順手で持っていたビームサーベルを即座に逆手に切り替えて、そのまま背後のカイゼル・バスターを逆に突き刺そうとしたではないか。

 この一瞬の動作、素人では出来ない。これは単純にタツヤのセンスによるものだろう。彼は類まれなるバトルのセンスがある。トウマはそう感じずにはいられなかった。しかしそれでやられたりはしない。大きく後方へ飛び退いてビームサーベルを避ける。

 

「タツ兄、EXアクションだ!」

「EXアクション……?」

 

 アヤトも同様に驚いてはいたもののすぐに思考を切り替え、タツヤに指示を出す。しかしいまだ詳しくないタツヤは顔を顰める。

 

「所謂、必殺技みたいなもんだよ。特定の武器を出現させたり、システムを作動させたり。ブルに使っているフォースシルエットのEXアクションはエクスカリバーだッ! 使ってみて!」

 

 アヤトの説明のまま操作盤を見てみれば、確かにEXアクションはあった。どうやらEXアクションはバトル開始してから一定時間経過しないと使えないようで、逆に言えばそれだけのラグが必要なほど強力なものなのだろうとすぐさま選択する。

 

「ん……?」

 

 するとソラーレBのはるか後方でキラリと輝く。それに気づいたタツヤがモニターを確認すれば、視線を引く二本のソラーレBの全長を越えるほどの対艦刀を装備した飛行機・ソードシルエットフライヤーが接近してきていた。

 

「させんッ!」

 

 それが何の行動を起こすか、勿論ガンダム作品に精通しているトウマにはすぐに分かった。だからこそビームライフルを向けるが同時にソードシルエットフライヤーはパックから一本の対艦刀……MMI-710 エクスカリバー レーザー対艦刀を切り離す。

 

 ビームライフルの引き金が引かれ、一筋のビームがソラーレBに向かっていく中、両者の間を裂いてビームを打ち消す。地面に堂々と突き刺さり、ビームを真正面から弾いたその姿はかの聖剣の名を持つに相応しい勇ましさだった。

 

「なあ、何かあの飛行機……落とし物していったぞ」

「いや拾えよッ! 颯爽と現れて届け物をしてくれたソードシルエットフライヤーさんの気持ちにもなれッ!」

 

 当のソラーレB……というか、タツヤはエクスカリバーを指しながら首を傾げており、すぐさまアヤトの怒号に似たツッコミが入る。流石にそこまで言われてたら仕方ないと思ったのか、ソラーレBは地面に突き刺さったエクスカリバーを引き抜くとその刀身にビームが走り、レーザ対艦刀の機能を見せ、タツヤを「おぉっ」と感心させる。

 

「よっし、行くかッ」

 

 戦意が燃えたのだろう。エクスカリバーを大きく一振りしたソラーレBは真っ直ぐカイゼル・バスターに向かっていく。咄嗟にカイゼル・バスターはその武装を駆使して接近を阻止しようとするのだが、ソラーレBはエクスカリバーで時に切り払い、時に盾代りに利用して接近するではないか。

 

「しまっ──!?」

 

 ならば距離を置こうと後方へ下がろうとするトウマだがソラーレBは腕部のビームバルカンをすぐに発射する。カイゼル・バスターの横を掠めたビーム弾は高架を破壊し、崩落させ後方へ下がろうとするカイゼル・バスターの動きを一瞬でも遮った。

 

(しかし、バーニアが限界の筈……。それ以上はッ)

 

 知らず知らずトウマはバトルに本腰を入れていた。ソラーレBは接近する都合上、全てのバーニアを稼働させている。しかしそれには残量があり、もう間もなくそれも尽きるだろう。

 

 そして案の定、バーニアは弱々しくなり勢いも衰えていく。バーニアが尽きた時、それがソラーレBの最後だと判断するトウマはソラーレBに照準を確実に合わせる。

 

「もっと強くッ!」

「ああ。羽ばたく為にッ」

 

 無我夢中に見えてタツヤもバーニアの残量は把握していた。だがそれでも尚近づいていたのだ。それは後少しでカイゼル・バスターに届く距離になるからだ。しかしバーニアは弱々しくなり、やがて距離は僅かに開いていく。しかしそれでタツヤ、そしてアヤトの戦意は衰えない。

 

 するとソラーレBはシールドを自身の前方に投擲して突き刺した。誰しもがその行動の意図が読めず、眉を顰めて困惑するなか、最後の力を振り絞ってシールドに近づいたソラーレBはシールドの上部を足場に、強く蹴って反動を利用することでもう一度、飛んだのだ。

 

「「いっけえええええええぇぇぇぇぇーーーーーぇぇぇええっっっ!!!!!」」

 

 タツヤの声が、アヤトの声が重なり合う。太陽を背に聖剣を振り上げた勇者達は共鳴した。その瞬間、どんな戦いでも乗り越えられそうな高揚感が生まれる。

 

 上段から振り下ろしたエクスカリバーはカイゼル・バスターの右腕をバッサリと切り落とし、ソラーレBは目前に降り立つ。

 

 完全に間合いに飛び込んだ。タツヤが目を刃の如く鋭く細め、トウマが息を呑むなか、ソラーレBはエクスカリバーをコックピット目掛けて突き刺そうとし、カイゼル・バスターはシールドを構える。

 

 誰しもが固唾を飲んで見守るなか、それ以上、お互いの行動が起きることはなかった。

 何故ならば両機とも時間が停止したかのように静止している。

 タツヤ、アヤト、そしてトウマが乱れた呼吸を整えながら視線を向ければ制限時間を過ぎ、タイムアップとなっていたのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガンプラ部にようこそ

「素晴らしいバトルをありがとうございましたっ!」

 

 ソラーレBとカイゼル・バスターによる1on1は引き分けという形で幕を閉じた。しかしその過程は全国大会経験者と素人によるアピールをかねた拙さのあるバトルかと思いきや中々見所のあるバトルであった。

 

「見事に戦い抜いたマトイ・タツヤは入部テスト合格ですっ」

「「は?」」

「皆さん、新入部員に拍手をお願いします!」

 

 するとここで予期せぬ言葉がサナの口から放たれ、壇上の兄弟は固まってしまう。

 充実感のあるバトルだったことはタツヤのみならず最初は乗り気ではなかったアヤトでさえ感じていた。

 とはいえだ。それがタツヤの入部に繋がるかはまた別問題だ。しかしそんかツッコミを入れるよりも前にサナが全校生徒に呼び掛けると拍手と共に口々に祝福の声が届く。

 

「……やられたね。タツ兄」

「……こういうやり方は好きじゃないなぁ」

 

 状況を理解した兄弟の重い溜息が虚しく零れる。

 衆人環視の中、誘いに乗った時点でこうするつもりだったのだろう。しかしこんな事をされるくらいなら端から素直に勧誘された方がまだ良い。サナとの初バトルもそうだがあまりこういう事をされるのは好きではないのだろう。露骨な怒りこそ見せないもののタツヤは眉を顰めて雰囲気も僅かに重さを感じる。

 

「……無茶な勧誘をしてすまない。サナに代わって俺から謝罪する」

「いやいや、こんなところで止めてくれよ!」

 

 そんなタツヤにすぐに気づいたのだろう。

 トウマがすかさず謝罪の言葉を口にして頭を下げるとそこまでしてもらうつもりはなかったのだろう。すぐに頭を上げるように頼む。

 

「私も悪かったと思ってるって! でもどうしてもガンプラ部にタツヤが欲しかったんだもん!」

 

 すると流石に当人も思うところがあったのか、サナもすぐにバツの悪そうな顔を見せながらもそれでもタツヤをガンプラ部へ引き入れたい熱意を見せる。それはまるで後がないとばかりに必死な様子だった。

 

「随分見込まれたな。……いや、それも道理か。確かに君の腕は未来を予感させるものだった」

「流石に気を遣ってくれてただろう? でなきゃアヤトのサポートがあったとしても俺が全国大会出場者にあそこまで食いつけないって」

「確かに手加減をしたが君を舐めていたわけではない。バトルのセンス、そして何より君の性分、その真っ直ぐさも相まって光るものがある」

 

 こんなサナも珍しいのだろう。僅かに驚いた様子を見せながら、それでも納得したように先ほどのバトルを思い出し、評価すると当のタツヤは苦笑している。それもそうだろう。全国大会出場者にタイムアップまで粘れたのだ。サポートがあったとはいえ素人の腕ではまず出来過ぎた結果だ。

 しかしその上でタツヤの才能と性格を顧みて評価しているようでその柔らかに微笑むトウマにこそばゆそうに頬を掻いて視線を逸らしてしまっている。

 

「でしょでしょ! タツヤはガンプラ部の救世主にだってなれる!」

 

 トウマの評価を自分の事のように頷きながらタツヤに駆け寄ったサナはそのまま彼の両手を包むように取るとグイグイと熱心に話す。その真っ直ぐさとタツヤに向ける期待と情熱はお世辞などではなく純粋にそう思っているのはすぐに感じ取れた。

 

「……分かったよ。少しガンプラバトルに興味が出てきたし」

「……タツ兄、本当に良いの? いつものお人好しなら止めなよ。タツ兄の時間はタツ兄だけのものだし」

「大丈夫、部活に入るだけならタダだ。部活に興味があったのは事実だし、店の手伝いだってこれまで通りする。なにも変わらないさ」

 

 情熱にあふれたサナの瞳をしばらく見て、それが本物だと感じたタツヤは自分の意思でガンプラ部への入部を決断するとサナは両手上げて文字通り手放しで喜んでいる。

 その姿に苦笑していたタツヤだが、ふと制服の裾を引っ張られ、顔を向ければそこにはアヤトがいまだに納得していないのか眉を顰めたままタツヤを気遣う。

 とはいえ自分に合わなければ退部すればいいだけの話であり、これまでの自分のルーティンも崩すつもりはないとアヤトを安心させるように微笑む。

 

「ありがとな、アヤト。心配してくれて」

「……別にそんなんじゃないけど」

 

 不器用ながらも自分を案じてくれているアヤトを少しでも安心させるようにその頭を撫でると照れくさそうにその手を払いながらそっぽを向く。しかしタツヤからすればその姿さえ可愛らしいのかニコニコ顔だ。

 

「心強い仲間が出来て嬉しいよ。改めましてアイゼン・トウマだ。共に歩む者として、よろしく頼む」

「こちらこそマトイ・タツヤだ。初心者ではあるが追いつけるように頑張るよ」

 

 正式にタツヤが了承した事で安心したようにトウマが改めて自己紹介をしながら握手を求めると、快く応えながら二人は笑みを交わす。

 

「よし、一位指名をゲットできたところで実演の続きです! 次は二人一組のバトルを手伝ってくれる人っ!」

 

 話も纏まったところでまだ部活紹介の時間はある。続いての実演に移ろうとサナが生徒たちに呼びかけると先程のタツヤとトウマのバトルに触発されたのか、チラホラと手が上がるのが見受けられる。

 

「お、今度は何人か手を挙げてくれてますね! それでは全員に手伝ってもらいましょう! 壇上へどうぞ!」

 

 勢いづいて来たのを肌で感じながらサナは呼びかけると挙手をしてくれた生徒達はぞろぞろと壇上へと向かっていく。

 

「タツヤ、ガンプラ部員としての初仕事を頼めるか。サナと組んで彼らと戦ってもらいたい。月末の大会に向けてタツヤとサナには少しでも多くの経験を積んでもらいたいんだ」

「もう大会か。結構、忙しいなぁ」

「さあ、お喋りはこの辺にしておこう。魅せてくれ、君のバトルを」

 

 バトルのセッティングが進むなか、成り行きを見ていたタツヤにトウマがサナと組んでのバトルをけしかける。

 それには月末の大会を考えてのトウマなりの考えがあるようだ。しかし入部してまさにもう月末に大会があるなんて思ってはいなかったようでどこかげんなりした様子のタツヤに苦笑しながらその背中を押すとタツヤはサナに話しかけ、そのまま二人でバトルに臨むのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

兄弟の絆

「今のが最後の協力者のようですね。それでは、これでガンプラ部の部活紹介を終わります」

「入部希望者は放課後、ガンプラ部の部室まで! よろしくです」

 

 タツヤとトウマのバトルを切っ掛けに協力者を呼び掛けて参加型にした部活紹介は勢いを乗せたまま終え、トウマはサナと共にガンプラ部の紹介を締めつつ手伝ってくれた全ての生徒に感謝を伝える。

 

「あ、最後にひとつ」

 

 これはタツヤに続いて新たな部員も入部してくれるかもしれない。手応えを感じていたサナだったが不意に隣のトウマがピッと手を挙げ、眼鏡の位置を正しながら……。

 

「求めているのは本気で全国を目指して共に戦ってくれる人だけなので、悪しからず」

 

 半ば突き放すようにそう言い放ったのだ。

 これには先程まで何気なく聞いていた生徒の中の何人かは眉を潜めてしまっている。

 

「はい、ガンプラ部の皆さん、ありがとう。続きましては──」

 

 これにはサナとしても予想外だったのだろう。

 部員の獲得を目的だったからだ。思わずトウマに詰め寄ろうとするものの司会の教師の進行によって叶わず、タツヤ、アヤト、トウマ、サナの四人は舞台袖へ向かっていく。

 

「ちょっとトウマ。あんなにハードル上げちゃったら誰も来てくれないよ?」

 

 続いて次の部活紹介が始まるなか、舞台袖に掃けたサナは先程のトウマの発言を咎めるように口を開く。

 ここは勧誘の為の部活紹介の場だ。部員が増えることこそ喜ばしいが、先程のトウマの発言ではそれが遠のいてしまうと思ったからだ。

 

「その時はその時だ。去年の二の舞よりはずっといい。それにもう既に十分な収穫があっただろ」

「まぁ、全体的に盛り上がってたし最後の方で参加してくれた生徒達が来てくれるなら……」

「そうじゃない」

 

 とはいえ、トウマは特に気にした様子はなく、彼は彼なりに強い手応えを感じているようだ。

 ガンプラ部の部活紹介は生徒たちの反応からしても上々であろう。最終的には我も我もとバトルに名乗り出て参加してくれる生徒達もいたぐらいだ。

 あれをきっかけに彼らが入部してくれるなら結果も万々歳だろうと考えていたタツヤだが目の前にいたトウマはキッパリと否定してタツヤを見据える。

 

「遊び気分の百人よりずっと価値のある一人が入部してくれたんだから」

「んー……まあ、それもそっか。タツヤがいてくれたら何とかなるよね。もっと言えばアヤトもいれば敵なしだけど……」

 

 それこそ途中で参加してくれた生徒達全員が入部するよりもタツヤの入部の方が価値があると考えていたのだ。

 それに関してはサナも意見が同じなのか、少しずつ納得した様子を見せながらタツヤの隣にいるアヤトを一瞥する。

 タツヤは確かにそのセンスは素晴らしいモノを持っている。だがそれはアヤトの完成度の高いガンプラと共にカッチリとした相性の元に発揮されるのだ。

 

「随分と期待されちゃったな……。ところで、去年の二の舞って?」

「……聞いたって面白い話じゃないよ」

 

 最も当のアヤトはサナの視線から逃げるように顔を逸らしてしまっているわけだが。

 そんな弟の隣で自分にかかっている期待の大きさに苦笑しながらふと何気なく先程のトウマの言葉について触れる。一年の頃は学業と店の手伝いに専念していた為、部活に関する情報を得ていなかったせいもあってアヤトが所属するガンプラ部で何があったのか知らなかったのだ。

 しかしその事について触れたくないと言わんばかりのアヤトの言葉と共に周囲を見てみれば去年もガンプラ部に所属していた面々の表情はどこか暗いものだった。

 

「タツ兄、アヤ兄ーっ! 恰好良かったよーっ!」

 

 どこか暗い雰囲気のままサナ達と共に自分達がいた二年の場所へ戻ろうとするなか、一年の方から聞き覚えのある溌溂な声が聞こえてくる。タツヤとアヤトが顔を見合わせて思わず笑みを交わすなか、ヒマリはぴょんぴょんと二人の兄に感激の言葉を送っていた。

 

 ・・・

 

 一波乱の部活紹介から放課後。学生達が思い思いの行動を起こすなか、体を伸ばし軽くほぐしたタツヤは起き上がって鞄を手に取って帰り支度を始める。

 

「やっほー、迎えに来たよっ。さあ、ガンプラのデータ持って部室にGO……って、何で帰る気満々なの!?」

 

 そんな矢先、別クラスのサナとトウマの二人がタツヤのもとへやって来たではないか。二人ともこのままタツヤとガンプラ部に向かおうとしているのだろう。しかし今まさに帰ろうとしているタツヤにサナは目を丸くさせる。

 

「あー……ごめんな。俺の家、喫茶店でたまに店の手伝いしてるんだ」

「そうなんだ……。でも今日じゃなくても……」

「本当にごめんな! 今日はアレだけど今後は都合を合わせられるようにするから!」

 

 ガンプラ部への入部は決めたもののタツヤにはタツヤなりの予定があるのだろう。サナもそれは理解しているのか、強くは言えないものの引き留めようとするがパンと手を合わせたまま申し訳なさそうにタツヤは急いで教室を後にしてしまう。

 

「……残念だけど今日は仕方ないか。無理な勧誘をしちゃったしね」

「そうだな。それにタツヤも今後は都合を合わせてくれると言っていたんだ。今日は諦めるとしよう」

 

 半ば強引な入部に関してタツヤに負い目を感じる部分はあるのだろう。サナとトウマは諦めて二人で部室へ向かおうとするなか、ふとサナが足を止めて一人の生徒を見やる。

 

「アヤトは良いの?」

「……」

「あっ、もしかして部活に顔を出さなくなったのってお家の都合もあったり……」

 

 そう、タツヤが慌てて帰ったのとは対照的にアヤトはマイペースに帰り支度を進めているのだ。店の手伝いの為に帰ったタツヤもアヤトを気にした様子もないため、ふと何気なく気になったサナは声をかけるもアヤトは特に反応する事なく、サナはサナで一人で何を思ったのか話を進めてしまっている。

 

『……タツ兄……。その……俺も店、手伝うよ』

 

 家の都合、その言葉にアヤトの脳裏には過去の出来事が過る。自分にとってもよく覚えている、自分が、家を取り巻く環境があまりにも酷かった時期の話だ。

 

『大丈夫だ。兄ちゃんに任せろ』

 

【挿絵表示】

 

 あの頃の自分はせめてと思って目の前で一人、絆創膏を巻いた指で仕込み作業を行っているタツヤに言ったのだ。しかし振り返って返ってきたのは儚いまでの優しい笑顔だった。その笑顔はまさに自分を安心させるためのものであることは双子の弟であるアヤトが誰よりも理解していた。

 

「……そうじゃないよ。そうじゃないんだ」

 

 それは何に対しての言葉なのか、付き合いのあるサナとトウマからしてもアヤトの様子にお互いに顔を見合わせてしまうなか、不意にアヤトは顔を上げる。

 

「……あの、さ。タツ兄はこれからガンプラバトルをするんだよね」

「ガンプラ部への入部はそう言うことだ。君も分かっているだろう」

 

 ふとガンプラ部からしてみればわざわざ答えなくても当然の質問をされる。しかもそれが他ならぬガンプラ部にいたアヤトからだ。思わずその内容にトウマが怪訝そうにするなか……。

 

「アイゼンは確かいくつかバイトしてたよね。義理がないのは分かった上でだけど少しお願いしたいことがあるんだ」

 

 アヤト自身も聞かなくても分かる愚問だった為、「そうだよね……」と自嘲するなかトウマに何やら話を持ち掛ける。サナが当人であるトウマに顔を向けるなか、彼は話を続けろとばかりに答える代わりにアヤトを見据えるのであった。

 

・・・

 

 模型店、ここでは今日も連日のように賑わうなか、トウマとサナの姿があった。しかし二人とも今日はガンプラが目的ではないのだろう。一目散にレジの方へ向かい、この店の店主であるオノの元へ向かうと彼もトウマ達に気付く。

 

「おう、いらっしゃい。待っとったよ! トウマ、新しいバイト君を紹介してくれるんやって?」

 

 少年のような活気のある笑顔で出迎えてくれるオノにはトウマもサナも自然と表情がほころぶ。

 今日はどうやらトウマを仲介にバイトを希望する者を連れてきたようでオノはどこやどこやと周囲を見渡す。するとトウマとサナは道を譲るように二手に分かれるとその間からアヤトが顔を出す。

 

「どうも、オノさん。俺がアイゼンにお願いしたいんです」

「おお、アヤトやないか! なんやお前なら試験はいらんわ。文句なしに採用!」

 

 どうやら放課後にトウマに頼んだのはバイト先の紹介だったようだ。その結果に紹介されたこの模型店はアヤトにとってもなまじ通っている分、勝手は知っている部分もあるのだろう。軽く会釈をするアヤトに気を良くしたように一発採用を決める。

 

「──そういうところですよ、オノさん。敗軍の将はいつだって楽観で状況を見誤るんです」

 

 紹介をした貰った手前、一発採用は喜ばしいがそれはそれで良いのかとアヤトが苦笑を見せるなか、待ったをかけた人物がいた。

 無精ひげを生やしたオノと同じエプロンをつけた人物だ。ニコニコと笑顔を絶やさない姿は何とも表情が読めず、中々食わせ者のような印象を受けるがアヤトはこの人物を知っている。ニシ・カツノリというこの店の副店長であり、オノの後輩だ。

 

「わ、わあってるよ、ニシ。悪いな、アヤト。やっぱり試験ありや」

「勿論。筆記ですか?」

 

 すると先程まで勢いに乗っていたオノもすぐにタジタジになって前言撤回するなか、流石にそこまでとんとん拍子に進まないとは思っていたアヤトは寧ろ望むところだと言わんばかりで鞄からペンケースを取り出そうとする。

 

「ちゃうちゃう。俺とこいつ──ニシとバトルをして勝てたら採用ってこと!」

 

 何と採用試験の内容はガンプラバトルだったようだ。ニシも異論はないのだろう。店内のシミュレーターの準備を行うために手早く行動を始める。

 

「アヤトのパートナーは俺が務めよう。知っての通り、あの二人はガンプラ部のOBで手強い。引き締めていくぞ」

「こちらこそ頼むね」

 

 模型店の店長と副店長によるバトルが行われるということもあってか、にわかに店内もざわつくなかトウマがアヤトの隣に立って自身のスマートフォンを取り出しながら声をかけるとアヤトも鞄からガンプラが収められたケースを取り出す。

 

「タツ兄……」

 

 そこからソラーレを取り出したアヤトはそこにタツヤの姿を重ねるかのように目を閉じて祈るとソラーレからロッソパックのみを外してルーナに換装するとスキャンを始める。

 スキャンが完了すればアプリ内のデータ一覧にまた一つ新しいガンプラのデータが登録される。それはロッソパックに換装したルーナだった。同時にシミュレーターの設定を終えたニシが声をかけると四人はスマートフォンをシミュレーターに繋げる。

 

「ガンダムルーナ・ロッソはマトイ・アヤトで行きます!」

 

 カタパルト画面が表示されるなか、ジョイスティックを握りこんだアヤトは勇ましく叫んでトウマのカイゼル・バスターと共にバトルフィールドへ出撃していくのであった。




ガンプラ名 ガンダムルーナ・ロッソ

WEAPON 強化ビームライフル
WEAPON ビームサーベル
HEAD ガンダム試作一号機 ゼフィランサス
BODY フォースインパルスガンダム
ARMS フリーダムガンダム
LEGS ストライクノワール
BACKPACK ガンダムF91
SHIELD ラミネートアンチシールド(フリーダム)
AI PILOT シーブック・アノー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

臆病な僕の中にはいつも大きなアナタがいるから

書き溜め尽きる


 バトルフィールドに選ばれたのは夕暮れの市街地であった。ルーナRとカイゼル・バスターが静かに降り立つなか、相対するようにオノとニシのガンプラが降り立つ。

 オノのガンプラは角張った印象の作業用重機であるモビルワーカー、ニシのガンプラはRX-78-2 ガンダムの量産型機体であるジムだった。

 採用試験用なのか、しかしどんなガンプラであろうと彼ら二人はこの模型店のトップであると同時にガンプラ部のOB、その作成技術やバトルの実力は安易には測れない。現に油断なくアヤトとトウマはその出方を伺っている。

 

 モビルワーカーもジムも特出した武装こそ持ち合わせてはいない。手数でいえばルーナRとカイゼル・バスターの方が優位に立てるだろう。

 

 すぐさま強化ビームライフルの銃口を相対する二機へ向けると間髪いれずにその引き金を引く。射線上に向かって走るビームに対してモビルワーカーとジムは弾けるようにして飛び上がる。

 

「アイゼン、オノさんを抑えていて!」

 

 しかしそれがアヤトの狙いでもあった。手早くトウマに指示を出しつつ行動を起こす。

 

 スラスターを利用してビームを避けたニシだが着地しようとした瞬間、再びルーナRのビームが迫り、半ば反射的に後方へ飛び退くようにして避けた。

 

「……嫌なやり方だね」

 

 そして再び着地しようとした瞬間、再びビームが向かってくる。アヤトが製作した強化ビームライフルの威力は直撃すればただではすまないのは強化ビームライフルの作り込みだけではなく、向かってくるビームの速度と音、収束率、それら全てを踏まえた勢いは目を見張るものがあったのだ。

 

 それを着地しようとした瞬間に撃ってくる。アヤトの狙いは分かっている。スラスターの残量は有限。スラスターが尽きた瞬間に直撃させようというのだろう。

 

 アヤトはバトルの素人ではない。故に自分の意図が読まれていようと今だ手のひらの上にあるニシの動きは予測できるのだろう。だからこそ厄介だった。

 

「参ったねッ……」

 

 そしてそれを繰り返しているうちにどんどん行動の幅が狭まっていき隙が生まれたのだろう。遂に強化ビームライフルがジムのシールドごと左腕を貫いたのだ。

 

 そのせいで更に大きな隙を作ったのだろう。

 機体のバランスを損ねた瞬間、ルーナRはバックパックのヴェスパーを展開すると瞬時に発射する。

 

「──くぅ!?」

 

 しかしそれは誰もが予想しない展開となった。

 全てを穿かんばかりに放たれたヴェスパーだが、そのあまりの反動に発射したルーナRが吹き飛んで地面に倒れてしまったのだ。

 

「なんや、アヤト。自分で作ったガンプラを使いこなせてないんかい」

 

 カイゼル・バスターとの戦闘も激しかったのだろう。

 オノのモビルワーカーも損傷が目立つなか、ジムの隣に降り立ちながらルーナRが倒れこんだ理由に触れる。そう、ガンプラバトルはガンプラの出来によってそのパラメータが上下する。逆に言えば完成度が高ければ高い程、高い性能を持つ一方、ただ単純な完成度だけを求めればピーキーになりがちな部分がある。現にアヤトはヴェスパーの反動に耐え切れずに倒れこんでしまったのだ。

 

 隙を狙っていた筈のアヤトが逆に大きな隙を作ってしまった。すぐにビームスプレーガンによる射撃がルーナRに襲い掛かり、損傷していく。

 

「マズい……! 早く何とかしないと……!」

 

 優位に立っていただけあって反動で焦りも大きいのだろう。

 中々操作もおぼつかず、何とか起き上がろうとしたところで尻餅をついてしまう始末だ。

 

(タツ兄……っ……! タツ兄ならどうする……っ!)

 

 その言葉の違和感にアヤトは気づいてるのだろうか?

 タツヤならばどうする? 確かにタツヤはそのセンスをサナとトウマに認められている。ましてやヴェスパーを標準装備にしているロッソパックを基本にするソラーレを難なく扱っている。しかし彼はまだずぶの素人だ。まだ上手い切り返しが出来るわけではない。

 

 では、なぜアヤトの中で縋るようにタツヤの名前が出てきたのか? それは単純な答えだ──。

 

「アヤト、大丈夫か!」

「ああ、大丈夫……っ!」

 

 攻撃の最中、ルーナRとモビルワーカー達の間にカイゼル・バスターが割り込んで、相手を牽制しながら通信越しにアヤトに声をかけた。その言葉で我に返ったアヤトはすぐにルーナRを起き上がらせる。

 

「アイゼン、突っ込むから援護してほしい」

「策はあるのか?」

「……まあ、上手く行けばいいかな程度だけど」

 

 今回、トウマはあくまでサポートで出撃している。なぜならばこれはアヤトの採用試験だからだ。

 だからこそ今回、アヤトの指示には基本的に従うつもりだ。するとアヤトの意を汲み、全身のミサイルをモビルワーカー達に放つ。

 咄嗟に二手に別れてミサイルを避けるオノ達だが次の瞬間にはミサイルによって周囲は爆炎に飲まれ、黒煙が周囲に漂った。

 

「何や、目眩ましかいな」

 

 この煙では相手を伺うことは出来ない。周囲を探るオノは辺りを警戒しつつ相手の出方を伺う。すると次の瞬間、モビルワーカーに向かって何かが突っ込んできた。

 

「はんっ、そう上手くは──」

 

 大方、接近戦を試みてきたのだろう。体勢を整えながら迎撃しようとするが飛び込んできたモノに啞然とする。それはルーナRのシールドだったのだ。思わず自身のシールドで弾くことで事なきを得る。

 

 しかしシールドを払ったその動作こそが大きな隙なのだろう。刹那、背後に反応があり、見てみればそこにはビームサーベルを構えていたルーナRがおり、横一文字に両断される。

 

「オノさんがやられたか」

 

 その一連の様子を避ける拍子に降り立った建造物の上から見つめていたニシだがルーナRはすぐにジムに標的を変え、モビルワーカーが払ったシールドを再び投擲する。

 しかしそれはジムに狙いを定めていたわけではなかった。到底、ジムには届かない下方へ投擲されたシールドに意識を向けつつ、同時にこちらに向かってきたルーナRにビームスプレーガンを見舞う。

 

「タツ兄なら……っ!」

 

 直撃を受けながらお構いなしに進むルーナR。ファイターのアヤトの脳裏にタツヤの姿が鮮明に過るなか、ルーナRはシールドに強化ビームライフルを向けると引き金を引いて、ビームが放たれる。

 

「っ!?」

 

 すると放たれたビームはシールドを反射してジムのバーニアに直撃したではないか。大きく体勢を崩すジムのモニターにはもう至近距離に迫っていたルーナRを捉えていた。

 

「タツ兄なら前に出る!」

 

 ルーナRは強化ビームライフルを捨て、ジムを片手でガッチリと掴んだのだ。ヴェスパーを展開するとカンと銃口がコックピットに触れる甲高い音が響いたと同時に引き金を引き、ゼロ距離でジムを貫いて撃破するのであった。

 

 ・・・

 

「いやあ参った。アヤトは強いね。それだけの腕なら喜んで採用させてもらうよ」

「だから言ったやろ。アヤトなら文句なしって!」

「ボクはオノさんと違って店番だけやってるわけにはいかないのでね。慎重にだってなりますよ」

 

 バトルを終え、改めてニシからも採用を受けるアヤト。心なしかアヤトの顔から緊張が消え、安堵の様子がうかがえる。その姿を横目に自分の判断に狂いなしとばかりのオノだが、穏やかな物言いながらも鋭さを持つ言葉にたちまち縮こまる。

 

「この店は仕入れ、経理、人事、企画と全てニシさんが回しているんだ。事実上の経営者だな」

「人事は半分、トウマにも手伝ってもらってるけどね。サナちゃんに続いて良い人を紹介してもらえたよ」

 

 トウマからニシの店での立場を紹介する。手広くやっているだけそれだけの有能な人材なのだろうがそうなってくるとオノはどうなるんだと思ってしまうアヤトだが、ふとニシから気になる発言が聞こえる。

 

「あ、そういえば言ってなかったね。私も先週から働かせてもらってるんだ。これからはバイトでもよろしく♪」

「同級生で同じ部活で同僚なんてフラグ立ちまくっとるな。うちは恋愛禁止やないから遠慮せんでもええよ」

 

 何とサナまでこの店で働いているのだという。驚くアヤトに話していなかったとサナは改めてこの場で働いていることを告げると青春やなぁとばかりにオノはアヤトの肩に手を回し、からかうように彼の頭を撫でる。

 

「……いや、俺は……その……幽霊部員だし」

 

 同じ部活……という言葉には退部まではしていないものの顔を出していないこともあって負い目はあるのだろう。勝利に喜んでいたアヤトの表情から途端に気まずさがあふれてくる。

 

「さて、では俺はこの辺で失礼するよ。もうすぐスーパーのタイムセールなんだ」

 

 すると雰囲気が悪い方向へ向かわないうちにトウマは話を変えてくれた。何でもこれからスーパーマーケットに向かうつもりのようだが、それにはどうしても行かねばならない理由があった。

 

「今日も弟妹達の晩飯作るん? えらいな、お前はほんと」

「あ、ちょっと待って。これ、弟君達に持って行ってあげて。お菓子の詰め合わせ」

 

 それはトウマの家庭の事情も絡んだことであった。若くして家族の為に働くトウマにオノが感心していると気を利かせたニシが事務所から袋詰めされたお菓子を渡す。

 

「アイゼン、その……部活に顔を出してないのに、ここを紹介してくれてありがとう」

「気にするな。アヤトの気持ちを聞けば、無碍には出来ない」

 

 トウマは丁寧に礼を言いながら店を出ていこうとするとその前にとばかりに慌ててアヤトが声をかける。負い目を感じる部分がある以上、快く紹介してくれたトウマに感謝するしかなかった。するとトウマは穏やかな笑みを浮かべながら店を出ていく。

 

「……なんか真面目に働かんとって気になってきた。アヤト、仕事教えてやるから来い」

「その前に契約書ですよ、オノさん。あと学校の許可証もいります」

「細かい事はお前に任せるわ!」

 

 苦労は語らないまでも負担は大きいであろうトウマに感化されながらアヤトに声をかけるオノだがその前にニシにストップをかけられる。働くにしてもちゃんと契約に乗っ取った上で働かねばならないのだ。しかしその辺りに関してはニシに完全に一任しているのだろう。豪快に笑うオノにやれやれとニシは嘆息するのであった。

 

 ・・・

 

「なんだよ、アヤト。いきなり連れ出して」

 

 それから暫くした休日の昼下がり。タツヤはアヤトに連れられてショッピングモールの一角に訪れていた。

 

「タツ兄、ガンプラバトルをやってるわけだし、スマホを見る時間も増えるからブルーライトカットの眼鏡が必要だと思ってね。ほら、それでなくても前々から眼鏡ほしいとか言ってたじゃん」

「欲しいには欲しいけど今、金に余裕はないぞ」

 

 どうやら今日、タツヤの眼鏡を買いに来たようだ。しかし今、この場で聞かされたのだろう。持ち合わせがないタツヤは今は無理だと諦めようとするのだが……。

 

「何の為に誘ったと思ったの? ここは俺に任せてよ。これでも陰でバイトしてたんだからっ」

「……最近やたら家にいないのはそういうことか? でもお前が働いて稼いだお金なんだから俺に気を遣う必要はないんだぞ?」

 

 どうやらトウマにバイトの紹介を頼んだのはこういう理由だったようだ。朗らかな笑みを見せるアヤトに合点がいった様子のタツヤだがそれならばそれでとそのお金は自分のために使えと諭す。

 

「俺の金をどう使おうが俺の勝手でしょ? 早く行こっ! 俺も眼鏡欲しかったし、一緒に買おうよ!」

 

 しかしそんなタツヤの言葉も一蹴しながら兄の腕を掴むと上機嫌で走っていく。ここまで上機嫌のアヤトは珍しいのだろう。初人給が他の誰でもない自分の為に使おうとする弟の姿に嬉しさを感じつつ照れくさそうな笑みを見せながら二人は近場でもお洒落と評判なメガネショップに駆け込むのだった。




タツヤ&アヤト(眼鏡)

【挿絵表示】


タツヤ「……」
アヤト「……ねえ、タツ兄。俺からの眼鏡一つで何で感極まってんの?」
タツヤ「……お前が頑張って稼いだお金を俺の為にって思うと視界が滲んじゃって……。ありがとなぁっ、アヤトぉ」
アヤト「あぁやりにくい。良いから眼鏡かけなよ」
タツヤ「ど、どうだ?」
アヤト「良いんじゃない? ……うんっ」

眼鏡描くのって凄い難しいっすね……。一応、アヤトはラウンドタイプです。
私もパソコンなどを使用する際に眼鏡を使用します。コンタクトに興味はあったんですけど、何となく怖くて出来なかったんですよね。お陰でこのご時世、マスクとの相性がggg。スプレー必須ですわ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガンダムを見よう─機動戦士ガンダムF91編─

今回は実験と言いますか、今まで書いてきたガンブレ小説とは違うことをしてみようという発想から生まれた試みです。一応の注意としてキャラクター達が感想を口にしますがあくまで個人の感想です。


「まさかタツ兄までガンプラ始めるとは思わなかったなー」

 

 アヤトがトウマの伝手を頼ってオノの店でのバイトを始めたその日の晩。マトイ家のリビングでは束の間の団欒があった。

 友達と連絡でもしているのか、スマートフォンを片手にキャンディを舐めながら、ふと同じ空間にいる二人の兄に話しかける。

 

 部活紹介の場で壇上に上がった兄達に喜んで精一杯、応援こそしたがそれでもアヤトは兎も角としてタツヤがガンプラバトルを行うだけに留まらず、その部活にまで入部したのは意外だったのだろう。

 

「タツ兄は昔、剣道やってたし、今も運動してるから体育会系ってイメージだったから意外かも」

「まあな。正直少し前の俺に言っても首を傾げてると思う」

 

 ヒマリからしてみれば、もしもタツヤが部活をするのなら運動部だと思っていたのだろう。それに関してはタツヤも同意するところなのか、苦笑気味だ。

 

「それでタツ兄は何のガンダムが好きなの?」

 

 何気ない妹の問いかけにタツヤはピタリと制止してしまう。確かにタツヤはガンプラ部への入部を決めたものの思えばリアルタイムで放送していたガンダム作品をアヤトが見ているのをたまに見ていたくらいでまともにガンダム作品、もっと言えばガンプラにすら触れたことすらないのだ。

 

「タツ兄はあんまりガンダムもガンプラを知らないんだよ。ヒマリとどっこいって感じ」

「じゃあ全然じゃん。もしかしていつものお人好し? それともあの大会がそんなに楽しかったのかなぁ?」

 

 そんなタツヤを見て、今まで黙っていたアヤトが代わりに答える。

 自分を比較に出されれば分かりやすいのか一瞬は納得したヒマリだが、ともすればガンダム作品への知識が皆無に等しい自分と同じくらいの知識量となれば余計にガンプラ部への入部に首をかしげてしまう。

 

「だったらさ、これを機にアヤ兄のオススメを見せてもらえば?」

 

 それは思いがけない提案だった。思わず兄二人が発言者であるヒマリを見てみれば名案だとばかりにニコニコしているではないか。

 

「早速だけどアヤ兄、初心者にオススメのガンダムってなに?」

 

 その言葉に今度はアヤトが制止してしまう。

 ヒマリは何気なく聞いてきた訳だが今日まで続いてきた歴史あるシリーズだけあって、何をセレクトすべきか悩みどころではあるのだ。

 

「どの作品から見たって大丈夫だと思うし、何なら気になった奴から見てみるのが一番だと思うけど……」

「って言ってもアヤ兄には悪いけど私も多分、タツ兄もガンダムがバアーって並んだとして、個々の違いは分かっても結局、皆同じに見えるって感じだし」

「だとしたらあらすじに触れるか、キャラか声優さんかってなるけど……」

 

 無難と言えば無難な回答であろうか。

 とはいえヒマリからして見ればガンダムを並べたところで個々のデザインの違いが分かってもその上で並べられれば同じに見える。興味がない人間から見る多人数アイドルグループ現象と同じなのだ。

 

「因みにヒマリの最近ハマったアニメとかってある?」

「鬼滅?」

「鬼滅かぁ……」

 

 ならばと試しにヒマリの好みからも探してみようと何気なく聞いてみるとうーん、と小首を傾げながら答えた単語にアヤトも首をかしげてしまう。ヒマリが指す作品とガンダムの結び付きが思い浮かばなかったからだ。

 

(そうなってくると家族のために頑張るCV花江さんがいる鉄血とか? それにマッキーも生殺与奪の権を他人に握らせるなとか言いそうじゃない? 言わないかなぁ。でも手っ取り早いのは初代を見せるのが一番だと思うけど、如何せん過去の作品であればあるほど、絵が古く何となしの興味では敬遠され易いのも事実。逆に絵が新しめで食いつきやすいガンダムって言うとSEED系や00とか?って言ってもこの二作品だって10年以上前の作品だし……)

 

 うーんと腕を組んではずっと見易いガンダム作品を記憶の中から掘り起こそうとするが、如何せん40年の歴史あるシリーズだ。好みや見やすさを考慮して考えると中々絞り出すにも時間がかかってしまう。

 

「なあ、アヤト。ソラーレの元になったガンダムってどんな作品なんだ?」

 

 そんなアヤトを察してか、助け船を出すかのように自身が使用しているソラーレを引き合いに出して尋ねる。

 助け船のつもりでもあるが、それはそうとして自身に託されたガンプラがどのようなガンダムを元にしたのか、そしてどのような物語なのか、興味がないと言えば嘘になる。

 

(ソラーレの元はビルドストライクだけど、あの作品自体、単品で楽しめるしガンプラを題材にしているから今のタツ兄にはピッタリかもしれないけど、でも出来ればビルドシリーズはある程度のシリーズへの知識があった方がより楽しめる側面もあるからなぁ。だとすると……)

 

 ソラーレの元となったビルドストライクガンダムはガンダムビルドファイターズに登場する主役機であり、今では身近なガンプラバトルを題材にした作品だ。

 ガンプラを題材にしているだけあって細かな演出等は歴代シリーズのオマージュを感じられる作品でもあるのだ。勿論、見易い作品ではあるのだが、それはそれでアヤトなりの拘りがあるのか、また頭を悩ませながらテーブル上のソラーレを見やる。

 

「機動戦士ガンダムF91なんてどうだろう?」

 

 それが熟考の末にアヤトから提示されたガンダム作品であった。と言っても漸くそれらしいタイトルが出てきた程度でタツヤとヒマリは知っているかとお互いにアイコンタクトを確認した後に続きを促すようにアヤトを見やる。

 

「ソラーレのロッソパック。その特徴であるヴェスパーはガンダムF91から来てるし、ロッソのAIパイロットは主人公であるシーブック・アノーなんだ。早速だし見てみようよ」

 

 善は急げとばかりに早速、機動戦士ガンダムF91のソフトを取りに向かうアヤト。タツヤはそんなアヤトの背中を視線で追っていると、視界の端にいるヒマリが目に留まる。

 

「ヒマリはどうする? 一緒に見ていくか?」

「うーん……」

 

 ガンダムへの関心のきっかけがあったタツヤとは違い、機会がなかったヒマリからすればわざわざガンダムを一緒に見る理由はないだろう。下手に妹の時間を巻き込んでは可哀想だと気を遣って声をかけてみるとヒマリはヒマリで悩んでいるのか、先ほどまで弄っていたスマートフォンを顎先に添えながら視線を彷徨わせる。

 

「お待たせー」

 

 そうこうしていると映像ソフトを片手にアヤトが戻ってきたではないか。

 

「……えっと」

「……どしたのよ」

 

 するとヒマリは何を思ったのか、兄達を凝視し始めたではないか。天真爛漫な妹にしては珍しいアクションに思わずタツヤとアヤトは何かしたのかとお互いの顔を見合わせる中、戸惑った様子でヒマリを見つめ返す。

 

「……ヒマリも見てみようかな」

「えっ!?」

 

 僅かな沈黙の後にヒマリも一緒に鑑賞することを決めたではないか。

 これに何より驚いたのはアヤトであった。タツヤは兎も角、ヒマリとガンダムに何の接点もないからだ。

 

「アヤ兄もあんなにハマってるわけだし、タツ兄も興味が出てるわけでしょ? だからヒマリも見てみようかなって。それにお母さんも見てすらいないものを偏見だけで語るような人間になるなって言ってたし」

 

 それは何気ない好奇心なのかもしれない。今まで熱中していたアヤトとガンダムの世界に今から足を踏み入れようとするタツヤ。ならばこれをきっかけに何かガンダムという作品に触れてみるのも悪くはないと思っての事だった。

 

「さ、早速見てみようっ」

 

 母さんの教えをちゃんと覚えてるんだな、とタツヤがヒマリの頭を偉い偉いと撫でているなか、アヤトは一人、慌ただしく準備を始める。タツヤが横目で見てみれば、こちらに背を向ける形になっているがそれでもアヤトの口元が緩んでいるのが見えた。

 今まで家族の中で熱中していたのが自分だけだったなか、兄妹が興味を持ってくれたことが嬉しくて仕方ないのだろう。そんな弟の姿に微笑みながらマトイ三兄妹による鑑賞会が始まり、テレビにはコロニーの外壁を四方に切断して侵入してくるクロスボーンバンガードの部隊と共にタイトルバックが表示される。

 

「始まったねー。あれでもザクじゃないんだね」

「流石にね。これ、アムロとシャアが初登場した作品から44年後くらいが舞台だから」

 

 現れた機体の数々の中にヒマリが知っているMSはなかった。しかしそれもそうだろう。ヒマリが知っているのは精々世間的に名前が知られている所謂、ファーストガンダムのMSくらいでそれ以外はアヤトを通じてみたことがある程度の認識だ。

 

「じゃあアムロとシャアも出てくるのか?」

「えー? 続編なの? ヒマリ達、よく分からないよ」

「F91はアムロ達が生きた時代の宇宙世紀が舞台だけど、がっつり過去作が絡んでくるわけじゃないから二人でも安心して見れるよ」

 

 アムロとシャアの名前が出てきたこともあって続編なのかと碌な知識を持ち合わせていないタツヤとヒマリは難色を示すが、内容を知っているアヤトは安心させるように笑みを見せながら再び映像に集中する。

 

 その後、タツヤとヒマリは時折挟まれる解説担当と化したアヤトの説明を聞きながら機動戦士ガンダムF91の世界に触れる。

 平和なコロニーの中で最大の呼び物としてミスコンが開催されようとするなか、迫るクロスボーンバンガードの部隊。刻一刻と迫る日常の崩壊。そんなことも露知らずミスコンではいよいよ結果がドワイトの口から発表される時が来た。結果に喜べないヒロイン・セシリーに美人だったら何だって良いと宣う主人公・シーブック。セシリーはその性格から辞退しようとするがその瞬間、耳鳴りのようなものを感じれば向かい側のデパートの屋上で連邦軍の主力MS・ジェガンが空から落ちてきたではないか!

 

 そこから崩壊した平和と始動する物語。シーブックを筆頭とした子供達がコロニーからの脱出を試みるなか、セシリーはクロスボーンバンガードによって連れ去られてしまう。彼女はクロスボーンバンガードの創立者マイッツァー・ロナの孫娘ベラ・ロナだったのだ。

 

 シーブックとセシリー、それぞれが抱く家族の蟠りと確執。時間は止まる事なく逃げ込んだコロニーに現れたクロスボーンバンガードに妹リィズ・アノーが母親との思い出のあやとりをきっかけにガンダムF91を起動させ、シーブックは出撃する。

 

 高いセンスを見せるシーブックだがそれがやがて増長となってある悲劇が起こる。やがて立ち直ったシーブックは精神的な強さを身に着けながら仕事人間だった母親との和解、セシリーを説得。少しずつ変わっていく状況だったがセシリーの父親・鉄仮面ことガロッゾ・ロナによる人間のみをターゲットとするバグによる大量殺戮作戦が行われ、自身も巨大MA・ラフレシアで出撃する。ラフレシアに挑むシーブックとセシリー。家族論をテーマにした物語をタツヤ達は見届ける。

 

「いやー、終わったね」

 

 スタッフロールと共に主題歌のETERNAL WIND〜ほほえみは光る風の中〜が心地の良い余韻を残すなか、アヤトはタツヤとヒマリに感想を伺うように顔を向ける。

 

「思ってた以上には見やすかったよ。絵も30年前にしては凄い綺麗だったし、家族がテーマなのも身近だしな」

「そうだね。勿論、知識があるには越したことはないけどガンダムの雰囲気やハッピーエンドで終わる物語も相まって見やすい作品だと思う。そこら辺は監督もストーリー的には成功って言ってるし」

 

 一先ず見終わった第一声を口にするタツヤ。正直、難解なのではないかと思っていたが予想以上に見やすく、楽しめる作品だったとは思う。

 

「でもさー。ちょーっと尺が足りないって言うか、前半は丁寧で分かりやすいんだけど中盤以降、ちょっと巻きが入ってなかった? アンナマリーさんの顛末も凄く忙しかったし、シオにしたってナディアが鉄仮面に人殺しって言ってたけど何で死んだのか分からなかったし。しかもこれあくまで鉄仮面を倒しただけでまだ全部解決したわけでしょ?」

「そうだね。これはあくまでコスモ・バビロニア建国戦争の開戦に過ぎないからね。シーブック達やコスモ貴族主義のその後が描かれた物語もあるけど、この直後の映像作品はないね」

 

 とはいえ思うところもあったようで楽しめたには楽しめたようだがヒマリの言葉にタツヤも頷いているとその辺りに関してはアヤトも苦笑気味に笑っている。

 

「けどショッキングな映像も凄く印象に残ったな……」

「……うん。グロくはないんだけど戦いに巻き込まれて死んでいく人達が流れるように描写されるから逆に悲惨さが際立つと言うか。アーサーだってついさっきまで学園祭を楽しんでたのにね」

 

 全体の感想も程々にタツヤの発言を皮切りに話題は細かな部分に移っていき、前半、フロンティアⅣでの戦闘で巻き込まれる市民達やバグによる破壊描写について触れるとヒマリも同意見だったのか、どこか引き攣った様子を見せる。

 

「そう言えばヒマリ、鬼滅にハマったって言ってたじゃん」

「うん」

「淺黒肌のドワイト君は手鬼と同じ声優さんだよ」

「うそぉっ!? 全然違うじゃん!? 声も若かかったね……」

「F91は声優デビューしてから3年目辺りの作品だからね。今の年数で考えれば30年も前の作品だし」

 

 細かな描写の話題で三人が盛り上がっているなか、ついつい話もF91のみならずそれに出演していた声優の話にも脱線しつつエンドロールが終わった後も暫く話し込んでしまっていた。

 

「ラストの最後まで仮面を取らなかった鉄仮面とフェイスオープンしたF91の対比も好きだな。わざわざエンドロールの最後に持ってきてるし、良い演出だと思う」

「──何やってんの?」

 

 話し込んでいると不意に声をかけられる。声に誘われるがまま顔を向ければ、そこにはきょとんした顔を向けているアキとトモハルがいるではないか。

 

「ガンダム? アヤトだけじゃなくてタツヤとヒマリまで見てるなんて珍しいじゃないか」

「まあ流れというか……。でも楽しめたよ! ETERNALWIND好きだなぁ」

 

 テレビに映っている映像から物珍しそうにタツヤとヒマリを見るトモハルに珍しい状況であることは自覚しているのか、二人とも顔を見合わせて苦笑するもののそれでも一緒に鑑賞したことに後悔はなく楽しい時間を過ごしていたようだ。

 

「まっ、その辺にしときなさい。アンタ達、明日学校って事忘れないでよー」

「パパ達はもう寝るから三人もあまり夜更かしするなよー」

 

 とはいえ時間もそろそろ良い頃合いだ。一つの映画を鑑賞して盛り上がっている三兄妹の姿は親としても微笑ましいがこれ以上の夜更かしは見過ごすわけにはいかない。アキとトモハルは釘を刺しつつ三人に別れを告げて夫婦部屋へ向かうと三人もお開きだとそれぞれ行動を起こす。

 

「改めてありがとうな、アヤト。わざわざ選んで見せてくれて。家族がテーマって言うのは俺個人にも響くものがあったし」

「タツ兄……」

「ウチも色々あったけどさ、少なくとも今は上手く行ってるよ。シーブックの父親が奥さんの仕事も愛してるって言ってたように俺も父さんと母さんのセレクトMも大切にしてるし、お前が熱中してるガンプラも応援してる。ヒマリの何事も楽しむ気持ちも尊重したい」

 

 自室に戻る際、改めてアヤトに感謝の言葉を口にするとアヤトはその言葉とタツヤに思うところがあるのか、どんどんその表情が複雑なものになっていく。

 

「じゃあ、おやすみな」

 

 そんなアヤトを残して、タツヤは自室に入ってパタリと扉と閉めてしまう。ヒマリも部屋に戻り、アヤトだけが残った空間で彼は誰に問うわけでもなく静かに零す。

 

「……シーブックがセシリーを見つけられたのは機械の力だけじゃなく感性、愛があったからだよ。タツ兄自身が愛を向けた先ってなにがあるの? ……タツ兄の夢ってなに?」

 

 両親のセレクトM、アヤトのガンプラ、何事も楽しもうとするヒマリはその性格もあって多趣味だ。

 しかしタツヤはどうだろう? ここ数年、タツヤが自分の夢どころか趣味を口にした記憶がない。心の中に靄が残るなか、彼も自室に戻るのであった。




今まで書いてきたガンブレ小説で単語やキャラなどに触れながら話を紡いできましたが、自分が手掛けたキャラクター達が詳しくその作品をどう思っているのか書いたことがなかったので、試しに書いてみたかったんですよね。

二月五日には一部劇場でF91完全版の4DX上映が決定しているのですごく楽しみです! 4DXってまだ体験したことがないんですよねぇ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 目醒めし最強の遺伝子
パープルアイ


 ──“あの日”の記憶はあまりない。

 

 確かに覚えているのは全身を駆け巡るような衝撃の後に徐々に重くなっていくような身体と暗くなっていく視界。

 

 目を覚ました時、最初に見たのは見慣れない天井と自身に取り付けられた医療器具。そして……。

 

「ヒマリ……。ヒマリぃっ……!」

 

 大粒の涙を零しながらぐしゃぐしゃになった顔で私の手を握るタツ兄とアヤ兄。そしてお父さんとお母さんの姿だった。

 

 ・・・

 

 温かな朝日を受けながらもぞもぞと上体を起き上がらせたのはマトイ家の末っ子であるヒマリであった。

 枕元に置いてあるスマートフォンのアラームを停止させて時間を確認してみる。いつもの起床時間よりも早く起きられたようだ。タツヤは今頃、ルーティーンのマラソン等の運動をしている頃だろうか。

 

 起床したとはいえ、いつまでも行動を起こす素振りを見せないヒマリ。まだ覚醒しきれていないのだろうか。

 ふと窓から見える電信柱に止まっている囀っている鳥を見かける。今まさに鳥は飛び立とうと翼を広げており、すぐに快晴の空を舞うことだろう。

 

「……」

 

 ……しかしその姿を瞳に映すヒマリの瞳には鳥の動きがあまりに鈍重に見えた。

 まるでスローモーションの動画を見ているかのように鳥は漸く飛び立ち、やっと一振り二振りと翼を動かして空を飛んでいる。

 

 寝ぼけているのだろうか? いやヒマリにとってはそんな鳥の動きでさえ、その“紫色の瞳”に普段通りの事ように捉えていた。

 

「あっ……」

 

 ヒマリの視界には全てがスローモーションのように見えるなか、ふと窓には見慣れた姿が見えてくる。見慣れた柔らかなポニーテールを揺らし、走って来るタツヤの姿だ。大切な長男を視界に捉えたヒマリの瞳はいつの間にか普段の“翡翠色の瞳”に戻っており、身支度を始めるのであった。

 

 ・・・

 

「…………来ないね、新入部員」

 

 部活紹介から数日が経った夕暮れのガンプラ部の部室。茜色の空が眩しい程に広がるなか、部室内にサナの呟きが木霊する。輝かしい青春などとは程遠く部室にはタツヤ、トウマ、サナの三人しかいなかった。

 

「二、三年生は例の噂のせいで敬遠してくるだろうと予想できたが新入生の希望者もゼロとはね」

「例の噂?」

「口に出したくもない……。迷惑な噂だよ」

 

 マトイ兄弟とトウマのバトルを機にバトルの参加者も出てきただけあって新入生からも希望者がいないのは予想外だったのは言うまでもない。

 トウマの言葉から部活紹介の時から気になっていた噂について尋ねるもトウマは露骨に眉間に皺を寄せ、サナも余計に表情が暗くなっていく。この噂についてはずっとこの調子でアヤトも似た反応をする。

 

「まあ、来ないものはしょうがないよ。暗い話はやめにして、部活部活っ。漸くタツヤも来てくれるようになったしね」

「ああ。これまで通り家の手伝いをしながら、だけどな」

 

 ただでさえ人数が少ないのに暗い話をしたため、どんよりとした空気が満ちていく。それを振り払うようにムードメーカーでもあるサナが話題を切り替えてタツヤを見る。部活紹介の日に言っていた通り、都合を合わせてガンプラ部に顔を見せるようになったタツヤ。無茶な勧誘であったことはいまだに自覚している為、この結果は喜ばしい。

 

「都道府県大会まであと二週間。とにかく実戦を繰り返して個々の力を底上げしよう」

 

 とここまで何気なしに会話に加わっていたタツヤの動きがピタリと止まる。

 都道府県大会なんて話は今、初めて聞いたし、何よりそれまでの日数があと二週間しかないなんて寝耳に水もいいところだ。

 

「二週間後の大会は所謂、新人戦的なものだから気楽にいこっ!」

「勝ち抜いても全国大会へはつながらない。各校のエースは出場を見送るかもしれないが、とはいえ実戦に勝る経験はない」

 

 そんなタツヤに気付いたのだろう。安心させるようにニコニコと笑って励ますサナに頷きながらトウマは変に気負う必要はないとフォローする。

 

「……そうだな。どうせなら当たって砕けろだ。この二週間、二人の胸を借りるつもりで行くよ!」

 

 元々体育会系気質なところがあるのだろう。話をすぐに飲み込んだタツヤはすぐさま切り替えて短い時間の間、二人の技術を見て体感し少しでも自分の糧にしようと練習に臨むのであった。

 

 ・・・

 

 そんなガンプラ部とは裏腹に支度を整えたアヤトは一人、帰ろうと校門へ向かおうとしていた。

 周囲には部活に向かおうとする者、もしくはアヤトのように下校しようとする者など思い思いの行動を起こしていた。

 

 キラキラと部活へ勤しむ情熱溢れる生徒達とは対照的に燃え残った灰のような色褪せた瞳のまま、どんよりとした足取りのアヤトであったが……。

 

「アーヤ兄ぃーっ!」

 

 快活な声と共に降ってきた軽い衝撃をよろけそうになりながらも何とか踏ん張る。後ろから首もとを抱き締めてくるか細い腕と馴染みのある甘い香りにもう誰だか検討は着いているのだろう。振り返ってみれば予想通り、ヒマリがいたのだ。

 

「どうしたのアヤ兄、もしかして帰っちゃう?」

 

 ヒマリなりのスキンシップにポンポンと頭を撫でていると無邪気に問いかけてくる。当のヒマリはというと特に鞄を持っているわけでもなく恰好も奏海高校指定のジャージの為、まだ学校に残るようだ。

 

「……そういうヒマリは?」

「部活っ! ……ってぇ言っても仮入部だけどね」

 

 ガンプラ部の活動に参加せず、幽霊部員である事自体に負い目は感じているのだろう。

 咄嗟に話題をヒマリに逸らすと妹は相変わらず元気いっぱいに答える。部活紹介から数日後、確かに今は仮入部の期間内だった筈だ。

 

「何の部活にしたの?」

「チアリーディング部っ! 入学前からずーっと入りたかったんだっ! ヒマリ、柔軟には自信あるしっ」

 

 そう言えば学校での生活は何気なしに聞いていても部活については聞いていなかったなとこれを機に聞いてみれば、どうやらチアリーディング部に強く憧れていたのだろう。幼子のような瞳を輝かせながらその場で片足を大きく上げて両腕で抱えて見せた。所謂I字バランスという奴だ。

 

「家でI字バランスが出来るのはヒマリだけなんだよっ! 昔、新体操やってたお母さんももう出来ないって言ってたしっ!」

「……ヒマリ、分かったからこんな往来で止めなって」

 

 ぼちぼち部活などで人が捌け始めたとはいえ、ここは廊下だ。そんな場所でI字バランスなんてやれば注目が集まる。しかし当のヒマリは気づいてないのだろう。綺麗な体勢のまま褒めて褒めてとばかりに無邪気に話すが、恰好がジャージとはいえ流石に見かねてか、アヤトがすぐに止めさせる。

 

「アヤ兄は柔軟はどうなの? タツ兄は元々運動も柔軟もキチンとやってた人だからY字バランスは出来てたけど」

「俺がY字バランスなんてやったら荒ぶる鷹のポーズみたいになる」

 

 タツヤとヒマリはタイプとしては同じ部類で家でも共通の話題があるのだろう。逆にどちらかと言えばインドア派のアヤトはたまに運動する程度でタツヤやヒマリ程ではなく柔軟も同じように自信がないのだろう。自嘲めいた乾いた笑みを見せた。

 

「ヒマリーぃっ」

 

 例え正反対のタイプでも仲は良いのだろう。顔を合わせればついつい長話に発展するマトイ家次男と末っ子の時間は思わぬ来訪者によって崩される。声に誘われるまま視線を向けて見れば、そこには二人の少女の姿があったのだ。

 

「こんなところで何を? これから部活だろう?」

「ごめんごめん、ちょっとお兄ちゃんに会ったから」

 

 二人組の少女が合流してくるなか、ヒマリに声をかけてきた少女とは違うもう一人の凛とした雰囲気の少女が男性言葉で話しかけてくるとヒマリは道草食った理由を明かせば、二人の少女の視線はアヤトに注がれる。

 

「へぇー、ヒマリのお兄ちゃんか。中々可愛い顔だね。でもフウカちゃんの方がもぉーっと可愛いけどね!」

「馬鹿者。まずは挨拶からだろう」

 

 ヒマリに声をかけてきた少女はお調子者なのか、フフンとどや顔を見せるものの間髪要れずに隣の少女が後頭部にチョップを振り下ろし、どや顔は一転して淚目に変わってしまう。

 

「失礼致しました。私はスエナガ・アオイと申します」

「私はカミシロ・フウカ! よろしくねーっ!」

 

【挿絵表示】

 

 改めるように軽く咳払いをしつつ畏まった態度で挨拶をしてくる少女……スエナガ・アオイ。切れ長な瞳とサイドテールが印象的な少女だ。

 

【挿絵表示】

 

 そしてもう一人はウインク混じりにピースをするヒマリに負けず劣らずの活発な少女であるカミシロ・フウカ。よく友人を家に招くヒマリな為、ある程度、ヒマリの友人は知っていたがこの二人は初めて出会った為、大方、入学後に知り合ったのだろう。それにしても入学から数日で名前で呼び合える程度に親しくなっているとは我が妹ながら感服してしまう。自分にはそこまで出来ないなと思いながらアヤトもアオイ達に倣って自身も簡単に自己紹介を済ませるのであった。

 

 ・・・

 

 一方、タツヤ達がそれぞれの時間を過ごすこの町に一人の来訪者が訪れていた。

 無骨なトラックがハザードランプを点滅させて道幅に寄せれば程なくして、助手席からは無骨さとは正反対の麗人のような印象の少女が降りてくる。

 

「じゃあ嬢ちゃん、今度は道に迷わないようにな」

「一時はどうなるかと思ったが辿り着けて何よりだ! 素晴らしい御仁との出会いに改めて感謝する!」

「ははっ、大袈裟だなぁ嬢ちゃんは。んじゃ、あばよ!」

「うむ、あばよっ!」

 

 どうやらヒッチハイクでこの町までやってきたようだ。

 開かれた窓越しに親しみやすそうなドライバーと小気味の良いやり取りを終えながら少女は去っていくトラックをブンブンと手を振って見送る。

 

「──さて、漸くといったところか」

 

 トラックを一頻り見送った後、仕切り直すように一呼吸置き、改めて自分がこれから足を踏み入れるこの町へ向き直る。先程までの溌溂とした様子から一転、その薄紅色の瞳が一瞬だけ“紫色の瞳”に変化すると確信を得たように堂々とした足取りでその腰まで届くポニーテールとロングカーディガンを靡かせながら突き進んでいくのであった。




只今、私がこれまで書いてきたガンブレ小説で恒例になっている企画の募集をしております。興味がありましたら、覗いてみて下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目醒めし最強の遺伝子

真骨彫ティガのCMに長野くん出演→あああああああああああああっ!!!!!?

恐らくアーツ史上最大の真骨彫ティガ予約争奪戦→ああああああああああ……。あ? あああああああああああああっ!!!!!

V6解散→ああああああああああっ!!!!!!?

この一か月余りの状況に情緒不安定なんですが。ティガファンでもあり、Vクラでもあるから色んな感情がごちゃ混ぜです。


「アヤトってぇーと、ガンプラを作ってる方のお兄さんだよね。何回かコンテストで優勝してるっていう」

「そのとーりっ! アヤ兄は器用なんだよ、出不精だけど」

 

 元々ヒマリから話は聞いたのだろう。自己紹介を終え、アヤトの名前を聞いたフウカは頭の片隅にあったことを思い出したようにマジマジと見つめているとガンプラに関わりのないヒマリからしても自慢でもあるのだろう。ふふんと鼻を鳴らしながら胸を張る。

 

「もう一人のお兄さんはいないんだね」

「うん、今日から部活に出るって言ってたけど」

 

 妹が自分の事を友達に自慢しているのは照れ臭くもあり、嬉しさもある。ただし出不精という余計な一言さえなければ。とはいえ話していたのはアヤトだけではないのか、周囲を見渡しながらヒマリやアヤトに似ている生徒を探すが、それらしい人物がいない事を確認すると、もう一人の兄ことタツヤについて彼自身から聞いたことをヒマリが答える。

 

「……ヒマリ、その……長兄(ちょうけい)……。いや、タツヤさんはガンプラ部に入部しているんだよな?」

 

 すると今まで特に口を挟んでいなかったアオイが漸く口を開き、控えめに尋ねてきたのだ。

 

 アオイと言う少女は何かタツヤと関わりがあるのだろうか。いくらヒマリから話を聞いていたとしてもタツヤが何の部活に入っているなど気にするとは思えないし、わざわざ言い直してタツヤさんと口にしたその声色は他人に対して放たれる事務的なものではなく親しい人や好いている人の名前を呼んだ時のようなものだったのだ。

 

「あぁ、いえっ……深い意味はないのですが」

 

 アヤトの訝しんだ様子に気付いたのか、慌てて取り繕った態度を見せる。まあ別に深く突っ込むような話でもないだろうと話を終えようとした時、隣にいたヒマリが再びどや顔を見せる。

 

「アオイはねー、タツ兄のファンなんだよっ」

 

 思いがけない言葉だった。これでタツヤが芸能人の類ならば話も分かるのだが、生憎タツヤはただの一般人。もしもタツヤにファンが出来る要因があるとすれば、一つだけだ。

 

「い、いや別にファンという程では……。ただ私も剣道をやっているから、その……」

 

 照れ臭そうに誤魔化そうとするアオイだが、アヤトからしてみれば剣道をやっている、その言葉で合点がいった。

 

「マトイ・タツヤ……。ここ数年の中学剣道でその名を轟かせた男。新人戦の頃から頭角を現し、全国大会においても個人戦優勝の経歴まで持つ……。正直、奏海でも剣道をやるものとばかり」

 

 アオイの口から放たれたタツヤの過去。しかしその輝かしい過去とは裏腹にタツヤは奏海高校に入学してから二年目で漸く部活に入った。それまでは剣道どころか部活にすら入部していなかったのだ。

 

 一年生の時は何か事情があって部活が出来なかったにしろ、タツヤが全く違う部活に入るとは思わず、今でも解せない様子で僅かに首をかしげていた。

 

「って言うかさ。あんまここで駄弁ってるってのも不味いんでね?」

 

 とはいえガンプラ部への入部を決めたのはタツヤであり、その詳しい理由まではアヤトもヒマリも知らない。

 アオイの言葉に適当な相槌しか打てないなか、ふとここで成り行きを見ていたフウカが流れを読んで口を挟む。友達の兄の一人に出会えたのは面白かったが、それはそうといつまでもここで長話をしていては部活の時間に差し支える。

 

「そうだね。じゃあ皆、頑張って。ヒマリも張り切りすぎて無茶しないようにね」

 

 話を切り上げるには丁度良いタイミングだろう。手早く話を終えたアヤトは踵を返して昇降口へとトボトボとした足取りで向かっていく。

 

「なーんか覇気がないよねー。あの感じだと部活にも入ってなさそうだし」

「こら、フウカ!」

 

 アヤトが去ってからしばらくその背中を眺めているとフウカは思ったままの感想を口にしてしまう。そう思うのは勝手だが、それがよりにもよって身内が傍にいる時に口に出さなくても良いだろうとすぐさまアオイからの注意が飛ぶ。

 

「……まーね。昔はもっと明るかったって言うか、毎日が楽しそうだったのに」

 

 ヒマリも今のアヤトには思うところがあるようだ。かつてタツヤはタツヤで栄光を掴み、アヤトもアヤトでそうであった。その充実した輝かしい日々を間近で見てきただけにもどかしく感じるのは大切な兄の一人だからだろう。

 

「フウカ、ごめん! 今日、用事があって部活に行けないって言っておいて!」

「えっ!? ちょっとヒマリーっ!?」

 

 胸の中で広がるざわめき。大切な兄だからこそまた全力で楽しんでいた頃の笑顔をまた見たい。

 思い至ったらすぐに行動を起こすタイプなのだろう。同じくチアリーディング部のフウカに一言頼むと有無を言う前に走り出してしまうのであった。

 

 ・・・

 

 制服に着替え終えたヒマリが校舎を出れば、もう既にアヤトの姿はなかった。そのまま後を追おうとスマートフォンを取り出すが、アヤトへの連絡をする前にその指は止まってしまった。

 

 今のアヤトにどんな言葉をかけて良いのか、分からなかったのだ。

 

 そもそもガンプラこそ続けてはいるアヤトが何故ガンプラ部の活動に参加しなくなったのか、その理由も分からない。

 部活動に参加しなくなったのは人間関係が悩みだろうか?しかし悩みを聞き出そうにも真正面からただ単純に聞いたところでアヤトが素直に話すとも思えなかった。

 

(タツ兄ならどうするかな……)

 

 ヒマリが咄嗟に浮かんだのはタツヤの存在だった。

 長男であるという意識からか、タツヤはアヤトやヒマリをよく気遣っている。だからこそその気配りに度々救われた為に縋るような想いでタツヤが頭に浮かんでしまったのだろう。

 

 しかし今、この場にタツヤはいない。

 相談という選択肢もあるが、そうするならば今、自分が出来る行動をした上で話したい。

 

 不意にポロッと話してしまうくらいでも良い。

 それだけでも十分だ。自分が知る限り、アヤトは悩みを真正面から聞いてもはぐらかすタイプだ。

 

「……そうだっ」

 

 ならばまずは環境作りから始めよう。

 思い立ったが吉日とばかりにヒマリは元気よく駆け出していくのであった。

 

 ・・・

 

「えーっと……確かここ等辺にあったよね」

 

 ヒマリがスマートフォンの地図アプリを参照してやってきたのはかつてタツヤとサナが出会ったショッピングモールの近くであった。普段こそショッピングモールには友達とアパレルショップなど趣味で向かうことが多いのだが趣味は趣味でも今回はヒマリのものではない趣味で訪れていたのだ。

 

「……あった!」

 

 程なくし目当ての店を見つけることが出来た。

 それはアヤトに連れられて訪れたことのあるオノが経営している模型店だ。何故、ヒマリが模型店に訪れる気になったのか、アヤト絡みであることは間違いないが模型店を視界に入れた途端、瞳を輝かせてかけっこでスタートを切った子供のように駆け出す。

 

 太陽のように明るく、元気いっぱいで快活な性格なのがヒマリの美点だ。行動を起こす時はいつだってアクティブである。周囲はそんな彼女に笑みを向けることが多いが、時にそれが仇になってしまう時もある。

 

「きゃっ!?」

 

 信号待ちの曲がり角に差し掛かった時だ。元気に走っていたヒマリは曲がってくる人物に気付かず、走っていた勢いのままぶつかってしまう。それだけならばまだ良かった。しかしこの時、ヒマリはバランスを崩し、何とか体制を整えようとするもそれが悪手となって縁石を踏み外し、思わぬ出来事に手に持っていたスマートフォンが宙に舞うなか車道に投げ出されそうになってしまう。

 

「──ッ」

 

 その瞬間、記憶の奥底に封じていた記憶が一瞬だけフラッシュバックする。そう、“あの時”も自分はこういう光景を見たことがある。土砂降りの雨の中、自分に向かってくる視界不良の車。ぶつかった衝撃と重くなっていく身体。

 

『ヒマリ……。ヒマリぃっ……!』

 

 そして目が覚めた時、涙を流す家族の姿。

 

 ……だめだ。あんな顔をもう二度とさせたくはない。しかし自分で身体のバランスを整えられなくなったこの状況ではヒマリにどうする事も出来なかった。ごめんなさい、そんな事を想いながら目を瞑った。

 

 ──その瞬間、世界が止まったような気がした。

 

「……あれ?」

 

 いつまでも覚悟した衝撃が来ることはなく、当たり前のように車の走行音や何気ない生活音が相変わらず聞こえてくるなか、ヒマリは恐る恐る目を開く。今、自分は車道に飛び出すことなく、歩道の中で何事もなく立っているではないか。

 

「──すまない、余所見をしていた。怪我はないか?」

 

 どうなっているんだ? 自分の状況に混乱していると不意に目の前から声をかけられる。そこにはヒマリより少し年上、大学生くらいだろうか、一人の女性が立っていた。

 

 整った顔立ちと黒いリボンで纏めたポニーテール。全体的に引き締まったさながらモデルのようなスタイルを持ったその外見に思わず見惚れるが、その女性の手にはヒマリのスマートフォンが握られている。

 ヒマリは確かにぶつかった拍子で自分と共に車道に投げ出されるスマートフォンを視界に捉えていた。しかしそのスマートフォンを目の前の女性が握っているのだ。そんなこと“時間に干渉”でもしない限り出来ないはずなのに。

 

「ありがとうございます……。えっと、アナタは……?」

「むっ……そうだな。風来坊、と言ったところだろうか。訳あってこの町に流れ着いた」

 

 頭が混乱してしまうが、差し出されたスマートフォンを受け取りながら目の前の女性に感謝を伝える。何気なくその素性を聞いてみれば、日常生活では凡そ聞きなれない風来坊という言葉が返ってきたではないか。思わずヒマリがフーライボー? と首を傾げていると女性は懐から一枚の写真を取り出す。

 

「この男を知っているか?」

 

【挿絵表示】

 

 そう言って見せてきた写真には一人の人物が写っていた。そこにいたのは中性的な外見を持つ目の前の女性曰く男性のようだ。年は目の前の女性に近いだろうか? とはいえ彼女がこの町に来た理由はこの写真の人物に関係しているらしいが生憎、ヒマリに記憶はなく首を横に振る。

 

「そうか。ならば仕方ない。ではな」

「ま、待って! お礼! お礼をさせてくださいっ!」

「そんなに大それた事はしていない。余所見をしていた私も悪いのだからな」

「でも私の気が済まないですっ! 何かさせてください! えっと……お名前はっ!?」

 

 話も程々に女性は別れを告げようとするが、何があったか正確に把握できていないにしろ、迷惑をかけた女性に何かしたいという想いは強く、気にしないで良いと断ろうとする女性に対してグイグイと迫っていく。

 

「……カナデ」

 

 出会って僅かだが、ヒマリが引かない性格なのを理解したのだろう。苦笑交じりに一息つきながら女性は改めてヒマリに向き直ると自身の名前を明かした。

 

「キサラギ・カナデだ」

 

【挿絵表示】

 

 ──それは目醒めし最強の遺伝子



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

これが私の

最近の悩みはカナデのキャラってとっくに確率させた筈なのに煉獄さんの圧倒的な引力に引っ張られる事です。


「ほぉ、兄上の為にガンプラを……」

「はいっ! まあでも私自身、あんまり詳しくないんですけどね」

 

 ぶつかってしまったカナデに礼をしようと一緒に行動しているヒマリ。何気なく談笑していれば話題は何故、あれ程急いでいたのかに移る。

 

「そうか……。ならば私も協力させてもらえないか?」

「えっ!?ガンプラに詳しいんですか!?」

「人並みだがね。私の知識が通用するかは分からないが自身の趣味に関することだ。協力できることはしたい」

 

 思いがけない提案だった。

 まさか偶然出会った、もっと言えば今まで出会ったことがない程、麗人のようなスマートな印象を受ける目の前の女性がガンプラを趣味にしているとは思ってもみなかった。

 

 とはいえ無知な自分が何も知らないで模型店に入っても迷ってしまうだけだろう。少しでも知識を持っている人がいるのは心強いと喜んで快諾する。

 

 ・・・

 

「うわぁ……。前に来た時は気にしなかったけど、一杯あるんだなぁー……」

 

 模型店に足を踏み入れ、ガンプラコーナーに向かうと所狭しに陳列されたガンプラの数々に圧倒されてしまう。如何せん40年以上の歴史を持つシリーズともなれば、ラインナップも富んでおり、これでもまだ全ての機体が商品化された訳ではないのが驚くべき所だ。

 

「ふむ、私の知識も活かせそうだな」

 

 圧倒されてるヒマリを他所にガンプラコーナーをぐるりと回ったカナデは合点がいったように何やら一人で頷いている。

 

「おっ、確かアヤトの妹の!」

「マトイ・ヒマリです! えーっと……店員さん!」

「店長や」

 

 平日も手伝ってか、今は客足も緩やかなようでヒマリに気づいたオノが早速声をかけてくれた。最もオノと関り合いもなく、アヤトからも特に聞いていないのか、呼び方に困ったヒマリの呼び名に即座にツッコミが入る。

 

「アヤトは今日は休みやろ。それよりも隣のお嬢ちゃんもここら辺じゃ見ない顔やな」

「この人はキサラギ・カナデさん! さっき知り合ってガンプラについて教えてくれる事になったんです」

 

 どうやら足早に学校からいなくなったアヤトはこの場にはいないようだ。元々顔馴染みのアヤトの妹であり、一回会っただけでもヒマリについてはすぐ思い出せたようだが、如何せんカナデに関する情報はなく、ヒマリの友達と言うには大学生辺りに見え、姉と言うにはそもそも似ていない。だがヒマリの説明に納得したようで忽ち笑みを見せる。

 

「そーかそーか。嬢ちゃんもガンプラをやっとるんなら今後もウチを贔屓してなっ!」

「うむ、その時はよろしく頼みたいと思いますっ!」

 

 元々お互いに快活で言いたい事を言うタイプである為、まだ出会ったばかりで打ち解けるとまでいかないまでも悪い人間でない事は短い会話で伝わったのだろう。声量のある通った声のカナデに満足したように頷きながら「何かあったら気軽に声かけてなー」とオノは自身の仕事に戻っていく。

 

 オノとの会話も程々に改めて二人はガンプラコーナーに視線を戻す。以前に結局どれも同じに見えると言っていたヒマリだが、流石に所狭しと並べられたガンプラに改めて感心しているとふと何かに気付いたのか、口を開く。

 

「さっきから思ってたんですけど、ただでさえ色んなロボットがプラモデルになってるのに何か同じロボットでも色んな種類がありません?」

「そうだな、ガンプラと一口に言ってもその実、多種多様だ」

 

 そう、例えばガンダムだけに絞っても種類がある。箱の大きさもまちまちだし、何ならリアルなタイプだけではなくデフォルメされたようなガンプラさえある。アヤトがガンプラを作っていてもその辺に関しては知らなかったようでそんなヒマリにカナデは説明を始める。

 

「大まかにアニメに出てくるようなMS……まあロボットだな。この辺りはHG、MG、RGというブランドが。デフォルメされたキャラを主軸にしたBB戦士、メカではなくキャラクターを組み立てるFigure-rise Standard……。まあ他にもRE/100やEXモデル、ベストメカ・コレクション等、先程挙げた以外にもブランドは様々で正直に言って全てを説明すれば長くなるので……」

「へえ」

「うむ、割愛しよう」

 

 大雑把にガンプラで展開しているブランドを説明するものの、やはりいきなり多くを説明されても理解が追い付かないだろうと確認がてらにヒマリを見ればその生返事のような相槌に手早く話を切り上げる。

 

「さて、一先ずの君の目的はガンプラの購入、と言うことで良いかな?」

「はい! あっ、でも作りやすいのが良いかも。私、初心者だし」

 

 改めて模型店でのヒマリの目的を確認する。とはいえまだ彼女はまともにガンプラを触れたことのないような素人。どうせなら作りやすい方が良い。

 

「ふむ、ならばこれなんてどうだろう」

 

 ヒマリの要望を取り入れつつ、カナデが手に取ったのは見渡す限り存在する大小様々なガンプラの箱ではなくパッケージされた袋だった。

 

「エントリーグレード……? さっき挙げてたのには無かった奴ですね」

「割愛したからな。その特徴はこの低価格とシールなしにも関わらず驚異の色分けと抑えられたパーツ数によってストレスなく組むことが出来る。そのパーツもBB戦士などに一部に採用されていたタッチゲートと呼ばれる製法によって手で取り外し可能な為、工具も必要ないとまさに簡単にガンプラの雰囲気に触れる事が出来る入門向けのシリーズだ」

 

 生返事ながら一応、話は聞いていたようで奏が挙げたエントリーグレードのガンプラに首を傾げる。そもそもアヤトの近くにいるだけあってガンプラに触れた事のないヒマリでもガンプラは箱に入って売られているイメージがあるのだろう。そんな疑問に説明によって答える。

 

「ガンダムに詳しくないヒマリでもこのガンダムは知ってるから、これにしとこうかな」

「ありきたりな言葉だが結局、自分が気になったガンプラを買ってみるのが一番だ! 君が言っていた作りやすさという点も最新作であればあるほど、その技術力に唸らされる、……まあ中には過去に発売したガンプラをベースに流用したせいで凄まじいものも稀に出てくるのだが」

 

 いくらガンダムシリーズを知らないといえど、シリーズの顔だけあってRX-78-2 ガンダムを選ぶのは左程、抵抗感がなかったようで早速購入の意思を見せるヒマリにカナデは満足げに頷きながらもどこか遠い目で視界の端に映るガンプラを見やりながら呟く。まあ、なにを指しているのかはカナデしか分からないが。

 

「けど、ガンプラってこんなに種類があるなんて思わなかったなぁ」

「うむ、それだけの歴史があり、それぞれに思い出がある。君とガンプラの時間が良いものである事を祈ろう」

 

 購入するプラモを選び終えて、改めて陳列されたガンプラの数々を見ていると穏やかな口調でカナデは語り掛ける。確かにいくら何でも短期間に次々に商品を出すことは難しいだろう。自分の目の前に存在する所狭しと並んだガンプラ、それが歴史を物語るのかと思うと感心してしまう。

 

「あっ」

「……む、あぁすまない、つい。私には妹のような存在がいてな。昔はよく頭を撫でていたので、思わずやってしまったようだ」

 

 不意に頭を優しく撫でられた。誰かと思えばカナデであり、先程の言葉を言い終えると同時に妹に接するようにヒマリの頭を撫でてしまったようだ。しかし頭を撫でたのは無意識のものであったようで非礼を詫びながら手を引っ込める

 

(……変わった雰囲気の人だけど、温かくて面倒見の良い人だなぁ。お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな)

 

 いえ、気にしないでくださいとカナデに気を遣いつつ、改めてカナデという人物の印象を抱く。あまり馴染みのない口調やどこか大人びて超然とした雰囲気すらあるもの、かと思えば子供のようにコロコロと表情を変える……。今まで出会った事のない存在である為、もっと知りたいとすら思えてしまう。

 

「そうだ、もう一個! もう一個、買います!」

「ふむ、君がそうしたいならそうすると良い」

 

 店内をグルリと見渡したヒマリはやがて何を思ったのか、もう一個、ガンプラを購入すると言ったのだ。

 とはいえ、それは個人の自由だ。カナデが関与する事ではない為、ヒマリの好きなようにさせる。

 

「自分が気になったガンプラを買ってみるのが一番って言ってたもんね」

 

 どうやらカナデに勧められたガンプラだけではなく、自分のセンスで選んだガンプラを買おうとしているようだ。

 今の自分の財布事情で購入できるのはBB戦士か、HGシリーズだ。最近知ったF91などを見つけながらBB戦士とHGのコーナーをグルグルと回る。

 

「あっ、これにしよっかな。何か可愛いし」

 

 BB戦士のデフォルメされた可愛さとリアルタイプのHGの格好良さ。どちらを取ろうと悩んでいたヒマリだが、やがて一つのガンプラを手に取った。

 

「コアガンダム……。合体してアースリィガンダムか」

 

 それが誰にも左右されない。ヒマリ自身の直感で選び取ったガンプラの名前だった。




エントリーグレードはライトパッケージとウルトラマンゼロしか持ってないんです。

こっちの更新がおざなりになっていて申し訳ございません。最近、ガンブレ3小説のアニバーサリー辺りからpixivをメインにしていた為、遅れました……。

関係ない話なんですけど、pixivさんの方でウルトラマン擬人化娘を描いていて、現在でウルトラマンリブット、グレート、パワードを描いたのですが、特にパワードが反響があったというか、Twitter、pixiv問わずリブットとパワードは海外と思われる方々から反応があったんですよね。やはり海外製作だけあって向こうにも認知度はあるんだと再認識しました。

そんなウルトラマン擬人化娘ですが、第四弾は最新作ウルトラマントリガーでして、まだまだ未完成ですが簡単に色を塗ったトリガー娘をTwitterに投稿したので興味がありましたら覗いてみてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガンプラ部の呪い

教えてくれ五飛……。俺達は後何度ハルウララの涙を見ればいい? 俺は後何回、ハルウララを有馬記念に出走させればいいんだ…… たづなは俺に何も言ってはくれない……。

……ウマ娘をやったり、ウルトラマントリガー放送開始で週刊擬人化娘をやったり、ウルサマのウルトラショットに飽き足らず、ミート・ザ・ヒーローに参加してたらもうこんなに経ってる……。改めて申し訳ないです。ですが今回、募集したキャラが二人でます。

それはそうとミート・ザ・ヒーローはヤバいぞ。推しトラマンとの三分間はマジで尊死する感覚を味わえるぞ。


「エントリーグレードとアースリィガンダムかいな!初心者のヒマリにはええチョイスや」

「店員さんもそう思います? やっぱり」

「店長や」

 

 早速、購入するガンプラを持って、レジに持ち込めば、その内容にオノは感心したように笑って手早く会計を画面に出力する。

 

「ウチは作業ブースを用意してるさかい。何なら使ってもエエよ」

「わぁーっ、ありがとうございます! キサラギさん、早く行きましょう!」

「なに? どういうことだ」

 

 レジ横を親指で指した先には幾つかのテーブルが置いてあり、既に何人かがそこで思い思いにガンプラを作成していた。

 オノの勧めに善は急げとばかりにヒマリは半ば強引にカナデの手を取ると説明もおざなりに作業ブースへと向かう。

 

「解せないのだが君は兄上の為にガンプラを買ったのだろう?何故、この場で作ろうとしているんだ?」

「えへへ……。その通りなんですけど、二つ買ったじゃないですか。だからその内の一つはキサラギさんと作りたいなぁーって」

 

 とはいえ、カナデからしてみればこの場で作るとは思っていなかったようで困惑した面持ちだ。

 そんなカナデの疑問に彼女から勧められたエントリーグレードをはにかんだ様子で取り出しながら上目遣いに見つめる。

 どうやらわざわざ二個買ったのは、その内の一つをカナデと組みたかったらしい。

 

「……分かった。私で良ければ付き合おう」

 

 無垢な瞳を前にやがてカナデはゆっくりと頷いてくれた。ガンプラへの興味が今ここで組みたいと思うだけ膨れ上がっているのはカナデとしても喜ばしい事なのだろう。早速、二人は作業ブースへと向かう。

 

「むっ、彼等は君と同じ制服ではないか?」

 

 作業ブースではガンプラを購入した利用客が思い思いにガンプラを組んでいた。どこか空いているブースを探していると不意にカナデの目に二人組の姿が留まる。作業ブースの一角、そこには確かにヒマリと同じ奏海高校の制服を身に纏った男女二人組であった。向こうもこちらに気づいたのだろう。視線同士が重なる。

 

「あれ、マトイ君?」

「……じゃなさそうだな」

 

 彼等はタツヤ達と同学年なのか、少女はヒマリを見て一瞬、その柔らかな顔立ちからか、彼女の兄達が浮かんだようだが少女の隣にいた青年はタツヤやアヤトと違い、女性らしいプロポーションのヒマリに気付き、否定する。

 

「あの、もしかしてタツ兄アヤ兄……。えっと、タツヤとアヤトの……」

「同学年だよ。もしかして君は……」

「マトイ・ヒマリ! マトイ家の末っ子で今年、奏海高校に入学しましたっ」

 

 青年達の素性が軽く分かったところでヒマリは軽い敬礼のようなポーズで簡単に自己紹介を済ませる。

 

「俺はタカヤマ・アスカだ」

 

【挿絵表示】

 

「私はナナミ・フユカ。よろしくね、ヒマリちゃん!」

 

【挿絵表示】

 

 元気いっぱいなヒマリにつられるように笑みを浮かべながら青年……タカヤマ・アスカと少女……ナナミ・フユカは自身の名前を明かす。

 

「ヒマリちゃんはここにいるって事はガンプラをやってるの?」

「あー……ちょっと違うんです。ヒマリ、ガンプラに触った事すらなくて。だから隣にいるキサラギ・カナデさんと一緒に作ろうと思って」

 

 ここは模型店。アスカ達も含めてガンプラを趣味にする者が訪れる場所だ。ともなればヒマリもそうなのだろうと聞いてみるが生憎、ヒマリがガンプラに意識を向けたのは半ば今日が始めての事であり苦笑気味に隣にいるカナデを紹介する。

 

「そうなんだ。アヤト君があれだけ凄いから、ってきりヒマリちゃんもそうなのかと思ったよ」

「アヤ兄ってやっぱり凄いんですか?」

「そりゃあね。コンテストで何度も優勝してるし、このお店にも幾つかアヤト君の作品があるから年齢問わずこのお店の常連さんでアヤト君を知らない人はいないんじゃないかな」

 

 今までガンダムどころかガンプラにする興味がなかったヒマリからすれば、アヤトがこれまで何度かガンプラのコンテストで優勝してその度に祝っていても、根本的な部分で興味がなかった為、どれだけ凄いかよく分からず、いつの間にか記憶の片隅にあったのだろう。

 しかし今目の前でプラモデルに触れている存在であるフユカが熱のある言葉で改めてアヤトの凄さを実感したようで感心した声を漏らす。

 

「あの、お二人はガンプラ部なんですか?」

「いや、違う。ガンプラは趣味でやってるだけだからな」

 

 ガンプラを嗜んでいる事から、ひょっとしたらと思ったが彼等は彼等で別の部活に所属していて、ガンプラは趣味として行っているようだ。

 

「それにガンプラ部は……」

「えっ?」

 

 アスカの言葉を引き継ぐように話すフユカだが、その言葉は何やら歯切れの悪いような物言いだ。

 流石にそのような言葉を聞いてしまっては兄達二人が関わっているだけあって気になってしまう。

 

「下らない与太話のレベルなんだけどな。でも、そういうのってのは尾ひれが付くんだ。まあ気にしなくて良いと思うぞ」

 

 そんなヒマリを察したのか、アスカがフォローをしてくれるがヒマリの表情が和らぐことはなく、何とも言えない空気になってしまう。

 

「ふむ……。部外者の身であるのを理解した上でなのだが、差し支えなければ仔細を聞いても良いか?」

 

 すると今まで成り行きを見守っていたカナデが口を開く。確かに当人が言うようにカナデは奏海高校の関係者でもなければ、アスカ達どころかヒマリとさえ今日、初めて出会ったのだ。

 本来ならば関係ないだろうと突っぱねるところだが、気遣うようにヒマリの背中に手を添える様子から決して興味本位などではない事は分かったのだろう。アスカとフユカはお互いの顔を見合わせると……。

 

「……そうだな。まあ、妹さんからしてみれば、気にしなくて良いって言っても気になるか」

 

 ヒマリとそんな彼女を気遣うカナデの意思を汲んで、ガンプラ部の噂を話してくれる気になってくれたようだ。

 これで少しは胸のつかえが取れるとばかりに笑みを見せるヒマリにカナデは優しく頷く。そんな二人を見ながらアスカは思い返すように話し始める。

 

「それじゃあ、どこから話すかな──」

 

 ・・・

 

「もうムリ、ちょっと休ませて! 私達何戦やってたの!?」

 

 それから数十分後。場所は奏海学園ガンプラ部に移る。今の今までガンプラバトルに打ち込んでいたのだろう。回数を忘れてしまうほど、ずっとバトルをしていたようでサナは限界とばかりに机に突っ伏す。

 

「百戦目からは数えてないが……今日はここまでにしておこうか。タツヤも限界が近そうだ」

「……eスポーツとはいえ、こんなにゲームをやったのは久しぶりかもしれない」

 

 普段からガンプラバトルをやっているサナでさえ、根をあげ、トウマも額にはうっすらと汗が滲んでいる。この二人でこれなのだからビギナーのタツヤも限界だろうと一瞥すれば、もう既にタツヤも机に突っ伏していた。

 

「ね、そろそろ出ないと正門の鍵閉められちゃうよ。裏門からだと結構遠回りになるし、早く行こっ」

 

 行くよー、とタツヤの肩を掴んで揺らしながら帰り支度を整える。廊下を通る生徒達の声も少なくなっていき、時間が迫っていることが分かる。三人は急いで校舎を出るのであった。

 

 ・・・

 

「はー……長いことトウマと二人だけだったから三人で部活出来るのって楽しいね」

「同感だな、タツヤのお陰で今日は充実した活動が出来た」

 

 夕暮れ時、空も暗がりが差す帰り道をガンプラ部の三人は歩いていた。百戦を優に越えるバトルを行っていたのは久方ぶりの充実した時間を過ごせたからなのか、二人とも表情が生き生きとしていた。

 

「……他の部員とかはどうしてるんだ? アヤトも顔を出してないみたいだし、もしかして部活を辞めてるのか?」

「そういうわけじゃないんだけどね……」

 

 元々気になっていたアヤトとサナ達のぎこちのないやり取り。タツヤがガンプラ部に顔を出すようになってもアヤトはガンプラ部の部室に来ていない。もしも部活を辞めているのなら説明もつくのだが、どうやらそういう訳ではないらしい。

 

「──去年の秋、とある人物が震源になって、ガンプラ部は荒れに荒れた」

 

 噂自体、タツヤは知らないようだが何れ知る時が来るだろう。ならばと思ったのか、トウマはサナの言葉を引き継ぐようにゆっくりと静かな口調で話し始めた。

 

「結果、震源になった人物は去ったが、ガンプラ部は空中分解。悪い噂だけが残った」

「噂……」

 

 アヤトがガンプラ部に顔を出さなくなったのは、その人物が原因なのか。アヤトが夢中になっているガンプラ、それを主とする部活を離れる原因となった人物がどのような存在なのか気になるところだが、今は話に集中する。

 

「ガンプラ部に入ったら心を壊される。……なんてバカみたいな噂なんだけどさ。新入部員がゼロだった辺り、まだ本気にされてるよね」

「ここまで来たら、殆ど呪いと言っても良いだろう」

 

 話だけ聞けば、鼻で笑ってもおかしくはないのだが現実として部活動しているのはこの場の三人だけだ。確かにトウマの言う通り、呪いと表現して良いのかもしれない。

 

「トウマの全国大会出場で注目が集まってるし、次の大会で良い成績を残せたら、きっと呪いも解けるよ」

「……そうだな。その為にも大会までに出来る限りの努力をしよう」

 

 暗くなった雰囲気を払うように元気で明るいサナの声が響く。今は少なくとも目の前の事に集中しなくてはならない。サナの励ましにトウマは意識を切り替えるように頷く。

 

(アヤト……)

 

 今、初めて知ったガンプラ部の過去の一端。弟がそんなことになっている事に気づけなかったことを恥じつつ、これ以上はこの話をひきずらないように頭の隅に追いやるのであった。

 

 ・・・

 

 薄暗い道をヒマリとカナデは歩いていた。奏海学園ガンプラ部を取り巻く噂……。それはトウマがタツヤに話したものと同じではあったが、それでも自分の兄二人が関わってるガンプラ部にそのような噂が流れている事にヒマリの表情は暗かった。

 

「何かその、ごめんなさい、カナデさん。折角、付き合って貰ったのに……」

 

 カナデと一緒に作りたいと思って、わざわざ二つ買ったガンプラだがガンプラ部を取り巻く噂を聞いたお陰で作る気が起きず、結局二つとも未組立のまま持って帰っている。

 

「なに、こういったものは無理に作るものではない。君が作りたいと思った時に作れば良いさ」

 

 お礼らしいお礼も出来ないまま、ガンプラも一緒に作れなかった。カナデに対して申し訳なさが出てきてしまう。

 しかしカナデはさして気にした様子もなく、それどころか落ち込むヒマリをフォローしてくれたではないか。

 

「あっ」

 

 きっとこのキサラギ・カナデという女性はどこまでも真っ直ぐな良い人なのだろう。その屈託のなさに救われる反面、だからこそ罪悪感が湧いてきてしまうのだが。

 

 そんな時であった。不意にヒマリの視線は人影を捉える。それは紛れもなくタツヤだ。一人でいるところを見るとガンプラ部の面々とは別れた後なのだろう。

 

「君に似てるな。もしかして彼は……」

「はいっ、兄の一人です!」

 

 遠巻きにでも分かるタツヤの柔らかな顔立ちは隣のヒマリとよく似ていた。もしや、と思って聞いてみれば、予想通りヒマリの血縁者だったようだ。

 

「ならば、私はこの辺りで良いだろう。お兄さんのところに行ってあげなさい」

 

 兄がいるのであればこれ以上、送ってあげる必要もないだろう。後ろからヒマリの両肩にそっと手を添えるとタツヤの元へ促すかのように軽く押す。

 

「あの、キサラギさん。またお会い出来たりしますか? 何だったら連絡先を──」

 

 名残足りないような思いもあるが流石にこれ以上、カナデを引き留める事は出来ないだろう。だが今日は駄目でもまたどこかで会いたい。自分はまだお礼さえ出来ていないのだから。そう思ってスマートフォンを取り出した時であった。

 

「世界は四角くないんだ。また会える時もあるだろう」

 

 そんなヒマリを制し、カナデはタツヤ達やヒマリとは違う方向へ歩を向ける。

 

「暫くはこの街で厄介になるつもりだ。何も今日にと急く必要はない」

 

 気を付けてな、と言い残してカナデはヒマリの言葉を待つことなく歩き去ってしまう。あぁなってしまっては仕方ないとヒマリはカナデの言葉に再会を期待しつつ、タツヤの元へ走っていくのであった。




<G/Bノベルドラマ>

ヒマリ「やっほー、みんな。私はマトイ・ヒマリ! マトイ家の末っ子なんだ。ここでは不定期にお話の間に起こった頃の話をお届けするよ! 意外なあの人なんかも登場するかもしれないよー!」

・・・

フユカ「ヒマリちゃん、元気な子だったね」

アスカ「そうだな。まあ、まさかマトイ達の妹だったとは思わなかったけど」

フユカ「そう言えばヒマリちゃんの前にもう一人、知り合ったよね。ヒマリちゃんと同じ元気いっぱいの」

アスカ「元気ありまくりだけどな。一回口を開いたらどこまでもマシンガントークを繰り広げてただろ」

フユカ「あははっ、でも不思議と楽しかったなぁ。あっ、噂をしたら早速、メッセージが届いたよ。さっき一緒に撮った写真も一緒だ!」

《やっほー! さっきはありがとね! ガンプラ始めたばっかりなんだけど、まだまだ詳しくないからアドバイスしてくれてホントーに助かったよ! しかも二人ともバトルも凄かったねーっ! 実はね実はね、アタシのお兄ちゃんもガンプラバトルに強いし、アタシの親友の双子のお兄ちゃんはチャンピオンでもあるんだよっ! 今度、時間があったら一緒に遊ぼうよ! アタシも親友を紹介したいしね! 飄々としてる娘だけど実際は良い子だよ! この前なんて──》

【挿絵表示】

フユカ「メッセージでも凄いテンションだなー。でも、また会いたいな」

アスカ「名前なんて言ったっけ?」

フユカ「もぅ。忘れちゃダメだよ! あの子の名前はネジr──」

End

トライデントさんからいただきました。

キャラクター名 タカヤマ・アスカ
ガンプラ名 ジム・アサルト
元にしたガンプラ ジム【サンダーボルト】

WEAPON ツイン・ビーム・スピア
WEAPON ブルパップ・マシンガン
HEAD ブルーディスティニー3号機【ザ・ブルー版】
BODY ブルーディスティニー3号機【ザ・ブルー版】
ARMS ガンダムNT-1
LEGS ペイルライダー
BACKPACK フルアーマー・ガンダム【サンダーボルト】
SHIELD 曲面型シールド【ジム・カスタム】
AIPILOT ユーグ・クーロ

キャラ背景
性別:男 年齢:17 身長:172
容姿:肩まで伸びた黒髪。ちょっと鍛えてるのか平均より少しだけがっしりした体型。目の色はシン・アスカと同じ

主人公と同じ学校に通うどこにでもいるガンダム好きの少年…なのだが、ある日を境にほんの少しだけおかしくなってしまった
ほんの少しだけおかしくなってしまったけど、そこを除けばフツーの少年。一番好きな作品はSEEDらしい

最初はガンプラ名通り、ジムをベースにした俺ジムを作るつもりだった。理由は量産機ベースにあこがれて
サンダーボルトのジムをモチーフにしよう。背中はフルガンね
せっかくだし外伝で縛ろ。足はジムベース繋がりでペイルライダー
腕…思い付かないな。想像湧かせたいしガンダム見よ←ここまでは分かる
ポケ戦みたら腕部ガトリング使いたいな。アレックスにしよ←ん?
なら残りの外伝…ブルーかな←ほぼ陸ガンベースですけど
なにこの3号機かっこよ。使いたい←陸ガンベースですね
やった俺だけのジムが出来…ジム…?←ガンダムだね
てワケで、どう見てもガンダムのジムを使う少年
「いやほら、ガンダム・ヘッドってサンダーボルトにいたし。それ頭ガンダムのジムだし。あとほら、武器シールドとかどう見てもジムじゃん。な?僕が使ってるのはジムなんだよ。これはジムなんだ。ほら。言え」
……訂正。ジムだと思い込んでるガンダムを使う少年である。これのせいでみんな何も言えない

カラーリングはサンダーボルト版ジムでまとめてる。だってジムだし
バックパックのせいでゴツくなってはいるが、わりと素直な機体となっている。だってジム(
バックパックのビーム砲やミサイルによる一斉放火やブルパップ・マシンガンと有線式ミサイルによる射撃戦。高起動を活かしたマシンガンやビームスピアによる白兵戦。さらに切り札のEXAMを発動した腰にマウントされたビームサーベルによるラッシュ。強いぞこのジム

キャラクター名 ナナミ・フユカ
ガンプラ名 ザク・フェイカー
元にしたガンプラ イフリート改

WEAPON ヒート・サーベル【イフリート改】
WEAPON 大型ビーム・マシンガン【ゲルググJ】
HEAD イフリート改
BODY ゲルググJ
ARMS イフリート改
LEGS ゲルググJ
BACKPACK 高機動型ザク改【シン・マツナガ専用】
SHIELD なし
AIPILOT リリア・フローベール

キャラ背景
性別:女 年齢:17 身長:165
ポニーテールが特徴の黒髪。体型も平均というか、育ち盛り。目の色は水色

主人公と同じ学校に通う普通の女の子。アスカのことが好きな幼馴染み(ちなみにむこうは片想いと思ってる)
なのだが、最近どうにも様子がおかしい。どう見てもガンダムの機体をジムと言い切ってる。しかもその時目が死んでるし。名前も相まってSEED発動したみたいになってるし
可哀想になって、自分もどう見てもイフリート改の機体をザクと命名することにした。ほら、ジオンの機体ってほぼ見た目ザクの機体多いでしょ?さすがにドムとかゲルググ、とくに水泳部は違うけどさ
ただアスカと違い完全には狂えなかった(別にアスカも狂ってはない)ため、バックパックはちゃんとザクだし、なんならフェイカー(偽物)って名付けちゃってる
しかもアスカ本人が「いや、それイフリートでしょ」とか言うもんだから内心おこ。激おこ手前。アスカの幻覚が収まったら100回ビンタすると決めている

カラーリングは肩は青。他はザクIIカラー。だってザクだし
見ての通りほぼイフリート改。ザクだけど。最低限の射撃戦は出来るようにとゲルググJのマシンガンは装備してるが、近接戦は鍔迫り合いに勝って弾は避ければいいじゃないとシールドは装備しない
その代わり本家イフリート改のように余計なウェイトが少なくともシールド分無くなってるため、機動性抜群。アスカが射撃寄り万能機なら、フユカは格闘寄り万能機。ちゃんとEXAMも使うよ
ちなみにアスカと同じEXAM機にしたのは、彼女なりの乙女心から

素敵なキャラとガンプラ、ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。