IS Let's make you a happy days (AK74)
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一章
 プロローグ


 最近、色々と変な体験をするようになった。R15やR18のような物ではないからな?

ここは間違えないように。

 一類に変な体験と言ったとしても、傍から見れば「そんな程度?」と言われておかしくない程度の物だろう。一から十まで上げていたらキリがないから簡単に言うと、変な夢を見たり、デジャヴ的な

物を見たりだ。

 何で俺がそんな体験をするのか全くわからない。というか分かったら怖いと思う・・・。まぁそれを体験してるうちに分かったことがある。

 俺が見知った人は出てくるが、それは現実の事でないってこと。

 俺も何が言いたいのか分からないんだが、そうとしか言えない。

 現実にしてはおかしい、かと言って夢かと言えば、妙に現実味がある。夢と現実の間って言うのか知らないけどそんな感じだ。

どんな内容かっていうと、日常?的なやつ。ぶっちゃけるとそんなもんだ。

 ただ、姉さんと秋羅兄が高校生であること、鈴や弾達までもが高校生って事は現実にしてはおかしいと言わざるを得ない理由だと思う。

 ちなみに姉さんは俺の姉の織斑千冬。秋羅兄が本名雪片秋羅で、俺の唯一の家族だ。

 二人のことを説明すると長くなるから手短に説明させてもらうと、かな~り強い24歳社会人だ。秋羅兄は、いっつも家にいることが多いから社会人言うのは微妙だけど。

 秋羅兄は俺の兄ではない、物心着く前から同じ家に住んでいたらしいけど。そこは父さんが関わっていると思う。あくまで個人的な考え。

 話を戻すけれども、二人は社会人だ。別に高校生なのはおかしくはない、いきなり大人じゃないしさ。ただ、鈴達と同じ学年であるのがおかしいのだ。

 なにせ鈴達は俺と同じ15歳なんだから。

 だからこの世界のこと(一応)じゃないとは思う。

 まっさきに考えたのは、別世界、つまりパラレルワールドじゃないかってこと。パラレルワールドを信じていないわけではないから故だけども。

 まぁ、パラレルワールドって言っちまえばある程度の説明はつく。だから何って言われちまえばそれまでだけどさ。

 だけどこうやって受検というものが迫っておきながらのんきにしているのだけれども、実際こうやっているのは実を言うと3年もない。

 軽く言うようだけど、こう感情を持って人間らしく生きてきた時間がほとんど無いって事。

 何がしたいんだか何一つ分からず、ただ繰り返される日々を過ごしていた。

 模範となる優秀な姉とずっと比べられる毎日。

 近寄ってくる奴らは皆、姉さんと近づくため。

 常に姉を通して見られ、俺自身は見てもらえなかった。

 出来損ないと、教師から、周りの奴らから、その親から罵倒された。

 周りの奴らからは暴力を振られ、教師は止めようとしない。

 言い換えれば俺はいじめられっ子、味方は唯一の家族のみ。

 そのせいなのかよくわからないけど、俺は心を殻に閉じ込めて、皆の言葉を信じなくなった。

そんな生活が変わったのは、小学6年の夏が始まりだ。忘れることのできない初めて楽しいと感じ、そして未だその楽しかった日々を超えることができない、それほどまでに素晴らしい日々。

そこで俺は更識家次期当主と出会った。だけど俺にとってはそんな固っ苦しいものじゃない、初め

て俺自身を見てくれたたった一人の凪沙だ。

 凪沙は一つ年上なんだけれど、はっきり言うと年上に見えない。凪沙の妹で俺と同い年の簪の方

が何倍もしっかりしているように見えた、少なくとも俺にはな。

 凪沙は過度と言うべきのいたずら好きで、よく(かなり)被害にあった。んで毎度まいど虚さんに叱られるというパターンが出来上がっていたけど、いつの間にか俺も凪沙とイタズラするようになり虚さんに叱られた。

 ちなみにだが、キレた虚さんはブチギレた姉さんに引けをとらなかった・・・。俺の数少ないトラウマの一つだ。

 逆に簪と虚さんの妹の本音は癒し系タイプ。姉と性格が正反対って言うんだろうかな?

 楽しかった日々は、たった1年で終わりを告げた。

 凪沙たちがロシアに行くことになったからだ。

 その頃の俺は、秋羅兄の特訓(リンチ)のおかげで前よりずっと全てにおいて、強く成長できていた。

 それでも、別れは辛い。

 でも、泣かなかった。

 泣きたくなかった。

 弱かった自分と決別するために泣かないって決めたから。

 もう弱い自分に戻るなんて、死んでもゴメンだったから。

 だから凪沙をロシアに見送る時涙なんて見せなかったし、それ以前に意地があったかもしれない。

でも、凪沙と別れ際にかわした約束のおかげで、不思議と辛さが和らいだっけ。

 再会するって約束したから。

 再会できるその時まで、お互いのものを交換しようって事になり、俺は腕時計、凪沙はペンダントを。

 女物のペンダントで写真を収めておけるタイプのものだが、下手すりゃ1万はいきそうな物。安物の腕時計を交換したのが恥ずかしかった。

 でも、それがあったおかげで「頑張ろう」と思うことができた。

 そして中学時代。

 正直言ってしまえば、結構荒れた。言い換えれば喧嘩ばっかしやってたという事だ。

 毎日毎日というわけじゃないけども週に2~3回はやってた、と思う。学校では律儀に売られた喧嘩

は買って、ボコボコにして、降参しようが、血まみれになろうが、俺の気が済むまで馬乗りになって叩きのめした。負けることはなかった。秋羅兄に鍛えてもらったおかげだと思う。今思えば最悪な力の使い方だ。

 そのせいで、親友だった弾たちにすごい迷惑をかけたし、意見が食い違ったときは殴り合いに発展した時なんてザラだ。

 それでも弾たちは、性格も愛想悪い俺の親友でいてくれた。本当頭が上がらない。

 凪沙と離れ離れになって二年以上が過ぎた。

 未だ、再会出来ていない。




感想待っています。


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 第一話

「一夏。お前またやったのか?」

 

 放課後、部活に所属していない一夏は帰宅の路についていた時声をかけられる。

 一夏が振り向けば、制服を着崩している今時の不良風の数馬がいた。カバンの他に袋を持っているあたり、チョコレートでももらってきたのだろう。

 今日は二月十四日なのだからおかしくはない。

 まぁ、その量が少々問題なのだが。

 

「どうせお前が売られた喧嘩でも買ったんだろ?いい加減律儀に買うの―――――」

 

「死ね」

 

「ちょ・・・!?いきなり死ねはないだ――――――」

 

「ウザイ失せろ邪魔だ、俺から半径三億キロ離れろ」

 

「三億キロって・・・どれくらいだっけか?ヨーロッパくらいか?」

 

 馬鹿故に頭の上に?を浮かべる数馬を、一夏は鼻で笑う。

 

「ブヴァカ地球上じゃ表せねーよ。よくそんなんで藍越受かったな、モテることよりも高校の事を心配したほうがいいぞ」

 

 ドヤ顔で数馬は言う。

 

「ふっふっふ!甘いな一夏。俺には主人公補正が―――――」

 

「嘘つけドアホ。お前が主人公な訳ねーだろうが」

 

「ちぇっ、少しは乗ってくれりゃいいのに。ま、俺だって頑張った訳よ、もう忘れたけどな。あっはっはっ!」

 

 脳天気に笑う数馬を見て一夏は一言。

 

「バカなりにか。それだから完全無欠の脳筋筋肉馬鹿って言われんだよ、分かんないのか?」

 

「ダイジョーブだって、俺は俺だからな。もーまんたいだ」

 

 笑いながら言い切る数馬から、一夏は無言で目をそらした。なんだか、数馬が羨ましく感じたからだ。

 

(俺は俺・・・か。同じ事いってたっけな)

 

 脳裏に憧れた少女の姿が浮かぶ。今頃何をしているのだろうか。

 そういえば、連絡できたのにしてないじゃんと一夏。

 あの時、涙を我慢するのに精一杯でそんなことに全く気付けなかった。携帯電話のメールアドレスも交換していたというのに。

 こっちもこっちであっちもあっちで連絡を一切しなかったからなのだが、自業自得というものだろうか?

 

「んで?なんか用か数馬。すげー話逸れたけど」

 

 しばらく歩き、ふと思い出すように一夏が言うと、数馬はやれやれと肩をすくめる。

 

「まったくだ。どれだけそれりゃぁ気が済むんだってな」

 

「ったく、誰のせいだと思っているんだ?」

 

「誰のせいって・・・一夏お前以外にいないだろ。いきなり死ねなんか言わなきゃよ」

 

「ハァ?お前馬鹿か?話しかけてこなけりゃ、話は逸れないって」

 

 遠回しに話しかけんなアホと言っているのは数馬自身気づいてはいる。それ自体に、文句を言わないのはどうせ文句に文句返しされるだろうし、そもそも一夏がとてつもないほど愛想悪いのと、そういう理由を理解しているからだ。

 ただ、口が悪くても信頼してくれているのはわかる。

 そうじゃなければ、今までうまくいかなかっただろう。

 以外に一夏は寂しがり屋なのだ、性格は(かなりもしくは超)悪いが。

 

「お前なぁ、いい加減喧嘩すんのやめたらどうだ?高校行ったら退学もんだぞ」

 

 強引に話を進める。こうでもしない限り、一生と言っても差し支えないほどこのままだ。

 

「知るか、喧嘩売ってくるアホどもが悪い。自己防衛ってやつだっつーの。向こうは金属バットとか木刀だぞ?」

 

「いや・・・お前の場合返り討ちがエグいんだよ・・・」

 

(ぜってぇ、病院送りにするからなぁコイツ。秋羅さんもわかって鍛えているのかよ・・・?)

 

 はぁ、と数馬はため息をついた。

 一夏は、世界で最も有名な織斑千冬を姉に持っている。

 織斑千冬は、ISの最高峰の大会であるモンドグロッソで二連覇を果たす実力を持つ。しかも、公式試合での敗北経験は一度たりともなく、また試合時間が最長でも一分三十秒を超えたことがない、誰もが認める世界最強の人物だ。

 最強と言われる所以はISの操縦技術だけではない。

 生身。いわる近接格闘術の高さにある。その近接格闘術の高さは目を張るものがあり、部活動では全国大会上位に確実に送り出すほどだ。

 上には上はいるものなのだが、やはり最強なのに変わりない。そんな姉を持つが故に、弟である一夏も強いだろうと思う輩は少なからずいる。

 簡単に言ってしまえば思い込みだ。

 まぁ、その一夏は姉ほどではないが強い為、喧嘩を売る輩は尽きないのだ。

 

「なぁ一夏・・・っていねぇ!?」

 

 顔を横に向けてみたら、そこにいる(はず)親友の姿は何処にもない。慌ててあたりを見回すと、

十数メートル先にその姿はあった。

 数秒のうちにそれだけ歩いたと言うのか。

 しかも一夏の周りには女子たちが、今日はバレンタインデーだからおかしくはない。

 数馬を置いて歩いて行ったところ、女子の群れにとっ捕まったのだろうか。

 

(はは、無愛想だけど顔はいいからモテるってか)

 

 遠目で親友の姿を微笑ましく見ると一夏はかなり鬱陶しそうにしていた。それだから非リア充の敵と言われるのに気づいていないのか。

 ちなみに一夏は密かに女子だけで行われたランキングで、守ってもらいたい男子でぶっちぎりの一位を獲得している。

 

(・・・ん?ま~たあいつ一夏に渡してら。きっぱり振られたのに諦めてねーのかい)

 

 振られても告白したい男子にもきっちりランクインしている。もちろん一位。

 

「やれやれ。助けてやるとしますか」

 

 自身に言い聞かせるようにつぶやく。

 

(ったく、変なところでジョーシキ知らずなんだからよ)

 

 どうせ困っていることだろう。数馬は一夏の上に立てる優越感に浸りつつ、かなりモテるわりに女子のあしらい方も知らない親友の元へ走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウザイ邪魔だ失せろバァカてめぇに助けられなくても兵器・・・いや平気だ超ドアホ、銀河系クソ馬鹿カス野郎が」

 

「せっかく来てやったのに酷い言いようだな!?というか地味にネタ入れんなっ!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらないんだけど」

 

「・・・・・・オイ」

 

 たまたま近くにあったゴミ置き場に本気でチョコを投げようとする親友を抑える。

 あれから少し、一夏にチョコを渡せて満足した女子が退散する形でその場は収まったが、一夏はかなり疲弊していた。

 

「もうヤダ」

 

「ひっさしぶりに弱音吐くとこみたわ。そういや、お前は女子が苦手だったっけな」

 

 ギロリ一夏は数馬を睨む。

 

「苦手なんじゃない、だいっきらいだ」

 

「・・・・・・・へいへい」

 

 数馬は肩をすくめつつ疲弊しきっている一夏を見て、再度女子がにが・・・嫌いなんだと認識する。

 一夏が女子を嫌いな理由など小さい頃から苦労していたのは、秋羅や千冬から聞いていた。最初聞いたときは、現実にあっていいことなのかと疑ったものだ。

 簡単に言えばいじめの一言で終わるのだが悲惨過ぎて、いじめで済ませないような物。

 その話しを聞いて以来、どちらかといえばいじめっ子だった数馬は、撲滅する側に心変わりするほどだ。

 ちなみにだが、数馬には一夏を倒すという目標があるが未だかなわない。疲弊している今を狙えば簡単だろうが数馬のプライドが許さない、なんだかんだありながらも親友なのだ。

 

「つうかさ、お前女子嫌いなんだろ?IS学園行くしかないのにどうするよ。IS動かしちまったんだろ?」

 

 女子が嫌いという所で、逸れ過ぎていた話の話題を思い出しふる。どんな反応すんのかなーと思って一夏を見ると。

 

「畜生・・・・・・!あのクソアマ覚えときやがれ。闇討ちしてやる・・・・・・!」

 

「オイオイいきなり物騒なこと言うな。気持ちはわからんでもないが流石にそりゃないだ―――」

 

「たった一人でISを運ばされたのにか?」

 

「あーまぁウザイな。そういや八つ当たりにIS蹴飛ばしたら起動させちまったんだっけか?間抜けだよなー」

 

「黙れカス。てめぇの顔の方が一京倍くらいマヌケだ」

 

「うん、そう言われるのはわかってた。というか予想通りの反応されるとウケ――――」

 

「ンだとてめェコラ」

 

「す、すんません」

 

 ギロリと睨まれ一喝されひるむ数馬。キレた姿が一度だけ見た千冬に似てる物だから余計に怖い。

 ちなみに唯一の数馬のトラウマ。

 こんなものでは、一夏に勝てる日は当分来なそうだ。

 睨まれて終わるオチが目に見えて分かる。

 

「そういや弾は?」

 

 思わず数馬はずっこける。先程までのさっきはどこに行ったのか。コロコロと態度が変わるのは一夏らしくはあるが。

 

「・・・・・・確か家でウジウジしてんじゃね?チョコ貰えねーって」

 

「よっしゃぁっ!弾んち今から行っていじっていじりまくってげろさせようぜ!」

 

「だと思ったよ!お前はどんな時でも腹黒いな!」

 

 ドSの帝王、腹黒クール系、これが一夏の二つ名だった・・・

 




 お久しぶりです、これからもよろしくお願いします。

 


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 第ニ話

”お前は私たちの子供なのだから、私たちの言う事を聞いてればいい”

 

 

 

 

―――ずっと、そう言われるのが堪らなく苦痛だった―――――

 

 

 

「んぁ?」

 

 いつの間にか俺は寝ていたらしかった。なんで?と言われても机にうつ伏せ状態で、気がつけば寝ていたくらいしかないと言う、消去法でしかないが。

 

「げ」

 

 ずっとうつ伏せでいるのもアレだったから頭を上げてみれば、目の前には必死こいて話している教師が。しかも女。俺が嫌いな。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗」

 

 嫌な予感がしたから横を向けば、

 

「(じ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――)」

 

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?)

 

 なんかとなりの女子にガン見されてた。

 その視線に質量があったならば、軽く俺は殺されているだろうというくらいに。

 顔がひきつるのが分かる。念の為反対も見る。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 周囲が教壇に視線を向ける中、一人だけ見ているとかそういう程度じゃなくて、

 なんか俺、クラスメイトの殆どに見られてるんだけど。

 なんで?と思っていると、丁度よく視界の中に目の前の教師が出していたタグが飛び込んできて、ココはIS学園だと思い出した。

 電子タグとか結構便利だとだよな、いちいち書かなくていいからだ。普通の授業もタグ見たくデータ化しちまえばいいのに、ノート取らなくていいから。

 

(・・・・・・・なんだ?ココがIS学園だって分かってからイライラする)

 

 もともと女子(もっと言えば女)嫌いの性格のせいなのは分かるが、ここまで女子が多いとイライラするのかーと馬鹿げてると思うが、俺自身に感心する。

 ストレス溜まんのかなと思っていたからな。ストレス溜まるくらいならイライラしたほうがマシだからな、ストレス溜まるのは女子と並んで嫌いだ。

 そういえばだがココIS学園は寮制らしい。入学式のパンフで読んだ。つまりだ、長期休みでもない限り家には帰れない。

 家に帰れない=ずっとIS学園にいるハメに

 

(あ・・・。これストレス溜まるパターンじゃね?)

 

 オーノー、入学する前で一番危惧した事じゃないか。

 この教室の雰囲気というか女子特有の匂い(?)みたいなので頭痛がするほどなのに、安らぎを得る場所までこんな空間の一部なのか。

 しかもIS学園創立からだいたい8年たってて、毎年倍率がとんでもねーことを考えれば一人部屋+新品(無使用ということ)の部屋を望むことは不可能だろうと思う。

 

(だよなー・・・・・・・ムリだよな)

 

 俺は枕が変わると眠らない主義者だ。だから修学旅行とかは一晩中起きていた、その間は秘密裏に持ち込んだPSPをやってたから困ることはなかったけど。

 ただ今回は、不特定多数の人が使う部屋じゃなくてきっかり8年間女子に使われた部屋だ。

 ・・・・・・安眠なんて期待できそうもない。それが三年続けば俺は終わる、小学生でも分かることだ。

 

「あ、あの・・・お、織斑・・・君?ち、ちょっと・・・良いかな?」

 

「あ゛ぁ?」

 

「ひぃっ!?」

 

 なんか目の前の教師が、人が考え事の途中に話しかけてきやがったから睨みつけておいた。悪いね教師Aさん。若干涙目だけど気にしない気にしない。

 

「教師に喧嘩を売るとはな?偉くなったモノだな織斑。ん?」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「あ。d―――」

 

 がしっ。

 

 めぎめぎめぎめぎめぎめぎめぎめぎめぎめぎめぎめぎめぎめぎめぎっ!!

 

「ッ――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!????」

 

(ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!????)

 

 目の前の鬼もとい姉さんの目は逝っている。これはかなり本気だ。

 マウスキラーのせいで口を塞がれているため、悲鳴が上げられない。  

 そのため心の中で上げるハメに。

 あまりの激痛に視界が歪む。

 あれ潰される感覚としか言い様ができない痛みもとい激痛。だってこの世のものとは思えないんだもの。

 

「どうなんだ織斑?」

 

 自分で口封じやっておきながら何を言い出すんだアンタは。 

 ガチでそう言ってやりたいけどいかんせん口が開けない為、そんなことは無理。

 もし出来たとしても、鉄拳制裁が待っているはずだ。ようするにどっちに転ぼうが、制裁を喰らうことには変わりはないぞ、と。

 ちなみにだが、手を離してもらったのは5分後のことだ。

 

 

 

 時は過ぎて休み時間。

 

(居心地がかなり悪い・・・・・・)

 

 HRのあとは普通に休み時間になると思っていたけども、”普通”を期待した俺がアホだった。いつもアホ言いまくってる俺が情けない。

 男性IS操縦者と言うのは以外に話の話題になるらしい、その為か教室の外には見る限りの人だらけ。 

 当たり前だけど女子ばっか。しかもリボンの色を見るに他学年のやつらもたくさんいた。

 俺は動物園のパンダか。

 ただその視線が、ホンの少し恐怖を含んでいるから違うのだろう。

 中学時代にかなり荒れていたことがバレたと言うべきか。別にバレようが心底どーでもいい。

 それは自己紹介中のことだ。

 

 ―――――――――――――――――――

 

「・・・・・・織斑一夏だ」

 

 姉さんに言われ教壇に立ったはいいもの、俺はコミュニケーション力が限りなくかけている為何を話せばいいか分からない。

 他人の真似をすれば良かったと思うが、その時は考え中でそう言う場合ではなかった。

 

「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(期待)」」」」」」

 

 俺に集中する全クラスメイトの視線。しかもだんだんと高まってゆく期待が含まれている。

 

(ふざけんなテメーら)

 

「あ、あの・・・好きな食べ物とか趣味とかでいいですよ・・・・・・?」

 

 教師Aさんが何を言えばいいか一応教えてくれた。

 だが、俺にはこれといって好きな食べ物や趣味とかがないから、ぶっちゃけてしまえば無駄な徒労でしかない。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・織斑下がっていいぞ」

 

 そりゃどーも姉さん。

 しびれを切らした姉さんが許してくれた。俺としてはありがたい。

 なんか呆れた顔してはいたけど、俺は知らん。

 

「そうじゃないでしょ?織斑くん」

 

「あ?」

 

 座ろうとしたとき後ろから声が聞こえた。その少しハスキーがかかった声には聞き覚えがある。

振り向いてみればそこには見知った顔があった。

 

「やっほー織斑君」

 

「・・・・・・・・・・なんでテメーがここにいんだよ」

 

「なんでって言われてもねぇ・・・それはそうとしてあれはないよ?」

 

(余計なお世話だ)

 

 コイツの名前は知らん。ただ中学の時に同じクラスだった奴だ。学級委員長タイプで人あたりもいいらしく、男女問わず人気があったらしい。

 コイツと関わりたくはなかったが、皆仲良くのために何かと五月蝿かったという印象しかない。

 ただIS学園に入学することは知らなかった。 

 

「ほかに言うことあるでしょ?」

 

「何だよ?」

 

 にやりと笑いやがった。

 大抵コイツがニヤリと笑うと大変な目に会う。おもに俺が。

「とぼけなくてもいいんじゃないかな?だって織斑君は名前を出せばビビらない人はいないって程の不良でしょ?喧嘩に明け暮れてたじゃない?」

 

「お前なぁ・・・」

 

 とんでもねー事を大暴露しやがったし。個人情報保護法はどうなっていやがんだ、コイツ完璧に破っていやがる。

 クラスを見渡してみれば、ほとんどの奴らが軽く(?)ビビっていた。

 そりゃあそうだろう。興味津々で見ていた唯一の男のクラスメイトは、とんでもねー不良でした~なんて聞けばそうなるだろうな。

 

「気にすること無くていいのに中学の時は知れ渡っていたじゃないの、ね?”暴君さん”?」

 

 瞬間、クラス中から悲鳴が上がった。

 それは有名人を見たときの様なものじゃなく、正真正銘恐怖の時に上げるものだった。

 

 ―――――――――――――――――――

 

 と、言う事があっあ訳だ。

 俺はここいらじゃ最悪な不良としてかなり知れ渡っている。ただ、知れ渡っているとは言ってもそれは、”暴君”って言う名前だけで織斑一夏と知られているのは案外少ない。

 俺はただ売られた喧嘩を律儀に買っていただけなのにな。まぁ、どうでもいいことか。

 ただ、さっきよりも居心地は悪くなったが。

 

「ちょっといいか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 目線だけ声がした方に向ける。

 

「ひ、久しぶりだな一夏」

 

 会わなくなってから数年経っていたから見た目の違いは有ったものの、ひと目で分かった。

 篠ノ之箒だ。コイツの姉が姉さんと仲良かったからかなり小さい時から知り合っていた奴だ。

 コイツもIS学園にいるとはな。

 もしかしたら、姉が有名だから強制なのかもな。

 コイツの姉は、ISの開発者の一人篠ノ之束。ISの基礎などは全て一人で完成させたことで有名。 今は行方不明中のはずだ。

 性格はアレだったが良くしてもらっていた。

 

「なんだお前は?」

 

「っ・・・な、なんだはないだろう一夏。久しぶりの幼なじみにその態度は・・・・・・」

 

「そーだな」

 

「6年ぶりだ―――」

 

 言葉を遮って言う。

 

「あぁそうだ、6年ぶりだよ。よくもノコノコと俺の目の前に現れたものだな。で、なんだ?幼なじみィ?ふざけてんのかテメェはよ、あ?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「全然6年前と態度が違うなぁオイ。てっきり俺は6年前を繰り返すと思ったよ、違うのか?」

 

 脳裏に浮かぶのは6年前、いや4年間のコイツがやった事。

 未だ、心の奥底に眠っている思い出したくもない記憶に刻み込まれているトラウマ。

 

「違っ―――」

 

「違わないね。あの時散々やっておきながら幼なじみは馬が良すぎんじゃねぇか?忘れていたと思っていんじゃねぇだろうな?むしろはっきり思い出したよ。オイどうしてくれんだ?」

 

 あの時のことを嫌でも思い出し、コイツを問答無用で殴り飛ばすしたくなるが抑える。ここで殴り飛ばしたらすべてが終わりだ、そう自分に言い聞かせる。なのに。

 

「6年ぶりなんだぞ・・・・・・?」

 

 この一言で、我慢の限界に達した。まだ6年ぶりにこだわるというのか。

 

(ふざけるんじゃねぇよ・・・・・・!)

 

「だまれ!!」

 

 俺の怒声にクラス中が静まり、視線が集まる。だけど気にしている暇はない、こうしてしまったのだからあとには引けない。 

 怒りのままに立ち上がり、邪魔なイスを後ろへ蹴り飛ばす。そして篠ノ之の襟首をつかみひねり上げ、持ち上げる。

 

「ひっ!?やめろ・・・」

 

「うるせぇンだよテメェは!6年ぶりだからどうだって言うんだよ!?テメェは6年前俺に何をしてくれた?散々散々散々散々好き放題ヤってくれたよなァ、あ!?それで幼なじみィ?テメェはどんだけ都合のいい奴なんだ?どうなんだよ!?」

 

「・・・・・・っあ・・・」

 

「ず黙ってねぇで喋ったらどうなんだよ!?」

 

 あの時のコイツからは想像もできないほど弱弱しく答えてきた。

 

「一夏が入学するって・・・聞いたから私も入学したのに・・・・」

 

「俺が入学するからテメェも入学だァ?気持ちわりぃンだよ!俺はココに入学なんかしたくもなかったんだよ!IS動かしたから女子高に入学とかふざけてんだろうが!女なんか見たくもねぇのにテメェ等ジロジロ見やがって、俺は見世物じゃねぇんだ!同じ部屋の中にいることでさえ苦痛なんだよ!分かるか!?これからずっとここに居るしかないんだぞ!?しかも嫌いなやつらと一緒にな!どうなんだよ!?」

 

 なに言っているのか、おれ自身分からなくなってきていた。

 なのに次から次へと言葉を紡いでいく。止まらない。勝手に口が開いていく。

 

「な、何しているんですか織斑君!?」

 

「ッ!」

 

 突然大きな声が聞こえ、一瞬俺は硬直するのを感じた。

 そこからの声の主はすばやかった。おっちょこちょいにしか見えない人だったから驚いた、やっぱり教師なんだなぁと改めて考え直させるものだった。

 俺と篠ノ之の間に割り込み、つかんでいた手を引き剥がす。そしてソイツを守るかのように俺の前に立ちふさがる。

 

「もう一度聞きます。何をしていたんですか?」

 

「アンタには関係ないだろう?」

 

「関係あります!織斑君は私の生徒なんですよ!関係ないわけがありません!」

 

 ”私の生徒””関係ないわけがありません”

 その言葉がはっきりと聞こえ、俺には表現しきれない感情が心の奥底からあふれてきた。

 身長差の関係上、俺が見下ろすようになるがその瞳には怖気づいたのは一切ない。

 この人は俺の事をちっとも恐れちゃいなかった。”暴君”にもかかわらず。

 

「だからどうした?アンタが勝手に俺のことを自分の生徒だと思っているだけだ。アンタの生徒だって認めた覚えはない」

 

「ならこれから認めさせてあげます。だから今は篠ノ之さんに謝ってください」

 

「・・・・・・断る」

 

 そういって教室から出ようとする。なんだかここに詳しく言えば、コイツの前に居たくなかった。

 逃げようとしているのは分かりきった事だ。

 

「まっ―――」

 

「触るな」

 

 伸ばしてきた手を言葉で制した。

 

「・・・・・・何処に行くのも織斑君の勝手です。でも篠ノ之さんに謝ってください、それからです」

 

「コイツが何をしたかも知らないクセによく言うなアンタは。知らないってのは罪ってホントの事だったんだな」

 

「え?」

 

「7年前に起きた傷害事件、これを言えば分かるだろ?」

 

「あ、あの事件・・・!?」

 

 教師が驚いている隙に即座に教室から出て行く。入り口に居た女子どもは、俺が近づいただけで道を空けた。

 

(最悪だ)

 

 あてどなく歩く中そう内心毒づいた。

 

 

 

 

 




 遅くなってすみません。
箒さんと山田先生が好きな人はごめんなさい、
話の都合上こうするしかありません。
本当にごめんなさい。 


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 第三話

 

「あいよ。これでも飲んで落ち着きな」

 

「・・・・・・どうも」

 

 食堂のおばちゃんが出してくれたコーヒーを啜る。

 

(うげ。めちゃくちゃ甘いぞこれ)

 

 色合いからして完全ブラックだと思ったが、砂糖が大量に入っているんだろう。好意で出してもらったものだから捨てるわけにもいかない。あんまり甘いものは好きじゃないんだけどなぁ。

 只今9時10分頃、俺がいるのは食堂つまりはサボりだ。

 まぁ、あんなところに居づらいというのが本音。決してサボりたがりの不良ではないぞ?

 ……不良なのはアレだが。

 盛大にヤってしまった所でのうのうといることなんて俺にゃできん、出来そうな人を一人知っているがあいにく数ヶ月に渡るお出かけ中であっていまは会えない。

 ただ、そのせいで俺が被害を受けるので早くバックホームしてもらいたい所。主に姉さんから。

 結局のところ(何が結局か俺は知らん)アイツが全て悪い。アイツが話しかけなけりゃこうはならなかった。

 

(それにしても)

 

 甘すぎるコーヒーを啜りつつ、止めに入ってきた教師について考える。

 正直言えばあんな教師見たことがない、おっちょこちょいと言う所とかは今まで見てきた教師にはないものだった。俺を担任してきた奴等が年食っていたのばっかだったのもあるかもしれない。

 そしてあの言葉を言う所が。

 ”私の生徒””関係ないわけがありません”

 初めて言われたことだった。

 今までの教師は皆俺と向き合う奴は誰一人としていなく、腫れ物を扱うようだったり、罵倒したりと、まともと感じた奴はいない。

 今ならわかる。そう言われた時心の底から溢れた感情は”嬉しい”だと。

 

(何なんだかなーあの教師は)

 

 ”暴君”の俺にも怖気付くことはなかったし、HRが終わった時など元気かとまで聞いてきた。よく分からない、怖くないのだろうか?

 確実に病院送りにする最悪の不良だっていうのに。

 もしかすれば、あの教師の期待を裏切ってしまったのかもしれない、今思えば初めてまともにIS学園で話し、応援してくれた人だった。

 それに、”普通”に話せる人だった。

 女子が嫌いなのにも関わらずにだ、凪沙たちや鈴のように何事もなく、弾たちのように話していてもイライラしてこない。

 

(よく分からない・・・な)

 

 最初入学する前は一人だとばかり思っていた、事前に姉さんがIS学園にいるのは分かっていたけど、姉さんに頼ればボロクソ言われること間違いなしだしその他もろもろの理由で気軽に話しかけづらい。それに頼れば何を言われるかたまったもんじゃない。

 だから姉さんに助けをもらうことはしたくないから、基本一人だって思っていた中、あの教師と会った。

 運命なわけないだろうけど、あの教師はいい人なんだろうと思う。

 山田・・・真耶。あの教師の名前だったはずだ。

 

(謝るかなぁ・・・)

 

 HRの最初の方にいきなり喧嘩を売ってしまったことも含めてあやま―――

 

「あ」

 

(あ、謝るってどうすればいいんだ―――――――――ッ!?)

 

 思わぬ落とし穴発見。

 今まで謝ることなんてなかったからどうすりゃいいんだ?つうか15歳で謝ったことのない奴って俺だけだろうな。当たり前だろうな。

 ごめんなさい言うのは分かるんだが、その時どうすればいいか全くわからない。

 

(土下座・・・は大げさすぎるのか?あれ?じゃぁどうすりゃいいんだ?)

 

 ムームーうなっている俺を他人が見れば、変人としか思わないんだろうな。

 

 

 ズガァッ!!

 

「ぐふぅっ!?」

頭に走ったとてつもない痛みに思わず、変な声+涙が出た。人が考えことをしてる途中に何するコノヤロー。

 

「ここにいたか一夏」

 

「うげぇっ!?」

 

(やややややややややややぁばい!)

 

 史上最強最悪地獄の鬼教師こと姉さんがアルティメットウェポン(出席簿)を手に居た。

 そう”暴君”織斑一夏死亡の瞬間であるッ!!??。

 死ぬ!そう思って身構えていたのだけれど、いつまでたっても振り下ろされる様子がなく、それどころか殺気自体感じれなかった。

 恐る恐る構えを解いて姉さんを見ると。

 

「”一夏”何をしている?」

 

 呆れている姉さんの顔が見えた。

 なんで?殴らないでいてくれたのか?むむ、よくわからんぞ。

 だから「ほへぇ?」とマヌケな声が出てしまったのは、仕方ないと思いたい。割とマジで。

 弾辺りに聞かれたら死ぬまでネタにされるに違いない。これだけは阻止しなければ。

 

「あえ?ココは学校じゃん、なのになんで家と同じようにしている訳?姉さんそうゆうことは三流のすることじゃなかっ「どがっ!」ひでぶっ!?」

 

「そんなことを心配するくらいならもっと小娘どもに素直になればいいだろう?」

 

「イテテテ・・・やだねそんなこと、なんで話したこともないような奴等に気を許すしかない訳?そんなことしたくもない」

 

 予想通りの言葉だったのか姉さんはあまり反応することはなかった・・・のだけども、も、だぞ?テーブルに、詳しく言えば俺の対面に座った。説教だったらトンズラしようか、説教キラーイ。

 逃げれるかどうかとか知らんけど。運任せだな。

 

「小娘たちだが、一夏のことを”暴君”だと分かっているがあまり気にしていないようだぞ?ただ今まで通り行くかどうか知らないが」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

(悲鳴あげて俺を避けていたクセによく言うよ)

 

「だから少し位、小娘どもと仲良くしたらどうだ?強制ではないが」

 

「強制じゃないならしたくない、ホントなら今頃弾たちと藍越に行ってたはずなのにな」

 

 藍越に行っていたといっても、中学の延長線上でしかないと思う。それに俺は人付き合いが悪い方だ、弾と数馬以外に新しくトモダチができるとははっきりと言えるが思えない。

 でも、それでも一緒にいるのは楽しかった、たとえ、笑い合うことはなくても。恥ずかしいから顔に出したり、ありがとうといったことはないけど。

 だから、俺がIS学園に行くことになったとき、それまで以上に俺は荒れた。それくらいIS学園に行くことは嫌だった。

 

「そうか。それはすまないことをしたな」

 

「姉さんは悪くない。馬鹿なのは日本政府の奴等だ、男を女子高に入れるとか馬鹿げてるよ」

 

「ふふっ、五反田なら泣いて喜ぶシチュエーションじゃないか」

 

 その場面が容易に想像できた自分がなんか怖い。ナゼでしょーねぇ?

 

「はは、あいつはド変態だからな仕方ない」

 

 姉さんと話していると、なぜか懐かしさを覚えた。

 だけどそれに疑問を抱くほどじゃない。抱くまでもなくなかったからだ。

 久しぶりに姉弟水入らずで居れているから。

 姉さんが仕事が忙しくて、ゆっくりと最近は家にいなかったからだろう。

 

「それで篠ノ之の事だが」

 

 さっきまでのゆったりした雰囲気は何処へやら、一転してキリッとなる。

 やっぱりそうなるよな。あそこまでやったんだから。

 

「うん、その話題を持ち込まれるのは薄々わかってた。だから気にしないで続けて」

 

「分かった、篠ノ之だがかなり落ち込んでいた。篠ノ之がお前に何かして切れたので間違いないんだな?」

 

「・・・・・・7年前あんな事して幼なじみってうるさかったから、我慢できなかった」

 

「あの事件か。やっぱり忘れられないのか?」

 

「いや事件自体はもう過ぎたことだから気にはしてない。ただアイツが・・・アイツが!アイツが事件の中心人物のくせに、当たり前のように親しくしてくるのが許せないんだよ・・・!」

 

 7年前の障害事件。新聞の地方欄にも載るほど大きいものだ。

 被害者は俺。救急搬送される程の大怪我を負い、2~3日意識不明一ヶ月の入院を経験するハメになった。その事件のせいで事件の中心集団がISの女尊男批に染まりきった女どもだったのもあったし、その時には今のような風潮だったのもあり、何もとがめらねることはなかった。俺には二度と消えることのない大きな傷跡が残された。

 男はあまりにも無力だった。

 そしてかなりあとになって、篠ノ之が中心だと分かった。それを知ったとき、とてつもない怒りを覚えたのを昨日のように思い出せる。

 

「そうか」

 

 ふと姉さんの顔を見ると、一瞬だけ曇ったような気がした。

 

「姉さんどうしたの?そんな顔してさ」

 

「あ、イヤ、なんでもないさ。一時間目の授業内容だが―――――」

 

 姉さんが隠し事をしているのはひと目で分かった。でもそれを追求はしない、なぜかして欲しくないと言っているように見えたから。

 

(隠し事下手だな姉さん)

 

 その姿をみてふと思った。

 

 

 

 ”ずっと一緒に居れると当たり前のように思っていた”

 

 

―――でも、それは紙が簡単に破けるように簡単に終わった―――

 

 

 

 

 俺が教室に戻ったとき、もう一時間目は終わっていて休み時間に入っていた。

 HRが終わったあとと違って、誰一人として教室の外に見学者はいない。

 盛大にヤったあとだし、見に来る奴なんていないんだろう。それでも来る奴は物好きだろうな。

まぁ、いないけど。

 ガラリと教室の戸を開けると、賑やかだった教室が水を打ったように静まる。

 

(だよ・・・な)

 ”暴君”でまだ学園に慣れてないときにマジ切れした所を見た奴と、親しくも関わりたくないんだろう。自業自得って奴だな。

 慣れてしまった、腫れ物を見るような視線を受けつつ自分の席に座る。

 

(何、期待してんだよ俺。親しくするはずないだろうに)

 

 内心ではどこか期待していたんだろう、少しがっかりした気がする。

 クラスの奴らは俺が何もしないと分かると、先ほどまでのにぎやかが戻って来る。ただどこかボリュームが控え気味だ。

 次の授業まで大体5分弱。寝てればすぐだろうと考え、うつぶせになった時だった。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「あ?」

 

「まぁ!なんですのそのお返事。話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 コイツの頭ん中大丈夫なのか?割とガチで思った。なにコイツ、脳味噌腐ってんじゃね?。

 

「唯一ISを動かせる男と聞いて興味がありましたのに。なのに蓋を開けてみれば、ただの不良で身の程も巻きわ得ない落ちこぼれ。期待したわたくしが馬鹿でしたわ」

 

「テメェもっぺん言えや。なんつった?」

 

「ハァ…これだから不良は、あなたは代表候補生であるセシリアオルコットにもう一度言えといいますの?」

 

 正直言ってしまえば、女子の中でもいっちばん嫌いなタイプだ。

 だからウザくてウザくてウザくてウザくてウザくてウザくてウザくてウザくてウザくて仕方ない。

 

「で?代表候補生だからなんだってんだ?」

 

「なっ!?入試で唯一教官を倒したわたくしを馬鹿にするのですか!?」

 

「アホ。教官なら時間かかったが倒したわボォケ。んでよ、家族にIS開発者の一人と世界最強の国家代表がいんだよ。だからな、候補生ごときどうってことねぇ。分かるか?」

 

「っ!?・・・・・・・・。ゴホン、ま、まぁそんなに素晴らしい家族はあなたにはもったいなんじゃないんですの?ゴミ屑以下のあなたに――――」

 

「義兄さんはゴミ屑以下じゃないッ!!」

  

「「「「「「「(ビックゥッッ!!!???)」」」」」」」 

 

 突然クラス中に響いた大声(怒声ではない)に、クラスにいた全員の呼吸が一瞬止まった・・・ような錯覚を覚えた。 

 

(この声って・・・・・・)

 

――――まさかな。

 

(そうだなうん。そうだ。ここにいるわけがないんだからな、そうそう。ロシアに行ったはずなんだからな)

 

 だかその幻想はすぐさま壊れてしまった。(ぱりーん!)

 俺の横を通り過ぎてウザイ奴に食ってかかった為、視界に入ったからだ。

 

「なんで義兄さんのことを悪く言うわけ!?オルコットさんは、義兄さんのいい所を見た事もないくせに偉そうなこと言わないでっ!」

 

「んなななななななななななななななな!?か、簪ィ!!??」

 

 驚きを通り越してなんと言えばわからないほどの衝撃を受ける。開いた口が閉じないって言うのはこうゆうことを言うのだろうな。

 脳内大絶賛大混乱100%のせいでどうすればいいのか、何を言えばいいのか、全くわからない。

 あ~れ?俺何言おうとしていたんだっけ?どうしたものか。

 

「じゃっじゃじゃ~ん!みんなの癒し役を務める布仏本音様のおと~りぃ~!」

 

「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」

 

 (何なんだよ一体!?)

 

 俺は、疲れているのか・・・・・・?だからこんな夢のような出来事を見ているのだろうか。頬をつねればわか――痛いぞ!?

 なん・・・だと!?夢じゃ・・・・・・ない・・・!?

 

「ねぇ!さっきから黙っているけど、何か言ったらどうなの!?さっきまで義兄さんをバカにしてたのはなんだった訳!?」

 

「そうだそうだ~っ!ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら私のところに来なさい。以上」

 

 なんか気がつけば簪と本音がクソアマのことを攻めまくっていた。もうこの際二人がいることを気にするのは止めよう。

 というか本音、最後のはなんだ。

 

「オルコットさんは義兄さんのことわかって言っている訳!?あなたは代表候補生でしょ!?行ったことには責任取れるよね!?」

 

「そうだそうだ~っ!お前の幻想をぶち壊すッ!」

 

 あの・・・ですね、二人とも?

 

「義兄さんをバカにするなら、この教室から出て行ってっ!義兄さんは悪くないよっ!」

 

「そうだそうだ~っ!逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」

 

 そう言ってもらえることは涙が出るくらい嬉しいんですけど、ちょっと聞いてくれませんかねぇ?

 

「義兄さんをバカにすると”私たち”がゆるさないからっ!」

 

「そうだそうだ~っ!お前は既に死んでいる。ほわちゃあ!」

 

 ちょっとは人の話聞けよ。

 ほらすぐ後ろに―――

 

「お前ら少しは静かに出来んのか騒がしい!」

 

 バシィ!

 

「「「あうっ!?」」」

 

 ほらな?だから言ったろ。

 すぐ後ろに史上最強最悪地獄の鬼教師アルティメットウェポン装備(出席簿)がいるってさ。

 




ちょっとのほほんさんでふざけてみました。
反省はしている駄菓子菓子後悔はしていない。


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 第四話

のほほんさん前回と違いますよ。

いわば原作キャラ崩壊?


 とてつもないカオスと化した休み時間から少し時間が経ち、三時間目に突入した。

 あの後簪はどこかに行ってチャイムギリギリで帰ってきたんだが。

 

 嫌な予感しかしねぇよ!!!

 

 帰ってきた時の目がかなり逝ってたからなんだけど、これはやばいやばい通り越してヤヴァイぞおい。クソアマ簪を切れさせちまったか、ご愁傷様だ。

 簪は切れるとかなり怖い。一度だけその現場を見たことがあったが、あまりの怖さに震えが止まらなくなるほどだった。

 

(うぅ。思い出しただけで震えが・・・・・)がくがく

 

 上には上がいるという様に、簪よりも怖い人を知っている。

 

・・・・・・・なんで俺の知り合いの女子って切れるととんでもなく怖い人ばっかなんだ?

 

 う~む、よく分からない。

 ちなみに切れたところを見て一番衝撃を受けたのは本音。普段ののほほんとした雰囲気からは想像も出来ないほど性格がガラリと変わる。

 のほほんとしているのが本音だど思ってるととんでもない事になるの間違いなしだ。

 あれはとてつもない。

 ターミ○ーターの審判の日よりもすごいと思われる。

 んで今はHR中なんかクラス代表を決めなきゃいけないんだとさ。

 

「クラス代表者とは、分かり易く言えばクラス長である。生徒会の会議や委員会への出席などが主な仕事だ。それと、来月行われるクラス対抗戦も出場することにもなる。実力がある者がなるといい」

 

 珍しく姉さんにはわかりやすい説明だな。いい事でもあったのだ・・・・・・あ、ありそうだ。普通なら気づきそうもないけど、家族なら分かる微妙な変化といえばいいか。今回のは今までのでも特大級、こりゃ何かあるな。

 

「自他推薦で構わないぞ」

 

 あっはっはっ!俺がなる確率は0%だろう。落ちこぼれ(まだ根に持っている)を推薦するアホがいる訳――――

 

「はいは~い!私はいっちーがいいと思いま~す!」

 

(ここにいたーぁっ!?)

 

 おのれ本音め、後で見ていろデザートおごってやらないぞ。

 本音の一言でクラス中がざわつき始めた。だろうな。

 

「布仏、理由を聞こうか?」

 

「いっちーは強いからでーす!入試でせんせーを倒しちゃうくらいだもん」

 

 またまたクラス中にざわめきが広がる。色々と忙しいやつらだな、このクラスの奴等。

 入試っていうのはあれか、半日かけた超長期戦で集中力を切れたところを狙ったチキン戦法で倒したやつか。あれは疲れたよ、雨あられのように弾が降ってくるからさ。

 それにISがあるといえ銃を突きつけられるのはかなり怖かった、それがロケランやら機関銃だったら尚更。

 

「ふむ。ならばクラス代表は織斑で――――」

 

「なっと「俺はクラス代表はやりたくない!」・・・」

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

「ちふゲフンゲフン織斑先生!俺はクラス代表はやり――――」

 

 ズドゴォッ!!

 

「うごばっ!?」

 

「推薦された者に拒否権などない。布仏にはきちんとした理由がある、しかしお前にはやりたくないという私情だけだ。優先されるのはどっちだ?」

 

「なんでもないです(涙)」

 

 ちきしょう!俺にクラス長やるほどのリーダーシップなんて、一ミクロンもないっていうのに。本音はそこを分かって言っているのだろうか?

 というか誰かがしゃべろうとしていたのはなんだったんだか。

 

「織斑でいいと言う者は挙手をしろ」

 

 見渡せば遠慮がちにみんなが手を上げる。教官を倒したというからなのだろうか?

 頑張ればいけると思うのは俺だけか?

 

「ちょっと待ってください!落ちこぼれの不良にクラスの長を努めさせるというのですか!?」

 

「あーそーですねーおれはふりょーですよーだ(棒)」

 

 この際国際問題とか無視して、完封微塵なまでに叩きのめしてやろうか。

 

「あっ、あなた私に喧嘩を売っているんですの!?不良の分際で!」

 

「不良不良五月蝿い奴だなあんたは。俺がどう生きてこようが関係ないだろうが」

 

「このクラスのいい恥さらしですわよあなたは!これだから男は嫌ですわ。男など女性に媚を売っていれば宜しくてよ」

 

 やれやれ、こいつは何が言いたいんだ。俺を馬鹿にしてるはずなのにいつの間にか男全体を馬鹿にしてやがる。

 これは俺がガツンと言ってやらねば。

 

「だいたいですね。男がISに触ると汚れてしま――――」

 

「そこまでにしておけよキサマ」

  

「「「「「「「(ビックゥッッ!!!???)」」」」」」」 

 

 皆一斉に俺に視線が集まる。

 

「ま、まて!今のは俺じゃない!」

 

 ガツンと言ってやるといっても、切れるわけではないから俺じゃない。かと言って姉さんという訳でもない、姉さんならもっと派手にガチ切れするはずだ。

 なら誰が?クラス全員が思ったに違いない。

 

「もういっかい同じことを言ったら私が許さねェぞ」

 

「「げっ!?ほ、本音ぇ!?」」

 

・・・・・・・・・・・オルコットは大変なことをしてしまったらしい。本音を切れさせるとか、核ミサイルに竹槍で挑むより無謀だ。 

 

「オイコラ。黙ってねェで何か言ったらどうだテメェ?ISが汚れるだと?はン!笑わせンじャねェよ。テメェがIS操縦者である事自体が私たちのいい恥さらしなンだよ、分かるか?低脳」

 

 全員が思ったに違いない。

 

 ――――この人誰?と

 

 というかオルコット切れられてばかりだな。どんまいとしか言えねぇ。

 

「っぅ!?あ、あなたは誰ですの!?」

 

「オーイ。こっちが質問してンだから質問返しすンじャねェよ。学校で習わなかったか?人の話は最後まで聞きましョうってな。それともアレか?脳味噌腐りすぎて覚えてませンってか。ハッ!なら病院行ったほうがいいんじャねェの?」

 

「ばっ、バカにしないでくださいまし!」

 

「あン?聞き捨てならねェこと聞いたな。自分から先に人のことを散々散々散々行ったンじゃねェか。オイ!みんな聞けよ!コイツ自分のやった事棚に上げていやがるぞ!」

 

 どう反応すればいいのか分からないのは、俺だけじゃないはずだ。

 

「ン~?どうしたよ。図星だったのかなァ~ン?ほら、反論はないのかクソアマ?」

 

「お、織斑先生!」

 

 あ、人を頼ろうとしてる。弱っwww

 

「オルコット」

 

「は、はいっ!」

 

 うわおう、姉さんの剣幕半端ねぇぞ!あのオルコットがビビりまくっている!

 

「一夏を馬鹿にするということは、間接的に私も馬鹿にするのを分かった上で言っているんだろうな?」

 

「「「「「「「?」」」」」」」

 

「ふん、一夏は私の弟だということを忘れてはいないだろうな?」

 

「っ!?」

 

「雪片秋羅、篠ノ之束、そして私を敵に回すという事を思い知りたいのか?」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 とんでもない切り札切っちゃったし。イギリスなんか一瞬じゃないか、下手したら世界終わるぞ。

 

 ぴ~んぽ~んぱ~んぽ~ん 

 

 なんでこの時間帯に放送が入るんだ?授業中じゃないのか?

 

”あっあ~みんな聞こえてる~?私はIS学園生徒会長の更識凪沙だからよく覚えといてね~。ということで新入生のみんな入学おめでとう!いきなりで悪いんだけれど、一年一組イギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんは至急生徒会室に来てね、生徒会副会長布仏虚と共に

O・HA・NA・SIがあるから。授業より優先してね。来なかったらこっちから乗り込んでいっちゃうから。迷惑かかるのはクラスのみんななんだから自分から来た方が身のためだよ。早く来るんだよ~じゃあね。ニゲヨウトオモウナヨ、ダイヒョウコウホセイノブンザイデエラソウニスルナ”

 

「ななななななななななななななななな!?なんだとぉ!?」

 

 思わず叫んでしまった。それも仕方ないと思いたい。

 

(凪沙と虚さんまでいるのかよっ!)

 

 これを奇跡といえばいいのだろうか。嫌々IS学園に来たらみんなと再開できるようになるとは。

 真っ暗闇の中の一筋の光といえばいいと思う。

 まさかこれって・・・・と思い、思わずかんざしの方を見る。

 

「(ニヤリ)」

 

(お、恐ろしい子・・・・・・ッ!)

 

 ちょっとやりすぎだと俺は思うの。まさかこのために教室を出て行ったというのか。

 

「オルコットさっさと逝ってこい、欠席扱いにはならんから安心しろ。骨は拾ってやる」

 

「は、はいぃ・・・」

 

 教室から出ていくオルコットに全力で黙祷を捧げておいた。なんだか無事に還って来るとは思えない。

 

「織斑」

 

「は、はい」

 

 いきなりなんだ?俺は俺で説教されてしまうのか?

 

「オルコットのことだが、アイツには力で黙らせるのが一番だろう。だから一週間後にオルコットとISで戦い、実力を見せてみろ。そうすれば文句も言わなくなるはずだ」

 

「いや、ちょっと待て姉さん!ISのド素人が勝てる訳ないじゃないか!」

 

 オルコットは曲がりなりにも代表候補生だから、そこら辺のIS乗りとは格が違うと思う。

 例を挙げるなら、その道のプロと教室に入ったばかりの新米を戦わせて、勝てと言っているようなものだ。

 殴り合いならともかくISだと勝てる気がしねぇ。

 

「何を言っているんだ?何も練習なしでやらせる訳がないだろう?」

 

「ま、まぁそうだけどさ・・・」

 

「それに使えるものは最大限に使え。そういう物は得意分野じゃないか?」

 

 姉さんが言いたいことははっきりと分かる。

 ”使えるものは最大限に使え”

 言い換えるなら勝つためには努力を惜しむな、ということだろう。

 姉さんなりに励ましてくれている。そう感じるとすごく嬉しかった。 

 

「国から専用機も出される。練習さえ怠わなければ無理な話じゃない、入試の時のようにすれば勝機はある」

 

 ここまで応援してくれるんだ。俺が言うことは一つだろう。

 

「あぁ!」

 

 こりゃやるしかないな。

 やるからにはぜってぇ勝ちに行ってやるさ。

 

 

 

 

 放課後、俺はクラスの奴らがいなくなってもまだクラスに残っていた。

 一緒に動けば、色々と大変な目にあうに違いないと思ったからだ。

 数馬が言うには女子の噂の伝達速度は異常らしい、それを踏まえての行動だ。

 最後のやつが教室を出て行ってだいたい30分近く、網そろそろいいだろうと思い腰を上げたときだった。

 

「あっ、いたいた。織斑君まだ教室に残っていたんですね。探したんですよ?」

 

「っあ!?なんでここに居るんですか!?」

 

「あのですね織斑君、そのセリフはこっちのものなんですが・・・・・・」

 

「へ?あぁすみません」

 

 やっぱりだ。

 この人と話しても普段のようにならない。不思議な人だ。

 

「えっとですね、これを渡そうと思っていたんですよ」

 

 そう言われて渡されたのはどこかの鍵だった。教室の鍵締めを頼むってわけじゃなさそうだ。

 

「なんですかこれ?」

 

「それは寮の鍵ですよ」

 

「え・・・?確か俺一週間は家からの通学って話でまとまっていませんでしたか?」

 

「それはそうなんですけど、事情が事情ですから……相部屋にしてでも必ず寮に入れろと政府の方から特命が来ちゃいまして」

 

 てへへ・・・と苦笑いする山田先生。

 いわゆる誘拐防止だろうか・・・って

 

「相部屋ァ!?ちょっとまったぁ!無理ですよそんな事!姉さんからきいてませんか!?女子と相部屋とか死んじゃいますって!」

 

「聞いてはいるんですけどなので特命で・・・・・・・一週間もあれば一人部屋を確保できると思いますよ・・・・・・?」

 

 (ま、マジかよ・・・・・・・!?)

 

 一週間もとか俺死んじゃう。フランダー○の犬のように死んじゃうぞ!?

 

「トホホホホホ・・・・・・・・・・」

 

「あの~そこまで落ち込まなくても」

 

 落ち込むわっ!最悪だよ、一週間安眠は期待できそうもないな。下手したら寝ることさえ期待できないかもしれない。

 

 

 

 それから数分。

 ショックからある程度回復した俺は一つ疑問に思った事を聞いた。

 

「あの・・・俺の事怖くないんですか?”暴君”じゃないですか俺。人付き合いも悪いし、性格も最悪で・・・・・・なんでそこまで良くしてくれるんですか?」

 

 素直に心情を吐露する。家族じゃない人に素直になるのはホントに久しぶりだった。

 

「怖くなんてあるわけないじゃないですか。そうゆうところも含めて織斑君ですよ。私は先生ですし、差別なんてしたくもありません。織斑君は私の生徒さんですし、一人として欠けたら成り立たない一組の大切なメンバーですよ?」

 

 笑顔で、当たり前のように、そう言ってくれた。

 

「初めてですよ・・・・・・、そうゆう風に言ってくれた教師は。今まで誰ひとりとしていなかった、皆が腫れ物を扱うようだったり、罵倒しかしなかった奴等ばかりで・・・・・・・」

 

「そうですか・・・・・・。そんな事が」

 

「今日”私の生徒””関係ないわけがありません”って言ってもらえたとき嬉しかったです。ホントに・・・・・・ありがとうございます」

 

「当たり前の事じゃないですか、先生が生徒さんの事を信じることなんて」

 

「あの・・・。いきなり睨みつけたり、休み時間の事とか本当にすいませんでした」

 

 深々と頭を下げる。あれからずっと考えていたけどこれぐらいしか思いつかなかった。だから少し心配だった。

 だがそれは無駄な心配だった。

 ぽすんと俺の頭に手が乗せられた。

 先生の手だろうか?なぜこんなことするのか疑問に思い頭を上げる。

 そこには、満足そうにしている先生の顔があった。

 

「偉いですよ織斑君、きちんと謝ることができたの」

 

「こっ、子供扱いしないでくださいよ!」

 

 恥ずかしくなって口走ってしまうが、先生は気にした様子は全くない。

 

「何言ってるんですか。私からしたら織斑君は子供ですよ?」

 

「ぐっ」

 

 正論過ぎて何も言えねぇっす先生。

 

「じゃぁ私はお仕事が残っているのでこれで帰ります。道草食わないで帰ってくださいよ?」

 

「・・・・・・・はい」

 

 道草食える所なんてないだろうにと思ったが突っ込まないでおいた。

 理由?気まぐれさ。

 

「あの」

 

 教室から出ようとする、その小さな背中に声をかける。

 

「なんですか、織斑君?」

 

「頑張ってください。”山田先生”」

 

「はい」

 

 満面の笑みで答えてくれた。最高の先生に出会えて良かった。

 

「あうっ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 教室から出たとき、ドアのレーンにつまずいて盛大に山田先生はこけた。

 親しみやすいところがあるから、みんなから人気があるのだろう。

 倒れた山田先生に手を貸しながらそう思った。

 

「大丈夫ですか山田先生?」

 

 苦笑いしながらだけどな。



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 第五話

お気に入り100超え有難うございます!


 

「1025・・・1025・・・お!ここじゃんやっとめっけた」

 

 山田先生と別れ寮に到着してから約1時間弱。やっとこさで寮の割り当てられた部屋へとたどり着いた。

 新聞部部長とか言う奴が取材させろと言って追い掛け回されたり、暴君に憧れていたとかでサイン暮れうるさい奴等から鬼ごっこしたせいでとんでもねぇ位時間食った。

 もう二度とあんな体験はしたくない。

 アイツ等絶対におかしいぞ。女か?というほどの速度で走ってくるわ、先回りしたりととてつもないチームプレイをしてきやがった。まぁ一人ずつ手刀を叩き込んで事なき事を得たが。

 今頃騒ぎになっていることだろうな。廊下に倒れている大量の生徒!?とかで。

 至極どーでもいい。追っかけまわしてきたあいつらが悪い。

 ということでドアノブに鍵を差し込んでガチャリ・・・・・・ってあいてるし。

 この時間帯だし相部屋の奴が居るってわけか、ホント誰だよ簪か本音だといいな。

 

「わぁお」

 

 思わず口に出してしまうほど、部屋は豪華というか広かった。入ってすぐのところに洗面所兼シャワールームが有り、その奥の部屋にベット二つにそれぞれの机がある仕様だが、二人で使うには少々広すぎる感じがする。

 とりあえず、部屋にあがることにした。一時間近くそれなりに早く走っていたから疲れたからだ。

一時間走り続けるのは案外疲れる、制服というのもあるかもしれないな。

 

「あー最悪だよ全く」

 

カバンをベットの上に投げつつぼやく。今日は最悪のことが多すぎた、ただいい事もあったけどな。

 さっき姉さんに言われた通り荷物はダンボールに入れられてきちんと届いていた、ただ必要最低限としか言ってないから下着数着に洗面用具そしてスマホの充電器なだけがする。姉さんは生活破綻者だからなぁ仕方ないっちゃ仕方ない。

 

「誰かいるのか?」

 

「っ!?」

 

 シャワールームの方からガラス越しに声が聞こえた。

 

(やばくね?)

 

 そう直感で思う。なんで俺はこんな中途半端な時間帯に来ちまったんだ、とんでもないな。

 

「悪い、一応同じ部屋になった織斑い――――」

 

「なぁっ!?」

 

「なんでテメェがここにいるんだ!」

 

 そこにはバスタオル姿の顔を見るのも嫌な篠ノ之がいた。

 反射的に構え、戦闘態勢を取る。

 

「み、見るなぁっ!!」

 

 ――――っ!?

 

 いきなりコイツは近くにあった竹刀を手に取り、あろうことか振りかぶってきた。

 構えていなかったら絶対によけられなかっただろうという速度で振り抜かれるが、戦闘態勢をとっていた為造作もない、剣筋から体をそらす。

 

(・・・遅い)

 

 この状態からならば、よけられないわけがない。これよりもっと早く、重い一撃を繰り出す人に鍛えてもらった。

 ガツンッ!!と竹刀がベットに直撃したところで、それを持つ手を真上に加減はしたが蹴り上げ、2擊目を繰り出される前に防ぐ。

 

「ぐっ!?」

 

 本来なら怯んでいる内に鳩尾に拳を叩き込みたいところだが、あいにくコイツはバスタオル一枚

だ。ここで気絶でもさせちまえば大変なことになるのは目に見えている。

 蹴り上げた手をつかみひねり上げ、背中へ回させベットにうつ伏せに、いわゆる警察が犯人を無力化させる時のようにしたわけだ。そして首元には手刀を。

 コイツが体にタオルを巻いていて助かった。

 

「なんの真似だ?いきなり振りかぶってきて、俺じゃなかったらどうするつもりだ。死ぬぞ?」

 

「っ!は、離せっ!」

 

「お前が繰り返さないという保証はない」

 

 あたりを見渡すが、武器になりそうなのは俺のカバンくらいだが、こんなものを使うアホではないだろう。武器以前に射程に対して動作が遅くなるからだ。

 竹刀ももうひとつのベットの向こう側にあってすぐには使われなさそうだ。

 

「繰り返したら、問答無用で叩きのめす。いいな」

 

「わ、分かった・・・」

 

 念を押してから篠ノ之を解放する。ただ気を許したわけじゃない、いつでも反攻してきてもいいように、気は緩めないでおく。

 

「・・・・・・いきなり悪かった」

 

「そういう前に何か着ろ。そんな姿でいると湯冷めするぞ、苦労するのはお前の方だ。さっさとした方がいい」

 

「っ!?分かった!」

 

 はっ!?と気がついたように慌てて洗面所に戻っていった。

 あの格好でいるとかバカすぎる。いくら春だといってもまだ夜は冷える、風を引く可能性がないわけじゃない。

 

(って。何嫌いな奴の心配してんだか)

 

 家族が何かとズボラでいつも注意していたからその癖が出たのかもしれない。

 思わず苦笑が飛び出た。

 

 

 

 篠ノ之が洗面所の戻ること数分、着物姿といっても簡素なものだろう。着物の知識など皆無だからよく分からないが、寝るときもそれなのだろうか?寝づらいと思うが。

 篠ノ之が対面のベットに腰掛けたのを確認し聞く。

 

「なんでここにいる?」

 

「私はこの部屋も割り当てられたらだが、一夏は?」

 

 コイツに名前を呼ばれると虫唾が走るがそんな事を言っていたら話が進まない、我慢するしかないな。仕方ない。

 

「俺も似たようなもんだ。んじゃ俺はでで行かせてもらう、お前と同じ部屋になど住みたくもない」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 篠ノ之は下を向いて黙っているだけ。無言は肯定と受け取り荷物を確認していく、拒否されても強行する予定だったが。

 

(うげ・・・マジで必要最低限じゃないかよ。思った通りの内容じゃないか・・・・・・・)

 

 エナメルバックに収めるほど少ない。

 本当に俺の姉は大丈夫なのか?秋羅兄もそうだが、二人共生活スキルが低すぎる。俺が自立して行った時どうするつもりなんだ。

 

「あ・・・一夏・・・・・・。もう戻れないのか?昔のようには」

 

「・・・・・・随分と面白いことを言う。俺らが昔は恋人同士のような言い方だな」 

 

「っ・・・・・・仲良くしていた頃のよ――――」

 

「無理だ。お前があの事件を起こさなければこうはならなかったかもな、過ぎ去った事を後悔してもなんにもならない、諦めろ」

 

 きっぱりとコイツに言う、そうでもしない限りまた今日のように繰り返すに違いない。落ち着いて入れるのが不思議だ。

 コイツが仲良くしていたと言いたいのだろうが、あの時のはコイツが一方的なだけ。仲良くしていたとは思えない。

 

「s――――」

 

「済まなかった。と言うんじゃないんだろうな?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「お前がしたことは済まなかったじゃ済まされないことをしたんだから諦めろ。お前のせいでこの傷が残ったんだからな。この醜い傷がな」

 

 そう言い、上の服を脱ぎ捨て篠ノ之に背中を見せつける。

 

「っ!」

 

 右肩から左腰にかけて残るバッサリと切られた傷跡。今でも切られた時の激痛を思い出せる。深い所まで刃物が届き、俺は生死をさまようほど。緊急手術で一命はとりとめたが、この怪我が消えることはなかった。

 ワイシャツを羽織りながら現実を突きつける。

 

「いつまでも甘い夢に浸るな。現実と見分けがつかなくなる、いい加減諦めろ。もうお前と仲良くすることない。それだけだ」

 

 荷物を手に取り部屋から出ていく。

 

「二度と、俺を名前で呼ぶな」

 

 篠ノ之がどんな反応をしたのかも見ないで部屋を出る。

 ドアを閉める音がやけに冷たかった。

 

 

 

 

「ちくせう。啖呵きったはいいけどどうすりゃいいんだッ・・・・・・!」

 

 思わぬ盲点発見。なんか既視感あるけど気にしたら負けだろう。

 啖呵切って部屋を出てきたはいいものの、その後の事を全く考えてなかった。しゃーない飯食いながら考えるかと、迷い迷い食堂に行ってみれば既に閉まっていたというなんたる不幸。

 放課後になってあまりにも時間が立ちすぎてた。畜生弁当持ってくるべきだったよ。

 つうか弁当持ってきてたらすごいと思う。

 ということで30分近くさまよい見つけた休憩スペースで腹のたしにでもと思い、ジュースを飲んでいるが当たり前のように足しになるわけもない。

 昼も大量の視線のおかげであまり食えなかった。いい迷惑だよ全く。

 腹が減ってこの上仕方ない。

 抜け出すか?と思ったけども、バレないという保証はどこにもないしバレたら俺がオワタになる。

 手段が朝を待つだけと言う悲しい事実。

 さっき現実突きつけたからと言うのか。

 なんていうんだっけ、因果応報だっけか?

 ごくごく、泣けるゼ。

 今の俺なら泣ける自信があるね。大号泣は分からないが。

 

(腹へったなぁ・・・・・・)

 

 男子高校生が一食抜くと言うのは、死ぬよりも辛い。そして俺は昼も合わせてまともに食えちゃいない。辛すぎる、今日は寝れねぇんじゃね?

 初日から災難ばっかし、俺って幸運のステータス0?

 

”使えるものは最大限に使え”

 

 ふと、姉さんが言った事を思い出す。うん、姉さんはいいことを言ってくれた。使えるものは使って野郎じゃないの、その先がどうなろうと俺は知らねー。空腹を満たす方がすっと重要だ。(ヤケで吹っ切れた)

 

「よっしゃ使えるものは使って――――」

 

「・・・・・・何しているんですか一夏君」

 

「おわっ!?い、いきなり声をかけないでくださいよ!」

 

「いえ、ガッツポーズをしてたものですから」

 

「あ、あはははは・・・・・・・」

 

 そりゃそうだ。いきなり立ち上がってガッツポーズをする奴を見たら変人としか思えない。でその変人が俺、全く同じことしてた。

 

(やけになりすぎた・・・・・・)

 

「まぁ、久しぶりですね。元気そうで何よりです」

 

「虚さんも元気そうで。まぁ、あの事は衝撃的でしたけど・・・・」

 

 アレというのは言わずもがな三時間目のことだ。あれはかなり驚いたよ。後で聞いたんだが、あの放送無許可らしかった。

 

「何言って言っているんです?家族を悪く言われて黙っているわけないじゃないですか。あれでも軽い方なんですから感謝して欲しいくらいですが」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

(え?嘘だろ!?あれ程しておいて軽いィ!?) 

 

 やばい。俺はとんでもない所に出くわしたのかもしれない。なんか虚さんの後ろに炎が見える。

 ちなみにオルコットなんだが、帰ってきたのは6時間目が終わるか終わらないかくらい。完全にオルコットは壊れていて「コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ・・・・・・・・・・・・・」とつぶやいていた。オルコットが呼び出されてからしばらくの間、悲鳴が聞こえてきて何されてるのか考えるだけで恐ろしかった。

 それを軽いということは、本気を出したらどれくらいなんだ・・・・・。

 

「本当なら悠一様、楯無様にお父様お母様もお呼び出ししたいほどだったんですから」

 

「なん・・・・・・だと・・・・・・?」

 

 ちなみに悠一さんと楯無さんは凪沙と簪のご両親。そしてお父様とお母様は虚さんと本音のご両親って訳。

 んで、切れたら敵なしと言われるほどの最強。姉さんと秋羅兄を黙らせることができるほどだ。

 切れた時の怖さを表すと。

 簪<本音<<<<<<<<<<凪沙、虚さん<<<超えられない壁<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<姉さん<<<<<<<秋羅兄<<<<<<超えられない壁<<<<<人には超えられない壁<<<<<<<神でも超えられない壁<<<<悠一さん楯無さん虚さんのご両親。

 おかしいと思う所があるかもしれないがこういう事だ。

 オルコットが被害にあったら、まともに生きていくことは絶対に不可能だ。これは確信を持って言えるね。

 

「あ、あのですね?オルコットを殺す気で・・・・・・・・?」

 

「当たり前ですが?(ドヤッ)」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 なんと反応していいのか全くわからない。

 

「ところで」

 

「はい?」

 

「今日の放課後にたくさんの生徒が倒れていた事件があったんですが、知りませんか?(ちらっ)」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)」

 

 やばい。心なしか虚さんの後ろの炎が強くなった気が・・・・・・

 

「し・り・ま・せ・ん・か・?(ぎろっ)」

 

「すみません。やったの俺です・・・・・・・・」

 

「そうですかそうですか・・・・・・・・じャァちョっと来てもらおうか?」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

 さっきのニコニコ笑顔は何処へやら、一転して鬼の顔に。

 あはははは・・・・・・こわいなぁ・・・・(現実逃避)

 

「お嬢様に言われている時間まではまだたっぷりありますし、O・HA・NA・SIしようかァ?」

 

「ああああああ、あのですね!早めに行動しても問題はないと思います!」

 

「大丈夫ですよ一夏君。間に合うようにはするから安心しろ、痛いのは一瞬だからよ」

 

 逃げ―――――

 

 がしっ!

 

「逃しませんよ一夏君♪逃げたらどうなるか分かってンのか?」

 

「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

 ズルズル

 

「女の子に手を下すのがどれだけ悪いのか、レクチャーしないといけませんね♪」

 

「俺はただ追いかけられただけで!」

 

「言い訳なんて男らしくないですよ?男なら4の5言わないで死ね」

 

「弁解の余地なし!?」

 

(あぁ俺死んだな・・・・・・)

 

 引きずられていく中思う。

 アハハハハハ・・・・虚さん怖いなぁ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腕はそっちの方には曲がらな―――――――――――――ッ!!!???」

 

「えいっ♪」

 

 かきょっ

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!???」

 



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 第六話

やっとヒロインの凪沙さんを出せるぜ!


「分かりましたか?女の子に手を出すのはどんな理由があってもダメです。いいですね?」

 

「・・・・・・はい」

 

「ンだテメェ。それが返事だってェのかコラ?その腐った根性叩き直したろか?ン?」

 

「了解であります虚様ッ!!!」

 

 虚さんが怖すぎて生きていくのが辛い。

 

 

 織斑一夏今日の教訓

 

 ”女子を怒らせてはいけない”

 

 

 

 

 

 

 

 虚さんにプライドとかへったくれもなく、完璧に叩きのめされてしばらく。今は生徒会室に向かっている。

 そこには凪沙がいるみたいだ。早く会いたいなー。 

 

「痛てー。まだ腕の感覚がおかしい」

 

「流石にやりすぎたかもしれなせんが、それから短時間で復活する一夏君も一夏君ですよね・・・」

 

「そう思うならやらないでくださいよ・・・・・・・」

 

「簪様が一夏君がゴミ屑以下と言われていると聞いたとき、すごい怒りを覚えましたね。大切な家族ですもの」

 

「そう言ってもらえるのはありがたいんですが、無視はしないでもらえません?」

 

「いえ。悪いことをしたんですから怒るのは当たり前です」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 正論だから何も言えない。

 中学の時は肉体言語が主な会話方法だったから、何言えばいいかわからない。というかかかって行っても、殺気で撃沈するだろうし。やっぱり俺の知り合いの女子って切れると怖い人ばっか。

 秋羅兄と何回かそれについて真剣に話し合ったことがある。飲みながらだけど。

 

「一夏君。まさか私たちがいない時、法律に触れることしていたんですか?(じとー)」

 

「いえいえいえ。流石に法律に触れることになんて・・・・・・ねぇ?」

 

「・・・・・・最後のは誰に話しかけたんですか?まぁそんな事をしたらお説教です。いいですね?」

 

「はいっ!!!!」

 

「・・・・・・・その返事が気になりますが良しとしましょう―――」

 

 失礼な、俺は元気よく返事をしただけなのに。

 

「というのは嘘ですよ一夏君?」

 

「な・・・・・・なん・・・だと!?」

 

 そのにっこり笑顔で俺のトラウマ刺激しないでくんさい。

 

「私を誰だと思っているんですか?一夏君の義姉ですよ?義弟の言うことなんてお見通しです」

 

 なんだか、おかしいところがあるような。

 

「どうせ、お酒でも飲んだのでしょう?」

 

「な・・・・・・・・・・・っ!?な、なんでわかったっ!?」

 

「ふふふ・・・・、カマかけてみましたが本当だったんですね♪」

 

(しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!?????)

 

「ということで♪・・・・・・・もういっぺん死んでこいや一夏」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

 

 

「一夏君は犠牲になったんです(にっこり。ただし地獄の笑み)あはっ♪♥」

 

 もうボコボコにされるのや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでやっと(比喩ではない)やっとたどり着いた、生徒会室前。虚さんは再会なんですからと俺はひとりでいる、気を利かせてくれたらしい。ボコボコにするのはやめてもらいたいが。

 ノックをして、返事がきたのを確認して開ける。

 部屋には一人の女性、いや凪沙がいた。記憶と少し違ってはいるものの、見間違えるはずもない。 2年ぶりの凪沙はすごく綺麗だった。

 

「久しぶりだね一――――ってどうしたのその姿!?」

 

「あははは・・・・・・道中いろいろ大変なことがあってさ・・・」

 

 本当いろいろ大変だった。ボコられたりボコられたりボコられたりボコられたり・・・・・・あれ?おれってぼこられてばっか。

 

「もう・・・一夏こっち来て、怪我の手当てするから」

 

 凪沙に言われるままにそばへ行く。すると救急箱を取り出してきた・・・・・・ってこの部屋スゲェな、救急箱なんて保健室にしかないと思ってた。

 

「まったく無茶ばっかりするんだから。でも変わらないね、そうゆうトコ」

 

「へ?そうか?」

 

「うん。後先考えないで行動することだよ。たくさんそんな経験あるでしょ?」

 

 ・・・・・・・・思いたる節が多すぎて困る。

 そんな俺を凪沙は傷口を消毒しつつ笑う。

 

「ちょ・・・!?わ、笑うなよ凪沙・・・」

 

 自分でわかりきっている分、そうゆう態度を取られると悲しくなるわけではないけども、なんか変な気分だ。

 

「今日ね?かんちゃんが一夏が喧嘩起こしたとか、侮辱されたって聞いたときびっくりしたよ。でも侮辱されたとき冷静だったみたいだね」

 

「まぁ・・・な。中学ではそんなことザラだったからさ、いちいち反応するのにも疲れるし慣れちったよ」

 

「・・・・・・・そう。慣れちゃった、か」

 

 それだけで俺がどんな中学生活を送ってきたのか理解したらしく、顔を曇らせた。

 

(そんな顔して欲しくないんだけどなぁ・・・・・・)

 

 いつも笑っている凪沙の事を見てきたからか、凪沙が暗い顔をすると辛い。そうさせたのが俺ならなおさらだ。

 

「そんな顔しなくてもいいって、毎日毎日喧嘩ばっかりしてる訳無いし、それに楽しかったんだぞ?親友もできたしさ」

 

「そう・・・なんだ。良かった!一番心配していたことがあったけど杞憂に終わったみたいでなによりだよ」

 

 一転して明るくなる。うん、凪沙は笑っている時が一番だ。

 

「一番心配?」

 

「そう。一夏人付き合いすんっごく悪いから心配だったんだよ、ロシアにいる時もその事ばかり考えちゃって。テヘ」

 

「む。失礼な、俺にだって作ろうと思えばトモダチなんか作れるぞ」

 

「でもIS学園では思いっきり失敗してるらしいね、第一印象」

 

「うぐっ、痛いところつくなぁ凪沙は。でも俺は平気だよ」

 

「平気?」

 

 頭の上に疑問を浮かべ首をかしげた凪沙が可愛いと思ったのは、仕方ないと思う。

 

「おう。俺は一人じゃない、凪沙が皆がいる。それだけで十分だ」

 

 昔のように四面楚歌出ないし、大切な人達がそばにいる。これ以上の事を望むってほうがおかしいさ。

 俺は一人じゃない。

 

「一夏・・・・・・、一夏っ!」

 

「おっと」

 

 凪沙がいきなり飛びついてきて、態勢を崩しそうになるが耐える。凪沙の声は震えていて、泣いている、もしくは泣きそうになっているのが丸分かりだ。

 泣かせるような事を言っちまったんだろうか。

 

「凪沙?なんか俺ひどいこと言っちまったのか?言ったなら謝る」

 

「ううん、違うの。二年以上待ち続けたんだから、これくらいいいよね・・・・・・?”ただいま”一夏」

 

 ギュッとしがみついてくる凪沙を優しく抱きとめる。凪沙の体は細く、力を込めれば壊れてしまいそうで小さく、温かい。

 

(”ただいま”、か。そうだな帰ってきたんだよな俺も、凪沙たちのところに)

 

「俺も、だ”ただいま”凪沙」

 

「(コクン)」

 

 抱きとめた凪沙からほっとするような甘い香りがする。その香りや凪沙の温もりが、ずっと前に抱きとめられた時と変わってなくて安心した。

 

「・・・・・・一夏」

 

 目に涙を貯めながらも俺を見てくる。

 

「涙で綺麗な顔が台無しだぞ?」

 

「ん」

 

 凪沙の白い肌を傷つけないよう優しく涙を拭うと、整った顔があらわになる。泣いたせいか目が赤くはなっているけれど、紛れもない凪沙が俺の腕の中にいる。

 俺たちはしばらく見つめ合い、そしてどちらともなく顔を―――――

 

 

 

 

「ふっふっふ・・・・・・!お二人さんいい雰囲気ですねぇ(ニヤニヤ)」

 

 IS学園とある校舎の屋上には、新聞部部長黛薫子がニヤニヤしてカメラ(望遠レンズ付き)を構えていた。カメラを向けているのはIS学園生徒会室、つまり一夏と凪沙のお熱い場面(注・R18指定になることではない)が繰り広げられているところである。

 ちなみに彼女は、放課後一夏に真っ先に気絶させられ医務室でお世話になっていたはずだが、独自の情報ネットワークにより二人の関係などを調べ上げ、生徒会室で二人きりになるという情報まで入手した。

 最初は半信半疑だったがカメラを構えて待つこと1時間。全くその通りになったではないか、しかも二人の特別な関係を裏付ける場面に遭遇した次第だ。

 

(1時間も張り込んでいた甲斐があったってものよ・・・・・・!)

 

 ちなみにだが医務室など抜け出してきている。黛薫子という、三度の飯よりスクープ好きの彼女にとって、新聞を完成させるためならば手段を選ばない。

 記者魂全開の人間はとどまることは知らない。彼女はその典型的なパターンだ。

 

(とんでもないネタになるわよこれは・・・!徹夜を決行する必要があるわ)

 

 ちなみに彼女の近くには、何やらでっかい箱が一つある。それの中身は言わなくてもわかるだろう、大量の撮影道具だ。

 通常用に始まり、水中用、風景撮影用、人物撮影用、果までは高速被写体撮影用まで有り、スタンドなどなどプロに引けを取らないほどの機材が入っている。

 パシャパシャと遠慮なく激写していく。そこに人権など存在していない。

 

「う~ん。こりゃ望遠レンズをかえる必要があるわね」

 

 とった写真を専用の機材で確認すると独り言のように言い出す。実際十分にはっきり撮れているが、ネタにするにはもっと大きくはっきりとした写真の方がいいと判断したらしい。

 ただ声が聞こえないのが少々残念なところ。

 望遠レンズを取り替えようと後ろを向く。ただそれが彼女にとってよかったのかどうかはわからない。

 

「ほう?医務室を抜け出したと思えば、ここにいたのか黛、随分と仕事熱心だな。その熱心を少しは座学に向けたらどうだ?」

 

「おおおおおおおおおおお、織斑先生ッ!!??」

 

 IS学園の生徒なら誰もが恐れる地獄の鬼教師がいたからだ。

 

「馬鹿者。私は織斑では無い、雪片だ」

 

 パシィッ!

 

「へぶし!?」

 

「医務室を抜け出すバカがあるか。それは許可を取ってからにしろ」

 

「え?許可を取ればいいんですか!?」

 

 キラキラキラァッ!!と薫子の目が輝く。あの織・・・ゲフンゲフン雪片先生が優しいことを言うなんてっ!

 が、現実はそこまで甘くない。厳しい人がいきなり優しくしてきたら、裏があると思っていいだろう。

 

「バカめ、それは嘘だ」

 

「ひっ!?」

 

 心なしか千冬の目元が暗くて見えない。あたりが暗いからというわけではなさそうだ。

 

「さぁ、貴様の罪を数えろ・・・・・・!」

 

「ひ、ひいぃ・・・・・」

 

 あいにく唯一の逃げ道は千冬の後ろだった。

 

「言い残すことはあるか?」

 

「わ、私はこんな事じゃへこたれ―――――」

 

「却下だ(ニヤリ)」

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

 のちの黛は言う。

 

「あの時の雪片先生の目獲物を見つけたハンターのようだったわ・・・・・・」

 

 と。

 

 

 

 一方生徒会室では。

 

「あのさ凪沙。俺代表候補生と戦うことになったんだ」

 

 腕の中で穏やかな表情をしている凪沙に言う。

 

「入試ではどうにか勝てたけど、アイツと戦って勝つ自身がないんだ。でも勝ちたい」

 

「うん」

 

「だからISの事教えて欲しいんだ。俺がんばるから」

 

「うん・・・いいよ。それじゃあ、いっぱい頑張らないとね」

 

「絶対勝つよう努力する」

 

「がんばろう?」

 

 そしてもう一度お互いの唇を重ね合った。

 

 




 最後のは甘すぎる気がしますが気にしません。
 ちなみにこの二人まだ付き合ってはいませんよ?
 今回は少し短めです。


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 第七話

「うぉが?」

 

 起きて最初に視界へ入ってきたのは、愛用のスマホ(種類はXPERIA SO-03D)で形とか大きさが気に入っている。

 低血圧のため、妙に動こうとしない腕を伸ばしスマホを手に取り、電源を入れ時間帯を確認。

 

 ”05:38”

 

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?)

 

 念の為にもう一度確認する。もしかしたら寝ぼけて見間違えたのかもしれない。

 

”05:39”

 

(はぁああああああああああああああああああっ!!!???)

 

(どどどどどどどど、どう言う事なんだこれは!?)

 

 頭の中身が寝起きにもかかわらず、完全覚醒して状況分析をする。

 

Q1 なんでこんな時間を示している訳?

 

A1 早く起きたからだろう

 

Q2 俺って低血圧でかーなーり朝に弱くなかった? 

 

A2 低血圧の奴だってたまには早起きするし

 

Q3 俺って7時より前に起きた事なんて数えるくらいしかないぞ?

 

A3 何度言えば分かる。どんなにひどい低血圧の奴だって早起きするんだってば

 

 要するに俺は早起きをしたらしい。それも歴代トップ3に入るくらいの。

 

(まぁいいか。なんかこのまま寝たら起きれなさそうだし・・・)

 

 かなーり眠いが。

 

「んぐぐぐぐ・・・・・・!」

 

 ぐいーっと伸びて体をほぐす。イスに座って寝ていた所為か体が妙な感じにこっていて痛い。

 ・・・・・・・・え、イス?

 ちょっと待てえい!何で俺はイス(正確には突っ伏しながら)で寝てるんだ?

 ここは寮の中のどこかの部屋らしい、間取りが俺の部屋だった所と同じだ。じゃあここは何処だ?

 

 

(寝泊りしたって事は知らない人のとこじゃなさそうだけど・・・・・・)

 

 少なくとも姉さんの部屋じゃなさそうだ。整理整頓がされていてすっきりしているからだ。

 姉さんの部屋は予想だが、到底人の住めるような場所じゃないと思う。魔窟みたいになっているだろうな、散らかりすぎて。もしかしたら足の踏み場すらないかもしれない。

 ・・・・・・・絶対住みたくねぇ・・・、人が住む場所じゃない。姉さんは住んでいるのかもしれないけど。

 

(じゃあ何処だ?)

 

「・・・すぅ」×2

 

「へ?」

 

 突如として聞えた穏やかな寝息。

 寝息が聞えた方に顔を向けてみる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジで?」

 

 声のした方、つまりベットなのだがそこには凪沙と虚さんがスヤスヤと寝ていた。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・あ、そうだったな。部屋に止めてもらったんだっけか。

 だんだんと思い出してきたぞ。

 えーえー、昨日の夜確か部屋をどうするって話になったんだっけな。で・・・確か虚さんが

 

「私たちの部屋に止まればいい」

 

 って事言ったような気がする。女子の部屋に止まるのはさすがにどうか?って凪さと一緒に言ってみたが。

 

「どうせ”あんな事”したのでしょう?それくらいの事をしたなら部屋に寝泊りくらいどうってことないじゃないですか?別に同じベットで寝るわけじゃありませんし」

 

 二人そろってびっくりして赤面したのを覚えてる。確かにあの近くには虚さんは居なかったはずなのにどうしてと聞けば。

 

「二人のすることなんてお見通しです」

 

 の一言で一括されたな。

 やっぱり虚さんには勝てなかった。虚さんマジ最凶すぎワロエナイ。

 虚さんなんだけど、前に怖さの度合いを説明したと思う。それでそこで説明したときの虚さんは、あくまで最強のときだ。最凶になった瞬間越えられない壁の向こう側に行ってしまうのだ。越えられない壁のはずなのにな。

 まぁ、起こらなければしっかり者の姉って感じだ。

 とりあえず二人を起こさないように、静かに着替えを持って洗面所へ。ついでに使用中の立て札もな(お手製)

 

 寝巻きのジャージを脱いでいくと、服に隠れていた大きすぎる傷跡があらわになる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 右肩から左腰にかけて残るバッサリと切られた傷跡を見ると、中学の喧嘩に明け暮れてたのもあり、俺はやっぱりそうゆう人間なんだろうかといつも思う。

 絶対クラスの奴らが見たら勘違いするはずだ。ヤクザと接点がある、もしくはヤクザだ位は。

 本当なら俺はこれで死んでいたみたいだ。深々と切られ出血多量で死んでもおかしくない程

だったらしい。でも俺は死ななかった、今ここに生きている。

 それに医者は言っていた。あそこまでの大怪我をおって、しかも後遺症が残っていないのは”奇跡”だって。半身不随や動けなくなってもおかしくないはずだったらしい。

 

 

(あれのせいで誰も受け入れようとしなくなったときがあったっけな・・・・・・)

 

 周りの奴等はもちろん、よくしてくれた人どころか、唯一の家族までも受け入れようとしなかった。人と接する事が怖くなっていたんだろうと思う。

 一日中部屋に篭ってずっと膝を抱えていた、大体一ヶ月近くそうしていたと思う。表にはまだ入院中で面会拒否で話を合わせてくれていたらしく、俺は迷惑をかけたと思う。

 それでもアイツは、篠ノ之は俺の家に来て面会させて欲しいと言ったらしい。図々しい奴だと思う。

 しかもアイツは「謝りたい事がある」と言っていたらしい。ふざけるなといいたかったさ。

 

「いつもいつも罵倒してくるくせに謝りたい?ふざけないで」

 

 と。

 アイツが傷害事件の犯人だと分かったのは、アイツが転校して行ってしばらくの事だった。何で知ったのか覚えていない。

 ただその事を姉さんと秋羅兄に言ったら”お前は勘違いしている”としか言ってくれなかった。

 

 勘違い?僕が?。何で?アイツが僕の事を。

 

 内心ではそんな事を考えていたと思う。

 ”勘違いしている”この言葉の意味はいまだ分からない。アイツがやったんだから、そうでしかないのにってさ。

 この傷を作ったのは確かにアイツじゃないかもしれないし、少々言い過ぎたのかもしれない。でもその原因を作ったのは紛れもないアイツだ。

 なのにあの態度。

 でもどこか妙に引っかかるんだよな、アイツ口を開こうとしてやめる、立ち上がろうとしてしない、そんな姿が視界の端っこに映っていた、アイツは何がしたいんだ?

 あれは何か伝えようとしているような・・・伝える?

 

 

(どうゆうことだ?)

 

 引っかかっていたのはこの事なのか?

 もし伝えようとしていたとするとなんだ?

 謝る?いや、違うな。もっと大切な事を伝えようとしている感じだ。

 ならなんだ?まったく見当も付かない。

 本人に聞いた方が早いかもしれないが、あいにく昨日突き放したばかりだ。それなのにのうのうと聞ける訳もない。

 畜生。凪沙に言われたままじゃねぇか、後先考えないで突き放した結果がこれかよ。

 冷静に済ませればうまくいったもしれないことを、その時の感情で行動してしまう。

 俺は”アホでマヌケで、どうしようもないほどの大馬鹿ヤロウ”でしかない。

 弾たちの事言えねぇよ、俺は。

 

「って、何暗くなってんだか。こんなところ見られたら凪沙たちに心配されちまう」

 

 ガツン!と強めに頬を気合を入れるように殴る。

 なんせ今日からは一週間後の試合に向けて、姉さん公認のISの訓練が始まるんだ。余計な事を考えてると訓練に集中できなくなっちまう、それだけはなんとしても止めたい。

 それに気を抜いていたら、瞬殺されるのは目に見えている。

 そうだ相手が代表候補生だろうが国家代表が関係ない、俺は

 

 ”勝つ”

 

 

 

 

 昼休み俺は姉さんに呼び出された。理由はまったく分からないけど、急を要している感じだったから授業が終わると同時に職員室に急いだ。

 

「失礼しまーす・・・・・・」

 

 ドアを開けた瞬間、職員室にいた教師の視線がいっせいに集まる。

 

(うっ・・・)

 

 これだから職員室は嫌い、妙に入りずらいのがとてつもなく苦手だ。

 

「織斑こっちだ!」

 

 姉さんを見つけたと思えば、とっとと奥の方に入られて姿があっという間に見えなくなった。

 自分で来いって事かい。相変わらずのスパルタだこと。

 

 四苦八苦して姉さんが向かったところに行けばソコは会議室らしかった。

 ・・・・・・まさか説教?昨日やった事がそんなにマズイ事だったの―――

 

「遅いぞ織斑、時間がないから手短に話す。しっかり聞いておけ・・・・・・ん?何故お前は逃げようとしている?」

 

「説教じゃないの?」

 

「ハァ、やれやれ。ISの訓練に関する事を説明するのに何故説教をする必要があるんだ?それにやるならもっと堂々とやるから安心していい」

 

(そうゆうことを言う時点で安心できないよ姉さん・・・・・・)

 

 取り合えず説教じゃないって分かったから、姉さんの近くに座る。

 

「ほれ、IS訓練のためにとった許可証だ。よく読め」

 

 俺の目の前にファイルがすっと投げられる。

 

「・・・・・・説明するって言っておきながら、全然する気ないじゃん」

 

「黙れ」

 

 へいへい、分かりましたよーだ。このままいくと何されるかたまったモンじゃない、ここは黙って読むとしよう。

 なんだか小難しい事が書いてあるけど内容自体は簡単で、特別に一年のアンタのアリーナ使用を許可してやろうじゃないのって事だ。

 んで、アリーナを利用するのは一週間後の試合、オルコットと戦うためなのだから、情報が漏れて対戦相手に有利になってしまうのを防ぐために、俺が許可した人以外の出入りを禁止する。

 使用可能時間はいつでも、貸切にしてやったんだからムダにしないで欲しいとの事。

 訓練機は最大3機まで貸し出してくれるらしい。

 貸切の事で文句言われたら、学園長命令だこのやろう。文句あんのか?ン?と脅していいらしい。

絶対しないけど。

 で最後には、感謝の心を忘れんなよーって事で締めくくられていた。

 ちぃーっと軽すぎたかもしれないが、気にしたら負けだと俺は思う。

 応援してくれているのが丸分かりだよこの文章。

 

「一通り読んだな。訓練機のISだが一夏お前のために特別にアリーナを貸し出しているとはいえ、あくまで一つのアリーナを貸し出すだけに過ぎないのを忘れるな?他のアリーナでは通常通り生徒に貸し出されている。この意味が分かるな?」

 

「十分わかっているさ。貸し出せるISの数は変割らないって事だろう?」

 

 俺の答えに姉さんは満足そうに頷く。

 

「そこまで分かっているなら十分だな。必然的に他のアリーナへ流れ込む、予約されている訓練機の貸し出し数に余裕はない中の三機だ。打鉄かラファールか、それはその日の運で変わる。不満は漏らすなよ?」

 

「何に言ってんだよ姉さん。アリーナにIS三機を無償で貸し出してくれるんだ、これで不満がある訳がない」

 

「ふん。言うようになったな一夏。ISのコーチは見つかったか?」

 

「まぁな、凪沙に虚さん、簪に本音も居る。最高のコーチを見つけたよ。そしてもう一人、ね」

 

「もう一人・・・だと?」

 

 俺が言ったもう一人の検討がまったく付かないのか、姉さんは頭の上にハテナを浮かべている。

まぁ、もう一人ってだけで分かったらとんでもないんだけどね。

 

「という事で、姉さんコーチ頼むよ」

 

 俺の言葉に姉さんは目を文字通り丸くする。

 

「プッ、クッ、フフッ……アッハッハッハ!!もう一人は私か・・・?フフッ面白い事を言うな一夏」

 

「笑うとは失礼な。だって姉さんが言ったんじゃないか”使えるものは最大限に使え”ってさ。だから俺は使う、ISを動かしたら右に出るものはいない姉さんを、ね」 

 

「勝つためには努力を惜しむなと言う意味で言ったが、そうとらえられているとはな」

 

「ひねくれているかもしれないけど、勝つための努力をする準備として、姉さんにコーチを頼むだけ。忙しいなら無理しなくていい」

 

「ふん。無理するなといわれれば無理したくなるのが私でな、その話乗ろうじゃないか」

 

 やっぱりこの人は変わってないなとつくずく思う。今の姉さんの言葉とかがそうだ。ただそのまま無理してオワタになる事も多いんだけどな。

 

「あ、ところでさ姉さん。俺のISスーツってどうなるんだ?」

 

 背中を指指しつつ言うと、それだけで意味を理解してくれたらしく、安心していいと言ってきた。

 

「それなら手回し済みだ。ダイバースーツに近いようなものにしておいたから平気だ」

 

「マジで?ありがとう。んじゃ俺は教室に戻る事にするよ」

 

 時計を見てみれば、結構時間が過ぎていた。そろそろ食堂に行かないと次の授業に間に合わなくなる・・・・・・と思ったんだが。

 嫌な予感ってあたって欲しくないほどあたるんだよな。さっきから俺の五感が必死に、逃げろと伝えてくる。

 

「待て一夏。コーチ料はないのか?」

 

 げ。

 まぢであたりやがった。

 

「いやぁ何言ってるのかな姉さん?家族の頼みだよ?それくらいいい―――」

 

「そうだなぁ、一つ話を聞くってのはどうだ。それなら平気だろう?なにせ”家族の頼み”なんだからな(ニヤリ)」

 

 ちっくしおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!

 俺が使った事をまるっきりそのまんま・・・・・ッ!!

 

「どうした一夏?おあいこじゃないか。私は一夏のISのコーチをする、一夏は私の話を聞く、何処も問題などないだろう?それともなんだ?私にISのコーチをさせるだけさせておいて何も無しなのか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(激汗)」がくがく

 

 この人俺が逃げれないように・・・・・・・ッ!!

 腕を掴まれているから逃げるにも逃げれない、たとえ逃げたとしても捕まってオワタ。

 

「そうだなぁ、一夏聞いてくれ秋羅から電話が来てな?」

 

「あ、あの姉さん・・・・・?授業に遅れるんだけど・・・・・・?」がくがくぶるぶる

 

「ふん授業など知らん。それでな?秋羅はなんて言ったと思う?」

 

「あの、授業・・・・・・」がくがくぶるぶる

 

「補修を受ければいい、安心しろ話はつけておく。教師の手伝いをしたといえば何も文句は言われん。なんとな?一ヶ月以内には帰ってくといったんだぞ?嬉しくないか!秋羅が帰って来るんだぞ!?」

 

 あぁ、姉さんが珍しくハイテンションになってるよ・・・・・・・。誰か助けて。姉さんが止まらない。

 

「はは、そりゃあもう・・・・・・・」

 

「それでだな、秋羅は帰ったらしばらく何処にもいかないって――――」

 

 

 責任者出て来い。昨日は暴力で、今日は精神を揺さぶってくるのか。ふざけるなこの野郎ッ!!

 そして俺はその後たっぷりと二時間、姉さんのノロケ話を聞かされ続けるのだった・・・・・・・

 

 

「一夏聞いているのか?」

 

「えぇ、そりゃあもうあはははは・・・・・・・」

 




不可能を可能にする虚さんの最凶モード

限界を超えるッ!!by21歳曇りさん


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 第八話

「っあ・・・・・・・・」

 

 がくんとISを装着しているのにもかかわらず膝から崩れ落ちる。疲労のせいで体中まともに動いてくれない、それに焦点すら定まらなくなりかけていた。

 

「どうした一夏。早く立つんだ、倒れたからといって敵は待ってくれないぞ」

 

 姉さんは化け物か。そう言いたくなる位無茶苦茶な強さだった。改めて世界の頂点に立つものの実力を感じる。そしてまだ本気どころか、試合時特有の張り詰めた気迫がなく、あしらわれているのは誰から見ても分かる。

 

「うぐぁっ・・・・・・!」

 

 

 打鉄の初期装備の近接ブレードと杖に体に鞭打ってどうにか立ち上がる。たったそれだけの動作で息が上がり、姿勢制御がおぼつかなくなり倒れかけるが、根性で耐える。

 

「それでいい。さぁ構えろ、まだ休憩の時間じゃないぞ。まだ1時間もある」

 

(まだ・・・まだぁっ・・・!)

 

 口答えする気力すらないなか、長い時間をかけてブレードを構る。秋羅兄なら容赦なくこんな状態でも打ち込んでくる分、まだ甘い方だ。

 視界の端に、へたり込んだ凪沙たちの姿が見える。皆俺の訓練に付き合ってもらった結果だ。

 ただ、俺が撃破した訳じゃない、全員が長時間にわたる訓練による疲労でへたり込んでいるだけで、(内二人が目を回している)。

 5時間渡る訓練をかけても誰一人として撃破出来なかった。いい所でエネルギーシールドを3割削った程度、悪いときなんて何も出来ずに撃破されたこともある。

 このメンバーで俺が誇れるのは、この馬鹿げたとまで言われる体力だけだがそれも限界を通り越している。

 

「一週間でできる事など皆無に等しい、できる事をやると言ったのはお前のはずだ」

 

「わかっ・・・てる・・・・・・!」

 

 できる事。それは限界近くで訓練を続け体力を底上げし、30分しかないオルコットとの試合で常に全力を出せるようにする事。

 これ位しか手段がないが、単純でシンプルだからこそ有効な事だってある。それにこの訓練に近いような事ならば、散々秋羅兄にやられてきた。

 もうここまで来ると、集中が切れ掛かっていてなおかつロクに力もこめられない、そのため一瞬でも姉さんから目を放せば、即撃破に持ち込まれてしまう。

 そのため集中を切らす事ができない。時間がたてばたつほど、勝ち目がなくなっていくような無茶苦茶な訓練だ。

 

「よし行くぞ」

 

 もう何度目か分からないほど聞いた言葉を姉さんは口にして、訓練の5時間を感じさせない速度で突撃してくる。

 

「ッ・・・!」

 

 とっさに真横へとスラスターを吹かし回避し正面に姉さんを捕らえる。避けられたのは殆どカンでしかない、何度も喰らっていてようやく掴んだ感覚だ。

 

「甘い!」

 

――――ッ!!??

 

 瞬きする前までは姉さんの背中が見えていたはずなのにもかかわらず、次の瞬間には極至近距離

”姉さんのもっとも得意とする戦闘距離。そして姉さんに一番許してはいけない間合い”に踏み込まれていた。

 

「くっ!」

 

 とっさに姉さんから遠ざかるようにスラスターを吹かそうとするが、この間合いを許した時点で終わりだった。

 素直に回避をあきらめ迫り来る一太刀を完全とは言わない、ただ直撃をだけは防ぐために左上に限界までブレードを握り締め、振り上げる。

 

 

(側面ならッ!)

 

 何も刃同士をぶつけ合う必要なんてない。どんなに速くても、側面から一撃を入れればいくらか軌道は逸れ、隙が出来る。そう思ったとき。

 

「!?」

 

 

 IS俺に接続しているハイパーセンサーがニヤリと笑う姉さんの顔を捉えた。 

 その時、振り上げたブレードがむなしく”空を切った”

 

「まだまだだな、一夏」

 

 その言葉を理解するよりも早く、がら空きとなった懐に、強固なISのシールドをもってしても防げない衝撃が走り、気が付けば俺はアリーナの地面に仰向けで倒れていた。

 

(はは・・・指の一本すら動かないや)

 

 この状態じゃISを動かすイメージすら出来ない。自力でISを解除するのはたぶん無理だ。

 ・・・・・・・・・・空、青いなぁ・・・。

 

「ち、千冬さん。無反動180度回転(ゼロリアクターン)と短期加速(ショートイグニッション)の組み合わせはさすがに・・・・・・」

 

 

 声からして凪沙だろうか?姉さんに何か言っていた。

 

「何を言っている更識、一夏は限界を試すと言ったんだ。それなら、それに最大限に答えるのが礼儀だろう?」

 

「それは・・・そうですけど・・・・」

 

 この調子じゃ自力で部屋に戻るどころか、歩く事すらできない。どうしようかなぁ・・・・・・。

 

「ほら一夏、さっさと立て。休憩はまだ先だぞ」

 

「・・・・・・指の、一本・・・動かせ、ない・・・・・・」

 

「軟弱者が」

 

 ガツンッ!!

 

「ガハッ!!??」

 

 いきなり腹部にぶち込まれたかかと落とし、ISのシールドがあるからどうって事ないだろう。

 

――――そう考えていた時期が俺にもありました。

 

 割とマジでそう考えていたが、姉さんには常識が通用しなかった。ISのシールドがあったのにもかかわらず、生身で受けたような衝撃。戦車の主砲すら防ぐシールドがあったのにもかかわらず。

 

「グフッ!ゴホッ!」

 

「一夏っ!?」

 

 動かせないと思っていた体が無意識に動いてうずくまる。呼吸がまともに出来ず、目の前がちかちかと光りまともに見えない。

 

「千冬さん!さすがにやり過ぎですよ!」

 

「これくらいでへこたれているようじゃ、オルコットには到底勝てない。この程度じゃ一方的に弄られて終わる、勝つ事など無理だ」

 

 さすがにこの言葉でカチンと来た。ただ姉さんにカチンときたわけじゃない、これだけやっても”勝つ”ことに届かないおれ自身に。

 絶対に”勝ち”たい。

 絶対に”負け”たくない。

 

(負けて・・・たまるか・・・!)

 

 そう思うと倒れてなんていられない。

 

「一夏?」

 

「負けたく・・・・ねぇんだ・・・!」

 

 火事場の底力と言うのか限界のはずなのに、いくらか余裕が出来た気がする。

 

――――まだ、いける。まだ、戦える。

 

 PICを使わず2本の足でしっかりと地面に立ち、酷使して所々傷が残る近接ブレードを構える。

 

「凪沙、危ないから離れてろ」

 

「でも・・・・・・」

 

「大丈夫。まだ戦える」

 

 凪沙を俺の近くから離れさせる。やろうとしているのは単純だ、姉さんと戦うだけ。

 そんな俺を見た姉さんは満足そうに笑う。

 

「いいぞ一夏、お前の限界を出し切るんだぞ」

 

 とてつもない疲労の割に自然と体が、思考が冷静になってくる。

 そうだ。秋羅兄が言っていたじゃないか

 

”どれだけ冷静に対処していくかが、勝つための鍵だ”

 

 正面に姉さんの姿を捉える。

 いつか絶対に超える目標。

 こんなところでつまずいていたら、絶対に届かない。足元どころか、その姿を見る事さえかなわない。断言できる。

 

「こい!」

 

 その言葉と同時にスラスターを吹かして姉さんに突撃し、ブレードを力の限り振るう。

 そして幾度となく、吹き飛ばされた。

 

 

 

「先輩。織斑君はオルコットさんに勝てるんですか?」

 

「ん?」

 

 夜、書類を片付けていると山田先生がそんな事を言ってきた。

 ふむ、気分がいいことだし答えるとしよう。(注・理由はお察しください)

 

「いきなりどうしたんだ?」

 

「心配なんですよね、織斑君。オルコットさんは代表候補生で、織斑君はISに触れて1ヵ月もない上に、練習期間が一週間だから勝てるのかなって」

 

「大丈夫だと私は思っている。少なくとも、一方的にやられる事はないだろう。それに、一夏は更識簪と戦い、3割エネルギーを削ったからな」

 

「え?簪さんって代表候補生ですよね!?それで3割!?」

 

「そうだ。姉の凪沙に対しては2割もだ、到底じゃないがIS初心者に出せる記録ではない」

 

「・・・・・え?こ、国家代表から2割も・・・・・・?」

 

「だろう?そこまで行くとは私も思っていなくてな、驚かされた。一夏はまだまだと言って、自分がしたことのすごさをまったく理解していないが・・・」

 

 国家代表は名前の通り、その国最高のIS操縦者という事。それになるのには並大抵の事では慣れない。あまりの厳しさに、候補生どまりのままという者が殆どになる。

 その厳しさから分かるように、国家代表はそこらへんにいるIS乗りとは実力が違いすぎ、話にならないほどだ。

 それなのにも関わらず、一夏は3割と言う驚愕の量を削り取った。相手は専用機、自信は訓練機なのにも関わらずだ。

 普通なら手も足も出ないで終わる。代表が本気を出せばなおさらだ。

 そして更識は一夏と”本気”で戦っていた。

 この事をIS委員会に報告でもすれば、混乱するのは間違いない。

 

「一夏は将来化ける・・・・・・。これまでに例がないほどにな」

 

「だけど、そうしたら絶対に問題が起きますよ?」

 

「その通りだ。ISは女にしか使えないはずなのにもかかわらず、出現したイレギュラー。それが世界の頂点に立つことがあれば」

 

「世界が揺らぎますね・・・・」

 

「まったくだ」

 

 まだ未来の事なのだが、心配で仕方ない。もしかしたら”私では勝つことが出来なるかもしれない”そう思えてならない。

 

「まぁ、まだ先の事だ。今心配しても仕方ない。それでどうだ?ここまで聞いてもまだ心配か?」

 

「いいえ。なんだかオルコットさんがかわいそうになってきました」

 

「ふふっ、勝つかどうかはその日になってみないと分からないがな」

 

 

――――一夏、お前は何処まで行けるんだ?

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 一人の女性の視線の先には、少し灰色のかかった白のボディを持つISが一機あった。

 空色のワンピースにエプロン。ついでにウサミミヘアバンドという出で立ちは、紛れもないISの開発者”篠ノ之束”だった。

 今の篠ノ之束の姿を、彼女を知る者が見たとしたら驚愕の表情を浮かべるのは間違いないことだろう。

 なぜなら束は”目の前のISを目にして”悩んでいる”からだ。

 普段の天真爛漫で他人には興味を示す事のない姿からは、想像もできない。唇をかみ締め、目を伏せているなど”普段”の束なら見れない。

 

「まだ悩んでいるのか束。もう作っちまったんだろ?後戻りは出来ないぞ」

 

「それは・・・・・・分かっているんだけどね、あっくん」

 

 あっくんと呼ばれた長身の男は目を閉じて、腕を組んでいるだけなのにもかかわらず、威圧感があった。

 

「束。お前がそのISに途方もないほど思い入れがあるのは分かる、どうせ一夏にあげていいのか迷っているんだろ?」

 

「・・・・・・うん」

 

 男は意図もたやすく束の心情を読み取り、そして続ける。

 

「そのIS”白騎士”だっけか。初めて作ったコアを核に、そのアーマーから武装。しまいにはその名前をつけた」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「まだ、振り切れていないな?あのシスコンのこと」

 

「”れーくん”のこと悪く言わないでよ。確かに”れーくん”シスコンだったかもしれない、でも初めて私を対等に見てくれたんだよ?自分の未来をつぶしてまで」

 

「未来、ねぇ。確か自分の親殺したんだよな、事故に見せかけて。必要ないって言われた妹を守るために、か」

 

「うん。”れーくん”は優しかったのに親はクズだった。自分の都合で子供の未来を勝手に決めてさ、いらないからって娘を殺そうとしたんだよ?」

 

 男がわしゃわしゃと頭を掻いた。

 

「・・・・・・なんで俺等しかいないんだろうな、この世界に。もうあれから24年か、精神年齢と体があってねぇや。今頃あんな事がなけりゃ、俺はおっさんか・・・」

 

「あっくんは”れーくん”の妹を目の前で殺されてもうそんなになるんだ・・・・・・」

 

「まぁ・・・な。気が狂いそうになったよ。でもそのときには俺も一緒にやられて、今にいたっちまった。今年の9月か」

 

「あっと言う間にあの時と同じ時間になっちゃったんだね」

 

「そうだな・・・・・・。アイツらには隠して、裏で色々やってきたけどあんまり効果なかった。ムダだったよ今までが」

 

「”白騎士”いっくん使いこなせるかな?」

 

「さぁな。それは一夏しだいだ。一応アイツの事は鍛えてきた、一夏を利用してるってことは分かりきってんだけどな・・・・・・」

 

「”れーくん”何処にいるの・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・?」

 

 その言葉はあまりにも小さすぎて、そばにいた男にすら届く事はなかった。

 行方不明の恋人を想う。そんな姿を束はしていた。

 




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 第九話

 一週間の訓練はあっという間に過ぎ去り、とうとうオルコットとの試合当日になった。

 この一週間は決して無駄にはならなかった、というのも手応えを掴めたからだ。それでも、オルコットに勝てるかと言われれば全然。素人と代表候補生じゃ下地が違いすぎる。

 でも素直に負けなんて認めるわけにもいかない。そのために一週間をかけてISの訓練をしたんだから。

 あとは”届いたISが近接戦闘タイプなのを望む”だけだ。

 射撃訓練なんて一切していないし、そもそも苦手分野だ。喧嘩慣れしたからもあるかもしれないが、距離を離して撃ち合うのはなんだか合わない。近づいて切る、俺ができるのはこれだけだ。

 

「調子はどう一夏?」

 

「おう、大丈夫だ問題なし。ただIS来てないのがなぁ」

 

「あ・・・・・・だよね・・・。そろそろ届いてくれないと、一次移行(ファーストシフト)が間に合わなくなっちゃうよ」

 

 だいたい15分もすれば試合開始の時間になってしまう、特別に許可をとってもらったアリーナの利用も昨日までであって、今日の試合には使えない。それにこの試合自体急に決定したものだから、当たり前のように使用時間が決められている。その利用時間があるから、入試のような戦法は取れない。

 

「ISが来ないのはかなりやばいよな。このままじゃ棄権扱いになるんだっけか?それだけはなんとしても避けたい」

 

 凪沙が言う一次移行ってのは、専用機の特権・・・?だったような気がする。操縦者に最適化して、どうのこうの・・・だ。

 この辺は勉強途中だからまだ良くわからない。とりあえず専用機は一次移行しなきゃ使えない、と覚えておけば平気だと思う。

 ・・・・・・あとで山田先生に聞こう、全くわからない。絶対姉さんには聞かないぞ。

 

「ごまかしたような気もするけど良いかな?でも専用機が届いても射撃タイプだったらね」

 

「あー、俺何もできずに終わるパターンだなそれ。射撃とか全然訓練してねぇし」

 

「確かに」

 

「「あははははは・・・・・・ハァ…」」

 

 射撃とかマジで話にならない、いちいち狙ったりするの大っ嫌いだ。だからガンシューティングは苦手な分類。”近づいて切る”これだけでよろしい。

 

「でもまさか秋羅さんに鍛えてもらったことが、ここで役に立つなんてね」

 

「全くだ。まさか俺がISに乗れるのを分かってたのかなーって感じだよな」

 

「流石にそれはないと思うよ?でもそれが結果として役には経つんだけど」

 

 よく見れば凪沙は苦笑いをしていた。ありえないと言いたいらしい。

 

(だよな、流石にそれはない)

 

 

 でもそうするとなんで鍛えてくれたんだろう・・・っていう疑問が浮かぶが、今考えているべきじゃない。

 時計をみればあと10分。いよいよ余裕がなくなってきやがった。

 急に開発しろと言われたらしいから、俺のISの開発元倉研の事を悪く言う気はないが、いつ届くかくらいは教えて欲しかった。

 そうしたらその日程に合わせることもできたと思うけど、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。ただ待つだけ。

 

「お、織斑君!織斑君!」

 

 声がした方をみれば、山田先生が(遅いながら)全力(そうに見える)で走ってきた。

 この時間帯で山田先生だ。要件なんてすぐにわかる。

 

「俺のISが届いたんですか?」

 

 

 ビンゴだったらしく、山田先生は頷く。

 

「はい! 今、格納庫から待機ピットに移しているので、織斑君もすぐにピットに来て下さい!」

 

 その言葉に頷くと凪沙の方を向く。

 

「行ってくる」

 

「頑張ってね」

 

「おう」

 

 

 言葉少なく会話を済ませ、ピットに俺はいぞいだ。

 余計な会話なんていらない。それに、言わなくてもわかるんだから。

 

 

「一夏、コイツがお前のIS白騎士だ。分かっているかもしれないが、一次移行は試合で終わらせろ」

 

 ピットに入ったとたん姉さんの説明が入る。普通なら文句のひとつやふたつ言いたいところだ。ただ、今回は時間が時間。そこは分かり切っているから、無言で頷きISを見る。

 随分とシンプルな装甲だ。一切の無駄を省いたイメージを受ける、その為か全体的に見ると装甲は少し薄そうに見える。打鉄のような、防御力に任せた戦闘はできなさそうだ。

 クロス状に広がる四つのウィングスラスターまでもが無駄を省かれている。そして小型だと思うが、腰部に左右対称にスラスターがあった。

 ようするに種類は違うにしろ、六つのスラスターがあることになる。これはスピードに特化していると思われる。

 

「一夏安心しろ、コイツは近接速度特化型だ。散々特訓した近接だから問題はないだろう。ただ速度に特化している分防御は少し薄い。気をつけろ」

 

「近接なら問題ない、動いて切れりゃ平気だよ」

 

 

 姉さんの言葉にニヤリと笑いながら返事をし、IS・・・白騎士へと乗り込む。ただ防御が薄いわけじゃない、その分速度に特化しているのだからよければ問題なし。

 非のうちようがないほど、俺ごのみの機体だ。

 

(なんだ?このISは?初めて乗った感じがしない・・・?)

 

 おかしい。この機体には今この瞬間初めて搭乗する。なのにどこか慣れ親しんだような、不思議な感覚。

 軽く動いてみると、一次移行が終わっていないのにも関わらず、多少の違和感はあるにしろ思い通りに動く。

 全センサーが俺に接続が終わり、IS特有の視界になると、近くでモニターを見ていた山田先生が声を上げた。

 

「え・・・?なんですかこれ?ほとんど織斑君のデータが入力されていないのに、なんでここまで・・・」

 

「ふむ。確かにこの速度は異常だな・・・・・・」

 

 モニターを横から見た姉さんまでもが言い出した。聞くところ、試合に異常が出るようなものじゃないだろうけど、なんだか怖い。

 

―――――あなたが織斑一夏

 

「ッ!?」

 

 突然声がした。慌てて辺りをISの補助があるのを忘れて見わたすが、姉さんと山田先生以外の姿はない。

 違う。声がしたんじゃない、頭の中に直接響いてきたような感じ。それどころかその声すら懐かしく感じた。

 

(一体なんなんだ?)

 

「どうした一夏」

 

「いやなんでもない」

 

 心配してくれた姉さんにこのことを言いたくなったが、言っても信じてもらえないような気がする。ありえないという訳でなく、もっと根本的なことが原因で。

 とりあえず、武装を確認する。この際声に関してはおいておこう。

 

―――――武装一覧

 

―――近接戦闘用ブレード[白雪(しらゆき)]

 

 

 思わず笑いがこみ上げてきたね。姉さんの説明を聞いた通り近接タイプなのはいいさ。ただ武装が刀一本というのはどうなんだろうか?もう少し武装はないのかと思うよ、牽制用のショットガンとかぐらいは欲しかったな。 

 

「どうだ一夏、行けそうか?」

 

「行けるかじゃなくて、言ってやるんだよ」

 

「行ってこい。二度と無駄口を叩けないようにしてやれ」

 

「了解」

 

 ないものはないんだから仕方ない。そう割り切り、姉さんの言葉に対して大口を叩く。バカなのは百も承知だ。

 白騎士を固定している射出カタパルトに機動命令を送る。

 瞬間俺はアリーナへ飛んだ。

 

 

 

 

 俺がアリーナにとんだ時には、既にオルコットが武装を展開して空中に待機していた。

 蒼いISを身にまとっている。データによれば、第三世代中距離射撃型ブルーティアーズというらしい。詳しいことなんて分からないが、対射撃戦として散々特訓した戦闘タイプだ。幾らか勝機はあるだろうが、とりあえず虚さんを超える弾幕を張られないことを信じたい。

 

「遅かったですわね」

 

「悪い、ISが届くのが遅れたてた。一応試合時間には間に合ったんだ、それで勘弁してくれ」

 

「約束は守ったからいいでしょう」

 

 軽口を言うところを見ると、ホンの数日前まで壊れていたのかと思う。それくらいの復活ぶりだ。

 というか観客席の方から微妙な殺気を感じる。俺に向けられているわけじゃなさそうだが、なんだろうか?

 

「オルコット。ひとつ頼みがある」

 

「なんですか?」

 

「”本気”で戦って欲しい」

 

 

 アリーナの生徒たちがざわめきたった。

 俺たちの会話は、ISを通してアリーナ全体に聞こえるようになっているため、だれでも俺たちの会話聞こえる。

 そして今の俺の言葉も例外じゃなく、アリーナ全体に響き渡った。

 

「いきなり何を言い出すのです?それはお冗談で?それとも―――――」

 

「あぁ、本気で言っている。遠慮なく戦って欲しい。馬鹿だ、とか無謀だっていくらでも言えばいい。でもそれは全部これが終わってからにして欲しい。この試合は全力で戦いたいんだ」

 

「・・・・・・別によろしいのですが、一応理由を聞かせていただけるでしょうか?」

 

「いくらでも言うさ。試合事で手を抜いたり抜かれるのが、だいっきらいなだけだ。満足か?」

 

「えぇもちろん。お望みのように全力を出します。そして素直に負けを認めさせてあげますわ」

 

「ふん、あいにく負けるのは嫌いでね」

 

 試合開始カウントを横目で見る。

 あと五秒。

 [白雪]を手の中へ展開する。やっぱり初めてとは思えないほど手に馴染む。

 30メートル先にオルコットがいる。

 

(いける。この距離なら)

 

 あと2秒。

 オルコットが巨大なライフルを構える。狙いは俺。

 

―――――安全装置解除確認。

 

――1・・・0

 

 

”開始!”

 

「落ちなさい!」

 

 その言葉とともにトリガーを引き、レーザーが射出される。

 

「ふっ!」

 

 だけどわざわざ始まる前から構えられていたのをかわせないはずがない。姉さんとの訓練の要領でを使い、できる限り最低限の動きで真横に回避。

             

                 

「やりますわ―――――っ!?」

 

 真横に回避しただけで終わらせるわけがない。すぐさまスラスターにエネルギーを送り加速。白騎士のスピードを活かして懐へ接近し、一閃―――

 

「くっ!」

 

 するが、さすが候補生なだけあって即座に後退され、掠るだけに終わる。 

 

(これで終わりじゃねぇぞ!)

 

 距離を取ろうとする所へ即座に接近し、コイツには絶対に距離を取らせない。どんなに強い射撃兵装でも致命的な弱点がある。

 それは間合い。

 そんなに強くても、小回りが聴いても、幾らか間合いを開けなければまともに使うことすらできない。スナイパーライフル型のオルコットの武装なら尚更だ。

 散々姉さんに叩き込まれた戦法だ。間合いを取らせなければ射撃兵装などただの荷物だと。

 そのため間合いを取らせない方法も体に何百何千と嫌になるほど体に叩き込まれた。だけどそのおかげで今はどうにか優位に立てているが、射撃タイプである以上何かしらの対策がなされているのは確かだろう。そうでもないがぎり射撃タイプのISが出回ることはないはずだ。

 

「この・・・!離れなさいっ・・・・!」

 

 後退しながら放たれるレーザーを確実に避け、すぐさま距離を詰める。 そして[白雪]を振るう。

 少しずつだが、訓練の結果が出始めた。

 

「断る!お前に距離を取らせる訳にゃいかねぇ!」

 

 一次移行が終わっていなく、装甲が少し薄いこと、オルコットが射撃タイプのISを使う以上、試合を長引かせるわけにはいかない。

 オルコットに対策を使われる前にどれだけエネルギーシールドを削れるかが勝負の鍵だ。

 

 

 

「ほーう、やるじゃねぇか一夏。代表候補生にこれほど行くのかい」

 

 

 不意に男が一夏の試合を見てつぶやいた。ISを届けて終わりにする予定だったが、面白半分で見学することにした。

 その甲斐あったのか、かなり面白い光景が見れた。

 代表候補生がISの素人に押されている光景が。

 よく見てみれば、アリーナは不自然なまでに静まりかえっていた。それほどまでに皆が見ることに集中しているということだろう。

 この光景はなかなか見れない。

 

「思った以上に白騎士も使いこなしているようだし、アイツも少しは喜ぶか」

 

 思わず口元が緩む。思った以上の結果だった。

 

―――――やっぱり、あのシスコンの××××××で、白騎士を使いこなしていただけある。

 

「お前は気づいているか?セシリアの隠し球によ」

 

 だれに言うまでもなくつぶやくが、不思議と生徒が男に反応する様子はない。

 生徒は皆まるで”そこにいないかのよう”に振舞っていた。だかそれも全て男の計算のうちだった。

 

”4機の自立兵器ブルーティアーズに2機のミサイルビットを、な”

 

 



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 第十話

「行きなさいブルーティアーズ!」

 

「この!」

 

 何度目か分からなくなる位、オルコットの秘密兵装が俺に向かってくる。

 それが放たれれば一気に形勢を翻され、不利な状況へ持ち込まれる。いや、もう不利な状況に持ち込まれていて、ほとんどオルコットの独壇場だ。

 オルコットに間合いをとらせた事で。

 

「舞いなさい!」

 

 空中を自在に動く秘密兵器は、まるで意思があるかのように宙を舞い、俺を貫かんと迫ってくる。

 数としては1対5あらか様に俺がおされている。オルコットが言うブルーティアーズは威力こそ、主兵装のライフルより劣るが、数と防御を考えれば驚異すぎる戦力差だ。それにオルコットが言うには、ミサイルビットがあるはずだ。それも含めれば1対7、差が開きすぎる。

 それを出される前に一つでも落としたいところだが、そうすれば残りの3機に狙われる。

 文字通り、蜂の巣になる。そのことは白騎士の事を考えれば不利だ。

 たとえ、オルコットに近づくことが出来ても自爆覚悟のミサイルを打ち込まれる。エネルギー差を考えれば、完全にオルコットに分がありすぎる。

 

「その程度ですか?」

 

「大事だ、奥の手はきちんと残ってる」

 

 

 皮肉を言うオルコットにそういうは良いもの、言葉と裏腹に余裕なんてない。

 

(ミサイルビットがあることを考えれば、ヒットアンドアウェイになる・・・な)

 

 試合時間のカウンターとオルコットの残りシールドエネルギーを照らし合わせる。

 

(間に合うのは、五分五分ってところか)

 

 間に合うかどうかが分からなくても、手段が1つだけでもあるなら試すだけ。ない訳じゃない。

 ブルーティアーズの射撃を危なげなく横に回避し一直線上に捉え、そのスキを逃さない。

 スラスターへエネルギーをいつもより多く割り振る。

 一瞬のチャージを経て、加速。瞬く間にトップスピードに到達。

 

「っ!?瞬時加速!?」

 

 驚き一瞬硬直するオルコットの懐へ割り込み、[白雪]を振るい離脱するはずだった。

 いたずら好きのカミサマとやらは俺を見捨てなかったらしい、違う神様なら見捨てないで欲しかった。

 

「・・・・・・畜生、それも計算の内か」

 

「もちろん、演技ができてこそ淑女ですのよ?」

 

 俺の一太刀は防がれていた。オルコットの手の中にいつの間にかあった近接ナイフで。

 そしてそれは全て見抜かれていた事を意味していた。

 

「ミサイルを警戒していたのは先ほどの行動で見抜けましたし、織斑先生がコーチをしているのは知っていました。織斑先生がコーチをするのだから、これくらいのことはあるかと予想はつけましたわ」

 

 さすが、候補生だと感心できた。勝つために姉さんにコーチを頼んだのが、ここに来て裏目に出てきやがった。あくまでアリーナ使用条件にあったのは、俺が許可した人物のみの立ち入りを許可したとしかない。誰がコーチをしているかぐらい、すぐにわかる。

 裏をかかれた。

 

「これで終わりですわ」

 

 4機のブルーティアーズ、2機のミサイルビットが俺に狙いを定め、

 放たれた。

                                                                                          

 

 

                                             「オルコットめ、裏をかいたな・・・」

 

 思わず千冬が苦虫を噛み潰したような表情になる。原因は先ほどの言葉だ。代表候補生に恥じぬ推測を披露してきた。

 千冬自身も、コーチしたことによりそこまで推測されるとまでは、頭が回らなかった。      モニターには、ブルーティアーズの全火力が打ち込まれアリーナの地面に倒れこむ一夏の姿が映っていた。

 残りのシールドエネルギーはわずか”3”雀の涙どころの話では無い。その涙よりも少ない。

 たった3のシールドエネルギーなど、速度にもよるが壁に激突すればなくなるほどはかない。セシリアのメイン兵装[スターライトmkⅢ]どころか、数で押すブルーティアーズの射撃で0になる。

 対してセシリアのシールドエネルギーはかなり減少しているものの、150を切るか切らないかというほど残っている。誰の目から見ても一夏が不利にしか見えない。                たとえ一夏がまだ戦えたとして、150もののシールドエネルギーを削るのは不可能に近い。ひと振りで削り切れるものではないのだ。

 それに加えて瞬時加速すら使えない。

 瞬時加速は一瞬でトップスピードに乗れる代償として、それなりにエネルギーを使う。それは”3”しかないエネルギーで使えるものではない。

 

「織斑君詰んじゃいましたね・・・・・・。いいところまで追い込めたのに」

 

「ふむ・・・だがアイツの事だ。まだ終わっていないとでも言うんじゃないか?」            

                                          「え?」

 

 真耶は千冬の言葉が信じることができない。一発の被弾も許さず、単純計算で自身より50倍のエネルギーを持つ敵を落とすなど、不可能としか思えないからだ。

 ゲームだったらならハメ技と言うような戦法を取れるが、これは紛れもない現実だ。ハメ技のような安全に倒す方法など、途方もないほどの戦力差がない限り無理でしかない。           その絶望的な状況を覆すほどの何かを一夏は隠し持っているというのか。

 

「一夏は言っていただろう?負けるのは大っ嫌いだ、と」

 

「は、はい」

 

 確かに試合開始前にそんな事を言っていたはずだ。

 

「あんな事を言うからには何かしらあるはずだ、それに一夏は強い」

 

「え・・・え?」

 

「負ければ負けるほど強くなって行く、一夏はそうゆう奴だ。どんなに負けても絶対に這い上がってくる、どんなにボロボロになろうとな。一夏は昔あまりにも敗北し続けた、今のアレが強いのはその敗北全てを糧に這い上がってきたからだ。それにこうゆう土壇場でラッキーカードを引くような、面白い所がある。見てみろ」

 

「?・・・・・・・・・あ」

 

 千冬が指差した先にあった一つのディスプレイ。

 

――――――一次移行完了

 

 

 

 

 強い、オルコットはやっぱり強かった。

 口だけじゃなくて実力もあった。

 負ける。

 たった三文字の言葉がとてつもなく重く感じる。

 嫌だ。負けたくなんてない。

 絶対に負けたくない。

 だけどオルコットとは実力の差がありすぎる。

 もう、弱い俺になんて戻りたくない。

 でも、エネルギーがほとんどない。

 手を貸してくれよ白騎士。

 俺は負けたくないんだ。

 ホンの少しでいい、手を貸してくれ。

 負けるのが、怖いんだ。

 だから、頼む。

 絶対に負けないから。

 

――――頑張って、君なら行けるよ。

 

 頑張るから。

 だから、手を貸してほしい。

 全力を見せつけてやろう。

 誰もが驚く位の全力を 

 

――――君なら、使いこなせるはずだよ。この力は。

 

 あぁ、絶対に使いこなしてやるさ。

 だから行こう白騎士。

 

 

 

 

 

「あら、少し残っていましたか」

 

 セシリアはデータリンクで映された、一夏のエネルギー残量を見てつぶやく。だがこんなわずかなエネルギーなどたやすく削り取れる。

 

(あなたは強かったですわ、でも勝ちはいただきますわよ)

 

 一週間でここまで来るとは思っていなかった分、成長の速さには目を見開くものがあった。

 だが代表候補生には一歩足りなかったと、セシリア自身思っている。たやすく撃破されれば、一夏には悪いが候補生の名が泣く。

 スコープ越しに一夏の姿を捉える。動かない標的を貫くことなど造作もない。

 

「まだ・・・終わっていない・・・!」

 

「っ!?」

 

 唐突として聞こえた一夏の声。この後に及んでまだ諦めないというのか。

 一夏は立ち上がり[白雪]の切っ先をセシリアに向ける。その姿は戦意が少しとして失せていなく、それどころか始まった時よりも増えている。

 思わずセシリアは一夏を倒すことも忘れ、叫ぶ。

 

「何を言っているんですかアナタは!?そんなボロボロで、残りわずかのエネルギーで何ができるというのです!?そこまで頑張ったのですからもう休んでください!」

 

 一夏の姿は誰の目から見ても疲弊しているのがわかる。嫌っている事も忘れて心配する、

 が、一夏の返答は予想もつかないものだった。

 

「言っただろ?俺は負けるのが嫌いだって。まだ終わりじゃないだろ、決着がついていない。ぜってぇ負けない。それに試合はコレからだろうが」

 

 そう言うが同時に白騎士が光り輝く。

 光が晴れるとそこにはボロボロだった装甲が元通りになり、灰色のかかった白から名前の通り、全くの混ざりけを感じさせない白い騎士の姿があった。

 それはかつて2000発以上のミサイルが飛来し、大混乱した日本を救ったISを彷彿させた。

 

「白式[雪羅]・・・?」

 

 

 アリーナにいた生徒がふとつぶやく。

 それは世界初のISでありながら、未だ現在のIS技術では超えることができないとされているIS。

 ISの登場を飾り、10年たったいまでも最強の座を揺るがない、篠ノ之束が作ったにふさわしい究極のIS。

 それが白式[雪羅]だ。

 誰もが一夏を注目し、行動を起こすのを待っていた。                    

 

                                             「俺は、お前に勝つ」

 

 その言葉がアリーナに響くと、それまで静かだったアリーナが歓声に包まれる。まるで第一回モンドグロッソ決勝戦を彷彿させる。                               

                                            (わたくしは、一次移行も終わってない相手に追い込まれていたというわけですか・・・)

 

 普段のセシリアなら喚くかもしれないだろう、だが相手(織斑一夏)は一次移行すら終わっていない機体でここまで追い込んでくるほど強い。

 そう認識できたからこそ、セシリアは素人(織斑一夏)に言う。

 

「かかって来なさい!その翼もぎ取ってあげますわ!!」

 

 一夏はその言葉に笑い返す。

 

「そうこないとな!」

 

 それと同時に、一夏の唯一の兵装である[白雪]が光り輝き、物理刀としての意味を失う。

 そして代わりに現れたエネルギーの刃。

 誰にでも見覚えがあるものだった。それはかつて世界最強の座に上り詰めた、織斑千冬が使っていた

 ”単一仕様能力・零落白夜(れいらくびゃくや)”

 だがそれに驚く者はいない。違う所に驚くべきことがあった。

 ”一夏のシールドエネルギーが減っていない”のだ。

 零落白夜は絶対なる攻撃力を持つ代わりとして、莫大なエネルギーを喰らう。

 それを使っていた本人からすれば、展開すらできないというほどのわずかなエネルギー量にもかかわらず、だ。                                                                                    「行くぞ?」

 

 それを言うと同時に加速。その加速速度は紛れもない、エネルギーを使い発動する瞬時加速。

 

「舞いなさいブルーティアーズ!」

 

 対するセシリアは自身の特殊兵装を展開一夏に向けた。どんなに早くても、かすることさえできればいいのだから。

 だが一夏は止まらない。全方位からレーザーが放たれるのにもかかわらす、全て”視えている”かのように軽々と避ける。                                  

 

                                             (止まらないっ!?)

 

 あっという間にビットの追撃を抜けられる。苦し紛れに放ったミサイルまで軽々と避けられた。  

                                            「くっ!」

 

 手の中の[スターライトmkⅢ]で打ち抜くことも考えたが、ビットを全てよけられた。今更当たるとは思えない。

 攻撃という手段を全て捨て、真後ろに回避。直後にエネルギー刀となった[白雪]が振り抜かれる。

 

                                            (とったっ!)

 

 声に出すような馬鹿ではない。心の中で叫び、ブルーティアーズに命令する。

 撃ち抜けと。

 この状態ならよけられない、はずだった。

 

「馬鹿め。お見通しだ」

 

「っ!?」

 

 

 背後にせまっていたブルーティアーズが打ち抜かんとレーザーを射出するが、すでに遅かった。

 一夏はその攻撃をガードせずに、白騎士の機動力を活かし車線上から身を引く。

 

「ぐぅっ!」

 

 

 放たれたレーザーは命令通り撃ち抜く。だがすでに標的はいない。放たれたレーザーは代わりに自身の主であるセシリアを撃ち抜く。

 それにひるんだのが、命運を分けた。

 

「俺の勝ちだ」

 

 [白雪]が振り抜かれ、絶対防御が発動。セシリアのシールドエネルギーが一瞬で底をついた。

 

 

―――――勝者、織斑一夏!!                                                                                                                          



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 第十一話(加筆修正)

   


 「やるな一夏、まさか”あの能力”まで再現させちまうとはなぁ」

 

 今は一夏がセシリアに勝利してざわめきたっていて、俺が見つかることはない。まぁそうじゃなかろうが見つからないけどな。

 観客の生徒たち(こいつ等)は皆、最後に一夏がやったことに疑問を抱いているはずだ。

 だけどこいつらじゃ知る余地もない。

 あれの名前は[隣界]。由来は自身の隣にもう一つのIS(世界)が存在するようなものだかららしいが、詳しくは束に聞かねぇと分からない。

 能力は無尽蔵にシールドエネルギーが使えるという事。詳しく言えば、シールドエネルギーと別に用意されたエネルギータンクで、エネルギーを消費する。

 しかもエネルギータンクの容量はIS1機分近くあり、使ったエネルギーは自然回復する。

 つまりこの能力があれば、エネルギー管理をしなくてもエネルギー兵装を使い放題というわけだ。

 ダメージを受ける以外に、シールドエネルギーが減る心配がない。だからこそ、これは零落白夜や瞬時加速のように、燃費の都合上併用しづらい技同士を軽々と使えるようになる。

 わかるか?零落白夜をデメリットなしで扱えるということに。それをした瞬間試合が崩壊する。

 一撃必殺の攻撃力を持つ零落白夜が、常時展開と同じと考えていい。

 これほど相手にとって恐ろしいことはない。当たれば負けるようなものになるからだ。

 だけど、それはまだ一夏自身が気づいていないだろうから、心配することはない。

 畏怖するべきはほかにある。

 

「単一仕様能力を二つもとか異常だろうが・・・」

 

 そう。

 畏怖するのはここだ。チートすぎる能力は紛れもなく単一仕様能力。

 そして零落白夜もまた単一仕様能力だ。

 名前の通り、単一仕様能力はIS1機に対して一つしか発現しないのにも関わらず、一夏(白騎士)は二つを発現させやがった。

 間違いなく[隣界]が白騎士の単一仕様能力だろう。

 なら零落白夜はなぜ発現した?

 シスコンが使っていたエネルギー刀でさえ、あくまでエネルギーを大量に放出する擬似零落白夜であって、千冬が使っていた零落白夜とは似て非なる物。

 考えられる事としてあげられるのは、

 一夏が何かを願い、白騎士と共鳴して新たに作り上げた。

 白騎士のコアが自己進化した。

 のどちらかかしか思いつかない。

 シスコンの××××××でも、そのままじゃなくてアイツに変化があるって言うことか。

 

(束に聞いてみるか・・・)

 

 束なら、何かしら掴んでいると思う。

 

「まぁとりあえず、おめでとう一夏。よく頑張ったな」

 

 聞こえていないだろうけど。

 

 

 

 

 一人の生徒はふと振り向くと、視線の先に立ち去ろうとしている男を見つけた。

 

(新しい先生なのかな・・・・?)

 

 だが気にするほどでもない。もっと興味をそそるものがアリーナにはあるのだから。

 

 立ち去ろうとする男の右手には、白いガンレットがあった。

 

 

 

 

 疲労で体がすごいことになってるぜバンザーイ状態でピットに戻ると、すでに姉さんと山田先生それに凪沙がいた。説教が来る可能性が高いと思われる。

 理由?姉さんだからだ。異議はは認めない(例外有り)

 ん?なんで例外ありかって?そんなの単純過ぎてミミズにもわかる事さ。斎藤小鳥遊さん(仮名24歳職業不明)に社会的にも物理的にも完璧に塵どころか、粒子すら残されずにこの世界からログアウトされてしまう。

 

「おつかれさま一夏」

 

「おう、言った通り勝ったよ」

 

 凪沙にはそう言って白騎士を待機状態に戻す。確かイメージが大事なはずだ。

・・・・・・まぁ収めるってイメージはなんだか、片付けるっていうのが強い。やっぱりずぼらな家族がいるためだろうか?

 とりあえずISを待機状態に戻すのは成功した。

 白騎士と同じ真っ白なスポーツ用リストバンドが、白騎士の待機状態というらしい。材質から全て普通のリストバンドとしか言えない、繊維でできている。なのに展開すると機械(っぽい)とはこれいかに。

 

「あー疲れたァ・・・きつすぎるぞコレ・・・」

 

「IS乗っていると補助のおかげであまり感じないから、仕方ないよ」

 

「訓練の時とか、補助とかどーでもいいレベルになってたよな。あれはアリエナイ」

 

「た、確かに・・・・・・」

 

 今じゃあの訓練のお陰でオルコットに勝つことはできたが、考えてみればあんなのによく耐えたなーと思う。俺も単純だな、勝つためにぶっ倒れるまでやるとか。

 実際あの訓練のあと、派手にブッ倒れて医務室に次の日までお世話になった。

 

「まぁ、オルコットに勝てたことだし、ISの訓練も一段落付くかな?」

 

「一夏、そこで気が緩んじゃったらダメだよ?」

 

「分かってるって」

 

 はははーと凪沙と笑い合う。またあの訓練でブランクを取り戻すことはしたくないから、怠けないようにしよう。主に付き添ってくれる凪沙たちが心配。

 

(ん?)

 

 ふとここで気がつく。姉さんが一言も話していないことに。

 

「姉さん、どうしたんだよ。黙り込んでさ?」

 

「一夏」

 

 ようやく口を開いたと思ったらこれである。しかも文章じゃ分からいだろうが、かなりドスの聞いた声だったし。

 

「最後のはどうやった?」

 

 最後というのはアレか。

 

「よく分からねぇんだよな、最後の奴は。オルコットの攻撃受けて倒れたとき、白騎士に負けたくないから力を貸してくれって言ったんだ。そしたら声がしてさ」

 

「声だと?」

 

「うん。そんときがむしゃらだったから何話したか覚えてないんだけど、使いこなせる・・・?って聞こえたのかな、そしたあんな事が出来た。よく分かんないけど、エネルギー消費は別系統で行われるみたいだ」

 

「ふむ・・・・・・それは単一仕様能力か?」

 

「ちょっと待って、今見るから」

 

 そう言って白騎士のスペックデータを見る。あの時はがむしゃらだからよく見ていなかった。次からは気を付けよう。

 

 

(お、あったあった)

 

 

 余り時間をかけずに見つけることができたから、良しとする。

 

「えーと、確かに姉さんの言う通り単一仕様能力だね」

 

「え?ちょっと待ってよ一夏。あの能力が単一仕様能力だったら零落白夜はどうなるの?あれも単一仕様能力だよ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジで?」

 

 たしか単一仕様能力は二次移行した専用機が、希に発現するその機体特有の能力らしい。発現には搭乗者とISのシンクロ値が大きく関わるみたいだけど、それでも発現しないのがほとんど。

 ・・・・・・・・なんてこった。ただでさえ発現しないのに、二次移行まだなのにしかも二つも発現させちまったってことじゃん。

 

「ね、姉さん。これってどうゆう事?俺が男だって事に関係しているの?」

 

「私に言うな、ISの整備関係は苦手なんだ」

 

 肩を竦められて言われる。やっぱりそうなるか・・・・・・。

 

「ただ」

 

「?」×2

 

「そのIS白騎士は倉研、正式には倉持技術研究所が作ったとされているが実際は違う」

 

「どうゆう事?」

 

 倉研が白騎士を作ったんじゃないとすれば、誰が作ったって言うんだろうか?

 

「その白騎士は、”束が作った”物だ」

 

「ハァ!?」×2

 

 

 衝撃の真実ここに発見。束さんが白騎士を作っただと?それなら白騎士のスペックの高さも頷けるが。白騎士は守りが薄いということを除けば、総じてスペックが高い。

 

「一夏。白騎士に乗って何か感じたことはあるか?」

 

「ありすぎて困るほどだよ。初めて乗ったのにも関わらず、慣れ親しんだような感覚がした。それに声も聞こえたし、白雪だって何年も使ったように手に馴染んだ、くらいかな?」

 

「束なら何かISに細工すると思ったが、なんなんだそれは?嘘じゃないんだな?」

 

「疑うのかこんにゃろうめ。俺もよく分かんないんだよ、聞こえた声も小さい頃からいた家族のように懐かしかったし」

 

 訳が分からないという風に姉さんが頭を抑えるが、俺も同じだ。

 

(ん?待てよ・・・・・・?)

 

 もしかしたらと思うのだが、最近するようになった変な体験と関係あるのだろうか?あくまで推測でしかないんだけれども、無関係とは思えない。

 どうにか思い出そうとするけど、夢で覚えているのは姉さんや弾たちくらいで手がかりになるとは思えない。そこに俺はいなかったのはどうにか覚えているんだけども。今思えばあの夢も懐かしいような気がする。

 一体なんなんだと言いたい。

 結局、俺たちは何もわからずに、いたずらに時間を消費しただけに終わった。

 

 

 

「束。面白いデータが採れたぞ」

 

「もうわかってるよいっくんのことでしょ?」

 

 束はすでに分かりきっているように言う。実際アリーナ管制室のモニターをハッキングして、見ていたのだから。

 

「いっくんのことだけど、私にも全くわからない。[隣界]のことならまだ理解できるけど、零落白夜のことは全くだよ。いっくんが望んだくらいしか理由が思いつかない」

 

「やっぱりか・・・、束なら分かると思っていたんだけどなぁ」

 

「私に言われても困るよ。ISは自己進化するようにしたから、私でも把握できていない。本当なら[隣界]すら発現しないはずだったんだから」

 

「・・・・・・・マジかよ」

 

「白騎士に白雪って名前は確かにつけたけど、”れーくん”が使っていた白騎士と全くの別物でしかない。コアだけは同じものだったとしても、”れーくん”といっくんは完全に別人。似て非なる人物だから、白騎士は最初に渡したままのスペックデータでしかない。でもこれを見て」

 

 束は素早くコンソールを操作し、モニターを二つ表示させた。

 

「左のが渡した時のもの、右のが一次移行が終わった時のもの。おかしいと思わない?」

 

「だな、あらかさまにおかしなデータが入力されていやがる。一次移行ごときでこんなになるはずがない」

 

「でしょ?それに一次移行している時に、変なデータも見つけた。パターンからして深層意識の奴かと思ったけど、あのコアのデータと一致しなかった。一応全部のコアのも照らし合わせてみたけど、全部不一致」

 

「あのコアに何かが起きた。そう考えるのが得策か」

 

「その通りだと思う。もう何が起きてるのかわからないよ」

 

「お前がわからなかったら俺に分かるわけねぇな」

 

 自嘲気味に男は苦笑いをした。

 

 

 

 

「ぜぇ・・・!ぜぇ・・!れ、”零夏さ~ぁん”、何時になった許してくれるんですかぁ~?」

 

「黙れクソガキ。俺がいいって言うまでずっと走れ」

 

「も、もう15週走ってますってば~」

 

「よし。あと500週走れ」

 

「ひ、ひぃ~」

 

 ちなみに俺が走らされているのはIS学園グラウンドだ。一周5キロメートルもある所をもう15週も走らされていた。簡単に言えば70キロも走っている事になるが、相変わらずの体力馬鹿だと自分でも思う。

 と言うかあと500も走らされたら文字通り俺は死ぬ。

 

「貴様が俺のかわいい千冬のファーストキスを奪ったからだ。殺さないだけありがたいと思え、エロガキ」

 

「じ、自分は束さんともっと――――」

 

 ズドゴオッ!!

 

「ウボァーーー!!??」

 

「下手なネタぶち込むな。お前が束の名前を言うな、穢れる」

 

 真上からの拳骨で視界がにじむ。零夏さんは俺がサボらないようにISを持ち出して監視している。大丈夫かIS学園。

 というかこの人シスコンすぎて手の施し様がない。の割りには束さんを嫁に貰っているとか、かなりハチャメチャ。でも強い。強すぎる。

 千冬がクラス代表トーナメントで無人機に襲われたとき、アリーナを半壊させてまで守るようなほどとんでもない。過保護すぎるところもあり、普通なら叩きのめされるような事でも、千冬には何もしない。しいて言うなら、頭をなでるのが罰だとか。

 千冬の恋人ですと挨拶に行ったときなど、気が付けば病院だった。

 

「秋羅、さっさと走れ。この後に俺とブレオンのガチを10000回やるからな。弱音言ったら100000追加だ。出来なきゃ千冬と接触禁止だ」

 

「ちょ!?ひどすぎ!」

 

「ふん、妹は俺のものだ。貴様に言われる筋合いはない。それに束も俺のものだ。異議は認めない、つか言ったら殺す」

 

 理不尽だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「に、兄さん!?何やっているの!?秋羅が死んじゃうからやめてよ!」

 

「仕方ないな、千冬に免じて許してやる」

 

「た、助かったぁ~!」

 

「(命拾いしたな、クソガキ)」

 

 もう嫌だこの人。将来の義兄とか怖すぎる。

 




感想まっています


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 キャラ紹介

感想であったので、紹介を入れます。

少し、まだ出ていない設定もあるので注意ください。


 織斑一夏

 

 専用機・白騎士

 

 小さい頃に両親を失い、果までは姉と比べられるという悲惨な現実を経験している。

 千冬と常に比べられてきたが嫌ってなどいない、というより微シスコン。

 微シスコンといっても世話焼きという程度。

 大変な過去を経験しているせいか、あまり自分の素を見せようとはしない。

 逆に素を見せるというのは信頼している証拠。

 小学3年の時の事件のせいで大怪我を負い、そのせいで女嫌いになり首謀者の箒を

 毛嫌いする。

 モンドグロッソ誘拐を機に出会った凪沙たちに絶対的な信頼を寄せ、凪沙とは付き合ってんじゃね?と言われそうなほど四六四十一緒にいる。

 凪沙の影響でいたずらが好き。

 秋羅に鍛え上げられているため、めちゃくちゃ喧嘩が強い。

 原作と違い唐変木でもたらしでもない。強いて言うならR18関連にかなり疎い。そのため

そうゆう本を読む弾に会うと、必ず変態と言う。

 耐久力と体力だけなら国家代表を上回るため、ボコボコにされることが多いがすぐ復活する。

 もしもいじめがなかったら一人称が僕になっていた可能性特大。

 周りの女子があまりにも強すぎて、自身の強さが空気になりがちなところはちょい残念系。

 ISの操縦技術は目を貼るものがあるが、それは零夏と関係があるらしい。

 昔話はわらしべ長者が好き。

 

 

 更識凪沙

 

 専用機・ミステリアスレイディ

 

 原作の面影があまりない半オリキャラになりかけている人物。

 妹との仲も良好でこれといった不幸なことはない。

 楯無の名前はまだ受け継いでいない。というか現役最凶かつ最恐の両親がいるためである。

 一夏や家族を否定または侮辱されるとかなりキレる(キレ方た感じは禁書の上条詩菜に似てる)

 極度のいたずら好きで、いくら怒られようと(それが最恐モードの虚さんであっても)絶対にやめないのは親譲りであるため。

 得意不得意は原作と変わりない。しかし、クリスマスに向けて編み物を妹の簪から教わっているもよう。

 原作のような特徴的な口調も扇子も使わない(理由はただ作者がメンドイと思ったから)

 一夏が初恋の人物であり、ロシアに行く前別れ際にラブレターを渡すということをしでかした。

 2年越しの想いが結ばれるということでもある。

 一夏がどんなに傷ついても一生支えていく覚悟を持っていて、献身的でもある。

 なにかと一夏のそばに居ることが多い。そのため、一夏が臨海学校に行く時自分も行こうかと

密かに考えている。

 ホンの少しだけ独占欲がある。

 

 

 更識簪

 

 専用機・打鉄弐式

 

 名前だけのオリジナルキャラと思ってもいい人物。

 原作の面影は趣味を除いて一切なし。

 作者が簪って明るくなったらこんな感じじゃね?という妄想で構成された。

 少しお子様っぽい凪沙と違い、しっかり者・・・・・・のように見えるが、結局のところ

姉妹なだけあってあまり変わらない。

 姉よりお子様っぽいところを出すのを控えているだけ。

 キレるととてつもないほど腹黒くなる。しかもルールを真正面から破る。怒られても絶対に

ルールを破るようになってしまう。ただしキレたとき限定。

 一夏の事を義兄さんと呼び慕う、二重で妹キャラ。自身が妹的ポジションに好んで居る。あくまで義妹として慕っているだけで、それ以上の想いは一夏にない。

 蘭と出会ったら妹的ポジションを取り合う戦いが起きるかもしれない。

 ハッキングが少しできる。

 

 

 

 布仏本音

 

 専用機・なし

 

 一夏の事をおりむ~からいっちー。切れたところを除けば原作とほとんど変わらない。

 多分原作ののほほんさんだろうと思ってこの作品を読んでいると、真っ先に読者を

原作ブレイクするであろう人物。

 十一話までの時点では、切れたバージョンの方が登場している。これは簪も同じ。

 人を馬鹿にしたり否定する人物がだいっきらい。

 そういう人物には容赦なくトラウマを植え付ける。

 よくお菓子で一夏に餌付けされる。

 キレると性格が180度真逆になると言う、とんでもない人物。ただまだ姉よりはマシ。

 実は握力が50近くある。

 

 

 布仏虚

 

 専用機・なし

 

 原作より性格が柔らかくなっている。しっかり者のおねーさんタイプ。ただ怒らせてはいけない。

 本人は年上なため、年下を引っ張っていきたいと思っているが、いかんせんついてくるのがついてくる者なため、空振りに終わることが多い。

 一夏や凪沙、簪のことを本当の妹のように慕う。というより、親の性格もあり一夏たち五人は姉弟のように育っている。

 紅茶を入れる腕は原作と変わらず。

 ときたま、凪沙に一夏と紅茶はミルクティー派か、レモンティー派か争う。虚はレモンティー派。

 キレたときは妹と違い、完全に黒くなることはない。

 だが、ポンポン口調が変わるため妹より怖い。しかもその時に限って語尾にハートや音符マークがつく。

 関節曲げを兵器、いや平気でやる。その時の掛け声はそれをやるとは思えないほど優しい。

 そのうちアルゼンチン式背骨折りをやりそうで怖い。

 一夏たちによれば、結婚したときとてつもない恐妻家になりそうのこと。将来の夫の胃が心配されている。

 

 

 

 

 雪片千冬

 

 専用機・不明

 

 織斑・・・と思いきや雪片つまり結婚している人物。ただ夫である秋羅がちょくちょくどっか出かけたりするため、あまり甘えられない。自分は一緒にいるためなら、埋まりきったスケジュールを真っ白に変えてしまう。

 そのためよく一夏に当たる。一夏からしたらいい迷惑。

 中学生の時に親を失うが、秋羅がいたため原作のように触れれば切れるような雰囲気にはならなかった。

 秋羅にぞっこんで甘える時など、一夏からこの世のものとは思えないほど甘いと言われ、イチャイチャしているときは、大抵家に一夏はいない。避難されているため。

 秋羅に手料理を食べさせようとして一夏に料理を教わることがちょくちょくあるが、結果は察しの通り散々。

 一夏によりキッチン出入り禁止令が出されるほど。

 バレンタインデーやクリスマスなどの恋愛イベントの時は、かなりのバカップルぶりをしていてキスチョコなどやっていたらしい。そのあとはチョコと一緒に食べられてしまったとか。

 小学性だった一夏に呆れられている程。というか小学生に空気を読まれて近づかないでもらうなどよくあった。

 ついでにブラコン。一夏を侮辱もしくは否定する奴を徹底的に潰す。

 あとはだいたい原作通り。

 プリンが好物。

 

 

 

 

 

 零夏

 

 専用機・???

 

 束がれーくんと言う人物。

 妹を溺愛するほか束を妻に持つ。

 シスコンと言われようが開き直っているため無駄。束とはいつもイチャイチャする模様。

 家族を守るために建物を半壊させるような危険人物だが、違う面から見れば家族思いである。

 妹を守るために両親を殺したらしいが、詳しくは不明。

 一夏と何かしらの関係があるらしい。

 

 

 




秋羅と束さんは、もう少し出番を増やしてから出します。

ほかに知りたいことがあれば、感想でお願いします。


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 第十二話

――――ねぇ一夏。短冊になんて書いたかママに教えてくれる?

 

―――うん!僕はね、ママ!

 

 

 それは、忘れることのできない大切な思い出の一つで、ひどくなつかしい懐かしい夢だった。

 

 

 オルコットにどうにか勝利した次の日。

 いつも通りと言うのか寝ぼけつつも教室に入ると、一斉に俺へ視線が集まり・・・そしてすぐ視線が散らばる。

 

(ん?)

  

 

 いつものように集まった視線が普段となんとなく違うような気がした。

 自慢ではないんだけども、俺はいろんなことがあったおかげで微々な変化に気づくことができる。人の感情の変化に敏感という事でもあるかもしれないな。

 まぁ、そんな訳で視線の微妙な変化に気づいたが、コイツら何かおかしい。

 普段のような”暴君”に恐怖するものじゃなくて、なんだか・・・よく分からないけど何かを隠しているような、そんな感じがした。

 けど、俺にゃ関係ないことだろうと、思い自分の席に座る。

 やっぱり一番前っていうのはあまり好きじゃない。どちらかといえば、静かにしていたいんだ。周りの奴らのせいでできないままだが。

 いろいろあるが時間を確認すると、HR開始まで5分ちょいと行ったところ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 変な気分だった。

 ココに来なきゃいけないと言われた時、”浮いてもいいから一人でいよう”そう思っていたのに、今この状況がとてつもなくイヤだ。

 大勢の中にいるのにも関わらず、孤独を感じるのが。

 小憎たらしいことだが、俺は弾たちが居たからこそ中学時代は楽しかったと、再度認識しなきゃいけないらしい。

 全く、うざいうざいいつも言っていたくせに何なんだか俺は。

 そう思うとため息しか出てこない。

 そして俺はどっちが良かったんだろうか・・・と、ここ一週間考えていることが頭によぎる。

 どっちと言うのは、

 弾たちと藍越に行き、中学の延長のように普通の高校生活を送るのか。

 IS学園に行き、凪沙たちと再開して異質ながらも高校生活を送るか。

 の二つだ。

 俺からしたら、凪沙たちも弾たちも大切な存在。

 今の俺じゃ、どっちがいいかなんて結論づけることができないし、できれば結論を出せないほうがいいとは思う。

 ずるいとは思うんだけれども、俺は片方を取り、片方を切り捨てると言うのはしたくない。 

 ただ、今回ばかりは強制的にIS学園コースに決まっちまった。

 だがIS学園には凪沙たちがいたという事もあるから、嬉しいんだか何なんだかよく分からない。微妙なところだ。

 

(フクザツすぎるぞ、こんちくしょうめ)

 

「諸君おはよう」

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

 おっと、回想タイムはここまでか。

 姉さんがいるところでノンキに考えにふけっていると、地獄コース直行は間違いなしだから目の前の姉さんの話に重中する。

 教壇のの前にたったということは、姉さん直々に連絡ごとがあると思っていいのか。

 

「貴様ら、一年一組クラス代表は織斑一夏に決定した。これは決定事項だ、異議は認めない」

 

「「「「「はい!!」」」」

 

「・・・・・・・・・・・・・・はい?」

 

 俺はクラスの奴らとは意味が違うが同じ言葉、つまり同音異義語をマヌケに口にする。

 

 というかなんでコイツラ普通に返事してんだ・・・・・・・?

 

 

 

 

「クラス代表は織斑千冬に決定する。意義は認めないが、質問なら聞こう」

 

 クラス代表を決めるために波乱万丈の、試合があった次の日。

 世界最強のシスコン野郎(織斑零夏)が教壇の前に立ち、そうつげた。

 一応だが、俺は千冬とセシリア(プライド女)にISで勝利したから俺がクラス代表になるはずだが・・・・・・

 なんか絡んでいやがるなこのシスコンは。

 

「なんで雪片君がクラス代表じゃないんですか?」

 

 やはりというか、その決定事項には疑問があったらしい。クラスメイトの一人が手を挙げて質問していた。

 理由も聞けるだろうし、悪いことはないだろう。

 

「そんな事は簡単だ。オルコットは論外で話にならないのは分かるな?代表候補性でありながら素人に負けていては、代表候補性を名乗るだけ無駄だ」

 

 無駄行っちゃったよこの人・・・・・・

 ちなみにプライド女は今この教室にはいない。多分引きこもっているんだろうと思う。俺からすれば、千冬を罵倒したからざまぁ見ろというのが本音。

 

「で、だ。一番実力をつける必要があるのは、千冬だけだ。クラス代表になれば自ずと訓練時間が増え、自然と実力がついてくる。そうなればトーナメントでも優勝できるようになる。貴様らにも悪くない話だ」

 

「雪片君は結局どうなるんですか?」

 

 その質問は俺も気になることだったから、シスコンに注目する。

 するとシスコンは俺を見て一言。

 

「あ?アレか?平気だ。あんなんほっときゃ強くなる。貴様らは余計な心配をかけなくてよろしい。

つかあれなんざ、至極どーでもいい」

 

「「「「「「「・・・・・・・・・・・・えぇ」」」」」」」

 

 ひどすぎないかこのシスコン野郎は?

 放置してるだけで強くなるとか、都合の良すぎる話なんてないだろうが!!と思い、立ち上がるのだが。

 

「なんか文句あるか雪片?ン?」

 

「いえ。なんでもないでございますです」

 

 やっぱりシスコンには勝てなかった・・・・・・・

 さすが、学生時代伊達に不良名乗っていなかったってわけかよ、畜生め。

 

「という訳で、クラス代表は千冬だ」

 

 余談だが、この人は学校だろうが千冬のことは普通に名前で読んでる。さすがシスコン。

 

「まぁ、何も一人でやれと言っている訳じゃないさ千冬。俺も仕事の合間を縫って訓練を手伝うから、余計な心配をしなくていいぞ?」

 

「・・・・・うん」

 

 この時のシスコン野郎はすっげーシスコン具合を発揮していて、クラスの奴等が黄色い悲鳴を上げそうなくらい優しそうな、ほとんど見せることのない笑顔をしていた。

 しかも、千冬も千冬で満更でもないようだ。

 ・・・・・・・・・なんだか気に食わない。

 

 

 

 

「なんだよこのIS・・・・・・・」

 

 俺は放課後白騎士のスペックを見ようぜ!という事で、凪沙と一緒に整備室?に来たんだけども、あまりの白騎士のスペックに驚きようが隠せなかった。

 スラスターが六つもあったから、スピードはすごいんだろうなーと思ってたけどその予想を上回るデータがあった。

 ”最高時速約1750キロメートル”

 凪沙が言うには現行ISでトップに位置してもおかしくないらしかった。普通のISがどれくらいのスピードを出すか知らないけど。

 防御面に目をつぶれば、その他のスペックはかなりの高水準でまとまっていた。パワーアシストからPICの機体制御能力、ハイパーセンサーの感知能力及びロック速度までもが。

 果てまでは瞬時加速のエネルギーチャージ時間が1秒の100分の1という、所まで。

 

「ちょっとどころじゃないけど、白騎士のスペックは異常だよ。とてもじゃないけど、データ収集用に作られたISがここまでのスペックを誇るなんてありえない」

 

「そうなのか?」

 

「まぁね、データを取るくらいなら打鉄くらいでいいはずなんだけどね・・・・・・それに」

 

 凪沙が目で見た画面に映っていたのは、一次移行が完了した時に発現したであろう超大出力可変型エネルギーキャノン砲[天照]のデータだ。

 射撃時にはPICを全力で機体制御に回さなければ、反動で後ろに吹き飛ばされる上に肩を脱臼、悪ければ粉砕骨折するような極悪なシロモノだが、反面破壊力は途方もなかった。

 レーザとして放てば、強固なアリーナのシールドを一瞬にして貫くほどだ。いわゆる防御貫通攻撃というものらしい。ISのシールドなんて紙くず同然になるし、並のISなら直撃=終わりというほどの破壊力だ。正確になら危険領域限界まで叩き落とす、ちなみにエネルギーが満タンでも。

 キャノン砲としてならば、威力が落ちるものの直径25メートルは吹き飛ばし、エネルギーを安全領域から警告領域に叩き落とすほど。

 反面エネルギー消費はとてつもないが、白騎士の無限エネルギー能力[隣界]というらしい、チート能力があるからバカスカ撃てるし、近接に持ち込めばそれはそれで最強の零落白夜があるという、相手からしたら涙目必須のISでしかないみたいだ。

 ・・・・・・俺からしてもすごいと思う。

 おれTUEEEEEEE!!!!無双をして欲しいというのか、この機体は?

 

「元々近接にめっぽう強いのに、それに加えて苦手距離を補うかのように強力な[天照]があるなんてね・・・・・・」

 

「要するに大火力で相手を叩けというのがコンセプトなのか?白騎士は」

 

「う~ん、難しいところだねそれは。元々拡張領域には[白雪]しか入ってなかったから、多分[天照]が発現することは視野にないようにしか思えないし、それに視野に入っていたら何かしら射撃兵装はあるはずなのになぁ。一夏、本当になかったの?」

 

「おう。武装一覧にはそれしかなかったのは確実だな」

 

「やっぱりか・・・何なんだろうね、このISは」

 

 そう言った凪沙は待機状態の白騎士を見た。

 真っ白なスポーツ用リストバンドを。

 

 

 

 凪沙と別れたあと。

 俺は部屋の鍵を開けて中には入り、カバンを放り投げるとベットに横になる。

 ココには凪沙と虚さんはいない。

 姉さんが言ったように一週間たった今日、山田先生に言われ部屋が変わった。

 つまり一人部屋という訳だ。

 一週間前は一人部屋を望んでいたはずなのに、今はこの一人部屋がイヤと感じる。騒がしかったけど、凪沙と虚さんと同じ部屋の方がいいと思える。

 

 

「ハァ・・・・・・」

 

 俺がおかしいのは自分自身気づいているし、昼間も凪沙や簪に何回か言われていた。

 普段の俺なら、こんな思いにふけるなんてないはずなのに。

 どれもこれも今朝見た夢が原因なんじゃないかと、ある程度目星はつけていたし、それもあまり間違えていないとは思う。

 

「30日か・・・・・・」

 

 夢見たのは、俺がまだ何も知らない子供だったころのこと。父さんと母さんと一緒に笑い合って過ごしていた頃のことだと推測できた。

 なぜ推測なのかといえば、理由は分からないけどその頃の記憶が曖昧でしかなくて、あまり思い出せないから。

 ただなんとなく、漠然とわかる程度。”楽しかった”と思えていたのは、はっきりと思い出せる。

 でも裏を返せばそれだけとしか思い出せない。

 楽しいと思えていたとだけで、何をしていたのか、どんなことがあったのか、ポッカリと俺の記憶から抜け落ちていた。

 だから、言い方は変だけど一番古い楽しかった記憶は3年前、つまり凪沙たちと過ごしていたときのが、最古の楽しい思い出でしかない。

 それより以前は思い出したくもない記憶だ。

 楽しいと思いながら過ごした時期は、つまらなくて地獄だった日々より圧倒的に少ない。

 でも、今が楽しいから。だから俺は過去を振り返りたくないのに、思い出そうとしまう。

 ポッカリと空いた空白の時期を。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 懐から肌身離さず持ち歩いている、思い出の写真の中の一枚を取り出す。

 11年近く前に撮ったらしい、家族写真。中学生の姉さんに父さんに肩車をされている幼稚園の制服を着た幼い俺、20代後半に見える俺の父さんと母さんらしい人物。そしてなぜか秋羅兄に俺と同じくらいの女の子が母さんに抱かれながら写っている。

 気まぐれな父さんの性格や、天然が入っていたらしい母さんの性格からすれば、こんなことはありえるんだろうと思う。

 全員が心の底から幸せそうな笑顔を浮かべていた。

 

(俺もこんな顔していたんだなぁ・・・…)

 

 数年後に地獄のような日々を送るとは考えていないような、純粋な笑顔だった。

 今の俺は、この頃のように純粋に笑えるのだろうか?

 

 物思いにふけっていると、ドアの方からノックの音がした。写真を懐に戻しながら返事をすれば、来客は凪沙だった。

 

「あ、制服のまま横になってる。そんなんじゃ皺だらけになっちゃうよ?」

 

「っと、悪い悪い」

 

「全く、気をつけてよね」

 

「うん」

 

 

 楽しい。

 凪沙がいるだけで全然違う。

 そんな内心をあまり悟られたくないことだから、少々気をつけつつ聞く。

 

「なぁ、凪沙。なんか話でもあるのか?」

 

「あ、そうだった。一夏ご飯まだでしょ?だから一緒にどうかなーって思ってね」

 

「夕飯まだだっけな・・・・・・じゃ食堂に行くか」

 

 横になっていた体を起こすと、凪沙に手を取られ先導されていく。

 

「ちょ、凪沙?」

 

「ほら早く!早くしないと食堂しまっちゃうよ?」

 

 まだまだしまる時間には程遠いんだが・・・?という言葉は言わないでおく。

 楽しいから、それでいいさ。

 凪沙に手を取られつつ、懐にある写真と同じように肌身離さず持ち歩いている、宝物の一つである一通の手紙を感じ取る。

 凪沙の後ろ姿を見ながら俺は、”今日返事を返そう”そう思うのだった。

 




 感想であった楯無さんと簪のISの改造
できましたよ!!ヽ(*´∀`)ノ
 
 コンセプトとしては、楯無さんがチートというほどの
武装の近中距離型ISに、簪が完璧完全チート級の破壊力を持った
防衛拠点突破型近中距離ISになりました。
 そのおかげか、楯無さんは日本代表という肩書きに変わりましたが
いいよね?(/ω・\)チラッ

 ちなみに簪の完璧完全チート級の破壊力というのは具体的に言うと、
アリーナ半分(観客席を除く)吹き飛びます。
 後先考えなければ(エネルギーを完全に使う)IS学園全体が消えます。
爆風を含めれば、もっと行きますネ。
 友達からのアドバイスをもらい完成させました。


一夏君のエネルギーキャノン砲は、ACのコジマキャノン、マヴラヴのマグナス・ルクス
を元ネタに考えました。



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 第十三話

 更識さんちの日常。

 

 ~楯無さんの娘さん(凪沙)をくださいという人がやってきた~

 

 極東と呼ばれる小さな島国の某所に建つ、日本でも屈指の豪邸。

 そこには古より日本の裏を支えてきた、更識家が住まいとしていた。

 更識の当主は代々”楯無”の名を受け継ぎ、楯無の名をもってして更識家を束ねる。

 そして16代目となる現当主の楯無もまた、自身の妻とともに部下たちを絶対なるカリスマ性で束ねており、部下たちからの信頼もまた高い。

 16代目楯無はそれだけでは終わらない。

 武芸にも抜きん出た実力を保有しており、その強さは人をも超えると言われ、全てにおいて歴代最高の楯無とされている。

 だが、いくら優秀とは言え結局のところは人でしかないため欠点など探せばさがすほどある。ここで挙げるなら、よく言えば考え方が柔軟、悪く言うならば子供っぽいところがそうだ。

 そんな当主を持ちながらも更識家は、代々仕える布仏家とともに暗部の家とは思えないほど賑やかに、日々を送っている。

 

 そして今日、更識家に一つの情報が流れた。

 次代当主候補とされる、現当主の長女をくださいという男が来たと。

 

 

 

 

 

「・・・どうぞこちらに当主様がございます」

 

「ありがとう」

 

 男は案内をしてくれた執事が少々怒気を含んだ声にもかかわらず、気にした様子は微塵も感じてはいない。

 なにせ、更識凪沙を嫁にもらうためにここに来たのだ。これくらいでへこたれてなどいられない。

 情報によれば更識凪沙には織斑一夏という想い人がいるらしいが、所詮はブリュンヒルデの弟というだけで姉のおかげで有名になっている程度。今はIS操縦者だと言ってIS学園に行っているらしいが、姉のおこぼれを貰って生きている奴がまともに操縦できるとは思わない。中学時代は荒れていたという、男には自分より劣った存在という認識しか織斑一夏にはなかった。

 どうせ織斑一夏は庶民の出身でしかない、家柄の問題で将来を共にするのは自分だ、ということか来る自信が男の中にはあった。

 男は部屋の中に入る前に身だしなみの最終チェックをする。

 180後半の長身に、スラリと伸びた長い脚。整った顔立ちは紛れもないイケメンという分類に入るものだ。

 身だしなみを整えた男は案内された部屋の襖を開けた。

 そこには・・・・・・

 

「楯無ぃ!!今までさんざんさんざん打ち負かしてくれたが、今日はそう簡単にはいかねぇ!!ぜってぇぶちのめす!!愛情をかけて育てた”グラードン”で焼き尽くしくれるわ!!!」

 

「ふははははは!甘い甘い、甘いぞ翔太ァ!!私の”ブイゼル”の前には伝説だろうが幻だろうと関係ないのだよ!!!行け”ブイゼル”!!”アクアジェット”じゃぁ!!!!」

 

「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!???俺の”グラードン”を一撃だとぉ!!!!????」

 

「バカめっ!!私のLV100”ブイゼル”の前には”グラードン”などイチコロなのだ!!!素直に負けを認めたらどうだ!!」

 

「くそぅ!こうなったら最終手段の”ルカリオ”出撃!!」

 

「”ピカチュウ”の”ボルテッカー”で一・擊・必・殺じゃぁ!!!」

 

「ぎいゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???!最終手段がぁぁぁぁ!!!!」

 

「もっと強くなってからでおなおしてくるんだなっ!!」

 

「勝者!!更識楯無!!」

 

「「「「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおっ!!!!楯無の強さは世界一ぃ!!!」」

」」」」」」」」

 

「ははははは!そんなに褒めないでくれ照れるじゃないか!!!」

 

 DSを手に、某ポケットなモンスターに熱狂するいい年した男たちと、それをニコニコと微笑みながら見守る女性陣の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・

 なんだこれは?

 

 

 男の心の中を埋め尽くしたのはこのことだけだった。

 予想ではテーブルの向かい側に厳格な表情で座る、現楯無と話をするというものだとばかり思っていたのが見事に外れてしまった。

 というより襖一枚ごときでここまで音を遮断していたと思うとゾッとする。

 男は知らないことだが、こうやって騒ぐガキ(男たち)がいるため防音設備は世界トップクラスの性能を誇っていた。

 

「ん?お前誰だ?」

 

 先程まで負けていた翔太と呼ばれた人物が、麩を開けていた男に気づいて言ったのだか、男の方は思わずズッコケそうになった。

 何日も前に伝えたはずなのにと男は内心思う。

 

「数日前に伝えたはずなのですが・・・・・・」

 

「「「「「「「「「「「「「「「はぁ?お前なんか知らねぇよ、クズ」」」」」」」」」」」」」

」」

 

 今回ばかりは盛大にずっこけた。

 一人どころかその場にいた全員が覚えていないというのはどういうものなのか。

 女性陣もまた「そんな人来るって知ってました?」「えーそんなの知らないですよー」「というかあの男いけ好かないですね」「私も思ってましたよー」[ですよねー]「キモい奴。ヤッちゃっていい?」「いいんじゃない?少なくとも私は賛成ね」とささやきあう始末。

 というか最後のやつは何なんだ!?と男は心の中でツッコミを入れた。

 

「こらこら。”一応”来客らしいみたいだからそんな事を言ってはいけないよ?」

 

[はーい]

 

「まぁ。座りたまえよ、少年。立ち話もあれだろう」

 

「は、はい!」

 

 騒いでいた一人が注意したかと思うと皆が一気にしずかになり、尚且つまともに接してくれた人に男は涙が出そうになった。先ほど勝利していた人だ。

 さんざんな扱いをされていた中言われたものだから、救世主に視えるほど。 

 男は言われるままに座る。

 

「あの・・・ありがとうございます。ところで楯無さんは何処に?」

 

「何をいうんだい少年?私が楯無だが」

 

「(ぃぃっ!!??)」

 

 まじまじと目の前の物腰が柔らかそうな人を見る。

 ダボっとしたジャージを着て寝癖が残っているような、フリーターやニートにしか見えないのが楯無だとは思えない。

 もっと厳格なる人物だとばかり思っていたのに。なんだかここに来てから出鼻をくじかれてばかりだ。

 

「でー、ここに来たのは凪沙をもらうためだっけね?」

 

「は、はい。絶対に幸せにするので娘さんを僕にください!絶対に幸せにしてみます!!」

 

 やっと話が進んだ。

 心の中で考えていたセリフをそのまま言う。小難しいことよりはシンプルの方がいいと思ってからだ。

 目の前の楯無はなんでいるのか、眉間に手を当てていた。気がつけば周りの全員にジーと見られていた。

 

「少年、その言葉に偽りは無いのかな?」

 

「当たり前です。そうでなかったらここには来ていません」

 

 脈アリかもしれない。そう思った。

 親が賛成してくれれば、あとはトントン拍子で話が進む。家が裕福だとこういうところは簡単だ。

 

「じゃあひとつ聞くよ少年?凪沙を幸せにしたらどうするんだい?」

 

「は?」

 

「分からなかったのかい?幸せにしたあとはどうすると聞いているんだ」

 

「え、いや・・・・・・」

 

 予想外の質問に男はどもる。

 最終的には更識家を手中に収めるのが目的なのだが、今そんなことを言え訳にもいかない。

 だが、そんなことがなくとも幸せにしたあとどうするかなど全く分からない。幸せにすればそれでいいのではないのか?といくら考えても、その結論にたどり着く。

 何を言いたいというのか。

 

「全く。君はそんな簡単なことも答えられないのかい?この質問に答えられたら考えようと思ったけど。少年、君には凪沙を幸せにするどころかその権利もないみたいだね」

 

「っ!?」

 

「ほら、そこで驚いたら意味ないじゃないか。下心丸分かりだよ?前に一夏くんに似たような質問をしたことがあるんだよ”好きな人を幸せにしてあげれたらその後どうする?”ってね。そしたら一夏くんはなんて答えたかわかるかい?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 そう尋ねられたが、男はそれどころではない。考えていたことを全て見透かされたのだ。悠長に答えることなどできない。

 楯無はそうなることを分かっていたのか、気にした様子もなく続ける。

 

「簡単だ。それ以上に幸せにしてあげればいいんだ、と答えたんだよ?簡単な質問だってね。この質問答えられない君に凪沙をお嫁に出しはしないよ。出直してこい。元々少年に嫁に出す気なんてサラサラない」

 

「なら!なんで俺が来ることを許可した!!」

 

 化けの皮を剥がして怒鳴りつける。嫁に貰えないならどうでもよかった。

 

「落ち着きたまえよ、この質問に答えられるか試すためだ。まぁ、答えられても嫁にはやらない」

 

「ふざけるな。なら何処にやるつもりだ!?どこにでもやらないとでもいうのか貴様は!!」

 

「安心したまえ。そんな親バカじゃあないと思っているからね、私は。もちろん凪沙が望んでいる一夏くんのとこに出すさ。一緒に住んでいたこともあるから安心して送り出せる」

 

「庶民ごときに出すのか!?貴様ならわかるだろう!?良家なら良家同士で結婚させるのが当たり前だろうが!それもわからないのか!」

 

 やれやれと、楯無は肩を竦める。ここまでバカな人間を見たのは久しぶりだ。

 ひどく滑稽に視える。

 

「何言っているんだい少年?子供は親の人形じゃないんだ。子供が親のいうことを聞いていればいいというのが私は大っ嫌いでね。子供だって一人の人間なんだよ?凪沙が誰と結婚しようと凪沙の自由だ。相手が庶民だろうと、良家の坊ちゃんだろうと最後に決めるのは親の意見じゃない。子供の気持ちだ。親が口を出していいことじゃないよ。凪沙と結婚したければ私に認めさせるんじゃなくて、凪沙を認めさせてからにしろ。俺は一夏なんてやつよりよっぽどいい男だとね。本人じゃなく親を先に認めさせようとするなんてクズのすることだ。出直してこい」

 

 楯無が最後の言葉を言った瞬間、周りの部下たちが男を押さえつけ外へと連れ出していく。

 いくらさっきまで遊んでいたとは言え、結局は更識の人間。身体能力などそこらへんの人間の比ではない。

 抵抗などできるはずもなかった。

 男は最後と言わんばかりに口々にまくし立てる。

 だか、そんな負け犬のような言葉など楯無たち更識家の人達には届くことはなかった。

 

 

「んじゃ、続きをしますか。かかってこいやおまえらぁ!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「負ぁけてたまるかぁぁぁっ!!!」」」」」」」」」」

」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのさ。今まで更識家の当主って襲名して楯無の名前を持つじゃん?でも私の子供は二人共女の子だろう?瑞希」

 

「ええ、あなたの代も同じように襲名してきましたがいきなりどうしたんです?」

 

「凪沙でも簪でもどちらかは襲名して楯無を名乗らなきゃいけなくなるけど・・・」

 

「?」

 

「楯無って名前女の子っぽくないじゃん?可愛げがないないっていうかなんていうか。女の子なのに女の子っぽくない名前を名乗るのはどうかと思うんだよね。二人共年頃だし」

 

「と、言いますと?」

 

「いっそのこと、襲名して楯無をなのるのを私の代でやめてこれからは称号のようにするのはどうだい?そうすれば、可愛げのない楯無を名乗らなくて済むぞ!」

 

「全く・・・あなたという人は、面白いことを思いつくのですね。いいのではないでょうか。私は賛成です」

 

「おぉ!!瑞希ならわかってくれると思ったよ!!よし善は急げ!早速皆を集めて宣言するんだ!

!」

 

「はいはい」

 

 

 

 更識家教訓

 

 一つ、子供心を忘れないようにしよう

 

 一つ、遊ぶということの重要性を思い出そう

 

 この二つは、現楯無が新たに作った教訓だった。

 これのおかげで皆が楽しく毎日を過ごしている。

 

 

 




いろいろとやってしまいましたが、後悔していません


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 第十四話

感想・・・欲しいです・・・(切実)


「ほーら、私に任せっきりにしないで自分でも歩く!」

 

「いやそんなこと言っても引っ張りすぎだって・・・・・・」

 

「細かいことは気にしちゃダメだよ?」

 

「・・・・・・凪沙が言うか」

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 小学生に満たない子供二人が手を繋ぎあって歩いていた。

 いや、歩いていたというのは少々違うのかもしれない。

 男の子の方が、妹であろう女の子に手を引っ張られている。と言ったほうがよかったかもしれない。

 そんな眺めだった。

 

「兄さん、早く早く!」

 

「痛いよ□□□、そんなに強く引っ張んないで?そんなに急がなくても大丈夫だって・・・・・・」

 

「だってプリンだよプリン!!おかーさんの作ったのは美味しいのは兄さんだって分かるでしょ?」

 

「分かるけど、逃げたりなんかしないよ?」

 

「時間が逃げるっておとーさんが言ってた!」

 

「・・・・・・パパぁ。□□□に何教えてる訳・・・・・・・?」

 

 男の子のほうが浮かべた悲痛そうな顔は、とても幼稚園生ができるとは思えないようなもの。

 だが、決してそのままではない、幸せからくる呆れが少なからず混じっていた。

 

  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「一夏?ぼーっとしてるけど大丈夫?」

 

 気がつけば、すぐ目の前に凪沙の顔があった。

 ・・・・・・・・・近いな。

 

「あ、いや・・・なんでもない。ちょっと疲れただけだから・・・・・・心配しなくていい」

 

「そう?」

 

「おう」

 

 凪沙にさっきと同じように内心を悟られたくはない。だから、一応心配かけまいと笑っておく。

 内心を凪沙に悟られたら、絶対凪沙は心配するからだ。

 できれば、だけど心配なんてかけたくないからな。

 

「・・・・・・嘘つき」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「え?何言ってるの一夏。聞き間違いでしょ。ほらもう着いた」

 

 凪沙に言われて前を見ると食堂の入口がすぐそこにあった。凪沙が何を言っていたのか気になるところだけど、今言っても無駄なはずだ。 

 引っ張られて少し痛くなった手を確かめつつ食堂に入った。

 

(夕飯何にするかな)

 

 そんな他愛も無いことを思いながら、な。

 

「「「「「「「「「「ごめんなさいッ!!」」」」」」」」」」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

 そんな思いはコンマ一秒後に完璧に破壊されたが。

 後ろにはしてやったりという顔の凪沙。

 

 ・・・・・図ったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「畜生ッ・・・・・・!!!あの新聞部のクソアマやりやがってェ・・・・・・!!!」

 

 食堂であった出来事は、仲直り?したいというクラスの奴らがしようとしていたことで、別にそれは悪いことじゃないと思ったさ。

 女なんか嫌いだったが少しは認識を改められると思える位にはな。

 だけど俺は新聞部のクソアマが一枚の写真をデカデカと公開した瞬間、俺は脱皮の如く誰もいないであろう屋上に逃げたさ。というかあの場所で逃げなかったら、俺は精神的に死んでた。

 クソアマは俺より一枚うわてだったんだよな。

 インタビューを俺が鼻っから受ける気がないのを見通して、最終兵器たるものを用意していやがった。

 それはまさかまさかのあの時のもの。

 分かるか?あの時って入学当日の夜のことだぞ?

 あの時の出来事がバッチリと(高解度)で写真に収まっていたんだ。誰にも見られていないと思っていたはずのがな。しかも撮られているなら尚更。

 

(ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!今!すぐ!首吊りてェェェェェェェェェ!!!!) 

 

 明日からどんな顔で学校に登校しろと言うのか。

 クソアマぜってぇヤるわ。完璧に塵も残さず完璧に近くなるようにケす。秋羅兄に教わった体術とかその他諸々を総動員してアイツを木っ端微塵にしてヤる。

 今頃あの写真を目撃した奴らは、虚さんの手によって他言無用の印を徹底的に押されて、データ類は簪のハッキングで決されているはずだけど、やっぱり見られたことには変わりはない。

 絶対いつもと違う目で見られるに違いない。予想だが温かい目で。

 と言うか食堂の件は貸切じゃなかったみたいらしく、となれば他クラスに始まり他学年のやつも少なからずいた訳で。しかも、虚さんの他言無用の印を押されてない人も出てくる訳で。

 うん。学園中で噂にはならないだろうけど有名になるだろうね。多分。

 俺、家にガチで引きこもって良いかな?

 

「あ、一夏ここに居たんだね」

 

 突然かけられた声に振り向くとそこには凪沙がいた。

 食堂のことがあってなのか、少し顔が赤い。

 

「星、全然見えないね」

 

「へ?」

 

 凪沙が俺の隣に座り込んだかと思うと、突然そんなことを言い出した。

 言葉の意味が分からなくて間抜けな声を出してしまうが、凪沙が空を見上げているのに気づき、俺も空を見上げた。

 

 ――――確かに全然星が見えなかった。

 

 

 ここが都会で、日本の首都の、それも23区に接しているIS学園なら、夜だろうと消えることのない光で、星の光がかき消されるのは誰だって知ってる。

 星の光なんて何億光年という時間を経て地球にたどり着くなんてことは、高校生になった俺には当たり前でしかない。

 そんな長旅を終えてたどり着いた地球で、全く旅をしていない人工の光に邪魔される。

 ちっぽけな、だけれど気が遠くなるほどの長い歴史を知る光。

 そんな神秘的に感じることができる星の光。

 なんだか、さっきまでの高揚していた気持ちが自然と収まっていくのが分かる。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 お互い静かに空を見上げていた。

 1分だか、10分なのかは分からないけど、しばらくの間そうしていたのは確かだ。

 ふと、こうして空を見上げていることが懐かしく感じ、思い出す。

 

「懐かしい、な」

 

 無意識に誰に言うまでもなくそう声を発していた。

 

「ん?」

 

「なんだかさ、皆で星を見に行ったことを思い出したんだ。・・・・・・・・・・・・・綺麗だったな、あの星空」

 

 脳裏に映るのは今までに見た星空の中で、一番綺麗で、神秘的な、最高と胸を張って言えるもの。

 

「そう、だね。もうあれから3年か・・・・・・早いね、時間・・・流れるの」

 

「でも、3年経ってもはっきりと思い出せるよ。星見るだけで2泊3日の東北旅行」

 

 クスクスと凪沙は笑うと口を開いた。

 

「それってお父さんたちがしでかしたこと?」

 

「あ―――、ま、それもあるんだけど。やっぱあの時見た星空は忘れられないよ。”初めて”だったんだよな、”綺麗だな”って思えたのが、さ」

 

「・・・・・・・・・一夏」

 

 俺の言葉を聞いた瞬間、凪沙の顔が不意に辛いことをこらるように歪んだ。

 本当ならこんな顔をしてもらいたくなんてない。

 

「そんな顔すんなって。昔はどうとあれ、今が楽しいからいいんだよ。終わりよければ全てよしってな。ま、まだ終わりじゃないけどな」

 

「楽しい?」

 

「当たり前だろ?凪沙がいて、虚さんがいて、簪も本音だっている。前も言ったかもしれないけどさ、俺はひとりじゃないしみんなが居る。これで楽しくなかったらなんていうんだ?」

 

「ありがとね一夏。そう言ってもらえると嬉しい」

 

 辛い顔から一転していつも通りに凪沙が微笑んでくれる。

 やっぱり凪沙には笑顔が一番似合う。根拠なんて何もないけどそう思える笑顔だ。

 俺はその言葉に頷き、そしてまた沈黙が俺たちを包む。

 10秒に満たない沈黙は俺が破った。

 

「また、行きたいな。東北にみんなでさ」

 

「そうだね・・・・・・だけど私はお父さんたちがちょっと心配かな?」

 

「・・・・・・否定できないぞ、それ」

 

「でしょ?お父さんたちって子供っぽいから・・・・・・、また旅館に迷惑かけないかなってね・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 思い出したのは東北旅行の夜、詳しく言えば旅館での出来事。

 旅館に泊まる。しかも親しい仲でとなれば、燥ぎたくなるのは当たり前のことだろう。だけどそれは学生頃までだと俺は思ってる。

 だが、そのフツーな常識を破るのが楯無さんたちであって。子供たち、つまり俺らに心配されるくらいはしゃぎ回り、それを見守るのが女性陣であって。

 つまり何が言いたいかといえば、

 

”楯無さんたち更識家の人に常識たるものを求めてはいけない”

 

 

 ということだ。

 ぶっちゃけてしまえばアレだ。おっぱじめたんだよ”枕投げ”を。

 そう、旅館で学生が泊まった時の鉄板行事とも言われる”枕投げ”だ。MAKURANAGE。

 楯無さんたちは立派な大人だけど、そこに常識が存在しないのが更識家。

 最初はまぁ、よかった。フツーな枕投げだったさ。だけど熱が入ってスイッチがONになってしまったらしく、すげー所までエスカレートしたんだ。

 いつの間にか気合声が入り、怒声に変わり、なぜか上半身裸になる人が出てきて、枕がとてつもない速度で飛び交うようになり、羽が舞い始め、なぜか菓子類の箱が飛び、なぜがカバンが飛ぶようになり、旅行かばんまでも、枕投げが枕投げとして成り立たなくなり、武器を取り出す猛者が現れ、最終的には取っ組み合いの喧嘩が始まるまでに至るという。

 なにやってんの?と言わざるを得ない状況だと思う。

 ちなみに枕投げ発展アリは、全員が疲労でぶっ倒れるまで続いた。

 全員が更識としての訓練を受けているとなれば、どれだけ長く続いたか分かってもらえると思う。

 まぁ、終わったあとの部屋は悲惨なことになっていて。

 後片付け+女性陣のちゃんと片付けて直しなさいという視線に、泣いた男たちが居たそうな・・・・

・・という出来事があったという訳。

 あれを出来事と呼べるのかは知らないけど。

 秋羅兄までまじっていたのは、気にしない方がいいのかもしれない。

 見てて楽しかったというのは事実だけど。

 

「けどさ凪沙。迷惑かけないのは普通だろうけど、楯無さんたちが迷惑をかけなかったら、この世の終わりに思えないか?」

 

 

 これは本心からな。

 

「・・・・・・それ言っちゃったらダメだよ一夏」

 

 お互いに顔を見合わせ、どちらともなく笑い合う。

 ま、言ったら終わりだって理解はしてたんだけどな。

 

 

 

「じゃあ、私は部屋に戻るね。一夏も早く帰らないと遅刻しちゃうからよ?」

 

 あの後。しばらく一緒に星空を見ていた時に凪沙が言い出し、立ち上がる。

 俺は声に出さず頷くだけで返事をした。

 立ち去ろうとする凪沙を見ていて、不意に紙が擦れる音が聞こえた。

 

 

「凪沙!」

 

「ど、どうしたの?」

 

 条件反射のように凪沙を呼び止める。いつの間にやら、俺は立ち上がっていた。

 思い出した。凪沙に伝えようとしていたことがあるんだって。

 つい数時間前に決心したことなのに俺は何をしているんだって、さ。

 

「あのさ・・・・・・」

 

 伝えたい想いは今心の中にはっきりとある。ドキドキして言葉にできないという訳でもないけども、俺は言葉に詰まった。

 続く言葉が出てこない。なんて言えばいいのかが全く浮かんでこない。

 考えてみれば当たり前のことだ。12より以前なんて地獄で自分の世界に閉じこもっているだけ、凪沙とあった後は毎日の出来事が楽しくてそんなことなど考えることなどなかった。

 俺の中の異性といえば、凪沙たちに鈴に弾の妹の蘭。後は山田先生くらいだ。姉さんは家族だから言うまでもない。

 世間で言う”恋”っていうのは、凪沙に想い始めたのが初めてだから経験なんてないし、コミュ二ケーション力に欠ける俺が、この場面でまともな事を言えるわけもなかった。

 

「一夏?」

 

 凪沙が俺の目の前にいて、顔を覗き込んで来た。

 

「これなんだけどさ」

 

「これって・・・・・・?」

 

 なんでそうしたのか分からないけど、俺は凪沙からもらった手紙を出していた。

 凪沙の顔が驚きに包まれてる。

 下手くそだけど、伝えたい。

 

「俺さ、ずっと返事がしたかった。俺、凪沙のこと」

 

 真っ直ぐに凪沙をみつめる。

 

「好きだよ。俺すごく嬉しかった」

 

 言い終わると同時くらいに凪沙は顔を伏せた。何を思っているのかは分からないけど、なんだか緊張する。

 そして、しばらくの後顔を上げる。

 

「ばか。返事が遅いよ?」

 

 口ではそう言っているけど、今までで最高とも言える笑顔をしていた。

 でも、それは凪沙がたまにする強がりなのを知っているから、

 

「ゴメン」

 

 謝って、凪沙が壊れないくらいの強さで抱きしめる。

 誰かが見ているとか、もしかしたら新聞部のやつがどこかでカメラを構えているかもしれない。そんな考えは一切捨てる。余計なことなんて考えたくもない。

 凪沙が背中に手を回してくれるのが分かる。

 その上で俺は温もりを、凪沙が腕の中にいるということを感じて居たくて、ただ抱きしめていた。

 




番外編ってアリですかね?
でも短編が書けないという現実。
なぜか話を長くしてしまうくせみたいなのがあるみたいです。
治すべきなのか大丈夫なのか、微妙なところです。


・・・・・・一夏くんと凪沙さんがくっつくという大事なところなのに
うまくできなかった(涙)


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 第十五話

ISの8巻買ってみました。
それで思ったことは一つ。

一夏ァ!!!テメェ表でろや!!!!

です。はい。
いやぁ、こんな殺気を覚えたのは久しぶりのことでしたよ~。

でも、まぁ、楯無さん可愛かったから一応良かったです。
そうでなければ多分今頃8巻はゴミ箱の中に・・・

あと千冬さんマジ強すぎ。



「義兄さん。全然攻撃できてないよ?このままだと私の勝ちになるけど」

 

「そう思うなら、この弾幕をどうにかしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 

「あ、それは無理」

 

 あの日から数週間。

 放課後俺はアリーナで地獄を見ていた。

 

「えいえいえ~い♪」

 

「どぅわぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」

 

 簪のISから放たれる軽く50はいってそうなミサイルの雨に、毎分約2000発の弾丸を打ち出すリヴォルヴァーカノンが6門。

 はっきり言って白騎士にはオーバーキルすぎて笑えない。

 とてつもない追尾性能を誇っているミサイルに狙われる中、リヴォルヴァーカノンの一斉射撃を受けるような状態だから、白騎士の速度をもっても避けきれず被弾が積み重なってガリガリエネルギーが削られていく。

 その姿はまるで空中要塞のようで、数馬あたりが見たらきっと涙を流すに違いないと思える重火力。

 ゲームとかで重火力のゴリ押しはよく使っていたけど、実際だとここまで怖いとは思わなかったよ。

 簪のISが完成したから初陣に戦おうぜというノリが言えなかったかもな・・・・・・

 

「義兄さん?そろそろ本気出していい?」

 

「え゛!?今までのが本気じゃないィ!?」

 

 簪のトンデモ発言ここにあり。

 というかこれで本気じゃないってどんだけ・・・・

 

「うん。この機体初めてだったから。でもそろそろ慣れてきたしとっておきの単一仕様能力を出しちゃうよ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 簪のISが最初から単一仕様能力を使えるように作られていたからそれくらいは知っていたが、慣れたくらいで単一仕様能力が使えるものか?

 

「ねぇ義兄さん?私の単一仕様能力には5種類のモードがあるんだけど・・・・・・・どれがいい?」

 

「どれもヤダ!!!!!」

 

「じゃぁモード02のミサイル砲ね」

 

 拒否権というものは無いみたいだ。

 ミサイル砲とは名前だけで、とんでもない火力とかいう罠があるようにしか思えないのは俺だけじゃないはずだ。

 

「起動。[規格外武装(オーバーウェポン)]モード02,MULTIPLE PULSE」

 

 簪がその言葉を呟くと、名前負けしていない規格外の武装が展開される。

 両サイド合わせて10個のミサイルコンテナがあり、ISを覆い尽くすくらいデカイ。

 下手すればIS並みの大きさくらいあるんじゃないだろうか。

 

――――警告、[規格外武装(オーバードウェポン)]モード02,MULTIPLE PULSEにロックオンされています。数およそ130。

 対射撃武装用システム[心眼]起動します

 

 白騎士が警告を出し、[心眼]が起動。 

 視界に、130近くあるとされるミサイルの軌道予測ラインが現れた。

 これのおかげでセシリアのビットを避けきることはできたんだけども、

 

(今更なぁ・・・・・・)

 

 はっきり言って、単一仕様能力というくらいだから絶対都合よくいかないはず。

 [心眼]は便利なんだけども、あくまで軌道予測であって自動回避はしてくれない。

 つまり、1対1なら反則な性能を誇るが、弾幕には弱い。

 ようするに数撃ってなんぼである簪のISにはめっぽう弱いということだ。

 何事にも弱点はあるという訳なんだろうね。いい事知った。

 

「私の勝ちだよ。義兄さん?」

 

「は、ははは・・・・・」

 

 直後、俺に向けて放たれた大量のミサイルに飲み込まれエネルギーが一瞬にしてゼロ。

 というかオーバーキル過ぎる[規格外武装(オーバードウェポン)]とやらは、俺を蹴散らすだけでは飽き足らず、アリーナをしばらく使い物にできなくした。

 つまり半壊ということ。

 

・・・・・・・・強すぎないか?

 

 

 

 

 

 

 そんでもって次の日。

 クラスの奴等がしでかした仲直りパーティーみたいなののおかげで、以前よりは女嫌いが治ってきたこの頃。ついでにセシリアと仲直り?はした。

 最近は凪沙とのことでおちょくられることが多くなったけどな。

 

「うっす」

 

「あ、織斑くん!ちょっと来て!!」

 

 教室入ってかけられた第一声がこれ。

 ホンの最近までビクビクしていたのが懐かしいくらいだ。

 なんだかその女子の覇気?がすごかったから行ってみると、このチラシを見て!!と言わんばかりに押し付けられる。

 なんだよ一体?と思いつつチラシを見る。

 

「へぇ・・・クラス代表トーナメントか。面白そうじゃん」

 

 どうやら5月末に行われるみたく、それぞれのクラス代表の総当り戦をして勝ち星が一番多いクラスが優勝というらしい。

 たしか1年は5クラスまであるから、5回戦うことになるのか。

 というか総当たり戦ならトーナメント言わないよな? 

 

「違う!トーナメントのことじゃなくてここを見て!!」

 

 ・・・・・なんだか勢いがすごいことになっているし、怒られた。

 理不尽だ。

 指をさされた所を見る。

 

 クラス代表トーナメント

 優勝賞品 食堂デザート半年無料券!!(2品までが適用範囲)

 

 優勝できなくてもデザート5割引券5回分!!

 

 

 き、興味ねェ・・・・・・・・

 デザートとか好きじゃないし、というか甘いもの全般あまり好きじゃないわー。

 だから、チョコとかキャラメルとかは食った試しがない。もちろん金平糖とか飴玉とかも。

 チョコあたりはまだしも、こんぺいとうとかあたりの砂糖の塊食ってなんになるんだろう?普通に砂糖舐めたほうが早いと思うんだけど。

 え?氷砂糖?あんなの論外だ。

 というか、興味ないというのがモロに顔に出ていたらしく―――

 

「興味ないって思っているでしょ!?これは私たちからしたら死活問題だから!」

 

 ガチで怒られた。よく見ればほかの女子もうんうんと頷いている。

 なんだよ一体・・・?デザートと聞けば太る!!と言ってたよな?

 お前ら何者?

 

「お、おう・・・・・・」

 

 こんな返事しかできないのは仕方ないと思いたい。割と本気に。

 

「いっちー絶対優勝してね?・・・・・・デザート食べ放題・・・・・・じゅるり」

 

 ちょいまて本音。ヨダレがすごいことになっているぞ。

 ・・・・・・あれ?本音?今来たばかりだよな?なのになぜにずっとそこにいたとばかりに馴染んで「きょっち~」とか言ってる訳?

 改めて本音の凄さを実感できたね。

 

「といってもよ。俺が簡単に勝てるわけないんじゃないか?他のクラス代表と違って基礎知識から遅れてるけど?」

 

「だいじょーぶ!専用機持ちは1組以外にはいないからいっちーの独壇場だぜ!(キラッ★)」

 

 ヘェ・・・専用機持ちはこのクラス以外にはいないから平気と言いたい訳か。

 でも、上手い人は訓練機でも専用機持ちと互角に持ち込む人もいるくらいだから油断はできないだろうし、実のところISの操縦はちょっと苦手だ。

 だから、セシリアを逆転で倒したのはがむしゃらでどうやって動かしたかあまり覚えてない。やっぱりまだまだ素人だ。

 

「ねぇねぇいっちー」

 

 こそこそ話をする時みたく本音が口に手を当てて俺の耳に近づける。

 

「(なっちー、甘いもの好きみたいだよ?)」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「さて、と。今日の放課後にアリーナの使用許可でも取ろうかなー」

 

「織斑くん頑張ってねー」

 

 優勝して凪沙あげようとか思ったわけじゃないからな。

 決してそんなことは思っていない。思ってないったら思ってない。

 大事なことなので2回言いました。 

 俺はそこまで単純なやつじゃない・・・・・・・・ハズだ。

 そう信じたい。

 

 

 

 

 1組の教室の外にて。

 

「う、嘘でしょ・・・・・・!?あの一夏が普通に女子と会話してるですって・・・?」

 

 首から上だけをひょっこりと壁から出している、ツインテールが特徴の女子が一夏のことを見て感激していた。

 なにせあの一夏だ。

 大の女嫌いの一夏が普通に会話しているなんて。

 

「一夏ぁ・・・あたしは嬉しいわ・・・(涙)」

 

 一夏のその姿を見て少女は感激の涙を流した。

 その姿は我が子の成長に喜ぶ母親そのもの。IS学園(ココ)で何があったのか少女には到底分からない過去の出来事だが、一夏にとってプラスに働いたのは確かと言えた。

 だが、そこでそこまで女嫌いの一夏と仲のいい少女はどうなんだと突っ込んではいけない。

 ちなみにだが少女がそのことを聞いたときの返答にキレて、一夏をボコボコに叩きのめしたとだけ言っておくことにする。

 その光景を見ていた親友たちは、「”暴君”が叩きのめされる光景は・・・・・・・」と口を揃えて言うほどだから、かなり怖かったのだろうと思われた。

 

「鳳。感動しているところのようだが、邪魔だ」

 

 ドゴスッ!!という音と共に振り落とされるお年玉、もとい拳骨。

 

「なぁっ!!??ち、ち――「(ギロリ)」織斑先生!?」

 

 少女が振り向けば、自身が知る限りで2番目に強い人物。千冬がそこにいた。

 自分の知る限りじゃここまできっちりはしておらず、かなりだらしな――

 

「何か失礼なことを考えていただろう?それと私は織斑ではない。雪片だ馬鹿者」

 

 バシィ!!と音を立て、今度はアルティメットウェポンによる一撃を受ける。

 しかし、少女にとってその一撃よりも優先すべき出来事がある。

 

 ”織斑ではない。雪片だ”

 

「え?ま、まさか?」

 

 ニヤリと、千冬が満足そうに笑みを作り左手を少女に見せつけるように、自身の顔の横にだす。

 その手の薬指には銀色で一粒の宝石があしらわれている指輪が。

 世に言う結婚指輪と言われるものがはめられていた。

 

「その通りだ」

 

「えぇぇぇええええええええええええええええええええッ!!??け、結婚してたぁああああッ!?」

 

「「「「「「「「「「――――――――――――――――――ッ!!??」」」」」」」」」」

 

 朝のIS学園に衝撃が走った。

 

「お相手は誰ですかッ!!」

 

 ちなみにだが、入学から数週間が過ぎているのにも関わらず、千冬が結婚しているという事実が広まっていないのは千冬自身の言動によるものだ。

 学園では織斑と呼ばせ、プライベートで雪片に戻る。

 つまり、学園で騒がれるのを防ぐためなのだが、諸事情により隠すのは終わりにしたらしい。

 余談で結婚した際雪片になった理由としては、相手の性を名乗りたいがゆえの他人にはほとんど見せることのない、千冬の乙女ゴコロからくるものだ。

  やはりなんだかんだ言って千冬も女なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~?なんだか廊下が騒がしいな。何かあったのか?」

 

「私に聞かないでよ義兄さん。なんでも知っているわけじゃないんだよ?」

 

「ははは。違いないな」

 

―――――織斑先生が結婚していたですって!!??

 

「「「「「「えっ?」」」」」←1組の生徒

 

「「えっ(ほえっ)?」」←簪、本音

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジで?」←一夏

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

「いつの間に結婚してたんだぁぁああああああああああああッ!!??」

 

「「「「「「「知らなかったのッ!!??」」」」」」」

 

 千冬は実の弟である一夏にすら結婚していたことは黙っていたらしかった。

 恐るべし。

 

 

 

 

 

 

「結婚してからどれくらいですか!!??」

 

「ん。5ヶ月だ」

 

 

 




久しぶりに簪の登場+大暴れ。
いったい誰がこんなことを・・・・
まぁ、自分が悪いんですけどね。


思い切ってオーバードウェポンを出してしまいました。
ACにはまってしまったので・・・・・・・
許してください。
だって大火力と言えばACくらいしかなかったんです(言い訳)


一応元ネタなので、本家のとは違うところが多いです。
名前はそのままですが

MULTIPLE PULSEの本家との違いは、全方位じゃないところ、
射撃ユニットがミサイルポッドになっているところです。
山嵐の強化版と見てくれて問題ないと思います。

あと5種類あると言っていますが、全てのオーバードウェポンではなく
開発段階でボツになったのも含めて5種類なので。
今のところGRIND BLADEは出す予定なしです。


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ちょっとしたお知らせ+おまけ

 ホントすみませんッ!!
 最近更新できなくて、挙句には本編を更新しないで。
 言い訳になるかもしれないんですが、書いていたデータが
 数回パーになったりしたり、学校が忙しくてこうなってしまいました。

 できるだけ早く本編を上げますので、どうか愛想をつかさないで欲しいです。

 

 それでおまけというのは、前に勢いで書いたネタという物(?)です。
 連載予定なし。
 単発投稿です。
 後グロ注意です。
 おまけというには長いと思いますが、気にしないでもらえると嬉しいです。

 かんたんに言ってしまえば今回のは時間稼ぎと同じだと思います。


 At that time, which marks the end, the last message to the world

 

――――コロセ

 

 あぁ、分かっているさ。

 ”俺たち”はもう後には退けない。

           (ファイナルフェーズ)    

 俺たちには計画の本当の 最終移行段階  を選択した。

 だから殺すしかないんだ。

 それも一人や二人じゃない。

 世界のニンゲンをひとり残らず殺すしかない。

 俺の仲間だった皆が、俺に計画を託して死んでいった。

 皆、最後は笑っていた。

 悔しいほどに笑っていた。

 思い返せばアイツも、俺が唯一愛したアイツも、最後は笑っていたっけな。

 一人にしないでくれたって。それだけで満足だって。

 俺の腕の中で、確かに微笑んでくれて、キスをして、ゆっくりと冷たくなっていった。

 俺の私情で何時も寂しい思いばかりさせて、殆ど一緒にいてやれなかったというのに。

 アイツはハッキリと幸せだと言ってくれた。 

 だからなんだろうか。

 あいつが死んでから俺は、いつの間にか世界をそれ以上に憎むようになった。

 世界は俺から全てを奪って、全てを壊した。

 ならば俺も世界から全てを奪い壊してやろう。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 そこらじゅうから悲鳴が、絶叫が、泣き叫ぶ声が聞こえる。

 視界に映る人間どもは皆、逃げ惑うのみ。

 

「や、やめっ―――――」

 

 足を撃たれうずくまる男を見据え、左手に持つデザートイーグルを突きつける。

 

「悪いな。恨むならあの世でしろ」

 

 ズガンッ!!と銃声を響かせ、火を噴く。

 ハンドキャノンと言われるような破壊力を持つソレは、男の頭を貫きグシャグシャにする。

 肉片が飛び散り、血の匂いがする。

 普通なら嘔吐するなり、目を背けるのだろう。

 だが、小さい頃からこんなことをしてきた俺にはどうという事はない。

 逆に当たり前すぎることだ。

 殺らなければ殺られるような、過酷なところで生きてきたのだからこんな事は日常だ。

                   (役たたず)

 視線を横に向けるといつの間に来たのか、警察官 どもがチャチなリボルバーをこちらに向けている。

 

「直ちに武器を捨て投降しろ!今すぐ投降するなら我々は危害を加えない!」 

 

 在り来り過ぎた。

 平和ボケした日本人にしか言えないような、子供騙しのような言葉。

 いくら警察がリボルバーを持っていて訓練をいようが、素人なのには変わりない。

 銃弾一発で始末書を書かされる位だ。

 ただ持っている過ぎず、人を撃つなどもっての他。

 こいつらは自衛隊ですらない。

 よく見れば、両手で構えているのにも関わらず銃口が震えていて、狙いが定まっていないのが一目瞭然だ。

 当たるわけがない。

 違うな。もし狙いが定まっていても俺には当たらない。

 今の俺はこいつら如きどころか、世界を総動員させても勝つことはできない。

 たとえ核を使おうとも、だ。

 

「聞こえているの―――」

 

「煩いんだよ。大人しく殺されろ」

 

 ”異能”を発現、その力をもってして警察官どもをひとり残らず爆散させ、肉片に変える。

 

 血が霧のように漂い視界を真っ赤に染め上げる。

 全員死んだのを見計らい、”異能”の発現を止める。

 それに反応するかのように、銀髪が紅い瞳が元に戻る。

 

――――イイゾ。オモシロイダロウ?コロスノハ

 

 そうだな。楽しいな、殺すっていうのは。

 

 俺の中の獣が囁きかけてくる。

 確かに楽しい。有り得ないくらいに、この世のものとは思えないくらいに。

 

 俺はその楽しさに身を任せデザートイーグルを格納、変わりに両腕に7,62mm口径ガトリングを展開する。

 通常の規格に加え、60kgはあろうかと言う外付け弾倉を付けている。

 普通なら人間には到底扱えるものではない。

 そう”普通”の人間なら。

 俺は人間じゃない。元人間だ。

 人から創られた存在。簡単に言ってしまえば改造人間。

 超能力を使え生身で容易くISを破壊できる人を超える存在。

 

 そう。世界は自分たちが作り上げた兵器一つに終わらされる。

 俺の意思で終わらせる。

 

「死ね。ゴミ共」

 

 その言葉とともにトリガーを引く。

 毎分2000発を超える弾丸が二つのガトリング砲から、怒涛の勢いで放たれ、ブレることなくニンゲンを打ち抜いていく。

 手足がちぎれた者、頭を吹き飛ばされた者、内蔵をぶちまけた者、一瞬で死んだ者。

 死体を綺麗に残して殺すという事はしない。

 そんなことは面倒であって楽しくない。

 この殺戮に情けなど存在しない。

 情けが存在しているなら、こんな事はしない。

 

 

―――――モットコロセ

 

 

 人殺しの獣の言うように次々に殺していく。

 弾薬が切れたガトリングを放り捨て、ISを展開する。

 最初からこうすれば良かったのだろうが、それじゃあつまらない。

 俺の手で殺してこそ意味がある。

 

 狂っている。俺は。

 

 今更すぎることを不意に思う。

 本音を言えば、今俺は何でこんな事をしているのかすら分からなくなる。

 何が何だか分からない。

 でも、教えてくれる人は誰もいない。

 皆死んだ。

 俺の家族を全てを奪われた。

 俺たちは、自由が欲しかっただけだ。

 世界は俺たちからすべてを奪い、自由を得ることを拒んだ。

 

 許せない。

 

――――ソウダ。ユルスコトナドナイ。

 

 グレネードキャノンを展開。

 ゴミが密集しているところへ撃ち込み、殺す。

 

――――ウバワレタナラ、ウバエバイイ

 

 殺して、殺して、殺してやる。

 

 レーザーライフルで黒焦げにする。

 

――――ミナゴロシニシテシマエ。ゼンインガ、ミテミヌフリヲシタヤツラダ。

 

 誰も、助けてくれなかった。

 泣き叫ぼうとも、絶叫しようとも。

 

 プラズマブレードで焼き切る。

 

――――オマエノアネモソウダッタダロウ?

 

 そうだった。

 いくら名前を呼んでも来てくれなかった。

 それどころか、俺の存在すら忘れ去られていた。

 

――――ニクイカ?

 

 あぁ。憎いさ。

 アイツも、皆殺された。

 だから俺も、クズどもを皆殺しにしたんだ。

 

――――サァ、コロソウ。ゼンインコロシテフクシュウシヨウ。

 

 ISを展開したアマ共が2人見えた。

 見た所国産IS打鉄と言ったところか。

 武装は今のところ展開はしていないが、近接ブレードだろう。

 格納に射撃兵装がないわけじゃないとは思う。

 だが打鉄の性能ゆえにせいぜいアサルトライフルが良い所だろう。

 重火器はないと思っていい。

 近接よりの防御タイプ。

 そんな機体が満足に射撃兵装を扱えるとも思えない。 

 ま、俺にはそんな事はあまり関係ない。

 兵装に合わせて、戦闘方法を変えれば良いだけだ。

 

――――ドウスル?

 

 殺すに、決まっている。

 当たり前のことだろうに。

 

 

 

 

 

”目標を確認。これより戦闘態勢に入る”

 

「了解」

               (クル-ズ)(ミリタリー)

 お互いに目標を確認しあい、ISを巡回状態から戦闘状態へと移行させる。

 武装のセーフティを解除、得意武器の近接ブレードを一本展開する。 

 

<情報によればIS学園を制圧した武装グループの一員と見られますが、IS学園からの敵性情報はなく、学園からの情報収集も不可能でした。

 相手の戦力は未知数です。

 ですが、かなりのISがあった学園を陥落したことを踏まえると、2機での迎撃は厳しいことになるでしょう。

 増援到着までどうか持ちこたえてください>

 

 オペレーターからの通信が再度入り、もう一度敵戦力のデータを伝えられるが、あまり意味がない。

 かなりの戦闘能力がある存在ということ以外には、有効な情報はない。

 今のところ一人しか見えないが、尖兵が居るかもしれない。

 迂闊な行動は命取りになると嫌でもわかる。

 

「増援到着までの予想時間は?」

 

<予定通りと仮定するならば早くて10分と言った所です。なので戦闘を主軸に置くのではなく、民間人の避難を優先する形でお願いします>

 

 10分。

 かなり長いように思えた。

 敵戦力が不明とは言え、IS一機にオペレーターがついているのは今までにはないことだ。

 厳しい戦いになるとしか思えない。

 それでさえ、初めての敵に、命のやり取りだ。

 いつかは体験することだろうとは思っていたが、これほどまでに精神的負担が大きいとは思えなかった。

 

 ブリュンヒルデが居てくれれば・・・・

 

 そんな甘い考えに囚われるもすぐに捨て去る。

 いない人に頼っても意味はない。

 

「貴様、今すぐISを解除して武器を捨てろ。これは命令だ。再度言う、今すぐISを解除し武器を捨てろ」

 

 人を大量に殺害している今、警告を出すまでもなく攻撃する名目はある。

 一応の形でしなければいけない決まりがあるため、それに習う。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・了解。ISを解除する」

 

 マシンボイスだった為に、感情は読み取ることはできなかったがこちらの要求はなぜか聞き入れた。

 裏があるとしか思えない。

 ここまでしておいて抵抗しないというのはなぜだ?

 そんな考えが頭の中をよぎる。 

 だがそんな考えはすぐに打ち消された。

 

”ッ!?”

 

「き、貴様は!?」

 

 相棒の声と自身の声が重なる。

 

 有り得ない。

 

 有り得ないはずなのに、それはソコに確かに存在していた。

 

「織斑・・・・・・一夏・・・・!?」

 

<どうゆう事です!?なぜそこに織斑一夏が!?>

 

 オペレーターまでもが驚きを隠せずにいた。

 

 ”織斑一夏”

 

 世界最強:ブリュンヒルデの唯一の家族であり弟。

 そして今年春に発生したISを動かせるイレギュラー。

 入学1週間にて代表候補性を撃破。

 それからも次々に実力を付け、中国の候補性と互角に持ち込み、ドイツの候補性のISに仕込まれていたVTシステムに対して、ISの部分展開だけで対処。

                    (シルバリオ・ゴスペル)   

 終いにはアメリカからの要請があった、 軍用第三世代IS銀の福音 を仲間の援護があったとは言え、最終的には撃破した経歴を持つ。   (セカンド・シフト) 

 その際には僅か2ヶ月と少しという短期間で、  二次移行   を完了させた人物。

 

 

 そんな人物がIS学園を陥落させたテロリストに加担していた?

 

(世界最強)

 織斑千冬はどうなった?

 

”テメェ。ブリュンヒルデはどうした。なぜテメェが人殺しをしている”

 

 言おうとしていた事を相棒にそのまま取られる。

 

「織斑千冬か。あいつなら死んだ」

 

「ッ・・・」

 

 驚きを隠せない。

 織斑千冬が死んだ?

 敵はなしと言われているあの人物が?

 信じられない。

 

「いや、違うな。俺が殺した」

 

”キサマァァッ!!”

 

 激高する相棒とは対照的に冷静に判断していた。

 

 織斑千冬は、織斑一夏に殺された。

 

 ということは負けた?

 実力で?

 それとも精神を揺さぶられた?

 

 家族ならば、織斑千冬を揺さぶることなど容易いハズ。

 だが、殺す理由がまるで分からない。

 聞いた話は皆仲が良い姉弟としか思えないようなものばかり。

 

<・・・・情報更新。増援到着まで後11分。予定より遅れています>

 

 怒りをどうにか隠した声でオペレーターから情報が入った。

 ・・・遅れているか。

 

「余りにも呆気ない最後だった。左腕を飛ばしただけで戦闘続行不可。後は簡単さ、頭を打ち抜いてやれば済んだ。あっけないだろ?」

 

 その声は殺しを楽しんでいる人間そのもの。

 

 殺人狂かコイツは。

 

「つまらなかった。ずっと殺したかったのに、蓋を開けてみるとどうだ?何もできないただの女だ。くだらないな、こんな事を望んでいたんて」

 

「だからさ―――――」

 

「ッ!?」

 

 一瞬で、生身の人間が出来るはずがない速度で目の前に接近していた。

 

「―――――お前らを殺すから」

 

 ISのセンサーですら捉えられない速度の蹴りが繰り出された。

 

「ごがッ!?」

 

 絶対防御がそれだけで発動し、エネルギーシールドが一瞬で大量に減る。

 ISのシールドがいくらか衝撃を緩和している上でのこの衝撃。

 生身で直撃したかのような錯覚に陥り、そのまま飛ばされビルにぶつかり壁を壊していく。

 数枚の壁を破ったところでやっと止まる。

 しかし腹部に食らったせいでまともに息ができない。

 動くことも出来ない上、しゃべることすら出来ない。

 内蔵にダメージがかなりあるのが違いないような痛みだった。

 

「ぐッ・・・が・・・ぁ・・・・・ッ」

 

”オイ!大丈―――――くッ!邪魔すんなよ!”

 

<しっかりしてください!!もう少しで増援が来ます!それまで耐えれば助かりますから!!>

 

 相棒から、オペレーターから声をかけられるが、返事が出来ない。

 口からは、声が出ない代わりに大量に吐血する。

 咳き込むたびに吐血し、既に無視できそうもないようなくらい大量の血液を吐いた。

 

 内蔵にダメージが残っているどころか、破裂しているようだ。

 

”こんのッ!!さっさと落ちやがれェェェェェェェェェェェッ!!”

 

 オープンチャンネルを開いたままなのか、相棒の激昂した声が聞こえてくる。

 閉じるのを忘れている、と言いたいが声が出せない。

 こんな場面にまで世話をかけさせるのかと思わず苦笑してしまった。

 

”アイツの所に行かなきゃいけないんだよッ!!邪魔するな!!”

 

 馬鹿が。

 そう言ってやりたい気分に陥った。

 死ぬかも知れない戦闘をしているのに、自分の事を考えているのか。

 単純で、性別が女なのに男勝りと言わんばかりで。

 そこらへんの男より男らしく、細かい事は気にしない性格で。

 本当に男なんじゃないかと思ったり。

 その割には胸が小さいことに愚痴をこぼして来たり。

 

 いかんな。走馬灯を見かけている。

 

”オレが行くまで絶対死ぬんじゃねぇぞ!ぜってぇだかんな!死んだら許さねぇからなッ!!”

 

 やっぱり、馬鹿だ。

 大馬鹿者だ。

 視界が歪んだ。

 

 泣いているのか。私が。

 

 信じられない。

 相棒と出会った頃からは想像も出来ないやり取りだ。

 

 IS操縦者候補性としてIS学園第一期生として入学して、同じクラスの、同じ部屋になったあの時が始まりだった。

 性格も何から何まで正反対だった私たちは反発し合っていた。

 喧嘩ばかり。

 くだらない理由で喧嘩して。

 ISの実習では競ってばかりで、勝ったほうが負けた方を馬鹿にして。

 周りのクラスメイトたちに呆れられようが競い合って。

 

”返事をしろよ!!死んだわけじゃねえんだろ!?生きてんだろ!?うめき声でもいい。なんだっていい!!声を聞かせろよ!!”

 

「・・・・・・かってに・・・・・・・こ‥ろす・・・・な」

 

 あぁ、言えた。

 満足感が心を満たす。

 

”・・・・・・・・ふんッ。生きてるじゃねぇか。待ってろソッコーで片付けてそっちに行くぜ。それまで藁にしがみついてでも生きてろ”

 

「あぁ・・・・・・・・・・」

 

 涙声になっていた。

 久しぶりだな。

 泣きそうになっている声を聞いたのは。

 

 

 いつからだったのだろう。

 私たちが今のような関係になったのは。

 

 考えるまでもなかった。

 あの日だ。

 10月に行われたトーナメントがきっかけだった。

 決勝で当たった私たちが、打鉄を使い物になるまで戦い続けそして決着がつかなかったあの日。

 あの日から、お互いを自然と認めるようになっていった。

 細かいところまでは覚えていないのに、認め合うようになったのは今でも覚えている。

 アレからだ。

 パートナーになって、お互いの弱点を補うように、守るように連携して、信頼は織斑千冬と篠ノ之束にも匹敵するようだと言われて。

 お互いを支え合い、支えられ、今日まで生きてきた。

 

 良かった。お前と会えて。

 最高の相棒だ。

 

 ゆっくりと目を閉じる。

 死ぬわけじゃない。

 疲れたから寝るだけ。

 約束したんだ。

 みすみす死んでなどいられない。

 

 いくらでも待ってやる。さっさと片付けろ、相棒。

 

 

”へっ。そうこねぇとな。さっさとかたずけてやらぁ”

 

 声に・・・・・・出していた、いや、出せたのか。

 

 ・・・・・・情けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ。起きろよ。いつまで寝ているつもりだ?」

 

「んぁ?」

 

 声がして目を開けると相棒が立っていた。

 なぜかISは装着されておらず、戦闘していたとは思えないほどだ。

 

「倒したのか?」

 

 起き上がりながら言う。

 不思議と痛みはない。

 

「・・・悪い。勝てなかった。死んじまったよ」

 

「・・・そうか」

 

 頬をかきながら言う相棒の言葉を受け取れば、私も死んだことになる。

 

 ココは死後の世界か何かか。

 

 それにしても、最強と言われているISが一撃で撃破される・・・・・か。

 

「すまねぇ。約束守れなかったな」

 

「いいさ。私だって約束を守れなかった。お互い様だ」

 

 座り込んだままだったから、相棒に手を伸ばす。

 一瞬驚くも意図を理解して、手を掴み立ち上がらせてくれるよう引っ張ってくれる。

 立ち上がるとそっぽを向いている相棒に声をかける。

 

「まぁ、死んでもこうして居るなんてな。私とお前には何か切っても切れない縁があるみたいだな」

 

「・・・・・・・・・・・・違いねぇ」

 

「死後の世界が本当に存在しているとはな。変な気分だ」

 

 視界には、蒼く澄み渡る空、どこまでも続いているような草原、そして海と思えるほど広い川が広がっている。

 綺麗な景色だ。

 今の日本じゃ見れそうにもないほど。

 

「そんなの誰も見たことねぇんだから仕方ないだろ。にしてもでっけぇなぁ、三途の川とやら」

 

「そうだな・・・・・・・」

 

「ン?どうしたよ?」

 

「コレからも宜しくな相棒」

 

「ふん。当たり前だ」

 

 言ったそばから恥ずかしくなり、そっぽを向く。

 柄じゃないな、こんな事は。

 

 ふと思う。

 死んだことを自然に受け入れている事に。

 死ぬ直前まで怖いと思うことはなかった。

 全く理解できない事だが、コレだけは言える。

 

 相棒といっしょならどこまでも行ける、と。

 

 自然と頬が緩む。

 出会ったばかりの私たちが、今の私たちを見たらどう思うのだろうか。

 それを考えると笑みが止まらない。

 

「・・・・・・いきなり笑いやがって。変な奴」

 

「思い出していたのさ。8年前の私たちをな」

 

「そうかい。それなら仕方ねぇな」

 

 考えることは同じだったのか、相棒の頬も緩む。

 

「まぁ、ここでずっと話しているのもアレだ。続きは川を渡ってからにしよう。未練は無いだろう?」

 

「おう。それには賛成だ。ま、アイツを倒せなかったのは残念だけどよ」

 

「大丈夫だ。皆が倒してくれるさ」

 

「ンー。そうだったらいいんだけどよ。俺ら6文銭持ってないぞ。そうじゃねぇと渡れねぇじゃん」

 

「ふむ」

 

 そう言えばそうだったな。

 まともな死に方をした訳でもないし、死んで数時間もないのに葬儀をされているとは思えない。

 どうすれば・・・・と思ったところで、妙案が浮かぶ。

 

「相棒。何とかするんだ。こういうのは得意分野だろう?」

 

「お、おい。いきなり無茶すぎんだろうが・・・・」

 

「まぁいい。ゆっくり考えるとするさ」

 

 そう言うと歩き出す。

 やけに遠いな、川までは。

 

 

 

 

 ふと、座り込む一人の少女を見かけた。

 織斑一夏に殺された娘か?

 だが、その顔には見覚えがあるような気もする。

 

「どうしたんだ、誰かを待っているのか?」

 

「うん」

 

 力なく頷く。

 見た所14~5歳位に見えるが、誰を待っているというのだろうか。

 でも、少し待っているとは思えない。

 何ヶ月単位で待っているように見えた。

 

「一夏を待ってる。ずっと」

 

「う、嘘だろ?アイツをぉ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 織斑一夏を待っているということはどういうことだ?

 情報通りなら、この様な少女は織斑一夏の周囲には確認されていない。

 

「私が、私が弱かったから一夏は歪んでしまった。一夏は生まれてから今まですべて奪われて生きてきた」

 

 ポツリと、続けていく。

 

「初めて一夏と会ったとき、名前すら奪われてC-003という識別する番号しかなかった。だから私が名前をつけてあげた」

 

 黙って聞く。

 

「ありがとう。確かにそう言ってもらえた。でも一夏には本当の自分になりたかったんだと思う」 

 

「だから私は、私だけは本当の名前で呼んであげていた。でも一夏はどこか歪んでいた」

 

「奪われて、奪い合う。そんな環境で過ごしてきたからだと思えた。でも私と一緒にいて幸せだっていってくれた」

 

「嬉しくて、笑いあったこともあった。自惚れかもしれないけど、一夏は私がいたから笑えていたんだろうと思う」

 

「でも、私は死んでしまった。ホンの少しのミスで私が死んでしまった」

 

「それが原因で、一夏は完全に歪みきってしまった。だからずっと見ていた」

 

「自分を偽り偽物の笑顔を作る姿。計画を遂行するために使える物は使う姿。そして使い物にならないのは捨てる姿」

 

「ずっと見守ってきた。でもそれしかできなかった」

 

「だから私はこうして待っている。私が唯一出来る償いだから」

 

 沈黙がその場を満たす。

 私も、相棒も、何を言っていいか分からなくなっていた。

 ただ人を殺すだけとしか見ていなかったあの織斑一夏に、そこまでの過去があったなんて思いもよらなかった。

 この少女は織斑一夏の彼女か何かのだろう。

 奪われて生きてきて、何もかもを失う。

 そんな中できた愛する、大切な人。

 それさえ失ってしまえばああなるのは必然だ。

 

 辛い、思いをしてきたんだな。

 

 成人にも満たないのに、そんな黒い部分をわかりきって。

 私たちは何をしていたんだ。

 そう、思わせるような物だ。

 

 ここに私たちがいてはダメだ。

 直感が告げる。

 

 相棒の手を取ると引っ張りながら歩き出す。

 

「お、おい」

 

 彼女は待っているのが償いだと言った。

 なら私たちはここにいないことが償いだろう。

 

 だが、最後に、コレだけは言っておきたい。

 

「会えると・・・いいな。彼に」

 

「・・・・・・うん。ありがとう」

 

「なぁ、ちょっといいか?」

 

「?」

 

 相棒の声に少女が首をかしげる。

 

「一夏って奴はずっとお前を待たせてんだろ?」

 

「一応そうなる」

 

「会えたら問答無用でぶん殴ってやれよ。女待たせる男はサイテーなやつだからな」

 

「うん」

 

「それと一つ伝言頼む。”お前のことは恨んでない。酷いこと悪かった”そう伝えといてくれ」

 

 清々しいやつめ。

 そう思った。

 

「・・・・・・私、貴方の名前知らない」 

 

「ヘッ。打鉄に搭乗していた男勝りな奴ってでも言ってくれりゃ伝わる」

 

「・・・・・・自分で言うか」

 

「分かった」

 

 返事を聞くと私たちは歩き出す。

 振り返りはしない。

 未練など無いのだから。

 

 私たちは、せめて前を向いて歩いていこう。

 ひとりじゃない。

 相棒がいる。

 それだけで、どこまでも行けるような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 空は灰色に濁り、雨が降っていた。

 人の気配は無く、ISのセンサーを利用してもこの街からは生体反応は確認できない。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 土砂降りの雨がすべてを洗い流していく。

 

 壁にこびりついた血や肉片。

 そこらじゅうに充満する血の匂い。

 火薬が燃え尽きた匂い。

 航空機燃料の匂い。

 タンパク質が焼けた匂い。

 死体から発せられる臭気。

 体に付着した返り血。

 

 すべて洗い流されてゆく。

 何も言えなかった。

 なんて言えばいいのか分からなかった。

 

 

――――ドウシタ。モットコロサナイノカ。

 

 分かってる。

 全員殺さなきゃいけないことは分かってる。

 

 カランと音を立て刀が手から滑り落ち、力なく座り込む。

 

 容赦なく雨が俺の体温を奪う。

 

――――ゲンキガナイナ。アノソウジュウシャガゲンインカ?

 

 多分な。

 

――――タノシンデイナイジャナイカ。コロシヲ。

 

 アイツ等を見て、思い出しちまったんだから仕方ないだろ。

 

――――オモイダシタ?

 

 オータムを思い出したんだよ。

 瓜二つって言ってもいいほど性格が似てた。

 

 懐かしい。

 

 アイツと喧嘩ばかりしてた頃が。

 

 それに。

 

――――ソレニ?

 

 ”マドカ”も思い出した。

 

 大切な人。

 

 マドカが付けてくれた名前があった。

 C-003としか呼ばれなかった俺が、名前を奪われた俺についた名前。

 嬉しかった。

 

 マドカと会えて本当に良かった。

 

 なのにもう隣にはいない。

 

 マドカを失いたくがないために作り上げた計画も、もう意味を成していない。

 

 一番失いたくない人は既にいない。

 

 オータムも、スコールも、□も、□□□も、もう死んだ。

 

 一人になった。

 誰も仲間がいない。

 

「会いてぇなぁ・・・・・・・」

 

 視界が滲む。

 

「会いてぇよ・・・・・・・・・」

 

 何でこんな運命だったのだろう。

 

 もっと、まともに生きたかった。

 

 普通の人としてみんなと笑って生きたかった。

 

「・・・・・・・・畜生」

 

 声が震える。

 

「・・・・・・・畜生ッ」

 

 心が痛い。

 

「・・・・・・・畜生ォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

 もしかしたら―――――

 

 そんな後悔の念が今更こみ上げてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨とは違う水滴がアスファルトの地面にこぼれ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆらりと立ち上がり、刀を手に取る。

 

 涙は枯れ、もう何も溢れてこない。

 

 雨は上がり空は晴れきっていた。

 

 だが雨が降っている時のように濁っているようにしか見えなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ゆっくりと歩き始める。

 

 もう、どうでもいい。

 

(ファイナルフェーズ) 

  最終移行段階  を完遂しないと。

 

”もう終わりにしよう”

 

 その言葉は終わりを迎える世界に向けて発せられた、最後のメッセージだった。

 

 

 

 

 

 そして世界は終わりを迎える。

 

 

 

 

 

 




おまけの感想をもらえると嬉しいです。


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 十六話

書き終わって気づいた。
 
あれ?最近話進んでなくね?


 鈴と再会した日の放課後、俺は食堂にいた。

 再開したところは省くが、ここにいるのは簡単で腹減ったから。

 やっぱりIS学園の食堂は量が少ないんだよな。

 うまいんだけど少ない。

 女子高だから仕方ないっちゃ仕方ないが。

 

「どーれーにーすっかなー」

 

 食券機の前で何を食おうか考える。

 後ろには誰もいないから平気だが、普通はやっちゃダメだがな。

 このあとには訓練があるから、重いものだと後で大変なことになる気がするため、カレー、定食類は全却下。

 残るのは麺類だが、うどんでいいか。

 単純すぎると思ってはいけない。

 

「うどんよろしく、おばちゃん」

 

 カウンターのところに行き、食券を置きつつ呼ぶ。

 ここのおばちゃんは気前がいいことで有名だ。

 学園で結構慕われている人で、学園のお母さん的存在。

 人気投票があると、必ず上位にランクインするほどらしい。(by虚さん)

 ちょくちょくサービスしてくれるいい人。元の量が少ないからアレだが、感謝している。

 

 ・・・・・・・・・なぜかいつまでたってもおばちゃんが出てこない。

 人の気配はするんだが。

 

「うぃーす。注文はなんだ?遅れてわりぃーな」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!!!!????」

 厨房の奥から出てきた人を見た瞬間、もはや声にならない悲鳴が俺の口から漏れる。

 だってな?

 

 コイツマジで㋳のつく自由業の人にしか見えねぇ・・・って人が、ピンクのエプロンつけて、歴戦の戦士みたいな厳つい顔で笑顔を作ってきたんだ。

 

 なんというのか、まだ夕飯時じゃないのが幸いして誰もいないことが幸運なのか。

 

「うどん、でいいんだな?」

 

「(ぶんぶんぶんぶん!!!!)」

 

 きっつい眼光で睨まれたようにみえた俺は何も言えず、首を振るだけで答える。

 どうしろと言うんだ。

 しかもこの人、顔の左側に額から顎にかけバッサリと切られたあとが存在してる。

 左目には、軍人が付けているような眼帯があった。

 

 ハッキリ言おう。

 ガチで怖い。

 何でIS学園にこんな人がいるの!?

 おばちゃんはどこいった!?

 

「オイ!てめぇら!!うどん一丁入ったぞ!!ちょっとでも失敗しやがったら指飛ばすぞ!!」

 

「「「「「「「押忍ッ!!!!!ありがとうございやす!!!!!全力で作らせていただきます!!!」」」」」」」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(゜д゜)」

 

 絶対突っ込まないからな。

 すごい不吉な事が聞こえたり、厨房にも㋳の人たちがいたなんて絶対突っ込まないから。

 ぜってぇ突っ込みたくねぇ。

 つか突っ込みたくない。

 

「オイ、坊主。やけに顔色悪いじゃねぇか。体調はどうなんだ?」

 

「・・・・・・へ、へーきっす。・・・・・・多分」

 

 この人たちの気迫に押されて青ざめていたのだろう。

 もしかしたらこの人は見た目によらずかなり優しいのかもしれない。

 だが、やっぱり怖い。

 

 

「ほれ、サービスしといた。まだガキなんだからきちんと食えよ」

 

 ゴンッ、とカウンターに置かれたうどんは、これでもかとてんこ盛りでサービスされまくりだった。

 

 どっからどう見ても大の大人2~3人分はある。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ・・・・・・・・・これを食えというのか。

 

「ほら。さっさと食っちまえ。冷めちまうぞ」

 

「う、ういっす・・・・・・・・・・・・・・」

 

 あぁ・・・・・・このあとに訓練が待ち受けているのを考えたくもないなぁ・・・

 

 ちなみにこの人たちはおばちゃんが、買い出し中のピンチヒッターらしい。

 要はおばちゃんの知り合いみたいだ。

 

 ・・・・・・・おばちゃん。あんた一体何者?

 

 

 

 

 きっかけは一本の電話だった。

 

”なんかミスって千冬キレさせちまった。後はよろ”

 

 という、久しぶりに声を聞いた秋羅のもの。

 いつの間にか数ヶ月単位でどこかへ出かけ、いつの間にか帰ってきている訳が分からない義兄。

 

 誰であろうといきなりこんな電話がかかってきて、一方的にブチ切りされればキレる。

 

 そんな一夏の不幸の始まりである。

 

 ・・・・・・なんちって。

 

 

 訓練が終わった一夏たちはアリーナの一角にある、休憩室にいた。

 今回はいつものメンバーに加え、鈴も一緒だ―――

 

「[天照]が余りにも使いづらい・・・・・・」

 

「候補生のプライドを完璧へし折られた・・・・・・」

 

 ―――が、一夏と鈴は二人揃ってorz状態だ。

 

 そうなっているのは先程までの訓練が原因。

 

 一夏は、[天照]の試験運用という名目で使ってみると、着弾時の閃光が強すぎて自身まで視界を奪われかねないという事態に。

 簪のオーバードウェポンの一つである、HUGE CANNONの扱いやすさを羨む結果に。

 

 鈴は、本音、虚、凪沙、簪の順にISで戦い、ことごとく返り討ちにされた。

 本音にあしらわれ、虚にメッタ斬りに、凪沙には一方的な蹂躙、簪にはMASS BLADEでホームランされた結果がこれだ。

 しかし、MULTIPLE PULSEで蹴散らされた一夏に比べれば易しいほうだ。

 余談だが、簪は本当なら名前はまだないが、別可動ジェネレーターを使用したレールキャノンの連射バージョンを使いたかったらしい。

 恐るべし簪である。

 

「どうどう。そこまで落ち込む事ないよ?」

 

 一夏は凪沙になぐさめて貰っていた。

 鈴は、本音による”元気いっぱーつ!!”を受けているが、結果は察しの通りだ。 

 

「りんりん元気いっぱーつ!!だよ。ポッキーおいしいよ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」←鈴

 

「本音、あんまり意味無いと思う」

 

「・・・・・・簪様、こうなってしまったのには貴方の行動が原因ではないかと」

 

「きこえなーい、キコエナーイ」

 

 このざまである。

 色々とカオスな状態。

 

 と、そんなカオスな空気が充満している所に携帯の着信音が鳴り響く。

 明るい印象を与える曲だ。

  

「ん?」

 

 その曲に反応したのは一夏だった。

 またまた余談だが、一夏は巷で有名な無料通話アプリL○NEはやっていない。

 

「もしもーし」

 

”ういっす。俺だ、俺”

                     

 電話に出てみると、俺だ、俺と連呼する馬鹿(お出かけ大好き野朗)からだった。 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(イラッ)」

 

 紛れも無い義兄だ。

 が、だからと言って律儀に出てやる一夏でも無い。

 何せ、コイツが出かけた所為で姉からのとばっちりを受けたためである。

 しかも、「おひさー。元気してたー?」と言うくらいのノリだ。

 

 一夏の心情を一言で表すなら、

 

 ウザい

 

 である。

 

「オレオレ詐欺だったら他所でやれ」

 

”おぉーっと。悪い悪い一夏。久しぶりだったからなんて言い出せばいいかわかんなくてさ。

あっはっはっは!!”

 

――――イラッ。

 

「・・・・・・・・切るぞ」

 

”ちょいまて。言いたい事があるから電話したんだった”

 

「手短にな」

 

”あいよ。手短に言ってやる。

 

なんかミスって千冬キレさせちまった。後はよろ”

 

 これでもかと言うほど手短過ぎた。

 

 そんでもってのぶち切りである。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「ど、どうしたの?一夏」

 

 とてつもない黒いオーラを撒き散らし始めた一夏を心配してか、凪沙が声をかけるが返事はない。

 と言うか聞えていない。

 

 ちなみに今の一夏はアニメ絵で表すなら、目の辺りは黒くなり見えず、口は無表情そのもの。

 そして黒いオーラ。

 黒すぎて、背後がゆがんで見える。

 

 皆ドン引き、当たり前だ。

 

 そんな中一夏は静かにリダイヤル。

 

”ういうい?酒飲んでっから後でな。うい”

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 馬鹿はほうって置いて、深呼吸。

 そしてぎりぎりまで空気を吸い込み、吐き出す。

 

「ふッざけんてんじゃねェェェェェェェェェェェェッ!!!!!!」

 

 怒声とともに。

 

「「「「ッ!!???!?!?!?!??!」」」」」

 

 怒声にみんなはびっくり、当たり前。

 

”おぉう。頭がぐっらんぐらんだ。いきなり大声出すなあほ”

 

「殺すぞテメェ!!何がいきなり姉さん切れさせちまっただ!!で、なにが後はよろ、だ!!!

ふざけんのも大概にしやがれ脳内花畑野郎が!!自分でしたことには責任持て言ったよな!!え!?」

 

”そうキレるなよ~。老化が早まるぞ?”

 

「あ゛ぁん?」

 

”ん゛んっ。説明しよう!俺が―――”

 

「あの事をIS学園中に言いふらしてやろうか?」

 

”それだけは勘弁だ。きちんと説明するからゆるしてちょ”

 

「分かればいい」

 

 あの事と言うのは家族だからこそ分かる事。

 噂大好きな女子が殆どのIS学園に言いふら巣ということは目に見えて分かる。

 

 なにせ、かなり恥ずかしい事だからだ。

 

”ホントは明日帰れるはずだったんだが、急用が入っちまってさー”

 

「ふむ」

 

”んで、千冬に電話したんだよな。明日帰れなくなった、悪いって”

 

”そしたら千冬がキレちまった”

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何て言ったんだ」

 

”ん?明日帰れなくなったから。そこんとこよろ~。だが?”

 

「はぁ・・・・・・」

 

 盛大にため息をつく。

 そんな事でドタキャンされれば誰だってキレる。

 それを分かっているのだろうか?

 

”でよ?もしかしたらお前んとこに向かってんのかもしんねーんだよ”

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

”千冬、割とガチでキレテルから”

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジで?」

 

”おうよ。だから電話したんだよ逃げ――――”

 

 ズドンッ!!!!

 

 その声が聞き取れなくなるほどの轟音が休憩室のドアの方から聞こえた。

 目を向けると・・・・・・・

 

「ふっふっふっふ・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 目から光が消え失せ、薄気味悪い声を上げながら後ろに般若をつれている千冬の姿が。

 

 ドアは蹴り飛ばされ、ひしゃげていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・もう、遅いみたいだ」

 

”・・・・・・・・・・・・・・・そうか。生きて帰れよ。悪いな、俺の所為で”

 

「・・・・・・・・・・・・・・・後で見てろ」

 

 ここで少し思考。

 

 たたかう(バーサク状態の姉さんに勝てる訳がない)

 

 まほう (この世界にはまほうという概念は存在しない)

 

 アイテム(何も持っていない)

 

 ぼうぎょ(バーサクと化した姉さんには意味が無い)

 

 にげる (逃げ切れると本気で思ってる?)

 

 

 現実を受け入れなければいけないらしかった。

 

 

 

 

 姉さんが近づいてくる。

 逃げようの無い現実が目の前に。

 

 いやちがあうッ!!

 

 現実にあらがってみせてやるッ!!

 

「逃げろ!!」

 

 俺一人で姉さんに突撃し、少しでも気をそらせようとする。

 俺が犠牲になれば、凪沙たちを逃げさせる事ぐら―――

 

「ふっ」

 

「ゴッ!?」

 

 気が付いたら壁にたたきつけられていました(・ω・)

 どうやら俺には無理だったのかなぁ・・・・・・

 

 視界はいつの間にか真っ暗。

 

 あれぇ?おかしいな。なぜか浮遊感まd

 

 バギャッ!!!

 

「ぎゃうっ!!??」

 

 そしてまた投げ飛ばされ、壁に激突した。

 うっすらと目を開けると、投げ飛ばしたモーションでいた姉さんの姿が映る。

 どうやら俺はアイアンクローをされていたらしい。

 恐ろしい姉だなぁ・・・・ 

 

 そして目を閉じる。

 目を開けている事すら辛い。

 

「きゃっ!?」

 

「ぐふぅ」

 

 床にくたばっていた俺の上に凪沙が投げ飛ばされてくる。

 やっぱり俺と同じく気絶寸前。

 

「にげ・・・切れたか・・・・?」

 

「わから・・・・ない」

 

「「(ガクッ)」」

 

 そうして俺たちは仲良く気絶するハメになった。

 

 逃げ切れたら、いいなぁ・・・・・・・・

 

 




この作品のMASS BLADEは原作と変わりません。
 HUGE CANNONだけは、超高出力エネルギーカノン砲に。
 原作どおり、21の薬室を使い、核弾頭をぶっ放されたらIS終ってしまうからです。


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 第十七話

秋羅さんのイメージCVは鈴村健一さんです。

 FFⅦのザックス、FF零式のジャックとかの声やってる人です。

 


 あの日以来たびたび(具体的には毎日)保健室にお世話になりつつある毎日を送っていた。

 体中アザだらけで頭には包帯巻いて、左腕骨折してますが何か? 

 

「とうとうこの日になっちまったかぁ・・・・・・」

 

「どんまいなんだよいっち~」

 

 そう。

 今日は間違えることがないクラス代表トーナメントである。

 でも左腕が骨折してるから出場できないという、残酷極まりない現実があった。

 

 もう一度言う。

 

 現実は余りにも残酷である。

 

 

 既にトーナメント自体は始まっていて、ピットにいても何だか悲しくなるから観客席にいる。

 と言うか、さっきまでピットにいたんだ。

 

「ねぇねぇ。ポッキー食べる~?美味しいよ?」

 

「貰っとく」

 

 何だか本音ののほほんとした雰囲気が最近心の保養に欠かせなくなってきたと思う。

 癒し系バンザイ。

 

「かんちゃん勝てると思う?」

 

「おいおい。簪が負けるところを想像できるか?」

 

「ん~と。無理だねぇ~」

 

「だろ?特にあの弾幕張れば訓練機ぐらいの機動性能じゃ避けきれないだろ」

 

 俺が体験したあの弾幕は機体負荷が高いとかであまりできないにしろ、それでもIS1機に対して向ける火力はやっぱり過剰とも言える。

 リヴォルヴァーカノン2門に32連射ミサイル砲(ハイアクト)2門はやっぱりやばい。

 

「だよね~」

 

 本音からもらったポッキーを食べながらアリーナをみると、ちょうど簪の試合で、そして独壇場だった。

 対する女子はラファールを使っているが、やっぱりというのか簪に一撃も入れられていなかった。

 近距離はガトで近づけないようにして、中距離はガトとミサイルの併用、ガトが当たりにくい距離ではコレでもかというほどのミサイルを連射。

 

「・・・なぁ、これって俺が出るより簪が出たほうが確実だよな」

 

「それ言っちゃったら終わりなんだよ、いっち~」

 

 不意にそう思ってしまう。

 俺みたいなど素人よりも経験の多い簪の方がクラス代表にピッタリなのかもしれないって。

 あの時なんで簪は立候補しなかったんだろうね?

 セシリアを倒すことに夢中で気づかなかったけれど。

 

「ひいいいいいいいいいいいっ!!!!!」

 

 簪の対戦相手がいつの間にやら悲鳴をあげて必死に逃げていた。

 

「・・・・どんまいって言ったほうが良いのか?」

 

「かんちゃんのかお凄いことになってる~」

 

 本音に言われて見てみると簪はやっぱりすごいことになっていた。

 主に黒い方で。

 

 やっぱり簪は腹黒いなぁ。

 

「とどめぇ!!」

 

「ッ!?」

 

 いきなり展開されるISを超える大きさを持つ巨大な砲身。

 ガスタービンジェネレーターが火を噴いているということは、エネルギーチャージの途中という他にならない。

 

「頭下げろ!!!」

 

 とっさに近くにいた人全員に向かって叫ぶ。

 アレをこんなところで撃つとか有り得ない。ちょっとは考えろよ簪!!

 

「ファイヤー♪」

 

 直後、アリーナが揺れた。

 

 

 

 

 

「お前はッ!!どうしてッ!!オーバードウェポンを使いたがるんだッ!!私を過労死させるつもりかッ!!殺すつもりなのかッ!?お前がッ!!それを使うたびどれだけッ!!始末書を書かされると思っているんだッ!!!!」

 

「ごごごごごごごごごごごめんなさぁぁぁぁぁぁぁいいッ!!!!!!」

 

 キレる我が姉。

 そしてビバD・O・G・E・Z・Aな簪。

 

 あ、そうそう。

 HUGE CANNONに関してなんだが、攻撃力がぶっ飛んでいるためなのかノーロックなのだとか。

 んで、簪はそれを直撃させるという大道芸をした訳。

 もちろん、アリーナが揺れるほどのエネルギー爆発を起こすそれをモロに食らった人は、まああれだ。

 今頃保健室にいるだろうよ。

 

「大体な!!なぜ私だけがこんな目にあわなければいけない!?秋羅が帰ってくると思っていたらすっぽ抜かされて!!」

 

 ・・・・・・アレ?何だか話の方向ズレてきてない?

 

「あ、あのおりm「(ギロリ)」雪片先生落ち着いてください・・・・」

 

「ほぅ?更識随分と偉そうな口答えだな、ん?」

 

「そ、そんなつもりはないんですけど・・・」

 

「大体、貴様らがいちゃついてるのもいけ好かないんだッ!!」

 

「「「「「「へ?」」」」」」

 

 姉さんの発言にここにいる全員が呆れるような、説明しにくい顔になる。

 なんだろう?何か姉さんの悪い方のスイッチが入った気がする。

 

「入学した日の夜にはいちゃついてッ!!終いには付き合ってッ!!仲睦まじいカップルと噂になってッ!!2年などあっという間だろうが!!私は3ヶ月も全く会えてないんだぞ!?貴様らは私に喧嘩でも売っているのか!?」

 

「「・・・・・・・・・・・・(八つ当たり?)」」←俺、凪沙

 

 一応言っておくが、俺たちは姉さんがしているようなイチャイチャはしていない。

 

「なぁ姉さん?2年と3ヶ月じゃ2年の方が圧倒的に長いんだけど・・・・・・」

 

「ウルサァァァァイッ!!!細かい事を気にするなぁあ!!」

 

 ゴガッ!!

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!??腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!???」

 

 唐突に振り下ろされた出席簿の狙いは俺の左腕。

 いわゆる骨折しているところ。

 いつもの数倍はあろうかという力でぶっ叩かれ悶絶する俺。

 

 切られたところを抉られるような痛みが左腕に走る。

 

 いわゆる激痛。

 

「ツギハオマエダ、サラシキ」

 

「ひ、ひぃぃ・・・・」

 

「ゆ、雪片先生?もうすぐ試合の時間なのですが・・・」

 

「ふん、仕方ない。オルコットに免じて”今のところは”許そう」

 

「と、言いますと・・・・?」

 

「謹慎処分1ヶ月だ」

 

「そ、そんなぁ!!」

 

 

 

 ところ変わって壊れているところが多々あるアリーナ。

 

 な・ぜ・か・俺が簪の代わりに試合に出ることになってしまった。

 

 いや、元々クラス代表は俺だからおかしいところはないんだけどね?

 でも言わせてもらいたい。

 

 怪我人を試合に出すというのはおかしいと。

 

 姉さんがボコっておきながら身勝手にこんなことまでされてしまった。

 とりあえず秋羅兄カムバーック、姉さんどうにかしてくれ。

 

「だ、大丈夫・・・・・・?」

 

「心配してくれるのはありがたいが、ぜんっぜんだいじょばない」

 

「・・・・・・・・・そっか」

 

 試合相手となる3組の人が心配はしてくれた。

 気持ちだけ受け取っておく。

 

 ・・・・・・・・・気のせいだろうか?白騎士からも哀れまれている感覚がする。

 

 割とガチて堪えるんだよな。

 

 左腕はISのパワーアシストのおかげか動かす分には問題ないが、やっぱりブレードを振るとなると話は別で無理。

 簪から射撃反動が少ないマシンガンをインストールしてもらっていて助かったというべきか。

 まぁ、白騎士にはFCSがないから目測で撃つしかないんだけど。

 利き手でもないからまともに当たりやしないけど。

 

 ・・・・・かなしいなぁ

 

「とりあえず試合を始めようよ・・・・・・」

 

「・・・・・だな」

 

 世界は姉さんを中心に回ってるとしか思えないのが、なんだか悲しい。

 

 ・・・・・・・実際ソレに近くなってるが。

 

 

 

 

「強いわねぇ一夏」

 

「そうですわね。本当にISを動かして1ヶ月とは思えない動きですわ」

 

 あの修羅場とも言えるピットから帰還したセシリアとあたしは、二人大人しく観戦していた。

 

「そういやさ、セシリアって一夏と戦ったんでしょ?どうだった?」

 

「わたくしの逆転負けでしたわ。でも最後の一夏さんの動きはすごかったですわよ?雪片先生みたいでした」

 

「ははは、やっぱりかぁ・・・・・」

 

 やっぱり一夏は戦闘に関しては常人超えているのか、なーんて再認識。

 昔っからそうゆうのに関しては人が変わったというくらい強いけどISも例外じゃなかったってことね。

 まぁ、昔癪に触ること言われて徹底的に一夏をボコボコにしたことはあるんだけど。

 それ以来、ムカつくことをいってくるバカはいなくなったけれども。

 

「確かに一夏さんは強いお方なんですけれど、いつもはいたって普通な感じですわよね」

 

「そう?ま、中学の頃の一夏を知らないんじゃ仕方ないか」

 

「?・・・どうゆうことなんですか?」

 

 頭の上に疑問符を浮かべるセシリアに苦笑しつつ、宝物とも言える一枚の写真を取り出す。

 それはいつものメンバーで撮った物だけど、やっぱり思い出だからね。

 

 ・・・・・・・・とある人と離れていて、ツーショット写真に偽造できなくて涙を飲んだこともあるやつだけど。

 

「ここに写ってるのが一夏ね」

 

「・・・へぇ、これが昔の一夏さんですか。なんだか不機嫌そうというのか、そんな表情ですわね」

 

 やっぱりというか、そんな反応だ。

 

「まーね。というか昔、中学の時しか知らないけど、その時の一夏はいつもそんな顔つきだったわよ?」

 

「え?それじゃ・・・」

 

「セシリアが言いたいことは分かるわ。でもねそうじゃないのよ~。一夏ってああ見えて結構寂しがり屋だったのよ?」

 

「え?ほ、ほんとなんですの?」

 

「ホント。馬鹿だの失せろだの、邪魔だの言う割には、本気であたしたちを遠ざけようとしなかったのよ?

 ま、その分というのか、人付き合いはかなり悪かったわ。将来が心配になるくらいにね」 

 

 だから、普通に女子と会話したりする一夏を見てガラにもなく涙を流したんだけれど。

 それにしても一夏に好きな人がいたとはねぇ~。

 こればかりはかなり驚いた。

 だってあの女嫌いの一夏で有名だったからね。

 弾たちに言ったらどんな反応するんだろ、こんど言いに行ってみよ。

 

「ところでさ、セシリア」

 

「どうかしたんですか?鈴さん」

 

「・・・・・・・あたしたちってまともな出番今までなかったよね」

 

「・・・・・・・・鈴さん、ソレは禁句だと思いますわ」

 

 はは、やっぱりかぁ・・・・・

 

 

 

 マシンガンのマガジンを交換しつつ、相手の出方をみる。

 FCSによるロックオンできないといえ、使い方を考えれば十分使えた。

 ロックオンできないならブレードの間合いから撃ち込めばいいだけ。

 相手のISが打鉄というのと、兵装がブレードのみというのが幸いしてか、今のところエネルギー量では勝っている。

 

「せいっ!」

 

 片手で力の込められたブレードを受け止めることは難しいため、できるだけ力を分散しつついなし、脇腹へとマシンガンをお見舞いする。

 だが腕への負担を考えたためにマシンガンでは相手を硬直させるほどの衝撃力も、攻撃力もないために、すぐに離脱される。

 マシンガンがなければ負けていたかもしれないと思うと、簪には感謝しなきゃな。

 

「悪いな。左腕が使えないぶんこんな戦法しかできなくて。ホントなら本気で戦いたいんだけどな」

 

「大丈夫。むしろ本気で来られたら私が困る」

 

 そう言う割には、好戦的な感じなやつだ。

 

「そうか。ま、出来る限りで頑張るさ」

 

「この勝負勝たせてもらうから・・・・・!」

 

「ソレはこっちのセリフだって。俺だって勝ちたいんだよ」

 

 もう負けるのはごめんだ。

 というのを心の中で付け加えて。

 

「ッ!」

 

 馬鹿みたいにお互い真正面からぶつかり合おうとし、交差する直前

 

 大爆発が起きた。

 

「うぉっ!?そっちは大丈夫か!」

 

「う、うん。一応なんともない」

 

 試合相手の安否を確認すると、爆心地らしき場所をみる。

 もくもくと煙が立ち上っていてまともに見えない。

 よくよく見たら、アリーナのシールドが一部壊れていて、そこから侵入してきたことが分かる。

 それにアリーナのシールドをぶち抜くということは・・・・

 

―――――ロックされています。

 

「うわたぁ!?」

 

 咄嗟に行動できたのが幸いして、寸前のところで飛来した・・・見た所エネルギー兵器をよけれた。

 

 ったく、いきなり攻撃してくるなんてどこの不良だ。

 

 この手の襲撃とかはなれているものの、やっぱりムカつくことには変わりない。

 

 煙がようやく晴れるとそこにはISと思わしき物体がそんざいしていた。

 

「ISか?アレは」

 

「分からないけど・・・・」

 

 一言で言うなら異型の巨人というのがしっくりくる。

 2メートルはあろうかという腕、ところどころに配線されているコード類からもISとは思えないが、ISなんだろう。

 

”一夏、何があった?”

 

 こんな時だからのか、冷静になった我が姉からの通信。

 

「簡単な話しさ。どっかの誰かさんがISを送り込んできたらしい。もう攻撃してきたからに、大名義分はこっちにある」

 

”どっかの誰かさんか・・・・・・まぁいい。撤退しろ、といっても聞かないんだろう?”

 

「まぁね。大事な試合を邪魔してくれたんだ。一発ぶん殴らないと気が済まない」

 

”そう言うと思っていたよ。危なくなったらすぐに連絡を入れるんだ。直ちに救援を向かわせる。そんなところで死ぬなよ”

 

「了解」

 

 姉さんの言葉に返事をしてから、女子に向き直る。

 

「お前は避難して逃げるんだ。そのエネルギー量じゃ満足にアイツとは戦えないだろ?」

 

「でも・・・」

 

「大丈夫だ。こういう輩の襲撃離れてる。なんせ俺は暴君だからな」

 

「・・・・・分かった。気をつけて」

 

「あいよ」

 

 ピットに戻ったところを見届けてから、ISらしき、いやISに向き直る。

 

「良くも大事な試合を邪魔してくれたな兎さんよぉ」

 

 ISを好き勝手にこんなことに使えるのはあの人しか俺は知らない。

 なんだか頭が冴えているのか、ここまでの結論に至るまで時間はかからない。

 俺でも、たまにあるこんな感じの頭が冴える感覚。

 

「とりあえず、それなりの覚悟はあるんだろ?」

 

 マシンガンの残弾は200ちょい。[白雪]はまだまだ使える。

 

「ぶっ壊させてもらう」

 

 



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 第十八話

「さて、と」

 

 目の前に迫るレーザーを[心眼]の弾道予測の補助を最大限に使い避けつつ、観客席の方を見る。

 避難を終えているのか、誰一人として残っていない。

 おそらく、簪や凪沙がロックされたドアをISで壊して無理やり道を開いたんだろう。

 

 もう、時間を稼ぐ必要もないか。

 

 そう考え、数発しか残っていないマシンガンを放り投げ、[白雪]を両腕で握る。

 [白雪]の物理的じゃない重さに左腕が痛むが、気にしてもられない。

 理不尽とも言える超攻撃力を持つ零落白夜が一撃入れば終わりだ。

 

「お遊びは終わりだ。ポンコツ、機械の限界を教えてやる」

 

 [臨界]からスラスターと、[白雪]に出力過剰限界までにエネルギーを流し込む。

 [白雪]がエネルギー刀に変化していくのを確認し、瞬時加速を最大出力で吹かす。

 

 速度に気づいたのか、今までにないくらいの量のレーザーを放たれる。

 

 だがな。

 

「簪の弾幕の方が何倍も濃かったよ!!」

 

 一瞬で何十メートルもあった距離を詰め、発射準備段階だっただろう右腕を切り落とす。即座に[白雪]を翻し、振り抜く。右腕と下半身を切り落とすことに成功。

 崩れ落ちるが、本能がまだだと告げてくる。

 

―――――敵ISの再起動を確認。警告。ロックされています

 

 予想通り、まだ終わっていなかった。

 最後の抵抗と言わんばかりに、バーストモードに変形していた残った右腕を俺に向けていた。

 

「悪いが、予想はできてたよ。

 

 

 

―――簪!!やっちまえ!!!」

 

「まかせて!」

 

 敵ISの背後から俺たちがいる場所に向け、青白い光が撃たれたことを確認すると、全力でその場から退避、ギリギリで爆発から逃れる。

 煙が晴れた時には、ISだった残骸だけが残るのみ。

 

「だからいっただろう?それが機械の限界なんだよ」

 

 ”ふん、倒したか。まぁいい。戻ってこい”

 

「了解」

 

 通信を切ると俺はピットへと向かった―――

 

 

 

 

「あちゃ~。やっぱり壊されちゃったか・・・・・」

 

 世界のどこかにあるラボ。そこで一人の女性――篠ノ之束が頭を書きつつ、モニターを眺めていた。

 モニタリング先はIS学園。

 つまりISを送り込んだのは、束以外の誰でもない。

 ISの核たるコアを作れるのは束しかいないのだから。

 

「ま、あっくんが言ってたとおりだし、いいか」

 

 ぼそりと呟くと、キーボードを叩き通信を入れる。

 

「あっくん、やっぱり言ったとおりの結果になったよ。やっぱりいっくんはISに関しては天才に値するかな?あの洞察力は凄い」

 

”そうか。アイツの事だからゴーレムくらいは倒せると思っていたけどよ。戦闘はどんな感じに進んでいた?”

 

「えーっと、まずは対戦相手を逃がして観客席の生徒を逃がすために時間稼ぎ、そしてそれが終わると瞬時加速を全力で使って、零落白夜で一閃。右腕と下半身を切断できたけど、左腕が残っている。

ソレは更識簪の単一仕様能力の援護で撃破。

 気づいたかもしれないけど、一発の被弾も許していないよ」

 

”いいねぇ、初見でよくそこまでいけたな。俺でさえあれを倒したのはギリギリだったのによ。正直羨ましいかな”

 

 羨ましいという声とは裏腹に、とても嬉しそうな弾んだ声が聞こえてくる。

 よほど自分が育てた弟子がそこまで行ったのが嬉しいのだろう。

 

”やっぱりよ。あの時のより弱くしていたといえ、あっさり撃破されるってのもがっかりするだろ?あの無人ISだってお前からしたら大切な存在だろ?”

 

「・・・・・まぁそうだけどね。あそこまで強い相手と戦えて終わるならいいかなって」

 

”ま、お前がそこまで言ってくれるなら喜ぶだろうよ”

 

「・・・・ひとついい?」

 

”どうした”

 

「なんでそこに行ったの?そこには臨海学校の時に行くし、私が福音を意図的に暴走させたところだよ?特に理由があるようにも見えない。なんで?」

 

 束にとって、つい最近向かった場所は、思い深いところだ。

 上げきれないほどの思い出が詰まっている場所だが、そこまで都会でもない。

 わざわざ急いでいく必要があるとは思えないからだ。

 

”・・・・・・・いいだろう。俺にだって用事はいろいろあるのさ。2年前のフランスでも、どこにでもな。それが今回の急用ってことだ。さっさと終わらせてIS学園に行かないと、一夏が大変なことになるしな”

 

「あっくん。もう遅いよ。左腕骨折してる」

 

”・・・・・・・・・・・・・・・謝っとくか。

 あぁそうだ。お前に言っときたいことがあるんだった”

 

「何?」

 

”福音を暴走させるのはやめようと思うんだ”

 

「え?」

 

 いきなりの言葉に言葉に詰まった。

 

”一夏は凪沙と幸せにくっついてんだろ?それに9月のこともある。アイツに死なれちゃ困るんだよ。一夏が死んだら泣くやつは沢山いるはずだ。凪沙ともうまくやってるんだ。恋人にいきなり死なれるのはどれだけ辛いかわかるだろう?”

 

「え、でも・・・・・・・・・」

 

”人は死ぬときはあっさりと死ぬんだよ。お前も分かる筈だ。俺だってそれを経験したんだ。凪沙にそんな目に合わせるのはダメだ”

 

 秋羅の言い分もわからないことはない。

 束自身、恋人を失った身だ。それがどれだけ辛いことか身にしみて理解できる。

 だが、今更中止だと言われても困るだけ。

 その日に向けて着々と準備をしてきたのだ。

 今更・・・・と思うのも仕方ないだろう。

 

”安心しろ。紅椿はしっかり箒に渡せばいい。だがそのまま、あんなふうに渡すだけじゃ混乱を招くだけだ。だからIS学園で箒を鍛えてやり、第四世代機テストパイロットにふさわしい実力を付けさせればいいだけだ。だからお前は7日までに紅椿を仕上げてくれ”

 

「・・・・・分かったよあっくん。だけど1つだけお願いしていい?」

 

”なんでもいいさ。おれが出来る範囲でな”

 

「箒ちゃんのことお願い。いっくんと仲直りさせてあげて。いっくんの勘違いを直してくれるだけでもいいの」

 

”分かった。任せてくれ”

 

 通信が切れる。

 束は大きなため息を1つくと、モニターの電源を落とす。

 

「箒ちゃん・・・・・・・・・・」

 

 束が見る先には、一夏たち織斑家と箒たちの篠ノ之家が楽しそうに笑い合っている写真があった。

 

 一夏と箒。

 その手は親友という言葉では言いきれないほどの友情を感じさせるかのように繋がれていた。

 一夏は笑顔で、箒は不器用な笑みで。

 

 

 

 

 

 

 

「分かった。任せてくれ」

 

 束にそう伝えると忙しいからという嘘をついて通信を切る。

 

「・・・・・・大変だなぁ」

 

 今までも沢山しなきゃいけないことがあったけれども、これほどまでに大変だったことは一度もなかった。

 これも9月が近づいている証拠というのだろうか。

 

 見上げる先にはISの臨海学校では常連となりつつある、ひっそりと佇む1軒の旅館がある。

 やっぱり懐かしいという感情が心を満たす。

 20年ぶりかに見たのに変わっていないというのがなんとなく嬉しくもある。

 福音が暴走したり、紅椿を初めて見たり、千冬と初めてキスをしたところだった。

 懐かしくないわけがなかった。

 だが決して遊びできたわけではない。ここにあの情報が本当ならいるはず。

 そんな不確かなソレを確かめるためにここに来た。

 いればいいそんな思いが心の隅に存在する。

 いなければただの徒労でしかない。

 だが、もしいるならば。

 束が安心できるに違いない。それだけは確信できた。

 

 不意に腕時計を見る。

 

 既に30分が経とうとしていた。

 

「いない、か」

 

 ここまで時間が経っているということはいないということなのだろう。

 そう、思うしかできないと感じたときだった。

 

「よう。秋羅」

 

「・・・・・・・・・おせぇんだよ。シスコン」

 

 居た。

 織斑零夏が。

 

 

 

 凪沙が謹慎部屋に入れられたと聞き、姉さんに抗議するも案の定ボッコボコにされた次の日。

 

「・・・・・・・・・・・・・何なんだよこの書類の量は?」

 

 目の前のテーブルに積み上げられた書類の量は、向かいに座る虚さんの顔すら見えなくなるほどだ。

 なぜ、こんなに書類があるんだ・・・・・・・

 

「ごめんなさい一夏君。お嬢様があまりこの手の仕事をしなくて・・・・・・・、他にも優勝賞品や参加賞はどうなっているとかの抗議のとかいろいろ・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・凪沙、あまり仕事していなかったのか」

 

「ごもっともです」

 

 喋りつつも俺たちはペンを動かす手は止めない。そうでもしないと期限までに終わりそうにもない量があるからだ。

 凪沙に言って少しでも仕事するようにしてもらおうかなぁ・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 カリカリカリ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 カリカリカリ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 カリカリカリ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 カリカリカリ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・だぁぁぁぁぁぁぁっ!!やってられるかこんなもん!!!」

 

「・・・・・・・・・・一夏君、それ言ってしまったらおしまいですよ?」

 

「ウッ」

 

 確かに虚さんの言うとおりなのかもしれないけれども、俺はこんな仕事ははっきり言って苦手なんだい。

 細かい事が嫌いだ。これには異議は認めさせない。

 

「・・・・・・・・・・多い、ですねぇ」

 

(ぐぬぬぬぬぬ)

 

 ため息をつく虚さんは、と~~~っても大変そうだ。

 

「・・・・・・・毎日じゃなければ手伝いに来ますよ」

 

「ほんとですかッ!?」

 

 がばぁッ!!と俺に詰め寄って手を握り、ブンブンふり回され俺は、苦笑いする他なかった。

 

 

 

 

 

「久しぶりだな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・フン」

 

 それだけで言葉が続かなくなった。

 十数年じゃ聞かない長い期間を得ての再開は余りにも長すぎた。

 だが、その長い沈黙を破ったのはシスコンと呼ばれた人物、零夏だった。

 

「なんの用だ。お前がここに来たってことは探し当てたんだろうな?」

 

「・・・・・まぁ、な。最初、お前が居るかもしれないって知って確かめたくなった。今まで一夏はアンタの”生まれ変わり”だとばかり思っていたからな」

 

「一夏・・・・・・。あぁ、世界初の男性IS操縦者と言われていた奴か。確か千冬の弟なんだろ?」

 

「あぁ。性格に難アリ、だけども」

 

「難アリ?」

 

 そこに疑問を抱いたのか、零夏が怪訝な表情になる。

 秋羅からすれば、その顔もひどく懐かしい。

 

「おう。アイツはガキの頃にいろいろあってな。人とのコミが苦手なんだよ」

 

「・・・・・・・俺に似てるな。そんな所」

 

「正直、アンタにに過ぎていたから総錯覚したのかもしれないんだよな」

 

「フン、一夏という奴はもういい。ここに来た理由を教えてもらおうか」

 

 秋羅はいきなり言われ、一瞬だが言葉に詰まる。

 いざあってみれば、なんて言ってやろうか、と考えていたことがすっかり頭から抜けていた。

 

「・・・・・・・・・束に会う気はないか?」

 

 だから、単純にいうことにした。

 

「・・・ッ」

 

 束。

 その言葉で冷静な態度を貫き通していたのが崩れる。零夏にとって、束という存在は余りにも大きすぎる存在だったのだから。

 

「アイツは荒れたままだ。お前があの日死んで以来、ここでもずっとな。表面上はいつものアイツだ。だけど心の奥底じゃお前を求めてる」

 

「・・・・・・・・俺の存在はまだ教えていない訳か」

 

「そうだ。まだ教えてはいない。お前はもうアイツのことを覚えていないとか言うつもりはないよな?」

 

「そんなはずがないだろうが。俺の大切な人だったのに忘れる奴が居るか。忘れたことなんて一度もなかったさ」

 

 顔を秋羅から背ける零夏だったが、その顔は先程までの冷静だった面影はどこにもない。

 何かを、こみ上げる何かをこらえているかのようだった。

 

「なら会いに行ったらどうだ?今更遅いも何もな―――」

 

「仕事がある。帰れ」

 

 言葉を遮り立ち上がると零夏は無言で歩き出した。

 その姿は現実から目を背けているかのようだ。秋羅の記憶じゃ、こんな姿を見たことなんてなかったはずだ。

 

「9月。アンタはどうするんだ?逃げるのか」

 

「・・・・・・・・・・俺にそんな権利なんてないんだよ」

 

 それだけを言うと零夏は立ち去ってしまう。なぜかそれを止めることができなかった。

 

「・・・・・・弱くなりすぎだって」

 

 誰にも聞こえないはずなのに、ぼそりと呟いた。

 

 




これで一応一巻分は終わりです。

あと、感想をもらえるとありがたいです。


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 第十九話

二巻開始。


 無人機らしいISの襲撃を受けた日からしばらくが立ち、もう6月上旬になりかけていて、秋羅がいつの間にか帰ってきていたり、凪沙が謹慎中のあまりの寂しさゆえに一夏と生徒長権を使い同室になったりと、慌ただしくも穏やかに時が流れていたある日のこと。

 

”よぉ一夏久しぶりだな。鈴から聞いたんだけどよ、お前彼女作ったんだって?よかったなぁ!大事にしないと祟られるぞ。とゆうことで、んじゃあな。今度遊びに来いよな。じーちゃん会いたがってたぞ”

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・弾テメェ」

 

 そんなことを電話越しで言う弾だった。

 

 もちろん一夏はそれを聞いて終わりにするほど気が小さくない。

 そのため・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「弾!!テメェちょっと表出ろ!!!」

 

「ッ!?」

 

 早速殴り込みにいく一夏であった。

 

 鈴曰く「IS学園での一夏はすごい穏やかになったわね。やっぱり凪沙さんの影響かしら?」との事だが、こうゆうところは変わっていないらしい。

 

「テメェには言われたくないわ!!死に腐れェェェェェェェェ!!!!」

 

「ちょっ!?おまっ!?や、やめ―――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA

AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

 

 

 

 

 

「よう一夏。元気にしてたか?」

 

「まぁ、元気にしてたよ。最初は死にたくなるほど嫌だったけれど」

 

「ははっ!女嫌いの一夏じゃあ無理ねぇな」

 

 弾を気が済むまでボコボコにしてからしばらく、厳さんが厨房の奥から出てきて、そのいかつい顔でニイッと笑う。80歳を超えているのにも関わらず肌は浅黒く腕も筋肉隆々であり中華鍋を一度に二つ振れるほどの剛腕の持ち主で、その腕から繰り出される拳骨は金属バットで殴られたかと思うほど、しかも歴戦の戦士(というか歴戦の戦士そのまま)と見間違うほどいかついため、秋羅兄でもビビるほどだ。が、見た目に反してかなり優しい。孫娘の蘭には顕著だ。

 昔から要してもらっているから感謝はしているが、恥ずかしいから一度も言ったことがない。

 ちなみに二つ名を持っているらしく、生きる伝説らしい。

 

 噂じゃ、味方部隊が全滅し、銃は弾がれ武器はサバイバルナイフ一本。その上近くには300を軽く超えるアメリカの歩兵部隊を、たったひとりで撃退して生き延びたのだとか。

 普通なら諦めるような状況だが、当時結婚したばかりの妻をひとりにさせるかぁぁぁぁ!!根性決めたらしい。

 最強すぎて笑える。

 

「そういやお前さんなんか悠一に似てるな。身内か?」

 

 不意に凪沙の方を見てそう呟いた。確か楯無さんの昔の名前がソレだったっけな。

 予想通りというのか、凪沙は自分の親の名前を言われて困惑していた。それが初対面ならなおさらだろう。

 

「えっと、お父さんがその名前ですけど・・・・・・」

 

「ほぉー、悠一の娘か。そう言われるとほんとににてるなぁ」

 

 そりゃ子供なんだから似るだろと、突っ込みたかったが瞬時に止める。

 本音と虚さんと翔太さんがいい例だった。超好戦的な戦闘狂とも言える性格は少しは遺伝しているものの、容姿に関してはこれっぽっちも似ていない。本音なんかそうだ。

 

「あの、お父さんとはどんなご関係で・・・・・・・?」

 

「おっと、わりいわりい。俺は悠一の、そうだな、簡単にいえば師匠ってとこだな」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハイ?」」←俺、凪沙

 

 あまりにも唐突に言われたことに頭が付いていかない。

 

「オイオイ。そこまで驚く事もねぇだろう?」

 

「いや・・・・・・・・・・」

 

「だって、ねぇ・・・・・・・・」

 

 凪沙と顔を見合わせた。驚かなかったらなんと言うのか。

 だって神でも超えれないような壁を越えちゃってるような、キチガイじみた戦闘能力(+子供のような心)を持ってる楯無さんだぞ?

 怒らせたら場合帰ってきた人は皆廃人になるって言われているし、瞬間移動が出来るとか、かめ○め波をできるとか、ISと生身で戦闘して無傷で帰ってきたとか、握力が200超えてるとか、5~6mは軽くジャンプする、高校生で熊をぶちのめした、サバイバルナイフ一本でアマゾンのジャングルに放り出され生きて帰ってきたetc、色々言われてるあの人に師匠がいたなんて信じられない。

 普段はゲーム廃人だけど。

 

 つまり人の皮を被り、日本語をしゃべる何かという人が世界NO1じゃないなんておかしいということ。

 

 ・・・・・・・・・・あれ?となると楯無さんを完全にてなずけてる(間違いではない)瑞樹さん(凪沙のお母さん)って一体何者・・・・・・・・・? 

 

「げ、厳さん?もし楯無さんと戦ったらどうなる・・・・・・?」

 

「ん?アイツ襲名したのか。えーっと、あいつと戦った場合か?ふん、楽勝だ。あんな餓鬼1分もあればぶちのめせる」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・(°д°)」」←俺、凪沙

 

 開いた口が閉じれないというのはこのことを言うのだろうか。

 

 厳さん、アンタ本当に80超えてんの?ごまかしていないよな?

 

 そう、心の底から言いたい。

 30代後半の働き盛りの男に圧勝する老人て一体・・・・・・・

 

「にしてもアイツの子供に会うなんてなぁ。俺も年取ったな。2、3歳の餓鬼んときからの付き合いだったけど、やんちゃだった」

 

 思い出に耽るのはいいのだけれど、今も十分やんちゃです。

 

 DS片手にポケ○ンにのめり込むくらいには。

 

「あぁそういや。翔太(本音のお父さん)のことも鍛えてやったっけな」

 

「「ッ!!??」」

 

 

 

 

 

 

 某更識邸。

 

「「ぶえっくし!!!」」

 

「あらあら。貴方風邪でも引いたの?」

 

「翔太さん大丈夫?」

 

「「ズズッ。大丈夫だ(だよ)」」

 

 同じ師匠に育てられた彼らはある意味、似たもの同士なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「んでよ?アイツは俺のことクソジジイ呼ばわりして何度ボコボコにしたか数えたらキリがねえなぁ」

 

「へぇー」

 

「クソジジイってもまだ働き盛りだったんだぞ?向かつくったらありゃしねえ」

 

「それは・・・そうだなぁ」

 

 なんだか外がうるさいが、それを気にしなくなるほど興味深い話をしてくれる厳さん。

 楯無さんの過去ともあってとっても面白い。

 

「弟子にしてやったときは一番大変だったな。家ん中荒らされまくったんだよ。缶ビールなんか全部振られていて飲めたもんじゃなかった」

 

「うわあぉう」

 

「・・・なんていうか楯無さんまんまだな」

 

「だからムカついてアマゾンのジャングルに放り出してやったんだ」

 

「「!?」」

 

「2週間くらいたったのかねぇ、ぼろっぼろの状態で寝泊まりしていたホテルに帰ってきたんだよ。これでもかって言うほどな。聞いたところじゃ、サソリやアナコンダ、それに肉食動物に襲われたらしい」

 

「さ、さそりっ!?へび!?」

 

 凪沙ってそうゆうの苦手だったっけな。

 

「というか、よく生きてかえってきたな」

 

「それか?俺をぶん殴りたいから必死こいて帰ってきたらしいんだよ。ま、返り討ちにしたけど」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 そこはせめて殴られてやろうよ厳さん。

 隣の凪沙も同じような顔をしていた。

 

「まぁな、俺にも慈悲はあるから東京の高級寿司屋で好きなだけ食わせてやったがな」

 

「そのままじゃ終わらせてないよな?」

 

「たりめーだ。諭吉が何人もすっ飛んだのにムカついて修行を厳しくしt―――」

 

「―――おっさん!!腹減った!おごってくれ!!」

 

「黙れクソガキ!!」

 

 いきなりのれんをくぐって現れた数馬は偉そうなことを言っていた。

 礼儀に厳しい厳さんが許すはずも無く、

 

 スコーン!!といい音を立てて

 

「ごうっ!?」

 

 額にお玉が直撃していた。

 

 うん。やっぱり厳さんは80超えてると思えない。

 

 

 外の太陽はいつの間にか真上にあった。

 

 

 

 

「あぁ、疲れた・・・・・・・・」

 

 モノレールの窓から見える空はすっかり夕焼けに染まっていた。

 

「でも、楽しかったね。お父さんの意外な一面も知ることができたし」

 

「最初は聞けるなんて思いもよらなかったけどな」

 

 やっぱり楯無さんの過去を聞けたのは新鮮だったし、意外な一面もたくさんあった。

 ただ・・・・・・・

 

「やっぱり、問い詰められたのはさすがに堪えるよ・・・・」

 

「苦手だもんね、一夏はああゆうのは」

 

「まぁな・・・・・・」

 

 やっぱり一斉に問い詰められるのは勘弁してもらいたかった。いくらなんでもアレにはなれそうにもない。というか集団行動すら俺にとってきつい事だ。

 

 ・・・・・・アレ?俺って社会不適合者?

 

 と、とにかく厳さんが凪沙との関係を聞いてこなかったらこうはならなかったはず。数馬は知らなかったらしいし。

 凪沙が俺の彼女だと知ったアイツ等の勢いは凄かった。やれキスはしたのか、ハグはしたのかなどなど。プライベートに関わりそうなことまで聞いてきやがった。

 もちろん教えてなんていない。つか教えない。その必要性がない。

 厳さんなんて「一夏に春が来た!!お祝いだ!好きなだけ食ってけ!!」なんて言い始めるし。

 困惑する俺に比べて、凪沙はまんざらそうでもなかったり。

 周りの客もお祭り騒ぎでやりたい放題騒いでいて、何がなんだかわからなくなったりもした。

 

「騒がしいのは嫌い?」

 

「いや、嫌いじゃないけどさ・・・・・・・」

 

 まぁ、騒がしいのは嫌いじゃないが、そこまで好きという訳でもないというのが本音。

 更識家の人たちも十分騒いでいるのだけれども、なぜか更識家の人たちとは普通にはしゃぐことができてはいた。

 この違いがよくわからないところだ。

 

「いい人たちだったね。すごい楽しかったよ」

 

「そうかぁ?あの馬鹿どもは」

 

 ニコニコしながら言う凪沙は本当に楽しかったと、体全体で表現しているようにも見える。

 

「馬鹿どもは余計。すごい一夏の事慕っていたよ?」

 

「むぅ」

 

 確かに凪沙のいうことも一理はある。

 アイツ等に言ったことはないけれど、アイツ等に精神的に助けられていたのは事実だ。でも、なんか面と向かって礼を言うのはなんだか癪だ。

 というか、喧嘩慣れしているとんでもない奴と半ばそう思われている俺には似合わないはず。

 

 ・・・・・・今思えばやり過ぎたかもしれない。

 

「友達は大切にしないとね」

 

 ニッコリと穏やかに言われる。

 

「・・・・・・・・・・おう」

 

 優しく微笑む凪沙の笑顔の笑顔は、思わず見とれてしまいそうなほど綺麗だった。

 

 

 

 

 

 

「このクラスに転校生がきました!なんと二人です!!」

 

 転校生

 

 そう聞いた一組の生徒が一斉にざわつく。年頃となれば転校生が珍しく感じるのだろう。

 だが一夏は対照的にいつもと変わらない様子だったが。

 他にも、担任である千冬は事前情報があったために今更驚くこともなく、椅子に座って傍観している。

 急遽一組に第2の副担任として配属された秋羅など、教室後方に設置された椅子に座り、机に突っ伏しながら爆睡していた。呑気なやつである。

 

「入ってきてください!」

 

 そう真耶が声をかけると転校生と思わしき人物が2人入ってきた。

 一人は金髪の髪を首元で束ねた中性的な容姿を持ち、その佇まいからは「いいとこ育ちなんだろうなあ」と思わせるような雰囲気をまとっている。

 そして残る一人は銀髪に軍用と思わしき眼帯で左目をかくしていて、どこか軍隊の匂いを漂わせていた。ぴしっと立っているその姿はゆらぎもしない。

 

「シャルロット・デュノアです」

 

 金髪の少女が口をひらいた。

 

「初めての日本なので不慣れなところがあるので、どうかよろしくお願いします。

僕の夢は―――」

 

 いきなり夢を語ろうとするところに多少の疑問を覚える生徒はいたが、それを指摘するのはいない。

 シャルロット。そう名乗った少女はちらりと千冬を、何故か親の仇を見るように睨んだあと、教室の後ろで眠りこける秋羅のことを優しく見つめる。

 

 千冬を睨んだ時点で何かある。そう思った一夏。

 

「―――僕の夢は、秋羅お兄ちゃんのお嫁さんになることです」

 

 とんでもない爆弾を放ったシャルロット。

 

 平穏な日常は当分来ないんだと、本能で理解できた一夏だった。 




一夏たちが厳さんと話し込んでいるその頃。

「お兄に取り付く悪い虫め!!お兄に話しかけるな近づくな!!!お兄が汚れるっ!!」

「ああぁん?蘭には言われたくないわねぇ。ブラコン猫被り!!」

「お、お前ら落ち着け・・・・・・」

「お兄はちょっと黙っていて?このクズ虫をやっつけるから」「弾!!アンタは黙ってなさい!!」

「あ、えと、はい」

「とっとと失せろクズ虫!!」「死ねぇ!!ブラコン猫被りィ!!」

 わーわー!!ぎゃーぎゃー!!

「・・・・・・・・・俺もうシラネ」

 とてもとても重度なブラコンの蘭と、弾とくっつこうとする鈴。
 そして異常な鈍感で、二人の気持ちなんてこれっぽっちも理解していない弾

 さすが、Tha スケコマシ、タラシと言われる弾であった。



 キャラ紹介(簡易版)

 雪片秋羅

 千冬の現夫で暴走した千冬を止めることができる数少ない人物。
 千冬のためなら日の中水の中!!やれって言うなら生身で宇宙にでも!と豪語してやまない。
 本人曰く「千冬がいればなんでもできる」 



 五反田弾

 喧嘩はそこそこといったところの実力。強いわけでもないが弱くもない。
 原作弾+原作一夏のタラシを掛け合わせた感じに、多少アレンジを加えた性格。いじめられていた鈴を助けたのが弾。
 妹に弱い。

 御手洗数馬

 チャラチャラしてるけどたいしてチャラくない今時の不良。
 でも、見た目だけの不良と違いそれなりの実力がある。
 自称一夏の親友。
 一夏自信は結構助かっているもよう(あくまで一夏の心の中で)

 五反田厳

 史上最強の人物。とても80歳には見えない。
 とっても一夏を気遣ってくれる面倒見がいい優しい人。
 ただ切れさせると人生お先真っ暗。
 最強という言葉がこれでもかと似合う人物。

 五反田蘭

 超ブラコン。
 兄のためなら平気で命を捧げる。
 弾に近づこうとする鈴とは犬猿の仲。


 シャルロット・デュノア

 男装させされることはなく、普通に転校してきた。
 いきなり秋羅の嫁になるという爆弾を放ったとんでもない人物。
 千冬と犬猿の仲になりそう、というかそうなる。


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 第二十話

記念すべき(?)更識さんちの日常第二弾です。

ここまで更識家をギャグ一家にした二次創作はないと断言できそう。


 極東と呼ばれる小さな島国の某所に建つ、日本でも屈指の豪邸。

 そこには古より日本の裏を支えてきた、更識家が住まいとしていた。

 更識の当主は代々”楯無”の名を受け継ぎ、楯無の名をもってして更識家を束ねる。

 そして16代目となる現当主の楯無もまた、自身の妻とともに部下たちを絶対なるカリスマ性で束ねており、部下たちからの信頼もまた高い。

 16代目楯無はそれだけでは終わらない。

 武芸にも抜きん出た実力を保有しており、その強さは人をも超えると言われ、全てにおいて歴代最高の楯無とされている。

 だが、いくら優秀とは言え結局のところは人でしかないため欠点など探せばさがすほどある。ここで挙げるなら、よく言えば考え方が柔軟、悪く言うならば子供っぽいところがそうだ。

 そんな当主を持ちながらも更識家は、代々仕える布仏家とともに暗部の家とは思えないほど賑やかに、日々を送っている。

 

 が、結局の所ぶっちゃけてしまうと、古より日本の裏側を支える対暗部用暗部(笑)更識家(馬鹿共の集まり)ということに集結されてしまうのである。

 更識家に住む者(男ども)は見た目は大人、心は子供、その名も~~で基本説明できてしまうのであった。

 

 そして今日も現楯無(歴代最高の救いようのない大馬鹿)による会議が始まろうとしていた。

 

 

 

 

「諸君。皆手元に資料はあるな?これより会議を始める」

 

 更識家の一角にあるとてもとても大きなホール。

 そこに更識家、布仏家全員が集まり厳格な雰囲気が漂っている。何故か薄暗い。

 そんな中、楯無はステージの上で普段のおちゃらけた様子もない、キリッ(`・ω・´)(ドヤ)と立っていた。そしてスーツをきっちり着込む本格仕様。

 

[ハッ!]

 

 そして男たちも楯無に向けひざまづく。

 何処かのアブナイ宗教のように見えるが、これがれっきとした更識の会議だ。

 きちんと後方には女性陣もおしゃべりしながら居る。

 

「よろしい。では、手元の資料を見てくれ。まずは目次だ。今回の議題は3つ―――」

 

 

 全員に配られた資料に書かれている目次それは。

 

 

 一つ、ポケモンで一番可愛いのはどのポケモンか。

 

 一つ、なんか一夏くんと凪沙が晴れてくっついたらしい。

 

 一つ。、じゃあ、子供の名前どうする?

 

 

 なんかもう更識家大丈夫かと言いたくなるような内容だが、安心して欲しい。

 やるときゃやるのである。

 

 ・・・・・・そのやる時というのはほとんど来ないが。

 

 

 

「ポケモンが世に出て早17年!!アニメ、カード、様々なるゲームにポケモンは存在する!!大人だろうと楽しめるそれはもはや神ゲーと呼ぶのにふさわしい!!そこで我々はッ!!最強に可愛いポケモンを決めようではないかッ!!諸君、どんどん上げていけ!!そして決めるのだ!!」

 

「ブイゼル命!!」

 

「いやいやいや!!ポッチャマじゃなかったらなんと申す!!

 

「ハァ!?てめーは何を言ってんだよ!!ポケモンで一番なのはプリンだろうがッ!!あの歌っている姿を見てみろ!癒されるぞ!!」

 

 数分後。

 ホールは混沌を極めていた。

 胸ぐらつかみあげ怒鳴るもの、ガンの付け合いをするもの、自分の意見を押し通そうとするもの。

 皆が皆好き放題やっているおかげで、既に会議とかそういう概念はどこにもない。おそらく宇宙の彼方のブラックホールにでも飛ばされたのだろう。

 既に会議というレベルを超えている。

 一方男どもが好き放題やっている中女性陣といえば・・・・・・

 

「一夏くんと凪沙ちゃんがくっついたんですね~」

 

「いやぁー青春ですね~」

 

「ですね~。お似合いでしたからねぇ二人は」

 

「どっちがリードしてるんでしょうね?」

 

「何言ってんの?凪沙ちゃんに決まってるわ!!」

 

「わかるわかる!!一夏くんに失礼ですけど、引っ張っていく感じには見えませんしね~」

 

「それに凪沙ちゃんってリードされるよりする側ですものね~」

 

「だがそれがいい(ドヤ)」

 

「ドヤ顔WWW」

 

「ぷはぁー!!ビールうめー!!」

 

[飲んでる!?]

 

「私の酒が飲めないっていうのか~」

 

「イヤそういう問題じゃないと思う」

 

「うるせー。あのアホどもほっとけばどーにでもなるわ。ベテラン舐めるな~」

 

[なら貰う]

 

「いいね~いいね~」

 

 なんだかんだで更識家の一員であった女性陣。でもやるときゃやるのである。主に暴走しすぎた男どもを止める事とか。

 つまりこの程度騒いだくらいじゃ止めるまでもないということである。

 

 

 一方その頃。

 

「プリンが最強というのに意義は認めん!!」

 

 という男がいたり。

 

「バカ野郎!!トゲピーが一番だ!!」

 

 反論したりする奴。

 

「アホンタラゲ!!ミュウが一番だろうが!!!!」

 

 ぶん殴って意見を通す野郎もいた。

 

「ふげしッ!?」

 

 ぶん殴られ壁に頭から突っ込むのももちろん居る。

 更識家の会議というのはこういうもので、16代目楯無になって以来一度たりとも平和的に終わったことはない。

 平和的に話し合い解決するのが会議というのにも関わらずだ。

 

「馬鹿どもが!!ポケモンで一番可愛くて最強なのはピカチュウに決まっているのだ!!!」

 

 ステージの上に立ち、マイク片手に熱演中の人物が一人。

 司会であるはず楯無だった。

 司会がこれじゃあ、まとまらないのも無理はないはずだろう。現に凪沙が面白半分で司会をやったときは面白いくらいに平和に終わったのだから。

 

「ッ!?貴様!何を言うか!!」

 

 もはや、当主に敬意を払うということはない。

 

「さっきから聞いていれば何をしている貴様らぁ!!ピカチュウが一番じゃないと言うのならば何が一番なんだ!?現にアニメでも前作通して出演中だろうに!!サトシ君が最初にもらったのもピカチュウだ!!意義は認めん!!」

 

「卑怯だぞ!!司会のくせに調子に乗るなよ!!!」

 

「は!?司会とて参加者だ!!発言の自由があるのだよ!!文句があるなら私に勝ってから言え!!」

 

「ふざけた真似を・・・・!!いいだろう!!受けて立つ!!」

 

「フハハハハハハハハハハハッッ!!!手持ち全てピカチュウで迎え撃ってくれる!!私のピカチュウ魂舐めるな!!」

 

「だからどうした!!こっちはミュウ6匹で挑んでくれる!!!」

 

 さっとDSを懐から取り出し、ポケモンやる雰囲気じゃねえだろと言う様子で通信プレイを始める二人。

 その間にも、最強に可愛いポケモンは何かと拳と拳が飛び交う話し合い(という名の喧嘩)が現在進行形で進められていた。

 ちなみに、楯無はあまりにもピカチュウが好きすぎて、今までに発売されたピカチュウグッズはある一点を除き、全て購入済みと言う本格仕様。

 しかもそれはコレクターのごとく3つずつ揃っている。

 ある一点と言うのは生産数わずか100枚と言う超激レアのポケモンカード特別仕様のピカチュウだ。現在ソレを入手することは不可能で、もし買おうとするのならば、たとえボロボロになっていようとも1万は下らないと言われる品物。新品が見つかれは途方もない金額になること間違いなしだろう。

 

 つまり楯無は世界最強のピカチュウコレクターなのである。

 もしも、特別仕様のピカチュウカードを手に入れられるならば、100万出すと豪語してやまないのだ。

 世界のどこを探してもここまでのピカチュウ好きはいないはずだろう。

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああッ!!!???一匹も倒せないでいるだと!?」

 

「ハッ!!??出直してくるんだな!!ボルテッカー!!」

 

「うそ、だろ・・・・・・・・・・・?」

 

 モブキャラその一。完全敗北。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・さて。少し大乱闘を起こしてしまったことを反省して、きちんと会議をしようか」

 

「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」

 

 あれからしばらく、ステージ上にはボロボロの楯無がいて、ホールにはやっぱりボロボロの更識家の人物が。

 拳と拳ではなく、血を血で洗うまでに発展したのだから仕方ない。

 

 ちなみに皆が、楯無に向け誰が原因だこの野郎と睨みつけているが、平然としていた。否、気づかないようにしていた。

 やっぱり歴代最高の救いようのない大馬鹿だった。

 先代が見たら悲しむ通り越して笑うことだろう。ソレはもう盛大に。笑いすぎて泣くかもしれない。

 

「えー。続いての議題だが、三つ目だ。二人は高校生でまだ早いと思うだろうけれども、念入りに準備しても問題はない。ということで上げて欲しい。できれば男の子と女の子の両方だ」

 

 もうなかったことにしたい楯無。だがソレは叶いそうにもない。

 

「つうかよー?分家が黙ってねえんじゃね?よその訳もわからん餓鬼を婿に迎えることはどゆーことじゃあ!!なんて。そこはどうすんだ?」

 

 その質問はとてもごもっともな事だ。

 普通ならば分家や、ほかの大きい家から嫁もしくは婿を迎えるのが当たり前だ。しばらく前に来たわけのわからん顔だけの男とかがそうだ。

 しかし、楯無のやろうとしていることは、伝統と言われているものを壊そうとしている。

 ぶっちゃけてしまえば、更識家全員がそんな伝統くそくらえと唱えている。伝統なんざ頭の固い新しいことをしようともしない年寄りのすることだとすら考える始末。

 ある意味斬新な一家である。

 

「馬鹿め。そんなの知らん。子供は親の人形じゃないじゃないか。子供は親のいうことを聞いてればいいっていうのは頭の固いジジババの考えることだろうに」

 

 さらっとちょっとだけいいこと言った楯無。

 しかし、ドヤ?という表情のせいで台無しだが。

 

「お前さんがそんな事を言ってもなぁ」

 

「で?何か問題でも?第一、分家ってもあのちっちゃい家だけじゃないか。あそこの長男なんか気に食わない。凪沙を嫁にもらいたいとか身の程をわきまえて欲しいね。次男は簪を貰う言い出しやがって。ころされたいのかな?簪にはもう好きな人がいるというのにいい度胸だよなぁ」

 

 親バカ楯無ここに降臨。認めた男にしか娘を嫁にやらんという人物。

 

「オイ。ここで親バカ見せるな」

 

「ん゛ん゛!さてそろそろ案も固まったことだろう。こればかりは女性陣、も・・・意見・・・を」

 

 楯無が言葉に詰まるのに疑問を抱き、全員が後ろを向く。

 そこには・・・・・・・

 

 

 

「くぉら~。さけもってこーいなぱーむははははははああは」

 

「も、もう飲めない・・・・・」

 

「ん~?かおがあおいぞ~?」

 

「う・・・・ry(あまりにも見苦しいため削除)」

 

「うわぁ!はいてるぅ♪」

 

「あはははははははははハハハハハハハハ八八八八八八八八八八888888888888888888888888!!!!!!」

 

「馬鹿め馬鹿め馬鹿め馬鹿め馬鹿め馬鹿め馬鹿め馬鹿め馬鹿め馬鹿め馬鹿め馬鹿め!!(某エクスキャリバーのごとく)」

 

「もっと酒よこせーーーーーーーーッ!!」

 

「よわい、よわすぎるぞきさまぁ!!!・・・・・・(あまりにも見苦しいため削除)」

 

 でっろんでろんに酔いつぶれた女性陣の姿が。

 一部酔いすぎて女性としてどうかという人物もいるが。

 

「・・・・・・諸君。平和的に話し合おう」

 

「「「「「「「「「「「賛成」」」」」」」」」」

 

 

 もちろん、このあと大乱闘更識ブラザーズが開催されたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、IS学園では。

 

「貴方が愛人になればいいでしょう!?」

 

「黙れ小娘!!お前が愛人で我慢すればいいだろうが!!!!」

 

 と、少々ずれたことを言い合う教師と生徒だったり。

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!????」

 

 アイアンクローを決められて、頭蓋骨からベキベキと聞こえてきそうになっている既婚者。

 

 

「貴様が織斑一夏か。認めない、貴様など認めるものか」

 

「ヘェ?偉そうな事を言うなぁ。喧嘩なら言い値で買ってやるよ。いくらだ?ぜってぇにかってや

る」

 

「ふん。好戦的なのは嫌いじゃないな・・・・!」

 

「そうだな。俺も嫌いじゃない・・・・・・!」

 

 そして、喧嘩を起こしそうな二人がいたとか何とか。

 

 

 今日も今日とてIS学園は平和だった。

 

 一部を除く。

 



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 第二十一話

久しぶりにこっちを書いたせいで、キャラの感覚を結構忘れていた・・・・・
気を付けよう。


 お天道様が空のにのぼり、らんらんと地球を照らしているその頃。

 なぜかIS学園一年一組の教室はカーテンを締切り、薄暗い、とてもじゃないが説明し難い異様な教室に変貌していた。

 普段ならありえないのだが、一年一組にとってこんな事は序の口だったりする。

 なぜなら、

 

 あの一組である。

 

 いつもの一組である。

 

 やっぱり一組である。

 

 何が言いたいかというと、一年一組は学園きっての問題児クラスだからだ。騒動を起こすのは最近日課になりつつあり、職員会議ではいつもいつも話題に出るほどだ。

 と言うか大抵の問題には一組が少なからず関係している。

 クラスの大半を占めるのが当然ながら問題児であり、ソレをまとめるのが超問題児、いわゆる番長が1名、言わずもがな一夏である。

 そして残りの生徒はまともかといえばそうでなく、真面目そうに見えるけど本当は問題児という、準問題児というとんでもクラスである。

 ほんの数名はそうでもない生徒もいるとここに記す。

 千冬が担任だからということで、学園長が面白そうというだけでそうしたのは内緒である。

 そんなクラスだからこそなのか千冬も、麻耶もちょっとのことでは受け流せる鋼鉄の精神を手に入れたが、それがいいことなのかは誰も知らない。

 学園の教師もまた、「あぁ・・・・いつもの一組ね」と終わりにしてしまうほどまでに。一組だけで通じてしまうのだから、想像つくだろう。

 やる気になった時の統制力は軍隊もびっくりすることだろう。

 

「秋羅兄ぼころうぜ!!」

 

「「「「イェェェェェェェェェェェェェェェェイッ!!!!!」」」」

 

 異様な雰囲気の一組内。

 そこには金属バットを肩に担いだ一夏と、凪沙たちがイイエガオを浮かべて、とても原始的な拷問―――-正座して、その膝の上に石畳を乗せられるというもの―――を受けている秋羅の姿が。

 見学者に哀れみながら秋羅を眺めるラウラが、助けようともせずいる。端っこの方では未だ火花を散らしあっているシャルロットと千冬の姿が。

 ほかの生徒は今頃麻耶の先導によって、図書室にいることだろう。麻耶も成長したものである。

 

「なんで理不尽な暴力を受けなきゃいけないんだっ!!」

 

「黙れよ。(ACV主任のごとく)テメェのせいでこっちが理不尽な暴力受けたんだ。4の5うるせぇ」

 

「ちょーっとコレは」

 

「我慢の限界かなぁ」

 

「とゆうわけでぇ~」

 

「秋羅さん黙ってぼこられてください」

 

 叫ぶ秋羅をイイ笑顔で見つめる虚。一般人なら失神すること間違いなしだ。

 ちなみに、それぞれ手に持っているのは

 数年前にあまりの威力に発売禁止になったはずの、超威力ガスガン。

 インド像も・イ・チ・コ・ロ・のキャッチコピーがついたこれまた発売禁止の超電圧スタンガン。

 目が痛くなるほどの刺が散りばめられたナックル。

 そしてドクロマークの箱。

 

 警察が居たら即逮捕になること間違いなし。 

 

 本当に何がしたいのだろうか。多分2、3回は死ぬのだろう。

 

「頼むからやめてくれ!!死んじまう!!さっきから誤ってるだろ!?」

 

「おーい、秋羅クーン。誠意が足りねぇんだなぁ。わかる?誠意、せ い い。それが足りねぇの」

 

 無慈悲に許しをこう秋羅の言葉を耳に求めず、石畳を5キロほど追加。これで総重量15キロ足が可笑しくなっても不思議ではない。

 それどころかその足をかかとでぐりぐりとえぐる始末。

 ドS一夏降臨。そのあざ笑う顔は、まさしく暴君。

 

「ねぇ一夏~。さっさと秋羅さん殺っちゃおうよ。私たちの被害に比べたら軽いし、ね?」

 

「・・・・・ま、話聞くだけ聞こうか。聞くだけ」

 

「・・・・・・仕方ないなぁ」

 

 まさか生徒会長がそんなことを言うはずもないと思っていたのか、ラウラの顔が盛大に引きつった。

 だが、残念としか言い様がない。

 なにせあの楯無の娘なのだから。

 

 必殺遊人更識楯無の遺伝子を受け継いでいるのだから仕方ないのだ。あんなのが父親だったら、大人しい子供に育つわけがない。

 もし、そうなった場合奇跡である。

 

「言い残すことは?」

 

「俺は悪くないっ!!!」

 

「おい。殺っちまおうぜ」

 

「「「「イェェェェェェェェェェェェェェェェイッ!!!!!」」」」

 

「悪かった悪かったってば!!!きちんと言うから!頼むからソレを下ろしてくれ!!」

 

「「「「「チッ」」」」」

 

(舌打ちしやがったよコイツ等・・・・・)

 

 一夏の息がぴったり過ぎて、拷問されながらも呆れてしまう秋羅。今この時も石畳の重みがずっしりと来て、感覚がなくなってきている。と言うか血流が止まってもおかしくないレベルに達しつつある。

 ジリジリとゆっくり歩み寄って来られるのは、はっきり言って恐怖いがいのなんでも無い。

 

「あのな、少しだけ話聞いてくれ・・・・・」

 

 

 

 

 秋羅曰く2年前、”たまたま”フランスに出かけたら、”たまたま”子連れ女性がいきなり倒れてしまうという現場に遭遇してしまった。心優しい秋羅は、ソレを見捨てる事が出来ず救急車をよんで、女性を助けた。

 その助けた子連れの女性は”たまたま”シャルロット親子たっだ。

 病院の検査の結果癌と判明。手術すれば充分助かるが、しなければ死んでしまうという診断がくだされた。

 シャルロット親子はそこまで貧しくないものの、流石に手術代や入院費用を払えるほどの余裕はなく、ただ死ぬのを分かっていながら、何もできずにいた。

 母が死ぬという現実を受けいることが出来ず、泣きじゃくるシャルロットや、一人娘を残して天国に行こうとしている母親があまりにも見ていられず、日本円をフランスの通貨に換金してまで全額負担して、手術を受けてもらったということ。

 シャルロットと母親の姿を見て、親無しだった自分と同じ思いをさせたくなかったための行動らしい。

 そして”たまたま”シャルロットの出生について知った秋羅はデュノア社に殴り込み、デュノア社長の本妻の大量の不正を徹底的に暴き、豚箱へと問答無用に送り込んだ。

 元気になった母親は、本妻に引き裂かれた仲を取り戻し再婚、あえなかった時を埋めるかのように元気に仲良く幸せに暮らしているらしい。

 デュノア社の方も、愛妻弁当により元気ハツラツな社長のアイディアにより、とんでもない黒字をたたき出しているとか。

 フランスは安泰である。

 

 

「と、いうわけなんだよ。シャルには、泣きじゃくってる時なだめたら何か、懐かれた」

 

「・・・・・・・たまたまが多すぎるけど、いいことしてたんだなぁ。てっきり遊んでたのかと思ったよ・・・・」

 

「ど、同感・・・・・・」

 

「(ぐすっ)」

 

「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」←大号泣

 

「・・・いい話ですね」

 

 一夏の言葉が一部ぐさりと来たものの、とりあえず誤解が解けたことで一安心な秋羅。これでシスコン呼ばわりはなくなるだろうと信じたい。

 シスコン呼ばわりされる人物は既にいるのだから、もう十分。

 本音など大号泣してうるさいくらいだが。

 

 ひとつだけ注意して欲しいのは”たまたま”が多すぎるとツッコミを入れてはいけない点である。もしそんなことをした場合、秋羅が受ける羽目になったことを、代わりに受ける羽目になってしまうのだから。

 

 

「なぁ、一夏。誤解が解けたんだしさ?これ(石畳)どけてくれね?」

 

「それとコレは別だ。1時間ぐらいそうしていれば終わりにするから我慢しろ」

 

 どさくさにまぎれて助かろうとするも、けろっと普通にもどった一夏に軽く受け流されてしまう。やっぱり恨みはなくならないらしい。

 そりゃ、理不尽な暴力を数週間受け続ければ仕方ないことである。

 

「・・・・ところで、お前はもういいのか?連行されたじゃないか」

 

「・・・・あぁ」

 

 秋羅が言っているのは拷問される前のこと。凪沙に首根っこ掴まれラウラと一緒に連行されていったのだが、帰ってきてもかわりないのを疑問に抱いていた。

 ソレを今聞いてみたわけである。

 秋羅が知る余地もないが、生徒会室に連行され、お互いに責任を押し付け合い見にくかった。

 

 どんな感じかというと・・・・・・・・・・

 

一夏「おい。てめぇのせいでこうなっちまったじゃねぇか。どうしてくれるんだよ」

 

ラウラ「は?貴様何を言うか。元々貴様が喧嘩を売らなければよかっただけのことだろうに」

 

一夏「・・・・・なんだと」

 

ラウラ「やられたいのか?」

 

一夏「やってみろよ・・・・!」

 

ラウラ「やってやろうか・・・・!」

 

一夏「ドチビ!!」←身長180cm

 

ラウラ「デカブツ!!」←身長148cm

 

一夏&ラウラ「上等だ貴様ァ!!よろしい!!ならば戦争だ!!!」

 

 という具合である。

 

 どう見ても仲直りする光景ではない。

 でも、仲悪いんだか良いんだかよく分からなくもない。

 

「まぁ、大丈夫だ・・・・・・」

 

「・・・・・証拠見せろ」

 

 疑心半疑な秋羅に内心舌打ちをする一夏。

 誰があんな奴と・・・・・と思うのだが、自分のことを疎かにしておきながら、他人をいじっていると知られたら、後で何を言われるか溜まったもんじゃないのである。

 そのため、仕方なく、仕方なーく、ラウラを呼ぶ。

 

「オイ。ボーデヴィッヒ」

 

「・・・・・・なんだ」

 

 いきなり呼ばれで一瞬ビクッとなるものの、すぐに正す。隙を見せたら終わりなのだから。

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 二人の間になんとも言えない空気が流れる。

 周りにはにらみ合っているようにしか見えないが実はこのふたり、アイコンタクトで会話していたりする。

 

「(オイ。ちょっと協力しろ)」

 

「(なんで貴様に)」

 

「(後で皆がうるさいぞ)」

 

「(・・・・・仕方ない貸一だ。ちょこぷりんで許そう)」

 

「(・・・・・ぷりん好きなのか。おこちゃまねぇwww)」

 

「(ばーかばーか!!ぷりんこそ最高のスイーツに決まっている!!)」

 

「(はいはい。おこちゃまラウラちゃん?)」

 

「(ラウラちゃんいうなっ!!)」

 

 高度って言えば高度かも知れない二人の会話。

 罵り合いながらも、表情を変えないふたりはある意味超人だろう。

 

「おーボーデヴィッヒ、俺らスゲー仲いいよなぁ?なー?」

 

「あぁ、そうだなー!誰もが羨むほど仲がいいのだからなー?」

 

 ガッチガチにぎこちないものの肩を組み合い、これまたぎこちない作り笑いを浮かべる二人。

 仲悪いことが一発でわかるのだけれども、肝心の二人が気づいていないのだから意味がない。

 いっそのこと微笑ましく見えてくるほどだ。

 

「仲がいいなぁお前ら」

 

 にやーと笑う秋羅。

 そして身長差があるものの、肩を組み合い仲がいいですよアピール。やっぱりぎこちない。

 

「あったりまえだろうがー!」

 

「私たちの友情を断ち切ることは不可能だー!」

 

「なら握手もできるよな?」

 

「「ッ!?」」

 

 まさかの秋羅の言葉に固まるラウラと一夏。

 真面目な話をすると、肩を組み合うので精一杯で、もちろんお互いが嫌いなわけで、お互いの肩に回している手は、血管が浮き出るほど掴んでいるわけだ。

 手と手を重ねるのは嫌だが、覚悟を決めるしかないらしい。

 

「(やるか)」

 

「(あぁ)」

 

 二人共、後で見ていろロリコンが!!と罵りつつお互いの手を差し出す。

 

「バッキャロー!!握手ぐらいヨユーだ、ばーか!!」

 

「何、当たり前のことを聞いているんだ貴様は!!」

 

 にやーと笑う秋羅の目の前でゆっくりと、内心ふざけるなと思いつつ重ね合わせる。

 

 そして・・・・・・・・・

 

「「ふぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ!!!!!!」」

 

 どうやら限界だったらしく、お互いの手を握りつぶそうと全力を込めて握っている。途方もない握力を込めているせいか、真っ青になりつつある。

 

 仲良くなるのは、まだまだ先のことらしい。

 

 とりあえず、彼らには「喧嘩するほど仲がいい」という言葉がお似合いなのは間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園の図書室。

 そこになぜか二組の鈴の姿があった。

 

「ねぇ、アンタが篠ノ之箒?」

 

「え、あ・・・・・そうだが・・」

 

「鳳鈴音よ。鈴でも、鈴音でも好きに呼んで構わないわ。で、こっちが」

 

「セシリア・オルコットですわ。気軽にセシリアとお呼びください」

 

 鈴や、セシリアの気軽な態度に少し縮こまってしまう箒。今まで誰とも関わりは持たず、孤立した存在だったために、セシリアのようにグループの中心になるような人物に話しかけられる理由が分からない。

 クラスの輪に入れようとする人は断り続け、最近は来なくなっていたからますますのことだった。

 

「あの・・・・何か用でも・・・?」

 

「あんたねぇ、用がないと話しかけちゃダメ?」

 

「イヤ、そういう・・・ワケじゃないが」

 

「箒さんそんなに縮こまらないでくださいまし。わたくしたちはお手伝いをしたいのです。よければお手伝いさせてもらってもよろしいですか?」

 

「ちょっと待って欲しい。お手伝いって・・・何を?」

 

「あーめんどくさいわねぇ。単刀直入に言うから、耳の穴かっぽじって聞きなさい」

 

 頭を書いた鈴が、女子が使わないような言葉を言い、まっすぐと箒を見つめる。

 

「単純なことよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――一夏と仲直り、したいんでしょ?ソレをあたしたちが手伝う。それだけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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