最強国家 大日本皇国召喚 (鬼武者)
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設定集(改訂版)
大日本皇国陸軍(改訂版)


主力戦車

・46式戦車

全長 30m

全幅 10m

全高 7m

最高速度 90キロ

主砲 46式350mm滑降砲 1門

副砲 46式120mm速射砲 2門

副武装 0式車載12.7mm機銃(同軸)1基

    64式20mm機銃 1基

    97式八連装多目的擲弾投射機 2基

全長30mの我が大日本皇国が誇る最新鋭主力戦車。攻守共に最強で、陸上戦艦の名が相応しい。本戦車は都市部での運用を想定しておらず、敵陣地の突破戦や海岸線での水際作戦を目的として開発されている。一応市街戦も可能だが、住宅街が敵の攻撃よりヒドイ有様になる為、多分行われる事はない。見た目はEDF4のタイタン

 

・34式戦車

全長 10.5m

全幅 3.82m

全高 2.86m

最高速度 100キロ

主砲 64式200mm速射砲(II型では64式150mmレールガン)1門

副武装 0式車載12.7mm機銃(同軸)1基

    64式20mm機銃 1基 

10式戦車の後継車両で、世界初の第4世代戦車にあたる皇国の主力戦車。10式のコンセプトである市街地での運用を想定されており、10式を少し大きくした感じである。本戦車には基本のI型、主砲をレールガンに載せ換えたII型、後述の34式戦車改、36式機動戦車といった派生型がある。

 

・36式機動戦車

34式戦車の足回りをキャタピラからタイヤに変更したモデルで、市街地での戦闘、正確には歩兵に随伴して火力支援する目的として開発された。武装含め、最高速度以外の性能は前述の34式戦車と変わらない。最高速力は130キロ。

 

・34式戦車改

全長 12.5m

全幅 4.5m

全高 3.69m

最高速度 95キロ

主砲 34式120mm連装速射砲 1門

副武装 0式車載12.7mm機銃(同軸)1基

    64式20mm機銃 1基 

46式戦車の随伴を想定して改造された、36式戦車の派生型である。改造とは名ばかりの、殆ど新規設計な戦車で主砲が連装砲になっているのが最大の特徴である。連装砲を搭載した戦車は現代においては大変珍しく、世界中の戦車愛好家に愛されている戦車である。見た目は10式にガンダムの61式の砲塔を乗せた感じ。

 

 

多脚戦車

・XMLT1土蜘蛛

全長 7.5m

全高 2.8m

主兵装 58式90mm滑腔砲

    58式90mm狙撃砲

    58式60mm機関砲

    多連装ロケットポッド

    十二連装対戦車ミサイル発射機

    六連装短距離対空ミサイル発射機

副兵装 64式20mm機銃

    58式高周波ブレード

    8式40mm擲弾投射機

    火炎放射器

新たに『皇軍増強計画』で開発された新兵器なのだが、ぶっちゃけ失敗作である。この機体の開発コンセプトは『戦車や装甲車に代わる新しい装甲兵器』だったのだが、出来上がったのは装甲はペラペラ、操縦者を殺しかねない殺人的機動力という、正反対の物を手に入れてしまった兵器。兵装は主兵装は1種類、副兵装は2種類搭載できる。

一応試験では操縦者20人の内、半数が病院送りにされた過去を持つ。お蔵入りか資材運搬用にしてやろうかと考えていたが、生き残った操縦者からは何故か大絶賛されたので渋々少しばかり量産された。操縦者を選ぶ超玄人向けの機体だが、使いこなせれば強い。使いこなせれば、の話だが。そんな訳で試作機を表す「X」が取れてない。

 

 

装甲車

・47式指揮装甲車

全長 6.5m

全幅 3.21m

全高 2.95m

最高速度 120キロ

武装 0式12.7mm機銃 1基

   64式7.62mm機銃 2基

部隊における指揮と、情報の整理に特化した車両。武装は貧弱だが、本車の最大の武器は世界トップクラスの支援装置である。内部にはスーパーコンピューター京並みの小型化したスーパーコンピューターに加え、様々なタイプの通信機材が揃っている。ジャミングも可能であり、使い方次第で戦況を思い通りに動かせる兵器である。

 

・44式装甲車

全長 9.5m

全幅 3.4m

全高 2.86m

最高速度 155キロ

武装 

イ型 64式20mm機銃 1基、0式12.7mm機銃 2基 又は8式40mm擲弾投射機 1基

ロ型 64式20mm機銃 4基、0式12.7mm機銃 3基、8式50mm擲弾投射機 2基、対戦車ミサイル発射基 2基

ハ型 44式150mm速射砲 1門、64式20mm機銃 1基、0式車載12.7mm機銃(同軸)1基

ニ型 0式12.7mm機銃 1基

へ型 12式50mm機関砲 1門、64式20mm機銃 1基、0式車載12.7mm機銃(同軸)1基、対戦車ミサイル発射機 4基

ト型 64式20mm機銃 1基、六連装短距離対空ミサイル発射機 2基

日本軍の保有する装甲車で、派生型が最も多い兵器。

兵員輸送を行う基本タイプのイ型、歩兵部隊への短距離火力支援がコンセプトのロ型、36式機動戦車程の下位互換のハ型、様々な工作装置を搭載した工兵戦闘車タイプのニ型、野戦救急車タイプのホ型(武装無し)、歩兵部隊への遠距離火力支援がコンセプトのへ型、対空戦闘車タイプのト型、NBC偵察車タイプのチ型がある。見た目はアメリカ軍のストライカー。

 

・39式偵察車

全長 6.1m

全幅 3.4m

全高 2.96m

最高速度 160キロ

主砲 39式35mm機関砲 1門

副武装 0式車載12.7mm機銃(同軸)1基

基本的には敵陣地への威力偵察や自軍陣地の警戒、危険地帯を抜けての伝令等に使われる装甲車。重武装の装甲車としては、皇国一の機動力を持っている。

 

・40式小型戦闘車

全長 5m

全幅 2.15m

全高 2.24m

最高速度 180キロ

武装 多種多様

兵員輸送を行う乗用車タイプの装甲車で、ハンビーや軽装甲機動車にあたる車両。地雷に耐えられる様モノコック構造を採用し、装甲も12.7mm機銃には耐えられる設計になっている。武装は歩兵の扱う武器、例えば小銃やロケットランチャーを歩兵自身が身を乗り出して撃つことも有れば、M2重機関銃のような銃火器を固定することもできる。アメリカのハンビーの様に、様々な作戦や状況に応じて柔軟に対応できる様にモジュラー機構を採用している為、部隊部隊の改造が施されている。因みに年に一度、部隊対抗の改造コンテストも開かれてたりする。

 

 

車両

・高機動多目的車

全長 4.91m

全幅 2.15m

全高 2.24m

最高時速 180km

兵員の輸送、物資の輸送、サバイバルの拠点までこなす兵士達の相棒。基本の輸送タイプの他にも多数の派生型があり、各種ミサイルポッドを搭載した物、装甲が強化された物、電源車タイプ、救急車タイプ、憲兵や先導で使うパトカータイプといった感じに色々である。

 

・中型トラック

全長 5,4m

全幅 2,22m

全高 2,56m

最高速度 150km

サイズ感としては、工事現場にある4人乗りの小型ダンプカー程度の大きさ。ダンプカーモデル、救急車モデルもある。また医療コンテナの搭載で、即席の野戦病院や救急車にも早変わりする。

 

・大型トラック

全長 7.15m

全幅 2.48m

全高 3.1m

最高速度 145km

サイズ感としては、ダンプカーと同等。六輪でダンプカーモデル、給弾車モデル、コンテナトラックモデルもある。後方部隊にはレッカー車タイプもあったりして、意外とファミリーがおおい。

 

・超大型トラック

全長 11m

全幅 2.5m

全高 3.4m

最高速度 120km

サイズ感としては12トントラック。八輪でこちらもダンプカーモデル、給弾車モデル、コンテナトラックモデルの他、カーキャリアモデルがある。

 

・特型トラック

全長 23m

全幅 3.4m

全高 4.8m

最高速度 100km

十二輪駆動の皇軍最大クラスのトラック。給弾車モデル、コンテナトラック、カーキャリアタイプは勿論、戦車を運ぶ事も出来てしまう。

 

 

自走砲

・51式510mm自走砲

全長 28m

全幅 12m

全高 10m

最高速度 65キロ

主砲 51式510mm砲 1門

副武装 51式30mm機銃 2基

皇国でも世界でも最大の自走砲にして、何をとち狂ったのか海軍の大和型の主砲を流用しやがった兵器である。都市部で撃つと、最早敵を市街地ごと消し飛ばす威力の為、46式同様沿岸部の基地にしか配備されていない。

アメリカでの演習に参加した際、演習場の山が吹き飛び「頼むからもう来んな!」と言われ、以来海上にしか砲弾を撃っていない。見た目はEDF5のイプシロン自走レールガンに近い。

 

・44式230mm自走砲

全長 14.8m

全幅 4.6m

全高 4.1m

最高速度 90キロ

主砲 44式230mm速射砲 1門

副武装 64式20mm機銃 1基

旧式の31式180mm自走砲の後継車だが、不具合の発見により製造が遅れ配備が遅れた自走砲。現在では完全に置き換えられている。51式というトンデモ兵器が後輩にいる為、都市部と内陸部に配備されている。

 

 

榴弾砲

・96式160mm榴弾砲

全長 9.5 m(牽引時)

   10.7 m(射撃時)

名前の通り、1996年から使われ続けている160mm榴弾を発射する大砲。基本的にはトラックで牽引され、地面に固定して発射する。即席要塞や陣地の防衛用として用いられており、防衛時に重宝される。エンジンを搭載しており、15キロ程度の速度で自走も可能。

 

 

迫撃砲

・24式120mm迫撃砲

車両に牽引して運用される、重迫撃砲。野戦砲よりも攻撃力は劣るが、展開速度では勝る。機動戦の様な移動が鍵となる作戦では、歩兵の頼れる味方となる。因みに車体は軽榴弾砲よりもある。

 

・21式81mm迫撃砲

こちらは分解して歩兵が持ち運べるタイプの迫撃砲。24式同様、機動戦の様な移動が鍵となる作戦では、より近距離での火力支援が可能となる。

また、その傾向性の高さから空挺部隊や特殊部隊、海軍陸戦隊でも運用されている。

 

 

ロケット砲

・53式多連装ロケット砲

全長 6.8m

全幅 2.8m

全高 2.7m

最高速度 90キロ

武装 53式十連ロケット発射機 2基

副武装 64式20mm機銃 1基

起伏の影に隠れられる様、コンパクトな設計となっている。しかし計二十発のロケット弾を搭載可能で、その制圧能力は高い。見た目は75式130mm自走多連装ロケット弾発射機にM270を乗せた感じ。

 

 

ミサイルシステム

・超高高度防衛ミサイル『富士』

弾道ミサイル、隕石、エイリアンの侵略、他国の大鳥(大日本皇国特殊戦術打撃隊にて解説)にあたる兵器を迎撃する為に開発された、パトリオットミサイルの進化版的兵器。

レーダー、射撃管制、アンテナ、電源、発射機、通信の6つから構成される。レーダーと発射機は専用に開発されたトレーラーに搭載されているが、他は前述の大型トラックが流用されている。

 

 

・前線防空ミサイルシステム『桜島』

前線や拠点の防空用に使用されるシステムで、敵ミサイルを長距離から迎撃する為の38式長距離地対空ミサイル、38式が撃ち漏らした際の30式中距離地対空ミサイル、38式、30式が撃ち漏らした際の33式近距離地対空多連装ミサイル、最後の砦として31式二連装20mmバルカン砲、レーダー、電源、アンテナ、射撃管制、通信の10個で構成されるシステム。

38式、レーダー、電源、アンテナ、射撃管制、通信は大型トラック、30式と31式は高機動車、33式は富士のトレーラーを流用している。因みに33式はアイアンドームのような兵器であり、20発のロケット弾ポッドを2個搭載している。

 

 

・48式地対艦ミサイル

対艦ミサイル桜島を発射するシステム。車体は超大型トラックを流用している。

 

 

高射砲

・49式対空戦闘車

全長 10.5m

全幅 3.82m

全高 2.86m

最高速度 100キロ

武装 49式35mmバルカン砲 6門

   四連装対空ミサイル発射機 4基

副武装 64式20mm機銃 1基

34式戦車の足回りに、対空装備を搭載した兵器。武装を見て分かる様に、航空機絶対殺すマンでありレーダーに小型、軽量化した草薙システム(海軍編で解説)を搭載しており、スペックダウンは否めないが陸上では十分な能力を発揮している。

 

 

ヘリコプター

・AH32薩摩

全長 20m

全高 5.2m

固定武装 33式40mmバルカン砲 1基

搭載可能武装 翼下中型パイロン8基

      (空対艦ミサイル虎徹 、120発入り100mmロケットランチャーポッド、対戦車ミサイル旋風四連装ポッド、50mmガンポッド)

       翼端小型パイロン

      (AIM25紫電)

皇国の最新鋭攻撃ヘリコプターで、陸海空で戦闘可能なヘリコプター。しかし基本的には、対戦車ヘリコプターとして扱われている。機動力はシャイアンばりであり、アパッチやコブラよりも高い速度と機動力で戦場を縦横無尽に駆け抜ける。名前の由来は、バーサーカー藩士で戦闘民族扱いされてる薩摩藩から取られた。

 

・MH4雀

全長 9.5m

全高 3m

特殊部隊用に開発された小型ヘリコプターで、隠密作戦や先遣隊を送る時に使われる。一応、武装も可能だが使われた事は今の所ない。

 

・UH73天神

全長 23m

全高 4.3m

ブラックホークの立ち位置の中型ヘリコプター。歩兵一個分隊規模の輸送を想定して作られており、様々な部隊に配備されている。武装用のスタビウィングを取り付ける事で、MH60DAPの様な攻撃ヘリにも早変わりしたり、40式程度なら空輸もできてしまうなど、使い勝手の良い機体である。

 

・CH63大鳥

全長 40m

全高 6.8m

固定武装 12.7mmバルカン砲 2基

チヌークの立ち位置の大型ヘリコプター。二つの大型ローターで歩兵から戦車まで、幅広い戦力を輸送可能で機動展開能力に欠かせない兵器。重装甲な為、敵基地への強襲任務も可能である。

 

・OH8風磨

全長 14.3m

全高 4.2m

OH1の立ち位置の偵察ヘリコプター。OH1以上の、スホーイみたいな変態機動が可能な変態ヘリコプター(公式認定)である。どの程度かと言うと内外含め「ヘリコプターのしちゃいけない機動」と言われる程であり、某テレビ局が専門家に質問すると「本来なら墜落して、飛行停止処分になる様な機体です。パイロットなのか、機体なのか、はたまた両方が化け物染みてるとしか言えません」とも言われてる。武装はない。

 

 

歩行戦闘脚

・WA1極光

全長 1.2m

幅 90cm

全高 2.3m

武装 58式六銃身7.62mmバルカン砲

   擲弾機関銃

   火炎放射器

   電撃砲

   レールガン

   対戦車ミサイル旋風四連装ポッド

   大太刀

副武装 個人携行火器なら何でも

皇国のみで運用されている、メタルギアVのウォーカーギアに当たる兵器。二足歩行の戦闘機械であり、歩兵一人が搭乗して操作する。武装は前述の通り豊富だが、これらのうち二つまでしか搭載できない。基本的にはバルカン砲に旋風を装備している事が多い。

副武装も前述の通り個人携行火器、例えば後述の43式小銃から29式拳銃等、歩兵の装備する武器は大体装備可能。一応ロケットランチャー系も搭載可能だが、バックブラストで最悪死亡、よくて重傷を負う為オススメはしない。

 

・WA2月光

全長 2m

幅 5m

全高 8m

武装 

イ型 30式12.7mmバルカン砲 3基、対戦車ミサイル旋風四連装ポッド 1基

ロ型 30式12.7mmバルカン砲 1基、130mm榴弾砲 4門

ハ型 30式20mmバルカン砲 2基、30式30mmバルカン砲 8基

ニ型 30式20mmバルカン砲 2基、多連装対空ミサイル発射基(120発)2基

皇国陸軍、皇国海軍陸戦隊で運用される無人兵器。脚部が人工筋肉で出来ており、とてもしなやかに曲がる。壁を登る事だって出来るし、屋根の上をジャンプしながら移動できるトンデモ兵器。基本のイ型を始め、遠距離射撃専門のロ型、近距離対空戦がコンセプトのハ型、中距離、長距離からの対空戦がコンセプトのニ型とバリエーションが以外と豊富。足は折り畳めば、トラックやヘリコプターでの空輸も可能。

 

 

装甲列車

・アイアンレックス

全幅 25m

最高時速 279km

貨車

機関車 64式20mm機銃 8基 

客車、病院車 小型PLSLバルカン砲 80基

       全方位多目的ミサイルランチャー

      (艦艇用)1基

砲塔車I型 40口径250mm三連装速射砲 3基

砲塔車II型 50口径130mm連装砲 4基

      60口径70mm機関砲 8基

      60口径60mm機関砲 6基

砲塔車III型 460mm砲 1基

対空車I型 49式対空戦闘車砲塔 4基

対空車II型 垂直発射システム 40セル

母車I型 MQ5飛燕 2機

母車II型 UH73天神

JRの貨車各種

新たに皇軍が開発した装甲列車。今後の戦闘に於いては、鉄道線沿いでの戦闘も視野に入る為に急遽、皇軍増強計画の一環で開発された。車両全体がMBTの34式戦車に耐えうる装甲で覆われており、上記の貨車を連結して使用する。基本は最前線への輸送が主任務ではあるが、これだけの装甲と火力を持っているので、最前線に殴り込む事もできる。だが所詮は鉄道なので、レールを破壊されると身動きが取れなくなる。

因みに機関車の見た目はユニオン・パシフィック鉄道4000形蒸気機関車にスカートを足した見た目、つまり銀河鉄道物語の二代目改装後ビッグワンである。だが中身は最新の高出力ディーゼルエンジンとリチウムイオン蓄電池を搭載した電気式ディーゼル機関車であり、見た目が蒸気機関車なのは相手の目を欺く偽装である。因みに煙もしっかり出る。

 

 

通常歩兵、空挺歩兵装備

・機動甲冑、空挺甲冑

皇国軍の通常歩兵と空挺歩兵が使う戦闘服で、上からゴーグルがセットになってる特殊な防弾ヘルメットを装着しており、ゴーグルには地図、方角、風向き、温度、レーダーディスプレイ、残弾薬インジケーター等、言ってしまえばFPSゲームの操作画面が投影される。これに加え最大15倍の双眼鏡システム、光増式の暗視装置、サーマルも付いている。胴体及び脚部にはマッスルスーツ機能と、自己治癒能力が搭載されておりコンピューターが負傷を感知すると、負傷部分を圧迫して止血し自己回復を活性化する膜で傷口を覆う機能が付いている。

これに加えステルス迷彩機能とカメレオン機能が付いており、市街地だろうが森林だろうが砂漠だろうが、何処でも隠れたり景色と同化できる。さらにジェットパックと腕にグラップリングフックまで付いており、どんな場所でも機動戦を仕掛けられる。空挺甲冑にはこれらの機能に加え、ウィングスーツの機能とパラーシュートを装備する箇所がある。

 

・43式小銃

銃身長 330mm

作動方式 ガス圧作動方式

使用弾薬 5.56mm弾、もしくは7.62mm弾

全長 851mm (銃床最小 779 mm)

有効射程 800m以上

装弾数 40発

全軍で採用されている、皇国軍の主力小銃。重量は弾倉込みでも1.3キロと軽く、ピカティニー・レールやM LOKも標準装備されており、汎用性がとても高い。パーツも豊富で、兵士の思い思いな改造が可能である。極端な話、YouTuberの某マック堺が紹介してる様なロマン改造もできちゃう。

 

・32式戦闘銃

銃身長 425mm

作動方式 ガス圧作動方式

使用弾薬 13mm弾

全長 1008mm (銃床最小 923mm)

有効射程 800m以上

装弾数 20発

大日本皇国独自の分類の銃であり、スターウォーズのブラスターライフルの様な扱いで、一個分隊14名の内5人程度が扱っている。小銃程の連射力はない。

擬音で表すなら、小銃は「ズドドドドド、ズドドドドド」であるのに対し、戦闘銃は「ドンドンドンドンドン」みたいな感じである。

 

・42式軽機関銃

銃身長 355mm

作動方式 ガス作動式ショートストロークピストン、オープンボルト

使用弾薬 9mmライフル弾

全長 950mm (銃床最小 779 mm)

有効射程 850m以上

装弾数 200発

ベルト給弾式の分隊支援火器で他国よりも威力、精度、連射力で優れており、分隊の強い味方。こちらも弾倉込みで約3キロ程度であり、軽機関銃の中では軽い部類に入る。

 

・48式狙撃銃

銃身長 736mm

作動方式 ショートリコイル

使用弾薬 7.62mm弾、もしくは12.7mm弾

全長 851mm (銃床最小 779 mm)

有効射程 4.000m以上

装弾数 10発

皇国の保有する狙撃銃で、有効射程は4キロ弱。命中精度も高く、熟練の兵なら5キロ圏内なら百発百中である。

 

・36式散弾銃

銃身長 460mm

作動方式 APIブローバック方式

使用弾薬 12ゲージ

全長 900mm (銃床最小 827mm)

有効射程 100m

装弾数 30発

皇国の保有するショットガンで、ドラムマガジンが標準搭載されているアサルトショットガン。閉所戦や森林の様な狭い空間では、一番お目見えしたくない兵器である。

 

・33式携行式対空ミサイル

全長 150mm

誘導方式 二波長光波ホーミング(IR/UVH)

有効射程 5,000m

有効射高 4,000m

命中率、脅威の95.6%を誇る世界一の携行式地対空ミサイル。発見には目視の発見かレーダー情報が必要となるが、それでもヘリや小型機への牽制には十分すぎる性能を誇る。

照準装置は後述の機動甲冑とのリンクが可能であり、発射筒しか無いのも特徴である。勿論、照準器を装着して撃つ事も可能。

 

・38式携行式対戦車誘導弾

全長 142mm

射程 100m(ダイレクトアタック)

   250m(トップアタック)

誘導方式 赤外線画像、自律誘導

個人携行タイプの対戦車兵器で、目標は戦車などの装甲戦闘車両であるが、建築物や野戦築城、さらには低空を飛行するヘリコプターへの攻撃能力も備える。完全な「撃ちっ放し」(ファイア・アンド・フォーゲット)機能、発射前のロックオン・自律誘導能力、バックブラストを抑え室内などからでも発射できる能力などを特長とする。

発射モードは装甲車両に対して装甲の薄い上部を狙うトップアタックモードと、建築物などに直撃させるためのダイレクトアタックモードの2つを選択できる。

こちらも照準装置は後述の機動甲冑とのリンクが可能であり、発射筒しか無いのも特徴である。勿論、照準器を装着して撃つ事も可能。

 

・29式擲弾銃

作動方式 トリガー駆動

使用弾薬 40mmグレネード

全長 700mm (銃床最小 827mm)

有効射程 350m

装弾数 8発

40mmグレネード弾を発射する、八連リボルバーの擲弾銃。グレネード弾を煙幕や閃光等の非殺傷兵器や、偵察用のカメラを搭載した物等を発射できる。

 

・37式短機関銃

銃身長 225mm

作動方式 ローラー遅延式ブローバック

使用弾薬 9mm拳銃弾

全長 700mm (銃床最小 540mm)

有効射程 250m

装弾数 60発

主に特殊部隊や警察で運用されており、MP5の様な見た目をしている。取り回しが良い。レーザーサイトが標準搭載されており、命中精度も高い。改造が容易で銃身の延長と縮小、銃床の着脱や折り畳み式化等、任務や兵士のスタイルに合わせて幅広く適応できる。

 

・26式拳銃

銃身長 149mm

作動方式 セーフアクション(ダブルアクション)

     ティルトバレル式ショートリコイル

使用弾薬 5.7mm弾、9mm弾、11.5mm弾、12.7mm弾

全長 245mm

有効射程 75mm

装弾数 15発(5.7mm)、10発(9mm、11.5mm)、8発(12.7mm)

型式だけ見ると古いが、侮る事なかれ。「第二のガバメント」と言わしめる程の性能を持っており、100年近く使われる事になる傑作銃である。麻酔弾やゴム弾も使用できる特殊な機構を機関部に搭載しており、様々な状況にあった弾丸を発射可能。さらに連射も可能で、これ一つで敵を十分倒せると言わしめる程である。

 

・マイクロドローン

全長 10cm

全幅 2.8cm

全高 3cm

手のひらサイズの小型ドローンで、偵察とスキャンを行う。歩兵一人一人が必ず所持するアイテムであり、ドローンの視点と自分のHUDを同化できる。

 

・蝶

全長 50cm

全幅 50cm

全高 60cm

マルタコプター型の偵察ドローンで、ステルス迷彩が標準搭載されている。後述の蜘蛛の母機ともなる。

 

・蜘蛛

全長 25cm

全幅 20cm

全高 8cm

8対の脚を持つ、蜘蛛型の偵察ドローン。コンピューターなどの電子機器に物理的に接続し、ハッキングやデータを盗み取る事も可能。通信を中継させたり、拳銃程度ならマニュピレータで引き摺りながらも運搬できる。

 

 

装甲歩兵専用装備

・装甲甲冑

皇国軍独自の兵科である、装甲歩兵専用の戦闘服である。EDFのフェンサーみたいな兵科であり、重装甲のボディにパワードスーツ機能を搭載した脳筋装備である。上記の戦闘服は7.62mm弾を完全に無力化できる防弾性能なのに対して、こちらは20mm弾に耐えうる防弾性能を持つ。機動性は低いが、それを差し引いても余りある絶大な火力を発揮できる。例えば極光の様な装備をぶん回す事もできるし、専用武器であるガンハンマーもどきや、機械式の刃先が飛び出る槍等、とんでもない重兵器を携行できる。

勿論FPSのゲーム画面を投影するバイザーと、自己治癒能力を活性化する一連のシステムも搭載されている。民間にもパワードスーツ機能のみを搭載した物が出回っており、建設現場や災害救助時に使われている。災害救助で活躍するモデルには、アームや放水銃が搭載されていたりもする。

 

・35式七銃身5.7mmバルカン砲

作動方式 電気回転ドライブ方式

使用弾薬 7.5mmライフル弾

全長 850mm

有効射程 300m

装弾数 100,000発

装甲甲冑の代名詞的武装。とにかく重く、生身ではまず持ち上げるのすら不可能という代物。だがパワードスーツの側面も持つ装甲甲冑ならば、味方歩兵の前身を助ける弾幕の鬼へと変貌する。

 

・35式60mmオートライフル砲

銃身長 1,283mm

作動方式 ガス圧作動方式

使用弾薬 60mm砲弾

全長 1,500mm

有効射程 7,000m

装弾数 5発

普通ならフリゲート艦の主砲クラスの大物だが、装甲甲冑に掛かれば歩兵を助ける大砲となる。場所によるが、戦車をも一撃で撃退できる歩兵装備らしからぬ銃、というか大砲。

 

・35式スレッジハンマー

ロケットモーターの力で、装甲車の装甲板を凹ませる程の威力を生み出すデカいハンマー。先端の塊もアックス型、ハンマー型の2種類があり、いずれにしろ歩兵に向けてはいけない装備である。射程は短い。

 

・35式ランスガン

所謂パイルバンカー。その威力は普通に装甲車どころから、軽戦車の装甲を貫く。ただしパイルバンカーなので、射程が極端に短く取り回しは悪い。

 

・35式ヒートブレード

高周波ブレードの一種で、戦車の装甲でも余裕で切り捨てられる。ただこちらも、射程が短く本当に取り回しが悪い。だが装備としては、最も軽い。

 

・35式ビッグシールド

盾。それ以上でも、それ以下でも無い。一応、120mmクラスまでの砲撃は耐えられる。ただし、使用者が持たない。流石に吹っ飛ばされる。

 

・59式重火炎放射器

昔でこそトーチカや塹壕で猛威を振るっていた火炎放射器だが、現在では障害物や感染物の焼却処分でしか使われていない。しかし異世界では使える局面が増えたと判断され、新たに重装歩兵用に開発された。普通油で20m、専用のゲル化油なら50mは届く。

しかし皇国の技術者共は、それで終わらなかった。なんと火炎弾機能を追加し、炎を50cm台の球体にしてそれを100m先まで飛ばす事ができるようにしやがったのである。着弾後は周囲1m程度の円形の火炎を生み出す。

 

 

編成

 

分隊

◎歩兵分隊《指揮官:軍曹》

 ◯編成

  ・小銃 4名

  ・戦闘銃 4名

  ・軽機関銃 1名

  ・衛生兵 1名

 ◯車両

  ・44式装甲車イ型 1両

  ・40式小型戦闘車 3両

  ・高機動多目的車 2両

  ・WA2極光 10機

  のいずれか

 

◎重装歩兵分隊《指揮官:軍曹》

 ◯編成(装備は状況に合わせて変更)

  ・バルカン砲 5名

  ・オートライフル砲 4名

  ・衛生兵 1名

 ◯車両

  ・44式装甲車イ型 2両

  ・中型トラック 2両

  ・大型トラック 1両

  のいずれか

 

◎偵察分隊《指揮官:曹長》

 ◯編成

  ・歩兵 5名

 ◯車両

  ・偵察バイク 5台

 

◎機甲分隊

 ◯編成

  ・34式戦車I型 2両

 

◎重機甲分隊

 ◯編成

  ・34式戦車II型

 

◎偵察機甲分隊

 ◯編成

  ・36式戦車 2両

 

◎突撃機甲分隊

 ◯編成

  ・46式戦車 1両

  ・34式戦車改 2両

 

 

小隊

◎歩兵小隊《指揮官:少尉》=五個

 ◯編成

  ・小銃 20名

  ・戦闘銃 20名

  ・軽機関銃 5名

  ・衛生兵 5名

 ◯車両

  ・44式装甲車イ型 5両

  ・40式小型戦闘車 15両

  ・高機動多目的車 10両

  ・WA2極光 50機

  ・中型トラック 5両

  ・大型トラック 3両

  のいずれか

 

◎重装歩兵小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成(装備は状況に合わせて変更)

  ・バルカン砲 25名

  ・オートライフル砲 20名

  ・衛生兵 5名

 ◯車両

  ・44式装甲車イ型 10両

  ・中型トラック 10両

  ・大型トラック 5両

  のいずれか

 

◎偵察小隊《指揮官:准尉or少尉》

 ◯編成

  ・歩兵 25名

 ◯車両

 ・偵察バイク 25台

 

◎威力偵察小隊《指揮官:准尉or少尉》

 ◯編成

  ・39式偵察車 3両

 

◎本部小隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・士官 3名

  ・下士官 2名

  ・兵卒 18名

  ・医官 1名

  ・看護兵 6名

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 1両

  ・中型トラック 4両

  ・中型トラック救急車型 2両

  ・大型トラック 3両

  ・偵察バイク 2台

 

◎重迫撃砲小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成

  ・士官 1名

  ・下士官 4名

  ・歩兵 35名

 ◯車両

  ・24式120mm迫撃砲 2門

  ・40式小型戦闘車 2両

  ・高機動多目的車 2両

  ・中型トラック 3両

  ・WA2極光 4機

 

◎迫撃砲小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成

  ・士官 1名

  ・下士官 3名

  ・歩兵 26名

 ◯車両

  ・21式81mm迫撃砲 3門

  ・40式小型戦闘車 1台

  ・高機動多目的車 4台

 

◎重対戦車小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成

  ・44式装甲車ハ型 3両

 

◎対戦車小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成

  ・44式装甲車へ型 3両

 

◎支援小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成

  ・44式装甲車ロ型 3両

 

◎防空小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成

  ・44式装甲車ト型 3両

 

◎機甲小隊

 ◯編成

  ・二個機甲分隊

 

◎重機甲小隊

 ◯編成

  ・二個重機甲分隊

 

◎偵察機甲小隊

 ◯編成

  ・二個偵察機甲分隊

 

◎突撃機甲小隊

 ◯編成

  ・二個突撃機甲分隊

 

 

中隊

◎歩兵中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・三個歩兵小隊

  ・一個偵察分隊

  ・一個重迫撃砲小隊

  ・一個迫撃砲小隊

  ・一個対戦車小隊

 

◎重装歩兵中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・三個重装歩兵小隊

  ・二個支援小隊

  ・一個重対戦車小隊

 

◎本部中隊《指揮官:大尉》

 ◯編成

  ・士官 6名

  ・下士官 13名

  ・兵卒 82名

  ・医官 3名

  ・看護兵 18名

  ・主計兵 46名

 ◯車両

  ・WA1月光 30機

  ・47式指揮装甲車 2両

  ・39式偵察車 1両

  ・高機動多目的車 20両

  ・中型トラック 8両

  ・中型トラック救急車型 6両

  ・44式装甲車ホ型 2両

  ・大型トラック 15両

  ・偵察バイク 6台

 

◎偵察中隊

 ◯編成

  ・四個偵察小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 1両

 

◎威力偵察中隊

 ◯編成

  ・四個威力偵察小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 1両

 

◎重迫撃砲中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・四個重迫撃砲小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 1両

 

◎迫撃砲中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・四個迫撃砲小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 1両

 

◎重対戦車中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・四個重対戦車小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 2両

 

◎対戦車中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・四個対戦車小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 2両

 

◎支援中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・四個支援小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 2両

 

◎防空中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・四個防空小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 2両

 

◎工兵中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・士官 7名

  ・下士官 15名

  ・兵卒 150名

 ◯車両

  ・44式装甲車ニ型 6両

  ・47式指揮装甲車 1両

  ・40式小型戦闘車 10両

  ・WA2極光 20機

  ・高機動多目的車 15両

  ・中型トラック 8両

  ・大型トラック 12両

 

◎機甲中隊

 ◯編成

  ・四個機甲小隊

  ・47式指揮装甲車 1両

  ・WA1月光 5機

 

◎重機甲中隊

 ◯編成

  ・四個重機甲小隊

  ・47式指揮装甲車 1両

  ・WA1月光 5機

 

◎偵察機甲中隊

 ◯編成

  ・四個偵察機甲小隊

  ・47式指揮装甲車 1両

  ・WA1月光 5機

 

◎突撃機甲中隊

 ◯編成

  ・四個突撃機甲小隊

  ・47式指揮装甲車 1両

  ・WA1月光 5機

 

◎砲兵中隊

 ◯編成

  ・96式120mm榴弾砲 2両

  ・40式小型戦闘車 1両

  ・高機動多目的車 2両

  ・大型トラック 2両

 

◎ロケット砲兵中隊

 ◯編成

  ・53式多連装ロケット砲 2両

  ・大型トラック給弾車型 4両

 

◎自走砲中隊

 ◯編成

  ・44式230mm自走砲 2両

  ・超大型トラック給弾車型 3両

 

◎特砲兵中隊

 ◯編成

  ・51式510mm自走砲 2両

  ・特型トラック給弾車型 4両

 

◎防空ミサイル中隊

 ◯編成

  ・38式地対空ミサイル 1両

  ・30式地対空ミサイル 2両

  ・33式近距離地対空多連装ミサイル 3両

  ・31式二連装20mmバルカン砲 2両

  ・レーダー車 1両

  ・アンテナ車 2両

  ・電源車 3両

  ・射撃管制車 1両

  ・指揮通信車 1両

 

◎地対艦ミサイル中隊

 ◯編成

  ・48式地対艦ミサイル 1両

  ・電源車 2両

  ・指揮通信車 1両

  ・射撃管制車 1両

 

◎医療中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・医官 5名

  ・士官 3名

  ・下士官 6名

  ・看護兵 30名

  ・衛生兵 50名

  ・歩兵 54名

 ◯車両

  ・44式装甲車ホ型 6両

  ・47式指揮装甲車 1両

  ・40式小型戦闘車 8両

  ・WA2極光 10機

  ・高機動多目的車 25両

  ・中型トラック 5両

  ・中型トラック救急車型 15両

  ・大型トラック 10両

  ・偵察バイク 4台

 

◎補給中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・士官 6名

  ・下士官 12名

  ・歩兵 108名

 ◯車両

  ・高機動多目的車 60両

  ・中型トラック 50両

  ・中型トラックレッカー車 10両

  ・大型トラック 30両

  ・大型トラックレッカー車型 5両

  ・大型トラックコンテナトラック型 20両

  ・大型トラックタンクローリー型 15両

 

◎整備中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・士官 6名

  ・下士官 12名

  ・歩兵 108名

 ◯車両

  ・高機動多目的車 60両

  ・中型トラック 30両

  ・中型トラックレッカー車 20両

  ・大型トラック 15両

  ・大型トラックレッカー車型 10両

  ・大型トラック戦車牽引型 5両(機甲部隊のみ)

 

大隊

◎歩兵大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成

  ・一個本部中隊

  ・三個歩兵中隊

  ・一個工兵中隊

  ・一個偵察中隊

  ・二個威力偵察小隊

  ・二個重迫撃砲中隊

  ・二個迫撃砲中隊

  ・三個対戦車中隊

  ・一個重対戦車中隊

  ・三個支援中隊

  ・一個防空小隊

  ・三個補給中隊

  ・一個整備中隊

 

◎重装歩兵大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成

  ・一個本部中隊

  ・三個重装歩兵中隊

  ・一個工兵中隊

  ・二個偵察小隊

  ・三個威力偵察小隊

  ・一個重迫撃砲中隊

  ・一個迫撃砲中隊

  ・二個対戦車中隊

  ・二個重対戦車中隊

  ・二個支援中隊

  ・一個防空小隊

  ・三個補給中隊

  ・一個整備中隊

 

◎機甲大隊

 ◯編成

  ・本部中隊

  ・三個機甲中隊

  ・二個重機甲中隊

  ・二個偵察機甲中隊

  ・一個威力偵察中隊

  ・四個補給中隊

  ・三個整備中隊

 

◎突撃機甲大隊

 ◯編成

  ・本部中隊

  ・五個突撃機甲中隊

  ・二個重機甲中隊

  ・二個偵察機甲中隊

  ・二個威力偵察中隊

  ・四個補給中隊

  ・三個整備中隊

 

◎本部大隊《指揮官:中佐》

 ◯編成

  ◯編成

  ・士官 20名

  ・下士官 80名

  ・兵卒 460名

  ・主計兵 180名

 ◯車両

  ・WA1月光 120機

  ・47式指揮装甲車 15両

  ・39式偵察車 8両

  ・高機動多目的車 60両

  ・中型トラック 25両

  ・中型トラック救急車型 16両

  ・大型トラック 60両

  ・大型トラックコンテナ車型 20両

  ・偵察バイク 20台

 

◎重迫撃砲大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・五個重迫撃砲中隊

 

◎迫撃砲大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・五個迫撃砲中隊

 

◎重対戦車大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成 

  ・一個本部小隊

  ・六個重対戦車中隊

 

◎対戦車大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成   

  ・一個本部小隊

  ・六個対戦車中隊

 

◎支援大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・六個支援中隊

 

◎防空大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・六個防空中隊

 

◎工兵大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成

  ・一個本部中隊

  ・三個工兵中隊

  ・一個重対戦車小隊

  ・二個対戦車小隊

  ・一個重迫撃砲小隊

  ・一個迫撃砲小隊

 

◎砲兵大隊

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・三個砲兵中隊

  ・一個補給中隊

  ・一個整備中隊

 

◎自走砲大隊

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・三個自走砲中隊

  ・一個補給中隊

  ・一個整備中隊

 

◎ロケット砲大隊

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・三個ロケット砲中隊

  ・一個補給中隊

  ・一個整備中隊

 

◎特砲兵大隊

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・三個特砲兵中隊

  ・一個補給中隊

  ・一個整備中隊

 

◎補給大隊

 ◯編成

  ・六個補給中隊

 ◯車両

  ・超大型トラックコンテナトラック型 30両

  ・超大型トラック給弾車型 40両(機甲・砲兵部隊のみ)

  ・特型トラックコンテナトラック型 20両

 

◎整備大隊

 ◯編成

  ・六個整備中隊

 ◯車両

  ・超大型トラックカーキャリア型 40両

  ・特型トラックカーキャリア型 15両

  ・特型トラック戦車牽引型 30両(機甲・砲兵部隊のみ)

 

 

連隊

◎歩兵連隊《指揮官:大佐》

 ◯編成

  ・一個本部大隊

  ・二個歩兵大隊

  ・二個工兵中隊

  ・六個偵察小隊

  ・一個威力偵察中隊

  ・二個重迫撃砲大隊

  ・二個迫撃砲大隊

  ・六個重対戦車中隊

  ・一個重対戦車大隊

  ・一個支援大隊

  ・一個防空中隊

  ・二個医療中隊

  ・一個補給大隊

  ・一個整備大隊

 

◎重装歩兵連隊《指揮官:大佐》

 ◯編成

  ・一個本部大隊

  ・三個重装歩兵大隊

  ・一個工兵大隊

  ・一個偵察中隊

  ・六個威力偵察中隊

  ・一個重迫撃砲大隊

  ・一個迫撃砲大隊

  ・一個対戦車大隊

  ・六個重対戦車中隊

  ・二個支援大隊

  ・一個防空中隊

  ・二個医療中隊

  ・一個補給大隊

  ・一個整備大隊

 

◎機甲連隊

 ◯編成

  ・本部大隊

  ・二個機甲大隊

  ・一個重機甲中隊

  ・二個偵察機甲大隊

  ・三個威力偵察中隊

  ・二個補給大隊

  ・一個整備大隊

 

◎突撃機甲連隊

 ◯編成

  ・本部中隊

  ・五個突撃機甲大隊

  ・二個重機甲大隊

  ・二個偵察機甲大隊

  ・四個威力偵察中隊

  ・二個補給大隊

  ・一個整備中隊

 

◎砲兵連隊

 ◯編成

  ・一個本部中隊

  ・二個砲兵大隊

  ・二個自走砲大隊

  ・一個ロケット砲大隊

  ・一個補給大隊

  ・一個整備大隊

 

◎特砲兵連隊

 ◯編成

  ・一個本部中隊

  ・五個特砲兵大隊

  ・一個砲兵大隊

  ・一個ロケット砲大隊

  ・一個砲兵大隊

  ・一個整備大隊

 

旅団

ここまでの部隊規模を自由に編成する即席部隊。基本的には例えば偵察部隊のみを集中運用した物の様な、一点特化の専門部隊を作る事が多い。稀に即応部隊や海外派遣要員として、単純に連隊以上師団未満の部隊を組織する場合もある。指揮官は准将か少将が務めるが、稀に大佐が務める場合もある。

 

師団

◎常設師団《指揮官:中将》

本土防衛を主任務とする、全ての兵科を網羅した師団。これまで歩兵師団なら機甲部隊や砲兵部隊は含まれていなかったが、この常設師団では部隊内に含まれる。第一〜第二十一師団まであり、指揮官も通常師団よりも一階級上がっている。

◯編成

 ・三個本部大隊

 ・三個歩兵連隊

 ・二個重装歩兵連隊

 ・二個機甲連隊

 ・三個突撃機甲大隊

 ・一個砲兵連隊

 ・二個特砲兵大隊

 ・五個医療中隊

 ・四個整備大隊

 ・五個補給大隊

 

◎歩兵師団《指揮官:少将》

 ◯編成

  ・二個本部大隊

  ・三個歩兵連隊

  ・二個工兵大隊

  ・七個医療中隊

  ・四個補給大隊

  ・三個整備大隊

 

◎重装歩兵師団《指揮官:少将》

 ◯編成

  ・二個本部大隊

  ・三個重装歩兵連帯

  ・二個工兵大隊

  ・七個医療中隊

  ・四個補給大隊

  ・三個整備大隊

 

◎機甲師団《指揮官:少将

 ◯編成

  ・二個本部大隊

  ・三個機甲連隊

  ・二個突撃機甲大隊

  ・四個補給大隊

  ・三個整備大隊

 

◎突撃機甲師団《指揮官:少将》

 ◯編成

  ・一個本部大隊

  ・八個突撃機甲連隊

  ・二個機甲連隊

  ・八個補給大隊

  ・六個整備大隊

 

◎砲兵師団《指揮官:少将》

 ◯編成

  ・一個本部大隊

  ・四個砲兵連隊

  ・三個補給大隊

  ・二個整備大隊

 

◎特砲兵師団《指揮官:少将》

 ◯編成

  ・一個本部大隊

  ・二個砲兵連隊

  ・五個特砲兵連隊

  ・四個砲兵大隊

  ・二個整備大隊

 

 

特殊部隊

・特殊作戦群(SFGp)

テロ対策、浸透偵察、破壊工作を行う特殊部隊。後述の飛行強襲群やレンジャー教育課程に於いて優秀な成績を収めた者を一本釣りでスカウトし、更に過酷な試験を課して篩にかけて、生き残った者が晴れて入隊を許される。

 

・冬季戦技隊

北海道や青森などの雪国に配置される特殊部隊で、スキーやスノーモービルと言った雪上での活動を専門とする部隊。第7師団を筆頭とする雪国に本拠地を持つ部隊には、多くの現役隊員が配属される。有事の際はレンジャーのような働きをする。

 

・中央特殊武器防護隊

NBC兵器に対抗する為の特殊部隊で、世界で唯一実践を経験した対NBC部隊でもある。過去2回出動しており、1995年にオウム真理教が起こした地下鉄サリン事件、2011年の東北地方太平洋沖地震における福島原発の除染作業に従事した。

 

・中央即応師団

緊急時に即応する部隊で、隊員全員がレンジャー持ちで構成される異色の部隊。一応特殊部隊扱いだが、他の特殊部隊ほど『ザ・特殊部隊』という感じではない。

 

・中央即応師団特別作戦班

中央即応師団が動く前に最前線に飛び込む部隊で、言うなれば日本版デルタフォース。隊員は中央即応師団の中でも特に優秀な者か、何かしらの特別な技能を持った者が配属される。

 

・飛行強襲群(FAGp)

隷下に空挺団を保有している他、現役の『頭狂ってる団』と呼ばれている筈の空挺の兵士達から「お前ら人間じゃねぇ!」とツッコまれる鎌倉ヴァイキングも保有している。因みに鎌倉ヴァイキングは敵艦を占領し、コントロールを掌握して敵艦を攻撃する事が仕事である。

 

・国家憲兵隊

テロ時間や警察では不可能な人質事件、暴動事件に介入する部隊。過去には他国で起きたテロ事案に対し、応援や法人保護の名目で派遣された事もある部隊。因みにフランスのGIGNとは良きライバル。

 

 

特殊な部隊編成

・一個戦闘団=規模は様々。

隊長は中将か大将が務め、特例を除き臨時に編成される。上記の部隊が混ぜられて、一つのキリングマシーンとして働く。

 

・神谷戦闘団

本作の主人公、神谷浩三の指揮する戦闘団。上記の特例に当たり、常時編成されている。有事の際は最前線に赴く即応軍の側面と、トップが長を務める為、如何なる部隊よりも柔軟な対応を取れるという強みがある。

練度は内外共に非常に高く、1人1人の練度は『一般兵以上、特殊部隊員未満』と言った所。しかし更にそこから精鋭を引き抜き編成した『白亜衆』と呼ばれる部隊は、特殊部隊すらも凌ぐ練度を誇る。一般兵は黒の機動、装甲甲冑だが、白亜衆だけは装甲カラーが白になる。その練度の高さから、通称『国境なき軍団』の異名を持つ。部隊旗は黒地に白の二本の太刀をクロスさせて、交差している部分に一梃の拳銃の銃口を向けている絵が入っている。その上に「世界中何処へでも赴く」という意味を込めて、世界地図を背にしたアリコーンが描かれている。

 

◎基幹部隊

 ◯編成

  ・三個歩兵師団『ファランクス』

  ・二個重装歩兵師団『オーレンファング』

  ・二個突撃機甲師団家『アサルトタイガー』

  ・六個特砲兵連隊『グラディエイターヴィーナ

   ス』

  ・三個対戦車ヘリコプター隊『ブラックス

   ター』

  ・特別輸送航空隊『トランサー』

  ・第206戦術戦闘飛行隊『ラーズグリーズ』

  ・第86独立機動打撃群『エイティシックス』

   ※第六十二話『新兵器と外交交渉(?)』

   以降

 

◎白亜衆

 ◯編成

  ・一個歩兵連隊

  ・一個重装歩兵連隊

  ・特別戦闘隊『白亜の戦乙女(ワルキューレ)

   ※ 第五十六話『カルトアルパス防衛戦』以降



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大日本皇国海軍(改訂版)

補給艦と特務艦については、読者様より提供頂いた案を元にしています。


駆逐艦

・浦風型草薙駆逐艦

全長 200m

幅 25m

最高速力 35ノット

機関 ガスタービン

レーダーシステム 草薙武器システム

         ソナーシステム

         各種電子戦システム

武装 62口径130mm速射砲 1基

   52式六銃身20mmバルカン砲 2基

   垂直ミサイル発射装置 96セル

   四連装艦対艦ミサイル発射筒 2基

   連装短距離艦隊空ミサイル発射筒 6基

   350mm三連装魚雷発射管 2基

艦載機 SH13海鳥 1機

    AS5 海猫 1機

皇国の保有する所謂イージス艦。登場から既に60年近く経っているものの、今日に置いても世界最強の座に君臨している。主力艦隊から国防艦隊に至るまで、数百隻以上が運用されている。本艦には艦載機運用能力があり、対潜ヘリコプターのカモメとティルトローター攻撃機である海鳥を各一機ずつ搭載している。

 

・神風型駆逐艦

全長 195m

幅 23m

最高速力 35ノット

機関 ガスタービン

レーダーシステム 天乃岩武器システム

         対空システム

         各種電子戦システム

武装 54口径100mm速射砲 1基

   52式六銃身20mmバルカン砲 2基

   垂直発射システム 32セル

   対潜ロケット 2基

   四連装艦対艦ミサイル発射筒 2基

艦載機 SH13海鳥 2機

浦風型に足りない対潜戦闘能力を補う為に作られた艦。最低限の対空戦闘ももちろん可能だが対潜戦闘が一番の任務であり、その練度は世界的見てもぶっちぎりで高い。こちらも主力艦隊から国防艦隊まで、様々な艦隊に多数配備されている。

 

 

巡洋艦

・摩耶型対空巡洋艦

全長 250m

幅 30m

最高速力 30ノット

機関 ガスタービン

レーダーシステム 草薙武器システム

         ソナーシステム

         各種電子戦システム

武装 50口径250mm連装速射砲 5基

   62口径130mm速射砲 4基

   七銃身30mmバルカン砲 6基

   52式六銃身20mmバルカン砲 8基

   垂直発射システム 128セル

   短距離艦対空ミサイル発射筒 18基  

艦載機 AS5海猫 4機

主力艦隊のみに配備されている、皇国の対空番長。「対空巡洋艦」というだけの事はあり、対空のみに特化した巡洋艦である。その能力は海外との合同演習だと、相手方のパイロットから「お願いだから摩耶クラスは出さないでくれ!」と外務省を通じて、海軍にメッセージが来るほど。曰く、「摩耶クラスが強すぎて演習にならない」

 

・磯風型突撃高速駆逐艦

全長 130.5m

幅 12.08m

最高速力 80ノット

機関 ウォータージェット

レーダーシステム 天照武器システム

         各種電子戦システム

武装 50口径130mm連装砲 3基

   600mm魚雷発射管 2基

   連装短距離艦対艦ミサイル発射機 1基

   60口径60mm機関砲 4基

高速で敵艦隊に肉薄し、ありったけの火力で制圧する「突撃戦隊」の主力艦として開発された駆逐艦。速力もさることながら、機動力と防御力も化け物染みている。例えば正面から超音速ミサイルが飛んで来ても、サイドステップで回避可能な上、トマホークが十発くらい当たってもびくともしない。最早、これを沈めるには戦艦でも出さないと無理である。

 

 

・阿武隈型突撃重装巡洋艦   

全長 192m

幅 17m

最高速力 70ノット

機関 ウォータージェット

レーダーシステム 天照武器システム

         各種電子戦システム

武装 50口径203mm速射砲 2基

   600mm魚雷発射管 2基

   三連装近距離艦対艦ミサイル発射機 2基

   60口径70mm機関砲 8基

   60口径60mm機関砲 2基

こちらも磯風型同様、突撃戦隊専用に開発された艦艇である。この艦は突撃戦隊の旗艦の役割を務める様に設計されており、突撃戦隊には必ず二隻が配備される。こちらも機動力と防御力は磯風型と同じく、化け物性能であり諸外国から恐れられている。

 

 

揚陸艦

・出雲型強襲揚陸艦

全長 248m

幅 38m

最高速力 35ノット

機関 ガスタービン

武装 20mm機関砲 2基

   十二連装近距離艦対空ミサイル発射機 2基

艦載機 SH13海猫 4機

    UH73天神 10機

    AH32薩摩 6機

    MV3海竜 8機

    F8B震電II 4機

艦載艇 LCAC 2隻

 

第八十五話『イルネティア上陸戦』以降

艦載艇 LCHH 12隻

    LCAC 1隻

    HLCAC 1隻

皇国海軍陸戦隊が運用する為に開発された強襲揚陸艦で、揚陸艦隊の旗艦を務める。揚陸艦隊の航空拠点として機能し、内部にはウェルドックを完備。LCAC、HLCAC、水陸両用装甲車を搭載可能である。また内部には手術室とICUを完備しており、重傷を負った者を手術を施した上で入院させる事も出来る。

 

・日向型揚陸艦

全長 197m

幅 33m

最高速度 40ノット

機関 ガスタービン

武装 60口径60mm機関砲 4基

   35口径30mm機関砲 8基

艦載艇 LCAC 2隻

    LCU 4隻

 

第八十五話『イルネティア上陸戦』以降

艦載艇 LCHH 45隻

    LCAC 1隻

    HLCAC 2隻

皇国海軍初のドック型揚陸艦で、高い揚陸能力を持つ。広大なヘリ甲板を有し、震電II含めた航空機の前線基地として機能する。更に内部には広大なウェルドックを有しており、水陸両用装甲車の他、多数の艦載艇を収めることができる。更にはLCAC、HLCACを搭載しない代わりに、後述のALCACを搭載し危険地帯への上陸も可能となる。

 

 

航空母艦

・赤城型要塞超空母

全長 1300m

幅 195m

最高速力 30ノット

機関 核融合炉

レーダーシステム 草薙武器システム

         各種電子戦システム

武装 連装プラズマ粒子波動砲

   45口径460mm連装砲 3基

   62口径130mm連装速射砲 40基

   60口径60mm機関砲 90基

   七銃身30mm機関砲 160基

   垂直発射システム 150セル

艦載機 F8C震電II 600機

    E3鷲目 8機

    SH13海鳥 12機

単艦でも敵艦隊を撃滅出来る様に開発された要塞空母。全長が1キロ越えという、冗談みたいな兵器で艦載機搭載数も群を抜いている。各主力艦隊に二隻配備され、艦隊の航空戦力の要となる。

本艦は電磁カタパルトが合計八つ搭載されており、二個飛行隊を一気に発艦させることが可能となっている。構造は映画アベンジャーズのヘリキャリアみたく、二層構造になっており艦橋前に主砲二基、後方に一基という配置である。因みに、世界最大の空母としてギネスに登録されてる。

 

・鳳翔型原子力航空母艦

全長 337m

幅 78m

最高速力 35ノット

機関 原子炉

武装 六銃身20mm機関砲 6基

   短距離艦対空ミサイル発射機 2基

艦載機 F8C震電II 90機

    E3鷲目 2機

    SH13海鳥 6機

ニミッツ級と同じような見た目をした、皇国の第三世代原子力空母。カタパルトに電磁式を採用し主力艦隊、防衛艦隊、どちらにも配備されている。防衛艦隊では旗艦を務める。

 

・龍驤型軽空母

全長 236m

幅 29m

最高速力 40ノット

機関 ガスタービン

武装 七銃身30mm機関砲 2基

   六銃身20mm機関砲 2基

艦載機 F8C震電II 25機

    E3鷲目 2機

※場合によっては、SH13海鳥 40機

軽空母というだけはあり、搭載機はそこまで多くない。どちらかというと、アメリカ海軍のアメリカ級と似たような運用方法となる。船団護衛や陸戦隊の上陸支援等、速度が求められて航空打撃能力が欲しい場合に重宝される。

 

 

戦艦

・大和型前衛武装戦艦

全長 263m

幅 38.9m

最高速力 30ノット

機関 ガスタービン

レーダーシステム 天乃岩武器システム等

武装 プラズマ粒子波動砲

   50口径510mm三連装火薬、電磁投射両用砲

   3基

   45口径203mm三連装火薬、電磁投射両用砲

   2基

   65口径127mm連装砲 12基

   六銃身20mmバルカン砲 52基

   垂直発射システム 234セル

艦載機 SH13海鳥 4機

    AS5海猫 3機

海軍の花形戦艦であり、皇国海軍の代名詞的存在の艦。1941年に建造された初代から基本的な構造は変わらず、武装や装甲が現代化していった艦であり、世界各地にファンがいる。

 

・伊吹型航空戦艦

全長 240m

幅 37m

最高速力 35ノット

機関 ガスタービン

レーダーシステム 天乃岩武器システム

武装 プラズマ粒子波動砲

   45口径460mm三連装火薬、電磁投射両用砲

   2基

62口径130mm連装速射砲 10基

   七銃身30mmバルカン砲 28基

   六銃身20mmバルカン砲 46基

   垂直発射システム 200セル

艦載機 F8C震電II 60機

    E3鷲目 4機

旭日の艦隊に出てくる虎狼型に近い見た目をしており、単艦でも遊撃できるように設計された航空戦艦。航空打撃能力と高い砲撃能力を保有していることから、大規模な上陸作戦時には大抵支援艦として組み込まれる。

 

・熱田型指揮戦略級超戦艦

全長 1500m

幅 150m

最高速力 80ノット

機関 核融合炉

   ウォータージェット

レーダーシステム 草薙武器システム等

武装 連装プラズマ粒子波動砲

   60口径710mm四連装火薬、電磁投射両用砲

   9基

   50口径510mm三連装火薬、電磁投射両用砲

   18基

   50口径203mm三連装速射砲 300基

   62口径130mm連装速射砲 500基

   七銃身30mmバルカン砲 400基

   六銃身20mmバルカン砲 600基

   垂直発射システム 1500セル

   十二連装近距離艦対艦ミサイル発射機 2基

   横列八連装近距離艦対艦ミサイル発射機 2基

艦載機 F8C震電II 100機   

同型艦 天之御影、大山祇、吉備津彦、建御雷神、建御名方、素戔嗚尊、倭建命

大日本皇国の武神として祀られている、神々の名を持つ戦艦。八隻が建造され主力艦隊の旗艦を務めている。世界最大にして歴代最強の戦艦であり、武神の名を持つのに相応しい戦艦となっている。他国からは「この戦艦の内、一隻でも我が国に来たら太刀打ちできない」と言わしめる。艦載機は前前作同様、宇宙戦艦ヤマト2199・2202の様に

発艦する。しかしヤマトと違い上に押し上げられ、尾部からでは無く機首方向から押し出される。因みに地球が滅びるレベルでもないと破壊できない為、撃沈は実質不可能である。

装甲材には現状、大日本皇国でしか採用していない最重要国家機密の特殊合金が採用されている。この特殊合金の製造には特定の金属をμg単位での調合、適切な温度と環境下での製造、適切な運搬方法の確立の3つをクリアして初めて使用可能となる。本艦にはこの特殊合金を数mg厚に舷側で1000層、最重要区画では1500層、甲板で850層、と言った具合に『スーパーオニオン装甲』とでも言うべき物に仕上がっている。

 

・日ノ本型総指揮大戦略級究極超戦艦

全長 3500m

幅 300m

最高速力 95ノット

機関 核融合炉

   ウォータージェット

レーダーシステム 草薙武器システム

         東郷指揮システム等

武装 三連装プラズマ粒子波動砲

   50口径800mm五連装火薬、電磁投射両用砲

   9基

   60口径710mm四連装火薬、電磁投射両用砲

   4基

   50口径510mm四連装火薬、電磁投射両用砲

   20基

   50口径250mm三連装速射砲 500基

   62口径130mm連装速射砲 1000基

   60口径70mm機関砲 600基

   七銃身30mmバルカン砲 800基

   六銃身20mmバルカン砲 1500基

   パルスレーザー砲 750基

   垂直発射システム 5000セル

   十二連装近距離艦対空ミサイル発射機 24基

   横列二段八連装近距離艦対艦ミサイル発射機 8基

   TLS 50,000基

   全方位多目的ミサイルランチャー(艦艇用)

   900基

   600mm魚雷発射管 80門

艦載機 F8CZ震電IIタイプ・極 500機

    E3鷲目 10機

    MQ5飛燕 800機

    SH13海鳥 25機

    AH32薩摩 50機

    AVC1突空 150機

艦載艇 LCAC 80隻

    LCU 80隻

    松型特戦闘艇 8隻

    無人攻撃艇『震洋』 160隻

    特殊潜航突撃艇『回天』 200隻   

かつては『仮称513号艦』として登場していた『皇軍増強計画』に於ける最大の目玉兵器であり、大日本皇国のあらゆる技術をつぎ込んで生み出した戦艦という艦種の1つの完成形である。本艦の最大の特徴は、あらゆる作戦に対応できる点だろう。この戦艦は戦艦といいながら、明らかにそれ以上の働きが可能である。まず艦載機として新開発のF8CZ震電IIタイプ・極を搭載しているし、ウェルドックを備えているので様々な任務に応じて装備を変更できる。あくまで上記の艦載艇の欄は、「ウェルドックに詰める兵器をバランスよく搭載してみた」場合の話なので、例えば全部LCACに割り振って1000隻単位で上陸作戦したりとかも出来る。無論、海軍陸戦隊の水陸両用車の搭載も可能。

またこの艦には潜水機能と艦首に搭載された決戦新兵器である、三連装衝撃波動砲という新基軸が2つ搭載されている。潜水機能は読んで字の如く、海に潜れるのだ。流石に水中雑音は大きいが、海底にじっとしていれば、船体にソーナーの音波を吸収する素材を使っているのでバレる事はない。次に三連装プラズマ粒子波動砲だが、平たくいうとヤマトの波動砲である。あの艦同様、艦首軸線砲であり、日ノ本型の正面装甲をぶち抜くどころか、さらにそのまま5隻分を貫通できてしまう化け物性能である。この砲に狙われて無事で済む物質は存在しない。

これまでこの艦の「攻」の部分を解説して来たわけだが、この艦は無論「守」も最強である。素の装甲性能は命中角度に依存するが、1発であれば衝撃波動砲を弾くことが出来るし核爆弾にも耐えうる。だがこれに加えて、これまで特殊戦術打撃隊の空中母機『白鳳』に搭載されていたAPSを搭載しているのだ。しかも性能もアップしており、天敵であったレールガンも通さない。おまけに大量のTLSを搭載しており、これを一斉に発射する事でレーザーをフェンスの様に展開できる。これを突破できる飛行物体は早々いない訳で、シュミレーションでは皇国の全航空機を投入するも遂に倒す事は出来なかった。

船体のカラーリングは船体が黒で、金色のラインが入っている。これは艦載艇の松型も同じである。他の艦載艇は全て黒のカラーリングが施されている。また艦載機のカラーリングも特徴があり、震電II、鷲目、薩摩、飛燕は機体カラーが黒色、金のラインが入り、震電II、鷲目、飛燕は右翼国籍章が。薩摩は機体下部に金の旭日旗が描かれている。海鳥は機体カラーこそ基本色の白だが、機体下部に旭日旗が入っている。

さらに突空は神谷戦闘団専用機として使用するので通常兵が乗る機体は黒の機体カラー、右翼国籍章が金の旭日旗、白で描かれた部隊章で、白亜衆用は真っ白な機体カラー、右翼国籍章が赤の旭日旗、金の部隊章で、神谷の乗る機体は他の機体以上に黒い機体カラー、金のライン、右翼国籍章金の旭日旗、金の部隊章、エンジンカウルが至極色となっている。

 

 

潜水艦

・伊900号型潜水艦

全長 87m

全幅 9.5m

最高速力 30ノット

機関 ディーゼルエンジン(浮上時)

   リチウムイオン電池(潜水時)

武装 600mm魚雷発射管 8門

   水中垂直発射システム 8基

皇国の保有する潜水艦で、静音性に優れた通常動力型としては最強の潜水艦。情報収集、通商破壊、尾行等々「隠密」の名がつく任務は何でもできる。パーツの付け替えで、特殊部隊用の小型潜水艇の母艦として機能する。その場合、水中垂直発射システムはロックされる。

 

・伊1500号型潜水艦

全長 230m

全幅 14m

最高速力 30ノット

機関 ディーゼルエンジン(浮上時)

   原子炉

武装 600mm魚雷発射管 10門

   水中垂直発射システム 80基

潜水戦隊の旗艦用に開発された潜水艦。最早、水中要塞みたいな事になっているが、熱田型とか赤城型の影響であんまり脅威に感じないけど、ある意味一番厄介な艦である。水中垂直発射システムは弾道ミサイル用にも換装可能で、常に近海に弾道ミサイルを搭載している艦が配備されている。

 

・伊2000号型潜水艦

全長 600m

全幅 128m

最高速力 50ノット

機関 ガスタービン(浮上時)

   核融合炉

武装 80口径610mm電磁投射砲 1基

   12口径300mm電磁連装砲 4基

   短距離艦対空ミサイル発射機 8基

   垂直ミサイル発射装置 58セル

   七銃身30mmバルカン砲 12基

艦載機 F8C震電II 48機

    E3鷲目 3機

新設される潜水艦のみで構成された艦隊計画、通称「紺碧計画」において空母として働く潜水艦。見た目は救済おじさんこと、核砲弾をぶち込もうとしていた狂人艦長が座乗する潜水艦、アリコーンと瓜二つである。巨大でありながら静音性に優れ、敵の潜水艦探知網を掻い潜り予想外の場所から航空攻撃、あるいは610mm電磁投射砲による各種砲弾の発射で直接攻撃を下す兵器。

 

・伊2500号型潜水艦

全長 495m

全幅 83m

最高速力 60ノット

機関 ガスタービン(浮上時)

   核融合炉

武装 12口径200mm電磁砲 4基

   短距離艦対空ミサイル 6基

   垂直ミサイル発射装置 178セル

   七銃身30mmガトリング砲 8基

   八銃身20mmガトリング砲 18基

艦載機 SH13海鳥 8機

    AS5海猫 6機

新設される潜水艦のみで構成された艦隊計画、通称「紺碧計画」においてミサイル攻撃プラットフォームとして運用される潜水艦。見た目としてはシンファクシとリムファクシに似ている。ミサイル攻撃を主任務しているが艦隊の防空と近くの偵察もこなせてしまう万能艦である。

 

・伊3000型潜水艦

全長 160m

全幅 21.6m

最高速力 60ノット

機関 ガスタービン(浮上時)

   核融合炉

武装 600mm魚雷発射管 38門

   垂直ミサイル発射装置 85セル

艦載機 SH13海鳥 4機

    AS5海猫 2機

新設される潜水艦のみで構成された艦隊計画、通称「紺碧計画」において情報収集と偵察に運用される潜水艦。見た目としては紺碧の艦隊の亀天号に近い。新たに開発された新型ソナーシステムの搭載により、全方位どこに隠れていようと探し出せる。また秘密作戦の支援にも使える様に、船体内部に小型潜水艇8隻が艦載可能。

 

・伊3500型潜水艦

全長 950m

全幅 212m

最高速力 60ノット

機関 ガスタービン(浮上時)

   核融合炉

武装 45口径460mm火薬、電磁投射両用連装砲 4基

   50口径203mm火薬、電磁投射両用砲 8基

   62口径130mm連装速射砲 12基

   短距離艦対空ミサイル 20基

   垂直ミサイル発射装置 158セル

   七銃身30mmガトリング砲 18基

   八銃身20mmガトリング砲 36基

新設される潜水艦のみで構成された艦隊計画、通称「紺碧計画」において旗艦機能と火力支援を担う潜水艦。モデルはない、オリジナルの潜水艦である。双胴の船体をしており、中々に特異な見た目をしている。主砲と副砲には新しく開発された、火薬砲にもレールガンにもなる新型砲を搭載し電磁投射砲モードになると砲身が四分割して、さながら蒼き鋼のアルペジオのハルナとキリシマの主砲みたいになる。

基本的に砲火力による攻撃を主任務としているが、大型の格納庫を有しており航空機なら空軍のVC4隼、陸軍のCH63大鳥、F8B震電IIを搭載でき、喫水線近くにはウェルドックも搭載しており、海軍陸戦隊の水陸両用車やボートを搭載でき、強襲揚陸艦としても活躍できる。

 

 

潜水母艦

・大鯨型潜水救難母艦

全長 1000m

全幅 360m

最高速力 20ノット

機関 ガスタービン

武装 54口径100mm速射砲 1基

   六銃身20mmバルカン砲 2基

艦載艇 深海救難艇DSRV 6隻

艦内浴場、レクリエーションルーム、シアタールーム、大病院クラスの設備を持つ医務室を持つサブマリナーの憩いのオアシス。娯楽施設の他、艦内には80の工作室を備えパーツによっては艦内での新規製造も可能。弾道ミサイルの積み込みも可能であり、65t級クレーン2基、10t級クレーン4基を装備する。

また緊急時には潜水救難艦として、DSRVを用いた乗組員の救出活動も可能である。実際、アメリカ海軍所属の潜水艦が水中で擱座して身動きが取れなくなった際も、この艦が派遣され本部が設置された。

 

 

補給艦

・摩周型補給艦

全長 230m

全幅 30m

最高速力 25ノット

機関 ガスタービン

武装 六銃身20mm機関砲 2基

燃料、弾薬、真水、食料、医薬品といった航海で必要な物全部補給できる万能艦。モノポール型の補給ステーションが6箇所あり、前方と後方のが燃料や水などの液体物を。真ん中の2箇所が弾薬や食料の様な固形物の品を補給する。

また格納庫こそ有していないがヘリ甲板を装備しているので、航空機での補給も可能となっている。更に海軍艦艇の中でも、最高クラスの医療設備を持っており病院船としても機能する。

 

・間宮型高速補給艦

全長 1200m

全幅 85m

最高速力 80ノット

機関 原子炉 

   ウォータージェット

補給艦の皮を被ったスピードスターと言わざるを得ないスペックを叩き出した、皇国海軍のヤベェ部類に入る縁の下の力持ち。摩周型同様、水から武器弾薬まで何でも補給できるし、病院としての機能も持ち合わせている上、原子炉を搭載してるため水を生成する事もできる。

更には工作艦としての機能も持ち合わせており、大鯨型同様、パーツによっては艦内での製造も可能となっている。

その巨大さと海上の何でも屋である事から、兵士からの非公式の愛称で「艦隊のコストコ」と呼ばれている。そしてそれを知った給養長が、名物料理にするべくピザを開発して、それが兵士にも国民にも大受けしたらしい。

 

 

特務艦

・宗谷型音響測定艦

全長 134m

全幅 60m

最高速力 15ノット

機関 ディーゼル電気推進

世界各国の潜水艦の音を記録する支援艦であり、その仕事内容から「海の合法ストーカー」という渾名で呼ばれている。ふざけた渾名ではあるが、その能力は化け物そのもの。本来は潜水艦の音を拾うのが主なのだが、この艦にかかれば例え機関を停止して身を潜めていても位置を特定してしまう。その仕事っぷりは、ストーカーの名には恥じない。

双胴船であり、水中雑音の少ないディーゼル電気推進を採用している。ただし、速力はそこまで速くない。

 

・横須賀型情報収集艦

全長 102m

全幅 16m

最高速力 20ノット

機関 ディーゼル

レーダー派、無線電波を収集して情報集める艦艇。その任務の特性上、操艦などの船の操作や管理は海軍の担当だが、オペレーターに関しては皇国軍の諜報機関であるICIBの職員が主に担当している異色の艦艇。

外観はフランスのデュピュイ・ド・ローム級情報収集艦に近いが中身は全くの別物で、情報収集能力は3倍ある。しかも艦内にスーパーコンピューター富嶽と同等のスーパーコンピューターを搭載しており、高度な暗号が掛かった無線でも即無力化して交信内容を丸裸にしてしまう。

 

 

艦載艇

・松型特戦闘艇

全長 150m

幅 37m

最高速力 50ノット

機関 ガスタービン

   ウォータージェット

レーダーシステム 草薙防空システム等

武装 60口径70mm機関砲 1基

   垂直発射システム 32セル

   35口径30mm機関砲 4基

   52式六銃身20mm連装バルカン砲 2基

   四連装対艦ミサイル発射筒 2基

   350mm三連装魚雷発射管 2基

コルベット以上、フリゲート未満の艦隊であり、日ノ本型では侵入できない浅瀬での偵察や作戦行動に使用する為に開発された艦艇である。元の用途は日ノ本型の支援だが、現在大量増産の上で各地の小規模な基地、例えば掃海部隊などの比較的規模の小さい基地の警備艦として配備されつつある。

レーダーシステムには草薙武器システム、正確にはその小型軽量化したモデルが搭載されている。性能は小型軽量化の影響で浦風型には劣るが、それでも旧世界におけるイージスシステムと同等の能力は持っている。

因みに本艦には後述の無人攻撃艇『震洋』を統括指揮するシステムが搭載しており、震洋展開時には指令母艦としても機能する。

 

・無人攻撃艇『震洋』

全長 5.1m

幅 1.7m

武装 自爆用高性能爆薬

ぶっちゃけこちらの世界線の旧大日本帝国海軍の開発した、あの特攻兵器『震洋』をそのまんま無人化しただけの代物である。一応装甲は30mm弾相当は弾くが、その攻撃方法は敵艦に突撃する事のみである。これのみに特化した結果、現代の駆逐艦なら一撃轟沈は免れない威力を手に入れた。因みに爆薬を外せば、補給物資や人1人位ならどうにか入るので、用途は非常に限られるが、例えば特殊部隊の輸送とか秘密裏の補給には使える。まあ乗り心地は最悪で、これまで乗り物酔いした事ない兵士が試験で乗ったら、開始5分でキラキラを海に放流する羽目になった。ある意味、酔いで人を殺すので昔の血を引いているのかもしれない。

 

・特殊潜航突撃艇『回天』

全長 15m

幅 4m

武装 前方大型ドリル

   前方大型ビームドリル

兵員 20名

この名前を聞くと特攻兵器の人間魚雷『回天』が脳裏に浮かぶが、ある意味で全く変わってない。この兵器の先端はドリルになっているのだが、頭の可笑しい事に水中から敵の艦の船体にドリルで穴を開けながら突き刺さり、内部に兵士を送り込むという珍兵器なのである。勿論使用するのは神谷戦闘団である。というか発案者は、なんと神谷浩三である。

 

・LCAC

全長 30m

幅 15m

最高速度 40ノット

機関 ガスタービン

エアクッションホバークラフトであり、LCUでは運べない装甲車や戦車を輸送する。ホバークラフトである為、陸地に乗り上げて揚陸する事ができる他、コンテナを搭載する事で様々な任務に対応できる。

また0式12.7mm機関銃若しくは、64式20mm機関砲を搭載できる銃架を2つ装備している。

 

・HLCAC

全長 50m

幅 25m

最高速度 30ノット

機関 ガスタービン

LCACを大型化した物であり、これにより34式戦車3量若しくは海軍陸戦隊の悲願であった46式戦車1両を搭載できる。こちらはLCAC同様の銃架を4基搭載している。HLCACのHは「Heavy」のHである。

 

・ALCAC

全長 70m

幅 35m

最高速度 50ノット

機関 ガスタービン

武装 60口径70mm機関砲 4基

   53式十連ロケット発射機 8基

   全方位多目的ミサイルランチャー(艦艇用)

   4基

   64式20mm機関砲 10基

   0式12.7mm機関銃 18基

最早LCACとは思えない進化を遂げた、化け物LCAC。ロシアのポモルニク型エアクッション揚陸艦の様に、かなりの重武装を施しており敵支配域への強襲上陸が可能。その大きさ故に通常の揚陸艦では搭載不可能であり、兼定型の様な単独運用するか、弁慶型と日ノ本型の様な巨大艦に載せるしかない。しかし46式2両もしくは、46式1両と34式戦車改2両を搭載できる。ALCACのAは「Armored」のAである。

 

・LCHH

全長 30m

幅 8m

最高速度 90ノット

機関 ウォータージェット

武装 35口径30mm連装機関砲 1基

LCUに変わる、新たな上陸用舟艇。4枚の水中翼を搭載し、ジェットフォイル以上の快速で部隊を素早く輸送できる。しかしLCUの後継かつ、水中翼船という特性上、戦車の搭載は不可能であり歩兵と装甲車が限界である。

 

 

航空機

・F8A/B/C震電II

全長 19.5m

全幅 14.0m

全高 3.56m

最高速度 マッハ2.2

固定武装 七銃身30mmバルカン砲 1基

兵装 主翼下大型パイロン 6発

   機内中型パイロン 8発

   機内小型パイロン 2発

皇国の保有する多目的戦闘機の艦上機タイプで、原型のA型、VTOLのB型、艦載機タイプのC型がある。見た目はエスコンのF3震電IIであり、歴代作においてもお馴染み化しつつある機体。本機は洋上迷彩が施されており、洋上での作戦に電子的、物理的にステルス効果がある。因みにA型は制空迷彩、C型は緑の地上迷彩が施されている。

 

・F8CZ震電IIタイプ・極

全長 25.6m

全幅 20.4m

全高 3.56m

最高速度 マッハ6

固定武装 七銃身30mmバルカン砲 4基

     60mm機関砲 2門

     連装レールガン 2基

     TLS 1基

兵装 全方位多目的ミサイルランチャー 2基

   主翼下大型パイロン 8発

   主翼下中型パイロン 16発

   機体上部大型パイロン 4発

   機内中型パイロン 8発

   機内四連装小型パイロン 2基

一応はF8C震電IIを改造した事になっているが、ぶっちゃけ似ても似つかない化け物になってしまった機体。正直A10彗星IIよりも狂ってるし、最早『第五世代の名を冠した第六世代』という状態。まず震電IIはイングリッシュ・エレクトリック ライトニング、あるいはBACライトニングと呼ばれる機体と同じ様に縦にエンジンが付いている。今回はそのまま2倍になっている。つまり双発機から四発機になった。他にも尾翼が一新され、尾翼がX型になっておりXFA27の様に稼働する。おまけに各部にスラスターが搭載されており、もう訳の分からない飛行機がしちゃいけない機動ができる。空中でバックするし、明後日の方向に機首を向けながら直進したり、もう色々バグってる。だが少なくとも機動力、速力、攻撃力の全ての面においてアルファベットの最後の文字たる『Z』と『極』の名を持つのに相応しい性能を有している。

因みに見た目としては震電IIに後部のエンジンがファルケンみたく肥大化し、主翼がX02Sワイバーンのように前進翼から菱形へと変形する。この際、尾翼もX字から無尾翼状態に変形し主翼と一体化し、最小限の空気抵抗を実現している。

 

・E3鷲目

全長 25m

全幅 34m

全高 7.5m

最高速度 750キロ

空母等に配備される早期警戒機兼空中給油機である。見た目はE2ホークアイに近いが中身は全くの別物で、ホークアイの三倍の探知距離を誇る。

 

・SH13海鳥

全長 18m

全高 4.2m

最大速度 350キロ

搭載可能兵装 爆雷 16発

       対潜魚雷 4発

       対戦車ミサイル旋風 4発

       三銃身12.7mmバルカン砲 1基

対潜哨戒に使用されるヘリコプターで、駆逐艦や空母に配備されている。ソナーやレーダー等の捜索、探索装置を装備している為、武装はあまり詰めない。基本装備に救助ホイストがある為、救難機としても運用される。

 

・AS5海猫

全長 14m

全幅 13.7m

全高 4.2m

最高速度 580キロ

固定武装 三銃身20mmバルカン砲

搭載可能兵装 機内大型パイロン 2発

       機内中型パイロン 4発

       胴体横小型パイロン 2発

ティルトウィング方式のマルチロール機で対潜哨戒に加え、その他の攻撃任務にも投入できる様に開発された機体。20mmバルカン砲を固定搭載し、その他の兵装も搭載可能である。

 

・PUS3三式大艇

全長 33.5m

全幅 33.2m

全高 10m

最高速度 720キロ

搭載可能兵装 ASM4海山 6発

       対潜魚雷 12発

       爆雷 10発

皇国海軍の保有する対潜哨戒機兼救難飛行艇で、前大戦にて開発された二式大艇の遺伝子を引き継ぐ機体。ターボプロップエンジン搭載の四発機で、鈍重そうな機体の割にグリグリ動く。    

 

・P1泉州

全長 38.0m

全幅 40.4m

全高 12.1m

最高速度 996キロ

搭載可能兵装 ASM4 8発

       対潜魚雷 16発

       爆雷 14発

陸上基地で運用される対潜哨戒機で、多数の武装を詰める。対潜作戦を行う際に、この機体がいないと始まらない。と言わしめる程の装備と練度を誇る兵を乗せている。

 

 

武器システム

・草薙武器システム

一言で言うと「和製イージス」であり、対空戦の鬼である。探知距離がイージスシステムの二倍であり、目標処理能力も三倍とオリジナルを遥かに凌駕している。

レーダーシステムには最新の対ステルスレーダーが搭載されており、本来レーダー波の反射で目標物を捉えるの対して、レーダー波が当たったのを感知して割り出すシステムが搭載されている。つまりステルス機がレーダー派を吸収しようが反射しようが、当たった時点でバレるのである。

 

・天乃岩武器システム

海中版イージスシステムと言えるシステムで、潜水艦を数百キロ手前で探知し相手に悟られる事なく、攻撃すると言う「潜水艦キラー」である。イージスシステムのように、四方向にソナーを配置する事で高い精度の聴音が可能である。さらに音波の中に「探鉄波」と呼ばれる音波を混ぜ込んでおり、例え海底の隙間に隠れていても潜水艦を形成する鉄を探知し、場所を特定できるチート装備である。一応通常ソナーにも配備されているので他の艦も使えるが、流石に海底の隙間とかになってくると解析が出来ない。

 

・天照武器システム

突撃艦専用に開発されたレーダーシステムで、レーダーの探知距離は低いものの、レーダー情報から敵の脅威度、耐久値、効果的な武装を割り出して優先度を付けていく演算能力に主眼を置いた武器システム。

 

東郷指揮システム

このシステムが搭載されている日ノ本型は、聨合艦隊構想の中核を担う為に設計された。聨合艦隊構想は現在の全八個主力艦隊を、1つの艦隊として運用する為に打ち出された構想である。つまり約2000隻の艦艇を全て同時に統括するという、中々に無茶な事をしようという計画なのだ。当然、そんな事は皇国軍どころか古今東西凡ゆる国の軍でも前例のない事であり、色々無理がありすぎた。

そこで生まれたのが、この東郷指揮システムである。このシステムは超高性能のAIと高度な量子コンピュータとスーパーコンピュータを装備しており、艦隊に組み込まれた全艦艇どころか登録されれば末端の一歩兵に至る皇国軍全軍をデータリンク等を用いて統括管理できる。言わば海上の統合参謀本部と言ったところであろう。またレーダーや衛星から得た情報をスーパーコンピュータで解析、それを元にAIが相手の動きやこちらの取るべき戦法等を指揮官に対案したり、量子コンピュータを用いて高度なシュミレートを素早く行える他、例え相手が皇国軍と同等クラスの電子装備を持っていたとしても、その電子装備の情報を書き換えてしまう事もできる。例えばレーダーの情報を書き換えて、明後日の方向から艦隊が来ている様にしてみたり、相手の暗号で偽物の情報を与えたりと、戦略の幅が格段に広がるのだ。

 

 

艦載ミサイル(航空機搭載のは空軍編で解説)

・対艦ミサイル虎徹

ハープーンにあたるミサイルで、超高速の対艦ミサイルである。突撃艦の近距離対艦ミサイル発射機と、各艦の対艦ミサイル発射機に装填される。

 

・対艦ミサイル桜島

トマホークにあたるミサイルで、通常弾道のI型と溶岩の様な超高音のドロドロとした液体を装填したII型がある。垂直発射システムに搭載される。

 

・対空ミサイル信長

基本的には先代ミサイルにアクティブ・レーダー・ホーミングを搭載し、システムの最適化を行った長距離対空ミサイル。垂直発射システムに搭載される。

 

・対空ミサイル秀吉

弾道ミサイル、衛星、理論上では隕石や宇宙船も破壊できる万能ミサイル。弾頭にはキネティック弾頭を採用しており、宇宙空間でも高い機動性を実現している。垂直発射システムに搭載される。

 

・対潜ミサイル信玄

アスロックにあたるミサイルで、対潜魚雷を飛ばす。垂直発射システムに搭載される。

 

・短距離艦対空ミサイル家康

高加速と高い安定性を誇る傑作ミサイル。高い誘導性能を持ち、艦載ミサイルとしては秀吉に次ぐ高い性能を持つ。但し、短距離なので射程が短いのが難点。

 

 

各種砲弾(徹甲弾、榴弾、徹甲榴弾以外)

・時雨弾

対空戦闘用に開発された特殊砲弾で、内部に小型よ対空ミサイルを装填している。射撃後起爆し、ミサイルが各個に目標を撃破する。ミサイルの本数は口径によりマチマチである。

 

・五月雨弾

対地上用に開発された特殊砲弾で、着弾後に地中へ小型爆弾を送り込み地中で起爆。砲弾の運動エネルギーと小型爆弾の爆発で、破壊力が上がっている。

 

・月華弾

対地、対空どちらでも使える特殊砲弾で、デモリッシャーガスと呼ばれるガスを弾頭に搭載しており、起爆すると超高温の火球を形成し熱波、衝撃波、高音の炎で対象を文字通りもみくちゃにして消滅させる砲弾。弾道ミサイルの弾道も、より破壊力を上げた月華弾を弾頭にしている。弾道ミサイル版のは並の核兵器と同等の破壊力を持ちつつも、地球環境へのダメージがあまりないという兵器になっている。

 

・旭日弾

新たに『皇軍増強計画』で開発された、一種のエネルギー兵器である。他の砲弾と違い、核融合炉と原子炉で発生する陽電子エネルギーを砲弾に装填。その装填されたエネルギーが着弾後に、目標内部で一挙に放出される事で絶大な威力を発揮する。その為、軽装甲の目標には余り向かないが重装甲目標であれば効果抜群である。また着弾後はその性質上、電子機器をダウンさせるのでEMPとしても使用できる。

発射後の砲弾は蒼白く発光し、飛翔中は蒼白い光の尾を引くので見た目はかっこいいが相手に見つかりやすいという欠点がある。だがまあ、砲弾を避けたり迎撃するのは基本不可能なので、問題はないだろう。

 

 

決戦兵器

・プラズマ粒子波動砲

皇国軍が新たに開発した。全く新しい決戦兵器である。核融合路、もしくは原子炉を機関として搭載している艦のみに搭載できる。この兵器は簡単に言うと機関で発生したエネルギーを増幅、圧縮し一方向へと押し出す。その威力は放射方向に存在する物を破壊し尽くす。佐渡ヶ島クラスの島であれば、跡形もなく消し飛ばす事ができる。

先述の通り搭載可能な艦は核融合路か原子炉の搭載が前提条件がある為、大和型、熱田型、赤城型、日ノ本型に限られる。一応鳳翔型も搭載できるが、搭載できるスペースがない為搭載できない。因みに大和型は単装、熱田型と赤城型は連装、日ノ本型は三連装で搭載している。

 

 

艦隊規模

主力艦隊

第一部隊

前衛潜水戦隊

・伊1500号型 1隻(旗艦)

・伊900号型 6隻

 

第二部隊

前衛機動遊撃艦隊

・摩耶型 6隻(旗艦)

・浦風型 12隻

・神風型 10隻

・磯風型 40隻

・阿武隈型 20隻

 

第三部隊

後衛機動遊撃艦隊

・大和型 4隻(旗艦)

・伊吹型 3隻

・龍驤型 3隻

・摩耶型 2隻

・浦風型 8隻

・神風型 8隻

 

第四部隊

航空打撃艦隊

・赤城型 2隻(旗艦)

・鳳翔型 8隻

・摩耶型 8隻

・浦風型 14隻

・神風型 16隻

 

第五部隊

本部艦隊

・熱田型 1隻(旗艦)

・大和型 4隻

・鳳翔型 2隻

・摩耶型 8隻

・浦風型 20隻

・神風型 18隻

総計 237隻

これが主力艦隊の戦力であり、皇国はこれを八つ保有している。

※補給艦は必要に応じて隷下に組み込まれる。下記の艦隊も同様である。

 

 

防衛艦隊

・鳳翔型 1隻(旗艦)

・龍驤型 2隻

・浦風型 8隻

・神風型 10隻

・伊号901型 1隻

総計 22隻

これが防衛艦隊の戦力であり、皇国はこれを五つ保有している。

 

 

揚陸艦隊

・出雲型 1隻(旗艦)

・日向型 4隻

・浦風型 3隻

・神風型 1隻

 

 

潜水艦隊

・伊3500号型 1隻(旗艦)

・伊3000号型 4隻

・伊2500号型 4隻

・伊2000号型 4隻

・伊1500号型 24隻



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大日本皇国空軍(改訂版)

制空戦闘機

・F9心神

全長 15m

全幅 10m

全高 5.1m

固定武装 52式六銃身20mmバルカン砲 1基

搭載可能兵装 機内中型パイロン 12発

       機内小型パイロン 2発

世界初の第五世代ジェット戦闘機で、皇国の保有する制空戦闘機である。プロペラ機ばりの旋回性能にジェット特有の加速能力が合わさっており、世界最強と言われていたF22ラプター八機をたった一機で相手して、無傷で全滅させるという化け物である。

 

 

戦闘攻撃機

・F8A震電II(海軍編にて解説済み)

 

・A9ストライク心神

全長 20m

全幅 14m

全高 5.1m

固定武装 1式七銃身30mmバルカン砲 2基

搭載可能兵装 機内大型パイロン 12個

       機内中型パイロン 4個

       機内小型パイロン 2個

前述のF9心神を攻撃機仕様に改造した物。全ての武装を機内に収納する事により、震電IIを超える火力を敵に悟られずに投射する事ができる。本機はデルタ無尾翼機であり、垂直尾翼も搭載されていない。ロール性能が高いが格闘戦は苦手。

 

 

攻撃機

・A10彗星II

全長 18.7 m

全幅 13m

全高 6.3m

固定武装 5式40mm機関砲 2門

     5式30mm連装機関砲砲 2基

     七連装80mmロケット弾発射機 2基

搭載可能兵装 胴体下大型パイロン 2個

       翼下中型パイロン 8個

皇国の誇る、ぶっ壊れ化け物攻撃機。戦車並の装甲を持ちながらも、音速で巡航するというトンデモ兵器。しかもコストがとても安い。逆ガル翼でカッコいい上、旋回機銃が上下についてて世界中にファンのいる。見た目はガミラスの空間艦上攻撃機DMB87 スヌーカ(劇中のバーガーが七色星団海戦で使ってた機体)

 

・AC180迅雷

全長 50m

全幅 55.62m

全高 14.89m

固定武装 52式六銃身20mm機関砲 3基

     1式七銃身30mm機関砲 2基

     62口径75mm速射砲 2基

     64口径130mm砲 1基

     68口径200mm榴弾砲 1基

搭載可能兵装 翼下パイロン 10個

       機体後尾上面小型パイロン 8個

新たに開発されたガンシップで、機体自体は退役した輸送機を流用している。後述の富嶽IIと同じ様な装備ではあるが、彼方の場合はどうしても費用が高い。だが一方で地上部隊からは、富嶽IIの様な存在がいて欲しいと多く声が上がっていた。そこで手頃な輸送機に大量の武装を搭載した、AC130と同じ発想の機体がこの迅雷である。

また数名の輸送も可能であり、特殊部隊の敵地侵入に使われる事だろう。

     

 

爆撃機

・超重爆撃機富嶽II

全長 120m

全幅 130m

全高 30m

固定武装 57式30mm三連装七銃身バルカン砲 9基

     57式20mm連装八銃身バルカン砲 10基

     57式40mm連装機関砲 4基

     62口径75mm速射砲 4基

     54口径120mm連装砲 2基

搭載可能兵装 胴体内 100,000kg

       翼下 60,000kg

世界最大、最強の超重爆撃機。空中戦艦とも言える圧倒的な防御性能に加え、B52約10機分を一機で賄ってるヤバいやつ。因みにB52は大体1.6万キロ程度しか積めない。その火力と航空機では太刀打ちがほぼ不可能な防御力で、制圧制空戦を可能としている。つまりは敵編隊に飛び込んで、四方八方に弾幕を張って完全に空域を制圧してしまう戦い方が取れるのである。尚、この巨体で有りながらマッハ1.5を誇る。

 

 

偵察機

・RF2蛇

全長 15.5m

全幅 11.3m

全高 5m

最高速度 マッハ1.7

元々は皇国で運用されていた戦闘機だったが、機体の老朽化で退役し、その一部を偵察機仕様に改造した機体。ミサイルを積めなくなったものの、機関銃はそのままになっている。パイロンには偵察機材を積載可能で、速度のいる偵察に重宝される。

 

 

支援機

・E3鷲目(海軍編にて解説済み)

 

・E787早期警戒管制機

全長 68.3m

全幅 60.1m

全高 17m

最高速度 マッハ0.9

E767早期警戒管制機の後継機で、空軍の各部隊に配備されている。管制の他、ジャミングも可能で偶に前線で電子戦機としても運用可能。因みに他の戦闘機は、専用ポッドを装着する事で電子戦機に早変わりする。

 

・KC787

全長 68.3m

全幅 60.1m

全高 17m

最高速度 マッハ0.9

空中給油機タイプの787で、空中のガソスタとして機能する。

 

 

輸送機

・C2鍾馗

全長 43.9m

全高 14.2m

全幅 44.4m

最高速度 900キロ

皇国における主力輸送機で、空挺降下作戦から通常の輸送任務まで幅広く使用できる。航続距離が長く地球の裏側、つまりブラジルまで無補給で飛行できる。機内には34式戦車までなら収容可能。バラせば46式も行ける。

 

・C3屠龍

全長 93m

全高 20m

全幅 99m

最高速度 750キロ

世界最大の輸送機にして、46式を搭載できる輸送機。一機に四台まで輸送可能で、C2も分解すれば搭載可能。最早、色々冗談みたいな兵器である。

 

・VC4隼

全長 17.4m

全幅 25.5m

全高 6.6m

最高速度 565キロ

皇国のティルトローター輸送機、簡単に言うとオスプレイ的立ち位置の輸送機。歩兵、40式を搭載可能。固定武装はないが、銃架はあるので機関銃程度なら取り付けられる。

 

・VC5白鳥

全長 40m

全幅 56m

全高 17m

最高速度 450キロ

VC4隼を改造してローターを増設し、搭載量も大幅アップした機体。C2鍾馗と同程度の輸送能力があり、戦車の機動展開が可能となっている。

 

・AVC1突空

全長 32.5m

全高 7.2m

全幅 44.4m

最高速度 マッハ1.7

固定武装 60口径60mm機関砲 2門

     5式40mm機関砲 2門

     5式30mm連装機関砲 4基

     七連装80mmロケット弾発射機 10基

     1式七銃身30mm機関砲 8門

     52式六銃身20mm機関砲 13門

     64式20mm機関銃 2基

搭載可能兵装 大型パイロン 6個

       中型パイロン 10個

       小型パイロン 4個

皇軍増強計画によって開発された、34式戦車と同等クラスの装甲を持ち対空ミサイルが命中しても少しは耐える防御力と、戦車を含む基本的な陸上戦力全てを排除しポイントを確保できるだけの火力を併せ持ち、更には音速を超える巡航速度とVTOL機能を持った『重装突撃輸送機』という名の変態機である。しかもこの機体、エンジンが4基付いているのだが、そのエンジンを別々に稼働させる事ができる機能が搭載されている。その結果、戦闘機並みの挙動ができてしまう。実際、試験で撃たれた模擬ミサイルを宙返りで回避した。まあ、そんなことをすれば中が大変な事になるだろうが。

 

・特務輸送機『延空』

全長 85.9m

全高 25.1m

全幅 105.8m

最大速度 マッハ0.99

皇国空軍が保有する政府専用機であり、ワイドボディ型の超大型機である。エンジンを6基搭載した独特なフォルムであり、内部に政府機能を移設している。1階はコックピットから順に記者用の一般席(ビジネスクラス相当)、会見場、一般用会議室、ビジネスセンター、医務室、政府専用会議室、護衛・政府関係者用座席(ビジネスクラス相当)、政府高官用座席(ファーストクラス相当)、執務室、総理・天皇専用室となっている。2階はサーバールームと通信室がある。

 

 

無人航空機

・MQ3彩雲

全長 9m

全幅 15m

全高 6m

最高速度 300km

搭載可能兵装 翼下小型パイロン 4個

大型のプロペラ式無人機。静穏性に優れ、標的に静かに忍び寄る。武装は少ないが、歩兵分隊くらいなら撃退できる。

 

・MQ4紫雲

全長 12m

全幅 21m

全高 9m

最高速度 915km

搭載可能兵装 機内中型パイロン 4個

       翼下小型パイロン 6個

大型の双発ジェット無人機。こちらはステルス性に優れ、レーダーに映らずに高高度で敵に近づき圧倒的火力を持って制圧する。

 

・MQ6松雲

全長 7.3m

全高 2.9m

搭載可能兵装 小型パイロン 2個

ヘリコプタータイプの無人機で、あくまで偵察に主眼を置いた航空機。一応、人間2人くらいは運べる馬力を持っており、武装関連の装備を外したモデルが警察や消防にも出回っている。

 

 

大型パイロン搭載可能兵装

・ASM4海山

ASM3の後継ミサイルで、ステルス性が高くECCMが付いている。弾頭も通常弾、月華弾の二つがあり、簡単に付け替えが可能である。極超音速での飛行を可能とする。

 

・AGM255銀河

ASM4海山を改良した、統合空対地スタンドオフミサイル。ECCMに加え、様々な用途に対応できるシーカーを備える。これにより歩兵のメットからの精密誘導も可能であり、特殊任務にも対応できる。またエンジンを改造した事により、海山の1.5倍の速さで巡航する。

 

・GB9天山

1,000kgの大型誘導爆弾で、赤外線、レーダー波、TV誘導、レーザー誘導に対応している。

誘導機能を取り外すと、普通の1,000kg無誘導爆弾に早変わりする。

 

・燃料気化爆弾

1,000kg爆弾より少し大きいが、威力はそれを遥かに超える。無誘導だが、航空機用の爆弾としては核を除けば最強クラスである。

 

・マルチパイロン

中型パイロンに搭載できる兵器を、6発搭載できる装備。見た目はエースコンバット7の8AAM

 

 

中型パイロン搭載可能兵装

・AIM63烈風

中距離空対空ミサイルで、アムラーム的ポジションなミサイル。誘導性が高く、同時に多数の目標への追尾も可能である。

 

・GB8流星

500kgの中型誘導爆弾でこちらも赤外線、レーダー波、TV誘導、レーザー誘導に対応している。

勿論誘導機能を取り外すと、普通の500kg無誘導爆弾に早変わりする。

 

・ECMP

電子戦を行う為に装備するポッドで、これ一つで様々な電子戦を賄える。

 

・増槽

追加の燃料タンク。ドロップタンク式と固定式の2つがある。

 

・燃料補給ポッド

空中給油を行うための装備。増槽にホースと燃料補給用のプローブが付いている。

 

・20mmガンポッド

戦闘機に標準搭載されている八銃身20mmバルカン砲を追加装備できるが、あまり使われる機会はない。

 

・マルチパイロン

小型パイロンに搭載できる兵器を、8発搭載できる装備。見た目は上記の物と同じ。

 

 

小型パイロン搭載可能兵装

・AIM25紫電

短距離空対空ミサイルで、サイドワインダー的ポジション。誘導性能が高い。

 

・AGM103旋風

対戦車ミサイルで、マーベリック的ポジション。基本的に戦車に一発でも当たれば、即お陀仏。

 

・GB7晴嵐

250kgの小型誘導爆弾でこちらも赤外線、レーダー波、TV誘導、レーザー誘導に対応している。

勿論誘導機能を取り外すと、普通の250kg無誘導爆弾に早変わりする。

 

・SGB1暗鬼

150kgの精密誘導爆弾。GBシリーズ以上の誘導性能を誇り、装置を取り外して小型爆弾として扱うのは不可能。

ミサイルと違い推進装置は持たないが、投下時の高度をエネルギーとして投下後に展開する翼で目標までの距離を滑空し突入&破壊する滑空爆弾。

 

・100mmロケット弾ポッド

対地用のロケット弾ポッドで、弾種を変更することにより対人戦闘から対戦車戦闘までこなす。

 

 

特殊兵装

・MQ5飛燕

全長 11.6m

全幅 18.9m

全高 3.1m

最高速度 マッハ1.5

固定武装 パルスレーザー砲 2門

搭載可能兵装 機内小型パイロン 4個

海軍の日ノ本型、特殊戦術打撃隊の空中母機『白鳳』、ADF3渡鴉に搭載されている無人機で、主翼を折り畳めてAIが搭載されているのが最大の特徴。有人機ではなし得ない挙動が取れるが、動き自体は単調なのが弱点。

 

・MPBM

前述の燃料気化爆弾の弾頭とASM4海山のモーターとをくっつけた兵器で、航空機の集団に撃ち込み、熱波と爆圧の衝撃で編隊ごと吹き飛ばす対空兵器。ADF1妖精にのみ搭載可能

 

・全方位多目的ミサイルランチャー

航空機用のVLSであり、射程こそ短いが面制圧能力という面であれば航空機用兵装では最強格の新兵器。ランチャー内にはマイクロミサイルが60発搭載されている。対空、対地、対艦に使用でき、現在はF8CZ震電IIタイプ・極にしか搭載できないが、専用のマウント装備を搭載すれば凡ゆる航空機に搭載ができる。

また艦艇用の物も開発されており、こちらは1つにつき1000発搭載されている。

 

・TLS

高出力のレーザーを目標に照射する対地対空両用の光学レーザー兵器。その威力は掠っただけで主翼を焼き切り、戦車を正面から貫通する。だがその命中精度は、パイロットの腕に依存する。現在は海軍の日ノ本型、F8CZ震電IIタイプ・極、特殊戦術打撃隊の機動空中要塞『鳳凰』、空中母機『白鳳』、ADFシリーズにのみ搭載可能。

 

・レールガン

航空機用のレールガンで、電磁力によって実体弾を加速して発射する無誘導兵装。EMLとも呼ばれる。極めて高い発射速度により、命中時に大きな破壊力が期待できる。だが誘導性能を持たないため、その真価を発揮できるかはパイロットの腕次第。現在はF8CZ震電IIタイプ・極にのみ搭載可能。またこれを大型化し、照準をレーダーリンクとコンピューターに任せた物が特殊戦術打撃隊の機動空中要塞『鳳凰』に搭載されている。

 

 

航空部隊の部隊番号について

・航空隊の配備されている機体は、部隊番号の頭文字にくる数字が基準となる。

「一」はRF2蛇

「二」はF9心神

「三」はF8震電II

「四」はA9ストライク心神

「五」はA10彗星

「六」はE787

「七」はE3鷲目

「八」はKC787

「九」はC2鍾馗

「一○」はC3屠龍

「一一」はVC4隼

「一二」はVC5白鳥

このように頭文字の数字でわかるようになっており、下二桁は「〇〇」が存在しない。

 

 

飛行隊編成について

・一個分隊=2機

 

・一個小隊=二個分隊

 

・一個中隊=二個小隊(但し、中隊はエース級以外ない)

 

・一個飛行隊=五個小隊

 

 



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大日本皇国海軍陸戦隊・大日本皇国特殊戦術打撃隊(改訂版)

戦車

・34式戦車(陸軍編にて紹介済み)

 

・36式機動戦車(陸軍編にて紹介済み)

 

 

輸送車両

・高機動多目的車(陸軍編にて紹介済み)

 

・中型トラック(陸軍編にて紹介済み)

 

・大型トラック(陸軍編にて紹介済み)

 

・超大型トラック(陸軍編にて紹介済み)

 

・特型トラック(陸軍編にて紹介済み)

 

 

装甲車

・44式装甲車(陸軍編にて紹介済み。全型有り)

 

・33式水陸両用強襲装甲車

全長 13m

全幅 4.2m

全高 3.6m

最高速度 80キロ(地上)

     20キロ(水上)

主武装 33式60mm機関砲 1門

副武装 64式20mm機関砲 1基

他国で言うところの、水陸両用戦車に近い装甲車。貨物室に完全武装の歩兵を20名積載可能で、火力支援をしながら上陸できる。

 

・28式水陸両用装甲車

全長 9.5m

全幅 3.8m

全高 3.4m

最高速度 90キロ(地上)

     30キロ(水上

武装 64式20mm機関砲 1基

   28式40mm擲弾機関砲 1基

アメリカのAAV7にあたる装甲車で、完全武装の歩兵25名積載可能である。派生型がいくつかあり基本のI型、指揮官車タイプのII型、回収車タイプのIII型がある。

 

・40式小型戦闘車(陸軍編にて紹介済み)

 

 

自走砲

・44式230mm自走砲(陸軍編にて紹介済み)

 

 

榴弾砲

・130mm榴弾砲(陸軍編にて紹介済み)

 

 

迫撃砲

・24式120mm迫撃砲(陸軍編にて紹介済み)

 

 

・21式81mm迫撃砲(陸軍編にて紹介済み)

 

 

ロケット砲

・53式多連装ロケット砲(陸軍編にて紹介済み)

 

 

ヘリコプター

・AH32薩摩(陸軍編にて紹介済み)

 

・UH73天神(陸軍編にて紹介済み)

 

・CH63大鳥(陸軍編にて紹介済み)

 

 

輸送機

・VC4隼(空軍編にて紹介済み)

 

 

歩行戦闘脚

・WA1極光(陸軍編にて紹介済み)

 

・WA2 月光(陸軍編にて紹介済み。全型有り)

 

 

個人装備

・43式小銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・32式戦闘銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・42式軽機関銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・48式狙撃銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・36式散弾銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・33式携行式対空ミサイル(陸軍編にて紹介済み)

 

・38式携行式対戦車誘導弾(陸軍編にて紹介済み)

 

・29式擲弾銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・37式短機関銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・26式拳銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・機動甲冑(陸軍編にて紹介済み)

 

・マイクロドローン(陸軍編にて紹介済み)

 

・蝶(陸軍編にて紹介済み)

 

・蜘蛛(陸軍編にて紹介済み)

 

 

編成

 

分隊

◎歩兵分隊《指揮官:軍曹》

 ◯編成

  ・小銃 4名

  ・戦闘銃 4名

  ・軽機関銃 1名

  ・衛生兵 1名

 ◯車両

  ・28式水陸両用装甲車 1両

  ・44式装甲車イ型 1両

  ・40式小型戦闘車 3両

  ・高機動多目的車 2両

  ・WA2極光 10機

  のいずれか

 

◎重装歩兵分隊《指揮官:軍曹》

 ◯編成(装備は状況に合わせて変更)

  ・バルカン砲 5名

  ・オートライフル砲 4名

  ・衛生兵 1名

 ◯車両

  ・33式水陸両用強襲装甲車 1両

  ・44式装甲車イ型 2両

  ・中型トラック 2両

  ・大型トラック 1両

  のいずれか

 

◎偵察分隊《指揮官:曹長》

 ◯編成

  ・歩兵 5名

 ◯車両

  ・偵察バイク 5台

 

◎機甲分隊

 ◯編成

  ・34式戦車I型 2両

 

◎偵察機甲分隊

 ◯編成

  ・36式戦車 2両

 

◎突撃機甲分隊

 ◯編成

  ・46式戦車 1両

  ・34式戦車改 2両

 

 

小隊

◎歩兵小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成

  ・小銃 20名

  ・戦闘銃 20名

  ・軽機関銃 5名

  ・衛生兵 5名

 ◯車両

  ・28式水陸両用装甲車 5両

  ・44式装甲車イ型 5両

  ・40式小型戦闘車 15両

  ・高機動多目的車 10両

  ・WA2極光 50機

  ・中型トラック 5両

  ・大型トラック 3両

  のいずれか

 

◎重装歩兵小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成(装備は状況に合わせて変更)

  ・バルカン砲 25名

  ・オートライフル砲 20名

  ・衛生兵 5名

 ◯車両

  ・33式水陸両用強襲車 5両

  ・44式装甲車イ型 10両

  ・中型トラック 10両

  ・大型トラック 5両

  のいずれか

 

◎偵察小隊《指揮官:准尉or少尉》

 ◯編成

  ・歩兵 25名

 ◯車両

 ・偵察バイク 25台

 

◎威力偵察小隊《指揮官:准尉or少尉》

 ◯編成

  ・39式偵察車 3両

 

◎本部小隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・士官 3名

  ・下士官 2名

  ・兵卒 18名

  ・医官 1名

  ・看護兵 6名

 ◯車両

  ・28式水陸両用装甲車(指揮車型) 3両

  ・47式指揮装甲車 1両

  ・中型トラック 4両

  ・中型トラック救急車型 2両

  ・大型トラック 3両

  ・偵察バイク 2台

 

◎重迫撃砲小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成

  ・士官 1名

  ・下士官 4名

  ・歩兵 35名

 ◯車両

  ・24式120mm迫撃砲 2門

  ・40式小型戦闘車 2両

  ・高機動多目的車 2両

  ・中型トラック 3両

  ・WA2極光 4機

 

◎迫撃砲小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成

  ・士官 1名

  ・下士官 3名

  ・歩兵 26名

 ◯車両

  ・21式81mm迫撃砲 3門

  ・40式小型戦闘車 1台

  ・高機動多目的車 4台

 

◎重対戦車小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成

  ・44式装甲車ハ型 3両

 

◎対戦車小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成

  ・44式装甲車へ型 3両

 

◎支援小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成

  ・44式装甲車ロ型 3両

 

◎防空小隊《指揮官:少尉》

 ◯編成

  ・44式装甲車ト型 3両

 

◎機甲小隊

 ◯編成

  ・二個機甲分隊

 

◎偵察機甲小隊

 ◯編成

  ・二個偵察機甲分隊

 

◎突撃機甲小隊

 ◯編成

  ・二個突撃機甲分隊

 

 

中隊

◎歩兵中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・三個歩兵小隊

  ・一個偵察分隊

  ・一個迫撃砲小隊

  ・一個対戦車小隊

 

◎重装歩兵中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・三個重装歩兵小隊

  ・二個支援小隊

  ・一個重対戦車小隊

 

◎本部中隊《指揮官:大尉》

 ◯編成

  ・士官 6名

  ・下士官 13名

  ・兵卒 82名

  ・医官 3名

  ・看護兵 18名

  ・主計兵 46名

 ◯車両

  ・WA1月光 30機

  ・47式指揮装甲車 2両

  ・39式偵察車 1両

  ・高機動多目的車 20両

  ・中型トラック 8両

  ・中型トラック救急車型 6両

  ・44式装甲車ホ型 2両

  ・大型トラック 15両

  ・偵察バイク 6台

 

◎偵察中隊

 ◯編成

  ・四個偵察小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 1両

 

◎威力偵察中隊

 ◯編成

  ・四個威力偵察小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 1両

 

◎重迫撃砲中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・四個重迫撃砲小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 1両

 

◎迫撃砲中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・四個迫撃砲小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 1両

 

◎重対戦車中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・四個重対戦車小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 2両

 

◎対戦車中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・四個対戦車小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 2両

 

◎支援中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・四個支援小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 2両

 

◎防空中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・四個防空小隊

 ◯車両

  ・47式指揮装甲車 2両

 

◎工兵中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・士官 7名

  ・下士官 15名

  ・兵卒 150名

 ◯車両

  ・44式装甲車ニ型 6両

  ・47式指揮装甲車 1両

  ・40式小型戦闘車 10両

  ・WA2極光 20機

  ・高機動多目的車 15両

  ・中型トラック 8両

  ・大型トラック 12両

 

◎機甲中隊

 ◯編成

  ・四個機甲小隊

  ・47式指揮装甲車 1両

  ・WA1月光 5機

 

◎偵察機甲中隊

 ◯編成

  ・四個偵察機甲小隊

  ・47式指揮装甲車 1両

  ・WA1月光 5機

 

◎突撃機甲中隊

 ◯編成

  ・四個突撃機甲小隊

  ・47式指揮装甲車 1両

  ・WA1月光 5機

 

◎砲兵中隊

 ◯編成

  ・96式120mm榴弾砲 2両

  ・40式小型戦闘車 1両

  ・高機動多目的車 2両

  ・大型トラック 2両

 

◎ロケット砲兵中隊

 ◯編成

  ・53式多連装ロケット砲 2両

  ・大型トラック給弾車型 4両

 

◎自走砲中隊

 ◯編成

  ・44式230mm自走砲 2両

  ・超大型トラック給弾車型 3両

 

◎医療中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・医官 5名

  ・士官 3名

  ・下士官 6名

  ・看護兵 30名

  ・衛生兵 50名

  ・歩兵 54名

 ◯車両

  ・44式装甲車ホ型 6両

  ・47式指揮装甲車 1両

  ・40式小型戦闘車 8両

  ・WA2極光 10機

  ・高機動多目的車 25両

  ・中型トラック 5両

  ・中型トラック救急車型 15両

  ・大型トラック 10両

  ・偵察バイク 4台

 

◎補給中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・士官 6名

  ・下士官 12名

  ・歩兵 108名

 ◯車両

  ・高機動多目的車 60両

  ・中型トラック 50両

  ・中型トラックレッカー車 10両

  ・大型トラック 30両

  ・大型トラックレッカー車型 5両

  ・大型トラックコンテナトラック型 20両

  ・大型トラックタンクローリー型 15両

 

◎整備中隊《指揮官:中尉》

 ◯編成

  ・士官 6名

  ・下士官 12名

  ・歩兵 108名

 ◯車両

  ・高機動多目的車 60両

  ・中型トラック 30両

  ・中型トラックレッカー車 20両

  ・大型トラック 15両

  ・大型トラックレッカー車型 10両

  ・大型トラック戦車牽引型 5両(機甲部隊のみ)

 

大隊

◎歩兵大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成

  ・一個本部中隊

  ・三個歩兵中隊

  ・一個工兵中隊

  ・一個偵察中隊

  ・二個威力偵察小隊

  ・二個迫撃砲中隊

  ・一個対戦車中隊

  ・一個重対戦車中隊

  ・二個支援中隊

  ・一個防空小隊

  ・三個補給中隊

  ・一個整備中隊

 

◎重装歩兵大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成

  ・一個本部中隊

  ・三個重装歩兵中隊

  ・一個工兵中隊

  ・二個偵察小隊

  ・三個威力偵察小隊

  ・一個重迫撃砲中隊

  ・一個重対戦車中隊

  ・二個支援中隊

  ・一個防空小隊

  ・三個補給中隊

  ・一個整備中隊

 

◎機甲大隊

 ◯編成

  ・本部中隊

  ・五個機甲中隊

  ・二個偵察機甲中隊

  ・一個威力偵察中隊

  ・四個補給中隊

  ・三個整備中隊

 

◎突撃機甲大隊

 ◯編成

  ・本部中隊

  ・五個突撃機甲中隊

  ・二個機甲中隊

  ・二個偵察機甲中隊

  ・二個威力偵察中隊

  ・四個補給中隊

  ・三個整備中隊

 

◎本部大隊《指揮官:中佐》

 ◯編成

  ◯編成

  ・士官 20名

  ・下士官 80名

  ・兵卒 460名

  ・主計兵 180名

 ◯車両

  ・WA1月光 120機

  ・47式指揮装甲車 15両

  ・39式偵察車 8両

  ・高機動多目的車 60両

  ・中型トラック 25両

  ・中型トラック救急車型 16両

  ・大型トラック 60両

  ・大型トラックコンテナ車型 20両

  ・偵察バイク 20台

 

◎重迫撃砲大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・五個重迫撃砲中隊

 

◎迫撃砲大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・五個迫撃砲中隊

 

◎重対戦車大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成 

  ・一個本部小隊

  ・六個重対戦車中隊

 

◎対戦車大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成   

  ・一個本部小隊

  ・六個対戦車中隊

 

◎支援大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・六個支援中隊

 

◎防空大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・六個防空中隊

 

◎工兵大隊《指揮官:少佐》

 ◯編成

  ・一個本部中隊

  ・三個工兵中隊

  ・一個重対戦車小隊

  ・二個対戦車小隊

  ・一個重迫撃砲小隊

  ・一個迫撃砲小隊

 

◎砲兵大隊

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・三個砲兵中隊

  ・一個補給中隊

  ・一個整備中隊

 

◎自走砲大隊

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・三個自走砲中隊

  ・一個補給中隊

  ・一個整備中隊

 

◎ロケット砲大隊

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・三個ロケット砲中隊

  ・一個補給中隊

  ・一個整備中隊

 

◎特砲兵大隊

 ◯編成

  ・一個本部小隊

  ・三個特砲兵中隊

  ・一個補給中隊

  ・一個整備中隊

 

◎補給大隊

 ◯編成

  ・六個補給中隊

 ◯車両

  ・超大型トラックコンテナトラック型 30両

  ・超大型トラック給弾車型 40両(機甲・砲兵部隊のみ)

  ・特型トラックコンテナトラック型 20両

 

◎整備大隊

 ◯編成

  ・六個整備中隊

 ◯車両

  ・超大型トラックカーキャリア型 40両

  ・特型トラックカーキャリア型 15両

  ・特型トラック戦車牽引型 30両(機甲・砲兵部隊のみ)

 

 

連隊

◎歩兵連隊《指揮官:大佐》

 ◯編成

  ・一個本部大隊

  ・二個歩兵大隊

  ・一個工兵中隊

  ・六個偵察小隊

  ・一個威力偵察中隊

  ・二個重迫撃砲大隊

  ・二個迫撃砲大隊

  ・六個重対戦車中隊

  ・一個重対戦車大隊

  ・一個支援大隊

  ・一個防空中隊

  ・二個医療中隊

  ・一個補給大隊

  ・一個整備大隊

 

◎重装歩兵連隊《指揮官:大佐》

 ◯編成

  ・一個本部大隊

  ・三個重装歩兵大隊

  ・一個工兵大隊

  ・一個偵察中隊

  ・六個威力偵察中隊

  ・一個重迫撃砲大隊

  ・一個迫撃砲大隊

  ・一個対戦車大隊

  ・六個重対戦車中隊

  ・二個支援大隊

  ・一個防空中隊

  ・二個医療中隊

  ・一個補給大隊

  ・一個整備大隊

 

◎機甲連隊

 ◯編成

  ・本部大隊

  ・三個機甲大隊

  ・二個偵察機甲大隊

  ・三個威力偵察中隊

  ・二個補給大隊

  ・一個整備大隊

 

◎突撃機甲連隊

 ◯編成

  ・本部中隊

  ・五個突撃機甲大隊

  ・二個機甲大隊

  ・二個偵察機甲大隊

  ・四個威力偵察中隊

  ・二個補給大隊

  ・一個整備中隊

 

◎砲兵連隊

 ◯編成

  ・一個本部中隊

  ・二個砲兵大隊

  ・二個自走砲大隊

  ・一個ロケット砲大隊

  ・一個補給大隊

  ・一個整備大隊

 

旅団

ここまでの部隊規模を自由に編成する即席部隊。基本的には例えば偵察部隊のみを集中運用した物の様な、一点特化の専門部隊を作る事が多い。稀に即応部隊や海外派遣要員として、単純に連隊以上師団未満の部隊を組織する場合もある。指揮官は准将か少将が務めるが、稀に大佐が務める場合もある。

 

師団

◯編成

 ・三個本部大隊

 ・三個歩兵連隊

 ・二個重装歩兵連隊

 ・四個機甲連隊

 ・一個突撃機甲大隊

 ・二個砲兵連隊

 ・五個医療中隊

 ・四個整備大隊

 ・五個補給大隊

 ・独立武装偵察隊

 

 

独立武装偵察隊

海軍陸戦隊指揮下の特殊作戦部隊。主に上陸前の威力偵察や上陸後に敵支配地域への深部浸透偵察等の、危険度の高い任務に投入される為に創設された。統合参謀本部直属ではなく、各師団長の指揮下である為、自由度の高い運用が可能となっている。基本的に各師団に一個中隊分配備される。

 

◎分隊《指揮官:少尉》

 ○編成

  ・歩兵 4名

 

◎小隊

 ○編成

  ・三個分隊

 

◎中隊

  ・六個分隊

 

 

 

大日本皇国特殊戦術打撃

二足歩行戦車

・メタルギア零

全長 12m

全高 23m

全幅 8m

武装 大口径レールガン 1門

   30mm機関砲 2門

   電磁パルス砲 1門

   Sマイン投射機 4基

   火炎放射器 2基

某ステルスアクションゲームで、度々蛇が破壊する作品のPWで出てきたジークによく似てる兵器。レドームと追加装甲も付いてる。後述の機体含め、レールガンの弾は海軍の物と同じ。

 

・メタルギア龍王

全長 8m

全高 20m

全幅 13m

武装 大口径レールガン 1門

   七銃身30mmバルカン砲 4基

   自由電子レーザー砲 2基

   垂直ミサイル発射機 1基

某ステルスアクションゲームの最初のヤツ(メタルギアから考えると3作目)で登場し、ぶりぶりざえもんの中の人が「追い込まれた狐はジャッカルより凶暴だ」という名言を生み出したシーンで戦ってた兵器によく似た兵器。垂直ミサイル発射機の中身は海軍の物と同じ。

 

・メタルギア水虎

全長 5m

全高 26m

全幅 60m

武装 水圧レーザーカッター 1基

   三連装多目的ミサイル発射機 2基

   小型ミサイル発射機 6基

   60mm機関砲 2基

某ステルスアクションゲームの2と4で出てくるヤツによく似た兵器。潜水して上陸する事も可能。

 

・メタルギア狼

全長 30m

全高 26m(二足歩行時)

   17m(四足歩行時)

全幅 22m

武装 大口径レールガン 4門

   全方位多目的ミサイルランチャー 10基

   Sマイン 40基

   電磁パルス砲 1門

   火炎放射器 2基

某ステルスアクションゲームで、度々蛇が破壊する作品のピースウォーカーに良く似た兵器。流石に各ミサイル発射機や水爆を搭載しようものなら、前線が大変な事になりかねないので核武装はしていない。だが実はレールガン部分を発射機に変えれば、撃ててしまうのは内緒である。

 

メタルギア応龍

全長 54m

全高 26m

全幅 45m

武装 大口径レールガン 2基

   対戦車ミサイルポッド 8基

   全方位多目的ミサイルランチャー(艦艇用)

   4基

   大型マルチパイロン 14基

   57式30mm三連装七銃身バルカン砲 3基

   57式20mm連装八銃身バルカン砲 5基

   57式40mm連装機関砲 2基

搭載機 MQ6松雲 20機

某ステルスアクションゲームで、度々蛇が破壊する作品のクリサリスに良く似た兵器。他のメタルギアを輸送する事が主任務であり、敵地への強襲が出来る様に重武装である。特殊な機巧により、空中を素早く縦横無尽に移動する事が出来る。

因みに輸送の仕方は、機体の下に吊り下げるだけ。

 

 

戦闘機

・ADF1妖精

全長 23.9m

全幅 15.7m

全高 5.7m

最高速度 マッハ2

固定武装 七銃身30mm機関砲 1基

搭載可能兵装 主翼下大型パイロン 2個

       機体上部コネクター 1基

      (TLS)

       主翼下中型パイロン 4個

       機内小型パイロン 2個

どっかの世界線でモルガンと呼ばれた機体に瓜二つな重戦闘機。専用武装のMPBM(燃料気化ミサイル)とECMP(電子防御システム)を搭載し、他機の支援を得意とする。

 

・ADF2大鷹

全長 24m

全幅 15.9m

全高 5.6m

最高速度 マッハ2.2

固定武装 八銃身20mm機関砲 1基

     TLS 1基

搭載可能兵装 主翼下大型パイロン 2個

       主翼下中型パイロン 2個

       機内小型パイロン 2個

こちらもどっかの世界線でファルケンとか呼ばれる機体にそっくりな、多用途戦闘機。TLSによる狙撃を得意とする。

 

・ADF3渡鴉

全長 18m

全幅 14.3m

全高 7.2m

最高速度 マッハ2.2

固定武装 パルスレーザー機関砲 1基

     TLS 1基

搭載可能兵装 主翼下大型パイロン 2個

       機内中型パイロン 4個

       機内小型パイロン 2個

最早、隠す気すらないレーベンと呼ばれてる戦闘機によく似た戦闘機。TLSでの狙撃と、UAVによる攻撃で敵を翻弄する。

 

 

超兵器

・機動空中要塞『鳳凰』

全長 180m

全幅 85m

全高 25m

最高速度 マッハ4

武装 レールガン 8基

   TLS 4基

主に成層圏と中間圏の間、高度約50kmを飛行する要塞。弾道ミサイル防衛、隕石の迎撃、小説なんかで有りそうな異星人の乗る宇宙船(ほぼ冗談)の迎撃を主任務とするアークバードもどき。半永久的に浮遊し、乗員は半年から一年の周期で入れ替わる。現在6機が運用されている。

 

・空中空母『白鯨』

全長 433.3m

全幅 963.7m

全高 102.3

最高速度 850キロ

武装 AIM63烈風発射機(連装もしくは四連装)50基

   七銃身30mm機関砲 30基

   六銃身20mm機関砲 58基

艦載機 F8C震電II 120機

 

・支援プラットフォーム『黒鯨』

全長 205.4m

全幅 486.4m

全高 43.6

レーダーシステム 草薙武器システム

武装 130mm速射砲 230基

   七銃身30mm機関砲 300基

   六銃身20mm機関砲 580基

   垂直ミサイル発射装置 150セル

どっかのアイガイオンの皇国版である。オリジナルと違い補給に専用の輸送機を使う事で、レーダーの機能障害が消えた上、対空火器のハリネズミ化したプラットフォーム二機を随伴させている為、そうそうやられる事はない。現在10個の空中空母艦隊が存在している。

 

・空中母機『白鳳』

全長 40m

全高 15m

全幅 1100m

武装 パルスレーザー砲 2基

   対空ロケットランチャー 90基

   TLS 1基

艦載機 MQ5飛燕 300機

どっかのストレンジリアルの7で、ラスボス並みの立ち位置にいる無人機と同じ見た目の兵器。こちらも無人機で北海道と九州・沖縄に4機、四国に1機、本州に10機、日本を縦断する形で4機が常時配備され、さらに10機が陸上の専用基地に居る。

 

 

固定兵器

・120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲システム

全長 200m

全幅 50m

全高 75m

 

施設

・120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲 8基

・核融合発電所 1棟

・スーパーコンピューター『阿僧祇5000』 1基

・MQ5飛燕 200機

・八連装長距離対空ミサイル発射機 60基

・八連装中距離対空ミサイル発射機 90基

・50口径203mm三連装速射砲 50基

・62口径130mm連装速射砲 70基

・5式七銃身30mmバルカン砲 120基

・52式六銃身20mmバルカン砲 150基

『皇軍増強計画』に於いて建設された、巨大迎撃システム。円形に広がるコンクリートパネルの内側に8基の旋回式砲塔が円状に設置され、外周を制御施設とシェルターで覆う構造となっている。砲台は火薬によって初期加速し、電磁誘導で更に加速させる方式のハイブリッド式地対空レールガンシステムを採用。ハイブリッド式とした理由としては、ジュール熱による砲身融解の問題があった為である。流石の皇国とて、この大きさとなると融解の恐れを完全に払拭できなかったのだ。

砲弾の速度は8km/s、つまり第一宇宙速度のマッハ23まで加速する。射程は約1200kmに達し、高度600m以上を飛行する航空機に対しても絶大な破壊力を発揮する。発射速度は1基あたり分間10発。発射角は-5度から90度。駆動系は全自動電気油圧式。砲塔そのものは無人で運用される。

施設地下には秒間5000阿僧祇回の浮動小数演算が可能なスーパーコンピューターが設置されており、人工衛星を含む各地の観測所からのデータを基に大気状況をシミュレートし、砲弾を当ててくるので最強の盾と言えるだろう。

そして恐ろしいのが、この施設が北海道、九州、沖縄に一個ずつ。本州には三個建設されている。

 

・提灯

全長 980m

全幅 1300m

全高 150m

 

施設

・超大型レールガン 『提灯』 1門

・核融合発電所 1棟

・スーパーコンピューター『阿僧祇5000』 1基

・MQ5飛燕 800機

・50口径510mm四連装砲 18基

・八連装長距離対空ミサイル発射機 600基

・八連装中距離対空ミサイル発射機 900基

・50口径203mm三連装速射砲 500基

・62口径130mm連装速射砲 700基

・5式七銃身30mmバルカン砲 1200基

・52式六銃身20mmバルカン砲 1500基

巨大なコンクリートの人口の陸地を作り、それをHMD推進機構で水上を旋回させるという変態機構を持った巨大レールガン。推進機構の副産物として20ノットの航行力を持つので、固定兵器かと言うと怪しい所はある。

各所に多数の対空火器を搭載し、場合によってはそれを持って対艦攻撃すらこなす化け物である。ここまで重武装なのは、万が一乗っ取られでもしたら今度は皇国が火の海になってしまう。かと言って装甲は施さないので、それなら「攻撃は最大の防御と言わんばかりの武装を乗っけてしまえ」という狂気の発想で最早『要塞戦艦』と言っても良いくらいの物に仕上がった。因みに一度、訓練でアメリカ、イギリス、オーストラリアの連合軍が上陸を試みたが航空機、上陸用舟艇は全滅し、終いには51cm砲で揚陸艦と護衛の艦も消し去ったという伝説を残した。

そしてもっと恐ろしいのが、この兵器が日本の領海沿いに300基も配置される事になる点である。因みにこれを見た神谷は「これ、エイリアンが攻め込んできても落とせんだろ」と漏らしたとか。

 



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旧設定集(見る必要はありません)
大日本皇国陸軍


この回から四話分は設定集となっています。四話までは加筆される可能性があるので、予めご了承ください。


2021年2月22日、部隊編成について加筆。


主力戦車

・46式戦車

全長 30m

全幅 10m

全高 7m

最高速度 90キロ

主砲 350mm滑降砲 1門

副砲 120mm速射砲 2門

副武装 12.7mm機銃(同軸)1基

    20mm機銃 1基

    八連装多目的擲弾投射機 2基

全長30mの我が大日本皇国が誇る最新鋭主力戦車。攻守共に最強で、陸上戦艦の名が相応しい。本戦車は都市部での運用を想定しておらず、敵陣地の突破戦や海岸線での水際作戦を目的として開発されている。一応市街戦も可能だが、住宅街が敵の攻撃よりヒドイ有様になる為、多分行われる事はない。見た目はEDF4のタイタン

 

・34式戦車

全長 10.5m

全幅 3.82m

全高 2.86m

最高速度 100キロ

主砲 200mm速射砲(II型では150mmレールガン)1門

副武装 5.56mm機銃(同軸)1基

    20mm機銃 1基 

10式戦車の後継車両で、世界初の第4世代戦車にあたる皇国の主力戦車。10式のコンセプトである市街地での運用を想定されており、10式を少し大きくした感じである。本戦車には基本のI型、主砲をレールガンに載せ換えたII型、後述の34式戦車改、36式機動戦車といった派生型がある。

 

・36式機動戦車

34式戦車の足回りをキャタピラからタイヤに変更したモデルで、市街地での戦闘、正確には歩兵に随伴して火力支援する目的として開発された。武装含め、最高速度以外の性能は前述の34式戦車と変わらない。最高速力は130キロ。

 

・34式戦車改

全長 12.5m

全幅 4.5m

全高 3.69m

最高速度 95キロ

主砲 120mm連装速射砲 1門

副武装 36式戦車と変わらず

46式戦車の随伴を想定して改造された、36式戦車の派生型である。改造とは名ばかりの、殆ど新規設計な戦車で主砲が連装砲になっているのが最大の特徴である。連装砲を搭載した戦車は現代においては大変珍しく、世界中の戦車愛好家に愛されている戦車である。見た目は10式にガンダムの61式の砲塔を乗せた感じ。

 

 

装甲車

・47式指揮装甲車

全長 6.5m

全幅 3.21m

全高 2.95m

最高速度 120キロ

武装 12.7mm機銃 1基

   7.62mm機銃 2基

部隊における指揮と、情報の整理に特化した車両。武装は貧弱だが、本車の最大の武器は世界トップクラスの支援装置である。内部にはスーパーコンピューター京並みの小型化したスーパーコンピューターに加え、様々なタイプの通信機材が揃っている。ジャミングも可能であり、使い方次第で戦況を思い通りに動かせる兵器である。

 

・44式装甲車

全長 9.5m

全幅 3.4m

全高 2.86m

最高速度 155キロ

武装 

イ型 20mm機銃 1基、12.7mm機銃 2基 又は40mm擲弾投射機 1基

ロ型 20mm機銃 4基、12.7mm機銃 3基、50mm擲弾投射機 2基、対戦車ミサイル発射基 2基

ハ型 150mm速射砲 1門、20mm機銃 1基、12.7mm機銃(同軸)1基

ニ型 12.7mm機銃 1基

へ型 50mm機関砲 1門、20mm機銃 1基、12.7mm機銃(同軸)1基、対戦車ミサイル発射機 4基

ト型 20mm機銃 1基、六連装短距離対空ミサイル発射機 2基

日本軍の保有する装甲車で、派生型が最も多い兵器。兵員輸送を行う基本タイプのイ型、歩兵部隊への短距離火力支援がコンセプトのロ型、36式機動戦車程の下位互換のハ型、様々な工作装置を搭載した工兵戦闘車タイプのニ型、野戦救急車タイプのホ型(武装無し)、歩兵部隊への遠距離火力支援がコンセプトのへ型、対空戦闘車タイプのト型、NBC偵察車タイプのチ型がある。見た目はアメリカ軍のストライカー。

 

・39式偵察車

全長 6.1m

全幅 3.4m

全高 2.96m

最高速度 160キロ

主砲 35mm機関砲 1門

副武装 12.7mm機銃(同軸)1基

基本的には敵陣地への威力偵察や自軍陣地の警戒、危険地帯を抜けての伝令等に使われる装甲車。重武装の装甲車としては、皇国一の機動力を持っている。

 

・40式小型戦闘車

全長 5m

全幅 2.15m

全高 2.24m

最高速度 180キロ

武装 多種多様

兵員輸送を行う乗用車タイプの装甲車で、ハンビーや軽装甲機動車にあたる車両。地雷に耐えられる様モノコック構造を採用し、装甲も12.7mm機銃には耐えられる設計になっている。武装は歩兵の扱う武器、例えば小銃やロケットランチャーを歩兵自身が身を乗り出して撃つことも有れば、M2重機関銃のような銃火器を固定することもできる。アメリカのハンビーの様に、様々な作戦や状況に応じて柔軟に対応できる様にモジュラー機構を採用している為、部隊部隊の改造が施されている。因みに年に一度、部隊対抗の改造コンテストも開かれてたりする。

 

 

自走砲

・51式510mm自走砲

全長 28m

全幅 12m

全高 10m

最高速度 65キロ

主砲 510mm砲 1門

副武装 30mm機銃 2基

皇国でも世界でも最大の自走砲にして、何をとち狂ったのか海軍の大和型の主砲を流用しやがった兵器である。都市部で撃つと、最早敵を市街地ごと消し飛ばす威力の為、46式同様沿岸部の基地にしか配備されていない。アメリカでの演習に参加した際、演習場の山が吹き飛び「頼むからもう来んな‼︎」と言われ、以来海上にしか砲弾を撃っていない。見た目はEDF5のイプシロン自走レールガンに近い。

 

・44式230mm自走砲

全長 14.8m

全幅 4.6m

全高 4.1m

最高速度 90キロ

主砲 230mm速射砲 1門

副武装 20mm機銃 1基

旧式の31式180mm自走砲の後継車だが、不具合の発見により製造が遅れ配備が遅れた自走砲。現在では完全に置き換えられている。51式というトンデモ兵器が後輩にいる為、都市部と内陸部に配備されている。

 

 

火砲

・130mm榴弾砲

名前の通り、130mm榴弾を発射する大砲。基本的にはトラックで牽引され、地面に固定して発射する。即席要塞や陣地の防衛用として用いられており、防衛時に重宝される。エンジンを搭載しており、15キロ程度の速度で自走も可能。

 

 

ロケット砲

・53式多連装ロケット砲

全長 6.8m

全幅 2.8m

全高 2.7m

最高速度 90キロ

武装 十連ロケット発射機 2基

副武装 20mm機銃 1基

起伏の影に隠れられる様、コンパクトな設計となっている。しかし計二十発のロケット弾を搭載可能で、その制圧能力は高い。見た目は75式130mm自走多連装ロケット弾発射機にM270を乗せた感じ。

 

 

ミサイルシステム

・超高高度防衛ミサイル富士

弾道ミサイル、隕石、エイリアンの侵略、他国の大鳥(大日本皇国特殊戦術打撃隊にて解説)にあたる兵器を迎撃する為に開発された、パトリオットミサイルの進化版的兵器。

 

・25式長距離地対空ミサイル

敵機、敵ミサイルを長距離から迎撃する為に配備するミサイルシステム。

 

・30式中距離地対空ミサイル

前述の25式が撃ち漏らした際に、尻拭い用として使われるミサイル。

 

・18式近距離地対空ミサイル

25式、30式が撃ち漏らした際に最後の砦として使用される兵器。

 

・48式地対艦ミサイル

対艦ミサイル桜島を発射するシステム。

 

 

高射砲

・49式対空戦闘車

全長 10.5m

全幅 3.82m

全高 2.86m

最高速度 100キロ

武装 35mmバルカン砲 6門

   四連装対空ミサイル発射機 4基

副武装 20mm機銃 1基

34式戦車の足回りに、対空装備を搭載した兵器。武装を見て分かる様に、航空機絶対殺すマンでありレーダーに小型、軽量化した草薙システム(海軍編で解説)を搭載しており、スペックダウンは否めないが陸上では十分な能力を発揮している。

 

 

ヘリコプター

・AH32薩摩

全長 20m

全高 5.2m

固定武装 40mmバルカン砲 1基

搭載可能武装 翼下中型パイロン8基

      (空対艦ミサイル虎徹 、120発入り100mmロケットランチャーポッド、対戦車ミサイル旋風四連装ポッド、50mmガンポッド)

       翼端小型パイロン

      (AIM25紫電)

皇国の最新鋭攻撃ヘリコプターで、陸海空で戦闘可能なヘリコプター。しかし基本的には、対戦車ヘリコプターとして扱われている。機動力はシャイアンばりであり、アパッチやコブラよりも高い速度と機動力で戦場を縦横無尽に駆け抜ける。名前の由来は、バーサーカー藩士で戦闘民族扱いされてる薩摩藩から取られた。

 

・MH4雀

全長 9.5m

全高 3m

特殊部隊用に開発された小型ヘリコプターで、隠密作戦や先遣隊を送る時に使われる。一応、武装も可能だが使われた事は今の所ない。

 

・UH73天神

全長 23m

全高 4.3m

ブラックホークの立ち位置の中型ヘリコプター。歩兵一個分隊規模の輸送を想定して作られており、様々な部隊に配備されている。武装用のスタビウィングを取り付ける事で、MH60DAPの様な攻撃ヘリにも早変わりしたり、40式程度なら空輸もできてしまうなど、使い勝手の良い機体である。

 

・CH63大鳥

全長 40m

全高 6.8m

固定武装 12.7mmバルカン砲 2基

チヌークの立ち位置の大型ヘリコプター。二つの大型ローターで歩兵から戦車まで、幅広い戦力を輸送可能で機動展開能力に欠かせない兵器。重装甲な為、敵基地への強襲任務も可能である。

 

・OH8風磨

全長 14.3m

全高 4.2m

OH1の立ち位置の偵察ヘリコプター。OH1以上の、スホーイみたいな変態機動が可能な変態ヘリコプター(公式認定)である。どの程度かと言うと内外含め「ヘリコプターのしちゃいけない機動」と言われる程であり、某テレビ局が専門家に質問すると「本来なら墜落して、飛行停止処分になる様な機体です。パイロットなのか、機体なのか、はたまた両方が化け物染みてるとしか言えません」とも言われてる。武装はない。

 

 

歩行戦闘脚

・WA1極光

全長 1.2m

幅 90cm

全高 2.3m

武装 7.62mmバルカン砲

   擲弾機関銃

   火炎放射器

   電撃砲

   レールガン

   対戦車ミサイル旋風四連装ポッド

   大太刀

副武装 個人携行火器なら何でも

皇国のみで運用されている、メタルギアVのウォーカーギアに当たる兵器。二足歩行の戦闘機械であり、歩兵一人が搭乗して操作する。武装は前述の通り豊富だが、これらのうち二つまでしか搭載できない。基本的にはバルカン砲に旋風を装備している事が多い。副武装も前述の通り個人携行火器、例えば後述の43式小銃から29式拳銃等、歩兵の装備する武器は大体装備可能。一応ロケットランチャー系も搭載可能だが、バックブラストで最悪死亡、よくて重傷を負う為オススメはしない。

 

・WA2月光

全長 2m

幅 5m

全高 8m

武装 

イ型 12.7mmバルカン砲 3基、対戦車ミサイル旋風四連装ポッド 1基

ロ型 12.7mmバルカン砲 1基、130mm榴弾砲 4門

ハ型 20mmバルカン砲 2基、30mmバルカン砲 8基

ニ型 20mmバルカン砲 2基、多連装対空ミサイル発射基(120発)2基

皇国陸軍、皇国海軍陸戦隊で運用される無人兵器。脚部が人工筋肉で出来ており、とてもしなやかに曲がる。壁を登る事だって出来るし、屋根の上をジャンプしながら移動できるトンデモ兵器。基本のイ型を始め、遠距離射撃専門のロ型、近距離対空戦がコンセプトのハ型、中距離、長距離からの対空戦がコンセプトのニ型とバリエーションが以外と豊富。足は折り畳めば、トラックやヘリコプターでの空輸も可能。

 

 

通常歩兵、空挺歩兵装備

・43式小銃

基本的には5.56mm弾を発射する、陸海空陸戦で採用されている皇国軍の主力小銃である。重量は弾倉込みでも1.3キロと軽く、ピカティニー・レールやM LOKも標準装備されており、汎用性がとても高い。パーツも豊富で、兵士の思い思いな改造が可能である。極端な話、YouTuberの某マック土界が紹介してる様なロマン改造もできちゃう。機関部の変更で、7.62mm弾の発射も可能。

 

・32式戦闘銃

大日本皇国独自の分類の銃であり、スターウォーズのブラスターライフルの様な扱いで、一個分隊14名の内5人程度が扱っている。口径は13mmで、小銃程の連射力はない。擬音で表すなら、小銃は「ズドドドドド、ズドドドドド」であるのに対し、戦闘銃は「ドンドンドンドンドン」みたいな感じである。

 

・42式軽機関銃

ベルト給弾式の分隊支援火器で、9mmライフル弾を発射する。他国よりも威力、精度、連射力で優れており、分隊の強い味方。こちらも弾倉込みで約3キロ程度であり、軽機関銃の中では軽い部類に入る。

 

・48式狙撃銃

皇国の保有する狙撃銃で、機関部の変更で7.62mm弾と12.7mm弾の両方が発射できる狙撃銃。有効射程は4キロ弱、命中精度も高く、熟練の兵なら5キロ圏内なら百発百中である。

 

・36式散弾銃

皇国の保有するショットガンで、ドラムマガジンが標準搭載されているアサルトショットガン。閉所戦や森林の様な狭い空間では、一番お目見えしたくない兵器である。

 

・33式携行式対空ミサイル

その名の通り対空ミサイルを発射する兵器で、他国で言うスティンガーに当たる。

 

・38式携行式対戦車誘導弾

個人携行タイプの対戦車兵器で、ジャベリンにあたる兵器。

 

・29式擲弾銃

40mmグレネード弾を発射する、八連リボルバーの擲弾銃。グレネード弾を煙幕や閃光等の非殺傷兵器や、偵察用のカメラを搭載した物等を発射できる。

 

・37式短機関銃

主に特殊部隊や警察で運用されており、MP5の様な見た目をしている。9mm拳銃弾を使用し、取り回しが良い。レーザーサイトが標準搭載されており、命中精度も高い。改造が容易で銃身の延長と縮小、銃床の着脱や折り畳み式化等、任務や兵士のスタイルに合わせて幅広く適応できる。

 

・26式拳銃

型式だけ見ると古いが、侮る事なかれ。「第二のガバメント」と言わしめる程の性能を持っており、100年近く使われる事になる傑作銃である。口径は5.7mm弾から五十口径弾まで、さらには麻酔弾やゴム弾も使用できる特殊な機構を機関部に搭載しており、様々な状況にあった弾丸を発射可能。さらに連射も可能で、これ一つで敵を十分倒せると言わしめる程である。

 

・機動甲冑、空挺甲冑

皇国軍の通常歩兵と空挺歩兵が使う戦闘服で、上からゴーグルがセットになってる特殊な防弾ヘルメットを装着しており、ゴーグルには地図、方角、風向き、温度、レーダーディスプレイ、残弾薬インジケーター等、言ってしまえばFPSゲームの操作画面が投影される。これに加え最大15倍の双眼鏡システム、光増式の暗視装置、サーマルも付いている。胴体及び脚部にはマッスルスーツ機能と、自己治癒能力が搭載されておりコンピューターが負傷を感知すると、負傷部分を圧迫して止血し自己回復を活性化する膜で傷口を覆う機能が付いている。これに加えステルス迷彩機能とカメレオン機能が付いており、市街地だろうが森林だろうが砂漠だろうが、何処でも隠れたり景色と同化できる。さらにジェットパックと腕にグラップリングフックまで付いており、どんな場所でも機動戦を仕掛けられる。空挺甲冑にはこれらの機能に加え、ウィングスーツの機能とパラーシュートを装備する箇所がある。

 

・装甲甲冑

皇国軍独自の兵科である、装甲歩兵専用の戦闘服である。EDFのフェンサーみたいな兵科であり、重装甲のボディにパワードスーツ機能を搭載した脳筋装備である。上記の戦闘服は7.62mm弾を完全に無力化できる防弾性能なのに対して、こちらは20mm弾に耐えうる防弾性能を持つ。機動性は低いが、それを差し引いても余りある絶大な火力を発揮できる。例えば極光の様な装備をぶん回す事もできるし、専用武器であるガンハンマーもどきや、機械式の刃先が飛び出る槍等、とんでもない重兵器を携行できる。勿論FPSのゲーム画面を投影するバイザーと、自己治癒能力を活性化する一連のシステムも搭載されている。民間にもパワードスーツ機能のみを搭載した物が出回っており、建設現場や災害救助時に使われている。災害救助で活躍するモデルには、アームや放水銃が搭載されていたりもする。

 

 

部隊の規模について(海軍陸戦隊も同様)

歩兵

・一個分隊=10人。(特殊部隊では4人)

内訳 小銃5名、戦闘銃4名、軽機関銃1名。隊長は軍曹が務める。特殊兵科として、必ず一名の衛生兵がいる。分隊には必ず、44式装甲車1台と40式小型戦闘車3台が配備され、これらが無い代わりに極光があったりする。

 

・一個小隊=五個分隊。

隊長は准尉が務める。こちらにも衛生兵5〜6人がいる。

 

・一個中隊=四個小隊。

隊長は大尉が務め、別に本部小隊と呼ばれる部隊が作られる。

内訳 中隊長、士官4名、下士官2名、兵卒20名、軍医1名、看護兵6名、衛生兵25〜30名。

 

・一個大隊=三個中隊。

隊長は少佐が務め、別に本部中隊と呼ばれる部隊が作られる。さらに食事、補給、寝床などの管理を行う主計兵が50名追加される。

 

・一個連隊=三個大隊。(以降の部隊規模の特殊部隊が存在しない)

隊長は中佐が務め、別に本部大隊と呼ばれる部隊が作られる。

 

・一個旅団=二個連隊

隊長は大佐が務め、別に本部連隊と呼ばれる部隊が作られる。

 

・一個師団=三個連隊、若しくは二個旅団

隊長は少将が務め、別に本部連隊と呼ばれる部隊が作られる。

 

※尚、44式装甲車については部隊が必要に応じて、申請して使用できる。

 

 

戦車、ヘリコプター

・一個分隊=2台(隊長の階級も同じ)

 

・一個小隊=二個分隊(ヘリコプターは小隊以上は、エース級の特殊部隊以外存在しない)

 

・一個中隊=四個小隊

戦車に加え、指揮通信車1台と偵察車5台が追加される。

 

・一個大隊=三個中隊

 

・一個師団=六個大隊

 

 

砲兵

・一個中隊=火砲2門、弾薬補給の分隊三個

 

・一個大隊=三個中隊

 

・一個連隊=四個大隊

 

 

特殊な部隊編成

・一個戦闘団=規模は様々。

隊長は中将か大将が務め、臨時に編成される。上記の部隊が混ぜられて、一つのキリングマシーンとして働く。

 



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大日本皇国海軍

2021年9月12日 潜水艦の欄に追加


駆逐艦

・浦風型草薙駆逐艦

全長 200m

幅 25m

最高速力 35ノット

機関 ガスタービン

レーダーシステム 草薙武器システム等

武装 130mm速射砲 1基

   六銃身20mmバルカン砲 2基

   短距離艦対空ミサイル発射機 2基

   垂直ミサイル発射装置 96セル

   四連装艦対艦ミサイル発射筒 2基

   連装艦隊空ミサイル発射筒 6基

   350mm三連装魚雷発射管 2基

艦載機 SH13海鳥 1機

    AS5 海猫 1機

皇国の保有する所謂イージス艦。登場から既に60年近く経っているものの、今日に置いても世界最強の座に君臨している。主力艦隊から国防艦隊に至るまで、数百隻以上が運用されている。本艦には艦載機運用能力があり、対潜ヘリコプターのカモメとティルトローター攻撃機である海鳥を各一機ずつ搭載している。

 

・神風型駆逐艦

全長 195m

幅 23m

最高速力 35ノット

機関 ガスタービン

レーダーシステム 天乃岩武器システム等

武装 100mm速射砲 1基

   六銃身20mmバルカン砲 2基

   四連装対艦ミサイル発射機 2基

   垂直発射システム 32セル

   対潜ロケット 2基

   四連装艦対艦ミサイル発射筒 2基

艦載機 SH13海鳥 2機

浦風型に足りない対潜戦闘能力を補う為に作られた艦。最低限の対空戦闘ももちろん可能だが対潜戦闘が一番の任務であり、その練度は世界的見てもぶっちぎりで高い。こちらも主力艦隊から国防艦隊まで、様々な艦隊に多数配備されている。

 

 

巡洋艦

・摩耶型対空巡洋艦

全長 250m

幅 30m

最高速力 30ノット

機関 ガスタービン

レーダーシステム 草薙武器システム等

武装 250mm連装速射砲 5基

   130mm速射砲 4基

   七銃身30mmバルカン砲 6基

   六銃身20mmバルカン砲 8基

   垂直発射システム 128セル

   艦隊空ミサイル発射筒 18基  

艦載機 AS5海猫 4機

主力艦隊のみに配備されている、皇国の対空番長。「対空巡洋艦」というだけの事はあり、対空のみに特化した巡洋艦である。その能力は海外との合同演習だと、相手方のパイロットから「お願いだから摩耶クラスは出さないでくれ‼︎」と外務省を通じて、海軍にメッセージが来るほど。曰く、「摩耶クラスが強すぎて練習にならない」らしい。

 

 

突撃艦

・磯風型突撃高速駆逐艦

全長 130.5m

幅 12.08m

最高速力 80ノット

機関 ウォータージェット

レーダーシステム 天照武器システム等

武装 130mm連装砲 3基

   600mm魚雷発射管 2基

   連装近距離艦対艦ミサイル発射機 1基

   60mm機関砲 4基

高速で敵艦隊に肉薄し、ありったけの火力で制圧する「突撃戦隊」の主力艦として開発された駆逐艦。速力もさることながら、機動力と防御力も化け物染みている。例えば正面から超音速ミサイルが飛んで来ても、サイドステップで回避可能な上、トマホークが十発くらい当たってもびくともしない。最早、これを沈めるには戦艦でも出さないと無理である。

 

 

・阿武隈型突撃重装巡洋艦   

全長 192m

幅 17m

最高速力 70ノット

機関 ウォータージェット

レーダーシステム 天照武器システム等

武装 203mm速射砲 2基

   600mm魚雷発射管 2基

   三連装近距離艦対艦ミサイル発射機 2基

   70mm機関砲 8基

   60mm機関砲 2基

こちらも磯風型同様、突撃戦隊専用に開発された艦艇である。この艦は突撃戦隊の旗艦の役割を務める様に設計されており、突撃戦隊には必ず二隻が配備される。こちらも機動力と防御力は磯風型と同じく、化け物性能であり諸外国から恐れられている。

 

 

揚陸艦

・出雲型強襲揚陸艦

全長 248m

幅 38m

最高速力 35ノット

機関 ガスタービン

武装 20mm機関砲 2基

   短距離艦対空ミサイル発射機 2基

艦載機 SH13海猫 4機

    UH73天神 10機

    AH32薩摩 6機

    MV3海竜 8機

    F8B震電II 4機

艦載艇 LCAC 2隻

皇国海軍陸戦隊が運用する為に開発された強襲揚陸艦で、揚陸艦隊の旗艦を務める。基本はこの艦と4隻の日向型揚陸艦が配備されている。

 

日向型揚陸艦

全長 197m

幅 33m

最高速度 40ノット

機関 ガスタービン

武装 60mm機関砲 4基

   30mm機関砲 8基

艦載艇 LCAC 2隻

    LCU 4隻

皇国海軍初のドック型揚陸艦で、高い揚陸能力を持つ。広大なヘリ甲板を有し、震電II含めた航空機の前線基地として機能する。

 

 

空母

赤城型要塞超空母

全長 1300m

幅 195m

最高速力 30ノット

機関 核融合炉

レーダーシステム 草薙武器システム等

武装 460mm連装砲 3基

   130mm連装速射砲 40基

   60mm機関砲 90基

   七銃身30mm機関砲 160基

   垂直発射システム 150セル

艦載機 F8C震電II 600機

    E3鷲目 8機

    SH13海鳥 12機

単艦でも敵艦隊を撃滅出来る様に開発された要塞空母。全長が1キロ越えという、冗談みたいな兵器で艦載機搭載数も群を抜いている。各主力艦隊に二隻配備され、艦隊の航空戦力の要となる。本艦は電磁カタパルトが合計八つ搭載されており、二個飛行隊を一気に発艦させることが可能となっている。構造は映画アベンジャーズのヘリキャリアみたく、二層構造になっており艦橋前に主砲二基、後方に一基という配置である。因みに、世界最大の空母としてギネスに登録されてる。

 

鳳翔型原子力航空母艦

全長 337m

幅 78m

最高速力 35ノット

機関 原子炉

武装 六銃身20mm機関砲 6基

   短距離艦対空ミサイル発射機 2基

艦載機 F8C震電II 90機

    E3鷲目 2機

    SH13海鳥 6機

ニミッツ級と同じような見た目をした、皇国の第三世代原子力空母。カタパルトに電磁式を採用し主力艦隊、防衛艦隊、どちらにも配備されている。防衛艦隊では旗艦を務める。

 

龍驤型軽空母

全長 236m

幅 29m

最高速力 40ノット

機関 ガスタービン

武装 七銃身30mm機関砲 2基

   六銃身20mm機関砲 2基

艦載機 F8C震電II 25機

    E3鷲目 2機

※場合によっては、SH13海鳥 40機

軽空母というだけはあり、搭載機はそこまで多くない。どちらかというと、アメリカ海軍のアメリカ級と似たような運用方法となる。船団護衛や陸戦隊の上陸支援等、速度が求められて航空打撃能力が欲しい場合に重宝される。

 

戦艦

大和型前衛武装戦艦

全長 263m

幅 38.9m

最高速力 30ノット

機関 ガスタービン

レーダーシステム 天乃岩武器システム等

武装 510mm三連装砲 3基

   203mm三連装砲 2基

   127mm連装砲 12基

   六銃身20mmバルカン砲 52基

   垂直発射システム 234セル

艦載機 SH13海鳥 4機

    AS5海猫 3機

海軍の花形戦艦であり、皇国海軍の代名詞的存在の艦。1941年に建造された初代から基本的な構造は変わらず、武装や装甲が現代化していった艦であり、世界各地にファンがいる。

 

伊吹型航空戦艦

全長 240m

幅 37m

最高速力 35ノット

機関 ガスタービン

レーダーシステム 天乃岩武器システム

武装 460mm三連装砲 2基

130mm連装速射砲 10基

   七銃身30mmバルカン砲 28基

   六銃身20mmバルカン砲 46基

   垂直発射システム 200セル

艦載機 F8C震電II 60機

    E3鷲目 4機

旭日の艦隊に出てくる虎狼型に近い見た目をしており、単艦でも遊撃できるように設計された航空戦艦。航空打撃能力と高い砲撃能力を保有していることから、大規模な上陸作戦時には大抵支援艦として組み込まれる。

 

熱田型指揮戦略級超戦艦

全長 1500m

幅 150m

最高速力 80ノット

機関 核融合炉

   ウォータージェット

レーダーシステム 草薙武器システム等

武装 710mm四連装砲 9基

   510mm三連装砲 18基

   203mm三連装速射砲 300基

   130mm連装速射砲 500基

   七銃身30mmバルカン砲 400基

   六銃身20mmバルカン砲 600基

   垂直発射システム 1500セル

   十二連装近距離艦対艦ミサイル発射機 2基

   横列八連装近距離艦対艦ミサイル発射機 2基

艦載機 F8C震電II 100機   

同型艦 天之御影、大山祇、吉備津彦、建御雷神、建御名方、素戔嗚尊、倭建命

大日本皇国の武神として祀られている、神々の名を持つ戦艦。八隻が建造され主力艦隊の旗艦を務めている。世界最大にして歴代最強の戦艦であり、武神の名を持つのに相応しい戦艦となっている。他国からは「この戦艦の内、一隻でも我が国に来たら太刀打ちできない」と言わしめる。艦載機は前前作同様、宇宙戦艦ヤマト2199・2202の様に

発艦する。しかしヤマトと違い上に押し上げられ、尾部からでは無く機首方向から押し出される。因みに地球が滅びるレベルでもないと破壊できない為、撃沈は実質不可能である。

 

 

潜水艦

伊900号型潜水艦

全長 87m

全幅 9.5m

最高速力 30ノット

機関 ディーゼルエンジン(浮上時)

   リチウムイオン電池(潜水時)

武装 600mm魚雷発射管 8門

   水中垂直発射システム 8基

皇国の保有する潜水艦で、静音性に優れた通常動力型としては最強の潜水艦。情報収集、通商破壊、尾行等々「隠密」の名がつく任務は何でもできる。パーツの付け替えで、特殊部隊用の小型潜水艇の母艦として機能する。その場合、水中垂直発射システムはロックされる。

 

伊1500号型潜水艦

全長 230m

全幅 14m

最高速力 30ノット

機関 ディーゼルエンジン(浮上時)

   原子炉

武装 600mm魚雷発射管 10門

   水中垂直発射システム 80基

潜水戦隊の旗艦用に開発された潜水艦。最早、水中要塞みたいな事になっているが、熱田型とか赤城型の影響であんまり脅威に感じないけど、ある意味一番厄介な艦である。水中垂直発射システムは弾道ミサイル用にも換装可能で、常に近海に弾道ミサイルを搭載している艦が配備されている。

 

・伊2000号型潜水艦

全長 600m

全幅 128m

最高速力 50ノット

機関 ガスタービン(浮上時)

   核融合炉

武装 610mm電磁投射砲 1基

   300mm電磁連装砲 4基

   短距離艦対空ミサイル発射機 8基

   垂直ミサイル発射装置 58セル

   七銃身30mmバルカン砲 12基

艦載機 F8C震電II 48機

    E3鷲目 3機

新設される潜水艦のみで構成された艦隊計画、通称「紺碧計画」において空母として働く潜水艦。見た目は救済おじさんこと、核砲弾をぶち込もうとしていた狂人艦長が座乗する潜水艦、アリコーンと瓜二つである。巨大でありながら静音性に優れ、敵の潜水艦探知網を掻い潜り予想外の場所から航空攻撃、あるいは610mm電磁投射砲による各種砲弾の発射で直接攻撃を下す兵器。

 

・伊2500号型潜水艦

全長 495m

全幅 83m

最高速力 60ノット

機関 ガスタービン(浮上時)

   核融合炉

武装 200mm電磁砲 4基

   短距離艦対空ミサイル 6基

   垂直ミサイル発射装置 178セル

   七銃身30mmガトリング砲 8基

   八銃身20mmガトリング砲 18基

艦載機 SH13海鳥 8機

    AS5海猫 6機

新設される潜水艦のみで構成された艦隊計画、通称「紺碧計画」においてミサイル攻撃プラットフォームとして運用される潜水艦。見た目としてはシンファクシとリムファクシに似ている。ミサイル攻撃を主任務しているが艦隊の防空と近くの偵察もこなせてしまう万能艦である。

 

・伊3000型潜水艦

全長 160m

全幅 21.6m

機関 ガスタービン(浮上時)

   核融合炉

武装 600mm魚雷発射管 38門

   垂直ミサイル発射装置 85セル

艦載機 SH13海鳥 4機

    AS5海猫 2機

新設される潜水艦のみで構成された艦隊計画、通称「紺碧計画」において情報収集と偵察に運用される潜水艦。見た目としては紺碧の艦隊の亀天号に近い。新たに開発された新型ソナーシステムの搭載により、全方位どこに隠れていようと探し出せる。また秘密作戦の支援にも使える様に、船体内部に小型潜水艇8隻が艦載可能。

 

・伊3500型潜水艦

全長 950m

全幅 212m

機関 ガスタービン(浮上時)

   核融合炉

武装 460mm火薬、電磁投射両用連装砲 4基

   203mm火薬、電磁投射両用砲 8基

   130mm連装速射砲 12基

   短距離艦対空ミサイル 20基

   垂直ミサイル発射装置 158セル

   七銃身30mmガトリング砲 18基

   八銃身20mmガトリング砲 36基

新設される潜水艦のみで構成された艦隊計画、通称「紺碧計画」において旗艦機能と火力支援を担う潜水艦。モデルはない、オリジナルの潜水艦である。双胴の船体をしており、中々に特異な見た目をしている。主砲と副砲には新しく開発された、火薬砲にもレールガンにもなる新型砲を搭載し電磁投射砲モードになると砲身が四分割して、さながら蒼き鋼のアルペジオのハルナとキリシマの主砲みたいになる。

基本的に砲火力による攻撃を主任務としているが、大型の格納庫を有しており航空機なら空軍のVC4隼、陸軍のCH63大鳥、F8B震電IIを搭載でき、喫水線近くにはウェルドックも搭載しており、海軍陸戦隊の水陸両用車やボートを搭載でき、強襲揚陸艦としても活躍できる。

 

 

艦載機

F8C震電II

全長 19.5m

全幅 14.0m

全高 3.56m

最高速度 マッハ2.2

固定武装 七銃身30mmバルカン砲 1基

兵装 主翼下大型パイロン 6発

  (搭載可能兵装 ASM4海山、GB9天山)

   機内中型パイロン 8発

  (搭載可能兵装 AIM63烈風、GB8流星)

   機内小型パイロン 2発

  (搭載可能兵装 AIM25紫電)

皇国の保有する多目的戦闘機の艦上機タイプで、原型のA型とVTOLのB型がある。見た目はエスコンのF3震電IIであり、歴代作においてもお馴染み化しつつある機体。本機は洋上迷彩が施されており、洋上での作戦に電子的、物理的にステルス効果がある。因みにA型は制空迷彩、C型は緑の地上迷彩が施されている。

 

E3鷲目

全長 25m

全幅 34m

全高 7.5m

最高速度 750キロ

空母等に配備される早期警戒機兼空中給油機である。見た目はE2ホークアイに近いが中身は全くの別物で、ホークアイの三倍の探知距離を誇る。

 

SH13海鳥

全長 18m

全高 4.2m

最大速度 350キロ

搭載可能兵装 爆雷 16発

       対潜魚雷 4発

       対戦車ミサイル旋風 4発

       三銃身12.7mmバルカン砲 1基

対潜哨戒に使用されるヘリコプターで、駆逐艦や空母に配備されている。ソナーやレーダー等の捜索、探索装置を装備している為、武装はあまり詰めない。基本装備に救助ホイストがある為、救難機としても運用される。

 

AS5海猫

全長 14m

全幅 13.7m

全高 4.2m

最高速度 580キロ

固定武装 三銃身20mmバルカン砲

搭載可能兵装 機内大型パイロン 2発

      (ASM4海山、GB9天山)

       同パイロン 4発

      (AIM63烈風、GB8流星)

       機内小型パイロン 2発

      (搭載可能兵装 AIM25紫電)

ティルトウィング方式のマルチロール機で対潜哨戒に加え、その他の攻撃任務にも投入できる様に開発された機体。20mmバルカン砲を固定搭載し、その他の兵装も搭載可能である。

 

 

陸上機

・PUS3三式大艇

全長 33.5m

全幅 33.2m

全高 10m

最高速度 720キロ

搭載可能兵装 ASM4海山 6発

       対潜魚雷 12発

       爆雷 10発

皇国海軍の保有する対潜哨戒機兼救難飛行艇で、前大戦にて開発された二式大艇の遺伝子を引き継ぐ機体。ターボプロップエンジン搭載の四発機で、鈍重そうな機体の割にグリグリ動く。    

 

・P1泉州

全長 38.0m

全幅 40.4m

全高 12.1m

最高速度 996キロ

搭載可能兵装 ASM4 8発

       対潜魚雷 16発

       爆雷 14発

陸上基地で運用される対潜哨戒機で、多数の武装を詰める。対潜作戦を行う際に、この機体がいないと始まらない。と言わしめる程の装備と練度を誇る兵を乗せている。

 

 

レーダーシステム

・草薙武器システム

一言で言うと「和製イージス」であり、対空戦の鬼である。探知距離がイージスシステムの二倍であり、目標処理能力も三倍とオリジナルを遥かに凌駕している。

 

・天乃岩武器システム

海中版イージスシステムと言えるシステムで、潜水艦を数百キロ手前で探知し相手に悟られる事なく、攻撃すると言う「潜水艦キラー」である。イージスシステムのように、四方向にソナーを配置する事で高い精度の聴音が可能である。さらに音波の中に「探鉄波」と呼ばれる音波を混ぜ込んでおり、例え海底の隙間に隠れていても潜水艦を形成する鉄を探知し、場所を特定できるチート装備である。

 

・天照武器システム

突撃艦専用に開発されたレーダーシステムで、レーダーの探知距離は低いものの、レーダー情報から敵の脅威度、耐久値、効果的な武装を割り出して優先度を付けていく演算能力に主眼を置いた武器システム。

 

 

艦載ミサイル(航空機搭載のは空軍編で解説)

・対艦ミサイル虎徹

ハープーンにあたるミサイルで、超高速の対艦ミサイルである。近距離対艦ミサイル、四連装対艦ミサイル発射機に装填される。

 

・対艦ミサイル桜島

トマホークにあたるミサイルで、通常弾道のI型と溶岩の様な超高音のドロドロとした液体を装填したII型がある。垂直発射システムに搭載される。

 

・対空ミサイル信長

航空機の撃墜は勿論のこと弾道ミサイル、衛星、理論上では隕石や宇宙船も破壊できる万能ミサイル。垂直発射システムに搭載される。

 

・対潜ミサイル信玄

アスロックにあたるミサイルで、対潜魚雷を飛ばす。垂直発射システムに搭載される。

 

 

各種砲弾(徹甲弾、榴弾、徹甲榴弾以外)

・時雨弾

対空戦闘用に開発された特殊砲弾で、内部に小型よ対空ミサイルを10発装填している。射撃後起爆し、ミサイルが各個に目標を撃破する。

 

・五月雨弾

対地上用に開発された特殊砲弾で、着弾後に地中へ小型爆弾を送り込み地中で起爆。砲弾の運動エネルギーと小型爆弾の爆発で、破壊力が上がっている。

 

・月華弾

対地、対空どちらでも使える特殊砲弾で、起爆すると超高温の火球を形成し熱波、衝撃波、高音の炎で対象を文字通りもみくちゃにして消滅させる砲弾。弾道ミサイルの弾道も、より破壊力を上げた月華弾を弾頭にしている。弾道ミサイル版のは並の核兵器よりも強い破壊力を持ちつつも、地球環境へのダメージがあまりないという兵器になっている。

 

 

 

艦隊規模(主力艦隊)

第一部隊

前衛潜水戦隊

・伊1500号型 1隻(旗艦)

・伊900号型 6隻

 

第二部隊

前衛機動遊撃艦隊

・摩耶型 6隻(旗艦)

・浦風型 12隻

・神風型 10隻

・磯風型 40隻

・阿武隈型 20隻

 

第三部隊

後衛機動遊撃艦隊

・大和型 4隻(旗艦)

・伊吹型 3隻

・龍驤型 3隻

・摩耶型 2隻

・浦風型 8隻

・神風型 8隻

 

第四部隊

航空打撃艦隊

・赤城型 2隻(旗艦)

・鳳翔型 8隻

・摩耶型 8隻

・浦風型 14隻

・神風型 16隻

 

第五部隊

本部艦隊

・熱田型 1隻(旗艦)

・大和型 4隻

・鳳翔型 2隻

・摩耶型 8隻

・浦風型 20隻

・神風型 18隻

総計 237隻

これが主力艦隊の戦力であり、皇国はこれを八つ保有している。

 

 

防衛艦隊

・鳳翔型 1隻(旗艦)

・龍驤型 2隻

・浦風型 8隻

・神風型 10隻

・伊号901型 1隻

総計 22隻

これが防衛艦隊の戦力であり、皇国はこれを五つ保有している。

 

 

揚陸艦隊

・出雲型 1隻(旗艦)

・日向型 4隻

・浦風型 3隻

・神風型 1隻



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大日本皇国空軍

2021年2月22日、航空部隊の部隊番号、部隊編成について加筆。
2021年3月14日、超重爆撃機富嶽IIについて加筆。
2022年3月26日、攻撃機AC180迅雷について加筆


制空戦闘機

・F9心神

全長 15m

全幅 10m

全高 5.1m

固定武装 六銃身20mmバルカン砲 1基

搭載可能兵装 機内中型パイロン 12発

      (AIM63烈風、GB8流星)

       機内小型パイロン 2発

      (AIM25紫電)

世界初の第六世代ジェット戦闘機で、皇国の保有する制空戦闘機である。プロペラ機ばりの旋回性能にジェット特有の加速能力が合わさっており、世界最強と言われていたF22ラプター八機をたった一機で相手して、無傷で全滅させるという化け物である。

 

 

戦闘攻撃機

・F8A震電II(海軍編にて解説済み)

 

・A9ストライク心神

全長 20m

全幅 14m

全高 5.1m

固定武装 七銃身30mmバルカン砲 2基

搭載可能兵装 機内大型パイロン 12発

      (ASM4海山、GB9天山)

       機内中型パイロン 4発

      (AIM63烈風、GB8流星)

       機内小型パイロン 2発

      (AIM25紫電)

前述のF9心神を攻撃機仕様に改造した物。全ての武装を機内に収納する事により、震電IIを超える火力を敵に悟られずに投射する事ができる。本機はデルタ無尾翼機であり、垂直尾翼も搭載されていない。ロール性能が高いが格闘戦は苦手。

 

 

攻撃機

A10彗星

全長 18.207 m

全幅 13m

全高 6.3m

固定武装 40mm機関砲 2門

     30mm連装機関砲砲 2基

     七連装80mmロケット弾発射機 2基

搭載可能兵装 胴体下大型パイロン 2発

      (ASM4海山、GB9天山)

       翼下中型パイロン

      (対戦車ミサイル旋風なら20発、小型爆弾なら40発)

皇国の誇る、ぶっ壊れ化け物攻撃機。戦車並の装甲を持ちながらも、音速で巡航するというトンデモ兵器。しかもコストがとても安い。逆ガル翼でカッコいい上、旋回機銃が上下についてて世界中にファンのいる。見た目はガミラスの空間艦上攻撃機DMB87 スヌーカ(劇中のバーガーが七色星団海戦で使ってた機体)

 

AC180迅雷

全長 50m

全幅 55.62m

全高 14.89m

固定武装 六銃身20mm機関砲 3基

     七銃身30mm機関砲 2基

     75mm速射砲 2基

     130mm砲 1基

     200mm榴弾砲 1基

搭載可能兵装 翼下パイロン 小型爆弾、対地ミサイル10発

       機体後尾上面 小型爆弾、対地ミサイル8発

新たに開発されたガンシップで、機体自体は退役した輸送機を流用している。後述の富嶽IIと同じ様な装備ではあるが、彼方の場合はどうしても費用が高い。だが一方で地上部隊からは、富嶽IIの様な存在がいて欲しいと多く声が上がっていた。そこで手頃な輸送機に大量の武装を搭載した、AC130と同じ発想の機体がこの迅雷である。

また数名の輸送も可能であり、特殊部隊の敵地侵入に使われる事だろう。

     

 

爆撃機

・超重爆撃機富嶽II

全長 120m

全幅 130m

全高 30m

固定武装 30mm三連装七銃身バルカン砲 9基

     20mm連装八銃身バルカン砲 10基

     40mm連装機関砲 4基

     75mm速射砲 4基

     120mm連装砲 2基

搭載可能兵装 胴体内 100,000kg(各種爆弾、ミサイル)

       翼下 60,000kg(各種爆弾、ミサイル)

世界最大、最強の超重爆撃機。空中戦艦とも言える圧倒的な防御性能に加え、B52約10機分を一機で賄ってるヤバいやつ。因みにB52は大体1.6万キロ程度しか積めない。その火力と航空機では太刀打ちがほぼ不可能な防御力で、制圧制空戦を可能としている。つまりは敵編隊に飛び込んで、四方八方に弾幕を張って完全に空域を制圧してしまう戦い方が取れるのである。尚、この巨体で有りながらマッハ1.5を誇る。

 

 

偵察機

RF2蛇

全長 15.5m

全幅 11.3m

全高 5m

最高速度 マッハ1.7

固定武装 六銃身20mmバルカン砲

元々は皇国で運用されていた戦闘機だったが、機体の老朽化で退役し、その一部を偵察機仕様に改造した機体。ミサイルを詰めなくなったものの、機関銃はそのままになっている。パイロンには偵察機材を積載可能で、速度のいる偵察に重宝される。

 

 

支援機

E3鷲目(海軍編にて解説済み)

 

E787早期警戒管制機

全長 68.3m

全幅 60.1m

全高 17m

最高速度 マッハ0.9

E767早期警戒管制機の後継機で、空軍の各部隊に配備されている。管制の他、ジャミングも可能で偶に前線で電子戦機としても運用可能。因みに他の戦闘機は、専用ポッドを装着する事で電子戦機に早変わりする。

 

KC787

(諸元はE787と同じの為割愛)

空中給油機タイプの787で、空中のガソスタとして機能する。

 

 

輸送機

C2鍾馗

全長 43.9m

全高 14.2m

全幅 44.4m

最高速度 900キロ

皇国における主力輸送機で、空挺降下作戦から通常の輸送任務まで幅広く使用できる。航続距離が長く地球の裏側、つまりブラジルまで無補給で飛行できる。機内には34式戦車までなら収容可能。バラせば46式も行ける。

 

C3屠龍

全長 93m

全高 20m

全幅 99m

最高速度 750キロ

世界最大の輸送機にして、46式を搭載できる輸送機。一機に四台まで輸送可能で、C2も分解すれば搭載可能。最早、色々冗談みたいな兵器である。

 

VC4隼

全長 17.4m

全幅 25.5m

全高 6.6m

最高速度 565キロ

皇国のティルトローター輸送機、簡単に言うとオスプレイ的立ち位置の輸送機。歩兵、40式を搭載可能。固定武装はないが、銃架はあるので機関銃程度なら取り付けられる。

 

VC5白鳥

全長 40m

全幅 56m

全高 17m

最高速度 450キロ

VC4隼を改造してローターを増設し、搭載量も大幅アップした機体。C2鍾馗と同程度の輸送能力があり、戦車の機動展開が可能となっている。

 

 

ミサイル

・ASM4海山

ASM3の後継ミサイルで、ステルス性が高くECCMが付いている。弾頭も通常弾、月華弾の二つがあり、簡単に付け替えが可能である。

 

・AIM63烈風

中距離空対空ミサイルで、アムラーム的ポジションなミサイル。誘導性が高く、同時に多数の目標への追尾も可能である。

 

・AIM25紫電

短距離空対空ミサイルで、サイドワインダー的ポジション。誘導性能が高い。

 

・AGM103旋風

対戦車ミサイルで、マーベリック的ポジション。基本的に戦車に一発でも当たれば、即お陀仏。

 

 

爆弾

・GB8流星

中型の誘導爆弾で赤外線、レーダー波、TV誘導、レーザー誘導に対応している。

 

・GB9天山

大型の誘導爆弾で、流星同様の誘導が可能。

 

 

航空部隊の部隊番号について

・航空隊の配備されている機体は、部隊番号の頭文字にくる数字が基準となる。

「一」はRF2蛇

「二」はF9心神

「三」はF8震電II

「四」はA9ストライク心神

「五」はA10彗星

「六」はE787

「七」はE3鷲目

「八」はKC787

「九」はC2鍾馗

「一○」はC3屠龍

「一一」はVC4隼

「一二」はVC5白鳥

このように頭文字の数字でわかるようになっており、下二桁は「〇〇」が存在しない。

 

 

飛行隊編成について

・一個分隊=2機

 

・一個小隊=二個分隊

 

・一個中隊=二個小隊(但し、中隊はエース級以外ない)

 

・一個飛行隊=五個小隊

 

 

 



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大日本皇国海軍陸戦隊・大日本皇国特殊戦術打撃隊

戦車

・34式戦車(陸軍編にて紹介済み)

 

・36式機動戦車(陸軍編にて紹介済み)

 

 

装甲車

・44式装甲車(陸軍編にて紹介済み。全型有り)

 

・33式水陸両用強襲装甲車

全長 13m

全幅 4.2m

全高 3.6m

最高速度 80キロ(地上)

     20キロ(水上)

主武装 60mm機関砲 1門

副武装 20mm機関砲 1基

他国で言うところの、水陸両用戦車に近い装甲車。貨物室に完全武装の歩兵を20名積載可能で、火力支援をしながら上陸できる。

 

・28式水陸両用装甲車

全長 9.5m

全幅 3.8m

全高 3.4m

最高速度 90キロ(地上)

     30キロ(水上

武装 20mm機関砲 1基

   40mm擲弾機関砲 1基

アメリカのAAV7にあたる装甲車で、完全武装の歩兵25名積載可能である。派生型がいくつかあり基本のI型、指揮官車タイプのII型、回収車タイプのIII型がある。

 

・40式小型戦闘車(陸軍編にて紹介済み)

 

 

自走砲

・44式230mm自走砲(陸軍編にて紹介済み)

 

 

火砲

・130mm榴弾砲(陸軍編にて紹介済み)

 

 

ロケット砲

・53式多連装ロケット砲(陸軍編にて紹介済み)

 

 

ヘリコプター

・AH32薩摩(陸軍編にて紹介済み)

 

・UH73天神(陸軍編にて紹介済み)

 

・CH63大鳥(陸軍編にて紹介済み)

 

 

歩行戦闘脚

・WA1極光(陸軍編にて紹介済み)

 

・WA2 月光(陸軍編にて紹介済み。全型有り)

 

 

個人装備

・43式小銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・32式戦闘銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・42式軽機関銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・48式狙撃銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・36式散弾銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・33式携行式対空ミサイル(陸軍編にて紹介済み)

 

・38式携行式対戦車誘導弾(陸軍編にて紹介済み)

 

・29式擲弾銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・37式短機関銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・26式拳銃(陸軍編にて紹介済み)

 

・機動甲冑(陸軍編にて紹介済み)

 

 

 

大日本皇国特殊戦術打撃隊

二足歩行戦車

メタルギア零

全長 12m

全高 23m

全幅 8m

武装 大口径レールガン 1門

   30mm機関砲 2門

   電磁パルス砲 1門

   Sマイン投射機 4基

   火炎放射器 2基

某ステルスアクションゲームで、度々蛇が破壊する作品のPWで出てきたジークによく似てる兵器。レドームと追加装甲も付いてる。後述の機体含め、レールガンの弾は海軍の物と同じ。

 

メタルギア龍王

全長 8m

全高 20m

全幅 13m

武装 大口径レールガン 1門

   七銃身30mmバルカン砲 4基

   自由電子レーザー砲 2基

   垂直ミサイル発射機 1基

某ステルスアクションゲームの最初のヤツ(メタルギアから考えると3作目)で登場し、ぶりぶりざえもんの中の人が「追い込まれた狐はジャッカルより凶暴だ」という名言を生み出したシーンで戦ってた兵器によく似た兵器。垂直ミサイル発射機の中身は海軍の物と同じ。

 

メタルギア水虎

全長 5m

全高 26m

全幅 60m

武装 水圧レーザーカッター 1基

   三連装多目的ミサイル発射機 2基

   小型ミサイル発射機 6基

   60mm機関砲 2基

某ステルスアクションゲームの2と4で出てくるヤツによく似た兵器。潜水して上陸する事も可能。

 

 

戦闘機

ADF1妖精

全長 23.9m

全幅 15.7m

全高 5.7m

最高速度 マッハ2

固定武装 七銃身30mm機関砲 1基

搭載可能兵装 主翼下大型パイロン 2発

      (MPBM)

       機体上部コネクター 1基

      (TLS)

       主翼下中型パイロン 4発

      (ECMP、AIM63烈風)

       機内小型パイロン 2発

      (AIM25紫電)

どっかの世界線でモルガンと呼ばれた機体に瓜二つな重戦闘機。専用武装のMPBM(燃料気化ミサイル)とECMP(電子防御システム)を搭載し、他機の支援を得意とする。

 

ADF2大鷹

全長 24m

全幅 15.9m

全高 5.6m

最高速度 マッハ2.2

固定武装 六銃身20mm機関砲 1基

     TLS 1基

搭載可能兵装 主翼下大型パイロン 2発

      (燃料気化爆弾、ASM4海山、GB9天山)

       主翼下中型パイロン 4発

      (AIM63烈風、GB8流星)

       機内小型パイロン 2発

      (AIM25紫電)

こちらもどっかの世界線でファルケンとか呼ばれる機体にそっくりな、多用途戦闘機。TLSによる狙撃を得意とする。

 

ADF3渡鴉

全長 18m

全幅 14.3m

全高 7.2m

最高速度 マッハ2.2

固定武装 パラスレーザー機関砲 1基

     TLS 1基

搭載可能兵装 主翼下大型パイロン 2機

      (UAV)

       機内中型パイロン 4発

      (AIM63烈風)

       機内小型パイロン 2発

      (AIM25紫電)

最早、隠す気すらないレーベンと呼ばれてる戦闘機によく似た戦闘機。TLSでの狙撃と、UAVによる攻撃で敵を翻弄する。

 

 

超兵器

機動空中要塞鳳凰

全長 180m

全幅 85m

全高 25m

最高速度 マッハ4

武装 レールガン 8基

   TLS 4基

主に成層圏と中間圏の間、高度約50kmを飛行する要塞。弾道ミサイル防衛、隕石の迎撃、小説なんかで有りそうな異星人の乗る宇宙船(ほぼ冗談)の迎撃を主任務とするアークバードもどき。半永久的に浮遊し、乗員は半年から一年の周期で入れ替わる。現在6機が運用されている。

 

空中空母白鯨

全長 433.3m

全幅 963.7m

全高 102.3

最高速度 850キロ

武装 AIM63烈風発射機(連装もしくは四連装)50基

   七銃身30mm機関砲 30基

   六銃身20mm機関砲 58基

艦載機 F8C震電II 120機

 

支援プラットフォーム黒鯨

全長 205.4m

全幅 486.4m

全高 43.6

レーダーシステム 草薙武器システム

武装 130mm速射砲 230基

   七銃身30mm機関砲 300基

   六銃身20mm機関砲 580基

   垂直ミサイル発射装置 150セル

どっかのアイガイオンの皇国版である。オリジナルと違い補給に専用の輸送機を使う事で、レーダーの機能障害が消えた上、対空火器のハリネズミ化したプラットフォーム二機を随伴させている為、そうそうやられる事はない。現在10個の空中空母艦隊が存在している。

 

空中母機白鳳

全長 40m

全高 15m

全幅 1100m

武装 パルスレーザー砲 2基

   対空ロケットランチャー 90基

   TLS 1基

艦載機 UAV 300機

どっかのストレンジリアルの7で、ラスボス並みの立ち位置にいる無人機と同じ見た目の兵器。こちらも無人機で北海道と九州・沖縄に4機、四国に1機、本州に10機、日本を縦断する形で4機が常時配備され、さらに10機が陸上の専用基地に居る。

 

 

 

 

 

   



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序章クワ・トイネ公国邂逅篇
第一話今流行りの異世界転移


2056年5月19日、大日本皇国統合参謀本部前

 

「閣下、お帰りですか?」

 

「ん?あぁ。お帰りはお帰りなんだが、今日は寄る所があるんだ。帝国ホテルへ頼む」

 

「ハッ‼︎」

 

 

 

神谷 浩三

年齢 29歳(独身)

階級 大将

役職 大日本皇国統合軍総司令長官

大日本皇国の事実上の総指揮官であり、戦闘時は陣頭指揮を取る。刀の名手で、皇国唯一の「剣聖」称号を持っている。その腕前は銃弾を斬る程であり、ルパン三世の五右衛門と同程度の実力。一応、本作での主人公的ポジション。

 

 

 

帝国ホテルの大ホールに、「何曜中学同窓会」と書かれた看板が立っていた。そう。神谷の母校であり、今日はその同窓会なのである。

「お‼︎神谷、久しぶりだな‼︎」

 

「よお、お前は.......誰だっけ?」

 

「おいおい、忘れんなよな」

 

「冗談だって。久しぶりだな、一色」

 

「おうよ‼︎にしてもまあ、よく帝国ホテルで同窓会とかできたよなぁ」

 

「それな。ウチの中学、別に私立とかの名門校じゃないしな」

 

「なんでも、アイツが手を回したらしいぜ?」

 

「あー、うん。今の一言で全て察した」

 

後ろのドアが開き、いかにも成金という風貌のデブが入ってきた。(見た目が完全にワンピースのチャルロス聖)

 

「おぉ、下々の者共。楽しんでおるかぇ?」

 

「うわぁ」

「出た。何曜中名物、醜い豚」

「なんか前より酷くなってね?」

「クズな大人の代名詞化してるしw」

 

一部からヒソヒソとボロクソに言われているが、豚には聞こえていない。元取り巻きの連中は、おべっかを使って媚びを売ってる。

 

「うーん?貴様は愚か者の、神谷とかいうアホでねぇかぇ?」

 

神谷がロックオンされる。というのも、中学時代に神谷はこの豚に虐められていた。尤も精神的、身体的ダメージも皆無で、一応地面を向いていたが内心は「コイツ、いつか殺したろ」とか思ってた。

 

「一色、お前今、仕事何してんだ?」

 

「お、おぉ。俺はしがない営業マンだ。一応、大企業と言われてる会社のな」

 

「へぇー。お前、昔から語彙力とかコミュ力がズバ抜けて高かったもんな」

 

「無視するんでねぇ‼︎」

 

「おやおや。これはこれは、何曜中学のクソ野郎にして、社会の粗大ゴミに育った変態馬糞野郎じゃないですか。こんな所で会うとは、中々奇遇ですな」

 

「お前、俺を愚弄するかぇ⁉︎」

 

ここでまさかの、拳銃を出しやがる。

 

「きゃーー⁉︎」

「嘘だろ⁉︎」

「コイツマジか‼︎」

「犯罪だろ普通に‼︎」

 

「俺はパパのコネで、何をしても許されるんだぇ‼︎だから今ここで、お前を殺しても問題無いんだぇ⁉︎」

 

「やめといた方がいいぜ?」

 

「命乞いとは醜いんだぇ‼︎お前それでも、皇国臣民かぇ⁉︎」

 

「警告はしたぜ?」

 

突如、四人の歩兵が何も無い所から現れ、銃を豚に構える。

 

「銃を下ろせ」

 

「お、お前ら何だぇ⁉︎」

 

「貴様さっき、あの方を「愚か者」とほざいたな?どっちが愚か者だ。クソ野郎」

 

「この方をどなたと心得る?この方こそ大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三大将閣下で有らせられるぞ‼︎」

 

「えぇ⁉︎」

「神谷、お前軍人だったのか⁉︎」

「その年で司令官とか、どんなエリートだよ」

 

「神谷、お前マジか?」

 

「いやー、隠す気はなかったんだけどなぁ。まぁ、いいや。で、何をしても許されるんだっけ?悪いけど、こっちは合法的にお前を殺せるけど?」

 

「ひ、ヒィィィィィ‼︎」ジョォォォォ

 

まさかの恐怖で失禁して、黄色の小池が豚の股間に広がる。

 

「うわ汚な‼︎バッチいから連れて行け。取り敢えず、その辺のポリスメンに頼めば署に連れて行かれるだろ。厳罰を頼んどくから、感謝してくれよクソ野郎?」

 

そのまま兵士四人に引き摺られ、クソ野郎は連行された。一波乱あったものの、同窓会は続きお開きになった所で今度は制服の兵士が血相を変えて入ってきた。

 

「閣下‼︎神谷閣下‼︎」

 

「うおっ‼︎向上少佐か。どした?」

 

 

 

向上 六郎

年齢 27歳

階級 少佐

役職 大日本皇国統合軍総司令長官秘書官

神谷の秘書で、雑務やスケジュール管理をしている。軍内でもイケメンで広告塔でもあるが、実は重度のドルオタでファンクラブ会長をしてたりする。

 

 

 

「はー、はー」

 

「と、取り敢えず水飲め水」

 

「あ、ありがとうございます。.......ふぅ。閣下、各国との回線が途絶えました」

 

「ハ?」

 

「各国との連絡が途絶えたんです」

 

「EMPか?」

 

「いえ、電話や車は使えるので考えにくいです。しかし通信衛星、海底ケーブルどちらとも他国との連絡がつかなくなりまして。宇宙センターやケーブル会社にも連絡を取り、確認してもらったのですがケーブルの方は「異常はどこにも見当たらない」と連絡が来ました。しかし衛星の方は反応が目視、レーダー上でも消えました」

 

「消えた?破壊されたではなく?」

 

「えぇ。ご指示を」

 

「取り敢えず、健太ろ、いや総理にこの事を伝えよう。ヘリをこっちに回してくれ。それから各軍のレベル4に」

 

 

「既に私が乗って来たのが待機しています。レベル4の件は伝達しておきます」

 

「頼んだ」

 

「ハッ‼︎」

 

レベル4とは、統合軍にて使われる警戒レベルである。5は平時、4は出動準備もしくは警戒配置、3は即時出動待機(災害派遣もここに含まれる)、2は臨戦態勢、1は敵の侵攻が確認された状態、0は戦争状態となっている。

 

 

帝国ホテル屋上ヘリポート

「閣下、こちらです‼︎」

 

「おう‼︎」

 

「閣下、どちらに向かわれますか?」

 

「首相官邸だ‼︎急いでくれ‼︎」

 

「へい‼︎」

 

UH73天神が離陸した直後、神谷と制服の兵士の携帯が同時に鳴り響く。

 

『ブイブイブイ、地震です‼︎ブイブイブイ、地震です‼︎ブイブイブイ、地震です‼︎』

 

「各国との通信は途絶えるわ、衛星が消えるわ、地震は起きるわ忙しいな」

 

「閣下、もしかしたら何か関係があるかもしれませんよ?」

 

「どういう事だ?」

 

「見てください。地震大国日本と言えど、こんな起き方しますか?」

 

向上が神谷にスマホを見せる。画面には地震の震度が書かれているのだが、明らかにおかしい。普通地震は一部の地域しか起こる事は無いのだが、どういう訳か日本全土で一律震度3の地震が同時発生したのである。

 

「こんな起こり方聞いた事ないぞ」

 

「もしかしたら、他国が新兵器でも開発したのでしょうか?」

 

「の割には戦略的価値が薄いぞ。せいぜい国民が少し混乱したり、軍が災害派遣に備える位だ」

 

「確かに」

 

「閣下、そろそろ官邸ですぜ」

 

「了解した」

 

 

首相官邸総理自室

「健太郎‼︎」

 

「浩三、どうしたんだ?」

 

 

 

一色 健太郎

年齢 29歳

役職 内閣総理大臣

史上最年少の総理大臣で、神谷とは幼馴染。政治のスペシャリストで、考えついた法案は全て通しており、野党との政治戦争は国民からの評価も高い。国民の思っている事をズバッと切り捨てる辛口総理である。所が外交と軍事に関してはダメダメであり、外交はもう一人の幼馴染が、軍事は神谷がアドバイザーとなってサポートしている。

 

 

 

「お前、さっきの地震は知ってるな?各国との通信も途絶えて、衛星が消えたのは知ってるか?」

 

「いや、初耳だ」

 

「何でもケーブルに問題はないが通信は出来ず、衛星は消滅したそうだ。破片は今の所発見されていない」

 

「てことは、えーと、何だっけ?い、いー、あ‼︎APC攻撃じゃないんだな?」

 

「アホ。APCじゃなくてEMPだ‼︎APCは装甲兵員輸送車の頭文字‼︎」

 

「あはは。で、何でここに来たんだ?電話は通じるんでしょ?」

 

「攻撃の可能性もあるからな。念の為、口頭で伝えようと思ったんだ。本題なんだが、俺に指揮権の事実的な委譲をしてくれないか?」

 

「わかった。何かあったら責任とってやる」

 

「恩に着る‼︎」

 

 

「閣下、ご指示を‼︎」

 

「各地のRF2は状況偵察。E787、E3は上空警戒にあたらせろ。戦闘機隊は即時待機状態へ移行。海軍は防衛艦隊に警戒態勢、主力艦隊に出撃待機を指示。陸軍は配備地域のパトロールを開始せよ」

 

「了解しました‼︎直ちに伝達します‼︎」

 

 

数時間後、統合参謀本部司令室には神谷以下、軍の幹部達がTV電話で集合していた。その陣容は以下の通りである。

・空軍総参謀長

・海軍総参謀長

・陸軍総参謀長

・海軍陸戦隊総隊長

・特殊戦術打撃隊総隊長

 

「諸君、現在の状況を精査したい。報告を‼︎」

 

『では私から』

 

空軍総参謀長が声を上げる。

 

『偵察隊からの報告ですが、現在領空、領海内に敵影は発見されず。海域の異常も発見されなかったそうです。警戒機からも同様の報告が上がっています。唯、どちらとも不可解な報告をしています』

 

「不可解な報告?それは何だ?」

 

『水平線が遠くなったという報告が相次いでいます』

 

「何?水平線が遠くなったって事は、それは日本が転移したこ、あ‼︎」

 

「閣下?」

 

「そうだ‼︎転移だ‼︎至急、宇宙センターに連絡を取り偵察衛星を打ち上げさせろ‼︎」

 

「りょ、了解‼︎」

向上が出て行ったのと入れ違いに、士官が入室する。

 

「閣下、会議中失礼します。機動空中要塞大鳥と連絡がつきました。報告によると、地球ではない惑星に日本列島があると言っています」

 

「やっぱりか‼︎」

 

『か、閣下?』

 

「諸君、まだ検証してないから分からんが、多分我が大日本皇国は異世界転移したと思われる‼︎」

 

『『『『『.......』』』』』

 

 

『『『『『えぇぇぇぇぇ⁉︎』』』』』

 

 

『え、ちょ、閣下?何故に異世界転移なのでしょう⁉︎」

 

「いやだってさ水平線は遠くになり、地球ではない惑星に日本列島があって、日本全土で同時に地震が起き、衛星が消え、他国との通信が途絶えたんだから、もう異世界転移しかなくね?」

 

『いやまあ、そりゃそうですけど』

 

「航空総参謀長、夜明けを待って長距離の偵察を行え。士官、お前は大鳥に連絡を取り近くの大陸を報告させろ」

 

「『了解‼︎』」

 

「これにて会議は終了とする。解散‼︎」

 

 

執務室

「にしてもまぁ、今流行りの異世界転移するとはね。「事実は小説より奇なり」と言うが、奇怪すぎんだろ」

 

なんて独り言を呟いていると、突然人が降って来た。

 

「あだ⁉︎」

 

「うおっ⁉︎だ、誰だ‼︎」

 

「いってぇ。って、アレ?浩三?」

 

「は?いや、え?何でお前がいるんだ⁉︎」

 

そこに居たのは、出張でワシントンに居る筈の幼馴染、川山慎太郎であった。

 

 

 

川山 慎太郎

年齢 30歳

役職 外務省欧米部部長

神谷と一色の幼馴染で、外交のスペシャリスト。主に欧米での外交を担当しているが、よく新規の国交開設時に交渉に行っている。重度の中世ヨーロッパのオタクで、毎年欧州の中世時代の建物を巡ってる。本作での外交時は主人公役になる。

 

 

 

「えーと、ここって何処?」

 

「統合参謀本部、総司令長官執務室だ」

 

「俺ってワシントンに居たよな」

 

「そう連絡が来てたぞ?」

 

「で、ここは?」

 

「俺達の祖国」

 

「普通はどうやって帰る?」

 

「飛行機に揺られて、1日位掛かるよな」

 

「そんな時間ないし、飛行場や飛行機に居た記憶はない。つまり?」

 

「お前が転移魔法を使った」

 

「嘘やん。俺、いつから賢者になったの?童貞じゃないのに」

 

「サラッと下ネタを吐くな‼︎」

 

「俺、どうしたらいいんだよ」

 

「外務省に帰ったら?ってか、それ以外どうしろと?」

 

「それもそうか。とりま帰るわ」

 

「ばいなら〜」

 

 

翌日、朝 0800。大鳥からの情報で日本海側に大陸がある事がわかり、そこへRF2がE3を援護に付けて離陸した。その模様は首相官邸、統合参謀本部司令室にTV中継されていた。

 

「こちら、オスカー01(RF2のコールサイン)トレボー(E3のコールサイン)応答せよ」

 

『こちらトレボー。感度良好』

 

「そろそろ例の大陸に入る」

 

『了解。現在、敵影は発見されず』

 

 

「こちらオスカー01、大陸に突入した。文明があるようで、畑や風車小屋が確認できる。植えてあるのは、おそらく麦だな。お、人影も見える。恐らく、中世ヨーロッパ程度の技術力はあるだろう」

 

『トレボー了解。他に何かあるか?』

 

「他には、城壁?いや、砦があるな」

 

『オスカー01、所属不明機捕捉‼︎直ちに対処されたし‼︎速度は遅い。恐らく、レシプロ機だな』

 

「オスカー01了解した」

 

しかしオスカー01のパイロットの悪い癖が発動し、偶然を装って所属不明機に接近した。その結果、有り得ない物を見つけたのである。

 

「こちらオスカー01。所属不明機を目視にて捉えたが、ありゃ竜騎士だ」

 

『竜騎士?竜騎士って、モンハンとかのか?』

 

「あぁ。ドラゴンの上に、騎馬兵みたく騎士が乗ってやがる。もしかしたら火を吹いてくるかも知れんから、このまま撤退する」

 

『了解』

 

この映像は官邸でも司令室でも確認され、その場の全員がビックリした。そりゃドラゴンなんて架空の存在で有り、まして竜騎士なんているとは誰も思わなかったのである。

 

 

首相官邸

「総理、今の映像のドラゴン、何か国籍章の様な物を確認しました。もしかしなくても領空侵犯と見て良いでしょう。直ちに相手国の元首へ、謝罪を行うべきと進言します」

 

「わかりました。外務大臣、すぐに外交官を選定してください。防衛大臣は外交官を運ぶ軍艦の用意を」

 

「「ハッ‼︎」」

 

その日の夕方、総理自ら会見で「日本が異世界に転移した」と発表した。勿論、会見を聞いた人は驚き、多少のパニックになった。そこで透かさず総理が「無論、私達政府関係者全員がこんな事は初めてであり、どう転ぶかもわかりません。単刀直入に言って、最早お手上げ状態です。しかし、新たに発見された大陸に中世ヨーロッパ程度の文明がある事が判明しております。現在、その国家との国交樹立に向け動いております。何かしら進展がありましたら、必ずお伝えしますので今は落ち着いてください」と言った事で、混乱は収束した。翌日、天皇陛下も国民に向けエールを送った事で国民が纏まり、歴史上初の前代未聞すぎる事件に立ち向かう準備が整ったのである。

 



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第二話国交樹立への道のり

会見の翌日、又しても事件が起きた。他国にいた人間が結婚済みの者を除いて自分の故郷、もしくは職場に最寄りの駐車場又は空き地に現れたのである。逆に日本に居た外国人、例えば大使とか旅行者は消えたのである。一方で民間船も各地の港や港の沿岸に現れるという事が起きたのである。また政府も宇宙センターと協力して、偵察衛星の打ち上げを急ピッチで行なっており、一部は既に打ち上げられている。そして、場所は外務省の外務大臣執務室に移る。

 

「失礼します。大臣、お呼びでしょうか?」

 

「あぁ。君は確か中世ヨーロッパに詳しかったね?」

 

「はい。趣味の一つですので」

 

「なら君には、陛下の勅命で新たな仕事をしてもらいたい」

 

「陛下の勅命ですか⁉︎」

 

「あぁ。川山くん、君には欧米部部長を辞めてもらう。その代わりに我が皇国の特別外交官になってもらいたい」

 

「特別外交官ですか?」

 

「そうだ。こんな事態は有史以来、未だ嘗て無い事なのは知っているだろう。その為、緊急の帝前会議が行われたのだ。その際、総理が君を陛下に推したんだ。君は総理と統合軍司令の神谷さんと幼馴染だそうだね?陛下に「アイツ程、軍と政治に顔の効く外交官はいません。それにアイツは大の中世ヨーロッパ好きで、専門家との談議についていくこともできます。相手の国が中世ヨーロッパに似ている点も鑑みて、中世ヨーロッパの事をよく知っている者を派遣すべきと進言いたします」と言っていたよ。良い友達を持ったね?」

 

「そうでしたか。わかりました。特別外交官の件、是非やらせていただきます」

 

「そうか。ありがとう」

 

川山は外務省を出ると、その足で統合参謀本部へ向かった。

 

 

統合参謀本部長官執務室

「入るぞ」

 

「おう。聞いたぜ?お前、異世界へ外交官として行くんだってな?」

 

「なんか健太郎が陛下に推薦してくれたらしくて、陛下の勅命って形になった」

 

「やっぱ、外交官冥利に尽きるってヤツか?」

 

「いや、正直不安の方が勝ってる。相手は異世界の国で、どんな風習があるかわからない。もしかしたら、いきなり殺される事もあるかも知れない。というか、まず言語の壁がある」

 

「それもそうだな。さて、お前がここに来た理由は派遣する艦隊についてで良いんだな?」

 

「あぁ。俺は一体、どんな艦に乗るんだ?」

 

「本当なら主力艦隊をつけてやりたいが、流石に砲艦外交はマズいからな。ここは防衛艦隊に任せるつもりだ。一応乗ってもらうのは第三防衛隊群の旗艦、空母龍鳳になっている」

 

「戦力的には?」

 

「旗艦である龍鳳以下、龍驤型二隻、浦風型八隻、神風型十隻、伊号901型一隻の艦隊だ。よっぽどの事が無い限り、やられることはない」

 

「わかった。それなら安心だ。出発は翌々日、早朝で間違い無いな?」

 

「あぁ。翌々日の朝7時に出航予定だ。見送りには俺も行くから、ついでに送ってやるよ」

 

「OK。感謝するよ」

 

 

翌々日、艦隊は出航し異世界の国への船出についた。二日後異世界の首都、もといクワ・トイネ公国第二の首都とも言える経済都市マイハークの沖合にて、艦隊は異世界の艦隊の臨検を受けていた。その時臨検時に乗りこんだ、船長の視点をお借りしてお送りしよう。

 

「なんなのだ、この巨大な鉄の塊は.......」

 

「船なのでしょうか?それとも城塞ですかね?」

 

そこに鎮座しているのは、第三防衛隊群の旗艦龍鳳である。艦長が乗員に命じで、艦載機エレベーターを下げる。

 

「ひとりでに甲板が降りてきたぞ‼︎魔法道具か何かか⁉︎」

 

「あそこから乗れ。という事でしょうか?」

 

「えぇい‼︎ままよ‼︎」

 

 

航空母艦「龍鳳」飛行甲板

なんなのだ、なんなのだコレは‼︎この広さ、騎馬試合ができてしまうぞ⁉︎

 

そこへ艦長を連れ、川山が甲板に現れる。

 

奇妙な服、見慣れぬ服、アレ(甲板上に配置している震電IIの事)に至ってはなんなのだ⁉︎

 

では、川山の方に視点を戻そう。

 

「げ、現在、クワ・トイネ軍は厳戒態勢にある。貴船の所属と航海目的を知りたい」

 

川山と艦長は驚く。この軍人が使っているのは、紛れもない日本語なのである。

 

「言葉の壁が無いのが救いだな。失礼、私は大日本皇国外務省所属、特別外交官の川山と申します」

 

川山は名刺を差し出す。司令は何で小さな紙を出されたのかは分からないが、多分もらうべきものだろうと空気を読んで取り敢えずもらう。

 

「大日本皇国?聞かぬ名だな」

 

「それもその筈。我が国はどういう訳か転移してしまったのです。七日前の偵察機が持ち帰った情報から、その確証を得ました」

 

「それでは我が国マイハーク上空に現れた、国籍不明騎は」

 

「アレは予期せぬ領空侵犯でした。我が国に敵意なし、そう断言できます。我々の航海目的は、貴国への領空侵犯についての謝罪が目的です」

 

「そうでありましたか。では、我々の船について来てくだされ」

 

船長は直ちに魔信(魔法による連絡手段。要は電話)で本国に通報し、第二艦隊司令に連絡が入った。連絡が入るや否や、政治部会へ突撃して報告を行い、首相のカナタが「会談を持つ」という決断を下し、とても速いスピードで会談が成立した。

 

 

会談会場

「このような場を設けて頂いた事に厚く御礼を申し上げると共に、我が国の偵察機が領空侵犯した事を深くお詫び申し上げます」

 

「公に謝罪を受け入れます。しかしながら、貴国の誠実な説明を求めたい」

 

「それはごもっともの事です。そこで今回はこちらで資料を作りましたので、配布させていただきます」

 

しかしここで、一つ問題が起きる。

 

「この文字、我々は読めませぬぞ?」

 

「え⁉︎これは申し訳ありません。我が国と同じ言語を使っておりましたので、てっきり文字も通じるのかと」

 

「私達からすると、其方が世界共通語を話している様に聞こえますぞ?」

 

「わかりました。では、口頭の説明となりますが御容赦ください。我が国、大日本皇国は貴国より東へ約一千キロに位置し、三十七万八千平方キロメートルの国土と、人口3億9000万人を有する国です」

 

「あの海域にそのような形の島は、聞いた事もありませんぞ‼︎というより、島すら存在しておませぬ‼︎」

 

外務卿リンスイが怒鳴りつける。川山は予測された反応の為、表情をピクリとも動かさずに切り返す。

 

「目下原因不明ですが、先の偵察機からの情報などを客観的に分析して「国土ごと此方に転移した」としか申し上げようがありません。しかしながら「この事を信じろ」と此方が申し上げた所で、其方からするとホラ話もいい所です。ですので、我が国に貴国使節団を派遣する事を勧めさせて頂きます。御足労願いませんでしょうか?」

 

「いいでしょう」

 

「何ですと⁉︎」

 

「大日本皇国の使節団の方々は、非常に誠実で礼節を弁えておられる。なにより我が国を攻め滅ぼせるであろう軍事力を有しながら、その力を背景に威嚇してくる事もない。そのような国が築く都市や文化を、私は知りたく思う」

 

「ありがとうございます。直ちに使節団受け入れの準備を致しますので、派遣される方の選抜が終わりましたらお声掛けをお願いします」

 

「わかりました。ではこれにて、お開きとしましょう。本日はこちらで部屋を用意させておりますので、旅の疲れを癒してください」

 

「御心互いに感謝します」

 

打ち上げられた通信衛星によって、会談の結果は即刻日本へ報告された。これにより日本側は、民間の旅客船を一隻借りて海軍の護衛を受けつつマイハーク沿岸部に向かい、使節団と川山と合流し一路、福岡港へ向かった。因みに船内の設備に使節団は腰を抜かし「光の精霊が住んでいる‼︎」とか「神々の船だ‼︎」とかと言って興奮していた。まあ、この時代の船旅は、暗くて湿気も多くて運が悪いと疫病に罹るという地獄の片道切符である為、このリアクションも無理はない。二日後、博多港に着きアイツと合流する。

 

 

「よう浩三」

 

「よう、じゃねーよ。俺なんも聞かされてないんだけど?」

 

「え?」

 

「昨日の夜に健太郎が「ちょっと博多で慎太郎と会ってこい」って言われて、最終便でこっちに飛んで来たんだ」

 

「マジで?」

 

「マジだよ。大マジだよ‼︎」

 

「なんか、さーせん」

 

「まあ、久しぶりに博多ラーメン食えたら良しとする」

 

「川山さん、其方の方は?」

 

外務局員のヤゴウが質問する。その後ろでリンスイも「?」という顔をしている。

 

「あ、すみません。此方は大日本皇国統合軍総司令長官の神谷浩三という軍人です」

 

「神谷です。実質的な軍の総指揮官と思って頂ければ大丈夫ですよ」

 

「これはこれは。クワ・トイネ公国で外務卿をしております、リンスイです。此方は局員のヤゴウ」

 

「ヤゴウです。どうぞよろしく」

 

「えぇ。此方こそ」

 

「川山さん、何故にこの方が居るのでしょうか?軍の総指揮官が護衛も付けずに居るのは、些か不用心なのでは?」

 

「確かに普通なら護衛が付くべきでしょうが、神谷は皇国一の刀の使い手ですので御安心を」

 

「ほぉ。それは心強いの」

 

「おっと、時間が押していますね。それでは皆様、我が国の空軍基地へご案内します」

 

一行はリムジンに揺られ、一路築城基地へ。

 

 

「神谷殿、ここは一体何の基地でしょうか?」

 

「ここは空軍基地、其方で言う竜騎士の基地ですよ」

 

「竜騎士?この国にもワイバーンがいるじゃの?」

 

「失礼、言葉が足りませんでしたね。我が国で運用するのはワイバーンではなく、此方になります」

 

整備士に目で合図を送り、一つの機体が姿を現す。

 

「こ、これは⁉︎」

 

「鉄竜ですか⁉︎」

 

リンスイに続いて、ヤゴウも驚きの声を上げる。

 

「そうです。この機体は我が国で配備されている最新鋭ステルス制空戦闘機、F9心神です」

 

「これがマイハークを飛んだ機体かの?」

 

「いえ違います。例の件で使われた機体は元は戦闘機でしたが、退役、つまりは引退したのを改造して出来た機体です。ですので、当たらずとも遠からず、って所ですかね?」

 

「神谷殿、この機体を飛ばすことは出来ませんか?」

 

「さ、流石にそれは」

 

川山が渋るが

 

「いいですよ」

 

「え?」

 

「本当ですか⁉︎」

 

(ちょっと浩三さん?簡単に飛ばしちゃっていいのか⁉︎)

 

(訓練だと処理すりゃ問題ねーよ)

 

(そうじゃなくて、手の内見せたりして良いのかって事だ‼︎)

 

(中世ヨーロッパ程度の技術力じゃ、ステルス制空戦闘機なんざ作れねーよ。国家機密の設計図を見せた所で、理解すら出来ないだろうし)

 

(いや、そうだけどさ)

 

そんな訳で「訓練」の名目で、一通りの動きを見せた。具体的にはクルビットやバレルロール等のマニューバと、模擬ミサイルの発射等である。訓練が終わると、また博多に戻りリニアモーターカーで呉に向かった。

 

 

「神谷殿、我々は何処に向かうのでしょうか?」

 

「次は皇国海軍の基地ですよ。我が国の艦船をお見せいたします」

 

一行は埠頭に、ではなく地下ドックに通される。流石に二百隻越えの艦隊を外に係留するのは不可能であり、全ての海軍基地に地下ドックがある。鎮座する海の猛者達を前に、使節団は言葉を失う。この時代の軍艦とはガレー船とか戦列艦であり、パイレーツオブカリビアンとかワンピース(あっちは独自の技術とかで、厳密には結構違ってくるが)に出てくる艦船である。そんな世界の人間が、かつて「世界最強」と言わしめた大和型を始め、全長が1キロを超えてる空母とか、1.5キロの戦艦とかを見れば最早、思考停止レベルであろう。

 

「か、神谷殿?これは浮くのかの?」

 

「え?えぇ。浮きますよ?」

 

「鉄は普通沈みますよね?」

 

「そりゃ、水より比重がデカいですからね」

 

「で、では何故浮くのかの?」

 

「水に物体を浮かせるには二つの方法があるんですよ。水より比重が小さいもの、例えば木とかですね。もう一つは箱の中に空洞を作って、全体の重さを押し除けた水の量より軽くすれば材質に関係なく浮きます」

 

「と言うことはダイヤや金でも浮くのですか⁉︎」

 

「理論的にはそうです」

 

彼らにとっては質問の答えが、造船業への革命である。こんな感じで皇国の圧倒的な技術力と、約2700年という長い時の中で育まれた文化や伝統を直に感じてもらいつつ約二日かけて皇都東京に向かった。その翌日、ホテルの一室にて国交樹立への条件の出し合いが行われた。因みにこの段階に来ると神谷の専門外である為、川山に任せて本部の会議に出席していた。

 

 

「では、まず我が国からの条件を提示させて頂きますかの」

 

外務卿リンスイの要求は大きく分けて二つである。

・鉄竜(戦闘機)、鉄船、鉄像(戦車)、個人携行火器の輸出と技術開示。

・インフラ関連の整備。

 

「えーとですね。結論から申しますと、現用兵器の輸出は原則として不可能なのです。法律で禁止されておりますし、理論を理解せずに運用するのは困難な兵器です。現用兵器は不可能ですが、恐らく旧式の兵器類なら大丈夫かと思われます。こればかりは閣議や国会を通さない事には何とも言えませんが、この世界の軍事力なら旧式の兵器でも赤子の手を捻る程度に他国を制圧可能です」

 

「インフラの方はどうでしょう?」

 

「其方は我が国の出す条件とも関係性が有りますので、必ず整備する事になると思われます。では我が国の出す条件ですが、食料6000万トンの輸入をお願いできませんか?我が国は転移前の世界で、年間6000万トンの食料を各国から輸入しておりました。もちろん貴国のみからではなく、他の国からも輸入しますので賄える限りの量をお願いいたします。我が国は輸入に関して、それ相応の対価を支払う用意もあります」

 

川山は必要な農作物の種類のリストを差し出す。数分間の沈黙の間に、リンスイとヤゴウが目を通しリストを閉じた。

 

「正直、品目の多さに驚いております。聞いたことのない物もありますので、代替品やそれらを抜きにしたとしても」

 

この後、予想だにしない答えが返ってくる

 

「我が国のみで賄えますよ。6000万トンの農作物」

 

「「「「⁉︎」」」」

 

川山含め、日本国側の代表団は全員((((;゚Д゚)))))))って顔をしている。

 

「いや?は?え?も、もう一度お願いします」

 

「ですので、農作物6000万トンの輸入は我が国のみで賄えますよ」

 

「真ですか?」

 

「真です」

 

何を隠そうクワ・トイネ公国は、農作物のチーター国なのである。農民たち曰く「作物なんか、種さえ撒けば勝手に生えてくる」らしい。お陰で食料自給率が100%を余裕で超えており、家畜や捕虜に至っても質の良い食事が与えられ、それでも尚余りに余ってると言う。つまりクワ・トイネ公国からすると、捨てる道しか無い作物が、お金と列強国レベルのインフラ設備に化けて返ってくるという、これ以上ないくらいの夢物語な訳である。

 

「しかしながら、ご承知の通りこの量を定期的に、かつ安定的に輸送する術を我が国は持っておりません。ですので、インフラ整備をして頂く必要があります」

 

「わかっております。我が国には政府開発援助、通称ODAと呼ばれる制度があります。この制度を使って、我が国の確かな実績のある技術者を派遣し、穀倉地帯と港を結ぶ輸送網を確立させます」

 

「それは心強い限りです」

 

一ヶ月後、日本とクワ・トイネ公国は正式に国交を樹立。同時に「スコップで砂を掘れば石油が湧く」という資源チート国家、クイラ王国とも国交樹立した。これに加え、安全保障条約も締結されている。また定期船の運行が国交樹立を前に始まっており、政府関係者や専門家が三ヶ国を行ったり来たりしていた。これにより三ヶ国の文化や風習を学び合い、相互理解への道も確立されつつあった。

 

 

 

 

 



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第一章ロデニウス大陸動乱篇
第三話異世界での戦争


国交樹立から早三ヶ月。両国の定期船により、三ヶ国の文化交流も盛んに行われ、発展の一途を辿っている。大陸組は政治面だと国会や憲法等を参考に、新たな国家体制を作ろうという動きがあり、軍事面では取り敢えず小銃等の小火器を中心に、退役した中古品を実験的に配備している。一方日本では他の国々の情報収集を始めており、国土防衛省(防衛省とか国防省と言われている)管轄の諜報組織、公安警察の零のメンバーを派遣している。そんな中、川山と神谷はヤゴウに呼ばれクワ・トイネ公国の首都の王城に来ていた。

 

「ヤゴウさん。遅くなって申し訳ありません」

 

「こちらも突然お呼びたてして、申し訳ありません」

 

「私が呼ばれたという事は、隣国の件についてですか?」

 

「⁉︎お見通しでしたか」

 

「浩三、どういう事だ?」

 

「まだ公表されてない機密扱いなんだが、隣国のロウリア王国が軍勢を組織しているんだ。まだ攻撃される確証は得られてなかったんだが、ヤゴウさんが俺を呼んだって事は」

 

「えぇ、この動きは確実に戦争になると思われます。ロウリア軍は我が国では太刀打ちできない程、とても強大で強力な軍隊です。実験配備の貴国の装備はありますが、数は心もとありません。戦争となれば、我が国のいくつかの都市は放棄する事になります。これが穀倉地帯を抑えられれば、貴国への輸出も困難となります。それだけではありません。貴国が敷設した鉄道を使い、首都を攻撃してくる事も十分にあり得ます」

 

「なんて事だ‼︎」

 

川山が机を叩く。

 

「川山さん、神谷さん。どうか、どうか援軍をお願いできませんか‼︎」

 

「ヤゴウさん。流石にこの規模となると、私の一存で決めるのは不可能です。まずは閣議や国会での承認を得ない事には、どうにもできないのです。総理に掛け合ってみましょう」

 

「どうかお願いします」

 

「わかりました。慎太郎、後は任せた」

 

「任された」

 

神山は部屋を出たと同時に、健太郎に秘匿回線で電話を掛ける。

 

「もしもし、健太郎か?」

 

『浩三がコレで掛けてきたって事は、何かあったんだな?』

 

「あぁ、クワ・トイネが隣国のロウリアに侵攻されるらしい」

 

『何だって⁉︎例の報告が現実になったか』

 

「ヤゴウさんの話では、開戦すれば穀倉地帯を失い、都市も放棄する事になるらしい」

 

『穀倉地帯を抑えられたら、ウチは兵糧攻め状態だぞ⁉︎』

 

「おまけに隣のクイラ王国も抑えられたら、本気で何も出来なくなる」

 

『勝算は無いよな。どのくらいな事になりそうだ?』

 

「最悪、首都陥落もあり得るらしい。陸海空、全てにおいて万全の状態らしいからな」

 

『ここに電話したって事は、つまりそういう事か?』

 

「あぁ。俺の私的な意見だが、殺らなければ殺られるぞ」

 

『売国奴のスパイ二世、三世が反対してくるぞ』

 

「そればっかりは仕方がない。兎に角、今は戦争の用意はしておく事だ。幹部連中にはレベル3を発令しておく」

 

『わかった。こっちはやれるだけやろう』

 

そこから一色は大忙しであった。内閣の定例会が有ったので、直ぐに関係閣僚の意思統一を図り、自民党と公明党幹部にも事情説明を開始。それが終わり次第、各大臣や与党議員の仲の良い野党議員への根回しを同時に行った。その結果、日本維新の会と希望の党の引き込みに成功する。今回ばかりは「国家存亡」に関わる為、殆ど二つ返事で納得してくれた。コレに二週間を有し、引き込み成功の確認と同時に臨時国会を開催。皇国軍の出動に関する承認の議決が行われた。案の定、共産党と社民党を筆頭とした左翼組は「軍国主義の再来」とか何とか言って反対してきたが、引き込みに成功した議員の賛成もあり、賛成多数で承認された。

しかし、一足遅かったのである。丁度、採決された一時間前にロウリアが侵攻を開始しており、採決された二十分後にギムへの攻撃が開始されていたのである。二時間後にはロウリア軍が占拠し、強姦と略奪が始まっていた。一部始終は偵察の為に潜伏していた諜報員が撮影しており、統合参謀本部にも送られていた。

 

 

「閣下」

 

「向上か。どうした?」

 

「偵察に向かわせた諜報員から、偵察時の映像が届いています」

 

「わかった。見せてくれ」

 

当然だが、それは虐殺と強姦の映像である。泣き叫ぶ少女、殺された母親の亡骸にすがる少年、押さえつけられ無理矢理犯されるエルフの女性、串刺しや手足を切り落とされ腹も開かれた騎士。そして騎士団長と思われる猫みたいな見た目の人間と、その妻と子を目の前で痛ぶられて弄ばれて絶望する様子。その他、様々な凄惨な映像が続いていた。

 

「向上。全軍に命令だ。「ギム大虐殺に加担した兵は、顔バレしている限り降伏しても、必ず全員地獄にキッチリ送れ」以上だ」

 

「わかりました」

 

この命令が伝達された頃、VC4隼に乗った川山はクワ・トイネ公国の政治部会に参戦の国書を届けた。皇国軍は正式に、戦争への道へ足を踏み入れたのである。因みに諜報により発覚した、ロウリア王国艦隊との海戦にクワ・トイネ公国は観戦武官を送り込む事になった。

 

 

マイハーク海軍基地

「本当に行くのだな?」

 

「はい」

 

第二艦隊の参謀長を務める男性が、部下の観戦武官として乗り込むブルーアイに話す

 

「ロウリアの艦隊は4400隻、かたや日本は237隻しか派遣しないそうだ。死地に部下は送り込みたくはない」

 

「あの鉄竜を飛ばす国です。何か勝算があるのでしょう」

 

読者諸氏はお気づきだろうか?「日本国の艦隊は237隻」である。確かに237隻ではあるが、この艦隊の正式名は「大日本皇国海軍第二主力艦隊」つまりは、設定集で出てきた赤城型とか熱田型とか大和型が居る艦隊である。もう、何も言わなくてもわかるだろう。ロウリアに勝ち目無し‼︎

 

「来たようじゃな」

 

「えぇ。では、行って参ります‼︎」

 

二人の目の前に、SH13海鳥が舞い降りる。

 

「こんにちは‼︎大日本皇国海軍の者です‼︎観戦武官殿ですね⁉︎お迎えに上がりました‼︎」

 

ローターの爆音の中、迎えの兵士が大声で話す。

 

「よ、よろしくお願いします。この暴風は止まぬのですか?」

 

「中に入ってしまえば大丈夫です‼︎ご辛抱ください‼︎」

 

ブルーアイを乗せ、海鳥は離陸する。三十分程で、第四艦隊の本部艦隊と合流する。

 

「デカイ、まるで砦じゃないか.......。しかし明らかに艦数が少ない。別働隊として動いているのか?」

 

 

第四艦隊旗艦「吉備津彦」艦内

「吉備津彦へようこそ」

 

艦隊司令とブルーアイが互いに敬礼する。

 

「此度の援軍に感謝します」

 

「ギムで亡くなられた方々に哀悼の意を捧げます」

 

艦橋にいた操舵手以外の全員が、1分間の黙祷を捧げる。

 

「では改めまして、本作戦の概要を説明します。貴国は現在、海と陸からの二方面からの攻撃に遭っていますが、先ずは侵攻速度の速い海上目標から殲滅いたします」

 

「すみません、二つほど質問させてください」

 

「どうぞ」

 

「一つ目なのですが、ロウリア海軍の規模はご存知ですか?」

 

「はい。既に我が軍が発見、追尾しておりますので、位置と数共に把握しております。貴殿の安全は保証いたしますので、ご安心ください」

 

この時点で驚きである。圧倒的物量差であるのに、まるで「絶対に勝つ」と言い切った様な物だからである。

 

「では二つ目の質問なのですが、237隻と聞いていたのですが、どう見ても50隻程度しかいませんよね?他の艦はどこにいるのでしょうか?」

 

「では本艦隊の陣容をご説明しましょう。本艦隊は合計で、五つの艦隊からなる大規模艦隊です。前衛に潜水艦、まあ、自分で浮き沈みができる艦ですね。第一部隊に潜水艦のみの艦隊が居ます。しかし今は、ロウリア軍の追尾で留守にしております。第二部隊に突撃戦隊を中核とした前衛機動艦隊、第三部隊に戦艦部隊を集中配備した後衛機動遊撃艦隊、第四部隊に要塞超空母を中核とした航空打撃艦隊、そして我が艦を主軸とした本部艦隊がおり、これら五つ合計237隻で第四艦隊なのです」

 

最早、圧倒的戦力に愕然としている。これより三日後、海将シャークン率いる大艦隊が艦載機の作戦領域に入り、遂に作戦開始となった。これに合わせ陣形を、密集体系に変更し第四艦隊の水上艦艇が一か所に固まる。

 

 

「司令、第一艦隊からの報告です。「敵艦隊、我ガ軍ノ艦載機作戦圏内ニ突入ス」以上です」

 

「全艦、合戦準備‼︎海鳥による警告を無視した場合は、これを全力で叩く。それまでの攻撃を禁ずる旨を全艦に伝達せよ‼︎」

 

「了解‼︎」

 

二時間後、ロウリア艦隊上空に海鳥と一隻の浦風型が姿を現し警告を行う。しかし予想通り無視して、攻撃してくる為、一度離脱し艦隊と合流する。

 

「司令、やはり攻撃してきました」

 

「よし。ならば一気に攻め立てよ‼︎」

 

「了解‼︎」

 

この時、シャークンは「図体の割に腰抜け」と撤退した艦を思っていた。ところが巨大な艦艇群が押し寄せて来たのである。直ちに火矢を装填したバリスタを撃ち込むが、鉄製の船体には刺さる事もダメージを与える事もなかった。

 

「刺さらぬ。燃えぬ。あの艦は鉄で出来ているのか⁉︎」

 

 

「敵さんは撃ってきたぞ。全艦、主砲撃ちー方ー始め‼︎」

 

戦艦の一斉砲撃により、水柱があちこちで上がる。砲弾が一発当たると十隻近くが残骸となり、空高く打ち上げられる。駆逐艦や巡洋艦は連射力に物を言わせて、二、三隻ずつ残骸にして行った。ロウリア軍も果敢に反撃してくるが、火矢とか文字通りの鉄球を飛ばす大砲程度では精々凹みを与える程度である。シャークンが呼び寄せたワイバーンの援軍250騎も来るが、全て対空ミサイル信長で迎撃される。竜騎士らは自分が何に攻撃され、どうなったのかを知る事も、後の歴史において「ロデニウス沖大海戦」とされる一大海戦を見る間も無く、全員が亡くなった。

 

 

ダメだ。勝てる相手ではない。国に帰れば敗戦の責任を負わされ、一族もろとも処刑。歴史書にも「無能な指揮官」として記録されるだろう。だが、これ以上兵をいたずらに死なせるべきではないな。

 

「船長、全船撤退だ‼︎」

 

「ハッ‼︎」

 

海将シャークンの英断により、ロウリア海軍は撤退を開始する。4400隻を誇った大船団は、その殆どが破壊され生き残ったのは僅か138隻であった。この被害には海将シャークン座乗の戦列艦「シャーカーズ」も含まれていた。

 

 

「司令‼︎敵軍が撤退していきます‼︎」

 

「全艦撃ちやめー‼︎深追い無用‼︎救助活動を開始せよ‼︎」

 

「了解‼︎」

 

「あ、あの、司令官殿?」

 

「何でしょうか?」

 

「海戦は終了ですか?」

 

「えぇ。我が軍の圧倒的勝利です」

 

「救助活動との事ですが、海軍の損害は?」

 

「ありません。塗装が剥げたり、船体が凹んだ程度です」

 

「では一体誰の救助ですか?」

 

「ロウリア兵ですよ。我々皇国軍人は武士道を重んじており、これは伝統でもあります」

 

「武士道ですか?」

 

「えぇ。武人としての心構えですよ。我々は例え敵であっても、その敵が正々堂々戦った戦士であれば救助の手を差し伸べる事が慣例となっています」

 

「そうですか.......」

 

これより数日後、クワ・トイネ皇国の政治部会に出席したブルーアイは海戦の報告を行った。この圧倒的というか、最早下手な冗談みたいな戦果に政治部会は大騒ぎとなった。この時、ブルーアイは「うちの国はトンデモない国と同盟を結んじゃったみたい」と思っていたのは別の話。日本軍は次なる戦いとして、城塞都市エジェイを戦場と定めた。付近のダイタル平野に陣地を構築しており、敵の迎撃拠点と参謀本部で計画中である「あ号作戦」の補給基地としても機能する予定である。そして陣地が完成し、本土からの部隊が平野に向かっていた頃、エルフの疎開民団もエジェイに向けて歩いていた。

 

 

「お兄ちゃん、疲れたよ〜」

 

「後もうちょっとだよ。ガンバレ!エジェイに入るまでは歩き続けないと」

 

「ええー!やだよー。つーかーれーたー‼︎」

 

「ほら、あそこのお城に行くんだ。もしかしたら美味しいものが食べれるかもよ〜?」

 

「ホント⁉︎私、頑張る‼︎」

 

エルフ兄妹の微笑ましい会話。普段なら草原という平和なロケーションも相まって、日常系映画のワンシーンみたいである。後は二人が冒険して宝(と書いて思い出の品、もしくは将来のガラクタと読む)でもゲットする事だろう。だが今は戦時下であり、疎開と言えば聞こえはいいが実質は逃避行な訳である。そんな中、背後からロウリアの騎馬隊が現れる。

 

「おい見ろ。エルフの集団だぜ?」

 

「偵察だの地形調査だのパトロールだのと退屈な任務続きだったが、こりゃ最高の役得だぜ」

 

と言いつつ騎馬兵達は、エルフ女性を下品な目で見る。

 

「ギムは最高の憂さ晴らしだったぜ、隊長?」

 

「仕方ねぇ奴らだなぁ。なら、ヤるか‼︎」

 

騎馬隊が突撃を開始する。馬の走る音にエルフ達が気付いて

 

「ロウリアの騎馬隊だー‼︎走れーーーー‼︎逃げろーーーーーー‼︎」

 

後衛の男達が叫ぶ。因みにこの騎馬隊、所謂ロウリアの鼻つまみ共であり、ロウリア軍の中でも特に素行不良な奴らが集められた集団なのである。まあ、そんな荒くれ集団が疎開民を襲った後どうするかは見え見えなのだが、エルフ達にそれを考える暇はない。

 

「お兄ちゃん、怖い.......」

 

「殺せ殺せ‼︎皆殺しだー‼︎」

 

大人達ですら恐怖する集団に、幼い兄は木の棒で立ち向かおうとする。

 

「アーシャ、お兄ちゃんが守るから大丈夫だよ」

 

兄の背中を見て、妹は神様にお祈りする。この時、妹アーシャの脳裏にはある日の母との思い出が蘇った。それはエルフに伝わる伝説であり、「太陽神の伝説」や「魔王のお話」として子供にも伝えられる昔話である。

かつて北の大陸に存在した魔王が、海を渡ってロデニウス大陸にやってきた。魔王軍との戦いは苛烈さを極め、緑の神の住う土地まで追い詰められてしまう。しかし緑の神が太陽神に相談すると、太陽神が使いを出してエルフ達の前に舞い降りて戦った。

という伝説である。アーシャが祈ったのと同時に、二人の前に何かが降ってきた。

 

ブモォォォォォ‼︎

 

「な、何?」

 

そこに現れたのは、牛のような鳴き声を発する鋼鉄の二足歩行生物である。そう、皇国陸軍の保有する無人兵器WA2月光である。イ型とハ型が攻撃を開始する。これに合わせて、攻撃ヘリの薩摩もロケット掃射を開始。一気に殲滅を開始する。更には20台の44式装甲車イ型と10両のロ型が旭日旗を掲げながら突撃し、騎馬隊に体当たり&弾幕射撃を開始する。

 

「何なんだ、一体何が」

 

言葉を言い終わる前に、ロケット弾で吹っ飛ぶ騎馬隊の隊長。二分程で全て殲滅し、VC4隼やCH63大鳥が難民達を分乗させるために降下する。しかし太陽の軍と勘違いされ、「お乗りください」「恐れ多い」「お乗りください」「恐れ多い」の押し問答で中々乗ってもらえず、手を合わせられたり供物を貰う兵士も居た。最早、日本軍の方がタジタジである。例えば

 

「先輩、なんか俺仏様になっちゃったんですけど」

 

「大丈夫だ。俺もなってる」

 

「これ、どうしましょう?」

 

「どうしよう」

 

「「ハァー」」

 

こんな感じである。一時間くらいの押し問答の甲斐もあり、どうにかこうにかヘリに乗ってもらってエジェイにて下ろした。

 

 

 

 



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第四話あ号作戦発動

城塞都市エジェイの城の中で、責任者のノウは広場を見て独り言を言っていた。

 

「そそり立つ堅牢な壁、千万無量の備蓄、騎兵3000、弓兵7000、歩兵20000、さらに対空特化の精鋭飛竜隊50騎。まさに鉄壁‼︎まさに完璧‼︎」

 

「ノウ将軍、大日本皇国陸軍の方々が到着されました」

 

「ふん、少し待ちぼうけを食らわせてやれ。我らの庭先に駐屯地など築きおって」

 

「いえ、それがですね。エルフの避難民を一緒に連れ来ておりまして」

 

「何?どういう事だ?」

 

「どうやら疎開中にロウリアの騎馬隊に襲われたらしく、駐屯地に配備する予定の陸軍部隊が偶々通りかかり、エルフ疎開団の救援に駆けつけ、そのまま護衛しつつヘリコプターなる空飛ぶ乗り物に乗せてやって来たそうです」

 

「うーむ、ならば指揮官として謝辞を述べる必要があるか」

 

「はい」

 

「通してやれ」

 

皇国陸軍第八師団の師団長である大内田は、幹部二人を連れて広間に通された。

 

 

「これはこれは、よくおいでくださった。日本国のえーーと、なんであったか」

 

「大日本皇国陸軍第八師団、師団長大内田です」

 

(見ろ。なんだあの、まだら模様のみすぼらしい服は)

 

(おやめください‼︎聞こえてしまいます‼︎)

 

「貴公も武人であればお分かりかと思うが、ここエジェイは完璧な城塞都市。我らの誇りにかけてロウリア軍を退ける。エルフ避難民の件は感謝しているが、貴公らは駐屯地から出る必要は、ない‼︎」

 

「あぁ、言ってしまった」

 

「外交問題になるぞ」

 

「いいでしょう。我々は駐屯地内からの後方支援を主任務とします。しかしながら、偵察員と観測員は置かせていただきたい」

 

「了解した。貴公らも本国に、戦局を報告する義務があるだろう。許可する」

 

「では失礼します。そうそう、指揮官として一つ御忠告いたします。この世に完璧は存在しない。完璧を自負してそれに自惚れるのは、いずれ破滅への片道切符へと変貌し仲間を巻き込んで盛大に自爆する。お忘れなきよう」

 

「な⁉︎」

 

言わなくても分かるだろうが、大内田はノウ将軍の態度にイラッと来たのである。まあ、ささやかな仕返しと言ったところだろうか?

 

 

「団長、アレ外交問題になりませんかね?」

 

「ん?アレは閣下直々にOKを貰ってるんだ」

 

「マジですか」

 

「なんでも軍務卿に「日本国の戦術や戦略を現場指揮官にも教えてほしい」と言われたそうだ。だから、多分大丈夫だろ」

 

「まあ、中々にイラつく御仁でしたからね。本当に後方支援でいいのですか?」

 

「手の内を曝け出すのが最小限なのはいい事だ。もしかしたら、敵に他国のスパイとか観戦武官がいるかもしれないしな」

 

「あぁ、なるほど」

 

「何はともあれ、砲撃の準備をしておかないとな」

 

「ですな」

 

これより二日後、ロウリア王国東部諸侯軍は前線基地化したギムより、総勢2万の兵を率いて、エジェイ攻略に出陣した。これを早々に探知した日本軍は、自走砲の配備や簡単な陣地構築を行い万全の態勢を整えつつあった。ノウも知らせを受け籠城の準備を開始。さらに念には念を入れて戦車部隊と歩兵部隊を、エジェイ支援の為にいつでも動ける様にはしてあった。三日後にロウリア王国東部諸侯軍がエジェイに到達し、煽りを開始する。簡単に言うと毎晩毎晩、弓の届かない位置で色々ボロクソに言うのである。「オラオラ撃ってみろや」とか「金玉ついとんのかワレぇ⁉︎」とかである。結構イライラしてくるヤツな為、守備兵の士気も下がってくる。弓は届かないし、撃たせるのが敵の狙い。これをわかっていても、イライラするのは変わらない。この煽りがかれこれ三日続き、流石に我慢の限界が迫りつつあった。

 

 

「ノウ将軍、日本軍より連絡が入りました」

 

「読め」

 

「ハッ‼︎ 「エジェイ西側5km付近に布陣する軍は、ロウリア軍で間違いないか?ロウリアであるなら、支援攻撃を行ってよろしいか?又、攻撃にクワトイネ兵を巻き込んではいけないため、ロウリア軍から半径2km以内にクワトイネ軍はいないか確認したい」との事であります」

 

「基地から出るなと言っているのに、結局は手柄がほしいのだな。まあ良い。日本軍がどんな戦いをするか、高みの見物をするとするか。許可する旨伝えろ!」

 

攻撃の許可を得て、駐屯地内が慌ただしくなる。本国より持ち込んだ、アレを出していた。

 

 

「うひゃぁ、やっぱデカイな」

 

「だな。これこそ「男のロマン」って兵器だ」

 

「今考えたらさ、ウチの軍ってロマンもしっかり追い求めてるよな」

 

「確かにな。ロマン追い求めつつも、それを実用可能にするから技術陣には頭があがらんな」

 

目の前に鎮座するのは、51式510mm自走砲。設定集でも書いたが、何をとち狂ったか大和型の主砲を流用しやがった兵器であり、今回支援攻撃の為に、合計四両が投入されたのである。

 

「隊長、砲撃準備整いました」

 

「わかった。一斉砲撃で行くぞ‼︎砲撃よーい、砲撃班と被害対策班以外は退避‼︎」

 

「退避完了‼︎」

 

「撃てぇ‼︎」

 

 

ドォォォォォォォォン

 

 

四両の51式より発射された榴弾は、耳をつんざく轟音と共に撃ち出されロウリア東部諸侯軍の野営地へ飛ぶ。この音にエジェイも野営地も「噴火でもしたのか⁉︎」とパニックになり掛けていた。しかし野営地はパニックになる前に、510mm榴弾四発を食らって跡形もなく消し飛んだ。突然だが、この砲の威力について簡単にご説明しよう。専門家でない為、何故そうなるかはわからないが、単純に考えると砲弾の威力は砲の口径の3乗に比例するらしい。旧大日本帝国海軍の軽巡に多く使われた14cm砲と、重巡に多く使われた20.3cm砲を例にすると、それぞれ約2744と8365になる。帝国海軍の大和型の主砲である46cm砲は97336であり、51cm砲は132651となる。大和の威力を超える砲弾が四発も命中すればどうなるか?最早、核MODの核を爆破した後のマイクラよりも酷いことになる。

 

 

「な、何が起こった⁉︎」

 

「の、ノウ将軍、ロウリアの軍勢が消滅しました.......」

 

「何だと⁉︎」

 

ノウの眼下に広がったのは、ロウリアの野営地があった平原だったものであった。平原の上にあった野営地のテントや旗が消えた代わりに、そこには巨大なクレーターが出来ていた。クレーターの中や周りには、人のいた痕跡という痕跡は無く、唯々ポッカリと大穴が開いているだけであった。

 

「こ、これが.......日本国の、あの男の力だと言うのか.......」

 

ノウ将軍は初めて会った時の言葉を思い出し、彼の方が武人として遥か先に行っていることを痛感した。これより二日後、政治部会に日本軍の戦いをよく見た者が集められ報告会が行われた。しかし、どれもこれも常識外れもいい所のトンデモない戦果であり、報告された側も理解するのに時間を要した。この席でカナタが「日本軍よりギム奪還の提案が来て、既に準備は完了しており判断を貴方方に委ねる、と言われた」というのを話し、出席者も「まあ、日本軍が勝手にやってくれるなら、こっちとしては損はないんじゃね?」って事になり、全会一致で攻撃は許可された。この報を受け、駐屯地では戦闘機が出撃態勢に入っていた。参加兵力は以下の通りである。

陸軍

・第三十八歩兵連隊第一、二、三、四大隊 2000名

・第六十八対戦車ヘリコプター隊(使用機 AH32薩摩)12機

 

空軍

・第五○七、五○八、五○九近接攻撃航空隊(使用機 A10彗星)60機

・第二○一制空航空隊(使用機 F3心神)20機

・第六○一警戒航空隊(使用機 E787早期警戒管制機)1機

 

以上の部隊がギム奪還に向けて出撃した。第三十八歩兵連隊隷下の第一から四までの大隊は、ヘリコプターを装備しており大鳥と天神に分乗して進撃している。彗星には誘導能力を重視して、旋風を搭載しており歩兵の支援を行う予定となっている。この頃ギムにはエジェイ攻略の為に、ロウリアの将軍パンドールが来ていた。会議を終えて現地指揮官のアデムに、支援要請を請う為に王城へ遣わせた所だった。因みにこのアデムは、ギムでの虐殺の首謀者である。パンドールが馬に跨がり、「これだけの飛竜が警戒してるなら大丈夫だろう」というフラグを建てた直後の事。空中の飛竜が爆発して落ちて来たのである。

 

 

「攻撃隊へ。岩戸は開く。繰り返す、岩戸は開く」

 

『了解。戦闘機隊へ、支援感謝する。たらふく食ってくるよ』

 

「戦闘機隊了解。陸軍にも食い物を残してやれよ?」

 

『気が向いたら、な‼︎』

 

旋風が地上の馬車や、歩兵の密集している場所へ命中する。音速を超えるミサイルに迎撃や対処する術はなく、何が起きたか分からぬまま死んでいく。飛竜の飛行場も破壊し、大隊も降下する。

 

「行くぞ‼︎」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「天皇陛下、バンザーーーーーイ‼︎」」」」」」」」」」」」」」」」

 

お約束のセリフを発しながら敵に弾幕を食らわせる。ロウリア軍は謎の飛竜の来襲と、奇襲攻撃で吹っ飛んだ部隊との交信不能で混乱しておりマトモに反撃できない。まあマトモに反撃した所で槍やら剣では、皇国軍の戦闘服である機動甲冑にはダメージは与えられないが。中には突撃する勇敢な兵もいたが、弾幕により肉塊となる。パンドールはどうにかギムからは脱出したものの、一機の薩摩に捕捉されてしまう。

 

「機長、逃亡兵ですね」

 

「あらホント。取り敢えず、殺っちゃうか」

 

「ですね」

 

「撃ちます‼︎」

 

ブォォォォォォォォォォォ

 

40mmバルカン砲がパンドールと付き人を吹き飛ばす。人間の形すら保てず、見事なミンチ肉に加工される。その後もギムでの「お掃除」は続き、突入より二時間でロウリア兵の駆逐が完了した。投降した者は捕虜としたが、虐殺に関わっていた者(と言うか、ほぼ全員)はしっかり処刑されている。作戦成功の報はクワ・トイネと日本に連絡され、クワ・トイネは歓喜に包まれた。一方日本軍では、神谷が「あ号作戦」の準備を発令した。この作戦を一言で言うと「ロウリア王国王都制圧作戦」である。交渉は川山に任せて、神谷は参加兵力の選定を行なっていた。結果としては

陸軍

・第8戦車師団

・第3砲兵師団

・第8歩兵師団

・第38装甲歩兵師団

・第3空挺団

・第68、69対戦車ヘリコプター隊

 

海軍

・第四主力艦隊

・第三、四揚陸艦隊

 

空軍

・第501〜511航空隊

・第201〜203航空隊

・第707航空隊

・第1001〜1005輸送航空隊

・第901、902輸送航空隊

 

海軍陸戦隊

・第3、4海兵師団 20000名

 

この規模である。作戦も説明しておこう。本作戦は三つの進路から、ロウリア王国首都ジン・ハークを攻撃するものである。一つ目が海軍陸戦隊が上陸する軍港ピカイアからのコース。二つ目が第三砲兵師団と第八歩兵師団が使う、ビールズを経由するコース。三つ目が首都ジン・ハークに直接降下する第三十八歩兵連隊、第三空挺団、第八戦車師団のコースである。この三つのコースでロウリア王国の継戦能力を根底から奪うという作戦であり、三つ目の部隊は神谷直々に指揮を取る。

川山の交渉により作戦は認可され、一色も了承した為、作戦はギム奪還の一週間後に発令された。まずは第一目標となっているピカイア攻略である。

 

 

「ん?何だありゃ?」

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ、今日入港予定の船って有ります?」

 

「確か輸送船団が来るな」

 

「そうですか」

 

「何でそんな事を聞いたんだ?」

 

「いえ、あそこに船だ」

 

いい終わる前に、彼らの乗っていた船と周りの数十隻が纏めて吹き飛ぶ。若き水兵が見つけたのは輸送船団ではなく、皇国海軍の第四主力艦隊と第三、四揚陸艦隊の連合艦隊だったのである。港湾施設を破壊し、飛竜飛行場も航空隊が破壊した。海軍陸戦隊は何の妨害もなく訓練よりも遥かに簡単に上陸し、装甲車や戦車に乗って一路、ジン・ハークを目指した。翌日、ビールズを経由するコースを取る部隊もダイタル平野駐屯地を出発した。こちらは伏兵の妨害はあったが、ものの数分で撃退し進撃した。そして二日後にはジン・ハークに両隊とも到達し、完全に包囲していた。

 

 

「報告します‼︎敵影を捕捉するも、奇妙な魔獣しか見当たらず兵力は分かりませんが、現在王都近くに迫っています‼︎」

 

「飛竜隊離陸準備‼︎」

 

まあ、そんな事をさせる訳もなく。

 

「食らってみやがれ‼︎」

 

第五○七飛行隊による爆撃で、全ての飛竜が飛び立つ事なく倒された。これにより、ロウリアの航空戦力は殲滅されたのである。ロウリアの防衛騎士団将軍のパタジンもコレには絶句していた。

 

「パタジン将軍‼︎飛竜隊が竜舎ごと殲滅されました‼︎」

 

「何だと.......」

 

「報告によりますと、鉄竜が何かを落とし、飛行場が爆発。それに出撃しようとしていた飛竜が巻き込まれたそうです」

 

「何たる事だ‼︎」

 

「将軍、どうしますか?」

 

「敵の位置は⁉︎」

 

「我が王都より、4キロ手前で静止しています。どうやら、大型の魔獣(44式装甲車の事)を連れているようです」

 

「騎兵400にて対応‼︎ただし、あくまでも偵察だ。敵の攻撃方法や力を探ってくれればいいから、無理はしなくていい‼︎」

 

「わかりました‼︎」

 

 

「我ら一番槍の栄誉を授かった‼︎勝機は速さに有り‼︎全力でただ駆けよ‼︎」

 

一番槍の栄誉もあって、士気は高い。コレが普通の軍隊なら、倒せたかもしれない。所が可哀想なことに、敵が普通じゃ無いのである。

 

ズドドドドド、ズドドドドド、ズドドドドド

 

弾幕を張って、難なく撃退する。そりゃ唯馬で突撃してくるのだから、弾幕貼れば撃退できる。結果400の騎兵は、たった一人しか生き残っていなかった。

 

 

「ほ、報告します。敵は礫のような高威力の光弾を発射していました。我が軍の騎兵の鎧は、敵の前では無力でした」

 

「ご苦労。よく生きて帰った。すぐに治療を」

 

「は、い」

 

しかし、この騎兵も報告が終わると力尽きてしまう。

 

「なんてことだ‼︎」

 

この報告を受けて立てた作戦は、重装歩兵で敵を引き付けて他の門より他の兵力を出動させる算段である。

 

 

「守ります。我が子、我が家、我が国家。ロウリア重装歩兵大隊、これより参戦‼︎」

 

時を同じくして他の門からも出てくるが、風景に偽装していた海軍陸戦隊が弾幕を浴びせ殲滅する。重装歩兵大隊もなす術無く殲滅される。というか重装歩兵大隊に関しては、戦法が集団で固まるという物である為、いい的でしか無いのである。しかも銃弾を防げない上に、重装備で機敏な動きもできないので、モロに的でしか無いのである。

 

「重装歩兵でもダメか‼︎」

 

「パタジン将軍、私が行きます」

 

パタジンの前に防衛騎士団第3騎兵隊大隊長カルシオが現れる。

 

「カルシオ、お前も見ていただろう?全くもって歯が立たない」

 

「確かに日本軍は未知です。しかし奴らとて人の子、休息は必要です。それに序盤ですが勝利しているので、宴を催すと思われます」

 

「そこを奇襲するわけか。いいだろう、ただし生きて帰れよ」

 

「はい」

 

カルシオ、別名「夜目のカルシオ」は夜中に闇夜に乗じて野営地へ進撃する。しかし、これはお見通しであった。

 

「圧倒的兵力を見せつけられ、尽く敗れたのなら、次なる手は夜襲って相場が決まってるんだよ」

 

ある兵士の呟きと同時に、照明弾が発射される。一気に昼間並みの明るさとなり、第3騎兵隊は丸裸にされる。そして安定の弾幕で、カルシオ含め撃退される。時を同じくして、ダイダル平野の滑走路から巨人機が離陸する。それに続いて大鳥や天神、雀と風磨も離陸する。明朝、朝日の中から無数の黒点が現れる。

 

 

「なんだ、アレは?」

 

「飛竜か?」

 

パタジンと王宮魔術師のヤミレイが太陽を見つめる。しかしそれは、飛竜などではなかった。

 

「コンボイ一番機、コース良し、コース良し、よーいよーいよーい、降下降下降下‼︎」

 

「降下‼︎」

 

第三空挺団の乗った鍾馗と

 

「さーて、デカ物を落とすぞ‼︎」

 

第八戦車師団を乗せた屠龍である。因みに第八戦車師団の降下は「圧巻」の一言であり、巨大パラシュートで降下して、途中でロケットブースターが点火し減速&着地という、中々ロマン溢れる着地の仕方である。

 

 

「パタジン、ありゃ敵じゃ‼︎」

 

「敵が空から降ってくるのか.......」

 

着地した部隊と合流し、総攻撃を開始する。46式が正門を破壊し、中に突撃。それに他の車両も続き、文字通り首都に雪崩れ込む。さらに他の門からも、海軍陸戦隊が突撃し見事に敵を混乱に陥れている。さらに月光と極光によって、混乱に拍車もかかっていた。しかしここでパタジンとヤミレイが出る。普通なら弾幕で死ぬ、砲弾で消し飛ぶ、轢かれるの三択になるが、この二人は麻酔弾を撃たれて眠らされ回収されたのである。この理由は後々わかってくるので、今は触れないでおこう。場面はちょっと変わって、ロウリア王国の王城。ここに第三十八歩兵連隊が舞い降りる。完全武装の中に一人だけ、背中に金で「皇国剣聖」と書かれた真っ黒な羽織を纏い、刀を刺してヘリから飛び降りる男がいた。大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三である。

 

「目標はただ一つ‼︎ハーク・ロウリア34世の首のみ‼︎続け‼︎」

 

「「「「「「「応‼︎」」」」」」」

 

その場にいる兵士達を従えて、王城内部に突撃する。出会った近衛兵は問答無用で斬り捨てる。一気に謁見の間に駆け上がり、そこでメイドと何故か会う。

 

「何⁉︎」

 

「こ、殺さないで.......」

 

「お願い、殺さないで.......」

 

「やはりか。ギムでの行為に対する非難と宣戦布告、工業都市ビーズルを通る事なく迂回し、北の港の被害も軍事施設と軍船のみ。どこか引っかかっていたが、ようやく謎が解けた。日本の軍人は民間人への戦火の拡大を禁止されている、そうだろ?」

 

パチパチパチパチ

「ご名答。その通りだ」

 

「ほー、堂々と認めるか」

 

「別にここまで来ちまった以上、隠した所で意味ねーし」

 

「確かに。して、貴様の名は?」

 

「大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三大将。アンタらで言ったら、軍の総大将って所か?」

 

「つまり、大将首がノコノコやってきたと?」

 

「そうなるな。取り敢えずさ、降伏しない?」

 

「な⁉︎何を言っている⁉︎」

 

「アンタの気持ちもよくわかるよ。国に、王に、忠義を尽くす心意気。でも、もうここまで来てしまった。アンタが死ぬのは勝手だが、死んだ後に国王が殺されたら、この国はどうなる?」

 

「.......」

 

「言っておくが、俺達を柱の裏や壁の裏に隠してる兵に殺させた所で、部隊はまだまだいる。俺を殺した所で、また後任の奴がいる。結論、アンタがここで死んでも利益がなくて、不利益しかない」

 

「一つ問いたい。やはり王を殺すのか?」

 

「知らね。あくまで俺達はクワ・トイネに代わって、ハーク・ロウリア34世を逮捕する為に来た。捕まえた後はあっちに引き渡して、俺達はノータッチ」

 

「そうか。降伏しよう。第一近衛隊、第ゼロ近衛隊、降伏せよ」

 

「貴方の勇気ある行動に、我々は敬意を表します。さて、お前達。仕上げだ‼︎」

 

そう言って内部に突入し、ハーク・ロウリア34世を逮捕する。これによりギムでの虐殺から始まった、異世界での初の戦争は日本軍の完全勝利という形で終戦した。この戦争における死傷者は0人であり、負傷者も骨折程度くらいしか居ない。文字通り、完全な勝利と言えるだろう。しかし、この戦争はあくまで序章であり、これから日本は苦難の旅路を歩き続ける事になるのを、今はまだ知る由もない。

 

 

 

 




さてさて、では計画通りに一度更新をストップさせ、艦これの方を書いていきます。題名は「最強提督のブラック鎮守府立て直し」です‼︎以降は艦これを七話分くらい書いて、そこから二つの作品を交互に書いていくと思います。


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第五話ムーとの国交と大波乱の軍祭

や、やっとできたーーー‼︎
そんな訳で艦これの方がひと段落ついたので、やっと戻って来ました‼︎以降は交互に投稿していきますので、大体二週間に一本程度を予定しています。


あ号作戦より2日後、第二主力艦隊は中継港のマイハークを目指し航行していた。この日、医務室に収容されている一人の武人が目を覚ます。

 

「ここは、一体..............」

 

「あ、目を覚ましましたね。そのままで少々お待ちください」

 

パタジン。ロウリア王国の将軍であり、あ号作戦で捕虜にされた数少ない人物である。

 

(女?何故、女子がここに居る?私は死んだのか?)

 

程なくして医者とさっきの看護婦が入ってくる。

 

「お目覚めですね。声は出せますか?」

 

「あ、あぁ」

 

「何処か痛い所や、前と違う場所、違和感等はありませんか?」

 

「特に無いな」

 

「左様ですか」

 

「一つお尋ねしたい。ここは天国なのか?それとも地獄なのか?」

 

「ハハハ、残念ながら此処はそのどちらでもありません。そう、強いて言えばここは「アウターヘブン」だ‼︎」

 

「ハ?」

 

「軍医、唐突なメタルギアネタはやめろ。異世界人に通じる訳ねーだろ」

 

「え?あ‼︎か、閣下‼︎」

 

軍医と看護婦が敬礼する。

 

「将軍、此処はアウターヘブンではなく現実、死んじゃいない」

 

「貴様は?」

 

「大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三。階級は大将だ」

 

「つまり私は、敵の捕虜という事か」

 

「残念。捕虜ではないんだよ」

 

「何?」

 

「まあ、書類とかの名目では面倒だから捕虜って事にしてるが、扱い自体は国賓だ」

 

「どういう事だ?」

 

パタジンは現在の状況に混乱する。捕虜と言いながら国賓とも言われ、何がどうなっているのか理解できない。

 

「それじゃ、現在のアンタの祖国について話そうか。現在ロウリア王国には我が国の陸軍と海軍陸戦隊が進駐し、各地の軍の武装解除と治安維持を行なっている。あ、略奪や強姦してる奴はいないから安心して欲しい。居たとしても、ソイツは即刻処刑されるからご心配なく」

 

この時点で驚きである。略奪や強姦はこの世界では、兵の士気を保つのには効率の一番良い物であり、列強含めた大体の国で推奨されている。そんな中で、日本軍がしないと言ったのだから驚きでしか無い。

 

「でもって今後の流れなんだが、ハーク・ロウリア34世をクワ・トイネ公国に引き渡した後、アンタとヤミレイを我が国に招待する。アンタら二人とシャークンで、今後のロウリア王国の流れを決めて欲しい」

 

「占領しないのか?」

 

「しない」

 

「何故だ?我が国の国土は文明圏外の中でもズバ抜けて大きいし、民の人数も他より勝っているんだぞ?」

 

「まあ普通なら占領するなり何なりするんだろうけど、ウチの国にとってロウリアを占領した所で利点がないんだよな。むしろ維持する為の予算とかで赤字待ったなしだし」

 

パタジンの脳はかつて無い驚きで、フリーズしている。一応パタジンの祖国ロウリアは文明圏外国としては一番広大な国土を持ち、人口もその分多い。だが、それだけ(・・・・)なのである。

文明レベルも例に漏れず中世ヨーロッパ程度だし、資源もあるがクイラ王国の様な資源チート国家では無い。それなら「占領して国民奴隷にして、鉱山で労働させれば良い」と思うかもしれないが、この政策をする事はない。憲法で基本的人権の尊重は明記されている上、仮に無視してやっても国民と奴隷達の反感を買い、更には他国との外交にも影を落しかねず「メリットに見えるデメリットの塊」でしかないのである。

 

「あ、そうだ。ついでに今後のロウリア王国についても話しておく。まだ計画段階だが、我が国の王、天皇陛下は貴国との同盟を結びたいと思っておられる」

 

「私は貴様らを信じて良いんだな?」

 

「良いんじゃない?知らんけど」

 

これより二日後、ハーク・ロウリア34世の引き渡しの後、第二主力艦隊の母港である横須賀に帰還し、パタジンとヤミレイを官邸に招待した。そこでシャークンとも再会し、一色との今後についての会談が行われた。

すんなりと交渉は行われ、結果としてこの様な形で決着した。

・諸侯の独立を認め、自治区ないし州として自立させる。

・貿易時の免税特権

・亜人奴隷の解放

・王国全体の近代化

・全体的な軍備増強(規模としてはベトナム戦争程度まで)

・皇国軍の国境往来の自由

・皇国軍の駐屯の容認

・日本への武器使用料分の資金の支払い

で決着した。ここで読者諸君は思った事だろう。「何で軍備増強させてんの?普通は軍縮じゃね?打ち間違えた?」と。これは来るかもしれない他国との軍事衝突や、諸侯達の反乱が起きた際に防衛する為である。

簡単に言えばGHQが日本に「俺達朝鮮行ってくるから、日本守る為に警察予備隊作って」と頼んだアレみたいな感じと思って欲しい。

 

 

 

 

そして時は経ち、戦争終結より三ヶ月後の事。この日、神谷は横須賀海軍工廠の地下にある「秘匿船舶工廠」に来ていた。

 

「工廠長、例の進捗はどうだ?」

 

「おや閣下。えぇ、順調ですよ。唯、やはり骨が折れますな」

 

工廠長が窓の外を眺めながら、神谷に語る。その眼下に広がるのは、巨大な船体である。

 

「武装はいつ積めそうだ?」

 

「まだまだ先ですな。いかんせん皇国の威信を、そのまんま具現化した様な艦です。体積、武装、速力、防御力共に熱田型が赤子に見えてくる程の規模ですので、慎重に慎重を期す必要はあるでしょうからな」

 

「進水はいつになりそうだ?」

 

「速くて再来年、ですが正直わかりません」

 

「速くコイツにも名を付けてやりたい物だ」

 

「秘匿艦とはいえど「仮称513号艦」では、最強の戦艦には味気なさ過ぎますからな」

 

「あぁ。君達も事故には十分気をつけて、最強を産み出してくれ」

 

「了解であります‼︎」

 

ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ

 

工廠を出た所で電話が鳴る。総理大臣である一色からの電話だった。

 

「どしたー?」

 

『浩三、大変な事になったぞ』

 

「どうしたよ、そんなに慌てて」

 

『それがだな、列強国からウチに使節団が来ることになって、ウチからも使節団出すことになった』

 

「え⁉︎どこから⁉︎」

 

『ムーという、列強二番手の国だ。この国は他国と比べて、我々に近い価値観を持っているらしい』

 

「というと?」

 

『永世中立国を宣言していて、他の国みたいに殿様商売を自分達からはしないそうだ』

 

「へー。そりゃ楽で良さそうだ」

 

『慎太郎も「最近ハードワークすぎてキツい」って愚痴ってたからな』

 

「その点は俺達も変わらないな。お前もロウリアの件で根回し大変だっただろ?」

 

『まさか「ロウリアを共産主義に‼︎」って言って来るとは思わなかった。オブラートに包んでいたがな』

 

「すっげ」

 

『ホントあのGGIとBBA共は、どういう思考回路してんだ?』

 

「知らね。で?いつ来るんだ?」

 

『三週間後だそうだ。飛行機で来るそうだから、護衛兼誘導役の部隊を作っておいてくれ。因みに着陸予定は成田だそうだ』

 

「了解。総理大臣殿?」

 

『では頼むぞ、長官君?』

 

「『プッ』」

 

「どういうキャラだw」

 

『しーらね‼︎あ、そうそう。ムー行きは任した』

 

「了か、え⁉︎ちょ、は⁉︎どど、どういこと⁉︎」

 

『そのまんまの意味。じゃ、ヨロピコ‼︎』

 

と言って電話切られる。

 

「おい‼︎もしもし‼︎もしもーし‼︎」

 

「(あの野郎、今度あったら殺す‼︎)」

 

という訳でムーから使節団が派遣され、日本からは神谷と川山のコンビと向上が派遣された。二人は飛行機で一路、ムーへと向かう。

 

 

「あー、どうしてこうなったかな」

 

「そればっかだな」

 

「外交は苦手なんだよぉ」

 

「軍人だもんな」

 

「そうだとも」

 

愚痴ってる間にムーの空港へ着く。そのままホテルに通され、少し待たされる。

 

 

「お待たせを。ご紹介致します。我が国の技術士官、マイラス君です」

 

外交官の男が軍服を纏った青年を紹介する。

 

「マイラスです。はじめまして」

 

「大日本皇国外務省特別外交官、川山慎太郎です」

 

「大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三です」

 

「大日本皇国統合軍少佐、向上六郎です」

 

神谷の自己紹介に、ムー側は固まる。そりゃ、いきなり大将首が登場しているのだから当然である。

 

「と、統合軍総司令長官と申されますと、ぐ、軍の最高指揮官でしょうか?」

 

外交官が言葉を絞り出しながら聞いてくる。

 

「えぇ。そう捉えて貰って大丈夫ですよ」

 

にこやかに語る神谷に、より一層緊張感が増す。

 

「な、何故、使節団にそんな大物が?」

 

「総長は我が国で唯一「剣聖」の称号を得ており、軍内で一番強い兵士です。ですので、護衛兼軍事知識の専門家として同行しているのです」

 

向上の説明に少しだけ安心する。てっきり、軍事力を背景に脅して来るかと思っていたのだから当然である。

 

「では、以降の予定を簡単にご説明します。会談は四日後ですので、それまでは我が国を視察してもらいます。川山さんは私が、神谷さんと向上さんはマイラス君がご案内します」

 

「あ、お待ちください。向上は川山の方に着けてもよろしいですか?連絡役が居ないと、色々不便なので」

 

「わかりました」

 

外交官が決めていく内容に、マイラスとしては気が気じゃない。このままでは、祖国より強いかもしれない国の軍のトップを案内するのだから地獄である。もしかしたら、何かのミスがきっかけで戦争状態になるかもしれないのだから。しかし、マイラスが口を出すのは御門違いであるので、言うに言えない。

 

(頼むから、何事もなく終わってくれ‼︎というか、2人きりで周りたくない‼︎)

 

しかしそんな願いは叶わず

 

「では、お願いします」

 

「は、はい」

 

一緒に周る事となる。車内は何とも言えない空気になっており、これをどう打開するかを頭をフル回転させて考える。所が神谷の方が、その空気を破壊してくれたのである。

 

「あー、あんまり硬くならないでください。別に我が国は軍事力を背景に、貴国から何をしようという訳ではありません。マイラスさんからすれば、未知の国の軍のトップを案内するという大役で緊張するのもわかりますが、私としてはそういうの苦手なんですよ」

 

「は、はぁ」

 

「私は福岡の生まれで、こういう硬いのダメなんですよ」

 

「そうですか」

 

「所で先ずは、何を見せてくれるんです?」

 

 

「マリンという、複葉機です。見れば分かると思います」

 

空軍基地の格納庫には、そのマリンという戦闘機が鎮座していた。

 

 

「うーん、零観を固定脚にした感じか。武装は7.92mm口径の機銃二挺って所か?」

 

(な、何故、こうも武装を言い当てられるんだ⁉︎)

 

「速度は400行かないくらいか?」

 

「あ、あの、何故そうも機体性能が分かるのですか?」

 

「この機体、昔の我が国の航空機と似ているんですよ」

 

「どのくらい昔ですか?」

 

「えーと、配備開始が1940年だから、ざっと110年前ですね」

 

ムーの最新鋭戦闘機が、日本では100年も前の機体という事実に目が点である。

 

「で、では、貴国にも戦闘機があるのですか?」

 

「ありますよ。攻撃機含めて、7種類ありますね」

 

「性能はどの程度でしょうか?」

 

「機体により差はありますが、どの機体も音速を超えることが可能です」

 

「お、音速⁉︎」

 

「詳しい事は国交開設まで申せませんが、そちらの戦闘機程度なら余裕で殲滅可能です」

 

その後、色々格納庫を見て回ったが、その全てにおいて祖国が劣っている事を痛感させられるマイラスであった。最後の方は、最早顔面蒼白で死に掛けており、中々に面白い事になっていた。次の日は海軍基地に行く事となり、最新鋭艦を見せて貰った。

 

 

「アレが我が国の最新鋭戦艦、ラ・カサミ級になります」

 

「こりゃ驚いた。三笠と瓜二つだ」

 

「やはり其方にも存在するんですね?」

 

「我が国では約150年前に建造され、現在も横須賀という所で記念艦として残っていますよ。機会があれば、是非行ってみてください」

 

「所で、貴国に戦艦は居るのですか?」

 

「えぇ。大和型前衛武装戦艦、伊吹型航空戦艦、熱田型指揮戦略級超戦艦の3種類が在籍しています。戦艦は我が国では「男の浪漫」とされており、非常に高い人気を誇っています」

 

「一度、見てみたいものです」

 

「観艦式にでも行けば、一般人でも見れますし、運が良ければ乗艦できますよ」

 

「国交開設してくれれば、幾らでも見に行くんだがなぁ」

 

「そればっかりは、政府と相談ですね。まあ我が国はアイツが乗り気ですから、多分大丈夫ですよ」

 

「アイツ?」

 

「首相の一色健太郎です」

 

「首相をアイツ呼びとは、中々ですね」

 

「健太郎と慎太郎、そして私は共に親友なんですよ。普通に休みの日は家に行って、遊んだりとかしますし」

 

何気にサラッとすごい事を言っているが、この国に常識が通用しないとわかった為、軽く流す。

 

「その内、あの艦も観艦式に来るのかなぁ」

 

「ならば其方の戦艦の三笠?の横に並べましょうか?」

 

「名案ですね‼︎」

 

「やっぱり」

 

「戦艦は」

 

「「男の浪漫‼︎」」

 

ガシッと硬い握手をする二人。戦艦への愛が、二人を結びつけたのか?それから二日後に会談が行われ、両国は国交を開設した。唯、安全保障条約についてはムーが永世中立国である為、結ばれる事はなく、不可侵条約のみとなった。そして帰りの飛行機に乗ろうとした時、もう一機飛行機が着陸してきたのである。

 

 

『もしもーし、聞こえてる?』

 

「健太郎⁉︎」

 

慎太郎の電話から一色の声が届く。

 

『急遽、お前だけフェン王国にも行ってもらう事になったから、行ってらっしゃい‼︎じゃ‼︎』

 

「何だって?」

 

「今度は俺だけフェン王国に行く事になりました」

 

「ご愁傷様..............」

 

合掌する神谷を尻目に、新しく来た飛行機に連行される川山。川山の目は虚ろで、なんか「ドナドナ」でもBGMで流れてそうである。

 

「アイツ、マジで殺す」

 

そんな訳で帰国して直ぐに官邸に直行し、土産と称してある飲み物を渡す。

 

 

「浩三、コレ何?」

 

「紅茶みたいな物らしい。飲んでみろ」

 

「へー。じゃあ」

 

グビッ

 

神谷はドス黒い笑みを浮かべる。この紅茶はムー産の激辛紅茶であり、罰ゲームとして飲まされるらしい。デスソースバリに辛いのだが、さらにハバネロとデスソースを加えて毒物レベルにまで上げたのを渡したのである。結果

 

「ボファァァァ‼︎さちこぬけらたりかてけしえや‼︎」

 

なんかもう、言葉になってない悲鳴を上げている。

 

「復讐完了」

 

そう言い残し去って行く。因みに、一色のSPにも手を回しているので問題ない。

翌朝、お返しに激苦チョコが送られてきて、苦さで神谷が死に掛け、それ以降ちょっとした戦争をしていたのは別の話。

さてさて、時はまた経ち二週間後。今度はフェン王国に艦隊を派遣する事となった。何とも珍しいのだが、国交開設の交渉に行ったら「国の在り方を見るには、武を見るのが一番」という剣王シハンの持論により、急遽王国の軍祭に第一揚陸艦隊と第七海兵師団が派遣されたのである。

 

 

 

一人の男が巨大なドラゴンに騎乗、というよりかは頭の上で座禅組んで浮いている。その男が叫ぶ。

 

「なんだありゃ⁉︎デカすぎるだろ⁉︎あれが、大日本皇国自慢の軍艦か⁉︎」

 

この男の名はスサノウ。ガハラ神国の騎士であり、今回参加している風龍隊の隊長である。

 

『まぶしいな』

 

相棒の風竜が念話を使って話しかけてくる。この風竜という種族は知能が高く、念話により人と会話することも可能なのである。因みにワイバーンよりも上位個体である。

 

「あ?ああ、今日は快晴だからな」

 

スサノウは空を見渡して返事をした。実際、今日は雲1つない快晴である。

 

『いや、違う。太陽ではない。あの下の巨大な船、あそこから線状の光が、あちこちに向けて照射されているのだ』

 

「光?そんなもの見えないぞ?」

 

『フッ。人間には分かるまい。我々が遠方の同胞と会話する時に使う光があるが、下の船から出ている光はそれに似ている。人間には見えぬ光だ。それを使えば、何が飛んでいるのか分かったりもする』

 

「飛ぶ竜が分かるのか?どのくらい遠くまで?」

 

『個体により差がある。わしは120キロくらい先まで感じることができる。だが、あの艦達は一番長い物で半径1000キロは視えている。さらに高さも約60キロ迄は視えている様だ』

 

「つまり、我々の想像を遥かに超える地点の敵も探知できると?」

 

『そうだ。もしかしたら、それを攻撃できる術もあるやもしれん』

 

「何故そう思う?」

 

『探知できたとしても、それが海の真ん中であれば自分で攻撃するしかないだろ?ならば、探知距離に応じた攻撃手段があると考えてもいい筈だ』

 

「大日本皇国、凄い国だな.......」

 

『スサノウよ。後ろから、何か速い物が来る』

 

「速い物?」

 

風龍の横に一機の震電IIが飛んでくる。突然の事に戸惑うスサノウだが、これがムーと同じ飛行機械と気付く。震電IIのパイロットは風龍を少し見ると、スサノウに対し敬礼を送る。敬礼を知らないスサノウは困惑するが、敬意を払っているのは何か分かった為、軽く頭を下げる。

それを見ると震電IIのパイロットは敬礼を前に勢いよくスライドさせ、機体の腹を風龍に向けて、そのまま降下しながら180度大きく半円を描きながら飛び去る。

 

「一体何だったのだ」

 

 

これより数時間後、デモンストレーションとして廃棄予定の帆船四隻を沈めるべく、行動を開始する。

では今回のデモンストレーションに際して行われる、大日本皇国海軍と海軍陸戦隊の余興をご説明しよう。今回は廃棄予定の帆船を敵勢力と仮定して攻撃した後、第七海兵師団による上陸演習も行われる。

 

『ご来場の皆様、これより大日本皇国統合軍によるデモンストレーションを行います』

 

軍の広報部の兵士がマイクを片手に、観覧に来ている各国の武官が注目する。

 

『それでは、前方の黒い壁をご覧ください』

 

黒い壁、もとい中継モニターである。今回は演習地と距離が空いているので艦、海軍陸戦隊の兵士、戦闘機、ヘリコプターにカメラを搭載してリアルタイムで流す事になっているのである。

画面に『フェン王国軍祭、大日本皇国統合軍デモンストレーション』が映し出され、その後ろには陸、海、空、海軍陸戦隊、特殊戦術打撃隊の兵器が映し出させれる。カラー映像に全員が驚き、ザワつく。

 

『では、今回の演習の想定をご説明いたします。今回は武装勢力により占領された基地の奪還と、要人の保護を想定しております。只今、準備完了との連絡が入りましたので、早速開始いたします』

 

モニターに第一揚陸艦隊の映像が映し出される。

 

 

「主砲、攻撃用意‼︎」

 

「撃ち方、はじめ‼︎」

 

「撃ちー方始め‼︎」

 

浦風型三隻が放つ砲撃により、正面の約4キロ地点の帆船を粉砕する。言うまでもないが、4キロ程度の距離なら外す訳なく、一隻につき一発である。

 

「敵艦の排除完了。上陸部隊、出陣‼︎」

 

出雲型からはLCAC、日向型からはLCACとLCU、それから33式と28式が続々と発進する。これに合わせてB型震電II、薩摩、天神が発艦し輸送と護衛につく。

目の前の光景に半ば呆れつつも、各国の武官は目の前で繰り広げられる光景に目を回す。上陸した様々な地竜(戦車や装甲車の事)から杖(銃)を持った兵士達が続々と現れ、途方もない火力で敵に見立てた案山子や的を破壊して行く。さらには飛行機械からも何かが落とされたり、飛んで行ったりしては爆発して行く様に、武官達の脳内ではその武力が自国に向けられた時の事を考えていた。なす術無く蹂躙されて行く兵士。泣き叫ぶ女子供。破壊され崩れ落ちる建物等、地獄の様な光景である。

そんな武官達を尻目に、第七海兵師団は基地の奪還と要人の保護を完了し、全行程の完了を宣言して演習は終了した。次々と現れる兵器達に剣王は常に目を輝かせており、結構な爺ちゃんだが少年の様に目をキラキラしていて家臣達から「マジですか」という顔を向けられていた。

 

「レーダーに感‼︎敵艦22、敵航空機120‼︎こちらに侵攻してきます‼︎」

 

「フェン王国と本国に通報‼︎海軍陸戦隊の収容急げ‼︎対空、対水上戦闘用意‼︎こちらからの発砲は禁ずるが、向こうから撃ってきたら容赦なく撃て‼︎」

 

司令が次々に指示を飛ばす。

 

「司令、意見具申」

 

「艦長、どうした?」

 

「海軍陸戦隊の航空機を優先的に収容し、対空装備に換装して出撃させるのはどうでしょう?」

 

「確かに国籍位は調べる必要があるしな。よし。各艦に下令‼︎海猫を発艦させ、敵航空機への偵察を開始せよ‼︎揚陸艦は海軍陸戦隊の航空機を収容後、補給と対空兵装への換装の後、迎撃行動に移れ‼︎」

 

「「「「了解‼︎」」」」」

 

この事は日本の統合参謀本部にも伝わり、神谷が独断で「敵攻撃時の全兵装使用自由」が宣言した。これにより、即座の迎撃行動が可能である。

 

 

「こちら海猫一号機、司令部聞こえるか?」

 

『こちら司令部、感度良好』

 

「現在敵会敵予測ポイントにて待機中。恐らく、数分後には目視にて確認できる」

 

『了解した。くれぐれも、こちらからは攻撃するな』

 

「ウィルコ」

 

数分後、ワイバーンが目視にて確認される。

 

「目視にて視認‼︎国籍証は、パーパルディア皇国‼︎」

 

 

「司令‼︎」

 

「フェン王国からはパーパルディア皇国の越境は、許可されていないことが確認済みだ」

 

「わかりました。通信兵‼︎」

 

「はい‼︎」

『了解。警告を実施せよ』

 

「了解‼︎」

 

ガンナー席の部下に機長がスピーカーで警告するよう命じる。

 

「こちらは大日本皇国海軍である。貴飛行隊は、現在フェン王国の国境を超えている。直ちに引き返し、この空域より退去せよ。さもなくば武力行使を行う」

 

しかしパーパルディア皇国側は、ワイバーンによる火炎放射攻撃で火炙りにしようとしてくる。

 

「嘘だろ⁉︎」

 

ギリギリの所で翼角を90°にして急上昇した為、当たる事は無かったが危なかったのは危なかった。

 

「こちら海猫一号機‼︎攻撃を受けた‼︎反撃するので許可求む‼︎」

 

『了解。攻撃許可、オールウェポンズフリー‼︎』

 

「ガンナー‼︎」

 

「撃ちます‼︎」

 

三銃身の20mmバルカン砲が弾幕を展開する。初っ端から最後尾のワイバーン10騎を破砕し、パーパルディア皇国側は混乱する。しかし直ぐに散開して、攻撃を仕掛けようとするが

 

『海猫二号機、攻撃開始‼︎』

 

雲の中に隠れていた海猫、総数5機が烈風とバルカン砲を発射。回り込んで来ていた40騎近くを一気に掃討する。ワイバーン隊の隊長は艦隊に現状を通報し、この空域より離脱。攻撃目標であるフェン王国に向かおうとしていた。

所がどっこい通報までは出来たものの、離脱しようとした瞬間、ある物が行手を阻んだ。

 

『ギャッツ隊推参‼︎攻撃開始だ‼︎』

 

震電II四機からなる航空隊である。たかが300キロ程度のワイバーンと、マッハ2.2のステルス戦闘機では勝負するまでもない。導力火炎弾*1程度ではダメージが入るわけもなく、というかそもそも当たるどころか掠りもせず、一方的に機関砲とミサイルの餌食となる。この時間、僅か5分。尚、こちらのダメージは言うまでも無くゼロである。

 

『こちらギャッツ隊。敵は片付けた』

 

 

「司令、敵ワイバーン全騎撃墜しました‼︎」

 

「よし、我々も攻撃開始だ‼︎各艦に下令‼︎主砲砲撃戦、撃ち方始め‼︎」

 

司令官の号令により、各艦の主砲が一斉に発射される。一番小さい物でも100mmある為、帆船には防ぐ事はできない。なんなら至近弾でも吹っ飛ばせる。そんな威力の砲弾が、雨の様に降ってきたらどうなるだろうか?

全滅以外の未来はない。そんな訳で、たった数分の砲撃で片がついた。一応ヘリコプターで沈没海域を偵察に行って貰ったが、海面には旗と木片が散乱してるだけであり生存者はいなかった。後に「フェン王国沖海戦」として記録される海戦は、呆気なく終結した。しかし、この戦いが後に悲劇となって帰ってくる事は誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

*1
ワイバーン種が使う技であり、体内の粘性のある燃焼性の化学物質に火炎魔法で点火し、炎を風魔法で包み込むというもの。この際は首と胴体を一直線に伸ばす必要があり、そのため横や後方には短射程な火炎放射しかできないという欠点がある他、威力が極端に低い。火炎魔法で発動する火炎放射に比べれば威力は有り、弾速は遅いが生身の人間に当たれば黒焦げにはなる。だが、機動甲冑を着ていれば表面が焦げるだけで死ぬ事はない。

因みに風龍は圧縮空気弾と言うのを放つ。



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第六話魔王VS皇国軍

パーパルディア皇国との戦闘より一週間後、統合参謀本部では幕僚達を集めての緊急会議が行われていた。

 

「諸君、今回集まって貰ったのは他でも無い。6時間前にフェン王国の軍祭に派遣していた、第一揚陸艦隊と第八海兵師団がパーパルディア皇国との戦闘行動が確認された。海軍陸戦隊総隊長、詳しい状況を報告してくれ」

 

「はい。まず申し上げておくのは、この戦闘はあくまでも国防法の第七章の第八十六条及び第九十条*1に定められた範囲内である事です。これを見てください」

 

部屋が暗くなり、テーブルに立体映像にファン王国沖の海図と日本軍とパーパルディア皇国軍の戦力が投影される。内容に関しては前回の戦闘の記録を垂れ流して行くだけなので、箇条書きで済まさせてもらう。

①パーパルディア皇国のワイバーン部隊と艦隊を、レーダーで探知し海猫が警告に向かう。

 

②警告したのに、無視して火炎放射しやがる。

 

③勿論応戦して、ワイバーンを殲滅する。

 

④艦隊も当然殲滅する。

流れ的にはこんな感じである。

 

「さて、ではJMIB*2長官、パーパルディア皇国について報告を」

 

「はい。情報を精査させた所、今回襲撃して来たのはパーパルディア皇国で間違いありません。しかし国軍ではなく、監察軍と呼ばれる軍が担当したようです。ICIBの諜報員から裏も取れていると報告が上がっています」

 

「長官、監察軍とは何なのでしょうか?」

 

海軍長官が質問する。周りの人間も同様にうなづいている。

 

「パーパルディア皇国には3つの外務局があり、第一は列強国、第二は文明国と列強の保護国、第三は文明圏外国をそれぞれ担当しています。監察軍とは第三外務局傘下の組織であり、脅迫外交と搾取の為に武力での脅し、いえ攻撃を仕掛ける部隊です」

 

「脅しではないのですか?」

 

陸軍長官が驚きながら聞く。

 

「脅しと言うと、皆さんは領空や防空識別圏に戦闘機を飛ばすとか、海軍艦艇を派遣するとかを想像すると思います。しかしこの国の場合は、普通に軍隊で攻撃するのです。言ってしまえば北朝鮮で見せしめに公開処刑してるのを、そのまま規模を大きくした様な物です。奴さんは文明圏外国を文字通りの「その辺の小石」程度にしか思っておらず「蹴ろうが投げようが川に落とそうが俺達の勝手」という認識なのです」

 

JMIB長官の言葉に、全員が驚愕を隠せない。常識が通用しないというのは分かっていたが、まさかモラルのへったくれもないレベルでヒドイとは想定していなかったのである。

 

「諸君、恐らく遠くない内に戦争となるだろう。勿論まだ向こうから何のアクションが無い以上、俺の勝手な推測に過ぎないがプライドの塊みたいな国が文明圏外国認識してる国の軍に返り討ちにされたとあっては、まあ予想できるよな?」

 

全員の脳裏にトンデモなく面倒な絵が広がる。日本が負ける事が無いので問題ないとして、問題なのは交渉や捕虜の扱われ方である。多分韓国よりも話が通じず、拷問や処刑が当たり前のテロ集団レベルの扱いしかされない事は目に見えている。

 

「会議中に失礼します‼︎総理から「至急官邸に来て欲しい」との事です‼︎」

 

向上が入ってくるなり、なんか面倒な事になりそうなセリフを言っている。

 

「絶対なんかあったやん。取り敢えず、会議終了。各自適当に解散」

 

浩三の予想はバッチリ当たっていた。では、時系列は会議開始頃の首相官邸に戻そう。

 

 

「秘書官、午後の予定は?」

 

「はい。本日13時から18時まで執務の後、19時より大臣を招いての会食となっております」

 

「ありがとう」

 

午前の仕事が終わり、昼ご飯も食べて秘書官から午後の予定を聞いていた時、執務室にクワ・トイネ公国からのホットラインが掛かってくる。

 

「もしもし」

 

『一色首相、カナタです。いきなりで悪いのですが、貴国のお力をお貸しいただけませんか?』

 

「穏やかじゃ無いですね。何がありました?」

 

『トーパ王国という国をご存知でしょうか?』

 

「確かフィルアデス大陸の北方にある文明圏外国でしたね。文明国水準の陸軍を保有し、世界の扉を守護しているとか」

 

『その世界の扉が破られたそうです』

 

「私はその辺りに疎いのですが、多分それは国家存亡レベルで結構まずい事なのでは?」

 

『おっしゃる通りです。世界の扉はグラメウス大陸からの魔物の侵攻を防ぐ壁であり、世界一頑丈な建造物です。それが破られたとなると、大量の魔物や魔王の再臨も視野に入ってきます』

 

「話が見えて来ましたよ。つまりは「魔物退治してくれ」って事ですね?」

 

『話が早くて助かります』

 

「わかりました。浩三に連絡しますので、そちらもトーパ王国大使を呼んでください。一時間後、テレビ会議を行いますがよろしいですね?」

 

『異存ありません』

 

「では」

 

「総理」

 

「あぁ。向上少佐に頼むとしよう」

 

という事があったのである。そんな訳で官邸執務室でテレビ会議が行われたのであった。

 

『トーパ王国大使、コーエンである』

 

「大日本皇国首相、一色です」

 

「大日本皇国統合軍総司令長官、神谷です」

 

『早速だが、本題に入らせて頂く。現在世界の扉h』

 

「大丈夫です。既に我が国の偵察衛星により、敵勢力の規模、位置、装備、それから戦闘地域となる世界の扉周辺の地形、世界の扉の損壊具合、トーパ王国軍の動きに至るまで全て把握しております」

 

浩三がコーエンの話を遮り、当然ですと言わんばかりに爆弾発言を投下する。

 

『い、今なんと?』

 

「ですから、情報は全て知っていると言ってるのです」

 

「(ちょっと浩三さん、どういう事だってばよ⁉︎)」

 

「(三日前に変なのが衛星に映ってたから、第七海兵師団を演習後に近海に派遣する事にしてた)」

 

「(祖国の力、恐るべし)」

 

『で、では援軍は?』

 

「それについては既に派遣済みです」

 

『何ですと⁉︎』

 

「勿論派遣はそちらの要請を受けてからですが、フェン王国で軍祭があったのはご存知でしょうか?」

 

『毎年の事ですな』

 

「三日前に動きを探知していた為、軍祭に派遣していた部隊を貴国の近海に動かす事にしていたのですよ」

 

『なんと.......』

 

「規模としては兵力19000名。34式戦車40両、36式機動戦車20両、その他諸々の戦力ですね。他にもバックアップ部隊として、我が国の特殊戦術打撃隊より空中母機白鳳を派遣しております」

 

此方に馴染みの無い単語が次々と並べられ、何が何なのか理解できないコーエン。取り敢えず援軍が来る事は分かったので、適当な所で話をつけて会議を終えた。軍祭より5日後、トーパ王国首都のベルンゲンに第一揚陸艦隊は入港した。そこで第七海兵師団を降ろして艦隊は海路、第七海兵師団は陸路で城塞都市トルメスを目指す。

 

 

 

城塞都市トルメス

 

騎士モアと傭兵ガイは、騎士団の命により、城塞都市トルメスの南門へ、間もなく到着する日本軍の案内のために来ていた。統合軍は王国軍騎士団の護衛により、南門に到着する。南門から城まではモアとガイが案内し、その後自分たちは日本軍に観戦武官として同行する予定だった。

 

「なあモア?俺たちが案内する大日本皇国軍って、どんななんだ?師団規模しか来ないって聞いたが、そんな少数の援軍って意味あんのか?」

 

「大規模な援軍なら嬉しいが小規模な部隊が来て、しかも指揮権も異なっていれば混乱を招くだけのような気もするが、彼らの力が噂どおりだと、すごいことになるな。ただ、内容が内容だけに、私は半信半疑だが........」

 

「噂って何だ?」

 

「ロデニウス大陸でロウリア王国の大軍を超短時間の猛烈な爆裂魔法の投射で滅し、そして列強パーパルディア皇国の竜騎士団22騎と、 魔導船が消滅した。この全戦いにおいて、大日本皇国軍の死者が無いというものだ」

 

「うーん、そりゃウソだな。自国を強く見せようとするための情報操作ってやつだぜ」

 

「そ、そう思うか?やはり」

 

 歴戦をこなしてきた傭兵ガイは断定したように話始める。

 

「俺は幾多の戦場を見てきた。圧倒的に強い軍もいたが、いくら武具や戦略、策略が優れていても、死者数に大きな差は出ることはあれど、ゼロなんて数は聞いたことがない。いくら技術を持とうが、戦略を駆使しようが、最前線で兵が死なないなんてありえないんだ。

その国はロウリアやパーパルディア皇国に局地戦で勝った事はあったんだろう?まあ、列強に一部勝つだけでも十分強大な国だが、1人も死者が出ないなんて盛りすぎだな。そんな国きらいだぜ。見た目を重んじる国なら、どうせ先遣隊も金ぴかな鎧で来るんじゃねえか?」

 

「うーむ、そうか.......しかしまあ国賓のようなものだから、嫌いであってもくれぐれも失礼のないようにな」

 

「へっ、解ってらぁ」

 

旧友で戦友の二人が日本軍について話していると、城門の見張り台の衛兵が日本軍を見つける。

 

「モア様、見えました‼︎日本国軍の方が来られました‼︎」

 

「来たか.......」

 

雪煙を上げて近づく一団を二人も見つける。最初は馬や馬車が舞あげた雪と思っていたが、近づくにつれて馬や馬車とは似つかない、聞いたことも無い「キュラキュラ」という音が聞こえてくる。

 

「モア、何か音が馬にしちゃ可笑しくないか?」

 

「お前もそう思うか?」

 

「ああ」

 

更に近づいて気がつく。日本軍が連れてきたのは馬や馬車ではなく、真っ白な鋼鉄の魔獣だったのである。モアとガイの前で一団は停車し、日本軍を先導してきた国軍の騎士が馬から降り、モアに近づく。

 

「こちらが大日本皇国軍の方々だ。後の案内を頼む」

 

「はい‼︎」

 

話をしているうちに、日本の鉄龍のうちの1つの扉が開き、中から変な格好をした者が降りてくる。

ただ丸いだけの何の装飾も無い兜をかぶり、真っ白な服を着ている。鎧は着ていないため、おそらく戦になったら装着するのだろう。モアの想像する騎士の格式や、華のある姿の欠片も無い。一言で表すなら、蛮族である。蛮族は、モアのへ近づいてくる。

 

「大日本皇国海軍陸戦隊第七師団、師団長です。ご案内感謝いたします。よろしくお願いします」

 

他の兵士と同じ格好の男が、指揮官というのに驚きつつも挨拶を交わす。

 

「トーパ王国世界の扉守護騎士のモアです。これよりトルメス城にご案内した後に、あなた方日本国軍へ同行いたします。よろしくお願いします」

 

突然だが、ここで第七海兵師団の解説を簡単にしておこう。第七海兵師団は日本最北端の稚内が本拠地となっており、冬季レンジャーも多く在籍している海軍陸戦隊の中でも異質の「雪山や雪上での戦闘に特化した部隊」なのである。トーパ王国は北海道に似た気候で、今も雪が降り積もっており、適任な部隊なのである。

 

 

 

トルメス城

モアの後をついて何度か角を曲がった後、隊長のいる部屋の前に到着する。重厚な扉を前に、モアは扉をノックする。

 

「入れ」

 

「失礼します。日本の方々をお連れしました」

 

中へ入ると円卓があり、その1番奥の男が立ち上がる。年齢40歳くらい、身長180cmくらい、筋肉質で白色短髪、白い髭、銀色の鎧を着装し、赤いマントを羽織り、帯剣している「ザ・騎士団長」な男性が立ち上がる。

 

「おお、日本の方々よくぞ来て下さった。私はトーパ王国魔王討伐隊隊長のアジズです。」 

 

「大日本皇国海軍陸戦隊第七師団、師団長です。よろしくお願いします」

 

挨拶を交わす。一同は円卓に座り、状況の確認を行い始める。要約するとこんな感じ。

・魔王軍はボスの魔王ノスグーラ、側近のブルーオーガ、レッドオーガ含め総勢約八万。

・城塞都市トルメスの北側に位置するミナイサ地区に侵攻し陥落。

・これより先の侵攻を被害を出しながら食い止めており、現在は拮抗状態となっている。

・魔王はミナイサ地区の領主の館を使用し、外には出てきていない。

・ミナイサ地区には、まだ逃げ遅れた民間人約600名がおり彼らはミナイサ地区中心部の広場に、昼間に一度集められ毎日数人がつれていかれ魔王その他の餌にされている。

・そのため、当初600名いた逃げ送れた民間人もその数を減らし、現在は200名まで減っている。

・魔王軍に与えた被害はゴブリン約3000体、オーク10体であり、こちらの損害は騎士約2000名がすでに死亡している。

・3回ほどミナイサ地区の人質救出作戦が行われたが、広場に至る大通りには必ずレッドオーガもしくはブルーオーガのどちらか1体がおり、多大な損害を受け撤退、細道を行った騎士は各個撃破され戦線は硬直している。

・人質は毎日食されており、早く助けなければならない。

とまあ、控えめに言って地獄の様相を呈している。

 

「思ってたより酷いな」

 

「一応我々独自の戦略は建てたのですが、何分そちらの鋼鉄の魔獣と飛竜の性能等は皆目検討もわからなせなんだ。其方で策があるのならお聞かせ願いたい」

 

「わかりました。おい」

 

「ハッ‼︎」

 

師団長が副長に命じ、タブレット端末を円卓の中心に置く。

 

「照明を落とさせて頂きます」

 

照明、といっても蝋燭の灯りだけだが一度火を消す。そしてタブレットから立体映像と周辺の地形が映し出される。

 

「何だこれは⁉︎」

「魔法か⁉︎」

「こんな魔法見た事ない‼︎」

 

「立体映像です。こちらの映像を使いながら説明致しますので、想像しやすいと思われます。我々の作戦としては、まずOH8風磨による敵上偵察を行い、魔王軍の正確な位置と重要拠点を洗い出します。判明次第、我が軍の機甲部隊、皆様のいう「鋼鉄の魔獣」を使って陽動を行います。その間に我が軍の歩兵が上水道から潜入し守備役を無力化、さらに二足歩行兵器とAH32薩摩を投入し内部の敵の誘導と一掃をしつつ、民間人を解放します。

ブルーオーガ、レッドオーガ、魔王ノスグーラについては第一揚陸艦隊と空中母機白鳳からの支援攻撃を用いて殲滅致します。以上が我々の戦略となります」

 

「我々は何処を手伝えばよろしいか?」

 

「そうですね、では機甲部隊にこの辺りの地理に詳しい者を数名、潜入部隊に手練れの精鋭部隊を割り当てて貰えれば嬉しいです」

 

「あいわかった。その様に手配致す」

 

協力を取り付けた所で会議終了の筈が、思わぬ来客がやって来る。

 

「会議中失礼致します‼︎師団長‼︎第一揚陸艦隊より、此方に近づく飛行物体有りとの通報が入りました‼︎」

 

「数は?」

 

「単独で、毎時240キロで接近中との事‼︎ワイバーンにしては反応が小さく、大体人間と変わらないサイズだそうです‼︎到達まで後15分です‼︎」

 

「アジズ殿、その敵は我々が倒しても宜しいですね?」

 

「頼みます」

 

「各員戦闘準備‼︎薩摩と49式を用意しろ‼︎」

 

「ハッ‼︎」

 

慌ただしく準備に入る皇国軍兵士達、そしてそれを「何事?」と野次馬となって見に来るトーパ王国の兵士達という光景が広がる。

 

「対空戦闘用意完了‼︎」

 

「射程に入り次第、即時発砲‼︎ただし機銃でやれよ」

 

49式の中で車長が指示を飛ばす。

 

「レーダー、後どのくらいだ?」

 

「大体4、5分で射程ですね」

 

「よし」

 

 

「人間の頭を討ち取るために、我が足を運ばねばならぬとはな」

 

一応魔王側近のマラストラスが呟く。現在接近しているのはコイツであり、空軍戦力を持たないトーパ王国は一方的にコイツの攻撃でボコボコになっていた。

 

「射程入りました‼︎」

 

「撃て‼︎」

 

耳をつんざく轟音と共に、6門の35mmバルカン砲から何千発という弾丸が発射される。目の前の空の色が変わるほどの弾幕と、魔法で塞いだとしても、それを一発でぶち破って来る威力にあっさりやられる。

 

「目標撃墜‼︎」

 

「師団長、目標撃墜しました」

 

「よろしい。アジズ殿、其方の騎士数名を確認に向かわせて下さい。もしかしたら魔王軍の者かもしれませんので」

 

「あいわかった」

 

そんな訳で確認した所、仲間の仇であるマラストラスだったのだから驚きである。その報告がアジズにも行き、やっぱり驚かれる。他の兵士達も皇国軍の強さを知り、味方になってくれた事に感謝していた。そして二日後、作戦名「ももたろう」は開始された。

 

 

『此方忍び1。人質は広場に全員集められている。監視はオーク20、ゴブリン多数。当初の作戦のまま進めて大丈夫な物と判断する』

 

「本部了解。忍び1はそのまま弾着観測に移行されたし」

 

『ウィルコ』

 

「師団長‼︎」

 

「これよりオペレーションももたろうを開始する‼︎進撃せよ‼︎」

 

師団長の号令が掛かり、機甲部隊が前進する。大地をその巨体で踏み締めながら、後続の味方部隊の道を切り開かんと進む。ヘリコプターも随時離陸を開始し、潜入部隊も40式と44式イ型に分乗して上水道の入り口へ向かう。

 

『此方忍び1。砲兵部隊へ。敵対空陣地補足。至急支援砲撃求む。座標はエリア35Aから58D』

 

『よしきた。砲弾の飛び込み販売を開始する』

 

対空陣地と言っても投石器四台なのだが、一応それを破壊しておく。

そんな最中、ミナイサ地区で飯屋を営んでいたエレイは恐怖に震えていた。魔王の侵攻で生き残った者たちは、昼間に一旦広場に集められ夜には魔物に管理された建物内へ移動させられる。広場では周囲を魔物が警戒し、逃げ出せない。現に逃げようとした人はいたが、すぐに捕まり民衆の前につれてこられ、その場で料理されてしまった。魔物たちは料理される被害者を指差して「生き踊り、はっはっは」などと笑っていた。毎日、何人かが料理のために連れて行かれた。

実際、隣に住んでいた幼馴染の少女メニアも昨日連れて行かれた。メニアの両親は娘をつてれいかれまいと、必死に戦ったが3人そろって連れて行かれてしまった。

何回か、王国騎士たちが助けに来ようとしたけど、今広場と城門を結ぶ大通りに立っているレッドオーガにやられてしまった。昔話では、魔王軍とエルフの戦いで、エルフの神の祈りを聞き届けた太陽神がその使いをこの世に降臨させたとあった。私はエルフだ。神ではないけれど、祈ろう。神様!神様!どうか皆を、そして私たちを助けて下さい。魔を滅して下さい!!再び太陽神の使いを降臨させて下さい。お願いします!!

祈るが何も起きない。

 

「ええと、今日の肉はと.......」

 

また、魔物が料理のために各種族を見ている。

 

「魔王様はあっさりしたものがいいと言っていたな」

 

「今日は野菜をメインにして.......」

 

皆に安堵の雰囲気が流れる。

 

「味付け程度に、エルフの女くらいが丁度いいだろう。おばえな」

 

魔物がエレイの右手を掴む。

 

「イヤァァァァァァァァァ神様ァァァ助けてぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎」

 

「ゴラ、暴れんな‼︎」

 

その瞬間、空から何かが降って来る。地面の石を破壊し、直立する。

 

「ブモォォォォォ‼︎」

 

ベチャ‼︎

 

魔物が巨大な足に踏み潰される。

 

「な、何?」

 

他の至る所に同じ様な何かが降って来る。そして監視役の魔物の元に、上についた黒い筒から弾ける音を出しながら殲滅していく。

もう、何が来たかお分かりだろう。月光である。

 

「突撃‼︎かかれ‼︎」

 

他にも小さな鉄の塊も降ってきて、背中に人を乗せて戦っている。今度は噴水から白い服を着た兵士と、騎士達が飛び上がって魔物を殲滅していく。

 

「撃て撃て‼︎リアルモンスターハンターだ‼︎」

「素材集めですか⁉︎」

「そういうこった‼︎オラオラどした‼︎」

「皇国軍のお通りじゃい‼︎頭が高いわ‼︎」

 

完全にテンションバグってる皇国軍によって、次々と倒れていく雑魚魔物。月光、極光と連携して殲滅していき、広場全域をセーフエリアとする。

 

「こちら突入班。広場の解放完了‼︎すぐに回収班を‼︎」

 

『こちら回収班。すぐに向かう。師団長に頼んで飯と風呂も用意しておいたぞ』

 

「そりゃ住民が喜ぶな」

 

住民を大鳥や44式に乗せて、次々と送っていく。しかし途中でブルーオーガとレッドオーガが襲って来る。

 

「ブルーオーガにレッドオーガだぁぁぁ‼︎」

 

ブルーオーガが攻撃しようとした瞬間、数十機の無人機が現れ機銃掃射とミサイルで撃破する。

 

「ブルー‼︎」

 

民衆の誰かが空を見上げて、そのまま固まる。他の民衆も空を見上げると、この世の物とは思えない光景があった。巨大な鉄の鳥が居たのである。

 

「あれが、ブルーの仇か‼︎」

 

しかし次の動きをする前に、紫色の光に貫かれて倒れる。アーセナルバじゃなかった、白鵬の機首部分に搭載された戦略レーザーシステム、通称TLSによって貫かれたのである。最早、断末魔の一つも挙げることすら叶わず崩れ落ちる二体。民衆と騎士達は呆気に取られ、目の前の光景に理解が追いつかない。皇国軍は見慣れてる為、何とも思っておらず黙々と誘導していく。

数時間後には本部のある地区へ完全に誘導が完了し、温かい風呂と食事が振る舞われた。現在の自衛隊がそうであるように、皇国軍の食事はどの軍であっても物凄く美味い。調理兵達はそれぞれ伝統の味を先輩から引き継ぎ、それを後輩達に伝授していく。そんな料理が振る舞われた為、民衆達は喜んでがっついていた。一時の平和な時間が流れるが、翌朝それは破られる。マジギレした魔王が単身で広場に現れ、既に貴族アポン率いる騎士200名が文字通りの消し炭となっている。おまけに「エンシェントカイザーゴーレム」とかいう強いゴーレム×40まで繰り出して来ており、トーパ王国軍に絶望が襲いかかる。というのも、ゴーレムは単体であっても大軍が必要であり、ましてその超強化版のゴーレムが40体もあるのだから、絶望もする。しかし、コイツらは違った。

 

 

「戦闘用意‼︎戦車前へ‼︎」

 

第七海兵師団は海軍陸戦隊であるが、旧軍のとある部隊に敬意を評している。旧大日本帝國陸軍第七師団、もっとわかりやすく言うなら北鎮部隊である。アニメ第三期も制作されたゴールデンカムイにも登場する部隊であり、旅順攻略や203高地の戦いにも参戦して勝利を収めた部隊である。そんな凄い部隊に敬意を評するならば撤退(・・)の二文字は存在しない。

 

「APFSDS装填‼︎次弾も同じ‼︎撃て‼︎」

 

20両の戦車から放たれるAPFSDSは、正確にゴーレムの唯一の弱点であるコアを撃ち抜く。続く二射目で全体を破壊。勿論損害はゼロである。

 

「太陽神の使いめ‼︎またしても我を邪魔立てするか‼︎」

 

「艦隊に連絡。支援攻撃を頼め」

 

「ハッ‼︎」

 

第七海兵師団からの要請を受け、艦隊は桜島I型を発射する。その数、実に80。80発のミサイルはGPSによる超精密誘導により、魔王にマッハ10で迫る。そして

 

 

ドゴーーーーーーン

 

 

着弾の後起爆。魔王を文字通り消し飛ばす。断末魔も上がらず、肉体のカケラも残す事なく絶命した。目の前の神話すらも凌駕する戦いぶりに、トーパ王国の兵士達と住民は歓喜の声を挙げる。

今回の魔王軍侵攻で、魔王軍は離散したが、トーパ王国軍も死者3千人と、多大な戦死者を出した。

しかし守りきった。民衆は、フィルアデス大陸に至る前に、魔王の侵攻を防ぎ魔王軍を滅した。恐怖からの開放と、やり遂げた達成感。その日の出来事はトーパ王国の歴史書に大きく大きく掲載されるのであった。

因みに夜には戦勝の宴が催され、皇国軍の活躍はトーパ王国民に大きく報道された。トーパ王国の民の対日感情はとてつもなく良いものになり、トーパ王国は日本にとって極めて友好的な国となった。

 

 

 

大日本皇国、横浜港

「あぁ、了解した」

 

この日、神谷はパーパルディア皇国へ向かう川山の護衛兼武官として出立すると事となっていた。そしてちょうど、作戦成功の報告が出発直前に舞い込んだのである。

 

「どうかしたか?」

 

「トーパ王国に派遣した部隊から魔王を倒したって報告が来た」

 

「よもや先祖達も、魔王と軍が一戦を交える事が現実に起こるとは思わなかったろうな」

 

「多分、知ったらひっくり返るだろ」

 

「ハハハ、かもな」

 

「で、だ」

 

「パーパルディア皇国、だろ?」

 

「そんな無理して行く必要あるのか?」

 

「一応謝罪してもらわんと、国家の体裁が保てんだろ?」

 

「まあ、それもそうか」

 

「尤も、嫌な予感しかしないからな」

 

「あぁ」

 

この時の二人は知る由もない。このパーパルディア皇国こそが、日本を最大限にガチギレさせる国になることを。

 

 

 

 

*1
こっちで言うところ自衛隊法にあたる法律。第七章は交戦規定について書かれている。

第八十六条 明確な敵対行動を取る武装集団については、統合軍兵士の個々の判断において、必要最低限の武力を行使できる物とする。

第九十条 尚、全ての状況において天皇、内閣総理大臣、もしくは両名に任ぜられた者に攻撃度合いを指示された場合は、その限りではない。

*2
統合軍諜報局の略称。CIAで言う所の準軍事工作担当官、所謂パラミリ部隊を持つ組織であり爆破、暗殺、拷問、誘拐etcとエグい事をしてる組織。主な任務は屋外での潜伏、統合軍の誘導、暗殺等の秘密作戦である。現在は各列強国に派遣しており、もしもの場合は行動を起こせる。

因みに皇国中央諜報局ICIBというのもあり、こちらは潜入、まあ「ザ・スパイ」な仕事をしている



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第二章フィルアデス大陸大戦争編
第七話アルタラス王国との出会い


大変長らくお待たせしました‼︎前回の投稿から一ヶ月も待たせてしまい、申し訳ありません‼︎最近リアルの仕事が忙しくて死にかけてたり、アズレンのイベントやったり、サイバーパンクやったりと忙しかったんです。許してください。これからは多分、二週間一本に戻ると思います。


日本出発より二週間後、神谷と川山はシウス王国経由でパーパルディア皇国に入った。向かうは文明圏外国担当の外務局、第3外務局*1である。

「にしても、ベネチアみたいな街並みだな」

 

「ボートでもありゃ、完全にベネチアだ」

 

街並みが完全にベネチアであり、二人で雑談しながら外務局に向かう。途中神谷がジョジョの真似をしたりとか、川山がルパンの真似をしたりとまあまあ楽しんでた。

 

 

 

第3外務局庁舎

「こ、これが第3外務局か」

 

神谷がたじろぐのも無理はない。目の前の庁舎は如何にも「我が国の国力凄えだろ?え?え?」みたいに、建物から煽ってるように見える程に曇りなく磨かれてたり、なんか高そうな調度品があったりするのである。

 

「今の世界は大体どこもかしこもこんなだ。中はもっと凄いから、まあ覚悟しとけ」

 

「ウィー」

 

中に入るや否や、大量の書類の山を運ぶ職員が前を通る。誰が見ても忙しいのがわかるが、川山は気にせず受け付けに話しかける。

 

「(忙しそー)」

 

他人事の様に神谷が心の中で呟くが、それを自分にも向ける羽目となる。携帯のバイブが鳴り、取り敢えずトイレの大便器に駆け込む。

 

「俺だ」

 

『長官、先程宇宙軍より連絡が入りました。フェン王国にほど近い、アルタラス王国がパーパルディア皇国軍と思われる武装勢力の攻撃を受け、現在首都が火の海となっているそうです』

 

「了解した。念の為、警戒レベル4に移行せよ」

 

『了解‼︎』

 

「忙しい原因はこれか.......」

 

そう呟き、トイレを出る。外に出ると川山が外務局員と並んで待っていた。

 

「トイレか?」

 

「すまんな。局員さんも待たせて申し訳ない」

 

「いえ。では、行きましょうか」

 

行く途中、川山に小声でアルタラス王国の事を話す。

 

「とすると、今回の交渉で「お膳」は運ばれないかもな」

 

「だな。こっちに攻め込んで来ても何ら可笑しくないし、正直仕事は増えてほしくない」

 

そんな話をしていると、外務局員の足が止まる。

 

「此方です。ここで自己紹介をして下さい」

 

「あ、はい」

 

二人は局員に言われるがまま、自己紹介を始める。

 

「大日本皇国外務省、特別外交官の川山です。こちらは」

 

「大日本皇国統合軍、総司令長官の神谷です」

 

その場の全員が少し驚くが直ぐに真顔になる。

 

「どうぞかけて下さい」

 

最奥の男が声をかけ、二人は席につく。瞬間、二人して思った事を言っておこう。

 

「「((これ、面接じゃね?))」」

 

パーパルディア皇国の面子も自己紹介を始める。どう言う訳か外交担当でも相当権力を持った者たちが、見事なまでに勢揃いである。

陣容は以下の通り。

・第3外務局長

・東部担当部長

・東部島国担当課長

・北東部島国担当係長

・群島担当主任

 

 第3外務局長カイオスが口を開く。

 

「貴方たちが日本国の使者か.......最近貴国は有名ですな。して、今回は何用で皇国に来られたのだ?」

 

「はい、私たちは、不幸な行き違いから衝突してしまいました。よって、その関係修復と国交樹立の可能性の模索に参りました。」

 

東部島国担当課長が急に立ち上がる

 

「なんだと‼︎不幸な行き違いだぁ⁉︎監査軍に攻撃を仕掛けておいて、何事も無かったかのようなその言動、タダで済むと思っているのか‼︎」

 

課長はいつも文明圏外国家の使者に対して行うのと同じ口調で日本人に活を飛ばす。二人は慣れてしまっているので顔色一つ変えず、「あーはいはい、テンプレ通りの返しですね」程度にしか思っていない。

 

「いいえ、先に攻撃してきたのはあなた方です。我々は、降りかかる火の粉を叩いたに過ぎません」

 

「栄えある皇国監査軍を火の粉だとぉ⁉︎」

 

課長の目は血走る。それを局長カイオスが課長を手で制し、座らせる。因みに神谷が笑いそうになった事は内緒である。

 

「なるほど、関係修復ですか」

 

 局長カイオスは考え込む

 

「うむ。私はもとより、このパーパルディア皇国の者は、誰も貴方たち日本の事は良く知らない。まずは貴方たちの国がどういった国なのか、それを教えていただきたい。我々と国交を結ぶに値する国なのか、私は知りたいですな」

 

川山は得意の営業スマイルを浮かべる。

 

「ペーパーしかありませんが、写真付きです。我が国を紹介するためのレジュメです」

 

各人に資料を配布し、面々がその資料を見る。フィルアデス大陸共通語で書かれており、文はしっかりと読める。

 

「は?」

 

東部担当部長が顔を上げる。国土面積は大した事無く、中規模国家程度である。しかし、人口が3億9000万人と、皇国の7千万人よりも多い。

文明圏外国家でもロウリア王国のように、人口だけは多い国もあるので、この人口に対して特別に驚いた訳では無いが、こんなにも人口の多い国がこれほどまでに近くにあったのに、今までの歴史上1度も気がつかなかったのがおかしい。さらに資料を読み進める。

 

「国ごと転移だと!?」

 

ロウリア王国とクワ・トイネ公国との戦争の少し前、中央歴1639年に国ごとこの世界に転移してきたと記載してある。突然の転移であれば、皇国がこれまでの歴史上1度も認知していなかった事実につじつまが合う。しかし、ムーの神話や古の魔帝の未来への国家転移の神話以外に、国ごとの転移など聞いたことが無い。第3外務局からすると、彼らが戯言を言っているようにしか聞こえない。

 

「馬鹿馬鹿しい‼︎そんな国ごと転移などあるわけがない‼︎おまえたちは皇国をからかっているのか?」

 

東部担当課長が声を荒げるが、予想されたことなので腹も立たない。

 

「転移については、我が国でも、原因がまだ解っておりません。全力で調査中ではありますが、正直お手上げというのが現状です。貴方方と同じように、我が国おいても「国ごと転移」なんて事は聞いた事ありません。伝説や物語に出てくるのが関の山です」

 

その後も色々説明して、日本側の説明が一通り終わる。

 

「最後に、特使を一度日本に派遣していただきたいと思います。パーパルディア皇国大使の目で現実の日本を感じていただきたいのです」

 

今回の皇国への配布資料には、敢えて日本の軍事力や、圧倒的な技術格差、車の台数や、首都の圧倒的な写真等は載せていない。差し障りの無い位置情報や人口、特産物等の情報が記載してある。皇国は危険でプライドが高い国と聞いていたので、相手の国を落とすような技術的優位性については、日本から伝えるよりも大使から自国民から伝わった方が効果的との判断による。又、特使さえ送らない国であれば、正常な国家関係が築ける訳も無く、このような判断に至った。東部担当部長が話し始める。

 

「第3文明圏最強の国であり、世界5列強に名を連ねるパーパルディア皇国が、文明圏外の蛮族に使者を送るだと⁉︎少し質の高い軍を持っているようだが、お前たちが戦ったのは旧式兵器を持った軍だ‼︎本軍の装備と規模であれば、こうはいかんぞ⁉︎」

 

局長カイオスは、東部担当部長を睨みつける。

 

「おい、言い過ぎだ。日本との関係は、皇帝陛下の御意思も入っている事を忘れるな」

 

「は、申し訳ありません」

 

東部担当課長は着席する。

 

「ところで、日本の方々よ、我が国には文明圏内に5カ国、文明圏外に67国、大小の差はあるが計72カ国、おっと、最近アルタラス王国が加えられたので、計73カ国の属国があるが、日本は何カ国属国をお持ちか?」

 

「属国ですか。属国は日本国にはありません」

 

「ほほほほほ」

「あはははは」

「ぬふふふふ」

 

 パーパルディア皇国の面子が笑い始める。

 

「こらこら、日本の方々に失礼だぞ。属国が1カ国も持っていないからといって、そんなに笑うものではない。ここは外交交渉の場ぞ」

 

カイオスが皆をたしなめる。

 

「失礼。ところで、皇国から日本への人員派遣については、2ヶ月ほど待っていただけますか?こちらも色々と内部事情がありますので、2ヶ月後にまた第3外務局へ来ていただけますか?」

 

「はい、解りました」

 

「では、2ヵ月後が楽しみですな」

 

こうして、日本のパーパルディア皇国との最初の会談は終了した。連絡員を残し、二人は一度帰国する事にして、来た道をそのまま戻ったのだった。ところがシオス王国から横須賀へ帰る途中、向上から連絡が入った。

 

「今度はどうした?」

 

『例のアルタラス王国王女が我が国に亡命申し出てきました』

 

その言葉に思わず飲んでたコーヒーを吹き出す。

 

「ゲホッゴホッ、つ、つまりアレか?トンデモなく面倒な地獄の片道切符が来たって事か⁉︎」

 

『端的に言えばそうなります』

 

「健太郎は何って言ってる?」

 

『いえ、まだ総理から返答はありません。それより問題なのは、こっちに来た状態ですよ』

 

「どういう事だ?」

 

『王女は船で来たのですか、要らぬオマケが付いていたのです』

 

「なーんか予想つくが説明しろ」

 

『はい』

 

では時をここで、この電話の二時間前に戻そう。

 

 

 

沖の鳥島、沖大東島の中間地点

この日、第一防衛艦隊は演習の為、この海域まで進出し演習を行なっていた。因みに元の世界ではEEZで演習等は出来ないが、転移した事で周辺国が覇権国が多い事から法改正が行われて、旧来のEEZも一領海としている。

 

「演習の成果はどうだ?」

 

司令官が副官に尋ねる。

 

「まあ、概ね可という所でしょう。砲術やミサイルはいいとして、やはり航空機に関しては練度がイマイチです」

 

「まあ、洋上の艦から飛行機を飛ばす事自体が狂気でもある。もっとも、かれこれ一世紀半近くやってる訳だがな」

 

「そうですな」

 

「司令‼︎鷲目より通報です‼︎本艦隊西方、約800km地点に所属不明の帆船を確認。さらにその後方10kmに武装した帆船2隻を確認。恐らく、10km地点の帆船は前の帆船を追っていると思われます‼︎」

 

「わかった。本国に通報しろ。これより本艦隊は演習を中止し、不明船との接触を試みる。取り舵90、最大戦速‼︎僚艦にも伝えい‼︎」

 

「とーりかーじ‼︎」

「最大戦そーく‼︎」

 

「副官、駆逐艦2隻を先行させろ。各艦に海猫の発艦を下令。それから念には念を入れて、対空装備の艦載機も出せ」

 

「駆逐艦には立入検査隊を出すよう命じますか?」

 

「頼む。ただし、先に海猫の警告からだ」

 

「アイ・サー‼︎」

 

この命令より数十分後、先行した駆逐艦2隻が不明船を捕捉。同時に立入検査隊もSH13海鳥に搭乗し、不明船に急行する。先頭の船が所がいつのまにか後方の2隻に追い付かれて、左右から砲撃を加えられていたのである。

 

「おい軍曹、これは俺の見間違いか?」

 

「いえ曹長。どうやら我々は、トンデモなく面倒な事に首を突っ込むようです。砲撃してる船の国籍章、アレ多分パーパルディア皇国ですもん」

 

「こりゃ上層部の奴らが胃潰瘍になるぞ」

 

「神谷大将あたりが危ないですね」

 

「まあ現場の俺達がボヤいたって意味がない。給料分の仕事はするぞ‼︎」

 

「ウィルコ‼︎」

 

軍曹がマイクを手に取り、警告を行う。

 

 

「此方は大日本皇国海軍、第一防衛艦隊である。砲撃中のパーパルディア皇国船舶へ警告する。直ちに砲撃を止め、武装をロックし、こちらの指示に従え。繰り返す、直ちに砲撃を止め、武装をロックし、こちらの指示に従え。抵抗する場合は、武力行使により強制的に停船させる」

 

 

この警告への返答は、海猫への攻撃であった。と言っても弓矢とマスケット銃で撃たれただけである。ところが運悪く海猫のバルカン砲の回転部分に露出している配線にあたり、コードが断線した為機関砲が使えなくなったのである。

 

「機関砲にエラー発生‼︎射撃不能‼︎」

 

「何⁉︎」

 

「矢が配線を傷つけたのでしょう」

 

「俺達は引くぞ‼︎残りの奴らに任せよう」

 

そのまま被弾した機体は高度を取って離脱し、残りの機体が穴埋めを行う。

 

「撃て‼︎」

 

三銃身20mmバルカン砲より、レーザーの如く弾丸が発射される。木造船では20mm弾に耐える事は出来ず、帆等の甲板構造物が破壊されていく。

 

「腕が、俺の腕がぁ‼︎」

「マストが折れるぞ‼︎逃げろ‼︎」

「誰か助けてくれ‼︎足が挟まったんだ‼︎ヤバい、うわァァァァァァ‼︎」

 

マストが倒れてくるわ、甲板は穴だらけになるわ、ついでに腕や足が吹っ飛ぶわで地獄の様相を呈する。更に追い討ちをかけるように、立入検査隊もラペリング降下してくる。

 

「武器を捨てろ‼︎」

 

「蛮族如きにやられるか‼︎」

 

兵士の中には拳銃サイズのマスケットを撃ってくるが、機動甲冑を着ているため効かない。

 

「じゅ、銃が効かない‼︎」

 

「抵抗の意思あり、射殺する」

 

隊員が37式で射殺する。他の隊員も各々の兵器を使って甲板上の抵抗してくる者を殺していく。水兵達は健気にもカトラスや弓、マスケット銃を持って果敢に挑んでくる。だが7.62mm弾クラスですら弾く機動甲冑を前に、そんなのは無意味である。果ては残骸の木材で殴って来たりもするが、呆気なく殺される。十分もしない内に2隻の武装船を制圧し、40人程度の捕虜も取れた。ラッキーな事に、その中には船長も居たのである。一方、攻撃されていた船はと言うと

 

「大日本皇国海軍、立入検査隊である。両手を頭の後ろで組んで、跪け‼︎」

 

「こ、殺さないでくれ‼︎」

 

「抵抗しなければ殺すどころか、危害も加えない。とにかく此方の指示に従ってくれさえすれば、生命の安全を保障し、直ぐに楽な姿勢にもなれる」

 

「わ、わかった」

 

此方は基本的穏やかに進む。身体検査が終われば、命令口調から敬語にもなるし、丁寧に質問する。

 

「では、貴船の航行目的をお尋ねします」

 

「その前に確認させてください。貴方達は本当に、日本という国の軍隊なのですね?」

 

「そうですよ」

 

「では、此方に来てください」

 

そう言うと、艦尾の船室に通される。本棚を押すと本棚が移動し、隠し部屋が出てくる。

 

「こう言う仕掛けって、マジであるんだ」

「だな」

 

隊員らも思わずそう零す。

 

「この部屋に座すはアルタラス王国国王、ターラ14世陛下が娘、アルタラス王国王女、ルミエス殿下で有らせられます」

 

「マジかい」

「嘘だろ」

「こりゃ本国は大騒ぎだ」

 

流石に兵士達も驚きである。そして2隻に追いかけられていたのも、納得できたのである。

 

「お願いです、どうか我が国をお救いください」

 

震えながら頭を深々と下げる王女に一同困惑である。

 

「あ、えーとですね。我々は立入検査隊と言いまして、外交交渉を行う権限は与えられていないのです。暫定処置としまして、我々の所属する艦隊の旗艦にお連れ致しますので、此方の乗り物にお乗りください」

 

そんな訳で海猫で旗艦に連れて行く。因みに初めて見るヘリコプターに、ルミエス達が内心恐怖してたのは言うまでもない。

程なくして旗艦に海猫が着艦する。ドアを開けると、

 

「捧げぇ銃‼︎」

 

礼服を着用した兵士達が整列し、銃を構えていた。

 

「アルタラス王国王女、ルミエス様に敬礼‼︎」

 

一糸乱れず、完璧に揃った動きで栄誉礼を行う。目の前の光景にルミエスは理解が追いつかないが、取り敢えず最大限の敬意が払われたのがわかった為、堂々と真ん中を歩き敬礼をする老齢の男の前まで進む。

 

「ルミエス王女殿下、我々は貴女の来訪を心より歓迎いたします。貴女の来訪の目的を教えて頂く為、会談の場を設けさせていただきました。其方までご案内致します」

 

副官がエスコートして会議室に通す。そして中の艦隊司令と面会し、色々と話し合う事となった。

 

 

 

『と、言う訳でして。あ、今総理から返答が来ました。川山さんを連れてこのまま官邸まで来いとの事です。ルミエス王女についても、空路で直接官邸に向かって貰うそうです。ヘリを手配しますので、お早く』

 

「わかった」

 

「何だって?」

 

「慎太郎、仕事追加だ」

 

「マジで?」

 

「しかも今度のお相手は、パーパルディア皇国に滅ばされたアルタラス王国の王女様だと」

 

「ご入国目的は?」

 

「多分亡命」

 

川山の顔が何かを悟った顔になる。そんな川山を連れて迎えに来たヘリに乗り、一路官邸へ向かう。

 

 

 

首相官邸、会議室

「入るぞ」

 

「来たか」

 

健太郎が二人を出迎える。

 

「一色様、こちらの方々は?」

 

「私の親友達ですよ」

 

「お初にお目にかかります、ルミエス王女殿下。大日本皇国外務省、特別外交官の川山慎太郎です」

 

「大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三です。まあ、軍の総大将だと思って頂ければ大丈夫です」

 

「アルタラス王国王女、ルミエスです。今回は救いの手を差し伸べて頂き、感謝の念に絶えません」

 

カーテシーをして、優雅に礼をするルミエス。綺麗な動作に三人とも見惚れる。

 

「さて、本題に入りましょうか。まず貴女の来訪目的は、第一護衛艦隊からの報告通り、我が国への亡命で宜しいですね?」

 

健太郎が優しく問いかける。

 

「はい。それともう一つ、頼みがあるのです」

 

「頼み、とは?」

 

健太郎も初耳なのか、首を傾げながら聞く。

 

「お願いです‼︎どうか、どうかアルタラスを救ってください‼︎無茶なのは分かっています‼︎例えこの身がどうなろうと、凌辱されようと構いません‼︎ですのでどうか、民をお救いください‼︎」

 

勢いよく頭を下げるルミエス。三人はまさかの発言に固まる。しばしの沈黙が部屋を支配するが、そんな空気を神谷がぶち破る。

 

「殿下、今の発言は我が国としては受け入れられないでしょう。貴女も承知の通り、パーパルディア皇国と事を構えてもメリットはありません」

 

「そこをどうかお願いします‼︎日本はとても強いとお聞きしました‼︎お願いです‼︎」

 

「フフフ、殿下。確かに私は無理と言いましたが、あくまで国が表立って支援できないと言ったのです。個人的、私が個人的にやれば問題はないのですよ」

 

「個人的、ですか?」

 

「浩三、どうするつもりだ?」

 

健太郎が聞く。

 

「俺直属の部隊、義経*2を使えば良いだろ?」

 

「いや待て。ここは俺と健太郎のプランを使おう」

 

川山と一色がドス黒い笑みを浮かべる。

 

「お前ら絶対ロクな事考えてないだろ」

 

「作戦は簡単、相手方に無礼を働いて貰って挑発、煽りに煽って彼方から攻めて貰う。後は、な?」

 

一色の説明に考え込む神谷。

 

「しかし、その案は本当にできるのでしょうか?」

 

ルミエスが疑問を呈す。

 

「実を言うと、これは第二のプランです。私の個人的な予測では、パーパルディアは言ってしまえば見栄と欲の塊ですから、そんな国が格下の第三文明権外国に三回も負かされたのなら、そろそろ何かしらのアクションはあると思います。例えば「懲罰だ」とか何とか言っての襲撃ですね」

 

外交官としての経験からの行動を予測する川山。今度はそれに神谷が付け加える。

 

「それに奴さんの兵器は、確かワイバーンの強化種と戦列艦。上陸して陸上戦を展開しても、骨董品のマスケットとカトラスや弓、後は地竜とか言う火しか吐けない鈍重な化け物。対して此方は、熱田型初め、戦列艦如きにはオーバーキルな兵器を搭載した艦艇に、これまたオーバーキルな航空機や戦車を多数保有してます。ど素人が指揮しても勝てますとも」

 

軍事的な視点からの次、つまり最後に一色から政治家としての意見を述べる。

 

「それに襲撃してくれるなら、こちらは宣戦布告として受け取れますから大手を振って戦争を仕掛けられる。その過程の中でアルタラス王国を始め、他の属国も開放できるでしょう。それに「襲撃された」という理由がある以上、うるさい老害共や共産連中もマトモな反撃ができない。結論、こちらとしては襲撃が遭った方が貴女を助けられる訳ですよ。あ、助けた見返りは特産品の免税特権とかでお願いしますよ?この場の三人とも、貴女の体をどうこうする気もありませんし、そもそもこの国にそんな野蛮人は、多分居ません」

 

「本当に、助けてくださるんですか?」

 

「勿論です」

 

一色の言葉に、涙を流して歓喜するルミエス。その光景を見て三人は誓った。「パーパルディア皇国には制裁を加えてやる」と。

 

 

 

 

 

 

 

*1
第3外務局とは皇国にある3つ目の外務局である。フェン王国を襲って第一揚陸艦隊により返り討ちに会った、国家監察軍を有する。因みに第1外務局は列強国、第2外務局は文明圏内国を担当している。

*2
神谷直属の特殊部隊。その存在は非公式であり、高度に政治的な問題に介入できる。命令とあらば爆破、殺人、暗殺、誘拐、襲撃と何でもやる激ヤバ部隊。



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第八話双つの皇国

パーパルディア皇国から帰還して一ヶ月、またもパーパルディア皇国に出向く事になった神谷&川山コンビ。今度は第3外務局ではなく、皇宮への出頭をパーパルディア皇国より命令された(・・・・・・・・・・・・・・・・)のである。

 

「にしてもまぁ、まさか命令書で召喚させられるなんてな。因みにコレって、外交じゃ常識なわけ?」

 

「んなわけないだろ。植民地とか傀儡国とか、そこの外交官とか大使がテロとかに加担してたとかなら分からんでもないが、少なくとも国交すら結んでない国に命令書って形じゃ来ない」

 

「つまり?」

 

「どうやらパーパルディア皇国さんは、コッチを遥かに格下として見てる」

 

「「ハァー」」

 

二人してため息をつく。まあ面倒な国なので、この後の展開がトンデモなく面倒くさい事になるのがわかりきっているからである。

 

「なあ浩三、フェン王国の方はどうなった?」

 

「安保条約結んで無いからな。軍の派遣はあっちの要請待ちだ」

 

「被害は?」

 

「ニシノミヤコが陥落、その後は安定の略奪、強姦、誘拐&奴隷化だな」

 

「そうか。まあ要請来るまでは、直接関係はないか」

 

「ところが、だ。ニシノミヤコには戦闘当時に日本人約200人がいたんだが、それが皆行方不明になった」

 

「あー、ニュースでやってたな」

 

「そんでもって、これは公表されてない情報なんだがICIBの諜報員の情報によると、行方不明になった日本人はそっくりそのまま誘拐されてどっかに連れてかれたらしい」

 

「何故だろう、それを聞いた瞬間に嫌な予感がしたんだが」

 

川山の表情が一気に暗くなる。

 

「あー、奇遇だな?俺も自分で言ってて、変な胸騒ぎがしてる」

 

神谷も何か嫌な予感がして、同じく暗くなる。この予感は一番最悪な形でこの後、しっかり的中する事になる。

 

 

 

皇宮

「な、なんか、第3外務局より圧が凄い」

 

「まあ、皇宮だからな。後、多分皇族が出てくるから、覚悟しておけ」

 

神谷が建物に驚いているが、川山は見慣れており普通にしている。そんな訳で案内されながら、目的の部屋を目指す。やはり皇宮とだけあって、見るからに高そうな絵画やら彫刻やらが至る所に並んでいる。

川山はヨーロッパ好きというのもあって芸術に理解があるが、神谷は芸術に関しては何も分からない。正直ピカソとかの絵を見ても「子供の落書きと何が違うの?」程度の感想しか思わないが、まあパターン的に高い事は分かる。「売ったら幾らになるんかなぁ?」という無礼な事を考えながら、案内人についていく。数分後、目的の部屋について中に通される。

 

「どうぞお座りください」

 

対面には、豪勢な椅子に腰掛けた20代後半くらいの美しい銀髪の女性が座っていた。細い体型をしており、頭には金の環をかぶっている。彼女の鋭い眼光によって睨みつけられた川山は一瞬硬直する。逆に神谷は流石軍人であり、睨み返し堂々とする。二人は皇国の使者から促され、椅子に着席する。それと同時に記録用の小型カメラを回す。美しい女性は話し始める。

 

「パーパルディア皇国、第1外務局のレミールだ。おまえたち日本にたいしての外交担当だと思って良い」

 

「大日本皇国外務省、特別外交官の川山です。こちらは」

 

「大日本皇国統合軍総司令長官、神谷です」

 

(この態度、皇族の人間だな。しかも結構な地雷抱えてそうだ)

 

川山の人間観察によって、一気に見抜かれる。このレミールは本当に皇族であり、地雷、いや戦術核兵器レベルの爆弾をかかえているのである。

 

「今日はお前たちに面白いものを見せようと思ってな。これは皇帝陛下のご意思でもある」

 

高圧的な声でレミールは話す。

 

「それはそれは、いったい何を見せていただけるのでしょうか?」

 

レミールは使いの者に目配せをする。ドアが開き、1m四方の立方体の水晶のようなものが現れる。

 

「これは、魔導通信を進化させたものだ。この映像付き魔導通信を実用化しているのは、神聖ミリシアル帝国と我が国くらいのものだ」

 

「は、はぁ」

 

川山は間の抜けた声を出す。神谷はと言うと、こう考えていた。

 

(デカイテレビ電話のようなものか?いったい何が始まるのやら。もし国力誇示なら、間に合ってるんですけど)

 

「これを起動する前に、お前たちにチャンスをやろう」

 

日本人からすると、少し質の悪い紙が配布される。フィルアデス大陸の共通言語で書かれたその紙には、戦争まっしぐら待った無し(・・・・・・・・・・・・)のヤバすぎる内容が大量に書かれていた。以下はその内容である。

 

 

・大日本皇国の王族は即刻断絶し、新たにパーパルディア皇国の皇族を王位に着かせる事とする。

・大日本皇国の法を皇国が監査し、皇国が必要に応じ改正できるものとする。

・大日本皇国軍は皇国の求めに応じ、必要数を指定箇所に投入できることとすること。

・大日本皇国は皇国の求めに応じ、毎年指定数の奴隷を差し出すこと。

・大日本皇国は今後外交において、皇国の許可無くして新たな国と国交を結ぶことを禁ず。

・大日本皇国は現在把握している資源の全てを皇国に開示し、皇国の求めに応じてその資源を差し出すこと。

大日本皇国は現在知りえている、魔法技術のすべてを皇国に開示すること。

・パーパルディア皇国の民はルディアス皇帝陛下の名において、大日本皇国の生殺与奪権利を有する事とする。

・大日本皇国はその国名を名乗る事を、この書面以降、如何なる場合に於いても永久に禁じ、こちらの指定した国名のみを名乗る事とする。

 

 

見ての通り、トンデモ無い事が書かれている。書面を見た二人も初っ端から「天皇家ぶっ殺します」と書かれている時点で、読む気失せて数秒で突き返す。

 

「何ですか⁉︎これは‼︎ふざけているのですか⁉︎」

 

属国以下の扱い、もしかすると植民地以下かもしれない内容に勿論川山はブチギレである。

 

「皇国の国力を知らぬ者が行う愚かな抗議だな。おまえたちの国は比較的皇国の近くにあるにも関わらず、皇国の事を知らなさ過ぎる。当初いきがっていた蛮族も、普通なら皇都に来れば意見が変わる。態度も条件も軟化する。しかし、お前達はこともあろうに、当初から治外法権を認めないだの、通常の文明圏国家ですら行わないような、そう、まるで列強のような要求だ。お前たちは皇国の国力を認識できていない。もしくは外交の意見が実質的に本国に通っていない。通っていても、それを認識する能力が無い。」

 

ドンドン怒りという名の炎に、ガソリンを注ぎ続けるレミール。話は更に続く。

 

「お前たちは皇国監査軍を押し返した。しかし部内的な問題だが、当時の監査軍の長は精神が病んでいたにすぎない。現に死者、人的被害は我が方には1人もいないのだ。これはつまり、監査軍におまえたちが勝ったのではない。我が国の部内的な問題だ」

 

一時の沈黙が流れる。というか交渉が予想を遥かに超えて最悪の状況すぎて、二人とも困惑しまくってるだけである。

 

「では問おう。日本の外交担当者よ。その命令書に従うのか、それとも国滅びるのか」

 

「我々は、国交を開くために来た外交担当者です。この内容は、とても日本国政府が呑むとは思えませんが、本国に報告し対応を検討いたします」

 

「いや最早これは、本国に報告するまでもないだろ。第一、たかが帆船と種子島だけでイキがってる超弱小国だ。そんな国の要求を呑むほど、ウチの国は暇じゃない」

 

「ちょ、浩三」

 

神谷が挑発の態度で言い放つ。

 

「貴様、今何と言った⁉︎」

 

「だーかーらー、俺たちの祖国はアンタら超弱小国(・・・・)と遊んでる暇は無いって言ってんだ」

 

「ふざけるな‼︎皇国が超弱小国だと⁉︎」

 

「うるせぇんじゃボケが。黙ってろや雌猿。その口、縫い合わせて喋れんくしたろか?」

 

完全にブチギレて、外交の場で喧嘩を始める神谷。川山はこうなった神谷を止められないのを知っている為、もう頭抱えてこれ以上事態が悪化しないよう祈るしかない。

 

「やはり蛮族には教育が必要なようだな。皇帝陛下のおっしゃるとおりだ」

 

レミールは続ける。

 

「哀れな蛮族よ。お前たちは皇帝陛下に目を付けられた。しかし、陛下は寛大なお方だ。お前たちが更生の余地があるのか知らぬが、教育の機会を与えてくださった」

 

((ヤバい予感しかしない‼︎))

 

「見るがいい、蛮族ども‼︎」

 

レミールが指を鳴らす。その瞬間、眼前の水晶体に質の悪い映像が映し出される。その映像とは、老若男女の区別無く首に縄を付けられた200名の人間であった。しかも服装が、この世界の物とは違う。つまり日本人である。

 

「なんで日本人がここに居る⁉︎」

 

川山は怒鳴り散らす。一方神谷はと言うと、さっきまでの怒りは収まり、冷静に状況を分析し始める。

 

「大方、ニシノミヤコに居た奴らだろう。てっきり戦いに巻き込まれて死んだのかと思っていたが、まさかこんな形で再会するとは」

 

「ほう。蛮族にも考える力があったのか。さっき暴言を吐いていた男の言う通り、フェンのニシノミヤコを攻めた時にスパイ容疑で拘束した者達だ」

 

「即時解放を要求する‼︎」

 

川山がまた怒鳴る。

 

「要求する?蛮族が皇国に要求するだと!?立場をわきまえぬ愚か者め」

 

レミールは通信用魔法具を取り出す。

 

「処刑しろ」

 

「なっ⁉︎」

 

「嘘だろ⁉︎」

 

2m近くある大男が、巨大な鉈を振り下ろす。

 

ズシャッ‼︎

 

一人目の首が刈り取られ、鮮血の雨が降る。

 

『あなたぁぁぁぁ‼︎いやぁぁぁぁぁぁ』

 

ズシャッ‼︎

 

『おかあさぁぁぁぁん‼︎うわぁぁぁぁ‼︎え!嫌だ‼︎やめてぇぇぇぇ‼︎助け』

ズシャ!!!

 

老若男女、関係なく首を刈り取られて殺される。しかも200人近い日本人、全員が同じ手法で殺される。響き渡る悲鳴と滴り落ちる紅い鮮血。

 

「お前たちは、自分が何をしているのか解っているのか‼︎」

 

川山は完全に我を忘れて怒鳴り続ける。神谷は唯ひたすらに、映像を見続ける。

 

「お前たちだと?蛮族風情が皇国に向かってお前たちだと⁉︎」

 

「おい浩三‼︎もう帰るぞ‼︎」

 

「待て‼︎」

 

大声で川山を呼び止める。

 

「慎太郎、目を背けるな。目に焼き付けて、忘れるな。同胞の最期を、漢ならしっかり見届けろ。帰るのは、その後でも良い」

 

その堂々たる佇まいに、川山もレミールもレミールの従者も息を呑む。その後十数分に渡り処刑映像を見続け、最後の一人となった。

 

『お前が最後だ。この状況は映像と音声付きでお前達の祖国の外交官が見ている。何か最後に言う事はあるか?』

 

大男が最後の一人に問いかける。最後の一人となった青年は、先に殺された他の日本人を見て、大声で話す。

 

『なあ、この映像を見てる外交官さんよ。もし日本に帰れたら、三英傑*1と天皇陛下に伝えてくれ。「俺達の仇をとってくれ」と。それからな、パーパルディアの人間に言っておくぞ。俺達の祖国を怒らせたら、三英傑の一人、神谷大将が黙って無いぞ‼︎きっとパーパルディアなんて野蛮な国を消す為、動いてくれるんだ‼︎大日本皇国、天皇陛下万歳‼︎』

 

この言葉を聞いた瞬間、レミールから通信装置を強奪してスイッチを入れる。

 

「オイゴラ処刑人‼︎俺の声をソイツに聞かせろや‼︎」

 

『誰だ貴様?レミール様でも、その付き人でも無いな』

 

「今お前の目の前の男が言った三英傑が一人、神谷浩三大将だ」

 

『お前にだ』

 

そう言って通信装置を処刑されそうな青年の耳に当てる。

 

「聞こえるか。青年、お前の願いはしっかり、この神谷浩三と川山慎太郎に届いているぞ。健太郎も陛下もこの事を知れば、すぐに報復に動き出す。仇は取ってやる。お前達を助けられなかった事を許してくれとは言わないが、あの世でも達者でな」

 

『はい.......』

 

瞬間、鉈は振り下ろされて首が飛ぶ。ここに日本人208名は、パーパルディア皇国によって処刑された。

 

「蛮族らしい最期だが、良い余興にはなった。礼を言うぞ」

 

「おい、レミールさんよ。俺達二人は全権大使でもないが、今回の事は初めから終わりまで、映像と音声で記録されている。これを本国に持ち帰り国民に公表すれば、必ず3億9000万の日本人全てが猛烈に怒る。

2716年前の建国以来、数多の災難に見舞われつつも悉くを乗り越えた日の本の民の力を見せてやろう。お前達の所業はかつて国力が100倍も離れていた大国に国土を焼き尽くされるも、その大国の首都をも占領した闘争の血を、110年ぶりに深き眠りより解き放つ事になる。覚悟しておけ」

 

この言葉を最後に二人は部屋から退室し、その足で日本まで帰還した。道中で映像を健太郎にも見せ、緊急で御前会議を開いて貰うよう頼む。すぐに宮内省にも連絡が行き、宮内大臣が天皇陛下に話すと「直ちに開きなさい」と鶴の一声が掛かり、二人の帰国と同時に御前会議が開かれる事となった。

 

 

 

三日後、皇居

「天皇陛下、御出座〜‼︎」

 

従者の野太い声が響き、参加者全員が立ち上がり最敬礼をする。

 

「本日の参集の目的は、皆も周知の事と思う。川山特別外交官、一連の報告をなさい」

 

陛下の命令に軽く緊張しながら立ち上がる川山。神谷と一色は「緊張のしすぎでやらかすなよ」と、違う意味で緊張していた。

 

「はい。三日前、私と神谷大将がパーパルディア皇国の出頭命令に応じ、皇宮に向かいました。そこで皇族のレミールという人物より、要求書を渡されました。資料にも記載しておりますが、読み上げさせて頂きます。

一つ、大日本皇国の王族は即刻断絶し、新たにパーパルディア皇国の皇族を王位に着かせる事とする。

一つ、大日本皇国の法を皇国が監査し、皇国が必要に応じ改正できるものとする。

一つ、大日本皇国軍は皇国の求めに応じ、必要数を指定箇所に投入できることとすること。

一つ、大日本皇国は皇国の求めに応じ、毎年指定数の奴隷を差し出すこと。

一つ、大日本皇国は今後外交において、皇国の許可無くして新たな国と国交を結ぶことを禁ず。

一つ、大日本皇国は現在把握している資源の全てを皇国に開示し、皇国の求めに応じてその資源を差し出すこと。

一つ、大日本皇国は現在知りえている、魔法技術のすべてを皇国に開示すること。

一つ、パーパルディア皇国の民は皇帝陛下の名において、大日本皇国の生殺与奪権利を有する事とする。

一つ、大日本皇国はその国名を名乗る事を、この書面以降、如何なる場合に於いても永久に禁じ、こちらの指定した国名のみを名乗る事とする。

以上の9項目が要求で御座います。

勿論即刻抗議をしましたが、彼の国は我々の予想を遥かに超えた蛮行に出ました。こちらは記録映像をご覧いただきますが、先に断らせて頂きます。とてもショッキングな映像ですので、心臓などに自信が無い方は見ない事をお勧め致します。では、流します」

 

そう言うと、陛下の従者に合図を送り例の処刑映像を流す。その凄惨たる映像に、全員が戦慄し怒りが沸き立っていた。

 

「以上が事の顛末です」

 

「わかりました。一色総理、政府としてはどの様に対応するつもりですか?」

 

「はい。戦争に着いては後に考えるとして、今はフェン王国に居る日本人救助の為に皇国軍を派遣する事を考えております。しかし彼の国の性格上これを行えば、ほぼ確実に戦争状態に突入するでしょう」

 

「わかりました。神谷大将、率直に聞きます。戦闘が起きたとして、勝てますか?」

 

神谷はフッと笑って堂々と答える。

 

「勿論勝てます。彼の国の装備は地球では1800年代程度の装備しかなく、具体的に言いますと火縄銃と海賊船で我が国と戦おうとしているのです。こう言っては何ですが、負けろと言う方が遥かに難しい程です」 

 

「そうですか。各閣僚の皆は、何か意見はありますか?」

 

誰一人として手を上げない。

 

「では一色総理に命じます。朕の名の下に、皇国軍を出撃させフェン王国のパーパルディア皇国兵を討ち倒しなさい‼︎」

 

「ハッ‼︎」

 

天皇陛下の名の下に皇国軍の出動が決定され、各閣僚達が動き出す。そして一色も国民に対する一手として明日、記者会見を開く事を決め準備を進めていた。

 

 

 

翌日、首相官邸記者会見室

「間もなく首相の記者会見が開かれます」

 

アナウンスが鳴り、記者達もカメラのチェックを始める。記者達含め、国民の殆どはパーパルディアの蛮行は知らず、一体何の会見なのか分からなかった。程なくして一色が入室し、記者達はカメラのフラッシュを焚く。

 

「国民の皆様、おはようございます。総理の一色健太郎です。優雅な朝を迎えているかと思われますが、今回の記者会見はその朝をブチ壊す発表をする事となります為、予め謝罪させて頂きます」

 

そう言って深々と頭を下げる。記者達、そしてテレビの前の国民達はいよいよ持って何が何だか分からず、次の動きを見守る。

 

「今回皆様にご報告させて頂きますのは、パーパルディア皇国という列強国との外交の場で起きた蛮行についてです。今回はその外交の場の記録映像を無修正(・・・)でお伝え致します。その為、今生中継をしているテレビ各社に命令させて頂きます。今すぐに「とてもショッキングな映像が流れますので心臓等が弱い方、小さなお子さんがいる場合などは、視聴しないでください」という字幕を映像が終わるまで流し続けてください。こちらで確認が取れ次第、映像を流します」

 

一体何が何だか分からないが、取り敢えず指示に従うテレビ各社。数分後、字幕が流れ続けてるのを確認した為、例の映像を流す。30分程度の映像だが、虐殺シーン等で悲鳴が此方彼方で響いたのは言うまでも無い。

 

「見ての通り、パーパルディア皇国は我が国の民を何の罪もないのに非道なやり方で処刑しました。現在フェン王国ではパーパルディア皇国の侵略が進んでおり、首都アマノキの日本人は3000人を越えています。皆様もお分かりでしょう。このまま侵略が進むと、また同じ事が必ず起きます‼︎我が国は彼の国の蛮行に目は瞑りません‼︎

その為、日本政府は天皇陛下の名の下に皇国軍のフェン王国への派遣を決定致しました。我々政府は、今後も外交努力を続けますが通用するか分かりません。いえ、敢えてはっきり申し上げます。通用しないでしょう。たとえ最悪の結果となっても、我々は国民の皆様の日常生活を護り抜きます。ですのでどうか、皆様の力を貸してください‼︎」

 

そう言うと壇上から飛び降り、土下座をする。

 

「どうか皆様の御力を貸してください‼︎お願いします‼︎」

 

かつてここまでした指導者はいない。この行動に国民感情は「打倒パーパルディア皇国。蛮族国家には正義と怒りの鉄槌を」で固まった。

この行動は国交を結んだ全国家にも中継され、一色の土下座も「漢・一色健太郎」として有名になった。

 

 

 

 

*1
神谷、川山、一色の三人の事。其々がその道のプロフェッショナル達であり、今の日本を支えている三人であることから国民の誰かが名付けた渾名である。



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第九話大日本皇国の解答

アズールレーンの北方イベ、ベラルーシアだけが出て来ない(´・ω・`)


一色の会見の翌日、世界のニュースでも大々的に取り上げられたことにより、世界各国にも日本が戦争をする事が広まった。殆どの国では「パーパルディアの圧勝に決まってんだろjk HAHAHA」となっていたが、第三文明圏外の国々は日本の勝利を確信していて、お祭り騒ぎとなった。

そんな中、列強二位のムーではどっちの国に観戦武官を送るかの会議が開かれていた。ムーは大体の戦争の勝てる側に観戦武官を送り込むのが通例であり、今回の様な一大事な戦争には必ず送る。ただ、どっちに送ろうかで悩んでいるのである。要請すればどちらもOKが出るとは言え、負ける側に送る訳にも行かない。会議では何も知らない連中、日本をそこらの国と一緒と考えている派閥と、日本の隠された真の力があると主張する派閥、例えばマイラスを筆頭とした日本に来た人間とか、ムー大使の部下が会議で大戦争をしていた。

 

「パーパルディア皇国が勝つのは目に見えている。考えてもみたまえ、文明圏外国が文明圏の国に勝てる訳なかろう」

 

古臭い考えを持ってそうな太った将校が発言し、その取り巻き連中がウンウン頷く。

 

「いえ、それは間違いです。確かに他の国であれば、その理論で問題ありません。しかし大日本皇国という国は、我が国の最新鋭戦艦であるラ・カサミ級を遥かに超える、超大型艦を多数保有しています。音速を超えて飛ぶ飛行機を実戦投入し、戦車と呼ばれる装甲を張り巡らせた車体に大砲を乗せた、我が国には無い兵器も保有しております。更にこれらは全て魔法技術ではなく科学技術であり、我が国の今後に活かせるかと思います」

 

「しかし証拠が無いではないか‼︎」

 

他の軍人も食ってかかる。しかしここで、日本に行った外交官から一冊の本を渡される。

 

「皆さん、これを見てください」

 

それは「皇国軍の兵器大全集〜海軍編〜」と書かれた本であり、中身はフルカラーの写真が貼られており、その横に詳細なスペックが書かれていた。

 

「こ、これは⁉︎」

「なんだこの化け物の様な船は」

「これに比べれば、ラ・カサミなんて赤子だ」

 

現実離れした写真に、さっきまで反対していた軍人や政治家も一気に日本派遣に賛成し始めた。タイミングよく議長が多数決を取り、満場一致で日本に派遣される事となった。

因みに派遣されるのは、日本の軍司令と友達であり技術士官のマイラス、戦術士官のラッサン、その他外交部からも数名が派遣される事となった。出発は翌日であり、全員が大急ぎで準備を整えて日本への空の旅が始まった。

 

これより三日後、神谷&川山が賠償の交渉のためパーパルディア皇国に向かった。言うまでもないが、「賠償の交渉」というのは建前であり、真の目的はパーパルディア皇国を戦争の道へ引きずり込む事である。とは言っても、別にどっかのハルノートみたく(日本基準で)無理難題は吹っ掛けない。内容としては至極真っ当であるが「まあプライドの塊なら、まず通らんよなぁ」というのを一色と川山が作り、最後のチャンスとして軍事力の片鱗を見せる用意までしているのである。

 

「なあ、浩三?」

 

「何だ?」

 

「俺達、殺されないよな?」

 

「無策で行く程、俺は馬鹿じゃない」

 

そう言って、手を叩く。すると周りに黒い戦闘服を着た、如何にも特殊部隊という出立ちの兵士4人が立っていた。

 

「おい、まさか」

 

「そう、義経の隊員達だ。今回は秘密裏に同行して貰っているし、なんなら皇宮の上空には白鯨だって配備してある。なんかあっても、余裕で逃亡できる」

 

「が、ガチ装備だな」

 

「欲を言えば主力艦隊とかも連れてきたかったが、流石にコスパがな」

 

(いや、白鯨とかいう空中空母持ってきてる時点で、十分コスパ悪いぞ)

 

そんなツッコミはさておき、二人はパーパルディア皇国を目指す。

 

 

五日後 パーパルディア皇国 首都エストシラント、皇宮パラディス城

第三文明圏の各地から集められた収奪された富で栄える皇都、その国力の象徴ともいえる皇宮に主として住まう男。皇帝ルディアス・フォン・エストシラント。

彼は現在、執務を一時休憩して私室で寛いでいるところである。その彼の前には、美しい銀髪の女性が1人。申すまでもなく、レミールその人である。ルディアスはレミールと雑談をしているところだった。

 

「レミールよ。この世界のあり方について、そしてこのパーパルディア皇国について、お前はどう思う?」

 

雑談中のルディアスからの質問である。

 

「はい陛下。多くの国々がひしめき合う中、我が国パーパルディア皇国は、第三文明圏の頂点に立ち、また世界5列強にも名を連ねています。

多数の属領を統治する方法として、我が国は恐怖を利用していますが、これは非常に有効であると思います」

 

レミールの答えに、ルディアスは満足そうに頷く。

 

「うむ、その通りだ。恐怖による支配こそが、国力増強のためには必要だ。

神聖ミリシアル帝国やムー国は、近隣の国々と融和政策を取っている。そんな軟弱な国よりも我が国が下に見られているということ自体が、我慢ならん。

我が国は第三文明圏を武力で統一し、大国、いや、超大国として君臨する。そしていずれは第一文明圏、第二文明圏をも支配し、パーパルディア皇国による世界統一を行って、全世界から争いをなくす。それによってもたらされる真の平和こそ、世界の国々の人のためになるのだ。そうは思わぬか?」

 

レミールは、感動に身体が震えるのを感じた。陛下はなんと、器の大きい男なのだろうかと。

 

「へ、陛下がそれほどまでに世界の民のことをお考えだとは.......レミール感激でございます」

 

さて、色々突っ込んでいきますよ。

まず「恐怖を利用した統治」うん、馬鹿である。確かに一見すると問題無さそうだが、その恐怖の象徴が崩れると根底から瓦解する。つまり恐怖の象徴である軍事力が崩れた時、要はパーパルディア皇国軍が負けまくったりすると、属領に反旗が翻る。そりゃあ占領されて搾取されまくって、そこに住む住人は「搾るだけ搾ったら用済み」と言わんばかりに奴隷とかにされるのだから当然の事である。

次に軍事力、これについてもアホである。海賊船如きで前弩級戦艦と言えど、戦艦である三笠に勝てるか?勝てる訳ない。更には列強二位と一位の二ヶ国は、どちらも航空機を実戦投入しており空戦においても勝てない。陸においても、マスケットとボルトアクション式ライフルなんて比べるのも無駄である。

そんなツッコミはつゆ知らず、ルディアスは話し続ける。

 

「そのためには、多くの血も流れるだろう。だが、それは大事を成し遂げるための小事であり、やむを得ない犠牲だ。そして、皇国の障害となる者たちは、排除していかなければならない」

 

「はい!」

 

ルディアスの言葉に、レミールは勢いよく頷く。我々からしてみれば、野蛮もいいとこの考え方であるが。

 

「そういえばレミール、フェン王国と彼の国についてはどうなっている? そなたの口から聞かせてくれ」

 

「はい。皇軍はフェン王国の西部の都市、ニシノミヤコを制圧しました。その時に、彼の国の民を200人ほど捕らえ、彼の国との会談に役立てました」

 

ルディアスが疑問を呈する。

 

「役立てた、とは?」

 

「我が国の要求を伝えたところ、彼の国の外交担当者は曖昧な返事をしました。そこで、捕らえた民を殺処分し、その様子を映像付き魔導通信で中継して、外交担当者に見せました」

 

レミールの報告を聞いて、皇帝ルディアスは顔に薄ら笑いを浮かべる。

 

「ほう、それはそれは。相手はさぞかし慌てただろう。私の言った通り、教育の機会を与えたのだな。して、外交担当者の反応は?」

 

「蛮族らしく、大声を上げていました。あ、そうそう。担当者は二人居たのですが、外交官の方は蛮族どころかむしろ猿の様に喚いていましたが、もう一人の担当者は面白い反応をしていました」

 

「面白い反応とは?」

 

「死に行く様を前に外交官が帰ろうとすると、もう一人が止めたのです。同胞達の最期を見届けろ、と言って」

 

「それは愉快な話だ。我は蛮族と言えど、等しく滅びを回避する機会を与えなければいけないと思っている。それでも気付かぬ愚か者たちであれば、滅してしまえばよい。そう考えていたが、その様な者は是非我が配下に加えたい。もし会う事が有れば連れてまいれ。断れば、殺せ」

 

「承知しました。陛下、彼の国とはフェン王国の首都アマノキを陥落させ、現地にいる民を捕らえた後に再度会談を行う予定です。そこで、皇国からの要求を拒否するようであれば、捕らえた民を再度殺処分し、その後本格的に殲滅戦を実施するか否か、陛下のご判断を仰ぎたいと思います」

 

「うむ、分かった」

 

ルディアスがそう言った時だった。レミールの左腕に装着されているブレスレットが、音とともに淡い緑色の光を放った。どこからか魔信が入っている。レミールは怪訝な顔をする。

 

(誰だ一体‼︎今日は、この後特に外国の使節と会うような予定はなかったはず。私と陛下の時間を邪魔するとは.......)

 

レミールは、ルディアスの顔に目を移した。

 

「その魔信は公務だろう? 今は、公式の場ではない。私的に話をしていただけだ。そこの魔信を使って良いぞ」

 

「ありがとうございます」

 

レミールはルディアスに一礼すると、魔信に出た。

 

「レミールだ。何事だ?」

 

『第1外務局長のエルトです。大日本皇国の使者が、急遽話をしたいと申し出てきたのですが、如何致しましょうか?』

 

「わかった。すぐに行くから、待たせておけ」

 

レミールは魔信を切り、ルディアスに向き直る。

 

「陛下、ちょうど話題に上がっていた彼の国が、急遽会談をしたいと申し出てきました。教育の成果が出て、陛下の御慈悲に応えるのかもしれません。行って参ります」

 

「うむ。蛮族とはいえ、国の存亡が懸かっては必死なのだろう。アポなしの会談については、許してやれ」

 

レミールは再度ルディアスに一礼し、部屋を出ていこうとする。が、途中ではっとした表情で振り返った。

 

「陛下、今日は他にご予定がございますか?」

 

「いや、大きなものは特にないぞ」

 

「それでは、会談終了後に戻って参ってもよろしいでしょうか?」

 

「良いぞ」

 

レミールは満面の笑みを浮かべると、今度こそルディアスの私室を出ていった。

 

 

 

5分後、2人は第1外務局窓口から場所を移し、以前と同じ応接室でレミールと対面していた。もちろん、録画することを忘れていない。ゲスな笑みを浮かべながら、レミールは話し始める。

 

「急な来訪だな。まあ、国の存続がかかっているのだから、気持ちは分かるがな。皇国は寛大だ。アポなしではあるが、国の存亡がかかった者たちだ。今回は許して遣わそう」

 

(やっぱり上から目線か。コイツを提出した時のあの女の顔が見物だ)

 

レミールの話を聞きながら、川山は持ってきた国書を入れた鞄を握る。

 

「して、前回皇国が提示した条件について、検討結果を聞かせてもらおうか」

 

川山がゆっくりと話し始める。

 

「今からお伝えすることは、我が大日本皇国政府の正式な決定事項であり、大日本皇国の王にして、この世で唯一の皇帝(エンペラー)、天皇陛下の意志です」

 

「ほう、やっと皇国の力を理解したのか」

 

(譲歩を引き出そうと交渉に来たか、小賢しい)

 

レミールが考えていると、

 

「それでは、まずあなた方パーパルディア皇国のために、以下のことを提案いたします。こちらの国書をご覧ください」

 

鞄を開けて国書を取り出し、レミールに手渡した。

レミールは渡された国書を読んで、目を疑った。そこにはこう書かれていたのだ。

 

 

大日本皇国政府は、天皇陛下の名の下にパーパルディア皇国に対し次のことを要求する。

 

一つ、 パーパルディア皇国は、現在フェン王国に展開している軍隊を即時撤収すること。

一つ、パーパルディア皇国は、フェン王国に対し被害を与えたため、フェン王国政府に対して公式に謝罪し、賠償を行うこと。なお、賠償額については、実被害額の5倍の金額を、金に立て替えた上で支払うこととする。

一つ、パーパルディア皇国は大日本皇国人の虐殺に関し、罪を認めて正式に謝罪するとともに賠償金を支払うこと。賠償額については被害者の遺族に対し、被害者1人あたり一兆パル(パルは、パーパルディア皇国における最上位の通貨単位。1パル10円)を金塊に立て替えた上で支払うこととする。

一つ、パーパルディア皇国は我が国に対する数々の無礼に対して公式に謝罪し、一億パルを金に立て替えて支払うこと。

一つ、パーパルディア皇国は今回の大日本皇国人虐殺に関して、大日本皇国の法律に基づいて処罰を行うため、本虐殺事件に関与した全ての人間の身柄、及び重要参考人の身柄を、大日本皇国に引き渡すこと。尚、パーパルディア皇国皇帝、レミール外交担当官もこれに含まれるものとする。

一つ、先日貴国より手交された要求文書については、大日本皇国政府はその要求の一切に応じない。パーパルディア皇国は、これを承知すること。 

一つ、以上の条項全てが守られると確約できない場合、我が国がしかるべき措置を取ることを、留意願いたい。

 

 

予想の遥か斜め上の答えに、レミールは理解が追い付かない。しかしすぐに意識を戻して、怒りを露わにする。

 

「やはり蛮族だな。皇帝陛下の御慈悲が分からぬとは、戦争により自国を滅したいのか?」

 

「ウチの国を滅ぼす?馬鹿言っちゃいけない。ウチの国は貴様の国とは、月とスッポン程の差がある。いや最早、そこらの奴隷と神程の差といっても良いだろう。それに俺は言ったはずだ。

「かつて国力が100倍も離れていた大国に国土を焼き尽くされるも、その大国の首都をも占領した闘争の血を、110年振りに深き眠りより解き放つ事になる。覚悟しておけ」ってな。俺達の国を、舐めてると潰すぞ雌豚が‼︎」

 

威圧やら殺気やらを色々織り交ぜた物を発し、最大限の威嚇を行う。レミールも一気に顔が強張るも、プライドでねじ伏せて平静に戻す。

 

「さてさて、では回答をお聞きしましょうか?」

 

「勿論認めるわけがないだろ‼︎」

 

川山の問いに、堂々と即答するレミール。

 

「だが皇帝陛下は、貴様に興味を示しておられる。軍人、貴様は我が軍門に降れ」

 

「はぁ?下るわきゃねーだろ。アホが」

 

「残念だ。実に、残念だ」

 

そう言うとレミールは指を鳴らす。すると後ろの壁が回転し、5人の剣を持った兵士が現れた。

 

「皇帝陛下のご意志に背いた不届な蛮族である、殺せ」

 

そう命じると一気に襲い掛かってくる兵士達。しかし神谷は川山の前に立ち、振り下ろされる剣の全てを腕で弾く。

 

「腕甲はめてて正解だったな」

 

こうなる事を見越して神谷は、五十口径の弾丸にも耐えられる腕甲を嵌めておいたのである。

 

「こんな熱烈な歓迎してくれたんだからな、此方もお返ししないと」

 

そう言って神谷は手を大きく振り上げて、力一杯振り下ろす。

 

「ガハッ‼︎」

 

突如としてストトという音がなり、同時に兵士の一人が身体中に穴を開け、血を流しながら崩れ落ちる。

 

「な⁉︎」

 

「何が、起きた?」

 

レミールも兵士もこの反応である。

 

「さあ野郎共、コソコソするのは終いだ。哀れな蛮族共を可愛がれ。あ、女は殺すな。コイツには目撃者の役目があるからな」

 

「「「「ハッ‼︎」」」」

 

剣と銃。比べるまでもなく、兵士が行動する前に射殺され一掃される。

 

「さて、レミール。これで我が祖国とアンタの祖国は戦争状態となった。結果なんざ火を見るよりも明らかだが、精々お前が生き残ってるのを祈っておこう。それから宣言させて貰う。我が国は貴国、パーパルディア皇国が存在する事を許さない。この戦争の後、この国の名が存在していいのは歴史書と人々の記憶の中だけだ。あ、それから降伏の際は白旗を掲げてくれ」

 

「タダで返すと思うなよ.......」

 

何かのスイッチを押すと、皇宮中にサイレンが鳴り響く。

 

「これでお前達はここから生きて帰れない。精々命乞いでもするんだな。さっきの言葉も死への道を行く愚か者の戯言として、記憶に留めておこう」

 

「その言葉、そっくりそのまま返しておく。慎太郎、行くぞ」

 

「おう」

 

「閣下、獲物をお持ちしております」

 

そう言うと義経の隊員の一人が、刀、五十口径マシンピストル仕様の金の26式拳銃、皇国剣聖の羽織を渡す。

 

「ありがとう。さあ、行くぞ‼︎」

 

右手に刀を左手に銃を持って、ドアを蹴破り出口に向けて進撃する。勿論、皇国の兵士、それも近衛兵が対応する。遮蔽物からマスケット銃を構えて、一斉射して倒そうとするが、

 

「効かぬわ」

「無駄な事を」

「撃ち返せ‼︎」

「撃て撃て‼︎」

 

機関銃に撃たれて遮蔽物ごとぶち抜かれて、バタバタと倒れていく。

 

「何故だ‼︎何故、俺たちのは効かないんだ‼︎」

 

「なのに向こうはこっちを一撃で倒す魔導を連発してくるぞ‼︎一体あいつらは、なんな、あ、おい‼︎」

 

横で共に戦っていた仲間の様子が変な事に気付いた、名もなき近衛兵。次の瞬間、前に倒れる。それが意味するのは、仲間の死である。

 

「おい‼︎死ぬな‼︎クソ、仇はかなら」

 

最後まで言葉を言う事を許されず、その場に倒れていく近衛兵。他の近衛兵達も同じように、自分が何に殺されたのかを理解する前に倒れていく。

 

「閣下、後300秒で迎えが到着します」

 

「このまま玄関まで押し切るぞ‼︎続け‼︎」

 

さっきまで義経の兵士達は神谷と川山を守るように布陣していたが、今度は神谷が前に出て、その後ろに一名の兵士が付き、残りの三人が川山を守るように布陣する。

 

「突撃‼︎」

 

遮蔽物を12.7mm弾の破壊力と26式の連射力に物を言わせて、強引に突破する。突破したら隠れていた近衛兵達を斬り飛ばし、後続の兵士達が掃討する。

一方その頃、皇宮近くの監視所の兵士は信じられない光景を目撃していた。

 

 

「何だありゃ⁉︎」

 

巨大な「バタバタ」という爆音を響かせて空を飛ぶ、大きな羽ばたかないワイバーンと、その巨大なワイバーンを守るようにして、耳をつんざく様な音を発しながら飛ぶワイバーンである。

 

「防空隊は何をやっているんだ‼︎おいお前、住民の避難誘導を行なうぞ‼︎」

 

「はい‼︎」

 

隊長と思しき兵士が、部下に命じ行動を始める。彼らは知る由も無いのだが、そのワイバーンは神谷達を迎えに行っているCH63白鳥とF7震電IIである。

 

(にしても、あの機体は何処に向かっているんだ?この先にあるのは.......まさか⁉︎)

 

 

 

数分後、皇宮玄関口庭園

「そこ退けや‼︎」

 

神谷が玄関口の遮蔽物を破壊し、外に飛び出す。しかしそこには既に近衛兵と、衛兵達が待ち構えていたのである。

 

「撃ち方よー」

 

指揮官が命じようとした瞬間、後列の兵士が爆発に巻き込まれて空に吹っ飛ぶ。

 

「炸裂魔法か⁉︎」

 

「指揮官殿、空を‼︎」

 

「空がなんだと言う.......」

 

そこには巨大なワイバーン、もといCH67白鳥がホバリングしていたのである。

 

「ハッ‼︎皆の者、あのワイバーンを狙え‼︎」

 

ところが狙った瞬間、銃弾の雨を浴びて狙っていた兵士達は絶命する。CH67白鳥は機体底部にフックが装備されており、機外に物資を吊るして運搬できる。その為、フックへの取り付け作業などに使う大きな穴が空いており、今回はそこから機関銃を発射したのである。

下を殲滅した為、ゆっくりと高度を落とし周りの敵を機体横の機銃で薙ぎ払う。

 

「閣下‼︎外交官殿‼︎お迎えに上がりました‼︎お急ぎください‼︎」

 

「わかった‼︎急ぐぞ‼︎」

 

さながら映画のワンシーンの様に、ヘリコプターに飛び乗る神谷達。それを確認すると高度を上げて、母艦である白鯨を目指す。しかし皇国も唯の蛮族ではなく、しっかりと考える頭があったようだ。迎撃のワイバーン十数騎が上がってきたのである。

 

「閣下、機影捕捉‼︎数18‼︎現在、本編隊を追尾している模様‼︎」

 

「それは好都合だ。護衛機と適当にダンスして貰う。但し、数騎は母艦の姿を見せてやれ」

 

「わかりました」

 

そんな訳でパーパルディア皇国の誇るワイバーンロードと、白鯨の搭載機である震電IIとの空戦が始まったのである。と言っても、完全なワンサイドゲームなのだが。

まず初手を仕掛けたのは震電II.......ではなく、ワイバーンロードであった。というのも

 

『レイピア1より全機。ご挨拶だ。編隊を維持したまま、奴等の頭上を飛んでやるぞ』

 

『隊長、いきなり舐めプですかw』

『悪趣味〜』

『奴ら、目ん玉回して落ちませんかねwww』

 

『長官からのご指示に「敵に絶望を齎してから、殺すように」ってあんだよ』

 

『そうなんすね。それじゃ、お仕事開始です‼︎』

 

『レイピア隊、行くぞ‼︎続け‼︎』

 

隊長の号令に合わせて、各機が加速する。

 

『隊長騎より全騎、敵騎に導力火炎弾を加え』

 

そんな事を言っている間に、頭上を超高速で飛び去る。それだけでも驚きだと言うのに、それにプラス衝撃波とか突風とかでワイバーンロードのバランスが崩れ、その制御に追われたりで混乱が広がる。

しかしそこは皇都に配備されている精鋭達。すぐに態勢を立て直し、攻める準備を始める。まあスペックが違いすぎて、立て直そうが立て直してなかろうが、精鋭だろうが新兵だろうが関係ない領域なのだが。

 

『レイピア1、FOX 2‼︎』

『レイピア2、FOX 2‼︎』

 

2機が日本製のサイドワインダーであるAIM25紫電を発射する。マッハ5で飛翔する高速体を、しかも背後から撃たれては航空機にあらゆる性能で劣り、誘導を邪魔するフレアやチャフも積んでいないワイバーンロードに回避する事など出来ず、4発全てキッチリ命中する。というか当の当たった騎士達はおろか、周りの騎士だって何が起きたか理解できていない。

 

『な、何だ⁉︎』

『ヤバいぞ‼︎隊長がやられた‼︎』

『隊長‼︎隊長ー‼︎』

 

どうやら隊長騎に当たったらしく、指揮系統までもがグチャグチャになり完全に浮き足立つ騎士達。そんな隙を見逃す訳なく、続け様に第二撃、第三撃が加えられる。

 

『4番機、突っ込むぞ‼︎』

 

『ウィルコ‼︎』

 

太陽を背に、ワイバーンロードの編隊に突っ込む2機。機関砲とAIM63烈風を叩き込み、12騎が火だるま、若しくは肉片になって堕ちていく。

 

『レイピア1より全機、歓迎式典は終わりだ。後は適当にエスコートして、母艦にご案内だ』

 

『『『ウィルコ』』』

 

 

『残ったのは俺達だけみたいだな、ルーキー?』

 

『えぇ..............』

 

ワイバーンロード隊18騎の内、生き残ったのは2騎である。だが彼らは知る由もない。これからの余興の為に、偶々生き残らせられた(・・・・・・・・)存在だと言う事に。

 

『おい、アレ見ろ‼︎』

 

先輩の方が、右斜め前を指さす。そこには4機のワイバーンが居たのである。勿論そのワイバーンは震電IIであり、態と姿を見せて誘導しているのだ。

 

『追いましょう‼︎』

 

『だな‼︎』

 

2騎は高度を上げ、遥かな空の高見へと飛ぶ。雲に飛び込み仲間達の仇を取るべく、グングン高度を上げ続ける。

そして雲を抜けた瞬間、そこにはダークブルーの空が広がっていた。そしてその空を、巨大な物が悠々と飛んでいたのである。

 

『何だ、ありゃ.......』

 

『鯨だ.......』

 

余りに現実離れした光景に、言葉を失う二人。しかしそれを、本部からの魔信の通信が現実に引き戻す。

 

『こちら皇都防衛隊本部‼︎応答せよ‼︎』

 

『こちら皇都防衛隊、第七ワイバーンロード隊、18番騎』

 

『やっと繋がった。レーダーから部隊の反応が消失して、テッキリ全滅したと思ったよ。状況は?隊長にはカードでの貸しがあるからな。勝ち逃げで死なれちゃ困る』

 

『我が隊は皇宮に攻め入ったワイバーン6騎を追尾、内4騎が向かって来た為、戦闘に入りました』

 

『それで全騎落としたんだな?』

 

『いえ、落とされました。奴らは頭上を信じられない速度で飛び去り、後ろから何かを撃って、次の瞬間には隊長と副長、それに二人が火だるまに.......その後、太陽を背に突っ込んできた2騎に自分と16番騎以外の全て落とされました。何故か4騎は我々を倒さずに飛び去り、それを追尾しました』

 

『そうだったのか.......。今、その4騎は何処にいる?』

 

『何処にも居ません。居るのは、空飛ぶ巨大な鉄のクジラッ』

 

ここで通信が途絶え、皇都防衛隊の無線手が必死に呼びかける。しかしそれに答える事は二度と無かった。

通信が途絶えた瞬間、16番騎と18番騎のルーキーは黒鯨の弾幕によって、肉片へと加工されていたのである。

 

「閣下、終わりました」

 

「そうか。この姿が、あの女や皇国中にも届いているのを祈ろう。そうでなくては、コイツらの死は無駄になるからな」

 

艦長の報告に答える神谷。罪悪感はあるが「最後のチャンスを与える為の生贄だ」と言い聞かせ、その罪悪感を抑え込む。そして手を合わせ、死者達を弔った。

 

 

 

 



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第十話フェン王国決戦前夜

パーパルディア皇国への実質的な宣戦布告状を叩きつけて、早二日。神谷達を回収した空中艦隊は、日本への帰国途中の任務を消化している最中だった。

というのも、偶々ムーの観戦武官達が乗った旅客機の飛行ルートと、空中艦隊の航路が交差しており、合流する時間帯までも同じであった為、空中艦隊にムーの観戦武官達の乗る航空機を回収する事になったのである。そんな訳で、今回はムーの観戦武官達の視点をお借りして、物語を進めよう。

 

 

シオス王国 シオス空港上空

 

「や、やっと最後の経由地か.......」

 

片道21,000㎞という長い距離を、かれこれ五日間、様々な国の飛行場を経由してやって来たのである。使用機体であるラ・カオスは、見た目的にはアメリカの旅客機、ダグラスDC3に近い見た目(尤もDC3は双発で、ラ・カオスは4発である)である為、中も快適っちゃ快適だが、勿論日本の保有する旅客機とは比べ物にもならない。

 

「流石に座りっぱなしは腰に来るな。イテテ」

 

同乗する他の人間もうなずく。流石に五日間もほぼ座りっぱなし、というよりは同じ姿勢なのはキツい。

 

「にしても、日本がこんな空港を作っていたなんてな」

 

日本を直に見た事がないラッサンは驚きを隠せない。逆にマイラスは、神谷の言っていた事の信憑性を上げており、これから見られるであろう兵器達への期待がより一層高まっていた。

程なくしてラ・カオスはシオス空港に降り立ち翼を休める。

 

「ムー国の観戦武官の方々ですね。お待ちしておりました」

 

ラ・カオスから降りた観戦武官らを迎えたのは、マイラスも良く知る人物であった。

 

「アナタは確か、神谷さんの秘書の向上さん、でしたか?」

 

「私の名前を覚えて頂けてましたか。光栄です、マイラスさん」

 

「おいマイラス、この方は?」

 

初対面であるラッサンを筆頭とした他の面々は、いきなり現れた男に疑問を持つ。

 

「申し遅れました。私は大日本皇国統合軍、総司令長官秘書官の向上六郎です。今回は皆様のお迎えをするよう、長官からのご指示で参上しました。長旅でお疲れとは思いますが、こちらの飛行機に御搭乗願います」

 

そう言って格納庫に案内する向上。「第二格納庫」と書かれた格納庫の中には、赤と白で塗装されたビジネスジェットが駐機していた。

 

「向上さん、コレは?」

 

「我が国の自動車メーカー、ホンダが開発したビジネスジェット機、HondaJet Eliteになります」

 

ラッサンの質問に答える向上。その横でマイラスは目を輝かせ、おもちゃを手に入れた子供みたいな事になっていた。

 

「これで日本まで行くのですか⁉︎」

 

「いえ、日本まで飛ぶなら貴国のラ・カオスでも問題ないのですが、今回はある余興を企画しておりまして、それをするにはラ・カオスでは少々出力不足なのですよ」

 

「その余興とは?」

 

お目目爛々のマイラスとは対照的に、冷静に質問するラッサン。まるで兄弟である。

 

「それは後のお楽しみです。時間も押してますので、そろそろ出発させて貰います。どうぞ、お乗りください」

 

全員の搭乗が確認され次第、すぐに離陸する。目指すは空中艦隊との合流ポイントである。

因みに観戦武官達は機体に乗り込むや否や、そのシートの質の良さに驚いていた。フッカフッカで、ソファーにでも座っているようである。しかもラ・カオスより格段に速いが、揺れは皆無で乗り心地も天と地ほどの差である。さっきまでマイラス以外は、正直日本を下に見ていた。しかしこの技術を見せつけられては、「少なくとも特定の分野で見ればムーよりも格上」という認識に切り替わったのは言うまでもない。

 

 

 

十数分後 合流ポイント付近

『こちらは第二空中艦隊所属、ハムニビス隊。貴機の識別番号、飛行目的をお教え願う』

 

「こちらは外務省特別機、認識番号AG354-5555。現在、貴艦隊へムー国観戦武官の方々を輸送中」

 

『了解した。これより我が隊は貴機の護衛兼誘導任務につく。白鯨はデカイから、腰抜かすなよ?』

 

「それよりも、胴体着艦しそうで怖いですよ」

 

『まあ制御された墜落と思え』

 

「気休めになってないです」

 

無線での会話をしていた頃、客室ではマイラスの興奮した声が響いていた。

 

「うおぉぉ‼︎アレが戦闘機なのか⁉︎」

 

「何だアレは⁉︎プロペラがついてないぞ‼︎まるでミシリアルの航空機のようだ.......」

 

興奮してるマイラスを尻目に、ラッサンは冷静に機体を観察する。技術体系的には、多分神聖ミリシアル帝国の天の浮舟エルペシオ3*1を発展させた物だと考える。実際正解っちゃ正解であるが、エルペシオ3は何とも言えんヤバい異端児な為、厳密には一緒ではない。

 

「向上さん‼︎あの航空機は何と言うのですか⁉︎」

 

「あの航空機は我が大日本皇国海軍と特殊戦術打撃隊で運用しているF8C震電IIになります。最高時速マッハ2.2を誇る、我が国の主力戦闘機の一つです」

 

「IIという事は、Iがあるのですか?」

 

今度はラッサンが質問する。

 

「鋭いですね。そうですよ。今から約110年前、当時の我が国と100倍もの国力がある国と戦争していた頃、歴史上では太平洋戦争、若しくは大東亜戦争と呼ばれる戦争の最中、本土に飛来する高高度爆撃機を撃墜する本土防空の切り札として製造された航空機、それがJ7W1 震電です。そしてその生まれ変わりがこの震電IIとなります」

 

ラッサンとマイラスは質問の答えよりも、国力が100倍も開いた国家と戦争していた事に驚いていた。普通に考えて、100倍も差が有れば負けは必然。そんな自殺行為でしかない戦いに身を投じ、恐らく勝利なり引き分けなりにまで持ち込んでいるのだから、日本という国の恐ろしさを感じていた。

 

「ん?お、おい皆‼︎窓の外を見ろ‼︎」

 

一人の外交部所属の若い男が叫ぶ。周りの人間も外を見るや否や、驚愕の表情を浮かべたまま固まる。二人も何があるのか気になり、外を見た。眼下に広がる光景は、想像した事も考えた事もない光景であった。白と黒の鋼鉄の鯨が、雲海を悠々と泳いでいたのである。

 

「く、鯨だ.......。鯨が、雲を泳いでいる.......」

 

言うまでもない、大日本皇国特殊戦術打撃隊の空中艦隊である。

 

「これが日本の技術力なのか.......」

 

ついさっきまで格下の国家だとか、一分野でしか勝てていない国家だとかと考えていた自分を引っ叩きたい。この国が我が国より格下?そんな事はあり得ない。もしこの鯨達が祖国であるムーまで攻めて来たら、祖国に止める手立てはない。あの古の魔法帝国ですら防げないかもしれない。

ラッサンはこの光景を見てこう考えていたと、仲間達に語ったと言う。

 

 

 

十数分後 白鯨艦橋

「遠路遥々よくぞお出でくださいました。我が大日本皇国は皆様の来訪を心より歓迎致します」

 

川山が艦橋に登ってきた観戦武官らを出迎えて、定型文ではあるが挨拶を送る。

 

「いえいえ。我々としても強大な軍事力を持ちながらも、平和を愛し、武力では脅さぬ外交政策を取る貴国へ来訪できる栄誉に、心から感謝致します」

 

外交部の高官も返礼の挨拶を送り、一応の関係を築く。そんな中、神谷はと言うとフェンでの作戦を立てる為に、一人部屋で色々資料やら何やらを広げて色々考えていた。まずはパーパルディア皇国の派遣兵力を確認していこう。

 

 

陸軍

・地竜*2 40頭

・魔導砲*3 80門

・騎兵 600騎

・歩兵 1万5千

・ワイバーンロード*4 40騎

 

海軍

・ペロチーノ級竜母*5 10隻

・ファイン級60門級戦列艦 30隻

・フィシャヌス級100門級戦列艦級 80隻*6

・フェルデナンテ級200門級戦列艦4隻

・ワイバーン、若しくはワイバーンロード 400騎前後

 

である。正直数は多いが、軍への脅威にはならない。しかし作戦目標として、「蛮族には絶望を持って、死へと誘う」というのがある為、結構ガチガチ編成で行くのは決めていた。しかも作戦後に、そのまま次の作戦に投入できるように進出する意味合いもある為、一応はコストや戦略・戦術的にも考えられた行動である。それを踏まえて、日本側の戦力を見ていこう。

 

 

陸軍

・歩兵第83〜103師団

・重装歩兵第21〜35師団

・戦車第5〜7師団

・第32〜48対戦車ヘリコプター隊

 

空軍

・第201〜208制空航空隊

・第508〜514近接攻撃航空隊

・第606警戒完成航空隊

・第1201〜1232大型輸送飛行隊

 

海軍

・第七主力艦隊

・第三〜五揚陸艦隊

 

 

ご覧の通りガチガチ編成であり、パ皇絶対殺すマンである。

 

(さてさて、戦術はどうするかね)

 

今度は壁に貼ったフェン王国の地図に目をやる。しかし、扉がノックされ見知った顔二人と知らん顔一人が入ってくる。

 

「失礼します。長官、ムー国観戦武官のお二人をお連れしました」

 

「おう、ご苦労さん。出迎えもあって疲れただろ?本国に帰還するまでの少しの間くらい、休憩して疲れを取っておけ」

 

「ハッ‼︎」

 

そんな訳で向上を下がらせ、観戦武官二人に向き合う。

 

「まさかマイラスさんが観戦武官としてやってくるなんて、思いもしませんでしたよ。あの港での願いが早速叶いそうですね」

 

「私も驚きでしたよ。観戦武官としての内示が出た翌日には出発でしたし」

 

「うぅわ、キツ」

 

「ホント、役得ではありますがキツイです」

 

「心中お察しします」

 

まるで旧友との再会かのように話す二人に、置いてけぼりを食らうラッサン。

 

「あ、紹介します。我が国の戦術士官で、私の軍学校時代の同期、ラッサンです」

 

「初めまして神谷長官、ラッサンです」

 

「えぇ、初めまして。大日本皇国統合軍、総司令長官の神谷浩三です。長旅、お疲れでしょう。さあ、どうぞ自由に寛いでください」

 

そう言われて、手近のソファに腰掛ける二人。ラッサンは壁に貼られた地図に目を向け、書いている事を読もうとする。しかし言語が見た事もない字(日本語)であり、何もわからない。

 

「神谷長官、アレは何です?」

 

多分作戦計画なのだろうが、何か聞き出せる事を期待して質問する。

 

「あぁ、フェン王国での戦術ですよ」

 

「具体的にはどのように攻めるつもりですか?」

 

ダメ元ではあるが、一応聞いてみる。

 

「予定ではフェン王国沖に展開している竜母艦隊を第七主力艦隊の艦載機を持って奇襲、それに呼応して予め展開させる陸軍を持って、相手にとって有利な地形であるゴトク平野で戦闘を行います。その間にニシノミヤコ近海にまで艦隊を進出させて敵艦隊主力を殲滅、その後に海軍陸戦隊を上陸させて、最終的にニシノミヤコを陸軍と海軍陸戦隊で挟撃、解放します」

 

「私達は何処で観戦するのですか?」

 

マイラスが質問する。内示には「観戦する戦闘については、皇国の指示に従う事」と書かれていた為、まだ二人は知らないのである。

 

「一応は第七主力艦隊総旗艦、超戦艦素戔嗚尊(すさのお)に乗艦してもらいます」

 

「おお、超戦艦という事は日本最強のアレですか‼︎」

 

「日本最強のアレです。今回はマイラスさんも来るとの事でしたし、どうせならという事で」

 

「お心遣い感謝します‼︎」

 

大興奮のマイラスである。

 

「最強と言えば、この兵器も強そうですね。空中から見た時はクジラかと思いましたよ」

 

「実際、名前にもクジラの字が入ってますから。ほら、アレが鯨という文字です」

 

そう言うと壁に飾られた、墨で描かれた「白鯨」の紙を指さす。

 

「あれで何と読むんですか?」

 

「「はくげい」と読みます。左側の文字で白、右側の字がクジラという意味の文字でして、その二つを合わせて「はくげい」と読むのです。因みに隣に居た黒いのは「こくげい」と言います」

 

「中々に難しいな」

 

ラッサンは初めて見る漢字に、覚えられる気がしないなと思った。まあ世界でもトップクラスで難しい字である為、覚えられそうになくて当然である。

 

「我が国の言語である日本語、そちらでいう大陸共通語は前世界に於いても、特に難しい言語でしたからね。壁の文字である漢字が10万種以上あり、それ以外にも平仮名と片仮名と言う文字、50音ずつを使い分けて書きますからね。もし日本語を覚える気があるのなら、平仮名と片仮名を覚える事をお勧めしますよ」

 

「どうしてまた?」

 

「平仮名と片仮名は文字が違うだけで、基本的に同じなんですよ。それに字自体もシンプルで、最悪漢字が書けなくても日本人であれば、確実に筆談で意思疎通を図れますから」

 

「日本人誰でもですか⁉︎」

 

マイラスは日本人なら誰でも字が読める事に驚く。ムーにも独自の文字はあるが、貧困層と中流層の5分の1は読み書きができないのである。

 

「日本では昔から文字を書く機会が多く、その識字率は100%です。国民全員が7歳から小学校と呼ばれる学校で初等教育を6年、卒業後に中学校と呼ばれる学校で中等教育を3年受ける事が義務付けられています。その間に必要最低限の読み書きや計算を身につけられるのです。因みに、中学校卒業後は高等学校に進む事が可能で、その後は大学や専門学校に進む事ができます。最近では子供の大多数が高等学校にまで進んでいますね」

 

日本の進んだ教育制度に驚く二人。それ以降も様々な日本の話で盛り上がり、二時間の旅路を経て日本に帰還した。

観戦武官の二人と川山を見送り、神谷はその足で霞ヶ浦基地に向かった。

 

 

 

一時間後 霞ヶ浦航空基地

「お待ちしておりました閣下」

 

「空技廠長、早速だが例の物を見せてくれ」

 

「はい。では、こちらに」

 

恰幅のいい優しそうな眼鏡をかけた老人が、神谷を格納庫に案内する。格納庫が連立する中でも、一際大きな格納庫に通される。中は暗く何も見えないが、老人がスイッチを入れて灯りが灯る。

 

「うお‼︎」

 

「大きいでしょう?」

 

そこにはC3屠龍すらも超える、巨大な航空機が鎮座していた。

 

「我が航空技術廠が作り上げた至高の超重爆撃機、富嶽IIです」

 

富嶽。それは(我々の世界では)前大戦の最中、日本が計画したアメリカ本土空襲。それを叶えるため開発された航空機である。しかし戦局の悪化に伴い、遂には試作される事すらなく水泡になった航空機である。そんな機体が、今度は現代技術の結晶として爆誕したのである。

 

「模型で見てはいたが、ここまでデカイとは」

 

「全長120m、全幅130m。最新鋭の大型ジェットエンジンである噴式ネ350を16基搭載する事により、この巨体でありながら最高時速マッハ1.5を誇ります。さらにC3屠龍の生産ラインを、ほぼそのまま流用できる為、量産も簡単です。」

 

「ところで一つ聞いていいか?」

 

「はい?」

 

「何で旋回銃座が付いているんだ?」

 

なんと富嶽IIには、最近では有用性が失われた旋回銃座が至る所に取り付けられているのである。因みに現在存在する爆撃機で銃座を搭載しているのは、B52とTu22位である。しかしそれらも後方のみであり、富嶽IIのように昔の爆撃機みたくはついていない。

 

「この機体は高い防弾性能を有しており、おそらく戦闘機では倒せないでしょう。ならばそれを利用して、爆撃以外にも地上支援や大火力を持っての制空戦、制圧制空戦とも言えるべき作戦を取れる様にしてあります」

 

「ほう、中々に面白い。量産はしているんだよな。数は?」

 

「現在、120機が最終試験を行なっています。おそらく一ヶ月あれば第一陣が配備できると思います。続く機体も続々と量産されており、来るパーパルディア皇国との戦では、問題なく実戦に参加できるかと。それも東京大空襲レベルの、超絨毯爆撃が出来るほどに」

 

「ハハ、流石にしないさ。今回は宣戦布告こそしてるが、我々はあくまで旧世界の国際法を遵守する姿勢だ。まあ彼方さんが「殲滅戦だ」とかと言う、馬鹿なことを言えばやぶさかでもないがな」

 

「ハッハッハッ、いくら矮小で我が国より遥かに下のパ皇と言えど、こちらでは列強と言わしめる程強いのですから、しっかり此方を調べて早期講和の道を模索するんじゃないですか?」

 

「だと良いんだが、プライドの塊が講和を望むかなぁ。俺の予想は負け続けのパ皇に不満を持つ権力者、民衆、属領の国家のいずれかが内乱を起こし、それに呼応して今言った3つの内の2つも蜂起。現政権を打ち倒して新政権を作り出し、その新政権がウチと交渉する。そう言う感じになりそうだ」

 

「なるほど。では我が祖国の仕事は、奴らに恐怖を与えに与え、同時にパ皇の権威を失墜させて簡単に蜂起できるようにする、と言った所ですか?」

 

「正にその通りだ。だから今度の戦いは、主力艦隊も出すしな」

 

「敵さんの顔が見物ですな」

 

「あぁ」

 

 

 

翌日 フェン王国首都アマノキ

「おぉ‼︎アレが大日本皇国の兵器か‼︎」

 

剣王シハンが真夜中でありながらも天守閣の屋上から、続々と陸揚げされる日本の誇る兵器群を目を輝かせながら見ている。

 

「鋼鉄の地竜に鋼鉄の象、センシャとジソウホウなる兵器だそうです」

 

側近のモトムが兵器の説明をする。今回の戦いでは46式戦車を始め、34式戦車II型、34式戦車改、44式自走砲など、皇国陸軍を代表する兵器達が集っており、その殆どが初めて見る物ばかりなのである。

 

「あの鋼鉄の兵器達も良いが、兵士達も凄いのう」

 

「確かに強そうな甲冑ですね」

 

モトムの解答に、鼻で笑って返すシハン。

 

「そうではない。あの兵士達の動き、アレは度重なる訓練で体得した動きであろう。何より手足の動き方や止まる位置ですら、全員がピタリと揃っておる。そんな芸当ができるという事は、練度もそうじゃが士気も高いという事。お主も知っての通り、戦で大事なのは士気じゃ。士気が低ければ、勝てる戦も負ける。この戦、勝てるぞ」

 

モトムはシハンの言葉で気付かされる。モトムは日本軍の余りにかけ離れた軍事力に、戦いにおいて大事な事を忘れてしまったからだ。勿論装備や資金も大事だが、シハンの言う通り士気が勝敗が分けるのも確かである。

 

 

「村今将軍‼︎部隊の陸揚げですが、後三十分程で完了します‼︎」

 

「ご苦労」

 

 

 

村今 和寿(むらいま かずとし)

年齢 58歳

階級 中将

役職 村今戦闘団団長

日本の誇る名将の一人。仙台士族の名家の出で、義理人情に熱い男。指揮官としては有能であるが、プライベートになると酒をたらふく飲み、部下達も巻き込んで酒と自作のツマミを提供して、即席居酒屋を作り出す。そして酒豪である為、翌日巻き込まれた部下達は二日酔いに悩まされ、本人はツヤツヤしてるという事が良く起きる。まあ一見、唯の飲みハラだが部下達の強制参加はさせないし、部下達も自ら進んでやってきて楽しんでいる為、黙認されてる。

 

 

 

「将軍、39式を偵察に出しますか?」

 

「頼む。まあ衛星で丸見えではあるが、やはり実際に見ておいて損はない」

 

「了解であります」

 

(装備の陸揚げも順調で、兵達の士気も申し分ない。後は作戦開始時刻を待つばかりだな)

 

「村今将軍殿‼︎」

 

「ん?どうした軍曹」

 

「ハッ、私事で恐縮なのですが、今回の戦を勝つ為にこんな物を作らせていただきました。良ければどうぞ」

 

そう言って糧食班の人間が差し出したのは、串カツとソースである。

 

「ハハ、串カツで「勝つ」か。縁起がいい。貰おう」

 

ソースをつけて、豪快にかぶりつく。

 

「あ、そんな一息に」

 

「熱ッ‼︎」

 

揚げたてをそのまま食った為、あまりの熱さに涙目にながら忙しなく動く将軍に、周りの兵士達や士官も爆笑する。

 

「閣下、何やってんすかw」

「ありゃりゃ」

「ってか、あの串カツ美味そうだな」

 

そんな中、大佐クラスの側近の男が軍曹に近づく。

 

「貴様ぁ‼︎」

 

「は、はい‼︎申し訳」

 

「良いぞもっとやれ‼︎」

 

「ってえ?」

 

「何をしてる。早く揚げたての串カツとソースを持ってきて、皆に振る舞わぬか‼︎」

 

「はい‼︎只今‼︎」

 

まさかの返答に驚く軍曹だが、直ぐに揚げたてのを持ってきて皆に配る。そして村今将軍の「これを食べて、必ず勝つぞ‼︎」の一言の後、全員がかぶりつく。そして勿論

 

「熱ゥ‼︎」

「美味いけど熱い‼︎口が死ぬ‼︎」

「アイルビーバック」ガクッ

「おい誰か‼︎カツが熱すぎて、人が死んだぞw」

 

戦場でありながら、少しばかり和やかな空気が広がる。これも勿論作戦の一つであり、更に兵士達の士気を上げて前線と司令部の関係性をより強固にする策である。

翌朝、アマノキにいる日本人を輸送船まで護衛し、日本へ帰還させるのを見送った後、決戦の地になるゴトク平野まで進み、陣を構築する。その頃、舞鶴では第七主力艦隊が続々と出港していた。

 

 

 

京都 舞鶴基地地下ドック

『定刻となった。第七主力艦隊、全艦出港せよ‼︎』

 

基地のアナウンスにより、前衛潜水艦隊が専用ドックから出港する。

 

「ドック注水一杯‼︎水密壁、開放‼︎」

 

「ガントリーロック解除‼︎」

「機関始動、微速前進」

 

前衛潜水艦隊の出港が確認されると、今度は第二部隊の前衛機動遊撃艦隊が地下からエレベーターで上げられ、レールガン技術を応用した出撃用加速機にセットされる。

 

「射出‼︎」

 

「ビーー」という警報音の後、風を切って艦が続々と出港する。他の艦隊も続々と続き、加速機の前は水飛沫が上げられ続ける。更には出撃を一目見ようとやって来ていた民間人には、巻き上げた水飛沫が容赦なく降り注いでいた。

因みにオタクや近隣の住民は、傘や雨ガッパを装備しており濡れることは無かったが、それを知らなかった人達はビッチョビッチョである。

 

「超戦艦素戔嗚尊、出撃する‼︎」

 

最後に一際大きな飛沫を上げながら、総旗艦たる素戔嗚尊が出港する。艦橋で出港するまでのプロセスを見ていたマイラスとラッサンの二人は、その男心擽る出撃の仕方とそもそもの技術に圧倒されていた。

 

「こんなにも揺れそうな動きだというのに、全く揺れていない。何故だ?」

 

「というか良く転覆しないな」

 

二人が驚いているのはお構い無しに、外海に出て陣形を組んでフェン王国近海を目指す。目標は唯一つ、パーパルディア皇国艦隊の撃滅のみ‼︎

 

 

 

 

 

*1
神聖ミリシアル帝国が作った戦闘機で、古の魔法帝国技術の研究成果、ではなく遺跡にあったのを丸パクリ、でもなく多分遺跡にあったのを色々つなぎ合わせたキメラ航空機。ジェットエンジンの技術を魔法で補った機体だが、正直レシプロ機より弱い。一応、魔法技術のジェットエンジンを付けているものの、速度は時速500km程度。因みに零戦は二一型で時速532km出せる。見た目はミリシアルの開発技術が意外と低い為、ソ連のYe-8のフィンのくっついたP59とF16か何かを足して、それを適当に割った見た目。日本の技術者が見たら爆笑する様な非合理設計である。

*2
正式名称はリントヴルム。地上版のワイバーンであり、パーパルディアが第三文明圏の覇者となった一番の要因。攻撃方法は射程は非常に短いが、面制圧が可能な火炎放射。但し機動甲冑には通じないし、防御力も「弓は通らんけど、マスケットなら倒せる」という、滅茶苦茶脆い紙装甲である。我々の目線から言えば、唯の火が吹けるデカイ蜥蜴。

*3
火薬で行う部分を、魔法に置き換えた大砲。艦砲にも装備されており、地上版では上記の蜥蜴、もとい地竜や馬に牽引してもらうタイプ、歩兵がバラして持ち運ぶタイプの二つがある。威力は生身の歩兵なら吹っ飛ぶ位にはあるが、正直日本軍の脅威にはならない。射程は艦砲は2キロ、陸上版は1キロ程度。

*4
ワイバーンの強化種。最高時速350kmで、普通のワイバーンより高い機動力があるが、防御力は大差ない。生殖能力が無い為、一代限りの人造生物。勿論、日本側からしてみれば唯の案山子である。

*5
ワイバーンを運用するための空母。尚、名前に関してはオリジナル。

*6
装甲(薄い所で8mm、厚い所ですら13mm。しかも舷側のみ)の貼られた主力戦列艦




富嶽IIは設定集にて詳細を書きます。


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第十一話フェン王国決戦 前編

今回少しアンケート機能の試運転も兼ねて、アンケートを作ろうと思います。詳しくは後書きに書きますので、最後までご覧ください。


出港より二日後 フェン王国近海 潜水艦「伊928」

「お‼︎居た居た‼︎」

 

潜望鏡を覗き込んでいた艦長が嬉しそうに言う。

 

「よーし、通信兵‼︎総旗艦に通報しろ‼︎」

 

「アイ・サー」

 

敵艦隊発見の報は、即座に総旗艦たる素戔嗚尊へと送られる。

 

「長官、偵察に出した伊928潜より通信が入りました。「我、敵機動艦隊ヲ発見ス。編成ハ大型戦列艦60、小型戦列艦20、竜母8」以上です」

 

「了解した。第四艦隊、旗艦「龍鶴」に下令‼︎第一次攻撃隊、発艦‼︎」

 

「アイ・サー‼︎」

 

今度は第四艦隊に連絡が行き、航空隊発艦の命令が下る。この命令を受けるや否や、航空戦力の要たる第四艦隊は一気に慌ただしくなる。

 

 

 

第四艦隊 要塞超空母「龍鶴」

「機体を甲板に上げるぞ‼︎」

「カタパルト、点検急げ‼︎」

「おい‼︎そこのリフト退けろ‼︎」

「よーし、オーライオーライ。ストップ‼︎」

 

甲板と格納庫では整備兵があっちこっちで動き出し、機体を飛行甲板に上げてたり、様々な準備に追われていた。しかし良く訓練されている精兵の集まりである為、短時間で準備を終わらせた。

 

『こちらブッチャー1、発艦する』

 

『ブッチャー2、GO‼︎」

 

艦載機の震電IIが、カタパルトで時速300kmまで加速しながら発艦していく。今回の装備は爆撃装備であり、各パイロンには無誘導爆弾を搭載している。え?ASM4海山を使えよって?確かに海山を使えば、簡単かつ正確なロングレンジ攻撃が出来るであろう。しかし今回の相手はパーパルディア皇国であり、その軍事力はご承知の通り、たかが中世ヨーロッパ程度である。

確かに魔法があったり、それによる副産物で物によっては近代程度の技術力を持っていたりもするが、それでも超精密誘導兵器であり、遥か彼方のイージスシステムですら攻撃不能な位置から一撃艦船を沈める威力を持ち、更には速すぎるのと高いステルス性で、物理的にも電子的にも探知はほぼ不可能なチート兵器を使うほどの相手ではない。

要は「コスパがクソ悪い」のである。同様の理由から誘導爆弾である天山、流星も使用されていない。

 

『こちらはAEW*1スカイノーズ。これより攻撃部隊は、こちらの管制下に入ってもらう。パーパルディアの連中に、精鋭空母乗りの力を見せに行くぞ』

 

無線から様々な反応が口々に聞こえる。実は現代の日本兵というのは、昔こそ静かな忍者のイメージがあっていたが、最近じゃ様々な人種が多い。腐女子、腐男子は当たり前で、変態やら変人やら狂人やらと並べればキリがない。尚、神谷は名前も相まって、軍内では神人扱いである。

 

 

 

フェン王国近海 竜母「シャーディス」

「竜騎士長!」

 

「ははっ‼︎」

 

艦隊司令は隣に立つ竜騎士長に話しかける。

 

「皇軍は強い‼︎」

 

「存じております」

 

「何故強い⁉︎」

 

「他国とは隔絶した、総合力があるからです」

 

「その通りだ‼︎だがその圧倒的な強さを誇るのは、戦列艦隊の存在はもちろんのことだが、この竜母艦隊があるからこそ強いのだ‼︎竜母艦隊があれば、どんな戦列艦の大砲よりも遠くから攻撃できる。それも敵が手も足も出ない距離からな‼︎

竜騎士長、空を制する者こそが最終的に海も陸も制する。私はそう思うのだ」

 

この考えは実際正しい。現に先の大戦での帝国海軍による真珠湾攻撃により、世界は大艦巨砲主義から航空戦や空母戦の時代へと切り替わり、今日においては「空母の数=その国の強さ」とも言える。少なくとも、海軍力の一つの指標として扱われるのは確かだ。

まあパーパルディア如きでは、日本海軍には勝てないのだが。何故かって?だって今回の作戦に参加している第七主力艦隊には、航空母艦全部で15隻もいて、更には航空戦艦や同程度の能力を持つ艦も4隻いる。質、量のどちらでも勝てない。

 

「先進的なお考えであります‼︎」

 

「うむ。パーパルディア皇国皇軍が、今までの海戦で無敵を誇り続けてきたのは、この竜母艦隊があったからこそだ‼︎この竜母艦隊がある限り、パーパルディア皇国は覇道を突き進むであろう!」

 

「全く以て、仰る通りであります‼︎」

 

全く以て、仰る通りではありません。ワイバーンロード如きでは、皇軍を討ち滅ぼせません。ご愁傷様です。

あ、ちなみにこの竜騎士長は適当に相槌を打って、艦隊司令に話を合わせているだけである。

 

「艦隊司令官殿‼︎前衛艦より、敵飛竜を発見したとの事です‼︎」

 

「ほう。では、竜母各艦に命令。直掩隊を上げさせろ。竜騎士長、君も行ってくれ」

 

「はっ。吉報をお持ちください」

 

そう言うと竜騎士長は専用の兜を手に、甲板に走る。一方艦隊司令は、敵の来る方角を見ていた。

 

「あの黒い点か。多いな、大体140騎位か」

 

しかしこれは間違いである。余りに綺麗な編隊であった為、長距離からは最前列の機体しか見えないだけで本当は約1400機居るのである。

 

 

『お、見えてきたな。スカイノーズ、誘導感謝する』

 

『なーに、給料分の仕事をしただけだ。さぁ、お前達も給料分は働いてこい』

 

『そうするよ。野郎共‼︎行くぞ‼︎』

 

隊長機の号令に、全パイロットの顔が一気に引き締まる。

 

『あ、そうそう。敵ワイバーンも上がってきている。数23。まあ問題にはならないだろうが、念の為警戒はしておけ』

 

『ウィルコ‼︎みんな聞いたな⁉︎一つ、奴らに絶望をもって動揺させてやろう。各機ブレイク、最大推力で艦隊上空を通過。その後、爆撃を開始する‼︎』

 

返事の代わりに、全機が一気に広がる。それを見ていた艦隊司令は驚愕と絶望の顔を見せる。

 

「な⁉︎奴らは、120騎程度ではないのか⁉︎」

 

「司令官殿‼︎竜騎士長より「敵は少なくとも1000騎以上はおり、更に我々ではどうしようも出来ないほどに速く、その速度のまま艦隊に迫っている」との報告が‼︎」

 

「ふ、風神の涙を使用せよ‼︎艦隊増速、対空戦闘用意‼︎」

 

「ハッ‼︎飛竜はスクランブル発進‼︎急げ‼︎」

 

しかし、パーパルディア艦隊が大慌てでそうこうしている間に、音速を超えた大編隊が艦隊上空を通過する。それも音速越えた時の、爆音やら何やらを響かせる。それはまるで、死のマーチを奏でるが如く。

 

「な、何という素早さ‼︎」

「何か爆発したぞ‼︎」

「敵はフェン王国の蛮族じゃないのか⁉︎なんで飛竜が‼︎」

 

彼らは知る由も無かった。敵がフェン王国や近隣の文明圏外国ではなく、大日本皇国である事に。

 

『ハッハッハッ、奴ら驚いてるな。よーし、全機爆撃に移るぞ‼︎』

 

飛び去ったそのままの勢いで反転し、3分の1の機体は高度を上げる。しかし敵もただでは通そうとはしてくれず、導力火炎弾の斉射を持って迎え撃つ。

 

「撃てぇ‼︎」

 

『散開‼︎』

 

まあ、機動力に物を言わせて余裕で避ける。しかも避けた後は、AIM25紫電か機関砲でバラバラに加工される。

 

「あぁー‼︎ワイバーンロードがやられた‼︎」

 

「何だとぉ⁉︎」

 

「て、敵騎直上‼︎急降下ー‼︎」

 

見張り員の絶叫と化した叫びと共に、兵士達が空を仰ぐ。そこにはさっきワイバーンロードを肉片に変えたのと同じ機体が隊列をなして、普通じゃ有り得ないほぼ垂直に迫っていた。

 

『投下ァ‼︎』

 

機内に格納されていたパイロンと翼下のパイロンのロックが解除され、爆弾が重力に従って吸い込まれる様に落ちていく。まず最初に狙われたのは、艦隊外縁に居たファイン級の5隻であった。

 

「ハングリーに何か落ちたぞ‼︎」

「ハウアー、スリーカー、マクロ、スプラにも落ちた‼︎」

 

次の瞬間、次々に爆炎に包まれるファイン級。ファイン級は旧型の戦列艦と言えど、当たれば爆発する魔導砲を60門搭載している。

その持ち前の小型さ故に、輸送船の破壊や先行偵察、そしてその機動力を持で数々の作戦を成功に導いた艦でもある。少なくとも、こんなやられ方をする艦ではないのである。

 

「また来るぞ‼︎回避しろ‼︎」

 

『今更逃げようたって、もう遅い。さあ、消え失せろ‼︎』

 

ファイン級の5隻を破壊したのを皮切りに、続々と艦隊に航空機が殺到し爆弾の雨を降らせる。それも比喩表現ではなく文字通りの爆弾の雨である為、パーパルディアの連中からして見れば溜まったもんじゃない。

 

「まだ我々は負けていないぞ‼︎撃ち返せ‼︎」

 

しかし敵にも落ち着きを取り戻しつつあり、散発的ではあるが対空攻撃が始まった。と言っても弓とかマスケットを空中に撃ったりとか、舷側についてる魔導砲を最大仰角にして撃ったりとかである。勿論弓とかマスケットでは航空機の装甲を破れるわけないし、魔導砲だって爆発はするが当たらない限りは爆発しない。

本来対空攻撃に使われる砲弾の起爆方式は、時限式か近接信管の二つに大別される。簡単に説明すると、時限爆弾みたく起爆する時間を調節できる砲弾を使うか、何らかの方法、例えば音波とか電波とかで目標を近くに感知すると起爆する物である。しかし魔導砲が撃ち出すのは、信管が作動したら起爆する榴弾と同じ原理である。しかも魔導砲と名を撃っているが、砲自体の構造は海賊船についてる大砲そのものであり、ライフリングもついていない為、更に当たる訳ない。

 

「何故だ‼︎何故当たらぬ⁉︎我がフィシャヌス級は皇国でも最強クラスの艦であるのに、何故当たらぬのだ‼︎砲はまだしも、弓もマスケットも当たらぬとはどういう事なのだ⁉︎」

 

射撃の神様連れてきたって、お手上げなのは間違いない。そんなに当てたきゃ、ヘルシングのリップヴァーン中尉連れてきなさい。

 

「また来るぞぉ‼︎伏せろォォォォ‼︎」

 

無慈悲な爆撃には伏せた所で意味はなく、甲板にいた兵士は炎に包まれるか、爆発に巻き込まれてバラバラになりながら空に舞い上がる。

雨霰の様に降り注ぐ爆弾によって炎に包まれる、爆発するのは勿論のこと、キールがへし折られたり、一撃で分解したりもしていた。中には爆発で吹っ飛んだマストが別の艦に突き刺さり、それが原因で大爆発を起こして沈んだのもいた。

最早さっきまで威風堂々(笑)たる姿を見せていた艦隊は最早唯の材木となり、勇猛果敢の海の男達は肉片と血の塊となる。

 

「あぁ.......私の艦隊が.......最強の皇国機動艦隊が.......たかが、蛮族国家如きに討ち滅ぼされるなんて.......。悪魔だ、アイツらは悪魔だァァァァァァ‼︎」

 

艦隊司令は目の前で起きている現実に、精神が完全にいかれ絶叫する。その叫びの後にまた何かを叫ぼうとしていたが、その瞬間に爆撃され、完全にバラバラとなって魚の餌となった。

 

『こちらスカイノーズ。敵艦隊は全滅した。最早全ての敵艦は、原型すら留めていないぞ。皆、よくやったな。ミッションコンプリート、RTB』

 

 

 

「如何です?遥か未来の戦闘は?」

 

「いや、何というか.......。我々の想像を超越した世界でした。あんな戦術、今まで考えついた事もありません」

 

実はこの戦闘はスカイノーズ、もといE3鷲目のカメラ映像が素戔嗚尊に中継されており、マイラスとラッサンが観戦していたのである。

 

「何よりあの震電II。写真では幾度も見ましたし実物も見ましたが、まさかあそこまでのスペックだったとは.......」

 

ラッサンとマイラスが、自らの知識を当てはめた感想を述べていく。

 

「あの機体は前世界に於いても、艦載機としては世界最強でしたからね」

 

「そうでしたか。道理で、あんな無茶ができたのですね」

 

「えぇ。そうですとも」

 

説明に来ていた広報担当の少佐も、とてもご満悦である。

 

『これより本艦は予定通り大和型各艦、突撃戦隊、揚陸艦隊と合流し、フェン王国ニシノミヤコ沖の敵艦隊に向けて突入を敢行する。各員、持ち場につけ』

 

このアナウンス後、艦内中にアラームが鳴り響く。それに合わせて水兵達が忙しなく動き、自分の担当部署に走る。

 

「我々もブリッジに参りましょう」

 

少佐が2人をブリッジに案内する。ブリッジにつくや否や、目に飛び込んで来たのは有り得ない光景であった。

 

「グレードアトラスター⁉︎」

 

「何でアイツがここに居る⁉︎というか、何でこんなにいるんだ‼︎」

 

2人が取り乱し、まるで世界の終末を目にした様な絶望の色に染まっている。艦橋の乗組員達も、取り乱し始めたラッサンとマイラスに困惑し何がどうなってるのかわからない。

 

「どうか落ち着いてください。一体何なのですか、そのグレードアトラスターとか言うのは」

 

艦隊司令官が心配し、声を掛ける。

 

「あ、アレは、グラ・バルカス帝国の戦艦です‼︎」

 

「ぐ、グラ・バルカス帝国?アレはどっちかっていうと、大日本帝国海軍の艦ですぞ?」

 

ここで両者の話が、見事なまでに噛み合っていないのに気付く。

 

「ラッサン落ち着け。よく見たら、少し違う様に見える」

 

「マイラス殿、何なのですか?そのグラ・何ちゃら帝国というのと、グレードアトラスター?というのは」

 

「グラ・バルカス帝国というのは、列強国であったレイフォルを滅ぼした謎の新興国であり、グレードアトラスターというのは、そのグラ・バルカス帝国の戦艦でレイフォルを陥落させた兵器なのです」

 

「わかりました。結論から申し上げますと、アレはあなた方の言うグレードアトラスターとやらとは関係ありません。あの艦こそが我が国の戦艦の代名詞であり、今尚根強い人気を誇る戦艦、大和型前衛武装戦艦です」

 

「グレードアトラスターではないのですね。よかった.......」

 

グレードアトラスターでは無い事に一安心した2人であったのだが、すぐにまた驚く事になる。

 

「グレードアトラスターと同じなのと、この艦が有れば最強だな」

 

ラッサンがそうマイラスに言うが、マイラスは何も答えない。

 

「マイラス?」

 

「ら、ラッサン。俺は、幻覚でも見てるのか?大和型とか言った、日本版グレードアトラスターが4隻は居るんだが.......」

 

「そんな事、ある訳.......え?」

 

目の前にあった光景とは、素戔嗚尊の周りに集まる4隻の大和型である。しかも艦隊司令が更に驚きの発言をする。

 

「まだ後、もう4隻来ますよ」

 

「てことはグレードアトラスターが全部で8隻.......」

 

「何なんだ、日本って国は」

 

最早、驚愕を通り越して呆れている。そりゃあ格下の列強国であったとは言え国を単艦で滅ぼし、もしやって来たら確実に自国も滅びるのは確実の「超兵器」とも言える艦が目の前に4隻いて、その内更に4隻追加されるのだから当然である。

 

「所で少佐?大和型は一隻につき、幾ら掛かるのでしょうか?」

 

「そうですなぁ、えっと確か貴国との為替レートが100円=1000ムーラン(ムーの貨幣単位)ですから、大体30兆ムーランですな」

 

「「はい!?」」

 

2人が驚くのも無理はない。30兆ムーランとは、ムーの約15年分の国家予算に相当するのである。つまり極端に言えば「大和型を一隻建造する=15年間0ムーランで国家運営」という訳である。まあ流石に極端過ぎるが、それでも気が遠くなる程の時間を掛けないと建造予算を抽出できないのである。

 

「アハハ、30兆ムーランの戦艦が8隻。アハハ、アハハ、アハハ」

 

「ラッサンが壊れた.......」

 

【速報】ラッサン氏壊れる

まあ巫山戯るのはここまでにして、物語に戻ろう。

大和型8隻、突撃戦隊、揚陸艦隊と合流した旗艦「素戔嗚尊」以下、特別艦隊はニシノミヤコ沖の敵艦隊に向け航行していた。しかしそのすぐ近くには、先の海戦で生き残っていた竜騎士長と他20名が相棒のワイバーンロードと共に、どうしようかな悩みながら飛んでいた。奇しくも、二つの目的地は同じなのである。

 

『竜騎士長、辿り着けますかね?』

 

『わからぬ。だが何もやらないよりかはマシだ』

 

『竜騎士長、今からでも遅く有りません。敵に突っ込んで、一矢報いてやりましょう‼︎』

 

若い竜騎士の一人がそう言う。しかし竜騎士長はそれを否定する。

 

『いやダメだ。お前の言う通りにするのが誉高きパーパルディア皇国の竜騎士隊ではある。が、しかしだ。敵の正確な位置が分からぬ以上、行ったは良いが何も成果が無くては犬死だ。それなら汚名を被ってでも生き残り、奴らが攻め入った時に一矢報いてやれば良い。仇打ちは生きてさえいれば、必ずできるからな。

それに私はニシノミヤコ沖の艦隊を放って置くとは思えぬのだ。運が良ければ、このまますれ違うやも知れぬ』

 

この予想は当たっていた。丁度、レーダーが竜騎士長の編隊を捉えていたのだ。

 

 

 

「司令‼︎レーダーに感あり‼︎速度からして、先の海戦での生き残りのワイバーンと思われます」

 

「如何なされますか?」

 

レーダー員の報告に、艦長が指示を仰ぐ。

 

「ふむ。あのワンサイドゲームを幸か不幸か生き残ったのだから、賞品を贈呈してやるべきだろう。そうだな、我が皇国の誇る戦艦群の威風堂々たる姿を見せるとしよう。艦長、ワイバーン部隊を誘き出してやれ」

 

「アイ・サー‼︎直ちにヘリを上げろ」

 

しかしレーダー員がそれを止める。

 

「艦長、恐らく何もしなくて大丈夫ですよ。我々の艦隊は対象の進路と被っている為、このままの航路で進めば向こうから来てくれます」

 

「そうか。ではそうしよう」

 

 

 

十数分後 

『竜騎士長‼︎前方に何か見えます‼︎』

 

『何だ、アレは?確認する、各騎高度を上げろ』

 

さっきまで海面近くを飛んでいた為、高度を上げて確認する。そこに居たのは、あり得ない程大きな鉄の船が航行している様であった。特に先頭にいる艦は、一際大きく小さな島をそのまま動かしている様であり、それ以外の艦も砦を浮かべた様に大きいのである。

 

『デケェ』

『何だアレは.......』

『砦が浮いている.......』

 

『一体どこの、まさか‼︎ムーの艦隊か⁉︎』

 

他の部下達が呆気に取られている中、竜騎士長は最悪の想定を打ち出す。パーパルディア皇国は列強国に名を連ねてはいるものの、列強の順位としてはドン2の第四位である。対してムーは第二位の国家であり、ムーが介入しているとなると勝つのは不可能なのである。

しかし知っての通り、竜騎士長の推測は見事なまでに外れている。まだムーならよかったのだ。そう、ムーなら(・・・・)。悲しい事に目の前にいるのは、そのムーですら勝つ事は不可能であり、世界最強の軍事力を持つ国だったのだから笑えない。

 

 

 

「通信兵‼︎各艦に下令、「大旗を掲げよ」以上だ」

 

「アイ・サー‼︎」

 

通信兵が各艦に伝達し、程なくして艦側面に巨大な旭日旗が掲げられる。更には総旗艦たる素戔嗚尊には、旭日旗の代わりに両側面に巨大な錦の御旗が掲げられる。

 

『あ、アレは、大日本皇国軍だ‼︎』

 

竜騎士長が絶叫する。思いもしなかった敵が現れ、興奮しているのは言うまでもない。

 

(まさかムーは蛮族国家に兵器を売りつけ、それで代理戦争をするつもりが⁉︎小癪な‼︎)

 

いや、だから違うって。

 

『各騎、導力火炎弾用意‼︎準備出来次第発射せよ‼︎』

 

竜騎士長は「代理戦争」という仮説を一度仕舞い込み、目の前の敵に集中する。部下達も「仇討ちだ‼︎」と意気揚々と発射体勢を指示し、準備に取り掛かる。しかしそんな事を許される筈もなく、艦隊司令が号令を掛ける。

 

「全艦対空戦闘配置‼︎主砲射撃準備、時雨弾装填‼︎目標、敵ワイバーン部隊‼︎」

 

命令がどんどん伝達されていき、狙える位置にある砲に時雨弾が装填されていく。

 

「方位、045。仰角25.6度。撃ち方よーい‼︎」

 

「用意完了まで3、2、1。発射準備よし‼︎」

 

「全砲門開け。てぇ‼︎」

 

艦隊司令に合わせ、砲術員が発射のトリガーを引く。その瞬間、主砲が轟音と共に一斉射する。

 

 

ドゴォォォォォォン

 

 

その音たるや、雷鳴の如し。竜騎士隊も余りの轟音に驚き、ワイバーン達も暴れ出す。それを宥めようとした瞬間、全員が意識を失った。時雨弾とは設定集でも書いていたが、対空専用の砲弾である。砲弾の中に小型対空ミサイルが搭載されており、目標手前で起爆し子弾のミサイルが敵航空機に襲いかかるのである。そのミサイルが厄介で飛行時間がクソ短い代わりに、強い破壊力を有している。その為、本来で有れば一発で現用機10機以上を叩き落とせる性能を持っている。因みに最高記録は、一発で驚異の37機である。

今回はそんなとんでもない砲弾を、合計で119発発射されている。避ける事などワープでもしないと不可能であるし、何より竜騎士隊はそもそも何が起きたのかを知る事なく消し飛ぶ。ワイバーンを宥める為に見た手綱やワイバーンの体が最後に見た景色となり、死んだ事すら理解できずに逝ったのだった。

 

「目標消失、戦闘終了」

 

「マイラス、何が起きたかわかるか?」

 

「いや、ただ何かが爆発した事以外は分からん。ただ、それ以外で一つ分かった事がある」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

「「大日本皇国を敵に回したら、国一つなんて簡単に消し飛ぶ」」

 

マイラスとラッサンは完璧に理解した。さっきまでは、まだ何処か心の奥底で「日本に勝てるやも知れない。何が何でも弱点を見つけてやる」と考えていたが、この砲撃を見てそんな考えは根底から瓦解した。本能、頭、心の全てで「大日本皇国はヤバい」と言うのを嫌でも理解させられたのである。

 

 

 

 

 

*1
早期警戒機の事。Airborne Early Warning(早期警戒管制)の頭文字から来ている。エースコンバットシリーズではお馴染みのAWACS、例えば7のロングキャスターとかバンドック、4のスカイアイ、5のオーカ・ニエーバ等と意味は大体同じ。実を言うとこの二つの線引きは曖昧であり、一般的には乗員が多く、管制処理能力がより高いものがAWACSと呼ばれる。




それではアンケートの内容について説明させて頂きます。この作品を書いていて「皇国海軍の艦って漢字が多くて見にくくね」と思いました。例えば「総旗艦素戔嗚尊」とかって、漢字多くて見にくいですよね。他の国の艦、例えば「戦列艦バウアー」とかなら見やすいんですけど、皇国の艦はどうしても見辛く思います。そこで今回の話で試験的に何ですが、艦名の所に「」をつけて見ました。今の所は総旗艦だとか戦艦だとか、艦級や艦名が繋がっている場合でセリフ以外で使っています。これをどうするべきかのアンケートを取りたいと思いますので、ご協力をお願いします。(特に期間等は決めておりません)
何かご不明な点がございましたら、コメントの方で返答させて頂きます。


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第十二話フェン王国決戦 後編

先の海戦より3時間後 フェン王国近海

ここには現在、パーパルディアの誇る正規軍が展開していた。日本軍の事前情報では精々数十隻しか残っていない計算なのだが、その艦隊は先行部隊であり本隊は先程到着したのである。その数、200隻以上。しかもその殆どがフィシャヌス級100門級戦列艦であり、更には最新鋭のフェルデナンテ級200門級戦列艦が計8隻組み込まれているのである。

まあ日本軍からすれば、例え最新鋭のフェルデナンテ級を一万隻揃えようが、百万隻揃えようが、唯の案山子か憂さ晴らしのサンドバッグに他ならない。

 

「やはり我が皇国の戦列艦はいつ見ても美しい。戦列艦こそ男の浪漫であり、至高の船舶だ。そうは思わんか?」

 

老齢であるが、歴戦の猛者でパーパルディアの誇る将軍の一人、シウスが副官のダウダに尋ねる。

 

「えぇ。特にこのフェルデナンテ級は素晴らしく思います。こんな艦は、他の列強ですら圧倒するでしょう。文明圏外国の民に見せよう物なら、もしかすると神として崇められるやも知れませぬ。それにこの艦隊であれば、上位列強のムーやミシリアル帝国すらも討ち破れる事でしょう」

 

ダウダが熱く語っているが、シウスは上位列強の部分を疑問に思っていた。

 

(本当に勝てるのか?彼の二カ国は、鋼鉄の船を持つと聞く。我が海軍の新鋭艦も装甲を持ってはいるが、その装甲もあくまで後付けの様な物。最初から鋼鉄で作った艦には負ける。

それに搭載している兵装も「回転砲塔」なる兵装を搭載し、砲門数こそ我らが優っているが、その命中精度や威力、果ては装填速度すら我が方の惨敗だと言うのだが)

 

経験豊富な指揮官だけあって、目の付け所が違う。現実や情報を客観的に分析し、しっかりと物事を考えている。

 

「所でダウダよ。今回の敵である大日本皇国とやらについて、君はどう思う?」

 

「大日本皇国?皇国を名乗る蛮族国家ですよ。ロウリア程度は滅ぼせる様ですが、我が皇国の敵ではありません」

 

「そうか」

 

しかしシウスはある情報を持っていたのである。その情報とは「大日本皇国は鋼鉄の地竜と鋼鉄の飛竜を操り、兵士達は空を舞い、姿を消し、謎の二足歩行の使い魔や謎の魔導を操る」という情報である。まるでお伽話ではあるが、これはシウスが個人的に交流のある信頼できる商人達が言っていた事であり、中には人伝いに聞いた者も居たが、実際に見た者も居たのである。

 

(もしこの話が本当だとすれば、大日本皇国は神聖ミシリアル帝国をも上回るやもしれぬ。そうなれば、我が艦隊とてどれだけ持つか)

 

「敵艦発見‼︎距離、約20km‼︎何だアレは.......」

 

「見張り、規模は⁉︎」

 

ダウダが見張りの兵に怒鳴る。

 

「規模は見た事も無い巨大艦、推測1000m以上の巨大艦一隻です‼︎」

 

「1kmだと⁉︎ふざけているのか‼︎」

 

「ふざけてなど居ません‼︎本当に1000mは確実にあるんです‼︎」

 

シウスはこの報告で悟ったのだった。商人達が言っていた情報は本当であり、この艦隊は蹂躙されるのみだと言うことに。

 

 

 

超戦艦「素戔嗚尊」艦橋

「全艦に伝達‼︎各艦一斉回頭、砲雷撃戦よーい‼︎」

 

「全艦一斉回頭、旗艦に続かれたし」

「取り舵90°」

「取り舵90、ヨーソロー」

「砲塔旋回、直接照準にて敵艦を叩く。方位145、仰角14°、弾種榴弾。砲撃よーい‼︎」

 

艦隊司令の命令に従い、大和型各艦も行動を開始する。それに並行して水兵達が慌ただしく動き、砲塔が敵艦を指向していく。

 

「いよいよ戦艦対戦艦の砲撃か。これは絵になるぞ」

 

技術士官でもあり、兵器オタクでもあるマイラスが目を輝かせる。一方ラッサンは綺麗な一斉回頭をしていく戦艦に、その高い練度と確かな技術がある事に感心していた。

 

 

 

 

「不味い‼︎砲撃来るぞー‼︎衝撃に備えぇぇぇ!!!!」

 

一方でパーパルディア側は、見た事もない大砲に睨まれて絶賛大パニック中である。応戦しようにも距離が離れすぎていて届かない為、兵士達は艦内を逃げ惑う他ない。

 

「おい光ったぞ‼︎」

 

水兵の誰かが言った瞬間

 

 

ドゴォォォォォォン!!!!

 

 

耳がイカれる程の轟音と、巨大な水柱が至る所に上がる。一番小さい物ですら戦列艦を5隻は空高く舞い上がり、一番大きい物だともう集計不可能な程な数が文字通り吹き飛んだ。

 

「将軍‼︎シウス将軍‼︎ご無事ですか⁉︎」

 

「あ、あぁ。大丈夫だ。ダウダよ、被害を報告せよ。ダウダ?ダウ、.......」

 

そこには自分の副官であり、数々の戦場を共にした戦友の変わり果てた姿があった。運が悪い事にさっきの砲撃で吹き飛んだ戦列艦の魔導砲が、上から降ってきて下半身を潰していたのである。

 

「誰か‼︎被害を、被害を報告せよ‼︎」

 

そう言うと士官クラスの水兵が駆け寄り、その場に跪いて報告する。

 

「申し上げます‼︎我が艦隊は敵の攻撃により、壊滅。現在マトモに浮いているのは本艦と、他3隻のみです。その浮いている船ですら火災や浸水、若しくは残骸が降り注ぎ見るも無惨な姿です。復旧は絶望的でしょう」

 

その報告を聞くと、余りの被害に力が抜ける。そりゃあ200隻以上の大艦隊が、たった1回の砲撃で4隻まで減ったのだから無理もない。

 

「我々は、もしかすると神の逆鱗に触れてしまったのやも知れぬ。水兵、貴様の名は?」

 

「ハッ。第58番砲、砲長、ヤガーラです」

 

「ヤガーラ君、直ぐに総員退船命令を出してくれ」

 

「ハッ‼︎総員退去ー‼︎総員退去ー‼︎」

 

ヤガーラが艦中を叫びながら走る。それを聞いた別の水兵がまた叫び、ドンドン広まっていく。他の艦にも手旗信号や旗で「総員退船」の命令が伝心されていく。

 

(最早、これまでか。敗戦の将として、歴史に名を刻むのか。だが悔いはない。負けはしたが、あんな美しい戦列艦に討たれるのならば、誇りにすら思う)

 

「迷惑を掛けたなぁ。大丈夫、私はいつまでも共に居るぞ」

 

そう言うと乗艦の甲板を撫でて、パーパルディア皇国の国旗と海軍旗を取って海に飛び込む。

 

 

 

「終わったな。敵ながら、少し可哀想に思えるわい。だが、これが戦争だったな」

 

「ですな。救助隊は出しますか?」

 

「無論だ。揚陸艦隊に連絡し、護衛の駆逐艦、それから大和型も4隻をここに残す様に伝えろ。戦艦は進むが、救命筏とヘリコプターはここに残せ」

 

「アイ・サー‼︎」

 

この命令は各艦にも伝達され、艦隊はニシノミヤコを目指して進む。進んでいる中、観戦武官である二人は総旗艦の素戔嗚尊から別の艦へと移ろうとしていた。だがしかし、この移り方に問題があったのである。

 

 

 

素戔嗚尊甲板

「こ、これに乗るんですかぁぁぁ!!!???」

 

「はい」

 

「いやいや、どう考えても危ないでしょ!?下手したら海水浴ですよコレ!!」

 

「安全です」

 

マイラスとラッサンが絶叫するのも無理はない。なんと移り方が「この椅子に座って、航行しながら空中ブランコみたく彼方に移って貰います」という中々に狂気じみた方法だったのである。

 

「さあ行ってらっしゃい!!」

 

無理矢理座らせて、有無も言わさずに空中ブランコをして貰う。

 

「ギャァァァァァァァァァ!!!降ろしてくれぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

最初に捕まったのはマイラスであり、大絶叫する。続くラッサンも同じ様に大絶叫し、降り立った突撃重装巡洋艦「遠賀」の甲板で目をまわしていた。因みに最後に乗り移った少佐に、二人して恨めしそうにしてたのは言うまでもない。

 

「所で、この艦は一体どんな戦い方をするのですか?」

 

「それは見てからのお楽しみですね」

 

 

 

ニシノミヤコ海岸近く

「これより突撃を開始する。各艦、突撃隊系に移行せよ‼︎」

 

司令の声が響き、様々な準備がなされていく。

 

「全艦突撃隊形、誘導赤外線掃射開始」

 

「それでは我が海軍独自の戦法の一つ、「装甲突撃戦」についてご説明します。この戦法は海軍の保有する突撃艦が行う戦法で、要約しますと「速力と機動力を生かして敵の懐に飛び込み、高速かつ正確に目標の弱点を攻撃する」という物です」

 

「それだと敵の反撃で味方は何十隻もやられ、人的にも物資的にも被害と合わないのでは?」

 

マイラスの意見も尤もである。確かにタダの突撃では、下手したら返り討ち、良くても甚大な被害が出るのは間違いない。

 

「確かにその通りです。ですので、突撃艦な訳です。この突撃艦というのは、並大抵の砲撃ではダメージが入らない装甲を持っています。恐らく沈めるとなると、戦艦の主砲、それも大和レベルの砲撃が必要となります。

更に機動力も高く、具体的には超音速ミサイルというマッハ5.0以上の空飛ぶ兵器を回避可能です。速力も本艦なら最大で70ノットを叩き出します。当てるのも難しく、当たった所で意味をなさない。その条件を満たしてこその突撃戦法なのです」

 

「素戔嗚尊も中々に化け物な性能でしたが、此方も負けず劣らずですね」

 

マイラスのコメントに、ラッサンも隣で頷く。

 

「少佐、そろそろ突入するぞ。お客さん方にシートベルトを着用させてくれ」

 

「アイ・サー」

 

「それではお二人とも、此方の座席にお座りください」

 

言われた通りに座ると、椅子が急に変形して立ったままで固定される。

 

「今から揺れますから、船酔い対策ですよ」

 

混乱するのを見越して、質問される前に回答しておく。そうこうしている間に、艦隊は一気に最大推力で突撃を敢行する。

 

 

パーパルディア皇国海軍 輸送船「ゴメード」

「船長‼︎敵艦が物凄い速さで突っ込んできますー!!!」

 

「護衛が蹴散らしてくれるさ」

 

護衛の戦列艦が魔導砲を撃つが、勿論効くわけない。それどころか凹みすら与えられていない。

 

「んな豆鉄砲が効くか‼︎主砲、撃ちまくれ‼︎」

 

まずは先頭の遠賀が発砲し、一番手前の船が蜂の巣となる。日本艦隊はそのまま突撃し、真ん中の突撃艦が主砲を雨の様に降らせて材木片に加工していく。

 

「これが突撃戦法になります。突撃隊は重装巡洋艦を先頭と後部に一隻ずつ配置して、真ん中に4隻の突撃艦を配置します。これにはそれぞれ名称があり、先頭は「舵取り」、突撃艦は「狩り方衆」、後部は「後追い」と言います。一度突撃した後、その場で旋回し舵取りは後追いに、後追いは舵取りとなって、また突撃します」

 

そうこうしている間に艦が大きく右に揺れる。ちょうど今、旋回して再攻撃の準備中なのである。

 

 

「また来ます!!船長、どうしますか!?」

 

「て、撤退しろ‼︎この魔の海域から逃げるのだ!!!!」

 

さっきの突撃で護衛の戦列艦10隻が沈没し、残るは武装という武装のついていない輸送船、58隻のみとなったのである。

しかも輸送船の為、速力も低く直ぐに追いつかれてしまう。

 

「そぉら、逃げる奴には砲弾をプレゼントだ‼︎かかれぇ!!!!!」

 

日本艦隊は何度も攻撃を仕掛け、ドンドン殲滅していく。最早突撃戦隊からしてみれば「ちょっと豪華な的」程度の代物であり、パーパルディアの輸送隊には一人の生存者も居なかったのである。

 

「旗艦に連絡。「制海権は我が手中に有り」以上だ」

 

この連絡を受けると、揚陸艦隊が進出。ニシノミヤコの海岸に上陸を敢行する。更に海上からも超戦艦「素戔嗚尊」を始めとする戦艦からの支援砲撃と、素戔嗚尊搭載の艦載機による近接航空支援によってニシノミヤコの基地は完全に破壊されたのであった。

ではここで、時をフェン王国近海での海戦の辺りに戻そう。

 

 

 

フェン王国近海での海戦が始まった頃 ゴトク平野日本軍陣地

「村今閣下、偵察班からの報告です。現在パーパルディア皇国軍はゴトク平野入り口に入っており、進行速度は遅いながらも此処を目指しているのとの事です」

 

「ご苦労だったな。あ、煎餅いるか?」

 

「ハッ‼︎頂戴いたします」

 

この村今は、前回も書いた通り部下を大事にする人間である。その為、何か報告に来る兵士が居て、もし自分が何か食べていたら分けたりしてくれるのだ。緑茶好きである為、大体煎餅や団子などの和菓子が多い。因みに貰えるのが分かっているので、兵士達は報告に行くのに必死だったりする。

 

「さてと。じゃあ、我々も行こうか」

 

村今が軍刀を手にし立ち上がると、幕僚達も立ち上がり後に続く。テントから出ると、既に兵士達が並んでおり村今らを敬礼で出迎える。

 

「さあ諸君、いよいよ戦いの時だ。日頃の猛訓練の成果を、存分に出してほしい。パーパルディアの装備では、恐らく我々にダメージを与える事は出来ないだろう。だが、だからと言って油断はするな。いついかなる時も我が日本民族の誇りと大和魂にかけて、武士道精神を持って敵を討ち取れ。

それから敵の降伏手段なのだが、白旗を掲げる様に話を通してあると神谷長官が言っていた。だから白旗を掲げていた場合は、戦闘行動を即座に中止しろ。それ以外は全て無視(・・・・)しろ。以上だ」

 

最後の言葉が言われると、敬礼し士官や下士官が命令を伝達していく。

 

「ヘリコプター、離陸準備。軍団の警戒にあたれ」

「第6戦車師団、前へ!!」

「重装歩兵隊、搭乗急げ」

 

「将軍、我々も行きましょう」

 

「あぁ」

 

幕僚の一人が声を掛け、47式指揮通信車に乗り込む。

 

「全員乗られました?」

 

「あぁ、私で最後だ。行ってくれ」

 

「はい。えぇ、この装甲車はゴトク平野、前線行きです。お乗り間違えない様、ご注意ください。発車します」

 

どこぞのバス運転手みたいな事を言う運転手に、幕僚一同大爆笑である。何故かアナウンスのイントネーションは電車、なのに言ってる事はバスという謎の事に村今将軍も腹抱えて笑っている。

 

「運転手、良いゾォ。少し気が紛れたよ」

 

幕僚の一人がそう誉める。ただ「良いゾォ」の言い方が、完全に某七つのボール集めてる、主人公が実質無職のパラガスだった為、また大笑いする。そんな平和な空気の中、戦場へと進むのであった。

 

 

 

ゴトク平野中間地点

パーパルディア皇国陸戦隊の15,000名はこのゴトク平野に至り、布陣を整えていた。この平原を抜けると首都アマノキに至る。この場所では、フェン王国軍が死に物狂いになって突進してくる事が想定されていた。

しかし15,000名の歩兵に加え、最強(笑)の地竜、更にはワイバーンロードまでいる事から来る絶対の自信。ドルボはいやらしい笑みを浮かべる。

 

「フフフフ。これでいかなる戦力が来ようとも、負けるはずがない!!」

 

一呼吸おいて、命令を下す。

 

「よし、進軍するぞ‼︎」

 

上空にワイバーンロードが40騎天空に舞い上がり、進軍進路上の偵察を開始する。横1列に並んだ地竜を先頭に、隊は進む。

 

「首都アマノキを落したら、そこの人間はやりたいようにするよう兵に伝えろ!!」

 

「「「「「「「ウォォォォ!!!」」」」」」

 

兵士達はピーーとかピーーな事を想像して、色々勃ったりしていた。

 

「今回も、必ず皇国が勝つ!!」

 

所がその自信は、いきなり崩壊する事になる。

どう言う訳か先行していたワイバーンロードが突如として爆発、肉片が舞い落ちる。

 

「何が起きた!!??」

 

その瞬間、上空に耳をつんざく様な爆音を轟かせて、奇妙な形をしたワイバーンが何十騎と通過する。その翼には、太陽の赤丸が輝いていた。

 

「だ、大日本皇国軍だ!!」

 

今度は先頭の歩兵集団の上に、さっきとは別タイプのワイバーンが現れ黒い何かを投下して飛び去る。その黒い何かは、地面に当たるや否や爆発して歩兵を吹き飛ばす。恐怖によるパニックが兵士にも伝染し、混乱が一気に生じる。

 

「狼狽えるな。海軍に支援要請をしろ。今回我が軍は、最新の竜母艦隊を連れているではないか」

 

「ハッ」

 

そう言って魔信を使うが、どう言う訳か連絡がつかない。それもその筈、もうこの頃には海戦は終結しており、お目当ての竜母は海に沈んでるか、木片となって海を漂っている。

 

「連絡つきません!!」

 

「どうなっているのだ.......」

 

ここでニシノミヤコ基地からの魔信が入る。

 

「こちら侵攻軍、はい。はい?何ですって!?」

 

「どうした?」

 

「りゅ、竜母艦隊が、大日本皇国軍の攻撃を受け、全滅。シウス将軍以下、将兵達の安否は誰一人として分かっていない、と.......」

 

この報告を受けた瞬間の将軍の顔は、何とも筆舌し難い顔となっていた。2種類のワイバーン、もといF9心神とA10彗星の攻撃は凌いで安心していたものの、この報告により敵がフェン王国から大日本皇国へと変わった事により、一気に希望の光が薄まったのでる。

 

「は、ハハハ。ハハハハハハ!!諸君‼︎きっと竜母艦隊は、攻撃ではなく嵐にあったのだ。そうだ。そうに違いなぁ‼︎あの艦隊が負ける筈もないし、兵士がやられたのも偶々だ。そうだよな?」

 

完全に現実逃避に走る将軍。幕僚達もそれに連れられ、共に現実逃避へと逃げる。

 

「さあ、軍を進めろ‼︎」

 

 

 

『こちらピークォード01、パーパルディア皇国軍は尚も進行中。後5分で、砲の射程に入ります』

 

OH8風磨からの通報により、待機していた自走砲部隊に命令が下る。

 

 

「師団長、砲撃命令が来ました」

 

「よーし、命令に従い砲撃を行う。諸元入力始めろ」

 

「ハッ‼︎」

 

ピークォードからの情報を元に諸元が入力され、それに合わせて44式230mm自走砲、130mm榴弾砲、53式多連装ロケット砲が照準を定める。

 

「撃ち方用意よし」

 

「撃てぇ‼︎」

 

ドドン!!

シュワァァァァ

 

一斉砲撃で、砲弾とロケットが撃ち出される。ピークォードからの情報、更には衛星を用いたリアルタイム戦術リンクにより寸分の狂いなく降り注ぐ。

この砲撃により歩兵1934名と地竜が9頭が排除され、先の爆撃も含めると合計歩兵5081名、騎兵435名、地竜17頭、魔導砲31門が排除されたのであった。

 

『こちらピークォード、戦果は大戦果、大戦果なり』

 

この報を受けると、すかさず次の指令をだす。今度の司令は、戦車と歩兵の突撃である。

 

 

「行くぞ!!全車前へ!!」

 

ギアがNからDに入り、陸の猛者達が動き出す。今回連れてきた第5〜7戦車師団は、元々東北地方沿岸部の守備を担当していた部隊である。つまり配備してる車両が「陸上戦艦」の異名を持つ46式戦車と、その随伴用に開発された34式戦車改なのである。

 

「敵地竜来ます‼︎」

 

「けん引式魔導砲であの化け物を仕留めろ!!」

 

けん引させてきた魔導砲で最前列の鉄竜、46式戦車に狙いを定める。

 

「一番近い敵に集中砲火!!!!」

 

ドドドドドーン

 

複数の魔導砲の弾が最前にいた46式戦車に降り注ぐ。大地が削れ、土煙が立ち上る。奇跡的に49門の魔導砲のうち20発が46式戦車に命中し、煙に包まれる。

 

「敵、鉄竜に20発命中!!!」

 

「フハハハハハ!!調子に乗りおって!!他の鉄竜も片付けるろ!!」

 

魔導砲着弾の爆炎の中から命中したはずの鉄竜が何事も無かったかのように現れ、走り続ける。

 

「ま、まさか、全く効いていないのか!!?」

 

「そんな.......そんな馬鹿な!!」

 

そりゃあトマホークミサイル3発位なら余裕で耐えれる装甲を持った戦車に、たかが花火程度にちょっと爆発する砲弾が勝てる訳ない。

 

「奴らに「礼儀」ってのを教えてやれ。撃て!!」

 

「待ってました!!」

 

皇国軍の反撃が始まる。まずは最前列に居た魔導砲と、牽引していた地竜である。勿論全弾命中し、ついでに砲弾にも引火して大爆発を起こす。かろうじて2、3門残った為、反撃に出るパ皇軍。しかし

 

「魔導砲よーい、撃」

 

「撃て」と言おうとした瞬間に吹き飛ぶ。まさか反撃がここまで速いとは思わず、呆気に取られる兵士達。更に追い討ちを掛ける出来事が起きたのだ。何と、鉄竜が引いたのである。

 

 

「一体何が目的だ?」

 

愛馬の上から様子を見守っていた将軍が首を傾げる。その少し後、さっきのワイバーンの様な音が聞こえる。しかし今度は甲高いが、少し太く感じる。空を見ると巨大な機体が何かを落としたのであった。

 

ブモォォォォォォ!!

 

その正体は牛の様な鳴き声を上げる、二足歩行の地竜であった。

 

「化け物だ!!」

「ぐぼっ」

「誰か‼︎潰され」

「来るなぁ!!来るなぁ!!」

 

WA2月光のイ、ロ、ハ、ニの全型の登場により大混乱に陥るパ皇軍。地竜の火炎放射やらを使うが、勿論効く訳ない。更にステルス迷彩で密かに忍び寄っていた歩兵20連隊、重装歩兵14連隊の数の暴力により殲滅を開始する。

 

「何でだ‼︎何で銃が効かないんだ‼︎」

「化け物だ‼︎」

 

そりゃあ最低でも7.62mmクラス、最高で12.7mm弾にも耐えられる装甲を持っているのにマスケットでは敵わない。

 

「撃ちまくれ」

「おうよ‼︎」

「そーら、弾丸の押し売りだ!!」

「ぶっ飛ばす‼︎」

 

ある者は頭を撃ち抜かれ、ある者は肉片に加工される。またある者はハンマーで空高く打ち上げられ、体中が曲がってはいけない方向に曲がって死んだり楽な死に方すらさせて貰えず、ただただ粛々と殲滅されていく。

 

「将軍!!最早これまでです!!一度ニシノミヤコに戻り、軍を立て直してください‼︎」

 

前線で指揮を取っていた幕僚の一人が血相を変えて戻ってくる。

 

「わかった。私は一度逃げて敵をやり過ごすから、お前達は降伏しろ。お前達は殺されるまで時間がある筈だから、その間に軍を率いて戻ってくる。後は収容施設ごと敵を根絶やしにするぞ」

 

この命令に従い、将軍は生き残った騎兵数名を連れてニシノミヤコに撤退した。一方で幕僚達は降伏の合図の旗を左向きに回し始めた(・・・・・・・・・・・)のである。

 

 

「おい、何をやってんだ?」

 

AH32薩摩に乗っていたパイロットが、その奇妙な動作を見つける。

 

「降伏の合図ですかね?どうします?」

 

「曹長、閣下の言葉を思い出せ。確か「白旗以外の降伏方法は無視しろ」だったな。つまりアレは降伏の合図なのかもしれないが、我々の提示した方法ではない。もしかしたら何かしらの魔術の類やもしれない。だから、殺す‼︎」

 

パイロットは操縦桿を握りしめ、ロケット弾のトリガーを引く。ロケット弾は発射され、兵士を吹き飛ばす。

 

「恨むなよ。恨むなら、俺の弟を殺した祖国を恨みな」

 

このパイロット、実を言うと処刑された日本人被害者の遺族だったのである。

 

「我々は降伏したのに.......。蛮族めぇぇぇぇぇ!!!!」

 

幕僚の一人であった名も無き一人の男の絶叫は、ロケット弾の炸裂音と兵士達の悲鳴により掻き消され、地獄の釜の底へと落ちていくのだった。

 

 

 

ゴトク平野の戦いより1時間後 ニシノミヤコ近郊

パカラパカラパカラパカラパカラ

 

一方で逃げ延びていた将軍はと言うと、無事にニシノミヤコまで逃げ切ろうとしていた。

 

「おお‼︎ニシノミヤコだ!!!」

 

将軍は歓喜と安堵の笑みを浮かべる。しかしそこにはもう、味方の兵士なんて居ないのである。到着する少し前、海軍陸戦隊による強襲上陸と超戦艦「素戔嗚尊」による砲撃でパーパルディアの軍勢は完全に殲滅されており、輸送船団も突撃戦隊によって海の墓標と化している。

 

「アレか。村今閣下の言う、敵将軍というのは」

 

「らしい。部下を置いて逃げるなんて外道には、死を持って罪を償って貰おう」

 

ニシノミヤコのパーパルディア皇国侵略軍のあった建物の廃墟から、二人の兵士が将軍を見ていた。スナイパーとスポッターである。48式狙撃銃に12.7mm体内炸裂弾を装填し、スライドを引く。

 

「aim」

 

「OK」

 

「fire」

 

ダァン‼︎

 

放たれた弾丸は確実に将軍の脳天に当たり、体内で炸裂して脳が消し飛ぶ。

 

「First shot hit。head shot kill」

 

「後は下の連中に任せよう」

 

将軍が撃たれて周囲の騎士達がアタフタしていると、今度は建物の下にいた一個分隊が気化弾を装填した29式擲弾銃を一斉射する。護衛の騎士は何が起きたかわからないまま、死んでいった仲間の元へと旅立ったのであった。

斯くしてパーパルディア皇国のフェン王国侵攻は、侵攻軍の全てが殲滅される結果になったのであった。

 

 

 

 



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第十三話新たなる戦いの前夜

フェン王国決戦の翌日、大日本皇国 外務省庁舎

「お待ちしておりました、ルミエス様」

 

川山がルミエスを出迎える。

 

「お待たせしました。それで本日はどの様なご用件でしょう?」

 

「要件を言いたい所なんですが、何せ役者が揃って」

 

「すまん遅れた‼︎」

 

ドアをぶち破る勢いで神谷が入ってくる。

 

「今揃いました。というか浩三、ぶっ壊したら弁償しろよ?」

 

「HAHAHA、日本製はそんな簡単に壊れんよ‼︎」

 

そう言いながら扉を軽く叩く。その瞬間、ギギギという鈍い音と共に扉が倒れる。

 

「「「.......」」」

 

「さて、邪魔した」

「待てい‼︎」

 

逃亡を図ろうとする神谷の肩を、川山がガッチリ抑える。

 

「扉」

 

「壊れたね」

 

「弁償」

 

「いやだ」

 

「弁償!」

 

「いや」

「べ・ん・しょ・う」

 

「はい.......」

 

笑顔なのに目が笑ってない顔に恐怖し、「はい」と言ってしまう。一方ルミエスは横で笑っていた。

 

「フフフ、神谷様?幾らなんでも扉を壊すのはやりすぎですよ?」

 

「いやぁ、勢い余りまして。では、私はこれ」

「オイゴラ」

 

「そんな怖い顔すんなって。大丈夫、帰らねーよ」

 

盛大なため息を吐きながら肩からを手を退け、取り敢えず一段落つく。流石に扉が無いわけにもいかないので、隣の部屋に場所を変えて話を始める。

 

「さて、ルミエス王女。今日のニュース、ご覧になられましたか?」

 

川山の問いに頷く。

 

「はい。フェン王国に展開していたパーパルディア皇国軍を撃退し日本軍の被害はゼロ、という話ですね」

 

「えぇ。殿下には短いながらも我が国に滞在して、少しは我が国の国力を実感して頂いた事でしょう。それを見込んで、一つ頼みがあるのです」

 

「頼み、ですか?」

 

「我が大日本皇国にて、「アルタラス王国正統政府」の樹立を宣言して頂きたいのです」

 

「!?」

 

余りに現実離れした提案に理解が追いつかない。正統政府を樹立するという事は、パーパルディア皇国へ反旗を翻す訳であり、普通の文明圏外国では正気の沙汰ではない。

しかしここは文明圏外国でありながら、第一文明圏をも凌ぐ国力を持った国。希望はあるが、やはり常識が邪魔して不安も大いに出てくる。

 

「それは日本が支援してくださるのですか?」

 

「無論です。外交面、資金面、軍事面、あらゆる方向の支援を出来る限り致します」

 

神谷の答えに希望が膨らむ。そして自分が日本に来た目的を思い出した事で、不安を完全に抑え込む。

 

「やっと、私の悲願を叶えられるのですね」

 

「えぇ。それに我々はアルタラス王国を、二つの意味で最重要地域として捉えています。まず一つは独立のモデルケースです。我が国は近いうちにパーパルディア皇国への領土へ侵攻するでしょう。そうなると恐らく、属領での反乱が予想されます。その際に独立を勝ち取るまでの目安として、アルタラス王国を解放したいのです。もう一つは軍事面ですので、浩三に説明して貰いましょう。頼む」

 

「はいよ。二つ目の意味ですが、これはまだ確認中なので絶対とは言い切れないのですが、我々はアルタラス王国に大規模航空基地の建設を計画しているのです。まあ建設と言っても、ムーの作った飛行場を改造して間借りするだけなんですけどね。この基地にA10彗星の攻撃隊や制空隊を進出させ、前線基地として運用します。これによりパーパルディア皇国の領土、領海を全て射程範囲に収める事が可能であり、今後の作戦が立て易くなる訳です」

 

「お話はわかりました。どうかアルタラスを救ってください」

 

深々と頭を下げるルミエス。

 

「我々にお任せください。それでは、詳しい内容はまた後日にお話しします。お疲れ様でした」

 

会議は終わり神谷はアルタラス王国の奪還作戦に向けて作戦を立て始め、川山はルミエス王女と一色とも協力して正統政府樹立への準備を進めていた。

 

 

 

フェン王国決戦より四日後、パーパルディア皇国皇都エストシラント パラディス城 

「皇帝の間」と呼ばれる執務室には、レミールが報告に訪れていた。勿論内容は、先の決戦に関することである。皇帝ルディアスは、レミールから渡された報告書の第一報を読んでいる。読み進めて行くうちに、見るからに顔が真っ赤になっていき怒ってるのが一眼でわかる。

 

「以上が、フェン王国での戦いの結果になります。ご覧の通り、皇軍はフェン王国の攻略に失敗しました。それに彼の国は交渉が決裂するや否や、外交の場を血で赤く染める様な国です。このまま彼の国をのさばらせておけば、皇国に害を為すことは明白です。よって、彼の国に対する殲滅戦の宣言の許可をいただきに参りました。陛下、ご決断を」

 

「今回の敗北、アルデは驕ったか。奴の処遇についても考えねばならぬな。だがその前に、まずはこの大日本皇国とかいう、ふざけた蛮族共についてだ。たかが文明圏外の蛮族如きが「皇国」を名乗り、更には栄えある皇国が、列強の一角たる皇国が、これほどまでに舐められるとはな。私は非常に不愉快だ。大日本皇国を許すわけにはいかぬ。

レミール、流石だな。お前の言う通りだったよ。私が甘かったようだ。やはり、このようなふざけた蛮族は殲滅するに限る。我が皇国に逆らった者がどうなるか、世界に知らしめねばならぬ。今、パーパルディア皇国皇帝、ルディアスの名において大日本皇国に対する殲滅戦を許可する!!」

 

「御心のままに」

 

散々コメントで「殲滅戦が来るぞ」と書かれていたが、念の為この殲滅戦とは何かを説明しておこう。一般的にはフリードリヒ大王時代のプロイセン軍の戦術論の一つであり、地理的に四方が敵に囲まれていて自国に立て篭って持久戦に持ち込む事が不可能な事から生まれた戦術を指す事が多い。具体的にいうと、軍隊を迅速かつ滑らかに機動させて完膚なきまでに敵を全滅させる戦術である。因みに第二次世界大戦でドイツが得意とした電撃戦の原型ともなった物である。

しかし今回の場合は上記の物よりも、中国がウイグル自治区でやってる「民族浄化」の意味合いが合っている。つまり「日本人を全員ぶっ殺します」という戦争になるのである。史実だとアメリカが西部開拓時代にやってたネイティブアメリカン殲滅とか、欧州の黒人奴隷での辺りを想像して貰いたい。

だがこれは皆もご承知の通り、無限地獄への片道切符である。こんな事をされよう物なら、日本が黙っている訳ない。

 

 

 

翌日、パーパルディア皇国 ムー国大使館

「それにしても、突然のご訪問ですな。レミール殿」

 

この日、レミールはある事を頼みに大使館を訪れていたのである。そのある事とは、ムーからしてみれば無謀な挑戦である。

 

「本日参上したのは、貴国にお願いしたい事とお聞きしたい事があったからです」

 

「ほう。して、その願い事と聞きたい事とはなんでしょう?」

 

「では質問の方からさせて頂きます。貴国は観戦武官を、大日本皇国へ派遣していると聞いたのですが事実ですか?」

 

「事実ですよ」

 

駐在大使であるムーゲがサラリと答える。

 

「何故でしょうか?」

 

「それに関しては守秘命令が本国より出ておりますので、お答えできかねます。しかし勘違いしないで頂きたいのは、貴国との交流を無下にする気は無いという事です。これは断言いたします」

 

「わかりました。では願い事なのですが、これを貴国を経由して大日本皇国へ渡して頂きたいのです」

 

「拝見させて頂きます」

 

そう言うと、渡された封筒の中から書類を取り出す。敢えて此処では内容を語らないが、多分察しは付いているであろう。

 

「本当に宜しいのですね?」

 

「と言いますと?」

 

「これを日本に渡すということは、貴国にも戦火が広がるということですよ?」

 

「まるで我が国が負けるかの様な物言いですね。列強の四位の我が国が、たかが文明圏外国の新興蛮族国家に負けるとでも?」

 

ここでムーゲは、パーパルディアが現実を見れていない事に勘づく。別に止める義理も無いのだが、一応念の為にもう一度聞いてみる。

 

「本当に、本当に宜しいのですね?」

 

「問題ありません」

 

「.......わかりました。では届くまでに約一週間程掛かりますし、返答も恐らく同程度の時間がかかるでしょう。返答が来た場合は此方から連絡致しますが、早くて二週間、大目に見積もって三週間程度でしょう」

 

「わかりました。では、宜しくお願いします」

 

そう言うとレミールは大使館を後にした。レミールが帰るのを見送ると、ムーゲは盛大なため息を吐いた。

 

「にしてもまあ、この国はどうなるんだか。本国に大使館引き上げの要請でも出すかな」

 

大日本皇国の戦力を知っているムーゲは、これからのパーパルディアの行く末を心配していた。別にパーパルディア如きがどうなろうと、ムーゲ自身もムー本国もどうも思わない。しかし大使館の人間としてなら話は別である。大使館に居るという事は、もし日本軍が侵攻してきた時に流れ弾が当たって逝く事もあり得る。そうなっては目も当てられない。しかもこの未来は、ほぼ確定事項な訳で手遅れになる前に手を打たないと、この予想が現実の物となってしまうのである。そんな訳ですぐさま執務室に戻り、本国へ引き上げに関する会議を申し込んだのであった。

 

 

 

一週間後、大日本皇国 首相官邸

この日、川山から一色にある書類が手渡された。その書類とはパーパルディアからの国書である。それを見た瞬間すぐに神谷を呼び出して、三英傑が揃ったのであった。

 

「んで、何があったよ」

 

「これを見りゃ分かる」

 

一色がその書類を渡す。

 

「パーパルディア皇国からか。なんか嫌な予感しかしないんだが。というか、開けたくも読みたくも無いんだが」

 

「大丈夫、その予想は当たっているぞ」

 

川山から聞きたく無かった回答が出た事で、益々開けたく無くなるが意を決して開けたのであった。内容は以下の通り。

 

 

栄えあるパーパルディア皇国は皇帝ルディアスの名において、大日本皇国へ殲滅戦を布告する。この書面がパーパルディア皇国を離れた時点で誉高きパーパルディア皇国軍の総力を上げて大日本皇国を滅亡させる事を宣言する。

これ以降、如何なる交渉の場も設ける事はなく、捕虜に関しては即刻処刑し、たとえ降伏し武装解除したとしても大日本皇国人が世界から根絶されぬ限り、この戦争は続く物とする。

 

 

「.......」

 

読み進めて行くうちに顔は何とも言えない物へとなり、最後は完全な無表情となる。

 

「こうなった以上、もう後戻りは出来ないな」

 

当初、三人はある程度は痛め付けるし、パーパルディア皇国としては消すが、前身の共和国程度には存続させてあげる方向で考えていた。それに本格的に攻撃せずとも戦力を削れば、その内に反乱が各地で起きて内部から瓦解していくのが関の山という予測も立てており、できれば早期講和の道を模索するつもりではあった。

遺族の人間からしてみれば不服かもしれないが、戦争で被害を受けるのは罪も力もない一般人であるのは歴史が証明している。「国はクズでも、国民まで必要以上に殺す必要はない」という考えの下で戦略を練っていた。まあどう足掻いても、一般人の被害をゼロにするのは至難の技である為、ある程度の犠牲はやむなしの考えではあるのだが。

しかしこうも舐められては話は別である。大々的に「民族浄化」を相手国に宣言すると言う事は、最早最大限の侮辱に他ならず、それは国家として、されてはいけない事の一つとも言えるだろう。

 

「なあ健太郎、いや、一色総理。この布告、どうするつもりだ?」

 

「こうも舐められては示しがつかん。奴らは、俺達の与えた最後の慈悲(・・・・・)を無視したばかりか、民族浄化(ジェノサイド)宣言までして来やがった。ここまでされて黙っているのは、それはもう「お人好し」ではなく売国奴のクズ野郎だ。浩三、全責任は俺が取ってやる。パーパルディア皇国を完全に滅ぼせ。前身の共和国ですら、影も残すんじゃねえ。皇帝ルディアス、皇女レミール、それから他の指導者連中も余程の利用価値がない限り殺せ。だがそうだな、降伏や戦意を喪失したりとか、マトモな思考のできる奴は生かしてやれ。忘れちゃいけない。権力に溺れ私利私欲に走り、罪なき人々を食い物に肥えに肥えたクズも殺処分しろ」

 

「元からそのつもりだ」

 

無表情で命令を下す一色に、神谷はドス黒い悪魔の様な笑みを浮かべて答える。

 

「あ、そうだ。川山も戦後処理の時は搾り取れるだけ搾り取って、後はポイしろ。一般人の支援はどうにか考えておくから、その辺は心配しなくていい」

 

「わかっている。肥え太った連中を、強制的にペシャンコに潰してやるさ」

 

逆に川山は一周回って爽やかな笑顔で答える。

 

「おい誰か、御神酒と盃を三つ持ってこい」

 

一色がそう命じると、秘書がすぐに用意してくれた。用意が済むと出ていき、部屋は三人だけとなる。

 

「我ら大日本三英傑、今より復讐の鬼とならん」

「我ら持てる力の全てを用い、悪しきパーパルディアには恐怖と絶望を持って報復とし」

「我ら三人、一振りの巨大な槌となりて、パーパルディアに正義と復讐の鉄槌を下さん」

 

そう言うと、盃を一気に煽って神酒を飲み干す。

 

「もう俺達は天国には行かんだろうが、せめて日本の為に一仕事するぞ」

 

「大丈夫。もし地獄に堕ちよう物なら、閻魔大王ぶっ殺して無理矢理天国に入り込めばいいさ」

 

一色の何処か諦めた言葉に、神谷が笑いながら答える。川山もそれに便乗して「その前に俺が交渉してやるさ」と言った。そうするとどう言う訳か、笑いが出てくる。三人は遠い昔の、まだ何も知らなかった子供の頃を思い出すのであった。

 

 

 

翌日、大日本皇国 統合参謀本部執務室

「さーて、どう料理してくれようか。慈悲も無駄にしてくれた事だし、最大限ぶっ潰してやるからなぁ」

 

ではここで、散々出て来ている「慈悲」について解説しよう。神谷達が与えた慈悲というのは、第二章第九話「大日本皇国の解答」において起きた一連の騒動の事である。もしかしたら知らない人や忘れてしまった人も居るかもしれないので、簡単に何が起きたか説明しよう。

・大日本皇国がパーパルディア皇国の国書の返答を渡す。

 

・やっぱキレて、まさかの使いである神谷と川山を殺そうとする暴挙に出る。

 

・神谷が念の為に連れて来ていた特殊部隊「義経」の隊員と共に殲滅する。

 

・更にキレて皇宮内の警備兵を動員してくる。

 

・勿論応戦し、皇宮内の警備兵を殲滅しヘリコプターで脱出。

 

・ワイバーンロード18騎に逃げる途中に追われる。

 

・艦載機で2騎を除いて殲滅し、2騎には敢えて逃げ込んだ先である白鯨と黒鯨の姿を見せる。

 

という物である。あ、因みに2騎の生き残りは通信が終わった辺りを見計らって、肉片に加工済みである。

さて、ここまでで一つ普通じゃあり得ない点がある事にお気付きであろうか?皇宮があるのはパーパルディアの首都、日本で言う東京であり、そこに敵国の航空機が白昼堂々飛んできて、人員を回収し悠々と飛び去ったのである。更には皇宮の警備兵というのは精鋭の近衛兵であり、全員が全員近衛兵でないにしろ、一応警備が厳重かつ精兵の集まりである事には変わりないのだが、その悉くが殲滅されている。ついでに追尾したワイバーンロード18騎も、その全てが倒されている。

もうお分かりだろうか?これらは全て日本の力を暗ではあるが示している(・・・・・・・・・・・・・・・・)のである。文明圏外国である日本がここまでしていると言う事は、それだけの力は多かれ少なかれあると言う事であり、殺された兵士の死体や惨劇の場となった皇宮を調べれば、どの程度の科学力を持っているかは直ぐに分かる。つまりあの行動は全て、パーパルディアへの最後の警告でもあったのである。もし正常な判断が出来ていれば日本に関する調査を行い、その過程で勝つ事は不可能である事に気付き、あの手この手で譲歩や講和の道を見出す筈である。

しかしパーパルディアはそれをしなかったのである。それどころか、その報告の殆どが「観測者の精神が可笑しかった。つまり幻覚である」とか何とか謎の理由をつけて目を逸らし、上には適当な綺麗事や嘘を並べてご機嫌をとっていたのだから驚きである。では本編に戻ろう。

 

(さて、潰すべきは5箇所だな)

 

そう言うと四隅をピンで刺して壁に貼ってあるパーパルディアの地図にある、要所の地名が書かれた場所にダーツの矢を突き刺す。

 

(まず皇都エストシラント。言うまでもなく敵の首都を叩くのは、政治、経済、軍事に加えて、自国民には大戦果であることが一番伝わりやすく、敵には計り知れない絶望を与えられる)

 

今度は別の場所に目を向ける。

 

(でもってデュロ。ここは大規模基地に加えて、軍需工場の塊だ。ここを叩けば一気に奴らの首を絞められる)

 

デュロというのは、パーパルディアの工業都市の一つである。地竜やワイバーンと言った生物兵器こそ作られていないが、それらにつける鎧や歩兵の装備、陣地のテントや旗に至るまで、パーパルディア皇国軍の戦争に使う物のほぼ全てが作られている。

 

(アルケダン。ここは生物兵器の生産工場だから、叩けば航空戦力は消え去り、機甲戦力も同様に消え去る)

 

こちらはデュロでは作られていない地竜やワイバーンを製造しており、生産工場というよりは牧場に近い。更に軍の研究施設も隣接しており、様々な生物兵器の研究や改良が行われている。

 

(クラールブルクも叩かないとな。ここは海軍の要所だし、一大造船拠点でもある。こことデュロが落ちれば、奴らが作れる軍艦は旧世代の粗悪品だけだ。まあ、最新鋭艦もこっちから見れば粗悪品だが)

 

ここには超大型ドックを完備した造船所があり、フェルデナンテ級を作れる数少ない基地である。主力艦隊の大半はここを母港にしており、ここが落ちれば海軍戦力はガタ落ちである。

 

(最後に聖都パールネウス。ここは前身である共和国時代の首都であり、今も尚「聖地」として崇められている。ここを叩けば、国民感情は絶望待ったなしだ)

 

パールネウスには大きな拠点はなく、どちらかというと国民感情への攻撃が主目的である。因みに見た目は完全に某巨人が進撃してくるアニメの様な、巨大な三重の壁で囲まれた要塞都市である。

 

「失礼します。長官、そろそろお時間です」

 

「もうそんな時間か。直ぐに行こう」

 

この日、神谷はとある作戦の為にパーパルディアの領内へ潜入した。潜入した地は、旧アルタラス王国である。アルタラス王国奪還は先程考えていたパーパルディアへの報復作戦「黄泉平坂」の第一段階でもあり、奪還作戦は既に動いているのである。今回は戦闘団の中で唯一、常時編成されており、神谷以外の如何なる指揮系統からも除外された部隊である神谷戦闘団、通称「国境なき軍団」がその中核を担っている。何度か登場している義経も、この国境なき軍団の外部組織的扱いである。

 

「さあ、反撃の狼煙を上げる時が来たぞ」

 

では今回は、アルタラス島奪還作戦「ジパング」の参加兵力を記載して終わりにしよう。

 

参加戦力

陸軍

神谷戦闘団

(内訳)

・歩兵40個連隊

・重装歩兵34個連隊

・戦車12個連隊

・24個対戦車ヘリコプター隊

 

海軍

・第八主力艦隊

 

空軍

・第1001〜14輸送航空隊

・第1103〜45輸送航空隊

・第1206〜32輸送航空隊

 

特殊戦術打撃隊

・ADF1妖精 28機

・空中母機白鳳 1機

 

 

 

 



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第十四話ジパング作戦

神谷が日本を出立した翌日 パーパルディア皇国属領アルタラス(旧アルタラス王国)

「属領」とある通り、元は平和な王国も今は見る影もない。道行く人々は暗い顔をしており、アルタラス統治機構と呼ばれる現在のアルタラス王国の中枢である組織の職員や、そこに所属する属領統治軍の軍人なんかが通れば直ぐに目を逸らす。実際、パーパルディアの連中はやりたい放題にしている。

 

「お止めください‼︎娘は関係ありません!!」

 

「何を言うか。お前の娘には反政府組織所属員、つまり皇国への反乱分子の疑いがかかっている。事実かどうかは、アルタラス統治機構でしっかり調べれば分かることだ」

 

アルタラス統治機構の職員が1人、若い女性の手を引っ張り連行しようとしていた。それに対し、娘の父親である壮年の男性が言い返す。

 

「しかし!あなた方統治機構は、このル・ブリアスで若い女性ばかり連れていくではありませんか‼︎しかも、その全員が反乱分子の疑いで処刑されている。全員が有罪なわけがないでしょう!?」

 

「なんだと?それだけ統治機構の情報収集能力が優秀なだけではないか‼︎どけ!!」

 

「お止めください!!!」

 

何が何でも娘を連れて行かれまいと職員の足に縋りつくも、持っていた棍棒でボッコボコにされ、遂には動かなくなる。

 

「いや、お父さん‼︎いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

抵抗も虚しく、娘は職員に連行された。こんな光景が連日ずっと続いている。今まで統治機構に連行された女性で、生きて帰ってきた者はいない。全員が反乱分子と見做され、処刑されている。もちろん、彼女たちが反乱分子でないことは明白である。アルタラスの民の間では、「アルタラス統治機構長官のシュサクが変態で、若い女性ばかりを狙って連行させ、散々もてあそんだ後に口封じとして処刑している」という噂が流れていた。実際の所、これは事実である。

上も上なら下も下で統治機構の職員連中、属領統治軍の軍人達も、そこらを歩いてる目ぼしい若い女を見つけては片っ端から攫い、そのまま犯して殺す。はたまた金が欲しくなれば、金持ちの家、例えば元貴族とか大商人の富豪なんかの屋敷に赴き、金をせびる。念の為言っておくが、勿論重い税金を既にかけられた上である。でもってこれらの事に少しでも反対すれば「ほう。もしかするとこの家は、反乱分子に肩入れしているやもしれんな?」の一言で黙らせる。ついでに言うと、他の属領も大体こんな感じである。

 

「にしてもまあ、まるで世紀末だな」

 

「だな」

 

目の前のカフェでコーヒーを飲む、スーツの男性二人組がいた。実はこの二人、皇国中央諜報局「ICIB」の工作員なのである。既にパーパルディアの属領と本土には相当数のICIBのエージェントや、統合軍諜報局「JMIB」の工作員が潜伏しており、様々な情報を集めているのである。目的は勿論、属領への反旗を翻させる為である。確かにパーパルディアは属領からして見れば雲の上の存在であるが、もし日本製の武器を渡せばパワーバランスは一気に崩れ、たとえ少数の反乱軍であっても独立させられるのである。

 

「そしてここのコーヒー、意外に美味しい」

 

「ケーキもいけるぞ」

 

側から見れば唯のティータイムであるが、二人はしっかり職務中である。会話こそしているが、その視線や意識は全て道行く人に向けられている。現在二人は、反乱軍の指揮官クラスの人間を探しているのである。

 

「おい、アレ」

 

コーヒーを褒めていた男が、一人のローブを着た人間を指さす。

 

「確かアイツはリストに載ってたな」

 

ケーキを食べていた奴が新聞に偽装した端末でデータベースを調べた所、一人の男がヒットした。

 

「アルタラス王国軍第1騎士団長ライアル、か。確か反乱組織と関わりがあると3班が言っていた。付けるぞ」

 

「おう。お兄さん、ご馳走様。美味かったぜ」

 

「はい。又のご来店、お待ちしてます」

 

直ぐに会計を済ませ、他の班とも連絡して尾行を行う。映画やドラマだと多くても2、3人で尾行する事が多いが、実際の尾行、特に国家機関等の尾行は大人数で行うのである。やり方も後ろから付いていくだけではなく、様々な角度から対象の後を尾けるのである。更に尾行する人間も定期的に変えるし、服装も変化させる。

そんなガチ尾行の甲斐もあり、相手に気付かれる事なく反乱組織の根城を遂に突き止めたのである。

 

「ここか。一見、唯の倉庫だな」

 

「だな。そりゃあパ皇連中も探すのに一苦労する筈だ」

 

「さて接触は明日にして、今日は宿に帰って早めに休もう」

 

「了解」

 

 

 

アジト内部

 

「くそが‼︎今日も胸糞悪いものを見た。パーパルディアのクソ野郎共、ただではすまさんぞ!今に見ておれ!」

 

帰ってくるや否や、ライアルはテーブルのコップを叩き割りながら怒る。ちょうど彼がコップを叩き割ったタイミングで、同志の1人が部屋に入ってきた。コップを粉々にし、手を赤く染めたライアルにビックリする。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「今日も統治機構に連れて行かれる娘を見た。早くあのクソ野郎どもを血祭りに上げ、国を取り戻したいものだ。ルミエス様は、大日本皇国との交渉には成功したのだろうか?」

 

「軍長、それに関してちょっといいニュースがあります。こちらをご覧ください」

 

そう言うと同志の男は一枚の紙を差し出した。そこには詩のような文章が書かれていた。

 

明けなき夜はなく、長い夜には必ず朝が来るものなり。遥か東の日出づる神の子孫が束ねし地より、ムーカランが振り下ろされん時、タスの花は咲き誇らん。

 

この手紙を読むに連れ、ライアルの手は歓喜に震えていた。一見謎の文章だが、アルタラスの民からして見れば反撃の狼煙に他ならない。

ムーカランというのは、かつて強大な外国軍からアルタラス王国を守った救国の英雄が持っていたとされる伝説の剣であり、ムーカランの名の語源、「ムー・カッラ」には「反撃の時」という意味がある。そしてタスの花にも大きな意味がある。タスの花というのはアルタラス王国にのみ咲く希少な花で、ツボミをつけてから一週間後ピッタシに咲く不思議な花なのである。つまり詩の文を分解して解読してみると

 

『パーパルディアの蛮行もいずれ終わる。大日本皇国から反撃の狼煙が上がるのは一週間後』

 

という意味になるのである。

 

「各部隊に伝達‼︎「今日より1週間後以降、いつでも戦えるよう準備せよ」以上だ‼︎」

 

「はい!」

 

同志は通信室に走り、ライアルの指令を伝えに行く。アルタラス再独立の目処が立ち、強い希望が芽生えた。

 

 

 

翌日 深夜

「さあ、接触しに行くぞ」

 

ケーキを食っていた奴が相棒に声をかける。

 

「つったって、どうやって行くんだ?」

 

「正面から堂々と」

 

「なら、コイツの出番だな」

 

コーヒーを褒めてた奴が懐から、ピッキングの道具一式をチラつかせる。ケーキ食ってた奴が頷くと、倉庫の中に入って行く。しかし中には箱しかなく、出入り口の類はなかった。

 

「隠し扉もないな」

 

「あ、待てよ.......」

 

コーヒー褒めてた奴が一際大きな箱の前で立ち止まり、軽く箱を叩く。叩いた音は奥に響き、この奥にも空間が続いている事を示している。

 

「ここが出入り口だ」

 

「お前、よくわかったな」

 

「前に小説で読んだ事がある。まあそっちのは八本指って、悪の組織の施設だったけどな」

 

因みに元ネタ、というかその八本指なんかが出てくる作品はオーバーロードである。(アニメ版では二期、小説版では第五巻にて描かれてる)

 

「で、どうやって開ける?流石に「開けゴマ」が通じる訳な」

 

ギギギッ

 

何と重苦しい音を上げながら、箱の正面が開いたのである。流石に冗談で言っていた為、言った本人のケーキ食ってた奴も目を点にして固まっている。

 

「通じた.......」

 

「ええ.......」

 

まあ何はともあれ一応開いたには開いたので、中に堂々と侵入する。勿論扉を閉めるのも忘れずに。道なりに廊下を進むと、作戦室の様な場所に出る。中を覗くとライアル始め、幹部クラスの人間が集まって会議をしていた。

 

「よお。反抗作戦の立案は順調か?」

 

聞き覚えの無い声に反応し後ろを振り返ると、見た事もない男二人か手すりに腰掛けていたのだから驚きである。全員がギョッとするが、さすが元軍人。即座に剣を抜いて、剣先を二人に向ける。

 

「貴様ら、何者だ⁉︎」

 

「おっと申し遅れた。俺達は皇国中央諜報局「ICIB」のエージェントだ。あ、皇国つっても、クソ野郎の巣窟であるパーパルディア皇国じゃなくて、遥か東の日出る国、大日本皇国の方な。俺の事はマクロス、そう呼んでくれ」

 

コーヒー褒めてた奴が名乗り出る。でもって相棒のケーキ食ってた奴も名乗り出す。

 

「俺はブックソー。マクロスと同じ、ICIBのエージェントをしてる」

 

「まさか貴様ら、他の同志を手にかけたのか?」

 

「してねーよ。というか今から協力関係築こうってしてんのに、殺したりしたら逆効果だっつーの‼︎」

 

マクロスのツッコミに、取り敢えずは一安心の反乱組織。

 

「取り敢えず、俺達、というかウチの国からの伝言を話したいんだが、いいか?」

 

ブックソーの提案に、幹部達が顔を見合わせる。少し考えた後、ライアルが許可を出して椅子に二人を座らせた。他の幹部が同志の兵を数人呼び出し、出入り口を固め、二人の後ろにも剣を抜いた臨戦態勢の状態で3人が待機している。

 

「それで、大日本皇国の伝言とは?」

 

「この間の魔信を拾っているのなら話が早いんだが、タスの花とかムーカランとかの詩の魔信は拾ったか?」

 

「傍受しているし、粗方の解読もしてある」

 

そう言うと二人はニヤリと笑い、話を続ける。

 

「なら話が早い。我が大日本皇国統合軍はアルタラス島解放の為、最強の精鋭部隊を主軸とした部隊を派遣する事を決定した。大規模な市街戦が確実に起こるが、民間人の被害は最小限、できれば0に抑えたい。その為、君達の持つ情報の内、地理関係の物を提供してもらいたい」

 

「悪いが我々はまだ、君達を信用していない。おいそれと情報は渡せない」

 

「そりゃそうか。なら味方の証拠代わりに、コレを提供しよう」

 

そう言うとブックソーがマクロスに合図を送り、マクロスが一枚の封筒を差し出す。開くと中には、統治機構庁舎の詳細な見取り図が描かれていたのである。

 

「こ、これは!!??」

 

「信じてもらえたかな?」

 

「何故この情報を手に入れられた!?」

 

「大日本皇国の諜報力を舐めない事だ。「情報を制する者は戦いを制し、戦いを制す者は戦争を制す」戦争をする上での、基本中の基本だ」

 

他の幹部達にも見取り図が周り、全員が驚愕する。それは2人の渡した見取り図が唯の見取り図ではなく、部屋の机の数や武器の種類、果ては収用可能な人数に至るまで克明に書かれていたのである。

 

「いいだろう。君達を信用する。お前達、剣を降ろせ」

 

そう命じ、兵士達が剣を鞘にしまう。

 

「それで、作戦開始の合図は?」

 

「派遣される部隊の長が、「花」を咲かせることになっている。どんな花かは、見てからのお楽しみだ」

 

「わかった」

 

その後、諸々の詳細を詰めて2人はアジトを後にした。この事はすぐに本国と移動中の神谷にも連絡が入り、作戦開始日を今か今かと待ち望んでいた。

 

 

 

6日後 アルタラス島 旧首都

『長官、神谷戦闘団、上空にて待機中です』

 

「了解。開始の合図を待て」

 

現在神谷は一般人に変装し、旧首都をぶらついていている。目的は勿論、「花」を咲かせる為である。因みに戦闘団の部隊はと言うと大部分は上空にて待機中で、一部の神谷直轄部隊のみアルタラス島に潜入している。

 

「やめてください!!!!」

 

「いいじゃねぇか、なぁ?逆らうんなら、お前の家族は反乱軍だなぁ?え?え?」

 

「どうか、どうか娘だけは.......」

 

「後生です、どうか御慈悲を.......」

 

パーパルディアの軍人だか統治機構の職員だかは判らないが、老夫婦の娘を大の男3人が連れ去ろうとしていた。周りの人間は遠巻きにこそ見ているが、助けには入らない。正直、最早日常となってしまった光景だし、何より助けに入れば今度は自分や自分の家族が娘と同じ目に遭ってしまうのが分かっているからである。しかしその中に1人だけ、前に進む者がいた。

 

「面倒だ、いっそここでヤるか」

 

そう言って娘の腕を掴んでいる男が、自分のズボンのベルトを緩めようと金具に手を掛けた瞬間、

 

ザシュッ!!

 

後ろから何かが男の首元を掠めた。それと同時に男の首が空高く舞い上がり、本来頭部のある場所からは真っ赤な鮮血が噴き出し、そのまま力なく体が倒れた。

 

「イヤァァァァ!!」

 

さっきまで腕を掴んでいた男が、いきなり倒れれば誰だって驚く。老夫婦、周りの男たち、遠巻きに見ていた人達全員が悲鳴を上げた。

 

「やはり、クズで咲かせる血桜は汚ねぇや」

 

男の首を飛ばしたのは誰でも無い、神谷浩三その人なのである。神谷は作戦開始の合図である花を咲かせる為、男の首を斬り飛ばしたのであった。「花」というのもタスの花なんて綺麗な物ではなく、「クズの血桜」という汚い物である。

 

「貴様ぁ、反乱分子か!?」

 

「反乱分子?それなら良かったな。お前達の様な哀れでクズの臓物が腐り切った、人間の皮被った性欲ゴリラでも勝てたかもしれない。だが残念でした。周りを見てみろ」

 

そう言われて周りを見廻すと、建物の屋根に何人もの白い鎧を着た兵士達がグルリと取り囲み、前後からも同じ服装の兵士達が杖を構えながら退路を塞ぎ、4種類の旗を掲げていたのである。

白地に真ん中に赤い丸のある旗、白地に赤い太陽の意匠を象った旗、赤地に金の十六葉八重表菊が描かれた旗、黒地に白で丸と揚羽蝶の描かれた旗である。

その旗の意味はお分かりであろう。日本の国旗、旭日旗、天皇旗、神谷家の家紋である。

 

「まさか貴様は.......」

 

「大日本皇国統合軍、神谷戦闘団、推して参る!!!!」

 

この声を合図に後ろに控えていた直属の部隊、白亜衆が残っていた2人を血祭りに上げる。そして上空では輸送機から兵員と兵器がドンドン降下していき、ダイナミックに着地する。あ、勿論兵器の中には陸上戦艦の46式戦車や月光も含まれる。

 

「さあ、野郎共!!パーパルディアの人間を血祭りに上げてやれ!!!!」

 

そう言うとさっきまで着ていた服を脱ぎ捨て、中に着ていた「皇国剣聖」の羽織を露にする。右に刀、左に26式拳銃の50口径マシンピストルver(ドラムマガジン装備)を持って進撃を開始する。

 

「おお、神谷閣下が先頭に立っておられる!」

「我らも閣下に続くぞー!!」

 

「「「「「「「「天皇陛下、バンザーーーーーーーイ!!!!!!!!!!」」」」」」」

 

全員が銃剣を付けて、一斉に走り出す。勿論統治機構の方も対応を始め、適当な家屋から棚やらソファやらを道に並べ、バリケードを構築しマスケット装備の歩兵を並べて防御陣地を作り上げる。

 

「敵が来るぞー!!構えろーー!!」

 

指揮官クラスのパ皇兵が命じる。しかし現れたのは敵兵ではなかった。

 

「その程度で陸上戦艦の異名を持つ46式を止められる訳無かろうが!!」

 

「何だアレは!!??」

「地竜だぁぁぁぁ!!!!」

「あんなデカい地竜が居るのか......」

「アハハ、もう終わりだ。俺達はもう死ぬんだ」

 

眼前に迫る46式を前に、一瞬で戦意を根底からへし折られるパ皇兵。予想通り、その巨体に載せられた350mm滑腔砲、ではなくその上に搭載された120mm速射砲で吹っ飛ばされる。また別の防衛戦では

 

ブモォォォォ!!

 

「何だコイツは!?」

「おい、跳び上がったぞ!!伏せろ!!!!」

「来るなあ、来るなあ!!!!」

「お、おい待て。俺には故郷に娘が」プチッ

 

WA2月光が暴れまくっていた。戦車並みの装甲と武装を持っているが、脚部に人工筋肉を採用している恩恵で飛び跳ねたり踏み潰したりと、その巨体には見合わない機動性で敵を蹂躙していく。

通常タイプのイ型ならまだマシで、ロ型やハ型にあった奴らは「可哀想」の一言である。ロ型には140mm榴弾砲、ハ型には20mmや30mmのバルカン砲が搭載されており、撃たれれば一溜りもない。まあイ型含め他の型にも12.7mmの機銃が付いているから、悪夢以外の何者でも無いが。

 

 

 

アルタラス島西部 ダラス軍港

「司令!!統治機構からの通報です!!現在ル・ブリアスが大日本皇国の強襲を受け、陸軍と統治機構が反撃中!!戦況は我が方の劣勢であり、艦隊の支援を要請してきています!!」

 

「そうか。では全艦出港用意。目標、ル・ブリアス沿が」

 

しかし命令を伝える前に執務室が吹き飛ぶ。それもその筈。この執務室には不運な事に第八主力艦隊総旗艦「倭建命」の主砲、710mm四連装砲の砲弾が命中したのである。

 

「初弾命中‼︎」

 

「よーし、敵艦に照準。僚艦にも伝えい!」

 

「アイ・サー‼︎」

 

今度は停泊中の艦船に砲が向き、発射される。巨大な水柱が発生し、周辺の港湾施設ごと破壊する。

最終的に

・ファイン級60門級戦列艦 25隻

・グローオン級80門級戦列艦 48隻

・フィシャヌス級100門級戦列艦級 15隻

・輸送船、その他 87隻

合計 175隻が姿を消した。

 

 

 

15分後 アルタラス島北部 メルーサ基地

「ワイバーンロード全騎出撃‼︎寝ている奴も叩き起こせ‼︎」

 

メルーサ基地は元々、アルタラス王国近衛竜騎兵隊の基地が置かれていた事もあり、敷地がとても広い。その為アルタラス島防衛の要としてワイバーンロード150騎、現在は殆どが予備役となったワイバーン840騎が配備されていた。既に初動でワイバーンロード全騎とワイバーン200騎が離陸済みであるが、ダラス軍港への応援として残りを向かわせる事になっていた。しかしそんな事は許されるわけなかった。

 

「な、何だアレは.......。上空、約3000mに巨大なブーメランが飛んでいます!!!!」

 

「何ぃ?冗談を言っている場合か!!!!」

 

「冗談じゃないんです!!!!ホント、ブーメランとしか形容できない形状の飛行物体が!」

 

最初は戯言と思っていたが、監視員の完全に怯え切った表情に幹部連中が単眼鏡を覗き込む。そこには確かにブーメラン状の何かが、黒い粒を落としていた。

 

「何か落としたぞ?」

 

今度はその黒い粒を注視する。よく観察すると、あり得ない速度で近づいてくるのが分かった。

 

「対空戦闘よーい!!離陸した騎を呼び戻し、対空バリスタにて牽制しろ!!!!」

 

基地司令が叫び、命令が伝達される。対空バリスタ、更には弓矢とマスケットまでも使って牽制射撃を行い時間を稼ごうとする。しかしビビるどころか、何も無いかの様に侵攻を続ける黒い粒達。

 

「接近中の黒い粒は小型の飛行機械です!!」

 

「飛行機械だと!!??ならばムーの兵器か!!!!」

 

もう安定の飛行機械=ムーの兵器理論。ご承知の通りムーではなく純度100%、安心と安全の日本製無人航空機である。

 

「おい何か落としたぞ?」

 

黒い物が小型の飛行機械から投下され、地面に触れる。その瞬間、大爆発を起こして辺り一帯を吹き飛ばす。

 

「爆弾だったのか!!!!」

 

基地司令が手すりを力一杯叩く。それに合わせたのかの様に、飛行機械達が滑走路へと群がり爆弾を投下していく。数刻の後、滑走路や格納庫を完膚なきまでに破壊し尽くし、完全に基地機能を奪い去る。

 

「悪魔だ.......。超空の悪魔の翼だ.......」

 

この言葉を最後に周りが紫色の光に包まれたかと思うと、永久に基地司令が意識を取り戻す事はなかった。

アーセナルバー、じゃなかった。白鳳の機首に搭載されたレーザー兵器で焼かれたのである。

 

『皆の者!!!!基地司令以下、散って逝った仲間の為に、あの巨鳥を地面に墜とすぞ!!!!!!!』

 

竜騎士中隊の中隊長が魔信で叫ぶと、部下達から大きな雄叫びが上がる。それを合図に相棒であるワイバーンに拍車をかけ、巨鳥へと向かう。

しかし白鳳は「待っていた」と言わんばかりに、周りの無人機達を向かわせる。速力、機動力、武装、全てにおいて劣りまくってるパーパルディアの竜騎士が勝てる訳もなく、次々に堕ちていく。しかし数に物を言わせて、人海戦術で突破し白鳳へと肉迫する。しかし

 

シュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

巨鳥の翼から煙が出たかと思うと、部下達が爆発して堕ちていく。後ろに気配を感じ振り返ると煙、と光を発しながら何かが迫ってくるのを確認した。だが何か言葉を発しようとした瞬間、体がバラバラとなり相棒のワイバーンと共に墜ちていく体を見送った所で意識が途切れた。

 

 

 

数分後 アルタラス島中央部上空

『竜騎士長、基地との連絡が途絶えました!』

 

副長の言葉に竜騎士長は驚くが、一言「わかった」と返してそれ以上言わなかった。

 

『騎士長、戻りましょう。仲間の仇を』

 

『気持ちは分かる。だがな、俺達の任務はル・ブリアスで暴れてる敵を倒す事だ。とっとと片付けて、仇をとりに行こう』

 

『はい.......』

 

だが彼らが基地の仲間の仇を取れることは無かった。

 

 

『FOX 4*1

 

ビーーーーーーーーー

 

赤いレーザーが竜騎士達を貫き、文字通り「消す」。

 

『何が起きたんだ.......』

 

そんな事を考える間もなく、四方八方からレーザーを飛ばし続ける。パニックになり浮き足立つ竜騎士達に、今度は上空から襲いかかる。

 

『FOX 1‼︎』

 

ADF1妖精に搭載されたMPBM燃料気化ミサイルが発射され、巨大な火球を形成する。中に飲み込まれても地獄だが、周りにいても爆風で吹っ飛ばされたり、熱で翼が焼かれて動かなくなり、真っ逆さまに堕ちていく。

 

「こんなの、戦争ではない。我が祖国は、一体どんな国に喧嘩を売ってしまったのだ.......」

 

この呟きを最後に竜騎士長もMPBMの火球に飲み込まれ、その生涯に幕を下ろしたのであった。

 

 

 

数分後 ル・ブリアス アルタラス統治機構

「局長はまだ出てこないのか?」

 

「それが未だ「お楽しみ」中でして.......」

 

アルタラス統治機構は現在、大混乱と未だ嘗て無い恐怖を感じていた。というのも、当初は「反乱組織が軍勢を成し、此処に迫っている」という合ってはいるが、一番大事な所が間違った報告が来ていたのである。その為、統治機構としては「まあ防衛線の2、3個、健闘しても4個程度が限界だろう」と舐め切って掛かっていたのである。

しかし蓋を開けてみたら、ほぼ同時にダラス軍港が襲撃を受け通信が途絶。念の為、メルーサ基地にも通信し部隊を動かしてもらっていたが、10分もしない内にこっちも通信途絶。そんでもって向かっている筈のワイバーンロード含む竜騎士隊は、絶叫が魔信で木霊し辛うじて「赤い光の槍に貫かれた」、「火球に仲間が飲み込まれた」、「翼が焼け落ちた」、「爆風で制御を失った」という悲痛な叫びを最後に、次々に魔力探知器から反応が消失。極め付けは現在の防衛線はこの庁舎を含めると、後3個しかないのである。

更に最悪な事に、統治機構の局長は地下室で攫ってきた娘と、両者とも媚薬キメてのハッスル中であり、中から鍵を掛けているため指示を仰げないのである。

 

「失礼します!!敵がわかりました!!!!」

 

統治機構の職員がドアを破壊せん勢いで入ってきて、副局長の前に跪く。

 

「申し上げます!敵は旧アルタラス王国の騎士団を始めとした反乱組織ですが、それは微々たる物であります。我々が基本的に相対しているのは、反乱組織ではなく、大日本皇国軍、神谷戦闘団と呼ばれる組織だと分かりました!!!!」

 

「おい待て。神谷戦闘団には、刀と小型の連射できる途方も無い破壊力を持ったピストルを持っている者は居なかったか?」

 

「居ました」

 

副局長が一気に脱力し、その場に崩れ落ちる。

 

「副局長!?」

 

周りの幹部や報告に来た職員が駆け寄る。

 

「君達、恐らく我々は死ぬぞ。神谷戦闘団に居た刀とピストルを持った男。その男は、恐らく第1外務局を血の海に変えた男、神谷浩三だ」

 

実を言うと副局長は、学生時代に第1外務局の幹部職員と同期なのである。あの後、本国で同窓会があり話を聞いたのである。正直、そんなのと対峙する羽目になるとは、副局長も思わなかった。さっきから悪かった顔色は白を通り越して土気色になり、まるでゾンビである。

 

「皆、覚悟を決めろ。武器を持ち、此処に立て篭もるのだ」

 

そう副局長が命じると、部下が伝達する為走る。しかし此処は統治機構庁舎、武器なんてある筈ない。剣、弓、マスケットを持たされた者もいるが、数はとても少ない。拷問用のムチ、ハンマー、斧、小刀、敢えて切れ味を悪くしたナタ、ナックルダスターを持たされたなら良かった方である。それでも足りなかった為、カッターやハサミ、なんなら分厚い本や観葉植物の植木鉢を持たされた者もいた。果ては「心理的攻撃」という名目で、トイレにあった臭い雑巾や四ヶ月前に牛乳を拭いて、そのまま放置された牛乳雑巾を持たされた者までいた。もう此処まで来たら舐めプどころではなく、何故か一周回って同情や憐れみの感情すら出てくる。

 

 

「此処が統治機構の庁舎か。地下には監禁施設があるから、そうだなぁ」

 

ふと正面を見るといい感じの平らな瓦礫が、斜めになって置かれていた。これをみた瞬間、神谷はぶっ飛んだ戦法を思いつく。44式装甲車ロ型2台に命じ、全速力で斜めになっている瓦礫に向かって走る様に命じる。ドライバーの2人はニヤリと笑うと、ハイテンションで突っ込む。

 

「ヒャッハーーーーー!!!!」

 

「やっぱ神谷閣下は狂ってるぜ!!!!」

 

なんと神谷の考えついた戦法というのが、「瓦礫をジャンプ台にして、2階と3階の統治機構庁舎の壁をぶち破って突撃する」という漫画の様な戦法である。

 

「ん?なんだあの素早い地竜は!!??」

 

2階でマスケットを構えていた職員が目を見開く。次の瞬間、2体の地竜が空中へと飛び、まっすぐ此処と3階に向かって飛んでくる。

 

「不味」

 

 

バリーーーーーン

ドンガラガッシャーーーーーーン

 

 

「不味い」と思った瞬間、窓と壁を突き破り、44式2台が突き刺さる。音を聞きつけて、他の職員が様子を見に来るが、目の前の鉄の塊に唖然とする。

 

「一つ脅かしてやるか」

 

そう言うとドライバーがヘッドライトのハイビームを使って目眩しをかけ、ついでにエンジンまでフカして威嚇する。

 

「突撃ぃ!!」

 

そのまんま目の前の職員を轢き殺し、横から出てきた職員には側面に付いている30mm、20mm.、12.7mmの機銃で応戦する。端から戦闘を想定していない壁が、航空機をも破壊する機銃弾に耐えられる訳もなく後ろにいる職員ごと、挽肉を量産する。更には50mm擲弾筒まで使い、中の職員を吹き飛ばす。3階でも同様の事をしており、地獄絵図が広がっていた。

因みにその光景を見て、外では日本兵達は爆笑し、反乱組織と捕虜達はポカーンとしていた。ライアルも「日本人は慈悲という言葉を知らないのか?」と漏らしたそうな。まあ少なくとも、外道に持ち合わせる慈悲は無いな。うん。

 

 

「俺達も行くぞ!!1階の敵を一掃しろ!!!!」

 

神谷の号令に、重装甲歩兵を盾にして内部へと突入するべく入り口に向かう。しかし入り口は既に机か何かで封鎖されており、中へと入れない。だが重装甲歩兵の両手にマウントされた七銃身7.62mm機関銃の連射力で、完全に粉砕する。勿論、中の敵も巻き込んで。

 

「突撃!!」

 

中に入るとそこには、血を流して動かなくなった死体しか無かったのは言うまでもない。

 

『こちら2階。完全に制圧しました』

 

『3階も同じく』

 

「なら2台とも撤退しろ。白亜衆、地下を探索するぞ」

 

そう言うと突入していた部隊が引き上げ、代わりに白亜衆が中に入る。上階にいる2台は力一杯加速してから、2階と3階から飛び出して綺麗に着地を決めた。因みに2階にいた奴はそのままドリフトし、3階にいた奴はその場でスピンして遊んでたらしい。

 

 

 

地下

「おい、なんか臭いな」

 

「何でしょう、お下劣ですが精液か何かの匂いに似てる様な」

 

階段を降るごとに匂いは強くなり、下につく頃には血生臭い匂いまで入り鼻がねじ曲がりそうになる。

 

「此処が最深部だな。頼む」

 

神谷がバッテリング・ラムを持った兵士に頼む。無理矢理ドアを吹っ飛ばして中に入ると、目の前には檻が広がっていた。中には女性が入っていたり、血が溜まっていたりと中々にエグい空間が広がっていた。

 

「ホレ!此処が良いんだろ?ん?ん?」

 

男の声と女の喘ぎ声が響く部屋に向かうと、そこには赤髪の女性と金髪の太って頭を禿げ散らかした不潔なおっさんが合体し、ベッドをギシギシさせて絶賛ハッスル中であった。知らねえおっさんと、知らねえ女の情事を見せられると言う、何ともカオスな空間に色々戸惑う。取り敢えず男の首をぶん殴って失神させ、髪掴んで引き摺りながら外に連れ出す。女性の方は麻酔薬を投与した上で丁重に運び、他の女性達にも同様に丁重に扱いながら外に出す。外に出ると神谷は乱雑におっさんを放り投げ、スマホを構える。

 

「おい、見えているか?今から歴史的な瞬間を映してやる」

 

テレビ電話の機能で本国にいるルミエス達に、今から起こる歴史的瞬間を映す。その瞬間というのは、パーパルディアの国旗をへし折って燃やしながら地面へと落とし、代わりにアルタラス王国の国旗を掲げる瞬間である。

 

「革命成功だ!!!!」

 

神谷が叫ぶと周りから歓声が上がる。旗を持っている兵士達は旗を振り回し、他の反乱組織の兵士達はアルタラスの国家を歌い出す。

日本では川山と一色がハイタッチで喜びを分かち合い、ルミエスは余りの嬉しさに感涙の涙を流す。神谷は解放できた事に喜びつつも、別の事を考えていた。

 

(さあ、これで駒は揃った。後は、推し進めるだけだ)

 

そう心の中で言うと同時に、ニヤリと笑ったのであった。

 

 

 

*1
レーザー兵器使用のNATOフォネティックコード。本来ならFOX 1(セミアクティブレーダー誘導ミサイル、AIM7スパロー等)、FOX 2(赤外線誘導空対空ミサイル、AIM9サイドワインダー等)、FOX 3(アクティブレーダー誘導空対空ミサイル、AIM120アムラーム等)の3つしかないが、本作ではオリジナルで製作予定。



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第十五話全てを知る時

約一ヶ月前からやっているアンケートですが、本日を持って終了致します。ご覧の通り「作者に任せる」というのが一番多かった為、私の好きにさせて頂きます。つまり、艦名の「」は採用させて頂きます。
アンケートのご協力ありがとうございました


「いったい、どういうことだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

物語開始早々、怒鳴り声で驚いた事だろう。ここは第一外務局の執務室であり、時系列としてはアルタラス島奪還より約一ヶ月後である。因みに誰が怒鳴っているかというと、この戦争をおっ始めた張本人、レミールである。では、なぜ怒鳴っているのか。それはレミールのもとにきた、アルタラス島に関する報告書である。

 

「アルタラス島が奪還され、新生アルタラス王国を樹立!?皇国の基地は完膚なきまでに叩き潰され、生存者は偶々島外に出ていた連絡の兵3人で、残りは行方不明だと!?更には奴らはムーの兵器を使用して、我々を叩いただと!?ふざけているのかぁぁぁ!!!!」

 

もう何かの音波兵器なんじゃないのかと思う程、怒鳴りっぱなしである。多分これがギャグアニメの世界なら窓ガラスが割れ、外務局の建物がプリンのように上下左右に揺れている事だろう。

 

「レ、レミール様、ムーが代理戦争をしている事は明白です。ここはムー大使を召喚し、問い詰めてみては如何でしょう」

 

第一外務局局長のエルトが落ち着かせる為に、対抗策を提案する。しかし、レミールには一つ気掛かりがあった。

 

「だが何故、これまで他国には兵器は愚か、銃一つ輸出していないムーがこうも輸出しているのだ」

 

「恐らく実地試験の一環でしょう。幾ら兵器が書面上では優れていようと、実際に使ってみたら思わぬ欠陥が見つかる事もあります。我が皇国とて例外ではなく、フェルデナンテ級はその最たる例でしょう」

 

皇国軍の総司令、アルデも私見を述べる。まあ実地試験どころかムーは一切関係なく、この論理自体が根底から間違っているがそんなことを知る由もない。因みにフェルデナンテ級は一番艦の進水から半年で浸水が見つかり、分析によると強度不足である事が分かり、急遽改修工事が行われた過去を持つ。

 

「こうなればムー大使を召喚するべきだな。私は一度、陛下にこの事を話してくる。お前達はムー大使召喚も視野に入れて、準備をしておけ」

 

「「かしこまりました」」

 

 

 

同時刻 大日本皇国 首相官邸

「遅くなったか?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

この日、神谷から緊急の連絡を受けて首相官邸に三英傑が揃った。

 

「で、浩三。話ってのは、一体何だ?」

 

「この戦争の終着点、最後の戦いについてだ」

 

一色の問いに対し、神谷は神妙な面向で答える。

 

「首都を蹂躙するんだろ?」

 

川山の答えに神谷は首を振る。

 

「合ってはいるが、間違ってもいる。俺の考えたシナリオを、此処で話しておきたい。俺は、首都攻撃に「00式弾頭」を使うつもりでいる」

 

この単語が出た瞬間、二人の顔が一気に強張る。川山に至っては、神谷に対して敵意すら抱いているように見える。

 

「お前!!忘れたのか!?日本は唯一の被爆国なのに、その苦痛を他国にも味わわせる気か!!??」

 

「待て待て慎太郎。コイツが考え無しに、こういう事は絶対言わん。何か理由があるんだろう?」

 

激怒する川山を一色が止める。川山が激怒するのも無理はない。この00式弾頭というのは、またの名を「超核兵器」という。既存の核兵器と違うのは、放射性物質及び放射能による汚染が無い事にある。核兵器は使用すると向こう何百、何千という時間、或いは一生その地域を死の土地へと変貌させてしまうのは知っての通りである。核兵器では無いが理論としては同じ核反応を使う原子力発電所が壊れて、その一帯の地域が汚染されているのも知っての通りであろう。何せ我が国、日本にも東日本大震災の影響で福島の原発周辺は未だに帰宅困難地域になっている。

しかしこの超核兵器には、その汚染が無いのである。本来核兵器はウラン235等を用いるのに対し、此方は水素原子の融合で行う。その為焼き払う威力はそのままに、汚染はゼロという兵器である。

 

「あぁ。ついさっき、ICIBから連絡があった。パーパルディアはコア魔法の遺物があり、1発だけだが発射できる可能性があるそうだ」

 

コア魔法というのも説明しておこう。コア魔法というのは、物語に度々登場する魔法帝国が持つとされている兵器であり、その威力や壁画などから推察するに核兵器である事が分かっている。

 

「それだけの理由で、焼き払うつもりか!?」

 

「違う違う。あくまでもこれは表向きの理由で、本来の目的は見せしめだ。お前も外交官として開戦の場にいたから分かると思うが、この世界に旧世界の常識は通用しない。ムーのように理性的な国もあるが、同じ列強に名を連ねていながらパーパルディアは野蛮も良いところだ。昔のような外交では、例の虐殺事件みたいなことが起きてしまう。「俺達に手を出したら、お前達もこうなるぞ」という事を示しておく必要がある筈だ」

 

こう言われては川山も黙るしか無い。というかこの言葉の殆どは、川山自身が言った事である。

 

「考えは分かるが、核を使う程か?幾ら何でもコスパが悪いし、国民感情的に見てもアレだぞ。それよか、あー、何だっけ?ねんりょーきか爆弾?でいいんじゃないか?」

 

「確かに健太郎の策も考えた。実際その方が、後々の事も考えると楽だからな。だが一つ問題があるんだ。もし、既に核を開発している国があったら?」

 

「浩三、ここは中世ヨーロッパと同程度かあっても第一次世界大戦程度だぞ?核兵器が生まれたのは第二次世界大戦、それも末期だ。そもそも核兵器に必要な核分裂反応が見つかったのは、第二次世界大戦前夜の1938年だ」

 

川山が自分の持つ知識から算出された意見を述べる。因みに原子力関連の研究が始まったのは、第一次世界大戦前の1895年にレントゲンがX線、ベクトルがアルファ線を発見したことから始まる。1898年にはキュリー夫妻がラジウムを発見した事で、放射線の研究が本格的に開始されている。

だが勿論、放射線を理解した所で核兵器を開発する事は不可能である。

 

「俺もそう思っていた。だがな、フェン王国沖での海戦でマイラスとラッサンの二人が大和を見てひっくり返ったそうだ。「グレードアトラスターだ」と。話を聞くと、つい最近列強の一つであるレイフォルという国が一夜にして首都を焼かれて降伏したそうだ。その時使った兵器が、大和に酷似した戦艦、グレードアトラスターだったらしい。そしてその国家の名前は、第八帝国、本来の名前は慎太郎なら分かるだろ?」

 

「グラ・バルカス帝国.......」

 

二人は全てを悟った。戦艦大和が生まれたのは、この手の作品を読んでいる読者なら知っての通り、1940年8月8日。(翌年、12月16日に竣工)つまり第二次世界大戦の直前である。そして世界初の原爆が使用されたのは1945年8月6日。これは日本人の殆どが知っているだろう。

これらの事から導き出されるのは「グラ・バルカス帝国は、初期型の核兵器を所有している可能性がある」という物である。更に言えば当時のナチス・ドイツはV1、V2と言ったミサイル兵器を開発し、実際に使用している。最悪の場合、日本本土に撃たれることも考えられなくはない。

 

「連中がパーパルディアの様な覇権国であり、何らかの手段でウチの国の発射する気化弾の威力を見たと仮定しよう。もし開戦した場合「俺達には核兵器があるが、奴らも持ってるかもしれない。なら撃たれる前に叩いてしまおう」と考えるのが、妥当な所だ。しかも迎撃できるとは言え、恐らく宇宙空間は飛べない。つまり大気圏内での迎撃になる可能性が高いし、万が一海に落ちて核が炸裂してみろ。その海域は死の海と化し、最悪日本にも影響を及ぼす。

それなら先に切り札を見せる形とはなるが此方の力を相手に示し、旧世界で言う所の「相互確証破壊による核抑止論」を用いた抑止力として使える。それにその古の魔法帝国とやらが復活して、ウチと戦争になってみろ。文献から推察するに、確実に覇権国な上に核に類似する兵器は保有している。そうなると益々、俺の論理は必要になると考えるぞ」

 

「.......」

 

「.......」

 

二人とも黙る。確かに神谷の言う理論は的を射ているし「パーパルディア皇国の国民と、大日本皇国の国民の命、どっちを大切にするか」と問われたなら、全員が迷わず大日本皇国の国民を選ぶ。それは国家を運営する者の頂点に立つ者達として、当然の考え方である。

しかし手の内を見せることにもなるし、何より使った後が大変である。流石に当時の人間が全員亡くなっているとは言えど、核に対する憎しみというのは少なからずある。「核を保有するのは認めるが、絶対に使うべきではない」という人間が多くおり、「核をバンバン撃っちまえ」なんて考えの方が少数である。もし失脚する羽目になったら、折角築き上げた成果が瓦解する可能性すら出て来る。何方を選んでも、ヤバいことには変わりない。だが一色は、決断を下した。

 

「浩三、お前の意見も分かるし、使うべきだとも思う。だがな、流石に核はやり過ぎだ。コスパも悪いし、何より切り札を見せる形になってしまう。お前の話は、こう言っては何だが所詮「たられば」だ。お前の言う可能性も十分考えうるが、流石に中世ヨーロッパ程度に核は大袈裟な気もする。だからその作戦は、核の代わりのナントカ弾でやってくれ」

 

「俺も同意見だ。外交的な立場としても、核の使用は足枷に成りかねん」

 

「.......わかった。お前らの考えを受け入れよう」

 

そんな訳で、取り敢えず核攻撃だけは避けられたパーパルディア皇国であったが、これはあくまでも無間地獄に戻っただけである。つまり、死ぬ事自体は変わらないのである。

そんなことなど露知らず、パーパルディア皇国は呑気に「文明圏外国が皇国を超える技術力なんてない。ムーが代理戦争、若しくは兵器の実験のために戦争をしている」という謎理論がまかり通り、それが事実と化している。一方で日本側は次なる作戦としての動きの為、ムー国大使館に川山が出向いていた。

 

 

 

翌日 ムー国大使館 応接室

「して、今日はどんな御用でしょうか?」

 

「我が国は対パーパルディア皇国への反抗作戦として、戦略爆撃を行うことを決定いたしました。この攻撃には首都も含まれるそうです。その為、現在いる大使館職員始め、貴国の民を自国に引き揚げて頂きたいのです。また我が国と国交を結んでいない他の国にも、同様の措置の通達をお願い致します」

 

「遂に本土を叩くのですね。実を言うと大使館引き揚げに関しては、パーパルディアの大使から連絡が来たそうでして、直ぐにでも引き揚げ可能ですよ。我が国の国民も戦争が始まって以来、自主的に帰国している者も多く、フェン王国での開戦以降は旅行目的の出国を止めていますので、比較的早く済むと思います。他国に関しては、何とも言えませんね。もしかしたら断る国も、あるかもしれないですね」

 

「その時は、もう知りません」

 

「左様ですか」

 

この事はユウヒ大使よりムー本国へ報告され、ムーは直ちに行動を開始した。

 

 

 

2時間後 ムー国 外務部

「来たか。おい、直ぐに軍に連絡!!足の速い高速輸送船を総動員させる様、要請してくれ!!」

 

「部長、民間船も総動員しますか?」

 

「勿論だ。第三文明圏付近を航行中、停泊中の艦船は全て避難に当てさせろ!!」

 

「御意!」

 

外務部の動きは速かった。すぐに軍部に連絡し手空きの高速輸送船や航空機を手配しパーパルディア皇国に向かわせ、民間船までも総動員しての引き揚げが行われようとしていた。更にこのことを、日本からの頼み通りに別の国へも連絡。第二文明圏の列強第二位がこのような動きをしている事実からも、幾つかの国は引き揚げに踏み切り船団の準備に入っていった。

 

 

 

一週間後 大日本皇国 統合参謀本部

「諸君、いよいよ作戦の概要を説明する時が来た様だ。今回の作戦は総じて7つの段階からなる作戦だ。作戦目標は勿論、パーパルディアを完全に攻め滅ぼす(・・・・・・・・)ことにある。

まずは奴らの首都、エストシラントに大量の爆弾を叩き込む「煉獄作戦」。二つ目、奴らの工業力の基盤、デュロに強襲上陸し完全に破壊する「鎌鼬作戦」。三つ目、奴らの港湾都市、クラールブルクを文字通り踏み潰す「小島作戦」。四つ目、奴らの生物兵器工場のあるアルケダンを空爆する「天狗作戦」。五つ目、奴らの聖都パールネウスを吹き飛ばす「巨人作戦」。六つ目、最後に完全に首都を消し飛ばし、ついでに皇帝ルディアス含む閣僚陣を殺す「地獄作戦」。そして鎌鼬作戦より継続して行われる、大規模な海上封鎖作戦である「黒豹作戦」の七つを行い、パーパルディアの存在を歴史書以外から消し去る。以上、これらの作戦を総じて「天照作戦」と呼称する」

 

参加する各部門の長達は、完全にドン引きである。まさかここまでするとは思わなかったからである。

 

「さて、では各作戦の詳細について説明していく。まずはーーー」

 

本当なら説明しておきたいが、敢えて詳しい説明は作戦を行うまで取っておこう。だがしかし、戦力だけは先に書いておこうと思う。

陸軍

・第12〜358歩兵師団

・第8〜296重装歩兵師団

・第14〜238戦車師団

・第5〜187砲兵師団

・第1〜227対戦車ヘリコプター隊

・神谷戦闘団

・村今戦闘団

 

海軍

・第1〜8主力艦隊

 

空軍

・第201〜242航空隊

・第306〜361航空隊

・第409〜438航空隊

・第501〜599航空隊

・第609〜634航空隊

・第708〜753航空隊

・第801〜836航空隊

・第904〜968航空隊

・第1005〜1074航空隊

・第1101〜1149航空隊

・第1201〜1288航空隊

・富嶽II 435機

 

海軍陸戦隊

・第1〜86海兵師団

 

特殊戦術打撃隊

・ADF1妖精 123機

・ADF2大鷲 96機

・ADF3渡鴉 103機

・メタルギア零 40機

・メタルギア龍王 50機

・メタルギア水虎 35機

・空中空母艦隊 8個

・空中母機「白鳳」 9機

 

正直言って、オーバーキル甚だしい相場である。というか、ほぼ全ての戦力が投入されている。恐らく数ある日本国召喚の作品でも、ここまでの戦力が投入されたパーパルディア皇国戦はないだろう。

 

 

 

同日 パーパルディア皇国 ムー国大使館

「ムーゲ大使、本国より命令が来ました」

 

「命令?一体どんな?」

 

「えぇと、それがですね。大使館含めた、全ムー国民のパーパルディアからの引き揚げ命令です」

 

ムーゲは「やはりか」と言う顔をして、顔を下に向ける。

 

「わかった。直ぐに引き上げ準備に入ってくれ。私は取り敢えず、外務局の方に挨拶へ行ってくる」

 

「承知しました」

 

そんな訳でムーゲは、第1外務局へ向かう。パーパルディア側もムーの代理戦争(笑)説を問いただす為に、丁度召喚の連絡をしたのであった。

 

「はい、ムー国大使館です」

 

『第1外務局の者です。レミール様がムーゲ様とお会いしたいと申しておりまして、お手数ですが今から此方に来て頂けませんか?』

 

「それなら丁度良かったです。先程、ムーゲ大使が別件で其方に向かった所なんですよ」

 

『そうでしたか。では、お待ちしております』

 

しかしパーパルディア側は知る由も無い。まさかこれからの内容が、実質的なパーパルディア終了のお知らせになることを。

 

 

 

十数分後 第1外務局

「ムー国大使の方が来られました」

 

「分かりました。お通ししなさい」

 

パーパルディア側を代表して、エルトが声をかける。案内の職員は退室し、中には第1外務局の幹部の面々とムーゲらだけとなる。因みに今回第1外務局を訪れたのは、ムー大使のムーゲとムー大使館職員の2名である。

 

(さーて、どう説明したものか)

 

ムーゲの来訪目的は、最初に書いた通り「退去命令」に関する説明である。しかし知っての通り、パーパルディアはプライドが息をしている様な国家。出来る限り相手を刺激せず、退去命令に関する理由を説明しなければならない。

 

(まあ流石に、パーパルディア側も大日本皇国の技術や国力については分かっているだろうし、大丈夫だよな?いや、ちょっと待てよ?)

 

ここでムーゲは、一つのおかしな点に気付く。もし大日本皇国の国力や技術力をわかっているのなら、何故に殲滅戦なんて馬鹿なことをしでかしたのだろうかと。

 

(まさかとは思うが、この期に及んでパーパルディア皇国が大日本皇国の力を把握していない、なんてことはないだろうな?ま、まさか、そんな......。だがそうでなければ、ここまで連敗して、未だ尚戦争を続けていることについて説明が付かん)

 

「それではこれより、会談を始めます」

 

ムー大使一行が着席したのを見て、エルトが開会の言葉を述べる。するとレミールが口を開く。

 

「我が国が皇国を語る蛮族国と戦争をしているのは、貴国の方でも把握しているだろう。それに関して今回、貴国は我が国に在住する貴国の民に対して、我が国からの退去を命令した。その件について、説明をお願いしたい」 レミールの「蛮国」という表現に嫌な予感を感じるが、ムーゲはひとまず説明する。

 

「はい。この度、貴国パーパルディア皇国と大日本皇国は戦争状態に突入しました。今回の戦争は、激戦となる可能性があります。ムー国政府は自国民の安全を確保するため、貴国への渡航制限と貴国からのムーの民の退去を命令するに至りました。これには、パーパルディア皇国にある我が国の空港の職員一同や、パーパルディア駐在大使館の職員一同の一時引き揚げも含まれています。この命令は、貴国の本土にも被害が出るとの判断からなされています。私としましても先程、本国から通達があったばかりですので詳しくは把握しておりませんので、ご了承ください」

 

ムーゲのこの発言に、レミールの顔が一瞬曇った。しかしすぐにレミールは気を取り直し、ムーゲに質問する。

 

「いや、上辺は良いのです。調べは付いています。本当のことを話していただけませんか?」

 

ムーゲも他のムー大使館職員たちも、その意味を捉えかねていた。困惑した表情が職員2人に見え隠れしている。

 

「(ホントのことって何だ?)」

「(俺が知るか)」

 

ここでその言葉の意味を考えても仕方ないと判断し、ムーゲは逆にレミールに質問する。

 

「すみません、今の発言はどういうことでしょうか?」

 

「我が国との戦闘に際して、回転砲塔を持つ軍艦や飛行機械が目撃されているのです。本当のことを話してください」

 

レミールはそう言ったが、これでもムーゲはレミールの言いたいことを測りかねていた。

 

「申し訳ありません、いったい何を仰りたいのか、理解できないのですが?」

 

ムーゲがそう言った途端、レミールの口調は一変した。詰問するような強い口調で、彼女はムーゲと職員2人を問い詰める。

 

「理解できないだと?これは、ムーもとんだ狸を送ってきたものだ。

私は今、皇国を語る蛮族国との戦闘で、「我が国では使われていない回転砲塔を持つ軍艦や、飛行機械が目撃された」と話した。そういったものが作れるのは、あなた方の国ムーくらいのものだ。

となれば、ムーが皇国を語る蛮族国に対して、飛行機械をはじめ武器の輸出を行ったのは明白だろう。そしてそれを踏まえれば、今回の国外退去命令の意味についても説明が付く。すなわちムーは皇国を語る蛮族国に武器を輸出して、我が国と代理戦争をしているのだろう?

何故、武器を輸出した!? そして何故、我が国の邪魔をするのだ!? 納得のいく説明をしていただこう!」

 

完全にフリーズする。まさかのまさかが的中したのだから当然である。

 

「あなた方はとても重大な勘違いをしております。ムー国は決して、大日本皇国に対して武器の輸出などしておりません」

 

「では、どういうことだ!?」

 

「大日本皇国は、我々の技術をも凌駕した科学技術を有しているのです」

 

「文明圏外の蛮国が、列強国よりも進んだ技術を有しているだと!? そんな話が信じられるか!!」

 

レミールはすっかり怒っているようだ。顔が茹蛸の様に真っ赤である。ムーゲは戸惑いつつも本国から伝えられた情報を、ここで開示することにした。

 

「彼らは転移国家であるという情報は、掴んでおられないのですか?」

 

「何だと?」

 

レミールは聞き返す。そんな記述は報告書のどこにも記されていなかった。尤も仮に、記されていたとしてもレミールは信じていなかっただろう。国家の転移なんてのはムー国の歴史書か神話の中にしか出てこない現象であり、現実にそんなことが起きるとは思えない。現実主義者であるレミールが信じられるような内容ではなかった。

 

「転移などと…貴国は、それを信じておるのか?」

 

「信じます」

 

レミールのこの質問に、ムーゲは即答した。

 

「何故なら、我が国以外の国ではお伽話としか思われていませんが、我が国もまた転移国家であるのです。1万2千年前、当時我が国は王政でしたが、歴史書にはっきり記されています。

大日本皇国はかつて「ヤムート」という名の国家であり、転移前の世界で親交があったことがわかっております。それに転移前の世界でも、伝説として我が国の転移が語られているそうです」

 

そう言うと、ムーゲは鞄から写真を2枚取り出して机に乗せた。レミール以下、パーパルディア皇国の面々がそれを覗きこむ。

 

「これは我が国の戦闘機、マリンです。機首にプロペラという風を送る機械が付いており、これを使用して推進します。そしてこっちが神聖ミシリアル帝国の航空機、エルペシオ3です。こちらはプロペラの代わりに、魔力を噴出する機構を搭載しています」

 

今度は別の写真を10枚程取り出す。しかもさっきまでの写真は全て白黒のモノクロだったのに対し、今度はカラー写真である。

 

「しかしこれを見てください」

 

パーパルディアの面々は写真がカラーであることに驚く。

 

「これらは大日本皇国の使用する航空機達です。音速を優に超える速度で空を駆け、遥かに威力のある機関砲を搭載し、操縦士が機影を視界に捉える前に攻撃する「ミサイル」と呼ばれる兵器を多数搭載します。一度放たれればワイバーンや、その強化種とて回避は不可能です。しかもその様な機体を何千と保有しています」

 

今度は戦車と歩兵の写真を指差す。

 

「陸軍の装備もとても強い。「戦車」と呼ばれる分厚い装甲と、強力な大砲を装備した機械式の地竜のような物です。更に歩兵の装備も聞いたことも無い装備ばかりです。貴国の兵と同じように鎧を纏い銃を使いますが、どちらも格段に性能が違います。貴国の使うマスケット銃どころか、地竜や魔導砲の攻撃も弾く能力を持ちます。銃に関しても高威力の弾丸を連射でき、兵士によっては遥か上空の航空機から飛び降りて敵地に侵入する者、海を静かに進み上陸する者、超巨大な銃器を携行する者等、我々の常識では測れない兵器や戦法を使います」

 

次は戦艦の写真を指差す。

 

「彼の国は海軍国であり、転移前の世界に於いても高い練度と装備を誇ります。我が国の保有するラ・カサミ級、貴国で言うところの「回転砲塔を持つ戦列艦」ですね。その艦をも遥かに超越する装備、速力、防御力を持つ艦を有します。たとえ我々がラ・カサミ級を100隻揃えようと、彼の国の保有する戦艦には勝てません。そのような戦艦を何十隻と有し、更に装甲こそ薄いものの、先程のミサイルを大量に搭載した艦や、重装甲な上にとても素早い艦、70機、或いは100機単位の航空機を装備する航空母艦といった艦艇を200隻以上保有する艦隊を、合計8つ持っています。しかもそれは侵攻用の戦力であり、防衛用の艦隊は別にあるのです」

 

ここまで言うとパーパルディア外務局幹部の面々の顔は白や土気色を通り越して、なんかもうゾンビか何かみたいになっている。

 

「お話したことをまとめますと、軍事力にしても技術力にしても、我が国よりも大日本皇国の方が優れているのです。我が国では大日本皇国の技術は、神聖ミリシアル帝国のそれすら超えているのではないかと分析されています。そんな国に貴国パーパルディア皇国は、殲滅戦を宣言してしまったのです」

 

ムーゲの口から「殲滅戦」という単語が出た瞬間、レミールの表情が明らかに変化した。さっきからのムーゲの話で青白くなっていた顔色は、一瞬で完全に血の気を失って白くなり、加えてその目からは光が失われ口もぽかんと開いたまま。そして視線はどこか下の方を向いていた。まるで、何か取り返しの付かない失敗を、自分自身や祖国の運命を左右するような重大な失敗をしでかした、とでも言うように。

 

(なるほど。大日本皇国との戦争の元凶、そして殲滅戦の元凶はレミールか)

 

「これらの話からも分かるように、貴国の首都、エストシラントが灰塵に帰す可能性は高いと判断されました。その為我々は、貴国より引き揚げます。もし戦争後も貴女方が生きているならば、私がまた話し合うことになるでしょう。貴国とあなた方が生き延びられることを祈っていますよ」

 

そう言うとムーゲらは退室していった。上位列強国の大使の言葉は非常に重く、あまりの衝撃で全員が茫然自失してしまっていた。これからどうすれば良いのか、具体的な対策は一切思い付かない。そしてレミール、いやパーパルディア皇国は知ってしまった。大日本皇国という決して怒らせてはいけない国を、最大限怒らせてしまったのである。

 

「ムー大使の言葉が全て正しかったとは限りません。ムーが武器を輸出して皇国と戦わせる代理戦争を行っている場合には、まだ勝機があります」

 

エルトがそう言った途端、

 

「フフ、ハハハ。ハハハハハ!」

 

レミールが、突然笑い出した。

 

「レミール様!?」

 

「ムーの代理戦争という最悪の想定が、まさか最良にして唯一の望みになるとは!これほどの喜劇があろうか!ハハハハハハッ!」

 

このままでは、パーパルディア皇国は滅亡する。

この日、第1外務局では大日本皇国に対する対策会議が、夜遅くまで開かれることとなった。

 

 

 

 

 

 



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第十六話煉獄作戦

ムーゲとの会談より数時間後 パラディス城 皇帝自室

「してレミール、一体どうしたのだ?」

 

「この間のアルタラス島の独立の際に申し上げた、ムーの飛行機械について判明したことをご報告に参りました」

 

「あの卑怯な国か。それで、どんなことがわかったのだ?」

 

レミールは一呼吸置いて、心を落ち着かせる。一瞬の間を置いて、話し始める。

 

「結論から申し上げますと、信じられないことですが、彼の蛮国は自力でムーを超える兵器を製造している(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)そうです。しかもムーの見解ではムーはおろか、あの神聖ミリシアル帝国をも超えているとの結論が出ているそうです」

 

「レミール、お前はそれを信じるのか?お前も知っての通り、文明圏の壁というのは等しく存在する。文明圏外国家は第三文明圏国家に敵わず、第三文明圏国家は第二文明圏国家には敵わず、第二文明圏国家は第一文明圏国家に敵わない。蛮国、確か大日本皇国と言ったな。その国家があるのは第三文明圏外で、それもつい最近現れた新興国家ではなかっか?」

 

「陛下の仰る通りです。しかし私は会談の場でムー、ミリシアル、そして蛮国の兵器の魔写(魔法で撮影された写真のこと)を見ました。私は兵器には疎いですが、ムーよりもミリシアルの方が洗練された兵器であることは分かりました。しかし蛮国の魔写を見ましたら、「ミリシアルよりも洗練された兵器」という感想しか出て来ませんでした」

 

「.......そうか。お前は、怖いのか?」

 

レミールの顔は何とも言えない、自分の心を見透かされて焦っている様な顔に変化する。ルディアスは笑って、それを安心させる。

 

「安心するが良い。我が国は既に、蛮国の首都を壊滅させられる兵器を用意しておる」

 

「それは一体、どのような?」

 

「ついてくるが良い」

 

椅子から立ち上がり部屋を出て、先代の皇帝が使っていた部屋に向かう。部屋に入ると横にある本棚の前に移動して、その中の一冊の本を奥に押し込むと「ガラガラ」という音ともに、目の前の右隣の本棚が下にずれて隠し階段が姿を見せる。

 

「こっちだ」

 

中に入ると螺旋階段が下に続いており、それを二人は降っていく。上に見えていた部屋の明かりが見えにくくなった頃、ルディアスは徐に口を開きレミールに語り出す。

 

「10年前、先代がこの世を去って余が皇位を継いで直ぐの頃だ。今使っている部屋を改装する為に、先代の部屋を使っていた時期があった。その時、偶々先代が幼少の我に「この国を強くする鍵だ」と言っていた箱を見つけた。何の気無しに開けると、そこには手紙と、紙とも木とも違う謎の材質の薄い板(カードキー)が入っていた。手紙には隠し通路の入り方、薄い板の使い方、そして今から見せる兵器の概要が書いてあった」

 

「その兵器というのは、一体どのような兵器なのですか?」

 

「詳しいことは余にも分からぬ。しかしその威力を収めた映像が、今向かっている部屋にあった。その威力は我が皇国どころか、あの神聖ミリシアル帝国の如何なる兵器をも軽く凌駕する威力だった」

 

その謎の兵器の説明をしている間に、目的地の部屋の前に到着する。目の前には他の壁とは少し色の違う壁と、奇妙な出っ張りが腕を上げた位置にある。手に持っていた薄い板を翳すと「ピー」という音ともに、色の違う壁が横にスライドして通路が現れる。

中に入ると様々な機材が置かれた部屋になっており、ガラスで隔てられた奥には巨大な空間に9本の巨大な柱が聳え立っていた。

 

「陛下、この柱は一体.......」

 

「これが蛮国の首都を破壊する兵器だ。名前を「大陸間弾道誘導魔光弾」という。手紙曰く、あの古の魔法帝国の遺した遺産だそうだ。この兵器は遥か空の高みまで舞い上がり、巨大な放物線を描きつつ目標に降り注ぐ兵器らしい。ところで、お前はインフィドラグーンの話を聞いたことがあるか?」

 

「確か、魔帝がコア魔法を使い、竜人族を滅亡の縁にまで追い込んだ戦争でしたね。そしてその生き残り達が作った国家が、現在のエモール王国でしたか?」

 

「よく知っておるな。目の前の兵器は、その時使用された兵器の拡大発展型だそうだ。まずは、その威力を見せてやろう」

 

そう言うとルディアスはコンソールをいじる。ボタンを数回押すと、目の前に立体映像が映し出される。そこは様々な建築物の並ぶ都市の映像である。しかし次の瞬間、奥で何かが光ると煉獄の炎の様な巨大な火球が形成され、それがまるでキノコの様な形を取り炎が完全に消え去るとそこには、都市の影形すら残らず、まるで元から何も無かったような荒野になっていた。

 

「本来であれば、来るムーやミリシアルとの戦乱で使いたかったが、この際致し方あるまい。それにその二国が認める国家に大きな被害を与えられれば、我が国に膝を折るやもしれん。少なくとも決して無視できぬ存在にはなる」

 

「いつ使うのですか?」

 

「勿論これは切り札である。よって、今直ぐには使わない。もし皇国が大きな被害を受けた場合や、余が蛮国には敵わぬと判断した場合に使うつもりだ。それとだなレミール、一つ頼みたいことがある」

 

「頼みたいことですか?」

 

ルディアスはレミールの前に片膝を突くと、左手をそっと握って前に出す。そしてその指に、綺麗な指輪をはめ込む。

 

「本来この部屋は、この国の皇帝しか見てはならぬし、この部屋の全ても同様に皇帝しか知り得てはならぬ。しかし余がここに連れて来たのは、お前を伴侶として余の横に居てもらうためだ。たとえお前がいくら拒もうと、この秘密を知った以上は余の横に未来永劫居てもらう。レミール、受け取ってくれるな?」

 

そう言うとレミールは号泣していた。

 

「陛下ッ、グズッ。私がこの日をどれほど待ち望んだか、知っておりますか?私がこの世に生を受けたのは、グズッ、貴方様の隣を歩む為なのですよ?」

 

「そうか。余は嬉しいぞ。さあ、上に戻ろう。お前には、沢山の子を産んでもらわぬとな」

 

「陛下ぁ、好き者です♡」

 

尚、この日皇帝の自室では嬌声とベッドの軋む音が聞こえたそうな。多分、読者の見たかった絶望シーンでは無いが、そのシーンは何れ書くので今回はこれで我慢して頂きたい。

さてさて、こんな日本国召喚の二次創作の中で一番期待されないであろうラブロマンスシーンをこれ以上描くと、主が部屋の物を破壊しつくしてヤバいことになりそうなので、ここからは皆さんお待ちかね、

 

パーパルディア皇国処刑タイム

DEATH

 

需要のないラブロマンスより三週間後 大日本皇国 霞ヶ浦航空基地

いよいよパーパルディア皇国を徹底的に潰す作戦である「天照作戦」の第一段階である「煉獄作戦」の開始日となり、パーパルディアの領空には新開発された「超空の要塞戦艦」とも言うべき超重爆撃機「富嶽II」が攻撃の時を、今か今かと待っていた。その数、12機。

え?少ないって?

確かに、数こそ少ない。しかしその搭載量というのが破格の160t(160,000kg)である。これがどの位凄いかと言うと、世界最大の現用爆撃機であるアメリカのB52H ストラフォートレスは、爆弾を約16t(16,000kg)しか積めない。つまり「富嶽II=B52×10機分」なのである。因みに日本を焼け野原にした上、終いには原爆をも落としたB29の爆弾搭載量は9t(9,000kg)である。

更にはこれに加えて、独立した「新・アルタラス王国」にあるルバイル航空基地(旧ルバイル空港)からもA10彗星IIを保有する第510〜550航空隊、護衛としてF9心神を保有する第203〜210航空隊、さらに管制役としてE787早期警戒管制機を保有する第826航空隊、その支援としてE3鷲目を保有する第708〜714航空隊も合流している。

 

『ウェイポイント通過。各機、各々の攻撃目標に向かえ』

 

『こちら富嶽隊。皇都エストシラントへ向かう』

『こちら510空。俺達は北側陸軍基地を潰してくるとしよう』

『なら我ら531空は南側だな』

 

皇都エストシラントは「皇都防衛隊」と呼ばれる、精鋭軍が守護している。北と南の陸軍基地には、現在ワイバーンロードを更に強化した「ワイバーンオーバーロード」と呼ばれる飛竜、安定の地竜と多数の魔導砲が配備され、天照作戦の第三段階、「小島作戦」で攻撃予定のクラールブルクには近衛艦隊と防衛艦隊が配備され、鉄壁の布陣と言える配置であった。

尤も、現用ジェット機に対抗は出来ないが。

 

 

 

皇都エストシラント 南方海域 上空

現在その空域をパーパルディア皇国皇軍皇都防衛隊、第18、19竜騎隊所属のワイバーンオーバーロード80騎が警戒に当たっていた。本来なら精々5騎しか飛ばないが、今回はどう言う訳か80騎という大規模編隊での警戒である。

 

『隊長殿、よろしいですか?』

 

『何ですか、プカレート』

 

『今回の配置、幾らなんでも過剰すぎやしませんか?いつもの10倍以上ですよ?』

 

皇都防衛隊の中でも最強クラスの実力を持つ騎士、プカレートが隊長のデリウスに質問する。

 

『確かに過剰かもしれませんが、我々はあくまでも「皇都防衛」の任を全うするのみです。数が少ないよりはいいじゃないですか』

 

そう言うと、魔信のチャンネルをプカレートとデリウスのみのチャンネルに切り替える。

 

『と、言うのは建前です』

 

『デリウス、何か知ってるのか?』

 

『噂じゃ我々の相対する敵、「大日本皇国」という国家はムーと同じ機械文明国でありながら、あの神聖ミリシアル帝国をも超える軍備を持っているそうです』

 

現在パーパルディア皇国の兵士達は、日本がどのような国家かを教えられていない。ルディアスの判断で、前線の士気を維持する為に幹部クラスにしか情報を与えていないのである。

しかしそう言う隠し事はバレる物で、兵士間で「噂」としてまことしやかに囁かれてはいる。

 

『しかし噂が本当なら、この戦力でも気休めにすらならんな』

 

『そうですね。噂がガセネタであることを祈りましょう』

 

残念ながらガセネタではなくマジなのだが、そんなことも知らず飛行隊は更に前進する。しかしその騎影はE3鷲目のレーダーに、バッチリ映っていた。

 

 

『各機、コーション!敵ワイバーンを探知、戦闘機隊は迎撃に向かえ』

 

航空隊が迎撃に掛かる。勿論先手を打ったのは日本側であり、搭載兵装で一番の射程を誇るAIM63烈風を発射する。

 

『何か光ったぞ!』

 

ワイバーン隊もミサイルの発射炎に気付いたが、気づいた時には遅い。亜音速で迫るミサイルに、チャフやフレアといった妨害装置を持たないワイバーンオーバーロードでは回避運動を取ることも許されないまま、ただの的として確実に屠られていく。

 

『全騎、攻撃準備!生き残って皇国の土を踏みますよ!!』

 

デリウスの指示に騎士達が鬨の声を上げ、守護者達が果敢に心神へ向けて突撃してくる。

 

『全機ブレイク。乱戦になる、空中衝突に気を付けろ』

 

一方日本側も本格的な空戦へと突入する。旋回半径こそワイバーンオーバーロードの方が小さい物の、それ以外の機動力、速力、攻撃力、更には防御力ですら劣っているワイバーンオーバーロードでは心神には敵うはずもなく、一騎、また一騎と墜ちていく。

 

『こちら第18竜騎隊、隊長デリウス!敵は大日本皇国の飛行機械です!!』

 

『こちら本部、了解した。何が何でも食い止めてくれ』

 

『勿論です!!』

 

皇都防衛竜騎隊の隊長を任せられるだけあって、デリウスの腕は中々の物である。自らの腕を信じて、手近の心神一機に襲い掛かる。

 

「仲間の恨みです!!」

 

手綱を操り、相棒の口から導力火炎弾を発射する。しかし心神が機体を翻したことにより、導力火炎弾は当たらない。

 

「アイツ、中々やるな」

 

心神のパイロットがデリウスに気付き、デリウスの飛竜に向けて機銃を放つ。

 

「避けて!!」

 

「グァウ!!」

 

力一杯手綱を右に引いて、飛竜の体勢を横にして避ける。心神はそのまま掠める様に下降して行き、デリウスもそれを追いかける。

 

「仲間の恨みです!!」

 

水平飛行になり、機体の死角となる真後ろに付く。しかしデリウスは知らなかった。日本の保有する戦闘機には全て、多数のセンサー類によって全方位の視覚化が可能なのである。というかレーダーで丸裸でもある。

そんな訳で敢えてデリウスを後ろに付かせているだけであり、逃げようと思えばアフターバーナーを使って逃げることが出来る。では何故、後ろに付けさせているのかと言うと、冥土の土産を渡す為である。

 

「貰いました!!」

 

何も知らずにデリウスは導力火炎弾を放とうとするが、その瞬間あり得ない出来事が起こる。

 

「なっ!?」

 

なんと目の前の飛行機械が、機体姿勢を急激にピッチアップして迎角を90度近く取り、水平飛行に戻したのである。

文面だと何をしたのか分かりにくいが、一言で言うと、ただのコブラ機動である。

 

「さあ、チェックメイトだ。いい腕だ、名も知らない騎士。恨むなら、お前達の国を恨め」

 

心神のパイロットはトリガーを引き、20mmバルカン砲を発射する。勿論耐えられる訳がなく、肉片に加工されて海に墜ちていった。

F9心神の働きによって80騎の内50騎近くは撃退できたが、やはり数の差でどうしても爆撃機への接近を許してしまう。普通なら大問題であるが、富嶽IIの場合に限りピンチにすらならない。

 

「機長、来ました!」

 

「よーし、全機弾幕展開!!撃ちまくれーーー!!」

 

レーダーでワイバーン部隊よりも遥か先に探知され、長射程の速射砲群が弾幕を展開する。イメージ的にはジパングの1対40(あの名言、「たかが一門の砲で、何が出来る!」が生まれたヤツ)が一番近い。

 

『ギャーーーー!?!?』

『なんだ今の爆発は!!8騎近くが一気に吹き飛んだぞ!?』

『落ちる落ちる!!誰か、助けてくれーーーーー!!!!』

 

魔信では断末魔の叫びが途切れることなく続き、耳から離したくなる程である。しかしプカレートは仲間の断末魔を気にせず、部下の四人を連れて発射炎のする方に向かう。雲から抜けるとそこには、バカでかい飛行機械「富嶽II」の姿があった。

 

「目標捕捉。機関砲撃て!!」

 

『お前達、導力かえ』

 

部下達に命令を下そうとした瞬間、何かが無数に光ると墜ちていく仲間達の姿と共に自分の体も落ちていく光景を最後に、プカレートの意識は完全に消えた。

富嶽爆撃隊が敵に襲われていた頃、他の航空隊は順調に目標に向かって飛行していた。

 

 

 

皇都エストシラント 南方基地

『隊長機より全機へ。パーティータイムだ。行くぞ!!!』

 

爆装したA10彗星、総数80機が高度10,000mから一気に急降下を開始する。

 

「エントリーーーーーー!!!!アッハハハハハハ!!!!」

 

なんか何処ぞの海兵がズゴックに乗りながら叫んでそうなセリフを、大のガンダムオタクである隊長が叫ぶ。因みに主はガンダムは全く分かりません。

 

 

「て、敵飛行機械接近!!」

 

監視塔に居た兵士が彗星に気付くが、もう遅い。兵士が叫んだ瞬間、小型爆弾40発が投下され、後続の機体も続々と爆弾を投下する。

 

ドガァァァァァァァン

 

更にはロケット弾も一緒にかましている為、司令部庁舎やらワイバーンの厩舎やらを巻き込んで大爆発を起こす。一撃の下に完全に破壊し尽くされた為、北方基地やエストシラントへの通報は防げたのであった。一方その頃、富嶽爆撃隊は全速で皇都エストシラントに迫っていた。

 

 

 

皇都エストシラント上空

「機長、エストシラントです」

 

「日本を怒らせたアホどもの住処か。爆撃手、上手くやれよ」

 

『猛訓練の成果、特等席で見ててください。誘導開始します。進路、このまま』

 

「ヨーソロー」

 

本来であればレーダー照準で行く所だが、今回は乗員の訓練も兼ねて目視による有視界爆撃を行う。そんな訳で普通に機体の姿はパーパルディア皇国にいる人間達に丸見えであり、大パニックが起こる。

 

「なんだアレは!?」

「ムーの奇襲か!?」

「バカ!!ミリシアルだろ!?」

「それどころじゃねーだろ。早く逃げないと!!」

「ヤメロー、死にたくない、死にたくない!!!!」

 

市民達は逃げ回り、それによる混乱でパニックに拍車が掛かる。軍の方も同様で、ワタワタして迎撃のバリスタ一発すら飛んでこない。

 

「よーい、てっ」

 

爆撃手がスイッチを押し、爆弾を止めていたロックを外す。合計160tの爆弾は、重力に従いエストシラント市内に落ちていく。あっちこっちで爆発が起こり兵士や市民はは体が吹っ飛ばされたり、瓦礫に潰されたり、ガラスが身体中に突き刺さったりもしている。

 

「これが.......これが、日本軍.......」

 

レミールは第一外務局の庁舎から、エストシラントの惨状を見ていた。まさかいきなり首都であるエストシラントに敵がやって来るとは思わず、完全に腰を抜かしている。これは軍の幕僚にも言える事で、まさか飛び石作戦で来るとは思っておらず、対応が遅れまくっている。中には「タチの悪い冗談だ」と切り捨てた将軍も居たそうな。

終わってんな、パーパルディア。あ、今に始まった事じゃねーわ。by主

 

 

「うへぇ、下には居たくないな」

 

「ですね。敵国民とは言え、彼らには同情します」

 

眼下に広がるエストシラントは至る所にクレーターができ、建物は粉々に吹き飛んでいる。「亡国の首都」と言われても、確実に信じるだろう。尤も、それは近い将来に本当のこととなるのだが。富嶽爆撃隊はエストシラント南方を完全に破壊し、そのまま悠々と飛び去った。この十数分後、最後の目標である北方の陸軍基地には残りのA10彗星攻撃隊が向かっていた。

 

 

エストシラント北方 北方基地

この基地には大型の魔力探知レーダーがある。船舶に搭載されている物よりも大型である為、より広範囲をカバーできる上に、陸上の目標も探知可能なのである。その反面、魔法使い程度の魔力は探知できないのが玉に瑕である。

そんな大型レーダーがあると言うのに、一切反応せずに皇都エストシラントの南側は完全に破壊された。空襲を受けた時間帯もレーダーはきっちり動作しており、点検もしてみたが異常はない。その報告を受けていくごとに基地司令のメイガは不機嫌になっていき、最後にはキレて「一体どういうことだぁぁぁぁぁ!!!!」とブチギレていた。

 

「誰か、魔信技師を読んでこい!!」

 

「ここに居ます」

 

そう言うとショートカットの女性が前に出てくる。

 

「確かパイとか言ったな?単刀直入に聞くが、魔力探知レーダーを掻い潜ることは出来るのか?」

 

「不可能です。ここで使われているモデルは最新型で、魔導士程度の魔力は探知できないものの、探知範囲と精度は皇軍の中でもトップクラスです。そもそも魔導探知レーダーは対象から魔力が.......あ!」

 

「どうしたのだ?」

 

「あります。一つだけ、魔導探知レーダーに映らない方法が!」

 

メイガは机を力一杯叩き、血走った目で「その方法は!?」と怒鳴りながら聞いてくる。その迫力に、パイは少し驚くがすぐに答える。

 

「ワイバーンでは無い飛行物体、つまり飛行機械を使うのです。魔導探知レーダーは魔法力を探知する物ですから、魔法を発しない鉄の塊である飛行機械には反応しません」

 

「そういうカラクリか。君はすぐに魔導探知レーダーについてくれ。他の者は、手空きの者も動員して目視による監視を行え!」

 

この命令は直ちに伝達され、上空警戒に当たってる竜騎隊にも同様に伝達された。パイがレーダー情報を投影する水晶体を見ていると、急にワイバーンオーバーロードが散開し始める。しかも散開の仕方が戦闘ではなく、逃げ回るような散開だったのである。更に観察していると、急に強い光を発して消えた。それが意味するのは「墜落」である。

 

『緊急事態発生!!緊急事態発生!!哨戒中のワイバーンオーバーロード、反応消失!!敵襲撃の可能性あり!!!!』

 

この報告を受け上空警戒に当たっていた竜騎隊が戦闘態勢に移るが、音速で迫る機体には間に合わず、マトモに戦闘態勢を取る前に全騎ミサイルで撃墜される。

 

『野郎共、戦闘機隊が道を開いてくれたぞ。掛かれぇ!』

 

爆弾とロケット弾の嵐になす術なく、抵抗の間すら与えられずに施設が破壊されていく。しかもロケット弾の一発が司令塔を直撃し、その瓦礫がメイガの眼球を破壊した。

 

「目が!!目がぁぁァァァァァァ!!!!痛い痛い!!!!!真っ暗だ!!!」

 

床を転げ回り、痛みに悶える。そしてそのまま攻撃で空いた壁の大穴に向かって転がってしまい、そのまま地面へと落下して魔力を送る機械に刺さってしまう。

 

「ギャァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

メイガは魔力を全身に受けて、消滅したのであった。天照作戦の第一段階「煉獄作戦」は文字通り、パーパルディア皇国の首都であるエストシラントと近隣の基地を巻き込んで、煉獄を作り上げる形で成功した。

 

 

 

空襲より八時間後 大日本皇国 特殊戦術打撃隊基地

「いよいよコイツの出番か」

 

パイロットの一人が、目の前に鎮座する巨大な二足歩行兵器を前にして呟く。

 

「そろそろ時間、だな」

 

そう言うとコックピットの中に滑り込み、スイッチを入れて出撃準備を行う。

 

「メタルギア水虎、発進!!!!」

 

雄叫びを上げて、海へと飛び込む。他の仲間達もそれに続き、部隊はクラールブルクに向けて泳ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十七話デュロの地獄

煉獄作戦より3日後 工業都市デュロより380kmの海域 第一揚陸艦隊旗艦『出雲』作戦室

 

「現在我が第一揚陸艦隊は、第三主力艦隊の要塞空母『瑞鶴』、戦艦『出羽』『近江』、対空巡洋艦『高雄』と合流を果たし順調に攻撃目標のデュロへ向かっております」

 

「ルバイル航空基地からも、空挺部隊が出撃準備に入ったそうです。予定通りに行けば、我々がデュロに上陸する頃に合流します」

 

出雲の艦内では、これから発動されるデュロ攻撃作戦である「鎌鼬作戦」に関する会議が行われていた。幕僚達が司令官である本間中将に報告を行なっている。

 

「潜入中のICIBエージェントの報告によりますと、デュロには現在、神聖ミリシアル帝国より密輸して来た、型落ち品の魔光砲が研究の為に配備されているそうです」

 

「魔光砲とは何だ?」

 

本間中将の問いに、情報参謀の少佐が答える。

 

「平たく言えば機関砲の機構を魔導に変えた物です。つまり対空機関砲を数基持っている、と考えていただければ大丈夫です」

 

「わかった。ならば航空参謀、航空隊には魔光砲とやらを確認次第、最優先で破壊するように厳命しろ。もし空挺降下中に撃たれでもしたら、目も当てられんからな」

 

「了解であります」

 

一方その頃、デュロ防衛隊の司令部庁舎でも会議が開かれていた。

 

 

「今回お集まり頂いたのは、他でもありません。大日本皇国についてです」

 

この単語が出た瞬間、全員の顔が引き締まる。

 

「ご存知の通り、大日本皇国はいきなり皇都エストシラントと近隣の皇都防衛隊基地を破壊し、皇都エストシラントの一部地区を爆撃した後に撤退していきました。情報を精査した所、大日本皇国が今回の攻撃に使用したのは、飛行機械である可能性が極めて高いものと推測されます」

 

司会役の情報将校ラッドが一呼吸置いて、また話し始める。

 

「また次の攻撃目標として狙われるのは、恐らくこの工業都市デュロと思われます。ここはパーパルディア皇国全体のドラゴンと艦船を除く様々な兵器を製造している為、敵としても最重要で抑えておきたい要所です」

 

「こう言っては何だが、我々だけで守れるのか?彼の国はワイバーンオーバーロードをも装備した、最精鋭の皇都防衛隊を打ち破ったのだ。此処にもワイバーンオーバーロードは配備されているが、たったの80騎程度だ」

 

デュロ防衛竜騎士隊の騎士長、ガウスが反論を述べる。ワイバーンオーバーロードは知っての通り、カタログスペック上ではあるがムーの最新鋭戦闘機であるマリンを倒せるワイバーンとされている。少なくともワイバーンロードよりかは、遥かに強力であるのは確かである。しかしそのワイバーンオーバーロードが倒されたのであっては、一個前の世代となるワイバーンロードでは歯が立たないのは火を見るよりも明らかである。

 

「ご心配には及びません。確かにワイバーンオーバーロードは敗北していますが、それは完全な奇襲であったからです。流石の皇都防衛隊にも「他の領土を占領せずに、飛び石作戦で攻め込んでくる」なんて発想は無かったでしょうからね。

しかし今回は、我々は警戒しています。となると敵発見の早さは此方が勝ることができ、もし不足の事態に陥ったとしても対応可能となるのです」

 

悲しい事にラッドの予想は大外れである。確かに前半部分は正しいが探知距離に関しては、完璧に間違っている。揚陸艦隊に随伴している浦風型の草薙武器システムに搭載されるレーダーは最大で800km以上の距離を探知可能な上、600個以上の目標を同時捕捉、追尾可能なのである。そして瑞鶴に搭載しているE3鷲目も600km以上を探知可能な上に、震電IIも40km圏内ならレーダーで探知できる。

一方でこれらの兵器は魔力を放出しない為、魔力探知レーダーに引っかかることはない。その為、目視圏内で発見するしか無いのである。しかし発見したところで、ミサイル撃たれて終わるのが関の山である。敵の姿も見られない可能性すらある訳である。

 

「ブレムよ」

 

「ハッ!」

 

「イクシオン20mm対空魔光砲の使用を許可する。敵襲来時に備えて、魔力充填を開始せよ」

 

「わかりました。直ちに準備に取り掛かります」

 

デュロ防衛隊の司令官ストリームが、デュロ防衛隊陸将のブレムに命じる。因みに対空魔光砲が何なのか、念の為説明しておこう。対空魔光砲とは、魔導成形砲弾を爆発魔法で射出する対空用の魔導砲である。名前から光学兵器のように思えるが、しっかりとした砲弾、正確には銃弾を発射する。つまり「対空機銃の機構を、そのまんま魔法に付け替えたもの」である。

この兵器はパーパルディアが自作したものでは無く、研究用で神聖ミリシアル帝国より密輸してきた型落ちのオンボロ品(・・・・・・・・・)である。そもそも魔光砲というか、機関銃自体が製作の難しい火器なのである。大砲の場合は「筒に装薬と砲弾ぶち込んで、装薬に着火する」という行為が出来れば、命中率等は度外視するが一応成立する。しかし機関銃は知っての通り、連射する火器である。

この「連射」という機構が厄介であり、中々に制作が難しい理由である。一応銃らしい見た目をしている火縄銃を起源とすると、生まれたのが15世紀。一方機関銃が生まれたのは、18〜19世紀頃である。ただしレオナルド・ダ・ヴィンチを始め、様々な人間がアイディア自体は出していたりするし、試作まで行くも使い物にならない、所謂「言う事聞かん銃」だったりは存在していたらしい。

 

「ガウス、哨戒騎の数を増やし、敵の早期発見に努めよ」

 

「ハッ!」

 

ストリームは次々に部下達へ命令を飛ばし、デュロの防備は固まっていく。だが彼らは知る由もない。敵が神聖ミリシアル帝国をも遥かに凌駕した、この世で一番敵に回してはいけない奴らであることを。

 

 

 

翌日 工業都市デュロより40kmの海域 対空巡洋艦『高雄』CIC

「レーダーに感。敵、ワイバーン180騎の離陸を確認。内60騎が本艦隊との進路と重なります」

 

レーダー手の兵士が艦長に報告する。

 

「全艦に対空戦闘を発令。本艦が最前列にて、対空戦闘の指揮を執る。機関、第四戦速」

 

「第四戦速、ヨーソロー」

 

摩耶に搭載されているガスタービンエンジンが唸りを上げて、他の艦よりも速度を速めて先頭に躍り出る。

 

「砲雷長、ミサイル兵器の使用を制限する。流石にワイバーン程度に信長は、幾らなんでも勿体ない」

 

「わかりました。では、主砲、副砲、機関砲で対処します」

 

旧帝国海軍の「対空番長」である摩耶の正当進化版である摩耶型の一隻が、今正にその力の片鱗を見せようとしていた。

一方その頃、ガウスは40騎のワイバーンオーバーロードと20騎のワイバーンロードを連れて偵察を行っていた。数でお察し頂けるが、艦隊に向かっているのはこの部隊である。

 

 

『竜騎士長。今日の海、何かおかしいです』

 

部下の一言に、ガウスは海を眺めながら答える。

 

『ほう。一体何がだ?』

 

海は至って普通の、綺麗な青色をしている。もしこれが仕事では無く単なる遊覧飛行なら、海面スレスレに降下して飛沫を浴びたくなる程に綺麗な海である。

 

『何かが、おかしいのです』

 

『そうか。まあ猜疑心を持つこと自体は、貴様が慎重である証拠で良いことだ。だが余り心配するな』

 

実際の所、ガウスも謎の胸騒ぎはしていた。だが部下がいる手前、士気の観点からも指揮官が何かに不安を感じていては駄目なのである。そんな訳でそんな不安は心の奥底に封じ込めて、平静を保つ。しかしこの予感は十数分後、当たっていたことを痛感する羽目になる。

 

 

「右対空戦闘。CIC指示の目標、撃ちー方始めー」

 

「トラックナンバー2950、主砲撃ちー方始め」

 

「撃ちー方始め」

 

砲術手がゲームの銃型コントローラーの様な白い物を机の下から取り出し、下についているトリガーを引く。

 

ダダン!ダダン!ダダン!

 

6発の230mm砲弾が発射され、ワイバーン編隊の真ん中で炸裂する。乗騎のワイバーンごと、十数人がバラバラになりながら海へと落ちていく。

 

『何が起きた!?』

『おい、ドロップキック!!ドロップキック!!』

『うわぁぁぁぁぁ!!!!!こ、ここここ、これ腕!!!人の腕だ!!!!』

 

謎の攻撃で仲間が落ちて行き、吹き飛ばされた仲間のパーツが他の生き残った竜騎士達に降り注ぐ。中には目玉が落ちてきた所もあったそうな。

 

『狼狽えるな!!!!!敵は近くにいるぞ!!高度を下げ、攻撃を開始するぞ!!!!全騎、我に続け!!!!ハァ!!!!!』

 

ガウスが先陣を切って、乗騎のワイバーンオーバーロードを一気に降下させる。海面スレスレの超ギリギリを飛行し、他の部下達もそれに続く。だがこれは、摩耶型に取っては思う壺である。

 

 

「副砲群、自由射撃開始。機関砲群も射程に入り次第、自由射撃」

 

「130mm、迎撃開始。撃ちまくれ」

「アイ・サー。撃ちー方始め」

 

ダン!ガシャコン ダン!ガシャコン ダン!ガシャコン

 

連射に優れる130mm速射砲が、次々に砲弾を発射する。近接信管を装備した砲弾はワイバーンの手前で炸裂し、破片と爆風で何もかもズタズタに引き裂く。

 

「ッ!?」

 

ガウスもその一人であった。初弾は運良く避けられたものの、続く次弾で正面で砲弾が炸裂。何かが来たことを感じた瞬間、この世から永久退場することとなった。

 

「竜騎士長!!竜騎士長!!」

『竜騎士長がやられたぞ!!!仇討ちだ、掛かれぇぇぇぇ』

「俺がやってやる」

 

仇討ちに闘志を燃やしているが、彼らは気づかなかった。今飛んでいる所は、機関砲群の射程範囲だと言う事に。

 

「CIWS、迎撃開始!!」

 

30mmと20mmの機銃砲弾が、まるでレーザービームが如く発射される。竜騎士達は何が起きたか理解すら出来ず、挽肉へと加工されていった。

 

「新たな目標無し。戦闘終了」

 

「ご苦労だ、砲雷長」

 

艦長は被っていた帽子を更に深く被り、一言心で呟いた。

 

(よりによって摩耶型に会うとは、運がなかったな)

 

実際摩耶型に会ったのは、本当に「不運」の一言である。摩耶型は対空に特化した巡洋艦であり、何重にも張り巡らせた対空迎撃網があるのである。今回はミサイルを使ってないが、本来ならミサイルで先制攻撃を行い、230mm砲で陣形をグチャグチャに破壊し、130mmと機関砲、それから短距離の艦対空ミサイルによる弾幕で殲滅する。

この戦いぶりは前世界でも有名であり、120機のF22とF35の編隊を一隻で相手取り、ダメージを一切受けることなく殲滅した記録を持つ。現用ジェット戦闘機相手ですら歯が立たないのだから、ワイバーン程度では倒すどころか攻撃を加えることすら夢のまた夢である。

 

 

 

数時間後 デュロ沿岸部

「諸君!いよいよ我々の出番だ!!今こそ日頃の猛訓練の成果を、存分に発揮してほしい!!!まあ敵が余り強くないから本気は出しづらいかもしれないが、決して慢心せず、足元を掬われないようにせよ!!」

 

本間中将の訓示に隊員達が鬨の声をあげる。本間中将がアイコンタクトで副隊長に合図を送り、作戦の概要が説明される。そして隊員達が装甲車に乗り込んだり、LCACや上陸用舟艇に戦車や装甲車の固定、歩兵の搭乗作業が行われていた。その間に沿岸部は、地獄と化していた。

 

「主砲砲撃戦!弾種、五月雨弾!!撃ち方始め!!!」

 

「距離4500、一斉射撃!!」

「諸元入力完了」

「撃てぇ!!」

 

ドゴォォォォォォン!!

 

現在デュロ沿岸部は大和型2隻による砲撃で、絶賛整地中なのである。51cm砲弾が雨の様に降り注ぐという、トンデモなくヤバい地獄が沿岸部では繰り広げられていた。沿岸部に配置されていた防衛用の魔導砲陣地は、時雨弾によって完膚なきまでに破砕されている。

時雨弾は対地上用に開発された特殊砲弾で、着弾後に地中へ小型爆弾を送り込み地中で起爆。砲弾の運動エネルギーと小型爆弾の爆発で、破壊力を爆上げさせるというヤバい兵器であるため、例え壕の中に砲があっても貫通して吹き飛ばす。砲撃要員以外の兵士達は壕の中に退避して、この砲撃をやり過ごそうとするが逆に悲惨な事態にしてしまっている。その間に要塞空母『瑞鶴』はじめ、各揚陸艦は艦載機を発艦させ、上陸部隊の援護準備を行っていた。

約30分にわたる砲撃の後、揚陸艦から艦載艇と水陸両用車が発進していった。

 

「敵さん撃ってこないな!!」

 

「そりゃそうだ!51cm砲の雨を食らって生き残れるほど、アイツらは頑強じゃない!!というか、51cm砲なんて端から想定すらされてないだろ!!」

 

「そうだな!」

 

今のところ、砲弾はおろかマスケット銃すら撃たれていない。まあ原因はお察しの通り、さっきの砲撃である。そんな訳で何にも阻まれることなく、すんなり上陸に成功した。

 

 

 

同時刻 デュロ都市上空

「お前達、デカブツを落とすぞ。おーい、ゲストさーん。準備はいいかな?」

 

『こちらアンヴィル1、早くこんな狭い空間からはおさらばしたいんだ。早いとこ落としてくれ』

 

「HAHAHAHA。OK!!ハッチ開くぞ!!!」

 

デュロでは丁度空挺部隊が降下しようとしているところだった。しかし下では、

 

「対空魔光砲、発射準備急げ!」

 

士官が命令しパーパルディア皇国陸軍の兵士たちは、大急ぎで対空魔光砲を回して砲身に仰角をかける。因みに見た目はソ連のZU23に近い。

 

「照準合わせろ!発射はもう少しだけ待て!」

 

「魔導エンジンと魔光砲の接続を解除しろ!発射に備えるんだ!」

 

慣れない対空魔光砲の操作に少しだけ手間取りつつも、発射準備はつつがなく進められた。そして発射準備が完了すると同時に、46式を搭載したC3屠龍が射程に入る。

 

「対空魔光砲、発射準備よし!」

 

射撃手が引き金に指を掛け、別の兵士が弾帯を持って連射に備える。次の瞬間、士官が手に持つ指揮棒を屠龍に向ける。

 

「対空魔光砲、発射!!」

 

「発射!」

 

トリガーを引いた瞬間、砲口内に赤い魔法陣が現れ、魔光砲全体が赤い光を発する。そして20mm弾が発射される。

 

ドカカカカカカカカカカ!!!!

 

 

「ん?うぇ!?嘘ォ!?」

 

機長は眼下に見えた赤い光に見覚えがあった。対空機関砲の発射炎そのものである。ハッチを閉じつつ、機体を左に傾ける。

 

「こちらコンボイ3号機!敵、対空機関砲を発見!!至急航空支援求む!!!」

 

『こちらギャッツ隊。こちらでも確認した。すぐに対応するから、もう少し待っててくれ』

 

偶々一番近くにいた、ギャッツ隊が即応する。その頃、魔光砲の動きは止まっていた。

 

「ど、どうした?故障か?」

 

 士官が叫ぶと、

 

「いえ、魔力切れです!」

 

 砲手からは、まさかの答えが返ってきた。

 

「何だと!?毎分350発をオーバーヒートするまで連射できるんじゃなかったのか!?」

 

「どうやら燃費が思ったより良くないようです!」

 

残念なことに、パーパルディア皇国の超非力な魔導エンジンでは魔力の充填は思ったよりもできておらず、しかもこの対空魔光砲の燃費も悪かったようだ。

更にいうと、実はこの対空魔光砲が発揮した性能自体も低くなっている。今回の砲撃では毎分200発の発射レートであり20秒も経たずに魔力切れになったのだが、本来であれば「毎分350発のレートで射撃が可能」で、しかもオーバーヒートするまで撃ち続けられるのである。魔光砲の運用に求められる「技術水準」が、パーパルディア皇国の技術レベルより高すぎたのである。そんな訳で今からの運命は、お察しの通りである。

 

「さあ、火遊びの時間は終わりだ。投下ァ!!」

 

ヒュゥゥゥゥゥ

 

「た、退避ぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

士官が叫んだ瞬間、全員が弾かれたように逃げ出すが、爆弾が着弾すると魔力回路に使われた魔石、魔導エンジンの可燃性の魔力液、弾薬に引火して大爆発を起こす。それもまるでミサイルが爆発したみたいな、超特大の火球作って。

 

「フッ、汚ねぇ花火だ。こちらギャッツ隊。敵対空機関砲は、火山の如し。さあ、いつでもやってくれ」

 

『コンボイ3号機、了解。帰ったらビールと、スルメ奢ってやる』

 

そんな訳で、今度こそ戦車を投下する。一応なけなしの防衛線は構築しているらしいが、その一つの真上に戦車が落ちてくる。

 

「お、おい!!何か降ってくるぞ!!!」

「何だありゃ!?鉄の塊だ!!」

「逃げろぉぉぉぉぉ!!!!」

 

日本の空挺降下する戦車や装甲車というのは、基本的にパラシュートは最初の姿勢制御にしか使わない。最初出た瞬間は使うが、姿勢が安定するとパラシュートは外す。そして後は自由落下で地表付近まで降下し、下方のロケットモーターで速度を相殺して止める。その為下の人間は、ぺったんこである。

 

「あ、何か踏んだ?」

 

「車長、さっき見たらこの辺りは防衛線が張られてましたよ。多分、アレです。人、潰してます」

 

「オブラートに包めよ。想像しちゃったじゃん。絶対見たくないわ」

 

「ですね。じゃ、行きますよ」

 

ギュラギュラギュラギュラギュラ

 

 

「コンボイ1号機、コース良しコース良し、よーいよーいよーい、降下降下降下降下降下!!!!」

 

一方別の所では、空挺隊員達がどんどん降下する。その数、8000。更に都市の入り口からは海軍陸戦隊の部隊が群がっている。パーパルディアの兵士は完全にパニックである。

 

「魔導砲、撃てぇ!!」

 

ドガァン!

 

魔導砲が撃たれようものなら、

 

「後方確認よし、発射」

 

ボシュ

 

対戦車誘導弾が飛んでくる。それも一発二発ではなく、十発以上。はたまた

 

「一斉射撃、撃てぇ!!」

 

ダダン!!

 

戦列歩兵がマスケット銃を一斉射撃しようものなら、装甲歩兵、もしくは兵器で受け止めて

 

「撃ちまくれ!!」

 

ドカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!

 

機関砲やら機関銃やらグレポンやらで、防衛線に置かれた遮蔽物ごと完膚なきまでにふき飛ばす。

 

「突撃、前へ!!!!」

 

魔導砲、マスケット銃も効かないならと古典的な突撃戦法を取り始める。騎馬兵、歩兵、地竜が突撃を仕掛けてくる。通り一帯が兵士で埋まる。しかしそれは、日本の思う壺でもある。

 

「仰角65、方位0。効力射、撃てぇ!!」

 

44式230mm自走砲が砲弾を撃ち込む。更にAH32薩摩のロケット掃射によって、パーパルディアの兵士達はあちこちにすっ飛ぶ。終いには46式が突撃する。

 

「お、おい鉄の地竜が来るぞ!!逃げろ!!」

 

誰かが叫ぶと全員が一目散に敗走を始める。しかし余りに人が多いのと、砲撃の残骸で思うように逃げれずにすぐに追いつかれる。

 

ギュラギュラギュラギュラギュラギュラ

 

「く、来るな、来るなぁ!!」

 

そんな叫びはお構いなしに、轢き殺す。

 

 

「司令、都市はもう地獄のようです。奴らの兵器に、我々の装備では太刀打ち不可能です」

 

「そうか.......。ブレムは?」

 

「ブレム将軍は既にもう.......」

 

「わかった。ならば私も、ケジメをつけなければな」

 

そう言うとストリームは鎧を纏って、愛剣を携えて敵の密集地に突撃する。しかしその姿は、スナイパーに捉えられていた。

 

ダァン!

 

駆け出した瞬間、頭に12.7mm弾を食らって前のめりに倒れる。この瞬間、デュロ防衛隊歩兵20,000、騎兵4.000、竜騎士60名、その他30,000名が戦死した。日本軍の被害は、勿論ゼロである。大半の兵は都市の治安維持の為に残り、一部の兵士が工場内部に入る。

 

「マスケット銃だらけだな。やっぱ、ここを無傷で抑えられたのは嬉しいな」

 

実を言うとここを砲撃で吹き飛ばさなかったのは、色々情報も得られて物資が大量に眠っているからである。戦争が終わったら外貨を得る為に、売り捌く商品として全部奪取するつもりなのである。

 

「ん?隊長、これを見てください」

 

「どした?」

 

「これ、記録によると3日前に皇都エストシラントにある物が輸送されているみたいなんですよ。で、そのある物っていうのが「イクシオン」という兵器なんですが、どうやらそれが例の対空砲みたいなんです」

 

「それヤバくないか?」

 

「ヤバいです。とにかく、司令部に連絡を!」

 

そんな訳で日本本国に連絡が飛ぶ。

 

「あー、結論から言うと放置していい。こっちで対処する」

 

神谷がそう言って、無線を切る。そして別の部隊に連絡を入れる。

 

「こちら統合参謀本部の神谷だ。お前達、ちょっと仕事を頼みたい」

 

『こちら水虎隊。何か?』

 

「ちょっと殲滅して欲しい艦隊があるんだが。頼んでいいか?」

 

『お安い御用です。完全に殲滅していいんですね?』

 

「ああ、新しいお魚さん達の住処を作ってあげて?」

 

後半はショタボイスで言うものだから、無線を聞いていたパイロット達が吹き出す。

 

『わかりましたw。ちょっと、殺ってきます』

 

という訳で急遽、仕事が追加される。因みに敵の編成は輸送艦5、ファイン級60門級戦列艦9、フィシャヌス級100門級戦列艦級4である。

 

「さあお前達、仕事の時間だ。いっちょ驚かせてやろうか」

 

『『『『『『おう!!!』』』』』』

 

 

 

数時間後 輸送艦隊

「よし、順調に行けば朝にはエストシラントだな」

 

輸送艦隊はもうすぐで航海が終わることによる安堵感から、緊張の糸が緩み始めていた。しかしその瞬間、目の前であり得ないことが起きた。

 

ザパァン!!

 

何かが海の中から数体現れる。その物体は手近の艦に飛び移った。謎の物体は鉄で出来ているのか、飛び移った瞬間に足場にされた艦がメリメリいいながら真っ二つに折れて沈んでいく。

 

「て、敵襲!!砲撃よー」

 

「砲撃よーい」と言った瞬間、機関砲弾の嵐によって蜂の巣にされる。

 

 

ギャオォォォォォォォォ!!!!

 

 

耳をつんざく咆哮に、水兵達が耳を塞ぐ。そして開いた口から、青白いビームが発射されて艦が細切れにされていく。

 

「な、何だ。何なんだ、あの鉄の巨人は.......」

 

そう司令官が言った瞬間、60mm機関砲弾に貫かれて意識を失った。そして数分の後、艦隊は完全に破壊され海へと沈んでいった。この事はパーパルディア戦後、長い間「幻の補給艦隊」として都市伝説と化した。

 

 

 



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第十八話クラールブルク殲滅

輸送艦隊殲滅より3日後 クラールブルク秘匿ドック

クラールブルクはパーパルディア皇国の巨大造船所であり、大規模な艦隊基地でもある。地形としては東側に造船所があり、山を挟んで西側に軍港設備がある。山には艦隊司令部が設置されており、周りは城壁や見張り台で囲まれている。壁の内部には魔導砲が装備されており、堅牢な要塞軍港である。

 

「工廠長、進捗の程はどうかな?」

 

「おぉ、防衛隊司令官。どうよ、この出来栄え!あのフェルデナンテ級が霞むぜ!!」

 

「そうだなぁ。我が国の名を持つ艦級だけはある」

 

目の前の建造ドックには、パーパルディア皇国海軍が心血を注いで建造している超大型戦列艦の四番艦の姿があった。進水の暁には『パールネウス』の名を授かる艦は公試も完了して、今は最後の調整に入った所であった。

 

「パーパルディア級超戦列艦*1。美しいの一言に尽きるだろ?」

 

「工廠長、いや、ブレンクトンの長年の夢が叶ったな」

 

「おうよ。こちとら、こう言う戦列艦を作りたいが為に軍に入ったんだからな。軍学校時代の誓いが、やっと果たされたよ」

 

この工廠長ブレンクトンと防衛隊司令官のシグメルは、軍学校時代の同期であり親友でもあったのである。その頃にブレンクトンは「いつか世界一の最強戦列艦を造る」ということを。シグメルは「その最強戦列艦の完成まで、作っている建造ドックを守る」ということをそれぞれ誓い合い、その悲願が達成されようとしていたのである。

 

「思えばここまで長かった。アレから20年、常に夢を追い続けてたな」

 

ブレンクトンの脳裏に今までの出来事が蘇る。軍学校でシグメルと出会い、寮が同室ということもあって仲良くなった。シグメルが作戦を練って、ブレンクトンが装置を作ってウザい教官に復讐したこともあった。

卒業後はお互い違う道に行ったが両者とも夢を追い続けて、5年前にブレンクトンがパーパルディア級の作成に着手し、一足先に夢を叶えて3隻のパーパルディア級を送り出した。そして四番艦の着工の一月前にシグメルが着任し、やっと誓いが果たされる準備ができた。

 

「ブレンクトン、誓いの件だが少し雲行きが怪しくなってきてるぞ」

 

「おいおい、何を言い出すかと思えば。まさか異動なんて言わないよな?」

 

「そうじゃない。お前だから話すが、実を言うと今回の戦争はヤバいことになっている」

 

ブレンクトンの顔が曇りだす。

 

「知っての通り、今我が祖国は第3文明圏外国の大日本皇国との戦争状態にある。ところが第一外務局で乱闘を起こしたのを皮切りに、アルタラス島は解放されるわ、皇都エストシラントは飛行機械に空爆されるわ、おまけにデュロ工業都市まで占領されて、戦局は不利もいいところだ」

 

「なあ、それってここも不味くないか?」

 

「近いうちにここも攻撃されるだろうな。何せここは、海軍のほぼ全ての艦艇の生まれ故郷だ。高確率で狙われるし、俺が敵の立場なら絶対に叩く」

 

シグメルの発言にブレンクトンも「やっぱりか」という顔をしながら、額を抑える。

 

「なあシグメル、単刀直入に聞くが守り切れるか?」

 

「正直難しいだろうな。あの皇軍の中で一番の練度を誇る皇都防衛隊ですら為す術がないのなら、確実に練度や装備に雲泥の差があるんだろう。上層部の知り合いの話じゃムーが関わってるって専らの噂だが、俺は違うと考えている。恐らく今回の敵は、自前で兵器を作ってる可能性が高い」

 

シグメルの話にブレンクトンは顔を強張らせるどころか、段々と笑顔になっていく。話が終わるとブレンクトンがニヤリと笑いながら、シグメルの肩を叩く。

 

「ついてきてくれ。面白いものを見せてやる」

 

 

 

クラールブルク海軍工廠庁舎 工廠長室

通されたのはブレンクトンの設計部屋や専用の資料室が併設されている工廠長室で、資料の収まった本棚から一冊の本を引っ張り出してシグメルに向かって放り投げる。

 

「うわっとっとっ。年季の入った本だが、何の本だ?」

 

「大日本皇国の兵器の答えが乗っているかもしれない本だ」

 

表紙には、シグメルには読めない謎の文字が描かれていたが、その文字にシグメルは見覚えがあった。

 

「大日本皇国の文字だぞ!!大日本、なんて書いてあるんだ?というか、何でお前が日本の書物を持っている!?」

 

「ソイツは俺が設計局に入りたての頃に、今は亡きロウリアへ設計の指導に行った時に古本屋で見つけた物だ。その表紙の文字は日本語で「大日本帝國陸・海軍兵器集」と書かれている。こっちに翻訳文を書いてある」

 

今度は使い古されたノートを渡す。その兵器集と翻訳ノートを照らし合わせて読んでいくこと、僅か数分。この時点で如何に皇軍の装備が貧弱であり、日本の装備が強力で洗練されているかを痛感させられた。

 

「大日本帝國と大日本皇国、何が違うんだ?」

 

「知らん。ただ大日本皇国と大日本帝國は恐らく別物だ。大日本帝國ってのが居たのは、神話の時代だそうだ。仮にそんな強大な国が今もあったら、列強国或いはその上に君臨し誰もが知る超大国になっているだろうよ。それに兵器に関しても、俺も少しは噂を聞いちゃいるが兵器の技術に差がありすぎる。

こっからは勝手な憶測だが、大日本帝國の兵器は恐らくムーの兵器が進化していった形だろう。だが敵である大日本皇国は、恐らくそれよりも遥か先の技術を使っている。お前はさっき情報が無いって言ってたよな?それならコイツを使ってくれ。恐らく、少しは役立つ筈だ。だが他人に見られたら一発で終わるから、絶対に見られないようにしろよ」

 

「恩に着るよ、ブレンクトン」

 

そう言うと足早に自分の部屋へと戻っていった。その翌日夜明け前、クラールブルクにとっては地獄の始まりであった。

 

『さあ、野郎共。仕事の時間だ。寮舎、庁舎、倉庫、兵器、拠点、艦艇、設備、その他諸々目に付くもの全部ぶっ壊せ!!』

 

メタルギアRAY、じゃなかった。メタルギア水虎の襲撃である。水虎隊は先の輸送船団襲撃後、近海を航行中であった第一主力艦隊にお邪魔して、補給と整備を受けて万全の態勢でクラールブルクに向かっていた。聴音云々以前に、海の中を進んでの攻撃という戦法自体が存在していないパーパルディア皇国にとって、これは完全に未知の戦法であるのは言うまでも無い。

そんな訳で見張りの兵や、当直兵達も無警戒である。寧ろ航空機への警戒ばかりであり、視点は殆ど上を向いていた。正に「灯台下暗し」である。

 

「おぉ、やっぱ朝の見張りの特権は日の出だよなぁ」

 

見張りの兵士が綺麗な朝焼けを見ながら、水筒の水を飲む。しかし次の瞬間、目の前の海が盛り上がり何かが飛び出してくる。

 

「.......へ?」

 

その見張りの兵は、時間が遅くなったような感覚に襲われる。巨大な鉄の蛇の様な顔が、自分のいる見張り台に迫ってくる。逃げ出すことも悲鳴をあげることも出来ず、目の前の光景が理解できないまま、次の瞬間には

 

 

ドンガラガッシャーーーーーーン

 

 

見張り台の根元に突っ込み、そのまま見張り台を破壊する。足元が消え去り、下に落ちていく感覚の後に強烈な痛みが身体中を襲ったところで兵士の意識は消え去った。

他の場所からも次々にメタルギア水虎が上陸し、壁や見張り台を武器ごと壊す。そのまま巨大な足で大地を踏み締め、下の物体を轢き潰しながら咆哮をあげる。

 

「何だあの化け物は!?」

「鋼鉄の巨人、いや魚人だ!!」

「逃げろ!!」

「逃げるな、戦え!!」

 

見たこともない巨大な二足歩行の鉄の塊に、兵士達は右往左往する。生憎日本軍は右往左往していたり、パニックを起こしている間は攻撃を止めるほど優しくないので、破壊活動を開始する。

 

『撃て撃て!!』

 

ドカカカカカカカカカカ!!!!

 

両腕に装着された60mm機関砲を発射し、目の前の倉庫群を薙ぎ払う。

 

『発射ァ!!』

 

ピゴーーーーーーーーーーー

 

機関砲だけではない。顔の口部分に搭載された水圧カッターで寮舎を両断し、別の水虎が踏み潰す。

 

「何が起きているんだ.......」

 

目の前で起きる現実離れした戦闘に、シグメルは絶句する。目の前では倉庫が爆発し、兵士が空高く打ち上げられ、建物が水色の光線でぶった斬られてる。こんな光景を見せられては、現実感皆無である。

 

「ゆ、夢じゃない、よな。これが、日本の力なのか.......」

 

「シグメル!!」

 

「ブレンクトン!」

 

「良かった、生きていたか。兎に角、今は秘匿ドックに走れ!!こうなったら、パールネウスを使うしかねぇ!!」

 

「わかった、やるぞ!!!!」

 

シグメルとブレンクトンは秘匿ドックに向かって走り出す。幸い秘匿ドックは今攻撃されている場所から離れており、まだそっちの方には戦火が広がっていなかったのである。

 

 

「砲撃よーい!!目標、正面のクソッタレの巨人!!撃てぇ!!」

 

ドゴォン!!

 

兵士達が生き残っていた倉庫から魔導砲を引っ張り出して、進路上に並べて即席の防衛陣地を構築していた。全弾命中し、兵士達が喜ぶ。

 

「やったぞ!!命中命中!!!」

「全弾当たったぞ!!」

「皇国を舐めるな!!」

 

だがしかし、2秒後には喜びの感情はへし折られて、代わりに絶望が押し寄せる。

 

「な!?」

 

「に!?」

 

何と目の前の全弾命中した筈の巨人は、まるで何もなかったかのように歩いているではありませんか。しかもダメージ一つ負っておらず、凹みすらないように見える。

 

「おやおや、悪い子、だ!!」

 

ボシュボシュ

 

脚部に搭載された小型ミサイル発射機のハッチが開き、中から対戦車ミサイルの旋風が発射される。着弾と同時に弾薬に引火して爆発し、砲兵+近くの兵士を巻き込んで吹っ飛ばす。

 

 

「撃て!!」

 

ダダン!!

 

「交代急げ!!よーい、撃て!!」

 

ダダン!!

 

一方此方では、憐れにもマスケット銃で果敢に水虎は立ち向かっていた。だが魔導砲が効かないのに、マスケット銃如きで倒せる筈もない。でもって良い加減、パイロットもウザく思えてきたので攻撃を行う。

 

ズシン! ズシン!

 

「近づいてくるぞ!!好機だ、撃ちまくれ!!」

 

勿論効くわけないのだが、約15m程手前で止まる。

 

「止まった?」

「やったのか?」

「誰か確認してこいよ」

 

しかし次の瞬間

 

パカ

ピゴーーーーーーーーーーー

 

まさかの超至近距離で水圧カッターを発射する。水圧で切り刻まれながら吹き飛ばされて、マスケット銃兵隊は全滅である。

防衛隊が果敢に反撃している間に、クラールブルクとシグメルは秘匿ドックでパールネウスと他艦艇の出港準備を進めていた。

 

「よし、機関始動!!回転率、良好!!」

 

「シグメル、準備完了だ。いっちょ派手に行こう」

 

「そうだな。他艦艇、準備いいか?」

 

「出来ているそうです」

 

シグメルは帽子を深く被ると、カトラスを抜いて叫ぶ。

 

「パールネウス、出撃!!」

 

ドックの扉が開きパールネウス以下、ペロチーノ級竜母23、ファイン級60門級戦列艦80、フィシャヌス級100門級戦列艦級124、フェルデナンテ級200門級戦列艦41、計269隻の大艦隊が出港する。

 

「全艦、クラールブルク造船所へ向けて、最大戦速!!竜母は竜騎士隊を上げろ!!」

 

シグメルが次々に命令を飛ばしていく。しかし次の瞬間、またもや信じられない出来事が起こる。一番外側の艦艇がいきなり上に吹き飛び、その真下に例の巨人が居たのである。

 

「嘘だろ.......。なんてデカいんだ化け物め!!!」

 

巨人は別の船の上に飛び乗り、その重さで着地した船をへし折って沈める。

読者の皆は「何で造船所を破壊しまくっている水虎が此処にいるのか」と思うだろうが、答えは至極単純である。現在造船所を破壊しまくっている機体とは別に、予め伏兵として軍港の方に潜ませていたのである。そもそもクラールブルクを襲撃している水虎は全部で35機。この内、20機が造船施設や陸上の拠点を破壊し、残りの15機が軍港近くに潜んでいたのである。

 

「砲撃よーい!!!目標、鋼鉄魚人!!撃てぇ!!」

 

次々に砲弾を撃ち込むが、ほとんどが弾かれており、精々やっと凹みが出来始める程度である。ところが今度は、敵の巨人があり得ない戦法で攻撃を始める。

 

「おわっ!?」

「な、何だこりゃ!?」

「巨大な槍か!?」

 

何と腕を適当な戦列艦に突き刺し、そのまま持ち上げながら高く飛ぶ。

 

「船が降ってくるぞ!!」

「避けろぉぉぉぉぉ!!」

 

そのまんま上空から投げつけるのである。最低でも数千tの重さが降ってくるのだから、例えフェルデナンテ級であっても轟沈は避けられない。

 

「のわぁ!!」

 

「ブレット先輩!!」

 

しかも投げられる船もまだしっかり人が乗っているので、地獄である。甲板にいる者やマストに登っている者は何かにしがみつかないと吹っ飛ばされるし、船内にいる者は中の物が何かに挟まったりする。

しかし一番の地獄は、船内の中でも砲を置いている「砲列甲板」と呼ばれる場所であろう。替えの砲弾があっちこっちに転がって水兵にぶつかってくるし、何より砲が降ってくるのだから地獄である。勿論重力の働く方向に物は移動するので、大砲も人間も落下している方向に降ってくる。

 

「砲弾が降ってくる!!みんなよけ」ゴスッ

「しっかり掴まってろ!!離したら死」

「砲長が大砲の落下に巻き込まれたぞ!!」

 

こんな感じで、見事なまでに地獄である。下では言うまでもないが、戦列艦の上に戦列艦が突き刺さるという(イメージ的には宇宙戦艦ヤマト2202の地球防衛軍艦隊に突き刺さるイーターI)数ある日本国召喚二次創作作品でも上位に食い込むカオスな状況である。

 

「やっべ、やりすぎたかな」

 

『問題ないだろ。ちょっとデカいキャンプファイヤーの、ヤグラか何かと思え』

 

「お前が一番ヤバイよ」

 

しかしパイロット達がそう話している横で、更にヤバいことをしでかす奴がいた。

 

「まず戦列艦を突き刺して〜♪」

 

「ギャーーーー!?!?」

「死にたくない、死にたくない!!」

「神は言っている、ここで死ぬ定めだと」

 

「そのまま上に持ち上げる〜♪」

 

「ギャーーーー!?!?」

「落ちるーーーーーー!!!!」

「助けてーーーーーー!!!!」

 

「そして振り回して〜♪」

 

「ギャーーーー!?!?」

「体が重い.......」

「吐きそう、ウッ、オロロロロロロロロロロ」

 

「でもって敵艦に突撃じゃい!!!!」

 

なんとそのまま気円斬を投げるかのように、竜母に突っ込み残骸で殴りまくるのである。敵からしたらトラウマ物であろう。だがしかし、それだけではなかった。他の所では上手いこと進路を微調節して、別の敵艦にラム・アタックさせてる奴とか、下に潜り込んで力一杯上に飛んで上下逆さまにする奴とか、果ては2機が戦列艦を空中に放り投げて空中で激突させて破壊したりと、なんかもうパーパルディア艦隊が可哀想に見えてくる戦い方をしていた。

 

「こ、これは戦いなのか.......」

 

「俺たちゃ、売っちゃいけない国に喧嘩を売ったようだな。最後にお前と海に出られてよかった。もしあの世でも一緒にいるなら、仲良くしてくれるかシグメル?」

 

「勿論だ、友よ」

 

全員が死を覚悟した時、周りにいた巨人達がパールネウスの周りに集まり出した。「いよいよ最期を迎える」と思い全員が身構えた時、敵は口を開けて腕を向けた状態で静止した。そして呼びかけてくる。

 

『パーパルディア皇国戦列艦に勧告する。武器を捨て、降伏せよ。こちらの兵器の性能はご覧頂いた通りだ。最早、そちらに勝ち目はない。戦って死にたいと願うなら沈めるが、命は大切にするべきだ』

 

「シグメル、どうする?」

 

「.......わかった」

 

「よし。皆、武器を捨てろ!!もう勝負はついた。これ以上無駄に、犠牲者を増やすんじゃない!!!」

 

ブレンクトンが怒鳴る。その命令を聞くと、水兵達が中の武器を捨て始めた。流石に砲や砲弾は無理なので、カトラスや銃を海に投げ込む。その間に水虎の一機が下へと潜って、近くの無人島まで運び出す。その後到着したSBUが船内を制圧し、第三主力艦隊艦隊の駆逐艦数隻が日本の呉へと曳航した。

パールネウスを拿捕している間にクラールブルクは水虎達が完膚なきまでに破壊しつくし、その日の夕方には日本の国旗が翻っていた。

 

 

 

 

 

 

*1
正式名称はパーパルディア級600門級超戦列艦。

「超」の名が着くだけあって、何もかもが破格である。まず砲門数が600門という数がついており、全門が所謂アームストロング砲になっている。600門は主砲のみの数であり、アームストロング砲に加えて小型の旋回砲が40門、対空バリスタ60門が搭載されている。全長も193mという類を見ない巨体である。それに加えて、なんと推進方式が帆船から帆船と魔導エンジンのハイブリッドに切り替わっているのである。新型の大型魔導エンジンにより、常時回転こそ難しいが緊急時の回避や高速航行時に使える程度の性能は有している。因みに同型艦は一番艦『パーパルディア』、二番艦『ルディグート』、三番艦『レミラーズ』、四番艦(制作中)『パールネウス』の4隻。



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第十九話ヤベェ奴ら

クラールブルク襲撃の三日後 皇都エストシラント パラディス城 大会議室

 

「い、以上が報告となります。陛下」

 

誰が見てもブチ切れていることが分かるほど、ルディアスの顔は真っ赤に染まっていた。それもその筈。本日の会議の議題は「大戦略会議」という題であり、その内容は皇国の被害の再確認(・・・・・・・・・)である。どの程度の被害かというと、

 

被害内訳

・皇都エストシラント南部地区 壊滅(再建には5年以上を要する)

・皇都防衛隊北部、南部両基地 壊滅(最低限の復旧まで半年以上を要する)

・デュロ工業都市 敵に占領される

・クラールブルク海軍基地 壊滅

・クラールブルク造船施設 壊滅

 

以下の施設がこの状況であり、軍の被害額と戦闘で使われた様々な経費やら、歴史的価値、生産予定だった兵器類の損失等を全部ひっくるめると

被害額 852兆5109億9087万6381パソ(1パソ=10円)

という途方もない額となる。因みにこれ、パーパルディア皇国の年間国家予算と貿易での収入×約150年分の額とほぼ同等である。

そんな訳でルディアスは、

 

「いったい、どうなっているのだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

怒髪衝天状態である。

 

「敵はたかが文明圏外国の蛮族国家。ムーを超える兵器を持っておったとしても、そんなに数は多くないだろう!?何故こうも負けておる!!!!」

 

「お、恐れながら陛下。日本の兵装はどれも強力であり、歩兵一人とて我が国の保有する如何なる兵器を持ってしても、撃破は困難なのです」

 

「それは兵士達の気合いが足りぬからだ!!我が皇国の臣民は、例え足や腕がもげようと、蛮族に負けはせぬ!!!!」

 

いや、戦争末期の首脳部ばりに酷いな。マジで何処の牟田口ですか?

とツッコミたくなるほどに無茶苦茶なトンデモ理論に、流石の首脳陣もドン引きである。ルディアスの暴走はまだ続く。

 

「良いか!!各基地に督戦隊を組織し、降伏や逃亡を図るものは容赦なく殺せ!!!!拘留中の全犯罪者どもを徴兵し、懲罰部隊を組織。各地の防衛に充てろ!!!属領統治軍も引き揚げさせて、懲罰部隊の監視と防衛に充てるのだ!!!!!!」

 

「お、お待ちください!属領統治軍が引き揚げてしまうと、属領を統治できなくなってしまいます!!」

 

臣民統治機構長のパーラスが止めに入る。恐怖統治は、恐怖の象徴たる属領統治軍がいることで成り立っている。その象徴が消えようものなら、これまでの鬱憤がいっぺんに噴き出して属領が失われるのは目に見えている。

 

「黙れ!!!余は皇帝、パーパルディア皇国の皇帝ルディアスであるぞ!!!余の命令に逆らうということがどういうことか、今この場で証明してくれようか!?」

 

「決してそのような!!も、申し訳ありません!!」

 

「気分が悪くなった、後は勝手にせい!!!」

 

そう言ってルディアスは部屋を出て、自室へ足早に戻っていった。残された重役達は、困惑やら何やらで疲れ切っている。

 

「アルデ殿、率直にお聞きしますが勝てそうなのですか?」

 

第3外務局長のカイオスが最高司令のアルデに聞く。しかしアルデは答える代わりに、首を横に振った。

 

「こうなれば我ら海軍が動きましょうぞ」

 

「バルス殿?」

 

皇国海軍総司令のバルスが立ち上がり、腰に下げたカトラスに手を添える。

 

「聞けば大日本皇国は島国で、四方を海に囲まれた国家。となれば我が海軍の艦隊を持って沿岸部を攻撃いたしましょう」

 

「しかし海軍はもう戦力が無いのではありませんか?」

 

カイオスが止めに入るが、バルスはニヤリと笑う。

 

「ところがあるのだよ。皇帝陛下は色々手を回しておってだな、ペロチーノ級竜母が53隻、フィシャヌス級100門級戦列艦級が132隻、フェルデナンテ級200門級戦列艦97隻を用意なさっておる。これに他の艦隊から引き抜いた艦や、属領統治軍と国家監察軍の艦艇を合わせれば、十分に戦える」

 

「確かにそれならば勝てるやもしれませんな」

「幾ら強力な軍とて、この数は相手にできますまい」

「皇国の恐ろしさを示してやってください、バルス殿」

 

他の閣僚からも同意の声が上がり、満場一致で海軍の出動が決定された。

だが彼らは知る由もない。大日本皇国は海軍国であり、世界最強の艦艇を多数保有し、一隻でパーパルディア皇国艦隊と渡り合える艦が一個の主力艦隊に237隻配備され、それが合計八つもあることを。おまけにその艦隊全てが、パーパルディア皇国の周りをガッチリ固めていることを。

 

 

 

大日本皇国 首都東京 首相官邸 執務室

パーパルディア皇国の首脳陣が会議をしていた頃、敵国である我らが大日本皇国も同様に会議を行なっていた。内容は勿論、パーパルディア戦後の降伏条件や統治等についてである。

 

「我々外務省の降伏条件と致しましては、皇帝ルディアスとレミール含めた「日本人処刑の首謀者、実行者の引き渡し」は絶対に譲るつもりはありません」

 

「しかし、それでは国民感情に反日思想がついてしまうのでは?」

 

文科大臣が苦言を呈する。確かに元首やら皇族やらを捕らえたら、後々不利益が生じるのは明らかである。

 

「その点は我々、国土防衛省より解決策を提案させて頂きます。現在実行中の「天照作戦」では、パーパルディア皇国に存在する主要都市が破壊し尽くされます。これにより一時、恐らく数十年単位での国力低下が約束されます。これに加えて現在属領化している反パ皇国家を使って、交易の制限を持続して行い生かさず殺さずで国力を低い水準で保たせます。これに加えて接触予定の人物(・・・・・・・)を指導者に仕立て上げることによって、パ皇の連中は親日的な政策をとる他なく情報統制などをしなくとも反日感情を抑制できる、と考えています。

更に占領したデュロ工業都市を統治し、マスケット銃等の骨董品を他国の正規軍に売り捌き外貨を得ることも考えています。これなら技術漏洩の心配も不要で、情報が漏れずに外貨を得るという理想的な状況が作り出せます」

 

「正に理想的な勝ち方ですな。大臣もよく考えつきますよ」

 

環境大臣の一言に、苦笑いしながら国防大臣が答える。

 

「実はこれ、全部神谷くんが考えたんですよ。私が考えたのは、交易制限くらいなもので」

 

「まあ軍事や軍政と言った「軍」と名の付く物で、この国で神谷くんの右に出る者はおらんでしょう」

 

財務大臣を筆頭に、他の参加者達も笑う。一通り笑い終わった所で、一色が意見を纏めて「パーパルディア占領政策」として可決され、後日国会の方にも上がった。安定の左翼は色々言ってきたが、一色には敵わず中継見ていた国民達は爆笑していた。因みにこんな感じ

 

「これでは前帝國主義的な傀儡や植民地でありますぞ!!」

 

「内政干渉もしない、日本人を統治者として送り込まないというのに、何処が傀儡国家や植民地なのでしょうか?戦争が終われば、他国と同じように国交を結ぶ予定ですよ?」

 

「ウグッ。だ、だがしかし!これでは日本が昔のような、戦争国家に成り下がりますぞ!!」

 

「あーはいはい。そこまで言うのなら、有りますよね。代替案」

 

「え?」

 

「そこまで人の言うことにケチつけるのに、「自分達の出す代替案はありましぇーん」なんてオチ、ねーよな?」

 

一気にドスの効いた声となり、左翼議員と野次飛ばしてた奴らが震え上がる。

 

「まさか無いのに、色々ご高説を垂れていたのかな?だとしたら終わってるよ、アンタら」

 

因みに本来なら議長が止めるべきなのだが、この一色の喋りが国民にウケており「止めさせないで、最後まで言わせてください」というコメントが多数寄せられていることから、ある程度黙認されている。というか何なら、議長も少し楽しんでいたりする。

 

「い、いやぁ↑そそそんなこと、な↓いぃですぞぉ↑」

 

「なら言ってくださいよ。時間はありますから」

 

「いやちょっと、お日柄が」

 

「言え」

 

「いやだか」

「言え!」

 

「.......はい」

 

完全に打ち負かされた左翼議員に、国民は爆笑して他の議員も笑いを堪えるのに必死だった。因みに左翼議員の出した意見は、さっきの政策をほぼ丸パクリした物であり他の議員からもヤジを飛ばされ、それ以降は借りてきた猫のように大人しくなった。

 

 

 

2週間後 パーパルディア皇国 アルケダン 先端生物兵器研究局 局長執務室

「ゼレケン局長、失礼します」

 

「やった!!!やったぞ!!!!見たまえ!!!」

 

「え?ちょ!」

 

制服を着た兵士を、ハゲ散らかした白衣の男が部屋に連れ込む。

 

「これをこうするとだな、ホレ!!!」

 

試験官に入ったくっさい液体に、別の液体を入れると炎が生まれたのである。

 

「ゼレケン局長、これは何です?」

 

「これぞ私の開発した新しい燃料!!名前は、火を噴くドラゴンみたいだから、名付けてヒドラジン!!」

 

「は、はぁ」

 

このゼレケンという男は、パーパルディア皇国どころか世界有数の天才である。地球でいうとアインシュタインばりに凄い人なのだが、色々性格に難がある。その狂人っぷりから「歩く大災厄」の異名を持つ。ではその輝かしいエピソードを少しご紹介しよう。

・ワイバーンオーバーロード用のサドル開発を行い、他の候補よりも高い性能だったが「景観を損ねて美しくない」という理由で、安全装置を全く付けない。

・怪我をした兵士に「ポーションだ」と言って、そこら辺の雑草を煮詰めた液体を飲ませたり、ぶっ掛ける。

・ワイバーンロードに「強化薬」と称した二日酔いと向かい酒でベロベロの状態で作り出した謎薬品を飲ませ、何故か性転換&幼竜化させる。

しかもこれら全て、本人に悪意が無く100%善意の行動なのでタチが悪い。更にこれに天才的頭脳(近世ヨーロッパ程度の技術力で、ヒドラジンを使ったロケットやミサイルの推進剤の原型を生み出せる程度には凄い)が加わるから余計に面倒である。

 

「で、何の用だね?」

 

「は、ハッ!アルデ最高司令官からの書簡が届きまして、それのお届けに参りました」

 

「そうかね。じゃ、貰うよ」

 

そう言って手紙を受け取り、早速開封する。書かれていた内容は「日本の攻撃目標になっている可能性が高い為、増援の軍を送る」と言った物だった。因みに見た時の反応は

 

「フォォォォォォォォォ!!!!!!(((o(*゚▽゚*)o)))」

 

という、まさかの大歓喜であった。というのもゼレケンは、ずっと日本の兵器と戦いたかったのである。そのチャンスが向こうからやって来ることは、お正月とクリスマスと子供の日と夏休みが一挙に来たような感じで、この上なく嬉しいことなのである。(これって子供目線なら天国だけど、大人目線、特に親目線なら地獄だよね。年賀状書き&出費、出費、出費、出費だもん)

そんなヤベェ変人が居るとはつゆ知らず、日本本国からは3機の空中母機白鳳(アーセナルバード)が出撃し、アルタラス島からも第203歩兵大隊と第89重装歩兵大隊が出撃していた。当初は白鳳で焼き払う予定だったが、どうせならワイバーンのデータが欲しいので、クラールブルクに展開予定だった二つの部隊を急遽アルケダン攻略に投入したのである。

 

 

 

アルケダンより南方80km地点 上空

「隊長!!前方に何か居ます!!」

 

「司令部!こちら偵察3号騎!!敵、超大型ワイバーン発見!!数3、至急応援を送られたし」

 

『こちら司令部、了解した』

 

敵発見の報を受けるや否や、アルケダン全域に大音量でサイレンが鳴り響く。竜舎からワイバーンオーバーロードやワイバーンロードが出てきて、滑走路から遥かなる空の高見へと羽ばたいていく。しかし中には普通のワイバーンでも、その強化種のロードやオーバーロードでもない異色のワイバーンも居た。例えば首が3つ付いていたり、翼が6枚になっていたり、胴体に小さなワイバーンを無数に付けていたり、本当に色々である。

これらのワイバーンはゼレケンの研究で生まれた新種たちであり、コストが高すぎて(大体1頭作るのに、ワイバーンオーバーロード5頭分の予算が必要。その上、寿命が短く航続距離も短い)少数配備に留まっている最強種達である。

 

 

「隊長、偵察隊とも合流しました。準備完了!!」

 

『全騎攻撃用意。導力火炎弾一斉撃ち方、よーい!撃てぇ!!!!』

 

狙いは完璧だった。本来であれば、9割方命中していたであろう。しかし今回は相手が悪く、白鳳が相手なのである。白鳳には専用の特別な兵装があり、Active Protection System(通称APS)と呼ばれる電磁バリアが搭載されているのである。

ミサイルや機銃に耐えることができ、例え対艦ミサイルの飽和攻撃であっても作動中は全て中和して無力化してしまう、トンデモ兵装が付いているのである。因みにアーセナルバードを倒せるのは、熱田型の主砲を除いて存在しない。そんな兵装が付いているのだから、導力火炎弾がダメージを与えられる訳がない。

 

『命中弾なし!!敵は青い半透明の壁を作り出す魔導によって、全弾防いだ模様!!!!』

 

「クソッ!!!化け物め!!!!」

 

次の瞬間、敵巨人機の屋根から白い煙が空に上がっていく。何かの信号か実は何らかの被害を被っていたのかと思いきや、その煙は此方に近付いてくる。その煙は編隊の右翼前方に降り注ぎ、次々に爆発して真っ逆様に仲間が落ちていった。

これだけでも混乱するというのに、白鳳は更に追い討ちを掛ける。白鳳は戦闘前から雲海に搭載機のUAVを相当数忍ばせており、これを使って背後と真下から急襲。一気に後方の編隊を破壊したのである。

 

「全騎突っ込め!!!!」

 

こうなっては突っ込んで、一か八かの肉薄攻撃をする他無くなる。しかしそうは問屋が卸さない。TLSとパルスレーザー砲で弾幕を展開し、次々に墜としていく。更に近づいた兵士は、APSを使って墜とす。

 

「あの壁は危険だ!!掠っただけで翼がもげ」

「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」

「パーパルディア皇国に栄光あれ!!!!」

「翼が消し飛んだ、誰か助けてくれ!!!」

「クソ、相棒の首が消えやがった!!!」

 

空に悲鳴がこだまするが、それを超えて尚も進む。TLSがアルケダンを射程に入れた瞬間、竜舎や滑走路を焼き払い破壊していく。一帯をズタボロにすると、後方からUH73天神、CH63大鳥、AH32薩摩からなるヘリボーン部隊が強襲を開始する。

 

『LZを確保!!降下開始!!!』

 

「GOGOGO!!!」

 

穴ぼこにした滑走路や、廃墟と化した格納庫に着陸し部隊を展開していく。展開が完了すると武装している機体はその場に残り、歩兵部隊の援護を開始する。

 

ドカカカカカ、ドカカカカカ

「右クリア!」

「左クリア!」

 

「よし!ムーブ!!」

 

「撃ち返せ!!」

「庁舎内に入れるな!」

「応戦せよ応戦せよ」

 

庁舎に続く道で、攻防戦が行われる。しかし遮蔽物に身を隠しても32式戦闘銃の13mm弾や、手榴弾を投げ込まれて吹っ飛ばされる。

 

「コンタクト、10時、マスケット!!」

ドカカカドカカカ

 

「コンタクト、正面、ナイト!!」

ドンドン

 

「クリア、ムーブ!!!」

 

あちこちで爆発音と銃声が鳴り響き、その度に悲鳴が上がる。皇国軍の快進撃も束の間、謎の黒い影が一機の天神に取り憑いた。

 

「グギャギャギャ!!!!」

 

「不味い!!」

 

何と何処ぞのハルクばりに巨大な人間がメインローター下のエンジンに飛び付き、拳で中の配線やら何やらを引きちぎって破壊していたのである。

 

ブーブーブーブーブーブー

「推力低下!!!墜落します!!!!」

 

「衝撃に備えろ!!!」

 

バランスを崩し、よろけながら地面に突き刺さる。幸い火力支援中で高度が低かったことと、下が土の地面であったことから地面に突き刺さっただけで誰一人死ぬことは無かった。え?飛び付いた敵?墜落する時にメインローターに巻き込まれて、マジのミンチ肉に生まれ変わりました。

 

 

「暴れてるねぇ。やはりクズどもに打ち込んだ薬は効果抜群だった」

 

この謎のハルク擬きの正体は、増援部隊でやってきた懲罰部隊の兵士達なのである。因みにゼレケンが打ち込んだ薬はバイオハザードのウイルスみたく、人を怪物に変えるアレなのである。

 

「さあ、行けぇ!!」

 

「ギャオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

その巨体に見合わないジャンプ力で飛び上がり、そのまま重装歩兵の戦列に飛び付こうとする。しかし

 

「邪魔なんじゃい!!」

「そいやっさーーー!!!」

「所詮お前らは、時代の敗北者じゃけぇ!!!!」

 

パワードスーツで超強化されたマッスルボディで、手に持っていたガトリング砲やらハンマーや盾やらで弾かれて、明後日の方向に吹っ飛ばされる。でもって投げ飛ばされた場所は

 

「グギャグキャ!」

 

「ヒャッハーーーーーー!!!!」

 

パーパーパーーン

 

「グキャ?」

 

ドゴーーーーーン

 

装甲車の通り道で、時速130キロで轢き殺される。だがこれはマシな方で、やばい場合は

 

「グキャ?」

 

「お前ヘリ落としたよな?」

「お仕置き」

「Death」

 

ズドンズドンズドンズドンズドンズドンズドン

 

ショットガン装備の歩兵一個分隊に囲まれて、12ゲージ散弾をゼロ距離で食らう羽目となる。地竜の方も、対戦車ミサイル旋風の飽和攻撃の前に呆気なく倒れる。しかも中には装甲を強化してたり、火力が数倍に上がった個体も居たのに情け容赦なく駆逐していく。

 

「こ、これが日本の力か。よし、仲間になろう!!!!!」

 

ゼレケンは何と剣を帯刀して、馬に跨り最前線へ駆けていった。

 

「日本の皆さーーん、お友だ」

 

しかし運の悪いことに、地竜に放った38式携行式対戦車誘導弾が命中し天国まで吹っ飛ぶ羽目になる。

 

「なあ、今何か当たらなかったか?」

 

「何かハゲ散らかした騎兵が、剣持って突っ込んできてたな。まあ敵だから、オーバーキルだったが問題ないだろ」

 

「んじゃ、地竜にもう一発撃っとくか」

 

バシュッ

 

最後の地竜を撃破し、庁舎内部に突入する。内部は様々な生物兵器の記録の宝庫であり、運良くちょうど孵化したワイバーンオーバーロードと地竜を確保できた。以降アルケダンは、来る首都での最終決戦の前線基地として運用されることとなった。

 

 

 

大日本皇国 特殊戦術打撃隊基地

「いよいよ俺たちも暴れる時がきたな」

 

「そうだな。水虎の連中が「軍港を蹂躙してきた」って自慢してたもんな」

 

二人の目の前には、それぞれの愛機であるメタルギア龍王とメタルギア零が鎮座していた。今度は天照作戦のフィナーレを飾る前哨戦である、パールネウスを潰す「巨人作戦」の為に出撃するのである。現在輸送準備を整え、後はCH63大鳥に吊り下げてもらってパールネウス近郊まで送ってもらう手筈なのである。

 

「お、来たな」

 

「御二方、ご搭乗を」

 

「おう」

 

さっき喋っていた二人、それぞれ零と龍王部隊の隊長達が愛機のメタルギアに乗り込む。

 

「さあ、待ってろ。パールネウス!!」

 

そう龍王部隊の隊長が言った瞬間、巨体が持ち上がり空の旅を満喫しながらパールネウス近郊へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 



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第二十話その日、パーパルディア皇国人は思い出した

その日、パーパルディア皇国人は思い出した。

敵に一方的に蹂躙される恐怖を。

廃墟と化した地獄の街を見る屈辱を。

 

 

 

大日本皇国出撃より1時間後 日本海上空

「機長、そろそろ合流ポイントです」

 

「だな。レーダーに反応は.......っと、来たみたいだな」

 

レーダーには友軍を示す青色の光点が無数にあった。その光点の正体は同じく本土から出撃したパールネウス攻略の本隊、村今戦闘団を乗せたVC4隼やC3屠龍を含めた輸送機と、護衛戦闘機のF9心神、近接航空支援用のA10彗星の航空隊である。因みにレーダーには映っていないが、上空にはKC787早期警戒管制機が飛んでいる。

 

『こちらは指揮官機、アルテミス07。時間通りだな、こちらは欠員なし。そちらは?』

 

「こちらは特別輸送隊1番機、ラーマ03。こちらも欠員はない。まあ出撃したがってる奴らが、輸送途中に勝手に行くかもしれないが」

 

『フッ、冗談のセンスが壊滅的だ』

 

「悪かったな、苦手なんだよ」

 

軽口を叩きつつ輸送機の群れは一路、パールネウスを目指す。途中で空中給油を挟んで、燃料も補給して万全の状態でパールネウスの近くに到達する。パールネウス近くに到達した頃には、明るかった太陽は傾いて赤くなっていた。

 

『アルテミス07より全機、作戦を開始する。村今戦闘団は一度本空域にて待機。特殊戦術打撃隊はLZ確保の為にパールネウスへ突入せよ』

 

それではここで、今回の作戦である「巨人作戦」の概要を説明しよう。まず作戦をする前に、パールネウスの特徴的な地理状況を説明しようと思う。パールネウスは直径300kmという巨大な円形状の壁で囲まれてあり、そこから約130kmの地点にまた円形の壁があり、さらにそこから100kmの地点にまたまた円形の壁がある。まあ、とどのつまり進撃の巨人の壁(・・・・・・・)である。流石に壁の中に地ならし用の超大型巨人があったり、立体機動装置やらアッカーマン一族やら始祖の巨人やらは居ないものの、まんまあの世界から飛び出して来たような見た目である。

さて、話が多少脱線したが作戦について説明しよう。作戦は至極簡単で、まず最外部の壁(ウォール・マリア)の更に外にある突出した区画、シガンシナ区と呼称された部分を急襲。最外部の壁(ウォール・マリア)を破壊して、第二の壁(ウォール・ローゼ)を目指す。もちろんこの壁も破壊し、最後は中心部の壁(ウォール・シーナ)も破壊する。破壊の仕方は勿論超大型巨人と鎧の巨人を.......と言いたい所だが、マーレではないので特殊戦術打撃隊のメタルギアを使用する。村今戦闘団はシガンシナ区と最外部の壁(ウォール・マリア)を破壊次第、一帯をLZとして部隊を展開。以降は部隊を三分して二つが壁内をぐるっと一周回り、残りはメタルギアと合同で他の壁や手近な地区を占領していく。他の壁でも同じようにしていき、最後は行政の中心部であり、緊急時には首都の代行機能もある中心部を破壊し尽くす。これが「巨人作戦」の概要である。

 

 

 

壁内

「なんだ、この音」

 

「壁の外から聞こえる」

 

「定期便の馬車じゃないかな?」

 

街中では子供達が遊んでいた。黒髪と金髪の少年、黒髪の少女の3人は大体いつも一緒にいる。今日もいつも通り、家に帰って飯食って寝る筈だった。だがそんな日常は、崩れ去ることになる。

外から聞こえる音というのは、定期便の馬車などではない。その正体はメタルギアを運んでいた、CH63大鳥のローター音である。

 

「隊長機より、各機。仕事の時間だ、無理にとは言わないが民間人への被害は最小限にしろ。それから人命救助中の兵士は絶対に攻撃してはならん。いいな!」

 

『『『『『『『おぉーーーー!!!!』』』』』』

 

「とつげーき!!」

 

隊長機のメタルギア龍王が壁の門に向かって突撃し、破砕する。勿論その破片は市街地に降り注ぎ、一瞬にして平和な日常は地獄絵図と化す。

 

「巨人だ!!巨人が入ってくるぞ!!!!」

「壁が破られた!!逃げろ!!!!」

「は、ハハハ、ハハハハハハ!」

 

市民達はあちらこちらへ駆け出していく。しかし瓦礫が道に突き刺さるわ、家が倒壊するわ、その瓦礫に押し潰されるわで市民達もパニックになり押し合いやらケンカやらが始まる。中には気が狂ったのか笑い転げるものや、木の棒を振り回しながら聖書の一節を読みながらメタルギアの元に歩く聖職者もいた。

 

「迎撃準備!!魔導砲と地竜で迎え撃て!!!!」

 

「ワイバーンの航空支援は!?」

 

「要請済みです!!!!現在スクランブル発進中だそうで、20分程で到着します!!!!」

 

兵士達も体勢を立て直し、迎撃準備に取り掛かる。流石は旧首都であり聖地を守る兵士達。当初はパニックにこそなったが、その持ち直しの速さは練度が高い事の現れである。

 

「目標、前方砲撃陣地。レールガンチャージ」

 

バチバチバチバチバチバチ

 

「発射!!」

 

バシュン!!!!!

 

まあ、こんな化け物相手では練度が高かろうが低かろうが、最早ただの有象無象の烏合の衆であるが。ホントどっかの「野郎ぶっ殺してやァァァァァァる」ではないが、日本軍の将兵からして見れば「ただの案山子ですな」状態な訳である。

え?大砲扱ってた兵士達?悲鳴や断末魔を上げることも許されず、アポロ並みの吹っ飛び方で永久退場しましたが?

 

「母さん!母さん!」

 

一方その頃、黒髪の少年と少女は自分の家のある場所に走っていた。曲がり角を曲がれば自分の家だ。きっと、瓦礫なんかに押し潰されちゃいない。そう考えていたが現実は非常で、家は瓦礫に押し潰されて母親は下敷きになっていた。

 

「母さん!!!!カサミ、そっちを持て!!柱をどかすぞ!!!」

 

しかし子供二人位の力じゃ、柱が動く訳ない。そして横を見て見れば、二体の巨人が歩いている。絶望の一言である。

 

「急げカサミ!!」

「わかってる!」

 

「巨人が入って来たんだろ?アレン、カサミを連れて逃げなさい!」

 

「逃げたいよ俺も!!早く出てくれ!!!!」

 

「どうしていつも母さんの言う事を聞かないの!!!!最後くらい言う事聞いてよ、カサミ.......」

 

母親として子に生きていて欲しいという願いと、子として母親を助けたいという願い。どちらも正しい考えである。しかし一人の兵士が助けにやってくる。

 

「ヒロシ!!子供達を連れて逃げて!!!!」

 

「見くびって貰っちゃ困るぜ、クルラ。俺は巨人をぶっ殺して、きっちり3人とも助ける!」

 

知り合い、というか昔働いていた頃の常連客で子供達とも良く喋っていた兵士だった。ヒロシは銃を構えて、一機のメタルギア零の元に走る。

 

「待って!!戦ってはダメ!!!」

 

(確かに、2人だけなら助けられる。だが俺は、俺の恩返しを通す!!!)

 

そう決意して、目の前の巨人に相対する。しかし次の瞬間、己の心が絶望と恐怖に支配されて固まってしまう。目の前に見た事もない、巨大な鋼鉄の巨人がいるのだから仕方ない。

すぐに足を元来た方向に向けて、走り出す。その姿を見て、零も追い掛ける。

 

「おいヒロシさん!!!何やってんだよ!!!おい!!!!」

 

アレンが叫び、担がれるのを抵抗する。クルラはそれを見て、一言「ありがとう」と呟いた。だが、その横には追いついた零の姿があった。

 

「おい!!!母さんに何する気だ!!!!」

 

「あ、おいアレン!!!!」

 

どうにかこうにかヒロシの肩から抜け出し、零の足元に走る。そして足を力一杯蹴りまくる。

 

「母さんから離れろ!!!」

 

『少年、離レロ』

 

「嫌だ!!!って、え?」

 

全員が固まった。目の前の鋼鉄の巨人が、片言ではあるが言葉を発したのである。怖くなったのか、アレンは少しずつ後ずさる。離れた事を確認すると、目の前の巨人は腕にある長い棒で屋根をどかして母親を助け出したのである。

全員が呆気に取られて動かないでいると、また巨人が喋る。

 

『何シテイル。母親ノ瓦礫ヲドカシタノダ。何故、助ケナイ?』

 

その言葉に我に帰ったヒロシがクルラを担ぎ、門の方に走ろうとする。

 

『待テ。門ニハ行カナイ方ガ良イ。仲間達ガ門ヲ破壊スル。折角助カッタノダ、無駄ニハスルナ』

 

「なら何処に行きゃ良いんだ!!」

 

『此処ニ居レバ良イ。信ジラレナイダロウガ我々ノ任務ハ、破壊デアリ殺戮デハナイ。関係無イ民間人ノ死亡者ハ、我々トシテモ本意デハナイ。ソノ証拠ニ私ハ、母親ヲ助ケタ』

 

ヒロシの質問に片言で返す。すると横から別種の巨人が来て、棒で門を指し示す。喋っていた方の巨人が頷くと、門の方に走っていった。

 

 

 

最外部の壁(ウォール・マリア)出口

「LZを確保。戦闘団の受け入れ態勢、準備完了」

 

『了解だ。すぐに部隊を展開する』

 

上空を見上げると、大小様々な輸送機が飛来してくる。パラシュートが空を埋め尽くし、陸の王者や勇敢な兵士達が降ってくる。

 

「パラシュート回収急げ!」

「装備、弾薬チェック!!」

「急げ!!早いとこ中心部を攻め落とすんだ!!!」

 

手早く準備を済ませ、事前に決めていた戦地に赴く。主力は変わらず前進を続け、途中でワイバーンロードの襲撃を受けるも随伴している49式対空戦闘車の弾幕に呆気なく撃墜されて、殆ど邪魔される事なく第二の壁(ウォール・ローゼ)に到達する。しかしこっちは壁上に魔導砲が準備されており、少々厄介であった。というのも戦車なら問題ないのだが、装甲車位の装甲になってくると魔導砲の砲弾に耐えきれない可能性が出てきたのである。正面からの砲撃なら問題ないのだが、斜め上、それも50mの高さから放たれると重力加速の影響で威力が必然的に上がってしまい、しかも装甲の薄い天井部分に命中する為、最悪一発でも被弾すれば機能停止する可能性があったのである。

 

「レールガンチャージ!!」

 

『ちょっと待ってくれ』

 

龍王の隊長機がレールガンで壁上の砲台を破壊しようとするが、それを零の隊長が止める。

 

『ここは俺達に任せてくれ。Sマイン、発射!』

 

メタルギア零の両脚に装備されたキャニスターから、無数の砲弾が空高く発射される。その砲弾は壁上で起爆し、無数の手榴弾をばら撒く。

壁上は砲操作で人が密集している上、即応用の弾薬が剥き出しで放置されている為、効果絶大の攻撃となった。

 

「熱い、熱いぃ!!うわぁぁぁぁ!!!!」

「目が、目がぁぁぁぁぁ!!!!」

「熱いよぉぉぉぉ!!!」

 

尚、地獄絵図にもなった。

そんな訳で、上からの脅威は無くなった。なら次にやることは、

 

「ファイア!!」

「待ってました!!!!」

 

ドゴォン!!

 

門をぶっ壊して、中に突入である。一応、魔導砲と地竜に出待ちされていたが、まあコイツらに通用するわけもなく.......

 

「魔導砲、一斉撃ち方!!」

 

ドドン!ドドン!

 

「撃ち返せ!!」

 

ドゴォン!!ドゴォン!!ドゴォン!!

 

魔導砲を撃とう物なら戦車砲をありったけ撃ち返され、

 

「よーし相棒、火炎放射だ!!」

 

ボオォォォォォォォ!!!

 

「発射」

 

ゴォォォォォォォォォ!!!

 

火炎放射しよう物ならメタルギアから威力が段違いの火炎放射を浴びせられ、

 

「逃げろ!!撤退!!」

 

「逃げられると思っているの?」

 

プチっ

 

逃げよう物なら容赦なくメタルギアに踏み潰される。もうこうなってくると、どっちが悪役だか分からない。何処ぞのアンデルセンとアーカードの様な状態となる。

とまあこんな感じで簡単に第二の壁(ウォール・ローゼ)も突破し、本丸とも言える中心部の壁(ウォール・シーナ)に向かう。だが文字通り「最後の砦」である為、夥しい数の地竜とワイバーンロード、魔導砲でガッチガチに固められていた。しかしその事は既に戦闘機隊によって筒抜けであり、F9心神が突っ込んでワイバーンロードを殲滅。さらにA10彗星が爆撃を敢行し、防衛隊残存兵力の3分の2を戦闘不能に追い込んだ。間髪入れずにメタルギアと村今戦闘団が突撃し、敵を完全に根絶やしにした。夜が明けて、朝日が登る頃にはパールネウス全域に日の丸の旗が翻っていた。

 

 

 

四日後 パーパルディア皇国 首都エストシラント パラディス城

パールネウス陥落の報はすぐにエストシラント、正確にはパラディス城にいる皇帝ルディアスの耳に入った。しかも演習に出ていたパールネウス守備軍第3軍団がパールネウス奪還に独断で向かうも、部隊が壊滅し生き残ったのは3000名中5名(しかも全員が腕や足を失うなどの重傷を負った上、結局3名死んだ)という全滅と言って良いレベルの損害を出したというオマケ付きである。

 

「そうか、分かった。下がれ」

 

「ハッ」

 

てっきり怒鳴られるなり、八つ当たりされる物と思って内心ビクついていたが、何ともすんなり終わって少し安心していた。しかし何故怒鳴らなかったか、気になるだろう。その理由は単純明快。大日本皇国に報復する(・・・・・・・・・・)からである。つまり核ミサイルの発射(・・・・・・・・)である。では何故、こういうものを今の今まで使わなかったか説明しよう。

曰く、「余は例え蛮族が相手であっても慈悲を与え続ける聖人である。確かに大日本皇国はこれまで、誉高き我がパーパルディア皇国に無礼を働き続けていた。しかしそれでも、余は服従するなら許してやろうと思っておるし、最後まで戦うというのなら最後まで正々堂々と付き合うつもりであった。

だが、奴らは禁忌を犯した。聖地であるパールネウスを破壊し占領するのは、最大の侮辱であり今まで戦いに付き合ってやっていた恩に仇で返すというも同義である。ならば余も、この兵器で大日本皇国を消してくれようぞ」という考えだそうである。

何か脳内お花畑を超えて、脳内に天国でも創造したんじゃないかと思う程、ヤマト並みにぶっ飛んだ思考回路である。もうツッコミを入れる気力すら無いが、一つ言えるのはこれを大日本皇国の国民が聞いたら「いや、その立場は俺らな?」と盛大にツッコむことだろう、ということである。あ、後、神谷辺りが速攻でぶっ殺すとも思う。

 

「大日本皇国よ、貴様らは余を怒らせすぎた。その罪は、万死に値するぞ.......」

 

何か勝手に闘志を燃やして何処ぞの主人公みたいだが、ただのバカである。

 

「レミールを呼べ」

 

 

「お呼びでしょうか、旦那様♡?」

 

「レミールよ、余は決断したぞ。彼の蛮族国家に、大陸間弾道誘導魔光弾を撃ち込む!」

 

「わかりましたわ。お供すれば良いのですね?」

 

ルディアスは何も言わずに頷き、二人は第十六話煉獄作戦に出てきた大陸間弾道誘導魔光弾、もとい核ミサイルの発射場の指令室である地下室に向かう。そこで24桁の数字と見たことない文字のパスワードを入力し、ガイドに従って諸々の作業を行い、最後に目標を入力する様にガイドが表示された。

この瞬間、遥か空の更に上に浮かぶ極小の星が砕けて、中から偵察用の人工衛星が現れる。これはミサイルを誘導する為に場所を算出する為の衛星であり、発射する人間は衛星が撮影した写真から目標をタップすれば良いのである。日本側も衛星が星に偽装しているとは思っておらず、ノーマークだったので発見されることも探知されることもなかった。

 

「奴らの首都のトウキョウ、そして古都であるキョウトとナラ、そして人の多いオオサカ、ナゴヤ、フクオカ、サッポロ、サイタマ、カナガワに撃ち込んでやる」

 

地図上に赤いマークが付き、音声で「ターゲットロック」という風に流れる。するとルディアスの目の前の机の下から、ミサイルの発射ボタンが出てくる。

 

「大陸間弾道誘導魔光弾、発射!!!!!」

 

カチッ

 

 

シュゴォォォォォォォォォ!!!!

 

 

滅びの矢は放たれた。日本到達まで、後15分!

 

 

 

大日本皇国 首都東京 統合参謀本部 司令長官執務室

「そろそろ昼休みか。今日は何にするか」

 

「長官、私の昼ご飯も一緒に買ってもらっても良いですか?私ちょっと、昼休みは用事が.......」

 

「アイドルグッズの限定販売のヤツか?」

 

「そうです!!絶対買います!!!!」

 

「お、おぅ」

 

現在執務室には神谷と秘書の向上だけがいた。向上は一話の紹介文でも書いたように、超がつくドルオタでマジで「推しのためなら命捨てる。推しが死んだら、俺も死ぬ」と公言する程、軽く危ない方に片足突っ込んでる奴である。

で、そんな彼にとって今日は戦争である。何とアイドルのサイン入りタオルが3枚ずつ限定で、オンラインストアで販売されるのである。勿論推しの子のもある訳で、それを是が非でも手に入れるべく本来なら堅く禁じられているのだが、始業時間中からパソコンの購入画面を開いていたりするほどである。神谷が性格上、あまり規則をガチガチに守らず抜け穴を使ってサボったり違法を合法にしちゃうような性格なので、出来る荒技である。

 

ピーンポーンパーンポーン

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!!!!!」

 

昼休みを告げる12:00のチャイムが鳴った瞬間、キーボードを超スピードで押して行き僅か30秒で購入する。

 

「っしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!ゲットォォォォォォォォォ!!!!!」

 

「テンション高いなぁ」

 

ビイィィィ、ビイィィィ、ビイィィィ

 

突如、部屋中に警報が鳴り響く。この警報音には、二人とも聞き覚えがあった。

 

「おい嘘だろ!?」

 

「何故この世界で、ICBM攻撃が.......」

 

このサイレンの指し示す意味は「他国からのICBM攻撃を受けている」という物で、これまで鳴ったことがあるのは数えるほどしかなかった。知っての通り、ICBM攻撃なんて普通は無い。ICBM攻撃をするという事は戦争状態への突入、国際社会からの決定的な孤立、場合によっては報復核攻撃すらも視野に入るため、普通ならチラつかせて終わりの筈なのである。というか各国の首脳陣も、戦争した所でメリットよりデメリットが多い為「戦争はあまりしたくない」というのが本音である。金掛かるし、何かと批判されるし、負けでもしたら大変である。

そんな「禁じ手中の禁じ手」とも言える攻撃手段が今、日本に迫っているのである。

 

「システムエラー、な訳ないよな」

 

「はい。解析検査プログラムと自己修復プログラムが随時走ってますから、エラーのまま進行するのはまずあり得ません」

 

プルプルルルルル、プルプルルルルル

 

「俺だ!ICBMの件だな?」

 

『あぁ!破壊措置命令を下す!!』

 

「了解だ!」

 

電話を切ると2人は地下にある指令室へ下り、破壊措置に関する指示を出す。

 

「けいれ」

「敬礼はいい!それより状況を」

 

「ハッ!今し方、監視衛星よりパーパルディア皇国首都のエストシラントより、ICBMと思しき9つの飛翔体を確認したとのことです。弾道から予測しますと、目標は札幌、埼玉、東京、神奈川、名古屋、京都、奈良、大阪、福岡の9都市です」

 

事前に得ていた情報では撃てても一発程度と言われていた筈なのに、9発も来ているのに疑問を持つが、「今はそれどころではない」と頭から疑問を一度消し去る。

 

「弾道ミサイル破壊措置のマニュアル通りに行くぞ。上空に鳳凰の姿は?」

 

「有ります!3号機がコース上に居ます!!」

 

「よし、3号機に破壊措置を下命。それから付近に展開中の防衛艦隊の草薙艦に、迎撃ミサイルの発射を指示。当該地区にはJアラートの発令とシェルターを解放。それから超高高度防衛ミサイル富士の展開を急がせろ!!」

 

オペレーターの兵士達が、ヘッドフォンで各地に指令を伝えていく。

 

「各自治体にJアラート放送急がせろ。テレビ局にもテロップを流させ、一人でも多く避難させろ」

 

「超高高度防衛ミサイル富士、発射体制へ移行」

 

「総員、対弾道ミサイル防空戦用意」

 

 

 

ICBM飛来コース上空

「機長、本国よりICBMの破壊措置命令が来ました!」

 

「え!?この時代感にあわねー兵器だろ。何でまた、ってボヤく暇はないな。よし、TLS充填開始!!レールガンもチャージだ!弾種、月華弾!!」

 

「TLS充填開始。装填用エネルギーバイパス、解放」

「レールガンチャージ。24、48、72、100、エネルギー充填120%」

「軸線に捉えた。発射まで5、4、3、2、2、1」

 

「撃てぇ!!」

 

ビーーーーーーーーー

バシュン!!!!!

 

「命中、目標を4発撃破」

 

「後は、海軍に任せよう」

 

 

 

 

日本海 第三防衛艦隊 駆逐艦「瀬戸霧」

 

「目標情報入りました!!パーパルディア皇国首都エストシラントより、ICBMの発射を確認!以降ターゲットアルファー、ブラボー、チャーリー、デルタ、エコーと呼称!!!」

 

「システムをBMDモードに!CIC指示の目標、撃ち方始め!!!」

 

「てぇー」

 

瀬戸霧のVLSから、弾道弾迎撃のための信長対空ミサイルが撃ち出される。

 

「インターセプトまで10秒、9、8、7、6、5、4、スタンバイ、マークインターセプト!!」

 

「本艦の信長ターゲットアルファを撃破!!松雪、銀時、影虎、龍舞も目標を撃破しました!!!全弾撃墜!!!!」

 

この報告が艦内に響くと、今度は歓声が艦中を駆け巡る。それは地下指令室でも同じで、皆が喜んでいた。ただ一人を除いて。

 

(奴らは恐れ多くも、ミサイルで日本を穢そうとした。こうなれば最後の作戦、それから占領政策も少し変えてやらねばな。これまで民間人の死傷者は殲滅戦と言えど、あまり出したくなかった。だが、こうなれば知ったことか。完全に潰す。再起不能になるまで、潰す

 

神谷は脳内で今度の最終作戦の修正を行なっていた。核を使わず、どのように恐怖と絶望のドン底に突き落とすか。核を使わないとなると使える兵器で絶望を与えられるのは、もうアレらしかない。どんな兵器かは、決戦まで取っておこう。

 



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第二十一話前哨戦

パーパルディア皇国からの攻撃より八時間後、首相官邸の執務室では安定の三人が集まり、今後の計画について話し始めていた。

 

「どうやら、浩三の危惧通りみたいだったな」

 

「あぁ、どうやら俺の認識は甘かったようだ。一番クズ共と接していたというのにな」

 

一色と川山の二人が前回集まった時に、神谷の意見を否定してしまったことに後悔していた。

 

「過ぎちまったことをとやかく考えるな。幸い被害はなく、奴らの切り札が消えたと言うオマケ付きで終わったんだからな」

 

「浩三、率直に聞きたい。何か企んでいるのか?」

 

一色の質問に、ニヤリと口角を上げて「バレたか」と神谷が言った。二人とも「あぁ、やっぱりか」という、呆れてるような何とも言えない顔をする。

 

「俺としては、もう奴らの全てを破壊しようと思っている。首都を本当なら核攻撃でもしてやりたいが、そんな甘っちょろい攻撃じゃ腹の虫が治らん」

 

「待て待て浩三さん?お前今、核攻撃が甘っちょろいって言ったか!?」

 

「うん」

 

二人とも口をあんぐり開けて、人間ではない新生物を発見したような顔をしていた。

 

「だって考えてもみろ。核を使えば一帯は一瞬で消えるが、何もかも一瞬だ。当然痛みもな。アイツらが国民にしたことは、そんな一瞬の苦しみで終わらせるべきじゃない。徹底的に嬲り殺しにしてやらねーと。

具体的に言うと戦艦群による艦砲射撃とミサイル飽和攻撃、富嶽IIや超兵器を含めた航空隊による爆撃、メタルギアを使った破壊と殺戮、空挺や戦車を用いた戦闘によって奴らの精神を完全に叩き壊す。例え旧世界のアメリカであっても、ここまでの戦力を投入されたら逃げるレベルだ。たかが近世ヨーロッパ程度の技術じゃ、神やエイリアンの攻撃と変わらないだろうな」

 

二人の脳裏にはハリウッド映画にありがちな、エイリアンとの戦争に主人公達が戦いに赴き、その隣で仲間達が殺されていくシーンが頭に浮かぶ。

大抵の場合は主人公達は多大な犠牲を払いながらも最後には勝利して英雄として讃えられる王道パターンとなるが、多分今回に限ってはそんな英雄は降臨しない。というか軍事力の差があり過ぎて、降臨しても機能しないのがオチである。

 

「因みに聞くが、皇都エストシラントはどうなりそう?」

 

「消し炭」

 

川山の質問に、単純明快な一言で返す。薄々感じていたとは言え、こう言う時の神谷に「オブラートに包む」とか「ワンクッション置く」なんてことは出来ないのを知っているので、心の中で文句を垂れつつ苦い顔して項垂れる。

 

「で、お前の考えてたプランは?」

 

「もちろん白紙撤回させてもらう。まあ正確には対象者を変えるってだけだ。生き残ってたら良いんだが、多分死ぬだろ?一応、政府高官な訳だし」

 

因みに今だからこそ言うが、第十九話ヤベェ奴らで書いていた「接触予定の人物」とは、パーパルディア皇国の第三外務局の局長カイオスであった。幸いまだ接触はしていなかったので作戦の変更は容易であるが、その後の占領政策が面倒になるのは目に見えている。

 

「占領政策は?」

 

「俺の見立てじゃ、多分行けると思うぞ。何せコッチの強力な軍隊が、本気モードでバトってる姿を見せられるんだ。服従しないと後がないことくらい、どんなバカでも理解するさ」

 

一色の最大の不安事項であった占領政策についても、一応の解決策は用意されているらしいので実行は出来る。しかし精神的に来るものというか、色々悩みはする。そんな心情を察してか、神谷は一色に向き直り机に銃を置いた。

 

「いいか健太郎、銃は俺が構えてやる。照準も俺が定めてやる。弾を弾装に入れ、遊底を引き、安全装置も俺が外す。だがな殺すのは国民、天皇陛下、俺達含めた日本民族全員の殺意と復讐心だ。そしてお前は、その国民の代表だ。さあどうする?大日本皇国第112代目総理大臣、一色健太郎!!!!」

 

「.......わかった。存分にやってくれ」

 

迷いは、無くなった。この日を境に、大日本皇国の各軍は最終作戦の為に動き出していた。そしてそれは、パーパルディア皇国も同じであった。

 

 

 

一週間後 パーパルディア皇国 皇都エストシラント 皇都防衛艦隊泊地

パーパルディア皇国の誇る海軍提督にして、現パーパルディア皇国海軍総司令であるバルスは、皇都防衛艦隊の司令庁舎に来ていた。来た目的は勿論、大日本皇国への大攻勢を仕掛ける為の作戦会議である。

 

「それでは皆様、作戦を説明致します。本作戦は一言で言いますれば、大日本皇国自体を完膚なきまでに叩きのめす作戦であります。

参加兵力は陸上戦力は地竜2,500頭、歩兵15,000、騎兵10,000、魔導砲8000門。海上戦力はペロチーノ級竜母53、フィシャヌス級100門級戦列艦級132、フェルデナンテ級200門級戦列艦97、ファイン級60門級戦列艦239、輸送船6,800。航空戦力はワイバーンロード1,060頭であります」

 

若い士官が参加戦力を読み上げていく。見ての通り、空前絶後の作戦である。物量だけで言えば、有史以来最大の物量であろう。まあ本当に凄いのは物量だけで、質は有史以来最底辺の物ではあるが。

 

「作戦についてですが〜〜」

 

長くなるので、作戦については箇条書きにて済まさせてもらう。因みに長くなった原因は、この士官のゴマスリの為である。

というのも今回の作戦が各戦略や戦術に於いて有能な指揮官達の合作であり、説明の中で度々「〇〇殿の作戦は兵士達の力を発揮できる至高の作戦です」とか「〇〇殿が奇想天外な作戦を思いつかなければ、まず成功する見込みすら立たなかったことでしょう」とか何とか言いまくったのが原因である。

褒め称えられている指揮官達は良しとして、周りの書記役などの士官達は「いや知らねーよ。早よ進めんかい」と内心思っていたりしたらしい。では、作戦の説明(箇条書き)をしていこう。

 

 

九州制圧する→なんやかんやで首都を制圧する→大勝利

 

 

何ということでしょう。子供が考えそうな、何とも簡単な作戦ではないですか。これなら例えどんな軍隊でも勝てる、訳ねーだろ

全ての読者が「いや、ふざけてんのか」と思ったであろう。悪い冗談かと思いきや、マジでこういう考えなのである。

というのも日本の情報、取り分け本土の地形や都市の名前等ひっくるめた、日本列島の情報がパーパルディア皇国に無さすぎるのである。取り敢えず分かっているのが「第三文明圏の更に外側、より正確にはクワ・トイネ公国の近くにある蛮族国家」ってだけである。幾つか都市の名前と大体の場所が分かっているが、「どんな地形か」とか「どの程度の防衛兵力があるか」とかは全くの未知数という、初期装備で魔王城に乗り込むようなアホとしか思えない作戦だったのである。人口も多い少ないはわかるが「どの程度の人口か」は分からず、あくまで「他の都市よりかは多いらしい」程度なのである。

え?じゃあ戦略家やら戦術家が練った作戦はどうやって作ったのかって?そんなの、適当に都市の名前から地形を妄想して作ったに決まってんでしょ。例えば海ないのに海があったり、山があるのに穀倉地帯になってたり、川が無かったり、謎の山が作られてたりと無茶苦茶である。

 

「それでは皆様、出港は一ヶ月後です。ご準備のほど、お願いいたします」

 

「ではワシから最後に一言宜しいかな?」

 

バルスが司会役の士官に声を掛けると、勿論「どうぞどうぞ」と前に通される。

 

「諸君。今、祖国パーパルディア皇国は建国以来、いや前身のパールネウス共和国時代でも経験したことのない、未曾有の危機に直面している事は承知のことであると思う。実際包み隠さず言うならば、今のところ日本軍に勝てた戦いは一つもない。だが、奴らの目線がこのパーパルディア皇国本土に向いている間に、敵の本土を逆に攻め落とすことは大きな意味を持つ。そして大半の戦力をこっちに向けている以上、奴らの防衛力は微々たるものだろうよ。

ならばワシはこの場で諸君に命令しよう。「日本本土を焦土に変え、そこに住む国民と王族達を殺し、世界中に本気で皇国を怒らせればどうなるかを知らしめよ」と。諸君の奮戦を期待する!!!!!」

 

全員が鬨を上げて、拳を突き上げる。この言葉は各員にも伝わり、士気は天を貫く勢いで上がりに上がりまくっていた。中には占領後のお楽しみ、例えばアレをアソコにぶち込んだりとか、金品を強奪したりとか、その他諸々の下衆な考えを巡らせてる奴もいた。

だが一方で、彼らは知る由もない。作戦展開をする為の艦艇を日本に向ける際、ほぼ確実に道中で8個ある内の何れかの主力艦隊とかち合う上に例え見つからなかったとしても、日本の沿岸部には防衛艦隊がいて、陸地にも相当数の陸軍が控えていることを。

 

 

 

一ヶ月後 エストシラント近海 超戦艦「熱田」 艦橋

「閣下、まもなくエストシラント沖です」

 

「了解した」

 

この日、神谷は最終作戦である「地獄作戦」の前哨戦となる戦いの陣頭指揮の為、第一主力艦隊旗艦である「熱田」に乗艦していた。

 

「長官、各基地からも続々と部隊が出撃しています。また73ヵ国連合軍*1もエストシラントの包囲に参加しています」

 

向上の報告に神谷は無言で頷き、窓の外を見る。その視線の先には海を堂々たる姿で駆ける7隻の熱田型超戦艦に64隻の大和型戦艦、そして16隻の赤城型超空母の姿が見えた。

 

「壮観たる眺めだな。文字通り、海の猛者達の大行進だ」

 

「神谷長官!偵察機より港から数千隻規模の艦隊が出港したとの報告が上がりました!!!!」

 

通信要員の水兵が大声張り上げて、神谷に報告する。その報告を聞くとニヤリと笑い、マイクを手に取った。

 

『時は満ちた!!!!全艦、砲雷撃戦用意!!!!!!』

 

「了解。全艦、砲雷撃戦よーい」

「各艦、御旗を掲げよ」

「総員、合戦準備」

 

艦隊の各艦に命令が伝達されていき、続いて配置完了の報告が上がる。

 

『副砲、配置よし』

『全主砲、いつでもいけます!』

『こちら機関室、いつでも全開で回せやす』

『両用砲群、配置完了!』

『機関砲群、準備良し!』

 

「全艦砲雷撃戦準備、完了しました」

 

「よし」

 

戦艦群が戦闘用意をしている間に、赤城型は艦載機を上げて航空隊をバルスの艦隊へと向かわせていた。

 

 

 

同時刻 日本本土侵攻艦隊 総旗艦「バルゼリオン」

「全艦出港しました。ご命令を」

 

「竜母に下令。偵察騎を上げ、艦隊進路を偵察せよ」

 

「ハッ!」

 

すぐに命令が下達され、8騎のワイバーンロードが発艦する。しかしその動きは、侵攻艦隊上空に張り付いている赤城型の一隻である、超空母「鶴龍」搭載のE3鷲目によって筒抜けであった。

勿論、即刻通報されて攻撃隊の護衛についていた数機が迎撃に差し向けられた。

 

『バルバロッサ隊、命令だ。艦隊に向かう偵察機を肉片に変えてくるんだ。方位、190』

 

「バルバロッサ1、了解。バルバロッサ隊続け」

 

4機の震電IIが続き、偵察騎のワイバーンロードに近づく。機上電探なんざ存在しないワイバーンロードにそれを察知することは出来ず、普通に真後ろに付かれてしまう。

 

『バルバロッサ3、インガンレンジ!ファイア』

 

ブォォォォォォォ!!!

 

20mm機関砲によって、名も無き竜騎士は何に倒されたのかすら分からず、断末魔を上げることもなく海に墜ちていった。他の竜騎士も同じ運命を辿り、海に墜ちていった。墜ちた場所にはサメやら何やらが群がり、それはそれは恐怖を覚える光景だったらしい。

その間に攻撃隊は前進し、艦隊付近にまで到達した。

 

『全機高度制限、並びに武器使用制限解除。ウェポンズフリー、全機行ってこい』

 

その指示を聞くや否や、全機が翼を翻して艦隊に襲いかかる。

 

 

「て、敵騎接近!!」

 

「何ぃ!?此処はまだエストシラント沖、パーパルディア近く、それも首都の近くの海域だぞ!!??」

 

「羽ばたかない黒い竜ですから間違いありません!!敵です!!!」

 

「クッ、対空戦闘用意!!」

 

バルスはテンプレ通りに対空戦闘を命じる。各艦からバリスタやら何やらを上空に撃ち上げるが、マッハ1.5以上で接近するジェット機には当たるはずがなく、焼け石に水どころか焼け石に熱湯状態である。

 

『ロケット弾、発射!』

 

最初に餌食になったのは、艦隊の1番外にいたファイン級であった。木造帆船程度ではロケット弾には耐えきれず、船内で起爆し周りの装薬に引火して大爆発を起こし轟沈する。同じ原因で、機関砲を撃たれたのも轟沈している。

 

「艦隊右翼外縁部、壊滅!!」

 

「嘘だ、あり得ない。あそこにはファイン級とは言え、40隻近く居たはずだぞ!?そもそも飛行機械といえど、空を飛ぶ物に船がやられるなぞ、ありえない」

 

「!?敵騎、引き揚げていきます.......」

 

航空隊はファイン級と輸送船を適当に食い散らかすと、すぐに撤退していったのである。これは神谷の作戦で、航空機で最初に攻撃して動揺を誘い、敢えて航空隊を空母がいない別方向に撤退させて、「そっちに行けば艦隊がいるかもしれない」と思わせて、進路を誘導する作戦の布石だったのである。因みにずらした先には、艦隊がしっかり配備済みである。

 

「進路を左に取る。取り舵」

 

「とーりかーじ」

 

まんまと策にハマり、艦隊は見事死への航路を進み始めた。その先に待つのは最強の戦艦達だと知らずに。

 

 

「敵艦隊、我が艦隊に進路を取りました」

 

「こうも上手くハマるとはな。さあ殲滅のメロディーを、とでもいうべきか?」

 

「蒼き花咲く大地〜♪ですか?」

 

向上がガミラス国家の最初の部分を歌う。流石に惑星間弾道弾は降らないし、レーザーで地上を破壊したりはしないが、ヤマトを知っている乗員は脳内でその光景を想像していた。

 

「そろそろ真面目に仕事しようか。まあやり始めたのは俺だけどな」

 

「いや犯人が言っちゃ、ダメっしょ」

「そうすっよ、長官」

 

「うるへーやい。さて取り敢えず、艦隊進路このまま。最初はT字戦法でも取ろうかと思ったが、数多いしこのまま突っ込んで反航戦でやっちまおう」

 

「アイ・サー!」

 

艦隊は進路をそのままにとって、侵攻艦隊の正面に陣取る。そして速力を上げ、いよいよフィナーレという所になった。

 

 

「な、何だアレは.......」

 

「どうしたのだ水兵?」

 

「総司令、アレを.......」

 

水兵が指を刺す方向に目を向けると、ありえない光景が飛び込んできた。巨大な要塞島のような鉄の塊が8つと、その後ろにも大きな要塞がたくさん向かってきているのである。

 

「そ、総員戦闘準備!!面舵いっぱい!!!!撃ち方よーい!!」

 

バルスも驚いているのか、声が裏返りまくって指示を出す。全員が弾かれたように動き出し、いつもより素早く砲弾を装填し射撃準備を行う。

 

「撃てぇ!!」

 

全門斉射で敵艦に全ての砲弾が命中する。しかし核爆弾にも耐えうる装甲を前に、たかがデカい鉄球をぶつけた程度ではダメージどころか、凹みすら与えられなかった。

 

「主砲回頭!!撃ち方始め!!!!」

 

ドゴォォォォォォン!!!!!

 

日本皇国側のお返しは71cm四連装砲の一斉射。自分達の砲とは段違いの爆音に、全員が耳を塞ぐ。次の瞬間、たった一撃で巨大な水柱があちこちに上がり、周りの戦列艦20〜30隻を吹き飛ばす。

 

「な、何だあの威力は.......」

「化け物だ。海の化け物だ!!」

「死にたくない、死にたくない!」

 

「狼狽えるな!!竜母にワイバーンロードを上げるように命令せよ!!その間、我々は砲撃で敵の注意を引き続けるのだ!!」

 

バルスが指示を出し、水兵達がまた動き出す。

 

「撃ちまくれ!!」

 

戦列艦から多数の砲弾が発射されるも、安定の如くダメージは入らない。逆に51cm砲なんかの洗礼を受けて、吹っ飛ぶ。オマケに

 

「ギャーーーー!!??」

「破片が降ってくるぞ!!!」

「誰か助けてくれ!!足が潰されてる!!!」

「イテェ、イテェよ」

「ママー!ママー!!」

 

 

「砲の装填速度が速すぎる!」

 

自動装填装置の進化により大和型の46cm砲なら、一門につき5秒に一発、毎分12発の発射速度であり、71cm砲でも10秒に一発は撃てるという破格の連射速度なのである。因みに昔の戦艦大和であれば砲の仰角によって変わってくるが、最大で40秒に一発、最低でも30秒は掛かる。これだけでも、どれだけ破格の連射速度か分かるであろう。

 

「楽でいいな」

 

「あぁ。敵が真上に打ち上げられるさまは何とも言えんがな」

 

「ちげーねーな、っと!」

 

日本海軍側の水兵達は、「あっち側には居たくないな」と言いながら砲を撃ち続ける。その内、両用砲群と機関砲群も攻撃を開始して、完全に滅ぼしに掛かる。

 

「あり得ない.......。私の艦隊が.......、最強の皇国艦隊が.......」

 

次の瞬間、バルス座乗のバルゼリオンは71cm砲によって吹っ飛ばされて沈んだ。この海戦により生き残ったのパーパルディア皇国の艦船は一隻もなく、兵士も全員が亡くなった。

 

「終わりましたね、長官」

 

「ハハ、これは終わりではない。これは始まりの終わりで、終わりの始まりだ。今の今までの砲声は終わりを告げる号砲だ」

 

「そうでした。では我々も、終わりを告げる者達の元へ行きましょう」

 

「あぁ、終わりを見届ける観客達に挨拶しなくてはな」

 

そう言うと二人は、SH13海猫に乗って特殊戦術打撃隊の保有する空中空母「白鯨」の元に飛んだ。

 

 

 

00:00 ポイント38593 海中 伊1517艦内

「艦長、本国より指令が来ました。ターゲット、アルファ1にSLBM攻撃を実施せよとのことです!!」

 

「何番を使えと?」

 

「8番サイロです」

 

「核ではないんだな。わかった、副長は発令所へ!」

 

艦長は艦長室の金庫を開けて、命令用のコードを確認する。

 

「この戦いも、ようやく最終局面ですね」

 

「あぁ。核を使わないとは言えど、相手方の市民の死傷者はえげつないことになる。本当なら使いたくないが、核じゃないだけマシだよな」

 

「私もそう思います」

 

艦長と副長の二人は鍵を、それぞれの席にある鍵穴に差し込む。

 

「恨むなら、俺たちじゃなく愚かな首脳部を恨んでくれよ.......。ファイア!!」

 

カチッ

 

次の瞬間、カプセルが潜水艦の後部から発射される。海面に出た瞬間、中から弾道ミサイルが現れ空高く舞い上がる。

 

 

シュゴォォォォォォォォォ!!!!

 

 

パーパルディア皇国を破滅に追いやる為の矢は、何の縛りも邪魔も受けず空を駆け始めた。目指すはパーパルディア皇国の首都、エストシラント西部。

このミサイルが放たれたのと同時刻、作戦は開始された。

 

 

 

*1
パーパルディア皇国が属領として統治していた国家達が、反パーパルディアを旗印に結成した連合軍。JMIBとICIBの工作員達によって、一斉に蜂起し都市を奪還。その後、日本軍と合流して大小様々な基地や拠点、農耕施設を攻め滅ぼしてきている。

お陰でパーパルディアは兵糧攻めと敵が周りにいる四面楚歌状態のダブルパンチを食らっている。因みに装備面でも充実しており、デュロで生産したマスケット銃や日本製のコンパウンドボウやクロスボウで武装している。



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第二十二話パーパルディア皇国の終焉

警告 警告 警告

今回の話はこれまで私が書いてきた、どの回よりも一番ショッキングな物になっています。見るのは自己責任でお願いします。また倫理的、モラル的にヤバい発言がバンバン出てきます。ご了承の上で、ご覧ください。












ここにいるのは覚悟を決めた勇者達だけだよね?それでは、ご唱和ください。せーの
パーパルディア皇国処刑タイム

DEATH





SLBM発射一時間前 空中空母「白鯨」艦橋

「あの、そろそろ何が始まるのか教えて頂けませんか?」

 

「それはまだ出来ません。ご心配なさらずとも、しっかりお教えはいたします。ただその教える人間が私ではなく、今向かっている本作戦の指揮官、と言うだけです」

 

白鯨の艦長に、ムーの観戦武官であるマイラスが質問している。かれこれこの質問は三回目である。というのもマイラスとラッサンの二人は、昨夜、滞在先のホテルで寛いでいたら突然連絡が来て「明朝、お迎えに上がります」といきなり言われ、いざ迎えとの待ち合わせ場所に来れば特殊戦術打撃隊の基地に直行。そしてあれよあれよと言う間に、白鯨に乗せられて飛び立つという、正直言って何が何なのかわからないまま此処にいるのである。

 

「艦長、来た様です。コールサイン、hell maker。着艦許可を求めてきています」

 

「許可して差し上げろ」

 

艦の後部に一機のSH13海猫が着艦し、中から二人の男が出てくる。

 

「ご苦労様です!!」

 

「おう、ご苦労さん。見届け人は来ているな?」

 

「ハッ!御二方は既に会議室にて、お待ちいただいております!」

 

見届け人というのは、勿論マイラスとラッサンの事である。今回二人には最終作戦の様を見てもらい「大日本皇国を本気で怒らせた国家が、一体どんな末路を辿るのか」というのを本国に伝えてもらう為に来てもらっているのである。

 

 

 

会議室

「御足労をお掛けして申し訳ない、マイラスさん、ラッサンさん」

 

「神谷さん。それは良いのですが、しっかり説明して頂けますよね?」

 

神谷の挨拶にマイラスが質問で返す。神谷は「勿論」と言って、二人の前の椅子に座った。

 

「今回、お二人に来て頂いたのは他でもありません。今回の戦争の終焉、パーパルディア皇国という一つの列強国が歴史書と人々の記憶以外の全てから消え去る様を見届けて頂きたいのです」

 

この一言に、二人の顔は一気に強張る。そりゃあ目の前で「国一つ滅ぼします。だから見ててね?」と言われ、その国家が自国より格下とは言えど列強に名を連れねる国家なのだから当然である。

 

「しかし何故、我々なのですか?」

 

今度はラッサンが質問をする。正直言って、もう二人は日本軍の強さというのを嫌というほど知らされている。これ以上、何を見せようというのかと甚だ疑問なのである。

 

「単刀直入に申し上げて、我が国は貴国にある懸念を抱いているのです。私個人としましては、お二人を信頼に足る人物と見ております。とくにマイラスさんに至っては、同じ趣味(ミリオタ)を持つ同士でもあります。

しかしこれが国家間となると、話が別になるのは承知の上と思います。率直に申し上げて、我が国は貴国、というかこの世界に存在する全ての国家に次なるパーパルディア(・・・・・・・・・・)となるのではないかという疑念を抱いています。我が国の強さはご覧の通りですから、戦争となったとしても確実に勝利は得られるでしょう。ですが我らとて、戦争がしたい訳ではありません。双方の国民に被害は出ますし、金も掛かりますしね。しかし旧世界での常識というのは、こちらでは一切通用しない事を今までの経験から学ばされました。そこで我が国は、この戦争を持って「我が国を本気で怒らせたら、どんな末路を辿るのか」というのを見せようと考えた訳です。

本来であれば神聖ミリシアル帝国の人間を連れてきた方が影響力はあるのでしょうが、彼方は魔法文明国家ですので正確に我が国の力を測れない可能性があります。そこで同じ科学文明国家であり、旧世界の常識がある程度通じ、国際的影響力の高い貴国に白羽の矢が立ったのです」

 

「つまり今から起こる惨劇を記録し、我が国の政府を通じて世界に知らしめろ、という事ですか?」

 

「えぇ」

 

一瞬の静寂が会議室を支配する。まさか「より多くの人間を救う為に、多くの人間を殺す」という発想した事すらない考えを持っていて、しかもそれの実行を特等席で見る事になるとは夢にも思わなかったのだ。しかしマイラスが、静寂を破る。

 

「良いでしょう。こうなればパーパルディアの終焉の刻を見届けさせて貰います」

 

「感謝いたします。それでは私共は、出撃の準備に入りますので」

 

「はぁ。ん?出撃の準備って、まさか神谷長官自ら赴くつもりですか!?」

 

「?えぇ、そりゃ勿論」

 

ラッサンの質問に、至極当然かの様に答える神谷。マイラスも「コイツ、マジか?」という顔をしている。普通なら軍の指揮官、まあ小隊長とか分隊長とかなら別として、軍の最高司令や部隊の総司令は後方で指揮を取るのが普通である。それは今も昔も、何処の国であっても基本変わらない。そりゃ最高司令が倒れては、内部に不安や動揺が広がって士気が下がる上に、今後の作戦指揮を取ることすら間々ならなくなるのだから当然である。そんな立場の人間が、あっさりと「前線行ってきます」宣言したのだから無理もない。

 

「ご心配なさらず。長官の思考がバグってるだけで、貴方方の記憶が間違ってる訳ではありませんので」

 

向上の一言に神谷が「うるせー」と一言ツッコミ、そのまま二人は出て行った。

 

「マ、マイラス。やっぱあの人は、何処か可笑しくないか?」

 

「俺も思ったよ」

 

二人して盛大なため息を付いたのは言うまでもない。

 

 

 

00:00 艦橋

「長官、時間です」

 

『現時刻を持ってパーパルディア皇国首都攻略作戦、「地獄作戦」の発動を宣言する!!!!各員持てる力の全てを持ってパーパルディアの連中に、日本を怒らせたらどうなるか教えてやれ!!!!!』

 

この宣言が為された瞬間、ポイント38593の海中に潜んでいた伊1517潜がSLBMを発射。同時に侵攻中の全ての白鯨と白鳳からも艦載機が発艦し、皇都エストシラントへ向かい始めた。それでは此処で、パーパルディア皇国首都攻略作戦であり、本戦争の最終作戦である「地獄作戦」の概要を説明しよう。

この作戦は一言で言うならパーパルディア皇国を文字通り消滅させる(・・・・・)作戦である。作戦はそれぞれ

①SLBMによるエストシラント東部への攻撃

 

②SLBMの着弾より30分後から開始される戦艦群と51式510mm自走砲による、エストシラント南部と中心部への全力砲撃

 

③エストシラント東部への空爆Part2

 

④陸軍と海軍陸戦隊によるエストシラント北部への攻撃

 

⑤ど真ん中にあるパラディス城への突入と、皇帝ルディアス、皇女レミールの殺害

 

の以上五段階に分けられている。それでは作品に戻って、SLBMの経過を確認していこう。

 

 

 

ポイント38593 海中 伊1517艦内

「SLBM、順調に目標へ侵攻中。間もなく、final phaseに突入します」

 

「SLBM、いや、伊邪那美弾*1の力、知って貰おうか。パーパルディア皇国よ」

 

「final phase突入!」

 

発射されたSLBMは、ミニマムエナジー軌道を取り大気圏への再突入を開始する。再突入時にSLBMはMIRVと同じように、周りに18発のカプセルを放出。カプセルは本来の弾頭よりも速い速度で、そのままエストシラント西部の市街地に向かう。途中で光学迷彩を使用し、姿を隠した上で等間隔に着弾していく。

このカプセルには先述したデモリッシャーガスを注入しており、気化ガスを周囲に撒き散らす。

一帯が十分にガスで満たされたタイミングで、弾頭部が到達し起爆。

 

ドカァァァァァァァァン!!!!!

 

まずは強烈な爆風が襲い、次いで4,000℃の熱波が周囲を襲い全てを破壊し尽くす。因みに鉄が解けるのが1,500℃で、現代の戦車の徹甲弾に使われるタングステンの融点が3,380℃であるから、4,000℃というのがどれ程高いかわかるであろう。

エストシラント西部にいた市民は、自分達に何が起きたのか分からないまま死体も残らない程に消し飛んだ。

 

「何だぁ!?」

「おい!西部地区が爆発したぞ!!!!」

「一体何が.......」

 

エストシラントは城壁都市であり、進撃の巨人のシガンシナ区の様な突出した都市が東西南北に存在し、真ん中にパラディス城含む貴族の邸宅や政府施設の立ち並ぶ中央区が存在する。それぞれが壁によって区切られている為、西部地区内部は地獄ではあるがそれ以外の地区には被害がなかった。

まあ吹っ飛ばされた破片が降り注いで、多少の死傷者や半壊した建物はあるけど。

 

 

「何だあの爆炎は!?」

 

「まさか.......核攻撃か?」

 

上空を行く白鯨からエストシラントから上がる爆炎を見たマイラスとラッサンは、まず見た事もない巨大な爆炎を前に言葉を失った。しかしマイラスは脳内で、ある本が浮かんできた。それは本屋で買った広島と長崎の原爆についての本である。今目の前のキノコ雲は、まさしく核爆弾のそれである。と考えていた。

 

「マイラス殿、アレは核ではありませんよ?あれは特殊な燃料気化弾で、伊邪那美弾と呼ばれる兵器です。威力は核と同等でありながら、環境への被害は殆どない。我が国の戦略兵器の一つです」

 

「あんな物を日本は持っているのか.......」

 

二人の脳裏には、それが自国に向けられた時の事を考えていた。逃げ惑う市民、焼死体、倒壊した建物。文字通りの地獄が広がるのは、火を見るよりも明らかである。一方、エストシラント西部地区では一つの命令が物議を醸していた。

 

 

「何故です!?まだ中には大勢の人間がいると言うのに!!!!」

 

「どうせ死んだ所で、別に国家に影響はないんだ。有象無象如きに振り回されて、この国を終わらせる程愚かではないわ」

 

「しかし!」

 

「隊長、閉門します」

 

何と「西部地区と中央区を結ぶ門を閉鎖しろ」という命令を出したのである。先程も説明した通り中央区には政府施設が集中しており、そこを燃やす訳にはいかないという理由なのである。だがこれは表向きで一応政府施設の事もあるが、8割方が貴族達の財産を守る為に門を閉じるのである。

曰く「別に市民が何万人死のうと、我ら貴族が残れば良い。市民を一万人集めた所で、我らの命の価値の方が遥かに上である」だそうで。まあ心配しなくても、じきに吹っ飛ぶよ。貴族の豚ども。

 

 

 

エストシラント南部正面海域 超戦艦「熱田」艦橋

「作戦は予定通り、 phase2に移行する」

 

「ハッ!そうと決まれば、奴らに怒りの号砲を聞かせてやりましょう」

 

「そうだな。砲術長、準備に入ってくれ」

 

「アイ・サー!」

 

現在、熱田以下、先のエストシラント沖海戦に参加した全ての艦艇がエストシラント南部の正面にある海域に土手っ腹を向けて止まっている。勿論、その理由は主砲、副砲、両用砲、機関砲の火力を一番投射できるからである。

 

「主砲、副砲、両用砲、機関砲、砲撃よーい!五月雨弾装填!!」

 

「主砲、副砲、両用砲、機関砲砲撃用意。主砲、副砲弾種、五月雨」

「主砲、副砲、回頭開始。90度まで」

「砲塔仰角最大。甲板作業員は退避の上、ハッチ閉鎖。各員は砲撃に備えよ」

「右舷両用砲群、機関砲群、スタンバイ。砲撃モードを対地モードに」

 

「陸さんにも連絡を忘れるな?同時砲撃で行くからな」

 

「アイ・サー!!」

 

艦長の指示で、無線のチャンネルを陸軍に合わせる。勿論相手は陸軍の51式自走砲部隊である。

 

『こちら砲兵連隊司令部。海軍サンからの連絡ってことは、砲撃準備の進捗か?』

 

「えぇ。準備の程は?」

 

『こっちは準備万端よ!其方さんの号令がありゃ、いつでも砲弾の雨を降らせてやる』

 

「了解しました。こちらは後数分で準備完了します。それまでは、待機願います」

 

『おうよ!』

 

どうやら砲兵隊の準備は完了している様なので、海軍側も大急ぎで準備を進める。そして数分の後、準備は完了した。しかも丁度、ピッタリSLBM攻撃の30分後である。

 

「砲撃準備完了!!」

 

「さあ、我らの姿を白日の元に晒そう。発光信号弾、てぇ!」

 

砲撃前の「余興」として、神谷は艦隊に命令を下していた。それは艦に搭載されている信号弾を、砲撃の準備が完了次第、全艦一斉に打ち上げて堂々たるその勇姿を見せつけようという物である。

 

 

 

エストシラント南部壁上 監視塔

「西部地区、大丈夫かな?」

 

「いや、絶対大丈夫な訳ないだろうよ。あんな巨大な爆風、生まれてこの方一度も受けたことねーぞ」

 

「そうだよな。?なぁ、あの光なんだ?」

 

監視塔に登っていた二人組の内、若い兵士が自分達の目線より少し下の海に、赤く輝く無数の球体を見つけた。星にしちゃ大きすぎるし、太陽にしては小さい。と言うか何なら、真夜中な訳で太陽であること自体あり得ない。

 

「星、な訳ないもんな」

 

片割れの少し歳のいった男も首を傾げている。しかし次の瞬間、その赤い球体は破裂して中から大きな白い光が辺りを照らし出す。

 

「な、何だありゃ!!??」

 

「戦列艦、いや!ムーの持ってる「戦艦」とか言う軍艦にそっくりだ!!なんて数いやがる」

 

眼下に居たのは、言わずともわかるであろう。皇国海軍の誇る戦艦達である。

 

「全砲門、撃てぇ!!!!」

 

「撃ちー方始め!!!!」

 

ドゴォォォォォォォォォン!!!!

 

二人の兵士が本部に報告しようと魔信に手を伸ばした瞬間、砲撃が始まり監視塔ごと、二人の兵士は消しとばされる。エストシラント南部地区にも、一度に5,000発以上の大小様々な砲弾が雨の如く降り注ぐ。

しかも撃ち込まれる砲弾の内、大体1,000発程度が対地上目標用に開発された五月雨弾である。この五月雨弾と言うのは、内部に子爆弾を仕込んでおり空中で起爆し、10発程度に分離。それぞれが着弾後、内部に爆弾を送り込んでより強力な威力を発揮できる兵器である。これが雨の様に降ってくるのだから、考えただけでも恐ろしい。

 

「パパー!!!!ママーー!!!!!」

「あなたー!!!!!」

「ウッ.......。誰か、助けて.......」

「ギャーーーー!!!!あつい、あついぃぃぃぃ!!!」

「誰か、水を.......」

「もう.......いや.......殺し.......て.......」

 

南部地区は西部地区よりも、ある意味地獄の様相を呈していた。西部地区の場合は、あまりに威力が絶大すぎて苦しむ事なく逝った。ところがこっちの場合は瓦礫の下敷きにはなるわ、砲弾の破片でズタボロになるわ、火だるまになるわ、阿鼻叫喚の地獄絵図とは正にこの事だろう。

だがこれでは終わらない。艦隊と砲兵隊は全力砲撃を続けており、その魔の手は中央区にも手を伸ばし始める。

 

 

「急げ!!」

 

「ハッ!!!!」

 

(最早、修正や止める事が不可能になる程に事態は悪化している。もう、この国は終わりだな)

 

第3外務局の局長、カイオスは自身の邸宅を飛び出して皇宮に馬車を走らせていた。実を言うとカイオスはクーデターを画策しており、クーデター成功の暁には日本と講和するつもりでいたのだ。所が日本の動きが少し早く、皮肉にも実行の前夜である今日、日本の攻撃が始まってしまったのである。

 

ヒュウゥゥゥゥゥ

 

「この音は.......。どうやら、もう終わりの様だな」

 

(父上、母上、今其方に参ります)

 

次の瞬間、カイオスの乗っていた馬車は第六主力艦隊の旗艦である超戦艦「建御名方(たけみなかた)」の71cm砲弾が命中し、この世から永久に旅立った。一方その頃、パラディス城では皇帝ルディアスとレミールが殆ど裸で地下室から出てきて、目の前の惨状を見せつけられている所であった。

 

「一体何が.......」

 

「陛下、これはきっと日本の攻撃です。妾は何処までも、貴方様と共にあります。どうなさいますか?」

 

「本来なら先頭に立つべきなのだろうが、我が死んでしまっては世界統治どころか、この国すら危うくなる。ここは一度逃げて、ガハラ神国に亡命するとしよう。レミール、支度をせい!!」

 

「はい」

 

まさかの皇帝、ガハラ神国に逃げるそうで。あ、因みに何故地下室から裸で出てきたかというと 1、2、3

 

「あーーーーーーん♡」

 

「ここが良いのだな、レミールよ!」

 

ヤッてたそうです。いや、アンタら国の一大事に何やってんだよ!!!!コイツらアホだ。筋金入りのアホだ。

 

 

 

エストシラント東部地区 上空

「機長、エストシラントです」

 

「まさか、また此処に同じ目的で来る羽目になるなんてな」

 

「ですね。爆撃準備に入ります!」

 

今回の爆撃には超重爆撃機富嶽IIが60機投入されている。何気に、前回の五倍である。さて、これをB52ストラトフォートレスに置き換えますと。何と!600機分の爆弾が降り注ぎます!!

正直言って、何かこう明るく言うべきなレベルではない。B52が600機分とか、この世の終わりでもないと見れない量である。そんな量の爆弾が、降り注ぐというのは想像すらできない。

 

「またあの飛行機械だ!!」

「爆弾の雨が降るぞーー!!!!」

「みんな逃げろ!!!!」

「逃げるって何処に!?」

「知るか!!」

 

逃げ惑う市民の真上から、爆弾の雨が降り注ぐ。無誘導爆弾、つまり普通の重力に沿って落ちていく爆弾な訳で、軍民問わず等しく死をプレゼントしていく。

 

「やっぱ下には居たくねぇ」

 

「同じく」

 

投弾は物の5分で終わったが、富嶽爆撃隊の通った後の東部地区は瓦礫と死体の山だけだったのはいうまでもない。

 

 

 

エストシラント上空 高度1万m 空中空母「白鯨」飛行甲板

「地獄が燃えているな」

 

「えぇ。この作戦もいよいよ、フィナーレ中のフィナーレですね」

 

飛行甲板の上で完全武装の二人の男が並んで立っている。片方は2本の刀を腰に刺し、背中に「皇国剣聖」と書かれた羽織を纏った男。もう片方は、旭日旗の紋様が刻まれたロングコートを纏った男。それぞれ言わずともわかるであろう。大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三と、その秘書にして「鉄砲頭」の二つ名を与えらている男、向上六郎である。

 

「敵は、パラディス城に有り!ってか?」

 

「の割には、部下が足りませんね」

 

「だよなぁ。まあいい。そろそろ奴らに俺達の国民を殺しやがった上に、畏れ多くも天皇陛下すらも馬鹿にしたツケを払って貰わねーと」

 

「予定では、北部地区の門をメタルギア 零がぶち壊す辺りです。あ、ほら」

 

眼下に広がる燃えるエストシラントのうち、北側の所のみ火の手が上がっていない。あそこは血の海に変わる予定の場所で有り、ちょうどメタルギア 零が門を突破している所が見えた。

 

「艦長、世話になった。お互い、また日本で会おう」

 

『御武運を』

 

「さあ、行くぞ!!!!」

 

二人とも同時に駆け出し、白鯨から飛び降りる。目指すはエストシラント北部地区。

二人が降下したのと同時に、神谷戦闘団も空挺降下を開始。最強の軍団がエストシラントの地に足を踏み入れた。

 

 

 

エストシラント北部地区

「皆の者、掛かれえぇぇぇぇ!!!!!」

 

「「「「「「「「おおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」」」」」

 

一足先に地上に展開した村今戦闘団の団長、村今中将の号令に兵士達が大声と敵への突撃で答える。

 

「敵が向かってくるぞ!!!応戦準備!!」

 

パーパルディア側も負けてはいない。西部、南部、中央区、東部と攻撃されたのだ。次は北部と考えて、相当数の人員を配置していたのである。しかも彼方さんとしては、最早後ろにあるのは中枢たるパラディス城で、ここは自分達の祖国の首都。文字通り後のない「背水の陣」である事もあって、今まで一番頑強な抵抗を開始する。

 

「一列目、構えー!火蓋切ってー!狙ってー!放てー!!」

 

パパンパパンパパンパパン

 

そこら辺の家屋から強奪してきた棚やら、箪笥やら、荷車やらを遮蔽物として配置。その後ろから得意の横列射撃を加えていく。

対する大日本皇国側は「装甲歩兵による高火力弾幕射撃」と「通常歩兵による立体機動戦」で対応する。前者に関しては予想つくだろうが、後者はイマイチ想像が付かないであろう。では見て行くとしよう。

 

「ダメだ、銃が効いてない!!」

「何故だ!?」

「装甲が厚すぎるんです!!」

 

「マスケット如きの豆鉄砲が効くかよ。野郎共、構えろ!!!」

 

装甲歩兵の隊長がそう命じると、全員が横一列に並び両腕を前に構える。

 

「撃て!!」

 

キュィィンブォォォォォォォ!!!!!

 

両腕に装備された六銃身7.62mm機関銃で、濃密な弾幕を展開し遮蔽物ごと破壊していく。

 

「うお.......」

「魔導砲か!?クソッ!!!」

「お前達、建物内に避難だ!!上からなら、もしかしたら倒せるやもしれん!続け!!!」

 

隊長格の男が部下達に命令し、建物の中に入っていく。例え上から撃とうが下から撃とうが、何なら魔導砲撃とうがダメージは入らないのだが。

 

「思った通り上がガラ空きどころか、警戒すらしていない様だ。よし、撃ち方よ」

ドカカカカカ

 

「隊長!!一体何処か.......ら」

 

兵士の目の前にはライフルを構えた、空中に浮かぶ兵士がいた。

日本軍が一般歩兵向けに配備している機動甲冑と、それを空挺モデルに改良した空挺甲冑には防弾性能や、ヘルメットに仕込まれたレーダーとFPSのゲーム画面の様に出来る機能の他に、チートとも呼べる機能が付いている。それはジェットパック機能とグラップリングフック機能通常装備というヤバい機能である。しかもジェットパックは腰のベルトについたテニスボール程度の大きさで、映画とかに出てくるような背中にデカデカと背負う様にデカい物ではない為、動きの妨げにならないのである。

しかし余り持続力は無く、連続飛行は6時間が限界であるし、速度もそんなに速くない。そこでグラップリングフック(イメージ的にはジャストコーズのリコ・ロドリゲスが使ってるアレ)の出番である。両腕に装備されたワイヤーで、縦横無尽に戦場を駆け巡る事が出来るのである。

まあ今回の様な奇襲戦で余り戦闘時間の掛からない場合は、ジェットパックオンリーでも良いのだが。

 

「ば、化け物!!」チャキ

 

ドカカカカカ

 

パーパルディア皇国兵が構える前に、日本兵が43式小銃を撃つ。ついでに下部ピカティニー・レールに搭載しているグレネードランチャーでグレネードを発射し、中の兵士を纏めて殺害する。

 

「擲弾用意!撃て!!」

 

ポンポポンポン

 

29式擲弾銃によるグレネード一斉射で、さっきの遮蔽物の奥にいた生き残りも全員吹っ飛ぶ。

 

『全軍へ。正面大通りはクリア』

 

「よし。進撃せよ!!」

 

村今の指示に、全軍がまた動き出す。では今度は、壁上の砲台の方を見てみよう。

 

「ヒャッハーーーーー!!!!」

 

「殴り込みだ!!切り込みだ!!カチコミだ!!とにかく撃ちまくれ!!!!!」

 

何と壁上には、偶然にも2台の44式装甲車ロ型が着地していた。しかも敵が大勢いて、このロ型は歩兵への近接火力支援がコンセプトの装甲車である。つまり「敵歩兵絶対殺すマン」である。あ、因みに乗っているのはアルタラス島奪還作戦時に、アルタラス統治機構庁舎の2階と3階にジャンプして突っ込んだ上に、中の敵をボッコボコにしてたドライバー二人である。

 

「何だあの地竜は!?」

「砲旋回、急げ!!」

「撃てぇ!!!!」

 

壁上に搭載された魔導砲が旋回し、一斉に砲弾を発射する。

 

ゴンッ!!ガンッ!!

 

「その程度じゃ効かないぜ!!」

 

「今度はこっちのターンだ!!俺のターン、ドロー!!50mm擲弾の雨!!!!」

 

なーんか何処ぞのカードゲームで言ってそうなセリフを言って、砲台を兵士ごと吹き飛ばす。

 

「ギャーーーー!?!?」

「おい装薬に引火するぞ!!」

「伏せろォォォォ!!!!!」

 

ドカーーーン!!!!

 

「まだまだ行くぜぇ!ヒャッハーーーーー!!!!!!」

 

装薬に引火して爆発した煙の中から、また44式が飛び出す。そのままパーパルディア皇国兵を轢き殺しつつ、砲台を踏み潰しながら、横についてる20mmと12.7mmの機銃で射殺していく。

 

「のガァァ!!!」

「ゴフッ.......」

「ゲボッ!」

 

「見えたぜ!!!!勝ち筋!!」

 

「ヒャッハー」ばっか言ってる方の44式が加速し、目の前の如何にも偉そうな勲章をぶら下げたおっさんにロックオンする。

 

「く、来るな化け物!!!!」

 

「ここだ!!!!!」

 

ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ

 

何と目の前でドリフトしつつ急減速を掛けて、偉そうなおっさんに車体をぶつけて吹っ飛ばす

 

カキーーーーン!!!!

 

野球であれば、文句無しのホームランであろう。まあすっ飛んで行ったのはボールではなく、偉そうなおっさんという人間だが。

 

「アレーーーーーー!?!?!?!?」

 

「ホームランだぜ!!ヒャッハー!!!!!」

 

「あらら、綺麗に飛んでったな。取り敢えず人間野球でホームランも出したし、このまま壁上の砲台をぶち壊して行くとしようか!!!!」

 

「ヒャッハーーーーー!!!!まだまだ暴れるぜ!!!!!!」

 

2台の44式装甲車は壁上の砲台を壊すべく、次なる目標へと走り去っていた。さてさて今度はお待ちかね、我らが神谷浩三の方を見てみよう。

 

「急げ!!第一防衛ラインが突破された!!!!なんとしても、第二第三防衛ラインで止めるんだ!!!!」

 

「「「「「「ハッ!!!!」」」」」」

 

パーパルディア兵が大慌てでマスケットと魔導砲を準備していると、目の前に何かが降ってくる。土煙が晴れるとそこには、二人の人間が立っていた。

 

「何者だ!!!!」

 

「大日本皇国統合軍総司令長官にして、偉大なる世界唯一の皇帝(エンペラー)、天皇陛下より「皇国剣聖」の役を拝命せし者。神谷浩三、此処に見参!!!!!」

 

「同じく天皇陛下より「鉄砲頭」の役を賜りし者。向上六郎、見参!!!!」

 

「「推して参る!!!!!」」

 

いきなり目の前に現れた上に、どう見ても強者にしか出せないオーラを纏った二人組に後ずさる。

 

「狼狽えるな!!!!たかが二人だぞ!?!?我らは何人いると思っている!?!?!?パーパルディア皇国、皇都防衛隊の力を見せつけてやれ!!!!!」

 

指揮官の言葉に鼓舞され、武器を構える。だが引き金を引こうとするより前に、二人の動きの方が早かった。

 

「参る!!!!」

 

「行きます!!!!」

 

神谷は腰に差した太刀を抜き、向上は脇のホルスターに入れていた二つの26式拳銃を抜く。右手の方にはグリップに「鎧袖一触」の文字が、左手の方にはグリップに「天下無双」の文字がそれぞれ二文字ずつ刻まれていた。

 

「撃てぇ!!!」

 

パンパパンパン

 

「見切っとるわ!!!!」

 

放たれた弾丸の内、自分に当たる物だけを見極めて、それを刀で切り刻んで回避する。そして遮蔽物を飛び越えて懐に飛び込み、周りの兵士を切り刻む。

 

「ぎゃっ!?」

「ノア.......」

「ゴヘッ!」

 

瞬く間に8人を斬り捨て、返り血に塗れたまま残りの兵士の方を向く。

 

「ば、ばっ、化け物め!!!!オラァ!!!!!」

 

一人の敵兵がマスケットで殴りつけてくるが、それを逆に掴んで引っ張り手を外させて、それで逆にタコ殴りにする。そして銃口を口の中に突っ込む。

 

「ふが!!ふがふごふがふが!!!!!」

 

「悪いな、猿語はさっぱりなんだわ!!!!!」

 

そのまま渾身の力でつき、喉を突き破る。

 

さあ、次は誰だ?

 

一方向上の場合は

 

ズドォンズドォン

 

「なんて威力のピストルだ!」

 

遮蔽物に隠れてようが、死んだ仲間を盾に隠れようが、それごと12.7mm弾で貫通させて的確に葬っていく。

 

「ハァ!!!!」

 

上にジャンプして、そのまま空中で回し蹴りを加えていきながら撃ちまくる。

 

「コイツ素早い!!」

 

「そういう事なら、コイツの出番だ!!」

 

そう言うと恰幅のいい兵士が、後ろの木箱から小さめの銃口が広がっているマスケットを取り出す。この銃はブランダーバスという物で、日本語ではラッパ銃と言われる銃である。要はショットガンのご先祖さまである。

 

「発射ァ!!」

 

バギュン!!

 

「!?」

 

向上は蹴飛ばそうとしていた兵の頭を掴んで、自分の前に固定する。勿論ブランターバスの散弾は向上を狙ってた訳で、その目の前に兵士の身体があっては、その兵士の身体に命中する。

 

「ゴバッ!!!!」

 

ズドォン

 

そのまま空いてる手で恰幅のいい兵士を撃ち抜き、また次の敵に照準を合わせて弾丸を撃つ。

 

「魔導砲、撃てぇ!!!」

 

ドオォン!!ドオォン!!

 

「チッ」

 

「危ないですね!」

 

二人の元に、後方の砲撃陣地から二門の魔導砲が発射される。発砲の瞬間に反応できたので、そのまま横にずれて避ける事に成功する。

 

「おいおい、人間相手に大砲撃つかよ普通!!」

 

「幾らなんでもオーバーキルでしょうに。まあ私達は普通じゃありませんから、その程度じゃ止められませんけど。長官!」

 

「おう!!アレやるぞ!!!!」

 

次の瞬間、隠れていた遮蔽物から飛び出し、神谷が前に。向上はその後ろに陣取り構える。

 

「おーい、家畜のクソよりも劣るパーパルディア皇国兵ども!!!!!この俺を撃ってみろよ!!!!あ、もしかして砲を撃つことも出来ないほどバカなんでちゅかあぁwww!?!?」

 

流石にこんな安い挑発に乗る訳な

 

「野郎ぶっ殺してやるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

 

乗っちゃったよ。まあ何はともあれ一応挑発は成功し、魔導砲を撃ち込んでくる。

 

「掛かったな?」

 

そうニヤリと笑うと、刀を砲弾の方に投げる。刀はグルグル回転しながら、砲弾を切り裂く。次の瞬間、向上が神谷の方に向かって走ってくる。神谷はぐるっと180度回って後ろを向き、腰を落として手を前に出す。俗に言う「三人人馬の術」の一段目の人間の構えをやったのである。

 

「よっしゃ来い!!」

 

「行きますよ!!」

 

「そいやっ、さあ!!!!」

 

そのまま向上が手の平に足を乗せて、乗せた瞬間に真上にぶん投げる。

 

(狙うは、装填中の装薬。ただ一点!!)

「吹き飛びなさい!!!!」

 

ズドォンズドォン

 

向上の放った弾丸は正確に装薬を撃ち抜き、無事誘爆させて砲ごと吹き飛ばす。

 

「決まりました。ああ、何故ここに推しが居ないんだ。絶対に惚れるのに」

 

「いや、こんな戦場のど真ん中にいたら推しの娘、今頃血だらけの死体になるか、パ皇兵の慰み者になってるかもよ?」

 

パーパルディア皇国の豚畜生共め!許さん!!!!!

 

「ちょちょちょ!!ちょ待てい!!!アンタの推しは世界一安全な日本にいるから!!!!ここには来た事すらないから!!!!」

 

向上が一人暴走して敵味方の区別なくぶっ殺しそうな勢いだった為、神谷が慌てて止めに入る。推しの力って凄いね。

 

「団長、ご無事で!!」

 

そうこうしている間に、白亜衆の兵士達が次々に追い付き始める。いつの間にか周りの建物をA10彗星が爆撃してたり、ADF1妖精、ADF2大鷹、ADF3渡鴉、空中母機「白鳳」のTLSが地表を焼いてたり、46式戦車が地竜を吹っ飛ばしてたりしていた。

 

「まもなくメタルギアが門を破ります。退避を」

 

「了解了解」

 

そんな訳で一度建物の上に退避し、メタルギア零が突っ込む様を見る。壁に大穴が空き、いよいよ敵の本丸のある中央区に乗り込む。

 

 

「下民共!!しっかり我らを守れ!!!!」

 

中央区の貴族や政府要人の邸宅が並ぶ通りに、貴族達が自らの愛馬に跨り逃げ延びてきた市民達に武器を持たせて自分達を守る為に並べていた。武器と言っても、そこら辺の残骸から拾ってきた鉄パイプや角材、それから邸宅にあった包丁やナイフといった武器とは到底言えない代物である。

しかも市民達の後ろには、軍の督戦隊と徴兵された犯罪者が控えている。これの意味するところはつまり「逃げよう物なら、ぶっ殺す。前に進め。後ろには下がるな」という事である。

 

「クソッ、何で俺たちが」

「おいやめろ!!後ろの連中に聞かれたら、どうなるか」

「構うかよ。それに、どうせ俺達は死ぬんだ。最後に言いたい事を言って死んだ方がマシさ」

 

次の瞬間、太ったスキンヘッドの男が、色々言ってた市民の背後に立つ。

 

「おばえ、気に入らないから剥がす」

 

「え?剥がすって何を、ギャァァァァァァァァァ!!!!」

 

なんと手に持っていたナタで、市民の皮を剥ぎ始めたのである。勿論、生きたまま。

 

「おい嘘だろ!!」

 

「おばえも剥がしてやろうか?」

 

「勘弁してください!!」

 

「おい、462番。そこまでにしておけ」

 

看守役の兵士が止めた事で事なきを得たが、止められなければ危うく自分も剥がされるとこだったと思うと震えが止まらなかった。

 

(こりゃ不味いな)

 

幸か不幸か、その様子は進路偵察に出ていた日本兵が確認していたのである。この事は本隊、正確には神谷の知る所となる。

 

「何?流石に市民を蹂躙したくはないよな。今更だけど」

 

「えぇ。今更ですが」

 

神谷の脳裏に名案とまでは行かないが、一応作戦が浮かぶ。

 

「よし。部隊を一度ここで止め、このまま市民以外の全員を殺す。白亜衆はステルス迷彩を使い、敵の左右と後方に展開。その間に念の為、戦車で敵の視線を釘付けにする。行動開始!!!」

 

という訳で日本軍の中でも、いや世界中の軍隊の中でも最高レベルの練度を誇る特殊部隊、白亜衆が動き始める。勿論パーパルディア側にステルス迷彩を見破れる力などないので、何にも阻まれる事なく部隊を展開する。

 

『各員、配置完了』

 

「了解。合図を待て」

 

丁度いいタイミングで51式が姿を見せてくれたので、こっちにはますます目も暮れず全員の視線が51式に集まる。

 

「バカめ!!!そこには地雷があるのだよ!!!!起爆だ、ポチッとな!!!!」

 

そうデブで禿げらかした男が言いながらボタンを押す。次の瞬間、51式は下方からの爆炎に包まれる。

 

(嘘だろ!?)

「こちら神谷。51式、無事か!?」

 

『こ、こちら51式。どうやら爆炎はただの火炎魔法だったみたいで、エンジンがオーバーヒートしちまった事以外は問題ありません。移動は修理しない事には無理ですが、固定砲台として戦闘行動は継続します』

 

「大丈夫だ。そのままそこにいろ。お前達はあくまでも囮、ただの案山子で良いんだ」

 

『了解』

 

パーパルディアとの戦争が始まって、初めて受けた損害らしい損害であった。と言ってもオーバーヒートなので、すぐに直るが。

 

「行くぞ。3カウントだ。3、2、1。GO GO GO!!!!」

 

神谷の号令に、白亜衆が一斉に動き出す。

 

「うお!?な、何者だ!!!!」

 

「撃て撃て!!」

 

ダンダンダンダンダン

ドカカカカカドカカカカカ

 

弾幕を展開し、まずは督戦隊を片付ける。次いでWA1極光とWA2月光イ型が貴族の私兵と、取り巻きを片付ける。

 

「父上、ここは逃げるぇ!!!!」

 

そう言ってパラディス城(半壊)の方に逃げていくが、そっちには神谷と向上が控えていた。

 

「お前らの逃げる先は地獄だけだ!!!!」

 

「それか黄泉平坂です!!!!」

 

私服を肥やして丸々太ったクズ共十数人に、顔もイケメンで現職のエリート軍人が負けるわけも無く、即ぶっ殺していく。

市民達は「今度は自分達の番だ」と思い、ある者は涙を流し、ある者は武器を構える。

 

「武器を収めていただきたい。我々は別に君達を殺すつもりはない。まあこれまでの惨状の犯人が言うのもアレだがな。だがしかしお前達ごと殺すつもりなら、こんな回りくどい方法なんて取らずに、あそこの鋼鉄の地竜を使ってお前達ごと吹っ飛ばしてる。もうこれ以上、無駄な血を流すのは止めにしないか?」

 

市民達に神谷の声が届いたのだろう。次々に武器を捨て、日本軍の指示に従うようになった。取り敢えず部隊は一帯の建物を全て占領し、神谷と向上は白亜衆をつれてパラディス城内部に突入した。

中にいるのはメイドや執事などで、余り護衛の兵はいなかった。そんな訳ですんなりルディアスの自室の前までやってこれだ。

 

「行くぞ。ショットガンナー、蝶番をぶっ壊せ」

 

「ハッ!」

 

ダン!ダン!

 

36式散弾銃を持っていた兵士がドアを破壊し、道を作る。全員が映画の特殊部隊員の様に、室内へ転がり込む。

 

「誰もいないし、死体もないな」

 

中は蛻の殻であり、本と服が散乱しているだけであった。

 

『こちら村今。神谷閣下、聞こえますか?』

 

「村今のおっちゃん。そっちはどうだった?」

 

『皇女レミールの邸宅を占領したのですが、何処にも居ませんでした。執事や召使いの話じゃ皇帝ルディアスと婚姻関係に発展していたそうで、今夜はパラディス城で一緒に過ごしていたそうです』

 

「こっちはルディアスどころか、レミールも見つかってねーぞ。一応そっちも引き続き探ってくれ」

 

『了解しました』

 

一応村今に捜索を頼んだ。だがこっちにいる可能性が高い事は判ったので、展開している全員に探す様に再度命令を出す。

 

「ん?長官!!これを!!!!」

 

一人の兵士が本を押したらしく、本が動いて階段が出てきたのである。

 

「よし、何人かは俺についてこい。中に突入する」

 

「「「「ハッ!」」」」

 

四人の兵士が神谷の後ろにつき、薄暗い階段を降っていく。所が下に降っていくにつれて、ある臭いがしてくるのである。

 

「なぁ、なーんか嫌な予感するんだけど」

 

「えぇ。これ、前にも嗅ぎましたよ」

 

ヒントはアルタラス島である。最深部のドアを開けると、中は一面ピンク色の壁とモフモフのカーペットの上に巨大なベットという、ラブホ顔負けの空間が広がっていたのである。

 

「またこれかい!!!!何?パーパルディアの支配者層は、地下室にヤリ部屋を作る決まりでもあるのか!?!?」

 

「メイド服あるぜ」

「何だこれ?紐?」

「水着じゃね?」

「おいこっちは、何かエロ漫画の踊り子が着てそうなシャランシャランな飾り付きマイクロビキニが出てきたぞ」

「うお、風呂まである。しかもデカ鏡まで。完全にラブホだな」

 

まさか秘密の地下室がヤリ部屋とは思わず、神谷は頭を抱えていた。

 

『長官、向上です。聞こえてますか?』

 

「どしたー」

 

『今、先代皇帝の自室の調査をしていたのですが、ヤバい物を見つけました』

 

「ヤバい物?」

 

『弾道ミサイルの発射サイロと、その管制室です。詳しい事はまだ判りませんが、十中八九、この間我が国に撃ち込んできたミサイルはここから発射された物でしょう』

 

「わかった。お前は俺と一度合流し、そこは部下達に任せろ。その部屋は何が何でも守る様に伝えろ」

 

『ハッ!』

 

皇帝達の代わりに、トンデモない物を見つけて正直喜んで良いのか悪いのか分からなかった。神谷達がパラディス城を探し回ってる間、エストシラントの正面海域でも動きがあった。

 

 

「ん?レーダーに感!!敵艦3隻、来ます!!」

 

「一体何処から!?」

 

「水道です。水道から現れました!!!!」

 

何と大和の目の前にあった水道から、大型の戦列艦が出てきたのである。しかもそれは、皇国海軍の最新鋭戦艦であるパーパルディア級の3隻である。

 

「例の新鋭艦か。戦艦の王様の力、とくと見せつけてやれ!!!!全主砲、薙ぎ払、え?」

 

何処かの大和さんのセリフを艦長が言おうとした瞬間、何と真下からあの兵器が出てきたのである。その兵器とは、メタルギア水虎である。戦列艦がいて、海中からメタルギア水虎が出てきたのだから今からの展開は予想がつくであろう。

 

ズボッ!!!

 

腕を戦列艦(レミラーズ)に突き刺しまして、上に飛ぶ。そしてぶん投げて、別の戦列艦(パーパルディア)にぶつける。勿論戦列艦は、イーターIが刺さった地球防衛艦隊の様になる。残ったルディグートはというと、南部地区の方向にぶん投げられ、そのまま市街地の地面に激突&爆発しました。

 

「アレが報告書にあった、水虎の大暴れか」

「船乗りとしては、一番迎えたくない死に方ですよアレ」

「戦列艦に合掌」チーン

 

メタルギア水虎達が暴れている間、神谷達は別の隠し通路を見つけ、その中に地下道を見つけた。これにより逃亡先が分かった為、神谷と向上は二人を追いかけていた。

 

「見つけたぞ。向上、馬車を止めろ!!」

 

「了解!!」

 

向上が馬とそれを操っていた近衛兵を撃ち殺す。勿論馬車は止まり、止まった瞬間にスモークグレネードを放つ。そして向上がルディアスを、神谷がレミールを引っ張りだす。それぞれが別々の森に連れ込んでいく。

 

「よお、レミールさん」

 

「貴様、日本軍の総大将!!」

 

「おっと、何も殺しはしねーよ」

 

「何?」

 

レミールはいきなり「殺さない」と言われ、戸惑う。神谷はそんなの構わず続ける。

 

「いきなりで悪いんだが、レミールさん。俺はアンタに惚れてたんだ。あの日、あの外交の場で会った時から」

 

「はい!?」

 

「驚くだろうな。まあでも、これはチャンスだ。俺も日本の中じゃある程度の地位に付いている以上、大手を振ってお前達を助けてやれない。だが、今ここに居るのは部下一人だけだ。お前だけなら、逃がしてやれる。それにお前、皇帝ルディアスと結婚したんだろ?寝取るつもりもないし、ここで襲うつもりもない。だから、逃げろ!」

 

「本当に良いのか?」

 

半信半疑のレミール。そりゃあ外交の場であんなにボロクソに言われた奴から告白され、おまけに「逃がしてやる」と言われたのだから当然である。

 

「わかった。なら」

 

神谷はレミールの唇を奪う。しかも舌まで入れて、完全に奪いに掛かる。

 

「プハッ。これで信じてくれるか?」

 

「は、はい♡」

 

「このままこの森を真っ直ぐ進んで突っ切るんだ。この方向は適当な理由つけて、軍の包囲網を解いてある。行け!」

 

そう言ってレミールを逃す。レミールが視界から消えた瞬間、神谷は吐く。

 

「オロロロロロロロロロロロロロロ‼︎」

 

「長官、吐くならキスなんてしなけりゃ良かったものを」

 

「しゃーねーだろ。あーでもしないと、信じて貰えオロロロロロロロロロ‼︎」

 

「あーあー、もー」

 

一連のヤツは、勿論全て演技である。レミールを逃すわけもなく、レミールの逃げている方向にはトラップが仕掛けてあるのだ。因みに神谷は言うまでもないが、Dキスした事を心底後悔しており、現在ゲロゲロタイム中である。向上からも突っ込まれてる。取り敢えず、レミールのは後から見るとして、まず先にルディアスの方から見てみよう。

 

「うっ.......。ここは?」

 

「お目覚めかな?皇帝ルディアス?」

 

「貴様、何者だ?」

 

「俺が誰だろうと関係ない。質問に答えろ、ルディアス皇帝だな?」

 

逆らってはいけないと判断したのか「いかにも」と答える。男は「そうか」と返すと、裸に剥いてルディアスを後ろにあるデッカい壺の中にぶち込む。

 

「ヘビ!?余は蛇がダメなんじゃ!!!!ここから出せ!!!!!」

 

壺の中には無数の大小様々な蛇が入っていた。そして男はルディアスが入ったことを確認すると、下で壺を焼く様にして火を焚き、壺をガンガン叩きまくって蛇を驚かせる。

 

「いだぁ!!!!」

 

驚いた蛇はルディアスに噛みつき始める。壺が更に熱せられていくと、今度は口、耳、鼻、肛門といった体の穴という穴に入り込んでいく。

 

「いだぁい!!!いだぁい!!!助けて!!!!お願いします助けて!!!!!」

 

「おやおや、猿が何か喋ってやがる。嬉しいのかな?」

 

「助け、がばあぁ!?!?」

 

「あ、内蔵を食い破られたな」

 

鈍い声が上がると同時に、ルディアスの腹がボコッと膨れ上がる。内蔵を食い破られた証拠で、こうなってはもう助からない。この後、3時間程苦しんで絶命した。因みに遺体は肉食獣に食べてもらった。

ではお待ちかね、レミールの最期をご覧いただきましょう。

 

 

(これで逃げ切れる!逃げ切って見せる!!)

 

レミールはそう心に誓ったが、次の瞬間足に激痛が走った。

 

「いぎっ!?!?!?!?」

 

足元を恐る恐る見ると、トラバサミがレミールの足をガッチリ捉えていたのである。これに驚いて、バランスを崩してこけてしまう。すると余計に食い込み、より強い激痛が全身を貫く。

 

「いだぁーー!!!!!」

 

痛みに悶え苦しんでいると、森の奥から誰かの足音が聞こえてくる。その誰かというのは、さっき会ったばかりの神谷であった。

 

「あぁ、良かった。お願い、助けて?妾の足が、トラバサミに挟まってしまったのじゃ。だから」

 

レミールはさっき熱いキスを交わした男、神谷に縋り付く。神谷は無言でレミールの元に近づき、トラバサミに挟まって骨すらも見えてる足を力一杯踏んづける。

 

「いぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

「すまねぇな、レミール。俺とした事が、プレゼントを忘れていた。ほれ、ネックレスのプレゼントだ」

 

そう言うと神谷は、何の変哲もないタイヤをレミールのクビに被せた。そしてその上から大量のガソリンをぶっかける。

 

「さあ、派手に逝ってくれよ?」

 

そう言いながらマッチを一本擦って、タイヤに投げ捨てる。その瞬間、ガソリンが一気に燃え上がる。

 

「あづい!!!あづい!!!!!」

 

「おいおい、これまだ序の口だぞ?キツいのはここからだ」

 

ゴムタイヤも一緒に燃え始め、クビにまとわりつく。顔も焼け爛れ、美しかった顔は見るも無惨な物になる。しかも溶けたゴムが声帯に絡みつき、声を失う。

 

「おお、おお。首が消えて、随分と美人になったじゃないか。なあ家畜のクソよりも、遥かに格下のレミールさん?助けて欲しいか?」

 

「アギッ.......ガッ.......」

 

「テメェ、言葉喋れよ。質問にも答えられない奴には、タイヤネックレスのお代わりだ」

 

「ガッ.......」

 

この拷問、実はたまーに生き残る事がある。念には念を入れて、もう一度タイヤを首に掛けて、ガソリンぶっかけて燃やす。二回目で窒息し、完全に絶命した。死体は流石に肉食獣には食わせられないので、そのまま山に埋めた。

 

「終わりましたね、長官」

 

「あぁ。これであの世に逝った奴らも、少しは浮かばれたか?」

 

死体処理まで終えた二人に、まるで天からの祝福の様に朝日が降り注いだ。

 

「さあ、帰ろう!!俺達の祖国に!!!!」

 

こうして約1年を掛けて行われた、パーパルディア皇国との戦乱は大日本皇国の圧勝という形で幕を下ろした。日本側の被害は(最初の処刑を除くとして)死傷者、重傷者は軍民共にゼロ。一方のパーパルディア皇国は主要な都市、施設が再起不能なレベルにまで破壊し尽くされ、列強国どころか、国として存在が出来ないほどにコテンパンにやられたのであった。

 

 

 

 

*1
原理自体は戦艦に搭載されている月華弾と同じ燃料気化弾である。しかし、この極月華弾頭は弾頭部に2030年代に、日本で新たに発見された特殊ガス「デモリッシャーガス」と呼ばれる物を充填している。このデモリッシャーガスは通常の燃料と比べて遥かに気化しやすく、遥かに燃えやすく、遥かに高い温度で燃焼するという特性を持っており、その威力から「ECO Nuke」の異名を持ち合わせている。弾頭自体にも特殊な機構が付いているが、それについては後述する。




あ、そうそう。なんと私の作品が、まさかの「日本国召喚@wiki」というサイトの二次創作欄に、説明付きで載ってました!!!!これも読者の皆様がいつも読んでくださってるお陰です。これからも拙い文章ではありますが、様々な作品を書いていくので今後とも宜しくお願いします。




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第二十三話超絶大波乱な講和会議

地獄作戦終了より二日後、首相官邸の執務室では安定の三人が集まり、今後の計画について話し始めていた。

 

「さてさて、じゃあこれからの事について話し合うとするか。取り敢えず浩三、お疲れさん」

 

「おお、ありがとよ。つっても、健太郎の場合は今から忙しいだろ?いや慎太郎のが、遥かに大変か」

 

「浩三、言うな」

「あんな頭硬いだけの老害ジジイ共の相手とか考えたくない」

 

神谷の言葉に一色と川山が、今にも死にそうな顔をしながら答えた。確かにこれで戦争は一応終わったし、現在の日本軍の軍事行動はゲリラ化した一部のパーパルディア皇国兵の掃討と、支配地域での保安警務活動、そして各地の最低限のインフラ復旧作業のみであり、軍の大半も引き揚げを始めてる。

だが知っての通り、戦争はまだ終わってない。確かに兵器を使っての戦争は終わったが、ここからの戦場は「会議室」と「国会」という、これまでの普通の戦争よりも面倒なフィールドでの戦争が始まる。そんな面倒な場所に赴くのは、他でもない一色と川山なのである。

 

「そういや、あのレミールとルディアスはどうなったんだ?個人的にはメチャクチャ気になるんだが」

 

川山がそう質問し、その隣で一色も頷く。神谷は悪魔みたいな笑顔をすると「聞きたい?」と聞き返し、この瞬間に二人とも嫌な予感はしたが「聞きたい」と答えた。この判断がどんな結末かは、今からのお楽しみ。

 

「皇帝ルディアス、皇女レミールは共に地獄作戦の第二段階での戦艦群、51式自走砲群による砲撃に巻き込まれ死亡。死体は欠損が激しいもののルディアスは下半身、レミールは胴体の一部をそれぞれ発見した為、死亡したものと判断した。と発表する予定だ」

 

「なんか含みのある言い方だな」

 

一色がそう言うと神谷は懐からエチケット袋を取り出し、横にある鞄からペットボトルの水を取り出して机に置いた。

 

「いや浩三さん?これ何」

 

川山の質問に安定の悪魔の笑顔を浮かべ、言葉を続ける。

 

「今から言うのは歴史には記録されない、本当の最後だ。実を言うとだな、ルディアスとレミールは逃亡したんだ。俺が突入する前にな。勿論すぐに捕捉してとっ捕まえた。そしてな、アイツらにはちょっとした余興に参加して貰ったんだよ。これがそん時の映像なんだが、見るのは覚悟がいるぞ」

 

もうなんか察したが、一応見る事にしたらしい。意を決して差し出されたタブレットの電源を入れると、予想通りヤベェ拷問シーンが流れ始めた。

 

「うわぁ.......」

 

「これはヒドイ.......」

 

「俺がゲロ袋やら水やらを用意した理由がわかったろ?」

 

二人とも余りのショックに言葉を失い、ただ無言で頷いてた。長い付き合いな訳で神谷の恐ろしさ、取り分け本気でキレさせたらどうなるかは一番知っているが、今回の事は過去一番にヒドイ物であった。

因みに神谷は高校時代に、不良のアジトに一人で攻め込んで100人近い不良をボコボコにした事があったりする。お陰で高校時代のあだ名に「喧嘩漫画の主人公」と言うのがあったりする。

 

「慎太郎、先方からの講和会議への打診は来たか?」

 

「あ、あぁ。三週間後、パールネウスにて講和会議を開きたいとの連絡が来てる。で、相手は皇帝ルディアスの弟のマルビスクという男らしい。どうやら皇族の中では穏健派らしく、他国との融和や平和を主軸とした思想を持っているらしい」

 

場の空気を正常に戻す為、一色が川山に質問する。その意図を汲み取ったのか、少しもたついたが質問に答えて場の空気を変える事に成功した。

 

「なら俺達の今からする話し合いは、講和の条件出しだな」

 

その後会議は白熱し、中々にエグい内容の講和内容の案が纏まった。安定の左翼からの横槍が入りつつも無事国会も通過して、三週間後にはパーパルディア皇国の暫定首都であるパールネウスへ講和会議へ赴いた。

 

 

 

三週間後 パーパルディア皇国 クラールブルク航空基地

『まもなく当機は、クラールブルク航空基地に着陸いたします。シートベルトをご着用ください』

 

「ほお。マジでイタリアみたいな街並みだな」

 

一色は眼下に広がる街並みを見てそう漏らした。今回の講和会議には、三英傑が揃って出席する。考えてみるとこれまで、一応の国家元首が世界の表舞台に立ってなかったので、川山の「この際だから、どういう人間が元首か宣伝しておけ」という一声で、参加が決まったのである。

 

「着陸したら、今度は輸送機で行くからな」

 

「あー、何だっけ?確か、えーと。あ!!スーパーオスプレイに乗るんだろ?」

 

神谷、機内で盛大にずっこける。

 

「お前、マジで自国兵器の名前くらい覚えろよ!!それにスーパーオスプレイとか、マイナーすぎて読者の皆さん着いてこれんぞ!!!!確かに「ダークサイドムーン」とかさ「最後の騎士王」に出てはいたけど、どっちもすぐに落ちてんだわ。しかも前者に至ってはスタースクリームに「イナゴ共」とか言われながら、丸鋸でローターぶった斬られながら墜落するという、航空機らしからぬ攻撃で落ちたな」

 

このスーパーオスプレイというのは、ベル社とボーイング社が計画していた機体で制作はされてない機体である。見た目的にはオスプレイの胴体長くして、翼とローターが1セット増えてると考えて欲しい。多分ネットで「QTR 輸送機」とか入れたら出てくると思うので、気になる方は各自で調べて見てほしい。

因みにクソどうでもいいが、主が好きなトランスフォーマーの映画はダークサイドムーンと最後の騎士王である。(一応、バンブルビーを除いて全作5回ずつは見てます)

 

「浩三、お前メタ発言多すぎ。やめなさい」

 

「へーい」

 

取り敢えず川山が突っ込んで、これ以上のメタ発言は無くなった。あー、トランスフォーマーもそうだけど、俺はヤマト見たいよ。2202という時代と、2205どっちも。

 

「お前もやめんかい主!!!!」

 

ごめんちゃい。それじゃ話戻して、コホン。

クラールブルクに到着した3人は、待機していた大型輸送機のVC5白鳥に乗って講和会議の開催地であるパールネウスへ飛んだ。因みに乗っている白鳥は通常の制空迷彩や灰色の塗装から、紅白の政府専用機と同じ塗装に変わっている。

 

 

 

パールネウス陸軍駐屯地 ヘリポート

「一色総理大臣、神谷大将、川山特別外交官に対し、敬礼!!!!」

 

ザッ!!

 

ヘリポートに降り立ちカーゴ扉を開けると、駐屯している軍人達が揃って敬礼で道を作っていた。一色と神谷は式典やら何やらで慣れてはいるが、川山は余り機会が無いので最初、一斉に敬礼された時は「ビクッ!」ってなっていた。

 

(栄誉礼受ける時の要人達の心情って、こんな感じなんだろうか)

 

歩いてる最中もこんな事を考えながら、外の車に向かって歩いていた。流石に講和会議の会場に白鳥でダイナミックに乗り付ける訳にも行かないので、今回は事前に車を入れて置いたのである。車列の陣容はこんな感じ。

 

先導

・白バイ 6台

・警ら用パトカー 1台

 

本隊

・36式機動戦車 2台

・47式指揮装甲車 1台

・44式装甲車(イ型4、ロ型2、ホ型2、ト型1) 9台

・装甲リムジン 2台

・警護車(ランクル) 5台

 

後続

・40式小型戦闘車 8台

・36式機動戦車 4台

・白バイ 2台

 

見て分かる通り、アメリカ大統領バリのガチ警護である。しかも護衛する兵士達は全員、世界最強の精鋭部隊である白亜衆である。これに加えてバックアップ部隊が随所にいる。沿道には完全武装の兵士は立ってるし、建物内や屋上にはスナイパー。

さらに今いる基地にはAH32薩摩を保有する第4対戦車ヘリコプター隊がいる上、白亜衆の装甲歩兵部隊が常時空中待機。おまけにクラールブルク航空基地にはA10彗星を保有している第501航空隊、F9心神を保有している第203航空隊がいる。もし何かあれば、これらの部隊が即駆け付ける事になっている。

 

「指揮官車より各車。指揮官車より各車。三英傑搭乗確認。これよりパールネウス中心部の、パラネス城に向かう」

 

『先導、準備良し』

『後続よし』

 

『こちらパラネス城本部。受け入れ体制、並びに警備体制用意良し。いつでもお迎え可能』

 

「了解。これより出発する。全車、前へ」

 

車列はパラネス城目指して出発する。道中何の問題もなくパラネス城へ。と言いたかったのだが、途中で少しアクシデントが発生した。それは丁度、後半分でパラネス城に到着するという辺り。

 

「あの.......」

 

監視の為に沿道に立っていた兵士の一人が、市民の男に声を掛けられた。みると、その後ろには荷車があり兵士は「あぁ、大方ここを通りたいんだろうな」と察して、例文通りの答えを言った。

 

「申し訳ない。現在この道は通行不可能となっている。迂回路を指示するから、そっちの方から」

 

「お願いします!ここを通してください!!」

 

「いや、だからだな」

 

「家内が、材木の下敷きになって大怪我を負っているんです!!早くしないと死んでしまいます!!!どうかお助けください.......」

 

そう言って男はその場に崩れ落ちて、泣き出してしまう。すぐに同じ分隊に所属している衛生兵を呼んで、容体を見てもらう。

 

「これは不味いね。ってかこれ、多分この時代の医療じゃ治せない気がするよ」

 

「マジか!?って、おい嘘だろ」

 

間の悪い事に、丁度車列が目の前に来ていたのである。すぐに兵士は無線で、指揮官車に連絡を取る。

 

『こちらHotelポイント。傷病者を搬送中の荷車が、進行中の道を突っ切って通りたいと申し出あり』

 

「了解。車列進行を一時停止し、傷病者の搬送を優先させよ。各車、停車中は周囲を警戒し、襲撃時は適宜撃退せよ」

 

無線で指示を出して、車列が止まる。そのままでは格好の餌食なので、左右に44式が展開して武装のロックを解除し、いつでも発砲できるようにしておく。その間、荷車を動かそうとするが

 

「ゲボッ!!」

 

荷車に寝かされている女性が吐血し、いよいよ不味い事が分かる。

 

「あなた.......」

 

「ここにいるよ。大丈夫、僕がついてる。だから、死ぬな.......」

 

兵士達は助からないのを知っている以上、最後の別れかもと思うと動かしづらい。そんな中、コイツらが動き出す。

 

「止まったな」

 

「何だあの人だかり」

 

一色の言葉と同時に、川山も前の状況に気づく。

 

「よし。見にいくか」

 

「だな」

「気になるし」

 

神谷の一声に、即了承する二人。え?普通ならあり得ないって?そんな常識、コイツらに通じない。まあ警護側は溜まったもんじゃなく、大慌てで白亜衆の人間が三人の周りを固める。

 

「あなた.......。あの子に、よろしく、ね.......」

 

「そんな.......」

 

旦那が妻の体に抱き付きながら泣き叫ぶのを見て、兵士達も何とも言えない悲しい気持ちになる。この数分間に何度「救急車があれば」と思った事だろうか。

 

「おーい、お前達何やってんだ」

 

「この人の最後に立ちあっ、って?えぇぇ!?!?」

 

「神谷閣下!?それに一色総理に、川山外交官も!?!?」

「嘘だろ!?何でここに居るんだ!?!?」

「三英傑は車にいるはずだろ!?!?!?!?」

 

まさかの人物の登場に、兵士達はメチャクチャ驚いている。そりゃいきなり真後ろから、雲の上の人間に普通の友達みたいに声をかけられたら当然である。

 

「おい二人共。これヤバイ状態じゃないか?」

 

兵士達が驚いてる間に川山が荷車に寝ている血だらけの女性に気付き、二人の肩を叩いて教える。

 

「この出血量は確かに.......」

 

一色もそれをみて、直ぐにヤバイと気付く。そこからの三人の速さは凄かった。

 

「もしもし私だ。救急車の一台をこっちに回して欲しい。それから白バイ2台と、護衛の小さい装甲車も1台」

 

「白亜衆!!市民の誘導を行い、車の通り道を作るぞ!!!!」

 

「奥さん、血が少なくて寒いでしょう。これを被りなさい」

 

何と一色は後方に控える野戦救急車タイプの44式装甲車であるホ型と護衛の一部を付ける事を即決断し、それをする事を察していたのか神谷は自ら白亜衆を率いて市民の動きの誘導を始める。川山も自らの背広を血まみれの女性の上から被せ、旦那さんのケアを始める。

この普通じゃあり得ない対応に兵士達は困惑するが、すぐに手伝いを始める。そうこうしている間にホ型が到着し、中から医者と衛生兵が出てくる。

 

「総理、患者は?」

 

「こちらの女性だ。駐屯地の方に運んでくれ」

 

「わかりました。君達、ストレッチャーに移す。手伝ってくれ」

 

ストレッチャーに移し中に収容すると、ホ型は白バイ2台の先導で駐屯地に走って行った。旦那さんは36式機動戦闘車に乗せられ、子供がいるそうなので子供を迎えに行った。全てが終わると三人はまた車に戻り、パラネス城に向かって車列は進みはじめた。

 

 

 

パラネス城 大会議室

現在、この大会議室には様々な国家の代表が集まっている。我が大日本皇国の代表たる三英傑、パーパルディアの代表マルビスクを筆頭に、属領だった73ヶ国の代表、そして今回の73ヶ国一斉蜂起、後の歴史には「隷属の蜂起」と呼ばれる蜂起に参加したリーム王国、パンドーラ大魔法公国、マール王国、トーパ王国を始めとした周辺諸国&パーパルディアと仲の悪かった国家が参加していた。

 

「それでは定刻となりましたので、これより対パーパルディア戦役の講和交渉会議を開会致します。司会役は私、大日本皇国内閣総理大臣の一色健太郎が務めさせていただきます」

 

会場から拍手が上がる。まずは参加国の紹介があり、一国ずつ名前が読み上げられていく。その次にいよいよ、講和条件について発表される。

 

「それではまず我が国、大日本皇国より講和条件を提示させて頂きます。川山!」

 

「はい。大日本皇国からは、以下の事を貴国に提示させて頂きます」

 

 

・パーパルディア皇国は解体。領土を大幅に縮小し、パールネウスから半径75km以内の領有のみとする。

・今回の戦争にかかった費用は全てを負担する。

・エストシラントからデュロまでの南東海岸線の領有の承認。(因みにクラールブルクはこの二つの中間に位置する為、こちらも領有する事になる)

・全ての奴隷を解放する。

・日本人虐殺事件での遺族に対する公式に謝罪、及び賠償。賠償金額については、開戦以前の交渉時と同額とする。

・皇室への断絶宣言に対する謝罪。

・鉱物資源の調査権を承認する。

・講和条約の効力発揮後100年の内に、日本の調査で新たに発見された鉱物資源の優先的な開発権限を有する事の承認。

・上記以降に発見された場合は共同開発とする事と、割合の指定はこちらに権利がある事の承認。

・ただし上記の採掘権に関しては、貨幣の原料となる金、銀、銅は免除とする。

・皇帝の地位は「国の象徴」という形とし、儀礼的な行事を除いて如何なる政治的、軍事的権力を永久に剥奪する。

・軍隊に関しては、自衛できる最低限の軍備を認める。

・国防用の軍隊とは別に内部監査や政府、軍の監査を行う軍隊の創設、編成の承認。

・上記の軍隊は日本に指揮権がある事の承認。

 

 

「以上が我が国からの要求となります」

 

多分、これまでの日本国召喚二次創作の中で一番要求している気がする。とまあ、それはさておいて。マルビスクは直ぐに手をあげて、色々質問し始める。

 

「今回の戦乱については、明らかに此方に原因があるのは重々承知しております。しかしながら我が国は貴国の攻撃によって、その大半の経済基盤を失っており賠償しようがない、というのが現状です。どうか時間を頂きたい」

 

「その事に関しましては我が国が一番わかっております。我が国は貴国の軍事、経済、政治の基盤全てを根底から破壊し尽くしました。ですので、貴国に支払いが出来ない事は分かっております。ですので賠償金を安く、或いは無くす代わりに貴国への様々な事業展開を容認して貰いたいと考えています。

我が国はご承知の通り、高い技術力があります。その力や様々な制度を使用して貴国を大改造し、そこで得られた利権の得る優先権や商品の免税と言った特権を持って賠償の代わりとする事も可能です。其方をご利用しては如何でしょう?」

 

ザワザワザワザワ

 

「我が国としては願っても無い。是非、お受けさせて頂きたい!!」

 

そう。これこそが三人の考えた作戦である。実を言うと全ての基盤を必要以上に破壊したのもこの為であったりする。賠償金を払うとなると、例え支払い能力があったとしても今後の関係で影を落とすのは必然である。しかも今回の様に格下と思っていた相手から、再起不能な程にボッコボコにされていれば尚の事である。

だがここで「事業展開時の特権で許す」と言われればどうだろうか。一見、日本の方に損がある様に見えるであろう。だがしかし事業展開によって日本の産業は潤い、更に特権に含まれる免税権や利権の優先権が有れば安定的な収入と産業の発展が付いてくるのである。オマケに外交上の影は無くなるどころか「恩人」や「慈悲深き国家」みたいな超プラスなイメージも広がってくれる訳であり、一石二鳥や三鳥どころのメリットでは無いのである。

 

「一つ申し上げたいのだが、宜しいでしょうか」

 

「どうぞ」

 

会場内が騒つくなか、一人の男が手を挙げる。その男の所属している国家は、リーム王国であった。

 

「我が国はエストシラント近くに飛び地を有しておりまして、法令上エストシラントが我が国の支配領域となります。大日本皇国にはエストシラント編入権利を放棄して頂きたい」

 

このリーム王国というのは、良くも悪くも中世ヨーロッパの思想が強い国家である。つまりは帝国主義国家(・・・・・・)なのである。この飛び地というのも例の隷属の蜂起時にどさくさに紛れて掠め取った土地であり、世間的に言うところの所謂「火事場泥棒」と言うヤツで得た土地なのである。

リーム王国としてはエストシラントの富を搾り取りたいのと、大日本皇国に交換条件で提示する国交開設時の特権等で友好関係を築きたいのである。

 

「(ちょ、浩三!これヤバくね!?)」

 

「(慎太郎、何が何でもエストシラントは取られるんじゃねーぞ!!!!)」

 

川山と神谷はヒソヒソと話し合っている。エストシラントを手放したく無い理由とはもちろん、あのミサイルサイロの件に繋がっている。もしあれが他国に渡る様な事になれば最悪の場合、全面核戦争の勃発に繋がる可能性もあるのである。しかもこの世界には核の知識が無い以上「相互確証破壊による核抑止論」なんて物は、まあまず産まれることすら無いだろう。

まあ核抑止論自体が、仮定に仮定を重ねた幻想でしか無いのだが。

 

「では一つお聞きしたいのだが、貴国はエストシラントの現状を知っておられるのか?」

 

ここで神谷が対抗策を思いつき、行動を開始する。

 

「はい?エストシラントと言えば、元とは言えど列強国の首都。とても綺麗で美しい都市ですよね」

 

「確かにその認識は、最終決戦前までなら合っている。しかし、現在のエストシラントは決戦時の戦艦群による砲撃、爆撃、歩兵部隊による陸上戦、そして我が国の保有する決戦兵器による攻撃で大半が消え去っている。確かマトモに街としての原型を保っているのは、北部地区と中央区の一部だった筈。正直、貴国の技術力では再建には100年近く掛かりますぞ?」

 

神谷は最初の時点で、リーム王国の狙いがエストシラントの利権である事を見抜いていた。ならば統治する意味、つまり利権が存在しなければ諦めると踏んで、現在のエストシラントの状況を説明したのである。

 

「そう言うことなら、我が国は権利を放棄させて貰う」

 

利権が無いと分かると、超すんなり諦めてくれた。その後は元属領だった国家の本来の領土の返還が決定し、日本の資源調査の結果を待ってから領土の拡張が行われる事になった。

それも終わると講和条約の締結に関する調整の事が話し合われ、講和条約調印はエストシラントのパラディス城の前で一週間後に行われる事が決まった。

 

 

 

会議終了後 パラネス城 車寄せ

「あー、長かった。マジで長かった」

 

「でもこれで、ようやくゆっくりできるな」

 

「だな」

 

やっとゆっくり出来ることに、川山と神谷が喜んでいると一色が「え?お前ら何言ってんの?」と言う顔で、こちらを見てくる。

 

「浩三、お前は帰国したら観閲式と観艦式の準備をしてもらわないと」

 

「あ.......」

 

「慎太郎には、今度は第一文明圏を相手に外交をしてもらう。取り敢えず、エモール王国に行ってもらう。なんか選民思想の強い国家らしいから、まあ頑張れ」

 

「ウソやん」

 

二人して、絶望のドン底へとまっしぐらである。やっとデカイ仕事が終わったと言うのに、仕事のおかわりが来るのだから無理もない。出来ればこのまま逃げ出したい所だが、そう言うわけにもいかないので祖国に帰るべく車に乗ろうとすると横のパーパルディアの兵士達が慌ただしく動き回っていた。

 

「この、暗殺者共があぁぁぁぁ!!!!!!」

 

そう言いながら二人の少年と一人の少女、そして別のパーパルディアの兵士がパチンコで石をぶつけていた。

 

「イデ!いでいで!!っち、何処で計画が漏れたんだ」

 

そう言いながら、暗殺者呼ばわりされてる奴らが勇敢な四人を取り押さえようとしている。暗殺者呼ばわりされてる奴らは30人近くおり、多勢に無勢であった。

 

「なにやってんだろうな?」

 

「さあ?」

 

川山と一色は呑気に考えていたが、神谷と周りにいた護衛達は背後から迫る矢に気付き二人を守る為に動いていた。

 

「伏せろ!!!!」

 

幸い護衛の持っていたシールドで矢は弾いたので、誰も被弾はしなかったが中からワラワラと武器を構えた衛兵達が出てきた。

 

「不味いな。直ぐに二人を逃す!!!お前ら、早よ乗れ!!!!」

 

そう言って神谷が二人を車の中に叩き込み、屋根をバンバン叩きながら「GO GO GO」と叫んでいた。その間、周りの日本兵達も応援に駆けつけて勇敢な四人と神谷達の援護に入る。

 

「パーパルディア皇国を潰した、憎き日本兵め.......。目に物見せてやるわ!!!!」

 

「チッ。最後の最後まで手を焼かせてくれるな、ったく。おう野郎共!!!!このクズでろくでなしの襲撃者共を、生きて帰すんじゃねーぞ!!!!!!!!」

 

「「「「「「「「ハッ!!」」」」」」」

 

斯くして、戦闘の火蓋は切って落とされた。パーパルディア皇国兵達は建物を遮蔽物にして、クロスボウや弓矢で攻撃してくる。一方日本兵は、一度下がって応援の到着を待っていた。その間に神谷は、例の四人と会っていた。

 

「君達、一体なぜアイツらが暗殺者だって知っていた?」

 

「俺達、いつも遊んでる空き地があるんだ。今日もそこで遊んでたら、ここの衛兵の人を連れてきて殺したんだ。そのまま死体は埋めて、鎧を着てここに向かった」

 

「で、後を付けてきたと。お前ら、見かけの割に度胸あるな。で、そっちの兵士さんは何故?」

 

「俺はコイツらに頼まれて、お守り役で付いてきた」

 

因みに今更だが、この四人はそれぞれ例のアレン、カサミ、ヒロシの三人であり、もう一人は金髪の少年で名前はイルミンという。

 

「まあ事情はわかった。詳しい話は、後から聞こうか。まずはあのクズ共を、血祭りにあげねぇと」

 

そう言うと丁度、白亜衆の装甲歩兵を乗せたCH53大鳥が飛来。白い装甲甲冑を身に纏った兵士達が降りてきた。

 

「団長、お待たせしました。早速、突入しますか?」

 

「あぁ。野郎共、装甲歩兵を盾に突入する。続け!!」

 

「「「「「「ハッ!!」」」」」

 

装甲歩兵がゆっくりと前進し、門の前に壁を作り出す。中から毒矢やら火矢の熱烈な歓迎を受けるが、まるで通じない。お返しに両腕のガトリング砲で遮蔽物ごと粉砕していく。

 

「今だ!!対戦車ミサイル、撃て!!」

 

ボシュ! ボシュ!

 

しかも後ろから対戦車ミサイルまで使って壁を破壊し、更には飛来した薩摩による攻撃で正面玄関はボッコボコになった。だって普通に対戦車ミサイル旋風やらロケット弾やら、持ってる兵装全部ぶちまけてるんだがら当然である。

 

「内部に突入し、マルビスクの身柄を拘束する。続け!!」

 

そう言ってボッコボコの玄関から中に入り、マルビスクの執務室を目指す。ドアを蹴破って中に入るとそこには、衛兵に首元へ剣を突きつけられてるマルビスクの姿があった。

 

「くるんじゃねぇ!!!!コイツがどうなってもいいのか!?!?」

 

そう言いながら脅してくる。だかしかし、神谷は気づいた。衛兵の後ろは窓ガラスである事に。すぐに後ろの兵士にハンドサインで指示を出し、時間稼ぎに入る。

 

「因みにどうやったら解放してくれるの?」

 

「お前がこの場で自殺したら、解放してやる!」

 

「ふーん。まあいいや。そうだ知ってるか?地獄の直通便ってのは、トンデモなく足が速いんだ」

 

「はぁ?何言って、ゴフッ!」

 

そう言うと衛兵は前のめりに倒れた。今何が起きたのかと言うと、狙撃されただけである。要人警護で任務についていたスナイパーに連絡を取って、狙撃してもらったのだ。

 

「わーお。我が兵士ながら、中々の腕前だ」

 

「一体、何が.......」

 

「マルビスク殿、お怪我ありませんね?一応あの状況でしたから多分違うと思いますが、貴方には今起きてる一件の首謀者の疑いがかかってきます。駐屯地まで御同行願います」

 

「え、えぇ」

 

マルビスクを外に連れ出し、四人の勇者達も一緒にヘリで駐屯地まで連れて行く。

後の調査で今回の一件は、全てゲリラ化した残党達による物である事が判明し、この戦闘で残党の殆どが確保ないし殺害した事も判明した。四人の勇者達は、のちに日本に招かれ天皇陛下より金鵄勲章を受勲するのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 




この話を持ちまして、第二章は完結となります。次回からの第三章からはいよいよグラ・バルカス帝国戦、ではなくあんまりドンパチがない話を中心にお届けしていきます。
また大日本皇国版における大東亜戦争での話や、転移する前にあった中韓との戦争についても書いていくつもりなので、お楽しみに。


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第三章戦士達の休息編
第二十四話全ては式典の為に


記念すべき新しい章への突入作品だというのに、大半が勢いと謎テンションで書き上げています。覚悟してご覧ください。
それから後半の最後を台本形式で書いています。それでは、覚悟は宜しくて?

























講和会議が終わり条約の締結も終えて、パーパルディアとの戦乱はここに終結して早一週間。日本中が勝利に沸き上がっていた。様々なメディアで特集が組まれ、謎理論に基づく批判もあったが国民に今回の戦争に関する事が伝えられていった。

そんな中、統合参謀本部の大会議室には各軍の司令官を集めた極秘会議が開かれていた。

 

「さーて、諸君!今回集まって貰ったのは他でもない。次なる大作戦に向けた準備をしてもらいたい!!」

 

「やるんですね長官!!今、ここで!!!!」

 

「ああ!!『パーパルディア戦役勝利記念観閲・観艦式』開催決定だ!!!!」

 

会議室にいた面々から、大歓声が上がる。というのもこの観閲式と観艦式がある時、決まって大日本皇国統合軍は陸、海、空、陸戦、打撃の全てがノリノリでふざけるのである。前身にあたる大日本帝国時代の式典というのは、当時は

・軍の士気を高める

・国民、同盟国へ精強さをアピールする

・敵勢力に対する示威行為

の三つが原則であり、固い感じであった。しかし時代と共に移り変わり、いつしか「軍同士の国際交流の場」言ってしまえば社交場の様な感じになってきたのである。その内、軍人達の多くをしめる体育会系のノリというか勢いと、昔から続く日本人の「祭り好き」の遺伝子がフュージョンしちゃった結果、式典や基地祭でこれまで伝説を多く残してきている。少し例を挙げておこう。

 

陸軍

・40式小型戦闘車の改造コンテストが行われる。

・戦車に某ガールズとパンツァーに出てくるチームのステッカー貼ったり、態々女性兵士がそのコスプレして戦車に乗る。

 

海軍

・機関砲が銀魂のエリザベス。

・艦隊をこれくしょんするゲームや、碧き航路のゲームのキャラが出没。しかも偶に現在の制服になってたり、艤装が現在のハイテクなのに置き換わってる。

 

空軍

・タイヤ三つ置いて「最新鋭の第六世代戦闘機」として展示する。態々「F999 銀河」という名前までつける。

・痛戦闘機が生まれる。ただし萌え系ではなく、スタイリッシュでカッコいいヤツ。

 

海軍陸戦隊

・AH32薩摩2機を痛車ならぬ痛ヘリ化させる。因みに描かれてたのは、何故か西郷さんと龍が如くの郷田龍司。

・海軍カレーと陸戦カレー、どっちが美味いかの仁義なき大戦争を毎回起こす。その内、陸軍カレーと空軍唐揚げも混ざって大乱戦となる。

 

特殊戦術打撃隊

・最早「戦うネタの宝庫」状態なので、エースなコンバットの名シーンを再現したり、金属の歯車の戦闘シーンを再現しだす。

・なんなら監督と中の人組を呼んで、実写版を作り出す。

 

等々、列挙し出したらキリがない。勿論しっかり真面目な所もある。だが祭りとなると、普段お固い指揮官連中が率先してバカになっていくのである。そんな訳で「政府は黙認、上層部は公認」と言う言葉すら生まれている。

 

「では詳しく日取りを話していく。二ヶ月後の6月2日に満艦飾、フェスティバル企画、電灯艦飾がスタートして3日に全軍による観閲式。そして5日に1回目の観艦式事前公開、二日後の8日に2回目の観艦式事前公開を挟む。

そして9日に横須賀パレードとカレー大会を行って、10日に観艦式本番と行く。観艦式では例の新型潜水艦もお披露目するぞ」

 

「長官」

 

海軍の長、東郷提督が手を挙げて質問する。

 

「今回の観艦式、外国艦艇はどうするおつもりですか?隣国のクワ・トイネ公国、クイラ王国、フェン王国くらいなら予想がつきますが」

 

「今上げた国家は既に承諾済みで、様々な艦艇を派遣するそうだ。アルタラス王国にも打診こそしたが、流石に正規軍が崩壊してるからな。今回は見送りで、もう一つこれから個人的に打診する国家がある」

 

「と言いますと?」

 

「ムーだよ」

 

会議室の全員が「え、マジ?」みたいな顔をして、神谷を見つめる。聞くところによると、この世界にはを観艦式」と言った物は殆ど根付いておらず、精々フェンくらいの物だそうだ。ここは余り問題ではなく、一番問題なのは「ムーが永世中立国」である事である。観艦式という文化が無い以上、式への派兵を他国がどんな目で見てくるか予想がつかない。最悪の場合、外交的立場にも問題が出てくるかもしれないのである。

 

「大丈夫。懸念は分かるが、まあそこはどうにかしてもらうさ」

 

そうニヤリと笑い、一旦この話は終わった。それ以降、各方面への説明だとか、軍の移動計画といった諸々の事を決めて、約4時間かけて会議は終わった。神谷はその足で、マイラス(盟友)が泊まるホテルへと向かう。

 

 

 

高級ホテル フロント

「いらっしゃいませ。ご予約を確認させて頂きます」

 

「いやいや、宿泊ではないよ。すまないが、支配人を呼んでくれるかな?」

 

「わかりました、少々お待ちください」

 

フロントの人間は、神谷だと気付いておらず少し怪しんでいる。今の神谷の格好はスーツに帽子という出立ちであり、顔が余りわからないのである。しかも軍服でもないので、まさか三英傑の一人とは夢にも思わなかったのだろう。

 

「お客様、こちらにお願いします」

 

「え?あ、はい」

 

どういう訳か、おばちゃん従業員に連れられて奥の部屋に連行される。部屋には多分なにかしらのチーフと思しき中年の男が座っており、おばちゃんに「こちらにお座りください」と言われる。正直この辺りから何か可笑しい事に気づいたが、取り敢えず言われた通りに動く。

 

「さて、お客様。あなた、ここの品位を理解しておいでですか?」

 

「は?」

 

余りに唐突な質問に、流石の神谷も気の抜けた様な答えを返してしまう。そんな事はお構いなしに、中年男性は話を続ける。

 

「このホテルは転移前より各国の要人、セレブ、誰もが知る有名俳優といった「一流の人間」が公私問わずに滞在されています。そんなホテルにあなたの様な、品のない服を恥ずかしげもなく着れる人間を当ホテルには入れられないのです。

つきましては迷惑料10万円をお支払いの上、ホテルの敷地より退去してください」

 

「.......」

 

余りにぶっ飛んだ言葉に、神谷の顔も( д) ゚ ゚こんな事になる。念の為に言っておくが、現在の神谷の身につけている物は全て一級品の物である。スーツ84万円、シャツ7万円、ネクタイ5万円、チーフ2万円、腕時計46万円と合計で150万円近くはする。

 

「ほら、どうしました?あ、現金でお願いしますよ」

 

「待っていただきたい。私は別に何かしらの迷惑行為は一切働いていない。ここに来てフロントで支配人を呼ぶ様に頼んだだけで、何故ここまで言われねばならないんだ?

例えばその場で私がスタッフの手を執拗に触ったとか、セクハラやパワハラに該当する発言をしたとかなら分かるが、私は何もしていない」

 

「はぁ。アンタ、このままだと警察に突き出す事になるよ?そんな事になればアンタは、これまでのなけなしのキャリアを全てドブに捨てる事になり、これからは不毛で意味のない苦しい人生を送るんだ。そう思うなら10万円くらい安いだろ?」

 

なんか謎の理論で言われているが、普通に考えてやってもない事で人生終わらせられて貰っては溜まったもんじゃない。というか警察呼ばれても困らないどころか、むしろ「監禁罪」でしょっ引いて貰えるかもしれない。そう言った考えがよぎったので、警察を呼んで自爆してもらう様仕向ける。

 

「呼んでいただいて一向に構わない。この際だ、徹底的にやってもらおう」

 

「!?」

 

どうやら中年男性には予想外の回答だったらしく、見るからに顔色が変わる。でもって神谷の後ろにいたおばちゃんに目配せで合図を送ると、おばちゃんは行動に移る。目配せに神谷が気付かない訳もなく、何かしらの攻撃に備えて警戒していた。

 

「お兄さーん、ちょっとこっち向いて?」

 

「何だ」

 

警戒はしつつ振り向くと、いきなり腕を掴んで自らの胸に押し当てたのである。

 

「あーん♡」

 

「ゑ?」

 

3秒ほど押し当てると、手を離す。そして息を大きく吸い込んで、いきなりこう叫んだ。

 

「きゃーーーーーー!!!!!!痴漢よ痴漢!!!!!」

 

「君!!大人しくしなさい!!!!!」

 

「えぇ!?」

 

なんと神谷を痴漢に仕立て上げるという、あまりに奇想天外すぎる展開になったのである。しかも叫びに反応した何の事情も知らない他のスタッフまで来て大騒ぎになるし、地味にうまい演技でおばちゃん、いやババアが場の空気を更に緊迫感を出しやがる。お陰で部屋はカオスな状況になり、神谷も若いスタッフ二人に取り押さえられる。

 

「大人しくしろ!!」

「動くんじゃねぇ!!!!」

 

(お。この二人、なかなか良い動きするな)

 

まあデスクワークが主業務とは言えど普通に最前線にカチコミ仕掛ける程の超武闘派な神谷が、この程度で臆する事なんて無く普通に大人しく取り押さえられる。

そのまま縄で縛られて警察もやってくる。で何故か、テレビ局のスタッフまで来ている。後から分かったのだが、どうやら「ポリスメン24時」の撮影だったらしく、幸か不幸か密着中の警官コンビがやって来たのである。

 

「警察です。えっと容疑者の方はって、この方ですかね?」

 

「はい。取り調べなさるのなら部屋を用意してありますので、そちらをご利用ください」

 

「ありがとうございます。じゃあお兄さん、行こうか?」

 

「へいへい。あー、後さ。これ、もうちょいキツく縛った方がいいぜ?普通なら問題ないだろうけど、俺みたいな奴だと」

 

そう言うと神谷は縛られる手をゴソゴソ動かすと、いとも簡単に縄から抜け出した。あまりの早技に、全員が驚いている。

 

「さーて、早いとこ取り調べでも署に連行でもしてくれよ。心配しなくても逃げはしないから」

 

「あ、あぁ。ならこっちへ」

 

さっきの警官が、そのまま部屋へ連行していく。その間に相方の若い警官が、例のババアの事情聴取を始める。

 

 

 

小部屋

「それじゃあ取り敢えず、身分証を提示して貰えるかな?免許証とかあるかい?」

 

「免許証は、あークソ無いな。仕事で使う身分証で良ければ」

 

「それでいいよ」

 

神谷は懐から黒革に金色の字で「大日本皇国統合軍」と書かれた手帳を取り出し、警官に差し出す。

 

「へー。お兄さん、軍人さんだったのかい。えぇーと名前は神谷浩三。神谷浩三!?!?」

 

思いもよらない名前に、椅子から転げ落ちる勢いで驚いている。

 

「え!?本物の神谷浩三長官かい?」

 

「マジでーす。あ、それからこの痴漢事件、あのババアと中年男のでっち上げね。はい、これ証拠映像」

 

驚かれついでに、こっそり起動しておいた隠しボディカメラの映像を見せる。このカメラは神谷が胸ポケットに仕込んでおり、緊急時の対応や防犯面から神谷が個人的に装備している。

 

「えぇ.......。これじゃあ逆痴漢だね」

 

「でしょう?これ証拠に、あの二人しょっ引いて貰って良いですか?」

 

「じゃあこれ証拠として預かりたいんだけど、データは移せるかい?」

 

「被害届も出すので、その時データを渡しますよ」

 

「それじゃあ頼むね。取り敢えず、向こうに移動しようか」

 

こんな感じでとんとん拍子で取り調べは終わり、例の二人がいる部屋に向かう。

 

「あ、先輩。容疑者の方は?」

 

「なんか冤罪だったよ。あ、これ証拠ね」

 

そう神谷の取り調べをした警官が神谷に合図を送る。神谷もそれに従って若い方の警官にスマホを差し出して、さっきの動画を再生する。若い警官も「うわぁ」って顔をしながら、それを見る。

 

「なんか、災難でしたね。と言うわけなんですけど、お二人は何か反論あります?」

 

「えっと、その.......」

 

この問いにババアはダンマリを決め込むが、中年男性は違った。いきなり立ち上がって、外に逃げ出したのである。

 

「ちょっとチーフ!!!私を見捨てるの!?!?」

 

「あ、こら!!!待ちなさい!!!!」

 

若い警官が追い掛けようとするが、神谷がそれを制止する。もう一人も疑問顔であるが、神谷は安定の悪い笑みを浮かべていた。

 

「まあ、ついてきてくださいや。愉快痛快な出来事が今から起きますから」

 

そう言って二人をロビーに連れて行く。チーフと呼ばれた中年男性は、ちょうどロビーの自動ドアを潜ろうとしていた。しかし次の瞬間、まるで見えない壁に弾かれるかのように後ろに吹っ飛んだのである。

 

「な!?」

 

「何が起きた?」

 

警官二人もそうだが、ロビーにいた何の事情も知らない客とスタッフも同様にザワついていた。

 

「おう、お前ら。そろそろ姿を見せろ。そして、この俺に無礼を働きやがったオッサンを取り押さえて差し上げろ」

 

「「「「「「了!!!」」」」」」

 

次の瞬間、真っ白な機動甲冑か装甲甲冑に身を包んだ60人近くの兵士が「ブォン」という音と共に現れる。

 

「へ?へ?へ?なになに?え?なんなの?え?」

 

チーフは状況が飲み込めず、上擦った声で延々と「え?え?」と連呼しだす。その間に兵士達はグルリとチーフの周りを囲い、更にはグラップリングフックで上空からも兵士が吊り下がって、全員が自分の持つ銃を向ける。

上を見上げようが、左を見ようが、右を見ようが、どの方向を向けても必ず銃口が視界に入る。

 

「え?え?アンタ達、何?」

 

どうにか絞り出せた言葉がそれであった。丁度向いている方向で目の合っていた兵士の回答が、チーフを恐怖に叩き落とした。

 

「俺達は誉高き大日本皇国統合軍で唯一、常時編成の認められた戦闘団の頂点に君臨なさる神谷閣下、直属の戦闘部隊。泣く子も黙る世界最強の精鋭集団、白亜衆だ!!」

 

この答えにチーフは腰を抜かす&失禁し、周りの人間は警察官含めて驚きの声を上げる。そしてまさかの人間が、二人やってくる。

 

「え?なんだこの騒ぎ」

 

「ラッサンどうしたって、何で日本軍がここに!?」

 

「あ、いたいた。おーい、マイラス殿にラッサン殿!!」

 

「な!?神谷長官!!」

 

なんとお探しのマイラスとラッサンがやってきて、それに神谷が気付いて手を振った。勿論名前を言われるわけで、その結果周りの人間に神谷のいる事がバレてしまったのである。

 

「あぁー!!!!三英傑の一人、神谷浩三だ!!!」

「うわスゲー!!本物だ!!」

「あぁ、日本の守護神様じゃ。ありがたやありがたや」

 

三英傑とか言われてる一人に数えられてるだけあって、すぐに人だかりは出来るわ、写真はパシャパシャ撮られるわ、オマケに爺さん婆さんに拝まられるわで大騒ぎとなる。

その内ツーショットをせがまれたり、握手してくれだの、子供を抱いて力を分けてやって欲しいだのと要望も出てきて、その対応に追われる。その間にチーフとババアはパトカーに連行されていき、白亜衆も撤収。なんやかんや15分近く対応し続け、やっとお目当てのマイラスとラッサンに会いに行ける様になった。

 

 

 

マイラスとラッサンの宿泊している部屋

「や、やっと上がってこれた.......」

 

「神谷長官、あの騒ぎ何だったのですか?」

 

「なんか私を勝手にセレブじゃ無いから帰れだの、服が安っぽいから帰れだのと言われて、挙句暴漢扱いまでされて、警察呼ばれて、イラついたので白亜衆を呼んで不届き者を成敗した結果が、あの騒ぎです」

 

「えぇ.......」

 

ある程度はぶっ飛んだ回答を予想していたラッサンであったが、余りにぶっ飛び過ぎた回答に呆れて言葉が出ない。そうこうしていると、トイレから帰ってきたマイラスも来たので本題に入る。

 

「単刀直入に申し上げます。貴国、ムーの艦隊、それも出来たらラ・カサミ級を我が国に派遣して頂きたいのです」

 

「「.......はい?」」

 

二人して同じ反応を同じタイミングで返事する。まあ当然の反応っちゃ、当然の反応だろう。

 

「それはその、アレですか。日本がまた戦争をするから援軍を出して欲しい、という事ですか?」

 

マイラスが重苦しそうな口調でそう質問した。普通に考えて「艦隊を派遣しろ」と言われて思い浮かぶのが、戦争の援軍である。

勿論、神谷は笑って手を振りながら否定する。

 

「全然違いますよ。我が国が今回のパーパルディア戦役に勝利したので、それを記念して観閲式と観艦式を行う事が決まったのです。確か、貴国にも観艦式の式典はありましたよね?」

 

「あるにはありますが、そういった式典は友好国には自国の軍隊の強さを見せ、敵国にはその姿を持って脅すのが目的ですよ?なのにどうして」

 

「確かにこの世界の考えや慣習で言えば、ラッサン殿の言う通りではあります。実際昔は我々のいた世界でもそうでしたが、近年では観艦式は「諸外国との交流の場」というのも含まれておりまして、少々仲が悪くても、国交がある近隣国で派遣しあうのが通例となっていました。

我が国は世界に視野を向けていく際に、貴国が極めて重要な国家と認識しています。しかしそれは政府同士での話であって、もしそんな事が何らかの原因で国民に悪い印象を与えてしまったら関係に支障が出てしまう事でしょう。ですのでここは艦艇を派遣してもらい、国民にも理解を深めて貰える環境を作って頂きたいのです」

 

「しかしな」

「いいですね!!」

 

ラッサンの言葉をマイラスが遮って、興奮している様子で答える。

 

「いやちょ、ま、マイラス?」

 

「よもや初めてお会いした時に交わした野望の約束が、こうも早く叶う事になろうとは。是非、協力させて頂きたい!!!!」

 

「マイラスさんならそう言ってくれると信じておりました。やはり!」

 

「戦艦は!」

 

「「男のロマン!!!!」」

 

そう言って、ガシッと固い握手を交わす二人。そして完全に置いてけぼりをくらって、最早空気と一体化していたラッサンは「えぇ.......」と声を漏らしながら、その光景を見るしかなかった。

 

「そうと決まれば、私は軍部に連絡を取らなくては。ラッサン!!お前も協力してくれるよな!?」

 

「いや、ここは慎重に」

 

「するよな!?」

 

「いやだか」

するよな?

 

「喜んで協力させて頂きます.......」

 

もうマイラスが止まらない事を察して、ラッサンも渋々協力を了承した。

ここからは大忙しであった。予算の捻出、開場設営に関する業者の選定、グッズや屋台で使う諸々の食材や商品の買い付けや発注、参加する兵器と兵士達の移動経路の策定、参加艦艇と天皇陛下を始めとした観閲官の座乗する御召艦の選定、警察や各省庁及び行政機関への手続き、派遣が決定している国家or海軍との調整等々、上げればキリがない。

神谷含め、幕僚陣は職場である統合参謀本部や国防省で寝泊まりをする者もゴロゴロ居た。因みに会議室や執務室ではこんな感じ。(ちょっと台本形式入ります)

 

 

会議室の場合

中将「おーい、こいつを2000、いや2500部コピーしてくれ!」

 

部下の兵士C「はい!」

 

部下の兵士A「大佐、屋台で使う物品ですが、こことここと、後この業者で間違いなかったですね?」

 

大佐「うん、問題ない。そのまま通して!!」

 

部下の兵士A「ラジャー!」

 

プルルルルル、プルルルルル

 

中佐「おう、なら繋げてくれ。

あ、どうもお世話になっております。はい。はい。あ、その件はですね後日書類をFAXでお送りしますので、そちらを参照して頂いてですね・・・」

 

ドン!バラバラバラバラ

少将「ヤッベ、書類タワー倒しちった。おーい、お前ら。これ直しといて」

 

部下の兵士s

「押し付けんでくださいよ!」

「何でっすか!!」

「じゃあ私達、片付けるんで少将も手伝ってくださいよ?」

 

少将「えぇー!いいよ」

 

 

執務室の場合

神谷「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!目がヂガヂガずるうぅぅ!!!!ついでにモンエナの飲み過ぎで、お腹もチャポンチャポンするうぅぅぅ!!」←なんやかんやで最後の睡眠が53時間前で、最後のマトモな食事は16時間前。ウィンナーゼリーやカロリーメイトで代用。

 

向上「アハアハアハアハ、涼子ちゃん待っててね。すぐにデートに行くからね」

 

ヘルプできた向上の同期「おーい、向上ー!お前の推しは目の前にはいねーぞ。それ以前にこの状況で、デートにゃ絶対行かせないからな?ってかお前の推し、涼子って名前だったっけ?」

 

向上「アヒャアヒャアヒャアヒャ」

 

ヘルプできた向上の同期「あー、完全に壊れたな。ってかワンチャン趣味まで変わってねーか、コイツ」

 

部下の兵士B「失礼しまー、え?」

 

「アヒャアヒャアヒャアヒャ」

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

 

部下の兵士B「地獄の亡者達ですか?」

 

ヘルプできた向上の同期「本来なら否定してやりたいんだが、否定できねーわ」

 

 

とまあこんな感じで、数人の精神が一時崩壊したり幼児退行を引き起こしたりは有ったが用意はどうにか完了して、いよいよ最初の式典が始まろうとしていた。しかし主の気力も地獄の亡者達化してきたので、残念だが以降は次回に譲るとしよう。

 

 

 

 



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第二十五話観閲・観艦式本番

新たに新型潜水艦が登場し、真面目なシーンもありますが初っ端や随所にネタが含まれています。また古参の、それもリリース当初から艦これをプレイしている提督には、ちょっとばかしトラウマが蘇る可能性がありますので、ご注意ください。下手したら轟沈より深いトラウマかもしれません。







覚悟はいいね?では、どうぞ


さてさて、それでは今回は観閲式と観艦式をお送りする訳で、まずは観閲式の方から行ってみよう。と言いたいのだが先に観閲式の前にあった、フェスティバル企画の方をご覧頂こう。

 

 

6月2日 練馬駐屯地 09:00

「えぇ、ご来場の皆様。只今より40式小型戦闘車改造コンテストを開催致します!!!!」

 

まず全ての式典に先駆けて、練馬駐屯地で40式小型戦闘車改造大会が始まる。この40式小型戦闘車はアメリカ軍のハンヴィーや、自衛隊の軽装甲機動車に当たる兵器である。この車両の売りはズバリ「改造の容易さ」である。各部をモジュール化する事により、様々な仕様に改造可能なのである。

最初は任務に合わせた小規模な改造だけだったが、いつのまにか原型を留めなてない改造も出てきてしまって、中には趣味で改造し出す輩も出てくる始末となった。勿論問題として上がったのだが神谷の「もういっその事、公式で改造コンテストでも開いて兵士達を遊ばせようぜ」という中々にぶっ飛んだ発想によって、この大会がスタートしたのである。

 

「では簡単に、ルールを説明しますね。まずこの大会は二つの部門に分かれます。「実戦改造部門」と「ロマン改造部門」の二つです。実戦改造部門は我々が事前に出しておいた状況に沿った改造ができているかをポイント制で競って頂き、勝者を決定致します。

もう一つの部門、ロマン改造部門はルール無用!どんな改造でも、動ければばそれで良し!!空を飛ぼうが、陸を走ろうが、水上を進もうが、地下に潜ろうろうがお構いなし!!ロマンの塊である事が絶対条件となりますが、それ以外は何をしようと自由なのです!!!!」

 

司会者の兵士にも熱が入っている。何せこの大会はミリタリー好き、車好きは勿論の事、余りそういう趣味の無い人でも後半のロマン改造部門は楽しめるのである。何せ車なのか最早わからなくなってくる、よく言えば先進的で革命的な改造車が出てくるのである。それでは、早速行ってみよう。

 

「エントリーNo.1、陸軍第七師団(北鎮部隊)本部大隊所属、鶴見チーム!」

 

ホーローで出来た兜のような物を額に装着した将校と、両頬に棒人間が描かれた兵士、一人だけ茶色の制服の兵士の3人がステージに登壇してくる。老若男女が金探しして囚人皮剥ぎコレクションのアニメを知っている読者ならお馴染みのキャラである。

 

「チームリーダーの鶴見中尉にお話を説明して頂きましょう」

 

「はい。今回のお題が雪上での戦闘でしたので、我々は様々な仕掛けを車両に仕込みました。おーい、宇佐美上等兵!」

 

「はい。こちらになります、鶴見中尉殿」

 

両頬に棒人間が描かれた兵士、宇佐美が40式をステージの中に持ってくる。

 

「はいはい、ありがとう。さてこの40式の特徴は、ここ。よく見てください」

 

そう言ってカメラマンの男の頭を鷲掴みにして、無理矢理車体の下を撮影させる。車体下には無数の鉄パイプがあり、その全てが穴を地面に向けている。先頭と最後尾のは、少しだけ斜め方向に傾いていた。

 

「この穴、全て火炎放射器の放射口になっておりまして、雪を燃やして進む事が出来ます。戦闘時にも対象を足元から燃やす事も出来れば、塹壕の上に停車させて下の塹壕を焼き払う事も可能!更に無数にある事から、一本二本壊れても問題なし!鯉登少尉、実演してみなさい」

 

「はい鶴見中尉殿!」

 

一人だけ制服の違う男、鯉登少尉が運転席のスイッチを操作する。すると

 

ボシュウゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 

炎の代わりに、白い煙が出てきた。流石にステージで火炎放射器でファイアーしよう物なら、本当にステージと人間ごとファイアーしてしまうので、今回は普通のスモークグレネードで使う物を流用している。

 

「ゲホッゲホッ、ちょ!止めて止めて!煙!」

 

「まだまだこれだけではない!宇佐美上等兵!!アレを見せろ!!!!」

 

そう言うと宇佐美、ではなく謎の軍服に身を包んだおっさんがステージ横から現れて、そのまま鶴見と鯉登と司会役の兵士のいる方に近づいてくる。

 

「え?誰?誰なの、あの人!?」

 

司会役の兵士も焦って、誰と連呼する。次の瞬間、鶴見が予想外の動きをした。

 

「誰だお前!あっちへ行け!!」バシン

 

そう言って腕のあたりを叩いて、別の方向に動かしたのである。でもってそれに対応できず、謎のおっさんは「ゴスッ」という鈍い音ともにセットに激突していた。

 

「では中尉殿、撃ちますよ」

 

いつのまにかいた宇佐美が、リモコンを操作するとウィンカー、ヘッド、ブレーキの各ライトから散弾が飛び出した。あ、勿論その先には誰もいない。

 

「な、なんですかこれ?」

 

「仕込み銃です。散弾が二発装填されています。小銃の実包ならもっと入ったんでしょうが仕込み銃なので、どの道接近戦の不意打ち以外で使う事はないでしょう。接近戦なら小銃弾より、散弾の方が有効です」

 

「さ、左様ですか」

 

後半から色々ぶっ飛んでいて、流石の司会者も少し動揺している。それ以降も発表は続き、様々な改造車が出てきた。キャタピラのついた物もいたし、なんとZIL2906のようなドリルみたいな構造をした車輪がついた物があったりもした。

因みにZIL2906のイメージが湧かねーよ、という読者はメタルギア 3のシャゴホッドを想像して欲しい。アレの先頭部分、途中で後ろの核ミサイル発射機のついてたのを切り離して、橋からジャンプした方のヤツの足回りがついていた、と考えてもらいたい。

 

「さあさあ、いよいよ本コンテストのメインイベント!!後半戦のロマン部門、開始です!!!!エントリーNo.1、熊本駐屯地のキャプテン・レックス!!」

 

そう言われると、ステージにいかつい車と共に銀河共和国軍の501大隊のキャプテン、ではなく少し金髪っぽい髪を生やしたワイルドな男が入ってきた。本名は山田というのだが、階級が大尉、アメリカ軍で言う所のキャプテンで見た目と声がスターウォーズの501大隊のキャプテン・レックスに似ている事からそう言われている。

因みにエントリー名がこうなっているのは、仲間がふざけてこの名前で応募しやがった結果である。まあルール上、あだ名で登録もOKなのでセーフである。

 

「ではキャプテン・レックス、説明をお願いします」

 

「今回の改造の題名をつけるとしたら、スターウォーズだ。私のあだ名である「キャプテン・レックス」はスターウォーズに登場する、501大隊指揮官の名前から来ている。私自身、この名を気に入っているし、スターウォーズも好きだ。という訳で、こういう改造をしてみた」

 

そう言って合図すると、後ろからトンデモない見た目の兵器が出てきた。最早40式の原型すら留めておらず、別物兵器と化したヤベェ姿の兵器があった。

 

「ジャガーノート皇国グランドアーミー使用だ」

 

曰く元ネタは銀河共和国の「ジャガーノート」なる兵器だそうで、劇中同様にするべく車体2台を連結してタイヤを10個つけており、武装も流石にレーザーキャノンだの、プロトン魚雷だの、イオン砲だのは皇国グランドアーミーは所持してないので、他の兵器で代用してある。

ただ武装が元ネタよりかなーり凶悪で、12.7mm機関銃を片側38挺つけて、先頭と後ろには7.62mmバルカン砲を4つずつ、さらに屋根にはどっから掻っ攫って来たのか知らないが、連装106mm無反動砲(レプリカ)を2基搭載している。

 

「これ燃費は如何程に?」

 

「確かリッターあたり、500mだったか?」

 

「.......マジっすか」

 

因みに平均値を言っておくとハイブリットカーが20km、エコカーや軽自動車が15km、普通車が8〜10km、スポーツカーや配送用トラックが2〜5kmである。

 

「ありがとうございました。では次の方、参りましょう!エントリーNo.2、ドクター・ポイズン!!」

 

今度は白髪でサイヤ人の様な髪型になっている、眼鏡をかけた男が現れる。

 

「ではドクター・ポイズン、お願いします」

 

「こここ、この車は、デロリアンとデラックソを元とととに、つつ作りました。えっえっと、じゃあ頼みます」

 

極度の緊張により、呂律がバグっている。しかも声も裏返りまくった結果、なんかキモい印象になっているが気にしてはいけない。

ステージの奥から、ごく普通な40式が現れる。本当に何の改造もされていない様に見える。

 

「見た目から奇抜な事が多いコンテストの中では、逆に異彩を放っていますね」

 

「そそそ、そういう風に改造したので。でもロマン改造してます」

 

そう言ってリモコンのスイッチを押すと、車体が持ち上がってタイヤが下方向に向く。更に下から小型の逆ガル翼が出てきて、劇中に近い見た目になる。

 

「おお!正にグラセフのデラックソと、デロリアンの融合!!ロマンが溢れます!!!!」

 

「これだけじゃ、ない!」

 

また別のスイッチを押すと、今度はタイヤが車体の中に引っ込んで蓋をされる。蓋には翼が生えて、後ろからスクリューが出てくる。

 

「潜水モード。本当に潜れます」

 

「マジですか!?」

 

何を隠そう、マジで本当に潜水できるのである。勿論そのまんま海中に潜り続ける訳でもなく、浮上してまた道を走る事もできる。

それ以降も様々な改造車がステージに上がってきた。マッドマックスよろしく世紀末改造された物、最早装甲車からスポーツカーに変身した物、トランスフォームする物、ボタンひとつで装甲板からエンジンまで各パーツがパージできる機能がついた物等々、バリエーションに富んだラインナップであった。優勝はキャプテン・レックスのジャガーノートになったらしいが、賞品がなんとジャガーノートを専用マシーンとして兵器化するという物であった。もしかすると、今後活躍するかもしれない。

 

 

 

翌日 朝霞訓練場

自衛隊においても中央観閲式の会場であり、オリンピックの射撃競技場になった事から有名な施設の一つである朝霞訓練場には、参加する部隊と兵器が整列していた。

 

『それでは参加部隊を紹介致します。観閲台より向かって左側、陸軍、海軍、空軍、陸戦、打撃音楽隊。国防大学校学生隊、国防医科大学校生徒隊、陸、海、空、陸戦、打撃の各高等工科学校学生隊、機動甲冑装備の歩兵部隊、装甲歩兵部隊、村今戦闘団、神谷戦闘団の順に並んでおります』

 

その後第302保安警務中隊の入場、観閲部隊指揮官、観閲官の一色総理、大元帥である天皇陛下への栄誉礼が行われた。

、大元帥である天皇陛下への栄誉礼が行われた。

 

『天皇陛下、訓示』

 

『私自身、16回目となる観閲式に臨み、兵士諸君の士気旺盛たる姿を見れる事を嬉しく思います。昨年の転移現象以来、兵士諸君含めた国民には多大なる苦労と不安を与え、こと今回に至っては知っての通り先々代天皇である、昭和天皇在位時の大東亜戦争以来の国を挙げた全面戦争に臨みました。まずはその戦乱の切っ掛けとなり、不幸にも我が国に対する外交のカードとして悲しくも処刑された国民208名への哀悼の意を捧げたいと思います』

 

ここで陛下は一度言葉を区切り、続いて「黙祷」のアナウンスが流れて会場にいた全員が1分間の黙祷を捧げた。

 

『さて。我が国は前世界での常識が全く通用しない事を、政府共々学ばされました。特に今回は国民の皆様で言う所の三英傑である総理大臣の一色首相、外交のスペシャリストである川山特別外交官、自らも皇国剣聖の称号を持つ神谷長官ら三人が戦争回避の為に奔走してくれました。特に川山特別外交官は戦争回避の為に、何度もパーパルディア皇国へと飛び何度も粘り強く交渉をしてくれました。しかし結果は、皆様の知っての通りでした。

しかし彼らは決して挫けず、一色首相は政府を纏め、川山特別外交官は関係国や周辺国への交渉と戦後交渉に備え、神谷長官は今いる我が皇国の優秀な兵士達を取り纏め自らも先頭に立ってパーパルディア皇国と戦いました。結果として最初の処刑された208名を除くと戦争開始以降、死傷者はおろか負傷者すら出さない完璧なる勝利を収める事に成功しました。この勝利は今この場にはいない者も含めた全ての皇国の守護者たる兵士達、そして国民の皆様のご理解とご尽力あっての勝利です。本当にありがとうございます。この世界は今尚未知の部分が多いとの報告が、様々な部門から上がっています。しかし私は皇国の守護者たる兵士達と、その兵士達を支える国民や政府が一丸となれば、どんな困難であろうとも乗り越えられると思っております。

我が精強なる皇国の守護者諸君。私含めた全ての日本民族と君達は、常に共にあります。またいつの日か、君達の力を発揮してもらわねば成らなくなる時も来るでしょう。その時は今回と同じように自らの使命を忠実に果たし、国民の生命と財産を護ってくださる事を切に願い、私の訓示とさせて頂きます』

 

いよいよ行進の開始である。曲名は勿論「陸軍分列行進曲」である。まず先頭を行くのは、陸軍近衛師団長の乗る40式である。一糸乱れぬ兵士と学生達の行進に、天皇陛下を始めとした観閲官達も見惚れていた。

兵士達の次は兵器の登場である。40式や44式のような小さなものから、46式と51式の様に巨大な兵器が続く。更に特殊戦術打撃隊所属のメタルギアも歩き始め、会場は巨大ロボットの行進にテンションが上がりに上がりまくっていた。そして後は航空隊の祝賀飛行を、という所で九機のC3屠龍が飛来した。しかも塗装が通常の灰色ではなく、真っ白な塗装に変更されている。もう何処の部隊が乗っているか分かるであろう。

 

「さあ野郎共、皇国臣民に我らの勇姿を見せつけに行くとしよう」

 

「「「「「オウ!!!!」」」」」

 

「なーに、内容は至極単純。飛び降りて、ジェットパックで減速して、着地して、行進するだけ。我らの最強の精鋭集団たる白亜衆に取ってみれば、居眠りしながらできてしまうだろうな」

 

神谷の言葉に兵士達は所々から笑い声が聞こえてくる。

 

「だが下にいるのは国民だけでなく、天皇陛下も居られる。失敗だけはしないでくれよ。失敗した奴&俺のクビが吹っ飛ぶから」

 

「そうなったら私が部隊を引き継ぎますよ」

 

神谷の冗談に、向上が更に冗談で返す。これから高度500mから飛び降りる者達の発言ではないが、コイツらは前世界において現代戦を戦った兵士達であり、この程度で臆するほどのタマじゃない。

 

『まもなく降下ポイントです』

 

「さーて、じゃあ降りるとしようか。こんな密閉空間に野郎が詰まってちゃ、むさ苦しくていけない。おーい、換気してくれ」

 

「了解です、長官」

 

カーゴドア近くの兵士がパネルを操作して、カーゴドアを開ける。ドアの向こうには抜ける様な青空と、雲海が広がっていてとても綺麗であった。

 

「よっしゃ、行くぞ!!!!」

 

「「「「「オウ!!!!」」」」」

 

真っ青な空に白い甲冑の兵士達が飛び出す。観閲式恒例の空挺降下の展示であるが、今回は数百人単位な上に別の機体からは戦車までもが投下されている。会場にいた国民達は大騒ぎしていた。

 

「うおぉ!!」

「パパ!!あの大きいのって戦車!?」

「あ、あぁ。多分さっき走ってたデカい戦車だろう」

「あんな大きな物が空が降ってくるのね.......」

「あぁ、空の神兵じゃ。懐かしいのう」

「皇国の守護神達じゃ。ありがたやありがたや」

 

兵士達は地表ギリギリでジェットパックに点火し、減速して地面に着陸する。因みに他の兵士がほぼ速度をゼロにするのに対し、神谷は完全にゼロにしないで少し勢いを残して少しアクロバティックに着地する。

他の観閲部隊の指揮官は車に乗るのに対し、神谷は先頭を堂々と歩いて他の兵士達を先導していく。翻る旗は旭日旗、神谷家家紋の旗、天皇旗、そして神谷戦闘団の部隊旗である。

部隊旗は神谷に敬意を表し、黒地に白で二本の太刀をクロスさせて、交差している部分に一梃の拳銃の銃口を向けている絵が入っている。その上に「世界中何処へでも赴く」という意味を込めて、世界地図を背にしたアリコーンが描かれている。念の為言っておくが「100万人を殺し1000万人を救う計画だ」とか何とか言って、結局引き金(トリガー)に殺された艦長の乗艦ではなく、ユニコーンとペガサスを融合させた幻獣の方のアリコーンである。

 

「頭ー中!!右!!!!」

 

まるで全員が操られているかの様に、ピタリと動きが寸分違わずに揃った行進と敬礼に全員が見惚れていた。例え軍隊に詳しくなくとも、カッコいいと思うだろう。そして最後は航空部隊による展示飛行を持って、観閲式の幕は降ろされた。

 

 

 

翌日 記念艦『三笠』の横

「おお、遂に念願が叶った!!!!」

 

「ですな!!!!」

 

そう目を輝かせているのは、昨日は参加部隊の中で一番一糸乱れぬ行進と敬礼をした部隊を指揮していた神谷と、本国では優秀な技術士官であり最年少で佐官への昇格か確実視されているエリート軍人のマイラスである。何故に国が互いに違うエリート二人が揃いも揃って、しかも少年の様な眼差しをしているかと言うと、ムー海軍の最新鋭戦艦であるラ・カサミ級戦艦の一番艦『ラ・カサミ』が、連合艦隊旗艦であった戦艦『三笠』の隣に停泊し、更にその横に戦艦『大和』がいるからである。この二人の願望、いや野望が叶った結果が今の状況である。そんな訳でマイラスの相棒であるラッサンは頭抱えて二人の様子を見ていた。

 

「まさか生きている間に別の艦とは言えど、連合艦隊旗艦が二隻揃って停泊している所を見れる日が来るなんて.......。生きててよかったぁ!!!!」

 

知っての通り三笠は日本海海戦でバルチック艦隊を破り、大和は名実ともに(我々の世界では)今も戦艦の王者として君臨する最強艦である。そんな艦が揃って仲良く停泊している所が見れるなんて、ミリオタにとっては正月、子供の日、誕生日、宿題のない夏休み、クリスマスが一斉に来てしまった様なレベルで嬉しい出来事である。え?大人にとっちゃ出費だらけの地獄だろって?

では大人バージョンではボーナス、ゴールデンウィークとシルバーウィークのWコンボしたレベルの連休、自分好みの美女or美男と休み期間中一緒に過ごせてしまう権利が一斉に来たと思って欲しい。彼らにとってどんなに嬉しい事かわかったであろう。

 

「やはり!」

 

「戦艦は!」

 

「「男のロマン!!!!」」

 

最早二人があった時の恒例挨拶となりつつある言葉と共に、今まで一番固い握手を交わした。勿論三隻全ての見れる場所を二人で見て周り、一日中楽しんでいた。

 

「所で神谷さん。ずっと気になって居たんですが、ヤマトとミカサにあった女性のパネルは何だったのですか?」

 

実は大和と三笠の出入り口には等身大のパネルが設置されて居た。大和は小さな三つ足の傘を持ち、赤いスカートを履き、頭に簪のようにして桜の花飾りがついた電探をつけている、ポニテールの髪の長い美女のパネル。三笠には黒の軍服の上に華やかな白の着物を羽織り下はスカートで、頭には水牛のような角が生え、手には抜身のサーベルを持ち、数珠を身体に纏わせた、ショートカットに髪を後ろで結んでいるという、中々に説明しづらい髪型をした美女のパネルがそれぞれ設置されていたのである。

 

「あー。アレはですね、ウチの国で人気なゲームのキャラクターなんですよ」

 

「ゲームと言うと、貴国で人気のあるテレビやパソコン、スマホで出来る娯楽のアレですか?」

 

「えぇ。大和のはパソコンで出来るゲームでして、そのゲームのコンセプトが「昔の軍艦を女性に擬人化して戦う」という物で、パネルのキャラはそのゲームの大和です。三笠のは同じコンセプトですが別のゲームで、同じくこちらもゲームの中での三笠です」

 

因みに言うまでもないが、大和のは艦隊をコレクションするゲームの大和さんであり、三笠のは碧き航路のゲームの三笠大先輩である。

 

「と言う事は、他の艦にも居るのですか?そのゲームのキャラクターが」

 

「居ますとも。我が海軍の艦艇は、その多くが旧大日本帝国海軍時代に活躍していた艦船達と同じ艦名を使用しており、その関係で結構キャラが出没してますよ。何なら公式にコラボしていたりしていて、イベントで会場の提供やらで絡んでますし」

 

「見てみたいですな、そのキャラクター達」

 

そうマイラスが呟くと、神谷はニヤリと笑って懐からスマホを取り出す。そして碧き航路のゲームアプリを開いて、マイラスに渡す。

 

「これがそのゲームです。一応全キャラ着せ替え共に揃ってますので、見てみてください。何ならもう一つの方も揃ってるんで、後でみます?」

 

「.......神谷さん。我が国でも、出来ませんかねコレ」

 

「.......どうにかやってみましょうか。布教もファンの務めです」

 

ガシッ!!!!

 

お互いにまた固い握手を交わし、大きく頷く。ここに「艦隊をコレクションするゲーム(艦隊コレクション)碧き航路のゲーム(アズールレーン)をムーに布教しよう同盟」が結成された。数年後にマジで布教を成功させ、専用サーバーまで誘致しプレイヤー数が爆発的に激増したのは別の話。

因みにプレイヤー数が増えた結果、大和さんのいるゲームではスタート当初の頃にあったサーバーの負荷による通信エラーが起こり、抽選制が復活するわ、イベント海域のボスまで行くもエラー落ちするわ、サーバーの一台がシステムダウンして他のサーバーへシワ寄せが行きサイバーテロレベルの大惨事になるわ、公式がふざけて初代エラー娘(妖怪猫吊るし)にした結果、古参プレイヤーに取っては懐かしくも憎たらしいアレを艦娘よりも見る羽目になるという、心までも攻撃され多数の提督の心が根本からポッキリ逝く事案が多発したらしい。尚、その毒牙は神谷をも蝕み超絶不機嫌になっていたそうな。

 

 

 

6月10日 相模湾上空

『で、俺達は何に乗るんだっけ!?』

 

『戦艦大和!!』

 

『そりゃいいや!!』

 

現在三英傑の三人は、SH13海猫に乗って観閲艦となる大和へと向かっていた。先行する別の海猫には、天皇陛下も乗っている。因みに観閲艦は大和を筆頭に武蔵、信濃、紀伊の四隻が選ばれている。受閲艦艇には熱田型、赤城型を始め多数の艦艇が参加することになっており、更には今度新設される艦隊の為に建造された潜水艦もお披露目される事になっている。

 

 

捧げぇ、銃!!

 

号笛が鳴り響き、栄誉礼が行われる。天皇陛下、一色、神谷、川山の順に艦橋に上がり受閲艦隊を待つ。程なくして、一隻の巨艦が姿を現す。現在の連合艦隊旗艦である、超戦艦『熱田』である。

 

「おぉ。神谷くん、アレが熱田型かな?」

 

「そうですよ陛下。一番艦の熱田です」

 

因みに本来であれば天皇陛下がいる以上、天皇陛下より一歩下がって見るのが普通なのだが神谷は解説役として隣に立っている。まあ役得ではあるが、粗相は出来ないので結構緊張している。神谷の性格上あまり敬語とかそういうのが苦手であり、素が出ないか周りも神谷もヒヤヒヤしている。

 

「やはり戦艦は美しい。祖父、いや昭和天皇が昔「軍艦は戦艦が一番美しい」と言っていたが、こうして見ると気持ちが分かる。神谷くん、小耳に挟んだのだが「戦艦が時代遅れ」というのは本当なのかな?国の長である立場から言えば、戦艦の様な維持費のかかる物は使えないなら縮小させるなり色々対策すべきなのだろうが、個人的には残したいのだ。どうなんだね?」

 

「確かに現在の戦略では戦艦は「時代遅れの無用な長物」という見方も出来ます。しかしですね、我が国の戦艦は少し特殊ですから問題ありません。戦艦が時代遅れとなったのは航空機が台頭したのもそうですが、何よりミサイルが生まれた事で戦艦の射程の長さが消え失せてしまった点にあります。しかし我が国の戦艦は全て大型ミサイルを何百発と搭載し、高い防御力と防空能力も有しております。そして戦艦の強みである砲撃力もあり、金食い虫ではありますが決して無用な長物等では有りませんよ。

何よりこっちの世界は、未だ大艦巨砲主義です。前世界よりも戦艦の重要性と必要性は格段に伸びており、寧ろ必要な物となりつつあります。外交の時などでも戦艦が有れば、国力や軍事力を図る良い指標になり有るだけで抑止力になります」

 

「そういうものかね?」

 

「えぇ、そういう物ですよ」

 

受閲艦艇部隊もいつの間にか、最後尾の方になっており空中には各種戦闘機と、特殊戦術打撃隊の大型兵器も飛来していた。もうおじいちゃんとは言えど、天皇陛下も男の子。頭上を通る大型兵器に、心なしかはしゃいでいる様にも見える。

艦隊は回頭し、受閲艦隊は展示艦隊となって訓練展示に入っていく。

 

「艦隊一斉回頭。とーりかーじ」

「とーりかーじ」

 

突撃艦隊が出力一杯の最高速度で一斉回頭してみたり、

 

「信玄発射用意!!」

「アイ・サー!!」

「発射、サルボー!!」

 

何気にこれまで敵に潜水艦がいなかった事から、劇中では初登場の対潜ミサイル信玄を発射してみたり、

 

「爆雷投下始め!」

「対艦ミサイル、発射!!」

 

これまた上記と同じ理由で劇中初登場となるPUS3三式大艇、P1泉州による爆雷とASM4を発射してみたり、

 

「戦闘機隊、発艦!!」

『ギャッツ隊、行くぞ!!』

 

空母、空中空母、強襲揚陸艦、空中母機から航空隊が発艦してみたりしていた。

そして演習もそろそろ終盤という辺りで、いよいよ新造艦達のお披露目が行われた。

 

「陛下、あの辺りにご注目ください。面白いものが見えますよ」

 

「ほーう。それは楽しみだ」

 

神谷が指し示した水面を見ていると、四隻の潜水艦が浮上してきた。アリコーンの様な見た目の潜水艦、シンファクシとリムファクシの様な見た目の潜水艦、紺碧の艦隊の亀天号の様な潜水艦、そして双胴の一際大きな潜水艦である。

 

「潜水艦なのかね、アレは?普通の戦艦ばりに巨大だが.......」

 

「えぇ、勿論潜水艦ですよ。順番に伊2000、伊2500、伊3000、伊4000です。役目はそれぞれ潜水空母、ミサイル攻撃プラットフォーム、情報収集と偵察、旗艦と火力支援となります」

 

※四隻の潜水艦については、設定集にて追加記載する。

 

「アレが皇国の新たな盾となり、また矛となるのか。頼もしい限りだな。えーと、名前なんだっけ」

 

一色の最早持病となりつつある、兵器の名前の言い間違えor名前忘れを発症し、川山と神谷がズッコケル。

 

「いま言ったばかりだろうが.......」

 

「お前、本当に大丈夫か」

 

二人のツッコミに、天皇陛下や周りの護衛達も笑っていた。最後は熱田型全艦による、主砲と副砲の祝砲一斉射を持って一連の式典は終わりを迎えた。

 

 

 

 



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第二十六話神谷の休暇

観艦式やら観閲式やらが終わって、早二ヶ月。戦後処理も式典の事後処理も終わり、幕僚陣も休暇をとれる様になっていた。つまり戦争前と同じような状況に戻ったのである。

 

「失礼します。長官、こちらの書類に.......。って、長官どこだ?」

 

一人の士官が神谷の執務室に、書類の束を抱えてやってきた。しかし中には長官たる神谷どころか秘書や部下の姿もない。少し中を散策するが、人のいる気配がない。

 

「アレぇ?」

 

「おや、君。どうしたんだ?」

 

「ん?あ!むむ、村今閣下!!」

 

背後からの声に振り向くと、そこには前回のパーパルディア戦役でも大活躍していた村今が立っていたのである。急に声かけられた事と、まさかの雲の上の存在である村今だった事に驚き軽く声を裏返らせながらも挨拶と敬礼をした。勿論村今も返礼する。

 

「で、どうしたんだ?」

 

「ハッ。神谷長官に書類を渡しに来たのですが、ご覧通り誰も居なくて」

 

「あぁ。神谷長官は今、クワ・トイネ公国に仕事兼休暇で行っているよ。秘書の向上くんは、確かライブに行くとか何とかで今日から二週間、休暇を取ったらしい」

 

そう。神谷はとある仕事でクワ・トイネに行っており、これが決まった神谷は「どうせならついでに休暇も合わせて取って、仕事終わらせたらそのまんまクワ・トイネ回ろう。生でエルフとかの亜人族みたいし」という事を考え、無理矢理休暇を捻じ込んだのである。

因みに向上は先述の通り、ライブの為に岡山まで遠征に行っている。今回のライブは福岡、岡山、広島、大阪の五つを約一週間で回るライブらしく、その全てに向上は参加している。しかも最終日の会場である大阪のライブでは、入場券の番号抽選があり、当たった者は楽屋に二時間招待されるという、ファンにとっては天国への切符が手に入ってしまうらしい。

この告知が出た後の向上は凄まじく、「全ての神々の力を借りて来ます」と言って神社、寺、教会、モスク、シナゴークと最早「異世界の神」となってしまった神様に頼んで、当たるよう祈願しまくっていた。

 

「そうでしたか。ならこの書類、どうするかなぁ」

 

「どれ、私が判子を押そう」

 

「あ、じゃあお願いします」

 

「はいはい。あ、そうだ。孫がこの間のど飴くれたんだ。よかったら一つ、食ってみんか?」

 

「ハッ!頂きます」

 

 

 

同時刻 クワ・トイネ公国 リーン・ノウの森

『で、今回の研究対象というのは?』

 

『えぇ。クワ・トイネ公国を始めとする、ロデニウス大陸各地に伝わる伝承の中で登場する「太陽神の使い」に関する研究です。これから向かうエルフ族の聖地の森林には、その太陽神の使いが使った「空飛ぶ船」があるとかで』

 

神谷の問いに考古学者の中村が答える。神谷と中村、そして中村の助手数人はヘリでエルフ族が「神森」と呼んでいる聖地、リーン・ノウに向かっているのである。

 

『にしてもまあ、そんな神話の遺物が存在するんですな』

 

『魔法とかいう、ぶっ飛んだ物があるんですから。なにも特別不思議ではないでしょう』

 

『それもそうですな』

 

二人は雑談しながら、リーン・ノウの森を目指す。一方、リーン・ノウの森の前に広がる平原では、ハイエルフ族の少女ミーナと少年ウォルが神谷達を待っていた。因みにエルフあるあるでお馴染み、2人とも見た目こそ少女と少年に見えるが実年齢は100歳以上である。

 

「聖地にヒト族を入れるのは、嫌だな」

 

「ウォル!お客人の前ではそんなこと言っちゃダメよ!今日来るのは人間族といっても、転移してきた日本の人なんだから!!ロウリアとの戦争でもエルフ族を助けた恩人で、あのパーパルディア皇国をも打倒した、凄い国なのよ!!変に怒らせでもしたら、殺されてしまうかもしれないわ!!」

 

「わかった、わかったよ」

 

勿論そんな事はしないが、まあ当然の反応であろう。程なくしてヘリが二人の前に姿を現し、テンプレ通り「太陽神の使い!?」という反応をされる。

 

「どうも初めまして。大日本皇国文部科学省、歴史文化研究所、異世界担当部、ロデニウス大陸方面担当課、課長の中村です。本日は聖地であるリーン・ノウの森への来訪許可、並びにガイドまでして頂けるとの事で。日本を代表して、御礼申し上げます」

 

そう言って頭を下げる中村。てっきり横柄な態度でくると思っていたので、少し面食らう。後ろから神谷も出てきて、同じく挨拶を行う。少ししてから、いよいよリーン・ノウの森に入っていく。

 

 

「ほう。どうやらこの森、ただの聖地って訳じゃないな」

 

「あら神谷様、では何だというのですか?」

 

「要塞、それも最後の砦とも言える物では?」

 

神谷の解答に、二人の足も思わず止まる。

 

「なぜ分かったんだ?」

 

「この地形、一見平地に見えるが実は違う。緩やかに斜面になっており、しかも登り降りを小刻みに何度もする様になっている。さらに足場も体重掛かると悪くなり、除去したのか作動したのかは分からないが、トラップの痕跡もあった。と言うか何なら、あっち側の方には多分まだある。更に木々の間隔も狭く大軍での行軍は不可能な上、アンブッシュしやすい草木が所狭しとある。これを要塞と言わずして、一体なんと言う?」

 

神谷の言っている事は全て当たっていた。この森は要塞として、戦争時に改造してあったのである。しかもそれはミーナとウォルの部族にしか伝わっていないことで、門外不出されている事なのである。

 

「驚きました。あなた、本当に人間族ですか?」

 

「これまで何度か人間や他の種族の者を入れた事はあるらしいが、この事に気付いたのは一人もいないぞ。というか同じハイエルフやエルフの他の部族の者も、気付いた奴なんてそういったことに長けた者しかいなかったのに」

 

ミーナとウォルが神谷を驚きと羨望の目で見ていた。まあ神谷は本当に神の加護(主人公補正)を受けているから仕方ない。一向は更に最深部へと進み、やがて草で覆われた蒲鉾とドームが合体した様な形状の物が現れた。ここで神谷は蒲鉾型の建物に、何か既視感を覚えた。それも何度も目にした様な物である。

 

「この中にあるのは、エルフ族にとっての文字通りの宝です。神話の時代、グラメウス大陸から出現した魔王軍はフィルアデス大陸の大半を侵略し、逃げ延びた人類を追ってロデニウス大陸にまで侵攻してきました。各種族は魔王に対抗するべく「種族間連合」を組織し、協力して魔王軍に戦いました」

 

そう言いながらミーナは蒲鉾型の建造物に手を添え、何かを唱えると草が生きているかの様に蠢き、ガサガサと音を立てながら入り口が開く。

 

「しかし魔王軍は強かった。種族間連合軍は敗退を繰り返し、遂にこのエルフの聖地である神森にまで撤退しました。魔王軍もこの森を焼き払うべく侵攻し、いよいよ最期の時を迎えようとしていました。

エルフ族の滅亡に危機感を募らせたエルフの神は、自らの創造神である太陽神に祈りました。神は願いを聞き届け、この地に使者を遣わせたのです」

 

そう言いながらミーナとウォルは中に入っていく。神谷達もそれに続き、さっきまでの疲れが全て吹っ飛んで少年の様にドキドキしていた。そりゃあエルフから神話を聞きながら、その神話の遺物を見るとかもうそれはファンタジー以外の何者でも無く、そのファンタジーが現実となろうとしているのだから少年の様にもなる。

 

「太陽神の使者は空飛ぶ神の船を操り、雷鳴の如き轟きと共に大地を焼く強大な魔導をもって魔王軍を焼き払いました。使命を終えた使者達でしたが、神々の世界に帰る時、一つだけ故障して動かなくなった神の船がありました。私達の祖先達は今では失われた時空遅延魔法を使い、この先に保管しました。因みに伝承では「神の船はガラガラお大きな呻き声を上げて、動かなくなった」とあります。さあ、この先です」

 

ミーナの神話の話も終わり、いよいよ対面する時が来た。みんなどんな物かを想像していた。しかし神谷達の目に入ったのは、予想どころか考え付きもしなかった物があった。

 

「な!?」

「嘘だろ!?」

「待て待て待て待て!!何でこれがあるんだ!?!?!?」

 

「そんな.......ありえない.......」

 

中村とその助手達が思っていた驚き方と違う驚き方をしていて、ハイエルフの二人もキョトンとしていた。

 

「(なあ、ミーナ。なんかこの驚き方、まるで知っていた物が此処にあるみたいだよな?)」

 

「(ウォルもそう思う?)」

 

「あの、何をそんなに驚いているのですか?」

 

「神谷さん、これは」

 

「ああ、間違いない。大日本帝國海軍の零式艦上戦闘機だ」

 

そう、目の前にあったのは紛れもない。先の大戦で連合国パイロットに恐怖を植え付けた、大戦時の名機にして日本の技術力の象徴の一つ。「ゼロファイター」の異名を持つ、ゼロ戦だったのである。

 

「アンタ、神の船を知っていたのか?」

 

ウォルが神谷にそう聞くと、神谷が「あぁ」と答えた。

 

「お前達の言う神の船。これはな、我々の国がかつて使っていた兵器だ。詳しく確認したい、近付いていいか?」

 

「お、おう。構わねーぞ」

 

ウォルに断りを入れ、神谷が零戦に近付く。まるで今にも飛び立ちそうな程にきれいに残っており、もう見られないだろうから、しっかりと目に焼き付けておく。

 

「ご苦労だったな」

 

手をエンジンの辺りに当てて、そう呟いた。そのまま各所を見て回ると、色々な事がわかった。

・着艦フックの存在とエンジンおよび翼端の形状から二一型である事。

・エンジンオイルのパイプが吹き飛んでいる事。

・パイプ以外の状態は非常に良く、そこさえ直せば多分普通に飛べる事。

・弾薬も使える事(検証済み)

・識別番号の部分が塗りつぶされて、所属がわからない事。

本当なら日本に持ち帰って詳しく解析したいが、流石に持ち帰る訳にも行かないので写真と映像をありったけ撮って帰る事になった。

 

「なあ、神谷さん。神の船、いや「レイセン」ってのは一体何なんだ?」

 

「我が国が今から遡る事、およそ120年前。大日本皇国の前身に当たる国家、大日本帝國が海軍用の戦闘機として開発した、当時世界最強の強さを誇った飛行機械だ」

 

「では何故それがこの地に?」

 

「そんなの俺達が聞きたい。だが一つ分かったのは恐らく俺達の国の先祖はこの地を訪れていて、空母機動部隊を含む大軍勢がいた事だ」

 

この後「もっと詳しく教えろ」とせがまれたので、掻い摘んで大東亜戦争について語った。この後計画している特別回にて、大日本皇国の辿った大東亜戦争の歴史は解説していくので、今回は解説を見送らせて貰おう。

さて、神谷の仕事は終わり一度マイハークにある駐屯地に帰還した。一日そこで兵士達に混じって訓練をしたり、兵員食堂で食事を取って兵士達との交流を深めた。因みに訓練には無断参加だった為、安定の鬼軍曹が「貴様は何者だぁ!!」と怒鳴った相手が神谷で、顔面が真っ青を通り越して抜け殻みたく真っ白になったりしたのは別の話。

 

 

「それじゃあ行ってくる」

 

「お気を付けて」

 

神谷は翌朝、40式小型戦闘車に乗って冒険に出発した。目指すはマイハークから車で二時間ほどにある街で「プランツァーリ」という場所を目指す。ここは冒険者に仕事を斡旋し、冒険者の管理を行う組織である「冒険者組合」の本部が置かれており、此処で周辺の地理情報を得ようという訳である。ファンタジー系ゲームの定番である。

まあ普通の冒険者と違って馬車は装甲車、剣は銃、鎧は機動甲冑と「最強でニューゲーム」状態であるが。

 

 

 

二時間後 プランツァーリ 冒険者組合本部

「へぇー、イメージ通りな建物だな」

 

目の前にはレンガ造りの二階建ての建物があった。看板には「冒険者組合」とある。面している通りには、明らかに衛兵や騎士とは違う鎧や武器を身につけた者が多くおり、異世界ファンタジー系のゲームやアニメで見る世界、そのまんまであった。

 

「あ、初めて見る顔ですね。冒険者組合への加入ですか?それとも、別の街の冒険者さんですか?」

 

中に入ると列が幾つかあり、適当な列に並んだ。どうやら冒険者に登録する側の列だったみたいで、事務員の様な見た目の職員から声を掛けられた。因みに今の神谷の格好は機動甲冑を脱いでいるので、まさか現職の軍人とは思わないだろう。

 

「あ、いやいや。俺はこの辺りの情報を知りたいだけだ。何分、こっちの方は初めてでね。近付かない方がいい場所とか、見ておいた方がいい場所とか、簡単な略地図とか。そういうのが欲しいんだ」

 

「そうでしたか。少々お待ちください」

 

裏から大きめの地図を取ってきて、丁寧に色々教えてくれた。魔物の出る森とか、きれいな泉のある山とか、珍しい花々がさく平原とか、聞くだけで心が躍る情報だらけだった。

 

「まさかこんな丁寧に教えてくれるなんて。ありがとう、助かったよ」

 

「いえいえ。これも我々の仕事ですから」

 

「所で、隣のアレは飯屋か?」

 

実は神谷達のいるカウンターの隣には、食堂の様な物があるのである。そろそろ飯時で、しかもめっちゃいい匂いでお腹が空いてくる。さっきから気になって仕方がなかったのだ。

 

「えぇ。冒険者御用達の食堂でして、ここの職員と冒険者の皆さんは無料、或いは割引が効くんですよ。あ、勿論一般の方でもお金さえ払えば食べれますよ」

 

「ほお、なら昼飯は此処にするかな。オススメとかあるかい?」

 

「牛鹿の骨付きステーキに、トマトのチーズ煮、アップルピーのジュース辺りですかね?」

 

「よっしゃ!ならそれにするか。ありがとよ、姉ちゃん」

 

「はい。楽しんでくださいね」

 

そんな訳でちょっと早目の昼ご飯を取る事にした。で、いざ頼んでみたのだが想定以上の量が来てしまったのである。見るからに五、六人前はある。流石の神谷も2.5人前位が限度であり、残す訳にもいかないので困っていた。

 

(うわぁ、どうしよー)

 

「それでは我ら、太陽の短剣の結成を祝って!!!!」

 

「「「「かんぱーい!!!!」」」」

 

ふと後ろを見ると、たった今冒険者パーティーが誕生した様だった。少し耳を傾けていると、とある妙案を思い付いた。

 

「にしてもまあ、旗揚げだってのにジュース一杯ずつじゃ侘しいよなぁ」

 

「そうぼやくなって」

 

「うむ。お金は今から稼げば良いのであーる」

 

「僕達ならすぐ稼げるって」

 

とまあこんな感じで、旗揚げだと言うのに金欠でご馳走が無いそうなのである。でもって、こっちは食事が有り余っていて、おもしろい話が聞けるかもしれない。こんなの、声を掛ける以外の答えはない訳で。

 

「あのー、アンタら今日が旗揚げなんだよな?」

 

「え?えぇ」

 

「なのに飯が無いのは寂しいだろう?で、アンタらに依頼なんだが、飯を食うの手伝ってくれねーか?想定以上の量が来て、残すのも勿体無いし。どうだい?」

 

「おぉ!!お兄さん、いいのか?」

 

「いいぜ。食え食え」

 

そんな訳で楽しいランチタイム、スタートである。因みになんかリーダー格の男が遠慮しそうだったので、有無を言わさず席につかせた。

 

「それではもう一回乾杯しようか。ウォーラン、音頭を頼む」

 

最初に神谷の話し掛けた革鎧を身に付けた金髪の男、ウォーランにリーダー格の男が頼む。

 

「よしきた。えぇー、それでは!我ら太陽の短剣の結成と、この心優しきお兄さんとの出会いを祝して!!!」

 

「「「「「かんぱーい!!!!」」」」」

 

全員がグラスを掲げて「キン」という、いい音が鳴る。やはり宴会というのは異世界だろうと、ファンタジー世界だろうと楽しい物みたいで色々な話に花が咲く。今更だがパーティーのメンバーを紹介しよう。パーティーのリーダーで茶髪の双剣使いカーベー、さっきも紹介した野伏(レンジャー)ウォーラン、魔法使いの黒髪少年ペーター、回復系の魔法や大地を操る魔法を使う大男の森祭司(ドルイド)カロンの四人である。

 

「そう言えばさ、お兄さんの名前はなんて言うんだ?」

 

「ああ、そういや名乗るのが遅れたな。俺はアインズって言う。普段は小さなレストランをやっているんだが、偶にこうして旅をするんだ」

 

ウォーランの問いに、念のため偽名で答える。そりゃあ馬鹿正直に「日本軍の総司令やってます。神谷浩三です」なんぞ言える訳ないので、某死の支配者で至高の御方の頂点に立つ人物の名前を拝借する。

 

「アインズ殿、これまで旅してきた中で一番面白かったのは何であるか?」

 

今度はカロンが旅の話を聞いてくる。勿論こっちの世界なんて、戦争か政治交渉でやって来ただけなので適当に作り話を話す。

 

「そうだなあ、やっぱ温泉かなぁ」

 

「温泉、とは何ですか?」

 

パーティーの参謀でもあるペーターが新たな知識を得るべく、聞いた事もない温泉について質問する。

 

「簡単に言うと火山とか地中とかで温められた地下水が吹き出した泉なんだが、この泉は不思議と疲労が取れるんだ。肩凝りとか腰痛とかにも効いて、中には万病を治す物もあるらしい。まあ最後のは流石にデマだろうがな」

 

「そんな泉が.......」

 

「アインズさんは、その泉に入られたのですか?」

 

「おう。メチャクチャ気持ちよかったぞ」

 

他にも色々な日本の事を異世界風に言って、適当に話を合わせる。その後も故郷の話やバリエーション豊かな話題で盛り上がった。そして話題は太陽の短剣の結成に関する話へと進んでいった。

 

「そう言えば、何で「太陽の短剣」ってチーム名なんだ?なんか伝説の短剣にそんなのがあるのか?」

 

「違いますよ。僕達はみんな太陽神の使い、日本軍に助けられた経験があるんですよ」

 

カーベーがそう答えた。聞いておいてアレだが、一応薄々勘づいていたので「あー、やっぱり」と思ってた。

 

「私とペーターはエジェイで守ってもらい、ウォーランは遭難していた所を助けてもらって、カロンは弟を魔物から守ってくれたんです。僕達はまだ弱いけど、いつか日本軍の様に困ってる人を助けられたら良いなと思って、この名前を付けたんです」

 

「そうか。嬉しい限りだ」

 

「「「「え?」」」」

 

(あ!ヤベッ!!!!やらかした!!!!!)

 

「い、いやな。俺のとこのレストラン、近くに日本の基地があるんだ。お陰で常連さんには、多くの軍人さんが居るんだ。その人達に今の話を聞かせたら、絶対喜ぶだろうなってな」

 

「そういうことであるか」

 

「てっきり日本軍の関係者かと思ったよな」

 

そう言って四人が笑ったので、ノリで笑っておくが内心では「っぶねーー!!乗り切ったぞヒャッホーーーー!!!!!」と狂喜乱舞状態であった。「隠し事が下手」と思うかもしれないが、神谷はあくまでも兵士(ソルジャー)であって、諜報員(エージェント)ではないので仕方ない。

段々と料理も減ってきて、名残惜しいが宴も終わりが見えてくる。そこで、一つ問題が発生した。

 

「きれいに残ったな。それも一切れ」

 

「食べたい人ー」

 

ウォーランの問いに、神谷以外の人間が手を挙げる。

 

「全員欲しいんだね。なら」

 

「ジャンケン、であるな」

 

そんな訳で最後の肉一切れを巡る、男達の別に熱くもなければ仁義がある訳でも無い訳でもない、普通のジャンケンが始まった。まあ結果としてウォーランが勝ったのだが、別にこれと言って取り沙汰する事でもないので割愛する。

太陽の短剣は簡単な討伐依頼の準備の為、拠点の宿へと帰っていった。一方神谷は受付のお姉さんに教えてもらった場所を巡るべく、街の外にステルス迷彩で隠してある40式の元へと向かった。しかし異世界というのは暇しない物で、ふと路地裏を見るとエルフの女性が男3人に連れ込まれて行くのが見えた。なんか嫌な予感がしたので、後をつけてみるとちょっと見過ごせない事が起きた。

 

「さあ、服を脱ぎたまえ」

 

「あの、これで本当に村は救われるんですか?」

 

「ああ、我ら太陽神の使いたる日本軍が救ってあげるさ。だから、な?」

 

「代金は貰わないと、なぁ?」

 

まず皇軍たる日本軍人が強姦をすること自体あり得ないのだが、多分読者の方もご存知の事だろうから、今回の論点はそこではない。何を隠そう、この辺には日本軍の基地は愚か、出張所や派遣されてる兵士は一人もいないのである。一応男達は迷彩色の服を着てはいるが、どう見ても日本軍で採用されてる制服では無い。というか迷彩の色が若干違う。

つまり考えられるのは、休暇中のバカ兵士が日本軍を勝手に語ってヤらかそうとしているか、何処ぞのチンピラが日本の紋章を傘にヤらかそうとしているかの二択である。まあどっちにしろ許されざる行為であるが、どっちかによって少し対応も変わってくる。ならやる事は一つ、証拠を集める事である。

 

「アンタら、日本軍なのか?」

 

「あん?何だ、テメェ」

 

「俺はアインズって言うんだが、何を隠そう日本軍のファンなんだ!」

 

普通に素顔で登場しているので日本軍の関係者、というか日本人なら誰もが神谷だと気付く筈である。しかし気付く気配はない。今度は鎌掛けを行う。

 

「所属は何処なんだ?」

 

「あ、え、えぇーと。り、陸軍第一師団だ」

 

「へぇー!なら、あの「北鎮部隊」か!!」

 

嘘である。ご承知の通り北鎮部隊とは、北海道を守護する陸軍第七師団、あるいは海軍陸戦隊第七師団の別名である。第一師団は関東方面が管轄である為、最早「北」ですらない。こんな事も分からないようでは、どう見たって後者である。

 

「引っかかったなクズ共」

 

さっきまでの興奮したような声色から、一気に殺気の混じった低い声になる。チンピラ三人も「え?え?」と、状況を理解できていない。

 

「お前ら、誉高き天皇陛下の指揮する日ノ本の守護者が背負ってる代紋に、クソを塗りたかったんだ。どうなるか、分かってんだろうな?」

 

「え?何、アンタ日本軍なのか?」

 

「そうだとも。そこらの虫けらよりも愚かな能無しのクズに、学習の機会を与えてやろう。俺の言った「北鎮部隊」とは北海道を守護する陸軍第七師団、もしくは海軍陸戦隊第七師団の異名だ。第一師団の管轄は首都を始めとする、関東方面で北ではない。よう覚えとけ」

 

この辺になってやっと能無し性欲丸出しゴリラ三人衆も自分達が不利になった事を理解したのか、懐に隠していた短剣で一斉に襲い掛かった。だがしかし相手は日本軍のトップでありながら、最前線でもバリバリ現役で戦う男。しかも刀で弾丸を切り裂く程の反射神経と動体視力を兼ね備えた、最強の将軍。そんな奴がレミール&ルディアスと同レベルの性欲丸出しクソ野郎に負ける筈もなく、メタルギアのBIG BOSSみたく連続CQCで無力化してロープで縛っていた。

 

「あ、あの!助けてくれてありがとうございます!」

 

軽く存在を忘れていたエルフの女性が頭を下げて、お礼を言って来た。

 

「気にするな。俺はコイツらが日本の代紋を勝手に使って、好き勝手やろうとしていた事が気に食わなかっただけだ。日本軍の人間は弱者を痛ぶる様な、蛮族みたいな真似は決してしない。というかする奴がいたら、問答無用でぶっ飛ばす様な組織だ。だからこれからは、日本軍を語るクズについて行くなよ」

 

「は、はい!」

 

「じゃ、俺はこれで。コイツらを衛兵の詰め所に送りつけてやらねーと」

 

そう言って三人を無理矢理担いで、衛兵の詰所へと向かう。

 

「あ、あの!せめて、お名前だけでも」

 

「神谷だ」

 

そう言って神谷はその場を去った。だが神谷は知らない。この出会いが、この後の休暇を台無しにする出来事の前兆になるとは。

 

 

 

 



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第二十七話ゴブリン戦争

今回、私の筆が乗りに乗りまくり、なんやかんやでエストシラント最終決戦レベルの物になりました。そんな訳でクソ長いです。アンケートで前後編で分けるかどうか作るので、よろしければご協力ください。


プランツァーリを後にした神谷は、組合で教えてもらった名所を転々と周り、写真を撮ってみたり、なんか川があれば飛び込んでみたりして休暇を夏休み中の少年バリに謳歌していた。しかし、この後神谷の身には休みが消え去る不幸に見舞われる事になる。

 

 

3日後 プランツァーリより25km地点 洞窟前

「ん?なんだ、あれ?」

 

40式小型戦闘車で適当にドライブしていると、小さな洞窟を発見した。洞窟や洞穴は何度か見てきたが、今回は些か様子が異なる。一体何の意味があるのかは知らないが、多分ヤギかヒツジの頭蓋骨と骨で作られた謎のオブジェ、イメージ的には黒魔術を操るババアが持ってる杖の飾りみたいなヤツが棒に突き刺さっていたのである。

 

「別に何かの仕掛けや、何かの儀式って訳でもない、よな?」

 

流石の神谷も困惑である。魔法にしちゃ触ったり叩いた時点で発動しそうだし、別に何かのトラップでも無さそうである。

適当に周りを見渡すが、周りは木々と獣道しかなく、道という道は今まで神谷の通ってきた道と、そこから続く未舗装の一本道しかない。

 

「お?」

 

しかし下に視線を落としてみれば、無数の足跡がある。明らかに大人数で、多分4、5人はここに居たと思われる。そしてその足跡から察するに、恐らく洞窟の内部へと行ったものと思われる。

 

(まあ、行ってみる価値はあるよな)

 

神谷は40式のトランクを開けて、中から銃の入ったアタッシュケースを取り出す。

 

(今回は洞窟内での閉所戦。となるとショットガンである36式散弾銃は外せないな。ドラムマガジン、グリップ、ホロを付けるとしよう。

しかし散弾では中距離の敵には不向き。であれば、37式短機関銃が最適解だ。レーザーがデフォで付いてるし、後はサプレッサーと下にグレポンも付けよう。後は安定の、26式拳銃俺様仕様を付ければ完璧だ!)

 

背中に36式、腰に37式、右脚に26式、左腕にサバイバルナイフを装備して、機動甲冑のヘルメットも被って中に入る。顔を完全に覆ったヘルメットには、様々な情報が映し出される。現在装備してる武器の種類、各種弾薬の残量、アーマーの損耗率、ジェットパックのエネルギー残量、付近一帯の生命反応を読み取る小型レーダーの索敵結果である。

他にもモードを切り替えればサーマル、ナイトビジョンに対応し、集音機能と望遠機能も付いている。因みにこれは長嶺が独自に付けたものではなく、機動甲冑にも装甲甲冑にも搭載されてる標準(・・)機能である。

 

 

「んでまあ、中に入って少し進んだ訳だが。なーんで、入り口の謎オブジェが此処にもあるんだ?」

 

大体300m程歩くと、入り口の謎オブジェが配置されていた。しかし今度のは少し周りを見ると、このオブジェの配置する意味が見えてきた。

 

「成る程。コイツを囮にして、後ろの道を気付かせない為にか。考えたな」

 

丁度オブジェの正面には、来たのとは別の道があった。来た道からみると真横にある形になっており、逆Y字型をしている。その為、今の道でしかも見通しの悪い洞窟内では気付くのは難しい。此処に伏兵でも配置して、そのまま侵入者の跡を付けさせれば挟撃可能という理想的な立地である。

そんなことを考えていると、さらに奥から金属同士のぶつかる音が微かに聞こえた。多分、剣などの武器同士がぶつかる音である。

 

(こりゃ不味い!!)

 

最深部へと駆け出す。すぐに現場に到着すると、神谷の読み通り5人の冒険者がゴブリン15体に襲われていた。数の暴力に加え、幼児くらいの大きさしかないゴブリンと洞窟の狭さという好条件、そして相手が人間で大柄な奴と1人を守るように布陣しており攻勢に転じ切らず、防衛に固執している事から、圧倒的なまでにゴブリン勢が有利であった。

 

「やるか」

 

そう言いながら腰のホルスターから、グレポン用のスタングレネードを取り出し、37式の下部レールに搭載されたランチャーに装填する。

 

「Open Fire!!!」

 

ポン!!

 

空気砲でも撃ったような音ともにグレネード弾が発射され、丁度ゴブリン集団の真上で起爆する。周囲を瞬間的に250万カンデラ以上の閃光と、150デシベルの爆音がゴブリンと冒険者に襲いかかる。

 

「グギャーーーー!!!!!」

「グギャグギャグギャー!?!?!?」

「な、なんだあぁぁぁ!?!?」

「目が、目があぁぁぁ!?!?!?」

 

ゴブリンの耳障りな悲鳴と、冒険者達の悲鳴が洞窟中に木霊する。すかさず岩陰から神谷が飛び出し、ゴブリン共に鉛玉を叩き込んでいく。

 

シュタタタタタ!シュタタタタタ!

 

サプレッサーが付いていることから気の抜けたような音だが、音がデカいと洞窟内で反響して耳が死にかねないので期せずしてアドバンテージがついていた。

 

「おいお前達!!頭下げてろ!!!!」

 

ズドンズドンズドンズドンズドン!!

 

上の文章では「静かでいい」みたいな事を書いていたが、今度は36式を乱射し始める。勿論音が反響して、耳が「キーン」としている。

 

「道が開いた。お前達、早く出口に行け!!」

 

「いやでも」

 

「早く!!!」

 

冒険者の一人が何か言おうとしたが、無理矢理それを遮って出口に走らせる。出口に向かったのを確認すると、37式を適当に乱射して最後にスモークを焚いて神谷も出口へと走る。

 

 

「あ、ありがとうございます。助けてくれて」

 

脱出すると、意外な人物が声を掛けてきた。一昨日にプランツァーリで共に食事を取った冒険者パーティー「太陽の短剣」のリーダー、カーベーである。よく見ると周りの仲間達も、太陽の短剣のメンバーであった。

 

「まさか、こんな形で再開する事になるなんてな」

 

「失礼だが、我らと何処かでお会いしたであるか?」

 

「ああ、メットがありゃ分からんよな」

 

そう言いながら、神谷はヘルメットを外す。出てきた顔に、太陽の短剣のメンバーは目を点にしてフリーズしていた。

 

「アインズさん、ですか?」

 

「お、覚えててくれたか。ペーター」

 

「え?いやいや、ちょっと待ってくれ。アンタは旅が趣味の、小さなレストランのオーナーなんだよな?それが、どうして日本軍の装備を持ってんだ?」

 

「実は「レストランのオーナー」ってのは、嘘なんだ。俺の本職は正真正銘、日本軍の兵士をやってる。因みに本名も、アインズじゃ無くて神谷浩三って言うんだ。好きに呼んで欲しい」

 

流石に「日本軍の中でも最精鋭部隊に位置する最強の部隊の指揮官で、日本軍全体の指揮官でーす」とは言えないので、無難に「間違いではないけど、ちょっと違う」というのを言って誤魔化す。

 

「では神谷殿、何故貴殿がここにいるのであるか?」

 

「食堂で言っていた通り、ただの観光だ。いつもは日本本土にいるんだが任務の兼ね合いでこっちに出張する事があったから、そのタイミングで休暇とって、この辺りを旅する事にしたんだ。

で、組合で聞いた名所というか観光スポットを回ってたら、その謎オブジェと足跡を見つけて、試しに入ってみたら再会を果たしたって訳だ」

 

「そうだったんですね。我々の命を救ってくださって、ありがとうございます」

 

ウォーランが頭を下げると、残りの3人も頭を下げる。話を聞くと、どうやら死角になっていた道からゴブリンに挟撃されて死に掛けていたらしい。

 

「ところでさ、なんかさっき助けた時に1人増えてた気がするんだが」

 

「えぇ。今回は案内役に今回の依頼主である、ハイエルフのヘルミーナさんが同行していたんです」

 

ウォーランがそう答えるが、今度は別の疑問が浮かんでくる。そのヘルミーナが、見た感じ何処にも居ないのである。

 

「因みにヘルミーナちゃんなら、沢に水を汲みに行ってるぜ」

 

ウォーランがエスパー並みの察しの良さで、疑問は即刻解決された。数分後、茂みの奥からエルフの女性が出てくる。イメージ通りの容姿で、緑色の服に金髪ロングのスタイル抜群な女性がである。

言うまでもないが、神谷の心中は「やったぜパツキン巨乳エルフ!!やったぜ異世界!!やったぜおっぱい!!(((o(*゚▽゚*)o)))」となっていた。

 

「ヘルミーナさん、こちら我々の恩人。日本軍の神谷浩三さんです」

 

「先程は助けて頂き、ありがとうございました。ハイエルフ、ナゴの森部族、族長バーラスが娘、ヘルミーナ・ナゴ・パカランです」

 

イメージ通りの優雅な礼に、更にテンションが上がる。だがしかし浮かれるわけにもいかないので、しっかり返礼を行う。

 

「大日本皇国統合軍、参謀本部将校(嘘ではない)、神谷浩三だ。疲れている所悪いが、現在の状況及び彼等への依頼についてお聞かせ願いたい」

 

そう神谷が言うと、ヘルミーナは悲しそうな目をしながら説明してくれた。一月程前から、村にゴブリンがやって来て小競り合いが絶えなくなった。最初は畑や食料庫を荒らされる程度だったが、ゴブリンの行動は日増しにエスカレートしていき最近では倉庫や家に火矢を打ち込んでくるようになった。そしてとうとう数日前に死人が出てしまい、冒険者パーティーに調査を依頼したんだそうだ。

 

「でも、もう一つ問題が起きたんです。私の幼馴染の親友が、ゴブリンに攫われたそうなんです。その救出をお願いして、痕跡を辿ってみると此処に行き着きました」

 

「成る程。じゃあ、もう一回潜るとするか」

 

「おいおい兄ちゃん、それは流石に危険だ。さっきので多分ゴブリン共も、凶暴になってる」

 

「それが?その程度で、この俺の進撃を止めれるものか」

 

そう言うと神谷は洞窟の中へと入っていく。慌ててその後ろを5人が付いていき、来た道を戻っていく。今度はゴブリンには出会う事なく、さっき太陽の短剣と合流した少し開けた場所まで来れた。

しかし次の瞬間、神谷の真横から黒い影が襲いかかってきた。

 

「グオォォォォ!!!!」

 

「うおっ!?」

 

「ホブゴブリン!?」

 

正体は身長が大体2m位の巨大なゴブリンだった。デカい図体のイメージ通り、格闘を得意とするタイプの様だ。だがしかし、多分脳内まで筋肉なのだろう。動きが単調すぎで、所謂「当たらなければ如何と言う事は無い」系のヤツである。

 

「ホブの攻撃を全部避けてる.......」

 

「ねぇ、ウォーラン。アレって、真似できる物なの?」

 

「無理に決まってんだろ!!一撃で全身粉砕骨折待った無しだって!!」

 

ペーターの問いに、超全力で否定する。因みに言っておくが、あくまで神谷自前の身体能力だけで避けており、ジェットパックとかグラップリングフックの様な便利お助けアイテムは使用していない。

 

「流石に遊ぶのにも飽きてきたな。そろそろ決めるとしよう」

 

そう言うと徐にホブゴブリンの左腕を掴むと、そのまま投げ飛ばす。某金属の歯車の主人公達、そして史実でいう初代の主人公に人生全部捧げた山猫の得意なCQCである。

 

「グギャ!?!?」

 

「グサッとな!」

 

そのまま左腕に装備したナイフを抜いて、それをホブゴブリンの喉に突き立てて絶命させる。

 

「やっぱ化け物だとしても、人間と急所は変わらないみたいだな」

 

「神谷様!ご無事ですか!?」

 

ヘルミーナが小走りでやってくる。ナイフの血を拭いながら、「問題ない」と一言答えるとまた奥に進みだす。

 

 

「っと、この先が本陣だな」

 

「分かるんですか?」

 

「カーベーよ、この兜をただの兜と思わん事だ。戦闘に役立つ便利機能満載だからな。敵の位置が分かったり、音を集めて判別したり、望遠鏡の替わりにもなる」

 

「日本の科学力は凄いんですね」

 

「ハハ。そうだろ?だが今は、目の前の敵に集中だ。スタングレネードを投擲後、3カウントで突入する」

 

そう言いながらランチャーにスタングレネードを装填し、それを先にある敵陣への入り口を向けて撃つ。

 

キーン.......

 

「行くぞ!!突入!!」

 

5人が一斉に中に突入するが、神谷が敵を瞬く間に排除してしまう。中には5匹のゴブリンが居たが、その全てを神谷が10秒足らずで排除してしまう。

 

「ルームクリア」

 

「シャミー!何処なのシャミー!!」

 

ヘルミーナは親友の名を叫びながら、辺りを走る。神谷も辺りを探そうとすると、足元が妙に柔らかかった。

 

「ん?」

 

視線を下に落とすと、そこには四肢を切り落とされた女性の亡骸があった。裸にされ、股の辺りには赤混じりの白い液体が出てきており、一眼でヤラれた後とわかる。そして多分、死んでまだ間もない事も。見開かれた瞳の瞳孔は開ききり、虚空を見つめている。

目に手を翳し、そっと撫でて目を閉じさせる。

 

「ヘルミーナ、多分お探しのシャミーだ。だが、見るなら覚悟しろ」

 

「覚悟は.......できております」

 

「なら止めない」

 

そう言うとヘルミーナは、余りに変わり果てた親友の骸と対面した。一目で分かる傷跡や歯形を見て、その場で泣き崩れていた。

 

「ヘルミーナ、流石にこの姿を晒すのは忍びねーだろ?それにこんな汚物共の住処には、これ以上居させるわけには行かない。悲しみは分かるが、今はシャミー連れて洞窟を出るとしよう」

 

「わかり.......ました.......」

 

即席で担架を作り、遺体をそこに乗せて外へと運び出す。そのまま一行はヘルミーナの住む村、ナゴ村に向けて走り出す。

 

 

 

数十分後 ナゴ村

「何者か!!姿を見せよ!!!!」

 

部族の戦士の男数人が、弓を構えて此方に向けてくる。そりゃいきなり謎の走る鉄の塊が来たのだ。当然の反応と言えよう。というか多分こうなるだろうと考えていたので、神谷は練っていた対応を行う。

 

「別に怪しい者じゃない!!アンタらの族長の娘と、その娘に雇われた冒険者!!それから攫われた娘を乗せている!!!!確認したいなら、好きに確認してくれ!!!!」

 

そう叫ぶと村の中から、剣を持った戦士が3人出てくる。1人が神谷に剣を突きつけ、残り2人が装甲車の中に入ろうとするが

 

「これ、どうやって入るんだ?」

 

「叩くか」

 

開け方が分からず、剣で叩き始める。

 

「ちょちょちょ!!幾ら開け方分からんでも剣で叩くヤツがあるか!?」

 

「動くな!!」

 

「だぁーもー!!わかった!!動かねぇから物騒な物を向けんな!」

 

そう言って、どうにかこうにか扉の開け方をレクチャーして中を改めてもらう。通行証の代わりにもなるヘルミーナが乗っていた事で、3秒で臨検は終わった。

 

「男。族長がお呼びである、此方へ」

 

「悪いが、先に攫われた娘の家族に合わせて欲しい」

 

「何故?」

 

「せめて、届けるまで立ち会うのが筋って物だろ?」

 

多分高位の役職であろう中年男性の静止を無視し、ヘルミーナにシャミーの家族が住む家に案内してもらう。

 

「あぁ、ミーナちゃん。帰ってきたんだね」

 

「はい、おばさま。あのシャミーなんですが」

 

「無事だったのか!?」

 

「それは.......」

 

シャミーの両親は、この反応で全てを察した。父親は「そうか」と呟くと俯き、母親は声を殺して泣いていた。

 

「御両人、娘さんの亡骸を運び出して来ています。せめて亡骸だけでも、家に帰らせてやってください」

 

「アンタは、一体誰だ?」

 

「私は大日本皇国軍の者です。休暇でシャミーさんの攫われた洞窟の近くを通り掛かり、成り行きでシャミーさんの捜索を手伝っていました」

 

後ろにいるウォーランとカーベーに合図を送り、トランクの中に収めていた担架を出して家に運んでもらう。

 

「ヘルミーナ、後は君に任せたい」

 

「わかりました」

 

「では、族長の元にお連れします」

 

今度こそ高階級の男に連れられ、村の中でも一番大きな建物の中に通される。

 

「族長、ヘルミーナお嬢様をお連れした男を連れて参りました」

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

中に入ると数名の男達がおり、その中央に眼帯を付けた50代くらいの男がいた。どうやら、その男が族長らしい。

 

「男、名をなんと言う」

 

「神谷浩三だ」

 

多分下手に出ては殺されかねないことを察し、堂々と正面から敬語も使わず対等に話す。周りの男達の内の一人が「無礼者!!平伏し、敬語を使わぬか!!」と言ってくるが無視する。

 

「男、頭をたれよ」

 

「ハ?嫌に決まってんだろうが。アンタが此処でどんだけ偉いか知らないが、俺はロクな挨拶すらしない者に下げる頭は持ち合わせてない」

 

族長も頭下げろと言うが、勿論こっちも反論し断固として頭を下げない。

 

「お父様!!!!この方に助けを求めると仰っていたのに、何を下らない意地を張っているのですか!?!?今、そんな暇はないでしょう!?!?!?」

 

「いや、これはだな」

 

「言い訳無用!!邪魔ですからあっち行ってください!!!!」

 

「いやだが」

 

「行ってください!!!!!」

 

「はい.......」

 

スゴスゴと別室に移る族長と部屋にいた男数人。いきなり入ってきた金髪ショートの女性に、さっきまで何か如何にも強そうなオーラを出してた族長が負けた事に、流石の神谷もポカーンとしていた。

 

「神谷様、でしたよね」

 

「あ、あぁ」

 

「まさか、こんなにも早くお会いできるとは思いませんでした。族長の娘で三女のミーシャと言います。以後、お見知り置きを」

 

「まさか、アンタは街であったエルフか?」

 

「そうですよ」

 

なんと目の前のエルフは街で、皇国軍人を騙るクズから助けたエルフだったのである。あの時は路地裏だった事もあって、顔まではよく覚えていなかったが今見てみると確かに、あの時助けたエルフであった。

 

「神谷様もヘルミーナ姉様から、この村の現状はお聞きだと思います。どうか、この村を救う為に協力しては頂けませんか?」

 

「まずは詳細な情報を教えて貰いたい。協力する、しないは、その後だ」

 

「わかりました。では、こちらへ」

 

今度はミーシャに連れられ、外にあるテントに通された。そこにはイメージ通りなら、恐らくダークエルフと思われる銀髪ロングとポニーテールの女性が居た。そう言えば重要な事を言い忘れていたが、3人とも結構ボインボインである。何がとは言わないが、ボインボインのバインバインである。優秀な同志たる叡智な賢者諸氏であれば、これだけで察して頂けるだろう。

 

「ミーシャ、その人族の男は何者だ?」

 

「アーシャ姉様、私がプランツァーリで助けられた話はしたでしょう?その時助けてくださった方で、今回ミーナ姉様を連れてきた方よ」

 

「そうか。我が姉が世話になった、えーと」

 

「神谷だ。神谷浩三」

 

「神谷殿、姉貴が世話になった」

 

「気にすんな」

 

適当に挨拶を交わして、友好関係を築く事に成功する。アーシャと呼ばれた銀髪ロングの隣、同じく銀髪でポニーテールの方を見てみるが視線が下に固定されたまま動かない。

 

「なあミーシャ。これは.......」

 

「.......眠ってますね」

 

「.......誰ぇ?」

 

「あっ起きた」

 

何か、何の予備動作もなくいきなり目を覚ます銀髪ポニーテールの巨乳ダークエルフ。

 

「レイチェル、お客様よ」

 

「じゃあミーシャ姉が対応すれば良いじゃん」

 

「そうじゃなくて、せめて挨拶位はしなさいって事!」

 

「えぇー?別に良いじゃん」

 

「良くない!」

 

なんかどっかのアニメにでも出てきそうな状況に、終始苦笑いしっぱなしである。しかし、ここで神谷にある疑問が湧く。

 

(そういや、コイツらって姉妹は全部で何人いるんだ?)

 

そんな疑問について考えていると、テントにまた知らないエルフが入ってきた。今度は銀髪の大きなツインテールが特徴的なエルフで、なんかアニメだとツンデレキャラになりそうな見た目をしていた。

 

「姉さん達、偵察から戻ったわ」

 

「ご苦労様、エリス」

 

「それで、何か分かったか」

 

「えぇ。それも、とてもヤバい事がわかったわ。それよりも、何で神聖なハイエルフ族の村に人間が居るのよ!!」

 

見た目に反さず、神谷の予想もバッチリ当たった。ツンデレキャラもしくはドギツイ性格の持ち主だと。すぐにミーシャが恩人である事を説明するが、やっぱり聞く耳を持たない。しかしここで、エリスを黙らせる強力な一撃が横から入る。

 

「そもそも、何で弱小な人間を頼ろうとするのよ!?!?」

 

「エリス、少し言葉が過ぎますよ」

 

「ミーナ姉さんは黙ってて」

 

「いやよ。エリス、貴女はホブゴブリン相手に格闘で倒せるのかしら?」

 

「何を言ってるの、出来るわけ無いじゃない!!」

 

因みにこの世界におけるホブゴブリンは、ゴブリンの上位種であり若い男性の骨を難なくへし折れるパワーを持っており、普通は後方から弓や魔法で倒す。神谷の「CQCかける」というのは、この世界の常識じゃ自殺行為以外の何物でもない。

 

「そうでしょうね。でもこの神谷様は、格闘技、えっと確か名前は「キューシーシー」と言ったかしら?」

 

「QCCじゃなくて、CQCな。Close Quarters Combat、近接格闘という意味だ」

 

「そのCQCを使って、ホブの攻撃を容易く避けたり捌いたりして、最後は軽々と投げ飛ばしたのよ。そのままナイフを喉に突き立てて、倒したわ。そんな事が出来るのに弱小なのかしら?」

 

そう言われると、流石に反論しようがなく押し黙る。

 

「エリス、話が済んだのなら偵察結果を教えて欲しいのだが?」

 

「.......わかったわ」

 

「ミーシャ、悪いが外の冒険者を呼んで来てもらっていいか?生憎、俺はこっちの世界の事については疎いからな。彼らの知識は、必ず役に立つ」

 

「わかりました」

 

数分後、太陽の短剣のメンバーを交えての作戦会議が開かれた。勿論エリスは噛み付いたが、ヘルミーナ&ミーシャの無言の圧力に負けて直ぐに黙った。

 

「ではこれより、作戦会議を始める。エリス、報告を」

 

「状況は、はっきり言って最悪よ。ヤツら、ロードによって統率されていたわ」

 

「はい質問。ロードって何?」

 

「ロードというのは、ゴブリンの上位種の一つです。ロード単体の戦闘能力はホブより少し強い程度なのですが、統率力や指揮能力に特化した個体です。

因みに上位者には神谷さんが洞窟で倒したホブ、魔法に特化したシャーマン、狼に騎乗するライダー、6mから大きい物だと10mを超える巨体を持つチャンピオン等があります」

 

神谷の問いに、太陽の短剣の頭脳ペーターが答える。

 

「規模はどのくらいな訳?」

 

「確認できただけでもチャンピオン8、ホブ24、シャーマン40、ライダー60、ゴブリン600以上よ」

 

神谷以外の全員の顔が、一気に暗くなる。この世界においてこんな数に対抗できるのは、有力武闘派諸侯の私兵軍隊か正規軍のみであり一つの部族が対抗できる物量ではないのである。

 

「この規模なら、確実に肉の盾を使うな.......」

 

ウォーランの呟きに、今度はアナスタシアが質問した。

 

「ウォーラン殿、肉の盾とは?」

 

「ゴブリンが人やエルフと言った、ヒト型生物の女性を攫うのは知っていると思います。基本はゴブリンを孕ませる為の道具として酷使されますが、用済みとなると今度は食料として食われるか、弾除けの盾として使われるんです。板に裸の女性を括り付けて、先頭に置き攻撃の意思を挫かせるヤツらの常套手段です」

 

ウォーランの答えに、女性陣の顔は更に暗くなっていた。多分、負けた時の事を想像しているのだろう。特にヘルミーナに至っては、そうなってもおかしくなかったのだから余計に恐怖である。

 

「所で、こっちの兵力はどの位だ?」

 

「剣士100、弓兵200、魔術師30ですよ」

 

「防衛設備は?」

 

「櫓が各方位に一つずつと、後は柵と逆茂木くらいしか」

 

予想通り「籠城」なんて大層な事が出来る防衛能力がなく、苦虫を潰したような渋い顔になる。しかし乗りかかった船であるし、そもそも皇国軍人として死に直面している人々を見捨てる選択肢は存在しない。神谷は懐から端末を取り出し、立体映像を起動する。

 

「何これ!!何これ!!」

「魔法か!?!?」

「すごい.......」

 

立体映像なんて初めて見る神谷以外の人間は、キャーキャー言って騒いでいた。まずは周辺の地理状況を確認すべく、村の周りを映し出す。

周りの地形は神谷達のやってきた森林地帯を南に持ち、東には大きな川、西は山があり大部隊の侵攻には適さない。となると北側の平野部が部隊を展開するには最適であり、恐らく敵の本隊はここから来ると思われる。

 

「よし。おい、アーシャと言ったか?一応アンタがここの村の戦士の長と考えて良いんだよな?」

 

「そう捉えて貰って問題ない。アーシャはあだ名で、本名はアナスタシアだ」

 

「わかった。ではアナスタシア殿、今回の戦の全指揮権をこの神谷浩三にお譲り頂きたい」

 

そう言って頭を下げる。指揮権を貰おうとする以上、礼儀を尽くすのが道理というモノである。

 

「いいだろう。神谷殿、作戦はあるのか?」

 

「当然。多分ゴブリンは北側の平野部から、大部隊を侵攻させ残りの三つには恐らく少数精鋭の部隊、例えばチャンピオンだとかホブ何かが来るくらいだと思う。そこで、だ。まず戦士を一つの集団ではなく、無数の小集団に細分化し部隊を逐次展開、移動させやすくする。裁量は任せるが、剣、弓、魔法を別々にした上で大体一個部隊10人を目処に編制してほしい。また一つだけ精鋭部隊を作るから、そこには20人程度で剣、弓、魔法の区別なく編制して一つの戦闘群として動かす。

それから戦士階級以外の大人と、まあまあ自己判断で動ける子供を衛生兵と補給兵として運用するから、こっちについても編制をしておいてほしい。後は老人組や今手空きの者は、女子供を問わずに広場に。戦士階級の者は北側の出入り口にそれぞれ集めて欲しい」

 

「わかった」

 

今度は携帯を取り出して、マイハーク駐屯地に空中投下である物を落とすように指示を出し、その後は自分の副官である向上に連絡を取った。向上に連絡を取った理由は、もう言わなくても分かるであろう。

 

 

 

一時間後 広場

「皆、今この村がどんな状況か知っていると思う。今更言うつもりもないが、この戦いに負ければ悲惨な運命を辿るだろう。だかしかし!!今ここで、諦めては悲惨な運命を受け入れたも同義!!!!お前達も生物の頂点たる人間種であるならば、そんな悲惨な運命に抗って見せよ!!!!!!」

 

そう言うと周りの男達が叫び上げた。その叫びが、部族を纏める物に変わり統一感が生まれたのである。そして神谷は、即席火炎瓶の作り方を話し出した。本来危険だが、こんな時に危険もへったくれも無いので無理矢理火炎瓶を作らせる。

ちなみに作っているのは、灯油とガソリンに砂糖を混ぜた燃え広がるタイプの物である。草原が燃える事によって敵に混乱を与えやすくなり、運が良ければ一酸化炭素中毒で死んでくれるかもという淡い期待もある。

作り方を教え終わると、今度は戦士達を連れてクレイモアと地雷を仕掛ける。所謂「ベルナドット隊長の面攻撃戦法」を用いるのである。詳しくはヘルシングを見よう。

 

 

 

数時間後 23時頃 北側平原

「来た」

 

現在神谷は蛸壺に入って、48式狙撃銃を構えている。無線で全員に報告し、戦闘準備を指示する。と言っても、まだ射程外で何もできないのだが。

 

「さあ、初手は狙撃からだ」

 

パシュッ!パシュッ!パシュッ!

 

サイレンサー付きの48式から12.7mm弾が発射され、前衛のゴブリンを確実に射殺する。それに浮き足立ったのか、例の「肉の盾」を出して突撃を開始する。

 

「第1魔法隊睡眠系の魔法を行使。効果が確認され次第、第2〜第5剣士隊は肉の盾を回収。付近の衛生部隊に受け渡せ」

 

指示通りに動き出した部隊が、肉の盾を回収する。狙撃と肉の盾が回収され、思惑が外れたのと謎の攻撃で完全に浮き足立つ。そしてゴブリン達は、突撃戦法を取って唯前に走る。勿論シャーマンが魔法で援護しようとするが、神谷の狙撃とエルフの魔法使いによって潰されていく。

 

「神谷様」

 

「ヘルミーナ、そろそろ仕掛けを使う。こっちに来い」

 

そう言って狭い蛸壺の中に押し込む。所が一つ、大誤算があった。思ってたよりヘルミーナがバインバインだった為、背中が極楽状態なのである。

 

(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け)

 

念仏の如く「落ち着け」と連呼し、どうにか心の平穏を取り戻す。そうこうしていると、丁度仕掛けの位置にゴブリンが差し掛かった。

 

ドガン!!

 

足元に仕掛けたC4を起爆し、ゴブリンの侵攻を一時的に止める。そして間髪入れず、クレイモア地雷を起爆させる。

 

ドガン!ドガン!ドガン!

 

「ビンゴ」

 

「アレが仕掛けですか?」

 

「あぁ。まずC4で侵攻を止め、間髪入れずにクレイモア地雷を起爆させる。殺気も気配もない場所がいきなり爆発し、瞬時に扇状の加害範囲を内蔵された700個の鉄球が超速で埋め尽くす。こんな絵に描いた様な大部隊での攻撃に、クレイモア地雷は地獄だ。一個のクレイモアに700個、120個設置してあるから合計84,000個のボールベアリング。避けれる物なら避けてみろっつの。

よーし、全弓兵部隊。優先的に特殊矢を使って、火線を貼れ。面だ。面攻撃を徹底し、連中の頭を抑えろ!!」

 

今回、弓兵部隊にはある特殊な矢が配備されている。矢の下に筒状の物体がついており、これは後々の攻撃で役立つ様な細工がしてある。詳しくは後述するが、現在ゴブリンは無数の矢の雨を受けている。矢を防ぐ盾を配備しておらず、被害は拡大している。

 

「で、そういや何でお前がここに?」

 

「えっと、ウォーラン様が偵察に出たのですが、どうやらゴブリンの数に誤りがあったそうです。まだ後方に最初の報告と同等数のゴブリンがいると」

 

「うわマジか。だが、案外いけるかもな。思ったよりクレイモア攻撃と今の矢攻撃で、殆ど壊滅している。個々に敗走までしてる始末だし、まだこっちには火炎瓶が残ってるしな」

 

そんな事を話していると、今度は狼に騎乗したゴブリンライダーの一団が突っ込んでくる。

 

「って、今度はライダーが馬鹿の一つ覚えみたいに突っ込んできたか」

 

「か、神谷様!!危険ですよ!!!!」

 

「大丈夫、大丈夫。ライダーなんて、俺にとっては鴨が鍋とネギを背負ってきたレベルのボーナスキャラだ。耳、防いでろよ」

 

そう言うと神谷は、足元から42式軽機関銃を取り出す。

 

ドカカカカカ!!ドカカカカカ!!ドカカカカカ!!

 

9mmライフル弾の弾幕が展開され、ゴブリンライダーを狼ごと屠っていく。直線での機動力の高いゴブリンライダーだが、速度が速い分左右に避けるのは苦手であり、機関銃は最大の天敵である。その為、今までのゴブリンの中で一番早く全滅させられたのである。

 

「ヘルミーナ、一度本陣に帰還しろ。多分、アイツらも何かしら仕掛けてくるぞ」

 

「わかりました」

 

そう言ってヘルミーナを返した数分後、ゴブリン達がまた徒党を組んでやって来た。

 

「全剣士部隊、補給部隊を連れて前進せよ。瓶を使う」

 

これまで暇を持て余していた剣士達は、意気揚々と門を出て草の生えていない位置に陣取る。

 

「やっほー、神谷さん。剣士部隊と補給部隊連れてきたよ」

 

剣士部隊の指揮官であるレイチェルが、神谷の横に来た。

 

「にしても、この瓶って投げたらどうなるわけ?」

 

「まあ見てな。そろそろ来るぞ、タイミングは指示する」

 

「りょーかい」

 

大体50m切った位で火炎瓶の投擲を指示する。剣士達と一部の補給部隊の奴も混じって、半信半疑の火炎瓶をぶん投げる。地面に当たって割れると、一気に炎が燃え上がる。

 

「え!?スゴッ!」

 

「おもしれーだろ?火炎瓶って武器だ」

 

「そのネーミングセンスはどうかと思うよ?」

 

「それは名付けた奴にいってくれ」

 

短時間で数百本の火炎瓶が割れ、辺り一面火の海となる。これだけでもパニックになると言うのに、さらに追い討ちをかける。先程、矢に筒を付けていたと書いてあったのを覚えているだろうか?あの筒には中に火薬やガソリン、他にも引火すると煙を出す化学物質を入れており、爆発したり色とりどりな煙を発生させてパニックを引き起こさせる。

 

「なんか、ゴブリンが可哀想に思えてきたよ」

 

「あっち側にはいたくねーよな」

 

レイチェルとの会話を他所に、横では戦士達が大歓声を上げていた。しかしこの歓声は、すぐに静まる事になる。

 

『こちらアナスタシア。神谷殿、すまない。ゴブリンの軍勢に侵入された』

 

「見張りは!?」

 

『どうやら別の盗賊に既に倒されていたらしい。今その盗賊は捕らえているが、すぐに戻って欲しい』

 

「わかった。アナスタシアは精鋭を従えて、迎撃にあたれ。俺たちもすぐに行く」

 

神谷達は部隊を連れて、村の中に戻る。村の中はさながら地獄であった。見渡す限り死体、死体、死体。中には齧られた物もあり、エルフの中には吐くものもいた。

 

「急げ!!今は死者に構う暇はないぞ!!!!」

 

村の中心部に行くと、族長とその娘達が戦っていた。相手はゴブリンチャンピオンである。

 

「アーシャ、伏せい!!」

 

「ハイ!!」

 

「エクスプロージョン!!!!」

「サンダースピア!!」

 

族長が上級炎魔法であるエクスプロージョンを、ミーシャが中級雷系魔法サンダースピアを使い、流石にゴブリンチャンピオンも少しよろける。その瞬間を見逃さず、エリスの大剣とヘルミーナの双剣で斬り伏せる。

 

「グオォォォォォ!!!!」

 

「やった!」

 

「気を抜くな!!まだまだ来るぞ!!!!」

 

族長の叫びに、歓喜に沸きかけていた戦士達が絶句した。目の前にはさっき魔法を多用して倒せたチャンピオンが、3体も迫っていたのである。

 

「ちょっと不味いよ、これ」

 

レイチェルもそう呟くが、次の瞬間神谷がジェットパックで空に舞い上がる。

 

「死に晒せ!!!!」

 

48式の12.7mm弾で、目の前のチャンピオンの頭を弾き飛ばす。もう一体には手榴弾を口の中に投げ込み、最後の一体は目玉に36式散弾銃を喰らわせ、上から偶々拾った剣を超速で突き刺して殺した。

 

「あのチャンピオンをいとも容易く.......」

「あの男、やりおる」

「神谷殿は一体何者なのだ.......」

 

「ヤルナ、人間」

 

「あ?」

 

「ダガ、勝敗ハ決シタ」

 

村の奥から煌びやかな装飾を全身に施し、頭に王冠を嵌めたゴブリンが現れる。言わなくてもわかる。ゴブリンロードである。

 

「降伏セヨ」

 

「抜かせ!!お前達、戦え!!!!」

 

そう族長が命令するが、神谷が待ったをかける。

 

「待て。ここは一度捕まった方がいい。というか、生存者を1箇所に集める必要がある」

 

「貴様、捕虜の汚名を着せる気か!?!?」

 

「違うって。いいから、俺に任せろ。今、奴は戦の流れが自分にあると思ってる。まあ実際その通りだが、俺は禁じ手中の禁じ手。言うなれば、ゲームを盤上ごとひっくり返してルールすらも捻じ曲げる切り札を持っている。ここは一度捕まって、時間を稼ぐ」

 

「.......いいだろう」

 

堅物の族長が認めたことで、全員がこの決定に従い武器を差し出した。

 

「で、ロードさんよ。俺たちゃ、どうすりゃいいんだ?」

 

「ソウダナ。平野ニ行ケ」

 

「へーへー。だとよ、皆さん」

 

そんな訳で平野部に連行される。その間、偶々ある死体の塊を見つけた。

 

(ウォーラン、カーベー、ペーター、カロンか.......。アイツら、逝ってしまったか)

 

そう。その死体とは子供を守る様に倒れていた太陽の短剣のメンバー達であった。しかもその前には、1体のチャンピオンと思われる死体もあった。恐らく、一矢報いたのだろう。初めて出会って、少しとは言え冒険を共にした仲間だった者達の死に何とも言えない気持ちになる。

 

(さらばだ、太陽の短剣。またいつの日か、あの世で再会できる事を祈る)

 

心の中でそう唱えながら、恐らく処刑場となる平野に出る。そこには生き残りと思われるエルフ達と、ゴブリン達が揃っていた。

 

「最後ダ、貴様達ノ生キ残リト合ワセテヤロウ」

 

「ほう。中々に優しいんだな」

 

「ソウダ、人間。貴様、我ガ軍門ニ降ルガ良イ」

 

突拍子もない発言に、エルフ達も固まる。

 

「アノ戦イハ、貴様ガ指導シタノダロウ?ソノ力、余ノ元デ使ウガヨイ」

 

「はあ?嫌に決まってんだろ」

 

「何?」

 

「だってさ何が悲しくて戦のイロハもわかってない、弱小ゴブリン軍団の指揮を取らないかんの?そもそも、初手の突撃。アレ何?盾もない、ちょっと予想外のことが起きるとすぐパニック、オマケに敵前逃亡で勝手に前線から消える奴まで出てくる始末。村に奇襲かけるのは良してして、何でパワータイプであまり機動力のないチャンピオンを村のしかも建物の多い場所で使う?あれじゃあ、折角の強みが台無しじゃねーか」

 

どんどんぶっちゃけていく神谷に、みるみるゴブリンロードの顔が変わっていく。そしてまあ、やっぱり怒鳴りつける。

 

「貴様、余ヲ愚弄スルカ!?」

 

「はっ!何が愚弄するかだ、コノヤロー。テメェの頭が足りてねーんじゃ、ボケが!!!!それにな、お前、この俺に「我が軍門に降れ」とかほざいてたよな?俺が忠誠を誓うのは、この世で唯一人。天皇陛下を置いてあり得ない!!!!!!それに、アンタは本当に詰めが甘い。全てがこの俺の手の平の上で進んでいると言うのに、態々全員をこんなひらけた場所に集めてくれた。まあ最初なら他のエルフや、アンタの部下もいたのは嬉しい誤算だったがな」

 

「貴様、何ヲ言ッテ」

 

「さあロード、第二ラウンドと行こうぜ。相手はエルフ族ではなく、世界最強の精鋭部隊だがな!!!!」

 

次の瞬間、ロードの後ろに控えていたゴブリンライダーの集団が吹き飛ぶ。何事かとロードが振り返るとそこには、正確にはその上には何かが飛んでいた。

 

「どうした、戦いのゴングは鳴ったぜ?あ、それともこっちの準備が終わるまで待ってくれるのか?優しいねぇ。だかその甘さは、身を滅ぼすがな」

 

今度は真夜中で真っ暗な筈の夜空から、白い光が無数に降り注ぐ。ゴブリン達もエルフ達も、皆一様に空を仰いだ。そこには鉄の塊が空を飛ぶと言う、ありえない光景が広がっていた。

 

「あれはなんだ!?」

「鉄の塊が空を飛んでるぞ!?!?」

「神の再来か?」

 

そう騒ぎ出すエルフ達。しかし族長は、鉄の塊の胴体にある印を見た。赤い丸と、黒地に白で二本の太刀をクロスさせて、交差している部分に一梃の拳銃の銃口を向けている絵が入っていて、その上に世界地図を背にしたアリコーンが描かれている絵が見えた。

彼らである。世界最強の精鋭戦闘集団である神谷戦闘団、又の名を「国境無き軍団」である。

 

「太陽神の使いだ。日本軍が来たぞ!!!!」

 

この叫びにエルフ達は今まで一番の大歓声を上げ、ゴブリン達は今まで以上に狼狽えていた。そうしている間に神谷戦闘団に所属する隊員達と、白亜衆の隊員達が降下してくる。

 

「よお向上。悪いな、休暇中に」

 

「今度、グッズ奢ってもらいますからね」

 

「わかったよ。だが今は、目の前のゴブリン共を駆逐するぞ」

 

「えぇ。我々を呼んだということは、ゴブリンは抹殺で良いですね?」

 

「あぁ」

 

神谷は向上の持って来た箱から、愛刀の太刀とお馴染み「皇国剣聖」の羽織を羽織る。

 

「皆殺しだ。ゴブリン共を生きて帰すんじゃねーぞ!!!!」

 

「「「「「オウ!!!!」」」」」

 

全員が一斉に攻撃を開始する。今まで受けた事も見た事もない攻撃と、絶大な威力を誇る兵器群。あのチャンピオンを持ってしても、38式携行式対戦車誘導弾や29式擲弾銃には太刀打ち出来なかった。

神谷と向上は、目の前のゴブリンロードを相手する。

 

「向上、アキレス腱だ!!」

 

「ハイ!」

 

ズドォン!ズドォン!

 

向上の26式拳銃の12.7mm弾がゴブリンロードのアキレス腱を撃ち抜き、前に倒れる。神谷は向上を踏み台にして上にジャンプし、ジェットパックの加速力をプラスしてゴブリンロードの首を跳ねる。

 

「終わったな」

 

ゴブリンロードが倒された頃には、他のゴブリンも倒され辺り一面血で赤く染まっていた。翌朝から兵士達はエルフ達の救護活動や、村の片付けに当たり始めた。

 

「男、一体何者なのだ?」

 

「俺は」

 

「この御方を何方と心得る!畏れ多くも大日本皇国統合軍総司令長官にして、皇国一の刀の使い手、そして世界最強の精鋭軍団「神谷戦闘団」が団長!神谷浩三大将で在らせられるぞ!!!!」

 

部下の一人がそう答えた。神谷は心の中で「いや、俺は水戸黄門かい」と突っ込んだのは言うまでもない。そしてエルフ達はというと

 

「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」」」」」」

 

超絶驚いたのは言うまでもない。

 

 

 



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第二十八話大波乱のフラグしかない

ナゴ村防衛戦より数時間後 住宅地

「おーい、こっちの材木片付けてくれ」

「って、なんだこりゃ。すんげぇ絡まり方だな」

「知恵の輪じゃないんだから、もうちょい折り重なる様になってくれませんかね、材木さんよ?」

 

現在ナゴ村は、神谷戦闘団の隊員たちによって片付けと事後処理が行われていた。装甲甲冑を装備した兵士たちは、人間重機として重宝されていた。

 

「このまま行けば、予定より早く終わりそうですね」

 

「なんだ向上。えらく嬉しそうじゃん?」

 

「そりゃだって、早く終わればライブに間に合うかもしれませんから」

 

「あ、うん」

 

本気で推しに命賭けてる事を再認識し、軽くドン引き状態であるが敢えてそれをツッコむ必要もない。二人で半壊した街を歩いて行くと、神谷が火炎瓶を作らせた広場に出た。現在ここには、先の戦いで亡くなった者達が安置されている。

 

「いつ見ても、この風景だけは慣れません」

 

「俺もだ。まあ慣れてないなら、俺たちゃまだ人間って事だな」

 

戦って死んだ者、誰かを守って死んだ者、押し潰されて死んだ者、焼死した者、全員死に方は違えど、やはりその遺体の周りには家族が集まって泣いていた。そんな人々の中を通り抜けると、4体の遺体を見つけた。

 

「そうか。お前達も、どうにか遺体は残ったんだな」

 

そこに居たのは、太陽の短剣の面々の遺体である。横にはそれぞれの使っていた武器、リーダーのカーベーなら2振りの剣、野伏のウォーランなら短剣、魔法使いのペーターなら大きな杖、森司祭のカロンならメイスが横に置かれていた。

 

「長官、彼らは傭兵か何かですか?」

 

「所謂、冒険者って奴らだ。俺はコイツらには少なからず世話になったし、こっちの世界で初めて出来た旅を共にした仲間だった。コイツら、日本軍に助けられた経験があるらしくてな。チーム名も旭日旗か日章旗かは知らんが、旗の紋様に肖って「太陽の短剣」って名前にする位、日本軍の理解者でもあったんだ。死んだのは悲しいが、あの世で安らかに眠れる様に祈るしかないよな」

 

「あの、長官?なんか、その4人の死体、光ってません?」

 

「え?」

 

神谷が四人の死体に目を下ろす。確か何故か白く光っていて、段々光が強くなっていき、その内光が少し暗くなったり明るくなったりを繰り返す様になっていった。

 

「ちょ!?!?え!?」

 

「蛍人間ですか!?!?」

 

光が急に収まると、マジで謎すぎる現象が起きた。なんか、増えたのである。どういう事かと言うと、死体は目の前で寝そべっているのに上半身が腹のあたりから飛び出ているのである。ザ・たっちの幽体離脱をイメージして欲しい。

 

「ここは一体.......。あ、神谷さん。あの、ここは何処でしょう?」

 

「いや、え?マジ?」

 

「なあなあ兄ちゃん、隣のヤツは誰だ?」

 

「こんな事って、あり得るというか、あっちゃっていいんですか?」

 

なんと多分幽霊となったカーベーとウォーランが、二人に話し掛けて来たのである。

 

「ここはどこであるか?」

 

「多分、ナゴ村の広場じゃないですか?」

 

なんかカロンとペーターも幽霊化して復活してるし、なんかもう何が何だか分からないカオスである。

 

「なあ、お前ら?お前らの今の状況、わかってる?」

 

「え?」

 

黙って鏡を差し出すと、そこには幽霊となった自分達の姿が写っていた。驚きの余り大絶叫すると、そのまま天使の輪っかみたいのが4人の頭に現れて、そのまま眠る様に天に昇っていきやがて消えた。

 

「いまの、なんだったんですかね?」

 

「いや、知らねーよ。聞いた事ねーぞ、いきなり死んだ奴の魂出て来て、鏡で姿を見せたら大絶叫して、そのまんま昇天って。ぶっ飛びすぎにも程があると言うか、笑えねぇ冗談でしかないだろ」

 

「取り敢えず、お念仏でも唱えますか?」

 

「そうだな」

 

「「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」」チーン

 

もう本当にどうすればいいのか分からないので、お経あげてやるくらいしか思いつかなかった。なんか横に小皿というか、お椀みたいなのがあったのでそれも鳴らしておく。

 

「やっと見つけた、神谷様!!」

 

「ヘルミーナ?」

 

名前を呼ばれたので振り返ってみると、息が絶え絶えになって肩で呼吸している様な状態のヘルミーナが居た。

 

「何かあったのか?」

 

「そ、それが。捕まえていた、盗賊達が、脱走、しちゃって」

 

「それヤバくないか?」

 

「ヤバイですよね」

 

次の瞬間、日本軍が展開している方とは逆にある住宅地に2、3mはある大男が3人現れる。二人は顔を見合わせると、同じタイミングで同じ言葉を発した。

 

「「はっしれぇ!!!!」」

 

大男三人衆のいる場所まで走り出す。暴れている場所に着くと、既に4人のアマゾネス達が居た。

 

「神谷様!」

 

「ミーシャに、お前らも居るのか」

 

「まだ居たのね、ヒト族」

 

「長官、この方達は?」

 

「ここの族長の娘達だ。全員、やり手だから心配はいらん」

 

そう言いながら、2人は自分の得物を構える。まずは神谷も拳銃を構え、眼球や関節などの装甲が薄いであろう場所を狙い撃つ。

 

ズドォンズドォンズドォンズドォン

 

「あークソ!やっぱりダメですか!!」

 

「怯みはするが、決定打には欠けるな」

 

「サンダースピア!!」

「ウォーターブラスト!!!」

 

ミーシャのサンダースピア、ヘルミーナのウォーターブラスト、レイチェルの弓矢で後方支援を行いながら、エリスとアナスタシアが接近戦を仕掛けるが、やはり決定打には欠ける。

 

「お、そうだ。向上!!2分、いや3分持たせてくれ!!!!」

 

「了解!」

 

そう言うと神谷は門の方に走って行き、ある物を取ってくる。

 

「あんのヒト族、逃げたわ!!!!」

 

「神谷殿、てっきり武人かと思っていたのだが」

 

「大丈夫、あの人は仲間を見捨てたりしません。ほんの少しだけで良いですから、私に力を貸してください。時間を稼ぎます」

 

そう言うと姉妹達も一応協力してくれて、時間稼ぎに成功する。そうこうしていると、奥から向上には聴き慣れたエンジン音が聞こえて来た。

 

「皆さん、伏せて!!!!」

 

全員が伏せた次の瞬間、障害物を飛び越えて40式小型戦闘車が飛び出してくる。着地と同時に神谷が窓から体を乗り出して、運転しながら38式携行式対戦車誘導弾をぶっ放す。

 

「51式にも風穴を開ける最強対戦車ミサイルだ。受け取りやがれ!!!!」

 

38式は正確に大男の頭を吹き飛ばす。そして着弾と同時に神谷が「野郎共!!」と叫び、周りに配置しておいた兵士達のステルス迷彩を解除させて奇襲させた。

 

ズドドドトズドドドトズドドドト

キュィィンブオォォォォォォォォォォォォ!!!!!

 

弾幕が展開され、流石に耐え切れず2体とも倒れる。かに思われたが、なんと1体が神谷の方に向かって走り出したのである。

 

「あ!ちょ、其方には行くな!!」

「やめとけって、マジで!!」

「忠告はしたぞー」

 

巨大な手で掴もうとするが、神谷が抜刀する方が遥かに早かった。

 

「邪魔なんだよ、お前」

 

首と腕を肩から斬り落とし、一瞬の内に絶命させてしまう。白亜衆の隊員達は口々に「だから言ったのに」と哀れみの言葉をかけると、死体の片付けを始めた。

 

「って、なんかコイツら、どっかで見た気がする」

 

「神谷様、私を助けてくださった時の事覚えてますか?」

 

「日本の代紋で好き勝手しようとしたって、コイツらその時のか」

 

「私も捕まってるのを見た時は驚きましたよ。しかも襲撃中に盗賊に入ったのも、この3人だったみたいですし」

 

「この国の衛兵の警備体制はどうなってんだ」

 

クワ・トイネの警備体制に文句を言っている中、神谷に冷たくあたっているエリスはその背中をじっと見つめていた。

 

「なんでヒト族に、あんな芸当ができるのよ.......」

 

「それはあの人が皇国剣聖、だからですよ」

 

「うひゃあ!?!?」

 

エリスの呟いた言葉に、向上が答えた。しかしまさか聞かれてた上に答えが返ってくるとは思わず、マヌケな可愛い悲鳴をあげる。

 

「こ、コホン。で、何なのよ。その、皇国剣聖っていうのは?」

 

「長官が数ある将兵の中で唯一人、日本の主であらせられる天皇陛下より賜り、そして名乗る事を許された称号です。あの人に刀を持たせれば、たった一人で師団規模ですら壊滅させられるでしょう」

 

「そんな強そうにはみえないわ」

 

「そうですか?しかし、あの人は見かけによらず化け物ですよ。弾丸を捉える動体視力、無数の弾丸や敵の中から瞬時に驚異度を割り出す判断力、弾丸斬り裂く瞬発力、弾丸を斬り裂き衝撃を受け止める筋力と言った様々な能力が、人間とは思えない程の超高次元で纏まっています。私も動体視力や瞬発力に自信はありますが、長官には敵いませんよ」

 

「ふーん。なら、戦ってみようかしら」

 

「え?」

 

そうエリスが言うと神谷に近づき、嵌めていた手袋を投げ付けた。

 

「神谷浩三、私と勝負なさい!!」

 

場の空気が一気に凍り付く。エルフの姉妹達は神谷が「不敬だ!!」とか言って怒ることを恐れ、向上は勝負を受けちゃう事を恐れていた。

 

(頼むから長官!!受けんでくださいよ!!受けそうだけど)

 

「やろうぜ、勝負」

 

(受けちゃった、受けちゃったよこの人!!)

 

そんな訳で急遽、エリスと神谷の決闘が始まった。

 

「なら、私が見届け人をやろう」

 

「頼むわ、アーシャ姉さん」

 

双方、共に剣を抜く。神谷は安定の二刀流、エリスは両手剣である。互いに相手を観察し、動きを予測する。

 

「始め!!」

 

まず先に動いたのはエリスである。エリスの戦い方は、その身体には似合わない程の馬鹿力で相手を叩き斬るという物。しかもエルフ特有の身体能力の高さもあって、人間相手では余程の強さでないと防ぐ事は出来ない。

 

「取った!」

 

「はぁ、取ってねーよ」

 

エリスの剣が神谷の左肩を捉える直前、神谷は右に身体を動かして剣撃をスレスレで避ける。

 

「何っ!?」

 

「おいおい、まさか初撃で決着がつくなんざ考えてねーよな?」

 

「うるさい!!」

 

そのまま神谷の膝の辺りにスライスするかの様に剣撃を入れようとするが、それもバックステップで避けられてしまう。

 

「なんか拍子抜けだ。もうちょい強いかと思ったが、案外弱かった。だからもう、終わりにしよう」

 

次の瞬間、神谷は地面を力一杯蹴り飛ばす。一気に距離を詰められたエリスは反応が遅れた上、使用武器が重い事から防御姿勢を取るのにタイムラグができてしまう。そして剣を動かすどころか、回避の間すら与える事なく首は刀を突き立てた。

 

「そ、それまで!!勝者、神谷殿!!!!」

 

「やはり、我が見立ては間違いなかったか」

 

向上が振り返ると、眼帯を付けた経験豊富な老兵という出立ちの男がいた。

 

「あの、あなたは?」

 

「申し遅れた。ワシはナゴ村の族長にして、あそこにいる娘達の父。ガロル・ナゴ・パカランである。此度の戦乱の援軍、感謝致す」

 

「あ、いえ。その言葉は私ではなく、総大将の神谷に言ってあげてください」

 

「では神谷殿に「最初にワシと会った場所に、娘達も連れて来て欲しい」とお伝えして欲しい」

 

「わかりました」

 

一時間位経った頃、神谷は5人姉妹を連れて族長の家に向かった。

 

「よく参られた、神谷殿。我が数々の無礼を謝罪すると共に、この村を救ってくれた事、平に感謝致す」

 

「それが俺達の仕事だ」

 

「そうであるか。古来より我が部族は「仇には仇を。恩義には恩義を」を掲げている。その為、貴公にも礼を尽くさせて貰いたい」

 

「いや、俺達は金品は貰えないんだが」

 

「わかっておる。かつて我が部族の先祖達も、魔王が襲来した時に太陽神の使いと共に戦った。戦いが終わった後、お礼に金品を差し出したそうだが、受け取って貰えなかったそうじゃ。だから今回は金品ではなく、これを渡そうと思う」

 

そう言うと族長は、懐から赤い液体の入った小瓶を差し出した。

 

「なんだこれ」

 

「まあ飲むといい。毒でもないし、変な物でもない」

 

「そう言うなら、遠慮なく」

 

そう言うと神谷は、その謎の薬を一息に飲み干した。飲んだ瞬間、度数の強い酒を飲んだ様な感覚が身体中に広がり、喉や身体の芯が熱くなる感覚が襲う。

 

「なんだこれ!酒か?」

 

「違うぞ。さて次の礼、というか御願いになるんじゃが。我が娘達と結婚して欲しい」

 

「ん?娘達。今、達って言ったのか!?」

 

「我が部族には一つの掟がある。それは「命を助けられた者は助けた者が未婚で想い人がいなければ、兄弟、姉妹と共に婚姻関係となる」という物でな。貴公は我が娘のヘルミーナを救っておる。よって、貴公は我が娘達と結婚してもらう」

 

現在、神谷の頭はかつて無いほどにフル回転していた。これが小説の世界なら「ご都合主義だなHAHAHAHA」で済むが、生憎これは現実。幾らなんでも、ぶっ飛びすぎている。というか未だに、頭が追い付いていない。

 

「え、あ、それはもし、断ったらどうなる?その、未婚で想い人もいないけど断ったら」

 

「貴公には何の影響もないが、我が娘達は自殺する他なくなる。そういう掟なのだ」

 

「嘘やん」

 

双方何の影響もないのなら、断ってもいい。そう思っていたが、生死すら関係してくるなら話は別である。

 

(どうする。郷に行っては郷に従え法*1ができたとは言え、流石にいきなりはなぁ)

 

「まあいきなり、というのも無理があるじゃろうて。まずは結婚を前提に付き合ってくれさえすれば、それで良い。日本という国は、ここからとても遠い。たとえ破局したとしても、この部族の人間にはバレまい」

 

「まあそういう事なら良いけど」

 

「では決まりじゃな」

 

そう言って立ち去ろうとするガロルを止める。考えてみたらパスポートやら何やらの手続きが必要なので、その事について色々説明する。

 

「だぁーもー分からん!!!!貴公に全部任せるから、後は頼むぞ!!!!!!」

 

「え、あ!ちょ」

 

しかし説明の甲斐虚しく、丸投げされて奥にすっこんでしまう。仕方がないので、取り敢えず帰還する輸送機に乗って経済都市マイハークのパスポート申請局に向かう。そこで何やらかんやら面倒な手続きをして、一度神谷は帰国。パスポートの出来上がる3週間後、部下をナゴ村に迎えに行かせた。尚、神谷は色々仕事の関係で迎えには行けなかった。

 

 

 

3週間後 ナゴ村

「ここか。閣下の言っていた村は」

 

「何者か!!」

 

「怪しい者じゃありません。神谷長官の使いの者で、ガロル族長のご息女のお迎えにあがりました」

 

迎えの柿田大尉がそう言うと、門が開き中に入る様に言われる。中に入ると族長の家の前まで通され、そこで嫁候補?の5人と合流する。因みにアナスタシア、エリス、レイチェルは武器を持っているが、しっかり許可は取っている。

 

「柿田大尉殿、よろしくお願いする」

 

「確か長女のアナスタシア殿、でしたね。短い間ですが、こちらこそ宜しく。それでは皆さん、どうぞ此方に」

 

リムジンに5人を乗せて3時間程かけてマイハーク港に向かい、民間船舶のフェリーに乗船。東京港を目指す。約2日後、定刻通り無事東京港に入港。そのまま神谷の執務室のある統合参謀本部に向かう。

 

「此処が伝説の国、日本.......」

「黄金はないのね」

「何あれ!壁かしら?」

「人が中に入っていくわよ」

「こんな所に建てては、戦略的価値はないだろうに」

 

思い思いの日本に対する感想を言い合った。初めて見る高層建築、様々な服に身を包む人々、活気にあふれる商店、綺麗な街並み。そこはまるで、神話に出てくる天界の国であった。

 

「どうです、日本の街並みは?」

 

「とても素晴らしい国です。こんな国家があるのですね」

 

「柿田大尉殿。あの壁は一体何なのだ?どうやら人が入っている様だが」

 

「あれはビルと呼ばれる高層建築物ですよ。中は様々な企業の事務所やレストランであったり、酒場でもあったりもしますね。あっちの建物はデパートと言って、食材から服、アクセサリーや雑貨、生活に欠かせない道具までなんでも揃っていますよ」

 

道中、簡単に東京観光を行い、目的地である統合参謀本部に到着する。ところが…

 

「長官ならさっき、緊急の呼び出しを受け首相官邸に行っちゃった」

 

「え!?」

 

「何でも、新たな国交開設に関する話やら何やらでちょっと行ってくる、らしい」

 

「マジですか向上さん!?」

 

「マジマジ」

 

なんと神谷の奴、首相官邸に急遽向かってたのである。流石に官邸に押し掛ける訳にも行かないので、取り敢えず東京観光Part2を行う事になった。で、官邸でどんな話をしていたかと言うと。

 

 

「神聖ミリシアル帝国がコンタクトしてきた?」

 

「ほら、これこれ」

 

「うわ、マジやん」

 

川山に手渡された紙を見るとミリシアルの紋様が描かれており、中身も要約すると「国交開設するから、使節団送る。そんな訳で、受け入れヨロシク!」的な事が書かれていた。

 

「こちらとしては、断る理由がない。神聖ミリシアル帝国ってのは、言うなれば前世界のアメリカだ。今後、国際社会に日本が躍り出ていく時に仲良くしておいた方がメリットは大きい」

 

「外交的にもその方が色々楽だ。まだ国交を結んでいない国や日本を敵対視している国に「ミリシアルと国交がある」ってだけで、大きな抑止力になる」

 

一色と川山が政治と外交の、其々の立場からのメリットを語り合う。しかし神谷は、軍事面としては難色を示していた。

 

「正直、軍事面では強くないんだよなぁ。「虎の威を借りる狐」なんて言葉があるが、日本の軍事力からしてみれば「虎の威をかりる狐に擬態した吉田沙保里」だ。協力しても、精々頭数が増えるだけよ。

しかも奴等、軍事力が高そうに見えるが自前で開発する能力は高くない。その殆どが例の古の魔法帝国とか言う、謎の覇権国家の兵器を丸パクリするか切った貼ったのキメラ兵器だ。物理学やら何やらの設計に関する知識が、すっぽり抜けてやがる」

 

「そんなに酷いのか?」

 

一色が余りの言い様に、珍しく軍事面だと言うのに食いつく。

 

「酷いってもんじゃないぜ?例えばジェット機。ジェット戦闘機は黎明期から第五世代までの6つに分けられるんだが、新鋭機のエルペシオ3は第四世代のF16と第一世代のP59、それに第二世代のYe8を足した様な機体だ。これ、言うならPS4にファミコン足して、ついでにWiiも足した様な世代がごっちゃごちゃの機体な訳。で、速力がレシプロより遅い上、ジェットである以上、小回りが効かない。簡単な話、零戦で勝てる」

 

「零戦って、あの零戦か?太平洋戦争の」

 

「あぁ。多分二一型、初期のモデルでもそこそこの練度の奴なら勝てるだろうぜ」

 

この答えは、のちに開催される先進11ヵ国会議にて明らかになるが、それはまだ先なので、この時の神谷達は知る由もなかった。

 

「それから新たに浩三と慎太郎には、海軍を率いて此処に向かってほしい」

 

「へぇー、こんな山に囲まれた孤島に国があるのか。スゲーな」

 

「流石異世界、何でもあるな」

 

まるでアニメの世界から、そのまんま出てきた様な地形に3人とも興奮していた。その後も他に国交を開かないといけない国家、例えばエモール王国やパーパルディア戦役の後に誕生した新興国など、まだまだ国交に関しては開けていなかったり、開けてても何も進んでなかったりと仕事は沢山ある。その内、神谷の土産話や雑談にシフトして行き一時の平穏が訪れる。

 

「あ、なあなあ。ゴミ箱で玉入れ、やろうぜ!」

 

「お、いいね」

 

「負けたらジュースな」

 

昼休みの男子高校生みたいなノリで、ゴミ箱に丸めたゴミを入れるゲームが始まった。順番は川山、一色、神谷の順となり、順調に神谷の順番が巡ってくる。

 

「浩三、手加減しろよ?」

 

「お前のセンスは、バカ高いんだからさ」

 

「ハハハ、すると思うか?」

 

そう紙を丸めると不意に、焦げ臭い臭いが当たりを包み込んだ。

 

「って、なんか焦げ臭いな」

 

「健太郎、お前、なんか焼いてんのか?」

 

「いや、特にはって、お前!!」

 

「え?うおぉぉ!!!!」

 

一色と川山が神谷の手を見て騒ぎ出す。一体何だと見てみると、拳が炎になっていた。

 

なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 

「浩三、お前メラメラの実でも食った?能力者なの?」

 

「と、取り敢えず消せよ消せ!」

 

「消せつったって、消し方なんざ知らねーよ!!!!」

 

「念じろ取り敢えず!」

 

「あ、え、えぇーと。消えろー、消えろー、消えろー!!」

 

やって見るもので、本当に念じたら炎が消えた。

 

「いや、何今の」

 

「知るか!」

 

川山に突っ込まれるが、マジで心当たりがない神谷。一番怪しいのは、旅の時だが何も怪しい物は飲み食いしてな、いや、一度している。エルフの村で謎の液体を飲んでいる。

 

「お前それ、魔法じゃね?」

 

「え?」

 

「いやだってさ、お前ここ異世界よ?魔法の一つや二つ、使えたって可笑しくねーだろ?しかもお前、最強の兵士なんだからさ」

 

一色の何気ない一言に、なんか腑に落ちたので色々実験して見る事にした。どんな実験かと言うと、具体的にどんな魔法が使えるのかを調べるのである。と言っても未知数なので、適当に魔法でありそうな魔法をバンバン唱えて見る。

 

「ファイアーボール」

 

「サンダーバースト」

 

「バブルウォーター」

 

「エアーウィンドウ」

 

「アースウォール」

 

「ダークバレット」

 

「スタン」

 

なんか思いつく限りの火、雷、水、風、土、闇、光の初級っぽい魔法を適当に撃ってみる。結果として、なんか普通に全部撃てた。流石に的はないので威力は分からないが、威力がなくとも威嚇で使えるので問題はない。次はアニメとかの必殺とか、魔法を唱えてみる。

 

「超位魔法、ザ・クリエイション!!」

 

某ガイコツのオーバーロードクラスの至高の御方が出てくるアニメの主人公が使ってる魔法を唱えて、取り敢えず雨を念じる。そしたら本当に降水確率0%なのに、東京中に雨が降らせられた。しかも強く念じると、豪雨レベルのが降るし、弱くなる様念じると一気に弱くなった。どうやら念じる力で左右される様で、発動条件はイメージする事っぽい。試しに銃を構えて、一度撃ってみたかった必殺技を念じる。

 

「メガ・レールガン!!!!」

 

分かる人には分かる。某、ダンボールの中でロボットが戦うアニメの必殺ファンクションである。どうでもいいが主は当時どハマりして、未だにゲームの超級必殺ファンクションとキャラクターの使うLBXを覚えてたりする。

 

「お前、マジでやべーよ」

 

「絶対言わない方が良いぜ、それ」

 

「そうする」

 

この瞬間、三英傑に新たな秘密が追加された。「神谷は魔法が使える」この事は割とガチで最重要国家機密となった。因みに後から分かったが、神谷の魔法使いとしての強さも世界最強クラスである事がわかった。曰く「魔王であっても、一撃で葬りされる」らしい。

 

 

*1
異世界人との婚姻関係の場合、その村や土地の兼ね合いで一夫多妻や多夫多妻をせざるを得ない場合に限り、一夫一妻以外の婚姻関係が認められる法律。



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第二十九話未来は動き出す

神谷が魔法の使用が可能な事が発覚した数時間後 神室町*1

「それにしても、この神室町は凄いですね」

 

「あぁ。まるでサイバーパンクの世界に迷い込んだみたいだからな」

 

「そう言えば、この都市を企画し建設したのって確か、国内最大手のゼネコンの神谷組でしたよね?長官と関係があるんですか?」

 

「ん?あぁ。兄貴の会社だ」

 

「へぇ。お兄様の」

 

因みに言っておくが、神谷の実家は日本どころか世界の大富豪トップ3に入る大富豪である。父親の経営する神谷グループは今言ったゼネコンの神谷組を始め、医薬品、医療機器、病院、鉄道、金融、商業、テーマパーク、ホテル、造船、鉄鋼、学校、衣服、食事、宇宙産業、ICT関連産業、芸能、出版、メディア等々。ほぼ全ての分野で最大のシェアを誇る大財閥を経営しており、サイバーパンク2077のアラサカみたいな大企業である。

 

 

「長官、着きました」

 

「おう。ご苦労さん」

 

「お帰りなさいませ、旦那様」

 

車から降りると燕尾服の老人、執事の早稲新左衛門が出迎える。神谷の祖父みたいな関係でもあり、オフの時は孫とじいちゃんの様に仲がいい。

 

「早稲、何事もなかったな?」

 

「えぇ。大広間にて皆様にはお待ち頂いております故、御早くお願い致します」

 

「はいはい」

 

「それにしても、あんなに色恋には興味がなかった浩三様が5人も一気に娶るなんて。爺は嬉しゅうございます」

 

「いやいやいやいや、対外的に見て止めようぜ?爺ちゃん」

 

「昔は一夫多妻は財力や権力のある家では、日本でも当たり前でした。公文書の中に妾か妻かを選べる事も出来ていたのですから、何も可笑しくありませぬ」

 

「ダメだこりゃ」

 

こんな感じで、二人ともメチャクチャ仲が良い。取り敢えず自室に戻って、一度正装に着替える。

 

 

 

神谷邸 大広間 

「悪いな、結構待たせちまった」

 

「遅いわ.......よ」

 

安定でエリスが文句を言おうとするが、固まる。他の4人も同様に固まり、神谷の格好に目を奪われていた。神谷の今の格好は和服の中で、最上位の正装である紋付羽織袴姿である。国の重鎮で世界的大財閥の御曹司ともなれば、公的な場に出る事も多く見事な和服を持っていた。そのうちの一つを余興代わりに着てみた訳だが、初めて見る服に全員固まっている。

やはり国や文化は違えど、真に優れている物は何であれ一目でわかる物。煌びやかな装飾も宝石も身に付けていないし、何なら色だって白黒で豪華とは程遠い。しかし何故だか、良い物である事が分かってしまう逸品であった。

 

「神谷様、その格好は一体.......」

 

一番に現実に戻ったヘルミーナが質問する。神谷は本来なら「してやったり」的なドヤ顔でもしてやりたい所だが、それでは折角威厳たっぷり(な感じ)に出てきた意味がないので、表情一つ動かさずに答える。

 

「これは日本の伝統衣装で一番格式の高い正装、紋付羽織袴だ。なんやかんやで確か江戸時代、今から200年くらい前のご先祖様から引き継いで来た物だ」

 

「に、200年.......」

 

エルフ、取り分けハイエルフは寿命が人間より遥かに長い。そんな訳でヘルミーナにとってはそんなに可笑しくはないが、ヒト族の立場からしてみれば何代前から受け継いだ物なのか分からない。そんな訳で更に固まる。

あ、因みに価値は普通に国宝クラスであり、成人式で「ボロ着かよwww」とか言って破こうとする馬鹿がいれば、そいつの人生が修復不可能なレベルの損害賠償を請求できてしまう物である。まあそんな馬鹿がいる訳ないが。

 

 

「おーい、そろそろ現実に帰ってこーい」

 

数分程、5人とも夢の国に旅立ち掛けていたが、何とか全員に戻ってきてもらう。

 

「神谷さんって、マジで何者なの.......」

「実は日本の国王とか?」

「いやでも、アイツの部下は「何とか陛下がどうの」って言ってたわよ?」

「謎は深まるばかりだな」

「それを言ったら、この国自体が色々可笑しい気がしますよ.......」

 

「あのー、そろそろ食事にして良いか?」

 

なんか色々言っていたが、余りに料理を運ぶ様に指示が来ないので料理長が催促に来ていた。まあ普通なら「早く料理出させろ」と主人に意見する料理人は多分居ない(生憎と主は親戚一同、使用人どころか極々普通の一般庶民の家庭なので金持ちの生活や裏事情なんざ知らない)だろうが、ここは神谷の性格上、超絶アットホーム&ホワイトな職場なので普通に意見できる。

 

「えっと、はい」

 

「だそうだ。料理長、待たせて悪かったな」

 

「ハハハ、どこの世界と言えど女の子はお喋り好きと言うのは、万国共通な様で」

 

そう言いながら外の使用人達に合図を送ると、様々な料理が運ばれて来た。と言っても全部和食ではあるが。エルフの食生活というのは山での生活というのも有って、肉や魚も食べるがどんな料理でも味付けが濃くない。取れたて狩りたてを食べるので獣臭さや生臭さもないし、というかクワ・トイネの特性なのかは知らないが、元から余り獣臭かったり、生臭い物がない。

そんな訳で食事を提供する際にどうするか考えた所、料理長が「味濃くないなら、多分和食の繊細な味付けは合うんじゃね?」となり、和食が作られる事となったのである。

 

「うおぉ。料理長、いつもより張り切って作ったな」

 

「そりゃあ異世界人に自分の料理を食べて貰うなんて、そうそう無いですもん。こんなチャンス、どんな料理人でも逃しはしません」

 

「にしてもまあ、よく作ったな」

 

それではここで、簡単に料理を解説させて頂こう。

・飯

マグロ(赤身、中トロ、大トロの3種)、サーモン、ブリ、タコ、玉子、イカ、イクラ、ウニの握り

 

・汁

鯛の吸い物

 

・向付

トラフグの刺身

 

・煮物

大根、コンニャク、里芋、筍の煮物

 

・焼物

黒毛和牛のステーキ

 

・預け鉢(進め鉢)

ほうれん草の白和え

 

・甘味菓子

わらび餅

 

以上である。敢えて会席料理風でありながら、若い人には嬉しいラインナップとなっている。因みに本来の会席料理であれば、なんか色々仕来りやら何やらがあるが「流石にいきなり和食すぎるのもアレだろ」という料理長の判断で、ある程度は現代風の物にしてある。

 

「さあ、食え食え。料理長の飯はマジで美味いぞ」

 

しかしまあ、得体の知れない物だらけである。因みに現在の5人の認識はというと、

・寿司=生魚に下の白い粒は何?それ以前に、横の黒い液体は何?

 

・汁=何これ、濁ってる。砂でも入れてるの?

 

・刺身=また生魚。

 

・煮物=筍と里芋はわかるけど、残りのは何?というか灰色のブヨブヨ(コンニャク)はまず食い物?

 

・焼物=肉!

 

・白和え=ほうれん草はわかるけど、何この白いの。

 

・わらび餅=何これ、茶色い粉掛かってる。

 

こんな感じでは、十分にハードルの高い料理であった。割とガチで「日本でら食えない物も皿に入れるのか?」と思ってたらしい。しかし横目で神谷を見ると、普通にバクバク食べてる。しかも器用に二本の棒で。取り敢えず、食べ方を真似して食べてみる。

 

「何これ!」

「いける、これいける」

「美味しい.......」

「んん〜〜!」

「美味すぎる!!」

 

なんか1人BIG BOSSが紛れ込んでるが、全員気に入ったのか普通に食べだした。尚5人は流石に箸ではなくフォーク、ナイフ、スプーンで食べている。寿司は神谷が手でいったので、それを真似している。

 

 

「さて。飯も食い終わったし、これからの事を話したい」

 

全員がてっきり結婚の事かと思い身構えるが、神谷は結婚の事は余り触れなかった。

 

「なんかお前らの親父から言われたが、結婚する事になってはいる。だが俺はお前達の誰が長女とかも知らないし、というかそもそも性格も大凡しか掴めてない。こんな状況で結婚でもしよう物なら、多分すぐに離婚待ったなしだ。

それ以前にまずは日本に慣れてもらわないといけない。一応、お前らの親父からは「流石に部族からは遠く離れてるから、例え結婚してなくてもバレる心配はない」って言ってたが、少なからずこっちには居るんだから日本の常識を知っておいて損はない。仮に結婚するにしても俺はこれでも「三英傑」って国民的英雄の一人になっちゃってるし、軍の事実上のトップである以上、公的な場にお前らを連れて行く時も必ずある。となるとある程度は知っておいてもらわないと、色々面倒な事になる」

 

ここで一旦、話を区切る。このタイミングでレイチェルが手を上げて、質問してきた。

 

「しっつもーん。常識とかって、誰が教えるんですかぁ?神谷さんが教えるのー?」

 

「いや、最初はそのつもりだったんだがな。俺が官邸に行ったの知ってるだろ?そん時言われたんだが、何でも神聖ミリシアル帝国の使節団が来るし他の国家とも国交を開くらしいから、多分俺はその辺の対応で大忙しになる。ってか何なら、家を空ける。そんな状況じゃ、お前達に満足に教えることは出来ない。早稲に頼むかなぁ」

 

「そういえば、私達は詳しい自己紹介をしてなかったな」

 

「うん、アーシャ姉様。それさっき、神谷様が言ってたわ」

 

ミーシャがため息混じりにツッコむ。どうやら、よくある事らしい。そんな訳で急遽、自己紹介が始まった。

 

「長女のヘルミーナです。ミーナとお呼びください」

 

「次女のアスナスタシアだ。アーシャでいい」

 

「三女のミーシャですわ。そのまま、ミーシャとお呼びください」

 

「四女のレイチェルだよ」

 

「五女、エリスよ。ってか、この位は会話で察しなさいよ!」

「いやできるか!」

 

ついでなので、簡単な容姿についても解説しておこう。全員身長は160〜165cmの間。体重は、おっと後ろから魔法やら剣やらで殺気を出してるので割愛。ミーナが金髪ロングの双剣使い兼水系魔法使い、アーシャが銀髪ロングのレイピア使い、ミーシャは金髪ショートの雷系魔法使い、レイチェルが銀髪ポニーテールの弓使い、エリスが銀髪の長いツインテールの大剣使いである。

でもって多分、叡智な読者諸氏にとっては一番の朗報。全員、ボインボインのバインバインである。全員、ボインボインのバインバインである。大事な事なので2回言った。それも「巨」ではなく「爆」である。これで叡智な読者諸氏には必ず、必ず!伝わるであろう。

 

「OK。で、何か俺についての質問あるか?」

 

「好きな食べ物!」byレイチェル

「肉!!」

 

「趣味は何でしょう?」byミーナ

「ゲームと剣術」

 

「好きな戦法」byアーシャ

「敵陣に斬り込んで、内部からグチャグチャにする。もしくは先陣切って、敵陣に突撃」

 

「好きな女性のタイプはどんな方ですか?」byミーシャ

「正直、5人全員ともドストライク」

 

「特にないわよ!」byエリス

「あ、うん。予想してた」

 

その後も何かどっかの合コンみたいなノリで、謎の質問大会が続いた。良い時間になったので、風呂に入りに行く。(流石に一緒には入らないが、シャワーの使い方なんかを教える為、服を着た状態で浴室に入った)水浴びしか知らない5人にとっては風呂は思い付きもしない代物だったらしく、最初の反応が「何で家の中に池があって、湯気が上ってるの?」であった。

風呂から上がったら全員疲れたのか、神谷の部屋でベッドを占領されて熟睡。幸い人が8人くらい一気に寝れるデカさのベッドなので、仲良く5人で寝てた。勿論、神谷はベッドの中に入る訳にはいかないのでソファで寝た。

 

 

 

翌朝 大広間

「で、今日も観光に行くか?」

 

「その事なんですが、出来れば神谷様の仕事を見せてください。私達も神谷様の人となりを殆ど知りません。仕事場であれば、必然と見えてくるでしょうから」

 

思いがけない提案に面食らうがまあ別に見られて減る物でもないし、何なら既に参謀本部内では、ほぼ周知の事実になってしまったので5人を連れて行ってもさして混乱は起きない。そんな訳で急遽、6人で出勤である。

 

 

 

08:00 統合参謀本部

「「「「おはようございます!!」」」」

 

「おう、おはようさん」

 

車を降りるや否や、4人のたまたま居た士官から敬礼で迎えられる。この時点で5人共驚くが、この先もっと驚く事になる。まずは5人にカードキーとなる来館証を発行してもらってゲートを潜る。通りすがる全ての職員が敬礼をするか、頭を下げて道を譲っていく。この異様な光景に、今度は5人が面食らう。そのまま執務室に入り、様々な業務を片付けていく。その日は書類仕事だけだったので、姉妹達は午後から統合参謀本部の一般開放されてる区画の資料館に行っていた。皇軍の歴史や三英傑関連の物もあったが、それはこの先の話にて詳しく掘り下げていくので今回は見送らせて貰う。

 

 

 

一週間後 エモール王国 竜都ドラグキスマキラ ウィルマンズ城

「空間の神々の名の元に、これより未来を見る」

 

現在、王城であるウィルマンズ城の最北にある別棟ではドーム状の部屋には竜王ワグドラーンと国の重役達が見守る中、30人の大魔導士が「空間の占い」の儀式を行うべく準備をしていた。占いと聞くと「大昔の日本や中国じゃないんだから」と思うだろうが、空間の占いとは魔法による実質的な未来予知である。しかも98%当たるのだから馬鹿に出来ない。年に一度この空間の占いで未来を見て予め国家の運命を左右する出来事を調べて、もし大惨事が起こる物なら全力で回避に努める為の大事な儀式である。

「竜都」の名の通り、エモール王国は竜人族の国家である。竜人族は魔力が素で高いのだが、この儀式に参加する大魔導士達はその中でも超選りすぐりの者達である。そんなメチャクチャ大事な儀式が、今始まった。

 

「な!!!そ、そんな!!!なんと言うことだ!!!」

 

「いったい何だ!何が見えたというのか!?」

 

儀式に参加する大魔導士達の長であるアレースルの取り乱しっぷりに、竜王ワグドラーンも驚く。

 

「.......魔帝なり。」

 

「なっ!!何だと!!!」

 

「そう遠くない未来、古の魔法帝国は、神話に刻まれし、ラティストア大陸は復活する!!!」

 

「なんということだ!!!」

 

何とあったこっちで名前の上がる最悪の国家、魔法帝国が復活する未来が見えちゃったのである。因みにどんな国家かと言うと、パーパルディア皇国がぶっ放しやがった核弾道ミサイルとサイロを作りやがった国家である。

 

「時期は!?時期はいつだ!!!?」

 

「読めぬ」

 

「では、場所は何処だ?」

 

「空間の位相に歪みが生じている。場所も読めぬ」

 

因みにエモール王国には、魔法帝国とは並々ならぬ因縁がある。魔法帝国の存在した時代、エモール王国が存在するよりも遥かに昔に竜の神々の治める、インフィドラグーンという名の国が存在した。古の魔法帝国は竜の神々に対し「配下の竜人族を毎年一定数差し出せ」と要求した。

竜の神が理由を尋ねると曰く「竜人族の皮は丈夫で美しく、バッグを作って売ったら国内で売れそうだし、軍用品に利用できるから」というのが理由だった。

さあ、ここでお気づきだろうか?文中に「丈夫で」とある。「美しく」だけなら分かるが、丈夫という事がわかってるって事は「既に竜人の皮を剥いで制作した」という事である。竜の神にとって竜人族は被保護者である。そんな存在が既に皮剥がされて加工された事を知った結果、竜魔大戦と呼ばれる戦争にまで発展した。遂には魔法帝国がコア魔法、要は核爆弾を使用する大惨事となりインフィドラグーンは消滅した。その後、魔法帝国が未来に行き、戦後散り散りになった竜人達は再び集まって国を作った。それが現在のエモール王国である。

つまり「自らの神と先祖達の仇」という訳である。

 

「また我が国を含め全ての種が再び辛酸を舐め、膝を屈する事になるのか?」

 

「否、読めぬ。未来は不確定なり」

 

「不確定だと!?いったいどういう事なのだ!?!?」

 

「言葉の通りなり」

 

「では滅び、もしくは従属から回避する手段はあるというのか?」

 

「ある!」

 

目を見開いて、強くキッパリと言い切ったアレースル。ワグドラーンも「それは何だ?」と聞く。

 

「新たな国家の出現。この強きひかりが.......」

 

「新たな国家とは、つまり新興国か?」

 

「否.......別の世界からの転移.......転移国家なり」

 

「転移国家だと?ムーの歴史が現代で再来したとでも言うのか?」

 

勿論ムーの伝説はあれど、転移国家なんて他の国家ではただの空想。伝説に過ぎないが、空間の占いの言ってる事はほぼほぼ間違いない訳で重役らは首を傾げていた。

 

「占いで出たのだ。最早、荒唐無稽な御伽噺ではなかろう。これは国儀ぞ。して、どこだ。何という名の国家だ?」

 

「ム!.......ウウ.......ゥゥ!!」

 

両手の赤い光が更に強くなり、周囲の魔導士達も苦悶に顔を歪めている。やがてその顔は、驚きに満ちた顔となっていく。

 

「なんだ、これは?あり得ぬ、あり得ぬ.......」

 

「何だ!!何が見えたのだ!?!?」

 

「ヌオォォォォォォ!!!!!!」

 

バキン!!!

 

なんと大魔導士達の魔力で作られていた、未来を見通す巨大な水晶玉の様な物体が粉々に砕け散った。因みにこんな事、本来ならあり得ないというか、今のところそんな記録は残っていない。予期せぬ非常事態に、重役達が駆けずり回る。

 

「誰か!!医師団を呼べ!!」

「魔導士もじゃ!!」

「おい、大丈夫か!!」

 

ある者は外へと走り出し、ある者は魔導士達に駆け寄る。アレースルにはワグドラーンが駆け寄り、身の心配と何が見えたかを聞く。

 

「大丈夫か!?一体何が見えたのだ?」

 

「ひ、がし.......」

 

「東」と言い残すと、アレースルはそのまま意識を失った。医師の診断では魔力が完全に消耗された結果、意識を失ったと分かった。「寝てれば恐らく、すぐに目を覚ます」と診断され、2日後にアレースルら全員が目を覚ました。

 

 

「アレースルよ、何が見えたのだ?」

 

「第三文明圏のフィルアデス大陸よりさらに東にある島国、ヒト族の治めし国家である。名は大日本皇国」

 

「ヒト族だと!?相手は古の魔法帝国だぞ!魔力の低い人族に何が出来る!!」

 

「わからぬ。が、必ず鍵となる。あの時、我は信じられぬ物を見た。様々な神々、邪神すらもその国家を護り、その光は眩いまでに島を輝かせ、神の子孫が治めておる。更に神々は国民一人一人を護り、活気にあふれた天空の神々の世界に最も近いような、そんな国家だ」

 

余りに現実離れした光景に、ワグドラーンも言葉を失う。しかしアレースルは構わず続ける。

 

「もう一つ、我は恐らく彼の国の兵器を見た。超巨大な戦艦群、音速を超えて飛ぶ航空機、その航空機を何百機も収容する超大型航空機、大地を疾走する巨大な鋼鉄の塊、二本の足で大地を踏み締め破壊の限りを尽くす鋼鉄の巨人。全てが現実離れしておった」

 

「そんな兵器群があるというのか。第三文明圏の、更にその先に」

 

「ある。王よ、今すぐに使節を派遣するのだ。人族の元に足を運ぶなど癪であろうが、彼の国は必ずこの先の未来を決める大事な鍵だ。我が国ならず、全ての種族の未来だ」

 

「わかった。すぐに派遣の準備を進めよう」

 

ワグドラーンはすぐに重役達に使節団の派遣と、大日本皇国について調べる様に命じた。しかしその結果は、命じた一時間後に報告書が提出された。

 

 

「もう調べたのか!?幾らなんでも早すぎるぞ」

 

「王よ、彼の国はどうやら有名人の様です。列強第四位のパーパルディア皇国が最近、戦乱を開いた様ですが陸、海、空軍と国家監察軍の悉くを壊滅させ、聖都パールネウスと皇都エストシラントを含む主要都市の全てを破壊、若しくは占領したそうです。特にエストシラントに於いては都市機能が喪失したどころか、最低限マトモに稼働できるのが北部地区と中央区の極一部で、それ以外はほぼ完全に破壊されたそうです」

 

「それは誠か!?」

 

「はい。更に近々、ミリシアルが使節団を派遣するとの事です」

 

「わかった。今回は事が事だ。この際、プライドなど捨てて使節団をミリシアルの使節団に同行させて貰おう。外交担当貴族を呼び、使節団の人員選定とミリシアルとの交渉を行う様に命じろ」

 

「御意!」

 

今回の一件は神聖ミリシアル帝国に伝え、使節団の同行を要請した。流石に全部話してないが「古の魔法帝国が復活し、大日本皇国が鍵となる」という事は説明した。流石にミリシアルでも事態を重く受け止めざるを得ず、エモール王国使節団の同行が許可され一ヶ月後に日本への旅路に着いた。

 

 

 

*1
東京湾にある埋立地に出来た都市。未来都市構想の一環として開発されており、著名人や財界の大物の家がある高級住宅街、衣食住の買い物、基本的医療と娯楽、教育等の全てを中で完結できるメガビルディング、国内最大の大型ショッピングモールといった物があり、差し詰め綺麗な闇のないナイト・シティみたいな感じである。因みに神室町とついているが、龍が如くの神室町ではない。神谷はこの町の丁度中心に、大きな豪邸を持っている。



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第三十話やって来た使節団

BF2042が楽しいんじゃ〜い


三週間後 日本海上空

『間もなく、大日本皇国の領空に入ります。なお同国の戦闘機が2機、我が機の着陸誘導につく予定となっております。戦闘機が飛来してもご安心下さい』

 

「長かった!あと2時間ちょっとで到着しますね」

 

現在、神聖ミリシアル帝国とエモール王国の合同使節団はミリシアルの保有する小型旅客機、ゲルニカ35型に乗って福岡空港を目指して飛行していた。第一文明圏にあるミリシアルのゼノスグラム空港から長い時間かけてやって来たわけで、使節団員にも疲労の色が見えていた。

早速だが、ここで合同使節団のメンバーを紹介しよう。

 

神聖ミリシアル帝国使節団

・外交官 フィアーム

・情報局員 ライドルカ

・軍務省軍務次官 アルパナ

・技術研究開発局開発局長 ベルーノ

 

エモール王国

・外交担当貴族 モーリアウル

・軍務担当貴族 コーナハカ

・空間占い師 アレースル

 

以上である。因みに前回のコメントでも多数の読者にたくさん書かれていたが、今回のエモールの使節団派遣というのは日本以外の世界中の国家を騒がせている。というのもエモール王国、というよりはその民である竜人族というのがとてもプライドが高く、外交も「用があるなら、そっちから来やがれ」というスタンスで自分から外交に行くという事はそうそう無い。まして、新規の国交開設に乗り出す等あり得ないと言ってもいい。

そんな半鎖国状態である隣国から、まさかの「ウチの使節団も同行させてくださいな」と来たミリシアルの外務省は大騒ぎであった。最初は外務省の全職員が信じず、最初の連絡を受けた大臣も「え?あの、冗談とかではないですよね?」と返した程。しかも派遣する使節団員のメンツに、本来なら外交とは無縁の空間占い師アレースルが出て来ているのでも波紋を呼んだ。

 

「ほう、8機も誘導に残すとは。よもや、その皇国の空は危険なのか?というか、ワイバーンでは無いのだな。戦闘機を持っていた事自体驚きだが、流石ムーの恩恵を受けているだけはある。パーパルディアに勝ったのは自国の力、とでも言わんばかりの振る舞いだが実際はやはりそういうカラクリだったのだな」

 

最早、フラグとしか言いようの無いアホな事を言っているフィアーム。因みにフィアーム、こんな口調だが一応女性である。

 

「フィアームさん、皇国に対しては「文明圏外の蛮族国家」なんて先入観は無しに接した方がいいかと思いますよ。何せ列強であったパーパルディア皇国を、壊滅させて前身の共和国にまで戻したんですから。

それに、あのエモールが国交開設に自ら動く様な国家です。舐めてかかったら、痛い目を見ますよ」

 

情報局員のライドルカがそう言うと、フィアームは鼻を鳴らしながら「わかっておる」と不機嫌そうに答えた。これ以上は外交官のプロであるという、彼女のプライドを傷つけ兼ねないので何も言わなかった。

一方席が変わって、となりの列に座るエモール使節団の面々。さっきの放送に関して、色々話していた。

 

「これは見なくてはならぬな」

 

「えぇ。我々は空間の占いの結果こそ知っておるも、その軍事力は計り兼ねますれば」

 

「アレースル殿には申し訳ないが、軍務担当貴族の立場としては早晩信じられぬ事だ。ワシとて、空間の占いの精度やアレースル殿の技量は知っておるが、どうも信じられませぬ」

 

各々の感想を言い合っていると、窓から入る日光が数回何かに遮られた。暗くなったり明るくなったりする機内に、全員が窓の外を見渡す。窓の外には濃い灰色の塗装を施され、機体そのものが滑らかな形状した航空機が並走していた。

 

「な!?プロペラが無いぞ!!あの空気取り入れ口は.......。ま、まさか皇国でも魔光呪発式空気圧縮放射エンジンを実用化しているのか!?」

 

「しかもあれは後退翼ですよ後退翼!!速度が音速を超えた場合に、翼端が超音速流に触れないために考え出された翼型ですよ!!我が国では研究開発どころか、まだ理論段階のものです!!それが実物として、よもや此処で見れるとは.......。アルパナ殿、あれは設計思想がしっかりしているなら、ほぼ確実に音速を超える速度を叩き出しますぞ!!!!」

 

アルパナとベルーノが大興奮している。何故かベルーノに関しては、軽くムーと日本のミリオタ代表(神谷&マイラス)と同じ匂いがするのは気のせいだろうか?

一方騒がしいミリシアルとは対照的に、エモールの方は静かだった。

 

「アレースル殿、見覚えはありますか?」

 

「否、あれは違う。が、似た様な力を感じる」

 

「しかし何なのだアレは。ミリシアルやムーの物とは似ても似つかぬ、見た事ない兵器であるな」

 

モーリアウルがアレースルに聞くも違うと言う。コーナハカは窓の外の航空機を観察し、その現実離れした機体に美しさすら感じていた。しかし今度は、もっとビックリする事が起きた。

 

『神聖ミリシアル帝国、エモール王国の合同使節団の皆様。長旅ご苦労様でした。こちらは大日本皇国空軍、第123戦術飛行隊所属のAWACS。コールサイン、ロングキャスター。ここからは福岡空港まで私と、機体の右翼に展開しているストライダー隊、左翼のサイクロプス隊が誘導させて貰います』

 

なんといきなり機内のアナウンスに、聞いた事もない単語がバンバン流れてきて、パイロットかと思いきや「ロングキャスター」という聞いた事のない名前が出て来る。こんなの驚くなと言う方が無理である。と言うか何なら、軍隊に詳しくない人が聞いても意味がわからないだろう。

因みに隠す必要もないが、元ネタは某エースなコンバット7のスカイズでアンノウンにて、主人公が所属する部隊である。「どっちも俺の好物だ」って言ってた奴です、はい。

そのままゲルニカ35型はストライダー、サイクロプス両隊とロングキャスターに誘導されて無事福岡空港に着陸。合同使節団は第302保安警務中隊による栄誉礼と、陸軍中央音楽隊によるミリシアルとエモールの国家演奏を持って迎えられ、ホテルへと移動。日本の文化や簡単な歴史、最低限のマナーと言った事をプロジェクターで流してもらって、その日は旅の疲れを癒してもらい翌日から本格的に話し合う事となった。

 

 

 

合同使節団チェックイン直後 日本縦断リニア ロイヤルグリーン車

「そうか、わかった。今チェックインしたってよ」

 

ふぉうか(そうか)

 

「にしてもまあ、何であのエモールまでもが国交開設に自分で来るんだ?ミリシアルはまだしも、あっちは結構な選民思想が色濃い国なんだがなぁ」

 

ふぁあ、ふぃにふんな(まあ、気にすんな)ふぃふぁふにふぃふぁふに(気楽に気楽に)

 

「それもうだな。ってか浩三テメェ!!食うか喋るかどっちかにしろ!!!!」

 

そう。今まで浩三は昼飯に運良く買えた、日光埋蔵金弁当(日本一高い駅弁。お値段なんと一個18万円なり)を頬張りながら喋っていた。正直今回の件は、基本的に面倒事は神谷にないので気楽な里帰り気分なのである。因みに神谷は育ちこそ東京なのだが、生まれは福岡の北九州で小学校まではそこに居た。まあ今回は市内で、北九州は通過地点で寄らないのだが。

 

「あ、じゃがりこ食う?」

 

「食う」

 

「ポテチのうす塩、ピザポテト、堅あげポテト、ジャガビー、サッポロポテトのサラダとBBQ味もあるぞ?」

 

「全部貰うけど、全部ポテト系じゃねーか!グミとか雨とか、チョコとか煎餅とかないの?」

 

「とんがりコーンとポリンキーもあるぞ」

 

「いや全部貰うけどさ、お前どう見ても遠足行く小学生か修学旅行の学生やぞ。お前アレじゃん。お菓子交換で、めっちゃ人気になるヤツでお菓子屋みたいになる奴じゃん」

 

どう見ても今から国の命運を左右する大事な交渉しに行く、超エリート街道のコースをぶっちぎりで走ってる男達の会話ではないが、コイツらだから仕方ない。

その後、神谷達日本の代表は福岡入りして翌日の会談に備えた。翌日の会談はまず話し合いの前に、食事会として様々な旧世界の料理が出された。イタリア、フレンチ、中華、トルコ、和食と基本的な料理が一通り出されていた。腹も膨れた所で、いよいよ会談が始まった。

 

 

「神聖ミリシアル帝国、エモール王国の合同使節団の皆様。本日は遠路遥々お越し頂き、本当にありがとうございます。私は今回の会談の担当をさせて貰います、大日本皇国外務省の特別外交官、川山慎太郎と申します。そしてこちらが」

 

「初めまして。大日本皇国統合軍、総司令長官の神谷浩三と申します。軍事関連での説明は、私が担当いたしますのでお見知り置きください」

 

「これはご丁寧な挨拶、痛み入ります。神聖ミリシアル帝国外務省の外交官にして、ミリシアル側使節団の団長を務めておりますフィアームと申します。流石はエモール王国が国交開設に動き、パーパルディア皇国を降した国家だと恐れ入りました。

所で川山殿。これからの我が国の外交は、貴殿が担当するという認識でよろしいでしょうか?」

 

「はい。但し平時の担当は別の物が担当すると思われます。私が貴国と関わるのは国交開設前後と、無いとは思いたいですが何かしらの戦争が関わる場合や災害時と言った、緊急時や有事の際に担当すると思います」

 

「そうですか。では、川山殿。こちらをお納め頂きたい」

 

そう言うとフィアームライドルカとアルパナに手伝って貰って、レジ打ち機の様な物を取り出して机の上に置いた。まさかの物が出てきた事に、川山と神谷は「え?」と言う顔をしていた。

 

「これは我が国で開発された、一瞬で演算するための魔道具です。これを使用すれば、桁の多い掛け算や割り算であっても一瞬で答えを導き出せます」

 

「贈り物までご用意頂いて、恐れ入りますフィアームさん。大事にさせて頂きまっ、重ッ!」

 

「計算能力の速さは、産業のスピードに直結します。重さは14kgと重いですが、大変な事務作業も楽になるでしょう。我が国では非常に高価な物ですので、お喜びいただけるかと思い持参しました」

 

プレゼントの名を打っているが、要は自国の科学力、ミリシアルの場合は魔法力?を誇示する為のこじ付けである。

 

「演算処理装置のスペックが高い程、産業の発展の加速力が上がるのは全く仰る通りです。演算能力は産業どころか、軍事や経済などにも影響を及ぼすでしょう。我が国にも電子卓上計算機、通称「電卓」と呼ばれる物があります」

 

そう言いながら、川山は懐からスマホを取り出して机の上に置く。

 

「これはスマートフォンという端末でして、電話にもなりますし、電卓や辞書、ゲーム機にもなります。計算については我が国も力を入れておりまして、我が国のスーパーコンピューターは一秒間に5000阿僧祇(あそうぎ)回計算でき、さらに量子コンピューターになると、先程のコンピューターが1万年かかる計算を0.01秒で終わらせてしまうものもあります」

 

「まあ、これらのコンピューターはあくまで学術研究や、実際にやると被害や予算が凄すぎてできない物をシュミレートしたりする物ですが、そのスマートフォン、我々は略してスマホと呼んでいるのですが、内蔵されている超大規模集積回路、通称LSIの単純な処理性能だと1秒間に756億回の計算が可能となります。

因みに我が軍で保有する47式指揮装甲車には、1秒間に1京回の演算能力を持つコンピューターを標準搭載していますよ」

 

川山の説明に神谷が付け加えて説明するが、全員ポカーンである。というか大半が何を言っているか理解できていない。正直彼女らの目には、スマホは「なんか光る謎の薄い板」位にしか見えていない。そんな得体の知れない板が、自国では高価な計算機を遥かに凌駕しているのだからイメージしろと言う方が無理であろう。

顔を真っ赤にして、俯いたフィアームにライドルカらは「あちゃー」と思いながら苦笑いしていたそうな。

 

「さて、それでは本題に入りましょうか。まず今回のご来訪の目的は我が国との国交開設、およびそれに付随する各種条約などの取り決め。神聖ミリシアル帝国の皆様は、これに加えて先進11ヵ国会議への参加に関する流れや詳細の説明。お間違いありませんか?」

 

「はい」

 

「我が国も同じく」

 

「わかりました。それでは会談を始めていきましょうか」

 

こうして会談は始まった。しかし内容は終始穏やかな物で、特に取り沙汰する事もなかった。そして舞台は東京へと移り、フィアームは大日本皇国の皇居へと足を踏み入れた。目的は勿論、先進11ヵ国会議の説明であり、今回は天皇陛下の御前で三英傑を交えてする事となった。因みに他の団員達は東京観光をしている。

 

 

 

皇居 宮殿

「あ、あの川山殿。天皇陛下とは、一体どの様な方なのですか?」

 

「神です」

 

「はい?」

 

「神です。嘘や冗談ではなく、本当にこの国を作ったとされる神の子孫です」

 

まさかの回答に、最初の頃の威勢は完全に消え去っている。大真面目に「今から会う人は神様だよ」と言われて、「はいそうですか」となる方が結構ヤバいので普通の反応である。

 

「三英傑の諸君、観艦式の時以来だね」

 

「天皇陛下に置かれましては、本日もご機嫌麗しく存じます」

 

「世辞はいいよ。一色くん、というより君達は余りそういうキャラではないでしょう?」

 

「ハハ、やはり陛下には敵いません」

 

フィアームさん、完全に固まる。さっきは神だ何だと言われていた人を前にしているのに、一応国の中核を担う人達とはいえ普通に話している。でもって天皇陛下自体も、神々しい存在というよりは普通の優しそうなお爺さん、という風にしか見えない。この状況が彼女をますます混乱させる。

 

「貴女が、神聖ミリシアル帝国から来たという外交官。確か名前は、フィアームさんと言ったかな。長旅、お疲れでしたでしょう。本当なら他の使節の皆様にも面と向かってお伝えしたいのですが、貴女の方から是非お伝えして頂きたい」

 

「は、はいっ!」

 

「そう固くならずに。肩の力を抜いて、そうだ。お茶でも飲みながら、ゆっくりお話を聞かせてください。おーい、誰か!お茶の用意を」

 

天皇陛下がそう命じると、すぐに英国式のティーセットが用意される。そんな感じでフィアームをリラックスさせながら、先進11ヵ国会議の概要が説明される。

 

・先進11ヵ国会議は2年に1度開催される。

・次回開催はおよそ1年後、中央歴1642年4月22日である。

・世界に多大な影響力を及ぼす事の出来る大国のみが出席を許可され、今後の世界の運営方針について議論を行う。

・世界中の国々が、同会議には注目しており、大日本皇国が出席すれば、世界に大国として認識され、国益にもかなうと思慮される。

・参加国は、世界運営について、新たな意見を述べる事ができる。

・第三文明圏については、今まで固定参加1か国(パーパルディア皇国)、持ち回り参加1ヵ国の計2か国であったが、今回は固定参加国を日本国にしたい。

 

「開催までたった1年しかない事は、大変申し訳なく思っております。ですが世界に大国として認識されるのは、貴国としても国益に叶うと思われます。今までは第三文明圏唯一の列強としてパーパルディア皇国が参加していたのですが、貴国が解体した為、我が国は貴国を列強国と認め第三文明圏、そしてこの第三文明圏外国を含めた「東方国家群」の代表として、是非とも先進11ヵ国会議にご参加頂きたい」

 

「そうですか。................一色くん、この件は個人的にどう思いますか?」

 

「私個人としては、参加を強く希望します。神聖ミリシアル帝国とは、旧世界で言えばアメリカと同等の発言力を持ちます。またこの会議は、旧世界での国連です。参加してそれが我が国に悪疫を齎すとは、私は思えません」

 

「わかりました。それにしても「東方国家群の代表」か。まるでかつて我が国の掲げていた、大東亜共栄圏の様ですね」

 

フィアームはまたしても、謎の単語にはてなが浮かぶ。それを察したのか、天皇陛下が解説を行う。

 

「我が国が今から100年ほど前、戦争をしていた当時の情勢ですが、まず我が国のいた地域はアジアと呼ばれており、欧米と呼ばれる地域の列強国に植民地支配を受けていました。我が国は唯一アジア圏の列強であり、「ならばその状況を打破しアジア圏での共存共栄による経済圏を作り上げよう」という考えが広まりました。それを「大東亜共栄圏」というのです」

 

「そんな事をされていたのですね。それならば、なおさら国益に叶うのでは?」

 

「えぇ。一色総理。今回の一件は、私の名の下に許可いたします。すぐに関係各所との調整に入ってください」

 

「御意!」

 

念の為言っておくが、某フリーランス外科医の医療ドラマの「御意のポーズ」はしていない。その後はお茶会へとシフトしていき、翌日の軍事関連の案内になった。メンバーは以下の通り

 

日本

・神谷

 

ミリシアル

・アルパナ

・ベルーノ

 

エモール

・コーナハカ

・アレースル

 

 

 

横須賀鎮守府 地下ドック

「さあ、こちらが我が国の誇る艦隊です」

 

一行は神谷によって地下ドックを一望できる、管制指揮所に連れて来られた。眼下に広がるのは熱田型、赤城型、大和型を筆頭とする皇国海軍が世界に誇る日本を護る海の強者達の佇む姿である。

 

「なんだこれは!!我が国のミスリル級よりも巨大ではないか!!!!」

 

「あ、あれはグレードアトラスター!?!?何故グラ・バルカス帝国の戦艦が、遥か東の皇国にあるんだ!?!?!?!?」

 

「なぬ!?あれが、レイフォルを滅ぼしたとかいうグレードアトラスターか!?!?!?」

 

使節団の皆さん大興奮中である。しかしアレースルだけは驚きの余り、固まっていた。空間の占いで見た航空機が大量に並んでいたからである。

 

「ベルーノさん、あれをグレードアトラスターなんてパチモンと一緒にしないでやってください。あの戦艦は我が大日本皇国が帝国だった頃、帝国の威信を掛けて建造された当時の最大最強の戦艦、大和型超弩級戦艦なんですから」

 

「ヤマト?グレードアトラスターではないのですか?」

 

「違います。我々も知った時は「大和と瓜二つだ」と大騒ぎでしたが、我が国の大和型とは全くの無関係です。彼方さんのは大和型の原型、言うなれば超弩級戦艦だった頃に近い武装です。しかし時代と共に戦争の形態は一新され、大和型もそれに合わせて変化してきましたから今のとは結構違うんですよ」

 

「一体何が違うというのですか?」

 

「何もかもです。例えば戦艦の顔たる主砲は、当時46cm三連装砲でしたが現在は510mm三連装砲に変更されてますし、対空砲も当時は人力で照準や射撃をしていたのを、現在では戦闘指揮所で一括管理でき、対空射撃はレーダー情報をコンピューターが瞬時に驚異度を測って、勝手に迎撃してくれます。速力も上がり、各種ミサイル兵器、そちらで言うと誘導魔光弾に相当する兵器を相当数搭載しています。正直、建造当初の頃とは外見しか似ていないと言っていいほど、中身は化け物に仕上がっているんですよ」

 

全員がぶっ飛びすぎた内容と、謎の単語の羅列に頭がパンクしていた。しかしアルパナが、誘導魔光弾という単語を思い出し神谷に鬼気迫った感じで聞いてくる。

 

「誘導魔光弾の情報を一体何処で手に入れた!?!?!?」

 

「おっと、落ち着いてください。誘導魔光弾とは言いましたが、そちらの知る誘導魔光弾は、魔法技術で作られているのでしょう?我々の使用する誘導魔光弾、ミサイルは科学技術によって制作されていますし、最初に実戦投入されたのは、それこそ大和が活躍していた1943年のドイツと呼ばれる国が使用したのが始まりです。今から大体100年前ですね。そんな訳で、誘導魔光弾の仕組みやその他の中核技術は「多分こんなのが使われたんじゃないの?」程度の予想しかできないのが現状です」

 

またも全員が固まった。しかし今度は、さっきまで一言も喋らなかったアレースルが口を開いた。

 

「神谷殿。あそこに見える、あの兵器はなんだ?恐らく、航空機だとは思うのだが」

 

「あれは我が国の多目的戦闘機、F8C震電IIです。航空母艦と目の前の超巨大戦艦、それから航空戦艦に艦載機として搭載されます。あれはC型と呼ばれる艦載機タイプで、A型が空軍使用、B型が垂直離着陸機能が搭載されたタイプとなります」

 

「そうであるか。ところで、貴国の持つ戦艦はあの戦艦が最大か?」

 

「?えぇ。保有する戦艦、というか軍艦で一番巨大なのは熱田型しかないですが.......」

 

「貴国は五連装砲を持つ、さらに巨大な軍艦を持っているのではないか?」

 

「いえ、そのような艦は持っておりません。おっと、時間ですね。次は陸軍の方を見に行きましょうか」

 

この時の神谷は顔にこそ出していなかったが、内心では心臓バクバクなうえにアレースルに飛び掛かってそのまんま拷問でもしてやろうか、という考えが頭によぎる程に取り乱していた。というのもアレースルの言う「五連装砲の軍艦」というのは、日本に存在する。それもこの横須賀に。読者の皆は、川山と神谷がムーに行く話を描いた「第五話ムーとの国交と大波乱の軍祭」にて、『仮称513号艦』と呼ばれた秘匿艦が出て来たのを覚えているだろうか?

この『仮称513号艦』こそが、アレースルの言う「五連装砲の軍艦」なのである。この艦の存在は関係者以外には存在を隠されており、軍関係者も神谷を始めとする上層部しか知らない。しかしどう言う訳かアレースルがそれを知っており、思わず機密保持のために殺そうという考えが浮かんだのである。

 

「所でアレースル殿。何故、五連装砲の軍艦を持っていると考えたのですか?」

 

「空間の占い、というのをご存知か?いや、その顔では知らぬのだな。空間の占いとは、我がエモール王国にのみ伝わる儀式魔法である。この魔法は空間の神々に許しを得て未来を視る魔法で、この大日本皇国が映し出されたのだ。私はそれを行った立場の人間だが、先の震電IIという航空機と五連装砲の軍艦とアツタ型という戦艦の姿もあったのだ。

それ以外にも航空機を何百機も収容する超大型航空機、大地を疾走する巨大な鋼鉄の塊、二本の足で大地を踏み締め破壊の限りを尽くす鋼鉄の巨人があった。これらに心当たりはあるか?」

 

「いや、というかそれ全部、持ってます。恐らく順番に空中空母『白鯨』、戦車、メタルギアと呼んでいる兵器です。因みにこれら全てが、例のパーパルディア皇国との戦乱で使用された兵器ですよ」

 

更にヤバい兵器群を保有していた事を知り、アレースル以外は完全に驚くの通り越してドン引きしていた。この後の視察でも見事なまでにドン引きし続け、視察が終わる頃には全員死んだ魚の様な目をしていた。しかしコーナハカだけは、一つだけ疑問があった。

 

(そう言えば、統合軍ってまだ見ておらぬな)

 

そう。これまで見てきたのは陸、海、空、海軍陸戦隊、特殊戦術打撃隊の5つで、統合軍というのは一度も見てないのである。そこでバスでホテルに向かう最中に、神谷に質問しに来た。

 

「あぁ、統合軍というのはさっきまでの5つの軍隊と、後いくつかの組織が合わさって統合軍と呼ばれる組織になるんです。と言っても実感が湧かないでしょうから、簡単に説明しましょう。

まず頂点に君臨するのが全体の作戦を統括する「統合参謀本部」があって、その下にさっき言った5つの軍隊の参謀本部と兵器開発局、宇宙作戦本部、広報局、統合軍諜報局「JMIB」、特殊作戦統括局、災害対策局、科学研究局があり、その下に実働部隊が続いていくのです。これら全てを引っくるめたのが、統合軍となるのです」

 

「宇宙作戦本部、特殊作戦統括局、災害対策局というのは何でしょう?」

 

「宇宙作戦本部とは先程の視察中にも話した人工衛星、そちらでいう僕の星を管理する部署です。特殊作戦統括局は特殊部隊という、高度な訓練を積んだ部隊が行う作戦を統括し、管制する部署です。災害対策局というのは我が国がほぼ一年に一回何かしらの大きな災害が起こる程の災害大国である事から生まれた、災害時の部隊派遣や救援活動の立案、各方面との交渉や打ち合わせを担当する部署になります」

 

因みに皇国の特殊部隊は陸軍に特殊作戦群(SFGp)*1、冬季戦技隊*2、中央特殊武器防護隊*3、中央即応師団*4、中央即応師団特別作戦班*5、飛行強襲群(FAGp)*6国家憲兵隊*7。海軍に特務輸送隊*8、特別警備隊(SBU)*9、戦闘突撃舟艇隊*10。空軍に特殊航空輸送隊*11。海軍陸戦隊に先遣陸戦隊(IJM)*12が存在している。え?義経がいないって?アイツらは本当に知っている奴が極小数で、特殊作戦統括局には配属されていないからノーカン。

これより一週間後、使節団は無事帰国の飛行機に乗って帰っていった。

 

 

*1
テロ対策、浸透偵察、破壊工作を行う特殊部隊

*2
雪山での活動に特化した部隊

*3
対NBC兵器のプロフェッショナル。地下鉄サリン事件、東日本大震災と言った最悪の現場を乗り越えてきた世界的にもトップクラスの実力を持つ部隊

*4
世界中、15時間以内に展開できる能力を持った部隊。師団となっているが装備や配備されている部隊編成から見ると、戦闘団に近い

*5
中央即応師団に先立った偵察や破壊工作、或いは単独での人質救出などの任務に従事する

*6
第一空挺団などを隷下に持つ、空の神兵達が集まる部隊。船への強襲攻撃の上で、船舶の機能を奪取したりする自他ともに認める蛮族戦闘集団

*7
警察と連携し、テロ対策と人質奪還に従事する部隊。フランスのGIGNに近い

*8
特殊部隊仕様に改修された潜水艦を使う部隊。特殊部隊の海の足となる。

*9
不審船に対応する専門部隊。海軍の各艦に配備される立ち入り検査隊の訓練を行も行う

*10
専用に開発された特殊舟艇で、部隊の回収や近接火力支援を行う部隊

*11
日本版ナイトストーカーズ。しかし元ネタのナイトストーカーズパイロットから「お前ら人間じゃねぇ!」と突っ込まれる位には、練度がバカ高い

*12
日本版Navy SEALs。潜水能力が高い兵士で構成されており、その力量は素潜り漁師顔負けである。また訓練が厳しい事でも有名で、本場Navy SEALs隊員達が訓練を受けた結果「crazy demon」と言い残して倒れたという逸話がある



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第四章孤島の国家編
第三十一話極帝現る


一ヶ月後 統合参謀本部

「んで、どうすんよ。この派遣艦隊」

 

「どうしましょうか」

 

現在統合参謀本部の長官執務室では、海軍のトップである山本提督との簡単な話し合いが行われていた。話している内容は衛星が発見した、断崖絶壁に囲まれて周辺国家から物理的に遮断された謎の国家に派遣する艦隊について、である。

 

「そういえばワイバーンを用いて、派遣するという案はどうなったのですか?」

 

「あー、アレな。ロウリアには色々理由つけられて断られるし、パーパルディアはそれどころじゃないし、他の国家に関しては竜母を保有していない。態々この為だけに、うちの空母を竜母仕様に改造するわけにもいかんだろ。ってか予算おりねーよ、絶対」

 

「デスヨネー。しかしながら、ヘリコプターでお邪魔する訳にもイカンでしょうよ」

 

外務省からのオーダーとして「できるだけ現地民に不安を与えない様にして欲しい」と来ており、これがある以上ヘリや輸送機で飛んでいくわけにもいかないが、現実問題として飛んでかないと島に入れない。島の周囲を囲む断崖絶壁の山は、1500mクラスのデカい山で「登って降りて入る」というのは無理がある。

そこで候補に上がったのがワイバーンなのだが、ロードにしろオーバーロードにしろ航続距離がどう足掻いても届かず、必ず竜母による支援が必要となる。勿論、空中で馬借みたいな事もできる筈ない。いや、竜だから竜借って言うべきだろうか?

 

(あれ、これってワンチャン俺の魔法で竜作ればイケるんじゃね?)

 

突如神谷に天啓が降る。ファンタジーのあるあるとして、大体魔法が使える悪魔とか魔族というのは使い魔とか何かしらの下僕、例えばアンデットとか悪魔とかを召喚して戦わせたり、盾にしたりしている。

でもって神谷の魔力というのは、なんか魔王を一撃で倒せるらしいし、多分イケる筈なのである。

 

「まあ、考えても仕方ない。で、今使える海軍の戦力は?出来れば横須賀の第一主力艦隊から抽出したい」

 

「そうですなぁ。今回の任務なら居住性の良い艦が最適でしょうから、大和型の長門と陸奥をつけましょう。後は他の手空きの空母と護衛の駆逐艦、それから摩耶型をつければ良いかと」

 

「まあ妥当だわな。後は陸戦隊用の揚陸艦でも付けりゃ、最悪の緊急事態にも対応可能だし」

 

「では、取り敢えずそういう風に手配しておきます」

 

「頼むよ。こっちは妙案浮かんだし、中に入る秘策の準備をしておく」

 

「わかりました」

 

そう言って山本は退室する。神谷は軍の演習場に連絡して、さっき考えついた方法の実験の準備を始める。前も書いた通り、今の所は国家機密扱いなので見られない様に細心の注意を払って実験を行う。

なんか適当に竜が出るイメージを頭に描いて、試しに魔法陣を展開してみる。

 

「うおぉ!!!!なんかスゲー!!!!!!!!」

 

適当にやってみた結果、大小様々な魔法陣がいくつも現れて如何にも大物が出てきそうな感じがする。ホント、ファンタジー系アニメとか映画の「最大最強の秘奥義最終魔術を使う瞬間」みたいなレベルの大量な魔法陣である。

こういうの大好き、いや好きじゃなくても男なら誰もが興奮する様なロマンの塊を前に長嶺も大興奮である。

 

「おぉ!?!?!?なんかドラゴンっぽいシルエットが浮かんできた!!」

 

我を呼ぶは貴様であるか、人間よ

 

「あ、あれ?竜って喋るっけ」

 

一応ドラゴンっぽいのは呼び出したが、なんか様子が可笑しい。これまで調べてきた竜の生態によると、まず竜種で喋るのはほぼ存在しない。ワイバーン、ワイバーンロード、ワイバーンオーバーロード等は人語を理解しない。精々、普通の動物と同じ程度である。

唯一喋る、というか念話を使ってだが、会話できるのは風竜等の「真竜種」と呼ばれる上位種のみである。しかし目の前の竜は、念話ではなく普通に喋ってる。

 

どうした。我を呼び出しておいて、何も言わぬとは。良い度胸よのう

 

「あのー、ドラゴンさん?なーんか見た感じ、超絶強そうな気がするんですけど、マジでどなたでございましょう?」

 

ふん。知らぬのに、我を呼び出すか。矮小なる者よ。恐れと感嘆を持って、我が名を聞くが良い。我こそは世界に名だたる四大属性竜の頂点に君臨せし真なる竜。竜神皇帝、極帝である

 

なんかヤベェの来たぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?

 

もう何が何だか分からないので、心の中で大絶叫である。顔には出してないが、内心では超絶パニックである。

 

(いやいやいやいやいや!ちょい待て!!なんで竜神だか皇帝だか知らんけど、見るからに竜のキング的な奴が来てんだよ!?俺、別にそんなの呼び出した覚えないぞ!?恐い、異世界恐い!ってか、それ以前にこの始末どうすんよ!?!?お帰り頂くのは、多分無理だし。ってか言った瞬間に)

 

 

「帰ってください」

 

「嫌だ。殺す」

 

ファイヤー

ボオォォォォォ

 

「おっぽいぽーい!!!」チーン

 

 

(って事になりかねん。ってかなる!)

 

どうした、我が恐ろしか?ふはは、いやそうであろうよ。だが、我も驚いておる。なにせ永い時を生きたが、人間はおろか、ハイエルフや竜人族にも呼び出された事はない。まさか、人間とはのう。その方、名前位は聞いてやろうぞ

 

なんか思ってたより優しい(?)のか、案外フレンドリーな極帝さん。めっちゃ上から目線なのを指摘した瞬間にファイヤーされてローストされかねないので、スルーして自分も名乗っておく。

 

「お、おう。俺は浩三。大日本皇国、統合軍総司令長官、神谷浩三だ!」

 

大日本帝国、ではないのか?

 

「帝国は昔の国名だ。今は皇国となっている」

 

極帝から「大日本帝国」の名前が出てきたのは驚きだが、いつぞやのエルフの聖地で零戦もいたし、すぐに冷静になれた。しかし帝国の名を知っているのなら、ある程度は話が通じるかもしれない。そんな訳で交渉、というかあわよくば穏便に帰って頂く事にする。

 

「あ、あn」

まあ呼ばれた縁だ、神谷とやら。我の額に手を当て、魔力を流すがよい。質と量を見てやる

 

「あ、はい。って、デカッ!」

 

なんかいつの間にか魔法陣から出てきていたのたが、思ってたよりもデカかった。ワイバーンが大体15m位なのに対して、どう見ても100mはある。色は赤いが、全身が並みのワイバーンよりも硬そうである。

例えリアルのワイバーンを見た事なくても、一発で強いとわかる程度には凄い強そうな見た目である。

 

「そんじゃま、行くぜ」

 

存分にやれ

 

とは言うものの、実際魔力の流し方なんて知らない。だからもう、半ばヤケクソである。脳内で体内に巡る血管を竜の額から竜に巡る血管に突き刺して、血液を直接送るイメージを浮かべてやってみる。

 

こ、これは!?

 

「ウオォォォォォォォォ!!!!!」

 

「いや、ちょ、待って!やめて!」

 

「ウオォォォォォォォォ!!!!!」

 

「まって、お願い。逝っちゃう。アッ.......」

 

5分程度の時間が過ぎただろうか?試しに極帝を見てみたら、

 

「アボガバゴボゴファ.......」

 

なんと泡吹いて白目剥いて痙攣してた。さっきから予想外な事しか起きてなかったので、もうなんか驚くのも疲れたのか「なんかもう、いいや」ってなった。

 

神谷浩三殿。我と友誼の契りを結ばれたい

 

「は?」

 

先程の魔力量、感服した。是非、我を友としてお認め頂きたい

 

てっきり「我と主従の契約を」と来るかと思ったが、まさかの妖怪ウォッチよろしく友達契約だったので「まあ竜の王様と友達だったら、この先異世界でも怖い物なしだろ」と考えて、契りを結ぶ。

てっきりメダルでもくれるのかと思ったが流石にそれはなく、特殊な魔法で契約を結ぶそうだ。

 

今から貴様に友として、互いに魔法をかける。この魔法は言わば、互いの普遍の絆の証。貴様が我を、我が貴様を必要とした時に互いに助け合える力を施す物だ

 

「魔法って便利〜。で、どうすれば具体的には良いんだ?」

 

「少し待て」

 

そう言うと、目の前に魔法陣を作り出した。なんかそこに自らの血を垂らすと、契りとして成立するらしい。

 

ポタッ

ポタッ

 

互いに魔法陣に自らの血を落とすと、魔法陣は血を飲み込んで消えた。

 

契約完了だ。我が友よ

 

「案外あっさりだな」

 

友よ、いきなりだが一つ願いを叶えてはくれまいか?

 

「言ってみろ」

 

この国に我を住まわせてくれないか?

 

自分の求めていた答えとは180度真反対の答えが出てきた事に、冷や水を頭からぶっかけられて、ついでにお寺の鐘をつくデカい丸太みたいなヤツで脳天をど突かれたような感覚に陥る。

 

まさか「嫌だ」とは言わぬよな?嫌だと言うなら、友以外の民を殺す

 

「いや、全然大丈夫です。はい。だけど、その姿はどうにかしてくれ。街中にアンタみたいなドラゴンが現れよう物なら、大パニックになる。うん」

 

ほう。ならば

 

そう言うと極帝の体が魔法陣に包まれると、50cm位の大きさにまで小さくなった。

 

「これなら問題あるまい?」

 

「うへぇ便利」

 

身体が小さくなったせいか口調は変わらないが、さっきまであった謎の威圧感は消えた。ぱっと見、翼の生えた赤いトカゲである。翼生えてる時点で、トカゲとは程遠いが。

 

「友よ、腹が減った。何か食う物はないのか?」

 

「食う物、ねぇ。ってかドラゴンって何食うんだ?」

 

「なんでも食べるぞ。魔物、人間、動物、野菜、草、木の実。普通の生物が食べる物は、我も食べれる。しかし一番は肉だな」

 

「頼むから、間違えても人間と動物でも生きた奴を食うのはやめてくれ」

 

「ふむ。残念だが、仕方なかろう」

 

なんか超残念そうなのが、超絶怖いがこの際気にしないでおこう。うん、気にしてはイケない。さてさて、時間は巡ってその日の夜。夕食を家で取ってる時に、嫁候補というか婚約者というか、未だ宙ぶらりんのハイエルフ五人姉妹(通称「五等分の花嫁」と従者間では呼ばれてる)に極帝について聞いてみる。

 

 

「なぁ、お前らって極帝って竜知ってる?」

 

極帝の名を出した瞬間、5人全員が固まった。その顔はまるで、何かを恐れている様な顔である。

 

「えっと極帝って、あの極帝でしょうか?竜神皇帝の」

 

「うん。なんか知ってる?」

 

「極帝というのは、この世に存在する全ての竜の頂点に君臨する竜です。ワイバーンを超える強さを持つ真竜種を統べる4体の竜神を統べており、その咆哮は大地を、海を、空をも切り裂くと言われる竜です。

でも、どうして今になって極帝の話を?」

 

ミーナが答えてくれたが、逆に質問してきた。日本では竜は御伽噺程度の存在であり、極帝どころか竜神の話も知らない筈。それは軍の高官たる神谷とて同じ筈なのだが、どういう訳か聞いてきたのだから当然である。

 

「いやぁ、それがさ。その極帝と友誼の契りを交わしちゃった。ハハハ」

 

「アンタ、全然笑えないわよ」

「浩三様、流石にそれは笑えませんよ」

「面白くない冗談は嫌われちゃうぞ?」

 

エリス、ミーシャ、レイチェルから突っ込まれる。だかしかし、事実だから仕方ない。百聞は一見に如かずって事で、後ろに居てもらっていた極帝に声を掛ける。

 

「我こそが竜神皇帝、極帝である」

 

しかし出てきたのはチンマリした翼の生えたトカゲ程度。5人は偽物と思ったらしく笑っていたが、極帝がオーラを出すと一転して平伏しだした。

 

「えぇ。お前、マジでスゲーのな」

 

「フッ、我が本気出せばこんな物よ」

 

「その本気のせいで、ウチの嫁候補というか、婚約者というか、なんか未だ定まってない姉妹達が怯えてるんですが」

 

「その様な小さい事、我は気にせぬ」

 

「いや、気にしろ」

 

目の前で繰り広げれる普通の会話に、5人は内心気が気じゃなかった。だがしかし、一方で1つ思った事もあった。

 

(((((この人、本当に何者ですか(だ)(なの)!?!?)))))

 

普通に考えて、もう現実ではあり得ない事である。地球にエイリアンが攻め込んできて、ついでに地底人と悪魔も攻めてきて、神様が攻めてきて、何故か一緒にサムライが突撃してくるレベルのカオスである。

何を言ってるかわからないだろうが、本当にこんなレベルの謎度とカオスな状態なのである。因みに極帝は日本の食事に大満足だったらしい。

 

 

 

翌日 14:00 首相官邸

「よう。久しぶりだな」

 

「そうだな、浩三」

「やっぱりお前が最後か」

 

この日、三英傑の3人はいつも通り官邸に集まっていた。何気に集まったのは天皇陛下の御前にフィアームを連れて行った以来である。でもって、今回集まったのは連絡会に近い。というのも現在の政治、軍事、外交に関しては実質的に動かしているのは、今いる3人なのは知っての通りだろう。

それ故に貯まる愚痴や問題の報告なんかを行う、別に誰かが言い出した訳でもない、なんか気付いたらそうなってた緩い会である。そんな訳で官邸でやる事もあれば、カフェや飲み屋でやる事もあるし、各々の家に遊びに行って、ゲームしながらやる事もある。ただ今回は、神谷の内容が国家機密の話なのでこうなった。

 

「さて、じゃあ取り敢えず俺から行くか。外交の方は特に滞りないな。ミリシアルもエモールも、既に別の者に引き継いで俺の手を離れてる」

 

「こっちは近々、衆議院選挙がある位だな。応援演説やら何やらで俺は忙しいが、お前らには関係ないだろうよ」

 

「じゃあ最後は俺か。悪いが、俺の所はヤバいぞ。まずエモールに「聨合艦隊構想」がバレかけた」

 

「え?ヤバくね」

「うそやろ」

 

さてさて、いきなり読者諸氏は置いてけぼりを食らっているだろう。この「聨合艦隊構想」を説明するついでに「皇軍増強計画」について、説明しておかねばならない。「皇軍増強計画」とは呼んで字の如く、皇国軍全体の軍備増強計画であり、聨合艦隊構想はその中の計画の1つである。

元々は聨合艦隊構想のみだったが、まさかの異世界転移という予想できない大事件によって計画は大きく加筆され、結果として1つの計画に纏まったのである。では簡単に、どんな計画かを解説しておこう。

 

 

陸軍

・機動甲冑の防弾性能を現在の7.62mmクラスから12.7mmクラスへの強化ができる追加装甲の開発。

・多脚戦闘兵器の開発。

・本土防衛用の新たな部隊創設と、各地への兵器の固定配置

 

海軍

・聨合艦隊の総旗艦となる究極戦艦の建造。

・熱田型、赤城型、大和型への新兵装の搭載。

・新たに追加で十個遠征打撃群分の艦隊建造。

 

空軍

・特殊部隊の火力支援用ガンシップの開発。

・重装甲で重武装の「アサルトガンシップ」とも言うべき航空機の開発。

・マイクロ多目的ミサイルと発射機の開発。

 

海軍陸戦隊

・部隊の大幅増強。

・新型上陸用舟艇の開発。

・敵艦への海上での乗り込み、制圧を行える特殊部隊の創設。

 

特殊戦術打撃隊

・新たなメタルギアの開発

 

宇宙軍

・宇宙軍事基地の建造。

 

と言った具合に、中々にヤバい具合の増強計画である。旧世界の頃は他国との協調の観点から、余り大々的に軍備増強はしていなかった。海軍だけは、日本が海に面している理由から大々的にやっていたが、メタルギアの新規開発やら宇宙軍事基地なんかは作るつもりはなかった。

だがしかし異世界転移で、何もかも状況が変わった。パーパルディア皇国戦でら核ミサイル擬きすら飛んでくる始末であり、これに神谷は焦った。そこで元々水面下で進んでいた全ての軍備増強計画に大量の予算を投下して、開発を一気に加速させた。その結果が、これである。

では最後に「聨合艦隊構想」について、解説しておこう。聨合艦隊構想は、現在の八つの主力艦隊を統合運用する為の計画である。現在皇国海軍が熱田型や赤城型を筆頭した艦を中心に、一個艦隊に237隻が在籍している。しかしこれらが何かしらの1つの敵に、一斉に攻撃を仕掛けるとしよう。こんだけの大艦隊を統率するのは並大抵の事ではなく、指揮に特化した艦が何かと都合が良いのである。そこでこの計画が生まれた。

 

「まあバレたって言っても、例の究極戦艦の存在だけだがな。適当にはぐらかしたし、詳細なスペックはバレてない。何か空間の占いとかいう、未来予知的な占いで視えたんだと」

 

「魔法スゲーな」

 

「それは防ぎようないわ」

 

理由が理由だけに、今回は誰が悪いというのがない。流石に魔法の、しかも未来予知で見られたんなら対策の仕様がない。その為、3人は笑い飛ばしていた。まあ実際、スペックを知られても再現は出来ないだろうし、スペック自体も「五連装砲搭載の超大型艦」位しかバレてない。これ位なら、問題にならない。

 

「でもってもう一つ。めっちゃプライベートなんだが、俺多分結婚するわ」

 

「!?」

「マジ?」

 

「因みに相手はこれな」

 

そう言って、スマホの写真を見せる。ナゴ村で撮った写真で、5人全員が写ってる。

 

「エルフやん!」

 

「で、相手はどの娘だ?」

 

一色はエルフの写真に大興奮し、川山は誰かと聞いてくる。

 

「全員」

 

「「.......はい?」」

 

現実離れした回答に2人が言った言葉は同じで、同時であった。日本の常識で考えて、5人と同時に付き合うのは不倫や浮気である。ただのヤリチンクソ野郎で女泣かせの最低クズ男という扱いを受ける。まあ探せば奥さん公認で不倫OKという人も居るのかもしれないが、普通の我々一般人の捉え方では、ただただヤバい奴であろう。

しかし目の前の男は、長いこと親友として同じ志を持って戦ってきた同志でもある。少なくとも、そんなクズな行いはしない。だがしかし、目の前の写真の女性を「全員」と答えたという事は、つまり全員と結婚するという事になる。この事実が2人を混乱させた。

 

「まあビックリするわな。俺もこうなる事になった時は、マジで驚いた」

 

神谷は2人に経緯を全部話した。気せずして出来上がったエルフハーレムに、後半は爆笑していた。特に一色に至っては、一部から反発があった「郷に行っては郷に従え法」だったので、それを軍の高官であり国民からも根強い人気のある神谷に適用されているので、良い例として使える事にも喜んでいた。

 

「あ、それからな。例の絶海の孤島状態の国家に行くヤツ。アレ、ドラゴンを使う事にしたから」

 

「え?断られたり、それどころじゃなくて来る予定は無いって聞いたぞ?」

 

川山がそう答えた。今回の交渉は川山ではない別の外交官が担当しているので、詳しくは知らないが断られたのは聞いていた。

 

「その通りだ。そこで自前のを使う事にしてみたんだが、ちょっとヤバい事になった」

 

「じ、自前?」

 

「ウチにワイバーンは居ないだろ」

 

川山と一色が首を傾げる。因みにワイバーンは知っての通り、戦闘機よりも弱い。しかも武器である火炎放射と導力火炎団も使い勝手が悪いし、生物なので餌も必要だし糞もする。その為、日本では運用される可能性は限りなくゼロに近い。

 

「ほら。俺、魔法使えるだろ?「試しに魔法でなんか適当にやったら行けっかなー?」って思って、試しにやってみたら竜は出てきた。うん出てきたよ。しっかり空飛ぶヤツ」

 

「出たなら良いじゃん」

 

「出たのが子供だったとか?」

 

「いや。竜は竜でも、竜神皇帝「極帝」とか言うデカいのが出た上に、ミーナ、さっきの写真の一番右にいる奴曰く「世界中の竜種と真竜種を統べる4体の竜神を統べる竜」らしい。

でもって、成り行きで何か主従契約しちゃった」

 

「「.......はい?」」

 

もう後半から2人は理解が追い付かなくなってきた。何か親友がエルフハーレムを作ると思ったら、何か謎に凄そうな竜と主従契約をしちゃった。こんな状況、考えた事もなかった。いや、考える事自体おかしな話である。

因みにヘルミーナ曰く「竜神種とは主従契約が出来ず、対等の立場となる友誼の契りを結ぶ事が、他の魔獣との主従契約に当たる」らしい。

 

「いやいやいやいや、え?マジで言ってる?」

 

「マジで言ってる。ってか、こんな冗談を言う奴って厨二病を拗らせに拗らせたヤツ位だろ」

 

「お前は一体何を目指してんだ。世界征服でもする気か」

 

川山と一色からは、その後も色々言われた。まあ神谷自身も中々にビックリな事だったので、正直言って頭を抱えたかったが何か一周回って笑ってた。その頃、極帝は神谷邸で寿司を食ってた。

 

 

 

翌日 羽田空港

「態々お見送りありがとうございます、神谷さん」

 

「いえいえ。我が国の客人であり、私の同志が帰国するってのに、見送りに来ない訳にはイカンでしょう。本当なら一色と川山も来たがってたんですが、生憎どっちも仕事で」

 

「そうでしたか。是非、一色殿と川山殿にも宜しくお伝えください」

 

この日神谷は観戦武官の任務を終えて帰国する事になった、マイラスとラッサンの見送りに来ていた。

 

「そうだ。餞別代わり、と言っちゃ何ですがこれを是非お持ちください」

 

そう言って大量の本を入れたキャリーケースを差し出す。

 

「これは?」

 

「旧世界の各国の兵器のスペックや設計図、取り分け第一次世界大戦と第二次世界大戦の戦間期、第二次世界大戦中の兵器に関する物を入れてあります」

 

この言葉に2人は驚いていた。普通に考えて、こう言う設計図は金を積んでやっと一枚貰えるか貰えないかであり、こんな風にポンと渡せる物では無いからである。

 

「しかし、何故こんな物を?普通に考えて、ヤバいでしょう」

 

「いえいえ。だってスペックなんてネットで検索すりゃ誰でも見れますし、設計図だって流石に本屋には置いてないですが取り寄せれば誰でも買えますもん。ってか、この程度の兵器は使う事無いですし」

 

「確かにそうでしょうけど」

 

ラッサンが唸るが、その横でマイラスがキラキラした目で神谷を見つめていた。

 

「あ、あの。戦艦の設計図は勿論」

 

「入ってますよ。大和、長門、伊勢、扶桑、金剛などの日本の各型は勿論のこと、当時の同盟国であったドイツとイタリア、それに敵だったフランス、アメリカ、イギリス等々。とにかく大量に入ってます。

あ、後、絶対に作らない方がいい珍兵器や迷兵器の資料も入ってますから、偶に見てみたりしてください。多分、大爆笑ですよ」

 

この言葉にマイラスは狂喜乱舞していた。

 

「やっぱり」

 

「戦艦は」

 

「「男の浪漫!!!!」」

 

やっぱり安定の硬い握手をガシッとする2人。お約束である。

 

「さてさて。統合軍からの餞別はこれですが、もう一つ私が個人的に用意した物があります」

 

そう言って神谷は後ろに控える部下に合図を送ると、部下が二太刀の日本刀と、2本の小刀を持って来た。

 

「我が国の職人が作り上げた品です。どうぞ、受け取ってください」

 

まさかの刀の登場に、2人とも興奮気味で刀を受け取る。少しだけ抜いてみると、白く輝く刀身に何でも切り裂けてしまえそうな刃。それに綺麗だがシンプルな飾り付けが施された沙耶と持ち手に、ただ感嘆の声を上げる事しか出来なかった。

 

「こういうのなら、正装時や儀礼の際に着けられるでしょう?折角日本に来たんですから、他の軍人に日本に来た証拠を見せつけてやってください」

 

「この様な品を用意いただき、本当にありがとうございます」

 

「これなら他の奴らに自慢できますね」

 

「気に入って頂けた様で何よりです。さあ、そろそろ出発の時間だ。どうぞ、お気を付けて帰国してください。

ああ、そうだ。今度、プライベートで遊びに来てくださいよ。今度は軍関連でも観光スポットでも、日本中好きな場所を案内しますよ」

 

こうしてムーから来た2人は帰っていった。しかし、3人の再会は思ってたよりも早かった。実は今度行く絶海の孤島への国交開設の後、ムーと日本は合同演習を行う事が決まり、今度は神谷がムーに行く事になったのである。詳しくはまた別の機会で書くとしよう。

数週間後、神谷と川山は絶海の孤島へと艦隊を引き連れて旅立った。しかし、神谷は知る由もない。この地で色々修羅場に巻き込まれ、結構面倒な事になる事を。



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第三十二話ヤベー奴降臨ス

さてさて。それでは今回は場所を一気に変えて、日本を飛び出して3000km北東方向に行ってみよう。そこにあるのは1500m級の山がカルデラの如くリング状に広がった地形であり、中にある物をまるで隔離するかの様に天然の壁として機能していた。

山の中には大体本州の半分強の広さの島があり、カルアミーク王国、ポウシュ国、スーワイ共和国の3国が存在する。でもってこの3国は日本を除く他の国家には存在を知られておらず、またこの3国も山の向こうには国がある事を知らなかった。

 

 

 

マイラスらが帰国した数週間後 カルアミーク王国 王都アルクール ウィスーク公爵家

「エネシー、朝ごはんの時間よ!!早く降りて来なさい。」

 

「はーい」

 

母親に呼ばれてエネシーは、読んでいた本をベッドの上に置き食堂に向かった。読んでいた本の表紙には「英雄の伝説」と書いてあった。最近ハマっており、何度も何度も読み返している。そんなお気に入りの本であり、エネシーは20歳でありながらこの本に出てくる竜騎士の英雄に憧れていた。

 

「エネシー。あなた、小さい子が読むような本ばかり読んでないで彼氏の1人でも見つけて来たらどうだい?もう20歳なのだから」

 

「まだ早いよ」

 

「早いもんですか!女盛りの時期に男が出来なかったら、男なんて一生出来やしないよ!!

ちょうど1カ月後に、王国建国記念祭りがあるでしょう?カルアミーク王国の1大イベントよ。一緒に行けるような男はいないの?」

 

「うん、いないよ」

 

母親の「彼氏見つけろ」攻撃にウンザリしながらそう答える。なんとこのエネシー、20歳だと言うのに未だ本の中の英雄と結婚したがる様な結構痛い子なのである。

両親としては「孫の顔を見たい」等の親心もあるが、もう一つ大きな理由として家を継いで貰う必要がある為、ここまで真剣に推してくるのである。ウィスーク公爵家というのは王国に存在する三つの大貴族の筆頭貴族であり、エネシーはその御令嬢だ。家を継いで貰わないと、色々面倒なのである。

 

「いないなら、建国記念祭で見つけておいで!」

 

「うーん、そういう出会いってなんだかなぁ」

 

「?」

 

「やっぱりこう、劇的な出会いがしたい!心が揺さぶられるような」

 

「あんた、劇みたいな事を言ってないで、現実を見なさいよ」

 

母親が割とガチで呆れながら突っ込む。本当に心の中で「我が娘ながら、ちょっとヤバいわね」と思っている。親からもそう見られるエネシーが、どんだけ痛いか分かるだろう。

 

「そうそう。最近霊峰ルードの火口付近に、魔物が集まっている事が確認されているんだ。王都からは遠いから問題は無いと思うが、念のために王都から勝手に出てはいけないよ。特にエネシー、気をつけなさい」

 

「はーい、ごちそうさまー」

 

エネシーはそそくさと自室に戻り、ベッドの上に置いてあった本を開く。先程書いた通り本にはエネシーの好きな英雄の他にも、王国の歴史の中で起きた様々な英雄的出来事が記されている。

エネシーが好きなのは本の最後に記された預言者トドロークの預言、王国の危機について記された1文だった。

 

異界の魔獣現れ王国に危機を及ぼさんとする時、天翔る魔物を操りし異国の騎士が現れ、太陽との盟約により王国のために立ち上がる。

王国は建国以来の危機に見舞われるだろう。しかし異国の騎士の導きにより、王国は救われるだろう。

 

意味のよく解らない文章であるため、一般的にはとんでも予言者として通っていたが、エネシーは信じていた。ただし、その信じ方が異常である。イメージ的にはカルト宗教にどっぷりハマって、教祖だとか主神に全てを捧げんばかりの狂信者レベルである。

 

「私の運命の人は、きっとこの騎士様よ!王国が危機になるのは困るけど、必ず私のナイトは現れる!!」

 

エネシーは少し、いや結構な邪気を含んだ笑顔で本を閉じた。その目はまるで、ヤンデレ彼女のソレである。スクールデイズの言葉と世界を想像してほしい。(niceboat.

 

 

 

同時刻 日本国北東約3000km洋上 原子力航空母艦『祥鳳』 艦内

「よお、眠れたか?」

 

「お陰様で」

 

神谷と川山は、空母の右デッキで海を眺めていた。現在2人の乗る瑞龍を旗艦とした特務使節団は日本から約3000kmの洋上、例のカルデラ状の断崖絶壁からだと大体10kmの洋上に停泊している。

 

「そんじゃ、そろそろ行くか」

 

「あぁ」

 

2人は飛行甲板へと登り、飛行甲板で極帝を本来のデカさに戻す。初めて見る竜に、兵士達は大興奮である。

因みに極帝は偶々神谷が捕獲した竜、って事にしてある。

 

友よ、準備できたぞ

 

「はいよ。じゃあ、いっちょ竜騎士になるとするか」

 

機動甲冑や装甲甲冑の設計を、神谷の得意とする接近戦に最適化した特注甲冑を装備し、安定の「皇国剣聖」の羽織を羽織る。

 

「よし、乗ったぞ」

 

では、参ろうぞ!!

 

極帝は飛行甲板を力一杯蹴り飛ばし、大空へとその巨大な翼を広げる。明らかに航空機とは違う機動と、飛ぶと言うよりは空を駆け抜ける様な独特の感覚を感じながら天空へと舞い上がる。

 

「イーーーーヤッホーーーーーーーー!!!!!!!」

 

「ハハハハハハ!!!!これ楽しいな!!!!!!!!」

 

飛行機とは違い、吹き抜ける風や急流の如く流れる風景をダイレクトに感じれる極帝の背中に、というかそもそも竜に乗って空を飛ぶとかいう少年の夢とロマンを具現化した状態に、2人のテンションは最高潮を迎える。

 

友よ、楽しいか?

 

「あぁ!!まるで自分が空と一体になった様だ!!!!」

 

「同じく!!」

 

そうか。ならば良かった。だが、そんな楽しい空の旅も終わりの様だ。もうすぐ、目的地だぞ?

 

見ると既に断崖絶壁の山を越えて、島の中に入っている。それどころか、高度は段々と下がりつつある。今回の着陸地点は山を隔てた西側約10km地点であり、そこは王都からも山を隔てているため視界が遮蔽され、北側にある主要道路と思われる山道からも小さな丘を隔てている事から、恐らく人目に付かないと思われる場所である。そこに降り立つと、少しして護衛の隊員達を乗せたVC4隼も飛来する。

因みに今回の使節団の編成は外交官1名(川山)、護衛の皇国軍人40名(神谷と向上含む白亜衆10名と、海軍陸戦隊隊員30名)、竜1匹である。

 

「ん?極帝、なんか森の奥から気配を感じるんだが」

 

ほう、よく気付いたな。人間基準で強い魔獣が1匹、いるな、

それに女子もいる」

 

「あー、襲われてる系か?」

 

あぁ

 

そういう事なら助けておいて損は無いわけで、神谷は極帝に跨ってその魔獣と女性の元に向かう。

 

いたな。どれ、我が力を見せてくれようぞ

 

極帝は口を開くと安定の導力火炎弾を、ではなく。まさかの赤いビームを放った。極帝曰く「炎も吐けるが、魔力をそのまま出した方が強い」らしく、今それを放った。

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!誰かたすけてぇぇぇぇぇ!!」

 

「シュギャァァァァァ!!!」

 

女性に魔獣が襲い掛かろうとした瞬間、極帝の魔力ビームが魔獣を貫くというより包み込んで消滅した。

その光景に女性は、目を奪われていた。何故なら伝説の存在である竜に跨り、竜を操って魔獣を倒した。神話の出来事が今、自身の目の前で起こったのである。

 

「って、おいおい。もう1匹いるじゃん」

 

ならば、もう一度攻撃するまで

 

「いやいや。俺にも獲物をくれよ。な?」

 

まあ、よかろう

 

少し不服そうだが、極帝は頷いた。神谷はそれを確認すると、極帝の背中から飛び降りて魔獣へと降下を開始した。

 

 

「もう1匹いた!?」

 

「シュギャァァァァァ!!!」

 

流石にもうダメだと思った瞬間、

 

「チェリャァァァォァァァァ!!!!!」

 

真上から竜騎士様が降ってきた。竜騎士様は見た事ない剣を魔獣の頭目掛けて振り下ろすが、弾かれてしまう。予想してなかったみたいだが、すぐに頭を踏み台にして後ろへと回避する。

 

「硬ェな、おい」

 

そう言うと竜騎士様は剣を鞘に仕舞うと、懐から黄金に輝く謎の金属を襲ってきた魔獣、十二角獣へと向ける。次の瞬間、ズドォンという大きな音が何度か連続してなると十二角獣は、体に穴を開けて血を吹き流しながらその場に倒れた。

 

「流石に12.7mm徹甲弾には耐えられなかったか。ってか、寧ろ耐えたらマジの化け物だわな」

 

魔獣なら喰らおうかとも思ったが、黒焦げでは食えぬな

 

「魔獣って食えんのか」

 

竜騎士様は相棒であろう竜と話している。すぐに話は終わったのか、周りをキョロキョロと見廻すと私を見つけてくれた。

 

「おう、嬢ちゃん。ケガは無いか?」

 

「は、はい♡」

 

とても勇ましく男らしく、それでいて何処か優しく透き通る様なお声で、私を心配してくれている。お顔もとてもイケメンで、目も慈愛に満ち溢れていながらも闘志を宿す「戦士」という言葉が一番似合う、とても凛とした佇まい。女性の心は完全に神谷に射抜かれた。

 

「おーい、浩三!!大丈夫か!?!?」

「閣下!!」

「長官!!」

 

右の茂みから、まだら模様の服を着た汚らしい格好をした男たちが数名やってきた。その格好は一言で言えば野蛮であり、「森の蛮族」と命名したほどだった。もう一人きっちりとした服を着た男が一人、息を切らしてやってくる。

恐らく最初の数人は従者であり、旅のお供なのだろう。旅とは1人で出来ぬとは言え、この様な蛮族にすら配下として加えるなんて何と器の大きい御方なのだろう。

女性の暴走は止まらない。

 

「竜騎士様、それに配下の方々。私は王国3大諸侯、ウィスーク公爵家の娘、エネシーと言います。騎士様に助けていただいた事を感謝し、是非お礼に家でご一緒にお食事をと思っています。配下の方々も良ければご一緒にどうぞ」

 

「は、配下?」

「俺達の事じゃね?」

「竜騎士様は閣下か?」

 

助けられた女性、もといエネシーの発言に全員が困惑していた。まあ状況的に神谷が竜騎士に見えても可笑しくはないし、兵士達が配下に見えても分からなくはない。だがしかし、この後の言葉に全員が固まった。

 

「竜騎士様、お名前をお聞かせ願えますか?」

 

あ、俺の事か。あ、えっと。俺は神谷だ」

 

「カミヤ様。素敵なお名前.......。私の旦那様に相応しい御方ですわ」

 

瞬間、その場の全員が完全に凍りついた。神谷には知って通り、通称「五等分の花嫁」と呼ばれてるハイ・エルフ五人姉妹とコンヤクカッコカリな状態である。つまり人の旦那に対して知らぬとは言え、求婚してしまってるわけである。

流石にこれには神谷も驚いており、どう訂正しようか迷っていた。普通に「俺、婚約してるんですけど」とは言うわけにもイカんので、ほとほと困っていた。

 

「あぁ♡見れば見るほどお美しい。その顔、その肉体、その声、器の大きさ、一挙手一投足が洗練されていて美しいですわぁ♡さあ、早く屋敷に参りましょう?ベッドでは優しくしてくださいね♡

 

小声でこっそりボソッと言った言葉。エネシーは恐らく聞こえないと思っていたのだろうが、その場の全員は聞いてしまった。その瞬間、全員に液体窒素のブリザードが局地的に発生したのかと思う程に悪寒が走る。そして神谷の心情はと言うと

 

コイツ地雷女だぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 

大荒れである。この地雷女のターゲットは現在神谷であり、被害を被る可能性が一番高い。尚も神谷の動揺は止まらない。

 

(え?いや、待って。ちょ、待てよ。マジで一回落ち着け、神谷浩三。戦場では冷静さを欠いたものから死ぬんだ。よし、よし。よぉし!

まずは状況の整理だ。俺は新規国交開設の護衛兼、軍事系の解説のために派遣されている。日本から遥々ここまできて、極帝の背中に乗ってここに来た。で、なんか襲われてたから助けた。そしたら助けた奴が地雷女で、なんか好かれた。しかもさっきは「ベッドでは優しくしろ」という発言まで出た。

あっるぅぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?なんで!?どうして!?え????いやいやいやいやいやいやいや!!!何この不運の連続コンボ!?!?なに、何なの!?俺はここで殺されるか、この女とベッドインする羽目になるのか!?!?俺には一応、一生面倒見ると決めた妻達がいるのに、ベッドインして朝チュンコースに行くのか!?!?ってか正直、このエネシーって奴、俺好みじゃないんだけど。俺、ムチムチとした肉付き良い奴とか胸のでかい奴が好みなのに.......)

 

「(ちょ、浩三!!作戦会議だ!!)」

 

神谷が心の中で文句言いまくっていると、川山が神谷の腕を引っ張り、茂みの中に連れ込む。

 

「(よーし、浩三。念の為、俺達が同じ認識を持ってる事を確認するぞ)」

 

「(おう。あの女は、せーの)」

 

「「((絶対地雷女!))」」

 

まずは互いに同じ認識である事に安堵しつつ、今からの対策を考える。だかしかし、迂闊には動けない。しくじれば下手したらナイフでグサッ、である。

 

「(なあ、頼むからこのままお前が泥被ってくれない?)」

 

「(嫌に決まってんだろ!!!!)」

 

「(いや、だってよ?アイツ、公爵令嬢って言ったよな?ならよ、助けたのを口実に話をする事が出来る。ここであの地雷お嬢様の機嫌を損ねたら、マジでやばいぞ。もしかしたらアイツの親もイカれてる可能性あるし)」

 

「(.......俺の生命の保証は?)」

 

「(good luck)」

 

川山の理由には一理ある。確かに今の状況下で言えば、渡りに船である。こんな美味しい状況は、そうそう来る物じゃない。しかし代償が高い。神谷は自他共に認める最強の男ではあるし、最近は魔法やら極帝やらでチーターを超えるレベルの強さを持つ。小娘程度にナイフで襲撃されても、反撃して即鎮圧できるだろう。

だが、肉体的に強くても面倒だし、何より恐怖で精神的にアレである。出来るなら関わり合いになりたく無いタイプの人種である。

 

「(なんかもう、いいや。うん。腹ァ、括るわ)」

 

そう言った神谷の目は、完全に死んでいた。茂みから出ればエネシーが腕に抱きつき、デカくは無いが小さくも無い胸を押し付けてくる。しかし神谷の目は死んでいる。質問されても適当に話を合わせて答えていて、やっぱり目は死んだままである。

周りの兵士と川山は勿論、極帝すらも「友よ、目が死んでおるぞ」と指摘する程にヤバい目であった。尚、頭乙女御花畑のエネシーは気付いてすらいない。

 

 

 

数時間後 カルアミーク王国 王都アルクール ウィスーク公爵家

(一体何なんだ!?)

 

急遽帰宅したウィスーク公爵の脳内は、完全に混乱しきっていた。

なにせ娘エネシーはダメだと言ったにも関わらず、王国の建国祭りの飾として花を、王都城壁の外側に勝手に取りに行った。この時点で、とんでもない問題だ。

そこで、この付近では活動が確認されていない12角獣と出会う。命の危険が生じたという事だ。もう護衛をつける以外に外出は認めない。いや、家から一歩も出さない。

そこに颯爽と竜に乗った騎士(神谷)が現れ、12角獣をあっさりと滅しエネシーを助けた。物語にしてもタイミングが良すぎる。出来すぎる。それが現実なら尚更。

そして目の前にいる緑のまだら模様をした汚らしい者たちである。一言でいえば蛮族。竜騎士の配下の者らしい。今、眼前でまともな格好をしているのは2人、娘が自信満々に説明したカミヤという竜騎士と、カワヤマという名の異邦人。

とまあこんな具合に、冗談で作った物語よりも凄いレベルのご都合主義すぎる物語が現実に爆誕しやがったわけである。

とは言えど、娘の命の恩人にきつくは当たれない。そこで食事に招く事にして、今に至る。

 

 

「という訳で、その時のカミヤ様は強く、素敵でとてもかっこよかったのですわ、お父様!」

 

「はいはい」

 

娘の話を聞き流す。本日、これで23回目である。23回もおんなじ話をされては、流石に覚え切ってしまう。もう8回目くらいからマトモに聞いてない。

 

「お父様、聞いてるのですか!?」

 

「ああ、何だったかな?」

 

「カミヤ様に庭のお花畑を見せて差し上げたいのですが、席をはずしてよろしいですか?」

 

「ああ、良いぞ」

 

そう言ってエネシーは安定の腕に絡みついて胸を押し当てる状態で外へと神谷を連行していく。

神谷は死んだ目をしながらハンドサインで「Help me. SOS」と送り、部下達はただ無言で敬礼するなり、サムズアップするなり、「頑張れ」とハンドサインを送るなりして見送っていた。

 

「娘を助けてくださって、本当にありがとうございます。さて、お礼をしたいと思うのですが、何かほしい物はありますか?」

 

「物ですか。物は特には必要ありません」

 

「ほう、なんと無欲な。しかし、知ってのとおり私はこう見えても、王国3大諸侯の1人です。娘の命を助けていただいた恩人に何もしなかったでは、ご先祖様に顔向け出来ません。

そういえば見慣れない服ですが、どちらの地区のご出身でしょうか?」

 

「ウィスーク公爵閣下」

 

川山は立ち上がると仕事モードの顔つきでウィスーク公爵に向き直り、自らの職務を開始する。

 

「あらためて、自己紹介させていただきます。私は大日本皇国外務省、特別外交官の川山慎太郎と申します。大日本皇国、日本はこの国から南西方向にある島国です。国交を開設する事を目的として、その事前の接触、ファーストコンタクトをとるために派遣されました。

もしよろしければ、この国の外交担当部署にご紹介いただければ幸いです」

 

「外交担当に取り次ぐ事はできましょう。しかし、国交がそれで結ばれるかの保証はいたしかねます。これは他国を排除しているという意味ではなく、国交開設のため貴国の出す条件や、貴国がどんな国かを理解しないと無理だろうという意味です。

それ以前に、海の先から使節団が来た事例が無いため、失礼ながら本当にあなた方の言われる国から来たのかの審査もあると思います」

 

大日本皇国がどんな国なのか知らず、そしてどんな条件を出てくるのか不明の状況下にあって、それはごく自然の発言だった。不平等条約を押し付けられたのでは、たまったものではない。

因みに相手を殆ど知らずに不平等条約を結んじゃったのが、幕末の日本である。

 

「はい、承知しております。」

 

「しかし海の先から使者が来るのは、本当に驚きですな。ご存知のとおり、この世界は海へ降りるためには崖をくだらなければなりません。

過去に何とか小舟を作り、崖を降ろして海に調査団が出た事がありました。ですが、かなりの距離を走った後、不毛の地で構成された大山脈が現れ、なんとか山を超えましたが、さらに広大な海が広がっていたと言われています。

海の先に人が住む土地があるかもしれないという指摘はされていましたし、現実的に考えれば居ると考えられています。あぁ、いや居たと言った方が正しいですな。ですが人が外部から来たという公式記録は1度も無く、まして軍や使節を送る事なぞ不可能。今我々が「世界」と言えば、この島の事を指します。」

 

「そうですか。我々と国交を結ぶ事が出来れば、その自然の壁を簡単に突破する事が可能になります。まずは公爵閣下にも、日本の事を知っていただきたいと思います」

 

そう言うと川山は鞄からタブレットと、立体映像を投影するプロジェクターを取り出して準備する。部屋の明かりを消してもらい、立体映像を持って日本の説明を開始する。

 

「我が国、大日本皇国は貴国より南西方向に約3000km進んだ位置にある島国であり、約378平方kmの面積を持つ国家です。先ず初めに———」

 

そう言って川山は様々な説明をしている。一方その頃、神谷はと言うと

 

「ハァ♡ハァ♡お待ちになってぇ〜」

 

「誰がお待ちになるか!!」

 

全力で庭を走っていた。何故かって?それは遡る事、数分前。

 

 

「見てくださいまし、カミヤ様!花が綺麗でしょう?」

 

「あ、うん。綺麗ダナー(棒)」

 

「私と花、何方が綺麗でしょう♡?」

 

「エネシーだと思うナー(棒)」

 

(あぁ。俺、なにしてんだろ)

 

エネシーのお守りで話を合わせながら、適当に返事をし続ける。幾ら国の為とは言え、段々何かが可笑しく感じ始めてきた。しかしまあ、一応仕事ではあるので自動運転で活動している。

 

「カミヤ様は、私のことをどう、思いますか?」

 

「あー、可愛いんじゃナイノ?知らんケド(棒)」

 

「フフフ、そう思ってくださっていたのですねぇ♡」

 

なんだか、エネシーの様子が明らかにおかしい。しかし上の空状態の自動運転モードである神谷は、それに気が付いていない。次の瞬間、エネシーは神谷に飛び付いてきた。

この行動に瞬時に意識が戻り、横に避けてやり過ごす。

 

「避けなくても良いじゃ無いですかぁ♡?一緒に、ラブを育みましょう♡?」

 

「おいおいマジですか」

 

完全に目が♡になっており、発情したような息遣いをしている。流石の神谷も冷や汗をかき、「これ捕まったら、アレだわ。ナニされるヤツだわ」と悟った。そうと決まれば、やる事は一つ。

 

「逃げるんだよォォォーーーーー!!!!!!!」

 

戦略的撤退を以て、ホットゾーンからエスケープをかました結果がこれである。

 

「逃げなくても良いじゃありませんのぉ!」

 

「逃げるわ!!自分の貞操の危機とか、冗談抜きで逃げるっつーの!!!!」

 

幾らクレイジーヤンデレのエネシーでも、所詮は温室育ちのお嬢様。普通に最前線の鉄火場をあちこち飛び回る現役最強兵士である神谷には、如何な愛の力を持ってしても太刀打ちできない。そんな訳で2人の距離は、みるみる内にドンドン離れていく。

 

「お、お待ちになってぇ.......」

 

流石にスタミナが切れたのか、エネシーはバッテバテであった。そのまま屋敷に戻ろうかと思った瞬間、神谷の無線が鳴った。

 

『閣下、ちょいと不味いことが起きました』

 

無線の相手は今回の使節団護衛艦隊の指揮官、黒崎からである。曰く「カルアミーク王国領内の地方都市にて、大規模な戦闘が勃発した」らしい。まだ他国からの攻撃か、内乱や革命の類いか、はたまたこの世界独特の魔物や魔獣による襲撃かは分からないらしいが、一応念の為に空母航空団と海軍陸戦隊は臨戦態勢に移行した、という報告であった。

 

「仕事早くて助かる。でも、まずは彼方さんの面子を立てる必要がある。分かってるだろうが、今はまだ手は出すな」

 

『えぇ。そこは一兵卒に至るまで、全将兵が理解しております。ですが戦争になれば、ヤバいですよ。何せ今回連れてきたのは、海軍陸戦隊の中でも荒くれ者が集まる、第四海兵師団ですから』

 

「あー、そういやそうだった。アイツら練度こそ高いし仁義に外れたマネはしないが、素行は良くないんだよなぁ」

 

第四海兵師団は海軍陸戦隊の中でも精鋭の一つに数えられる師団である。しかし1つだけ問題があり、何故か配属される隊員達は荒くれ者が多いのである。何も何処ぞの変態性欲ゴリラ兵士みたく、その辺の一般女性を拉致ってレイプしたりとか、略奪したりするような仁義に反する事はしないし、というかむしろ、そう言うのを見ると殺す勢いで吹っ飛ばしにかかる連中である。

確かに仁義に反する行いはしないが、今言った通り殺す勢いで仁義外れな奴には容赦しない。オマケに喧嘩っ早く、売られた喧嘩は片っ端から買うし、喧嘩に自ら突っ込んで殴り合う様な連中が勢揃いしている。お陰で軍内部からは「銃持たせるより、素手で戦わせた方が強い」、「本職のヤクザも逃げ出す」、「銃じゃなくて、ガントレットかメリケンサックでも持たせて戦わせた方がいい」とか色々言われてる。

 

「あぁ、マジでどうなるんだコレ」

 

今でさえ結構波乱だと言うのに、普通に地獄の大波乱への直通便の切符が発行されそうな事に神谷はゲンナリする。この後、マジの地獄になる事を神谷は知らない。

 



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第三十三話カルアミーク内乱

えぇ、今回。私の筆がノリにノリまくりまして、なんと文字数1万7,000文字に突入しました。その為、普段よりも増量コースとなります。
また今回は最後にお知らせがありますので、どうぞ最後までご覧ください。


ウィスーク公爵との接触より9日後 ウィスーク公爵邸

「で、この状況どうすんの?」

 

「どうしようか」

 

川山と神谷は共に頭を抱えていた。というのも、報告にも上がっていた「地方都市で大規模な戦闘が発生した」という報告が王国の方にも上がった。問題なのは戦闘の原因が3大諸侯の1人である、マウリ・ハンマン公爵の謀反である点である。

でもって攻められた地方都市というのも、3大諸侯の1人であるイワン公爵領の街、ワイザーと呼ばれる場所だったらしく、イワン公爵の部隊は勿論の事、最高練度と最大規模を誇る王下直轄騎士団も投入されるらしく内戦待った無しの状況な訳で、その結果スパイ防止の為に、王命で商人も含めた王都への何人の出入りも禁じられてしまった。国交のある国の外交官なら逃げれたかもしれないが、今回の来訪目的がその国交を開く為に来てる訳で、足止めを食らってるのである。

 

「因みに聞くけど、その王下直轄騎士団だっけ?その騎士団と今回反乱起こしたマウリとか言う奴の軍とぶつかったら、どっちが勝つの?」

 

「現実的に考えて討伐軍、つまり王下直轄騎士団、イワン公爵私兵軍の連合軍が勝つ。幾ら反乱を起こしたのが3大諸侯の一角とは言えど、所詮は一公爵家。幾ら精強な軍隊とは言えど正規軍を含めた討伐軍とぶつかれば、圧倒的戦力差で捩じ伏せられる筈だ」

 

「なんか、含みのある言い方だな?」

 

「確かに机上では圧倒的な戦力差であっても、実際の戦闘は数値だけでは当てにならない。例えば織田信長が今川義元を倒した桶狭間の戦いでも、信長はたった2,000人しか軍勢がいないのに対して今川は2万5,000人の軍勢を率いていた。数値だけで考えれば、信長は負けている。だが信長は地形を利用したりとか、士気を上げまくったりとか、何やかんや手を尽くして勝利を収めてる」

 

「つまり戦ってみないとわからない、って事か?」

 

神谷は「それもあるが」と言いながらタブレットを取り出して、偵察衛星の画像を見せた。画像は中世ヨーロッパ風の街並みが、火の海になっている映像である。

 

「これは?」

 

「マウリが最初に攻め込んだ、イワン公爵の領有してるワイザーとか言う街だ。お前なら、可笑しな点がわかる筈だ」

 

「んーーー?あ!!」

 

川山は画像を凝視していたが、すぐに何かに気付いた様で顔を上げる。神谷はすごく面倒臭そうな顔をしながら「気付いた?」と言った。

 

「中世ヨーロッパに、こんな大火災を起こせる程の兵器はない」

 

「正解だ。つまりマウリは、近代程度の技術力を使った兵器を持ってる可能性が高い。近代と中世。どっちが勝つかは、言わなくてもわかる筈だ。そんで俺もそう思って、色々探らせてみた。そしたら、こう言うのが出てきちゃった訳よ」

 

そう言いながらタブレットをスワイプし、画像を切り替える。今度は鷲をそのまんま人間が乗れるまで巨大化した見た目の巨大な「魔鳥」とも形容すべき、異世界ならではの鳥の画像が映し出される。

 

「これって確か、火喰い鳥とかいう生物じゃないか?」

 

「あぁ。ワイバーンを使役する方法が確立される前に使われていた、今では輸送でしか見ない生物だ。第一の問題はコイツだ」

 

「いやいや。ワイバーンよりも弱いんだから、どうにか倒せるんじゃないか?」

 

「いや、多分倒せない。確かにワイバーンより弱いが、重要なのはそこじゃない。重要なのは、この島の中には航空兵器の発想が存在しない(・・・・・・・・・・・・・)点だ」

 

神谷の言葉に川山は首を傾げる。正直、何が問題なのか分からない。航空兵器の発想が無くても、別に問題ないような気がする。それが川山の考えである。

 

「兵器ってのは、常にイタチごっこだ。何か新しい兵器が生まれると、それに対抗する兵器が生まれ、今度はその兵器に対する対策を行う。つまり兵器ってのは、対抗する必要がないと生まれない。この意味、分かるか?」

 

「まさか.......討伐軍には対空兵器が配備されてない?」

 

「そう考えるのが妥当だろう。まあ生物だから弓兵で方陣でも組んで矢を浴びせれば倒せずとも怯ませる位は出来るだろうし、何より魔法とか言う訳のわからん存在があるから一概には言えんがな。

だがさっきも言った通り、航空兵器の発想が無いんだ。発想すら持たない兵器が、自分達の想定や想像を超える脅威が自分に牙を剥いたら、人はどんな風になるかなんて想像に難くない」

 

「これ、結構ヤバイんじゃ.......」

 

「いや、ヤバイのはここからだ」

 

そう言いながらまたスワイプする。今度はとても見慣れた兵器の画像であった。

 

「なあ、これって装甲車か?見た目的に初期の頃だろうが.......。まさか、マウリはこれを持ってるとか?」

 

「最悪なことにな」

 

川山の顔は一気に青褪めた。装甲車、というより現代兵器と異世界の軍隊が戦ってどうなるか、どんな結末を迎えるかなんて言うのは、この世界で一番日本が知ってる事である。何せ日本はこの世界に来てから、ずっと世界中で大暴れしてきた。軍人ではないが、仕事の関係で戦場だった場所を何度も見ている。

 

「詳しいスペックは分からないが、形状からして第一次世界大戦直後にイギリスが開発したオースチン装甲車だろう。今から1世紀半くらい前の兵器とは言えど、討伐軍にはラスボスレベルの脅威だ」

 

「もしも、討伐軍が負けたら?」

 

「もしかしなくても、ここに攻め込んでくるだろうな。そうなったら、奴らに地獄を見せるまでよ。何の為に空母と戦艦を有する大艦隊と、海軍陸戦隊やら白亜衆含む我が神谷戦闘団を連れてきたと思ってる?こういう不測の事態に対処し、敵を殲滅する為だ」

 

そう言って笑う神谷の目は、いつも三英傑の中で見せる優しい顔ではなかった。冷ややかなる冷酷な目に、悪魔か何かの笑みを取って張っつけた様な見ていても楽しい気分にはなれない、泣く子がもっと泣き叫び、なんなら泣いてない子も泣かせる様な見る者全てに恐怖を刻む様な笑顔である。

 

(あ。これ反乱軍の皆さん、全員死ぬヤツや。しかもロクな死に方しないわ。そうなる運命の確定演出だよ、これ)

 

川山はこの瞬間、この世の真理(おやくそく)を垣間見た気がしたと後に語った。

 

 

 

同時刻 王都アルクール北方約80km付近

(流石に、たったの3日で80kmもの行軍は無理があったかと思ったが、その心配はなかった様だな。しかし)

「なんと面妖な.......」

 

王下直轄騎士団の団長、メチルの目線の先には普通は余り目にしない軍勢の姿があった。一言で言うなら「異形の軍隊」である。ファンタジー世界あるあるのモンスターの大軍勢というのは、この世界では極めて稀な出来事である。

というのもモンスター、もとい魔獣というのは基本的に単体で行動する。番いや群れを作って動く事はあるが、軍勢とは程遠い規模である。軍勢が現れるには魔王の出現とか、その種に於ける特異個体。例えばナゴ村を襲った「ゴブリンキング」の様な、特異個体の中でも指揮に特化した個体の誕生によって初めて成立する。

しかし今回は知っての通りマウリの反乱であって、今言った事には当てはまらない。しかも本来なら統率がない為、どんな戦い方をしてくるかが完全に未知数である。幾ら精鋭と名高い王下直轄騎士団とは言えど、そんなのが相手では厄介である。お陰で騎士団の警戒心はMAXである。

 

「メチル殿!メチル殿!!」

 

マウリ・ハンマンによって被害を受けた、イワン公爵配下の騎士が片膝を折って話しかけてくる。

 

「何でしょう?」

 

「逆賊、マウリ・ハンマンの軍への最初の一番槍は、我が騎士団が担当いたします」

 

「解りました。しかし相手はどんな攻撃をしてくるのか、全く不明です。どうぞ油断せず、ご存分に」

 

「ハッ!」

 

それではここで、戦力の比較と行ってみよう。

《討伐軍》

・王下直轄騎士団 5万名

・イワン公爵私兵軍(封魔騎士団2万&牙竜騎士団1万名)

 

《反乱軍》

・下位魔獣軍団(ゴブリンやオーク等の雑魚モンスターs)1万体

・12角獣突撃群 4,000体

・超魔獣ジオモービス 8体

・有翼騎士団 300騎

・戦車機甲兵団 50輌

 

え?原作よりも戦力強化されてるって?君達の様な勘のいいガキは嫌いだよ。

と言うのは置いておいて、全ては神の御心、いや!作者次第!!(この2つのネタ分かったらコメントで教えてね⭐︎)

 

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

自らを鼓舞する声と、馬が大地を蹴る音が付近に木霊する。イワン公爵の牙龍騎士団と封魔騎士団の士気は高く、騎士たちのあげた土煙が高く上がる。およそ400騎にもわたる騎士団は、下位魔獣約1500体に初撃を与えるために進む。

 

「悪魔め!!この弓をくらうがよい!!」

 

馬上の騎士達が闇を引き絞り、目標の少し上の方に向かって構える。

 

「放て!!!」

 

風切り音とともに、弓は魔獣へ向かい、雨のように飛んでいく。初射の後、封魔騎士団は敵の周囲を回るような機動をとり、弓矢による射撃を続ける。トカゲのような形をした魔物に矢が刺さり、魔物たちは悲鳴と共に、怒りの咆哮をあげる。間髪入れずにバラバラに配置された魔物の群れに、槍を構えた牙龍騎士団が突入する。金属のぶつかる甲高い音が響き、火花が散り、怒号と悲鳴が入り混じる。この攻撃により、陣形の一部が崩れる。

 

「見たか!!我らが力を!!」

 

「我らは優勢ぞ!!機動力を落とすな!!!」

 

だがマウリに取って下位魔獣なんて、唯の捨て駒。少々倒された所で、痛くも痒くもない。

 

 

「どうやら、我が方が優勢のようだな。魔獣どもは個々の能力は高いようだが、統制がとれていない。武器も貧弱だ。我ら王下直轄騎士団が出るまでもなく、イワン公爵の騎士団だけでカタがつきそうだな。」

 

メチルもそう考えていた。しかし、この考えは誤っていた事をすぐに理解させられる。

 

「ん?な!?め、メチル様!!!!アレを!!!!!」

 

部下の1人が血相変えて、メチルの足を叩いて指を差す。何事かと見てみると黒く足が6本で、顔は醜悪そのもの。筋肉の隆起が見て取れて、頭には角が12本不規則に生えている魔獣が姿を表した。十二角獣である。

 

「あ、あれは.......まさか12角獣!?上位魔獣があんなに!いかん!!!!我らもいくぞ!!ハァ!!!」

 

先方に展開中の騎士団が危機に陥ると判断した王下直轄騎士団メチルは、主力軍の前進を命じるとともに、自らの騎士団も前進を開始した騎士団は歩兵を追い越し、前に出る。

一方で左翼に展開していた封魔騎士団も、12角獣の存在に気づき攻撃を開始する。

 

「矢を射よ!!」

 

そう命ぜられて、騎士達が矢を放つ。ところが12角獣には効かない。矢はすべて、獣の針金のような体毛にはじき返されたのだ。それどころか攻撃に怒り、更に突撃してくる始末。

その後、何度も矢を放つも距離を瞬く間に詰められて、騎士団前方の騎士が連続して馬ごと吹き飛ばされる。その後方の騎士を巻き込み、壮大に落馬、騎士団の足が完全に止まる。機動力を失った封魔騎士団は、たちまち下位魔獣に囲まれてしまう。

因みに騎馬は超絶恐いです。機動力に物を言わせて背後を奇襲とか、超恐い。だが、機動力を失った時は超怖くありません。なので、もし読者の皆様が騎馬と戦う謎の事態に巻き込まれたら、森の中とか沼地に追い込んで、安全な場所から弓矢とか槍投げとかで戦いましょう。え?そんな状況起こるわけないって?君のよ(ry

※ソースは第六天魔王(ドリフターズ)

 

「抜剣!!隊列を整えよ!!」

 

個々の能力差をカバーするため、落馬した騎士たちは、早急に隊列を整える。その隊列に再度12角獣が突入。多くの死者を出し、隊列が粉砕される。

 

「ぐぁぁぁぁっ!!」

 

「あきらめるな!!見よ!牙龍騎士団がこちらに向かっている!!」

 

騎士団長が隊員たちを鼓舞する。すると12角獣の群れは封魔騎士団を放って、牙龍騎士団へ向かって走り始める。それに気付いた牙竜騎士団は槍を構え、魔獣と対峙する。多くの騎士が落馬し、弾き飛ばされる。しかし12角獣は数体がケガを負ったのみ。牙龍騎士団に動揺が広がる。

一方で王下直轄騎士団は総崩れとなったイワン候の軍、封魔騎士団と牙龍騎士団を救うべく、魔獣の群れに対し、突入を開始していた。

 

「なっ!!何だあれは!!!」

 

「うぉぉ!ま、まさか!!」

 

騎士達の悲鳴に、何事かと騎士団長メチルは上空を見上げる。

 

「そんな、そんな馬鹿な!!!火、火喰い鳥の群れだと!?しかも、人が乗っている!!?まずいっ!!」

 

天翔る騎士団は王下直轄騎士団上空約20m付近で、火炎を地上に向かい放射した。

 

「ギャァァァ!!!」

 

総数100騎にも及ぶ火炎放射は、地上をなめるように突き進む。この島の文明水準としては、あまりにも強力な攻撃となった面制圧火炎放射により王下直轄騎士団も総崩れとなる。

神谷の予想通り対空兵器を持たず、さらには想定外の戦法による衝撃は、精鋭と言えど乗り越えられなかった。

 

「天翔る統率された軍を、どうやって防ぐというのだ!!しかも最強の天の覇者、火喰い鳥を操るなど!!これほどまでに強力な軍がこの世界に存在するなぞ!ちくしょう!!ちくしょぉぉぉぉ!!!」

 

メチルの悲鳴は火喰い鳥の炎に掻き消され、ここに8万名を誇った討伐軍は敗退した。

 

 

 

数日後 ウィスーク公爵邸

(ウィスーク公爵に聞いても知らぬ存ぜぬだが、一体どんな負け方をしたんだか)

 

ウィスーク公爵邸の貸し与えられた部屋で、PCを叩いて仕事をしている川山。昨日くらいから、ウィスーク公爵の反応が可笑しい。一度マウリ軍との戦闘について聞いてみたが「国に関する保秘事項で」とか何とか言われて答えてくれない。そこで安定の偵察衛星で確認したが、しっかり負けていた。流石にどの程度の負け方かは分からないが、ウィスーク公爵の顔色的にフルボッコにされた感じなのだろう。

 

「慎太郎!!ちょっと匿って!」

 

「え、あちょ!」

 

神谷が飛び込んで来たかと思うと、そのまま部屋の角の天井にへばりついた。イメージ的には、というかアルソックのCMで天井にへばりついてた吉田沙保里そのまんまである。

 

「それ、リアルで出来る奴初めて見た」

 

「カワヤマ様ぁ?カミヤ様見てませんか?」

 

そう言って入ってきたエネシーに、川山は恐怖した。だって顔が完全にイっちゃってるのだから仕方ない。

 

「え?あ、あぁ。見ていないよ」

 

「そうですかぁ?もし嘘をついていたら、どうなるんでしょうねぇ〜?」

 

「いや、あの、え?」

 

「うふふ、なんて。冗談ですよぉ〜」

 

そう言って部屋から出て行くエネシー。しかし川山は少しの間、マジで動けなかった。

 

(え!?なに今の!?「どうなるんでしょうね」の時の顔、完全に人を殺した事ある奴の顔だぞ!?!?お、恐ろしやエネシー.......)

 

「いやぁ、助かったぜ」

 

「お前、よく生きてられたな」

 

「ハハハ、これも仕事にさせられたからな。ただちょっとラペリング降下で窓から逃げたり、屋根から木に飛び込んで逃げたり、換気用ダクトの中を進んだり、壁を登ったり、屋根裏を進んだり、変装したりしてるだけだからな」

 

そう。エネシーに追いかけられまくった結果、神谷は何処ぞのスネークみたく全力スニーキングしまくってたのである。因みにダンボールの代わりに木箱被って、10回くらい逃げ延びた。

 

「あの、神谷さん。怒ですか?」

 

「ハハハ、怒ってねーよ。ただちょっとばかし、マウリ軍に殲滅されないかなぁと思ってるだけだ」

 

「いや怒ってんじゃん!!なぁ、許してくれよ。お前の犠牲は、必要な犠牲なんだ。この通り!!」

 

そう言って謝り倒す川山。しかし次の瞬間、何かが遠くで爆発したかのような、重低音が部屋に木霊する。

 

「!?」

 

「おいおい、まさかもう攻め込んで来やがったか?」

 

「長官!!」

 

向上と他の護衛の兵士達も飛び込んで来る。

 

「向上、今の爆発の原因が分かるか?」

 

「恐らく既にお気づきかと思いますが、マウリ反乱軍の襲撃です。既に王都の外側の門が破られたらしく、現在王国軍はパニックに陥ってます」

 

「こうなりゃ、やるしかねぇな。各員、戦闘準備!!向上は艦隊へ連絡。航空隊の発艦と、海軍陸戦隊の出撃を下命しろ。他は着陸地点の確保だ。着陸場所は、もう庭先を借りちまおう。文句言われても、俺が責任取るから気にすんな」

 

「「「「了解!!」」」」

 

護衛達が飛び出し、与えられた任務を始める。連絡を受けた艦隊は、直ちに部隊の出動に入った。

 

 

『全艦戦闘配置。全艦戦闘配置。当直航空隊は発艦開始。敵、マウリ反乱軍の殲滅を開始せよ』

「機体上げるぞ!」

「オーライ、オーライ。ストッープ」

「フラップ、ラダー、兵装、すべて異常なし」

「射出後、方位230に向かえ。高度400で編隊を組む」

「射出まで3、2、1。射出!」

 

航空機が空母から次々に発艦していく。一方で揚陸艦からもVC4隼、AH32薩摩、UH73天神、CH63大鳥が発艦していく。目指すはウィスーク公爵邸である。

 

 

「お、お嬢様!すぐに地下に避難してください!!!」

 

既に城門は焼き払われ、そこから大量の魔物が市内に流入している。そんな負け必定の中、せめてエネシーだけでも逃がそうと、召使が腕を掴んで地下に連れて行こうとする。

 

「解りました。さあ、カミヤ様もご一緒に!!」

 

エネシーは隣に立つ(外に出た所を捕まった)神谷も連れて行こうとするが、動かない。

 

「カミヤ様早く!!早く避難いたしましょう。」

 

「何で?」

 

信じられない言葉が彼女の耳に飛び込む。唖然とするエネシー。

 

「な、何を言っているのですか?いくらカミヤ様がお強いとはいえ、あのような統率された化け物相手に単騎では、どうしようもないでしょう!?」

 

「たかが化け物じゃねーか。あんな化け物如きに、この俺が。この皇国剣聖である神谷浩三が!尻尾巻いて逃げるなど、絶対に有り得ない!!俺は皇国を、皇国臣民を害そうとする者をこの世での存在を絶対に許さない」

 

「ダメ!!行かないで!!!」

 

不意に周囲に大きな風が巻き起こり、付近の草花を揺らす。不気味な羽ばたき音と共に、火喰い鳥に乗った者2騎がエネシーの前に空から現れ着地する。

 

「ひ、火喰い鳥!!!」

 

人の攻撃など寄せ付けぬ、空の脅威が突如として彼女の前に現れる。空の魔獣に乗った騎士たちは、興味が無さそうに言葉を発す。

 

「ウィスークの娘か。運が無いな。とりあえず燃えておけ」

 

「運が無いのはどっちだ、雑兵共」

 

ドカカカカカ!!!

 

次の瞬間、後ろから無数の破裂音が連続して響く。後ろを見れば、森の蛮族だった筈の者達が白か黒の鎧を見に纏い、黒い杖を火喰い鳥に向けていた。

火喰い鳥の方は、騎士もろとも地面に伏している。

 

「ターゲットダウン」

 

「閣下、次の目標は?」

 

「陸戦隊は此処で待機し、後続部隊と合流。とにかく暴れろ。白亜衆は俺と共に極帝に乗って、苦戦している騎士様を助けるぞ」

 

「「「了解」」」

 

上空から極帝も現れて、すぐに乗り込む。そしてまた、大空へと羽ばたいていく。

 

「さぁて、野郎共!!親父の花道を確保しろ!!!!!」

 

「「「「「押忍!!!」」」」」

 

残った陸戦隊の兵士達もランディングゾーンとなる庭を確保するべく、使用人の退去やスモークを焚いて受け入れ準備を行う。

 

 

「くそっ!くそっ!ちくしょぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

上空に勝ち誇ったように乱舞する敵の有翼騎士団、度々打ち下ろされる炎によって王城は炎上していた。国王ブランデも、敵の攻撃により、炎の中に消えた。

 近衛騎士団長ラーベルは守るべき者を打ち取られ、悪態をつく事しかできない。守るべき街も燃え、王国臣民の悲鳴が絶えない。せめて上空の敵だけでも何とかしたいが空に対する攻撃なぞ、弓以外は全くない。

彼はふと、預言書の事を思い出す。

 

『異界の魔獣現れ、王国に危機を及ぼさんとする時、天翔ける魔物を操りし異国の騎士が現れ、太陽との盟約により、王国を救うために立ち上がる。

王国も建国以来の危機に見舞われるが、騎士の導きにより、救われる事となるだろう。』

 

現実主義者の彼にとって、預言にすがる事など、考えられない事だった。しかし自分に力は無く、万策尽きた今、彼は初めて神に、予言の実現を、勇者の降臨を祈った。

 

「たのむ!神よ!!私は今生まれて初めて祈る。

あなたに、ただ見守るだけではなく、本当に運命をつかさどる力があるならば、王国を救ってくれ!!あの悪しき魔獣たちを滅する力を貸してくれ!!神よ!!!!」

 

しかし、そんな奇跡が起こるわけもなかった。彼はすべてをあきらめる。1騎の敵有翼騎士が上空から自分に気づき、急降下を開始する。

 

「フフ。我ながら情けない最後だな。神に、実体の無い者の力に、すがろうとするとは。だがせめて、1矢!!」

 

ラーベルは弓をひく。火喰い鳥の口から、わずかに炎が上がり始める。

 

「うぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

次の瞬間、目の前の火喰い鳥が青白い光に貫かれる。そしてその光の掃射元は、1体の巨大な竜だった。

 

グオォォォォォン!!!!!

 

「お前達、下の人間達を救ってこい!!上空の敵は任せろ!!」

 

「閣下もお気を付けて!!」

 

そう言いながら、白亜衆の隊員達が極帝の背中から飛び降りて地上に降り立つ。

 

「move!move!move!」

 

「雑魚共に構うな!!大物を狙え!!!機関銃は逆に手数で雑魚を翻弄しろ!!!!撃ちまくれ!!!!!!」

 

竜から舞い降りた白銀の聖騎士達が、ラーベルの周りに展開し攻撃を始める。手に持つから杖から編み出される魔法に、あの12角獣ですら抵抗できずに倒れていく。

 

「あなた達は、一体.......」

 

ラーベルが辛うじて発した言葉に、白銀の聖騎士の1人が振り向いた。

 

「その鎧.......。騎士団長クラスの騎士とお見受けする。すぐに、部下と市民を連れて撤退されたい。この場は我ら、神谷戦闘団白亜衆が預かった!」

 

「心得た白亜衆。この場をお任せ致す!」

 

この反応に、白亜衆は内心驚いた。てっきり「この地は我らの土地。其方らの様な、得体の知れぬ奴らに任せられるか!」とか何とか言われて、ゴネられて面倒になる事を覚悟していた。ところが、この騎士は戦況と白亜衆の装備を分析し、自らの部下や民の命と自らのプライドを天秤に掛けて直ぐに答えを出した。

この世界、というより中世ヨーロッパの文化に於ける騎士とは、意外とプライドに生きてナンボの世界。プライドを取っても可笑しくはないのだが、そのプライドを捨ててまで決断できる辺り優秀な指揮官なのだろう。

一方、世界でも最優秀の部類に入る指揮官であるが同時に前線で大暴れするぶっ飛び指揮官である神谷は、上空で火喰い鳥300騎と大空中戦をしていた。というかもう、乱闘の勢いである。

 

 

我が友よ!お前はいつもこんな馬鹿をやっておるのか!?!?

 

「あぁ!そうだ!!!空中戦は初めてだがな!!!」

 

貴様、本当に人間かぁ!?思考がぶっ飛んでおるわ!!

 

「日本じゃ皆、こんな物だ。慣れろ我が友」

 

そんな訳ない。こんなぶっ飛んだ事をするのは旧世界もこっちの世界も含めて古今東西、世界広しと言えど神谷浩三くらいである。この後、マジで極帝が自分の常識を疑ったのは言うまでもない。

 

「おのれぇっ!!!ここまでかき回されるとは!!敵はたったの1騎、たったの1騎ぞ!!」

 

敵には空で戦える戦力など、無いと思っていた。

 しかし、1騎の龍が戦場をかき回す。

 

「ええい!!何をやっておる!!!」

 

マウリ・ハンマンが吠える。戦場はこうも思いどおりにはいかないものか、と。敵は速度差による1撃離脱を繰り返しており、もう既に見える範囲だけでも15騎も撃墜された。敵はたったの1騎、こちらはまだ大半が健在と言えど、あんなのがウジャウジャいるであろう世界の外へ侵攻する場合は、航空兵力を整える必要がある。

 

ズドォンズドォンズドォン、カチッカチッ

「あ、クソッ!弾が切れた!!」

 

一方で神谷は、弾が切れた事に少し焦りを見せていた。今さっきまでは、神谷が拳銃で背後などの極帝の死角となりやすい部分をカバーしていた。しかし幾ら一撃必中(マジで1発も外さずに、正確に火喰い鳥の脳天や騎士の頭や心臓などの急所を射抜いた)を実行しても、弾に限りはある。

しかも元々神谷は銃撃は向上に任せて、自分は前衛で敵を切り捨てる戦法を得意としてしている。その為、普段の戦闘でも余り弾を持ち歩かない。その上に今回はあくまでも要人護衛の為に銃を持ってきており、余り戦闘を想定していなかった事もあって、殆ど弾を持ってきていなかった。

なら地上に降りて地上戦でもと考えたが、生憎と余り着地できそうな場所がない。なら、どうするか?答えは簡単である。銃を使わずに戦えば良い(・・・・・・・・・・・)

 

「極帝!お前はこのまま下の戦車を攻撃しろ。俺は、火喰い鳥を相手する」

 

は?

 

「とうっ!!!」

 

我が友ォォォォ!?!?!?!?

 

何と神谷は極帝の背中から飛び降りた。そしてそのまま、腕に装備したグラップリングフックを手近の火喰い鳥に撃ち込む。

 

「首置いてけぇ!!!」

 

ザシュ!!

 

そして信じられない事に、撃ち込んだ火喰い鳥に騎乗していた哀れな騎士の首を斬り飛ばしやがったのである。これにはさっきまで大暴れした上に上げてきた戦果に天狗になっていた流石の有翼騎士団も、完全に肝を冷やして固まってしまった。

そんな隙を待ってましたと言わんばかりに、また同じようにグラップリングフックを撃ち込んで、首を斬り飛ばす。しかも今度は騎士の亡骸を他の騎士に投げつけた、落馬ならぬ落鳥(?)させて撃墜する。その上、火喰い鳥を操って他の騎士が乗る火喰い鳥に突っ込ませた。

 

わ、我はとんでも無い男を友にしたのでは無かろうか.......

 

ちょっと気付くのが遅い極帝さんはさておき、ウィスーク公爵邸の臨時指令室ではウィスーク公爵が絶望していた。

 

「敵の火を放つ戦車が第2の城門外壁を破壊!!内壁の門に向かい、敵がなだれ込んで来ています!!」

 

「王国軍、反撃体制が整いました!内壁城門が破壊された場合、こちらから撃って出る予定です!!」

 

「敵、火喰い鳥の騎士団は、神谷殿が食い止めています!!しかし数に押されており、全ては食い止められていません!!」

 

王も討たれ、今や残る兵力は王下直轄騎士団と近衛騎士団の生き残りと自らの私兵軍と領民の自警団+αの「軍隊」にしては、とてもお粗末な集団。片や敵は火喰い鳥や強大な魔獣を使役し、戦車すらも保有している。勝ち目は、無い。

なれば臨時の国家元首として、取るべき最良の選択とは何か。少なくとも、今この場にいる内乱には関係のない者、日本人を生きて祖国に帰してやる事こそが、務めであると考えた。

 

「川山殿。敵は西側の第2の城門を破壊しに来ています。まさか、1諸侯がこれほどの力を持っているとは思いませんでした。間もなく第2城門は破壊され、この居住区にも敵が流れ込んでくるでしょう。我らに、あの戦車に抗する術は無いようです。どうか、なるべく東に避難して下さい。そして、生きてあなた方の祖国の土を踏んでください」

 

ウィスークは川山に避難するようにと、そう願った。しかし川山は少しだけ笑って、ウィスークを真っ直ぐに見つめる。

 

「申し訳ありませんが、その願いは拒否致します。窓の外で今も竜の背に跨って戦っている男は、大日本皇国最強の兵士。皇国剣聖、神谷浩三です。アイツが前線で戦っている限り、負ける事は有りません。

それにあなた方は今、国家存亡の危機にあり命をかけて戦っている。このようなギリギリの状況下で、危なくなったという理由で、私たちだけが逃げ出した場合、どうやって貴国と信頼のある同盟が結べましょうか?」

 

「しかし、あの巨大な竜の強大な魔法攻撃を持ってしても、あの戦車には効果がありませんでした。おそらく、あの戦車は超古代文明の遺跡を解析して作られたものだと思います。竜の大魔法をはじき返す者が敵なのです。残っても滅びが待つだけです。我が国の都合で足止めをしてしまった。早く!早く逃げて下さい。」

 

「いーえ、絶対に逃げません。この内乱、哀れな反乱軍は殲滅されますよ」

 

次の瞬間、風を切り裂く爆音と共に窓の外が白い光に照らされた。部屋の中に居る者達が窓の外を見ると、巨大な鉄の塊が空中に浮かび、中から多数の兵士が飛び降りていた。

 

「間に合いましたね。ウィスーク公爵。あれこそが我が国の守護者達にして世界最強の戦士達、大日本皇国軍です。その戦いぶり、その目に焼き付けてください」

 

庭先に降下した第四海兵師団は、歩兵部隊は輸送トラック(ホロなし)に分乗。WA2月光ハ型を先導に、前線となっている第2城門に向かう。

 

「頭ぁ!もうすぐ目標地点です!!!」

 

「よぉし!火炎瓶を投げ入れたれ!!!!」

 

「へい!!」

 

荷台に乗っていた兵士がトラックの横に移動し、そこで火炎瓶を構える。そして後100m程で最前線、と言う所で火炎瓶を投げた。

 

「そぉら!!」

 

投げられた火炎瓶は大きく弧を描き、そのまま石畳の上に当たって割れる。当然、周りには炎が飛び散る。

 

「こっちもや!ほぉれ!!」

 

他のトラックからも、続々と火炎瓶が最前線に向かって投げられる。やがてトラックは敵と対峙している、騎士達の横に止まる。

 

「助太刀するで、騎士サマ」

 

「な?あ、アンタらは」

 

「おう!!ぶっ殺したれや!!!!!!」

 

頭と呼ばれていた一際ガタイの良い男が、運転席から荷台の兵士たちに命じる。すると荷台のパネルを下に下ろして、続々と兵士達が飛び降りる。因みに武装が何故か鉄パイプ、釘バット、ビリヤードキュー、角材、警棒、メリケンサック、ドス等々のヤクザ装備である。あ、サブウェポンに(・・・・・・・)銃を装備している。

 

「タマ取ったれぇ!!!」

「死に晒せバケモン共が!!!」

「イヒヒヒヒ!!真島吾郎参上や!!!!!やったるでぇ!!!!」

 

なんなどっかの兄さんが憑依してる奴もいるが、第四海兵師団はヤクザ装備を持って下位魔獣をボコボコにしていく。流石の魔獣も本職ヤクザすらも逃げ出す、超絶怖い荒くれ者軍団には太刀打ち出来ない。というか、味方である筈の騎士達ですらドン引きしている。

あ、因みに第二十四話「全ては式典の為に」の基地祭や式典のはっちゃけ伝説を書いた話の中にあった「AH32薩摩を西郷さんと龍が如くの郷田龍司の痛ヘリを作った海軍陸戦隊の部隊」というのが、この第四海兵師団である。

 

「な、なんだアレは!!化け物め!!!!12角獣よ、行け!!行くのだ!!!!」

 

「グオォォォォォォン!!!!!」

 

マウリの右腕であり、なんか大体の厄介事の元凶になってる古の魔法帝国の遺跡を解明し、戦車やら魔獣の使役やらをやってのけた大魔導士オルドは、目の前に迫る化け物達に恐怖していた。半狂乱になりつつ、12角獣を動かして敵を殲滅しようとする。

しかし走り出して5秒と立たないうちに、オレンジ色の光に身体中を射抜かれて12角獣は倒れてしまう。

 

「な、なんだ。今、魔力は感じなかったぞ.......。な!?」

 

オルドは、見てしまった。屋根の上に乗る巨大な鋼鉄の胴体を持ちながら、不規則に曲がる妙に生物じみた足を持つ二足歩行の化け物を。そして鋼鉄の胴体の上や腕であろう部分から、大小様々なオレンジ色の光が撃ち出されるのを。

 

「悪魔だ.......アッ」ドサッ

 

余りの恐怖に、気を失うオルド。因みにこの後目を覚ますと揚陸艦の中で、病室やら様々な所で第四海兵師団の強面な漢達にオモチャにされました。あ、イライラ解消グッズとか掘ったとかではなく、お茶を麺つゆに変えたり、水を日本酒にしたり、カレールーの代わりにチョコレートぶち込んだ物を食わせたり、寝起きドッキリされたりと地味に面倒な奴である。後半は逆にオルドが仕返し魔法でイタズラしたりしたらしい。

 

 

「これで、100騎目だ!!」

 

「ギャァァァァァォ!!!」

 

ちょっと見てない間に、神谷は1人で有翼騎士団の3分の1にあたる火喰い鳥を倒していた。極帝も倒していた分も含めると、半数近くは倒している。そろそろ疲れが見え始めてきた頃、航空隊が到着した。

 

『閣下。後は我々が引き継ぎますので、退いてください』

 

「オッケー、任せるわ」

 

そのまま極帝の背中に着地して、マウリを捕縛するべく本陣へと向かう。因みに戦車は、全部極帝が倒してくれた。え?火喰い鳥はどうなったかって?全部ミサイルで戦闘機の姿を見る事なく、アウトレンジ攻撃で全騎ローストターキーに変身しましたが?あ、クリスマスや年末年始のパーティーにお一つ如何?

 

 

「ハァ!!ハァ!!」

 

(何故だ!何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ、何故だぁ!!!作戦は完璧。戦力も圧倒的。量、質、どれを取っても遥かに王国を上回る物なのに、何故!最初も、王下直轄騎士団との戦闘も勝ったのに、戦力も残ってない王都で何故負けたのだ!!)

 

マウリは護衛に連れてきていた騎士20名と共に、自領に向けて逃走していた。既に火喰い鳥の半数は墜とされ、戦車も、12角獣を筆頭とした上位魔獣も倒され、大魔導士オルドすら消息を絶った。完全に詰みである。

ならば一度撤退し、戦力を立て直す必要がある。マウリはとにかく馬を進め、この場から早く逃げたかった。しかし、それは許されない。

 

「あれだな。反乱軍のボスは」

 

「えぇ。護衛を狙撃して、足を止めさせます。準備を」

 

「にしても、やっぱり閣下の読みは当たるよなぁ」

 

そう。既に神谷はこうなる事を読んでおり、暴れたがりの第四海兵師団を迎撃役に配置。神谷戦闘団は前線の更に前方に配置して、敵の撤退を防がせる。そして白亜衆は主要街道に分散して配置し、首謀者を捕縛するべく潜ませておいたのである。

 

「aim」

 

「OK」

 

「fire」

 

ダァン!!

 

48式狙撃銃から放たれた12.7mm弾は先導の騎士の脳天に当たり、体内で炸裂して脳が消し飛ぶ。

 

「First shot hit。head shot kill」

 

「スナイパーより、各班。列車は止まる。繰り返す、列車は止まる」

 

前方の騎士が狙撃されて周りの騎士達がマウリを守るべく囲んでいると、前の茂みから白い44式装甲車イ型が3台飛び出してくる。

 

「チッ!下がれ!!下がれ!!!!」

 

隊長格の騎士が下がる様に命じるが、今度は後ろも同じく白い44式装甲車イ型に塞がれてしまう。そして中から白亜衆の隊員達が出てきて、銃を騎士達とマウリに向ける。さらに両サイドに広がる森の中からも、白亜衆の隊員達が出てきて完全に包囲されてしまう。

 

「マウリ様。私が打って出ます故、その隙にお逃げください」

 

「わ、わかった」

 

「スゥ、行くぞおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

1人の騎士が剣を構えて人間とは思えない跳躍力で5m程飛び上がり、正面の白亜衆の隊員達に襲い掛かろうとする。流石に一瞬は驚いた隊員達だが、スッと銃を向けて引き金を引く。

 

ドカカカカカ!!!!

ズドドドドドドドドド!!

 

車載されてる20mm機関砲も用いた弾幕に、ボロ雑巾の様に引き裂かれて最早、肉片にまで加工されて地面に倒れる騎士。その余りの悲惨さに、マウリは発狂してしまう。

 

「嫌だァァァァァァ!!!!!!僕死にたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!ママァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」

 

その豹変っぷりには護衛の騎士も、白亜衆の隊員も皆等しく驚いていた。しかし次の瞬間、マウリの動きは止まる。上空を見ると極帝と神谷がおり、神谷が石化の魔法でマウリの動きを止めたのである。

 

「おいおい。いくらなんでも「死にたくないママー」は無いだろうが」

 

「閣下、登場が遅いですよ」

 

「そう言うな。こっちは火喰い鳥相手に、コイツと刀で大乱闘してたんだから」

 

向上のクレームにグラップリングフックと刀を叩きながら、戯けて見せた。その後、というかその日の夜。被害が無かった迎賓館で、戦勝祝賀会が開かれていた。川山や神谷は元より、他の攻撃に参加した全皇国兵が参加し、庭には薩摩やら隼やらF8B震電IIが駐機する時代背景にそぐわない光景が見られる。因みに震電IIが着陸する際に、芝が燃えて火事になりかけたが気にしてはいけない。

参加者もウィスーク公爵や川山、神谷は勿論の事、今回の戦闘に参加した皇国兵やカルアミークの重鎮等々、沢山の人間が参加した。で、色々カオスになった。

 

「俺達、第四海兵師団の戦いに惚れました!!どうか、共に戦った証を!!!!」

 

なんとカルアミーク側の騎士団長が、第四海兵師団師団長に土下座してまで証を欲したりする珍事件がおきたり、

 

「おーい、こっちの肉も美味いぞ!!」

 

「この魚も中々いけるぞ!!」

 

2人の兵士が食べ物を皿ごと互いに投げて渡しながら飯を食べたり、

 

「龍神チャレーンジ!!」

 

「ファイアーー!!」ボオォォォォォ

 

カルアミーク側の騎士が酔っ払って、度数の高い酒を使った火炎放射をしたりと、皆なんかテンションがバグっていた。そんな中、神谷と川山はテラスで2人ワインを楽しんでいた。

 

「なあ浩三。外交ってさ、なんだっけ」

 

「いやいや。外交のプロが、外交の素人に聞くなよ」

 

「だってさぁ、最近の外交って大体なんか起きるじゃん。それも物騒で面倒な、ガチのヤバいのが」

 

「あー、言われてみれば確かに」

 

考えてみると、これまで外交で平和に終わったのはムー位の物である。後は大体、何か起きてゴタゴタするか、利用されて面倒事に巻き込まれるか何かしてるイメージしかない。

 

「おぉ、神谷殿。ここに居られたか」

 

「ウィスーク公爵?」

 

2人で話していると、ウィスーク公爵がベロベロになりながらやって来た。

 

「私は大事な1人娘、エネシーを君の嫁にやっても良いと考えている」

 

「え!?ちょちょちょ!話飛びすぎ!!ってか、私は」

 

「エネシーもそれを望んでいるしな。君にとっても悪い話ではなかろう?」

 

酔っ払って暴走したウィスーク公爵は止まらない。因みに川山は面白そうだから、あえてフェードアウトして柱の近くに隠れて様子を笑いを堪えながら見ている。

 

「いや、だから」

 

「遠慮しなくていいのだよ。エネシーは美人だろ?」

 

「まあ、美人ではありますが、私には」

 

「よし!なら決まりだな」

 

「だっかっら!!!話聞け!!!!!!

私には大切な婚約者がいるのです。ご厚意はうれしいのですが、今回の話はお断りします。」

 

ウィスーク公爵の顔が一気に真っ青になる。

 

「か、神谷殿、エネシーにはその話はまだしていないね?」

 

「はい」

 

「では、帰国するまでその話は伏せておいてくれないか?」

 

「え?」

 

「いいから!!!とりあえず帰国するまでは、結婚延期という形にしようと思う。君もあの娘に追いかけられたから分かると思うが、あの娘は一度思った事は何が何でも曲げない。しかも男絡みは、その傾向が強くなる。一度延期にしておいて、機を見て君は戦死した事にしておくよ」

 

ウィスークの提案は、流石に無理があった。どっかの騎士なら、それでも良かった。しかし神谷は三英傑として国民的英雄に数えられており、その名は最近だと諸外国にも轟いている。幾ら外界と切り離されてるとは言え、バレるのは時間の問題だろう。かと言って、たかがこの為に公の場から姿を消す程、馬鹿でも無い。

 

「多分、無理ですよ。それ。今更ですが、改めて自己紹介致しましょう。私の名は神谷浩三。大日本皇国剣聖にして、大日本皇国統合軍、総司令長官をしています」

 

「それは、まさか軍のトップか?」

 

「はい。ついでに言うと、結構私は国内でも諸外国でも顔が知られてますね」

 

この一言にウィスーク公爵は頭を抱えた。これでは、さっきのプランは実行できない。しかし、もうプランを考える必要は無くなった。

 

「カミヤ様ぁ?どう言う事、なんですかぁ?」

 

「え、エネシー!?聞いていたのか!!」

 

「はい。しっかりと聞いていましたわ」

 

何とエネシーご本人が登場したのである。しかも、ご丁寧に手にはナイフまで持ってる。

 

「さあ、カミヤ様。一緒に死にましょ?大丈夫、あなたを刺して私も死にますから」

 

「ふーん」

 

「なにより、ヒドイですわ。私という者がありながら、他の女に手を出すなんて」

 

「はぁ。だったら、ほら。そのチンケなナイフで、この俺を殺してみろよ」

 

次の瞬間、エネシーは神谷の心臓目掛けて走り出す。しかし神谷の胸に、ナイフが刺さる事は無かった。刺さる前に、蹴りでナイフをへし折ったのである。

 

「ナイフがっ!」

 

「その程度で俺が殺せるかよ」

 

そう言うと、神谷はエネシーを一本背負いの要領で投げ飛ばした。痛みに顔を歪めるエネシーに、神谷は徐ろに話し始めた。

 

「エネシー。お前は俺を、預言にあった伝説の騎士の英雄と重ねていたな。だがな、この世に伝説の英雄なんて奴は居ないんだよ」

 

「何を言って.......」

 

「所詮、伝説や英雄録なんてのは、権力者が自分達の都合の良い方向に持っていく為の物か、後の時代の人間が勝手に美化して生まれた偶像に過ぎない。例えば俺だって、祖国じゃ三英傑だの軍神だのと英雄扱いされている。だが俺は、心の底から英雄だと考えた事は一度もないし、この先もない。何故なら俺は、ただの人殺しと同じだからな。やってる事は、監獄に入ったり処刑される殺人者と何ら変わりない。

確かに俺の殺しは、法的には違法にはならない。軍人の責務だから、寧ろ誉められるべき事だ。だが殺しが正当化される事も、正当化される時代も存在しない。英雄とは、伝説とは、そんな奴らを美化して利用してるだけに過ぎない。だからもう、憧れを現実にしようとするな。その憧れは、綺麗なまま心の中に仕舞え」

 

そう言うと、神谷はテラスを去って行った。それ以降エネシーにもウィスーク公爵にも会う事なく、祖国である大日本皇国へと帰還した。

 

 

「浩三」

 

「なんだ、慎太郎」

 

テラスから離れた後、神谷は廊下で川山に捕まった。

 

「地雷女との話、聞いちまったんだが。1つ、聞かせて欲しい。お前はどうして、そんな思いをしてまで戦うんだ?」

 

「簡単だ。それが、俺と俺の中に流れる血が決めた道だからだ。血塗られた道でも、俺の祖先達はその道を通って来た。なら俺も、その道を通ってやるさ。それに」

 

神谷は川山の胸をグーで叩く。

 

「お前や健太郎には、軍人としての俺が居た方が便利だろ?」

 

そう言って、神谷はいつか3人で誓い合ったあの少年時代の様な笑顔で笑った。

 

「お前、本当に変わらねーな」

 

「俺達の心は、いつだってあの日の誓いから変わらないだろ?」

 

「あぁ」

 

あの日の誓い。その事は今は敢えて語らないが、大日本皇国が変化した全ての原点である。その誓いを果たすべく、今も三英傑は戦うのだ。

 

 

 

 




読者の皆様。いよいよ年の瀬、年末年始ですね。一年間どうでしたか?私の方は、まあ特に何も無かったですね。コロナに振り回されて終わった感じです。
まあそれは置いといて。今年は年末年始の何処か、まあ多分正月の三が日の何処かになると思いますが、私が同時に執筆してる作品、『最強提督物語〜海を駆ける戦士達』とこの『最強国家 大日本皇国召喚』を融合させた物を投稿します!!
もしかしなくても、ぶっ飛んだヤベェヤツに仕上がると思うのでお楽しみに!!!!!


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お正月特別編 

一色「新年、明けましておめでとう御座います。今年も本作、最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜を始め、他の投稿主の作品を宜しくお願いします」

川山「それでは、早速本編行ってみましょう。因みに今回の作品は、どちらもパラレルの世界に当たる出来事の為、今後の作品の展開に影響はありません。もう主が書きたいから書いただけの代物なので、適当にお楽しみください。それでは、どうぞ!」

一色「てかさ、神谷は?アイツ、本作の主人公じゃん。なのに、新年一発目の挨拶にいないってどうよ」

川山「なんか、エルフ五等分の花嫁に捕まって動けないらしい。まあアイツ、今回出番多いから良いんじゃね?まあ、お客さんのキャラが濃すぎて薄くなってるけど」

一色「アイツ、何をした」


その頃の神谷邸
神谷「誰かー助けてー。エルフ五等分の花嫁が、俺の身体にしがみついててベッドから出れない!!というか豊満な肉体が押し付けられて、そろそろ神谷の神谷が暴発しそうなんですけど!!姫初めになるんすけど!!」

主「まあ、頑張って。この作品がR18指定されない様に、耐えてくれ」







2030年 12月某日 カロリン諸島

「ウェイポイント9通過。カロリン諸島です」

 

「予定通りだな。あー、帰ったら報告書作らんといかーん!帰りたくねー!!」

 

そう言いながら、黒いメタルギア ・ライジングの雷電みたいな戦闘服を着た男が頭を抱える。

 

「総隊長、さっきからそればっかっすね」

 

「いつもの事だが、もう少し仕事は減らして貰えん物かねぇ?」

 

「確かに。あの調子じゃ、すぐに老け込んじまいますよ」

 

パイロット達は、そんな男の姿を尻目に機体を操縦する。この「総隊長」と呼ばれている男こそ、17歳という若さで艦娘を有する新・大日本帝国海軍の連合艦隊司令長官にして、秘密特殊部隊である海上機動歩兵軍団「霞桜」の頂点に君臨する者。長嶺雷蔵、その人である。

で、何故、長嶺がこうも頭を抱えているのかというと、先程まであった戦闘が原因である。長嶺の指揮する江ノ島艦隊は、さっきまでソロモン諸島に巣食う深海棲艦への反攻作戦を行っていたのである。勿論作戦は大成功に終わり、深海棲艦も殲滅された。しかし報告書書きやら、その他いろいろな執務がある訳で、その事を考えた結果がコレである。

 

「ん?機長、あの雲は何ですかね?」

 

「あ?.......何だありゃ」

 

パイロット2人の目線の先には、紫色の雲があった。普通に考えて雲の色は、白か灰色だろう。煙なら分かるが、ここは洋上の上。周囲に陸地は無く、船舶の類も無い。というか煙でも、紫色の物は早々お目に掛かれる物でない。

 

「なぁ、アレなんか広がってないか?」

 

「ですよね。ヤバくないですか?」

 

「ヤバイな。総隊長!」

 

長嶺がコックピットに入ると、その第一声もやはり「何じゃこりゃ!」であった。

 

「紫色の曇って、ファンタジー世界でも見れる物じゃねーぞ。取り敢えず、進路を別の方向に飛べば、うおっ!!」

 

次の瞬間、機体が激しく振動する。しかも窓の外が紫色に支配され、警報が鳴り響く。

 

「推力低下!!高度落ちてます!!!!」

 

「機体を安定させろ!!って、クソッ。操縦桿が重い!このっ!!!!!!」

 

機長が渾身の力で操縦桿を引くが、殆どビクともしない。警報も耳が痛くなる程に鳴り響き、その内計器類も狂っていく。

 

「他の機体からもワーニングコール!!!どの機体も同じ状況です!!!!!!」

 

「一体何がどうなってんだ!!!!」

 

長嶺も現実離れした光景と、この緊急事態に驚きが隠せない。そして今度は落雷にあったのか、爆音が鳴り響き窓の外が真っ白になる。光が晴れると、そこは洋上だった。

 

「す、推力戻りました。計器類、ウェポンシステム、無線も異常ありません。いや、長距離無線通じません!!」

 

副機長が叫ぶ。機長と長嶺も確認してみるが、周りの僚機との無線は繋がる。しかし長距離の無線は、何処に掛けても不調である。

 

「な、なぁ。なんか、水平線が遠くなってないか?」

 

機長が自分の目を疑いながら、消え入る様な声で言った。確かに言われてみれば、遠い気がする。しかし、異変はこれだけじゃなかった。僚機の内、右翼の一番外側にいる機体から「南鳥島が見える」と報告が入ったのである。

カロリン諸島から南鳥島となると、約3,000km離れている。確かに今、霞桜の隊員達、それから作戦に参加した艦娘とKAN-SENを乗せている航空機、戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』は最高時速マッハ6を誇る機体だが、それでも数十分は掛かる。それにさっきはマッハ2しか出ておらず、現実的に考えて移動は不可能。この事実に皆混乱していた。

 

 

 

同時刻 南鳥島沖 洋上 原子力航空母艦『祥鳳』 艦橋

「艦長!レーダに感!!所属不明機が、本艦隊近辺を飛行中!!機数、200機を超えます!!!」

 

「竜の類か?」

 

「いえ、速力マッハ2!!反応が微弱であり、ステルス機の可能性極めて大!!!」

 

この報告に艦長は驚いた。この世界に於いて、音速を越える機体は現時点で日本しか保有していないのである。え?今の時代、何処の国家も音速を越える機体を軍が保有してるって?そう。確かに今の時代で、音速を超えない航空機を持たない空軍は居ない。戦闘機は必ず音速を超えた速度で巡航するし、音速を超えない事には土俵にも上がれない。

しかしこの世界は違う。この世界は異世界であり、中世ヨーロッパから現代(大体第二次世界大戦くらい。一部、現代と同レベルの技術もある)までの、幅広い文明が同時に栄える無茶苦茶な異世界なのである。しかも異世界のお約束である魔法もある訳で、文明レベルが無茶苦茶になってるのである。しかもこの世界の航空兵力とは、基本的に竜である。まあ一部の国家でレシプロの複葉機があったり、黎明期のジェット機クラスのが配備されてはいるが音速の壁をぶち破った国家はないし、レーダー自体も殆ど初期の物だから、ステルス云々の発想もない。そんな世界なのに、ステルス機能付き音速超え所属不明機とか怪しさ満点である。

 

「もしかしたら、我が国の秘密兵器の実験中なのかもしれないし、旧世界の他の国家や航空機が迷い込んだのかもしれん。航空隊を直ちに発艦させ、所属不明機の所属を明らかにせよ!!」

 

「アイ・サー!!」

 

『航空隊、スクランブル!航空隊、スクランブル!』

 

艦内中に放送とスクランブルを知らせるサイレンが鳴り響く。さっきまで仲間と談笑したりトランプをしていたパイロット達はすぐに待機室から飛び出し、整備士達は自分の受け持つ機体の出撃準備に取り掛かり、甲板作業員はカタパルトの準備や飛行甲板の道を開けて発艦の準備に取り掛かる。5分もすると、航空機がカタパルトにセットされる。

 

「ハーバー8、発艦する」

 

『ハーバー8、発艦を許可します』

 

バシュッ!!!!

 

電磁カタパルトによって、航空隊が空母から弾き出される。すぐに高度を取り、所属不明機の居る空域へと急行する。

 

「ハーバー7より、祥鳳へ。機体を目視にて確認した。国籍証、部隊マーク、機体番号の類いは無し。武装は見える限りでもバルカン砲やミニガンが十数基に、大型の大砲、それからグレネードランチャーも装備してる。機体形状からして、VTOL型の輸送機と思われる」

 

『祥鳳より、ハーバー7。了解した。無線で呼びかけろ』

 

「ウィルコ」

 

ハーバー7が無線で所属不明機に呼び掛けるが、応答は無い。日本語以外にも英語、中国語、ロシア語でも話すが結果は同じである。

 

 

「総隊長。無線で呼び掛けて来てる言語は日本語ですし、国籍証も日の丸ですが、あんな機体見た事あります?」

 

「いや、ない。ってか、あんな機体は日本以外も持ってないだろ」

 

長嶺達に無線警告してきたハーバー7が乗る機体は、Su-47の様に前進翼にカナード翼を装備した機体である。しかしそんな機体形状、というか前進翼を採用してる機体なんてSu-47ベルクトかX-29位の物であり、見覚えは全くなかった。

まあ、その機体の形状というのは、エースコンバット好きなら必ず知ってる「震電II」と同じ見た目なのだが、震電IIが存在しない世界線なので仕方ない。

 

「それより、どうします?答えます?」

 

「取り敢えず、俺が答えるわ。無線貸してくれ。でも、攻撃準備と逃走の準備はしておけ」

 

「「ウィルコ」」

 

長嶺はヘッドセットを装着し、無線のチャンネルを例の謎機体に合わせる。

 

「後方に付けてる戦闘機のパイロット、聞こえるか?」

 

『聞こえている。ここは日本の領空であり、貴飛行隊はそれを侵犯している。直ちに退去せよ』

 

「そうは言うが、こちらも一応は日本海軍だ。退去も何も、ここが俺の故郷であり、ここが俺の守るべき国家だ」

 

この言葉にハーバー7も動揺している。確かに日本語を話しているが、あんな機体は見た事もない。それに祥鳳に偶然乗艦している「皇国軍を一番把握してる男」からも、あんな輸送機は見た事ないと答えている。ならば、対応は決まってくる。

 

『では所属を明らかにせよ』

 

「特務機関だ。軍機につき、お答えできない」

 

『そうか』

 

次の瞬間、ハーバー7は機関砲のトリガーを引いた。勿論、堕とさない様に機体の斜め上を狙って。

 

『これは警告だ、次は命中させる。もう一度問う。同じ皇国海軍なら、所属を答えろ』

 

「そうかい」

 

一方で長嶺も機長に合図を出す。その合図の意味は「威嚇攻撃開始」である。機長は攻撃担当の隊員に指示を出し、隊員の操作によって40mm機関砲が発射される。

 

「うおっ!?」

 

ハーバー7はいきなりの攻撃に驚くが、冷静に対応する。まあ威嚇攻撃なので、当たらない様になっているから大丈夫なのだが。しかし殺られて黙ってる程、お人好しではないのが皇軍。すぐに火器管制のレーダーをオンにしようとするが、その前に不明機から無線が入る。

 

『こちらも警告だ。我々は敵と任務の邪魔する者に対しては、一瞬の躊躇いもなく撃滅する。もう一度、言っておく。我々は海軍であり、所属は特務機関の為、軍機につきお答えできない。以上だ』

 

そう長嶺が答えて無線を切ろうとすると、今度は思いもよらない所から無線が入る。場所は何と、ハーバー隊の母艦である祥鳳からである。

 

『特務機関、ねぇ。悪いが、ウチにそんな部隊は居ない』

 

「何?というか、アンタは誰だ?」

 

『ほう。皇国軍人でありながら、俺の声を知らないとはモグリだぞ。だが、お前も嘘を付いてる様には見えん。そこで、だ。そこの戦闘機に先導させるから、飛行場に降りるってのはどうだ?』

 

この申し出は罠の可能性が高いと、全員が考えた。しかし一方で、今の現状下で何か別の方法があるかと言われれば、何も無い。受けるほか、無いのである。

 

「良いだろう。だが、こっちも「はいそうですか」って従う程のバカでも無い。今からアンタの乗る空母に着艦してやるから、そこで話を付けるってのはどうだ?」

 

『良いだろう。ハーバー7、誘導を頼む』

 

「ウィルコ」

 

そんな訳で、祥鳳で会談が行われる事になった。

 

 

 

数十分後 原子力航空母艦『祥鳳』 飛行甲板

「着艦します」

 

「おう」

 

黒鮫は艦尾に後部のハッチを艦首側に向ける形で着艦し、もしもに備えていつでも逃走できる様にしつつ、機体に搭載されてる兵装も隊員達の持つ個人携行火器も全て使える様にして構える。

一方で祥鳳も今回の任務で随伴していた揚陸艦に乗っている、第4海兵師団を臨検要員として来てもらい不足の事態に備える。

 

「ハッチ開きます」

 

ハッチが開くと同時に、両軍の兵士達が互いに銃を突き付け合う。そんな緊張状態の中、長嶺は堂々と艦橋の方へと進んで行く。すると艦橋から、1人の羽織を纏い2本の刀を刺した男が出て来た。

 

「アンタだな、さっきの無線の男は」

 

「あぁ。大日本皇国統合軍、総司令長官。神谷浩三だ」

 

そう言って無線の男、神谷は手を差し出す。

 

「新・大日本帝国海軍、連合艦隊司令長官。長嶺雷蔵だ」

 

そう言って握手を交わす2人だが、次の瞬間、2人して「いや、ちょっと待て!」とツッコんだ。

 

「大日本皇国って何だ!?統合軍って何を統合してんの!?」

 

「新・大日本帝国海軍だ!?皇軍は不滅で、旧は存在せんわ!!!」

 

そう。互いに同じ日本だが、何方も聞いた事のない組織だったのである。

 

「なあ、もしかして俺達と同じなんじゃね?」

 

「あ、アンタは?」

 

「驚かせたかな?私は大日本皇国外務省で特別外交官をやっている、川山慎太郎という者だ。そこの神谷浩三とは、親友同士でもある」

 

いきなり現れたスーツの男、川山の言った事に神谷は「あー、そういやそうかもな」と言った。勿論、長嶺は置いてけぼりである。

 

「一体、何の話をしているんだ?」

 

「俺達は元々別の世界に居た。しかしどういう訳か、突然この世界にやって来てしまった。いわゆる、異世界転移ってのを体験したらしい」

 

「まさか俺達もそうだと?」

 

「まあ異世界転移なんて非現実的な現象が起きたんだし、別世界線の日本が現れたって不思議はないだろ?」

 

川山の説明と理論は、確かに間違ってはいなさそうではある。現状では検証しようもないし、少なくとも「大日本皇国」なんて聞いた事ない国家があるんだから、あり得なくは無いだろう、と長嶺は自分の中で結論付けた。

 

「んで、俺達はどうなるんだ?このまま殺されるとか?」

 

「まさか。する訳ないだろ?まずは取り敢えず、君の率いる部隊について教えて欲しい。規模、装備、練度、特務機関なら全うすべき使命とか。とにかく、教えられる範囲で教えて欲しい」

 

神谷にそう言われ部隊の説明をしようと思った瞬間、長嶺は装備していた刀をいきなり抜いた。

 

「な!?」

 

「不味いな、こりゃ」

 

長嶺は海を睨む。霞桜の隊員達は海兵に銃を突き付けられてるのを気にせず、アイコンタクトやハンドサインで次々に情報を伝達して行く。

 

「野郎共、お客さんがおいでになりやがった。フルコースでもてなすぞ!!!」

 

「「「「「「了解!!!!」」」」」」

 

黒鮫はハッチを締めて、大空へと飛び立つ。一方で上空に待機していた数百機の黒鮫の群れは、その内50機近くがまるで艦隊を守る様に周囲へ降下する。

 

「一体何が起きてるんだ?」

 

「神谷さん、とか言ったな。さっき、俺達の為すべき使命について教えろ、って言ってたな。その質問に答えてやる。俺達の使命とは、国家のゴミ共を掃除し、そして艦娘、KAN-SENと共に深海棲艦と戦い彼女達の戦闘を支援する。それが俺達、海上機動歩兵軍団「霞桜」の使命だ!」

 

「「「「「.......はい?」」」」」」

 

神谷と川山含む、その場に居た全員が似た様な反応をした。この世界に於いても、確かに艦娘もKAN-SENも存在する。だがしかし、存在する次元は二次元である。艦娘は擬人化の先駆けとなった大人気パソコンゲームである艦隊これくしょん、通称「艦これ」に。KAN-SENは運営が神で、スキンが「これ、良く審査通ったよな」ってレベルの際どい物ばかり輩出する大人気スマホアプリのアズールレーン、通称「アズレン」に登場している。

つまりガチで言う奴は「お前、マジで頭大丈夫か?」と言われる事が、今この緊迫してるであろう状況下で言われたである。しかも大真面目な感じで。

 

「全空母艦娘へ。直ちに艦載機を上げてくれ!」

 

長嶺がそう命じると、数機の黒鮫が降下してくる。ハッチが開くと中から、何本かの火矢が飛び出す。しかしその先には、勿論敵と思われる物は何もない。

次の瞬間、火矢は矢全体が燃え広がると、矢はそれぞれ小型の烈風、震電改、陣風改、彗星、試製南山、TBM-3W+3S、流星改、天山、天山一二型、噴式景雲改、菊花改に化けたのである。その姿はアニメ版艦これの、空母艦娘から艦載機が発艦する姿その物であった。

 

「うそやん.......」

「マジなヤツだ。マジでこの世に艦娘とKAN-SENが降臨しやがった.......」

「なあ、あの装備って超レアな希少装備ばっかじゃね?」

 

1人の兵士が呟いた通り、目の前の航空隊はゲームなら超レアな希少装備であり、もし全部持ってる提督がいれば、その人は神扱いされる事間違いなしの装備なのである。

ん?天山とか彗星は正直そこまでレアじゃないって?いやいや、しっかりレア物だよ。例えば烈風も正式名称は『烈風改二戊型(一航戦/熟練)』だし、天山と彗星は『天山(村田隊)』と『彗星(江草隊)』だし、天山一二型は『天山一二型(友永隊)』だし、流星改は『流星改(一航戦/熟練)』だもん。

多分、この説明で提督をやってる読者はトンデモ装備なのがわかったと思うが、中には提督じゃない読者もいるだろう。

簡単に説明すると、艦これに於いて装備入手の経路は大きく4つある。資源を使って装備を開発するか、特定の艦娘を改造するか、手持ちの装備を改修するか、特定のイベントで入手するか、である。装備開発と装備改修は、資源や装備自体あれば作るのは基本比較的簡単ではある。

ところが艦娘の改造は特定のアイテムが必要だし、それ以前に艦娘を育てないといけない。イベントの場合だと、強い深海棲艦を踏み越えまくる必要がある。しかもマップによっては特定の艦娘とか装備とか編成が必要だったりして、超絶面倒なのである。割とガチでイベント途中で難しすぎて心が根本からポッキリ折れて、精神が逝く提督も少なくはないのである。

そんな神みたいなレベルを誇る装備達が、今出て来た装備なのである。因みに『震電改』というのが、一番レアである。余りにチートすぎて今では再入手不可能であり、持ってるのは艦これを最初期からやってる提督のみである。

 

「各部隊、何が何でも艦隊を、特に空母を守るぞ。もし沈められて、メルトダウンとかでも起こしたらシャレにならんからな!!」

 

「あー、長嶺さん?敵というのは深海棲艦でしょうか?それともセイレーン?」

 

「この感じは、多分深海棲艦だな。まあ知ってるなら今更言う必要もないが、深海棲艦は基本的に通常兵器の攻撃を受け付けない。まあ1艦に寄ってたかって数の暴力を加えれば、ザコなら倒せるがな。だが、今攻撃されたら俺達が流れ弾食らうかもしれない。攻撃は攻撃へのカウンター、防御の時のみにしてくれ」

 

「了解した」

 

神谷は平静を保っていたが、内心では舞い上がっていた。何を隠そう、この神谷は艦これとアズールレーンの超大ファンなのである。何方も最初期からしてるガチ勢であり、例えば艦これなら全艦ケッコンカッコカリした上で最高レベルまで上げて、全艦に持たせられる装備では最高グレードの物を装備してる。

アズールレーンなら着せ替えスキンコンプリートな上、やっぱり全艦ケッコン済みだし改造可能艦は改造済み&全艦最高レベルな上、全艦最高グレード装備である。

因みにこれには飽き足らず、まだ第一次世界大戦から戦間期程度までしか発展していない、勿論スマホどころかPCも存在しない、ムーという国家に気合いで2つを布教しだす程である。(しかも大成功した)

その位超大好きなゲームのキャラが現実に居るとなると、流石の神谷もワクワクとニヤニヤが止まらない。

 

敵機直上!!!!!急降下!!!!!!!!

 

突如、艦隊中にこの報告が駆け巡る。空を見上げれば、ゲームで何度も見た黒い深海棲艦の艦載機の姿がある。それも目の部分が赤色だから、eliteという強化タイプの艦載機である。

 

「クソッ!総員退避!!!!急げ!!!!!!」

 

神谷がそう叫びながらも、急降下してくる艦載機を見ていた。しかし何か黒い影が高速で艦載機の目の前を通ると、途端に機体はまるで突風に吹かれたかの様にフラ付いて、そのまま海に堕ちた。

 

「何だ、今のは.......」

 

「良くやった、八咫烏。さて、そろそろだな」

 

『こちら赤城。提督、敵機動部隊は全艦轟沈。此方と今いる艦隊には被害は、認められません』

 

「了解した。艦載機の回収作業に入ってもらいたいが、出来るか?」

 

『うまくやれば、狭い空間でもできます』

 

「まあ無理せずやってくれ。最悪、機体捨てて妖精だけ回収すれば良いから」

 

『わかりました』

 

赤城の報告に胸を撫で下ろす長嶺。何方にも被害が無かったのは、本当に良かった事である。一方の神谷は、ちょっと色々重なりすぎて思考が追い付いてなかった。

 

「所で神谷さん。この世界にも深海棲艦とセイレーンが居るのか?」

 

「いや、えっとだな。落ち着いて聞いてくれるか?」

 

「あぁ」

 

「確かに、この世界にも深海棲艦とセイレーン、それに艦娘とKAN-SENも存在している。ただな、存在している場所が三次元のこっちじゃなくて、二次元の世界なんだ」

 

「What?」

 

長嶺もまさか「アンタらの仲間は二次元に存在してます」なんて言われるとは思っておらず、謎の反応をしてしまう。

 

「こちらの世界における艦娘はパソコンゲームの艦隊これくしょんってゲームのキャラだし、KAN-SENはスマホアプリのアズールレーンってのに出てくるキャラだ。何方も結構人気のあるゲームなんだが、まさか本物として三次元に現れるとは.......」

 

「そのキャラ、今見れるか?スマホなら多分見れんだろ」

 

「ちょっと待ってろ」

 

神谷は自分のスマホアプリからアズールレーンをタップし、ドックの所まで操作して長嶺に見せる。

 

「マジやん.......」

 

そこに映しだされるキャラクターは、どれも長嶺の知るKAN-SENと瓜二つであった。しかも言動や性格まで同じである。

 

「だろ?因みに俺はアズレンならブレマートンが推しなんだが、会えたりする?」

 

「うん」

 

「是非会わせてください指揮官様ぁ!!」

 

土下座する勢いで頼まれたので、慌てて止めて会わせるのを条件に色々頼んだ。因みに川山からは「俺はハインリヒに会いたい」と言われたので、神谷同様に協力するのを交換条件に会わせる事を約束した。結果として、こんな感じのが決まった。

 

・衣食住の保証。

・勝手に装備を弄ったり、解析したりしない。

・艦娘とKAN-SENと会う場合は、こちらに連絡してから。

・艦娘とKAN-SENが嫌がることはしない。紳士的な行動と節度を持って接する事。

・深海棲艦、セイレーンが現れた際は勿論、別の敵や災害派遣等であっても大日本皇国から要請があれば、新・大日本帝国海軍は協力する。

・便宜上、新・大日本帝国海軍は大日本皇国統合軍に於いて、唯一の常設戦闘団である神谷戦闘団に配属とする。

 

これらが取り決めとして決められた。それではここで、神谷戦闘団と新・大日本帝国海軍の戦力を説明しておこう。

 

《神谷戦闘団》

・歩兵40個連隊

・重装歩兵34個連隊

・戦車12個連隊

・砲兵8個連隊

・対戦車ヘリコプター24個師団

・輸送60個飛行隊

・特殊部隊(白亜衆)5個師団規模

 

《新・大日本帝国海軍》

艦娘

・戦艦

大和、武蔵、長門、陸奥、金剛、比叡、榛名、霧島、扶桑、山城

 

・空母

赤城、加賀、飛龍、蒼龍、翔鶴、瑞鶴、雲竜

 

・軽空母

鳳翔、瑞鳳、祥鳳

 

・重巡

高雄、愛宕、妙高、那智、足柄、羽黒、鈴谷、熊野、青葉、衣笠

 

・軽巡

天龍、龍田、五十鈴、川内、神通、那珂、阿賀野、能代、矢矧、大井、北上、夕張、大淀、名取

 

・駆逐艦

暁、響、雷、電、潮、浜風、浦風、睦月、如月、弥生、望月、長月、夕立、時雨、島風、萩風、磯風

 

・その他

明石、間宮、伊良湖

 

※KAN-SENに関しては実装キャラ全艦いるので割愛。

 

 

海上機動歩兵軍団「霞桜」

・6個大隊 約1500名

・戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』600機

・汎用ヘリコプター『黒山猫』200機

・機動本部車 18台

・自立稼働型武装車 1000台

・水上装甲艇『陣風』60艇

・水上バイク 500艘

 

こんな感じである。今更ではあるが、登場兵器の詳細に関しては、其々の作品に於いて詳細説明がある為、其方をご覧頂きたい。

※リンクは後書きに貼ってあります

 

 

 

数時間後 東京某所 大ホール

『それでは!!我ら皇国を護りし守護者達と、同じ皇国であり、しかし別の皇国を護りし守護者達との出会いと不滅の友情を祝しまして、かんぱーーーーーい!!!!!!!』

 

かんぱーーーい!!!!

 

この状況に読者諸氏は、完全に置いてけぼりを食らった事だろう。なので、ここまでの流れを簡単に説明しようと思う。神谷達、大日本皇国と長嶺達、新・大日本帝国海軍との約束が締結された後、すぐに黒鮫達は関東圏の航空基地へ分かれて着陸した。(流石に600機もの全長80mの超大型機を一気に収容できる基地はなかった)

でもって、流石の皇軍でも数千人規模の居住スペースの確保をすぐに用意するのは無理があり、その合間の時間を使って何か出来ないかと考えていた。そこで神谷が「どうせなら、交流会兼ねた歓迎パーティーやれば良くね?」という発案により、急遽歓迎パーティーが開催されたのである。因みに皇国からの参加者は軍の高官達(全員が艦これorアズレンを履修済み)と、お馴染み三英傑。帝国海軍からは艦娘、KAN-SEN、霞桜の隊員と、要は全員参戦である。

 

「うおぉ!!この肉うま!!!!」

 

「これ?」

 

「おう!!食ってみろよ!!」

 

「あ、ホントだ」

 

顔面が超恐くて見た目もハルク並みに巨大である霞桜第三大隊の大隊長バルクと、同じく霞桜第二大隊の大隊長で霞桜の技術屋でありバルクの親友であるレリックは肉を頬張っている。この2人、料理は壊滅的だが味覚は良いのである。

因みに料理の壊滅度合いは.......ジャイアンがマシに思える、とだけ言っておこう。

一方で三英傑は長嶺を加えて、食事を楽しんでいた。

 

「初めましてだね、長嶺くん。私は大日本皇国で総理をやらせて貰ってる、一色健太郎だ」

 

「どうも」

 

「あぁ、因みに浩三と慎太郎とは親友だ。敬語はいらない」

 

「OKだ。所で、もしかして三英傑って呼ばれてる理由って3人が親友同士だから?」

 

「あー、多分そうじゃね?」

 

長嶺の問いに、神谷がフワフワした回答をする。実を言うと、この3人も何で三英傑と呼ばれるか理由は知らないのである。

 

「だって三英傑って、別に俺達が決めたんじゃないし。なんか勝手にいつの間にか非公式で呼ばれてて、なんか気に入ったからそう名乗ってるだけだもんな」

 

川山の言う通りである。三英傑は元々、国民の誰かが言い始めて、それが口伝やネットによって拡散されていっただけで、別に3人が考えた訳ではないのである。

 

「そういや、君って何歳なの?」

 

「17」

 

「そうか、17か。え!?」

 

「17!?」

 

「17で提督かよ.......」

 

思ってたよりも遥かに若かった事に、三英傑は驚いた。まあ長嶺の世界線では普通にまだ11歳と12歳の少年がショタ提督やってるし、というかそもそも提督になる素質を持った人間が限りなく少ないので、年齢どうこう言ってられないというのが現状である。

 

「因みに、何故提督になったんだ?」

 

「元は別の部隊、本当の世界の暗部で活動する部隊に居た。だけど何やかんやで霞桜の総隊長に就任して、任務で前職の江ノ島鎮守府の提督を暗殺した。で、提督の素質があって、他に適任者が居なかったらしいから提督になった。

で、この提督に推薦したクソジジイが当時の連合艦隊司令長官で、深海棲艦との戦時下で「戦場を知る人が防衛大臣になるべき」との考えで大臣を頼まれた結果、司令長官の職を俺に押し付けやがった」

 

「お前、苦労してんだな.......」

 

一色の問いに答えると、川山がそう言った。そして3人から同情と哀れみの視線を浴びせられ、その後は愚痴の言い合いに発展した。やれ「外交官なのに戦場ばっか渡り歩いてる」だの、「無能な癖にイチャモン付けてくる政治家がウザイ」だの、「戦後処理が面倒くさい」だのと三英傑も三英傑なりの愚痴を溢していた。

一方で長嶺の副官である本部大隊の大隊長グリムと、神谷の副官である鉄砲頭の向上は互いの上官について話していた。

 

 

「ウチの長官は、何というか無鉄砲なんですよねぇ」

 

「わかります!総隊長殿も、超が付く無鉄砲なんですよ。だけど何故か地獄のど真ん中に落ちても、普通に生還するんですよねぇ」

 

「そうそう!そうなんですよ!!もう心配する意味が無いし、なんかもう最近は心配するだけ損な気がしてなりません」

 

「何方も同じ、ですね」

 

「「HAHAHAHA!!」」

 

そして話のネタは段々悩み相談へとシフトして行った。

 

「私は故郷の両親から「早く結婚しろ」「孫の顔が見たい」と言われているのですが、どうせなら推しと結婚したいんです」

 

「お、推し?」

 

この瞬間、向上のスイッチが入った。自分の推しの素晴らしさについて語り出し、その勢いは止まるところを知らない。かれこれ15分程、彼の好きなアイドルグループと推しの素晴らしさを語りまくった。

そして今度はグリムの悩み相談が始まる。

 

「私は総隊長殿をどうにかしたいんですよ」

 

「長嶺さんを?」

 

「総隊長殿は公私共に素晴らしいお方です。戦闘面でも射撃、剣術、体術、医術、戦略、作戦立案、諜報、暗殺、工作と何でも1人で完璧な仕事をしています。プライベートでも生活力や料理のスキルは勿論、立ち振る舞いも完璧です。完璧超人はあの人の為にあると言ってもいい。しかし、ある一点だけは問題があるんです」

 

「ある一点?」

 

「あの人、鈍感なんですよ」

 

「は?」

 

グリムの答えに向上は思わずこう返してしまった。ちょっと話があまりにも突拍子すぎて、驚いたのである。

 

「例えば、ほら。見てください」

 

そう言ってグリムを指さした方向を見ると、長嶺が艦娘の大和、鈴谷、金剛、KAN-SENの赤城、隼鷹、鈴谷、愛宕、オイゲンに絡まれてる所だった。両手に華どころではない状態に、普通なら鼻の下でも伸ばしてそうだが、鬱陶しそうにしながら食事している。

 

「あそこまでの好意を向けられていながら、一切気付いてないんですよ」

 

「え!?軍の指揮官だから気付かないフリとか、同性愛者とかではなく?」

 

「えぇ。多分、後でそれとなく聞いてみてください。多分「え?何を言ってるんだ?俺に好意持ってるわけ無いじゃん」的な答えが返ってきますから」

 

「それ、もう病気ですね.......」

 

「はい.......」

 

因みに霞桜の中での非公式な長嶺の呼び名に「超絶鈍感朴念仁男」といつ不名誉な物が存在する程。その鈍感さと朴念仁っぷりは、ラノベの主人公よりもヒドイと言わしめる程である。

 

 

 

同時刻 ロデニウス大陸 南部沿岸

「にしても、また似た様な事態が起きるとか、一体何なの?」

 

「ふふふ。でも、面白いデータは取れそうよ。さあ、目覚めなさい。地獄から甦りし、怨嗟の方舟さん?」

 

人間の形はしているが生気を感じない、異様なまでに真っ白なセーラー服を着たポニーテールの女と同じ肌の長髪で謎のタコの触手の様な艤装を装備した女の目線の先には、巨大な空母と戦艦を混ぜた様な特異な見た目をした2隻の巨大艦が赤い光を発していた。

 

「さあ、どうするかしら。煉獄の主に皇国剣聖さん?」

 

次の瞬間、周りから様々なタイプのセイレーン艦と深海棲艦の一団が現れた。この不穏な空気しか撒き散らさない存在を、まだこの世界の住人は誰も知らない。

そして時は流れて、数週間後。この日、日本船籍の貨物船がこの海域で消息を絶ったのを皮切りに、国家を問わず多数の艦艇が消息を絶った。この報告を受け、大日本皇国は海上保安庁の巡視船の派遣を決定。偵察活動が始まった。

 

 

「にしても、船が消息を絶つって海賊ですかね?」

 

「海賊にしちゃ、えらく手が込んでる。この時代のこの辺の文明じゃ、船を完璧に消すなんて事は出来ない。それに他の文明圏からの客だったとしても、流石に無理がありすぎる。何か別の事が原因だろうな」

 

そう言いながら、デッキで双眼鏡片手に海を監視している海上保安官の2人。本当に何も無く、ただただ綺麗な海であり異常は見つからない。しかし監視員は、思いも寄らない物を見つけてしまう。

 

「本艦2時方向に巨大な島影を発見!!」

 

「おいおい、この辺りに島は無いぞ。一体ありゃ.......」

 

「おい監視員!!お前ら島影をこんな近距離で見つけるとは、一体何してたんだ!!!!!!」

 

副長に怒鳴られるが、いきなり島が現れたのだ。仕方がない。だが更に不可解な事象が巡視船を襲う。

今度は一体の空が赤黒く染まり、海は暗くなる。更に深海棲艦の水雷戦隊が、巡視船を襲ってくる始末である。

 

「人が海面を滑ってる!!砲撃してきた!!!!」

 

「か、回避しろ!!」

 

「無理です!!避け切れない!!」

 

次の瞬間、船体中に衝撃が走る。軽巡ホ級の5inch砲が命中したのである。しかも被弾箇所が機関部であり、これによって機動力を失う。ここで漸く正当防衛射撃を始めるが、たかが30mm程度では倒せない。

 

「機関砲が効いてない!?」

 

「ら、雷跡視認!!右舷より6線!!」

 

「衝撃に備え!!!!」

 

巡視船は魚雷が全弾命中し、その巨体を海中に消した。この報告はすぐに日本本土に届き、深海棲艦による襲撃の映像は長嶺も目にする事となった。

 

 

「長嶺、これが深海棲艦で間違い無いんだな?」

 

「あぁ、間違いない。だが問題なのは深海棲艦よりも、その後方にある島だ」

 

そう言って先程の巡視船の監視員が見つけた、島の写真を指刺しながら言った。その写真を良く見ると、結構色々ヤバい事が一目で分かった。

 

「大型の滑走路が2本、軍港設備、防空設備、上陸阻害用の砲兵陣地や機関銃陣地。完全な要塞島だ」

 

「この島、落とせるか?」

 

「流石にまだ分からんな。艦隊の規模が分からん以上は、どうも言えん」

 

「それもそうだな。だが、俺達大日本皇国が全面的に協力するって言ったらどうだ?」

 

この一言に長嶺は食い付いた。基本的に深海棲艦を倒す場合は、数隻の軍艦の攻撃を1隻に集中させる事が必要となってくる。最近になって長嶺とレリックが開発した「対深海徹甲弾」と呼ばれる弾丸を用いる事によって、漸く深海棲艦や艦娘を倒せる風に至っている。

しかしそれは、これまでの兵器の話である。大日本皇国は駆逐艦なんかもあるが、化け物クラスの超兵器群を多数運用している。これを使えば、この規模の島でも攻略できる可能性がある。

 

「規模は?」

 

「全軍の総力を上げた大掛かりな、超大規模反攻作戦が出来る位にはしてやる」

 

「乗った!!」

 

2人は互いに固い握手を交わす。その後の動きは早かった。神谷は偵察機を保有する最も現場に近い飛行隊に連絡を取り、要塞島の詳細な情報を調査する様に指示。長嶺は日本中の工場で急ピッチで対深海徹甲弾と、水上を滑走できる装備の量産に入った。

 

 

 

2週間後 霞ヶ浦航空基地

「総員、傾注!!」

 

「諸君、今回の戦闘は正直に言って有史以来、尤もふざけた相手と戦うことになる。我々はこの世界に転移し、これまで様々な戦闘を潜り抜けて来た。だが今回の敵とは、別の世界線に存在する日本からやって来た敵との戦闘だ。

何を言ってるか分からないだろうが、俺も言っていて現実感は無い。だがしかし、実際に被害は出ている。我々の国民にもだ。ならば皇国軍人として、違う世界線とは言え日本を守る守護者として、やる事は決まっている筈だ。今回も勝つぞ!!!!」

 

「「「「「オォォォォォ!!!!」」」」」

 

神谷の訓示に兵士達が雄叫びを上げる。その姿を尻目に、長嶺も長嶺で仲間達に向けて訓示を行う。

 

「まあ向こうはノリノリだが、俺達はいつも通りだ。見える敵は沈めろ。歯向かう敵は捻り潰せ。一切の容赦も躊躇もなく、深海棲艦とセイレーンに自分達が一番何処がお似合いなのかを教えてやるぞ!!!!」

 

こちらも同様に隊員達を中心に雄叫びを上げる。何方も士気は十分な様だ。それではここで、簡単に作戦を解説しておこう。

要塞島への超大規模反攻作戦、名付けて「幻想作戦」は四段階によって行われる。

 

第一段階

・敵防空隊との制空戦闘

 

第二段階

・皇国海軍主力艦隊と霞桜による敵艦隊殲滅作戦

 

第三段階

・爆撃連合飛行隊による島への空爆

 

第四段階

・地上部隊を展開しての島の制圧

 

以上である。まずは先発していた地上航空隊による制空戦闘の方から見ていこう。

 

 

「隊長機より各機へ。敵、航空隊への攻撃を実施する。槍を放て」

 

隊長機からの指示でAIM63烈風が数千発も発射される。まずは先手を取り、敵に混乱を与えていく。

 

『スカイキーパーより、航空隊へ。敵防空隊は約5分の1が堕ちた。しかしまだ1000機は残っている。心して掛かれ』

 

「野郎共聞いたな!!乱戦になるが、フレンドリーファイアだけは回避しろよ?続け!!!!!」

 

航空隊が突撃しようとしたその時、異世界に来て初めて聞いたアラートが鳴り響く。

 

「ッ!?ミサイルアラート!!!!」

 

その警報は敵からのミサイル攻撃を示す物で、この世界では訓練や点検でも無い限りは鳴る事のない装置である。そんな装置が実戦で鳴り響いた事に一瞬は動揺するが、すぐに回避機動を取ってやり過ごす。

 

「まさか、ミサイルを持ってるなんてな。いや、本来ならそれが普通だったな。こうなりゃ、こっちも本気でやるしか無いな」

 

そう呟くとアフターバーナーの点火スイッチを押して、瞬時に最高自作のマッハ3へと到達する。

 

『スカイキーパーより全機!!敵は強いが、基本的に格闘性能に極振りらしい。こちらは速度差を生かした攻撃で、敵を殲滅しろ!!!!』

 

深海棲艦、そしてセイレーンの艦載機の強さとは、その機動性の高さと小ささである。その高い機動性から生み出される格闘戦能力は、例えUAVの様に高い機動力を持つ機体を用いても足元にも及ばない。しかも小さい為、普通にエンジンや空気取り入れ口に狙撃してくる事すらある。

実際、深海棲艦に対して人類が艦娘の登場前の最初期に行われた作戦では、この攻撃によって大半のパイロットが手も足も出さずに撃墜されている。

 

「FOX2!FOX2!」

 

「FOX4!!」

 

ミサイル、レーザー、レールガン、UAVと言った使える兵装全てを用いた苛烈な攻撃を仕掛ける。だが深海棲艦とセイレーン達も負けていない。深海棲艦は得意の狙撃で、セイレーンはミサイル攻撃で攻撃を仕掛けてくる。

 

『こちらシグマ6-4!!エンジン被弾!!脱出する!!!!」

『ガルロ5、同じくエンジン被弾により推力喪失!!イジェクト!!!!』

 

見れば一気に70機近い戦闘機が火だるまになり、コックピットから人が飛び出している。キルレートは五分五分か、何なら向こうが少し優勢な気もする位だ。

 

(まずいな。これじゃ、ジリ貧だぞ)

 

誰もがそう思っていた時、最強の援軍がやって来た。

 

「化け物共!!!!ちょっと遅いがサンタクロースからのプレゼントだ!!受け取りやがれ!!!!!!!!!」

 

数機の黒鮫が戦闘空域に乱入し、搭載している無数の機関砲で弾幕を貼る。しかも、それだけじゃない。

 

「そーら、お嬢ちゃん達!!出番だぜ!?!?!?!?」

 

「えぇ。一航戦赤城」

「同じく加賀」

 

「「戦闘機隊、発艦始め!!」」

 

「終わりだ!!」

 

「終わりだ、Funebre!!」

 

やって来た黒鮫のハッチが開くと艦娘の赤城と加賀、KAN-SENのエンタープライズとグラーフ・ツェッペリンの姿があった。4人は艦載機を発艦させて、敵の殲滅に取り掛かる。

赤城と加賀の一航戦コンビには烈風改二戊型(一航戦/熟練)、エンタープライズにはFR-1 Fireball、Me-155A艦上戦闘機をそれぞれ搭載しており、この4人は江ノ島鎮守府どころか帝国海軍内でも随一の練度を誇る。そんな奴らの艦載機集団が、いきなり現れたら敵はどうなるだろうか?答えは勿論、全機撃墜である。しかも此方はノーダメのオマケ付き。

 

「アレが神谷閣下の言ってた、別の世界線の日本軍か。なんか艦これの赤城と加賀、それにアズレンのエンプラとにくすべに似てるな。いや、気のせいか」

 

因みに別の世界線から日本軍が来ている、という情報は作戦に参加している将兵は知っている。しかし流石に艦娘とKAN-SENの存在は、色々面倒になりそうなので伏せられている。そして言うまでも無いが、この名もなきパイロットも、現在3-4で絶賛赤城&加賀掘り中のアズレンユーザーである。艦これは二次創作系で履修済み。

 

『スカイキーパーより各機へ!!敵、航空隊が艦隊へ攻撃を仕掛けている!!!!全機、第二次攻撃隊の発見と発見時は迎撃を行え!!!!』

 

え?何で艦隊の防空に向かわせないのかって?簡単な話である。向かわせる必要がないからである。慢心だろ、と言われるかもしれないが、そうではない。寧ろいない方がアイツらは大暴れできる。そんな訳で時間を少し戻して、場所も近海の洋上に移してみよう。

 

 

「レーダーコンタクト!!本艦11時と2時の方向より、敵航空隊が接近中!!!!」

 

「ふっ。どうやら敵は、我らが先導しているのを知らぬ様だな。副長、対空戦闘用意を発令しろ」

 

「アイ・サー。対空戦闘用意!!!!」

 

先導を務めている艦隊が、対空戦闘の準備に取り掛かる。ただ、この先導を務める艦隊の陣容が対空特化の化け物艦隊なのである。編成は摩耶型対空巡洋艦4隻だけなのだが、この「摩耶型」というのが化け物なのである。

かつてまだ大日本皇国が転移する前の日米合同演習に於いて派遣された摩耶型の古鷹が、米軍相手に無双した事がある。F22ラプターにF35ライトニングIIの合同飛行隊120機を相手取り、たった1隻なのに一度もミサイルどころか機関砲弾一発当たる事なく全機撃墜しやがった記録を持つ、真の化け物対空巡洋艦なのである。米軍からその後「摩耶クラスは演習に持ってくんな」と言われ、参加していたパイロット達は「映画で異星人相手に戦うモブキャラ達の気持ちが分かった」と語った程である。

それが4隻で、相手は航空隊。もうどうなるかは、お分かり頂けるだろう。

 

「右対空戦闘、CIC指示が目標。撃ちー方始め」

 

「トラックナンバー2621。信長はじめ!!」

 

「VLS解放!!」

 

まずは先制攻撃として、搭載されている艦対空ミサイル信長を発射する。発射された合計60発のミサイルは、正確に航空隊を迎撃する。

 

「目標群α、全弾命中!!目標群βも愛宕と高雄のミサイルが全弾命中!!」

 

「このままミサイル攻撃を続ける!!主砲の射程範囲までは撃ち続けろ!!!!」

 

「アイ・サー!!」

 

苛烈なミサイル攻撃は続き、攻撃隊の数はみるみる減っていく。そしていよいよ、主砲の射程に入った。

 

「主砲、撃ちー方始め!!!!」

 

最大の武器である主砲が火を吹く。主砲には起爆すると周囲に10発の対空ミサイルをばら撒く、時雨弾を装填している。

流石の深海棲艦機とセイレーン機と言えど、時雨弾には敵わなかった。そのほぼ全てが叩き落とされ、接近して来た機体も搭載されてる130mm速射砲、機関砲、短距離艦対空ミサイルの嵐に呑まれて堕ちた。

作戦は第二段階に移行し、いよいよ艦隊決戦が行われようとしていた。艦隊決戦には世界最大最強の熱田型戦艦全隻に加え、大和型と全突撃戦隊を投入する大規模な部隊となった。更に霞桜と艦娘とKAN-SENの連合艦隊も投入する事となっており、ガチ編成であった。

 

 

「敵艦隊捕捉!!情報通り、水上を滑走しています!!」

 

「よーし!!砲撃準備!!!!弾種榴弾、信管VT。目標、敵艦隊中心部!!!!」

 

艦隊が砲撃準備に入る最中、上空では最強の特殊部隊達が出番を待っていた。

 

「閣下!目標空域です!!」

 

「よし。野郎共、行くぞ!!!!」

 

神谷戦闘団が世界に誇る最強の歩兵戦闘集団である白亜衆の兵士達が、海上へと飛び降りて行く。対深海徹甲弾はどうにか間に合ったが、流石に水上滑走用の装備は白亜衆の分しか用意できなかった。その為、水上での戦闘は基本的に白亜衆が行う事となる。

一方でもう一つの特殊部隊は海面ギリギリにまで高度を落として、後部のハッチを開いた。

 

「さてさて、そんじゃ行くぞ!!!」

 

もう一つの特殊部隊とは、日本のゴミ処理屋にして世界で唯一深海棲艦と互角以上に戦える最強の特殊部隊。海上機動歩兵軍団「霞桜」である。そしてそれに加えて霞桜の総隊長である長嶺が指揮する、江ノ島鎮守府に所属する艦娘とKAN-SENも同じく海面へと着水して行く。

 

「総隊長殿、総員着水完了しました」

 

「よし。戦略はいつも通りだ。水雷戦隊は肉薄攻撃を持って魚雷を叩き込み、重巡がこれを援護する。空母は後方からの支援に徹し、戦艦は全体の援護をしつつ機を見て中心部へ突入する。霞桜はこの全体の援護と露払いだ。後はいつも通り、存分に好きな様に暴れてこい!!!!」

 

霞桜の隊員達は雄叫びを上げながら、自分の獲物を空高く掲げる。そして長嶺を先頭に、敵艦隊への突撃を開始する。白亜衆は突撃の最中に合流し、やっぱり一緒に突撃する。

 

「正面水雷戦隊!!」

 

「俺達に任せろ!!!!」

 

この一団の中で一番の巨体を誇るバルクが先頭に出て、手に持つ巨大なガトリング砲を水雷戦隊へ向ける。

 

「挽肉ミンチになりやがれ!!!!!」

 

キュィィンブォォォォォォォ!!!!!

 

バルク専用武器であるガトリング砲のハウンドは、七銃身のガトリング砲を3本束ねた化け物ガトリング砲である。つまりM134ミニガンを3つ同時に単一目標へ撃ってるのと同じだから、軽装甲の水雷戦隊は挽肉ミンチへと早替わりである。

そしてその後方にいた重巡リ級は、コイツが倒す。

 

「レリック!!」

 

「背中、借りる」

 

バルクの背中を踏み台に空高く飛び上がったレリック。自らの背中に背負っているマニュピレータに装備させた、お手製チェーンソーを起動する。そしてそのまま重巡リ級に突き刺して

 

ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!!!!

 

切り刻むというより、切断しながら肉を掻き出す様な斬撃を繰り出し、身体中から肉片と、深海棲艦特有の青い血を周囲に撒き散らしながら倒れる。

 

「うわぁ.......」

「えげつな!」

「あれ、世界一受けたくない斬撃だぞ」

 

あの白亜衆の隊員が若干引いてるのだから、どれ程エグいか分かるだろう。

 

「総隊長殿、ソナーに反応が」

 

「潜水艦か。総員、対潜弾用意!!」

 

霞桜の隊員達の内、グレポンを装備している隊員達が水中に向かって発射する。てっきりそれで沈めるのかと思い気や、あくまでこれは炙り出しの為であった。

 

「カルファン、頼む」

 

「OK、ボス」

 

すると艦娘とKAN-SENにも負けない抜群のスタイルと美貌を誇るカルファンが前に出て、自分の獲物を準備する。

 

「さあ、出てらっしゃい?」

 

カルファンの専用武器は銃でも剣でも無い。どんな物でも切り裂く鋼鉄製の糸である。そんな特別性の糸を水中で走らせて、潜水艦を捕らえる。

 

「捕まえた♡」

 

そのまま空中へと引き摺り出す。見つかったのは潜水ヨ級elite3隻とカ級flagship1隻。空中で釣られた魚の様に踠いていると、カルファンが糸を引いた。するとさっきまでギリギリ傷付けない程度で捉えていた糸も縛られていき、そのまま輪切りになった。

 

「はい、終了」

 

「いつ見ても流石の腕前だ」

 

「姉貴、目がSMの女王様のソレだったぞ」

 

因みにカルファンは第五大隊の大隊長、ベアキブルの実姉である。

 

「って、おいおい。左方向から空母と戦艦のお出ましだ」

 

神谷の声に全員が振り向くと、確かに戦艦タ級と空母ヲ級の姿があった。それも8隻ずつ居る。すぐさま戦闘準備に取り掛かるが、先に動いたのは第一大隊の大隊長にして凄腕スナイパーのマーリンと、先ほども出て来た格闘の鬼であるベアキブルの2人だった。

 

「アイツらは、俺らに任せて先に行ってください。直ぐに追いかけます」

 

「わかった。一個中隊はここに残り、2人を援護しろ。残りはそろそろ他の奴等も苦戦し出すだろうから、その援護に迎え!!!!」

 

「そういう事ならお前達も霞桜を手伝ってこい!!戦闘時の指示は先輩である霞桜の隊員達に仰げ!!」

 

霞桜と白亜衆の隊員達は命令に従い、各部隊の援護に向かう。ちょうどタイミングよく戦艦部隊による砲撃も始まり、深海棲艦とセイレーンにも動揺が広がり出す。

 

「おい、長嶺。アレって、多分駆逐棲姫じゃね?」

 

「あ、ホントだ。狩ってくる」

 

「え、ちょ!?」

 

何と長嶺が肉眼で確認した駆逐棲姫に向けて突撃し出したのである。予想だにしない行動にいつも突撃してる側の神谷ですら、完全に呆気に取られている。

 

「ヤラセハ.......シナイ.......ヨ..............ッ!」

 

護衛の取り巻きであるタ級flagshipが3隻も現れて、16inch三連装砲を撃って来た。しかし、その程度では長嶺は止まらない。

 

「そんな攻撃で俺を殺せるか!!!!」

 

装備していた2太刀の愛刀、幻月と閻魔を装備して砲弾を切り裂く。そしてそのままの勢いで、手近のタ級2隻の首を刎ねる。そこから素早い動作でC4を切り飛ばした頭にセットし、もう一隻のタ級へと投げ付ける。そしてC4付き生首がタ級の砲塔の近くまで行くと、スイッチを押して起爆させる。

本来ならC4で深海棲艦の戦艦クラスにダメージは与えられないが、今回の起爆位置は砲塔である。砲塔内の砲弾を誘爆させて、艤装を破壊する。ただでさえ仲間の生首が飛んで来てるのに、その首が爆発して艤装が使えなくなった事に完全に正常な判断は下せなくなった。そうなっては、ただの案山子である。

 

「死ね、ザーコ」

 

装備を刀から拳銃の阿修羅HGに切り替えて、中破したタ級の頭を撃ち抜く。駆逐棲姫は人間程度なら簡単に瞬殺できるタ級flagshipの敗北に軽く半狂乱状態となった。

 

「死ネ!死ネッ!!」

 

慌てたように魚雷を撃ってくるが、接触しないしダメージも負わないが敵からは当たった様に見える、絶妙な位置で1本を破壊。その破壊による爆風で残りも破壊する。勿論駆逐棲姫は殺ったと思ったが、水柱から出てきた長嶺に顔を歪めた。

 

「何故ダ!!何故死ンデイナイ!?!?」

 

「たかが魚雷程度で、この俺を殺せるものか」

 

「クソッ!!死ネ!!!!!!!」

 

駆逐棲姫は性懲りも無く、また魚雷を撃つ。しかし魚雷を発射させてあげる程、長嶺は優しくは無い。

 

ズドン!

 

長嶺の放った弾丸は発射管から発射されて、水面に着水する前の、まだ空中に浮かぶ魚雷を正確に撃ち抜いた。本来なら敵艦の土手っ腹に大穴を開ける程の威力を持つ魚雷が、空中のそれも自分の目の前という超至近距離で起爆すればどうなるだろうか?

 

「ギャアァァァァァァァ!?!?!?!?」

 

大ダメージは必至である。駆逐棲姫は顔面を含む上半身全てに破片が突き刺さっていた。刺さってないのは背中や頭位のものだろう。

 

「貴様、殺ス!絶対ニ殺ス!!!!」

 

「悪いな、俺はテメェ如きに殺されるタマじゃねぇんだよ。次会う時は、精々強くなってな。じゃ、ゲームオーバーって事で」

 

そう言うと長嶺は一気に駆逐棲姫の正面まで踏み込むと、手を駆逐棲姫の喉に突っ込みそのまま貫通させた。青い血を周囲に撒き散らし、少し痙攣していた腕はダラリと力無く垂れる。

 

「はい、いっちょ上がり」

 

そう涼しく言う長嶺に、神谷は軽く恐怖を抱いていた。

 

(アイツ、駆逐棲姫を殺す時に笑ってやがった.......。狂ってる.......)

 

これまで幾度と無く敵を殺し続けて来て、自他共に人類最強の部類にいると思っていた。しかし、上には上がいた。今の攻撃を見るに、単体で戦った時は確実に自分よりも長嶺の方が格上だと気付かされた。

そんな事を思っているのも束の間、急に一帯が強い揺れに襲われた。

 

「な、なんだ!?」

 

「地震か!?!?」

 

皆がワタワタしていると、島が3つに分裂し海に沈んだ。そして代わりに巨大な戦艦の姿があった。

 

「な!?オロチだと.......」

 

赤い光を発する空母と戦艦を混ぜた様な特異のフォルム。見間違う筈がない。その艦はちょっと前にアズールレーンと出会うきっかけとなった現象でアズールレーン、レッドアクシズ、江ノ島艦隊&霞桜の3勢力が共に協力して沈めた筈の戦艦。巨大戦艦『オロチ』の姿であった。

一方で大日本皇国の軍人も驚いていた。何もアニメ版アズールレーンのラスボスであるオロチが、目の前に出てきたからではない。そのオロチが掲げている旗と、艦橋部分に描かれた紋章に驚いていたのである。旗は赤い下地に火を吹く2頭のコモドドラゴンの様な生物の上に、扉の様な紋様が付いた物である。紋章についても、旗の中に描かれている物と同じである。そしてこの旗と紋章を掲げる組織というのは、外交の席で「教育」とか何とか言って拉致した日本人を外交官と護衛の軍人、というか川山と神谷の前で首を撥ね飛ばし、更には「天皇陛下と一家を殺します」から始まるヤベー要求をつき付けて、最終的に日本がキレて過剰なまでの戦力を投入して文字通り消滅させた国家。パーパルディア皇国の国旗である。

 

「何故、あの旗と紋章があの艦に.......」

 

『久しぶりよのう、大日本皇国』

 

『あの時はよくも余の皇国を壊してくれたな!!』

 

この声も聞き間違う筈がない。パーパルディア皇国最後の皇帝、ルディアス。そしてその妻にして、開戦の引き金となった人物でもあるレミール。この2人は神谷達白亜衆によって既に処刑済みであり、この世には存在しない。しかしどう言う訳か、声は聞こえるのである。

 

「なあ、もしかして声の主を知ってるのか?」

 

「あ、あぁ。でも死んだんだ。俺や俺の部下が確実に殺してるし、国家は今はもう解体されて残ってない」

 

「そうか。知ってるかもしれねぇが、アレはオロチって戦艦だ。謎能力なんだが、ヤツは死んだ奴に化けれる。見た目は勿論、言動や仕草までも完璧に模倣できる。多分、その殺した奴に化けたんだな」

 

「そうか。そうだよな。だが、問題はあの巨大艦をどうするかだな」

 

アニメ版アズールレーンに出てきたオロチは、バリアによって攻撃を受け付けていなかった。覚醒したエンタープライズによってバリアを破られたが、エンタープライズとてそう簡単にホイホイ覚醒は出来ない。

ならばダメ元でゴリ押して見るだけである。

 

「撃ちー方始め!!!!」

 

ドゴォォォォォォォォォン!!!!

 

最大口径710mmの超巨大砲弾がオロチに襲いかかる。しかし効果はない。

 

「待ってくれ。今、グリムが弱点を解析している。俺達の世界のオロチは、シールドの結合が弱い箇所にピンポイントかつ、同時に攻撃を与えてシールドを破壊した。恐らく今回も」

 

「総隊長殿!!弱点となる結合の弱い場所、見つかりません!!!!前回の分は修正されています!!!!」

 

「マジか!?どうすんよ.......」

 

「こうなったら、ダメ元で全力攻撃だ!!」

 

そんな訳で霞桜と白亜衆の全兵士、艦娘とKAN-SEN、突撃艦、後方に待機する駆逐艦、爆撃に参加する筈だった富嶽II爆撃隊、その他の攻撃隊と戦闘機隊、超兵器の白鳳、白鯨と黒鯨、黒鮫による一斉全力攻撃も行なった。本来ならアメリカであっても直ぐに敗北する様な、規格外も良い所の火力を一気に投射するがダメージは入ってない。

 

「その程度では我がレミラーズ二世と、皇帝陛下のルディグート二世は倒せぬ」

 

「いや何処の宇宙戦艦だ。ここはいつから蒼き花咲く大地の、気高い鋼の国家になりやがった」

 

どう聞いても、何かどっかの「さらば〜」とか何とか言って16万8千光年彼方の惑星に旅立った宇宙戦艦の物語に出てくる敵艦の名前である。しかも何か最新の映画じゃ、何かやばい事なってたし。(旧作の方でしか知りません。2205見てー)

 

「まあ、そう言うなレミールよ。何やら関係の無い者もいる様だが、同じ日本の民であるなら万死に値する。行くが良い。騎士達よ」

 

そう言ってルディアスが手を翳すと、中世ヨーロッパの騎士の様な格好をした騎士の一団と、竜にまたがる騎士の一団が現れた。

 

「面倒だな。極帝!!」

 

神谷がそう叫ぶと、水中から巨大な赤い巨大な竜が現れる。この竜こそ世界に名だたる、四大属性竜の頂点に君臨せし真なる竜。竜神皇帝、極帝その人である。まあぶっちゃけると、メッチャ強い竜の親玉である。

 

我が友よ。我を呼んだな?

 

「あぁ。そこの竜騎士達を、全部潰せ」

 

心得た!!

 

そう言うと極帝は大空へと飛び立ち、ワイバーンオーバーロードの前へと立ちはだかる。

 

ワイバーンの強化種如きで、我の眼前に立つな!!

 

お得意の魔力ビームを浴びせて、次々に消し炭に加工していく。しかしあくまで想像されたワイバーンオーバーロードである為、思考や意思を持たない。その為、恐れを抱く事も慄く事も無く勇敢に攻め掛かる。だが、その程度で倒せるのでは「竜神皇帝」の名を冠する意味がない。

 

雑魚どもが!!!!掛かってくるが良い!!!!!!!!

 

闘志は十分。竜の首へと噛みつき、魔力ビームで焼き払い続ける。

一方で普通の馬に乗る騎士も攻撃を開始していた。と言っても突撃して来るだけなので霞桜と白亜衆の兵士達が弾幕を張ろうとしていたが、それを長嶺が止めた。

 

「ここは、アイツらに任せてくれ」

 

そう言った次の瞬間、空中からデカい犬と烏がやってきた。霞桜とか長嶺の仲間であれば見慣れているが、白亜衆や神谷等の大日本皇国勢はその存在を知らないので驚いている。

この2匹こそ、神谷の頼れる相棒。犬の名は犬神という人と妖術を操る妖怪で、烏の方は術を操り初代天皇を導いた伝説の導きの神、八咫烏である。

 

「お前達、やれ」

 

「吹雪の術!!!!」

「翼扇!!!!」

 

まず犬神の妖術である「吹雪の術」で馬の足を固め、次いで八咫烏の術の「翼扇」によって起こされる巨大竜巻に呑み込ませて、騎士達を文字通り消し去る。

 

「主様ー、終わったよー!」

 

「弱いな。我が主、もう少し強いのは居らんのか?」

 

「「「「「シャベッタァァァァゥァァァ!?!?!?」」」」」

 

神谷含む白亜衆の連中は、何かどっかの「らんらんるー」のお店のCMみたいなリアクションをしてた。いや、極帝も喋ってるやん。

 

「わ、我が配下を倒すとは流石だ。やはり、直接対決で決着を付けるまで!!!」

 

そう言うとルディアスは巨大な大剣と棍棒を、レミールは槍をそれぞれ装備して突撃して来る。

 

「迎撃しろ!!」

 

神谷がそう命じるが、霞桜の隊員も、白亜衆の兵士も、艦娘も、KAN-SENも近くの人間は誰一人として反応しない。

 

「な!?お、おい!!!!」

 

「か、閣下.......。長嶺くんが.......」

 

「長嶺が一体どうし、ッ!?!?」

 

震え声の向上にそう言われたので長嶺の方を見た。いや。見てしまった、と言った方が良かったのかもしれない。長嶺の顔は狂気と怒気の入り混じった、どんな相手でも一瞬で凍り付かせてショック死させてしまいそうな程、恐ろしい顔に歪ませていた。更には周囲にも、赤黒いオーラを滲ませている。比喩では無く、本当にオーラの様な物が出ていた。

 

「ふふふ、ハハハ.......。アハハハハハハハ!!!!!お前ら、その武器を手に入れた?なぁ、何処で手に入れたんだよ!!!!!!!

 

余りの気迫にレミールとルディアスも立ち止まった。

 

その武器を使って良いのは、この世にもう居ない。我が友を愚弄しやがったその罪、兆倍にして返させて貰うぞ!!!!!!

 

そう言うと長嶺は、懐から7枚の式神を取り出して投げ付ける。その式神は空中を進みながら燃え始め、ジェット戦闘機へと姿を変える。

 

子鴉共!!!!!

 

7機の戦闘機はワープホールの様な物に入り、戦闘機は長嶺の後方の空にワープする。次の瞬間、空中に焔の軌跡を描き始め、その軌跡はやがて旭日旗へと姿を変える。

今度はその旭日旗を破るかの様に、巨大な戦艦が姿を現した。長嶺がその身に宿す、最大最強の空中戦艦である。戦艦は焔に包まれ、パーツごとに分解していく。そのパーツ達は焔の玉となり、長嶺の元へと集まり巨大な火の玉を形成する。パーツが全て収まると焔は一気に消え、そこには巨大な艤装を纏った長嶺の姿があった。

 

空中超戦艦、鴉天狗、ここに見参!!!!さあ、殲滅の時間だ!!!!

 

目の前に現れた強者にレミールとルディアスは恐怖し、神谷や白亜衆を始めとする大日本皇国の軍人は目の前で起こった出来事に固まっていた。

 

どうした?何故攻撃してこない。しないなら、こちらから行くぞ!!!!!

 

神谷は瞬発的に最大推力を叩き出し、一瞬でルディアスの懐に突っ込む。

 

セイッ!!!!

 

渾身の斬撃を放つが、ルディアスはそれを大剣と棍棒の2つで受け止める。

 

「ルディアス様!!!!」

 

レミールも槍でガラ空きの背中を突こうとするが、それを許すほど甘くは無い。

 

ブオォォォォォォォォォ!!!!!!

 

「なっ!?!?」

 

機関砲群がレミールに向かって発砲してきた。直ぐに槍を高速回転させて、弾丸を弾く。

 

少しはやる様だが、所詮は全て紛い物。その武器も、その戦闘能力すらも。だから、一切重くねぇんだよ!!!!!

 

そう叫ぶと長嶺は、一度剣と棍棒を弾く。そしてそのままの勢いで、刀で剣と棍棒をぶち壊した。

 

「ぬおぉぉ!?!?」

 

奥義、彗星!!!!

 

奥義「彗星」を用いた斬撃で、ルディアスを肉片へと加工する。因みにこの技は2つの太刀を、超高速で動かして敵を肉片に加工する素晴らしい技である。

 

さぁ。待たせたな、クソ女

 

「そ、そうだ!!妾を助けてくれるなら、共に一晩を過ごしてやるぞ。どうじゃ、妾の様な美貌を持つ美しい女と寝れるなんて早々」

 

しかし、この次をしゃべる事はなかった。長嶺が主砲の砲口を口にねじ込んで、無理矢理喋れなくしたからである。

 

妾の様な美貌が何だって?貴様の様な人の思い出と生き様を愚弄する様な、真のクズが扱い女だと?笑わせるな。それに、テメェより俺の仲間(家族)である艦娘とKAN-SENの方が、中身も容姿も遥かに美しい美貌を持っとるわ。取り敢えず、死にやがれ!!!!!!!!

 

86cm砲が火を吹き、頭ごと首から上を消し去る。残ったオロチはと言うと、

 

「素粒子砲、射撃準備」

 

鴉天狗の装備する最強の兵装、素粒子砲で沈める事にした。

 

「エネルギー充填開始、バイパス接続。エネルギー正常に伝達中」

 

右側の艤装に搭載された巨大な砲身が変形し、正面と左右の砲口がせり出す。エネルギーが充填されている証拠なのか、段々と紫色の光が砲口に宿り出す。

 

「スコープ解放。ターゲティング開始」

 

長嶺の顔の前に、水色の水晶体の様な半透明のディスプレイが現れる。画面には様々な素粒子砲に関する情報、例えばエネルギーの充填率とか各部の破損状況とか様々な情報が列挙されていた。真ん中には照準を定めるためのスコープ画面が映されており、それをオロチに合わせる。

 

「ターゲットロック。素粒子砲、発射!」

 

ギュゴォォォォォォォォォ!!!!!

 

紫色の光がオロチに襲い掛かる。左右に発射されたビームも少し進むとオロチに向かうビームの方へと集まり、極太の巨大な光の柱のようになりオロチを貫く。

オロチはその巨大な船体を海面へと傾けていき、すぐに姿を消した。オロチの姿が消えると、あの赤い空も海も元通りに戻った。深海棲艦とセイレーンの残骸も同様に、まるで元から何も無かったかのように消えた。

 

「終わったな」

 

そう言って長嶺が目を瞑った。で、目を開けるとそこは水面では無く、母港である江ノ島鎮守府の執務室であった。

 

「は?え!?!?」

 

周りを見渡しても、いつも通りの執務室である。家具も何も変わりない。

 

「提督、どうしたんですか?」

 

目を開けると大和が少し笑いながら、声を掛けてきた。

 

「いや、どうしたもこうしたもあるか!!何か魔法のある異世界に飛ばされて、何故か出てきたオロチ2隻を別の世界線の日本軍と一緒に共闘して倒しただろ!?」

 

「えっと、何を仰ってるんですか?」

 

大和によると、どうやら一時間前くらいから居眠りをしていたらしい。疲れているのだろうと考え、今までそっとしていたそうだ。

 

「じゃあ、アレは夢だと?」

 

「ふふ。そうじゃなきゃ、別の世界線の日本とか有り得ないじゃないですか」

 

「そ、それもそうか」

 

普通に考えてそうなのだが、だがあのリアルさは夢とは思えない。

 

 

 

同時刻 大日本皇国 統合参謀本部 執務室

「閣下、閣下!」

 

「ん?向上、オロチは!?!?」

 

「うおっと、何寝ぼけてんですか。というか、いきなり伝説の妖怪の名前が出てくるとか、一体どんな夢を見ていたんです?」

 

「いやいやいやいや!ルディアスとレミールが復活して、なんか深海棲艦とセイレーンと、アズールレーンのアニメ版に出てたオロチを操って襲ってきただろ!?!?!?」

 

「えっと、そんな事が起きたら今頃ニュースでトップ飾ってますよ?というか、私達も戦地にいると思いますけど」

 

こちらも長嶺同様、居眠りをしてたらしい。しかしあのリアルさは夢とは思えず、川山と一色にも連絡を取った。そしたら

 

『え!?お前もか!!』

 

『俺達もさっき、同じ夢を見てたんだ。えらく現実味あるから、お前はどうかなと思って連絡しようと思ってた所だ』

 

なんと2人も同じ夢を見ていたのである。何か証拠になりそうな物は無いかと思い、3人は考え出した。すると一色が、あの歓迎会の時に写真を撮っていて、LINEで送ったのを思い出した。すぐに3人共確認すると、その写真はあった。夢で見た、長嶺そのものである。また神谷の場合は長嶺のLINEのIDも交換していたので確認してみると、こっちもあった。

一方で長嶺も同じ結論に至っていた。そして写真と、LINEを見つけた。試しに長嶺が電話を掛けてみると、神谷と繋がった。

 

「もしもし神谷さん?」

 

『長嶺雷蔵、で間違いないよな?』

 

「良かった、夢じゃなかったのか!!」

 

この日、新たな日本への扉が開いた。同じだが異なる日本を守る、真の英雄達が繋がった事によって。彼らはその命が続く限り、日本を護り続ける。これまでも、これからも。

 

 

 

 

 

 




今回のさまざまな兵器群の詳細に関して(霞桜&艦娘&KAN-SEN)
https://syosetu.org/novel/274631/1.html

https://syosetu.org/novel/274631/15.html

https://syosetu.org/novel/274631/32.html


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第五章75の奇妙な冒険編
第三十四話消え去る休息


カルアミークを出発して一週間後 大日本皇国 横須賀軍港 地下ドック

「あ〜!長かった〜」

 

「やっと帰ってこれたな」

 

カルアミークでの国交交渉を終え、神谷と川山を筆頭とする使節団は一週間程度の航海を経て祖国である日本へと帰還した。しかし知っての通り国交交渉の筈が内乱に巻き込まれ、一時は敵が王都にまで攻め込んでくる大惨事となり、神谷や他の軍人達は別として川山は流石に疲労が溜まっていた。

 

「そういや、慎太郎は明日からどうすんだ?確か今回の一件もあって、大臣から休暇を申し渡されたんだろ?」

 

「あぁ。俺は妻と一緒に、動画撮影させられるかなぁ」

 

「お前、もうそれ仕事じゃん」

 

今更ではあるが、三英傑の中で結婚していないのは神谷だけである。川山は超有名YouTuberとモデルとして活動している女性と結婚しているし、一色は超人気声優にして女優、アーティスト、モデルとしても活動している女性と結婚している。

 

「ってか、お前なんか動画のネタないの?」

 

「動画のネタ、ねぇ。例のエルフ5人姉妹の結婚報告とかすれば、伸びるんじゃない?」

 

「よし、結婚してこい」

 

「おいおい。人生でもトップクラスの決断を、そんな購買でパン買ってこい的なノリで言うなよ」

 

因みに三英傑は偶に川山妻のYouTubeチャンネルに出てドッキリしたりとか、ゲーム対決したりとか、国家の闇や裏話を語ったりとかしてる。そして一色妻に関しては、何度かラジオにゲスト参戦したことがある。どちらも再生回数が伸びまくり、トレンド入りしてバズったらしい。

 

「失礼致します!!川山外交官殿!奥様がお迎えに来ております!正面玄関にて、お待ちです!!」

 

「分かった。そんじゃ、俺行くわ」

 

「どうせ俺も正面玄関に迎えが来るから、一緒に行くぜ」

 

2人は地上へと続くエレベーターに乗り込み、地上に上る。そこから正面玄関に出ると、目の前に赤いホンダNSXが止まっていた。川山妻の愛車である。

 

「あなた、お帰り」

 

「あぁ、ただいま亜梨沙」

 

 

川山 亜梨沙(かわやま ありさ)

年齢 25歳

三英傑の1人、川山の妻にして日本を代表するトップYouTuberの1人。メイク、美容、料理、ドッキリ、何かしらのレビュー、ゲーム実況、旅行、雑談等の様々なコンテンツを投稿している。チャンネル登録者数は1500万人を超え、総視聴回数も150億回を最近突破した。また三英傑が国民的人気を得る前から、結構な頻度でゲストとして参加している。チャンネル名と動画内での名前は「ありなキョクチョー」である。

 

 

「あ、コウさん!」

 

「いやっほー」

 

「ねぇねぇ!何か動画のネタないの!?!?」

 

「特に無いなぁ」

 

「そっかー.......」

 

神谷の回答に、亜梨沙は見るからに残念そうにしていた。しかし川山が、1つ思い出した。

 

「なあ、エネシーの一件は使えないのか?」

 

「あー、使うか?」

 

「何々!?聞きたい聞きたい!!」

 

正直ネタにしていいものか微妙だが、一応「土産話」という建て前でエネシーとのことを話した。もしかしたらカルアミーク回を見逃したり、今回初めてこの作品を見ている読者もいるかもしれないので、超簡単に説明しよう。

エネシーとはカルアミーク王国の公爵令嬢であり、神谷を御伽噺の英雄騎士と重ねた結果、愛があらぬ方向に進んでいき、最終的には神谷を刺し殺そうとした核爆弾レベルの地雷女である。その暴走っぷりは原作を超えているので、是非自分の目で見てもらいたい。

 

「よく死ななかったねコウさん.......」

 

「この俺が小娘如きに殺されてたまるか」

 

「普通なら刺されてるんだよね、それ」

 

「仕方ねぇよ。だってコイツ、浩三だもん」

 

「その一言で片付けられない筈なのに、納得できてしまう自分が恐ろしい.......」

 

いつものこととは言えど、やはり神谷は規格外である。もう少し話した後、川山と亜梨沙の2人は家へと帰って行き、神谷は一色へ今回の一件について報告するべく官邸へと向かった。

 

 

 

一時間後 首相官邸 執務室

「よう」

 

「お、帰って来たな。お帰り」

 

そう言うと一色は立ち上がり、神谷の肩をバンバン叩きながら2人は握手を交わす。

 

「そんで、成果はどうだった?」

 

「一応会談は成功したし、国交樹立は完了だ。後はお前とか川山とか外務省の管轄で、俺達守護者組はお役御免だ」

 

「問題なく進んだか?」

 

「はっ!まさか。異世界に来て、無事に会談や交渉が終わったことあったか?」

 

一色はその一言で全て察した。恐る恐る「何が、あったんだ?」と震え声で聞いて来た一色に、神谷は面倒臭そうな顔をしながら事の顛末を語った。

内乱に巻き込まれて、王都が陥落一歩手前まで行ったこと。反乱軍に少数で第一次世界大戦レベルの装甲車とはいえど、現代兵器を配備してあって運用していたこと。公爵令嬢が地雷女だったこと。公爵邸でどっかの蛇みたくスニーキングミッションやったりして、あの手この手で逃げまくったこと。その令嬢に、危うく刺し殺されるところだったことを報告した。

 

「まあ後半は良いとして、装甲車を配備してたってのは結構ヤバいな」

 

「大方、古の魔法帝国とかいうのが絡んでたんだろうな。流石に魔法とかいうチートがあって、あそこが外界から切り離された国家とはいえ、流石に騎士がキンキン剣で戦う文明なのに、いきなり過程を飛び石の如くすっ飛ばして一次大戦レベルの装甲車を生み出すのは無理がある」

 

「やっぱりか。ホント、なんなんだ古の魔法帝国ってのは。大体厄介事の裏には、ほぼ必ずお約束のようにその傍迷惑帝国の影が見え隠れしてる。そういや、その傍迷惑帝国の技術を取り入れてるとかいうミリシアルの軍隊。アレの調査はどうよ?」

 

「この際だ、報告しておくか」

 

そう言うと神谷は鞄からタブレットを取り出して、ミリシアルの軍事関連の情報ファイルを開く。因みに最近はミリシアルは勿論、他の人間国家にもJMIBとICIBの工作員が潜り込んでおり、様々な情報を集めている。

 

「ミリシアル帝国の軍隊は、まあ「世界最強の軍隊」とか言うだけあって、この世界の水準で言えば間違いなくトップクラスの実力を持つ。だが技術レベルで言えば、そこまで高くない。この間話した通り、兵器がその傍迷惑帝国の技術、というか設計自体を何も考えずに切った貼ったでキメラ兵器を作ってる有様だ。

ウチの技術者に見てもらったが、コメントは酷かったよ。「高校生の方が上手く作れる」とか「科学を最初からやり直せ」とか「何をどう繋げたらこうなるんだ」とか「韓国とか中国の製品を見てる気分だ」とか色々、コテンパンに言われてた」

 

「念の為聞くが、戦争したら勝てるか?」

 

「勿論、と言いたいが現時点じゃ何とも言えん。海と空は秘密兵器とか新兵器の類いが無い物と仮定した場合、質でも量でも勝てる。だが陸の場合は魔法もあるし、あまり全容が掴めてない。

それにどうやらミリシアルには『魔帝対策省』なる国家機関があるらしいし、恐らくウチでいう『特殊戦術打撃隊』に相当する軍事組織、あるいは戦力はあると見て間違いない。だがプロテクトが硬くて、余り迂闊に入れない。お陰で中身は何が眠ってるのかわからん。こればっかりは、情報待ちだ」

 

「やはり、世界最強を名乗るだけはあるな」

 

正直、ミリシアルを始めとした所謂「中央世界」の各国は、未だ不透明なところも多い。何を隠してるのかわからない国もあれば、何か外交用に開放されてる場所と国の中心地の技術の差が、魔王とスライムみたいに掛け離れてる謎なことをしてる国家すらある。

そんなカオスの権化と化した、常識が通じない国家群を相手にしていくと考えると頭が痛くなって来た。

 

「まあ報告は以上だ。それじゃ、俺は帰るぜ」

 

「あ、ちょっと待った」

 

「ん?まだ何か用か?」

 

「お前宛に、ちょっとばかし面白い仕事が入った」

 

そう言うと一色は、自分の机の引き出しの一番下の段。なんか謎に大きい収納スペースを誇っていて、書類用の引き出しと化した所から資料を取り出した。そしてそれを神谷に差し出す。

 

「何だこれ」

 

「なんかムーからの打診で、合同演習をやりたいんだと。内容は艦隊戦と、ジョン・ウィック戦をするそうだ」

 

「は?」

 

艦隊戦は分かるが、ジョン・ウィック戦は分からない。というか古今東西、ジョン・ウィック戦なんて謎な戦いはない。というかジョン・ウィックと言ったら、聖人キアヌ・リーブス主演の殺し屋を主人公とした映画の題名か、その主人公の名前である。

 

「本当にジョン・ウィック戦って言ったのか?」

 

「あぁ。羊羹艦、だったか?海兵を乗せるヤツ」

 

「か、海兵を乗せる羊羹.......?」

 

現在、神谷の脳内はジョン・ウィック、というかキアヌ・リーブスの顔と羊羹がグルグル回っているカオスな状況であった。この2つに何の関連性もない。

 

「海兵を乗せる羊羹.......海兵.......艦.......!?って、揚陸艦かよ!?!?!?!?」

 

「あ、それそれ」

 

「揚陸艦を使う演習となると、上陸作戦?」

 

「そうだ、上陸作戦だ!」

 

どうやら一色は揚陸艦を羊羹艦、上陸戦をジョン・ウィック戦という、もう何をどう聞いたらそうなるのか分からない聞き間違いをしていた。

 

「お前、何をどう間違えたらそんな風に聞こえんだ!?!?!?なんで船と羊羹が融合してるし、伝説の殺し屋まで登場させてんだ!?アホか!!!!」

 

「だって語呂が似てんじゃん」

 

「似てるっちゃ似てるかもしれんが、幾らなんでも耳ヤベェわ!!!!気付けよ!!」

 

「まあ、良いじゃん良いじゃん」

 

この時、コイツを病院に連れて行くと決心した神谷であった。というか普通に考えて、頭と耳がバグってないと、こんな意味不明な聞き間違いはしないだろう。

流石の神谷も疲れたので、もう仕事も残ってなかったし、執事の早稲に連絡して迎えに来るように伝えた。

 

 

 

一時間後 神室町 神谷邸

「お帰りなさませ、旦那様」

 

「ただいま爺ちゃん。変わりないな?」

 

「えぇ。旦那様が留守の間も、従者一同しっかりと「居城」は管理しております。それから例のエルフのお嬢様方ですが」

 

「なんかあったか?」

 

「旦那様が留守の間に、私共の方で色々仕込ませて頂きました。日常生活は勿論、旦那様と共に動いたとしても恥ずかしくないよう、必要最低限の上流階級のマナーも教育してあります」

 

どうやら神谷が例の国交開設の一件で、エネシーと追いかけっこしていた1ヶ月の間に教育しておいてくれたらしい。百聞は一見に如かず、ということで試しに食事を摂ることになった。

 

 

「スゲェ。箸を普通に使ってる.......」

 

なんと全員が箸を使って、食事を摂っていた。しかも動作も綺麗かつ、魚の骨を取り除くみたいな高難易度のことも、しっかり出来ていた。

 

「どうですか浩三様?」

 

「いや、うん。まさか、ここまでマスターしているとは思わなかった。スゲーよ、マジで」

 

ヘルミーナが得意そうに胸を張った。その瞬間、その大きい物がぷるんぷるんしていたのは、気にしてはいけない。(オッパイプルンプルン

 

「エルフ族って、元々手先が器用だからねー。この程度なら、すぐにマスターできるよ」

 

「あら?一番最初に音を上げていたのは、誰だったかしら?」

 

「うぐっ。ミーシャ姉さん、それは言わないでよぉ」

 

「そう言えば、最初に音を上げていたな」

 

「いやいや。アーシャ姉様も、箸を片っ端から折っていたじゃない」

 

「そういうエリスは、皿ごと木っ端微塵にしていましたよね?」

 

(箸を折るのは、まあ分かりたくもないが、分からなくもない。だが、皿が木っ端微塵って何をしたんだ.......)

 

エルフ五等分の花嫁から語られる、思ってたよりも壮絶な特訓とその謎すぎる状況に神谷はまたしても頭が痛くなってきた。箸や皿が壊れる特訓となると、最早それは戦闘教連である。

さっきも言った通り、あくまでマナー講座であって戦闘要素は一ミリも含まれてないのに、この結果とは何が起きたのだろうか。この世には「知らぬが仏」と言うように、知らないことの方が良いこともある。

※余りのカオスっぷりというか、予想外すぎる有様に新たに「バーサクエルフ五等分の花嫁」というあだ名が使用人の間で広まった。

 

「そう言えば、浩三殿は明日から休みなのか?」

 

「あ、あぁ。一応休みにはなってる。何せ、今回の国交交渉は本当に疲れたからな。休まねぇと割りに合わん」

 

「そういうことなら、私達を「しょっぴんぐ」というのに連れて行って欲しい」

 

「別に良いが、車どうしようかなぁ」

 

どうせ行くなら、愛車を運転していきたい。しかし愛車の殆どがスーパーカーかスポーツカーの高級車ばかりであり、精々4人乗りが限界だった。そこで思い付いたのが、一応名義は神谷だがハイヤーとして使ってる車を使う方法である。どうせ買い物用の車も連れて行くので、1台2台増えても問題ない。(掛かる費用はどうせ神谷が払うし)

因みにハイヤーというのが、オプションフル装備のロールス・ロイスPHANTOM EXTENDEDである。因みにお値段、6,600万越えである。それを10台所有してるのだから、ヤバいの一言である。そんな訳で今回は神谷の愛車+PHANTOM EXTENDED2台+荷物運送用のヴェルファイアで買い物に行く事になった。

 

 

 

翌日 カムロモール

「で、何から見るよ」

 

「服!!」「アクセサリー!!」「武器!!」「スイーツ!!」「ゲーム!!」

 

「え?いや、なんて言った?」

 

一斉にバラバラの目的地を言った結果、神谷の耳は唯の雑音として捉えてしまった。因みに何て聞こえたかと言うと「あふせりーきーつむ」みたいに聞こえた。

 

「よし、わかった。1人ずつ言ってくれ。まずアーシャ」

 

「武器だ」

 

「うん、ない。武器ショップなんて無い」

 

「剣や刀は無いのか!?」

 

「日本では基本的に武器の所有が認められてないから、こういうショッピングモールとか街中に武器系の店は無い。精々、エアガンショップが関の山だ」

 

武器ショップが無かったのが余程ショックだったのか、ショッピング開始早々意気消沈である。ここがアメリカなら普通に銃が見られたのだが、生憎とここは日本である。

 

「次、ミーナ」

 

「私は服が見たいです」

 

「OK、ここは大量にある。スーツ、普段着、パーティー用、作業用、スポーツ用、老若男女問わずあるから楽しめるぞ」

 

この一言に顔が一気に明るくなった。恐らく、脳内では既に服を色々試着しているのだろう。

 

「次、ミーシャ」

 

「私はスイーツを食べたいです」

 

「それは飯時になってからだな。たしか有名老舗ケーキ屋が、ここに2号店を作ってたな。そこに行こう」

 

ミーシャの場合は明るくなるというよりは、トロけていた。どうやら既に食べてる認識らしい。女の子が甘い物好きなのは、どうやら万国共通な上に異世界でも通用する法則らしい。

 

「次、レイチェル」

 

「ゲーム!」

 

「ゲームどころかアニメイトもあるから、漫画もアニメも全部揃うぞ」

 

こちらの場合は完全に目が、獲物を狙うハンターのソレである。因みに早稲情報によると、レイチェルはサブカルにどハマりしたらしい。アニメならSAO、盾勇、このすば、オバロ、いせかる、五等分、かぐや様、86、ヤマト、ワンピース、とあるシリーズが好きで、ゲームならBF、GTA、メタルギア、ウォッチドッグス、サイバーパンク2077、マイクラ、艦これ、アズレンにハマったらしい。最近はアニメなら食戟のソーマ、ゲームならグランツー・リスモがブームらしい。

 

「最後、エリス」

 

「アクセサリーよ」

 

「あるぞ。それも普段着のワンポイントに使える物から、指輪やネックレスみたいな貴金属の高い物まで」

 

特に表情変えない。仏頂面の様だが、心なしか浮き足立ってるように見える。

 

「それじゃ、ショッピング開始だ」

 

このカムロモールは、世界的にも有名な巨大モールである。地上28階地下8階建ての巨大モールであり、簡易的なテーマパークすら備える。テナントも様々な種類の多種多様な物があり、服ならユニクロやしまむらみたいな庶民的な物もあるが、六本木や銀座にある高級店も入ってる。食事処もファミレスチェーンやフードコートは勿論、焼肉屋や一食数万円の高級店と庶民から金持ちまで楽しめる。

因みにさっきもあったようにアニメイト、同人誌関連のショップ、コスプレ専門店、エアガンや電動ガンの専門店、音楽や楽器の専門店、調理器具専門店といったバラエティ豊かなテナントが入っている。

 

 

「まずは服だ。好きなのを好きなだけ買え!!」

 

まず訪れたのはミーナの目的地である服屋。とりあえず一番高そうな店を選んで、全員に好きなのを選んでもらう。

 

「いらっしゃいませ。本日は何をお探しでしょうか?」

 

「彼女達の服を見に来た。金に糸目は付けないから、彼女達に似合いそうなコーデを頼む」

 

「承りました」

 

神谷は服を選ぶセンスが無い(と思ってるだけで普通にセンスはある)ので、プロに任せて色々見繕って貰う。その間にタブレットで仕事を片付けつつ、合間合間を縫って5人の相手をする。

しかし楽しいショッピングは開始1時間で、早々に終了することになった。

 

ブーーブーーブーー

「もしもし。どうした?」

 

『長官!休暇のところ申し訳ないのですが、すぐに参謀本部に来てください!!ヤバいことが分かりました!!ヘリを手配してるので、今どこか教えてください!!』

 

「また何か厄介事か。わかった、すぐに行く。場所はカムロモールだ。話はこっちで通すから、そうだな.......。遊園地の広場に下ろそう」

 

『わかりました。では後程!』

 

向上からの並々ならぬ気配の電話に、事態の深刻さを悟った。正直このままバックレたい所だが、どうやらそういうわけにはいかないらしい。

 

「あー、お前達。悪いがショッピングは、お前達だけで楽しんでくれ。緊急の仕事が入った。ちょっと行ってくる」

 

そう言って神谷は使用人に車のキーを預けて、サービスカウンターへと走る。

 

 

「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょう?」

 

「私は大日本皇国統合軍の神谷浩三大将だ。突然で申し訳ないが、このモールに併設されてる遊園地の広場を封鎖して欲しい。緊急事態につき、ヘリコプターを下ろしたい」

 

「あ、えっと、少々お待ちください。上の者に確認します」

 

流石にいきなり「ヘリを下ろさせろ」なんて、まず聞くことの無い言葉に従業員のお姉さんもワタワタしている。どうやら店長が話の分かる人だったようで、話はスムーズに進んだ。

 

「わかりました。それでは、早速人払いを致しましょう」

 

「頼む」

 

そう言うとすぐに放送で呼び掛けてくれた上、手空きのスタッフを配置して客を全て退去させてくれた。程なくしてヘリが着陸し、神谷は統合参謀本部へと向かった。

 

 

 

三十分後 統合参謀本部 地下指令室

「まあ文字通り飛んで来た訳だが、一体何があった?」

 

「順を追って説明致します。本日早朝、千歳航空基地所属の第942輸送航空隊所属のC22機が、陸軍第7師団隷下の第75歩兵中隊を乗せて訓練の為、離陸しました。しかし離陸より2時間程して、レーダー上からロスト。グラメウス大陸上空にて、消息を絶ちました」

 

「確かに緊急事態だ。しかし、それだと俺が呼ばれた意味はなんだ?流石にまだ何もわかってないのに、いきなり会見を開く訳でもないだろ?」

 

神谷の言うことは尤もである。まだ消息を絶った、というだけで墜落が確認された訳ではない。もしかしたら、レーダーの故障による可能性もある。会見は今日明日には開くが、いきなり呼び付けるほどのことでもない。

すると向上は一枚の写真を取り出して、それを差し出してきた。

 

「これって確か、反一色派の中枢の政治家じゃね?名前はえっと、中川貴一郎だったか?」

 

「はい。今回の訓練には、無理矢理この政治家が同乗しています」

 

「俺、何も聞いてないぞ」

 

「どうやら何らかの手段で、無理矢理乗ったらしいんです。大方職権濫用で、ゴリ押したんでしょう。問題はこのおっさんが乗ってる機が遭難したということは、中々に面倒なことになる可能性が高いってことです」

 

この中川という政治家は、代々政治家を輩出している家系の長男である。古くは貴族の家柄でもあったらしく、プライドが高い、高圧的に出る、超ワガママな自己中という社会で権力持ったら、この上なく面倒な上に嫌われる特徴の三拍子が揃った政治家である。

そして更に面倒なのが、一色含む三英傑を敵視してる上に軍隊を嫌っている点である。というのも中川は一色が総理になる時に対立候補として争った仲であり、一色が登場するまでは総理大臣最有力候補であった。しかし一色が出て来た結果、様々な面で負けてしまい一色が総理となった。でもって一色が当選した立役者でもある「三英傑」の存在を敵視し、元々反日的な人でもあったことから一色と神谷を敵視していて、隙あらばトップを挿げ替えようとする売国奴政治家である。

 

「でもVIPは脱出させるだろ?GPSの電波を拾って、救助隊送れば万事解決じゃん?」

 

「それがGPSの電波が拾えないんです。どうやら、強力なソーラーマックスによって障害が出てるらしくて」

 

「成る程、それで俺を呼んだ訳ね。しかしグラメウス大陸か。中々に面倒な場所だな」

 

このグラメウス大陸というのは、いつぞやの魔王ノスグーラと戦った場所である。この大陸は大半が人類が生活できる場所がない為、人がいない。その代わりに魔物の巣窟となっており、救助は中々に難航することが予想される。

 

「付近に部隊は?」

 

「グラメウス大陸近くに訓練中の第7海兵師団が居ます。強行救出に備えて、付近で待機中です。また北海道方面の全部隊には警戒レベル4への移行を指示しており、緊急時のバックアップは可能です。ご指示を」

 

「取り敢えず千歳のRF2を偵察に出動させろ。UAVでもいいが、流石に電波障害で落ちたら面倒だ」

 

「了解しました」

 

神谷の仕事はどうやら、長引きそうである。また休暇を取り直すことを心に決めて、仕事に取り掛かった。

 

 

 

 

 



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第三十五話C2遭難

神谷と五等分の花嫁がショッピングに繰り出そうとしていた頃 グラメウス大陸上空

『であるからして、君達軍人は必要ないのであって』

 

「なあ真司?あのバカ、そろそろ叩き出したいんだけど」

 

「彰、まだだ。もう少し待て」

 

空軍から出向している技術大尉、澤部彰は国防大学の同期である陸軍大尉にして、出向先の第75歩兵中隊の中隊長、岡真司に目の前でクソみたいな熱弁を振るってる男への文句を言っていた。

その熱弁を振るってる男というのが、中川貴一郎である。彼はどういう訳か、演習に視察の名目でやって来た。しかし反一色派の筆頭格であり、旧世界では中韓のスパイと言われていた男でもある。

そんな男に、というか軍とは一切関係ないのに、演習同行の許可は普通出さない。しかし今回はわざわざ、本省の事務次官の署名付きの書類を持参の上でいらっしゃってくれやがった。そんな免罪符を持ってこられては、基地や司令部は「NO」とは言えない。

 

「ホント、何で来やがったんだか」

 

「まあ手は打ってあるから。な?」

 

既に1時間近く、わざわざ拡声器をもって「君達軍人はいらない。それでは平和にならない」と、全くもって有り難くも為にもならない不快な雑音とも言うべき演説をしており、兵士達の士気はみるみる下がっていた。そこで岡は1つの名案を思い付き、そろそろそれが実行されるのである。

数分後、相も変わらずクソ熱弁を振るっていると、機体が突如ガタガタ揺れ始めた。

 

『エンジンに異常発生。緊急で進路を変更する』

 

「は?え?」

 

「なに?本当に?」

 

『搭乗員は積荷を緊急投棄し、脱出に備えよ』

 

「脱出、脱出、脱出、脱出!?」

 

中川はいきなりの事に、一時「脱出」という単語以外喋らなくなった。隊員達の顔も強ばり始め、これが本当の事だと気付いた。

 

「よーし、全員。パラシュートを持て」

 

岡の指示に兵士達が足元や椅子の上の壁にあるパラシュートを取り出し、自分の背中に装着していく。一方で岡は中川の分のパラシュートを受け取り、中川の背中にパラシュートを装着していく。

 

「手順は、ご存知ですか?」

 

「知る訳ない!飛んでる飛行機から飛び降りた事など無い!!」

「でしょうねぇ」

 

「あ、おい!本当なのか!?」

「えぇ。さあ、行きますよ」

 

岡のやる気の無さそうな塩対応を見て気付き始めた読者もいるかもしれないが、これは演技である。実際は何の異常もなく、パイロットが意図的に機体を揺らしてるだけである。

 

「ちょっと待て!!なにか仕掛けたんだろ!?!?」

 

「何の事です?聞いてたでしょ?機長の命令ですよ。緊急時の規定であって、私は命令に従ってたまでです。ご満足でしょう?」

 

「大尉、君のキャリアは終わった物と思え」

 

中川は未だに毒付くが、タイミング良く機体がまた大きく揺れた。これによって、中川はすぐに黙った。

 

「あー、こりゃ不味い。さあ、こっちですよ」

 

「どうなるんだ?なあ、私は胃潰瘍なんだ!」

「こっちへ。さあ、こっちです。さあ来て、大丈夫です」

 

そう言いながら、無理矢理中川を引っ張って後部ハッチへと連れて行く。丁度ハッチが開いて、視界に白い雪の大地が見える。勿論、高所からの眺めである。

 

「いやいやいや!!ちょっと待て!!!!死にたく無い!!」

「ほんのちょっと飛ぶだけですよ!こっち来て!こっちへ、ほら早く!」

 

高所からの絶景に、中川は完全に恐怖してしまって逃げようとする。しかし軍人である岡が腕を掴んでる以上、力で振り解く事はできない。殆ど抵抗できずに半ば引き摺られて、ハッチの前へと来てしまう

 

VIPの安全を確保するのが優先なんです!!さあ、良いですか!?よーく聞いてください!!今から言うことを全部覚えて!!

「OKOK」

 

救助隊がGPSで見つけて、すぐ助けに来てくれます!!そのストラップは、コンテナの蓋を閉めてるピンを支えてます!!聞いてますか!?

「何を言ってるのかさっぱ」

集中してっ!!」パシンッ!!

わかったわかったわかった!

 

もう完全にパニックになっており、首をガクガク上下にふりながらオドオドしてる。

 

良いですか!?パイロットシュートが膨らんだら、ピンが引っ張られてメインシュートが開きます。赤がバックアップ、青がメイン!!青を引っ張ってください!!力一杯、グッと引っ張るんですよ!!

 

そう言われて、あろう事か中川は機上のここで引っ張ってしまった。勿論パイロットシュートが射出され、外へと飛んで行く。

 

握ってるああ!!まだです!!飛行機の上で開くバカがいるかッ!?!?

 

なに?あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?!?!?!?

 

パイロットシュートが外に飛び出して空に飛んでいったたのだから、その後に付いているメインパラシュートも開く訳である。中川は岡のツッコミに「なに?」と返した瞬間、大空へと元気よく飛び出して行った。巨大な悲鳴を上げながら。

 

「アイツ、サヨナラは?」

 

「いや。言わずに行った」

 

これで邪魔者はいなくなったと言わんばかりに、岡と澤部は冗談を言い合っていた。しかし次の瞬間、本当のトラブルが発生した。機体が急激に揺れて、エンジンの轟音がピタリと止んだ。

 

『エマージェンシー!!エマージェンシー!!エンジンダウン!!エンジンダウン!!衝撃に備えろ!!!!衝撃に備えろ!!!!』

 

機長の怒鳴り声がキャビンに響き渡り、全員が弾かれたように座席へと滑り込んでベルトを着け、対ショック姿勢を取る。

飛行機というのは実は、エンジンが止まっても真っ逆さまに落ちる事はそうそう無いのである。「低高度からの急上昇中でエンジンが止まった」とか、「翼がへし折れた」とかじゃ無い限りは少しの間はグライダーのように滑空できる。幸いにも周辺は殆どが平原であり不時着可能である。ならば一度不時着して、救助を待つのが安全である。

しかしここで、更なるアクシデントが襲った。

 

「おい!?二番機もエンジンが止まってんぞ!?!?」

 

「嘘だろ!?!?」

 

なんと隣を飛行している2番機のエンジンも止まっており、2機仲良く高度が落ちている。これだけならまだ良い。一番最悪なのは、何故か無線やら電子機器がブラックアウト、つまり故障してしまったのである。現在高度や速度だけは、緊急用で装備されてるアナログ形式の物で判明しているが、今どの辺りをどの方角で飛んでいるのか等は分からない。

しかも無線もイカれてるのだから、助けも呼ばないのである。

 

「やるしかねぇ!!不時着させる!!!!」

 

「機長の腕に俺の命全ベットしますよ!!」

 

「お前だけじゃ無い。この機体に乗ってる奴、全員の命だ!!機長、成功させてくださいよ!!!!」

 

いつの間にかコックピットに移動してきた岡が、副議長の言った言葉を利用して鼓舞する。今回の機長はベテランのパイロットであるが、流石に不時着なんてした事は無い。だが今、彼は根拠こそないが必ず成功する確信を持って操縦桿を握っている。

 

「任せてくださいよお客さん。空軍のベテランパイロットの名にかけて、必ず不時着させてやる!!!!!!!!」

 

どうやらエンジンこそ死んだようだが、フラップやエルロンを始めとした着陸に最低限必要な物は全て生きている。エンジンが使えない為、一発勝負の博打ではある。だがその程度、パイロット達にとっては困難の内に入らない。

 

「ランディングゾーン確認!状況報告!!」

 

「高度800m、速力200ノット!西から微風なれど、着陸に支障無し!!いつでも行けます!!!!」

 

「よし、少し早いが着陸する!!」

 

機体は徐々に高度を下げていき、永遠にも感じられる時間を過ごした後、機体が上下にグワングワン揺れる。火花が散り、外からは金属の擦れる耳障りな音と、地面を抉る爆音が響き渡る。窓の外は土煙で、茶色に染まっており何があるのかは分からない。

 

「止まれ、止まれ、止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

出来る事は、なるべく早く止まれるように祈る事だけである。祈った甲斐あってか、全員失神こそしたが生き残った。そして墜落していく2機の姿は、近くの集落にて畑の絵を描いていたサフィーネという少女が見ていた。

父親が医者であるのもあって、困ってる人は見過ごせない心優しい性格のサフィーネはすぐに墜落した丘の上の平原へと走った。そこで見たのは、鳥でも魔獣でも無い、鋼鉄の塊。お尻の部分に大きな穴が開いており、中には白と黒のマダラ模様がついた鎧兜を身に付けた人がたくさん座っていた。

 

「こ、これって死んでいる、の?」

 

鋼鉄の塊の腹の中へと入ると、皆同じ格好していて何処かの兵士かのように思える。そして兵士達の前には、巨大な鋼鉄の壁で隔てられていて動くのが大変であった。さらに奥に進んでいくと、呻き声が聞こえた。

 

「うっ.......」

 

「まだ生きてる!」

 

どうにか外へと引き摺り出し、応急手当てを施す。程なくして村人達もやって来て、他の人達も外へと引っ張り出して手当てを行ったり村へと運んだりしていた。

そんな中、後部カーゴドアが閉じたままだったもう1機のC2から人が何人か出て来た。

 

「いってぇな。ってか、ここ何処」

 

「お、おいアンタ大丈夫か!?」

 

「ん?お、おう。頭が砕けそうな位痛ぇし、脳みそがシェイクされてるみてぇにクラックラしてるがな」

 

口の悪い兵士が自分の症状を伝えていると、自分の仲間達が大勢倒れているのに気が付いた。すぐに駆け寄り、大声で「おい!!おい!!」と怒鳴ったり揺すり始めた。

 

「って、なんだ。ノビてるだけか」

 

「あ、あの。あなた方は一体、何者なんですか?」

 

「俺達は大日本皇国陸軍第7師団、第75歩兵中隊の兵士だ。訓練で空を飛んでたら、いつの間にか地面に不時着しちまってた訳よ」

 

ついでに目的も説明すると、村人達に困惑の顔が広がっていた。聞いた感じだと、日本に驚いてるというより国家があることに驚いている様だった。取り敢えずこの口の悪い兵士も、村へと案内されてC2の元を離れた。そして数時間後、捜索のために飛行中だったRF2が機体を発見したのであった。

 

 

 

墜落から数時間後 大日本皇国 統合参謀本部

「長官!偵察中のRF2より、墜落したC2を2機とも発見したと報告が入りました!!!!」

 

「状況は?」

 

「どうやら不時着したようで機体は綺麗に形を留めており、周りに人の存在は死体も生きてる者も確認できなかったとの事。そしてやはり周りでは電子機器が不調を起こすようで、計器の類は勿論のこと無線も使えなくなるそうです」

 

「そうか。流石にEMP攻撃とか妨害電波によるジャミングは考えにくいから、恐らくソーラーマックスによる磁気嵐みたいな自然現象だとは思うがな。第609航空隊に下令。AWACSを派遣し、電波異常の原因を調査させろ」

 

「了解!!」

 

実を言うとこの命令には、もう一つの隠された狙いがあった。知っての通り不時着したのはグラメウス大陸という、魔物が闊歩する世紀末みたいな場所である。もし強い魔物、例えばいつぞやの魔王みたいな化け物クラスが出てきた場合に対応可能な部隊を応援として出す事となるだろう。

その時の管制のために、E787を保有する第609航空隊に出撃命令を出したのである。

 

プルルル、プルルル、プルルル

「はい?」

 

『岡がコードを引っ張れと言ったんだ』

 

「そうですか」

 

何とどう言う訳か、パラシュートで脱出した中川から電話が入ったのである。勿論一帯は謎のジャミングで、電子機器が正常に動いてない筈である。

 

「ちょっと待て!ここは一体、なんて国なんだ?」

 

「大日本皇国ネ。日本ヨ』

 

中川は助けてくれたと思われる、恐らくボケ始めたお爺さんに聞いたようだった。そしたらやはり、ボケてたらしい。

 

「なに?違う!ここは大日本皇国じゃない!!私が日本から来たんだ!!」

 

「あー、あぁ」

 

『何もない。周りはトナカイだらけ』

 

ここまで聞くと、神谷は受話器を叩き付けて電話を切った。周りから「え?誰からです?」みたいな顔をされながら、視線を集めていたので自分から説明した。

 

「我々の良き友、中川貴一郎くんからでしたよ。ご機嫌ななめだった。こっちが部下と連絡どころか安否すら分かってないというのに、よくまぁ連絡して来られたもんだ。グラメウス大陸の、雪原の、ど真ん中から」

 

「(長官もご機嫌ななめだな)」

「(そりゃそうだ。噂じゃ、デート中だったのを呼び出されたらしいぞ)」

「(え!?閣下って彼女いるの!?!?)」

「(最近できたって噂だ。しかと超美人で、スタイルもヤバいらしい。マジで二次元から飛び出してきたような、男のロマンを詰め込んだプロポーションだとか)」

 

若手幹部達がなんか色々言ってるのを尻目に、神谷は今から行われる記者会見の為に会見用の部屋へと向かった。

 

 

「えー、本日未明、皇国空軍所属のC2鐘馗輸送機2機が、訓練中に消息を絶ちました。この機体には皇国陸軍第7師団所属の第75歩兵中隊が搭乗しており、同部隊に付きましても同じく行方不明となっております。

既に機体は発見しておりますが、現在救出の目処が立っておりません。墜落地点がグラメウス大陸の内陸の方であり、救出には相当の時間が掛かると思われます」

 

今回は事が事だけに、報道官ではなく神谷自身が演台で会見を開いた。この方が記者からの質問に正確に答えられるし、報道時も真摯な対応として国民に見られる為、予想される面倒なイチャモンに対抗できるのである。

 

「東西新聞の安田です。発見された機体の状態は、どのような状態だったのでしょうか?」

 

「RF2による航空写真を見ると、墜落というよりは不時着と言った方がイメージがつきやすいですね。機体は綺麗な形で残っており「爆発して炎上していた」とかと言った物ではなく、兵士が生きていても可笑しくない状態です」

 

「毎回新聞の鎌内です。救出の目処が立っていないとの事でしたが、その原因は何でしょうか?」

 

「原因として挙げられるのは、魔物の存在と国家が存在しない事の2点です。グラメウス大陸はフィルアデス大陸側に存在するトーパ王国という国家しか存在しておらず、王国の支配域は「世界の扉」と呼ばれる巨大な壁までは支配していないのです。今回の現場は、その世界の扉を超えた遥か先での出来事であり、現地国家への協力要請ができないのです。

魔物については、正直魔物単体だけなら余り問題にはなりません。しかし奴等は、基本的に群れで行動します。その為、救助の邪魔になり難航する事が予測されるのです」

 

その後も色々な質問がされたが、その全てに丁寧に対応していった。約1時間程で会見は終了したので、神谷は対策本部へと戻ろうとした時に今度は携帯が鳴った。

 

『浩三。今回の一件、なんかややこしくなった』

 

「アレだろ?中川の件だろ、絶対」

 

『知ってたのなら話が早い。今、アイツの取り巻き連中が今から面会を申し込んで来やがった。頼む、お前も同席してくれ』

 

「はいはい分かりましたよ」

 

正直全くもって行きたくない。「中川の取り巻き」とか言ってる時点で時間の無駄になるのは目に見えてるし、何より長嶺へのストレスが凄い事になる。そのお陰で、神谷の足は鉛の靴を履いてるかのように重い。

 

 

「我々としては今回の一件について、正式に厳重に抗議する」

 

「そうだ。中川さんは、絶対に安全だから乗られたのだ!!なのに何故遭難したんだ!!」

 

((いや知らねー。あのオッサンが勝手に乗りやがって、運悪く遭難しやがっただけだっつーの。ってか遭難予測できる訳ねーだろ))

 

案の定、トンデモ無茶苦茶理論で色々言ってきた。因みにこんな感じの事を、かれこれ1時間は言われてる。一周回って、よく飽きずに同じ事を言い続けられる物だと感心すらしてくる。

 

「特に神谷長官!!中川さんの捜索は、しっかり行われておるのかね!?!?」

 

「そりゃ勿論。こっちだって部下が同様に行方不明なんだ。しっかり探しちゃいますが、ジャミングが酷くて正直捗ってはいませんな」

 

「貴様ぁ!!!!それでも三英傑と呼ばれる英雄の1人か!?!?!?!?例えお前は死んでも代わりがいるが、中川さんは代わりはいないんだ!!!!!!!!!」

 

正直ウザい。というか面倒くさい。正直な話、中川がくたばった所で日本にマイナスはない。というか寧ろ、プラスですらある。因みに神谷が死ぬと最大戦力が居なくなるし、兵士の士気が超ダダ下がりになるし、陸海空の全てを指揮できたり現場も上も知りつくしてる人が消えてしまう訳で、今のような柔軟かつ迅速な対応が出来なくなる。

 

「(なあ健太郎?そろそろコイツらの妄言にも飽きたし、帰らせていい?)」

 

「(え?そんなんできるの?)」

 

「(いやだって俺、一応最近魔法使えるようになったんだぜ?催眠系とか精神操作系とかマインドコントロールの魔法位あるだろ。多分)」

 

「(まあ最悪死んでも揉み消せるし、コイツら消えても影響ないし、やっちまえ!)」

 

返事の代わりに席を立って、色々言いまくってる中川議員のお友達議員三人衆の目の前に手を翳す。いきなり意味不明な行動をした事で、なんか余計に喧しく吠え始めた。しかしそれを捻じ伏せるかの如く、某オーバーなロードの位階魔法に影響されまくってる即興の魔法を低い声で詠唱する。

 

三重最強化(トリプレットマキシマイズ)位階上昇範囲拡大魔法(ブーステッドワイデンマジック)精神、記憶操作・極(マスターマインド&メモリーコントロール)

 

次の瞬間、神谷の手から紫色のもやみたいなのが出て来て、三人衆の顔というか頭部全体を覆った。目の前で起きた現実離れした出来事を理解する前に、三人衆の意識は闇へと落ちる。意識が無くなったと同時に、3人の顔は一様に視線は生気のない虚空を見つめ出し、表情は真顔とも違う「不気味」としか形容できない無表情のまま固まった。

 

「この部屋から立ち去って家へと帰り、アホな理論によるアホみたいな抗議をしに来るな。そして今見た事は全て忘れろ」

 

神谷がそう命じると、酔っ払いの様なフラフラとした足取りで部屋を出て行く。足取りも普通だし、体の色も普通だがまるでゾンビである。

 

「す、すげぇ.......」

 

「いやー。即興で思い付いた適当魔法だが、なんかどうにかなるもんだな」

 

「マジでお前が味方で良かった。ってか、お前やろうと思えば世界征服できるんじゃね?」

 

「出来るだろうな。だが俺は、お前と慎太郎の2人と日本を大きくする事の方が楽しいし、それ以前に世界征服とかおもろそうだけど面倒臭そうだし、絶対にやる事はないな」

 

こうは言っているが、実際の所は最近の日本は何やかんやで世界征服してる様な物である。少なくとも事情を知らない他国、特に攻め込まれた国、例えばロウリアとかパ皇から見れば「謎の新興覇権国家」である。

まあ戦った国は全て滅びて当然の行いをしてたので、言ってしまえば自爆したのと変わらないのだが。

 

「そう言うと思ってた。お前ホント、欲とか野心があるんだか無いんだか分かんねぇよな」

 

「いやいや。欲くらいあるぜ?」

 

「へぇ。どんな?」

 

「日本に仇なす国家や勢力を、最大火力で焼き払うか消し炭にしたい」

 

(あぁ、これアレだわ。近い内に世界滅ぼしちゃうヤツだわ)

 

思ってたより世界征服する魔王と同じ様な思考だった事に、割とガチで世界が滅ぼされそうな予感がしてならなかった。

 

「まあ、いいや。取り敢えず、お前これ持て」

 

そう言うと一色は、引き出しから2つの壺を取り出した。蓋をあけると、中身は白い結晶体だった。

 

「なあ、これってもしかして.......」

 

「塩だ。撒くぞ」

 

「お、おう」

 

そう言うと、外へと連行される。外の車寄せの辺りに行くと、一色は徐に壺に手を突っ込むと塩を撒き始めた。

 

「そぉーい!!二度と来るんじゃねぇ!!!!!!!」ワサッー!!

 

「クズはー外ー。売国奴もー外ー」

 

神谷もそれに倣い、塩を撒く。撒きながらも今後の対応を色々考え始め、アイツらを動かす事に決めた。神谷の作った神谷戦闘団の影、秘密特殊部隊「義経」を。

一方その頃、例の中川は寒空の中、1人でサバイバルしていた。

 

 

「何故だ!!何故この私が!!総理になれる器の私が、こんな地球か冥王星か見分けのつかない場所で1人ぼっちにならねばならんのだ!!!」

 

因みにさっきの電話の時に助けてくれていたお爺さんは中川のプライド(何故か自分に触れていいのは上流階級でないといけない、というアホみたいなプライドがある)が原因で、自らの手で追っ払ってしまった。食料もある訳がなく、水は雪を食うことでどうにかやり過ごしているし、幸いライターは持っていたし洞窟も見つけたので、ここをキャンプとして使っている。

しかしこの洞窟は、この地で何故か暗躍中のアニュンリール皇国という国家の魔帝復活対策庁復活支援課支援係という、要は「傍迷惑帝国の復活をお手伝いする部署」の秘密基地があるのである。しかも中川の陣取っている場所はメインで使う出入り口であり、既に中の職員に気付かれている。

 

「捕まえろ」

 

「ハッ!」

 

1人の男が部下にそう命じた。男の名前はダクシルド。無能である。いきなり無能呼びは酷いと思うかもしれないが、本当に無能だから仕方ない。無能男ダクシルドくんは、いつぞやの魔王ノスグーラを復活させた張本人である。最初はノスグーラを制御しようとするがノスグーラの魔力が大きすぎて制御できず、なんならノスグーラから色々とボロクソに言われる始末であった。

しかもノスグーラが倒される瞬間も見ていたが、欠陥兵器だとか言って負け惜しみを並べまくった挙句、魔王は制御できない上に何の収穫も無く予算が無駄になっただけの無意味な事しかやっていない。これを無能と言わずして、何といえば良いだろうか?

まあ無能なのは一先ず置いておいて、中川は麻酔針を撃たれて夢の国へと旅立つ。そしてそのまま奥へと引き摺られていき、とある目的に利用される事となった。

 

 

 

翌朝 エスペラント王国 カルズ地区

「うっ.......。ここは、一体.......」

 

「おっ!目覚ましたな」

 

「彰か。ここは何処だ?」

 

「どうやら俺達は、グラメウス大陸内にあるエスペラント王国とかいう国の住民に助けられたらしい。まあ色々話を聞いたが、纏めるとこうだ。

一万数千年前、太陽神の使いと魔王ノスグーラの戦いが終わった後の事。魔王討伐軍が組織され勇者たちと共にグラメウス大陸に派遣された。 しかし討伐軍は撤退中に遭難し、やむなく天然の要害に立てこもって捜索隊を待つことを強いられた。そのまま何年も捜索隊が現れなかったため、討伐軍は次第に「他の人類は魔王に滅ぼされたのではないか」「自分たちが人類最後の生き残りなのではないか」と考えるようになった。でもって討伐軍隊長エスペラントって奴が定住を決意し、魔物と戦いつつ少しずつ町を発展させていったんだと。こりゃ帰ったら、お役所と三英傑が頭抱えるな」

 

まだ目覚めて間もないのもあって岡は、今の内容の半分も理解していないが頷いた。それよりも聞きたい事があったからだ。

 

「他のみんなは?」

 

「全員無事だ。怪我もせいぜい、骨にヒビが入ったとかそんな物だ。戦闘にも支障はない。因みに本国との連絡は、未だ取れてないがな」

 

「そうか。良かった.......」

 

「っと、寝ないでくれよ。今から先生呼ぶから、検査だけ受けてくれや」

 

そう言うと彰は一度部屋を出て、この家の主人である医者のバルサスを連れてきた。色々検査とか何やらをしてくれて、無事に「異常なし」のお墨付きを貰うことができた。まあ今日1日は安静にしてろと言われたが。

しかしどうやら、まだ寝かせてはくれないらしい。この辺りを守護する騎士が、事情聴取の為に面会を申し込んできたらしい。断る理由もないので受ける事になり、すぐに腰にサーベルをもった男が2名部屋に入って来た。

 

「我が名はジャスティード、このカルス地区を守護する騎士だ。医師バルサスから説明を受けた。

君に質問をしたいが、いいか?」

 

「いいでしょう」

 

「まずは所属と名前を」

 

「大日本皇国陸軍第7師団所属、第75歩兵中隊中隊長。岡真司大尉です」

 

「そうか。それで貴殿はこのエスペラント王国の外から来たと聞いたのだが、それは真か?」

 

「はい、間違いありません」

 

ジャスティードの部下である、後ろの騎士2人が互いに「信じられない」と言う顔をしながら顔を見合わせる。

 

「では、何のために来たのだ?」

 

「目的なんてありません。事故で飛行計器が狂い、何かしら原因、恐らくバードストライクか何かでエンジンが故障。そのままどうにか不時着し、運良くここの親切な住人に中隊一同世話になった。それだけです」

 

ジャスティードは意味不明の単語の羅列が理解できず、眉間にシワがよる。まあこの時代の文明レベルの人間がバードストライクだの、エンジンだのが分かったら逆に怖い。

 

「では、エスペラント王国に用があって来た訳ではないのだな?」

 

「はい。簡単な言い方をすれば、事故による遭難です」

 

「ほう。では、お前の乗っていた飛行機械はどうやって作るのだ?」

 

「私の専門は陸戦の現場指揮官であって、パイロット教育課程は受けていません。というか、そもそもアレは皇国陸軍の所有物では無く、皇国空軍の輸送機です。私では無く、パイロットの方に聞いた方がまだ分かりますよ。まあパイロットも整備士や技術者じゃないので、全部は分からないでしょうけど」

 

「そうか。あれが我が国で作れれば空から矢を射る事も出来、有用な兵器となると思ったのだがな」

 

因みにある意味この発想は中々に先進的である。というのも輸送機に武装を装備させて地上攻撃する考えは、知っての通りアメリカで実用かされている。AC130やMH60DAPがそれに当たる。

 

「ところで」

 

ジャスティードは剣を抜き、目にも止まらぬ速さで岡の喉元に突き付ける。体を負傷している岡は反応のしようがなく、固まっていた、

 

「おまえ、本当は魔物ではないのか?最近の王国への侵攻の真の目的はなんだ?答えろ!!!」

 

「き、騎士殿!やめて下され!!」

 

「ジャスティード様、お止め下さい!!」

 

バルサスとその娘であるサフィーネも彼を止める。しかし岡は動じず、堂々と言い放った。

 

「何をしでかすと思えば、剣を抜いてどうする気ですか?私と殺り合おうって言うのなら、相手になりますよ?俺達第7師団は、設立以来どんな苦難でも乗り越えてきた。そんな猛者の中隊長を相手にするんだ。テメェ、死ぬ覚悟はあるんだろうな?」

 

岡、というより全ての大日本皇国軍人は武器を向けられた程度では屈しない。それどころか、その武器を奪って相手に突き付ける位のことをするようなバーサーカー集団である。そんな化け物の集まりの中でも、師団の中では一、ニを争う強さを誇る第7師団相手ではジャスティードとてタダでは済まない。

こんな事を知る由もないが、これ以上脅すのはヤバいと気付いてしまい剣を収めた。しかし彼は負け惜しみかの様に、こんな事を言い出した。

 

「王国は人類最後の砦、他に国があるなどと、今さら信じられるか!!!神話においても大規模な援軍を約束し、それでも援軍は来なかったとある。こいつは魔物の送った刺客である可能性が高い!!」

 

 

「しかし、この者の言っていた空飛ぶ乗り物は、本当にありましたぞ!?」

 

「では聞こう!!」

 

ジャスティードは岡に向くと、質問してきた。しかし答えられそうもない。その質問は、この世界に於ける神話の話。転移してきた日本人は誰も答えられない。

 

「お前は、グラメウス大陸の外から来たと言った。ならば神話に残っているはずだ!!何故お前たちは我が先祖が苦戦している時に、援軍を約束したにも関わらず、送らなかったのだ!!!」

 

岡は意味不明な質問に、困惑しながらも何とか答える。

 

「魔王軍に関する神話は世界各地にあり、トーパ王国には特に詳しく残っていると聞いています。しかし私は日本国の者ですので、「この世界」の神話は詳しくありません」

 

「人間でおきながら、神話を知らぬ訳がない!!詭弁だ!!!」

 

「落ち着いて質問をしてください!!!落ち着いて……けが人なのですよ。」

 

サフィーネが大声を出し、騎士のトーンが下がる。因みにジャスティードは、サフィーネが好きなのである。サフィーネの方は.......察して欲しい。

 

「私も質問をよろしいでしょうか?」

 

「何だ?」

 

「先ほど貴方は、最近の魔物の侵攻とおっしゃった。今、この国は魔物からの組織的な攻撃を受けているのでしょうか?」

 

「そうだ!お前が魔物ならば知っているだろうが、すでに2つの街区が魔物の侵入に会い、2万人以上が犠牲になっている。」

 

「2万人!?その街は取り戻せたのでしょうか?」

 

「まだだ」

 

「岡殿、この国は城壁の国といっても差し支えない。城壁を拡大する事によって、人類の居住範囲を広げてきたのだよ。

 よって、街が1つ落ちると、その街への侵入口は限られるため、取り戻すのに大変な困難を伴うのだよ。」

 

岡にバルサスが説明していると、急にジャスティードは立ち上がる。

 

「もう良い!!この事は一応上には報告する。こやつが魔物だとしても、騎士団の監視下に置けば問題ないだろう」

 

彼は岡の耳元に口を近づけ、静かに話す。

 

「『お前が人間だった場合の警告だ。サフィーネに手を出すなよ。あれは俺が将来妻にする女だ)」

 

「はい?」

 

予想の遥か斜め上をいく発言に、流石の岡も戸惑った。岡の中では「俺はいつでもお前を見ている。不穏な動きがあれば、容赦なく殺す」的な事が来るのかと思いきや、サフィーネに手を出すなとは予想外であった。

 

 

 



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第三十六話第75中隊暴走中

不時着より一週間後 カルズ地区

「えいよ!えいよ!えいよ!」

「オラオラオラオラオラ!!オラァ!!!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄!!無駄ァ!!!!」

「ホワタタタタタタ!!!ホワタァ!!!!」

 

C2が不時着して早一週間。既に全員が完全復活しており、村の手伝いを部隊総出でやっている。毎食出てくる食事の質からして、この村に余り余裕はない。しかしこの国で使える金品なんざ持っていないので、ならば「代金の代わりに労働でその恩義に報いよう」という考えの元、汗水垂らして働いている。

働きぶりはと言うと、前にも書いたのたが、大日本皇国の軍人は体育会系のノリと日本人特有の祭好きの遺伝子がフュージョンする事がある。これが存分に発揮され、元々畑と倉庫と住居程度しかなかったのに、新しい畑(元々あったヤツの3倍の面積)、住居2棟、倉庫3棟、壁&門、櫓4つが超スピードで建てられた。もうリフォームの匠もビックリである。

 

「我ながら、一週間未満で良くここまで発展させたな」

 

「ゲームでしか無理だと思ってたわ」

 

岡と澤部の2人は村人が持って来てくれた差し入れの果実水を飲みながら、運び込まれた時とは大違いの風景を見ていた。因みにここまでの改造に、一週間使っていない。大体5日程度でここまで持っていている。

こんな現実離れした事ができた要因は、やはり隊員達の持つグラップリングフックだろう。このグラップリングフックは立体機動装置みたく飛び回る装備だが、ワイヤーの巻き取り機能とかを利用すれば木を伐採して、それを運んだりする事ができる。他にも元工兵部隊に居た奴とか、実家が代々大工の家系(なんでもご先祖を辿ると四天王寺、大阪城、江戸城、国会議事堂なんかを建てた大工がゴロゴロいるらしい)の奴が音頭を取ったのも大きかった。

 

「それじゃ俺達も用意しちゃいますかね」

 

「そうだな」

 

2人は広場へと歩き出す。今日は例のC2不時着の現場に、不時着以来始めて立ち入る。今回はエスペラント王国の応急科学庁の学者も同席するらしくて、現地で合流する事になっている。

 

「中隊長殿!第五、第七分隊、出発準備完了致しました!!」

 

副官が先頭に立ち敬礼すると、後ろに控える兵士達も敬礼する。流石に中隊全員で押し掛ける訳にも行かないので、物資の輸送役兼護衛に二個分隊と機長、それから装甲車のドライバーを連れて行くこととなった。

 

「諸君、本日はいよいよC2の不時着現場に赴く。何も無いとは思うが、一応この国は戦争中ではある。最悪の場合は武器を使用する事態になっても、おかしくは無いだろう。脳の片隅にでも、一応入れておいて欲しい。以上」

 

兵士達は了解の代わりにまた敬礼し、それに返礼する。そのまま馬車に分乗し、不時着現場へと走り出す。

現場に近づくと、兵が数名と文官らしき人物が数名立っていた。岡達とついて来たバルサス、その娘サフィーネは馬車を降りる。

 

「こちらに来てくれ!!」

 

聞き覚えのある声、はっきりとした若い男の声が聞こえる。声の主は鎧を纏った騎士、ジャスティードであった。

 

「アイツ、いたのか。居なくていいのに」

 

やはり寝起き早々、真剣の剣先を首元に突き付けられたのだ。嫌いになって当然である。

 

「こっちだ!王宮科学庁の学者様が、貴様らに聞きたい事があるとの事だ!!それにしても兵の度胸はあっても、文化レベルは我々よりも低いようだな。

それにこの、謎のマーク。カッコ悪いというか、ダサい」

 

ジャスティードがそう吐き捨てた瞬間、岡と周りの日本兵達の顔が一気に怒りに染まった。

 

「テメェ、ふざけてんのか。あ"?どのマークがカッコ悪くてダサいって?あ"!?」

 

「うぇ、ちょ」

 

岡がキレるのも無理はない。ジャスティードが馬鹿にしたマークとは腕についた日本の国旗である日の丸と、銃に描かれた菊花紋であった。知っての通り日の丸は日本を、菊花紋は天皇家を表す紋章。それをよりにもよって、皇国軍の兵士の目の前で馬鹿にする。キレて当然である。

 

「いいか!お前が今バカにした紋章はな、それぞれ我らが祖国たる大日本皇国の国旗である日の丸と、皇国の主にして唯一の皇帝一族の紋章である菊花紋だ!!!!これを馬鹿にするとは、テメェは俺らに喧嘩売ってるんだな?そうだろ!?!?」

 

掴み掛かる岡の気迫と、その背後の兵士達から浴びせられる殺意にジャスティードは涙目になっていた。

 

「わ、悪かった!訂正してやるから!!」

 

「訂正してやるだと?訂正させてくださいお願いします、だろうがクズ野郎!!!!」

 

そのまま力一杯地面に叩きつけた。どうやら下が岩場か何かだったみたいで、鎧に当たったのか「ガキン!」という鈍い音が鳴った。そのままジャスティードを放置し、その学者の元へと向かう。

 

 

「おおー!!よく来てくれた!!君のその格好も、実にエキサイティングだ!!文化の違いを感じるよ。私は王宮科学庁のセイという学者だ。よろしくな!!」

 

細身で少し変人かかった彼は、岡に握手を求めながら話し掛けてくる。

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

「ところで、これは君の国が作り出したのかね?」

 

学者は不時着したC2を指さして、岡に尋ねる。

 

「え、ええ。国産機ですよ」

 

「ふぅ。すごいね!!何がどうなっているのか、全くもって理解が出来ないよ。そして空を飛んでいたほどの出力を発揮していたにも関わらず、残留魔力が全く検出されない。全くもって意味不明の物だよ」

 

「いえ、それは魔力ではなくてでs」

 

岡が話そうとした時、突如として何かが爆発したような重低音が轟いた。皆が音の方向に振り返る。

振り向いた先、約2km先の城門付近に煙が立ち上っており、外から何かが侵入してきているのが確認できる。

 

「ま、魔物だ!!!」

 

誰かが叫び付近は騒然となった。城門付近にある兵舎からはすでに多くの兵が出て来ており、侵入してきた魔物に対応し戦闘が始まる。剣とこん棒がぶつかり合う音に時折聞こえる魔物の断末魔が、付近の者たちをさらに緊張させた。

一方でジャスティードの部下が近づいて来て、雪の上に座っていたジャスティードに報告する。

 

「ジャスティード正騎士!門見張り員より連絡あり!!城街侵攻の敵兵、ゴブリン500、オーク30、オークキング5、漆黒の騎士4を確認との事です!!」

 

「ダ、ダニィ!?!?お、オークキング5に、漆黒の騎士4だとぉ!?!?!?!?」

 

ゴブリン、これは何とかなる。オーク、これも兵が組織的な動きをすれば、何とかなるだろう。

しかしオークキングはオークよりも2周りも大きく知能もある。その為、全身を鉄、者によっては別の金属、例えばミスリルの鎧で覆い弓矢や剣を弾く。さらに人間を遥かに超越する圧倒的な筋肉から繰り出される大斧の一撃を食らえば、人間の剣技など児戯に等しい。というか剣技云々以前に、下手に間合いに入ろう物なら馬に騎乗した騎士でも愛馬ごと吹っ飛ばされる。

現に過去にあったオークキングが混じった侵攻では、奴らを打ち取るために相当の犠牲を要し、スタミナ切れを誘う事くらいしか対抗する方法は無いとされる。

だが一番の問題は漆黒の騎士である。オークキングほどの筋力を持ち、体すべてを漆黒の鎧で覆い、人間では扱えぬほどの大剣を振り回す。しかもその剣技は達人の域を超える。数々の戦場に姿を現し多大な犠牲を出していたが、未だ討ち取った者はいない。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

「急げ急げ急げ!!!!」

「隊列組めぇ!!!!」

 

兵舎から出て来た兵たちが、前衛のゴブリンを蹴散らし、漆黒の騎士へ向かって突進する。魔物の特性か、一番強い者が討ち取られると他のザコは四散する性質がある。この特性を利用するべく、彼らは一直線に漆黒の騎士へ向かっていった。

 

「なんだ?祭りか何かか?」

 

「あー、真司さん?祭りってよりか、血の雨地獄じゃね?」

 

澤部が指差す方向を見ると、音の正体は戦闘時に発生する音だった。それを見た瞬間、岡は一瞬で勘づいた。この戦闘が、こっちにまで飛び火する事に。一応騎士や兵士が戦っているし、多分ゴブリンとオークと思われるモンスターは討ち取っている。

だが鎧を着た大きな魔物、恐らく強化種とか進化個体、ゲームならにオークロード」とか「ゴブリンチャンピオン」とか言われてそうなヤツには、文字通り刃が立たないように見えた。

 

(正当防衛として、他国の紛争に介入しても良いのか?いやいや。アレは、モンスター。あくまでモンスターは国家が運用しているのではなく、言うなれば獣。狼やライオンの群れと同義。

それに確か最近交戦規定が改定された筈!!)

 

岡はすぐにポケットから軍用のスマホ、戦闘用携帯情報端末を取り出して交戦規定のファイルをタップする。そこには、この様に書かれていた。

 

 

第五項

・異世界に於いて敵対的な生物と遭遇した場合、その生物が武装、或いは攻撃意思があった場合は一部例外を除き「敵対性有害生物」と認定する。

 

第六項

・敵対性有害生物との接触の際は、如何なる武力の行使も許可される。

 

 

(やはり!この場合、奴らは敵対性有害生物だ。ならば攻撃できるな!!)

 

「総員、戦闘準備!!!!」

 

交戦規定を確認してからの岡の指示は早かった。そしていつも通り、兵士達もすぐに武器を確認する。

 

「HUD起動。ウェポンリンクチェック」

「残弾数、身体ダメージ、装備ダメージ表示システム、同期完了」

「各種戦闘支援システム、異常なし」

「現在長距離部隊間通信システム、構築できず。しかし短距離部隊間、兵士間通信システム、構築成功。感度も良好」

 

「戦闘準備、良し!!中隊長、ご指示を!」

 

「今は待機で良い。一応、ここはあの騎士共に華を持たせよう」

 

そう命令した瞬間、ジャスティードの部下が悲鳴のような声で叫んだ。

 

「し、漆黒の騎士が向かってくるぞ!!!」

 

あの誰も討ち取った事のない騎士、死と恐怖の象徴がこちらに向かってくる。誰の心にもどうしようもない気持ちがこみ上げるが、王宮科学庁の学者等を守護する最後の砦だ。

 

「うろたえるな!!向かってくる敵はたったの1騎ぞ!!突刺隊列を整えよ!!マイル、ケイロ、コウネルは、弓を射よ!!!」

 

恐怖の中、隊長であるジャスティードは隊長としてのプライドで恐怖に耐えて、的確な指示を出す。敵漆黒の騎士は、馬とは思えないほどの速度で彼らに迫る。

 

「来るぞ!!弓構えろ!!」

 

マイル、ケイロ、コウネルの3人が漆黒の騎士に狙いをつけて、弓を引き絞る。

 

「射てーーっ!!!」

 

限界いっぱいまで引き、放たれた弓矢は真っ直ぐに敵に向かって飛翔する。しかし騎士は大剣の一振りでそれらを叩き落す。

 

「そんなっ!!」

 

兵の顔が恐怖に引きつる。兵は一斉に槍を突き出すも、敵の人間では達する事の出来ない圧倒的な筋力から繰り出される大剣の一撃をその身に浴びバラバラとなって宙を舞う。

ジャスティードと漆黒の騎士の一撃により飛んで来た兵の破片が、顔に当たり吹き飛ばされた。

 

「ぬぉっ!!!」

 

無様に地面を転がり、白銀色に磨き上げた自慢の鎧、そしてマントが土にまみれる。敵は彼をその辺の石ころのように無視し、巨大な馬を駆使し王宮科学庁の学者へ1直線に向かう。

 

「ま、まずい!!」

 

ジャスティードが叫ぶ。それと同時に、事態を察した戦闘能力を持たない者達も叫んだ。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

「もうだめだぁぁぁ!!」

 

「キャァァァァ!!!」

 

周囲に悲鳴が木霊する。だがまだ絶望していない男達がいた。彼らは非戦闘員の前に出て、漆黒の騎士の行く手を阻む様に三列横隊で展開する。一番前は伏せて、2列目は立ち膝、3列目は立って其々の武器を構える。

ジャスティードは空から落ちて来たとされる、白黒のまだら模様の服を着た蛮族が黒い杖を敵に向けるのを確認する。

 

「剣で防げぬのだ。鉄製かもしれないが、今更杖を敵に向けてどうする?やはり、蛮族は蛮族か」

 

しかし考えてみれば奴にとっては今、手に鉄を持っているならば恐怖を克服するために手持ちの武器で戦おうとするだろう。仕方のない事、哀れな蛮族の最後。

 

「撃て」

 

様々な大きさと音の破裂音が一斉に重なった。腹に響く「ズドォン」と言う音だったり、乾いた「パン」という音だったり色々である。しかし音が鳴ったと同時に、鉄の杖の先が光って次いで小さな煙が立ち上る。

更に少しすると、ドサッという音がした。音のする方向を見れば、漆黒の騎士が倒れている。

 

「対象沈黙。クリア」

 

「流石に死んだ、よな?」

 

「いやいや。アレで動いたらゾンビだろ」

 

数人の兵士が確認に行くと、漆黒の騎士と呼ばれていた騎士は身体中に穴が空いて半分原型を留めていない。青い血と赤い臓物やら何やらを周囲に撒き散らし、ピクリとも動かない。

 

「うわぁ、グロー」

 

「ってか青い血って、何処のガミラス人だ」

 

最大だと32式戦闘銃に使用された13mm弾を食らったのだ。ちょっとグロくても仕方ない。そして漆黒の騎士と、ガミラス人を一緒にするな。デスラー砲に撃たれるぞ。

 

『中隊長。しっかり冥土に逝きました』

 

「了解」

 

後ろではどうにか生き延びた王国兵とジャスティードの部下が、勝ち鬨の叫びを上げている。そんな中ジャスティードは、岡へと近付いてくる。

 

「おい。今のは、何だ?どんな魔法を使いやがった?」

 

「テメェの様な挨拶代わりに剣を突き付け、更には国家の象徴たる国旗と、その国家の王族の紋章を馬鹿にする様な蛮族以下の雄猿に答える義理は無い」

 

ジャスティードが顔を真っ赤にして何か言おうと瞬間、背後に控えるの兵士達が一斉にワザと銃をガチャガチャ触り出した。勿論銃口を向けたりとか、トリガーに指を掛けたりする様な発砲動作はしない。

だが銃の構造を知らないジャスティードには、自分が攻撃されると勘違いして腰を抜かしてへたり込んだ。こうして細やかな復讐(ジャスティードは普通に死を覚悟したが)が終わったと同時に、学者のセイが完全にテンションが壊れているテンションで話しかけて来た。

 

「いやいやいやいや!!凄いね!君達!!!!君達が倒した魔物は1匹だ。しかしこの1匹は非常に困難を伴う1匹、君は王国の未来の希望となるかもしれない。王に会ってくれ!いやでも、流石に多いか。うーん、じゃあ君と君!」

 

セイが指名したのは岡と横にいた澤部だった。

 

「え!?いやしかし、我々は大日本皇国の一介の軍人に過ぎません。それが王に会うのは、流石にどうかと思うのですが」

 

「いや良いんだよ。とにかく王国の頭脳と言われるこの私は、君がいなかったら死んでいた。王がそれに対し、礼を言うのは当たりまえの事だ」

 

「いや、しかしこの服しか今私は持っていないんでs」

「良いんだよ!その服で!!文化の違いをエキサイティングに感じる事が出来るではないか!!心配するな。王宮ではその格好を嫌がる貴族もいるだろうが、私がずっと君のそばについて案内するから大丈夫だ」

 

「真司。多分この学者先生アレだぞ。一度決めたら正しい正しくない関係なく、地獄の底だろうが地平線の果てだろうが地雷原だろうが突き進んでいく、逃げると厄介になる奴だぞ」

 

セイの捲し立てるような勢いと、澤部の言に根負けした岡は「もう、好きにしてくれ」と呟いた。そんな訳で急遽エスペラント王国の中心部、王宮へ向かう事となった。その間に他の兵士は輸送機に残った物資と、乗せていた装甲車を運び出している。

数時間の後、岡&澤部、セイ、バルサス、サフィーネ、ジャスティードの身は王都に着いた。街はカルズ地区とは異なり建物や行きかう人々には優雅さがあり、さすが国の中心部である王都とも呼べる地区であると岡と澤部は感心する。

 

 

「さあ、降りてくれ!!」

 

王宮に到着すると、セイが満面の笑みで岡に降車するように即す。岡が降りようとした時、馬車の外の異様な視線に気づく。

 

「まあ!あれが、漆黒の騎士を倒したと言われる異国の兵か」

「緑系統のまだら模様とは、なんという野蛮な格好!!優雅さの欠片も無い!!どんな野蛮な魔法を使って漆黒の騎士を倒したというのだ!?」

「漆黒の騎士は他の兵によって、すでに傷ついていたのではないのか?」

 

(だから王宮にはこの格好では行きたくないと言ったんだ)

 

(予想してたが、やっぱりこうなるか。あー、今すぐ帰りたい。ゲームしたい)

 

岡と澤部は内心ウンザリしているが、帰るわけにもいかないのでセイの後ろに着いていく。

一方で王であるエスペラントは、謁見の間で王国の頭脳、学者セイを救った異国の兵を待っていた。

 

「モルテス、どんな騎士が来ると思う?」

 

エスペラントは玉座の傍らに立つ騎士モルテスに話かける。威厳のある歴戦の老騎士モルテスは、少し難しい顔をしながら答えた。

 

「そうですな。報告から異国の兵の武器を推察するに、最近王国で開発された銃に近いものがあるのではないかと思います。銃士ザビル殿の方が、詳しいかと思います。」

 

「陛下、話に聞いた異国の兵は黒い杖を敵に向け、連続して発射された神速の光弾で敵を貫き倒したと伺いました。確かに「神速の弾」という意味では、銃に近いものがあるのかもしれません。しかし連続して発射というところと、光を放つ弾という所が良く解りません。

銃は威力の高い兵器ではありますが、連続で撃つ事はもちろん30秒に1回放つ事ですら難しいでしょう。また、弾は光りません。似て非なるものと私は認識しています。どんな兵が来るのかは解りませんな」

 

このザビルという男、最近開発された銃に精通し、その命中精度は王国一を誇る兵士である。尚、銃がフリントロック式マスケット銃なのはお約束。

 

「間もなく学者セイ様と、異国の兵が参りま」

「陛下!!帰ってきました!!彼を通してよろしいでしょ?」

 

いきなり謁見の間に突撃して相変わらずの口調で語るセイに、王は笑いならがら「よく戻った」と声をかけた。セイの言葉使い&態度については全員諦めている。

 

「失礼いたします!!!」

 

白黒のまだら模様を着た汚らしい兵が、部屋に入って来る。王都の謁見という格式高い場で、その汚らしい姿に居合わせた各々は顔を曇らす。

 

「な、なんと!!」

 

(デスヨネー)

(あー、何でC2に儀礼用の制服積んでないんだろ)

 

皆、その優雅さの欠片も無い服を見て唖然とする。しかし、王は礼をもって話しかける。

 

「その方ら、名前は?」

 

「大日本皇国陸軍第7師団、第75歩兵中隊、中隊長、岡真司大尉であります!」

 

「大日本皇国空軍、攻撃誘導員、澤部彰です!」

 

2人は敬礼をして王に向く。そのキビキビとした動きに、彼らは少し感心する。

 

「そうか。私はこのエスペラント王国の国王、エスペラントだ。このたびは魔族の攻撃から我が王国の頭脳であるセイを助けてもらった事を感謝する。それで、その肩に背負っているのが漆黒の騎士を倒した兵器か?」

 

「はい。43式小銃と言います」

 

「こっちは32式戦闘銃です」

 

岡が43式を、澤部が32式を軽く叩きながら説明する。一方でセイも銃の説明を始める。

 

「陛下、これは銃ですよ。我々よりも高度な技術を使った銃です。それも、凄まじい力を発揮します」

 

王は、この銃と2人の異国の兵の力が見たくなった。

 

「岡よ、お前の力が見たい。」

 

「といいますと?」

 

王は自分の横に立つ緑色の服を着た者、銃士ザビルを指さす。

 

「こやつは銃士ザビルという。我が国で開発された銃に精通しており、この国一番の使い手と言っても差し支えない。

この者と遠当て。遠くの的に当てる競技があるのだが、それで競ってみてほしい」

 

「では何故、我々の力を見たいのですか?」

 

「実はな、我が国の北側にバグラという休火山がある。その火口付近に考えられない事ではあるが、魔物が街を作っている事が解ったのだよ。奴らはその数を増やし続け、明確な戦闘準備をしている。今回は過去の侵攻とは比較にならないほどの規模であり、戦力比を冷静に分析した結果、今回敵が本格的に侵攻を開始した場合、良く見積もって王国の8%は奪われ民は殺されるだろう。通常の見積もりであれば、王国は滅亡する。すべての壁は突破されるだろう」

 

「え!????」

 

岡と共に同席していた医師バルサス、そしてサフィーネが王の前であるにも関わらず驚きの声を発す。

 

「しかし滅亡を回避するための光が、王国にとっての光が空から舞い降りて来たのだよ。岡殿に澤部殿。君はあの、とても手に負えない漆黒の騎士を倒したと聞いた。君が強力な魔物だけでも狙って倒してくれるなら我が国の被害は国民の半数、15万人で済むだろう。」

 

2人の顔色が一気に、戦闘時の物へと変わった。

 

「魔物と呼ばれる生物の侵攻経路の想定はありますか?」

 

「地形と状況、そして防御力から考えて、間違いなくカルズ地区が最初の標的となるだろう。

この地区については岡殿と澤部殿が強力な魔物を倒す事に協力が出来る出来ないに関わらず、戦力比から考慮して落ちる。この地区の国民は、残念ながら全滅するだろう」

 

サフィーネが居ても立っても居られなくなり、無礼であると解っていても王に意見する。

 

「へ、陛下!ではすぐにカルズ地区の住民を中心部へ避難させてください!!!」

 

「カルズ地区の娘か。すまない、心苦しいがそれは出来ぬのだ」

 

「何故ですか!?」

 

「食料だ。カルズ地区は農業地域、王国の食料生産地の1つ。しかしここは戦力比からして必ず落ちる。仮に同地区の住民を他の地区で保護した場合、戦える日数が激減する。

長期戦になった場合の被害はカルズ地区を国民ごと放棄した場合に比べ、2万人も増加する。つまり戦いが始まれば、非情なようだが門は閉められ再び開く事はないだろう。これはカルズ地区に限らず、最初の侵攻でおそらく3つの地域を放棄する必要が出て来るだろう。」

 

「そ、そんな!!!」

 

サフィーネが崩れ落ちる。だがしかし、ここで澤部が口を開いた。

 

「あのー、何か勘違いされてませんか?もしかして、我々の戦力ってこれだけと思ってます?」

 

「違うのか?」

 

「いやあの我が中隊は全員無事ですので、普通に撃退できるかと。それに我が第7師団は、設立当初より様々な困難な作戦に投入されてまして、陸軍の中でもトップクラスの実践経験があります。

それに運が良ければ、この銃以上の戦闘兵器が使えるかもしれません」

 

この言葉に全員が息を呑んだ。岡と澤部の話は、とても魅力的である。うまくいけば、完膚なきまでに叩き潰せるかもしれない。

 

「なんだいなんだい?まだ凄い兵器があるのかね!?」

 

「え、えぇ。元々我々の部隊は実戦に近い訓練をする為に空を飛んでおり、訓練メニューの中には実弾を大量に使った訓練も予定されていました。ですので銃の弾薬は勿論、装甲車と呼ばれる装甲を張り巡らせた機械式の馬車の様な物も運んでいたのです。

まだ使用可能かどうかは分かりませんが、もし使用可能なら恐らく殲滅も可能になるでしょう」

 

セイがまた興奮したように捲し立て、それをウザいと思いつつも説明を入れる。この話を聞いた王は、決断を下した。

 

「わかった。では、岡殿に澤部殿。魔物討伐に力を貸して頂きたい」

 

「了解しました。では敵の状況、数、特徴、特性、侵攻予想ルート、何故そこを予想するに至ったのか等情報をすべて私にもいただきたい。また、現在王国の管理している我が国の墜落した飛行機に積んである装備品の全て、返却して頂きたい」

 

「良かろう」

 

「そして、この国には銃士と呼ばれる方々がいるのという事を聞きました。この銃の取り扱いに慣れた者を最低10名、私に貸してほしい。彼らを臨時で編入し、こちらの武器を貸与。現場の兵士との緩衝材となって欲しい」

 

この言葉を受け、銃士ザビルの目が見開かれる。エスぺラント王国において大音量と共に煙を発し、敵を倒す圧巻な兵器は貴族のみが使いうる特別なもの。そんな選ばれし兵種でありながら異国の兵になど入りたく無い、と思い銃士ザビルの血が湧く。

 

「異国の兵殿。我が国の銃士を「使う」つもりであれば、国王陛下が仮に許可したとしても力を見せていただかないと。失礼だが皆が言うように、君はすごいようには見えない」

 

「いいでしょう。で、勝負の内容は?」

 

ザビルは岡を見て不適に笑う。所謂「勝者の笑み」というヤツである。

 

「勝負は銃の遠当てだ。1分間に何発撃っても良いが、指定した皿を割ると点数になる。この皿は徐々に遠ざかっていき、遠くの皿ほど高得点となる。

君は君の国の武器を使うがよい。私はもちろん、我が国の匠が生み出した最高傑作の銃を使わせてもらうよ」

 

そしてザビルは王の方に向き直ると、不動の姿勢で言葉を発した。

 

「陛下!岡殿と澤部殿、そしてその仲間が助けて下さる事は非常に喜ばしい事ですが、彼の実力が陛下の思われている想定以下であれば、彼らには魔族と単独、もしくは銃士以外の兵の貸し出しという形で対応したいと思います。よろしいでしょうか?」

 

「うむ、了解した」

 

その他話したい事は多々あったが、王の前で岡が力を見せた後に最後に謁見が開かれる事とし、その日の謁見は終了した。

 

 

 

2日後 王立新兵器実験場

「ねえ、あんな事引き受けて、本当に大丈夫なの?」

 

本日開かれる的当て大会、射撃場で銃士ザビルとの的当て対戦にサフィーネは不安を感じ岡に話しかける。最近は慣れて来たようで年齢が近い事もあり、岡もサフィーネも互いに敬語を使わなくなって来ていた。因みに岡は最初、澤部に任せようとしていたが「空軍に射撃を任せるな。お前は一応、元中央即応師団のスナイパーだろうが」と言われて渋々受けた。

 

「大丈夫」

 

銃士ザビルの銃はマスケット銃である。実力以前に、銃の性能差で勝つだろう。

だがそれを知らないサフィーネは、普通に心配していた。何せザビルは天才と称され、銃も銃士の中では一番の業物を持っている。勝てるとは思えないが、岡が勝つとカルズ地区の被害が少しでも減ると考えていたため神に祈る。

 

「お願い!勝って!!!」

 

「ああ!!」

 

『間もなく御前試合が始まります。精鋭の戦士2名を紹介いたします。』

 

アナウンスが聞こえ、準備の整った岡は試合会場に向け歩き始めた。

約1万人は収容できようかという客席は満員となり、各種貴族の眺める中、王が登場する。

王は住民たちの息抜き、そして強力な成果を出した場合、異国の兵に対して協力する正当性を示す意味も込め同実験場を一般に開放していた。

 

『お集まりの皆様、選手を紹介いたします。

我が国の誇る最高の銃と呼ばれる新兵器、その最強の使い手、神の才を持つと言われた男!!銃士ザビル!!!』

 

「キャー!!ザビル様-!!!」

「ザビル様ステキー!!!!」

「結婚してー!!!!」

 

イケメンであるザビルに対し、貴族の娘&マダムの黄色い声が多数こだました。

ザビルは中央部まで進み、王に一礼する。歓声が最高潮に達した時、アナウンスが流れる。

 

『次に登場の者は異国の兵!その類稀なる力で、あの「漆黒の騎士」を単騎で倒した男!大日本皇国の誇りし兵、岡真司!!』

 

会場に歓声が沸き起こる。しかし姿を現した男の見た目によって、声は沈静化していく。

 

「な、何?あれが異国の兵!?」

「なんという汚らしい格好.......」

「本当に漆黒の騎士を倒したのか?」

「これは、ザビル様の圧勝ね!」

 

特に何の根拠もなく、観客たちは予想を開始するのだった。だが次の瞬間、観客達は思いも寄らない言葉を聞くことになる。

 

「中隊長ー!!!本気でやらないでくださいよー!!!!!」

「中隊長が本気になったら、勝てる奴いませんからねー!!!!」

「岡ー!良い感じに流して行けー!!!」

 

第75中隊の兵士達が、口々に「本気を出すな」と言ったのである。流石の貴族達も、ポカーンとしていた。

 

「やあ。君とこの時を迎える事が出来て、うれしいよ」

 

「私も、他国との競技会が出来る事は光栄です。」

 

「私はね、ライバルという者がいなくなってしまった。強すぎるというのも孤独なものさ」

 

「そうですか。羨ましい、私はライバルだらけです」

 

「ハハハ、凡人は大変だね。」

 

とは言っているが、岡の射撃能力は馬鹿みたいに高い。北海道・東北地方の合同射撃大会ではトップ3に入るし、AASAMにも出場した事がある。

 

『それでは、競技を開始します!!』

 

約50mほど先に直径1mほどの皿が現れる。あまりの的の近さと大きさに、岡は唖然とする。

 

「え!?あれですか?」

 

「ハハハ。驚いたかい?殺傷距離220m、必中距離は50mと言われる名工ランザルの銃だが、的はたったの1mだ。

なに。君が凡人であっても、鍛錬をして達人の域に達していれば当たる距離だよ」

 

『それでは、競技はじめ!!』

 

約50m先の的に1分以内に当てればクリアとなる。射撃は1分ごとに当たり、はずれを判別され交互に行われる。

 

「行くよ」

 

エスペラント王国最高と言われた銃士ザビルが射撃線に付き、準備を開始する。

銃口から発射用の火薬と球形の弾を込め、火薬を火皿に注ぎしっかりと構え、引き金を引く。

 

パァン

 

大きな音と共に銃口から派手な白煙が上がり球形の弾が射出される。

発射された弾は空気でブレながら高速で飛翔し、50m先に設置された皿を一撃でたたき割った。会場にざわめきが巻き起こる。

 

「うむ!見事だ!!」

 

王も納得し、満足そうだ。

 

「は、初めて見た!!」

「なんて恐ろしい武器だ!!」

「スゲー!!」

 

まだエスペラント王国に多く普及していない銃、そのあまりの威力に人々は驚きの声を発する。

 

『続いて、異国の勇敢な兵、岡真司です。彼らの国、日本国にも銃があり、彼は一般兵との事ですが天才銃士ザビルにどこまで抗する事が出来るのか、皆様ご期待ください』

 

岡は射撃線に付く。

 

『では、はじめぃ!!』

 

一応今回は、一番得意とする48式狙撃銃の7.62mm弾仕様を装備してきた。だが余りに近すぎるので、一応サイドアームで携行している26式拳銃9mm弾仕様を使う事にした。

 

「ん!?」

 

ザビルは岡が火薬を入れていない事に気付く。

 

(おいおい。緊張しているのは解るが火薬を入れ忘れるって、そりゃないだろうう)

 

彼は岡が練度の低い兵と感じ、肩を落とす。「相手にならないな」と考えた時、会場に乾いた音が鳴り響く。勿論命中した。

 

『お見事です!さあ、次は70mだ!!』

 

70m先の位置に直径1mの皿が現れた。

 

「ほう、思ったよりもやりますね?しかし次は70m。さらにきつくなりますよ」

 

銃士ザビルが射撃線に付き、彼は火縄銃を構える。王国式の銃では難しいとされる距離での射撃、彼はこの距離においても皿を正確に打ち抜く。そして、岡もあっさりと皿を打ち抜いた。

 

「2人ともすごいな。」

「しかしザビル様の方が発射炎が多く、威力も高そうだ」

「お!?次は100m先だぞ!」

 

100m先に皿が出る。ザビルは緊張の面持ちで銃を構える。

一時的に呼吸を止め銃のブレを極限まで少なくし、引き金を引く際のブレも起こらないよう細心の注意を払ってゆっくりと指を絞り、射撃を行った。

 

「ちっ!!」

 

ザビルの銃弾は的を外れる。しかし1分以内に撃破すれば点数は入るため、彼は迅速に銃口の中を掃除し次弾を装填。落ち着きをもって構え、射撃する。

 

パァン

 

乾いた音。弾は皿の右端に当たり、破壊する事に成功した。その光景を見て王はつぶやく。

 

「さすが天才だな。凡人であれば、あの大きさの皿、そして距離であれば10発に1発当てる程度がやっとだろう。たったの2発で命中させるとはな。さて、異国の兵はどうかな?」

 

流石に100mでは拳銃では届かない。というか70mですら、当たるのは難しい。その為今度は、本来使う予定だった48式を構える。

拳銃より大きい音がした後、たったの1発で皿が破壊される。

観客席ではエスペラント王国で1番の名工と呼ばれるランザルは岡の射撃を見て唖然としていた。横にいる彼の弟子が話しかけて来る。

 

「異国兵の銃は発射炎が非常に少ないですね。命中率は高そうだが、弾の威力は少なそうです」

 

「馬鹿者!!お前は何年儂の元で修行してきた!?お前はあの異国の銃がどれほど高性能か解らぬのか?」

 

「どういう事でしょうか?」

 

「まずあの兵、もう2発撃ったというのに全く装填作業をしていない。

火薬と弾があの中に内包されているという証拠だ。戦場においてこの圧倒的ともいえる装填速度の差は大きな兵力比となって現れるだろう。

それに、発射炎が少ないのは効率的に燃焼しているからだ運動エネルギーへの変換ロスも少ない。ここから見えるかぎりでも、弾の威力も高い」

 

 

(くそっ!何とか150m先の皿を割ったが、はっきり言って運が良かった。岡と言ったか。異国の兵は未だ1発も外していない!!!)

 

名工ランザルの作りし銃に彼は絶対の自信を持っていた。異国の兵が火薬を装填しなくても良い銃を持っていた事には正直驚いたが、まさか命中率にこれほどまでに差があるとは思っていなかった。

しかし自分は天才、そして王国1番の使い手であり焦りを周囲に悟られる訳にもいかない。

負けるわけにはいかなかった。だが奴は恐らく最初は射程の短い物で射撃し、100m目から本来の銃を使っている。このままでは負けてしまうだろう。

 

『次は200m先です!』

 

司会は簡単に言うが、はっきり言って的は点にしか見えない。いくら正確に狙いをつけようが、球形弾の空気のブレだけで外してしまう可能性が高い。

異国の兵がもしもこれを一撃で当てたならば、弾道を安定させる技術が銃に施されているとしか思えなくなる。

 

「ぐっ!やはり小さいな。」

 

手振れで僅かに揺らめく銃口。1mmのズレで着弾地点は大きく外れる。

銃のブレを抑制するため彼は息を止め、ゆっくりと引き金を引いていく。

 

「当たれ!」

 

大きな炸裂音、そして煙が上がり彼の銃から弾が射出された。

 

「ぐっ!!!」

 

命中せず。ザビルはすぐさま次弾を装填して構え、そして撃つ。

 

「ちいっ!!」

 

2発目も外し射撃開始から1分が経過したため、時間切れ。命中無しの判定が出る。

 

『おおっと!さすがの天才も距離200mは難しかったようです』

 

「そんな。ザビル様が外すなんて.......」

 

「いくらザビル様でも無理よ、あの的点にしか見えないもの」

 

人々は様々な感想を述べる。岡の出番となり、彼は射撃線に付く。

近くの的と同様、彼は一撃で的に当て粉砕した。

 

『おおっと!!信じられません!!銃士ザビルが負けてしまいましたぁっ!!!』

 

場がどよめいた。

 

『ではこれは当たるか!?』

 

岡だけが競技を続ける中、的は300m先となり壊すと先がないとの事で、競技が終了してしまった。

 

『これにて競技は終了と』

「ちょっと待て」

 

岡は司会に向かって叫んだ。

 

「たった、たった300mってふざけてるのか?その位なら態々コイツじゃなくて、小銃か戦闘銃で良かったのに。まさか、コイツの真価を見せてないのに終わりとは言わないよな?」

 

『では何百mなら撃ち抜けますか?』

 

「俺とこの相棒なら、最大で6kmだな」

 

会場が静まり返った。因みに普通のスナイパーライフルなら、大体1.5km位が有効射程である。だが48式は技術陣がハッチャケた結果、何故か4kmでも余裕で撃ち抜けてしまう。熟練兵なら5km、精鋭や天才となると6kmまでは何とか届くという化け物狙撃銃なのである。

 

「あちゃー、始まった」

 

「大尉殿の悪い癖だ」

 

「アイツ、射撃にはうるさいんだよなぁ。あと怖い」

 

中隊の仲間からは、この言われようである。尚、第7師団では「半端な気持ちで岡に射撃の修練を頼むべからず」という裏ルールがある。

理由は一度タガが外れると、無理矢理にでも射撃を教え込もうとするからである。

 

「岡さん、すごい.......」

 

「まあ、アレくらいは当然だよサフィーネちゃん」

 

「そうなんですか?」

 

「大尉殿、岡の野郎はレンジャー教育課程を主席で卒業した後、中央即応師団に配属されてる。レンジャーとは陸軍にある精兵を養成する訓練で、山に数日間飲まず食わず、睡眠も無しで数十キロの荷物を持って歩いたりする、地獄みたいな訓練だ。

そして中央即応師団。陸軍には三大精鋭と呼ばれる部隊がある。中央即応師団、近衛師団、神谷戦闘団。そんな陸軍どころか皇軍の誰もが知ってる部隊に名を連ねていた、精鋭兵士の一角だ。アイツにとっちゃ、今のはお遊びだろうよ」

 

そんな事を話していると、いつの間にか王の話しが始まった。

 

「会場に集まった臣民よ。知っての通り我が国は創設以来、魔物に怯え続けた生活を余儀なくされている。しかし!!我々は1人では無かった。そう、もう気付いた者もいるだろう。今銃士ザビルと戦った兵は、異国の兵なのだ。つまり外の世界にはこのエスペラント王国以外の国があるという事になる。

彼らの国の名は「大日本皇国」。日の本、太陽を国旗とした島国という事だ。我が国に迷い込んで来たのは事故だが、少しの間、魔物退治に協力してもらえるとの約束を取り付けた。これは、我が国に伝わる救いの預言に酷似している。私は民が平穏な暮らしを取り戻せるよう、全力で国を導く事をここに誓う」

 

会場から大歓声が上がり、その光景に岡と中隊の仲間は呆気に取られる。もう何が何だか分からなかったが、何か握手やらハグされたりして、考える余裕もなかった。

 

 



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第三十七話戦闘前の日常

岡と澤部が王と謁見していた頃 大日本皇国 地下指令室

「生きてりゃ良いんだが」

 

「機体は無事ですし、最新の偵察では物資を動かした跡がありました。どうやら装甲車も動かしてるみたいでしたし、恐らくは生きているかと」

 

現在地下指令室は、C2遭難事件の対策本部と化している。本来は日本が戦争状態になった際に使用されるのだが、今回は救出作戦の際に戦闘が勃発する可能性を孕んでいた為にここに本部が設置された。

それではここで、今回の救出作戦に投入されている戦力を解説しよう。

 

陸軍(現在待機中)

・第7師団

・第4対戦車ヘリコプター隊

 

海軍

・第二潜水艦隊

・第五主力艦隊

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空軍

・第203制空飛行隊

・第501攻撃飛行隊

・第608管制飛行隊

・第1003輸送飛行隊

・第1205輸送飛行隊

・飛行開発実験団

 

海軍陸戦隊

・第7海兵師団

 

以上である。

 

「そう言えば例の件、調査の方はどうなっている?」

 

「その報告書はこちらに」

 

斜め後ろに控えていた向上が、10枚程度の紙の束を差し出してくる。表紙には「終始報告書」と書かれている。この報告書は長嶺配下の機密特殊部隊である「義経」の調査結果が記された、機密性の高い書類である。終始報告書になっているのは、万が一見つかったら見られたりしても「収支報告書の収支が誤字った書類」として誤魔化す為である。報告書には全てが記載されていた。

まず今回の事件の実行犯にして、現在囚われてる中川貴一郎の出生の事が書かれていた。公式には長野県の地方出身となっているが、実際は中国人であること。日本に来た目的は中枢へ浸透して、中国有利に日本を動かす為だったこと。

その次には、神谷の睨んでいた国防省の事務次官について書かれていた。名前は鶴川徳一郎。こちらは東京生まれ、東京育ちとされていたが、こちらも中国からの工作員だったこと。目的に関しても中川と同じであったこと。

さらに読み進めていくと、この事態に行き当たった流れも書かれていた。今から約5年前に、日本は中国と戦争をしている。といっても一方的に侵攻してきた人民解放軍を殲滅した、戦争とは名ばかりのワンサイドゲームでどちらかと言うと紛争だったが。この戦争により中国は国際的地位が無くなり、これによって国内で内戦が発生。共産党は潰れた。

一方で日本に潜んでいた工作員連中は、共産党を離れて独自の判断で動き出してしまう。ある者は足を洗い、ある者は中国へ帰り、ある者は独自に日本の転覆を狙うような過激派へと変わった。中川と鶴川はこの記述では最後の派閥で、日本を転覆させる為に動いていたらしい。

中川が表立って日本批判して強い光となり、国を裏で動かす官僚になった鶴川がその影で動く。この方法で今まで鶴川は悟られずに動いていたらしい。しかし三英傑の存在によって、その企みの殆どが潰えていたらしい。そこで2人は短略的かつ無謀な策へと出た。それが今回の演習への同行である。訓練と称して非道な行いをしているのを捏造し、それを告発して軍の権威を地に落とす。そしてその指示を出していたのを神谷にしておいて、神谷も蹴落とすと言う中々にアホな計画を立てていた。

 

「超傍迷惑なクソ計画だな、おい」

 

「確かに穴しか無い計画ですし、それ以前に長官に喧嘩売ってる時点でヤバいことにならないのが分からないんですかね?」

 

「にしても、よく公安とかのマークが入らなかったな」

 

「なんか鶴川が裏から手を回していたみたいで、あの手この手で回避してたらしいです」

 

このクソ計画において評価できるのが今までバレなかった運と、ここまで我慢した忍耐だけである。神谷は後にそう語ったらしい。

 

「だがまあ、今更もうどうでも良い。鶴川と中川を、殺せ」

 

「承知しました」

 

これより一週間後、鶴川は東名高速の料金所に突っ込んで死亡した。原因はブレーキの故障による物として報道されているし警察もそう信じているが、実際は義経の兵士がブレーキに細工して効かない様にしたのである。

因みに死んだのは鶴川だけで、それ以外には怪我人すら出していない。大渋滞は起きたが。

 

 

 

射撃大会の翌日 王城

「これより、王前作戦会議を執り行います」

 

岡の化け物っぷりが証明された大会の翌日、円卓の間と呼ばれる王前会議用の部屋に岡と澤部は通された。王曰く「本来なら仮に異国が友好国であったとしても王前作戦会議には出席できないが、今回の事態は急を要し、中隊の働きで国民の死亡率が大きく変わって来るため特別に作戦会議にも参加してもらう」らしい。

既に円卓には地図が広げられており、色々と書き込まれているが全く読めない。というか、なんか謎のエイリアン言語にしか見えない。

 

「まずは魔軍の規模を説明させて頂きます。密偵からの情報によるとゴブリン等の雑兵の魔物20万、雑兵の上位種、例えばホブやチャンピオン等が8万、オーク15万、オークキング7万、漆黒騎士3万5,000です。

恐らく後一週間程で侵攻が開始される予測されます」

 

「こちらが投入できる戦力は?」

 

「最前線となる砦、ウェルゾロッサ要塞に配備している兵力が弓兵5,000、槍兵6,000、重装歩兵3,000、騎士200です。動かせる兵力と動かして戦闘に間に合う兵力を総動員したとしても、弓兵2万8,000、槍兵4万3,000、重装歩兵3万2,000、騎士2,500です」

 

この世界に於いてゴブリンの様な雑魚は、殆ど問題にならない程に弱い。しかし言うなればオークキングは吉田沙保里、漆黒騎士はヘルシングのアーカードみたいな認識なのである。

ヘルシングのアーカード、と言っても分からない読者もいるだろうから簡単に説明しておこう。平たく言うと「100万発入りのコスモガンを連射し、姿形を変幻自在に操り、並外れた動体視力と怪力を備え、殺傷できる攻撃を何十万回当てるか、何十万の亡者の群れを突破して殺傷できる攻撃を当てないと倒せない化け物」である。

 

「なんと言う事だ.......」

 

「そして何よりも問題なのですが、魔獣ゴウルアスを400体、確認いたしました。これは皆さん知ってのとおり、伝説級の魔獣です」

 

「な、なんだと!?ゴウルアス?あの魔帝の遺産と言われたゴウルアスが確認されただと!?」

 

「(澤部、ゴウルアスって何ぞや?)」

 

「(俺が知るか。ゴリアテの親戚じゃね?)」

 

「(成る程)」

 

そんな訳ない。ゴリアテが400隻とか来たら例え皇軍の全戦力を投入しても.......、アレ?なんか嬉々としてミサイルを叩き込んでたり、ビームで撃ち抜いたり、砲撃を雨の様にぶち込んだり、果ては飛行強襲群と白亜衆が乗り移って内部から破壊していく様が浮かんでくるぞ?

 

「あのー、そのゴルゴンゾーラだかゴリアテだか知りませんが、その魔物は一体なんです?」

 

「ゴウルアスは古の魔法帝国陸軍で過去に採用されていたとされる魔獣だよ。転移直前は別の兵器に取って代わっていたようだが全長が5mほどで、全高は2mと比較的小さいが、恐ろしいのはその放出する魔力だよ。

まず鋼のような体毛に覆われた肉体に、回復魔法がかかり続けるから疲れを知らない。主に使用される魔法は2種類あって、角から連射される爆裂魔法、これの連射力は相当なもので1騎で歩兵大隊を一瞬で壊滅させる事が出来るほどの魔力投射量だとされている。

そして口から放たれる球形の爆裂魔法。避ける事が困難な速度で飛翔し、当たればほとんどの物を破壊するとされる。おそらく城門など一撃で吹き飛ぶだろう。

現に神話によれば、魔帝亡き後に行われた種族間連合を滅亡寸前に追い込んだ魔王軍の進行に、このゴウルアスは40体も投入された。

ゴウルアスは太陽神の使いが使用していた鋼鉄の地竜でさえも、数騎がこの爆裂魔法によって怪我をし走る事が出来なくなったとある」

 

「その魔獣は太陽神の使いたちによって、破壊、殲滅されたのでしょうか?」

 

「そうだな。太陽神の使いが使役していた鋼鉄の地竜が放つ爆裂魔法も相当に強力で、何体かはそれで吹き飛ばしたと記載されている。だが大部分は魔王軍が決戦のために集結している時に、海に浮かぶ鋼鉄の神船による「カンホウ」と呼ばれた超大規模広域殲滅爆裂魔法の投射によって、一瞬で全滅したらしい」

 

「なら、普通に勝機は見えるな」

 

澤部がそう言った。円卓の間にいる全員が、驚愕の表情で岡と澤部の方を向く。

 

「皆さん、どうやら今回我々が遭難したのも何かの縁だったようです。未だ調査中な上、こちらには何の記録も残されていませんが、我々大日本皇国軍とは、貴方方の言う太陽神の使いです」

 

岡の言葉に円卓の間は「えぇ!?!?」という絶叫に包まれる。そりゃあ目の前に、伝説上の神が使わした軍の軍人が居るのだ。こうもなる。

 

「待て待て待て待て!本当に、その、太陽神の使いなのか?」

 

「はい。太陽神の使いとは、我が大日本皇国の前身に当たる大日本帝国の軍であると思われます。と言うのもとあるエルフの村の、太陽神の使いと関連のある施設に於いて、当時の帝国海軍主力艦上戦闘機、つまり空を飛ぶ兵器が確認されていますし、先ほど言った超大規模広域殲滅爆裂魔法「カンホウ」とは、恐らく洋上艦からの艦砲射撃という攻撃です」

 

「お、おい!すぐにあの魔写を持って参れ!!」

 

王が控えていた部下に命じると、部下は大急ぎで部屋を出て何処かに走っていった。数分後戻ってくると、手には一枚の封筒が握られていた。

 

「岡殿に澤部殿。もし本当に太陽神の使いなら、これが何かわかるか?」

 

そう言って王が見せたのは、一枚の写真であった。旭日旗を掲げた、巨大な戦艦である。

 

「や、大和!?」

 

「いや違う。大和じゃない」

 

違うと言った澤部はそのまま写真をじっくりと見ると、一言「あり得ない」と言って写真を机に置いた。

 

「澤部、大和じゃないのか?」

 

「あぁ。コイツは、大和じゃない。歴史では作られていない未成艦だ。恐らく1921年のワシントン海軍軍縮条約でポシャった、八八艦隊計画で建造予定だった紀伊型か八号艦型ってヤツだろう。

この2種類は建造されず、紀伊型の元になっている天城型も天城は関東大震災で廃棄になり、赤城は空母に改装されて後の一航戦になっている。従ってこの世には、建造すらされていない筈の艦だ」

 

「それなら、こっそり作ってたとか?」

 

「かもしれん。あの時代は大和型ですら隠し通していたんだし、建造されてはいたのかもしれない」

 

岡の予想が当たっていたかいないのかは、敢えて今は語らない。だがしかし、倒そうと思えば倒せなくはない事がこれでわかった。

 

「後で色々と聞きたいが、今は会議が先決だ。それで、本当にゴウルアスを倒せるのかね?」

 

「当時の戦車で倒したって事は、恐らく我々の基準で言えば軽装甲になります。一応中隊には150mm速射砲を搭載した鋼鉄の機械式魔獣だとか、対戦車兵器、つまりゴウルアスの様な装甲を施した魔獣、兵器を破壊する為の兵器を搭載した歩行兵器等を保有しています。流石に殲滅できるかはわかりませんが、少なくとも善戦位ならできるでしょう」

 

運がいい事に第75中隊は44式装甲車ハ型を2両装備しており、他にも対戦車ミサイルを搭載したロ型とへ型を一両ずつ、40式小型戦闘車を8台、WA1極光を100機、WA2月光を120機配備している。

ハ型はアメリカ陸軍のストライカーMGSや16式機動戦闘車の様に、足回りを装輪装甲車にした戦車みたいな装甲車である。またロ型はいつぞやの人間野球やら庁舎にジャンプして突っ込んで大暴れしていた装甲車だし、へ型は89式走行戦闘車の様な大口径機関砲と対戦車ミサイルを搭載した装輪装甲車である。極光と月光は色々武装バリエーションがあるが、対戦車ミサイルを搭載したモデルも多数ある。これならゴウルアスでも遅れをとる事はないだろう。

 

「それに歩兵に関しても、全員が例の漆黒騎士、でしたか?あの魔物だか魔人だか知りませんが、その騎士も一撃で倒す事の出来る兵器を装備しています。

練度に関しても我が第7師団は、帝国陸軍時代からの精鋭師団。練度に関しても、エスペラント王国の精鋭に遅れを取る事もないでしょう」

 

これらの情報に希望を見出すのは簡単であった。これ以降、会議は夜まで続き作戦も決まった。翌日、一部の隊員は先行してウェルゾロッサ要塞に向かい、残りは王国の用意した馬車に分譲して向かった。勿論持てる全ての装備を見に纏った、完全武装である。

現地で銃士ザビル率いる精鋭銃士部隊と合流し、武器の貸与が行われた。因みにザビルは先の勝負では負けたが、どうやら本当に天才だった様ですぐにスナイパーライフルの扱いをマスターし、岡には及ばなかったが岡以外の中隊にいたスナイパーよりも精度が上であった。岡曰く「もしこのまま練習を続ければ、もしかすると俺以上になるかもしれない」らしい。

 

 

「野郎共!!早いとこ屠殺場を作り上げるぞ!!!!」

 

「「「「「おう!!!!!」」」」」

 

ウェルゾロッサ要塞について最初にやった事は、屠殺場作り、もといトラップ作りである。

ウェルゾロッサ要塞の正面大体5km地点には、巨大な谷が広がっている。そこに様々な仕掛けを配置し、少しでも数を減らす作戦である。本当に「使える物は何でも使え」作戦で、色々と突貫作業で作っている。また今回は相手が魔物、軍法上では「敵対性有害生物」なので法律や条約に縛られる筈がない。そこで岡の指示した作戦は、結構エゲツない物であった。

 

「よーし、上に丸太を仕掛けるぞ」

 

「C4もありったけ設置しろ。どうせC4はC5の予備とか訓練でしか使わないんだ。使った所で、文句は言われん!寧ろ在庫処分に協力してると思え!!ケチケチするな、景気良く設置しろ!」

 

「ここにワイヤートラップでも仕掛けるか。何匹か吊るし首に出来る」

 

例えば谷の上に丸太や岩を設置し敵が通ると支えが外れて降ってくる仕掛けだとか、爆薬で崖の一部が崩れる仕掛けだとか、吊るし首や騎士の首をぶった斬るワイヤートラップだとかエグい物を仕掛けている。しかし一番やばいのは、絶対にこれだろう。

 

「ウゲッ!!臭ァ!!!!!」

 

「そりゃあ先端を尖らせた丸太に、大量の糞を塗りたくってんだ。臭いに決まって、オエェェェェ!!!」

 

「待って吐きそオロロロロロロロロロロロロロロロ」

 

そう。嫌がらせ目的兼遅滞戦闘目的で便所の糞を塗りたくった丸太を落とし穴の中に設置し、それに敵を突き刺そうという作戦である。糞には破傷風菌が含まれているので、傷口に糞が入れば破傷風となる可能性が高い。ただ症状が出るまで時間が掛かるし水で洗えば問題ないが、洗えば大事な水を使う事になる。かと言って洗わなければ、破傷風になり苦しみもがく事になる。

他にも出来損ない&壊れた槍、矢、剣などにキノコの毒を塗り、それを上から落とす仕掛けも作ってある。

また地中に油などの可燃性の物を仕掛けて敵が侵攻してくると燃える様な仕掛けも作ったし、C2のパーツを流用して即席電気トラップも作った。この魔の谷を抜けると今度は、一面に地雷とクレイモアが仕掛けられている。その後方には連射式グレネードランチャーやら重機関銃の十字砲火、更には迫撃砲や速射砲の砲撃に晒される。因みに後半の戦法は、安心と信頼のベルナドット隊長戦法である。

 

 

 

同時刻 アンニュール皇国秘密基地

「ダクシルド様、ご報告が御座います」

 

「何だね?」

 

「それが、最初の攻撃目標であるウェルゾロッサ要塞に、そ、その、太陽神の使いが確認されました.......」

 

ダクシルドは部下の報告に耳を疑った。太陽神の使いと言えば、かつて魔王を打ち破った軍勢である。それが再臨したとなれば、一気に風向きは悪くなる。

 

「鋼鉄の地竜などの兵器は確認されてるのか!?!?」

 

「こちらに魔写があります」

 

そう言って部下は44式装輪装甲車ハ型の写った魔写を見せる。

 

「ふむ。これならまあ、問題なかろう。コイツだけか?」

 

「いえ。他にも数台いますが、巨大な砲を搭載しているのはこれだけです」

 

「ならば問題はない」

 

そう言いのけたダクシルドに、部下は驚いた表情している。この自信が何処から来ているのかと言うと、何とも馬鹿げた話である。

 

「この鋼鉄の地竜、よく見たまえ。確かに装甲を施されているが、殆ど傾斜していない。つまり奴らの兵器は傾斜装甲を知らないのだ。ならばこの兵器は、ゴウルアスの攻撃で十分に破壊できる」

 

「し、しかし!複合装甲なら話が変わるのでは?」

 

「確かにそうだ。だがこの地にそんな高等技術があるわけ無いし、第一そんなのは憶測に過ぎない。というか、それを調べるなんて労力を使いたく無い。

いいか?奴らは弱い。我が軍の前に平伏し、太陽神の使いすらも我らの前で命乞いをする運命なのだ。それから君、次の人事を楽しみにしたまえ。私に楯突いた事、後悔させてやる」

 

なんとこのダクシルド、部下の報告を更に調査するのを「面倒くさい」という理由で切り捨てたのだ。そればかりか普通にパワハラも働く始末。無能以外の何者でも無い。

 

「申し訳、ありませんでした」

 

「今更遅いわ。さて、私はティータイムにでもするか」

 

 

時は流れ、いよいよ侵攻の予測日を明日に控えた夜。中隊が間借りしている宿舎のドアがノックされ、1人の騎士が顔を出す。

 

「すいません。兵舎に町娘が一人、岡殿を訪ねてきていますが、どうされますか?」

 

中隊の面々とザビルら銃士隊は顔を見合わせると、途端にゲスな表情を浮かべる。

というのも、この町娘というのは恐らくサフィーネである。そしてこのサフィーネは、岡本人は気付いていないが側から見て明らかに岡へ好意を寄せている。決戦前のこのタイミングで、想いを寄せる男の所に来る。つまりイジり倒せる面白い事(・・・・・・・・・・)が起こる!!

 

「サフィーネだな。おい真司!!行ってこい!!!」

 

「まだ会議途中の筈だ。行くわけには」

 

「もうほとんど終わっていただろ?あとは時間の確認だけだが、極論明日朝準備が整えばそれで良い。

それよりも、お前は明日の今頃生きているかどうかも分かんねぇんだぞ!!そんな規律に囚われて、人生後悔して良いのか?良いから行ってこい!!」

 

誰も咎める様子は無く、岡は流れで兵舎の外へ向かった。そしてその後を、部屋にいた全員がこっそりと付ける。

兵舎の外には、一人たたずむ女性がいた。予想通り、サフィーネである。

 

「サフィーネ!どうした?もう夜だぜ」

 

「岡君。あの、その.......」

 

「どうした?」

 

(来るぞ、愛の告白が)

 

「お願い、死なないで.......」

 

僅かに下を向き、不安そうな顔で彼女は岡を見つめた。告白ではなかったが、まあまだジャブ。次が絶対にあると確信しつつも、どこか焦ったい。早く告白しちまえと、茂みに潜んだ戦友達は悶々としていた。

一方サフィーネは糸で作ったお守りを差し出す。

 

「これは?」

 

「お守り。女が想いを込めて作れば、死なずに済むんだって」

 

「ありがとう。死なずに帰って来るから、またサフィーネのご飯が食べたいな」

 

「うん!絶対おいしいもの作るから、必ず、死なずに帰ってきて!!」

 

「ああ」

 

空気は少し寒く、澄んだ空に、月が2つ見える。物語の騎士と姫の様だが、戦友達は少し物足りなかった。

 

((((((((そこは告るかキスしろよ!!!!)))))))

 

流石にお守り渡してチャンチャンでは、ちょっと余りに味気ない。そこは告白かキス、出来れば軽くR18コースの手前まで行って欲しい。じゃあどうするかと言うと、中に割り込んで無理矢理やらせるまで。

 

「おいおい真司にサフィーネちゃん。流石にそりゃ無いだろ?」

 

「彰!?」

「澤部くん!!」

 

「だけじゃないよ」

 

そうザビルが言ったのを皮切りに、ゾロゾロと茂みと物陰から仲間達が出てくる。

 

「お前らな、そこは告白かキスするところだろ!?サフィーネちゃん。そこのバカは気付いてないがな、アンタが真司に恋心を抱いているの、バレバレだったぜ?」

 

「え///////」

 

「ウソ!?サフィーネが俺の事を!?!?」

 

「私は出会って日が短いが、その私でも気付く程だった」

 

「ほら、ザビっちもこう言ってる」

 

澤部がそう言うと後ろを向き、仲間達にゲスの笑みを浮かべながら合図を送る。

 

「はいせーの!」

 

「「「「「「こーくはく!!!」」」」」」

 

「そんなんじゃ聞こえな〜い!!」

 

「「「「「「こーくはく!!!!!」」」」」」

 

「もういっちょ言ってみよー!」

 

「「「「「「こーくはく!!!!!」」」」」」

 

告白コールである。流石のサフィーネも告白コールによる混乱と、バレていた混乱で正常な判断が付かなかったのだろう。いつもならブレーキが掛かるが、なんと告白する気になってしまった。

 

「おい!アレやるぞ」

 

「ほいほい。ちょっと待ってくださいよ」

 

澤部の指示に部下の1人がスマホを取り出して、音楽アプリを立ち上げる。そして良い感じのBGMを流す。

 

チャラララ、チャラララ、チャチャラララ。チャチャラー

中川に浮かぶぅ、夕日を目掛けてー

 

「こ○亀じゃねーか!!!!」

 

「あ、ヤベッ!じゃあこっち!」

 

ダメだね。ダメよ、ダァメなのよぉ

 

「今度はばかみたいじゃねーか!!文字通りバカみたいな事になってんぞ!?!?」

 

「ならこっち!」

 

Just give me the feeling, push my motor everyday

Gospel of the throttle, push my engine all the way

Sing it

 

「「「「Na Na Na Na Na Na Na Na Na Na。Na Na Na Na Na Na Na Na Na Na」」」」」

 

「じゃないよ!!!何だこれ、ドリフターズのオープニングじゃねーか!!!!」

 

「今度こそ!」

 

今のところ雰囲気にあった物は全く流れていないが、ようやくマトモなヤツが流れた。

 

「よーし、どうぞ」

 

「いや、どうぞじゃな」

「岡くん!」

 

岡が澤部に突っ込もうとした瞬間、サフィーネは岡の顔を無理矢理自分の方に向けさせた。

 

「あのね、私、岡くんの事が好き。だから、私と、結婚してください!!」

 

「よっしゃぁ!!カップルせいり、え?」

「今何つった?」

「結婚?」

「中隊長が、サフィーネちゃんと結婚」

「つまり?」

 

中隊の兵士達の動きは早かった。他の仲間を呼びに走り、澤部は適当なローブを来てメガネを掛けて、クソ分厚い辞書か何かを何処から持ってくる。

 

「ソレデハコレヨリ、新郎オカ・シンジト、新婦サフィーネノ結婚式ジャナイケド、ソレニ近イ謎儀式ヲ取リ行イマス」

 

「いや、彰?何してんだ?」

 

「だってお前、好きだろサフィーネのこと」

 

「いやまあ、そりゃそうだけど」

 

「ダッタラ、儀式ヲシマース。拒否権ハアリーマセン」

 

岡が振り返ると、何といつの間にか中隊の全員が参列していた。しかもザビル達まで。

 

「新婦サフィーネ。汝ハ、健ヤカナル時モ、豊カナル時モ、病メル時モ、貧シイ時モ新郎ヲ愛スルト近イマスカ?」

 

「は、はい!」

 

「シンジ。オ前ハ軍人ナノデ、女ヲ守リマスネ?ナラバ、サフィーネヲ守ルト誓イマスカ?」

 

「いや、だから」

 

「誓イマスカ?」

 

「いやだか」

「誓うかって聞いてんだコラ」

 

「はい.......」

 

「デハ、我々ノメシウマノ為、ジャナクテ誓イノ為ニ口付ヲ」

 

後ろからは「キース、キース」という男子学生のような野次が聴こえてくる。岡も腹を括ったのか、サフィーネの顎を持ち上げるとそのまま唇を奪った。

そして歓声が上がる。数秒後離れると、岡はそのまま澤部の肩を掴み肩を力一杯握り始めた。

 

「あ、あのー岡少佐?怒ですか?」

 

「ははは」

 

「あ、ヤバい。やり過ぎた」

 

「全く。君が責任を取ってくれ給え」

 

そう言ってザビルはいそいそと逃亡しようとする。しかし岡は「ザビルさん、アンタも同罪だぜ?」とドスの効いた声で言うと、ピタリと止まった。その間に他の兵士達も逃げようとするが、やはり岡のドスの効いた声で呼び止められる。

 

「さてさて。なんか妻が出来たわけだが、一体なんでここにいるのかな?」

 

「し、真司?見方を変えよう。俺達は、お前達夫婦の恋のキューピッドだ。な?」

 

「そうかそうか。ははは」

 

「は、ははは。ははは」

 

澤部は引き攣った笑顔で笑うが、次の瞬間空高く吹っ飛ばされる。

 

「ははは、じゃねーよ!!テメェら、全員ぶっ飛ばす!!!!」

 

「ヤバい逃げろ!!!!」

 

怒りで覚醒した岡は夜通し要塞中を走り回り、1人ずつ確実に関係者をボコボコにして行った。翌日、全員がタンコブを抱えて魔物と戦う羽目になった。

 

 

 

 

*1
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第三十八話ウェルゾロッサ防衛戦

翌日 ウェルゾロッサ要塞

「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス…」

 

「(なぁ、ジャスティード正騎士殿は何をあんな「殺す殺す」言ってるんだ?)」

「(なんでも恋していた町娘が、例の謎の軍団のリーダーと婚姻したらしい。しかも告白というかプロポーズの瞬間を、バッチリ見ちゃったらしくて病んでる)」

「(うわぁ悲惨ー)」

 

現在ジャスティードは病んでいる。超病んでいる。何故かって?それはこんな理由。

 

 

(命を賭ける戦いの前だ。サフィーネと床を共にし、我が子種をサフィーネの膣内に入れなくては!)

 

昨夜の事。ジャスティードは正騎士用の宿舎を抜け出し、サフィーネに告白&ナニをして子種を宿らせるつもりで、サフィーネのいる避難所のキャンプに向かっていた。

キャンプに行くには、どうしても日本軍の宿舎を通る必要がある。何か賑やかなのが少し気になったが、それを無視して自分の息子がイラついているのを抑えながらサフィーネの元へと向かった。

 

「ん?あれは.......」

 

日本軍の宿舎を越えた先の広場に、人集りが出来ていた。その中心にはあの岡と愛しいサフィーネの姿があった。胸騒ぎがしたので、物陰に隠れて観察していた。すると、ジャスティードにとっては死んだ方がマシな声が聞こえてきた。

 

「あのね、私、岡くんの事が好き。だから、私と、結婚してください!!」

 

(な!?!?!?)

 

そう。サフィーネが。あの「我の子種をくれてやろう」とか言って今夜一発かまそうとしていたサフィーネが。(ジャスティードの脳内では)子供を8人作る事まで確約したサフィーネが。あの何処の馬の骨とも知らぬ、岡とかいう奴に告白していた。

 

(ははは。そ、そそそそうだ。今のは聞き間違い。そう聞き間違いなのだ!そもそも何で愛しのサフィーネが、あんなナヨナヨした弱そうな奴に恋するのだ?可笑しいだろう。私の様に強くて逞しくて、オマケに優しくて勇敢で、将来は超安泰の正騎士がいるのだ。人間性、武力、知力、財力、権力、社会的地位のいずれに於いても勝利している!聞き間違いでなければ辻褄が合わ)

 

チュッ♡

 

そんな事を考えていると、今度は岡とサフィーネがキスをした。

 

(くぁwせdrftgyふじこlpぉきじゅhygtfrですぁq)

 

瞬間、ジャスティードの精神は崩壊した。

因みに蛇足ではあるが、一応簡単にジャスティードと岡の地位を比較してみよう。

まずは人間性。岡は紳士的で優しい好青年なのに対して、ジャスティードは妙にプライドが高く人をよく見下す。

武力も岡は軍全体で見ても狙撃技術はトップクラスなのに対し、ジャスティードは一応上の中から上の下位には剣技は上手い。ここは同格と言った所だろう。

知力は岡は国防大学の卒業成績は20位であり普通に頭はいい。ジャスティードは本人が、というより文明レベルが中世ヨーロッパ程度なのだから教育レベルもお察しである。

財力は岡の場合、基本年収が690万程度。しかしボーナスやら手当てやらで、大体730万位になる。ジャスティードは日本円換算で年収840万位だが、仕事道具、つまり鎧やら剣やら馬の維持費とか新しく購入する際の資金は補助金も出るには出るが、基本的に自腹である。その為、自由に使えるのはごく僅かである。勿論岡の武器は基本全て官給品なので全て税金から賄われている。まあ一部の小物やアタッチメントは自腹で購入しているのもあるのだが。

権力、社会的地位は何方も同等である。だが総じて、大体岡に軍配が上がっているので、ジャスティードに勝ち目は元から無かったのである。

 

「.......殺す。絶対に殺す。コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス…」

 

とまあ、こんな具合に精神をぶっ壊してしまったのである。因みにぶっ壊れた方向が岡への逆恨みによる憎悪であり、岡としてはこの上なく面倒臭い。だが本人はまだ知らないので、戦闘中に集中を乱される事もないだろう。

 

 

「彰、無線は繋がったか?」

 

「いや全然。欲を言えば、皇軍を乱入させたかったんだがな。こうなりゃ、俺達だけでやれるとこまでやるしかないだろう。

それに最悪死ぬ事になっても、俺達は命を助けてくれた恩人達の為に死ぬんだ。悔いはねーだろ。まぁ、もう一度祖国の土を踏みたいがな」

 

「そうだな。それに俺達は、まだ何も絶対に死ぬと決まっていない。精々足掻きに足掻きまくって、生き延びてやろうぜ」

 

「おう!」

 

澤部と岡は互いの手を強く握る。もしかすると今生の別れとなるかもしれない一時だが、常に一緒にいた相棒に別れの言葉も何もいらない。少し話すだけで、それ以上の言いたい事は勝手に伝わるのだ。

澤部は城壁に残ってトラップの制御を担当し、岡は塔に登ってザビルと共に狙撃による先制攻撃を行う手筈となっていた。

 

「来たな岡殿」

 

「あぁ、ザビルさん。首尾はどうだ?」

 

「予定通り、と言ったところか。まだ魔軍は確認されていないが、もう攻撃するか?」

 

そう聞くザビルに岡は首を横に振った。攻撃しても恐らく当たるとは思うが、場所がはっきりしてない上に確実なダメージが入ってるかわからない以上、弾は無駄にしたくない。

 

「いや。どうせ狙撃するなら、指揮官を狙った方が効率的だ。たしか魔物っていうのは、基本的に群れを作る位の社会性しかないんだろ?あんな大規模な軍勢になっているのなら、その中心にいる連中を倒せば浮き足立つ。

そしてそこをトラップと分散配備した中隊の仲間達で叩き、さらに混乱させた方が色々楽だ」

 

「確かにそうだな。ならもう少し待機だな」

 

ザビルがそう言った瞬間だった。岡の無線に、渓谷に仕掛けておいた監視カメラの映像を見ていた兵士の声が響く。

 

『敵影確認!!距離、8km!予測通り、渓谷を進軍中!!!!』

 

「中隊長了解。中隊総員、戦闘配置。繰り返す、戦闘配置」

 

報告を受けた岡は、直ちに中隊の兵士達へ戦闘配置を下命する。この指示は王国兵にも伝達され、戦闘準備がなされていく。

銃の安全装置を外し、初弾を装填。照準を覗き、トリガーに指をかける。王国兵は剣を抜き、弓やバリスタに矢を装填。替えの矢も配置し、携行式の矢避けの板を使って防御を上げる。

 

「ザビルさん、準備はいいか?」

 

「いつでも」

 

「まもなく観測手からの無線が入る。指示に従って撃ってくれ」

 

岡とザビル程の技量があれば、観測手がいなくても狙撃可能である。しかし今回は数が多い上に、ライフルの弾は心許ない。百発百中は大前提として、百発で千発分の戦果を得るくらいの勢いが無いと今回は狙撃の意味がなくなってしまう。

つまりどういう事かと言うと、高脅威目標や指揮官クラスを最優先で叩く必要があるわけである。

 

『中隊長、これより観測データを送ります。方位2、距離8,000。上下角、+5度。オークキングです。見えますか?』

 

「あの鉄製のデカい棍棒を装備した一際デカい豚か。補足した」

 

『ザビル殿は方位359、距離変わらず。上下角+2度。ゴブリンチャンピオンです』

 

「捉えた」

 

2人の48式狙撃銃のスコープには、しっかりターゲットの頭が捉えられていた。

 

『fire』

 

ダ、ダァン!

 

少しズレたが、二つの銃声が重なった。間も無くして2匹の脳は、後方にぶち撒けられながら倒れる。

 

『head shot kill』

 

続けて次の目標が送られてくる。そしてこの軍勢は運が良い事に、偵察に出ていたRF2蛇によって撮影されていたのだ。そしてそのデータは、本国へとリアルタイムで送信されている。

 

 

 

同時刻 大日本皇国 国防省 地下指令室

「何だこの軍勢は.......」

 

「魔物、のようですが、凄い数です」

 

「長官、概算結果出ました。推定で総勢50万程度です」

 

「ごじゅ!?」

 

余りの数にいつも(推しが関わらなければ)冷静な向上も、流石に驚いているようだ。一方で神谷は別の事を考えていた。

 

(この数、明らかに普通じゃない。恐らくまた魔王が生まれて世界征服でもする気なのか、はたまた何処ぞの第三国の組織がアフリカや中東のテロリストよろしく、資金やら技術やらを使って動かしているのか?どっちにしろやばい事に変わりはない)

 

神谷の脳内では、この2つが考えとして導き出されていた。魔王に関してはこの世界特有の物だし、ドラクエみたいなRPGでもストーリー上仕方がないとはいえど毎回魔王がいる。従って魔王が1人とは限らない。

だが問題なのは、後者の第三国の介入である。アフリカや中東には、様々な武装勢力がいる。そしてこれらの勢力には、実は裏で大国による援助が行われていたりする。武器は勿論、資金を送ったり、時には精鋭の軍事工作員を派遣していたりもする。ただ魔物は基本的に意思疎通が図れないらしいので考え難いが、この世には不可能を可能にする無茶苦茶理論の魔法がある。もしかすると魔物と対話したり操ったりする魔法や、魔道具があったって不思議はない。

そんな事を考えていると、1つの違和感があった。

 

「オペレーター。さっきの映像を巻き戻してくれ」

 

「はい」

 

正面モニターに先程の偵察映像、正確には渓谷を進む軍勢の映像が映し出されている。

 

「?止めろ。それから、ここを拡大」

 

レーザーポインターで画面の隅にある、出っ張った岩肌を指す。そこを拡大してもらい、画像処理もしてもらう。

 

「こ、これは!?」

 

「C4だ。恐らく、岩肌を崩落させるトラップだろう。C4は粘土みたく形を変えられる、プラスティック爆薬だ。例え旧世界の一般人が見たとしても、軍事系の知識がなければ粘土だと思うだろう。現地人なら尚更な。だが確かここは、人は誰も住んでいない筈の言うなれば魔物の国。てことは」

 

「75中隊がいる.......。オペレーター!周辺に人工構造物は!?」

 

「お待ちを!衛星で確認しますッ!!」

 

オペレーターがコンソールを操作し、当該地域の静止衛星画像をさかじ探し出す。探し出した画像には城壁を持つ巨大な人工構造物、ウェルゾロッサ要塞の姿があった。

 

「ありました!!メインモニターに映します!!」

 

「......よし。消息不明の第75中隊に関する情報は、何で存在してるかは謎だがこの要塞にある物と断定する!これにより現時刻を持って、第75中隊救出作戦、『オペレーション・レッカーダウン』の発動を宣言する。大至急第7海兵師団と待機中の陸軍第7師団含む、全部隊を急行させろ!!」

 

「全攻撃部隊出動、正体不明の軍勢を攻撃せよ。承認行動TW、1304時」

「こちら作戦本部。陸戦隊を当該地域に向かわせろ」

「第五航空戦隊、電撃開始!」

 

神谷の決断にオペレーター達が次々に指示を伝達し、それに対応して各司令部が指定された部隊を出動させる。これらの部隊が間に合うのかは分からないが、少なくとも素早い決断であったのは確かである。

 

 

「魔軍、そのまま突っ込んでくる!」

 

「狙撃は成功、トラップには気付いてない。さあ、戦争の盤上をひっくり返そう」

 

そう言いながら澤部は悪い笑みを浮かべつつ、手に持つ端末にコードを打ち込む。打ち込み終わった瞬間、RF2の捉えていた出っ張りの岩壁が爆発。そのまま巨大な岩となって、渓谷内にいる魔物を押し潰す。

 

「グキャ?」

「グギャギャギャ!?!?」

「プギャーー!!!!」

 

自分達は無敵で要塞にいる人間共を殺し、食らい、女は犯すと考えていた魔物達は一気に浮き足立つ。本来ならをそれを止めるべき指揮官クラスは、既に岡&ザビルによる超長距離狙撃でその数を減らしている。

無論たくさん上位種は残っているが、一部は勝手に逃げ始めたりして動揺と混乱を招き、ひいては士気の低下をもたらす。

だが奴らは知らない。既にこの渓谷は、トラップだらけのキルゾーンと化している事を。

 

「前菜のトラップは上々。さて、次はオードブルだ」

 

一部の前に出過ぎていたゴブリン集団が、今度は丸太トラップに引っかかる。この丸太トラップは地面に仕掛けてあるロープが切断されると、真上から無数のうんこ付きの先端が尖った丸太が降ってくるトラップである。

ゴブリンは一部の上位種を除けば、基本的に人間の子供と変わらない。なので貫かれると言うより、押し潰されると言った方が表現としては最適だが、先が尖っている上に重力加速によって地面に突き刺さり完全に動きを封じる。文字通り袋の鼠状態であった。

 

「さーて、やっちまえよ。月光」

 

 

ブモォォォォォォォ!!!!

ブモォォォォォォォ!!!!

ブモォォォォォォォ!!!!

 

それは一瞬であった。真上から謎の生物的な足を持った鋼鉄の塊が、渓谷の上から降ってきたのである。

この兵器は初期で散々出てたのに、最近はめっきり出番の減っていたWA2月光である。今回の月光は全てが対戦車仕様ではなく、一部には近距離での対空戦やヘリコプターの様なソフトスキン航空機をターゲットとしたハ型も多く含まれていた。ハ型の武装は機関砲のみであり、戦車と同程度の走行を持つゴルアウスには流石に歯が立たない。そこで一番威力の出る近距離での対人(今回は魔物だから対魔?)戦闘に使われた。

前と後ろを固められて身動きの取れない魔物達の真上から、余程の攻撃でもなければダメージの与えられない装甲を持ちながら、足回りが人工筋肉で出来ている事から有り得ないほどの三次元機動力を手に入れた月光が降ってくる。これ程面倒なことはないだろう。

 

キュィィンブォォォォォォォ!!!!!

 

「ピギャァァ!?!?」

「プギャッ!?」

「グオォォ!!!」

 

中には勇敢にも棍棒で殴りかかる奴もいたが、人工筋肉を舐めてもらっては困る。数十tの重さを持つ巨体をたった2本で支えるほどのパワーを備える自慢の足を使った回し蹴りを、対象の土手っ腹や頭にぶち当たる。しかも回し蹴りなので、巨体を支えるパワーに遠心力が加わる。その威力は、もうお察しください。

 

「グギャ!グギャ!」

 

「グギャ!」

 

負けることは分かっているが、周りの魔物総出で月光に攻撃を仕掛ける。その間にゴブリン・シャーマンの様な魔法職が最前線と最後尾に向かい、魔法で突破口を作り出す。所詮は丸太と岩なのですぐに破壊されてしまい、また進軍が始まる。今度は漆黒騎士も前線に出てきた。

だが.......

 

ガシャン!!

「グギャ!?」

 

「グ.......ギャ.......」

 

落とし穴入りうんこ付き先尖り丸太のトラップに引っかかる。更に調子こいて我が物顔でパカラッてる漆黒騎士も、ワイヤートラップに首を持っていかれて撃退されていく。

流石にこうもトラップの連続では、動揺と混乱は最高潮に達する。進軍速度は殆ど0に等しくなる。そしてその瞬間を「待ってました!」と言わんばかりに、また別の月光ハ型が襲いかかる。今度は岩肌の壁に足でへばりつき、魔法や弓でないと届かない距離から蹂躙していく。

 

 

「あれは戦いと呼べるのか.......」

「こんなの戦いではない」

「騎士道精神はないのか.......」

 

一方でウェルゾロッサ要塞の城壁でも、何故か動揺が広がっていた。最初はリアルタイムで見られる綺麗な映像と双眼鏡に驚いていたが、次第に余りに一方的な戦闘に対して違和感を感じ始めていたのだ。

そんな中、岡に文句を言う騎士が現れた。ジャスティードである。

 

「おい貴様!例え魔物であろうとも、騎士道精神を持って戦うべきだろう!?!?貴様ら蛮族には無いかも知れぬが、我らは誇り高き騎士だ。敵にも敬意を払えッ!!!!」

 

こんな事を大真面目に言われては、日本兵からしてみれば「えぇ.......」である。正直、そんな事言われてもとしか言えない。

 

「アホらしい。確かに戦闘に於いて騎士道精神や武士道精神は尊ぶべき物であるし、相手に敬意を持つ事は戦闘で相対する者への礼儀なのかも知れない。だがそんな物を一々考えていては、勝てる戦にも勝てない。そんな物は犬にでも食わせておけ。

それに奴等、魔物はそんな高尚な精神を理解できるのか?アイツらにも同じような精神があるならお前らの精神に則って、正々堂々決闘でも何でもして戦うがいい。だが奴等は捕虜だろうが民間人だろうが殺すか食うか犯すかする化け物。そんな存在に騎士道だ何だ言っていれば、こっちの身が滅ぼされる。

それに忘れてるのか知らんが、俺達はあくまで墜落してボロボロだった俺達に救いの手を差し伸べてくれたカルズ地区の住民の為に戦っている。本当ならこんな戦争、違法もいい所。バレれば即処刑であっても可笑しくは無いが、受けた恩義に報いる為に無理矢理ここに立っている。正直に言ってやろう。別にカルズ地区の住民以外のエスペラント王国民が何千人死のうが何兆人死のうが、俺達は知ったこっちゃない。だって国民でも被保護者でもない。そういうくだらない価値観を振り翳して、こっちの戦闘行動の邪魔をするのなら」

 

岡はジャスティードの鎧を掴み、身体を持ち上げながら自分の顔の近くに引き寄せる。

 

テメェをあの戦場のど真ん中に落として、孤立無援で敵と戦わせるぞ

 

あんな大軍勢に孤立無援で戦うなど、数百、いや数千回は余裕で死ねるだろう。まあ人種によっては、なんか普通に殲滅しそうなのが約2名ほどいるが。ほら。刀2本持った司令官とか、刀2本持った提督とか。

だがそんな化け物では無い以上、そんな事をされては確実に死ぬ。普通の正常な判断力が残っていれば、ただの脅しとして聞き流せたのかもしれない。だがここが戦場である上に、目の前の男には「本当にやるぞコラ」と言わんばかりの凄みがあって正常な判断力を奪っていた。怖気付いたジャスティードは恐怖に顔を引き攣らせながらその場を逃げる様に去っていった。

 

「まさか正騎士ともあろう者が、あそこまで愚かとは。同じ同胞として、恥ずかしい限りだ。あのバカ騎士に代わって、謝らせて欲しい」

 

「いや、アンタが悪い訳じゃない。腐ったみかんが混じってただけだ」

 

ザビルの謝罪に岡がそう返した瞬間、城壁の王国兵が口々に叫んだ。「漆黒騎士が来たぞ」と。見ればいつかのC2の調査中に射殺した騎士が、隊列を組んでまっしぐらに突っ込んでくるではないか。

 

「あんなに漆黒騎士が.......」

「勝てる訳ないよ.......」

「僕は、騎士団のお荷物です。ブヒッ!」

 

なんか1人変なのが混じっているが、王国兵は目の前に迫り来る「死」に恐怖していた。だが皇国軍人は、誰一人として恐れていない。王国兵が絶望に染まる中、澤部はあるアニメの名シーンのセリフを語る。

 

「漆黒騎士ってのはアレだろ?人間離れし反射神経や運動能力を持ち、獣の様に殺気を感じ、恐ろしいまでの馬鹿力を持つ。剣撃を容易く避け、馬に騎乗し、その馬鹿力で立ちはだかる人間を蹂躙するんだろ?

じゃあ、こういうのはどうだい?」

 

騎馬隊の戦闘集団の足元が突然、爆発を起こしてその身体を吹き飛ばした。それに動揺し騎馬隊は歩みを止めてしまう。それこそが狙いとも気付かずに。

 

「止まったぞ。殺れ」

 

部下の1人が連続してレバーをカチカチと押す。今度は連続的に様々な場所が爆発し、騎士達がまた吹っ飛ばされていく。

 

「ビンゴ!人間様を舐めるとこうなるんだ」

 

「い、いつの間にこんな仕掛けを.......」

 

「仕掛け?馬鹿が突っ込んだら来るから悪いんだ、真っ正面から。心も動きも無い発射装置。そして点ではなく、避けられない面攻撃。クレイモア地雷3,000個の同時点火。避けられる物なら、避けてみろっつの。

よーし。城壁、グレネード斉射。連続発射で火線を張れ。連中に頭を上げさせるな!面だ、徹底的に面で攻撃しろ。ライフル分隊は分隊火力を各員の目標と目標周辺に集中弾幕射撃!

俺たちゃ喧嘩なれしてねぇからよ、おっかなくて正々堂々戦争なんてしないぜ?騎士サマ達よ」

 

指示に従い兵士達が射撃を開始する。真上から降ってるグレネード弾とライフル弾の雨が降り注ぎ、騎士達はその動きを完全に止めてただ地面に倒れてゆく。

騎馬とは機動力こそが、その真骨頂にして最大唯一の強み。その強みを捨ててしまう事になる進軍の停止は、それ即ち死である。結果として漆黒騎士の騎馬隊は、その全てが攻撃を加える事なく全滅した。

だがこの戦闘の合間に、渓谷を突破したのだろう。雑兵軍団と思われるオークとゴブリンの大群が、なりふり構わず突撃を敢行してきた。

 

「多いな。だが、その程度で俺達を超えられるものか。撃ちまくれ!!!!」

 

ズドドドドドド!ズドドドドドド!ズドドドドドド!

ドカカカカカカカカカカ!!!

ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!

 

43式小銃、32式戦闘銃、42式軽機関銃の弾幕が雑兵軍団を貫く。しかも鎧という鎧を装備していないので、威力がデカすぎて2人抜き3人抜きをしまくって雑兵軍団を駆逐していく。

その戦況を静観していた今回の軍勢を率いている将軍、バハーラは焦りを感じていた。

 

「何だあの攻撃は.......。まるでそう、太陽神の使いと戦っている様な一方的な戦闘だ。まさか、また再臨したのか?」

 

「バハーラ様!侵攻軍の第一陣は既にその半数以上が殲滅され、軍団の一部が個々に敗走を始めております!ご指示を!!」

 

「こうなれば、ゴウルアスを投入する他あるまい。後詰に残していた兵も動員.......いや、後詰は要塞の左右や後方に回り込ませて中を撹乱させよ。不可視化の魔法も忘れるな!」

 

「ハッ!」

 

バハーラは虎の子であるゴウルアスを動かす事を決めた。だがバハーラは知らなかった。敵はゴウルアスの様な化け物を歩兵であっても破壊でき、例え数の暴力で来ても撃退できる作戦を準備している事に。

 

 

 

戦闘開始より約二時間後

「大体は倒したな。第一ウェーブ終了、って所か」

 

「だ、第一うぇーぶ?」

 

「いや、まあ、敵の第一波は取り敢えず食い止めただろうって事だ。報告の数よりも少なかったし、もしかしなくても第二波、第三波は間違いなく来るが、一つの峠は越した訳だ」

 

「それもそうだな」

 

岡とザビルは戦闘開始以来、ずっと覗き続けていたスコープから目を離した。流石の2人でも、少しは疲れたらしい。伸びをしたり、軽く腰を動かしてストレッチする。

 

「しかし、ゴウルアスが来てないのが気掛かりだ」

 

「あぁ。だがこちらは既に、ゴウルアスをもてなす準備はできている。油断する気は無いが、恐らく撃滅できる筈だ。殲滅しなくとも、一部を倒せば撤退してくれると思うし」

 

「そうか。余裕、と言ったところか」

 

本当なら頷きたい所だが、実際は違う。確かに武装はどうにか殲滅出来るくらいはあるが、余裕は全くないのである。

 

「ザビルさんだから言うが、正直弾薬は心許ない。確かにこっちの兵は練度も高いし、武装も専用の物を使えば恐らくはゴウルアス撃破でも簡単にできる。だがその武装の弾薬が、本当にギリギリの量しかない」

 

「つまり少しでも外せば.......」

 

「あぁ。こっちにやぶれかぶれで特攻してくる可能性も全然ある。まあ流石に撤退はしてくれると思うが、もし突撃でもされたらここを捨てて逃げるしかないだろうな」

 

その言葉にザビルは驚くのかと思ったが、案外普通にしていた。ただ一言「そうだったのか」と言って終わりである。そのまま視線を慌ただしく動く兵士達に向ける。

 

「俺はこの国が好きだ。雪が綺麗だし、食料は多くないが人々は温かい。魔物に囲まれていて平和とは言えないが、街に行けば活気に溢れていて平和そのものと言える。

そんな国が死に掛けていた時、お前達が現れた。そして魔物を殲滅は出来ずとも、同等以上に戦える武力を貸してくれた。戦って死ぬのなら、俺は一向に構わない」

 

「ザビルさん.......。その、言いづらいんだが、殲滅は出来なくはないぞ?」

 

「は?」

 

「今どういう訳か本国、つまり俺達の祖国である大日本皇国とは連絡が取れない。だが連絡が取れれば、恐らく軍を派遣してくれる筈だ。我が皇国は今の君達の文明から見て、ざっと数百年後の文明を持っている。まあ装備を見ればわかるだろうがな。

とにかく今の武力は、皇国の本気ではない。もし本気でこの戦争に介入するとなれば、もしこの場に第7師団がいれば、魔物を殲滅した上で逆に侵攻するくらいの事は造作もなく出来るだろう。それに最強の兵士にして、我が皇軍の実質的なトップである神谷大将が来てくだされば1人で戦況をひっくり返す位の事もするだろうし」

 

「貴様の祖国は化け物か.......」

 

これがザビルが何とか出した答えであった。このザビルの回答は、ずっとこの作品を見続けてきた読者諸氏であれば正解だとわかるだろう。これまで何度ロマン兵器に馬鹿でかい兵器と奇人変人狂人の集まりである皇軍が、異世界転移してから暴れたか覚えている筈。あの所業を「化け物」と言わずとして、何と言えば良いのだろう。

そんな馬鹿話をしていた中、無線に西門と東門に魔物が溢れていると連絡が入った。これまで渓谷の出口が正面にある南門に兵力を割いており、残りの門に皇国兵はほとんど配備されていないのである。岡はすぐに待機していた近接戦闘仕様である44式装甲車ロ型を西門に派遣し、東門にはC2のパイロットを向かわせた。

 

 

「弓矢構えー!放てぇぇ!!!!」

 

王国兵が城壁から矢を撃ちまくっているが、数が多すぎて全体的なダメージになっていない。それどころか魔物達は数に任せて、倒れた仲間を顧みずに突撃してくる。

そんな中、緑色のフライトスーツを着た男が優雅に歩いてきた。

 

「奴等は訓練すれば生き残れると思っている。門を壊し、壁を破壊し、武器を敵に突き立てる。だが、最も基本的なルールを忘れてはいけない」

 

そう言うとフライトスーツを着た男は、手に持っていたリモコンのスイッチを押す。次の瞬間、門に取り憑いていた魔物達を中心に稲妻が走り焦げ臭い臭いと悲鳴が響く。

これこそ昨日の内にC2のバッテリーと配線を流用した、即席電撃トラップである。

 

「真のハンターはまず足元を警戒する」

 

そしてフライトスーツを着た男、もといC2のパイロットはこのトラップを使う際に言いたかったセリフが言えて満足だったと言う。因みに西門の方は、すぐに機関砲群で殲滅されたらしい。

取り敢えずは一安心かと思いきや、北門が攻め込まれた挙句、突破されてしまったらしい。北門は今回の主戦場とは反対であり、しかもゴウルアスの様な大型魔獣を運用できる程道が広く無かった為、皇国兵は1人も配置していなかったのだ。

 

「40式と対人仕様の極光を出せ!どうせゴウルアス戦には使えないからな。急げ!!」

 

「了解!」

 

岡はゴウルアス戦ではまず役に立たないだろう対人仕様のWA2極光と、現在の装備で唯一兵員輸送に長けている40式小型戦闘車を投入した。すぐに手空きの兵士が乗り込み、北門の方へ急行する。

一方で北門には、このアホも向かっていた。

 

(間に合え!!間に合え!!!)

 

正騎士ジャスティードである。因みに本来なら武器庫の警備だったが、北門が破られたのに勘づいて馬に跨って全力で向かっていた。なぜ向かっているかと言うと、北門の近くにはカルズ地区の住民が避難している避難所がある。つまりサフィーネを助けに向かっているのである。

 

 

「ぐあぁぁぁぁっ!!」

 

非戦闘員の避難誘導を行っていた騎士が、オークキングの錆びた剣により斬られる。いや力任せに叩き潰される、と言った方が良いだろう。

 

「いやあああああああ!!!」

 

避難中の女性が悲鳴をあげ、走り始める。サフィーネ含むその一団は、絶望の淵にあった。戦いに出向いた岡達。しかし城壁が崩れ城門も破壊されている。おそらく作戦は失敗し、岡達は蹂躙されて突破されたのだろう。

オークキングたちがこの区画を襲い始めた時、避難誘導に従って逃げ始めたが目の前の騎士がオークキングにいきなり殺されてしまった。恐怖のあまり他の女たちと共にはチリジリになって逃げたが、目の前を走っていた女がゴブリンにこん棒で殴られ、気を取られていると目の前に魔物の群れが現れた。

殴られた女はぐったりとしている。一方でオークキングは、臭いよだれを垂らしてサフィーネを見る。

 

(確かオークキングの生態は.......)

 

考えたくもない。思い出したくもない!!サフィーネは手で両肩を抑え、迫りくる恐怖に身震いする。

 

「女、おんなぁ.......」

 

オークキングもゴブリンも、よだれを垂らして自分を見る。

 

「いやぁぁぁ!!!」

 

身の毛もよだつ気持ち悪さにサフィーネは耐え切れなくなり、悲鳴を上げて逃げ出す。すかさずゴブリンがこん棒を彼女に振り下ろす。鈍い音がして左手に激痛が走り、彼女は地面を転がる。

 

(か、囲まれた!!!)

 

もうこの先に待つ運命など、簡単に予測できる。快楽に溺れて何も考えられなくなる、なんて言うのは漫画の世界だけ。余程の淫乱痴女でもない限り、一生物の傷を心身共に追うのがオチである。

 

(恥辱を受けるくらいならば!)

 

彼女は自ら命を絶とうと決意する。

 

「残念ね、私はあなた方にあげるほど安くないの」

 

短剣で自分の喉を刺そうとしたその時だった。

 

「ぴびゃぁぁっ!!!」

 

彼女を殴り、いまにも飛びかかりそうだったゴブリンが悲鳴を上げる。

よく見ると魔物の肩には弓が突き刺さっている。

 

「彼女から離れろぉぉぉぉ!!汚物どもめぇぇぇ!!!!!!」

 

剣を抜いた騎士が馬に乗り、飛び込んで来た。彼は力任せにゴブリンを斬る。切られたゴブリンは血飛沫をあげながらのたうち回る。

魔物たちは、騎士に対して敵意をむき出しにした。

 

「じゃ、ジャスティードさん?」

 

「サフィーネ!!今すぐに逃げろ!!逃げるんだ!!!」

 

ゴブリンだけであれば、なんとかなるだろう。しかし敵はオークキングが含まれている。戦力比を考えても、騎士1人でなんとかなる戦力ではなかった。

戦力比がある事は、サフィーネでさえも解る事だった。

 

「で、でも.......」

 

ジャスティードにゴブリン数体が同時に切りかかり、数発を鎧に受けながらも彼はゴブリン2体を切り捨てた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。な、何をしている!!!早く!!早くこの場から立ち去れ!!ここは俺が食い止める!!!」

 

「おいおい。この数相手に1人で戦うのは、ウチの特殊部隊か最強の白亜衆でもないと無理だぜ?クソ騎士野郎」

 

ジャスティードの真後ろから巨大な刀が現れて、手近のオークキングを一刀両断にした。あり得ない光景に、ジャスティードもサフィーネも固まった。

 

「よう、クソ騎士野郎にサフィーネちゃん。助けに来たぜ?」

 

「おまえ、じゃまするか?」

 

「お前?何言ってんだ。俺一人な訳ないだろ?なあ、野郎共!!」

 

オークキングを両断した極光の後ろには、完全武装の皇国兵の姿があった。

 

「おうクソ騎士野郎。出会い頭に中隊長に剣を向けるわ、紋章を馬鹿にするわ、挙句戦場で謎理論振りかざしてくるような、いっそぶっ殺したくなる位クソな騎士野郎だが、我らがオアシスのサフィーネちゃんを守った事は評価してやる。

そしてお前達、魔物共。そこのクソ騎士は良しとして、我らがサフィーネちゃんをどうしようとしていた?恐らく、脳内で裸にしてレイプしてる映像でも思い浮かべたんだろ?よって貴様らは、サフィーネちゃん保護法違反の為、死刑だ」

 

次の瞬間、皇国兵達が引き金を引いた。弾丸が発射され、魔物達はすぐにボロ雑巾へと加工されていく。何せ極光には7.62mmバルカン砲とか、大太刀とか、榴弾機関銃とかを搭載できる。しかも中には火炎放射器を搭載している奴もあり、魔物のBBQが行われたりもした。

そんな中、オークキングの中でも一際デカい奴が他の魔物を盾&囮にしてサフィーネを襲おうとした。

 

「サフィーネちゃん!!!!」

 

「うそ.......」

 

 

 

 



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第三十九話殲滅戦

サフィーネは殺される事を覚悟したその瞬間、腹部を何かが貫いた。

 

「first shot、hit。崩れ落ち、膝で一瞬止まる。head shot aim、fire」

 

ズドン!!

 

「head shot.......hit」

 

そう。オークキングは塔の上に陣取っていた岡が、態々7.62mm仕様から12.7mm仕様に変更した48式の狙撃で殺したのである。

 

「中隊長より救援班。狙撃戦果を報告せよ」

 

『腹部が大穴開けて貫通。頭は、あー、貫通というより消し飛んでます。絶対12.7mm弾使ったでしょ』

 

「愛しのサフィーネを害そうとしたクズだ。本当なら澤部に頼んで710mm砲の支援砲撃で消してやりたい所だ」

 

『うわぁ.......』

 

久しぶりに見た容赦無しモードの岡に、部下達は少し引いていた。一方でサフィーネは無線で連絡中の兵士に「ありがとうと伝えて欲しい」と頼んでいた。そこでその兵士は無線を端末に切り替えて、それをサフィーネに渡した。

 

「それに喋ってみな。狙撃。助けてくれた人に繋がっている」

 

「あ、え、えっと、助けてくれてありがとうございます」

 

『どういたしまして、サフィーネ』

 

茶目っ気たっぷりな声でそう答えた岡。サフィーネはまさか昨日自分がプロポーズした人だとは思っておらず、なんかワタワタしていて可愛い。まあ好きな男性がピンチの時に助けてくれるとかいう、確実に惚れてしまう状況なのだ。多分驚きよりも、照れから来る物だろう。

 

『見たか?これこそが、俺の実力の一端だ。俺の射程内なら、どんな時でもお前を守ってやる』

 

「フシューーーーー.......」

 

「うお!?サフィーネちゃんが恥ずかしさの余り、頭から湯気出してぶっ倒れたぞ!!」

「いやまあ、これ戦犯は中隊長だし」

「戦闘が終わったら、密室に二人を閉じ込めるか?」

 

サフィーネがオーバーヒートで倒れてしまい、救援班の皇国兵は笑いながら担いで40式のキャビンに乗せる。ジャスティードも乗ろうとした来たが、ドライバーの「テメェは自分の馬で、早く持ち場に戻れ。お前の持ち場、ここじゃないだろ」と言われて、トボトボと自分の持ち場へと戻って行った。

 

 

「この距離と、あの狭さをクリアして当てたのか?」

 

「あぁ」

 

「な!?」

 

ザビルが驚くのも無理はない。1kmの狙撃でも普通に凄いのだが、驚いてるのはそこではない。岡は塔や建物との間にある、ごく僅かな隙間を通して狙撃したのだ。イメージで言ったら「針に糸を通す」と言った所だろう。

だがこの糸通しは、1ミリでも左右にずれれば着弾点は建物の壁である。そんな場所を難なく、それも弾丸としては巨大な物で狙撃したのである。こんな芸当はザビルとて、どんなに訓練を積んでも出来る気がしない神技である。

そんな事を考えていると、

 

「ゴウルアスだー!!!!ゴウルアスが来たぞー!!!!!!!!」

 

城壁の王国兵がそう叫んだ。確認すると角の生えた巨大な猛犬、ないし狼といった外見に翼が生えた化け物がいた。アレこそが今回の戦闘における天王山、ゴウルアスである。

 

「各員戦闘準備!!城壁に38式を配備!対戦車兵装を搭載した月光、極光、44式は討って出ろ!!砲撃仕様の月光は城壁内より、支援砲撃にて敵を牽制!!急げッ!!!!」

 

「俺達はどうする?」

 

「我々はこのまま、目を狙撃する。恐らく12.7mm対戦車徹甲弾なら、目くらいなら撃ち抜ける筈だ!」

 

「了解した!」

 

ザビルは自分の48式の機関部やバレルを変更して、12.7mm弾仕様に変更する。その間に城壁の王国兵を下げて、代わりに44式携行式対戦車ミサイルを装備した皇国兵が配置につく。

更に月光、極光、44式ハ型が城門の外に出て攻撃準備に入る。

 

「システム起動。メットとの同期.......完了。システム、スタンバイからアタックへ」

 

48式の最大の特徴は、照準装置が基本的に銃本体に搭載されていない事である。アメリカが使うFGM-148 ジャベリンは、馬鹿でかい装置が発射筒の横に付いている。だがこの48式は照準用のレーザーの出力以外の全てが機動甲冑で代替可能であり、メットと無線か有線で繋ぐ事で操作可能なのである。

勿論代替されてる全ての機能(例えばダイレクトアタックとトップアタックの変更)を、通常の照準装置を取り付けて使う事も出来る。だがこれは他国に供与する際や訓練、或いは甲冑が壊れた際にしか使われることはない。因みに威力は一撃で、あの46式をトップアタック限定だが破壊できる。

 

「発射モード、トップアタックに変更。ターゲット、ロック」

 

ピピッ、ピッピッピッピピィィィィ

 

「発射!」

 

ミサイルは筒から飛び出すと少し下にガクリと下がった後、エンジンに点火して一気に上昇していく。そしてある程度の高さまで行くと、そのまま急降下してゴウルアスの背中に突き刺さり起爆する。

 

グオォォォン!!!!!!

 

「ハハ、あのデカ犬。余りの痛さに、クソ野太い声を出して吠えてやがる!」

 

「車長!だったら、もっと吠えさせましょうぜ!?」

 

「よっしゃ!おい、操縦!前進だ!」

 

「アイアイサー」

 

操縦士がアクセルを踏んで、一気に加速する44式。そのまま狙いをつけつつ、ドリフトしてカッコ良く射撃を開始する。

 

「狙ってー、PON!!」

 

「待ってました!!」

 

ズドォン!!!!

 

何処ぞの巡洋戦艦のKAN-SENが言いそうなセリフと共に150mm徹甲弾が発射され、渓谷前の平原に展開しようとしていたゴウルアスの頭を撃ち抜く。どんな巨体であっても、所詮は生物。頭を吹き飛ばざれては、生きていられない。

あ、ちなみにドリフト射撃は全く意味がない。ただのカッコつけ兼見栄えをよくする為である。

 

「そーれ、こっちも44式に続け!!対戦車ミサイル、一斉発射だ!!!!」

 

極光と月光が対戦車ミサイル旋風を一斉発射してゴウルアスを屠る。ザビルと岡も狙撃で目を狙い、強力な目潰しを行なって殲滅の手助けを行う。そうこうしていると派遣していたロ型とヘ型も乱入し、援護射撃や牽制射撃で援護しつつ対戦車ミサイルで倒していく。

およそ一時間で、ゴウルアスの殲滅に成功した。そして皇国軍が合流し、第75中隊は日本へ帰国!岡はエスペラント王国に残りサフィーネと結婚して、なんやかんやで王位に着きましたとさ。めでたしめでたし。

 

 

〜完〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

となってくれたら、どんなに良かったことか。

現実はというと、後の歴史でエスペラント側では『地獄のウェルゾロッサ』と呼ばれ、日本側では『ウェルゾロッサ防衛戦』として記録されるこの戦いは、より激化する事となってしまった。というのも情報では「ゴウルアスは400体」とされていた。

だが蓋を開けてみれば、400体どころの数ではなかった。400体は確実に倒した筈なのに、まだ後ろには大量のゴウルアスがいた。そして流石に、そろそろ弾薬が底をつき始めていた。

 

「クソッ、偵察に出ていた兵は何を記録していたのだ!」

 

「こりゃ、いよいよ持ってヤバくなってきた。おい彰、聞こえるか?」

 

『なんだこのクソ忙しい時に!!』

 

岡は一つの決断を下した。一部の軍人を逃すことにしたのである。

 

「彰。頼みがある。この要塞から撤退して、援軍を連れてきてくれ」

 

『はあ!?何言ってやがる!!俺はテメェの相棒だ。お前が行く戦場に俺も行く!!願わくば、戦死するのなら共にだ!!学校でそう決めただろ!?!?忘れたか!!!』

 

「忘れちゃいないよ。だが現実問題、対戦車兵器が不足している以上、これ以上の迎撃は不可能だ。奴が戦車なら手榴弾とかグレポンで肉迫する戦法も取れるが、何処が弱点とかわからん以上は火力で押し切る他ない。

お前は空軍からの出向で、本業は攻撃誘導だろ?ならば俺が知る中で1番の練度を持ち、俺が最も信頼する奴であるお前に、俺達の命運を託したい」

 

このままでは、岡達もカルズ地区の皆も恐らく死ぬだろう。ならば指揮官としてすべきことは、出来る限りの手を打って仲間を、守るべき者を守ることである。

 

『軍は動くと思うか?』

 

「絶対に動く。俺達のトップは天皇陛下だが、実質のトップは天皇陛下ではない。我らが軍神、神谷長官だ。あの人なら、あの長官なら絶対に動かしてくれる!」

 

『.......わかった。死ぬなよ、真司』

 

「あぁ」

 

澤部は数人の部下を連れて、40式に乗り込もうとした。その瞬間、澤部の耳にはこの地では聞くことのない音を捉えた。雷とは違う、だが大きな重低音が空から聞こえた。王国兵は殆ど気付いてないし、気付いても雷かなにかと思って気にも留めていない。

だが澤部はこの音の正体がわかった。来たのだ。文字通り、ゲームのルールを書き換えて、盤上すらも根底からひっくり返す最強のチートが。

 

「なあ真司。やっぱりさっきの申し出、断らせて貰うぜ」

 

『なに!?ならば命令だ、援軍を連れて戻っ』

「勘違いすんな。どうやら神谷長官は動かない。そう。あの人は動かないさ。どうやら既に動いていた(・・・・・・・)らしい」

 

『どういことだ?』

 

岡がそう言った瞬間、澤部の頭上と岡のいる塔の真横を燻銀の機体が横切って行った。ザビル含め、王国兵は何が通ったのか分からなかった。だが岡含む皇国兵はわかった。赤い日の丸を描いた逆ガルの得意な見た目のジェット機なんて、大日本皇国しか使っていない。

援軍が。助けが来たのだ。

 

「ターゲット、ロック!投下ァ!!!!」

 

「インガンレンジ、ファイア!!!!」

 

「対戦車ロケット弾だ。受け取りやがれ!!!」

 

「さあ、デザートはミサイルだ。行けぇ!!!!」

 

4機のA10彗星IIが、自機の様々な武装でゴウルアスを撃退する。だが援軍はそれだけではない。今度は東側の森林から、地響きがしてきた。見てみれば巨大な鋼鉄の塊、34式戦車が多数出てきた。それだけではない。44式の各型に加え33式水陸両用強襲装甲車、28式水陸両用装甲車もゾロゾロ出てくる。

海軍陸戦隊も到着したのだ。

 

『こちらは第7海兵師団。師団長、寺山だ。救援に来たぞ、本家』

 

「こちら陸軍第7師団。第75中隊、中隊長の岡であります。よかった、分家の皆様が来てくれたのなら心強いです」

 

『フフ。何を言うかね、岡くん。まさか分家だけとは思ってないだろうね?勿論本家、君達の属する陸軍の第7師団も来ているよ』

 

空を見れば無数の輸送機が飛来し、戦車やら装甲車やら自走砲やら、とにかく様々な兵器と多数の兵員が降下してくる。そしてそこに描かれる紋章は、赤地に北海道マークの紋章である。

この部隊こそ今尚北海道を守り続ける北鎮部隊。皇国陸軍第7師団である。

因みにさっきから出ている本家や分家というのは、軍内でのあだ名である。海軍陸戦隊の第7師団が陸軍の第7師団をリスペクトしており、ある時「自分たちは北鎮部隊の分家だ」と言った事から、いつの間にか陸軍の第7師団を「本家」、海軍陸戦隊の第7師団を「分家」と称するようになった。

 

『岡、大丈夫か!?』

 

「大迫師団長!?ハッ、第75中隊、総員無事であります!」

 

『いや、良かった良かった。こっちは「わい達が乗った機体が墜落した」て聞いて、おってん立ってんおらられんでな(居ても立っても居られなくてな)いっき(すぐに)部隊を準備して、ずっと待機しちょったんじゃ。実はこん出撃も結構フレング(フライング)でな、無断で出撃した後に出撃命令が出た。ハッハッハッ』

 

因みにこの大迫師団長、鹿児島県出身である。お陰で薩摩弁をよく喋るが、偶に何言ってるか分からないことがある。

尚これは主の体験談なのだが、私の母方の祖父は長いこと鹿児島の下の方に住んでいた。でもって冠婚葬祭やらで親戚が集まっていて横で話を聞いていたが、最早何を言ってるのかさっぱりわからない。じゃっとん位はわかるが、それ以外はもうエイリアンの会話を聞いているようだった。都会の方はいいが、割とガチで下の方の鹿児島弁は全くの別物。

 

(この師団長、優秀なんだけど大胆なんだよなぁ。よくクビにならないなおい)

 

澤部は無線で聞こえてきた話を聞いて、心の中でそう突っ込んだ。本来なら軍隊としてあるまじき行為なのだが、神谷が結構その辺を無理矢理捻じ曲げたりとか規則の抜け道を使って無茶やるタイプなので、意外とその辺はある程度は許される。勿論、こういう筋の通った話の時だけだが。

 

「さてお前達。今この異世界の異国の地に、雪国を守る二つの北鎮部隊が揃った。陸軍第7師団!」

 

「第7海兵師団!」

 

「「攻撃開始!!!!」」

 

そこからは実に一方的な戦いであった。46式戦車やら51式510mm自走砲の様な化け物が多数投入されたのだ。もうゴウルアスとて、ダメージは与えられない。だが、それだけではなかったのだ。

 

 

 

エスペラント王国 近海

「メインタンクブロー」

 

「浮上後、直ちに砲撃に移る!610mm電磁投射砲、砲撃準備!!」

 

「了解。航空機発艦用回路、切断。電磁投射砲への回路、接続」

「バイパスをカタパルトから、電磁投射砲に変更します。電圧安定」

「照準装置、観測機に接続。以降、照準はレーダーからリアルタイム目視照準にて行う」

 

北の極寒の海に、その巨体は姿を現した。最新鋭潜水艦『伊2000』である。アリコーン、と言えばわかるだろう。

 

「照準情報、確認した。砲塔ロック解除。展開」

 

船体前部が巨大な砲身に変形し、その砲身はウェルゾロッサ要塞の方へ向けられる。

 

「撃ちー方はじめー!!」

 

雷鳴の如き爆音を響かせ、榴弾が発射される。これに加えて第五主力艦隊の総旗艦、超戦艦『 建御雷神(たけみかづち)』による支援砲撃、更には第五主力艦隊と第三潜水艦隊各艦による、対艦巡航ミサイル桜島による支援攻撃による要因も大きい。

結果として、追加のゴウルアスはその殆どが文字通り消し飛んだのである。これを見て驚いたのは他でもない、無能のダクシルドであった。

 

「あり.......得ない..............」

 

(あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない!!何故、何故こんなことに!!なんなのだ、太陽神の使いとてこんな魔導は使えない。奴らは、奴らは一体なんなのだ!!まさか、魔帝様なのか?いや、そんな筈は。だがしかし.......)

 

「ダクシルド様!早く逃げますよ!!」

 

「あ、あぁ。そ、そうだ。ちょっとまて!」

 

そう言ってダクシルドは檻のある場所に走る。そこにはボロボロになった、中川貴一郎の姿があった。

 

「おいお前、来い!」

 

「いや!いやだ!死にたくない!!!!金なら払う!!」

 

そう喚くが、ダクシルドは聞く耳を持たない。そのまま中川はどこかに引き摺られて行った。

一方でウェルゾロッサ要塞内は、歓喜の渦に包まれていた。あのゴウルアスを、大量に倒したのだ。こうもなるだろう。だがその歓喜の渦は、少しして消沈する事になる。

 

「師団長!本部より、この渓谷の先に魔物の大群がいるとの情報が!!」

 

「岡!行ってこい。この地はお前達の方が詳しいからな。装甲車はこっちのを使え」

 

「ハッ!」

 

落ち着いて鹿児島弁の引っ込んだ大迫が、岡にそう命じた。だがその命令の直後、人だかりの奥から予想だにもしない人間が歌と共に現れた。

 

「もーも太郎さん、桃太郎さん。これからクズどもの征伐に〜♪助太刀するぜ、長官がぁ〜♪」

 

「えぇ!?!?」

 

「ちょ、長官!?!?!?」

 

なんとそこには、完全武装の白亜衆を従える最強の兵士、神谷の姿があったのだ。なんと神谷はあの命令を出した後、プロトタイプの輸送機に乗ってこの地にやって来たのだ。

 

「多分その軍勢の中に、ボスがいるはずだからな。この際、俺達も着いていくぜ。こちとら最近、デスクワークで体が鈍ってるからな。あ、現地人部隊も徴用していいぜ」

 

「な、何故それを.......」

 

「ほら、早く早く」

 

岡達第75中隊と白亜衆は44式に乗り込み、渓谷の先にある平原に向かう。車内でザビルは、さっき出て来た男について聞いた。

 

「岡殿。あの男が、無線で言っていた」

 

「あ、あぁ。大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三大将だ。あの方は皇国軍の実質的なトップであると同時に皇国一の刀の使い手であり、世界最強にして皇国軍の中でも最精鋭の部隊、神谷戦闘団の団長だ。

さっき来た時、後ろに真っ白な鎧を着た連中が居ただろ?アレは白亜衆。最精鋭の神谷戦闘団の中でも、優れた兵士のみが配属される最強の戦闘集団だ」

 

「刀というと、剣の一種だろう?何故銃があるのに剣で戦うのだ?」

 

「知らないな。だが、あの方の刀捌きを普通の物と考えるな。機関銃だろうが砲弾だろうが斬り裂いて迎撃し、数十人を一気に殲滅する。例え戦車、ゴウルアスと戦ってた鋼鉄の塊であっても、すぐに行動不能にする」

 

「それ、人間なのか.......?」

 

「「「「「.......」」」」」

 

岡含む、装甲車に乗っていた皇国兵全員が口を閉ざした。

渓谷を抜けると、平原が広がっており魔物の大群がいた。だが神谷は、例の奴らにとある命令を命じた。

 

「突撃。轢き殺せ」

 

『ヒャッハーーーーー!!!!!!』

『やっぱり神谷閣下は狂ってるぜ!!!!ウラァァァァァァ!!!!!』

 

そう。アルタラス統治機構に装甲車で突撃したり、エストシラント攻略戦で城壁を爆走して人間野球していた狂った装甲車乗りである。

 

「そーら逃げろ逃げろ!!」

 

「ヒャッハーーーーー!!!!!撃ちまくれ!!!!!」

 

クラクション鳴らしながら、四方八方に鉛玉と対人グレネード弾を撃ち込みまくる。勿論生身でその苛烈な攻撃を防いだり、凌いだりする事ができる筈もなく吹き飛ばされていく。

 

「なぁ岡殿。これ、外はどうなっているんだ?」

 

「うん、絶対見るな。ホント、マジで。魔物も逃げ出す位の地獄ができてるから」

 

「ど、どういうことだ?」

 

「今ぶっ放してる武器は、全てが少ーし掠っただけで絶命できる様な武器だ。それが無数に、そして連続して射撃可能。この意味、わかるだろ?」

 

「.......わかりたくなかった」

 

ザビルは理解した。いや。理解したくなかったが理解してしまった、と言ったほうが正しいだろう。

だがそんな事も束の間。車両はいきなり急停止し、予想外の停車に兵員室の兵士達は一気に壁へ押しつけられる。

 

「おっと、コイツは不味い。長官、正面に例のデカイ戦車生物がいやがりますぜ!しかも背中に誰か乗ってやがる.......」

 

『そうか。なら、ちょっと撃退してくる』

 

「は?え!?」

 

次の瞬間、ハ型の頭上を完全武装の神谷が通過する。それに気付いた魔人、バハーラはゴウルアスに命じて爆裂魔法を発射させた。

 

転移(テレポーテーション)

 

だが戦車砲よりも発射に時間がかかる上に予備動作もあって、おまけに弾速も砲弾に劣る爆裂魔法を、砲弾を捉えられる上に刀で切り裂くことのできる神谷の前では対抗策を打たれて終わりである。

魔法によってバハーラの背後に回り込み、そのまま袈裟斬りにしてやろうと踏み込んだ。だがそれを背後に控えた赤い鎧を着用した4人に阻まれる。

 

「チッ。四天王、って所か」

 

目の前のローブを纏った偉そうな魔人(バハーラ)はゆっくりと振り返った。アフリカ系黒人よりも黒い肌に、額には日本の角と謎の四角い宝石の様な飾り。顔から言って、人間なら大体5、60の爺さんである。

神谷はここで1つ気付いた。この爺さんからは、何故か『意思』を感じない。勿論そんな物、神谷でも一目ではわからない。だが勘がそう言っている。そして額の四角い謎の宝石状の物体。大体こういうのはファンタジー系なら、操る為の宝珠的なヤツである。

 

世界時間鈍化(ワールドタイム・スロー)

 

取り敢えず時の流れが遅くなりそうな魔法を唱えて、時間を稼ぐ。ぶっつけ本番だがしっかり流れが遅くなっている、というか止まっている。

 

道具最上位鑑定(トップレベル・アプライザル・アイテム)

 

今度は宝珠的な何かの詳細が分かりそうな魔法で探ってみる。どうやらこの宝珠的な何かは本当に宝珠だったようで、名前を『広域支配の宝珠』というらしい。ゲームとかファンタジー系小説で言う所の精神支配を施す物で、この宝石を額に埋め込むと対象含める周囲の同じ民族に特定の人物への感情を抱かせる事が出来るらしい。

この感情というのは様々で友情、愛情、忠義心を筆頭に果ては憎悪や恨み迄も抱かせられるらしい。つまり今回の一件は、もしかしなくても背後に何かしらの第三勢力が文字通り操った代理戦争だろう。

 

「全く、お騒がせ勢力め。取り敢えず、この哀れな民族は解放しましょうかね。上位道具破壊(グレーター・ブレイク・アイテム)。あ、それから世界時間鈍化(ワールドタイム・スロー)解除っと」

 

時間の流れを元に戻したのと同じタイミングで、バハーラの額にあった宝石が砕けた。恐らく催眠というか、精神支配から解放されたのだろう。そしてその余波なのかは知らないが、ゴウルアスの背中の上で器用に転げ回っている。

 

「うがぁぁぁぁっ!!!」

 

「おーい、爺さん。転げ落ちるぞー」

 

「うぐっ.......。私は、一体、なにを.......」

 

「あ、復活した」

 

記憶が無いパターンか、今から記憶が蘇るパターンか、はたまた暴走するパターンの三択である。

どうやら今回は記憶が蘇ったパターンだったようで、顔が憤怒の表情に染まり「ダクシルドめぇぇぇ!!!!」と叫んだ。

 

「神降ろしの聖者バハーラ様、我々は一体何をしていたのでしょう?記憶が、ありません。他の部隊の者も、記憶が無いと申し立てております」

 

「ダクシルドに我等は操られていたのだ。エスペラント王国には、随分と悪い事をしたな.......。

よし!!これより我らは基地へ戻り、憎きアニュンリール皇国のダクシルドを捕獲する。姫様の幽閉位置については、拷問をして吐かせよう。最後に奴が本国に連絡を取ると姫様の身が危ないので、吐かせた後は、殺処分する」

 

「ははっ!!」

 

「って、ちょっと待て!!俺を無視するなよ!!!!」

 

神谷は完全にスルーされていた上に、なんか勝手に話も進んでいる。流石に突っ込まずにはいられない。

 

「何奴!!」

「バハーラ様お下がりください!!」

「我らの身に変えても御身を御守りいたします!!」

「名を名乗れ!!」

 

「遅いよ気付くの!!俺もう、アンタらが勝手に色々指示を聞いてた時から居たからな!?そのセリフは俺がこの背中に飛び乗った時にi」

 

ツッコんでいた最中に、急に足場が大きく揺れた。ゴウルアスが動き出したのである。

 

「そうだ、コイツ生物だった!!って、うおぉ飛行(フライ)!!」

 

急に動き出した事でバランスを崩し、地面へ真っ逆さまに落ちる。咄嗟に魔法で身体を浮かし、安全に着地する。

でもって着地した場所にはバハーラと紅四天王(仮)がいた。

 

「おいアンタら、ここを動くなよ!!!!」

 

紅四天王(仮)の1人が文句を言おうとした瞬間、神谷が魔法を唱えた。

 

三重最強化(トリプレットマキシマイズ)位階上昇範囲拡大魔法(ブーステッドワイデンマジック)多重究極(マルチ・アンリミテッド・)魔力障壁(マジック・シールド)!!」

 

「なんという.......」

 

「こんな魔法が!」

 

神谷の唱えた魔法は、たった今即興で創り出した防御魔法である。この魔法はゴウルアスの攻撃を受け止める物ではなく、とある攻撃を無効化する為の魔法である。

 

「極帝!!!!」

 

グォォォォォォン!!!!!!

 

上空からやって来た極帝の炎に焼かれ、ゴウルアスは炭化する。その現実離れした光景に皇国兵達は口を開けたままフリーズし、バハーラと紅四天王(仮)は目の前に舞い降りた竜に固まっていた。

他の竜を寄せ付けない王者の風格を持つ、赤い巨大な竜。そして目の前の謎の男が言った「極帝」という名前。その名を冠する竜は、この世に唯1体。七大属性竜の頂点にして、全ての竜種の王。竜神皇帝の極帝しかいない。

 

我が友よ、焼き払ったぞ

 

「相っ変わらずエゲツない威力だな。それ一応、現代兵器じゃないと倒せない筈なんだが」

 

たしかに此奴は物理攻撃には滅法強い。だが炎や純粋な魔力には何故か弱いのだ

 

「ほーん。それで、こんな「ロースト・ビッグドッグ」とでも言うべき事になっているのか」

 

こんな軽い感じで会話しているが、バハーラらからして見れば正気ではない。我々のイメージで言ったら、タメ口で天皇陛下と会話している様なものである。

 

「あ、あなた様は一体.......」

 

「ん?あぁ。大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三大将だ。で、コイツは俺の相棒、極帝だ」

 

その言葉を聞いた瞬間、5人は土下座して平伏した。特に紅四天王(仮)はさっき武器を向けたのもあって、ブルブル震えている。

 

「これまでの数々の無礼、平に御容赦頂きたく存じます。偉大なる者よ」

 

「.......What?」

 

「どうか我等の姫をお救い下さい。偉大なる者よ。さすれば我等の全てを、この命も貴方様に捧げます」

 

唐突に始まった謎の忠誠の儀に、流石の神谷も頭が混乱する。こんなどっかの魔導王が、階層守護者達に言われてそうなセリフをいきなり言われるのだ。どっかの王族でもなければ、混乱するだろう。

 

「あー、取り敢えず落ち着こうか。うん。アンタらは一体何者で、何が目的でエスペラントを襲い、今はどんな状態なんだ」

 

「私めの名は、バハーラ。バハーラ・エングラム・パリンダと申します。我等は鬼人族と申しますが私達はアニュンリール皇国のダクシルドという者が、貴方様が破壊してくださったあの宝石を埋め込み、我等を支配下に置きエスペラントを攻めさせたのです。

奴らは古の魔法帝国復活のために、王城付近の地下に埋まるビーコンを確保したかったそうです。もし万が一にでも掘り起こされぬ為に、我々鬼人族や魔族を制御する実験も兼ねて戦乱が開かれました。

現在我等鬼人族は、ダクシルドの支配から脱却しております。最早あの者に我等を操る事は出来ませぬ」

 

(やはり第三国の介入、それもあの謎国家であるアニュンリール皇国か。にしてもまた根幹にはまーた傍迷惑帝国かよ!決めた。これから異世界での面倒事は、全て古のマジカル傍迷惑帝国が原因と考えよう)

 

このアンニュール皇国という国家、何が謎なのかは大半の読者諸氏は恐らく原作を履修済みなのでお分かりかとおもうが、ここは敢えて解説しておこう。

アニュンリール皇国は南方のブランシェル大陸にある文明圏外国家、の皮を被った神聖ミリシアル帝国を超える技術力を持つ国家である。この国家は何故か北方にあるブシュパカ・ラタンという島以外に外交官含む他国の人間は入れない鎖国国家であり、これまた何故か文明レベルが文明圏外国家相当なのである。だが一度その奥に入れば、ミリシアルをも凌駕する都市が広がっている。この事はミリシアルやムーを初めとする、どの国家にも気づかていない。そんな謎の塊がアニュンリール皇国である。

 

「神谷様。どうか、我等をお使いください」

 

「お使いください言ってもなぁ。お前達の武器は剣とか槍だろ?そんなんじゃ、俺達の戦い方にはついて来れないぞ」

 

「我等の力であれば、人間なぞ鎧袖一触。脳天をカチ割り、貴方様の前に立ちはだかるどんな障害も破壊し尽くして見せましょう」

 

正直言って面倒くさい。こんなどっかの主従のノリ、流石に疲れる。神谷も一応世界有数のボンボンであるが、別に普段の生活は普通とは合わないが基本的には一般庶民と変わらない生活であり、謎の舎弟やら子分を引き連れて闊歩したりもしていない。

軍人が上官に向ける忠誠とは明らかに違う忠誠に対応策が思い浮かばなかったが、そんな事を忘れさせるには十分な報告が飛び込んできた。

 

『長官!正面から敵、ゴウルアス含む魔物の大群が来ます!!』

 

「部隊を展開し迎撃準備にかかれ!!それからそうだ、75中にいた誘導士官を呼べ!!」

 

『了解!!』

 

向上に命令し、その命令が伝達されていく。直ちに部隊を展開し、戦闘準備に取り掛かる。月光で詳細を探らせると、結構エゲツない規模であることがわかった。魔物自体は少ないのだが、鎧を纏いより重装甲化したゴウルアスが20体ほど接近して来ていたのだ。

 

「お呼びでしょうか長官!」

 

「よく来たな。お前は空軍の攻撃誘導士官、澤部彰大尉で間違いないな?」

 

「そうであります!」

 

「よし澤部。お前に、コイツらを貸し与える。存分に使え」

 

そう言いながら神谷はデバイスを操作し、あるデータを澤部のヘルメットに送信した。

 

「!?コイツは.......。成る程、今回の戦闘に態々長官が出て来たのはこの為か」

 

「頼むぜ大尉」

 

「お任せを!!」

 

澤部は無線の周波数をE787早期警戒管制機に繋ぎ、これを中継して目当ての飛行隊に繋げる。

 

『こちらは501攻撃飛行隊、第3小隊。ようやく出番か』

 

「イシスより501、3飛へ。悪いな、待たせちまった。ポイント、ヤンキー・61に敵戦車。頼めるか?」

 

『ウィルコ。任せな。1分後、攻撃する。ターゲットをマークしろ』

 

「オーライ。いっちょ、ドカンと頼むぜ」

 

澤部は周りにいた兵士達のヘルメットに標準装備されている赤外線誘導装置を起動させ、目の前にいるゴウルアスにターゲティングする。

すると頭上にA10彗星が飛来し、2機ずつに分かれ攻撃を開始する。先頭の2機は爆弾を投下し、続く残りの2機は機銃掃射を加えて飛び去っていく。

 

「今のお前か?」

 

「おうよ。長官がご機嫌な兵器をこっちに回してくれたんだ。まだまだあるぜ!」

 

「そりゃけっこ、ってうおっ!?!?」

 

突如、後方に爆裂魔法が着弾し澤部と岡は吹き飛ばされる。見れば後ろには、別のゴウルアスがいるではないか。

 

「回り込まれた。いや、別の場所に潜んでやがったか」

 

「心配すんな。もう五航戦の瑞鶴、翔鶴の飛行隊に攻撃要請してある」

 

「五航戦も来てるのか!?」

 

「それどころか、第五主力艦隊が雁首揃えて近海を航行中だ」

 

余りの大兵力に驚くと同時に、態々数百名の為にここまでの大部隊を瞬時に動かしたであろう神谷に岡は感謝と尊敬の念が絶えなかった。

 

「ピンポイントで撃ってくれりゃ良いが」

 

「なんでだ?」

 

「オレンジの煙を狙えと言ったんだ」

 

モワモワモワモワ

 

岡は何故かオレンジ色の何かが視界の端に入ったので、チラリと横を見る。足元には「SMOKE(O)」と書かれた缶が転がっており、そこからオレンジ色の煙が出ていた。

 

「オレンジって、これか?」

 

「ちょいと投げ損ねてね.......」

 

瞬間、静寂が2人を包んだ。よく耳をすませば、澤部の無線から「ヴァイパー、オレンジスモーク確認」と言う声が微かに聞こえる。

2人は真顔のまま顔を見合わせると、次の瞬間同時に叫んだ。

 

「「はっしれぇ!!!!!!」」

 

2人が走り出した直後、F8C震電IIから多数のASM4海山が発射される。本来は対艦ミサイルだが、こういう時には巡航ミサイルとしても活躍するASM4は目の前のゴウルアスを焼き払った。

残るは後方の1匹である。

 

「おいテメェ、俺を殺す気か!?死んだらテメェの枕元に化けて出てやるからな!?!?」

 

「ハハハ。面白いな。だがな、さっきのヤツならお前が死んだ時、俺もほぼ確実に死んでるからな。俺の枕元に出るなら、俺も幽体として一緒に出ないと。それより、最後のヤツを倒すとしよう」

 

今度は上空を滞空し続けている、とある新兵器に連絡を入れる。

 

「イシスよりアイアンレイン。デカ物を倒してくれ」

 

『アイアンレイン了解!背中にデカい風穴を開けてやる』

 

上空には6発のターボプロップエンジンを搭載した大型の輸送機が飛んでおり、今は丁度ゴウルアスを軸に旋回している。この機体こそ第三十一話『極帝現る』にて聨合艦隊構想と共に進行している『皇軍増強計画』に於いて開発中の「重装甲、重武装のガンシップ」であり、今回神谷が来た目的の一つでもある。

この機体、正式名称AC180迅雷の詳細は設定集を見て欲しい。

 

「OK野郎共。地上部隊の頼れる兄貴、迅雷の初戦だ。これから作られる伝説の先駆けぞ!!気合い入れて撃ち込んだれ!!!!」

 

搭乗員達が拳を掲げて叫ぶ。だがその間も片手間にテキパキ攻撃準備を行い、要請から10秒で準備が整った。

 

「攻撃準備完了!」

 

「射てまえ!!」

 

「撃てぇ!!!!」

 

搭載されている250mm榴弾砲を筆頭に、大小様々な攻撃を持ってゴウルアスを穴だらけにしていく。

 

「うわぁ.......」

 

「我ながらエグいの要請しちまったな.......」

 

ゴウルアスは既にボロボロの肉片に加工されつつあり、なんか段々哀れに思えてきた。この後、全皇国兵が合掌して最後を見ていたのは言うまでもない。

 

 

 

数十分後 アニュンリール皇国秘密基地

「ここが基地のある場所です」

 

バハーラと合流した生き残りの鬼人族の案内により、アニュンリール皇国の秘密基地がある場所まで案内してもらった。

 

「ここか。突入するぞ」

 

二個小隊を周辺の探索と仮拠点となる装甲車の周りの警護に当て、75中隊と残りの白亜衆、それから鬼人族は中に入る。

外見はただの洞窟だったので中は人工的な物かと思いきや、中に入ると岩肌だらけで普通のザ・洞窟であった。しかもすぐに行き止まりにぶち当たる始末。

 

「行き止まり?」

 

「バハーラ、本当にこの道なのか?」

 

「えぇ。記憶が正しければ、この辺りからダクシルドを筆頭とするアニュンリール皇国の者共が住う場所になる筈なのですが.......」

 

そう言うので、試しにその辺の小石を正面の岩に投げつける。当たると音が奥の方に反響した為、この先には恐らく空間があるのだろう。

 

「どうやら逃げたらしいな。おい柿田!お前確か、アレを持ってたよな。ドアブリーチ用の」

 

「融解式C5.......。成る程、確かにそれなら」

 

柿田はバックパックから枕位の大きさのシートを取り出し、岩肌に取り付けて展開する。

 

「点火します。離れて!」

 

全員が岩陰に隠れて、爆破に備える。シートは起動すると上から火花が散り出し、それが縁をなぞって下まで到達した瞬間、真ん中のC5が爆発し岩をぶち抜いた。

このシート、融解式C5はドアブリーチの際に使用するガジェットである。縁には金属酸化物、金属粉、燃料を調合した物質が仕込まれており、作動させると2,000℃の高音でドアや壁を焼き切る。最後に爆薬で吹っ飛ばせば、考えうるほぼ全ての物質を破壊できる。

 

「突入!」

 

神谷を先頭に内部に突入すると、中はバハーラの言う通り近未来的な空間が広がっていた。コンソール、モニター、メーターの様な記録装置は元より、ベッドルームや風呂の設備もあった。

 

「まるで地球防衛隊の秘密基地だ」

 

「おい。取り敢えず、データがあるか見てみようぜ」

 

「おう」

 

そう言いながら1人の白亜衆の兵士がコンソールの前に立つのだが、流石に日本にあるキーボードとは訳が違った。

 

「.......って、これどう使うんだ?」

 

「適当に押せば?」

 

「うーん、じゃあ適当に。あ、ポチポチポチポチポチポチ…」

 

取り敢えず小学生がパソコンで「ハッキングー」とか言ってカチャカチャする様に、気の向くままカチャカチャカチャカチャ押すが何も起きない。

 

「クソッ、動かねー」

 

「魔力がいるのか?」

 

「お前達、それ電源とかがあるんじゃないのか?」

 

向上がそう言った。確かに向上の言う通り、電源ボタンに相当する物は触っていない。

 

「とは言っても、どれだ?」

 

「わからん」

 

「お前達、覚えておけ。こういう時は、こうすんだッ!!」

 

神谷が後ろから現れて、力一杯コンソールをぶん殴った。壊れたかと思いきや、なんと何がどうなったのかは不明だがモニターに光が灯ったのである。

 

「ウソーン.......」

「力技すぎんだろ.......」

「ワイルド過ぎます長官」

 

「HAHAHAHA!動けばよかろうなのだ!!!!」

 

そんなどっか勝気なロリっ娘が言いそうなセリフを自信満々に言っている姿に、皇国兵達は苦笑いしていた。鬼人族は跪いたのは言うまでもない。

 

「長官!監獄に誰かいます!!!!多分、例の鬼姫では?」

 

「バハーラ!」

 

すぐにバハーラが駆け寄る。そこに居たのは黒い肌に小さめのツノを2本生やした、高貴な雰囲気を纏った女性であった。

 

「姫様!!バハーラに御座います!!!!お迎えが遅くなりまして、お詫びのしようもありません!!」

 

「バハーラ.......。その者達は、一体.......」

 

「あの太陽神の使いに御座います!!姫様を救出するべく、手を借貸してくださっていたのです!!!!」

 

バハーラが来て安心したのか、鬼姫はそのまま気を失ってしまった。すぐに外の装甲車に運び込み、一応簡単な検査を受けて貰う事になった。

 

「長官。この監獄、使用された形式があります」

 

「何?他にも誰か収容されてたのか?」

 

「なぁ彰?そういや、なんか俺達以外にも飛行機に居なかったか?」

 

「え?あ、言われてみれば確かに.......」

 

岡と澤部は記憶を辿っていくと、ある人物にぶち当たった。そして同じタイミングで、神谷もある人物の名刺を見つけた。

 

「「「中川貴一郎だ!!!!」」」

 

3人は例のクソ議員だった事を悟り、すぐに捜索を始めようとした。しかしまたもや問題が発生したのである。

 

『こちら本部!あの、巨人がこちらに向かっています!』

 

「巨人?巨人って、あの巨人?」

 

『はい。巨人軍の巨人です』

 

神谷含め、全員が困惑の表情を浮かべる。だが流石にふざけてこんな報告をするわけがないので、取り敢えず急いで外へ出てみた。すると本当に15m近くある巨人が、こちらに向かって歩いて来ていたのだ。

 

「マジかよ.......。総員、戦闘配置!!ありったけのミサイルと砲弾を浴びせてやれ!!!!」

 

命令に従い、対戦車ミサイルと砲弾を浴びせてみるが効果がなかった。それどころか怒らせてしまったのか、急に巨人が叫び出した。

 

「イッシキイィィィィィ!!!!!」

 

「!?今、一色って言ったよな。てことは、コイツ中川か?」

 

「いやそんな訳ないでしょ」

 

岡の推論に澤部が突っ込んだが、どうやら岡の考えは正解だったらしい。

 

「あー、岡?お前の考え、当たりだぞ。胸の辺り、よく見ろ」

 

メットのズーム機能を使うと、左胸、というより首の左下のあたりに何かが輝いていた。さらにズームすると、それは議員バッジであるのがわかった。

 

「確かに中川貴一郎ですね。ですが何が彼をあそこまで.......」

 

「復讐心じゃね?」

 

「澤部大尉、どう言う事だ?」

 

「だって長官。確か中川は、元々総理確実と言われてた議員ですよ?なのに自分は議員にならないどころか、中川視点で言えば青二才のぽっと出のガキに自分が座るべき場所を盗られてしまった。しかもそのガキは三英傑とかいう、邪魔な存在の一員であった。

こんだけあれば、ああいう輩は復讐心くらい抱くでしょうよ」

 

澤部の推理に神谷は納得した。確かにこういう場合は大抵、敵に対する怨みや報復心を利用している。

このタイミングで仕掛けてくるのはアニュンリールの工作員しかいないので、捨て駒兼捕虜の掃除で改造されて放り出されたのだろう。

 

「最後の最後まで傍迷惑だな。進撃の巨人よろしく、うなじを削いでみるか!!」

 

神谷は飛び上がると華麗なワイヤー捌きで、中川巨人の首の後ろを取る。そしてそのままうなじを削いでみたが、全く効果が無い上に斬った所は修復され始めていた。

 

(航空隊はすでに弾薬を使い果たしている上に、この辺りはギリギリ砲撃の射程外。こうなったら、アレを出すしかないか)

 

「長官!指示を!!!!」

 

「部隊を後方に下げ、あの兵器を持って撃退する。アレにそう伝えよ!!」

 

「了解!」

 

向上が何処かに無線を入れている間に、兵士達を後方に下げて攻撃の巻き添えを喰らわない様に配慮する。そして15分程すると、巨人は無数の青白い光に貫かれて絶命した。

この攻撃がどこから来たのかは敢えて語らないが、『海の真なる皇帝』とだけ伝えておこう。だが問題はまだ続いた。今度はこの世界特有の化け物、祟り神という魔物が現れてしまった。

 

「この化け物は現世と幽世の狭間の存在、歴史上1体で我が国の集落が消滅した事は何度もあります。その圧倒的な力と防御力から倒すのは困難を極めるとされており、過去の我が先祖たちは集団で1体に対応し命をもって封印する術を編み出し、幻獣封呪郷と呼ばれる場所に出現のたびに多大な犠牲を払いながら封印しました。

過去の歴史の中で我が鬼人族が「祟り鬼神」を倒した事は、1回しかありません。

祟り神は魔獣ゴルアウスよりも大きく、防御力、力、そして操る魔力も高い。古の魔法帝国も一時は使役を検討していたらしいのですが、成功には至らなかった化け物の中の化け物。いくら太陽神の使いでも、このそう存在には勝てませぬ。しかもそれが600体はいるのです!ここは我ら、鬼人族の誇りに賭け皆様の脱出の殿は勤め上げて見せましょう!!」

 

バハーラと周りの鬼人族は咆哮を上げるが、神谷はそれを止めた。ある秘策を思い付いたのである。

 

「バハーラ。ソイツらは魔物、ではあるんだよな?」

 

「は、はい!その通りにございます」

 

「ふーん。なら、俺が倒そう」

 

「危険ですぞ!!どうか我らをお使いに」

 

「バハーラ。お前達の故郷はここであって、お前達が仕えるべきは鬼姫だ。それにお前達の先祖はその身を賭してこの地を護ったのなら、私もその心意気を継いでやる。

さあ、始めよう」

 

神谷の周りには巨大な青白い魔法陣が展開され、段々と立体的に大小様々な魔法陣が浮かび上がる。

 

「さあ、うけてみよ。超位魔法、失墜する天空(フォールン・ダウン)!!!!」

 

神谷の唱えた魔法はとある小説に出てくる主人公が、自分の友達の娘が操られて戦う事になった時に使用した魔法。この魔法ならば祟り神とて、倒せる筈である。そしてその予想は的中し、祟り神は蒸発したのであった。

この後、岡達は一度帰国。岡はその足で軍を退役し、サフィーネの元へと戻りエスペラント王国の王位を引き継いだ。バハーラ達鬼人族もこの地に残り、神谷と個人的な同盟を結んだ。曰く「もし何かあれば、このバハーラ。鬼人族を連れて、馳せ参じまする」らしい。

まあ何はともあれ、無事75中隊は日本へと帰還したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつも本作品を見てくださり、本当にありがとうございます。
実はですね現在私が二つの作品を同時に書いてる事から、二週間に一本投稿なのはご承知の通りなのですが、恐らく4月からは投稿ペースが更に落ちる可能性があります。
というのも今年は個人的にリアルが多分超忙しくなるので、これまでの執筆時間が取れない可能性があるのです。それでもなるべく二週間に一本を目標に書いていきますし、書ける時に書いてストックも作る予定ですが、もしかしたら急に事前告知なくペースがガクリと落ちる可能性もありますのでご了承ください。
また現在の第三章がタイトル詐欺化してる上に、話数が思ってたより長くなったので少し訂正する事にしました。
本作品含め、どちらの作品も失踪するつもりは毛頭ありません。ですのでペースが落ちてしまっても、気長に待っていただけたら幸いです。今後とも楽しんで頂けるよう、変わらず書き続けるので次回もお楽しみに!


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第六章新たなる真友編
第四十話冷え切る関係と結び付く関係


「アンタなんか大っ嫌い!!!!!」

 

「.......そうか」

 

いきなりの急すぎる展開に、今、画面の目の前にいる全読者が「は?」という顔をしている事だろう。これは前回まで続いていた、エスペラント王国での戦いが一段落してから二週間後の話。

それではここに至る経緯を、振り返ろうと思う。

 

 

 

エスペラント王国での一連の戦争終結から二週間後 大日本皇国 首相官邸

「入るぞ」

 

「お、来たな浩三。で、どうなったんだ?」

 

「あぁ。口頭でも説明するが、その前に報告書だ」

 

この日、神谷は一色に呼ばれて首相官邸に来ていた。勿論、呼ばれた理由はエスペラント王国での一連の騒動に関する報告である。

 

「事が起きたのは12月15日の09:47。千歳航空基地所属の第942輸送航空隊所属の輸送機、C2鐘馗2機が陸軍第7師団隷下の第75歩兵中隊を乗せたまま、グラメウス大陸上空でレーダーからロスト。消息を絶った。

しかし現地住民に救出され、機体こそ完全に壊れたが幸いにも重傷者を1人も出す事なく、全員が無事だった。だが現地住民が属する国家、エスペラント王国は魔物との戦争状態にあり、エスペラント王国はC2の調査に動いた。

23日の昼頃。この調査に立ち会っていた所、向こうの常識では歩兵だと太刀打ちできない魔人と遭遇。実際に交戦規定に従い、調査に立ち会っていた者達が応戦。これを排除した。だがこの戦闘をエスペラント王国の要人に見られ、国王直々に魔物との戦闘に協力要請が入った。

状況を鑑み、これに答え第75中隊は中隊長の岡真司大尉の判断の元、参戦。1月3日に配置されていたウェルゾロッサ要塞に魔物の軍勢が侵攻し、これを倒した。とまあ流れとしてはこんな感じだ」

 

「それは表向きなんだろ?実際はどうだったんだ?」

 

知っての通り、今の報告に嘘はない。全て、正確な物ではある。だが今回の一件で、忘れてはいけない2つの要素が含まれていない。

 

「まずは国内の方だ。まず75中隊の同乗者である中川貴一郎は過激派で、同じく過激派の国防省の事務次官である鶴川徳一郎と結託し、捏造した記録を世間に公開。

三英傑と軍の信頼を地に落とす算段だったが、運が悪い事に飛行機が遭難。中川は例の連中に利用されたんだろうな。巨人化して俺たち襲って、大海の皇帝によって屠られた。鶴川の方も事故に見せかけて、既に消した。今は一応残党がいないか確認しているが、どうやらいないらしい」

 

「全く、過激派連中には困った物だ。この安寧の世を、なんでこうも壊したいんだろうか」

 

「知るかよ。だが日本では安寧の世も、異世界は戦国時代だからな。どうなる事やら。だがまあ、またこんな馬鹿をしでかす輩がいれば永久退場させるだけよ」

 

実を言うと、この過激派の殺害は今回が初めてと言う訳ではない。この三英傑が出来上がるまで、少なからず裏の手段も取っている。

例えば一色なら対立候補を精神的に追い込んで辞退させて選挙に不戦勝で勝ったりもしたし、神谷も日本に潜り込んだスパイやその手先を暗殺している。川山の場合は外交官になってから、脅しやら何やらを使って相手国の外交官を抱き込んだりもしている。

 

「話が逸れたな。もう一つ、今回のエスペラント王国の一件は全てアニュンリール皇国が糸を引いていた。さっき言った『強大な魔人』ってのが、鬼人族という皇国が寄越した連中に操られていた種族なんだが、そこの長的な奴から証言も得ている。

曰く、皇国がエスペラント王国に攻め込んだ理由は、古の魔法帝国が復活する際に使うビーコンが王国にあって、それを確保する為なんだと。魔物の軍勢は魔物を制御する実験だったらしいが、恐らく皇国の影を残さない為だろうよ」

 

「まーた古の魔法帝国かよ。ってことは何か?そのアニュンリール皇国ってのは、魔法帝国を復活させて世界をどうこうするつもりか?」

 

「さーな。奴らの秘密基地にあったデータベースを洗わんと、その辺はなんとも。だがまあ、そんな所だろうよ。差し詰め、魔王を復活させる為に動く魔王軍幹部ってとこだな」

 

改めて聞くと、何が何だかわからない。この世界の伝承では全て「魔法帝国は破壊の限りを尽くした悪虐非道な国家」とされている。そんな国家を復活させる為に動く、謎多き国家。訳がわからない。

 

「この辺は国民は勿論、他国にも漏らさない方がいいな。後で慎太郎にも伝えよう」

 

「慎太郎で思い出した。この後のエスペラント王国への対応はどうするんだ?」

 

「既に外交官を送ったから、取り敢えずは国交を結ぶだろ。それから資源探査して、いい感じに埋まってればあの手この手で掘る。まあその辺は、岡国王に要相談だな」

 

前回も書いた通り、岡は日本を出る事にした。どうやら向こうの言い伝えによると、岡は国王となる男だったらしい。そしてサフィーネは、その妻となるらしい。そんな訳で元の国王は嬉々として退任し半ば押し付けるように岡へエスペラント王国を渡してきて、サフィーネは既に王城で王妃としての振る舞いを仕込まれているとか。

因みに澤部も軍を辞めて、岡について行く事にしたらしい。そしてこの事を聞いた何処かのジャスティードは、本当に血の涙を流しながら軍を辞めて実家に引きこもったらしい。

 

「にしても言い伝えにあったからで結婚できて国王にまでなれる異世界って、マジですごいな。旧世界でやろう物なら、頭おかしい認定待ったなしなのに」

 

「所でさ、浩三。なんでそんな凄い隈ができてんの?」

 

「ん?あぁ。なんやかんやで二週間、書類仕事で死んでたからな」

 

実を言うと神谷はこの二週間、ずっと書類仕事をしていた。年末年始の仕事、王国での一連の出来事の事後処理、対策本部の事後処理と色々やっていた。その結果、不規則な生活を送っており寝ても疲れが取れてないのである。

 

「過労で死ぬぞ」

 

「死にたくないから、今日はこのまま直帰する。久しぶりに家に帰るわ」

 

「お疲れさん」

 

 

 

数十分後 神室町 神谷邸

「お帰りなさいませ旦那様」

 

「ただいま」

 

「今回は、遅いご帰宅でしたな」

 

「今回のは結構面倒な案件に進化しやがったからな」

 

この一連の事件中、神谷含む本部にいた高官は一度も家に帰っていないのである。忙しかったのもあるが事態がどう動くか分からず何が起きても対応できるようにする為と、中川やら墜落した場所が場所だけに情報漏洩の可能性を限りなく無くす為に無菌室状態にしたかったのである。

しかも事件が終わってからは仕事を片付けるのに二週間掛かっており、なんやかんやで一月ぶりの帰宅なのである。

 

「あ、そうそう。姉妹の皆様が、旦那様のお部屋にてお待ちです。恐らく文句の一つ二つは出るでしょうが、覚悟しておいた方が宜しいかと」

 

「実質、デートすっぽかした様な物だからなぁ。機嫌を取ってくるわ」

 

恐らく、そろそろ察してくれた事だろう。この後、神谷はエリスよりビンタされるのである。

 

 

「あー、ただいま?」

 

入った瞬間、一目でわかった。目の前に5人が揃ってベッドに腰掛けているのだが、その顔は一様に怒っているのが見て取れる。

 

「神谷様、そこに座ってください」

 

「はい.......」

 

顔は笑ってるのに声と目は笑ってないヘルミーナが、目の前の床を指さす。こういった時は下手に反抗せず、言われた通りに動くが吉。床に正座する。

 

「神谷様、私達は怒っています。何故だか分かりますよね?」

 

「はい」

 

「何故一ヶ月も、いえ、ずっと仕事ばかりで家に帰らないのですか?」

 

因みに神谷、こんな馬鹿でかい屋敷を構えていながらエルフ五等分の花嫁が来てから結構家を空けていた。今回の件では一ヶ月程空けたし、その前のカルアミークでの一件でも半月は空けている。

更にはちょうど五等分の花嫁が来た辺りにミリシアルとエモールの合同使節団がくる話も上がったりした結果、休みなくずっと働き詰めだったのである。土日祝日関係なく、朝早く出て夜遅くに帰る。仕事の進捗によっては執務室に泊まる事もしばしば。

 

「本当に申し訳ない」

 

「神谷殿。まさか貴様、方々に女を作ってなどいまいな?今回の話、ニュースとやらでは遭難事故だと聞いたぞ。なのに何故、貴様が出る必要があるのだ?

仕事を言い訳に、他の女の元に行ったのではあるまいな?」

 

「私はデートすっぽかされたのが悲しいなぁ」

 

「.......最低」

 

アナスタシアからは浮気の疑いを掛けられ、レイチェルからは結構ガチめに悲しんでる声で言われ、ミーシャからは短いのに一番ダメージのくる発言をされた。

勿論こうなる予感もしていた。少なくとも怒られる覚悟は早稲に言われる前からしていたが、流石にここまで怒ってるとは思っていなかった。

 

(うーむ、これどうやって切り抜けよう。ヤバいな、寝不足で頭が回らん)

 

「何とか言ってください!!!!反省してるんですか!?!?」

 

ヘルミーナの雷が炸裂した。これで現実に引き戻され、反撃という程ではないが神谷のターンが始まる。

 

「いや、うん。怒るのも当然だと思うし、そこに関してとやかく言う事も出来ない。

まずはアーシャからの疑いを晴らそう。恐らく報道では「軍所属の輸送機が、訓練中に乗っていた兵士共々、消息を絶った」としか言われて無い筈だ。違うか?」

 

「そうだ。なのに貴様が出向くのは、どう考えても可笑しいだろ」

 

「それなんだけどな、今回の遭難事故は中々に面倒な事態だったんだよ。報道であった通り遭難しただけなんだが、遭難した場所が魔物しかいないって話のグラメウス大陸の奥地だったから何がどう転ぶか分からない。

俺が行ったのは不足の事態が起きた時の対応策を、その場で提案して即決で指示が出せるだろ?だから俺は行ったんだ」

 

「では浮気では無いのだな?」

 

「証拠はないけどな」

 

少しの間、アナスタシアは神谷の目を見ていた。アナスタシアの目には、神谷の心の内を見極めんとする意志が宿っていた。嘘偽りがないと思ってくれたのか、すぐに視線を外して「わかった」と一言言った。

 

「次はミーナのヤツ。なんで俺が家を空けるか。それは簡単な理由だ。俺が三英傑に名を連ねる者であり、この世が戦国時代みたいな動乱の時代だからだ」

 

「また、三英傑ですか.......。あなたは仕事と私達の何方が大事なんですか!!!!」

 

「仕事だな。お前達含む、この国に住む人間が幸せな毎日を護るのが俺の仕事だ。俺にとって大事な人間を護る=自分の仕事なんだよ」

 

即答で「仕事」と答えた時は悲痛な顔になっていたが、理由を聞くに連れて理解はしてくれたらしい。少しだけ、顔が穏やかになった。

 

「後デートの件は、必ず埋め合わせはする。尤も、また明日から暫く家を空けるから直ぐには無理だけどな。もう少しだけ、待っていてくれないか?」

 

「わかった。今度は一週間くらい休暇とってよね!」

 

「.......少しだけ、期待してます」

 

レイチェルとミーシャも一応、怒りは収まったと見ていいだろう。で、問題なのは一番噛み付きそうなエリスが、まだ一言も喋っていない事だ。

 

「ねぇ、確かお父様は決まりに従う必要は無いって言ってたのよね?」

 

「あ、あぁ」

 

「そう。なら、私も答えが出たわ」

 

そう言うとエリスは右手で、力一杯神谷の頬をビンタした。勿論銃弾や砲弾を捕捉する常人離れした反射神経がある以上、すぐにどうなるかはわかった。

何よりエリスの纏う気配が最初から他とは違い、殺意に近い物だったのもあって何かしらあるのは予測が付いていた。なら避けるなり受け止めるなりすれば良いと考えるかもしれないが、こういう時は甘んじて殴られるのも一手である。

 

「アンタなんか大っ嫌い!!!!!」

 

「.......そうか」

 

「ちょ、エリス!やりすぎだって」

 

「エリス落ち着いて!」

 

レイチェルとミーナが止めに入ったが、エリスは姉達を置いて部屋から出て行ってしまった。それを4人共追い掛けるが、アーシャだけは引き返して神谷の傷の具合を見に来た。

 

「神谷様。その、大丈夫ですか?」

 

「いやまあ、ビンタされただけだし。特段、問題はねーよ。頬の中を切ったのか知らんが、ちょっとだけ鉄の味するけど」

 

「.......ごめ」

「ストップ。その言葉を言うべきは、お前でもエリスでもない。この俺だ。俺はいいから、エリスの所に行ってやれ」

 

そう言っても気にはしている様で、やはり浮かない顔ではあった。だがそれでもアーシャは小走り気味に、エリスや他の姉妹の元へ行った。

それと変わる様に、今度は早稲がやって来た。

 

「これはまた、手酷くやられましたな」

 

「まあ予感はしてたし、ビンタも想定の範囲内さ。早稲、もしアイツらが俺と別れるというか、まあ、ここから出て行く決断をしても止めないでやってくれ。何も言わず、コイツを渡してやってくれ」

 

「これは預金通帳、ですか?それもこんなにたくさん」

 

「アイツらがここに来た時、アイツら名義で都内に支店のある各社銀行の通帳を作ったんだ。もし出て行ったとしても、ある程度は人並みに生活できる基盤を作れるようにと思ってね」

 

試しに1人分の束の預金通帳を開いてみると、合計で一人頭3,500万円の額が入っていた。それが5人分だから、1億7,500万ある事になる。普通に人並み以上の生活が出来る額であった。

 

「他にもスマホに、ハンコに、各種クレジットカードまである。いつもの事ながら、旦那様は準備が良いですな」

 

「これが俺に出来る事だ。俺が居ない間、出来ればアイツらの気晴らしに付き合ってはくれないか?」

 

「承知しました」

 

早稲は通帳等が入った5つの鞄を受け取り、部屋を後にした。神谷は明日からは演習でムーに行くので、さっさと寝る事にして夢の世界に旅立った。

 

 

 

翌々日 ムー国 オタハイト空軍基地

「着いたな〜」

 

「だな〜」

 

五等分の花嫁とのゴタゴタの翌々日、神谷と川山の姿はムーのオタハイト空軍基地にあった。ここに来た理由は神谷の方は合同軍事演習に参加する為であり、川山の方はムー側からの指名で呼び出されたのである。

 

「あ、神谷さーん!こっちですこっち!!」

 

「マイラスさん!あなたが出迎えですか!!」

 

「えぇ。神谷さんが来ると聞いて、無理矢理付いてきました」

 

「そうでしたか。あなたも見かけによらず、結構大胆だ」

 

2人は再会を喜び合い、それを見て川山は「いつの間に仲良くなってたんだ」と驚いていた。

 

「少し取り乱してしまいました。改めまして神谷司令長官殿、川山外交官殿。ムーへの来訪、心より歓迎致します」

 

「歓迎痛み入ります。本日はムー側からの指名という形でお招きいただきましたが、私はこのまま会議場に行けばよろしいですか?」

 

「はい。こちらの者が案内します」

 

そう言うと、マイラスの背後に控える2人のスーツを着た男がお辞儀した。どうやら彼らが川山の案内人らしい。

 

「神谷司令長官殿は、私がある場所にご案内致します」

 

「ある場所?わかりました。では案内、お願いします。マイラス殿」

 

そんな訳で川山は会議の場となるムー国外務省に向かい、神谷はマイラスに連れられて車でオタハイト郊外に向かった。

 

 

「で、私は何処に連行されるので?」

 

「神谷さんには、今から我が国の兵器廠に来て貰います。例の資料を元に試作品を制作しましたので、それを見て頂きたいのです」

 

「成る程。因みにどの様な兵器を?」

 

「流石に艦船や航空機は作れていませんので、銃や歩兵装備です」

 

「ちょっと楽しみだ」

 

車はそのまま郊外の工場地帯に止まり、神谷はマイラスに案内されて試作品という銃がズラリと並んだ部屋に通された。

 

「まずこちらが、我が軍正式配備の銃です」

 

「エンフィールドシリーズのSMLE MkVに、ヴィッカース重機関銃、ルイス軽機関銃、うお!ウェブリー&スコット セルフローディングピストルまである」

 

「そちらの世界での名前ですと、今言った物で全て当たっています。しかしグラ・バルカス帝国を仮想敵とすると、この武器では太刀打ちできないと考えました。そこで我が軍は、これらの銃器を新たに量産する事にしたのです」

 

そうマイラスが言うと、奥から作業着姿の男が様々な武器を積んだ台車を押して部屋に入ってきた。

 

「主力小銃はエンフィールド、こちらではローアルドと呼んでいるのですが、ローアルドをそちらのRifle No.4 Mk 2に変更したローアルド9と、M1ガーランドの口径をローアルドと同じ7.7mm×56mmとしたローランド小銃。軽機関銃はブレンMk2を元にしたグラン軽機関銃。拳銃はコルトM1911を9mmパラベラム弾使用に変更したゴルド拳銃を製造します。また重機関銃もM2を元にした物に変更する予定です。

さらにこれまでになかった汎用機関銃、短機関銃、突撃小銃を新たに製作する事にしました。

汎用機関銃にはMG42の改修モデルであるMG45、或いはMG42Vの設計を流用し、使用弾薬を7.7mm×56mmにしたグロスフス汎用機関銃。短機関銃にはMP40。突撃小銃についてはStG44を元に、7.7mm×56mm仕様にして頑丈な作りに変更した、このカラシ突撃小銃を量産するつもりです」

 

そう言いながら、様々な銃達を机に並べたマイラス。どれもこれも第二次世界大戦で、イギリスやドイツで使われていた傑作銃ばかりであった。

しかしその中で、神谷が震撼した銃があった。StG44をもとにして作ったという、カラシ突撃銃。だがその見た目はStG44ではなかった。カラシニコフ自動小銃として、今も尚派生型が存在する超ベストセラー銃。AK47であった。

 

「どうしました?」

 

「マイラスさん。まさかこのカラシ突撃銃って、パーツ同士の幅が広くて泥に沈めようが土砂に埋めようが、普通に撃ててしまう位、超頑丈じゃないですか?」

 

「よく分かりましたね。この銃は汚れていても、撃った時の衝撃で泥なんかが落ちるんですよ」

 

完全に固まってしまった。確かにAK47は第二次世界大戦終結後の一年後にAK46として軍のトライアルに参加しているので、生まれてしまっても可笑しくはない。だがまさか、こんな現代兵器と差して変わらない物が1930年代位の技術力しかないのに産んでしまうとは思わなかった。

 

「マイラスさん。これは、戦争を一変させる物ですよ」

 

そう言いながらネットでAK47の写真を見せた。スマホに同じ写真があった事で、マイラスは察してしまった。

 

「まさか、そちらの世界でも同じ物が?」

 

「えぇ。AK47カラシニコフ自動小銃。この銃は第二次世界大戦終結直後に生まれたにも関わらず、今も尚進化系が作られる傑作自動小銃です。世界で最も使われた軍用銃として、世界記録になる位に」

 

「.......あの、他にもあるんですけど」

 

そう言って今度は対戦車兵器として、ライフルと擲弾発射機を持ってきた。ライフルの方はボーイズ対戦車ライフルっぽい見た目なんだが、問題は擲弾の方。この時代の擲弾となるとパンツァーファウストなのだが、持ってきた擲弾はどう見てもRPG2である。

 

(パンツァーファウストを飛び越えやがった.......)

 

「その顔を見るに、あるんですね。この擲弾」

 

「.......はい。RPG2と呼ばれるヤツと瓜二つ」

 

どうやらムーの技術力は、結構高いらしい。聞けば他にも色々、兵器を作っている真っ最中なのだと言う。ちょっと量が多いので、箇条書きで書いていこう。

 

陸軍

・装甲輸送車としてドイツのSd.Kfzシリーズを元にした半装軌車、所謂ハーフトラックを採用し量産中。

・他にもジープなんかも量産中。

・戦車が存在してなかった為、新たに軽戦車、中戦車、重戦車、駆逐戦車、超重戦車、対空戦車を開発する。軽戦車にはクロムウェル巡航戦車、中戦車にはM4シャーマン・ファイアフライ、重戦車にはM26パーシング、超重戦車にはマウス、駆逐戦車チャレンジャー巡航戦車を元に開発する。

・野戦砲にはドイツが生み出した万能砲の安里・アサト、じゃなかった。アハト・アハトを元にしたのを既に開発済み。現在鋭意量産中。

・都市部防空用に五式十五糎高射砲、三式十二糎高射砲を製造し、更には初期型のレーダーサイトも建設する。

 

空軍

・現在の主力戦闘機であるマリンの次世代機として、新たにホーカー ハリケーンを元にしたものを生産したい。

・出来れば艦上戦闘機としてF4Uコルセア、陸上戦闘機としてP51マスタング、急降下爆撃機兼雷撃機としてフェアリー バラクーダ、高高度迎撃機として震電、襲撃機としてP39QエアラコブラとIL2、爆撃機としてモスキートとB17を元にした物を生産、配備したい。

 

海軍

・現在は所謂『八八艦隊計画』を遂行中であり、金剛型、伊勢型、イラストリアス級、ヨークタウン級を元にしたのを4隻ずつ建造中。

・ガトー級を元にした潜水艦を建造中。

・駆逐艦にはギアリング級、軽巡洋艦にはエディンバラ級のベルファスト、重巡洋艦にはボルチモア級を元にしたのを計画中(一部は建造中)

・あきつ丸、神州丸、大鯨、間宮の様な特務船の建造を計画中。

 

「とまあ、こんな感じの戦力を揃えていく方針です」

 

(いやまあ、一応資料は与えたよ?うん。でも何でこうも1930年代程度の技術力で、こんなにも冒険してるのかなぁ。作れなくはないだろうけど、絶対時間が掛かるだろ。

仮想敵は例の帝国だから、今すぐ戦争の可能性は余り高くない。それにしたって、何かまるで、そう。日本を当て(・・)にしているかの様な開発計画だな)

 

「何か引っかかる点があれば仰ってください」

 

神谷が何か考えてる事に気が付き、マイラスがそう促す。向こうから振られたので、ここはこれを利用して聞いてみるのがいいと考え今考えついた事を質問してみる。

 

「気分を害すのを承知でお尋ねします。単刀直入に申し上げて、私はこの計画がまるでウチの国の支援を前提にして考えているように思えます。

資料を見たのですから知ってるとは思いますが、大戦期のアメリカは資本主義の名の下に兵器が量産されていました。年間に何百万台もの車を増産できる、圧倒的な工業力があったからこその物量や技術です。シャーマンとかマスタングとかガーランドとかB17なんかは正にその典型例だ。そんな兵器群をこう言っては失礼ですが、たかが第一次世界大戦か戦間期程度の技術力で作るのは、幾ら資料があって未来が見えている様な物とは言えど些か自国で賄うのは無理なのでは?

なにより、貴国は永世中立国。対して我が国に対する全体的な世界的な目は、未だ『第三文明圏外国なのに、列強のパーパルディアを潰した謎多き新興国家』だ。実際の所は貴国の上を行く技術力があっても、国際社会はそれをまだ知らない。なのに我が国を頼りすぎるのは、国の信用問題に関わってくるのでは?」

 

ただ静かに神谷の言葉を聞いていたマイラスは、少しだけ笑みを浮かべながら「お見事です」と言った。

 

「やはり神谷さんの観察眼は素晴らしい。神谷さんの言う通り中立国である以上は、貴国に頼りすぎるのがバレれば信用を失うでしょう。それがもし、無くなれば?」

 

「.......マジか」

 

「気付いたんですね?川山殿が指名されて、今回ここに呼ばれた理由が」

 

「もしかて合同軍事演習の目的すら、それを前提に?」

 

「らしいですよ。私が演習を立案した訳ではないので実際は分かりませんがね」

 

 

 

同時刻 ムー国外務省 会議室

「永世中立国の撤回!?!?」

 

神谷が工廠である考えに達していた時、川山は神谷の達した考えをムーの外務大臣から聞かされていた。

 

「はい。我が国は現在、永世中立国なのは知っての通りだと思います。ですが来るグラ・バルカス帝国との戦争に於いては、永世中立を保っていては国が滅ぶと結論付けました。

ですが、これはまだ内々のお話。恐らく反発も出ると思います。国民にも軍人にも、どうしても列強国であるという驕りがあります。今この場で国民に向かって「グラ・バルカス帝国は我が国より強い」と言った所で、信じる訳がありません。まずはこの空気感を変える必要があります」

 

「まさか、それで今回の軍事演習ですか?」

 

「その通りです。貴国の軍事力はグラ・バルカス帝国以上だと聞きます。まずは貴国の力を示し、国全体に衝撃を与えます。その上でグラ・バルカス帝国の事実を伝え、貴国と我が国の同盟を結ぶべきと言う世論を作り出すのです」

 

恐らく話がややこしいので、わからない読者もいるだろう。なのでムーがどうしたいのか、簡単に解説する。ムーは現在永世中立国で、永世中立国とは自国で自国を守らなければならず、他国との同盟とかこっちで言うNATOみたいな軍事条約に加盟できない。

しかし現在、第二文明圏で勢力拡大中のグラ・バルカス帝国と衝突すると、自国だけでムーを守れない。しかも衝突する可能性は極めて大。

となると軍備の増強や同盟を結んでおきたいのだが、永世中立国である以上それはできない。変えようにも、これまで平和だった上に列強第二位というのもあって国民からの理解は得られ難い。

そこで今回のグラ・バルカス帝国以上の軍備を持つ友好国である日本と合同軍事演習を行い、ムーがボッコボコにやられる事によってムー全体を震撼させる。そしてグラ・バルカス帝国の脅威を流し、国内世論に「日本との同盟を!」というものを作り出そうとしているのである。

 

「また現在、我が国はグラ・バルカス帝国を仮想敵国とし、軍備増強を図っております。それでその、一度貴国に観戦武官として言ったマイラスという者が計画を主導しているのですが」

 

「何か問題が?」

 

「私も意味は分からないのですが、川山殿には「装備が米帝プレイ&聖帝プレイみたいな感じです」と言えば分かると」

 

この一言で大体察した。念の為、武器の名前を聞いてみると「確かそんな名前でした」と答えたので、マイラスの願いも察した。

 

「それで川山殿。恥ずかしながら、その米帝や聖帝というのはどう言う意味なのですか?」

 

「簡単に申しますと「ムーの工業力じゃ追い付かないので支援して欲しい」と言った所です。この辺りは総理とも話したいので今ここでは答えられませんが、きっと良い返事を貰えるでしょう」

 

「何故そう言い切れるのですか?」

 

「外交、経済、軍事の3つの面で利点があるからですよ。貴国と同盟を結んでおけば、国際社会への進出の際に良いアドバンテージとなる。経済面では例の米帝、聖帝プレイという事は、我が国の産業がメチャクチャ潤います。軍事面では我が国もグラ・バルカス帝国を警戒しており、何かあった際の駐屯地や前線基地の設置がやり易くなりすからね。

結構な旨味もあるので、少なくとも総理は良い顔しますよ」

 

その夜、急遽ホテルで川山、神谷、それからオンラインで一色の参加する緊急会議が開かれた。その模様は次回、お伝えしようと思う。

 

 

 

数時間後 オタハイトより8km スラム街の一角

「ほう。コイツが」

 

「えぇ。これが、我が国の誇る武器です」

 

神谷と川山が宿泊するホテルにチェックインをしたのと同じ位のタイミングで、右目に傷痕が入ったスキンヘッドのマッチョな男が見た目としては普通の男性と変わらない格好をした男とスラム街で密会していた。

 

「機関銃にライフル、爆弾まで.......。で、アンタらは俺に何をして欲しいんだい?」

 

「オタハイトで殺戮を起こして欲しいのです。これらの武器を使って、際限無き破壊と殺戮を」

 

「いいね、気に入った。武器を用意してくれりゃ、後はこっちで勝手にやるさ。金も十分貰ってるし、いっちょデカい花火を上げてやるさ」

 

「期待していますよ。破壊者(デストロイヤー)バーチクスさん」

 

 

 



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第四十一話殲滅宣言

その夜 神谷と川山の部屋

『で、緊急会議をしようと言ってきた辺り、絶対面倒な事が起きたんだろ。何が起きやがった?』

 

予定通り、一色のみテレビ電話で参加する、うーん。便宜上、緊急三英傑会議とでも名付けようか。この緊急三英傑会議が始まった。

一色は夕方にLINEで会議やる事を聞いただけで、何が起きたのかは聞いてない。が、川山には今回、外交は勿論、ある程度の政治経済に関する取り決めに関しても自由裁量を与えてある。そうそう連絡が来る事は無いのだが、それがこんな形になっているという事は、面倒事が起きてしまったという事である。それがわかったので、一色の表情も引き締まっているように見える。

 

「まずは俺からだな。今日の会談なんだが、最初こそ予定通りだった。技術関連の法規制緩和の打診とか、日本企業の工場や店の建設なんかに関する具体的な案が出た。これは帰国してから報告書を出すが、もう一つバカでかい爆弾があった。

まだ水面下で動いている計画だが、ムーは永世中立を破棄して日本との同盟関係締結を計画している」

 

『マジか!?』

 

「あぁ。今回の演習、お前も可笑しいと思わなかったか?幾らなんでも、ムーと皇軍とじゃ戦力差がありすぎる。これでは練習にならんのは、軍事に弱いお前でも分かるだろ?

どうやらムーの計画としては今回の演習でムーが大敗する事によって、今のムー国民にある列強第二位というプライドや過信を破壊。そしてグラ・バルカス帝国の脅威を流すことによって、国内世論に「ムーと日本の同盟を。中立の破棄を」というのを作りたいらしい」

 

一色は思ってたよりもムーに行動力がある事に驚いていた。ムーが永世中立を破棄すれば、周りの国との軋轢が生まれても可笑しくは無い。

 

『それはアレか。対グラ・バルカス帝国を意識してか?』

 

「らしい。そこら辺は、浩三に報告して貰おう」

 

「現在のムー軍の仮想敵国は、言わなくても分かるだろうがグラ・バルカス帝国だ。知っての通りムーの軍事力は1900年~1910年代、日露戦争位だ。戦略に関しても、やはりその程度。戦車すら存在しないから、見る場所によっては第一次世界大戦以前の面もある。

対してグラ・バルカス帝国は戦艦大和を始めとする、第二次世界大戦相当の軍備を備えた国家。艦艇も大和を始め、ゼロ戦なんかもいる。第二次世界大戦相当となると、核やミサイル、Me262のようなジェット機の存在すら浮上してくる。現代兵器の礎は、第二次世界大戦で多く生まれているからな。こんなんじゃ勝てないからムーは軍拡路線に走り出した。で、その結果」

 

神谷はスマホで写真を見せながら、前回マイラスが語った計画を説明した。アレを長々と書くのは面倒だし、文字数もエゲツない事になってしまうので今回は割愛させて貰う。

とは言っても中には忘れてしまった読者もいるかもしれないので、簡単に説明しよう。装備が第二次世界大戦程度のアメリカ、イギリス、ドイツ、ソ連、日本の各種のソレになる。以上!

 

『念の為に聞くけど、グラ・バルカス帝国との戦争には間に合う訳?』

 

「正直、グラ・バルカス帝国に関しては殆ど分からんからなぁ。幾ら装備が良くても、軍隊動かすのは金が掛かるからな。だがまあ、ぶつかると仮定したら5年以内って所だろ。

だが一方でムーの技術力じゃ開発できても、量産には時間が相当掛かる。果たして5年で間に合うかどうか」

 

『この際だ、お前達にも俺の構想を話しておきたい』

 

そう言うと一色は一拍置いて、いつにも増して真剣に自分の計画を語り出した。

 

『俺は、この世界を導くリーダー国に日本を、大日本皇国を置きたいと考えている。旧世界に於いて日本はアメリカには軍事力以外では、ほぼ全て劣っていた。だがこの世界に於いては軍事、経済では遥かに上回る。後は影響力があればミリシアル以上の国家にもなれる。

だからまずは国際社会に参入する必要があるのだが、その為の知名度と好感度アップの為に同盟や経済関連でムーを利用したいとずっと考えていた。この話、何が何でも通してみせる。だから俺の計画、お前達も手伝ってくれないか?』

 

この話を聞いた時、神谷と川山は顔を見合わせた。そして、笑った。

 

「なんだそれ、メッチャ楽しそうじゃん!!!」

 

「なんかアレだわ。厨二病臭いのに、本当に現実にできてしまえそうなのが良いわ。どうせなら、平和的に世界征服でもやるか?」

 

2人の反応はどちらも好意的と言うか、超ノリノリであった。正直『三英傑』なんて呼ばれちゃいるが、ここまで上り詰めた理由こそ子供の頃に誓い合った約束だったのだが、その誓いをしたキッカケ自体は単なる子供のノリである。

 

『ハハ。毎回思うが、俺達って三英傑ってガラじゃないよなー』

 

「だって全部俺達がやりたいようにやった結果、なーんか良い方向に行ってるだけだしな」

 

「未だ男子のノリで国家運営してるし」

 

勿論国の安全保障みたいな、直接国家の存亡に係るようなのは真面目に吟味して決断を下す。だがそれ以外に関しては

 

「こんなんどー?」

 

「うーん、いいんじゃね?」

 

「そんじゃ、さいよー」

 

こんな感じで結構軽い。こんな明らかに国家が破綻しそうなノリなのに例えば国内政治なら第一次産業の立て直しの成功して、経済面なら国民の所得が平均して3倍近く上がって、軍事面ではアメリカを遥かに凌駕する軍備になり、外交面では国際社会に於けるリーダーに躍り出たりと、もう化け物みたいな偉業を成し遂げている。

 

「そういや、最近の国民の流行知ってるか?」

 

「国民の流行?」

 

『海外旅行だろ?確か第三文明圏が一番人気で、ムーとかミリシアル、あとフェン王国も人気の上位ランカーだっけ?』

 

会議も終わったので、また適当な雑談が始まる。今回は国民の流行である。

ここ最近は日本も転移後の世界に慣れ始めたので、様々な分野での交流が行われている。特に『異世界』というだけあって、国ごとの世界観はまるで違う。あっちの国は中世ヨーロッパ、こっちの国は戦国時代の日本、そっちの国はスチームパンク、みたいな感じにバリエーション豊かである。旅行先には困らない。因みにこっちの世界でも日本のアニメ、漫画、ゲームと言ったサブカルは超大人気。

 

「そういやよ、お前はいつになったら貸してた漫画返すんだ?」

 

『あ!ヤベェ、忘れてた。どっかで神室町方面に行くから、その時家に寄るわ』

 

「全く。次遅延したら、100円貰うからな」

 

「お前はTSUTAYAか!」

 

こんな感じの雑談は、なんやかんやで一時間くらい続いた。

 

 

 

翌日 オタハイト 国防省

「おーい、そろそろ時間じゃね?」

 

「あ、ホントだ!」

 

「うおっ、スゲー人だかり」

 

この日、国防省にある講堂ではある紙が張り出されていた。その紙の内容、というか題名は『合同軍事演習戦力表』という物である。名前の通り、日本とムーが今回出す軍の戦力をまとめた表である。ムーの方から見てみよう。

※現在ラ・カサミ級以外のスペックが判明していない為、主が同等のスペックの艦や同じ頃の年代の兵器を元に勝手に判断して設定しています。あしからず。また駆逐艦2種類については、私が勝手に創作した物になります。

 

《海軍》65隻

○首都防衛艦隊 33隻

内訳

・ラ・カサミ級戦艦 1隻(旗艦)

・ラ・ヴァニア級空母*1 4隻

・ラ・デルタ級装甲巡洋艦*2 8隻

・ラ・グリスタ級重巡洋艦*3 6隻

・ラ・シキベ級軽巡洋艦*4 4隻

・ラ・ヤハテ級駆逐艦*5 10隻

 

○第一艦隊 32隻

内訳

・ラ・カサミ級戦艦 1隻

・ラ・ヴァニア航空母艦 2隻

・ラ・コスタ級航空母艦*6 6隻

・ラ・デルタ級装甲巡洋艦 4隻

・ラ・グリスタ級重巡洋艦 2隻

・ラ・ホスト級重巡洋艦*7 4隻 

・ラ・シキベ級軽巡洋艦 2隻

・ラ・ヤハテ級駆逐艦 3隻

・ラ・グラデ級駆逐艦*8 8隻

 

《陸軍》61,000人

・首都防衛師団 16,000人

・第一、第五、第八師団 45,000人

 

これがムー側の戦力であり、数も凄いが練度もムー統括軍の中でトップクラスの部隊である。

 

「スゲー!首都防衛艦隊に、最強の第一艦隊だ!」

 

「陸軍だって首都防衛師団に最精鋭の第一師団、そして防衛戦では負け知らずの『最硬』第五師団、それに攻撃力随一の第八師団だぜ!?こりゃ我が軍の圧勝だ!!」

 

「おいおい、大日本皇国のを見てみろよ!戦艦1、空母2、駆逐4、揚陸艦5、特殊艦1だけだってよ!ギャハハ」

 

「しかも陸上戦力も二個師団と一個大隊と一個分隊程度だってよ!!」

 

そう言いながら、若い士官達は日本の戦力を見て笑っていた。確かに彼らの言う通りの戦力である。戦艦1、空母2、駆逐4、揚陸艦5、特殊艦という名の潜水艦1に二個師団規模と一個大隊、一個分隊規模の陸上戦力だ。(正確にはこれに加えて、幾つかの輸送航空隊と演習には参加しないが護衛の戦闘機隊もいたりはする)

だが戦艦は主力艦隊の総旗艦たる熱田型指揮戦略級超戦艦海軍最高の練度を誇る最強の航戦一航戦の赤城と加賀である。しかも陸軍戦力も極道顔負けの第四海兵師団と安定の最強集団、神谷戦闘団白亜衆が師団の正体である。一個大隊の方は頭のおかしい蛮族特殊部隊の飛行強襲群で、一個分隊の方はCrazy demonの先遣陸戦隊である。

そんな訳で弱い皮を被った、最強の面子なのである。因みに真実を唯一知る、マイラスとラッサンのコメントがこちら。

 

「oh.......ウチの艦隊、負けたな」byラッサン

 

「神谷さん、ガチで殺しに来てる.......」byマイラス

 

絶望である。ただでさえ勝てる訳のない兵器群を持つ皇国軍なのに、その中でも最強の部類の兵器と最高練度の最精鋭兵士が来るのだから、もう未来は何が起きてもムーの敗退しかあり得ない。

 

「君達、何をそんなに項垂れているのだね?」

 

「ぐ、グラターナ大将閣下にウェスバイト大将閣下!?」

 

マイラスが振り返ると海軍のトップであるジャブソニー・グラターナと、陸軍のトップであるホーストン・ウェスバイトが立っていた。何方もムーの誇る名将であり、若くして中佐となっているマイラスとラッサンでも雲の上の存在である。

勿論2人とも、バネじかけの人形の様に椅子から立ち上がって敬礼する。その体は緊張のあまり、プルプル震えている。

 

「確か君達は技術士官のルクレール中佐と、戦術士官のデヴリン中佐だね。さっきジャブソニーが聞いていたが、若手最優秀の君達が何をそんなに項垂れている?何か問題でもあったのかね?」

 

「いや.......」

 

「それは、えっと.......」

 

言える訳がない。目の前の男達は、海軍と陸軍のトップ。そんな人間の目の前で「ムーが日本にボロ負けする未来しか見えないので、こうして項垂れてました!」なんて言おうものなら、即刻クビが社会的にどっかへ飛ぶ。

 

「そう言えば、君達は例の大日本皇国に観戦武官として参加していたね。特にルクレール君の報告書、まだ見れてないが大日本皇国の軍備について書かれていたと聞き及んでいる。

そうだ。今度演習があるのだから、君が直接私達に報告してくれたまえ。デヴリン君も戦術面について、詳しく聞きたいと思っていたのだ。今かいいかね?」

 

「「了解しました.......」」

 

まさかのグラターナが2人をご指名の上で、報告しろと言ってきたのだ。他の士官からして見れば、大変栄誉な事であろう。だが今の2人にとっては、今すぐ回れ右して全力で逃げ出したい位である。

だが無視なんてできる訳ないので、一度資料を取りにデスクへと向かった。

 

 

「なあ」

 

「なんだよ」

 

「俺達、クビ飛ぶのかな」

 

「.......懲戒解雇より、自主退職の方が経歴の傷は浅いぞ」

 

2人は胃がキリキリ痛むのを通り越して、なんかもう、雑巾を固く絞る時みたいにすんごい力で捻られてる様な痛みが胃を走っている。だがそれでも歩みは止められず、気付けば指定された部屋の前にいた。

もうここまで来ては引き返せないので、意を決して扉を叩く。

 

「失礼します!ルクレール中佐、参りました!」

「デヴリン中佐、参りました!」

 

「うむ。では、早速頼むよ。まずはルクレール中佐から」

 

「ハッ!」

 

ウェスバイトの命令に従い、2人に資料を渡す。今までの人生の中で一番のプレッシャーと緊張に押し潰され掛けながら、説明を始めた。

 

「大日本皇国軍は合計で六つの軍隊からなります。陸軍、海軍、空軍、海軍陸戦隊、特殊戦術打撃隊、宇宙軍です。

陸軍には「戦車」と呼ばれる装甲を施した兵器があり、イメージとしてはパーパルディア皇国の保有していた地竜を機械式にした物です。この戦車には様々な用途に合わせた物があり、基本タイプの巨大な主砲を載せた物、対空機関砲や対空ミサイルという誘導魔光弾を搭載した…」

 

「ちょっと待て!誘導魔光弾とは、あの誘導魔光弾か!?」

 

「はい。信じられないかもしれませんが、大日本皇国軍は様々な誘導魔光弾を使用します。サイズも大小様々で小さい物だと歩兵が使う程度の物から、大きな物なら国を一撃で滅ぼすものまで。用途も航空機を撃墜するもの、戦車や装甲車を破壊するもの、艦艇を撃沈するもの、国家そのものを破壊するもの。本当に様々です」

 

この時点でグラターナとウェスバイトの口は半開きであった。既に自分の知る戦闘とは遥かに離れていて、全くもってイメージがつかない。

 

「航空機はどうなのだ?」

 

「航空機は多数の種類がありますが、率直に申し上げます。ムーどころかミリシアルの航空機すら、圧倒的に凌駕する性能です」

 

「ははは。そんな訳が」

 

グラターナがそう笑うが、マイラスはそっと一枚の写真を差し出した。F9心神の写真である。

 

「これは?」

 

「これが空軍で運用される戦闘機でして、F9心神と言います。簡単に性能を紹介しますと最高速度は音速の2倍で飛び、開発中のレーダーに映らない機能があり、航空機が溶けるかの様に撃墜できる機関砲を持ち、射程数百km相当の誘導魔光弾を12発搭載できます。

またこれと同程度の航空機が、海軍の航空母艦にも搭載されています」

 

「待て待て待て待て!音速以上だの、レーダーに映らんだの、航空機が溶けるだの、そんな事ができるのか!?」

 

「音速以上の速度を叩き出せるのは、ミリシアルの魔光呪発式空気圧縮放射エンジンを科学に置き換えたジェットエンジンと呼ばれるエンジンを更に発展させた物を使用している為です。

レーダーに映らないのは、レーダーが探知するために放つ電波を吸収してしまう塗料を全身に塗り、機体形状自体もレーダー反射断面積を最小限にする形状になっている為です。

航空機が溶けるのは20mm弾を毎秒数百発ばら撒ける機関砲を搭載しているからです」

 

一応発想自体は、とても簡単な物ではある。だがそれを成し得るのに、どれだけの時間、労力、技術力が掛かるのかは予想がつかない。

 

「個人的に海軍と海軍陸戦隊というのが気になるのだが、それも教えてくれるかね?」

 

グラターナからのリクエストも出たので、今度は海軍と海軍陸戦隊の紹介に移る。

 

「まずは海軍陸戦隊からご説明します。海軍陸戦隊は水陸両用作戦や強襲作戦など陸海空の兵力を連携した統合作戦を主任務としており、簡単に言えば今回の演習の様な『敵地への上陸任務』を専門的に行う部隊です。

陸上兵器に関しては水陸両用戦車、装甲車を除けば基本的に陸軍と変わりません。しかし兵器を揚陸する為に専用に開発された艦艇や、揚陸を支援する艦艇を保有します。強襲揚陸艦という航空母艦の特性を持った艦艇、ドック型揚陸艦という内部に水を溜めて上陸用舟艇の母艦となる艦艇、駆逐艦で艦隊を組織し有事の際は武力介入できる軍です」

 

こちらは意外とマトモというか、ぶっ飛んだ物は出てこなかったので安心した。だがその安心は、次の瞬間ぶち壊されるハメになる。

 

「続いて海軍ですが、海軍には有事の際の艦隊戦力となる八個主力艦隊と国防を専門とする五個防衛艦隊が存在します。主力艦隊の方は全て同じ規模なのですが、一個主力艦隊=237隻です」

 

「「.......はい?」」

 

グラターナとウェスバイトの声がハモった。今マイラスは聞き間違えじゃなければ、他国の全海軍艦艇の合計数と同等の艦艇数が一個主力艦隊と言ったのだ。

 

「この艦隊にどの様な艦艇がいるかと言いますと自分で沈んだり浮上したりできる潜水艦と呼ばれる艦艇、飛行目標の探知と破壊を重点に置いた駆逐艦、潜水艦の探知と破壊を重点に置いた駆逐艦、航空機の破壊というより殲滅を得意とする重巡洋艦、突撃艦と呼ばれる70ノット以上で航行可能で船らしからぬ挙動が可能な艦艇等です」

 

「ルクレール君。既に化け物しか居ないのは分かったのだが、戦艦と空母はいないのかね?」

 

グラターナもウェスバイトも、なんかもう慣れてしまった。というか、この程度で驚いていちゃ身が持たない事を悟った。

 

「勿論います。ですが戦艦と空母に関しては、先程の艦艇で化け物と呼ばれてしまっては立つ瀬が無い位に化け物です。

戦艦ですがグレードアトラスター級が、8隻」

 

「「ゴフッ!」」

 

同時に吹き出してしまった。無理もない。格下の列強第五位とは言えど単艦で滅ぼした仮想敵国の化け物戦艦が、日本に8隻もいるのだから。

 

「グレードアトラスター級の主砲を2基搭載し後部を空母にした戦艦、そして今回の演習でも参加している真のバケモノが各艦隊に1隻ずつ配備されています」

 

「もう驚かないぞ!!」

 

「ウェスバイト大将閣下、これを聞いてもそう言ってられますか?

その戦艦の名は『熱田型指揮戦略級超戦艦』と言うのですが、全長が1500m、全幅が150m、速力が80ノット」

 

「待て待て待て待て!!!!!!」

「今ラ・カサミ級の11倍の全長、4倍の全幅と速力と言わなかったか!?!?!?」

 

驚かない方が無理である。ムーの威信を掛けて建造したムー海軍の象徴たるラ・カサミ級が、足元に及ばないどころか天と地程の差があったのだ。

 

「驚くのはまだ早いです。主砲が710mm四連装砲9基であり、それ以外にも大小様々な砲塔を装備しています。側舷の速射砲群の一斉放火にすら、ラ・カサミ級では耐えられないでしょう」

 

「空母の方も化け物か?」

 

「グラターナ閣下の仰る通りです。普通の空母ですらグレードアトラスター級より長い位で、艦載機も7、80機は載せられます。しかし今回の演習に参加する赤城型、正確には『赤城型要塞超空母』と言うのですが各主力艦隊に2隻しか配備されていない、全長が1200mで艦載機も600機以上搭載できる化け物空母です」

 

もう驚きすぎて無である。口を半開きに、体がプルプル震えていた。如何なる戦略と戦術を立て万全の装備で臨んだとしても、強いと思っていた自軍が確実に負けてしまうのが分かったのだ。それも圧倒的大差が付いていると来れば、もう感情なんて消えてしまうだろう。

 

「あの、驚愕しているところ大変恐縮なのですが、まだ化け物っぷりはありますよ?」

 

「もうこれ以上何があると言うのだ.......」

 

「特殊戦術打撃隊というのがありまして、今回の演習には参加していませんが、もし演習に出てきたとしましょう。勝負の土俵が違いすぎて、絶対に勝てません。

何せこの軍隊には空を飛ぶ超大型の航空母艦、2本の足で大地を踏みしめる鋼鉄の巨人、大量の無人戦闘機を積んだ無人の大型空中母機、遙か高空を飛ぶ大要塞と言った兵器群が存在します。しかも防御力は爆弾や砲弾をぶつける事が出来たとしても、ありったけの数を撃ち込まないと倒せない位には頑強です。というかそれ以前に、我が国の兵器では届く事すら出来ないのですがね」

 

そうマイラスが語った直後、2人が椅子から落ちた。驚愕しすぎて脳がオーバーヒートしたのか、気絶してしまったのである。マイラスとラッサンは顔面が真っ青になり、すぐに衛生兵と軍医を呼んでグラターナとウェスバイトは医務室に担ぎ込まれたのであった。

 

 

 

数時間後 大日本皇国 神室町 神谷邸

「ねぇ、今頃神谷様はどうしているのかしらね?」

 

「きっと仕事に仕事で、私達のことは忘れているわ」

 

そうヘルミーナとミーシャが趣味となったお菓子作りをしながら、愚痴というか神谷への文句を語っていた。日本に来てから自然が恋しいのはあるが、自分の村は勿論、これまで「都会」と思っていた街よりも遥かに発展した技術と文化、そして生活に不満はない。

特にこの家での生活は、とても快適な物である。朝起きればモーニングティーをメイドが用意し、とても美味しい食事が出る。午前中はマナー講座や日本での最低限の一般常識を学ぶ講座こそあれど、終わればまた豪華な昼食が振る舞われる。

午後は基本自由で、各々の趣味をしたり姉妹で集まってのガールズトークが始まる。因みにヘルミーナとミーシャがお菓子作り、レイチェルがアニメ鑑賞、読書(漫画やラノベ)、ゲーム、アナスタシアが最近ハマった戦国武将関連の作品鑑賞(最近は葵徳川三代が好きらしい)エリスがドラマや映画鑑賞なんかをして過ごしている。

夜になればやはり豪華な食事が出て、スーパー銭湯並みの巨大浴場やサウナなんかに入って体を癒し、風呂から出ればマッサージ師の資格を持った者からのマッサージだって受ける事が出来る。寝る時も大きなベッドで眠れるし、寝心地は言わずもがな極上である。

だが一つだけ不満がある。一応の婚約者である神谷と会う事が、極端に少ないのだ。殆ど家に帰らず、帰ってきても深夜で早朝には出て行く。しかも内容が仕事である為、怒るに怒れない。早稲を始め使用人も「仕方ない」で片付けてしまっているので、この事に文句は言わない。それでずっと溜まりに溜まったイライラがこの間噴火し、それがあの結果である。

 

「ミーナ姉様、ミーシャ姉様。いる?」

 

「あらエリス。どうかした?」

 

「お菓子はまだ出来てないから、試食できないわよ」

 

2人が使っているキッチンにエリスが入ってきた。偶に試食やつまみ食い目的に、エリス含めちょこちょこ姉妹が来襲する。だか生憎と、まだ生地を混ぜている最中でつまみ食いも試食もできそうにない、

 

「今日は違うわ。あのね、私、この家を出る事にしたから」

 

「そう。って、え?」

 

「出て行くって、この家を?」

 

「そうよ!」

 

そう言ってエリスはデカイ胸を張っているが、普通に考えて愚策である。幾ら日本に関する最低限の常識を知っているとは言え、根本的にクワ・トイネとは文明レベルが違う。江戸時代や戦国時代の人間がタイムスリップして現代で生活できるかと言えば、恐らく無理だろう。

今は神谷に仕える人間が居るから生活できているのであって、出て行くという事はその庇護を受けられないという事のだから生活はできる訳ない。

 

「出て行くっていうけど、お金は?生活は?家は?私達が頼れる所なんて、神谷様以外いないでしょう?」

 

「それは.......」

 

「それに村に帰っても、掟破りとして殺されるだけよ。掟破りがどうなるのか、あなたも知っているでしょう?」

 

村の掟を破った者は程度にあった刑罰を与えられるのだが、処刑の場合も立場や罪の程度によって処刑内容が変わる。焼殺、斬殺、絞殺、獣殺辺りが普通だ。処刑自体が極稀、というか10年に1人いるかいないかなのだが、五等分の花嫁は一度だけ極刑にあたる罪を犯し最も苦痛の大きい社会を持って殺された者を知っている。その殺され方も。

 

「エリス様、先程のお話お聞きしました」

 

今度は早稲が入ってきて、いつもの様に優しく声を掛けてきた。出て行くと聞いたのに、まるで対応は決まっているかの様な感じがする。

 

「なに?私を止めるの?」

 

「いえいえ。旦那様より、皆様が出て行くという決断を下しても止めるな、と仰せつかっております。ですが先程ヘルミーナ様が言った様に、行く宛や生活の宛はあるのですか?」

 

「.......」

 

黙った所を見る辺り、怒りか何かで冷静さを欠いていて後先考えていなかったのだろう。

 

「もし出て行くというのなら、こちらをお持ちください。旦那様より、これだけは何が何でもお渡ししろと言われておりますので、何が何でも受け取って貰います」

 

そう言って例の封筒を差し出した。早稲から引ったくる様に受け取ると、中を確認した。エリスとしてはこれまで掛かった経費なんかの請求書が何かと思っていたが、中身は知っての通り各種通帳、ハンコ、スマホ、クレジットカードなんかである。

 

「.......なんで、なんでこんな事してるのよ!出て行こうとする人間に、こんな大金渡すなんて頭おかしいんじゃないの!?」

 

通帳を見たエリスはそう怒鳴った。どういう事かと2人も通帳を見てみると、そこには前回も言ったように合計3,000万円の預金がある事が示されていた。

 

「エリス様が旦那様をどう思っているのかは分かりませんが、あの人はこういう事をするお方なのです。特に今回の事に関しては掟にあって破れば皆様のお命の危険があるとは言えど、所詮はこちらの勝手な都合で故郷から引き離し慣れない土地で過ごさせる事になってしまったと嘆いておりました。その気持ちだけは、お受け取りください」

 

「.......」

 

「早稲さーん」

 

振り返るとそこには、総理大臣の一色が立っていた。その手には、神谷から借りていた漫画の入った紙袋が握られている。

 

「おぉ、これはこれは一色様。どうなさいました?」

 

「浩三から借りてた漫画を返しにきました。ん?もしかして、あの子達が例のエルフ花嫁?」

 

「左様にございます。皆様。こちらは大日本皇国の総理大臣、一色健太郎様です」

 

なんか雰囲気的に何かあった後なのだが、その状況で自己紹介に持って行く辺り本当に困っているのだろう。

 

「あー、総理大臣の一色です。アイツとは親友で、同じ三英傑やってます」

 

三英傑と聞いた瞬間、3人の表情が変わった。さっきのゴタゴタを知らない一色に取ってはなんでから分からないだろうが、3人にしてみれば神谷の素顔を知る相手が目の前にいるのだから当然である。

ここでヘルミーナが、行動を開始した。

 

「あの、一色様。三英傑という事は、神谷様のお仲間なのですよね?」

 

「まあ、そうなるのかな?」

 

「私達は今現在、神谷様に不信感を抱いています。私達を愛しておらず、浮気をし、仕事を傘にしている。そういう風に考えています。ですが従者の皆さんは、それは無いと仰ります。あなたから見て、神谷様がどの様な人物かを教えてください」

 

普通なら親友がこんな風に思われてるのだから、怒るのが当然だろう。だが一色の場合は、見事なまでに勘違いされてる事に笑いそうになっていた。

 

「そうだなぁ。まずアイツは同じ志を持つ同志で、俺の大切な真友で、俺が政治をする上での盟友だな。今言ってた浮気とか仕事を言い訳にしてるとか、そんな事は絶対に無いと断言できる。

アイツは転移する前から、エルフが大好きでな。君たちの様な子達が、好みのど真ん中だ。だから浮気は絶対にあり得ないし、ここ最近は本当に国家的にも忙したかったから仕事だったんだと思うよ。それ以前にアイツは今の軍のトップ、いや軍人という職に誇りを持っている。仕事言い訳にしてどうこうするような男なら、三英傑なんて呼ばれてないさ」

 

「.......本当ですか?」

 

「あぁ。この間もここに帰る前に俺の所に寄ったんだが、アイツは殆ど眠らず二週間ずっと仕事してたからな」

 

ここに帰る前という事は、あの日エリスが神谷にビンタかました日である。実を言うとあの後、そのまま眠っていた神谷にエリスは人知れず怒りを覚えていた。

しかし蓋を開けてみれば、二週間殆ど眠らず仕事をしていたという。段々とエリスの顔も影が見え始めた。

 

「私達はなんて事を.......」

 

「神谷様.......」

 

(この表情を見るに、喧嘩でもしたな。それにアイツの評価を聞いてきた辺り、一方的に怒っちゃったパターンだな)

 

表情を読んで心を見透す力は三英傑は、全員身につけてはいる。だが、その実力は一色の方が一歩リードしているのだ。何せ一色は首脳会談なんかをする中で、やはり独裁者との会談もあった。そう言ったヤツを前にして、その場で取り決めをする際の腹の探り合いや、政界の中でも駆け引きで鍛え上げた結果、その力だけは最早神の領域に入っていると言ってもいいだろう。

ほぼ確実に相手の考えを完璧に言い当て、その上で行動する。武力を封じられた上で敵に回すと、一番厄介な相手と言える。

 

「何があったかは知らないけど、喧嘩した位なら笑って許すと思うぞ。アイツ、仲間や身内には優しいから」

 

「.......姉様、私やっぱり止めるわ。さっきの」

 

エリスは決断を下した。もう少しだけアイツを、神谷を知ってからでも遅くは無いのだから。口では「お金はどうするの?」とか言っていたヘルミーナとサーシャも内心では心配してい為、その言葉に安堵しているようだ。

 

「じゃ、俺は帰ります。早稲さん、あの妻達を頼みます」

 

「勿論でございます」

 

 

 

 

 

*1

15cm単装砲 10基

8cm単装高角砲 8基

8.8mm連装機銃 12基

8.8mm単装機銃 9基

艦載機 30機

*2
30.5cm連装砲 2基

20.3cm連装砲 4基

15cm単装速射砲 10基

8cm単装速射砲 8基

8cm単装砲 12基

*3
20cm単装砲 6基

8cm単装高角砲 4基

8.8mm連装機銃 30基

8.8mm単装機銃 10基

*4
15cm単装速射砲 7基

8cm単装高角砲 8基

*5
12cm連装砲 3基

8.8mm連装機銃 10基

*6
15cm単装砲 10基

8cm単装高角砲 8基

8.8mm連装機銃 12基

8.8mm単装機銃 9基

艦載機 25機

*7
20.3cm連装砲 2基

15.2cm単装速射砲 14基

8cm単装速射砲 12基

*8
12cm単装砲 4基

8.8mm連装機銃 8基



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第四十二話日武合同大軍事演習(海戦編)

数日後 ムー国首都オタハイト オタハイト海軍基地 大講堂

「演習相手は皇国軍か。どっちが勝つかな」

 

「パーパルディアを滅ぼしたとは言えど、流石にムーには勝てねーよ」

 

「おいお前ら!そろそろ始まるぞ!!」

 

いよいよ合同軍事演習が始まろうとしているこの日、ムーの士官達は大講堂で観戦に興じていた。画質は粗いが、一応魔法による恩恵でムーでは既にカラー映像と生中継の技術がある。今回はそれを活用して両国の艦艇、そして一部の陸で戦う将兵には日本製のボディカメラを装備してもらっており実際の戦闘をリアルタイム観戦して貰う事になった。

それではここで、今回の合同軍事演習におけるルールを簡単に解説しよう。

 

・演習の想定は『オタハイトに大日本皇国軍が侵攻し陸上部隊を揚陸させようとしており、海軍が揚陸艦部隊の迎撃のため出撃。陸軍が万が一のために、オタハイトに防衛線を展開した』という想定。

・演習での勝利条件は、ムーは72時間の間、最終防衛ラインにあるフラッグの防衛に成功する事。日本は72時間以内に最終防衛ラインのフラッグを奪う事。

・実弾の使用は勿論禁止。

・戦略、戦術に関しては自由。

・実弾以外については、原則使用可能。しかし人に害があるものは使用禁止。

 

と言った感じである。因みに判定に関してだが、日本が対抗演習で使う装置を用いている。艦艇については艦に薄いセンサーシートの膜を貼り、演習弾の命中角、速力、選択弾種、被弾対象の装甲圧、被弾箇所をコンピューターが計算しダメージ判定を出す。更に周囲に特殊な煙も撒き散らす。この煙に触れると水兵たちの装備しているセンサーシールが反応し、それによって甲板上の乗員のダメージ判定も出せる様になっている。航空機の方も同様である。

陸上戦に於いてはセンサーシールを貼った服やベストを装備し、銃に装備されている赤外線照射装置で被弾箇所を測定しダメージを割り出す。因みにこれは使用される演習用の空砲と連動しており、音や発射炎も同じ様に発生するし、弾切れや弾詰まりの概念も存在する。

爆発物の場合は艦艇と同じく、特殊な煙を用いて判定する。爆発するとセンサーに反応する仕掛けが施された、黒い煙を撒き散らす。これによって被弾箇所とダメージが判定される。

平たく言うと『人が死ぬ事以外は全てがリアルな、実戦に最も近い演習』ができるのである。

 

 

「提督、間もなく時間です」

 

「そうか。わかった」

 

第一主力艦隊の司令兼、海軍のトップである山本五十八提督が腕に嵌めたロールスロイス製の時計を見つめる。現在の時刻は08:59。後30秒で09:00、演習開始時刻となる。

 

「負ける事は無いだろうが、慢心、ダメ、絶対、だな。諸君!同じ海に生きる水兵として、最大限の礼節を持って演習に励め!!」

 

「「「「「アイ・サー!!!!」」」」」

 

山本がそう言った瞬間、演習開始を告げるベルが鳴った。皇国海軍は勿論、ムー海軍の方も全員の顔が一層引き締まる。

 

「航空参謀!早速一手を打つ。赤城と加賀に鷲目の発艦を指示せよ!」

 

「了解であります。発艦機数は2機ずつで、ミッションは偵察兼警戒ですね?」

 

「その通りだ。その間に本艦は、上空警戒用の震電IIを上げさせろ!戦術長!」

 

「アイ・サー」

 

山本は次々に指示を飛ばし、取り敢えずの初動を終わらせる。命令を受けた赤城と加賀は、直ちに早期警戒機であるE3鷲目と護衛機を発艦させた。

一方で旗艦たる熱田は、後部甲板の発着艦口が開きF8震電IIの発艦準備に入っていた。

 

 

『第一飛行隊発艦せよ。第一飛行隊発艦せよ』

 

「行くぞ!」

 

「オウ!!」

 

当該パイロット達は待機室から格納庫まで伸びる滑り台に飛び込んで、格納庫まで一気に直行する。その間に整備兵達は機体の準備に取り掛かる。機体を駐機スペースから高速クレーンで移動させ、エンジンに火を灯し、各種空対空ミサイルの装填を開始。

また発艦担当の兵士達は発艦用信号機(ガミラス空母に付いてる電光掲示板みたいなの)を点灯させ、発着艦口の後方にシールドを展開させ、格納庫から発着艦口まで機体を上げ、そのまま発艦させる射出装置を起動させる。

 

「いい音だ。ご機嫌そうでなにより。エンジン、準備よーし!」

 

「ミサイル装填よし。機関砲弾装填よし。セーフティー・ピン・リング解除よし。攻撃装備、準備完了!」

 

機体の準備が完了した頃、パイロット達が格納庫に到着。機体に飛び乗りシステムの起動と、フラップなどの動作チェックを行う。チェックの完了したパイロットが各々の愛機の専任整備士に「問題なし」の合図、サムズアップとかコルナ(所謂ウィッシュのハンドサイン)のハンドサインを互いに送り合う。

それが終われば専任整備士が機体を発艦位置まで床ごと移動させる。発艦待機位置に到達すると、後は自動で最後の発艦シークエンスに移る。機体が下から持ち上げられて脚を畳み、機体を2本の支柱で固定させる発艦用の台座にセット。そのまま発艦位置に移動し、機体が斜めの状態で止まる。

 

『一番機、発艦する』

 

この宣言がパイロット口から出ると機体は勢いよく甲板上の射出レールの上まで持ち上げられ、エンジンをフルスロットルに瞬間的に上げさせてカタパルトが起動。最高速に達しながら、打ち出されていく。

因みにイメージとしては宇宙戦艦ヤマトの発艦シーンが近い。あれは上から下に下がってからバックで発艦するが、こちらの場合は下から上に上がってから、普通に正面を向いて発艦する。

一分で全機発艦し、艦隊の護りにつく。

 

 

 

数十分後 皇国海軍艦隊より150kmの海域 上空

「おっと、おいでなすったな」

 

「あ、ホントだ。機長!ムーの偵察機が艦隊の方に向かっています!!」

 

「すぐに通報しろ。我々はこのまま探知を続ける」

 

この情報は直ちに熱田へと送られ、山本は次なる一手を打ち出した。

 

 

「そうだな。まあ偵察機は対処しないでいいだろう」

 

「よろしいのですか?」

 

「ムーとは格差があるからな。最初私は慢心せずに礼儀を持って戦えとは言ったが、余り本気でやっては本当にワンサイドゲームと化してしまう。今回の演習では向こうは分からないが、此方はレーダーの関係で既に敵艦隊の位置も陣容も丸分かりだ。実戦ならミサイルを撃てば解決だが、それでは演習としては意味がない。

だが技術力を示す必要はある。敢えてムーに我々の位置を晒し、攻撃隊を誘導。全機叩き墜として、こちらは巡洋艦辺りを空対艦ミサイルで沈める」

 

今回神谷からは余り指示を受けておらず、全部自由にやれと言われている。だがある程度演習になる様な立ち回りをする事と、ムーに絶望と恐怖を与えて欲しいと頼まれている。

ただ技術格差を見せつけるのではなく、見せ方を工夫してよりリアルな脅威として映すのである。そしてこれは同盟を結んだ時、希望へと変わる。そのためにも出来るだけ大きな爪痕を残し、トラウマクラスの恐怖を刻みつける必要があるのだ。

 

「そう言う事なら二個飛行隊、40機によるミサイル攻撃でも仕掛けますか?」

 

「そうだな。じゃあ、ムー艦隊には適当に喰らってもらうか」

 

「アイ・サー」

 

すぐに赤城と加賀に下命し、空対艦ミサイル満載の航空機が発艦していく。航空隊の発艦が完了し、高度を取り切った辺りで偵察に出ていたマリンが大日本皇国の艦隊を発見した。

 

「なんだありゃ!?まさかアレが、大日本皇国海軍なのか?この距離であのデカさと言う事は、確実に1km近い全長の船が3隻はいるぞ.......。

取り敢えず、打電しなくては」

 

パイロットのギャッドラーはモールスで艦隊に情報を打電する。

 

——ワレ、敵艦隊発見ス。距離240、方位3-6-0。艦隊陣容ハ超大型戦艦1、超大型空母2、大型空母*11、巡洋艦*2ト思シキ艦艇4、判別不可能ノ艦*34。繰リ返ス…

 

勿論こんなモールス、すぐに傍受されてしまう。暗号化すらされてない平文なので、解読と言うか翻訳なんてお手の物。ある程度通報できたのを見計らって、上空から1機の震電IIが20mm機関砲を撃ちながら通り抜ける。

 

「な、何だ!?」

 

『機体、爆散。パイロット死亡。機体、爆散。パイロット死亡』

 

「は!?!?」

 

耳につけた無線機から機体が爆発して、ギャッドラー自身も死亡判定を喰らった事を機械的な音声が知らせてくる。

 

「そ、そんなバカな」

 

信じられずにいると、背後から物凄い音が聞こえた。マリンは構造的に風防のある正面以外は野晒しである為、無線用のヘッドフォンや耳栓をしててもエンジン音が普通に耳をつんざくレベルで聞こえてきて、基本周りの音なんて聞こえない。それなのに聞こえてくるほどの轟音に後ろを振り返ると、そこには水色と紺色の迷彩が施された謎の機体がギャッドラーの乗るマリンの左右に2機ずつ居た。

 

「まさかアレが、大日本皇国軍の戦闘機なのか.......」

 

『ムー海軍機、聞こえるか?こちらは大日本皇国海軍、第一主力艦隊総旗艦、超戦艦『熱田』艦載航空団、第一飛行隊所属、アザゼル隊一番機のレイカーだ。

信じられんだろうが、アンタの機体に20mmの雨を降らさせて貰った。その結果、アンタは機体諸共木っ端微塵だ。悪いが至急、現空域を離脱してくれ。さもないと、艦隊からの砲弾の雨まで喰らう羽目になるぜ?』

 

「りょ、了解した。離脱する。レイカー殿」

 

『レイカーでいいぜ兄弟』

 

「レイカー。演習が終わったら、話がしたい」

 

思いもよらぬお誘いに面食らうレイカーだったが、少しだけ笑うと無線に声を乗せる。

 

『いいぜ、青空を征く我が兄弟。陸で会おうぜ』

 

そう言い残すとレイカーは列機を引き連れて、ギャッドラーの背後から離脱。また上空支援に戻った。

この謎の邂逅の約一時半後。ムー海軍の戦闘機マリン30機と爆撃機ソルス(と言う名のソードフィッシュ)90機の計120機からなる攻撃隊が、皇国艦隊に到達した。勿論、草薙レーダーシステムにより発艦して高度を取った瞬間から探知されている。

 

 

「敵航空機、目視にて視認!!」

 

「やっと来たか。対空戦闘、各艦自由射撃。各個に攻撃始め!」

 

「アイ・サー!両用砲、機関砲、撃ち方始めぇ!!」

 

皇国海軍の各艦艇はリアルタイム戦術データリンクにより、レーダーで捉えた情報が即座に共有される。これは対空、対水上、ソーナーは勿論なのだが、射撃管制レーダーについても同様である。

どういうことかと言うと、目標が重複する事なく迎撃できるのである。コンピューターが最適な攻撃範囲を提案し、基本的にそれに合わせて迎撃行動が行われる。偶に極一部の乗組員で「コンピューターの反応遅いんで、マニュアルで照準して攻撃していいですか?」なんて言ってくる、人間離れの化け物がいたりするのでそんな時にはマニュアルであるが。

 

 

「で、でけぇ!」

 

「アレが皇国海軍なのか!?!?」

 

「まるでクジラだ」

 

初めて見る大日本皇国海軍の主力艦達の姿にムー海軍のパイロット達は驚愕し、恐れを抱いていた。やはり心の奥底には列強としての驕りがあり、皇国を無意識の内に見下していた。その驕りと慢心からくる油断は、しっかりと皇国海軍に衝かれることになる。

 

「総員、攻撃準備!!戦闘機隊は機銃掃射、爆撃隊は爆撃k」

 

指揮官機が命令を飛ばしていた時だった。先頭にいた浦風型駆逐艦の萩風が、主砲の130mm速射砲を撃ち始めたのである。

 

「指揮官機被弾!!以後の指揮は二b」

 

「二番機がやられた!!」

 

指揮官機が撃墜判定貰ったので二番機が指揮を引き継ぐのだが、その二番機も即撃墜。それに続く他の機体達も落とされていき、戦闘機隊があっという間に殲滅されてしまった。

その間に爆撃隊は前進し、中央の戦艦に爆撃をかますつもりだった。だがしかしその中央の艦、熱田の両舷と主砲、副砲塔の上部には、さっきマリンを百発百中の命中精度で撃墜していた速射砲が1000門、さらに大口径なのが900門、機関砲も1000門という『対空砲のハリネズミ』と形容するのすら畏れ多いレベルの砲が上空に向けられていた。

そして射程に入った瞬間…

 

ズドドン!ズドドン!ズドドン!ズドドン!

ズドン!ガシャコン、ズドン!ガシャコン、ズドン!ガシャコン

キュィィン、ブォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!

 

「うおぉぉ!?!?!?」

 

「弾丸の壁じゃねーか!!!!」

 

「こんな弾幕をたったの一隻で作り出せる物なのか!?!?」

 

数十秒の全力射撃で全機が火だるまになって撃墜された判定を喰らい、模擬爆弾を抱えたままソードフィッシュ達は熱田の艦上を通過。オタハイト空軍基地等の近隣陸上基地や、回収用の古い空母等に向かって虚しい遊覧飛行をするハメとなった。無論、護衛のマリンも同様である。

 

 

 

数分後 ムー第一艦隊 旗艦『ラ・エルド』 艦橋

「れ、レイダー提督!!」

 

「どうした?」

 

ラ・カサミ級の一隻であるラ・エルドの露天艦橋にいたムー海軍唯一の機動部隊である第一艦隊を預かっているレイダーは、血相を変えて艦橋に登ってきた水兵に問いかける。

 

「に、二時間前に上がった攻撃隊ですが」

 

「あぁ。そろそろ戦果報告の第一報が入る頃だろうと思っていたが、どうした?余りに大戦果すぎて驚いたか?」

 

「そ、それが、攻撃隊は.......、報告役に残っていたマリン飛行小隊4機を除いて、壊滅したと.......」

 

この報告にレイダーは耳を疑った。今回の攻撃に際し、第一次攻撃隊は129機も上げていた。途中エンジントラブルで9機が帰還したものの、それでも120機の大編隊である。

その内4機が報告役として攻撃には参加していないので、116機が参加している。だがしかし、壊滅したと報告が来ている。壊滅は部隊の80%がやれらた場合に使われる物であり、半分の50%であっても「全滅」となる。全滅ですら組織的抵抗はまず無理だと言うのに、壊滅という事は最早組織的抵抗云々の次元ですらない。そんな事があっていいものかと、レイダーは脳内が真っ白になっていた。

だが考えざるを得ない報告が更に上がる。

 

「レイダー提督!!第一次攻撃隊より続報入りました!!!!戦闘の経過について、詳細に報告が来ています!!」

 

「読み上げろ!!」

 

「ハッ!我が方の攻撃隊は敵艦隊に突撃せん時、敵艦の精密なる射撃に指揮官機が撃墜せらる。以降、マリン戦闘機隊が優先的に排除され一分で全機撃墜せらる。

マリン戦闘機隊壊滅せるも、ソードフィッシュ爆撃隊は敵戦艦に突撃せん。されど敵戦艦の猛烈な対空砲火にさらされ、数十秒で全機撃墜せらる。攻撃隊全機撃墜により、我らこれより帰還せんとす。以上です!!」

 

今すぐにでも考えるのをやめたかった。取り敢えずこの事を首都防衛艦隊に報告する事にして、無線兵に打電を命じた。

一方の首都防衛艦隊には既に、死神がすぐそこまで迫っていた。

 

 

「この辺りだな」

 

『にしても、ムーには同情したいですよね。魚雷の概念すら無い兵士達に、空対艦ミサイルASM4をお見舞いするなんて』

 

『まあ死ぬわけじゃ無いし、いいだろ別に。さっ。迎撃機にやられる事は無いだろうが、ムーにバレる前にさっさと退散しよう』

 

「そんじゃお前ら、ミサイル発射だ」

 

震電IIには1機につき、6発のASM4海山が搭載可能である。それが40機という事は6発×40機=240発。もう可哀想になってくる数のASM4が、ムー海軍の首都防衛艦隊に向かって飛ぶ。因みに空母、軽巡洋艦、駆逐艦が目標である。

重巡と装甲巡洋艦と戦艦に関しては、後で熱田との砲撃戦に参加してもらう事にした。流石に射程外から撃つのはアレなので、ムー側の射程距離にしっかり入ってからである。

 

 

「見張り!不審物はないか!?」

 

「えぇ、艦長。海も空も、綺麗な青色ですよ。この調子なら、後1時間は問題ないかと」

 

「そうか。だが油断s」

 

突如、艦内に衝撃が走る。艦長は座礁でもしたのかと考えたが、この辺り一帯の海は水深が深く岩が隆起してもいない。まして氷山がある程寒い海域でもないし、視界も良好。何か巨大な物体と衝突する前に、確実に発見できるだろう。

だがその予想は全て違った。

 

『駆逐艦ラ・エヒン、機関部と第二砲塔弾薬庫に空対艦ミサイル命中。機関停止の上、転覆。轟沈と判定。乗組員、全員戦死』

 

「な.......に.......」

 

艦長含め、全員が耳を疑った。あり得ないと。特に見張り員は周りには「航空機はおろか、鳥すらいなかったのに.......」と報告していた。見張り員が見落とすのは無理もない。

空対艦ミサイルのASM4海山は、直径0.40m、全長6.57mとミサイルの中ではデカイが、飛行物体としては小さい。しかも速度がマッハ4以上であり、目視にて発見するのは困難である。射程も300kmとレーダーに引っ掛かる前に発射でき、早期警戒機でもいれば話は別だが撃ったらすぐに逃げれてしまう。おまけに色も青色で海に溶け込んでおり、今回は関係ないがステルス性とECM性能もあるので、迎撃は非常に困難である。

こんな常識外の未知の兵器を投入された結果、首都防衛艦隊の艦艇は18隻が血祭りに挙げられてしまい、生き残ったのは戦艦、装甲巡洋艦、重巡洋艦の合計15隻である。

 

 

「て、提督ぅ!!!」

 

「今度はなんだ」

 

「首都防衛艦隊が.......、戦艦、重巡、装甲巡洋艦を残して全艦轟沈!!乗組員はその全てが戦死判定を貰い、艦隊は、全滅状態!!」

 

「首都防衛艦隊が轟沈!?あの艦隊がやられたのか.......。敵は、一体どうやって.......」

 

艦これユーザーなら聞き馴染みのあるが聞きたくない『轟沈』という言葉。この轟沈というのは、艦艇が攻撃によって1分以内に沈没した際に用いる。そのため、基本的に出る事の少ない言葉である。

それが起きたという事は、使用された兵器の威力は果てしない程に強力である事が分かってしまう。

 

「敵は空対艦ミサイルなる兵器を使用し、正確に機関部や弾薬庫等を破壊。喫水線付近に着弾したらしく、巨大な破口が形成され転覆。これにより乗員は逃げる暇もなく、艦と運命を共にした判定だと」

 

「なんという.......」

 

「お、おい水兵?それはお前が読み間違えたとか、壮大な誤報だとか、なんか無電装置が壊れてたとか、そんな事はない、よな.......」

 

幕僚も信じられず、普通に考えればすぐにあり得ないと片付けられる可能性に縋り始める始末。だが首都防衛艦隊はまだ、マシだったかもしれない。まだ彼らは航空攻撃という、普通に考えて全然あり得る戦法で撃退されたのだから。

今から第一艦隊を襲う攻撃は、ムーはおろか現代の我々の世界に於いても考えられない蛮族的戦法が用いられるのだから。

 

 

 

第一艦隊上空 高度1万5,000m

『後部ハッチ解放。降下準備』

 

「さーて、野郎共!!戦艦と装甲巡洋艦奪って、味方艦からの砲撃でムー艦隊を混乱させてやれ!!!!」

 

「「「「「「「ヒャッハーーーーーーー!!!!!!!」」」」」」」

 

艦隊の上空には3機のC3屠龍が飛来していた。その腹に収まるは、軍内でも蛮族特殊部隊として悪名の高い飛行強襲群隷下の部隊、対艦制圧強襲空挺隊、人呼んで『鎌倉ヴァイキング』である。

因みに名前の由来は鎌倉武士並みの攻撃のエゲツなさと、ヴァイキングと同じ様に敵艦を襲うからである。

 

「降下開始!!」

 

C3から飛び出すと、各々の割り振られた艦に向かう。普通の空挺がパラシュートとジェットパックで減速するのに対し、鎌倉ヴァイキングはジェットパックのみで減速する。本来は燃料の兼ね合いで余り推奨されないのだが、彼等の戦場が狭い艦艇の上である事からジェットパックの使用頻度が他部隊に比べて極端に少なく、この方が迅速に展開できるので推奨されている。

因みに一部の空挺団員もこの方式で降下する者もいたりするし、神谷戦闘団の人間は大体この方式で降下している。

 

「アレだな。お前達、やるぞ!!!!」

 

『『『『『『『ヒャッハーーーーーーー!!!!!!!』』』』』』』

 

あ、そうそう。彼等の中での了解の返事は全て「ヒャッハー」である。レンジャー訓練で「レンジャー!」が返事になるのと同じなのだが、この返事のおかげで鎌倉ヴァイキングが半公式の呼び名なのだが、これとは別に「空挺世紀末」なんて呼ばれてたりもする。ではここで、簡単に彼らがどの位ヤバいのか箇条書きにその戦果を書いてみよう。

 

・アメリカのジェレラル・R・フォード級の二番艦『エンタープライズ』に強襲した際は、戦闘機を艦橋に突っ込ませて艦橋をへし折った判定となった。(勿論、本当にぶつけちゃいない)

・同じくフォード級の三番艦『ホーネット』に強襲した際は、原子炉の放射能を艦内に充満させた判定をゲットした。(勿論判定なので、実際には放射能漏れはしていない)

・イギリスの空母、クイーン・エリザベスに強襲した際は、格納庫内で2機のF35をフルスロットルで移動させて艦尾に激突判定ゲット。激突時の爆発の判定で、機関室破壊の判定もゲット。艦を行動不能にさせた。

・タイコンデロガ級のシャイローに強襲した際は、制御奪った後に近くを航行していたチャンセラーズビルにミサイル全弾浴びせて撃沈判定。そんでもってアーレイ・バーク級のベンフォールドにラムアタック特攻して撃沈判定ゲット(勿論、本当にぶつけてはいない)

・上記の事をしでかしまくった結果、各国の演習に出禁をくらった。曰く「歩兵が乗り込んでくる事自体あり得ないのに、ここまで無茶苦茶されたら訓練にならない」らしい。

・そしてこの無双っぷりを知る乗組員の一部には軽いPTSDになる位トラウマになっており、各国の水兵に「Kamakura Viking」と言うと震え上がる程には恐れられている。

 

これですら輝かしい伝説の一部であり、内外問わずヤバい認定されている。しかしそれ以上にヤバいのが神谷戦闘団の白亜衆である。一度だけ見よう見まねで、アメリカの艦隊一つ(二個艦隊相当の艦艇数)を丸々手中に収めた事がある。真の化け物はこっちだったよ。

さてさて。鎌倉ヴァイキング達は各々がステルス迷彩を使用しながら艦に上陸?乗艦?して、艦を手中に収めるべく動き出す。今回はラ・エルドの方を見てみよう。

 

「お前達、今回は迷彩を解除してやれ。では手筈通りに」

 

鎌倉ヴァイキング達は野蛮なイメージ、というか野蛮ではあるが頭もいい。艦にあった占領手順を決めており、今回はまず副砲を制圧する事にした。

現代の艦は基本的に全ての火器が無人化されており、その操作は全てCICに集約されている。勿論機関銃なんかは有人操作だったりするが主砲やCIWSなんかは、人が真横で操作する事は基本ない。だがムーの場合、全ての砲塔には装填手やら砲撃手やらがいる。精度は現代艦とら比べるなくもないが、生存性は高い。

現代艦ならCIC押さえれば、武器管制なんかは掌握できる。だがムーの様に各砲に人間がいると一つ一つを丁寧に潰していく必要があり、実は結構面倒なのだ。

 

「いつになったら決戦なんだろうな」

 

「さーな」

 

「軍曹殿。私は早く撃ち合いがしたいであります」

 

「まあ焦るなって」

 

そんな会話を水兵達がしている後ろに、鎌倉ヴァイキングの一人がいた。

 

シュパパパパパパパパパ

 

背後からサプレッサー装備の37式短機関銃が火を吹く。至近距離からの連射によって、気付かれる事なく死亡判定をゲットする。

 

『背後より銃撃。死亡判定』

 

「は?無線が壊れたのか」

 

「軍曹殿。なんか死亡判定って言われたんですけど、通信機が壊れたんですかね?」

 

「お前達、背後位警戒するがいい」

 

気付かれてないので鎌倉ヴァイキングの兵士が声を掛けた。振り返ると真っ黒な鎧を纏った男が銃構えているのだから、驚きのあまり悲鳴を上げてしまう水兵。

 

「うわぁぁぁ!?!?」

 

「あ、ちょ」

 

こんな悲鳴を上げられては周りにバレてしまい、たちまち周りの水兵達が駆け寄ってくる。

 

「あっちゃー。まあ、殲滅の手間が省けたか」

 

一度後ろに下がり、機関銃手に頼んで駆け寄って来た他の兵士達を蜂の巣にしてもらう。

 

ドカカカカカカカカカカ!!!!

 

9mmライフル弾が貫き、死亡判定や重傷判定を上げていく。流石にこれだけの騒ぎになると、露天艦橋からレイダーの幕僚達も何事かと降りてくる。

 

「なっ!?貴様ら、何者だ!!!!」

 

「大日本皇国陸軍、飛行強襲群所属、対艦制圧強襲空挺隊。人呼んで鎌倉ヴァイキング、ここに見参!!取り敢えずお前は、死ね」

 

鎌倉ヴァイキングの大隊長が降りて来た幕僚の背後に立ち、ゼロ距離から26式拳銃の5.7mm弾を喰らわせる。勿論即死。

 

「よし。このまま艦を手中に収めるぞ」

 

一部の兵士が甲板上で大暴れしている間に、艦内も殲滅が進んでいく。機関室、主砲塔、艦内の副砲塔、食堂、医務室等々。要所を制圧し中にいる兵士達を殺して回る。本当なら死体となって動かないのだが、今回は演習なので生きている。

なので取り敢えず腹と背中に赤いスプレー塗料を吹き付けて死亡判定の印とし、機関室と各砲塔に最低限の人員を残してもらって兵員室に連行する。

 

 

「レイダー提督!下がっていてください」

 

「あ、あぁ」

 

レイダーは部下の幕僚達に戦闘指揮所から全部司令塔に移され、なけなしの装備で防衛ラインが構築された。と言っても相場が精々カトラスと拳銃程度で、超お粗末な物なのだが。

 

「き、来たぞ!」

 

幕僚の一人が叫んだ瞬間、26式が頭を撃ち抜いた。

 

「クッソー!!!!」

 

「おい待て!」

 

幕僚の中でも一番若い男が飛び出して、カトラスを構えて突撃する。だがしかし

 

「フンッ!」

 

「のわ!?」

 

振り下ろされたカトラスを腕の装甲板で受け止めて、そのままカトラスを絡め取る。カトラスは空中に放り投げられて、若い幕僚は背負い投げで甲板に叩きつけられる。

 

「グッ!」

 

「兄ちゃん、ゲームオーバーだ」

 

空中に飛ばされたカトラスをキャッチした兵士が、若い幕僚の首に剣を突き立てる。一応今回は演習なので、念のため全ての演習用カトラスは模造刀である。だがもしこれが真剣であれば、確実に突き殺されているだろう。

 

「はぁ.......」

 

そのまま若い幕僚は脱力し、甲板上に大の字で寝転んだ。そして残るレイダー提督と幕僚はと言うと…

 

「ドーモ、レイダー=サン。鎌倉武士ヴァイキングデス」

 

謎の鎌倉ヴァイキングニンジャの持つ36式散弾銃によって「アイエエエエ!」されました。

艦の殲滅は完了したのだが、今からの仕事こそが本番である。

 

「各砲塔、旋回!!目標、敵艦隊!!!放て!!!!!!!」

 

そのまま周りのムー艦艇に対し、無差別砲撃を開始したのである。これには流石の第一艦隊であっても、混乱待ったなしである。何せ味方艦からいきなり撃たれたのだ。混乱するなという方が無理だし、あり得ない事故に判断もモタついてしまう。

 

「撃って撃って撃ちまくれ!!!!最悪、ラムアタックして沈めりゃいい!!!!」

 

「無茶苦茶だ.......」

 

流石のレイダーも驚愕を超えて、もう呆れてしまった。そして砲塔に残っているムーの水兵達は、自分達が撃つよりも遥かに高い命中精度に舌を巻いていた。

 

「(軍曹殿。なんか、命中率高くありませんか?)」

 

「(.......言うな)」

 

「(本職の大砲屋が謎の兵士に負けるってどうよ)」

 

因みに彼等に残って貰っているのは、万が一に備えてである。流石にないと思うが、一応空砲とはいえど火薬を使っている。もし本当に自爆とか起きたら危険なので、危険行為をしていないかの監視役である。機関室なんかも同様である。

ラ・エルドとラ・デルタ級装甲巡洋艦2隻によってムー第一艦隊は、その全てが撃沈された。

 

 

 

同時刻 超戦艦『熱田』 艦橋

「提督。鎌倉達より報告が上がりました。「敵ムー艦隊、殲滅完了。フィナーレはお任せする」以上です」

 

「そうか。ではこれより、本艦は単艦にて突撃!敵残存艦に対し攻撃を敢行する。全艦、砲雷撃戦用意!!!」

 

「アイ・サー。全艦、砲雷撃戦よーい!主砲、副砲、両用砲、機関砲、砲撃準備!!」

「総員、砲雷撃戦用意。総員、砲雷撃戦用意」

「主砲、副砲、両用砲、機関砲砲撃準備」

「両舷両用砲群、機関砲群、スタンバイ。砲撃モードを対艦モードに」

 

各々が配置につき、戦闘準備に移る。そして熱田は首都防衛艦隊に向かって、最大戦速で突撃していった。

 

 

「ムレス提督、陣形整いました。どうしますか?」

 

「決まっている。奴らに一矢報いに行くぞ!!」

 

首都防衛艦隊の司令、ムレスはやられた僚艦の仇を討つべく進路を敵艦隊のいる方向へと取った。だがそれは、既に皇国側には捕捉されていた。

約一時間後、互いの距離は目視できる位にまで接近した。ムー側は熱田の姿に驚愕し、日本側はようやく終わると安堵していた。

 

「敵巨大戦艦、射程に入りました!!」

 

「主砲撃てぇ!!」

 

最初に撃ったのは首都防衛艦隊の旗艦、ラ・ゲージを筆頭とした残存艦15隻。数十発の砲弾は熱田に向かって飛翔し、その巨大さ故に結構な数が命中した。

 

「見たか!これで奴とて中破は確実!!!!」

 

『只今の砲撃、全砲装甲板にて弾かれた物と判定』

 

「な!?」

 

まあ装甲自体がツァーリ・ボンバが真横や真上で爆発しても沈まない位の化け物装甲なので、例えゼロ距離で砲弾を撃ち込んだところで全くダメージは入らないのだが、それを知らないムレスは冷静さを失った。

 

「撃ちまくれ!!とにかく当てるんだ!!」

 

ムー艦隊からの砲弾が雨の様に降り注ぐが、その全てが弾かれてしまう。

 

 

「そろそろこちらも決めるとしよう。主砲、副砲、砲撃開始」

 

「撃ちー方ー始め!」

 

ドゴォォォォォォォォォン!!!!

 

一撃だった。放たれた砲弾は正確にムー艦艇のバイタルパートを撃ち抜き、ムー艦隊はたったの一斉射に殲滅されたのである。

 

「判定届きました。全艦轟沈です。ムー艦隊、鎌倉が占領中のラ・カサミ級と2隻のラ・デルタ級を除き、当該海域より排除完了しました」

 

「通信兵。閣下に暗号を打電。『天乃岩戸、開く』」

 

 

 

同時刻 オタハイト空軍基地 神谷戦闘団テント

「長官、艦隊より暗号電を受信。天乃岩戸開く、です」

 

「そうか。ではこれより、上陸作戦に取り掛かるとしよう。先遣隊を動かせ」

 

「ハッ!」

 

演習はまだ始まったばかり。次回は神谷戦闘団や第四海兵師団の暴れっぷり模様をお届けしよう。

 

 

 

 

*1
ではなく強襲揚陸艦。全通甲板だから、仕方ないけどね

*2
こちらも巡洋艦ではなく、駆逐艦

*3
ドック型揚陸艦です。まあムーには存在しない艦種だし仕方ない



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第四十三話日武合同大軍事演習(陸戦編)

海戦終結より数時間後(日没後) 上陸地点より10km 海中

「艦長、時間です」

 

「メインタンク・ブロー。お客さんの切り離し準備に掛かれ」

 

「メインタンク・ブロー、深度70」

 

演習中、ずっと海中にその身を潜めていた潜水艦『伊2590』は、いよいよ作戦行動を開始する。この潜水艦の任務は、海軍陸戦隊の誇る特殊部隊、先遣陸戦隊(通称IJM)を揚陸地点へと秘密裏に運び込む事である。

IJMはアメリカで言う所のNavy SEALsであり、主に偵察、破壊工作、不正規作戦を任務とする。今回は上陸地点の偵察と、奥にある砲撃陣地を偵察するために派遣される。

 

「発令所よりSDV。これよりドック内と、潜水艇に注水を行う。準備してくれ」

 

『了解』

 

伊2500型の派生タイプである伊2590は、艦尾に小型潜水艇(SDV)のドックを備えている。このSDVには武装こそ付いていないが隠密性に優れ、潜望鏡なんかも付いている。

しかし弱点というか仕様上仕方ないのだが、ドック内とSDVの船内にも注水しないと切り離せない。その為、準備に少々時間が掛かるのだ。

 

「注水開始っと」

 

「さーて、野郎共。ムーをボコボコにしてやろうか」

 

隊長の声に、既に潜水具をつけてしまっている隊員達は答えられない。その代わりに、サムズアップして「了解」の意を表した。

間も無くしてSDV船内の水位も天井まで上がり、ドック内も注水が完了した。

 

「SDV、切り離し!」

 

ドック後方のハッチが開き、SDVは後進しながら慎重に船外へと出た。そして上陸地点目指して、静かに向かう。

それではここで、ムー側の防衛拠点がどうなっているか説明しよう。ムーの防衛拠点は、大きく3つのエリアに別れている。上陸地点にあるトーチカ陣地、その後方にある砲撃陣地、さらにその後方にある旗を置いてある要塞陣地。この3つとなっている。どの陣地もムー基準では鉄壁で、実際に実戦で使用するのを目的としており、その作りは頑強である。装備などに関しては、追々書いていくとしよう。

そして時を同じくして揚陸艦隊、というか遠征打撃群からもゴムボートが出動していた。こちらもIJMと同じく、偵察である。こちらは手前のトーチカ陣地を偵察し、IJMはその後方の砲撃陣地を偵察する事となっている。

 

 

(行くぞ)

 

上陸地点に到達したSDVを止めて、屋根を開けて隊員達が水面に向かって泳ぎ出す。

そのまま目標地点に到達すると、できるだけ静かに上がって海岸へと向かう。

 

「隊長、行軍準備完了です」

 

「よし。じゃあ、行くぞ」

 

砲撃陣地までは徒歩なので、早足で砲撃陣地を目指す。勿論、周りのトーチカにいる守備兵に気付かれないように。

その間に海軍陸戦隊の偵察隊も上陸し、トーチカの調査を始めた。

 

「にしてもよぉ、海軍がやられるとは思わなかったよな」

 

「そうだなぁ。これが実戦じゃないからいい物の、実戦で今戦ってる大日本皇国だっけ?ここを落としたら、次は首都だからな」

 

「お前ら、これが演習なのを忘れてないか?本来はこの前にも戦闘があって、ある程度は沈められるんだ。それに本気で戦えば、そんな新興国に我が祖国は負けないさ」

 

そんな事を話す中年の兵士達。彼らは知る由もないだろう。もしムーと本気で戦争するとなったら、即刻軍が壊滅する事になるのを。あくまでも今回の演習は、手加減に手加減した戦力であることを。そしてすぐ近くまで、死神の釜の刃先が伸びているのを。

 

(ふむ。トーチカ内の武装はヴィッカース重機関銃モドキ、ルイス軽機関銃モドキ、エンフィールド小銃モドキか)

 

そう。既に偵察隊は己の任務を始めており、戦力配置や装備は筒抜けとなっていた。因みに装備としては

 

・海軍の流用と思われる20.3cm連装砲 4基

・海軍の流用と思われる15cm砲 10門

・二十八糎榴弾砲モドキ 20門

・十五糎臼砲モドキ 20門

・一四年式十糎加農砲モドキ 40門

・九二式歩兵砲モドキ 60門以上

・ヴィッカース重機関銃モドキ 250丁以上

・三八式機関銃モドキ 100丁以上

・各種迫撃砲 100門以上

 

と言った感じであった。他のは良しとしても流石に海軍のを流用したと思われる砲に関しては、流石に戦車であっても防ぐのは難しいだろう。そこで作戦を変更し、IJMの作戦のついでにここも破壊してもらう事にした。

 

 

 

数十分後 砲撃陣地付近の森林

「ここだな。お前達、早いとこ仕事をするぞ」

 

「了解」

 

IJMの任務とは、上陸時の撹乱にある。今回の相手は一応格下ではあるが、さっきも書いていた様に兵器によっては十分戦える物も存在している。そこで先にこれらの兵器だけを破壊しておき、残りは質で押し切る作戦を立てた。

だが一応他の兵器は残っているし、あくまで戦車や装甲車には通用しないというだけで、歩兵に関してはその限りではない。そこで撹乱のために爆弾を仕掛ける事になり、IJMの任務は偵察と攻撃誘導、そして爆破による撹乱となった。

 

「うへぇ。なんつーもん設置してんだよ」

 

「これ、30.5cm砲ですよね?しかも三笠と同じタイプの」

 

「戦艦砲をよく設置したもんだ」

 

任務の為に別れた彼らの眼前には早速破壊しないと不味いブツ、30.5cm連装砲が鎮座していた。流石の陸上戦艦の異名を持つ46式戦車とて、30.5cmには耐えられない。しかもそれが合計8基、16門あった。

 

「なあ、こっちにはカール自走臼砲並みの臼砲があるぞ」

 

「おいおい、ガチじゃねーか」

 

「流石、首都前の防衛ラインとして、現役の要塞として使われてる陣地だな」

 

彼らが双眼鏡片手に偵察していると、爆破工作班が帰ってきた。曰く、トンデモ兵器があったらしい。

 

「列車砲?」

 

「はい。流石にドーラとかグスタフみたいな80cm列車砲じゃないですけど、それでも多分口径が50cmはありましたよ」

 

「うへぇ、あっちもガチらしいな。マーカーは設置してきたか?」

 

「勿論です」

 

「よし。それじゃ、本部に打電するか」

 

作戦はいよいよ第二段階へと進む。第二段階では第四海兵師団を海へと放ち、F8B震電II航空隊による攻撃が行われる。当初の航空攻撃では後方の砲撃陣地のみの破壊だったが、先程の偵察隊からの要請によりトーチカ群に存在する砲塔の破壊も目標となっている。

そして時を同じくして、コイツらも飛び立った。そう。世界最強の男が率いる、世界最強の精鋭部隊内にある最精鋭の集団、神谷戦闘団白亜衆である。

 

 

 

同時刻 強襲揚陸艦『阿木津』

『航空隊、発艦せよ。航空隊、発艦せよ』

 

「野郎共行くぞ!」

 

甲板上に駐機されている震電IIが発艦位置へと移動し、エンジンの噴射口を斜めにする。

 

「発艦!」

 

震電IIのB型はVTOL仕様なので、アメリカの海兵隊と同じ様にSVTOLでの発艦が基本となる。着艦もアレスティング・ワイヤーが搭載されてないので、VTOL機能を用いた垂直着艦となる。

阿木津を発艦した二個小隊8機は、一個小隊ずつに分かれて攻撃目標へと向かう。

 

 

「ふぅ。月が綺麗だなぁ」

 

「演習じゃなけりゃ、酒が呑めるんだがなぁ」

 

トーチカ内で談笑したり、ポーカーしたりして暇つぶしをしていた兵士達の耳に雷の様な轟音が響く。

 

「なんか聞こえるな。一体何」

 

次の瞬間、黒い大きな何かが目の前を通過していった。

 

「な、なんだ今のは!?」

 

「黒い魔鳥か!?」

 

『全20.3cm要塞砲、破壊。当該砲術員、及び以下の兵士は戦死しました。戦死者は…』

 

耳につけたインカムからは信じられない報告と、戦死判定を貰った者の名前が読み上げられている。結果として、砲術員含む60名近く戦死判定を貰ってしまい、さっきの謎の魔鳥も相まって大騒ぎである。

 

「狼狽えるな!!」

 

「し、師団長!」

 

「我らはムーの最後の砦、首都防衛師団なるぞ!!まだ我々には他の砲兵器が残っておる。それに今の攻撃があったという事は、すぐに敵が上陸してくるという事ぞ!!貴様らのすべき事は怯える事ではなく、敵に備えて装備の確認をし、配置につく事だッ!!!!」

 

この要塞を預かる首都防衛師団の師団長、コメダスの激に鼓舞されて兵士達は落ち着きを取り戻す。この辺りは流石精鋭といった所だろう。

そして同じくらい、残りの小隊が後方の砲撃陣地を爆撃していた。これによりムーは30.5cm連装砲、カール自走(できない)臼砲、50cm列車砲が撃破判定を受けた。しかし、まだ牙は残っている。他の砲兵器と、隠匿していて30.5cm連装砲2基を準備し、皇国軍の上陸に備える。

だがそれは、皇国軍も同じであった。

 

 

「会長、お時間です」

 

「お前達!時間だ、攻撃を始めろ」

 

第四海兵師団の師団長(部隊内では師団長ではなく、会長と呼ばれている)、堂島翔吾が命令を下す。この命令を受けた兵士たちは叫びを上げ、装甲車を前に出す。

因みに第四海兵師団にいる戦力で強いのは『嶋野大隊の狂犬』の真島吾郎、『百人殺し』の冴島大我、『阿修羅』の渡瀬克『白峰』の峰良隆、『登り緋鯉』の錦山晃、『ヒットマン』の風間晋太郎、『狙撃爺』の広瀬邁、『日ノ本の西龍』の郷田竜司、『日ノ本の東龍』桐生和馬と言った感じ。因みに全員、漢字は違うが何処かの龍が如くと名前が偶然(・・)同じである。その結果、戦闘スタイルも似た様な物になっている。

 

「よーし、進路このままや!」

 

「へい!」

 

33式水陸両用強襲装甲車、28式水陸両用装甲車、LCAC、LCUに分乗した海軍陸戦隊の兵士達は上陸地点目指して突き進む。

この時点でもムーに取っては大変な事は変わりないが、もっとエグい一撃が空からやってくる事になる。

 

 

 

砲撃陣地 上空

「さーて野郎共!第四海兵師団の極道が動き出した。俺達も遅れとるなよ?さぁ、行こうぜ!!!!」

 

闇夜のムーの空に、純白の装甲を身に纏った精兵達が舞い降りる。

白亜衆は第四海兵師団に先んじて砲撃陣地を奪取し、そこを集結地として確保する。だがムーに取って、この陣地を抑えられるのは相当な痛手となるのだ。このトーチカ群からなる水際防御陣地は海岸に上陸した敵歩兵を撃滅する為の陣地であり、ノルマンディー上陸作戦とか硫黄島の戦いのような戦場を想定した構造となっている。

また水際防御陣地には、対装甲目標用の兵装が限りなく少ない。というのもこれまで戦車の様な兵器が存在してなかったので、大砲はあれど殆どが歩兵に効力のある榴弾である。更に言えば元の防衛戦略も後方に控える砲撃陣地からの支援砲撃があって、初めて真価を発揮する戦法しか立てていない。

つまり初手でここを抑えられてしまうのは、ムーの敗北を意味するのだ。

 

「お、白亜衆が降りてくる」

 

「じゃあ、こっちも派手に行きますかと!」

 

IJMの兵士の一人が爆弾の起爆スイッチを懐から取り出し、押した。

次の瞬間、砲撃陣地の弾薬庫から爆炎が上がる。弾薬庫の爆発と無数に出た戦死者報告に、砲撃陣地に詰めていた第五師団の兵士達は皆、浮き足立って混乱しているのが離れた場所にいるIJMの兵士達にも伝わってくる。そんな絶好な好機を、彼らが見逃す筈がない。

 

「撃ちまくれ!!!!」

 

神谷の号令に、白亜衆の兵士達が真下へと自分の銃を構える。

 

ドカカカカカ!ドカカカカカ!

ズドドドドドドドド!!

 

空中から銃声が鳴り響き、あちこちで戦死判定が上がっていく。実弾ではなく不可視のレーザーであっても、恐怖は煽られてしまい余計に混乱の渦は拡大していく。

だが一方で中には、応射する様な勇敢な者もいた。

 

「堕ちろ!」

 

パン!カチャン、パン!カチャン

 

だがボルトアクションライフル、それも唯の歩兵用ライフルでは時速200kmで降下中の兵士を撃ち抜くのは至難の技である。仮に精度の高いスナイパー仕様であっても、無理だろう。

そしてそんな勇敢な者は、逆に狩られてしまう。

 

「悪いな。丸見えなんだわ」

 

ドカカカカカ!

 

『戦死しました。直ちに後退してください。戦死しました。直ちに後退してください…』

 

「何なんだ.......アイツらは.......」

 

やがて白亜衆達は着地し、更なる地獄を作る。さっき空中で掃射していたのは皆、機動甲冑を着た兵士達だった。装甲甲冑は構造上、空中で地上を掃射しにくいのだ。

だが地上に降り立てば鈍重でいい的だが、歩兵火器では撃ち抜けぬ装甲を持ち大火力を発揮する武装を持った兵士となる。そんな兵士が塹壕の上に立っていると、どうなるだろう。

 

「クソッ!撃ちまくれ!!撃ちまくれ!!」

 

パン!カチャン、パン!カチャン、パン!カチャン、パン!カチャン

ズカカカカカカカカカ!!

 

エンフィールドモドキ、ルイス軽機関銃モドキの弾丸が多数装甲歩兵に命中する。普通の兵士で今のが実弾なら、確実にボロボロの死体が完成しているだろう。だが何故か命中しているのに、戦死判定のアナウンスが全く流れない。

 

「う、撃ち方やめ!撃ち方やめ!」

 

「壊れたのか?」

 

「おいアンタ!そっちは戦死判定出てないのか?」

 

ムーの兵士達は機材トラブルかと思い、目の前の装甲歩兵に声を掛けた。一時休戦の旗を互いに掲げ、両者は歩み寄る。

 

「えーと、そっちの話は機材トラブルじゃないかってことか?」

 

「あぁ。普通に考えて、あの攻撃では、あなたは今頃ボロ雑巾の筈だ」

 

「まあ、普通ならな」

 

装甲歩兵はまるで「あー、やっぱりこうなったか」とでも言いたそうな、少し面倒臭そうな表情をしながら聞いてきた。「お前達の銃の口径は何ミリだ」と。

 

「どちらも7.7mmだが」

 

「悪いな。俺の纏うこの装甲甲冑は、20mm弾までなら完全に防ぎきる防弾性能を有している」

 

「な.......」

 

「な、なぁ、アンタ。その腕についてる銃は、どの位の威力があるんだ?」

 

「5.7mmライフル弾を毎分数千発単位で撃ち込むぞ。人間にぶち当たったら、まあミンチ肉だな」

 

そんな弾幕を食らう予定だったとは思っておらず、ムー兵士達の顔が一気に青褪めた。だが疑問は解けたので、ムーの兵士達は抵抗せずに装甲歩兵に戦死判定をもらった。

こんなちょっとした一幕もあったが、他の所では白亜衆が一方的にムー兵士を殲滅していた。特に恐怖されたのが、このお二人。

 

「この距離で当たるのかよ!?」

 

「何なんだ.......。何なんだあのロングコート野郎は!!」

 

「ムーの皆さん、戦死判定をプレゼントしよう」

 

ズドンズドンズドンズドンズドン

 

1人目は神谷の右腕にして、自らも『鉄砲頭』の異名を持つ向上である。向上の射撃は、兎に角正確。空中で回転しながらでも弾丸を当て、物と物の僅かな隙間も通過させ、今回は赤外線なので披露できないが実弾なら跳弾すらも操る。

ゲームや映画なら跳弾なんて簡単にやっているが、実際の跳弾というのは何処に飛ぶか分かったもんじゃない。運が悪いと撃ったはずの弾丸が、跳弾して自分に戻ってくるなんて事も。だが極稀に、そんな跳弾を操る奴がいる。その1人が向上なのだ。

 

「う、嘘だろ」

 

「やられた.......」

 

「ふぅ。長官も暴れてるのかなぁ」

 

そして2人目の恐怖の対象の兵士は、勿論このお方。三英傑の1人にして『皇国剣聖』の名を持つ神谷、ではなくスナイパーである。

 

「命中。次、右2度。機関銃手」

 

「捉えた」

 

「fire」

 

ズドォン!

 

「ヒット」

 

これまで様々な話の狙撃シーンで出てきた、この名もなきスナイパーと観測手。一番恐れられていたのは、この2人なのだ。ムー側は1人だと誤解しているが。

では神谷はどうなのかというと、一応暴れてはいた。だがいつもの様には出来ていない。何故なら…

 

「赤外線だから切り裂けないんだよぉ!!!!」

 

そう。赤外線が切り裂けないのだ。神谷の強さとは一撃で敵を殺せる技もそうだが、最大の強みは銃弾を切り裂いて無効化できてしまうチート技術にある。だが普通に考えて、銃弾を切り裂くなんて五右衛門みたいな事を現実でやる奴なんてまずいない。

その為演習で使われてるプログラムに、そんな攻撃というか防御手段は演算する機能はない。なのでこのタイプの演習に限り、神谷は実力の半分も出せないのだ。

因みに何度も開発部門に改修の要求を出しているが、曰く「赤外線なので、命中判定が出来ても切り裂く判定が出来ない。一応刀に装置を付ければ出来なくはないが、高確率で切り裂き判定を受けたはずの赤外線が自分にも当たるので実質無理」らしい。

何はともあれ、降下して30分もする頃には第五師団は殲滅された。

 

 

 

同時刻 水際防衛陣地

「て、敵襲!!距離、およそ3,000m!小型艇多数!来ます!!!!」

 

「各員、歩兵が出てくるまで撃つなよ。恐らくその小型艇に、歩兵がたくさん乗っているはずだからな」

 

師団長の命令を伝声管で伝達し、迎撃準備に入る。だが、この接近中の敵は小型艇じゃない。水陸両用装甲車だ。

 

「スモーク展開」

 

「アイアイ!」

 

エンジンブロックから黒煙を出して煙幕とし、更に搭乗している兵士達が進路上にスモークグレネードを装填した29式擲弾銃を撃ちまくって姿を見え辛くする。

これにはムー側も堪らず、どうにかして煙幕を晴らそうと榴弾を海岸に撃ち込む。その爆風で煙幕が晴れるかと思いきや、運が悪い事に風向きの関係で逆に煙幕を増やしてしまったのだ。その結果、上陸に気付かなかった。

 

「!?敵は小型艇ではなく、水陸両用の装甲車だった模様!!」

 

「何!?クソ、撃ちまくれ!!」

 

コメダスは焦って攻撃命令を出してしまい、トーチカから無数の銃声が響く。だが33式及び28式には流石に火力不足で、全くダメージが入っていない。

それどころか、お返しと言わんばかりに砲弾と機銃弾がトーチカに向かって発射される。

 

『6番トーチカ、全滅!』

『8番トーチカ、吹き飛ばされました!当該兵士は全滅!!』

『21番トーチカ、機関銃破損!歩兵火器による応戦を、ボン!訂正します、21番トーチカ破壊されました!』

 

ジワリジワリとトーチカが無力化されていき、防衛線の一部に穴が空いてしまう。その瞬間を見逃さず、奴らが入り込む。

 

「ほな、行くでぇぇぇぇ!!!!!」

「イヒヒヒヒ!!真島吾郎参上や!!!!!やったるでぇ!!!!」

「さーて、今日の喧嘩相手はアンタでっか?ほな、行くでぇ!!!!」

 

極道達が入り込み、ムー兵士をボコボコにしていく。何せ銃器よりも近接武器を好み、現代戦よりも白兵戦を得意とする第四海兵師団。トーチカ同士が狭いトンネルで繋がっているこういう陣地では、彼等にとってはベストな戦場だ。

第一連隊『東條会』、第二連隊『近江連合』、第三連隊『陽明連合会』の3連隊に攻め込まれては溜まったものじゃない。しかも東條会には風間大隊、嶋野大隊、日俠大隊。近江連合には渡瀬組、郷龍会、寺田組の様に、龍が如くプレイ済みのプレイヤーからすればヤベェ連中が多数いる。こんな連中に掛かれば、水際防衛陣地なんてすぐに堕ちてしまう。

一時間後には殲滅どころか、白亜衆との合流まで果たした。

 

 

「お、来た来た。第四海兵師団御一行だ。おい、誰か!団長呼んで来い」

 

「ハッ!」

 

白亜衆の兵士に呼ばれて、第四海兵師団の迎えに行く神谷。神谷が外に出ると、丁度師団長の堂島が装甲車から降りて来た所だった。

 

「神谷さん、お待たせしました」

 

「待ってねーよ。何ならもうちょい遅く来てもよかったのに」

 

「生憎と、私はサボりを見逃すほど甘くは無いですよ?」

 

2人は会って早々に軽口を叩きあうと、すぐに真剣な顔になって作戦を立て出した。

 

「敵のフラッグがあるのは、どうやらこの建物らしい。IJMの連中と、ウチの精鋭を送り込んで突き止めた」

 

「周囲には機関銃陣地と塹壕が張り巡らせられてますね。しかも周りには遮蔽物が無いとなると、どうしますか?」

 

「いやまあ、作戦って程じゃないけど裏をかこうかなーと」

 

「裏ですか?」

 

そう言うと神谷は、この演習で使われている一帯の地図を広げて説明を始めた。

 

「俺達はここと、ここを攻めて落とした。どちらも一応、正攻法で戦ってな。でもって、俺達はこの陣地を落とした時にワザと一個小隊ばかしを逃してある。正面から攻撃しても意味がないと言うのを知らしめる為に。

しかも現在、通信は無線も有線も遮断されている。緊急用のを除けば、使えるのは伝書鳩とか伝令みたいな古典的な通信しか出来ない。となると、今のこの陣地の状況はわかるだろう?」

 

「恐らく、恐怖が伝播してパニック状態かと」

 

「そういう事。ならそんな中に、正面から恐怖の根源たる我々が来ればどうなる?きっと、更にパニックは増幅されて正常な判断が出来なくなる。しかもこちらの兵器群は、ムーが逆立ちしたって破れっこ無いくらいには強い。そんな連中が目の前に、それも大量にいれば全戦力をこちらに傾けないといけなくなる。

なら、その間に精鋭でフラッグを奪取すればいい。幸いこっちには精鋭、特殊部隊、白兵戦のエキスパート、戦車、装甲車、ヘリと何でもある。この作戦を決行するには、十分と思っている。お前の意見を教えてほしい」

 

「そうですね.......。ここまで開けていると、我々の師団は余り真価を発揮できないと思います。なので地上の囮は其方にお任せして、ウチの幹部連中で中心部を強襲しようかと。それから一部をここに残し、使える砲があれば援護砲撃なんかも良いのでは?」

 

「確かに砲には残りがあるし、弾薬も少しはある。大半は吹っ飛ばしたが、一暴れは出来る。よし、その作戦で行こう」

 

作戦は決まった。フラッグ奪取のメンバーは桐生、錦山、郷田、真島、風間の5名である。

他の者は全力で暴れて、奪取メンバーが気取られ無い様にする。そのために態々、46式とコイツらを呼び寄せたんだから。

 

「ヒャッハー!!轢き殺さないけど、弾幕張って暴れるぜぇ!!」

 

「やっぱ白亜衆の恐怖贈呈組は俺達だぜ!!」

 

最近、軽く準レギュラー化してるので名前を与えようかと思ってるヒャッハー世紀末(人間野球の人)とその相棒である。官給品だが、愛車となっている44式装甲車ロ型を連れて。

 

「野郎共、行くぞ!!!!」

 

神谷の号令で、部隊が突撃を敢行する。まずは戦車が前衛に出て、その間を装甲車が埋める。そしてその背後から、トラックに乗った他の兵士達が続く。

 

 

 

数十分後 最終防衛陣地 

「き、来た!!」

 

「敵襲ー!!!!」

 

監視していた兵士が戦車を目視で発見し、兵士達に緊張が走る。銃を構え、安全装置を外し、攻撃に備える。

その後方には一四年式十糎加農砲モドキと八九式十五糎加農砲モドキも配置され、焼け石に水位の気休めとして砲撃を開始する。

 

「撃てぇ!!」

 

ボボボボン!

 

だが徹甲弾ですら無い砲弾がダメージを与えられる程、現代戦車は甘くは無い。というか46式に至っては、ゼロ距離で撃たれても撃ち抜くのは不可能だろう。流石に砲口に直接ぶち込まれたら無理だが。

 

 

「撃ってきました!」

 

カン!ゴンッ!!

 

「今の絶対どっか凹んだ」

 

「修理が簡単な場所であってくれよ.......」

 

戦闘中とは思えない会話だが、最早ちょっとリアルなお遊びと化してしまってるのだ。許してほしい。

だが撃たれたのに撃ち返さないのは、彼らの謎の流儀が許さない。てな訳で…

 

「撃て〜」

 

ドオォン!!!!

 

お返しに砲撃を加えた。その結果、呆気なくカノン砲と周囲の他の砲も破壊判定と操作兵の戦死判定が出た。

その機を逃さず、今度はコイツらが穴を広げにかかる。

 

「ヒャッハー!!頭上げさせるな!!!!!」

 

「轢き殺されないだけマシと思いやがれ!!!!」

 

ロ型含む全装甲車と戦車の機関銃によって、ムーの兵士は全く反撃が出来なくなった。頭を上げて撃とうとすれば、即座に頭を撃ち抜かれて戦死判定である。

そしてその間に、第四海兵師団と白亜衆が突っ込んで更なる混乱を呼び込む。

 

「皇国兵御一行様の登場や!!」

 

「カシラ、落ち着いてください!」

 

「はいはい、熱くならないの南雲ちゃん。まっ、でも僕も暴れようかな」

 

第四海兵師団はその卓越した白兵技術で敵をボコボコにし、その上から白亜衆と一部の銃器の扱いに慣れている第四海兵師団の兵士達が制圧射撃を加える。

塹壕は完全にパニックになり、同士討ちまで発生する始末。このカオスの頂点とも言える状況になると、いよいよコイツらが出動した。

 

「桐生、行こうぜ!」

 

「あぁ」

 

フラッグ奪取組が司令部のある建物の屋上に降り立ち、そのまま中に入る。中に居たのは殆どが士官で、戦うよりも頭脳を使う派の連中だった。となると、もうコイツらのいいサンドバッグにしからならない。

 

「おぅら!」

 

「オラァ!!」

 

「イヒヒ、おりゃ!」

 

ほぼ1発でメットを殴り、負傷判定をゲットする。しかし中には銃を抜いてくる奴もいるのだが、そんな奴らは…

 

ズドンズドン

 

「甘い」

 

風間が得意とする二挺拳銃で戦死判定を貰う。この鉄壁の布陣のまま、いつもは執務室として使われている部屋の前まで進撃した。

 

「ここじゃねぇか?兄弟」

 

「あぁ。多分な」

 

「イヒヒ!桐生ちゃんに錦ちゃん、やる事は決まってんで?」

 

「せやな。こないチンケな扉、蹴りで一発や。ほな、行くでぇぇ!!」

 

郷田の蹴りで扉を破壊して、中へと雪崩れ込む。勿論中にも兵士がいたが、全員ボコボコにしてフラッグを抜いた。

次の瞬間、両軍にホイッスルが鳴り響き演習の終了が報される。72時間、つまり3日の猶予があった筈の演習は1日どころか、たったの半日ちょいで終わってしまった。

その結果、予定していた演習日程が狂ってしまい、ムーと日本の企画者が頭を抱えたとかなんとか。

 

 

 




皆さん!いつも本作、最強国家大日本皇国召喚をご覧頂き、本当にありがとうございます。
パーパルディア皇国をボッコボコにしてから一年が経とうとしており、原作の外伝と私のオリジナルストーリーを基軸としたこのシリーズもそろそろ終わりが見え始めて来ました。このペースだと多分、夏位にはグラ・バルカス帝国編へと突入すると思われます。そのタイミングで、現在の設定集を色々一新を計画しています。これまで殆ど紹介していなかった装甲歩兵の装備とか、詳細なミサイルの性能だとか、熱田型の装甲材とか色々追加したい物が出てきており、タイミング的には良いかなと勝手に考えています。
またこの場をお借りして、現在考えている簡単なグラ・バルカス帝国編までの流れを発表しておきたいと思います。現在進行中の軍事演習編は恐らく後3〜4話で完結し、その後は五等分の花嫁とのイチャイチャとか、オフの時の三英傑に関する話を書く予定です。
そしてそれが終われば、漸くパーパルディア皇国編の最後で書いていた謎に包まれている大日本皇国の歴史を大きく2つ書きたいと思っています。一つは太平洋戦争に於ける緒戦です。作中で書いている通り、ワシントンを占領してますので史実との違いを中心に見てもらおうかなと思っています。もう一つは通称『東亜事変』と呼ばれる戦いです。こちらは神谷の初陣となる戦いでもあり、皇国がその名をまた世界に轟かした戦いです。この二つを書いて、グラ・バルカス帝国編に入りたいと思っています。詳細はまた決まり次第、随時報告していきますので続報をお待ちください。


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第四十四話ムーの反応

ムー国首都オタハイト オタハイト海軍基地 大講堂

「演習相手は皇国軍か。どっちが勝つかな」

 

「パーパルディアを滅ぼしたとは言えど、流石にムーには勝てねーよ」

 

「おいお前ら!そろそろ始まるぞ!!」

 

さてさて、恐らく読者諸氏は「なんか前々回と話の入り方が同じだぞ?」と思った事だろう。前々回ではそのまま我らが皇国海軍の視点から、この演習の模様をお届けした。しかし今回はムーの士官達の視点をお借りして、全体としてどの様な動きだったのかをお見せして行こうと思う。

というのは嘘である。本当はムーの士官達が多いに絶望するサマを見て頂きたい。では、行ってみよう!

 

『定刻となりました。大日本皇国陸海軍、同海軍陸戦隊とムー陸海軍による合同大軍事演習を開始いたします』

 

壇上に立つ司会兼実況役の士官が、演習の開始を告げた。この宣言と同時に、壇上の幕が上がりスクリーンが展開。プロジェクターが作動し、まずはムー海軍の映像が映し出された。

因みに戦力だとか細かいルールだとかは、前々回や更にその前の回をご覧いただきたい。

 

『早速ですが、皇国海軍に動きがありました。ご覧ください』

 

開始5分にして、いきなり動きがあったと言う。戦術のセオリーを考えるのなら、空母を保有する艦隊の初手は大体偵察機を出す事である。だが離陸するには、余りに時間が早すぎる。

エンジンには『暖機運転』という物が必要となる。最近は聞かない言葉であるので、簡単に解説しよう。この暖機運転というのは、エンジンを作動した後に各部を暖めるために負荷の掛からない回転数で放置する事である。昔は車でも自分でする必要だったが、近年では自動化されており寒冷地でない限りやる機会もそうない。

だがムーの技術力は魔法とかがあるとは言えど、所詮は第一次世界大戦から精々戦間期位の技術。この自動化も結構最近になってからなので、第二次世界大戦の技術にも達していないムーでは自動化は出来てない。その為、ムーでの常識は『エンジン作動後、少し放置する』なのである。しかもプロペラ機は色々、ピッチの角度調整とかもあって時間が掛かるのだ。

 

「まさかズルでもしてたのか?」

 

「汚ねぇ!」

 

「シーマンシップはないのか?」

 

映像を見たムーの皆様はボロクソに言っておりますが、次の瞬間、彼らは黙った。目の前のスクリーンに、赤城の飛行甲板の映像が映し出された。横の長さですら、明らかに自国空母の2、3隻分はある広大な飛行甲板に双発(・・)のプロペラ機がいたのだ。

艦載機にする上で重要となってくるのは、離陸距離が短い事が挙げられる。第二次世界大戦後半位からカタパルトが誕生するので、今では距離ではなく重量なのだが、この時代に於いて滑走距離の短さが艦載機に必要な要素の一つであった。

なので双発機なんて、普通に考えてあり得ないのだ。しかも何故か目の前の機体には、屋根の上に謎の平べったい大きな円形の物体が回転している。これが何なのか、皆目検討もつかない。

 

「あれで飛べるのか?」

 

「海に堕ちるだろ」

 

そんな事を言っていると、急に謎の双発機が前にガクリと一瞬沈み込んだ。そして一気に加速し、そのまま飛行甲板から飛び出して上昇した。

 

「なんて加速性能だ.......」

 

「あの距離を、あのデカブツが一瞬で.......。一体どんな出力のエンジンなんだ」

 

『大日本皇国海軍、第一航空戦隊、要塞超空母『赤城』、同『加賀』より、早期警戒機E3鷲目が発艦しました』

 

「偵察機じゃないのか?」

 

「よ、要塞超空母?」

 

聞き慣れない単語に頭が追い付かないが、大講堂に入る際に貰った皇軍の解説辞典を開いて、赤城に関して調べ始める。

 

「あ、あった。要塞超空母『赤城』。は!?」

 

「ぜ、全長1300m!?」

 

その解説書には写真付きで、赤城型の詳細なスペックが書かれていた。詳細なスペックは設定集にあるので、それを見てもらいたい。ムーの常識では考えられないスペックに、一瞬嘘かと思った。だが写真を見る限り、恐らく本当なのだろうと分かり、解説書を見た面々はなんて国に演習を挑んだだと内心突っ込んでいた。

だがそれよりも驚きなのは、同型艦の数である。折角なので、同型艦を書いてしまおう。一航戦が赤城と加賀、五航戦が翔鶴と瑞鶴なのは知っての通り。では他のはというと、こんな感じ。

 

二航戦

蒼龍、飛龍

 

三航戦

大鳳、白龍

 

四航戦

雲龍、葛城

 

六航戦

信濃、鶴龍

 

七航戦

白翔、鳳龍

 

八航戦

迅龍、鶴鳳

 

とまあ、こんな感じで合計16隻姉妹である。士官達が色々調べてみる間に、護衛のF8C震電IIが発艦していく。

一方のムーもこの頃になって、ようやくギャッドラー含む偵察機のマリンを発艦させていた。だがムーの士官達は知ってしまった。E3と、他の艦艇達のレーダー探知距離を。もしそれが正しければ、既に全ての動きが皇国には筒抜けなのも。

 

「なぁ、これって.......」

 

「言うな!まだ、まだ始まったばかりだ。そう、まだ始まったばかりだ。そうだ、まだ始まったばかりだ。だから、まだ始まったばかりだ」

 

「おい!おまえ、さっきから「まだ始まったばかりだ」しか言わねーじゃねぇか!!」

 

「そうなんだよ、まだ始まったばかりだ。まだ、まだ始まったばかりだ。だからこそ、始まった(以下略!!」

 

開始10分にして、早速1人の時間の心が壊れた。因みにこの「まだ始まったばかりだ」言ってる士官、この演習が終わってから『Mr.スタートライン』という、なんともダサい渾名が贈られたらしい。

 

 

『ムー海軍機が、大日本皇国海軍を発見しました』

 

因みに皇国海軍側のレーダー探知による情報は、正確な数値を特定させない為に敢えて流していない。辞典の方の数値も、大体程度にしか描いていない。

 

「ようやく見つけたのか。まあでも」

 

『ムー海軍機、撃墜』

 

「「「「デスヨネー」」」」

 

スペックを知ってしまった以上、もう「あーはいはい」みたいな感想しか出なくなった。だがこの感想も揺らいでしまう、ヤベェ奴等が投入された。鎌倉ヴァイキングである。

 

 

『ムー第一艦隊、白兵戦に突入』

 

「は、白兵戦?」

 

余りに謎すぎる展開に、士官達も驚いている。艦に乗り移っての白兵戦など、不審船や小型船の制圧の為に行うくらいでこんな戦艦やら空母やらと、デカ物まみれの海戦で行われる戦いではない。

 

『受信状況が悪いので、暫しお待ちください』

 

少しのタイムラグの後、画面がまた切り替わり鎌倉ヴァイキングがムーの水兵を殲滅する様子が映し出された。

 

「な!?」

 

「これではまるで、嬲り殺しではないか.......」

 

「蛮族だ。彼らは蛮族だ.......」

 

間違いじゃない。彼らは皇国軍の中でも、蛮族扱いの集団なので大正解とすら言えよう。

これ以降の戦闘も一方的に続き、あまつさえ制圧したラ・エルド等が残ったムー第一艦隊の艦艇を撃沈し、熱田の一斉射で残りも沈んだ。こんな現実離れした戦闘を見せられては、もう黙るしかなかった。

だが一方で、ある1人の士官がある事に気が付いた。

 

「なぁ。このスペック表、もし本当なら今回の皇国軍弱くないか?」

 

「え?」

 

「だって、考えてみろよ。この艦対艦ミサイルとかいうヤツ。射程が主砲の数倍近くあるのに、今回は一度も使用されてない。それにレーダー性能的に多分最初から艦隊の位置は割り出せてただろうから、アウトレンジで全部倒せたのに今回はそれをしてない。

これって、明らかに手加減されてないか?」

 

「じゃあまさか、ムーは手加減されてた相手に一矢報いるどころか傷一つ付ける事なく負けたってのか.......」

 

大講堂に重い空気が伸し掛かる。誰かが「まだ陸戦が残ってる!」と言ったが、それに同意する士官は皆無であった。

いざ夜になって陸戦が始まっても、夜明けまでには最終目標のフラッグまで取られてしまい、結果として72時間の行程がたったの20時間たらずで終わってしまったのだ。だがここで、一つの問題が発生した。

 

「空いた時間、どうしよ」

 

「完全にやっちゃいましたね.......」

 

そう。空き時間である。さっきも書いた通り、本来72時間の想定より大幅に短い20時間で終わらせたのだ。52時間、つまり2日ちょい残っているのである。

一応、本来の演習では対抗演習(3日間)→両国別々での研究会(2日間)→合同研究会(3日間)→軍事交流会みたいな流れだった。

取り敢えずムー側とも合議した結果、全ての行程の繰り上げは決定した。しかし研究会に関しては1日ずつ減らす事になり、合計で4日も余る事が判明した。

ただでさえ余る時間が増えてしまい、頭を抱えて両国の軍上層部。ならばとムー側の出した案が…

 

「是非、神谷閣下に講演していただきたい」

 

「.......はい?」

 

神谷による、大日本皇国の戦術や装備に関する講演である。勿論、こんな面倒な事したくない。というか最近、家庭内がギスギスしてる上に演習でも暴れられなかったので、ストレス溜まりすぎて講演する気にはなれない。

なので本心では断りたいが、流石にNOとは言えない。これから同盟関係になろうと言うのだから、ムー側の上にも恩を売っておきたいのだ。

 

「なにか見返りは?」

 

「オタハイトでの観光許可。それも今回来ている全兵士に。というのは、如何でしょう?」

 

「それで手を打ちましょう」

 

そんな訳で急遽、神谷の講演会が決まったのであった。

 

 

 

対抗演習より一週間後 ムー参謀本部 特別大講堂

「まさか、神谷さんの講演会が聞けるなんてな」

 

「あぁ。神谷殿の話、楽しみだ」

 

本来は大会議なんかで使われる大講堂には、ムー陸海軍の士官も兵士も大勢が詰め掛けていた。あまりに多すぎて、椅子に座りきれない程である。

 

『只今より、特別講演会を行います。講演者である、大日本皇国軍大将、神谷浩三様の御紹介をさせて頂きます。

神谷様は県立修猷館高等学校を卒業後、国防大学校へ進学。首席にて卒業後、東亜事変にて初陣を飾れました。その後、皇国剣聖の称号を得られ、中央歴1639年の転移後はロウリア王国、パーパルディア皇国との戦争に従軍された、歴戦の軍人であります』

 

なんか色々、如何にも偉そうで凄そうな紹介文だが本人としてはそう思ってないので恥ずかしい限りである。だがやるしかないので、緊張を引っ込めて壇上に上がる。

 

『ただいま御紹介に預かった、神谷浩三だ。よろしく頼む。さて、今回は本来予定になかった講演なので、正直準備不足で公演を行う事になってしまっている。なるべく為になり、そして楽しめる様な講演にしていくつもりだが、眠くなったら寝てもらっても構わない』

 

最初の紹介で『大将』だの『皇国剣聖』だのと色々言われていたので、どんな怖い男が来るかと思いきや思ってたよりも優しそうな青年に士官達は拍子抜けだった。

だが、講演の内容は面白かったという。

 

『今回の講演だが、取り敢えず我が軍の戦術を語る前に戦争の形態についておさらいしておきたい。

知っての通り、戦争は生き物。常に変化し続ける。それは我が国の位置する第三文明圏外から、第一文明圏に至るまで幅広い技術の差があるこの世界なら分かりやすいな』

 

早速手元のノートPCを操作して、パワーポイントを起動。プロジェクターには、方陣を組んだ騎士の絵が映し出される。

 

『剣や槍だった頃の『方陣』は、鉄砲の登場で『横隊』になり、鉄砲の進化による『散兵』を経て、今では様々な銃火器によって『戦闘群』となった。これを幾何学的に観察すれば』

 

方陣から戦闘群まで写真か絵を流すと、今度は大きな黒点が映し出された。

 

『『方陣』は点であり、『横隊』は実線であり、『散兵』は点線である。『戦闘群』は面、つまり一次元から二次元に進化した。そして今後に於ける戦闘は、航空機の空中戦を主体とする三次元の戦闘。つまり、立体となる。

そして、航空機中心の攻撃と防御、制空権が勝敗の鍵となるのが戦争の取り敢えずの最終形態となるだろう』

 

この時点で参加者は驚いた。彼らの常識では、航空機が戦争の優勢を決めるなんていう考えを持っているのは一握りしかいない。

今も尚、この世界は大艦巨砲主義なのだ。

 

『だかまあ、いきなり言われてもピンとこないだろう。なので今回は、実際の記録を見せたいと思う。

今から遡る事、凡そ110年前。大日本皇国が、まだ大日本帝国と名乗っていた頃の事だ。帝国は自国の100倍の国力がある国を筆頭とする国家群に戦争を仕掛けた。同盟はあったが、その国々とは距離が離れていて直接共同戦線を貼れない。しかも日本の主敵は、その国力が100倍ある国家だ。

この戦争、第二次世界大戦とか大東亜戦争とか太平洋戦争とか言うんだが、この戦争に於いて各国の主戦場は空へとシフトした。信じられないかもしれないが、数百機の艦載機で戦艦含む十数隻の艦艇に損害を与えているし、数十機の爆撃機で最新鋭の戦艦も仕留めた。

それだけじゃない。逆に日本の沈んだ艦艇の多くもまた、航空攻撃によって沈んだ』

 

この後も、簡単に第二次世界大戦での話が続く。この辺りに関しての詳細は、パーパルディア皇国編の終わった8月からずっと言い続けている特別回にて紹介するので、それまで今暫くお待ち頂きたい。

※自分でもこれ書いてて、もうすぐで1年経つ事に驚きました。遅れてすみません。(いつ書けるのかなぁ)

 

 

『…とまあ、ここまで言っておいてなんだが、これは初っ端に言った通り110年前の大昔の話だ。今の戦争はもっと、複雑でややこしい物に進化した』

 

そう言いながらパソコンを操作して、パワーポイントの電源を落とす。その代わりに会議などで使う、立体映像を映し出す機械を用いて別の映像を流す。

 

「うおぉ!?」

 

「な、なんだこりゃ!?」

 

「映像が飛び出してる!!」

 

初めて見る立体映像に、かなり興奮気味のムー士官達。流石に科学大国ムーとは言えど、立体映像なんて発想はまだない。

 

『さっき語った『立体』という戦闘空間で使われていたのは陸、海、空の3つだった』

 

映像も立体的な六角形の中に英語で「Army」と戦車、「Navy」と超戦艦『熱田』、「Air」とF9心神とそれぞれ描かれた物が浮かんでいる。

 

『だが我が国のいた世界では新たな次元として、偵察や通信の中継地として使用する人工衛星が浮遊する宇宙、何処かの誰かの今日の食事の様な他愛もない物から、最重要軍事機密やら国家機密まで様々な情報が存在し行き交うサイバー空間、通信から誘導弾の誘導まで幅広く利用している電磁波。これらの新たな次元に於ける戦闘も考慮し、統合して運用するのが我々、大日本皇国が行う戦争だ』

 

映像も「Space」と人工衛星、「Cyber」とノートPCが線で繋がった画像、「EMP」とパラボラアンテナがそれぞれ映し出され、やがてそれらは他の陸海空と線で繋がっていく。

だがムーの士官達は、言ってる事の半分も理解できてなかった。特にサイバー空間だの電磁波だのは、ようやく基礎理論が半分見え隠れしてくらいであり専門家でもないと分からないのだ。

 

『と言ってもイメージすら湧かないだろうから、いくつかのパターンを御紹介しよう。まずは陸上戦』

 

陸上戦、海上戦、空中戦の3つの基礎的な戦闘を掻い摘んで紹介した。衛星や偵察機、レーダーが敵を探知し、それを全軍で共有。そこから状況に応じて、更なる偵察や攻撃に入っていく。

ムーにはまだ概念すら存在しない戦闘スタイルに、全ての士官が「そりゃ手加減するわ」と納得した。まあ、この前に一緒に活動してたりするので、そこでも薄々察していたんだが。

そして狙い通り、まずはムー軍全体で「日本との同盟」という話題がチラホラ出始めていた。

 

 

 

同時刻 マオ王国とリーム王国の国境 某所

「では、同盟は締結されたという事でよろしいですな?」

 

「えぇ」

 

ムーで神谷が講演をしていた時、遠く離れたマオ王国とリーム王国の国境では、とある秘密同盟が結ばれていた。

さてさて。マオ王国とリーム王国、一体どんな国かと言うと「日本を危険視する国」と「領土拡張に於いて日本に邪魔された国」である。両国はいずれも第三文明圏に所属しており、事態は皇国がパーパルディア皇国の国家監察軍を撃退したときにまで遡る。

あの後、クワ・トイネの発議で『大東洋諸国会議』という第三文明圏外国と第三文明圏の国家で行われる国際会議があった。その会議に於いてマオ王国は「日本が危険である」と言った。そこまではよかったのだが、勝手に日本を「列強の序列による安寧を崩す危険思想を持った蛮族国家」という謎のイメージを持ってしまっていた。

そしてお隣のリーム王国は、パーパルディア皇国戦役時の73ヶ国連合に参加して、ゴタゴタに乗じてちゃっかり飛び地を確保。エストシラントを確保しようと動いていた。だがエストシラントには核ミサイルのサイロがあった事で阻止されてしまい、日本への恨みを募らせていた。

そんな思想と復讐心を持った国がフュージョンした結果、両国はトンデモない事をしでかそうとしていた。

 

「我が王国が大日本皇国に参戦を布告後、貴国がバックアップする。というので宜しいですね?」

 

「えぇ、フォルク殿。このリーム王国の王子、デューカ・ヴィットリオ・ウィスコンン・バラクーダ・インディアナポリスメーン・リームの名にかけて、貴国の支援を保障致しましょう」

 

今回の作戦はマオ王国が正面に立ち、日本に宣戦布告。装備の支援をリーム王国が行う事になった。しかもマオ王国は新たに、リーム王国の所有する魔石鉱山を割譲するのだ。

だがこれは表向きで、本当は背後からリーム王国がマオ王国を攻め入る腹なのである。リーム王国は先程書いた通り、覇権主義国家。普通にこんな事もしでかす。

 

「それで、仕込みは終わったのですか?」

 

「えぇ。我が国の私掠船が、皇国軍によって沈められています」

 

この話は今から一週間前に遡る。航行中の日本国籍の貨物船が海賊船、もといこの私掠船に襲われた。

近海に訓練で展開していた第三護衛艦隊が急行し、警告したが無視したので已む無く私掠船を撃沈した。これを開戦の口実に使おうと言うのである。

 

 

「.......まーた、戦争かよ」

 

だがこの秘密会談は、しっかりICIBの諜報員によって聞かれていた。実を言うとリーム王国は、日本側も『危険な国』認定していたのである。

と言うのも覇権主義国家としての動きが全く隠れておらず、しかもこの国の王族と貴族は傍若無人な行為をしている。

自国民や自国に来ていた(格下の)他国民を奴隷化するのは当たり前、自国民を殺すのも呼吸と同じくらい普通の日常、というか寧ろ奴隷を持たない殺さない者は異常者認定という感じ。さながらワンピースの世界貴族である。

 

(まっ、取り敢えず報告だわな。にしても、パーパルディア滅んでるんだから未来くらい察しろよ)

 

この事はすぐに本国へと通報され、翌日には一色の耳にも届いた。

 

 

「これ、どうしますか?」

 

「どうするも何も、浩三に任せるさ。アイツならリーム王国とかマオ王国くらい、数日あれば根絶やしにできる」

 

だがこの時、ムーでも大事件が起きていた。詳細は次回で話すが、中々の大事件である。

ちょうど一色が神谷へ連絡したのは、その事件に神谷が介入し終えた辺りだった。

 

「あ、もしもし浩三?悪いんだけどさ、帰りにちょっとリーム王国とマオ王国を潰してきてくんない?」

 

『なにその「帰りに卵買ってきて〜」みたいなノリは。少なくとも国二つを攻め込むときの頼み方じゃないだろうが』

 

「いやだってさ、正直滅ぼしても良さげな弱小国なんだもん」

 

『アホ。どんな国でも、そう言う事は言うもんじゃない。パーパルディアばりのクソじゃないと』

「それ以上だぞ?」

 

『え、マジ?』

 

JMIBの諜報員が集めた、極悪非道な行いが読み上げられていく。全部聞き終わる頃には神谷も「よし、滅そう!!」という意見となり、ここにマオ王国とリーム王国の殲滅が決定したのであった。

次回はマオ王国とリーム王国との戦争を、と行きたいのだが、その前に向上の身に降りかかった事件についてお送りするとしよう。

 

 

 

 

 

 



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第四十五話アトラン民族解放戦線

神谷とエルフ五等分の花嫁との喧嘩より5日後 神室町 カムロモール

「やっぱりみんなで買い物は楽しいね!」

 

「はい!」

 

「アイツが居ないから荷物持ち役が居ないけど、まあ楽しいわね」

 

この日、エルフ五等分の花嫁の姿は神室町にある国内最大級のショッピングモールである『カムロモール』に姿があった。

神谷とのバトルがあってから、流石に皆一様に良い気分ではなかった。そこで早稲が「気晴らしにショッピングに行かれてみては?」と提案し、試しにショッピングに来たらハマってしまったのだった。因みに戦果はと言うと…

 

ヘルミーナ

・新しい料理本

・女性向けファッション誌

 

アナスタシア

・MP5とUSPの10禁電動ガン

・宇宙戦艦ヤマトのプラモデル(2202の最終決戦仕様ヤマト)

 

レイチェル

・RDR2と3

・BF8

・攻略本

 

ミーシャ

・スイーツの詰め合わせ

 

エリス

・ブランド品のバックと服

 

とまあ色々購入したのだが、どうやらカムロモールでは福引きキャンペーンをしているらしく、福引き券が大量にあった。

 

「どうせなら、一つ運試しだ」

 

アナスタシアのこの言葉で福引きをしたのだが、なんとエリスが最初に回した結果…

 

「大当たり〜〜!!」カランカラン

 

なんと一等のムーへの旅をゲットしちゃったのだ。もう姉妹全員、唖然としている。とまあ当たってしまった以上、行かないのは勿体ない。すぐに荷物を纏めて、ムーへと旅立ったのであった。

因みに最大参加人数が大人は5人までなので、神谷も入ると誰かの分は自腹を切る必要があった。

 

 

 

神谷の演説の翌日 オタハイト オターハ百貨店

「まるでタイムスリップしたみたいだなぁ」

 

この日、向上は久しぶりの休暇でオタハイトを歩いていた。向上の趣味はアイドルの追っかけなのだが、ショッピングも好きだったりする。こんな時でもないと、ゆっくり他国の店を回る機会も無いので、この休暇で回る事を決意した。因みに神谷はお留守番。

 

「ただいまタイムセール実施中でーす!!全品15%オフとなっておりまーーす!!ぜひご覧くださーい!!」

 

(そろそろライブ用の服も新調したかったし、ちょっと見ていくかな)

 

何の気なしに入ってみたUNIQL○みたいな服屋。名前こそ『ウォーニクロン』とか言うが、売っている品や値段設定はそっくりである。

 

(上は後からブランド品を合わせるとして、下はこういうのでいっか)

 

色々服を漁ってズボン2枚と靴下を購入。そのまま本屋へと向かい、面白い本がないか探してみる。

一方その頃、彼等も活動を始めていた。

 

 

「おーい、止まれ止まれ」

 

百貨店の地下搬入口に10台近いトラックが入ってきた。すぐに警備員が止めて、運転手の男に事情を聞く。

 

「なんだこの車列は?商品の搬入なんて、こっちは聞いてないぞ」

 

「我々は建設会社の者だ。この百貨店が建てられた5年前後の建物で、立て続けに問題が見つかっていてな。その確認と、念の為に補修用のパーツとか交換用のパーツを持って来させて貰った」

 

「じゃあ何で事前通告なしに?」

 

「本社の調べでここが一番、確認する箇所が多い事がわかってな。昨日いきなり言われて、連絡する暇が無かったんだ」

 

警備員は怪しいとら思っていたが、確かここ最近のニュースでも「建物の老朽化がどうたら」というのを言っていたので通すことにした。だがそれは、間違いだった。

察しの良い読者は勘付いたと思うが、彼らの正体は建設会社の社員なんかでは無い。彼らはムーのテロリスト集団である『帝政復古戦線』の構成員である。

 

「案外早く潜り込めたな。よし、お前達。手筈通りにな」

 

「OK、ボス」

 

ボスと呼ばれる男。この男こそ、第四十話『冷え切る関係と結び付く関係』において「破壊者(デストロイヤー)バーチクス』と呼ばれていた男である。彼がアトラン民族解放戦線の首領であり、懸賞金まで賭けられている本物のテロリストである。

バーチクスは部下のテロリストに命じて、行動を開始させる。今回の作戦は、とても簡単。予め爆弾を各所に設置しておき、地下の制御室と変電設備を制圧。電気を遮断し電子機器をダウンさせ、取れる限りの人質を確保。百貨店を持ってきた重火器で要塞化させ、無差別攻撃を行う手筈なのだ。暴れるだけ暴れたら人質を身代わりに投降させて、その間のゴタゴタに乗じて自分達は武器を提供した国家に亡命する手筈になっていた。

 

「おい、止まれ。入館証を見せろ」

 

建物の中へ続くドアの前で、警備員から入館証の提示を求められる。精巧に作った偽物の入館証を見せて、中へと入っていくテロリスト達。ここでも事情を話して、中に入れてもらった。

 

「あ、おい待て!」

 

全員が止まり、恐る恐る後ろを振り返る。警備員に最も近いテロリストが懐のナイフを握り、攻撃体制にすぐ移れるように構えた。

 

「そっちじゃなくて、こっちだ。頼むぜ」

 

「.......ご丁寧にどうも」

 

警備員はテロリスト達の入っていく方向とは逆の方向を指差しながら、何処か呆れているような半笑いの顔で言った。テロリスト達は警備員の言葉に従い、その方向へと進んで入っていく。

 

「デイモン、サーベはここで出入り口を確保。ビル、ハマーン、ベラル、ガラン、モービー、チャッキーは設置作業。ダラーズ、ベインは偵察。チェインズ、ヤード、ソービアンはマリーナの確保。ヴェイン、カテゴ、バサッべは変電室の占拠。プラーク、ゼゴック、ハーベインは俺と制御室を抑えるぞ。行け」

 

テロリスト達は別れて、各々の場所へと向かう。一方、向上はそんな事なんて知る由もなく本屋で立ち読みを楽しんでいた。

 

(ほぉー。ムーじゃ、今日本ブームなのか。なんか、旧世界の時みたいにトンデモJAPANが生まれそう.......)

 

読んでいた雑誌をレジへと持っていき、他数点も購入。本屋を出た瞬間、女性とぶつかってしまった。

 

「キャッ!」

 

「あ、す、すみません!おケガありませんか!?」

 

「だ、大丈夫です」

 

そう言って顔を上げた女性。だが向上は、彼女に見覚えがあった。

 

「星宮すみれ、ちゃん?」

 

「え?あ!」

 

女性はワタワタしながら、帽子を目深に被って下手な演技で嘘をつく。

 

「ほ、ほほほ星宮すみれちゃんって何方ですか?」

 

「いや、あなたでしょ?それに星宮すみれといえば、日本を代表するトップアイドルグループ、『J.P.スワン』のリーダーですよ。というか、お願いですので握手して下さい!大ファンです!!」

 

目の前の女性は何が何でも認めないつもりらしいが、デビュー以来の最古参クラスのファンである向上には無意味である。紫色の髪に、アニメのキャラのようなプロポーション、そして艶のある美声。見間違えようがない。そこで向上、鎌をかける。

 

「プリン」

 

「へ?」

 

「ここのデパート、限定品のプリンあるんですよ」

 

「え!?」

 

そう。このアイドル、超がつくスイーツ好き。特にプリンが大好物で、ラジオやテレビで度々「多分、日本のプリンは粗方食べ尽くした」と豪語し、他のメンバー達が「スイーツ、特にプリンへの情熱は執着と言って良いくらい」と語るほど。

こういう話に食い付かない筈が無い。

 

「しかも日本の旅雑誌は勿論、こっちでも超有名で売り切れ御免のレア物」

 

「えぇ!?」

 

「そしてそして、その実物がここに」

 

向上は下げていた紙袋からプリンを取り出す。

 

「これ、差し上げますよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「えぇ。ですが!私と握手と、ついでにサインもください」

 

「お安い御用です!!」

 

すぐに握手とサインをくれて、代価にプリンを差し出した。そして嬉しいおまけで、なんとお茶する事になったのだ。と言っても休憩スペースで向上はコーヒーを、すみれはプリンを食べるという物だったが。

 

「ほいひぃ〜!」

 

(チョロい!ってか可愛い!S(すみれたん)M(マジ)T(天使)!!S(すみれたん)M(マジ)T(天使)!!S(すみれたん)M(マジ)T(天使)!!)

 

すみれ、顔面崩壊中。とにかく可愛い。向上にとっては推しの姿を、この超至近距離で見れるのは本当に嬉しい限りだった。表情にこそ出してないが、心の中と脳の思考回路の全ては現在すみれたん一色である。

 

「あの、もしかしてあなた、ロクロリンさんですか?」

 

「え?あ、はい。SNSではそう名乗っていますよ」

 

向上はJ.P.スワンがデビューした頃から、足繁くライブへ通っていた。そしてライブの感想を常に投稿していて、成功している点も失敗している点も忌憚なく書いている。

その意見は全て的を射ていて、ファンの中でも「辛甘口のロクロリン」と呼ばれているのだ。

 

「やっぱり!メンバーの中でもロクロリンさんの投稿は話題になっているんですよ。特に私達がデビューしたての頃は、シンヤリンさんの投稿が励みにもアドバイスにもなっていたんです!」

 

「そうでしたか」

(個人的には黒歴史なんだよなぁ。なんか複雑.......)

 

2人はその後も他愛もない、というかファンとアイドルの思い出話で一時間位盛り上がっていた。そして2人がそんな事をしている頃、地下では作戦がいよいよ始まった。

 

「時間だ、始めるぞ」

 

プラーク、ゼゴック、ハーベイン、バーチクスの4人はFN ブローニングM1910に似た自動拳銃にサイレンサーを装着したピストルを構える。

 

「GO」

 

バーチクスが短くそう命じると、彼らは静かに、だが素早く入る。そして背後から一切の躊躇なく、鉛玉を頭にぶち込む。

 

「なんだきさ」

パシュッ!

 

「おい警ほ」

パシュッ!パシュッ!

 

「10秒」

 

一方、変電室の方も制圧が開始された。だがこの変電室、分厚い扉がある上に頑丈な鍵で中から閉じられているのだ。

 

「緊急安全点検だ、開けろ!」

 

だったら中にいる警備員に開けて貰えばいい。ちょっと大胆な手段だが、中にいる警備員は所詮は民間人。なんの疑いもなく、すんなり開けてくれた。これが軍事基地なら、こうも上手くいかないだろう。

 

「なんだどうし」

パシュッ!

 

こちらもサイレンサー付きFN ブローニングM1910モドキで射殺し、変電室も制圧。またマリーナや警備員の詰所も制圧し、オターハ百貨店のコントロールを完全に掌握した。

作戦は次のステップである、人質の確保へと移行していく。さらに客に変装して紛れ込んでいた他のテロリスト達とも合流し、その姿を公衆の面前へと晒した。

 

「動くんじゃねぇ!!!!」

 

「騒ぐな!!大人しくしろや!!!!!」

 

テロリスト達は銃を屋根やら壁やら至る所に撃ちまくった結果、客も従業員も皆一様に外へ逃げようとし出した。だがそれを許してくれる程、彼らは甘く無い。出入り口のシャッターを下ろして、退路を完全に遮断してしまったのだ。

 

「さあ、我々の指示に従え」

 

「なんなんだ!お前達はなんなんだよ!!」

 

そう言って、青年は手近の箱をテロリストの1人に投げ付けた。箱は当たる事なく逸れたが、代わりに青年には鉛玉がプレゼントされてしまった。

 

「お前達。抵抗すれば、コイツと同じ運命を辿らせる。指示に従え」

 

人質は1箇所に集められて、集中管理される事になった。勿論その中には向上もいる訳で、向上は早速こっそりスマホを起動させて神谷に連絡を取る事にした。

 

 

 

テロリストの襲撃より30分後 オタハイト空軍基地

「向上?もしもーし」

 

『.......』

 

「え?おーい」

 

向上の携帯から電話があったのだが、一向に言葉が聞こえない。というか周囲の音も聞こえない。

 

『コツコツコツ、コツッコツッコツッ、コツコツコツ』

 

暫くすると、マイクを床か何かに軽くぶつけているのか「コツコツ」という音が聞こえる。だが偶然にしては音が周期的で、何より何回も聞こえる辺り何か意味があるらしい。

 

「なんだ、一体........」

 

『コツコツコツ、コツッコツッコツッ、コツコツコツ.......。コツコツコツ、コツッコツッコツッ、コツコツコツ.......』

 

「短音3回、長音3回、短音3回。!!SOSか!?!?」

 

向上がさっきから鳴らしていた音は、モールス信号だったのだ。これ以降、向上はモールスで状況を伝えてきた。

 

『オターハ、テロリスト襲撃。数30以上。全員SMGで武装。HMGあり』

 

「OK、わかった。すぐに助け出してやるからな!」

 

神谷はすぐにマイラスに連絡を取り、事実確認を行う。恐らく初動で動いた警官は死ぬか重傷を負い、ある程度のタイミングでムー軍に応援要請が来ると踏んだ。

 

『神谷さん、どうかされました?』

 

「マイラスさん。オターハ百貨店で、どうやらテロ事案みたいです。ウチの向上から連絡が来ました」

 

『は!?』

 

マイラスにとっても晴天の霹靂だったのだろう。素っ頓狂な声を上げていた。

 

 

「あーらら、シャッターが降りてるぞ」

 

「なんなんだ一体。これじゃ、呼ぶべきは俺たち警察じゃなくて消防だな」

 

テロリストの襲撃から辛くも逃げ延びた1人が警察に通報したのだが、ムーにはまだテロ事案の概念が存在しない。その為、初動で動いた警察官達はイマイチ、事の重要性を理解していなかったのだ。

 

パァン!

 

「なんだ!?」

 

「ガッ.......」

 

「おいマイケル!」

 

相方が撃たれたことに気付き、すぐにもう1人の警官、ウェバーはパトカーの影に滑り込み無線で本部に連絡を取る。

 

「こ、こちらウェバー巡査!犯人はただの不審者じゃ無い!!ライフルで武装した、ギャングか何か.......だ.......」

 

『おいどうした!?ウェバー巡査!!』

 

「は、ははは。そんなの、そんなのアリかよ。奴ら、不審者でも、ギャングでもない。奴らは、そう」

 

ウェバー巡査は見てしまった。無数の機関銃の銃口が、こちらを向いている事を。窓の全てが塞がれるか、土嚢などの遮蔽物で即席の銃眼としている事を。

そして悟った。奴らはギャングみたいな、そんな生易しい者じゃ無い。奴らは…

 

軍隊(・・)だ.......」

 

次の瞬間、無数の銃弾がパトカーごとウェバー巡査の身体を貫いた。一度に10発近い弾丸を浴び、更にはパトカーのガソリンタンクにも着弾して大爆発。

いつもは大人から子供まで多くの人間が行き交うオターハ百貨店の前は、一瞬で戦場と化してしまったのであった。

だが問題だったのは、寧ろここからであった。ムー警察もここまでの事態でしかも軍隊並みの装備を持ったテロリストの概念が無い以上、対応が全て後手に回ってしまっていた。一般人の避難誘導すら出来ておらず、最初近くにいた市民は逃げ出しているが、後から来た何も知らない市民が周囲を彷徨い歩いている始末。しかも近くの警官を総動員した結果、撃たれて制御不能になったパトカーが近くの建物に突っ込むわ、大炎上しながらオターハ百貨店の壁に激突して爆発するわ、警官が20人近く一気に殉職するわで、大惨事となっていた。

流石にこの辺になってくれば市民も完全に逃げ出したが、報道規制を完全に忘れてしまい、今度はメディアが近くをウロウロしている状況という、日本じゃ考えられない事になっていた。更に驚くべき事に、一連の出来事がたった2時間のうちに起こっている。

 

「本部長、如何しますか?」

 

「やむを得ん。首都防衛師団に出動要請だ!」

 

「了解であります!」

 

流石に警察の手に負えないことを理解した対策本部長も、首都防衛師団に応援を依頼する事にした。

だがそんな事はテロリスト達もお見通し、というかテロリスト達は元より軍隊と戦うのが主目的であるので予想通りであった。

 

 

 

12:00

「ニュース12のお時間です。本日は予定を変更致しまして、現在オターハ百貨店周辺で発生している襲撃事件についてお送り致します。現場のフェアチルドアナウンサー!」

 

「はい、こちら現場のフェアチルドです。つい30分前位までは銃声や爆発音が響いていましたが、今は落ち着いています。しかし先程から、首都防衛師団と思われる軍人達が集まってきています」

 

TV局がレポーターを派遣して生放送まで始めちゃう始末で、現場の人間からしてみれば邪魔でしかない。正直、退かす時間もないので首都防衛師団の軍人達は粛々と準備を進めていく。だがそれを、テロリスト達はそう簡単に見逃してはくれなかった。

 

「ようやく、このデカブツが撃てる」

 

そう言ってモービーは、黒い布に包まれた巨大な機関砲を構える。この機関砲、ただの機関砲ではない。本来は航空機搭載用の物であり、それを陸上用に改良した代物なのだ。おまけに口径が37mm。人間どころか、装甲車すら破壊しかねない超強力な機関砲の銃口が今まさに、首都防衛師団に向けられた。

 

ズドンズドンズドンズドンズドン

 

37mm弾は首都防衛師団の輸送トラックに直撃し、タンクのガソリンや荷台の弾薬に引火。付近では兵士達が機関銃の準備なんかで密集しており、一個小隊近くが吹き飛んでしまった。

 

「退避!退避ー!」

 

「死人に構うな!負傷者を下げろ!!」

 

「足!俺の足がぁぁぁぁ!!!!!」

 

吹き飛んで死んだのなら、ある意味まだ良かったかもしれない。足や腕を吹き飛ばされた者達は、激痛が身体中を貫き悲鳴を上げ続ける。

テロリスト達はダメ押しの攻撃で、更に死者や負傷者が増え続ける。

 

「オターハ百貨店付近で現在展開中の首都防衛師団の兵士達が攻撃を受けています!トラックが3台ほど爆発し、兵士達も巻き込まれて悲鳴が響いています!国民の皆さん!今は絶対に、オターハ百貨店周辺には近づかないで、キャァァァァァァァァ!!!!!!」

 

「フェアチルドアナウンサー!?どうしましたか!?!?」

 

「音声さん!音声さん!!」

 

その流れ弾はメディア陣にも牙を剥き、音声担当の男性スタッフが腹部に被弾。それに気付いた兵士がスタッフをそのまま引きずって、仮設救護所まで運んでいった。

 

「た、たった今、音声さんが撃たれました.......。私達もこれ以上は危険なので、後方に下がります」

 

「わかりました。また動きがあり次第、報告をお願いします」

 

 

「.......報道規制とかしろよムー」

 

だが幸い、このニュースのおかげで最前線が思ってたより地獄なのが分かった。ならば今、神谷が下す決断はただ一つ。

 

「野郎共!!状況は思ってたより最悪だ。まだ要請どころか軍事作戦の許可なんて出ちゃいないが、俺達は仲間は決して見捨てない。そして傷付き、戦闘の空気に恐怖し、困っている者がいるのなら、俺達が必ず救い出す。それこそが『国境なき軍団』の所以であり、我らが神谷戦闘団の使命だ。行くぞ野郎共。いつものように俺の背中について来い!!!!!」

 

神谷戦闘団の兵士達は装甲車やトラックに乗り込むと、外に繋がるゲートへと走り出した。因みにゲートにあった踏切の遮断器みたいなバーは、無理矢理ぶっ壊して突破した。(後で神谷が自腹を切る羽目になりました!)

 

 

「あの、ロクロリンさん.......。私達、殺されませんよね.......?」

 

「反抗しなければ、恐らくは。彼らにとって、どうやら我々はまだ人質としての価値がある様子。恐らく後、数時間は大丈夫でしょう」

 

「そっか。その頃にはムーのお巡りさんが助けてくれますよね」

 

「いえ。旧世界のこの時代にはまだ、テロ等の概念がまだ浸透していません。ですのでこういった、人質解放を目的とした特殊部隊は創設されていない筈。しかもテロリスト達は、明らかに重機関銃などの重火器を保有している。これでは、警察では太刀打ちできないでしょう」

 

現在向上含む人質達は、数フロアに分けられて監禁されている。腕も足も目も口も、全て自由に動くので抵抗しようと思えば普通にできる。

だがテロリスト達は必ず試製一型モドキや一〇〇式モドキで武装しており、無鉄砲に抵抗しては死ぬのは明白だろう。

 

「ですが、既に外の仲間と連絡は取ってあります。さっき、1時間程度で到着すると来てますので、すぐに出られますよ」

 

「仲間、ですか?」

 

「えぇ。仲間達がくれば、彼らもすぐに制圧されるでしょう」

 

向上とすみれが話していた頃、白亜衆達はオタハイトを爆走していた。信号なんて守っていられないので、偵察用のバイクとか陸自の高機動車的なのを先行させて、無理矢理道を封鎖させた。え?ムーにも道路交通法的な法律があるだろって?命を救う為には、時に法律を破る事も必要なのだよ。

また先頭を走る神谷の乗る高機動車モドキの後ろには、安定の旭日旗、神谷家家紋の旗、菊花紋の旗、そして本来は式典にしか使用しない部隊旗を掲げさせている。しかも車列上空には乗り切れなかった兵士達がグラップリングフックで飛び回っており、ムーの国民達はその姿に釘付けであった。

 

「お、おい!なんだありゃ!?!?」

 

「人が空飛んでるぞ!!」

 

「なんだあの車!?」

 

大量の軍用車両が列をなして、車道を爆走する姿は圧巻の一言である。しかもその車両達は全て白一色に塗装され、車体には二振りの刀をクロスさせ、その中心に一挺の拳銃。そしてその上にはこの世界とは違う、五つの大陸が描かれており、その前には有翼の一角獣(アリコーン)の紋章が刻まれていた。

軍隊の中でこんな派手な塗装やマークを刻んでいるということは、今目の前を通っている兵士達は精鋭だという事になる。それに気付いた者はいなかったが、だがそれでも、何故か安心感が湧いたのだと言う。

 

 

「ここからはムー軍事大学の名誉教授、アーノルド・シュルワ氏に事件の見解を述べて頂きます。シュルワ教授、よろしくお願いします」

 

「えぇ、よろしくお願いします」

 

所変わって、今度はニュース12。本来なら今日は熱愛が発覚した芸能人と女優のスクープとか、ファッションチェックとか、そういう平和な内容のはずだった。だがオターハ百貨店での惨状を伝えるべく、予定を全変更して、教授も呼び出しての報道となった。

 

「早速ですが教授、今回の武装勢力の武装についてはどうお考えですか?」

 

「まずライフルや拳銃は持っているでしょう。ですが、それ以上に厄介なのはこれです」

 

シュルワは2時間ほど前に撮影したオターハ百貨店の写真のパネルを取り出し、数ヵ所の窓を指差した。

 

「今指を刺した場所には、設置型の機関銃が配置されています。これが厄介です。まず歩兵は弾幕を張られては近付けませんし、例え装甲車を投入したとしても、装甲車は上からの攻撃に弱く弾丸の角度によっては貫通する場合もあります」

 

「では、どの様に制圧するのですか?」

 

「人質がいなければ、正直爆撃するのが一番手っ取り早い手ではあります。ですが流石に過激すぎますので、例えば地下のマリーナから侵入するとか、装甲車を高速で移動させて無理矢理死角に入るとかですかね?」

 

「あ、フェアチルドアナウンサーからの続報です。画面切り替わります!」

 

スタジオからオターハ百貨店前のフェアチルドに変わり、地獄の惨状が映されるかと思っていた視聴者とスタジオのスタッフ達。しかし映し出されたのは、見た事もない軍用車両群と航空機であった。

 

「こちら現場のフェアチルドです!先程からムー陸軍とは違う、所属不明の軍用車両が多数、続々と到着して来ています!!」

 

だがしかし、到着したのは白亜衆ではなかった。やって来ていたのは第四海兵師団である。勿論第四海兵師団に出動の命令も出ていないし、神谷も要請していない。では何故来たのか。

 

(あの人なら。神谷長官ならきっと、白亜衆を動かしている筈。あの人にだけ、楽しみを独り占めされてたまるものか!)

 

という、何とも褒められたものではないものであった。まあ対外的、というか神谷へは「長官1人にだけ行かせられません」的なスタンスを取るが。

 

「あ、また来た!ご覧ください!!今度は純白の軍用車両と、あれは.......部隊長でしょうか?先頭に4つの旗を従えた男性がいます!」

 

神谷の乗る高機動車モドキがフェアチルドのすぐ近くに止まり、その後ろから続々と純白の機動甲冑に身を包んだ最精鋭の猛者達が走ってくる。

 

「あ、あの!」

 

「誰だ、アンタは?」

 

「ニュース12のアナウンサー、フェアチルドと申します。一体、貴方方はどこの軍隊なのですか?」

 

「.......俺達は大日本皇国統合軍、神谷戦闘団白亜衆だ。アンタらのとこのニュースで惨状を知り、不躾ながら応援に参上した次第だ。あ、そっちの部隊は海軍陸戦隊所属の第四海兵師団だ。

それから報道もいいが、もう少し奥でやりな。俺達は今から、ちょっと本気で暴れるからよ」

 

そう言うと神谷はスマホを取り出し、向上へと電話を掛ける。

 

「俺だ。今現着した。そっちも、行動を起こすなら好きにやれ。20分後、突撃する」

 

返事はない。そんなのはわかっていたので、一方的に電話を切る。

 

 

「わかりましたよ、長官。

さて、すみれさん。貴女はここでじっとしていてください」

 

「し、ロクロリンさん?」

 

「私は彼らに、私達を敵に回すとはどう言うことか。敵に回した者はどの様な末路を辿るのか。それをその身に刻んで来ます」

 

そう言って向上は静かに歩き出す。しかしすぐに立ち止まり、少しだけ顔を後ろに向けた。

 

「そうだ。私の本当の名前、まだ名乗っていませんでしたね。私の名前は向上六郎。皇国の守護者達を率いる、最強の御方。神谷浩三大将の秘書で、私自身も陛下より『鉄砲頭』の役を賜る者です」

 

「ロクロリンさんが、あの鉄砲頭の向上六郎少佐.......」

 

三英傑で皇国剣聖の称号を持つ神谷も有名だが、この向上もまた鉄砲頭や元々イケメン広告塔として使われていた事もあって、とても有名でファンも意外といたりするのだ。そしてすみれも、そのファンの1人なのである。

 

「お、おい!貴様、何勝手に動い」

 

「臭い口を閉じなさい」

 

向上は近くにあった家具ショップの店頭に並んでいた包丁を手に取り、一挙動のウチに一切の躊躇い無く、テロリストの喉に包丁を突き立てた。

 

「試製一型とはまた、中々に珍しい。サイドアームは.........ワルサーP38か」

 

「き、貴様!!」

 

「なんだ、銃を向けて。君達、それを抜いたのなら命掛けなよ?」

 

テロリスト達はトリガーに指をかけるが、それよりも先に向上が動いた。遥かに早い動きでトリガーを引き、高い発射レートを誇る試製一型の弾幕をテロリストに浴びせる。

そして向上が行動を開始した頃、外にいる白亜衆と第四海兵師団も行動を開始しようとしていた。

 

「目標、正面。約1,500。敵、重機関砲手」

 

「OK、センターに捉えた」

 

「風向きは南南東より風力5。aim」

 

「OK」

 

「fire」

 

ズドォン!!

 

白亜衆のスナイパーコンビ、通称E&Fコンビは正確に12.7mm弾を撃ち込んだ。37mmの機関砲を操っていたテロリストのチャッキーは、首から上が吹き飛ばされ絶命。一番の脅威が排除された。

 

「こちらスナイパー。高脅威目標は排除した」

 

『了解』

 

E&Fの報告を受けた突入班は、いよいよ突入の準備に入る。

因みにE&Fが何の略称かと言うと、EyeとFingerである。つまり、目と指。勿論観測手が目で、スナイパーが指である。

 

「エンジン始動!」

 

ブォン!ブォォォォン!!ブォォォォン!!

 

「ヒャッハーーーーー!!!!」

 

「シャッターを体当たりでぶち抜けとか、やっぱ神谷閣下は狂ってるぜ!!!!」

 

安定の突撃隊長、ヒャッハー装甲車ドライバーコンビがシャッターに向かって突撃する。勿論、上階のテロリスト達が機関銃を撃つが全く効いていない。

それどころか逆に44式装甲車ロ型の20mm機銃の弾幕に晒されて、すぐに肉片へと加工されていく。

 

ドンガラガッシャーーーーーン!!!!!

 

44式がシャッターに突っ込み、そのままぶち破った。所詮、ただのシャッター。100km近い速度で鉄の塊が衝突する事なんて、全く想定されていないのだ。

 

「ここで左にターン!!」

 

「インド人を右に!!」

 

ギャリギャリギャリギャリ!!

 

ぶち破った後はドリフトしながら、壁ギリギリで止まる。しかも後続の装甲車とトラックも同様に車体をドリフトで横にしながら綺麗に止めていく。神業の一言である。

 

「なんだコイツら!?!?」

 

「車が突っ込んで来たぞ!!」

 

テロリスト達も流石に車の突入は想定外だったらしく、見るからに慌てている。その隙を見逃さず、白亜衆と第四海兵師団は攻勢に移る。

 

「野郎共、行け!!」

 

神谷の号令で、兵士達が飛び出して走っていく。

 

「5.7mmバルカン砲を食いやがれ!!」

 

「グレネードもな!!」

 

「60mm砲弾もオマケだ!!」

 

白亜衆に出会えた方が、ある意味まだ良かったかもしれない。大体一撃で死ねるから。

だが第四海兵師団に出会ったものは、ステゴロ系ならよかったよ。コイツみたいな。

 

「ほないくで?オラァ!ォウ!オラ!ウォラ!死に晒せやオラ!!オゥラ!ウゥラ!ヨイショォ!オラオラオラオラオラオラオラオラ!!オルルルルァ!!ボコボコボコボコボッカーンってか!コイツで、終いじゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「ウラァ!フンッ!ウゥゥラァ!せいぃやぁ!!!!」

 

渡瀬とか桐生ならまだ、どうにか生き残れる可能性がある。だが例えば、この辺の奴らに会った奴らは最悪だ。

 

「グリン!グリーン!青空は二度と見れないー♪!!」

 

「うっしゃぁ!イカ飯になっとけ!!」

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄、乃田ぁ!!」

 

「噛むタイプのデビルマンです!悪夢をどうぞ!!」

 

「兄ちゃん、人間としての背骨がねぇようだ。腹掻っ捌いてやるから、背骨作れぇ!!」

 

元々傭兵をしてたグリングリンして体内をスムージーにする古林とか、剣術免許皆伝の人でイカ飯作ろうとする輪田とか、アイスピックで人を刺して遊び出す乃田とか、ドスで腹を掻っ捌い背骨を作る機会をくれる宮藤とか、この辺の奴らは大体ロクな死に方をしていなかった。

そして、コイツも暴れていた。

 

「な、なんだコイツは!!」

 

「銃弾を斬ってるぞ!化け物だ!!!!」

 

「こっちは演習であまり戦えなかったんだ。少しくらい、俺の相手を務めてみろ!!!!」

 

今回の演習で全くと言っていいほど、活躍がなかった神谷。ここぞとばかりに大暴れしており、テロリスト達は全くその動きについて行っていない。

 

「これは、長官が来てるな。さーて、まだまだ暴れるとしようか!!」

 

向上はそう言いつつも、少し遊ぶ為に敢えて自分が追い込まれるように立ち回る。ワザと吹き抜けになっている通りまで自分から追い込まれていき、周囲をテロリスト達がグルリと取り囲むように仕向ける。

 

「ゲームオーバー、だな」

 

「冥土の土産だ。名前くらい聞いてやる」

 

「そうだなぁ。名前は.......今だッ!!!!」

 

次の瞬間、下から白亜衆達が飛び出して銃撃を加えながら着地する。

 

「向上少佐、ご無事で?」

 

「健在だ。状況は?」

 

「下から上へ、殲滅を開始しています。少佐も攻勢には」

 

「勿論、参加させてもらう」

 

「ではこちらを」

 

白亜衆の兵士は腰に装備していた、グリップに「鎧袖一触」の文字と「天下無双」の文字が刻まれた二挺の26式拳銃を渡す。向上専用の拳銃である二挺を握った瞬間、向上の目つきが一気に変わった。

 

「よくも仲間を!!」

ズドン!

 

「このや」

ズドン!

 

「ちくし」

ズドン!

 

殆どノールックで、弾を正確に心臓や頭に命中させている。無駄のない、洗練された動き。それはまるで、芸術とすら言えるだろう。百戦錬磨の一騎当千の猛者達である白亜衆の兵士達も、流石に「スゲー」と任務中にも関わらず声を上げた。

 

『こちら5階制圧班。ちょっと問題が起きた』

 

「了解、すぐに向かう。少佐!5階でアクシデント!」

 

「了解」

 

向上らが5階へと上がると、丁度窓際で3人のテロリストが人質を取って「来るな!殺すぞ!」というテンプレ通りのセリフを吐きながら立っていた。

 

「この女がどうなってもいいのか!」

 

「おら!もっと下がれ下がれ!」

 

人質の女性というか、金髪のエルフが踏ん張って抵抗するが無理矢理引き摺られて行く。これ以上刺激すると、本当に殺しかねないのでそれに合わせて白亜衆達も下がるしかない。

 

「そうだ、それでいい」

 

テロリスト達も少し安心したのか、少しだけ緊張の空気が弱まった。

 

「後ろがガラ空きだ」

 

ザクッ!!

 

だが次の瞬間、密かに近付いていた神谷が背後から胸に刀を刺した。貫通した剣先が血に濡れて、ポタポタと地面に血を垂らしている。勢いよく引き抜き、右にいるテロリストの首を掻っ切る。そしてそのまま左足を軸に180°回転して、左のテロリストの腹を掻っ捌き内臓を掻き出して行く。

 

「クリア」

 

涼しい顔で一言、そう言ったが恐怖でしかなかった。返り血で赤く染まった純白の装甲服と刀とか、ヤバい臭いしかしない。

 

「た、助けてくれて、ありが、え!?」

 

「ん?は!?」

 

人質に取られていた筈のエルフの女性は他でもない、神谷をぶん殴ったエリスその人であった。流石にこれには、お互いビックリである。

 

「待て待て待て待て!!なんでお前がここにいるんだよ!?」

 

「そ、そんなのアンタに関係ないでしょ!?というか、そう言うアンタこそなんでここにいるのよ!!」

 

「こっちは仕事だ!!」

 

厳密に言えばぶっちゃっけ仕事ではないのだが、まあこの際、そこは敢えてツッコミは入れないでおこう。

だがここで気になるのは、他の姉妹の所在である。

 

「って、んな事はどうでもいいわ。で、他の姉妹は?」

 

「みんないるわよ!」

 

「そうじゃなくて何処かって話!所在は何処だ!?無事なのか!?」

 

「ヒッ.......」

 

色々ありすぎてイライラしてるのと、一応ここ最近の心労の原因の一つでもあるエリスが目の前にいるのだ。やはり口調が強くなってしまう。エリスも目の前で躊躇なしで人が殺されてしまい、流石に恐怖心があるのだろう。詰め寄られると、少し悲鳴が出てしまった。

そんな事をしている頃、ヘルミーナが走ってきた。

 

「エリス!無事だったのね!?って、神谷様!?!?」

 

「ミーナは無事か」

 

「神谷様、大変なんです!レイチェルが、レイチェルが奴らの人質に!」

 

「え?人質は全員解放済みなは」

「団長!ヤバいです!!地下のマリーナから、例のテロリストを乗せたボートが出たと!しかも奴ら、人質に銀髪のダークエルフの女を連れてやがる!!」

 

このタイミングで「銀髪のダークエルフの女性」となれば、もうそれはレイチェルしかいない。

 

「長官。ウチの部隊が既に手を回してあります。丁度、奴らの進路上に武装ボートを進出していますので、挟撃させましょう」

 

「頼むぜ、会長さん!」

 

堂島の提案により、挟撃作戦が始まる。神谷は陣頭指揮の為に別の武装ボートに乗り込み、追跡を開始する。因みにエルフ五等分の花嫁も無理矢理乗ってきた。

 

「長官!そろそろでーす!!」

 

「進出部隊の状況は!?」

 

「間もなくポイントに到達します!」

 

神谷は拡声器の電源を入れると、警告の為に色々言っておく。これで止まったら良いのだが、それで止まればそもそもここまで大変じゃないだろう。

 

『テロリスト共!そこまでだ!直ちに武器を置いて下がりやがれ!!』

 

案の定、ガン無視である。

だがテロリスト達は、それを後悔する事になった。目の前から後ろから追ってくるボートと同じボートが4隻、接近してきていた。それだけじゃない。上空にはスナイパーを乗せた何故かプロペラを天井につけた謎の飛行機(UH73天神)が3機、そして目の前の橋には兵士を満載した20台の40式小型戦闘車がやって来て、上の重機関銃の照準を合わせていた。

 

「お前達!!抵抗し、我らが意向を示すぞ!!!!」

 

そう言って息巻くテロリスト達。自分達には人質がいるのだから、簡単には撃てないと思っていたのだろう。確かにその通りである。実際、人質に流れ弾が当たっては本末転倒なので撃てない。

なら人質を奪還してしまえばいい(・・・・・・・・・・)

 

転移(テレポーテーション)

 

神谷は魔法でテロリストの乗るボートに乗り込み、レイチェルの手錠の鎖を握っている男の手首ごと切断して、もう一度武装ボートに転移する。その間、僅か3秒。

 

「レイチェル、大丈夫か?」

 

「う、うん」

 

「よし。さーて、じゃあ俺達にとっての枷も外れたし、仕上げと行くか!」

 

神谷は武装ボートの船首に立つと、右手をデリンジャー型の鉄砲の形にしてコメカミに押し当てる。そして…

 

「BANG!」

 

撃った。次の瞬間、正面から来てテロリストのボートを包囲していた武装ボート、上空のヘリコプター、目の前の橋上の兵士達が一斉に撃ち始めた。

反撃する間なんて存在せず、肉片へと加工されて行くテロリスト達。それに合わせてボートも穴だらけになっていき、最後は爆発して川の中へと沈んでいった。

因みにオターハ百貨店の方も、地下駐車場からトラックと盗んだ車で強行脱出を図った奴らがいたらしい。が、こっちの方が酷かった。

 

ブォォォォォォォォォォォ!!!!

 

装甲歩兵の5.7mmバルカン砲で蜂の巣にされたり、終いには…

 

ズゴォォン

 

第四海兵師団の34式戦車の主砲、200mm速射砲の餌食となった。

こうしてムー首都、オタハイトのオターハ百貨店で起きた惨劇は民間人に32名、警察に82名の殉職者と73名の負傷者、首都防衛師団に103名の死者と28名の負傷者という、決して小さくない犠牲を払って終結を迎えた。

 

 

 

数時間後 オターハ百貨店前

『あ、もしもし浩三?悪いんだけどさ、帰りにちょっとリーム王国とマオ王国を潰してきてくんない?』

 

「なにその「帰りに卵買ってきて〜」みたいなノリは。少なくとも国二つを攻め込むときの頼み方じゃないだろうが」

 

事件が終結し警察やムー政府高官への説明と、メディアからのインタビューとかをこなしていると一色からぶっ飛んだ内容の指示が来たのである。

 

『いやだってさ、正直滅ぼしても良さげな弱小国なんだもん』

 

「アホ。どんな国でも、そう言う事は言うもんじゃない。パーパルディアばりのクソじゃないと」

『それ以上だぞ?』

 

「え、マジ?」

 

詳しくは今後書くので今は伏せておくが、まあ中々にヤバい事をしていたので急遽、帰り品にサクッと滅する事にした。そしてこの戦争が、また別の厄介事を含むとは知る由もなかった。

 

 

「あの、シンヤリン、いえ。向上さん!」

 

「なんでしょう?」

 

「助けてくれて、ありがとうございました!!」

 

そう言ってすみれは頭を下げた。推しに頭下げて貰えるという状況に頭が追い付いてないが、どうにか頭を上げてもらう。

だが更に驚く事が起きてしまった。

 

「それで、あの。わ、私とお付き合いしてください!」

 

「.......ゑ?」

 

「私、ずっとファンだったんですけど、好きになっちゃいました。ダメ、ですか?」

 

ここで「ダメですか」を可愛い声でしかも上目遣いでするという、必殺技を出された結果、向上は断ることができなかった。

 

「は、はい。こちらこそ.......」

 

こうして、ようやく向上にも春が来たのである。

 



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第四十六話リーム王国へ

合同大軍事演習より2週間後 リーム王国周辺の上空 空中空母『白鯨V*1

「これより最終作戦会議を始める。まずは状況の再整理からだ。

二週間前、マオ王国とリーム王国の連名で大日本皇国に宣戦を布告してきた。リーム王国は「日本が我が国の私掠船を不当に沈めており、その報復として宣戦を布告する」としており、マオ王国はリーム王国との同盟により参戦している。だが勿論、対応に当たった第三防衛艦隊の報告では全くの事実無根だ。スパイからの情報では、開戦理由はリームがパ皇との戦後処理でエストシラントが取れなかった不満でマオは日本を脅威と感じてたかららしい。

まあ何れにしろ、俺達への逆恨みみたいなもんだ。攻め滅ぼしても、こっちには大義がある。そんで持ってまあ、戦略だが簡単だ。熱田は単艦でリーム海軍を殲滅し、残りの艦艇はマオ海軍を殲滅。第四海兵師団がマオ王国に強襲上陸して、IJMと鎌倉ヴァイキングはリームの沿岸部を占領しろ。神谷戦闘団と白鯨IIはリームの首都を占領する。流れとしては以上だ」

 

この会議はリモートで山本や堂島といった、各部隊の長達が参加していた。だが2人だけ、スペシャルゲストが参加していた。ムー海軍のトップであるジャブソニー・グラターナと、ムー陸軍のトップであるホーストン・ウェスバイトである。

 

「神谷殿。部外者がしゃしゃり出るの生意気だとは思うが、流石に作戦無しは危険なのでは?」

 

「作戦は後程、データリンクで送信するのでご心配なさらず」

 

グラターナもウェスバイトも「データリンク」という言葉を知らないので、頭が全く追い付いていない。

と言うかそれ以前に何故ムーのトップ、皇国で言う神谷がここにいるのかと言うとテロ事件の翌日まで時間は遡る。

 

 

 

テロ事件の翌日 ムー参謀本部

「流石に不味かったかなぁ」

 

「いや、そりゃ不味いでしょ。だって他国の同盟国でもない国の首都で、許可なく戦車やら装甲車やら攻撃ボートやらで大暴れしてるんですから」

 

「デスヨネー」

 

この日、神谷は実質的な出頭命令が出されて、ムー参謀本部にやって来ていた。今回は全面的にこっちが悪いので、どのようにして乗り切るかを考えていた。

因みに昔は何度も命令違反&規則違反をしており、その度に穴や抜け道を突いてずっと不問にしてきている。勿論その全てが上官の仕事が増える以外で人を不幸にはしていない。だが今回は皇国ではなく、他国のムーが相手。流石にヤバい。

時間は無情にも進むので腹を括って会議室に入ろうとしたら、会議室の前でマイラスが立っていた。

 

「神谷さん、落ち着いて聞いてください。どうやらウチのツートップの将軍が両方とも揃ってるみたいです」

 

「おいおいマジかよぉ.......」

 

「一応諜報部にいる同期に頼んで、簡単に工作はして貰っています。後は自力でお願いします」

 

どうやら裏で奔走してくれていたらしい。やはり持つべき物は友達なのは、どの世界のどの時代でも共通らしい。

 

「落ち着け落ち着け。.......失礼する」

 

重厚感のある豪華な扉を開けると、明らかに偉い人と1発でわかる凄みを持った老人2人と、その後ろに控える10人近い士官達。流石の神谷でも、冷や汗ものである。

だがここで舐められては、これから行う丸め込みに不利となる。相手に弱みをみせず、あくまでも毅然とした態度を心掛けて「私は何も怪しいことしてません」感を演出する必要があるのだ。

 

「神谷浩三さん、でよろしかったかな?私はムー海軍長官のジャブソニー・グラターナ。こっちが」

 

「ムー陸軍長官、ホーストン・ウェスバイトだ。早速だが本題に入らせてもらう。今回の始末、どうつけるのかね?」

 

「どう、と申しますと?」

 

「貴国では他国の首都で、軍隊を許可なく動かすのが普通なのか!?そんな事があって溜まるか!!そしてその結果、オターハ百貨店は大破。しかも貴様らがしゃしゃり出た結果、我が軍の威信は地に落ちた。この始末をどうするのかと聞いている!!!!」

 

取り敢えず、現段階で彼らが何処に怒りを覚えているのかが分かった。軍を許可なく動かした件については分かりきっているので一先ず置いといて、それ以外だと「皇国軍の横槍で美味しい所を総取りされ、軍の威信とかメンツがズタボロになった」という所らしい。これなら反撃は可能だ。

 

「結論から申しましょう。自分から始末は付けませんよ。何せ我々はムーの国民と、あなた方ムー軍の威信を守ったのですからね」

 

「ほう。貴様、私の言ったことを理解していないのだな?ふざけるな!!!!!!

 

そう言ってウェスバイトは拳で机を叩く。骨でも折れたんじゃないかと思う程の大きな音が、会議室中に響き渡り後ろに控える士官達も一瞬だけ肩をビクリとさせた。

 

「まあまあホーストン、落ち着け。神谷さん。私としても軍の威信を守ったという発言には些か怒りを覚える。その発言、責任を持っているのだろうな?」

 

「えぇ。我々が介入した理由は私の部下、つまり皇国の国民が囚われていたという理由もありますが、もう一つ大きな理由があります。

それはムーのどの部隊を用いたとしても、人質全員を無事に救出するのが不可能であり、また投入される部隊の人員の損耗も著しく高いと判断したからです」

 

「我が軍を愚弄するのか?貴様、外交問題にしてくれようか!?!?」

 

ウェスバイトが噛み付く。神谷の言ってることの対象となっているのは、ウェスバイトが管轄する陸軍の事となる。つまり自分の部下を馬鹿にされているのだ。ある意味、良い上司かもしれない。感情的だけど。

 

「何も「弱い」と言ってるのではありません。というかそもそも、対応しろというのが無理な話です。今回起きた事件は、我が国や我が国が元いた世界では「テロ」と呼ばれていました。

約110年前、世界大戦を経験した旧世界ではそれ以降、大国同士の全面戦争というのは少なくなりました。その変わりに増えたのが、特定の主義主張を武力で通そうという連中です。こういった連中は元々は一般人だったり、賊だったりするので行動の予測がつかない。しかも一般人だろうが、女子供だろうが無関係に殺してくる。そんな連中です。

旧世界で起きた事件だと旅客機のハイジャックや山荘を占領したり、人の密集する場所に強い毒を撒いたり、建物を爆破したりしていますね。特に有名なのは、こちらで言うミリシアル帝国のオフィスビルと国防総省にハイジャックされた旅客機が突っ込んだ事件と、とある大国の首都の様々な場所で自爆したり銃弾をばら撒いた事件ですね。そんなトンデモ連中と戦えますか?」

 

一応黙ったが、それでもまだ半信半疑といった所だろう。ここで懐から秘密兵器スマホを取り出して、当時のニュースを見せる。更にテロリストと正規軍の戦いも見せた。

 

「お分かり頂けましたか?もしもあのまま、ムー軍だけで事態の収拾を図っていたらどうなったか」

 

「.......理解はした。納得はしてないがな」

 

「私は理解も納得もしたよ。だがまあ、問題は別にもある。政治家達は今回の事を「皇国の侵略行為だ」と騒いでいてね。流石に君達を信頼は出来ない以上、擁護もできない。そこでだ。私としては君達の力と、それから考え方をみたい」

 

「なら、こんなのはどうです?」

 

なんか思いもよらない方向に進んでいるが、この波に乗っておく方が楽だと直感で判断したので、もう堂々と乗ってみる。2人に例の戦争の件を話し、誰か信頼できる側近でも観戦武官につけないかと頼んでみた。

 

「ふむ。なら、な?」

 

「我々で行くとしよう」

 

「そうそう。信頼できる側近をって、え?今何と?」

 

「いやだから。我々2人で直々に、君達が信頼に足る人物か見ようと言っているんだ」

 

どうやら、この2人も神谷と同じようにぶっ飛んだ奴らしい。そして多分、これ断ったら更に面倒になるのでNOとは言えない。因みにこの数日後に神谷戦闘団を乗せた白鯨IIがムー上空に飛来し、神谷ら白亜衆と合流。一路、リーム王国へと進撃を開始した。

そして今に至る。

 

 

「長官、こちらを」

 

「例の報告書か」

 

会議が終わり自室に戻る途中、通信員から書類の束を渡された。表紙には『リーム王国偵察報告書』と書かれており、これはJMIBが偵察して調べ上げたリーム王国の非道行為と極悪非道の王族&貴族の一覧である。それではここで、リーム王国の非道行為の一部を列挙してみよう。

 

・何の罪もない家族を妻は夫と子の目の前で陵辱し、子は生きたまま動物に陵辱させ、夫は拷問に掛けられた

・自国民、他国民問わず奴隷化。勿論略奪も。

・奴隷となった者の運命はとにかく悲惨であり、両目を抉られるとか腕や足を切り落とされるなんてのは序の口。生きたまま動物に食わされたり、玩具にされたり、糞尿を食わせたり、毒を飲ませたり、謎の魔法でモンスターにさせられたりとロクな目には合わない。

・医者だろうが何だろうが、目の前を横切れば殺す。馬車や船なら、乗ってる人間ごと破壊。

・そしてこの悪逆非道の行為の被害者に、日本人も含まれている。

 

とまあ、こんな感じ。流石の神谷もこれには激怒した。パーパルディア皇国なみに。いや今回はもしかすると、あの時以上だったかもしれない。

兎に角、神谷は指揮官達に命令を下した。

 

「お前達、民間人は絶対に傷付けるな。それから悪逆非道を行ってるアホ貴族がいれば、必ずとっ捕まえろ。絶対に殺してやるな」

 

この命令に驚いた読者諸氏もいるだろう。殺さなくていいのか?と。甘い、甘すぎるぞ。殺してしまえば、それ以降苦痛は与えられない。ならば殺さずにとっ捕まえて、後から色々してあげた方が殺された者たちの苦しみも少しは理解できるだろう。

 

「長官!!」

 

下士官の1人がノックもなく、部屋へと飛び込んできた。本来なら懲罰対象なのだが、顔の焦りようから察するに重大な何かが起きたのだろう。

 

「どうした、取り敢えず落ち着け。ノックもなく飛び込んできた辺り、何か緊急事態なのだろう?」

 

「あ、いや!も、申し訳ありません!」

 

「あ、別に懲罰とかはしない。不問にする。それよりも、何があった?」

 

「そ、それが。信じられないでしょうが、この艦に密航者が.......」

 

流石にこの答えには驚いた。軍用機に密航者とか、前代未聞である。

 

「それは現地人か?」

 

「は、はい!エルフの女性が5人程」

 

「ご、5人のエルフの女性.......」

 

この時点で神谷の脳裏には、あのエルフ五等分の花嫁が浮かんでいた。いや、そんな筈はない。何故なら彼女達は既に日本行きの飛行機に乗って、帰国している筈なのだから。「そんな事あるはずがない」なんて思いながら、その密航者が待つ食堂に向かうと…

 

「何でいるんだよ.......」

 

5人揃って手錠かけられた状態で、まず経験することのない形で再開を果たした。

 

「で、言い分を聞こうか?」

 

「えっと、あの.......」

 

ヘルミーナが狼狽え、他の4人もバツの悪そうな顔をしている。

 

「アンタ達を助けるためよ」

 

「は?え、ちょっと待て。エリス説明しろ」

 

エリスが説明するにはこうだ。リーム王国、正確にはリーム王国を支配する王侯貴族はとある兵器を隠していると。その兵器の名こそ判明していないが、古の魔法帝国が保有していた空中戦艦なのだと言う。

魔法を使える者が神谷を除いて居ない以上、魔法知識が必要になると考えてこっそり忍び込んだそうだ。

 

「どうします?」

 

「どうするもこうするも、その空中戦艦とやらを破壊するしかないだろ。それからお前ら、どんな理由であれ無許可で軍艦に忍び込んだんだ。罰は受けてもらう」

 

罰を受けさせると聞いて、5人の顔色が一気に悪くなる。牢屋か鞭打ちか、はたまた死刑か。だが与えられた罰は、全くの予想外なものだった。

 

「お前達も俺達と共に戦え。もしその空中戦艦とやらがいるのなら、魔法知識が必要な可能性も出てくる。俺も一応使えるが、それはあくまで使えるだけで原理とかの部分は全然わからん。密航した罪は、労働をもって償え」

 

「か、神谷殿。よいのか?それでは軍の規律g」

「規律どころか法を犯した奴がそれを言うか?」

「.......」

 

「あくまでこれは、今ここにいるのが俺の直属の部下達しか居ないから出来る事だ。普通なら家族だろうが何だろうが突き出さないといけないし、仮に突き出さなかったら他の奴が突き出すだけだ。実際、これも服務規程違反だし。

だが俺がお前達を必要と判断し、コイツらも俺の判断信頼してくれて居て、なおかつコイツらもあのゴブリンとの戦闘でお前達の戦闘能力を見ているからこそ出来る、超荒技なんだ。そこを勘違いするんじゃねーぞ」

 

そう言うと神谷は五等分の花嫁の後ろに立つ兵士達に目配せし、手錠を外させた。彼女達が手首を摩っている中、神谷は大声を張り上げる。

 

「聞け野郎共!!この戦いの間だけ、コイツらのお守りもお願いしたいッ!!!!コイツらの戦闘能力は既にゴブリンとの戦闘で知ってるだろうが、規律やら皇軍の戦法やらは当然だが知らん!!!!だが彼女達の能力は必ず、この戦いでのカギとなる!!もしこの判断が裏目に出たら、それは俺の責任だッ!!!!お前達には類が及ばない様にはする!!だから、頼む!!!!!」

 

そう言って頭を下げた。例え絶大の信頼を置いてくれているとは言えど、この部隊でも軍のトップと言えども、私的な問題での無理難題である事には変わりない。しかも命のやり取りをする戦場での無理難題。一歩間違えば死に繋がる中での願いである以上、頭を下げるのは当然のことだ。

 

「頭を上げてください、長官。我々は正直、軍や国家よりもあなたに忠義を尽くします。多分、あなたが皇国を裏切ったとしても、その裏切りにスジが通っていれば共に裏切るでしょう。他部隊じゃ無理難題でしょうが、あなたの率いる我ら天下の神谷戦闘団ではイージーミッションですよ。

そうだろう、お前達!!!!」

 

「「「「「オウ!!!!」」」」」

 

大声を上げる神谷戦闘団の兵士達。彼らの強さは、戦闘技術だけではない。この連帯力と神谷への絶大な信頼である。今この時、元より強かった結束が更に強く、頑強な物になった。

そしてタイミング良く、艦内放送が鳴り響く。「上陸部隊は格納庫に集合せよ」つまり、出撃の時が来たのだ。兵士達はメットを被り、格納庫へと向かう。

 

「あ、お前たち。武器は持ってきてないよな?」

 

「当然でしょ!」

「空港の警察に取られた」

「アーシャ姉様、警察じゃないわ。えっと、麻薬取締員?」

「税関職員だよ」

「麻薬だったら、私達は今頃牢屋ね」

 

「だよなー。知ってた。それじゃ、お前達には魔法で武器を作るとしよう」

 

神谷が魔法『上位武具生成(クリエイト・グレーター・ウェポン)』を使い、色々と装備を生み出していく。武器以外は基本全員、同じ装備なので上から順に紹介していこう。魔法を使うミーナとミーシャは白銀のティアラ、他の3人は白い羽根の髪飾り。

鎧は二次元の女騎士と同じように胸元がザックリと開いており、下乳と横乳を覆う形で純白の装甲があり、腰回りにもある。そして肩にはスターウォーズのキャプテン・レックスの右肩の様な装甲が両肩に施されており、右肩には日の丸、左肩には神谷戦闘団の部隊マークが描かれている。腕には腕甲と白い長手袋。

下は腰に革製の小物入れと純白のミニスカートにヘルミーナは薄いピンク、アナスタシアは薄い紫、ミーシャが薄いレモン色、レイチェルが薄い水色、エリスが薄い赤の腰巻。脚にも純白の装甲ブーツ。

武器はヘルミーナがサソリの装飾が施された二振の黒いブロードソード、アナスタシアが蛇の装飾が護拳に施された青のレイピア、ミーシャが雷の紋様が無数に刻まれた杖、レイチェルが雲とドラゴンの紋様が施された緑のロングボウ、エリスが黒に赤のラインが入った大剣である。

 

「適当にやってみたが、案外いけるもんだな。さてお前ら、簡単に説明するぞ。そのティアラと髪飾りはどちらも移動速度、跳躍力がアップする。ティアラは魔法行使時の魔力消費量が100分の1に減少させ、髪飾りは筋力が5倍にまで引き上げられて、疲れもすぐに発散される。

鎧は装甲車並みの装甲にしてあるから、剣撃や弓での攻撃どころかバリスタくらいなら軽く防ぐ。でも軽さは革鎧程度にしてあるし、元より軽装甲だから動きやすいはずだ。それ以外も剣撃や刺突、強力な弓矢の攻撃は防げる程度にはしてある。

ブーツには落下ダメージ無効化と空中歩行能力、それから移動速度上昇の魔法を掛けてある」

 

「ちょちょ、待って待って!これまさか、神谷さんがいま作ったの?」

 

「魔法でちょちょいと」

 

「そんな魔法、存在したんですね.......」

 

ファンタジー世界じゃよく、何かの物質を生成したりする。だがこの世界に置いて炎とか雷とか水ならまだしも、金属や布などを生成したり、ましてそれを整形するなんて事は不可能とされているのだ。因みに一部金属には、強化魔法や魔力を流す事で特殊な金属に加工している物もある。

 

「さぁ、着替えろ着替えろ!」

 

そう言って神谷は一度、部屋に戻った。自分の装備を取りに戻ったのだが、ホルスターをさっきまでいた部屋に忘れた事を思い出して戻った。

戻ると5人は既に着替えを完了しており、臨戦態勢に入っていた。

 

「お、似合うじゃん」

 

「神谷殿。この紋様、左肩のは何だ?」

 

「あぁ。ソイツは、我が神谷戦闘団の紋章だ。下の刀と銃は俺、上の地図は旧世界の世界地図で、その前にいる馬はアリコーン。このマークには「世界中、何処へでも赴く」という意味が込められていたな、その結果『国境なき軍団』とか言われてる」

 

「これが神谷様の部隊の紋章.......」

「なんか、カッコいいよね」

「そうね。まるでそう、神谷様と心が一つになった様な.......」

 

ミーシャ、レイチェル、ヘルミーナの3人が肩のマークをじっと眺めている。その間に神谷は今まで着ていた軍服を脱いでボディースーツ姿となり、その上から専用仕様の白い機動甲冑を装備する。

この際なので、神谷専用仕様の機動甲冑も紹介しておこう。装甲カラーは黒に金なのだが、右肩の装甲は赤色で、ヘルメットを装備せずにARコンタクトレンズを装備する。そして装甲服の上には『皇国剣聖』の文字が入った至極色の羽織を纏う。

因みに相棒の向上は黒と赤の装甲服である。そして勿論、上から旭日旗の刻まれた黒いロングコートを纏っている。

 

「グズグズするな、行くぞ」

 

部屋を出て格納庫へと向かい、白亜衆用に白い塗装と神谷家の家紋やアリコーンの部隊アイコンが描かれたVC5白鳥へと乗り込む。他の神谷戦闘団の兵士達は、塗装こそ普通だが神谷家の家紋と部隊アイコンが描かれてたVC4隼、若しくは白鳥に乗り込んでいる。

 

「長官、御武運を!」

 

「「「「「「「御武運を!!!!」」」」」」」

 

「あぁ。勝利を期待しておけ」

 

誘導員の敬礼に答礼しつつ、笑顔でそう答える。機体へ乗り込み、ハッチが閉まると機体はエレベーターの方へと移動していく。飛行甲板に出ると、そのまま後部へ移動。そこでプロペラを展開し、大空へと飛び立っていく。

 

 

 

同時刻 超戦艦『熱田』 艦橋

「司令、間も無くです」

 

「よし。戦闘用意!」

 

「戦闘よーい!!!!」

「総員、戦闘配置。総員、戦闘配置。各班は戦闘に備えよ」

「艦隊増速、第三戦速」

「第三戦そーく!ヨーソロー」

 

艦隊の戦闘準備が着々と進む中、偵察の為に先んじて発艦していた要塞超空母『加賀』の早期警戒機、E3鷲目から敵艦隊発見の通報が入った。この報告に、艦橋はより緊迫した空気となる。

 

「一応だ。AEWに中継させて、降伏を呼びかけてみる。通信員!」

 

「アイ・サー!」

 

通信員が鷲目に搭載されている魔道通信の送受信と傍受もできる通信機を経由して、接近中の艦隊に「こちらは大日本皇国海軍である。直ちに武装解除し、我が方に帰順せよ。さもなくば殲滅する」というのを流した。

 

「これで降伏してくれれば苦労しないんですけどね」

 

「あぁ。だがこういうのは、する事にこそ意味があるものだ。例え回答が望み通りのもので無くとも、な」

 

なんて山本と副官が言っていると、返信が入ったらしい。思ってたよりもすぐに返信が来たので、通信員含む艦橋要員は驚いていた。

 

「いや、え?嘘」

 

「どうした?」

 

「返信が来たのですが、あの、これ原文通りですからね?ふざけてませんからね?」

 

やけに念押ししてくる通信員に若干の鬱陶しさというか、不快感というか、いずれにしろマイナスな感情を抱きつつも「わかったから、早く言え」と促す。で、その返信というのが『あー、別にいいぞー』だった。

 

「え、ちょっと待て通信員。それ、本当に言ったのか?」

 

「自分の耳か聴覚系の神経が壊れてるのを信じましたが、AEWのオペレーターも同じく聞いてるので.......」

 

「そんな軽い感じで決めていいのか?」

 

この最早『奇行』とまで言える回答に、百戦錬磨の艦橋要員も困惑している。だがレーダーを見るに、本当に艦隊は左右に分かれて道を開けている。

 

「あ!また通信です!!『そちらの指揮官と我々の身の安全の保証と、今後に関する提案の為、会談をさせて欲しい』との事です!」

 

「ふむ。まあ、良かろう。お受けすると返信しろ」

 

「アイ・サー!」

 

この返信の後、すぐに会談場所に関する通信が送られ、急遽大海原のど真ん中でぶっ飛んだ司令との会談が行われた。

 

「か、艦影視認!大型戦列艦1。旧パーパルディア皇国のフィシャヌス級と同等の大きさです!!」

 

「左舷への接舷を許可しろ。航海、測距を厳に」

 

「アイ・サー!各部スラスタースタンバイ、起動チェック!」

「スラスタースタンバイ。水密隔壁、開放する」

「おい!左舷に一応クッションを準備しておけ!流石に横付けは仕切らんだろうがな。それから、艦隊司令用の内火艇(ランチ)も準備しろ!」

「左舷に防舷物展開。甲板作業員は準備にかかれ」

「艦隊司令用内火艇(ランチ)、スタンバイ」

 

「砲雷長。各兵装の照準を、接近中の戦列艦に固定。何かあれば、即沈めろ」

「アイ・サー!諸元入力開始!」

 

「戦術長。臨検隊と銃器の扱いに長ける者を武装させ、甲板上に配置。備えあれば憂いなしだ」

「アイ・サー!」

 

着々と中々に物騒な受け入れ準備が進む。一方のリーム王国海軍の旗艦と思われる戦列艦は、巧みな操艦でタグボート無しで熱田の左舷中央部に接舷した。

 

 

「フフッ。こんな巨大な鋼鉄の塊に、ワシらの砲が敵うわけないわい」

 

「ガイプ元帥!接舷、完了いたしました!」

 

「おう。今行く」

 

2mはあろうかというガッシリとした体躯の老人が、堂々と部屋の外へと出て行く。この男こそ、リーム王立海軍のトップに君臨する男。ガイプ・モンキー元帥である。

※元ネタは勿論、ガープ中将である。

 

「リーム海軍のトップですね。私は大日本皇国軍、超戦艦『熱田』副長の井田中佐です」

 

「ワシはリーム王立海軍提督、ガイプ・モンキー元帥じゃ。早速じゃが、そちらの指揮官とお話ししたい」

 

「えぇ。こちらにどうぞ」

 

ガイプを熱田艦内の応接室へと案内する。中には礼服に身を包んだ山本と、側近達が待ち構えていた。

 

「リーム王立海軍提督、ガイプ・モンキー元帥じゃ。まずは今回の降伏の受託、感謝する」

 

「えぇ。我々としても無用な争いは避けたいので、お互い、流す血は最小限がいいでしょう。自己紹介がまだでしたな。私は大日本皇国海軍、第一主力艦隊司令、山本磯忠と申します」

 

まだ出会って1分も経ってないが、どちらも目の前の相手が相当のやり手だと分かった。どちらからとも無く手が差し出され、固い握手が結ばれた。

 

「早速ですが本題に入りましょう。まずはそちらの提案というのをお聞かせください」

 

「回りくどいのは抜きじゃ。単刀直入に言う。リーム王国を潰し、民を救ってくれ」

 

「.......それはまた。現職の軍人、それもトップらしからぬ提案ですね」

 

そう言う山本を、ガイプは鼻で笑った。自嘲気味の笑顔で、その目は悲しみと虚しさの同居する目であった。

 

「逆に聞くが、アンタらはクソみたいな貴族や王族を守りたいと思うのか?自国民を人と思わず、そこらの獣と同じように扱い、そして無惨に死んでいく。そんな事を容認するような奴らを、それが使命だとしても、守りたいと思うか?」

 

「お気持ちはわかります。が、我々は貴国を潰さなくても良い。例えあなたが艦隊に攻撃を指示しても、本艦の火力はそちらの如何なる艦艇をも上回るでしょう。

潰せというのなら、メリットを提示して頂きたい」

 

ぶっちゃけメリットなくても舐められてる時点で潰すし、というか山本の更に上のポストにいる神谷がノリノリなのでどう足掻いても潰されるのは確定事項なのだが、メリットが欲しいというのが本音でもある。

そして仮にも一国を滅ぼせと言ってきているのだから、それ相応の見返りがないと損である。

 

「メリット?そんなもん無いわい。ワシの出せるものは、命含めてお前達の自由にして良い。だから頼む。この通りじゃ」

 

そう言ってガイプは頭を下げた。正直、これをされたら弱い。だが、これで言質は取った。録音もしてある。なら答えは一択。

 

「我が国は奴隷制を遥か昔に終えました。ですので、あなたの身柄をどうこうする権利は誰にもありません。というか、我々が逆に処罰されます。

あなたには今後、必ずくる講和交渉時にその力を最大限振るってもらいます。それにリーム王国は例え、あなたが止めようとボコボコにされますよ。何せ、我が皇軍の事実上のトップにして、最強の戦力が作戦行動に入っていますからね。きっと、王侯貴族にとってはリーム王国史上最悪の日になるでしょう。あなた方、海軍の皆さんには特等席でその様を見届けて貰いましょう」

 

「感謝する.......」

 

また深々と頭を下げるガイプ。リーム王立海軍はこの日、大日本皇国に全面降伏。後の歴史において『リーム王立海軍最後の英断』として記録されるこの事件は、静かに幕をおろした。

 

 

 

*1
五号機、という意味のVである



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第四十七話リーム破滅への近道

リーム王立海軍の降伏より1時間後 マオ王国沿岸部

「提督、時間です」

 

「よし。攻撃隊、発艦開始!」

 

マオ王国の沿岸150kmまで進出した一航戦は、爆装したF8C震電IIをマオ王国陸軍の日本侵攻軍が集結している海岸部へと向かわせる。マオ側は部隊を1箇所に集結させてるので、殲滅はとても簡単であった。取り沙汰する事も無いくらいに。

集結中の軍団の上空まで飛行し、爆弾を全投下。建物や物資ごと兵士を吹き飛ばし、謎の攻撃で混乱してる所に第四海兵師団が電撃的に奇襲。という流れである。因みに海軍も同地に集結してるらしいので、こちらは駆逐艦の対艦ミサイルの餌食となってもらっている。

 

 

「なんや、もう終わりかいな」

 

「なんや真島、暴れたりんのか?」

 

「そりゃこんな弱いとは思っとらしませんでした。もう少し骨太なんを期待しとったんですが」

 

現在第四海兵師団は一応の拠点を作っているが、皆一様に元気がない。思ってたよりも弱すぎて、物足りなかったのだ。何せ上陸した時には殆ど吹っ飛んでおり、生き残った一部の兵士は極道達を見るや否や剣を投げ捨て両手を上げて、地面に這いつくばった。

その場の最高階級の騎士に話を聞こうとすると「ごめんなさい許してください助けてください」というのを、まるで壊れたラジオのように延々と言い続けたらしい。そしてそんな事を知らないリーム王立陸軍、ではなくリーム王族親衛隊が進撃してきた。

 

「総員、戦闘配置!!リーム軍を殲滅せよ!!!!」

 

それを衛星で察知し、通報を受けた第四海兵師団。その顔は一気に悪魔のような笑みとなり、近接武器を持ってトラックに乗り込み、親衛隊へと突撃を開始した。

 

 

リーム王国・マオ王国国境付近 マオ王国侵攻軍本隊

「これでマオの間抜け兵士共は殲滅されて、晴れてマオ王国は我がリーム王国の保護国となるな」

 

「ん?司令官!斥候より報告が入りました。前方に謎の武装勢力が布陣している模様!マオ王国の如何なる部隊とも該当しません!!」

 

司令官のアージェリーが色々考えを巡らせ始めると、すぐに続報が入った。「敵は日本軍」だと。

 

「何、日本軍?なら弱いな。国王陛下がそう仰せられていたのだから、きっと間違いない情報である。お前達、戦闘準備だ。日本軍を潰すぞ」

 

このアージェリー、指揮官としての戦略は申し分ない位に出来る男なのだが、王族が絡むと途端にポンコツ化する弱点がある。基本的に「王様が言ってたっす」と言えば、何の疑いもなく「そうか。なら従わねば!」という風に考える思考回路を備えた、イエスマンどころの騒ぎではない奴なのだ。

今回もその思考回路がしっかり正常に動作し、しっかり信じている。というか今回の指示は国王が直接口頭で言っているので、基本全て戦いすら始まってない段階の国王の指示が全てになってる。

一方の第四海兵師団はというと、既に防御陣地の構築を完了して待ち伏せていた。勿論、特攻隊も出してある。

 

 

「にしても司令官殿の、王への盲信っぷりもすごいよな」

 

「あぁ。我々も王への忠義はあるが、流石にあそこまでじゃ無いぞ」

 

「ってかなんかさっきから、ブォンブォンって音がしないか?」

 

兵士達が雑談をしている最中、聞いたこともない甲高い音が聞こえてきた。その方向に目を凝らすと、何やら近づいてくるのが分かる。何かは分からないが、どうやらこちらに向かってきているらしい。

 

「なんだありゃ?」

 

「馬じゃない、よな?」

 

ある意味で『馬』というのは正解かもしれない。何せこちらに向かって来ていたのは…

 

「そんじゃ突撃すんぞ!!!!!!四六死苦!!!!!!」

 

「「「「「「「「四六死苦!!!!!!」」」」」」」

 

暴走族である。しかも全員、鉄パイプや木刀で武装している。この暴走族は正式には第四海兵師団先遣偵察隊というのだが、基本的に内外問わず『海兵卍會』の通り名で呼ばれている。

 

「日本軍だ!!」

 

「その通りだゴラ!!!!」

 

ゴスッ!!!!!

 

絶対なっちゃいけない音が鳴り響く。しかも連続して

訓練された兵士の腕力足すことの、鉄パイプor木刀の攻撃力掛けることの、バイクの加速力。さらにバイクの意外性足すことの、初めて見るインパクト。解は大なり、圧倒的大なり。

 

「なんだこの素早さは!?!?」

 

「おいまた来るぞ!!!!」

 

「防御陣形を形成しろ!!!!!!!」

 

指揮官が指示を飛ばすが、兵士達は最早命令を聞ける程冷静ではなくなっていた。見事なまでにボコボコにされていき、陣形すら構築できない位にバラバラになっていく。そんな状況を第四海兵師団が見逃す訳がない。

 

「お、俺は逃げるぞ!!」

 

「待て貴様!!戦え、戦わんか!!!!」

 

「あんな奴らを相手になんて」

「おっと、敵前逃亡は銃殺刑だぜ?」

 

ドカカカカカ!!!!

 

後方に控えていたトラック隊が更に突撃してきて、周囲に銃弾の雨を降らせる。しかも偶に手榴弾と火炎瓶(砂糖とバターを混入させて、ナパーム弾のように火が纏わりつく特別仕様)が飛んできて、余計にパニックを助長していた。

 

「逃げろー!!」

「もうこんなの戦いじゃない!!!!」

「は、はは。ハハハッ!!ハハハハハハ!!!!」

 

「よーし、このまま車を後ろに回せ。狐狩りの時間だ」

 

トラック部隊と海兵卍會のバイク部隊が後方に回り込み、他の兵士が攻撃線を作っている地点まで追い立てる。その様は正に、狐狩りの如く。

進路を塞がれて無理矢理行けば撃たれるか轢き殺されるので、もう前しか道がない親衛隊の皆さん。罠なのは薄々分かっているがどうにか前進して20分程すると、急にトラックとバイクが道を外れた。これをチャンスと捉えた親衛隊は、反転して撤退を試みる。だが、それは許されない。

 

「撃ちまくれ!!!!」

 

風間が指揮をとる通称『風間組』が攻撃を開始する。火線を張りつつ、前方の集団の一部を狙撃で殺し退くに退けない状況を作り出す。そしてある程度の所で、武闘派達が殴り込む。

 

「イヒヒヒ!真島吾郎参上や!!」

「死にてぇ奴だけ、掛かってこい!!!!!!」

「今日の喧嘩相手はアンタらでっか?ほな、行くでぇぇぇ!!!!」

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。諸行無常、死ぬのは避けれない」

「私が悪魔です、本物です」

「ハーイ、フールボーイ?お前ら纏めて死ぬ乃田!!」

 

前半はまだ慈悲がある。格闘だから。だが後半の3人は刀、特性の牙と拳銃、アイスピックでそれぞれ武装している。無論有無を言わさせずボコボコにされて、マオ王国の大半の戦力、そしてリーム王国マオ侵攻軍は壊滅したのであった。

 

 

 

同時刻 リーム王国近海 超戦艦『熱田』CIC

「レーダーに感!敵艦82現る!!」

 

「なに?リームの海軍は降伏したはずだぞ。別働隊か?」

 

「明らかにリーム海軍とは別方向から侵攻しています。あ、衛星から画像来ました。メインモニターに出力します」

 

メインモニターに映し出された艦は、形状こそリーム王立海軍の物と同じ形状であった。しかし海軍の艦は青と水色の迷彩なのに対して、こちらは赤い塗装が施されている。恐らく色は、何かしらの所属を現しているのだろう。

それを察した戦術長はすぐに観戦武官として乗り組んでいる、ムー海軍のジャブソニー・グラターナをCICへと招く。

 

「それで、火急の要件とは?」

 

「リーム王国には海軍以外に、海軍と同じ艦を相当数配備している組織はありますか?」

 

「海軍以外となりますと、恐らく親衛隊でしょう。親衛隊は陸海空全ての戦力を有し、その兵器の殆どはリーム王国において最も格式の高いとされる赤で塗装されます。しかも親衛隊は王の直属である為、陸海軍の管轄とは違います」

 

「つまり陸海軍が降伏しても、攻撃をしてくる可能性はありますか?」

 

「.......降伏が王命でなければ、やりかねませんね」

 

一気にCICの空気が張り詰めた物に変わった。つまり、もしかすると砲火を交える羽目になるという訳である。ぶっちゃけ演習にもならない上に金の無駄でしかないので、本音を言うと戦いたくない。

そしてこの事は、ガイプ提督も知ることとなった。

 

 

「そうか親衛隊が…そうじゃ、ならこういうのはどうじゃ?我々リーム海軍が相手をするから、アンタらはアンタらの任務を遂行する。アンタらは無駄弾を使わずに済むし、悪くないと思うが」

 

「それがメリット、ですか。いいでしょう、リーム海軍の戦いを見せてもらいます」

 

「そうこなくちゃな」

 

ガイプは懐から小型の短距離魔信機を取り出すと、艦隊にいるもう1人の元帥に連絡した。

 

「おいムロマチ!親衛隊のアホどもがそっち向かっとるぞ!」

 

『わかっている。で、そっちはどうするんだ?』

 

「無論、ワシも戦うに決まっとろう!」

 

『やはりか。こっちは既に大将を出した。早くしろ』

 

ガイプは魔信を切ると、自分の船へと帰っていった。そしてこれからの戦いは、もう見るからに『ザ・ファンタジー』の海戦であった。

 

 

「あらら、親衛隊が出て来ちゃったの?なら、取り敢えず動きを止めますかね」

 

なんか見るからにやる気なさそう、というかおでこにアイマスク装備してる辺り「俺はサボる!」と声高らかに宣言している様な物なので、多分やる気ゼロの男は、手を海面へと付ける。

 

氷河時代(アイス・エイジ)

 

手を付けた瞬間、海面が一気に氷結し親衛隊の戦艦を止める。というか前衛の艦に関しては、そのまま氷漬けにしてしまっている。

 

「クジンが止めたねぇ。そんじゃぁ、わっしも始めようかねぇ」

 

そう言いながら今度は全身真っ黄色のスーツ、まあイメージ的にはピコ太郎とかクレヨンしんちゃんの組長先生、じゃなかった。園長先生みたいな見た目の男が両手で円を作る。

 

八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)

 

その円の中に光が集まり出し、その光が小さな無数の粒となって親衛隊の艦艇に降り注ぐ。光が船体を貫き、爆発を起こしていく。

 

「ふん。所詮、奴らも王族も、時代の敗北者じゃけぇ」

 

今度はアロハシャツに白スーツの第四海兵師団といい勝負の強面な男が、空へと自らの両拳を掲げる。そしてその両拳は溶岩へと変貌し、それが空へと噴出していく。その溶岩は空中の冷気に晒されつつ、重力の影響でまた地上へと火山岩となって降り注ぐ。

船を貫くというより、ぶち抜いて破壊するという表現が適切なくらいに完膚なきまでにボコボコにしていく。

 

「アンタらは数えるべきものを間違えた。本来数えるべきはァ、護る民の数じゃござんせんか?なのにアンタらは、金と権力を数えてしまった」

 

今度は刀を持った和服に白いスーツを纏った男が、自分の愛刀に手を掛ける。すると何故か親衛隊の上空に隕石が現れて、隕石が降り注ぐ。爆発や破片を撒き散らして、巨大なクレーターを生み出した。

 

「この先は未来の世界。死んでも通さん!!!!」

 

今度はムロマチと呼ばれていた男が、なんと鬼になった。比喩表現ではない。文字通り、鬼になった。体が巨大化し、赤黒い肌色と、禍々しい角。これを鬼と言わずして、なんと言えば良いだろう。

鬼は親衛隊へと襲いかかり、船を踏み潰したり拳で破壊したりして回っている。

 

「最近、パワーが落ちていかんわい」

 

最後はガイプが明らかに自分が乗る船よりも巨大な鎖付きの鉄球を構え、それをぶん投げる。鉄球自体は単なる質量物だが、それが海に落ちれば当然波ができる。その波が着弾地点にいた艦艇以外も巻き込んで、完全に親衛隊を殲滅したのであった。

 

「あれは、現実か?」

 

「信じたくないですが、どうやら本当らしいです.......」

 

「氷で固めて、ビームやら隕石やら火山弾で襲い、終いには鬼と巨大鉄球まで出てくると。これもう、海戦じゃないだろ」

 

「異世界って、凄いっすね.......」

 

山本ら熱田の艦橋に居た者は後にそう語った。

 

 

 

数十分後 リーム王国首都リムージョア上空

「長官、お時間です」

 

「よーし野郎共、仕事の時間だ。行くぞ」

 

一方その頃、神谷率いる神谷戦闘団は首都の上空に差し掛かっていた。大体高度は2500mという所で、首都は大体高度500mの地点の浮島にある。

 

「降下高度は2000、って所ですか。どうします?」

 

「俺は先に降下して撹乱するから、お前達はタイミングを見計らって着地しろ。総員、装備チェック!」

 

全員が立ち上がり、装備のチェックを開始する。メットを被ってHUDを起動し、武器システムと同期。リアルタイム戦術リンクにも接続し、周囲の地図情報も映し出す。

 

「お前ら、これを付けろ」

 

エルフ五等分の花嫁は甲冑を装備していないので、HUD機能の一部を代用できるメガネを渡す。

 

「これは?」

 

「便利アイテムだ。望遠鏡と地図になる。おい、開けろ!」

 

ジャンプマスターに命令して、後部ハッチを解放してもらう。抜けるような青空が広がり、冷たい風が機内に吹き込む。

 

「失礼」

 

エルフ五等分の花嫁の背後に白亜衆の人間が近づき、自分の身体とベルトで固定する。流石に経験ゼロでいきなりスカイダイビングを、それも戦場のど真ん中でやらせる訳にもいかない。なので一番スカイダイビングのうまい、元飛行強襲群の兵士に固定して一緒に飛んでもらうことにした。

 

「あ、あのー兵士さん?これ、飛ぶのやめる事は」

「無理です」

 

「流石の私でも死にたくはないぞ。頼む神谷殿、後生だから」

「さあ、行きますよダークエルフの騎士様」

 

「ちょっと、外しなさいよ!」

「はいはい、引っ張って取れたら問題ですからね。ガッチリキツキツに締めてます。さぁ、死にたくなけりゃ、暴れんでください」

 

「無理です!無理無理!!」

「行けます行ける行ける」

 

「神谷様、お願いですから普通に、普通に行きましょう?ね!?」

「エルフの姉ちゃん、これが普通だぜ?」

 

初めての空挺降下にビビりまくりのエルフ五等分の花嫁達。それを見かねた神谷は振り返り、自分の妻達に言った。

 

「悪いが、これが俺の生きている世界だ。敵陣に飛び降りるなんざ、確かに単なる自殺行為だろう。だがそれを何度もやってきた。お前達は俺の妻になろうと言うのだから、この程度でビビって貰っちゃ困る。

それにもう、作戦は開始している。お前らの後ろにいる兵士たちは、その道のプロだ。安心していい。だから、キッチリ俺の背中について来い」

 

この時の顔は兵士の顔でもなく、敵に恐怖を与える狂気の笑みでもなかった。味方を安心させ「この人について行けば生き残れる」と思わせる、何かが宿った真剣な顔だった。そしてその顔に、5人は惚れた。

 

「では長官。地上で」

 

「おう。先行って、入国審査してくるわ」

 

一足先に神谷はVC4隼から飛び降りる。そのまま頭を下にしてできる限り抵抗を無くして、最高速度で首都まで一直線に降りていく。

地上まで後40mという辺りで、ジェットパックを使い逆噴射して制動を掛けつつ着地。誰かに見られて、軍が呼ばれて、それを殲滅するつもりだったが、どういう訳か誰もいなかった。

 

「ここは首都、だよな?人っ子1人いないとは、どうなってんだ?」

 

2、3分ほど歩いていると、ようやく人がいた。それも複数。だがそれを見て、神谷は正直殺意が湧いた。何故ならそこにいたのは、小さな子供の上に無理矢理騎乗する明らかに『貴族』という見た目をした肥えに肥えまくった男だったのだから。

 

「んー?貴様、頭が高いぞ?」

 

「.......」

 

「まあいい。我が進路を塞いだのだ、死ね」

 

そう言って懐から拳銃型のマスケット銃を取り出し、神谷の方に向けて撃った。拳銃を抜くまでが遅いし、弾道も撃つタイミングも見え見え。当たったところで甲冑が弾くが、当たってやるのも癪なので避けた。というか、今までで一番避けやすい弾丸だった。

 

「い、今避けたのか?」

 

「どうでもいい。で、お前、貴族か?」

 

「控えろ!!リーム王国の経済担当貴族が御子息、チャート様であらせられるぞ!!!!」

 

案の定、貴族らしい。そうと決まればやる事は1つ。まずは1人2人を血祭りに上げ、応援を呼んでもらう事だ。

 

「そうか。なら良かった」

 

一呼吸で護衛の間合いに入り、1人を両断する。余りに一瞬に、かつ呆気なく死んだ事に護衛も粗大ゴミ(チャート)もフリーズして動かない。

 

「どうした、応援でも呼べよ。その方が殲滅が楽だ」

 

「き、きききき、貴様は何者だ!!名を名乗れ!!!!!!」

 

「大日本皇国統合軍、総司令長官、神谷浩三だ。お前達は決して喧嘩を売ってはならない、我が祖国に喧嘩を売った。そのお代は、その命で贖って貰う」

 

ヤバさを察してくれたのか、有能な護衛がメーデーを送ってくれた。となれば、腐った生ゴミ(チャート)を除きもう全員用済み。要らない物は処分する必要がある。

 

「よーしお前ら。もういいぞ」

 

空から白亜衆含む神谷戦闘団が降りてくる。銃を乱射しながら。残りの護衛もやられ、残ったのはチャートのみである。

 

「あ、お前黙ってろ。口臭いから。麻痺」

 

何やら喚こうしていたので、麻痺の魔法で自由を奪った。因みに「コイツ、マジで内臓が腐ってんのか!?」と思いたくなる程に、耐えきれないくらい臭かった。

 

「あ.......、あ.......」

 

「長官、この子は?」

 

産業廃棄物(チャート)の転がる横には、その上に乗っかられていた少年が震えていた。いきなり人が目の前で大量に殺され、自分の主人も動かなくなったのだ。当然である。

 

「恐らく奴隷だろうな。おい坊主」

 

「ひゃい!!」

 

「お前さんはもう自由だ。こんなクズを運ばなくていいんだ」

 

「.......ママのところに帰れるの?」

 

「あぁ。こういうクズ共を掃除し終えたら、探すのを手伝ってやるよ。おい!」

 

「僕、おじさん達と行こうか?」

 

背後に控えていた兵士が少年を抱き抱え、後方に着陸予定の隼に乗せる。だが少年は震える声で「待って!」と言った。

 

「あのね、まだいっぱい人がいるの。その人達も助けて」

 

「オーライ。どこにあるのか分かるか?」

 

「監獄と屋敷と、それからそこ」

 

そう言って指差したのは、地面であった。てっきり地下監獄や奴隷用の居住スペースがあるのかと思っていたが、どうやら違うらしい。

 

「下に人がいて、道を動かすの」

 

「下に人がいて道を動かす?」

 

「あ!もしかして、動く歩道じゃないっすか?でも石造りだよなぁ」

 

恐らく読者諸氏も空港や駅、あるいは何かしらの施設で動く歩道を見た事があるだろう。大体そういうのは、道の部分にベルトコンベアのような布というか、ベルトというか、とにかく弾性のある素材で作られている。だが少年の指差した先は、普通の石造りの歩道である。そういう塗装のわけでも、そういう柄のタイルというわけでもない。本物の極々普通の石が使われた、この辺りの文明時代ではありふれた作りであった。

 

「とにかく地下に通ずる道があるはずだ。第35小隊を向かわせろ。それから装甲車や戦車なんかは、まだ降下させるなよ?地面ぶち抜いて、下にいるかもしれない奴隷を轢き潰す訳にもいかんからな」

 

「了解しました」

 

「他の者は兵士どもを殲滅し、王侯貴族を丸裸にする。狩り出せ!!!!」

 

「「「「「「「「おう!!!!」」」」」」」

 

神谷戦闘団の兵士達はジェットパックに火を入れて、大空へと飛び上がる。空から敵を探し出し、そして…

 

「いたぞ続け!!」

 

上空から襲いかかる。銃を乱射しながら真上から襲いかかってくる歩兵とか、もう恐怖でしかない。

 

「なんだコイツらは!!」

 

「撃ちまくれ!撃ちまくれ!」

 

リーム王国の兵士達もマスケット銃を撃ちまくるが、ライフリングもなく命中精度が『下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる』程度のお粗末な物なので、全く当たらない。というか擦りもしない。まあそれ以前に、機動甲冑にゼロ距離で撃ち込んでも弾かれるのだが。

しかもリーム側の認識は空の敵と言えばワイバーン位なので、ワイバーン以上に小型で高速でしかも機動力も高い敵を倒す為の装備が存在しないのだ。どれもこれも照準が追いつかず、撃っても予想外の機動で楽々回避されてしまう。

 

「恐ろしく素早い奴らだ!」

 

「しかもアイツらの武器、この距離で正確に、それも連続して撃ってくるぞ!!」

 

「あ、おい!応援が来た!!ワイバーンだ!!!!」

 

東の空を見れば、一騎のワイバーンが応援に来てくれていた。だが一つ、可笑しい点がある。

 

「これで助かるぞ!!あれ、でも何で一騎だけなんだ?」

 

確かにワイバーンが一騎いるだけで、この世界の兵士達に取っては万の応援を得た様な物と同じくらいの価値がある。だが基本的にワイバーンを駆る竜騎士は、やはり軍隊なので個ではなく群で動くのが基本である。なのに単騎というのは、些か謎なのだ。だがその答えはすぐに分かる。

 

「おい、退避だ」

 

「お、だな。ここは華を持たせてやるとしよう」

 

何故か神谷戦闘団の兵士達は、リーム王国の兵士達の頭上から飛び去った。それを見たリームの兵士達は「我がワイバーンに恐れをなした!!」とか何とか喜んでいる。だがそれは、その身を滅ぼす重大な勘違いだった。

 

グオォォォォォン!!!!!

 

「あ、あれは違うぞ!?」

 

本来ワイバーンは赤茶色の鱗であり、その強化種であるワイバーンロード、ワイバーンオーバーロードは薄い青っぽい鱗を持つ。だが目の前のワイバーンの鱗は、鮮やかなまでの紅蓮の鱗。明らかに格が違う。

そしてそんな色の鱗を持つワイバーン、いや、竜は世界にただ一種。神竜種をも含めた全ての竜の頂点に君臨する唯一無二の存在。

 

「竜神皇帝『極帝』だ!!!!!!」

 

気づいた時には遅かった。リームの兵士達は8000℃にも達する魔力ビームを受け、跡形もなく、文字通り消えてしまったのだ。これは比喩表現なんかではない。この世で一番融点が高い物質はタングステンなのだが、その温度は3400℃である。因みに沸点は5700℃である。つまり人間も装備している装具ごと、一瞬で蒸発してしまうのだ。

 

「ありがとよ極帝さん」

 

我に掛かれば、この程度造作もないわ

 

「エゲつないな」

「消えたぞ人」

「化け物だなぁ」

「その化け物と友達って、俺達の上官ヤバいな」

「世界征服目指してんじゃね?」

 

 

「向こうも暴れてるな。こっちも、そろそろ始めるか」

 

極帝と兵士達が大暴れして、いい感じに敵を惹きつけているので、こちらも行動を開始する。

 

「それで神谷殿。どうするのだ?」

 

「そうだなぁ。あ、そうだ」

 

周囲を見渡し、ある一点で目を止めた。その顔には絶対良くないことを考えている時の邪悪な笑みを浮かべている。

 

「だったら俺達は、城攻めでもするか」

 

そう言って指差した方向には、豪華絢爛な城が鎮座していた。神谷の性格や思考を把握している向上は「あー、まーた始まった」位にしか思わなかったが、五等分の花嫁達は適当にも思える(まあ実際適当なので間違いではない)行動に驚いていた。

 

「いや、えっと神谷さん?もっと考えてからの方が良いんじゃ.......」

 

「これ位破天荒な方が、彼方さんも驚愕する。敵を出し抜くには、常に敵の予想の範囲外の事を仕出かしてやる事だ。さぁ、行くぞ」

 

グラップリングフックで屋敷の屋根に上がり、屋根伝いに城へと向かう。神谷と向上はグラップリングフックを駆使して屋根と屋根を飛び越えるが、一方の五等分の花嫁は付与された魔法の力によって飛び越えていく。その様は正にフィクションの中の忍者そのもの。

 

「これ、結構、いいかも!」

 

「そうね。意外と、楽しいわ」

 

「これが、あれば、狩りも、楽かも、な」

 

どうやらお気に召したらしい。こんな感じに跳び続けていると、神谷と向上が止まった。

 

「おっと、あれは.......」

 

「あー、これは.......」

 

2人が見る先には、恐らく近衛兵なのだろう。赤の鎧を纏った兵士達が、門の前で隊列を組んでガッチリ固めている。しかもその奥には重厚な扉があり、どうやらその先が例の王城らしい。

 

「どうしますか?」

 

「レイチェル。弓であれ吹き飛ばせ」

 

「は!?いやいや。吹き飛ばせって、流石に矢を一気に撃っても、流石にあれ全員は無理だよ!だってどんなに少なく見積もっても、50人はいるんだよ!?」

 

「大丈夫だ。矢筒の中に入ってる矢全てに、爆発を起こせる様に魔法を掛けてある。矢に手を翳せば、起動するからやってみろ」

 

正直半信半疑だが、試しにやってみる。

 

「う〜ん。信じるからね?失敗しても責めないでよ?」

 

「あぁ。そんじゃ向上、一応スタンバイ」

 

「わかってますよ」

 

レイチェルは背中の矢筒から矢を取り出し、矢に手を翳してから、弓にセットして引き絞る。ギリギリという音がなり、絞りきると矢を放った。地面に矢が突き刺さった瞬間、本当に爆発して近衛兵と門を破壊した。

 

「うそぉ」

 

「行くぞ!」

 

「了解!」

 

驚いてる5人を置いて、神谷と向上は即座に屋根から飛び降りて炎の中へと突っ込む。門をくぐり抜けると、周りにいたのであろう近衛兵達が集まってきていた。

 

「おい門が爆発したぞ!?!?」

 

「侵入者だ!!」

 

「迎え撃て!!!!」

 

爆炎の中から飛び出してくるというイレギュラーな状況に対しても、一瞬は驚くがすぐに武器を構えて態勢を整える辺り流石近衛兵といったところだろう。だがこと今回に限っては、余りに相手が悪すぎた。

 

「遅い!」

 

ズドンズドンズドン

 

「槍はリーチは長いが、取り回しが悪いんだよ!!」

 

ザシュッ!!

 

常に銃弾と砲弾が飛び交う戦場の死線を潜り抜けた猛者2人に、たかだか剣と槍で倒そうとするなど烏滸がましいにも程があるという物だろう。

そして2人が無双していると、エルフ五等分の花嫁も乱入してきて場は更に混乱の極みへと突き進む。

 

「エルフも攻めてきたぞ!?!?」

「とにかく迎え撃て!!この程度の数、我らの敵では」ドサッ

「隊長がやられた!逃げろ逃げろ!!」

「退避!退避!」

 

そう言って近衛兵達は王城へと逃げていく。どうやら籠城に持ち込むつもりらしく、窓やドアも固く閉ざされてしまった。

 

「どうします?」

 

「また私の矢を使う?」

 

「いや。ここは、エリス!」

 

いきなり呼ばれて驚くエリス。前回のオターハ百貨店やビンタの件もあって、照れ隠しなのかいつもよりツンツンしている。

 

「な、何よ」

 

「お前のその大剣、それを使おう」

 

「は?」

 

「それにもさっきのレイチェルの弓矢と同じように、面白い魔法を掛けてある。剣に手を翳してから、力一杯地面を剣で叩け」

 

言われた通りにやってみると、あまりに予想外なことが起きた。叩きつけた瞬間、地面が不規則に曲がりながらも真っ直ぐにひび割れ、その割れ目から溶岩が勢いよく噴き出しながら扉へとぶつかり、大爆発したのだ。

 

「なに.......今の.......」

 

「おもしろいだろ?どうせなら武器に固有アビリティを付けたくてな、試しにやってみた。因みにミーナは手を翳せば刃に全ての生物のあらゆる代謝を阻害して、体内から腐らせる様に死に至る毒を出せる。それから2つの剣を叩き合わせれば、ハサミの様にできるぞ。やってみな」

 

試しに叩き合わせてみると、2つの剣は本当に鋏の刃の様に変形し、実際にガチガチ動かせる。手を翳せば刃が紫色に変色して、一目で毒があると分かる。

 

「毒はどうやったら消せますか?」

 

「もう一回手を翳せば消える。アーシャのも手を翳せば、刃が毒蛇になる。鞭のように振るもよし、伸ばして敵に噛みつかせるもよしだ。因みに蛇は分裂して、多数の敵に噛み付かせる事もできる。毒はミーナのと同じだ。

ミーシャのには手を翳すと火、水、風、土、光、闇の魔法を自動で敵に行使する剣を14本出せるようにしてある」

 

試しに2人もやってみると、本当に出てきた。実験しているとタイミング良く近衛兵も出てきたので、試しに使ってみた。

 

「えっと確か、こうすると鋏に、なったわね。それじゃ、ハッ!」

 

試しに近衛兵を挟んでみると、本当に両断できた。勿論血肉が噴き出すが、その辺りはもう見慣れてるので何とも思わない。

 

「じゃあ、私も!」

 

ミーシャも剣を出して、近衛兵を切り刻んでいく。その背後からミーシャが魔法を放ち、レイチェルも弓で遠距離から支援していく。そしてその援護を背に受けながら、エリスとアナスタシアが前進。向上も2人の後ろから的確に援護し、敵を倒しながら中へと進軍していった。

その間に神谷はジェットパックで最上階へと登り、内部へ突入。王の確保に向かう。

 

「もうここまで来たのか!」

 

「なんとしても止めろ!!!!」

 

そう言って槍を構えながら突っ込んでくるが、長い槍では狭い空間になると突き刺す以外に満足な攻撃手段がない。なので突っ込んで来た近衛兵に26式拳銃で頭に風穴を開けて、無力化する。

 

「ドラァ!!!!」

 

ドアを蹴りで破壊して、王の自室へと突入。見れば如何にも『王様』という奴がいた。

 

「な、何者じゃ貴様!!!!余をリームの王と知っt」

「麻痺」

 

なんか喚いていたが、やっぱり口が内臓が腐り果ててるレベルの臭いしかしないので、即刻麻痺してもらった。そうこうしていると奴隷を全員解放した事と、なぜかタイミングよくリーム王国全域で陸軍、海軍、民衆が同時に反乱を起こしてリーム王国が事実上滅亡したという報告が来た。

 

「終わりだな。結局、例の飛行戦艦も出なかったし、とっとと帰国しますk」

 

多分フラグだったのだろう。いきなり地面が揺れ出した。ここは一応地表からは離れているので、仮に天変地異クラスの巨大地震が来ようと揺れるはずがない。何やら嫌な予感がする。

 

「オイオイなんだなんだ。って、うお!?」

 

揺れで上のシャンデリアが落下してくるし、壁は崩壊するしで、一気に廃墟になっていく。流石にこれ以上は瓦礫に潰される未来しか見えないので、窓を突き破って下に逃げる。勿論、王も一緒に。

 

「うそー。飛び降りた瞬間、さっきまでいた部屋が崩落とかどんなアクション映画だよ」

 

いや。お前基本的にアクション映画もびっくりな動きしてるだろとツッコミたくなるが、それは置いといて。下の向上と五等分の花嫁と合流する。

 

「長官ご無事で?」

 

「おう。この揺れの原因はわかるか?」

 

「いえ、なにも。報告も上がっていません」

 

一体なんなんだと考えていると、ミーシャが何かに震えた様に神谷の纏う羽織の裾を引っ張った。

 

「あ、アレ.......」

 

「マジですか.......」

 

「空中戦艦ってUFOかよ!!!!!!」

 

そう。空中戦艦というか武装したUFOが出てきちゃったのである。なんかメルセデス・ベンツのエンブレムがそのまんま飛んでるみたいな感じで、周囲の円がグルグル回転しており、円には砲身が見える。

 

「長官、ご指示を!」

 

「取り敢えず戦車を地上に下ろせ!それから戦闘機隊を上げさせて、アレを叩かせろ。それ、うおぉぉ!?!?」

 

どういう訳か今いる空島も地割れして、崩壊が始まっている。何が起きてるのかは分からないが、他の兵士達からも連絡が入っている。

 

「まさか、あの兵器がこの島の核だったのか?とするとヤバいぞ!総員、この島から撤退しろ!!!!!!外縁に近い者はこのまま地上まで飛び降り、それが難しい者は今から送る地点まで向かえ!!!!!各機、ランデブーポイントで回収しろ!!!!!!!!」

 

「皆さん、この地点に向かいます。ついてきて!」

 

神谷達もランデブーポイントまで急いで向かう。その間に飛行戦艦は海の方へ向かっていた。幸いな事に、熱田のある方角である。

 

 

 

超戦艦『熱田』 CIC

「レーダーコンタクト!神谷閣下からの通報があった、例の飛行戦艦です!方位352、距離100!!到達まで30分!!」

 

「すぐに航空隊を上げろ。この規模だ、ASM4の使用を許可する」

 

「アイ・サー。航空隊、全機発艦。敵空中戦艦を攻撃せよ。承認行動AW、1417時」

 

航空隊は艦上空で編隊を組み、空中戦艦へと向かう。

一方空中空母『白鯨V』から、接近中の空中戦艦を見ていたホーストン・ウェスバイトはただただ驚いていた。

 

「これが本当に接近しているのか!?」

 

「何か知っているので?」

 

「コイツは空中戦艦パル・キマイラ。一度、私も部下の諜報員が奇跡的に入手した写真でしか見たことが無いが、コイツは神聖ミリシアル帝国が保有する古代兵器だ。それをリームが持っているとは.......」

 

ウェスバイトの世話を担当している士官としては、あまりその重大さを理解できていない。案外リームがスパイでも放って設計図を手に入れ、複製や量産した可能性を質問したが「あり得ない」と一蹴されてしまう。

 

「とにかく、倒すのは不可能だぞ。撤退しかあり得ない」

 

「ウェスバイト殿。確かにその空中戦艦は強いのかもしれません。しかし我々は、天皇陛下が率いる皇軍です。その皇軍が敵を目の前に、撤退する事こそ有り得ないのです。我が軍が勝利を収めます」

 

そんな事を言っている中、攻撃隊は空中戦艦へミサイルを放っていた。70発の空対艦ミサイルASM4海山の飽和攻撃を行ったが、まさかのシールドで防いでしまった。

それどころか、どうやらCIWSとしてガトリング砲も搭載しているらしく震電IIに攻撃してきている。

 

「チッ、CIWSついてんのかよ!」

 

「お前らの文明レベルならオーバーテクノロジーだろうが!」

 

「一時撤退だ!退け!!!」

 

流石に弾幕で撃墜されかねないので、一時撤退を決断する。それを見ていたリーム王国の王子、デューカ・ヴィットリオ・ウィスコンン・バラクーダ・インディアナポリスメーン・リームは高笑いをしながらワインを煽っていた。

 

「見よ!敵が撤退したぞ!!」

 

「流石はデューカ王子殿下。いえ、国王陛下とお呼びした方が良いでしょうか?」

 

「そうだな。あの老いぼれは死んだのだしな!ハハハ!!!!」

 

確かに航空機は撃退できた。だがまだ、皇軍には超兵器がある事を知らないからできる事であった。そう。射程圏内、それも目視圏内に熱田が進出してきていたのである。

 

「対空戦闘用意!全砲回頭!!弾種徹甲。目標、敵空中戦艦!!!!!」

 

「アイ・サー!全砲回頭90。仰角最大、弾種徹甲!!!」

 

「艦長、アレを使う。この熱田の、新たな能力を見せてやれ」

 

「アイ・サー!主砲、副砲、電磁投射砲(レールガン)モード!!!!」

 

この命令が出た瞬間、主砲と副砲の砲身が四分割に割れて、砲身内部に無数の小さな稲妻が走る。

 

「撃てッ!!!!!!!」

 

バシュン!!!!!!!

 

これこそが新装備の一つ、レールガンである。他にも実はあるのだが、この新砲塔は今後、全ての戦艦と赤城型要塞空母に搭載される。レールガンにも通常の火薬式砲塔にもなるハイブリッド砲塔で、伊3500型潜水艦にはこれの先行量産型が搭載されていた。

流石の空中戦艦のバリアも貫通され、正確に中心の艦橋部分を破壊。全弾命中し、一撃で破壊し尽くした。

 

「敵艦沈みます!!!!」

 

艦内で大歓声が上がった。空中戦艦が墜落していく様子は、幻想的であったという。

この後、王侯貴族は反乱軍に引き渡され死よりも恐ろしい末路を辿ったという。まあその辺りは、ワンピースでドフラミンゴやその家族がたどった末路を調べてほしい。だいたいあんな感じの末路である。

そしてウェスバイトとグラターナの口添えでオターハ百貨店での一件はお咎めなしとなり、ムーと日本は同盟を結んだ。

 

 

 

 

 

 



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第四十八話栄光の日

リームとマオとの戦争終結より数日後 大日本皇国 首相官邸

「にしても転移してからこっち、戦争ばっかやってんな」

 

「平和国家今何処(いづこ)?」

 

神谷より一足先に帰還していた川山は、一色と首相官邸で簡単な報告会を行なっていた。神谷はまだリーム王国で事後処理に当たっているので、いまだ愛する祖国たる日本には帰還できていない。

 

「んで、ムーとの交渉は?」

 

「取り敢えず彼方さんからの要求とかは、えーと。あ、これこれ」

 

そう言って川山はタブレットで資料を見せる。因みに内容としてはこんな感じ。

 

・大日本皇国とムーの同盟締結

・予想されるグラ・バルカス帝国との戦争に向けた軍需物資の支援と、ムー国内での製造支援

・共同作戦を取るための具体的な連携方法の考案

・一部の軍事技術及び中核技術の移転やライセンス取得

・有事の際の難民支援を含む人道支援や、軍事支援の確約

 

「軍事面だけか?」

 

「経済面は後から送付する。まだ資料が出揃ってないんでな」

 

「OK。にしてもまぁ、ウチと同盟結びますって宣言したら荒れるだろうな。国際社会」

 

「旧世界風に言うなら、スイスがアメリカと同盟結んだような物だからな。国際社会もそうだが、恐らく一部の各国にいる特権階級達は大慌て間違いなしだろうな。なんかムーの銀行はスイス銀行よろしく、そういう輩の表に出さない真っ黒い口座とかあるらしいし」

 

「まあ、俺たちの知ったこっちゃないがな」

 

よくドラマとかである「スイス銀行宛に送金」とかのヤツである。スイスの銀行は、とにかく秘匿性が高い。プライベートバンクを持つと、専属の担当者が1人1人に付く。振り込みも引き下ろしも、その担当者しか対応しないし口座番号も間違えて振り込めば、その振り込んだ金は返ってこないという、エゲツないレベルの秘匿性がある。

それと同じことがムーでもできるのだが、やはりこういうのは表裏問わず権力者達の汚〜い金が流れ着く。しかもこの秘匿性は、ムーの永世中立国という国際社会からは余り干渉されることがないという、絶対の理があるからこそ成り立つ。もし永世中立国でなければ、国際社会の流れによっては口座の凍結処分を喰らう羽目にもなる可能性がある訳で、権力者達からしてみれば溜まったものじゃないのだ。

 

「あ、それはそうと。本当は見せたらダメなんだけど、これ見てみ?」

 

「この紋章、陛下からの文書か。えーと..............」

 

文章を読み進めていくにつれて、川山の顔はみるみる驚愕の表情へとなっていく。

 

「驚きだろ?」

 

「あ、あぁ。まさか陛下がここまでするとは.......」

 

「まあ、アイツの働きや職務の性質を考えたら妥当っちゃ妥当ではあるが、結構な決断だったろうな」

 

どんな内容が書かれていたかは、神谷が帰ってきてから発表しよう。

 

 

 

戦争終結より二週間後 統合参謀本部前

「なんだ、あの人だかり」

 

「何でしょうかね?」

 

神谷と向上は一度統合参謀本部へと向かったのだが、何故かロビーがマスコミでごった返していた。そして神谷に気付くや否や、一斉にこっちへ走ってくる。

 

「え、ちょなになに?」

 

「神谷閣下!今回の発表のご感想は!?」

「今のお気持ちを!!」

「この決定は、今後どのような影響が!?」

 

「あー、えーとですね。今回の戦乱も無事、我々の勝利で終わりました。こちらの損害はないのは嬉しい限りですが、逆に我々は彼方の兵士を殺めてしまっている。そこは喜べるものではありません。

今の気持ちは、とにかく休みたいです。ぶっちゃけ最近休めていないのでね。

今後は私ではなく、健太郎や慎太郎のターンですからね。そこは何とも」

 

この神谷のコメントに、何故かマスコミ達は一様に「コイツ何言ってんだ?」という顔をしている。一方の神谷と向上も何でこんな反応なのか分からず、お互い微妙な空気が流れている。

そんな空気の中、また意外な人物が入ってきた。一色である。

 

「いやっほー、お帰り」

 

「お、おう。お前、この状況が何か分かるか?」

 

「あぁ、わかるとも。これがその元凶だ」

 

そう言って一色は川山に見せた文書を渡す。そこに書かれていたのは日本古来の言い回しの文章でとにかく長かったので、簡単に漸くした物をお教えしよう。

 

最近神谷くん頑張ってるよね。そのご褒美に、統合軍内に新たな階級として『元帥』を作ることになったから、その『初代・統合軍元帥』に任じちゃいます!後、位階も従二位から正二位に上がるので、その辺もヨロ!

 

という感じである。まず『元帥』というのが異例だ。旧軍からの伝統で現在の皇国軍に階級としての『元帥』は、ずっと存在していない。唯一、明治時代に2年間だけ薩摩藩の西郷隆盛が持っていただけで、それ以降はあくまで『元帥陸軍大将』か『元帥海軍大将』という称号として存在していたのである。

また正二位とは7月8日に奈良市内の演説中に亡くなった第90、96、97、98代内閣総理大臣を担った安倍晋三氏に渡された従一位の一個下であり、有名どころだと藤原不比等とか冬嗣、岩倉具視や伊藤博文、最近のところだと岸信介辺りが持っている。

因みに三英傑は一色が神谷と同じく正二位、川山は従二位の位階を持っている。

 

「マジですか.......」

 

「マジです。なんか勲章も一緒に渡されるらしいから、式典とか諸々準備よろしく」

 

「ってかお前、こういうのは先に言えよ!!」

 

当然のツッコミである。受賞者本人よりも先にマスコミが知り、マスコミが来たタイミングの目の前で公開通知とか前代未聞すぎる。

 

「サプライズってヤツだ。さっ、今から忙しくなるぞー」

 

「うるせー!」

 

神谷からしてみれば、タイミングが悪すぎた。戦争というか演習の前に婚約破棄の危機になって、休みを取る宣言をしてしまっている。もしここで「休めない」なんて言えば、確実に婚約破棄は待った無しである。

 

「と、言いたいんだがな。天皇陛下から勅命が出ている。読み上げるぞ」

 

そう言って懐から紙、というか勅書を取り出しそれを広げた。その勅命というのが…

 

「勅命。休め!!」

 

「.......え、終わり?」

 

「終わり。ほら、見てみろ」

 

そう言って勅書をひっくり返して見せてくれた。確かに勅書の隣には、墨書きで太く荒々しい文字で『休め!!』と書かれていた。こんなに短い勅書が、これまでに存在しただろうか。

因みにこの一連のやり取りは全部生中継で全国民に筒抜けだったのだが、この一連のやり取りはしっかり伝説化&ネットのおもちゃになった。特に勅書は、中身を『働け!!』とか色々な物に変えて使われた。

 

 

 

数時間後 神谷邸

「お帰りなさいませ、旦那様。昇進、おめでとうございます」

 

「ありがとう。アイツらは今どこに?」

 

「姉妹揃って、広間にお待ちです。お帰り次第、旦那様をお連れしろと」

 

「そうか。さーて、ここからがある意味戦争だな」

 

そう言いながら、神谷は早稲を伴って広間へと向かう。広間ではエルフ五等分の花嫁が集まっているのか、既に空気が重かった。しかも部屋の外の扉の前でそれが分かるのだから、中は多分もっと重い。

 

「なぁ、爺ちゃん。魔王のいるボス部屋に乗り込む前の勇者ってさ、こんな感じの空気の中扉を開けるのかな?」

 

「この早稲、骨は拾います故、どうぞご存分にお散りになってくださいませ」

 

「よーし、死ぬの前提はやめようか」

 

「あぁ、旦那様。あんなにも素晴らしいお方だというのに、お迎えが余りにも早くて.......。この早稲、悲しい限りです」

 

「勝手に殺すなー」

 

どうやら既に早稲の中では、神谷は故人になってしまっているらしい。目の前に主人がいるのに、従者の中では死んでるとはこれ如何に。

取り敢えず広間の中に入り、目の前に揃っているエルフ五等分の花嫁と対峙する。

 

「神谷様、約束は覚えていますよね?」

 

「埋め合わせるってヤツだろ。しっかり覚えている。結論から言おう。来週ってか今日が金曜だから、もう実質今日から一ヶ月、全部休暇になった」

 

そう。天皇陛下の勅命という国内最強チートアイテムがあるお陰で、休暇はしっかり取れた。それも一ヶ月丸々。勿論、その間に何かしらの国家規模の何か。例えば熊本地震や東日本大震災規模の災害や、また性懲りも無く他国から宣戦布告された時といった国家存亡の危機に直結する事案を除いて、神谷が呼び出されることはない。久しぶりの休暇である。そしてこの一言を聞いた瞬間、空気が一気に軽くなった。エリスとアナスタシアは表情には出していないが、他3人は顔が笑顔になっている。

 

「後な、俺昇進した。軍の階級も、それからあー、まあ日本に於ける貴族とかの階級的なのも両方とも」

 

「しかし日本軍は神谷殿の階級が最高階級なのだろう?」

 

「そうだったんだがな。なんか新しくこれまで称号だった『元帥』が、正式な階級として組み込まれることになった。そしてその初代元帥に選ばれたんだよ」

 

「なにそれ凄っ!!」

 

皆一様に驚いた。そのまま話は休みをどうするかとか、なにするかとかで盛り上がり、そこから夕食と相なった。因みにメニューはこちら。

 

・飯

旬のサケとイクラの炊き込みご飯

 

・汁

牡丹ハモの吸い物

 

・向付

真鯛の塩釜焼き

 

・煮物

松坂牛のすき焼き

 

・肉物

神戸牛のローストビーフ

 

・預け鉢(進め鉢)

海鮮サラダ

 

・甘味菓子

ショートケーキ

 

見て分かる通り縁起のいい物や、祝いの席で出される物を作っている。どうやらコック長も報道を見て、腕に寄りをかけて作ってくれたらしい。

 

「またいつになく凄いな」

 

「コック長さん達、張り切っていましたよ。今日はめでたいぞーって」

 

どうやらミーシャはキッチンで、コック長とその他のコック達がどんちゃん騒ぎをしていたのを見ていたらしく、その時の様子を真似してくれたが何か可愛い。

 

「さーて、じゃあもう食べるか。折角の飯が冷めちゃコック長達に失礼だし、何よりこんな美味そうな物を目の前にお預けは単なる拷問だ」

 

「そうですね!早く食べましょう!!」

 

実は一番食いしん坊なヘルミーナが同意する。そして他の姉妹達もすぐに食べたかったのか、食事が始まった。久しぶりの6人揃っての食事なのだ、話も盛り上がり……と行きたいのだが、まだ数える程度しか一緒に食事を摂っておらず、なんか逆に気まずかった。

だが時間も経てばある程度なにかしらの話のネタも出始めて、30分もすればまあまあ賑やかな食事になってはいた。なんか何処か他人行儀ではあったが。その後は各々風呂に入り、何故か神谷の部屋に集まった。

 

「で、なんで集まったんだ?」

 

「私達、決めた事があるんです」

 

なんか改まって全員揃って言ってくる辺り、恐らく今後に関する何かなのだろう。神谷も背筋が伸び、正面から堂々と5人を見つめる。

 

「私達、神谷様の部隊に入りたいです!!」

 

「うん。うん!?ご、ごめん。もう一回言ってくれ」

 

「ですから、神谷様の部隊。神谷戦闘団、白亜衆に入りたいんです!」

 

どうやら神谷の耳や脳がバグって、よくわからない翻訳がなされた訳ではなかったらしい。

だが、そう簡単に「はい、そうですか」とは言えない。確かに5人とも、エルフ故に身体能力は並みの人間以上ある。体力だってナゴ村という人里離れた山の中の村に居たで活動してただけあって、普通にこれもある。そして全員が魔法か剣か弓を使えて、戦力としても問題ない。

だが白亜衆は早々入れる物ではない。普通は他の兵士同様、幹部候補生や兵卒として訓練を受けて、更にそこからレンジャー訓練を受けて、実際に特殊部隊や精鋭部隊での実績があって初めて神谷戦闘団に入る。そしてそこで目覚ましい成績を上げた物のみ、白亜衆として白いアーマーに身を包むのだ。まあ一部は神谷が一本釣りでヘッドハンティングしたりもしてるのだが。いずれにしろ、簡単なことではない。

 

「悪いが、そう易々とは入れてやれる部隊じゃないぞ」

 

「どうしたら入れるのだ?」

 

「普通に訓練学校行って、卒業するしかないな。素質はあるが、まずは軍人としての心意気や規律を覚えないと」

 

エルフ五等分の花嫁達はちょっと前にテレビの特番か何かで訓練の様子を見たのか、見るからに顔色が悪くなっている。実際、皇軍の訓練は厳しいので分からなくはない。卒業さえしてしまえば、アットホームでカオスな部隊勤務となるが、いかんせんそこまでがキツイ。

 

「ねぇ、つまりその訓練学校に行きさえすれば良いわけよね?」

 

「あ、あぁ。本来ならそこから特殊部隊の経験とかが必要だが、中には俺がスカウトした奴もいる。それにお前達は既に、リーム王国でその力を示した。反対意見は出ないだろう」

 

エリスの質問にそう返すと「なら簡単じゃない」と言った。曰く、その学校に入れば良いと。だが勿論、試験もあるし今の学力で受かるか分からない。というか、どの程度の学力かが分からない。

 

「入るなら入るで、協力はする。だが質問に答えろ。一つ目、何故入ろうとしたんだ?」

 

「神谷様と一緒にいたいからです」

 

ミーシャがそう答えた。他も同じ理由らしい。

 

「二つ目、死ぬ覚悟はあるのか?軍人になり、俺の部隊にくるって事は危険地帯のど真ん中に突撃するような事もある。それでも良いんだな?」

 

「神谷さん、私達を舐めすぎだよ。私達これでも、何人か人殺してるんだよ?」

 

この発言には流石にビックリした。いきなりのカミングアウトに、神谷とて「はい?」という情けない声が出てしまう。どうやら昔、エルフの同胞を奴隷として拐おうとしてきた奴隷商の私兵と傭兵の混成軍が攻めてきたらしく、そこで初陣を飾り何人も血祭りに上げたそうな。

 

「.......今度、資料を取り寄せておこう。幸い時間はあるから、俺がみっちり鍛えてやる」

 

この後、5人はしっかり訓練学校に入って無事に卒業。伍長の階級を得た後、神谷戦闘団に入団。そのまま白亜衆に.......ではなく新たに部隊を新設して、そこに入ってもらった。5人だけの部隊だが神谷直属の部隊で、部隊名は『神谷戦闘団特殊戦闘隊』となっているが、通称『白亜の戦乙女(ワルキューレ)』と呼ばれることとなる部隊である。

それではここで一気に時間を飛ばして、一ヶ月と数週間が経った日にしよう。空白の一ヶ月間に関しては、次回から番外編として紹介していくのでお楽しみに。

 

 

 

一ヶ月と数週間後 統合参謀本部

「いよいよか.......」

 

「改めて、おめでとうございます。長官」

 

一ヶ月の休暇を終えて数週間が経った今日この日。神谷は正式に元帥の階級を、大日本皇国統合軍のトップである天皇陛下より直々に賜る事になった。ここから馬車に乗って皇居に赴き、元帥の証である元帥刀の下賜と勲章が授与される。

因みに大日本皇国では全権大使への信任状贈呈式の時以外にも、総理大臣の任命式の際も国会議事堂から皇居、皇居から首相官邸までの送迎には馬車が使われる。

 

「失礼致します!神谷浩三統合軍大将殿!!馬車の準備が整いましたので、正面玄関口にお願い致します!!!!」

 

統合参謀本部の警衛を担当している大尉が、正装に身を包んだ姿で直立不動の敬礼を取る。勿論神谷も綺麗な返礼を持って答え、大尉の先導の元、正面玄関へと降りる。

 

「なぁ、ぶっちゃけ緊張してる?」

 

「そりゃしますよ!だってこんな仕事、多分もう一生しませんからね。何より閣下の晴れ舞台なんですから、さらに泥を塗るわけにもいきませんもん」

 

エレベーターの中は大尉と向上以外いないので、ここだけはいつも通りのフレンドリーな空気で戯れ合う。これも神谷なりの配慮であり、見るからにカチコチの大尉の緊張をほぐす為の会話なのだ。

 

「敬礼!!」

 

エレベーターが一階に着くと、統合参謀本部に所属する職員達が敬礼を持って花道を作り出迎えてくれた。中には掃除のおばちゃんや食堂のおばちゃんもおり、この辺りは軍人ではなく一般人なので普通に礼をしている。神谷はその作られた華道を、敬礼しながら馬車へと進んでいく。

 

「それでは、いってらっしゃませ長官」

 

向上はここまでである。神谷は1人、宮内省の管理する信任上贈呈式にも使われる儀装馬車4号に乗り込み、警視庁騎馬隊と近衛師団騎馬隊の先導の元、皇居へと向かう。

 

「やっぱ総理や大使が乗るだけあって、乗り心地クソいいな」

 

乗り心地は揺籠に近く、板バネとC型バネによって縦揺れも殆どない。いつか乗ったパーパルディア皇国の馬車よりも、遥かに乗り心地は良い。

馬車は順調に進み、都内の街並みの中を進む。沿道には数多くの国民が詰めかけており、こちらに手を振ってくれていた。勿論手を振りかえして、それに応える。

 

「神谷閣下ー!!」

 

「神谷閣下万歳!!大日本皇国万歳!!」

 

「日本を護ってくれてありがとーー!!」

 

正直なところ、声が重なりすぎて結構聞き取り辛い。いろんな声と言葉が混じり合って、正確に聞き取れない。だがそれでも、国民達が好意を抱いてこちらに手を振り、言葉をかけてくれているのは分かる。なら出来るだけ、それに応じるのみ。神谷も最初は軽く手を振るだけだったが、段々大きくを手を振り返したりしていた。

 

「って、おいおい。アイツらは.......」

 

国民を超えると、今度は見覚えのある軍人達が居た。白地に赤丸の旗、白地に赤い太陽の意匠が刻まれた旗、金の十六八重菊が刻まれた旗、黒地に白で丸と揚羽蝶の描かれた旗、そして黒地に白で二本の太刀をクロスさせて、交差している部分に一梃の拳銃の銃口を向けている絵が入っている上に世界地図を背にしたアリコーンが描かれた旗。もう何処の部隊か、読者諸氏もお分かりだろう。神谷戦闘団である。

彼らはただ、綺麗に整列して直立不動の敬礼を送っている。神谷はこの姿がとても嬉しかったらしく、少し笑って敬礼をしながらそこを通り過ぎて行った。馬車は皇居の中に入り、松の間に通される。

 

 

(あ、来た)

 

介添役である一色は、神谷が来たのが見えた。最後にパッと自分の身だしなみを確認する。問題はない。

 

「陛下。神谷大将、お目見えにございます」

 

「そうですか」

 

天皇陛下に耳打ちする侍従を合図に、式に出る者は立ち上がる。そして部屋の前で神谷は敬礼し、部屋に入る。

 

「統合軍大将神谷浩三。貴殿を大日本皇国統合軍元帥に任じ、統合軍に於ける指揮権と特権を与える。令和三十九年四月一日」

 

そう言うと天皇陛下は侍従から元帥刀を手渡され、それを神谷は受け取る。

 

「統合軍元帥、神谷浩三殿。貴殿の功績を讃え、旭日大綬章を授与する」

 

今度はリボンのついた勲章が贈られて、実際に首から掛けられる。これを持って授与式が終わり、神谷は退室。そのまま馬車に戻り、皇居を後にした。そしてその夜、首相官邸に三人が集まった。

 

「おめでとう浩三」

 

「おめっとさん」

 

「ありがとよ。にしても、まさか旭日大綬章が授与されるとは思わんかった」

 

この旭日大綬章は基本的に、戦後は政治家や企業の社長なんかに送られてきた。現役の軍人は1人も居ない。だが今回、それが授与された。それが意味する所はつまり、今後はそれだけ軍の役割が重要と言う事である。

 

「正直、貰いたかない勲章だったな。これを与えられるって事は、俺たちの祖国は戦国時代の真っ只中に居て、しかもその渦中に巻き込まれるって事だからな」

 

「そう考えたら、ある意味呪いの勲章だな」

 

川山の発言は、なんとも言えない重い物があった。何故だか本当に呪われてる気がして、ただただ怖かった。

 

「さて!じゃあ、安定の報告会を始めるか」

 

「だな。じゃあまず俺から。リーム王国は共和制を取るらしく、現在は暫定的に反乱軍の指導者だった、ドラグーンとかいうのが国内の安定を図っている。安定が取り戻され次第、選挙によって決まるそうだ。

マオ王国に関しては、向こうから勝手に自国に不平等な条約を締結しようとしてきたな」

 

ここで一色が待ったをかけた。「俺達に不利益な条約じゃなくて?」と。川山は微妙な顔をしながら答える。

 

「あぁ。それだけ皇軍が怖かったのか、自分から関税自主権を認めず、領事裁判権を持たないとか言い出してな。流石にビックリしたぞ」

 

他にも色々あるのだが、基本は開国時にアメリカが日本と結んだ不平等条約をイメージしてもらいたい。あんな感じの条約を、自分から自国に掛けたのだ。勿論、内部工作とかも一切やってない。なんかマオ王国が勝手にやったのだ。

 

「なんか、国際的な立場が無くなりそう.......」

 

神谷の呟きに、2人も顔が引き攣る。今回ばかりは本当に裏工作とかましてないのに、そんな条約を結んできた。しかし普通は自国を不利にさせる条約を自分から結ぶわけがないので、多分このままだと日本が悪者になってしまう。世界としては「日本が裏工作して、不平等条約を結ばせた」と見えてしまうのだ。

ここまで来たら、今度はもう少しマオ王国側に有利な条約を結ぶような裏工作の命令という、前代未聞の謎命令を出す必要すら視野に入れる可能性も出てくる。

 

「次は政治だな。政治は少しムー関連でゴタ付いてる感じかな。だが、議員への根回しは衆参共に完了済みだし、後はもう本会議の議決でどうなるかだな。まあ多分大丈夫だろうとは思うが。

というか寧ろ、経済関連の条約は少なくともウチに損はないし、一部の議員にしてみりゃ天下り先が繁栄しているのは良い事だろ?体裁や表面上で反対する奴はあるかもしれんが、ガチの反対はされんだろう。反対するメリットないし」

 

「次は軍事面、だな。例の皇軍増強計画は順調に進んでいる。甲冑への追加装甲は既に部隊配備を行なってるし、備蓄も並行して製造中。多脚戦闘兵器、新型メタルギア、新型上陸用舟艇、アサルトガンシップについてははプロトタイプが完成し、各種試験の真っ最中。新型砲塔の搭載は定期メンテの時期に並行しつつ換装作業を行うから、今ちょうど半分ちょい位は終わったな。

新たな遠征打撃群と本土防衛用の兵器設置だが、全てが完了するまでには後一年は掛かるだろう。火力支援用ガンシップはAC180迅雷としてロールアウトしてるし、既に量産化に漕ぎ着けた。各部隊への配備も問題ない。マイクロ多目的ミサイルも先行量産型が配備されつつある。

最後に『仮称513号艦』だが、慣熟訓練と性能評価試験を兼ねた訓練を敢行している。既に一度、戦力として投入したが、その威力は絶大だったぞ」

 

ここで読者諸氏はこう思った事だろう。「『仮称513号艦』なんて艦は、一度も戦闘に参加してないだろ」と。確かに現在この名称が出てきたのは「第五話ムーとの国交と大波乱の軍祭」と「第三十話やって来た使節団」にのみ登場し、続く「第三十一話極帝現る」で少し詳しい情報が出てきただけである。というか姿を見せたのは、第五話で船体が建造されている所であった。

あの当時では再来年、つまり先進11ヵ国会議の手前位に完成する筈だったのだが、工員達の気合と熱意により昼夜を問わず働いて造り上げたのだ。結果として予定よりも大幅に早い時間で建造が完了し、全ての予定が前倒しになったのだ。そしてそして、運がいい事に第75中隊のエスペラント王国での戦いに於いて『仮称513号艦』は当時、戦場の近海を航行していたのだ。実戦データを手に入れる絶好の機会だったので、神谷は参戦を判断。あの中村貴一郎巨人を貫いた青白いビームの出所こそこの艦であり、参加兵力でerrorとなっていた物が実は『仮称513号艦』なのである。

 

「あー、そういや本土防衛用に特殊戦術打撃隊に兵器作るって言ってたよな?アレ、なんだっけ」

 

「ストーンヘンジと提灯か?」

 

「あー、それそれ。アレも完成したのか?」

 

珍しく兵器の名を言わなかった一色に、神谷は少しがっかりしていた。どんな名前が飛び出すか、最近はもう楽しみになっていたのである。

因みに提灯はまだしも、ストーンヘンジでもうお察しかと思うが、詳しくは設定集をご覧頂きたい。一応、元ネタよりも凄い事になっている。

 

「一応、な。一部は稼働してるし。仮に今、何処ぞの国が本土空襲仕掛けてきても大丈夫だろうよ」

 

「これで最強の盾と矛が揃ったな」

 

川山の発言に神谷は悪い笑みを浮かべながら、こくりと頷いた。その後は何故かゲーム大会に発展し、3人でグラセフしたりして夜明けまで遊んでいたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回で漸く、第六章終わりです。次回からは番外編として五等分の花嫁とのデートとかを書いて、皇国の過去を書いて、それからグラ・バルカス帝国編に突入します。多分、入るのが今年の秋から冬の初めくらいでしょうね。いやー、長い。パ皇編終わってから、来月でもう一年ですからね。自分でもここまで長いとは思ってませんでしたよw
そして、ここでお知らせです。本来はグラ・バルカス帝国編スタート時に一新する予定だった設定集を、もう本日変更いたします。執筆中小説に溜まってまして、ぶっちゃけ邪魔なんですよね。丁度タイミングよく、ストーンヘンジとかの解説入れるので変えちゃいます。新版ではより詳しい兵器の解説や、新たな兵器に関してもちゃっかり入れてますので是非ご覧ください。旧版も残しますので、ご安心を。


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番外編1英雄の安息編
第四十九話東京ディズニーランド


勅命休暇が出た翌日 神谷邸

「おはようございます旦那様。本日より一ヶ月の休暇とのことですが、如何なさいますか?」

 

「なぁ爺ちゃん。差し当たって、重要な問題がある。休暇って、何したら良いんだろ.......」

 

(あー、これは重症ですね.......)

 

まさかの回答に、流石の早稲も困惑である。大体常時ぶっ飛んでいて、幼少期より予想できない思考回路を持って予想できない事態を引き起こしてきた神谷だったが、ある意味今回が一番ぶっ飛んでいるかもしれない。

 

「そうですね。こんなのは如何ですか?」

 

だがやはり、そこは神谷に「爺ちゃん」と呼ばれているだけはある。懐から6枚の紙束を取り出した。

 

「こ、これは!!」

 

「これで一日、楽しんできてください」

 

「車回しとけ!!!!」

 

「仰せのままに」

 

その紙束の正体は何なのかというと、アレである。日本にあるテーマパークで、敷地に入れば最早ファンタジーの世界となるあのネズミがいる遊園地。ディズニーランドの入場券である。

 

 

「グッドモーニング!!!!」

 

そう言いながら、ヘルミーナの部屋のドアを蹴破らん勢いで開けた神谷。突然の訪問に「わひゃぁ!?!?」という、なんとも可愛い悲鳴をあげている。

 

「え!?か、神谷様!?」

 

「おはようミーナ。早速だが、遊びに行くぞ!!」

 

「は、はぁ.......」

 

朝寝てた所をいきなり起こされて頭が回っていないのに、話が飛びすぎていて理解が追いつかない。そんなヘルミーナを置いて神谷は部屋を出て行き、同様に他の四人にも同じように部屋に突入&大声挨拶で起こして回った。

そして身支度を急いで整えさせて、そのままリムジンに連れ込み、夢の国へと向かう。

 

「で、なんで朝っぱらに叩き起こしたのかしら?」

 

「有体に言うなら、まあデートなのか?取り敢えずまあ、絶対に楽しめる場所に連れて行ってやる。朝叩き起こされた疲労感も吹き飛ぶ、最高の場所さ」

 

五等分の花嫁達は正直顔が「なに言ってんだコイツ」という顔をしているが、神谷としてもそうとしか説明できない以上、気にしないようにしている。気にしてしまったら、メンタルがクラッシュ.......いや、しないな。うん。

 

 

 

08:45 東京ディズニーランド前ロータリー

「よっしゃ、着いた」

 

神谷が降りたのに続いて、五等分の花嫁達もリムジンから降りる。目の前に広がるのは、これまで見てきた日本の街並みとは一線を画す建物。日本の近未来的な建物でありながら、何処か此方の世界の国々にある宮殿ような建物もある。

 

「神谷殿、ここは一体.......」

 

「もしかして私達、社交会にでも出るの?」

 

「違う。ここはな、言うならば魔法が使えないはずの旧世界に於いて唯一魔法にかかれてしまう、夢が叶う場所。東京ディズニーランドだ!!」

 

尚、「千葉県の浦安市にあるだろ!」というツッコミはしないで頂きたい。変な事書くと、私がこの国のネズミに消されかねない。

因みに今回のディズニーランドデート、結構役立つ裏技や小技も書いていくので、是非今後行く事があれば参考にして頂きたい。では、本編に戻ろう。

 

「「「「「とうきょうでぃずにーりぞーと?」」」」」

 

急にヒアリングが幼くなっているが、どうか許して欲しい。中世ヨーロッパには『テーマパーク』という施設の概念は存在すらしていない以上、この反応は必然と言えるだろう。

 

「まあ取り敢えず、入ってみよう。入ってみたら、全てがわかる」

 

まずは半信半疑の五人を引き連れて保安検査場に並び、程なくして開演時間の09:00となったので中へと入場する。

六人の目に飛び込んできたのは、まるで神殿か何かの入り口のような巨大な建造物。ディズニーランドの顔、ワールドバザールである。

 

「何ですかこれ!?!?」

 

「ミーシャ、そんな興奮してはダメよ!!!!」

 

「そういうミーナ姉様も興奮してますよ!!」

 

大興奮のミーシャとヘルミーナ、それから驚きでフリーズしている他の三人を尻目に解説を始める。

 

「これはワールドバザール。簡単に言うと、お土産屋とレストランが入った商店街みたいな物だ。ここでしか買えない限定品とかもある。だが、まだここには寄らない。まずディズニーに来てする事は…」

 

「「す、する事は?」」

 

「コインロッカーの確保だ!!!!」

 

やはり一歩入ってしまうと、とにかく早くアトラクションに乗りたくなるものである。だが、それは愚者の行動と言えるだろう。まずすべきは、コインロッカーの確保である。コインロッカーは入場門から見て、右前と左前にある。やはり友達や同僚にお土産を買うと思うのだが、大量のお土産を引っ提げて移動は面倒であろう。そんな時にコインロッカーを確保しておけば、いろいろ楽である。上着をしまっておいたりもできるし。

因みに「お土産は後から買うし、後半でいいや!」というのは、マジで後から痛い目を見るのでやめよう。他のゲストも大体同じような事を考えているので、いざ確保しようと思ったら全部埋まってたり、小さいのしか無かったりするのだ。

 

「コインロッカー、ですか?」

 

「おう。それから、今のうちにトイレも行っておいた方がいいぞ」

 

六人はトイレに行ったりロッカーを確保して、また再集結した。そしていよいよ、本格的に中へと入っていく。

 

「うわぁ.......」

「すごい.......」

「天井が一面ガラス張りだ.......」

「あ、これ可愛い!」

「これも可愛いわね.......」

 

因みにここでまた裏技なのだが、ワールドバザールにある時計は集合時の目印になるので、もし逸れてしまった時なんかは活用しよう。私も修学旅行時に友人と合流する目印として使ったが、意外と分かりやすいのでオススメである。

 

「お土産は荷物になるから、後から買うぞ。まずはそうだな、カリブの海賊でも行くか!」

 

最初に乗るのは、ジャック・スパロウのいるカリブの海賊。私も大好きなアトラクションである。

 

 

『やい、テメェ達。今更コースを変えようたって、間に合わねぇぜ?この先の入江にゃ、おっそろしい海賊達が手ぐすね引いて待ってるぞ。皆一塊になって、汚ねぇ手を船から出すな…』

 

お決まりのガイコツが世界観を壊さない様、注意をしている。だが右ではヘルミーナが神谷の腕をガッチリ掴み、左はミーシャがガッツリ掴んでいる。ぶっちゃけると、両腕が二人の胸の間に挟まれて天国である。

 

「がががが、骸骨が喋った!!」

 

「作り物だ。大丈夫、大丈夫」

 

そう言っていると最初の洗礼、真っ暗な中急に落ちるヤツが来る。

 

「きゃあ!?!?」

 

「冷たっ!!」

 

神谷、被弾。しかも顔面に掛かった。他は落ちたのが怖すぎて悲鳴を上げたが、神谷は冷たさで悲鳴をあげる。程なくして、早速白骨化した海賊達が見えてくる。酒を飲んだり、宝の山にいたり、様々である。その一つ一つに五人とも驚いて、ガチガチ震えている。

 

(これ、ホーンテッド大丈夫か?)

 

カリブの海賊は骨が出てくるだけで、ホラー系では無い。ディズニーのホラーと言ったら、やはりホーンテッドマンションであろう。カリブの海賊でこれだと、ホーンテッドマンションは微妙である。

 

「恐ろしいです怖いです.......」

 

「大丈夫大丈夫。ほら、もう抜けるぞ。ここからは骸骨は出てこない」

 

そう言って、ミーシャの顔を上げさせる。丁度ボートは、謎のイカ人間を超えて海戦の真っ只中に入る。

 

ボン!ボン!

 

「今度は何ですか!?」

 

「このアトラクションは、海賊達の体験だ。だから、今は戦闘中な訳よ」

 

着弾の演出で、オレンジの光が灯り水が噴き出る。BGMも『彼こそが海賊』が流れていて、壮大であった。

それを抜けると、海賊達が水責めの拷問をしてる所や酒を飲んで大騒ぎしてる所、女性を追いかけ回す所(ただし、約1名逆襲で追いかけ回されている)を通っていく。

 

「これ、歌ですか?」

 

「あぁ。どうせなら歌ってやろう。Yo ho, yo ho, a pirate's life for me.」

(訳:ヨーホーヨーホー、海賊暮らしは俺にぴったりさ)

 

「We pillage plunder, we rifle and loot. Drink up me 'earties, yo ho.」

(訳:俺達は略奪、強盗、全部巻き上げる。酒を飲み干せ)

 

「We kidnap and ravage and don't give a hoot. Drink up me 'earties, yo ho.」

(訳:誘拐、破壊、おかまいなしさ!酒を飲み干せ)

 

しっかり英語の原文で、本当の海賊が歌うかのように荒々しく着々音程をわざと外して歌う。まさか歌える奴が同じボートにいるとは思ってなかったのか、後ろに座るゲスト達からも歓声が上がる。

 

「どうせならみんなで歌おうぜ!歌えなくても、それっぽく歌えば楽しいぞ!!」

 

ディズニーで時たま起こる、謎の現象。ゲストのキャスト化である。時にゲストは他のゲストを楽しませたりする、この謎の現象。だがまさか、こんな楽しませ方をする奴は居なかっただろう。

神谷に釣られ出し、他のゲスト達も歌い出す。その声はやがて大きくなり、後ろと前にいるボートのゲストにも伝播していき、すぐにYo Hoの大合唱へと発展していった。ゲスト達が初めて、カリブの海賊の仲間入りを果たした瞬間と言えるだろう。

 

 

「次はビッグサンダーマウンテン行くぞー!」

 

「な、なんだその魔法の様な名前の物は.......」

 

「行けばわかる!」

 

アドベンチャーランドを後にし、ウェスタンランドへと向かう。一応この間にウエスタンリバー鉄道に乗っているが、特にこれと言った事はないので割愛する。

 

「それにしても広いですね、ここ」

 

「そりゃ国内でもトップクラスの遊園地だ。規模もデカい」

 

そう言いながら歩いていると、神谷は徐ろに足を止めた。目の前には謎のワゴンがあり、そこに並ぶ。

 

「ほい、お前ら。ミッキー仕様のアイスキャンディだ」

 

人数分のアイスキャンディを買って、差し出した。早速食べたのだが、五人ともお気に召したらしい。夢中で食べてる。

 

「何故かディズニーのアイスキャンディって美味いんだよなぁ」

 

そのままビッグサンダーマウンテンの列に並び、程なくして乗り込む。因みに今度隣に座ったのは、ミーシャである。

 

「神谷様。これって、一体どんな物なんですか?」

 

「まあそうだな。舌、噛まない様にしとけ。おっ、動き出すぞ」

 

ビッグサンダーマウンテンは知っての通り、汽車型のジェットコースターである。勿論他の遊園地にあるジェットコースターの方が圧倒的に速いし、動きも激しい。怖さでいうと、実はあまり大した事はない。ところがこの五人、どうやら絶叫もダメらしい。

 

「えっと、これは今から何が?」

 

「さぁ、いってみようか」

 

「え?」

 

登りきり、ガタンという音が鳴った次の瞬間、コースターは急降下を始める。

 

「キャーーーーーーーー!?!?!?!?」

 

「イィィィヤッホォォォォォォォ!!!!!!」

 

神谷は超楽しいそうな悲鳴を上げるのに対し、隣のミーシャはガチ物の悲鳴を上げている。

 

「楽しいんだけどパンチたんねぇぞ!!!!もっとデカいの来いや!!!!」

 

「止めて.......許して.......」

 

もう後半は何か、死に掛けの人間がトドメを刺すように懇願してるかの様な感じの声で「止めて」と呟き続けていた。神谷含め、この事に降りた後に気付き神谷は「しまったー、チョイス不味ったな」と呟いていたとか。

 

「そろそろお腹空きましたね」

 

「そういう事なら、俺オススメの店に行こう」

 

場所は移動して、トゥモローランド。ここのパン・ギャラクティック・ピザ・ポートのピザとカルツォーネを購入する。因みに五等分の花嫁は、リトルグリーンまん9も頼んだ

 

「ここのピザ、マジで美味いんだよ」

 

「.......確かに美味しいですね」

 

「私はこっちの中に入ってるヤツ好きー」

 

どうやら大好評のようだ。神谷が「昔はクリームソースのカルツォーネもあったんだよなぁ」とか言うと、食いしん坊のヘルミーナがガチで羨ましがり、カルツォーネを気に入っていたレイチェルも「食べてみたかった」と残念そうにしていたので、どれほどお気に召したかがわかるだろう。

 

 

「さて、じゃあ次のアトラクションに行くか」

 

「次は何に乗るの?」

 

「多分この中だと、レイチェルが一番喜ぶアトラクション」

 

そう言って入ったのはパン・ギャラクティック・ピザ・ポートの斜め前にあるアトラクション、スターツアーズである。

最初はどんなアトラクションかわからなかったらしいが、進んでいくに連れて聞いた事のあるBGMや見たことあるドロイドに感づいたようだ。

 

「ねぇ、これってもしかしてスターウォーズ?」

 

「そうだよ。このアトラクションは、スターウォーズのアトラクションだ」

 

そう言うと、一気に目の色が変わった。何を隠そう、レイチェルが初めてみたハリウッド映画はスターウォーズなのである。それ以来クローンウォーズにハマり、解説動画を見漁り、バトルフロントIIなんかのゲームもプレイしていて、完全にスターウォーズの沼に取り込まれたのだ。そんな彼女がこのアトラクションに来て、興奮しない訳がない。

 

「あ!アクバー提督もいる!!」

 

「え?あ、ホントだ。初めて気づいた」

 

何度も乗ってる筈の神谷も気付いてなかったアクバー提督に気付いたり、ドロイド達に話しかけてみたり、多分一番楽しんでいるレイチェル。そしていよいよ、アトラクションの本番である宇宙船に乗り込んでスターウォーズの銀河系への旅に出る。

 

「ストームトルーパーいるよ!」

 

「今回は帝国編か」

 

実はスターツアーズは幾つかパターンがあり、今回最初に引いたのは帝国編らしい。一応ストーリーは反乱軍のスパイが乗り込んでるらしく、その追跡から逃げるという物らしい。

 

「TIEファイター!インターセプターもいる!」

 

「結構手が込んでるんだよなぁ」

 

TIEファイターに追いかけれていると、逃げる為にハイパースペースへと突入する宇宙船。ハイパースペースから出るとそこは、エピソード1でアナキンが出場していたレースであった。

 

「タトゥイーンだ!!タスケン・レイダーいるかな!?!?」

 

「探せばいるかもな!」

 

レース会場を突っ切ってまたハイパースペースへと突入する。今度は銀河共和国の首都があるコルサントの上空に飛び出し、共和国宇宙軍のヴェネター級と分離主義勢力との砲撃戦の真っ只中を通過し、コルサントへと降下。空飛ぶ車が走る道を逆走したり横切ったりして、謎の着陸場に着陸。

 

『ありがとう。君たちのおかげでスパイの情報は無事に届けられた。これで君達も今日から反乱軍の一員だ!』

 

「ねぇ、時代設定おかしくない?」

 

「言うな」

 

レイチェルの冷静なツッコミに、神谷も同意見ではあるがそれは言わないお約束である。因みにスターウォーズ未履修の読者諸氏は何が何だか分からないと思うので、簡単に解説しよう。

スターウォーズの映画はエピソード1〜9まである。(他にもボバ・フェットみたいな外伝なんかもあるが)その内、反乱軍が出てくるのはエピソード4〜6までの間で、ダース・ベイダーやルーク・スカイウォーカー、ハン・ソロにレイア姫が出てくる話に出てくる組織である。

一方で先程書いていた『アナキン』や『共和国』というのは、エピソード1〜3に出てくる。詳しくはネタバレになるので語らないが、共和国がパルパティーンというベイダーの上司によって帝政へと変わり、その支配に反抗しているのが反乱軍である。なので共和国時代に反乱軍は存在せず、時代背景が可笑しいのだ。

まあ共和国時代にもその統治に反対する勢力として、分離主義勢力というのが居て、主人公サイドはこことドンパチしてるのだが。(ドゥークー伯爵とかグリーヴァス将軍が所属しているのが分離主義勢力である)

 

「楽しかったー!」

 

「因みにこれ以外にもパターンあるぞ。ベイダー卿にフォースで捕まったり、ホスの攻勢に参加したり、アクバー提督の艦に着艦したりとかな」

 

「なにそれめっちゃあるじゃん!」

 

スターウォーズファンにしか分からないだろうが、ファンとしてはどれも行ってみたい場所である。因みに私は2回このアトラクションに乗ったのだが、2回とも同じルートを引き当てた。そのルートが今回、神谷達の乗った宇宙船が検査用ドロイドに捕まって、タトゥイーン行って、コルサントに着陸するルートである。

 

「次は何乗ろうかな〜」

 

「神谷殿、一つ気になるのがあるのだが.......」

 

「お!なんだ?」

 

「このホーンテッドマンション、というのに乗ってみたい」

 

さっきカリブの海賊でギャーギャー騒いでたが、今回はアナスタシアの発案なのでこっちに類は及ばない。というか神谷自身、乗りたいのでその案を採用して反対方向まで歩いてファンタジーランドに向かう。

 

「ここか?」

 

「ここだ。さっ、みんな行くぞー」

 

並ぶ時から既に『ザ・ホラー』な飾り付けや置物があり、ヘルミーナとミーシャは恐怖モードである。そしてエリスもその1人であった。まあ顔には出してないつもりらしいが、足はガックガクだし声も上ずっている。

そしてそれに気付いた神谷。こんな可愛い姿を見せられては、いじめたくもなる。そんな訳で都市伝説の幽霊話をしてみる。

 

「なぁお前ら、知ってるか?このアトラクション、まあ見ての通りホラー系なんだが、実は本物の幽霊が出るって噂があるんだ.......」

 

「かかか神谷様!?ここはアトラクション、つまり偽物ですよ!?!?」

 

「そ、そうですよ!見間違いですきっと!!」

 

「フン!そもそも幽霊なんて居ないわよ!!」

 

ミーシャとヘルミーナは見るからに怖がり、エリスは一応強がっている。だがそれで終わる訳ない。

 

「ここのアトラクション、途中で無限回廊と呼ばれる区間がある。その区間には時折、ピノキオっていうディズニーのキャラのぬいぐるみを持った男の子や手招きをする女の子が立っているらしい。そしてパーティー会場の区間もあるんだが、そこに何故か日本人らしいおかっぱの女の子がいるらしいんだ。

見ての通り西洋系で統一されてるのに、明らかに可笑しいだろ?キャストさん達もそんな仕掛けは無いといってるし、俺も何度も乗ってるが見たことはない。だが俺の知り合いにも見た奴はいるし、それ以前に目撃情報は数多く存在する。というかそもそも、お化け屋敷は元来幽霊が集まりやすいっていうし」

 

ミーシャとヘルミーナは完全に震えている。エリスも見るからに顔が真っ青になっていて、さっきの強がりは何処かへ撤収したらしい。

 

「あー、神谷さん?この空気どうすんの?」

 

「.......ごめんちゃい」

 

「だが襲われれば、撃退すればいいのだろう?」

 

うんアーシャ。そういう脳筋発想のアトラクションではないぞ。というツッコミはさておき、いよいよ順番となり列が進む。まずは部屋が下がってんだか、絵が動いてんのか分からない部屋に通されて謎の絵を見せられる。

 

「不気味ね.......」

 

「絵がキモいです」

 

「こういう時の対処法はな、現実に置き換えることだ。例えばアレ。ワニに食われそうになっているが、あんなのしてたらすぐに警官のお世話になるだろ?そんな事考えてたりしてると、案外楽しいぞ」

 

こういうノリは意外と友達と行った時に起こるが、不思議と怖くなくなるのは何故だろうか?

そうこうしていると、扉が開きあの動く椅子へと座る。今回はアナスタシアとレイチェルでエリスを挟み、その後ろにヘルミーナとミーシャで挟んで神谷が座っている。

 

「本物に会わないといいわね.......」

 

「何かあれば神谷様が倒してくれますよ!」

 

「あー、俺武装してないんだけど。ってかそもそも、幽霊に物理攻撃って通用するのか?」

 

頼みの綱である神谷も全く機能しない事が発覚し、一気に悲壮感漂う2人。まるで死地に赴く様な雰囲気であるが、これはあくまでホーンテッドマンションという子供でも楽しめるタイプのお化け屋敷で起きている事である。逆にここまで悲壮感と絶望を顔に出せるのは、もう天才である。

因みにガチ物の幽霊が出てしまったら、ターンアンデッドとかの魔法で消滅させれば良いだけである。法律には『魔法を無闇矢鱈に使うな』とも書かれてないし、まして『幽霊を攻撃するな』というのは存在しない。幽霊である以上、殺すという表現は適切じゃないかもしれないが向かってくれば殺すのみだ。

 

「幽霊いませんか?」

 

「早々いるもんか」

 

「大丈夫ですよね?」

 

「大丈夫だから、顔上げろ」

 

そう言って2人の顔を上げさせるが、タイミング悪い事にセットの幽霊の真正面で上げてしまった。

 

「「キャーーー!!」」

 

「いや唯の人形だって」

 

「嘘つき!」

「居ないって言ったじゃないですか!!」

 

「いや、そりゃあ、ここお化け屋敷だし。セットとか仕掛けとして、作り物の幽霊はいるに決まってるじゃん」

 

結構理不尽である。だがホーンテッドマンションは子供も楽しめるタイプのお化け屋敷なので、他のお化け屋敷に比べると余り怖くはない。少し可愛い要素もあるので、大人になると普通に楽しめるくらいの余裕はできるし、友達と行くと幽霊を煽ったりする奴もいる。神谷もその例に漏れず、殆ど「あー、これどんな仕掛けだ?」とか何とか考えていた。

この瞬間までは.......

 

「そろそろ終わりだな。おーい、お前らそろそろ終わるぞ」

 

そう2人に声を掛けて、最後の鏡のある辺りの手前で顔を上げさせる。不意に神谷が顔を上げると、あり得ない人間がそこに存在した。かつての旧大日本帝国海軍の第一種軍装を着た二振りの太刀を帯刀した士官が立っていたのである。時代的にも世界観的にも合わない以上、多分これ幽霊である。

 

(あっるぅぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?なんで!?どうして!?え????いやいやいやいやいやいやいや!!!可笑しいだろ!!!!何で欧州の洋館に旧海軍の軍服を着た軍人がいるんだよ!!!!!!時代も世界観も違うだろうが!!!!!)

 

神谷長官、完全にパニックである。しかも心なしか、椅子の動きもスローモーションになっている気がする。そしてよくよく見てみると、どこかで会った気がする。そんな事を思っていると、その幽霊が不意に二振りの太刀を鞘付きのままコチラに投げてきた。まるで刀をを託すかの様に。だが刀は幽霊の手を離れると、砕ける様にして消える。

 

「え?」

 

幽霊は敬礼すると、どこか誇らしげに神谷を見つめていた。優しそうな瞳で、だが強い意志が同居する軍人の目。幽霊は天井に吸い込まれる様にして消えていった。

 

「神谷様?」

 

「お、おぉ。どうした?」

 

「何か居たんですか?」

 

ヘルミーナが心配そうに神谷の顔を覗き込む。どうやら本物の幽霊が見えたのは、恐らく神谷だけらしい。流石に本当の事を言う訳にもいかないので、適当に誤魔化してホーンテッドマンションを後にした。

 

「さて、じゃあ次は何乗る?」

 

「あ、私乗りたいのあります!このスプラッシュマウンテン、気になります!!」

 

「お!じゃあ行くか!!」

 

ヘルミーナのリクエストでまたも絶叫系に行く。一応今回は事前にミーシャに言ったが「さっきのに比べればマシだと思うので、多分大丈夫です!」と返してきた。まあ後に落ちていくのを見て、顔色は悪くなっていたが。

なんだかんだで順番が来て、今度はエリスが隣に来た。

 

「ふん!隣なのは癪だけど、今回くらいは我慢してあげるわ!」

 

「そりゃどうも」

 

ボートは動き出し、アトラクションがスタートする。のっけからいきなり落ちるので、エリスは驚き神谷は濡れる。

 

「カリブでも濡れて、ここでも濡れるのかよ」

 

「いきなり落ちるとか聞いてないわよ」

 

「ならさっさと言っておこう。この後、もう一回落ちるぞ」

 

「へ?」

 

そう言った瞬間、また少し落ちた。もちろん水が舞い上がり、神谷は濡れる。

 

「これ作った奴、馬鹿なんじゃないの!?」

 

「まあまあ。意外と楽しいから」

 

そう言いながらエリスを宥めつつ、ボートはさらに進む。結構細かいギミックでトンネルというか洞窟の中を楽しみながら進み、いよいよ最後の落下へと差し掛かった。

 

「ねぇ、これがさっきのかしら?」

 

「あぁ」

 

前のボートが順番に落ちていく。その度に絶叫が響き、エリスはどんどん心細くなっていくのが自分でもわかった。

 

「ディズニーのあるあるなんだが、大体こういう待ち時間で覚悟決めるんだよなぁ。で、中々落ちそうで落ちないんだ」

 

「.......アンタ、平然としてるわね」

 

「そりゃ何度も乗ってるし。それに、ぶっちゃけ他の遊園地の絶叫系とか、他の怖いものをたくさん知ってるからな。この程度、まだまだだ」

 

そんな事を言っている間に、前のボートが落ちた。どうやら、次がこのボートの番らしい。

 

「さぁエリス。叫べ。来るゾォ!!」

 

ボートは一気に落ちる。今までの落下とは格の違う、一気に降っていく感覚にエリスは叫んだ。

 

「キャーーーーーーーー!!!!!!」

 

「水くるぞー!!!!」

 

バッシャーーーーーーン!!!!!!

 

巨大な水飛沫を上げながらボートが突入し、水が四方八方から襲いかかる。

 

「べぇっくしょい!!待って待って鼻に水入った!」

 

「アンタ酷い顔よ」

 

「仕方、ヘクション。ないだろ!べぇっくしょい!!」

 

何気に初めてエリスが神谷に対して笑い掛けた。まあ当の神谷は、鼻に水が入った事でそれどころではなく、鼻がツーンとするし服は濡れるしでダメージがすごかったが。

 

「あ!これ、私達の写真じゃない?」

 

「そういやここ、落ちる瞬間の写真が撮られるんだよな。別料金で購入可だ」

 

レイチェルが写真を見つけ出し、みんなでそれをみる。神谷とレイチェルは楽しそうな顔で、エリスとアナスタシアはビックリし、ヘルミーナとミーシャは互いに抱き付いている。

 

「よし、買うか。すみませーん」

 

係のキャストに声をかけて写真を購入し、その写真は後に各々の自室に飾られた。 

 

 

「さーて、そろそろ晩飯行くか」

 

スプラッシュマウンテン以降、白船とかイッツ・ア・スモールワールド、ミートミッキー、スペースマウンテン等々。粗方のアトラクションには乗った。スモークターキー、ポップコーン、チュロス、アイスなんかも食べた。だが時間も時間なので、そろそろ晩御飯としたい。そこで神谷は、最高のレストランを準備していた。

 

「ここは?」

 

「クラブ33。会員制の文字通り選ばれた者しか入れない店だ」

 

伝説のレストラン、クラブ33。このレストランはディズニーランド内で唯一、酒類の提供されている店であり、会員になっていないと入れない店でもある。

この会員になる方法も結構複雑で、まあまず一般庶民がなれることないと言って良いだろう。かつてはブラックカード会員の者が抽選で会員を取れていた事もあるが、現在は無くなっている。つまり最低でもブラックカード所持レベルじゃないと入れないのだ。

 

「ちょっと待ってろよ」

 

そう言うと神谷は右にある『33』と書かれた金色のパネルを押して、パカリと開いた。そこには小型のインターホンがあり、何の迷いもなく押す。

 

『いらっしゃいませ。ご予約名をお聞かせ願いますか?』

 

「予約していた神谷浩三だ」

 

そう言うと入り口の鍵が開けられ、ドアが開く。中にはドアを開けた2人の店員と、案内役の店員が居た。

 

「お待ちしておりました神谷様。受け付けを行いますので、こちらへどうぞ」

 

「あぁ」

 

目の前で繰り広げられる、明らかに社会的地位が高い会話。いくら慣れてきたとは言え、頭が追いつかない。フリーズしてしまう5人だったが、そこはプロの店員達。すぐにそれを察知し、フォローに入る。

 

「お連れ様もご一緒にどうぞ」

 

「ようこそ、クラブ33へ。素敵なお時間となるサポートは、私共にお任せください」

 

「おーい、行くぞー」

 

受け付けを済ませると二階へと通され、そこでフランス料理のフルコースを楽しんだ。私自身、フランス料理のフルコースを食べたことが無い上に調べても料理の種類が凄すぎて、ついでに味の想像も付かないので描写は見送らせてもらう。というかそもそも、当然だがクラブ33にも行ったことない。

なので料理描写の代わりに、私のオススメ店をお教えしようと思う。ズバリ晩御飯でオススメなのは『ハングリーベア』というカレー屋である。少人数で行って、いろいろ園内で食べた場合はこの位が丁度いい。しかも回転が速い。大人数の場合はレストラン北斎なんかもオススメである。

 

「あー、うまかった」

 

「お城、綺麗でしたね」

 

「まだパレードまで時間あるし、城の前で写真撮るか?時間的にも夕日とお城のセットは良いだろ?」

 

その返事は大喜びの五人の笑顔であった。オムニバスなんかの通る道に陣取り、写真を撮る。まずは五等分の花嫁だけの写真を二パターン。五人が横一列に並んでるヤツと、真ん中に固まってるヤツを。そして次に神谷と各々のツーショット。

結構個性的でヘルミーナとエリスの場合は普通にピース、ミーシャは神谷の腕に絡みついた物、アナスタシアとは背中合わせで、レイチェルは神谷がしゃがみレイチェルは立った状態で謎のポーズである。

そして最後に六人で写真を撮った。この写真も後に各々の部屋に飾られて、神谷だけ自室ではなく統合参謀本部の執務室に飾った。

 

「じゃあ写真も撮ったし、今のうちにお土産買うぞ」

 

今度はワールドバザールをあちこち回って、色んなお土産を買い漁る。取り敢えず神谷は家の使用人達様と軍での側近達様にお菓子系を購入し、配達してもらう事にする。一方の五等分の花嫁達はぬいぐるみやアクセサリー系を見ていた。

そんな時、レイチェルが面白い物を見つけた。

 

「ねぇねぇ!みんなでこれやろうよ!」

 

そう言って連れてきたのは、トゥモローランド側にあるアトラクション。どうやら神谷もずっとやりたかった物が、ここにもできたらしい。

 

「こ、これザヴィのワークショップじゃねーか!!!!」

 

「こう言うのあるなら先に言ってよね」

 

「いやこれ、元々無かったんだ。このアトラクションは海外のディズニーにしか無くてな、俺もずっとやりたかったんだ。まさか東京でできるとは.......」

 

どうやらこっちに転移してきた結果、海外にしか無かったアトラクションで人気なものは幾つかこっちでも建設する予定らしい。その内の一つがまさかの、ザヴィのワークショップだったのだ。このアトラクションが何かというと、スターウォーズに出てくるライトセイバーを作れるという物だ。しかも自らの手で。

 

「やるか!!というかやろう!!!!俺ずっとこれやりたかったんだよ!」

 

今日一番ノリノリの神谷を前に、他の五人も乗り気でやる事になった。一人二万は安くないが、ロマンを買えると思うなら安い安い。

 

「ダークサイドが力を増してきている。ジェダイの新しい希望はレイだ。そして君達もまた、新たな希望なのだ。さぁ、儀式を始めよう」

 

ライトセーバーがスターウォーズの武器なのは知って通りなのだが、あれは全て使用者が自分で作るのだ。詳しい解説は省くが、エネルギーを『カイバークリスタル』というのに通して光の剣として具現化している。

この『カイバークリスタル』の色で、セイバーの色も変化する。この色は使用者の素質にあった色に変わる。例えば青ならライトセイバー戦闘を重視する平和の守護者、緑ならフォースとの繋がりを重視する者、紫なら光と闇の中間、赤ならダークサイドに落ちた者、白はダークサイドを浄化した者と言った感じである。

 

「ギャザリングか」

 

「なんかジェダイイニシエイトになったみたい」

 

「では色をお選びください」

 

そう言ってキャストがカイバークリスタルを差し出してきた。どうやらその中から好きなのを選べるらしい。選んだ色は神谷とレイチェルが青、ヘルミーナは白、アナスタシアは紫、ミーシャは緑、エリスは赤である。

因みにギャザリングとは作中でのジェダイの試練の一つで、自らの手でカイバークリスタルを見つけてライトセイバーを作る事で儀式の一つである。ジェダイイニシエイトとはジェダイのランクで、いうなら候補生である。パダワンが弟子で、ナイトは一人前。マスターはジェダイの統括者で、グランドマスターはジェダイのトップである。

 

「アクティベート!」

 

ジェダイマスターからの指示で、参加者は一斉にライトセイバーの電源を入れて掲げる。その様子は圧巻の一言である。

保護ケースを貰って体験は終了し、丁度タイミングよくエレクトリカルパレードの時間にもなっていた。すぐに場所を確保し、パレードを見る。あの音楽と光と共にディズニーのキャラ達がやって来て、六人とも大興奮である。

だが20分ある筈のパレードは体感5分で終了し、そのまま花火も見て、本日のディズニーは終わったのであった。

 

 

「あーらら、みんな寝てるよ」

 

「旦那様、どうでした?ディズニー」

 

「めっちゃ楽しいぞ。それも、こんな美女五人と周れるとか神だよ神」

 

運転手と雑談しながら、神谷邸を目指す。だが脳内ではホーンテッドマンションであった幽霊のことを考えていた。

 

(にしてもあの幽霊、マジでどこで見たっけなぁ?というか、何で刀を投げてきたんだ。それも渡すかのように.......)

 

結局結論は出ないまま、神谷も就寝した。だがその夜、夢を見た。かつて神谷家の本邸があった場所に立っており、目の前にはあの幽霊がいた。

 

「おいアンタ!お前は一体、誰なんだ?」

 

「……………」

 

何かを喋っているが、何を言ってるかはわからない。だが幽霊は敷地内にある蔵を指差すと、また消えた。

 

「何だってんだ、一体」

 

 

 



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第五十話神谷一族

ディズニー行った一週間後 神谷邸 ゲーム部屋

「おい、左から来るぞ!」

 

「機関銃で牽制する!!」

 

「オッケー、なら私が狙撃で倒すよ!」

 

「戦車の火力支援です!」

 

「爆弾も投下しますね!」

 

「じゃあ私は、野戦砲を撃ち込むわ!!」

 

ディズニーから帰ってきて、休みの過ごし方を思い出した神谷。本日、というかここ三日間位はずっと六人でゲームしている。今はVR空間で、第二次世界大戦の世界で戦闘中である。2022年に発売されたVRMMORPGのSAOを皮切りに、色んなVRゲームが発売された。特に『初期四部作』と呼ばれるソフト群はこの作品が全てソードアート・オンラインの世界観が元になっている、というか原作者が監修して現実世界に降臨させた様な作品なのもあって、特に人気が高い。勿論四部作の作品名はそれぞれ『ソードアート・オンライン』通称SAO、『アルブヘイム・オンライン』通称ALO、『ガンゲイル・オンライン』通称GGO、『プロジェクト・アリシゼーション』通称UW若しくはアンダーワールドである。

この後にも続々と様々なゲームが発売されていき、ドラクエやファイナルファンタジーと言った日本が世界に誇る名シリーズ、エースコンバットやBFと言った特定層に根強い人気のあるシリーズ、はたまたSAOシリーズの様に人気アニメに出てくるVRゲームを元にしたヤツ、例えばオーバーロードを元にした『ユグドラシル』なんかが開発されていった。

 

「あ!私たちMVPだよ!!」

 

「うぉ!マジだ」

 

「私達には現役の兵士がいるんですから、当然ですよね?」

 

ヘルミーナが誇らしそうに言うが、このゲームのシステム的には実際の戦争の経験とかは余り意味をなさない。戦略とか敵の動きを読むとかはまだしも、射撃精度とかに直結はしない。その為神谷の顔は、なんとも言えない微妙な顔であった。

 

「おっと、早稲から呼ばれてる。一旦落ちる」

 

そう言って一人、ログアウトして現実世界に戻る。因みに言っておくが、SAOで「ログアウト不可能になってデスゲームに変貌した」とか、ユグドラシルで「異世界転移した」とかは勿論ない。まあストーリー上はそういう設定だったり、SAOに至ってはストーリーモード限定の難易度で『生還者(サバイバー)』を選べば死ぬと使用しているアバターのデータが消えるモードとかはあったりはする。

 

「旦那様、いきなり呼び出してしまい申し訳ありません」

 

「別にいいよ。で、どしたの?」

 

「賢介様がお見えになりました」

 

「え?」

 

「久しぶりだな。コウ」

 

そう言って早稲の後ろから現れたのは、オールバックの若い男。この男こそ、神谷浩三の実の兄である神谷賢介である。

 

神谷 賢介(かみや けんすけ)

年齢 33歳

役職 株式会社神谷組*1代表取締役社長

神谷浩三の実兄であり、建設会社を切り盛りするやり手経営者でもある。性格は神谷とは正反対のクール系であり、幼い頃より神谷のブレーキ役であった。頭の良さは神谷を凌ぐし、スポーツも万能である。お陰で学生時代は小中高大院、全てにおいて学校の王子様であったが本人が余りそういうのが好きではないのもあって、普通に男友達も多かった。因みにスポーツに関してはあくまでも「常人レベル」での話であり、神谷みたいに弾丸避けたり切ったりなんて、化け物超人な真似は絶対に出来ない。

結婚済みであり、5歳の息子に3歳の娘もいる。先程はクールとか言っていたが、唯一子供の前、特に娘の前では超デレデレになる。

 

「兄貴!なんだよ、来るなら一声かけてくれりゃ良いのに」

 

「悪いな。偶々、こっちに来たついでだ。この前帰った時、母さんからコウに伝言を頼まれてな」

 

「伝言?」

 

「あぁ。曰く「いい加減そろそろ結婚してほしいから、お見合いをセッティングする。一度帰ってこい」だそうだ」

 

これまで神谷は、なんだかんだ理由をつけて断ってきた。例えば「いつ死ぬか分からない以上、結婚はしたくない」とか「残された嫁が可哀想だし、なにより子がもし居ればもっと可哀想」とか言っていた。

だが、既に婚約(仮)をしているので、もうその必要はない。では何故、お見合いの話が来たのかって?別に神谷の母が子を道具とか所有物として見る、所謂『毒親』というヤツだからではない。伝えていないのだ、エルフ五等分の花嫁のこと。

 

「あー、兄貴。その必要はねーよ。俺もう、一応の婚約者いるから」

 

「そうか。おめで、は?ちょっと待て、聞いてないぞ」

 

「そりゃそうだ。言ってないぞ」

 

次の瞬間、本気のチョップが飛んできたが真剣白刃取りの要領でキャッチして防ぐ。

 

「受け止めるな!」

 

「いやだって、余りに遅いし。やるなら、フッ!」

 

そう言って神谷が「お手本」と言わんばかりに、軽いチョップを賢介の頭に寸止めで打った。神谷にとっては軽くでも、常人にとってはマジのヤツであり、賢介は目で追えなかった。

 

「これ位じゃなきゃ」

 

「いや、そうじゃなくて。というか、なんでそんな大事な事を伝えてないんだ?」

 

「伝える時間が無かったし、色々ややこしいんだよ。話せば長くなるが、この婚約自体が相手方の村にある掟から来るものでさ。別にアイツらが望んでいる訳でもなくて、父親も「少なくとも日本なら別れても部族にはバレない」とか言っているから、ぶっちゃけ完全な婚約でもなくてな。言うなら今は、試用期間的な感じなのよ。

それに婚約時期が丁度、ミリシアル使節団の件が重なっててその対応やら、カルアミークとの国交開設に関係する仕事だとか、例のC2遭難事故とか、この間のムーとの演習と戦争みたいな感じで仕事が怒涛の勢いで入ってきたんだよ」

 

「つまり関係が面倒な上に、忙殺されていたと。まあそれなら仕方ないが、しっかり二人に説明しておけよ?今すぐに」

 

「へいへー、今!?」

 

「ほら、婚約者も連れて来い。俺がヘリで送っていってやる」

 

どうやら今日はヘリで来たらしいが、一つ問題がある。婚約者、五人もいるのだ。これも伝えていない。

 

「乗り切るかな?」

 

「問題ない。二人くらい、余裕で乗せれるキャパシティだからな」

 

「あー、婚約者は五人いるんだけど」

 

今度は無言でガチのパンチが飛んで来た。多分、ヤリチン五股クソ野郎と思ったのだろう。

 

「待て待て待て待て!話せばわかる!!」

 

「どんな理由があるんだ!?あぁ!?!?」

 

「その村の掟が、「命を助けられた者は助けた者が未婚で想い人がいなければ、兄弟、姉妹と共に婚姻関係となる」という物でな。その助けた子が、まさかの五人姉妹で.......」

 

賢介は頭を抱えた。昔からコイツは、言うなればトラブルメーカーであった。大体何かしらの事件が起きれば、基本渦中にいる。今回は多分、これまでの中でもトップクラスの事件だろう。

 

「お前、何?リアル・ハーレムを築くの?」

 

「マジでそんなつもりないんだけど、なんかな」

 

「はぁ〜.......」

 

「取り敢えず、ヘリポートに呼び出すわ」

 

賢介は考えるのが馬鹿らしくなったのか、片手をフリフリして答える。そのまま2人はヘリポートへと上がったのだが、どうやら他にもお客さんがいたらしい。

 

「おじちゃーん!」

 

「浩三おじさんだ!」

 

「おじさん言うな!まだお兄さんだっての」

 

そう言って寄ってきた2人の子供。賢介の息子、和樹と娘の成海である。特段紹介することも無いので、他キャラの様な詳しい解説はしないが、簡単に紹介しておこう。

和樹は幼稚園の年長で、神谷に憧れて剣術を見よう見まねでやっている。いつかは神谷一族にのみ伝わる剣術を学びたいらしく、将来の夢は『浩三おじさん二号になる事』らしい。

成海は幼稚園の年少で、おままごとが大好き。将来の夢はプリキュアらしく、その修行の一環で何故かママと料理をしているらしい。プリキュアとの因果関係は不明である。

 

「おじちゃんおじちゃん!あのねあのね、成海ね、先生に褒められたの!おままごとが上手上手ーって!すごい??」

 

「そっか。なら演技の勉強すれば、もっと上手になるんじゃね?」

 

「わかったー!」

 

因みに今更だが、二人とも結構なおじさんっ子である。特に和樹は賢介と同等か、もしかしたらそれ以上に懐いている。

 

「おじさん!僕ね、新しい剣の技考えた!」

 

「お、やって見せろ」

 

「うん!」

 

そう言って和樹はヘリから木刀を持ってくると、意外としっかりとしたフォームで構えた。左手に持つ木刀は上下を逆さまにして、刃が下に来る様に構えている。

 

「フッ!」

 

まず左の木刀を前に出して、勢いよく後ろに下げる。それと同時に右手の木刀で相手を斬った。

 

「鎌掛けって名付けた」

 

「説明してみろ」

 

「今のならまず相手の左肩に刀の切先を引っ掛けて、勢いよくこっちに引き寄せる。で、右手の刀で左脇腹を斬り裂く!これが鎌掛け!!」

 

「発想は面白いが、多分引っ掛けるのは無理だぞ。それだと唯でさえリーチの短い刀が、さらに短くなっちまう。それに一撃を見舞う前に、現代なら銃弾の雨を浴びて終わりだ。その技を使うなら、そうだな。貸してみろ」

 

取り敢えず木刀を受け取ったが、どうしたものか。少し頭の中でイメージする。今の技と実際の戦闘を合わせて、より合理的な技に昇華させるのだが難しい。だが三十秒もすれば、アイデアが浮かんで来た。

 

「まず刀は、そのまま構える。そして想定は乱戦で、相手との距離が短い時だな。姿勢を低くして懐に入り込み、刀を背中に引っ掛けると同時に力一杯引き寄せて、もう片方で斬り捨てる。

引き寄せる事で生まれるこっちへ向かってくる運動エネルギーに、切る動作の運動エネルギーが合わされば威力も上がるだろうな」

 

「やっぱりおじさん凄いや!」

 

「そりゃまあ、現代戦を刀で戦う現役で頭の可笑しいバーサーカー侍だもの」

 

和樹の相手をしていると、エルフ五等分の花嫁が上がってきた。メールで先に状況は伝えてあるので、賢介と五人は互いに挨拶を交わしてヘリに乗り込む。

 

「ってか兄貴、いつの間にヘリの免許取ったんだ?」

 

「昨日取った」

 

「.......」

 

「無言で降りようとするんじゃない」

 

昨日取ったというのに、乗ってるのがAS 332 シュペルピューマなのが怖い。普通に墜落させそうである。

 

「頼むから堕とさんでくれよ?」

 

「大丈夫。死ぬ時は一緒だ」

 

「いやそう言う問題じゃないのよ」

 

どうにか墜落する事なく、目的地の神谷本邸に到着する。ヘリポートを完備したこの屋敷は、地上150階建ての屋敷というか高層ビルである。イメージとしてはサイバーパンク2077のアラサカタワー。

 

 

「おー、よく帰ってきたな!賢介に浩三。それにカズに成ちゃん!」

 

そう言って出迎えに来たのは、和服を着て眼鏡をかけた中年男性と同じく和服の30代位の女性であった。この二人こそ、賢介と神谷の両親の神谷英治と神谷智子である。

 

神谷 英治(かみや えいじ)

年齢 65歳

役職 神谷グループ*2二代目総帥

神谷家の家長にして、世界的大企業の神谷グループ総帥。見た目は40代位に見えるが実年齢は65であり、身体もガタが来ている。最近の悩みは趣味のトライアスロンをやるのがキツくなり始めた事。仕事にはストイックだが、基本は自由人。

父は軍人であったが祖父の思想に共感した事で神谷グループを継ぎ、規模を一気に拡大させた伝説の社長でもある。因みに祖父の思想というのが『商いや産業でも日本は護れる』という物。

 

神谷 智子(かみや ともこ)

年齢 58歳

赤子の頃から子役として活動し、トップ女優としてハリウッドでも活躍していた女性。22歳で英治と電撃結婚して引退し、こちらも色んな意味で伝説を残した。現在は英治の秘書として働いているが、街に出ると高確率でテレビのインタビューや取材にかち合う謎の体質を持っており、定期的にテレビに出ている。

性格は滅茶苦茶優しく、料理もできて、ピアノも弾けるし絵も描ける完璧女性なのだが、偶にミスを犯す。そしてそのミスがデカい上に、致命的な物が多い。例えばキャンプに行ってカレーを作るのに米とルーを忘れたりとか、海外旅行に行くのにパスポートを忘れてくるとか色々である。

 

「ただいま、父さん。母さん」

 

「また見ないウチに老け込んだかと思ってたんだが、何でそんな若いんだよ」

 

「フッ、それはな」

 

「愛の力よコウくん」

 

「あー、はいはい。ラブラブなのは良いから」

 

夫婦仲は新婚のノリのまま今も続いているという、中々に珍しいタイプである。それを見せられ続けたせいか、賢介も神谷も6歳位で見飽きてしまい、イチャイチャし始めたらそっとフェードアウトするようになった。因みに無理な時は、空気を変えてイチャイチャ空気を破壊する。

 

「あ、そうだ!コウくんのお見合い相手なんだけど、写真が一杯あるのよ!!さっ、早く早く!」

 

「あー、それ全部廃棄しといて。俺、一応の婚約者的な奴がいるから」

 

「「えっ?」」

 

突拍子のない発言に、流石の二人も固まった。取り敢えず賢介同様に、全部説明したら智子のテンションがバグってしまった。

 

「そういう事なら五人ともこっちに来て。面白い物見せてあげるわ」

 

そう言って五人を何処かに連行していき、ヘリポートは男共と子供だけになってしまった。

 

「どうするよ親父?」

 

「取り敢えず、リビング行くか」

 

「爺ちゃん居るんでしょ?」

 

「居るとも」

 

残りの五人もリビングへと歩き出す。リビングに入ると、一人の老人が昼間なのに酒を呑みながらテレビを見ていた。この呑兵衛老人こそ、神谷家の長老、神谷実である。

 

神谷 実(かみや みのる)

年齢 82歳

役職 元・大日本皇国海軍大将

この世に神谷浩三という化け物を産み出した張本人。神谷は幼少期に才能を見出されて、以降はずっと剣術、格闘、サバイバル術、射撃、戦略、学問と様々な事を叩き込まれた。性格は神谷以上の滅茶苦茶な奴で、何にも縛られない『超スーパーウルトラフラダーマヒューマン』を自称している。

好物は酒とつまみで、隠居してから一層酒を呑むようになった。一応医者にも止められているのだが、堂々と診察室で酒盛りを始めた事で黙らせたりと、もう破天荒どころか老害に片足を突っ込んでいる。だが他の老害と違うのは、何故か不快感が無いことである。迷惑行為を仕出かしても、周りの空気を悪くさせるどころか笑顔にさせる才能を持つ。

 

「おー、賢介に浩三!よくヒック、帰ってきたなぁ」

 

「おいおい爺ちゃん、昼間から呑むんじゃねーよ。早死にするぞ」

 

「医者からも止められてるんだろ?やめときなって」

 

「はん!どうせ老い先短いし、もうワシの役目も終わりじゃ。神谷家の秘伝の剣技も伝えたし、孫の結婚式も見れて、ひ孫にも敢えて、もういつ死んでも問題ないわい。というか、ワシは100歳まで生きるぞ!」

 

このジジイは本当に100歳とかまで普通に生きかねない上に、何なら戦車の履帯に轢かれようが地雷踏み抜こうが、余裕で生き残りそうまである。

 

「はいはい。呑兵衛死に損ないさん、ひ孫達とも遊んでねー」

 

「親父に対して呑兵衛死に損ないはないじゃろ!?!?」

 

「(兄貴、間違いじゃないよな?)」

「(確かに)」

 

因みに家では完全なる弄られキャラである。隠居老人とか、元海軍大将とかの威厳はZERO。一方その頃、エルフ五等分の花嫁は奥の部屋で神谷の写真集を見せられていた。

 

「えぇ!?これが神谷様なんですか!?!?!?」

 

「そうよー。これがコウくんなの。今とは全然違うでしょ?」

 

五人に渡した写真には、三歳か四歳位の少年が写っていた。神谷の子供の頃というのだが、どう見ても今の神谷とは似ても似つかない。何せ顔が今のワイルド系の顔ではなく、中性的な見た目なのだ。正直、全然似てない。何がどうしたら、ワイルド系に進化するのかが謎といえるレベル。因みに昔、ふざけて将来の顔がわかるアプリで将来の顔を見てみたが、中世的な美青年の判定が出ているので突然変異とも言うべき顔の変化なのだ。

 

「でもね、この頃から破天荒っぷりは折り紙つきだったの。これを見て」

 

今度はタブレットで動画投稿サイトに上がってる、古いバラエティ番組を見せてきた。題名は『もしも初めてのお使いで、謎々があったら』というもの。

企画の内容を説明すると、初めてのお使いで橋を渡らせる。この橋に一休さんに出てくる「このはしを、わたってはいけません」という立札を立てて子供達の反応を見るというもの。この企画に賢介と神谷のコンビは参加していたのだ。

 

『さぁ、次の子は福岡県に住む兄の賢介くんと、弟の浩三くんだ。二人はどうやって突破するのかな?』

 

「にいちゃん、なんかあるよ?」

 

「えっと、「このはしを、わたってはいけません」だって。こまったなぁ」

 

他の子供たちはその場でグルグル回ったりとか、固まったりして色々考えて渡ったり帰ったりした。だがこの二人の場合、渡ったは渡ったのだがやり方が今までで一番ぶっ飛んでいた。

 

「にいちゃんにいちゃん!てつだって」

 

「どうするの?」

 

「そっちもって。いくよ」

 

そう言って立札を持つ二人。すると神谷の「せーの!」の掛け声でなんと……

 

ボチャーン

 

立札を下の川に投棄しやがったのである。これにはスタッフは大慌てで、ゲストやMCのタレントや芸人は大爆笑であった。

 

『なんと立札を川に捨てちゃいましたよ!?しかし!この後、さらに驚きの展開が!!』

 

「にいちゃん、ねんにはねんをいれようよ。ぼくがいくから、にいちゃんはおさえてて」

 

「わかった!しなないでね」

 

今度は近くにあった虎ロープを賢介が神谷の体に巻き付ける。そしてロープを賢介が握り、神谷は橋の対岸まで慎重に歩き出す。勿論なにもなく、無事渡り切りお使いも済ませて帰ってきた。智子から橋の件を聞かれたが、その答えもぶっ飛んでいた。

 

「あのねあのね、じいじがね!もししょうがいをみつけたら、けしちゃえばいいって言ってたの!だからかんばんをなくせば、もんだいないんだよ!」

 

「それにね、とおっちゃだめなら、コーンとかロープはるとか、あとはパトカーのピカピカ(赤色灯)をおけばいいのにね、それがないからねわたってもいいの」

 

神谷の爺ちゃんの教えと、賢介の常識的な意見に、完全に論破された智子。これにはスタジオも再び大爆笑だった。ちなみにこれは、賢介が6歳、神谷が3歳での事である。

 

「なんというか、神谷さんらしいね」

 

「この頃から、豪胆っぷりは健在だったのか.......」

 

この後、実にこの事を話したのだが、帰ってきた答えが「やりおるわい。さすが我が孫達!!ガハハハ!」だった。言うまでもないが、神谷のドキュメンタリーとか人物解説動画では大抵使われる位の、超有名なエピソードである。

 

「後はね、これも面白いわよ」

 

そう言って今度は、何故か警察に手錠をかけられて連行されてる時の写真であった。この写真は高校二年生で起こした、神谷が破天荒伝説の始まりとも言える話で、これも今や伝説となったぶっ飛んだ話である。

 

「これはね、コウくんが高校二年生の時の事件の写真よ。当時、コウくんの通っていた高校の生徒がね、リンチとかカツアゲにあっていたの。ある時、友達も被害にあってね。それを聞いたコウくんは、模造刀とかガスガンとかを持って、バイクに乗って何故か知ってた犯人グループのアジトに一人で乗り込んだのよ」

 

「そんな事したんですか!?」

 

「そうよ。アジトのガラスをバイクで突き破って、中で大暴れして。一応相手も後遺症が残らない程度にボコボコにして、しっかり全員病院送りにしたわね。そしたらグループのリーダーが通報しちゃって、警察に捕まったのよ。まあすぐにボコボコにしたのが一連の犯人だった上に、全員改造エアガンとかナイフとかで武装してたらしくて、どうにか不起訴のお咎めなしで収まったわね」

 

流石の五人も固まった。まさかこんな事を仕出かしていたとは思わなかったらしい。当時は学校でも「真面目で秀才のミステリアス優等生」として、生徒にも教師にも通っていたので今回の一件は『眠れる獅子の大暴れ』という名で伝説化した。

因みに何故、犯人グループを知っていたかと言うと、当時の神谷は他校の不良に知り合いが沢山居た為、その情報網でアジトの情報をゲットしたのだ。それからこれは誰も知らない事なのだが、改造エアガンとかナイフとかで武装していたのはほんの一部だけであり、武装してない者にはボゴボコにした後、こっそり忍ばせておいたり握らせたり近くに落としておいたりしたのである。これも作戦の内で、曰く「こうすりゃ、向こうが武装していた事で話ができる。実際幹部クラスは武装してた訳だし、リンチの時とかカツアゲの時もチラつかせてたから、否定しても意味をなさない。それに犯罪を犯した不良達と、品行方正で成績優秀な名家生まれの俺となら、どっちの証言を信じるかな?」らしい。

 

「コイツらにいらんもん見せやがって。何してくれちゃってんだよ」

 

後ろを振り向くと、神谷が部屋の扉の前で頭を抱えて「あー、めんどくせー」と言わんばかりの態度で立っていた。

 

「あらぁ、いいじゃない。コウくん伝説は、お嫁さんにも知る権利はあるでしょ?」

 

「お袋からしたら可愛い息子の話なのかもしれねぇが、当事者の俺としちゃ軽く黒歴史化してるのもあるんだぞ」

 

「減るもんじゃないでしょ?」

 

「恥ずかしさは増えるんだわ!」

 

その後、少し言い合うと神谷が折れてリビングへと戻っていった。その日はそのまま晩御飯までご馳走になって、そこでエルフ五等分の花嫁が本当に神谷の花嫁になる感じで話が進んでいて、大急ぎで止めたりとかはあったが、一応終始穏やかに終わった。

そして翌日、神谷とエルフ五等分の花嫁の六人の姿は福岡市から少し離れた山中にあった。

 

 

「神谷殿、ここは一体なんなんだ?」

 

「ここは旧神谷本邸だ。かつて神谷家が出来た時からある、言うなれば神谷家の聖地だな」

 

そこにあったのは、そこだけ時間軸が違う様な錯覚に陥るくらい古い屋敷であった。見るからに古いのだが、神谷本邸に勝るとも劣らない位立派な建物であり、エルフ五等分の花嫁達は遺跡か何かに似た雰囲気を感じていた。

 

「ねぇ、ずっと気になってたんだけど、アンタらの一族は何者な訳よ?」

 

「いい機会だ。簡単に、ウチの家系について話しておくか」

 

神谷は屋敷へと入っていきながら、神谷家の起源について話し始めた。

 

「俺の一族である神谷家が起こったとされるのは、今から遡る事、約1700年前。古墳時代の豪族がルーツとされてる。まあ古すぎて実際はよく分かってないんだが、ウチにある古文書とかによるとそうらしい。実際遺跡から発掘された遺物とかに、偶にウチの家系らしき存在が見え隠れしているから、案外本当かもしれないな」

 

「あの、古墳時代とは?」

 

「その頃の歴史区分の話だ。当時は権力者の力の象徴として古墳と呼ばれる墓を作っていたからそう言われてる。平たく言うと、まだ日本が日本という国になってすらおらず、そっちの部族にも劣る文明レベルだったと考えて欲しい。

話を戻そう。そこから何だかんだで貴族になったらしいが、奈良時代の末期になると、健児(こんでい)と呼ばれる当時の兵士を輩出していた。平安末期になると源氏側の武士として仕え始めて、そこからずっと武士として活躍していたらしい。

室町時代中期には、独立武装国家的なのを作って傭兵団として戦国時代に突入していった。織田家、豊臣家、徳川家といった天下人は勿論、時には武田家や上杉家といった東日本の武士にも雇われてたらしい。そして関ヶ原では西軍として参戦して、江戸時代では都の警備の他、教育者として活動し始めて一旦歴史の表舞台から消えた」

 

この時点で言ってることの大半は理解できてないエルフ五等分の花嫁だったが、一つ分かったのは神谷家が日本の歴史を動かしていた存在であったという事である。

 

「幕末になると薩摩藩と共闘して、攘夷志士の中核を担う一勢力として動き出す。明治政府成立後はいち早く海外に飛び出して、明治政府の顧問として活動しつつ、国内の反乱や混乱を鎮める為にあちこちに飛び回り、軍の設立にも大きく関わったらしい。以来、俺に至るまで基本的に男は軍に入って、重要ポストに着くようになった。あ、勿論重要ポストには実力で成り上がってるからな?」

 

「ねぇ、神谷さん。時代区分とかが分かんないから全部は理解してないんだけどさ、何でいきなりここに来たの?」

 

「あー、それは.......」

 

正直言っていいものか迷う。何せ「幽霊に来るような言われた」とは言えないし、何より結構部屋とか廊下が暗くて雰囲気あるので話づらい。だが、多分大丈夫だろう。無害だろうと踏んで、この間の一件を話し始めた。

 

「.......この間のディズニーで、見ちまったんだよ。幽霊」

 

無言で逃げようとする五人を全力で止めて落ち着かせて、経緯を全部話した。ホーンテッドマンションで刀を二つ携えた、旧海軍の軍服を着た幽霊を見たこと。その幽霊がその日の夢に出てきて、この家の蔵を指し示したこと。その蔵の中を確かめるためにきたこと。そして今は、その鍵を探索してること。

全部話し終える頃には、とりあえずは落ち着いてくれた。

 

「それで、その鍵は何処に?」

 

「確か前はこの部屋にあった筈なんだけどな」

 

「前、ですか?」

 

「あぁ。ガキの頃、ここで爺ちゃんと住んでたんだよ。で、剣とか格闘とか戦関連の事を叩き込まれた」

 

これは神谷家の伝統で、『養将』若しくは『養兵』と呼ばれる物である。特に戦に向いている者に特別な訓練を積ませて、一流の将軍や兵士にする物。神谷は記録上は神谷一族の中でもトップクラスの強さを誇るとされている人間で、幼少期よりここで実と暮らしていた。別に賢介や両親と会えなかった訳ではなく普通に会えていたし、特殊であったが普通の暮らしをしていた。

 

「あ!もしかして、これじゃないですか?」

 

ヘルミーナが棚から古びた鍵を見つけ出し、それを神谷に手渡した。多分構造的に、この鍵で間違いないだろう。

 

「多分これだな。よし、蔵に行ってみるか」

 

蔵の前でさっきの鍵をでかい南京錠に刺してみると、すんなり入り「ゴキン」という鈍重い音と共に南京錠が外れた。

 

「多分埃凄いから、覚悟しろよ?じゃあ、開けるぞ!」

 

重苦しい音共に扉が開いたのだが、まず六人を凄い量の埃が襲いかかった。全員咳き込み、一時撤退。マスクを着けて行くも、それでも無理なのでまた撤退。その後もスカーフとか三枚重ねとか試したがどれもイマイチだったので、保険で持ってきてた防塵マスクを装着して中に入った。

 

「く、暗いですね」

 

「なんだかんだで、数百年前の物だからな。懐中電灯を使えよ?」

 

神谷としては、今回の探索は結構嬉しい事だった。何せ子供の頃は大人も危ないので立ち入り出来ないし、何より鍵が無くなっていて鍵が開かな…ん?

 

「あれ.......。ちょっとおかしいぞ?」

 

「どうしたのよ」

 

「ミーナの見つけた鍵、あれ可笑しい」

 

「は?」

 

エリスが「アンタ、バカなんじゃないの?」というすんごい目で見てくるが、本当に可笑しいのだ。何せこの蔵は『開かずの蔵』とか言われるレベルで開けておらず、その原因は鍵の紛失による物だったのだ。

 

「この蔵は鍵を無くしたらしくて、爺ちゃんが記憶が曖昧な位の子供の頃から開いてない」

 

「でも、鍵は私があそこで見つけましたし、あいてるじゃないですか?」

 

「それも可笑しいんだよ。あの棚、いつも爺ちゃんが車の鍵とかを置いてて、使用頻度高い場所だったんだ。なのに俺含めて、誰も気付かなかったのは明らかに可笑しい」

 

「まさか、幽霊じゃ.......」

 

ミーシャの一言で、全員がサーッと顔が青くなった。心無しか、温度も3℃位一気に下がった気がする。

 

「と、取り敢えずアレだ!一旦出よu」

 

出ようと言った瞬間、神谷はその言葉を引っ込めた。例の幽霊が蔵の扉付近に立って、首を横に振っていたのだ。

 

「おいアンタ!一体俺に何の用があるんだよ!!!」

 

いきなり叫び出した神谷に五人は驚き、そして神谷が叫ぶ方を見た。五人の視界には誰もおらず、鼠とかの類もいない。だがそれで、五人は確信した。今神谷には、幽霊が見えているのだと。

一方の神谷は、意識を何処かに飛ばされていた。いや。正確には、別の次元と言ったほうがいいのかもしれない。幽霊が刀を抜いて地面に刺すと、五人の体がピタリと止まった。というより、彫刻の様に動かなくなった。でも自分は動ける。アニメとか漫画で、異空間に飛ばされた時のソレである。

 

「アンタ、何者だ」

 

「まずは驚かせた事を謝罪させてくれ、我が子孫よ」

 

「は?わ、我が子孫?」

 

「ここはあの世とこの世の狭間。互いの世界に住まう魂が唯一、声を交わし、互いに触れられる唯一の空間だ」

 

ここで神谷は思い出した。昔、この旧神谷本邸で見た写真に、この幽霊と瓜二つの物があった事を。

 

「どうやら、思い出したようだな。私の名は神谷倉吉。お前の高祖父に当たる。お前にこうして合間見えたのは、この刀を受け継がせる為だ」

 

「ここで渡して、現世で使えるのかよヒイヒイ爺ちゃん」

 

「無論、無理だ。授けると言っても、渡せないからな。私が今から見せる場所に置いてあるから、それを持って行くのだ。付いてこい」

 

そう言って倉吉は神谷を連れて、蔵の奥へと入って行く。道中で、なぜ刀を授けるのかを教えてくれた。

 

「我が神谷家の一部の人間の歴史は、常に戦と共にある。お前はその血を色濃く受け継いでいる。自分でもわかる筈だ。まるで本能や意識の奥底、根底の部分にある闘争心や戦闘する上での動きを記した、言うなれば書物が存在する事が」

 

「あぁ」

 

「それは私を含める、神谷家の中でも選ばれし者が持つ才能であり、一種の盟約の様な物だ。その血は常に自由であり、非道であり、冷酷であり、優しくもある。その血は飛び飛びだが脈々と受け継がれて来て、今はお前の中にその血が流れている。この刀は、我等の血の初まりから途絶え滅びるその時まで、常に共にある。

今この国は、予想もできない混乱の中にある。その混乱を打ち破り、日ノ本を護る強き相棒となるだろう。さぁ、ここだ」

 

そう言って指を刺された所には、古びた木箱が置いてあった。一見普通の箱だが、その箱を前にすると血が沸き立つのが分かる。まるで箱が自分と引き合ったような、そんな気持ちになった。

 

「この刀はさっきも言った通り、初めから終わりまで共にある。つまり我等の前にいた血を引く先祖たちも握ってきたが故、刀には記憶が染み付いている。使えば使うほど、それがわかってくる筈だ。さぁ、我等が故郷、日本を頼むぞ、我が子孫よ。いや、我が修羅家の同胞、神谷浩三修羅(かみやのこうぞうしゅら)よ」

 

「しゅ、修羅?」

 

「神谷家の中でも、特に武勇に優れる者は神谷家とは別の扱いを受けていた。いわば分家のような物だな。これは戸籍としてではなく、一種の称号だが、その事を修羅と呼ぶ。お前には、この名を名乗る資格がある。

この血によって彩られた歴史は、常にこの国の糧となり、守護者となり、この世から神谷家が消え去るその瞬間まで描かれ続ける。精々、その彩りに華を添えろ」

 

「この身に流れる血は全て国家の為、仲間の為、友達の為、家族の為に使うさ。もしこれからも戦乱の中をこの国が突き進むなら、これまでの歴史を塗り替えるくらいに暴れてやるとも」

 

そう言うと倉吉は誇らしげに微笑み、そのまま一瞬で消えた。すると神谷の意識も身体へと戻り、時間が進み出した。

 

「そうか。戻れたな」

 

そう呟くと、五人を置いてさっきの木箱の所に向かう。さっきあった場所に寸分違わず、あの木箱が置いてあった。箱を開けると中には、倉吉の持つ二振りの太刀が納められていて、その横には白黒の倉吉の写真と手紙が入っていた。

 

「神谷様?」

 

「.......幽霊の正体だが、どうやら俺のヒイヒイ爺さんだったらしい。コイツを俺に渡したかったんだと」

 

五人は信じられないと言った顔で神谷を見ているが、実際になんか起きちゃってるので嘘は言ってない。さっき話していた事を話すも、やはり殆ど信じてはくれなかった。

刀は引き継いだし、外も暗くなり始めたので旧神谷本邸を後にして神谷邸へと戻る。その道中に倉吉の手紙を読んだが、この刀について書いてあった。つまり、説明書といった所だろう。何方も作られたのは平安時代後期で、それ以来、倉吉が言うところの『血の盟約』を持つ者が受け継いだ物らしい。銘はそれぞれ『天夜叉神断丸(てんやしゃかみたちまる)』と『獄焔鬼煌(ごくえんきこう)』というらしい。

 

「天夜叉神断丸と獄焔鬼煌ねぇ。城の城壁やら戦車の装甲板やら大和に使われたバイタルパートの装甲を斬ったって、平安時代の鍛冶スキルはどうなってんだよ」

 

新たな力を得た神谷は、翌日から素振りをして刀の慣らしに入った。だが慣らしで一回振った瞬間に、自分に合ってる事が分かった。これまで使っていた刀よりも、遥かに使い易く手に馴染み、自分の思い通りに振り回せる。

この先、神谷はこの刀を持って数々の伝説を打ち立てるのだが、それはまだ知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

*1
所謂スーパーゼネコンの一つであり、大体なんでも建てる建設会社。これまで建てたのは家やビルは勿論の事、博物館、美術館、図書館、公民館、警察署、消防署、役所の庁舎、駐屯地や地下ドックなんかの軍事施設、高速、トンネルの掘削、鉄道の敷設、駅舎、空港、ディズニーを筆頭としたテーマパーク、東京スカイツリー、神社仏閣等の歴史的建造物etc。更には国際宇宙ステーションの建造にも協力しており、これまで建てた事のない建造物を探すのが難しい。

*2
旧世界に於いては世界的大企業の一つに数えられていた、日本を代表する企業。元は神谷組からスタートしており、現在は建設の他、金融、ホテルやテーマパークなどの娯楽施設の経営、病院の経営から医薬品や医療機器の開発、造船、鉄鋼業、大学の経営、衣服の製造と販売、第一次産業の促進と保護と卸売り、宇宙産業、ICT関連産業、芸能や出版といったメディア関連、更には兵器開発まで。とにかく幅広くやっている何でも出来る企業



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第五十一話エルフ五等分の花嫁

刀ゲットの数週間後 神谷邸

「旦那様。あの空気、どうなさいますか?」

 

「どうしよう.......」

 

今この神谷邸は、神谷にとっての憩いのオアシスではなく、最恐最悪の魔王が住まう魔王城になっていた。何故かって?エルフ五等分の花嫁の父親と母親がやって来たからである。

父親、つまりガロルは問題じゃない。寧ろこっちの味方と言える。問題は母親の方だ。何せ纏ってるオーラが、魔王のそれなのだ。

 

「なぁ、アレって魔王じゃないよな?」

 

「魔王でも逃げ出しますぞ、アレは.......」

 

では何故、こうなったのかを説明しよう。時は遡る事、24時間前。

 

 

 

昨日 神谷邸 リビングルーム

「うっはぁー!おもしろかった!」

 

「久しぶりに見たな、トランスフォーマー」

 

偶々神谷の部屋の掃除をしていると、押入れの奥から昔のDVDを詰め込んだダンボールが出てきた。レイチェルの提案で、映画視聴会が始まった。選ばれたのはトランスフォーマーで、初期から始まり、リベンジ、ダークサイドムーン、ロストエイジ、最後の騎士王とハリウッドの破壊王ことマイケル・ベイが監督した全作品をぶっ通しで見た。

 

「バンブルビーが可愛いですよねぇ」

 

「私はジェットファイア様が好きですよ」

 

「俺はやっぱりシモンズ捜査官だな。あのかっこいいんだけど、結構ネタに走ってるのが好きだわ」

 

因みに神谷の好きなシモンズ捜査官のシーンはやはり、ダークサイドムーンで地下バーに行った時の「ロシア人は中々口が重い。インターナショナルトークが必要だ」とか言った後、門番のロシア人に扉越しにドヤ顔で「 Дасвиданья(ダスビダーニャ)」と言い、ロシア人から「それバイバイの意味」と冷静に突っ込まれた挙句、覗き窓を勢いよく閉められたシーンである。

他にもリベンジの攻撃要請をした時に「お天気チャンネルが昼メロでも見てたのか!?」とか言ったり、無線機越しに「名前は、水兵!」と叫び、相手がまさかの空母『ジョン・C・ステニス』の艦長と知ると、さっきとは打って変わって「あ、ワイルダー艦長」とかと言いながら冷静に対応するのかと思いきや、しっかり「機密アクセス許可が無いとかゴタゴタ言うなよ?地球が滅びるぞ!!」と言いのけたシーンが好きである。後、無印のパンツ一丁にさせられるシーンも大好きである。

 

「神谷殿、明日なのだが、少し五人で出ても良いだろうか?」

 

「ん?まぁ、良いけど、アーシャからの提案とは珍しいな」

 

「偶に私にだって、そう言う気分な時はある」

 

珍しい提案ではあるが、ここ最近は色々なところに連れ回してきた上に四六時中一緒にいた。これまで碌に時間を一緒にしていなかったのに、いきなり共にし出した以上、そろそろストレスが溜まって来たのかもしれない。それに偶には姉妹水入らずの時間も必要だろう。

翌日、五人は神谷邸を離れ、神室モールに行ったらしい。多分、この一ヶ月間の中で初めてとなる一人の時間を満喫しようとした時だった。

 

「あの、旦那様。お嬢様方の母親を名乗る人物が、いらっしゃっておりますが.......」

 

使用人の男が声を掛けてきた。因みに早稲ではなく、若い男である。

 

「あー、同行者とかは?」

 

「男性が一名。父親だと名乗っております」

 

「映像を見せてくれ」

 

「はい」

 

使用人の男は持っていたタブレットを軽く操作してから見せてきた。画面には、応接室の監視カメラの映像が映っている。

 

「ん?んん!?」

 

「どうされました?」

 

「いや、うん。女の方は知らんけど、男の方は父親だと思う。うん、補償できないけど.......」

 

「流石に完璧には判別がつきませんか.......」

 

画質が粗い訳ではない。寧ろここにある監視カメラの画素は高いし、タブレットだって最新モデルのいいヤツを使っている。画質は普通に良い。

では何故、判別が付かないのか。何せガロルの顔面が、ボッコボコにされて顔中腫れ上がってるのだ。ついでに両目とも青痣でパンダみたいになってる。

 

「取り敢えず、お茶とお菓子出しとけ。それから、早稲も部屋に呼んでくれ!」

 

「はい!」

 

一旦神谷は自室に戻り、何を着るべきか悩む。一応、曲がりなりにも婚約はした相手の両親。つまり義理の両親である以上、今の『ザ・ラフな私服』で行くわけにはいかない。

 

「うーむ、どっちで行くかな」

 

そして取り敢えず、タンスから二つの服を取り出した。一つはイギリスのロンドンに本拠を構える、世界的なブランドの『Huntsman』で作ったオーダーメイドのモーニングコート。

もう一つは200年前に作られた神谷家伝来の紋付羽織袴。何方も公の場、それも他国の王族や国家元首との謁見にも着ていける最上位の正装である。

 

「失礼致します、旦那様。状況は聞き及んでおります」

 

「爺ちゃん、どっち着るべきかな?」

 

「無いとは思いますが、戦闘も考慮に入れた方が良いでしょう。とするならば、袴の方が便利なのでは?」

 

「それもそうだな。なら、とっとと着付けを終わらせちまおう」

 

 

 

数十分後 応接室

「なぁ、アレって魔王じゃないよな?」

 

「魔王でも逃げ出しますぞ、アレは.......」

 

そして、ここに至る。今、神谷と早稲の二人は部屋の外から中の様子を伺っているが、流石に入りたくはない。最初も書いたように、この部屋は既に魔王城のソレなのだから。

 

 

「ふぅ。お代わりをくださるかしら?」

 

「はい。失礼致します」

 

かれこれここに来て、もう二十分以上は経つ。だが未だ家主であり、愛娘達の婚約者である男は来ない。

 

「ねぇ、あなた。神谷浩三さんは、いついらっしゃるのかしら?」

 

「旦那様は所用で家を留守にしておりまして。連絡はしてありますので、もう間も無く、こちらに来られるかと」

 

「さっきも同じ事を言ってなかったかしら?」

 

「先程もそうお伝えしました」

 

取り敢えずの時間稼ぎで、この二人に対応する従者には「神谷は所用で留守にしている」という設定で時間稼ぎに協力してもらっている。だが流石に、そろそろ限界らしい。母親と名乗る女性が従者に文句を言おうとした時、扉が開き、別の従者が入ってきた。

 

「失礼致します。当家主人、神谷浩三、只今到着いたしました」

 

そう言って道を譲ると、奥からバッチリ紋付羽織袴で決めた神谷が入ってくる。後ろに控える早稲には、念の為、天夜叉神断丸と獄焔鬼皇を持ってきてもらっている。

 

「お待たせして申し訳ない。まさか来られるとは思っていなかったもので」

 

「おぉ、神谷殿!いやいや、こちらもいきなり押しかけて悪k」

「客人を待たせるのが、日本の伝統なのかしら。神谷浩三さん?」

 

「.......貴女は?」

 

ガロルの話に割って入ってくる、ダークエルフの女性。大体人間換算で40代後半で、スタイルはエルフ五等分の花嫁のような凹凸のハッキリとした物ではなく、全体的に平らな女性である。

 

「あら、婚約者の母の顔も名前も知らないなんて。あなた、本当に娘達と結婚する気あるのかしら?

私はパーシャル・ナゴ・パカラン。五人の母親よ」

 

「そうでしたか。初めまして、神谷浩三と申します」

 

「で?」

 

「で?とは?そのセリフは、何方かと言えば私のセリフですが?」

 

いきなり押しかけて来た奴に「で?」と言われても、こちらとしては「は?」としか言えない。別にこっちは要件なんて無いし、というか来るなんて一切聞いてない。

 

「まあいいわ」

 

(何がいいんだ?)

 

「単刀直入に言うわ。あなた、ウチの娘と別れなさい」

 

「.......はい?」

 

今神谷は、目の前の女性に「娘と別れろ」と言われた。つまりエルフ五等分の花嫁と別れろと、そう言ったのだ。だが思い出して欲しい。神谷が五人と婚約したのは、別に神谷が恋愛対象して五人を見ていた訳ではないし、向こうも多分神谷が好きだったという訳でもない。

あくまで婚約は、ナゴ村の事情でしかなく、こちらとしても「流石に死なれるのは目覚めが悪いし、何よりそんな馬鹿げた理由で殺されるのは余りに酷い」と感じたから仕方なく婚約した。それが始まりであり、因みに今は神谷としても、一緒にいて楽しいし良い家庭は築けると感じている。本当に結婚しちゃっても構わないと思い始めているが、いきなり別れろと言われても無理な話だ。

 

「分からないのかしら?」

 

「いえ、そうではなくて。確か私が娘さん達と婚約した時、ガロルさんからは「掟上、婚約してもらわないと娘達には死んでもらう他ないのだ」と言われたので婚約しました。婚約を破棄してしまうと、娘さん達は死んでしまう、いえ。殺す他ないのでは?」

 

「そうよ。でも、殺すように見せかければ良いだけ。後は有力貴族の跡取りや、他部族の族長ないし子供と結婚させるなり、妾にすれば良いわ」

 

こういう話、所謂『政略結婚』というヤツは神谷も嫌という程見聞きしてきた。自分の両親は二人とも恋愛婚だが、周りの親戚や他家の知り合いには政略結婚で結婚させられた者も、結婚させられる者も見てきた。

無論、全部が全部不幸な結果ではない。最初こそ殆ど面識はなかったが、一緒に過ごしていくと馬があい、ラブラブな夫婦だってあった。だが一方で、結婚したものの、お互い機械的に子作りして世継ぎを生み、後は互いに愛人と遊び出し、子供はほったらかし、なんていう類も見てきた。個人的には、こういうのは気に入らない。

 

「それで、それにあの五人の意志は介在するんですか?」

 

「どういう意味かしら?」

 

「その結婚に、あの五人の意志があるのかと聞いているんです。それがあの五人の望みと言うのなら、喜んで私は身を引きましょう。幸いまだ、そういった行為はしておりません。これまで経験があったかは知りませんので生娘かはわかりませんが、少なくとも私との子の心配もありません。

しかしもし、あの五人の意志ではなく、そちらの勝手な判断で結婚させるというのなら、私はあなた方と戦争してでも五人を護ります」

 

これが神谷の答えである。別に自分といるのが、五人にとって一番の幸福であるとか言うつもりはない。もしあの五人に好きな人、結婚したいという人が出来たのなら、最悪戸籍だけ神谷と結婚した事にして、届けは出さない事実婚の形ではあるが、その相手と住まわせる事も五人と婚約した時に考えていた。

だが今回のように、結婚を五人が望まないというのなら話は別だ。どんな手を使ってでも、彼女達を護り抜く。

 

「あなた、私の事を何も知らないのね。これでも元は王国最高位の冒険者だったのよ?元々エルフは人間よりも高い身体能力を持っているし、魔法も剣技も一級品。そんな私と本気でやるつもり?」

 

そう言って殺気を出すパーシャル。周りの従者は震え出しているし、早稲も少したじろぐ。だが、神谷はこの程度の殺気でどうこうは出来ない。

 

「だからなんだと言うんだ?」

 

涼しい顔でそう言ってのけた。これにはパーシャルも予想外だったようで、小声で「なぜ効いてないの?」とか言っている。

 

「最高位の冒険者?だからどうした。俺は大日本皇国全軍の指揮を陛下より預かり、皇国一の剣の使い手に贈られる『皇国剣聖』の称号を賜っている。

そして我が神谷家は、元を辿れば武力に優れた豪族だ。それ以降も武を持って、この国を護ってきた。その一族の中でも、特に武勇に優れる特殊な存在である者に送られる『修羅』の名を冠する俺に、喧嘩売るってことはどう言うことかわかってんだろうな?」

 

今パーシャルの送った殺気よりも数倍強い殺気を持って、返しとする。見た事も無い圧に、パーシャルも冷や汗が垂れている。

 

「あなた、それは私への宣戦布告と捉えるわよ?」

 

「先に吹っ掛けたのは、間違いなくアンタだろ。そのセリフ、そっくりそのままお返しする」

 

正に一触即発とはこの事で、パーシャルは懐に手を入れている。恐らく、小刀の一つでも忍ばせているのだろう。こちらも早稲に合図して、二本の太刀を手に取り、いつでも抜けるよう持っておく。

 

「パーシャ、悪いがここはワシに任せてくれ」

 

「アンタに発言権があると思ってるの!?!?」

 

「確かに今回の一件は、ワシの独断だ。それにお前が、神谷殿をどう思うと構わん。だが少なくとも神谷殿は、我が部族を救った恩人。その恩人に武器を向けるという事は、例え妻であっても死んでもらう」

 

そう言いのけるガロル。この一言にパーシャルも黙らない訳にはいかなかったらしく、取り敢えずは静かになった。

 

「神谷殿、妻の非礼を詫びさせて欲しい。そして不躾ながら、どうか二人だけで話がしたい」

 

「良いでしょう。早稲」

 

「はい。準備は整っております。どうぞ、こちらへ」

 

隣にある別の応接室にガロルを通したのだが、いきなりスライディング土下座してきた。

 

「本当に申し訳ない!!!!」

 

「取り敢えず頭上げてください!!!!」

 

少し粘られたが、どうにか椅子に座ってもらって今回の一件について説明してもらった。遡る事、今から一週間前のこと。パーシャルがナゴ村に帰ってきた。因みにどの位の期間かと言うと、日本でパーパルディア皇国の首都に1回目の爆撃を敢行した辺りからである。別に仕事とか家の用事ではなく、急に消えたのだ。

で、帰ってきて娘達が居ないことに気付いた。これまでの事情を話すと、ボコボコに殴られたらしい。曰く「私の所有物を何処の馬の骨とも分からない奴に渡すなんて許せない」と言いながら、顔面を耕す勢いでそれはそれは殴られたと言う。

 

「なんか、大変っすね」

 

「正直、人間で言うところの『離婚』というのをしたいよ。だが我が部族に於いて、夫婦の縁は死後の世界でも切れぬ不変の物。元よりそういう考えが存在しないのだ」

 

そういうガロルの目は、もう完全に全てを諦めきった絶望したような目であった。

 

「それで私は、一体どうすれば?因みに五人は今、姉妹水入らずでショッピングに行っていて留守ですよ?」

 

「一番手っ取り早いのは、神谷殿にパーシャルの心をボコボコにへし折って欲しい。アイツは自分の武力に絶対の自信を持っておる。それを折ることが出来れば、あるいは.......」

 

「良いでしょう。獲物は持ってきていますか?」

 

「アイツは常に魔法で格納しておる。今すぐ、戦闘も出来るだろう」

 

話は纏まった。早稲に頼んで道場を準備してもらい、その間にパーシャルに「娘たちを賭けて勝負しろ」と持ち掛けた。娘達を取り返したいパーシャルは承諾し、一応の勝負を始める。

 

「ではこれより、神谷浩三とパーシャル・ナゴ・パカランとの勝負を取り行う」

 

まず互いに準備として、自らに魔法を掛ける事が許された。パーシャルはいつも通り、身体強化と感覚強化の魔法を掛けた。

一方の神谷は、大量に掛けた。もうオーバーロードのシャルティア戦と同じ物を。

 

魔法詠唱者の祝福(ブレス・オブ・マジックキャスター)無限障壁(インフィニティ・ウォール)魔法からの護り(マジックウォード)全魔法(オールマジック)生命の精髄(ライフ・エッセンス)最上位全能力強化(マスターフルポテンシャル)

自由の戦士(フリーダムファイター)虚偽情報(フォールスデータ)生命(ライフ)看破(シースルー)超常直感(パラノーマル・イントゥイション)最上位抵抗力強化(マスター・レジスタンス)混沌の外衣(マント・オブ・カオス)不屈(インドミタビリティ)感知増幅(センサーブースト)最上位幸運(マスターラック)魔法増幅(マジックブースト)竜神皇帝の力(カイザーゴッドドラゴニック・パワー)最上位硬化(マスターハードニング)

天界の気(ヘブンリィ・オーラ)吸収(アブショーブション)抵抗突破力上昇(ペネトレート・アップ)

最上位魔法盾(マスターマジックシールド)魔力の精髄(マナ・エッセンス)愛国者の戦士(パトリオット・ファイター)

 

一部オリジナルもあるが、これだけでは終わらない。自分の使う二つの太刀にも、更に魔法をかけた。掛けたの不可視の存在や幽霊の様に物理攻撃が効かない相手にも問答無用でダメージを負わせる幽霊殺し(ゴーストキラー)、如何なる魔法攻撃をも破壊する魔法削除(デリートマジック)の二つ。

 

「始め!!!!」

 

ガロルの合図で、いきなりパーシャルは魔法を撃ち込んできた。

 

「サンダーバースト!!!!」

 

不規則に広がっては狭まりを繰り返しながら、五本の稲光が向かってくる。常人なら捉えられないだろうが、神谷に掛かれば捉えきれてしまう。というか稲光だから速いのかと思いきや弾丸よりも遅かったので、弾丸を捉える神谷にとっては止まって見える。

 

「遅いな」

 

刀の間合いに入った瞬間、稲光を斬り裂いて分散させる。切った時についでで進む方向も変えたので、神谷へのダメージは全くない。

 

「チッ!魔剣、ギース!!!!」

 

パーシャルは『異空間への扉』としか言えない穴を生成し、中から見るからに魔剣という禍々しい剣を引っ張り出す。

 

「行くわよ!!!!!!」

 

そう言って踏み込むパーシャル。その間に神谷は一旦、刀を鞘に戻してから構えた。祖父の実から初めて教えて貰い、そして自らが最も得意とする一撃必殺の技を使う為に。

 

「血迷ったわね!!!!」

 

「双閃!」

 

一瞬のウチに二つの太刀を抜き放ち、魔剣ギースの刀身を切断する。居合術の一つで、二本の太刀を同時に抜くことから「双閃」と呼ばれている。普通の居合よりも遥かに高度な技術を必要とされるが、これが神谷家の剣術では最初の試練と言われている。

 

「そ、それまで!勝者、神谷浩三!!」

 

武器破壊による戦闘不能判定が出たので、神谷の勝利となった。恐らく前までの刀であれば、魔剣なんて存在を斬れるかは分からなかった。多分、押し負けて逆にこっちの刀が折れるだろう。

だが今の相棒である天夜叉神断丸と獄焔鬼皇は、どうやら単なる玉鋼を使った物ではないらしい。竹内文書に於いて、その存在が語られている伝説の金属、ヒヒイロカネの更にその上位、如何なる存在にも対抗できる金属を使用したと思われる。鑑定魔法を使ったが、刀身の成分判定は「???」と表示されて、なんだったのかは分からない。便宜上、神谷は『極みのヒヒイロカネ(仮)』と呼んでいる。

 

「何故、私が.......」

 

「お前さ、家族を大事に思ってないだろ?大事に思っているのは自分の命、権力、財力、及び利用価値のある物だけ。そんなんじゃ、俺には勝てねーよ。別にそういうのを守るのは個人の勝手だが、少なくとも自分の娘を物扱いする奴には、俺は絶対に負けない。テメェがあの五人の実母だろうが、俺の義母になる奴だろうが関係ねぇ!!!!テメェには金輪際、この家の敷居は跨がせない。早々に出て行け」

 

「母親が娘をどうしようと良いでしょ!?!?」

 

「そっちの国ではどういう文化かは知らんが、日本では子供は宝とされている。更に言えば憲法により、基本的人権が約束されている。他人や国家はもちろん、親ですら人権を害する事は出来ない。後、サービスで言っておくが、これ以上ここに留まるのなら警察、そっちで言う衛士とか衛兵に該当する組織に連絡して、不退去罪で強制的に出て行ってもらう!!」

 

ここまで凄まれては帰るしか無かったのだろう。パーシャルは悪態を吐きながら、出て行った。それをガロルも追い掛けていくが、それを神谷は止めた。

 

「ガロルさん、今度は普通に遊びに来てください。勿論、お一人で。それから娘さん達、私が一生面倒見ようと思っています」

 

「アイツら、しっかり射止めおったか」

 

「しっかり撃ち抜かれましたよ。まあ告白云々にまで行ってませんけど、取り敢えず、これからは義親父(おやじ)殿とお呼びします」

 

この言葉にガロルは凄い笑顔で、見るからに喜んでいた。多分彼の人生に於いて、一番の笑顔だっただろう。ガロルは「娘達を頼む、我が息子よ」と言い残し、神谷邸を去っていった。

 

 

 

同じ頃 神谷モール 喫茶店

「それでアーシャ、なんで私達を集めたのかしら?」

 

「そろそろ、ケジメを付けるべきだと考えただけだ」

 

ケジメ。つまり、婚約をどうするかという事である。知っての通り、今のエルフ五等分の花嫁と神谷との関係性は、何ともちゅうぶらりんな物である。取り敢えずで婚約という、まず無い状況である。そしてこれからは、肩を並べて戦う事になるかもしれない。

戦場で生死を共にする仲間は、信頼のおける者でないとならないというのは万国共通の心理である。それは、この異世界に於いても変わらない。少なくとも主である私なら、もし自分にとって信頼ならん奴、そう。小学校時代のアイツとか中学校時代のクズとか高校時代のアホとかを筆頭とした連中と共に戦うとなった場合、もしかすると背後から原因不明(・・・・)の弾丸を飛ばす事になるだろう。

 

「そういう事かぁ。でもさ、あんまり議論する必要も無いと思うよー」

 

そう言いながらレイチェルは、ストローでファンタグレープを吸っている。少し吸って口を離すと、そのまま話し出した。

 

「因みに私は、神谷さんとこのまま結婚しても良いかなーって思ってるよ。ゲームとかアニメの趣味も同じだし、一緒にいて楽しいし。まあ多分結婚しても、夫婦っていうより男友達のノリで付き合いそうだけどね」

 

元々、このゲームとかアニメとか漫画の趣味をレイチェルに教え込んだのは神谷である。教え込まれた相手と趣味が似通った物になるのは必然だが、どうやらレイチェルには同じ様なのが好きなタイプだったらしく、現在は普通に神谷と談義できる位にはオタクへの道を進めている。

 

「私も、神谷様なら結婚したいですよ。強いし、優しいし、何より私達のことを考えてくれる。そんな人になら私、きっと良い家庭が築けるかなって」

 

そう言ってうっとりするミーシャ。多分脳内では、既に神谷と結婚済みで子供まで産まれてて、大方野原的な草むらで神谷と子供を追い掛けてると言った所だろうか。このモードに入ったミーシャはちょっーと、現実から離れるので放置しておく。

 

「私としても、神谷殿と夫婦の契りを正式に結んでも良いと考えている。私は私より弱い男と結婚するつもりは無かったが、あの男は私を遥かに凌駕する。恐らく、あの母親をも超えるだろう。そんな男になら、我が子宮を渡しても良い」

 

なんか考え事が漢前なアナスタシア。最後はちょっと問題がある様な気がしなくも無い。主に、というかまんまR18的な意味で。だが多分、「彼の子供を産みたい」という意味でセーフだと思うので一旦それは置いておく。

 

「私も同じ想いよ。そもそも私はあの人に助けられたわ。もしあの日、あの人と出会っていなければ.......」

 

そう言うヘルミーナに浮かぶのは、ナゴ村の惨状。あの日、神谷が居ても村は半壊。多数の死傷者も出した。もしあの日、神谷が居なければ。もしシャミーの救出時に出会っていなければ。今頃はゴブリンの餌となり、この世から跡形もなく消えていただろう。それも勿論、ゴブリンに凌辱されて子供をたくさん産まされて、女としての機能を喪失した上で。

 

「.......」

 

残るはエリス。常に神谷とは犬猿の仲というより、一方的に嫌っているというか、ツンツンした態度を取り続けている。だが内心では意外と好きだったりするが、それは表に出していない。まあ姉妹にはバレバレで、もう殆ど勘付かれちゃってるんですけど。

 

「エリスはどうなの?」

 

「私は.......」

 

「好き、なんでしょ?神谷さんのこと」

 

静かにコクリと頷く。顔は真っ赤で、なんだ可愛らしい。だがこれで、全員の意思は決まった。後は神谷に告白するだけなのだが、問題があった。

 

「どうやって告白しようかしら.......」

 

意思の統一は出来たものの、問題はこれである。全員、そう言う事には疎いのだ。恋愛なんて無縁だったのにうんうん唸りながら、無理矢理知恵を絞り出していると全員のスマホが同時に鳴った。五人と神谷のグループチャットに「ヘリポートで待つ」とだけ書かれたメッセージが届いたのだ。

 

「どう意味よこれ?」

 

「さぁ?」

 

「取り敢えず、行けば分かるでしょ」

 

 

 

一時間後 神谷邸 屋上へリポート

「来たな」

 

日が沈み、月の光に照らされたヘリポートの淵で、神谷は一人立っていた。眼下には神室町と東京の街並み広がり、そして奥には富士山も微かに見える。

 

「神谷様、一体なぜ此処に私達を?」

 

「今日、お前達の母親が来た。「娘達を返せ。それは私の所有物だ」とか何とか言ってやがったんで、勝負吹っかけて撃退して追い返した」

 

彼女達も正直、母親のパーシャルには全く良い思い出がない。というか悪い思い出しかない。一方で、その強さも知っている。特に魔剣ギースを手に入れた後の話は並々ならぬ物がある。それを撃退したと言いのける辺り、流石と言えよう。

 

「今回の一件を受けて、俺としてもそろそろケジメを付けるべき時が来たと思った」

 

それまでずっと街並みや富士山を眺めていた神谷が振り返り、五人の方を向く。

 

「お前達、俺の妻となれ」

 

つまり「結婚しよう」と言ったという事である。五人は所謂プロポーズをされたのだ。

その答えは勿論YES。ミーシャに至っては泣いて喜んでいた。名実ともに『五等分の花嫁』となった五人のエルフ姉妹は、公私共に神谷を生涯支えていくこととなる。

 

 

 




えー、みなさんどうもこんにちは。主です。まだ現段階では検査してないので分からないのですが、現在39.4とかいう熱を叩き出しています。多分これ、コロナとか言う死神に魅入られてるので、突然更新されなくなる可能性があります。ご了承ください。
因みに次回からは番外編2に突入します。これも多分、三〜四話位で終わる予定なので、お楽しみに!
by天使が頭上を回っているのが見える鬼武者


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番外編2在りし日の皇国編
第五十二話大東亜戦争


今回はいつもとは違う、私も初めて書く文体で執筆しています。その為、一つ一つの文章がとても長い物に仕上がってしまいました。ですので、そういうのが苦手だという読者の方は、そのまま後書きの欄に飛んでください。そこに1931年から1947年までの、史実とこの世界線独自の歴史を混ぜ込んだ簡単な年表を書いてあります。(因みに前半はほぼ、というかまんま史実通りです)

また、この回にて登場した人物と、実際の人物、組織とは一切関係がありません。作中では辛口で書かれている場合もありますが、当方には登場した実在の人物、組織を誹謗中傷したり、名誉を傷付ける意図はありませんので、あらかじめご了承の上で閲覧する様、お願いいたします。
それでは、大日本皇国の歴史編第一弾、どうぞ!!


1930年代。この時から、大日本帝国の暴走は既に始まっていた。1931年、軍部は政府の反対を押し切り満州事変を強行した。広大な荒野に清王朝最後の皇帝である、愛新覚羅溥儀を王とした満洲国を建国した。1933年には国際連盟とワシントン海軍軍縮条約を脱退。さらに1936年には軍部大臣現役武官制が復活したことにより、シビリアンコントロールが失われ日本政府は形骸化し、本来なら政治や外交の一手段にすぎない軍隊が政治に介入するようになった。

『政府』という鎖の消えた大日本帝国は、1937年より発生した盧溝橋事件を筆頭とした事件を口実に中華民国との全面戦争に突入。初期は帝国軍が優勢であり快進撃を続けるものの、脆弱な兵站システムにより膠着状態となった。一時はドイツや英国による工作で和平への道も模索されるが、最終的には決裂。軍部は最大の難点であった『援蒋ルート』と呼ばれる米英仏による対中国支援ルートであった。中立国を経由している為、封鎖や攻撃は出来ず手が出せない状況が続いたが、ヨーロッパで始まった第二次世界大戦により、ドイツがフランスを占領。援蒋ルートの一つである仏印ルートの封鎖に動いた。

同時期に日独伊三国同盟を結ぶが、これらは日米関係を非常に悪化させた。1921年に結ばれた四か国条約が示す様に、アメリカは太平洋の王でありたいのだ。自国の太平洋上での優勢と、権益を守る為にも太平洋の領土変更は何が何でも避けたかったのである。禁輸政策による兵糧攻めを加速させ、日中戦争の継続ばかりか国そのものの運営にも深刻な影響を及ぼすに至った。1941年より本格的な交渉に入るが、同年七月に南部インドシナまで進駐した事でアメリカは自国の要望を無視したと判断。日本に対しての石油輸出を停止した。

最終的には『ハル・ノート』という提案という名の植民地支配への同意書を提示してきた為、軍部は開戦を決意。1941年12月8日、大日本帝国海軍はハワイ真珠湾への攻撃を敢行。同日、マレーシアにも侵攻し瞬く間に制圧。数ヶ月後には『東洋のジブラルタル』の名を持つシンガポールをも手中に収めた。その後も連勝を重ね、フィリピンの占領や英国最新鋭戦艦の撃沈といった核確たる戦果を上げた。しかし1942年6月5日のミッドウェー海戦に於いて、最強無敵を誇った第一航空戦隊、第二航空戦隊という戦力を一気に喪失。更にはソロモン海戦とガダルカナル島撤退により、初戦の連戦連勝のが齎した恩恵は消え去り、明らかなら劣勢へと切り替わる。1944年には更に戦局は悪化の一途を辿り、トラック島の航空基地は壊滅。インパール作戦は大失敗という言葉ですら生温い程の大敗を喫し、枢軸国の劣勢は確実な物となった。

この話は、絶望的な戦局に一筋の希望を見出し、それに賭けた男達と、大日本帝国最後にして最大の栄光のお話である。

 

 

 

1944年2月某日 大本営

「故に我々は陸軍の意見に反対である!!」

 

「うるさい!そういうお前らこそ、この意見はなぁ!」

 

この日もいつもの様に、会議という名の喧嘩だけで終わると思われていた。書紀役の士官もゲンナリとしていたし、一部の人間はこれが無意味な事だとも思っていた。だって会議と言いながら、延々と相手の意見に反対するだけなのだから。

だが今日、この日より歴史の歯車は動き出す。

 

「うるせぇんだよアホどもが!!!!!!!」

 

議場に議場らしからぬ怒鳴り声が響いた。誰もがその声の方を向くと、太刀を二本携えた一人の初老の男がいた。この男こそ、本編の主人公である神谷浩三のご先祖にして、幽霊として初登場を果たした神谷倉吉である。

 

「さっきから聞いてりゃ、なんだそのくだらん話は!!!!今やるべき事はなんだ!?相手の意見を潰す事か!?違うだろう!!!!今すべきこと、成さねばならんのは米軍をどうやってアジアから叩き出すかだろうが!!!!」

 

「神谷!少し黙らんか!!!!」

 

「テメェが黙ってろ!!!!いいか、序列だ何だ言うくらいなら掛かってこい。俺を黙らせたければ、力で黙らせろ。だがもし掛かってくるのなら、死ぬ覚悟はしておけ」

 

そう言いながら、神谷は二本の刀を少しだけ抜いて脅した。勿論、この刀は今は神谷浩三の愛刀である天夜叉神断丸と獄焔鬼皇である。

 

「なら神谷くん、君ならどうするんだ?」

 

恰幅の良い髭を生やした強面の陸軍将校が聞いてきた。陸軍きっての名将の一人、今村均である。

 

「その前にまず、今の我が祖国の現状を整理しましょう。今帝国は太平洋の他、ビルマと中国でも戦線を持ってる。そして恐らく、ドイツが降伏すれば満州あたりも食われてしまう。ならまずすべきなのは、一番の大飯ぐらい、もとい兵士ぐらいである中国戦線を終わらせる事である。ここには130万人以上の兵力がいるから、これを早いとこ終わらせられれば兵力を他に回せる上に、兵士を戦場で鍛える事もできる。しかも中国の沿岸を抑えれば、ビルマへの補給問題も解決するでしょう。

次にビルマ戦線だが、もうこれは中止する。あの牟田口とかいう奴が指導してるが、あれはもう戦争云々以前の問題だ。補給を端から考慮に入れてない。敵を倒せば物資が手に入るとか言ってるが、武器弾薬がないのにどう戦えっていうんだ?銃やら戦車やら持った相手に、素手で戦えとか?無理でしょ」

 

「しかし、7年かけても突破できなかった中国戦線をどう突破するのだ?」

 

永野修身元帥がそう聞いてきた。確かに中国戦線は7年もの歳月を掛けても、ずっと突破できず殆ど戦線にも動きがない。

 

「簡単です。絶対国防圏を縮小し、浮いた兵を中国戦線に回す。更に本土からも引き抜き、50万の兵を抽出すれば勝てる筈だ。あの工業力がぶっ飛んだアメリカとて、流石にいきなり本土に攻める事は出来ない。まずはこの間の大陸打通作戦*1時に生まれた包囲を崩し、北京の包囲も崩す。ついでに海軍で東シナ海を封鎖してしまえば、なし崩し的に戦線は崩壊します」

 

「我々としては、神谷大将の意見に反対である」

 

「私も同じ意見だ」

 

今度は寺内寿一と黒島亀人が反対してきた。曰く寺内の方は「インパール作戦はまだ失敗と決まっていない」らしく、黒島としては「日本民族が一丸となり、敵に突撃すれば勝てる」らしい。馬鹿としか言いようがない。

 

「まずインパール作戦だが、確かにありゃ失敗なんて物じゃない。聞くが、前線の兵士がどんな状況か知ってるのか?戦死者の殆どが敵との戦闘ではなく、飢えと病によるものだそうだ。しかも食い物が無いから、死んだ奴や死にかけの奴の肉を食らう。かたや後方の司令部じゃ、女を囲って戦局が不味くなると逃げる。これを失敗と言わないのなら、今すぐ前線に行って苦しんでこい!!!!

それから敵に突撃だが、アホか。相手は戦車や機関銃で武装してるんだ。そんな相手にどうやって突撃する?」

 

「それに関しては航空機を使う。ゼロ戦に爆弾をつけて飛ばせばいい」

 

「馬鹿!!そんなの行く途中で相手の電探に捕まって、迎撃のグラマンに蜂の巣にされて死ぬだけだ。そんなの人員と物資の無駄でしかない。というか航空機で思い出したが、そもそも何で兵器のデータを共有しないんだ?まさかと思うがアンタらは、プライドで国家を滅ぼすつもりなのか?もし今の状況を、未来の子孫達が見たらどう思うんだろうな。きっと情けなくて泣かれて、恨まれるだろうよ。そんな事をしなければ、ウチの国はもっと豊かになったのにとかってな。

さぁ、決断しろ!!!!くだらないプライドで全てを無に返すか、それともプライドを捨ててでもこの国を生かすか。選べ!!!!」

 

殆どの人間がこれで黙ったが、何人かは反論しようとした。そこで「もしここで無に返す決断をした奴は、逆賊として斬る!」と刀を二本とも完全に抜いたら黙った。

作戦は認可され、更に昭和天皇の尽力により大本営に新たな役職として『大本営総長』が設置され、そのポストに神谷が座った。

 

 

「今回の一件、感謝いたします。陛下」

 

『倉吉くん、君にならこの国を託せられる。どうか、この国を救ってくれ』

 

大本営での会議の後、神谷は皇居へと電話した。相手は昭和天皇。今回のは全て、神谷が事前に天皇の認可を持って行った事なのだ。流石に高級将校とは言えど、議場で刀抜いて振り回すと色々不味い。

しかし今回ばかりは天皇陛下の太鼓判が付いての行為であった為、特に大きな事にはならずに一応スムーズに事を運べた。

 

「分かっています。私は常に、この国の為でも国民の為でもなく、未来の為に戦ってきました。この国が未来永劫、栄光ある国家である為に力を尽くします」

 

『よろしく頼む』

 

「さぁ。歴史の変革を始めようか」

 

 

——歴史の歯車は動き出す。1944年6月、八個戦車師団、数千機の航空機、50万人の兵力が一斉に中国への攻勢を開始した。大陸打通作戦を受けた中国側は、今年中に大規模攻勢は無いと判断していたが為に幹部は大混乱。現場も初動対応に遅れてしまい、想定より早くの侵攻を可能とした。

脱出を試みる中国軍が港に押し寄せるが、大和と武蔵を筆頭とした聨合艦隊による艦砲射撃に晒され、忽ち全滅。港湾機能も破壊した。わずか一ヶ月足らずで100万人以上の戦死者を出した中国軍はずるずると後退していった。これを受け日本軍は残存部隊を簡単に殲滅した後、速やかに転進。北京などの華北方面奪還を狙う中国軍主力との戦闘に移った。この頃には中国軍でも内部分裂が発生し、内と外の攻撃に晒される事になる。というのも中国軍は中国国民党と中国共産党という二つの対極に位置する党の軍で構成されており、今は日本という敵がいるので協力しているに過ぎない。だがその日本が余りに強すぎて敗退に敗退を重ねた結果、内部でのイザコザやストレス発散の照準が向いてしまい、中国軍、というより抗日民族統一戦線は瓦解。更には各地の軍閥までもが蜂起し、遂には内乱(バトロワ)に突入した。

中華民国としても各地の軍閥や共産党と日本軍を同時に相手取る事は出来ず、日本との和平交渉に入った。下関での和平交渉では満州と蒙古国の承認、今後の連合国からの宣戦布告に備えて沿岸部や軍事上重要地域に関しては日本の軍政下に入る事が決まった。

 

「取り敢えず、中国は片付いたな」

 

「失礼致します!総長殿、硫黄島に米軍が現れました!!」

 

「規模は?」

 

「10万人は超えているとのこと!」

 

この報告に神谷は絶望に顔を.......染めるどころか笑ったのだ。これには報告に来た士官も「まさか、可笑しくなられたのか?」と思ったという。

神谷は落ち着いて、一言こう命じた。すぐにあの人に連絡を取ってくれと。

 

 

 

数日後 USS『Washington』 艦橋

「それにしても、最近の日本軍の攻撃には肝を冷やす」

 

「ジャップは新型機で、我々の輸送船と空母を破壊して回ってますからな」

 

レイモンド・スプルーアンスとワシントンの艦長は、朝食ついでに愚痴を言い合っていた。硫黄島の攻略が始まってから、大本営は千葉県香取航空基地の第六○一海軍航空隊を筆頭とした精鋭本土航空隊による航空攻撃を敢行。彗星一二甲型、零戦五二丙型や史実では試作に終わった天山一三型も投入された。これに加えて新鋭機の銀河一一型と幻の戦闘機、烈風の先行量産型が投入されている。

更にこれに呼応して陸軍からも四式重爆撃機「飛龍」と四式戦闘機「疾風」が投入され、硫黄島の援護に入った。

 

「失礼致します!サラトガの定時哨戒機が、日本の聨合艦隊を捕捉しました!!!!」

 

「何だと!?」

 

「例の超大型戦艦二隻の他、ナガトや新鋭空母も確認されています!!」

 

「た、直ちに迎撃態勢に移れ!!」

 

 

——この日、アメリカは敗北した。史実でもアメリカ海兵隊史上、最も地獄の戦いの一つにも数えられる硫黄島を巡る戦い。この世界に於いては絶対国防圏の縮小によって出来た余剰物資と兵力を投入し、史実以上の堅固な要塞になっていた。島中に張り巡らされた地下壕と摺鉢山の砲撃陣地は、米海兵隊を完膚なきまでに叩きのめした。

そして米軍が別の手を模索しだしたその時、聨合艦隊が硫黄島近海に到達。艦隊決戦へと移行した。上陸支援を念頭に置いていた米海軍は砲弾の比率は榴弾が高く、空母も魚雷ではなく爆弾を多く搭載していたのも災いし効果的な攻撃が出来なかった。一方の聨合艦隊は戦艦『大和』と『武蔵』を筆頭とした戦艦と、新鋭装甲空母『大鳳』と開戦初期より活躍してきた『翔鶴』『瑞鶴』からなる第一航空戦隊を筆頭に、天城型空母の面々も加わっており、パイロット達も新兵も多分に含まれるがベテランも多く在籍していた。さらにこの戦いの指揮はブーゲンビル島にて亡くなっていた筈の山本五十六が担当しており、航空機と戦艦を巧みに活用した戦法により、上陸護衛部隊の戦艦三隻を見事撃沈。硫黄島近海の制海権の奪取に成功した。

上陸した海兵隊は次々に降伏し、守備隊の日本兵達は歓喜の声を上げた。

 

 

「さぁ、もっと戦火を広げよう。次はインドだ」

 

 

——第二次インパール作戦は1944年12月より開始された。牟田口、河辺司令官を逮捕、更迭し、中国戦線を戦い抜いた精鋭達の投入、中国を経由した補給路の確保、さらにこれまでの主力戦車だった九七式中戦車チハから最新の五式中戦車チトに主力戦車が変更され、瞬く間に各地を解放していった。

中国での山脈踏破経験を持つ兵士達は起伏の激しい山々を突破し、チトを主力に置いた新鋭機甲師団は開戦時のマレー侵攻を再現するかのような大進撃を行った。これにはインドを守備していたイギリス兵達にとっての悪夢となり、敵前逃亡まで出ていたという。これに加えて独立家ネルー率いる反乱軍も攻勢に参加し、各地で蜂起。日本軍とも道案内や物資の運搬等で協力し、インド各地には日の丸が翻った。

 

 

 

1945年3月10日 大本営 総長執務室 

「インド方面も安定しましたね」

 

「山下さんが指揮を取ってるんだ。そりゃあ勝てるよ」

 

「お次はどの様な作戦を?」

 

「次はスエズ運河を取るつもりだ。そしてハワイ、アラスカを取って、最後は本土に。これでアメリカの世論を、一気に講和へと向かせる」

 

部下の士官と話していた時、突如空襲警報が鳴り響いた。すぐに他の士官が入ってきて、大声を張り上げてこう言った。

 

「米爆撃機の大編隊が、帝都上空に来襲!!総数1000に到達する勢いです!!!!」

 

「すぐに迎撃を!!!!」

 

「もう既に航空隊が向かいましたが、確実に帝都への被害が」

 

「とにかく今は迎撃と、国民と関係ない奴の避難に全力を注げ!!俺も地下指令室で指揮を取る!!」

 

史実でもあった東京大空襲は、更に強化された形で起こってしまった。史実では325機、三個爆撃航空団が飛来したのだが、今回はそのおよそ3倍、十個爆撃航空団が飛来した。

無論、近辺の陸海軍航空隊から迎撃機が上がったが十個爆撃航空団+護衛戦闘機隊相手では焼け石に水であり、殆ど意味をなさなかった。翌朝まで続いた爆撃は東京の殆どを瓦礫と死体の山に変えた。

 

「.......」

 

「これはひどい.......」

 

翌朝、指令室から外を見に出た神谷と部下の士官。目の前に広がる光景は地獄そのものであった。黒焦げになった死体が溢れ返り、人の焼けた臭いと瓦礫の山から発せられる焦げた臭いが合わさって、これまで嗅いだことのない臭いに包まれていた。

 

「.......虐殺だ」

 

「は?」

 

「コイツはもう、戦争なんかじゃない。虐殺だ。今の戦争は確かに国家総動員法とかで国民全員が戦争に協力しているが、これは明らかな国際法違反だ。こうなったら、作戦を大幅に加筆する必要がありそうだな」

 

「何をするおつもりですか?」

 

「なーに。アメリカの畜生共に、戦闘民族たる侍を敵に回したらどうなるのか、その身に刻んでやるだけよ」

 

この時の神谷の顔は、とにかく怖かった。笑みが鬼のそれであり、近くにいた子供は泣き叫び、大人達も目を背ける程だったという。

そしてこの一ヶ月後、山下将軍指揮の元、スエズ運河占領作戦が展開され大西洋側からのインド洋方面への最短航路を封鎖。同時に大量生産に漕ぎ着けた伊400型潜水艦を喜望峰沖に展開し、大西洋からの東回り航路によるインド洋、太平洋への航路を完全に遮断した。

 

 

 

1946年12月31日 ハワイ

『諸君。いよいよ、最後の戦いの日はやってきた』

 

この日、神谷の姿は再度占領したハワイにあった。スエズ運河を奪取した後、聨合艦隊はハワイ占領に動き出し再度占領に成功。そこに新型爆撃機である富嶽を派遣し、米本土空襲を敢行。西海岸の軍事施設を破壊した。

更にアラスカのアンカレッジも占領し、こちらにも航空基地と軍港を整備。着々と米本土への大規模侵攻を準備してきた。その結果、日本軍の艦載機には史実では烈風性能向上型として計画されていた、烈風二一型を主力戦闘機として、爆撃機と攻撃機には流星改に更新された。更に正規空母クラスにおいては、菊花と景雲改が搭載されている。

基地航空隊には海軍から銀河、連山、震電、陣風、烈風、零戦、紫電改、彗星、天山。陸軍から疾風、隼、五式戦闘機、キ102、キ106、キ108と言った名だたる航空機達が集結している。

陸上部隊には戦車がドイツのティーガーIIとE75をそれぞれ元に作られた六式重戦車と七式重戦車に更新され、歩兵装備にも四式自動小銃が一部で導入されている。

 

『これより我々はアメリカ本土、西海岸への大規模攻勢を仕掛ける。これは米英合同で行われたノルマンディー上陸作戦を超える、史上最大の上陸作戦となるだろう。だが恐れることはない!俺達は首都を焼き払われ、新型爆弾で広島と長崎は消滅し、他の各都市でも空襲に晒されてきた。友達も、仲間も、家族や恋人も、俺達は失った。

だがしかし!!我々の闘志に揺らぎはない!!!!無論精神論で戦争には勝てない。相手は銃に戦車だ。精神力で防げるなら、こんなにも犠牲は出ちゃいない。だが精神的に強くなければ、勝てる戦にも勝てない。どんな状況で決して諦めるな。常に大和民族としての誇りを胸に、最後の最後の瞬間で生きて生きて、生き抜いて敵兵を一人でも多く殺せ!!!!さぁ、最後の戦争を始めよう!!!!!!!』

 

 

——1946年1月1日。大日本帝国陸海軍は、その全力を持って米本土侵攻を開始した。まず富嶽爆撃隊による西海岸の軍事施設に対する本土空襲を持って、その号砲とした。時を同じくして聨合艦隊旗艦『武蔵』が、全艦を率いて西海岸沿岸に展開する米本土艦隊への攻撃を開始。開戦当時、最強無敵と恐れられた一航戦と二航戦に匹敵する練度となった新鋭一航戦、二航戦を主軸とした艦載航空機隊とアラスカ各地の基地航空隊による航空攻撃が連続して行われた。

三回に渡る空からの攻撃で米艦隊は空母三隻、重巡六隻、軽巡十二隻、駆逐艦十八隻を撃沈した。そして四回目の攻撃で遂に、武蔵率いる聨合艦隊が双方の射程圏内に到達。最初で最後の戦艦同士による艦隊決戦が始まった。この海戦が最終決戦になると踏み、基地航空隊の残存機全てと艦載機全機を発艦させてこれを援護。艦隊同士の撃ち合いでは、戦艦『武蔵』と同じく戦艦として建造された妹の『尾張』が猛威を振るった。帝国海軍も大鳳、天城、長門を筆頭とした多数の艦船を失うも、米本土防衛艦隊を殲滅。上陸地への道を切り拓いた。

この海戦の直後、上陸部隊は西海岸へと殺到。これ程までの上陸を予想しておらず、そもそも本土が攻撃に晒されるとは思っていなかった米軍は次々に敗走。予定よりも早く港を確保した。そのままの勢いで進撃するかと思われたが、ロッキー山脈が立ちはだかり進軍速度は低下。各地で現れる州兵と、体勢を立て直した米軍本隊との大規模な戦闘に入った。

 

 

 

数週間後 大西洋沿岸 戦艦『大和』艦上

「奴らは今、西に気を取られて東側の部隊も回してる。今こそ攻めどきだ。艦長、進路をワシントンへ。ポトマック川を遡上するぞ」

 

「了解です。進路、310!!!」

 

この大規模作戦に際して、神谷は決死隊を率いてある場所を目指していた。ワシントンD.C.。つまり、アメリカの首都である。ここを落とせば、世論は確実に日本との講和へと移る。そればかりか伝説として、未来永劫アメリカの国民に「日本だけは敵に回してはいけない」と遺伝子レベルで刻み込むことが出来る。

その尊い犠牲となる日本の象徴たる大和と、志願した上陸決死部隊と乗組員と共にワシントンを目指していた。陣頭指揮は、神谷倉吉が取ることになっている。

 

「まもなくチェサピーク湾!」

 

「機関出力一杯!!釜が壊れたって構わん!!!!何が何でもワシントンに決死隊を送り届けろ!!!!!!!」

 

この任務に志願した乗組員は全員、超大ベテランの老兵達。日本海海戦で戦った者もゴロゴロいる。あの地獄に比べれば、この程度の任務、屁でもない。

対岸からの砲撃と航空機の空襲に晒されるが、そこは世界最強クラスの防御力を持つ大和。その攻撃をモノともせずに無事、ポトマック川へ突入。ワシントンに迫った。そしてワシントン近くに到達した時、突撃命令が出た。

 

「行くぞーーー!!!!!!!」

 

馬に跨った特別決死隊、総勢300名がワシントン目指してひたすらに駆ける。その姿はまるで、戦国時代の武者達のよう。走ってくるだけで全てを威圧するかのような光景に、米兵達も溜まらず道を開ける。

 

「進め進め進め!!!!!目指すはワシントン、ホワイトハウス!!!!トルーマンを捕まえろ!!!!!」

 

騎馬隊はその数を減らしつつも、ワシントン市街地へと突入。途中、大和の支援砲撃を受けつつホワイトハウスへと突入。中にいる警備兵達を殺して周り、遂にトルーマンを見つけた。

 

「サムライ.......」

 

「アメリカ合衆国、第33代大統領。ハリー・S・トルーマンだな?」

 

「そうだ」

 

「私は大日本帝国大本営総長、神谷倉吉。ここまで私達は何方も、流さなくていい若者の血を流してきた。そればかりか貴国は無実の臣民をも虐殺し、戦争を続けた。だからもう、終わりにしないか?」

 

トルーマンは驚いた。まさか目の前の男は、態々その為だけにここに来たのかと思ったからだ。まあ実際、殆どその為である。

 

「今、西海岸は着々と我々が占拠している。これ以上の戦禍の拡大は我々の本意ではない。そもそも開戦の理由だって、アメリカが植民地支配をしたいという強欲によって我々の国を無意味に刺激し、我々の国を滅ぼそうとしたからに過ぎない。降りかかる火の粉を払った単なる正当防衛、と思っている。戦争しちまった時点で良いも悪いも、正義もへったくれも無いがな。

俺達の目的は戦争を終わらせて、子孫達に未来を渡す事。それだけだ。さぁ、停戦指示を出してくれ」

 

「.......わかった」

 

——1946年1月28日、アメリカ大統領のハリー・S・トルーマン神谷倉吉は全軍に両軍との停戦命令を指示した。西海岸を制圧され、首都にも攻撃を仕掛けられて、アメリカの中心たるホワイトハウスに日本兵がやってきたという事実は、世論を徹底抗戦から講和に切り替えるには十分すぎる衝撃だった。

約半年に渡って繰り広げられたアメリカとの講和交渉は最終的に、日独伊三国同盟の破棄とアメリカ西海岸とアラスカの返還、そしてハワイの独立で手打ちとなった。同年8月15日に講和条約が締結されたことで、日中戦争から数えると15年にも渡って続けられた大東亜戦争は終結した。

最後に戦後社会について、軽く説明しておこう。各アジア諸国は独立が認められ、大東亜政略指導大綱は前近代的欧米主義とされて白紙撤回されたことにより、インドネシアなどの永久確保地域に指定された国家達も独立。戦後約20年程度は各国に日本軍が常駐したが、軍が完全に育ってくると撤退。以降は良好で対等な関係を築き、様々な場面でお互いを尊重し合って行くことになる。満州国と蒙古国も前近代的欧米主義との批判を受け、中華民国に返還。しかし毛沢東率いる共産主義者による反乱で、現在と同じように中華人民共和国になってしまう。旧連合国との関係はやはり芳しくはなかったが、東西冷戦が始まるとそうも言ってられず、日本が西側へと加入した事で関係は回復している。

そして日本国内でも、様々な事が改革されていった。まず軍部大臣現役武官制などの日本が暴走するに至った様々な要因の排除に動くべく、憲法自体を改正することとなった。国名も帝国から皇国に代わり、憲法も大日本帝国憲法から大日本皇国憲法へと変わった。この憲法では現実の日本国憲法同様の基本的人権の尊重、平和主義、言論の自由等が記載されている。但し9条のような軍隊や交戦権の否定は存在せず、必要あらば戦争は可能となっている。この戦争において、日本は200万人が戦死し、世界では4500万人以上の人間が亡くなった。この尊い犠牲を胸に、日本人はその後も歩み続ける。これまでも、これからも。

そしてこれより一世紀と少し後、日本は異世界に転移して、かつて日本軍を改革しワシントンに攻め込んだ神谷倉吉の子孫が、今度は異世界を股に掛け、あちこちで戦争する事になるとはまだ誰も知らない。

 

大日本帝国万歳

 

大日本皇国万歳

 

 

*1
史実に於いては1944年4月から同年12月の期間だが、こちらの世界線では1943年4月から同年12月に発生している。またマリアナ沖海戦も発生していない。




1931年9月18日  満州事変発生
 
1932年3月1日   満州国建国
   5月15日   五・一五事件発生
 
1933年3月27日  国際連盟脱退
 
1936年2月26日  二・二六事件発生
   5月18日   軍部大臣現役武官制復活
 
1937年7月7日   盧溝橋事件発生(日中戦争
          勃発)
 
1939年9月1日   ナチス・ドイツ、ポーラン
          ドへ侵攻(第二次世界大戦
          勃発)
 
1940年9月27日  日独伊三国同盟成立
 
1941年春     日米交渉開始
   7月28日   日本軍、南部仏印進駐
   8月1日   アメリカ、石油禁輸措置等によ
         る日本への経済制裁開始
  11月26日   アメリカ、ハル・ノート提示
  12月8日    日本軍、ハワイ真珠湾への奇
          襲攻撃、マレー半島へ侵攻開
          始(大東亜戦争勃発)
  12月10日   マレー沖海戦発生
 
1942年2月8日   シンガポール上陸
  2月14日    インドネシア、パレンバン
          占領
  3月8日     ビルマ占領
  4月18日    ドーリットル空襲
  5月7日〜8日  珊瑚海海戦発生
  6月5日〜7日  ミッドウェー沖開戦発生
  8月8日     第一次ソロモン海戦発生
  8月24日    第二次ソロモン開戦発生
  11月12日   第三次ソロモン海戦発生
 
1943年2月1日   ガダルカナル島より撤退
  4月17日    大陸打通作戦開始
  5月12日    アッツ島守備隊壊滅
  12月5日    マーシャル諸島沖航空戦発生
  12月10日   大陸打通作戦終了
 
1944年2月6日   クェゼリン島守備隊壊滅
  2月17日    トラック島空襲
  2月22日    エニウェトク環礁守備隊壊滅
  3月8日     第一次インパール作戦開始
  6月1日     神谷倉吉大将、大本営掌握
          陸海軍協力体制構築を宣言
  6月13日    第一次インパール作戦中止
  6月15日    アメリカ、サイパン島へ上陸
  6月16日    八幡空襲発生
  6月27日    歯車作戦開始。中国軍、戦線
          後退
  7月1日     絶対国防圏の縮小を発表
  8月22日    対馬丸事件発生
  8月31日    中華民国、降伏(日中戦争終
          戦)
  9月1日     アメリカ、硫黄島への上陸
          開始
  9月2日     日本軍、硫黄島上陸援護艦隊
          への攻撃開始
  9月5日     聨合艦隊、硫黄島へ到達。硫
          黄島冲海戦発生
  12月3日    第二次インパール作戦開始
 
1945年3月10日  東京大空襲
  3月12日    名古屋大空襲
  3月14日    大阪大空襲
  4月12日    ルーズベルト大統領死亡。
          トルーマン政権へ
  4月13日     城北大空襲
  4月15日    川崎大空襲
  4月18日    日本軍、スエズ運河占領
  5月29日    横浜大空襲
  5月31日    台北大空襲
  6月17日    鹿児島大空襲
  6月19〜20日  福岡大空襲、静岡大空襲
  6月28〜29日  佐世保大空襲
  7月4日     徳島大空襲、高松大空襲
  7月9〜10日   和歌山大空襲
  7月16日    アメリカ、トリニティ実験
          成功。原子爆弾完成
          日本軍、震電、秋水、
          菊花を実戦投入
  8月6日     アメリカ、広島に原爆投下
  8月9日     アメリカ、長崎に原爆投下
  8月10日    日本軍、ハワイ再占領
  9月14日    日本軍、米本土空襲
  10月22日   日本軍、アンカレッジ
          占領
  11月5日    日本軍、本土空襲目論む
          爆撃機編隊を初めて殲滅
 
1946年1月1日   日本軍、米本土上陸作戦
          発動。
  1月3日     第一次ロサンゼルス沖
          海戦発生
  1月5日     第二次ロサンゼルス沖
          海戦発生
  1月7日     第三次ロサンゼルス沖
          海戦発生
  1月8日     日本軍、アメリカ西海岸
          への上陸開始
  1月26日    戦艦『大和』、ポトマック川
          へ突入開始
  1月27日    神谷倉吉以下、特別決死隊
          300名ワシントンD.C.へ
          突撃敢行
          戦艦『大和』、市街地へ
          砲撃開始
  1月28日    日本軍、連合軍、両軍へ
          停戦命令発令
  5月7日     ナチス・ドイツ、降伏
  8月15日    日本、連合国、講和条約成立
          第二次世界大戦、終戦
  11月3日    大日本皇国憲法、発布
 
1947年5月3日   大日本皇国憲法、施行
          国名も大日本帝国より
          大日本皇国へと移行
 
 
 
2052年5月13日  東亜事変発生
 
2056年5月19日  日本列島及び、皇国の主権が
          及ぶ島々が太平洋上より
          忽然と姿を消す。
          大日本皇国、異世界へ転移


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第五十三話東亜事変

今回も登場した人物と、実際の人物、組織とは一切関係がありません。作中では辛口で書かれている場合もありますが、当方には登場した実在の人物、組織を誹謗中傷したり、名誉を傷付ける意図はありませんので、あらかじめご了承の上で閲覧する様、お願いいたします。


———夢を見た。遠い、遠い昔の。まだ純粋で世界が綺麗に映ってて、何にでもなれると思ってた少年時代の。

 

『おーい、こっちだ!早く早く!!』

 

『待ってくれよ!』

 

『俺達はお前みたいな体力バカじゃ無いんだよ!!もうちょい俺達を気遣え!!!!』

 

———3人の少年が走ってきた。俺は一人、この少年達が目的地にしている丘の上に立っている。

 

『ついたー!』

 

『スゲー!』

 

『街全部見えるぞ!!』

 

———少年達は街を見下ろしている。しばらくすると、1人が三枚の小皿とペットボトルの水を出し始めた。あの儀式だ。

 

『準備できたぞ!』

 

『それじゃぁ、俺達はここに!』

『日本を護り、より良くする為に!』

『この命を捧げる事を!』

『『『ここに誓う!!!!』』』

 

3人の少年達が盃に見立てた小皿に、酒に見立てた水を注いで掲げた。チンという音共に、3人は一気にそれを飲み干す。

 

———あぁ、そうだ。この日からだ。俺達の行き着く先と、その路が決まったのは。この日の誓いがあったから、きっと今があるんだろうな。俺達はこの誓いを果たせてるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

2052年5月13日 神谷邸 自室

ピリリリリ ピリリリリ ピリリリリ

 

「ん.......。誰だよまったく.......。はい、もしもし?」

 

『司令、お休み中に申し訳ありません。至急、艦にお戻りください』

 

「今日と明日は非番だよー。誰が戻るか」

 

『ふざけてる場合じゃないですよ!!台湾、尖閣、与那国、竹島に中国、韓国、ロシアが軍を展開したんですよ!!!!』

 

この一言で、神谷の半分寝ていた意識は完全に覚醒した。そんな国防の危機的状況に、ウカウカ寝てられない。すぐに頭をフル回転させて、情報の整理を行う。

 

「状況は!?!?」

 

『台湾沿岸部は完全に封鎖され、既に上陸されています。与那国はレーダーサイトが破壊され、瞬く間に制圧されました。守備隊と住民は捕虜になったそうです。尖閣は資源採掘プラットフォームの全てと、本島の管理施設が占領されました。竹島にも軍が上陸しており、前線基地にする物と思われます』

 

「わかった。すぐに行く」

 

すぐに軍服に着替え、早稲に愛車を回してもらい、自分の指揮する艦隊のある横須賀へと愛車を走らせた。道中、あの二人へも連絡し、今後の対応を考えた。

 

『政府としてはまだ動くつもりはないらしい。というか動けない。何せ情報が殆ど入ってきてないし、声明も出てないからな』

 

「とすると、お前はどう考える?」

 

『今の総理は弱腰だからなぁ。どうにか発破を掛けるが、それでも最悪命令が出るのは夕方から夜になる可能性もある。なるべく、今日中に仕掛けられる様に努力はする』

 

「頼んだ」

 

首脳部は官房長官を務める一色がいるから大丈夫だろう。今度はもう一人の同志、川山に連絡して外交官としての見解を聞いておきたい。

 

『お前から電話が来たって事は、例の中韓露の侵攻だな?』

 

「あぁ。声明が出てないのは聞いた」

 

『恐らく奴さん達は、自国の領土内での軍事演習とでも考えてるんだろう。だから宣戦布告を出してない。だが多分、暫くすれば声明も出る筈だ。まあ向こうもあからさまの時間稼ぎをしてきたりする可能性は、いや。絶対やるな。

いずれにしろ、この一件は最悪全面戦争に突入する案件だ。軍の力を借りる外交になる。その時は、頼む』

 

「任せろ。あの日の誓い、忘れちゃいない」

 

 

 

数十分後 横須賀鎮守府 極秘地下ドック

「お疲れ様です、司令」

 

「あぁ。現状は?」

 

「今は半舷上陸中の人間を招集しています。出撃に備え、各部の点検と弾薬の搬入作業も進めています」

 

部下の参謀が今の状況を事細かに教えてくれた。喋りながら進む事数分。二人の目の前には世界最大クラスの艦艇にして、最大最強の戦艦である超戦艦『熱田』の姿があった。その両サイドには要塞超空母の『赤城』と『加賀』の姿もある。

この頃、熱田型と赤城型は秘匿兵器として地下ドックにて厳重に管理されていたのだ。各種戦艦も同様に厳重に管理されており、記念艦として存在する戦艦『大和』と『武蔵』は、それぞれ生まれ故郷の呉と佐世保にその姿を晒している。普段は見学可能だが秘密裏に改造されており、有事の際は旧版の見た目を脱ぎ捨てて、現代艦仕様にトランスフォームする仕掛けがある。

特殊戦術打撃隊の殆どの兵器も同じように秘匿扱いであり、その力の一端は隠されている。これらの政策は皇国が建国されてすぐの頃に決まった方針であり、国の有事の際の切り札を多く保有する様になったのだ。

 

「コイツらが日の目を見ずに生涯を終える事こそが、この国にとっては最良の事だ。なのに何故だろうな、今まさに使われようとしていることに、歓喜している自分がいる」

 

「私も、同じです。きっとこの艦に乗り込む乗員達も、全く同じ思いでしょう」

 

二人は目の前に聳え立つ鋼鉄の海の大要塞を見上げながら、そう話していた。その瞬間、神谷には目の前の鋼鉄の塊さがないはずの海の猛者から、「早く俺を暴れさせろ」という風に聞こえたという。

 

「さぁ、戦争の準備を始めよう。俺達は常に勝ち続けてきた。元寇、日清、日露、日中。アイツらはその事を忘れてしまっている。どう足掻こうとも、俺達には勝てない。それを思い出させてやる」

 

「そう言えばそうでしたね。アイツらは、一度も我々に勝てていない」

 

「そうだとも。今回も勝つ」

 

世界最強の戦力がそう闘志を燃やしていた頃、総理官邸では一色が総理の説得に動いていた。

 

 

「総理。今回の一件は、明らかなる我々への挑戦です!これを無視する事は、国を滅ぼしますぞ!!」

 

「そうは言うけどねぇ。そもそも、まだ声明は出てないんでしょ?なら対策の立てようが無いじゃないか」

 

(こんの弱腰オヤジが!!!!!)

 

現在の総理、玉野は悪い意味の伝説を数々残してきた人間である。小泉語録の様な迷発言は数知れず、何度かスキャンダルも握られた。そして彼自身、最近になって中国派の議員との繋がりも示唆されている。

 

「ともかく僕は、戦争なんて野蛮な事はしたくないんだ。場合によっては、あっちの要求を全面的に飲む事も考えている。勿論、まだそんなのは出てないから分からないけどね」

 

「あ、アンタ仮にも総理でしょう!?!?色々とすべき事があるでしょうが!!!!!」

 

「陛下はまだこの段階では出て来られない。今の軍の指揮権は僕にある。それを忘れないでもらおうか?全軍に下令。指示あるまで、待機せよ」

 

本来であれば統合軍におけるデフコンレベルは3の即時出動待機、なんなら4の臨戦体制の指示が出るのが定石となる。この侵攻が例え、三国の一部軍人の暴発によるテロ行為、つまり反乱軍の攻撃だったとしても、今日本固有の領土が占領されてるのには変わりない。それがセオリーである筈なのに、それをしない。これは明らかなる、国民への裏切りと言えるだろう。

 

「総理、今すぐにデフコンレベルを上げてください!!」

 

防衛大臣や一色らはそう叫ぶが、総理とその周りの派閥の人間は首を縦に振らない。一方その頃、中韓露側は今回の事態に関して連名で声明を発表した。

 

『魚釣島は中国、独島は韓国の固有領土であり、固有領土を奪還すべく行動した。そしてロシアは今回の件に、全面的に協力する』

 

要約するとこう言う事を言ってきたのだ。韓国は良しとして、中国とロシアという超大国二つに睨まれる形となった日本に、各国は固唾を飲んでそれを見守っていた。

だが特に動く事はなく、時間は刻々と過ぎていく。気付けばもう、翌朝になっていた。流石にこれには三英傑も黙っていられず、実力行使に出た。

 

 

 

翌日 皇居

「陛下、突然の訪問、誠に申し訳ありません」

 

「いえいえ。貴方がここまでするとは、何か良からぬ事が起きたのですね?」

 

本来であれば規則違反ではあるが、急きょ神谷は神谷家のコネを使って無理矢理、天皇陛下との面談を申し込んだ。

 

「えぇ。これを見てください」

 

「これは?」

 

「今の内閣危機管理センターでの様子です」

 

これまでの議事録のコピーを一色に頼んで送ってもらったのだ。これを前にすれば、陛下を引っ張って来られる。平時においては過去の大戦の反省もあり、憲法や法律上、天皇陛下はあくまで形式的な指揮権しか有していない。

だが、例外がある。今回の様に全軍の指揮権を持つ総理が職務に不適切と判断された場合や、何らかの形で公務実行が不可能な場合、例えば在任中に亡くなったり、行方不明になったり、倒れた場合、内閣からの要請があった場合は、旧憲法における天皇大権の発動が認められているのだ。

 

「これを私に見せたということは、私に大権を発動して欲しい、という事ですね?」

 

「はい。今回の一件、流石に見逃すことは出来ません。勿論外交ルートからの交渉を行うとの話は出ていますので、平和的に解決できるなら万々歳。ですが現状は、実力行使が最適解だと考えています」

 

「.......いいでしょう。天皇大権発動の準備に入ります。では神谷司令。統帥権に於ける指揮権を持って命じます。直ちに艦隊に帰還、出撃準備に入りなさい」

 

「アイ・サー!!」

 

この後の天皇の天皇大権発動までは、とてもすんなりだった。まず一色と川山に天皇大権発動の言質を取った事を知らせる符牒である『八咫烏来る』というのを、ネカフェのPCから送信。すぐに二人はそれに合わせた行動に移ってもらう。一色は自分の派閥閣僚と総理に不満を持つ閣僚と共に統帥権発動への準備を固めて貰い、川山は武力行使を背景にした外交への切り替え準備に入った。

昼過ぎには正式に、天皇の勅命として玉野の総理大臣の任を解き、その地位を剥奪。今後は事態解決までの間、天皇大権を発動し天皇が全ての決定権を握る事が正式に宣言された。

 

 

「皆さん、今日本は危機的状況にあります。今やれる事を、全力でやりましょう。まずは防衛大臣」

 

「ハッ!」

 

「何か具体策はありますか?」

 

「本職としましては、国家防衛策第666号の発動を進言致します」

 

この『国家防衛策第666号』とは、現在秘匿兵器となっている戦艦群を主軸とした主力艦隊と特殊戦術打撃隊の兵器群を大々的に使う作戦であり、今後の抑止効果も期待できる物である。

 

「わかりました。承認いたします。官房長官、何よりまずは臣民の安全確保に全力を挙げてください」

 

「お任せを」

 

「全軍に下令。国家防衛策第666号を発動すると同時に、レベル0を発令、、当該部隊への出撃を命じます。他部隊に関しても臨戦体制のまま待機してください」

 

この命令は皇国中の部隊へと駆け巡り、出撃準備に入った。まず一番に出撃したのは、神谷の指揮の第一主力艦隊。地下ドックの出撃口が初めて地表に姿を現し、周辺住民は周りに集まってきた。

 

「なんだありゃ!?」

 

「地盤隆起?」

 

「なんだなんだ?」

 

次の瞬間、中から勢いよく駆逐艦が飛び出してくる。一隻や二隻ではない。何十隻も絶え間なく。その内、巨大な艦影も飛び出してきた。

 

「あ、ありゃ大和だ!戦艦大和だぞ!!!!」

 

「んなアホな!?大和は呉、武蔵は佐世保だぞ。でもアレは.......」

 

「どう見たって大和だ.......」

 

そして最後に今までで一番巨大な艦が出てくる。まずは赤城型要塞超空母の『赤城』と『加賀』。そしてラストを飾るのは、勿論この艦。第一主力艦隊総旗艦、熱田型指揮戦略級超戦艦『熱田』である。

 

「で、デッケェェェェ!!!!」

 

「なんだありゃ!?海軍の秘密兵器か!?!?」

 

更に少し時を置いて、呉でも記念艦となっている大和が出撃準備に入った。出港ラッパが鳴り響き、外装を爆破。現代艦に改装された前衛武装戦艦『大和』としての姿を見せる。

佐世保でも同様に武蔵が同じ様に前衛武装戦艦『武蔵』としての姿を見せ、第一主力艦隊と合流。先島諸島近海の敵艦隊を目指して航行する。

 

「こりゃ世界中がビックリするぞ。在りし日の聨合艦隊が復活した様な物だからな。それも8個艦隊、全出撃だ。おまけに特殊戦術打撃隊の空中空母や空中母機なんかも出撃している。下手したら、アイツら尻尾巻いて逃げるんじゃね?」

 

「だったら万々歳ですね。そうは問屋が卸さない、なんてオチにならなきゃ良いんですが」

 

「どうせだったら陣形変えるか。各艦に伝達!陣形を変更し、戦艦を前に出す。中心は勿論、この熱田だ。サイドには赤城と加賀を付ける」

 

「アイ・サー。今の命令を伝達します」

 

一方その頃、第一、第四、第七海兵師団が与那国島奪還の為に出撃。これを援護するべく、空軍の航空隊と特殊戦術打撃隊の空中空母『白鯨』と空中母機『白鳳』が現場空域へと向かっていた。

 

 

「レーダーに感あり。機数60。いずれもステルス機ですね。空中空母の方へ向かっています」

 

「すぐに通報する」

 

通報を受けた白鳳は、直ちに航空隊を発艦.......させずに、敢えて敵をそのまま此方に引き込んだ。

 

『な、なんだありゃ!?』

 

『まるでクジラだ』

 

『おい、なんかデケェ全翼機もいるぞ』

 

『全機、ミサイル一斉発射だ!!撃てぇ!!!!』

 

航空機から空対空ミサイルが100発以上も撃たれるが、その程度で落とさない。何方も戦艦並みの防御装甲を持ち、巡航ミサイルを数十発一気に当てないと穴が開かない。まあ弱点もあるにはある。どっちもエンジンとかプロペラがやられれば落ちるし、白鳳ならレクテナという頭脳を破壊すれば落ちる。白鯨と黒鯨も艦橋をぶっ壊されれば制御不要になるので落ちる。

だがエースコンバットを見てもらえれば分かると思うが、そう簡単に出来る代物じゃない。おまけに白鳳に限っては、チート級のある物が搭載されている以上、攻撃は無効化される。

 

『なんだあの球体は!?』

 

『おい!あの丸いのに当たった瞬間、ミサイルが爆破したぞ!!!!』

 

『まさか、バリアなのか.......。そんなのSFの世界の話だろ!!!!なんで現実に存在してるんだよ!!!!』

 

そのある物とは、APS。つまりバリアである。こんなの実装されてちゃ、ミサイルだろうが機関砲だろうが、どんだけ撃っても無効化されてしまう。唯一破壊できるのは、熱田型の主砲とかだろう。

ミサイル攻撃が終わると「今度はこっちのターンだ」と言わんばかりに、白鳳から大量のMQ5飛燕が投下される。おまけに対空ロケットランチャーからも、大量の対空ミサイルが発射され、航空隊は大空を逃げ回るしか無かった。

 

『タリン3ー6、2ー9、ロスト!!』

 

『イワン、振り切れ!!』

 

『うぉぉぉぉぉぉ!!!!! ガッ』

 

空中には爆炎と、撃墜された航空機の残骸が無情にも散らばっている。仲間が堕ちている中、腕のある物は無理矢理下へと潜り込んでミサイルを叩き込もうとした。

だが下方にはTLSというレーザーと、パルスレーザー砲が搭載されている。翼を焼き切られた航空機達もやはり、堕ちていく。そして一部は攻撃目標を白鯨にしていた為、どうにか白鳳の攻撃を逃れた。

 

『仲間の恨みだ!!』

 

『ミサイル、発射ァァァ!!!!!』

 

だが此方には、盾となる支援プラットフォーム『黒鯨』がいる。ミサイルは空中で撃墜され、戦闘機も同様に堕とされた。ものの数分で60機の中韓露のステルス機は撃墜され、何事もなかったかの様に白鯨、黒鯨、白鳳は先島諸島を目指す。

空での攻防が終わった数時間後、赤城と加賀からAGM255銀河を搭載したF8C震電IIが発艦。与那国島に搬入された中国軍の地対空ミサイル、紅旗8とロシア軍の地対空ミサイルシステム、96K6 パーンツィリS1の破壊に動いた。

 

『アザゼル1より、オールアザゼル。スタンバイ』

 

『『『ウィルコ』』』

 

『レディ、ドロップナウ!!』

 

アザゼル隊の四機は銀河を全弾投下し、銀河は投下後一秒の時差を置いてエンジンに点火。亜音速で目標を目指す。

 

『アザゼル1より、オールアザゼル。お客さん歓迎のクラッカーは放った。帰還するぞ』

 

『迎撃機にでも来られたら、溜まったもんじゃないっすもんね』

 

『そういう事だ。アザゼル1、ミッションコンプリート。RTB』

 

『2、コピー』

『3、コピー』

『4、コピー』

 

アザゼル隊は任務を終えたので、さっさと帰還。その間にも銀河は中韓露のレーダーに悟られる事なく、極超音速で与那国島を目指す。

既に与那国島には各部隊に先んじて、海軍陸戦隊の戦艦陸戦隊、IJMが既に伊2590潜の援護を受けて、SDVを用いて一個分隊が上陸している。この隊員達の終末誘導する事により、地対空ミサイルを完全に破壊するのだ。

 

「来るぞ」

 

「!?来た、来ました」

 

「赤外線、照射。精密誘導開始!」

 

機動甲冑に装備された赤外線照射器が作動し、赤外線をパーンツィリS1へと照射。数十秒後、これを頼りにやってきた銀河は正確に命中。パーンツィリS1と周囲のミサイルにも誘爆し、操作担当の兵士ごと完全に消し飛ばした。

 

「やった!」

 

「他の場所でも破壊に成功しました!」

 

「浮かれるなッ!あくまで固定式の地対空ミサイルを破壊しただけに過ぎない。戦闘機は活動できるが、輸送機やヘリコプターにはまだ歩兵の携帯式地対空ミサイルがある以上、まだ脅威は残っている。我々が気を抜けば、今後やってくる本隊に損害が出る。いいな、浮かれずに次の任務に集中しろ。全てが終わったら、みんなで飲みに行くか」

 

隊長のこの一言に歓喜の声を上げそうになるが、そこはプロ。声を抑えて、静かに喜んだ。

この攻撃で地対空ミサイルは破壊したので、これから先の作戦がやり易くなる。次なる攻撃は与那国島近海に展開している、敵連合艦隊への攻撃。この攻撃には勿論、第一主力艦隊がむかうこととなった。

 

 

「さぁ、いよいよ現代の戦艦の力を振るう時が来たぞ。全ての猛訓練は、今この瞬間の為だけにあったと思え。対水上戦闘、用意ッ!!!!!」

 

「対水上戦闘よーい!!」

「各砲塔、弾薬陽弾用意!!」

「各艦に下令。大和型前衛武装戦艦は、我が艦を基準に鶴翼の陣をしけ!」

 

大和と武蔵を含む八隻の大和型が、熱田の周りに集結し鶴翼の陣を取る。この陣形のまま、与那国島へと突撃を開始。すぐにその姿は、近海に展開していた中韓露連合艦隊のレーダーに捉えられた。

 

「レーダーに艦影!敵艦、方位013。!?なんだこりゃ!」

 

「どうした?」

 

「いえ、あの。レーダーの艦影が明らかに大きいのであります」

 

「空母でも出張ってきたのか?」

 

現代の艦船は、大型艦といえば原子力空母程度。戦艦なんて発想は、端から存在していないのだ。だがレーダーに移る艦影は、八隻こそ空母と同程度の質量なのだろうが、中心の一隻だけは明らかに頭二つ三つ抜けてデカい。

というか軍民問わず、最大級の艦船を軽く超えてるのは明らかである。因みに最大級の艦船は448mである。だが知っての通り、熱田型の全長は約3倍の1500m。非常識すぎる大きさなのだ。

 

「いえ。周りは恐らくそうでしょうが、中心の艦は明らかに1kmクラスはあります」

 

「プラントでも引っ張ってきたのか?」

 

勿論そんな作戦は、事前計画にはなかった。取り敢えず航空機を上げて、目視での確認を取ることとなった。最初は衛星を使うつもりだったが、丁度近くに使える衛星がいなかったのだ。おまけに良い感じに艦隊のある辺りの上空が曇りで、これまでの記録映像も全く意味を成してないときた。こうなるともう、有視界での目視による観測しかない。

 

「偵察機、発艦します」

 

中国海軍の航空母艦『福建』から、殲20ことJ20が発艦する。J20にはカメラが内蔵された偵察ポッドと電子戦ポッドを装備しており、緊急時に情報が持ち帰られるように護衛まで付けていた。

知っての通り、J20はステルス機。故にレーダー反射断面積も小さく、レーダー波を吸収するので、低空で飛行すると結構な距離まで近付かないとレーダーには探知されなくなる。このセオリーに従い、偵察隊は偽装で適当な進路に向かった後、低空から第一主力艦隊を目指した。だがしかし、その程度で皇国海軍の目は誤魔化せない。皇国海軍、というより全ての皇国軍の対空レーダーには、標準でステルス機を看破できるレーダーシステムが導入されている。レーダー波が吸収されるかレーダー波が明後日の方向に反射されるのがレーダー波の流れから検出できる様になっており、ステルス機の意味を成さなくなったのだ。

そんな訳で、発艦してから低空で飛行して接近するまで、全部筒抜けなのであった。

 

「どうやら敵さん、我々の姿を見にくる様ですな」

 

「なら、見せてやろうじゃねーか。念の為、対空戦闘の準備もしておこう」

 

艦長の報告に、神谷は不敵な笑みで返した。程なくしてJ20は艦隊付近に到達し、一気に急上昇。艦艇の姿を見たパイロットは、言葉を失った。

 

「あり得ない.......。戦艦大和が動いてる.......」

 

「しかもこんなにいるぞ。史実じゃ確か、大和と武蔵と紀伊と尾張しか戦艦として建造されてないはずだ。信濃は空母になってるしな」

 

「というか、あの中心の戦艦はなんだ!?あんなバカでかい船、初めて見たぞ」

 

パイロット達はその威容に恐怖し、何よりこの時代に戦艦が復活した事に驚いた。因みに現実では「大砲を搭載した艦艇」と戦艦を定義した場合、最後の戦闘は湾岸戦争に於けるアメリカ海軍のアイオワ級戦艦三番艦『USS Missouri』と四番艦『USS Wisconsin』による1993年2月23日の陽動作戦に於けるファイラカ島への砲撃が最後となってる。

おいそこ!映画バトルシップを勘定に入れるんじゃない!!アレはまあ、カッコいいけど映画だ。やめなさい。あれは「物語」であって「現実」ではない。

 

「敵さん、驚いたでしょうな」

 

「そうだな。よし、じゃあこのまま全速前進。敵艦隊へ突撃せよ!ってな」

 

「アイアイサー、って所ですか?」

 

敵戦闘機4機が真上を通過したっていうのに、ここまで自由なのは一重に熱田の防御力の高さ故だろう。例え数千発の対艦ミサイルを喰らおうと、核が真上で炸裂しようと、この戦艦はビクともしない。大和型も核は流石に無理だが、対艦ミサイル程度では凹みと焦げを当たえるのが関の山だ。

そんな事を知らない3カ国の司令は、同時飽和攻撃での撃滅で満場一致した。すぐに空母を持つ中国海軍とロシア海軍から、対艦ミサイルを満載した艦載機が発艦。他の艦艇も対艦ミサイルの発射準備に入った。

 

「対艦ミサイル、全弾発射!!」

 

韓国海軍の海星II、ロシア海軍のPJ10ブラモス、中国海軍のYJ18Aが戦艦達へと猛スピードで飛んでいく。それだけではない。艦載機からも艦対艦ミサイルが一斉に発射され、総数280発の有り得ない量が襲い掛かる。

だがその程度で止められるほど、この戦艦達はヤワではない。

 

「敵ミサイル探知!!」

 

「弾幕で迎撃しろ」

 

「両舷、同時対空戦闘。本艦の両舷より、まっすぐ突っ込んでくる。目標まで15,000。撃ち方始め!!!!」

 

ズドドン!ズドドン!ズドドン!ズドドン!

 

ズドン!ガシャコン、ズドン!ガシャコン、ズドン!ガシャコン

 

戦艦の両舷に設置された速射砲群は、全てが駆逐艦の主砲に採用されている物ばかり。現代の駆逐艦の主砲は対空戦闘にも用いられ、その命中精度と連射性能はとても高い。そんな砲が、数千門も向けられたのだ。どんなに大量のミサイルを撃ったとしても、完璧に迎撃できてしまう。

 

「航空隊、発艦開始!目標、敵戦闘機隊。急げッ!!」

 

本来であれば、敵前での艦載機発艦など自殺行為に等しい。だがこの熱田に限っては、そればかりではない。熱田の発艦口は艦後尾に存在しており、さらに普通の艦載機よりも素早く艦載機隊を展開できる。

通常、飛行甲板から発艦するまでに3分程度は掛かる。それ以降は待機中にエンジンの回転数とかも上げられるので、もう少し短縮できるが、それでも1分から2分は掛かる。だが熱田型は10秒で一機を発艦させることが出来る。100機の艦載機を上げるのに掛かる時間は1000秒+αと言ったところなので、16、7分で全機発艦可能なのだ。

因みに今回は主翼下大型パイロンにAIM63烈風を満載したマルチパイロン、胴体内中型パイロンにAIM63烈風、胴体内小型パイロンにはAIM25紫電を装備している。

 

「急げ急げ!!」

「エンジン回せ!!!!」

「よし、こっちは行けるぞ!」

「機体移動させるぞ!」

「行け行け行け行け!!GOGOGO!!!!」

「っしゃぁ!!行ってくる!!!!!!」

 

格納庫内は整備兵と、パイロットの怒号が飛び交う戦場であった。準備が完了した機体から順次、大空へと上がって行く。その間にもミサイルは飛んできており、弾幕は絶えず張られ続けている。だがそんな危険な状態でも、パイロット達はお構い無しに発艦して行った。文字に起こすととても簡単そうに聞こえるが、この行為は自殺行為でしかないし、というか並みの練度ではすぐ海に堕ちるのがオチである。こんな馬鹿げた行為を可能としているのは、一重にパイロット達の強い度胸と高い練度を持った操縦スキル故である。

 

「全艦載機、発艦完了!!敵編隊への攻撃に向かわせます!!!!」

 

「よし、航空隊が敵を引きつけてる間にこのまま艦隊へ突撃するぞ。最大戦速!!!!全艦突撃隊形、砲雷撃戦、用意!!!!」

 

「最大戦そーく!!」

「全艦突撃よーい!!」

「総員、砲雷撃戦よーい!!!!」

 

艦隊は熱田を前にして、一列に並ぶ。そのまま敵艦隊向けて、突撃を開始した。

勿論この動きは敵には筒抜けであり、第二波の対艦ミサイル攻撃に移った。だが、こちらも撃退されてしまう。いつしか敵艦隊は主砲の射程距離にまで近づかれてしまい、対空戦闘を意識して対艦戦闘は元から殆ど想定してない主砲を撃ってくる。

 

「主砲、撃てぇ!!」

 

「全く。こんな非力な主砲で敵艦と砲撃戦とは、笑えねぇんだよ!!」

 

「擊ちまくれ!!撃ちまくれ!!」

 

最大口径130mmの砲弾では、例え特殊な弾頭を持った弾種を用いて口径以上の威力を手に入れたとしても、熱田は核爆弾に耐え切る装甲を備えているし、大和型も自艦の主砲である510mm砲を弾ける装甲を持っている以上、130mmでは豆鉄砲以下の威力にしかなり得ない。

 

「よーし、砲撃準備だ。弾種、榴弾。信管VT。目標、敵艦隊の前衛駆逐艦!」

 

「主砲砲撃よーい。弾種、榴弾。信管VT」

 

いよいよ熱田の主砲である710mm四連装砲と、副砲である510mm三連装砲に砲弾が装填される。実戦での砲撃は、勿論これが初めてであり、乗組員達にも緊張が走る。

 

「撃て!!!!!!」

 

神谷の号令と共に、CICで発射トリガーが弾かれた。砲弾は海面と空気をこれでもかと震えさせ、砲弾は着弾前に起爆。破片は船体を貫通し、内部を完全に破壊。すぐに沈み、轟沈した。

 

「両舷機関砲、速射砲群。撃ちまくれ!!!!」

 

現代艦というのは、ミサイル技術の発展により艦隊決戦、つまり数十キロまで互いに接近して、砲火を交えるという戦闘スタイルを設計の段階から想定していない。その為、装甲も必要最低限である。小型艇が衝突しただけでも、最悪沈んでしまうくらいに脆い。また精密機械の塊であり、その精密機械が晒されているのも特徴である。

その為、速射砲や機関砲も重要かつ強力な攻撃手段となる。船体を穴だらけにし、片っ端から沈めていった。キーロフ級や空母の様な大型艦には、こういう時に使う為に装備されてる近距離で使える対艦ミサイルを多連装発射機を使って一挙に大量に撒き散らす。20隻はいた敵連合艦隊は、ものの10分でその姿を海中に消した。艦隊は一度、他の第一主力艦隊所属艦と合流すべく転身。海軍陸戦隊についても、夜を待っての上陸となるので近海で待機となった。

 

 

 

 



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第五十四話東亜の日の出

中韓露連合艦隊との戦闘より数時間後 尖閣諸島上空

「よし、お前達。行こうか」

 

あの海戦より数時間後、精鋭の第一空挺団と国家憲兵隊の選抜チームの姿は尖閣諸島上空のC2屠龍の機内にあった。彼らの任務は空挺降下し、尖閣諸島の資源採掘施設の奪還にある。

今回は屋内戦闘も考慮される為、屋内戦闘においては右に出る者がいない、本来なら出張ってこない対テロ特殊部隊の国家憲兵隊が態々出向いている。

 

「降下開始!!」

 

闇夜に紛れて、精兵達は舞い降りる。これに呼応し、近海に進出している第三主力艦隊の要塞超空母『大鳳』から、AGM255銀河を搭載したF8C震電IIが発艦。陽動ついでに紅旗7を破壊した。

 

「陽動攻撃だな。そのまま、こっちには気付かないでくれよ.......」

 

今回の指揮を取る第一空挺団、第一大隊の大隊長、迫水少佐は奴らの目が此方に向かない事を祈った。その祈りが通じたのか、全員が無事に尖閣諸島に着地した。

 

「ではこれより、作戦を開始する。第一空挺団はこのまま奴等の司令部や兵舎を破壊し、国家憲兵隊はプラットフォームを奪還する。間違い無いな」

 

「任務の認識に問題はない。そちらの武運を祈る、迫水少佐」

 

「あぁ。亀岡少佐、そちらも武運を」

 

ここで第一空挺団と国家憲兵隊は別れ、第一空挺団は左回りで司令部を目指し、国家憲兵隊は元レンジャーの亀岡少佐指揮の下、右回りでプラットフォームを目指した。

先に目標地域に到達したのは第一空挺団で、偵察ドローンの蝶を使って偵察を開始した。

 

「外に歩哨は合計10人。さらに東西南北に監視塔が一つずつあって、メインゲートにはサイドに監視塔が二つ。内部には迫撃砲が六門、M389 155mm榴弾砲が二門、Kord重機関銃装備のトーチカまである.......」

 

「こっちの手持ち装備が対戦車ミサイルと迫撃砲ですから、まあ突破できなくないでしょうけど.......」

 

「したっくないっすよねぇ.......」

 

見るからに要塞化された司令部に、流石の第一空挺団も悩む。勿論「尻尾巻いて撤収!」なんて事は一瞬たりとも浮かばない。彼らは例え自分が死ぬことになったとしても、任務を優先させる訓練を受けた者達。投げ出すつもりは毛頭ないが、現実問題として要塞をどうにかしないと犬死である。

旧軍では犬死だろうが何だろうが、兎に角死ぬ事に意味がある、という様な風潮が存在した。しかし現在の皇軍ではその風潮は解消されて、「任務中に死ぬ事は兵士に取っての誇りである」というのは変わってないが、犬死は単なる愚かな死として考えられている。また「御国の為に死ぬ」というのも、「生き抜いて戦い、最後の最後まで戦い尽くしてから死ぬ事こそ、御国の為である」という風になった。

 

「取り敢えず、蜘蛛を忍ばせておけ。せめて、ジャミング位はしたらマシだろ」

 

「そうですね。すぐにコマンドを実行します」

 

蝶を動かしていた兵士がパソコンにコマンドを入力して、腹に収めてある偵察ドローンの蜘蛛を投下。そのまま室内に潜入させて、手近なサーバーの回線に潜り込む。

 

「ハッキング、開始します」

 

蜘蛛に搭載されたウイルスで、監視システムのコントロールを奪い取る。これで監視カメラのオンオフも扉の開閉も、何だってできる。

 

「ではこれより、攻撃に移る。迫撃砲はあそこの丘まで前進し、敵陣に砲撃を実施。目標は相手の迫撃砲とトーチカを最優先とし、これの破壊が終わり次第、こちらの要請に適宜応えつつ自由射撃。

他の者は陣地に突入し、司令部機能を破壊する。では諸君、行くぞ!!」

 

斯くて、精兵達は動き出す。迫撃砲班が丘へと登り、狙撃チームは岩山に陣取った。残りの突撃隊は近くに待機し、開始時間を待つ。そして約30分後、作戦開始時刻となった。

 

 

「半装填!」

 

「半装填、よし!」

 

「発射!!」

 

六門の21式81mm迫撃砲が一斉に発射され、榴弾が正確に敵の迫撃砲陣地を吹き飛ばす。続く第二射では、徹甲榴弾に弾種を変更してトーチカを吹き飛ばした。

 

パシュン!

 

「First shot、HIT。次、左。同一角度。aim、fire!」

 

パシュン!

 

「Second shot、HIT」

 

ベテラン狙撃兵と相棒の観測手のコンビが、正確にメインゲートの監視塔にいた監視を撃ち抜いた。狙撃と迫撃砲による砲撃、というかそもそも陽動の空爆で混乱していた中国軍とロシア軍は、あちこち駆けずり回っていて、纏まりが無くなっていた。

 

「行くぞ!!!!」

 

迫水が先に飛び込み、その後ろから精兵達が続く。彼らはまだ一度も、実戦は経験したことがない。だがこの日の、この時の為にこれまで訓練を積み続け、発足当時より諸外国の軍隊からも、その軍隊に在籍し実際に戦場に立った退役軍人からも「彼らが敵として戦場にいたなら、私は殺されていただろう」という言葉を常にもらい続けた部隊なのだ。中国やロシアにだって、例え実戦を多く経験しているアメリカにだって勝ってみせる。

隊員達はツーマンセルの陣形を徹底し、高次元で確立されたフォーメーションと連携で確実に、迅速に、敵を倒していく。

 

ドカカカカカ!ドカカカカカ!

 

「リロード」

 

「今だ!!」

 

例えば相棒がリロードしていて攻撃が止まってしまった時に、敵がこれ幸いと銃を向けてきたとしよう。

 

ドカカカカカ!

 

「グハッ!!」

 

背後に控える仲間が撃つ前に、敵を倒す。はたまた敵が大人数で来よう物なら

 

「行け行け!!」

 

「魚釣島は我々の領土なんだ!追い返せ!!!!」

 

「スモーク」

「グレネード」

 

先に背後にいた奴がスモークを投げて敵の視界を奪った上で動きを止め、追い討ちに前の隊員がすかさず手榴弾を投げ込む。真ん中で起爆した手榴弾は、周囲に爆炎と破片を撒き散らして兵士達をズタボロに引き裂く。

だが中には生き残ってる者もいるのだが、スモークによる煙幕とグレネードの爆炎で視界が悪く、同士討ちを避けるためにもライフルの引き金を引くことが出来ない。

 

「だが、そんなのは関係ない」

 

「攻撃してこないなら、こっちが攻撃するまで」

 

いや、あの、ナチュラルにこっちの文と会話するのやめてもらって良いですかね?

とまあ、こういう茶番は置いておいて。撃ってこないのを良いことに、逆にフルオートで制圧射撃を掛けて挽肉ミンチへと加工していった。更にアンテナを見つけよう物なら、38式携行式対戦車誘導弾を叩き込み瓦礫へと変貌させる。

突入よりわずか15分で敵陣地を完全に占領した。それでは今度は、少し時間を巻き戻して国家憲兵隊の方を見てみよう。

 

 

「今回、あっちが無駄にやたらめったら暴れる。なら我々は忍者のように、静かに敵を倒していこう。総員、サプレッサー装着。フォーメーションを維持しつつ、突入。以後の会話はハンドサインを持って伝達する」

 

今回の司令部強襲は、こちらのプラットフォーム奪還の陽動も作戦の内になっている。向こうがド派手に大暴れしている間に、国家憲兵隊が静かに敵を殲滅していく手筈なのだ。

別に映画みたいに扉を爆破して、部屋ごとにグレネード投げ込んで制圧射撃したって良いのだが、今回の戦闘は、軍内では一つの訓練とも位置付けてある。勿論、何かあれば何が何でも生き残るのが命令されているが、部隊長クラスには「可能であれば、自分達が最も得意とする戦法や伸ばしたい戦法を使用せよ」とお達しが出ているのだ。亀岡はそれに従い、国家憲兵隊の最も得意とする静かな制圧を選択したのである。

因みに国家憲兵隊の主任務は、対テロ任務や人質奪還。つまりフランスの国家警察介入部隊GIGNやドイツのGSG9みたいな組織である。この二つの部隊とは良きライバルであり、訓練であった時は本気でぶつかり合うのがお約束でもある。

 

(突入開始)

 

静かにプラットフォームの敷地内へと入る国家憲兵隊。空挺団はツーマンセルのバディを組んで制圧していたが、こちらは全員が一列となって静かに制圧していく。今回は態々防弾盾まで持ち出しており、前衛の人間が装備している。

 

「俺達は待機なんだよな?」

 

「あぁ。どうやら今回の侵攻で、上が一番欲しいのはここの資源採掘プラットフォームらしい。ここの資源を使って、伸び切った産業に息を吹き替えさせるんだと」

 

「一気に成長しすぎた弊害、ってヤツだな」

 

世間話に夢中になっている歩哨二人を背後から忍び寄って、ナイフで首を切り裂く。そのまま死体を近くのゴミ捨て場まで引き摺り、そこに遺棄する。懐を漁るとセキリュティカードが手に入ったので、それを使って内部に続く通用口を解放。半数が突入し、残り半数が外の敵の殲滅に移った。

 

「フゥ。日本の奴らも、黙っちゃいないってことk」

 

パシュン!

 

外を警備する兵士達は、兎に角素早く殲滅されていく。中には仲間の死体を括り付けて、海に突き落として溺死させられる可哀想な奴もいた。

一方、中の方は確実に静かに殲滅されていった。

 

(部屋に突入)

 

ハンドサインを合図に、フラッシュグレネードを部屋へと投げ込み中に雪崩れ込む。

 

シュタタタ!シュタタタ!シュタタタ!

パシュン!パシュン!

 

中で目を押さえながらのたうち回る兵士を殺し、すぐに部屋から出る。そしてまた、他の部屋へと同じように入っていく。

 

「ここが中央コントロールルームか」

 

「完っ璧に要塞化してますね」

 

内部に突入してからも細かく別れていき、亀岡と精鋭の四人は地下の中央コントロールルームに続く廊下にいた。ここを曲がれば中央コントロールルームなのだが、見事なまでに土嚢と軽機関銃で要塞化されてしまっている。

 

「どうする?」

 

「グレネードで吹き飛ばしましょう」

 

「豪快だが、それで行こう」

 

すぐに43式小銃の下部マウントレールに装備されたグレネードランチャーに榴弾を装填し、精鋭4人の援護射撃の後に発砲する。

 

「撃て!!」

 

シュタタタ!シュタタタ!シュタタタ!

ポンッ!!!!

 

発射されたグレネードは正確に機関銃陣地の後方まで飛んでいき、近接信管が作動して無事に起爆。機関銃手ごと、機関銃陣地を吹き飛ばした。

 

「行け!!!!」

 

亀岡を先頭に、中央コントロールルームへと飛び込む。中にも数人の兵士がいたが、その程度で精鋭達は止まらない。銃に手をかける前、手がホルスターに伸びてる時にはもう鉛玉を撃ち込まれている。

 

「これで、ここは落ちましたね。後は上の管制室ですか」

 

「あぁ。もうすぐ、上も制圧される頃だろう」

 

同じ頃、最上階にある管制室も制圧されようとしていた。この管制室は飛行場の管制塔のように、360°全面がガラス張りになっている。今、国家憲兵隊の面々は管制室の真下と、内部に続く扉の前に陣取り時を待つ。

 

「3、2、1。開始」

 

まず外の隊員達が一斉にグラップリングフックで、一気に上の管制室のガラス張りの部分まで駆け上る。

 

「撃て」

 

シュタタタタタタタタタタタ!!!!

 

ガラスの前で止まり、中に向かって全員がフルオート射撃を見舞わせる。これまでは弾薬の節約や、そもそも静かに殲滅してたのもあって、メインアームとなっている37式短機関銃も3点バーストでの射撃であった。

だが今回は「最後の花火」と言わんばかりに、フルオート射撃で1マガジン、9mm拳銃弾61発を室内へと一斉に叩き込む。一応サプレッサーをしてるのに、数十人が一斉にフルオートで撃っているのもあって、殆どサプレッサーの意味を成してないが気にしてはいけない。

 

「な、なんなんだ!!」

 

「おいこっちだ!!!!」

 

中には10人前後いたが、内2人が管制室から脱出するべく下へと続く階段へと走った。

 

「はぁ!はぁ!奴ら、なんなんだよ!」

 

「日本軍に決まってんだろ!!あんなに強いなんて、聞いてないぞ!!!!」

 

そう言いながら走る2人の前に、扉が見えてきた。この扉を抜けて廊下を走り、角を2つばかり曲がれば武器庫がある。そこで体勢を立て直す事を考えていた矢先、扉が勝手に開いた。自動ドアではなく、手動で開けるタイプであるし、重量もあるので風とかでは開かない。というかそもそも、ここは室内で近くに窓なんて無い以上、勝手に開く筈がない。

 

「撃て」

 

ドカカカカカカカカカカ!!

 

なんと扉の先には42式軽機関銃を装備した3人の隊員が居て、助かろうとした2人に無慈悲な弾幕射撃を食らわせた。

この2人の殺害を持って、尖閣諸島に侵攻していた歩兵は全員殲滅され尖閣諸島自体は空挺団が。資源採掘プラットフォームは国家憲兵隊がそれぞれ完璧に掌握した。

一応近海にいた054型刃海級ミサイル巡洋艦1隻、052型旅様IIIミサイル駆逐艦3隻からなる艦隊が尖閣諸島に展開した皇国軍殲滅の為に急行していた。しかし、その動きは既に与那国島へ向かっている第二主力艦隊の潜水艦により捕捉され、海からの刺客が向かっていた。

 

 

 

054型刃海級ミサイル巡洋艦『大連』 艦橋

「司令、もう間も無く射程範囲内です」

 

「よし。CICに巡航ミサイルの発射準備を命令したまえ」

 

「はい。しかし、本当によろしいのですか?」

 

大連の艦長は、この任務、というより作戦自体に些かの不安を持っていた。幾ら軍事力が自国より下(実際は世界最強だが、その大部分は隠されていたので仕方ない)とは言えど、核を持った立派な先進国。国連の常任理事国にも名を連ね、アジア諸国のリーダーとして国際的地位も高い大日本皇国に敵対して、本当に良いものかと。

そして何より、尖閣諸島へのミサイル攻撃は勿体無いと思っていた。あそこには日本が態々自国の税金で作った採掘施設がある。それを破壊せず、有効活用して使うのも一つの手だ。

 

「艦長、二度は言わんぞ」

 

「はい、失礼致しました」

 

艦長がCICへ指示を出そうとした時、奴が海中から飛び出した。特殊戦術打撃隊の保有する二足歩行戦車(メタルギア )、水虎4体が各艦に張り付く。

 

「うおぉぉ!?!?」

 

「な、なんだ!?!?」

 

数十トンはある鋼鉄の塊が、いきなり甲板にのしかかった事で艦内は地震の様に揺れる。これだけで頭をぶつけたり、何かの下敷きになって負傷した者も4隻合わせて10人位は出ている。

 

「か、艦前方に巨大なロボットです!!」

 

「主砲で撃ち抜け!!!!」

 

「だ、ダメです!!アイツ、主砲を踏み抜いてます!!!!」

 

「ならCIWSだ!!!!」

 

「は、はい!!」

 

艦長が艦内マイクにしがみ付き、どうにかCICに命令を伝える。すぐに砲雷長が命令を飛ばし、どうにかH/PJ12型30mmバルカン砲を起動させる。

 

「手動照準!!目視にて撃て」

 

「は、はい!!撃ち方始め!!!!」

 

30mm弾が発射されるも、水虎には全く効かず甲高い金属音が鳴るだけであった。水虎は攻撃してくるCIWSを黙らせるべく、脚で踏み付けた。そのまま脚が艦内にまで貫通し、直下にいた兵士は潰されてしまうし、なんなら下まで大穴が空いてしまった。

だが幸いな事に、真下への穴だったので浸水も大きさの割に少なくで済んだ。だが次の瞬間、水虎は右腕を艦橋へと突き刺した。

 

ガジャン!!ギギギギッ.......!

 

そしてそのまま、腕部60mm機関砲を艦内へ向けてばら撒いた。至近距離で撃たれた事で、砲弾は貫通し艦後部に降り注ぐ。後部にはVLSの他、ヘリ格納庫や近SAMまであり、簡単に言うと爆発したらヤベェ物が大量にある。

そこに砲弾がぶつかったら、どうなるだろうか?

 

ドッカーーーーーン!!!!!

 

大爆発である。何せVLSに収まってた対空ミサイル、対潜ミサイル、対艦ミサイル、巡航ミサイル、対艦弾道ミサイルが誘爆。ついでに後方のヘリ格納庫に格納されてるZ9C 2機と中の燃料と弾薬にも誘爆。その爆炎が上の近SAMに巡り、これも爆発。VLSの爆発で艦内と煙突にも爆炎が周り、その先にある機関も漏れなく爆発。一瞬で戦闘能力と航行能力を失い、後はもう潮の流れに身を任せる他無くなった。因みに他の艦も大体似た様な感じで、いずれにしろ地獄である。最後に水虎は口部に搭載された水圧レーザーカッターで、艦を両断して海へとまた潜って行った。

艦隊の消滅に尖閣諸島との通信途絶。これに加えて昼間の与那国島近海での戦闘や白鳳によって殲滅された航空隊なども鑑み、連合軍は与那国島に展開していた部隊を一度、台湾まで引き揚げる事を決定した。奇しくもそれは、海軍陸戦隊の上陸一時間前であった。

 

 

「司令、統合参謀本部より入電。どうやら敵さん、与那国島から撤退を始めたらしいです」

 

「なに?」

 

神谷はこの報告に耳を疑った。ここまでしておいて、撤退する理由が分からない。単にこっちに怖気付いての撤退なら問題ないが、もしこれが何か別の作戦の為の布石であるなら、排除しておく必要がある。

 

「取り敢えず、航空機で偵察させろ」

 

「了解しました。当直飛行隊に発艦指示を出します」

 

命令を受けた航空隊はすぐに与那国島上空に急行。偵察行動に移った。多数の写真を撮り、レーダーでも確認したが、本当に撤退してるだけの様だ。

 

「本国に逃げ帰るんですかね?」

 

「どうだかな。あの国共はトップの面子で、下っ端を回してくる。今回の作戦、既に我々が悉く潰した。航空隊を失い、尖閣諸島と資源採掘基地も奪還され、竹島も第八主力艦隊が包囲してる。そして今、奴等は与那国島からも撤退している。あんだけの軍隊動かして「何の成果も、得られませんでしたぁぁ!!」なんて、何処ぞのキース教官みたいな事を言ってみろ。トップのメンツは丸潰れだ」

 

「.......まさか」

 

「多分奴ら、少なくとも中国は台湾へ兵員数を増強させる気だ。与那国島に送っていた部隊や、送る予定だった部隊をあてがって」

 

この神谷の読みは大当たりだった。この大攻勢は失敗に終わったが、手ぶらで帰国する訳にもいかない。そこで三国は台湾を完全に攻め滅ぼし、今後の日本への橋頭堡とすることを考えたのである。

 

「司令、どうなさいますか?」

 

「どうするもこうするも、今のは俺の勝手な憶測だ。流石にこの規模の部隊を憶測だけでホイホイ動かす訳にもいかない。このまま監視を実行するが、何か手は打っておくさ」

 

とは言っても、すぐには手は浮かび上がらない.......と思っていた時期があった。この話をした10秒後には浮かんだのだ。すぐに東京にいる2人に連絡して、ある事を頼んだ。

 

『なに!?お前それ、マジで言ってるのか?』

 

「マジもマジ、大マジだ。これだけの戦力が台湾に向いてみろ。台湾が地図から消え去るのも、時間の問題ってヤツだ。それを説明してだな」

 

『あのなぁ、あっちの軍隊にもプライドがあるだろ』

 

一色は神谷の意見に否定的だったが、川山は「案外いけるかも」と言いいだした。

 

『確かに普通ならそうだが、相手となる中国の恐ろしさは多分、世界にある国々の中で一番理解してる。だからきっと、向こうとしても願ったり叶ったりの筈だ』

 

『あーもー、外交のプロと戦争のプロが言うんだ。陛下はこっちで説得するから、そっちはそっちで動きやがれ!』

 

神谷発案の作戦は一色経由で無事に天皇の認可を得て、川山が台湾政府との交渉に入った。そしてその交渉も、これまでの日本の功績と現在の状況を鑑み、特例として速やかに認められ、神谷の作戦は晴れて、現実の物となったのだ。

 

 

「さーて、野郎共。作戦開始だ。これより我が艦隊は、敵艦隊の追撃に入る。目標は台湾だ。この作戦には台湾に上陸した我が国への侵攻部隊も、作戦目標に入っている。さぁ、殲滅戦の開始だ!!!!!」

 

神谷の考え出した作戦とは、今回の一件で攻め込んできた連合軍を『追撃』という形で追いかけて、そのまま台湾近海と上陸した場合は台湾で殲滅するという考えである。この作戦には第一から第四までの主力艦隊が参加し、台湾近海を完全に封鎖する手筈になっている。おまけに海軍陸戦隊と一部の特殊な陸上部隊も動くので、連合軍に勝ち目なんてない。

 

「機関始動!最大船速へ!!!!」

 

艦隊は動き出し、進路を台湾のある西へと取る。時を同じくして、沖縄からとある特殊な陸上部隊がC2屠龍に乗って、台湾の首都である台北上空を目指していた。この部隊こそ、後に『近代軍隊に於ける最強の戦闘集団』との呼び声高き神谷戦闘団、そして特殊部隊をも凌ぐ練度を誇る世界最強の精鋭集団である白亜衆の前身となった『海軍特別陸上機動旅団』である。

神谷戦闘団同様に、小規模ながらも最新の46式戦車や51式510mm自走砲を装備した精鋭機甲部隊を有した部隊であり、旅団規模でありながら、その攻撃力は師団規模に匹敵する。

 

「突撃戦隊に下令!敵艦隊に突撃し、ご挨拶してこい」

 

「アイ・サー!」

 

暫くして神谷は、前衛の突撃戦隊に敵艦隊への突撃を指示。命令を受けた突撃戦隊は、嬉々として艦隊を離れ敵艦隊への突撃を敢行した。

 

「うっしゃぁ野郎共!!!!!ウチの祖国汚しやがったクズ共に、我らの怒りを叩き込みに行くぞ!!!!」

 

先頭を走る突撃重装巡洋艦『阿武隈』に乗る司令が無線で叫ぶと、無線の奥から雄叫びが聞こえてくる。どうやら、皆闘志は十分のようだ。

そしてこの突撃戦隊の動きは連合軍に捉えられており、すぐにミサイル攻撃を仕掛けてきた。だがしかし、それでコイツらが止まるなら苦労はしない。

 

「キタキタキタキタ!ミサイル、探知!!0°から、真っ直ぐ突っ込んでくる!!!!!!!!」

 

「対空戦闘はするな。このままサイドステップで避ける!!!」

 

阿武隈型と突撃戦隊の中核を成す磯風型には、対艦ミサイルを10発位当たってもビクともしない、化け物レベルの装甲が施されている。だが、この装甲に頼らずとも、突撃艦には『サイドステップ』という特殊な機構が備わっている。両サイドに特殊なスラスターを搭載しており、そのスラスターで瞬時に200ノットと同等の爆発的な推進力を生み出す。これにより艦は、まるで反復横跳びのような動きをするのだ。

因みにこの推進力がどの位の威力かというと、もし仮に横に駆逐艦が接舷していれば、普通に大穴を開けるくらいには威力がある。

 

「まだまだまだまだまだまだ..............今だッ!!!!右ステップ!!!!!!!」

 

急激な加速に、身体が左へと持っていかれる。しかし身体はシートに立った状態で固定されてるので、左側に吹き飛ばされることはないが、それでも結構キツイ。仮に船に弱い者が今のを体験したら、確実にキラキラが宙を舞うだろう。

 

 

「な、なんだ今の!?!?」

 

「どうした?」

 

「て、敵艦がレーダー上で右に瞬間移動しました.......」

 

この報告に韓国のイージス艦の艦長も、顔を呆れたものに歪ませて「はぁ!?」と言ってきた。だが実際、レーダー上では敵艦である突撃艦が右に瞬間移動したのである。

 

「そんな訳あるか!!」

 

「そ、そうですよね?ど、どうせレーダーがまたイカれただ.......け.......」

 

だが今度は艦長がいる目の前で、それもレーダーの画面を艦長が見ている目の前で瞬間移動した。本当にシュンっとレーダー上の光点が瞬間移動するのだ。

 

「まじかよ」

 

艦長の呟きと同時に、艦は爆炎に包まれた。阿武隈がお返しに撃ち出した対艦ミサイルが直撃し、そのまま海に姿を消した。

 

「撃ちまくれ!!!!」

 

設計段階から艦隊決戦なんて想定すらされてない駆逐艦では、突撃艦の火力を防ぐことは出来ない。最大口径250mmの砲弾が毎秒数十発襲い掛かり、脆弱な装甲を貫いて破壊の限りを尽くす。これに加えて魚雷まで撃ってくるのだから、最早打つ手はない。

 

「敵艦、本艦右舷を高速で通過!!」

 

「ミサイルを叩き込め!!」

 

「!?敵艦、反転!!また来ます!!!!」

 

突撃戦隊は阿武隈型を先頭に、狩り方衆と呼ばれる磯風型突撃高速駆逐艦がその後ろに続き、最後尾に後追いと呼ばれる阿武隈型が付く。一列に突撃したのち、再度反転して先頭と後追いを入れ替えて、また突撃するのが突撃戦隊の基本戦法だ。相手側の準備が整う前に、突撃戦法で殴り付ける。こんな攻撃をされては、瞬く間に艦隊は殲滅されてしまう。

 

「大半はやったな。陸戦隊に上陸開始の合図を送れ」

 

「アイ・サー!」

 

合図を受けた海軍陸戦隊三個師団が上陸を開始し、これに呼応して特別機動旅団も台湾上空に空挺降下を敢行。さらに特殊戦術打撃隊のメタルギア龍王とメタルギア零が上陸し、進撃を開始する。

 

「なんだあれは!!!!」

 

「ありゃまるで.......メタルギアだ.......」

 

ギャオォォォォン!!!!!!

 

「に、逃げろ。ここから逃げろーーー!!!!!!」

 

兵士達は巨大なメタルギアの姿を見て、武器を捨てて逃げ出し始めた。中には勇敢な者がいて、対戦車ミサイルを撃ち込んでくる。だが、その程度ではメタルギアは止まらない。

 

「Sマイン、発射」

 

メタルギア零に搭載されたSマインが空高く射出されて、上空で起爆。周囲に手榴弾をばら撒いて勇敢な兵士を吹き飛ばした。

 

「急げ急げ!歩兵の撤退を援護しろ!!!!!!」

 

だが連合軍だって、ただやられはしない。ロシアの誇る最新鋭戦車T20と、中国の99A式が前線に出てきて砲撃支援を開始した。だがその近くには、陸上戦艦の名を持つ46式と34式戦車改が既に展開済みだ。

 

「敵の戦車を破壊する。全車突撃せよ!!」

 

「ウッシャー!!野郎共、掛かれ!!!!」

 

対戦車戦闘に於いて、真正面からぶつかるのはリスキーとなる。これは歩兵に限らず戦車だとしても同じで、歩兵なら気付かれてさえいなければ、もしかすると対戦車ミサイルを叩き込めるかもしれない。だが気付かれれば、機関砲の弾幕に晒されるか主砲で吹き飛ばされるのがオチだ。

戦車同士の場合、正面から戦っても互いに勝算が薄い。特殊な砲弾を使うならいざ知らず、普通に撃ち合ってもラッキーパンチを叩き込まない限り倒せない。というのも現代の戦車は、基本的に主力戦車と呼ばれるのが主流で昔のように様々な種類があるわけではない。そしてこの主力戦車は自分の主砲を防ぎ切る装甲を正面に施しており、基本的に相手の砲弾も弾き返す。その為、戦車戦では装甲の薄い側面と装甲が薄い上にエンジンなんかのある後部を狙う。

ところがどっこい、46式はそれが通用しない。側面と後部にも最大150mmの砲弾が直撃しても耐えある装甲を施し、正面だって勿論主砲の350mm砲を防ぐ装甲を施してある。34式改は主砲塔が通常の200mm速射砲から120mm連装砲に換装されており、側面と背後への砲撃には通常戦車の二倍の攻撃力を誇る。

 

「主砲発射!!」

 

ドン!!!!

 

それを知らない連合軍戦車隊は、主砲を先頭を突き進む46式へと打ち込む。だがこれは牽制兼陽動であり、撃破できるとは勿論思ってない。すぐに側面へと回り込んだ99A式が主砲弾を46式に叩き込んだのだが、その砲弾を受けても46式はピンピンしていた。

 

「な!?」

 

「コイツ、砲撃が効いてないのか!?!?」

 

99A式の主砲は125mm滑腔砲であり、150mm砲弾の直撃に耐える46式にはダメージは与えられない。逆に46式の砲塔が99A式の方を向いて、主砲である350mm滑腔砲を向けた。99A式は正面を46式に向けていたのだが、正面装甲を持ってしても350mm砲弾を防ぐことは出来ない。正面から(・・・・)エンジンを撃ち抜いて撃破した。

 

「戦車が正面で一撃!?!?」

 

「日本はなんて兵器を持っているんだ.......」

 

この後、この戦車部隊がどうなったのかは言うまでもない。全部スクラップの屑鉄へと加工された。ちょっとばかし血糊と肉片が付いているが、気にしてはいけない。

戦車や海軍陸戦隊が戦闘を継続している一方、裏ではこの車両が動いていた。設定集で登場させて以降、多分本編では二年間一度も登場してない隠れチート兵器。47式指揮装甲車が、たった一両で連合軍を混乱させていた。

 

「暗号を解読しました」

 

「ならこれを暗号化して全軍に流しつつ、本部には直通回線を遮断して混乱させておけ」

 

「了解」

 

47式は転移後ではオーバースペックすぎて、専ら単なる通信車両としての扱いを受けている。だがこの車両の真価を発揮するのは通信、電磁波、信号を傍受し利用する『SIGINT』である。47式にはスーパーコンピューター京と同スペックの物を小型軽量化して搭載しており、瞬時にありとあらゆる暗号を解読。さらに暗号に変換して、敵に欺瞞情報を流す事だって出来てしまう。

これに加えて強力なジャミング装置で、敵の通信網をグチャグチャにする事もでき、スーパーコンピューターのスペックを活用して仮想現実内での戦況シュミレートも出来てしまう。転移後はSIGINT以前に、コンピューターが存在しない上に、そもそもデジタルとかの概念すら無い以上、その大半の装備が全く使えないのだ。

じゃあ何でこんなのを主が作ったのかだって?カッコいいだろ、そういう兵器!!もしかしたら魔帝辺りと戦う時に、なんか色々あって使えるかもしれんだろうが!!!!原作自体、まだそこまで進んで無いから分からんけど。

とまあ主の叫びは取り敢えず置いておいて。この偽の暗号を使った指令で、連合軍は一箇所に集結させられた。

 

「ここに集結するんだよな?」

 

「司令部からの暗号には、そう書いてあります」

 

「でも何でこんな海岸に.......」

 

連合軍が集結させられたのは、台湾島北側の海岸。ここに残存する兵力が集結しており、その規模は歩兵50,000人、戦車152両、装甲車321両、自走砲と榴弾砲210門、その他トラックやジープ854両と言ったところ。上空には20機の攻撃ヘリが飛んでいて、おそらく簡単な哨戒をしてくれている。

最初ここに攻め込んだ時には歩兵75,000、戦車200両、装甲車450両、自走砲250門、榴弾砲200門、トラック500両、ジープ750台、攻撃ヘリ60機の大戦力だった。しかも途中で日本侵攻グループからの増援(敗残兵)が来たのに、もうその見る影はない。

 

「俺達、撤退なのか?」

 

「流石にやられすぎた。上もこれ以上、戦力を失いたくないんだろうな」

 

「.......なんで、戦争なんだろうな。別にいいじゃないか、台湾が中国じゃなくたって。魚釣島が日本の物だって」

 

上はこの戦争に「権力や利権を得たい」という目的がある。だが実際に戦場に立つ彼ら兵士には、そんな目的なんてない。というかそもそも、戦争なんか真っ平ごめんというのが本音だ。まあ中には、人を殺したい衝動に駆られてる奴とか女を好きにしたいシモと脳が直結した発情ザルがいたりするが、少なくとも殆どの兵士は戦争なんてしたくないというのが本音なのは間違いない。

だが例えそれが本音だとしても、神谷には関係ない。集結した連合軍を前に、神谷は作戦の開始を指示した。次の瞬間、後方に控えていた51式と日本と台湾の自走砲、榴弾砲が一斉に発射される。その砲撃が降り注ぎ、海岸は大混乱に陥った。

 

「今だ。行くぞ」

 

特別機動旅団を率いて、神谷はバイクで突撃を開始する。他の兵士はジェットパックとグラップリングフックを駆使して神谷の後ろを追いかけるが、それすらもおいて1人敵陣へと突っ込む。

 

「なんか凄いスピードでくるぞ!!」

 

「弾幕をはれ!!!!!」

 

敵部隊は慌てて弾幕を張ってくるが、神谷は岩とか木とかの障害物を上手く利用してそのまま懐に飛び込んだ。

 

「オラオラ行くぞ!!!!!!」

 

なんと神谷はバイクを活用して、格闘戦を始め出した。バイクを前輪を軸に回転させて、後ろで敵をバッティングよろしくぶっ飛ばす。かと思えばウィリーさせて、脳天に前輪を力一杯ぶつける。顔面でタイヤを全力回転させる。等々、もうマトモじゃない戦い方であった。かと思えば、刀を手にして敵にバイクで突っ込んで斬り捨てたり、もう破天荒をそのまんま表したような感じである。

 

「こいつキチガイだ!!!」

 

「応戦せよ!応戦せよ!」

 

「撃ちまくれ!!!!」

 

もう同士討ちとかお構い無しに、とにかく弾をばら撒く。その頃のは特別機動旅団も到着して、台湾陸軍もこの機に攻勢に転じて連合軍は総崩れになった。

 

「司令!!いつもの行きますよ!!!!」

 

「よっしゃこいや!!!!」

 

神谷がしゃがみ、向上がその背中をジャンプ台にして飛ぶ。そして空中であちこちに32式戦闘銃を撃ちまくる。こんな何処ぞのバトル漫画みたいなことをされては、訓練された兵士とて対応はできない。

これより一時間後、台湾に侵攻した連合軍部隊、及び日本は侵攻し逃げ延びた連合軍部隊は完全に殲滅された。この戦争以降、この連合軍に参加した中国、ロシア、韓国の三国は崩壊の道を進むことになる。中国はこの戦争後に軍による反乱が発生し、共産党政権が完全に崩壊。台湾の中華民国政府が中国全土を掌握し、中華人民共和国は地図から消えた。

ロシアと韓国は国際社会から締め出された挙句、運悪く両国で凶作と地震が起きて餓死者まで出る事態に発展。これを受けて国民は他国へと流出し、かつての発展した大国としての姿は何処にもなく、廃墟となった街では汚職にまみれた警官とギャングやマフィアが巣食う第二のベネズエラになってしまった。因みにロシアには天然ガスという最高の切り札があったが、シェールガス開発や日本の海底資源採掘により、もう意味を成さなくなっている。

そして、この戦争後に世界各国で一つの合言葉が出来た。『日本を怒らせてはならない』という物である。これまでの世界の軍事力ランキングでは5位であったが、今回の一件で一気に1位にまで上がり、アメリカ軍を唯一数でも質でも叩きのめせるとまで言われた。まあその後の演習で鎌倉バイキングが暴れたり、プロトタイプだった頃の提灯でアメリカ、イギリス、オーストラリアの連合軍を判定上だが殲滅したり、艦隊演習で参加した60隻近い艦艇を、1隻で全艦轟沈判定を与えたりと、伝説を残しまくったので間違いじゃない。

 

 

 

 

 

 



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第七章世界大戦編
第五十五話先進11ヵ国会議は大波乱なり


パーパルディア皇国戦終了から、一年三ヶ月。お待たせしました、新章開幕です!!


パーパルディア皇国との戦争、そして神聖ミリシアル帝国からの使節団がやって来てから早2年。この2年で国内外問わず、すんごい色々変わった。まずは国内から行ってみよう。聨合艦隊構想含む、大日本皇国統合軍全体での軍備増強計画の大半が完了し、『仮称513号艦』を筆頭とした新たな兵器群が実戦配備されつつある。また統合軍総司令長官であった神谷浩三大将は、これまでの実績が評価され、新たに作られた統合軍元帥の役を賜った。因みに結婚もした。

次に国外。まずムーに日本がテコ入れして作った工場群に於いて、第二次世界大戦相当の装備を量産しつつあり、一部は既に実戦配備にまで漕ぎ着けてある。一方、謎の新興国家、グラ・バルカス帝国がムー大陸の西方、約500kmにあるイルネティア王国を攻め滅ぼし、グラ・バルカス帝国の魔の手が第二文明圏に忍び寄りつつあるのだ。これにより第二文明圏、及び神聖ミリシアル帝国が警戒を強めており、予断を許さない状況が続いている。

そして今日、皇国は正式に大国に仲間入りを果たす事となる。神聖ミリシアル帝国での先進11ヶ国会議が始まるのだ。この会議は今後の世界の流れを決定する、超重要な国際会議である。その会議に皇国はお呼ばれし、三英傑が一人、川山慎太郎を派遣したのである。

 

 

 

神谷元帥誕生より約1年後 神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス

『第1文明圏、トルキア王国軍、到着しました!戦列艦7、使節船1!計8隻!!』

 

「了解、第1文明圏エリアへ誘導せよ」

 

2年に一度、この時期だけは、カルトアルパスの港湾管理局は普段の4、5倍は忙しくなる。港湾管理局だけではない。町自体も綺麗に清掃され、先進11ヶ国会議に参加する国家の国旗で彩られる。また護衛の兵士達向けに、飲み屋含む飲食店も掻き入れ時となる。そんな訳で表にポスターを貼ったり屋台出したりして、軽いお祭り状態になるのだ。

 

『第1文明圏、アガルタ法国到着。魔法船団6、民間船2、計8隻!』

 

「了解、第1文明圏エリアへ誘導せよ」

 

(にしても、この辺は変わり映えしないんだよなぁ)

 

港湾管理局の局長であるブロンズは、港に入ってくる船団を見つめながらそう思っていた。この先進11ヶ国会議には、各国が使者を護衛するという名目で、最新式の軍艦を艦隊ごと送り込んでくる。その為、毎回小さな観艦式の様になるのだ。ミリオタであるブロンズからしてみれば、天国の様な時間である。

しかも今回はレイフォルをあっさりと落とした新興軍事国家グラ・バルカス帝国と、パーパルディア皇国を首都まで攻め込んで完全に崩壊させた大日本皇国の2つがやってくるのだ。余計に楽しみである。

 

『な、なんだあれは.......』

 

『船なのかあれ.......』

 

監視員達が急にざわつき始める。何事かと双眼鏡を覗いてみると、見たことも無い艦艇がいた。グラ・バルカス帝国の誇る最大最強の戦艦、グレードアトラスター級超弩級戦艦一番艦『グレードアトラスター』である。

 

「なんてでかい砲を積んでやがるんだ!!!」

 

主砲の45口径46cm三連装砲を3基搭載した黒鉄の城は、砲を誇らしげに水平線に向けている。グラ・バルカス帝国超弩級戦艦『グレードアトラスター』は、神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパスに入港した。

 

 

「何で揃いも揃って、国際会議の場で砲艦外交やってんだ.......」

 

この直後、大日本皇国の代表である川山を乗せた客船と護衛として随伴している海上保安庁の巡視船『しきしま』が、カルトアルパスに入港した。だが川山は、眼前に広がる光景に頭を抱えて項垂れている。

一応護衛の話は出たのは出たが、旧世界で言うアメリカの立場となる神聖ミリシアル帝国が警備しているのもあって、「流石に国際会議の場に軍艦を引き連れて行く訳にもいかんだろう」という判断で海軍艦艇の護衛は見送られたのだ。やはり未だ、旧世界の常識は抜け切れてないらしい。

 

「こんな事なら、浩三に頼んで例の新型戦艦引っ張って貰えばよかったわ.......」

 

川山の脳裏には、パーパルディアでの反省がよぎっていた。あの戦争が起きたのは、パーパルディアが皇国の国力を相当下に見ていたというのもある。その為、最近では他国との外交の場でも、しっかりと国力を説明する様にしてある。これが理由で、もしまた厄介事に巻き込まれでもしたら溜まった物じゃない。

そんな不安を抱えながら、川山と部下の朝田は会議場である帝国文化館に向かう馬車に乗り込んだ。

 

 

 

二時間後 帝国文化館 正面ホール

「もうすぐですね、しん先輩」

 

「そうだねー。でも事前の根回し一切無し何だが.........」

 

「予想つきませんね」

 

これまで経験してきたどの会談でも、必ずあった事前の根回しというのが存在せず、全く流れが読めない。流石に顔に出しはしないが、2人共胃がキリキリと痛む。

そんなことを話していると、3人の人影が近寄ってきた。ロングコートの様なローブの様な、何とも言えない特殊な服装から察する辺り、民族衣装なのだろう。

 

「大日本皇国の方、ですね?」

 

「はい、そうですよ」

 

「私は中央世界のアガルタ法国の外交庁に勤める、マギと申します。以後、よろしくお願いいたします」

 

こんな丁寧な挨拶の上で、握手を求めてくれる平和な挨拶はいつ以来だろうか。これまで相対した国々は、大体戦争コースまっしぐらだったのもあって、ちょっと感動すら覚えた。

 

「大日本皇国外務省、川山と申します。こちらこそ、よろしくお願い致します」

 

差し出された手を握り、両者共固い握手を交わした。

 

「川山殿、お会いできて光栄です。日本国の戦闘法術は、中央世界でも噂になっていますぞ。この魔法文明の世界において、科学文明のみで成り上がり、東の文明圏外国家でありながら、列強パーパルディア皇国に挑み、皇軍を完膚なきまでに叩き潰した勇敢な民族が住まう国だと。列強ムーでさえ科学技術に重点を置いているとはいえ、魔法に頼っている部分もある。

しかし日本国は、ほぼすべて科学技術のみで成り立っている不思議な国だと聞いています。私たちの今までの常識では、魔法が使えなければ碌な文明を築く事が出来ず、聞こえは悪いが、蛮族というイメージが強い。しかし日本国は魔法無しで高度な文明を築いていると聞き、我がアガルタ法国は、日本国に対し非常に興味を持っています。今度、是非日本国にも伺ってみたいものです」

 

「ありがとうございます。是非、一度日本にいらして下さい。

今回の国際会議では、皇国は初参加となります。どうか、よろしくお願いいたします」

 

本当に久しぶりに超平和的なファーストコンタクトに成功して感動に浸っていると、放送が流れた。どうやら会議が始まるらしい。議場に入り暫くすると、議長の号令で会議が始まった。

それではここで、簡単に参加国を紹介しておこう。

 

常時参加国

・魔法文明の最高峰 神聖ミリシアル帝国

・竜人の王国 エモール王国

・科学文明国 ムー

 

参加国

・謎の新興軍事国家 グラ・バルカス帝国

・世界最強の最古国家 大日本皇国

・謎多き国家 トルキア王国   

・学院制国家 アガルタ法国   

・共産的学院制国家 マギカライヒ共同体

・連邦国家 ニグラート連合  

・パ皇の被害者 パンドーラ大魔法公国

・傍迷惑帝国の面倒臭い子分 アニュンリール皇国

 

こんな感じ。因みにトルキア王国は原作でも殆ど触れられてないので、謎多き国家である。

まず初めに発言した国家は、エモール王国であった。ミリシアルの使節団と共にやってきたエモール王国使節団にも居たモーリアウルである。

 

「エモール王国のモーリアウルである。今回は、皆に伝える事がある。重要な事であるため、心して聞くがよい。

先日、空間の占いを実施した」

 

エモール王国の国家の総力をかけて行う空間の占いは、その的中率が90%代後半にも及び、各国の代表は彼の発言に聞き入る。だが川山としては、国際会議で占いという単語が出てきた事に笑いそうになるが。

 

「その結果だが.......。古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国が近いうちに復活するとの結果が出た」

 

場が一気に絶対零度にまで凍り付いた。ラヴァナール帝国は今尚、この異世界で存在感を出し続ける伝説の国家である。コア魔法という核爆弾モドキを作り、ICBMすらも実戦配備していた国家であり、この世界では文字通り神々の国と言ってもいいくらいに雲泥の差がある。そんな国と戦うとなれば、流石に騒ぎもするだろう。

 

「時期や場所は空間の位相に歪みが生じており、判然としない。が、我らの計算だと今から4年から17年までの間にこの世界の何処かに出現するだろう。

奴らに、どれほど抗する事が出来るのか、伝承がどれほど本当なのかは不明だが、奴らの遺跡の高度さが、その文明レベルの規格外の高さを物語っている。

各国はいらぬ争いをする事なく、軍事力の強化を行い、世界で協力して古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国復活に準備をするべきである」

 

因みに大日本皇国の統合参謀本部で、もし仮に今ラヴァナール帝国が復活して戦った場合、どうなるかシュミレートしたことがある。勿論秘密兵器の類いはあるかもしれないので、一概には言えないのだが、一応試算の結果は例え各国が最大限協力して戦ったとしても、勝率は0.35%であった。因みに大日本皇国単体の場合は71.95%。

 

「くっくっくっ。ハーっはっはっは!!!」

 

突如、グラ・バルカス帝国の外交である20代位の女性が笑い始めた。会場参加者の多くが、非難的な目で彼女をみる。

 

「いやいや、失礼。私はグラ・バルカス帝国外務省、東部方面異界担当課長のシエリアという。魔帝だか何だか知らんが、過去の遺物を恐れるとは、その現地人のレベルに唖然としている所だ。そもそも占いなぞ、そんなものを国際会議で発言する神経が私には理解が出来ないよ。しかも、この世界の列強と呼ばれる国が、この発言。

我が国にあっさりと滅ぼされたレイフォルも弱かったが、列強と言われていたらしい。

世界会議か。レベルの低さがしれるな」

 

「新参者が何をいうか!この礼を知らぬ愚か者め!!」

 

エモール王国と同盟国、トルキア王国の使者がグラ・バルカス帝国のシエリアを罵る。それを制して、モーリアウルはゆっくりと口を開く。

 

「新参のグラ・バルカス帝国か、魔法を知らぬ人族主体の国らしいな。

魔力数値の低い人族ごときがほざくな。貴様らごときに期待はしていない」

 

「科学を理解出来ぬ亜人風情が我が帝国に、一人前の口をきくとはな」

 

「亜人とは人間以下、という意味だ。我が国は竜人族ぞ。下種が!」

 

会議は紛糾し、議長が場を鎮める。流石の川山も完全に呆然としていた。国会ならまだしも、国際会議でこんな大喧嘩なんて起きる事はまあまず無いのだから。

 

「なんか、すんごい会議だな」

 

「いやもう、前世界では考えられない進行状況ですね。頭痛いです.......」

 

議長の制止で漸く場が静まったこで、ムーが手をあげ発言権を得る。

 

「我が国、ムーは先進11ヵ国会議において、グラ・バルカス帝国に関する非難声明を発し、同国に対する懲罰のため2年以上の交易制限を発議いたします。

理由としましては第2文明圏イルネティア王国、王都キルクルスに対する大規模侵攻です。国家間同士の戦争ではあるが、このところ彼らは、やりすぎだ。このまま彼らを許すと、世界秩序を破壊する可能性があります」

 

「確かに、グラ・バルカス帝国は、世界秩序を乱しすぎている。このまま第2文明圏国家を侵攻し続けていると、我が神聖ミリシアル帝国も介入せざるを得なくなる。我が国はムーの提案に賛成するとともに、グラ・バルカス帝国に関し、第2文明圏の大陸から即時撤退を求める」

 

誰もが認める世界最強の国の介入。それを聞いただけで、すべての国が震えあがり剣を治める事がほとんどだった。全員の視線がグラ・バルカス帝国の美しき外交官シエリアに向けられる。だが彼女はそれを意に返さず、堂々と言いのけた。

 

「一つ、最初に伝えておこう。我が国は今回、会議に参加し意見を言いに来たのではない。

この地域の有力国が一同に会するこの機会に、通告しに来たのだ。グラ・バルカス帝国 帝王グラ・ルークスの名において、貴様らに宣言する。

 

我らに従え。

我が国に忠誠を誓った者には、永遠の繁栄が約束されるだろう。

ただし従わぬ者には、我らは容赦せぬ。

沈黙は反抗とみなす。

 

まずは尋ねよう。今、この場で我が国に忠誠を誓う国はあるか?」

 

どうやら、流石の先進11ヶ国会議とて実質的な宣戦布告は前例が無かったらしい。一瞬の静寂が場を支配するが、すぐに使者達が言い始めた。

 

「バカか?あの女は」

 

「下種が!」

 

「蛮族が何をのたまっているのだ?」

 

あまりにも突然の、あまりにも非常識な発言に会場は非難の嵐が吹き荒れる。場は騒然とし、怒号が飛び交い、中々にカオスだ。

というか最早、ここが国際会議の場だと言われても信じられないくらいにぶっ飛んだカオスになってしまっている。

 

「やはり、今従属を誓う国は現れぬか。まあ、当然だろうな。帝王様は寛大だ。我が国の力を知った後でも構わない。その時は、レイフォルの出張所まで来るがよい。まあ、かなり自国が被害を受けた後になりそうだがな。では現地人ども、確かに伝えたぞ!!」

 

そう言い残すと、シエリアと他の外交官は議場から出て行った。そして川山と朝田は、もうツッコミが追い付かないこの状況に頭を抱えていた。

この翌日、この前代未聞の事態は最悪の形となって世界中に激震を走らせる大事件の幕開けとなったのだった。

 

 

「さーて、今日の仕事は終わった。明日の準備もした。よし、帰ろう」

 

いつもと変わり映えしない日常。いつものように朝、愛する妻達に見送られて出勤し、業務をこなして夜になったら家に帰る。いつも通りの日常の筈、だったのだが…

 

「長官!!!!」

 

「うおっ!?ど、どうした向上」

 

執務室に副官である向上六郎が入って、いや。突撃してきたのだ。この感じは、多分もしかしなくても厄介事である。

 

「こ、これを!」

 

そう言って渡してきたタブレットには、ミリシアルの南西海域にあるマグドラ群島近海の衛星画像だった。戦闘の後なのだろう。黒煙が登り、船舶の残骸が散らばっている。

 

「何があったんだ?」

 

「昼頃、神聖ミリシアル帝国の保有する第零式魔導艦隊が、グラ・バルカス帝国と思われる艦隊の襲撃を受け、壊滅しました」

 

「おいちょっと待て。色々待て。え、何。グラ・バルカス帝国が襲っちゃったの!?ミリシアルを!?!?」

 

「はい.......」

 

普通に考えてヤバい。非っっっっっっっ常に超絶ヤバい。神聖ミリシアル帝国とは、異世界に於けるアメリカ。そんなみんなのお友達に喧嘩を売れば、勝ち負けは別として、確実に国際社会での立場はない。というかそれ以前に、宣戦布告も無しに戦争なんてヤバいの極みである。

 

「ですが問題なのは、こちらです。この後、艦隊はそのままカルトアルパスの方に向かっています。しかも後方には多数の輸送船も.......」

 

「向上。すぐに召集かけろ。健太郎に話通してくる」

 

すぐにこの事を総理である一色健太郎に報告し、出撃の許可を取る。艦隊はまあまず間に合わないので、特殊戦術打撃隊の空中母機『白鳳』と『白鯨』と『黒鯨』からなる空中空母艦隊を派遣する事にした。

これに最精鋭の神谷戦闘団を乗せ、もし仮に陸上戦に発展した場合にはこれを用いて殲滅する。更に近海を偶々航行中だった第五潜水艦隊*1も投入し、グラ・バルカス帝国を血祭りに上げる準備は整った。

 

 

 

翌日 神聖ミリシアル帝国 帝国文化館

「これより、先進11ヵ国会議実務者協議を開催いたします。」

 

 司会進行の言葉と共に、本日の会議が始まる。

 

「本日は議長国の神聖ミリシアル帝国から、皆さまへ連絡がございます。先日、現在グラ・バルカス帝国の艦隊が我が国の西の群島に奇襲攻撃を行い、地方隊が被害を受けました」

 

半分嘘であるが、事実である。流石に世界最強と謳われる「第零式魔導艦隊壊滅しました」なんて口が裂けても言えない。国益のため、第零式魔導艦隊は『地方隊』と名を変えて、奇襲されたという事にして情報を伝える。

だが、地方隊とは言えど神聖ミリシアル帝国の部隊に被害を与えた事に、場が衝撃に包まれる。

 

「テロ対策として本港カルトアルパスには、巡洋艦8隻が警備についておりますし、空港から空軍がエアカバーを行いますので問題はありませんが、グラ・バルカス帝国が万が一、我が国本土に攻撃を加えた場合の事も考慮し、万全を期するために本日の夕方までにカルトアルパスから全艦隊を引き上げていただき、開催地を東のカン・ブラウンに移したいと思います。事前に通告していた場所とは異なりますが、ご理解いただきたい」

 

「あの新参者であり、かつ無礼者が攻撃してきたからといって、世界の強国会議ともいえる、国々が尻尾を巻いて逃げるというのか?堂々と会議をすればよい」

 

ミリシアルとしては、海外からの賓客である各国の代表達に擦り傷一つ負わせたく無いのだろう。安全確保の為に移動したいのだが、モーリアウルがそれを止めた。

 

「我が国は陸路だが、ここに来ている者たちは何処もそれなりの規模の艦隊を連れてきているのだろう?

魔力数値の低い人族のみで構成された、しかも文明圏にすら属していない国を相手に、強国が多数、戦わずして逃げるのは情けないと思うぞ。我が国は陸路で来ているため艦隊は無いが、控えの風竜22騎ならば、これを投入してもよいぞ」

 

この一言に触発されたのか、続々と他の国家達も艦隊を投入していくのを表明していく。だがこれで困るのは、我々皇国だ。何せ護衛に連れてきた『しきしま』は軍艦ではなく、単なる巡視船。海上保安庁の巡視船の中では一番な重武装とは言えど、武装は機関砲のみ。肩や今回の敵は、第二次世界大戦相当の兵力を持つ軍隊。こんなので勝ち目はない。その為皇国としては、黙り込むしか無かった。

だが幸か不幸か、ミリシアルは何が何でも退避して欲しいらしい。退避して欲しいミリシアルと、舐められた事にご立腹な文明国一同の押し問答が繰り広げられている。この間に川山は本国に連絡を取ろうとした時だった。神谷から電話が掛かってきたのだ。

 

『おう慎太郎、まだ生きてるな?』

 

「(浩三!俺今、会議中!!!!)」

 

『だから電話した。昨日、ミリシアルの第零式魔導艦隊、つまり相手さんの最強艦隊が全滅した。やったのはグラ・バルカス帝国。今カルトアルパスに、空母と戦艦含む艦隊と輸送船団が向かってる。この事をミリシアル側に伝えろ。衛星画像も送付しておく』

 

奇襲されたのが地方隊ではなく、ミリシアルの誇る第零式魔導艦隊なのは驚いたが、そんなことを考えている場合では無い。この事を報告しようとしたが、どうやらミリシアル側も把握したらしい。

 

「先ほど、我が国の哨戒機がカルトアルパス南方約ま150km地点を北上するグラ・バルカス帝国の艦隊を発見いたしました。これより航空戦力で攻撃を行う予定ですが、このままではカルトアルパス南方60kmの海峡に至ります。グラ・バルカス帝国の船速と、ここから海峡までの距離を考えると、もう避難は間に合わないでしょう。

皆さまの案、急遽連合軍を組織し迎え撃つ事になってしまいましたが、あなた方外交官と外務大臣の身の安全だけは、我が国の義務として身の安全を確保させていただく。早急に鉄道で北に避難していただきます」

 

「(浩三、どうやらミリシアルは俺達を鉄道で逃がして、連合軍で迎え撃つそうだ。生きて、日本で会おう)」

 

『心配すんな。すぐに会える。今俺は我が神谷戦闘団を率いて、そっちに急行中だ。もし仮に奴等が上陸したら、俺達が殲滅する。お前らには指一本触れさせはしない』

 

「(相っ変わらず仕事早いな。OK、そっちは任せるぞ!)」

 

流石に攻撃される事がわかった以上、川山としても心細かった。だが神谷が来るなら、話は別だ。この情報だけで、川山は勇気が湧いてくる。すぐに川山は言われた通りに、議長に全てを報告した。

 

「議長!」

 

「何でしょう?」

 

「我が国は、あくまで海賊対策用に軍艦ではなく警察組織の巡視船を護衛として連れて来ました。ですので、余り連合軍との戦闘でも足手纏いになると思います。ですが、先程本国より連絡がありました。貴国の強い地方隊(・・・・・)が被害を受けたのを、既にキャッチしています。これを受け我が国は、航空隊と地上部隊を此方に派遣しています。またグラ・バルカス帝国の艦隊に関しても、後方に輸送船団が随伴していますので、カルトアルパスに上陸される可能性も視野に入れて頂きたい」

 

本来ならハッタリだと突き返すだろうが、強い地方隊と強調してきた事から、真実を知っていると察せられたのだろう。この話はすぐに受け入れられ、カルトアルパス全域に防衛戦の準備が発令された。

時を同じくして、連合軍も出港を開始。戦力としては

 

・神聖ミリシアル帝国

巡洋艦8

・ムー

戦艦2、装甲巡洋艦4、巡洋艦8、空母2

・大日本皇国

海上保安庁巡視船『しきしま』

・トルキア王国

戦列艦7

・アガルタ法国

魔法船団6

・マギカライヒ共同大

機甲戦列艦7

・ニグラート連合

戦列艦4、竜母4

・パンドーラ大魔法公国

魔導船団8

 

と言った感じで、総勢61隻の大艦隊である。更にエモール王国の風竜騎士22、近隣航空基地からのエアカバーも加わるのもあって、各国の担当者は自信を持っていた。だが『しきしま』の艦長、瀬戸と乗組員達は数だけの案山子にすぎない艦隊に不安しか覚えていなかった。

 

「艦長!カルトアルパスより、出港許可でました!!」

 

「よし、カルトアルパス港湾局に返信。『了解。これより本艦、修羅へ突入す。武運を祈られたし』だ」

 

「今の言葉、送ります」

 

「お前達、本来ならこれは海軍さんの仕事だ。だが、日頃の猛訓練を思い出せ。何が何でも、日本へ帰るんだ!!」

 

艦橋に男達の力強い返事が響く。だが瀬戸にも、乗組員達にも不安はあった。幾ら遥か未来の技術が使われた艦とはいえど、所詮は警備艦。20mmバルカン砲と40mm連装機関砲が1門ずつしかついてない。これでは航空機ならまだしも、戦艦『大和』相手となると、どんなに頑張っても撃退はできない。なら隙をついて海峡を脱出し、こちらに向かっている皇国軍に任せるのが最善策だ。だがそれをできる望みは、余り無い。

 

 

 

同時刻 ムー海軍旗艦『ラ・カサミ』艦橋

「日本との技術供与で、このラ・カサミは強化されている。だが、どこまでやれるか.......」

 

「ですね。一応、機銃は全てアーバス20mm機関砲に換装してしますし、新開発の8.8cm高角砲も搭載してますから、少しは相手取れるでしょうが、いかんせん味方が頼りになりませんからね」

 

そう言う『ラ・カサミ』の艦長ミニラルと副官だが、例え高角砲を積んでいても意味がない。対空砲が航空機に通用するのは、高角、つまり角度を取れるからではない。砲弾に時限信管ないし近接信管がついているから、航空機に対して有効なのだ。

だが、この高角砲の砲弾には普通の触発信管、つまり当たって作動するタイプの信管しかついてない。これが意味するところはつまり、数百kmで襲い掛かってくる航空機に、砲弾を直接ぶつけろという事である。普通に考えて無理ゲーでしかない。

 

「神聖ミリシアル帝国から連絡あり!グラ・バルカス帝国と思われる航空機が南西方向から多数カルトアルパスに接近中!!距離130km、総数200!!!!!!」

 

「に、200だと!?!?」

 

通信兵の報告にミニラルは愕然とした。200機も繰り出して来たとなると、恐らく敵は全てが正規空母クラスの大型空母を持った主力機動部隊という事になる。既に分が悪すぎる。

 

「神聖ミリシアル帝国からの連絡は、200機で間違いありません!!敵の機種は不明!なお現在、カルトアルパス空軍基地からアルファ3型制空戦闘機が42機が要撃のために離陸いたしました」

 

「アルファ3、神聖ミリシアル帝国の最新機種だな。しかし、敵の数200は多いな。爆撃型は何機含まれているのだろうか?

敵の空母機動部隊の位置は判明するか?」

 

「敵空母機動部隊の位置不明!!」

 

「直掩機をあげろ!!上がれる機体は全部上げてるんだ!!」

 

こうなったら、こちらも一応の新鋭機であるマリンをぶつける他ない。マリンで何処までやれるかは未知数だが、きっとどうにかなる。そう願うしかなかった。

 

「爆装種別はいかがいたしますか?」

 

「艦隊防衛を優先する。爆装無しですべて上げ、艦隊周辺のエアカバーを行え!!ミリシアル帝国と同士討ちにならぬよう、艦隊周辺を離れるな!!」

 

「了解!!」

 

命令を受け、一応の新鋭機であるマリンが発艦していく。最初に『一応』とついてるのは、現在の最新鋭機はマリンではなく量産体制の整ったF4Uコルセアを元にした『艦上戦闘機コール』なのだ。因みにこの任務の後、この艦隊に参加している空母にも搭載される予定である。

一方その頃、カルトアルパス空軍基地を飛び立ったミリシアルの第7制空団は南東方向に向けて進路を取っていた。その最中に、司令からの無線が入る。

 

「諸君。間もなく君達は、グラ・バルカス帝国の航空隊、約200機と戦闘に突入するだろう。君達の機数は少ない。しかし!臆する事は無い!!!!

君達は、中央世界最強の国の、最新鋭機に乗って戦うエリートだ。

対グラ・バルカス帝国では初の最新鋭機の戦闘となるため、諸君の活躍に期待している。機械動力の航空機ごときに、魔法文明が遅れを取るわけにはいかない。我らの誇りは君たちにかかっているといっても過言ではない。諸君らに、戦神の導きのあらんことを」

 

この無線の直後、目の良いパイロットが敵機を見つけた。団長のシルバーも言われた方向を見る。眼科を飛ぶ航空機はムーの様にプロペラを機首に持った機体で、速度はムーの機体の遥か上をいっている。だが奴等はこちらに気付いていない上に、こちらの方が高度は上。なら取る戦法は一つしか無い。

 

「先頭集団をたたくぞ!!全機突撃!!敵編隊上方から攻撃を行った後、そのまま敵後方低空へすり抜けるぞ!!!」

 

一撃離脱による先制攻撃である。だが降下を開始しようとした瞬間、真上に燦然と輝く太陽に一瞬影が出来た。その次の瞬間、周りの友軍機がオレンジ色の光弾に貫かれて炎を上げた。

 

「後方上空敵機!!!太陽から来るぞ!!!」

 

「おのれぇ!!」

 

シルバー団長は友軍機を初撃で失った事実に驚愕すると共に、仲間を殺した敵に対し怒りに燃える。第7制空戦闘団は各自散開し、グラ・バルカス帝国のアンタレス型艦上戦闘機と乱戦に突入した。

数はこちらが多い。シルバー団長は、勝利を確信していた。だが、そうは問屋は卸さない。

 

「くそっ!!また後ろに着かれた!!!振り切れな」

 

友軍機の魔信が途切れ、1機、また1機と火を噴きながら雲の海に消える。

 

「そ、そんな!!後ろに着けない!!旋回能力が違いすぎる!!し……しまっ!!」

 

「ばかな!!上昇能力でも勝てないだと!!!」

 

敵機の上昇能力に着いていけず、反転したところを撃墜される。というか何なら、後ろに着かれたらもう振り切れない。しかも乱戦の影響で、注意が散漫になり隙を突かれやすくなってしまっている。いつしか有利だったはずの数も、有利どころか不利の域にまで数を減らしていた。

 

「おのれぇぇぇぇぇ!!!」

 

シルバー団長は気合をもって、アルファ3を操る。敵の後ろに着こうとするも、身軽な敵は彼の射撃をあっさりとかわし、シルバーの後ろに着く。

 

「くそっ!!くそっ!!くそぉぉぉぉ!!!」

 

1機のアンタレスが真正面から、こちらに向かってくる。ヘッドオンで向かい合うが、シルバーの機体は多数の20mm機銃弾を浴び、爆散。雲海に散った。

この戦いを魔力探知レーダーで観測していたカルトアルパス空軍基地司令は、全機体を投入しての制空戦にする事を決定。すぐに航空機を上げ、近隣基地にも応援を要請した。だが、そんな事も焼石に水にすぎない。ジェット機は元々、格闘戦には向かない。速度、上昇力なんかはジェットだが、旋回や単なる戦闘機動に関してはプロペラ機に分がある…のだが、ミリシアルの場合は、速度がそんなに出ないのだ。

機体がジェット機に対応してない構造なので、速度が出ないどころか敵の主力機であるアンタレスよりも遅いという始末。しかもジェット機特有の機動性の悪さは超しっかり引き継いでるので、グラ・バルカス帝国パイロットからしてみれば単なるカモにすぎないのだ。

 

 

 

数十分後 カルトアルパス沿岸 フォーク海峡

「敵機来襲!!」

 

この頃になると、肉眼でも期待を捉えられた。すぐに各国の艦艇は対空戦闘に入る。ルーンアローという追尾式の矢を撃ったり、上空に待機していた航空隊と竜騎士隊が戦闘を開始するも、これが全くと言って良いほど効かない。ルーンアローは擦りもしないし、航空隊、というかマリンとワイバーンは本来なら戦闘機のカモにしかならない筈の爆装、雷装をした航空機に追いかけ回され、撃墜される始末。しかも終いには、こんな事も起きてしまった。

 

「敵船の水兵をビビらせる」

 

ズドドドドドドドドドド!!

 

機銃掃射で水兵をビビらせるつもりが、なんと豆鉄砲の7.7mm弾が甲板を突き抜け魔石に命中。誘爆して爆発し轟沈したのだ。

 

「うそぉ!?!?」

 

これにはパイロットも驚き、大急ぎで機首を上げる。まさかここまで脆いとは思わず、拍子抜けであった。釣りなんかで使う小型のボートや漁船ならまだしも、歴とした軍船がこの始末。予想しろという方が無理だろう。

だが一カ国だけ、マトモ以上に渡り合っている国家があった。

 

「正当防衛射撃、撃て!!」

 

大日本皇国海上保安庁、巡視船『しきしま』である。船体前部に設置された40mm連装機関砲が火を吹き、対空攻撃を開始する。流石に海軍の軍艦と同等、とまではいかないながらもレシプロ機位なら余裕で相手取れるだけの火器管制レーダーは持っているので、襲い掛かる敵機を一気に堕とすくらいは造作もなかった。

 

「全機撃墜!!!!」

 

「レシプロ如きに遅れは取らん!!」

 

『しきしま』を始めとした一部の艦艇が対空戦闘を継続する中、密かにアガルタ法国は秘策の準備に入る。

 

『アガルタ法国魔法船団、艦隊配置で六芒星を形成。艦隊級極大閃光魔法の準備を開始した模様』

 

「艦隊級極大閃光魔法って何だ?なにか情報はあるか?」

 

「いえ、全く」

 

彼らが話している間に、前を行くアガルタ法国の船が光り始め、6隻が六芒星の形を形成する。次の瞬間、艦隊によって形成された六芒星の中心部から、上空に向かって閃光がほとばしる。日本人がそれを見たならば目視できるレーザーのようにも見える。

アガルタ法国魔法船団から発射された閃光魔法は、直線に飛ぶが、魔素の位相変化により、超高速で、発射方向を変える。上空をなめるように移動する閃光により、2機の敵機が炎に包まれる。

 

「レーザー砲か!!!!やっぱ魔法って凄いわ」

 

「「「「「異世界スゲー!!!!!」」」」」

 

『しきしま』の乗員達は、普通じゃあり得ないし考えつかない様な異世界ならではの攻撃手段に戦闘中ながら興奮していた。中には「これで勝てんじゃね?」なんて考える者も。所がどっこい、この魔法は余り意味がなかった。

 

「ん?」

 

大体10秒くらいだろうか?シュンと光が細くなり、2回くらいの点滅の後、レーザーが消えて船体も光らなくなっていた。

 

『魔法船団魔力枯渇、再充電まで368秒』

 

「「「「「短かッ!!!!ってか充電長ッ!!!!」」」」」

 

368秒の充電で使えるレーザー砲。戦果、航空機2機撃墜。全く割にあってない攻撃に全員が落胆するが、そんな事も言ってられない。既にムーの航空機含む、連合航空隊はその悉くが堕とされてしまい、殆ど上空に味方機は残っていない。

それどころか、マトモに反撃できてるのが皇国を除くとムーとミリシアル、それからエモールの風竜位しかいない。他の国々は、その全てが海に沈むか炎上しながら湾内を迷走している始末。状況は最悪以外の何ものでもない。

 

「!?やばいやばいやばいやばい!!!!艦長!!!!」

 

「何だ!?」

 

「例の大和もどきです!!大和もどきが、湾内出口を封鎖しています!!!!!」

 

すぐに確認すると大和クラスの大型艦が、湾出口を封鎖している。戦艦『大和』。大日本皇国海軍の象徴であり、先の大戦から今も尚使われ続ける世界で最も長く使われた軍艦にして、敵首都への殴り込みを敢行した世界最強の戦艦。その戦艦と同等の艦が今、自らの進路を封鎖している。その事実に絶望を覚えるが、こうなったら大和もどきに突撃し、そのまま祖国へ帰還するしかない。

 

「総員傾注。これより本艦は、敵の大和型戦艦に向けて突撃を敢行する。今まで以上に危険で、尚且つ生還の可能性は薄い。だがこれは、死にに行くのでは無い。生き残るために、死中に活路を見出すのだ!!各員、自分の受け持つ仕事を何が何でも守り抜け!!!!!!」

 

瀬戸の艦内放送に触発され、今まで以上に海上保安官達に闘志が燃え上がる。

 

「目標、敵大和型戦艦!!最大船速!!!!」

 

「アイ・サー!!!!」

 

機関が唸りを上げ、速度が上がる。機関科員達がとにかく全開でエンジンを回し、速力を安定させて『グレードアトラスター』へ向けて突撃する。

 

「敵艦後部主砲及び副砲が我が方に向かって旋回しています!!!」

 

「回避運動、面舵一杯!!!!!」

 

操舵員が素早く舵を右に回して、艦の進路が右にずれる。次の瞬間、グレードアトラスターが発砲。すぐに右の水面に水柱が上がり、船体が右に左に激しく揺れる。

 

「正当防衛射撃!!!!対空砲とかを狙え!!弾切れなんか気にすんな!!!!取り敢えず撃てる物全部ばら撒け!!!!!!!」

 

たかだか機関砲で、大和型の装甲が破れるわけない。だがそれは、船体の話である。艦上にある対空砲やボートは、機関砲でも十分破壊できる。大和型には野ざらしの物もあるが、中にはシールドで守られた対空火器もある。だがこのシールドはあくまで主砲発射時の衝撃波から守る物であって、防弾目的では無い。なので機関砲でも、普通に貫通できるのだ。

 

「対空砲、機関砲、ボートに続々と命中!!爆炎も上がっています!!!!!」

 

「敵艦発砲!!!」

 

次の瞬間、船体がさっきとは比べもならない位揺れて、金属音が聞こえた。咄嗟に振り向くと、船体に巨大な大穴が開いている。

 

「貫通してくれたのか........」

 

「不発弾だ.......」

 

誰もが安堵した瞬間、船体が下からの爆発に巻き込まれて船尾からぽっきりへし折れた。砲弾は不発弾なんかでは無かった。遅延信管で貫通して船内で起爆するはずが、装甲が想定より薄かった結果、偶々貫通後に起爆してしまったのだ。

46cm砲弾の圧倒的な威力は、いとも容易く『しきしま』を破壊し、瀬戸艦長以下、100名が殉職。18名が運良く海に投げ出され漂流した。更にこれに加えて、ムーの『ラ・カサミ』は爆弾の命中で機関が暴走。そのまま座礁し大破した。ミリシアルの巡洋艦も『グレードアトラスター』の砲撃で沈んだ。ここにフォーク海峡海戦と名付けられる戦いは、グラ・バルカス帝国の勝利で終わったのである。

 

 

 

戦艦『グレードアトラスター』 艦橋

「艦長、まだ時間はあるな?」

 

グラ・バルカス帝国の若き外交官、シエリアは『グレードアトラスター』の艦長に尋ねた。

 

「?まあ一応は。上陸部隊の到達までは、少し時間はありますが」

 

「彼らを駆逐艦で救助してほしいのだが、可能か?国を守るために戦士として戦った彼らに罪は無い」

 

「ほう」

 

艦長は少しシエリアの行動に感心する。艦長は外交官に良い思い出がない。というのもイルネティア王国を攻めた時、ゲスタという外交官を乗せたのだが、この男、なかなかのクズだったのだ。詳しくは今後明かされるので今は語らないが、このゲスタのおかげで艦長以下、乗組員にとって外交官はクズというのが共通認識になっている。しかし彼女はどうやら、シーマンシップなり武士道を理解してくれているらしい。これには正直、武人として嬉しかった。

 

「解りました。時間が許す限り、駆逐艦を使って救出しましょう」

 

「捕虜としての権利も伝え、帝国は捕虜を丁重に扱う旨も伝えといてくれ」

 

「はい、解りました」

 

すぐに駆逐艦を動員し、救出作業を開始する。漂流していた18名の海上保安官もまた、救助されたのであった。

 

 

 

 

*1
『紺碧計画』で建造された潜水艦を主軸にされた潜水艦隊。現在第一から第三十五まである。編成は伊1500号型10、伊2000号型3、伊2500号型4、伊3000型8、伊3500型1(旗艦)となる。



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第五十六話カルトアルパス防衛戦

フォーク海峡海戦発生より数時間後、グラ・バルカス帝国の作戦は次の段階に進んだ。漂流者救助の任務を終えた駆逐艦は『グレードアトラスター』と共に本国への帰途に着いたが、それと入れ替わるように輸送船団とヘルクレス級戦艦『コルネフォロス』がやって来た。この艦隊の任務は「なるべくカルトアルパスを滅茶苦茶にする事」である。

そしてこの頃には近くの基地から、防衛を命じられた部隊が沿岸部に陣地を築き上げていた。

 

 

「戦闘用意!!」

 

沿岸部にはカルトアルパス守備隊がアクタイオン型対空魔光砲や150mm魔導砲を並べ、防御態勢を整えている。

因みにアクタイオン型対空魔光砲は、スペイン海軍がCIWSとして採用しているメロカのように横8列×縦3段の計24門を束ねた物で、制圧力は結構高い。だがしかし、全門一斉発射なんてしよう物なら反動で銃身はブレるわ、そもそも土台が持たず後退しだすという欠点があるので、数門をバースト射撃で撃ちつつ数秒ごとに変更していくスタイルが採用されている。

 

「敵機来襲!!」

 

「アクタイオン、自動呪文詠唱完了!魔力充填70%、80%、90%、100%、連射モード切替完了!!属性比率、爆14、風65、炎21、対空魔光砲発射準備完了!!」

 

「撃てッ!!」

 

アクタイオン型対空魔光砲から放たれるレーザーの様な弾幕がシリウス型爆撃機とリゲル型攻撃機の編隊に襲い掛かる。一応連射力に物を言わせて、ある程度一定の効果を上げてはいる

 

「いいぞ!いいぞ!」

 

だが多勢に無勢とはこの事で、10門程度では100機にも迫る爆撃隊を完全に防ぐ事はできず、シリウスが急降下爆撃に入った。甲高い風切り音が鳴り響き、爆弾を投下する。

 

「ま、まずい!にげ」

 

次の言葉を言う前に爆炎が辺りを包み、魔石にも引火して大爆発を起こした。それも後方にいた魔導砲部隊も巻き込んで。周囲にカラフルな爆炎を撒き散らしながら、部隊は壊滅。シリウスは悠々と飛び去る。

 

『クソッ、砲兵隊が吹っ飛ばされた!』

 

「お前達、仇を取るぞ。続け!!!!」

 

『『『『『了解!!』』』』』

 

カルトアルパス近郊の空軍基地から飛び立った航空隊は、ようやくカルトアルパス上空に差し掛かった。カルトアルパス空軍基地は既に滑走路が潰され、残っていた機体も機銃掃射で蜂の巣にされてるか、爆弾によってキャンプファイアーになってしまい、基地としての機能を喪失している。

この事を受け、各近郊基地は旧式機だろうがマルチロール機だろうが、とにかく全部上げる方針を取り、今ようやくカルトアルパスに到着したのだ。その為編成が

 

・エルペシオ3(最新鋭制空戦闘機)21機

・エルペシオ2(一世代前の制空戦闘機)84機

・エルペシオ(老兵制空戦闘機)3機

・ジグラント3(マルチロール戦闘機)84機

・ジグラント2(旧式マルチロール戦闘機)84機

・ジグラント(骨董品マルチロール戦闘機)6機

合計 282機

 

という、中々にバラエティに富んだというか、戦闘機博覧会並みの編成なのである。因みに一個航空戦闘団=42機である。

だがまあ、幾ら数を揃えようとベネットではないが「ただのカカシですな」としかならない。これに加えてフォーク海峡海戦をどうにか生き残って、雲の中に隠れていた風竜騎士団8騎も参戦し、一応の体裁は整った。

では一方のグラ・バルカス帝国軍はというと

 

・アンタレス型戦闘機(零戦52型)60機

・シリウス型戦闘機(彗星)90機

・リゲル型雷撃機(九七式艦攻)40機

合計 190機

 

しかも前述の通りヘルクレス級戦艦、つまり長門型戦艦と上陸部隊までいるので、中々に厳しい戦いとなる。だがしかし上陸部隊を乗せたボート群は、深刻なダメージを受けながらも未だその闘志に揺らぎ無き猛者達が相手取る。

 

「砲撃用意!!主砲はいいから、副砲と補助砲で吹き飛ばせ!あんなボート、至近弾でも脅威になる筈だ!!」

 

ムー海軍の象徴、戦艦『ラ・カサミ』である。確かに魚雷が命中して機関が暴走し、最後には座礁して今は身動きは取れない。だが座礁した事で、取り敢えず浸水被害も無視できる。主砲は動かせないが、まだ両舷の副砲と補助砲は撃てる砲もある。

今や浮砲台となったが、せめて奴らに一矢報いるべく、艦長ミニラル以下、生き残った乗員達は『ラ・カサミ』を動かし始めた。

 

「照準、準備よーし!」

 

「装填よし!」

 

『まだだ!本艦を死に艦(・・・)と思わせろ!!合図あるまで撃つな!!!!』

 

分隊長がメガホン片手に甲板を歩き回り、まだ撃たないように周知徹底させる。間も無くして上空では航空隊がいよいよ戦闘が始まった。だがしかし、アンタレスに堕とされていくだけなので割愛させていただく。

空での戦いが始まった数分後、上陸用舟艇が黒い群れとなって迫ってきた。だがまだ、砲撃は指示しない。舟艇が『ラ・カサミ』を通り過ぎて、丁度『ラ・カサミ』が舟艇群の真ん中になった時だった。

 

「砲撃開始ぃ!!!!」

 

「それいけぇ!」

 

ドォン!ドォン!ドォン!

 

砲撃が始まった。大半が至近弾だったが、読み通り転覆させる事に成功した。中には直撃した舟艇もおり、この不運な舟艇は派手に吹き飛び、爆炎を高々に上げている。

 

「装填急げ!!」

 

『各砲、自由射撃!!任意の目標を撃て!!!!』

 

分隊長と水兵が走り回って命令を伝達し、砲撃を続ける。その甲斐あって上陸部隊は回避運動を取り始めており、進軍速度の低下に貢献したのだ。だが、これを黙って見ている程、グラ・バルカス帝国も甘くない。近海に到達したヘルクレス級戦艦『コルネフォロス』が砲撃を開始したのだ。

 

「!?海峡出口の戦艦の主砲、こちらを指向しています!!!!」

 

「なに!?」

 

「敵艦発砲!!!!」

 

「衝撃に備えぇ!!!!!!!」

 

ミニラルが叫んだ直後、周辺に巨大な水柱が上がった。明らかに自艦の主砲である、40口径30.5cm砲の威力をはるかに上回っている。

 

「主砲、応射いけるか!?」

 

ミニラルの問いに、ダメコンの責任者である専任軍曹は首を横に振った。

 

「撃てるには撃てます。ですが今撃ちゃ、最悪破口が広がったり、新たに出来ちまったりして、下手すりゃ沈没ですぜ」

 

「撃てるには撃てるんだな?なら撃つ!!」

 

「たっはぁー、この艦長、見た目の割にやる事なす事、全部過激なんだから。二斉射、何が何でも持たせますから決めてくださいよ」

 

「わかった!」

 

41cm砲弾が降り注ぐ中、急いで攻撃準備に移る。砲塔を回し、砲弾と装薬を込め、砲身を上げて、照準器に『コルネフォロス』を捉える。

 

「砲撃よーい!!」

 

だが次の瞬間、後部主砲近くに41cm砲弾が直撃。火薬庫付近で火災が発生した。

 

「クソッ!!野郎共行くぞ!!!!」

 

すぐに先任軍曹が部下を引き連れて現場へと走り、ミニラルは冷静に残った前部主砲で『コルネフォロス』を撃った。現代のレーダー照準射撃に砲身安定装置の合わさった砲塔ならいざ知らず、この頃のような測距儀で目標を人力で照準するアナログ方式で、初弾命中は余程の練度があっても実は凄く難しい。だが今回は奇跡が起きた。放たれた2発の砲弾は正確に『コルネフォロス』の中央部に着弾したのだ。

 

「ぜ、全弾命中!!!!」

 

観測員の報告に艦橋中が歓喜の声を上げるが、代わりに『ラ・カサミ』には限界が来たらしい。艦が急激に傾き、砲戦ができなくなってしまったのだ。

 

「これまでか。総員、退艦!!」

 

二番砲が吹っ飛ばされた挙句、元々副砲と補助砲の弾薬も底をつき始めていた以上こうなるのは確定していたので、乗員達の動きは素早かった。だが『ラ・カサミ』から離れる事に涙する者も少なくなく、ミニラルら幕僚達は「必ずここへ取りに帰る」という意味を込めて、帽子を艦橋に置いて退艦した。

一方その頃、空では地獄の死闘が繰り広げられていた。

 

 

「クソッ!クソッ!!クソッ!!!!奴ら何なんだ強すぎる!!」

 

既に282機いた航空隊の大半は堕とされてしまい、今残っているのは風竜含め20機程度。肩や敵に与えられた被害は、10機位であった。全く割に会っていない。10機を倒すのに250機以上の生け贄とか、全く笑えない。

 

『こちら、エモール王国風竜騎士団、ベーズニクル。我ら二騎、これより突撃を持って騎士団の誉れを示す。其方はどうされるか?』

 

「我々は.......」

 

隊長機が堕とされ続け、今やミリシアル航空隊の指揮官にスピード出世してしまった若き少尉は返答に迷った。このまま突撃しても、敵に与えるダメージは皆無なのは明白だ。だが一方で、仲間を殺して国土をめちゃくちゃにした上に会議を台無しにしたグラ・バルカス帝国に一矢報いたいとも思っている。

思考の坩堝にハマり、決断を下さないでいると、目の前にあり得ない光景が飛び込んできた。巨大な飛行物体が、雲の中から現れたのである。

 

「まさかアレも、グラ・バルカス帝国の兵器なのか.......」

 

『待たれよ!あの紅の紋様、間違いない。アレは大日本皇国の紋様だ!』

 

「大日本皇国!?」

 

そう。彼等の目の前に現れたのは、グラ・バルカス帝国のカルトアルパス侵攻を察知して派遣した特殊戦術打撃隊の空中空母『白鯨III』と支援プラットフォームの『黒鯨V』『黒鯨VI』、そして空中母機『白鳳X』『白鳳XI』である。

 

『敵機直上!!』

 

援軍に気を取られている間に、航空隊は真上を取られていた。太陽を背に、アンタレスが降下してきたのが見える。アンタレスに搭載された20mm機関砲は、普通に機体に大穴を開けてくる威力を持つ。防ぐ事はできない。え、7.7mm?アレは豆鉄砲だ。牽制とラッキーパンチ狙いで撃つが、あまりそれで落ちる事はない。

だがアンタレスのパイロット達は知らなかった。自分達の背後には既に、死神が迫っている事に。

 

ピッピッピッピーー

「ターゲット、ロック。FOX2」

 

アンタレスの更に後方には、『白鯨III』から発艦したF8C震電IIが居たのだ。震電IIは機内小型パイロンに装備されたAIM25紫電を2発発射し、アンタレス2機を撃墜。残った機体には20mm機関砲を浴びせて、更に撃墜。これに加えて『白鳳X』に搭載されているMQ5飛燕2機のパルスレーザー砲も使い、世界連合軍の編隊に襲い掛かろうとしたアンタレスは全て撃墜された。

3機はそのまま編隊の間を降下しながらすり抜け、そのまま機体を上昇させて高度をまた上げた。

 

『凄い.......』

 

『アレが大日本皇国.......』

 

「あんな戦い、ついていける自信がない.......」

 

真上で起きた常識外れの戦闘に呆気に取られていたが、それを現実に引き戻す位あり得ない事態が起きた。

 

『空中の編隊、聞こえるか?こちらは大日本皇国特殊戦術打撃隊、空中空母『白鯨III』所属のAEW。コールサインは『ウィンドイアー』、風の耳という意味だ。其方の最先任は誰だ?』

 

どういう訳か魔導無線に、魔法技術を持たぬはずの大日本皇国が割り込んできたのだ。しかもAEWだのコールサインだのと、訳の分からない単語も出てきている。だが最先任を問われた以上、答えない訳にもいかない。

 

「こちらは神聖ミリシアル帝国、第28制空戦闘団、第3飛行小隊3番機、ビーガリル少尉」

 

『エモール王国、風竜騎士団所属、ベーズニクルだ』

 

若き少尉改め、ビーガリルとベーズニクルはそう返答した。少し時間をかけて、ウィンドイアーが話し始めた。

 

『.......確認した。周囲にいる13機は味方でいいのか?』

 

「間違いない」

 

『よし。こちらのレーダー情報に登録した。これより、君達をこちらの指揮管制下に組み込ませてもらう。これは効率的かつ最小限の被害で敵を倒す為の措置だ。理解してほしい』

 

「具体的に、其方は何ができる?」

 

『君達が目視で見つけるよりも先に、敵と味方の正確な位置、速度といった情報を提供しよう』

 

陸上戦だろうが、艦隊戦だろうが、空中戦だろうが、戦闘は常に先に見つけた方が有利となる。現代のようにレーダー技術が発展し、有視界内での戦闘が殆ど無い戦闘に於いても、先制攻撃出来た方が確実に戦いの主導権を握る。その事を知っているからこそ、ウィンドイアーの提示した内容は直ぐにでも手を組みたくなるものであった。

 

『ビーガリル殿、我々としては組みたいと思っている。其方はいかがする?』

 

「.......我々も組みます。ウィンドイアー、誘導してくれ」

 

『了解した。編隊より10時の方向、別働の飛行隊がいる。速度的にみて爆撃機だが、油断はするな。戦闘機が紛れている可能性が高い』

 

「了解!!」

 

ウィンドイアーの誘導指示に従って飛んでいると、すぐに敵編隊を捕捉できた。しかも相手は気が付いてないのか、回避運動も取らないし、機銃も撃ってこない。

 

「こちらビーガリル、敵を目視にて補足した。これより攻撃する」

 

『待て!直ぐにその空域から離れろ!!!!早く!!!!!!』

 

ウィンドイアーが聞いたこともないくらい焦った声で叫ぶので、全機慌てて高度を取って空域から距離を取った。

次の瞬間、紫色の光線が敵編隊を薙いだ。アガルタ法国の艦隊級極大閃光魔法のような巨大レーザーは、その見た目通りの破壊力で編隊にいた全ての機体を破壊した。

 

「あれは一体.......」

 

『今の攻撃は我が国の保有する無人機、空中母機『白鳳X』によるロングレンジTLS攻撃だ。あの攻撃を喰らって無事で居られる航空機は、殆ど存在しない』

 

『なんて攻撃なのだ.......』

 

こんな現実離れの戦闘を見せられては呆気に取られてしまうのも分かるし、当然の反応なのだが、ここはまだ戦場のど真ん中。別の指示を飛ばして、今度は彼らを上陸用舟艇及び海岸付近の陸上部隊殲滅に当たらせた。

 

 

 

大日本皇国到達直後 空中空母『白鯨III』艦橋

「やはり、艦隊の壊滅前には間に合わなかったか」

 

「えぇ。ですがまだ、戦いは終わってないようです」

 

艦長は助けられたかもしれない世界連合軍の将兵達を悔やんだが、今は死者に思いを馳せる暇は無い。今すべきことは、生者を生かすことである。

 

「まずは航空優勢の確保からだ。航空隊、全機出撃!!」

 

「アイ・サー!総飛行機発動、稼働航空機全機発艦!!急げ!!!!」

 

この指示に従い、航空隊は『白鯨III』の腹から飛び出して、青き大空へと羽ばたく。さらに『白鳳X』『白鳳XI』からも飛燕が投下され、空中で翼を翻し、敵編隊へと襲い掛かる。

 

 

「全機、あの大型機を落とすぞ!!!!続けッ!!!!!!!!」

 

グラ・バルカス帝国も、黙ってやられはしない。編隊は目の前の白鳳、黒鯨、白鯨を目指して突き進む。だがそんなこと、無意味なのだ。

白鳳にはTLSの他、パルスレーザー砲2門に加え、対空ロケットランチャーが90基搭載されている。白鯨には対空機関砲88基に対空ミサイル発射機50基の他、改修で新たに203mm四連装火薬・電磁投射両用砲12基が搭載されており、火力が上がっている。そして黒鯨は速射砲、対空機関砲、VLSが大量に搭載された対空ハリネズミと形容できる程に、対空武装が充実している。こんな機体に、たかがレシプロ機で挑めばどうなるであろうか。

 

「対空戦闘始め!!!!」

 

キュィィンブオォォォォォォォォ!!!!

ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!

 

凄まじい弾幕が展開されて、全部倒される。だが航空機がダメなら、航空機以外で倒せば良いだけだ。その発想で生まれた作戦が、沿岸の『コルネフォロス』による砲撃であった。

 

「コイツはまずい。敵戦艦、こちらに砲を指向しています!!艦種識別、長門型戦艦!!」

 

「長門型か。ビッグ7の一角にして、41cm連装砲を備える歴とした最強格戦艦だ。白鳳を前に出せ!!」

 

運良く砲塔旋回段階で気付けたので、直ぐに対応する。無人機である2機の白鳳を有人機である空中空母艦隊の前に出し、盾とするのだ。

 

(頼むぞ、白鳳)

 

前に出た『白鳳X』『白鳳XI』は機体上部に搭載されたマイクロ波増幅装置を起動させ、天使の輪っかのような青い円を作り出した。そしてその円が機体の全幅を超えた瞬間、巨大な青い球体に変化して機体をすっぽり覆ったのだ。

砲弾はその球体に全弾命中するが、命中箇所が物体が落ちた水面のように波打つだけで被害は愚か爆発も起きない。

 

「『白鳳X』及び『白鳳XI』、APS正常に作動。敵砲弾を防御しました」

 

これこそ白鳳にのみ搭載されているAPSという装置である。この装置は増幅されたマイクロ波を放出し、球状の電磁バリアフィールドを展開することができる。このフィールドにはミサイルは勿論、爆弾も砲弾もレーザーも効かず、例え戦闘機で特攻したとしても機体が破砕されてしまう。因みに戦艦や固定砲台として配備されている電磁投射砲は、唯一APSを無視して破壊できる。

そんな事を知らない『コルネフォロス』は次弾を装填し、また撃とうとするが、そうはさせない。

 

ゴンッ!!!!!!

 

何やら鈍い音が鳴り響いた。見れば『コルネフォロス』を何かが貫いたのだろう、巨大な穴が中心部分に3つ出来上がっている。次の瞬間『コルネフォロス』は大爆発し、そのまま海底に沈んでいった。

 

「艦長、『伊3505』より入電。「第五潜水艦隊、これより戦闘に参加する」です」

 

「あの長門型も、例の新型潜水艦によるロングレンジ砲撃か」

 

「そうでしょうね。にしても、エゲツない」

 

『コルネフォロス』が沈んだのは、某救済狂人艦長が乗っていたアリコーンに良く似た潜水艦、伊2000型の610mm電磁投射砲による物で、今回は第五潜水艦隊に配備されている『伊2013』『伊2014』『伊2015』が撃った。

 

「さて、そろそろあの方達に動いてもらいましょうか」

 

「そうだな。ここからは、あの方のターンだ」

 

『コルネフォロス』が海底にその身を沈ませていた頃、『白鯨III』の後部甲板には彼らが整列していた。皇国が誇る最精鋭部隊にして、世界最強の戦闘集団。一つの目的を共通意志とし、多数の生命が一つの生命体の様に戦う、最恐最悪の殺戮機械(キリング・マシーン)。彼らの名は『神谷戦闘団』。

先頭に立つのは「皇国剣聖」の文字が入った至極色の羽織を着た二刀流の男。その背後には6人の人間が立っている。1人は「鉄砲頭」の文字が入った黒いロングコートを身に纏い、残りの5人は殆ど同じデザインの鎧を身に纏った美女達であった。但し腰巻の色が薄いピンク、薄い紫、レモン色、薄い水色、薄い赤と言った具合に違う。

更にその後ろには普通の装甲服を見に纏った兵士達と兵器群がいる。ただし一部、真っ白な装甲服を纏った隊員や兵器群もいるが。

 

「さぁ野郎共、戦争を始めよう」

 

至極色の羽織を着た男、神谷浩三は静かに命令した。次の瞬間、全員が甲板の端を目指して走り出す。そのまま飛び出し、空挺降下を始めた。

 

「極帝!!!!」

 

「久しぶりに我を呼んだな、友よ!!!!」

 

神谷の背後から現れたのは、全長数十キロにも及ぶ巨大な赤い竜である。数時間前、この地で戦っていたワイバーンとも、風竜とも明らかに格が違うのが見て取れるほどに巨大で、尚且つ強大な力を持つ事が見て取れる程に堂々たる姿だ。

それものその筈。この竜は異世界にいる他の竜とは別格。ワイバーンを始め風竜のような真竜種、世界に数体しかいないオンリーワンの存在である神龍種、その全ての頂点に立つ竜神皇帝なのである。

 

「ここならお前も好きに暴れられるだろ!!敵は全部ぶっ潰せ!!!!」

 

「心得た!!!!」

 

極帝は姿を数百メートルサイズまで縮めると、加速して下にいるグラ・バルカス帝国の兵士に襲い掛かる。

 

「な、なんだアレは!?」

 

「竜が襲ってくるぞ!!!!」

 

「追い払え!!」

 

グラ・バルカス帝国では当初こそ、竜を侮れない相手としていた。だがすぐに現代兵器に対して殆ど通用しない事が露見し、最近では「竜は見た目こそ威圧的だが、実際は空飛ぶ火を吹くトカゲ」という扱いなのだ。なので彼らのように戦場に出た事ない者は、竜を下に見ている節がある。

だがしかし、空中戦ならともかく地上戦では竜は結構強い。生身で炎を受ければ普通に焼け死ぬし、第二次世界大戦相当の戦車なら炎耐性を余り持ってないので、エンジンルームにでも命中すれば破壊できる。まあ極帝は炎の威力が高すぎて、皇国軍の戦車でも中を蒸し焼きにしてしまう事もできるのだが。

因みに最大火力でぶん回した場合、一応60,000℃(太陽の中心が16,000℃とされる)出せるらしい。(極帝談)

 

「その程度で、我は止まらぬわ!!」

 

ゴオォォォォォ!!!!!!

 

グラ・バルカス帝国兵を一気に焼き払い、死体も残らないほどに燃やした。兵士の立っていた場所には人影の石の様に、影だけが石段に刻み込まれている。

 

「野郎共!!散開し、敵を討ち滅ぼせ!!!!兵器は全部壊せ!!!!いつもの様に暴れて、勝利を収めるぞ!!!!!!!」

 

極帝が兵士を焼き払った直後、神谷戦闘団の面々も降下した。そこからの動きはとにかく迅速だった。神谷と副官の向上、神谷の妻であるエルフ達で構成された神谷戦闘団特殊戦闘隊、通称『白亜の戦乙女(ワルキューレ)』、そして神谷戦闘団の中でも飛び切りの精鋭達が集う白亜衆が遊撃、ほかの隊員が避難誘導と避難路に近づく敵の迎撃に当たるのを、神谷が命令せずとも行動に移し出す。

 

「お前達、これが入隊後としては初陣となる。これまでの猛訓練の成果、そして才能を見せてみろ」

 

「私達にお任せください!」

 

「こうくん、私達の戦闘力は知ってるでしょ?まあ見ててよ」

 

因みにこの部隊の設立にあったては、結構色々あった。内外から色々ボロクソに言われたのだ。やれ「神谷長官専用の喜び組」だの、「職権濫用」だの、「軍人の風上にも置けない」だの、とにかく色々言われてる。

では何故、態々部隊を分けたのかというと、彼女達が尖りすぎてるからである。彼女達、神谷家ではエルフ五等分の花嫁と呼ばれているのだが、元はナゴ村に住まうエルフ族の族長の娘であり、使用する武装も剣と弓と魔法という、皇国軍に存在しないどころか概念から無かった武装を得意とする。神谷も刀を二刀流で戦うし、異世界に転移してからは魔法も操れる様になったが、それはあくまで1人なので問題はなかった。

だが5人もイレギュラーが居ては、流石に指揮する時に色々面倒な事になる上、そもそものポテンシャルを活かせない可能性が高い。そこで新たに部隊を創り、神谷という絶対権力の直下に配置する事で遊撃可能な機動戦闘ユニットとしての活用を可能としたのだ。

 

「そんじゃ、取り敢えず上に上がるぞ」

 

7人は腕に装備されたグラップリングフックで建物の屋根へと飛び上がる。因みにエルフ五等分の花嫁の武器と装備は「第四十六話リーム王国へ」にて、神谷が『上位武具生成(クリエイト・グレーター・ウェポン)』で創り出した物と変わらない。但し目に神谷と同じARコンタクトレンズ、腕甲部分にグラップリングフック、腰にジェットパックを新たに搭載している。

 

「正面、敵戦車。見た目から察するに、チハですね」

 

「え、マジだ。チハたん三兄弟じゃん」

 

正確には57mm砲を搭載したハウンドIという戦車なのだが、向上と神谷の言う通り帝国陸軍の九七式戦車チハと瓜二つの戦車が3台いる。その後方には恐らく三八式歩兵銃らしき何かを装備した兵士がいて、その射線の先にはミリシアルの即席防御陣地があった。

 

「それじゃレイチェル、反対の建物の屋根に移動して合図を待て。エリス、合図と共に降下。破壊しろ。向上、アーシャ、ミーシャはここからアビリティで援護。ミーナは俺とこい」

 

神谷はすぐに指示を飛ばし、迎撃の準備を整える。ものの10秒で完了し、攻撃の合図を出した。

 

「悪く思わないでよね!」

 

まずはレイチェルが矢を放つ。放ったのは爆裂魔法と貫通力を上げる魔法を込めた矢である。当初は爆裂魔法だけだったのだが、今では好きな魔法を掛けられる様に変更してある。その為爆裂魔法の他、火、電、水、風、回復、各種毒や弱体化、麻酔等々、汎用性が飛躍的に向上した。

放たれた矢は先頭にいたチハたんの薄い天井を貫き、内部で爆発。砲塔が吹っ飛んだ。

 

「エリス!」

 

「行くわよ!!」

 

エリスはその黒に赤いラインの入った、自分の身体と同じくらいの大きさのある大剣を地面に叩きつけた。次の瞬間、地面が不規則に曲がりながらも真っ直ぐにひび割れ、その割れ目から溶岩が勢いよく噴き出す。その溶岩は正確に戦車に当たり、足回りがドロドロに融解し行く足が止まった。

因みにエリスの大剣は叩きつけると溶岩が噴き出るが、地面に突き刺すと大量の剣が剣山の様に地面から生えてくる。勿論、その剣を引き抜いて使うこともできる。イメージ的にはハイスクールD×Dのソード・バース。

 

「かかれ!!」

 

今度は上からアーシャがレイピアの刀身を無数の蛇に変え、兵士に食らい付かせ、ミーシャが各種魔法で攻撃する。それに加えて向上による的確な射撃で敵の頭を押さえ込み、その隙にヘルミーナと神谷の斬り込み隊が突っ込む。

尚、3人の武器も改良されている。アーシャは代謝を阻害して相手をグズグズにする危険な毒が使える蛇を生み出せたが、新たに麻痺毒と麻酔も使える様になった。ミーシャは火、水、雷、風、土、闇、光の魔法を自動行使する剣を2本ずつ計14本出す物だったが、これを28本に増やして好きな属性に割り振れる様になり、新たに別個で同じ様に属性を割り振れる槍を35本出せる様になっている。ヘルミーナも毒はアーシャと同じ様に麻痺と麻酔を追加して、新たに30mm弾まで防げる可動式の盾を腕甲に仕込んである。普段は普通に腕甲になっているが、起動すると縦1m、横70cmの半透明の盾が出てくる。連続6時間の作動が可能で、6時間使っても1分でまた6時間分使えるぶっ壊れ装備である。

 

「当たると結構痛いわよ!!」

 

「取り回しの悪いライフルで、接近戦に対応できるわけないだろ!!」

 

ヘルミーナは二つのブロードソードを鋏にして、相手の身体や首を切り刻んでいく。肩や神谷は確かな経験と千年近い時を使い、先祖達が栄々と編み出した剣術でバッサバッサと切り捨てていく。攻撃開始よりたった3分で、戦車3両含む一個小隊規模の歩兵部隊を倒したのであった。

 

「う、動くな!!」

 

ミリシアルの守備隊がM14っぽいライフルを構えて、こちらにゆっくりとやって来た。どうやら警戒しているらしい。

 

「心配すんな、俺達は敵じゃない」

 

「では何者だ!!」

 

「大日本皇国統合軍、神谷戦闘団。俺は団長の神谷浩三だ」

 

顔を見合わせるミリシアル兵達だったが、銃を降ろして、くれなかった。

 

「巫山戯るな!!なぜ上級将校である者が、こんな最前線にいるのだ!!!!嘘をつくなら、もっとマシな嘘をつけ!!!!」

 

「はぁー、面倒臭い。ん」

 

神谷が指をパチンと鳴らすと、ミリシアル兵の背後に白亜衆の隊員達が静かに忍び寄っていた。

 

「銃を下ろせ。このお方を何方と心得る」

 

「なっ!貴様ら、分かっているのか?我々は最強の神聖ミリシアル帝国軍に所属する兵士だぞ。そんな蛮行、許されるものか!!!」

 

「戯け。お前達の目の前におられる方こそ、大日本皇国統合軍、つまり皇国の全ての軍隊の指揮権を持っておられる統合軍司令長。神谷浩三元帥であるぞ。それに、貴様らの国よりも我が祖国は遥かに強い。たかが歩兵戦闘車程度の性能しかない戦車を前に、遮蔽物に隠れる事しか出来ない兵士が最強を語るな」

 

たかだか地方部隊の守備隊と、幾つもの修羅場をくぐり抜けた歴戦の猛者では比べるまでもない。威圧に負け、ミリシアルの兵士達は銃を下ろした。

 

「よろしい。長官、我々はこのまま前進します。そちらは?」

 

「なら、俺達は適当にこの辺の戦車を破壊するかな。お前達、行くぞ」

 

こんなクソみたいなミリシアル兵も居たが、これは腐ったみかんにすぎない。勿論、誇り高き兵士もいた。例えば彼ら。

 

 

「おい、こっちだ!!走れ!!!!」

 

カルトアルパス陸軍基地、第241保安警備隊、第8憲兵隊の隊長であるフィーラは、部隊を率いて逃げ惑う国民の避難誘導を行なっていた。先に国賓である外交官を逃すために鉄道を確保したり、防衛部隊の展開を優先してる間に攻撃が始まり、大半の市民が逃げ遅れていたのだ。しかも避難訓練なんざロクにやってない上に、爆発音と銃撃音が鳴り響いているので冷静さもない。

それでもせめて、1人でも多く逃すために憲兵隊と警察隊が避難誘導を行なっていたのだ。だが効果は焼け石に水どころかお湯といった所で、あんまり効果はないが気休めにはなる。

 

「あ、あの憲兵さん。孫がな、孫がおらんのじゃ。頼む、一緒に探しとくれ」

 

「婆さん、心苦しいがそれは無理だ。今はとにかく逃げてくれ」

 

「そんな殺生な。頼む、まだ4つなんじゃよ。私は死んでも良いが、あの子だけは.......」

 

そう言って泣き崩れる老婆。本当なら探し出してあげたいが、今ここで持ち場を離れることは出来ない。確かにこの老婆に取っては大切な命なのだろうが、この逃げ惑う全体で見れば1つの命に過ぎない。その1つの為に、全体を危険に晒すことはできない。

 

「お婆さん、良いかい?探し出すのは無理だけど、ここから見える範囲なら探してみる。だから、先に避難して待っていてあげて。案外、先に避難してるかもしれないから」

 

若い警官がそう言うと、老婆は人の波に戻り避難してくれた。ほっとしたのも束の間、後ろから一般人が大声で叫んだ。「鋼鉄の地竜と兵隊が来るぞ!」と。

すぐに憲兵隊は後方に走り、遮蔽物に身体を滑り込ませる。警官隊は避難する市民を後ろから急かしに急かして、少しでも遠くへと追いやる。

 

「まだ撃つなよ!!この銃は射程が短いんだ、ここから撃ったって当たらん!」

 

フィーラは部下達にそう命じたが、この判断は間違っていた。ハウンドIが避難民の一団に主砲を撃ったのだ。ハウンドI、というよりチハは戦車としては弱い。貧弱な装甲にあんまり強くない主砲と、大戦中は多数が撃破された。

だが、人相手なら話は別だ。銃弾を弾き返す装甲に、人の一団を余裕で吹っ飛ばす主砲。それも訓練を積んでない単なる一般人である避難民には、十二分に脅威となる。今の砲撃で10人近く吹っ飛んだし、20人近くが破片で怪我を負った。

 

「撃て!!!!少しでもこっちに注意を引かせるんだ!!!!!!!」

 

装備しているM3によく似たサブマシンガンを連射し始める。だがサブマシンガンである以上、射程は短く弾もバラけて効果的な攻撃にはなっていない。逆に随伴歩兵と車載機銃の攻撃で、3人の仲間がやられた。

 

「奴ら、強すぎるだろ!」

 

「ヤバいですよこれ.......。後方からも例の鋼鉄兵器が来てます!」

 

見ればその後方からも8両のハウンドIが迫っていた。ここは丁度、街の中心部。戦車達はここを目指す事になっているので、ここにいては包囲されてしまうのだ。勿論フィーラはそんなこと知らないが。

 

「どうやら、俺達はここまでのようだな。お前達、覚悟を決めよう.......」

 

フィーラは死を覚悟した。だが、その前に彼らが来たのだ。

 

「耳を塞いで口を開けろ!!!!」

 

フィーラの背後にデカい人間が立っていたのだ。堅牢な装甲に守られた、重装兵といった感じの見た目で、威圧感が凄い。腕には不釣り合いな程に大きな大砲が2門付いていた。

 

「APFSDSを食らいやがれ!」

 

白亜衆の装甲歩兵が腕に装備した60mmオートライフル砲を撃つ。ハウンドIの装甲は薄く、余裕で貫通できてしまう。砲弾に誘爆し、爆炎を上げて動かなくなった。

 

「対戦車兵器もないのに、よく頑張った。後はプロに任せろ」

 

「あ、アンタらは一体.......」

 

次の瞬間、目の前でありえない事がおきた。迫り来る他の鋼鉄の地竜も、破壊されたのだ。しかも歩兵がである。槍状の何かを後ろに突き刺されたり、大きなハンマーとアックスで殴られてたり、謎の巨大な筒を持った兵士が光り輝く槍を発射したりして、とにかく何が何だかは分からないが全ての鋼鉄の地竜が破壊されたのだ。

 

「撃て」

 

そして白い装甲服を身に纏った兵士達が、黒いおもちゃのような魔導銃を向けると弾が連射して吐き出され、迫り来るグラ・バルカス兵を殲滅してしまったのだ。

 

「クリア」

 

「次のポイントに行くぞ。続け」

 

指揮官クラスなのだろう、さっきの巨大な大砲を持った兵士よりも軽装の歩兵が命じると、敵が密集する前線へと向かい出した。

 

「ま、待ってくれ!」

 

「なんでしょう?」

 

フィーラは手近の兵士を呼び止めた。

 

「あなた達は、一体何処の軍隊なのだ?」

 

「我々は大日本皇国統合軍、神谷戦闘団『白亜衆』です。我々は大日本皇国統合軍司令長官、神谷元帥指揮の下、グラ・バルカス帝国軍の殲滅作戦を展開しています。引き続き、カルトアルパス市民の避難誘導をお願いしたい。我々が来たからには、これ以上この街の市民に被害は出させません。では、これにて」

 

白亜衆の兵士は足早にその場を去り、フィーラは頼まれた通り避難誘導に戻った。

 

 

 

同時刻 フォーク海峡出口付近 揚陸指揮官『タトゥイーン』

「もうすぐ海峡を抜けるな」

 

この作戦の指揮官であるマックインは、指揮所でパイプを吹かしていた。何せもう、作戦は完了しているのだから。

恐らく画面の前にいる、全ての読者諸氏はこう思っているだろう。「いやいや、まだ占領できてないのに何が作戦完了だ」と。この上陸作戦は、別にカルトアルパスを占領するのが目的ではない。この作戦は陽動なのだ。グラ・バルカス帝国の真の狙いとは、この先進11ヵ国会議をメチャクチャに破壊し、世界各国の代表をカルトアルパスから逃し、その逃避行の最中を襲って、代表者全員を抹殺する事にある。

本上陸作戦は、あくまでその囮。こちらに注目させるだけの作戦であり、別に占領しようがしなかろうが、部隊が皆殺しになろうが捕虜になろうが、どうでも良いのだ。なにせこの上陸部隊は全員が死刑判決ないし終身刑が決定した犯罪者、素行不良の人事上のゴミ、上に楯突く厄介者で構成された部隊。上層部的には全滅してもらった方が都合がいいのだ。

上陸部隊を援護する海軍部隊こそ、精鋭中の精鋭や最新鋭の艦艇で構成されている。だが上陸部隊の装備は不良品や旧式をつかまされており、弾薬も食料も殆ど装備してないのだ。

 

「司令、もう間も無く海峡出口です。にしても、奴らには同情しますな」

 

「何を言うかね、艦長。彼らは栄えある帝国に泥を塗った面汚し共だが、最後にこのような場を設けて貰ったのだ。むしろ感謝すべきだと、私は思うよ」

 

「それもそうですな」

 

こんなふざけた事を話していると、突如前方の艦が巨大な水柱を上げた。

 

「な、何事だ!?!?」

 

「わ、わかりません!」

 

(まさか、この世界には魚雷があるのか!?)

 

勿論ない。この世界には魚雷という概念は、全く存在していない。だが、異世界からの来訪者であるイレギュラーの大日本皇国は違う。この国はかつて、世界でも日本でしか開発に成功しなかった酸素魚雷を保有していたくらいには魚雷のエキスパートである。では、現在の魚雷はどうか。現在の魚雷は最早、排出されるのが水素で、静音性に優れるのに雷速が120ノットも出す化け物に仕上がっている。威力だって高い。その魚雷が今、この艦隊に向かって放たれたのだ。

しかも、攻撃はそれだけでは終わらない。

 

「今度は爆炎が上がりました!!それも外縁部の輸送船が全滅する勢いです!!!!」

 

この攻撃は伊3000型潜水艦による飽和ミサイル攻撃による物で、艦隊が身動き取れなくするように外縁部の輸送船を攻撃した。これにより艦隊は前にも後ろにも、右にも左にも逃げられなくなっている。

文字通りの袋のネズミとなった彼らの運命は、もうお分かりいただけるだろう。輸送艦隊は相手が何かを知る前に、全隻海中にその姿を消した。

そして艦隊が全滅したのと同じ時、神谷もまた今回の作戦の全貌を無線傍受によって知ったのだった。

 

 

「長官、どうしますか!?」

 

「外交官は鉄道で逃がしてるらしい。なら、それに追いつくまで。極帝!!」

 

乗れ、我が友よ

 

神谷と向上、それにエルフ五等分の花嫁と周りにいた白亜衆の隊員を背中に乗せて、極帝は川山の乗る列車を目指して飛ぶ。

一方その頃、川山ら外交官の乗る列車は停車していた。目の前の線路が突如、吹き飛んだのだ。

 

「爆破テロとか、異世界も存外、旧世界も変わらないってか?皮肉なもんだ」

 

他の外交官達は慌てているが、川山は妙に冷静であった。目の前でミリシアルの兵士が射殺されても、とてつもなく冷静だったのだ。

 

「出ろ」

 

目出し帽を着けた男たちが車内に入ってきて、外交官達を外に無理矢理連れ出した。そして1人1人線路上に並べていき、両手を頭の後ろで組まされて跪かされる。

 

「か、川山殿。これは一体、何が始まるのですか.......」

 

偶々マギが隣に跪かされており、その顔は青褪めていて、恐らく予想はついてるのだろう。だかそれでも、聞かれた質問に答える。

 

「処刑でしょうね」

 

「やはりか.......。あなたは何故、そんなにも冷静しておられるのですか?」

 

「.......簡単な事ですよ。我々が元いた世界は、この世界よりもずっと平和で、外交官が出先で命を落とすなんて早々ない事でした。ですが、この世界じゃ命は羽毛のように軽い。どんな手を使ってでも、目的を果たそうとする国々で溢れている。なので私は、パーパルディア皇国との戦争の後、覚悟を決めたんですよ。国に文字通り命を捧げると。その時が来ただけなんです」

 

この答えにマギは驚いていた。だが川山は尚も続ける。「ですが、私はまだ生還を諦めていません」と。川山は確信していたのだ。自分の親友にして同志である、神谷がここに助けに向かっていると。

次の瞬間、周囲一帯が白煙に包まれた。そして銃声と呻き声が辺りに鳴り響く。

 

「来るのが遅えよ。浩三」

 

姿が見えずとも、川山には分かった。今の銃声は神谷の部隊の物だと。煙が晴れると辺り一面には工作員達の死体と、真っ白な装甲服に身を包んだ兵士達がいた。

 

「よーし、片付いたな」

 

「こっちもです」

 

各国の外交官達は、目の前に突然現れた兵士達に困惑していた。取り敢えずこちらを襲っていた兵士を倒したのだから、恐らくは味方の筈、という感じでまだ敵が味方もハッキリとしていない以上、安心はできない。

 

「生きてるか慎太郎」

 

「あぁ」

 

「あ、あの、川山殿。こちらの方は.......?」

 

「神谷浩三という、我が国に於ける実質的な軍の最高指揮官ですよ」

 

マギ含め、何も知らない外交官達はただただ驚いた。普通に考えて、こんな最前線に軍のトップがノコノコやって来るなんて有り得ないのだから。

だが神谷の武勇を身をもって教え込まれたムーと、実際に話したこともあるエモールのモーリアウルはあまり驚かなかった。

 

「神谷殿、助けて頂き感謝する」

 

「モーリアウル殿、でしたかな?これが我々の職務です、お気になさらず」

 

「それで、俺達はどうするんだ?」

 

川山の問いに、神谷は何も答えられなかった。何せ今神谷達の居る場所、周りが森でヘリコプター位しか降ろせないのだ。

だがヘリコプターでは万が一、敵の零戦擬きことアンタレスが襲ってきたら流石に不味い。極帝は背中に乗せることは出来るが、もし襲われた時に全力で逃げるとなると外交官連中が耐えられない可能性がある。となるとVTOL機のVC4隼辺りで逃げたいのだが、ここは降ろせない。電車自体はダメージが殆ど無いので動かせる筈だが、操作方法は分からないし、何より進行方向の線路は吹き飛ばされていて、バックしか出来ない。結論、どうしようも出来ないのだ。

 

「あー、この中のミリシアルの最高ランクの方は?」

 

「わ、私です。先進11ヵ国会議の議長を担当している、カメラードと申します」

 

「ではカメラード殿、この現状下に於ける対処マニュアルや指示は出ていますか?」

 

カメラードは首を横に振った。停車してすぐ襲われたので、連絡も何も出来てない状況なのだ。

 

「となるとまずは」

 

パァン!

 

乾いた音が鳴り響き、ミリシアルの職員1人が倒れた。狙撃である。すぐに撃たれた方向に牽制射撃を加えつつ、迅速に非戦闘員である外交官達を車両の裏に誘導する。

 

「まだ残ってやがったか。おい、被害は?」

 

「ミリシアルの職員一名被弾!されど脚部に命中しただけで、命に別状ありません!」

 

連れてきた分隊の衛生兵が、既に応急処置を施していた。だが初手の動きを見る辺り、恐らく相当の手練れのスナイパー。神谷達に緊張感が走る。

 

「にしても、足に当たるなんて。どうやら練度は低そうでよかった」

 

マギカライヒ共同体の外交官がそう呟いたが、すぐに神谷はそれを否定した。

 

「その逆ですよ」

 

「え?」

 

「今の攻撃、あれはスナイパー、狙撃手の常套戦術です。1人目を敢えて急所を外して殺さずに、それを助けようと出て来た兵士を撃つ。それに今の攻撃、発砲と着弾にズレがあった。恐らく、700mは離れてる。しかも正確に足を撃ってきた辺り、練度もかなり高いですよ。他の皆さんも、顔を覗き込ませたりせんでくださいよ!!頭撃ち抜かれて死体になるのがお望みなら、止めはしませんがね」

 

外交官達は震え上がった。今この時より、ここは戦場となったのだ。兵士ではないが何人かは戦場を歩いたこともあるらしく、指示を聞かない者がどんな末路を辿るかは知っているらしい。すんなり指示には従ってくれた。

 

「浩三様、極帝さんに焼き払ってもらいますか?」

 

「いや、流石にそれはヤバいだろ。こっちが焼け出されかねん」

 

ヘルミーナの意見は手軽ではあるが、失う物の方がでかい。周りは森で、最悪の場合は森林火災コースになる。そうなってはこっちも一酸化炭素中毒やら何やらで、スナイパーよりも面倒な事になりかね無い。

 

「おい、敵の位置は分かるか?」

 

「お待ちを.......。見つけました。北に750m程離れた場所に陣取ってます。こっちに照準を向けて、ピクリとも動かない。こりゃ頭出した瞬間にキメられますよ」

 

「それなら、そうだな…。向上、その辺のライフル拾って狙撃いけるか?」

 

「いけます!」

 

「なら野郎共、3カウントで牽制開始だ。準備しろ」

 

兵士達は武器を構え、小銃手達は新しいマガジンをセットして備える。神谷がカウントダウンし、ゼロと言った瞬間、飛び出した。

機関銃手が車両の連結部に42式軽機関銃を固定し、弾幕を展開。反対側から43式小銃と32式戦闘銃を装備した兵士達と向上、神谷、エルフ五等分の花嫁が飛び出す。

 

「プレッシャーを掛け続けろ!!」

 

弾幕を貼りつつ、エルフ五等分の花嫁は自分達が持つ武器を使って、スナイパーの注意をこちらに向けさせる。地面を割って溶岩を出してみたり、蛇を使って木を揺らしたり、適当な魔法を適当に打ったり、風魔法の矢で砂埃を立てたりしていた。

 

パァン!パァン!

 

2発連続で撃たれた弾も、片方はヘルミーナが盾で受け止め、もう片方は神谷が両断した。そしてその頃には、向上の準備も終わっている。

 

「失せろ!」

 

パァン!

 

放たれた弾丸は正確にスナイパーの頭を、スコープと眼球ごと吹っ飛ばした。すぐに兵士たちを周辺警戒にあたらせつつ、外交官を近くの平地まで誘導。迎えの隼に乗り込んで、無事に戦闘地域から退避させた。

後の歴史に皇国が国際社会に躍り出た事件として語り継がれていく一連の戦闘は、こうして幕を下ろしたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第五十七話突空

カルトアルパス戦より数週間後 大日本皇国 首相官邸

「なんか、また凄い事になったな」

 

「俺達の祖国は呪われてんのかよ.......」

 

「国自体を祓う場合って、何処の神社行けば良いんだっけ?」

 

カルトアルパスでの一件を受け、先進11ヶ国会議では、新たにパーパルディア皇国に代わって大日本皇国の列強入りを認め、正式にグラ・バルカス帝国への非難声明を発表した。

だが日本としては冗談ではない。現在、大日本皇国を除いてマトモにやり合える国家が存在しないのだ。なので先進11ヶ国会議で採択された=世界中の国を敵に回す、という状態であっても実質的には日本単独でやり合う事になる。しかも『列強国』やら『世界中』なんかが付きやがった以上、単独で好き勝手には出来ない。そしてこっちの世界のアメリカに該当する、みんなのお友達神聖ミリシアル帝国を筆頭とした各国への配慮、意向、プライドetcを考慮しないと絶対面倒事に発展する訳で、もう余計な仕事が増えて地獄でしかない。

 

「浩三。確か、グラ・バルカス帝国には勝てるんだよな?」

 

「あぁ。無論、こっちの世界に来てからで考えると最も強い相手だが、あくまでこの世界基準での話だ。旧世界基準で行けば、グラ・バルカス帝国と言えど最弱の部類だ。片やこっちは世界の軍事力ランキングでも堂々の一位を誇り、世界各国を敵に回しても殲滅できる位の武力を持った国家。余裕で勝てるんだが.......」

 

一色の問いに神谷は答えを濁した。その理由も軍事に疎い一色であっても、流石に察せる。

 

「外交、だな?」

 

「そういう事.......」

 

政治や外交はその場の判断が即効で人の生き死に反映される事はない。だが神谷の立つ戦場では、判断ミス1つが比喩表現無しに命取りになる世界。そんなただでさえ判断一つ一つが、想像し得ないほどに影響を及ぼす世界に、よりややこしくなる政治やら外交やらを突っ込まれては溜まったもんじゃない。勝てる戦も負け戦になってしまう。

 

「慎太郎、今の国家間でのやり取りで、何かしら問題は?」

 

「特にない。だが恐らく、世界連合軍でも作りはしそうだな」

 

「わかった。なら何か分かり次第、逐次報告を頼む。軍の方はどうだ?」

 

「取り敢えず全軍の警戒レベルは3、即時出動待機にしてある。念の為に各地の防衛艦隊、そして一部の主力艦隊所属艦艇も近海の防衛に回した。それから哨戒機の数を増やしてもあるから、潜水艦で来ようとも早期発見できるだろう」

 

一応統合参謀本部でのシュミレートと神谷個人の見解では、流石にいきなり飛び石で此処に攻め込む事は有り得ないだろうし、それ以前に恐らくだが比較的近い第一文明圏にも、最も近い第二文明圏にも国境線での小競り合い位はあっても大軍を動かす事はないと結論付けている。

だが戦争に於いて絶対は無いし、少なくとも第二次世界大戦相当の技術力があるのなら、核兵器の使用も視野に入れておく必要もある。そこで大袈裟かもしれないが、全軍を動かしたのだ。

 

「他に何か報告は?」

 

特段ないので解散しようかと思った時、神谷の電話が鳴った。そして電話で語られた報告内容は、耳を疑う物であった。

 

「あー、お前ら。どうやらグ帝の奴ら、本気で俺達を怒らせたいらしい。JMIBとICIBの諜報員が掴んだ情報だが、カルトアルパス戦で得た捕虜の処刑を決めたらしい。おまけに捕虜の中には、沈んだ『しきしま』の乗組員も含まれてる」

 

「「ッ!?」」

 

川山の脳裏には2年前に起きた、あの惨劇が蘇っていた。凡そ1世紀ぶりの全面戦争をしたパーパルディア皇国との、外交の席で起きた惨劇を。

知っての通り、パーパルディア皇国は日本との交渉前に拉致しておいた日本人208名を、外交の席で日本の使者たる川山と神谷の目の前で処刑したのだ。更に日本への属国化要求に天皇家への侮辱までした結果、パーパルディア皇国は地図から姿を消した。

それと同じ事を今、グラ・バルカス帝国はしようというのだ。

 

「心配すんな。絶対にそんな事はさせない。こうなった以上、部隊率いて奪還する」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「浩三!頼む、お前は行ったらまずい!!」

 

一色と川山は全力で止めた。何も神谷が死地に赴くからではない。もしかしなくても、処刑する場所はグラ・バルカス帝国の領内になる。そこに相手方の軍のトップが殴り込むなんてしたら、後々面倒な事になりかね無いのだ。

 

「お前達の考えもわかる。俺が行ったらややこしいかもしれ無いが、相手の領内への殴り込み任務を遂行する事ができる大部隊は我が神谷戦闘団を置いて他にない。俺達はこういう時の為に、存在するんだ。じゃなきゃ『国境なき軍団』なんて呼ばれて無い」

 

神谷戦闘団が『国境なき軍団』と呼ばれる所以は、練度や士気の高さもそうだな、1番の理由は神谷という絶対権力者が指揮を直接取っているからである。その恩恵である高い自由度は、デリケートになり易い他国への強襲や急襲任務の際に最大限のアドバンテージがあるのだ。

 

「.......本当にできるのか?」

 

「ちょっと奴らの領地に飛び込んで、捕虜を逆に拉致って帰還するだけだ。簡単簡単」

 

いや、普通はそれが難しいのだ。だがまあ、コイツとコイツの部隊の場合はさも当然の如くやってのけてくるのだから、多分全員人間やめているだろう。

 

「わかった。なら俺から言うことはない。川山の方は?」

 

「恐らくだが、向こうは此方にコンタクトを取ってから殺す筈だ。だからそれまでは、動かないでくれ」

 

「了解した。だが状況によっては、勝手に動かせて貰う。あくまで最優先は、捕まった連中の命。ここに異論はないな?」

 

「あぁ。俺の読みが外れて、いきなり処刑しそうになっていたら、やって貰って構わない」

 

 

 

同日夜 ムー 統括軍総司令本部

「それでは、これより緊急会議を開催します」

 

今回の一連の戦闘を受け、ムーを始めとした国々はグラ・バルカス帝国への対策を練る為に会議を開いていた。特にムーは自国がこの世界では珍しい科学文明国なのもあって、その力の入れようは他の国家より頭一つ飛び抜けている。

これまでムーはミリシアルを除けば、世界最強格の軍備を持っていた。大日本皇国に負けるなら兎も角、相手はグラ・バルカス帝国。しかもムー側は各艦隊から選りすぐった最精鋭の選抜艦隊であり、早々負ける事はない筈だった。にも関わらず、ロクな抵抗できずに負けた。というか一方的に殲滅されたのだ。どんなに頭が悪くとも、取り敢えず不味い事態なのは分かるだろう。故に今回は軍の重役は勿論、ムー統括軍内一の大日本皇国通のマイラスも出席している。

 

「皆様ご存知の様に、去る先進11ヶ国会議に於いて、会場のカルトアルパスはグラ・バルカス帝国による攻撃を受けました。これを受け各国の護衛艦隊と共に、戦艦『ラ・カサミ』を旗艦とした護衛の機動艦隊も出撃。迎撃にあたりました。敵味方の参加戦力の詳細については、資料をご覧ください」

 

こちらの詳細については前々回にて、既に書いてあるので割愛させて頂く。余り覚えてないという読者は「60隻以上の艦艇+ワイバーン、風竜、航空機の連合部隊」と考えて欲しい、

 

「しかし結果は、我が軍含め艦隊は全滅。唯一『ラ・カサミ』は座礁して沈没こそ免れましたが、とても戦闘に出れる状態ではありません。またグラ・バルカス帝国は、この戦闘の後に陸上部隊による上陸作戦も行っており、こちらは神聖ミリシアル帝国の現地部隊と大日本皇国軍の増援部隊によって殲滅されています。

それでは戦闘推移に関する解説は、戦艦『ラ・カサミ』副艦長、シットラスよりご説明致します。

 

「シットラスです。戦闘の状況についてご説明致します。グラ・バルカス帝国の航空機の接近を探知した我々は、すぐに艦上戦闘機『マリン』を発艦させましたが、敵の戦闘機との性能差は歴然としており、1機も堕とせなかった上に、短時間で全滅致しました」

 

ここで会議室に怒声が響いた。これまで世界第二位の強さを誇っている事に対して、胡座を掻き続けていた者は特に凄い騒ぎ様だった。彼らにしてみれば寝耳に水どころか、寝耳に放水レベルの衝撃なのだろう。

無論、そうでない者でもザワつきはした。なのですぐに議長が、大声で「静粛に!静粛に!」と怒鳴って落ち着かせ、会議を再開させる。

 

「敵戦闘機はこちらの機体を、一撃で破壊していました。それも1発でも銃弾が擦れば、機体が破砕されんばかりの威力でした。また機動性においても、まるでマリンとワイバーンの様に開きがありましたし、何より速度が500kmは出ていた筈です。

ワイバーンロードも参加していた様ですが、こちらはワイバーンが鳥を喰らうかの様に次々と堕とされていきました。唯一、エモール王国の風竜のみが互角に相手取っていましたが、それでもキルレシオは1対1と言ったところでしょう」

 

ここまで来ると、会議室は逆にしんと静まりかえった。どうやら皆衝撃的すぎて、言葉も出ないらしい。特に一騎当千と言われた、エモール王国の風流騎士団ですら歯が立たない事が相当にショックだったらしい。

 

「また大日本皇国ですが、こちらは明らかに互角どころか寧ろグラ・バルカス帝国を追い回さん勢いで、敵を殲滅していました。

艦隊による対空戦闘に関しては、我が方は13機の敵機を堕とせましたが、それでは焼け石に水であり、マトモに戦えたのは大日本皇国と神聖ミリシアル帝国、それからアガルタ法国の艦隊級極大閃光魔法のみです。それ以外の艦艇は、最早抵抗する間もなく沈められていきました」

 

もう完全にお通夜ムードであった。まるで負ける事が確定したかの様に、皆思っていたのだ。

 

「本艦はこの攻撃により、機関が暴走。制御不能となり、岩場へと座礁しました。我々はそのまま浮き砲台として、迫り来る上陸用ボートに攻撃を敢行。さらにこの上陸支援に当たっていたグラ・バルカス帝国の戦艦にも、主砲を発射し命中させるも、応射によって船体の亀裂が広がり浸水。艦を放棄しました。

その後来た大日本皇国の見た事もない大型航空機と戦闘機が航空隊を殲滅し、陸上部隊が降下して上陸部隊の迎撃に当たっていました。戦艦についても、砲弾とは違う何かを切り裂く様な音が聞こえると爆発したのち轟沈し、カルトアルパスの防衛に成功しました。これが戦いの全容です」

 

この場にいる誰もが、理解した。グラ・バルカス帝国には勝てないと。だが1人だけ、まだ諦めていない人間がいた。マイラスである。マイラスはこの話で引っかかる点が、多くあった。なのでまずは、シットラスへ質問するべく、議長に許可を取る。

 

「議長、シットラス副長への質問を許可願います」

 

「許可します」

 

「シットラス副長。あなたの見た、大日本皇国の艦艇はどの様な艦でしたか?」

 

「確か真っ白な船体に、武装が機関砲2門で、後部甲板に恐らく水上機格納庫を有していました。

 

「やはり.......」

 

マイラスは納得した。今回カルトアルパスに派遣されていたのは、大日本皇国海軍ではない。海上保安庁の巡視船だったのだから、この結果は必然であろう。もし仮に海軍が艦隊で派遣されていたら、航空機は即殲滅して、逆に敵艦隊にミサイルを叩き込むくらいはやる。

 

「皆様、今後の国の運営について、今回の海戦を参考データとして考慮されると思いますが、誤解により運営方法を誤ってはいけないので、ここではっきりと皆様にお伝えします。グラ・バルカス帝国と戦った艦艇は、皇国海軍ではなく、海の警察機関である海上保安庁の巡視船です」

 

この一言にまたしても、議場は騒がしくなった。議長が止める前に、マイラスが大声張り上げて「静粛に!!」と叫んで、全員を此方に注目させる。

 

「マイラス君、だがね、彼の国の艦は『ラ・カサミ』よりも遥かに巨大だったんだ。それを巡視船というのは、流石に。それに私も以前、演習に参加しているから強さを知っているが、アレは明らかに秘密兵器クラスを持ってきている。早々戦場で乱用できるものでは無い筈だ」

 

「まず、根本からお話ししましょう。あの演習に来ていた艦艇は、大日本皇国海軍の本気ではありませんし、秘密兵器でもありません。大日本皇国には八個の主力艦隊と呼ばれる実動部隊と、護衛艦隊という本土防衛専門の五個艦隊に分けられます。

その内、あの巨大艦が配備されているのは主力艦隊であり、この陣容は熱田型超戦艦を総旗艦とし赤城型要塞超空母2、戦艦11、正規空母10、軽空母3、対空巡洋艦24、巡洋艦20、駆逐艦136、潜水艦7の総数237隻という大艦隊が、一個主力艦隊を形成しています。そのどれもが高い戦闘能力を誇り、11隻の戦艦の内、8隻は大和型戦艦という『グレードアトラスター』と瓜二つの戦艦です。また空母を除いて、全ての艦艇は科学で作られた誘導魔光弾の進化形を多数搭載しています。1隻につき100発近く搭載し、そのどれもが敵艦を一撃で葬り去る威力を持っていたり、あるいは音速を遥かに超える飛翔体や成層圏の遥か高空を飛ぶ飛翔体を迎撃できる能力を持っていたりと、異次元クラスの能力を持っています。

もし仮に海軍が護衛に来ていたら、確実に敵航空隊は目視圏内に入る前に全機叩き落とされ、逆に敵艦隊に攻撃を仕掛ける位のことをやってのけていた筈です」

 

「まあ、そうだろうな」

 

「確かにあの国は、色々規格外だもの。やりかねん、いや。絶対やるよ」

 

マイラスの発言に賛同する発言をしたのは、余りに意外な人物達であった。海軍のトップであるジャブソニー・グラターナと、陸軍のトップであるホーストン・ウェスバイトである。この2人は合同演習の後に発生した、リーム王国との紛争の様子を見ている。故に、マイラスの発言が真実であると確信していたのだ。

軍のツートップであり、相当のキレものでもある2人がこう言うのだから、正しいのだろう。だがそれでもやはり、本当かどうか気になってしまう。それを感じたのか、マイラスは自分の持っているスマホを起動して動画投稿サイトに上がっている大日本皇国軍を素材にしたMADを見せた。

 

「これが大日本皇国軍です。彼らであれば、例えグラ・バルカス帝国であっても撃退できるでしょう」

 

「.......議長、発言よろしいか?」

 

「どうぞ」

 

手を挙げたのは外務省関係者の席にいた、初老の男性であった。この男は先進11ヶ国会議に参加していた外交官の上司であり、その外交官が報告してきたある事に疑念を持っていた。

 

「マイラス殿。本当に大日本皇国は強いのかね?私は部下から、刀を振り回して戦っていた者が複数居たと聞いておる。銃と刀、比べるまでも無かろう?」

 

「あー、それってもしかして、紫の羽織を羽織ってませんでしたか?」

 

「そのように聞いている」

 

大日本皇国軍において、刀を振り回す紫の羽織を羽織る兵士なんて1人しかいない。複数というのが気になるが、それは今度本人に直接聞けばいいだろう。

 

「その兵士は、大日本皇国最強の存在です。その人の名前は多分、神谷浩三。大日本皇国統合軍総司令長官であり、恐らく今回カルトアルパスに派遣された陸上部隊である神谷戦闘団の団長を務めています。銃弾を見切って切り裂いたりとか、正確に相手の急所を抉ったりとか、取り敢えず凄い人です。常識が通じないタイプの人なので、問題ありません」

 

「ん、ん?それは、問題ないのか?」

 

「無論、問題ありません。我々も保証いたします」

 

そう言グラターナが言って、ウェスバイトが横で頷いている。神谷の強さというか異常さは、言葉で伝えるより実際に見てもらった方が早い。というか言葉で言い表せないくらい、中々にぶっ飛んでいる。

この後も会議は続き、具体的な防衛策を練り始めたのであった。

 

 

 

数週間後 レイフォル地区 現地行政府

「さぁ、鬼と出るか蛇と出るか」

 

取り敢えず先進11ヶ国会議での宣戦布告を受けたものの、シエリアの「我が国に降れ」発言のように、未だその発言の詳細が分からないものも多く、さらに言えば各国も捕虜を取られてるので、その説明と捕虜奪還の交渉をするべく神聖ミリシアル帝国、ムー、アガルタ法国、そして大日本皇国が代表を送り込んだ。

彼らがレイフォル地区に入国して見た光景は、悲惨そのものであった。レイフォルは最初にグラ・バルカス帝国が侵攻した国家であり、戦艦『グレードアトラスター』による全力砲撃を受けている。かれこれそれは一年と半年は前の話なのだが、建物は未だ瓦礫の山だ。道は最低限治されているが建物の残骸が散らばり、市民は浮浪者となって生気のない目をしていて、紛争地帯にでも来たのかと思ってしまったという。

瓦礫の山で街だった物を抜けると、大きな堂々とした建物が目の前に見えた。これまで瓦礫の山で、その建物の周りも瓦礫であるので、すごく目立つ。この建物が目的地の現地行政府であり、グラ・バルカス帝国と世界を繋ぐ唯一の場所でもある。建物に入ると会議室に通されたのだが、まあ待たされる。30分位して、漸く担当の男が入ってきた。

 

「ほう、この世界の強国のみなさん、雁首そろえてこられるとはどういったご用件かな?」

 

外交官とは思えない非礼極まりない発言に、他国の外交官の顔が強張る。因みにこの外交官の名前はダラスと言い、グラ・バルカス帝国外務省内でも不人気の男である。

 

「大日本皇国政府は、あなた方グラ・バルカス帝国の行った武力攻撃に対し、遺憾の意を表明いたします。また巡視船『しきしま』の撃沈に関して、遺族への謝罪と賠償、そしt」

「ほう!あなたが我々と同様に転移国家である大日本皇国か!!」

 

ダラスは川山の話を遮り、話を始める。ここは外交という、国同士の話し合いの場所なのに、相手方の外交官の話を遮ってきた辺り、グラ・バルカス帝国の程度が知れる。

 

「我が方の戦艦のたったの一撃で沈んだと聞く。同じ転移国家でも、ここまで差があるものよのぅ。弱き国の外交官は辛いだろう。ところで、遺憾の意とはなんだ?具体的にどう対応するというのだ?」

 

ダラスの挑発にカチンと来るが、そこはプロ。怒りを理性と外交としてのプライドで抑えつけて、あくまで冷静に話す。

 

「あなた方の先進11ヵ国会議での発言は、世界に対する宣戦布告ととれる。あなたの態度は我が国にとっては、ある国を彷彿とさせるが、本気で世界を敵に回して戦って自分たちは勝てると思っているのでしょうか?」

 

「弱小国家がいくら連合を作っても強くはならんよ。弱者は弱者のままだ」

 

ダラスの発言を受け、流石の川山も身を乗り出す。このまま皇国が舐められたら、また先のパ皇の悲劇を繰り返す可能性が高い。ある程度強気に出る事を決意する。

だが彼が発言しようとしたその時、彼の前に神聖ミリシアル帝国の外交部長のシワルフが立ちあがる。

 

「神聖ミリシアル帝国、西部担当外交部長のシワルフです。我が国はあなた方が港町カルトアルパスで行った奇襲、そして蛮行を痛烈に非難し、直ちに謝罪と賠償、そしてレイフォル国からの撤退並びに今回の蛮行の責任者の引き渡し、捕虜の返還を行うよう通告に参りました。

我が国、神聖ミリシアル帝国は他国と違って交渉に来たのではない。お願いではない。これは命令だ。従わない場合は、敵になるのは我が国のみではない。先進11ヵ国のみでもない。これは中央世界の総意だ」

 

シワルフの発言には怒気が孕まれていたが、ダラスは意に返さない。

ダラスが返答しようとした時、部屋の扉が開き、扉の奥からつり目の美しい女性が姿を現す。川山は、この女性に見覚えがあった。

 

「し、シエリア様.......」

 

先進11ヶ国会議において、グラ・バルカス帝国の代表を務めていた女性、シエリアであった。まだ彼女の方が多分話は通じると思われるので、恐らく潮目が変わる。

 

「ダラス、ここからは私が責任をもって交渉を行う」

 

「しかし、この場合の担当は!」

 

「命令だ、相手はこの世界の連合と言っても差し支えない。お前の手には余る」

 

「ぐ、解りました」

 

ダラスはシエリアに席を譲り、隣の席に座る。どうやら、バトンタッチらしい。

 

「話は聞いていた。帝国の考えは先進11ヵ国会議で説明したとおりだ。変更は無い」

 

凛とした顔、曇りなき眼でシエリアははっきりと発言する。この年でここまでの発言を堂々と出来る辺り、相当のエリートなのだろう。

 

「グラ・バルカス帝国は何を望む?」

 

「我が軍門に降る事だ。当然、国家の主権は認められなくなるがな」

 

「具体的には?」

 

「植民地、と言えば解りやすいかな?」

 

「通告を、中央世界が飲むとでも思っているのか?」

 

「いいや、今は飲むとは思っていないよ。ただ、敗退を重ねた時、お前たちは我が国の案を飲む事になるだろう。どれだけお前たちの軍が悲惨な事になっても、外交窓口だけは開いておこう。自らの国民のためを思うならば、早めに決断を下すがよい」

 

これを聞いた中央世界の外交官達は、顔を真っ赤にして怒りを露わにしている。一方のシエリアは涼しい顔をしており、ダラスは相変わらず一発拳を叩き込みたくなる下品な笑みを浮かべていた。

 

「なめおって.......。捕虜の返還には応じないのか?」

 

「戦争が終わるまで、捕虜の返還は無い。我が軍門に降れば、捕虜は返還してやろう」

 

「捕虜の人権は当然認められるのだろうな?」

 

「それは.......」

 

ここでシエリアの目が泳ぐ。恐らく彼女としては、今後起こる捕虜の処刑には反対なのだろう。だが組織の歯車である以上、上からの命令に「NO」は言えない。

このことが武器になると悟った川山は、脅しをかけるタイミングを探る。

 

「それは、我が国が決める事だ。お前たちに答える義務はない」

 

「シエリアさん、大日本皇国は、海上保安庁職員の即時返還を要求します。」

 

「聞こえなかったのか?捕虜は戦争が終わるまで返還しない」

 

「軍人であれば、捕虜というのも理解できる。しかし、そちらが捕らえているのは軍人ではない。海の警察、海上保安庁と呼ばれる組織の職員だ」

 

「戯言を。戦闘機を多数落とした艦が、軍艦ではないと申すか?」

 

確かに普通に考えて、航空機を叩き落とす船が軍艦じゃないと言った所で信じられる訳がない。だが事実なのでそうとしか言えないし、そもそも技術の発展具合が一世紀は離れてるのだから、そうもなってしまうのだ。

 

「はい。彼らは軍人ではありません。船も他国でいうところの沿岸警備隊の巡視船であり、軍用船ではありません」

 

「沿岸警備隊だと?では何か?大日本皇国は先進11ヵ国会議に、軍艦ではなく、海賊対策程度の沿岸警備隊を遥々遠洋まで派遣したと言いたいのか?」

 

「そのとおりです。つまり、あなた方が捕らえているのはいわゆる軍人ではありません。よって、即時彼らの返還を要求いたします」

 

ダラスが川山を罵ろうをした瞬間、シエリアが手で合図をしダラスを押さえ彼女は話始める。

 

「貴国の軍人の定義など、どうでも良い。あれほどの対空能力を持っておきながら、軍艦ではないなどと、自国の軍が負けた途端に彼らを切り捨てるかのような言動、負け惜しみを国単位で言うとは、明らかにみっともないぞ。彼らは圧倒的な軍事力の差がある我らに、勇猛果敢に挑み、敗れ去った。

私個人としては、大きく評価している。彼らは軍人として扱う」

 

「彼らが警察機構という事は、今確かに伝えました。あなた方が軍人として扱うとの事ですが、彼らの安全は保障されるのでしょうね?」

 

「先ほど答えた。我が国が決める事だ」

 

ジュネーブ条約の様な国際条約が結ばれてないのだから、あくまでお願いという形にしか出来ない。筋は通っているので理解はできるが、納得はできない。だがこれを言われては何も言い返せないのも事実な訳で、川山は黙るしかなかった。

その会話の隙をついて、ムー国の外交官、ヌーカウルが質問を開始する。

 

「ムーの外交官ヌーカウルです。今の会話で、あなた方が捕虜の返還交渉に応じる気が無いのは解りました。そして雰囲気からは察したのですが、どうしても発言としての事実が欲しいので、質問します。あなた方は、現在我が国を含めた第2文明圏に宣戦布告をしています。

今回の先進11ヵ国会議で中央世界並びに、大日本皇国に対しても、宣戦布告を行った。これで間違いないですね?」

 

「ああ、間違いない」

 

「解りました」

 

ムーの魂胆は今の発言を盾に、皇国の参戦を打診してくるつもりなのだろう。別にそんな事しなくても、皇国は介入する。何せ捕虜を殺そうとする国なのだ、必ずボコボコにしてやらないと国の面子がズタボロになってしまう。

 

「もう良いだろう。グラ・バルカス帝国は、捕虜の返還に応じる気はない。そして世界そのものである我らに、自国の植民地になれと求めている。これが明確に判明した。事務レベルではっきりとした訳だ。シエリア殿、これで間違いないな」

 

神聖ミリシアル帝国、西部担当外交部長シワルフは、シエリアに問う。

 

「間違いはない」

 

答えは出た。

 

「では、最後に。あなた方グラ・バルカス帝国の民のために、発言しよう。神聖ミリシアル帝国の保有艦隊数は、貴国が戦った艦船の数を遥かに上回る。我が国の魔導工学に基づく工業力も他国を遥かに凌駕している。早めの降伏をお勧めする。

貴女が戦火に巻き込まれて死なないように祈っておこう」

 

「そうか、ではこちらも、交渉窓口だけは開いておこう。自国民を大切に思うならば、早めの降伏をお勧めしよう。」

 

会議は終了し、シエリアは退室する。

各国の大使が退室を開始しようとした時、グラ・バルカス帝国外交官ダラスが彼らに向いた。

 

「個人的な見解だが、お前達はバカだな。烏合の衆がいくら集まっても、我が帝国には勝てない。帝国は今後、全ての国々をその配下に治める事となろう。貴様らも、この世界の連合として、プライドはあるだろうが帝国に降るか、弱者連合で国亡ぶまで戦うか、本気で考えた方が良い。

まあ、お前ら蛮族に考える頭があるとは思えないがな」

 

各国の外交官の顔が曇った。だが会議も終わったので、これまでのイライラをぶち撒けるべく川山が話し始める。

 

「では、私も個人的な感想を述べましょう。あなた方は、現実が見えていない。今回の文明国とは思えない国際会議への武力での介入、そして我が国への宣戦布告。我が国、大日本皇国政府は既に参戦がほぼ決定事項としている。我が国の最強の軍が海に、空に、陸に現れた時がグラ・バルカス帝国の終わりの始まりとなるだろう。

貴国は第3文明圏のパーパルディア皇国が我が国にした事、そしてその後の展開を少しはお勉強した方がいいでしょう。外交窓口は開いておきます。早めに降伏するならば、ムーにお願いして入国し日本国大使館の扉を叩いてください。さもなくば、我々は貴国の存在が人の記憶と歴史書にしか残らなくなるまで、進撃を続ける事となるでしょう」

 

本来なら外交官としてあるまじき行いではあるが、今回ばかりは仕方がないだろう。ダラスも含め、その場の外交官達は川山の言葉に驚いていたし、何より皇国が本気である事を示していた。

代表団は行政府を出て、すぐにレイフォルを後にするべく、迎えの船へと乗って早々にグラ・バルカス帝国の支配領域の外へと向かう。そして外に出たと同時に、川山は神谷へと連絡した。

 

『交渉は決裂した』

 

「了解した。なら、大暴れするとしよう」

 

神谷は電話を切ると、格納庫へと歩き出す。彼は今、横田空軍基地にいる。ここの格納庫には、つい3ヶ月前にロールアウトした最新鋭機の、先行量産機が配備されている。その名も、AVC1突空。詳しくは設定集にて解説するが、簡単に言えば「テメェの様な輸送機がいるか!!」と言いたくなる変態である。というか輸送機の皮を被った何かである。

 

「浩三様、出撃かしら?」

 

「そうだとも。行こう」

 

格納庫の道すがら、たまたま会ったヘルミーナを連れて格納庫へと向かう。因みにヘルミーナ、オフの時や何もない時には敬語ではなく姉妹達と接する様な口調になった。曰く「こちらの方が可愛いでしょ?」らしい。

 

「長官、出撃準備完了しました」

 

「よし。お前達!!」

 

さっきまで自分の装備のチェックや仲間との談笑、スマホ弄りなど好きに過ごしていた兵士達は、立ち上がって不動の姿勢で神谷の方を向いた。

 

「知っての通り、今回の任務はかなり危険だ。だが俺の自慢であり、誇りであるお前達なら、世界最強の戦闘集団たる我が神谷戦闘団であれば、必ず成功できる物と信じている。長々と語るつもりもない。

お前達はいつもの様に、邪魔する存在を排除して任務を達成すりゃいい。さぁ、行くぞ!!!!」

 

世界最強の兵士達は突空へと乗り込み、皇国を後にする。上空で護衛の第二二三航空隊、火力支援を担当する第五八一航空隊と合流。途中、KC787による空中給油を受けてレイフォルの処刑場へと急ぐ。

 

 

 

翌日 レイフォル地区 処刑場

「捕虜たちよ。今からおまえたちの処刑を行うが、最後のチャンスをやろう。何か話したい事があれば、申し出るがよい」

 

この日、計画されていた捕虜の虐殺が行われようとしていた。しかも何故か、指揮を取るのはシエリアである。オマケにこの様子は世界中に生放送でお届けされており、今も画面の前で涙する捕虜の家族もいた。

だが例えそうであっても、彼女が幾ら嫌だと思っても、やるしかない。上からの命令とはつまり、帝国の主たる帝王の命令も同義。断る事はできない。

 

(頼む、全員手を挙げてくれ!!!)

 

シエリアの願いが通じたのか、パラパラと捕虜が手を挙げた。その者達は皆一様に、家族に最後の言葉を送っている。1人1人の前で話を聞いていき、最後の1人にして日本人で唯一手を挙げた者の前に立った。

 

「まず俺達は警察機構の乗組員だ。軍人じゃない。これまで何度も言ってきたが、信用してくれないのは分かっている。

だから最後に、お前達に警告してやる。俺達の祖国、大日本皇国はこの世界で一番強い国家だ。神聖ミリシアル帝国も、ムーも、やろうと思えば殲滅できる。この惨事を見れば、必ず皇国の主たる天皇陛下と三英傑が報復へと動く。2年前、パーパルディア皇国は拉致した民間人を、三英傑の川山特別外交官と神谷統合軍元帥の前で処刑して見せた結果、主要都市と経済基盤を破壊し尽くし、最後には首都を跡形も残らず破壊して報復した。お前達の国も、全く同じ未来を辿るだろう。

いつか、死ぬその瞬間で思い出すがいい。お前達が誰を敵に回してしまったのかを。そして後悔するがいい。そうだ、どうせならこの言葉で締めよう。グラ・バルカス帝国の全国民よ、小便は済ませたか?神様にお祈りは?部屋の隅でガタガタ震えて、命乞いをする心の準備はOK?」

 

シエリアは恐怖した。まずこの期に及んでも、軍人じゃないと言い張るのだ。恐らく本当なのだろう。だが彼女に権限が無い以上、助ける事は出来ない。

そして何より一番恐怖を抱いたのは、この死の間際であっても相手に堂々と啖呵を切れるだけの狂人レベルの愛国心であった。仮にグラ・バルカス帝国の臣民が同じ様な場面にあったら、恐らく死に恐怖し泣き叫び、こんな事はできない。それが出来てしまう辺り、彼らにとって祖国の大日本皇国はそれだけ素晴らしい国家であり、誇りなのだ。国民性としては厄介極まりない。

 

「これで最後だな。今、画面の前にいる、これから帝国と戦う者どもよ!!捕虜になり、帝国に従わぬ愚か者たちの処刑をこれより行う。愚か者の末路をその目に焼き付けるがよい!!!そして、我が国が怖ければ、自国政府に、帝国に降るよう働きかけるがよい。降らねばこれからの光景は、未来のお前たちだ!!!

我が軍門に降れば、永遠の繁栄を約束しよう!!!」

 

殺したく無い。そう心で何度も念じるが、それでどうにか出来る訳もなく、身体は淡々と職務をこなそうとする。

 

「構え!!!!」

 

兵士達がライフルを構える。だが「撃て」と言おうとした瞬間、後方にあった対空機銃と歩兵達の立っている場所が爆発した。

 

「な、何!?」

 

ゴオォォォォォォ!!!!!

 

上空を高速で飛び去っていく航空機が見えた。低空だったのもあって、音と衝撃と風が凄い。見た事もない形状と、突然の事に兵士達は右往左往して処刑どころではない。

 

「はは.......」

 

ふと日本人の方を見ると、全員が笑顔を浮かべ、ある者は涙すら流していた。シエリアの頭は完全に恐怖とパニックに支配され、半狂乱になりながら「何がおかしいの!!」と怒鳴る。その問いに、さっき最後の言葉を言っていた男が答える。

 

「さぁ、逃げろ逃げろ。あれは俺達の祖国、大日本皇国の戦闘機さ!!」

 

男がそう叫ぶと、今度は兵士が叫んだ。「何か降下してくるぞ!!」と。空を見上げれば、輸送機が垂直に降下してくるではないか。すぐに兵士達は近くの対空機銃へと跨り、対空射撃を開始する。だが、その程度で突空の装甲は破れない。代わりに搭載している20mm、30mm、7.62mmのバルカン砲を乱射して殲滅していく。

 

「突撃!!」

 

10機の突空が降り立ち、カーゴドアが開くと同時に神谷戦闘団の兵士達が飛び出して処刑場は一気に混戦へと移行する。たかだか植民地の警備位しかしてない兵士の中でも素人の連中と、幾度の実戦を通して視線をくぐり抜けてきた歴戦の猛者では勝負にすらならず、瞬く間に倒れていく帝国兵達。

その混乱に乗じて棒に固定されていた各国の捕虜を解放し、突空の中に押し込む。周囲の一掃が完了し、撤退しようとした時、神谷はある事に気付いた。カメラが、偶々神谷の方を向いて回っていたのだ。それを見て、ちょっと面白い妙案を思い付いた。神谷は徐ろに天夜叉神断丸を掲げる。

 

「聞け!!この放送を見ている、世界中の人々よ!!!!グラ・バルカス帝国の兵士は悪魔でもモンスターでも神でもない!!殺せば死ぬ!!だから恐れるな!!!!何かを守りたい者、祖国や故郷を愛す者は武器を取り抗え!!!!奴等を叩き出すのだ!!!!

そしてこれを見ているグラ・バルカス帝国の国民よ、よく見るがいい!!!!お前達は最強ではない!!これは始まりにすぎない!!言うなれば、俺達からの宣戦布告だ!!!!これから我が国の国旗たる日の丸や、この大陸を背にしたアリコーンと銃と2本の太刀の紋章を見れば逃げるがいい!!この紋章はお前達にとっての死神だ!!!!世界の何処に潜もうと、降伏するその時まで我々は殺し続ける!!!!俺の名は三英傑が1人、神谷浩三・修羅!!大日本皇国の守護者の末裔にして、皇国剣聖を冠する者!!覚えておくがいい!!!!!」

 

そこまで言うと、カメラを剣で叩き斬って破壊。突空に乗り込み、レイフォルから逃げた。この放送は世界中、ありとあらゆる場所を駆け巡り、大反響を呼んだのは言うまでもない。

 

 

 



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第五十八話狼煙は上がる

捕虜奪還の翌週 神聖ミリシアル帝国 アルビオン城

「これより、皇前会議を開催いたします!」

 

世界の富が集まる、魔法文明の頂点に君臨する神聖ミリシアル帝国では、今後のグラ・バルカス帝国への対応を決めるべく、日本で言う御前会議にあたる『皇前会議』が行われる事になった。

その為、議場には現皇帝ミリシアル8世以下、各機関の長達が勢揃いしている。

 

「余は、許せない事がある。我が民を、愛すべき神聖ミリシアル帝国の臣民を、無差別に殺した挙句、カルトアルパスを攻撃し、世界の長たる神聖ミリシアル帝国の顔に泥を塗り、世界会議でさえ踏みにじったあの国!奴らは異世界より出現したらしいが、この世界を舐めきっている!!!

余はこの世界の長として、この世界を多大に侮辱したグラ・バルカス帝国に神罰を下す!!」

 

静かな会議室に、皇帝の怒りが響き渡る。別に自分達が怒られてる訳でもないし、寧ろこちらも相手に対して怒りを感じているのだが、やはり皆、内心ではビクビクしている。

 

「我が国を長として、中央世界及び第二文明圏で世界連合軍を組織し、旧レイフォル沖合に展開するグラ・バルカス帝国の艦隊を滅し、更にムーへ援軍を送り、第二文明圏から奴らを叩きだす!!!

その後体制を立て直し、奴らの本土を、帝都を焼き払え!!!」

 

帝国の長たる皇帝が「グラ・バルカス帝国滅ぼしてこい!!」と宣言した以上、もうほぼ決定事項となった。つまり会議の名目である『グラ・バルカス帝国への対抗策の議論』は、もう終わってしまったのである。なのでここからは、実際にどう戦争するかを考える議論へと切り替わる。

 

「陛下!すでに海軍は第1から第3までの艦隊の派遣準備が完了しており、陛下のお言葉を賜り次第、即座に出撃可能です。他の艦隊については現在準備中ではありますが、本土防衛用、あるいは陸上部隊派遣の際の護衛として残しておきたいと考えます。

陸軍は第二文明圏への派遣を視野に入れて、現在編成を行なっております。また同時に輸送船の整備点検と、民間船をチャーターする事も視野に入れての準備を行なっております」

 

国防長官のアグラが、現在の軍の状況を簡単に報告する。しかしここで、外務大臣のリアージュが苦言を呈した。

 

「アグラ殿、第零式魔導艦隊及び各国の護衛艦隊はグラ・バルカス帝国の空母機動部隊に敗れている。三個艦隊程度の戦力は足りるのでしょうか?

それに各国の戦力は実質的に形だけのものであり、あてにしない方が良い。次に敗れた場合、我が国の信用失墜につながりますぞ」

 

「第零式魔導艦隊は確かに新鋭艦で編成されていたが、数が少なかった。それに敵の航空戦力に対して、上空支援が無かった事が敗因と考えている。敵の航空攻撃による被害は甚大であり、航空戦力に関しては今回の戦訓を活かす必要があると感じているが、それらと敵のレイフォル沖の艦隊規模を考慮して、三個艦隊で十分に足りると判断したのだよ。

派遣する1〜3艦隊には、天の浮舟を運用するための空母もあるし、大型魔導戦艦も多数配備されている。

ところで、今回の作戦については中央世界と第二文明圏で編成され、第三文明圏は外すという事でよろしいのかな?」

 

「各文明圏といっても、実質的に我が国が主力となるでしょう。世界の連携という意味合いで連合軍は組織しますが、戦力として数える事は出来ない。

今回は早期殲滅という陛下の御意志もあり、早急に敵海上戦力を滅する必要性があることから、来るだけでも時間のかかる第三文明圏を除外しています」

 

確かに風力がメインの動力源である第三文明圏では、海戦にも間に合わないだろう。だがしかし、大日本皇国だけは違う。知っての通り日本の船舶は基本的に全て機械動力船である。帆船も存在してない訳ではないが、それはあくまで学術調査用や観光船目的であったり、何かしらの伝統として作られているにすぎない。しかも機械動力といってもガスタービン、ウォータージェット、原子力、核融合と多岐に渡る上にどれもこれも高性能。余裕で海戦には間に合う。

 

「そう言えば、大日本皇国は呼ばないのですか?」

 

「呼ぶつもりではあるが、果たして来るかどうか」

 

リアージュの質問に、アグラは苦虫を噛み潰した様な顔で答える。アグラの同期の友人は、駐在武官として大日本皇国にいる。その彼からの話で、多分来ない事を予感していた。

 

「アグラよ、どういう事だ?」

 

「これは私の友人からの話ですし、宴席での話ですので、些か荒唐無稽ではありますが、誤解を恐れず申し上げます。

大日本皇国は、恐らく単独でグラ・バルカス帝国を打ち破る兵力を備えています」

 

周りの高官達はザワつくが、ミリシアル8世は手を少し上げて鎮めさせる。

 

「続けよ」

 

「はっ!どの様な軍備かは、この際重要ではありません。重要なのは、彼らの持つ経験です。聞けば彼の国が転移してきた世界は、各国が連合を組む事も多く、頻繁に合同訓練を行っていたとのこと。

これは私見ですが、それ故に訓練を共にし相手側の戦略やドクトリンをある程度理解してからでないと連携が取りづらいのだと思います。ですので、恐らく派遣されないという風に思っております」

 

「そうであるか。だがアグラよ、我が祖国こそ世界の導き手なのだ。彼の国が軍を派遣したとしても、こちらが合わせてやれ。よいな?」

 

「仰せのままに!」

 

つまり「先輩風を吹かしてやれ」という事だ。だが生憎と、皇国の戦略は末端の兵士に至るまで合理的かつ高度な戦略が叩き込まれている。先輩風を吹かしても、単に面倒な奴認定されて終わりである。

この後も幾つかの質疑応答を経て、会議は終わった。そして外務省から、各国宛にミリシアル8世直筆のサインの入った国書が送られたのである。

 

 

 

翌々日 大日本皇国 外務省

「それで、これが送られてきた国書か」

 

「あぁ、そうだ」

 

本日は珍しく、神谷が川山のいる外務省に訪れていた。因みに川山は実質的には、外務大臣と同等の権力を持っている。その為、専用の個室が設けられていたりするのだ。

 

「こりゃまた、予想通りとは言えど思い切った事をやったな」

 

「あぁ。帝国からすれば、他の国は基本的に弾除け要員としか思ってないだろう。その位、軍事力に差があるからな。軍の実利よりも外交と見た目の方を取ったって事だ」

 

「で、そっちとしてはどうしたい訳?」

 

「軍を出して欲しい。パーパルディア皇国を滅ぼしたとは言え、まだこの国はこの世界にとっては侮られてる。それを払拭し、この国が強大な国だと示す為にも、軍を出して欲しい!」

 

神谷としては、願ってもないというか、出していいなら喜んで派遣する。だが問題は、派遣する規模だ。恐らく各国10隻以上、20隻未満位が平均となる。一方、こちらの一個主力艦隊は総勢237隻。多すぎる。かと言って防衛艦隊は22隻だが、こちらは戦艦の様な大物がいない。この世界は未だに大艦巨砲主義がある以上、戦艦は一目で軍事力の指標となる。となるとやはり、戦艦は外せない。

 

「規模についてだが、どの位を考えてる?」

 

「.......大艦巨砲主義があるん以上、戦艦入れておきたい。それに実質、派遣艦隊で全部相手取る羽目になる。となると熱田や赤城の様な、ゲームチェンジャー的兵器は送り出したい。だが流石に、そっちとしてもアレだろ?」

 

「流石にあの規模は、ミリシアルの顔を潰すだろうな」

 

「ならまあ、適当に考えるさ。大体水上艦を20隻程度で、秘密裏に潜水艦を付ける。勿論、熱田型と赤城型は無しだ」

 

「それで頼む」

 

この時、神谷は川山には見えない角度で悪魔の様な笑みを浮かべていた。今、神谷は確認した。「熱田型と赤城型は無しだ」と。だが皇国海軍には、まだ戦艦があるではないか。戦艦の代名詞であり、皇国海軍どころか旧世界の海軍で最古参の戦艦。大和型前衛武装戦艦がまだ、こちらにはいる。それをぶっ込めば、向こうは心底驚くだろう。

神谷は黒い笑みを浮かべながら外務省を後にし、その足で今度は横須賀にある地下ドックに向かった。

 

 

 

1時間後 横須賀海軍工廠 地下ドック

「これはまた、派手にやられてんなぁ」

 

「これを修理しろと言われたあっしらの気持ちが分かるかい?」

 

後ろから髭が伸び、汚れまくったツナギを着た60代位の強面の男が声をかけてきた。この男こそ、人間国宝との呼び声高き横須賀海軍工廠の工廠長(ドン)、東成雅である。

造船一筋50年。この世に熱田型と赤城型を生み出して、更には仮称513号艦すら建造した生ける伝説である。

 

「成雅のオヤジじゃねーか!!」

 

「おうよ浩坊。テメェ、この野郎。偶には顔見せんかい!」

 

「イッテェ!相変わらず力強いんだから」

 

「ガハハハ!!」

 

因みにこの2人、超仲良しである。というのも訓練生時代に神谷は、何度もここに足を運んでいるのだ。ここの作業員たちは表舞台に立つ事はないが、最強と名高き皇軍を支えるのには、こういったプロフェッショナルな職人達が必要不可欠である。それを理解しているからこそ、神谷は学生時代に各地の工廠や研究施設を見学に行っていた。

その考えを知った時、東は歓喜の余り大泣きしたのは有名な話です、以来2人は世代を超えての友人関係となっているのだ。

 

「で、ダメージはどんなもんよ?」

 

2人の目の前には、カルトアルパスで奮戦した武勲艦、ムーの戦艦『ラ・カサミ』が鎮座していた。

 

「聞いて驚け。まず右舷の前方2箇所、左舷中央部に魚雷による破口。座礁の衝撃で衝角、所謂ラムが潰れて、中央部の両舷に機銃掃射の弾痕やら破片による弾痕やらで酷い有様だ。フォアマストも折れてる。

中身はもっと酷くてな、多分41cm砲か何か食らったんだな。二番砲塔とその付近が丸々オジャンだ。弾薬庫が弾け飛んで、メインマストの根元はいつ折れたって可笑しくない。副砲塔はまあ取り敢えずは数門持ってかれてるがそれは良いとして、主機関のディーゼルも焦げ付いて動かねぇ上に、スクリューシャフトも左側のが曲がってやがる。タンクも水漏れしてるし、オマケに舵も座礁の影響か右に曲がってて折れかけてやがる。極め付けは竜骨(キール)がヒビ入って折れかけてる」

 

「なぁ、それってぶっちゃけ」

「一旦解体してスクラップにして、作り直した方が安上がりだ」

 

「だよなぁ」

 

神谷自身戦争屋であって、技術屋ではない。しかし叔父が技術者であり、学生時代の工廠行脚で各部門の触りの部分と偏りまくりではあるが、一部は専門家と同等の知識を持っている。故に、東の説明で目の前に鎮座する戦艦のダメージがどれだけ深刻か理解できた。

 

「だがお上からは、治して欲しいとのお達しだ。俺達は天下の横須海軍工廠の誉高き職人だ。治して、いや。前よりもずっと強くしてやるさ。それに、聞いちまったからな。久しぶりによ」

 

「まさか、声を聞いたのか!?」

 

「おうよ。コイツは確かに、俺に語りかけてくれたぞ。私に、祖国を守る力を貸してくれってな」

 

東には超能力とまでは言わないが、物に宿った霊というか魂というか、彼自身よく分からないが、とにかく物の声が聞ける能力がある。四六時中聞けたり、こちらが「声を聞かせろ」と言ったところで聞ける訳ではなく、対象物が沢山の人の思いを内包しているか、その物自体に何かしらの使命があって、東とチャンネルが合えば声が聞けるらしい。

 

「で、浩坊がここに来たって事は、何か頼みがあるんだろ?」

 

「あぁ。一応政府からのメッセンジャーでな、簡単にいうぞ。『コイツの主砲塔を流用して命中率上げろ。期日は変えずに』だ」

 

「.......なぁ浩坊、あっしが何言いたいかは分かるよな?」

 

「無理だよなぁ。あ、一応俺も止めたからな?最初は510mm砲やらレールガンやら載せようって言ってたんだから」

 

一言に砲塔といっても、その実は一個の超複雑なシステムである。同じ規格なら良いが、例えば別の砲塔に違う口径の砲身に取り付けたとしよう。そうすると内部システムの砲身安定装置から組み直さないといけない訳で、まして主砲塔流用で命中率あげろなんて不可能である。

それもマンパワーとか資金云々のどうにかできる次元ではなく、物理的に不可能である。第一次世界大戦の戦闘機にジェットエンジンを乗せたら機体が壊れて、使い物にならないのと同じである。それを知っているからこそ、神谷は渋い顔をしたのであった。

 

「だから、俺からもっと現実的な話をしたい。この戦艦、オヤジの自由に弄ってくれ」

 

東は片眉がピクリと上がり、顔も真剣だが少し笑みを浮かべている。これは興味が湧きまくってる時の顔だ。

 

「そいつぁ、つまり、この俺がコイツを好き勝手やって良いってことか?」

 

「そうだ。武装は勿論、船体形状や機関も変えてもらって構わない。ミサイルもガスタービンも、ブラックボックス化しておけば搭載してくれて構わない」

 

「.......やはり浩坊は、上に立つべき人間だ。人の動かし方、それも職人気質の頑固者の股開かせるのが上手だ。良いだろう、あっしらが責任持って改造してやる」

 

そう言うと、東はマイクを掴んで作業員全員を集めた。そして東の命令が飛ぶ。

 

「野郎共!!コイツの改造だが、全てあっしの自由になった!!!!ここにいる神谷長官が、あっしに全てを任せてくれた!!いつもの様に最高の仕事を慌てず突貫でこなすぞ!!!!」

 

作業員、いや。この工廠の誇り高き職人達の目の色が変わった。この人達ならやってくれると、一目で分かる。この日から約半年の歳月をかけ、ムー海軍の象徴たる戦艦『ラ・カサミ』は横須賀海軍工廠で大改装が行われたのであった。

 

 

 

数ヶ月後 沖縄南東400km上空

「平和だなぁ」

 

「転移してからこっち、一応対潜哨戒はしてますけど基本は船舶の監視ですもんねぇ」

 

この日も沖縄基地所属のPSU3、通称『三式大艇』は対潜哨戒を行なっていた。この機体は傑作機の二式大艇から派生していった素性の良い機体であり、対潜哨戒と救助が主任務となっている。

今日も何もなく終わるかと思っていた。しかし、レーダー員の1人が報告をあげた。

 

「!?レーダー、スモールコンタクト!方位310、40km!!」

 

この報告に機内は一気に緊張感が高まった。この報告で言うスモールコンタクト、とは「レーダーで小さな物体が海上を移動しているのが分かった」という事。海上で動く小さな物体となると、潜望鏡の可能性がある。

 

「機長了解。オールクルー、機長。レーダー探知を得た、12:23、調査に向かう。急降下旋回」

 

機体が左に大きく傾き、高度がぐんぐん下がっていく。だがしかし、すぐにレーダーから反応が消えてしまった。

 

「ターゲット、レーダーロスト!タイム24分!!」

 

「機長了解。オールクルー、機長。レーダーロスト、24分。潜水艦の可能性大!調査を継続する」

 

反応が消えたところを見る限り、恐らく潜水艦なのだろう。しかも探知から消えるまでの時間が短いので、もしかすると相手がこちらに気づいて隠した可能性もある。

 

「潜水艦捜索の為の、ソノブイを設置していく。投下準備」

 

機体下部の発射口から、ソノブイが投下されていき探知網を構築。潜水艦の発見にかかる。ここからが長丁場かと思いきや、ものの数分で潜水艦を発見してしまった。

 

「ソーナーコンタクト、これは潜水艦なのか?」

 

「どういう意味だ?」

 

「いやあの、明らかに音がデカすぎるんです。潜水艦っていうより、水中航行艦というか、とにかく全く隠れる気が無いような。なんかもう、普通に水面走ってるのと同じみたいな状態です」

 

機長自身、元がソナーマンだったのもあって、実際に音を聞いてみた。潜水艦のエンジン音なのは間違いないが、どう考えても音がデカい。というかうるさい。確かにこれでは忍べてない。

しかも何故か潜水艦が12隻もいたので、とりあえず応援を呼んで嘉手納基地からP1泉州4機、沖縄基地から三式大艇3機が飛来し、更に近海を航行中だった第五防衛艦隊が急行してきた。

 

 

 

1時間後 同海域 潜水艦『ミラ』艦内

「獲物がいたぞ。日本軍の艦船だ」

 

「彼らが哀れですね、艦長。彼らは何が起こったのかもわからず、いきなり撃沈される事となるのですから」

 

「皇帝陛下の御意志だ。仕方あるまい。我々は帝国の力を世界に知らしめる先方となる。同じ転移国家である大日本皇国に対しても圧倒的に強く、そして帝国にとってはこれほどの距離でさえ無意味なものという事を世界に知らしめるのだ!さあ、攻撃を行うぞ」

 

彼らは知るよしも無い。大日本皇国海軍は世界的に見てもトップクラスにぶっ飛んだ対潜能力を持っているのである。まず潜水艦を捕捉するのは旧世界の海軍なら出来るが、そこから正確にピタリと追尾する事が出来るのはアメリカと皇国海軍のみである。

更に言えば例え相手がデコイをばら撒こうが、マスカーという気泡を発生させて聴音能力を奪う装置を使われようが、問答無用で敵艦の位置を見破るアンチデコイホーミング機能と、最も破壊力の高い位置で起爆する磁気信管を標準搭載した魚雷が各艦に搭載されている。おまけに使う人間もプロフェッショナルとくれば、もう向かう所敵なしである。

 

「前部魚雷発射管、注水開始。僚艦にも暗号にて伝え!」

 

グラ・バルカス帝国の潜水艦には、鯨の鳴き声を元に開発した水中暗号通信機が搭載されており、音の高さで様々な命令を伝達することが出来る。今回は「敵艦に向け攻撃開始」という意味を持つ音を発生させた。

だが勿論、この音も魚雷発射管への注水音も全て筒抜けであった。

 

 

「ソーナー探知!アンノウン、魚雷発射管に注水を確認!!攻撃来ます!!!!」

 

「機関、最大船速!!回避運動始めぇ!!!!」

 

所属艦全隻が一気に加速し、デコイを発射して撹乱に入りつつ、舵をジグザグに切って回避運動を開始する。

だが、2本の魚雷が運悪く艦隊への衝突コースに入ってしまう。だが、海中にも刺客はいるのだ。第五防衛艦隊所属の潜水艦、『伊953』は直ちに魚雷発射管に注水し、発射。魚雷は『ミラ』へと向けて、進んで行く。そして『ミラ』が放った魚雷と交差した瞬間…

 

バシャーーーーーーン!!!!!!

 

魚雷が起爆し、『ミラ』の魚雷を破壊してしまったのである。なんと『伊953』は『ミラ』の発射した魚雷の進路上に向かって、寸分の狂い無くピタリと交差させた上で、半径数メートルで交差する瞬間に信管を作動させてしまうという、もう訳のわからない事をやってのけたのだ。

これには『ミラ』の乗員も驚いているし、なんなら味方である第五防衛艦隊と空中に展開している哨戒機のクルー達も驚いた。

 

「この機を逃すな!現時刻を持って、アンノウンを敵性潜水艦として判断。正当防衛攻撃、始め!!」

 

「アイ・サー!僚艦の信玄、敵潜水艦に照準します!!」

 

艦隊司令の屋島が命令を飛ばす。僚艦の浦風型駆逐艦から、一斉に対潜ミサイルの信玄が放たれる。時を同じくして空中待機していたSH13海鳥の対潜爆雷の一斉投下、泉州と三式大艇の対潜魚雷一斉投下も行われた。

 

「なんだ?あのパラシュートは」

 

「か、艦長!探信音が来ます」

 

「な、なんだと!?そ、それは対潜.......ソナーか?海軍で開発中の物を何故、皇国が」

 

ミラの艦長は驚いた。対潜ソナーはまだ実用段階には至っていないのだ。現在グラ・バルカス帝国の先進兵器開発局で開発されており、最近ようやく実用段階目前になりつつある程度の代物なのである。

 

「接近してくるのは魚雷です!!魚雷から探信音が!!!!」

 

「ね、寝ぼけるな!!魚雷が探信音を出しながら追いかけてくる訳」

 

この時、艦長の耳には確かに「ピコーンピコーン」という音が聞こえた。音が段々と大きくなる辺り、近づいて来るのも分かってしまう。次の瞬間、船体が激しく揺れ海水が大量に流入して来るのが目に飛び込み、ついで自分の身体を海水が包み込んだのが分かった。

こうしてグラ・バルカス帝国の潜水艦『ミラ』を旗艦とした第2潜水艦隊第4戦隊は永久にその姿を海中に沈めたのである。この事は神谷の耳にも入り、対潜哨戒機による対潜哨戒が増えたのであった。

 

 

 

更に数ヶ月後 横須賀海軍工廠 地下ドック

「こ、これが!」

 

この日、ミニラルら戦艦『ラ・カサミ』の乗組員達は、横須賀海軍工廠の地下ドックに居た。目の前には明らかに今までとは違う、新造艦の様な『ラ・カサミ』がその巨体を休めている。

 

「アンタが艦長さんかい?」

 

「あ、あぁ。あなたは?」

 

「あっしは横須賀海軍工廠、特別技官の東ってもんだ。今回アンタらの船を修復し、改装作業の指揮を取らせてもらった」

 

ミニラルが東に抱いた第一印象は、気難しそうな職人であった。実際正解である。だがあれだけボロボロで、素人であるミニラルからしても廃艦が妥当であると分かってしまうほど酷くやられた船が、ここまでピカピカになったのを見る辺り、職人としての技量は明らかにトップクラス。伝説の領域に足を踏み入れているのが分かる。

 

「取り敢えず船に乗りな。だが、先にアンタらに言っておく。コイツはもう、アンタらの知る『ラ・カサミ』じゃねぇ。外見こそ『ラ・カサミ』だが、中身はバケモンだ。覚悟しとけ」

 

一通り見てもらってから艦橋に向かった訳だが、ここだけでも訳がわからない。これまで露天艦橋だったのだが、それが屋根に覆われてるのは分かる。だが何故かブラウン管テレビの様なモニターが、そこら中にある。艦内も外も、何もかもムーの常識では分からない改造が施されていた。

 

「まあ見てもらった通りだ。船体は131.7mから185mに延伸したが、船体形状はバルバス・バウを始め、航海に最適な形へと変更してある。エンジンもウチの駆逐艦で採用されている、小型軽量大出力ガスタービンエンジンを4機搭載した。更に補機関としてウォータージェットポンプも搭載してある。通常で45ノット、ウォータージェットを使えば一時的に60ノットでぶん回せる」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!今、45ノットが最高で、一時的に60ノットまで加速すると言ったか!?!?」

 

「それがどうかしたか?」

 

ミニラルは口が空いたまま塞がらなかった。因みに元々は18ノットである。

 

「続けるぞ。戦艦の華たる武装だが、コチラも色々改造してある。まず戦艦の顔、主砲だが前部砲塔にもガタが来てたんでな。何方も降ろしてある。代わりに46式戦車の砲身を改造した40口径350mm連装砲を搭載してある。副砲も摩耶型の砲身を切り詰めた45口径260mm連装砲に変更してあるし、他の単装砲も一律60mm機関砲に変更してある。更に20mm単装機銃は全部下ろして、49式対空戦闘車の砲塔を4基そのまんま流用してある。

更にミサイルも大量に搭載したぞ。流石にVLS、つまり垂直発射装置を搭載するのは無理だが、あっちこっちから発射機を調達してある。対艦ミサイル桜島24発、短距離対艦ミサイル家康90発、AIM63烈風120発、舷側やら色んなところに搭載した。

そして極め付けは、船体を貫く形で50口径510mm電磁投射砲を搭載してある。エンジン4基の内、3基はチャージに回す必要はある。だがコンデンサーとスーパーチャージャーの併用で、チャージ時間は5秒と掛からない。威力はそれ一撃でグレートアトラスターだったか?アイツのバイタルパートをぶち抜いて破壊できる。しかもその弾が、2発付いてる」

 

取り敢えず、どんなものか分かりにくいと思うので、設定集の要目と同じ様に纏めようと思う。

 

 

ラ・カサミ級戦艦一番艦『ラ・カサミ(皇国Edition)』

全長 185m

幅 23.2m

最高速力 45ノット(ウォータージェット時60ノット)

機関 ガスタービン

   ウォータージェット

レーダーシステム 天照武器システム

武装 50口径510mm砲 1門

   40口径350mm連装砲 2基

   45口径260mm連装砲 6基

   60口径60mm機関砲 36基

   49式対空戦闘車砲塔 4基

   48式地対艦ミサイルシステム 4基

   三連装近距離艦対艦ミサイル発射機 30基

   マルチパイロン 20基

 

 

とまあ、こんな感じである。頭のおかしいレベルで武装が搭載されているが、この艦自体異端なので仕方がない。しかもこの艦、ミサイル発射管に限りパージできる。船体に埋め込まれてるのは無理だが、発射機が露出してる物はパージして海に投棄できる機能がついてる。因みに本来の目的は、整備性向上の為であるのだが。

 

「とまあ説明は以上だ。最後に、どんなに優れた兵士を持とうと、扱うのは他でもない人間だ。この艦を生かすも殺すも、アンタら次第。だがこの艦はアンタらが信頼すれば、それに必ず答えてくれるタイプの船だ。それだけは覚えておけ」

 

東は彼らに技術屋としての思いを伝えると、早々に艦から降りた。タラップから離れた瞬間、また声が聞こえた。

 

『ありがとう。これでまた、祖国を守れる』

 

「.......また傷付いたら、ここに来い。完璧に治してやる。ここはお前さんのもう一つの故郷であり、もうお前さんはあっしの子供だ」

 

そう言うと、東は作業員の詰所へと戻っていく。この1ヶ月後、慣熟訓練を終えた『ラ・カサミ』は、とある戦艦の護衛を受けつつ祖国・ムーへの帰還の途に着いたのであった。

 

 

 

 

数日後 カルトアルパス港

「トルキア王国、戦列艦21隻到着!」

 

「アガルタ法国、魔法船団17隻到着!」

 

続々と港に到着する中央世界という、文明圏の中でも最高レベルを誇る国々の主力艦隊。彼らはこの港に集結後、第2文明圏の艦隊と合流し、北上する予定である。

今回の艦隊は護衛艦隊ではなく、憎きグラ・バルカス帝国を滅するために主力艦。1国あたりの数も多く、港を埋め尽くさん限りの艦隊にブロンズのみならず港の者達は圧倒されるのであった。

 

「凄い光景ですね。奴らに神罰を下す時が来たのですね!

中央世界各国でこれだけの艦隊、しかも第2文明圏まで加わるのですからグラ・バルカス帝国も鎧袖一触、相手にならぬでしょう。」

 

入社5年目の若手社員がブロンズに話しかける。ブロンズは得意げに話し出した。

 

「そうだな。世界連合ともいえる今回の艦数は、第2文明圏も合わせると相当な数となろう。圧倒的な数はそれだけで力となる。それにこの艦隊には戦艦を含む地方隊が13隻付き、さらには別動隊として西部方面艦隊が付く。主力艦隊のうち、3艦隊もグラ・バルカス帝国討伐に加わるらしいぞ」

 

「なんと!!皇帝陛下が本気になられたのですね」

 

そんな事を話していると、湾外の監視所から驚きの報告が上がった。何とあの『グレードアトラスター』が現れたというのだ。それも1隻ではなく、4隻も。

 

「な、なんだとぉ!?!?」

 

局長のブロンズは一気に青褪めた。またあの惨劇が繰り返されるのかと、気が気ではなかった。だが続いて、またも驚きの報告が上がった。

 

『グレードアトラスターは大日本皇国の旗を掲げています!!今、無線でも確認が取れました。グレードアトラスター級戦艦4、戦艦2、空母1、巡洋艦1、駆逐艦8!大日本皇国海軍です!!』

 

「大日本皇国海軍だと!?!?」

 

ブロンズの脳裏には、約半年前に起こったカルトアルパスでの惨劇を思い出していた。確かにあの時、皇国は大型の航空兵器を持っていた。だが艦艇は対空戦にしか強くなかった。とてもアンバランスというか、良くわからない発展の仕方を遂げた艦艇だった筈だ。そんな皇国がグレードアトラスター級を4隻も連れて来るなんて、予想外すぎたのである。

 

「と、とにかく臨検だ!!兵士を集めてくれ!!!!」

 

ブロンズは守備兵を集めて臨検隊を組織し、グレードアトラスター級戦艦の1隻に乗り込んだ。艦橋へと上がり、艦長に簡単な聴取を行う事にしたのである。

 

「ようこそ、戦艦『扶桑』へ。歓迎します」

 

「歓迎痛み入ります。早速ですが、本題に入らせて頂く。貴官らはグラ・バルカス帝国の軍人ではありませんな?」

 

「えぇ。この戦艦『扶桑』は確かに、グレードアトラスター級戦艦と瓜二つでしょう。しかし!この扶桑を、グレードアトラスターと一緒にしないで頂きたい。この戦艦、正確には扶桑の姉となる同型艦の大和と武蔵は、約110年前に我々の居た世界で起きた世界中を巻き込んだ戦争を戦い抜いた正真正銘の古強者。年季も格も、グレードアトラスターを遥かに超えております。

それにこの艦の艦首には、黄金に輝く菊の御門があるでしょう?アレは我が国の王、天皇陛下の御一族の紋章。あの紋章が輝く扶桑は間違いなく、大日本皇国海軍の一翼を担う戦艦ですよ」

 

ブロンズはこの説明を、とても興味深く聞いていた。元来、軍人は何処も愛国心が高いが、ここまで愛国心に溢れ祖国を誇りに思う軍人も居ないだろう。少なくとも彼がこれまで出会ってきた軍人の中では、トップクラスだと思う。何はともあれ、大日本皇国の派遣艦隊は正式にカルトアルパスに入港することが出来た。では最後に、この堂々たる派遣艦隊の陣容を解説して話を終わろう。

 

世界連合軍特別派遣艦隊

・鳳翔型原子力航空母艦(旗艦)1

・大和型前衛武装戦艦4

・伊吹型航空戦艦2

・摩耶型対空巡洋艦1

・浦風型駆逐艦4

・神風型駆逐艦4

 

 

 

 

 



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第五十九話海の皇帝

明日は最強提督を二話連続投稿します!また後書きでお知らせがあるので、ぜひご覧下さい。


「急げ!急げ!情報をかき集めろ!!」

 

「おい!首都防衛艦隊は!?!?」

 

「現在全力出撃中です!!」

 

戦艦『ラ・カサミ』が横須賀を旅立ってから約1ヶ月。本来なら世界連合軍によるグラ・バルカス帝国との戦闘結果を待つ筈だったムーの統合参謀本部は、現在職員達があちこち駆けずり回る事態となっている。何故か。それは今から1時間程前に遡る。

今から1時間前、オタハイト空軍基地から定期哨戒に出撃した機体が、偶然グラ・バルカス帝国海軍の艦艇を発見したのだ。それも輸送艦隊とか駆逐戦隊のような、そんな小規模ではない。オリオン級、つまり金剛型戦艦6隻を筆頭に、軽空母2、重巡2、軽巡3、駆逐8からなる18隻の大規模艦隊だ。報告を受けた統合参謀本部は直ちに迎撃を指示。現在、首都防衛艦隊とオタハイト空軍基地を始めとする近隣航空基地から、出せるだけの機体に積めるだけの武装を積んで全力出撃中であった。

しかもここに来て、更にとんでもない事態が発覚してしまう。

 

「き、緊急電であります!!マイカル沖にも敵艦隊が現れたとのこと!!!!規模は戦艦1、空母1、重巡3、軽巡2、駆逐10!!」

 

「なんだとッ!?!?まさか二正面、いや!世界連合軍と相対している筈の艦隊も含めれば、奴等は三正面で戦っていることになるぞ!?!?」

 

「だとしたらグラ・バルカス帝国の戦力は一体どれだけあるんだよ.......」

 

海軍本部長の考えに、他の部下たちも絶望していた。正直二正面作戦だろうが三正面作戦だろうが、そこは余り問題ではない。問題なのはムーが逆立ちしたって勝てない戦力を持った軍事組織が、二正面作戦、最悪の場合は三正面作戦を展開できるだけの戦力を保持している点にある。

例えばこれが陸海での二正面なら、まだ少しは望みがある。だが今回は艦隊、海軍のみで二正面をやっている。今のムーに駆逐艦はまだしも重巡や戦艦に対抗できる艦艇が、戦闘機に対抗できる航空戦力が、一体どのくらいあるだろうか。これだけの大部隊を相手取って勝つ事は、まず無理である。

だがしかし、この絶望の中でも少しだけ希望が持てる報告が上がってきた。現在オタハイトには『ラ・カサミ改』がいて、その護衛についてきた皇国の戦艦はまだマイカル沖を航行していたのだ。衛星で事態を把握した戦艦は、オタハイト防衛の為に戦う事を決定。この報告が統合参謀本部にもたらされたのだ。

 

「大日本皇国の戦艦より入電!『我、これより侵攻中のグラ・バルカス帝国海軍の迎撃に向かう』以上です!!」

 

「本部長、彼の国の戦艦なら或いは」

 

「そうだな。よし!その戦艦に感謝を伝えろ!!」

 

一方その頃、オタハイト港では2人の艦長が苛立ちを募らしていた。戦艦『ラ・カサミ』、いや。戦艦『ラ・カサミ改』艦長のミニラルと遂1週間前に慣熟訓練から帰還した、ムーの新たな戦艦。ラ・イーセ級戦艦一番艦『ラ・イーセ』艦長のラッサンである。

ラッサンはマイラス同様、ムー統括軍で最も皇国を理解している男である。この『ラ・イーセ』は名前でも分かる通り、旧大日本帝国海軍の伊勢型戦艦を元に、というか丸パクリして建造された。その為ムーにとっては、これまでになかった発想や新機軸が盛り込まれた代物となる。そこで皇国をよく知っているラッサンが、艦長に大抜擢されたのだ。

 

「なぜ、何故出撃命令が出ない!!」

 

「恐らく政治でしょうな」

 

ミニラルの叫びに副長のシットラスが、冷静な意見を言う。シットラスの言う「政治」とは、海軍本部の意向のことである。海軍本部としては『ラ・カサミ改』は大日本皇国との友好と同盟の有用性を示す象徴であり、『ラ・イーセ』はグラ・バルカスへの反抗と新たなるムー海軍の象徴として認識されている。どちらもまだ国民へのお披露目をしてない訳で、先に戦闘に参加してダメージを負ったり、もし沈みでもしたら全てご破算となってしまう。そんな訳で、この2隻にはこの期に及んでも出撃命令が出てないのだ。

 

「副長、ここは任せる!!」

 

「か、艦長!?」

 

「ちょっと統合参謀本部に殴り込んで、出撃命令貰ってくる!」

 

そう言うとミニラルは『ラ・カサミ』を飛び出して、統合参謀本部庁舎に走る。そのまま港の外の信号を待っていると、後ろから誰かが駆けて来た。見ればミニラルと同じ制服、つまり海軍士官であった。

 

「み、ミニラル艦長!?どうしてここに!」

 

「それはこちらも同じだぞ、ラッサン艦長」

 

その男はまさかの『ラ・イーセ』艦長のラッサンであった。どうやら、2人とも同じ理由らしい。

 

「それにしても、上には困った物だな!」

 

「えぇ!政治も結構ですが、国が滅べば政治も何も無いというのに」

 

「全くだ!人というのはどうやら、自分の死ぬ間際でも浅ましい事しか考えぬらしいな!」

 

夕方に国民が避難する中、海軍の真っ白な制服を着た男2人が走りながら上司の愚痴を言い合うというのは、中々にシュールな光景である。それ故に周りの国民からも、見世物の様に奇異の目で見られるがそんなのには構わない。

こういう急いでる時に限って、また信号に引っかかってしまう。無視する訳にもいかないので、また息を整えつつ青になるのを待つ。その時に不意にラッサンが、こう呟いた。

 

「ここが大日本皇国か、上官が神谷さんなら良かったのに」

 

「神谷というと、神谷元帥の事かね?」

 

「はい。あの人はあの若さで軍のトップに立つ位ですから、とんでもないエリートです。ですがあの人は、常に最前線や現場を気に掛けています。例え独断専行をしたとしても、それが必要であったり、その行動で人命が救われれば、何の咎もしない位に。

恐らくこういう場合でも、侵攻が判明すれば即座に動かしていますよ。何せ我々の艦を置いて、奴らの主力艦に対抗できる艦艇はムーには存在しないんですから」

 

ミニラルも一度、『ラ・カサミ』の改修工事で皇国にいた時に一度だけ会った事がある。定型文の挨拶であり、そんな長く話した訳でもない。だがやはり、あの若さで世界最強の皇国軍を率いている事に驚いたし、何より話していてとても好感を得たのは事実であった。それ故に、ラッサンの話で神谷に興味が出てくる。今度また、何かの形で会える事があれば少し話してみたいと思った。

だが今はそんな事を考えている暇はない。そんな考えは取り敢えず、頭の隅に避けて統合参謀本部庁舎目指して走る。暫くして統合参謀本部庁舎に着き、そこから階段ダッシュで海軍本部長の執務室に突っ込む。勿論、扉をぶっ壊さん勢いで。

 

「うわっ!?な、なんだね君たち!!」

 

「本部長、何故我々には出撃命令は出ないのでありますか!?」

 

「そうです!我々の艦を差し置いて、グラ・バルカス帝国の艦艇に真っ向から戦える艦は居ません!!」

 

「それは分かっているが、ダメに決まっているだろう。ラ・カサミ改は大日本皇国との友好の証であり、同盟の有効性を示す証拠だ。沈みでもしたら、大事になる。

ラ・イーセに至っては、取り敢えず1回目の慣熟訓練が済んだだけだろう?それを出して、むざむざ沈んで貰っては困る」

 

やはりこの本部長には、政治の事しかないらしい。これが本部長ではなく、トップの海軍長官のホーストン・ウェスバイトなら多分こんな事もしなくて済んだだろう。だが無い物ねだりしても、意味はない。

 

「本部長、『軍艦無くして勝利なし。我ら意思無くして国もなし』です」

 

ミニラルが言った言葉に、本部長は黙った。この言葉はかつて、ムーで起きた海魔戦争という戦争で英雄と呼ばれた機甲戦列艦『ラ・ベーダル』の艦長、ゴーゼルク・スコット大佐(最終階級は中将)が残した言葉である。この海魔戦争は海魔という、簡単に言うと海の魔物との戦いであった。

この戦争が終わって少しした時、まだ幼かったミニラルは初めて機械動力式の客船に乗った。その客船は運悪く、海魔に襲われた。初めて間近に感じた『死』にミニラルは震え上がった。その時、1隻の機甲戦列艦が海魔に砲撃を加えて撃退した。その艦こそ『ラ・ベーダル』であり、艦長のゴーゼルクはミニラルの父親だったのだ。今でも海魔の撒き散らした海水と恐怖で泣いた涙でぐしゃぐしゃになった自分を、父親の大きな手が撫でてくれたのを良く覚えている。その日以来、ミニラルは軍人を志し今がある。その父はもう随分前にこの世を去ったが、ずっとミニラルに言ってきた事がこの「軍艦無くして勝利なし。我ら意思無くして国もなし」という言葉だったのだ。この言葉は海軍内でも、金言として扱われており誰もが聞いたことのある言葉でもある。

 

「本部長、今我々が戦わなければ首都は火の海だ。私達に出撃許可を」

 

「しかし.......」

 

それでも尚渋る本部長に、ラッサンが更に怒鳴ろうかと思った時であった。ドアの方から、優しくも力強い声で「許可してやれ」と言われた。振り向くとそこには、海軍長官のウェスバイトが立っていたのだ。

 

「ウェスバイト長官!!」

 

「いや、敬礼はいいよ。それよりも君達、それだけの意志があれば負けはしないだろう。行ってきたまえ。そして、この国を護るのだ」

 

「「アイ・アイ・サー!!」」

 

そう言って敬礼し、大声で答える2人。2人はまた来た道を走って戻る。

 

「よろしいのですか?」

 

「あぁ。あの言葉を言われちゃ、私も弱いよ」

 

因みにウェスバイトは、かつて『ラ・ベーダル』の砲術長をしていた。海魔戦争に於いても、ゴーゼルクと共に修羅場を潜り抜けたし、なにより軍大学在学中は世話になった先輩でもある。その先輩の言葉を、それもその子供が言ったとなれば行かせてやる以外の答えはない。

 

 

「戦艦『ラ・カサミ改』!!」

「戦艦『ラ・イーセ』!!」

 

「「抜錨!!」」

 

勇者達を乗せて、黒鉄の城は敵を求めて巣穴を旅立つ。先発した首都防衛艦隊に追い付くべく、艦隊は速度を上げて海原を突き進む。一方の首都防衛艦隊はと言うと、その大半が敵航空機の空襲によって壊滅していた。

首都防衛艦隊は旗艦である戦艦『ラ・ゲージ』を筆頭に空母4、装甲巡洋艦8、重巡6、軽巡4、駆逐10からなる大艦隊である。今回は空母は置いてきているが、それでも少なくない戦力だ。だがいかんせん、航空機には滅法弱い。一応20mm機関砲を搭載してるっちゃしてるが、流石にそれだけで敵機を全部落とすのは無理がある。というかグラ・バルカス帝国のパイロット達は、かつて高射砲の爆炎とムーとは比べ物にならない弾幕を掻い潜って攻撃していたのだ。この位では逃げ帰らない。

 

「駆逐艦『ラ・エヒン』轟沈!!」

 

「航空機がこんなにも高性能なのか!!」

 

「て、敵機直上!!急降下ぁぁ!!!!!」

 

首都防衛艦隊司令のムレスは、監視員の指差す方向を見る。見れば敵の爆撃機が、こちらに突っ込まん勢いで急降下している。もうダメだと思ったその瞬間、その機体は爆散した。

 

「な、なにが起きた!?」

 

「提督!!無線入電!『ここからは我々に任せろ』識別、ラ・カサミ改とラ・イーセ!!!!」

 

「来てくれたのか!!」

 

次の瞬間、ムレスの乗る『ラ・ゲージ』の隣を2隻の巨大艦が通過していった。見間違うわけがない。戦艦『ラ・イーセ』と『ラ・カサミ改』である。

 

「まずは敵の掃討からだ。対空ミサイル、発射!!」

「対空ミサイル発射!」

 

『ラ・カサミ改』に搭載されたAIM63烈風が、突貫作業で艦載用に改造されたマルチパイロンから放たれる。チャフもフレアも持たないグラ・バルカス帝国の航空機じゃ、防ぐ事はできない。

 

「ミサイル全弾命中!!」

 

「よしっ、いいぞ!!」

 

「敵機直上、急降下!!」

 

この報告を受けた時には、既に49式対空戦闘車が自動迎撃に移っていた。元々の49式には和製イージスたる草薙武器システムが搭載されているが、流石にオーバースペックすぎるのでダウングレードされている。だがそれでもレーダー照準の対空砲である事には変わらないので、水兵達にとってもパイロット達にとっても常識外れの高い命中精度を叩き出す。

 

「ミニラル艦長、暴れてるな。こちらも負けてられん!主砲砲撃、弾種三式弾!!撃て!!!!」

 

ラッサンも試験的に開発した三式弾を用いて、敵航空機の排除にかかる。意外と敵が密集してくれているし、なにより『ラ・カサミ改』の攻撃で逃げ惑った結果、余計に密集しているので三式弾には良い的だ。

因みに三式弾こと三式焼散弾は弾頭にマグネシウムや焼夷ゴム弾なんかを詰め込んだ対空砲弾であり、発射すると円錐状に広がり敵を撃墜する。イメージしづらい人は、ショットガンみたく弾が広がると考えてほしい。あの子弾1つ1つが超高温になっていて、飛行機を貫くのだ。

 

「三式弾命中!敵機が8機、火だるまになって落ちていきます!!」

 

「よし!!もっとだ、もっと撃て!!対空砲も弾幕を貼り続けろ!!『ラ・カサミ改』を前進させ、敵艦隊にぶつけるのだ。本艦よりも、『ラ・カサミ改』の方が総合火力では上だ!!我々は首都防衛艦隊の撤退を援護し、『ラ・カサミ改』突撃の露払いを行う!!」

 

「アイアイ・サー!!」

 

この作戦は統合参謀本部から帰る途中で、ミニラルが考え出した策であった。通常の砲火力で限定するなら『ラ・イーセ』の方に軍配が上がるが、ミサイルやレールガンを装備した『ラ・カサミ改』の方が総合的な火力でも、また速力なども含めたスペックに於いても遥かに凌駕する。

そこでミニラルは先に『ラ・カサミ改』による突撃を仕掛けて敵主力の注意を惹き、その間に『ラ・イーセ』が首都防衛艦隊を逃す。撤退が完了次第、ロングレンジ砲撃で『ラ・イーセ』が援護砲撃を実施する形にしたのだ。

 

「今のうちだ!『ラ・イーセ』が惹きつけている間に、敵艦隊に向かうぞ!!最大船速!!」

 

『ラ・カサミ改』はウォータージェットは使用していないため60ノットではないが、それでもムーの認識では最速クラスの速度で敵艦隊に向かう。

 

「通信士、敵旗艦に通信だ」

 

この命令に通信士は驚いた。そんな事をすれば、自分の位置が相手にわかってしまう。大声で「私達はここにいるぞ!」と宣言しているような物になる。しかもそれは、出れば相手も同じだ。出る訳がない。

だがそれでも、命令は命令。命令された以上、粛々と無線を繋げる。出ないと思っていたが、相手は出たのだ。

 

「艦長、繋がりましたよ」

 

「こちらはムー海軍、戦艦『ラ・カサミ改』艦長ミニラルだ。そちらは?」

 

『グラ・バルカス帝国本国艦隊イシュタム隊、戦艦『メイサ』艦長のオスニエルです。いやはや戦場で無線を送ってくるなんて、狂ってますねぇ。降伏する気にでもなりましたか?』

 

聞いているだけで頭にくる言い方に、艦橋の全員が不機嫌になる。それもその筈。このイシュタム隊ことグラ・バルカス帝国海軍本国艦隊第52地方隊は、道徳心がないグラ・バルカス帝国の軍人からも「お前ら、人の心は無いんか」と言わしめる程に狂人共の吹き溜まり部隊なのだ。本来なら『本国艦隊』と名のある様に、本土防衛用の艦隊である。だがこれは、あくまで転移による影響で配置転換していただけにすぎない。

彼らの本来の任務、つまりかつての転移前の世界であるユグドに於いて、彼らは占領地護衛艦隊であった。『護衛』と名が付いているが、やってる事は真逆で、占領地で謀反が起こったり、誤報であっても「謀反の兆しあり」と報告が入れば即座に鎮圧する部隊であり、何なら『砲撃演習』として定期的に占領地に砲弾を叩き込む。その為配属された兵士達も弱者を一方的に破壊、蹂躙、嬲り殺しが趣味な連中が配属されているわけで、その凶暴性は更に拍車が掛かっている。その結果、現地人からは『死神イシュタム』と恐れられていた。

 

「その逆だ。私は警告の為、連絡したのだ。こちらは既にそちらの編成も陣形も展開位置も正確に把握しているし、ここにはムーの主力が展開している。全滅は免れないだろう。降伏を勧める」

 

『くふ、くははは!笑わせないでくださいよ。我々はまだ1隻たりとも艦を失ってはいないのですよ?そちらと違ってね。でも、我々にそんな口を利く度胸は褒めてあげましょう」

 

「その割には航空機は今、どんどん撃墜されていってるがね。君の様な通信兵の下士官では、話にならないな。オスメスなんとか君、艦隊司令か艦長に代わってくれたまえ」

 

『オスメスなんとかではない!!オスニエルだッ!!!!そして私がこの艦隊の指揮官であり、この艦の艦長だ!!!!!貴様ら如きに、我が艦隊は止められなァい!!!!首都を灰塵にしてあげますよぉぉ!!!!』

 

オスニエルは無線の向こうでヒステリックに叫んでいて、ミニラルとしては喉が潰れないのか心配であった。だが、ここまで怒っていては冷静な判断もしにくくなる。こちらとしては好都合だ。

 

「それができるかな?我々を、これまで相手にしたムーの艦艇と一緒にしないで貰おう」

 

『くふふ、では絶望を与えて差し上げましょう。こちらを食い止めようと無駄ですよ。何故なら、君達が総力を挙げて私たちに挑んでいる間に、マイカルが火に包まれるのでェェす!!!!』

 

「何だとッ!?そんな馬鹿な事があるか!!!!そんな事をされては、我が国が滅んでしまうぞ!!!!

なんて、いうと思ったかな?」

 

そんな事、もう知っている。それに、彼方にはあの戦艦がいるのだ。もう勝ったも同然である。

 

「確かにマイカルには、こちらの主力は展開していない。元々の防衛艦隊も、こちらよりもやはり少ない。だがな、向こうには彼らがいるのだよ。大日本皇国の、戦艦がね。私も一度しか姿を見ていないが、あの戦艦はそんじょそこらの、それこそ君達のグレードアトラスター級ですら足下にも及ばない。真の戦艦、戦艦の完成形とでもいうべき戦艦が、防衛態勢に入っているのだ!」

 

『その様な偽情報に我々が踊らされるとでも?くははは!精々、苦しんで死になさぁぁい!!!』

 

最後の最後まで人を小馬鹿にした様な物言いに、逆に絶対アイツぶっ飛ばすと言わん勢いで艦橋の人間の士気が上がった。

 

「諸君!今我々は、歴史に立っている。我らこそ歴史の魁だ!我らと、この『ラ・カサミ改』の後に何百、何千という兵士達と何十隻という艦艇が続く。この戦いに勝ち、ムーを、祖国を護れ!!総員、受け持ちの職務を全うせよ!!!!」

 

次の瞬間、乗員達から雄叫びがあがる。士気は充分なようだ。程なくして、敵艦隊も目視で見えた。砲撃にかかる。

 

「主砲砲撃戦、目標!前衛の軽巡!!」

 

「照準良し!」

 

「撃て!!」

 

30.5cm砲から、戦車砲とは言え40口径350mm連装砲に換装した新主砲。その威力は軽巡の様な、余り装甲の厚くない艦艇にとっては脅威となる。

 

「命中!!」

 

「いい、いいぞ!!」

 

しかも目測ではなく、レーダー照準と砲安定装置を併用した射撃システムである為、命中率は遥かに上がる。

 

「軽巡『グレイ』轟沈!!」

 

「ふむ、敵もやるようですねぇ。にしても40ノットとは速い。戦艦部隊、主砲をあれに向けなさい」

 

オスニエルは『ラ・カサミ改』の性能に驚きつつも、まだこちらの方が強いと思っていた。主砲を撃てばやれると。だがそれは、当たればの話だ。

 

「照準よし!」

 

「撃ちなさい!!」

 

オリオン級6隻が一斉に主砲を放った瞬間であった。なんと目の前のムーの戦艦は、一気に加速して砲弾を避けたのだ。

 

「ば、蛮族如きがあんな戦艦を持っているのか」

 

「おい監視員!速力は!?!?」

 

「んなアホな!?あの、いくら計算しても、目測で60ノット近く叩き出してます」

 

監視員の報告に、全員が唖然とした。60ノットは時速に直すと111kmにもなる。そんな速度をあんな巨大艦が叩き出すなど、この時代どころか現在に於いてもあり得ない。

 

「敵艦、ロケットの様な物を発射!!」

 

「ロケットぉ?そんな物で船が沈むわけ」

 

確かにグラ・バルカス帝国の時代に於けるロケットは、基本的に対地攻撃に使うという認識だ。現代だとハイドラロケットに当たる兵器という認識だが、知っての通り『ラ・カサミ改』が搭載する対艦誘導ミサイルは、基本的に駆逐艦位なら一撃で葬り去る威力を持つ。その為、もう次の瞬間には海が炎で赤く照らされていた。

 

「んなっ!?!?」

 

「敵艦更に接近してきます!!」

 

「えぇい!!撃って撃って撃ちまくりなさぁぁぁい!!!!!!数で押すのでェェす!!!!」

 

残存艦艇は『ラ・カサミ改』に向かって砲弾を撃ちまくる。だがそれを巧みな操艦で右に左にジグザグ航行で避ける。

 

「敵さん、いよいよ怒ったようだな」

 

「敵重巡、右舷と左舷に展開!挟まれました!!」

 

「怯むな!!近距離対艦ミサイル発射ァ!!!!」

 

両舷に搭載された三連装近距離対艦ミサイル片舷15基、両舷合わせて30基の発射管から対艦ミサイル家康が放たれる。1発の威力こそ弱いが、1隻に45発が一挙に襲い掛かれば轟沈させる事も出来る。

 

「命中!命中!敵艦大炎上しています!!」

 

「このまま押し切れ!!対艦ミサイル、敵戦艦に照準!!撃てぇ!!!」

 

更に追い討ちで6隻の戦艦の内、前方2隻に対して対艦ミサイル桜島を放つ。

 

「て、敵戦艦に命中しました!!すごい!!船体に巨大な破口が出来ています!!!!」

 

「やはり皇国の兵器は凄まじいですな艦長!」

 

「そうだな副長!この調子ならきっと」

 

誰もが勝てると確信した時、悲劇は起こった。敵弾の1発が後部主砲に命中。大破したのだ。

 

「後部主砲に命中弾!!火災発生!!!」

 

「ダメージコントロール!消火急げ!!」

 

すぐにダメコン要員が向かうが、続け様に駆逐艦の砲弾も砲列甲板に命中。負傷者が出る。

 

「艦長、不味いですよ。ミサイル系も対艦ミサイルはもうすぐ底が見えてしまいます」

 

「恐らく、もう少しで『ラ・イーセ』が到達する筈だ。それまでに、少しでも相手にダメージを与えるんだ」

 

「艦長、やるんですね?今、ここで!」

 

「あぁ。総員、艦首軸線砲射撃準備!!」

 

ミニラルは決断した。いよいよ、使う時が来たのだ。皇国が『ラ・カサミ改』に与えた、最強の決戦必殺兵器。50口径510mm電磁投射砲を。

 

「アイアイ・サー!砲撃回路接続、艦首隔壁、解放!」

 

艦首軸線部分が開き、砲身が少しだけせり出てくる。機関出力は半速にまで下がるが、それも数秒にすぎない。問題にはならない。

 

「照準線、敵戦艦に固定。いけます!!」

 

「電磁投射砲、正常に作動中。チャージ完了、いつでも撃てます!!」

 

「510mm電磁投射砲、発射ァァァァァァ!!!!!」

 

艦長がトリガーを引いた瞬間、艦首から青白い光が瞬くと、バシュンという砲撃音とは違う大きな音が鳴った。

そして目標の敵戦艦のバイタルパートに破口が出来たと思った瞬間、見た事ない光景が目に飛び込んだ。船体が赤黒い無数の気泡の様なボコボコとした物に変容し、その気泡が弾ける様に爆発したのだ。

 

「こ、これが510mm電磁投射砲.......」

 

「なんという.......」

 

ミニラル含め、全員がこの絶大な威力は510mm電磁投射砲による物だと思っていた。だがこれ、厳密にいうと全然違う。知っての通り、電磁投射砲、つまりレールガンとは、あくまで「火薬に代わって、電磁力で物体を飛ばす」というコンセプトで生まれた兵器。貫通力こそ上がるが、こんなよく分からん爆発は起こさない。では何故、こんな事が起きたのか。

それは何をトチ狂ったのか、東は使用する砲弾に月華弾を選択していたからである。月華弾はデモリッシャーガスという特殊なガスを注入した、所謂気化弾である。本来は対地、対空用砲弾だが一応対艦でも使えなくはない。しかし基本的に現代艦は装甲が薄いので、普通に榴弾で事足りる。なのでコスパ的に使う事は無かった。だが今回の艦は大艦巨砲主義の権化たる戦艦が相手。そこで東は1発で相手を確実に仕留められる月華弾を選択したのだ。この月華弾は起爆後に、本来なら数千度の高温を誇る火球を形成し、衝撃波と熱波で全てをもみくちゃにする。だが今回は艦内部の、それもバイタルパートという一番装甲の分厚い部分での起爆であった。その為、起爆で酸素を奪い尽くすが逃げ場を失った熱波と衝撃波はあちこちに広がり、まるで気泡の様に収束して、熱に耐えきれず融解した装甲材から一気に酸素が流入した結果、バックドラフト現象が起き一気に爆発したのだ。

 

「な、何なのですかあの爆発はァァァァァァ!!!!」

 

流石のオスニエルも、これは想定外だったらしい。今までで一番の叫びを上げる。しかしオスニエルは知らなかった。まだおかわり(・・・・)がある事を。

 

「次弾装填!発射ァァァァァァ!!!!!」

 

この砲弾、2発積んでるのだ。つまり、もう1発撃てちゃうのだ。そんな訳でもう1隻を同じ様に血祭りに上げる。ムー側は既に戦艦4、重巡3、重巡2、駆逐3を沈めており、残っているのは戦艦2、駆逐3である。空母と残り2隻の駆逐艦は、後方待機であり元々この戦闘海域までは進出していない。つまり『ラ・カサミ改』は、半数以上の敵戦力をたった1隻で打ち負かしたのだ。だが、この幸運も長くは続かなかった。

 

「うおっ!?!?」

 

「何が起きた!?!?」

 

『こちら機関室!破口が広がり、海水が流入中!!恐らく、例の魚雷とかいう水中を進む爆弾が当たってます!!』

 

沈んだ内の1隻が、置き土産に残した魚雷が運悪く命中したのだ。それも機関室をやられては、流石にもうあの機動力は叩き出せない。

 

「もはや、これまでか.......」

 

『こちら『ラ・イーセ』!戦闘海域に到着した。これより、支援に移る!』

 

ここで首都防衛艦隊を逃していた『ラ・イーセ』が海域に到達。ようやく『ラ・カサミ改』の支援に入ったのだ。すぐに現在の状況を伝え、撤退する事を話した。この報告を受けたラッサンは、直ちに主砲による砲撃を開始した。

 

「主砲砲撃戦、撃ち方始め!」

 

「第一射、撃てぇ!!」

 

搭載された35.6cm連装砲6基が発射される。因みに『ラ・イーセ』は1937年の大改装後の形となっている。その為、まだ瑞雲とか十二糎二八連装噴進砲は搭載していない。

 

「弾着、今!」

 

「今の諸元を元に、修正射に移ります」

 

よく映画なんかじゃ、簡単に初弾命中だの夾叉だのさせているが、実際は凄い練度が必要である。というのも同じ口径の同じ工場で作られた、製造工程も同じ砲身であっても、どうしても全く同じ性能ではないのだ。撃つと着弾点がバラつき、これを散布界という。夾叉とは着弾点で目標を挟むことであり、挟んでしまえば後はその中に当たるように撃てば当たるだろう、という事なのである。こう聞くと適当感が凄いが、実際に第二次世界大戦の頃のアメリカ海軍は200,000mの距離で命中率は3%くらいであり、帝国海軍も200,000〜250,000mで9%という命中精度であった。勿論現代艦や同じ大砲を扱う大日本皇国海軍には、レーダー照準と砲安定装置の導入によって命中率はとても高い。

因みに余談だがこれは大砲に限らず銃にでもいえる事であり、かつての狙撃銃はこの精度の差で作られた。例えばメタルギア3のボスキャラ、ジ・エンドの使うモシン・ナガン。この銃は元々はM1891/30ライフルという歩兵銃の製造ラインから、特に精度の高いものを選び出して、そこから光学照準器の搭載やチャージングハンドルを曲げるといった改造が施された物である。現代では狙撃の重要性が高まり専門性も増してきた為、狙撃専用として作られている。

 

「第二射、撃て!!」

 

まだ夾叉には程遠い。だが恐らく次かその次には、夾叉できる。そう考えた時、艦後尾に衝撃が走った。

 

「第五主砲、敵弾命中!大破!!」

 

「奴ら、もう当ててきたのか」

 

奴らは何と、一撃でこちらを撃ってきたのだ。まあ、これは偶々で本来ならもうちょい時間がかかる。だが彼等は少なくとも、何度も砲撃してきている。撃つ相手こそ無論褒められた物じゃないし、むしろクズと表現して余りあるクズ共だが、砲撃の命中精度には関係ない。

かたやこちらは、まだ出来立てほやほやの新造艦。しかも乗員もまだ完全に慣れきってないどころか、まだ慣熟訓練の途中。埋められない程に経験の差があった。だがそれでも…

 

「だがそれでも、俺達は後には退けないんだよ.......。砲術、何が何でも次で当てろ。俺達の後ろには、もう壁はないんだ」

 

「やって見せます!!まだ慣熟訓練の途中だがな、こちとら他の艦で撃ってたんだよ!!おい『ラ・イーセ』!!テメェも誉れ高きムー海軍の栄えある新造戦艦なら、当ててみせろ!!!!」

 

この叫びが聞こえたのか、次の第三射では、しっかり敵戦艦のど真ん中に5発とも当てた。ならここからは斉射あるのみ。

と思っていたのだが、その前にさっき当てた戦艦が大爆発を起こした。

 

「火薬庫に火が回ったのか?」

 

「いえ。幾らなんでも、あそこまで早くは爆発しないでしょ.......。まさか甲板に火薬を並べてたのか?いや、そんな事はあり得ないか」

 

その原因は、監視員の報告で分かった。黒い何かが高速で接近していると、報告が上がった。

 

「まさか、皇国軍の戦闘機か?」

 

12機の高速飛翔体は『ラ・イーセ』の前方を通過し、そのまま敵艦隊の方向に向かっている。そしてその後ろを、4発のジェットエンジンを装備した輸送機らしき何かが追い掛ける。

 

「艦長、不明機から無線が入っています」

 

「出よう」

 

無線のマイクを受け取り、不明機に乗っている者に向かって呼び掛ける。

 

「こちらはムー海軍所属の戦艦、『ラ・イーセ』艦長ラッサンだ。そちらの所属を答えられたい」

 

『艦長就任とは、大出世しましたなラッサン殿』

 

その声は聞き覚えのある声であった。だが一方で、ここには居ないはずの人間でもある。

 

「か、神谷閣下!?」

 

『そうです、神谷閣下です。例の『ラ・カサミ改』の護衛に引っ付いてきてて、取り敢えずマイカルのは消し飛ばしたんで、こっちの応援に来ました』

 

「か、神谷閣下って、あの神谷閣下か?大日本皇国のトップで、皇国剣聖、そんでもってグラ・バルカス帝国に強襲して捕虜奪還してきた神谷浩三・修羅」

「そういや艦長のサーベル、パーパルディアとの観戦武官の時に神谷閣下から貰った日本刀とか言ってたぞ?」

「つまり、俺たちの艦長は大日本皇国のトップと知り合い?」

 

なんかとんでもない艦長の下に着いてしまったと思った水兵達であった。

一方、神谷がなぜここに来たのかと言うと、どうせならグラ・バルカス帝国の戦艦を鹵獲してやろうと思い、神谷戦闘団を連れてきたのだ。

 

「よーし、降下して戦艦を奪取するぞ。まずは(きわみ)で上部を掃討しろ」

 

そう命令すると、先行していた戦闘機達は侵攻軍の旗艦『メイサ』の手前でVTOLモードに変形し、装備した機関砲で対空砲を潰していく。

だが皆さん、お気付きであろうか?艦載機であるC型震電IIにはVTOL機能はなく、B型は強襲揚陸艦にしか配備されていない。では何故、この機体はVTOL機能が使えるのか。

今攻撃中の戦闘機は、F8C震電IIではない。この戦闘機の正式名称はF8CZ震電IIタイプ・(きわみ)。皇国海軍が新たに開発した、次世代戦闘機、つまり第六世代ジェット戦闘機に分類される航空機である。

 

「対空火器、掃討完了しました」

 

「行くぞ!!!!」

 

神谷は妻達、向上、そして部下達を連れて『メイサ』へと降り立つ。こんな大航海時代の様な戦法は、元より想定していないのだ。流石に対応策はない。

 

「奴らはどうせ臨検用のライフルと拳銃位しかない筈だ!!仮に他にもあっても、その数は圧倒的に少ない!!こっちのが練度も装備も上だ!!数に任せて押し切れ!!!!」

 

今回の神谷戦闘団の装備は、37式短機関銃と36式散弾銃である。どちらも閉所戦闘や屋内といった、狭い場所での戦闘にこそ進化を発揮する。しかも空中にはAVC1突空と震電IIタイプ・極までいる。突空の装備は前々回に書いた通りだが、この震電IIタイプ・極だって戦闘機としては破格の装備を持つ。標準で30mm機関砲が4門と60mm機関砲2門、さらに七連装80mmロケット弾発射機2基、連装レールガン2基、TLS1基が標準搭載されている。駆逐艦とか軽巡位ならミサイル無しで、普通に沈められる。

でもって、これだけでは終わらない。甲板には突空から降りた神谷戦闘団が殺到しているが、艦底部にも刺客がいる。

 

 

「なんか上が騒がしいが、全く様子がわからんな」

 

「取り敢えず俺達は、釜の面倒を見なきゃならん。ボイラー圧もしっかり確認しとけ」

 

ギャリギャリギャリギャリ!!

 

「な、なんだこりゃ!?」

 

「ドリルが地面から突き出た!?!?」

 

そう。なんと艦底部にある機関室に、謎のドリル状の突起物が生えてきたのである。しかも結構デカい。機関士達がどうしたものかと考えていると、ドリルが勢いよく開いた。そして中から兵士達が飛び出してくる。

この新兵器こそ、皇国軍の定例ぶっ飛び兵器の一つ。特殊潜航突撃艇『回天』である。因みに、武装はドリルのみ。

 

「動くな」

 

「な、なんだてめぇら!!」

 

1人の中年男性が石炭を入れるスコップ片手に飛び掛かってくるが、普通に回し蹴り食らってボイラーの中に飛んでいった。無論、焼け死ぬ。

 

「抵抗しなければ、命までは奪わん。我々の命令に従え」

 

「あ、アンタら何者なんだ.......」

 

「大日本皇国統合軍、神谷戦闘団、白亜衆。お前達も捕虜虐殺の報道は知っているだろう?あの地に殴り込んだ部隊こそ、我々だ」

 

あの件は報道管制が敷かれており、グラ・バルカス帝国本土の国民も一般兵も知らない。だがやはり一部には広まっており、ここの人間達はその一部に含まれていた。さすがにそんな連中には抵抗できないので、黙って降伏した。

他の主要部分も神谷戦闘団の支配下に入り、突入から15分もすれば残すは艦橋だけであった。

 

「はーい、皆さん動くなよー」

 

「貴様らァァァァァァ!!!!このメイサに、よくもヌケヌケと乗り込んでくれましたねェェェェ!!!!」

 

ある意味、音波兵器的役割になってるオスニエルの叫び。だが、その程度では止まる彼らではない。というか約1名、じゃじゃ馬がいるのだ。

 

「ねぇ、おじさま?」

 

「ん?」

 

「さっきからうっさいわよ!!!!」

 

なんとエリスさん、大剣の腹の部分でオスニエルの頭をぶん殴り、そのままヒール付きのブーツで顔を踏んづけたのだ。

 

「むご!?むごむがむごごご!!」

 

「何言ってんの?聞こえないんですけど!?」

 

さらに踏んづけるエリス。それを止めようとしたが、神谷は気付いてしまった。奴の股間、膨れてる。

 

「長官?」

 

「向上ー、奴の股間を見てみろ」

 

「はい?.......うわ」

 

向上が本気のガチドン引きをした。多分あれ、踏まれて興奮してる。恐らく、神谷の言葉が聞こえたのだろう。4人も股間を凝視して、顔を赤くしている。

そしてエリスも、オスニエルが顔を下卑た笑みを浮かべてるのに気付き、偶々目に入った股間で全てを察したのだろう。

 

「女の子にこんなことされて悦ぶなんて、アンタ心底救いようのない変態ね」

 

「待ってエリス!そのタイプにその対応は」

 

こう言ったタイプをアニメで見たことあるレイチェルは、その発言を止めた。しかしオスニエルがまた、むがむが言う。だが神谷とエリスには、多分こう言っていると分かってしまった。

 

「むがむがむがむが♡」ニチャァ

(訳:むしろご褒美でェェェェす♡)

 

「コウくん」

 

「なんだ?」

 

「アイツ、殺していい?」

 

「.......半殺しまでなら許す」

 

流石の神谷も、救い様がなかった。この後5人の美女エルフに踏まれて、色んな意味で昇天したオスニエル。その痴態を見せられた艦橋乗組員達は、いつの間にか「こんな奴の部下になりたくないんで降伏します。というか、お願いですから降伏させてくださいお願いします」と土下座してきた。最終的に戦艦『メイサ』は拿捕され、ここにオタハイト沖海戦は終結したのである。

でば次は、時間を巻き戻して神谷達の話を見てみよう。

 

 

 

数時間前 マイカル沖400km

「長官、衛星が接近中のグラ・バルカス帝国海軍艦艇を捕らえました。戦艦1、空母1、重巡3、軽巡2、駆逐10。明らかにマイカルを狙ってますね」

 

神谷は自室で執務を片付けていると、向上が報告にやってきた。どうやら、優雅な船旅とはいかなくなったらしい。

 

「確かにマイカルは、戦略的に見れば重要地だからな。ムーや我が皇国を含め、あそこは第二文明圏に於ける経済の中心。なんなら第一文明圏に於いても、マイカルが第二文明圏経済のアクセスポイントだ。ここを攻撃されれば、流石にキツイだろうよ」

 

「またオタハイトにも、戦艦6を含む大艦隊が侵攻中です。こちらには『ラ・カサミ改』に例の伊勢型モドキもいますから、取り敢えずは問題ないでしょう。しかしこちらは」

 

「余り防衛兵力ないからな。よし、一番近いのは俺達だ。攻撃しよう。それに、この艦の力を知る良い機会だ」

 

やる事は決まった。神谷は艦橋へと移動し、艦を敵艦隊の近くにまで移動させて待ち伏せる。1時間程経つと、敵艦隊が此方の攻撃圏内、それも目視圏内にまで接近してきた。

 

「通信士、敵艦に無線をつなげろ」

 

「アイ・サー」

 

「こちらは大日本皇国海軍である。接近中のグラ・バルカス帝国海軍艦隊に警告する。この先は、ムーの経済水域だ。念の為言っておくが、我々はそちらの位置を完全に捕捉している。尻尾巻いて、とっとと逃げ帰れ」

 

ぶっちゃけ神谷としては、全く交渉する気はない。というかむしろ、戦いたい。かつては海軍にいたが、今はもっぱら地上戦しかしてない。久しぶりの海戦のチャンス、不意にはしたくない。

 

『経験の足りないお馬鹿さんですねぇ。我々の編成やら位置やらをどこで知ったのかは知りませんが、我々のほうが圧倒的に強いのですよ。戦力も練度もね。おっと、申し遅れました。私はメイナード、この艦隊の司令です』

 

「では私も名乗っておこう。大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三元帥だ。君達が一番わかりやすいのは三英傑が1人、神谷浩三・修羅と言った方がよろしいかな?」

 

メイナードは驚いた。目の前の男は、あの捕虜虐殺の現場に殴り込みを仕掛けた命知らずの男だったのだから。

 

『君の様な陸の人間が、海で戦うなんて馬鹿げてますねぇ。飛行機で飛んでくるつもりでちゅかぁ?まあ、精々抗うことでちゅねぇ!!』

 

そう言うと一方的に無線を切られた。別にこの程度でキレる事もないが、不愉快極まりないのは事実。売られた喧嘩は、喜んで買おう。

 

「総員、戦闘配置。ド派手に行くぞ」

 

「総員、戦闘配置!!」

 

この艦の副長、宗谷悠真は神谷の命令を復唱し、全員が戦闘配置に付く。一方のグラ・バルカス帝国側は、謎の音を聴音機が拾っていた。

 

「なんだこれは?艦長!」

 

「どうした?」

 

「水中から海底火山の噴火の様な、物凄い爆音がこちらに近付いています」

 

「潜水艦か?」

 

「にしては音が大きすぎます。潜水艦だとすれば何十隻単位が、一糸乱れず浮上するくらいの爆音です」

 

この辺には海底火山も、作戦行動中の友軍潜水艦もいない。にも関わらず、そんな爆音がするのは可笑しい。取り敢えずメイナードに報告しようかと思った矢先、この駆逐艦は空を飛んだ。

巨大な波が海中から現れて、先行していた駆逐艦2隻は空高く吹っ飛ばされた。無論、周りの艦艇も船内が右に左に上にも下にも揺れる。溜まらずバタバタと倒れるし、物の下敷きになる物もいた。というか音を拾った駆逐艦に至っては、そのまま重巡の上に衝突し重巡諸共爆発炎上した。

 

「い、一体何が起こったんですか!?!?」

 

「め、メイナード司令!!あ、あれを!!!!」

 

「なにがあると.......なんだアレは」

 

メイナードも他の乗組員も、いや。全てのオタハイトに向かうイシュタム隊の艦橋乗組員は、その場に固まった。目の前にいきなり、現れたのだ。全長が3000m以上ある、真っ黒な船体に金色で縁が塗装され、見た事も無い位巨大な五連装砲を筆頭とした大小様々な砲塔で武装した超特大の、戦艦と形容するのすら烏滸がましい巨大戦艦が。

この戦艦こそ『聨合艦隊構想』の中核を担う『仮称513号艦』である。いや、もう本来の名を語っても良いだろう。この戦艦こそ、大日本皇国海軍の新たな象徴にして、戦艦という艦種の究極の完成形。総指揮大戦略級究極超戦艦『日ノ本』である。

 

「奴さん驚いてるな。だが、驚くのはまだ早いぞ。主砲装填!弾種、旭日弾!目標、敵重巡洋艦!!」

 

「トラックナンバー2051、主砲撃ちー方始め」

 

「撃ちー方始め!!」

 

装填された旭日弾は、新たに皇国海軍が開発したビーム兵器である。簡単に言うとヤマトの陽電子砲であり、砲弾自体に陽電子を収束させる機能が付いている。着弾すると陽電子を増幅、放出し敵艦を破壊し尽くす。発射音こそ普通だが、発射後は蒼白い光を纏い、光の尾を弾きながら目標に飛んでいく欠点がある。だが見た目はかっこいいし、そもそも砲弾を避けるのが至難の業なので欠点とは余りなり得ない。

そしてこの『日ノ本』の主砲塔は50口径800mm五連装火薬、電磁投射両用砲である。しかも砲塔配置が宇宙戦艦ヤマトの春蘭の様になっているのだが、両舷の副砲は全部主砲塔になってるし、しかも背中合わせで搭載されている。しかもその隣に更に副砲の50口径510mm四連装火薬、電磁投射両用砲が3基ずつ搭載されている。

また艦前部側面にも、ヤマトのアリゾナやアマテラスの様に側面砲塔として熱田型の主砲である60口径710mm四連装火薬、電磁投射両用砲が背中合わせで搭載されていたりと、中々に化け物である。

今回は主砲しか撃ってないが、それでも800mm、つまり80cmである。そんな大口径砲で重巡を狙えば、最早装甲は卵の薄皮の如く装甲の意味をなさない。跡形もなく消し飛ぶ。それも3隻纏めて、それにプラス周りにいた軽巡2隻と駆逐艦5隻も巻き込んで。

 

「周囲の駆逐艦には両用砲で、蜂の巣をプレゼントしてやれ」

 

残りの5隻の駆逐艦も、両舷に搭載された250mm三連装速射砲を筆頭とした両用砲群によって10秒と持たず轟沈する。既に残っているのは旗艦である空母『シュアト』とオリオン級戦艦1のみである。しかも接敵から僅か3分で、ほぼ全ての艦艇が血祭りに上げられていたのだ。これにはメイナードも思考が止まった。しかしオリオン級の砲撃音で、その意識が戻ってくる。

 

「流石にオリオン級であれば!!」

 

だがしかし『日ノ本』は例に漏れず、核爆弾が真横で50回くらい連続で爆発しても余裕で生き残る化け物装甲。36.5cm程度では、傷一つ付かない。

しかも第二射に至っては、装備されたAPS、つまり電磁バリアによって塞がれる始末。もう泣いていいよ、グ帝。

 

「ここいらで新兵器を試す。プラズマ粒子波動砲、スタンバイ」

 

この艦には『プラズマ粒子波動砲』、略して波動砲という、新兵器が搭載されている。この砲は『ラ・カサミ改』同様に艦首軸線砲であるが、あちらとは比べ物にならない破壊力を誇る。

 

「アイ・サー。プラズマ粒子波動砲への回路開きます。非常弁、全閉鎖。強制注入機作動」

 

「艦首解放、プラズマ粒子波動砲展開」

 

普段菊の御紋がある場所に、波動砲は収められている。射撃時は上に御紋が移動するのだが、この『日ノ本』は三連装になっており、破壊力も通常の3倍である。因みに砲配置は春蘭の波動砲。

 

「安全装置解除」

 

「セーフティーロック解除。強制注入機の作動を確認。最終セーフティー解除。トリガー、艦長に回します」

 

艦長、つまり神谷に波動砲のトリガーは渡される。艦長席には波動砲のトリガーに良く似た物があり、ターゲットスコープも展開される。

 

「艦長、受け取った」

 

「薬室内、プラズマ化粒子圧力、上昇中。86、97、100。エネルギー充填、120%!!」

 

「波動砲、発射用意。対ショック、対閃光防御」

 

艦橋のガラスに防護シャッターが展開され、外の様子はシャッターに搭載されてるディスプレイに表示される。

 

「電影クロスゲージ、明度20。照準固定!プラズマ粒子波動砲、発射!!!!」

 

ギュゴォォォォォォ!!!!!!

 

プラズマ粒子波動砲は水色の眩い光を放ちながら、戦艦ごと『シュアト』を飲み込む。光が消えるとそこには、まるで何もなかったかの様に完全に消し飛ばされていた。

 

「このままオタハイトの援軍に向かう。艦載機、発艦!神谷戦闘団も行くぞ!!」

 

そしてこのまま、オタハイトの方に繋がるのである。斯くしてオタハイト沖、マイカル沖に於ける一連の海戦はムーと皇国の勝利で幕を下ろしたのである。

 

 




はーい皆さん。今年も、本当にありがとうございました。なんだかんだで今日は大晦日。一年どうでした?私はコロナになってぶっ倒れはしましたが、人生の大勝負に勝てましたので取り敢えずは良い年でしたよ。恋愛を除いてな.......。
そして、今年もやります。今年やった『最強提督物語〜海を駆ける戦士達』とこの『最強国家 大日本皇国召喚』を融合させた作品をまた書きます!!!!投稿日は未定!!!!(これと最強提督の執筆とゴタゴタで、今日の昼くらいに漸く書き始めたんですよね)
まあ多分、7日までには出すと思いますので気長にお待ちください。しかも今回、宇宙からのゲストも勝手に出しますからね。どうぞ、お楽しみに。それでは皆さん、良いお年を〜!


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2023お正月スペシャル

先に言っておきます。この作品はもう、頭を空っぽにして見てください。また文字数が27000文字と長大なので、覚悟して読んでくださいね?


某月某日 江ノ島鎮守府 グラウンド

「もち米炊けましたよ〜!」

 

「野郎共!!!!」

 

「「「「「「ウッシャァァァァァァ!!!!!」」」」」」」

 

冬の寒さがバリバリ残るこの日、江ノ島鎮守府ではグラウンドで餅つき大会が始まった。艦娘、KAN-SEN、霞桜の面々が交代で餅をつく。艦娘と重桜のKAN-SENは平和にやっているし、KAN-SENの重桜以外の陣営の子達も興味津々のご様子。艦娘や重桜のKAN-SENが、やり方をレクチャーしたりと本当にほのぼのやっていた。

コイツらを除いて。

 

「行くぞ!!!!」

 

「オウ!!!!」

 

「はい」

「イヤァ」

 

「はい」

「イヤァ」

 

最初はマトモだった。だが、段々と加速していき…

 

「ハイ」「イャ」「ハイ」「イャ」「ハイ」「イャ」「ハイ」「イャ」「ハイ」「イャ」「ハイ」「イャ」「ハイ」「イャ」「ハイ」「イャ」「ハイ」「イャ」

 

もうなんか、どっかの高速餅つきの3倍増しみたいな速度で餅をついていた。だがまあ、これはまだマジだ。うん。

 

「どっせい!!!!」

 

ぺtバギィ!!!!

 

第三大隊の大隊長、バルクは餅をついた木臼ごと破砕した。しかも一撃目で。かたや第二大隊の大隊長、レリックの場合は…

 

「れ、レリック隊長?これは一体.......」

 

「なんだこりゃ.......」

 

レリックは何やら巨大なハンマーのついた、謎の機械を持ち出してきた。木臼をその下にセットして、電源を入れる。エンジンが作動し、上のハンマーも上下に動き出した。そしてレバーを下げ、木臼の上へとハンマーが降りる。

 

ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!

 

「木臼が地中に潜って行った.......」

 

「木臼しかつけてねぇじゃねーか」

 

「餅つきって、なんだっけ?」

 

なんと餅じゃなくて木臼をついてしまい、しかもその木臼は地中へと急速潜航していきやがったのだ。それを見ていた長嶺はというと、とても遠い目でそれを見ていた。

 

「そ、総隊長殿。良いんですかね、アレ」

 

「グリム、考えてみろ。アイツらはカップラーメンを作ってアレンジしたら、ソマンガスを発生させて自衛隊の化学防護隊を出動させたんだぞ。それに比べれば、原始人が人に進化したレベルの偉業じゃないか。木臼が壊れた?地中に潜った?死人が出てないなら、万事セーフだ」

 

何を隠そうこの2人、料理に関しては悪い伝説しか作っていないコンビなのだ。今長嶺の言ったソマンガスの他、鎮守府内でカレー大会をしよう物なら、振ったら爆発する液体を遠心分離機に掛けようとし、腐りかけの缶が膨張したシュールストレミングを使ってバイオテロを引き起こした前科を持つ。それに比べれば、こんなのは可愛い部類だとも。

 

「指揮官!これ、私がついたのよ?食べてみて」

 

「シンプルに砂糖醤油か」

 

オイゲンが持ってきた餅をひょいと掴み、豪快に一口で食べる。つきたて特有のモチモチ感と、砂糖醤油の甘じょっぱさがハーモニーを奏でていて、とても美味しい。

 

「やっぱ、つきたての餅はうまいな。それも、こんな美女のついた餅と来れば不味いわけがない」

 

(あ、あの総隊長殿が女性を口説いた!?!?!?)

 

「あ、ありがとう////」

 

オイゲンは照れて、副官のグリムは驚く。それを遠巻きに見ていた第一大隊の大隊長、マーリンはそれを微笑ましく見ていた。というのもマーリンは少し前に長嶺から恋愛相談されてたので、その光景は余計に微笑ましかった。因みにマーリンは特に何か失敗する事もなく、精々餅つき用の水を零した程度だった。

 

「せい!」

「あいよ」

 

「せい!」

「あいよ」

 

「せい!」

「あいよ」

 

所変わって、ここは第五大隊の餅つき。第五大隊と第四大隊は、多くが元ヤクザで構成されている異色の部隊。第五大隊の大隊長は元ヤクザの会長であるベアキブル。なので、こういう時の第四、第五大隊は凄く頼りになるし、一番ノリノリであったりする。

ヤクザは屋台をやっていたり、クリスマスやハロウィンに催し物を開いたり、餅つきなんかもやる組はやるので、意外とこういうのには強いのだ。かくいう、ベアキブルも餅つきが上手である。

 

「べーくん、できた餅おいとくわよ」

 

「おう姉貴!コイツらはつき上がった餅だから、味付け頼むわ」

 

「はいはい」

 

第四大隊は霞桜の中では、意外と家庭力の高い部隊である。なので今回はついた餅の味付けを担当しており、艦娘の間宮や伊良子、KAN-SENなら赤城や加賀と言ったお料理できる組と一緒に味付けをしている。で、偶に摘み食いもしてる。

 

「ボース!お汁粉食べるかしら?」

 

「貰おう」

 

では総隊長である長嶺と副官であるグリムは何をしているかと言うと、みんながついている姿を見たり、ちょいちょい摘んだりしていて、特にこれといった事はしていない。

そんな平和な時間が続くかと思っていたのだが、急に地面が揺れ出した。地震である。一度安全の為餅つきを中断し、揺れが収まるまで待機する。自衛隊なら災害派遣の可能性も出てくるが、この部隊にその指示は絶対に来ないので、収まればまたつこうと思っていた。しかし…

 

「.......揺れ長くね?」

 

「.......長いですね」

 

揺れが長いのだ。普通地震は長くとも数分で収まる。だが、もう揺れ始めてかれこれ10分以上続いている。流石に幾らなんでも可笑しい。

なんて考えていると、揺れはピタリと収まった。

 

「なんか超絶嫌な予感がする。すぐに黒山猫を出し、偵察に入れ!!」

 

霞桜の隊員を偵察に派遣しようとした時、電話が突然鳴った。画面には『メビウス1』と表示されている。

 

「どうした?」

 

『提督!ちょっと飛行場まで来てください!!なんか見るからに、あり得ない光景が!!!!』

 

あのスーパーエース、メビウス1がここまで動揺してるのも珍しい。恐らく、本当に信じられない何かがあったのだろう。それを察知した長嶺は、大隊長達を連れて飛行場へと走る。

飛行場まで走って見えたのは、あり得なさすぎる光景であった。

 

「はぁ!?」

 

「おいおいコイツは.......」

 

「江ノ島じゃね?」

 

もう1個、隣に江ノ島があったのだ。それだけじゃない。水平線が遠く感じるし、ここから見える街並みも少し違う。

 

(待てよ?この感じ、まさか.......)

 

長嶺はこの辺りで、少しある事が脳裏によぎった。それは今から1年前に起きた、不思議な現象である。ソロモン諸島攻略作戦後の帰還途中、長嶺ら海上機動歩兵軍団『霞桜』の全隊員と江ノ島鎮守府に所属する艦娘、KAN-SENは揃って異世界の日本へと転移した。その世界で長嶺達は、そこで出会った日本の守護者達と共に復活したオロチと何故かいた深海棲艦を倒したのだ。

 

『提督。レーダーに接近する機影を確認。機数5、そちらに向かいます』

 

(確認の暇はないか)

「総員、戦闘配置。陸上戦に備えろ。艦娘、KAN-SENはドックまで後退。装備を整え次第、戦列に加われ」

 

一応確認する術はあるが、ここが同じ世界という保証はない。念には念を入れて、戦闘配置にしておいて損はないだろう。霞桜の隊員達は装備を手に取り、強化外骨格を身に付けて、戦闘配置につく。

上空には4発のジェットエンジンを積んだ特異な見た目の、恐らく輸送機が飛来し、そのまま飛行場に着陸した。

 

「周囲を探れ」

 

その内、漆黒のボディに金のラインが入り、エンジンカウルが至極色の機体から2本の太刀を装備した男が降りてくる。背中に『皇国剣聖』の文字が入った至極色の羽織も羽織っている。

長嶺は、この男を知っている。異世界の日本である大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三である。あの男が来ているあたり、やる事はもう決まっている。

 

「.......レミールとルディアスは亡霊となって、この国を襲った。化け物の軍勢を率いて」

 

隠れていた格納庫の影から堂々と出て、ついでにステルス迷彩も解除する。

 

「何者だ!!」

 

二挺拳銃を装備し『鉄砲頭』の文字が入ったロングコートを着た男、たしか向上とかいう奴がこちらに銃を向けてくる。その周りにいた他の隊員と、何故かいる何処ぞのゲームで美人騎士やってそうなエルフの5人も神谷周りを取り囲む。だが、神谷の顔には笑みが浮かべながら、こう答えた。

 

「だが亡霊は守護者達によって打ち倒され、その身は海底深く沈んだ」

 

次の瞬間、2人して刀を抜いて互いに突っ込む。刀と刀がぶつかった瞬間「キィィン!!!!」という耳障りな甲高い音と、衝撃波が周囲に広がる。

 

「刀が変わったな」

 

「あぁ。先祖伝来の物だ」

 

鍔迫り合いの中、長嶺は神谷の刀が前のと違うと気付く。こうして、刃を実際に交えればよく分かる。今の刀は前の刀よりも、遥かに物がいい。最強の愛刀、幻月と閻魔を相手にして普通に真っ向勝負出来ているのを見ても、明らかに普通の刀じゃない。極普通の一般的な刀剣類で、こんな鍔迫り合いを繰り広げよう物なら、その武器ごと相手を叩き切ってしまうのが幻月と閻魔だ。それを防げるのは、極一部の伝説や御伽噺出てくる武器位の物である。

という事は、神谷の使う刀はそのレベルに達した真の刀であるのはまず間違いないだろう。実に面白い。

 

「ハァッ!!!!」

 

神谷が押し出し、長嶺もそれに合わせてバックステップで距離を取る。そこからの戦いは攻撃しては受け流され、攻撃されては受け流すを繰り返す一進一退の攻防戦であった。

 

「浩くんと互角に戦ってる.......」

「なんて男だ.......」

 

「総隊長と真っ向勝負が成立してるぞ」

「相手も相当の化け物だな」

 

両者の仲間達は、互いの相手を信じれない目で見ている。両者とも、その世界に於ける最強なのだ。

 

「せい!!!」

 

次の瞬間、神谷の刀が長嶺の持つ閻魔を上へと弾いた。そのまま神谷の愛刀、天夜叉神断丸は長嶺の首目掛けて突っ込む。だが、長嶺もタダではやられない。弾かれた閻魔に見切りを付けて手から離し、高速で太腿に装備している大口径拳銃の阿修羅HGを神谷の額へと向ける。

両者はそこで止まった。天夜叉神断丸は長嶺の首に刃先が触れ、阿修羅は神谷の額を正確に捉えている。

 

「見事だ、雷蔵君」

 

「そっちこそ、前とは見間違えたぞ。途中からガチになって正解だったわ」

 

両者は武器を下げると、固い握手を交わした。2人は一度だけとは言え、共闘した同志。あの戦闘もあくまで挨拶の一環だ。まあ見てる側は、全くそうは見えないが。

 

「野郎共、問題ないぞ。出て来い!コイツらは味方だ」

 

「お前達も武器を下げろ。今から出てくる奴等は、俺達の味方だ」

 

長嶺と神谷が、自分の部下達を出し合う。何も下からの信頼が厚いので、素直に従ってくれる。期くして実は会ったことあるけど記憶がないから実質初めてとなる、海上機動歩兵軍団『霞桜』と神谷戦闘団の邂逅が叶ったのである。

 

「それで、そっちはどうするんだ?」

 

「今回は鎮守府ごと来ちゃってるからなぁ。取り敢えず、ここにいるよ。多分、俺達が混ざったんだ。また何か来るんだろ」

 

霞桜と神谷戦闘団の面々がワチャワチャやっている間、2人は少し離れて艦娘とKAN-SEN達のいるドックの方まで歩いていた。

その間に交わされた世間話だが、まあ読者諸氏もお分かりであろう。よもや出会って終わり、な訳がない。勿論大事件やりますとも。大戦争だってやりますとも。

 

「ここがドックだ」

 

「今更だが、俺入っていいの?」

 

「心配すんな。殺そうとしたら殺すから」

 

全く安心できない返答に神谷は苦笑する。そんな馬鹿話をしていると、急に2人の無線機が鳴った。

 

『長官!あ、あの、謎の宇宙船があらわれました!!!!』

 

『総隊長殿!!その、信じられないんですけど宇宙船が現れました!!!!!』

 

全くもってよく分からない報告に、2人して顔を見合わせる。取り敢えず屋根の上に登ってみると、居た。それもガチのSF映画に出てくる巨大宇宙船が5隻も。

 

「宇宙船だ」

 

「宇宙船だな」

 

「「.......いやいやいやいや!!!!」」

 

「なんで宇宙船いんの!?なに、ふざけてんの!?!?しかもあれ、ガチの宇宙戦艦じゃん!!ヤマトみたいなヤツじゃなくて、スターウォーズ系のビーム砲いっぱい搭載してる系の宇宙戦艦じゃん!!!」

 

神谷、叫ぶ。どう見たってあの空中に浮く鋼鉄の塊は、宇宙船である。というかあんなの、さっきまで無かった。大方、不慮の事故であそこにワープアウトしたんだろう。それか意図的にあそこにいて、そのまま侵略でもするのかもしれない。

内心神谷はハラハラしていたが、隣にいる長嶺はそうでもなかった。神谷の任務が国民を守る事なら、長嶺の任務は国家を守る事が任務。別に国民が数千万人死んだって、どうでも良いという考えを持っている。勿論助けられる範囲なら助けるし、仲間(かぞく)を害そうとする者は容赦なく殲滅するが。

更に言えばこの日本は、長嶺の護るべき日本ではない。だからこそ、長嶺はある程度余裕があった。横で軽く戦慄して使い物にならない神谷を尻目に、目の前の宇宙船をよく観察すふ。

塗装は赤と白で形状はくさび形。全長は大体1km程度。艦橋構造物は途中で2本の塔に別れ、両サイドに艦橋らしき構造物が見える。これと同じ形状のが4隻いて、もう1隻はカラーリングこそ似ているが全長は700m位で短く、形状もくさび形だが、なんかずんぐりとした印象を受ける。だが長嶺は、この船に見覚えがあった。

 

「なぁ神谷さん。あれ、スターウォーズの艦じゃないか?」

 

「は?.......あ!ヴェネター級にアクラメイター級だわ!!!!」

 

何れもスターウォーズの新三部作やクローン・ウォーズなんかに出てくる、銀河共和国の宇宙戦艦だったのだ。4隻いるのがヴェネター級スター・デストロイヤーで、ずんぐりしてるのがアクラメイター級アサルト・シップという、歴としたスターウォーズの船である。

 

「とすると、ジェダイが乗ってるな。取り敢えず、一安心だな」

 

そう言って肩の力を抜いた長嶺だったが、神谷の鋭い声が響いた。

 

「いや待て。もしあの艦隊がオーダー66後なら、ジェダイはいない。それにもし、銀河帝国になっていたら最悪戦争状態になるぞ」

 

銀河共和国は銀河帝国、つまりダースベイダーのいる国の前身にあたる。銀河共和国にはジェダイの騎士がたくさん居たのだが、元老院議長のパルパティーンことシスの暗黒卿ダース・シディアスが『オーダー66』というコマンドで、味方のクローン・トルーパーを操りジェダイを粛清した。その後に誕生したのが銀河帝国であり、初期はインペリアル級スター・デストロイヤーという、多分スターウォーズを知らない人が想像する敵の宇宙船が完成するまでの間にヴェネター級を使っていたのだ。もしその時期のヴェネター級なら、絶対にまずい。

 

「ここは協力しないか、神谷さん?」

 

「どういうことだ?」

 

「俺がアンタの部隊を預かる。その間に念の為、川山さんを連れて来るんだ。恐らく彼らが交渉する気なら、川山さんの力がいるだろう?機体はウチの機体の方が速いから、それを使ってくれ」

 

「乗った!!」

 

恐らく問題ないだろうが、少なくとも初となる異星人との初接触である。用心しておいて損はない。2人はすぐに飛行場へと戻り、神谷は戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』で川山のいる外務省へと飛び、長嶺は霞桜と一時的に神谷戦闘団の指揮を取る。

 

「とまあ、そういう訳だ。神谷さん帰還までの間、俺の指揮下に入ってもらう」

 

「では長嶺閣下、ご命令を」

 

「オーライ任せろ。まずスナイパーを建物に配置。詳しくはマーリンに従ってくれ。マーリン!」

 

「お任せを」

 

マーリンがスナイパー集団を引き連れて、奥の鎮守府施設へと走る。スナイパー達には屋根の上や建物の中、植木の中に隠れてもらう。

 

「次に近接戦闘の得意な者、もしくは散弾を装備する者。建物の影に隠れ、奇襲に備えてくれ。カルファン!ベアキブル!指揮を取れ」

 

「任せてください親父!」

「OK、ボス」

 

「装甲歩兵、だったか?重装甲の歩兵はバルク、お前に預ける」

 

「うっしゃぁ!!」

 

「グリム、ハッキングのスタンバイに入れ」

 

「了解」

 

「残りは俺と来い!!」

 

さらにこの後、待機中の艦娘とKAN-SENに出撃を命じ、江ノ島鎮守府の周囲をグルリと取り囲む。

一方大日本皇国側は各地の航空基地からミサイルを満載した航空機を離陸させ、横須賀は熱田型2隻と究極超戦艦『日ノ本』の出港準備に入った。更に近隣の陸軍駐屯地からも部隊の展開が行われつつあり、日本各地に配備された120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲システムと海上に配置された提灯は、射程に入る砲台に関しては宇宙船に照準されていた。

 

「長嶺閣下!長官が帰還されました!!」

 

「帰ってきたか」

 

部隊の配置完了報告を受けていると、ついさっき川山を迎えに行っていた神谷と黒鮫が帰ってきた。因みにこの黒鮫、最大速度マッハ6を誇るので何も可笑しくはない()

 

「雷蔵くん!」

 

「どーも川山さん。異星人相手の外交の経験は?」

 

「ある訳ない!」

 

「そりゃそうだ」

 

寧ろあったら怖い。というかそれ以前に、こちらの知る言語を向こうが知っているかも問題だ。知らなかったら交渉とか外交以前の問題である。

 

「お客さんが来たぞ!!!!」

 

宇宙船を監視していたオメガ11ことメビウス8が叫ぶ。宇宙船の方を見ると2隻から、航空機がこちらに向かっているのが見える。

すぐに周りを警戒していた皇国空軍の戦闘機が近付き、誘導を試みる。

 

「所属不明機に告ぐ。直ちに武装を解除し、我が方に規準せよ。こちらは大日本皇国空軍機である。Report to unknown affiliation. Disarm at once and set your sights on our side. This is the Imperial Japanese Air Force aircraft.」

 

試しに日本語と英語で呼びかけてみる。勿論全周波数帯なので、恐らく拾ってはくれてる筈だ。

 

『.......こちらは銀河共和国宇宙軍、そちらへの使者を輸送している。誘導に従う』

 

なんと所属不明機、というかエイリアンから返答があったのだ。それも普通に日本語で。これにはパイロットも、無線を聞いていたオペレーター達も驚愕した。

 

「了解した。このまま誘導する」

 

本来なら適当な空軍基地にでも降ろすつもりだったが、神谷の命令で急遽、江ノ島鎮守府の飛行場に降ろすことになった。理由は単純、ここが恐らく現在1番戦力を持っているからである。

 

「神谷さん、指揮を返す」

 

「いや、このまま動かしてくれ。頭がコロコロ変わったら混乱する」

 

一応大日本皇国の問題なので指揮を返そうと思ったが、そこは流石というべきだろう。兵達を1番に考え、恐らくあるであろう皇国の面子も全く気にしない。下から慕われる筈だ。

 

「そういう事なら。

野郎共!!敵かどうか分からんが、少なくとも宇宙人のお出ましだ!!!!どんな奴が出てこようと、危害を加えられるまでは絶対に撃つな!!!!!だが、いつでも撃てるようにしておけ!!何が起きたって可笑しくはない!!!!!!」

 

無線でそう指示を飛ばし、着陸に備える。程なくして所属不明機、恐らく低空強襲トランスポーターとかいう輸送機だった気がする機体が2機、目の前に着陸した。

長嶺と神谷はアイコンタクトで合図すると、長嶺がハンドサインを出す。次の瞬間、周りの霞桜と神谷戦闘団の面々が初めてとは思えない連携で機体を取り囲み銃を向けた。

 

「さぁ、鬼が出るか邪が出るか.......」

 

「これでベイダー卿来たら終わりだな」

 

機体の中央部にあるカーゴドアが開くと、中からオレンジのマーキングを施したクローントルーパー、青のマーキングを施したクローントルーパー、茶髪と金髪のジェダイが出ててきた。

 

「あー、できれば武器を降ろしてもらえないだろうか。私達は争う気はない」

 

全員が顔を見合わせた。そして全員が心の中で叫ぶ。

 

((((((本物のオビ=ワン・ケノービとアナキン・スカイウォーカーだぁぁ!!!!))))

 

そう、この2人のジェダイはスターウォーズの歴史を語る上で外せない2人。ジェダイ・マスター、オビ=ワン・ケノービと選ばれし者、アナキン・スカイウォーカーだったのだ。因みにアナキンは後のダース・ベイダーである。

 

「武器を下ろせ」

 

長嶺の号令で全員が武器を下ろす。だが勿論、スナイパーはまだ頭に狙いを付けて動かないし、隠れている接近戦組も緊張状態のままだ。

 

「代表者と話がしたいのだが、代表はいるだろうか?」

 

神谷と川山が頷きあい、川山が前へ出る。

 

「私が代表です。大日本皇国外務省、特別外交官の川山と申します」

 

「ジェダイ・マスターのオビ=ワン・ケノービです。こちらはジェダイ・ナイトのアナキン・スカイウォーカー。

我々は任務の為、ハイパースペースを航行していたのだが原因不明の事故であの場所に出てしまった。ここが何処なのか、教えて貰えないだろうか?」

 

「.......あー、なんと申しましょうか。多分ですね、あなた方は巻き込まれたんだと思います。恐らくここはあなた方の知る宇宙とは、また別の宇宙。もしくは観測されてないくらい遠い場所にある惑星です」

 

「失礼、今なんと?」

 

「ですから、あなた方のいる宇宙とは別の宇宙か観測されてないくらい遠い場所にある惑星です、と」

 

アナキンとオビ=ワンの顔が、それはもう凄い顔になる。流石のジェダイでも、この答えには動揺を隠せないらしい。

 

「証拠でもあるのですか?」

 

「彼が証拠です。雷蔵くん!」

 

「ここで俺を巻き込むのね。

まあ信じられんだろうが、これは割と真面目にあり得る話だ。かく言う、俺と俺の仲間、そして今いるこの江ノ島鎮守府は、本来大日本皇国には存在しない。日本国という異なる歴史を歩んだ大日本皇国からやって来た」

 

「それに我々大日本皇国も、元は別の世界に存在しました。しかし今から3年程前に、この世界へと国ごと転移したのです。今も尚、その原因もメカニズムも不明です」

 

まだ信じられない、という顔をする2人。立ち話で済ませる内容でもないので、場所を移して会談を持つことになった。長嶺がここに残り、神谷と川山が対応する事になったので鎮守府の応接室を貸す。

で、残ったのがクローン兵と霞桜&神谷戦闘団。見事なまでに気不味い。

 

「.......誰か、ティーセットでも持ってこーい」

 

「なら俺達が持ってきますぜ」

 

「よろし、おいちょっと待て!」

 

今の声、バルクとレリックである。あの2人の料理の才能はさっき書いた通りなのだが、この2人は碌にお茶も淹れられない。何故か絶妙に不味くして出すのだ。薄かったり、苦かったり。レリックは技術屋なので機械を使えば淹れらるのだが、バルクに至ってはボタンが押せなかったり馬鹿力すぎて機械が根をあげる。

もし仮にこの2人にお茶と、恐らくお茶菓子も持ってくるので、どうなるか簡単に教えよう。

 

 

レリック&バルク「「お茶と茶菓子でーす」」

 

グビッ、パクッ

 

クローン兵s「「「「ぐぼぉ!!!!」」」」(吐血)

チーン

 

オビ&アニー「「野郎ぶっ殺してやる!!!」」

 

ビュオンビュオン

 

〜大☆戦☆争☆不☆可☆避〜

 

 

となる。割と真面目に霞桜が発足してすぐの頃、何人かの部下が2人の淹れたお茶を一口飲んだだけで1ヶ月寝込んだのだ。コイツらに任せれば、それすなわち日本の危機だ。

 

「総隊長殿!2人とも走って行きました!!」

 

「報告しとる場合か!!全力で止めろ!!!!おーい神谷戦闘団!あの大量破壊兵器料理製造マシーンを止めてくれ!!!!!!!」

 

「そんなに酷いんでs」

「カップ麺作ったらソマンガス発生させた前科があります!!」

 

向上の当然の質問を遮って、グリムが答えた。因みにこのソマンガスが何かというと、サリンと同じ神経ガスである。実際にオウム真理教が製造した事もある、一言で言うとヤベェガスである。

それを知っている為、神谷戦闘団の面々も本気で2人を止めにかかる。

 

「なぁレックス。アイツら、何をやっているんだ?」

 

「仲間を追いかけてる様に見えるが、脱走兵か?」

 

オビ=ワンの指揮する第212突撃大隊のコマンダー・コーディとアナキンの指揮する第501軍団のキャプテン・レックスは、目の前で繰り広げられる謎の光景を見つめて頭を傾げていた。

取り敢えず5分位追いかけたら、どうにかとっ捕まえられたのでロープで縛って格納庫に放り込む。勿論、完全武装の二個分隊が中と周囲を監視しているので逃げる心配もない。長嶺も何しでかすか分からない爆弾には来てほしくないし、何よりもう面倒になってきたのでプロであるロイヤルメイド隊を召喚。お茶とお菓子を準備してもらった。勿論、トラブルメーカーのシリアスは外してある。

 

「なんで、お茶淹れるだけでこんなに疲れるんだろ.......」

 

「仕方ないですよ。霞桜ですから」

 

「.......その一言で片付くのが恐ろしい」

 

 

 

同時刻 応接室

「では、あなた方は演習の帰りだったと?」

 

「えぇ。いつもの様にハイパースペースという別次元の宇宙を通り、コルサントという銀河共和国の首都の置かれる惑星に帰還途中でした。しかし、いきなりハイパースペースから放り出されて」

 

「あそこにたどり着いたと。災難でしたね」

 

簡単に色々話が聞けたのだが、彼らはやはりスターウォーズ世界、それとクローン・ウォーズからの来訪者らしい。今度の作戦に向けた演習でオビ=ワンとアナキンの指揮する部隊が参加し、その視察にマスター・ヨーダとメイス・ウィンドゥが来たという。その後、演習も終わったので通常通りハイパースペースに入ったら何故か皇国に来ちゃったらしい。

 

「ところで、何故あなた方はそんなにも冷静なんです?」

 

「というと?」

 

「先程から言動がまるで、僕達のことを知っているかの様だ。だがヴェネター級やトランスポーターを初めて見るという反応をする。あなた方は何を隠している?」

 

勘の鋭いアナキンが、川山と神谷に聞いてくる。誤魔化してもいいが、ここで誤魔化すと後々何が起こるかわからない。危険な賭けだが、早めに地雷を踏んで置くのも戦術だ。

 

「.......確かに我々は、あなた方を知っている。オビ=ワン・ケノービ。ジェダイオーダーに所属するマスタージェダイであり、師はクワイ=ガン・ジン。確か故郷はスチュージョン、だったかな?

アナキン・スカイウォーカー。元は奴隷で、タトゥイーンで幼いながらポットレーサーをしていた。母の名前はシミ・スカイウォーカーで、オビ=ワンの師匠であるクワイ=ガンに見出される。パダワンはアソーカ・タノ」

 

スラスラと出てくる2人の情報に、2人はただただ戦慄している。無論、川山に伝えている情報は自分の名前程度。自分の出自の話やら家族の話は、一切話していない。

 

「あなた方は私達の世界では、スターウォーズという作品に登場するキャラクターなんです。信じられないでしょうがね」

 

「信じろという方が可笑しな話です」

 

「スカイウォーカー将軍の言う通り、信じろっと言って「はいそうですか」で信じる方が寧ろ凄い思考回路の持ち主でしょう。

ですが、実例があります。先程私が証拠として呼んだ、長嶺という人物。あの子の指揮する存在に、艦娘とKAN-SENという特殊な存在がいます。詳しくは省きますが、彼女達もまた私達の世界ではゲームに登場するキャラクターなんですよ」

 

「ではその艦娘とKAN-SENは何処に?」

 

アナキンにそう聞かれるが、確かに川山もまだ姿を見ていない。長嶺と霞桜の隊員達だけだった。無論、さっきの長嶺が下した判断は川山が来る前の話。知らなくて当然である。それは神谷も同じなのだが、偶々、近海に展開しているのを確認している為、取り敢えず答えられるのは答えられる。

 

「詳細は管轄が私達の方に無いので分かりませんが、恐らくヴェネター級の監視のために近海に展開しています」

 

神谷がそう答えると、オビ=ワンとアナキンは悩み始めた。恐らく、今後の流れを考えているのだろう。少しすると、オビ=ワンが口を開いた。

 

「我々としては、トップ同士の会談を申し込みたい」

 

「構いませんよ。何なら、今から確認しましょう」

 

そう言って川山は携帯を取り出し、電話一本で確認を取る。

 

「例の宇宙船だが。そうそう、スターウォーズの。それでだな、お前と多分ヨーダかウィンドゥのどっちかと会談して欲しいんだけど。.......んじゃ、そう伝えるわ。

今、総理、つまりこの国に於ける政治や行政の事実上のトップから許可を取りましたので、いつでも其方の都合がいい時にお越しください。出来れば早めの方が、お互いのためかとは思います」

 

「そ、そうですか」

 

どう聞いても国のトップとの電話ではなく、完全に友達同士の電話であった。その事に顔にこそ出してないが、驚く2人。というか1時間も経ってないのに、さっきから驚きっぱなしで正直疲れてきた。

 

『長官。あの、今度は反乱同盟軍が来ちゃいました』

 

不意に入った無線に、神谷は一瞬力が抜けた。銀河共和国の次は反乱同盟軍って、時代設定がカオスすぎる。取り敢えず屋根の上へと登り、周囲を見渡す。

 

「ミレニアム・ファルコン号にXウィングとYウィング、Bウィングまで。モン・カラマリのクルーザーにフリゲート。マジのやつじゃねーか.......」

 

大体映画で活躍してる宇宙船と宇宙戦闘機が、日本の空にやってきちゃったのである。もう無茶苦茶である。ぶっちゃけ今の神谷の脳みそは、沸騰寸前というか沸騰しかけている。というかもう、これが夢なんじゃ無いかと思い始めてもいる。

 

『どうしますか?』

 

「またこっちに降ろしてくれ。飛行場のキャパシティなら入るだろ.......。まあ雷蔵くんの意見次第だが」

 

『あ、大丈夫って言ってます』

 

「なら下ろせ」

 

また部屋に戻り、交渉相手が増えるであろう事を川山に伝えた。「反乱同盟軍」の名前を聞いた時は、川山も頭を抱えてたのは言うまでもない。

 

「反乱同盟軍とは、まさか分離主義者ですか?」

 

「あ、いや。それは」

 

アナキンが険しい顔でそう聞いてくるが、流石に歴史を伝えていい物か迷う。だがこういう時、神谷は普通に後先考えずに言うので言っちゃったのである。

 

「反乱同盟軍とは銀河共和国を再建する為の組織です。今の銀河共和国はシーブ・パルパティーン元老院議長が乗っ取って、銀河帝国に変えるんです。このパルパティーンがシスの暗黒卿、ダース・シディアスなんですよ。しかもアナキン・スカイウォーカーを暗黒面に引き込んで、ついでにジェダイ達をほぼ全員殺して、銀河に圧政を敷きます。

その圧政から人々を解放し、銀河帝国を倒すために戦っているのが反乱同盟軍です」

 

「ちょっと待ってくれ!僕が暗黒面に落ちるだって?」

 

「スカイウォーカー将軍、あなたはパルパティーンに良くしてもらっている。それに君は今後、愛する者達が亡くなる悲劇に見舞われる。その結果、暗黒面に落ちるんだよ。まあ同じ事が起きるかは知らないんで、俺は何とも言えませんがね」

 

もうオビ=ワンは後半から意識が飛び掛け、アナキンは信じられないという顔で天井を見つめている。

 

「浩三、お前この始末、どうする気だ?」

 

「知らんな」

 

「この愉快犯野郎め.......」

 

神谷はこういう時、後先考えずに自分のやりたいようにやる。そう教育されてきたので仕方ないっちゃ仕方ないが、ぶっちゃけ面倒事が増えるので巻き込まれたくはない。

それから10分くらいすると、長嶺が反乱同盟軍の代表2人を連れてきた。

 

「入るぞー。.......なんでジェダイ2人が死んでんの」

 

部屋に入ればオビ=ワンが死んだ目で紅茶を啜り、アナキンが顔を抑えて天井を見ている。こんな姿、見た事がない。

 

「取り敢えず、代表2人を連れてきたぞ。それからスカイウォーカー将軍」

 

「なんだ?」

 

「お前さんの子供だぞ」

 

「.......はい?」

 

反乱同盟軍からの代表者は、ルーク・スカイウォーカーとレイア・オーガナの2人。どちらもアナキンの子供である。

 

「えっと、その、やぁ父さん?」

 

「初めまして、お父さん」

 

「.......」

 

この瞬間、アナキンの記憶が途絶えた。この後反乱同盟軍からの話も同じ感じで、ジャクーの戦い終結直後にやって来たらしい。同じ様にハイパースペースに入ると、何故かここに来たという。

その後、一色との代表者協議の上で一時的に皇国軍の傘下に入ってもらう事となった。勿論、江ノ島鎮守府も含めて。

 

 

 

一週間後 千葉県沖 千葉特別演習場

『ではこれより大日本皇国軍、新・大日本帝国海軍、銀河共和国、反乱同盟軍による特別合同戦闘訓練を行う』

 

この日、親睦を深めるために合同軍事演習が行われる事となった。それではここで、どれだけの戦力が宇宙から来ているかご紹介しよう。

 

 

《銀河共和国》

・ヴェネター級スター・デストロイヤー 4隻

・アクラメイター級アサルトシップ 1隻

・デルタ7B 4機

・Vウィング 700機

・イータ2 700機

・ARC170 120機

・低空強襲トランスポート(兵員用)450機

・低空強襲トランスポート(貨物用)250機

・AT-TE 200機

・AT-RT 300機

・AV-7対ビークル砲 60門

・スピーダー多数

 

《反乱同盟軍》

・MC80スター・クルーザー 7隻

・CR90コルベット 5隻

・ネビュロンBフリゲート 15隻

・GR75中型輸送船 34隻

・レイダー級コルベット『コルウス』

・ミレニアム・ファルコン号

・T65Xウィング 200機

・Yウィング 550機

・Aウィング 380機

・Bウィング 340機

・Uウィング 300機

 

 

この錚々たる大軍勢に加えて、大日本皇国軍と江ノ島鎮守府に所属する数百名の艦娘とKAN-SEN、それに霞桜の面々も全員参加なのだ。恐らく、銀河最強の戦闘部隊であろう。まず演習は皇国海軍、銀河共和国、反乱同盟軍による地上砲撃から始まる。いつもは爆音しか響かないが、本日はあの何とも言えないレーザーの発射音と、ティヴァナガスの影響でカラフルになったレーザーが空を彩る。

 

『こちらは総旗艦『日ノ本』。上陸部隊へ。予定の砲撃スケジュールは完了。いつでもどうぞ』

 

この報告を受けるや否や、神谷が号令をかける。この指示を受け取った各部隊は上陸を開始する。

 

「さぁ地獄のど真ん中に突撃だ」

 

「しっかり捕まっててくださいよ!」

 

先陣を着るのは霞桜、艦娘、KAN-SENを乗せる黒鮫。この機体は対深海棲艦を想定した機体である為、その装甲は空対艦ミサイルの直撃に耐えうる物になっている。皇国軍が使うAVC1突空は戦車砲位なら耐えるが、他のVC4隼や銀河共和国の低空強襲トランスポーター、反乱同盟軍のUウィングは流石に対空砲でやられる。

なのでまずは『黒鮫』が先陣を切って突撃し、ある程度の対空砲を引きつけつつ着陸地点で部隊を展開するのだ。

 

「敵機関砲陣地他、高脅威目標を多数確認!」

 

「焼き払え!!!!」

 

この黒鮫には『戦域殲滅』の名に恥じない、様々な重火器で覆われている。機関砲陣地や砲撃陣地、戦車だって余裕で破壊し尽くす。その火力は基本どんな障害も破壊する。

 

「浩三くん、暴れているな」

 

「では我らも行くか」

 

「おう!」

 

霞桜の黒鮫が地上を破壊している中、神谷専用のカラーリングが施された突空から神谷と相棒の極帝が飛び出す。

 

アレを燃やせば良いのだな?

 

「あぁ。所詮は単なる映像だから、遠慮なく燃やせ!!」

 

今更だが今回の演習、というか皇国軍が使う演習方法は他とは違い、少し特殊だ。各訓練場にはAR表示機能が標準配備されており、訓練場の範囲内であれば兵士だろうが戦車だろうが戦闘機だろうがホログラムとして投影できる。更に兵士や兵器には被弾箇所を割り出し、ダメージ判定を行う機能が付いているので兵士達は実戦に限りなく近い状況に身を置けるのだ。

流石に戦車はまだしも、空中目標に関しては専用の弾頭のミサイルを使うが基本的に実弾演習である。

 

「あの神谷という男、奴にはジェダイの素質があるかもしれんのう」

 

そう呟いたのは、グランド・マスターであるヨーダであった。神谷が竜の背中に乗って戦っているのを見て、ヨーダは気付いた。凡ゆる角度からの攻撃にも即座に反応しているのだ。これはもしかすると、フォースの力を宿しているのかもしれないと、そう思ったのだ。

まあ仮にそうだとしても、流石に歳を取りすぎてるのでオーダーに連れて行く事はないが。

 

「粗方片付いたな。降下開始!!」

 

そう神谷が命じた瞬間、統合参謀本部からの緊急電が鳴った。これが意味する所はつまり、とんでもなくヤバい事が起きたという事である。

 

「訓練中止!!」

 

『りょ、了解!!』

 

すぐに無線をオペレーターに繋げ、訓練中止を叫ぶ。オペレーターも動揺こそしているが、演習に参加している全部隊に伝達。演習用ホログラムも解除された。

 

「オペレーター、指揮官クラスを『日ノ本』に集まるように言ってくれ。何か嫌な予感がする」

 

この命令を受け、30分後には『日ノ本』に神谷、長嶺、ジェダイ5人、レイア、ハン、アクバーが集まった。

 

 

「それで神谷元帥、我々を参集したのは一体どのような要件なのだ?」

 

「それはまあ、コイツを見て貰えれば分かりますよ」

 

メイスの質問に対し、神谷はパソコンを操作してスクリーンに映像を映した。その映像を見て、反乱同盟軍の面々と長嶺は驚愕した。

 

「おいおい、コイツは.......」

 

「インペリアル級スター・デストロイヤー.......。元帥、なぜこれがここに?」

 

「レイア、それ俺が知ると思うか?寧ろこっちが聞いたいよ」

 

映像に映っていたのは、あの銀河帝国が保有するスター・デストロイヤー、インペリアル級だったのだ。つまり今この日本には銀河共和国軍、銀河帝国軍、反乱同盟軍のスターウォーズ世界を代表する軍隊が揃ってしまったのである。

 

「とまあ、こんなの物が来てしまったのですよ。しかも、今こんな風に話していますが、既にコイツの現れた東北方面は戦場になっています。配備されている部隊が防衛を行っちゃいますが、勿論こんな相手は我が国では始めてだ。何処までやれてるやら。

そこで我が国は、あなた方に対して協力を要請したい」

 

流石の皇国軍とて、銀河帝国のスター・デストロイヤー相手に戦争は未知数すぎる。ここはプロの力が欲しいのが本音だ。

 

「神谷元帥。我々は救いの手を差し伸べてくれた、この国に感謝しておる。協力は惜しまぬ」

 

「私達も貴国には少なからず、恩があります。それにこの様に攻め込んだ理由は、我々反乱軍が居たからかもしれません。その責任を取る為にも、是非協力させてください」

 

「神谷さん。俺達の任務は日本を護る事だ。国は違えど、祖国は同じ。それに俺達は全員、基本的に戦争好きの連中が多い。協力しろと言われりゃ、喜んで敵を破壊しよう。スター・デストロイヤー?人が作ったんだ、壊せる」

 

「とは言え、どうやって戦うのだ?」

 

取り敢えず協力は漕ぎ着けたが、確かにアクバーの言う通り皇国軍に宇宙船はない。精々ロケット位だ。

 

「確かに我が国にはスター・デストロイヤーはおろか、そちらみたいな恒星間航行が出来る代物はない。だが、あの船がこの星の中にいるのなら話は別です。やり用は幾らでもある」

 

今度は立体映像に切り替えて、今の状況を地図上に記していく。敵の規模、位置、侵略している場所など、今分かっている情報を全部載せる。

 

「大体の位置はここ、山形市という都市です。ここにインペリアル級スター・デストロイヤー40隻が展開されている。恐らくここを拠点に、各地を襲撃するつもりでしょう。しかし」

 

今度はこちらの保有し、今すぐ攻撃が可能なユニットを簡単に記す。

 

「これは我が国の保有する砲台なのですが、こんな感じでこの地点は合計で40門の砲の射程に収まる防衛圏内。さらに周囲を飛行中の空中母機『白鳳』を急行させています。

これらを用いて奇襲かけたい所ですが、皆さんの協力が得られた今は別の戦略を考えています。この艦隊を海へと追いやり、それをこちらの艦隊で叩きます」

 

神谷の考える作戦とはこうだ。現在攻撃を仕掛けているインペリアル級を、日本海側に追い遣る。予めその地点に艦隊を配置し、聨合艦隊によるプラズマ粒子波動砲の一斉射で撃滅する。

スターシップに関しては、もし宇宙に逃げられてもどうにかできる様に大部分を待機にして、基本はスターファイター主軸で叩く。陸上部隊に関しては、神谷戦闘団と霞桜、更には銀河共和国のクローン兵も大量にいるので心配は要らないだろう。

この後、更に作戦を詰めてすぐに部隊は山形市へと向かった。

 

 

 

深夜 山形市周辺

「で、まさかのチーム分けになったのな」

 

「僕とマスター、それからルークとレイア、ハン、チューバッカ。向こうはマスター・ウィンドゥとマスター・ヨーダ、アイデン、ミーコ、シュリブか。バランスは良いんじゃないか?」

 

山形市への奇襲には、部隊を北と南の2つに分けている。北からは長嶺率いる霞桜、アナキン、実は居たアソーカ・タノ、オビ=ワン、ルーク、レイア、ハン、チューバッカ、そして501軍団、212突撃大隊、第32コマンドー部隊、パスファインダーが攻め込む。

南からは神谷率いる神谷戦闘団、ウィンドゥ、ヨーダ、第四海兵師団、そしてアイデン・ヴァルシオ、デル・ミーコ、シュリヴ・スールガヴからなるインフェルノ隊が攻め込む。因みに艦娘とKAN-SENはその力が最も発揮される、洋上で待機している。

 

「長嶺将軍が先鋒を務めるのですか?」

 

「そうだ。ぶっちゃけ、こっちに攻撃が集中すると思う。ど派手な事になるからな」

 

レイアの質問に長嶺はこう返す。長嶺はのっけから、今回は本気を出す。かつて『国堕とし』だの『移動灼熱地獄』だの『炎鬼』だのと言われ、韓国と北朝鮮をこの世から消し去り、中国の共産党政権も倒す革命の際に暗躍していた、長嶺雷蔵の真の本気。その力を解放するのだ。

 

「あー、将軍。本当にやるつもり何ですか?」

 

「我々は将軍と出会って短いですが、流石にこれを1人でやられるのは無謀では?」

 

レックスとコーディが一応止める。それに釣られて、アナキンやオビ=ワンも止める。

 

「まあ見てろって。大丈夫、俺は人外だから」

 

そう言いながら、懐から紋様や文字が赤黒い溶岩の様な色で描かれた、真っ黒で所々破れた御札を取り出した。

 

「犬神、八咫烏。備えろ」

 

「心得た、我が主」

「任せといて主様」

 

普通に喋った八咫烏と犬神に、一同ビビる。どうやら銀河にも犬と烏はいるらしく、例に漏れず人語は話さないらしい。

 

「い、犬と烏が喋った.......」

 

「この星ではこれが普通なのですか?」

 

「いえ、この2匹が非常に特別かつ規格外に特異なだけです」

 

ルークとレイアが勘違いしない内に、グリムが全力で否定した。というか犬神は妖怪で、八咫烏に至っては神である。だがそんな事を言えば、なんか余計にややこしい事になるので敢えて言わなかった。

 

「我願うは、大和民族の火焔なり。この身は火焔と一体となり、全てを破壊し尽くす破壊者となり、全てを滅さん。八百万の神々とて、我が火焔は止められず。この火焔は天に、地に、海に、山に巡りて、全てを焼き尽くす。我、眼前敵を排するその時まで、火炎と成り、例え果てようと悔いは無し」

 

突如、投げる動作もしていないのに、黒い御札が空高く舞い上がる。ある程度の高さまで行くと、急に大きな火炎となった。そしてその中から、巨大な炎を纏った巨大な鬼が現れたのである。

 

「なんだありゃ!?!?!?」

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!」

 

「化け物だ!!!!」

 

「食われるぞ!!!!」

 

ハンが叫び、チューバッカも叫ぶ。ついでに周りも叫び、流石のジェダイ3人もフリーズしている。そして霞桜の面々も1回見た事があるとは言え、やっぱり怖いしびっくりもする。

だがそんなのお構いなしに、鬼は長嶺の身体へと吸い込まれる。そして長嶺の身体中から炎が吹き出し、身を包んでいく。炎が消えるとそこには赤い装甲服で身を固め、背後に数百の赤く光るビームソードを従える長嶺の姿があった。

 

「行くぞ」

 

次の瞬間、八咫烏と犬神が走り出す。突如2匹に雷が落ち、その雷に打たれると2匹は巨大化して長嶺の後をついて行く。

 

「.......本当にこれは現実なのか?」

 

「現実ですよマスター・ケノービ」

 

「日本とは恐ろしい国だ.......」

 

オビ=ワンがそう呟いた。だが言わせてもらおう。こんなのはまだ、地獄の門を潜ってすらいない。大体地獄の門の入場ゲートを潜る直前、といったところに過ぎない。

真の地獄はここからなのだから。

 

「吹雪の術!!!!」

 

「翼旋!!!!」

 

警戒か偵察かはわからないが、こちらに向かうAT-ATを犬神が氷漬けにし、スピーダーを八咫烏が吹き飛ばす。そして接近する歩兵は…

 

「さぁ、踊り狂うがいい。攻める国を間違えたな」

 

長嶺はストームトルーパーの一団に飛び込み、まるでオーケストラの指揮者の様に構えた。そして手を振り出す。その手の動きに合わせて、地面から炎が漏れ出す様に現れて動き回る。

 

「な、なんだありゃ.......」

 

「あんな技まで使えるなんて、益々規格外ね.......」

 

「お、おいちょっと待て!アンタらは見たことないのか!?」

 

レックスがベアキブルとカルファンに大声で聞いた。というか周りにいたクローン兵も、2人の方を見ている。ヘルメットで顔は分からないが、中では「コイツらマジか」という顔をしていた。

 

「俺達もあくまで親父のやった後しか見てねぇんだ」

 

「あんな風に暴れた姿は、私達も初めて見るわ」

 

「おいレックス、てことは将軍が何をするのかは誰も予想付かないんじゃないか?」

 

コーディの発言に、その場の気温がサーっと下がったのが分かる。もう一周回って、あれは恐怖でしかない。だがそこは最精鋭の第501軍団と第212突撃大隊。すぐに武器を構えて、その恐怖に抗う為かいつも以上に荒く突撃していく。

 

「にしても数が多いな!」

 

「ジオノーシスに比べれば少ないでしょ!!」

 

正面の敵は長嶺がもう、ストームトルーパーが可哀想に思える位燃やされまくっている。だが右翼と左翼から、伏兵が接近していた。だが右翼をオビ=ワンとアナキン、左翼をルーク、レイア、ハンが筆頭になって撃退している。

 

「チューイ!」

「ア"ア"ア"!!」

 

「全く、野蛮ね」

「いつもの事だろ?」

 

ハンとチューバッカの連携も、レイアとルークの連携も、そしてこの2組同士の連携も流石である。スクリーン以上かもしれない。勿論、クローン兵と同盟軍兵士も負けちゃいない。

 

「撃て!撃て!」

 

「回り込め!!」

 

「よし、突撃行くzぐぁ!」

「行けぇ!!」

 

「まだまだ敵はいるぞ!!」

 

「右から来るぞ!!」

 

勇敢に戦う兵士達。レックスやコーディ、ファイブスやエコーの様な有名な兵士もいるが、名も無き兵士達だって負けちゃいない。そして、彼らも忘れてもらっちゃ困る。

 

「オラオラオラオラ!!」

 

「バルク、背中借りる」

 

「ドスはな、アーマーだって裂くんだわ!!」

 

「細切れにしてあげるわ!!」

 

霞桜の4人大隊長、そして遠距離からマーリンが的確に援護する。完璧にして最強、いつも通りの戦術でストームトルーパーを圧倒していく。

同じ頃、南側からも神谷達の攻勢が始まった。

 

「それで、どうするのじゃ?」

 

「まずはデカいのを1発叩き込む」

 

次の瞬間、神谷を起点とした周囲に無数の青い魔法陣が現れる。魔法陣は神谷の周囲をぐるぐる回る。その光景は、もはや芸術の如く。

 

「な、なんなのだこれは!」

 

「マスター・ウィンドゥも、流石にこれは驚いたか。これこそ日本人で、下手すりゃ世界で唯一俺のみが使える魔法の1つ、超位魔法失墜する天空(フォールンダウン)だ」

 

と言いつつ、実際の所はライトノベル作品『オーバーロード』に出てくる魔法である。だが、まあ現実で使えるのが神谷だけなのでセーフであろう。であってほしい。そうであれ。

 

「な、なんという威力だまったく」

 

「アレじゃ下の連中は助からないな」

 

「まるで重ターボレーザーでも撃たれたみたいね」

 

インフェルノ隊もこの反応である。何せこの魔法で、周囲のビルごと効果範囲内は焼き払ってしまったのだ。範囲内にあるのは真っ黒に変色した地面と、巨大なクレーター状の穴のみである。そこに生命や人工構造物があったとは想像すらできない。

 

「行くぞ!!!!」

 

前衛を46式戦車で固め、ゆっくりと前進する。そのすぐ後ろには各タイプの44式装甲車、メタルギア、AT-TEが続く。遥か後方には共和国グランドアーマーと皇国軍の砲撃陣地もあり、突撃と同時に砲撃支援が始まった。

 

「おい!後ろからも来てるぞ!!」

 

「ランチャー持って来い!!」

 

46式の接近を察知した帝国兵は、PLX1ポータブル・ミサイル・ランチャーを装備する帝国兵を呼ぶ。

 

「発射!!」

 

PLX1はAATという通商連合のドロイド軍が使う戦車を破壊する威力を持つが、どうやら46式の方が装甲は厚いらしい。正面から衝突した弾頭は、そのまま弾かれて真上に飛んでいく。

 

「46式がそんなへなちょこ玉にやられっか!!!」

 

お返しと言わんばかりに、12.7mm同軸機銃で撃ってきたトルーパー目掛けて弾丸を叩き込む。

 

「ランチャーでは無理か」

 

「隊長!AT-STが来ました!!」

 

「よし、これなら!」

 

なんて思ってた隊長の希望は、一瞬で打ち砕かれた。46式の350mm滑腔砲が操縦スペースをぶち抜き、呆気なく破壊されたのだ。

一応その後方にはAT-ATもいたのだが、こちらはメタルギア龍王のレールガンで真正面から貫通されて爆発した。

 

「防衛線を構築しろ!ブラスター・キャノンもってこい!!」

 

隊長がそう叫ぶと、部下達が遮蔽物に隠れてPLX1やブラスターを撃ちまくる。流石に46式もずっと攻撃が集中すると破壊されかねないので、コイツらが戦車の間から飛び出して突破口を開きにいく。

 

「ヒャッハーーーーー!!!!宇宙人如きに止められねぇぜぇぇぇ!!!!!!」

 

「殴り込みだ!!切り込みだ!!カチコミだ!!とにかく撃ちまくれ!!!!!ビームだかレーザーだか分からんが、そんなのを破壊すれば鉄屑なんじゃいボケ!!!!!!」

 

久しぶりの登場。パ皇戦でアルタラス統治機構庁舎の2階と3階に突っ込んだり、首都のエストシラントの城壁で人間野球してたヒャッハー世紀末コンビが来ちゃったのだ。

流石にこれには如何な帝国兵とて恐怖した。こんなぶっ飛んだアホは、銀河にも居ないらしい。だが恐ろしいのは、こういう輩が皇国軍には結構一杯いるのだ。

 

「あの装甲車突っ込んでくるぞ!!」

 

「退避しろ!退避!!」

 

障害物を突撃で退かして、そのまま弾幕を展開する2台の44式ロ型。それを見ていたウィンドゥとヨーダは、珍しく固まって動かなかったらしい。

そしてここから、帝国兵の悪夢の時間がやってくる。

 

「グリン!グリーン!青空は二度と見れないー♪!!」

 

「うっしゃぁ!お前はダルマぁ!!」

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄、乃田ぁ!!」

 

「噛むタイプのデビルマンです!悪夢をどうぞ!!」

 

「兄ちゃん、人間としての背骨がねぇようだ。腹掻っ捌いてやるから、背骨作れぇ!!」

 

「怒ったカンナ、許さないカーンナ!!!!!!」

 

第四海兵師団が来ちゃったのである。本日のラインナップはアーミーナイフによる内蔵スムージー、日本刀による手足切り落とし活け造り、アイスピック千本刺し、肉噛みちぎり、開腹、カンナ削りであった。

 

「神谷元帥、ここではアレが普通なのか?」

 

「まあ普通、だな。うん」

 

「なんと恐ろしい国じゃ.......」

 

あのヨーダがこんな事を言うなんて、どれだけ凄惨が分かるだろう。その横ではステゴロ系の兵士達が、帝国兵をアーマーの防御力とか無視してボコボコにしていた。

 

「せいやぁ!!!!」

 

「いい音聞かせろや!!!!」

 

「オラァ!!!!そないなもんか!?もっとこいや!!!!」

 

「元帥殿、あれも普通ですか?」

 

「あれも普通だ」

 

コマンダー・ウォルフもその光景を見て、顔を手で覆ってため息を吐いている。

皇国軍を戦闘に市内の中心部にまで前進し、程なくして北側から進撃していた長嶺達とも合流した。だが、その安心も束の間。今度は真っ黒な装束を纏い、ダブルブレイテッド・スピニング・ライトセーバーを装備した集団が現れた。

 

「暗黒面に堕ちた者達か。それもこんなに」

 

オビ=ワンはその数に驚いた。約50人はいるこの集団は、尋問官である。ジェダイを狩る専門の人間であり、全員が暗黒面に堕ちた元ジェダイで構成される部隊。

だが今いるジェダイ5人は、全員が伝説級のジェダイだ。数こそ劣るが、負けることは無い。そしてコイツらもいるのだ。

 

「てっきり雑魚だけかと思ったが、コイツは面白そうだ。俺も混ぜろ」

 

「俺も、尋問官と戦えるとか武勇伝に丁度いい」

 

長嶺と神谷という、二つの日本の最強がいる。更に神谷の妻達、エルフ五等分の花嫁も参加した。

 

「私達も参加させて貰いますよ、浩三様」

 

「その命、我が武勇に加えさせてもらう!」

 

「後方支援はお任せください!」

 

「尋問官と戦えるとかテンション上がるぅ!!」

 

「ふん。あんなの、すぐに片付けてやるわ」

 

そしてそして、こんな戦争を見てこの馬鹿共が参加しない訳がない。霞桜の大隊長達、グリムを除いて全員が前に出てくる。

 

「久しぶりに、ショットシェルを使うとしましょうか」

 

「装備の実験台、丁度いい」

 

「こんな楽しい楽しい戦争、参加しなきゃ損だろ。なぁ?」

 

「ライトセーバーも私のワイヤーで切れるか試してみようかしら」

 

「久しぶりに滾るぜ。このドスも、血を求めて疼いてやがる」

 

ジェダイ達はライトセーバーを起動し、神谷は天夜叉神断丸と獄焔鬼皇、長嶺は幻月と閻魔を抜く。

エルフ五等分の花嫁はそれぞれの剣、弓、杖を構え、霞桜の大隊長達はマガジンを刺してコッキングレバーを引き、ドスやワイヤーを構える。準備は整った。

誰からともなく前へと飛び出し、相手も周りも釣られて前へと走る。戦闘が始まった。

 

「こやつら、数こそ多いが動きは遅い。フォースも使いきれておらん」

 

ヨーダはその小柄な体格を生かし、足元を狙う攻撃を仕掛ける。更にフォースで身体能力を上げ、いきなり相手の目線や頭辺りまで跳び上がり、ライトセーバーで容易く斬り捨てる。

 

「ハァ!!」

 

勿論フォースだって一級品だ。フォースプッシュで尋問官を吹き飛ばして建物の外壁に叩きつけたり、突き出たポールに突き刺したりしている。

 

「修行が足らぬな」

 

一方、ヨーダの次に強いウィンドゥは、フォースも勿論使うがライトセーバーの技術で圧倒している。

 

「甘い!」

 

上段から降り下ろされるセーバーを、受け流してそのまま胴を切り返す。剣道の技の様な鮮やかさで、敵を切り裂いていく。

 

「少しは離れろ!!」

 

かたやアナキンはジェダイとしては、結構無茶苦茶な戦法で戦っていた。フォースチョークで相手の首を絞めつつ持ち上げて、トドメと言わんばかりに吹き飛ばす。

 

「あまり熱くなるなアナキン!」

 

マスターであるオビ=ワンは、得意のマインド・トリックの応用技で相手を切り捨てる。簡単に言うと一瞬かつ簡単にマインド・コントロールを仕掛けて、相手の注意を逸らす。その隙を突くのだ。

 

「飛び込む!」

 

そしてアナキンの息子、ルークは一撃離脱を早いスパンで繰り返す戦法を取っていた。飛び込んで切り捨て、少し下がり別の敵を切ってまた飛び込む。これの繰り返しである。

 

「焔菫!!!!」

 

ジェダイ達は戦い方に道理というか、騎士道のような高潔さがある。だが長嶺の場合は、一番酷い戦法であった。長嶺自身には生まれついての能力があり、簡単に言うと炎を操る。その技の1つが今着ているアーマーやビットであり、炎をオーケストラの指揮者の様に操れるヤツだ。

その中の1つ、焔菫は切った相手の体内に炎で出来たカンディルを流し込む技なのだ。対象の体内を焼きながら貪り食い、食い散らかす。対象は、地獄の苦痛を味わう事になる。更にライトセーバーで刃を交えようと、何故かライトセーバーと鍔迫り合いが出来てしまう上に我流で作り上げた予測不明の剣術には、尋問官とて対応はできなかった。

 

「双閃!!!!」

 

ジェダイを『騎士(ナイト)』とするのなら、神谷は間違いなく『武士(もののふ)』であろう。神谷の先祖は1700年前、古墳時代の豪族にまで遡る。そこから殆どの時代で兵士として第一線に立ち続けた一族であり、その中でも特に極めて武勇に優れる者に付けられる『修羅』の称号を神谷は持っている。

故に神谷が使う剣術は土台が先祖達が戦場の中で栄々と作り上げ、磨き上げた物なのだ。その上に神谷自身が会得し最適化した技が組み合わさっている、この世に2つとない特別な剣術。更に言えば使う刀も大和型の装甲板すら切り裂く特別な物であり、先祖達からの贈り物だ。尋問官如き、敵にもならない。

 

「アーシャ!」

 

「任せろ!!」

 

「アーシャ姉様下がって!!」

 

「エリス、後ろがガラ空きですよ?」

 

「まあ、その為の私達なんだけどね」

 

エルフ五等分の花嫁は、他と比べるとまた別の戦い方であった。この5人は5人で数人の敵を同時に相手どる戦法を使っていた。ヘルミーナが攻撃を引き受け、アナスタシアとエリスが攻撃。更に後方に控えるミーシャが支援魔法や攻撃魔法で敵をコントロールし、レイチェルが弓で牽制する。5人が1つの生命体として戦い、敵を討ち取る。

そして同じ様に5人の連携で戦う『霞桜』だが、こちらはまた一味違う。

 

「よし、次」

 

「バルク、背中借りる」

 

「オラオラどうしたどうした!!!!」

 

「無数のワイヤーには、打つ手無しかしら!?」

 

「腑を掻き出してやる!!!!」

 

エルフ五等分の花嫁がタンク、近接、サポート、射撃とバランスの取れたチーム編成なら、こちらは全員アタッカーのチーム。いつもは後方支援を担当するマーリンとバルクも、今回は前衛で敵を倒している。だがかといって、ただ敵に突っ込む訳ではない。全員がアタッカーでありながら全体を見て、各々が各々の援護をしている。例えばレリックが突撃すればバルクが、専用武器のハウンドで牽制。ベアキブルが斬りかかれば、カルファンが鋼糸で敵を撹乱。ハウンドが突っ込めば、左右の敵をマーリンの専用武器バーゲストのショットシェルで薙ぎ払う。こんな具合に自分の個性と専用武器のスペックを最大限に出しながら、相手に隙を与えない戦い方で尋問官を屠っていく。

戦闘開始から僅か15分程度で、全ての尋問官を排除した。無論、こちらのダメージは0である。だがホッとしている暇はない。今度は上空からTIEファイターが襲って来たのだ。

 

「退避!!」

 

対空攻撃手段を持たない兵士達は建物の影や瓦礫の下へと飛び込み、対空攻撃手段を持つ者は前に出てミサイルを撃ち込む。だが流石に多勢に無勢で十数人の兵士が吹き飛ばされてしまう。

だが背後の瓦礫の山を大型のトレーラートラックがブチ破り、戦闘のトレーラーからグリムが顔を出す。

 

「総隊長殿!騎兵隊、ただいま到着!!!」

 

「グリム!!!!」

 

「任せといてください!あんな空力無視の戦闘機、全部堕としてみせますよ!!」

 

このトレーラー、単なるトレーラーではない。随所に武装を搭載した『霞桜』の移動要塞。機動本部車である。さらにその後方には様々なメーカーの様々な車に、隠し武装を施し自動操縦装置も搭載した自立稼働型武装車が続く。

この車両には全て、ミサイルポッドが搭載されている。しかし接近してくるTIEファイターは、そんな事知る由もない。単にデカい的だとでも思っているのだろう。

 

「ミサイル発射!!」

 

シュボボボボ!!!!

 

そんなTIEファイターは全て、地上へと叩き落とされる。しかも対空手段はこれだけではない。コイツらだっているのだ。

 

三重最強化(トリプレットマキシマイズ)位階上昇範囲拡大魔法(ブーステッドワイデンマジック)!!水晶騎士槍・極(マスタークリスタルランス)!!!!」

 

燃え堕ちよ!!!!

 

「焔龍!!!!!」

 

「突風!!!」

「氷結弾!!!!」

 

神谷の魔法は無数の水晶で出来た槍で、TIEファイターのコックピットブロックを貫通させて撃墜し、極帝は得意の魔力ビームで焼き払い、長嶺の方は炎で出来た龍がTIEファイターを飲み込み、体内で炎に焼かれて溶かされてしまう。八咫烏と犬神は、八咫烏が突風の術で風を起こし、それに犬神の能力で作った槍を入れて、竜巻状にしてTIEファイターへとぶつけて撃墜する。

どちらも銀河には発想すらない戦術故に、無数のTIEファイターが撃墜された。その間に歩兵部隊は撤退を開始。神谷と長嶺が撤収する頃には、山形市にはストーム・トルーパーの死体と建物の瓦礫、そして兵器の残骸が残るのみとなった。

 

 

 

 

 

数十分後 山形市付近の上空 

Skyeye here(こちらスカイアイ)All Mobius aircraft, report in.(メビウス中隊、状況を報告せよ )

 

Mobius 2 on standby.(こちらメビウス2、スタンバイ)

Mobius 3 through 7 on standby.(メビウス3からメビウス7、スタンバイ)

Mobius 8 on standby.(メビウス8、スタンバイ)

 

Preparations are complete.Ready for battle. (攻撃準備完了、攻撃を開始する)All aircraft, follow Mobius 1!(全機メビウス1に続け! )

 

大日本皇国空軍、大日本皇国特殊戦術打撃隊、日本国航空自衛隊、銀河共和国宇宙軍、反乱同盟軍スターファイター隊からなる連合航空隊による攻撃が始まった。幾ら銀河帝国と言えど、下に味方が大勢いるのにそれを巻き込んで軌道爆撃みたいな攻撃はまずしない。TIEファイターで奇襲する位だと、そう結論付けていた。

そこで先に市内の敵を一掃し、そちらに気が向いてる間に連合航空隊と陸のストーンヘンジ、展開中の砲兵部隊が保有する51式自走砲による同時奇襲攻撃でスター・デストロイヤーを海にまで敗走させる作戦をとった。その尖兵を務めるのは、江ノ島鎮守府に配備されている最強の航空部隊『メビウス中隊』である。メビウス1の放った99式空対空誘導弾に続き、他の空自の機体からも99式が放たれる。皇国空軍の機体からはAIM63烈風が発射され、寸分の狂いなく艦隊の周囲を守っているTIEファイターに直撃する。

 

『こちらスカイアイ。敵艦隊の周囲にいた護衛機は全機排除された。攻撃隊はストーンヘンジと提灯による攻撃を待って、攻撃を開始せよ』

 

この報告を受けたストーンヘンジこと120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲システムと提灯は、すぐに攻撃に掛かる。

 

 

「目標、山形市付近の敵空中戦艦。仰角45°、方位184。弾種、月華弾」

 

「照準コンピューター、正常に作動。ターゲット、ロック!」

 

「全砲発射!!」

 

ストーンヘンジに配備された8門の120cm砲は、その大きさの割には小さな音で特大サイズの月華弾を発射する。

そして、海上配備の提灯もそれは同じであった。

 

「目標、山形市付近の敵空中戦艦!仰角、51°。方位このまま。弾種月華弾!」

 

「照準よし。エネルギー充填率100%」

 

「撃て!!!!」

 

この砲撃に投入された提灯87基が、同時にスター・デストロイヤーへと月華弾を放つ。スター・デストロイヤー問わず、銀河に存在する宇宙船には大抵シールドが搭載されている。これは隕石や宇宙ゴミでのダメージを受けないようにする為だが、戦艦たるスター・デストロイヤーにはもちろん、それとは比較にならない強力なシールドを持っている。それも物理的兵器、光学的兵器の両方に対応できる様に2種類も積んでいるのだ。

だがストーンヘンジと提灯は、それごと船体を撃ち抜いたのだ。しかも船内で月華弾が炸裂し、たった一撃で6隻のスターデストロイヤーが轟沈した。間髪入れず、スターファイター隊が突撃を敢行。シールドの破壊に取り掛かる。

 

「ローグ中隊続け!!」

 

「ブルー・リーダー、突撃!!」

 

「インフェルノ隊、行くぞ!!」

 

「グリーン中隊、ついてこい!!」

 

だがそのスターファイター隊の背後から、何やら別の飛行隊もやってきた。まず来たのは空中母機『白鳳』が8機、さらにその後方に機動空中要塞『鳳凰』2機、そしてその下からADF1『妖精』、ADF2『大鷹』、ADF3『渡鴉』まで飛んで来る。さらにさらに富嶽爆撃隊まで来てしまい、これらも攻撃に加わった。

 

「そーら爆弾の雨だ。お試しあれ!!!!」

 

「TLS、掃射」

 

「レールガン撃てぇ!!!!」

 

しかもオマケと言わんばかりに、下にいる砲兵隊も負けじと51式の510mm砲をばかすか撃ちまくる。流石に精々が対艦ミサイル程度しか防ぐ事を想定しておらず、大半がレーザーやビームに特化している以上、510mmの巨大砲弾は防げない。

艦底部から連続して命中し、運が悪ければ機関室に直撃したりと、結構な戦果を上げた砲兵隊。この頃になると代償は大きいがシールド発生機が破壊され、殆ど丸裸の状態となった。となれば、今度はコイツらの出番だ。

 

「全機!ASM4を撃て!!」

 

「ASM3全弾発射!!!」

 

空対艦ミサイルのターンである。確かに1発の威力は、宇宙船には微々たる物かもしれない。だがそれが数百発単位で襲えば、話は全く別だ。特にスター・デストロイヤーは、基本どの砲塔も有人操作。コンピューター制御に比べれば、命中精度は落ちる。音速を超えて飛来する空対艦ミサイルには、全くと言っていいほど対応できなかった。

 

「やった!!命中命中命中!!!!」

 

「見ろ!スター・デストロイヤーが逃げていくぞ!!!!」

 

物量の鬼である銀河帝国も、この被害は看過できないのか日本海の方へと撤退を始める。だがその方向は、既に艦隊が手ぐすね引いて待っているのだ。

適当に連合航空隊が追尾して、ちょいちょいちょっかいをかけて海へと誘導する。そしてある程度の位置まで来た時、数隻のスター・デストロイヤーが爆発四散した。

 

「ここからは、私達の番ですよ」

 

帝国兵は目を皿にして、海を観察する。そしてある1人の乗組員が、見てしまったのだ。銀河には最早、創作の中でも発想が存在しない全くもってあり得ない光景が。

女性が水の上に立ち、高威力の攻撃を仕掛けてくるのだ。

 

「榛名!全力で参ります!」

 

「さぁ、私の火力見せてあげるわ.......。Open fire!」

 

「主砲、撃てぇーいっ♪」

 

「時は来たれり!」

 

「サディア帝国の力を見よ!」

 

「全艦、火力全開!Feuer!」

 

江ノ島鎮守府に所属する艦娘とKAN-SEN達が、攻撃を開始したのだ。ただでさえ艦娘とKAN-SENは、それこそ艦にダメージを与える攻撃でないと意味がない。だが動きが素早い上に、的が小さくて狙えど狙えど当たらない。

これに加えて空母から発艦した艦載機は、動きは遅いが小さすぎて対空砲が狙えないという事態が起き、もう艦内は大パニックであった。そして艦娘とKAN-SENが引き付けてる間に、大日本皇国海軍の決戦兵器が攻撃の準備に入っていた。

 

「プラズマ粒子波動砲、スタンバイ」

 

「アイ・サー。プラズマ粒子波動砲への回路開きます。非常弁、全閉鎖。強制注入機作動」

 

「艦首解放、プラズマ粒子波動砲展開」

 

究極超戦艦『日ノ本』を中心に熱田型、赤城型、大和型、伊吹型が横一列に並ぶ。その艦首には、蒼白く光る巨大な砲身があった。

そしてその上空には、もう1人いる。空中超戦艦『鴉天狗』をその身に宿した長嶺雷蔵もまた、決戦兵器の『素粒子砲』の発射準備に入っていた。

 

「エネルギー充填開始、バイパス接続。エネルギー正常に伝達中」

 

こちらは右側の艤装に搭載された巨大な砲身が変形し、正面と左右の砲口がせり出す。そして段々と紫色の光が、各砲口の部分に宿り出す。

 

「安全装置解除」

 

「セーフティーロック解除。強制注入機の作動を確認。最終セーフティー解除」

 

「薬室内、プラズマ化粒子圧力、上昇中。86、97、100。エネルギー充填、120%!!」

 

「波動砲、発射用意。対ショック、対閃光防御」

 

「スコープ解放。ターゲティング開始」

 

いよいよ、全艦の砲撃準備が整う。

 

「プラズマ粒子波動砲」

「素粒子砲」

 

「「発射ァ!!!!!!!」」

 

ギュゴォォォォォォォォォ!!!!!

 

ギュゴォォォォォォォォォ!!!!!

 

放たれた紫と蒼白い光は、残存するスター・デストロイヤーを飲み込む。そして光が消えると、そこには何も無かった。完全に蒸発して消えてしまったのだ。それを見ていた銀河からの来訪者達は、ただただその力に恐怖したという。

 

「ん?お!?おぉ!?」

 

次の瞬間、長嶺は自分の身体と眼下の艦艇が透けているのに気付いた。恐らくこれは、元の世界へと帰還する合図なのだろう。完全に透けて意識が途絶える。そして覚醒すると、あの餅つきをしていたグラウンドに戻っていた。

 

「そ、総隊長殿。なにやら、可笑しな夢を見ていましたよ」

 

「心配すんな。そりゃ現実だ。その証拠に、ほら」

 

そう言いながら長嶺は、三英傑+長嶺のLINEグループを見せる。それを見せるとグリムは驚き、周りにいた連中もこぞって画面を見つめる。

また機会があれば出会うのかもしれない。

今となっては銀河からの来訪者達がどうなったのか、どんな歴史を辿ったかは分からないが、もう会うこともないだろう。彼等は彼等の世界で、長嶺と神谷も其々の世界で、果てしなき戦いを繰り広げていくのだ。

 



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第六十話バルチスタ沖海戦

グラ・バルカス帝国海軍、第52地方隊イシュタムによるムー本土攻撃があった日、バルチスタ沖でも海戦が発生しようとしていた。参加戦力は以下の通り。

 

 

○世界連合艦隊

・神聖ミリシアル帝国

戦艦3、魔導巡洋艦6、小型艦4

・ムー

空母5、戦艦4、装甲巡洋艦8、重巡12、軽巡16、補給艦5

・大日本皇国

空母1、戦艦4、航空戦艦2、対空巡洋艦1、駆逐8

・トルキア王国

戦列艦隊82

・アガルタ法国

魔法船団70

・ギリスエイラ公国

魔導戦列艦隊98

・中央法王国

大魔導艦2

・マギカライヒ共同体

機甲戦列艦28

・ニグラート連合

竜母機動部隊30

・パミール王国

豪速小型砲艦隊115

 

○別働隊

・第二文明圏連合竜騎士団500騎

・神聖ミリシアル帝国 第1、第2、第3魔導艦隊

各 魔導戦艦6、空母6、重巡洋洋艦24、巡洋艦48、小型艦120

 

 

空前絶後の大艦隊なのだが、正直頼りにできる艦が一切いない。この中で互角に戦えるのは皇国と、もしかすると神聖ミリシアル帝国とムーが戦えるかもしれない、という状況だ。対して相手のグラ・バルカス帝国はグレードアトラスター級戦艦を筆頭に戦艦15、空母14、重巡30、軽巡42、駆逐234という大艦隊だ。これに加えて潜水艦がいる可能性もある。それ故に、この派遣艦隊の指揮を任せられた麦内誠光大将は、全く気が休まる暇がない。

 

「航空参謀、間も無く敵航空機の行動圏内に突入する。早期警戒機を上げてくれ」

 

「そう来ると思って、既に待機中であります!」

 

「ははっ、そうかそうか。では直ちに発艦、警戒監視に当てさせろ」

 

「アイ・サー!」

 

内戦で管制室に命令が行き、待機していたE3鷲目、コールサイン『シャドウペッパー』に発艦命令が下る。

 

『シャドウペッパー、発艦を許可する。good luck』

 

「シャドウペッパー了解。行ってくる」

 

エンジンの回転数を上げ、シューター役の水兵に合図を送る。次の瞬間、シートに強く押しつけられる感覚と共に一気に加速し無事に発艦した。シャドウペッパーはブリーフィングで指示されたポイントを目指して進路をとる。道中の機内は、何故か機長の酒話で盛り上がっていた。

 

「…それでな、俺の親友は、酔うと必ずトイレに行くんだ。別に吐くわけじゃない。じゃあ何をしてるかというと、態々脱いでるんだわ」

 

「マジっすか!?」

 

「マジマジ。で、素っ裸になって出てくるんだ。でも面白いのが、わざわざチ○コを太腿に挟んで隠して、ジョジョ立ちをするんだよ。それもスマホで態々処刑用BGMを流しながら」

 

この話で機内は大爆笑。しかもこれに加えて「たまに先輩がいると、スッとチン毛をライターで燃やす」と続いた物だから、更に機内は大爆笑の渦に飲まれる。

その内、今度は初めて飲んだ酒は何だとか、初めて二日酔いしたのはいつだとか、そういう他愛もない話で盛り上がっていた。だがレーダーに影が映り込むと、すぐに空気が切り替わる。

 

「レーダーに感。方位180、高度6000、速力400、機数200。恐らく攻撃隊と思われる」

 

「すぐに通報しろ」

 

「ウィルコ」

 

直ちにこの情報は母艦である空母『瑞鷹』に通報され、直ちに制空装備でF8C震電IIを発艦させる。

 

『総員、対空戦闘用意。総員、対空戦闘用意。航空隊は直ちに発艦、迎撃に迎え。総員、対空戦闘用意。総員、対空戦闘用意。航空隊は直ちに発艦、迎撃に迎え。総員…』

 

「インターセプトまで後どの位だ?」

 

「迎撃による遅延を考慮せず、このままでくるとなると凡そ2時間。射程圏内に入るまでは1時間半程度かと」

 

「司令、ムー艦隊より入電。航空隊を発艦させて、迎撃に当たるそうです」

 

この報告を受けて、麦内の顔は不満そうに歪んだ。ムーの戦闘機であるマリンは、所詮は複葉機の鈍足機。迎撃に当たられても、相手のスコアを増やす雑魚に他ならない。

一応、今から発艦させるのならレーダー上に味方として登録し、それをデータリンクで共有すればIFFが無くても問題ない。しかしミサイルは発射前にターゲットをマークする必要があり、発射後にIFFを使用して自動で目標決めるモードでは撃てない。咄嗟の状況ではIFFによる識別で敵味方を判別する以上、100%誤射しない訳でもないので邪魔でしかないのだ。

 

「司令、ムー艦隊より続報。『我にコルセアあり』だそうです」

 

「コルセア?.......まさか」

 

麦内の脳裏に、この前神谷が言っていた事が蘇る。直ちに監視員にムーの艦載機がどんな機体かを確認させると、こんな答えが返ってきた。

 

『あー、機体はF4Uコルセアに酷似しています。流石にどのタイプかは分かりませんが、あの逆ガルは見間違いようありません』

 

そう。ムーはこの短期間で航空戦力の拡充に成功し、艦載機は全て一新されたのだ。戦闘機にはF4U5にターボ過給器を搭載した『コルセン』、急降下爆撃機兼雷撃機にはバラクーダMk IIの武装を7.7mm機銃2挺から12.7mm機関銃2挺と、後部に7.7mm旋回機銃に変更した『バラクダル』が配備されているのだ。

 

「まぁ、コルセアなら戦えるか?」

 

「少なくとも複葉機よりかはマシかと」

 

ムーの作ったコルセア、いや。新型戦闘機コルセンがどの程度の物かは分からない。だが少なくとも非力なエンジンを付けた複葉機であるマリンよりかは、確実に戦力として数えられる機体ではある。

ムー空母から発艦したコルセンは艦隊上空で編隊を組み、レーダーで味方機として識別。これをデータリンクで共有し、無事にムー艦載機編隊を味方として登録できた。コルセンの編隊は通報のあった空域へと前進する。

 

 

「お前達!いよいよ、この新型機、コルセンの初陣だ!!!!勝利の栄光を持って、この機体の輝かしい歴史の始まりとしよう!!!!」

 

隊長のオットー大尉が部下達にそう鼓舞する。部下達は雄叫びをあげ、中には翼を振る者もいた。士気は十分である。

 

『.......ガッこちらは大日本皇国海軍、空母『瑞鷹』所属のAEW。コールサイン、シャドウペッパーだ。ムー海軍機、聞こえてたら返事してくれ』

 

「こちらムー海軍所属、迎撃隊指揮官のオットーだ。貴官らがブリーフィングで言われていた、空の水先案内人か?」

 

『空の水先案内人ときたか。そうだとも、我々こそ空の水先案内人だ。

君達の編隊から見て、11時の方向。高度6000に敵編隊がいる。既にこっちの航空隊がミサイルで落としちゃいるが、まだ奴等はいる。迎撃してくれ』

 

「言われなくても。全機、高度9000まで上昇!!続け!!!!」

 

コルセンが銀翼を煌めかせて、雲海の中へと飛び込む。シャドウペッパーによる誘導を受けつつ、編隊は順調に敵編隊へと接近する。

 

『間も無く目視圏内に入るぞ』

 

『敵機発見!!』

 

「シャドウペッパー、支援に感謝する」

 

『なーに、給料分の仕事をしただけさ。感謝の気持ちは生きて帰ってから、テメェらの財布で払ってくれ』

 

「飛行隊総出で相手しよう。さぁ、全機!我に続け!!」

 

オットーのコルセンを先頭に、編隊が敵編隊目掛けて襲い掛かる。完璧な奇襲に、高火力の20mm機関砲。その効果は絶大であった。一撃目で敵機12機撃破、18機撃墜という戦果を挙げる。

 

「す、すげー!!!!」

 

『一気に敵が堕ちていく!』

 

『勝てる、勝てるぞ!!』

 

第二文明圏で好き勝手やるだけでは飽き足らず、世界連合軍を撃退したグラ・バルカス帝国軍。その軍隊に自分達が、初めてダメージというダメージを与えられた事実に否応もなく士気は上がる。

だが、これがのちに悲劇を生む。彼らはよりにもよって、アンタレスに巴戦、つまりドッグファイトを挑んでしまったのだ。

 

「よし、捉えた!」

 

カチッ

ドカカカカカカ!!

 

しっかり照準のど真ん中に相手を捉えた。トリガーを引けば、必ず当たる。その筈なのに、目の前の機体が不意に消えた。

 

「なっ!?」

 

消えた事に気付いた次の瞬間、機体に振動が走り主翼が爆発。そのまま炎が一瞬の内にエンジンに回って爆発し、機体も勿論爆発する。こんなことが、至る所で頻発していたのだ。

アンタレス、というより零戦自体は狂気的なまでの徹底的な軽量化を重ねた結果、軽業の様な抜群な機動力を手に入れた。一撃離脱は苦手だが、ドッグファイトによる空中戦となれば零戦は最高の戦場となる。しかもグラ・バルカス帝国の将兵の大半は、何度も愛機と共に実戦を積んだ者達ばかり。機体の特性や機体ごとの癖に至るまで、全てを網羅し手足の様に扱う。

一方のコルセンは一撃離脱でこそ真価を発揮し、零戦よりも重いことからドッグファイトは不利となる。更にパイロットの練度もお世辞にも高いとは言えない以上、この結果は必然と言えるだろう。さらに間の悪い事に、震電IIは別動隊の迎撃に向かっており、今この場にはコルセンしか居ないのだ。

 

「何機残ってる!?」

 

『およそ50!!』

 

「半分食われたか。全機、ドッグファイトに持ち込むな!!エレメントを組み、一撃離脱を徹底しろ!!!!」

 

オットーは無線でそう指示を出すが、それを実行にできる者は少ない。中堅は中堅同士でどうにか組み、ベテランはルーキーの助けに入るが、何方かが堕とされる場合もあった。だが、どうにか出来上がった数組が果敢に攻撃を仕掛ける。

 

『堕ちろ!!』

 

ドカカカカカカ!!

 

『不味いケツにつかれた!!』

 

『すぐに助けてやる!!耐えろルーキー!!!!』

 

だがしかし、やはり練度に差がある。しかも数が減ってしまっている以上、中々戦況はひっくり返らない。だが、そんな状況をひっくり返すのがシャドウペッパーの仕事だ。

 

『おいオットー!生き残ってるか!?!?』

 

「シャドウペッパー!?どうにか生きているが、今にも死にそうだ!」

 

『そんなお前らに朗報だ。15秒だけ耐えろ!!』

 

「何を言っているんだ!?」

 

シャドウペッパーがそう言った15秒後、別働隊の迎撃に向かっていた震電IIの一部が飛来。敵に襲い掛かる。

 

「各機、敵は鈍足だ。失速(ストール)に注意」

 

『『『ウィルコ』』』

 

まず戦闘機隊をコルセンから引き離し、そのままコルセンを攻撃機編隊に向かわせる。戦闘機の相手は全て、震電IIが引き受けるのだ。

 

「これで良いかシャドウペッパー?」

 

『あぁ。あの飛行隊の連中は、経験こそあるがコルセンでの戦闘経験はない。何せ零戦相手にドッグファイトを仕掛けるんだ。そんな奴らに玄人の乗る零戦は荷が重い』

 

「確かにな。なら、精々俺達はあっちに火の粉が飛ばない様にしないとな!」

 

ここから先の戦闘は、全くの異次元であった。敵戦闘機は全部で30機近く。対して震電IIは僅か8機。数の差は絶望的なまでに開いている。だがそれすらも埋める震電II自体の高いポテンシャルと、パイロットの神業とも言える腕によって埋めるどころか、それ以上の状況を作り出す。

 

「後ろを捉えたぞ!!」

 

「甘い」

 

後ろを取ったアンタレスをクルビットで回避しつつ、逆に後ろを取って20mm弾を浴びせたり…

 

「野郎!!!!」

 

ドカカカカカカ!

 

ヘッドオンで正面勝負をしよう物なら、高度を下げてコブラをして、アンタレスの下面を20mm弾をばら撒きながら潜り抜けたりして、撃墜数を稼いでいく。

しかも今回はミサイルを使わずに、機首の20mmバルカン砲のみで敵を迎撃しているのだから、その強さは化け物そのもの。みるみる内にアンタレスの編隊は数を減らし、遂には最後の1機すら撃墜された。

一方、コルセンも攻撃隊を殲滅し、無事に第一次攻撃隊を殲滅したのだった。だが、これは言うなれば陽動。第二次攻撃隊こそが、敵の本命だったのだ。

 

 

「れ、レーダーに感!!敵大編隊、艦隊正面より接近中!!機数、600!?!?」

 

「600だと!?!?」

 

草薙武器システムは数百の目標を同時に探知し、そこから数十個の目標に対して同時に迎撃ができる。しかし、単純に弾薬が足りるかはまた別問題だ。それに今回の任務は、グラ・バルカス帝国海軍を倒す事ではない。神谷からの命令はこうだ。

 

「今回の戦闘に於いて重要視するのは、まず敵の戦力、戦術、性能を推し量る事。次に好きに暴れても良いが、ある程度手を抜く事。そして最後に、敵に世界連合艦隊が破れるか引き分ける事だ」

 

そう。この海戦、寧ろ勝ってはダメなのだ。今の世界、マトモな国が基本的にない。神聖ミリシアル帝国だって所詮やってる事は地位に胡座を掻いて、格下の国がやる事なす事が気に入らなければ邪魔をする。旧世界でもそうではあったが、こっちの世界はその比じゃない。

故にこの辺りで、世界最強の座からは降りて貰う。何より大日本皇国軍の真価は、周りの国の技術が劣っている以上は協力よりも単独の方が発揮される。そうなってくると生じ権力を持ってる癖して全く役に立たないミリシアルは邪魔なのだ。他の国家に関しては、基本的に弱すぎて話にならない。唯一、ムーだけは別と言える。あそこは皇国が力を貸した結果、飛躍的に成長する可能性を大いに孕んでいる。

この世界の神になるつもりは無いが、超大国として君臨し世界を牽引するリーダーになる力を皇国は持っている。この世界では考え付かない様な新たな仕組みを導入し、平和な世の中だって作れるかもしれない。国民の平和と安寧の為、彼等には犠牲になって貰おうという事なのだ。

 

「ここは弾薬を節約したい。長距離ミサイルを使わずに、砲撃戦と短距離でのミサイル戦で仕留める。旗艦に陣形変更の要請を出せ」

 

「アイ・サー」

 

神聖ミリシアル帝国の旗艦に敵編隊発見の報と、陣形変更の要請を出す。現在の陣形から皇国海軍を最前列に配置する陣形なのだが、先頭を走られたくないのか知らないが返答は「許可できない」という物。

 

「致し方ない、か。このまま砲撃戦に移る。全艦、対空戦闘用意!」

 

麦内の「対空戦闘用意」の発令は、艦隊の各艦に伝達される。初撃を仕掛けるのは戦艦『扶桑』『山城』『河内』『美濃』と航空戦艦『蔵部』『直隆』の6隻だ。

 

「正面、対空戦闘。CIC指示が目標。弾種、時雨弾」

 

「主砲、照準開始。電磁投射砲モードに切り替える」

 

各砲に時雨弾が装填され、電磁投射砲モードに切り替わる。砲身が4つに割れて、中に電流が迸る様は他の国の水兵からしてみれば珍しい物らしく、不思議そうに見ている。

 

「充電よし!」

 

「撃てぇ!!!!」

 

放たれた砲弾はレールガンの加速力により、敵編隊目掛けて飛び出す。近接信管で所定の距離になった同時に起爆。ミサイルを撒き散らし、敵編隊に襲い掛かる。

何が起きたか分からぬまま、数十機が火だるまになって堕ちた。しかし、それでも焼石に水。大きな効果があるとは言えない。

 

「第二射、続けて撃ちます。撃て!」

 

これに続き第四射、第五射まで撃ち、一度砲身冷却の為に射撃を止める。レールガンは速度が速くなる他、貫通力も上がるのだが、その分冷却時間が必要となる。これが通常の火薬による砲撃なら、砲身自体に冷却装置が搭載されているので砲身の限界が来るまで撃ち続けられる。

 

「砲身冷却完了!射撃システム、オンライン!!」

 

「!?敵編隊、更に現る!!方位45、海面スレスレを侵攻してきた為、距離近い!!機数40!!さらに方位300、同じく海面スレスレを50機が進んでくる!!」

 

目の前の大編隊は、恐らくは陽動。本隊でもあるが、同時に囮でもあるのだろう。海面スレスレを進む別働隊が切り込み隊であり、流石にこの数を同時に相手するのは皇国海軍とてキツイ。

 

「致し方ない。全艦に下令、ウェポンズ・フリー!!我が艦隊に接近する敵機を堕とせ!!!!」

 

麦内はそう命じる。流石に手を抜いて政治云々を気にする場合じゃなくなった。こうなった以上、16隻の皇国海軍艦艇の生存を最優先に行動するしかない。

 

 

「対空戦闘用意!!対空魔光砲、発射準備!!」

 

「魔導エンジン、出力45%から上昇開始!!」

「動力振り分け45%を維持しつつ攻撃回路へ接続」

「接続完了」

「対空魔光砲への魔力充填開始!80%.......95%、100対空魔光砲、エネルギー充填完了!」

「残魔力、装甲強化のためコンデンサへ!」

 

「対空魔光砲、魔力回路起動!属性分配、爆48、火22、風30、対空魔光砲発射準備完了!!」

 

まず接近する航空機に攻撃を開始したのは、神聖ミリシアル帝国の戦艦『セインテル』であった。砲口に煌びやかな粒子が吸い込まれていき、次の瞬間光弾が空に向かって飛び出す。

しかし近接信管も無しで手動で行われる照準では、いくら連射しているとはいえ攻撃は全く当たらない。

 

「そんな弾幕で、我らは止められん!!」

 

これに加えてパイロット達は皆、もっと濃密な対空砲火の中を突破してきている。この程度、恐るるに足らず。爆弾を『セインテル』にきっちり投下。命中させる。

だがまだ『セインテル』は、相手としてはマトモであった。マギカライヒ共同体の機甲戦列艦に至っては、単なる機銃掃射で爆沈する始末である。

 

「マギカライヒ共同体、旗艦バルテルマ轟沈!!」

 

「トルキア王国戦列艦隊、ヘルマ、ぺクノス、ジェイアード、他40隻近く轟沈!!」

 

「中央ギリスエイラ公国魔導戦列艦、ナーノ、ピルコ、ミーリル.......50隻近く轟沈!!」

 

「神聖ミリシアル帝国『セインテル』大破、炎上中!!」

 

麦内の元に続々と被害報告が上がる。既に艦隊の6割強はその姿を海へと消し、3割が大破炎上などで何とか浮いてる状況。残りも多かれ少なかれ被害を被っており、無傷なのはムーの一部と皇国海軍程度である。

 

「シャドウペッパーより入電!『別動隊の神聖ミリシアル帝国、艦載機を発艦。敵艦隊に向かう』です!!

 

「分かっていたが、我々は囮だったのだな。であれば、もうその必要もないだろう。何よりデータは手に入れた。通信、ミリシアルとムーの旗艦に撤退を進言しろ」

 

「アイ・サー!」

 

そう。目的の情報収集は達成したし、シャドウペッパーにより敵艦隊の位置も正確に把握している。グラ・バルガス帝国もまた、艦隊を二分し『グレードアトラスター』を筆頭とした主力部隊は別動隊の神聖ミリシアル帝国艦隊に向かっていて、一部の艦艇、それでも100隻近い艦艇がこちらに接近しているのだ。もうこれ以上、犠牲は要らない。

 

「司令、ミリシアル側より許可が出ました。救助が終わり次第、撤退を開始するそうです」

 

「そうか。彼らには悪い事をした。せめて生きている者を、1人でも多く救え」

 

「アイ・サー!」

 

この戦いで皇国は、自国有利になる様に敵を利用し他国の力を削いだ。ミサイルを使って本気で戦わなかったし、この戦いが始まる前、最初の航空攻撃の前に艦隊が潜水艦に見つかっていたのを探知しながらも、敢えて攻撃も報告もせずに、そのまま追尾させていた。読者諸氏もいきなり航空隊が来た事に違和感があったかもしれないが、こういうカラクリがあったのだ。

もし皇国が手を抜かず、それどころか主力艦隊を派遣していればこんな事にはならなかった。この戦いで散っていた戦死者は、本来なら失われない命であった。ならばせめて、生き残った者には救助の手を差し伸べる義務がある。各艦から内火艇や複合艇、SH13海鳥が出動し、救助活動を開始。生き残った他国の艦艇にも連絡し、重傷者を大和型、伊吹型、『瑞鷹』に運び込む様に頼んだ。これらの艦には手術もできる医療設備があるので、生存率は上がるだろう。

 

「た、助けてくれ」

 

「大丈夫だ!コイツに捕まれ!!」

 

ロープ、角材、浮き輪、その他諸々使える物を使い、兵士達を手繰り寄せて船へと引っ張り込む。中には掴んだ瞬間に、安心したのか海に落ちていく者もいた。だが、そんな風になれば

 

「とうっ!」

 

絶対飲み込んだらタダじゃ済まない位に汚れた海へと飛び込み、無理矢理とっ捕まえて浮上。そのまま船に押し込む。

 

「救助活動、順調に進んでいます。恐らく、敵艦隊との接敵より前に終わるでしょう」

 

「そうか。良かった」

 

この報告より二時間程で、救助活動は終わった。撤退しようとしたその時、敵艦隊が現れたのだ。他の国の司令部達は、その姿に恐怖した。司令部だけではない。末端の水兵に至るまで、恐怖した。

 

「各艦に下令。対水上戦闘、用意。砲雷撃戦で仕留める。駆逐艦と『古鷹』は、撤退する艦隊の護衛に入れ。それから各国艦艇に通達。『本艦隊、これより殿として戦闘に突入す。各艦は直ちに撤退の上、生き延びられたし』以上だ」

 

「アイ・サー!!」

 

「これより、旗艦を『扶桑』に移す。司令部要員は、直ちにヘリに乗り移乗せよ。『瑞鷹』も撤退し、艦隊を生きて帰せ」

 

「アイ・サー。司令、ご武運を」

 

直ちに司令部を戦艦『扶桑』へと移し、装甲の薄い艦艇は撤退させる。今ここにいるのは戦艦6隻のみ。対して、相手は100隻近くいる。数の差は絶望的だ。

 

「攻撃開始!!」

 

だが今ここにいるのは、かつての世界最強であり敵の首都に殴り込みを掛けた超武闘派の武勲艦の妹達。この程度では臆さない。

装備している垂直発射装置に納められた艦対艦ミサイル桜島を発射。同時に砲撃も始める。

 

「砲術、撃って撃って撃ちまくれ!!!!」

 

「言われなくても!!主砲、斉射!!!!」

 

ズドォォォォン!!!!!

 

510mm、460mm、203mmの各砲が砲撃を開始し、あり得ない位高い命中精度で敵を殲滅していく。逆にグラ・バルカス帝国側は射撃で当てることは出来ず、数十秒のタイムラグも計算しながら砲撃していく。かたや皇国は自動装填装置により数秒間隔で砲撃してくるので、グラ・バルカス帝国の艦艇は回避運動を取りながら逃げ惑う。

 

「敵の陣形が崩れた。今しかない。波動砲を使う!」

 

「アイ・サー。プラズマ粒子波動砲への回路開きます。非常弁、全閉鎖。強制注入機作動」

 

「艦首解放、プラズマ粒子波動砲展開」

 

大和型も伊吹型も『日ノ本』同様に普段菊の御紋がある場所に、波動砲は収められている。こちらは単装だが、それでも威力は充分に高い。

 

「安全装置解除」

 

「セーフティーロック解除。強制注入機の作動を確認。最終セーフティー解除」

 

「薬室内、プラズマ化粒子圧力、上昇中。86、97、100。エネルギー充填、120%!!」

 

「全艦連動!!射撃管制、扶桑に移譲されました!!」

 

「波動砲、発射用意。対ショック、対閃光防御」

 

艦橋のガラス窓がシャッターで覆われ、閉鎖される。

 

「電影クロスゲージ、明度20。照準固定!プラズマ粒子波動砲、発射!!!!」

 

砲雷長がトリガーを引いた瞬間、水色のビームが敵に襲い掛かる。そして麦内の命令で、艦が一気に後退する。

 

「カウンター出力カット!!」

 

プラズマ粒子波動砲はその威力ゆえ、様々なデメリットがある。その1つが反動が大きい事だ。その反動の大きさ故に、発射と同時に一杯相当の推力を出さないと撃った瞬間に艦が後進してしまうのだ。

麦内はこれを利用し、砲撃の反動で戦線を離脱するという中々にぶっ飛んだ事を考えたのだ。砲撃を継続したままバックし、ビームが消えると同時に先に撤退した艦隊を追い掛ける。この攻撃でグラ・バルカス帝国の別動隊はその9割がその身を海に沈めたのである。

 

 

 

数十分後 旗艦『扶桑』

「司令、偵察中のシャドウペッパーより入電。2つの超巨大飛行物体を見つけたそうです」

 

「超巨大飛行物体?」

 

「レーダー上には全長250m程度の大きさが映ってるらしく、速度は200kmと遅いそうです。しかし別動隊のミリシアル艦隊の直上追い越したそうですので、敵ではないかと」

 

これより前に入った報告では、別動隊は既に壊滅。旗艦などは生き残っているが、それでも半数がやられたらしい。仮に敵ならそんな美味しい獲物を逃さないだろうから、恐らく味方ではある。だが事前情報に、そんな戦力を投入するなんて話は聞いていない。

 

「何がどうなってるか分からんな。蔵部と直隆に制空装備と対艦攻撃装備の航空隊を上げさせろ。その超巨大飛行物体とやらを追尾させろ。敵じゃないと思うが、敵なら厄介だ」

 

「アイ・サー。通信!今の命令を伝達しろ!!」

 

命令を受けた航空戦艦『蔵部』と『直隆』は、直ちに航空隊を発艦させ20機の震電IIが超巨大飛行物体の元へと飛んだ。

 

 

『メイデン1、聞こえるか?』

 

「こちらメイデン1。シャドウペッパー、トラブル発生か?」

 

『ミリシアル艦隊の無線を傍受した。グラ・バルカス帝国の攻撃隊、20機に襲われてるらしい。援護に迎えるか?』

 

「ウィルコ。1編隊で足りるだろう。ベックス隊を向かわせる。ベックス1、聞いたな?」

 

『ウィルコ。援護に向かう。ベックス隊、行くぞ』

 

4機の震電IIが救援の為に、別動隊の方へと向かう。その間もメイデン1を筆頭とした航空隊は、その超巨大飛行物体目指して飛ぶ。そしてその動きは超巨大飛行物体こと、神聖ミリシアル帝国の空中戦艦『パル・キマイラ』に探知されていた。

 

「艦長、魔導電磁レーダーが接近する機影を探知しました。しかし」

 

「どうしたのだね?」

 

『パル・キマイラ2号機』の艦長、メテオスは言い淀む部下に聞く。そして部下から次に出た報告に、疑問を抱いた。その報告とは「反応が小さすぎるのに、速度が速すぎる」という物だったのだ。前者だけならレーダーの不調の可能性もあるかもしれないが、速度が速いとなると航空機の可能性が出てくる。

因みに魔導電磁レーダーとは、レーダーの電波部分を魔力に置き換えた物である。

 

「確か、大日本皇国の航空機は速いと聞いたねぇ。もしかすると、皇国の機体があるのかもしれない。アトラタテス砲、攻撃準備だ。ただし、敵を識別するまでは撃たないでくれたまえ」

 

アトラタテス砲とは対空魔光砲の一種で、簡単に言うと対空魔光砲版バルカン砲である。『パル・キマイラ』には6基のアトラタテス砲が、船体に埋め込まれる形で搭載されているのだ。

 

「艦長、恐らく接近中の機体から通信が入りました」

 

「ふむ。私が出よう」

 

メテオスがマイクを手に取ると、スピーカーから男の声が流れてきた。

 

『こちらは大日本皇国海軍、空母『瑞鷹』所属のAEW、シャドウペッパーだ。そちらの所属を明らかにされたい』

 

「こちらは神聖ミリシアル帝国、空中戦艦『パル・キマイラ2号機』の艦長、メテオスだ。まさか君達が、この艦に追い付くとは思わなかったねぇ」

 

『艦長殿。我々はそちらが、その空中戦艦?を派遣する事の通達を受けておりません。どういう事でしょうか?』

 

「これはだねぇ、陛下の御慈悲なのだよ。君達の犠牲が少しでも少なくなる様に、我々は君達の救援に来たのだよ。聞けば世界連合艦隊は、既に壊滅。きっと貴君の艦隊も、壊滅的被害を受けたのだろう?」

 

なんか妙に上から目線なのが地味に苛つくが、まあそこはグッと堪えて、こちらは少し皮肉めに事実を伝える。

 

『その御慈悲には感謝致しますが、どうやら必要はないようですな。確かに壊滅的被害を受けた世界連合艦隊ですが、既に撤退しております。それに皇国海軍には現状、1隻の沈没は愚か、1人の死傷者も出しておりません』

 

「ほう、それは驚いたねぇ。ではそんな君達に、我々の戦いを見せてあげよう」

 

丁度メテオスがそう言った瞬間、雲から震電IIが飛び出した。パイロット達はその姿を見たのだが、余りに異様な姿に言葉を失う。

メルセデスベンツのロゴの様な形状をした円盤で、恐らく中心が艦橋なのだろう。明らかに空力やら物理学やらを無視した形状に、どんな原理で浮いてるのかも想像もつかない。

 

「我々はこれより、敵艦隊本隊へ向けて進撃を開始する。付いてきたまえ」

 

『.......どうやら、我々が先行するハメになりそうですよ。敵編隊を探知しました。これより我々は制空戦闘に入ります』

 

シャドウペッパーのレーダーが、接近する敵編隊を探知したのだ。メイデン1以下、8機の震電IIが敵編隊に向かって加速する。

 

「感謝しよう。もしかすると、貴君らと我々は良いチームになれるかもしれないな」

 

『まあその辺は、上が協議するでしょう。ですが今は土壇場ではありますが、協力をお願いします』

 

「望む所だよシャドウペッパーくん。我々の戦いを、よく見ておく事だ」

 

先に突入した震電IIが敵編隊に噛みつき、ミサイルと機関砲で敵を圧倒する。

 

「なんだあの機体は!?」

 

「恐ろしく速いぞ!!!!」

 

「護衛戦闘機が追い付いてない!!!!」

 

負けじと防護機銃やらで反撃するが、そんなのでは震電IIの素早さに追い付けられない。

 

『メイデン3、FOX2』

 

「インガンレンジ、ファイア!!」

 

更に敵を殲滅していると、『パル・キマイラ』も戦域に到着。攻撃を開始する。

 

「アトラタテス砲、攻撃開始!!」

 

外郭が回転を始め、アトラタテス砲が発射される。簡単に言えばこちらで言うCIWSなので、その連射力と命中精度は皇国軍に勝るとも劣らない。

 

「敵、我が方に突っ込んできます」

 

「装甲強化」

 

だがグラ・バルカス帝国だって、闘志では負けてはいない。数機のシリウス型爆撃機が急降下してきたのだ。

メテオスはアトラタテス砲では間に合わないと判断し、船体に魔力を流して装甲を強化する事を選択。命令を飛ばす。だが、上にはコイツらだっているのだ。

 

「俺達忘れてもらっちゃ困るぜ?インガンレンジ、ファイア!!」

 

メイデン隊が背後に回り込み、20mm弾を浴びせる。シリウスを撃墜し、メイデン隊はそのまま回転する外郭と中心を繋ぐ3本の柱の間をすり抜ける。

 

「やはり、皇国の戦闘機は強い。評価を上げるべきかもしれないねぇ。記録は取れているかね?」

 

「バッチリです」

 

「思わぬ土産ができた物だ」

 

震電IIの戦いっぷりはしっかり記録され、ミリシアル側に知られる事になるのだが皇国に知る由はない。時を同じくして、別動隊の方にはベックス隊が現場空域に到達していた。

 

「敵機接近!!」

 

「まだ来るのか!?一体どれだけの機体を寄越してくるんだ。グラ・バルカス帝国のクソ野郎め!!!!」

 

司令官のレッタルはそう叫んだ。しかも今度は見張から「左舷より所属不明機、急速接近!」という報告まで上がってきたのだ。本気で怒りと同時に死を覚悟したという。

 

「艦隊から敵を引き剥がす。FOX3!!」

 

AIM63烈風が発射され、雷撃コースに入っていたリゲル型雷撃機を破壊。震電IIはそのまま別動隊の旗艦『カレドヴルフ』の目の前を通過する。

艦橋をビリビリと衝撃波が揺らす中、レッタルは確かに機体に描かれた赤い日の丸を見た。

 

「騎兵隊の到着だ!!!!」

 

レッタルがそう叫ぶ。ベックス隊は散開し、次々に敵機を屠っていく。しかも敵は全くと言っていい程、対応しきれておらず落されていく。

これに触発されてか、戦意を失いかけていた各艦からも対空砲火が上がる。流石に命中精度が高くなるなんて事はないが、相手には良いプレッシャーにはなる。ベックス隊の乱入から10分程度で、攻撃隊は全機撃墜された。

 

「ベックス1、ミッションコンプリート。RTB」

 

『2、コピー』

『3、コピー』

『4、コピー』

 

「あ、そうだ。お前達、合わせろ。編隊飛行だ」

 

ベックス隊の各機は艦隊の後方に回り込むと編隊を組む。そのまま艦隊上空を通過すると、機体を外側へとロールさせつつ降下。水面ギリギリで急上昇し、また編隊を組みながら一気に高度を上げながら加速していく。

 

「アレが大日本皇国の力なのか.......」

 

レッタルはただただ、敵では無かったことを神に感謝した。

一方、空中戦艦『パル・キマイラ』の方は敵艦隊と接敵。装備された15cm三連装魔導砲を用いて敵艦隊を攻撃していくが、最終的にはグレードアトラスター級戦艦の46cm砲が、1号機に命中し撃墜された。これを受けてメテオスは即座に撤退し、ここにバルチスタ沖海戦は世界連合艦隊は3分の2が沈み、航空兵力は壊滅。さらに先述の通り空中戦艦『パル・キマイラ』が撃墜された。

一方のグラ・バルカス帝国側は戦艦16、空母18、重巡34、軽巡艦 53、駆逐239、潜水艦64の戦力の内、戦艦12、空母10、重巡18、軽巡39、駆逐150が沈み、引き分けという結果を持ってここに終結したのである。

 

 

 



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第六十一話海戦後の皇国

すいません、新兵器を設定集に書き足すの忘れてました。今は追加されています


バルチスタ沖海戦終結より1週間後 大日本皇国 統合参謀本部

「失礼致します」

 

この日、派遣していた麦内指揮の艦隊が帰還した。麦内は一足先に帰還していた神谷に、報告書を手渡す。

 

「ありがとう。汚れ仕事を任せてしまい、申し訳なかった」

 

「神谷、私が訓練校で教えた事を忘れたか?考えるべきは自国の事だろう」

 

「.......そう言って貰えると救われますよ、麦内教官」

 

麦内はかつての神谷の訓練教官であり、旧知の仲なのだ。麦内に海軍軍人としてのイロハを叩き込まれれた。それ故に神谷はこういう時は頭が上がらない。

 

「詳しくは報告書を見てもらいたいが、喜べ。お前の狙い通りだ」

 

「それなら自由に暴れられそうです。教官の艦隊も、近い内に出番が来ます。それまでは英気を養ってください」

 

「そうさせて貰う。あ、そうだ。今度、酒でも奢れよ」

 

「.......奥さんと主治医に通報するか」

 

「うわー!待て待て!やめて、お願い!」

 

因みに麦内は最近肝臓を悪くし、医者からも酒を飲むなと言われているが度々こっそり飲んでは、その度に妻に怒られている。水兵の間では「最早、怒られる為に酒を飲んでるのでは?」とまで言われていたりと、麦内にとって妻は天敵なのだ。

 

「全く。早死にしますよ?」

 

「僕は死にましぇーん!!!」

 

「ジバニャンボイスでそれ言うのやめましょうか」

 

「冷静にツッコミいれないで。おじさん悲しくなる」

 

そしてこのオヤジ、普段は将軍っぽい感じだが偶にこうなる。もう扱いも慣れてるので適当に合わせて、お帰り頂いた。

神谷は1人、デスクの上で報告書を確認する。流石に報告書全てをここに書くと、私のやる気が失せるので簡単に書かせて貰う。まずは確認できた参加兵力と、その被害。

 

 

参加兵力

世界連合軍

世界連合艦隊

・戦艦11

・空母6

・航空戦艦2

・装甲巡洋艦8

・重巡19

・軽巡16

・駆逐12

・戦列艦333

・竜母10

・その他7

・航空機326

・ワイバーン150

合計 484隻

 

神聖ミリシアル帝国艦隊

・戦艦6

・空母6

・重巡24

・軽巡48

・駆逐艦120

・航空機336

合計 204隻

 

その他別働隊

・第二文明圏連合竜騎士団120

・空中戦艦2

 

 

グラ・バルカス帝国

・戦艦15

・空母14

・重巡30

・軽巡42

・駆逐234

・潜水艦5

・航空機1008

合計 335隻

 

 

損害

世界連合軍

世界連合艦隊

・戦艦6(3隻沈没、2隻大破、1隻中破)

・空母4(2隻沈没、1隻大破、1隻中破)

・装甲巡洋艦8(7隻沈没、1隻大破)

・重巡10(7隻沈没、3隻大破)

・軽巡14(12隻沈没、2隻大破)

・駆逐6(全滅)

・戦列艦333(全滅)

・竜母10(全滅)

・その他7(全滅)

・航空機61機喪失(損失率18.7%)

・ワイバーン150騎喪失

合計 380隻沈没、9隻大破、2隻中破(喪失率80.7%)

 

神聖ミリシアル帝国艦隊

・戦艦5(2隻沈没、1隻大破、2隻中破)

・空母6(4隻沈没、1隻大破、1隻中破)

・重巡24(15隻沈没、5隻大破、4隻中破)

・軽巡48(31隻沈没、8隻大破、9隻中破)

・駆逐艦120(80隻沈没、25隻大破、15隻中破)

・航空機(喪失機数不明)

合計 132隻沈没、40隻大破、31隻中破(喪失率99.7%)

 

その他別働隊

・第二文明圏連合竜騎士団120(全滅)

・空中戦艦1隻喪失

 

 

グラ・バルカス帝国

・戦艦10(8隻沈没、2隻大破)

・空母5(2隻沈没、1隻大破、2隻中破)

・重巡17(14隻沈没、2隻大破、1隻中破)

・軽巡34(27隻沈没、2隻大破、5隻中破)

・駆逐187(149隻沈没、23隻大破、15隻中破)

・航空機600〜700機喪失(損失率59.5〜69.4%)

合計 200隻沈没、40隻大破、23隻中破(損失率78.5%)

 

両者共にボロボロである。両者共、戦力の5分の4程度を喪失する壮絶な戦いであった。それにレポートでは中破までしか書かれていないが実際は小破判定を貰ってる艦も大量にあり、完全なノーダメージで戦いを生き延びたのは皇国軍と他数隻という所だ。

何れにしろ、少なくとも暫くの間は大規模な主力艦隊がぶつかり合う海戦は無いだろう。というか出来ない、と言った方が適切である。

 

「入るわよ」

 

「お、エリスじゃん。どうした?」

 

「どうしたも何も、今日の弁当当番は私よ?忘れてたのかしら?」

 

「え。あ、ホントだ。もう昼か」

 

未だ結婚式こそ忙しくて挙げられてないが、エルフ五等分の花嫁と神谷は普通にこういう執務室でもイチャついている。流石にガッツリはしてないが、あーん位はやってる。その結果、一部の兵士から殺意を向けられていたりする。

それでこの、弁当当番というのが5人が1週間に1日ずつ手作り弁当を作るという物。そして今日は、エリスが当番の日なのだ。

 

「そうよ。アンタ、少し位時間気にしたら?」

 

「レポート見てたら、時間経つの早くて」

 

「まあ、どうでも良いわ。私が作ってあげたんだから、感謝なさい。それと、あくまで私がアンタのお嫁さんなんだから作っただけだから!好きとかじゃないんだからね!?」

 

いや、好きでないなら何故アンタは結婚してんだとツッコミたくなるが、これは単なる擬態である。このツンツン態度は、あくまでも公の場でのみ。一度家に帰れば、ふっつうにデレる。めっちゃデレる。マジで二重人格か、帰る途中で誰かと入れ替わったんじゃねと思う位にデレる。

 

「はいはーい、分かりましたよ。そんじゃ、頂きますと」

 

弁当のメニューは一段目が胡麻塩かけた米、二段目がウィンナー、卵焼き、金平牛蒡、唐揚げ、ほうれん草の白和え、ミニトマトが入っていた。食べてみたが、普通に美味い。

 

「ど、どうかしら?」

 

「.......普通に美味いぞ。特にこの卵焼きが美味い」

 

そう感想を言われたエリスは、一気にパァっと笑顔になる。だがすぐに擬態して、顔を赤くしながらも顰めっ面になり、ツンツンモードへと早変わりした。ここまで来れば、多分役者になっても大成するだろう。

 

「ごちそうさん」

 

「.......ねぇ」

 

「どした?」

 

「今日の夜、またゲームしよ?」

 

「言われずともレイチェル辺りが、徹夜ゲーム大会突入させるだろうよ」

 

満面の笑みを浮かべると、そのままルンルンで執務室を出て行った。それと入れ替わる様に、眼鏡をかけた少しボサ髪の男が入ってきた。見るからに、技術者という風貌である。

 

「おぉ、田中さん。お久しぶりです」

 

「どうも。今、よろしいですか?」

 

「えぇ、勿論」

 

この男こそ、特殊戦術打撃隊の大型兵器の設計を一手に引き受ける天才設計士。田中秀之である。因みに大型機とヘリコプターは皇国空軍空技廠長の西野源三郎、戦闘機は堀二郎という感じで、この3人が設計に立ち入る事が多い。

 

「例の新兵器が完成しましたので、それを早く見せたくて」

 

「分かりました。すぐに行きましょう」

 

2人はヘリに乗り、千葉県にある千葉特別演習場へと飛ぶ。この演習場はちゃっかり2023お正月特別編にて先行登場しているが、改めて紹介しよう。

この千葉特別演習場は千葉県沖に建設された演習場で、その面積は東京の2.5倍大きさを誇り、核兵器を除くあらゆる火器の使用が可能な演習場である。演習場内にはジャングル、砂漠、山岳、岩山、森林、小規模な都市、平原、要塞陣地と基本的な戦場が再現されいる。しかも随所にAR投影機能を持つ装置を配置しており、様々な敵を出現させて戦うことが出来るのだ。演習に参加する兵士にも撃たれて負傷判定を貰えば、適切処置をして回復判定を得ないと死亡判定になる。これらは全てコンピューターで管理されているので、実戦に限りなく近い状況で、即座の判断が要求される緊張感が得られるのだ。

さらに飛行場や簡単な整備基地も併設されているので、新兵器の実験なんかもここで出来る。

 

「おぉ、長官。お久しぶりで御座います」

 

演習場で2人を出迎えたのは、白髪に眼鏡をかけた恰幅のいい老人であった。この老人が、先述の空技廠長。西野源三郎である。

 

「西野空技廠長!富嶽IIの時以来か?」

 

「そうですなぁ。あれ以来、色々ありましたからな。ささっ、私達3人の力作をご覧いただきましょう」

 

「3人?」

 

「実は私もいるんですよ」

 

そう言って西野の後ろからヒョコりと現れた、ヒョロっとしていてメガネを掛けた若い男。この男が戦闘機開発のプロ、堀二郎である。

 

「今回、私達3人が開発した機体は、新たなメタルギアです。その名も応龍」

 

「この応龍は機体全体の設計を戦闘機開発を担当する堀くんが。武装配置や操縦系統は大型兵器の鬼才である田中くんが。そしてエンジンとエンジン周りの設計を空技廠長たる私が担当いたしました」

 

「この3人で開発した機体、早速見てもらいましょう」

 

堀、西野、田中と順番通りかつ息ぴったりで説明してくれた。その謎のチームワークに驚きつつ、神谷は格納庫へと入る。格納庫にいたのは余りに独特な見た目をした、ぱっと見では航空機には見えない大型の機体である。

 

「こ、これ飛ぶのか?」

 

「その懸念も分かりますが、ご心配なく。しっかり飛びますよ」

 

田中がそう言うが、流石に飛ぶとは信じられない。3つの巨大ダクテッドファンが前部に2基、後部に1基搭載され、機体自体は細長い上に腹のレールガンが超巨大である。かなりアンバランスな構成で、これで飛ぶのかは結構疑問である。流石に飛ぶのだろうけど、にわかに疑問が出てもおかしくない。

 

「それでは飛ばします」

 

「まあダクテッドファンある時点でまあまあ察してたけど、やっぱりVTOL機能あるのね」

 

「最高時速マッハ1.5です」

 

サラリと堀がカミングアウトしたが、ダクテッドファンが付いたアンバランス巨人機がマッハ1.5を叩き出すとか、流石に色々と法則ガン無視しすぎである。今に始まった事ではないが、やはり皇国の技術者は頭が可笑しい。

 

「ホントに飛んだよ.......。それも超滑らかに」

 

「応龍は輸送機ですので輸送状態での機動性は落ちますが、貨物無しであれば戦闘機並みの機動性を発揮します。こんな感じに」

 

田中がそう言うと、応龍は一気に加減速を繰り返して、そのまま宙返り、急減速からのホバリングからの急発進。急上昇、急降下、バレルロールといった具合に、変態的機動力を惜しげもなく見せつけてくれた。

 

「あれ絶対、航空機のしていい挙動じゃないだろ」

 

「ミサイル撃たれても避けれますからね」

 

ARのミサイルが応龍に向かって放たれるが、そのミサイルをサイドステップするかの様に避けた。それも超スピードかつ被弾ギリギリで避けるので、落とすのには相当な時間が掛かるだろう。

 

「.......またヤベェのが出来上がっちまったなぁ」

 

「「「イェイ!」」」

 

3人のメガネ技術者が、メガネを光らせながら満面の笑みでサムズアップしてくる。実に良い笑顔なのだが、何故だろう。殺意が湧いてくる。

 

「あ、そうそう。もう1つ、兵器があるんですよ。これです」

 

そう言って田中が何処かに無線で連絡を取ると、数秒後に目の前に四足歩行のメタルギアと思しき巨大兵器が着地してきた。

 

「うん。これさ、どう見ても「あ、そうそう」とかいう忘れてました感で出してくる兵器じゃないよね?」

 

「まあ忘れてしまった物はしょうがないじゃないですか」

 

「うん。それお前が言うべき台詞じゃないな。どっちかって言うと、言うべきは俺だな」

 

皇国の技術者あるあるなのだが、基本的に何処かネジが飛んでいる。それが可愛い物なら良いのだが、中々にエグいのも多い。例えば田中は赤ちゃんプレイが大好きで、度々そっち方面の風俗に行ってる姿が見られている。というか研究室で偶にだがタバコの代わりに、おしゃぶりとか哺乳瓶吸ってる。

堀は味音痴でカップラーメンに粒あんをトッピングして食べる。因みに漉し餡は邪道らしいのだが、基準はわからない。いずれにしろ、ラーメンにトッピングするべきではない。

西野は車に乗ると人格が変わる。普段は優しいおじいちゃんだが、ハンドル握ると豹変して暴走する。しかも人格はランダムに変わり、オラオラしてたり、逆にナヨナヨしてたり、かっぺ弁で話し出したり、肉の部位で会話を成立させようとしたりと、もう無茶苦茶な事になる。尚、マリカーみたいなゲームのハンドルでも同じ事が起こる。

そして半数の技術者が抱えているのだが、コミュ力や語彙力が残念なのだ。流石に会話が成立しないクラスの者は少ないが、大体は話していると話が迷走するのだ。自分の専門分野の話ならそうはならないが。

 

「一先ずはそれ置いといてですね」

「一先ず置くのね」

「この新兵器の名前は、メタルギア狼。見ての通り四足歩行兵器で、高い機動性と速度を有します。更に背面のミサイル発射管は、ICBMにも換装可能。お手軽に核戦争が出来ますよ」

 

(いやね、涼しい顔で核戦争出来ます言われても困るのよ。ってかお手軽に核戦争って、パワーワードすぎんだろ)

 

そして田中は、コミュ力が偶に死ぬ系の技術者である。文章の構築が壊滅的に下手くそになり、発言が支離滅裂になったりするのだ。

 

「それじゃぁ、簡単に見せていきますね」

 

田中がそう言うと、狼が跳び上がる。しかもジャンプ力が60m近くあって、明らかにその巨体で出せるジャンプ力ではない。

 

「凄いジャンプ力でしょ?でも、ジャンプ力だけじゃありません。この機体は、メタルギアの中で最速です」

 

なんと狼、四足で走り、そのままドリフトよろしく急制動して地面を削り上げた。あんなのに轢き潰されたら、人間は跡形もなくミンチにされるだろう。

 

「以上が新たなメタルギアになります」

 

「まあうん、予想以上だった。これからも、その優秀な頭脳でぶっ飛び兵器を作ってくれ」

 

頭痛くはなるが、その一方で結構こういう兵器は好きなので、作って欲しいと思う面もある。なんだかんだ言っても、スペックは少なくとも優秀なのであって困りはしない。ちょっと予算が高くなるが、そこはコラテラルダメージだ。

この後、2つの新兵器の説明を受けてから、神谷は統合参謀本部へと帰還。その足で執務室に、向上を呼び出した。

 

「長官、お呼びでしょうか」

 

「あぁ。今日は向上に取っては、嫌な話を持ってきた。向上六郎少佐。本日付けを持って、大佐へと任ずる。以上だ」

 

普通なら驚き、喜ぶだろう。何せ戦死した訳でもないのに、二階級特進して29歳にして大佐という、軍の中でも重要なポストに任ぜられたのだ。

だがこの男、無茶苦茶嫌そうな顔をしている。何故かって?基本的に向上は、少佐位で自由にやりたい派なのだ。欲を言えば大尉位で良い。なのでこれまでは、神谷に頼んで無理矢理昇進の話を避けてきたのだ。神谷だってこの反応は折り込み済みだが、今回ばかりは受けてもらわないと困る。

 

「お前がそういう顔するのも知っていたが、敢えて言おう。向上、昇進を受けてくれ」

 

「何か理由があるんですか?」

 

「当然だ。俺は今、神谷戦闘団の更なる増強を計画している。基幹部隊となる陸上部隊に新たな部隊の編成と新兵器を導入するし、新たに専門の航空隊も作る。これまでの輸送ではなく、戦闘機を装備した支援航空隊だ。海上は実質的に総旗艦の『日ノ本』が、海上での足となる。

流石にここまでの規模になってくると、お前に少佐階級でいられるとキツいんだわ。ってかぶっちゃけ、これまでもキツかった。限界が来た、と言った方が良いかもしれない。正直言うと大佐でも役不足で、准将か少将にしたい位なんだわ。だがどうにか、大佐で決着をつけた」

 

「.......まあこれまで、結構粘りましたからね。良いですよ、お受けします」

 

向上としても、この昇進には旨味があった。というのも、昇進すれば給料も上がる。これまでは基本給の45万に手当が付いて、大体56万位が月給であった。大佐ともなれば、基本給が今の月給位になるので、月給70万いかない位は貰える。年収は手取りで1000万ちょっとになるだろう。

最近は割と真面目に推しアイドルの星宮すみれとデートしたり、推し活してて金はいくらあっても足りないので軍資金調達の為にも話は受けておきたいのだ。因みに星宮とのデートは付き合って1年になるが、まだ数回しか出来ていない。お互い忙しすぎて、直接会う暇がないのだ。互いの家で会う様な、そんな感じである。

 

「そうか。ありがとう。それじゃ早速なんだが、お前に新たな精鋭部隊を付ける事にした」

 

「精鋭ですか?」

 

「あぁ。神谷戦闘団、取り分け白亜衆は射撃、体力、格闘といった、凡ゆるジャンルの戦闘を超人クラスで行える者しか入れない。だが俺やお前、それにワルキューレの戦い方はアイツらの射撃スキルで援護できる戦い方じゃないだろ?

そこで新たに、射撃に特化した精鋭部隊を作る事にした。その指揮を、お前に取ってもらいたい」

 

確かにあの白亜衆を持ってしても、最近は7人の戦闘を的確に援護射撃できない場合も増えてきている。勿論援護しきる者も居るが、全員が全員じゃない。これまでは神谷も向上も、援護する兵士達を最低限考えながら戦っていた。だがワルキューレは元々、そういう連携を念頭に置いて戦ってない。それ故に戦場の様な場所になってくると、どうしても援護する側まで気が配れないのだ。

かと言って彼女達を一般兵にするかというと、折角魔法と剣の才があるのに、それを腐られるのも勿体無い。今は苦肉の策で、神谷直下で向上も共に援護側を援護しながら戦っているのだ。

 

「規模はどのくらいですか?」

 

「白亜衆と神谷戦闘団から選抜するから、中隊程度になるだろうな」

 

「部隊名や装備も私が決めて良いんですか?」

 

「勿論だ。何なら、新たに開発を指示してもらっても構わないぞ。取り敢えずの仮称で、部隊名は雑賀衆としている」

 

「分かりました。色々考えたいので、本日はこれで失礼致します」

 

向上は執務室を出て、簡単に自分のデスクを片付けて統合参謀本部を後にした。今日は金曜日。星宮の家に遊びに行く日である。愛車のレクサス エレクトリファイドスポーツに乗って、星宮の家があるパークハビオ新宿イーストサイドタワーへと向かう。

ここの最上階が星宮の家であり、都内にいるのであれば金曜の夜は必ず会いに行く。逆バージョンもあるが、基本は会いに行くことの方が多い。

 

 

 

数十分後 パークハビオ新宿イーストサイドタワー 最上階

「来たよー」

 

「六くん!」

 

明るい笑顔で星宮が向上を出迎える。のだが、その格好に問題があった。裸エプロンである。

 

「くぼぁっ!!!」

 

「ちょっ!どうしたの!?!?」

 

「いや、破壊力が.......」

 

この星宮、アイドルやってる時はお淑やかな感じで清楚なのだが、プライベートは超がつく自由人。熱くなりやふくて冷めやすく、酒好きで、構ってちゃんの甘えん坊で、色々無頓着で、幼女好きのショタ好きである。もう一度言おう。幼女好きのショタ好きである。

これは付き合って初めて知ったのだが、彼女はかなりのオタクだったのだ。それも変な方向に突き進んだタイプで、普通に変装してコミケに行ったりする。幼女好きのショタ好きと言ってもレズではなく、単純に可愛い幼女とショタが二次元三次元問わずに好きなだけ。ちょっと犯罪臭がしなくもないが、犯罪は犯してない。犯してないよね?

 

「ははーん。六くん悩殺されちゃった?」

 

「あのねぇ、オタクに取って推しが目の前にいるのは、それだけでSAN値が削られまくるの。すみれちゃんだってさ、仮に推しのロリ&ショタが目の前に出て来たらどうする?」

 

「襲う!」

「アウト!」

 

さっき犯罪は犯してないと言ったが、多分これ犯してる。もう手遅れだったよ。

あ、因みに星宮の容姿はFGOの宮本武蔵である。

 

「まあその気持ちは分かりますよ?うん。ってか、その状況が今の俺だからね?」

 

「え?」

 

「スタイル抜群の可愛い推しが、裸エプロンで出迎える。襲うしかないだろ?」

 

「いや////えぇ//////?」

 

割と真面目に襲いたくなる欲求を、理性で無理矢理抑え込んでるのが今の状況である。今にもタガが外れそうだし、多分ここで何か少しでもグッとくる言動やポーズがくれば、ここが玄関だろうとお構い無しに襲うだろう。

幸い、星宮が顔真っ赤にして部屋へと戻っていったので、R18コース突入はなかった。

 

「尊い.......」

 

ただその姿を見て、完全にドルオタモードに突入した。心の中ではSMT、つまり「すみれたん・マジ・天使」と叫びまくっている。

 

 

「あ、今日は唐揚げじゃん!」

 

「六くん好きでしょ?」

 

「すみれちゃんの唐揚げは特に美味いから」

 

「煽てもお酒しか出て来ませんよー」

 

そう言いながら冷蔵庫を漁り、しっかりハイボールを準備している。流石は飲兵衛。向上も酒は飲むが、星宮の方が強い。

 

「俺はビールで」

 

「はいはい」

 

向上は好物のビールを取ってもらう。好きな銘柄はアサヒスーパードラ、じゃなくてドゥラァ〜イある。

 

「「いただきます」」

 

2人揃って手を合わせ、早速唐揚げを食べる。星宮の実家は母親が祖父母と共に弁当屋をやっており、父も料理人ではないが料理好きな人である為、料理の腕は抜群である。特に唐揚げ、卵焼き、煮物と言った弁当の定番メニューを作らせたら、プロ顔負けの物を作ってくる。

 

「やっぱり美味いなぁ」

 

「お酒にも合うでしょ?」

 

「めっちゃ合う」

 

唐揚げ、ビール、唐揚げ、ビール、ちょっと野菜と味噌汁を摘んで、また唐揚げ、ビールの黄金コンボでバクバク食べる。もう唐揚げとビールだけで、永久機関の如く食べ続けられるだろう。

 

「あ、そうだ。すみれちゃん、俺さ昇進が決まった」

 

「凄いじゃん!おめでとう!!って事は、次は中佐になるの?」

 

「いや、それが二階級特進して大佐になった」

 

そう言った瞬間、星宮から何故か血の気がサーッと引いていき、向上の服を掴んで鬼気迫る顔でぐわんぐわん揺らしてくる。

 

「グェッ」

 

「ねぇ何で!?六くん死んじゃうの!?死ぬの嫌だよ!!」

 

「ちょ!待って!!死なない!!死なないから!!」

 

「だって二階級特進で戦死するか、戦死する任務に行く時にするんでしょ!?死ぬじゃん!!」

 

星宮の中では二階級特進=戦死or殉職らしい。一応間違いではないが、今回の場合は極稀にある特異例である。どうにかしてそれを伝えるべく、一旦離してもらった。

 

「確かに普通は戦死、殉職した者が、特に功績を挙げた者だった場合に二階級特進という措置が取られる。でも何も死んでから二階級特進する訳じゃないんだ」

 

「.......そうなの?」

 

「特例中の特例だけどね。基本、二階級特進=戦死の考えでも間違いじゃない。今回はその特例の方で昇進してるからさ。

何でも長官が戦闘団の増強を図ってるらしくて、流石に規模が大きくなるのに少佐じゃ釣り合いが取れないって事で大佐に昇進させるらしい。それに新たに新設される部隊の隊長にも任ぜられる事になった。責任が重いよ」

 

そこまで言うと、星宮は抱き付いてきた。凄い凄いと言いながら、凄い甘えてくる。可愛い。

 

「六くんなら、いつか将軍にもなれるんじゃないの!?」

 

「なれるかなぁ。まあでも、今の調子ならやらせられるだろうなぁ」

 

「そしたら私達すごいよ?私は国民的アイドルのリーダー、六くんは皇軍の将軍様。カッコいいじゃん!」

 

そう言って無邪気に笑う星宮。ステージやテレビで見せる姿とは程遠いが、普通のファンが知らない星宮の素を見られる特権に、向上は歓喜した。

 

 

 

翌週の月曜日 統合参謀本部 執務室

「今日の予定は確か」

 

「長官!!!!」

 

「うおぉ!?!?ど、どうした、向上?」

 

息を切らせながら、向上が執務室に飛び込んできた。手には雑誌か何かと思われる、紙束が抱えられている。

 

「俺、やられました.......」

 

「な、何が?」

 

「これ、見てください.......」

 

そう言って見せられた雑誌には、こんな見出しで文章が綴られていた。

 

『J.P.スワンリーダー星宮すみれ「皇軍士官と同棲中か!?」』

 

つまり、週刊誌のパパラッチか何かにデート中を撮られてしまったらしい。芸能人と付き合うなら覚悟しておかないとならない事ではあるが、まさかこんな形で世間に出るとは思ってなかった。

 

「やられたな」

 

「はい.......。これ、どうしましょう?」

 

「どうするもこうするもねぇよ。別にやましい事じゃ無いんだから、堂々としてろ堂々と。まあファンとかマスコミとかに、色々と付き纏われる可能性はあるがな。

だが取り敢えず、現状は訓練を除いて公の場に姿を見せるな。出張にも付いてこなくていい」

 

「了解しました.......」

 

そう言って向上は執務室を出て行った。今日は神谷の九州方面の出張に同行する予定だったが、流石にマスコミに付いて来られると面倒だ。ここは留守番していて貰おう。

案の定、外に出るとマスコミがロビーで出待ちしていた。受付や警備の兵士達が、どうにかマスコミを抑えている。

 

「あ、神谷浩三が出て来たぞ!!」

「神谷長官!向上少佐の熱愛についてご存知ですか!?」

「少佐の恋愛についてご意見を!!」

「皇軍としてはどの様な対応を!?」

「星宮さんと少佐は何処まで進展が!?」

「恋愛に関してどう思われますか!?」

「ご結婚なさるんですか!?」

 

「はいはい皆さん落ち着いて!!」

 

兵士達を突破したマスコミ達が神谷を取り囲み、質問攻めにしてくる。だが神谷だって、ある程度はマスコミ慣れしている。手をパンパンと叩いて、少し落ち着いて貰ってから適当に解答していけば良いのだ。

 

「まず初めに私は、部下の恋愛に口出しするつもりはありません。というか興味ありません。なので付き合ってるのか付き合ってないのかも知りませんし、軍として対応する事はありません。

ただ彼は士官ですし、多数の機密を知っています。ですのでもし結婚する時が来れば、相手の身辺調査はする事になりますね」

 

「それは熱愛を認めるという事ですか!?」

 

「熱愛云々ではなく、規則の話です。何も向上に限らず、皇国軍の士官や特殊部隊員、或いは重要な機密に触れる機会の多い人員に関しては、結婚を上司に報告し、相手は身辺調査を受ける義務が発生します。あくまでその話をしているだけです。

では、予定がありますのでこれにて」

 

そこまで言うてと神谷は逃げる様に、表の車に飛び乗って統合参謀本部を後にした。目指すは長崎の佐世保にある、とある部隊。その部隊を直々にスカウトしに行くのだ。

 

 

 



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第六十二話新兵器と外交交渉(?)

長崎県佐世保市 佐世保駐屯地 師団長室

「師団長!何故、私達は未だに部隊所属にならないのですか!?」

 

師団長室から軍には似つかわしくない、銀鈴の女性の声が響いてくる。師団長室には長い銀髪の美人女性士官と、眼鏡をかけた中年男性が居た。しかも女性の方が男性の方に詰め寄っているという、逆転現象が起きている。

 

「何度も言ってるがね少佐、君達はイレギュラーなのだよ。普通の部隊編成に入れる訳にはいかないんだ」

 

「ですから何度も、単独部隊で運用するように具申してるではありませんかッ!!」

 

「簡単に言ってくれるけどねぇ、難しいんだよ。色々と」

 

この女性士官は、新たに開発された新型機甲兵器のみで編成された部隊の指揮官、長谷川麗奈少佐である。彼女は国防大学を首席で卒業した才女であり、今回、新たに編成された新型機甲兵器のみで編成された部隊の指揮官に抜擢された。

と言えば聞こえが良い。若くして新設部隊の指揮官。大抜擢と言えよう。だがそもそもの新兵器に問題があるのだ。というのもその新兵器が、既存の機甲兵器とは違いすぎる兵器なのだ。しかも兵器自体がピーキーで何人ものテストパイロットを病院送りにし、今は首の皮一枚で存在してるような状況。そんな兵器を集めた部隊を作る事になったのだが、その隊を率いる指揮官として『才女』と謳われた長谷川を充てがった。

ところが何故か行く先々の上官連中は事勿れ主義者しか引けず、見事にタライ回しにされてここに行き着いたのだ。

 

「君も、そろそろ現実を見たまえ。あんな駄作兵器、さっさと廃棄してしまえば良いのだ」

 

「お言葉ですが、あの兵器は使いこなせれば現用の戦車以上の働きをします!駄作ではありません!!」

 

「そうかね。まあ、私にはどうでも良い事だ。下がりたまえ」

 

長谷川は怒鳴りたくなる衝動をグッと堪えて、師団長室を後にした。少し離れた廊下まで来ると、一気にため息を吐く。

 

「はぁ〜〜.......。これ、どうしたらいいのよ.......」

 

「どうだったんですか、麗奈?」

 

そう言って声を掛けてきたのは、部隊の戦隊総隊長である千葉真影である。戦隊総隊長と言いつつ実際の所は現場のリーダーであり、長谷川も実戦では大体千葉に細かい指揮は丸投げしている。

 

「シン〜!またダメでした。あの師団長、全く話を聞いてくれようともしてくれませんし.......」

 

「まあここの師団長は、極度の事勿れ主義者で有名ですから」

 

「あうぅ.......。なんでこうも私ってくじ運ないんでしょうか?」

 

「こればかりはくじ運で片付く問題でも無いと思いますが.......」

 

長谷川は基本的に、結構運がない。二択を選ぶにしても、10回やって8回か9回はハズレを引く。

 

「うぅ.......こんなんじゃ、皆さんに顔向けできませんよ..............」

 

「そんなことありません。少佐は良くやっていると思います」

 

「シン〜!!」

 

「あー、目の前でイチャつくのやめて貰っていいか?」

 

イチャつこうとしていた2人の背後に、高身長のワイルドな男が立っていた。千葉の部下にして、一番の親友。山下雷電である。

 

「い、イチャついてませんよ山下中尉!!!!」

 

「雷電、イチャついてはいない。断じて」

 

「へいへい、だが俺も仕事でね。2人とも、そろそろ、ほら」

 

そう言いながら山下は、自身の腕時計を2人に見せながら指差す。2人を時計を見て、すぐに走り出した。演習の時間が迫っていたのだ。

 

「相変わらず、仲良いなぁ。さーて、俺も行きますかね」

 

山下も2人を追いかけて、演習場へと走る。演習場には新兵器、XMLT1土蜘蛛が居た。この機体、本来は『戦車に代わる新たな機甲兵器』というコンセプトで開発された筈が、いつの間にやら比喩なしの殺人的機動力を発揮する超高機動機体に仕上がっていたという兵器である。

 

「遅いよ雷電」

 

「すまんすまん」

 

「弛んでるんじゃないのか?」

 

「いや俺はテメェを呼びに行ったんだろうが!!」

 

何故かちゃっかり先に出撃準備を終わらせている千葉が、コックピットからそう言う。この部隊じゃよくある話なので、他の仲間達からは笑いが出る。

 

『戦隊各位、準備は宜しいですか?』

 

「こちらアンダーテイカー、問題ありません。演習場内に侵入します」

 

四足歩行の特異な戦車達が、演習場の中へと入ってゆく。だが、全部が全部同じ装備ではない。操縦者達の戦闘スタイルに合わせた武装となっている。例えば戦隊長である『アンダーテイカー』こと千葉は基本装備の90mm滑腔砲に、副兵装として高周波ブレードを搭載している。山下なら60mm機関砲、他の者も思い思いの装備で結構バラバラである。

 

『演習のミッションデータを送ります』

 

「.......確認しました、状況開始します」

 

千葉がそう返答したのと同時に、演習場内に的が複数出現する。レーダーでその位置を確認しつつ、まずは長谷川が指示を出し、それを千葉が戦況や流れにあったポイントに誘導して攻撃を開始する。

 

「スノウウィッチ、ポイント214に制圧攻撃を頼む」

 

『わかったわ』

 

「ヴァアヴォルフ、援護頼む」

 

『へいへい』

 

『おいアンダーテイカー!!前に出すぎるな!!!!おい待て!!!!』

 

『ははっ。やっぱりシンは、こういう時ツッコむよね。なら俺も付き合わないとな』

 

桐谷裕翔ことペイルライダーの静止を振り切り、山下の援護を受けつつ千葉が目標に向かって突撃を敢行する。それを見ていた千葉翔麗ことデュラハンが追いかけて、2機で敵陣へと突っ込んで行く。

 

『シンの奴、また無茶してるよ。ラフィングフォックス、援護行けるか?』

 

『行けるよー』

 

『こっちも片付いたし、手伝うぜ!』

 

それを見ていた石谷大弥ことブラックドッグ、藤原瀬音ことラフィングフォックス、山下春渡ことファルケの3人が突っ込んでいった2人を援護する。因みに千葉翔麗が兄、千葉真影が弟である。

 

『あっ!クソッ、死神の奴突っ込んで行きやがった!!私達も行くぞ!!』

 

『キュクロプス、待ちなさい!そのまま右から接近中の敵部隊を叩いてください。正面はアンダーテイカーとデュラハンに任せて大丈夫です』

 

『わかったよ女王陛下!』

 

一見連携も何もあった物じゃない。まるで自分達がやりたいように好き放題暴れている様に見えるが、それは違う。確かにある程度自由気ままに戦っているが、絶妙な線引きで連携を取り合っている。阿吽の呼吸、という表現がベストかもしれない。彼らは彼らなりの意思を全体の共通意思として、それを達するべく1つの生命体の様に群となって蠢いているのだ。

 

「やはり、あの部隊は俺達の部隊にこそ相応しい」

 

この演習の様子を双眼鏡で覗いていたサングラスを掛けた男、というか神谷がそう呟いた。暫くして演習が終わり、機体が格納スペースへと戻ってきた。

 

「おいシン!!千葉真影!!!!」

 

「.......」

 

「無視をするな!!こっちを向け!!!!」

 

「なんだ裕翔」

 

「なんだじゃない!!さっきの演習、貴様は戦隊総隊長!この独立試験隊の副隊長なのだから、もっと規律を遵守しろ!!!!」

 

桐谷とシンは、基本的に仲が悪い。桐谷は真面目、シンはマイペースな奴なので公私共に大体ぶつかる。因みに桐谷と千葉兄弟は親戚に当たる。正確には兄弟の父方の祖父の兄弟の末っ子の孫が、この桐谷に当たる。まあまあ遠い親戚だが、昔から結構な頻度であってるので実質兄弟みたいな物だ。

 

「まあまあ裕翔、その辺で」

 

「レイ!!君も君だ!!!!シンの兄だろ?止めないか!!」

 

「あはは、ついアドレナリンが」

 

微笑ましい3人の喧嘩を、部隊の仲間たちも微笑ましそうに見ている。いつの間にやら指揮官である長谷川も帰ってきていて、喧嘩を止めようか放置しようかで悩んでいるのかオロオロしていた。

そんな中、手をパチパチと叩く音が格納庫と宿舎を結ぶシャッターの方から聞こえてきた。

 

「お前達の戦闘、素晴らしかったぞ」

 

「いやアンタ誰だよ!」

 

赤髪、オッドアイ、高身長、スタイル抜群の口の悪い女が早速ツッコんだ。因みにこの女がキュクロプスこと泊明紫電である。

 

「あんな奴、基地にいたっけ?」

「さぁ?ってか、なんで私服?」

「あのシャツ、DIORのブランド物よ?」

「え、マジ?」

 

「いやまぁ誰って…」

 

土蜘蛛の周りで何か色々話してる連中をスルーしつつ、サングラスを外した。

 

「元帥ですけど?」

 

そこに居たのは、自分達の上官だったのだ。全員、驚いた。ある者は土蜘蛛から転げ落ち、ある者は飲んでいたペットボトルを落としてしまった。

 

「.......あ、あのぉ?」

 

そんな中、代表して長谷川が質問をする。他の者は未だ、驚きから復活していない。

 

「なんだ少佐?」

 

「一体ここには、何をしに来られたのですか?」

 

「君達をスカウトしにきた」

 

「す、スカウトですか?」

 

いきなり現れて、いきなりスカウト言われても、理解が追いつかない。長谷川もどうにか食いつけてる状況で、理解は完全には追いついてない。

 

「そうだ。この部隊の保有する土蜘蛛の有効利用法を考えた時、特殊部隊の様な輸送できる火力が限られてしまう部隊に配置するのが得策だと考えた。

更にこの兵器は出来立てホヤホヤの新機軸の兵器かつ、これまでの機甲戦力と同じ様に運用できる代物でも無い。となれば、俺の直下で動かした方が色々自由も聞くだろ?どうだ少佐、俺の所で好き勝手暴れてみないか?」

 

「いや、でも、それは.......」

 

「今の師団長が許さない、ってか?心配すんな、今から話を付けてきてやる。重要なのは、お前達が俺の元で戦いたいか、戦いたくないかだ」

 

そう問われた時、長谷川の答えは半分決まった様な物だった。あんな師団長の下で戦うよりも、目の前の男の方が遥かに信頼が置けるのは確か。だがらと言って、自分1人の勝手な一存で「はい、良いですよ」とは言えない。仲間達の意見も聞かない事には、答えは出せない。

 

「.......お話は嬉しいですが、これは私の一存では決められません。みんなの意見を」

「その心配は要りません、少佐。こちらの意見は、満場一致で長官の元に行く事になりました」

 

「おお、仕事早いねぇ。少佐、良い部下を持ってるな。さて、では改めて聞こう。長谷川麗奈少佐、君は俺と共に世界で暴れたいか?」

 

「一緒に.......暴れたいです!!」

 

そう答えると、神谷は笑った。豪快に。不敵に。これで残すは師団長の説得だが、それは神谷がやるべき事なので長谷川らは一度、宿舎に戻って貰った。

神谷はその足で、師団長室のある棟へと向かう。

 

「師団長、いるか?」

 

「こ、これはこれは神谷閣下。本日はどう言った御用でしょう?」

 

「君の所にいる、例の新鋭機甲部隊。アレを俺に寄越せ」

 

そう言われても、師団長だって困る。仮にそれで、すぐにヒョイと渡しては面子が立たないのだ。

 

「そういきなり言われても、困りますなぁ。彼らは私の保有する部隊の中で、一番の精鋭。代価を支払って貰いませんとなぁ」

 

「精鋭、ねぇ?」

 

神谷は無言で懐からスマホを取り出して、さっき録音させて貰った音声を再生する。

 

『あんな駄作兵器、さっさと廃棄してしまえば良いのだよ』

 

「ッ!?」

 

「こう言ってるが?」

 

「ぐっ.......喜んで、お渡し致します.......」

 

「理解に感謝する。あぁ、そうだ。これからは発言後の責任も考えて、発言したまえ」

 

まさかあの時の発言が録音されてるとは思ってなかったのか、顔には困惑の表情と焦りが同居していて地味におもしろい。

師団長室を出て、今度は適当な会議室に独立試験隊の面々を集めた。

 

「起立!気を付け!敬礼!!」

 

「あぁ、そんな畏まらなくて良いから。畏まるな、って言っても難しいだろうがな。別にガチガチになって聞かなくていいから。楽にして聞いて欲しい」

 

いつもの事だが、やはり軍のトップである以上、会う軍人達からは毎回畏まられる。だが神谷としては、余りそういうのは得意ではないので、こういう風に言うのが常だ。因みに神谷戦闘団の連中は、もうその辺を知っているので最初と最後だけキチッとして、残りは基本楽にする。

 

「さて諸君、さっきもあったが改めて初めから話そう。神谷浩三だ、これからよろしく頼む。今回ここに来たのは君達をスカウトする為だ。知っての通り、この世界は旧世界程、国際間の道徳というかルールというか、何と言えば良いかな。とにかく、旧世界の常識が通用しない。今は亡きパーパルディア皇国の様な、狂いまくった国家も存在している。

そう言った国々と戦うとなると、我が戦闘団の様な自由度の高い部隊が適任となってくる。そこで現在、部隊の増強を図っていてな。スカウトもその一つ、という訳だ。君達の運用するXMLT1土蜘蛛は、なんだかんだで高機動、高速、軽量の三拍子が揃った兵器になった。普通の機甲戦力として活用してしまえばすぐスクラップだろうが、我々の様な特殊部隊では最も必要とされる戦力だ。という訳で君達を、我が神谷戦闘団、正確にはそれとは別の新部隊として丸々迎えたい」

 

「あの、質問よろしいでしょうか?」

 

「いいぞ少佐。なんだ?」

 

「新部隊、というのはどの様な?」

 

「新部隊とはいうが、実質は今のまんまだ。神谷戦闘団の組織図は、俺を頂点とし、その下に白亜衆を形成する一個ずつの歩兵、装甲歩兵連隊がある。そのもう1つ下に三個歩兵師団、二個重装歩兵師団、二個戦車師団、二個砲兵連隊、三個対戦車ヘリコプター隊、それから専用輸送部隊『トランサー』と護衛戦闘機隊『ラーズグリーズ』からなる神谷戦闘団がある。

君達には新たに作る、土蜘蛛とそのバックアップ部隊だけの新たな独立機甲部隊に入ってもらう」

 

独立試験隊の面々は、この新たな部隊の編成に驚いた。というのも、ここに配属されてる者の大半は戦闘技術は凄まじいが、一癖も二癖もある連中ばかり。簡単に言えば、人事上の流刑地の様な物なのだ。それ故に、彼らは他部隊との共闘というのが余り得意ではない。

しかしこんな風に独立した別部隊という形なら、共闘時もある程度の自由が認められる。こちらの長所と短所を生かす編成をする辺り、やはり目の前の男は信頼に値すると、そう結論づけた。

 

「移動とかその辺の日程はこちらから後程送るが、なるべく早く来てもらう。というのもな.......」

 

ここで少し、神谷は言葉に詰まる。一応ここから先は、今は機密扱いになっている。余り漏らしたくはないが、ここで言ってしまった方が楽でもある。

 

「いや、流石に大人数には言えんな。指揮官階級のみ残り、残りは外してくれ」

 

その結果残ったのは、この10人。

・独立試験隊指揮官 長谷川麗奈(ブラッディレジーナ)

・総戦隊長兼第一戦隊『スピアヘッド』戦隊長 千葉真影(アンダーテイカー)

・第二戦隊『スレッジハマー』戦隊長 千葉翔麗(デュラハン)

・第三戦隊『レザーエッジ』戦隊長 藤原瀬音(ラフィングフォックス)

・第四戦隊『ロングボウ』戦隊長 谷家春香(キルシュブリューデ)

・第五戦隊『ファランクス』戦隊長 早見杏樹(スノウウィッチ)

・第六戦隊『クレイモア』戦隊長 石谷大弥(ブラックドッグ)

・第七戦隊『ブリジンガメン』戦隊長 泊明紫電(キュクロプス)

・第八戦隊『サンダーボルト』戦隊長 上村霧矢(ペイルライダー)

・第九戦隊『ノルトリヒト』戦隊長 本山明夫(ヴァルグス)

 

「さて、じゃあ話すか。まだこれは確定事項でもないし、何なら機密扱いだ。その辺を理解して聞いて欲しい。

現在、統合参謀本部は第二文明圏方面への派兵を計画している。目的はムー西部に集結中とされる、グラ・バルカス帝国軍を殲滅し、ムーを防衛する事だ。これを受けて、我が神谷戦闘団がこの尖兵として投入される事が決定した。これが増強とスカウトの理由だ。

君達は近日中に東京へ本拠地を移動して貰い、然る後に戦闘団へと合流する事になるだろう。何か質問はあるか?」

 

この後、幾つか質問に答えて解散。神谷も飛行機に乗り込んだのだが、その道中、川山から連絡が入った。

 

「あれ、どしたの慎太郎?」

 

『浩三、悪い、ちょっと会議に参加してくれ』

 

川山がこう言ったのには、理由があった。というのも、今川山は日本に居ない。ムーとミリシアルとの調整の為、神聖ミリシアル帝国の帝都ルーンポリスに居るのだ。

 

『例の第二文明圏への派兵について、お前の話が聞きたいそうだ』

 

「それは構わんが、ミリシアル側はなんて言ってるんだ?」

 

『あちらさんは「もし我々に気を遣っているのなら、その必要はない」だそうだ』

 

神谷が派兵を遅らせたのは、ミリシアル側の感情を考慮してのことだった。ポッと出の新人に手柄を総ナメにされて喜ぶ者はいない。多かれ少なかれ、心の内に嫉妬が生まれる物だ。

あくまでムーは同盟国である以上助ける必要はあるが、政治を挟んで少し派兵が遅れても気にはしない。これが皇国の存亡に関わるのなら、問答無用で送り込むが今は政治を気にしても問題はない。そこで派兵は、ミリシアル側の意向を汲むことで3人は合意したのだ。

 

「了解した。それじゃ、相手さんに繋げてくれ」

 

『わかった』

 

パソコンの画面に映し出されたのは2人の人物であった。1人はムー外務省、列強担当課の課長、オーディグス。もう1人は神聖ミリシアル帝国外務省、対グラ・バルカス帝国担当部の部長、エンドルンである。

 

「どうも、初めまして。大日本皇国統合軍、総司令長官の神谷浩三です。今回のお話は我が軍の派兵について、でよろしいですね?」

 

『はい。ムー国北西には、アルーという人口13万4千人の高原の町があります。位置は旧レイフォル領国境から20kmの位置にあり、国境の町といって良いでしょう。旧レイフォル領側にも、小さな町があります。

最近我が国が得た確度の高い情報によりますと、グラ・バルカス帝国陸軍が集結しつつあるようです』

 

流石に「うん、それもう知ってる」とは言えないので、静かに話を聞く。もしかしたら向こうが新たに、何かしらの情報を得ている場合もあるので遮るのはデメリットしか無いのだ。

 

『街にはすでに避難指示を出しており、我が軍も向かいつつあります。しかし、バルチスタ沖海戦において、我が軍はグラ・バルカス帝国に手も足も出なかった。カルトアルパスでは『ラ・カサミ』と『ラ・イーセ』の活躍はありましたが、被害は相当な物でした。

さらにご承知の通り、あの神聖ミリシアル帝国でさえも劣勢に追い込まれ、最後には古の魔法帝国の超兵器、空中戦艦でさえも撃沈されています』

 

オーディグスの言う通り、バルチスタ沖海戦は負けなんて可愛い物では無い大敗北を喫したし、カルトアルパスも皇国の力でテコ入れして勝てたような物。この辺りの現実をしっかり客観的かつ冷静に分析できてる辺り、ムーの本気度が伺える。

 

『我が国では戦う前、グラ・バルカス帝国の真の脅威を主張する者は、技術者等、ほんの一部しかいなかった。多くの軍人、外交官、政治家も、これほどまでに奴らが、奴らが強すぎるなんて、考えてもいなかったのです!!!ある程度は戦えるだろう。神聖ミリシアル帝国までもが参加すれば、第二文明圏から駆逐できるだろう。そう考えていました。今、陸上侵攻の可能性が高まり、現在アルーの民は命の危機にさらされています。

帝国とムーがぶつかり、市街戦となった場合はどれほどの被害が出るのか.......。考えただけでも恐ろしい。彼らの侵攻は、この街にとどまらず、戦火はムー全土に及ぶでしょう。そして、彼らを止める力が我々には無い』

 

『我が神聖ミリシアル帝国もご承知の通り、バルチスタ沖海戦による損害は計り知れない物がありました。現在海軍の再編成を行なっており、第二文明圏方面への援軍は殆ど出せないというのが現状です』

 

エンドルンからは悔しそうな声で、そう言われた。潜水艦が闊歩しているだろう海域を丸裸の輸送船で航行するのは自殺行為だろうし、流石に海軍の援護が無いと戦術的にも面子的にも成り立たない。

 

『グラ・バルカス帝国の脅威を唱えた技術者たちは、口をそろえてこうも言います。

「日本ならば勝てる。大日本皇国に救いを求めるべきだ」と……。

我が国の願いはただ一つ、軍事支援です。グラ・バルカス帝国を第2文明圏から叩きだす事が出来る、効果的な軍事支援が欲しい!!!少しでも........可能な限り早い支援をお願いしたいのです!!

大日本皇国が1日でも早く軍を派遣して下さると、数百、いや、数千の命が救われるでしょう。どうか、どうかお願いしたい!!!!』

 

『私からも強く、お願いしたい!!!!もしも我が国の面子の為に渋っているのなら、それは気にしないで頂いて結構!!!!それよりもどうか、皇国の力で友邦ムーを救っていただきたい!!!!』

 

オーディグスとエンドルンの2人が、揃って頭を下げた。ここまでされて「NO」とは言えないし、元より言うつもりもない。答えは決まっている。

 

「頭をお上げください。色々手続きがありますので今日明日とは言えませんが、必ず援軍を送ります。それに私は今、この派兵に向けて各基地を飛び回っているのですから。それこそ今だって、その帰りですからね。

我が大日本皇国統合軍は既に、そちらへの派兵、ないしレイフォルを筆頭とした第二文明圏全域の解放を視野に入れた部隊の編成に入っております。例えば海軍が保有する八個主力艦隊を全てを統合し、新たに就役した究極超戦艦『日ノ本』を筆頭とした聨合艦隊を編成することであったり、空軍のエース級部隊を集めて集中的に運用する『Long(L) Range(R) Strategic(S) Strike(S) Group(G)計画』を構想していたり、私の指揮する戦闘団の増強を図っています。

恐らくそう遠く無いうちに、私が部隊を率いてそちらに迫りくるグラ・バルカス帝国の軍人どもに死をプレゼントしに行きますよ」

 

『浩三、お前それ』

 

「別に構うかよ。これ位で気休めになるんなら、安いもんだろ」

 

実際、オーディグスとエンドルンは2人とも安心そうな顔になっている。これで良いのだ。

 

「あーっと、もう着陸だ。では、これにて」

 

実質的な参戦の確約が出来た事で、オーディグスもエンドルンも会談に来た時よりも幾分かマシな顔で帰っていた。それを見送ると、川山は迎えの機体に乗り込んでムーへと飛ぶ。今度はそこで、神谷と待ち合わせるのだ。

目的は、グラ・バルカス帝国との戦闘回避を模索する為………なんて、甘ったれた理由は表向き。真の目的は適当に戦力を見せて、時間稼ぎをする事。今回の戦争、皇国も最大限利用する事が決まっている。その1つとして、皇国軍を世界の表舞台のセンターで暴れさせるのだ。だがそんな盛大なショーを催すとなると、準備に時間がかかる。この時間を稼ぐ為に、交渉しに行くのだ。神谷がついていくのは護衛目的で、秘密裏について行くことになっている。

2人はムーからレイフォルへと入り、いつかの捕虜奪還交渉を行った現地行政府へと向かう。

 

 

 

翌日午後 レイフォル現地行政府

「良くいらした、皇国の外交官。確か、川山とか言ったかな?

今、先の海戦が原因で、我が国に降る国が多すぎてね。午前中もひまわり油王国だか、ヒノマワリ王国だかが降った所だ。そういう具合に外務省は多忙を極めていてね、要件は手短に話してもらえると助かる」

 

あの捕虜奪還交渉で舐めた態度を取りまくっていた、確かダラスとか言う奴が、やはりこちらを完全に舐め切った態度で接してくる。

 

「先のバルチスタ沖海戦で、貴国と世界連合が、痛み分けで終わった事は聞いています。貴国は当初、世界会議で全世界に向けて、我が国を含め宣戦布告を行った。しかし痛み分けと言いつつ、全軍の半数以上が吹き飛ばされた。もう世界征服なんて、大それたことを成し遂げるのは無理だと気付いているのではないですか?」

 

流石に川山とて人間なので、ここまで舐められた態度で接せられるとイライラを募る。なので少し挑発して、ダラスに言ってやった。言われたダラスは表情が変わる。

 

「フン!お前たちは海戦の詳細を知らないようだな........。

我が国が苦戦したのは空中戦艦と謎のレーザー魔法のみだ、それも軍部ではすでに対策を考えているぞ。

神聖ミリシアル帝国以外の国は、いくら数が増えようとものの数ではないわ!!!」

 

無論ハッタリだ。空中戦艦を倒したのはあくまで奇跡であり、あんなのそうポンポンできる代物でも無い。レーザー魔法ことプラズマ粒子波動砲だって、皇国にだって正面からぶつかり合って防ぐ術は無いのに、たかが第二次世界大戦程度の技術しかない国家に防げる訳がない。

そんな見えすいた揺さぶりで、三英傑が1人にして特別外交官である川山慎太郎の心は乱れない。

 

「貴国は転移後、軍事技術格差を生かして無敵を誇った。貴国が強く、外交的に決して舐められぬ事は証明出来ているはずだ。

もう良いだろう?貴国の目指すべき所は何なのだ?」

 

「お前らには解るまい.......。すべては帝王グラ・ルークス陛下の御意志のままなのだ。

グラ・ルークス陛下の書にはこうある。

 

いさかいが起こるのは、国家単位で意識が細分化し、それぞれが国益のみに囚われて行動するからであると。

真の平和を望むなら、圧倒的な力で各国家を統治する事が必要である。

 

しかし民度によって同一の支配方法では、国に混乱を与える事例が散見された。そこで土地土地に会う統治方法を認めた上で、圧倒的な力で管理するのだ。

我が国が目指すところ、それは永遠の平和であると断言しよう」

 

戦争を仕掛けてきておいて、平和を目指すという言葉に絶句する川山。だがすぐに現実へと意識を戻し、更に質問する。

 

「しかし、貴国は支配地から富を吸い上げているではないか。これで真の平和が得られると思うのか?」

 

「日本国は、地方自治体から税を吸い上げていないのか?本社が首都にあるという理由から、地方で得た富を首都あるいは国が吸い上げてはいないのか?

日本国も一定の文明レベルにあると聞く。大体の国がそうだが、貴国も過去に内乱を経験し、統治しているのではないのかね。我が国は、それを世界レベルで行おうとしているに過ぎない」

 

確かにダラスの言う通り、日本だって各地方自治体が税金を取っているし、それが最終的に国家の収入となる。だがこんな『搾取』クラスの税金なんて取っていない。

ここでダラスは、今回の本質について聞いてきた。

 

「茶番は良いだろう。日本国が今回来た目的は何だ?我が国を挑発しにきただけでもなかろう」

 

「……我が国の事を、少しでも知ってもらおうと.......。そして.......貴国に多大な死者を出す前に、再考してもらおうかと思ってね」

 

「今、我が国が何を見ようが、何を説明されようが、国家の目指す世界統治の目標は変わらぬ。もちろん、征服範囲には日本も含まれるがな。

弱き国の外交官よ、本来ならば追い返しても良い所だが、この帝国の強さを知り、なおもたてつく貴国に敬意を表して説明を許す」

 

「くっ、ククク。はははっ」

 

思わず笑ってしまう川山。ダラスは「何がおかしい!!!!」と怒鳴り付けてくる。

 

「皇国が弱き国?帝国の強さ?笑わせる。アンタ、外交官やるより芸人でもやった方が良いぜ?もし外務省やめたら、芸人やると良いよ。

さて、それじゃ、始めますかね。最近、俺の良いところ皆無だったしな。これでも一応、三英傑なのに」

 

ダラスと、その隣で今まで黙っていたシエリアの目つきが変わった。やはり2人に取って『三英傑』とは、1つのキーワードらしい。

 

「貴様が三英傑.......だと.......」

 

「あぁ。そういう事なら、改めて自己紹介を。大日本皇国外務省特別外交官にして、大日本皇国第134代内閣総理大臣たる一色健太郎、大日本皇国統合軍総司令長官たる神谷浩三・修羅と共に『三英傑』に名を連ねる者。川山慎太郎です。今更ながら、以後、よろしくお願いします」

 

まさか目の前のただの外交官が、あの神谷浩三・修羅と同じ三英傑とは思わなかったらしい。何方もフリーズして、驚愕の眼差しで川山を見ている。

そんな2人を尻目に、川山はせっせとノートパソコンを操作して紹介映像を見せる準備を進める。グラ・バルカス帝国人の見慣れた映像が見れる機械といえばテレビなのだが、アナログの白黒テレビ、つまり大きい箱、小さい画面、白黒で、画質の悪いテレビなのだ。それに比べて厚さが無いのではないかというほどに薄い。故に最初2人はそれが映像を見せる装置だとは気づかなかった。

 

「これより、大日本皇国についてまとめた簡単な映像を見ていただきます」

 

川山の説明によりシエリアが川山が披露した機械がテレビないし、それに準ずる映像再生装置だと気付く。

 

「そ、それはテレビか?」

 

「いえ、ノートパソコンという機械になります。映像や写真を見る事や、メール、インターネットへの接続、買い物、設計、書類や資料の作成、動画の編集、絵を描く事だって出来ますよ。

 

「電源の規格が会わないのではないか?」

 

「これは電池を内蔵しているので、ご心配無く」

 

「本国から中継するつもりか?大型機械の持ち込みは許可されていないはずだが」

 

「いえ、データの映像を見てもらうだけです。これにデータは入っていますので」

 

そう言いながら、川山はシエリアにUSBメモリを見せた。別に何か特別な物ではなく、普通にその辺の電気屋に売ってるちょっと容量多めのプライベートUSBである。

 

「「!!!」」

 

だが、そうであっても2人に取っては見たこともない装置。驚きを通り越して、絶句していた。映像を流すためにはテレビ局で大掛かりな装置を使い、大きなテープにそれを記録し再生にももちろん大きなサイズの機材を要する。

それが、赤ちゃんの手よりも小さいサイズのカード状の装置に記録され、劇的に薄いテレビが再生機能も備えているなど、グラ・バルカス帝国では考えられない事だった。先述の通り帝国においては未だ白黒テレビで、何なら庶民にはちょっとお高い買い物。その為、VHSビデオテープですら遥か未来の技術である。この反応も仕方がない。特にシエリアは元々理系大学に通っていたので、その凄さをより深く理解した。

一方、同席していたダラスは文系出身の人間であり、この技術格差に気付いていないようであった。

 

『グラ・バルカス帝国のみなさん、これから大日本皇国について、説明をいたします』

 

ナレーションが始まり、映像が流され始めた。見た事が無いほどの美しい、自国のはるか先を行く精細な解像度と色鮮やかな映像。まずは皇国の自然について解説が始まった。春は桜、夏は向日葵、秋は紅葉、冬は雪と四季により変化する色合いを見せる自然、美しかった。

映像は続き神話、日本国の成り立ち、2度に渡る蒙古襲来、戦国時代と、時を追って進む。流石にこの辺の映像は、絵巻や大河ドラマの物を使用している。

やがて、映像はカラー画像から彼らの見慣れた白黒画像となり、70年前の大戦争、つまり大東亜戦争の映像が流れ始めた。

 

「ば、そんなバカな!!!はっ!!」

 

思わず声の漏れるダラス。映像には、グレードアトラスターに酷似した戦艦が写っていた。

アルタイル急降下爆撃機に酷似した機体が、猛烈な対空砲火、正に光の雨とも言える、とてつもない弾幕をかいくぐり、敵の空母に果敢に爆弾を落とす様や、大規模な陸上戦の映像もあった。さらには原爆投下の瞬間、更地となった東京、その下で逃げ惑う国民。中には惨たらしい遺体の写真もあった。

そして最終作戦である、米本土上陸作戦とワシントン強襲。最前線で馬を駆る、若かりし頃の神谷倉吉の姿もある。

終戦後、更地だった東京都は、たったの30年で復活し、約110年後には、帝都ラグナを超えるのではないかと思えるほど、超未来的な発展を遂げる。街には帝国を遥かに上回る量、そして質の高い車が行き交い、鉄道は時速300kmと、比較にならないほどの速さで走る。更には日本列島を縦断するリニアモーターカーもあり、こちらは最大700kmを出す。

映像が終わった時、シエリアは汗でびっしょりと濡れていた。川山は畳みかける。

 

「これはあくまで、皇国の歴史。次は皇国が保有する、統合軍についてお見せ致します。その前に、簡単にどの様な世界に居たのかを映像を見てもらいましょう」

 

まず再生されたのは、6つの旗から始まる映像だった。『これ以上の地獄は無いだろうと信じたかった。されど人類最悪の日はいつも唐突に』という歌詞と共に、白黒の映像が流れる。更に歌詞が進むと『奴らは駆逐すべき敵だ』という歌詞と共に、何故か日本の国旗が他の2国の国旗と共に映し出される。だが2番の歌詞では『奴らは憎悪すべき敵だ』というので、また別の3枚の国旗が映された。1番と2番のサビを見比べてみると、1番で撃破されていた国の兵器が、2番では撃破する側になっている。恐らく、互いの国の立場で描かれているのだろう。

2番の歌詞が終わるとメロディだけが流れ出し、悲惨な戦闘の映像や白黒の映像が流れる。そして最後は時計の針が高速で進むと共に、様々な写真がそれに合わせて螺旋状に映し出されていく。そしてまた歌詞が始まると、映像は一気に綺麗になり、予想だにしない映像が流れてきた。巨大なビルが爆発し謎の旗を振り回す民兵達が、トラックを乗り回す映像が流れたのだ。それが終わると元いた惑星が回転する映像を背景に、さっきの国旗と概ね同じ国旗がまた映されて、破壊された兵器や墓地の映像が『さーさげよ、ささーげよ、しーんぞうをささーげよ。全ての苦難は今、この瞬間のために』という歌詞と共に流れる。最後のサビでは各国の兵器と思われる様々な兵器が映し出されて、最後は各国の軍人達が整列している映像で終わった。たった5分程度だというのに、映像も歌詞も引き込まれる物であった。

因みにこれ、川山が神谷に相談したら、神谷が選んで来たYouTubeのMAD動画である。著作権?バレなきゃ犯罪じゃ無いんですよ。

 

「次は皇国軍の映像ですね」

 

そう言って再生されたのは、今まで以上にスタイリッシュというか、映像の字幕も近未来のSFの様なタッチになっていた。ナレーションも、何故か伝説の傭兵がやってそうな野太い声である。陸、海、空、陸戦隊、特打撃隊の兵器群が登場し、最後の統合軍のシーンではコイツが出て来た。

 

『統合軍は本来、独自の部隊を持たない。あくまで全ての軍事組織を統合した物が、統合軍なのだ。だが唯一、とある部隊を保有している。その部隊こそ『神谷戦闘団』。軍内で唯一の常時編成の戦闘団であり、常に最前線に飛び込む。ついた通り名は『国境なき軍団』。この部隊ある限り、皇国に敗北は無いだろう』

 

「とまあ、そんな具合です。現在、グラ・バルカス帝国軍はムーとの国境の町、アルー西側約30kmの位置に基地を作りつつありますよね?

我々は先ほども出ていた、人工衛星という技術で既に把握をしています。決してアルーに、ムー国に侵攻する事が無いよう、上の方々にしっかりと伝えていただきたい。大日本皇国は同盟国、ムーを守るために、本格的に参戦する準備がある。

重ねて申し上げる。あなた方の技術はすでに、我々が110年前に通過した場所だ。110年もの技術格差がどういったものか、あなた方でも理解して頂けるだろう。帝国がムーへの侵略を開始した時、グラ・バルカス帝国の終わりの始まりとなるだろう」

 

ある程度技術に精通しているシエリアは、絶句する。まだ日本国の全体の規模や国力、継続戦闘能力は解らない。しかし、もしも映像が真実であった場合、少なくともこれまでのように簡単に勝てる相手ではないという事を理解した。

だがダラスはあの映像でバグってしまったのか、笑い転げながら机にあったライトスタンドで川山をぶん殴ろうとした。

 

「この詐欺師めがぁぁぁぉぁ!!!!!」

 

「ダラスよせ!!!!」

 

シエリアが制止したが時既に遅く、もうライトスタンドが頭に当たる寸前だった。だが、川山は堂々とダラスの顔を睨み続け、全く防ぐ様子もない。川山は知っている。この攻撃は当たらない。何故なら…

 

「遅い!!!!」

 

川山の隣には、最強の兵士が居るのだから。頭に当たる前にライトスタンドのスタンド部分と、ライトの部分を切り落としたのだ。

 

「.......はっ!私は何を」

 

「ダラス!!!!この馬鹿者めがッ!!!!外交の使者を殴ろうとする者があるか!!!!!」

 

「そうだぞクソ野郎。全く、野蛮なのはどっちやら」

 

その言葉が聞こえた瞬間、ダラスは壁へと投げ飛ばされた。何が起きたか分からないシエリアとダラス。だが次の瞬間、いきなり空間が剥がれ落ちるようにして、あの男が刀を抜いた状態で立っていたのだ。

 

「お前は.......!!」

 

「神谷浩三・修羅........」

 

「その通り。神谷浩三・修羅、ここに見参ってな。さーて、ダラスとか言ったか?」

 

神谷は刀の切っ先を、ダラスの首へと向ける。少しでも神谷が腕を伸ばせば、そのまま突けてしまう距離だ。

 

「テメェ、俺の友達を殴ろうとしたよな?死ぬ覚悟あるんだろうな?

と、そのまま殺してやりたい所だが、ここは外交の場。流血沙汰は避けよう。俺の任務は護衛だしな」

 

ダラスはヘナヘナと腰を抜かして、そのまま震えて歯もガチガチ鳴らしてみっともない。

 

「.......川山殿。何故、ここにあの神谷浩三・修羅がいるのだ?本当に、護衛か?」

 

「それについてはご安心ください。無論、本来であればこういう風に外交の場に秘密裏に護衛を付けることはありません。しかし我が国は転移以来、旧世界の常識が通じず常に苦労してきました。聞けば貴国も、皇族をレイフォルの属国に殺されたとか。

我々も今は亡きパーパルディア皇国に、自国民を虐殺されています。それも私と、彼の前でね。故にこれは我が国なりの安全策であり、本来なら姿を見せる事なく終わる筈でしたが…」

 

「そこのダラスのせいで、姿を見せたと。.......はぁ、全く。今回の不手際は、こちらの責任。正式に謝罪させてほしい、申し訳なかった」

 

シエリアは素直に、2人に対して頭を下げた。てっきり傲慢に何か言ってくるかと思っていたが、どうやらシエリアはマトモな部類らしい。

 

「ダラスは.......気絶しているな。なら私も、本音を話させて貰おう。私個人としては、貴国は我が国と同等かそれ以上の国家と認識していた。戦争だって本当はしたくない。故に今回、そちらが開示してくれた軍事情報はそのまま上と軍部に届ける。だが、恐らくは意味はないだろう」

 

「というと?」

 

「人を介せば中身が腐っていく、という事だ」

 

「.......あー、そういう事。其方も苦労しますね。ウチの国にもありますよ、そういうの。忖度というか何というか」

 

つまりどういう事かというと、上に上がっていくごとに情報が都合のいい方向に変貌していくと言っているのだ。仮にシエリアがありのままを伝えても、シエリアの上司が自分の上司に伝える時には中身が変貌し、最終的には「なんかちょっと強いかもしれない」位の認識になるかもしれないのだ。

どうやら国どころか世界が違えども、そういう事は万国共通らしい。

 

「外務省って、力弱いのだよ.......。これ、なんでなんだろうか?」

 

「ウチは結構強いですよ。というか基本的に話し合いで平和裏に解決するのが皇国の基本戦略で、戦争は最後の手段ですから。まあ、その主義もこの世界じゃ通用しないらしいですがね」

 

(おいおいおいおい!!何だこの空気!?!?)

 

神谷がこう思うのも仕方がない。場の空気はピリピリした空気から、一気に愚痴の言い合いみたいな方向にシフトしてるのだから。というか横で気絶してたダラスは、なんかまだ気絶してるし。

 

「あのー、そろそろ時間なんっすけど」

 

「え、もうちょい話したたいんだけど」

 

「奇遇だな、私もだ」

 

「え、シエリアさんも?」

 

「この辺に良いカフェがあるのだ、今からそこに…」

 

流石にこれで行く訳がない。これで行ったら単なるバk……

「良いですね」

 

はい、この外交官了承しやがりました。延長コース、確定したのだ。なんか2人して部屋を出て行き、シエリアは「こちらで待つと良い。川山殿はしっかりお返しする」とか言ってるし、川山自身も「一応護身術はお前が仕込んだだろ?何かあったら連絡するわ」とか言いながら、ホイホイついて行きやがった。

 

「.......なんだこれ。あーもー、考えても仕方がねぇ。おーい誰かー!!!!誰かいないか!!!!!」

 

「シエリア様、どうかなさいって、ダラス!?ってかアンタ誰!!!!」

 

「いやもうね、色々話すの面倒だからさ、取り敢えずそこのダラス回収してもらって良い?後、出来れば水をくれ。

あ、俺はここにきた皇国の外交官の護衛だ。怪しい者じゃない」

 

対応してくれたグラ・バルカス帝国の人間も、なんか色々察してくれたのか「アンタも大変なんだな」とか言いながら、水と飴玉までくれた。なんか意外と、グラ・バルカス帝国の人間も良い奴らしい。

1時間程して、本当にお茶してたらしく2人して帰ってきた。

 

「たっだいまー」

 

「オーケー慎太郎、いっぺん死ぬか?お前さぁ、一応曲がりなりにも敵国の外交官とお茶会ってどんな神経したんだよ!!!!!」

 

「どんなって、こんな神経?」

 

「まあまあ、良いではないか」

 

「シエリアさん!!アンタも何で敵国の外交官とお茶したんだよ!!なに、外交はお茶会する事なのか?初耳だぞ俺!!!!

っていうかさぁ、俺ここで1時間くらい待ちぼうけだったからな!?!?その内、ここの職員に同情の眼差しを向けられ始めたんだぞ!?!?なぁ、俺の気持ち分かるか?なぁ!!!!」

 

何か2人してキョトンとした顔してやがるし、多分神谷の言ったことを理解してない。コイツら多分アレだ。天才と書いて、馬鹿と読むタイプの輩だ。

 

「もう、なんか疲れた。帰るぞー」

 

「うぃー。ではシエリアさん、今度は皇国にいらしてください。今度は私が良いカフェをご案内しましょう」

 

「是非お願いしたい。まずは、この戦争を終わらせなくては」

 

「そうですね!お互い頑張りましょう」

 

そう言って2人は固い握手を交わす。どうやら、その辺のブレちゃいけない所はブレてないらしい。

 

「あ、そうだ神谷浩三!」

 

「はぁ、今度はなんだ。皇国に連れてけとか言うなよ?」

 

「いや、それは魅力的なのだが、そうではない。お礼を言わせてくれ。

あの時、捕虜虐殺の現場を襲ってくれて、本当にありがとう。お陰で私は、捕虜を殺さずに済んだ。私は本当は.......」

 

「それ以上言わない方が、アンタの身の為だろ?皆まで言うな。だがまあ、そうだな。もし平和になって皇国に来る事がありゃ、うまい飯屋くらいは教えてやるよ」

 

気付けば、神谷もシエリアにこう言っていた。2人がカフェ行ってきた理由がわかる気がする。恐らくシエリアには、何か人を惹きつける物があるのだ。

神谷と川山は行きと同じようにレイフォルを出て、ムーを経由し皇国へと帰還したのであった。

 

 



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第六十三話アルー侵攻

あの謎外交交渉から早3ヶ月。皇国軍はムーへの援軍派遣の準備は最終段階へと突入していた。この3ヶ月、皇国は官民問わず大量の技術者と資材をムーへと投入。超突貫作業でムーの基地を皇国軍を受け入れられる状態にまで改造したのだ。例えば飛行場ならジェット機が吐き出す炎に耐える耐熱性能の高い特殊なコンクリートへの張り替え作業とか、駐屯地なら一部ではあるがメタルギアを整備できる設備の建設とか、色々である。これに加えて燃料弾薬や修理パーツ等の兵站関連の補給物資の輸送も、民間船をチャーターして行っている。

ムー側もただ黙って、これを見ていた訳では無い。ムーはムーで兵器の大量増産を開始しており、例の新兵器群の量産を急いでいる。尤も本来であれば最前線に送るべきなのだが、頭数が少ないのもあって中央に一点集中で配備されており、戦闘時には即応部隊として出撃する事になっている。こういった軍備増強の他にも、現在進行形でアルーの住民を強制疎開させてもいる。住民達は反対したのだが、無理矢理『戦時特例』という強引な形で疎開させているのだ。

そして今日、ムーの西部に存在するアルーに程近い飛行場と駐屯地が一緒になっているリュウセイ基地に、派遣部隊の先遣隊が着任することになっていたのだ。

 

「…とまあ、本日より政府が要請した援軍として、大日本皇国統合軍の先遣部隊が到着します」

 

そうリュウセイ基地の人間に説明するのは、意外な事にムー随一の技術屋兼神谷の同士(オタク友達)のマイラスである。現在、彼は本来の所属である特別技術開発室*1室長の任を外れて、統合参謀本部に出向し皇国軍と現地のパイプ役を担っているのだ。

 

「大佐殿、質問よろしいでしょうか?」

 

「どうぞ」

 

「私たちが受けている説明では、大日本皇国軍に全面的に協力するように指令を受けています。

ムー国を支援に来てくださる友人に支援を惜しむつもりもなく、命令どおり全力で支援、支持いたします。ですが大日本皇国とは、世界第2位の列強国であるムーが、これほどまでに気を使うほどに力を持っているのでしょうか?」

 

中央にいる部隊は基本的に、例外なく皇国を敵に回した時の恐ろしさというのを知っている。あの地獄の演習で完膚なきまでに叩きのめされたのを見聞きした、もしくは体験しているのだから当然である。だがこういう地方部隊では、眉唾な話という認識がまだ根強いのだ。

 

「正直に言いまして、彼の国はムーどころか神聖ミリシアル帝国すら、太刀打ちできないでしょう。技術、練度、士気、規律。その全てが高い次元で確立されています。

文明圏外国とミリシアル程の差が開いている、と言っても差し支えないでしょう。いえ、或いはそれ以上かも」

 

文明圏外国家と神聖ミリシアル帝国。その軍事技術の差は歴然であり、絶対に超えることが出来ない。戦闘となったら、どう足掻いても文明圏外国で勝つことが出来ないほどの差がある。

それ以上の差であると、軍内で歴代最も優秀とされる技術士官マイラスが断言しているのだ。信憑性はかなり高い。

 

「そんなばかな事があると思うか?」

 

だが新人航空兵は、隣の同僚にそう話しかける。

 

「いや、さすがに盛りすぎだろう。同じ科学技術国家で、空力をつかった航空機にそこまで差が出るとは思えない」

 

「俺も正直あり得ないと思う。参戦してくれるのはありがたいが、ちょっと大日本皇国を神格化しすぎてやしないか?」

 

先輩航空兵も、新人航空兵の意見に同調した。そんな話を他所に、マイラスは話を続ける。

 

「今回の皇国の先遣隊飛来について、西部航空隊の中では友軍を出迎えようといった意見も出ました。

しかし空中においてマリンが遅すぎ、皇国の航空機が失速してしまう可能性が出てくるため私が上申し、中止となりました」

 

ムー国最強のマリン型戦闘機の最高速度をもってしても遅すぎるとは、いったいどういう事か。一同が困惑する中、聞いたことの無い轟音が聞こえた。兵士達は我先に窓へと走り、外を見る。

 

「何だあれは!?!?」

 

「なんて速さだ!!」

 

12機の小型機と、3機の大型機が上空に飛来し順番に滑走路へと降り立っていく。マリンよりも大きい機体でプロペラを持たずに飛行しているが、神聖ミリシアル帝国の天の浮船よりも美しく見える皇国の機体に、ムーの兵士達は唖然とした。

駐機スペースに次々に停まっていく戦闘機達の尾翼には、それぞれの部隊章が描かれていた。一つ目に角と翼の生えた巨人、槍と盾を構えて馬に跨る騎士、青い鷲か何かの猛禽類と思われる鳥、棘付きの首輪をつけて身に巻かれた鎖を噛む赤い犬の4種類の部隊章があった。ただし1機だけ、尾翼にデカデカと3本の爪痕が描かれ、リボルバーを口に咥えた狼が小さく描かれた機体もあった。

 

「トリガー、ご挨拶に行くぞ」

 

「あぁ」

 

「なら、こちらも行ってきた方がいいな。タリズマン、頼んだ」

 

「サイファー、お前も行ってこい」

 

4人の隊長達が代表して、基地の建物に入っていく。彼らこそ皇国空軍が誇る、スーパーエース部隊の隊長達。サイクロプス1、ワイズマン。ストライダー1、トリガー(3本線)。ガルーダ1、タリズマン。ガルム1、サイファー(円卓の鬼神)である。

この他、皇国空軍にはカウント(伯爵)ピクシー(片翼の妖精)メビウス1(リボン付きの死神)黄色の13(イエロー)オメガイレブン(Mr.ベイルアウター)ブレイズ(ラーズグリーズの悪魔)フェニックス(皇国の不死鳥)等々、大量のエースがいる。エース部隊としてはストライダー隊、サイクロプス隊、ガルム隊、ガルーダ隊、メビウス中隊、イエロー中隊、ラーズグリーズ隊、スカーフェイス隊が挙げられる。他にも海軍と特殊戦術打撃隊にも幾つかあったりするが、それはまた登場した時にでも解説しよう。

彼らの到着からさらに数時間後、今度は5機のUH73天神、3機のCH63大鳥、2機のAH32薩摩、1機のOH8風磨が飛来した。どれも機体カラーが通常の黒ではなく、真っ白に塗装された機体である。

 

「福島!隊員を掌握をしてくれ。俺は先に挨拶に行って来る」

 

「了解、小隊長」

 

「あれが司令部庁舎、だな」

 

もう言わなくても分かるであろうが、この先遣隊の正体は白亜衆である。指揮官は柿田聖一大尉。エルフ五等分の花嫁を迎えに行ったりしていた、あの柿田である。

柿田はハンガーでトランプをしていたエース部隊のパイロット達と簡単に挨拶を終えると、中の司令官室を目指す。

 

「失礼します。大日本皇国ムー派遣主力軍、先遣隊、隊長の柿田聖一大尉です。本日からご厄介になります」

 

「お待ちしておりました、柿田大尉。私がこのリュウセイ基地の司令、マックス・パーマー少将です。こちらこそ、よろしくお願いします。それとこちらは…」

 

「あれ、マイラスさん?貴方もこちらに?」

 

「えぇ。お久しぶりです、柿田大尉。今は出向で、皇国軍と現地のパイプ役をやっているんですよ」

 

思わぬ再会に驚きつつ、指令通りに挨拶をこなしていく柿田。パーマーはすぐに、さっきから気になっていた事を質問する。

 

「所で、まさか今回派遣された陸上部隊は白亜衆なのですか?」

 

「えぇ、そうですよ。我々なら恐らくムーでも名が知れ渡ってるでしょうから、広告塔には丁度良いだろうとのことでして。ここに派遣された空軍部隊も、全員エース級部隊です。それも二つ名を持つ者がゴロゴロいる部隊ですよ」

 

思ってたよりも精鋭部隊だった事に、パーマーは驚く。てっきり普通の部隊が来るかと思ってたのだ。事前にもらった書類でも、部隊の規模位しか書かれていなかった。

 

「失礼します!!パーマー少将!!緊急事態です!!!!」

 

「何事だ」

 

「アルーにグラ・バルカス帝国軍が侵攻してきました!!!!」

 

入ってきた下士官の報告に、司令室内に居た3人の時が止まった。だがすぐにパーマーは指示を飛ばす。

 

「直ちに航空隊上げろ!!せめて、疎開中の住民だけでも逃げれる時間を稼ぐんだッ!!!!」

 

「直ちに伝達致します!!」

 

「では少将、私は一度本部へ帰還します。恐らく、奴等は一旦アルーで止まるはず。そこから先、一歩もいれてはなりませんから」

 

「頼むぞ、マイラスくん!」

 

「ハッ!!」

 

パーマーとしてはムー統合軍だけで、この危機を脱そうとしていた。だが、それよりも先に柿田が司令に提案してきたのだ。

 

「司令、そういう事なら我々も力を貸しますよ」

 

「お気持ちはありがたい。ですが、あなた方はゲストだ。ここで死ぬべきでは無いでしょう?どうか待機して頂きたい」

 

「.......我々も見くびられた物ですな。死ぬ?たかが、グ帝の軍勢如きに?寝言は寝てから言わないと、寝言にはなりませんよ司令。

我々の任務は、ムーの国民を守り、グラ・バルカス帝国を第二文明圏から叩き出す事。その為にここに居る。命じれてくだされば、我ら国境なき軍団の真髄をご覧に入れますとも。さぁ、一言命じてください。行ってくれと」

 

「..............分かりました。ですがどうか、偵察機からの情報を精査した上で判断させてください」

 

「了解しました、司令」

 

 

 

1時間前 アルー防衛陣地

「本当に攻めて来るんですかね?」

 

「.......今攻めてきても可笑しくはないぞ。しっかり見張れ」

 

「了解」

 

アルーには新たに防衛用陣地として、全長20kmの塹壕が掘られている。塹壕だけではない。まず地雷原があって、その後方には有刺鉄線やコンクリートブロックなどの戦車走行阻害用の障害物。その後方にはトーチカや機関銃陣地を備える塹壕があって、最後尾には砲撃陣地も完備されている。

歩兵装備もローアルド9、グラン軽機関銃といった最新世代に更新されている。機関銃陣地の物は従来品だが、最新装備に更新した他部隊の余剰品を惜しげもなく流しているので母数自体は大量にある。正に鉄壁の要塞と言えるだろう。

 

「おーい、誰か司令部に伝令に行ってきてくれ。有線電話の調子が悪い」

 

隊長が塹壕内にある簡易な通信所から顔をひょっこり出して、そう言った時だった。目の前の地雷原地帯に無数の砲弾が降り注いだのである。

 

「敵砲弾!!!!」

 

1人の兵士がそう叫んだ。次々に兵士達は銃を手に取り、塹壕内に設置されている待避壕に避難する。

 

「敵さん、地雷を吹っ飛ばしてやがる。その内、こっちに砲撃を飛ばしてくるぞ.......」

 

そんな事を言っていると、本当に塹壕の中にも砲弾が降り注いできた。30分程すると砲撃が止んだので、兵士達は待避壕から出る。そのまま塹壕にライフルを固定して構え、今から来るであろう陸上部隊の迎撃に備える。

 

「.......来た!敵影、12時の方向!!先頭には黒い兵器、恐らく戦車と思われる!!!!」

 

「聞いたな、砲撃に移る!!」

 

さっきの準備砲撃の中、唯一生き残った一四年式十糎加農砲モドキこと、105mmイレール重カノン砲が砲撃準備に入った。

 

「距離、3000。目標、正面。弾種、徹甲榴弾!!!」

 

「照準よーし!」

 

「弾込めよーし!!」

 

「撃て!!!!」

 

放たれた105mm徹甲榴弾は、運良く敵戦車に命中。砲塔が弾け飛んだ。だが返礼代わりに、相手の戦車砲が命中し砲術員諸共、吹き飛ばされる。

 

「弾幕展開!!!とにかく撃ちまくれ!!!!!」

 

隊長の叫びにも命令を受けて、一斉にトーチカと機関銃陣地が火を吹く。塹壕にいる歩兵達も、手持ちのライフルを撃ち始めた。

 

「この弾幕を潜れるものなら、潜ってみろよ!!!!」

 

だが、戦車には通じない。幾らグラ・バルカス帝国の戦車がチハに良く似た戦車とは言えど、腐っても戦車。たかだか重機関銃、それも小銃弾クラスの弾丸を使用する機関銃を弾かなくては話にならない。しかも弾丸の雨は、真正面から受けているのだ。戦車は今も昔も、正面装甲が1番厚い。

 

「全く効いてないだと!?」

 

「装甲に全部弾かれてるんだ!!」

 

戦車の後方に続く歩兵部隊には、一応まあまあの被害は与えられている。だが戦車には全くダメージが与えられておらず、それどころか主砲でトーチカを破壊されており、今やトーチカの数は半数を割っている。

しかもこのタイミングで、信じられない報告が入った。なんと後方の砲撃陣地と、アルー市街は航空機の爆撃に晒されていると言うのだ。

これを受け、アルー防衛司令部からは撤退命令も出た。だがそう言われても、土台無理な話だ。

 

「このまま出て行ったら、背中から狙い撃ちにされるだけだ。ならば!

総員、待避壕へ退避!!敵が接近するのを待つ!!皆、覚悟を決めよ!!!!」

 

隊長が取った戦法は待ち伏せである。待避壕に逃げ込み、一旦付近にまで敵を誘導。1人でも多くの敵兵をここで殺すべく、文字通り死守してアルー市民の避難の時間を稼ぐ。

そう。アルーは冒頭で『強制疎開させている』と書いているが、それはまだ途中なのだ。というかこの強制疎開は昨日始まったばかりで、まだ大多数の住民が取り残されている。その為アルー駅では、疎開用の列車に積めるだけの住民をすし詰めにして1人でも多く送り出せる様に奔走していたのだ。

 

「もっと引きつけるぞ........」

 

段々と戦車のエンジン音と、キャタピラの「キュラキュラキュラキュラ」という音が近づいて来る。その音が完全に上を通り過ぎた時、隊長は合図の爆竹に火を付けた。

 

「掛かれ!!!」

 

「隊長に続け!!!!」

 

隊長がカトラスと拳銃を装備して外に飛び出し、その後ろから銃剣を付けたライフルを装備した歩兵や、スコップやピッケルなんかを装備した軍医などの支援兵達が塹壕に入ってきたグラ・バルカス帝国兵に襲い掛かる。

 

「生きてやがったのか!?」

 

「死ねぇ!!!!」

 

「グボッ!」

 

「チクショ、応戦しろ!!」

 

塹壕は地獄と化した。ムーとグラ・バルカス帝国双方の兵士が入り乱れ、銃撃戦ではなく格闘戦になっていた。第一次世界大戦の塹壕戦をイメージしてもらったら、1番分かりやすいだろう。

だがムーの防衛兵力は1000人に満たないのに対して、グラ・バルカス帝国側がこのアルー侵攻に動員したのは一個師団。その内、ここに押しかけているのは3000人近くにのぼる。この規模の人数差では、どんなに奮闘しても勝てっこない。だがムーの兵士達は善戦し、最終的にこの一連の戦闘においてはムーは防衛兵力1,784名中1,743名戦死、30名行方不明、11名捕虜という犠牲を払うも、グラ・バルカス帝国側はその塹壕戦までで、15,893名中2,683名の戦死者とハウンドII戦車1両損失した。

そんな地獄の戦闘が終結してから約1時間半後、リュウセイ基地から飛び立ったバラクーダMk.IIのムー製造バージョン『バラクダル』は、アルー市街上空に到達した。

 

「こ、これは.......」

 

「酷いですね.......」

 

眼下に広がるのは、正に地獄そのものであった。アルー市街は瓦礫と化し、逃げ遅れた市民は逃げ惑う。あちこちから煙が上がり、恐らく何かしらの大砲と思われるオレンジの光が不気味に一瞬光っている。

 

「すぐに基地に打電します」

 

「頼む。写真撮り終わったら、退散するぞ」

 

この情報は直ちに打電され、司令部はアルーの放棄を決定。航空隊等による支援は取り止めになった。だが、この後入ったSOSで事情が変わる。

 

「司令。避難列車4号より、SOSです」

 

「なんと言ってきている?」

 

「それが『レールが爆破され、グラ・バルカス帝国の車両が迫ってきているかもしれない。このままキールセキ目指し、徒歩で向かうので助けてくれ』と」

 

「位置はわかるか?」

 

パーマーの質問に、通信兵が地図に送られてきた座標の位置に印をつける。印がつけられた場所は、最寄りの街であるキールセキから150km地点。このリュウセイ基地からは、200kmも離れている。

 

「無理だ.......。とてもじゃないが間に合わないぞ」

 

「仮に準備が間に合うとしても、助けた後に護衛しながらキールセキまで撤退.......。そんな絶好のカモを、グラ・バルカス帝国は見逃してくれるのか?」

 

司令室には一気にお通夜ムードが漂う。彼らとて、助けたいのだ。だが物理的に不可能である以上、見捨てる他ない。

だが、それはムーに限った話。大日本皇国なら話は全くの別だ。

 

「パーマー司令、であれば我々にお任せください」

 

「柿田大尉。無理ですよ、こんなの。無謀だ」

 

「確かに其方の兵器では、どうしても合流後に地上をノロノロ護衛しながらキールセキを目指さなければなりません。運良く見つからずに撤退出来るかもしれませんが、まず不可能でしょう。というかそもそも、キールセキまで150kmあるんですよね?軍人の脚で行軍するとしても、1時間で4km程度しか進めない。単純計算で37.5時間、ここに休憩とかを入れるとなると3日は歩き続けなければならない。

おまけに今回は、全く訓練を受けていないアルーの一般市民だ。女子供、老人は移動速度が遅くなる以上、さらに時間が掛かるでしょう。しかし我々の兵器であれば、わざわざ行軍する必要はありません。全員を空路で輸送する事が可能です。人数にもよりますがね」

 

パーマーら、リュウセイ基地の幕僚達は目を丸くして驚いた。そんな事が出来れば、現状の全ての問題点は解決される。

 

「どの程度、輸送できますか?」

 

「大型の輸送ヘリ2機で、大体110名。幼少の子供であれば、もう少し。詰めれば、恐らく120名位いけるでしょう。これで足りなければ、我々が乗っていくヘリに乗せて、我々は現地に残留。避難民輸送後、我々を回収して貰えば良いでしょう」

 

パーマーの考えは、決まった。

 

「柿田大尉。どうか、我が国の国民を救ってください」

 

他の幕僚達も席から立ち上がり、深々と柿田に頭を下げる。断る理由なんて無い。

 

「お任せください。それでは準備に入ります。あ、そうだ。ここって、館内放送とかできます?」

 

「できますよ。通信兵!」

 

「こちらにどうぞ。ちょっと待ってください、設定を変えるので。

あ、どうぞ。行けます!」

 

『こちら、先遣隊隊長の柿田だ。たった今、リュウセイ基地司令のパーマー将官より避難民保護の要請を受けた。これを受け、我々白亜衆はキールセキの北東150km地点にいる、アルー避難民の救出作戦を展開する。各部隊長はハンガーに集合せよ。

また空軍についても、各パイロットと指揮官クラスはハンガーに集合して頂きたい』

 

柿田はマイクを切ると、パーマーに頼んで地図やペンなどの作戦説明に必要な物品一式を準備してもらう。それら物品を抱えて、柿田とパーマーはハンガーに走った。

 

 

 

15分後 ハンガー

「これより作戦を説明する。先程も話した通り、我々の任務はキールセキ北東150km地点にいる、アルーからの避難民を救出する事だ。我々の今いるリュウセイ基地はここ。キールセキがここで、避難民がいると思われるのは恐らく、遭難地点から大体半径5kmだ。避難民は無線機なんて持って無いだろうから、目視による捜索が必要となる。

1時間程前に放送があった様に、既にアルーはグラ・バルカス帝国による攻撃を受けている。我々は戦闘の真っ只中に突っ込む事になるが、ここで空軍の皆さんにご協力頂きたい。我々のヘリでは、幾らレシプロとは言えど戦闘機は普通に脅威です。そこで先んじて航空優勢の確保と、敵戦車がいた際にはこれの撃破。以降は我々の近接航空支援をお願いしたいのです」

 

「そういう事なら、我々の本分だ。是非協力しよう」

 

先遣航空隊の指揮官である、ロングキャスターがそう返事するとパイロット達も「やってやろうぜ」とか「我々がエースと呼ばれてる所以を見せてやろう」とか色々騒ぎ出した。つまり、協力してくれるという事らしい。

 

「皆さん、本当にありがとう。どうかご無事で」

 

パーマー少将がそう言ってくれたので、皇国の精鋭達は敬礼を持って返す。そのまま出撃準備へと入り、程なくしてまずはE787早期警戒管制機、コールサイン『ロングキャスター』が離陸する。それに続いて第123戦術飛行隊のストライダー隊、サイクロプス隊が離陸。その後第366飛行隊『ガルム』、第408飛行隊『ガルーダ』が離陸し、最後に白亜衆のヘリコプターが全機離陸した。

因みにエース級部隊では、航空隊の番号がアラビア数字表記になる。一般部隊は漢数字になる。一桁目が保有機体を表すのは変わらないので、ガルム隊はF8A震電II、ガルーダ隊はA9ストライク心神である。第123戦術飛行隊のみ特殊部隊扱いなので、一桁目は関係ない。保有機体はF9心神である。

 

 

『各機、間も無く作戦エリアだ。まずは避難民を探すぞ。高度を下げ、捜索を開始しろ』

 

『今回の任務はバーガーを口に運ぶ余裕があってよかったな』

 

『いや。今日は寿司を持ってきた』

 

ロングキャスターのこの発言に、全員から怒りの声が上がる。この男、指揮管制時に必ずサンドイッチ、ハンバーガー、パン、ドーナツ、おにぎりの様な手でサクッと食べれる食事を持ってくる。指揮管制自体は常に適切な管制を行い、そのサポート能力は皇国空軍でもトップクラス。だが、この軽い悪癖が珠に瑕なのだ。因みにパーソナルマークも大好きなビッグマック風のバーガーに、日本の国旗を立てた物であったりする。

今回はまさかの寿司を持ってくるという、他のパイロットからしてみればズルいとしか思えない行動に、怒りというより嫉妬に近い文句が噴出する。

 

『おいロングキャスター、ズルいぞ』

 

『そうだそうだ!ズリィなおい。俺達にも用意しろ!』

 

『HAHAHAHA。悪いな、これが最後のパックだ。来る前に6パック入れてたんだがな』

 

『私が買い物に付き合わされた時のパック寿司の正体はそれか.......』

 

どうやらロングキャスター、日本を発つ前にパック寿司を買っていたらしい。しかもその買い物にサイクロプス4のフーシェンは付き合わされてたのだ。

 

『おいフーシェン、そらどういう事だ?』

 

『一昨日の出撃前、偶々町でロングキャスターを見かけて声を掛けたら、飯を給料に買い物に付き合わされたんだ。確かペーヤンのサンドイッチ、各コンビニのレンチンハンバーガーとおにぎり、イオンのパック寿司、ミスドのドーナツ。その他諸々』

 

『どんだけ買い込んでんだよ.......』

 

『ロングキャスター、出来れば我々にも分けて欲しいのだが』

 

『勿論だ。こんな事もあろうかと、大量に買い込んでるからな』

 

ワイズマンのお願いを快諾したロングキャスター。パイロット達からは喜びの声が上がる。

 

『ガルム1より、ストライダー1。123じゃ、これがデフォルトなのか?』

 

『そうだガルム1。これがデフォルトだ』

 

『イーグルアイも中々キャラが中々濃いと思ってたが、どうやらロングキャスターの方が濃いな』

 

エース級部隊には様々な特権が与えられる。先述の部隊ナンバーが漢数字からアラビア数字に変わる事の他にも、二つ名を名乗る事、パーソナルマークやアグレッサー塗装を機体に施す事が許可される。更にトップエース或いはウルトラエース、スーパーエースというエースの中でもトップクラスの実力を持つ部隊は空軍の場合、必ず専門のAWACSが随伴する事が挙げられる。例えば今回で言えば第123戦術飛行隊にはロングキャスター、ガルーダ隊にはゴーストアイ、ガルム隊にはイーグルアイというAWACSが付いてくる。

今回は先遣隊というのもあって、ガルーダ隊とガルム隊は一時的に第123戦術飛行隊隷下に組み込まれてるのでロングキャスターが管制を行う事になってる。一緒に飛来した残り2機の大型機は、空中給油機のKC787である。

 

『おっと全機警戒(コーション)!レーダーに複数の目標を発見した。今、データリンクした。参照してくれ!』

 

レーダー上にロングキャスターから送られてきたレーダー情報が次々に表示されていく。複数の地上目標が何かを取り囲む様に静止しており、周囲には20機ばかしの航空機がいる。

 

『思ってたよりも多いな.......。恐らく、例の避難民が発見されたのだろうな』

 

『シャムロック、その心は?』

 

『簡単さガルーダ1。避難民の規模は数百名規模。それを仮にトラックに乗せるなら、この位は居る。周りのは護衛の装甲車か兵員用の車両だろう。航空機の説明は.......ちょっとつかないが』

 

ガルーダ2ことシャムロックの考えは、実際の所大正解だった。丁度今、避難民はグラ・バルカス帝国の放った避難民狩りの部隊に追いつかれてしまっていたのだ。グラ・バルカス帝国が元居た世界では、こっちの世界で言うところのジュネーブ条約に近い戦時条約があった。このジュネーブ条約が何なのかと言うと、平たく言うなら「軍人であっても捕虜、傷病者、遭難者は傷付けませんよ。一般人も流れ弾とかは別として、占領後に傷付けたりしませんよ」という物。

だがこの世界には、そんな条約なんて存在しない。弱肉強食、略奪上等。占領地の物は占領者の物。女、お宝、その他お気に召す者は占領地の兵士の自由にして良し!の世界。それを受けて第二文明圏侵攻部隊の司令官は、兵士達に「占領後は何しちゃってもいいよ」と言ったのである。その為、兵士達は1人でも多くの女、極一部は男を欲し避難民を1人でも多く捕らえたかったのだ。その毒牙に、最後の避難民は噛み付かれたのである。この一個前に出発していた避難列車には、焼夷弾が落とされており航空機はその帰りなのだ。

 

『今、ムー司令部に確認が取れた。この地域に展開している部隊は存在しない。奴らは敵だ。全て殲滅しろ!各機、ウェポンズフリー!地上部隊の進路を切り開け!!』

 

『サイクロプス隊、行くぞ』

 

『ストライダー隊、続け』

 

『よし、花火の中に突っ込むぞ!』

 

『行こう、ガルーダ1。金色の王の微笑みが共にあらんことを!』

 

皇国空軍のトップクラスのエース達が、グラ・バルカス帝国軍目掛けて突撃を開始する。サイクロプス、ストライダー両隊が制空。ガルム、ガルーダ両隊が地上目標を担当する。

 

『ストライダー隊、エンゲージ』

 

『サイクロプス隊、エンゲージ!』

 

まず敵に食らいついたのは、ストライダー隊とサイクロプス隊である。両隊は散開すると、瞬く間に敵を落としていった。だがその中でも、異常だったのがストライダー1、『3本線』の異名を持つトリガーである。

 

『FOX2。インガンレンジ、ファイア』

 

『おぉ、凄いなトリガー。3機一気に落としたぞ』

 

淡々と敵を落としていくのだが、その速度が異様に速い。他が1機落としてる間に、トリガーは2、3機落としてるのだ。この異常性は、グラ・バルカス帝国のパイロット達もすぐに気付いた。

 

「何だアイツは!」

 

「クソッ、何でこんなにも他のより素早い!同じ機体じゃないのか!?」

 

逃げ惑う機体の内、1機だけ司令部に無線を繋げることが出来た。パイロットはすぐに怒鳴る。

 

「こちらハンター飛行隊!大日本皇国の襲撃を受けた!!」

 

『帰還できるか!?』

 

「無理だ!!化け物がいる!!3本の爪痕!奴は、化けも ガッ」

 

後にグラ・バルカス帝国のパイロット達を震撼させる、エースパイロット達の1人に数えられる3本線。彼の物語の序章は、ここで始まったのである。

一方、地上襲撃に掛かったガルーダ隊とガルム隊も着実にその任務をこなしていた。

 

『敵戦車、ロック。投下』

 

『食らってみやがれ!』

 

正確無比な誘導爆弾と、空対地ミサイルが帝国の戦車やら装甲車に襲い掛かる。更にストライク心神には一式七銃身30mmバルカン砲が2つ搭載されている。ソフトスキンのトラックなんかには、多大なる威力を発揮してくれる。

 

「あの機体、大日本皇国だぞ!」

 

「トラックがやられた!!」

 

「あークッソ!クソッ!!何だよこの様!!カモ狩りのつもりが、一瞬の内にこっちが滅ぼされかけてる!!砂漠のど真ん中で退路もねぇ!!!!」

 

「うるっせぇ!俺に言うなよッ!!」

 

一瞬の内にグラ・バルカス帝国側の劣勢に切り替わった。彼らの地獄はまだ続く。

 

『ロングキャスターより白亜衆。掃除は済んだ。まだ歩兵が残ってるが、避難民もいる為、残りは其方に任せたい』

 

「こちら柿田。感謝する。後は任せてくれ。引き続き、上空警戒と航空支援を頼む」

 

『了解だ。good luck!』

 

そう、ここからは最強の白亜衆の出番なのだ。彼らに待つ運命は名誉ある戦死を遂げるか、何も出来ず殺されるかの二択のみ。捕虜なんて取るつもりはない。

 

「全機、攻撃態勢!そうだ、音楽を流そう!!そうだな、BF4のメインテーマでも流そう!」

 

柿田の提案に、パイロットがすぐに応える。大音量スピーカーに端末を繋ぎ、バトルフィールド4のメインテーマを流し始める。しかもタイミングよく、盛り上がる瞬間に薩摩が攻撃を開始したのだ。

 

「薩摩に食い尽くされる前に行くぞ!続け!!」

 

白亜衆の面々がジェットパックを活用して、地上へと次々に降り立っていく。見た事もない兵器に、見た事もない装備を纏った、見た事もない兵士。そしてこれまでの攻撃の数々。混乱するには充分な要素が起こった。

 

「神谷戦闘団白亜衆、ここに推参!!さぁ、欲に忠実な愚者を滅ぼしてやろう!!!!」

 

「「「「「「っしゃぁ!!!!!」」」」」」

 

柿田を先頭に、白亜衆の面々が走り出し、そのまま射撃を開始する。本来であれば走りながらの射撃なんて、どこに弾が当たるか分からないので牽制目的でしか撃たない。しかも今回は周りに守るべき避難民がいて、地面はただでさえ歩きにくい砂漠。にも関わらず、走りながらの射撃で正確に帝国兵を撃ち抜いていく。

 

「コイツらなんで走りながら当てれるんだ!!」

 

「クソッ!クソッ!クソッ!!発射レートも向こうが上かよ!!!!」

 

「退避ぃ!!退避ぃ!!!!車両の残骸まで退けぇ!!!!」

 

余りの勢いに、帝国兵は未だ炎上中のトラックや装甲車の残骸まで後退。それを遮蔽物に応戦しようとするが、甘い。それ位では白亜衆はおろか、一般兵からも逃げられない。

 

「遮蔽物に隠れようが、上はガラ空きなんだわ!!」

 

ジェットパックを装備している以上、上にも遮蔽物がないと全く障害にならない。寧ろ遮蔽物の周りに密集してくれるので、上から狙えば良い的だ。

 

「空を飛ぶとかアリかよ!!」

 

「撃ちまくれ!!!」

 

「はいはい、当たりませんよっと!」

 

真上から43式小銃の掃射を食らって、バタバタと残る帝国兵は倒れていく。一部は逃げ出してアルーの方に走り出して行く始末。

 

「終わったな。すぐに避難民を乗せるぞ!!」

 

ロングキャスター経由で後方に待機していた大鳥を呼び寄せ、避難民を収容。運が良いことに全員乗れたので、そのままリュウセイ基地目指して飛び立つ。任務は完了、と思っていたのだがロングキャスターから無線が入る。

 

『敵を探知した。3機編隊、方位1-9-5!』

 

『こちらで対応する、行くぞピクシー』

 

『そうだな。そろそろ、ドッグファイトもしたかった所だ』

 

編隊からガルム隊の2機が離れ、目標ポイントへと針路を変える。この3機がやっていた事とは、バイクで逃げていたアルーに住む貴族の娘2人を追いかけ回す事だったのだ。

齢16にしては神がかった操縦で、巧みに執拗な機銃掃射を避け続ける。しかも後ろには幼い妹を乗せて、その機動をやって退けているのだ。オートレーサーの才能があるだろう。だが速度を上げていたせいか、小石に躓きバイクがクラッシュ。幸い下は砂漠の柔らかな砂だったのもあって、ケガはしなかった。その隙を逃すまいと、3機の戦闘機が襲い掛かる。

 

「そうだ!!!」

 

貴族の娘アリアは妹ベロニカを連れ、急降下してくる戦闘機の方向に向かって走る。この手法は戦闘機の機銃掃射を交わすには最適な方法なのだ。機体に向かって走ると、降下角度を深くつけないとならなくなる為、掃射される時間が短くなりパイロットも墜落の恐れが出てくるので降下をやめざるを得なくなるのだ。因みにヘリコプターの場合は、機銃がグリグリ動くしホバリングとかも出来るので、この限りではない。

 

「ま、まだ来るの!!」

 

「お姉ちゃん!怖いよ!!死んじゃうの!?!?」

 

アリアは怖がるベロニカを抱き寄せる。せめてベロニカでも守ろうと、自分を肉壁にするべく背中を戦闘機に向ける。撃たれると思った瞬間、爆発音が響き戦闘機が墜落した。

 

「な、何がおきたの.......」

 

次の瞬間、2人の頭上近くを2機の飛行機が通過した。右の翼が真っ赤に塗装された機体と、両翼が青く塗装された機体である。どちらもプロペラがついてない。

 

『相棒、右は任せる』

 

『なら左をやろう。ブレイク』

 

サイファーは大きく回り込み、左側の敵を正面に捉えて20mm弾を浴びせる。逆にピクシーは右側の敵を背後取って、20mm弾の雨を浴びせる。2機が爆炎に包まれたのは、ほぼ同時だった。

サイファーとピクシーは爆炎を突破すると、腹合わせですれ違う。ZEROの最後でサイファーがピクシーを落とした時の様に。

 

『ロングキャスター、敵は全機落とした。下に民間人2名を確認した』

 

『了解したサイファー。すぐに救助に向かわせる。それまで、現空域にて待機してくれ』

 

程なくして、柿田を乗せた天神が姉妹の元に飛来。近くに着陸して、柿田と副官の福島が姉妹の元に近付く。

 

「やめて!来ないで!!」

 

てっきり襲われると思ったアリアは最後の抵抗と言わんばかりに、砂を引っつかんで投げてくる。ベロニカもそれを真似て、砂を投げてくる。

 

「待って!やめてお願い!前見えない!!」

 

「お嬢ちゃん達、俺達は味方だ!」

 

「みか、た?」

 

「そう味方だ。あ、そうだ。この国旗、わかるかい?」

 

柿田は自身が纏う装甲甲冑の左腕にプリントされた、赤い日の丸を2人に見せる。

 

「赤い丸、大日本皇国?」

 

「うん。俺達は大日本皇国の軍隊だ」

 

「大日本皇国の白い鎧.......。もしかして、神谷戦闘団白亜衆?」

 

「お!よく知ってるね。そうだよ、俺達は大日本皇国統合軍、神谷戦闘団、白亜衆の隊員さ」

 

姉妹の目は一気に希望に満ち溢れた物になった。今や『神谷戦闘団』、『白亜衆』、『神谷浩三・修羅』の3つのワードは世界共通のワードである。あの捕虜虐殺の現場に飛び込み、捕虜を奪還して、悪逆の限りを尽くしてきたグラ・バルカス帝国へ実質的な宣戦布告をする。そんな英雄的部隊だからこそ、世界中の人々にとっての希望なのだ。

流石にアルー市民全員を救う事はできなかったが、それでも避難民167名を救う事ができた。人数が輸送限界より多いのは、大半が子供だったからである。子供だったので、無理矢理乗せる事ができたのだ。

 

 

 

数時間後 ムー近海 上空

「団長、先遣隊より報告です。本日午前、グラ・バルカス帝国軍によるアルー侵攻が発生。この侵攻時に発車した避難列車救助の為、白亜衆と空軍飛行隊を投入。無事、救助に成功したとの事です」

 

「アルーの状況は?」

 

「防衛隊は壊滅。隣接していたドーソン空軍基地も占領され、都市は爆撃と砲撃で瓦礫の山と化し、市民の死傷者も大勢出ています。どうやらムー側は侵攻直前に、ようやく戦時特例による強制疎開を開始したようで相当数の被害が出ています。避難列車も先遣隊が救助した便の前の便だと、客車に焼夷弾が投下されていた、と」

 

その一言で報告を聞いていた神谷と向上は、客車の惨状が脳裏に浮かんだ。人間には大量の脂肪が含まれている。筋肉質だろうが、ガリガリであろうが、脂肪は含まれている。更に衣服という、焼夷弾からすれば燃えやすいものを纏っている。そんなのが大量にある場所に焼夷弾が放り込まれれば、人間なんて一気に燃え上がるだろう。それも叫び声を上げようと呼吸すれば、熱と炎で瞬時に肺、気管支、喉といったいった空気の通り道が一気にダメージを負い、声すら上がらないだろう。

更に言えば焼夷弾の炎は、普通の炎と物が違う。物にもよるので一概には言えないが、基本的に水では消えないか消えにくいのだ。燃え広がる客車を前に、市民も職員も出来ることなんてない。ただ呆然と見るか、勇気を持って炎に飛び込む英雄的行動に移るかだろう。まあ後者は、死体が増えるだけになるのだが。

 

「他に何か情報は?」

 

「まだ不確定の情報ですが、JMIBによれば捕虜や市民の処刑、虐殺、強姦、略奪が起きていると」

 

「そうか、分かった。ありがとう」

 

「失礼しました!」

 

報告に来た士官が敬礼をして、自分の座席へと戻っていく。薄々予想はしていたが、まさか当たるとは思ってなかった所業に頭が痛い。

 

「まあ、こうなったら敵を全部ぶっ潰そう。次狙うとしたら、恐らくキールセキ。確実にアルーは奴らのFOBとなってくるだろう。こうなった以上、奴等を早いとこムーの玄関先から叩き出さないとヤバいぞ」

 

「そうですね。後はそのまま、第二文明圏から締め出せれば万々歳ですが、上手くいってくれるでしょうか」

 

「その辺はまあ、俺たちが頑張るしかないだろうよ」

 

神谷戦闘団の本隊を乗せたAVC1突空の群れは、ムーを目指して飛んでいく。神谷戦闘団だけではない。この他にも戦闘団を編成しており、その他の部隊も含めて続々とムーに集結しているのだ。グラ・バルカス帝国がムーどころか、第二文明圏から叩き出される日も近い。

 

 

 

 

*1
ムーが新たに設置した部署で、簡単に言うと皇国の技術を解析し、それを元にした新兵器の設計開発を行う部署



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第六十四話ニュース12

避難民救出より数時間後 レイフォル 帝国陸軍レイフォル駐留航空団司令部 会議室

「一体どうなっているのだッ!!!!」

 

そう叫びながら台パンする、初老の男。グラ・バルカス帝国陸軍、レイフォル駐留航空団の司令、キングスンである。彼が怒るのも無理はない。避難民を乗せた列車を破壊するべく出した航空隊の第二陣が全機未帰還となり、哨戒飛行に出ていたアンタレス3機も未帰還となったのだ。しかも何が起きたのか、殆ど全く分からないと言うのだからキレもする。

 

「我々としても、全く状況が掴めておりません。辛うじて繋がった無線から報告されたのは、大日本皇国の襲撃を受けている。化け物がいる。奴は3本線の化け物。と言った所でした.......」

 

「何がどうなったのかも、全く分かっていないのか?」

 

「何せ第一陣はこれよりも前に帰還しておりますから、彼等の姿は見ていないのです」

 

士官達がキングスンに報告していると、1人だけ制服の全く違う士官がキングスンに報告し出した。彼は陸軍航空隊ではなく、普通の陸軍の士官なのである。

 

「失礼致します。キングスン司令、我々陸上部隊も追撃隊が全滅しております。ですが、幾らかは無線で報告がありました」

 

「そっちは報告できたのか.......。是非聞かせてくれ!」

 

「はい。追撃隊が接敵した航空部隊は、何機かがアグレッサー塗装が施されていたそうです。恐らくは向こうの精鋭かと思われます。攻撃手段は噴進弾の様な物を使用しており、航空隊は手も足も出ないどころか逃げる事も出来ない様な状況だったそうです」

 

キングスン含めた会議室内の士官の顔は、みるみると驚愕の物へと変わっていく。噴進弾は最近漸く開発された兵器であり、まだ実験段階の最新鋭兵器。だがその実情は誘導兵器ではなく、あくまでハイドラロケットの様に無誘導で弾をばら撒くイメージの攻撃である。大型の爆撃機ならまだしも、ドッグファイトで使う代物ではない。

 

「なんということだ.......。おい、確か追撃隊の航空機は全て爆撃機だったよな?」

 

「ハッ。シリウス24機であります」

 

「爆撃機ではドッグファイトにならん。だが、一応慎重に調べろ」

 

「了解であります!」

 

調べようが何しようが、所詮グラ・バルカス帝国の兵器如きで皇国の兵器には全く歯が立たないのだが、それを知る術は無いのだ。

一方その頃、陸軍の最前線基地バルクルスでは、総司令であるガオグゲルが副官兼第4機甲師団長のボーグからアルー占領に関する報告を受けていた。

 

「ガオグゲル司令、アルーの街は敵国の駐留軍主力を全滅させ、ほぼ掌握しました。ゲリラ的な反抗はあるでしょうが、現時点、任務遂行に影響はありません。また敵ムー国の航空機の性能は、海軍からの資料のとおりの性能であり、帝国航空兵の敵ではありません。敵最新鋭戦闘機の速度は時速にして約380km程度であり、爆撃機であっても高度と最高速度を維持すれば振り切れるでしょう」

 

幾ら自国より弱いとは言えど、相手方のホームグラウンドである敵国本土での戦いには、流石のグラ・バルカス帝国にも懸念はあった。艦載機と陸上機では基本的には性能が異なる。艦載機は陸上で運用される機体に比べ、飛行機本体の強度を船からの発着に耐えれるように強化ないし改修しなければならないため性能が低くなる傾向にある。少なくとも着艦フックや翼の折りたたみ機構は、陸上機にとっては余計な重しである。

しかも相手は、仮にも世界第二位の列強を名乗っている国。もしかすると、ムー国本土では事前の情報よりも強力な機体があるかもしれない。

まだ辺境を落としたのみなので、この懸念が払拭された訳ではないが敵が情報通りの強さを見せた事でガオグゲルは安堵するのだった。

 

「しかしながら、歩兵の被害は予想より大きくなっております。塹壕突破時に、潜んでいた兵士に肉弾戦を仕掛けられ、かなりの数が戦死しました。しかし戦車は1両が大破しましたが、残りは精々が履帯が切れたり、エンジンの不具合で行動不能になっただけですので、今後は攻勢前に徹底的な攻撃を持って塹壕を破壊、もしくは火炎放射器などで焼き払う事で対応いたします」

 

基地司令ガオグゲルは満足そうにうなずいた。これで勝てると思っているらしいが、航空隊の件がまた報告できてない。

 

「ですが、懸念事項が1点あります。避難民の追撃隊が全滅し、航空隊も追撃第二陣が同じく全滅しております。詳細は不明ですが、どうやら大日本皇国が倒したらしく恐らく空軍が調査に乗り出すでしょう」

 

「ここは懸念事項だな。必要とあれば、空軍にも情報を共有せよ」

 

「分かっております。それでは、次の陸上作戦について説明します。アルーの街の東側に、空洞山脈と呼ばれる区域があります。空洞山脈の空洞内部は戦車でも通行可能との報告を受けておりますので、そこを突破し、さらに東側にある街を制圧します。

この空洞山脈東に位置する街は人口22万人です。ムー国陸軍及び増援軍との武力衝突が予想されます。この街はムーの大動脈とも言える南北を結ぶ鉄道のうち、西周りの鉄道拠点でもあります。ここを制圧することで、ムーへの打撃は相当なものとなるでしょう。

作戦の精度を高めるため、航空戦力による制空権の確保が必要です。一番槍は、我が第4機甲師団がいただきます。事前の空爆と、出てきた敵の殲滅は私たちが行いますが、市街戦となると……」

 

「ああ。もちろん市街戦までいくならば、増援部隊を派遣する」

 

「ありがとうございます。敵主力を誘い出すよう、策を練りたいと考えます。平野部での戦いであれば、我が機甲師団に敵はいません。

ムーだろうが、神聖ミリシアル帝国だろうが、蹴散らしてみせましょうぞ」

 

「豪儀だな、たのんだぞ!!ところでボーグ君、アルーはどうだね?」

 

「はっ!!軍団長の指令は、各兵に伝えられ、士気はこの上なく上がりました」

 

前回、グラ・バルカス帝国軍が「占領後は犯そうが奪おうが、何しちゃってもいいよ」という指令を出したという事を書いたのだが、それを出したアホはこのガオグゲルである。

 

「ボーグ君、私も味わってみたいものだよ」

 

「これはこれは。ガオグゲル軍団長、失礼いたしました。今夜3名ほど、ムー国人の手配をおこないます」

 

「ボーグ君、解ってるじゃないか、時にボーグ君、本国の人間には.......解ってると思うけど、極秘だよ」

 

「ははっ!!その辺はわきまえております!!して、どの様な()をご所望で?」

 

「ふむ。そうだな。無論、美女なのは大前提だ。後は、そうだな。全員、胸が大きい物がいい」

 

こんな事を言っているが、ガオグゲルは妻帯者である。だがここには妻の監視は無いのでバレはしないが、是非とも奥さんの目の前で今のを大きな声で言ってもらいたい。

一方のボーグも中々にエグい事を考えていた。ガオグゲルと別れた後、部下に巨乳を3人手配する様に伝えた。その時に、こんな事も指示したのだ。

 

「そうだ。それから老若男女、なんでもいいから人間を集めろ」

 

「は?いえ、それは構わないのですが、若い女ではなく、老若男女問わずでありますか?」

 

「あぁ。それを的に、演習を行う」

 

ボーグは性的にヤらない代わりに、生物学的に殺るタイプなのだ。曰く「的を鉄や材木の塊ではなく、人にする事で、兵士はリアルを感じる。戦闘時の恐れを消し去るのだ!」とか何とか言っていたらしい。それを聞いた部下は、ただただ恐ろしく感じたのだという。

 

 

 

翌日 ムー オタハイト ムームーチャンネル本社ビル

「すみませーん、本日出演予定の神谷ですけど」

 

「神谷浩三様ですね、お待ちしておりました」

 

この日、神谷は神谷戦闘団の面々とは別動し、首都のオタハイトに来ていた。因みに護衛でエルフ五等分の花嫁こと、白亜のワルキューレも付いてきている。

ここに来たのは昼の12:00から始まる、ムーの国民的ニュース番組。『ニュース12』にゲスト出演する為である。

 

「あー、神谷様!どうも、ご足労をおかけしまして。ささっ、どうぞこちらに」

 

今回神谷にオファーしてきた番組プロデューサーが、フロントからの連絡を受けて小走りでやってきた。

 

「台本は移動中に確認しましたが、何か他にやって欲しい事は?」

 

「特には。何かあれば、カンペで指示を出しますので。それでは、こちらの楽屋でお待ちください」

 

楽屋まで案内し終えると、プロデューサーは部屋を出ていった。取り敢えず楽屋の中を色々見てみるが、場所は違えど似た様な物らしい。

 

「楽屋って、私初めて入ったわ.......」

 

「まあ、普通は入る事ないわな。その辺のお菓子とか飲み物は、全部自由にやっていいヤツだから好きにやれ」

 

ムーの文字ではあるが、どうやら紅茶、コーヒー、水がある。お菓子も飴玉、クッキーとかビスケット系の何か、チョコレートなんかがある。しかも昼前なので、弁当まで用意されていた。きっちり人数分ある辺り、しっかりしている。

 

「凄っ、弁当まであるよ」

 

「確かお昼とか夜の収録の時は、こういうのが用意されるって聞いたことがあるわ」

 

「今回は昼から収録だからな。それに態々、人数分用意してくれてるんだ。食べようぜ」

 

こんな感じで用意されてた弁当、と言ってもサンドイッチセット的な物なのだが、それを食べる。そのまま6人でまったりしていると、メイクさんがセットに来てくれたので、そのまま撮影の準備に入る。軽くメイクというか、化粧水とかを塗りこんでもらう位なのだが、そういった事をして貰い、服も制服に着替える。勿論、愛刀も両方に腰に下げてあるし、その上から至極色の皇国剣聖羽織も肩掛けで羽織っている。

 

「それじゃ、行ってくる」

 

5人はこのまま楽屋に待機して貰い、神谷は1人、スタジオの方へと歩く。途中でディレクターと合流しディレクターの先導でスタジオに入ると「ゲストさん入られまーす!」という声が響き、スタッフ達が頭を下げてくれた。無論、こちらも頭を下げる。

 

「おーいチルドちゃんに、ヴィクちゃん!ちょっと来て」

 

プロデューサーがこのニュース12のメインキャスター2人を呼び出し、神谷との簡単な顔合わせが行われる。

 

「こちら、大日本皇国統合軍総司令長官、究極超戦艦『日ノ本』艦長、神谷戦闘団団長の神谷浩三様です。打ち合わせ通り、本日のゲストだからよろしくねー」

 

「神谷です。テレビは久し振りに出ますので、至らない点あるかと思いますが、どうかご容赦ください。本日は宜しくお願いします」

 

「メインキャスターのヴィクトリアムです。こちらこそ、宜しくお願いします」

 

「同じくメインキャスターのフェアチルドです。よろしくお願いしますね」

 

2人のメインキャスターが丁寧に挨拶してくれた。因みにヴィクトリアムが男で、フェアチルドが女である。そして神谷、ここである事に気付いた。

 

「あのー、もしかしてフェアチルドさんって、オターハ百貨店の時に取材に来てませんでした?」

 

「え?確かに居ましたけど.......、あ!あの時の!!」

 

そう。神谷とフェアチルドは、前に会ったことがあるのだ。ムーとの合同演習後にオターハ百貨店で発生した、アトラン民族解放戦線のテロ事件。あの時に最前線のレポーターとして取材していた女性アナウンサーこそ、このフェアチルドであり、その時にフェアチルドに下がる様に警告したのが神谷だったのだ。

 

「そう言えば、チルドちゃんはオターハ百貨店の時に現場に行ってたね。その時に会ってたのか」

 

「はい。それ以来、私、神谷さんの大ファンなんです!握手してください!後、サインも!」

 

「俺アイドルだっけ?」

 

ある意味アイドルよりも知名度あるので、こういう事は毎度のお約束である。サクッとファンサービスをこなし、ついでに記念写真も撮る。その後に神谷のスマホで出演者、及び関係しているスタッフの写真を撮って、それをインスタとTwitterにも投稿。広報活動もしっかりやる。

 

「それでは本番2分前でーす!スタンバイお願いします!!」

 

「それでは神谷さん、お願いしますね」

 

「えぇ、こちらこそ」

 

フェアチルドとヴィクトリアムの2人は、いつものアナウンサー席に座り原稿を机に準備。神谷はスタッフ側で待機して、出番を待つ。

 

「本番5秒前!4、3」

 

ディレクターが2と1は指で数えて、ゼロになるとニュース12のオープニングが流れて、画面がスタジオに切り替わる。

 

「ニュース12のお時間です。本日は新聞各社で報道されている内容を、こちらでも詳しくお伝えしていきます。

世界連合艦隊とグラ・バルカス帝国海軍が衝突したバルチスタ沖大海戦直後の中央歴1643年2月7日、グラ・バルカス帝国艦隊が我が国の首都オタハイトを殲滅するため17隻からなる艦隊を派遣。さらに帝国は同時作戦のため、商業都市マイカルを火の海とせんとするために別働隊の空母機動部隊を派遣していたことが判明しました!!」

 

「今朝の新聞にも一面に載っていましたね。私も朝食を食べながら見ましたが、とても驚きましたよ。どうやって、これら帝国の脅威をムー国は排除したのでしょうか?」

 

「はい。『ラ・カサミ』と『ラ・イーセ』はご存じですね?」

 

基本的にはフェアチルドが質問して、ヴィクトリアムが答えていく形式らしい。台本や事前資料である程度流れは分かっているが、それでも書面とリアルでは感覚が違う。

 

「えぇ。『ラ・カサミ』はムー国の象徴的で最強とも言える艦ですね。大日本皇国で改良を施され、ムーに返還されたとニュースになっていましたね。『ラ・イーセ』は大日本皇国からの技術提供を受けて建造された、新基軸の戦艦ですよね?」

 

「実は、オタハイト防衛には首都防衛艦隊が出撃。『ラ・カサミ改』と『ラ・イーセ』は補給をしていたため、少し遅れて出撃していたんです!!」

 

まあ流石に「お披露目してから出したかったんで、出撃渋ってました!」なんて言えないので、そういう風にしたのだ。

 

「では首都防衛艦隊が、グラ・バルカス帝国による首都攻撃の脅威からオタハイトを救ったのでしょうか?」

 

「いえ、首都防衛艦隊はグラ・バルカス帝国の航空攻撃で壊滅的打撃を受けます。しかしまず『ラ・イーセ』と『ラ・カサミ改』が、戦闘海域に到着するんですね」

 

「ええ、それで?」

  

「『ラ・カサミ改』の対空能力は極めて上がっており、迫り来る帝国航空機をバッタバッタと落とします!!さらに『ラ・イーセ』が首都防衛艦隊の撤退を援護し、『ラ・カサミ改』が敵艦隊に突撃を敢行!!そのまま1対17という、艦隊決戦にもつれ込んだそうです!!!!」

 

「ええぇぇ!?!?」

 

何故だろう、フェアチルドのオーバーリアクションを聞くと「うわぁ、水素の音ぉ!!」が脳内再生されてしまう。

 

「グラ・バルカス帝国の超大型戦艦は、神聖ミリシアル帝国のミスリル級魔導戦艦にも匹敵する強さを持っています!!その超大型戦艦をも含んだ17隻相手に、『ラ・カサミ改』は死闘を繰り広げました」

 

「どうなったんでしょうか!!!」

 

「実は一部現場艦橋の、音声テープを関係筋から我が社の社員が入手いたしました。聞いてみましょう!!」

 

「はい!!」

 

てっきりニュースなんかに良くある、ICレコーダーだけが映し出されて字幕付きの音声が流されるかと思ったが、ヴィクトリアムが懐からテープを出して普通にそれを再生し出した。

 

『敵軽巡、距離25kmまで接近!!敵巡洋艦距離28、まもなく敵の射程に入ります!!』

 

『主砲砲撃戦、目標!前衛の軽巡!!』

『照準良し!』

『撃て!!』

 

『命中!!』

『いい、いいぞ!!』

 

 

『敵さん、いよいよ怒ったようだな』

『敵重巡、右舷と左舷に展開!挟まれました!!』

『怯むな!!近距離対艦ミサイル発射ァ!!!!』

 

『命中!命中!敵艦大炎上しています!!』

『このまま押し切れ!!対艦ミサイル、敵戦艦に照準!!撃てぇ!!!』

 

『て、敵戦艦に命中しました!!すごい!!船体に巨大な破口が出来ています!!!!』

『やはり皇国の兵器は凄まじいですな艦長!』

『そうだな副長!この調子ならきっと』

『後部主砲に命中弾!!火災発生!!』

『ダメージコントロール!消火急げ!!』

 

 

『艦長、不味いですよ。ミサイル系も対艦ミサイルはもうすぐ底が見えてしまいます』

『恐らく、もう少しで『ラ・イーセ』が到達する筈だ。それまでに、少しでも相手にダメージを与えるんだ』

『艦長、やるんですね?今、ここで!』

『あぁ。総員、艦首軸線砲射撃準備!!』

『アイアイ・サー!砲撃回路接続、艦首隔壁、解放!』

『照準線、敵戦艦に固定。いけます!!』

『電磁投射砲、正常に作動中。チャージ完了、いつでも撃てます!!』

『510mm電磁投射砲、発射ァァァァァァ!!!!!』

 

 

「入手出来た音声部分は以上になります」

 

「な、なんて凄まじい.......。私たちが平和な日常を享受している間に、命をかけた男達がいたのですね!!」

 

「ムー国政府関係筋によりますと、この後『ラ・カサミ改』は大日本皇国より付与された新兵器を使用し、敵戦艦及び巡洋艦を含む数隻を撃沈。更に『ラ・イーセ』の砲撃が開始され、その直後に大日本皇国が出した援軍により敵残存艦を拿捕したとの事です。

ムー海軍の被害としては、首都防衛艦隊が壊滅。『ラ・カサミ改』は大破、『ラ・イーセ』も中破し、現在ドックで修理中との事です」

 

「ではマイカルを攻撃していた敵部隊は、どうなったのでしょうか?」

 

「グラ・バルカス帝国艦隊は、マイカル攻撃を本隊としオタハイトよりも大規模な艦隊が差し向けられた模様です。マイカルには『ラ・カサミ改』を護衛してきた大日本皇国の最新鋭戦艦である、究極超戦艦『日ノ本』が付近を航行しており、迎撃行動を開始。こちらはたったの5分程度で敵艦を殲滅し、被害は全く無かったとの事です。詳細は、コマーシャルの後にゲストを交えてお送り致します」

 

ここで一度コマーシャルが入り、スタジオの映像が途切れる。その間に神谷のゲスト席が手早く準備され、そこに神谷も座る。2分程のCMの後、映像はまたスタジオに切り替わる。

 

「ここからはゲストと共に、究極超戦艦『日ノ本』の詳細と、昨日発生したアルー侵攻について見ていきたいと思います。

本日のゲストは大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三元帥です。神谷さん、よろしくお願いしますね」

 

「はい、こちらこそ。よろしくお願いします」

 

「早速ですが、この究極超戦艦『日ノ本』とは、一体どの様な戦艦なのでしょうか?」

 

「そうですねぇ。一言で言い表すのならば『戦艦という艦種の1つの完成形』と言ったところでしょうか。百聞は一見に如かず、とも言いますので、こちらをご覧ください」

 

神谷は手元のスマホを操作し、立体映像をスタジオ内で再生させる。映し出された映像は、勿論『日ノ本』の立体映像である。

 

「これが私が艦長を務める、究極超戦艦『日ノ本』になります。主砲は50口径800mm五連装火薬、電磁投射両用砲9基。副砲には60口径710mm四連装火薬、電磁投射両用砲4基と50口径510mm四連装火薬、電磁投射両用砲20基を採用しております。その他、速射砲と機関砲で船体各所に装備しており、考えられる脅威に対して対応できる様になっています」

 

「電磁投射両用砲というのは?」

 

「本来大砲というのは、砲弾を火薬で加速させて飛ばします。魔法文明であれば魔法ですが、火薬か魔法かの違いで根本的な仕組みは同じです。電磁投射砲とは、この加速部分を電磁力の原理を用いる砲です。本艦含め皇国海軍の戦艦と要塞空母は、火薬式でも電磁投射式でも状況に応じて変更できる様になっていますので、火薬、電磁投射両用砲と呼ばれているのです。因みにどんな感じかと言いますと、こんな感じ」

 

『日ノ本』の映像を『熱田』で行われた710mm四連装火薬、電磁投射両用砲の発射試験の映像に切り替える。砲身が4つに別れ、砲身内に無数の小さな稲光が走り、「バシュン!!」という音共に砲弾が発射される映像だ。ムーの人々からしてみれば、SFの世界そのものである。

 

「この他、『日ノ本』にはミサイル、こちら流に言うなれば誘導魔光弾を装備しています。更に第六世代ジェット戦闘機に分類されるF8CZ震電IIタイプ・(きわみ)、TLSと呼ばれる光学レーザー兵器、そしてAPSと呼ばれるシールド発生装置も装備しています」

 

「誘導魔光弾と申されますと、あの誘導魔光弾ですか?ラヴァナール帝国が保有していたとされる、伝説の.......」

 

フェアチルドが恐る恐る聞いてくる。やはりこの世界に於いては、ムーと言えど誘導魔光弾(ミサイル)は伝説なのだ。

 

「そうらしいですね。しかし我々がいた世界では誘導魔光弾、ミサイルは別に珍しい兵器ではなく、寧ろ最もポピュラーな兵器の1つです。戦艦1隻を余裕で沈める物もあれば、航空機を追いかけ回してほぼ確実に撃墜してくれる物、果ては国1つを一撃で破壊せしめる物まで。種類や性能を全て語っていたら番組の時間が終わってしまうので多くは語りませんが、『日ノ本』には10,000発以上の各種ミサイル兵器が搭載されています。航空機に搭載する物も入れたら、それ以上です」

 

「ここまででも凄まじい兵器で、我々も明確にイメージしきれない程の力を持つ『日ノ本』ですが、他の戦艦と決定的に違う物があると聞きました。それについて、教えて頂きますか?」

 

「勿論です。本艦最大の魅力は万能性と、類稀なる指揮能力です。本艦は凡ゆる戦場の局面に柔軟に対応できる様に、様々な設備を装備しております。砲撃、雷撃、航空攻撃、ミサイル攻撃、対空、対潜は勿論の事、強襲揚陸艦としても使用できます。本艦は広大なウェルドックを有しており、ここに上陸用舟艇や水陸両用車を積載。各火器で地上を攻撃しつつ、上陸部隊を展開。なんて事も出来てしまうのです。

そして指揮能力についてですが、これこそが本艦のルーツなのです。元々『日ノ本』は聨合艦隊構想と呼ばれる、大日本皇国が保有する全八個の主力艦隊を一個の艦隊として運用する計画に基づいて建造されました。一個主力艦隊で237隻という途方もない数になりますので、これを八個となると統括して指揮するのは物理的に不可能です。そこで専用の指揮システムを開発し、これを搭載。このシステムの導入により艦隊はおろか、陸上の末端の歩兵1人に至るまで統括管理出来るようになっているのです」

 

ヴィクトリアムが了解チラリとプロデューサーを見る。プロデューサーからは「次のコーナーに行って」という合図が来たので、次のコーナーであるアルー侵攻の解説に移る。

 

「神谷さん、ありがとうございます。それでは次のアルー侵攻について、神谷さんの見解をお聞きしたいと思います。本日未明の戦局報道で判明しましたが、昨日、グラ・バルカス帝国が国境の街であるアルーへ侵攻。守備隊は全滅し、アルーは陥落致しました。

さて、神谷さん。今回アルーが陥落してしまったのですが、これには何か特別な原因があるのでしょうか?」

 

「はい。これはですね、単純明快です。ズバリ、軍の経験と練度が足りないだけです」

 

「と言いますと?」

 

「別にこれは「ムーは弱い!」という訳ではありません。そもそもグラ・バルカス帝国には、ムー統括軍が保有してない『戦車』と呼ばれる兵器があります。この戦車という兵器は、まあ厄介な代物です。歩兵が持つライフルや機関銃どころか、大口径の大砲でないと破壊できない装甲に、装甲車を真正面から撃ち抜く大砲を持った兵器です。

兵器というのは基本的にイタチごっこ。何かが生まれれば、それを打ち倒したり防ぐ為の兵器が生まれ、今度はその兵器が通用しないような改良を施したり新たな兵器を生み出す。例えば昔は石や棍棒で戦っていましたが、その内剣などの武器に進化しました。これを防ぐ為に盾や鎧が開発され、これを貫く為に剣を鋭利な物にしたり槍を作ったりと、何かを超えるために兵器は生まれてきます。

しかし今回はいきなり知らない兵器が出て来ましたから、そりゃ何も出来ませんよ。一応やろうと思えば、手榴弾とか火炎瓶でも戦車は行動不能に出来るっちゃ出来るんですよ。しかしこれは危険が伴いますし、闇雲にポンポン投げ付けてもラッキーパンチはあるかもしれませんが、弱点を付けなくては意味がありません」

 

本当はムーにも戦車とか対戦車兵器はあるにはあるし、何なら普通に高性能の物が量産されている。だが前回書いた通り、量産が追いついておらず前線に配備できてないのだ。神谷だってそれを知っているが、敢えてここでは語らない。

 

「あのー、私としては皇国にも戦車があるのか気になるのですが.......」

 

「勿論!戦車は我々が居た世界では、大体130年前に生まれました。当時、第一次世界大戦と呼ばれる戦争がありまして、戦車は塹壕を突破し奥に機関銃と歩兵を送り込む為の兵器として生まれ、戦争や技術革新を経て進化しました。

現状、皇国では5種類の戦車を運用しており、そのどれもがグラ・バルカス帝国の物よりも強力です」

 

「具体的には、どの様に強力なのでしょうか?」

 

「全てです。装甲、武装、速度は勿論、使用する戦術に至るまで。例えグラ・バルカス帝国の戦車がゼロ距離で射撃したとしても、装甲を貫通する事は出来ません。その位強いのです」

 

ヴィクトリアムもフェアチルドも驚いた顔をしているが、内心では本当かと疑っていた。それはテレビの前にいるお茶の間の皆さんも同じである。それを神谷も分かっているので、しっかりパフォーマンスしてアピールする。

 

「と言っても、皆さん信じられないでしょう。しかしこれは事実です。

今から遡る事、約110年前。我が国がまだ皇国ではなく、帝国だった頃。大東亜戦争と呼ばれる大戦争が起きました。当時、皇国は国力が100倍もある国、そうですね。簡単に言えば神聖ミリシアル帝国に対して喧嘩を売ったのです。

その国はアメリカというのですが、アメリカには逆立ちしても勝てなかった。実際、年が進むにつれて本土は焼き尽くされました。東京だって大空襲に遭って、一面焼け野原。国土は破壊し尽くされ、それはそれは悲惨でした。しかし何だかんだでアメリカの西海岸を占領し、首都のワシントンすらも手中に抑えました。その時に使っていた兵器というのが、どういう訳かグラ・バルカス帝国の兵器と瓜二つなのです。110年もの差が、何を意味するのか。それは技術者や軍人でなくても、わかる事でしょう?」

 

最後に神谷は立体映像で、当時の映像を見せた。そこに映る兵器群は、グラ・バルカス帝国の兵器と瓜二つである。大和型も映っているので、兵器の事をよく分からなくても分かるだろう。

 

「さて、そろそろ、終了のお時間です。終始驚きっぱなしでしたが、どうでしたかフェアチルドさん?」

 

「そうですねぇ。驚きの連続でしたが、とても有意義でした。それに貴重な記録映像も素晴らしかったです。何だか最後の馬に乗っている軍人さんが、神谷さんに少し似ていたのが面白かったですね」

 

「あー、あれ、私のヒイヒイ爺さんですよ。神谷倉吉。先代の修羅です」

 

「え!?そうなんですか!?!?」

 

「私の一族自体、結構長い歴史がありましてね。日本という国が誕生した時とか、その辺りから続く家系です。修羅というのはヒイヒイ爺さん曰く、神谷家の中でも特に武勇に優れる者は分家のような扱いを受けていたらしくて、正確には戸籍としてではなく一種の称号らしいです。この刀も修羅を名乗る物が所有する、由緒正しい刀です。知り合いの鑑定家に幾らになるか聞いてみたら、「こんなの値段付けられるか!!国宝より価値あるぞ!!」と一目見ただけで怒鳴られたので、結構凄い代物ですよ」

 

最後の最後で爆弾をぶっ込み、ある意味の不完全燃焼で番組はエンディングを迎えた。本来なら「それでは、また次回」とか言いながら頭を下げるのだが、フェアチルドもヴィクトリアムもフリーズして頭を下げる事なくエンディングを迎えてしまったのだ。

この放送はムー中で大反響を呼んだのだが、もう1つ意外な所でも大反響を呼んでいた。グラ・バルカス帝国の支配地域、レイフォルである。レイフォルでは普通にムーの電波をキャッチできるので、レイフォルにいるグラ・バルカス帝国の人間にとってテレビやラジオは娯楽の1つなのだ。たまたま、シエリアとダラスは昼ごはんを食べながらこの放送を見ていたのだが…

 

『…… 中央歴1643年2月7日、グラ・バルカス帝国艦隊が我が国の首都オタハイトを殲滅するため17隻からなる艦隊を派遣。さらに帝国は同時作戦のため、商業都市マイカルを火の海とせんとするために別働隊の空母機動部隊を派遣していたことが判明しました!!』

 

「ブホォッ!!」

 

「き、汚いぞダラス!!」

 

「ず、ずびばぜん」

 

ダラスはコーヒーを吹き出した。というのもオタハイトとマイカルの攻撃を提案したのは、何を隠そうこのダラスなのだ。少し前、ダラスが本国の外務省に戻った事があった。その時に偶然にも外務大臣がお忍びで食堂に来ていて、そのまま一緒に食事をした時にこの案を語ったのだ。勿論「こんな事やりゃ世界も驚くでしょうねぇ」という感じの雑談程度だったので、まさか採用されてるとは思わなかったのだ。

 

『……本日のゲストは大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三元帥です。神谷さん、よろしくお願いしますね』

 

「神谷浩三・修羅!?!?」

 

「まさかムーで指揮を取るのか?」

 

「おい、すぐに大佐に報告に行くぞ!!」

 

そしてまさかの神谷登場に、他の職員や軍人達も大慌てである。現在のグラ・バルカス帝国、正確にはその最前線の現場である外交官や軍人達にとって、神谷浩三・修羅と神谷戦闘団は疫病神そのもの。そこに存在するだけで災厄を振り撒き、仕事や被害を際限なく増やす悪魔(デーモン)なのだ。

 

「これは、荒れるな.......」

 

シエリアの脳裏には、この後起きる惨状が鮮明に浮かんだ。恐らく侵攻軍は壊滅的被害を受け、遠く無い内にここも奪還に来るだろう。まだ一度しか会ってないが、纏っていた雰囲気が常人とは掛け離れた化け物だったのは記憶に色濃く残っている。シエリアはすぐに本国に問い合わせるべく、執務室へと戻ったのであった。

 

 

「お疲れ様」

 

「おう。ミーナがスタジオの外で張ってたとなると、何か動きがあったな?」

 

「流石ね。FOB1(バルクス基地)で動きあり、だそうよ。まだ今日明日に動く訳じゃないけれど、近日中に攻勢を仕掛けてくるだろうって」

 

「そうか。まあ、あっちも短期決戦で決めたいんだろ。お楽しみもあるだろうしな。さーて、そしたら手ぐすね引いて待っていてやろうか。部隊の状況は?」

 

「戦闘団第一陣は予定通り、アイアンレックス2号で順調に輸送されてるわ。第二、第三陣も順調ね。今日中にはリュウセイ基地に到着するはずよ。航空隊については、さっき着いたって連絡があったわ。

それから村今戦闘団、下山戦闘団、栗森戦闘団も間も無く展開が完了するわ」

 

その報告を聞くと、神谷はニヤリと笑い刀に手を置いてミーナに命じた。

 

「ミーナ、ワルキューレを集めヘリを呼べ。最前線に殴り込もう」

 

「そう来ると思って、全部手配済みよ」

 

「はは。相変わらず準備がいい事で。それじゃ、行くか!!」

 

神谷はテレビ局を後にし、装甲列車アイアンレックスの元へと向かう。これ以降、第二文明圏は戦火に彩られる事になるのだ。

 

 

 

 



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第六十五話バルーン平野迎撃戦

その日の夜 キールセキ 酒場

「おい、聞いたか?アルーの街はグラ・バルカス帝国の手に落ちたらしいぞ」

 

「あぁ。住民は兵士によって大変な目にあってるって話だそうだ。具体的に話すと、胸くそ悪くなるので言いたくねぇがな。飲まなきゃやってられねぇよ」

 

「もしも次に奴らが狙うなら、一番近くて、鉄道の重要拠点であるこのキールセキを狙うんじゃねえか?」

 

「そうだろうが、ムー国軍も、世界第二位って列強としての意地があるだろ?西部方面隊主力基地も近くにあるし、さすがにアルーとは防御力が違い過ぎる。このキールセキが落ちる事はねぇよ」

 

圧倒的で絶望的な力差があるグラ・バルカス帝国、奴らが目と鼻の先とも言える場所にいることを、誰もが不安に思っていた。酔っぱらい達は不安を取り払うかのように、強がりながら話す。

 

「違えねぇ」

 

「お前たちは何も解っていないな!!!」

 

不意に酒場に響き渡る大きな声、フードをかぶった1人の男が、酔っ払いどもの話を遮るように話はじめる。フードの横からは、尖った耳が出ており、おそらくはエルフ族の者と思われた。

 

「お前たちは、グラ・バルカス帝国の恐ろしさを何も解ってはいない!!!」

 

男の手は震え、手に持つコップからは酒がこぼれる。否応がな、酒場の者達は、その男に釘付けになった。

 

「俺は.......俺は、イルネティア王国海軍に所属していた事がある!!」

 

イルネティア王国とはムー大陸西部、約500kmに位置するパガンダ島北部に位置する文明圏外国家で、西方世界との交易拠点として栄えた平和な国家である。だが先進11ヶ国会議の開催よりも前にグラ・バルカス帝国の侵攻を受け、現在は植民地支配を受けている。

 

「帝国は、明らかに宣戦布告ととれる挑発活動を行った。イルネティア王はこれに激怒し、帝国外交官が帰る際、移動に使用した戦艦『グレードアトラスター』に乗り込んだ瞬間を狙って攻撃を開始した。砲撃は正確に着弾し、敵艦は爆煙に包まれたよ.......」

 

今まで伝説級の強さを誇ってきた恐怖の対象、超戦艦『グレードアトラスター』に文明圏外国家が、砲撃を着弾させていたという事実に場はざわつく。

 

「至近距離の射撃だったので、当たった。我が国は第二文明圏列強、レイフォルと同じように、着弾したら爆発するタイプの砲弾を使用した。

さらに魔法砲撃術のリミッターを解除することにより、砲身の寿命と引き替えに砲撃の威力を上げるといった我が国の秘術までもを使用し、グレードアトラスターに攻撃を続けた.......。しかしな.......奴は、奴は!化け物だ!!」

 

話しながら、恐怖を思い出しているのであろう.......語りだす男はの額からは冷や汗が流れ、手は震え始める。

 

「当たった.......。確かに当たったんだ!!我が国最強の技術と、我が国最強の砲撃が!!

でも.......でも奴らは、何も無かったかのように.......何も無かったかのように、我が艦隊を砲撃したんだ!!しかも1発で、魔導戦列艦が爆散するほどの威力で!!

とてつもなく重い1発。たったの1射で、魔導戦列艦が、粉々に粉砕されるんだぞ!!あんな攻撃見たことが無かった.......。俺は、古の魔法帝国の空中戦艦が、グレードアトラスターに落とされたと聞いて、不思議には思わなかった」

 

場が静まり返る。実際にグラ・バルカス帝国と戦った男の話は、とても生々しく自分達もそこにいたかの様に感じられた。だがその恐怖を認識しない為なのか、酔っ払いが口を開く。

 

「ま.......まあ、お前さんが、大変な思いをしてきた事は良くわかったしかし、このキールセキは、ムーにとっても絶対に落としたくない戦略的拠点だから、簡単には落ちねぇよ。ほら、知ってるか?ええと、何だったかな.......。大に、そうそう、大日本皇国もムーを救うために参戦するらしいぞ。なんとかなるって!!」

 

「認識が甘いと言っているのだ!!奴らの次元は、私の知る戦闘の次元を遙かに超えた位置にいる!!陸軍だってとてつもなく強い!!奴らの陸軍で使用された戦車という名の超兵器も、私は見たのだ!!鋼鉄の車に、高威力の魔導砲が取り付けてあり、我が方の魔導砲が直撃してもびくともしない。しかも、かなりの高速で動くのだ!!」

 

「まあまあ、お客さん、そう熱くなりなさんなって、お!?みてくださいよ、援軍が汽車で到着したみたいですよ」

 

酒場の横の線路を、ゆっくりと機関車が通り過ぎる。だが、そのシルエットはいつも見る機関車とは違う。一度も見た事がない。一瞬、首都方面にしか走ってない物かとも思ったが、明らかに大きさが違う。普通の機関車の2倍はある。他の酔っ払いも気付いたのか、扉を開けて外を見てみる。

 

「お、おいアレ!!なんだあの列車!!!!」

 

そこにいたのは、蒸気機関車なのは間違いない。だが全長が40mはるし、後ろの客車や貨車も明らかに戦闘用の車両もある。あんなのは見た事がない。

 

「で、デケェ!!」

 

「あんな列車、ムーは持ってたのか?」

 

「いや!!あんな車両、見た事がないぞ!!!!」

 

客の中に偶々、キールセキの鉄道管理局で働いてる奴が居たのだが、ソイツがそう叫んだ。その時、脳裏に昼休みに同僚から聞いた話を思い出した。

 

『そういや今日の夜、ここを大日本皇国軍の列車が通過するらしいぞ』

 

そう。目の前の蒸気機関車はムーの保有する物ではない。開発陣がふざけて銀河鉄道物語のビッグワンに似せて作った、蒸気機関車の見た目をした電気式ディーゼル機関車。装甲列車『アイアンレックス』である。

 

「お、おいアンタ!アンタの言う例の『戦車』とか言うのは、ひょっとしてアレか?」

 

客の1人がそう聞いた。現在アイアンレックスには客車の他、戦車を載せてる貨車や砲塔車両、対空戦用の車両も連結されている。このまま敵地に突っ込んで戦える装備なのだ。

 

「そ、そうだ間違いない!!だが…」

 

「だが?」

 

「あの戦車の方が強そうに見える。なんというか、こっちの方が大きい気がする」

 

実際強い。何せグラ・バルカス帝国の戦車はチハタンで、こちらは46式を筆頭に化け物揃い。なんならメタルギアなんかもいる。これで勝てと言う方がもっと無理だろう。

アイアンレックスはこの酒場のもう少し先にある、ムー陸軍キールセキ駐屯地に隣接している操車場まで前進し停車した。

 

「よくぞおいでくださった、神谷元帥殿。私は司令のホクゴウといいます。大日本皇国陸軍を我がムー国陸軍は歓迎いたします」

 

「痛み入ります。早速ですが、すぐにでも作戦会議を開きたい。準備をお願いします」

 

「分かりました。では元帥殿と.......後ろの方々はどうなさいます?」

 

「1人だけで大丈夫です。向上、来い。ワルキューレ、隊を宿舎に誘導しろ」

 

ここでワルキューレ達とは別れ、神谷と向上は作戦会議に向かった。のだが…

 

「何故です!!我々との共闘ができぬとは、我らへの侮辱ですぞ!!!!」

 

ホクゴウがキレた。というのも神谷と向上が安定の理由により「こっちで迎撃するんで、そっちはキールセキ守ってください」と言ったのだが、ホクゴウは面子の問題で、どうにかして何が何でも共同戦線を貼りたいらしい。その辺りの話をしている内に、これである。

 

「侮辱も何も、現実問題として不可能なんですよ」

 

「我が部隊の練度は充分、士気は旺盛!これの何が問題なのです!?!?」

 

向上が言葉に詰まるが、そうなれば神谷の出番である。こういう時の対処法もしっかり準備済み、というか多分こうなるだろうと勝手に思っていた。

 

「ホクゴウ司令。質問しますが、仮にこの世界中の軍隊の中で1番の練度と指揮を持った軍が、第三文明圏外の国家だったとしましょうか。その国が神聖ミリシアル帝国と共闘できると思いますか?」

 

「それは不可能でしょう!装備が違いすぎます」

 

「その通り。我々からしてみれば、それと同じなんですよ。我々の戦争の仕方は、其方とは次元が違う。例え1人でドラゴンを倒せる奴が大量にいようと、国の為なら命を捨てれる心持ちだろうと、こればかりはどうしようも出来ない」

 

だがホクゴウは尚も食い下がり「演習でどうにかなるでしょう?」と言ってきた。確かに演習でどうにかはなる。所詮は機械なので使い方さえ覚えてしまえば、極論だが猿でも操れる。だが皇国と肩を並べるとなると、年単位の時間が掛かる。これでは学んでる間にキールセキどころか、ムーという国家が亡国化して地図から消えてしまう。

 

「生憎と1日2日の一夜漬けじゃ、まず無理ですよ。確かに演習や研修で使える様にはなりますが、それに掛かる時間は物にもよりますが全部をそこまで引き上げるとなると年単位の時間が掛かります。何せ10教えるのに1からスタートではなく、事前知識を叩き込む所からのスタートですから実質100教えなくてはならない。

勿論、貸与した所で使いこなせる訳がありません。すぐに単なる置き物か、良くて鈍器でしょう。兎に角、我々が敵を潰します。ですのでそちらは、キールセキを守ってください。最後の砦が他の国じゃ、流石にカッコつかんでしょ。やっぱりそこは、自国の軍隊じゃいと」

 

「.......そういう事なら、従いましょう。ですがそれは、そちらの作戦を聞いてから判断させて頂きたい」

 

「良いでしょう。向上、説明して差し上げろ」

 

向上は素早く準備を整え、作戦を説明する。と言っても電気消して、立体映像に作戦地域の地図を投影するだけだが。勿論、ホクゴウからは驚かれた。

 

「我々がいるキールセキはここ。そして侵攻軍の主力が配備されているのは、恐らくこのFOB1。攻撃時にはFOB3と4、更に後方にあるレイフォルからの航空隊も予測されます」

 

因みにこのFOB1やFOB4というのは略称でFOB1はバルクルス基地、FOB2はバルクルスの後方にある物流拠点のウィザスター基地、FOB3はバルクルス基地とレイフォルの中間にあるメーバックス航空基地、FOB4はアルー近くにあるドーソン空軍基地である。

 

「侵攻ルートは幾つか予測されますが、どの様なルートを取っても確実にこの空洞山脈を突破する事になります。空洞山脈はご承知の通りスポンジの様に各所に穴が空いた特殊な形状の山脈であり、敵が何処から出てくるか予測するのは不可能なのです。

そこで我々は山脈とキールセキの間に広がるバルーン平野に陣地を構築し、接近してくる敵部隊を迎撃する事にしました。配置はこの様になります」

 

「こ、これは!」

 

「簡単にご説明致します。正面には戦車、中央後方に44式230mm自走砲、その後方に51式510mm自走砲。左翼と右翼には96式160mm榴弾砲、更に後方に53式多連装ロケット砲を配置。これに加えて空洞山脈内部にXMLT1土蜘蛛とWA2月光ロ型、付近の森には36式機動戦車を配置し、敵撤退時にはこれらが追撃。空洞山脈内部で敵を殲滅します。

また作戦中はAH32薩摩による近接航空支援もあります。キールセキには我々が乗ってきたアイアンレックスを配置しますので、万が一、この防衛ラインを突破した敵がいた場合は即座に戦闘行動に入る手筈です。敵航空隊については、リュウセイ基地にいる航空隊が対処します」

 

これはあくまで簡単にしか説明していないので、実際は更に色々と配置される。例えば空洞山脈の周囲と上空はOH8風磨が上空から監視するし、各砲撃陣地には44式装甲車を筆頭とした車両と歩兵が配備される。更に更に空洞山脈内部を偵察するべく39式偵察車、偵察バイク、WA1極光からなる偵察隊が警戒に当たる。オマケに白亜衆とワルキューレ、そして新たに向上が指揮する例の新部隊も空洞山脈内を飛び回り偵察、場合によっては攻撃する事になっている。

そして99%ないが防衛戦をグラ・バルカス帝国軍が突破した時を想定して、36式機動戦車と44式装甲車ハ型を中心とした機動力に特化した機甲部隊と、住民が素早く避難できる様に大量のトラックと護衛の40式小型戦闘車を配置してある。

 

「確かにこれならば.......」

 

「いかがでしょう?」

 

「.......よろしくお願いしたい」

 

どうにか丸く収まり、以降は詳細を詰めていった。そんな事をしていると、いつの間にやら夜が明けてしまい2人は遅い就寝となった。

 

「そういやお前の部隊、首尾はどうよ?」

 

「すこぶる順調です。名前も決めましたし」

 

「あー、名前まだ聞いて無かったな。結局今に至るまで『雑賀衆(仮)』だったし。流石に(仮)じゃ、色々示しつかんしな。早いとこ発表してくれ」

 

「私の指揮する部隊の名は『赤衣鉄砲隊(あかごろもてっぽうたい)』です。アーマーもカラーを真っ赤に変更して、さながら戦国時代の赤備えですよ」

 

今から3ヶ月前、向上は週刊誌に星宮との熱愛をすっぱ抜かれて大変だった。だがそんな状況の中どうにかこうにか作り出したのが赤衣鉄砲隊、『赤衣』である。当初は専用装備を開発して貰う予定だったが、もうそれどころじゃなかったので結局出来てない。

因みに星宮との関係公表は、取り敢えず今は見送る事にした。一応戦時下で向上は上級将校であり、軍の中のキーパーソンである。結婚してしまった場合、グラ・バルカス帝国の工作員が星宮を狙う可能性も0ではない。故に今は必死に隠しているのだ。

…と言いつつ、密かに向上はプロポーズを計画している。本来ならフラグで普通に死ぬヤツだが、口には出してないのでセーフである。

 

 

 

2日後 バルーン平野 皇国軍陣地

「団長!キールセキ侵攻軍と思われる航空隊を捕捉!リュウセイ基地の航空隊が会敵しました!!」

 

「奴等が来たってことは、こっちももうすぐって事だ。各部隊に伝達、警戒を強めろ。来るぞ」

 

今回、神谷は珍しく後方で指揮を取っている。偶には後方で指揮を取らないと、戦略眼が鈍ってしまう。前線は向上がいるので、現場指揮も問題ない。

さて、それでは今回の双方の参加戦力を解説しよう。

 

 

参加兵力

大日本皇国軍

迎撃部隊

・46式戦車 144両

・34式戦車I型 200両

・34式戦車II型 88両

・34式戦車改 288両

・XMLT1土蜘蛛 200機

・47式指揮装甲車 20台

・44式装甲車

※イ型 120台

 ロ型 80台

 ホ型 15台

 へ型 40台

・39式偵察車 20台

・40式小型戦闘車 258台

・51式510mm自走砲 24門

・44式230mm自走砲 72門

・96式160mm榴弾砲 128門

・53式多連装ロケット砲 76両

・49式対空戦闘車 30台

・WA1極光 800機

・WA2月光

※イ型 400機

 ロ型 600機

・AH32薩摩 15機

・OH8風魔 20機

 

防衛、避難民護衛部隊

・装甲列車『アイアンレックス』 1両

・36式戦車 144両

・47式指揮装甲車 5台

・44式装甲車 210台

※イ型 60台

 ロ型 20台

 ハ型 90台

 ホ型 40台

・40式小型戦闘車 180台

・高機動多目的車 534台

・中型トラック 453台

・大型トラック 387台

 

 

ムー

・105mmイレール重カノン砲 20門

・ガエタン70mm歩兵砲 89門

・迫撃砲 64門

・6.5mm重機関銃(車輪付き) 178基

 

 

グラ・バルカス帝国

・前線指揮車 4台

・軽戦車シェイファーII 836両

・中戦車ハウンド 418両

・自走砲アシッド(ホロに酷似) 189両

・対空戦車アウル(ソキに酷似) 35両

・トラック(九四式六輪自動貨車に酷似) 537台

・タンクローリー 130台

・バイク(陸王に酷似) 68台

・側車(九七式側車付自動二輪車に酷似) 8台

 

 

勿論3軍とも歩兵が大量にいたり、給弾車とか色々いたりするのだが、もうそこは表記しない。だが見て分かる通り、大日本皇国軍本気(マジ)モードである。今回、大日本皇国軍はアイアンレックスと航空隊を除けば、全て神谷戦闘団かと思うだろう。だが実際はトラックや53式、それから一部の榴弾砲部隊は、他の部隊から一時的に神谷戦闘団の隷下に組み込まれてるだけで本来は所属していない。

だが裏を返せば、他の戦車とか51式なんかは神谷戦闘団が元から基幹部隊として保有している兵力であり、これこそが『国境なき軍団』の所以である。

 

「空洞山脈内の偵察部隊より報告!間も無く、敵部隊の戦闘が平野に出ます!!」

 

「よーし、総員攻撃準備!!各砲撃陣地は初弾を装填し、狙いをつけろ。戦車隊も前進準備だ。だが!まだ動くな。空洞山脈は幾ら空洞と言えど、道幅は狭い。精々戦車2両が横並びで動ける位だ。恐らく平野で陣形を整えてから、こちらに進軍してくるはず。

それを見越して、こっちは砲撃陣地を鶴翼の陣になる様に配置して、中心に戦車を配置してんだ。まだ絶対撃つな」

 

「上空のバンディルン6(風磨)より続報!団長の読み通り、敵戦車は出口の少し先、ポイントH(ホテル)48で停止。後続を待っている様です」

 

「バンディルンはそのまま監視を続行。空洞山脈内の偵察隊は敵部隊に接近。状況を報告させろ」

 

ここまで神谷の予測通り。侵攻軍は空洞山脈を出ると後続を待ち、隊列を組んでキールセキ目指して侵攻する様だ。上空の風魔からも周囲を警戒するべく、歩兵が展開していると続報が入っている。内部に潜んでいる偵察隊からは、恐らく後1時間程度で全車外に出ると報告が入った。ならばこちらは、堂々と敵が準備を終えるのを待つのみ。

 

 

「あと少しで空洞山脈を抜けますね」

 

「あぁ。全く、冗談のような地形だったな.......」

 

上を見上げると、石が立体的な編み目のようになっていて幻想的な光景ではあった。だが長時間見続ければ、幻想的だろうが神秘的だろうが飽きる。

 

「それにしても、ホントきつい物でしたね」

 

「そうだなぁ。何せ見渡す限り延々と岩岩岩!中間地点位で大きな湖があったのは驚いたが、見所がそれしか無かったからな」

 

「しかも敵の警戒もせにゃならんので、早々そっちに意識を向けてられませんからねぇ」

 

因みに彼らはなんだかんだ、大体半日掛けて空洞山脈を抜けて来ている。一応、途中までは列車を使って前進したが、以降は陸路でノロノロ進んできた。流石にここまでの長丁場になると燃料も持たなくなるので、途中で給油と休憩を挟みはしたがやはり疲れも溜まる。

 

「そういえばボーグ師団長、例の大砲はどうやって回避するんですか?あの正面から戦車を破壊したっていう」

 

「あれか。ムーの大砲は基本的に口径からして、我が方の装甲を貫通できない。それに基本的に固定式の大砲だ。対してこちらは機動力がある。これを生かして立ち回れば問題ないし、何より多少の被害は覚悟の上だ」

 

「我々の得意な戦法ですね」

 

「それに最悪、ここに逃げ込んでしまえば向こうの砲は意味をなさないしな」

 

空洞山脈には上空には網目状の岩石構造があるため、放物線を描く榴弾砲も航空機による支援攻撃は意味をなさない。対して直線的な攻撃が主となるならば、戦車は圧倒的なアドバンテージとなりうる。だが現状、他国に戦車を運用している国は把握されていない。つまりは帝国が最強であり、他の国は敵ではない。そこから来る圧倒的な自信で、彼らは見事なまでに慢心していた。

 

「帝国はやはり無敵だ。この行軍を止められる者はこの世界に存在しないだろう」

 

ボーグの周囲には何百両という戦車とトラックが並び、例え軍事に疎い者が見ても圧倒するであろう光景であった。これだけの軍勢、キールセキどころかムーの首都であるオタハイトすらも落とせるかもしれない。そんな事を考えていた。

 

「師団長、全車、進撃準備完了!」

 

「全車、進撃せよ!!!!!目標、キールセキ市街地!!!!!」

 

ボーグの命令が下り、戦車を先頭に侵攻軍は前進を始めた。勿論その動きは、しっかり上空の風魔が全部見ている。

 

「バンディルン2より報告!!敵軍、徒党を組みて前進!!!!」

 

「よーし、よしよしよーし!!こちらも攻撃開始だ!!!!各砲撃陣地、砲撃開始!!戦車、突撃!!ヘリコプターも行けぇ!!!!」

 

敵が動いたなら、こっちも攻撃を開始するのみ。神谷の命令は即座に伝達され、各砲撃陣地から砲撃が開始される。

 

「本部より命令きました!!射撃開始!!」

 

「よしきた!砲撃開始ぃ!!撃てぇぇ!!」

 

「510mm砲の威力はエグいぞ?」

 

「月まで吹っ飛べよ?侵攻軍ちゃん!」

 

戦車というのは正面こそ装甲は厚いが、上や下は薄い。そこに数百門の、それも真正面から撃たれても防げないサイズの砲弾が降り注いでは、まず助からない。一度の砲撃で先頭にいた200両以上が、見事に消え去った。

 

「何事だ!?」

 

「わ、分かりません!!先頭が爆炎に包まれ、全車撃破されました!!黒焦げです!!!!」

 

「地雷でも仕掛けられていたのか!?クソッ、偵察隊を出せ!!」

 

まさかいきなり、戦車200両が一気に消し飛ぶとは思わなかった。恐らく地下に大量の爆薬がセットされていたのではと、ボーグそう考えていた。確かにこれだけの攻撃を、陸の砲撃のみで行うことはまず考えられない。物理的に不可能なのだ。

だが知っての通り、皇国軍には51式という大和砲を自走砲にした狂気の産物がいる。たかが軽装甲(・・・)の戦車を消し飛ばすなんて、余裕である。

 

「し、師団長!!上に何かいます!!!!」

 

「なんだアレは.......」

 

上空に機体上部にプロペラを持つ、謎の珍妙な航空機が居た。あんな航空機、見た事がない。しかもそれが16機居た。

 

「航空機発砲!!」

 

短い翼の下に装備されていた筒状の物体から、何かが飛んできた。その何かは戦車を正確に狙い撃ってくる。恐らく、誘導ロケットの類だろう。

 

「対空戦車前へ!!奴を堕とせ!!!!」

 

アウルが前衛に出て、装備されている25mm対空機銃を撃ちまくる。だがAH32薩摩は、40mm機関砲が直撃しても耐えられる様に作られている。25mmでは倒せない。それどころか、お返しにロケット砲をお見舞いされる始末である。

 

「対空戦車8両大破!!」

 

「前方より敵戦車、接近中!!判別、重戦車!!」

 

「重戦車だと!?!?」

 

「はい!それもコチラの戦車と変わりない数です!!」

 

グラ・バルカス帝国にはまだ、重戦車はまだそこまで配備されていない。開発はされているし最近配備されつつあるが、それはあくまで本土の精鋭部隊が少数運用しているだけに過ぎない。しかもそれが大量にくるとなると、シェイファーやハウンドでは太刀打ちできない。

 

「せ、戦車前進!!敵戦車を撃て!!!!」

 

ボーグはそう命じた。命令を受けた戦車隊は前進し、砲弾を込めて照準する。

 

「な、なんでデカいんだ!」

 

「おいアレ!連装砲を装備してるぞ!!」

 

だが戦車隊が遭遇したのは、陸上戦艦の異名を持つ46式戦車。そしてその随伴戦車として開発された34式戦車改だったのだ。

 

「アンヴィル6より全戦車に告ぐ。MI☆NA☆GO☆RO☆SI☆DA☆」

 

隊長の命令に、無線機からは男達の「おう」という短くとも頼もしすぎる声が返ってくる。

 

「いました3500m前方!!」

 

「やろうぜ」

 

「待て。もう少し引きつける」

 

皇国側は既に射程に入っているが、もう少し引き付けたい。だがレールガン装備で、何気に多分初登場の34式戦車II型は攻撃を開始している。その威力はもう言わなくても分かるだろうが、容易く正面装甲を貫通して後方の戦車すら破壊している。

 

「1500m!こちら攻撃準備完了!!」

 

「攻撃開始!」

 

「待ってましたぁ!!」

 

そして46式と34式改も砲撃を開始。容易く敵戦車の装甲を破るのだが、46式に至っては5両纏めて破壊した。なんと1発の砲弾が4両を串刺しにし、5両目まで届いたのである。

 

「増速だ!」

 

「はいっ!」

 

「右40、続けて行進射!」

 

中にはこんな奴もいた。岩と岩に射線が通る一瞬で、34式改の連装砲の別々の砲身で別々の目標を同時に狙って撃破する高い練度を持つ化け物である。

 

「はっはぁ!連装砲ってのはこうやって使うんだ!!」

 

そう言っているが、普通は出来ない。普通は別々の砲身で別々の目標を狙っても、順番に倒す。同時にそれをやってのけるのは、まずあり得ない。

こんな化け物搭乗員と、化け物性能の戦車、そして後方から降り注ぐ砲弾の雨に晒されてはグラ・バルカス帝国軍でも高い練度を持つ第四師団とて、どうにもならない。

 

「撤退だ.......」

 

「師団長?」

 

「撤退、撤退だ!!空洞山脈に逃げ込め!!!!全軍に報せろ!!!!!!」

 

ボーグは撤退を決断した。空洞山脈は砲撃しても意味をなさないし、航空機による攻撃も防ぐ。加えて皇国の戦車では、空洞山脈の狭い道を通れない。それを見抜いたのだ。

実際これは本当で、まあ頑張れば46式でも通り抜けれるが結構ギリギリである。少なくとも、進行速度はグラ・バルカス帝国の方が出る。

 

「敵軍、撤退を開始。空洞山脈に逃げ込む様です」

 

「見事に手の平の上で踊ってくれるなぁ。各陣地に山脈に逃げ込む様に砲撃させろ」

 

より逃げ込み易い様、各砲撃陣地と戦車隊が追い込み漁の如く砲弾を近くに降らせて良い感じに空洞山脈へと押し込む。最後の戦車が空洞山脈に逃げ込んだのを確認すると、すぐに追撃隊が活動を開始する。

 

『こちら引率、これより追撃に入る』

 

36式機動戦車が空洞山脈に突入し、内部から敵を狩る。しかも36式は足回りがキャタピラではなく、普通のタイヤ。機動力ではこちらが上だ。

 

「俺達もいるって、知っててくれよ。知らずに帰ると、おじさん達泣いちゃうぞ!!」

 

更に39式偵察車も追撃に加わる。武装が35mmなので普通にハウンドもシェイファーも倒せるが、念の為今回は別目標を狙う。この車列、タンクローリーとトラックがいるのだ。そこを狙う。

 

「あそこにも居るのかよ!」

 

「当たってくれるなよ.......。コイツにはまだ、大量の燃料が残ってんだ」

 

なんて言っているタンクローリーのドライバー二人組だが、これがフラグになったのか本当に当たってしまった。しかも爆炎で前が見えなくなり、制御を失った。

 

「おいこっちにくるぞ!!」

 

「来るな来るな来るな!!!」

 

「ハンドル切れ!!」

 

そのまま近くを走っていた歩兵を乗せたトラックにぶつかり、トラックは大破。更にその後方にいた別のトラックに衝突して爆発し、その爆発で一部が崩落。ハウンドに直撃し爆発。それに衝突し、シェイファーも大破した。

 

「山脈内部は地獄みたいです。月光も活動を開始していますからね」

 

「そうかい。なら、そろそろフィナーレを飾ろうか。なぁ、長谷川大佐」

 

「はい!ブラッディレジーナより各員、敵戦車隊が撤退を開始しました。迎撃を開始してください!!」

 

「向上、テメェの部隊の初舞台だ。精々カッコよくキメてくれ」

 

『『了解』』

 

因みに何故、長谷川が大佐になっているかというと、無理矢理大佐に神谷が捩じ込んだのだ。まず長谷川を部隊の指揮官から外して、人事局の新生部隊編成の担当官に就任させここで昇進。中佐として編成をやってもらい、その功績で大佐に昇進させたのだ。

また独立試験部隊の名前も『第86独立機動打撃群』に名前が変わり、通称『エイティシックス』と呼ばれてる。(二期来ないかなぁ)

 

「大尉、そちらはどう動く?」

 

『大佐の隊に初撃はお譲りします』

 

「あれ、いいの?」

 

『構いません』

 

「そう言ってくれるなら、お言葉に甘えて」

 

向上は38式携行式対戦車誘導弾を担いで、待ち伏せポイントまで向かう。丁度そのタイミングで先頭を走るシェイファーが来た。

 

「エリスさん、合わせてくださいよ」

 

「はいはい分かってますよ」

 

まず向上がシェイファーの天井目掛けてミサイルを撃ち、間髪入れずエリスが剣のアビリティである地割れを引き起こさせる。第四師団は完全に行き脚が止まった。

 

「今だ」

 

この瞬間を逃さず、エイティシックスと赤衣が降下。攻撃を開始する。

 

「ひゃっほー!」

 

「セオくん、楽しそうね」

 

「だって三次元機動は僕の十八番だもの」

 

土蜘蛛には機体中央部に2つのアンカー射出装備が搭載されており、こういう構造物が多い場所で真価を発揮する。戦車が立体機動装置付けてると考えて欲しい。

 

「クソッ、砲旋回が追い付かない!!」

 

「適当に撃て!」

 

多数いる土蜘蛛の中で、最も強いのがアンダーテイカーが操る機体。副武装には高周波ブレードを装備しているのだが、辻斬りの如く戦車の足回りと砲塔を斬り飛ばしていく。その様はパーソナルマークの首の無い死神の如く。

 

「とにかく全て破壊しろ。捕虜は積極的に捕らなくていい!」

 

更に赤衣鉄砲隊が38式や29式擲弾銃片手に飛び回り、下にいる戦車やトラックを破壊していく。

 

「全員降車!上にいる敵兵を撃て!!」

 

トラックに乗っていた歩兵達も降りて来て、空洞山脈の内部は乱戦の様相を呈していた。だが三次元的に素早く飛び回る目標を、ボルトアクションライフルで攻撃するなんて無理である。

一方の赤衣鉄砲隊は、神谷戦闘団の中でも特に射撃に秀でた者が入隊している。射撃面だけで言えば、白亜衆以上の射撃の名手で編成された射撃の玄人集団。故に空中を飛び回りながらでも、的確に敵を撃ち殺していく。

 

「おいコイツら、剣を持っているぞ!!」

 

「殺せ!!」

 

「ハイエルフを舐めると、痛い目みるわよ?」

 

白亜のワルキューレだって負けてない。アビリティを使いこなし、上手に立ち回っている。ヘルミーナが銃撃を防ぎ、アーシャとエリスが突っ込む。それをミーシャとレイチェルが援護する、お決まりの隊列だ。だがそれが強い。

 

「クソッ!クソッ!もう逃げんぞ!!」

 

こんな乱戦の中、ボーグは破壊された指揮車を飛び出して、腰の拳銃を撃ちながら前へと出ていく。勿論弾は当たらない。その時、空中を飛び交う歩兵の中で1人だけ違う装いの者がいた。向上である。

 

「うおぉぉぉ!!!!」

 

撃破されたハウンドの残骸から、屋根に取り付けている機関銃を構えて撃ちまくる。それに気がついた向上はスモークを投げて視界を遮り、背後へと周り込む。

 

「な、何も見えん!!何処だ、何処に行った!!」

 

カチャン

 

「ッ!?.......そうか、終わりか。最期に聞かせてくれ。アンタらは、何者なんだ」

 

「大日本皇国統合軍、神谷戦闘団。我らは隷下の赤衣鉄砲隊だ」

 

ボーグは思い出した。カルトアルパスに侵攻した部隊を殲滅した部隊があったと。レイフォルで捕虜を処刑する際に皇国の精鋭が殴り込んで来て、捕虜を奪還して悠々と去って行ったと。その名が『神谷戦闘団』という、皇国の精鋭部隊であったと。

 

「そうか.......。神谷戦闘団か.......。だが私はまだ、負けていな」

 

振り向きざまに拳銃を撃とうとした。だが、それよりも先に向上が頭を拳銃で吹き飛ばす。この日、キールセキに侵攻したグラ・バルカス帝国第四師団と、その援護に導入された航空隊は1人の帰還者も無かった。

 

 



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特別編1 邂逅

長嶺「おーい、主!お前、今週は最強提督の投稿週だろ?今週は千葉での戦闘なのに、何で最強国家やってんの?」

神谷「それはだね、雷蔵くん。このアカウント設立以来の、大事件が起きたからだよ。まあ、見れば分かるから」

主「勿論、最強提督の方も執筆中です!恐らく明日は無理なので日曜になるとは思いますが、予定通り投稿致します!という訳で今週は豪華二シリーズ投稿です!!それでは、どうぞ」






某年某月某日 気象庁 

「ん?こ、これは!!!!」

 

この日、気象庁に在籍する職員の1人がとある発見をした。それは今から1時間ほど前に起きた地震を捉えた、地震計のデータである。本土から300浬程度離れた位置にある地震計のデータなのだが、この地震の揺れが可笑しかった。長いのだ、揺れの時間が。

普通地震は10秒程度で揺れ終わる。勿論マグニチュード8や9といった、東日本大震災クラスの巨大地震となれば数分に渡って揺れはするが、今回はそんなのは超えて30分近く揺れていたのだ。

 

「課長!!」

 

「どうした、そんなに血相を変えて」

 

「これ見てくださいこれ!!!!」

 

職員がパソコンを課長の机に起き、データを見せる。その波形を見た課長はすぐに長官に連絡。そのまま国土交通大臣に連絡が行き、さらに話が一色の耳に入った。

読者諸氏はこの地震に見覚えがないだろうか?大日本皇国がこの世界に転移した時も、震度3の地震が20:30から日付が変わるまで同じ様に揺れていたのだ。つまり、何かが転移してきた可能性が高いのである。これを受けて一色は、神谷と川山に連絡しオンライン会議の運びとなった。

 

「お前ら、状況はさっき話した通りだ」

 

『話は聞いた。あの地震がまた、洋上で発生したんだよな?』

 

「その通りだ。まず慎太郎、外交官としてはどう対応するつもりだ?」

 

いきなり話を振られた川山であるが、いきなり言われても対応の仕様がない。まず何がいるのかも分からないのだから、想像が付かないというのが本音だ。

 

『無論コンタクトを取る、と言いたいが相手が分からないと無理だな。というかそもそも、こっちの言語が通じるかも分からんぞ?今の世界は日本語が通じるが、恐らくこれは奇跡に奇跡が起きたみたいな、もう天文学的確率超えた次元の幸運だ。第一、相手に『外交』という発想が無いかもしれない。そうなったら、もう外交は無理だぞ』

 

「わかった。なら浩三、軍としては?」

 

『こっちはさっき気象庁から『津波の確認』という名目で、偵察機の出動要請を受けた。これを利用して近隣航空基地のRF2に、電子偵察ポッドなんかの偵察装備を搭載させた上で出動させる。

一応、全軍には警戒体制をお前からの報告を受けてからすぐ出した。慎太郎の言う通り、相手が交戦的な連中なら戦争状態に突入する場合もある。偵察機からの報告次第では、艦隊派遣や陸戦隊の派遣も視野に入れている』

 

「わかった。内閣としては既に、各大臣に召集をかけてある。陛下にも第一報をお伝えし、陛下のご裁断を仰ぐ可能性がある事もお話した。だがまずは、偵察機の報告を待つしかできないな」

 

やはり流石三英傑と言ったところであろう。すぐに最悪の事態を想定して、それに合わせた行動を即決で取っている。3人はこの回線を保持したまま、各々の行動に入る。

そして大体1時間程経った頃、神谷の元に偵察機からの報告が入った。

 

「お前ら!たった今、偵察機の報告が入った!!」

 

『どうだった!?』

 

「.......こりゃヤバいな。偵察機は引き返したらしい。その理由は「対空捜索用のレーダー波を探知したから」らしい」

 

この瞬間、川山と一色の顔が一気に強張った。つまり相手は少なくとも1940年代以上の装備を持つ武装組織が存在している可能性がある、という事になる。

 

『なぁ、浩三?それって、具体的にはどの位ヤバいんだ?取り敢えずレーダーがあるのがヤバいのは分かるが、レベルがわからん』

 

「レーダーが実戦投入されたのは、1940年代の事だ。イギリス軍がドイツとの防空戦に於いて、本格的に実戦投入したのが始まりとなっている。

つまり最低でもグラ・バルカス帝国クラスの連中がいる可能性が高い、という事になってくる。そうなったら、勝ちはするが敵にしたら面倒になるのは変わりない」

 

『浩三、衛星は使えないか?あの辺りの上空に、偵察衛星は飛んで無いか?』

 

川山の意見をすぐに実行する。確かに衛星であれば恐らくだが、バレずにどんな物が転移したか偵察できる。運が良ければ軍事関連も分かるかもしれない。すぐに宇宙作戦本部に連絡を取り、偵察衛星を用いて偵察する事が決まった。しかも運が良いことに、丁度今上空にいるのだという。

 

「少し待ってろよぉ。お、来た来た!」

 

すぐに神谷のパソコンにデータが来た。そのまま2人にもデータを送り、画像を見つめる。どうやら転移してきたのは島である。西部に大型の飛行場、小規模の港湾設備、南部中央の2つの島と本島に挟まれた湾内に艦艇群、本島の沿岸部に恐らく入渠施設や居住スペースらしき人工構造物が見える。

 

『見たところ、南国のリゾートっぽいな。多分これヤシの木的なヤツだろ?ハワイとかグアムで見た事がある』

 

一色が周りにある木々に注目し、ある程度どの辺りの気候帯からやって来たかを導く。確かにヤシの木っぽい葉が生えた木が沢山あるし、砂浜も綺麗だ。

 

「恐らくこの西部の港湾は貿易港だな。周りに大型のクレーンやらコンテナがある。飛行場には.......レシプロ機か?小型機と中型機がたくさんある。いや待て。この機体形状、F104か?それにF86Dもいる。

周囲の建造物から見て、ここが軍事用の、それも主力が配備される大規模軍港と見てまず間違いないな」

 

神谷はその得意な観察眼で、軍事施設を見極めていく。航空機が第二世代ジェット戦闘機相当となれば、グラ・バルカス帝国より技術力が上という事になる。勿論こちらは第五世代ないし第六世代の機体しかいないので勝負にならないが、危険度が高いのには変わりない。それに仮に第二次世界大戦当時の爆撃機がいると仮定すれば、普通に爆撃圏内に日本はすっぽり入る。まあこれに関しては爆撃機が来れば洋上の提灯やストーンヘンジ辺りから砲撃されて、常時日本列島を飛び回ってる空中母機『白鳳』と近隣航空基地、さらに運が良ければ防衛艦隊による攻撃が加えられるので空前絶後の物量で来ないと突破は不可能。確かに巨大な飛行場だが、その規模の航空隊を運用するには足りなさすぎるので問題はないだろう。

 

『これ、もしかしたら日本の一部かもしれんぞ』

 

ここで川山が爆弾を投下した。意味がわからない。この技術レベルの頃の艦艇は皇国海軍には予備役にすら存在せず、鉄屑のスクラップとなっている。それ以前に、それと同世代の艦艇を保有してる国は旧世界の海軍には存在しないし、グラ・バルカス帝国だって大半の艦艇が沈んでいる。結論、そんな骨董品クラスの艦艇を持つ組織は旧世界でもこの世界でも、存在はしないはずなのだ。

 

『お前ら、これをよく見てくれ。この居住エリアの作り、何かに似てないか?』

 

『なんかどっかで見た事が.......』

 

川山に促され、2人も居住エリアを拡大してじっくり見る。確かに一色の言う通り、何か見た気がする。

 

「.......あ!!」

 

『浩三、気付いたな?』

 

「これ、鎮守府じゃね?」

 

その居住エリアの建物は煉瓦造りなのだが、旧海軍から受け継ぎ現在も海軍の拠点として使用している鎮守府の外観とよく似ていたのだ。

 

「だがこんな島、日本にあるか?というかそもそも、鎮守府が置かれてるのは佐世保、呉、舞鶴、横須賀。大湊に警備府があるが、どれも島ではなく本土だ。一体どこの鎮守府だよ」

 

『ちょっと待ってろ。島の形状で検索すれば、案外ヒットするかもしれん』

 

川山の友達がふざけて作った、シルエット検索のソフトを使って島のシルエットで検索してみる。その結果出てきたのは、フィリピンのタウイタウイ島であった。

 

『確かタウイタウイ島って、旧海軍の施設があったよな?』

 

「確か主力艦隊が置かれた事もあるくらいには規模のある基地のはずだが、流石にこんな規模はないはずだぞ。ってか何故にフィリピンの島が、よりにもよってここに来るよ。バグりすぎてんだろ」

 

『だかまあ、取り敢えず恐らく人がいるのは確定した。それもエイリアンとかではなく、人間のそれも近い歴史を持つであろう人間だ。一旦閣僚で話し合いたいから、持ち帰らせてくれ』

 

この一件は閣僚との協議の末、川山と神谷を派遣する事で結論がついた。これを受けて神谷は神谷戦闘団を招集し、究極超戦艦『日ノ本』に搭乗。さらに摩耶型対空巡洋艦『愛宕』、浦風型駆逐艦『浜風』『磯風』が派遣される事となった。

 

 

 

翌日 本土より170浬の洋上 巡洋艦『愛宕』艦内

「レーダーに感!アンノウン1、こちらに向かって来ます。方位342、高度4000、速力400!恐らくレシプロ機です」

 

「艦長、どうしますか?」

 

「単機なのを見る辺り、恐らくは偵察機だろう。長官からは「むしろ偵察機には見つかってくれ」と仰せつかっている。警戒し、武装も照準して見つかってやろうじゃないか」

 

「アイ・サー!」

 

基本は艦隊の進路を変えてやり過ごすか、撃墜するのがセオリー。だが今回は敢えて、見つかる事を選んだ。仮に大艦隊や大編隊が押し寄せて来たとしても、艦隊戦であれば最強の『日ノ本』が水中に隠れているし、防空戦となれば対空戦の鬼たる摩耶型の『愛宕』もいる。潜水艦で来れば、浦風型の装備する探鉄波で丸裸になる。

なので寧ろ一旦見つけてもらって、向こうから来てもらった方が楽かもしれないのだ。仮にそれで戦闘になったら、相手を殲滅するのみ。

 

「アンノウン、目視にて捕捉!!!!」

 

監視員が叫ぶ。艦橋にいる何人かが双眼鏡を取り出して、謎のレシプロ機が来る方向を見る。確かに、豆粒サイズでどんな機体かは分からないがいる。

時間が経つごとに段々と姿が見えて来る。単発機で、色は緑で機体下部が白。日の丸が見える。

 

「アンノウン、国籍章は日の丸です!」

 

「軍曹!!」

 

「ハッ!確認させていただきます」

 

航海科に所属する旧軍オタクである軍曹が、日の丸をつけた機体を確認する。全体的に細長い印象を受ける機体形状、風防も他の機体に比べれば明らかに長い。こういう形状の日本軍機と言えば、もうあの機種しかいない。

 

「もしあの機体が日本軍機と仮定するのなら、帝国海軍の偵察機、彩雲です。空母用艦載機として開発された機体で、武装は後部に旋回機銃を備えるのみです。攻撃の心配はありません。

しかし陸上基地に配備されていたとは言え、本来の用途は艦上機でした。従って付近に空母機動部隊がいる可能性があります」

 

「アンノウン引き返します!!」

 

恐らく、艦隊発見の報告が終わり写真も撮り終えたのだろう。用が終わればさっさと帰り、生きて情報を持ち帰るのが偵察兵だ。それが出来る辺り、結構な練度を持っているのだろう。

艦隊は同じ進路のまま、タウイタウイ島を目指す。数時間後、今度はレーダーに艦影を捉えた。

 

「艦影捕捉!!戦艦2、空母2、重巡2、軽巡1、駆逐6!!!!方位、357!!速力20ノット!!」

 

「!?待ってください!アンノウン4、同方位にいます!!高度8000、速力400!!」

 

「結構な規模だ。すぐに総旗艦に通報しろ!!航空機については、恐らくだが攻撃機だろう。FCSを準備し待機!!向こうが攻撃圏内に接近するまで撃つなよ!!」

 

間も無くして探知した艦影が目視圏内に入り、艦橋要員の数人と監視員、そして軍曹が双眼鏡で接近する艦艇を観察する。

 

「軍曹、どうだ?」

 

「あー、何と申しましょうか。艦長、アレは日米合同艦隊ですよ」

 

「何だと?」

 

軍曹の報告に艦長が聞き返し、周りの水兵たちは「どういう事だ」と聞いてくる。

 

「あの艦隊の陣容は伊勢型航空戦艦1、アイオワ級戦艦1、瑞鳳型1、レキシントン級空母1、高雄型重巡洋艦2、川内型軽巡洋艦1、陽炎型4、夕雲型1、島風型1です。この内アイオワ級とレキシントン級はどちらも、アメリカの艦艇なんです」

 

「益々分からん」

 

「艦長!!総旗艦より入電!!『衝撃に備えろ』です!!」

 

「アイ・サー長官。それじゃ、特等席で見せて貰うか」

 

この数十秒後、海面が一気に盛り上がり海中から巨大な戦艦が勢いよく浮上して来た。もう皆さんご存知、大日本皇国海軍の総旗艦。究極超戦艦『日ノ本』である。周囲に白波を発生させ、巻き上げた水飛沫が周囲に雨のように降り注ぐ。その登場は、豪快以外の何物でもない。

 

「さーて、鬼が出るか邪が出るか」

 

「艦長、アイオワ級より入電。『こちらロデニウス連合王国海軍第13艦隊・戦艦アイオワ。貴艦隊は我が方の領海に進入しようとしている。貴艦隊の所属並びに航行目的を伝えられたし』です。日本語と英語で呼びかけてきています」

 

「英語もか。となるといよいよ持って、こちらの知る世界からの漂流者かもな。取り敢えず手筈通りに返してくれ。

それにしても、ロデニウスってこっちの世界の大陸だろ?そんな王国聞いた事ねーし、まず何であんな艦隊持ってんだよ」

 

「謎ですね.......」

 

「ッ!?艦長!!!アイオワ級よりFCSの照射を受けています!!!!」

 

「ならこちらも返してやれ。流石に主砲は動かせないが、APS作動の準備と機関砲を向けておけ」

 

「アイ・サー!!」

 

恐らく警戒の為にFCSを照射しているので、流石に主砲塔を旋回させて指向させるのはやり過ぎだ。だが打たれた物は、打ち返すべきだろう。仕掛けたのは向こうなのだから、こっちも打ち返して何が悪い。

それにFCSを積んでいるという事は、あの『アイオワ』は第二次世界大戦当時の物ではなく改装されてミサイル兵器を搭載した状態だ。流石にハープーン如きでこちらは倒せはしないが、迎撃の準備はしてもいいだろう。

 

「『こちら大日本皇国海軍・戦艦『日ノ本』。我が方に敵対の意思無し、貴艦隊との接触、及び国交を含む交流の開設を希望する』と。そして『回転翼機により貴艦隊に代表団を送り、交渉の席を設けることを希望する』これで良し」

 

「送った?」

 

「送りました」

 

数分後、向こうから『貴軍の回転翼機の着艦を許可する。戦艦アイオワの後部甲板に降りられたし』と返信が返ってきた。

 

「副長、この場を任せる。発艦次第、FCSは切れ。だがCIWSだけは万が一に備え、いつでも撃てるようにしておくんだ」

 

「お気を付けて」

 

副長の宗谷にそう命じ、神谷は格納庫へと向かう。格納庫には既に川山と向上の2人が待機していた。

 

「長官、どうでした?」

 

「受け入れOKだそうだ。向上、分かっているな?」

 

「はい。会談終了まで、戦闘配置で待機します。既に甲板には突空を並べてありますので、要請があり次第、部隊を展開します。無論、回天も準備済みです」

 

流石に無策で行くほど、神谷もバカではない。緊急時に備え、神谷戦闘団には出撃待機に入って貰う。もし仮に相手が好戦的でパーパルディア皇国の時と同じ様な事になれば、すぐに『アイオワ』に神谷戦闘団が殴り込む手筈になっている。

 

「それじゃ、そっちは頼むぞ!」

 

「了解しました!」

 

川山と神谷を乗せたSH13海鳥は、アイオワを目指して飛び立つ。と言っても10分程度で到着し、後部甲板に着艦する。

 

「Hi!MeがIowaの艦長よ。You達が大日本皇国の使者かしら?Follow me!付いてきて!!」

 

そう言って出迎えてくれた女性は金髪ロングに巨乳、灰色の目に星型の瞳、左脚が黒と灰色のストライプ、右脚が星条旗模様のサイハイソックスを履いたテンションの高い美女であった。

この姿を見て、2人は固まった。勿論相手が美人だから見惚れていたとか、そういう理由ではない。この女性、どっからどう見ても大人気ブラウザゲーム、艦隊これくしょんの『Iowa』なのだ。

 

「あ、えーと、はい」

 

「慎太郎、気持ちは分かる。だがついて行こう。行けば何か分かるだろ、多分」

 

なんか違う意味で雲行きが可笑しくなりつつあるが、取り敢えず行けば何か分かるはずだと思いながらIowaの後について行く。

艦内自体は普通の戦艦であり、神谷自身は一度特別にハワイにある戦艦『ミズーリ』の未公開エリアに入った事もある。その時の内装と結構似ている。

 

「ここにAdmiralが待っているわ。入るわよ、Admiral」

 

そう言ってIowaが扉を開けると、中には大体二十代後半から三十代前半位で中肉中背の第二種軍装に身を包んだ男性将校がいた。階級章を見るからに、中将である。

 

「戦艦『アイオワ』へようこそお越しくださいました。ご足労いただき、ありがとうございます。

私はロデニウス連合王国海軍、第13艦隊司令官。堺修一と申します。本日はよろしくお願いいたします」

 

「こちらこそはじめまして。私は大日本皇国統合軍総司令長官、神谷 浩三と申します。よろしくお願いします」

 

いきなりファーストコンタクトで、相手方の軍のトップが現れたのだ。これまでの相手同様、物凄い驚愕した表情を浮かべている。

 

「私は外交官の川山慎太郎と申します。堺司令、お会いできて光栄に思います」

 

「神谷様に川山様ですね。改めてよろしくお願いいたします。

それで」

 

と堺が切り出しかけた時、神谷が「本題に入る前に、少しよろしいでしょうか?」と尋ねた。

 

「はい、何でしょう?」

 

「その、私たちをここに案内してくれた彼女なのですが、あの、本当に彼女は『アイオワ』という名前なのですか?」

 

「へ?」

 

思わず素の反応が出てしまう堺。どうやら想定外の質問だった様だ。恐らく「本当に彼女が艦長か?」とかの質問はされた事はあるだろうが、こういう質問は初めてだったのかもしれない。

 

「間違いとかではないですよ。アイオワというのが、本当に彼女の名前なんです」

 

堺がそう答えた瞬間、神谷の目の色が変わった。今までの相手を観察する目ではなく、少年の様に好奇心には溢れたキラキラとした純粋な目である。

 

「そ、それじゃ、彼女は艦娘だということですか!?」

 

「ちょ、浩三!?」

 

「な!?」

 

もしかしなくても、明らかに想定外の、それも核心を突く様な質問された時の様な反応である。

 

「な、なぜ艦娘なんて存在をご存知で.......?」

 

「ええと、少し信じがたい話かもしれませんが.......実は大日本皇国でも、艦娘という存在が知られているんです。といっても実在する訳ではなく、二次元、ゲームの中の存在なのですが」

 

「え?」

 

堺にとっての常識では、艦娘という存在が普通に存在している。それをいきなり「ゲームの世界に同じのがいる」と言われても、信じられないだろう。

 

「ちょっと失礼します」

 

神谷は懐からスマホを取り出し、いつかTwitterでケッコンカッコカリの報告を上げた時に撮ったスクショを探し出す。因みに相手は、それこそIowaである。

 

「これをご覧いただきたい」

 

「な、これは.......!?まさか、ゲーム内でケッコンカッコカリした時のスクショですか?」

 

「その通りです。こんな感じで、私たちの知る艦娘はゲームの中の存在なのです。まさか、実物に会えるなんて!」

 

「なんとまあ、そんなことが.......」

 

とんだ偶然もあるものである。よく『事実は小説よりも奇なり』なんて言うが、奇怪すぎる気もする。だが、起きた事態がプラスになるなら問題ない。

 

「まさか艦娘がゲームの中だけの存在とは.......。そんなことがあるなんて、『塞翁が馬』とはよく言ったものですね」

 

「全くです。ちなみに堺さんは、嫁はどなたですか?」

 

「私ですか?大和一筋ですよ」

 

「大和か!良いですよね彼女も、まるで日本人が抱くイメージそのものを具現化したような存在でしょう?」

 

「全くもって同意しますよ」

 

完全に堺&神谷の世界に突入して、完全に忘れ去られていた川山が割って入った。

 

「ちょっと待ってください堺さん。今、大和について『日本人が抱くイメージを具現化した』という言葉に同意しましたね?ということは、もしや貴方は日本人ですか?」

 

そう、さっきの会話の中で堺は「日本」と口にした。最初は『ロデニウス連合王国』と聞いた事のない国名であったが、恐らく何かしら日本とは関係があるのだろう。

 

「降参です川山さん。あの一言だけで気付くとは、さすがですね。

最初に『ロデニウス連合王国』と名乗りましたが、私自身は日本人です。と言いましても国名は『大日本皇国』ではなく『日本国』ですよ」

 

「国名が違う?それではもしや、いわゆるパラレル・ワールドでしょうか?」

 

「おそらくそうでしょう。そうでなければ、似て非なる国が2つも揃うなんて考えられません」

 

正直『パラレルワールド』なんて、SF作品でもないと出て来ない。だが考えてみれば、この世界には伝説や御伽噺でしか出て来ない『魔法』という物理法則をガン無視した代物も存在する以上、実在したって可笑しな事はない。

それに何より、国こそ違えど根幹の精神的支柱は同じ国家、言うなれば同じ民族。であれば、信頼関係の構築や文化の違い云々から来るゴタゴタ余り無いだろう。つまり交渉が楽に進むのだ。

 

「事実上同じ国同士となりますと、『国交の開設』というのも些か妙な感じになりませんか、堺さん?」

 

「確かにそうですね。ただ、書類上は『新たな国と国交を開設した』とすることになるのではありませんか?その方がいろいろと処理が楽でしょうし、それに私は『ロデニウス連合王国』と名乗ってしまいましたから、公式の通信記録にそれがばっちり残っているでしょう」

 

「確かに.......。では、そういう形にしましょう。そうなりますと、国交開設後は食糧支援と資源の支援が必要なのではありませんか?」

 

「実際、それで悩んでいたところです。私の視点から言えば、ロデニウス大陸が突然消えてしまった訳ですから、食糧と資源の供給元が消えたも同じなのです。このままでは私自身と、艦娘たち総勢約200名、それに妖精たちが全員立ち枯れとなるでしょう。それだけは避けたいところです」

 

実際、このままではタウイタウイ泊地は立ち枯れの運命を免れない。ならば国号を変更する羽目になってでも、生き残る途を取るべきだろう。

 

「では、国交を仮開設するという形にしましょうか。

食糧と資源に関してはこちらから支援する、ということでいいか浩三?」

 

「いいんじゃねーかな。多分、健太郎も事情聞いたらOKするだろ」

 

「すみません、ケンタロウ、とはどちら様でしょう?」

 

「大日本皇国の首相ですよ。私たち2人とは幼なじみなので、食糧と資源の支援については二つ返事でOKしてくれるでしょう」

 

「それを聞いて安心しました。ただ、こちらとしてもただで支援を受けるばかり、というのも申し訳ないですね。といってこちらから輸出できそうなのは工業製品ばかり.......ん?」

 

この時、堺はピンときた。

軍艦や回転翼機を見る限り、大日本皇国の技術力は疑うべくもない。堺達が以前いた日本は西暦2199年の地球なのだが、その技術にも匹敵するレベルだろう。

だがおそらく、その突出した技術力故に周辺国への技術供与に関しては、かえって苦労している可能性がある。今からレシプロ機の製造方法なんざ復習しようとしても、無駄に金がかかることになるだろう。なら、これを売り込めば良い。

そう堺は考えた。

 

「川山さん、少々確認したいのですが、大日本皇国は周辺の各国と国交を有していますよね?」

 

「はい」

 

「それらの周辺諸国に、技術供与ってしていますか?」

 

「ええと.......」

 

正直答えて良いか微妙なラインだが、まあここは答えて置いてもお互い損は無いだろう。

 

「正直なところ、難儀している状態です。何分にも我々からすると、この世界の国々はかなり昔の技術しか有していませんからね。そうした技術レベルに合わせるのに苦労しているところです」

 

「それでしたら、食糧や資源の提供の見返りとして、こちらから支援させていただきたく存じます。見ての通り我々はレシプロ機の製造や技術伝授はお手のものですし、陸軍の装備も火縄銃から自動小銃まで対応可能です。戦車も八九式中戦車なんて代物までありますし。

また、大日本皇国に対しても輸出できそうなものが一部あるんですよ」

 

「ほう、どんなものでしょうか?」

 

「例えば、今神谷さんが見せてくださったスマホですが、それが厚紙くらいの薄さになり、紙のように丸めたり折り畳んだりできる、と言ったら?」

 

「何ですと?」

 

さすがの大日本皇国にも、丸められるスマホなんて物はない。精々意味はないが、折り畳めるスマホ位である。まあ試作段階で利点も無ければ、耐久性が低くなるのもあって開発中止になったが。

こうした技術支援にこそ、自分たちの生き残る可能性がある、と堺は踏んだのだ。どうやらそれが当たったらしい。

 

「これは一本取られましたな。どうする浩三、丸められるスマホなんて初耳だぞ」

 

「確かにな.......。よし、とりあえずこれで本土に一度持って帰るか?閣議にかけて検討しなきゃならんだろ」

 

「そうだな。ということで堺さん、ひとまずこの案件を本土まで持ち帰り、検討したいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「構いませんよ、こちらも生き残る途を見つけねばならぬ身です。色よい返事を期待しております」

 

ここまでの事態となって来ると、流石に一存では決められない。産業に関してはプロに任せたいし、何より国の発展に繋がる案件だ。慎重な方がいい。

 

「それと、現在のタウイタウイ泊地の食糧事情は大丈夫ですか? 必要ならばすぐにも輸送船を手配しますが」

 

「今の備蓄なら1週間は保つと思います。緊急に必要というわけではありませんが、なるべく早めにお返事をいただけるとありがたいです」

 

「分かりました。それでは、今回はこの辺でということで」

 

「こちらこそ、ありがとうございました。ああそうだ、訪問してくださった御礼に、こちらをどうぞ」

 

堺は傍らの机に置いていた箱を開けて見せた。中身は間宮の羊羮2本である。

 

「間宮の羊羮です。当泊地自慢の甘味ですよ」

 

「おお、これはありがとうございます。いただきます」

 

こうして、タウイタウイ島とのファーストコンタクトは終了した。 後部甲板に駐機している海鳥へと向かう最中、神谷は無線を向上へと繋げた。

 

「向上。警戒配置、解除だ。平和に終わった。突入する事なく終わって良かったよ」

 

神谷は無線でそう話した。勿論周りには川山も案内役のIowaと堺だっている。そんな中で堂々と、そう言ったのだ。これには川山も凄い顔でこちらを見てくるし、Iowaと堺も思わず振り返る。

 

「あの、それは私の目の前で言って良いのですか?」

 

「今から攻撃するならいざ知らず、中止命令なら問題ないでしょう?それに私の部隊はちょっとばかし、血の気の多い連中が多くて。普通に敵艦に乗り込んで、そのまま制圧する様な部隊なんです。しっかり手綱は握らないと」

 

「Youの部隊って、そんなにもcrazyなの?」

 

「crazyでしょうね。というかまあ、ウチの国の部隊は何処も人間辞めてる奴や、頭の可笑しい兵器がある事に定評ありますし。

旧世界じゃ、いくつかの兵器や戦法は余りにぶっ飛びすぎて出禁を食らう始末でしたしね」

 

こんな風に冗談めかして笑って言っているが、これは脅しだ。確かに平和に終わったし、それがこちらの願いでもあった。だが一方で、100%戦争をしないと決まった訳ではない。飴と鞭とまでは行かずとも、釘を刺して保険を掛けておいて損はない。

後部甲板に出ると海鳥に神谷と川山は乗り込み、堺とIowaは2人の代表を見送った。

 

 

 

 




はーい、まさかの大先輩Red October様とのコラボですwww。本日、Red October様の『鎮守府が、異世界に召喚されました。 これより、部隊を展開させます。』でも同じく投稿されておりますので、是非そちらも併せてご覧ください。
https://syosetu.org/novel/174971/


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特別編2 大日本皇国来日(観光編)

タウイタウイ泊地接触より1ヶ月後 大日本皇国 霞ヶ浦

「朝田くん、そろそろかな?」

 

「えぇ、間も無くですよ」

 

この日、川山と部下の朝田は霞ヶ浦に急遽建設した仮設の水上機発着場で、タウイタウイ泊地からの使者2人を待っていた。その使者とはタウイタウイ泊地の提督である堺修一と、艦娘の霧島である。

今回2人は、大日本皇国をよく知る為に見学に来るのだ。野次馬対策の兼ね合いで二式大艇を使用して皇国にやってくるのだが、現在皇国には水上機を運用できる飛行場が存在しない。皇国が唯一保有するPUS3三式大艇は水上機だが、US2と同じ様に陸上に配備されているので水上機発着場は必要ない。だが二式大艇はランディングギアが搭載されてない以上、陸上には胴体着陸になる。

そこでかつて、旧海軍が水上機基地として運用していた霞ヶ浦に仮設の水上機発着場を建設し、ここで出迎える事になったのだ。

 

「ん?亜梨沙から電話?もしもーし」

 

『シンくんシンくん!ヤバいよ!!ネット見て!!!!掲示板、大荒れだよ!!!!』

 

「は?」

 

いきなりの妻からの電話に驚くが、中身も何を言ってるのか分からない。取り敢えず掲示板を開いてみたのだが、

 

124:名無し 2058/9/8 08:56:00 ID:2NbStxiQe

おい、ニュースで言ってたあの人は飛行艇で来たらしいぞ!

 

 

125:名無し 2058/9/8 08:56:41 ID:YPqwQ35Kq

帝都上空を二式大艇が飛行してる

 

 

126:名無し 2058/9/8 08:57:33 ID:yECcOkgyo

大艇ちゃんかよ!あれ確か陸上には降りられない機体じゃねーか!

 

 

127:名無し 2058/9/8 08:58:09 ID:sde66hLZ9

やられたぁ!一番乗りでご尊顔を拝しようと思って、羽田で張り込んでたのにぃ!

 

 

128:名無し 2058/9/8 08:58:54 ID:QfnIc4K3i

俺もだ!休日だから早めに来て羽田で待ってたのに、まさか大艇で来るなんて!

 

 

129:名無し 2058/9/8 08:59:24 ID:8FH9UCUl9

成田と踏んでいた私をぶん殴りたい

 

 

130:名無し 2058/9/8 09:00:13 ID:dPskIK1ey

ワイもワイも

 

 

131:名無し 2058/9/8 09:01:09 ID:1Fyk4ZCRg

どこへ向かった!?予想できるか!?

 

 

132:名無し 2058/9/8 09:02:06 ID:dBic63lQn

多分湖か海だろ?

 

 

133:名無し 2058/9/8 09:02:56 ID:ZHmOn/Kuh

大艇は北東へ向かったっぽいぞ。帝都から北東ってことは、茨城県とか?

 

 

134:名無し 2058/9/8 09:03:32 ID:j9THPM/S5

大洗か?

 

 

135:名無し 2058/9/8 09:04:00 ID:F6yDSVfSL

鉾田の可能性

 

 

136:名無し 2058/9/8 09:04:58 ID:YUp/VXior

大洗市民ワイ、大歓喜

 

 

137:名無し 2058/9/8 09:05:31 ID:I57BIU44g

そういや霞ヶ浦の方で護岸工事とかいって何かやってたな、あれそういうことか!(気付くのが遅い土浦市民)

 

 

138:名無し 2058/9/8 09:05:44 ID:eyfI/uEDa

それだ!

 

 

139:名無し 2058/9/8 09:06:17 ID:uSdzTWMx5

それだな!

 

 

140:名無し 2058/9/8 09:06:54 ID:DNJttlg9O

大艇ちゃん迎えるための工事じゃねえか!

 

 

141:名無し 2058/9/8 09:07:41 ID:5u0wBOnuY

見に行ってこい!そして現地リポートしろくださいおねがいします

 

 

142:名無し 2058/9/8 09:08:23 ID:fMnwz6lSe

ちょっと出掛けてくるかな。ワイ香取市民だけど間に合うかな

 

 

 

 

「.......これ、ヤバくね?」

 

「ヤバいですね.......」

 

今回の来日は別に極秘ではないが、所謂お忍び扱いである。その為、場所の発表などの詳細は関係者しか知り得ない。マスコミにも伏せてあるのだが、何処かで漏れてしまったのだろう。見事に拡散されてしまっている。

 

「Twitterでも艦娘来日がトレンド入りしてますよ.......」

 

「あーあー、報道のバンまで来ちゃってるし。こーれ、どうしよ」

 

「取り敢えず警察に応援読んでもらって、規制線だけ貼りましょう」

 

「警視庁に頼んで、多めに戦力用意してもらって正解だったな」

 

30分もすると報道各社と一般人の見物客でごった返し始め、当初の予定は狂ってしまっている。だが備えはしていたので問題はない。こんな事もあろうかと、多めにSPと雑踏警戒の警官を用意してあるのだ。更に在日中の機体の警護の為、皇国陸軍も一個大隊を派遣しているので問題ない。

さらに暫くすると、二式大艇と護衛の二式水戦2機が着水し、中から堺と霧島が出てきた。因みに朝田はある作戦の為、既にここを離れている。

 

「堺さん、霧島さん、大日本皇国へようこそ。ご足労いただきありがとうございます。本日は私、川山 慎太郎がご案内いたします」

 

「お久しぶりです川山さん。本日はよろしくお願いいたします。あの、ところでこの束になった報道陣はいったい.......」

 

「ああ、実はタウイタウイ泊地との出会いや閣議決定が報道されてからというもの、我が国ではどこもかしこもこの話題ばかりで.......。しかも艦娘の方が実在するとまで発表があったので、余計に騒ぎになっているんです」

 

「そ、そうでしたか.......」

 

「さ、こちらへどうぞ。まずはこのまま帝都、東京へ向かいます」

 

2人を用意してあるクラウンにどうにか乗せて、そのまま東京へ…ではく、まずは近隣のリニアトレインの駅へと向かう。これは朝田の「どうせなら、色々な角度から皇国のことを知って貰いたい!」という発言で川山が考えた物で、敢えて車でそのまま行かずに一度、短い区間だがリニアトレインに乗って貰って皇国の鉄道技術を見てもらおうという考えなのだ。

そんな訳で車は東京とは反対方向の、宇都宮方面へと向かう。宇都宮駅にはリニアトレインの駅があるので、ここから乗る事になっている。因みに皇国には北海道の稚内から、鹿児島までのリニアトレインの鉄道網がある。勿論、普通の新幹線も未だ現役である。リニアトレインよりも新幹線の方が乗車費は安いのだ。

 

「やはりリニアはすごい。速いし、それに静かですね」

 

「我が国の技術の結晶の1つですからね。開発には苦労することも多くありましたが、威信を賭けて開発したものですよ」

 

「技術者の皆様の苦労が偲ばれます。ところで、私さっきからずっと、報道陣のヘリやら何やらに追い回されている気がするのですが.......」

 

「気のせいですよ.......。と言いたいところですが、些か多いですね」

 

「あ、やっぱりですか.......」

 

到着した時はカメラのフラッシュと撮影ドローンに囲まれ、霞ヶ浦から宇都宮駅まで移動する時は大量の車とバイクに追いかけられ、今は上空をヘリが飛び回っている。堺自身、ここまでメディア露出するとは思ってなかったらしい。ここに関しては、川山も同じ意見である。まさかこんな事態になるとは思っていなかった。だが、対策はしっかりしてある。

 

「取り敢えず、東京に着きましたら撒きますのでご心配なく」

 

「撒く、と言いますと?」

 

「東京駅に到着したら、お2人には裏の職員用出入り口から出て貰います。表には私の信頼のおける人物達に、2人のコスプレをして貰って車に乗り、適当にあちこち走ってもらう予定です」

 

こんな事もあろうかと、既に手配は終わっている。川山の妻である亜梨沙に頼んで霧島のコスプレをして貰い、体格が似てる朝田に堺のコスプレをして貰うよう頼んだのだ。こうしてしまえば、マスコミも分からないだろう。

 

「あ、それから到着後は着替えて貰いますから。流石にその格好だと、余りに目立つので」

 

今の2人の格好は流石に目立ちすぎる。何せ堺は白の第二種軍装で、霧島はあの巫女服っぽいヤツである。この格好では忍べないので、服はしっかり用意してある。

ついでに言えば川山もスーツは目立つので、家から私服をしっかり持ってきて貰っている。3人は東京駅に到着後、素早くバックヤードに入り、そこで手早く服を着替えた。

 

「お2人とも、よくお似合いで。サイズの方は大丈夫でしたか?」

 

「はい。問題ありません」

 

「私のも、ピッタリです」

 

霧島は上から紫のカチューシャ、緑のVネックと薄茶色のカーディガン、そして黒のロングスカート。堺はグレーの薄手のトレーナーに、黒紫のジーンズ。そして川山は白の薄いニット、黒いチェスターコートと黒いパンツという格好である。

 

「さて、それではまずは浅草寺に行きましょう」

 

3人は川山の妻、亜梨沙の愛車であるPanamera Turbo S E-Hybridに乗り込む。因みに川山自身の愛車はアヴェンタドールであるので、3人は乗せられない。一行は浅草寺を目指して、車を走らせる。

 

「流石にまだ、空飛ぶ車は無いんですね」

 

「車は地面にタイヤ付けて走ってますよ、と言いたいんですけどね」

 

「というと?」

 

「空飛ぶ車、エアリアルビークルと呼ばれる物が開発されてるんですよ。写真見ます?」

 

「見ます!見ます!」

 

堺のこの食いつきようから見るに、どうやらロマン大好きな人種らしい。川山は車の運転を自動操縦に切り替えて、ホログラムによる立体映像でネットの検索画面を見せる。

 

「うおっ!?」

 

「これ、立体映像ですよ!!」

 

「オプションでつけて貰った装備です。一応、こんな感じに触って操作もできます。ちょっと待ってくださいね」

 

尚、このオプションをつけた結果、値段が+50万位掛かったのだが、それは気にしてはいけない。そのまま検索をかけて、エアリアルビークルの広報映像を見せる。

 

「これがエアリアルビークルですか?」

 

「えぇ。AV車とも呼ばれる物で、タイヤが全部ジェット推進機に切り替わっています。垂直離着陸可能ですので、人命救助なんかでの活躍も期待されています。他にも軍は重装甲化して、人員輸送機として使用する事も検討してるとかで、案外10年くらいしたら車が空を飛び交っているかもしれませんね」

 

暫くすると、雷門へと到着。雷門を潜って、仲見世通りを通って本殿を目指す。

 

「意外と新しいお店も多いんですね」

 

「そうか、霧島は来た事ないもんな。ここの通りは実は意外と、店が入れ替わるんだ。だから老舗と最新が入り混じるんだよ」

 

堺の解説に霧島は驚いた。実は仲見世の店舗は、入れ替わったりする事あるのだ。なので昔ながらの煎餅屋だとか団子屋なんかもあるが、中には雑貨屋なんかもあったりする。

 

「お!今日は七味の屋台が出てるのか」

 

「七味の屋台?」

 

「見れば分かりますよ」

 

川山は2人をある屋台へと連れて行く。その屋台に入ると頭にタオルを巻いた50代くらいの中年男性が、何かを調合していた。

 

「いらっしゃい!」

 

「七味を、そうだな。オーソドックスなのを4つ」

 

「それでは。

七味七色、七通り先ずは中辛から七種類を順番に入れて調合して参りましょう。

最初に入りますのは、主役の八房。不思議にも必ず八つの房を実らせると言うこの八房、四国讃岐の名産物です。主成分であるカプサイシンには、脂肪をよく燃やしエネルギー代謝を活発にする効果があります。

さらに、免疫力を高める効果もあることがわかっています。

続いては紀州は有田、和歌山県の特産物であるお蜜柑の皮を粉末にしたもの。中国漢方では陳旧なるものに価値がある事から陳皮と呼ばれています。ビタミンCたっぷり風邪のお薬や、健胃生薬としても用いられます。

磯の香りを楽しみましょう。細かく千切って散らしたところ松葉の様に見えることから松葉海苔とも言われております。海のミネラルたっぷり老化防止や肺癌の予防、美白効果もあると言われております。香りの良い青海苔は江戸前は東京、大森の名産。香りの良い青海苔に続きましては、香りと言えば風味、風味と言えば香り、やはり七色、七味に欠かせないのがこの山椒の味と香り、色は黒いが味みやしゃんせ、誰が植えたか岩山椒。山椒、三年目の薬。と歌にも謳われております、東海道は朝倉山の名産。

また、金ごま、銀ごま、白ごま、黒ごまと数ある種類の中から武州川越は埼玉県の特産物である白ごまの摺りごま。脂肪分たっぷり食物のバターとも言われるこの白ごま、血液の循環を促し脳卒中や心臓病の原因である動脈硬化を防ぎます。

続いてこちら、見た目は固そうですが噛んで香ばしい野州日光は栃木県の名産。噛んで香ばしいだけでは無く、動悸、息切れ、心臓のお薬。また人間の嫌な体臭や口臭を消し止めてくれます。

最後に入りますのは、唐辛子を焼いた焙煎唐辛子です。焼くことにより香ばしくなり辛さと風味に深い味わいを与えます。こちらは信州からです。長野県は善光寺さん門前の八幡屋さんで有名な焙煎唐辛子が入りまして七種類、七色のお目通り、七味唐辛子となります。

この様に薬効あらたかな各地各種の名産物が花のお江戸に集められ、三代将軍家光公のご時世に誕生致しました、この七味唐辛子。その後、時代は下り明治、大正、昭和、平成と現代に至るまで秘伝の調合、伝統の香りで御座います。

只今、お客様の目の前にて各地の名産品を十二分に混ぜて出来上がりましたこちらが、秘伝の中辛となっております。

朝晩のおみおつけから鍋物、煮物と何にかけて頂いても大変美味しく頂けます。また滋養、薬用となっております。さぁ、どうぞ!」

 

そう言って差し出されたのは、4つの小さな紙袋であった。これこそ浅草名物、七味屋台である。

 

「すげぇ。リアルで見たの初めてだ.......」

 

「長波や朝霜が見たら、きっと大はしゃぎするでしょうね」

 

浅草寺でお参りした後、今度は東京インペリアルタワーへと向かった。この東京インペリアルタワーとは、こっちで言うところの東京スカイツリーである。ただし高さは635mではなく、750mになっている。

 

「さぁ、お次は東京インペリアルタワーです。高さ750mの超大型電波塔で、隣には商業施設も併設されています」

 

「これはまた、中々に巨大ですね」

 

「それにこんなに人も。とても賑わっていますよ」

 

霧島の言う通り、インペリアルタワーの周りは賑わっている。だが明らかに、いつもより人が遥かに多い。一瞬2人の存在がバレたかと思ったが、どうやら原因は別にあったようだ。

 

「.......あー、そういうことか」

 

「何かありました?」

 

「いえ。我が国のアニメのコスプレイベントがある様でして、その撮影会の行列ですよ」

 

「アニメ、ですか?」

 

「折角なら少し見てみます?」

 

という訳で、そのイベント会場にこっそり入ってみた。と言っても屋外なので、遠目からしっかりキャラが見える。

 

「学園モノですか?」

 

「いえ、戦闘モノです。あの学生服は単なる都市用の迷彩で、あのキャラ達は簡単に言えば国家機関の殺し屋です。赤い服のが錦木千束で、青い服のが井ノ上たきなですね。ロボ頭がロボ太で、黒人のがミカ。

うおっ!マージマサーンに、心臓もいる!!」

 

「そんなに有名な作品なんですか?」

 

まあ皆さんお分かりかとは思うが、その作品の名はリコリス・リコイルである。続編制作決定万歳。

因みに堺は心臓を『真三』とか『晋三』みたいな、人の名前だと思ってる。

 

「マージマサーンは地味に好きなキャラなんですよ。そして心臓は、もう、ホントおもしろくて。本名は吉松シンジって言うんですけど、回が進むごとにたきなからの呼び方酷くなって行くんですよ」

 

「というと?」

 

「最初が吉さん、次が吉松氏、吉松さん、お前、最終的に心臓になりました」

 

「何があったんだ.......」

 

「あの、心臓ってまさか、この心臓ですか?」

 

霧島は自分の胸を指差しながら聞いてきた。その心臓である。そう伝えると霧島も「何があったら、そんな呼び名になるんですか.......」と驚いていた。

 

「詳しくは本編を見てください。マジで名作なので。因みに最終的に心臓は、たきなから「心臓が逃げるッ!!!!」って鬼気迫る怒鳴り声を上げられながら銃ぶっ放してましたからね」

 

「えぇ.......」

 

「あ、でも。ミカとは古い知り合いで恋人だった過去もあったり、予告編じゃミカに「なんで戻ってきた?」と言われて、「ミカに会いたかったからさ……ミカに会いたかったからさ」と答え、2回目の「ミカに会いたかったからさ」には謎のエコーがかけられたりと、意外とネタキャラ感もあって、とにかく面白いですよ」

 

この後、適当にコスプレを見てから、いよいよインペリアルタワーの展望台へと向かう。まずは450mの高さにある第一展望台へと伸びる高速エレベーターに乗り込み、展望フロアを目指す。

 

「静かなんですね」

 

「しかも速い.......」

 

わずか1分という、驚異的な速さで展望フロアへと到達した。しかも全く揺れてないし、音も静かでスゥーッと登っていた。それに2人も驚いている。

 

「さぁ、お二人共。帝都の姿をご覧ください」

 

2人の目の前に広がっていたのは『未来都市』という言葉が良く似合う、遥かに発展したメトロポリスであった。

 

「こんなにもたくさんのビル群があったんですね.......」

 

「て、提督!あれ、ビルとビルを繋いでますよ!!」

 

「何?ホントだ.......。柱か何かなのか?」

 

「川山さん、アレは何でしょう?」

 

霧島が指差したのは白を基調としたビル群を繋ぐ、レールの様にも見える建造物である。川山はそれを見て「あー」という顔をしながら、2人に説明し出した。

 

「アレは空中回廊というヤツですよ。あの白いビルは、簡単に言うと街なんです」

 

「街?アレがですか?」

 

「えぇ。信じられないでしょうが、あのビルで全てが完結するんです。あのビルは1番下に複合商業施設があり、その上に小学校と中学校があります。更にオフィス、病院、空中庭園、発電所、居住施設と続いています。普段の生活なら、あそこで全て完結してしまうんです。

そしてあの細いレールの様な物は各ビル、正式にはメガタワーというのですが、それらを繋ぐ歩道橋であり送電設備なのです」

 

「こうして見ると、未来と伝統が融合した街なのですね.......」

 

堺は東京の歪さに関心を寄せていた。川等を1つ隔てると全く違う景色を見せる街並みに、結構な違和感を感じる。さっきまで居た浅草の周りは昔の情緒を残していたが、こういう風にして全体を見ていると発展している。違和感は感じるが、同時に面白さも感じていたのだ。

 

「面白いでしょう?あっちは未来で、こっちは昔。パッチワークの様に歪な街ですが、1つの都市で色々な物を味わえる。東京の醍醐味ですよ。さぁ、次は更にこの上の展望台に参りましょう」

 

またエレベーターに乗り、第二展望台へと登る。因みにこちらの高さは583mである。

 

「あ、富士山ですよ!」

 

「運がいいな。よく見える」

 

「堺さんの言う通り、今日は運がいいですよ。天気が悪いと、影すら拝めませんからね」

 

エレベーターを降りた3人を迎えたのは、日本の霊峰である富士山である。本日は天気も良く、空気も澄んでいるので良く見える。

 

「あの、所で川山さん」

 

「何でしょう?」

 

「先程から気になっていたのですが、あの海に浮かぶドームは何でしょうか?」

 

そう言って堺が指差したのは、東京湾のど真ん中に浮かぶ巨大なガラス張りのドームであった。読者諸氏なら、それが何なのか分かるであろう。

 

「あのドームは神室町という、ここ以上の未来都市ですよ」

 

「というと、我々が滞在するホテルがある?」

 

「えぇ。まあ泊まるのはホテルなんかよりも遥かにサービスが良く、ついでに警備も厳重な場所ですけどね」

 

堺は良く分からないらしいが、この後しっかり分かるので問題はない。暫く東京の街並みを見下ろして、次は昼食を食べに行くべく新宿へと向かった。

 

 

 

数十分後 新宿 天麩羅『天冠』

「着きましたよ」

 

川山が連れてきたのは新宿の大通りを少し入った場所にある、如何にも高級そうな店である。

 

「オヤジさーん、来たよー」

 

「おう、らっしゃい」

 

川山が引き戸を開けると、カウンターには強面で角刈りの60代くらいの男と川山と同い年くらいの若い男が居た。

 

「ようシンちゃん!」

 

「暫くだな源吉!今日はちょっと大事な客を連れて来てる。1番良いのを頼むよ」

 

「だとさ親父」

 

「ガハハハ!息子の友達の頼み、それも常連かつ外交官先生の頼みとありゃ腕によりかけねぇとなぁ!!ゲン!!!!裏から今日1番の食材持ってこい!!!!」

 

「おう!!」

 

この源吉とオヤジさんと呼ばれる2人は、川山の知り合いなのだ。源吉は川山の大学時代の友達で、学部は違うが良く一緒に遊んでた奴である。その流れで店によく来ており、いつの間にやら常連と化したのだ。

 

「あの、お二人とはお知り合いなのですか?」

 

「えぇ。若いのが私の友人で、この店の九代目ですよ」

 

「九代目!?」

 

「凄い歴史だな.......」

 

霧島も堺も驚いている。この『天冠』は江戸時代から続く天麩羅の名店であり、知る人ぞ知る隠れた名店なのだ。価格も幅広く設定されているので、地元の人には長年愛されている店である。

 

「ハハハッ!ただ古いだけですよ。まあ、腕の方は心配せんでくださいや」

 

オヤジは手早く冷蔵庫から小麦粉、水、卵を取り出し、氷水を貼ったボウルの上にボウルを置いて衣を作っていく。しかも衣用の水にも氷を入れている。

 

「あの、何故氷水を衣に?」

 

「お、お嬢さん目の付け所が良いねぇ。天麩羅の衣ってのはな、なるべく温度を低くしなきゃならねぇんだ。そして混ぜすぎず、粘り気がない物が一番よ」

 

「親父!この辺りでどうだい?」

 

「やっぱ今日のは良いねぇ。お客さん、アンタらは運が良いよ。今日入ったタネはな、揃いも揃って特に良い物が揃ってる。おい母さん!揚げるから、米出してやってくれ!」

 

奥から簪を刺した着物姿の50代位の女性が姿を現し、人数分の米を茶碗に盛り、味噌汁を注ぐ。更に天つゆや塩なんかも手早く用意して、それを3人に出した。

 

「失礼致します。右手から順に天つゆ、塩、抹茶塩となっておりますので、お好みでお試しください。お米とお味噌汁は幾らでもお代りできますので、お声がけくださいませ」

 

女性が下がると、オヤジが天麩羅を揚げ出した。まずは海老。オヤジは油に海老を入れると目を閉じて、そのまま動かなくなった。

 

「.......アレは何を?」

 

「オヤジさん曰く、嗅ぎ分けだそうです」

 

「か、嗅ぎ分け?」

 

川山のよく分からない回答に、堺は余計に頭にハテナを浮かべた。それを察して、すぐに源吉が解説する。

 

「天麩羅に限らず、揚げ物は揚がると音が変わるでしょ?天麩羅の場合は、他の揚げ物よりも揚げのタイミングがシビアなんです。なのでウチの店では「耳で音を嗅ぎ分ける」と言って、これが出来て一人前なんです」

 

源吉の解説を聞いていると、いつの間にかオヤジが海老を拾い上げ皿に盛り付ける。

 

「まずは海老ね!」

 

「美味っ!」

 

「ホント!衣サクサク」

 

「やっぱりオヤジさんのは美味いね」

 

出された海老の天麩羅は、本当に美味しかった。衣はサクサクで、海老の身はプリプリ。最高である。その後は鳥、カボチャ、豚、タマネギ、ピーマン、ホタテ、鮎と続く。どれも美味しかった。

そして最後に、オヤジからこんな提案があった。

 

「お客さん達、どうせならシメを食ってみないか?」

 

「一体何が出るんですか?」

 

「ウチの名物兼賄い料理なんだがね、天丼と天ぷらうどんかそばだ。食べるかい?」

 

天麩羅屋の天丼、天ぷらうどんorそばが美味くない筈がないので、二つ返事で作ってもらう。出て来たのは何方もミニサイズだが、中身の具材は贅沢な物だった。天丼は海老、タマネギ、鳥、豚、かき揚げ、卵。天ぷらうどんは海老とかき揚げという贅沢な物だった。

 

「なんで天ぷら屋なのに、うどんも美味いんだ.......」

 

「そばもプロ並みですよ.......」

 

堺はうどん、霧島はそばを頼んだのだが、何故か何方も麺と出汁が普通に専門店並みに美味しいのだ。天ぷら屋でなくとも、うどん屋そば屋として売り出せるレベルの美味さである。

 

「嫌味に聞こえるかもしれねぇが、ウチの天ぷらは美味すぎてな。普通の出汁と麺じゃ味が追い付かねぇんだ。色んな意見もあると思うが俺は天ぷらうどんやそばってのは、天ぷら、麺、出汁の3つが互いの持ち味を引き出す物だと思っとる。どれかが強すぎてもダメなんだ。だから、ウチの天ぷら専用に作っちまったんだ。麺も、出汁もな」

 

普通なら確かにオヤジの言う通り、嫌味にしか聞こえないだろう。だがこのうどんとそばを食ってしまっては、嫌味だとは言えない。その位美味しかった。

腹も膨れたので、今度は秋葉原へと向かう。適当な所に車を止めて、歩いて散策になる。勿論周りには溶け込む様にSPが配備されているので、全く問題ない。

 

「秋葉原。メイド喫茶にでも行くのですか?」

 

「まさか提督、行きたいとか言いませんよね?」

 

「いやそうじゃなくて!だって秋葉原と言ったら、メイド喫茶のイメージないか?」

 

霧島からジトーとした目で見られてしまい、どうにか誤解を解く堺。堺には嫁艦の大和がいるので、仮に「メイド喫茶に行きたがってた」なんて話が誤解だとしても耳に入れば、それはそれは大変面倒な事態に発展するのだ。故に堺も必死である。

 

「流石に我が国の賓客をメイド喫茶に連れて行くのは、ちょっと不味いですね。勿論、堺さんが望めばその限りではありませんがね」

 

「やめてください!本当にそう言うんじゃないです!!」

 

全力で否定して来る堺の後ろで、霧島が少し黒い笑みを浮かべてグッジョブしてる。川山も勿論、同じ様な顔で同様にグッジョブで返す。

 

「まあ冗談はさておき。今回、お2人にはあるゲームをプレイして頂きます。そんな訳で、こちらにどうぞ」

 

てっきり何処かのゲーム会社にでも案内されるのかと思ったが、案内されたのはアニメイト。その最上階にあるイベントフロアであった。

 

「こちらになります」

 

「な、なんですこれ?」

 

そこには多数のヘッドセットの様な物がズラリと並んでいた。ヘルメットやバイザーの様な物から、謎の巨大なベッドまで。そのサイズは様々である。

 

「これは我が国のサブカルにかける情熱と、最新技術がフュージョンして生み出されたゲーム機の最終到達地点。フルダイブ型VRゲーム機です!!」

 

「フルダイブ型VRゲーム機?」

 

「さっぱり分からん.......」

 

「簡単に言うと、ゲームの世界に入れるゲーム機です。取り敢えず、やれば分かります」

 

2人の頭にヘッドセットを取り付けて、手早くセッティングしていく。

 

「それではお二人共。リンクスタート、と言ってください」

 

「「り、リンクスタート?」」

 

2人がそう言った瞬間、何やらSF映画のワープ空間の様な青と白の光のトンネルの様な空間を勢い良く進んでいった。すぐにトンネルは終わり、気がつくと草原に2人して立っていた。

 

「こ、ここは何処だ?」

 

「わかりません.......」

 

「よっと。さぁ、お二人共こちらに」

 

2人の目の前にいきなり川山が現れて、石で出来たアーチ状のオブジェクトの方に案内される。そこを潜り抜けると『WF2 VR』と描かれた看板が、デカデカと空中に浮かんでいた。VR空間なので当然だが、柱もワイヤーも何も固定されてない。本当に空中に浮かんでいる。

 

「WF2?」

 

「第二次世界大戦を舞台にしたゲームです。現代戦より、こっちのが楽めるかと思いまして」

 

「こんなゲームが.......」

 

簡単にチュートリアルを済ませたのだが、結構自由度が高いゲームだった。例えばそこら辺の石に手榴弾括り付けて投げることが出来たり、銃を鈍器として使う事も出来たり、果ては無人の車や戦闘機を敵陣に突っ込ませる事なんかも出来る。

だが逆に銃の方は様々な物が選べるのだが、スキルを合わせて初めて真価を発揮する使用となっていた。例えばスナイパー系統のスキルでマシンガンを使うと弾は当たりやすいが移動速度が遅くなったり、普通のライフル兵がスナイパーライフルを遠距離で使うと極端に命中精度が落ちる等々、結構リアルであった。

 

「これ、何かオススメはありますか?」

 

「基本はライフル兵が良いと思いますよ。なんだかんだ使える武器も多いですし、マシンガンでもスナイパーでもそこそこ使えますから」

 

このアドバイスの結果、堺も霧島もライフル兵を選んだ。使用武器は堺がメインにStG44、サブにサイレンサー付きワルサーP38。霧島がメインにM1ガーランド、サブにワルサーP38。そして川山は…

 

「やっぱり俺は、これだ」

 

「嘘ぉ!?」

「えぇ!?!?」

 

川山がメイン、サブ共にMG45。つまりMG45の二挺拳銃ならぬ二挺機関銃である。

 

「あ、このゲーム。頑張ればこの装備もできるんですよ。その代わり、移動速度がバカ遅くなりますけどね」

 

涼しい顔でそういう川山だが、2人からしてみれば余りにぶっ飛んだ装備だったのだ。頭も痛くなる。

 

「お二人共、これで驚いてちゃ持ちませんよ?健太郎、ウチの総理なんかダブルバレルのブローニングM2重機関銃をぶん回してますから.......」

 

「よ、よく肩持ちますね」

 

「まあゲームですから」

 

ここはゲームの世界。なんでもありなのだ。堺も霧島も、余りに世界がリアル過ぎてそれを忘れていたのだ。

 

「さぁ、始めましょうか!」

 

川山がそう言うと、周りの景色がいきなり変わった。今までは訓練場の様なマップだったのだが、今度はトーチカや塹壕のある防御陣地にいた。

 

「遅いぞー」

 

「すまん浩三」

 

「え!?」

 

「神谷閣下!?」

 

なんとマップには神谷がいた。アバターが仮面を被ったキャリなので顔は2人、というか霧島に至っては初対面なので余計に分からないが目の前のアバターは神谷である。

 

「敵は来たか?」

 

「あぁ。サクッと2ウェーブ終わらせたぞ」

 

「相変わらず、お前はリアルでもゲームでも強いなぁ。それじゃ、ウェーブ3からだな」

 

そんな事を言っていると、何処からともなく銃声が聞こえてきた。ウェーブ3、開始である。

 

「慎太郎はいつも通りに。2人はトーチカで兎に角、敵に機関銃を撃ちまくってください!!」

 

神谷の指示で3人が動き出す。川山がMG45をあちこちに乱射し、霧島と堺が重機関銃を撃ちまくる。視界の左端にキルログが出て来ているので、どうやら順調に倒せてるらしい。

 

「意外と動きは単調だな.......」

 

『堺さん、それフラグですよ』

 

「え?」

 

『ウェーブ5になれば分かります』

 

神谷のこの発言に堺は疑問を持ったが、ウェーブが進むごとに敵も増えて来てすぐに疑問は忘れ去られた。だがウェーブ5になった時、明らかに敵の動きと戦力が変わった。

 

「な、なんだありゃ.......」

 

『戦車に装甲車、戦闘機まで.......』

 

堺も霧島も、この数には驚いた。明らかに、いきなりレベルが跳ね上がっている。だが逆に、2人は楽しめそうだと思った。何せどちらも最前線で戦って来た猛者。特に霧島は深海棲艦相手に最前線で戦った、バリバリの武闘派。この程度では臆さない。

 

「全員集合」

 

神谷の命令で3人が集まる。神谷の手には第二次世界大戦には似つかない、周囲地図を立体映像で映す装置が握られていた。

 

「この数になると、結構面倒だ。まずは敵の連携を崩す。慎太郎は戦闘機を相手しろ。俺は敵陣に殴り込む。堺さんは私の援護を」

 

「あの、私は?」

 

「霧島さんには、コイツを頼みたい」

 

そう言って神谷は、赤いラインの入った双眼鏡を渡して来た。一見すると、別に普通の双眼鏡である。

 

「コイツで敵をスポットしてください。そしたらマップに共有されます。そしてもう一つ、私の合図で砲撃をお願いします。コイツはスポッターにも砲撃支援を要請する無線機の代わりにもなるアイテムです。砲撃時にはメニューから支援砲撃を選んで、敵をマークしてください。そうすれば勝手に砲撃が開始されます」

 

「分かりました」

 

「よし、では出撃!!」

 

流石現役の指揮官というべきか、声のトーンが何処か映画の隊長の様である。3人が配置についたのを確認すると、神谷は機関銃を無理矢理装備したジープで飛び出し、敵陣目掛けて突っ込んだ。

 

「ちょっ!?戦車いるのにジープじゃ自殺ですよ!?!?」

 

『大丈夫』

 

川山の声が聞こえた次の瞬間、敵の戦車の砲塔が吹き飛んだ。川山が後方の榴弾砲で、戦車の砲塔を破壊したのだ。

 

「ナイス慎太郎!!」

 

『そのまま行け。戦闘機と戦車は任せろ!」

 

「任せる!!」

 

神谷はジープのアクセルをベタ踏みし、敵陣向けて突貫。そのまま助手席に固定してた機関銃の発射レバーを倒して、弾丸の雨を降らせる。負けじと堺も後ろからM2で援護し、敵を削り続ける。

 

「堺さん!そのまま右翼側の敵を中央に押し込む感じで撃ってください!!」

 

『了解!!』

 

『俺も援護する』

 

堺が右翼側を、神谷が左翼側の敵を中央に押さえ込み、川山も榴弾砲で的確にそれを援護する。そして敵の大多数が中央に集まったタイミングで、神谷が叫んだ。

 

「今だ霧島さん!!!!」

 

『狙い、よーし!方面支援砲撃、全門、斉射ー!!!!』

 

方面支援砲撃が開始され、一箇所に固まっていた敵があちこちに吹き飛ばされた。そして最後の敵を堺が撃つと、堺の目の前に『ミッション・コンプリート』と現れて全員がマップに入った時の場所にワープさせられた。

 

「はい、これで終わりです」

 

「凄いですねコレ!私も欲しいですよ!!」

 

どうやら堺はお気に召したらしい。目が輝いている。霧島もその横で頷いているあたり、楽しんでくれたのだろう。

 

「他のレギュレーションも色々ありますよ。今回は拠点防衛でしたが、逆に拠点攻撃、オンラインだと1チーム128人にプレイヤー1人に20人のAI分隊員が追従して戦うのもあったりと、これはまだ序の口です」

 

「それにコイツは第二次世界大戦モチーフですが、戦争系なら大昔の騎士や侍が出て来るヤツ、第一次世界大戦、現代、近未来、果てはスターウォーズや銀英伝みたいな星間国家同士の戦争もありますよ。

更に戦争のみならず、初期四部作である『ソードアート・オンライン』通称SAO、『アルブヘイム・オンライン』通称ALO、『ガンゲイル・オンライン』通称GGO、『プロジェクト・アリシゼーション』通称UW若しくはアンダーワールドなんかもありますから、色々調べてみてください」

 

因みに三英傑は揃って、初期四部作をしっかりやりこんでいる。身バレしない様にこっそりであるが、プレイヤーネーム自体はどのゲームでもそれなりに通っている。

 

「おっと、もうこんな時間だ。それじゃ、私はこれにて。また後でお会いしましょう」

 

そう言って神谷はログアウトした。だが「また後で」の意味がわからない。

 

「あ、そう言えば言ってませんでしたね。今日の神室町での案内は、私ではなく浩三が担当します。私はこの後の国会議事堂の見学で終わりになりますね」

 

「どうして川山さんではなく神谷さんが?」

 

「まあ、行けば分かりますよ」

 

霧島の質問には答えない川山だったが、読者諸氏ならその理由は分かるだろう。あの街は神谷家が作ったのだ、神谷以上の適任はいない。この後、もう少しVRゲームを楽しみ今度は国会議事堂へと向かった。

 

 

 

数十分後 国会議事堂

「では、次は国会議事堂になります。まあここは恐らく余り変わらないと思いますがね」

 

「確かに我々が知る国会議事堂と大差ない様ですね」

 

「今回は特別な許可を貰ってますので、中まで見学頂けます。勿論、本来公開してない所まで」

 

堺だって元いた世界、かつて深海棲艦と戦っていた世界に於いては中将という上級将校に分類される階級にいた。だが国会議事堂なんて、見た事はあるが入ったことは無い。故に結構ドキドキである。

 

「そう言えば川山さんは国会議事堂に入ったことが?」

 

「えぇ。何度か外交関連の話の時に入った事がありますよ。尤も私の場合、首相官邸に入り浸る事の方が多いですがね」

 

「首相官邸に入り浸ってるんですね.......」

 

この回答には霧島も予想だにしてなかったらしい。普通に生きていれば、まず言う事のないセリフであろう。川山が特殊すぎるのだ。

 

「ここが議員食堂になります」

 

「国会議事堂に食堂なんてあったのか」

 

「国会議事堂と言いつつ、議員以外にも色々職員がいますからね。職員の食堂にもなってるそうです。私も一度食べた事がありますが、結構味もしっかりしてて美味しいですよ。

因みに健太郎曰く、唐揚げ定食と海鮮丼が美味い、らしいです」

 

「その辺りは他の食堂と同じなんですね。見た目は豪華ですけど」

 

実はリアルの国会議事堂にも食堂はある。しかも4種類位あり、メニューも豊富なのだ。意外かもしれないが弁当なんかの販売もしている。

 

「次は審議室に参りましょう。多分、今の時間なら実際の会議が見れますよ」

 

中に入ると川山の言う通り、中では審議の真っ最中であった。YouTubeなんかにも上がってる様に、与党と野党による舌戦が繰り広げられている。

 

「ですから、これでは強権的かつ前時代的ではないのですか!?我が国は民主国家!にも関わらず、この統治方式は明らかに帝国主義的としか言いようがありません!!!!」

 

恐らく野党の議員と思しき中年男性が、マイクの前で叫んでいる。その後ろからは野次による援護射撃も加えられており、イメージ通りの国会であった。因みに今回の議題は、グラ・バルカス帝国の統治方式についてである。

 

『一色健太郎くん』

 

「前時代的、強権的、帝国主義的と仰いますが、それがグラ・バルカス帝国です。確かに我が国の技術レベルからしてみれば、また戦争になろうとも勝利を収められるでしょう。しかし他国はその限りでは無い。もしまた戦争が起これば、他国は血の海となるでしょう。それに観光や仕事等の理由で居合わせた、我が国の国民が巻き込まれないとは言い切れない。グラ・バルカス帝国の牙を抜く為にもこの様に統治するべきと考えているのです。

勿論、この統治方式は最初期のみに抑えます。軍を用いる事は現地住民には多大な不安と恐怖を与える事にはなりますが、この行動が帝国内に残る不穏分子に対する牽制となり、それが治安回復といったグラ・バルカス帝国への明確な利点となるのです」

 

『中江貴一くん』

 

「総理は神谷元帥のために、この統治方式を取ったのではありませんか!?総理と元帥は三英傑のお仲間。この行動により軍は予算獲得時に使えるカードが増える。2人の蜜月が、この方式を採用させたのでは無いですか!?あの男に全軍の指揮権を与えていることこそ、その証拠でしょう!!!!もし、あの男が反乱でも起こしたらどうするおつもりか!!!!!!お答え頂きたい」

 

いつの間にやら野党勢力の反論は、三英傑に対する批判へと切り替わっていた。だが、一色はその程度で止まらない。

 

『一色健太郎くん』

 

「まず今回の統治方式について、神谷元帥からは最初「NO」と言われました。「漸く戦争が終わったのだから、兵士達を祖国で凱旋させてやりたい」と申し出もあったのです。しかしそれを私が頼み込み、この結果になりました。従って蜜月などはありません。

それからアイツが反乱でも起こしたらどうするかと言われましたが、反乱起こされたらどうしようも出来ないでしょうね。アイツは単体でも絶対な力を持つ。刀を銃弾で切り裂くとか、そんなぶっ飛んだ事をやってのける男です。単体でも反乱を起こせば軍も多数の被害を出すでしょう。例えそれが1番下っ端の階級だったとしても。指揮権についても私ではなく陛下が下賜なされた事であり、陛下の御意志。そこにケチを付けるのなら、それ相応の証拠を見せて貰いたい。

というかそれ以前に、今の議題はグラ・バルカス帝国の統治方式に関する事。私や三英傑への批判をする場でありません。それに確か中江議員には、今週刊誌を騒がしてる某社との収賄疑惑がありましたよね?我々の事をどうこう言う前に、まずはそれを国民の皆様に説明するべきでは?我々の給料やここの運営費、それから手当諸々の資金は国民の血税の上に成り立っている。我々は国民に感謝し、国民の為にここで議論すべきなのです。それを忘れてしまっては、アンタ見放されますよ?」

 

完膚なきまでの攻撃に、中江議員は黙る。顔を真っ赤にしながら足早に自分の椅子に戻り、与党側からは拍手が巻き上がった。

 

「これがここの日常なのですか?」

 

「堺さんの居た日本じゃ考えられないと思いますよ。というかウチの国でも、アイツの一個前の総理はあんな感じじゃありません。多分、堺さんが想像するものと同じ感じですよ。アイツが可笑しいんです。

本来なら委員長も止めるべきなんでしょうが、あの通称『一色節』は国民にも大人気で止めたらクレームが入るんですよ。というか多分、委員長も楽しんでますからねアレ。半分公認です」

 

本来であれば傍若無人と言われ叩かれるであろう言動だが、あの言動で国民から許されているのは、それだけ一色が国民に対して誠実であるという事でもある。それだけの男がトップをやってる国は強い。この国が強国である理由の一端が分かったような気がした。

この後も議論が続いたが、すぐに時間切れとなり閉廷となる。議員達が外に出て行く中、一色は3人の居る方にやって来た。

 

「お疲れー」

 

「おう。そっちもな、案内ご苦労さん。さて、初めまして堺さんに霧島さん。大日本皇国総理、一色健太郎です。本日は出迎えられず、申し訳ありませんでした」

 

「いえいえ!お気になさらず」

 

まさかいきなり頭を下げられるとは思っておらず、2人とも驚いた。曲がりなりにも目の前の男は総理、つまりこの国の政治のトップ。その男がこうも簡単に頭を下げられるという事は、立場がどんなに上でも誠実であれる事の証拠だ。

 

「にしても荒れてんな」

 

「あぁ。だがあの国には荒療治でもしないと、国がマトモにならんよ。浩三にはめっちゃ渋られたが、まあ結果オーライだ。恐らく今の感じなら初期は軍で押さえ込み、以降は新生帝国政府に委ねて、後は復興支援とか諸々で企業にテコ入れして貰う感じになるだろ。不平等条約なしのパーパルディア方式だ。そっちもそれを意識して動いてくれ」

 

「了解了解。そういやアレ、中江のヤツ。あの犯人お前だろ?」

 

「勿論。そろそろ三英傑絡みとか俺と浩三関連で噛みついて来ると思ったんで、3週間前に週刊誌にリークしてやったぜ。中江の顔、ありゃネットの玩具にされるぞwww」

 

「あー、早くコラ画像とかボケてに出ないかなー」

 

横で全部聞いている堺と霧島は、一色が怖く感じた。つまり一色は今日辺りに中江が議論とは関係ない反論までして来ることを見越して、カードを増やせる様に手を打っておいたという事なのだ。そこまで見越せる一色という存在に、言い様のない恐怖を感じざるを得なかったのだ。

 

「おっと、完全に我々の世界に入ってしまいましたね。申し訳ない」

 

「か、構いませんよ。所で三英傑では、さっきの様に国政を共有しているのですか?」

 

「そうですよ。何なら軽く国の命運を左右する重要な決め事も、三英傑間で決める時は結構軽いノリで決めてます。大学生の「次の合コンの会場どうする?」「こことかで良くね?」みたいなノリです」

 

「か、軽いですね確かに.......」

 

(よく国が滅びなかったわね.......)

 

因みに2人の脳内での三英傑の会議というか、国関連の決め事はガチガチの感じかと思っていた。よく映画なんかにある、全てを裏で操ってる感じの勢力の会議みたいなヤツである。

2人の戸惑いは他所に、以降は一色も交えての国会議事堂巡りを行い1時間程で周り終えた。最後に一色からボールペンをプレゼントされ、ここで一色とは別れた。そして一行は、今度は東京駅へと向かった。

 

「ここが私との旅では最後の目的地となる東京駅です」

 

「おぉ、やっぱりデカいな」

 

「提督、天皇陛下や各国大臣も利用する駅ですよ?小さくては舐められます」

 

「それもそうだな」

 

駅構内に入り神室町行きのリニアの改札の近くに行くと、そこには私服姿の神谷がいた。

 

「お、いたいた」

 

「よっ!お疲れさん。それにさっきぶりですね、お二人共。尤もアレは電脳世界でしたが」

 

「先程はどうも。霧島、この方が大日本皇国のトップ、神谷浩三元帥殿だ」

 

「霧島です、よろしくお願いします。元帥閣下」

 

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。あぁ、そうだ。私は堅っ苦しいのは苦手なので、神谷とお呼びください。元帥閣下じゃ息が詰まっちまう」

 

一応来日後リアルでは初の顔合わせとなり、そして霧島にとってはファーストコンタクトとなる神谷。簡単に自己紹介も終え、リニアもそろそろ来る。川山とのお別れの時間だ。

 

「それではお二人共、私はこれにて。まだ少し早いですが、一日お疲れ様でした。次は外交交渉の際にお会いしましょう」

 

そう言って川山は帰って行った。神谷、堺、霧島の3人は神室町行きのリニアへと乗り込み、水上都市である神室町へと向かう。

 

「所で、今から行く神室町とはどの様な場所なのですか?」

 

「まあ平たく言うと、ウチの会社と国が好き勝手やってる実験都市ですかね」

 

堺の質問にこう答える神谷。神室町自体、都市計画と建設は神谷の兄貴である賢介が社長を務める神谷組が行なっているし、町にある施設の大半は神谷グループの資本だったりする。かく言う神谷自身も街の3割位の物件を持っていて、1ヶ月で数千万単位の不労所得が入る。

 

「どういう事ですか?それにウチの会社というのは.......」

 

「神室町自体、私の兄の会社が都市計画を担当しているんです。その親会社が父の会社でして、あそこの施設も大半が同系列の企業が独占しているんです。

勿論、独占しているのも理由があります。さっきも言った様に実験都市として、様々な先進技術を用いた都市開発を行い、各産業にも同様に最先端の技術やプロトタイプのシステムを導入して実地試験をしているんです。ですので1つの企業が独占した方が何かと楽なんですよ」

 

「確かに合理的ですが.......」

 

「勿論、他の企業に対して不公平ですから、しっかり他企業にも旨味がありますよ。店を出店する際にグループの不動産を買う訳ですが、相場よりも割安で提供しているんです。その代わりに、システム導入に同意するという契約を結ばせる。ですので店自体は結構いろんな企業が出店していますので、悪い話ばかりではないんですよ」

 

霧島が気にしていた、産業での軋轢が綺麗に回避されている。更に神谷は「建設も主導こそウチのグループでも、建設は様々な企業が協力している」とも言ったので、合理的な実験都市かつ新たな市場も産まれる中々に理に叶った都市だと霧島は思った。

しばらくしてリニアは神室町の玄関口である『神室ステーション』に到着し、モノレールに乗り換える。

 

「まるで未来都市ですね」

 

「ここが玄関口の歌舞伎地区です。ここが本土とここを結ぶ神室ステーション。あっちに見えるのが、港湾施設と物流拠点が融合しフルオートメーションで動く神室ウォーターフロントです。まずはこのまま、紅蓮地区に行きます」

 

堺も霧島も、結構楽しんでくれているのか窓の外をじっと眺めている。特に堺は目が少年の様にキラッキラしていて、見るからに楽しそうだ。

 

「紅蓮地区には何が?」

 

「紅蓮地区は北側に町の中核を担う施設が集約されていて、南側はマンション群があります。今回は北側の施設を見学してもらいます」

 

「あ、提督!あんな大きな建物までありますよ?」

 

窓の外を見ていた霧島が、中心部に聳え立つ建物を見つけた。周りのタワーマンションが小さく見えるほどに巨大で、四隅にタワーマンション4棟分位の大きさを誇る構造物と、真ん中にそれより巨大な構造物で構成された想像できないほどに大きな建物である。

 

「市庁舎か何かじゃないのか?それか、神谷さんのお兄さんの会社とか」

 

「神谷さん、あの建物はなんですか?」

 

「アレは家ですよ」

 

「あんなマンションまであるんですね。家賃幾らするんだろうか.......」

 

「提督、現実に急に戻すのやめてください。それに多分、あんな大きさですから月数百万単位ですよ」

 

いきなりの現実に引き戻す発言に、霧島がジト目で堺を見てくる。だが、2人は根本的に勘違いしている。アレは家は家でも、タワーマンションではない。周りのはタワーマンションだが、真ん中の巨大なのは違う。

 

「あー、何か勘違いしてません?」

 

「どういう事ですか?」

 

「アレ、私の家です」

 

「「.......え?」」

 

「だから、アレ、俺の、家。That is my house」

 

その真ん中にある家は、紛れもなく目の前にいる神谷浩三の自宅である。

 

「あの、本当にそうなんですか?」

 

「えぇ。あの家自体、この神室町を包むガラスドームの柱なんですよ。何かあった時に血縁者が住んでいたら、色々と楽でしょ?だからあの建物を、そのまま私の家としての機能を付けて建設したんです。お陰で、一族が住む家の中で一番でかい建物ですよ」

 

余りにぶっ飛んだ発言に2人して固まる。まさかの町で1番大きな建物が、町のを作った人間の血縁者とは言え、たった1人の家なのだから。

 

「まさか、あんな大きな家に1人で?」

 

「流石にキツイですよ。使用人達が大量にいます。それに怒られるかもしれませんけど、あそこまでデカいと色々大変なんですよ?光熱費とかの諸々の維持費と生活費だけで一般人の平均年収近い額が一月で飛ぶわ、使用人の給料も払わないといけないわ、そもそも税金もバカにならないわで、結構お金が.......」

 

ぶっちゃけ不動産からの不労所得が無かったら、あの莫大な維持費を賄えない。神谷は更に株式運用で資金を増やして、不動産の所得が一気にゼロになっても10年は現状を維持できるだけの貯蓄をしていたりする。

 

「なんか、大変なんですね」

 

「もうヤバいです。夢の町だって言う人も居ますけど、私からすれば結構リアルを見せられる町ですよ。あぁ、着きましたね」

 

紅蓮地区に着くと、早速赤と黒を基調とした市庁舎が見えて来る。建物のデザインは何処か重々しい感じだが、全体的に近未来の建物の様に感じられるし、何より周囲にある美しい公園や広場で重々しさが中和されている。

 

「あれが市庁舎です。あそこの受け付けはロボットなんですよ?」

 

「ロボットですか?」

 

「勿論人間も居ますが、簡単な手続きはロボットが自動で行ってくれるんです。例えば転居届とか婚姻届みたいな書類関連とか、観光案内とか、後は保険適用の手続きだとか」

 

流石に中には入れないが、話を聞く限りなら確かに未来都市である。だが次の瞬間、未来都市である事を実感する物を見る。

 

「おい霧島。あれ、ドローンじゃないか?」

 

「あ、ホントですね」

 

見れば2つのプロペラを持った手のひらサイズの小さなドローンが飛んでいる。下には何か、棒状の物体が装備されている。

 

「あのタイプは警察の追跡ドローンですね。下の多目的レールガンから、スタンガンが発射されるんです。他にも暴徒鎮圧用にゴム弾を装填した機関銃とスタングレネードを発射する鎮圧ドローンもありますし、常時宅配ドローン、貨物ドローン、救急警備ドローン、消防ドローン何かが街を回っています。あ、アレが救急警備ドローンですよ」

 

そう言って指差した方向には、小学校高学年位の高さのある自動車型のドローンが町を走っているのが見える。

 

「なんか可愛いですね」

 

「可愛くても、中身は高性能ですよ。横にロボットアームが付いていて、人1人位なら余裕で引き摺って移動させられますし、遠隔で医者や看護師が操作して点滴なんかを投与したりも出来ます」

 

どうやら、本当に未来都市らしい。この後見せて貰った警察署も巨大で先進的な見た目であったし、他の施設も近未来を感じさせる建物が多かった。

 

「では次は神谷地区に行きましょうか」

 

「神谷地区?」

 

「父の企業の主要な傘下企業のオフィスビルが立ち並ぶ地区で、神室メモリアルパークという神室町の建設史が紹介されてる公園もあるんですよ」

 

またモノレールに乗って南東部のカムロモールや遊園地、リゾートホテルが立ち並ぶ太平地区、南部のベッドタウンや『天下一通り』という、地上40階に建てられた特殊な構造を持つ繁華街がある阿頼耶地区を抜けて、神谷地区へ到着する。

 

「これはまた、すごい光景だ.......」

 

「360°全部ビルですね.......」

 

今、3人は円形の公園にいる。この下には交差点があり、更にその下にはラウンドアバウトもある。そしてその周りを取り囲む様に600m近いビルが5つ並んでいて、まるでビルの壁の様に見える。

 

「正面から建設部門の神谷組、芸能部門のカミーヤプロダクション、金融部門の神谷金融、軍事部門の神谷タクティクス、ICT関連産業部門の神谷テクニカ、農林水産部門のAFF神谷の本社ビルです」

 

「神谷さん、ホントに只者じゃない..........」

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

近くにある神室メモリアルという施設に入ると、神室町の立体映像で作られた模型があったり、建設から現在に至るまでの開発と発展の歴史を紹介するパネル、建設中の映像なんかもあって、結構楽しい時間が過ごせた。

かれこれ1時間ほど居て、外に出る頃にはすっかり暗くなっている。

 

「お二人共、迎えが来てますのでどうぞ」

 

そう言って神谷が指差す方向を見ると、黒いリムジンが停まっている。それに乗り込み、本日から5日間泊まることになる神谷邸へと車は進み出した。

40分程度で車は神谷邸の下へと到着し、車を降りるといつもの様に執事の早稲が出迎える。

 

「お帰りなさいませ、旦那様」

 

「ただいま。彼らが例の客人だ、丁重に頼む」

 

「お任せを」

 

「堺さん、霧島さん。紹介しましょう、ウチの執事、早稲です」

 

「お初にお目にかかります、当家執事の早稲と申します。以後、お見知り置きを」

 

流石ベテランの執事。その所作は物語に出てくる執事を、そのまま現実世界に出した様に完璧で美しい。

 

「わ、私は堺修一と申します。5日間、よろしくお願いします」

 

「霧島と申します。よろしくお願いします」

 

「堺様に霧島様ですね。ご丁寧にありがとうございます。それでは…」

 

早稲が手をパンパンと叩くと、後ろにいた男性の使用人が素早く前に出て来た。

 

「お荷物をお預かり致します」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

「お願いしますね」

 

「それでは御二方、お部屋にご案内致します。こちらへ」

 

ヘリポートからエレベーターで下のフロアへと向かう。途中、神谷と早稲は神谷の自室のある部屋で降り、堺と霧島はそのさらに下のフロアにあるVIPゲストルームに通された。

 

「こちらの部屋が堺様、その隣、あちらの部屋が霧島様になります。どうぞ」

 

一度ここで堺と霧島が別れ、自分達の充てがわれた部屋へと入る。中は何方も同じ内装なのだが、まあ凄い。明らかに最高級ホテルの1番グレードの高い部屋と同等、或いはそれ以上の部屋であった。

 

「こ、これは凄い.......」

 

堺も軍の高級将校である以上、数回ではあるが高級ホテルに滞在したことがあるにはある。しかしその泊まってきたどの部屋よりもランクが遥かに上であった。

 

「お荷物はこちらでよろしいですか?」

 

「あ、はい」

 

「前のお部屋にミーティングルームも御座いますので、滞在中はお好きにお使いください。何かございましたら、こちらの内線をお使いください。すぐに我々が参りますので。

お食事は1時間後になりますので、準備ができましたら1つ上の大広間までお越しください。それでは、失礼致します」

 

使用人は最後の部屋を出る瞬間まで、洗練された動きで礼を尽くし出て行った。さて、取り敢えず荷物も来たことだし、今から1時間は暇な時間だ。なら、やる事は1つ。

 

「部屋探検、するか」

 

そう。部屋探検である。流石にこの広さの部屋は泊まったことが無いので、何処にどんな部屋があるのか。どんな設備があるのか全く検討も付かないのだ。

 

「ここがリビングルームだな。あるのはキッチン、大型のテレビモニター、多分20人位は座れる広いソファー、ダイニングテーブルと椅子、で、何だこれ」

 

謎の炎が出ている、現代版囲炉裏の様な謎の設備がある。だが炎の周りはガラスで覆われていて、炎がゆらゆらしている光景を見るだけのようだ。

と思っていたのだが、上にスイッチが付いていて、それを押してみるとガラスがスライドしたではないか。

 

「火力調節もできる.......。これ、ホントに現代版囲炉裏だ」

 

部屋はメゾネット式の様で、リビングルームに階段がある。一応玄関からリビングルームは数段下がった位置にあるのだが、玄関と同じ高さの位置に扉がある。まずはそこに入ってみた。

 

「ここは、ワークスペースか?」

 

自分の執務室にある物より明らかに豪華な机と椅子があり、後ろにはバリスタのコーヒーとお茶、ウォーターサーバーもある。様々なモデルに対応できる様に各充電端子もあり、コピー機やFAXまである。仕事が捗る事は間違いない。

 

「まるでオフィスだな」

 

次はさっきの、下に降る階段を降ってみる。そこを降ると左にウォークインクローゼットがあり、正面には大きなベッドルームがある。その奥には風呂があるのだが、浴槽が2つあった。1つは屋内で、もう1つが露天風呂である。石造りの浴槽に竹が植えられていて、屋根がない。流石に周りは木製の壁で囲われているので外は見れないが、屋内の浴槽からは夜景が見える。こんな豪華な部屋は見た事がない。

取り敢えず霧島を部屋に呼んで、簡単に打ち合わせをしていると、すぐに食事の時間が近付いてくる。パーティー用の衣服に着替えて、大広間へと向かった。

 

「堺様に霧島様。お二人共、よくお似合いでございますよ」

 

大広間の前には早稲が待機していて、堺と霧島を出迎える。

 

「ありがとうございます」

 

「さぁ、こちらへどうぞ」

 

早稲が扉を開けると、やはり待っていたのは煌びやかな部屋であった。シャンデリアが光を生み、白いテーブルクロスの敷かれた長机。明らかに高そうで座り心地の良さそうな椅子に、赤地に金の刺繍の入った絨毯。奥にはイブニングドレスを着た5人のエルフが既に座っていて、その奥には紋付き羽織袴姿の神谷もいる。

 

「堺さんに霧島さん、どうぞこちらに」

 

神谷は2人を自分の前の席へと案内し、席につかせる。神谷が先に着いた事を確認すると、早稲が合図して料理が運ばれて来た。

 

「今日は宴だ。好きに食べてください」

 

因みにメニューはこんな感じ。

 

先付け

・鮭の和風カルパッチョ

 

吸物

・鱧の吸物

 

造り

・黒マグロ三種(赤身、中トロ、大トロ)、伊勢海老、アワビの刺身

 

八寸

・鯛カマの塩焼きと生ハムカプレーゼ

 

焼き物

・仙台牛のステーキ

 

炊き合わせ

・筑前煮

 

ご飯

・薩摩地鶏の炊き込みご飯

 

甘味

・バニラアイス

 

「おぉ、これは」

 

「普通の懐石料理じゃ、ちょっと遊び心がないんでね。料理長に頼んで、色々やって貰ったんですよ」

 

本来であればコース料理で出てくる上に、味付けも奥ゆかしく上品な物が多い。だが目の前の懐石料理は一気に全部きて、尚且つ料理自体もイタリアンが含まれていたりして、初めて見るタイプの懐石料理であった。

お味の方はというと…

 

「うまっ!」

 

「ほんと。美味しい」

 

「もっと言ってやってください。多分、その辺で料理長が感想に聞き耳立ててますから」

 

次の瞬間、ガタンと物音がした。どうやら本当に聞いていたらしい。すぐに「何もしてませんでしたけど?」という顔で、料理長が挨拶にやってきた。

 

「本日より、私が料理の準備をさせて頂きます」

 

「よろしくお願いします、料理長さん」

 

「これ、本当に美味しいです!」

 

「ありがとうございます」

 

一応強面なのだが、褒められた時の顔は子供の様に無邪気な笑顔を浮かべている。どうやら、本当に料理が好きらしい。

 

「あの、所で神谷さん。彼方の方々は?」

 

「あぁ、紹介が遅れて申し訳ありません。彼女達は私の妻です」

 

神谷はサラリとそう言うが、5人いる。日本国では法律上は1人までしか結婚できない筈なのだが、何故かハーレム状態である。妾だとしても、客人がいる目の前でこんな堂々と食事を共にさせるとは考えられない。

 

「長女のヘルミーナと申します」

 

「次女のアナスタシアだ。よろしく頼む」

 

「三女のミーシャです。よろしくお願いしますね」

 

「四女のレイチェルでーす」

 

「五女のエリスよ。まあ、よろしく頼むわ」

 

しかも姉妹である。五人姉妹をそのままハーレムにしているという、中々にぶっ飛んだ状況と酒で堺も頭が回らない。だが、霧島は違った。

 

「あの、質問しづらい事ですが、何故5人も奥様がいらっしゃるのですか?」

 

「彼女達との婚約は、それはまあ特殊なんですよ。知っての通り、本来これは違法です。昔こそ妾制度はありましたが、今は一夫一妻制と法律に定められています。

しかし転移後に幾つかの法改正がなされまして、新たに郷に行っては郷に従え法という、異世界で婚約した場合にその村や土地の兼ね合いで一夫多妻や多夫多妻をせざるを得ない際に一夫一妻以外の婚姻関係が認められる法律が出来たんです。彼女達も村の掟で私と結婚しなかったら死ぬ事になっていまして、この法律により5人と結婚したんですよ」

 

「そんな法律が.......」

 

因みにこの後、エルフ五等分の花嫁からナゴ村での戦闘の話を聞いて、目の前の男が思ってた以上にぶっ飛んでいた奴だと思い知ったという。

 



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特別編3 大日本皇国来日(四軍見学編)

2日目 東京湾上空

「本日は午前中に空軍と特殊戦術打撃隊の視察、午後には我が軍の演習を視察して貰います。ですので案内は外交官の川山ではなく、私が担当となります。よろしくお願いしますね」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします」

 

神谷、堺、そして霧島の3人は早速、神谷邸からヘリコプターで横田空軍基地へと向かう。この基地には空軍機の他、海軍の艦載機も地上整備を受ける拠点でもあり、航空機の見本市ができる位には航空機が多くいる。視察には持ってこいだ。30分程度の遊覧飛行の末、横田基地にヘリは着陸する。

 

「お待ちしておりました」

 

「おう基地司令。準備は整っているか?」

 

「えぇ。どうぞ、こちらに」

 

流石に横田基地は広大である以上、徒歩で移動していては時間が掛かりすぎる。そこで先に基地司令に頼んで、車を用意してもらっていたのだ。3人は車に乗り込み、まずは滑走路横の格納庫区画へと走る。

 

「本当に広い基地ですね」

 

「えぇ。本基地は空軍の他、横須賀に本拠地を置く空母と揚陸艦の機体の整備基地としての側面もありますからね。規模で言えば大きい部類に入りますよ」

 

道中こんな事を話していると、すぐに格納庫区画に到着した。まず最初に入った格納庫には、F9心神とA9ストライク心神が格納されていた。

 

「右のがF9心神、左はA9ストライク心神です」

 

「ストライクとなると攻撃機ですか?それにしても、垂直尾翼も無いとは珍しいですね」

 

「そうですよ。元々心神は制空戦闘機として開発されたんですが、レシプロ機並みの旋回半径を誇る高機動機かつ推力にも余力があったたので、そのまま攻撃機に改造したんです。それがストライク心神になります」

 

「プロペラ機並みですか!?」

 

霧島が驚いた様子で、そう聞いてきた。本来ジェット機ではどうしても、旋回半径が広がってしまう。それ故に機動力だけで見れば、レシプロ機の方が遥かに良い。

だがレシプロ機並みの旋回半径に、ジェットの推力が加わるとなるとパイロットとしては凶悪なモンスターに他ならない。この後に神谷が「アメリカのF22ラプター8機を相手に単機で勝った」と説明したのだが、その理由がよく分かる。というか相手をした米軍パイロットは、おそらく生きた心地がしなかっただろう。

 

「このストライク心神には、どの程度の武装が積めるのですか?」

 

「大型パイロンが12、中型4、小型2ですから、まあ1機で一個艦隊余裕で潰せる量の武装は積めますね。勿論現代艦艇のペラペラ装甲かつ、1発も撃墜されないのが大前提ですけど。あ、あそこのミサイル。アレが対艦ミサイルのASM4海山ですよ」

 

「.......恐ろしいですね司令」

 

「あぁ.......」

 

堺と霧島の脳裏にはASM4海山が、自分の艦隊に突き刺さる情景が浮かぶ。幾ら艦娘といえど、流石にミサイル相手となれば撃墜は一部の艦を除けば絶望的。あんなのが何十発も飛んで来れば、すぐに艦隊が壊滅してしまう。それを考えるだけで、怖かった。特に霧島は、もしそうなった時にミサイルが飛んでくるのは自分。しかも艤装は身体の一部である以上、その限界を良く理解している。それもあって、堺以上に死の恐怖を感じていた。

 

「さぁ、次はこちらです」

 

次は基地司令が今いる格納庫の隣にある格納庫へと案内する。今度は規格外の超大型機と、時代錯誤な逆ガル翼を採用した機体が鎮座していた。

 

「この機体は、スヌーカですか!?」

 

「お、よく分かりましたね。この機体はA10彗星IIです。開発陣曰く「ヤマトのスヌーカとかいう機体、カッコいいから作りました」だそうで。逆ガル翼に旋回機銃とかいう時代錯誤な機体ですがね」

 

「何を言います!逆ガル翼はロマンですよロマン!!」

 

堺がここまでテンションが上がるのも仕方ない。堺は大のヤマトファンなのだ。こんな機体、興奮するなという方が無理である。

因みにそれを知っている霧島は「あー、また始まった」という顔で、その姿を見ている。

 

「その気持ち分かります!しかもこの機体、単にカッコいいだけじゃ無いんです!!音速で巡航し、戦車砲を撃ち込まれても生き残り、高火力の武装で地上の敵を一掃!!そしてカッコいい!!!!」

 

「戦車砲を撃ち込まれても大丈夫なんですか!?」

 

「というか隣の超大型機、超重爆撃機富嶽IIも戦車砲を弾きますよ」

 

普通航空機にここまで重装甲は施せない。にも関わらず、重装甲を施して音速を超えて巡航するだけのパワフルな推力。さっきから皇国の技術力には、ただただ驚かされるばかりだ。

 

「司令、見てください。この機体にも防護機銃が付いていますよ」

 

「コイツは主に敵地への強襲爆撃を念頭に開発された機体でして、これ1機にB52爆撃機10機分、B29なら約16機分を搭載できるんです。なのにマッハ1.5を叩き出す、我々から見ても変態機です」

 

霧島は驚愕し、堺は恐る恐る実戦でどうだったかを聞いてみた。

 

「.......あの、これって実戦で使っていたりしますか?」

 

「.......エストシラントを2回ばかし爆撃しましたが、最早都市の瓦礫ごと破壊する勢いで、爆撃というより爆弾を使った整地でしたねアレは」

 

流石にもう、ここまでくると驚きもしなかった。というか「爆弾を使った整地」というパワーワードに、一瞬笑いそうになってしまったのは内緒である。

次は少し離れた格納庫に案内された。しかも今度は外に機体が駐機されているが、どれもこれも巨大である。

 

「次は輸送機系の航空機を見て貰いますよ」

 

基地司令の一言で納得した。確かにどれも戦闘には向かない、ずんぐりとした機体が多い。だが、規格外にデカいのがある。

 

「あの大きな機体も輸送機ですか?」

 

「ん?あー、そうですよ。あれはC3屠龍です。後で見せる陸軍の大型戦車を積載可能な機体で、富嶽IIが出来るまでは普通の航空機としては(・・・・・・・・・・)最大クラスの機体でした」

 

今何故か、神谷は「普通の航空機としては」という部分を強調していた。普通ではない航空機となると、一体何なのだろうか。霧島はそれを考えるが、すぐに機体見学の時間になってしまう。

見た所、意外と大きいが輸送機と考えれば、まあ妥当な機体サイズだろう。だが1機種だけ、他と違う毛色の航空機がいた。

 

「これはガンシップですか?」

 

「お、そうですよ堺さん。アレはAC180迅雷です。機関砲と大砲、それからパイロンも装備した機体で、陸軍からの要望で開発しました」

 

「というと?」

 

「最初は「彗星IIでは火力不足な場合は富嶽IIを使いたい」と言われました。しかしまあ、あの機体はコストがバカ高い上に離陸距離が長いので、即応性には欠けます。おまけにジェットなので整備性も悪い。

そこで「退役した輸送機に武装付けて、ガンシップにしてしまえ」という風になり、この機体が開発されました。整備性も良く、滑走距離も短い。お財布にも優しくて、戦車が相手でも充分に戦える対地戦闘能力。結構使い勝手は良いんですよ」

 

(の割には機体が巨大な気がするが.......)

 

実際その通りである。コスト的には富嶽IIの半分で運用できるが、同タイプの兵器となるAC130と比べると、迅雷の方が1.5倍のコストが掛かる。決して安くは無い。

次に向かったのは、今までいた格納庫区画とは離れた場所にある格納庫区画だった。どうやらこの区画は海軍機の区画らしい。

 

「次は海軍区画です」

 

「基地司令、アレも準備済みか?」

 

「えぇ。既に格納庫に入れてますよ」

 

一体「アレ」とは何なのか、堺には分からない。だが今までの機体を見て来た辺り、何か特殊な機体なのだろう。そんな事を考えていると、車は1つの倉庫の前に止まった。

 

「こちらです」

 

今までは格納庫の扉が開いていたが、今回は閉じている。横の通用口から中に入ると、そこには2機の戦闘機が鎮座していた。

 

「コイツが海軍の艦載機として採用されている、F8C震電IIです。基本となるA型を空軍、VTOL機能の付いたB型を海軍陸戦隊、艦載機用の改修を施したC型を海軍が保有しています」

 

「まるでF35のような機体なんですね。しかし.......」

 

霧島の目はその隣にいる、もう1機の機体に目が止まった。漆黒に金のラインが入っている、明らかに別格の機体である。

 

「どうした霧島?」

 

「あの機体を見てください。あの機体、今までの機体とは違いませんか?」

 

「流石は『艦隊の頭脳』と言った所か。あの機体はそこの震電IIを元に作った全く別の新たな戦闘機。F8CZ震電IIタイプ・(きわみ)です」

 

「た、タイプ・極ですか.......」

 

堺は今まで見てきた機体を振り返る。これまでの機体はどれもこれも、中々に凄い兵器が多かった。しかしこの機体は、他とは違って明らかに強いとわかるネーミングされている。知るのが恐ろしくも感じる。

だが逆に霧島は、知るのが恐ろしく感じはする。だが一方でそれと同じ位、知りたいという欲求もあった。霧島が性能を聞こうとした時、神谷が説明を始める。

 

「この機体は『日ノ本』、つまり初めて接触した時に私の乗っていた戦艦に載せるために開発されました。ミサイルを始め、60mm機関砲、レーザー、レールガンを標準搭載した機体で、最高速度はマッハ6を叩き出します。

現状この機体を倒せる戦闘機は、我が国には存在しません」

 

マッハ6という、異次元の速度に加えてSFでしか聞かない兵装の数々。『極』の名前に負けていない性能に、2人とも唖然としている。

この後、実際に動かすことになり、震電IIタイプ・極のエンジンに火が灯る。

 

「危険なんで、あんまり前には行かないでくださいね!!!!」

 

甲高いエンジン音と共に、ゆっくりと機体が格納庫の外へと動く。すると外の駐機スペースで止まった。するとそのまま、2基の縦列双発ジェットエンジンが真下へと曲がり、機体下部から蒼白い炎を噴きながら機体が垂直に上昇。そのままの高度で機体は垂直になり、翼を一気に変形。さっきよりもスリムな体型になり、そして

 

ゴオォォォォ!!!!!!

 

鼓膜が破れそうになる轟音と、目の前で爆弾でも爆発したかの様な風を撒き散らしながら一気に震電IIタイプ・極が上昇していった。

 

「司令!あ、あれを!!」

 

「もうあんな所まで行ったのか!?!?」

 

わずか数秒の内に高度5000m近くまで上昇してしまう性能に、ただただ戦慄する2人。もしあんな戦闘機と戦う事になったら、勝てる気が全くしない。

 

「そろそろ時間だな。ではそろそろ、次の場所に行きましょうか」

 

「は、はい!」

 

「わかりました」

 

軽く現実の世界から離れていたみたいだが、神谷の声で戻ってきてくれたらしい。今度はさっきまで震電IIタイプ・極がいた場所に、4発のジェットエンジンを搭載したVTOL輸送機らしき機体が降り立った。

 

「この機体は何でしょう?」

 

「コイツはAVC1突空です。何の支援も無い中でも敵地に強襲できる様に我が国の主力戦車と同クラスの装甲を持ち、戦車を含む凡ゆる地上目標を排除して着陸地点を確保できるだけの武装を施した、言うなれば『アサルトガンシップ』ですよ」

 

霧島の問いにサラリとそう答える。もう2人とも慣れたのか、余り驚かなかった。

 

「コイツで目的地まで行きます。快適な空の旅を、とまでは行きませんが楽しんでください」

 

そう言いながら、機体に乗り込む。3人が乗り込むと上昇を開始し、今度は小笠原と東京の間にある特殊戦術打撃隊の基地へと飛んだ。

 

 

「所で神谷さん、その特殊戦術打撃隊とはどんな部隊なのですか?」

 

堺の問いに、神谷は思い出した。そう言えば特殊戦術打撃隊に関する説明をほぼして無かったのだ。そもそも皇国独自の軍事組織である以上、予想すら付かないだろう。

 

「これは失礼。まだ詳細を説明していませんでしたね。我が国は基本的には陸、海、空軍、これと海兵隊に当たる海軍陸戦隊、特殊戦術打撃隊、宇宙軍が大まかな括りとなります。

特殊戦術打撃隊は簡単に言えば、異端すぎる兵器を運用する組織ですね。行けば分かりますが、まあ常識外れのぶっ飛んだ兵器が大量にありますよ」

 

「そんなにですか?」

 

「そりゃもう。ある意味、バラエティ性とインパクトなら皇国軍随一かと」

 

霧島の問いにそう答える。あそこの兵器は読者諸氏もご存知の通り、マトモなのが基本無い。ぶっ飛んでるヤツが多い。

 

「それこそ、この下にも特殊戦術打撃隊の兵器がありますよ。パイロット、ホバリングに変更してくれ!」

 

「ウィルコ。見るならカーゴ開けますか?」

 

「頼む」

 

一応現役の軍人と艦娘とは言えど、念の為に2人にハーネスを装着してもらい、天井部分に装備されているパラシュート降下用のレールに接続。安全を確保した上で、2人をカーゴのギリギリまで行って下を見せる。

2人の眼下に広がるのは、超巨大な要塞であった。全長15kmはある巨大な人工島には周囲に多数の砲塔やミサイル発射管を配置し、中心部に超長砲身の巨大な砲塔が鎮座している。

 

「な、なんですかあれは!?」

 

「少なく見積もっても、100cm以上はありますよ!!」

 

「流石霧島さんだ。あの兵器は『提灯』という、特殊戦術打撃隊の保有する移動要塞の様な物です。あの中心部にあるのは150cmレールガンで、あそこから様々な砲弾を発射します。これと同じ物が皇国をグルリと取り囲む様に300基程配置されており、さらに地上にある120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲、通称『ストーンヘンジ』、これから見せる空中母機『白鳳』と機動空中要塞『鳳凰』が連携し、皇国の防空戦闘の初動を務めます」

 

ここまで鉄壁の防空システムは、これまで見た事も聞いた事もなかった。皇国を攻めるにしても、まず空からは無理であろう。『提灯』以外の兵器を知らないが、少なくともかなりの物量がいる。

暫く周囲を旋回した後、突空は本来の目的地である特殊戦術打撃隊基地の方を目指して飛ぶ。

 

 

 

数十分後 特殊戦術打撃隊第1基地

「ここが、特殊戦術打撃隊の基地になります。少し急ぎますよ」

 

そう言って少し急ぎ足で建物の中にはいる。中は軍事基地という割には白を基調としていて、まるで何かの実験施設や研究施設の様に思える。

そのまま廊下を進むと、エレベーターに乗せられて上へと上がった。エレベーターが上に到着すると、何とそこは管制塔だったのだ。

 

「管制塔ですか?」

 

「そうですよ。堺さんに霧島さん」

 

エレベーターから降りてきた3人を、1人の中年男性が敬礼で迎えてくれた。何故か軍服に白衣という、少し珍しい格好をしている。

 

「当特殊戦術打撃隊第1基地の司令官、模試水と申します。お迎えできず、申し訳ありません。何分、あの子の面倒を見ないといけないもので」

 

そう言って模試水が指差す方向を見ると、驚くべき物が目に飛び込んできた。全幅が800m以上はあろうかという大型の全翼機が鎮座し、その先には長いレールが段々と空中に向かって伸びていて、途中で途切れている。

 

「これは、まさかマスドライバー?」

 

「そうだろうな。しかし、何だあの巨人機は.......」

 

あんな巨大な飛行物体は見たことが無い。というかアレが飛ぶのかも、正直分からない。

 

「これがさっき言っていた空中母機『白鳳』です。翼下に数百機の無人機を搭載し、有事の際には無人機を射出したり、或いは本機が現場に急行して、敵航空機を殲滅します」

 

「何人程度で運用するのですか?」

 

「無人機です。翼下の搭載機も、母機である『白鳳』自身もね。完全自律型のAI兵器であり、例えEMPによる電磁波攻撃等で制御を失っても、スタンドアローン状態で防衛を進行します。AI自体には自己進化プログラムを搭載していますが、必ずこちらのサーバーを通る必要があるので、よくある勝手に自己進化して暴走する事もありません。

それに仮に暴走したとしても、日本本土上空を飛ぶ際には必ずストーンヘンジか『提灯』の射程内に収まりますので撃墜できます」

 

しっかりと安全対策もした上での、この巨大機を運用するだけの国力。これまでで充分皇国の凄さを思い知ったが、どうやら更に先があったらしい。

 

「さぁ、お2人とも。こちらへ」

 

模試水が薦める先には、3つの椅子が用意されていた。それもマスドライバーを一望できる位置の特等席である。

3人が椅子についた時、模試水の腕時計のアラームが鳴る。

 

「定刻となった。これより『白鳳III』の打ち上げに入る」

 

「了解。マスドライバー、起動」

 

「『白鳳III』、エンジン始動」

 

後部に搭載された6機のサブプロペラと、2機の巨大な二重反転メインプロペラが始動し回転を始める。一定の回転数まで上がると、管制塔内にブザーが鳴り響いた。

 

「『白鳳III』エンジン正常、ミッションデータ、インストール完了。発射準備完了」

 

「マスドライバー、電磁加速カタパルトレール準備良し。電圧安定」

 

「最終カウントダウン開始」

 

模試水が自席の如何にもな赤いボタンを押すと、男声の機械音声がカウントダウンを始める。

 

『これよりカウントダウンを開始します。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0』

 

「リフトオフ!!」

 

マスドライバーのレールに無数の小さな稲妻が発生し、蒼白く光ると『白鳳III』が一気に加速していく。

 

「1、2、3。マスドライバー加速中。リフトオフ、今」

 

10秒と経たないうちにマスドライバーから『白鳳III』が射出され、青空へと白い巨鳥は消えていく。

 

「発射は成功しました。如何ですか、ご感想の程は?」

 

「まるでSF映画のワンシーンみたいでしたよ!」

 

「マスドライバーまであるなんて、皇国の科学力は凄まじいですね」

 

模試水に聞かれた2人は、思い思いの感想を述べる。特に堺の目はキラキラ輝いていて、こういうのが好きなんだと物語っている。

 

「それは良かった。ですが、驚くにはまだ早い。今からもっと驚きますよ。ただ私は少し会議が入っておりますので付き添いは出来ませんが、ぜひ楽しんでいってください」

 

そう言って模試水は管制塔を去っていった。ここからは基地の見学になる。まず最初に行ったのは、マスドライバーの隣にある超大型機の格納庫であった。

 

「こ、これはまた巨大な格納庫ですね」

 

「というかこれ、最早工場では?」

 

堺がそう突っ込むのも無理はない。全幅1.1kmの巨大機がそのまま入る様に作られているので、格納庫自体の大きさも1.5kmの横幅がある上に整備場として使えるように施設になっているので、どうしても巨大になってしまうのだ。

 

「あの機体に合わせると、どうしてもこうなるんですよ」

 

そう笑いながら中に入ると、そこには2機の鋼鉄の巨鳥が翼を休めていた。さっき見たとはいえ、間近で見るとその大きさがヒシヒシと伝わってくる。というかぶっちゃけ巨大すぎて、何が何だか分からない。

 

「こんな機体が列島の上空を飛んでいるんですね」

 

「1機だけでも凄いのに、こんなにもいるなんて」

 

霧島がそう言うが、それは間違いだ。確かにここに居るのは飛んで行った『白鳳III』に加えて1号機と2号機だが、『白鳳』は北海道と九州・沖縄に4機、四国に2機、本州に10機、列島を縦断する形で4機がいて、さらに陸上の基地に10機の合計34機いるのだ。

その事を伝えると、霧島は固まった。そして堺は倒れそうになった。

 

「この国あれだわ、絶対に喧嘩売っちゃいけないタイプの国だ」

 

「司令、私の計算では勝率3%です」

 

「霧島さん、其方が私の知る艦これと同等の威力の兵器だとするなら、恐らく0%だと思いますよ。

この機体の武装は何も数百機のUAVだけじゃない。対空ロケットランチャー90基、駆逐艦を一瞬で溶断するレーザー兵器が1基、パルスレーザー砲2基が搭載されており、更に機体自体の装甲も空対空ミサイルでは傷も付かない。これに加えてAPS、Active Protection Systemという電磁エネルギーを放出するバリアにより、通常兵器は基本的に全て無力化されます。ミサイルも砲弾もね。

其方は恐らく51cm砲が最大だと思いますが、APS作動中ならそれも余裕で耐えますよ。しかも効果時間は短いもののチャージの時間も短いので、割と早いスパンで使えるんです」

 

「.......司令、先程の計算修正致します。勝率は0%です」

 

霧島に言われずとも、この機体を前に勝てるビジョンどころか、自信という物がそもそも湧かなかった。これまで何度も深海棲艦と戦い、数多の戦いを経験したが、こんな気持ちになったのは初めてである。

 

「次はこちらの格納庫にどうぞ」

 

今度はその向かいの格納庫に通された。こちらの格納庫は『白鳳』のよりは小さいが、充分にでかい。さっきのが可笑しすぎたのだ。

 

「こちらは機動空中要塞『鳳凰』と『白鳳』、『鳳凰』に補給するサプライシップの格納庫になります」

 

中に入ると、またしても巨大な機体が2機とジェット機サイズの機体が60機程格納されていた。

 

「こっちの巨大なのが『鳳凰』で、向こうの小さいのがサプライシップです」

 

「まるで宇宙船の様だな.......」

 

「流石ですね堺さん。この機体は本来、宇宙空間で衛星破壊や隕石の破壊を目標に開発されたんですよ。しかし自由に行き来する技術がなく、泣く泣く成層圏と中間層を飛行する兵器になったんです。

しかしエンジンはなまじ良いのを積んでるので、この巨大でありながらマッハ4を叩き出します」

 

全長180mの巨大機がマッハ4を叩き出すというのは、流石に驚きを隠せない。だが段々と染まってきたのか「皇国だから仕方ない」で済むようになった。

 

「次はこのまま、この外に行きますよ」

 

そう言って外に出ると、次は3機の航空機が海に浮かんでいる。その様はまるで、鯨の親子の様に見える。

 

「これは飛行艇ですか?その割には巨大ですね」

 

「この機体は空中空母『白鯨』です。隣の少し小さいのは支援プラットフォーム『黒鯨』ですね。3機で一個の空中空母艦隊を形成し、世界中、凡ゆる場所に展開します」

 

「空中空母!?!?」

 

「こんな物まであるんですか.......」

 

堺は驚愕すると同時に目を輝かせた。空中空母とか、ロマン以外の何物でもない。これだけでここにきた意味があるというものだ。

 

「この機体にも多数の防空火器が搭載されていますし、何より『黒鯨』はハリネズミの如く至る所に武装が施されています。

この機体を戦闘機で倒すには、相当の物量が要りますよ」

 

「ある意味、この機体が一番恐ろしいかもな」

 

ふと、堺は我に返った。もし仮にこの機体に輸送機と歩兵を乗せれば、簡単に空中強襲揚陸艦にも早変わりする。使い方によっては、更に別のことも出来るだろう。例えば移動式の前線基地として運用もできる。空母という汎用性が比較的高い艦に、飛行能力が合わされば余計に汎用性と厄介さが上がる。

実際、輸送機としては何度か既に実戦で利用されてる。それを見抜いた辺り、流石現役の指揮官と言えるだろう。

 

「取り敢えず大型兵器はここまでです。次からは小さいですが、それでも凄い機体をお見せしましょう」

 

次に来たのは普通の戦闘機格納庫。目の前に滑走路もあるので、何か戦闘機が入っているのだろう。

中に入ると、3種類の機体がいた。1つは大型といえど一目で戦闘機と分かる。だが残り2種は、明らかに毛色が違う。コックピットの風防部分が無数の小さなカメラがびっしりついた物に覆われているのだ。

 

「ADFシリーズです。右からADF1妖精、ADF2大鷹、ADF3渡鴉です」

 

「実験機か何かですか?」

 

「やはり霧島さんの観察眼は凄い。そうです、どれもコンセプトがあります。妖精はそのまま、先進技術を取り入れた機体。大鷹は航空機用のTLSによる狙撃戦術と、この特殊な風防を取り入れた機体。渡鴉は無人機との共闘を視野に入れた機体なんです」

 

どの機体も万人受けるする機体ではなく、あくまでも試作機や実験機の色合いが強い。だがそれ故に、コスト度外視なので装備は一番充実しているのだ。

 

「堺さんはこういうのがお好きなのでは?」

 

「大好きです!!」

 

「では、ロボットなどは?」

 

「まあまあ、ですかね」

 

てっきり「大好きです」とか返ってくるかと思ったのだが、例えロボット好きでなくてもSFに興味あるのなら、今から見せる兵器は必ず興味を掻き立てる物なのは間違い無い。ここには、あのメタルギアがあるのだ。

 

「こ、これは!!!!」

 

「ロボットですか!?」

 

「その通り。二足歩行戦車、メタルギアと呼ばれる兵器です」

 

そこに鎮座していたのは、皇国の誇るメタルギアシリーズの機体達であった。ガンダムの様な完全な人型ではないが、それでもメカメカしさがあってカッコいい。

 

「これ、格闘もできたりしますか?」

 

「流石に完全な人型ではないのでパンチとか出来ませんが、一応格闘プログラムは入ってますよ。キックとか、タックルなら出来ます」

 

「こんな機体でタックルされたら、建物は粉々ね.......」

 

全高数十mの巨大機が建物にタックルすれば、それはもう地獄だ。一瞬で瓦礫の山にしてしまうだろう。

 

「実戦での使用は?」

 

「そうですねぇ。一番わかりやすいのは、クラールブルクでの戦闘ですかね。パーパルディア皇国の造船拠点なんですが、ここをメタルギア水虎が襲撃し完全に破壊しました。

船に腕を突き刺して、そのまま投げたりとかしたらしいです」

 

艦娘である霧島は、その一言で震え上がった。そんな事、一番されたく無い。それはそれとして、霧島はあることに気付いた。

 

「ん?司令、私たちが戦ったパーパルディア皇国に、クラールブルクなんて街ありましたか?」

 

「いや、ない。俺も初耳の名前だな」

 

(え、クラールブルクがない?)

 

意外な事に、向こうにはクラールブルクは無いらしい。まあバタフライエフェクトとか、歴史が違うとか、そういうのがあるのだ。世界線が違ったら、地理も変わるのだろう。そんな事を考えながらも、神谷は説明を続ける。

 

「因みに右からメタルギア零、メタルギア龍王、メタルギア水虎、メタルギア狼、メタルギア応龍ですね」

 

「メタルギア応龍には脚がないんですね」

 

「あの機体は基本、他の機体を運ぶ輸送機の様な用途で使いますからね。足はありませんが、分類上は一応メタルギア扱いですよ」

 

正直メタルギア応龍に限らず、『二足歩行戦車』と言いながらメタルギア狼は四足歩行もできるので今更ではある。

この後、ここの食堂で食事を摂った後、本日最後の目的地である千葉特別演習場へと飛んだ。

 

 

 

数十分後 千葉特別演習場併設飛行場

「ここが演習場ですか?」

 

「えぇ。この千葉特別演習場は東京の2.5倍大きさを誇り、核兵器を除くあらゆる火器の使用が可能です。演習場内にはジャングル、砂漠、山岳、岩山、森林、小規模な都市、平原、要塞陣地と基本的な戦場が再現されています。

さらにこの様に飛行場や簡単な整備基地も併設されているので、新兵器の実験なんかもここで出来ます。これに加えて各所にAR投影機能を持つ装置を配置しており、様々な敵を出現させて戦えます。まあ、詳しくは見てもらえれば分かりますよ。あ、そうそう。ここからは私ではなく、別の者が対応致します。柿田!」

 

「初めまして、統合軍大尉の柿田と申します。よろしくお願いします」

 

ここで神谷が柿田にバトンタッチし、神谷は格納庫内へと歩いていく。その間に3人は、簡単にここの訓練プログラムを教えてもらっていた。

 

「所で、長官からどの辺りまでお聞きしましたか?」

 

「ここの演習場の簡単な概要ですね。AR機能があるとか」

 

霧島がそう答えると、柿田もすぐに話す内容を脳内で決めて説明を開始する。

 

「分かりました。それでは、実際にどの様な訓練になるかを簡単にご説明致します。ここの演習場にはAR投影機能を持った装置が随所に配置されており、データさえあれば凡ゆる敵を出現させられます。歩兵、戦車、戦闘ヘリや戦闘機に至るまで。装備自体も仮想敵国は勿論、同盟国や我々皇国軍の者、やろうと思えばエイリアンやモンスターの様な現実に存在しない物まで、何でもです。

これに加えてコンピューターと連動しダメージを即座に計算し、すぐに反映してくれます。例えば足を撃たれれば行動が阻害されますし、死ねばヘルメット上に『DEAD』と表示されて退場になります。仮に瀕死の重傷だったとしても、間に合わなかったり適切な治療が施さなければ死亡判定になったりと、死なない事を除けば限りなく現実に近い戦場になっています」

 

これまで皇国の歴史を聞いてきたが、余り戦争には介入していなかった。それにも関わらず高い練度を誇っている理由が、これで分かった。言うなれば実戦を経験せずとも、実戦を経験しているのだ。

しかも例え死んでも、あくまでそれは判定に過ぎず生きている。となれば、その時の経験を元にした立ち回りや自分の戦闘スタイルを確立していける。それを部隊単位ではなく、個人単位のレベルで出来るのは大きなアドバンテージとなる。

 

「到着しました。今回は、ここで見学して貰います。

 

そう言って連れてこられたのは、よく学校なんかで使うテントが並ぶ場所であった。中には回転椅子と机がセットになってる物があり、その上にVRゴーグルの様な何かと双眼鏡がある。

 

「これはVRゴーグルですか?」

 

「違いますよ。これを装着して頂くと、個人の目線になれるんです。兵士1人1人にカメラがついてますので、例えば前衛を走ってる歩兵であったり、後方にいる装甲車、上空を飛ぶヘリの目線で戦場が見れます。

今回は小型のドローンも飛ばしますので、そのドローンのカメラで戦場全体を見る事もできますよ」

 

思ってたよりも遥かにハイテクで、2人とも驚いている。これなら戦場を間近に感じる事が出来るので、例えば新兵がベテラン兵の動きを体験する事なんかも出来るだろう。これも練度が高い秘密のひとつかもしれない。

 

「それではここで、今回の演習の想定をご説明致します。今回の演習では、上陸地点の確保と要塞の制圧が任務となります。間も無く演習が始まりますので、ご注意ください」

 

暫くすると、演習場にアメリカ兵が現れた。アメリカ製の兵器も出現したので、どうやら演習が始まったらしい。

 

「演習が始まりましたね。相手はアメリカ軍、総勢10000名。及び戦車500両、装甲車1700両、戦闘ヘリ20機という所ですね」

 

「........今から、そんな大規模な演習をするんですか?」

 

「いえ。こちらの規模は大体6000人位ですし、そこまでですよ」

 

今、聞き間違いでなければ相手よりも遥かに少ない数で攻略すると目の前の男は言った。普通に考えて、この差で防衛戦はともかく、攻撃は余程の事をしない限り勝てない。

 

「あ、早速来ましたね」

 

「て、提督!あそこ!!あそこに竜がいますよ!!!!」

 

見れば西の空から、竜が飛んで来ていた。だがワイバーンとは明らかに違う。大きさが比べ物にならない位大きいし、身体の色も赤い。あんなのは見た事がない。

 

「大尉、あの竜は一体.......」

 

「あの竜はこの世に存在する全ての竜の頂点に君臨する、竜神皇帝『極帝』です。唯一無二の存在であり、竜は愚か基本的にどんな生物よりも強い存在、らしいです」

 

次の瞬間、極帝の口が紫色に光り、地上にいたアメリカ兵たちを紫のビームが焼き払った。

 

「な、なんて威力だ.......」

 

ドローンの視点に切り替えて見たのだが、明らかに威力が桁違いだった。何せ地面が黒く焦げて、所々赤く光っている。あんなの、戦車でも耐えられないだろう。

 

「おっと、お2人共、あの竜をよく見ていてください」

 

言われた通り、双眼鏡片手に様子を見る。数秒後、誰かが背中から飛び降りた。パラシュートも何も付けずに飛び降りて、他上スレスレで腰の辺りから炎が噴いて着地する。

 

「大尉さん、もしかてあの方が極帝の主人ですか?」

 

「鋭いですね霧島さん。そうです。あの人が皇国で唯一、皇国で本格的に魔法を操れる人であり、皇国軍最強の兵士。そして天皇陛下より『皇国剣聖』の称号を与えられた、我々の上官」

 

「お、おい霧島。あれ、まさか.......」

 

堺は気付いた。双眼鏡で確認すると、何やら見覚えのある男が居たのだ。紫色(正確には至極色)の羽織を纏い、2本の刀を差した男。格好は違うが、あれは何処からどう見ても…

 

「大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三元帥です」

 

「やっぱりか!!!!」

 

「神谷さんが魔法を使える.......。本当、凄い人ですね.......」

 

堺も霧島も、魔法自体は見た事がある。だがそれでも、精々がファイアーボールとかその程度だった。どちらかというと、魔法を使った道具とか兵器の方が見慣れている。

だが知っての通り、神谷の魔法は格が違う。

 

三重最強化(トリプレットマキシマイズ)位階上昇範囲拡大魔法(ブーステッドワイデンマジック)鋼鉄の障壁(アイアン・ウォール)!!!!」

 

直後、神谷の目の前に分厚い金属の板が現れる。どうやらそれで攻撃を防ぐらしい。

そしてその後方で、神谷が両手を掲げる。その瞬間、周囲に無数の水色の魔法陣が形成され、神谷の周りをグルグルと周る。

 

「超位魔法、失墜する天空(フォールンダウン)!!!!」

 

直後、アメリカ兵の上空に白く輝く球体が出現し、地面に当たった瞬間、眩い光を撒き散らしながら周囲にいた兵士も兵器も見境なく、文字通りに消し飛ばした。

ゴーグルに表示された敵の数は、一気に6894人にまで減っている。たった一撃で、3000人近くを焼き払ったのだ。しかも神谷自身は、何かの代償、例えば行動できなくなるとか血を吐くとか、そういった類もない。

 

「あ、あの提督。戦車が空から降ってきました.......」

 

「は?そんな筈.......」

 

上を見れば、本当に降ってきていた。それも普通よりも巨大な、明らかに主力戦車を踏み潰していきそうな巨大戦車である。それな何十両と降ってくる。オマケになんか謎の二足歩行兵器もいる。

これに加えて海岸線には上陸用舟艇やら水陸両用車がいつの間にか殺到し、歩兵部隊や機甲戦力を上陸させている。上空にも多数の突空が飛来し、歩兵部隊を下ろしている。だがその様子は、鋼鉄の壁に阻まれて向こう側からは見えていない。壁が消える頃には、全軍が神谷を中心に配置されていた。

 

「そう言えば、こちらの部隊の戦力を紹介していませんでしたね。まず上陸してきたのは、海軍陸戦隊の第四海兵師団です。そして突空によるヘリボーンで展開したのが、神谷戦闘団になります。その内、あの白いアーマーを着ているのは、その中でも特に強い者が選ばれる白亜衆、赤いのは赤衣鉄砲隊です」

 

柿田の説明は、全く耳に入ってなかった。目の前に集う戦力が、余りに強そうに見えて2人とも目が離せないでいたのだ。

どの位が経っただろう。見ていると、急に壁が崩れた。砕け散った、と言った方が適切かもしれない。とにかく鋼鉄の壁が消えると、一斉に突撃を開始した。

 

『歩兵部隊は俺ら戦車の後ろに隠れろ!!!!』

 

『行くぞ!!!!』

 

『演習だからって気を抜くなよ!!目の前の敵を倒すんだ!!!!』

 

戦車を先頭に、敵陣地への突撃を開始する。だが、アメリカ側もタダではやられない。後方の砲撃陣地から、無数の砲弾が降り注ぐ。本来なら歩兵に大ダメージを与えるのだが、ここに常識は存在しない。

 

三重最強化(トリプレットマキシマイズ)範囲拡大魔法(ワイデンマジック)幾億の槍(ハンドレッズ・オブ・ミリオンズ・スピア)!!!!」

 

「ダンシング・スピア!!!!」

 

神谷とミーシャの魔法で、まさかの全弾迎撃される。逆にお返しとばかりに、実際には居ないが居る設定の駆逐艦から、対艦ミサイル桜島II型による攻撃で陣地を破壊されてしまう。

ある程度要塞陣地に接近した所で、神谷がハンドサインを兵士達に送る。兵士達はそのまま腕に装備されたグラップリングフックと、腰のジェットパックで立体的な攻撃を開始した。

 

「歩兵が空を飛び始めましたね.......」

 

「もう何でもありだな。なんかさっき、謎の二足歩行兵器が十数mのジャンプしてたし.......」

 

因みに謎の二足歩行兵器というのは、WA2月光の事である。月光は脚部を人工筋肉にしてあるので、8mという身長でありながらジャンプもできるし、トラックに収まるくらいまで縮まる事もできるのだ。

 

「戦隊各位、歩兵部隊が立体機動に入った。こちらも援護に入る」

 

「シンに続け!!!!」

 

別の場所が見れば、四脚の脚を持って素早く動く白い機甲兵器もいる。中にはワイヤーを打ち込んで飛び回る機体もいて、こちらもこちらでぶっ飛んでいる。

 

「お!どうやらアメリカ側も、本気を出した様ですね。長官とワルキューレを、本隊から分断させてます」

 

見れば突出していた神谷と、その妻達で構成された白亜のワルキューレ、それに向上が孤立している。しかも周囲には一個小隊近くが取り囲んでいて、絶体絶命である。

 

「行くぞ!」

 

7人は協力して、バッサバッサと殲滅していく。神谷が前に出れば向上とレイチェルが援護し、ヘルミーナが盾で相手を抑えながらアナスタシアが攻撃し、ミーシャがエリスに強化魔法をかけてエリスが突っ込んだり、バラバラに見えて連携している。特に、この2人は別格であった。

 

ズドン!ズドン!

 

「!頼みますよ」

 

「おう!」

 

向上の背後に迫っていた敵を、神谷が目の前の敵に刀を突き刺す直前で方向転換して突き刺し、逆に神谷の前にいる敵を向上が射殺。まるでお互いの感覚を共有しているかの様な、そんか異次元の戦闘を行なっていた。

 

「あの2人、本当に凄いな.......」

 

「いや、提督。あっちもあっちで凄いですよ」

 

「え?うわぁ.......」

 

堺の目線の先には、何故か銃の代わりに拳、鉄パイプ、メリケンサック、刀、鎌、ドスで戦う集団がいた。何人かは銃を使っているが、明らかに近接戦闘してる奴の方が多い。

 

「ギガディーン!!!!人間で餅つきしまーす!!!!!!」

 

「無駄乃田無駄乃田無駄乃田無駄乃田ァ!!!!」

 

「今日の星占いは五位!!!人を殺せば運気アップ!!!!!」

 

「ハードグリングリーン!!!!」

 

「怒ったカンナァ!!!!許さないカンナァ!!!!!」

 

「ヒヒヒ。真島吾郎解禁や!!!!」

 

「セイヤァ!!!!」

 

「うぉらぁ!!!!次はどいつじゃぁ!?!?!?」

 

まあ何というのだろう。アイツら、人間じゃねぇ。そういう感想しか、頭に思い浮かばなかった。こんな人間やめた連中が、皇国軍にはどの位いるのだろう。

そんな事を考えている間に陣地は占領されており、演習が終わったのだった。

 

 

 

数十分後 射撃場内

「まさか、神谷さんが演習に参加するとは.......」

 

「HAHAHAHA。私の家系自体、代々武士ですからな」

 

「そうなのですか?」

 

豪快に答えた神谷に、霧島が少し意外そうな顔で聞いてきた。まあ確かに神谷コンツェルンという、国内最大手の大企業の子息なのだ。「代々武士」と言われても、余り実感はないだろう。

 

「私の家系は古墳時代の豪族に始まり、奈良時代では多数の健児を排出し、以降は源氏の武士となりました。更に室町時代中期になると、傭兵となり独立武装国家を建国。以来、織田、豊臣、徳川に雇われ、関ヶ原で西軍につき、江戸時代では歴史の表舞台から消えました。

しかし幕末に薩摩藩と共に攘夷志士の中核となり、明治政府成立後は海外に飛び出して日本の近代化に力を注ぎました。これ以降、軍の中枢に常に実力で成り上がり、第二次世界大戦中は私の高祖父は分裂していた大本営をまとめ上げて日本を勝利に導き、ついでにワシントンにカチコミしたりと、それは大暴れしたそうです。

そして曽祖父が神谷組を立ち上げて、祖父は軍人の道へ進み、父がコンツェルンへと成長させました」

 

神谷から語られた神谷家の歴史は、日本の歴史そのものでもあった。まさかそこまで由緒正しい家系の、それも直系の子孫だとは思ってなかったのか2人とも驚いている。

 

「さぁ、我が国の陸軍兵力を見て頂きましょう。まずはコイツ、46式戦車です」

 

そう言って見せられたのは、巨大な戦車であった。戦車というより、最早陸の戦艦と言った方が適切かもしれない。

 

「この砲身、砲口径300mm近くありますよ!?」

 

「300mmの戦車砲って、何と戦う想定だよ.......」

 

因みに敷島型(実質ムーのラ・カサミ級)の主砲塔が30.3cmなので、サイズ的には殆ど変わらない。それを陸上兵器の戦車に付けている辺り、かなり頭がおかしい。

 

「流石にこのサイズの戦車を市街地で戦わせよう物なら、移動の度に家屋を破壊して敵の攻撃よりも酷い有様になるので、この戦車はあそこの連装砲を搭載した34式戦車改と共に、基本的に侵攻用の部隊や沿岸部の部隊に配備されています」

 

見れば横に連装砲を搭載した戦車がいる。というか連装砲を搭載した戦車自体、中々に珍しい。というかほぼない。昔は多砲塔戦車とかはあったが、連装砲は自走砲位の物である。まあ某機動戦士や宇宙戦艦のアニメに出てくる戦車が連装砲を装備してるので見慣れている読者もいるかもしれないが、基本現実では存在しない。

 

「あ、そうそう。沿岸部に配備されていると言ったら、こんなのもありますよ」

 

そう言って、次に見せたのは巨大な自走砲であった。だが、普通の自走砲とは明らかに格が違う。隣の自走砲がまるで、赤子の様に小さく思える。

 

「このデカブツこそ、我が皇国の技術者が頭おかしい証拠。51式510mm自走砲です。大和型の主砲を何をトチ狂ったのか、そのまんま流用しやがったキチガイ兵器です。

アメリカの演習場の山を1つ消し飛ばし、出禁を食らった兵器でもあります」

 

そりゃ510mm砲を撃てば山1つ消える訳で、出禁になるのも頷ける。だが演習に出禁というパワーワードに、2人は苦笑した。

 

「次が34式戦車になります」

 

「おぉ、普通だ!」

 

「いえ、提督。もしかしたらロボットになったりするかもしれませんよ.......」

 

漸く普通の戦車らしい戦車が出て来た。だがまあ、これまでの兵器を見て来たのだ。警戒もする。

 

「ははっ。コイツは極々普通の戦車ですよ。別にロボットになったり、四足歩行したり、空飛んだりとかはしません。まあII型は主砲がレールガンだったり、コイツの車体を流用して、さっきの34式戦車改が生まれてたり、対空戦車になってたりはしますがね」

 

どうやら意外とぶっ飛んでいる方向に進化しているが、この国の兵器の割には普通だった。

 

「それに四足歩行とか二足歩行の戦車なら、もうありますからね」

 

「あ.......」

 

「確かに.......」

 

2人は演習の時に居た兵器を思い出した。虫の様に素早く動く四足歩行兵器と、どう考えても鋼鉄の塊の飛距離ではない高さまでジャンプする兵器が居たのだ。

 

「まずはWA2月光です。コイツの脚部は見ての通り、人工筋肉を採用した兵器となっています。カーボンナノチューブ筋繊維を使用した高出力の燃料電池一体型筋繊維を用いて製作されており、演習で見せた高いジャンプ力の他、垂直な壁であっても足を引っ掛ける場所があれば登ります。

そして隣にあるのは、WA1極光です。威力偵察、護衛なんかに良く使われますね。武装のバリエーションもたくさんあるので、強襲なんかにも使えますよ」

 

どうやら皇国のロボット工学技術は高いと、堺と霧島も察したらしい。メタルギアに始まり、この2つの兵器。何れもロボット工学が惜しげもなく使われている。

 

「そしてこっちのがXMLT1土蜘蛛です。見ての通り四足歩行の戦車になります。尤も装甲は『当たらなければどうという事はない』が前提ですので、対弾性能はそこまで高くありません」

 

「という事は機動性が高いんですか?」

 

堺の問いに、神谷は何とも言えない苦い表情を浮かべながら笑った。何せこの兵器、本当の意味で珍兵器なのだ。

 

「いや、高いというか何というか。ぶっちゃけ高過ぎて、試作の時は操縦者の半数が病院送りになりましたよ.......。お陰でお蔵入りにするつもりだったんですが、生き残ってる連中から残せと嘆願書が提出されまして。

まあ実際、人を選びはしますが乗る奴が乗れば無類の戦闘能力を発揮するのもあって、私の部隊にのみ配備させてます」

 

そう語った神谷の目は遠い目だったので、恐らく裏で色々やっていたのだろう。それも結構苦労したらしい。

 

「次は装甲車の方を見ていきましょうか。まずは33式水陸両用強襲装甲車と28式水陸両用装甲車です。両車共、歩兵を輸送でき上陸後は火力支援を行います。

そしてこっちが44式装甲車になります。様々なタイプがあり野戦救急車、NBC偵察車、対空戦闘車なんかもあるんですが、この装甲車には1つ、ヤベェタイプがありまして」

 

そう言いながら神谷はスマホで、とある記録映像をタップする。2人に見せたその映像の風景に、堺は見覚えがあった。アルタラスの、それもパーパルディア皇国統治時に統治機構庁舎が置かれていた建物である。

 

「よく見ていてください」

 

その映像は驚きの瞬間を映していた。なんと44式装甲車が、建物の2階と3階目掛けてジャンプして突っ込んだのだ。中からオレンジの光と煙が上がってるので、恐らく廊下や廊下の壁をぶち抜いて戦闘しているのであろう。

 

「かつてのパーパルディア皇国との戦争時に行った作戦で、アルタラス島奪還時の物です。私の部隊の者で、恐らく皇国軍で一番44式の操縦が上手い奴です」

 

「エゲツないですね.......」

 

「霧島さん、その反応はまだ早いです。コイツら、最終作戦の時はエストシラントの城壁で、人間野球しでかしたんですから。

空挺降下で城壁に降り立ち、隊長か誰かにドリフトして車体ぶつけて吹っ飛ばしたらしいです」

 

「「うわぁ.......」」

 

2人とも教科書通りのドン引きであった。というか、これでしない方が頭可笑しい。因みに神谷戦闘団の面々は誰1人として引かないどころか、大爆笑していた。つまり神谷戦闘団の人間は全員頭可笑しい。QED。

 

「最後に我が軍の歩兵装備を見て貰いましょう」

 

「そう言えば、神谷さんの率いる部隊。あれは一体.......」

 

「神谷戦闘団ですよ。我が軍には特殊な部隊単位として『戦闘団』という物があります。様々な部隊を統合し大規模に運用する為の制度で、普段は存在しません。有事の際に指定された部隊が集結し、1人の指揮官の元で戦います。

しかし例外的に、私の指揮する神谷戦闘団だけは常時編成されています。有事の際は最前線に殴り込み、更には敵の本拠地に大部隊で強襲する事も視野に入れた1つのキリングマシーンです。これに加えて内部に『白亜衆』と呼ばれる皇国最高峰の戦闘部隊と『赤衣鉄砲隊』という、射撃の名手で構成された部隊もあります。こんな部隊ですから、国民からは『国境なき軍団』とも呼ばれていますよ」

 

堺は思い出した。初めて大日本皇国と接触した時、神谷が最後に自らが率いている部隊に連絡を取っていた。つまり、その部隊というのが神谷戦闘団だったのだ。今日の演習を見る辺り、兵士1人1人のスキルも高く連携も良く取れた部隊で『キリングマシーン』という表現が適切だと感じた。

あの時、何か選択を誤り戦闘状態に突入していたら、あの部隊が『Iowa』の艦内に雪崩れ込んでくると思ったら身震いした。

 

「それでは銃の前に、まずはコイツらです」

 

そう言って見せられたのは、武器ではなく防具。正確には歩兵達の着るボディアーマーの類いだった。それも2種類ある。

 

「こっちのスマートなのが機動甲冑、ゴツくてデカいのが装甲甲冑になります。機動甲冑は通常の歩兵が装着し、装甲甲冑は重装歩兵が装着します。

まあ口で語るより、使ってみてもらった方が楽なので。取り敢えず、コチラに着替えてください」

 

そう言って渡されたのは、黒のボディスーツであった。流石にこれを霧島に着せたらセクハラになりかねないので、堺に着てもらう。

隣に用意した仮設簡易更衣室で着替えてもらっている間に、霧島には神谷の使うARコンタクトレンズを付けてもらう。

 

「着替えましたけど、これで大丈夫ですか?」

 

「.......よし、大丈夫です。じゃあ、装着してみましょうか」

 

脚から順に装備していき、最後にヘルメットを被る。ヘルメットを被ると、女性の声で音声が流れた。

 

『ユーザー認証、ゲスト。使用許諾確認、適正ユーザーです。システム構築開始.......、完了。リアルタイム戦術リンクにリンクします』

 

最初は単純に外の風景が見えていただけだったが、音声が進んでいくごとにFPSの画面の様に様々な情報が映し出されていった。機動甲冑の状況、恐らく電池か何かの残量、小型の地図等々。本当にFPSの画面を、そのまま表示しているようだ。

 

「霧島さんはこれを耳の間につけてください。耳小骨振動式のマイクロホンです」

 

霧島にはマイクロホンを装備させる。装備すると、堺と同じ様に音声が流れる。

 

「おぉ!なんだか動きやすいぞこれ!!」

 

堺はピョンピョン跳んでみたり、走ってみたりしている。重い装備を纏っているはずなのに、普通の肉体よりも軽やかかつ素早く動けている。

 

「司令、あんなに動けないはずなんですけど.......」

 

「甲冑にはマッスルスーツ機能が搭載されてますからね。おーい、堺さん。そろそろ戻ってきてくださーい」

 

軽く1人100メートル走していた堺を呼び、こちらに戻ってきてもらう。マッスルスーツだけが甲冑の機能じゃないのだ、他の機能を体験してもらう。

 

「堺さん堺さん、まさかマッスルスーツだけが甲冑の機能だと思いますか?」

 

「他にもあるんですか?」

 

「他にもなんて物じゃありません。まずは、見てもらった方がいいですね。柿田!!」

 

「ここに」

 

自分の機動甲冑に身を包んだ柿田が、何もない場所から現れた。何か隠れる場所もなく、普通の平地から現れたのだ。

 

「い、今のは?」

 

「ステルス迷彩という、簡単に言うと光学迷彩です。後は、カメレオン迷彩機能もありますよ。柿田ー」

 

「はい」

 

柿田は地面に大の字で寝そべる。元々の色は白なのだが、地面に寝そべると即座に地面と全く同じ色になった。近くで見れば流石にわかるが遠くから見たり、上空写真で見ればまず間違いなく見分けられないだろう。

 

「これが全ての甲冑に?」

 

「そうですよ。本来ならステルス迷彩一本の方がいいんですけど、結構な大飯食らいで連続12時間使用までしか出来ないんです」

 

「いや、12時間でも充分では.......」

 

霧島が引き気味で冷静にツッコむ。因みに機動甲冑は充電無しで、1週間連続使用できる。しかも生体電気、歩行、光で発電するので基本的に充電が0になる事は無い。

 

「堺さん、視点を右端のサークルに合わせて瞬きしてください」

 

「うおっ!サーマルゴーグルにもなるのか!!」

 

「隣のサークルは光増幅式のナイトビジョンになりますよ」

 

「おぉー!!」

 

さっきから興奮しっぱなしの堺。先に機動甲冑の機能を紹介したので、霧島の装備しているARコンタクトレンズにも装備してある機能は後回しになっている。故にそろそろ、霧島も暇になってきているだろう。

 

「さてさて、ここからは霧島さんも使える機能ですよ。堺さんはヘルメットの右側頭部のダイヤルを。霧島さんはマイクロホンのダイヤルを回してくてください」

 

ダイヤルを回すと、望遠機能が作動し最大15倍のズームを可能とする。他にもマップ機能や索敵機能、集音機能なんかを試してもらった。

 

「ここからは、私が実際にお見せします。まずはこれ」

 

そう言って神谷は右腕を伸ばす。そのまま指をクイッと引くと、腕から勢いよくワイヤーが飛び出した。壁につき刺さったワイヤーを高速で巻き取り、そのまま飛び上がる。

 

「立体機動そ…いやスリンガーじゃねえか!!!」

 

正確にはグラップリングフックなのだが、やってる事は進撃の巨人の立体機動やモンスターを狩るハンターたちのスリンガー機動である。

立体機動で空高く舞い上がると、今度は空中でジェットパックを起動させて、空中を自在に飛び回る。流石にこの辺になってくると、訓練無しだと危ない。なので地上から見てもらう形にはなるが、それでも堺も霧島も目をキラキラ輝かせている。

 

「とまあ、こんな感じですね」

 

「凄いですね!!これが兵士1人1人に?」

 

「えぇ。前線で戦う歩兵は、必ず装備しますよ。それに甲冑には負傷すると自動で圧迫止血し、自己治癒能力を活性化させる膜を形成する機能がついていますよ。

さて、次はこの装甲甲冑です。コイツは試着できませんが、代わりに間近でお見せしましょう」

 

神谷が手を叩いて合図すると、5人の装甲歩兵がノソノソと歩いてきた。装備された武器は全員違うが、どれも人間が持つには巨大すぎる武装である。

 

「装甲歩兵はその名の通り、重装甲を持って歩兵の盾となる兵種です。機動甲冑自体、12.7mm弾に耐える装甲を持っていますが、装甲甲冑は20mm弾をも弾く装甲を持っています。それ故に機動性は落ちますが、その分、マッスルスーツ機能を前面に押し出す事で銃火器を装備する事ができる装備となりました。

見ての通りガトリング砲に、ヒートブレード、スレッジハンマー、ガンランス、盾、そして大砲と明らかに人の装備ではありません。勿論、見た目通りの火力を発揮しますよ」

 

神谷が合図すると、まずは35式七銃身5.7mmバルカン砲を装備した装甲歩兵が的に向かって発砲する。

 

キュィィン、ブオォォォォォォォォォォ!!!!!!

 

思わず耳を塞いでしまう程の大爆音。たった3秒程度の発砲で、的はズタボロになっている。あんなのを人に向けたら、恐らく秒単位で人が挽肉に加工されていくだろう。

 

「次はオートライフル砲です」

 

ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!

 

1秒で4発連射する35式60mmオートライフル砲。これが両腕に装備されているので、秒間8発の連射速度で的を破壊していく。やはり60mm弾なだけあって、1発1発の威力が大きい。

次に動き出したのはスレッジハンマー、ガンランス、ヒートブレードの3人。3人はいとも容易く、戦車の装甲板を破壊していく。

 

「まるでSFの兵士だ.......」

 

堺がそう漏らす。確かに空を自在に飛び回る兵士と、歩兵の盾となる重装甲の歩兵。それに歩行戦車やら、巨大な戦車。確かにSFだ。

 

「次は銃の紹介です。こちらはどうぞ」

 

装備を外してから少し場所を移動して、屋外の射撃場へと移る。ここには既に、副官の向上とワルキューレ達が射撃の準備をしてくれていた。

 

「おう向上。準備できてるか?」

 

「えぇ。好きな銃を、好きなだけ撃てますよ」

 

「そりゃいい。あ、お二人共紹介がまだでしたね。ウチの副長にして、赤衣鉄砲隊の隊長。そして私の秘書でもある、『鉄砲頭』向上六郎大佐です」

 

「向上です。初めまして」

 

「堺です」

 

「霧島です。よろしくお願いしますね」

 

向上との顔合わせも済んだので、早速銃器の説明に入る。まずは最も基本的な装備となる、43式小銃を見せる。

 

「これが我が軍の正式小銃、43式小銃になります。機関部を変更する事で5.56mmと7.62mmの何方も射撃可能で、改造パーツも大量にあり、兵士個人個人が好きにカスタマイズできます。撃ってみますか?」

 

「え、よろしいのですか?」

 

「どうぞどうぞ。ちなみに射撃の腕に自信は?」

 

「拳銃、小銃は少しなら。狙撃銃はかじった程度ですね」

 

思ってたよりも銃には触り慣れているらしい。拳銃は護身用に携帯するだろうし、小銃位までなら分かるが、まさか狙撃銃もかじった事があるとは驚きだ。

 

「海兵隊でもないのに狙撃銃にまで慣れているとは、珍しいですね」

 

「そりゃあ、提督は艦娘を指揮する立場にあると同時に、いざとなれば彼女たちを守らねばなりませんからね。私の場合、その思いを拗らせて物理的に艦娘たちを守ろうと考えてしまっただけですよ」

 

「司令、そこまで考えていたのですか.......」

 

しっかり艦娘の事を考えている辺り、恐らく艦娘からの信頼も高いだろう。何より指揮官が兵士を守ると考えている時点で、その組織は手強い組織となる。トップ率先は、組織の士気を上げるのには手っ取り早い手段なのだ。

簡単に操作を教えて、シングルで数発撃つ。

 

「じゃじゃ馬だなこりゃ」

 

(これでじゃじゃ馬ときたか。恐らく、あっちの世界はかなり反動制御が進んでいるんだろうな)

 

「リコイルが大きい.......。89式7.7㎜自動小銃に比べたら、じゃじゃ馬ですよ、これ。でもまあ、今使ってる有坂ライフルやStG-44よりかは大人しい。これなら」

 

バーストに切り替えて、さらに数回撃つ。最後に仕上げと言わんばかりに、フルオートでマガジンを撃ち尽くした。

 

「こんなもんかな」

 

(スゲーな。大概ちゃんと命中してる。下手な一般兵より射撃の腕が良いぞこれ)

 

静止目標とは言え、その命中精度は一般兵よりかは当たっている。まあ基本的に戦場での的は動いているので戦場だとどうかは分からないが、それでもこの精度ならそれなりに戦場でも使い物になる部類であろう。少なくとも、素質は充分にある。

 

「次はコイツ。32式戦闘銃です。どうぞ」

 

「うおっ、さっきよりも重いんですね」

 

「まあ使用弾薬が12.7mmですからね。反動もまあまあ大きいので、しっかり踏ん張ってください」

 

マガジンを入れて、撃ってみる。ズドンという重い音と共に、結構な反動が肩にくる。7.62mm弾より少し大きい位に収まっているので、弾丸の大きさにしてはかなり小さい。だがそれでも、43式よりかは重い。

 

「次は霧島さん、撃ってみますか?」

 

「よろしいんですか?」

 

「どうぞどうぞ。37式短機関銃辺りなら、撃った事が無くても簡単に扱えますから」

 

そう言って37式短機関銃を渡す。マガジンを差し込んで、撃つ。軽快な音共に9mm弾が放たれて的に当たる。意外と精度が高いので、恐らくスナップ射撃の才能があるであろう。

この後も色々な銃を撃ち、携帯型ミサイルの紹介も行った。最後に、神谷の魔法の能力についての話となった。

 

「所で、神谷さんはどの程度の魔法が?」

 

「この世界の魔法と、私の扱う魔法が系統が恐らく違いますからね。詳しくは分かりませんが、なんか魔王を一撃で葬れる位には強いらしいです。取り敢えず、実際に見せましょうか。飛行(フライ)

 

そう言って霧島へと手を向けて、魔法を掛ける。飛行魔法を掛けられた霧島は、身体が20cm位浮かんだ。

 

「え?え?えぇ!?!?」

 

「霧島が浮いた!!」

 

「一応もっと高くまで飛ばせますが、あんまり高すぎると、スカートの中が全部見えてしまいますからね。

そんな訳で堺さん、行ってらっしゃいませ」

 

「へ?」

飛行(フライ)

 

そう言って魔法を掛けられた堺は、一気に50m位の高さまで飛んだ。そのまま適当に空中を飛ばして、地面へと降ろした。

 

「空中散歩のご感想は?」

 

「.......次からは先に言ってください。楽しかったですけどね」

 

「すみません。先に言うと、断られそうだったのでつい。

じゃあ次は、攻撃魔法でもお見せしましょうか。三重最強化(トリプレットマキシマイズ)位階上昇魔法(ブーステッドマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)!」

 

神谷が繰り出した魔法は、白い半透明の剣撃の波を打ち出した。そのまま目の前にあった、古い戦車が何かの鉄の塊を真っ二つに斬り裂く。

 

「すごい威力ですね.......」

 

「神谷司令、先程のトリプレットマキシマイズブーステッドマジック、というのは?」

 

「よ、よくそれを一発で覚えましたね。艦隊の頭脳と呼ばれるだけはあるわ。

魔法の説明でしたね。最初の部分は全て、簡単に言えば強化魔法です。トリプレットマジックは魔法を三重で発動させ、マキシマイズマジックで威力を最大に上げて、ブーステッドマジックは位階を上昇させます。最後のリアリティスラッシュが、攻撃魔法の名前です。強化魔法には他にも効果時間を長くさせるエクステンドマジック、発動を遅らせるディレイマジック、効果範囲を広げるワイデンマジックなんかがあります」

 

「位階、というのは?」

 

「簡単に言うと魔法のランクです。第零位階から、第十位階まであります。さらにこの魔法に属さない物としてスキル、超位魔法なんてのもありますよ」

 

思ってたよりも深い魔法の話に堺は軽くついていけてないが、霧島はしっかりついて行っている。

 

「では演習最初の魔法はもしかして、そのスキルか超位魔法ですか?」

 

「そうですよ。あれは超位魔法の失墜する天空(フォールンダウン)です。スキルは、まあ見てもらった方が早いでしょう」

 

そう言いながら神谷は、懐に仕舞っている金の26式拳銃を構える。そして、そのままスキルという名の魔法を発動させる。

 

「メガ・電磁砲(レールガン)

 

空へと銃を掲げると、そこに稲妻が落ちた。次の瞬間、銃がレールガンと思われる4つの加速レールを持つ物へと変化し、銃身に無数のオレンジに輝く稲妻が走っている。

それを撃つと、オレンジのビームが進路上一帯の全てを破壊した。1発撃つと戻るらしく、すぐに普通の26式へと戻っている。

 

「他にはこんなのもありますよ。上位道具作製(クリエイト・グレーター・アイテム)

 

そう言ってまずは、何やら強そうな槍を作り出す。それを手に持ち、構える。

 

「ライトニングランス」

 

手に持った槍をそのまま高速回転させると、腕と槍が蒼白く光る。それを前に押し出すように放つと、光がそのまま槍状のビームとなって前へと放たれた。その威力もまた、的の鋼鉄の塊を破壊し尽くす程に強力である。

 

「他にも色々あるんですけどね」

 

「一体どの位あるんですか.......?」

 

堺が恐る恐る聞く。それに対して、神谷は笑いながらこう答えた。

 

「正直、無限大にありますよ。これまで使った魔法は、全て私の知るアニメやゲームの魔法です。どういう訳か私は、この世界にある魔法は勿論の事、アニメやゲームの魔法、或いは必殺技を強くイメージするとそのまま使えるんですよ。しかも自分で考えた物と組み合わせる事も出来るので、人の想像力が無限である以上、私の魔法もほぼ無限にある事になります」

 

文字通りのチートっぷりに、堺と霧島は絶句した。というか堺に至っては「この人1人で世界滅ぼせるんじゃね?」とか考えていた。

こうして驚きっぱなしだった皇国軍の視察は、最後の最後まで驚かされて終わった。

 

 

 



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特別編4 大日本皇国来日(海軍編)

大日本皇国訪問3日目、大日本皇国 帝都東京 外務省。

「し、心臓が未だに興奮してる.......」

 

堺の呟きも無理はない。というのも、今日からいよいよ正式な国交開設手続きを含めた、外交交渉に入る。なのだが、その前にやっておくべきことがあるということで、朝っぱらから天皇陛下に謁見したのだ。その名残が尾を引いているのである。

 

「まあ堺さん、霧島さん、お疲れ様でした。こちらをどうぞ」

 

 

そう言いながら、川山が緑茶を差し出す。例によってタウイタウイ側とファーストコンタクトを取った彼が、そのまま外交を担当することになったのである。

 

「ありがとうございます.......。正直な話、非常に緊張しました。こんなことを言うのも何ですが、私からすれば雲上人に会うようなものでしたので」

 

「私もですね。正直なところ、司令より高い身分の方にお会いする機会なんてそうそうありませんので」

 

「はは、まあ無理からぬことです。あの方に謁見するとなると私も緊張しますし。

さて、2日間我が国を見てきていただいた訳ですが、感想はどうでしょうか?」

 

「では、私から。泊地を預かる者として、また1国の代表として言わせていただくならば、貴国とは是非とも仲良くしたい、というのが正直な感想です。仮に敵対したとしまして、何もできずに1日で占領される未来が目に見えました。ですので、このまま国交を開設できるならそれに越したことはない、というのが私の意見ですね。霧島も同じ結論に達しています」

 

どんなに高性能なレシプロ機に神の如き操縦技術を持つパイロットを乗せても、レシプロ機で超音速戦闘機を相手するのはまず不可能。しかも相手となる皇国の航空機は、基本的に全て第五世代ジェット戦闘機に分類される高性能機。海で戦うにしても第二次世界大戦レベルの軍艦で皇国海軍の相手は不可能だ。駆逐艦位は倒せるだろうが『日ノ本』や熱田型相当の主力艦クラスには、傷をつけることも叶わず殲滅されるだろう。

 

「ですが、ファーストコンタクトの時にお話した通り、周辺国にあえて旧式の技術を供与したり訓練を行ったりする、ということであれば我々の方が向いております。私としては、各々の長所を生かして交流していくのが最善ではないかと思っております」

 

「私としても堺さんには同意します。さすがに今からレシプロ機や火縄銃の作り方を復習するなんて、金銭的にも技術的にも難しい部分がありますからね。また、貴国.......というのも少し妙な表現ですが、貴国には我が国にない技術もある。特に丸められるスマホには衝撃を受けました。

そういった点を総合して考えた結果、貴国とは国交を正式に開設して互いに協力し合いながら、双方揃っての発展を目指すのが良い、との結論が我が国上層部では出ております。一色総理や陛下のご聖断も仰ぐことができました」

 

「なるほど、そうでしたか。意見が一致したようで何よりです。

あとすみません、これはタウイタウイ泊地の一部で出た意見なのですが.......」

 

「どんなご意見でしょうか?」

 

「簡単にいえば、同じ日本をルーツに持つ者同士ということで、泊地を住人ごと貴国に編入し、ロデニウス連合王国ではなく大日本皇国の領土の一部になる、という意見なんです」

 

流石にこれには川山も驚いた。てっきり観光ビザの発行とか、皇国側にも出張所でも建てたいとかそういうのを想定していたのだが、まさか「皇国の一部に」とくるとは思いもよらなかった。

 

「ほう、編入ですか.......これはまたスケールの大きい話ですね」

 

個人的に、いや。一色と神谷もそうだと思うが、この提案は個人としては面白い。というか大好きである。だが流石に外交官として考えると「編入したい?あ、別に良いっすよ」とは言える訳ない。

 

「我が国への編入となりますと、私の一存で決めることはできませんね。健太郎、一色総理の判断や、天皇陛下のご聖断が必要になることは確実です。

検討のため、そのご意見は一旦持ち帰りたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「構いませんよ。ただまあ、私としては編入という方法には1つ、明確なデメリットがあると考えております」

 

「どんなことでしょうか?」

 

「簡単に言えば、軍の運用に関わる物ですね。ご存知の通りタウイタウイ泊地は、艦娘を主戦力としており、また技術レベルは貴国に大きく劣ります。そんな部隊は、貴国からすると扱いづらいでしょう。何せ性質が全く違うのですから」

 

なんか神谷ならちょっと研究したら、普通に皇国軍との統合運用くらいはやってのけそうだが、本人とも相談しない事には何とも言えない。

 

「ふむ、私は基本的に軍事は専門外ですが、仰りたいことの意味は分かりました。それも含めて浩三、神谷総司令官なども交え、一度相談してみようと思います」

 

「分かりました、よろしくお願いいたします」

 

これで外交会談は一旦終了である。堺と霧島は外務省を出てすぐに一度神室町に戻り、軽く旅仕度を整えるとリニア新幹線に乗り込んだ。目指すは神奈川県横須賀市。その目的は、横須賀鎮守府とそこを拠点とする大日本皇国海軍第一主力艦隊の見学である。

 

 

1時間後 横須賀鎮守府

「お待ちしておりましたぞ、堺殿。私が当横須賀鎮守府の司令、伊藤義久と申します」

 

「初めまして伊藤司令。堺です。こちらは霧島。本日は宜しくお願いしますね」

 

「えぇ、こちらこそ宜しくお願いします。ささ、立ち話も何ですからどうぞ中に」

 

3人は横須賀鎮守府庁舎へと入る。外観こそ建設当初の煉瓦造りのままだが、中は比較的現代チックになっている。そのまま応接室へと通されて、軽くお茶と海軍の歴史に関する講義が始まった。

 

「我々皇国海軍が成立したのは、今から遡る事111年前。大日本帝国海軍が大日本皇国に移行した際に、海軍の艦艇を引き継いで誕生ししました。当初はどの艦も傷だらけで、ボロボロだったと聞いています。しかし帝国時代に大本営総長として活躍していた神谷倉吉大将、現在の統合軍総司令長官、神谷浩三元帥の直系のご先祖による尽力で、世界有数の海軍国に返り咲きました。

時代は進み、湾岸戦争の終結頃、予備役と復帰を繰り返していた大和型戦艦が記念艦に改修される運びとなりました。世界情勢も反共から反テロへと切り替わったのもあり、大型兵器は軒並み姿を消しました。この頃には軍縮へと動き出し、多くの艦が予備役へと編入されたのです。しかし時代はすぐに戦乱へと突き進みました。

2010年頃より中国の脅威が増していき、2021年には第三次世界大戦前夜とまで言われたロシア・ウクライナ戦争が勃発。世界情勢は一気に不安定な状況となり、海軍のみならず皇国軍全体で軍拡の声が上がりました。各軍港に地下ドックを建設し、新たなる主力艦として大和型戦艦の改修と量産、これから見てもらう熱田型、赤城型といった空前絶後の大型艦艇の建造、特殊戦術打撃隊の創設など、秘密裏に軍拡を進めていきました。そして2052年5月13日、東亜事変と呼ばれる中国、韓国、ロシアによる侵攻が始まりました。これにより機密扱いであった主力艦隊を投入し、これを撃退。かつて『物量のアメリカ、練度の日本』と呼ばれていたパワーバランスは崩壊し、大日本皇国一強の時代へとなったのです」

 

伊藤は懐からスマホを取り出して、堺と霧島にとある動画を見せた。月夜に照らされた『大和』の姿なのだが、次の瞬間、周りの装甲が爆発。中から現代艦風になった『大和』が元の姿を脱ぎ捨てるかの様に現れる様子であった。

 

「こ、これは何ですか?」

 

「これが大東亜事変において、大和が出撃した時の映像です」

 

堺にとって『大和』は嫁。勿論普通の鋼鉄の城である『大和』ではなく、艦娘の『大和』だ。だが彼自身、『大和』という艦にも惚れている。故に現代に蘇っていく様子は単純に嬉しく感じたし、何よりそういう展開が好きなタイプなので、普通に興奮した。

 

「まるで映画ですね」

 

「ははっ。その通りですよ霧島さん。何せこの後、海外のメディアじゃ『SFを再現した』という見出しで大騒ぎになりましからな」

 

幾つかYouTubeにも上がっている映像を見せていると、部屋の扉がノックされ老齢の男性が入ってきた。

 

「おー、山本くん。待っていたよ。お二人共、彼がこの後のドッグ見学で案内を担当する第一主力艦隊司令の山本五十八君です」

 

「山本です。本日は宜しくお願いします」

 

そう言って頭を下げる山本。その姿は正に『海軍の提督』という見た目で、ここに来て漸くイメージ通りの指揮官を見た気がする。

山本の案内で2人は、地下ドックへと入る。エレベーターを降りた先に待っていたのは、現実離れした光景であった。白と灰色を基調とした、どのくらいの広さがあるのか分からないほどに巨大な空間。そこにまるで時間断層工場の様に、多数の艦艇が所狭しと並んでいる。

 

「これは.......」

 

「凄まじい数ですね.......。まさか、ここに海軍の全艦艇が集結しているのですか?」

 

霧島の問いに、山本は苦笑を浮かべながら答える。

 

「そう思われるのも無理はないでしょう。しかし、ここにいる艦艇は全て第一、第二主力艦隊の所属艦のみです。皇国海軍には全部で八つの主力艦隊が存在しており、一個主力艦隊には合計237隻の艦艇が所属しています。

更にこれに加えて補給艦隊、防衛艦隊、揚陸艦隊、潜水艦隊などがあり、海軍全体での艦艇数は大小合わせて恐らく3000隻程度はいますよ」

 

その圧倒的な数を聞いて、2人は愕然とした。特に堺は、その恐ろしさを瞬時に理解した。そんな数の艦艇が、もしタウイタウイ島に侵攻して来たら、自分や信頼する仲間の艦娘や妖精は勿論、下手をすれば島すらも跡形もなく消し飛ぶかもしれない。そう思うとつくづく戦争にならなくて良かったと、今になって冷や汗が出てきた。

 

「ここにいる艦は浦風型駆逐艦と、神風型駆逐艦になります。浦風型には『草薙武器システム』という、まあ簡単に言えばイージスシステムを搭載した駆逐艦になります。

一方の神風型は『海中のイージス』といったところで、我が国のソナーに搭載されている『探鉄波』という、鉄を探知して潜水艦を索敵する装置を最大限発揮するシステムが搭載されており、例え潜水艦が岩と岩の間に機関停止状態で潜んでいても特定する事ができます」

 

「それは、何というか.......」

 

「潜水艦の特性を殺しにきてますね.......」

 

ある意味で一番恐ろしいのは、浦風型より神風型かもしれないと思った堺と霧島であった。

 

「さぁ、次の区画に行きましょう」

 

そう言ってまたエレベーターに乗り、一個下の階へと向かう。さっきまでは駆逐艦が大量に居たのだが、今度は比較的小型の戦艦と何処か古めかしい見た目の艦艇が鎮座していた。

 

「この艦は確か、初接触の時にいた様な.......」

 

「摩耶型対空巡洋艦ですね。この艦は文字通り、対空戦闘に特化した艦艇です。ミサイル、主砲、速射砲、機関砲と対空に関しては鉄壁の布陣です。実際、余りに強すぎて他国の海軍から「お願いなので、摩耶クラスは出さないで欲しい。あんなのに出てこられたら、演習にならなくなる」と言われた事がある艦です」

 

そもそも演習に出禁を言い渡される時点で可笑しいのだが、そんな艦を皇国は何十隻と保有している事に恐怖した。しかも聞けば、出禁を食らった兵器はそれだけに限らないと言うのだから恐ろしい。

 

「山本司令、あの艦艇は何なのですか?」

 

「あちらは突撃艦という、我が国オリジナルの戦法を実行する艦艇です。其方に水雷戦隊があるでしょう?アレが使う魚雷をミサイルに換えて、水雷戦隊同様に敵艦隊に突撃し、ミサイルと砲弾をばら撒くという戦法です。

突撃艦は70ノットという快速、対艦ミサイルを避ける機動性、そもそも対艦ミサイルが命中しても耐える堅牢な装甲を併せ持った艦で、これも出禁貰ってます」

 

確かに突撃艦の様な特異な艦艇かつ、特異な戦法であればまだ出禁は分からなくもない。だがそれでも、ミサイルで水雷戦隊を作る発想がぶっ飛びすぎてて理解できない。だが川内や神通辺りは、現代にも水雷戦隊の血を引く艦艇がいる事に喜ぶかもしれない。

 

「次はいよいよ、戦艦と空母の紹介ですよ」

 

また一個下の階に行くと、宣言通り多数の戦艦が鎮座している。大和型が16隻もいて、それ以外にも航空戦艦、軽空母と原子力空母もいる。

 

「航空戦艦が伊吹型、軽空母が龍驤型、原子力空母が鳳翔型となります。戦艦は、もう説明は不要でしょう」

 

「ん?アレは潜水艦ですか?」

 

「えぇ。大きいのが伊1500型原子力潜水艦、小さいのが伊900型潜水艦ですね。あれらは艦隊の先陣として、又は尖兵として活躍します。また伊1500型に関しては、SLBM搭載タイプが常に日本近海に潜んでいますよ」

 

ここに来て漸く、普通というかなんというか、常識的な内容が聞けた。SLBM搭載艦を潜ませるのは、そこまで珍しくはない。やっと皇国の常識が、自分の持つ常識と合わさったと思っていた。次の階に行くまでは。

エレベーターを降りると、そこには明らかに今までとは格の違う艦艇が鎮座していた。四連装砲を備えた巨大艦、飛行甲板が二層になっている大型空母。周りにいる潜水艦と思しき兵器が、まるで小型艦に見えてしまうほどに巨大であった。

 

「こ、これは何という艦ですか?」

 

「あの戦艦が熱田型指揮戦略級超戦艦、空母の方が赤城型要塞空母です。主力艦隊に於いて熱田型は総旗艦、赤城型は航空戦力の要として運用されています。

周りにいる潜水艦もまた、最強ですよ。あの2番目に長いのが潜水空母でありながら610mレールガンを備える伊2000型、3番目に長いのがミサイルキャリアーの伊2500型、多目的支援船の伊3000型、双胴なのが伊3000型です。アレらは全て、潜水艦隊として様々な任務に従事します」

 

熱田型も赤城型も、文字通り規格外である。それだけでも凄いが、2人は艦自体よりも、あんな艦を何隻も保有し、その全てを運用し切るだけの兵站の強固さに驚愕していた。アレだけの兵器にさっきまで見てきた多数の艦艇を運用するには、大量の物資が必要となる。それを賄うだけの兵站線がある事は、とんでもない強みとなる。

仮に戦うとしたら、この兵站線を叩いて兵糧攻めする以外に効果的な戦法が思い付かない程である。

 

「次が一応最後の区画なのですが、最後の区画だけは私ではなく適任者を呼んであります」

 

「適任者ですか?」

 

「えぇ。宗谷!」

 

そう言って現れたのは170cm程の引き締まった身体に、銀髪を持つ若い青年であった。

 

「初めまして。宗谷悠真と申します。究極超戦艦『日ノ本』の副長を務めております」

 

「あの『日ノ本』の.......」

 

あれだけの超重要兵器をこの年で任されている辺り、相当優秀なのだろう。宗谷は2人をエレベーターに乗せると、一気に最下層にまで向かう。エレベーターを降りると、さっきまでとは打って変わって黒を基調とした内装に全体的な暗い印象を受けるが、その真ん中に鎮座する『日ノ本』の影響か禍々しく思える。

 

「これから、実際に外海で演習を見学してもらいます。こちらにどうぞ」

 

そのままドック内に降り、タラップで『日ノ本』へと乗り込む。乗り込んで暫くすると、艦が上へと昇り始めた。どうやら、出港するらしい。

 

「ドック隔壁、水密壁閉鎖。対水圧壁展開」

 

ドックが出撃位置まで上昇すると、ドックと外を繋ぐ通路が閉鎖。内部に海水が入らない様に二重でロックし、出撃時の水圧に備えて水圧を逃す特殊な板も出てくる。

 

「注水開始」

 

「水深、基準値を超えました」

 

「ガントリーロック解除」

 

「隔壁解放!」

 

正面の隔壁が開き、キラキラ光る水面が見える。次の瞬間、艦が一気に加速。海へと飛び出す。それに続いて『熱田』『赤城』『摩耶』『伊吹』『浦風』『神風』が飛び出し、演習海域へと進む。

 

 

 

1時間後 演習海域

「あー、やっと会議終わったわ」

 

「え!?神谷さん!!」

 

「ど、どうしてここに!?」

 

何とこれまで居なかった筈の神谷が、ひょっこり艦橋に現れたのだ。勿論、乗り組んだ所も見てない。

 

「どうしても何もねぇ。この艦の艦長は、この私ですから」

 

霧島の疑問に、少し悪戯っぽい笑みを浮かべながら答えた。つまり目の前の男は大日本皇国統合軍総司令長官で、神谷戦闘団の団長で、究極超戦艦『日ノ本』の艦長の元帥である、という事になる。ここまで兼任してるとは2人とも思わなかったのか、フリーズして動かない。

 

「.......はっ。ならどうして、最初からここに居なかったのですか?」

 

「ここで会議に参加してました。元々艦の整備関連の報告とかが今日来る予定で、それを確認してから今までずっと会議だったんですよ。そして今から、演習に参加する訳です」

 

どうやら、結構なハードワークだったらしい。だが神谷に取ってみれば、今から久しぶりに演習とは言え海戦が出来る。こんなにも嬉しい事はない。

 

「演習海域に到着した事だし、副長。お2人に今回の演習について説明しろ」

 

「アイ・サー。今回の演習の想定は一部の部隊が反乱を起こし、それを鎮圧する物となっております。敵兵力は空中母機『白鳳』2、空中空母『白鯨』1と『黒鯨』2、熱田型1、赤城型2、大和型4になります。尚、全てARによる立体映像とします」

 

こういった演習海域は皇国の領海に幾つか点在しており、普段は演習で敵を投影する。だが敵軍が皇国に攻め入った時は、このAR機能を用いて偽物の艦隊を投影し敵を騙す防衛兵器としての側面もあったりする。

 

「さーて、それじゃ久しぶりにやりますかねぇ。全艦、対空、対水上警戒を厳となせ!直掩機発艦開始、同時に鷲目も発艦させろ」

 

「アイ・サー」

 

命令を受けて『赤城』からはE3鷲目、『伊吹』からは直掩機の震電IIが発艦する。

 

「前衛の『浦風』より入電!敵ミサイル探知!方位351、機数1500!!」

 

「いきなり撃ってくるな。対空戦闘用意!!ECM、アクティブモード!!」

 

「アイ・サー。全艦対空戦闘用意!ECM戦開始!」

 

ECM、つまりジャミングをかけてミサイルに目潰しを行う。これにより20発程度は落とせたが、流石に全弾撃墜とはいかない。それどころか、この規模のミサイル群で20発程度だと焼石に水どころか、ぬるま湯くらいの効果しかない。

 

「ミサイル、依然接近!!」

 

「VLS開放、信長を放て」

 

「トラックナンバー0200から0300、信長発射始め!サルボー!!」

 

前甲板に配置された垂直発射装置から、100発の艦対空ミサイル信長が一斉発射される。その噴煙により、一時的に艦橋の視界が奪われる程であった。

 

「砲術長、主砲砲撃戦。敵ミサイル群を指向せよ」

 

「それなら、時雨弾を装填しときますよ」

 

「頼む」

 

この命令に堺と霧島は驚いた。何せ戦艦の主砲でミサイル迎撃なんて発想が無いのだ。タウイタウイ泊地に所属する艦娘は、とあるマッドサイエンティスト艦娘が開発した『四三式弾』という燃料気化砲弾がある。だがその手の砲弾はコストが掛かるので、ミサイルをミサイルで迎撃せずに初っ端にミサイル群に叩き込むのがセオリーとなってくる。

だがさっきの戦闘では、普通にECMによるジャミングの後に対空ミサイルを撃っている。訳が分からない。

 

「あの、神谷さん。時雨弾、というのは?」

 

堺がそんな事を考えている中、霧島が先に神谷に質問してくれていた。

 

「簡単に言えば、三式弾の進化系ですよ。あの砲弾は子弾を抱えて、砲撃後に起爆。周囲に子弾をばら撒く、言うなればクラスター爆弾の砲弾版です。

時雨弾はその発想を元に、砲弾内部の子弾を焼夷弾から小型ミサイルに取り替えています。まあ、撃てば分かりますよ。さぁ、お二人共。前にどうぞ」

 

「前?」

 

「えぇ。ガラスの近くまで寄って、砲塔をよく見ていてくださいな」

 

言われた通り艦橋のガラスの近くまで寄ってみる。眼下には無数の砲塔があり、その中で最も巨大な五連装砲がミサイルの接近する方向に照準をピタリと合わせている。

 

「砲術長!」

 

「アイ・サー!主砲塔、電磁投射砲モードへ!!」

 

次の瞬間、砲身が4本に割れて、割れた砲身内部に小さな稲妻が迸り始める。まさかの光景に、2人とも驚きの声を上げた。

 

「砲身が割れた!?」

 

「まさかアレは.......。司令、ひょっとするとアレってレールガン砲塔なのでは?」

 

「その通り。あの砲塔の正式名称は『50口径800mm五連装火薬、電磁投射両用砲』と言います。その名の通り、レールガンとしても普通の火薬式でも撃てるハイブリッド砲塔です」

 

「艦長!砲撃準備良し!!」

 

「撃ちー方始め!!」

 

神谷からの砲撃命令が出た直後、砲塔から普通の砲撃の時よりは静かだが、それでも巨大な「バシュン」という音が鳴る。放たれた瞬間に、一瞬だけ砲身は蒼白く輝いた。

 

「お二人共、今度はレーダーをよく見ていてください」

 

そう言われたので2人ともレーダー画面を見させてもらう。レーダーには砲弾の位置が正確に記されており、ミサイル群に向かっているのが分かる。

 

「砲弾起爆まで3、2、1。起爆、今」

 

さっきまで1つしかなかった砲弾の光点が消えると、周囲に数十個の光点が現れた。

 

「これはつまり」

 

「砲弾が起爆しましたので、砲弾内部のミサイルが放出されたという事になります。あ、ほら。敵ミサイルの反応が消えていくでしょう?」

 

確かに数十個の光点が、敵ミサイルの光点に重なると消えていっている。撃墜されている事の表れだ。

更にこれ以降も続けて砲撃が続き、ミサイルの数は半数近くにまで減った。

 

「敵ミサイル、半数にまで減りました!!」

 

「やっぱ母数が多いから、削りきれないか。近接戦闘開始!!片っ端から撃ちまくれ!!!!」

 

「アイ・サー。両用砲、機関砲群、各個に砲撃開始」

 

左舷側を見ると、無数の砲煙が立ち昇っている。イージス艦の様な現代艦の主砲は高度な砲安定装置と速射性能によって、対空に特化した砲となっている。『日ノ本』はそんな砲を両用砲として、艦の至る所に搭載している。その数、2000門を超える。迎撃漏れはない。

 

「全弾撃墜!新たな目標、無し!!」

 

「偵察中の鷲目より入電!白鳳の位置、特定できました!!」

 

「戦闘機隊、発艦開始!敵UAVを引きつけさせろ。その間にこちらの砲撃で、奴の制御中枢を叩く!!」

 

「アイ・サー!!戦闘機隊、全機発艦。敵、空中母機を破壊せよ」

 

命令を受け、続々と艦載機が発艦していく。その姿は壮観の一言なのだが、ここで霧島がある事を思い出した。

 

「司令、確か『白鳳』にはAPSというバリア装置が搭載されていたのでは?」

 

「あ、そうだ。確かミサイルも砲弾も通用しないと。なら、航空機では倒せないんじゃ.......」

 

「あー、いやまあ、出来なくは無いんですよ。これが」

 

本来なら軍事機密につき言ってはならないのだが、弱点が弱点にならないレベルなので教えても問題ないということで、『白鳳』の弱点が明かされる事になった。

 

「あの機体は機体中心部にAPSの制御中枢があるんですが、それを破壊すれば撃墜できるんですよ。それに翼をへし折れば、航空機ですからバランス崩して墜落します。ただ素の装甲も巡航ミサイルやら対艦ミサイルをありったけ叩き込まないと抜けないので、航空機で倒すとなると制御中枢を破壊するしかないんです。

ただこの制御中枢自体も、他の装甲に守られてますので装甲を剥がしてやらないと露出しませんから、まあ実質不可能ですね。少なくともそちらのレシプロ機でやろう物なら、単純に火力不足で撃墜は不可能です。大和辺りで吹っ飛ばしてください」

 

因みに制御中枢を露出させるには、機体下部のサプライユニットと呼ばれる燃料や弾薬なんかが詰まった区画の8ヶ所の接続部分を正確に破壊しないとならない。これが出来るのは、真のエースパイロットでないと不可能である。

ただそれをやってのけるエースパイロットが、皇国軍は10人近くいる。

 

「航空隊、白鳳2機と交戦開始!!」

 

「!?レーダーに感、空中空母『白鯨』及び支援プラットフォーム『黒鯨』2機です!!!!」

 

「主砲回頭!弾種、旭日弾!!準備完了次第、即時発射!!」

 

「旭日弾とは?」

 

「我が軍が保有するエネルギー兵器の1つで、砲弾に陽電子エネルギーを纏わせて発射します。対重装甲目標に有効で、電子機器の集中する場所に撃ち込みEMP兵器としても使える兵器です」

 

つまり、某宇宙戦艦ヤマトのショックカノンを実用化しているのだ。リメイク版では核融合炉を持つ第一世代の艦艇では、波動砲の様な決戦兵器扱いで機関暴走の可能性も孕む兵器であった。波動エンジンが完成した事で普通の兵器として扱える様になった代物を、皇国は普通に使っているのだ。その技術力の高さに、堺は驚愕した。

 

「装填よし!充填よし!撃て!!」

 

てっきりヤマトの様な独特の射撃音かと思っていたが、音は普通の砲撃音であった。しかし放たれた砲弾は蒼白い光の尾を纏いながら目標へと飛んでいっており、見た目はショックカノンその物である。

 

「弾着、今!!敵空中空母艦隊、全艦轟沈!!」

 

「一撃!?」

 

「なんて威力なの.......」

 

あの巨大な化け物兵器すら、たった一斉射で破壊する。その威力が艦娘達に向けられれば、まず勝てないだろう。恐らく死体すらも残らず、消し飛ばされる。

そんな事を考えている時、ふと堺は思った。恐らく今のロデニウス連合王国の前身である、クワ・トイネ王国のヤヴィン達やムーのマイラス、ラッサンが初めてタウイタウイ泊地の兵器群を見た時、こんな気持ちだったのだろうと。

 

「敵艦隊、捕捉!!正面です!!!!」

 

「白鳳の方はどうだ?」

 

「航空隊からは『ロスト多数なれど、想定範囲内』との事です」

 

「ならばコチラは、あの艦隊に集中する。ウェルドック解放!震洋と戦闘艇を出せ。展開後、本艦は潜航し海中から奇襲を掛ける。僚艦にも伝えろ!!」

 

今、神谷の口から信じられない言葉が飛び出した。『ウェルドック』と言ったのだ。ウェルドックは本来なら、揚陸艦に搭載される設備であり戦艦には搭載されない。つまりこの戦艦は潜水艦としても、戦艦としても、空母としても、イージス艦としても使えるという事になる。伊達に『究極超戦艦』だの『戦艦という艦種の完成系』だのとは言われてないらしい。

 

「神谷さん、もしかしてこの艦には揚陸艦機能が?」

 

「ありますよ。揚陸艦どころか、フリゲートとコルベットの中間となる『戦闘艇』と呼ばれる艦艇の整備ドックにもなります。パラサイトファイターならぬ、パラサイトシップの親となる訳です」

 

「司令、どうやらこの戦艦には我々の常識が通用しないらしいです.......」

 

「因みに震洋というのは、無人自爆ボートになります。1隻で現代艦なら、余裕で沈めますよ」

 

この震洋の戦法は、現代艦にとっては割とシャレにならない戦法である。確かに機関砲や速射砲があるとは言えど、もし死角にまで潜り込まれたら最悪沈没は免れない。実際、アメリカ海軍のイージス艦『コール』はアルカーイダの自爆攻撃で沈みかけた事がある。これを受けてインディペンデンス級を筆頭とする『沿海域戦闘艦』という艦種が新たに生まれたのだ。

 

「全艦載艇、出撃完了!!」

 

「これより潜水する。急速潜航!ダウントリム最大!!」

 

神谷の号令で、『日ノ本』は一気に大海原へと姿を消す。その穴を埋めるかの様に、他の僚艦達が『熱田』を中心に展開し攻撃を開始する。

 

「主砲砲撃戦!!弾種、徹甲榴弾!!撃ち方始め!!!!」

「撃て!!!!」

 

「我が艦の『要塞』の名は、名ばかりのお飾りではないと知れ!!主砲発射!!」

「撃てぇ!!!!」

 

「本艦は全対艦ミサイル発射後、現海域を離脱する!!!!ハルマゲドンモード、発動!!」

「アイ・サー!FCS、ロック!ハルマゲドンモード、戦闘開始!!!!」

 

但し装甲の薄い『摩耶』、『浦風』、『神風』に関しては全自動戦闘モードである『ハルマゲドンモード』使用の上で、対艦ミサイルを撃ち尽くしつつ撤退を開始した。流石の皇国海軍のイージス艦とて、真正面から熱田型や大和型の砲撃を受けては跡形もなく消し飛んでしまう。

この攻撃は演習用のAIも想定していなかったらしく、迎撃に手を焼いている。一斉に数千発単位でミサイルと砲弾が撃ち込まれては、流石のAIでもキャパオーバーらしい。攻撃で気を引いてる間に震洋部隊が肉薄し、更に相手の火力を分散させていく。

 

「上の連中はかなり気を引いてくれています」

 

「そうでなくては困る。だが、そろそろ信玄でも飛ばしてくるだろ」

 

神谷の読み通り、すぐに敵艦隊から対潜ミサイル信玄が飛んできた。それも恐らく装備してる信玄、全部を叩き込んでくれているのか、その数は200発を超える。

 

「これ、不味いんじゃ.......」

 

「確かに普通の潜水艦ならヤバいでしょう。ですが、堺さん。祖国たる皇国の名を冠し、究極と言われる『日ノ本』に死角はありませんよ。

TLS、掃射開始!!!!」

 

「アイ・サー!!」

 

次の瞬間、船体中から赤紫のビームが四方八方に無数に飛び出す。船体中に張り巡らされたTLSは本来は対空用なのだが、レーザー兵器なので潜水中でも使えるのだ。これにより、着弾前に接近する信玄全てを破壊する事に成功した。

 

「さーて、フィナーレといこう。浮上と同時に仕掛ける。主砲、副砲は旭日弾を装填。エネルギー充填開始!同時に魚雷発射管、注水!!他、全ての火器は攻撃準備!!」

 

「アイ・サー!エネルギー充填まで残り5、4、3、2、1。充填よし!!」

「発射管、注水!」

「各両用砲、機関砲、射撃モードを対艦に変更」

「TLS、パルスレーザー、エネルギー再充填完了!」

「ミサイル、準備良し!」

 

神谷は2人に「揺れるので、何かに掴まっていてください」と言うと、艦橋にいる乗員達に叫んだ。

 

「急速浮上!!アップトリム最大!!同時に魚雷、主砲、副砲、TLS、パルスレーザー発射!!」

 

一息にそう命じた。その命令は直ちに実行され、まずは魚雷が各艦の艦底部目掛けて飛び出す。次にエネルギー兵器である旭日弾を装填した主砲、副砲、TLS、パルスレーザーが弾幕を展開。艦底部に向けて、猛襲を仕掛けながら海の中を駆け登る。

 

「浮上、今!!!!」

 

船体が完全に海面に浮上した頃には、敵艦隊は既に大破しかおらず沈むのも時間の問題という有り様だった。だが、神谷は知っている。こういう瀕死の奴が放つ最後の攻撃は、結構侮れない事を。

故に、完全に破壊し尽くす。

 

「一斉撃ち方!!!!」

 

発射から着弾まで時間のかかるVLSと決戦兵器の波動砲を除いた、『日ノ本』が有する火力の全てを使用した猛攻。主砲、副砲、魚雷、両用砲、機関砲、TLS、パルスレーザー砲、舷側の横列二段八連装近距離艦対艦ミサイル、全方位多目的ミサイルランチャー。その全てが敵艦に向けられたのだ。熱田型や赤城型とて、防げない。

 

「敵艦隊、全艦撃沈。白鳳についても堕ちた様です」

 

レーダー員の報告によって、演習が終わった事が分かった。神谷が無線で「演習終了」の指示を出した事で、この異次元の戦闘は幕を降ろした。

 

 

 

翌朝 外務省 応接室

「朝早くからお呼び立てしてすみません」

 

「いえいえこちらこそ。川山さんから呼び出しがあったということは、結論が出たということでしょう。難しい案件にも関わらず早期に対応していただき、ありがとうございます」

 

まだ9時前だと言うのに、堺と霧島を呼び出したのは勿論、例のタウイタウイ大日本皇国編入に関する事である。

 

「さて、本題に入りましょう。まずは、昨日堺さんが提案してきた『タウイタウイ島の大日本皇国領への編入案』についての、我が国での検討結果からお伝えします。結論から申し上げますと、我々大日本皇国としては、タウイタウイ島の自国領への編入を受け入れることはできないと判断しました。理由はいくつか挙げられます。

第一に、昨日堺さんが言及していましたが、軍の指揮系統に関する話ですね。我が軍と堺さんのところの部隊では、技術レベルに明らかな差があります。それを自国領に編入するとなれば、艦娘たちや妖精たちは必然的に我が軍の指揮下に置かれることになる訳ですが、戦力の性質上動かしにくい部分があるんです。部隊の行軍速度に差が出たりする訳ですからね」

 

昨日の夜、三英傑はテレビ電話で会議を行った。その結果なのである。神谷曰く「別に統合運用自体は出来るが、いざ戦うってなった時にモノになるかは別問題だ。皇国軍の装備とあっちの装備じゃ、兵器を形作る根本の戦略面とかドクトリンが違いすぎて連携するメリットがない」らしい。

 

「第二に、行政上の処理が面倒だという点です。一色総理とも相談したのですが、自国領に編入するとなると新たに住所を割り振ったり、戸籍調査を行う必要が出てくるなど、事務的な処理が面倒なんですよ、率直に申し上げまして。そういったこまごました手続きや調査にかかる人的・時間的・金銭的コストを計算した結果、割に合わないと判断されました。これが2点目の理由です」

 

これは一色の決めた事だった。実際にはこれ以外にも国会のアホ議員が色々言い掛かり付けてくるだろうし、事実上の政府とかの機構が無い以上は何かと向こうでゴタ付く可能性が高い。その辺りが起きたら面倒なので、もう国認定した方が楽だったのだ。

 

「そして第三に、世論です」

 

「世論、ですか?それはどういうことでしょう?」

 

堺が尋ねると、川山は眉をハの字にした。正直、結構理由が理由なのである。

 

「実はですね、あなた方の存在が国内で報じられて以降、ネットや有識者たちの間では、国家としてのあなた方の所属をどうするべきか、という議論が行われてきました。そんな中で、一般市民の中でも特定の分野に通暁した者たち.......はっきり言えばオタクたちが声を上げたのです。『無理に自国領に編入して艦娘たちの信頼を損ねるくらいなら、一線引いた位置から見守るくらいの関係の方がまだマシだ』と。

その意見が一度出回るや、他の一般市民や有識者も多数この意見に賛同するようになりました。このたった数日間の間に延べ数十万人もの署名が集められ、外務大臣の頭に叩きつけられたほどなのです。あ、ちなみに本当に外務大臣が秘書官に署名書類で頭を叩かれたんですよ。比喩ではなく実話です。外務省にもオタクは少なからずおりますもので.......」

 

「えぇ.......」

 

オタクが政治を動かすという、現実的に考えてとんでもない事態に堺も引いている。それと同時に、オタクたちの熱意に改めて畏敬の念を抱く。「オタクヤベェ」と。

まさか民意がこんな重要な案件の方向性を決めてしまうとは思わなかった。 まあだが、三英傑がオタクなので一応は平常運転だろう。うん、そうだ。これは平常運転である。

 

「それに加えて、艦娘たちが暮らしに困る事態は見過ごせないと、クラウドファンディングや街頭募金によってタウイタウイ泊地の存続を支援する活動まで始まっているのです。私が把握しているクラウドファンディングだけでも、この会談の直前の時点で200万円くらい集まっていましたよ。これに街頭募金が加わりますから、おそらく相当な額に昇るでしょう」

 

「えぇ.......」

 

「わ、私たちの生活を支援してくださるのは、素直にありがたいのですが.......行動力がすごいですね」

 

「ははは.......。まあ、良くも悪くも行動的なんですよ、我が国の民は」

 

正直、この状況には三英傑含め政府も驚いた。なにせTwitter、Instagram、facebook、5ちゃんねる、ニコニコ、その他諸々でオタクが一致団結してるのだから。

 

「以上3点から、我々としてはタウイタウイ島の編入案は辞退させていただきたく思います」

 

「分かりました。そんな話を聴かされては、泊地の代表者である私としても、編入案は取り下げます。仮交渉の時のように、タウイタウイ島と大日本皇国は互いに独立国として国交を開くことにしましょう」

 

「そうですね。そうなると、そちらの国号はどうされますか?」

 

「日本国に戻すことにしますよ。そもそもロデニウス大陸からだいぶ離れてしまったようですし、仮に近くにあったとしても政体や国家体系がまるで違うようですから、今さらロデニウス連合王国を名乗る訳にもいきませんので」

 

「分かりました。ではこちらも、あなた方のことは『日本国の国民』として接することにいたします」

 

「ありがとうございます」

 

その後、午前中いっぱい使って様々なことが話し合われ、最終的に以下のような内容が決まった。

 

・タウイタウイ島は『日本国』と国号を改める。領土はタウイタウイ島のみ、国家主席を堺とし、人口200人プラスアルファ程度の規模の小国家という扱いとなる。

・大日本皇国と日本国は互いを独立国と認め、国交を正式に開設する。

・日本国の海軍・陸軍は、指揮系統の独立性が保証される。ただし、大日本皇国からの要請に応じて、一時的に指揮権を大日本皇国軍総司令部に委譲し総司令官神谷浩三元帥直属の遊撃部隊である『神谷戦闘団』として行動することは起こり得るものとする。

・大日本皇国は日本国に対して、食糧、資源、資金等の提供による支援を行う。日本国はその見返りとして、大日本皇国における一部の技術開発や、諸外国に対する大日本皇国からの技術供与・指導を支援する。

・大日本皇国から日本国への観光・交流目的での渡航は、これを許可する。ただし、大日本皇国から見て日本国は外国扱いとなること、日本国は島そのものが軍事拠点となっていることから、大日本皇国人の入国の際は、日本国からの指示を厳守した上で観光・交流を楽しんでもらうこととする。

 

そして午前中の交渉が終わった後、午後になっても堺と霧島は忙しくしていた。その理由はというと、

 

「第二、第四、第六一駆逐隊からのリクエスト、全て買い込みました!」

 

「OKだ、こっちは工廠組からの注文の交渉にまだ少しかかる!三戦隊、四戦隊、それに一航戦の分を頼む!」

 

「了解しました!」

 

艦娘たちから要求された『大日本皇国訪問のお土産』である。1人1人の注文量はそんなに多いわけではないのだが、「ちりも積もれば山となる」とはまさにこのこと。加えて明石や釧路といった「工廠組」や一部のオタク艦娘からはゲーム機のような電化製品を要求されたため、これの輸出交渉やら何やらでドタバタ状態であった。買い物は神室町のカムロモールで行ったのだが、建物内を走り回りカートを何十台も使って購入しまくっていた。堺曰く、「なんで天皇陛下への謁見やら外交交渉やらよりこっちのほうが疲れるんだ……」とのことである。

一応、神谷邸の使用人にも手伝って貰い、ありったけの資金を総動員して莫大な数の買い物やら輸出手続きやらをどうにか済ませた2人は、夜が明けて5日目の朝にヘロヘロになった状態で二式大艇に乗り込み、タウイタウイ島への帰還の途につくのだった。



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特別編5 Let's go タウイタウイ(前編)

タウイタウイ島との国交樹立より約2ヶ月 タウイタウイ島近辺上空 特務輸送機『延空』機内

「いやー、タウイタウイ島の人気は凄まじい物があるな」

 

「なんか旅雑誌のランキングじゃ、どの誌面でもトップ3に入ってるんだっけ?」

 

この日、大日本皇国が誇る三英傑の3人は、タウイタウイ島へ視察や交渉など諸々の用事をこなす為に飛んでいた。

一応名目上は『視察』と銘打っているが、その実は聖地巡礼旅行である。国民の血税で何してるんだと怒られそうだが、行く場所丸々聖地なのだから仕方がない。それにちゃんと仕事もやる。

少々旅行気分の三英傑を乗せて、『延空』はタウイタウイ島から護衛兼誘導で派遣された2機のF104Gの先導の元、タウイタウイ島西部の飛行場へと向かう。大体30分程度の飛行の末、機体は無事に着陸した。飛行場へ降り立つと、見覚えのある第二種軍装に身を包んだ男が出迎えてくれた。

 

「川山さん、神谷さん、一色さん、お久しぶりですね。タウイタウイへようこそ」

 

タウイタウイ泊地提督にして、現在は国家元首扱いになっている堺修一である。

 

「こちらこそ、お久しぶりです。いやぁ、やはりこの島は暑いですね。さすが南の島、という感じです」

 

「全くですね。こんな暑いところで立ち話も何です、こちらへどうぞ」

 

駐機場には大日本皇国製の車がスタンバイしており、それに乗り込んでタウイタウイ泊地司令部へと向かう。飛行場から15分ほどだ。

 

「この雰囲気は懐かしいな、横須賀や呉の鎮守府を思い出す」

 

赤煉瓦作りの建物を見て、神谷がそう呟いた。神谷にとって横須賀鎮守府はかつて第一主力艦隊の司令をしていた頃に世話になったし、呉鎮守府は江田島の海軍兵学校にいた頃に何度も足を運んだ思い出のある鎮守府なのだ。

 

「まあ、それらの鎮守府に倣った作りになっていますからね」

 

「建物同士の間隔が広いですね。空襲や火災への対策ですか?」

 

「鋭いですね川山さん。仰る通りです。

さ、到着しました。どうぞお降りください」

 

泊地司令部といっても、建物は複数ある。艦娘たちの住まう寮や工廠、船渠、所謂ドック、艦娘憩いの場である「甘味処 間宮&伊良湖」、空母艦娘たちのための弓道場、提督執務室を含む司令部棟といった感じだ。甘味処と弓道場を除いて、どの建物も3〜5階建てになっており、グラウンドまで付いているため学校のような印象がある。

その建物群の中の司令部棟に入り、エレベーターで4階へ上がる。その一角に提督執務室があるのだ。

 

「どうぞお入りください」

 

堺に勧められて入ってみる。部屋の第一印象は『青』である。冗談でも何でもなく、部屋が全体的に青色で統一されているのだ。板張りの床には青いカーペットが敷かれ、壁紙も青い。ドアを入って正面奥には青いテーブルクロスをかけた執務机が置いてあり、その右手には年季を感じさせる棚が2つある。どちらも書類がびっしり置かれていた。

執務机の左手側には、白いテーブルクロスのかかったテーブルに椅子2脚と緑のソファー、つまり応接セットが展開されていた。執務机の右手側には棚の他に小さな丸テーブルがある。このテーブルにはお茶を淹れるためのポットやカップ、ティースタンドが置いてあった。

応接セットの背後の壁には、ステンドグラスの絵がかかっており、後部がやたら平らになった戦艦が描かれていた。恐らく、伊勢型だろう。そして執務机の背後には青いカーテンのかかった窓があり、そこから青い海原が見える。本当に青尽くしであった。

 

(青は確か、視覚的に人を落ち着かせる効果があるんだったな。ここまで青一色でまとめているとなると、そういう効果をちゃんと考えてるんだろうな)

 

川山が冷静に考察する一方で、一色と神谷は表面的には冷静そうに見えたが、心の中ではだいぶ興奮していた。

 

(こ、これはマジモンの家具類か!ゲーム画面で見ていた物が、実物として目の前にあるなんて....)

 

(Fooooooo!ゲームで見た家具類が、マジで目の前にある!!

これは多分「軍艦色の壁」、机は「提督の机」、床は「ブルーカーペット」、この応接セットは確か「金剛の紅茶セット」じゃないか!それに「航空戦艦ステンドグラス」と「鎮守府お茶会セット」まである!ゆ、夢のような光景だ.......!)

 

実は三英傑は全員「提督」業を営んでいる。川山と一色はそこそこ程度のガチ勢、まあジュウコン済程度だ。だが神谷はオタクというか、もうその域を越えているのだ。具体的には実装済み艦娘全員とケッコン済、装備は全てコンプリート済といえば、どれほどのオタクか窺い知れよう。そんな訳で、家具を全て言い当てるなんて造作もない。

そんな部屋の中に、女性が1人待っていた。

 

「ヘーイ提督、お帰りなさいデース!」

 

「ああ、ただいま。言ってたお客様方を連れてきたよ」

 

両サイドにお団子を結ったブラウン色のロングヘアに、アホ毛の生えた巫女さんのような衣装を着て、「デース!」という特徴的な発音。そんなキャラはたった1人しかいない。

 

「大日本皇国から来られた方々ですネ!金剛デース!ヨロシクオネガイシマース!」

 

英国で生まれた帰国子女、金剛型戦艦のネームシップである金剛である。

 

「大日本皇国の外交官、川山慎太郎と申します。本日はよろしくお願いします」

 

「大日本皇国軍総司令官、神谷浩三です。よろしくお願いします」

 

「一色健太郎と申します。大日本皇国の首相、総理大臣を務めております。お初にお目にかかります」

 

「Oh.......すごいお偉いさんが来られまシタネ.......。ヨロシクデース!」

 

やはりリアルの金剛も、かなりのフレンドリーらしく握手してくれた。だが、目の前に好きなゲームキャラがいて尚且つ触れられたのだ。その心境たるや、筆舌し難い位の歓喜に包まれている。

特に川山と神谷は嫁艦である以上、軽く幽体離脱しかけた。

 

「金剛、程々にしとけよー」

 

金剛に釘を刺しておいてから堺は「こちらへおかけください」と、応接セットのソファーをすすめた。 だが、完全に天国に行きかけていた3人は反応が遅れてから、微妙な返事をして席に着いた。

ウェルカムドリンクを出してくれるそうなので川山と一色は紅茶、神谷はコーヒーを頼んだ。金剛お手製のクッキーも来て、ちょっとした会談が始まる。

 

「まずは先に、大事な要件を済ませてしまいましょう。私の見たところ、御三方とも艦娘たちの大ファンであらせられるようなので、要件だけ先に片付けて、後は心行くまで楽しむ。その方が良いのではないですか?」

 

「正直なところ、その意見には心から同意します。私はともかく、神谷が一番大変でしょうからね」

 

堺の指摘に川山が苦笑して答える。神谷と一色の目がしばしば金剛に泳いでいるのだ。また、嫁がいるとあって川山自身もなかなか落ち着けなかった。堺はそれに気付いたらしい。

 

「そして御三方が揃って来られたということは、何かよほど重要な案件のようですね。それも、政治と軍事の専門家が同時にいらっしゃるとなると、これは相当な案件のようだと思いますが?」

 

「お察しの通りです、堺さん」

 

流石、艦隊を率いていた司令官。何も言わずとも、ある程度こちらの意図を察してくれていたらしい。代表して一色が襟を正して話し始めた。

 

「実は2ヶ月後、我が国において重要な日があるのです。今の天皇陛下が御即位なさってから、ちょうど20年になるのです」

 

「ほう、節目というわけですね。それはおめでとうございます」

 

「ありがとうございます。そこで、御即位20周年を記念したいということで、我が国ではあるイベントを企画しております。それが、『軍観閲式』というものです」

 

ここから先は軍事関連である以上、神谷が説明していく。一色に任せようものなら、トンデモない兵器が生み出されそうなので仕方ない。

 

「この式典は文字通り、天皇陛下が我が国の軍を。陸軍、海軍、空軍、特殊戦術打撃部隊の全てをご観閲なさるものです。当然ながら、海軍に関しては観艦式という形になります。

そして我々は、せっかくの20周年記念という重要な節目に当たる訳ですから、この『軍観閲式』を国際的なものにしたいと考えております」

 

「なるほど.......。およそ話は分かりました。つまり、私のところの艦娘たちにも『日本国代表』として式典に参加して欲しいと、そういうことでしょうか?」

 

「堺さん、ご明察恐れ入ります。その通りです。単刀直入に言えば、是非とも貴方と艦娘たちにも式典に参加していただきたいのです」

 

そう、これが三英傑が揃ってタウイタウイを訪れた2つめの目的である。式典への参加を要請しに来たのだ。

艦娘が参加するとなれば、大きな広告塔になる。何よりそれをきっかけにして軍への理解が深まれば、もう万々歳である。ついでに(・・・・)艦娘が動いてる姿を、生で見れる。勿論、こっちが本命では無い。多分。

そして神谷は説明しながらも、意識は座っていたソファーの後ろへと向いていた。この部屋に入ってソファーに座ってすぐは下にいたのだが、その後背後へと移動している。それに微かに呼吸音や、一度ソファに軽い衝撃が走ったので多分、誰かいる。念には念を入れて、金剛と堺の意識が他に向いてる間に、懐に忍ばせてある26式拳銃のセーフティを解除してあるので、もし仮に敵であっても撃退できるだろう。

 

「お話はよく分かりました。艦娘たちの意向もあると思いますので、返事は一旦保留とさせていただけますか?」

 

「分かりました。快いお返事をお待ちしております」

 

一色がそう返事をすると、堺は不意にとんでもないことを口走った。

 

「ということだ、青葉、よろしく」

 

その直後、3人が座っていたソファーの背後から、いきなり人影が現れた。

 

「ふぇぇっ!?ちょ、司令官、気付いてたんですか!?」

 

「青葉、いつからいたデスカ!?」

 

「うわ!?びっくりした!」

 

「あ、青葉さん!?いつの間にそんなところに.......!?」

 

ソファーの後ろに青葉が隠れていたのだ。突然の登場に、金剛、川山、一色が揃って驚く。

 

「当たり前だ、俺とどれだけの付き合いがあると思ってんだよ。ついでに言えば、お前には何回もタネを抜かれてんだ、少しは対策もしようというもんだ。

それに、うちに外からお客、それも外国の方が来るなんて滅多にないんだからな。お前にとっちゃ格好の記事のタネだろ、そんなもんに食いつかないはずがない。最初はソファーの下、それから後ろに移動して、話を全部聴いてたろ」

 

「あうぅ.......司令官に完全に見抜かれてた.......」

 

がっくりと肩を落とす青葉。見抜かれた上で泳がされていた、というのは少しショックだったらしい。

 

「そういう訳だ、見抜かれた罰としてうちの子たちに今の話を広めてこい」

 

「分かりましたっ!皆様、失礼しました。また青葉をよろしくねっ!」

 

つむじ風のように、青葉は颯爽と部屋を飛び出していった。 本当に嵐の様な奴である。

 

「全くアイツは.......。皆様、驚かせてしまいすみませんでした」

 

「いや、彼女らしいと思いますよ」

 

神谷的には、こういうのは万々歳である。青葉のキャラが二次創作とかにある、あのパパラッチの如き執念で取材するヤツまんまだったのだ。それだけで迷惑どころか、単純に面白いと思える。

 

「そういえば神谷さんだけ驚いていませんでしたね。気付いていたのですか?」

 

「まあ、何となく」

 

流石に「最初から気付いてて、銃のセーフティーも外してました」とは言えないので、適当に誤魔化す。

 

「ということで、私たちから伝えたかったのは観閲式の参加の要請です。これで要件は全て済みました」

 

「承りました。それでは、お茶とクッキーをいただいて、後はお楽しみタイムといきましょう。

金剛、お茶をありがとう。戻って良いぞ」

 

「了解デース!では、私はいってきマス」

 

「あ、金剛さん」

 

川山は出て行こうとする金剛を呼び止めた。せめて最後に何か、話したいと思ったのだ。なのでお茶とクッキーの感想を言う事にする。

 

「What?」

 

「紅茶とクッキー、ありがとうございます。とても美味しいですよ」

 

「Oh、そう言ってもらえて嬉しいデース!では、私は失礼しマース!」

 

今度こそ退室した金剛を見送り、4人はお茶と軽食を楽しんだ。それが終わったタイミングで、執務室のドアがノックされる。

 

「失礼します。鹿島、参りました!」

 

「お、来たか!入って良いぞ」

 

「失礼します」

 

入って来たのは銀髪を緩くウェーブのツインテールで纏めた、白い制服に身を包んだ女性だった。既に名前が出ているが、もうこの見た目はコミケの覇者である有明の女王に他ならない。

 

「すみません皆様、私はお茶のセットを片付けてからいきます。少し場所を移していただいて、最初はこちらの鹿島からかつて我々が所属していた組織、日本国の国防軍である自衛隊や海上護衛軍について説明を受けていただきます。

鹿島、頼んだ」

 

「はい!お話は聞いています、大日本皇国の方々ですね。練習巡洋艦の鹿島です!よろしくお願いしますね、うふふっ♪」

 

この瞬間、3人は死んだ。鹿島のリアル「うふふっ♪」は、艦これオタク共にはダメージがデカすぎた。もう脳内では、超カオスな事になっていた。どの位カオスかって?こんな感じだ。

 

(やべぇぇぇぇぇ!!『有明の女王』の実物だぁぁぁぁ!! これが本物の「うふふっ♪」か、画面越しとは全然違う!!良いわぁ。マジ良いわぁ)by川山

 

(俺を尊死させる気かよ堺司令!?こんなタイミングで鹿島が来るなんて思わねーだろちくしょう!!待って、ダメ、しんどい.......。アッ。エデンへ逝くわこれ.......)by神谷

 

(うおぉぉぉ鹿島キタ━(゚∀゚)━!!!やっぱここ天国じゃねえのか!?神よ感謝します!!)by一色。

 

キャラ崩壊が甚だしいって?そんなの気にすんな。

 

「おい鹿島、程々にな」

 

「はい~♪では皆様、こちらへどうぞ」

 

提督執務室の2つ隣の部屋に移動した一行。ドアを開けると、そこは完全に「学校の教室」になっていた。何やらプロジェクターとスクリーンが準備されている。

 

「ここは普段、艦娘たちの座学の授業とかで使われる部屋です。ひとまずお好きなところに座ってくださいね♪」

 

3人が着席すると、鹿島はタブレット端末を操作して映像を呼び出した。 やはり練習艦、つまり艦娘にとっての先生となるのだ。その動きはまるで、本物の美人教師である。というかこんな教師が本当にいれば、その学校の男子は機能不全を起こすだろう。

 

「まずはこちらの映像を見てください。私たちがまだ地球にいた頃に作られた、国内向けのプロパガンダ映像です」

 

が、3人の注意は映像ではなくタブレット端末そのものに向けられていた。厚紙のような薄さしかないのである。

間違えないでもらいたいが、3人ともタブレット端末に目が行っているのである。決して、そのタブレット端末の隣に寄せられた鹿島の豊かな双丘に目が行った訳ではない。決して。

オープニングのBGMが始まったことで、3人とも映像に注意を向ける。『日本国陸上自衛隊 永和◯◯年度富士総合火力演習』とテロップが表示されたところで、3人とも気付いた。

 

「(おい、あんな元号使ったことなかったよな?)」

 

「(我が国の歴史書のどこを探しても見当たらないぞ、あんな元号は)」

 

「(やっぱりタウイタウイ泊地があった日本国って、俺らの国とは違うんだな.......) 」

 

テロップが消え、演習場の中を動き回る複数の戦車が映し出された。だがそれは異様な見た目をしている。車体の割に砲塔があまりにも小さく、一見するとオープントップか何かの自走砲と見間違えそうだ。しかし、よくよくみればちゃんと回転砲塔になっている。ここで神谷の観察眼が光る。

 

(おそらくこいつは、主砲の砲身長は55~60口径。砲口径はざっと150㎜ってところか。結構な威力してんな。しかも砲塔の小ささからして無人砲塔であるにちがいない。乗員は2、3人ってところか。

ん!? 待て、砲口付近のあの謎の切れ込み.......。まさか漸減口径砲!? ということは、口径以上に貫徹力がでかいのか!

全体に角が丸く、流線型っぽい感じ.......。レーダー対策でステルス性を意識してるか?)

 

次は『86式戦車』というのが登場した。こちらはさっきの戦車とは打って変わって、今度は巨大な戦車である。

 

(なんてこった、砲塔の大きさ以外はうちの46式と大して変わらないじゃないか.......深海棲艦と戦争してても、陸上兵器を開発している余裕があるのか? いや、あるいは陸上兵器ですら新開発しなきゃならないほど、戦況が逼迫していたのか.......?))

 

そして、射撃訓練の中でとんでもない光景が出現した。戦車と自走砲で一斉射撃を行い、なんと砲弾炸裂の白煙を使って空中に富士山を3Dで描いてみせたのである。

勿論皇国軍だって、普通にマンパワーで富士山を描く事くらいはできる。だがそれは平面であり、三次元の3Dは流石に無理だ。頑張れば出来なくはないかもしれないが、少なくとも全員がエース以上の実力を持ってないと成立しないだろう。

 

(おいおいマジかよ.......下手すりゃ我が皇国陸軍よりいい装備してんじゃねえか!)

 

続いては『海上自衛隊』ならぬ『海上護衛軍』の登場である。だが、こちらは先ほどの陸上自衛隊の映像と比較するとどこか寂しい感じが否めなかった。神谷はその理由を即座に見抜いた。

 

(『艦娘部隊』と称して、艦娘たちとその装備品らしいレシプロ機は多いが、我が皇国海軍が持っているようなイージス艦なんかがあまり出てこない.......。

撃沈されたか、あるいは補充とか行われていないのか? そういえばどっかの艦これアンソロ小説で、イージス艦の攻撃は何故か深海棲艦には効かない、って設定があったっけ)

 

さらに航空宇宙自衛隊も、特に戦闘機部隊はどうにも数が少ない印象があった。単純に映像中の出演回数が少ないだけかもしれないが。

だがその代わりなのか、AWACSはちらちら見かける。

 

(おそらく深海棲艦の航空機を迎撃できないんで、現代的な戦闘機は減らされたのかな。そして深海側の空襲を早期に探知できるよう、AWACSを増やしたってことじゃないかな。

それにしても、なんだか防衛用の装備ばっかり充実していて、海外遠征とかを行うための装備が乏しいな。どうしたんだろ?)

 

出てきた艦艇の殆どが艦娘を除けば、基本的に駆逐艦ばかりだ。一応空母も出てきちゃいるが、そのサイズ感は出雲型強襲揚陸艦や龍驤型軽空母の様な、空母としては小型の部類に入るサイズなのだ。

そんな事を考えていると、堺が部屋へと入ってくる。

 

「お、ちょうど映像終わったか」

 

「はい。ここからは提督にお願いしますね」

 

「ああ、日本国の歴史の説明は俺がやるって予定だったな。ありがとな鹿島」

 

「いえいえ、こちらこそ。映像用意してくれたのは提督さんじゃないですか、ありがとうございました。うふふっ♪」

 

また例によって3人揃って骨抜きになりかけたところで、司会が堺にバトンタッチし次の説明が始まる。

 

「えー、それではここからは趣向を変えまして、日本国の歴史について、そして我々タウイタウイ泊地艦隊がたどった歴史について、ご説明いたします」

 

スクリーンに新たな映像が映り、堺が話し始めたことで3人ともどうにか意識を現世に繋ぎ直した。

 

「まず我が国がいつ成立したか、ということですが、歴史家たちの通説としては…」

 

その後の説明は、大日本皇国がたどってきた歴史と大差ないように思われた。だが昭和年代の第二次世界大戦から、状況が一気に変わり始める。

 

「西暦1945年8月15日、第二次世界大戦並びに太平洋戦争は終結。日本は国土の大半を空襲によって焼き払われ、さらに原子爆弾2発を投下され、アメリカをはじめとする連合国に降伏しました。その後紆余曲折を経て、世界第2位クラスの経済大国に返り咲いたのです。

第二次世界大戦に降伏した後、我が国は『大日本帝国』から『日本国』へと国号を改めましたから、我が国は灰の中から再出発したといっても過言ではないのです。またこの際、日本国は常備軍の保有や外国との戦争を法律で禁止し、専守防衛を旨とする自衛隊を設立しました」

 

道理で防衛用の兵器が多く、原子力空母の様な大型艦が居ない訳だ。

スクリーンの中では新幹線開通時の白黒映像や、『地下鉄サリン事件』『阪神淡路大震災』などのカラー映像が踊っている。

 

「こうして我が国は何とか立ち直りましたが、一方の世界では紛争や戦争が絶えず、我が国もそれに巻き込まれて対外情勢は不穏なものを孕んでいました。

ところが西暦2060年、全てが一変したのです。そう、世界中の海で一斉に始まった、深海棲艦の侵攻です。世界各国は必死に戦いましたが、何故か深海棲艦には現代兵器が通用せず、人類はあっという間に制海権を奪い取られ、島嶼国家は次々に滅亡に追いやられました。アメリカですらハワイ諸島を失陥するほどの有り様だったのです。しかも深海棲艦側には戦車のような陸上戦力まで存在し、このままでは人類の滅亡は遠からぬものと予想されていました。

そんな中、西暦2101年に日本国において初めて『艦娘』という存在が現れ、そこから人類の反撃がようやく始まったのです。以後100年近くにもわたって、人類の守護者たる艦娘と深海棲艦の戦闘が続きました。そんな最中に、私たちのタウイタウイ泊地は突然、異世界へと飛ばされてしまったのです」

 

思ってたよりも壮絶な歴史の説明に、3人とも言葉を失っていた。 二次創作の小説なんかでは、その辺りも詳しく書いていることもあったが公式から正式に艦これ世界がどんな風な有様かは余り語られていない。ある程度予想はついてはいたが、実際に語られればやはり言葉を失うのだ。

 

「我々のいるタウイタウイ島が転移した場所は、ロデニウス大陸の北東34㎞沖でした。最初はクワ・トイネ公国、次いでクイラ王国と国交を開設しまして、この頃は我々はまだ日本国を名乗っていました。その後、ロウリア王国のクワ・トイネ侵攻によって発生したロデニウス大陸戦争では、我々はクワ・トイネ公国側で参戦、ロウリア王国を打ち破って勝利を収めました。これが、中央暦1639年の4月~5月のことです」

 

この辺りから神谷たち3人にも、馴染みの深い暦や国名が出てきた。そのため3人にもイメージして理解しやすくなる。

 

「戦争が終わって間もない中央暦1639年7月1日、パーパルディア皇国の脅威に対抗するため、ロデニウス大陸の諸国は1つにまとまり、『ロデニウス連合王国』となりました。この時我々タウイタウイ艦隊も『日本国』の国号を封印し、ロデニウス連合王国の一部となって『ロデニウス連合王国海軍第13艦隊』を名乗るようになったのです。そして必死に大陸の近代化に取り組み、同時に大規模国家共同体『大東洋共栄圏』を主宰して第三文明圏外各国との国際協調を図りましたが、あまりにも時間が足りなさすぎました。

年が明け、中央暦1640年になってすぐ…1月下旬とかの話なので本当にすぐなのですが、ロデニウス連合王国はパーパルディア皇国と開戦しました。この戦争は最終的に第三文明圏内外各国を巻き込んだ『第三文明圏大戦』となり、結果は我が方の勝利に終わりました。パーパルディア皇国は本土の制空権・制海権を全て喪失し、我が軍の本土上陸を許してしまい、エストシラント、デュロといった重要都市を失陥した後、最終的にパールネウスを落とされて滅亡しました。現在は『新生パールネウス共和国』となって再出発しています」

 

「質問よろしいでしょうか?」

 

「はい、どうぞ」

 

川山が単純に気になった、パーパルディアとの開戦理由について質問する。

 

「パーパルディア皇国との開戦経緯は何だったのでしょうか?我が皇国もパーパルディアと戦争しましたが、その原因はフェン王国のニシノミヤコで我が国の民が捕らえられ、パーパルディアによって公開処刑されたことでした」

 

「おお、貴国も似たような開戦経緯だったのですね。私たちの場合は、貴国と同じくフェン王国における邦人処刑の報復の他に、大東洋共栄圏に対する脅威の排除、将来的な自存自衛、友邦たるフェン王国の救援の4つが、開戦事由でした」

 

「世界線は違えどパ皇はパ皇だった、ということですなぁ」

 

「全くですね」

 

今度は神谷が、あの馬鹿2人の末路を聞く。

 

「そちらでもパーパルディアを滅ぼしたってことは、そちらの世界ではルディアスとレミールはどうなったんです?」

 

堺の眉間にしわが寄り、表情がやや険しくなった。もちろんそれを見逃す神谷ではない。何かあったのだろう。

 

「実は.......2人とも死にました。というより、私が殺したも同然ですね」

 

「と言いますと.......?」

 

「まずレミールに関しては、この私の手で射殺しました。処刑場所はこの泊地の片隅です。墓碑もそこにありますよ。

それとルディアスですが、エストシラント市街地ごと耕しました.......大和の46㎝砲で」

 

「「Oh.......」」

 

想像以上にグロかったのか、川山と一色が絶句した。だが神谷はケロッとした顔で、「あー、やっぱり」という顔でこちらの状況を話した。

 

「おや、そちらも我々と似たようなことをやったんですね」

 

「え、神谷さんも?」

 

「えぇ。というか私からすると、46㎝砲で済んだだけまだマシ、というレベルです。我々がエストシラントを攻略した時は、燃料気化弾頭のSLBM、710㎜砲を筆頭とした艦砲射撃、『富嶽II』による10,000トン近い量の爆弾投下、自走砲による支援砲撃までやって、最終的にメタルギアから何から陸上戦力をほぼ全部突っ込みましたから、終わった後は建物なんて1つもないような状態でした」

 

「うわぁ.......私たちのやったことが生ぬるいとすら思える.......」

 

衝撃を受ける堺。その隣で鹿島が冬でもないのにガタガタ震えている。

 

「それに、まあ、レミールとルディアスの末路も其方よりも酷いものでしたよ」

 

「い、一体何があったんですか.......?」

 

堺は何故か聞くのも恐ろしく、聞いてはいけないと本能が警報を鳴らしているのに聞いてしまった。

 

「一言で言えば、人間とは思えない最後でしたよ。ルディアスは蛇に体内を喰われて絶命し、死体は肉食獣によって見るも無惨に。レミールは何故か(・・・)ゴム製のネックレスを掛けられて死んでいましたよ」

 

読者諸氏は覚えているだろうか?あの2人は神谷が手を下している。ルディアスは蛇攻めの後、肉食獣に食われて死体が消えた。レミールはタイヤネックレスの刑に処されて、人間とは思えない姿になって死んだのだ。

無論この事はガッツリ法律違反である以上、あくまで裏で行われた汚れ仕事(ウェット・ワーク)だ。表の歴史には残らない。だが堺は薄々だが、多分神谷が手を下したと気づいた。何せその時の顔が、悪魔の様な黒い笑みを浮かべていたのだから。

 

(だが待てよ、堺司令と俺たちで決定的に違う点がある。俺たちが使ったのはあくまで『兵器』だが、堺司令のは『艦娘』だ。兵器と違って自我や人格がある。

エストシラントを艦砲射撃したってことは、戦闘員ではない一般人が大量に、大和の砲撃で死んだはずだ。その事実が大和の心に影響を落としてる可能性があるな)

 

「話に戻ります。それでパーパルディアとの戦争が終わった後は、ミリシアルやカルアミークをはじめとする国家群と国交を順次開設し、世界平和と将来的なラヴァーナル帝国との戦争に備えようとしていたのですが、また世界大戦です。皆様もお察しかもしれませんが、相手はグラ・バルカス帝国でした。

激しい戦闘を何度も繰り返した末に、我が国はミリシアルやムーなどと協力してグ帝を追い詰め、どうにか降伏にこぎ着けました。そして、その戦後処理を終えた私と艦娘たちがムー大陸からタウイタウイに帰ってきてすぐ、ここに転移してきたのですよ」

 

「波乱万丈、という言葉がぴったりですね」

 

一色がしみじみとコメントした。

歴史の講義が終わった後は、いよいよ泊地の案内である。鹿島は教室の片付けのため離脱し、ここからは案内役が堺に戻る。

 

「それでは、まずはこの建物からご案内します。この司令部棟は5階建てですが、5階は艦隊司令部を兼ねた通信室があるだけで、後は屋上ですね。機密の部分もありますので、すみませんが5階は紹介を省きます。

4階は私の執務室と私室、後はさっきの教室が5つと会議室ですね」

 

階段で3階へ降りると、教室がずらっと並んでいる。完全に学校そのものだ。

 

「ここは講義室フロアです。主に魚雷戦や砲術理論、対空戦闘理論、その他歴史学や一般教養といった座学と、演習ボードによる机上演習で使われます」

 

「やっぱりあるんですね、そういう講義も」

 

「そりゃあ、理論も無しの実践なんて弾の無駄になるだけですからね。習うより慣れろとは言いますが、まずはお勉強からです」

 

続いて2階、ここは資料室が多くを占めている。

 

「この資料室には、かつての地球に関する情報やこの世界に来てから我々が経験した戦役、その他様々な情報が収められています。荷物を運ぶために使う小型エレベーターがあって、4階の提督執務室や5階の艦隊司令部と連絡しています」

 

最後に1階は、食堂と図書室という2つの大部屋が大半のスペースを占めており、その隙間に挟まるようにして医務室がある。

 

「こちらが食堂です。今は閑散としていますが、食事の時間になると艦娘で溢れかえりますから、あなた方にとっては眼福な光景が広がることになりますよ」

 

「それは是非見てみたい.......」

 

「おーい浩三。本音漏れてる」

 

「はっ!?い、いかんいかん!」

 

バッチリ神谷の本音が漏れている。それを川山がツッコんで、一色はそれを見てゲラゲラ笑い、堺は苦笑した。

 

「そして向こうが図書室です。私より前にここで提督をやっていた方の誰かが本好きだったようで、結構な量の蔵書を残していたのですよ。それをありがたく使わせてもらっています。地下書庫もありますから、正確な数は数えたことがありませんが、どう少なく見ても500冊はあるでしょう」

 

「本のジャンルは歴史書とかそんなのばかりですか?」

 

一色がそう質問する。一色自身、何度か本を執筆した事がある位の読書家でもあるのだ。

 

「いえね、それがそうでもないのです。専門書からライトノベルまで、いろいろとあるんですよ。おかげでこの世界に来てから大分助かりました。現地の方々に技術指導とかやる際に、蔵書が大いに役立ちましたからね」

 

「それは幸運でしたな」

 

「ええ、全く以てありがたい限りです。

ああ、それとAV室もありますよ。なので映像作品なんかも閲覧可能です」

 

そんな風に説明を聞いていると、医務室の中をちらりと覗いた川山がある物を見つけた。

 

「ここの医務室、ずいぶん豪華な設備がありますね」

 

「ん、どうされました川山さん?」

 

「いや、こんなところにCTがあるなんて、と思って.......」

 

扉の窓から、巨大なリング状の機材が置いてあるのがちらりと見えたのだ。

 

「CT?.......あー、アレか。あれ実はCTじゃないんです」

 

「え?ではあれは何でしょうか.......?」

 

形は確かにCTに似ているが、実は全く違うものなのである。

 

「うーん……まあ、ここだけの話として明かしましょう。この話はオフレコでお願いします。

あれは『波動治療装置』といいます」

 

「波動治療装置?」

 

そんな装置、聞いた事がない。別に医療に明るい訳ではないが、それにしたって聞き慣れない名前だ。

 

「はい。私は医療の専門家じゃないので詳しい説明はできませんが、人間の身体は無数の原子によってできている、ということはご存知かと思います。そして、それらの原子には熱運動があり、原子1つ1つが振動していることも、化学の授業などで習ったかと存じます。そのため、原子が複雑に結合して作られている人間の身体からは、常時何かしらの波動が放出されています。

波動治療装置とは、健康な人間が放つ波動を固有の周波数帯として登録し、病気にかかった人間に対して登録した波動を浴びせることで、免疫機能を活性化させると共に、おかしくなっている原子の配列を元に戻したり、異分子を排除したりして、病気を治療するという装置です。骨折とかの外科的疾患はこの機械では治療できませんが、例えば臓器のがんとか高脂血症、各種感染症、統合失調症などは、これだけで対応できますよ。切り傷に対しては直接治療こそできないものの、血小板の機能を活性化して傷の早期治癒に繋げられます」

 

「な、なんと.......!素晴らしい機械じゃないですか!」

 

一色が目を輝かせた。さすがの大日本皇国とて、そんなぶっ飛んだ機材はないのである。

 

「ただ、実はこの機械のことを皆様にお話するつもりはありませんでした。というのも、こんなものの存在を公表して輸出でもしようものなら、貴国の医師と看護師と臨床検査技師なんかが軒並みお役御免になってしまいますからね。失業者を大量発生させて余計な恨みや社会不安を生み出す訳にはいきません」

 

「確かにそうですね.......。私たちも、この話は聴かなかったことにしましょう」

 

「そうしていただけると助かります」

 

因みに神谷としては戦場での診断や宇宙空間での利用には、案外使えるかもしれないなぁと考えたりしていた。

 

「さて、司令部棟はこれで全てご案内しました。次は外へ行きますよ」

 

司令部棟を出た一行は、艦娘たちの寮棟の間を抜けるようにして泊地内を歩く。途中で演習に向かうらしい何人かの艦娘とすれ違い、敬礼を交わしていく。

 

「ここが最大の寮である駆逐艦寮、その向こうが軽巡寮、さらに奥が重巡寮。道を挟んで駆逐艦寮の反対側が空母寮、その奥が戦艦寮と特殊艦寮です。これとは別に『海外艦寮』もありますよ」

 

「特殊艦寮にはどんな方が入るのですか?」

 

「そうですね、水上機母艦や潜水艦、潜水母艦、揚陸艦、工作艦などといった面々です。と言いましても、実は工作艦の子に関しては、寮の部屋はただ寝るためだけにあるような物ですね。何なら工廠に泊まり込むことも珍しくないですから」

 

「うわぁ.......。何というか、秋葉原に通うオタクの匂いがしますね」

 

「オタクで済むなら可愛いんですがね」

 

堺が頭を掻きながら濁した。ぶっちゃけその手の艦娘は全員、マッドサイエンティスト並みに狂ってる。故に今週のびっくりドッキリメカよろしく、なんかトンデモないのを結構な頻度で作ってくるのだ。

そんな中、一色がある物を見つけた。

 

「あれは、対空砲陣地ですか?」

 

一色の指差す先には、土嚢が積み上げられていた。その向こうから対空機銃と思しき細長い黒い砲身がのぞいている。

 

「そうです、あれは確か九六式25㎜三連装対空機銃ですね。他にもボフォース40㎜機関砲や3.7㎝Flak、アハトアハトもありますよ」

 

「勢揃いですな」

 

「それだけ航空機が怖いんですよ」

 

確かに堺の言う通り、この現代戦に於いて航空機の存在は大きい。多数の航空機が来襲すれば、軍事施設はもちろん都市だって焼き払われる。その悲惨さは、歴史が証明している。

寮がある一帯を抜けると駐車場と正門がある。その駐車場で、3人が思わず声を上げた。

 

「お、戦車か!」

 

「デカい.......何か昔の資料で見た覚えがあるな、何だっけ?」

 

川山が首を傾げている横で、神谷は少年の様に目を輝かせている。何せ目の前の戦車は、第二次世界大戦時にドイツが生み出した傑作戦車の進化系、ティーガーIIだったのだ。少し毛色は違うが。

 

「ティーガーⅡ、いや、よく見ると少し違う!こいつ、105㎜砲持ってるな?しかも滑腔砲じゃねえか!

あと、エンジン音がガソリンエンジンのそれじゃない。むしろT-34とかに見られるディーゼルの音だ」

 

ちょうど走行試験中の『43式主力戦車 ケーニヒスティーガー改』に出会したのだ。主砲を68口径105㎜砲に乗せ変えた火力強化型である。

これだけ細かい違いを1発で全部見抜いた神谷って、どんな化け物だよ。

 

「我が方の新鋭戦車です。グ帝との戦争の最終局面で先行試作型を投入しましたが、量産型が投入される前に戦争が終わりました。今は魔帝との戦争に備え、火力の強化などの改修を行っています。

さて、ここらへんで小休止です。次からが本番なので、その前に少し休みますよ」

 

堺が3人を連れていったのは、和風な雰囲気漂う一軒の店だった。看板に書かれた店名は「甘味処 間宮&伊良湖」である。それを見た瞬間、3人のテンションがまた上がった。

 

「おおっ、この看板があるということは!」

 

「これが、間宮さんの店?いや、伊良湖もいるのか.......」

 

「甘味のお店ですね」

 

「そうです。艦娘たちが『キラキラ』になる店ですよ」 

 

船渠、工廠と並ぶ鎮守府の最重要施設、間宮と伊良湖の店である。食事はもちろんだが、ここで提供されるあんみつやラムネ、羊羮、最中といった甘味は、艦娘たちの士気の維持、向上に極めて重要なのだ。

 

「いらっしゃい!あ、提督さん!お客様ですか?」

 

対応に当たったのは伊良湖。ゲーム通り、ピンクのワイシャツに紺のネクタイを締めた割烹着姿である。

 

「ああ。4人だが、頼めるか?」

 

「はい、こちらへどうぞ!」

 

時間が時間だからか、店内には4人以外の客はいない。 つまり、貸し切り状態だ。

 

「こちらメニューです。お決まりになりましたら、お呼びください」

 

メニューには様々な料理が載っているが、流石に午前10時くらいでガッツリ食べるものではない。それにさっきクッキーも食べているので、早々にスイーツのページが開かれた。

 

「おおぉ!アニメで見た特盛りあんみつだ!」

 

アニメ一期で吹雪とか利根が食べていた、あの超メガ盛りの餡蜜があったのだ。

 

「え、貴国では艦娘たちはアニメに出演したのですか?」

 

そして堺は、艦娘がアニメに出たという所に驚いている。すかさず神谷が、その情報を話した。

 

「はい、劇場版も製作、公開されましたよ。なので映画館のスクリーンでも彼女たちが動いていたわけです」

 

「おお、それはそれは.......」

 

堺と神谷がアニメ談義で盛り上がっている間に、川山と一色はささっと注文を決めてしまった。

 

「浩三、決まったか?俺たちは決めたぜ」

 

「早ぇよお前ら!ちょっと待って、ええと.......」

 

何とか神谷の注文が決まったところで、堺が机に置かれたハンドベルを鳴らす。これが店員の呼び出しベルなのだ。

 

「ご注文お決まりでしょうか?」

 

「特盛りあんみつのセット1つお願いします」

 

「浩三の分量多いな.......。なら私は、アイス最中2つとアイスコーヒーで」

 

「私はシュークリーム1つとアイスレモンティーを、ダージリンでお願いします」

 

神谷はアニメ比較するべく餡蜜を頼み、一色は好物の最中、川山は安定の紅茶系の飲み物とそれに合うであろうシュークリームを頼む。

 

「提督さんはどうします?」

 

「シベリアと「どりこの」で。あ、それと間宮さんの羊羮を3本」

 

「承りました!」

 

オーダーした商品が来るのを待つ間に、堺から今後の流れを説明して貰う。

 

「この後は船渠と工廠に行きますよ。そこで午前中の予定を終了してお昼にし、午後からは演習の様子をご覧いただきます」

 

「おおっ、工廠がきた!!」

 

神谷がさっそく小躍りし始める。装備開発の様子などを見られると思ったのだ。

 

「船渠ってことは、ドックですか?」

 

((あの兵器系を悉く間違える健太郎が、船渠をドックと認識した、だと.......))

 

珍しく一色が兵器系の間違いをせずに、しっかり船渠をドックと認識した事に軽く戦慄しているが、それに堺は気付かず説明を続ける。

 

「左様です。と言いましても、艦娘たちのプライバシーという切実な問題がありますから、船渠は建物の外から見るだけになります。その代わりに、工廠は中まで踏み込みますよ」

 

「おおぉ!!」

 

説明を横で聴いていた神谷の目が、ギラリと光る。 もう工廠とか、絶対楽しいに決まっている。

 

「すみません、何だか工廠見学に取る時間が長くないですか?」

 

「お気付きの通りです。と言いますのも、ちょうど工廠の方で新装備のテストをしておりまして、その様子をご覧いただく形になるのです。なので時間を多めに取りました」

 

「なるほど」

 

川山はこの説明で納得したが、実は堺はあと1つ、工廠見学の時間を長めに取った理由を隠している。まあ、これはその時になれば自ずと分かるだろう。

 

「ところで堺司令、さっき『どりこの』と注文していましたが、何ですかそれは?」

 

「気になりましたか一色さん。それは、あ、ちょうど来たみたいですね」

 

「お待たせしました!まずはこちら、シベリアと"どりこの"のセットに間宮さんの羊羮と、シュークリームとレモンティーのセットです!」

 

川山と堺の注文が先に届いた。つまり「どりこの」の実物が到着したのである。

 

「「「何だこりゃ?これが『どりこの』?」」」

 

3人の声が重なった。

堺の前に置かれたのは、三角形のカステラめいた物と飲み物。シベリアとはあんこを挟んだ三角形のカステラのことだから、お菓子がシベリアで間違いない。となるとドリンクが「どりこの」になる訳だが、それはちょっと高級そうな形の瓶に入ったウィスキーのような琥珀色の液体だった。炭酸は入っていない。そして何故か、水の入った瓶が付属していた。

 

「これが「どりこの」です。種類としては清涼飲料水になりますが、滋養強壮剤を謳っていました。皆様の知る言葉でいえば、エナジードリンクのようなものです」

 

言いながら、堺は瓶の蓋を開ける。そして「ごめん、コップ3つ持ってきてー!」と追加オーダーを出した。

 

「これそのものは濃縮液です。カルピスのように薄めて飲むんですよ、だいたい6倍くらいに.......」

 

コップが届いたので、堺は自身の分も含めて4つのコップに「どりこの」を注いだ。そこに水を入れ、薄めていく。

 

「……よし、これくらいで良いでしょう。お一つずつどうぞ」

 

堺に言われて、3人は各々「どりこの」を飲んでみた。ふんわりとした甘さが口内に広がり、それを嚥下すると甘い液体が一気に胃の府まで駆け抜けていく。フルーティーで爽やかな後味が何とも心地良い。

 

「「「.......旨い!」」」

 

3人揃って全く同じコメントだった。

 

「どうですか?」

 

「こんな飲み物があったとは、初めて知りました。これ、できれば我が国への輸出品目に加えてくださいませんか?これは人気が出そうです」

 

真っ先に川山が口を開いた。神谷と一色もうんうんと頷いている。

 

「なかなか好評のようですね、分かりました。検討させていただきましょう。

ただ、これのレシピを知っているのが間宮さんしかいないので、最初はどうしても数量限定品になりそうです。まずは先行販売キャンペーンをやってみて、好評なら生産ライセンスの売却も視野に入れましょう。こいつの製法が失われるのは惜しいので」

 

「ありがとうございます!」

 

そうこうしていると、遅れていた一色と神谷の注文が届いた。

 

「では皆様方、お楽しみくださいませ。あ、どりこのはまだまだありますので、ご随意にお飲みくださいね、私1人じゃ飲みきれないので。

それと、先にこちらをお渡ししておきます。おみやげですよ」

 

 堺は3人の手に間宮の羊羮を1本ずつ握らせた。今回も高級そうな木箱に入っている。

 

「おおぉ、何から何までありがとうございます!ちょうどこの羊羮をまた食べたいと思っていたのですよ!」

 

「慎太郎と同じです。あの時の羊羮は旨かったですからね」

 

川山と神谷は一度この羊羮を食したことがあるのだ。

 

「いつか健太郎にも食わせてやろうと思っていたところです」

 

「慎太郎、これそんなに旨いのか?」

 

「旨いなんてものじゃない、帝国ホテルに入ってる和菓子屋の羊羮が霞むレベルだ」

 

「そうそう、一級和菓子屋の羊羮ですら太刀打ちできないほどの品物なんだ。貰えたのは超ラッキーだぞ、これ多分艦娘たちの間でも取り合いになるからな」

 

川山と神谷大絶賛の間宮羊羹。因みに帝国ホテルの羊羹は、一本2000円の超高級品である。

 

「そんな人気商品なのかこれ.......。確かに高級そうな感じはするけど」

 

「わざわざ木箱に1本ずつ入れているだけのことはあるな。これ以上旨い羊羮を俺は他に知らん、間違いなくこれが一番旨い」

 

「浩三、お前自宅でシェフ雇ってただろ。彼なら作れるんじゃないか?」

 

「無理だな。彼にも1回羊羮を作ってもらったけど、これはそれより断然旨い。餡の舌触りはきめ細かいのに、甘さがその強烈さの割に全然しつこくないんだ。これが一番旨い」

 

因みに神谷邸にいる料理長は、和菓子作りも出来るが専門ではない。というか基本的に神谷自身がスイーツ系よりも、飯系の方が好きなのでパティシエとか和菓子職人とかは基本雇ってない。

本家が雇っているので、パーティーとかで必要になったら作って貰ったりしている。

 

「2人揃ってこれを推すほどなのか.......」

 

「まあ、お好きな時に召し上がってくださいな。さて神谷さん、あまり放置するとあんみつが溶けますよ?」

 

「っ!いかん、忘れてた!いただきます!」

 

「じゃ俺たちも食うか」

 

「そうだな。あ、堺さん、「どりこの」をもう1杯」

 

「セルフでどうぞー」

 

こんな具合にまったりしたお茶会を楽しみ、今度は船渠のある区画へと向かう。因みにティータイムの勘定は全て堺持ちである。

 

「ここが船渠、つまり艦娘たちの入渠ドックです」

 

船渠は和風の温泉のような雰囲気のある建物である。

 

「中をお見せすることはできませんが、まあ和風の温泉旅館のようなものと思ってください。もちろん高速修復材もここで使います」

 

入渠ドックを通過すると、目の前には何かの工場を思わせる非常にメカメカしい外見の大型施設がある。

 

「さて.......、ついに到着しました。ここが、皆様にとっては1つめの山場となるであろう場所。工廠です」

 

タウイタウイ泊地工廠。艦娘たちの艤装や装備を扱う、泊地の最重要施設の1つである。

 

「ここにいるのは基本的に工作艦の子ばかりですが、違う子もいますよ。よく見かけるのは夕張や秋津洲、龍驤ですね」

 

「夕張がいるってことは、開発した新兵器のテストとかですか」

 

「鋭いですね神谷さん、さすが軍事の専門家でいらっしゃる」

 

そう言いながら堺が工廠の扉に手をかけようとした時、ガラガラと音を立てて勝手に扉が開いた。誰かが内側から扉を開けたのだ。

 

「おお、誰か思たら提督かいな」

 

「おう龍驤。新装備の性能試験は終わったか?」

 

「ウチのは終わったで、航空魚雷の検証結果はどうやら有効そうや。

お?お客さんかいな?」

 

「ああ、大日本皇国からいらっしゃった方々だ」

 

「そうか、こら失礼しましたわ。

大日本皇国では艦娘が知られとるって聞いとるけど、念のため自己紹介しとくで。軽空母の龍驤や。よろしゅうな!」

 

そう言って挨拶してくれた龍驤だが、3人の脳内は別の事で埋め尽くされていた。川山は『まな板』が浮かび、神谷は単純に尊すぎて死に掛け、一色は艤装見られないのが残念だが会えた事を純粋に喜んでいた。

龍驤よ、川山は爆撃して良いぞ。

 

「ん?ウチの顔に何か着いとる?」

 

「あっ、いえいえ。失礼しました。

外交官の川山と申します。我が国では艦娘は二次元の存在としてしか知られていないので、ここで本物の艦娘の方に会えるのが本当に感動的で.......」

 

「な、何や、面と向かって言われると恥ずいな///」

 

普通に川山は理知的なタイプのイケメンなので、龍驤も顔を赤らめて照れている。

 

「んで龍驤、まだ性能試験は続いてんだよな?」

 

「あ、せやった。それを提督に報告しよ思てたんや。

まだ試験中やね。今頃やと、多分伊勢かゴーヤか木曾がやっとるやろ。釧路ちゃんが言うてたで、今回は自信作です!ってな」

 

「ほう、そりゃ楽しみだ」

 

伊勢にゴーヤに木曾に釧路。皆、艦これで世話になった艦娘であr.......ん?釧路?

ここで3人は、艦娘と思われる謎の『釧路』という単語が引っかかった。

 

「(おい浩三、クイラだかクシラだかクネロだか知らんけど、それって誰だ?)」

 

「(俺も初耳の名前だな、そんな艦娘いたっけか?)」

 

「(分からん、俺も初めて聞く名前だ。誰だろう?) 」

 

「んじゃ、ウチはこれで」

 

「おう、お疲れさん」

 

いつの間にか龍驤との話が終わった堺が龍驤を見送り、また案内へと戻る。

 

「それじゃ、行きましょう」

 

中に入ると、早速巨大な機械が2つ鎮座している。2つともデパートの衣類販売フロアによくある試着室くらいのスペースの真ん中に台が置かれ、その真上の天井から複数の金属のアームが伸びている。アームは金槌やらバーナーやら様々な物を掴んでいた。

 

「今は稼働していませんが、この2台が建造ドックです。ここで艦娘の艤装が建造されます」

 

「「「おお!!」」」

 

ゲームでよく使うアレである。

 

「ではここで、この機械の裏側に回ってみましょう」

 

裏側に回ると、そこにも建造ドックが2つ並んでいた。ただし、こちらは何故か赤い幕などで派手に装飾されている。

これを見て3人ともピンと来た。

 

「これはまさか!!」

 

「ああ、アレだろうな」

 

「大型艦建造用ドックですか?」

 

「お、さすがに分かりますか。そうです、ここで大型艦建造を行います」

 

「すげぇ、マジで赤い幕が張られてんだ.......」

 

初めて目にするリアルの大型艦建造ドックに、3人ともテンションが更に上がってきたようだ。

 

「そっちにも建造ドックがありますね」

 

一色が大型艦建造ドックの隣を指差した。そこには同系統の機械が1つある。

 

「いや、そっちは建造ドックじゃないんです。似てますけどね」

 

確かに似た形の機械だが、アームが掴んでいる工具が違う。こちらのアームが掴んでいるのは金鋸、ドリル、鋏のような巨大な工具だ。まるで何かを分解する時に使うようである。

 

「待て、アームで掴んでいる工具が違う。ひょっとして解体ドックか?」

 

「お、神谷さん正解です。艦娘の艤装の解体や、装備の廃棄をここで行います」

 

つまり、「解体」と「廃棄」をここで行うのである。

 

カーン....... カーン....... カーン.......

 

「「「ひぇっ.......」」」

 

3人とも肝が冷えた。というか幻聴だと思いたいが、あの解体音が微かに聞こえた気がした。

 

「この解体・廃棄ドックの裏側にあるのが、装備の開発装置です。工廠の主だった機能の説明としてはこんな感じですね。改修工廠は、今は入れませんので説明を一旦飛ばします」

 

実際、周囲に艦娘が誰も見当たらない。改修工廠に入るには工作艦の艦娘の同伴が必要である以上、これでは改修工廠には入れない。

 

「ん?でも堺さん、これだけの機能の割には工廠の規模が大きくないですか?」

 

一色が疑問を提起した。 そう、この工廠は明らかに大きいのだ。それに今まで見てきた設備では、大きさとの勘定が合わない。

 

「鋭いですね一色さん。他のスペースには、例えば新兵器の検討のための会議室や、資源や開発資材の保管庫、艤装の格納庫や調整室、仮眠室などがあるんです。そして、そういった部屋の中には、この世界に来てから増設したものもあります」

 

「ああ、道理で工廠外の壁が部分的に新しくて、パッチワークみたいになっていると思ったら」

 

「おや、気付いておりましたか神谷さん。見事な観察眼ですね」

 

確かに外壁がチグハグな部分があり、恐らく増改築を繰り返していたのは分かったが、謎が解けた。

 

「それでは、先に工廠2階をご案内します。2階は会議室や仮眠室がメインになります」

 

鉄骨で組まれただけの、工事現場なんかで見かける簡素な階段を2階へ上がる。上がった先は細い廊下になっており、両側に幾つかドアがある。それらの部屋のドアを開け、軽く案内していく。

会議室らしい部屋には、テーブルの上に大量の書類がちらばり、どれにも細かい文字がびっしり書かれていた。数字も大量に見える。

別の部屋は「設計室」と銘打たれており、机はこれまた書類で溢れかえっていた。それだけではなく、壁一面を占領する黒板には訳の分からない数式やグラフが山ほど書いてある。3人にも分からないものばかりだった。

仮眠室に来たところで川山と一色が首を傾げる。

 

「仮眠室?これがですか?」

 

「ベッドが見当たらないのですが.......」

 

そう、ベッドもハンモックも見当たらない。何故かロッカーが4台並んでいるだけだ。

 

「いや、まさか!これタンクベッドか!」

 

「お察しの通りです」

 

「おおぉ、夢の技術!」

 

少しの時間でも最大効率の睡眠が取れる夢の技術の塊、タンクベッドだったのである。

 

「ベッド!?これが!?ロッカーにしか見えなかった.......」

 

「すごい、SFの技術じゃないですか…」

 

「当然ながら、この技術もまだ輸出するつもりはありません。貴国の経済に与える影響が大きすぎると思われますので」

 

「うう、仕方ないけど惜しいな.......」

 

仮眠室を通りすぎると、また鉄骨の階段がある。それを降りて1階に戻ると、目の前が艤装や装備の調整室兼格納庫になっている。

 

「ここは艦娘たちの艤装を収納する格納庫で…ごぶっ!?」

 

3人はその瞬間をはっきりと見た。堺が扉を開けた瞬間、中から灰色の塊が飛んできて堺にぶち当たったのだ。堺はそのまま廊下に押し倒される。

堺に命中したのは、なんと連装砲塔だった。信じがたいが、冗談抜きに砲塔なのである。だがよく見ると、そいつには金属の手足があった。

 

「「「!?」」」

 

3人があっけにとられる中、金属の光沢を放つそいつはガチャンガチャンというやかましい音と共に、短い手足を動かして廊下を走っていく。この時になってやっと神谷の理解が追い付いた。

因みにちゃっかり懐に入ってる拳銃のグリップを握っている。

 

(あれは、連装砲ちゃんとかいう!!)

 

神谷がそれに気付いた直後、部屋から誰かが走り出てきた。

 

「もうっ、長10㎝砲ちゃん!逃げないでって言ったでしょ!わあぁぁぁ提督ごめんなさい!大丈夫ですか!?」

 

部屋から飛び出してきたのは、明るいセミロングの茶髪を2本の三つ編みおさげにした艦娘。ジャージ姿だが、間違いなく秋月型の照月だ。おそらく彼女の半自律型艤装ユニット「長10㎝砲ちゃん」が整備を嫌って逃げ出し、そこにたまたま堺がぶつかってしまったのだろう。

 

「.......大丈夫だ問題ない」

 

「問題しかないじゃないですか!」

 

「俺のことは良いから、アレ追っかけてきな」

 

「そうでしたっ!長10㎝砲ちゃん、待ってぇぇぇ!」

 

長10㎝砲ちゃんを追いかけて、バタバタと照月が走っていく。

 

「痛ぇ.......さすがに今のは効いた.......」

 

「大丈夫ですか、堺さん?」

 

神谷は堺のそばに行き、肩を貸す。見た感じ外傷は無いが、多分衝撃はすごかっただろう。

 

「まあ、何とか.......」

 

「やれやれ、相変わらずだな照月の主砲は。提督、大丈夫か?」

 

そこへ別の声がかかる。声の主は照月の妹の初月だ。艤装の整備中だったらしく、彼女もジャージ姿である。

 

「初月か.......。何とか大丈夫だ」

 

「そうか。来客中にこんな目に遭わせてすまなかった」

 

「ただの事故だ、仕方ないよ。御三方、こちらが初月です」

 

「秋月型防空駆逐艦、4番艦の初月だ。よろしく。さっき飛び出していったのは姉の照月だ、急に驚かせてすまなかった」

 

初対面の相手、しかも成人男性3人が相手であるにも関わらず、堂々と挨拶する初月。この胆力は流石というしかない。

 

「工廠の案内中なんだが、格納庫に入っても大丈夫か?」

 

「ああ、問題ないだろう。今ここには秋月姉さんと僕しかいないからな」

 

そう言うと、初月は室内を振り返った。

 

「姉さん、見学の方が来ているようだ。提督がこの部屋を案内したいって言ってるんだが、入っても大丈夫か?」

 

部屋の中から、「え、司令が?分かった、いいよって伝えて!」と声が聞こえた。

 

「OKだそうだ、提督」

 

「それじゃ御三方、行きましょう」

 

部屋の中には、一面に艤装が格納されていた。どれも神谷たちにとっては、ゲームでよく見る艤装だ。

 

「おおおぉ!!!!すげぇ、夢のような光景だ!!」

 

さっそく神谷が興奮を隠しきれなくなった。

 

「これは吹雪型、そっちは暁型、これは確か朝潮型……おおっ、リベッチオのハロウィン艤装まである!」

 

もはや周囲の様子すら目に入っていないかのようだ。 完っ全に自分の世界に突入している。

 

「完全にただのオタクですな.......」

 

「ははは.......。まあ、浩三が一番ハマってますからね」

 

「間違いない」

 

ひとしきり苦笑すると、神谷を除く3人は部屋の中央で艤装を弄っている1人の艦娘に目を止めた。秋月である。ちょうど主砲である「長10㎝砲ちゃん」の整備をしているところだった。

汚れても良いようにジャージに着替えており、頭にはいつもの高射装置の代わりにヘルメット、手にはスパナと油差しという、ゲームではまずお目にかかれない格好をしている。

 

「秋月型防空駆逐艦、1番艦の秋月です。よろしくお願いします!」

 

一旦作業の手を止め、秋月が自己紹介する。 その姿を見て川山と一色はゲームでは見れない姿のギャップに、またもキャラ崩壊していた。心の中でクソ叫びまくっている。

するとそこへ初月が、ペンキの缶と刷毛を持って現れる。

 

「提督、整備に戻っても大丈夫だろうか?」

 

「ああ、お客さんはこっちで案内するから戻って良いよ。すまんかったな、邪魔をした」

 

「いや、邪魔なんてことはないよ。それじゃ、やってくる」

 

そう言うと初月は自身の艤装の傍らにしゃがみ、艤装にペンキを塗り始めた。秋月も自身の作業に戻る。ドライバーを手に、高射装置を弄っていた。

 

「艦娘たちの艤装って、こうやって整備してるんですね.......」

 

艤装の整備に集中する姉妹を見ながら、川山がぽつりと言った。

 

「はい。秋月がやっているのは言わば日常点検、初月がやっているのが本格的な点検といった感じです。それ以外に、工作艦の子に手伝ってもらって艤装や装備を隅々まで点検・調整・修理するオーバーホールもありますよ」

 

「なるほど。ゲームじゃこんな光景には全くお目にかかれませんから、こういうのは非常に新鮮味があります」

 

「全くです、良いものを見せていただきました」

 

そう言った一色が、神谷を振り返った。

 

「おーい浩三、まだ見てんのか?」

 

「今ちょうど見終わった。.......すごいな、こんなのゲームでもアニメでも見たことないから、感心してしまうよ。おおっ、秋月型の面々か!」

 

とここで、神谷が秋月姉妹の存在に気付いた。いやいや、気付くの遅いよ。

 

「そういえば堺司令、秋月、照月、初月と見ましたが、涼月や冬月はいないのですか?」

 

「涼月に冬月ですか?」

 

堺が首を傾げた。

 

「すみません、その2人はうちにはいないですね」

 

「そうですか。そういえば、寮の説明の時に海防艦も出てきませんでしたね、いないのでしょうか?」

 

「海防艦?はて、そういった艦種の子は聴いたことがないですね」

 

「そうですか」

 

この時、神谷は素早く考えた。

 

(海防艦がいないとなると、特に最近実装された子はいないと見るべきだな。海防艦が初めて実装されたのは「出撃! 北東方面 第五艦隊」のイベントの時だから、それ以前の子しかいない、ってことか?

その割にアイオワは誘導弾とCIWS持ってたし、どうなってんだ?)

 

神谷がそう考えている間に、堺が説明を追加している。

 

「この部屋の外、工廠に入ってすぐのスペースは、建造や開発の他に艤装の調整を行うスペースになっています。オーバーホールもそこで行うのですよ。

そして、調整を終えた艤装はそのまま海に持ち出され、試験が行われるというわけです。

それじゃ、海の方へ行ってみましょう。

新装備のテストを大々的にやっていますから、きっと面白いものが見られるでしょう」

 

やっとのことで「長10㎝砲ちゃん」を捕まえてきた照月と入れ替わるようにして、一行は格納庫兼調整室を出た。

 

 

 

 

 




特務輸送機『延空』については、設定集をご覧ください。


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特別編6 Let's go タウイタウイ(後編)

タウイタウイ泊地の工廠は、その一部が海に面する形で建設されている。その海に面した区画に一行はやってきた。一行がやってくると同時に、その視界に1機の航空機が映りこむ。2つのフロートを装備し、フロートと機体との接合部のパーツがゴツい水上機、瑞雲である。瑞雲は下腹に抱えた魚雷を投下し、機首を引き上げて上昇していく。

 

「今はちょうど、航空機による対潜誘導魚雷の性能試験中ですね」

 

堺が説明しているが、3人の注意は別のところに向いていた。試験に立ち会っている艦娘は明石、木曾、五十鈴、夕張、雪風、伊勢と謎の艦娘の7人。その中の謎の艦娘がターゲットである。

身長は180㎝前後か、アメジストを溶かしたような鮮やかな紫色の長髪が特徴的だ。「爆」とか「巨」とまでは言わないが、スタイルもなかなかである。落ち着いた表情でタブレット端末と海を交互に見詰める紫色の瞳には、深い知性が垣間見える。そして彼女の艤装は大和型姉妹並みに大きく、主砲の代わりに巨大なクレーンが4つも突き出ていた。この辺りから察するに、明石の様な工作艦ないし技術系に強い艦娘なのだろうが、工作艦の艦娘は明石以外実装されていない。

 

「(おい、ありゃ誰だ?あんな艦娘がいた覚えがないんだが.......)」

 

「(俺も初めて見る方だ。あんな艦娘は実装されてないぞ)」

 

「(まさか、あの方がさっき堺司令の言ってた「釧路」って方か?)」

 

「マーカーを確認しました!」

 

双眼鏡で海を見ていた雪風が叫ぶ。その直後、赤く染まった海面から桃色の髪を持つ艦娘、潜水艦『伊58』が顔を出し両手で大きくマルを作る。

 

「合図のピンガーを受信!目標への魚雷命中を確認しました!正常に動作したようです!」

 

岸壁近くの海上に立っていた五十鈴の報告を受けて、明石が謎の艦娘に声をかける。

 

「釧路ちゃん、速度の計測結果は!?」

 

「音波の伝播に伝わる時間を引くと、発射から到達までに要した時間は約6.2秒。投下地点から着弾点までの距離は200mですから、雷速は時速116㎞、ノットに直して62.7ノットというところです。計画数値は63ノットでしたし、対潜魚雷としては十分な速度と言えるでしょう」

 

「よーし、どうやらこれで大丈夫そうね!静海面における航空対潜誘導魚雷の試験は成功と判断するわ!」

 

この時点で神谷は気付いた。速力だけでいえば皇国海軍の誇る潜水艦を以てしても、この対潜魚雷から逃げられない、ということに。

まあ伊号シリーズの4桁艦は、装甲が基本化け物なので多分数発なら耐えるが。

 

(全体的な国力とかを考えると、もし日本国と対峙した場合我が方の勝利は揺るぎない。が、時々出てくるな。我が皇国よりも高い技術が。勝てるにしても、思わぬ被害を受ける可能性はゼロではない、か)

 

神谷のそんな思いとは関係なく、明石がそう宣言すると、周囲にいた艦娘たちが笑みを浮かべる。そんな中、瑞雲は海面に着水すると、海上に立つ艦娘、伊勢の元へと向かっていく。 薄々分かっていたが、やっぱり伊勢型の機体だったらしい。

 

「成功したようだな」

 

「あ、提督、お疲れ様です!」

 

堺が声をかけると、明石が挨拶した。

 

「あれ、お客さんですか?」

 

「ああ、3人とも大日本皇国からいらっしゃった方々だよ」

 

堺の紹介を聴いて、明石は3人に向き直った。そして1人ずつ握手しながら、興奮した様子で自己紹介する。

 

「噂の大日本皇国ですか!一度行ってみたいんですよね、すごい技術力があるって聴いたので!

工作艦、明石です!ひょっとしたら知っているかもしれませんが、私は戦闘は得意じゃない代わりに装備の開発や改修が得意です。応急修理もお任せください!」

 

それを皮切りに、周囲にいた他の艦娘たちも順番に自己紹介していく。なお例によって3人とも尊死しかけている。これはもう、仕方がない。

 

「重雷装巡洋艦の木曾だ。よろしく」

 

「海から失礼します、軽巡洋艦の五十鈴です。水雷戦隊の指揮と、対空・対潜はお任せ。よろしくお願いします」

 

海から挨拶しているので視線が三段くらい低いが、それでも礼儀正しく一礼する五十鈴。

あ、当然ながら、あのどでかい胸部装甲が谷間ごと丸見えになっているため3人とも脳内お察し状態である。脳内メモリに解像度マックスで記録したとか。

 

「陽炎型駆逐艦、8番艦の雪風です!どうぞ、よろしくお願いしますっ!」

 

「兵装実験軽巡洋艦、夕張と言います。この後搭載した新装備の試験を行うので、待っててくださいね!」

 

艤装でも弄っていたのか顔にオイルが付いているが、それすらも押しのける爽やかな笑みが印象的な夕張。

そして、神谷たち3人にとって最も気になる艦娘の番がくる。

 

「改舞鶴型移動工廠艦の釧路と申します。艤装の建造や修理、装備の開発と改修、精糖まで何でもできますよ」

 

3人とも全く聴いたことのない艦種・艦級である。特に神谷にとっては、興味の尽きない対象であった。

 

「それじゃ、次の実験まで皆ちょっと休憩ねー!」

 

「次は俺か。ちょっと準備してくる」

 

タイミングよく、明石が休憩を呼びかけた。この機を逃すなとばかり、例の釧路に神谷が話しかけようとする。しかしその前に、機先を制した者がいた。

 

「大日本皇国ってどんなところなんですか?雪風、気になります!」

 

雪風である。神谷は艦娘たちを前にしてオタク脳になっており、そのためかなり早く口を回せるはずであるが、その無邪気さでなんと先手を取ってしまった。

しかもこういうアバウト質問に、子供でも分かるように答えるのは中々に難しい。

 

「うちの国か、んー.......。いろんな才能を持った人がいろんなことをして楽しませてくれる国、かな」

 

とっさに二の句が継げなかった神谷に代わって、一色が答えた。こういう時の頭の回転は、大体一色が早い。あの地獄の国会の舌戦を戦い抜いてるのだ。こういう時の頭の回転は、トップクラスである。

因みに川山は交渉とコミュニケーション、神谷は決断力や判断力が強い。

 

「いろんなことって、どんなことですか?」

 

ところがせっかく答えたものの、雪風の無邪気さで逆に一色が一瞬答えに詰まってしまう。窮地を察した川山が、ギリギリで滑り込んだ。

 

「たとえば、俺の奥さんは動画投稿をやってるよ。毎日色々なネタを探して、それを面白い動画にまとめてくれるんだ。見てくれる人もかなり多いんだよ」

 

「動画ですか!雪風も見てみたいです!」

 

はしゃぐ雪風を見て、一色と神谷は2人揃って(慎太郎グッジョブ!)と讃えていた。というか三英傑をここまで振り回すなんて、実は雪風は大物なんじゃないだろうか。

 

「ニュースの解説とかもやってることがあるよ。この間はちょうど君たちのことを、動画で解説したんだ」

 

「え?じゃあ雪風たちがテレビに出たんですか?」

 

「そんな感じだよ」

 

「ふわあぁ.......!」

 

目をキラキラさせる雪風の姿は、完全に子供そのものである。 普通に可愛い。

 

「本当にTVや動画に出たんだ.......。それって、どこかで見られますか?」

 

「確かタウイタウイでも、うちの国のネットワークが使えるんだっけ。それなら、ええと…」

 

夕張の質問に、川山が自身のスマホを取り出して弄り始める。ややあって、動画投稿サイトのあるページを表示して見せた。

 

「これだよ」

 

それは、川山の妻がやっているYoutubeのチャンネル『ありさのおもしろ開発局』である。

 

「これが、ええと…?」

 

「あ、ごめん。そういえば自己紹介してなかったな。

大日本皇国の外交官、川山慎太郎だよ。そっちの軍服の人は神谷浩三、皇国軍の総司令官をやってる。そしてスーツの人が一色健太郎、大日本皇国の総理大臣だ」

 

「え、ええっ!?総司令官に、総理大臣!?」

 

ぎょっとしたように夕張が目を見開いた。他の面々も大きくざわついている。まあ、そりゃこんなVIPが来ているなんて思わないだろう。

 

「すごい方々がいらっしゃってたのね.......」

 

いつの間にか艤装をしまって海から上がってきていた五十鈴が、会話に加わった。

因みに伊勢と伊58は実験結果のまとめのため既に工廠に引っ込んでしまっており、この場にはいない。

 

「はは、驚かしてごめんよ。それで、と.......。あった、これだ」

 

川山がタップしたのは、2ヶ月ほど前に投稿された雑談動画だった。雑談とはいうがニュース解説のような形を取っており、その中で「タウイタウイ泊地から来た提督と艦娘」について触れられている。川山が持っている『艦これ』アカウントのプレイ場面を例に出して、解説していた。もちろん川山本人も出演している。

 

「こんな感じ」

 

「本当に動画に出てるのね.......」

 

五十鈴が目をぱちくりさせた。この他、神谷と一色が出てる物もあれば、一色妻が出ている物もある。

 

「わあぁ…!雪風も出られますか?」

 

「ひょっとしたら、出られるかもしれないよ」

 

「出たいです!」

 

この様子を見て、やっぱ雪風って無邪気で可愛いな、と思う神谷達3人であった。

その時、落ち着いた声が割り込んだ。

 

「スマホの初期型ですか。これは珍しいものを見られました」

 

釧路が動画ではなく、スマホそのものに目を留めている。技術屋らしい視点であった。

ここで本来の目的を思い出し、神谷が質問する。

 

「皆さん見ての通り、私たち大日本皇国人の多くが、艦娘をゲームの中の存在として知っています。もちろん、ケッコンカッコカリしてる方もいます。

ゲームの中には様々な艦娘がいるのですが…実は釧路さん、貴女は全く見たことがありません。移動工廠艦でしたか、そんな艦種も初めて知りました。貴女はいったい、どちらの艦娘なのですか?」

 

名前からすると日本艦っぽいが、神谷がどれだけ頭を巡らせても、「釧路」という艦名の船は覚えがなかった。となると、目の前にいる『釧路』という艦娘は、オリジナル艦娘だということになる。

彼女はいったい、何者なのか。神谷にはもちろん、一色と川山にとっても興味の尽きない対象であった。

 

「もう察しておられると思いますが、私は名前こそ日本風であるものの、日本生まれではありません」

 

ここまでは、3人の想像通りである。しかし、その直後に続いた台詞は、3人の想像を超えていた。

 

「私は宇宙から来たのです」

 

「.......え?」

 

まさかの答えに、3人揃って首を傾げる羽目になった。つまりコイツはエイリアンなのかと、3人とも脳内でグレイっぽいエイリアンとUFOがぐるぐる回っている。

 

「皆様は、エッジワース・カイパーベルトをご存じでしょうか?」

 

「ああ、確か太陽系の一番外側、冥王星より向こうにあるとされる小惑星帯でしたか?」

 

「そうです。私は、そこで建造されました」

 

「あ、あんなところで!?」

 

地球外で生まれた艦娘がいるなど、誰に想像できるだろうか。いきなりSF要素ぶっ込まれてるのだ、一色以外は理解するまで少し時間がかかる。

 

「にわかには信じがたいかもしれませんが、それが私にとっての真実なのです」

 

「では、釧路さんを生み出した国家というのは?」

 

「既に除籍されていますが、私を建造したのは『銀河星雲連合』という国家です」

 

「銀河星雲連合.......」

 

国名から推測するに、どうやら銀河をまたにかけるような巨大な宇宙国家らしい。当然ながら、神谷たち3人の誰も知らない国である。

というかこれ、ちゃっかり宇宙には我々以外の生命体がいるという歴史的大発見なのだが、3人ともそれには気が付いてない。

 

「その銀河星雲連合が保有するドックにて、私は建造されました。先に着工していた2人の姉、『舞鶴』『神戸』と共に、エッジワース・カイパーベルトにいたのです。

私たち舞鶴型は、『移動工廠艦』の種名通り、移動式の工業ステーション、又は宇宙船の造船所となるべくして建造されました。なので、大気圏内外問わず飛行・航行可能です。

そして、ここからがさらにオカルトじみた話になるのですが.......、実は、私たちの創造主たる銀河星雲連合は、神と繋がっているのです」

 

「神と言いますとあれですか、天照大神やら何やらのことですか?」

 

「そうです。その神々からの要請を受けて、銀河星雲連合は各世界に戦力を派遣しています。

私は元々、姉である『舞鶴』と『神戸』が派遣された世界に、援軍第2弾として派遣されるはずでした。ところが、その予定がキャンセルになってしまい、その代わりの派遣先となったのが、このタウイタウイ泊地だったというわけです。

一度銀河星雲連合から派遣されると、二度と帰還は不可能になりますので、私は銀河星雲連合から除籍された上で派遣されました。そしてここにいる、というわけです」

 

何ともスケールの大きな話だったが、神谷たち3人は彼女の来歴について納得できた。こんな特殊な事情があるのなら、こんなオリジナル艦娘の存在も頷ける。その時、艤装を着けた木曾が戻ってきた。

 

「よーし、休憩終わり!あと2つ、一気に片付けるよ!」

 

堺と話し込んでいた明石が声を張り上げる。楽しい雑談タイムは終わりを告げた。

 

「計測の準備急いで!今回は射程が長いよ!」

 

明石の叫びに、雪風が真っ先に動いた。光に包まれたかと思うと艤装を展開し、ゲームでよく見る姿になって桟橋から海へと飛び降りる。そして、水上スケートさながらの動きで港の外へと駆け出した。

 

「うおぉ、アニメやアーケードゲームの動きそのものだ!」

 

神谷が目を輝かせる。一色も川山も、心が踊るような感覚を覚えた。

続いて五十鈴が艤装を展開し、テスト用の標的らしいものを抱えて海へと飛び降りる。ある程度岸壁から距離を取ったところで、もう一度彼女の姿が白い光に包まれた。

次の瞬間…

 

「「「おぉ!!」」」

 

神谷たち3人が声を上げる。

光が消えた時、そこには五十鈴の姿はなく、代わりに1隻の小型艦がいた。7基の単装主砲、箱型の艦橋、艦中央に並ぶ3本の煙突。明らかに軍艦である。

 

「5,500トン型、長良型軽巡洋艦だ!」

 

神谷が一瞬で艦級を見抜いた。

 

「まさか、あれが五十鈴なのか!?」

 

「そうですよ」

 

一色の叫びにも似た質問に、堺が答えてくれた。

 

「うちの艦娘たちには、3つの形態があるんです。1つめが『人形形態』で、この形態では艤装が展開されません。このため、艦娘たちは普通の一般女性と見分けがつかなくなります。

2つめは『艦娘形態』、これは艤装を展開して水上スケートする時の姿です。さっきの雪風がそうですね。

そして3つめ、『艦艇形態』。これは、実際の軍艦の姿となって航行するものです。今の五十鈴はこの形態ですね」

 

「まさにメンタルモデル!」

 

神谷がコメントしたが、堺には何のことやら分からなかった。当の『五十鈴』は、標的を曳航して港を出ていくところである。

一応この『メンタルモデル』がなんなのか説明しておくと、かつて艦これともコラボした『蒼き鋼のアルペジオ』の敵に当たる『霧の艦隊』と呼ばれる存在の、重巡洋艦クラス以上が各艦に所有する人型の意識体の事である。

 

「よし、それじゃ次は俺だな!」

 

木曾が海へと飛び降り、形態変化を実行した。

光が消えると、そこには5,500トン型軽巡洋艦の初期型たる球磨型軽巡洋艦の姿がある。しかしそれを見て、神谷が叫んだ。

 

「あれは.......まさか、ミサイルランチャー!?」

 

重雷装巡洋艦の外見上の特徴といえば、艦体中央から後部にかけてずらっと並べられた箱状の兵装、魚雷発射管である。ところが、目の前に現れた『木曾』には、そんなものは一切見当たらなかった。その代わりに、4本の金属製の筒を束ねた兵装があったのである。

それに似た形のものを、神谷は知っていた。明らかに、ハープーンのような対艦ミサイルを発射するためのランチャーである。

 

「え、マジかよ!?」

 

「艦娘にミサイル積んでるってのか!?」

 

これには一色と川山も驚いている。艦これに実装されているミサイル兵器は今の所ないのだから当然である。

 

「お気付きの通りです。アイオワに搭載されているハープーンを元に、ちょっとした性能改良型を開発したのです。それを木曾に試験的に搭載し、これからその性能を試そうというのですよ」

 

堺は何でもないことのように話しているが、どれほど凄まじいことをやっているか、神谷にはよく分かった。

第二次世界大戦当時の軍艦と現代艦では、根底にある戦闘教義、所謂『戦術ドクトリン』が全く違う。第二次世界大戦までの戦闘は目視圏内での、有視界戦闘が基本であった。このドクトリンがあったからこそ、大艦巨砲主義などの海戦のセオリーが生まれたのである。だが航空機の有用性がわかった事で、これまでの有視界戦闘からアウトレンジでの戦闘に切り替わって行った。やがてミサイル兵器などの登場により、現代では優れたレーダー、人工衛星、ドローンといった探知方法を駆使して、遥か彼方の敵を早期に発見、ミサイルで効率的に目標を破壊するのが現代のドクトリンなのだ。それを実行するアビオニクスがイージスシステムに代表される最新鋭の武器システムなのだ。

そんな訳で当然ながら、第二次大戦時の軍艦にはそんなアビオニクスはないしドクトリンなんて欠片さえない。そんなところにミサイルだけ搭載しても、ほぼ意味はない。それならロケット砲を搭載した方が、まだ兵器として使えるだろう。しかも艦載能力に余裕のある戦艦アイオワのような大型艦ならともかく、木曾は駆逐艦に少し毛が生えた程度の小型艦。そこにミサイルを搭載できたとしても、レーダーなどは搭載する余裕がないはずなのだ。レーダーは探知するレーダー本体以外にも、色々装備をつけなければ単なるハリボテにすぎない。コンピューターとか大量の配線とか火器管制システムとかである。しかもこれを動かせるだけの、大出力発電機も搭載しなければ意味がない。

だというのに目の前にいる木曾はミサイルを搭載して、運用しようとしている。ということはおそらく、あのミサイルは『撃ちっ放し式』となる。現在ウクライナで大活躍中のジャベリンの様に、弾頭に搭載したレーダー類だけで目標の識別などを行い目標に突入する代物だろう。技術力としてはかなり高い。

 

「こりゃ良いものが見られそうだな」

 

神谷は、好奇心が頭をもたげるのを抑えきれなかった。

神谷たち3人の隣では、明石が無線通信回路を開き、出港していった2人や木曾と連絡を取っている。釧路は例の薄いタブレット端末を手に、そろばんの玉でも弾くように指をせわしなく動かしていた。実験計画でも確認しているのかと思いきや、

 

「気温32.2℃、湿度46%。風向と風力は…」

 

呟きながらデータ入力を始めている。そんな彼女の様子を見て、一色があることに気付いた。

 

「なあ、ここの艦娘たちって皆『艦艇形態』になれるんだよな?」

 

「そうだな」

 

「さっきの堺司令の説明に従えば、そうなると思うけど」

 

「ってことは、釧路の艤装も見られるのか?」

 

一色の疑問に、神谷と川山がはっとした。

 

「言われてみれば.......」

 

「確かにな」

 

「できるにはできますが、ここでは止めておきましょう。というのも釧路の艦艇形態は、全長1,670m、最大幅470mにも及び、大和型戦艦でさえ駆逐艦にしか見えなくなるほどのスケールなのです。さすがに貴国の熱田型やら何やらには負けますが、それでもスケールとしてはかなり大きいでしょう。そんな艦がこんな狭い港に出現したら、大事故待った無しです」

 

「「「確かに.......」」」

 

3人とも納得したが、同時に釧路の艤装も見てみたかったなぁ、と少し残念に思った。

 

「データ入力完了!いつでもいけます!」

 

「よし。こっちも、雪風ちゃんと五十鈴さんの準備はできたよ!あとは木曾さんだけ…あ、できた?」

 

話の途中で木曾から連絡があったらしい。

 

「それじゃ、実験始めるよ!10秒前!8、7、6、5、4、3、2、1、発射!」

 

明石の号令と同時に、『木曾』の艦体中央部にオレンジ色の炎の塊が出現した。次の瞬間、昇り龍を思わせる勢いで対艦ミサイルが射出され、大量の白い煙を吐いて飛んでいく。

 

「おお、マジで撃った!」

 

「スゲー、艦娘もここまで進化するもんなんだな」

 

一色と川山も興奮する中、神谷は冷静にミサイルの動きを目で追った。そしてすぐに気付く。

 

「もう白煙が消えた?これは視認性が比較的低いな」

 

通常、ミサイルは白い煙を引いて飛ぶものとして描写されがちだが、実はそれはある意味正しくない。というのは、目標に接近する間にミサイルは視認性を下げるため、白煙の尾を引かなくなるのである。さらにハープーンはその構造上、艦隊発射タイプは7秒間固体燃料ロケットエンジンで飛行し、その後これを切り離してターボジェット・サステナーに切り替わる。恐らく4秒程度で切り離されたので、それだけ加速性能の高いロケットエンジンを搭載している事になる。それだけでも脅威だ。

もちろんだが、白煙を引く時間が短いほど、視認性は少しだが低くなる。

 

「ようーい..............だんちゃーく!」

 

発射からたった10秒ほどで、タブレット端末を見詰めていた釧路が声を張り上げる。

 

「弾頭カメラにて命中確認!」

 

「目標との距離は32㎞。それを10.7秒で飛びましたから、時速にして約10,776.36㎞。マッハ8.79ってところですね」

 

(ヤベェ、釧路マジヤベェ!)

 

神谷は釧路の戦略的重要性を改めて強く認識した。

おそらくタウイタウイが生き残ってこられたのは、彼女の存在が大きいだろう。皇国軍のそれにも匹敵しうる凄まじい装備を、あっさり作ってしまえるらしいのだから。皇国軍でもこんなマッハ9近くで飛翔するミサイルは対艦ミサイル虎徹、ASM4海山、AGM255銀河、後は一部の弾道ミサイルのみである。因みにハープーンの飛翔速度はマッハ0.85である。

 

「よし!提督、とりあえずは実験成功です!」

 

「OKだ。引き続き実験を重ねて、量産配備の目処を立ててもらいたい」

 

「分かりました!」

 

認可を貰えた明石も嬉しそうにしている。

 

(この新型ミサイル、後でこっそり調査した方が良いな。マッハ9目前の速度で飛ぶなんて、うちの海兵たちが聞いてもびっくりするだろう.......。どれほどの機能があるか、知っておかないとな)

 

神谷は密かにそう考えていた。

新兵器のテストの最後は、夕張の出番である。が、正直言ってえらいことになっていた。このテストでは「敵役を担うAI操縦の航空機に対し、新開発の主砲を用いて対空戦闘を行う」という想定であり、釧路が『夕張』艦橋の音声をタブレット端末から流して中継してくれた。が。

 

『トラックナンバー2628!主砲、撃ち方始めっ!』

 

『撃ちぃ方ぁ始め!』

 

ダンッ! ダンッ! ダンッ!

 

『夕張』に突撃していった流星が、百発百中で撃墜されていく。

 

(((いやそれジパングじゃねえか!!!)))

 

そして三英傑は当然のように、総ツッコミを入れる羽目になった。多分、あの最初に撃墜されたAIは「たかが主砲で、何が出来る!」とか考えてたのではないだろうか。知らんけど。

 

「さて、ここで御三方に質問です。次に挙げる3箇所のうち、どこで昼食を摂りたいですか?」

 

テストが全て終了し、艦娘たちが帰投してきた時、堺が質問を投げ掛けた。その瞬間、3人は一斉に身構えた。

 

「1番、先ほどご案内した間宮と伊良湖の店。こちらでは食べたい物をメニューに従ってご随意にご注文いただける他、艦娘との交流も期待できます。ただ、店の規模が規模なので、会える艦娘の数は少なくなると予想されます。

続いて2番、司令部棟1階の大食堂。艦娘との交流を期待するならここですね。ただ、今日はカレーの日ですから、ここを選んだ場合昼食のメニューは自動的にカツカレーで固定となります。

最後に3番、司令部棟4階の私の執務室。こちらでは大和型姉妹の給仕を受けながら、姉妹お手製の肉じゃがをご堪能いただけます。ただ、艦娘との交流は最も少ないでしょう。

さあ、いずれになさいますか?」

 

堺としては、3人はこの「究極の選択」に結構な時間をかけて迷うだろうと思っていた。

だがしかし…

 

「2番!」

「2番の食堂で」

「2番でお願いします」

 

まさかの即決であった。それも全会一致。

 

「分かりました、大食堂ですね。

えーと、今の時間ですと、だいたい食堂はいっぱいになりつつある頃でしょう。よろしければそろそろ移動しませんか?」

 

「よし、それじゃ行きましょう。慎太郎も健太郎も、良いよな?」

 

「そうだな、行こうか。カレーと聞いて急に腹が減ってきた(棒)」

「俺もだな。やれやれ、飯テロの効果ってすごいなぁ(棒)」

 

「それじゃ、俺たちはこれで。皆お疲れ様、熱心なのは良いがやりすぎるなよ。小休止と栄養は思考への影響が大きいからな」

 

「「「はーい」」」

 

艦娘たちの良い返事を背に、4人は食堂へと向かうのだった。 食堂に近付くと、やはりというか騒がしい喧騒が聴こえてくる。それと共に3人のテンションも上がっていく。

 

「どうぞお入りください」

 

堺に言われて入った食堂には、それこそ眼福としか言い様のない光景が広がっていた。どっちを向いても艦娘、艦娘、艦娘!ゲームで馴染みのある顔ぶれがずらっと並んでいるのである。立ち込めるカレーの香りも素晴らしいアクセントだ。

 

「おおぉ、これはヤバい!何時間でも眺めてられそう!!」

 

さっきまでの冷静な神谷は何処へやら。一気にハイテンションになっている。

 

「すげぇ、俺の嫁があっちにもこっちにも!」

 

食事を摂る艦娘たちを見て、一色も興奮気味だ。

そんな中、川山は興奮しかけたところで気付いた。最後に食堂に入ってきた堺が、いきなり下を向いて右手を額に当てたのだ。まるで「ウソダドンドコドーン!」とでも言わんばかりに。

 

「どうされました、堺さん?」

 

「あれを.......」

 

堺が力無く指差した先を見て、川山は絶句した。

1つのテーブルを占める、巨大な茶色の山。言うまでもなくカツカレーなのだが、あまりにも大盛りすぎる。しかもその山が4つ並んで山脈を形成していた。そのうち2つの山を、こちらに背を向けた2人の艦娘が凄まじい勢いで食している。顔は見えないが、片方は黒のロングストレートの髪に赤いスカート風の弓道着、もう片方はサイドテールに青いスカート風の弓道着が目立つ。

こんな格好をした艦娘といえば、どう考えても一航戦の2人、赤城と加賀に決まっている。そしてあの2人なら、この超盛りカレーも頷ける。山脈の反対側にも2人の艦娘がいるはずだが、カレーに隠れて顔が見えない。だが頭頂部付近は見えており、片方は茶色の髪にカタツムリの角を思わせる艤装が突き出ていた。

 

(あの艤装、片割れは陸奥で間違いない。となるともう片割れはきっと長門だな。

ビッグセブンに一航戦。そりゃこんな馬鹿げた量にもなるか)

 

その時、堺がぼそっと呟いた。

 

「おい嘘だろ.......。こりゃまた大破確定じゃねえか..............」

 

続けて「当面海女さん生活かもな…」という悲壮な声も聴こえた。

 

(ああ、大破ってお財布か)

 

しかもよく見ると、カレー山のすぐそばに空の皿が2、3枚重ねて置いてあるではないか。あの超盛りのカレーをお代わりしたというのか。

赤城や加賀は確かに大食いとして弄られやすいキャラだが、いざ目にするとぶっ飛んだ食事量である。同時に、大日本皇国内で出回る「薄い本」での描き方すら生ぬるいと思わされてしまった。

 

「…うわ.......何だあの量..............」

 

「マジか.......。さすが一航戦」

 

さしもの2人もドン引きである。というかあんなの、常人が食えば胃が破裂して腹が裂ける。あのカレー山脈を見る2人を尻目に、川山はそっと堺に声をかけた。

 

「堺司令、心中お察しします。というか声に出てましたよ」

 

「.......うわマジか。やらかしましたね。情けないところをお見せしました」

 

「いや、アレを見たら誰でもそんな反応になりますよ。堺司令の反応は何もおかしくありません」

 

「.......そう言っていただけると助かります」

 

「あと、来週以降の我が国との食糧の取引に関して可能な限り値段を下げるよう、一色と神谷辺りから通達させましょうか?」

 

「非常にありがたいです」

 

世知辛い一面が垣間見えたところで、4人は本来の予定を思い出した。尊死寸前やらお財布大破確定のカツカレー山脈やらで忘れかけていたが、昼食を食べに来たのである。

列に並んだ途端、3人はあちこちから視線を感じた。もちろんだが、艦娘たちが興味津々の視線を投げかけているのである。

 

(((ヤバい!これはヤバい、尊死の衝動がががが!!)))

 

3人とも必死で耐えているが、SAN値はガリガリと削られていく。四方八方から飛んでくる艦娘たちの好奇の視線は、3人にとって凄まじい威力の猛毒だ。

何とか耐える中、川山が気付いた。堺が誰かと話し込んでいる。

灰色の衣装、金髪、高身長のグラマラスなボディ、そして帽子に描かれたバルチックスキーム。見間違えるはずもない、ビスマルクである。何故か半泣き顔になっている。

 

「ところで提督、そちらの方々はどなたかしら?」

 

「こちらは大日本皇国から視察にいらっしゃった方々だ。言わば俺のお客人だよ。向こうはお前さんのことを知ってるかもしれんが、一人前の淑女たる者として自己紹介を頼む」

 

「了解よ」

 

さっきまでの半泣き顔は一瞬で消滅した。そこにいたのは、いつもの自信に溢れたレディである。

 

「Guten tag. 私はビスマルク型戦艦のネームシップ、ビスマルクよ」

 

川山の嫁艦、ビスマルク。その姿を見た川山は勿論、死にかける。

そこへビスマルクと共に列に並んでいた面々が振り返り、次々と自己紹介してくれる。

 

「大日本皇国からのお客人か。私が航空母艦、グラーフ・ツェッペリンだ」

 

「Guten tag!私は重巡洋艦、プリンツ・オイゲン。よろしくね!」

 

「Guten tag. 僕の名前はレーベレヒト・マース。レーベで良いよ、うん」

 

「Guten tag. 私は駆逐艦マックス・シュルツよ。マックス…でもいいけれど。よろしく」

 

ゲームそのまんまの見た目と台詞の数々に、神谷も一色も脳内が大変なことになる。特に神谷はアズールレーンでの推し艦であるプリンツ・オイゲンがいたのもあって、テンションの方向性がバグりそうになっていた。

それに川山はもう1人の嫁艦であるオイゲンが居たのもあって、人一倍必死に尊死に耐えていた。そこにいきなり後方から奇襲攻撃を喰らった。

 

「Oh, hello!Mr. Kawayama、久しぶりね!私のこと覚えてるかしら?」

 

突然後ろから手を回され、誰かが抱きついたのだ。柔らかくも中心に何か硬いコリコリとした部分のある物が背中に当たる、そのとんでもないボリュームと質感に川山の意識が完全に吹っ飛びかける。しかし一瞬だけ幽体離脱したところで何とか意識を引き止め、言葉を返す。

 

「ひ、久しぶりですねアイオワさん」

 

「お、ちゃんと覚えててくれたのね!嬉しいわ!」

 

振り向いた川山の両手を握り、ぶんぶん振り回すアイオワ。数々の修羅場を潜ってきた歴戦の外交官も、この凄まじいアメリカ式アプローチにはたじたじである。

 

「アイオワ、ちょっと積極的すぎないかしら?」

 

そこへ、アイオワと共に列に並んでいたウォースパイトがやんわりと注意した。そのまま3人に自己紹介する。

 

「大日本皇国の方々ですね。我が名はQueen Elizabeth class battleship Warspite!よろしく頼むわね」

 

さらに川山の嫁艦ウォースパイトが入り、ついに川山は止めを刺されてしまった。キャパシティオーバー、尊死である。川山は真っ白になって、幸せそうな顔を浮かべながら機能停止した。だってさっきから嫁艦フィーバーなのだ、死ぬしかしないだろう。

機能停止して動かなくなった川山を見て、優雅にカーテシーを決めたままウォースパイトが首を傾げる。

 

「.......どうされました? お身体の具合でも悪いのでしょうか.......?」

 

「気にしなくて良いぞウォースパイト。ちょっと感動しすぎてるだけだから」

 

堺のその言葉でアイオワが気付く。

 

「あ、そっか。そういえば大日本皇国では、私たちはゲームの中だけの存在だったわね」

 

「そう、その実物に会えて感動しきりって訳だ」

 

「そういえば堺司令」

 

とここで、神谷が正気に戻って質問を投げた。

 

「どうされました、神谷さん?」

 

「いろいろな艦娘がおりますが、ガングートっていますか?」

 

それを聞いて、川山と一色が何かに気付いたようにはっとなった。

 

「そういえば見ていませんね」

 

「確かに.......」

 

すると、逆に艦娘たちが首を傾げた。

 

「ガングート?ねえビスマルク、そんな子いたっけ?」

 

「いえ、いないわね」

 

「Royal Navyの方ではないようですね。私も存じておりません」

 

「ガングートという子はいませんね」

 

しかし堺は、「ただ」と続けた。

 

「その名前は聞き覚えがあります。どこで聞いたっけな.......」

 

その時、意外な事に、堺の後ろから声が上がった。グラーフ・ツェッペリンだ。

 

「それは私じゃないか?Admiral、前に一度話したのを覚えているか?私の艦爆隊長妖精のことだ」

 

「あっ.......あー、そういやそうだったな!すっかり思い出したよ。確か、お前んとこの妖精さんが1トン爆弾で真っ二つにしたのが、ガングート級の『マラート』だったっけ?」

 

「そう、それだ」

 

「聞き覚えがあったのはそれでか.......」

 

その時、神谷は気付いた。この艦爆隊長の戦歴に、心当たりがあることに。

 

「グラーフさん、つかぬことをお訊きしますが.......」

 

「む、貴方は?」

 

「ああ、すみません自己紹介が遅れました。大日本皇国から参りました神谷と申します。

グラーフさんの艦爆隊長の方は、どんな機体を使用されているのですか?」

 

「機体か?Ju87C改、いわゆるシュトゥーカだな。最近ではアーツェーンベー改も使っているが」

 

アーツェーンベー改、というのは「A-10B改」のことである。アルファベットと数字をドイツ語で発音したのだ。

因みに神谷は英語の他、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ラテン語は日常会話程度であれば使いこなせる。

 

「シュトゥーカではどんな兵装をお使いになっていたか、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「ほう、兵装モジュールとはだいぶ突っ込んだ質問だな。よく使うのはSC-250、250㎏爆弾や500㎏爆弾、1トン徹甲爆弾、それと37㎜機関砲2門だ。爆弾は対艦・対地攻撃に、機関砲は対地攻撃に使用している」

 

使用機体がシュトゥーカにA-10、しかも機関砲で対地攻撃と聞いて、神谷の中で「もしかして」という思いがどんどん強くなっていく。

 

「爆弾で対地攻撃は分かりますが、機関砲で対地攻撃とは、どんな目標を攻撃するのでしょうか?」

 

「機関砲で狙うのは、主に戦車や装甲車といった車輌類と野戦砲だ。

Admiral、グラ・バルカス帝国との戦いでは、アイツは何輌破壊したんだったか?」

 

「ええと、正確な数は覚えていませんが、ムー大陸での総反攻作戦の時だけでも、かなり破壊していましたよ。戦車、自走砲、装甲車、トラック類、全部合わせたら700輌は下らないでしょう。あと野戦砲は最低200門は破壊してますね。

対艦攻撃に関しては、第二次バルチスタ沖大海戦の時にたった1個飛行隊、それも旧式のシュトゥーカで、グラ・バルカス帝国の空母4隻を一挙に屠っています。それも戦闘詳報によれば、スコールの切れ目を縫って垂直急降下爆撃を仕掛け、攻撃隊発艦準備中のタイミングを捉えて攻撃し、引火誘爆によって4隻を撃沈確定にしたとのことです。江草隊より凄まじい練度なんですよ」

 

ここで神谷は察した。江草隊長より高い練度を持ち、かつ急降下爆撃機、それもシュトゥーカ乗りとなると、心当たりは1人しかいない。

 

「ちなみにその隊長さんって、牛乳と体操がお好きだったりします?」

 

「む、何故分かったのだ?確かにアイツはよく牛乳を飲んでいるし、休憩時間などしばしば体操しているが」

 

「その隊長さんのお名前は?」

 

「ハンス・ウルリッヒ・ルーデルだ」

 

神谷が察した通りであった。というか、そんな化け物じみた急降下爆撃機乗りが2人もいてたまるか、という話である。この瞬間、神谷は「うちのゲームにも欲しいな、シュトゥーカ・ルーデル隊」とか考えていた。

 

「Oops!?」

 

その時、急にアイオワが前方へふらついた。辛うじて体勢は立て直したが、その際に何とか正気に戻っていた川山の目に双丘の上面と谷間がガッツリ映り込んでしまい、またしても川山が尊死一直線ルートに入ってしまう。

 

「どーんっ!通商破壊っ!」

 

その声に振り返ってみれば、アイオワのすぐ後ろにスク水の上からセーラー服を羽織った、茶髪の小柄な子がいる。その後ろにスク水+セーラー服の子たちがずらっと並んでいた。

 

「あれあれ?何だか見たことない人たちがいる?」

 

「おいニム、混雑した食堂で通商破壊は勘弁してやれ」

 

アイオワがふらついたのは、伊26が背中をダイレクトアタックしたからである。

 

「こちらの御三方は、大日本皇国の方々だよ。視察にいらっしゃったんだ」

 

「へえー!あたし、伊26潜水艦!ニムで良いよ!よろしくね!」

 

いつもながら元気印の伊26である。それに続いて、潜水艦娘の子たちが次々と自己紹介した。

 

「グーテンターク、あ、違った、ごめんなさい。伊8です。はち、で良いですよ」

 

「あら、素敵な方々なのね。伊19なの。イクって呼んでも良いの!」

 

「こんにちは、伊58です。ゴーヤって呼んでも良いよ。苦くなんかないよぉ!」

 

「伊168よ。イムヤで良いわ。よろしくねっ!」

 

「特型潜水艦、伊401です。しおいって呼んでね」

 

「伊13です.......。ヒトミ、と呼んでください.......」

 

「伊13型潜水艦2番艦、伊14です。イヨって呼んで。よろしくね」

 

「呂号第500潜水艦です。ユーちゃん改め、ろーちゃんです!」

 

「はじめまして、まるゆと言います。よろしくお願いします」

 

3人にとっては、これまた見慣れた顔ばかりである。潜水艦の艦娘たちだ。旧オリョクルやらバシクルやらで少なからず世話になっている面々である。

 

「Admiral、そろそろ順番だぞ」

 

グラーフ・ツェッペリンの言葉通り、いつの間にやら列が進んでいた。もうそろそろ注文の順番が来る。

週1回のカレーの日とあって、メニューはカツカレーとコンソメスープとサラダのセットか、カレーうどんだけという非常に潔い限りである。カレー専門店でも、もう少し種類あるだろう。だが2つしかないというのは、裏を返せばそれだけ味に自信があるという意味でもある。

 

「お、カレーの味を選べるのか」

 

貼り出されたメニューを見て一色が呟いた。そこには3種類の味が書かれており『六駆特選 甘口』、『伝統の味 中辛』、『足柄力作 極辛』となっている。

 

「おおぉ!一期6話のカレー洋作戦だ!!」

 

「浩三お前、本当によく覚えてるな」

 

神谷が瞬時に当てたのを見て、川山が呆れている。まあ恐らく読者諸氏はお気付きだろうが、艦これ1期のアニメ第六話『第六駆逐隊、カレー洋作戦!』のカレーである。

暫くすると順番が回ってきたため、各々注文を開始する。やはりというべきか、艦娘たちは全体的に量が多い。大体の店は大盛りがMAXである。偶に特盛りとかもあるが、基本は大盛りが上限だろう。だがここは大盛りと特盛りの上に、超盛り、赤城盛り、大和盛りとさらに続いている。何処ぞの中間管理職が食べてるカツ丼屋みたいな感じである。

因みに流石の艦娘でも「大和盛り」はレジェンド盛りらしく、これに挑むという猛者はそうそう居ないらしい。ちなみに、さっき一航戦とビッグセブンが食べていたカレー山脈が「大和盛り」である。

 

「さすがに俺あんなには食えんわ」

 

「俺もだな」

 

ということで、一色と川山は中盛りを選択した。ルーは「中辛」を頼んでいる。

 

「うーん、中辛は多分うちのカレーと似たような味だよな…ならばここはこれしかない!

すみません、極辛を『赤城盛り』で!」

 

神谷は思い切って極辛カレーを選択。足柄の手になるあの味を、腹一杯楽しむつもりだ。その一方で、小盛りを頼む者が1人だけいた。

 

「え、堺司令?小盛りですか?」

 

「はい。実は私、少食なもので」

 

まさかの堺である。特に神谷にとっては意外であった。大食いと言わずとも、軍人である以上は結構食うと思っていた。

 

「まさか堺司令が少食とは.......」

 

「何だかんだでなかなか入らないんですよ.......」

 

「クリスマス会の時にサラトガのターキーサラダサンド1個で轟沈してたわね」

 

「ちょ、おまっ!?それ黒歴史!!」

 

神谷のコメントに堺が苦笑した瞬間、後ろからアイオワがツッコんだ。しかも、さらっととんでもない情報を暴露されてしまい堺が慌てる。

 

「え、サラトガのサンドイッチで轟沈したんですか?」

 

「いやー.......。ははは…」

 

「サンドイッチっていっても、20㎝×20㎝×8㎝の大きさよ」

 

アイオワに言われて、3人はサンドイッチの大きさを想像した。まあ確かにサンドイッチとしては、デカい部類だろう。だが少なくとも、轟沈レベルの大きさではない。つまり結論…

 

「「「堺司令、もうちょい食べた方が良くないですか?」」」

 

である。因みに神谷曰く「その量じゃ絶対俺は持たん。俺に限らず、ウチの部隊の他の連中でも持たんぞ」らしい。

 

「むう、御三方にまでそう言われるとは.......」

 

少々むくれながら堺が集団で空いた席を探し当てる。ちょうど空きテーブルが1つできたため、それが占領されることになった。堺、三英傑、ドイツ勢、アイオワ、ウォースパイト、潜水艦勢と勢揃いすると、さすがのテーブルもやや手狭に感じられる。

 

「えぇと、いただきます」

 

「「「いただきます!」」」

 

堺の音頭で食事が始まる。まずは神谷、スプーンでルーと米を掬って口に放り込む。

 

「はらっ!?はらふひる!!」

 

「浩三、何やってんだ」

 

「お前、それはちょっと見苦しくないか」

 

勢いよくカレーに食いついた神谷が、涙目で悶絶した。慌てて牛乳のコップを取り上げる。一色と川山が苦笑したが、神谷にはそれに答えている余裕は全くない。思ってたより3倍辛かった。だがアニメでも言っていた様に、激辛だが後を引く味でもっと食べたくなる味である。

 

「ひえぇ、思ったよりハードボイルドだった」

 

「油断したな浩三。まさかカレーに不意を打たれるなんて」

 

「全くだ」

 

「やっぱりね。このカレー、最初は皆そんな反応よ」

 

そういうアイオワも「赤城盛り」の極辛カレーである。彼女は慣れているのか、普通にバクバク食ってる。

 

「さすがにこれを食べようとは思わないわ.......」

 

中辛カレーを匙で掬いながらウォースパイトが言った。だが量はしっかり大盛りを頼んでいる。やはり彼女も、れっきとした戦艦娘なのである。

 

「神谷さん、戦艦としてやっていけそうなのね」

 

「イク、それは食べる量だけでち」

 

伊19に伊58がツッコんだ。その後も新手のメンバーまで加わり、わいわいと話しながら食事が続き、総員の食事が粗方終わりかけた頃、新たな話題が堺から切り出された。

 

「そういえば、神谷さんたちの率いる大日本皇国は、グラ・バルカス帝国とは戦ったのですか?」

 

「ええ、戦いましたよ」

 

「貴国から見れば、グラ・バルカス帝国など赤子未満でしょうに。楽な戦だったのではないですか?」

 

「まあね。ただ、物量だけは少し苦労しましたよ。何だかんだ言っても、戦いは数だよ兄貴、ですから」

 

「本当に、仰る通りです」

 

堺の目がやや遠くなった。どうやら色々苦労したらしいが、まずはこちらの話だ。

 

「私たち大日本皇国は、とりあえず主力艦隊だろうと何だろうとグラ・バルカス帝国の船を片っ端から撃沈して、制海権・制空権を完全に奪いました。そして植民地も次々と落としていき、最終的にはグ帝の本土に上陸して決戦をやって、それに勝って終わっています」

 

「いいなぁ、敵の本土に上陸する余裕があるなんて」

 

羨ましがる堺。その様子から察するに、どうやら本土決戦のようなことはできなかったらしい。

 

「いやー、私も最前線で暴れまくってましたよ」

 

「神谷長官ならそうくるだろうと思ってましたよ。明らかに指揮官先頭型でしょうし」

 

「司令部で吸う空気より、硝煙と鉄の生臭さに溢れる戦場の匂いの方が心踊りますよ、私にとっては」

 

「でしょうね」

 

神谷が先頭で戦うのは、楽しいという側面もあるが何より効率的だからである。本来将は後方に控えるべきだが、神谷の場合は素の強さがある。並の兵士どころか兵器を持ってしても倒せない。そんな将軍であれば前線にいても問題にならないし、不測の事態に陥っても即決即行で対処できる。その思想の元に生まれたのが神谷戦闘団である。

 

「そういえば、堺司令はどうだったのですか?最初にお会いした時に『ロデニウス連合王国』と名乗っていたということは、タウイタウイはロデニウス大陸諸国の一部だったのですよね?あの辺の国の技術力は地球でいうと中世レベルですから、グ帝の相手はかなり厳しかったのではないかと思いますが」

 

「川山さんの仰る通りです。実際、我々も様々な手法をこらして戦争を戦っていましたが、早晩国力が尽きることは明らかでした。ですから、できる限り早期に講和したいと思っていたのです。

我々はひとまず、ムー大陸からグ帝の勢力を追放することを目指しました。第二次バルチスタ海戦でグ帝の主力艦隊を叩き、その勢いでパガンダ・イルネティア両島を落として制海権を奪取し、補給ルートを断ち切りました。そして、ムー大陸で総反撃に踏み切ったのです。

その傍らで、ミリシアルやムーなどと交渉し、とりあえずムー大陸を解放した後にグ帝に和平交渉を持ちかけることで決定しました。あの交渉は大変でしたよ。何せ世界一の皇帝に直接会わなければならなかったんですから」

 

かなり遠い目をして語る堺に、3人ともかなり興味津々である。

 

「それじゃ、ミリシアル8世に会ったということですか?」

 

「お目通りくらいなら良いのですが、ガッツリ直談判させられたので寿命が縮みましたよ。

それで、ムー大陸をどうにか解放できたのですが、和平交渉は案の定蹴られてしまいました。そこで、うちの子たちで暴れた訳ですよ」

 

「暴れたって、グラ・バルカス帝国の主力艦隊と戦ったのですか?」

 

「実を言いますと、グ帝の主力艦隊とはほとんどまともにやり合っていません。そんなことしたら、可愛い艦娘たちや妖精たちの負担が過大になりますし、轟沈のリスクも増えるじゃないですか。そんなことできませんよ。

ということで、私たちがやったことはひたすらに『通商破壊』です。輸送船団は1隻も逃がさない勢いで撃沈しましたし、物資の積出港やそこに通じる線路なんかも、艦砲射撃やら空爆やらで叩きまくりました。特に輸送船団は何が何でも全滅させるつもりでした。輸送船団叩くのに主力の空母機動部隊を全力で突っ込みましたし」

 

えげつない行為がいとも容易く行われている。いくら護衛がいるとはいえ、速力が遅く防御力も対空迎撃能力も低い輸送船の群れに、精鋭機動部隊の航空部隊を全力で叩き付ければ、どんな結果になるかは容易に想像できるだろう。

因みに大日本皇国の場合は潜水空母が群れで襲いかかるという、よりタチが悪い戦法を取っている。

 

「堺司令もお人が悪い。腹が減っては戦はできぬ、を言葉通りにやってるじゃないですか.......」

 

こんな事ほざいてるが、この神谷が例の潜水艦隊による攻撃を考案した。犯人はコイツである。

 

「物量も技術力も何もかもオーバーキルをやってる貴国に言われたくないですよ」

 

2人揃って悪い笑みを浮かべる堺と神谷。 もうこれどっちが悪役か分からないというか、この2人が組んだらヤベェ作戦考えつきそうである。

 

「そういうわけで、腹が減って戦えなくなったグ帝を、どうにか講和に追い込んだのですよ。流石に腹ペコで主力艦隊も戦車も航空機も、果てには兵隊までもが動けないとなれば、優れた兵器があっても何もできません。加えて、あの国は本土の面積が小さく、主要な資源の多くを植民地に頼っていますから、それが絶たれると待っているのは食料不足による飢餓、GDPの壊滅的減少、そしてハイパーインフレです。こうなれば戦争もヘチマもあったものではありません。

現にグ帝の外交官の皆さんは、汚れほつれた衣服を着てガリガリに痩せこけて、こっちに泣いて土下座して和平を請うてきましたし」

 

「「うわぁ.......」」

 

一色と川山がドン引きした。ここまでやられては、どう考えても戦争どころではないだろう。無条件降伏しかない。

 

「お互い、大変だったんですなぁ」

 

「そういうことですね」

 

「ところで、先ほど『様々な手法をこらした』とお話がありましたが、具体的にはどんなことを?」

 

「食糧はクワ・トイネで、資源はクイラでどうにかなるとして、問題になったのは戦費の調達ですね。ということで、ムー大陸に日本製アニメを布教しまくって、その見返りに一定の『娯楽料』を得ました。また、ロデニウス国内に対しては、競馬とワイバーンのエアレースを新設して公営ギャンブルとし、戦費と娯楽の一挙獲得をやりましたよ」

 

「ちょっと待ってください。競馬?

嫌な予感がするんですが…ロデニウス大陸って確か、馬系獣人の方もいませんでしたっけ?」

 

「.......貴方のようなカンの良い方は苦手です」

 

「「「こいつ、うま◯ょいしたんだ!」」」

 

「う◯ぴょい言わんでください!」

 

きみの愛馬が!ずきゅんどきゅん 走り出しー(ふっふー)

ばきゅんぶきゅん かけてーゆーくーよー。こんなーレースーはー はーじめてー。

とまあ、うまぴょいは置いといて、楽しい楽しい昼ご飯は終わった。



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特別編7 艦隊演習(前編)

「さてさて、午後からは演習になります。海に出る前に、まずはこちらをご案内します」

 

昼食の後、一行は泊地の片隅にある海に面した建物へとやってきた。この建物は植え込みによって周囲から切り離されており、庭が広く取られている。そして庭や、庭から見える海の上には白黒に塗装された円形の板、恐らく弓道か何かの的が置いてあった。

 

「ここは、空母艦娘たちが利用する弓道場です」

 

「お、アニメ1話に出てきたあそこだ!」

 

「浩三お前、マジでよく覚えてるな.......」

 

さっそく神谷が興奮し始め、一色が呆れる。流石に神谷とて、常に分かる訳ではない。今回は来る前に艦これのアニメと映画、二期も含めて全話見て予習して来てるから分かったのである。

入ってみると、既に数人の空母艦娘たちが弓を持って鍛練に励んでいた。二航戦の2人と祥鳳、瑞鳳、それにアクィラが矢を射ている。それらの矢は空中で光と共に戦闘機に変化し、的に向かって機銃を撃ち込んでは離脱していた。

 

「あら、大日本皇国からのお客様ですか?」

 

そこに声をかけてきたのは、ワンピースのような黒い衣装を着た女性。赤みがかった茶色の髪、『E』と書かれた煙突状の艤装、そしてダイナマイトボディが特徴的だ。その手には銃のような形状の飛行甲板艤装を持っている。そう、アメリカ空母のサラトガである。

 

「おうサラ。そう、3人とも見学にいらっしゃったんだよ」

 

「そうでしたか。航空母艦のサラトガです。気軽にサラとお呼びくださいね。よろしくお願いします」

 

例によって3人とも尊死の衝動に必死で抗っていた。特に川山は嫁艦なので、内心はカオスであった。取り敢えず「ヤバイヤバイ」と叫び散らかしている。神谷は安定で大興奮だが、一色の場合はちゃっかり「結婚したい」とか考えたそうな。

 

「あら?どうしたのでしょうか、皆様揃ってどこかぼんやりしているようですが.......」

 

「あー.......、気にするなサラ。皆ちょっと感動しすぎてるだけだから」

 

「?」

 

きょとんとした表情で、コテンと首を傾げるサラトガ。 たったそれだけでも、オタク三人衆には破壊力がエグかった。川山は語彙力を喪失し、神谷は魂がヴァルハラへと飛び立ち、唯一、一色がどうにか生き残った。

危うく2名ほど、永遠の旅に逝きかける事態になりそうだったが、幸いにも飛龍がサラトガを呼んだので生き延びた。だがそれでも、2人は帰ってこない。流石に痺れを切らした一色が、2人の脳天に拳を叩き込んで蘇生。2人は現世に帰還した。

 

「……はっ!?ゆ、夢か!?嫁が目の前にいた気がするんだが」

 

「俺も同じく」

 

「大丈夫だ、気のせいとか夢じゃない。現実だ」

 

コントのようなやり取りに、堺も苦笑するしかない。 因みに3人は、オフの時は結構こんな感じなので割と平常運転である。

その時、どこからかサイレンのような甲高い音が聴こえてきた。それがだんだん大きく、さらに甲高くなる。

 

「お、この音は.......。外に彼女がいるな」

 

堺がそう言った時、ひとつながりになって急降下する航空機が見えた。突き出た脚、液冷エンジン特有の尖った機首、そして奇妙に折れ曲がった主翼。Ju87C改である。

海上を移動する的に向けて、次々と模擬爆弾を命中させるシュトゥーカの姿は、まさに『悪魔』という表現に相応しいだろう。

 

「お、シュトゥーカじゃないか!」

 

「あの機体は、グラーフ・ツェッペリンにしか配備されていないものなんです。その機体が飛んでいるということは、多分外に彼女がいるでしょう」

 

「なるほど!あのサイレンの音が堪らない!!」

 

そんな弓道場の片隅には、円形の的に混じって妙な的がある。明らかに人間の形をしたものだ。

 

「あれ、この的だけ形が違う?」

 

「ああ、それは私用ですね」

 

川山の疑問には堺が答えた。

 

「私用、とは?」

 

「実は私射撃を嗜んでおりまして、それに使う的なのですよ。良い射撃練習場がないので、ここを間借りしています」

 

そう言いながら、堺は弓道場の片隅に置かれたロッカーを開けてみせた。そこには4丁の銃が収まっている。

銃を見た神谷が、すらすらと言い当てていった。

 

「これは三八式歩兵銃?いや、照門がV字型ではなく円孔式だし、照星も三角柱式だから九九式小銃の方か。こっちはM1ガーランドかな。これはStG-44。これは?」

 

次々に言い当てていくが、一つだけ明らかに異質な見た目の銃があった。3つの銃は第二次世界大戦当時の日本、アメリカ、ドイツの名銃達。だが最後の1つだけは、明らかに現代モデルのアサルトライフルだったのだ。それも、全く見た事がない。

一応何処かドイツのHeckler & Koch社がドイツ連邦軍向けに開発したG36の様な、スコープとキャリングハンドルが一体化したあの特殊なパーツっぽいのが、装着されている。だが位置が後方ではなく、前方にある。

 

「それは89式7.7㎜自動小銃です。陸上自衛隊が配備している物ですね。

そういえば神谷さん、前に私が貴国の本土を訪問したとき、貴国の銃を撃たせてくださったことがありましたね」

 

「はい、ありましたね。.......まさか、これ撃って良いのですか!?」

 

「神谷さんがお望みでしたら」

 

そう言われて「NO」と答える神谷ではない。勿論撃たせてもらう事にした。

 

(意外と軽いな。形状も人間工学を意識した形状になっている。グリップも手に良く馴染んでいるし、サイトも視認性が高い。トリガープルも意外と軽いな)

 

ある程度、銃を観察し終えると堺からマガジンを受け取る。マガジンを差し込み、コッキングレバーを引く。

 

「異世界の銃。さて、どんな物かね?」

 

セレクターレバーをSAFEを意味する『ア』から、SEMIを意味する『タ』に移動させる。

 

(7.62mmは結構なリコイルが起きるが、7.7mm口径か。結構なリコイルを覚悟した方が良いな)

 

一先ず一番近い200mの的に照準を定めて、1発撃つ。トリガーを引くと、7.7mmの割には小さい銃声が鳴り響く。

 

(リコイルが小さい!?しかもこれ、5.56mmよりも小さいぞ!?!?どんな構造してんだ.......)

 

明らかにリコイルが小さく、恐らく今まで撃ってきた銃の中でもトップクラスに小さい。正直、アサルトライフルを撃った感覚ではない。というか7.7mmでそう感じられるのだから、驚きである。

次は3点バーストに切り替えて、500mの的を狙う。

 

タタン!!タタン!!タタン!!

 

(へぇー。バーストでも、意外と精度がいい。妙なバラつきも、変なブレもなくて良いな)

 

次はもう一度、単発に切り替えて一番通い1km先の的を狙う。アイアンサイトだが、ここは頭を狙ってみよう。

 

「ここだ」

 

タン!!

 

的を見れば正確に、頭を撃ち抜いている。アレが人間なら眉間の位置なので、確実に相手は即死だろう。

ここで神谷は、この間皇国で試射をした堺の発言を思い出した。確かコチラの銃を「じゃじゃ馬」と言っていた。この銃に慣れているのなら、確かにアレはじゃじゃ馬だろう。

 

「なるほど。堺さんがうちの銃をじゃじゃ馬だと言った訳が分かりました。確かにじゃじゃ馬ですね.......」

 

「地球ではナノマシンをフル活用したフレキシブル素材の研究が盛んでして、小銃もその恩恵を大きく受けたのですよ」

 

「ナノマシン!?そりゃまた便利な」

 

一応皇国でもナノマシンの研究は行われているが、まだ動物実験の段階で改良の余地は多数あると聞く。それを実用化しているのだ。技術交流が出来れば、研究は加速度的に進むだろう。尤も神谷は戦争屋であって技術屋ではないので、その辺りはよく分からないが。

最後にマガジンを替えて、フルオート射撃で的を撃ち抜く。200mと500mの的で良いだろう。

 

「ッ!!」

 

スタタタタッ!スタタタタッ!スタタタタッ!

 

銃口を2つの的の間で滑らかに横移動させて、重なった瞬間にトリガーを引く。発射と同時に的に当たると鳴る軽快な音が連続して響く。すぐに1マガジン撃ち切った。

ここで余りのマガジンに素早く交換。マガジンキャッチを押して空となったマガジンが落下するの同時に、マガジンを差し込んでコッキングレバーを引く。リロードの操作性も、かなり良好である。

 

スタタタタッ!スタタタタッ!

 

最後の2発は正確に的の眉間を撃ち抜き、しっかりトドメを刺している辺りプロである。というかそれ以前に射撃も、リロードも素早い。明らかに堺よりも早く、特殊部隊員にも匹敵する速さだ。

それに撃っていて感じたのだが、この銃は射撃音がフルオートでも静かだ。これならサプレッサー無しでも、ある程度は隠密性が期待出来るだろう。

 

「ありがとうございました。これはうちの小銃もまだまだ改良の余地がありそうです」

 

「ご満足いただけて何よりです。おっと、もうあまり時間がない。そろそろ軍港へ行きましょう」

 

 

 

数十分後 軍港区画

「それではここからは、海に出ますよ!艦隊による行動演習です!」

 

「「「おお!」」」

 

午後1時30分、堺と「三英傑」の姿はタウイタウイの軍港にあった。演習に出る艦娘たちが、ぞろぞろと出港していくところである。

 

「神通、行きます!」

 

「軽巡『能代』、出撃します!」

 

第二水雷戦隊の面々が、単縦陣を組んで飛び出していく。これから『鬼の二水戦』の親玉による猛訓練が始まるのだろう。

 

「しおい、いきます!どぼーん!」

 

「じゃあろーちゃんも!どぼーんっ!」

 

こちらは何とも微笑ましい光景である。プールに来てはしゃぐ、子供のようだ。

そんな中、一行の前に10人の艦娘たちが横一列に整列した。いずれも、神谷たちには見覚えのある子ばかりである。というか2名、さっき会ったばかりの子がいる。

 

「えー諸君、今回は大日本皇国から3人の方が見学に来ていらっしゃる。今回の訓練内容は対空戦闘だから、撃沈判定を受けてしまうのは仕方ないかもしれないが、それでも五省、特に2番の『言行に恥づるなかりしか』と5番の『不精に亘るなかりしか』は強く意識して、演習に臨んでもらいたい。

では御三方、自己紹介をお願いいたします」

 

艦娘たちに向けてそう言うと、堺は3人に自己紹介を要請した。 3人は一歩前に出て、姿勢を正す。

 

「大日本皇国から参りました、特別外交官の川山 慎太郎と申します。本日は訓練に同席させていただけること、光栄に思います。よろしくお願いいたします」

 

「大日本皇国軍総司令官、神谷 浩三と申します。皆様と海に出られることが楽しみです。今回はよろしくお願いいたします」

 

「大日本皇国総理大臣、一色 健太郎です。お初にお目にかかります」

 

神谷と一色の自己紹介に、艦娘たちが一瞬どよめいた。まあ無理もない。特別とつくとは言え外交官の川山はいざ知らず。軍の総司令官に総理大臣となれば、身分が全く違う。

 

「というわけで、2人ほどすごい身分の方がいらっしゃるが、戦場に出れば肩書や出自など関係ない。強く意識しすぎることなく、演習に励むように。

では、皆からもお客様に自己紹介してくれ」

 

堺に言われて、艦娘たちは列の一番左から順に自己紹介していく。 勿論誰が誰かは、既に3人は知っているが直に声付きで自己紹介してくれるのだ。これは聞かないと損である。

 

「大和型戦艦1番艦、大和です。本日はよろしくお願いいたします」

 

初っぱなに日本を代表する戦艦娘、大和が登場し3人のテンションが一気に跳ね上がる。 取り敢えず川山と神谷は尊死手前で踏み留まった。だが、嫁艦にしている一色は幽体離脱してしまう。

この時点で3人とも、脳内がだいぶカオスなことになってきているが、そこに次々と追撃が入る。

 

「防空重巡洋艦、摩耶様だ!よろしくなっ!」

 

さっき「軍の総司令官と総理大臣がいる」と言われたにも関わらず、両手を腰に当てて胸を張って堂々と言い放つ辺り、劇中の設定通りだ。因みに「よろしくなっ!」の部分で胸を張ったので、その立派な胸部装甲が派手に揺れる。

 

「阿賀野型軽巡洋艦、3番艦の矢矧よ。よろしくね」

 

クールな印象を抱かせる矢矧。こちらも、相手が軍の総司令官と総理大臣であることに怯む様子は全くない。

 

「初春型駆逐艦、4番艦の初霜です。皆さん、よろしくお願いします!」

 

どこか舌足らずな声ながら、礼儀正しく一礼する初霜。なんか背伸びしてる感があって、ちょっと可愛い。

 

「朝潮型10番艦、霞よ。ガンガン行くわよ、ついてらっしゃい!」

 

ゲームと変わらぬツンツンぶりを発揮する霞。 普通、リアルのツンデレは痛いだけ。目も当てられないレベルで痛いのだが、霞は全然痛くない。というか寧ろ、可愛い。いや、尊い!!

 

「さっきぶりですね!雪風です!今回もよろしくお願いしますっ!」

 

相変わらず無邪気な雪風。マスコット兼ムードメーカーだろう。

 

「陽炎型駆逐艦12番艦、磯風だ。私が護ってあげる、心配は要らない」

 

ともすれば自信家にも見える、武人気質な磯風。 案の定、駆逐艦にしてはお胸が育っている。

 

「陽炎型13番艦、浜風です。.......な、何ですか?私の兵装に、何か?」

 

ここで川山が尊死しそうになった。浜風は彼の嫁の1人なのだ。一色と神谷の脳内には「乳風」という言葉が思い浮かんでいた。理由は言うまでもない。その視線を受けた浜風は若干キョドっていた。

浜風よ、2人には遠慮無くゼロ距離で酸素魚雷を撃ち込んで良いぞ。by Red October

浜風ー、魚雷だけじゃアレだからゼロ距離砲撃と顔面爆雷投球もしていいよ。私が許す。by鬼武者

 

「よお、あたいは夕雲型の16番艦、朝霜ってんだ!よろしく頼んだぜ!」

 

どこか男勝りな朝霜。ゲーム通り、なんかカッコいい。

 

「さっき工廠で騒がしくしてすみませんでした!改めて、秋月型防空駆逐艦、2番艦の照月よ。どうぞよろしくお願いします」

 

ちょっと緊張気味だが、明るくはつらつとした照月。以上10名が、今回の対空戦闘訓練に参加する子たちである。

 

「先ほどちらっと話題に上りましたが、今回の訓練は対空戦闘の演習となります。午後2時から日没までの間、艦隊の主力艦となる大和を守りきるか、もしくは敵機動部隊を撃破すれば作戦成功。失敗条件は大和が撃沈判定を取られることです。ここまではよろしいでしょうか?」

 

「分かりました」

 

堺の質問に神谷が答えた。川山と一色も頷いてみせる。

 

「あとは、御三方がどの子に乗艦するか、ということが問題となります。といっても事実上四択になりますね」

 

堺がそう言った途端、3人とも目が光った。まさか、艦娘の艤装に乗り込めるとは思ってもみなかったのだ。

 

「基本的に駆逐艦の子たちは、艦橋の容量に余裕がありませんから除外ですね。ただ、照月だけは例外です。水雷戦隊司令部を乗せるくらいはできますから。

となりますと、御三方に乗っていただくのは、照月、矢矧、摩耶、大和のいずれかになるというわけで」

 

堺がそう言いかけた瞬間、3人は全く同じ答えを返した。 だって、もうこれしか選択肢ないでしょ。

 

「「「大和でお願いします!」」」

 

一切迷う余地もなく、しかも示しあわせたように同じ回答だった。

 

「わ、分かりました、大和にご乗艦いただきます。ということだ大和、良いか?御三方のついでに俺も乗る訳だが」

 

「承知しました。私は構いませんよ」

 

「堺司令、今気付いたのですが、この演習は結構難易度が高くありませんか?」

 

ここで川山が質問する。 普通なら神谷が質問しそうな物だが、今回の神谷はちょっとテンションがバグって冷静さ0なので気付けてないのだ。

 

「と仰いますと?」

 

「私は軍事の専門家ではありませんが、それでも戦闘機無しで空襲を乗り切るのが厳しいことは想像できます。それをやると?」

 

「そうです。難易度はかなり高いですよ」

 

ぶっちゃけすぎた堺の説明である。 というかこの編成、三英傑は知らないが史実の坊ノ岬沖海戦、所謂『大和特攻作戦』に参加した艦の編成である(摩耶と照月は除く)。

何故これを三英傑が知らないかと言うと、大日本皇国の歴史では坊ノ岬沖海戦は発生していないので知らないのだ。因みに坊ノ岬沖海戦が発生した時期、つまり4月6日〜4月7日はスエズ運河攻略の支援の為に大体インド洋の辺りを航行している。

 

「.......勝てるんですかこれ?」

 

「それは神のみぞ知る、ですね」

 

身も蓋もない返答であった。だがこの時、神谷は気付いた。堺はああ言っているが、ちゃんと何か策があるらしい、ということに。というのも、口では「自信はない」という割に、どこか堺の表情に余裕が感じられるのである。

そんな事を考えていると、艦娘たちが順番に海へと滑り出し、海上で光に包まれて実艦へと姿を変えていく。あっという間に大和の順が来た。堺は三英傑に声をかける。

 

「すみませんが御三方、手を繋いでいただけませんか」

 

「え、こうですか?」

 

唐突な指示に戸惑いながらも、3人は互いに手を繋ぐ。

 

「川山さん、私に手を」

 

「はい」

 

何が何だか分からないまま、川山は指示された通りに堺と手を繋ぐ。すると、堺は空いた方の手を伸ばして大和と手を繋いだ。そして、

 

「よし、出撃だ!」

 

「旗艦『大和』、出撃します!」

 

その号令と共に、いきなり3人は何かに吸い寄せられ、引きずり込まれるような感覚を感じた。

 

「「「!?」」」

 

その感覚も一瞬だけで消え失せ、気付いた時には3人は鋼鐵製の部屋の中にいた。周囲には大量の機械があり、オペレーターと思しき数人の女性がいる。奥の方に小さな窓が複数並んでおり、その外には青空と大海原が見えていた。

 

(これはまさか!)

 

ここがどこなのか神谷が思い当たった時、堺の声がした。 設備は古いが、この光景には見覚えがある、

 

「済みました、もう手を離して大丈夫ですよ。

ようこそ、戦艦『大和』へ。ここは『大和』の昼戦艦橋です」

 

「うわあぁぁ!やっぱり!」

 

そう、3人は大和の艤装に乗り込んでいたのだ。 一体どういう原理でそうなるのかは見当もつかないし、別に気にはしないが今日一番の驚きなのは違いない。

 

「両舷前進原速!」

 

「よーそろー!」

 

号令と共に、エンジンテレグラフのチーンチーンという音がする。『大和』の巨大な艦体が動き出したのが感じられた。

 

「すごいな.......。ってか俺たちどういう扱いになってんだ?」

 

「まあ、簡単に申し上げるならば、御三方も私も『妖精』の1人になっている、という形ですね」

 

「え?妖精?するとあれですか、ゲーム内で使える装備にくっついているあの小さな存在に私たちはなっている、ということですか?」

 

「左様です」

 

「うわぁぉ.......」

 

まさか妖精扱いになっているとは思わず、川山が感嘆の声を上げた。一色も目を見開いている。

 

「さて大変申し訳ございませんが、演習開始まであまり時間がないですから、本艦の案内は割愛させていただきますね。慌ただしくてすみませんが、演習の簡単な説明をさせていただきます。

今回の演習内容は『対空戦闘』と『主力艦護衛』。日没まで大和が沈まずに生存していれば、こちらの勝ちとなります。敗北条件は大和の沈没判定です。ちなみに、敵役となるのは第六〇一航空隊です。

続いて本艦の兵装説明です。主砲は45口径46㎝三連装砲3基、副武装としては、三年式60口径15.5㎝三連装砲は全廃し、八九式40口径12.7㎝連装高角砲も交換しました。このため副武装は九八式65口径10㎝連装高角砲、いわゆる『長10㎝砲』18基、九六式25㎜対空機銃150丁となっています。また、一部にボフォース40㎜機関砲を連装で4基搭載しています」

 

史実とは全く異なる装備であるが、艦娘なればこそこの辺の装備変更はフレキシブルにできてしまうのである。

 

「さらに、電探系にも強化が入りました。残念ながらSK+SGレーダーの配備が間に合いませんでしたが、その代わりとして21号対空電探ではなくFuMO25 レーダーを配備。さらに、22号対水上電探は33号対水上電探に交換し、索敵兼射撃レーダーとして運用しています。また、高角砲弾にはしっかりVT信管を配備しましたし、主砲弾には『四三式弾』も配備しています」

 

この辺の変更ができるのも、艦娘なればこそである。実はレーダーの交換自体容易なことではないのだ。

例えば21号対空電探とSK+SGレーダーで比較すると、単純なアンテナの重量だけでも21号は840㎏、SK+SGは1,060㎏+1,320㎏である。重量にかなりの差があるのがお分かりいただけるだろう。これにさらに、電源出力やら電気回路やらレーダー本体の重量やらの問題が絡んでくるのである。レーダーの交換がどれだけ大変なのかよく分かる。

 

「すみません、質問よろしいでしょうか?」

 

「はい、どうぞ」

 

「主砲に配備されたという『四三式弾』は、どんな砲弾ですか?」

 

「それは…」

 

神谷に堺が説明しかけた時である。レーダー手の妖精が叫んだ。

 

「電測より艦橋、対空電探に感!艦隊からの方位45度から60度、距離55浬!高度は、一群が高度ヨンマル(4,000m)、一群がフタマル(2,000m)!敵機数は概算で100機以上!」

 

その報告を受けて、艦橋の空気は一気に実戦のそれとなる。堺も指示を飛ばし始めた。

 

「戦爆雷連合だ、雷爆同時攻撃が来るぞ!輪形陣に移行、全艦対空戦闘用意!

神谷さんすみません、説明は後で」

 

「訓練、両舷対空戦闘用意!」

 

今度は大和が号令を飛ばす。対空戦闘のラッパが鳴り響き、艦内の空気が更に殺気を孕んで動き始めた。艦内にいる妖精たちが一斉に動き出す気配が感じられる。

 

「電測、敵機の速度は?」

 

「電測より艦橋、敵速は216ノット(およそ400㎞/h)!」

 

「了解。あと7分くらいで敵機が来ます、配置急いで!」

 

大和が艦内に向けて指示を飛ばす傍ら、堺は艦隊の指揮を執っている。

 

「照月は大和の左舷に、摩耶は右舷に占位しろ!他の駆逐艦の割り振りは矢矧に任せる!」

『照月、了解です!』

『摩耶だ、任せときなっ!』

『矢矧了解。そうね、初霜は摩耶の前方、雪風は摩耶の後方を固めて。大和の右舷側はこの3人で防御するわ。残りは大和の左舷に布陣!前から順に、朝霜、霞、矢矧、照月、磯風、浜風で行く!各員、配置急いで!』

『『『了解!』』』

 

無線で艦娘達が指示を受けて動き出していく。その練度の高さは、皇国海軍にも勝るとも劣らない。

 

「なぁ、浩三?45度から60度ってことは、右から来るんだよな、敵」

 

一色が少し不安そうな声で、そう聞いて来た。一色の言う通り45度から60度は、正確には右斜め前からである。

 

「そうだ」

 

「なら何で堺司令も矢矧も、照月を左に?右に固めた方がいいんじゃないか?」

 

「いや、それはダメだ。あくまで探知したのが右ってだけで、左側から来ないとは限らない。皇国の保有する草薙防空システムのレーダーだって、海面スレスレを飛んで来られたら探知できる距離は相当近くからじゃないと無理だ。幾ら艦娘の装備とは言え、所詮は第二次世界大戦かそれに毛が生えた程度の性能。探知できる距離は恐らく目視と変わらないだろう。

ならここは念には念を入れて、左にも防空の要を置くのが最適解なんだ。何より海は陸や空と違って、場所移動にも一苦労だからな。それに右を固めるのは、あの摩耶だぞ。対空めちゃ強なのは知ってるだろ?」

 

「イベントでお世話になったからな」

 

一色の疑問を解説していると、堺が何やら対空には関係なさそうな物を用意するように命令した。

 

「あと、各艦は応急班並びに医療班を待機させろ、特に火災と浸水対策が最優先。それから、炭素棒をありったけ用意しておくように」

 

何のために炭素棒なんぞ必要とするのだろうか。一色と川山には分からなかったが、神谷はすぐに気付いた。

 

「主砲四三式弾、対空戦闘用意!

それから手の空いている者は、艦後部への炭素棒運搬を手伝ってください!」

 

この時点で『対空戦闘用意』の号令がかかってから2分が経とうとしている。そこからさらに2分が経った頃、「総員配置完了!」の報告が大和に上がってきた。

大和は昼戦艦橋から防空指揮所に上がり、双眼鏡で空を見据えている。堺は引き続き昼戦艦橋にあって、護衛の面々からの報告を聴いている。

因みに上がる時、彼女のスカートの中が見えそうになったため3人は慌てて視線を逸らした。仮にもしも運良く?見えていたならば、彼女の下着は黒である。これは堺提督からの情報なので、信頼度は高い。

やがて防空指揮所にいる大和と数人の妖精が操る双眼鏡が、艦隊の右舷側から接近する無数の黒点を捉えた。まるでスコールの雷雲でも沸き出したかのような光景だ。よく見ると、高空と低空の2群に分かれている。

 

「右35度、敵戦爆連合大編隊!」

 

「目標、敵雷撃機編隊。測的始め!」

「目標、敵雷撃機編隊。測的始めます!」

 

大和のすぐ後ろにある15メートル二重測距儀が右に回転する。

それに先駆けて、『大和』右舷側を狙える高角砲や対空機銃が動き始めていた。ハリネズミと錯覚するほどびっしり集まった対空機銃の銃身が、空に向けられる。

 

「あんなにちっちゃいんだな」

 

「そりゃまあ、所詮は双眼鏡使って漸く見えるって距離だ。豆粒みてぇに小さい。今回は攻撃隊だから分かりやすいが、もしアレが偵察機なら探すのはクソ面倒だぞ」

 

「測的完了!射撃諸元、主砲に伝達します!方位40、仰角15、距離サンマルマル(30,000m)!」

 

「1番、2番主砲、射撃用意!3番主砲は右舷90度へ旋回して待機!高角砲は敵降爆を狙え!対空機銃は分隊長指揮の下で統制弾幕射撃!」

 

巨大な46㎝三連装砲が、凄まじい重厚感を伴って動き始めた。3本の砲身にゆっくりと仰角がかかり、砲口が敵編隊を睨み付ける。

この時昼戦艦橋では、三英傑が堺から警告を受けていた。

 

「この昼戦艦橋ではなく、上の防空指揮所に上がって見学していただいても結構です。

ただ、神谷さんは気付いておられると思いますが、本艦の主砲発射時の衝撃は想像を絶するものがあります。これから私の言うことをよく聴いてください。

主砲発射は、『撃ち方用意』という号令と、独特のブザー音3回で知らされます。もし屋外、つまり防空指揮所にいる時にそれが聴こえたら、すぐに両手で耳を固く塞ぎ、下腹に力を入れて、口を大きく開けてください。でないと衝撃波が体内に飛び込んで、生きながらミンチ肉に加工されることになりますよ!」

 

「「ひえっ.......」」

 

「あと、戦闘中はいつ主砲を発射するか分かりません。周囲の音をよく聴いて、ブザー音が聴こえたらすぐに今私が言った行動を取るよう、よろしくお願いいたします」

 

青い顔で一色と川山は全力で頷いた。その横で神谷は、2人の様子を見て笑いを堪えるのに必死だった。

 

「一度対処行動を練習しておきましょうか。ここは艦内ですから衝撃波が来ることはまずありませんが、念のためということで」

 

なんて言っていると、本当に主砲をぶっ放すタイミングが来てしまったのだ。

 

『砲術より艦橋、1番、2番主砲照準良し。射撃用意良し!』

 

「主砲、発砲警報!撃ち方よーい!」

 

ジジーッ、ジジーッ、ジジーッ…

 

「これが警報ブザーです!すぐに対処行動を!」

 

堺の叫びに、3人は急いで対処行動を取った。下腹部に力を込め、両耳を塞いで口を大きく開ける。確認した堺が手でマル印を作ると同時に、「てーっ!」という号令、そしてジジーー…というブザー音が鳴った。

その直後…

 

ドドオォォォォォォン!!!

 

艦内にいるにも関わらず、鼓膜が破れるのではないかと思うほどの轟音が響いた。主砲が発射されたのだ。これでも全門斉射でないだけまだマシなのだが。発砲音の残響が響く中、堺が説明してくれる。

 

「相手として飛んできている機体は、全てAIが操縦する演習用の無人機です。なので、こちらは遠慮無く実弾を撃っておりますよ。これほど強烈な衝撃なのもそのためです」

 

「実弾演習、というわけですか」

 

目を輝かせながら神谷がそう言った時、外から別の砲声が聴こえてきた。直後に「摩耶、主砲発砲!」の報告が飛び込んでくる。

 

「駆逐艦はまだ撃つなよ、今はまだ有効射程外だ」

 

堺が無線でそう指示を与えた時、「ようーい…だんちゃーく!」という声が上から聴こえた。

とっさに3人が窓の外を見た時、信じがたい光景が見えた。『四三式弾』というネーミングから、3人とも三式弾の仲間のようなものを撃っているのだと思っていた。従って3人が想像していたのは、空に大量の白煙が触手のように伸びる光景だった。

ところが、そんなものは見当たらない。その代わりに、空のただ中に巨大な青白い光の玉が出現し、それが恐ろしい勢いで膨れ上がる様がはっきりと見えた。花火のようにも思えるが、おそらくそれよりもっと禍々しいものだろう。

一色と川山には分からなかったが、神谷にはすぐにピンとくる物があった。この青白い閃光、どことなく似ているものがある。某エースでコンバットな空で戦った、あのどでかい無人空中母艦が撃ってくるミサイルだ。確か『ヘリオス』とかいったか。

 

「まさか、燃料気化砲弾!?」

 

「鋭いですね神谷さん。まさか1発で当てられるとは思いませんでしたよ、さすが専門家でいらっしゃる」

 

「そんなものまで.......。とんでもない技術力ですね。これもあの釧路さんの力ですか?」

 

「左様です。本当に、彼女には頭が上がりませんよ」

 

皇国海軍にも月華弾という燃料気化砲弾があるし、更に言えばその進化系にして『Eco Nuke』の異名を持つ伊邪那美弾頭なんかもある。なので見慣れてはいるが、まさか艦娘で実用化させてるとは思ってなかった。

 

「なあ浩三、燃料気化砲弾ってそんなにすごい装備なのか?」

 

「ぶっちゃけ、我が軍と変わらん装備だぞ」

 

「マジか。そう言われると確かにすごいな」

 

その時、海面付近に新しい光の玉が現れる。『摩耶』が撃った20.3㎝砲の四三式弾だ。

青白い閃光が消えた時には、向かってきている雷撃機たちは少なくとも2割は減らされたように見えた。編隊も大きく崩れている。

 

「結構落としたんじゃないか?」

 

「そうだろうな」

 

一色と川山は楽観視しているが、神谷は険しい視線を窓の外に投げかけている。

 

「どうした、浩三?」

 

一色の質問に神谷が答えるよりも早く、堺の声が聴こえた。

 

「チッ、弾着より前に分散しやがったな。思ったより落ちてないし、むしろ対空弾幕の分散になりかねん」

 

「お前ら。どうやらこの演習、随分楽しめそうだぞ。まさか弾着前に回避して、頭数を残すとはな」

 

「どう言う意味だ?」

 

川山の質問に、神谷は目線を編隊に合わせたまま答える。その目は、戦場に立つ艦隊司令の物であった。

 

「そのまんまだ。あの編隊、主砲塔が向けられた所から発砲までのタイミングを見極めて、射撃と同時に一気に編隊をブレイク、つまり散開させて回避したんだ。普通は大半が火だるまになって墜ちるだろうが、あそこまで機体を残している。かなり厄介だぞ」

 

神谷達がそんな話をしている中でも、戦況は更に刻々と進んでいく。

 

「大和、聴こえるか」

 

『はい提督?』

 

「対空機銃は予定通り統制弾幕射撃。高角砲だが試験中の改良砲弾、あったよな?」

 

『はい、搭載しています。それを使うのですね?』

 

「そうだ、よろしく頼む。それと、余力があれば護衛の子たちを高角砲で援護してやってくれ」

 

『了解!』

 

そこへ、「ただいまの戦果、撃墜破20機前後と認む!敵機大編隊、距離ヒトフタマル!」の報告が入る。 三式弾よりは多いが、恐らく回避がなければこの2、3倍は堕とせているだろう。

 

「司令より砲術、ヒトフタマルか、もう1発撃てるな?」

 

『お任せを!』

 

「よし、照準は任せる。やれ」

 

『了解しました!』

 

暫くして、またあのブザーが鳴った。一色と川山はビクビクしながら、大急ぎで耳を塞いで口を開ける。一方の神谷は同じ動作をしながらも、しっかり編隊の方を見ていた。

 

ドドオォォォォン!!

 

今度も凄まじい轟音と衝撃だ。艦橋のガラスどころか、それ自体がビリビリと震えて結構な揺れが襲う。

 

「「す、すげぇ.......」」

 

魂まで刻まれるような強烈な主砲発射の衝撃に、一色と川山が声を震わせる。

 

「敵機間もなくくるぞ、全艦射撃用意!摩耶、照月、頼むぞ!」

 

『任せとけってんだ!アタシの弾幕を簡単に超えられると思うなよ!』

 

『照月、了解です!主砲、対空戦闘よーい!』

 

一度昼戦艦橋から防空指揮所へと上がり、堺は双眼鏡で敵役を見据えた。敵編隊は多少は分散したものの、ほぼ2群にまとまったままこちらへと向かってくる。

 

「お前ら、そろそろ来るぞ」

 

「砲弾の起爆だな。大丈夫だ」

 

「違う違う。対空戦闘、それも機関砲や高角砲を使った近接戦だ。空の色がドス黒くなるぞ」

 

神谷がそう言ったその時、『大和』の右舷に接近しつつあった敵機の姿が、青白い光の玉に遮られて見えなくなった。『大和』が撃った、「四三式弾」の第2射だ。敵機をきれいさっぱり消し飛ばしたかと錯覚させる光景だが、閃光が消えると敵役は健在な姿を見せる。

堺が昼戦艦橋に戻ってきたタイミングで、「敵距離ハチマル(8,000m)!」の報告が上がった。すかさず堺が指示を飛ばす。

 

「オールガンズフリー!全艦射撃始め!」

 

『今度はよく引き付けるんだ…よし、てぇっ!』

『見てなさい。』

『◯ねば良いのに!』

『艦隊をお護りします!』

『撃って撃って撃ちまくれ!』

『お相手しましょう。来なさい!』

『うるさい敵だな、やってやんよ!』

『ガンガン撃ってー!長10㎝砲ちゃん、頑張って!』

 

無線から入っていた艦娘達の声が消えた直後から、小さな砲声が断続的に聴こえ始める。と思った時、 それらを塗り潰すようにして、主砲の砲声にも負けないほど大きな砲声が響いた。だが、発射の反動は明らかに主砲より小さい。

『大和』の副武装たる10㎝連装高角砲の射撃だ。右舷前方に指向可能な8基16門での射撃だが、全ての砲が一度に揃って撃った時の砲声は強烈だ。

4秒に1発のレートで、大和の10㎝連装高角砲は砲撃を繰り返す。他の艦も主砲や高角砲、両用砲の5インチ連装両用砲Mk.28改を撃ちまくる。上空に黒煙の花が咲き乱れる中、敵役の航空部隊が向かってくる。唐突に1機が黒煙に包まれ、直後に糸の切れた凧のようにくるくる回転しながら海面へと落ちていった。続いてもう1機、黒煙の尾を引きずって急激に高度を下げ、海面に達する前に汚い花火となる。

さらに、低空では同時に3機が被弾した。空中に開いた炎の花が2つ、そして白い飛沫が1つ。続けて1機、今度は操縦AIを破壊されたらしく、炎を噴き出すことなく海面に滑り込む。

 

『まだまだぁ!アタシの弾幕はこんなもんじゃない!派手でなければ魔ほ…戦闘じゃない!弾幕は火力だぜ!』

 

(((それ魔理沙だろ!!!!)))

 

三英傑全員が、一斉にツッコんだ。『摩耶』から機銃にしては太い火箭が伸びる。 これが銃火でなければ、どんなに美しい事だろう。

これと同時に『大和』艦橋の近くからも重々しい連続音が響き始めた。この特徴的な音から察するに、ボフォース40㎜連装機関砲が火を噴いたのだ。

 

「おかしい」

 

「え、何が?」

 

神谷が急に呟いた言葉に、一色が反応した。川山も「は?」という疑問顔である。

 

「この時代のVT信管にしては低空目標に当たりすぎてる」

 

「えっと、なにそのVTR信管って」

 

「VT信管だ。近接信管とも言う。簡単に言うと砲弾の先端にレーダーがついていて、目標の近くで起爆する。対空戦闘に於いては、実は砲弾は当てないんだ(・・・・・・)

 

神谷の発言は軍事を広く浅く程度には齧っている川山ですら、何を言ってるのか分からなかった。一色に至っては混乱しまくっている。

 

「何言ってるか分からないだろうな。そもそも飛行機ってのは、知っての通り速い。それを捉えて、砲弾でぶち抜くなんて、まあまず不可能だ。無論ラッキーパンチで偶然当たるなんてあるが、基本は砲弾を目標付近で爆発させて、その破片で攻撃する。

これまでそれをする為には時限信管、つまりタイマー式の爆弾を取り付けた砲弾を飛ばしてた。だが1943年以降、皇国では44年以降から新たにレーダーで目標を探知して起爆する信管が開発された。それがVTなんだが、この砲弾には欠点がある」

 

「今の話を聞く限り完璧な砲弾じゃないのか?軍事に疎い俺でも分かるぞ」

 

「慎太郎の言う通り、VTは対空砲弾の信管としては現状ベストアンサーと言っていい。だがな、初期のVTは低空だと使い物にならないんだ。海面でレーダー波が乱反射して、信管が誤作動を起こす。目標手前で爆発したりしたらしい。

恐らくあの砲弾には、高度な解析装置が搭載されてる。現代艦になると、そもそもミサイル戦主流だから対空用のVT信管搭載型砲弾は軽く過疎ってるがな」 

 

そんなやり取りの間にも、航空機は1機また1機と落ちていく。高角砲と機関砲による射撃だけで実に20機近くが墜落し、さらに10機ほどが黒煙を吐き出していた。それらの機体は爆弾や魚雷を捨てて、退避を開始している。

だがこれでも、全機の阻止には到底足りない。残る機体は全く怯まずに艦隊上空に到達した。向かってくる航空機は、いずれも練習機であることを示す橙色に塗装されている。それらのうち尖った機首を持つ急降下爆撃機『彗星』が、真っ先に機首を翻した。ダイブブレーキを展開しつつ急降下に入る。

 

「見張より艦橋、摩耶に降爆8!さらに朝霜に降爆4!あっ、降爆10、本艦に向かってきます!」

 

報告を聴きながら自身の目でも敵機の動きを観察し、大和が命令を下す。

 

「主砲右90度、俯仰角ゼロ度、三式弾を装填して待機!目標は敵雷撃機です!

高角砲のうち後部4基は照準そのまま!前部砲群は新たな目標を接近する降爆に設定!機銃、降爆を目標に射撃用意!」

 

敵役の急降下爆撃機は、戦艦に対しては威力不十分な500㎏爆弾で、『大和』を狙おうとしている。これはおそらく『大和』自身の対空火器を使用不能にする意図に基づくものだろう。 500㎏爆弾では戦艦は沈まないが、対空砲を破壊することならできる。

 

『見張りより艦橋。低空の敵雷撃機、横隊を組み始めました!距離ロクマル!』

 

この報告を聴いた瞬間、大和が命令を下した。

 

「目標、敵雷撃機!主砲、砲撃始め!一斉撃ち方!」

 

「撃ち方よーい!」

 

「お前らデカいのが来るぞッ!!!!!!」

 

神谷も2人に叫ぶ。主砲の一斉射は、さっきまでの砲撃とは格が遥かに違う。耳を塞いでも、鼓膜が破壊される威力の爆音が響き渡るのだ。

 

「てーっ!」

 

ドドドドドドオォォォォォン!!!

 

最早デカすぎで、他の全ての音がかき消されて何も聴こえなくなった。それほど凄まじい轟音が耳をつんざき、鼓膜を突き破らんばかりの暴力を伴って響きわたった。

46㎝砲9門の一斉射撃である。これほど暴力的な音響もまたと存在するまい、と思わされるほどの音量だ。え?熱田型や『日ノ本』はどうなるかだって?アレは船体自体に特殊なコーティングを施して、しっかり防音してあるので発射音はそこまで響かない。仮にコーティング無しで聞こうものなら、耳塞ごうが口を開けようが問答無用で死ぬ。少なくとも鼓膜が破けるのは確実だ。

主砲が斉射を放った時には、新しい目標を振り分けられた高角砲群が射撃を再開し、瞬く間に1機を撃墜している。さらに1機の彗星が黒煙の花に包まれた、と思う間もなく、両の主翼が折れ飛んだ。砲弾のような形になった彗星は、そのまま海面へと直行した。

 

「ようーい、だんちゃーく!」

 

報告と同時に、低空にパッと閃光が走った。その直後に大量の白煙の筋が発生する。立ち込める白煙に混じって、炎が2つ3つ見えたような気がした。またも巨大な青白い光の玉が1つ現れる。

投雷コースに乗った流星の鼻先で三式弾が炸裂したのだ。噴き伸びた白煙の触手は雷撃隊の中でも前方にいた流星の群れに掴みかかり、4機に損傷を与え、そのうち2機を撃墜した。第3主砲には四三式弾が入っていたため、その炸裂によって1機が吹き飛ばされている。

その直後『摩耶』が20.3㎝砲の一斉射を放つ。それは、雷撃隊で後攻を担当していた天山隊の目の前で炸裂し、禍々しい高熱の青白い光の玉を4つ生み出した。ほぼゼロ距離射撃で四三式弾を撃ち込んだのである。

まさか自分たちを狙ってくるとは思っていなかった天山のAIたちは、手痛い一撃を受けることとなった。ほぼ完璧なタイミングで炸裂した四三式弾により天山は46機のうち実に14機が木っ端微塵となり、5機は飛行こそ可能だが攻撃が行える状態ではなくなってしまった。それだけではなく編隊が大きく崩れてしまい、有効な雷撃も困難になってしまったのである。たった一撃で天山の4割以上を戦闘不能にした上効果的な攻撃能力までもを奪った摩耶が、一枚以上上手だった。

だが、これだけ奮戦しても全機の阻止には及ばない。

 

『アタシの機銃を喰らいやがれ!ついでにこれも持ってけ、『雪風流 探照灯対空戦闘術』!!アタシだって免許皆伝なんだ!』

 

『摩耶』の艦体後部から白く太い光が伸びる。探照灯、つまりサーチライトだ。こんな対空戦の途中にサーチライト使うなんて狂ってると思うかもしれないが、意外とこれは効果的な一手となる。

探照灯の明るさは10万カンデラを誇る。新月の夜にこれを点灯すれば、10㎞先でも新聞が読めるほどの明るさなのだ。そんなものをたった数百~2,000メートル程度の距離で照射されれば、十二分な目潰しとなる。尚、この探照灯の機構は、炭素棒に電気を流して光を得るカーボン・アーク灯である。堺や大和が戦闘前に炭素棒を用意させたのは、このためだ。15分ほどで炭素棒は消耗してしまうため、予備を用意させていたのである。

因みに10万カンデラがどの位の明るさかというと、1カンデラがロウソク1本の明るさとなる。車のハロゲン型ロービームが大体2万5000カンデラ、HID型が3万5000〜4万カンデラとなる。閃光音響手榴弾、所謂スタングレネードは100万カンデラ以上の光を発する。

 

「あんなので目潰し食らったら、まず飛行機は操縦できないだろうな」

 

「なぁ浩三。アレって、実戦で使ったりしてたのか?」

 

「なんか、割とマジで使ったらしい。というか陸じゃタクティカルライトを使って、囮にしたり目潰しさせたりで普通に使うしな」

 

この戦法と対空砲を駆使して、『摩耶』が敵をどんどん落としていく。だがそれでも、他の艦へのダメージはそれなりにあった。

 

「矢矧被弾!続いて朝霜被弾!」

 

矢矧は飛行甲板を損傷するも、戦闘航行に支障無しと判定が出た。だが朝霜は火災の火が魚雷に回って誘爆、轟沈判定となった。

 

「敵2機撃墜!本艦に急降下!」

 

「全機銃、応戦!阻止してください!」

 

「照月に急降下!機数2!あっ、浜風被弾!」

 

『浜風、第3砲塔大破、並びに火災発生判定』

 

「あの位置で火災となると、下手すりゃ爆雷に引火する。やばいな」

 

神谷の分析に、一色と川山はそこまで事の深刻さを理解していないのか、頭にはてなを浮かべている。どうやら2人の中では、爆雷如きで沈まないとか思ってるらしい。

 

「お前ら言っとくが、船ってのは結構脆いからな?駆逐艦の爆雷が爆発すりゃ、位置的にスクリューのプロペラシャフトとかもやられるし、更に発電機やその後ろのタービンまでやられるかもしれん。そうなりゃ漂流して、沈むか沈められるかを待つだけの運命だ」

 

「結構恐ろしいんだな.......」

 

神谷もかつては艦艇に乗り組んでいたのだ。ダメージコントロールの重要性や、しくじった時の運命は嫌というほど叩き込まれている。

 

「さらに敵1機撃墜!」

 

『磯風被弾。機関損傷、大破判定。出し得る速力11ノットに低下』

 

『しまった、こんな所で航行不能になる訳にはいかない。動け、動け!』

 

「雪風、1機撃墜!さらに爆弾3発回避、直撃は無し!」

 

『クソっ、アタシも喰らった!だがこんなもんじゃないぜ!』

 

『摩耶被弾。両用砲1基使用不能判定』

 

艦隊の面々も多数が被弾し、各艦共に多かれ少なかれダメージを追っている。その時、『大和』の艦体に続けざまに衝撃が走った。

 

「やられたか!」

 

堺が身を乗り出すようにして窓の外を確認している。そこへ判定が下された。

 

『大和、3発被弾。第1砲塔に異常無し、戦闘継続可能。飛行甲板に火災発生判定。右舷後部、高角砲2基大破判定』

 

「チッ」

 

堺の舌打ちが聞こえた。だが、喰らったのは3発だけらしい。対空砲火により3機を撃墜し、さらに回避運動も加えた結果、投下された爆弾のうち4発は空振りに終わったようだ。

 

「ダメージコントロール!消火急いで!」

 

「浩三!!沈まないよな!?大丈夫だよな!?!?」

 

「大丈夫だから落ち着け健太郎!!そもそも訓練だからホントに沈まないし、そもそも爆弾3発食らった程度で戦艦が、それも戦艦の王者たる大和型が沈む訳あるか!!」

 

大慌てでいつもの威厳とか冷静さ皆無の一色が、神谷の腕を掴みガクガク揺らす。そんな状況の中、今度は『照月』が被弾してしまった。

 

『いやぁ!?ったぁ、いったぁ.......。魚雷発射管は大丈』

 

唐突に照月からの無線がぷつりと切れた。 それと入れ替わるように、被害を伝えるアナウンスが入ってくる。

 

『照月、艦体前部に被弾。第1・第2主砲誘爆大破、大火災発生。電源途絶、通信不能判定。大破判定、出し得る速力5ノット』

 

「くそ!」

 

堺が悪態を吐いているが、こればかりは仕方ないだろう。あの被害では『照月』は戦えない。それどころか艦隊への追随すら不可能だ。電源が失われ通信もできないとあっては、為す術はない。

しかも『照月』といえば、大事な防空艦だ。それがやられてしまったのだ。これでは艦隊全体の防空能力もガタ落ちになってしまう。

 

「大分やられてしまったな。だがさっきからの報告を聴いてると、これでだいたい降爆の攻撃は終わった。ここからが本番だ、雷撃機が来るぞ!」

 

仲間たちに声を励ます堺。それに応えるかのように、低空から流星が向かってくる。

 

「敵雷撃機、右舷より接近!数9!狙いは摩耶もしくは本艦の模様!」

 

「撃て、撃ちまくれ!魚雷を投下させるな!」

 

堺の命令と同時に『大和』の高角砲が火を噴いた。続いてボフォース40㎜機関砲の野太い射撃音。

たちまち1機の流星が主翼から火を噴き、直後にバランスを崩して飛沫に変わった。さらに1機、キラキラと光る物を空中に振り撒いてガクンと機首を下げ、海面にダイブする。

 

『喰らいやがれぇ!』

 

摩耶の罵声と共に、白い光が流星を照らし出した。必殺の探照灯である。海面すれすれを高速で飛んでいる時にセンサーを焼かれてはひとたまりもなく、流星1機がふらついて自ら海面へと滑り込んだ。

直後に摩耶のエリコン20㎜機銃が一斉に弾幕を吐き出す。瞬間的に形成された20㎜の弾幕に、流星1機がもろに引っ掛かった。主翼から火を噴き、一瞬ふらついたが体勢を立て直そうとする。しかし、追い打ちとばかりに追加の20㎜弾がまんべんなく撃ち込まれ、全身ボロボロになった「流星」は力無く海面に落下した。

5機に減った流星が『摩耶』の上空を飛び越える。その瞬間、真下から突き上げられた40㎜機関砲弾のアッパーカットを喰らい、1機がもんどりうって墜落した。さらに1機、『大和』の高角砲に捉えられてバラバラになる。

 

「す、スゲー!殆ど落としたぞ!」

 

「健太郎、これで終わりじゃねぇぞ。まだ来る」

 

神谷が残る3機を睨む。たった3機になった流星だが、怯む様子を見せずに『大和』に向かっていく。だがそこには、最低でも75丁を超える九六式25㎜機銃が手ぐすね引いて待ち構えていた。

 

「右80度、高角10度、距離2千!てぇー!」

 

号令一下、嵐のように25㎜弾が吹き荒れる。何が何でも撃墜してやるとばかりに、どの機銃座の妖精たちも鬼の形相で敵を睨み、発射ペダルを踏み続ける。『大和』からの距離1,500メートルのところで1機が仕留められた。そしてついに2機になってしまった流星が『大和』から1,300メートルで魚雷を発射する。

 

「あんなの当たりません、このまま直進!」

 

「それよりも敵機がまだ来ています!今度は多いですよ!艦長より航海、面舵2当て!」

 

後攻の天山が向かって来ているのだ。それも、まだ20機はいるだろう。

 

『墜ちろ墜ちろ!アタシの弾幕を越えられると思うな!』

 

『大和』の前に『摩耶』が立ち塞がり、艦全体を発射炎で赤く染めるほど撃ちまくる。『防空巡洋艦』の異名は伊達ではないと思わされる光景だ。

両用砲と機関砲だけであっという間に1機の天山が仕留められ、さらにエリコン20㎜の弾幕が加わって3機が立て続けに叩き落とされる。だがさすがに阻止しきれず、10機以上の天山が『大和』に向かう。

 

「自由射撃!各個に撃て!」

 

大和の号令で10㎝連装高角砲が真っ先に火を噴く。海面付近であるにも関わらず、高角砲弾がかなり正確な照準で炸裂し始めた。1機の天山が鞭で打つようにしてはたき落とされる。対空機銃も迎撃に加わり、さらに『摩耶』と『雪風』の援護射撃もあって1機が海面に落ちた。だが、残る機はまっすぐ突っ込んでくる。

 

「敵機との距離は!?」

 

「ヒトサンです!」

 

「了解!」

 

伝声管を掴みながら防空指揮所に仁王立ちし、大和は向かってくる天山を見詰める。距離が1,100メートルを切ろうという瞬間、大和は伝声管に「面舵一杯!」と言った。

伝声管は操舵室に繋がっており、命令を受けた妖精が舵輪を目一杯右に回す。予め軽く面舵を当てておいたため、舵のレスポンスはかなり良かった。『大和』の艦首が右に振られ始めた瞬間、天山が魚雷を発射する。対空弾幕が飛び交う中、白い航跡が7本『大和』に向かってくる。

魚雷の進路と自身の艤装の向きを見比べていた"大和"が、不意に「戻せ、舵中央!」と叫んだ。続いて「艦長より機関、両舷前身いっぱい!」と下令する。

魚雷の群れにまっすぐ艦首を向け、『大和』は回頭によって失った速力を回復しながら突っ込んでいく。みるみるうちに魚雷が近付き、2本ばかり艦首に隠れて見えなくなった。近付いてきた魚雷の群れが「大和」とすれ違い、目標のいない海を虚しく航走していく。 衝撃は全くこないし、演習被雷を示す赤い水柱もない。

 

「敵魚雷、全て回避しました!」

 

「新たな敵機は?」

 

「本艦隊周囲に新たな敵機無し。生き残った敵機は撤退しつつあります!」

 

「了解」

 

自身の目でも周囲の状況を確認し、大和は堺に報告した。

 

「提督、新たな敵機接近の兆候はありません。戦闘終了と判断します」

 

それを聴いて堺は無線機を取り上げて、命令を下す。

 

「提督より全艦。対空戦闘終了、用具収め」

 

「お、終わった?」

 

「あぁ。終わった。にしてもまぁ、偶にはこういうアナログな戦闘も良い。現代と違って、こう戦ってる感がある。海戦でこの感覚を味わうのは久しぶりだ」

 

戦闘は終わったが、まだ全てが終わった訳ではない。味方の被害を集計し、艦隊陣形を再構築しなければならない。さっそく堺は大和と打ち合わせを始める。 その間に川山は神谷に、1つ気になっていた事を聞いた。

 

「なあ浩三、なんであの魚雷は航跡が見えたんだ?帝国海軍の魚雷は酸素魚雷だから、航跡は見えない筈だろ?」

 

「それは基本的に艦艇の話だ。確かに酸素魚雷を使っちゃいるが、そもそも酸素魚雷ってのはコストがバカ高い上に結構信頼性も低いんだ。それに酸素魚雷は航空機用には不向きで、計画こそ浮上したがすぐに却下された。だから航空機用のは普通に航跡が見えるんだよ」

 

「そうだったのか」

 

そんな話をしていると、どうやら堺と大和の打ち合わせも終わったらしい。打ち合わせた結果、演習は継続する事が決まった。生き残った面々は、艦隊の再編成を急ぐ。この間、少し堺は手が空いた。チャンスと見た神谷が堺に、信管の件について質問する。

 

「すみません堺司令、質問よろしいでしょうか?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「さっきの高角砲弾、海面すれすれを飛ぶ敵機にもよく命中していましたね。堺司令のところでも、VT信管は実用化しているんですよね?」

 

「はい、実用化しております」

 

「それにしては、海面すれすれの低高度における命中率が異様に高いように感じました。もしかして、クラッタの処理能力を持たせているのではありませんか?」

 

その質問に、堺は頭を掻いた。いかにも「してやられた」と言わんばかりの様子だ。

 

「ここまで見破られるとは.......。素晴らしい、100点満点の回答です神谷さん。そうです、今試験中の改良VT信管には、海面反射波(サーフェス・クラッタ)の処理能力を試験的に持たせました。この機能追加によるコストパフォーマンスが十分採算に叶うものかどうか、試験をしているところなのです」

 

「そうでしたか。しかしすごいですね、使い捨ての砲弾にまでクラッタの処理能力を持たせるとは.......」

 

「まあ、VT信管の弱点は低空を狙いにくいことですからね。どうやったらそれを改善できるか、考えておったところなのですよ」

 

「確かに、あれはVT信管を使う限り逃れられない欠点ですからね」

 

そこへ、川山が質問した。 さっき信管云々の話は聞いたが、解説の部分は何が何やら全く分からなかったのだ。

 

「なあ浩三、お前と堺司令が何を言ってるのかさっぱり分からないんだが.......」

 

「軍事関連だから、難しいのも無理ないか。健太郎なんて頭から湯気が上がってる感じだし。

まあ簡単に言うと、『余分な反射波とかの情報を上手く処理して、必要な刺激だけに砲弾が反応して炸裂できるようにしている』ってことだな。もっと分かりやすく言うと『おりこうさん砲弾』って訳だ」

 

「砲弾に『考える能力』を持たせた、ってことか?」

 

「それで正解だな」

 

厳密に言うと川山も一色みたいに頭がオーバーヒートしそうなので、こういう説明で良いだろう。そんなやり取りの間にも、艦隊の再編成は着々と進められていた。



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特別編8 艦隊演習(後編)

そして艦隊の再編成を終えてから50分後、眼前にはいつの間にやら茜が射し始めたタウイタウイの海が広がっている。

 

「……来ねえな」

 

堺の呟き通り、来るはずの第二次空襲が来ない。艦隊の周囲には静かな空が広がるばかりだ。

 

「どうしたんでしょう?」

 

大和も首を傾げている。 そして、この2人も同じ様に首を傾げていた。

 

「なぁ、これって良くある感じか?」

 

「流石に艦娘の練度はよく分からん以上、断言はできん。だが他の反応を見るに、どうやら練度的には再攻撃を仕掛けても良い頃合いだろう。これがガチガチの実戦を想定しているのなら夜襲とかの可能性もあるが、今回は俺達ゲストが乗ってる。時間を夜まで延ばしたりはしないだろうよ。

となると考えられるのは、何か不測の事態が起きたかだな。まあそういう事態ならこっちに緊急電が入るだろうから、多分船が沈んだとかまでの大惨事じゃないだろうがな」

 

一色の質問に神谷は答えたが、何か引っかかる事が自身の中であった。何か、何かを見落としているモヤモヤ感が脳を覆う。

 

(そういや、あの出撃の時のしおい&ろーちゃんコンビ、あの2人は今どこに?敵役にいるのか?いや、だが今回の戦闘は空母による航空攻撃作戦。仮に奇襲するのなら、もうしている筈。それとも単純に、別の演習が並行して行われてるのか?)

 

とか何とか色々考えていたその時、意外な報告が見張り台の妖精から上がった。

 

『見張より艦橋、水平線上に演習火災煙!数3!』

 

「なに、どこだ!?」

 

『艦隊からの方位50度です!』

 

堺と大和の他、数人の妖精が揃って双眼鏡を目に当てた。神谷たち3人も、双眼鏡を覗いてみる。

水平線付近の空に、赤い煙が3つ上がっている。この赤い煙は、火災発生の判定を取られた艦から噴き上がる物だ。

 

「……」

 

双眼鏡を下ろし、下顎に手を当てて考え込む堺。 神谷はこの煙を見て、さっきの潜水艦コンビの所在について1つの仮説が生まれた。

 

(まさかあの2人、こっちサイドに立ってるとかないよな?)

 

流石に無いと思うが、伊401と呂500が飛び込みでこっちに参加しているのでは無いかと考えた。そうでもなければ、あの煙の説明が付かない。まさか砲撃戦もないのに、誤射なんて事がある訳もないのだから。

 

「面舵50度、第二戦速。あの演習火災煙の正体を確認する。対水上戦闘の心構えをしておいてくれ」

 

「了解」

 

堺の指示で輪形陣を形作ったまま、艦隊はゆっくりと赤い煙に向けて近付いていく。

ある程度接近したところで、また見張台から報告が来た。

 

『見張より艦橋。演習火災煙付近に戦艦1を発見』

 

「艦種は識別できる?」

 

『まだ遠いです、少しお待ちください』

 

大和と見張員妖精がやり取りをする一方、堺は何やら書類を引っ張り出して広げている。艦娘たちの予定を確認しているらしい。少し待って、報告が入ってきた。

 

『識別完了!戦艦は、ヴィットリオ・ヴェネト級と認む!』

 

その瞬間、堺が叫んだ。

 

「敵だ!ヴィットリオ・ヴェネト級といえば、大鳳たちの護衛だぞ!待て、1隻だけか?2隻いるはずだが?」

 

神谷がちらっと予定表を覗いてみると、大鳳たちの護衛には『イタリア』と『ローマ』の名前があった。つまり、ヴィットリオ・ヴェネト級は2隻いるはずなのだ。それが1隻しか見当たらないというのは、どういうことだろうか。

 

『いえ、1隻しか見当たりません』

 

「ふむ.......。了解」

 

不審そうながらも納得した堺に、大和が尋ねた。

 

「提督、そういえば大鳳さんたちの敗北条件って何ですか?」

 

「あいつらの敗北条件は、『全空母が艦載機運用不能になること』だ。手段は問われない」

 

「では、提督!」

 

堺の方を見た大和の目は、何故かギラギラと光っている。それを見た瞬間、神谷はこの後の展開を察した。

 

「やる気だな?」

 

「もちろんです!」

 

この返答を聞いた瞬間、神谷は不敵な笑みを浮かべて一色と川山に振り返った。

 

「どうやら俺達は運が良いようだ」

 

「よし。全艦へ告ぐ、敵艦隊を捕捉した、大鳳たちの艦隊だ!今あいつらは何らかの理由で艦載機を出せなくなっているらしい、この機に乗じて一気に叩く!単縦陣に移行!全艦、砲雷撃戦用意!」

 

対水上戦闘ラッパが高らかに鳴った。妖精たちが持ち場へと一斉に走り出す。 最初、神谷の言ってる事が理解できてない2人だったが、堺のこの命令で一気に顔が無邪気な少年の様になった。まさか戦艦『大和』による、砲雷撃戦が見られるとは思ってなかったのだ。

 

「さあ、やるわ。砲雷撃戦、用意!」

 

大和の声にも張りがあり、気合が入っているのがはっきりと分かる。

 

『空襲の次は砲戦か?上等じゃねえか、アタシだって重巡だ。主砲を1基降ろしちまったから火力は低いが、命中率が高けりゃいけるだろ!』

 

『第二水雷戦隊、預かります。艦隊増速、合戦用意!行くわっ!』

 

『私が、守ります!』

 

『艦隊をお守りします!』

 

他の子たちも戦意は十分らしい。輪形陣の先頭にいた『初霜』がやや速度を落とした。『大和』の左隣を、増速した『矢矧』と『雪風』が追い抜いていく。それと入れ替わるように『大和』がスピードを落とした。

艦隊の先頭に『矢矧』が飛び出し、その後ろに『初霜』と『雪風』が付ける。そして『雪風』と『大和』の間に開いた隙間には『摩耶』が入った。練度の高さを証明する、見事なまでの艦隊行動である。

 

「陣形変更完了!」

 

『こちら矢矧、第二水雷戦隊各艦、砲雷撃戦用意よし』

 

『摩耶だ、こっちもいつでもいけるぜ!』

 

「よし、二水戦は敵艦隊に向けて突撃、できれば空母に肉薄雷撃を叩き込め。摩耶は大和の直掩として後方から砲撃支援を行え」

 

『本当はアタシも突っ込みたいんだが、大和が沈んだらこっちの負けになっちまうからな。しゃあねぇ、今は我慢してやるよ』

 

『矢矧了解。たった3人しかいなくとも、二水戦の本領を見せるわ!』

 

皆、闘志に揺らぎはないらしい。だがその時、見張員妖精が怪訝そうな声で報告してきた。

 

『見張より艦橋。ヴェネト級の周囲に水柱複数確認。さらに利根型航空巡洋艦2隻、大鳳型空母1隻、雲龍型空母2隻、その他小艦艇10隻以上を確認せるも、小艦艇は不規則に運動中。対潜戦闘中と認む』

 

それを聴いて、堺がニヤリと笑った。

 

「そういうことか。どうやら上手くやったらしいな」

 

この発言と、堺の表情を見て神谷は全て察した。やはりあの仮説、正しかったらしい。

 

「何か仕込んでいたんですか、提督?」

 

「ああ。実は出港する直前にしおいとろーちゃんを捕まえて、もし大鳳と雲龍型からなる機動部隊を見付けたら、ウルフパックを仕掛けて欲しいとお願いしておいたんだ。

ヴィットリオ・ヴェネト級が1隻しかいないのも、雲龍型が1隻いないのも、多分あの子たちの雷撃でやられたからだろう」

 

なんてことないように話している堺だが、実はこれ、大鳳たちにとってはとんでもない相手だった。

今回、大鳳たちにウルフパックを仕掛けたのは潜水艦『伊19』『伊26』『伊168』『伊401』『呂500』である。史実において空母を雷撃した子が3人も含まれる上に、伊401は攻撃力が高く、そしてグラ・バルカス帝国の大型空母すら屠った呂500がいるのである。そんな面々にウルフパックを仕掛けられては、堪ったものではなかっただろう。

 

「うわぁ.......。大鳳さんの護衛の子たちからすると、想定外にも程がある訓練内容ですね」

 

「そりゃ実戦さながらにやらなきゃ生ぬるいだろ。戦場じゃ何が起こるか分かりゃしないんだから」

 

(いやまあ、そうだけど。にしてもエゲツないなぁ。流石に俺でもそんな事しないぞ。精々、敵艦隊に陸上部隊送り込んで中から艦を制圧したり、空母格納庫の中で戦闘機暴れさせる位しかしないぞ)

 

いやいやいやいや。堺よりも神谷の方が何千倍も悪質かつ、予想外の外の外の攻撃である。

 

「まあ確かに。ただ提督、その潜水艦の子たちへのお願いは、高くついたんじゃありませんか?」

 

「ああ、成功したらって条件で間宮のタダ券ねだられたよ」

 

「やっぱり.......」

 

「まあ仕方ない、背に腹は代えられん。さ、そろそろ向こうも気付く頃だ。やるぞ!」

 

「はいっ!」

 

このタイミングで、第二水雷戦隊の3隻が一気に速度を上げた。前方に見える敵役の機動部隊に向けて突っ込んでいく。

 

「主砲射撃目標、ヴィットリオ・ヴェネト級!摩耶、護衛は任せたぞ!」

 

『よっしゃ任せろ!駆逐艦だろうが巡洋艦だろうが近付けさせねえよ!』

 

「目標、ヴィットリオ・ヴェネト級。測的始め!」

『目標、ヴィットリオ・ヴェネト級。測的始めます!』

 

「面舵2当て。主砲、左砲戦! 弾種、徹甲演習弾!」

 

戦艦同士の砲戦が近い。つまりいよいよ、この演習での一番の見所が来るという訳だ。

 

『てめえら、左砲戦だ!気合入れてけよ!』

 

『測的完了!距離フタナナマル(27,000m)、敵針路55度、速力29ノット。いま針路90度に変わりました、回頭中の模様!』

 

「砲戦距離フタマルマル!射撃諸元入力始め!」

 

『了解、射撃諸元入力始めます!』

 

この時、前方を行く『摩耶』の主砲が左に回転し始めた。それにつられるように、巨大な46㎝三連装砲がゆっくりと左に回転し、砲口を左舷に向ける。

 

「敵距離フタゴーマル!あ、敵機動部隊から小型艦2隻が離れました!二水戦に向かっています!」

 

「護衛が分離したか。こっちに気付いて、潜水艦に構ってる暇がなくなったな」

 

『今度はよく引き付けるんだ……よし、てぇっ!』

 

「矢矧発砲!」

 

双眼鏡で観察すると、『矢矧』艦上から褐色の発砲煙が立ち昇っている。

 

『敵艦発見です!』

 

『雪風は、沈みませんっ!』

 

続いて『初霜』と『雪風』も砲撃を開始する。 恐らく、牽制目的の射撃だろう。何せ今の距離は、『矢矧』にとってもやや遠いはずだ。『矢矧』の持つ15.2㎝砲でこの始末なのだから、『初霜』と『雪風』の10㎝砲は当然届かない。となると考えられる可能性は、相手の牽制ということだろう。

 

「敵艦との距離は?」

 

『距離フタヒトマル!『摩耶』、面舵!』

 

「了解!」

 

そしてついに、距離が20,000mになった。いよいよ、砲撃の時は近い。

 

「面舵90度!」

 

『おもーかーじ、90度ようそろ!』

 

「回頭終わり次第最大戦速へ!主砲、砲戦用意!」

 

その時、堺や大和、3人の身体に強烈な左への遠心力がかかった。艦橋の窓から見える景色がくるりと回り、さっきまで前方に見えていたヴィットリオ・ヴェネト級戦艦の影が左へと流れていく。

 

『『摩耶』、射撃開始!』

 

戦艦が流れた代わりに、発砲炎を煌めかせる『摩耶』の姿が正面に来た。見ると『摩耶』の主砲が睨む先には利根型航空巡洋艦の姿がある。『利根』か『筑摩』のどちらかを目標にしているらしい。

 

「戻せ、舵中央!主砲、交互撃ち方、射撃始め!」

 

『撃ち方よーい!』

 

ジジーッ、ジジーッ、ジジーッ

 

『てーっ!』

 

ジジーー…

ドドオォォォン!

 

強烈な砲声が鼓膜を揺さぶり、激しい衝撃で艦体が震えた。 流石に川山と一色も慣れたのか、砲撃をしっかりと見ていた。

 

『敵戦艦、面舵!本艦に同航します!』

 

「砲戦に乗ってきましたね。良いでしょう、その実力見せてもらいます!」

 

そう言い放つ大和の瞳は、戦意の炎が宿ったかと思うほど輝いている。

 

『敵利根型、発砲!狙いは『摩耶』の模様!』

 

『その闘志や良し!だが、アタシに勝てると思うなよ!』

 

『敵戦艦、発砲!』

 

いよいよ砲戦が本格化してきた。海も着弾した砲弾の水柱が上がり、船体中に海水が雨の様に降り注ぐ。

 

『雲龍型1隻、被雷の模様!』

 

「うちの艦隊じゃねえな。潜水艦の子たちだ」

 

砲声に混じって、堺がそう呟くのが聴こえた。

 

「潜水艦ばかりに美味しいところを持っていかせるな!我々とてやれるんだからな!」

 

堺がそう鼓舞した時、 観測手からの弾着報告が飛び込んだ。窓の外に双眼鏡を向けると、敵戦艦の手前に3本の水柱が上がっている。

 

『弾着、全弾近!』

 

「上げ100!」

 

そこへ、ヒュルルルルヒュイーンという甲高い音が降ってくる。敵戦艦が撃った主砲弾が飛んできたのだ。

 

「当たりませんね」

「当たらん」

 

あっさり同時に言い切る大和と神谷。その言葉通り、敵戦艦の射弾は『大和』左舷の海面に落下しただけに終わった。

 

「よく分かるな?」

 

さすが戦艦娘、その辺は堺より詳しい。神谷だって、元は艦隊司令。前線で艦を率いて戦争してたのだから、大体分かる。

 

「音の微妙な違いで何となく分かりますよ。それよりも、神谷さんの方が驚きですよ。よく分かりましたね」

 

「まあ私は銃弾を刀で切ったりするのでね。むしろ銃弾より砲弾の方が、物がデカいんでパッと見りゃ分かります」

 

まさかの人外発言に、大和困惑である。だがそこはプロ、すぐに視線を敵艦へと向ける。

 

「第2射、撃ち方よーい!てーっ!」

 

警告ブザーの後に、46㎝砲が轟然と咆哮する。各主砲の中央の砲身から砲弾が撃ち出され、ヴェネト級めがけて飛んでいった。『大和』が第2射を撃つ間に、砲弾の装填が早い『摩耶』は既に利根型と3回もの射撃の応酬を繰り広げている。双方ともまだ照準は合っていないが、弾着位置が互いに近付きつつある。

ヴェネト級と『大和』、双方の主砲弾が落下する。ヴェネト級の弾は再び『大和』の左舷に落ちたが、『大和』の砲弾は相手を飛び越して水柱を噴き上げた。

 

『弾着、全弾遠!』

 

「下げ50!」

 

実は大和の主砲たる九四式45口径46㎝三連装砲と、ヴェネト級の50口径381㎜三連装砲では、装填速度はほぼ同じである。そのため双方ともほぼ同じ間隔でしか射撃できない。

こうなると自然とどちらが先に命中弾を出すか、という勝負になる。つまりは、練度勝負という事だ。

 

『レーベレヒト・マース、被弾。第3砲塔に15.2㎝砲弾直撃、砲塔大破判定』

 

唐突に飛び込んだ判定アナウンスによると、どうやら『矢矧』が相手しているのは『Z1』であるようだ。正直言って、レーベにとってはかなり荷の重い相手である。

 

「第3射、よーい!てーっ!」

 

第2射から40秒後、46㎝砲が三度目の咆哮を上げる。やや遅れて敵役のヴェネト級戦艦も主砲を撃ってきた。双方の砲弾が2万メートルを一飛びし、相手の艦を目指す。弾着は『大和』の方が先だ。

 

『弾着、全弾遠。至近弾1』

 

「照準そのまま」

 

大和の命令を聴いて、神谷は気付いた。どうやら大和の主砲の照準が合いかけているらしい、ということに。

戦艦の砲撃というものは、案外アバウトなものなのである。直撃弾を出したり、夾叉したりしても、それは「散布界の中に敵艦が収まり、砲弾の命中率が高い状態になった」というだけなのだ。イージス艦の砲撃などとは大分性質が違うのである。

敵の砲弾の落下音が頭の上を飛び越えた、と思った時、『大和』の右舷に3本の水柱が立った。敵役は仰角の調整をミスしたらしい。

 

『マックス・シュルツ、3発被弾。艦橋大破、艦橋要員総員戦死判定。続いて初霜被弾、損傷軽微』

 

『初霜』は『Z3』と矛を交えているようだ。『雪風』もそれに加わっているのかもしれない。

 

『レーベレヒト・マース、2発被弾。缶室1基損傷、中破判定。出し得る速力15ノット。矢矧被弾、左舷高角砲損傷判定』

 

やはり『Z1』には『矢矧』の相手は荷が重すぎたようだ。早くも戦闘能力を失いかけている。

 

「てーっ!」

 

大和の主砲が、4回目の砲撃を放つ。ヴェネト級の艦上にも発砲炎が煌めく。

 

『だんちゃーく、今っ!』

 

水柱が3本上がった。2本はヴェネト級の手前に、そして1本はヴェネト級の向こうに。

 

『夾叉弾を得ました!』

 

「一斉撃ち方!」

 

すかさず大和が命じた。弾着観測機も飛ばせていないのに、第4射で照準が合うのは大したものだ。普通なら第6~8射くらいで照準が合うものなのである。

 

「ヴェネト級の主砲の破壊力は侮れません。このまま一気に決着を着けます!」

 

『筑摩被弾。飛行甲板大破、火災発生判定』

 

無機質なアナウンスが入ってきた。ふと堺が前方を見ると、『摩耶』と戦っている利根型の後部から演習火災の赤い煙が上がっている。どうやら『摩耶』が相手にしているのは『筑摩』らしい。

 

『っしゃあ!こっちも行くぜ!摩耶様の攻撃、喰らえーっ!』

 

一足早く『摩耶』が斉射に踏み切った。4基の20.3㎝(3号)連装砲を振りかざし、全力の砲撃を放つ。

この時、ヴェネト級の砲弾が落下した。3発とも『大和』左舷の海面に落下したが、1発が至近弾となっている。

 

『レーベレヒト・マース、2発被弾。機関大破、航行不能判定。

マックス・シュルツ、5発被弾。艦後部で火災.......魚雷誘爆、轟沈判定』

 

二水戦もきっちり仕事を果たしつつあるらしい。『大和』も負けていられない。

 

「一斉撃ち方、よーい!てーっ!」

 

そして『大和』も主砲斉射にかかったところだった。

 

ドドドオオオォォォォン!!!

 

鼓膜を突き破らんばかりの凄まじい轟音と、30㎝先でカメラのフラッシュを焚くより強烈な赤い閃光。主砲9門の全門斉射である。

 

「やっぱすげぇ轟音!」

 

「み、耳がおかしくなりそう.......」

 

「やっぱ砲撃はこうでないとな!!これこそ戦艦!!これこそ艦隊戦!!」

 

一色と川山が両耳を押さえながら話し合い、その横で神谷は笑っていた。その笑い声から、この演習を心の底から楽しんでいる事が分かる。

その笑い声を塗り潰すように、ヴェネト級の砲弾が甲高い音を立てて降ってきた。

甲高い音が消えた瞬間、『大和』の艦体が激しく揺さぶられる。演習弾とはいえ、大口径砲から撃ち出された弾の衝撃は大きい。どうやら今度はかなり至近に落下したらしい。

 

『だんちゃーく、今っ!』

 

その瞬間、堺と大和が構えた双眼鏡の中で、ヴェネト級が水柱に取り囲まれた。それが収まった時、ヴェネト級は艦体中央部から赤い煙を噴き上げている。

 

『1発命中、火災発生!』

 

『イタリア被弾。右舷高角砲2基大破、火災発生判定』

 

どうやら『大和』の相手は『イタリア』だったようだ。

 

『こちら矢矧、前方より敵艦1接近!秋月型だわ!秋月型は私が引き受ける、2人は空母への雷撃をお願い!』

 

『初霜、了解です!』

 

『雪風、分かりましたっ!』

 

緊張感のある矢矧の声が無線機から聴こえてきた。並の駆逐艦にとっては、65口径10㎝砲8門を凄まじい勢いで速射してくる秋月型の相手は、荷が重いどころの話ではない。軽巡としては防御力のある『矢矧』が引き受けるつもりのようだ。

 

「撃ち方よーい!てーっ!」

 

この時には『大和』の主砲は第2斉射を放っている。9発の砲弾が唸りを上げて『イタリア』に突っ込んでいく。負けじと『イタリア』も撃ち返す。

 

『だんちゃーく、今っ!2発命中!』

 

『イタリア、2発被弾。右舷前部副砲損傷、使用不能判定。右舷前部に水中弾、浸水判定』

 

浸水すれば速力が落ちるし、前後左右のトリムも狂うから砲撃が当たりにくくなる。結構な一撃を入れられたようだ。

 

「このまま一気に!」

 

大和のその言葉を、敵弾の飛翔音がかき消した。そしてその音を聴いて、神谷は「あ、これは当たる」と確信した。

次の瞬間、大地震のように艦橋が揺れる。同時に『大和』の周囲に2本の水柱が噴き上がった。

 

次の瞬間、大地震のように艦橋が揺れる。同時に『大和』の周囲に多数の水柱が林立した。

 

「喰らったか!」

 

堺が叫んだ時、判定のアナウンスより先に、神谷が叫んだ。

 

「問題ない!!左舷中央の機銃が8基やられただけだ!!」

 

『大和被弾。左舷対空機銃8基損傷』

 

遅れてアナウンスが入る。まさかアナウンスより先に、被害を正確に言い当てるとは思わず艦橋の全員が一瞬黙った。

 

「よ、よく分かりましたね。私でも、感覚で大雑把にしか分からないのに.......」

 

「なーに、勘ですよ勘」

 

因みに今の、神谷は全く被弾箇所を見ていない。着弾音と衝撃だけで、被害を正確に当てたのだ。それも身体の一部である筈の大和よりも正確にである。化け物、という言葉でしか形容できないだろう。

取り敢えず被害が機銃だけで済んだのは、不幸中の幸いというべきだろう。だがこれで、『イタリア』も照準を合わせたのだ。次からは斉射に踏み切ってくる。『イタリア』が持つ381㎜砲弾は、長砲身砲から放たれるため初速が速く貫徹力が高い。あまり多数を撃ち込まれれば、『大和』とて重大な被害を受ける恐れがある。

それを避けるにはただ1つ、「攻撃は最大の防御」を適用し『イタリア』を先に沈めるより他にない。

 

「てーっ!」

 

『矢矧、2発被弾。左舷中央部にて火災発生判定』

 

『矢矧』も頑張っているらしい。第3斉射を放つ『大和』。『イタリア』も撃ち返してくる。

弾着は『大和』の方が先だ。水柱が収まった時には『イタリア』の前部で新たな演習用火災煙が発生している。

 

『イタリア被弾。第2砲塔大破、火災発生判定』

 

「よし!」

 

大和が右手の拳をうち振った。敵の主砲を1基潰したのは大きい。これで自身がぐっと有利になった。

 

『筑摩、4発被弾。第3・第4砲塔損傷、中破判定。摩耶被弾、艦首区画にて火災発生判定』

 

『摩耶』も奮戦しているようだ。

そこに9発の381㎜砲弾が降ってきた。弾着と同時に『大和』艦体が震える。

 

『大和、2発被弾。煙突並びにクレーン損傷判定』

 

「煙突か、やってくれる!」

 

「やられたらやり返します!第4斉射、てーっ!」

 

闘志の衰えを見せない大和。第4斉射では2発が命中し、『イタリア』後部に火災を生じさせた。続く第5斉射は艦中央部に命中し、『イタリア』右舷側の90㎜単装高角砲を全滅させている。さらに第6斉射で『イタリア』機関部の一部を破壊し、そしてついに第7斉射で勝敗が決まった。

 

『イタリア、3発被弾。射撃指揮所に被弾、大破判定。艦橋大破、艦橋要員総員戦死判定。機関及び推進軸損傷判定、出し得る速力6ノット。戦闘・航行不能判定』

 

事実上の撃沈である。この時までに『大和』も4発を被弾し、左舷の高角砲のうち4基と機銃多数が使用不能になった他、後部艦橋トップの予備射撃指揮所が全滅した。だが砲戦には打ち勝った。

 

『筑摩、2発被弾。缶室全滅、航行不能判定』

 

『こちら摩耶、筑摩を倒したぜ!ちょーっと喰らっちまったが、小破ってところだ、まだまだ戦える!次はどうするよ?』

 

「筑摩にイタリアがやられたんで、今大鳳たちの艦隊の防御力は一気に弱くなっている。この機を逃すな。

この様子ならこっちは大丈夫そうだ、思いっきり暴れてこい!」

 

『提督、お前ならそう言うと思ったぜ!了解だ、取舵90度、前進いっぱい!突撃だぁ!』

 

『こちら初霜です。目標、雲龍型空母!魚雷発射します!』

 

『こちら雪風、初霜に続いて魚雷発射!雪風は、沈みませんっ!』

 

『矢矧、4発被弾。火災発生、13号対空電探故障、空中線喪失につき無線交信不能判定。電力回路一部断絶、探照灯使用不能。ただいままでに被弾せる砲弾34発、中破判定。

秋月、2発被弾。機関損傷、第4砲塔全滅。出し得る速力8ノット、大破判定』

 

えらく威勢の良い摩耶の声に続いて、駆逐艦たちから「魚雷発射」の報告が入る。矢矧からの報告がないと思ったら、どうやらまだ秋月型と撃ち合っているようだ。砲口径の大きさを活かして大破には追い込んだようだが、自身もボコボコに撃たれて中破してしまったらしい。

 

「大和、ここの艦隊の護衛には島風がいる。彼女の雷撃能力は脅威だ、それだけ気を付けろ」

 

「了解しました。主砲は誰を狙いますか?」

 

「んーと......大和、あの煙幕の中に敵艦はいそうか?」

 

「煙幕?」

 

神谷が窓の外を見た。双眼鏡を使うまでもなく、一部の海面が黒い煙で覆われているのが見える。確かに煙幕だ。

 

「お待ちください。艦長より電測、左前方の煙幕に中型以上の反応はありますか?」

 

「確認します!」

 

妖精の1人がレーダー本体の画面を見詰める。この画面だが、なんとオシロスコープのように不規則な波線がうごめいているだけだ。一色や川山はもちろん、堺や神谷にも読めない。

だが、プロのレーダー手である妖精には読み取れた。

 

「電測より艦橋、煙幕内に大型反応あり!数1!」

 

「大型?」

 

「いかん、大鳳だ!あいつ、煙幕に隠れて逃げようとしてやがる!」

 

その一言で、大和の顔色が一気に切り替わる。

 

「狙いますか!?」

 

「当然だ、撃沈をもぎ取れ!あいつ空母としては頑丈なんだ、魚雷でも1本じゃ難しい。だがさすがに46㎝砲には耐えられん!」

 

「了解。艦長より電測、射撃指揮所に電探諸元を送ってください!

艦長より砲術、主砲左砲戦、電探射撃用意!相手は煙幕に隠れているから光学照準射撃が使えません、電探射撃でいきます。射撃諸元は送信されたデータを参照せよ!」

 

『天城、魚雷3本被弾。航空燃料庫誘爆、舵故障、航行不能判定』

 

『こちら初霜、やりました!雪風ちゃんと共に、敵空母1隻撃沈です!まだ雲龍型が1隻残っています、これより狙いにいきます!』

 

「提督より初霜、了解。幸運な2人とはいえ、気を付けていけよ!」

 

『長良、2発被弾。機関並びに推進軸損傷、艦橋大破、航行不能判定』

 

『こちら摩耶!くそぅ、長良を倒してこれから空母を殺ろうってのに利根が残ってやがった!これより交戦する!あと大鳳が煙幕張って逃げようとしてるぞ、どうすんだ!?』

 

撃沈報告が続々と入ってくる。これを聞いていた神谷は、不意に呟いた。

 

「チェックメイト、だな」

 

神谷の第六感がそう告げる。第六感というと語弊があるが、神谷は感覚的に戦場を見る事が出来る。肌で空気を感じれば、戦いの流れや相手の動きがある程度予測できるのだ。

 

「勝ったのか?」

 

「健太郎、戦場ってのは最後の最後まで分からん。選挙と同じだ」

 

壊滅的にまで軍事に疎い一色にも分かりやすいよう、選挙を例えとして使った事ですんなり理解してくれた。そんな会話を他所に、戦場は進んでいく。

 

「提督より摩耶、大鳳はこっちで何とかする。利根を任せた」

 

『摩耶了解!利根サンよ、久々にサシで勝負といこうじゃねえか!』

 

『見張より艦橋、左舷後方より駆逐艦3隻急速接近!艦種は特型駆逐艦と推定!』

 

「高角砲、全門射撃!目標、接近せる駆逐艦1番艦!各個撃ち方!」

 

一色と川山は、あまりにめまぐるしく変わる戦況を前に理解が追い付かなくなりつつあった。無論、神谷は付いてくるどころか独自に堺と相手がどう動くか、目隠しチェスの様にシュミレートしている。

 

「電測より艦橋、諸元算出しました!敵針路25度、距離ヒトハチマル、速力29ノット!予想針路も含めて射撃指揮所に伝達します!」

 

『砲術より艦橋、射撃諸元受け取りました!入力開始します、主砲左旋回!』

 

左後方から向かってくる特型駆逐艦たちに向けて高角砲群が応戦する中、さっきまで『Italia』と撃ち合っていた第1・第2主砲が、ゆっくりと動いた。左側方を睨んでいた砲身が、大蛇が首をもたげるようにゆっくり左前方へと砲口を向ける。

 

「交互撃ち、いえ、一斉撃ち方、用意!」

 

「大和、やれるのか?」

 

大和の号令を聴いて、堺が振り返った。 これには神谷も驚く。いきなりの一斉射は、結構な大博打だ。

 

「お任せを」

 

だが、仮に自分が大和や堺の立場で、尚且つ乗組員の練度に絶対の自信があれば同じ判断を下すだろう。

 

「.......分かった、頼む」

 

『諸元入力良し。徹甲演習弾装填良し。照準良し!第1・第2主砲、射撃用意良し!』

 

「一斉撃ち方、よーい!てーっ!」

 

新たな目標に向けて、46㎝砲が火を噴いた。その直後に通信が飛び込んでくる。

 

『こちら初霜、由良さんやリベちゃんとぶつかってしまいました.......。敢闘虚しく大破.......。これ以上の戦闘継続は不可能です!』

 

『初霜、機関損傷、第1・第3砲塔損傷。出し得る速力2ノット、大破判定』

 

『でも.......時間は、稼ぎました!お願い、します!』

 

血を吐くような、という表現がぴったりの初霜の苦しげな口調。空母への雷撃、という任務は果たせなくなったようだ。

しかし、希望はちゃんと託されていた。

 

『初霜ちゃんに託されたから、ぜったい、やってみせますっ!

目標、空母!雪風、魚雷発射ぁーっ!!』

 

今、全てを賭けた「豪運の駆逐艦」の一撃が解き放たれた。

 

『だんちゃーく、今っ!』

 

忘れた頃に46㎝砲弾が落下する。煙幕に遮られて水柱が見えないが、果たしてどうなったのか。

 

「………?電測より艦橋、大型反応が急激に速度を落としています!」

 

レーダー手妖精が首を傾げて報告した時、判定アナウンスが入った。

 

『大鳳、2発被弾。46㎝砲弾により航空魚雷誘爆、さらに航空爆弾・航空燃料誘爆。轟沈判定』

 

「よっしゃあ!」

 

「スゲー。よう当てたなぁ、おい」

 

堺が拳を握り締め、神谷は単純にその練度の高さを称賛した。乗組員の練度の高さ、それを信じる指揮官。スペックとしても、艦の魂としても、この艦は最強の名に恥じない戦艦だ。

 

「初弾命中とはやるな!さすが大和!」

 

「提督、私を誰だと思っておいでですか?私はタウイタウイ最強の戦艦ですよ?」

 

『葛城、魚雷5本被弾。左舷傾斜40度、注排水ポンプ故障、浸水多量につき対処不能。轟沈判定』

 

どうやら『雪風』のスナイプ雷撃も決まったようだ

 

『演習終了。大鳳、雲龍、天城、葛城、いずれも轟沈又は航行不能につき、艦載機運用不能。一方で、大和は生存。以上により、本演習は大和陣営の勝利です』

 

それが、演習の終了を告げる合図となった。

 

 

「本日は1日お疲れ様でした。当泊地は如何でしたでしょうか?」

 

演習終了後、応接セットのソファーに腰かけた3人に堺がそう聞いてきた。まずは神谷が真っ先にその質問に答える。

 

「艦娘達はもちろん、1世紀以上前の兵器も見ることができたので、非常に面白かったです」

 

「神谷さんは軍事の専門家ですからね。当泊地は一昔前の兵器の見本市のようなものだったのではありませんか?」

 

「全くその通りです。ただ、ところどころ我が軍のそれにも匹敵する兵器があったのが興味深いですね。試験中だったあの対潜誘導魚雷とか、四三式弾とか」

 

「ああ、確かに」

 

「正直なところ、お宅の釧路さんを技術者としてうちにスカウトしたいくらいです」

 

「それをやられると我々が生き残れなくなるので、さすがにご勘弁願います」

 

流石に釧路のスカウトはダメらしい。ガチトーンで断ってきた。まあ予想通りではあるし、別に何が何でも手に入れるつもりもないので問題はない。惜しいのは惜しいが。

 

「私は艦娘と会えてとても楽しかったですよ。技術の進む先も見えましたし、とても有意義でした」

 

「一国の総理にそこまで言っていただけるとは、光栄の至りです」

 

「いや、私にとっても驚愕するものが少なからずありましたからね。特にあの波動治療装置、あれを導入すれば我が国の医療が大きく進歩することは間違いないでしょう。あれの導入を見送らざるを得ないのが残念です」

 

「あんなのが導入された瞬間、貴国の医師や看護師は軒並みお役御免になってしまいますからね。外交に大きな悪影響が出そうだったので、申し訳ありませんがやむを得ませんでした」

 

だが、別に「作らないでください」とは言われてない。今後の研究の道標代わりにはなるので、こっちで勝手に作ってしまえば問題はない。医療関係者のお役御免問題は、その時にでも考えれば良い。

 

「普段ゲームの中でしか見られない艦娘たちと触れ合えたことは、本当に楽しい限りでした。次はプライベートで来たいですね、良い海水浴場もあるようですし」

 

「ほう、それはそれは」

 

その時、一色と神谷が川山の肩を掴んだ。ガッシリと、逃げられないように。2人の顔は悪い顔が浮かんでいる。

 

「慎太郎」

 

「な、何だ健太郎?」

 

「そのプライベート旅行、俺らも連れてけ」

 

「は!?」

 

「でなきゃ、嫁にあの件通報だ。感じたんだろう?背中に、アイオワのアレを」

 

神谷が叩き込んだ爆弾に、川山の顔が一気に青くなった。それこそアニメでしか見れないであろう位に見事なものである。

 

「ちょ、まっ!?あれ通報する気かよ!?」

 

「さあ、どうする?」

 

「喜んでお前らも連れていきます。だから通報しないでくださいお願いします!通報なんかされたら家庭内戦争になる!俺死んじゃう!」

 

必死に懇願する川山。それを見てニヤニヤ笑っている一色に、堺が尋ねた。

 

「あの川山さんがここまで狼狽するとは、どうしたんです?」

 

「実は、川山の嫁が動画配信とかやっておりまして。しかも彼女のチャンネルは、登録者数ウン百万の有名チャンネルなんです」

 

「あー.......そりゃ通報されたらおしまいだ。格好のスキャンダルとして大炎上待った無しでしょうね」

 

実際にどうなるかと言うと、最悪の場合、ファンが暴動を起こしネットは大炎上する。 堺の考えた通りである。

 

「皆様にはたいへんお喜びいただけたようで、私としても何よりです。

そこで、そんなあなた方に重大なお知らせです」

 

「ほう、何でしょうか?」

 

「今日の午後に、艦娘たちがどんな訓練をしているかを見学いただいた訳ですが、訓練の種類は他にもあるんですよ。例えば体育訓練、これは普通に学生が体育の時間にやるようなものですね。あるいは座学などもあります。

そして……それらの訓練科目の中に、あるんですよ。そう、『水泳訓練』が!」

 

堺が放った『水泳訓練』という単語に、神谷がすごい勢いで食いついた。

 

「マジですか!?」

 

「マジです」

 

「Fooooooo!」

 

水泳訓練ということはつまり、艦娘の水着姿を見られるわけで……後はお察しである。当然ながら、一色も川山も興奮状態である。

.......あ、もしもし三英傑の嫁達?うん、そう。今すぐタウイタウイ泊地に行くと良いよ。

 

「水泳訓練、ってことは!」

 

「どっちだ!?ゴーヤのいう『提督指定』か、それとも限定グラか!?」

 

いつもは3人の内、誰かがツッコミ役として必ず残る。だが今回は全員フルマックスで興奮して、ツッコミ役不在の為、収拾がつかないのだ。

 

「どっちになるかは運次第ですね。それと川山さん、興奮されてるところすみませんが」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「貴国の観光客が来るようになってからというもの、うちの子たちの間でも海外旅行の希望が起こりまして。そこでうちの子たちに、貴国のパスポートの積極的発行をお願いしたいのですが.......」

 

「全力で善処します!!」

 

「何なら法令捻じ曲げて、パスポート無しにしてやります!!」

 

「その計画を邪魔する奴は、全員血祭りに上げてやる!!存分にやろう、というかやれ!!!!」

 

一切のためらいもなく川山はものすごく良い笑顔で言い切り、一色はガチの顔で言いのけて、神谷に至っては暗い笑みを浮かべている。思ってた数段上のリアクションに、逆に堺の方が気圧されてしまう。

 

「お、おう、よろしくお願いします」

 

こうして三英傑のタウイタウイ訪問が終わった。

ちなみに泊地司令部を出る時、4人は気付いた。出入口付近の掲示板に、『青葉新報 号外』と書かれた大きな紙がべたりと貼り付けてある。そこには、大日本皇国主催の観艦式に招かれたことが書かれていた。

 

「アイツ仕事早すぎんだろ.......」

 

「なぁ、青葉借りれたら、政敵のスキャンダル持ってこれるんじゃね?」

 

「という訳で堺さん、青葉さんを半年くらい借りても良いですか?」

 

「ダメです」

 

神谷の提案した青葉を借りて政敵のスキャンダル握ろう計画は、一色の健闘虚しく不発に終わった。3人は『延空』に乗り込み、タウイタウイ泊地を後にする。



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特別編9 合同特別大演習観艦式

2ヶ月後 二国合同特別大演習観艦式当日 横須賀

「あー、いよいよ当日か」

 

「長かった.......マジで長かった.......」

 

「浩三、死にかけてたもんな」

 

タウイタウイ泊地から帰還してから、早2ヶ月。この2ヶ月間、観艦式に向けての会談が幾度となく繰り返された。タウイタウイには皇国の担当官が向かい、逆に皇国には艦娘がやって来た。撮影班がタウイタウイに向かって観艦式の宣伝PVを作る為の撮影も行われたし、例によって神谷が精神崩壊したりしてした。

だがそんな努力の成果として、この観艦式はこれまでに無い物凄い規模となった。通常の観艦式は艦艇の見学があったり、市内行進や音楽隊による演奏がある。後は出店も出る。だが今回、やる事自体はいつも通りなのだがタウイタウイ泊地全面協力の結果、観艦式とは思えない大規模な物になったのである。例えば艦娘のライブがあったり、出店も艦娘達の物があったりとオタクが泣いて喜ぶ祭典になったのだ。

 

「三英傑の皆さん、お待たせしました」

 

そして今からは、開会式前の会場の最終確認、という名目で天皇陛下の散策が行われる。参加者は天皇陛下、三英傑&向上、そして堺である。

一行は開会式が行われるステージを抜けて、出店のある通りへと入っていく。既に各出店は仕込みに入っており、いい匂いも立ち込めている。

 

「ほう、あれは面白そうな店だ」

 

「『甘味くじ』ですか。って、これうちの子たちの店じゃないか.......」

 

タウイタウイ側の出店の1つ『甘味くじ』である。1回500円でガラガラくじを回し、出た玉の色に応じて景品として艦娘手作りのスイーツが当たる、という代物らしい。看板では「外れ無し」を謳っている。

そして景品は、こんな感じ

 

・Commandant Testeお手製マカロン12個セット

・Warspite秘伝のレシピ アップルパイ1枚

・「不死鳥」のように昔からあるパンだよ バランカ5個セット

・Italia手作り マリトッツォ1個

・Iowaのバニラアイス1個(バケツサイズ)

・Graf Zeppelinの熟練技が光る! バウムクーヘン1個

・艦娘たちにも大人気 間宮の羊羮1本

 

普通にどれも美味そう、というか艦これユーザーからしてみれば全部制覇したい代物である。

 

「いらっしゃいませー…あっ、しれぇ!」

 

店番をしていた雪風が、堺に気付いて手を振る。まるで近所の常連客のおじさんと、幼い看板娘である。

 

「おう雪風。もうやり始めてんのか?」

 

「はい!1つ引いていきますか?」

 

「では私もやらせてもらおう」

 

「おい浩三、どうする?せっかくだしやってくか?」

 

「それじゃそうしようかな」

 

なんか引く雰囲気になったので、全員で1回ずつ回す事にした。まずは天皇陛下。出た玉は金色である。つまり、いきなり当たり引いたのだ。

 

「おめでとうございます!J賞、間宮の羊羮1本プレゼントです!」

 

因みに天皇陛下、羊羹は大好物なので狙ってた物が羊羹だったりする。

 

「陛下がいきなり当てた?」

 

「よし、そうとなれば俺も!」

 

意気込んでくじマシンに手をかけた神谷。玉は白。当たったのは、アイオワのバニラアイスである。

 

「お待たせー。A賞の、アイオワさんのバニラアイスだよー」

 

そう言いながら時津風が出してきたのは、バケツサイズのアイスクリームだった。

 

「ゑ.......?」

 

一瞬、大元のアイスを取り出したのかと思った。このバケツアイスから、あのでかいスプーンみたいなので掬って渡すのかと。だがどうやら、これが1人前らしい。

因みにバケツは、あの高速修復剤のバケツである。しっかり「修復」と大きく書かれている。

 

「ハハハ、おい浩三、何固まってんだよ」

 

「いや、これどうやって食べろと.......?」

 

「そのまま食えばいいだろ」

 

台の前で「これ絶対、糖尿なるぞ」とか何とかボソボソ言ってる神谷を押し除けて、今度は一色が回す。出たのは黒。

 

「こちらD賞の賞品、グラーフさんのバウムクーヘンよ!」

 

ケーキ屋でよく見かけるような白い箱が天津風から手渡された。一部がセロハンのような透明な素材でできており、そこから木の年輪に似た美しい丸い模様が見える。

 

「バウムクーヘンを自作か!?いい腕してるな」

 

「ん、何か知ってんのか慎太郎?」

 

「そりゃあ、こちとらヨーロッパにはよく行ってたんだからな。バウムクーヘンは、焼こうとすると特殊な構造の焼き窯が必要になるし、綺麗に焼き上げるには熟練の技が要るんだ。こんなに綺麗な焼き目となると、これはかなりの腕だぜ」

 

バウムクーヘンは筒状の物体に、上から生地を掛けながら焼いて作る。一応作ろうと思えば家でも作れるらしいし、キャンプなんかで作るという人もいるが、お店の様に綺麗には作れない。だがこのバウムクーヘン、川山曰く「ヨーロッパの一流店並み」の出来栄えらしい。

 

「そんじゃ、次は俺か。どれどれ…」

 

次は川山。出てきたのは青。

 

「こちら、B賞の賞品。ウォースパイトさんのアップルパイよ」

 

「おっ、ありがとう。こいつは当たりだな」

 

だが神谷、ここで何故かニヤニヤしながら川山の肩を叩いた。その笑みは、完全に人の不幸を嘲笑う時のソレである。

 

「おいおい慎太郎、そんなメニューで大丈夫か?イギリスのパイなんだろ?」

 

「何だ浩三、スターゲイジーパイでも連想してんのか?イギリスのパイでも、アップルパイは当たりだぞ、旨いんだ。何なら、アップルパイはアメリカのお菓子ってイメージが強いけど、元はイギリスのお菓子なんだからな」

 

どうやらハズレではなく、当たり枠だったらしい。横で「なんでスターゲイジーパイとかハギスとか鰻のゼリー寄せにしねぇんだよ」とか言ってる神谷を尻目に、今度は向上が引く。出たのは緑。

 

「I賞ですね.......。お待たせしました、イタリアさんお手製のマリトッツォです!」

 

「ほう、マリトッツォか。本場のイタリアじゃ、これの上に指輪を乗せてプロポーズしたりするらしいから、やってみたらどうだ?お前確か付き合ってる人いただろ?」

 

「え、本当ですか川山さん?」

 

「ああ、マジだ」

 

「それじゃ、ちょっと頑張ってみようかな」

 

最後に堺がマシンの前に立った。何か念じてから、ガラガラくじを回す堺。出てきた玉の色は白。と、いうことは。

 

「しれぇ、頑張って食べてくださいね!」

 

雪風が満面の笑みと共に差し出した高速修復材のバケツを前に、堺はしばし立ち尽くす羽目になった。そんな彼の肩に、神谷がポンと手を置いて、いい笑顔で一言。

 

「Welcome to this side.」

 

「Noooooooooooo!!!!」

 

てれててー、てー、ててーて、ててーて……。

 

なんか何処ぞのスターウォーズやってる2人置いといて、幾つか出店を周る。そうこうしていると開会の時間になってきたので、一行は貴賓席へと戻った。

安定の堅苦しい挨拶を終えて、ここからは基本的に自由時間である。さっきまで開会式が行われていたステージは、すぐにコンサートステージに早変わり。那珂ちゃんがトップバッターとして、持ち曲の『恋の2-4-11』を歌う。

 

「それじゃあみんな、いっくよー☆『恋の2-4-11』!」

 

次の瞬間、ハッピとハチマキ(オタク軍制服)に身を包んだオタク共(提督s)うちわやタオル(指揮棒)を持って踊り狂う。もう完全にライブハウスである。

その裏で神谷と堺を筆頭とした、観艦式の主催陣の中でも実際に艦艇を動かす人間が集まって色々最終チェックを行なっていた。流石にこっちは映しても面白く無いので、まずは彼女達の様子をお届けしよう。

 

「久しぶりねぇ〜。こうやって姉妹水入らずで過ごすのは」

 

「いつもは浩くんもいるもんね」

 

「少し淋しいですね。浩三さん、今は会議中なのでしょう?」

 

「浩三は艦隊を動かす立場だからな。仕方あるまい」

 

「でも、どうやら朝に回ってたみたいよ?何かデカい景品持って帰ってきてたもの」

 

そう言いながら回るのは、神谷の妻達。『白亜のワルキューレ』こと、エルフ五等分の花嫁である。後から白亜衆の訓練展示があるのだが、今は神谷の命令で、兵士全員出店を回っている。

というのも「どうせいつもと同じ内容でやるから、別に待機しなくていい。というか寧ろ、こんな事滅多にないから楽しんでこい!!」という命令を出してくれたので、一応の警備要員を残して兵士達は羽を伸ばしている。

 

「あ、なんかあるよ!」

 

「甘味くじ?」

 

「どんなのかしらね?」

 

「.......どうやらガラガラを引いて、出てきた玉の色で商品が貰えるみたいだな」

 

「しかもハズレ無しですよこれ!」

 

エルフ五等分の花嫁、まずは甘味くじに挑戦である。まあまあ並んでるいるが、15分程で順番が来た。

 

「まずは私ね!」

 

ヘルミーナが引いたのは赤。赤は何かと言うと…

 

「はい!F賞の賞品、コマンダン・テストお手製マカロン12個セットです!」

 

そう言いながら雪風が、ケーキ屋の箱の様な物を渡してきた。中を確認するとカラフルなマカロンが入っており、インスタにあげれば映える事間違い無しである。

 

「次は私だな」

 

次はアナスタシア。出てきた玉の色は青。

 

「はい。こちらB賞の賞品、ウォースパイトさんのアップルパイよ」

 

「アップルパイか。紅茶が欲しくなるな」

 

「次は私ですね」

 

次はミーシャ。出てきたのは白。という事は…

 

「よっと。A賞の、アイオワさんのバニラアイスだよー」

 

「で、デカ!」

 

この甘味くじのネタ枠、アイオワのバケツアイスである。

 

「うわぁ!食べがいがあります!!」

 

「え、これ食べれるの.......?」

 

「はい!」

 

「アンタの胃袋はどうなってんのよ.......」

 

エリスが呆れるのも無理はない。普通に常人が食べれば確実に腹を壊すし、何より一回で食べ切れる量ではない。だがミーシャ、食い意地が化け物レベルなので食べれるのだ。因みに、他の姉妹はまず轟沈するだろう。

 

「次は私だねー」

 

次はレイチェル。出てきたのは黄色。

 

「S賞だねー。はーい、「不死鳥」のように昔からあるパンだよ バランカ5個セットだよー」

 

時津風がドーナツの様に真ん中に穴が空いた、謎のパンの様なお菓子を持ってきた。これを見た瞬間、レイチェルは分かった。

 

「これ、スーシュカじゃん!」

 

レイチェルは良い感じに神谷のオタクが移りゲーム、アニメ、漫画とサブカル大好きっ子に進化した。このスーシュカはゴールデンカムイのロシア編で鯉登少尉殿が食べていたお菓子で、バランカをしっかり乾燥させた物がスーシュカなのである。その為、ここまで大興奮なのだ。

 

「最後は私ね」

 

最後はエリス。出てきたのは金。

 

「おめでとうございます!J賞、間宮の羊羹です!」

 

事実上の一等賞、間宮の羊羹である。タウイタウイ泊地でも大人気の間宮羊羹、その為このくじでも20本しか用意できてない激レア品なのだ。スイーツをゲットしたエルフ五等分の花嫁は、また別の出店へと繰り出した。

そして突然だが、実はこのイベント、外国からも客が来ている。勿論タウイタウイ泊地の艦娘とかではなく、普通の外国人観光客である。と、いう訳で、次はこの方の目線でこの観艦式の出店の模様をお届けしよう。

 

「おぉ!!艦娘だ、艦娘が動いている!!!!」

 

えー恐らく原作キャラで1番登場頻度の高い、現在本編では現地部隊と皇国のパイプ役をやっているムーの技術士官。そして神谷の盟友にして、皇国のサブカルオタク。マイラスである。

 

「うおぉぉ!!ライブもやるのか!!!!これは聞かなくては!!!!!!!」

 

知っての通りマイラスはパ皇との戦争で観戦武官として来日し、何だかんだでムーに艦これとアズールレーンを広げた男である。その為、軍人以外にも大日本皇国サブカルチャー振興審議会 特別客員顧問、艦隊これくしょんムー提督の会『紺碧会』 親衛総隊長、アズールレーン布教委員会 会長を務めている。平たく言うとサブカルチャーの布教に力を入れまくっていて、艦これとアズレンの布教には特に力を入れまくっている、という事である。

 

「いやー、神谷さんが情報くれて良かったぁ。やっぱり持つべき者は、オタクの同志だなぁ」

 

今回の観艦式の情報は、神谷がマイラスに電話で伝えたのである。本当は今日は会議があったのだが、権力と功績を使って無理矢理休みを捩じ込んで、皇国に来たのだ。それに今回はタウイタウイ側が兵器を展示してたりするので、それを山車に使って「ちょっと兵器の資料集めしてきます!」と言えば、上も何とも言えない。

 

「さてまずは.......。おぉ、艦娘のやるレストランがあるのか!これは行かなくては!!」

 

ライブの開始まで時間があるので、まずは少し早い昼食を取る事にした。向かったのは艦娘がレストランをやっている出店『レストラン タウイタウイ』である。

 

「いらっしゃいませー」

 

「ふぐぅ!」

 

出迎えてくれたのは何と鈴谷であった。しかも格好がブレザーではなく、しっかりメイドの格好をしていた。

 

「んー?お客さん、どうかしたの?」

 

「いや、何でもないです.......」

 

軽く血を吐き散らかすレベルで尊死しかけるが、大丈夫だ問題ない。

 

「こちらへどうぞ」

 

席に案内されると、メニューを渡された。メニューの方も艦これ、もしくは旧海軍に関係するメニューばかりであった。海軍カレーは勿論、竜田揚げ、イワシ団子、卵焼き、オムライスとコンソメスープのセット等々。見る人が見れば、一目で元ネタが分かるだろう。

 

「あ、すみませーん」

 

「はーい。ご注文は?」

 

今度は現在アニメでも大活躍中の矢矧が来た。尊死しかけるが、もう慣れた。尊死するのは織り込み済みである。

 

「この大和のオムライスセットと、龍田の竜田揚げください」

 

「はい。少々お待ちください」

 

暫くすると頼んでた物が来た。元ネタはお分かりだろうが、味も最高だった。オムライスは卵フワフワ、竜田揚げはサクサク、本当に美味しかった。

この後は展示されてる兵器群を申し訳程度に撮影し、甘味くじやったり、お土産買ったり、ライブで踊り狂ったりしてると、観艦式のメインイベントである艦隊行動演習が始まった。解説アナウンスは堺が担当しており、三英傑と天皇陛下は総旗艦である『日ノ本』の艦内で様子を見ていた。

 

「浩三くん、やはり君は見ただけで名前が分かるのかね?」

 

「流石に単艦の見分けは付きませんけど、少なくとも型式は分かりますよ。大和型とか吹雪型とか」

 

「俺は全く見分けつかんぞ」

 

「俺もだ」

 

神谷が解説を挟みながら、艦娘達による艦隊行動演習を見学していた。だが最後に、向こうはトンデモない兵器をぶっ込んできやがったのである。

 

『フライホイール、接続!点火ぁ!ヤマト発進!』

 

なんと海中から、あの宇宙戦艦ヤマトが出て来たのである。海を突き破って大空へ飛び立って行く。

 

「「「「ヤマトだぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」」」

 

天皇陛下も三英傑も、同時に叫んだ。最後の最後にエグいのをぶっ込んで来たが、今度はこちらの番となる。なんか今から動かしても見た目負けする気しかしないが、もうそこは仕方がない。

因みに今回の観閲艦は『日ノ本』『熱田』『赤城』である。

 

「なんかまあ、見た目負け感凄いけど俺達もやるぞー」

 

第一受閲艦隊がやって来た。第一受閲艦隊には駆逐艦『神風』『旗風』『吹雪』『白露』『磯風』『北風』『早雲』『夕立』の駆逐隊がやって来た。

 

「あれは確か右のが神風型、左のが浦風型、で合っていたかな?」

 

「仰る通りで御座います。主力艦隊から1隻ずつ出してもらっております」

 

「こうやってみると、スッキリしてるよなぁ。今の.......駆逐艦?菊地艦?」

 

お約束、一色の名前間違い発生である。菊地って誰だと思うかもしれないが、特に意味はないしいつもの事なのでスルーする。

第二受閲艦隊には摩耶型8隻、続く第三受閲艦隊は突撃戦隊、第四受閲艦隊には潜水艦隊が通過していく。

 

「あれはたしか、前回の観艦式でも見た潜水艦だったね。確か空母機能があるとか」

 

「その通りで御座います。あの艦隊に所属する艦艇は全て、潜水艦でありながら潜水艦には似つかない兵器を搭載した艦艇。どの艦隊も先の戦争に於いて、類稀なる活躍をしております」

 

「その活躍って何だ?」

 

「あー、そういやお前ら知らんのか。前に話した海域封鎖作戦、アレを担当した艦隊があの潜水艦隊だ。神出鬼没の航空攻撃と砲撃。向こうの船乗りからすりゃ、地獄だっただろうよ」

 

グラ・バルカス帝国との戦争の際、潜水艦隊はその隠密性と攻撃能力を生かして、海域や沿岸部を封鎖する作戦を展開していた。輸送船だろうが戦艦含む主力艦隊だろうが、通過する艦艇は悉くが沈められる魔の海域。そんな地獄を作り出していたのである。

この頃になると、空に受閲航空隊もやって来た。まずはSH13海鳥とAS5海猫の編隊。その次はPUS3三式大艇、E3鷲目、P1泉州。更にF8震電II、F9心神、A9ストライク心神と言った戦闘機が続く。

 

「おぉ、あれは確か富嶽II。あんなにも大きいのだね」

 

「えぇ。特殊戦術打撃隊の航空機を除けば、富嶽IIこそが最も巨大な航空機ですからね。機関砲を多数搭載した重装甲の前には、普通の航空機では近付く事すら出来ません」

 

「その後ろの機体は何だね?」

 

「AC180迅雷。200mm砲を装備するガンシップです」

 

編隊は更に続く。特殊戦術打撃隊のA10彗星II、ADFシリーズ、そしてF8CZ震電IIタイプ・極。最後に特殊戦術打撃隊の空中母機『白鳳』、空中空母『白鮫』と支援プラットフォーム『黒鮫』、機動空中要塞『鳳凰』が続いた。

海上では空母と揚陸艦で構成される第五受閲艦隊が続き、戦艦で構成される第六受閲艦隊も続く。最後に熱田型と赤城型で構成される第七受閲艦隊が続き、次は訓練展示に入る。ミサイル撃ったり、一斉回頭したり、主砲撃ったり、艦載機発艦させたりしている。そんな時、天皇陛下は神谷にこんな事を頼んできた。

 

「なぁ神谷くん」

 

「何でしょう、陛下」

 

「宇宙戦艦ヤマトって、乗れないかなぁ?」

 

天皇を除く、艦橋にいた全員の時が止まった。『日ノ本』の艦橋要員、三英傑、天皇の随行員、全員である。

 

「.......ちょ、ちょっとタイム!!」

 

一色がいち早く現実に戻り、三英傑を集めて緊急会議を開く。

 

「(おーい、これできるの!?)」

 

「(軍に最も疎い俺に聞くか!?えぇ!軍事のプロさんよ!!)」

 

「(全く、陛下は子供心忘れてないお方なのは知ってるが、今だけは捨てて欲しかった!)」

 

まさかの発言により、三英傑パニックである。取り敢えず話し合いの末、ダメ元で通信を送ってみる事にした。別にこれで断られても、天皇陛下が残念がるだけなので減るものは無い。向こうも天皇陛下の頼みと言われれば、責める事は出来ないから外交的にも問題なし。という訳で送ってみたのだが…

 

「あー、艦長。『貴軍からの要請を受諾する』だそうです.......」

 

「申し訳ありません陛下、やはり無理だったそうで……え、嘘ぉ!?」

 

「マジかよ」

 

「堺さん、マジでウチの陛下がすみません」

 

まさかのOKであった。だが生憎と神谷はこの後、神谷戦闘団による訓練展示がある。一緒には行けない。なので天皇陛下とその随行員、そして一色と川山に頼んで行ってもらう事にした。一団を見送ると、神谷はそのまま『日ノ本』の後部格納庫に走る。

 

「あー、ヤマト乗りてー」

 

「到着早々それですか?お気持ちわかりますけど今は訓練展示に集中してください。というか、良いじゃないですかそっちは!乗れるんだから!私含め、他は乗れないんですからね!?」

 

「いやー、三英傑やってて良かった!」

 

「取り敢えず、背中に気を付けましょうか。手元狂って、そっちに510mm砲弾ぶっ放させるかもしれませんよ」

 

「それ模擬弾でもシャレにならんから、マジで普通にやめてくれ」

 

模擬弾だとしても、510mm砲弾のエネルギーはシャレにならない。普通に死体が跡形もなく消し飛んでしまう。

 

「そんじゃま、巫山戯るのはこの辺りで終いにして最終ブリーフィングを始めるか」

 

今回の演習の想定は単純明快。敵陣地の占領である。まず神谷戦闘団が先に地上で動き、演習の中盤で白亜衆と赤衣鉄砲隊がヘリボーンで降下。陣地に突撃し、占領する。因みに極帝も上空支援として出るが、神谷は魔法は使わない事になっている。

 

「…以上が流れとなります」

 

「いつも通りだな。そんじゃ、精々大暴れするとしようか!」

 

 

 

同時刻 仮設訓練場

『ただいまより、神谷戦闘団による戦闘訓練を開始致します。大きな音にご注意ください。

屋上で赤い旗を振っている隊員のいる建物をご覧ください。これより屋上のレンジャー隊員が敵の装備、兵力等を正確に把握する為、敵の陣地後方に侵入します』

 

屋上のレンジャー隊員が素早くグラップリングフックを引っ掛け、そのまま素早く下へと降下する。一応設定では後方にいるのだが、彼らの仕事はこれで終わりなので裏に退散して貰う。

 

『こちらレンジャー、敵兵力は歩兵60、戦車2、装甲車5、軽装甲車4、榴弾砲5、機関銃8』

 

『団長、了解。そのまま敵の動きを監視せよ』

 

続いて敵陣地の反対方向から偵察バイクが侵入し、ジャンプとドリフトとウィリーという簡単なアクロバットをキメて、そのままバイクを倒して43式小銃を撃って退場する。訓練展示ではお決まりのパターンである。

 

『こちら先遣隊。敵、防御陣地は強固!このまま突撃した場合、多大なる被害が出ると思われる』

 

『こちら団長、それなら破壊すれば問題なし。砲兵隊、前へ!敵を拠点ごとぶち抜け!!』

 

『砲兵隊、了解!拠点ごと滅します!!』

 

よくある訓練展示の無線の会話はカチカチしてるが、こと神谷戦闘団に限っては普通にいつもの様に話す。

そんな訳で今度は51式510mm自走砲とと44式230mm自走砲が出て来て、そのまま砲撃位置について素早く準備を整える。

 

『これより、自走砲による空砲射撃が行われます。大きな音にご注意ください』

 

このアナウンスの直後、轟音が鳴る。幾ら空砲と言えど、510mm砲の砲撃音は馬鹿でかい。

 

『こちらレンジャー!敵歩兵部隊は後退を開始!!』

 

『団長了解!機甲部隊、更に砲撃を加えよ!』

 

次は46式戦車と34式戦車改が現れた。隊列を組んで、砲撃を加えて行く。

 

ズドォン!ズドォン!

 

こちらも51式程では無いにしろ、それでもやはり爆音が鳴り響く。

 

『団長より歩兵部隊!この機を逃さず、突撃を開始せよ!!エイティシックスはこれを援護し、敵陣地の占領にかかれ!機甲部隊、砲兵隊は効力射を持って援護せよ!!』

 

次の瞬間、会場の周囲から歩兵の一団がジェットパックを使って空に舞い上がる。

 

『会場上空と海側をご覧下さい。これより歩兵部隊が空中と陸上に分かれて、敵陣地に突撃を開始致します』

 

一方の陸上では装甲歩兵を先頭に、敵陣地へと攻め込んでいく。更に後方からXMLT1土蜘蛛が飛び出し、その機動性を生かしてアクロバティックに動く。ただ、悪く言えば踊り狂う巨大な白いゴッキーである。

 

『こちら団長、これより敵陣地上空に降下する。合わせろ!!』

 

更にここで敵陣地の上空に、真っ白な突空と真っ黒で派手な突空が現れた。白亜衆の乗る機体である。

 

「降下開始!!」

 

『敵陣地上空をご覧下さい。AVC1突空が飛来しました。中から神谷浩三元帥が白亜衆と、白亜のワルキューレを。向上六郎大佐が赤衣鉄砲隊をそれぞれ率いて、敵陣地に降下していきます』

 

「そぉーら、極帝!出番だぞ!!」

 

「心得た、我が友よ!!」

 

ここに加えて極帝も登場し、会場は大興奮である。因みに極帝には流石に元の大きさになられると、色々不味いので大体20m位のワイバーンよりちょっと大きい位のサイズになって貰っている。

 

『会場上空に飛来しているのは、神谷団長が気合いで手懐けた竜神皇帝『極帝』です。この世の竜の王であり、神谷戦闘団の頼れる相棒、だそうです』

 

「人間共よ、我を見よ!!!!」

 

因みに極帝、何気に初お披露目であったりする。一応、その存在は何度かリークしてあるのだが、実際にその姿を公に見せるのは今回が初めてなのだ。そんな理由もあって、極帝さんテンションMAXであり炎を空に向かって吐くというアドリブまで加えやがった。

 

「なぁ!?!?」

 

「長官、これ後で始末書物ですよ.......」

 

「俺、長官だから書かねぇよ。ってか誰に出す訳?別に良いだろ!それにほら、国民の皆様も大喜びだし」

 

なんか職権濫用してるが、まあコイツだから仕方ない。それに別に被害も出てないし、謝る相手も居ないのだ。更に始末書を出す相手もいないのだから、問題にならないだろう。多分。

 

「おーし、それじゃお前達。よろしく」

 

最後に5人が魔法とか、武器の能力を見せて訓練展示は大盛況で終わった。神谷は突空に乗り込んで、そのままヤマトへと飛んだ。そして着陸させず、突空から艦上に直接飛び降りてヤマトに乗り込んだ。

 

「うおぉ!リアル・ショックカノン!!」

 

「やはり、飛び降りて来ましたか」

 

「大和さん!あー、今はヤマトさんとお呼びした方がいいのか?」

 

どうやらこういう風に来るのは事前に分かってたみたいで、ヤマトが既に後部甲板にて待っていてくれていた。しかも彼女の衣装はカラーリングこそ古代と同じ赤と白だが、デザイン自体は旧作の森雪の着てるスーツであるため、見た目がもう大変なことになっている。

 

(ちょちょちょその格好はイカンでしょ!?俺を心停止させる気かよ!?)

 

思わず死にかけた神谷だが、何とか気を取り直して彼女についていく。着いたところは、あの第一艦橋だった。

 

「大日本皇国の神谷浩三様が到着されました」

 

「了解、お疲れ様」

 

「うわぁヤベぇぇぇぇ!!本物の第一艦橋だぁぁぁぁ!!」

 

神谷、エレベーターを降りた時点でもうテンションがバグっている。艦橋をぐるりと見回し、天皇陛下の御前にも関わらずさらに興奮して叫ぶ。

 

「こ、これがマジの第一艦橋!こっちは相原と南部の席、これは徳川機関長の席、向こうが雪のレーダー席、そっちは艦長席!!これ本物だよな!?夢じゃねーよな!?」

 

「おーい浩三。陛下が目の前にいるんだが.......」

 

「諦めろ慎太郎、聴こえてねーよ」

 

川山と一色の会話すら耳に入らないらしい。オタクモード入った時の神谷は、そのフィジカルも合わさって暴走超特急化するので仕方ない。

 

「神谷長官、そろそろ現実にお戻りください」

 

「ああ堺司令って、陛下!?失礼しました!!」

 

現実世界にやっと帰還した神谷。と、ここである事を思い付いた。堺へと向き直り、何やら企んだ笑顔で話し出す。

 

「ああそうだ堺司令。1つ、話というかお願いがあるのですが.......」

 

「奇遇ですね、私からも神谷長官に1つ申し上げたき儀がございます」

 

どうやら堺も、話があるらしい。

 

「この後の波動砲発射パフォーマンス、ヤマトにも参加していただきたい!」

「この後の波動砲発射パフォーマンス、本艦も参加させたいのですが!」

 

堺と神谷はお互いに目を丸くした。その直後、第一艦橋内に笑い声が満ちた。堺と神谷は同時に噴き出し、川山は肩を震わせながら必死で口を押さえ、一色は腹を抱えて笑い転げている。ヤマトと天皇、それに他の随員までもが揃って苦笑していた。

 

「ハハッ。お見通しでしたか堺司令」

 

「ククク、そりゃあ分かりますって。神谷長官のオタクぶりを見たら、それくらいは想像できますよ」

 

ひとしきり笑った後、堺と神谷は意識を切り替えて打ち合わせを始めた。

 

「大日本皇国の軍艦に関しては、当初の予定通りに並んでいただきたい。本艦は空中に位置取りますので」

 

「了解。では発射命令は我が軍のやり方で良いですか?」

 

「そうしましょう、そっちの方が混乱が少ないです。

それから神谷長官に1つお願いがあります」

 

「何でしょう?」

 

「合図は私がやりますので.......神谷長官には、そこの戦闘指揮席に座って波動砲のトリガーを引いていただきたいのです」

 

一瞬、神谷の時は止まった。数秒後、思考が追い付き意味を理解した。つまり、波動砲のトリガーを引けちゃうのである。

 

「え.......?え!?つまり私に、ヤマトの波動砲を撃ってほしいと!?」

 

「そうです。よろしいでs」

「よっしゃやらせろくださいお願いします!!!」

 

「決断早いですねぇ、了解です」

 

目をキラキラさせながら食い気味に叫ぶ神谷と、苦笑する堺。ともかくこれで話は決まった。

 

「それじゃ、そろそろ準備にかかりましょうか。ヤマトは飛ぶ必要がありますし、今から準備すれば良い時間になるでしょう」

 

「承知しました。こちらは貴国の軍に合わせますので、全体的な指示をお願いします」

 

観艦式の最後を締めくくるイベント、それが大日本皇国海軍の主力艦による波動砲の一斉発射パフォーマンスである。元々は堺が「せっかくなので1つ派手なものを見てみたいです。国威発揚にもなるでしょうし」と注文したのを受けて、神谷が企画したものだった。

これに急遽、宇宙戦艦ヤマトを加えようというのである。神谷としては、この機会を逃すなど絶対にあり得なかった。せっかく波動砲" を名乗る砲が一堂に介するのだ、本家本元が参加しないなんてあり得ない、というわけである。

 

『それではこれより、本日の『軍観閲式』最後のイベント、波動砲一斉発射パフォーマンスの準備を行います。参加する軍艦は、我が皇国海軍が誇る艦隊旗艦級の戦艦クラスと空母クラス、それに我が皇国最強の戦艦たる『日ノ本』。そして、日本国のゲストから特別参加いただく『大和改二一九九』こと『宇宙戦艦ヤマト』です。我が海軍が誇る主力艦たちと、波動砲の本家本元たるヤマト、そのド迫力のコラボレーションをお楽しみください!』

 

神谷が会場にアナウンスを入れる傍ら、第一艦橋では号令が飛び交う。

 

「波動エンジン、エネルギー注入準備!微速前進0.5!」

 

「微速前進0.5、ようそろ!」

 

因みに今回、波動砲を撃つ皇国海軍の艦艇は総旗艦たる『日ノ本』を筆頭に熱田型から『熱田』『天之御影』『大山祇』『吉備津彦』。赤城型から『赤城』『加賀』『蒼龍』『飛龍』。大和型から『大和』『武蔵』『長門』『陸奥』の合計13隻が参加する。

 

「補助エンジン、第二戦速から第三戦速へ!波動エンジン、シリンダーへの閉鎖弁オープン!」

 

「波動エンジン点火10秒前!」

 

既に天皇は艦長席に案内されており、川山は索敵席、つまり森雪の席に。一色は太田の座る航法席に座っていた。随員たちはそれぞれ南部の砲術席と真田の応急処置席に案内されている。

ちなみに機関席には最初から機関長妖精が張り付いている。そりゃあそうだろう、この席ばかりは専門家が必要だ。

 

「神谷長官、そちらにどうぞ!」

 

「感謝します堺司令!」

 

神谷が案内されたのは、よりにもよって戦闘指揮席、つまり古代の席だった。

 

「5、4、3、2、1、0!フライホイール接続、点火!」

 

ヤマトの号令の直後、艦後方からジェットエンジンの咆哮を数十倍に大きくしたような轟音が聴こえてきた。そして、待望の瞬間が来る。

 

「ヤマト発進!」

 

「ヤマト、発進します!」

 

堺の号令をヤマトが復唱し、操縦捍をぐいっと引いた。離陸するジェット機の中にいるような感覚が、全員を襲う。一気に加速した『ヤマト』は、やがてふわりと宙に浮き上がった。水平線が視界の下方へと吹っ飛び、夕焼け色の空が正面に来る。

 

(((うおぉぉぉぉ生の「ヤマト発進!」きたぁぁぁぁぁ!!!)))

 

そして言うまでもなく、三英傑は全員テンションマックス状態である。

 

「右15度転換!」

 

「右、15度転換」

 

空に飛び上がった『ヤマト』は、少し面舵を切って右へと回頭していく。この時神谷は、この台詞をどこで聴いたか思い出した。聞き覚えのある台詞だったのである。

 

(やってくれるじゃねえか堺司令! 旧作1作目とその劇場版から持ってきやがったな!)

 

どうやら今回のヤマトは2199や2202の『BBY01宇宙戦艦ヤマト』ではなく、旧作の『宇宙戦艦ヤマト』らしい。

 

「マルチ隊形を取れ!」

 

「了解!」

 

ゆっくりと針路を変更し『ヤマト』は横一列に並んだ、大日本皇国の主力艦たちの真上に陣取る。

 

(マルチ隊形って懐かしすぎんだろ! 「さらば」まで織り混ぜてきたのかよ、俺の涙腺が壊れるじゃねーか!)

 

神谷、さっきから興奮しっぱなしである。その神谷に、通信席からヘッドホン型通信機を持ってきた堺が声をかけた。

 

「神谷長官、こちらは配置に着きました。既に艦隊との無線は繋いでありますので、指示をお願いします」

 

「ああ、分かった!」

 

やっと我に返った神谷は、1つ息を吐くと命令を下した。流石にここからは、いつもの冷静な指揮官にならなくてはならない。

 

「ただいまより、波動砲の一斉発射パフォーマンスを行う!全艦、波動砲発射用意!」

 

この号令が出た時には、既に会場の方の準備は粗方済んでいる。このパフォーマンスを見ようとしている観客たちに、特製の黒いゴーグルが配布されていたのだ。

波動砲発射時の閃光は、普通に失明しかねないほど強烈なものである。それを軽減するため、ゴーグルの配布が行われたのだ。

 

「神谷長官、すみませんが一度席をお立ちください。波動砲の照準を定めますので」

 

「ん、分かった」

 

堺に言われて、神谷は素直に席を譲った。そういえば波動砲発射時は発射トリガーを操縦捍にしていたな、と思い出す。

 

「再起動時に備えて、艦内電源を非常用に切り替え!」

 

「ヤマト、操艦をこっちに回してくれ(リクエスト・コントロール)

 

「了解。操艦を回します(ユーハヴコントロール)!」

 

受け取った(アイハヴコントロール)。照準を合わせる」

 

堺、かなりバタバタである。せり上がってきた拳銃形の波動砲発射トリガーを握りながら、さらに命令を出している。

 

「波動砲への回路開け!」

 

「回路開きます。非常弁全閉鎖、強制注入機作動!」

 

「強制注入機、作動を確認。安全装置解除。圧力、発射点へ上昇中、あとゼロ、2.......最終セーフティ解除!圧力、限界へ!」

 

発射フェイズが進行するに従って、艦橋には独特の音が響き始める。そう、波動砲にエネルギーが充填されていく時の、階段を上がるようにだんだん高くなっていくあの音である。

 

「エネルギー充填80%!」

 

「ターゲットスコープ、オープン!電影クロスゲージ、明度20!」

 

戦闘指揮席に、戦闘機の照準器を思わせるヘッドアップディスプレイが飛び出してくる。

 

「軸線に乗った!照準固定!」

 

堺が撃鉄を起こす。後は引き金を引けば、波動砲は発射される。すると堺は席を立った。

 

「神谷長官、どうぞ」

 

「ああ.......、感謝する!」

 

堺に代わって神谷が席についた。そのタイミングでヤマトが号令を下す。

 

「波動砲発射用意!総員、対ショック、対閃光防御!」

 

一瞬にして艦橋の窓に遮光フィルターが貼られた。同時に、艦橋内にいた面々は専用の黒いゴーグルを着用し始める。

 

「陛下、こちらを装着なさってください。これ以降、私が良いと言うまで外さないよう、くれぐれもお願いいたします」

 

「分かりました」

 

第一艦橋の後方では、堺が天皇と一色、川山にゴーグルを配布している。

 

「長官、失礼します」

 

「ありがとう」

 

戦闘指揮席に座り、発射トリガーに手をかけている神谷には、ヤマトが手ずからゴーグルを嵌めていた。

 

「エネルギー充填120%!」

 

その報告を受け、さらに艦橋内の全員がゴーグルを装着したことを確認したヤマトは、堺を振り返って報告した。

 

「波動砲、発射準備完了!」

 

「了解」

 

いつの間にやら通信席にスタンバイしていた堺が、無線機のスイッチを入れる。

 

「大日本皇国軍、戦艦『日ノ本』へ。こちらヤマト、そちらの準備はどうですか?」

 

『こちら宗谷です。大日本皇国軍代表全艦、波動砲発射準備完了しました。いつでもどうぞ』

 

「了解!こちらも神谷長官がトリガーを握りました。これよりカウントダウンに入ります!」

 

ついにこの刻が来た。高鳴る胸を抑えながら、神谷はトリガーを。堺は通信機を力強く握りしめて、声を張り上げる。

 

「最終カウントダウン!全艦、波動砲発射10秒前!」

 

合図は大日本皇国軍式に行うことになっている。これは混乱を避け、一斉発射を確実に決めるためだ。

 

「9!8!7!6!5!」

 

物音1つ立てるのも憚られるような重圧、一際甲高くなった波動エネルギーの充填音。

 

「4!3!2!1!」

 

「「「『発射!』」」」

 

無線機の向こうからその号令が届くと同時に、堺、ヤマト、神谷の号令が重なった。そしてカチッと音を立て、神谷がトリガーを引く。

次の瞬間、ピカッ! と青白い閃光が激しく光った。超新星爆発が目の前で起きたかと錯覚するほどの光量だ。そして、

 

ズドオォォォォォォン!!!!

 

10条以上もの青い光のビームが、水平線めがけて飛んでいった。夕陽の赤に波動砲の青が非常に映える。

素晴らしい見映えに、観客席からはこれまでで一番の歓声が上がる。そして盛況のうちに、軍観閲式は終幕を迎えた。

 

「あ、そうだ、せっかくの機会ですから記念撮影でもやりませんか? もちろん、堺司令とヤマトさんも交えて」

 

「私たちは構いませんが彼女が艤装から離れられないので、撮影するとしたらとりあえずこの艦の上ですね」

 

「なら、前部甲板にしましょうか。主砲と艦橋をバックにする形で」

 

ということで、軍観閲式が終わった直後『ヤマト』に乗り込んでいた面々は写真撮影することになった。ここで神谷が取り出したのが何と

 

「おまっ!?いつの間にそれを!」

 

「へへーん、ゲットしたぜ。向上をちょっとパシらせちまったけど」

 

「何やってんだよ浩三.......」

 

あの丸められるスマホである。軍観閲式の準備の時に、釧路にねだってゲットしたのだ。川山や一色ですら手に入れていないというのに、ある意味ズルである。しかも、ちゃんと基本的なアプリ類も入っているため、皇国内で普通に使える代物になっている。

 

「まま、固いことは言わずに.......」

 

「よし、後でコイツ締めよう」

 

「名案だな、乗った。陛下にすら献上してない物を勝手に持つとかねーしな」

 

「ちょ、待てお前ら!?」

 

さすがの神谷も、天皇陛下の名を出されては慌てるしかない。

その時突然、神谷、いや、その場にいた全員の背筋に凄まじいプレッシャーが走った。

 

「その辺にした方がよろしいのではないでしょうか?陛下の御前ですよ?」

 

そのプレッシャーを発しているのは、他ならぬ"ヤマト"である。何度も絶体絶命の危機を乗り越え、地球を救い続けてきただけあって、彼女のプレッシャーは半端ではなかった。というかぶっちゃけ、後ろに阿修羅と不動明王が見えた。

 

「「「アッハイ」」」

 

一瞬で大人しくなる三英傑。流石にバックに阿修羅と不動明王が居ては、逆らった瞬間死ぬ。

 

「分かればよろしいです。さあ、記念撮影といきましょうか」

 

ということで予定通り『ヤマト』の第一主砲の前で撮影となった。カメラは天皇の随員が持っていた一眼レフと、神谷のスマホである。随員の方に撮影してもらう形となった。

 

「それではいきますよ…はい!」

 

何度か同じ動作を繰り返し、2台合わせて10枚近い写真が撮られた。それが終わると、天皇は随員と共に退艦し、川山と一色もそれについていった。ヤマトも艦内の報告を聴きに行ったため、残ったのは神谷と堺である。『ヤマト』の艦橋を見上げながら、先に神谷が口を開いた。

 

「堺司令、改めてご参加いただきありがとうございました。艦娘たちと交流できただけではなく、まさかヤマトに乗艦して波動砲の発射までできるとは、思ってもみませんでした。本当に、感謝の言葉が見つからないくらい深く感謝しております」

 

「それはこちらの台詞ですよ神谷長官。これほどのビッグイベント、それも貴国の君主たる天皇陛下の御即位20年という節目を祝えるイベントに参加できたこと、光栄の至りです。こちらこそ、ありがとうございました」

 

「いえいえ。堺司令のところの艦娘たちが参加してくださったおかげで、今回の式典は開催前からものすごい反響でしたよ。それこそ、歴代のどの天皇陛下の統治の節目を祝う軍観閲式よりも、大いに盛り上がりました」

 

「そんなに盛り上がったのですか?」

 

「ええ。具体的に言うと、軍の公式チャンネルにおける広報動画の再生回数はなんと全バージョンが1億回を突破し、コマーシャルも再放送に次ぐ再放送。しかもあちこちの放送局からオファーがありましたので、軍広報部には結構な額が入っています。その上、コマーシャルや広報動画の新バージョンが出る度にネットの掲示板やらTwitterやらではこの話題がほぼ毎回トレンド入り、それも上位のトレンドばかりでした。

極めつけには、広報のために張り出したポスターは軒並み盗難の被害に遭ってしまいました」

 

「えぇ.......」

 

因みに本来なら盗難届けとか出すべきだろうが、今回ばかりは目を瞑る事にしてある。まあ後でSNSに注意喚起の文章位は掲載するが、今回くらいは見逃しても良いだろう。

 

「そう言われてみれば、広報用の動画やら写真やらの撮影が始まるのとほぼ同時に、うちに来る観光客が一気に増えてました。しかもバカンスに来たのかと思いきや、揃いも揃ってうちの艦娘たちが目当ての方ばかりでしたから、規則や指示の厳守を必死に呼び掛ける羽目になりましたよ。貴国の方々が礼儀正しい方ばかりだったのが幸いでした」

 

「オタクたちも分かってますからね。自分1人の勝手な行動で他の大勢に迷惑をかけるようなことがあってはならない、と。もしそんなことをすれば、未来永劫出入り禁止なんてことにもなりかねないのですから。

貴国が我が国で何と呼ばれているか、ご存知ですか? 『聖地中の聖地』ですよ。そんな重要な聖地を汚すなど、あってはならない、というわけです」

 

「.......何と言うか、妙なところで筋を通しますね、貴国のオタクたちは..............」

 

会場からの喧騒が海風に乗って聴こえてくる。イベント自体は全て終わったのだが、軍艦の見学やら艦娘たちとの交流やらで帰ろうとしない人が多いらしい。

現に、既に陽が落ちて暗くなっているにも関わらず、ライトアップされた軍艦に向けられるビデオカメラやフラッシュが途絶えない。また、よく目を凝らすと来客が艦娘たちに話しかけ、軽い握手会やサイン会、撮影会になっているものまで散見される。

 

「これだけ盛り上げることができたのも、堺司令と艦娘たちが参加してくださったおかげです。重ね重ね、本当にありがとうございました」

 

「とんでもない、お礼を言うのは私の方ですよ。こんなめでたきイベントの末席に連ねてくださり、ありがとうございました」

 

そう言って、固い握手を交わす2人。次の瞬間、神谷は落ちる感覚に襲われた。

 

 

 

 

神谷邸 自室

「………んぁ?」

 

神谷はいつもの様に、神谷邸の自室で目が覚めた。周りには、エルフ五等分の花嫁が転がっている。

 

「なんだったんだ、あの夢.......。ってか、あれ夢か?なんか妙に現実感あったし」

 

タウイタウイ、堺修一、艦娘、観艦式、宇宙戦艦ヤマト、波動砲。何やら色々覚えている。堺修一は知らないが、他の単語はよく知る単語だ。

 

「今何時よ」

 

そのままベッドの上に置いてあるスマホに手を伸ばしたのだが、そのスマホはいつものスマホでは無かった。

 

「あ?これ、俺のスマホじゃ.......。ッ!?丸める、スマホ!」

 

写真アプリをタップし、写真を確認する。そこには夢で見た、あのヤマトの艦上で撮った写真が入っていた。勿論、堺とヤマトもいる。

 

「.......またいつか、会えるのかねぇ」

 

神谷はまたいつもの様に、日常へと戻っていく。恐らくあっちの世界にいる堺もまた、艦娘達とのドタバタな日常に戻っているのだろう。また世界が交わる事は、もう無いのかもしれない。だがそれでも、あの奇妙な数ヶ月間は楽しい物であった。

彼らの果てしない、国家や仲間達を護る戦いはまだまだ続く。

 

 




以上で特別編は終了となります。コラボしてくださったRed October様、本当にありがとうございました!


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第六十六話アルー奪還作戦

バルーン平野迎撃戦より1週間後 リュウセイ基地 会議室

「アルーの奪還!?」

 

「えぇ。これを見てください」

 

この日、リュウセイ基地にはムーの西部方面軍の重鎮と皇国軍の重鎮が揃って会議を開いていた。ムー側は基地司令のパーマーの他、キールセキ駐屯地司令ホクゴウ、マイラス、西部方面軍航空団総司令ガリュー、西部方面軍総司令カサダラといった面々が。皇国側は神谷以下、今回編成された戦闘団の司令を務める村今、下山、栗森、派遣航空隊司令上村と言った面々が参加している。

 

「これまではアルーとキールセキを結ぶ鉄道路線が、アルーからの避難民輸送時に破壊されていました。しかし現在は完全に復旧しています。これを使い、アルーへ乗り込むのです」

 

この作戦は下山の考えた作戦である。下山は元は機甲部隊上がりなのだが、それ故か戦車や重装甲の兵器を運用させると本当にうまいのだ。

 

「しかし鉄道では、レールを破壊されればそれまでですぞ?」

 

ガリューがそう指摘する。前にも話した通り、列車はレールが無くては動けない。流石の皇国とて、銀河鉄道よろしく空は飛べない。

 

「列車は我々の持ち込んだ、装甲列車『アイアンレックス』を使用します。この列車は様々な武装を搭載しており、レールを破壊される前に敵を殲滅する事が可能です。尤も、爆薬でも仕掛けられていたらそれまでですが。

この列車はあくまで強襲要員。本隊は空路で輸送し、空洞山脈を超えて展開します。一部はヘリボーンによる、強襲を敢行しますがね」

 

「だとすると、またそちらだけで行われるつもりか?」

 

前回のアルーで神谷と少し揉めたホクゴウが、案の定噛み付いてきた。だがこれは、当然の反応でもあるだろう。

 

「いえ、今回は其方との共同作戦としたいと思っております。流石に空洞山脈超えは大変ですので我々の航空機で行いますが、以降の陸上戦は寧ろ其方に矢面に立って貰いたいと考えています。今回、我々は後方からの支援や前線での撹乱に重きを置こうかと」

 

この一言にムー側はザワついた。ムー単独では勝てないだろうが、皇国からの支援があれば勝てるかもしれない。これまで我が物顔でこの辺り一帯を闊歩していたグラ・バルカス帝国に、一泡吹かせられる機会が漸く巡ってきたのだ。乗らない手はない。

逆に皇国としても、そろそろムー統括軍に恩を売っておきたいのだ。流石に「靴輪を並べて共に戦おう」では、練度以前に戦い方が違うので無理である。だがこちらが支援に回れば、恐らくムーでも倒せる筈だと考えたのだ。ムーは「自国の軍で領地を奪還した」という事実が得られ、皇国は資源の節約になる。ウィンウィンなのだ。

 

「そうとなれば、我々としても異存はありません。ねぇ、カサダラ大将」

 

「あぁ。我が軍の戦い、とくとご覧頂きたい。それに例の新兵器を、こちらに少数だが回せて貰える事になったのだ。皇国の皆様方、これまでの我らとは一味違いますぞ」

 

「それはそれは。頼もしい限りです」

 

この後、更に詳細を詰めていき会議は終了した。作戦としてはまず空洞山脈を空路で突破し、陸上部隊を展開。そのままアルーへと侵攻。侵攻してる間に秘密裏に、特殊作戦群二個分隊が偵察と陽動撹乱攻撃を行う。

これに続き神谷戦闘団とアイアンレックスが突入し、市街を混乱させて本隊が市内に突入。街を開放し、ついでに付近のFOB4ことドーソン空軍基地も開放する手筈となっている。

 

「それにしても、これ行けるんですかね?」

 

「行けんじゃないの?一応しっかり準備はしてるっぽいし、俺達は最精鋭の神谷戦闘団だぞ?これ位やれなくてどうする」

 

 

参加兵力

大日本皇国軍

神谷戦闘団

・46式戦車 4両

・34式戦車I型 15両

・34式戦車II型 6両

・34式戦車改 8両

・47式指揮装甲車 20台

・44式装甲車

※イ型 120台

 ロ型 80台

 ハ型 90台

 ニ型 15台

 ホ型 15台

 へ型 40台

 ト型 50台

・39式偵察車 20台

・40式小型戦闘車 258台

・44式230mm自走砲 12門

・49式対空戦闘車 30台

・WA1極光 1000機

・AH32薩摩 15機

・OH8風魔 20機

・VC4隼 230機

・VC5白鳥 150機

・AVC1突空 150機

 

 

村今戦闘団

・34式戦車I型 18両

・34式戦車II型 5両

・47式指揮装甲車 10両

・44式装甲車

※イ型 280台

 ロ型 150台

 ト型 95台

・39式偵察車 40台

・40式小型戦闘車 358台

・WA1極光 1500機

・UH73天神 230機

・CH63大鳥 90機

・AH32薩摩 60機

 

 

下山戦闘団

・46式戦車 15両

・34式戦車改 30両

・36式戦車 45両

・49式対空戦闘車 80台

・47式指揮装甲車 20台

・44式装甲車

※イ型 300台

 ハ型 90台

 ホ型 30台

 ト型 50台

・39式偵察車 20台

・40式小型戦闘車 258台

 

 

栗森戦闘団 

・47式指揮装甲車 8台

・44式装甲車

※ニ型 24台

 ホ型 5台

 ト型 30台

・39式偵察車 15台

・40式小型戦闘車 258台

・44式230mm自走砲 24門

・96式160mm榴弾砲 36門

・53式多連装ロケット砲 16両

・49式対空戦闘車 30台

 

 

陸軍

・装甲列車『アイアンレックス』

 

 

空軍

・MQ3彩雲 2機

・VC4隼 120機

・VC5白鳥 70機

・C3屠龍 30機

・AC180迅雷 4機

・第28航空隊『ガルーダ』

・第66飛行隊『ガルム』

・第122戦術飛行隊『サイクロプス』

・第124戦術飛行隊『ストライダー』

・第707特殊戦術飛行隊『スカーフェイス』

 

 

特殊作戦統括局

・特殊作戦群(SFGp) 二個分隊

・特殊航空輸送隊『夜鷹』 MH4雀 2機

 

 

 

ムー

陸軍

・軽戦車クーロン*1 120両

・中戦車キャスター*2 40両

・ハノマーク装甲兵員輸送車*3

※I型 180両

 II型 90両

・イーデン野戦高射砲*4 30門

・プリドゥエン自走砲*5 150両

 

空軍

・戦闘機パシフィカ*6150機

・急降下爆撃機ルーデル*7 60機

・襲撃機エアラコ*8 50機

・駆逐機テーラー*9 20機

・バラクダル 94機

 

 

リュウセイ基地を飛び立ったVC4隼とVC5白鳥は、ムー陸軍が集結しているキールセキ駐屯地を目指す。隼に歩兵や車両を、白鳥には戦車を積載して、積載の完了した機体から随時、集結地点の空洞山脈西方1.5km地点に降ろす。これを数時間繰り返す事になる。

集結地点に先行して下山戦闘団の機甲部隊が警戒に当たっており、更に同じくリュウセイ基地からガルム隊とロングレンジ部隊が先行しており、集結地周辺を哨戒飛行している。これで例え迎撃部隊が来たとしても、問題はないだろう。部隊の輸送が90%程終わると、キールセキの操車場からは列車が発進する。

 

「アイアンレックス、発進!!」

 

ブフォォォォォォォォォォォォォン

 

獣が唸るような低い汽笛と共に、アイアンレックスが駅を出ていく。時を同じくして、キールセキ駐屯地からも特殊航空輸送隊『夜鷹』の運用する真っ黒なMH4雀が、特殊作戦群を乗せて飛び立った。

 

「今回の我々の任務は、攻撃前の偵察と攻撃誘導にある。アルーでは占領後、多数の民間人が捕虜になっており、民間人への被害は限りなくゼロにしたい。その為、民間人の収容場所を突き止め、それを他部隊に共有する。これが第一の任務だ。

第二に、敵陣地や敵の防衛戦力の把握。これは民間人より優先度は低いから、片手間で問題はない。

第三に、陽動。これは適当な燃料集積地でも火薬庫でも、そう言ったところに爆弾仕掛けるなり、家を燃やすなりして敵の注意を背けさせろ。

第四に、攻撃誘導。本隊の攻撃と同時に、我々は弾着観測や迅雷の攻撃誘導を行う。以上だ」

 

隊長が最後の確認として、任務内容をもう一度全員に無線で共有する。雀はアルー近くの森林に着陸し、特殊作戦群を降ろすと即座に撤収した。

 

「行くぞ」

 

隊長の短い命令に、全員が陣形を素早く組んでアルーを目指す。暫く進むと、歩哨の2人組がいた。

 

「にしても、昨日は気持ちよかったな」

 

「あぁ。1人しゃぶらせすぎて、窒息して逝きやがったがな。あのメスの死に様は、マジで傑作だったぜ」

 

大方、昨日の夜は捕えた民間人女性でお楽しみだったのだろう。コイツらに生きる価値はないが、情報源としての価値はある。

 

「今日は誰にハメッ!?」

 

「おいどッ!!」

 

「動くな、喉切るぞ」

 

「兄ちゃん、俺達みたいな連中いるかもしれねーのに話してる場合か?」

 

素早く2人の背後に回り込んで、首筋にナイフを突き付けて口を押さえる。そのまま茂みの奥まで引き摺り込み、簡単に尋問して詳しい情報を吐いてもらう。

 

「基地の構造、兵力を言え」

 

「誰が言うか!」

 

「そうだ!!」

 

「あっそ」

 

捕虜の目の前でもう1人の喉を、ゆっくりジワジワと切って殺す。

 

「基地の構造と兵力は?」

 

「い、言うので殺さないでください.......」

 

目の前で同僚をジワジワと殺されれば、そりゃ言うしかない。

この捕虜が言うには、アルー中心部に民間人は固められているらしい。通称『娼館』と呼ばれる建物が中心部に6軒あり、ここに女性が拘束されている。そこから連れ出された女性は、元宿屋だったり家屋だったり、場合によっては屋外なんかで慰み者にされる。さらに中心には『嘆き屋』と呼ばれる施設があり、ここでは妻や彼女が拘束されている男がおり、その目の前で妻や彼女が犯されるの見せられる場所もあるのだと言う。

この他、ある程度の防衛施設も判明した。

 

「さ、さぁ、早く解放してくれ。はなしただろ?」

 

「あぁ。すぐに解放してやる」

 

そのままゆっくりと首筋を切って、約束通り解放してあげた。

 

「どうだ、解放されただろ?テメェの肉体から魂が」

 

「お前達、まずはこの監視所を落とすぞ。アルファチーム、前進しろ。ブラボーチーム、狙撃で支援しろ」

 

ここで部隊を2つに分け、アルファチームはそのまま前進。ブラボーチームは近くの高台から、マークスマンとして支援を開始する。43式小銃はその特性上、高倍率スコープやスタンドを装備するだけでマークスマンライフルに早変わりするのだ。

因みに32式戦闘銃も同様にマークスマンには出来るが、こういう特殊作戦に必須となってくるサプレッサーを装備できないので不向きである。いや、一応装備はできる。だが元の音がデカ過ぎて、殆ど意味をなさないのだ。

 

『こちらブラボー、目標地点に到着。蝶による偵察を開始する』

 

「アルファ了解」

 

ドローンによる偵察により、進路上の敵を哨戒。排除できる敵は適宜、ブラボーチームが狙撃で排除。アルファチームはその間に監視所へと向かう。

 

「あー、なんかムシャクシャするぜ」

 

「嘆き屋行けば?」

 

まさか攻撃されるとは思っていなかったのだろう。監視所の兵士達は、雑談に興じたりポーカーしてたりして暇潰しをしているらしい。そんな連中、特殊部隊からしてみればカモだ。即座に射殺されて、監視所を占領されてしまう。

 

「このまま爆弾を仕掛けに行くぞ。続け」

 

特殊作戦群がC5を仕掛けに向かっていた頃、ドーソン空軍基地の定時哨戒機が接近中のアイアンレックスを発見。直ちに爆装した攻撃隊が離陸した。

 

「隊長!10時の方向より、敵編隊接近!!」

 

「迎撃用意!搭載機を全て上げろ」

 

「了解!!」

 

MQ5飛燕が射出され、攻撃機編隊へと襲い掛かる。AIである以上は機体制御が単調になりやすいが、それでもマシンスペックに圧倒的な差があれば問題にならない。

編隊が飛燕に踊らされてる間に、アイアンレックスは自身の射程圏内まで前進。迎撃を開始する。

 

「迎撃開始!!」

 

まさか、いきなり列車から濃密な弾幕が飛び出すとは思っていなかったのだろう。編隊は一気に混乱に陥り、連携が途絶える。

 

「あれ列車だろ!?なんだこの攻撃は!!!!」

 

「列車じゃねぇ!戦艦だ、ありゃ戦艦だろ!!!!」

 

「あり得ない!!!!」

 

不運というのは続く物で、こんな事言ってる間に、エース部隊まで飛来したのだ。しかも、よりにもよってエース級の中でも最も最古参のこの部隊が。

 

『フェニックス、エンゲージ』

 

『スラッシュ、エンゲージ』

 

『エッジ、エンゲージ』

 

まさかの『皇国の不死鳥』の通り名を持つフェニックスが指揮するエース級部隊、スカーフェイス隊が来てしまったのだ。この部隊は皇国空軍初のエース級部隊であり、その練度は未だにトップクラスである。

 

『こちらキーノート、敵の数は大半が残っている。全機撃墜しろ』

 

『またイージーミッションだな!』

 

『スラッシュ、そんなこと言っていると足元掬われるわよ』

 

『そうだぞスラッシュ、お前がそんなこと言ってる間にフェニックスは4機落としている』

 

『全くいつもながら、文字通り不死鳥っぷりだな』

 

スカーフェイス隊の前に、グラ・バルカス帝国の航空機はなす術なく堕とされていく。ここまで大騒ぎしていれば、アルーを占領する兵士達の関心はそっちへと向く。お陰で特殊作戦群の作戦が想定より早く終わり、上空の神谷戦闘団へ合図を送る。

これを受けた神谷達のAVC1突空は、直ちに高度を下げ強襲へと入る。

 

「突空から通信来ました」

 

「それじゃ、起爆!」

 

「起爆!!」

 

近くの燃料タンクに仕掛けたC5を起爆し、火柱が上がる。ついでに近くのパイプにも引火して、そっちでも炎上してるので一気にアルー市街は大混乱である。

 

「ブラボーチーム、戦闘団の華道を作ってやってくれ」

 

『了解。対空火器を潰します』

 

ここで隊長、粋な事をしてくれる。本来であれば対空火器は突空がミサイルや機関砲で潰すのだが、先に潰す事にしたのだ。こうすれば突空の弾薬を温存できるので、より部隊の支援に全力を注げれる。

 

「HQ、こちらブラボーチーム。攻撃支援を要請する」

 

『こちらHQ、了解した。目標をマークしてくれ』

 

今回作戦に参加しているMQ3彩雲には、パイロンにSGB1暗鬼を搭載している。この爆弾は滑空爆弾の一種であり、高い誘導性能を誇る。

今回は敵の主力高射砲となる、八八式七糎半野戦高射砲によく似た高射砲を破壊してもらう。

 

「ターゲットをマーク」

 

『drop ready now』

 

投下された暗鬼は正確に高射砲を全て破壊し、残る対空火器は機関砲だけとなった。対空機関砲では、突空の脅威とはなり得ない。寧ろ撃たれたら撃ち返す、位の事をやってのける。

 

「あら?特戦群の皆さん張り切ってるな」

 

「ホントだ。事前情報にあった高射砲が全部破壊されてますね。後は多分、25mmの機関砲だけでしょう」

 

「なら突空には脅威にならんな。さっさと掃除しちまおう」

 

知っての通り、突空には数々の機関砲が搭載されている。それもドアガンでお馴染みのM134ミニガンやM2の様な、一応人間向けの口径ではなく、20mmと30mmのバルカン砲が何門も搭載されているのだ。こんな大きさでは、簡単に機関砲ごと破壊し尽くされてしまう。

 

「対空戦闘!!目標右30°!仰角50°!」

 

「対空戦闘用意良し!」

 

「撃て!!」

 

25mm三連装機銃に良く似た銃座が、神谷の乗る漆黒の突空を狙う。そのまま指揮官が指揮棒で勢いよく刺し、兵士がトリガーとなるハンドルを回して撃つ。

 

ダダダン!ダダダン!ダダダン!

 

「ま、全く効いてないぞ!!」

 

「撃ちまくれ!!」

 

「弾込めぇぃ!!!!」

 

だが機関砲位で倒せる程、柔な装甲はしてない。AVCのAは『Armored』のA。伊達に『重装突撃輸送機』や『アサルトガンシップ』の異名は持っていない。

突空はそのまま旋回し、撃ってきた機関砲の方を向き、機首の30mmバルカン砲を浴びせる。

 

「周辺はクリア!!いつでもどうぞ!!!!」

 

「野郎共、行くぞ!!」

 

神谷を先頭に、隊員達がアルーへと降り立つ。そのまま目に付く敵は容赦なく殺して周った。

時を同じくして、アイアンレックスが強引にアルー駅に飛び込んで要塞となる。

 

「応戦用意!!」

 

「全客車、装甲板下ろします!」

 

「対空火器、対地モードに変更。射撃開始!!」

 

アイアンレックスの客車の窓は、戦闘時には銃眼付きの装甲シャッターが降りてくる。ここから中の兵士が安全に、個人携行火器で応戦ができる様になっている。更に小型PLSLバルカン砲が片側に40基、車体上部側面に搭載されており、本来は対空兵装だが弾幕を張って敵を近づけさせない事もできる。

因みに今回、砲塔車はI型とII型を引っ張ってきているが、流石にI型の250mm三連装砲を駅構内でぶっ放せないので、比較的小口径の火器で頑張っている。え?砲塔車III型の46cm砲はって?460mmの大口径砲なんざ使えば、街が民間人や味方ごと吹っ飛びかねんので連結すらしていない。

 

「装甲列車だ!!」

 

「応戦しろ!!!!」

 

ドカカカカカカカカカカ!!

ピュピュピュピュピュピュピュ!!

 

「遮蔽物に隠れろ!!」

 

「ダメだ!遮蔽物ごと貫通してく」

 

「クソッ!!!!!!兎に角下がれ!!戦車だ!戦車を呼べ!!」

 

駅構内に入ってきてすぐは手榴弾なんかをぶん投げてはいたが、34式戦車の砲撃に耐えうる装甲の前には手榴弾程度では火力が足りない。そればかりか、アイアンレックスは火力に物を言わせて隠れている遮蔽物ごと破壊して撃ってくるので打つ手がない。

もしここにパンツァー・ファウストやバズーカでもあれば、また話は違ったかもしれない。だがグラ・バルカス帝国の兵士に、そんな便利アイテムはない。精々が対戦車ライフルと対戦車グレネード、後は擲弾筒位だろう。

 

「今だ!行けよ、ムーの精鋭さん!!!!」

 

「感謝する!!」

 

ここで更にムーの精鋭部隊、『最硬』の第五師団隷下、第309突撃連隊が客車から飛び出した。この第309突撃連隊はメインウェポンにムー製AK47であるカラシ自動小銃を装備し、特殊作戦用に開発されたM3っぽい見た目のグリスをサブウェポンとして装備している。

更にRPG2ことカーチェンも一部隊員は装備しており、防具も防弾ヘルメットに防弾アーマーを装備している。勿論ランクはレベルIIIなので、フルサイズのライフル弾でも防ぎ切る。

 

「突撃!!」

 

「マーチングファイア舐めんな!!」

 

「撃ち返せるものなら撃ち返してみろ!!!!」

 

圧倒的弾幕で駅にいた帝国兵は、応戦どころか牽制射撃すら間々ならない。兎に角後方に下がるしかできなかった。

駅構内や市街地では地獄が広がっている訳だが、アルーの入り口でも地獄が始まる。

 

「おい!駅と南方で戦闘が始まったらしいぞ!!」

 

「なに!?ならここもヤバいんじゃねーか!?!?」

 

「そうだ!お前達、ここから本隊が来る可能性がある!!迎撃準備だ!!!!」

 

指揮官が部下達にそう命じると、素早く銃を構えて塹壕や土嚢の裏へと隠れる。だがその様子は、特殊作戦群のマイクロドローンがしっかり捉えていた。

 

「こちらアルファチーム。敵は塹壕に隠れた。砲撃を要請する」

 

『こちら砲撃大隊!了解した!座標を送ってくれりゃ、速達で砲弾をお届けに上がる』

 

「座標はブロックE(エコー)13、X-39、Y19」

 

E(エコー)13、X-39、Y19了解!備えてくれ!!』

 

後方の皇国とムーの合同砲撃陣地から、無数の野戦砲が砲撃に移る。何十門という数の一斉射撃を加えれば、即席の防衛陣地では太刀打ちできない。

 

「初弾命中。続けて3回、効力射を頼む」

 

『了解した』

 

だが、グラ・バルカス帝国とてタダでやられはしない。機甲部隊を出して、迎撃してきたのだ。

 

「敵影、前方より来ます!」

 

「初弾、込め!」

 

「装填完了!!」

 

「撃て!!」

 

てっきりトラックの集団かと思い、初弾は榴弾を込めた。だが何処か、敵の見た目がおかしい。トラックにしては遅いし、何より見た目が可笑しい。トラックであれば箱の様に見えるが、目の前の敵は箱が二個重なっているように見える。

 

「!?接近中の敵は戦車です!!!!」

 

「ムーは戦車を持っていない。とすると、皇国だな。よーし、対戦車徹甲弾、装填!!」

 

「装填完了!」

 

「撃て!!」

 

だがこれは、皇国の戦車ではなかった。ムーの戦車だったのである。今回、皇国の戦車は最後尾にいた。前衛はクーロンだったのだが、クーロンの正面装甲をハウンドの主砲では貫徹できないのだ。一応、2、3回当たれば倒せるのだが。

 

「な!?」

 

「効いてないのか!!クソッ!!!!側面に回り込むぞ!!」

 

知っての通り戦車というのは、側面や背後の装甲というのは薄い。だがそれは戦車初心者のムーでも知っているので、しっかり対策してある。戦車の砲撃で牽制しつつ、別の連中に任せる。それも1番の天敵に。

 

「全機、我に続け!」

 

航空機である。今回はかつてヨーロッパで戦車を破壊しまくった、スツーカとエアラコブラが出張ってきている。勿論スツーカにはジェリコのラッパ機能を、しっかりと実装しているので音が鳴る。1941年以降の生産機には搭載されてなかったらしいが、ムー技術陣の良い言い方をすれば粋な計らい、悪く言えば悪ふざけで搭載が決まったのだ。

エアラコブラも本来は大型機の迎撃目的で開発されたのに、レンドリースされたソ連では戦車破壊しまくる方向にシフトチェンジして大活躍している。因みに開発元のアメリカでは結構冷遇されてたり、何なら機首の37mm砲を魚雷艇乗組員にぶん取られて魚雷艇に移植されたりとか、結構可哀想な機体である。

かつて敵であった2つの機体が、今度は同じ陣営で戦車を破壊しに行くのは熱い展開なのだが、帝国兵からしてみれば文字通り物理的に熱い展開になるだろう。

 

「航空機接近!!」

 

「何!?爆弾が来るぞ!!!!ジグザグ走行とかで、投弾タイミングをずらすんだ!!」

 

確かにエアラコには一応爆弾を搭載しているが、ルーデルには37mm砲を2門搭載している。しかも今回の攻撃方法は、生憎と爆弾よりも37mmで破壊する戦法なので投弾タイミングもへったくれも無いのだ。

 

ダダン!ダダン!

 

「ほ、砲弾です!!あの機体、大砲を搭載してます!!!!」

 

「なんて事だ.......」

 

「車長、指示を!!」

 

「撤退だ。街に撤退して立て篭もるんだ!!」

 

生き残った10両程度が、街へと撤退を始める。だが逆にキャスターとクーロンの砲撃で、数を減らしてしまう。88mmや76mmの主砲の前では、ハウンドの正面装甲は破られてしまう。

それだけではない。この撤退を見ていた特殊作戦群のブラボーチームが、よりにもよってコイツらに攻撃支援を要請してしまったのだ。

 

「こちらブラボーチーム。迅雷へ。門周辺の敵戦車を破壊してくれ」

 

『よし来た任せてくれ』

 

空中にいるAC180迅雷に攻撃要請してしまったのだ。この機体には無数の火器を搭載しているのだが、その誰もが機関砲を除けば真正面から2、3両貫通する位の威力を持つ。それを真上から撃たれたら一溜りもない。

 

ドカカカポポポン!ドカカカポポポン!ドカカカポポポン!

 

一定間隔のリズムで機関砲と榴弾砲を撃っていき、戦車を木っ端微塵に破壊していく。20mm機関砲ですら、真上からでは脅威となる装甲に130mmとか200mmの砲弾が降り注げば、もう見るも無惨な物になる。

というか何なら既に機関砲掃射ですでに破壊されてるのに、そこに砲弾が更に降ってきているので完全なるオーバーキルでしかない。

 

「今だ!!全車、アルーに突撃せよ!!!!」

 

戦車を先頭に、アルー目指して突撃していく。だがそれを許してくれる程、グラ・バルカス帝国だって甘くはない。シリウス型爆撃機を投入して、戦車を破壊しようと試みる。

 

「もうちょい....... もうちょい.......」

 

「させるか!!」

 

ズドドドドドド!!

 

だがそれを、パシフィカが許さない。20mm機関砲4門の洗礼を持って、戦車隊に近付く不埒者にしっかり罰を与える。しかも砲弾に薄殻榴弾という、簡単に言うと威力の高い砲弾を装填しているので、シリウスを穴だらけどころか機体をへし折りに掛かっている。

中にはその洗礼を掻い潜る者もいたが、しっかりゴールキーパーだっているのだ。

 

「敵爆撃機、来ます」

 

「迎撃しろ。機関砲で良い」

 

「了解」

 

キュィィンブオォォォォォォォォォォン!!!!!

 

随伴している49式対空戦闘車、もしくは44式装甲車ト型が迎撃に当たる。ムーは対空戦車を持っていないが、皇国は違う。49式は35mmバルカン砲6門を搭載しており、圧倒的弾幕を持って機体を破砕できる。

ト型も六連装の短距離対空ミサイルを搭載しているので、チャフ、フレアといった妨害手段がない帝国機にはなす術ない。

 

「アルーに突っ込め!!」

 

攻撃隊の攻撃を凌いだ部隊は、そのままアルーに突入。歩兵を展開して、少しずつ帝国兵を中心へ追い立てる。だが中心部には既に、神谷戦闘団と第309突撃連隊が掌握している。

 

「神谷閣下!早く、民間人の救助を!!」

 

「まあ待ってくださいよ連隊長さん。別に中にいるからって、今すぐ死ぬわけじゃない。多分そろそろ敵が来ますから、逆にここで民間人に構ってると流れ弾で死にますよ。なーに、ちょっと中に居るだけで死ぬ確率が減るんだ。気にする事ありません。

とは言え、流石に待つのも飽きたな」

 

なんて言っていると、何も知らない帝国兵達がやって来た。中心部にいる民間人を盾にするつもりなのかもしれないが、それをする為には大量の精鋭達の屍を越えなくてはならない。

 

「お、来た来た」

 

「全員殺せ!!!!」

 

「「「「「おぉぉ!!!!」」」」」

 

「国掛かってる連中は、こうなるから恐ろしいんだわ。よーし、こっちも撃っちゃって。はーい、Fire Fire」

 

圧倒的な弾幕を前に帝国兵はバタバタと倒れ、街道には死体の山ができ血が川の様になっている。

 

「よーし、こんなもんだな。連隊長さん、ドーソンはそっちが攻めますか?」

 

「いえ、我々はこのまま残って民間人を保護します」

 

「了解です。ならこっちは、サクッと占領してきますよ。行くぞ!!!!」

 

ここで神谷戦闘団はドーソン空軍基地攻略の為、基地へと続く街道をジェットパックで飛ぶ。だがすぐに、空港を監視しているアルファチームから連絡が入った。

 

『長官、基地に動きあり。どうやら将官共が逃亡するみたいです』

 

「部下見殺しにして、自分は悠々と敵前逃亡とは中々にふざけてるな。よし、殺そう。マジで殺そう。迅雷で滑走路ごと壊してやれ」

 

『うわぁ、エゲつねぇ。了解です、迅雷でボコボコにします』

 

神谷からのオーダーは直ちに実行に移され、迅雷4機による全力砲撃が行われるも、四式重爆っぽいの3機とアンタレス8機を取り逃してしまった。

 

「あちゃー、逃げたか」

 

「いえ、どうやら追撃隊がいる様ですよ」

 

向上が指差す方向を見ると、ムーのテーラーが全機で果敢に襲い掛かっていた。圧倒的弾幕を前に、四式重爆っぽい機体は瞬く間に火だるまになって落ちていく。だがアンタレスは、その運動性に物を言わせてテーラーに襲い掛かるが、テーラーを追い払うとそのまま逃走した。

 

「逃げましたね」

 

「逃げたな。まあ良いだろ。追いかけるだけ無駄無駄。それより、民間人の救護だ。ここにヘリを降ろして、仮説の救護所にしよう」

 

こうしてアルー奪還作戦は、ムーも皇国も被害を殆ど出さずに終了した。しかしアルーに取り残された民間人の多くは心に傷を植え付けられ、取り残された者の29%が精神に異常をきたす後味の悪い結果となった。

 

 

 

 

*1
クロムウェル巡航戦車を元に製造した戦車で、武装は76mm砲と7.7mm機関銃であり、Mk.IV、Mk.Vに酷似している。ただし日本製のエンジンの搭載により、最大で84kmを叩き出す

*2
M4シャーマン・ファイアフライを元に製造した戦車で、武装は17ポンド砲の代わりに66口径イーデン野戦高射砲を搭載している

*3
ドイツのSd.Kfz.シリーズを元に製造したハーフトラックであり、元ネタ同様大量の派生型がある。この内、装甲兵員輸送車は軽装甲のI型と重装甲のII型に分かれている。荷台を取っ払って迫撃砲や榴弾砲、クレーンを搭載した物もあったりと、その派生型は数知れず。

*4
88mmの高射砲だが、元ネタ同様にしっかり野戦砲としても使える。前述の通り戦車砲にまで流用されており、非公式に『アハト・アハト2世』とか呼ばれてる

*5
キャスターの車体に、イーデンの配備で余りに余りまくって倉庫を圧迫してる105mmイレール重カノン砲を搭載した兵器。自走砲と名を打っているが、一応駆逐戦車として使用できなくもない。

*6
ハリケーンを元にした戦闘機で、武装は20mm4門と強力。装甲や加速ではアンタレスを上回るが、やはり格闘性能ではアンタレスに軍配が上がる。

*7
最早、説明不要の急降下爆撃機。名前から分かる通りスツーカのG型を元にした機体であり、今後魔王が生まれるであろう機体である。

*8
P39Qエアラコブラを元に、武装を37mm機関砲1門、20mm機関砲2門、12.7mm機関砲4門に変更し、更にIL2並みの重装甲を獲得した変態機。この重装備でありながら、速度はエアラコブラに匹敵する。

*9
Bf110のG4を元にした機体で、前方の固定機銃と旋回機銃に12.7mmを採用しており、それぞれ4基と連装1基を搭載している。元ネタ同様、豊富なオプションで様々な任務に対応できる。



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第六十七話グラ・カバルがやって来る

アルー奪還より数週間後 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ

「父上、私は最前線基地に視察に行こうかと思います。

皇族、しかも皇太子である私が励ましの言葉をかけに、しかも最前線に赴けば、兵達は大いに士気が上がる事でしょう!!」

 

そう帝王に直談判する筋骨隆々の金髪男。グラ・バルカス帝国皇太子、グラ・カバルである。

 

「カバルよ。最前線は我々の考える状況とは異なるのだ。皇族を迎え入れようとなれば、大掛かりな準備もいる。そのための準備と、皇族にあてる警備だけでも前線の兵には負担になろう。それに突発的に敵が攻め、虚をつかれる可能性すらある。

安全性は確保されていない、それが最前線というものなのだ」

 

「父上!皇族あっての民、皇族の影響力は計り知れません。

皇族が訪問する、ただその一点だけで士気はとても上がります。新聞にもよく書いてあるではありませんか!!」

 

帝王であるグラ・ルークスは、若かりし頃に陸海軍に所属し軍を率いていた。その為、皇族が前線に出張った時の苦労を知っているのだ。ルークスはあくまで戦場に『軍人』として立っていたが、カバルは『皇族』として立つ。これでは護衛やら何やらで、レイフォルから最前線まで多大な苦労を将兵及び関係各所の職員に大きな負担を掛ける事になる。

 

「どうなっても知らぬぞ?せめて、レイフォルにしておくが良い」

 

「いえ!私は最前線、バルクルス基地へ参ります。これ以上の問答は無用!これにて失礼!!」

 

そう言うと、ガバルは部屋から出て行き、それを大慌てでガバルの侍従が追い掛ける。

 

「あのバカにも困った物だ.......」

 

「止めますか?」

 

「アレはもう止まらん。ここで止めても、無理矢理行くであろう.......。私に似たのか、あやつも頑固というか手段を選ばんというか。しかもそれがこういう形で出てくるから、余計に面倒だ.......」

 

ルークスとルークスの侍従は、お互い頭を抱えて胃が痛かった。この後の展開を想像して更に痛みが増す中、執務室に今度は女性が入ってきた。

 

「お父様。先程、カバルお兄様とすれ違ったのですが、何かありましたか?」

 

「おぉ、レミリアか。なに、いつもの事だよ。カバルがまた暴走して、我らに頭痛の種を増やしただけのこと」

 

スタイル抜群の金髪の女性。カバルの妹にして、ルークスの娘。グラ・レミリアである。こちらはカバルと同じ行動派であるが、理知的でルークスの言う事を良く聞き、主に国内の孤児院や病院などの福祉施設を訪問するタイプの人間である。

 

「お父様も大変ですね。サモリナ侍従長も」

 

「滅相もありません、レミリア殿下。これも私の職務でありますれば、お気になさらず」

 

「お父様。私で出来る事があれば、幾らでもお申し付けください」

 

「あぁ。今後、戦闘が激化すれば負傷兵も後送されてくるだろう。その者達のケアを任せたい」

 

「分かりましたわ。お任せください」

 

こちらは何とも平和に終わった訳だが、その頃カバルは自室で大荒れであった。「父上は分かってない!」と言いながら、机の上の物を床にぶち撒けたりしている。

 

「民を導くべき我ら皇族が前線に赴く事こそ、兵の為にもなると言うのに何故それが分からないのだ!!」

 

因みに皇族が前線に来るとどれだけ迷惑かと言うと、マジで過労死するレベルの迷惑である。通るルートと予備のルートは全て検査が入り、建物はペンキを塗り直され、標識は新品になり、多数の護衛が配置に付き、飲食物も最高グレードな物を用意する必要がある。

今回であればバルクルス基地に行く訳だが、そこに配備されている兵器もペンキが塗り直され、磨き上げられてなくてはならない。兵士だって栄誉礼とか、色々準備する物がある訳で最前線からしてみれば口には出さないが大迷惑である。航空機エンジントラブルなり、悪天候で来ないで貰いたい、とすら思うクラスだ。

だが結局、なんだかんだで無理矢理捩じ込みやがりましたのでカバルのバルクルス基地訪問は、決定事項となってしまったのである。しかもこれ、基本的に覆す事は出来ない。カバルの気が変わるか、病気や怪我、或いは死ぬか、バルクルスが訪問前に陥落でもしない限り無くならない。

訪問が決定した以上、各方面の仕事は増えに増えまくる。特に外務省は先述の標識の取り替えや舗装、剪定といった諸々を手配する羽目になっているのでシエリア&ダラスのコンビは事務作業や下請けとの連絡でレイフォル中を奔走していた。

 

「粗相が無い様にしなければ.......」

 

「帝王陛下のご子息であり、次期帝王陛下の筆頭候補で在らせられますからな。粗相どころか、1つの不手際たりと見逃せません」

 

特にダラスは根っからの帝王と王族の信奉者なので、力の入り用はこれまで見てきた中でも1番である。そんな中、執務室に外務省の職員が血相を変えて飛び込んできた。

 

「今し方、帝国陸軍より連絡が入りました!!!」

 

「陸軍の方も張り切っているな。次の街をもう落としたのか?」

 

「そ、それが、キールセキに侵攻した第4師団と航空隊は全滅し、アルーと近隣のドーソン基地は陥落したと.......」

 

「な!?!?!?!?!?」

 

ダラスはまるで怪獣の様に大きな口を開けたまま固まり、シエリアも冷や汗が一気にぶあっと流れ出たのが分かった。

 

「お、おい。それは君の見間違いとか、盛大な勘違いとかではない.......よな.......」

 

本来、軍の作戦結果が外交官達に伝わる事は基本ない。その作戦の成否が外交に直結するのなら別だが、一々軍も「この日にこんな戦いやって、こうなりました」なんて連絡はしてこない。それが来たということは「皇太子を出迎えられない」という、暗黙の意思表示なのだろう。

今回は皇内庁、皇国では宮内省にあたる組織から外務省に指示が出ている。つまり総責任は、外務省の正確に言えばレイフォル出張所である。勿論護衛は軍の担当だが、総責任はここになる上に総責任者はシエリアであり、現場責任者はダラスなので、最悪は社会的どころか物理的にも首が飛ぶ。

2人してフリーズしていると内線が鳴った。どうやら下に、ムー国征伐軍総司令部のランボール陸軍大佐が来ているらしい。恐らく、今回の顛末の説明だろう。すぐに応接室に通してもらって、話をする事になった。

 

「急な来訪をお許し下さい。通信だけでは状況が理解出来ないかと思い、説明に参りました。

ご連絡した通り、キールセキへと向かった全部隊は壊滅的被害を受け、アルーはムーに奪還されました」

 

「何故だ!!何故そんな事が起きたのだ!!!」

 

「現在目下原因を調査中です」

 

別にランボールはダラスの部下でもないし、何なら管轄もランボールは軍でダラスは外務省。全く違うにも関わらず、それはもう狂犬の様に吠えまくる。

 

「調査中?そんな情報を持ってきてどうする!!何故まだ解らないのだ!!軍の怠慢ではないのか!!!皇太子殿下の来訪を断るという事が、どういうことか理解しているのか!!!」

 

「解らないから解らないのです!!!特に第4師団などは、短期間に全滅している。情報は、初期の段階では断片的なものしか入らないものです。情報を精査して確実な情報をお届けするのであれば、相当に期間がかかります。

迅速な情報というものは、不確定なものなのです!!精査した後であれば時間がかかりすぎて、それはそれで文句をいうでしょう!!」

 

「ダラス、怒鳴っても意味は無い。ランボール殿も、迅速な情報を伝えようとわざわざ来て頂いているのだ。

ランボール殿、部下が失礼した。どうか続けてほしい」

 

流石に2人して喧嘩モードになられては、いよいよもって収集がつかない。一旦落ち着いて貰う。

 

「失礼。第4師団からの無線では「巨大な戦車に待ち伏せされ、後方から砲撃に晒されている」と報告が上がっており、航空隊からは「赤丸の航空機と接敵した」や「3本の爪痕に追い掛けられている」、「片翼が赤いのと両翼が青いのに」と無線が入っておりました。また一説では、戦車に2本の剣と銃と角と羽の生えた馬の紋章を見た者も居たらしく、こんなマークを持つのは恐らく大日本皇国だけかと」

 

「「ッ!?!?」」

 

2人の脳裏には、先日行った皇国との外交交渉の場での事が蘇っていた。確かあの時、神谷の右腕にそんなマークがあったのだ。

そしてシエリアの脳裏には、あの川山とのお茶会での話を思い出していた。

 

『そう言えば、そちらの白亜衆の白色には何か意味があるのですか?』

 

『色に深い意味は無い筈ですよ。確か穢れを払うとか、目立つとか、なんかそういう意味はあった筈ですけどね。

ですが、マークには意味があるらしいです』

 

『マーク?』

 

『えぇ。神谷戦闘団のマークは旧世界の世界地図がバックにあり、2本の刀と銃、アレは浩三の使う得物です。そしてその上に有翼の一角獣、アリコーンという幻獣があります。このマークには『世界中何処へでも行く』という意味が込められており、国内では『国境なき軍団』という風にも呼ばれていますよ。

あの部隊は歩兵は勿論、戦車に砲兵隊、専門の輸送航空隊まで保有していますからね。それも最高練度を誇る、我が国随一の精兵です。白亜衆に至っては特殊部隊員も凌ぎますからね』

 

川山はこう言っていたのだ。つまり、第4師団を迎撃したのは皇国軍の中でも最強格であろう神谷戦闘団である。

 

「ランボール大佐。恐らく、第4師団を迎撃したのは神谷戦闘団です.......」

 

「なんですと!?というと、アレですか?捕虜処刑の現場に強襲し、そのまま捕虜を奪還し、我が国に宣戦布告を叩き付けたという、あの神谷浩三・修羅の.......」

 

「外交の場で、皇国の外交官から聞きました。「そのマークには『世界中何処へでも行く』という意味が込められている」と」

 

「なんて事だ.......」

 

ランボール自身、神谷戦闘団の恐ろしさを直接見た訳では無い。だがその恐ろしさは、しっかり知らされているのだ。

 

「元々軍部では、今回の基地壊滅を非常に重く受け止めていました。しかしそこに皇国の、それも神谷戦闘団の介入があったとなると事は想像を遥かに超えて深刻です.......。

まさか海に続き、陸でも負けるとは.......」

 

「どういう事ですか?」

 

ここも含めて外務省には、先のバルチスタ沖海戦の情報しか入っておらず例のムー襲撃の件は報告されていないのだ。

 

「やはりですか。各官庁が情報を共有化しておかないと.......。今後の帝国運営に支障をきたしてはいけないので、この場でお話します。どうやら海軍は、既に3度、皇国に敗北を喫しているのです」

 

「何ですと!?!?」

 

ダラスが叫ぶ。2人にとっても、青天の霹靂といった所だろう。2人にとっても帝国軍は最強の存在なのだから。

 

「カルトアルパスではグレードアトラスター撤退後に入った部隊が全滅し、先のバルチスタ沖海戦でも世界連合軍の艦艇のほとんどを殲滅しましたが、皇国には1隻の撃沈どころか被弾した艦艇も居ませんでした。そして現在は無かったことになっているイシュタム隊を動員した、ムーへの同時攻撃時も皇国海軍の戦艦1隻によって全艦沈められています」

 

「そんな事が.......」

 

「報道上では勝ったことになっていますし、現に我々もそう伝えられています。私の同期に参謀本部の将官を補佐している者がいまして、私は偶々、その同期から情報を得ました。ですので、オフレコでお願いします」

 

シエリアの脳裏には、捕虜の返還交渉時に川山が言っていた、「我が国の最強の軍が海に、空に、陸に現れた時がグラ・バルカス帝国の終わりの始まりとなるだろう」という言葉が再生されていた。

本当にその通りなるとは、思っていなかった。いや、思いたく無かったのかもしれない。

 

「今後戦況については分析していくが、今回のバルクルス攻撃、不意打ち的なものではなく、正規に警戒していてなおもやられたのであれば、日本皇国の戦力、そして今後の作戦と進撃速度を見直す必要がある。そう考……」

「栄えある帝国陸軍将校がそんな考え方で良いのか!!グラ・ルークス皇帝の速やかなるムーの制圧、そして早期の大日本皇国攻略という勅命が出ている限り、それに従い、命をかけて命令を守るのが我々の努めではないのか!!」

 

ダラスの愛国心スイッチと、グラ・ルークス信奉者スイッチが入り怒鳴り散らかす。管轄も違えば立場も違うのに、この叫び様。流石である。

 

「私は日本皇国と講和するべきだとは一言も言っていない!!戦力を見直す必要があると言ったのだ!!」

 

「陸軍は臆病風に吹かれたのか!!!」

 

「私の一言で陸軍全体にレッテルを貼るな!!精神論だけ振りかざして何が出来る!!最前線の兵は分析を間違えば死ぬのだぞ!!安全な所から口だけ出す外務省には解らぬかもしれないが、冷静に敵を分析するのは将校の努めであり義務なんだ!!

必要な情報を確実につかみ、前線の兵の被害が減るよう全身全霊をかけることが、多くの死者が出ることが解っていて、なおも死地に赴けと命令する側の最低限の義務なんだよ!!」

 

帝国軍全体では、旧大日本帝国軍の様な精神主義が横行している。だがランボールは合理的な思想を持つ者で、精神精神と言う前に合理的な考えを持っているのだ。その為、軍内部でも珍しい部類に入る。

 

「ダラス、一々噛み付くな。冷静な議論が出来なくなる。ランボール殿、失礼した」

 

「ぐっ!!」

 

「我々としても、皇国に関しては独自のルートから探ってみます。個人的にもあの国は、何か嫌な雰囲気がするのです」

 

「すいません、よろしくお願いします。我が陸軍も、情報をつかんだらまたお伝えしたいと考えます」

 

取り敢えず現場間の幹部層は、少なくとも「大日本皇国は脅威になりうる」という点で合意した。まあダラスは吠えているが、そこはスルーして貰いたい。

となれば次の議題は、皇太子の来訪についてに移る。

 

「グラ・カバル皇太子殿下の来訪は、陸軍としてはとても現状満足のいく警備体勢が出来るとは思えません。また警備は良しとしても、何より来訪地となるバルクルス基地自体が危険です。

外務省が本件の主体となっている以上、皇内庁の方に延期を申し入れる事はできませんか?」

 

「バルクルスの警備責任は軍部にあるだろう?軍備を増強するなりなんなりして、警備を万全にするべきだ」

 

もう完全にグラ・ルークス信奉者モードで周りが見えてないダラスが、またも良く分からん提案をしてくる。しかし今回はランボールも、ダラスが納得するだろう理由がある。

 

「今回はその軍部が、遠征部隊壊滅の原因が判明するまで止めた方が良いと言っているのだ。我々現場の人間が勝手に言っている訳ではない」

 

そう。流石の『気合・熱意・魂』みたいな精神論を振り翳してくる軍部も、事が次世代の帝王継承者となる皇太子殿下に関係するともなれば合理的に考える。

 

「皇太子殿下が来ることは決定事項だ。人が足りない?危険性がある?出来ない理由を並べるのでは無く、やらなきゃだめなんだよ!!そんな意気込みで良いのか!!!」

 

だがダラスは、それでもダメだった。こればかりは物理的な問題で不可能なのだ。「やらなきゃダメ」とかで片付けられない。煮えたぎる溶岩の中をクロールで遠泳しろと言われたところで、物理的に不可能なのと同じ様に。

 

「意気込み?そんな姿勢だって?こちらだって精一杯やってるんだ!!物事をなすにはプロセスと、適正な人員配置と、時間が必要なんだ!!

意気込みもいるだろうが、精神論だけで危険性は除去されないんだよ!!」

 

「貴様ッ———」

 

「ダラス!!噛み付いてばかりでは何も生まれないだろう?ランボール殿、失礼した。

皇太子殿下の御身を危険にさらすわけにはいかないだろう。 外務省としても皇内庁に、殿下の御身に害が及ぶ危険性があるため中止するよう進言しよう」

 

白熱というか、ダラスの言い掛かりが燃料となって燃え上がった議論は終わった。

ランボールが帰るとシエリアは直ちに、グラ・バルカス帝国本国の外務省に連絡。最前線基地が敵の襲撃を受け陥落する危険性が除去されていないため、皇太子殿下訪問の延期する様に進言するのだった。これには外務省としても渡りに船であった。何せ外務省的にも、どうにかしてカバルの視察を無くしたかったのだ。だが無くすには、それ相応の理由が必要となる。流石に「自身の身を危険に晒してでも、俺は行くぞ!」とは言わないだろうと、そう考えていた。のだが…

 

「ふん、お前は解っていないな」

 

当のグラ・カバル皇太子殿下は、態々忠告に来た外務省職員に哀れみの目を持ってそう言い放ちやがりました。

 

「最前線基地とは、危険なもの。そんな事は百も承知だ。しかし、私は信頼している。絶対的な強さを持つ帝国臣民の作りし兵器を、そしてそれを運用する精鋭グラ・バルカス帝国兵を!!

危険はあるだろう。だが、危険が有るからといって私が行かなければ、グラ・カバルは安全な所にしか行かない臆病者と兵達は考えるかもしれない。皇族の、しかも皇太子が危険な最前線基地で兵達を励ます。このことこそが、重要なのだ!!

私が行くことは決定事項だ。外務省と軍幹部には、皇太子権限で行くことは決定事項だと伝えろ!!」

 

「しかし!」

 

「くどいわ!!皇太子権限であれば文句はあるまい!!!!」

 

(いや文句しかねぇよ!!!!)

 

因みにこの皇太子権限というのが何かというと、現帝王のルークスが皇太子時代に軍人を経験した時に作られた法律である。皇太子が戦場に赴くとなれば、それはもうあちこちから今の様に色々来る。元老院での評議を待たなければならないし、皇内庁に話を通したり、関係各所への根回しで相当な時間を食っていた。その時間が余りに無駄かつ、何度もそれが原因で出遅れて結果的に軍に迷惑が掛かった為、無理矢理この法律で強行突破できる様にしたのだ。

やがて戦争も終わり、ルークスは帝王となってこの法律は使われはなくなった。所がここにきてカバルが、今度は自らの見栄とかプライドの為に使う、いや。利用する事になったのである。

 

「殿下!!どうか、どうかご再考を!!!!本当に危険性が高いのです!!!!!!!」

 

「くどい!!クビにしてやるぞ!!!!!」

 

そう言ってカバルは部屋を出て行った。もうこれで、何人のクビが飛ぶだろうか。恐らく、その1人に自分も入っているだろう。

 

「.......外務省職員って、転職とか再就職に有利だっけ?まあ公務員だから、良いのかな。ハハハ.......」

 

カバルの部屋から出てきた職員の顔はゾンビの様に生気がなく、背中は物凄い哀愁を漂わせていたらしい。

 

 

 

1週間後 バルクルス基地 飛行場

「捧げぇ、銃!!!!」

 

あれから1週間後、本当にカバルは最前線のバルクルス基地に来た。最新鋭の爆撃機である深山に良く似た爆撃機、スピカを真っ白に塗装し、胴体の国籍章はグラ皇族の紋章になっている特別仕様機だ。

バルクルス基地の将兵達は最低限の監視要員を除いて全員が片膝を付き、軍楽隊による壮大なメロディーが奏でられ、儀仗隊からの栄誉礼をカバルは受けている。

 

「出迎えご苦労!!!!」

 

中には目の前に現れたカバルに涙する将兵もいたが、ここの指令でもあるガオグゲルは無事に帰ってくれるかが心配で気が気では無かった。

 

「カバル皇太子殿下。本日は我ら兵の為に、この様な最前線まで遥々お越しくださり誠に有り難く存じます。私はバルクルス基地司令、ガオグゲルと申します」

 

「うむ!資料で其方の名前は何度か見た。精鋭の第4師団を従える猛将だと聞き及んでいる。貴様が指揮を取っているのなら、この戦、勝ったも同然だな」

 

「ははっ、有難きお言葉、感謝致します」

 

その精鋭である第4師団は、既に空洞山脈の先とかで草木の肥料と化しているのだが。勿論そんな事を言う訳にもいかないので、適当に話を合わせておく。

カバルを早速中へ案内しようとした時、駐機場の航空機が爆発したのだ。

 

「何事か!?!?」

 

「分かりません!!敵の攻撃なら事です!!!!退避を!!」

 

兵士達は即座に動き出し、整備員組は消化器や消防車の元に走り、対空要員は自分の使う対空兵器の元へと滑り込む。ガオグゲルとその幕僚、カバルとその護衛の兵士達はすぐに地下の司令部へと向かう。この地下司令部は防空壕も兼ねているので、爆撃されても問題はない。

まあ皇国には、そういう地下の拠点を破壊するバンカーバスターもしっかりあるので、これを使われれば全くの無意味である。

 

「状況を報告せよ!!」

 

「分かりません!レーダー、反応なし!!機体が動いてない駐機場故、事故の可能性は低いです!!どちらかといえば特殊部隊や工作員による爆破の可能性が高いでしょう」

 

司令部に詰めていた幕僚の1人が、ガオグゲルとカバルにそう報告する。だが、その暫く後、管制塔の見張りから「敵機発見」の報告が上がった。ガオグゲルはすぐに管制塔へ駆け上がり、自らの目で確認する。

 

「.......どれだ?」

 

「真ん中の辺りに黒い点がある筈です!その機体から、爆弾が落ちて来ていました」

 

「.......あれか?」

 

ガオグゲルはどうにか、上空に黒い点を見つけた。だが余りに高過ぎる。高過ぎて、機体形状どころか先述の通り黒い点にしか見えない。レンズについたゴミかと思う程に、それは余りに小さかった。

 

『敵機捕捉!!低空より超高速で接近中!!!!!!方位、1-9-7!!!!』

 

レーダー室から伝声管を伝って報告が上がり、言われた方向を見てみると、4機の航空機が迫っていた。すぐに周囲の対空砲が弾幕を張るが、全く意味を為さない。グラ・バルカス帝国軍ではVT信管を採用してはいるが、接近する航空機が早過ぎて正常に信管が作動しないのだ。簡単にいうと、信管のレーダー波が目標を捉えても、早過ぎて起爆の前に加害範囲から目標が抜けてしまうのだ。

では対空機銃ならどうだ、となるが、こっちも早過ぎて照準が追い付かない。しかも例え当たっても、全く効果が無いのか避けもせずに真っ直ぐ基地目掛けて飛んでくる。

 

「ターゲットロック」

 

「へへっ、食らってみやがれ!!!!」

 

バルクルス基地に飛来した航空機の正体は、大日本皇国空軍のぶっ壊れチート兵器。A10彗星IIである。今回はパイロンに、AGM103旋風を搭載している。1機辺り、マルチパイロン使用で64発の旋風が積めて、更にそれが4機いるので、合計256発ものミサイルを叩き込める。因みに初手の爆撃の犯人は、A9ストライク心神である。4機編隊で大型パイロンにGB9天山、中型パイロンにはGB8流星を搭載してあった。

彗星IIの正確な攻撃により、対空砲の全てが破壊し尽くされた。それだけでは無い。燃料タンク、火薬庫、駐機してあった機体にも攻撃が当たり、誘爆したりで消火に当たっていた整備兵ごと吹き飛んだのだ。攻撃を終えると、彗星IIは素早く進路を変えて元来た方向へと帰還し、上空のストライク心神もいつの間にか帰還していた。

 

『燃料タンク炎上!!火の手が早く、全く手が付けられません!!』

 

『火薬庫爆発!!現在も誘爆が続いており、消火しようにも近付く事すらできない!!』

 

『電源設備、送電設備もやられました!!!!レーダー、使用不能!!!!』

 

『対空陣地沈黙!!!!全ての陣地、応答ありません!!!!』

 

『駐機中の機体の大半がやられました!!死亡者、負傷者も大量に出ています!!!!』

 

『司令、ご指示を!!』

 

各所から被害報告が上がってくるが、流石にこれは予想外の被害だった。何よりレーダーサイトの喪失は痛い。基地の照明くらいなら非常用電源でどうにかなるが、レーダーは大量の電力を消費する為、元から非常用電源が配置されてないのだ。というより、今の技術では非常用電源では動かせられる電力を賄えないのである。

 

「見張り、警戒を厳にせよ。私は指令室に戻る」

 

「ハッ!!!!」

 

ガオグゲルは指令室までの移動途中で、色々と考えた。対空砲も航空機も使えない今、この基地は無防備。航空基地という飛行機を運用する事が主目的である以上、要塞壁のような遮蔽物はない。一応塀くらいはあるが、戦車砲で簡単に壊れてしまう。

 

「司令!ご指示を」

 

「倉庫に移動式の対空砲がある筈だ。アレを引っ張り出せ。他の基地に応援を頼み、ここに派遣してもらおう。ところで、殿下は?」

 

「今は部屋で待機して頂いております。流石にこの状況で外に出られては作業の邪魔にもなりますし、何より殿下御自身の身も危険ですから」

 

副司令の的確な判断に感謝しつつ、今自分のすべき事を兎に角考える。少なくとも、このバルクルス基地は戦力を喪失している。ここまで徹底的にボコボコにしたとなると、恐らく敵が第二次攻撃を仕掛けてくるとしたら陸路による攻撃だろう。

 

「.......消火と負傷者の収容が終わり次第、武器弾薬を掻き集めろ。恐らく敵は地上から攻め込んでくる筈だ」

 

「了解しました。手空きの兵を編成し、即席の戦闘部隊を作成します」

 

副司令は直ちに手空きの兵を集めて、武器弾薬を掻き集める用に指示を出す。どうにか戦える位には装備を掻き集め、何なら航空機や対空砲の残骸から使える物を無理矢理持って来ている。ある程度なら倒せるだろう。

そして爆撃から約30分後、彼らが来てしまった。

 

『方位1-9-0!!敵機多数接近!!!!』

 

さっき彗星IIがやって来たのと全く同じ方向から、多数の航空機がやって来た。それも真っ白な機体が何機もいる。

 

『!?敵機に真っ白な機体と、角羽馬エンブレムを確認!!神谷戦闘団、白亜衆と思われます!!!!』

 

「奴ら、空挺降下を仕掛けるつもりか!?!?」

 

顔を真っ青にするガオグゲルとは裏腹に、接近する輸送機、AVC1突空の中に居た神谷は不適な笑みを浮かべるとこう呟いた。

 

「ここからは、こっちのターンだ。グラ・バルカス帝国」

 

 

 



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第六十八話FOB同時攻撃

グラ・カバルの来訪より数日前 リュウセイ基地 会議室

「FOBへの同時攻撃、ですか?」

 

「えぇ。現在彼らは、ドーソン空軍基地とそこに隣接するアルーを取り返されて浮き足立っております。更に戦略的な面でも、おそらく相手の主力級である機甲部隊をキールセキ防衛時に撃退しています。

この機を逃さず、我々が主体となってこれを撃破。取り敢えず、当面のムーへの被害を抑えます」

 

この日、神谷はリュウセイ基地司令のパーマー少将と今後の作戦について話していた。先に言っておくが、別にカバルが居るから攻撃した訳ではない。カバルが来たのは偶々であり、後からカバルが居た事を知る事になるのだが、少なくともこの段階ではカケラも知らないのだ。

 

「具体的な作戦は?」

 

「FOB2のウィザスター基地には鉄道が敷設されており、例のアイアンレックスを用いれば、恐らく簡単に解放できるでしょう。

FOB3のメーバックス空軍基地はFOB1のバルクルス基地より更に後方ですのでメタルギアを投入して殲滅し、FOB1には空挺強襲を持って落とします」

 

「空挺降下ではなく空挺強襲ですか?」

 

「そちらにも、空挺部隊はいるでしょう?」

 

「えぇ。第212特別機動空挺大隊ですね?」

 

第212特別機動空挺大隊とは、ムー統括軍における精鋭部隊である。本来であれば陸軍、海軍、空軍、海兵隊のいずれかに所属する。だが彼らはその特性上、陸軍の部隊でありながら管轄が統合参謀本部直下となり、広域上は統括軍の管轄となる特殊部隊である。『空挺』の名の通り、現実における第一空挺団やSASの様に、空からパラシュートを持って敵陣に降下する部隊である。

 

「空挺強襲は更に上を行く特殊作戦です。相手の防空設備や高脅威の地上目標、例えば戦車や歩兵戦闘車を先に攻撃し、間髪入れずに空挺降下とヘリボーンを行って敵陣を強襲。そのまま乱戦に持ち込む、私の編み出した神谷戦闘団の常套戦法です」

 

「その、勝てるのですか?」

 

「でなきゃ、こんな無謀な作戦は提示しませんよ。奴らの防空火器の場所は把握済み。ここを誘導爆弾で破壊してやるだけですから、何も難しいことありません」

 

「.......良いでしょう。貴方が言うのであれば、すぐに本部に問い合わせてみましょう。こちらも空挺隊を出した方が?」

 

「その方が、そちらもポーズが付けられるでしょう?」

 

欲を言えば、出張ってきて欲しくない。だがムーにはムーなりに、ポーズを付けさせてやる場面が必要だ。何よりこうやって恩を売っておけば、今後何かの形で返ってくるかもしれない。

結果として、今回のバルクルス基地への空挺強襲作戦は第212特別機動空挺大隊、そして、もう一つの精鋭部隊である第501軍団が投入される事になった。

 

 

 

翌日 リュウセイ基地 格納庫

「貴方が、皇国の神谷元帥殿ですかな?」

 

「ん?あぁ、そうだが?」

 

「初めまして。私は第212特別機動空挺大隊の指揮官、アレック・マクレガー。今回はよろしくお願いします」

 

そう言いながら、マクレガーは手を差し出してくる。因みに何故か腰にレイピアを吊り下げており、服も軍服ではなく西洋の軽鎧の様な見た目の服を着ている。

 

「こちらこそ初めまして、マクレガー将軍。お互い、生き残りましょう」

 

そう言いながら、神谷も手を差し出す。2人が硬い握手を交わす中、神谷の脳内ではマクレガーの事を思い出していた。

 

(アレック・マクレガー大将。第七兵団の指揮官であり、第212特別機動空挺突撃はここの精鋭から構成されている。俺と同じ、指揮官最前線型とでも言うべき方式を採用しており、レイピアの腕も立つが基本的に魔法を使って戦うんだったな)

 

「そうだ、もう1人の将軍もご紹介致します。第501軍団の指揮官、ジェイデン・スカイウォーカー。そして副官のアシェリー・ドーソン」

 

「スカイウォーカーです」

「アシェリーです。よろしくお願いします」

 

「あ、あぁ。こちらこそ」

 

まるでこの編成、何処ぞのスターウォーズである。因みにスカイウォーカーは男で、アシェリーは女である。

暫く雑談していると、ブリーフィングの時間となったので、すぐに立体投影装置を使って作戦を説明する事になった。

 

「今回の作戦は至ってシンプル。いつもの空挺強襲だ。とは言え、今回はお客さんがいるからな。丁寧に説明しよう。

手始めに航空隊が精密爆撃等を用いて、対空砲と戦闘機を破壊。対空目標の消失が確認され次第、神谷戦闘団はヘリボーン。白亜衆は空挺降下を敢行し、バルクルス基地に降下。降下後は各個に基地を制圧する。以上だ。

今回は第212特別機動空挺大隊は白亜衆と共に空挺降下、第501軍団は神谷戦闘団と共にヘリボーンで降下。降下後はそちらの好きに暴れてもらいたい。我々が合わせる」

 

「いいのですか?」

 

「問題ない。マクレガー将軍とスカイウォーカー将軍の戦績も、部隊の戦績も確認させてもらっている。それから、共に横で戦うと言うなら俺に敬語は不要だ。戦場に立つのに敬語使われるのは、何だかむず痒くていけない」

 

この発言に3人は驚いた。敬語は不要で良いというのは、軍人としてはかなり異質な命令であった。本来軍隊とは、上下の差がハッキリと出る。階級一つで全て変わる世界であり、上位階級者に敬語で話さないのは言語道断ですらある。にも関わらず、それを要らないと言うのはかなり珍しい。

 

「何か質問は?」

 

「なら、神谷将軍。敵の戦力はどのくらいなの?」

 

「歩兵が恐らく一個師団、残りは職員だろうな。別に戦車とかもないだろうし、銃撃ちまくれば倒せる筈だ」

 

「装甲車はどうなんだ?」

 

「居ないだろうが、居ても破壊するだけだ」

 

偵察では警備の歩兵こそ確認されたが、装甲車は確認されていない。居ても精々、輸送トラックに機関銃乗せたくらいの代物だろう。例え普通の歩兵戦闘車や戦車が居たとしても問題はない。この後も簡単に質問に答えつつ、二時間ほどでブリーフィングは終了。

翌日には作戦が始まり、前回の最後の部分に繋がるのだ。では、まずは他戦区の戦闘を見てみよう。まずはFOB2のウィザスター基地の戦いから。

 

「それにしても、まだ発足して間も無いってのに引っ張り凧だな」

 

「あぁ。上も人使いが荒いよな」

 

「あら、それだけ私達が期待されてるってだけじゃない?」

 

装甲列車『アイアンレックス』の乗員達が、作戦中だが和気藹々と喋っている。大体話し終えたのを見計らって、隊長が背後から「私語は慎め」とハスキーな低いダンディボイスで咎める。

 

「隊長、偵察機からの情報です。敵は線路付近に野戦砲を配置し、こちらに射撃を加えようとしていると」

 

「.......優木、ここから狙えるか?」

 

「大丈夫です!」

 

「よし。主砲砲撃戦、主砲回頭!敵、野戦砲陣地に固定!!」

 

後部車両の砲塔車I型が起動し、上部砲塔は仰角を上げ、側面砲塔は砲塔が上方へ回転して照準をセットする。

 

「照準良し!」

 

「撃てぇ!!」

 

9発の250mm弾が飛び出し、陣地目掛けて飛翔する。野戦砲や対戦車砲の様な牽引式砲は、一定の威力を叩き出す代わりに陣地転換が極端に遅いという欠点がある。これが自走砲なら話は別だが、陣地転換を行うにはトラクターに牽引してもらう必要がある。

それにそもそも移動できたとしても、一式機動四十七粍速射砲モドキ程度の性能しかない野戦砲ではアイアンレックスは止まらない。

 

「野戦砲に命中!」

 

「続けて砲撃!!」

 

更に第二射、第三射と続く。第五射まで撃つと、隊長が新たな命令を飛ばす。

 

「緑川!アイアンレックス、突撃!!」

 

「了解!」

 

ブオォォォォォォォォン!!!!

 

出発時になる獣が唸る様な低い汽笛とは違い、今度は少し高めの「機関車の汽笛」と聞いて思い付くであろう音の汽笛を鳴らしながら増速。ウィザスター基地へと突っ込む。

 

「優木!歩兵への対処準備!!」

 

「了解!対空機関砲、スタンバイ!対地上目標へ!!」

 

本来なら対空兵装だが、砲塔車や対空車の機関砲を持ってすれば戦車でも倒せる。圧倒的な弾幕を前に、歩兵は為す術なく防衛戦を突破されてしまう。

 

「隊長!進路上に機関車です!!」

 

「優木!!」

 

「はい!!460mm砲、射撃準備!!」

 

列車の最後尾3両に搭載された460mm砲が展開し、合体して大砲となる。最後尾には弾倉と装薬、真ん中には機関部、先頭には砲身がそれぞれ格納されており、射撃時は機関部に他の2つが合体して、460mm砲となるのだ。

 

「射撃コンピューター起動、照準よし!!」

 

「発射!!」

 

「発射ぁ!!!!」

 

車体を揺らす衝撃と轟音と共に、直径46cmの巨大砲弾が飛び出す。単なる普通の列車では、この巨大質量物体を防ぐことはできない。

砲弾は正確に命中し、機関車は爆発。進路が開いた。

 

「このままホームに突っ込め!!」

 

そのまま無理矢理ホームへと突入して停車。アルー侵攻時と同様に、周囲に弾幕を張って牽制する。

 

「退避!!退避ぃ!!」

 

「クソッ!あの機関車、客車にマシンガン搭載してやがる!!」

 

「これじゃ近付けねぇよ!!」

 

「対戦車ライフルだ!!対戦車ライフル持ってこい!!!!」

 

後方から巨大なライフルを担いだ歩兵が走ってきて、脚を立ててコンクリート製の大きめのブロックに固定し構える。だがしかし、その姿は車両のセンサーが探知していた。

アイアンレックスの車両にはセンサーが搭載されており、高脅威目標を瞬時に探知し、それを中央のAIがシルエットを判断。全自動で攻撃を加える事ができる。取り敢えず第一次世界大戦から第二次世界大戦までの兵器は全てインプットしてあるので、その中でも対戦車兵器等は自動的に攻撃する様になっている。例え未知の兵器だったとしても、何かしらの兵器と類似したシルエットになるので、それを探知すればすぐに人間の判断が加わる様になっている。

 

「神よ。私を御守りくだ」

 

祈りの言葉の途中で、60mm機関砲の攻撃を受けてライフルマンが吹き飛んだ。勿論ライフルは銃身が曲がってはいけない方向にひん曲がってしまい、もう撃つ事はできないだろう。

 

........................」

 

吹き飛ばされたライフルマンも、下半身と上半身が千切れてしまい、腹の辺りから腸らしき内臓が飛び出していて、間も無くして絶命した。応戦しようにも1発撃てば10発返ってくる様な状況では身動きが取れず、それどころか機関砲弾の爆発も相まって下がるしかない状況である。この機を逃さず、乗せてきた第五師団、第309突撃連隊が飛び出して基地の占領に移る。程なくしてウィザスター基地は、そこにあった大量の物資と共にムーの手に落ちたのであった。

 

 

 

同時刻 FOB3メーバックス基地

「司令、レーダーに大型の反応です」

 

「何?爆撃機か?」

 

「いえ。それにしては反応が巨大でして」

 

「エコーじゃないのか?整備兵をレーダーに向かわせる」

 

基地司令含め、その場にいた全員はその余りに大き過ぎる反応にてっきりレーダーの故障だと思っていた。だが、レーダーの反応は正しかった。接近していたのはメタルギアを積んだメタルギア応龍だったのだ。

 

『降下まで240秒。スタンバイ』

 

今回はメタルギア応龍3機とメタルギア零、メタルギア龍王、メタルギア狼を各1機ずつ投入している。

 

「さぁーて、暴れるか!」

 

パイロット達は自身のメタルギアの電源を入れ、操作レバーを握る。自分の第二の手足となるメタルギアを操作するレバーは、もう訓練で何度も乗っている。お陰でまるで神経を直に接続しているかの様に、完璧な操作ができる。

 

「て、敵襲!!!!なんだアレは!!」

 

『監視所!なんだどうした!?敵の数は!?!?』

 

「数は3機!ですが、あ、アレはなんだ?そ、その何かを吊り下げている巨大機です!!爆撃機なんか子供みたいに思えるくらい、超巨大な航空機です!!」

 

この報告を受けた司令官は、何が何だか分からないが取り敢えずマニュアル通りに攻撃を命じた。爆撃機はその図体故、動きは鈍重。従って良い的ではある。

 

「方位1-9-0!!高角68°!」

 

「用意良し!!」

 

「撃てぇ!!」

 

だがこの応龍に、そんな砲弾が当たるものか。応龍には特別な推進機構が搭載されており、空中を滑る様に飛ぶ事が出来る。従ってミサイルだろうが砲弾だろうが、予想外の動きで回避する事が出来るのだ。

 

「な、なんだ今の動きは!?!?」

 

「機体が横滑りしたぞ!!!!」

 

「だ、第二射!装填急げ!!」

 

グラ・バルカス帝国兵も大慌てで高角砲に砲弾を装填し、もう一度狙いを定める。だがその装填時間の十数秒が、応龍に対しては致命的な隙となる。

 

「機関砲、掃射開始」

 

コックピット下の57式40mm連装機関砲が起動し、高レートの機関砲弾を砲台に叩き込む。他の機体も対戦車ミサイル等の火器を用いて対空砲陣地を無力化していき、数分もすれば地上は片付く。

 

「地上はクリア。後は俺たちの番だな」

 

『そんじゃ頼むぜ、メタルギアさん!』

 

「お前もメタルギアのパイロットだろ。まあ、二足歩行じゃなくて飛行タイプだけど」

 

『言うなよ!ちょっと気にしてんだぞ、そのネーミングと違う件」

 

パイロット達はそんな軽口を叩き合っているが、どちらも顔付きは真剣であるし、自身の手と足で的確にメタルギアを操っている。

 

「さーて、じゃあ、暴れますかね!!」

 

零、龍王、狼のパイロット達はコマンドを入力し、応龍との接続を解除。地面へと降り立つ。その姿たるや、陸の王者の名が相応しい。

 

「狼の初実戦だ。記念すべき最初の獲物は、何かな?」

 

まさか敵機が横にスライドして砲弾を回避した挙句、落としたのは爆弾ではなく巨大なロボットだったとくれば、混乱するには充分すぎるだろう。しかもよりにもよって龍王が基地唯一の滑走路の上に降り立った為、この基地最大の戦力である航空機を発進できずにいた。

 

「なんでロボットがいるんだよ!!!!」

 

「クソッ!!ここにバズーカがありゃ!」

 

「ここは航空機こそあるが、戦車も無いからな。チクショウ!!」

 

混乱と絶望が兵士達を支配する中、ある1人の兵士が考え付いた戦法に希望が見出せた。

 

「そ、そうだ。脚だ。脚に攻撃を集中させれば、奴を文字通り倒せるかもしれねぇぞ!!」

 

このアイデアは、メタルギアに対する極めて効果的な反撃である。メタルギアは名前にもある通り、二足歩行兵器。知っての通り二足歩行は、全体重が2本の脚部に集中するし、何よりバランスも絶妙かつ繊細な物で、その均衡が崩れれば脆い。これは皇国とて同じ事だし、狼も4本脚であるが同じ様に脚部への攻撃は脅威なのだ。

 

「重機関銃と爆薬と対戦車ライフルをありったけもってこい!!」

 

「まずは飛行場のを倒すぞ!!」

 

「攻撃準備良し!!」

 

「一斉撃ち方!!撃ちまくれ!!!!」

 

尤も、この戦法は脚部を破壊できれば(・・・・)の話なのだが。メタルギアの本名は『二足歩行戦車』。『戦車』が付いているのだ。何処の世界線に、対戦車兵器を除くライフルとか機関銃なんかの歩兵が運用する火器で装甲をぶち抜ける戦車が………いや、確かにイギリスのガーデン・ロイドとかフランスのルノーUEとかはペラッペラの紙装甲ではある。ではあるが、そこは考えないで貰いたい。

兎に角普通のMBTの装甲を、歩兵火器で貫通できるだろうか?否。無謀にも歩兵火器で戦車を破壊しようと試みた時点で、撃った弾が巨大かつ何十倍にもなって返ってくるだろう。

 

「奴ら、銃でコイツを倒そうとしてるな?無駄無駄」

 

『ならこっちで教えてきてやるよ。俺、親切だから』

 

狼のパイロットがそう言うと、足元のペダルを踏み込んだ。すると狼は一気に20m位の高さまで跳び上がり、歩兵部隊の前方50mの位置に着地させる。

 

「突っ込め!!!!」

 

そのままレバーを前に叩き込むと、狼は前傾姿勢を取ってそのまま敵陣目掛けて猪の様に突っ込む。

 

「逃げ」

 

ガッシャーーーーーーーン!!!!!!

 

そのまま遮蔽物にしていたコンテナごと轢き潰されて、悲鳴すら上げる事なく全員が戦死した。地面には夥しい血と肉片が撒き散っており、狼の前脚の裏にもべっとりとくっ付いていた。

 

「狼が暴れてるな」

 

『なら、こっちも暴れるとしよう』

 

零と龍王は腕部のレールガンをチャージし始め、同時に照準を合わせ始める。零は管制塔、龍王はその下の恐らく指令所と思われる施設が目標だ。

 

「照準よーし」

 

『発射!!』

 

バシュン!!!!

 

放たれた砲弾はしっかり命中し、管制塔は根元が破壊された事で崩落し、指令部庁舎も大穴が空いた挙句、管制塔の管制室の部分が降ってきて勝手に大破した。アレではもう、指令を伝達することも出来ないだろう。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

「このまま黙ってやられる物か!!!!!」

 

「クソ!巨人に報いを!!!!!」

 

施設を破壊したのも束の間、今度は零と龍王目掛けてトラックやジープと思われる車が突っ込んできた。彼等はこの基地の警備を担当する、基地警備隊、第38分隊の面々である。彼等は狼に轢き潰された仲間達を見て、通常火器ではメタルギアを破壊できないと悟った。

通常火器では攻撃が効かず、戦車も野戦砲もなく、唯一対抗できたかもしれない高角砲も全部破壊されて今や単なる鉄の塊。となれば残るは爆薬をセットすれば良いという発想に行き着いたのだが、流石に生身で行ってはまた踏み潰されるかもしれない。そもそもちょっとやそっとの爆薬では、あれだけの巨体を倒せない。となれば車に爆薬をありったけ積め込んで、戦死覚悟で刺違えてでも脚部に激突するしか無い。

 

「特攻か」

 

『敵だとは言え、殺し辛いな』

 

「だが、倒さないとこっちがやられる。残酷だが、それが戦争なんだ」

 

流石にこんな事をされては、彼等もキツい。こちらの世界での旧大日本帝國陸海軍では、国を挙げての特攻作戦は無かった。しかし前線などの一部部隊では実際に、特別攻撃として志願者による特攻が行われていたのだ。

勿論、菊水作戦の様な大規模な物ではなく、初期の頃の小規模な特攻ではあるが、現在でも過去の過ちとして歴史の時間で『戦略、戦術的には愚策ではあるが、その搭乗員達は尊敬すべき』と習う。それに軍学校に於いても、この特攻については深掘りされる。その戦法がどれだけ愚かで無意味であるか。一方でその作戦に参加した搭乗員達は、どんなに素晴らしい精神を持っていたか。これらの学びを通して、最終的に『決して帰還を諦めずに、生きて1人でも多くの敵を倒せ。国の為に死ぬ事は軍人の誉れであり、皇国臣民最大の栄誉であるが、犬死は単なる無意味な死でしかない』と教わるのだ。

 

「そうだ、そうだったな。これは戦争なんだ.......。Sマイン発射」

 

零の脚部から、無数のSマインが発射される。飛び出した擲弾はトラックの上空で起爆し、周囲に無数の子弾をばら撒きトラックを破壊。ガソリンと爆薬に引火し、大爆発を起こす。

 

「エルジャァァァァァァ!!!!」

 

「エルジャとジャラマがやられたぞ!!!!」

 

「怯むな!!!!続けぇぇぇぇ!!!!!!」

 

ボォボォボオォォォン!!!!

 

トラックは尚も爆進する。怯むどころか、クラクションを鳴らして煽ってくる始末だ。だが、それだけ接近してくれれば、こっちだってやり用はある。

 

「撤退しないか。恨んでくれるなよ?」

 

竜王にも零にも、30mm機関砲が装備されている。これだけ接近していれば、簡単に排除できる。30mm弾の弾幕を展開し、車両群を一掃。だがその弾幕を潜り抜け、龍王に襲い掛かる1台のトラックが居た。隊の中で最も若い、ナーバラ上等兵である。

 

「隊長、みんな!!俺に力を貸してくれ!!!!!!」

 

「1台漏らしたか」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!帝国に栄光あれぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」

 

だが、それでは倒せない。龍王のパイロットはジャンプペダルを踏み込み、跳び上がってトラックを回避した。そして今度は、自由電子レーザー砲というTLSのプロトタイプに当たる兵器のトリガーを引いた。

 

ビーーーーーーーーー!

 

自由電子レーザーにより、トラックは溶解し撃破。程なくしてメーバックス基地は皇国軍に占領されたのであった。

 

 

 

同時刻 バルクルス基地 上空

「降下地点に到着しました」

 

「野郎共、いつもの様に行くぞ!!!!」

 

バルクルス基地の上空3500mから、白亜衆の面々とマクレガー率いる第212特別機動空挺大隊が降下。更に神谷戦闘団と、スカイウォーカーとアシェリー率いる第501軍団がヘリボーンで展開する。

 

「敵が降りてきたぞ!!!!」

 

「ここを死守しろ!!殿下を守るんだ!!!!!!!」

 

「死んでも守り通すのだ!!!!」

 

グラ・バルカス帝国兵は素早く防御陣地を構築し、連合軍を迎え撃つ。神谷戦闘団の面々が装備している甲冑の前には無意味であったが、501軍団はそうではない。彼等の装備には防弾チョッキが無く、降下直後の無防備のタイミングに弾幕を貰っては対処しようがない。

 

「よし続、ぎゃぁ!!」

 

「行くぞ!!あそこまで進むんだ!!」

 

取り敢えず、兵士達は航空機の残骸のあるポイントまで前進する。距離は大体50m程度なのだが、そこに辿り着くまでに弾幕を幾つも掻い潜らなくてはならず、中々に前に進めない。そこで頼りになるのが、コイツらだ。

 

「お前達!!俺達の後ろに隠れてろ!!!!!!」

 

「装甲歩兵はこういう時の為にいるんだ!!!!!!」

 

キュィィィン、ブオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!

 

神谷戦闘団の装甲歩兵である。装甲歩兵の装備する装甲甲冑には20mm弾の直撃にも耐えうる、人が装備するには余りに強靭な装甲が施されている。たかだか歩兵火器程度に撃たれる程度では、全くビクともしない。

 

「す、スゲェ」

 

「マジかよ」

 

「ここは俺達が牽制する!!先に行け!!!!」

 

「助かる!!」

 

機動甲冑を装備した歩兵も合流し、まずは501軍団の安全を確保する。そう考えていたのだが、部隊長となるスカイウォーカーと副官のアシェリーの活躍で案外早く確保できた。というのもこの2人、魔法使いなのだ。

 

「プラズマウォール!!」

 

「グラビティ!!」

 

スカイウォーカーは主に重力を操作する魔法、アシェリーには雷系統の魔法が使える。因みにマクレガーは精神操作が得意。

 

「ま、まるでジェダイの騎士だな」

 

「ってかスカイウォーカーって、そのまんまアナキンだしな」

 

「異世界スゲー」

 

これには神谷戦闘団の面々も驚きであった。そうこうしていると神谷とマクレガーも着地し、全員が揃った。

 

「将軍!敵部隊は地下指令室に続く道に、何重もの防御陣を敷いております」

 

「どうしますか、マスター?」

 

「こちらの兵力で正面突破は無理だな.......」

 

「であれば、俺に任せろ」

 

ここで神谷、秘策とまではいかないが、ここで切り札の1つを切る事にした。群で無理なら、個でやってみても良いだろう。という訳で、最強の存在、投入である。

 

「久しぶりに我の出番か我が友よ!!」

 

「そうだとも。目の前に防御陣地あるだろ?アレ、焼き払っちゃって」

 

「心得た!!」

 

そう、竜神皇帝『極帝』である。コイツを投入すれば、考えうる凡ゆる兵器、陣地を焼き払える。いや、もう「消し炭にする」というのが適切な表現かもしれない。

 

ゴオォォォォォ!!!!!!

 

安定の魔力ビームで眼前に広がる敵防御陣地を消し去る事に成功した。だがまだ、安心はできない。

 

「エリス、頼んだ」

 

「分かったわ。それじゃ、いくわよ!!!!」

 

エリスが自身の大剣『アイギス』を地面に叩き付け、地面を割りながら溶岩を発生させる。この攻撃で、完全に陣地を破壊し尽くした。

因みに何だかんだで、ワルキューレの使う武器の名前が決まった。ヘルミーナのブロードソードは右手のが『スターバースト』、左手のが『イクリプス』、盾は『イージス』、アナスタシアのレイピアは『ヨルムンガンド 』、ミーシャの杖は『スタッフ・オブ・ワルキューレ』、レイチェルの弓は『アヌビア』である。

 

「この機を逃すな!!突撃!!!!」

 

「野郎共続け!!」

 

「GO!GO!GO!」

 

神谷戦闘団、空挺大隊、501軍団が列を成して司令部へと突撃していく。その攻撃はしっかり、AVC1『突空』が支援してくれる。

 

「敵が突っ込んでくるぞ!!」

 

「撃ち返せ!!!!」

 

パン!パン!パパン!パン!

 

一部には分隊支援火器の軽機関銃があると言っても、大半の兵士が持っているのはボルトアクション式のライフル。だが相手の方は、神谷戦闘団の面々は全員がフルオート射撃可能なアサルトライフルや軽機関銃、装甲歩兵の持つミニガンやオートライフル砲もある。しかも空挺大隊と501軍団にはカラシ突撃小銃が装備されてるので、発射レートでは遥かに上をいく。

 

「クソッ!!奴ら、全員マシンガンを持ってるぞ!!!!」

 

「お前達!!栄光あるグラ・バルカス帝国兵らしく、最後の最後まで戦え!!!!撃ち返せ!!!!」

 

「そうだ!!俺達の後ろには殿下が居られるんだ!!!!」

 

「俺達は無敵だ!!撃て撃て!!!!!!」

 

だが彼等は、それを意に返さない。寧ろ追い詰められて背水の陣になった結果、より強固に粘り強く抗う始末。これではどうしようもない。

 

「スカイウォーカー!!」

 

「なんだ神谷将軍!!」

 

「アンタの魔法で、刀は操作できるか?」

 

「なに?」

 

「俺が投げて、お前がそれを操作する。奴らをブーメランよろしく、両断してやろうって言ってんだ!!」

 

「任せろ!」

 

この答えを聞くや否や、神谷は獄焔鬼皇をぶん投げる。その刀に向かって手を広げるスカイウォーカー。刀はブーメランの様に回転しながら、右方向から侵入して左に飛びながら行く先々のグラ・バルカス帝国兵を切り刻んでいく。

刀は全員を斬り終えると、そのまま神谷の手元に戻ってきた。

 

「ここまでしてくれるのか。ありがとよ」

 

「どうも。にしても、凄い切れ味だな」

 

「コイツは割と真面目に、神話の時代からある様な由緒正しい刀だ。この位できるさ」

 

獄焔鬼皇を鞘に戻し、彼等の守っていた場所へと行く。どうやら地下司令部の扉らしく、多分内側から強固にロックされている。

 

「弱ったな。僕の魔法でもどうしようもできない」

 

「爆弾でも仕掛けてみるか?」

 

「これ、爆弾で破壊できますかね。マスター・マクレガー」

 

「.......」

 

「テルミット持ってこーい」

 

魔法で無理なら、科学で開ければ良い。と言う訳で柿田が、部下にテルミットと呼ばれるシートを持ってきてもらう。

 

「これは?」

 

「金属酸化物と金属粉。それに燃料を適切に調合すれば、2000℃で燃える。その熱は考え得る、ほぼ全ての防壁を溶かせる」

 

作動と同時に、縁の部分が真っ赤に燃え出して固い扉を溶かしていく。右と左から半周して下で2つが合わさると燃焼が終わり、今度はC5が起爆する。

 

「C5との併用が、最強の組み合わせだ」

 

起爆すると扉は完全に消し飛び、煙が晴れると扉の代わりに大きな穴が広がっていた。

 

「進め!!」

 

神谷の号令の下、腕に火炎放射器を装備した装甲歩兵が飛び降りて、廊下を焼き払う。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「あちぃ!!あちぃよぉ!!!!」

 

「あぁ!!あぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

廊下はもう、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。グラ・バルカス帝国兵は狭い廊下を転げ回り、どうにか炎から逃れようと踠く。だがそんな事に意味はなく、寧ろ他の兵士に火が燃え移ったりして二次災害を生む始末。例え部屋に隠れていようと、後続の兵士達が殺してまわる。逃げ場はない。

 

「何なのだ、何が起こっているのだ!!!!」

 

扉を爆破する時の爆発音と兵士達の悲鳴は、指令室にまで響き渡りカバルは明らかに動揺していた。

 

「殿下、よくお聞きください。もうこの基地はダメです。脱出を」

 

「な、何故だ!!帝国は強い!!!!私は帝国兵を信じ」

 

パシン!!

 

ガオグゲルはカバルの頬をビンタした。こんな行為、普通に不敬罪で極刑である。カバルもそうだが、いきなりビンタされては誰でも思考が止まって何も言えなくなるだろう。ガオグゲルはその一瞬の隙に、カバルの胸ぐらを掴み上げる。

 

「いいか若造、よく聞けよ?俺達、帝国軍は負けたんだよ!!だが戦争に負けた訳じゃない。アンタを逃し、本国にこの恐怖が少しでも伝われば、多数の命が救われる。アンタがここで死のうが死ななかろうが俺には関係ないが、皇太子殿下に死なれちゃ困るんだよ!!

そもそも前線に来なけりゃ、こんな目に合わずにすんだのに。アンタバカだな。だが、バカだろうが何だろうが責務を果たせ!!グラ・バルカス帝国の皇太子として。次代の皇帝を受け継ぐ者として。その責務を果たしてみせろ!!!!」

 

「.......貴様はどうするのだ?」

 

「俺は俺の責務を果たす。さぁ、お行きなさい殿下。御無礼、平に御容赦を」

 

カバルはガオグゲルの指示に従い、護衛の兵士を伴って非常用の脱出口から脱出した。彼らを見送った直後、指令室の扉が爆破され中に白亜衆と赤衣鉄砲隊が流れ込んできた。

 

「やぁ諸君。初めまして。神谷浩三・修羅だ。取り敢えず、降伏しようか?」

 

「それで降伏すると思っているのか!!!!」

 

そう言いながらガオグゲルは腰の護身用拳銃を引き抜くが、それよりも先に神谷が左手に持っていた50口径仕様の26式拳銃で顔面を弾き飛ばす。

 

「皆殺しだ!!」

 

左手に拳銃、右手に刀というスタイルで指令室の人員を殺して回る。刀で切り付けたり、刺したり、刀の間合いの外の奴には50口径弾をプレゼントする。

 

「相変わらず、団長は恐ろしいな」

 

「50口径を片手で扱いながら、片手で刀振り回すって何処のバーサーカー?」

 

「何処って、皇国のバーサーカーだろ?」

 

「南無阿弥陀仏」

 

たった1人で部屋にいた30名全員を抹殺し、本人は涼しい顔で血の海の中に立っている。軽くホラー映像だ。

 

「団長。どうやら、誰かが逃げたみたいですぜ?」

 

「何?」

 

「ほらあれ。如何にもな脱出路が、しっかり開いてやがる」

 

部下の1人が指差す方向には、確かにザ・非常脱出路という感じの通路があった。しかも多分、構造からして普段は隠されている感じなので、それが開いてるとなると誰かが使った可能性が高い。

 

「向上、ワルキューレ。それから白亜衆と赤衣から2人位ついてこい。ハンティングを始めよう」

 

ここの指揮をマクレガーに任せて、神谷は逃げ出した誰かを追い掛ける。一方その頃、カバルと護衛の兵士5名は脱出路のトンネルを抜け、トンネルの先に繋がっている洞窟も抜けて、基地の北西6kmに位置する森林の中を走っていた。

 

「はあっ!!はあっ!!何故だ!!何故精鋭帝国兵が負ける!!!」

 

一応鍛えてはいるが、流石に息苦しい。息も絶え絶えで、口内が乾燥し、喉が痛くなる。だがそれでも、捕まればどんな仕打ちが待ってるか想像したくもないので、やはり走るしかない。

 

「これからどうするのだ!?」

 

「このまま後方のメーバックス空軍基地まで向かいます」

 

「他の基地が近いだろう!?」

 

「確かに近いです。しかし今の状況ですと、森林の方が安全です。森林は空からは見えづらく、例え大量の航空機を投入しようと早々見つかる事はありません。ここから先、殿下の人生の中で間違いなく1番の苦痛を伴う日々が続きます。しかし、我々が命に変えても本土に御帰還させますので、どうか我々を信じてください」

 

この帝国兵が考えた作戦は、とても理にかなっている。だが生憎と皇国にはサーモグラフィーという、熱源探知機能を持った偵察機がいるのだ。灼熱の砂漠ならまだしも、森林であれば人影はすぐに探知できる。それにそもそも、頼みのメーバックス基地はメタルギアによって攻略されてしまっている。

彼らは少しでもバルクルス基地から離れようと走るが、そうは問屋が卸さない。既に捕捉され、なんか先回りで待ち伏せしているのだ。

 

パシュゥン

 

「止まって!!」

 

進路上に弾丸が命中し、咄嗟に1人の兵士がカバルの肩を引っ掴み無理矢理止める。カバルも驚き固まっていると、茂みの奥から神谷が刀と拳銃を手に現れた。

 

「おやおや。部下を引き連れて敵前逃亡とはねぇ。アンタら、軍学校で「敵前逃亡は銃殺刑」と習っていないのか?」

 

即座に一団は別方向に逃げようとするが、それを許してくれる程、神谷達は甘くない。

 

「おっと、別方向に逃げようたって意味ないぜ?お前達を包囲した。武器を捨て、降伏するのなら命までは奪わない」

 

兵士達は顔を見合わせ、どうするかをアイコンタクトで相談する。だがどうやら、答えは決まっていたらしい。

 

「(殿下。このまま、走って逃げて。我々が武器を構え、奴等を殺します。貴方は振り返る事なく、とにかく真っ直ぐ走り抜けて)」

 

次の瞬間、カバルの返答を待つ事なく兵士達を手に持っていた100式機関短銃の様な銃を乱射する。だが、たかが8mm弾程度では機動甲冑は貫通できない。手に持つライフルによって、逆に殺されてしまう。

だがカバルは、兵士達の作った一瞬の隙を付いて神谷目掛けて走り出す。しかも腰に下げていた儀礼用の真剣を抜いて、神谷に切り掛かりながら。

 

「そこどけぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

本来なら銃で殺すべきだが、何か間に合わなそうなので、獄焔鬼皇でガードする。だがカバル、なんと剣が交差した瞬間に力を掛ける向きを変えてスルリと獄焔鬼皇を抜けて、神谷の顔面へと突き立てようとする。

 

「うおっ!?」

 

だが、それで突き立てられるのなら『皇国剣聖』なんて呼ばれはしない。そのまま後ろに転がって、回避する。

 

「はぁー、危なかった。だが、見事だった。お前達、手を出すな。コイツは俺が1人の戦士として、仕留める!」

 

神谷は26式をホルスターに入れ、代わりに天夜叉神断丸を抜く。カバルも剣を構え直し、両者睨み合う。

 

「グラ・カバル」

 

「神谷浩三」

 

お互い名乗り合うと、カバルが先に仕掛けた。素早く間合いを詰める。そしてさっきと同じ攻撃を仕掛けようとするが、神谷は敢えて剣を通過させて顔面に剣が突き立てられるコースを取らせる。

 

「同じ手は効かねぇよ!」

 

さっきの攻撃、便宜上、滑り突きとでも言おうか。この滑り突きの時、カバルは前のめりの姿勢になり重心が前へと傾いている。故に別方向からの衝撃に弱いのだ。最初の攻撃でそれを見切った神谷は、顔に剣先が触れる寸前で蹴りを腹に加える。

 

「ぐっ!!」

 

カバルがバランスを崩した瞬間、剣を真上へと切り上げて更にバランスを崩させる。普通なら2回も連続してバランスを崩されては、立て直すのにも時間がかかる。だが、カバルは違った。上手く受身を取りながら横に転がり、続く第3撃を回避する。

 

「や、やるな.......」

 

「2度も同じ攻撃を、何の変化もなく出したのはアホとしか言えないが、その回避は見事な物だ。賞賛に値する」

 

カバルと神谷はまた、睨み合いながら相手の動きを観察する。特にカバルはこれまで感じた事がない、身体が熱く昂っているのに思考がクリアで冷静に相手を見据えられる何とも言えない不思議な感覚に陥っていた。

 

(相手の武器は二刀流。我の攻撃を初見で避け、更には2回目でカウンターを合わせてきた。この男、場慣れしている。このまま連撃や試合でやる様な正々堂々ではなく、あくまで泥臭く勝つのみ。であれば…)

 

(恐らくコイツは剣の腕こそ、そこそこある。だが圧倒的に実戦経験が足りてない。大方、訓練でしか振るった事のない教本通りの剣。教本が通じてないとなりゃ、精密攻撃を捨ててパワーで押し切ってくるな)

 

カバルはこれまで、実際の戦場で剣を振るった事はない。あくまで訓練や試合でしか振ったことが無い為、圧倒的に実戦経験が足りてない。無論、試合では強かった。軍でもトップクラスの実力者達を、忖度無しの真剣勝負で負かしてきている。更に自身の恵まれた体格と、その巨体から繰り出されるパワー攻撃は強い。

一方の神谷は、何度も実戦を潜り抜けて来た戦場の剣。しかも相手が対人よりも、対弾丸という特異な環境下で刀を振るっていた。故に動体視力と反射神経が化け物クラスで仕上がっており、初めての相手や剣筋でも容易く見極めてくる。しかも神谷の操る剣術は、神谷家独自の物。かつて傭兵だった頃に、日本全国に伝わる凡ゆる流派を取り込み作り上げた汎用性が高すぎる剣術。オマケに神谷家の総本山が元々福岡にあった事から、薩摩示現流なんかも実戦で戦った事がある上に対処法も分かっている。パワータイプにはこの上なく不利な状況なのだ。

 

「我が剣、受けてみよ!!!!!!」

 

何も知らないカバルは、上段から神谷に斬りかかる。しかもこれ多分後先考えずにドッカンパワーで、そのまんま上段斬りするタイプの振り下ろし方である。であれば、対処は簡単だ。

 

「とう!!!!!」

 

掠る前に真上に跳び上がって、剣撃を回避。パワー全乗せの一撃は当たれば大惨事だが、避けられてはそのパワー故、ベクトルを変えて照準変更とか寸止めとかが幾ら頑張っても無理だ。

カバルの剣は地面に突き刺さり、大きな隙が生まれてしまう。その瞬間を見逃さず、頭上から上半身をX字に切り裂く。地面に突き刺さった状態からのガードは、まず不可能だ。

 

「カハッ.......」

 

カバルはそのまま力無く前のめりに倒れ、二度と動くことはなかった。

グラ・カバル。彼はバルクルス基地より北西6.3km地点の、バール大森林の自然の中で息を引き取った。享年27歳。彼の死が、今後のグラ・バルカス帝国の命運と、大日本皇国の進路を変える大きな分岐路になる事はまだ誰も知らない。

 

 

 

 



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第六十九話聖像か魔像か

カバル死亡より16時間後 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 帝王府

「……よって、レイフォルにある最前線基地、バルクルスは敵の手に落ちました。

同行していたグラ・カバル皇太子殿下の消息は不明であり、現在調査中であります」

 

報告者は多分、今まで1番大量に汗をかいているだろう。もう背中とか腕とか脇とか足の裏とか、もうありとあらゆる場所から汗が吹き出し、滝の様に流れ落ちているのが分かる。

しかも会議室の空気は最悪で、帝王府長官カーツ、帝国三将を含む軍幹部、外務省長官、皇内省幹部というタダでさえ緊張する面子なのに、全員が全員、顔が阿修羅の様になっていて生きた心地がしないのだ。オマケに報告内容が「バルクルス基地が落ちて、ついでにカバルが行方不明です」という、帝国始まって以来の大事件なのだ。もう死にたくなるレベルの地獄である。

 

「何故だ!!何故軍部は守り切れなかったのだ!!異界の蛮族どもに負けるような帝国軍ではなかろう!!」

 

「職務怠慢であるぞ!!!!」

 

「この責任をどう取ってくれる!!!!」

 

皇内省の幹部達が軍部に食ってかかる。守って当たり前であり、攻撃を受けるなど言語道断、そして皇太子が捕虜となるなど、決してあってはならない事だった。

え?カバルを止められなかった点?そんな話、今の幹部連中の脳内には入ってない。自分達の保身しか考えてないのだ。

 

「最善を尽くすが、最前線はちょっとした物量で覆る可能性があり、危険であるためルートを考え直すようにと、こちらは何度も皇内省には申し入れておりましたが」

 

軍部とて攻撃を受けることは想定していなかった。

敵がバルクルスを狙っている程度の情報は仕入れていたし、何より次に来るのがバルクルス基地であるのは素人でも分かる事だったので、念の為に反対をしていたが皇内省がほぼ押し切る形で今回の訪問は決定したのだった。

 

「くっ!!しかし、蛮族がいくらまとめてかかって来ようが関係ないだろう!!軍部が警戒を怠ったからだ!!」

 

「殿下が、殿下が行方不明になったのだ!!なんという事だ!!なんという.......。最前線は危険であるという事は皇内省とて理解しているだろう!!ちょっとした物量差で落ちるのが最前線だ。何故お止め出来なかったかっ!!」

 

帝王府長官カーツの怒声に、止められなかった皇内省幹部、そして侵攻を許した軍幹部の顔が青くなる。帝王府は各省庁よりも遙かに格上。帝王直属の国家機関の前には、他の省庁とて子猫の様に震えるしかない。

そんな中、更に場を掻き乱す男が入ってきた。

 

「カバル兄は無事なのか!!!!」

 

「バイツ殿下!?」

 

グラ・バイツ。グラ・カバルの弟にして、王位継承権2位の男。カバルとは違い性格は沈着冷静な優等生タイプなのだが、どうやら自分の兄の事となった今回は珍しく取り乱しているらしい。

 

「カーツ!!どうなのだ、答えよ!!!!」

 

「は、ハッ!カバル皇太子殿下の消息は不明であり、目下調査中であります!!」

 

「死んではおらんのだな?」

 

バイツの言葉に、全員が口をつぐんだ。特に軍部は、仮に生きていたとしても生存している可能性が低いのを察していた。人は簡単に死ぬ。爆風で吹き飛ばされただけでも、運が悪ければポックリ死んでしまう物なのだ。仮に運良く生き残ったとしても、その後は捕虜になるのがオチだろう。脱出できたとしても、周囲の基地も軒並み占領されている現在では生還の可能性は低い。

とは言え、まだ死んだとは決まっていない。そんな報告はまだ上がってないのだから、難しい所である。

 

「お前達はどの様な策を立てている?」

 

「それについては私の方から、ご提案させて頂きます」

 

バイツの声に、手を挙げたのは外務省長官。

 

「現状安否は不明ですので、捜索には全力を上げることでしょう。私はカバル皇太子殿下が、皇国によって捕らわれていた場合の提案をさせて頂きます。我々が即座にコンタクトを取り、殿下の引き渡しを命令致します。

仮にこれを断った場合は、軍による威嚇を行い、必ずや皇太子殿下を安全に保護いたします。これにも応じない場合は、海軍の総力をもって皇国に懲罰を行い、首都を灰に致します。

またもしも、殿下が死亡していたのが発覚した場合、首都を灰にして懲罰とします」

 

「いや、待て。仮にも我が祖国への攻撃に参加していたのだ。必ず、何か知っているか、手掛かりは分かるはずだ。直ちにムーへ軍と外交官を送るのだ。できるな?」

 

「殿下がお望みとあらば」

 

「我ら三大将にお任せを」

 

「カバル皇太子殿下の手掛かりは、必ず見つけて参ります」

 

グラ・バルカス帝国の方針は決まった。因みにこの前後では、主にレイフォル方面で外務省、軍部の幹部組の数十名が失神したりしていてちょっとした大惨事になっていたりする。

 

 

 

数日後 ムー西部 リュウセイ基地 会議室

「さてさて。このバルクルス基地他、FOBの同時攻撃によって当面のムーの安全保障は問題ないだろう。奴らが帝都大空襲よろしく、B29みたいなのを持ってきたりすれば話は変わるがな。となると次の戦闘は恐らく…」

 

『我々の庭、海ですな』

 

「やっぱりその結論になるよねぇ」

 

『山本も私も、同意見です』

 

グラ・バルカス本国で会議が行われた数日後、ムーの会議室でも皇国軍の今後の方針についてオンラインで会議を行っていた。参加メンバーは以下の通り。

 

・第一主力艦隊司令 山本五十八

・第二主力艦隊司令 沖田十蔵

・第三主力艦隊司令 麦内誠光

・第四主力艦隊司令 山田多聞

・第五主力艦隊司令 土方龍

・第六主力艦隊司令 山南修一

・第七主力艦隊司令 川中梨香子

・第八主力艦隊司令 東川電蔵

・潜水艦隊総司令 神楽坂武蔵

 

『であれば、神谷司令。私から一つ、提案が』

 

「神楽っちが発言とは珍しいな。で、どんな案なんだ?」

 

『ウチの潜水艦隊で、海域ごと封鎖してしまえばいいんじゃないかなーと』

 

神楽坂の意見は、かなり理に適っている。神楽坂が指揮する潜水艦隊に配置されているのは、お馴染み4桁の伊号潜水艦。全艦隊が明らかに、潜水艦以上の能力を持ったチート艦で編成されている。この潜水艦であれば、通商破壊どころか航路破壊や海域封鎖相当の事が可能であろう。だが、一つ問題があるのだ。

 

「確かに良い手だが.......」

 

『物量チーターには効かない、だろ?』

 

「そういう事」

 

そう、東川の言う通りなのだ。グラ・バルカス帝国の艦艇の技術レベル自体は第二次世界大戦相当であり、単艦性能であれば余裕で勝てる。だがこうも物量が多いと、流石に潜水艦隊だけで封鎖しきれない。一時封鎖できてもすぐに弾薬切れで撤退では、封鎖は困難を極める。

 

『なら、神谷長官には策がある感じですかな?』

 

「勿論だ山南司令。俺は全八主力艦隊を使用した、聨合艦隊での艦隊決戦を考えている」

 

この一言に全員が驚愕した。そしてそれと同時に、心が躍った。海軍軍人やってて良かったと、今まで1番感じていたのだ。

 

「皇国が参戦してからこっち、帝国は負けすぎた。そろそろ奴らも巻き返しの戦闘を望むだろう。陸で負けるとなれば、次の戦場は海だ。それにこれまで、奴等はこっちの主力艦隊の姿を見ていない。

奴らは物量でも、もしかしたら装備でも勝っていると思っているかもしれない。だが、我々の艦隊は練度、質、量に於いて世界最強だ。負けはしない」

 

『全く、訓練生の頃からお前のやる事は想像の範疇を越えるな』

 

「何度も麦内長官と山本教官には、尻拭いをしてもらってましたからねぇ」

 

『もう10年は経つというのに、階級や経験だけあがってそこだけは変わっておらんな』

 

「いや、年々酷くなってますからある意味変わってますよ」

 

この一言に全員が笑った。因みに訓練生時代にやらかした事は「暇だったから」という理由で特殊部隊に乱入してみたり、毎回毎回謎理論の抗議をしてくる集団に罠とかを仕掛けて撃退したり、普通に訓練してて訓練機材を破壊しまくったりと、中々にぶっ飛んでいた。因みにこの頃のあだ名は『破壊大帝』とか『神谷・デストロイヤー・浩三』である。

他の教官と示し合わせて試験でこの名前で挑んだ事があり、全員で国防大学の学長から怒られた事もある。尚、成績はトップだったので、学長も怒るに怒れない部分もあって相当悶々としてたらしい。

 

「あ、そうそう。この艦隊決戦に向けて、各艦隊の所属艦艇には統一カラーを付けたい。第一主力艦隊は『紅白』、第二主力艦隊は『紺碧』、第三主力艦隊は『雄黄』、第四主力艦隊は『翠緑』、第五主力艦隊は『紫紺』、第六主力艦隊は『黒鳶』、第七主力艦隊は『白金』、第八主力艦隊は『真紅』のストライプを艦橋部分に入れて欲しい。」

 

『アグレッサー、という事でしょうか?』

 

「梨香子ちゃん大正解。いやー、この間、新しい広報ビデオの視聴してた時に、飛行教導群のアグレッサーを見てさ、なんかこういうのしたら目立つし、敵を威圧できるんじゃねと思ってな」

 

このアグレッサー塗装は、何も目立たせるだけではない。アグレッサー塗装をする事によって、より艦隊の知名度を上げる事ができると考えたからでもある。各主力艦隊は、国内では割と名が知られている。だが全国民が知っているかと言えば、その限りではない。

だがもしここに『色』という明確な違いがあれば、どんなに軍事に疎くても色で艦隊が判別できる。更に国外に対しても同様に色が象徴として機能し、港に寄港すればその国の国民へのアピールにもなるし、戦場に出れば味方を鼓舞することもできる。

本来であれば軍事兵器は、地形や戦闘する領域にあった塗装するべきだろう。迷彩柄がその最たる例だ。だが現代の戦闘は、有視界での目視圏内で戦闘というのは発生しない。基本はレーダーを使って、お互い水平線の彼方から攻撃しあう。今更、ちょっと派手にしたって問題はない。

会議はこの後も少し続き、更に簡単な行動指針の共有を行って終了した。

 

「はーい、会議しゅうりょー!」

 

「長官、会議は終わっても仕事が増えてますよ」

 

「はひ?」

 

「これ、見てください」

 

いつの間にか居た向上が差し出してきたタブレットには、人工衛星からの写真が映っていた。そこには大和型、いや。恐らくグレードアトラスター級と思われる、巨大戦艦の姿があった。

 

「完璧に動いてるな。でも護衛が一個水雷戦隊相当となると、攻撃が目的じゃないな.......」

 

「先程、この艦隊を捕捉した第三潜水艦隊が、目視にて戦時外交旗を掲げていた事を確認しました。航路から見て、恐らくこのムーへと向かっているかと」

 

「戦時外交旗は確か、緊急時に交戦国への外交官の派遣に使われる艦艇に掲げられるんだっけ?なんかあったのか?」

 

「さぁ?」

 

この時、まだ大日本皇国側はグラ・カバルという皇太子を殺していた事に、誰1人として気付いてなかった。当の神谷も含め、上級将校程度にしか考えてなかったのである。

だが何はともあれ、外交となれば神谷ではなく川山の出番。念には念を入れて、川山にも連絡を入れた。

 

『うげっ、そっちに行ったのかよ』

 

「え、なに?お前もしかして…」

 

『それがムー外務省と大使館経由で、こっちにまあ平たく言うと「要件があるからレイフォルまで来い」っていう、出頭命令がこっちに来たのよ。まあ、そんな命令に従う義理なんざ無いから「知るかコノヤロー。要件があるなら、テメェらが来やがれ」って返事したんだよ』

 

この川山の返答を、神谷は「うわー.......」という顔をしながら聞いていた。別に川山に対して、そう思った訳ではない。ビックリする位までの傲慢さ、皇国との戦争、皇国をバカにする物言い、プライドがクソ高い、出頭命令。かつて、同じ事を仕出かしていた国がこの世界に存在していた。パーパルディア皇国とかいう、クソ国家の事である。

この国家がどうなったかは、もうこの作品を読み続けている読者諸氏に今更語る必要はないだろう。だがもしかしたら、この作品を初めて目にした読者もいるかもしれないので、簡単に解説しよう。パーパルディア皇国全土の主要都市全てを破壊し尽くし、首都に核兵器もどきと戦略爆撃、それから砲撃を持って瓦礫の山とし、ついでにレミールとルディアスもしっかり殺したのである。

まあ見ての通り、ロクな最期ではない。だが今のグラ・バルカス帝国は、どういう訳かパーパルディア皇国の足跡をなぞるかの様に行動しているのだ。

 

「取り敢えず、お前こっちに来てくんない?」

 

『相手の意図がわからないなら、俺が出るしかないだろ?現地で落ち合おう』

 

 

 

翌々日 ムー近海 戦艦『グレードアトラスター』 甲板

「間もなくムーへ上陸か.......」

 

今回、大日本皇国との交渉にはダラスが臨むこととなった。皇族信仰の権化である彼からしてみれば、皇太子殿下の消息をお調べする事はこの上ない大仕事であるらしく、かなり気合が入っている。

 

「ダラスくん、準備はいいかね?」

 

「大丈夫です、パルゲール事務次官殿」

 

しかも今回は帝国本土の外務省よりパルゲール事務次官が同行しており、万全の準備をしてきている。因みに事務次官と聞くと『次官』とあるし、何だか立場低そうなイメージを抱くかもしれない。だが事務次官とは国家公務員に於ける最高職であり、官僚の階級としてもトップに君臨する階級である。現実の日本に於いては事務次官の年収=警察庁、金融庁、消費者庁の長官の年収である。

暫くすると『グレードアトラスター』は停船し、それを見計らったかのようにムーの小型船が姿を現す。簡潔に内容を告げると、偶然にも(・・・・)皇国本国の特別な外務省職員が居たらしく、その者との会談が決定した。

 

 

「やはり、50年以上は遅れているな」

 

ダラスとパルゲール、それからお付きの数名は船を乗り継いでムーの首都、オタハイトへと入った。ダラスは大日本皇国大使館へ向かう車窓から外を見た。幸せそうに歩く人々、帝国に比べてのんびりと時間が流れているようにも思える。

 

「まるで戦争をしている事を忘れているようだね。全く、虫唾が入る」

 

「パルゲール殿、何が何でもコイツらの腑抜けた笑顔を恐怖に変えてやりましょう」

 

「あぁ。私も君と同意見だよ。だがまずは、殿下の安否を確認しなくてはな」

 

やがて車は大使館の前で止まり、ダラスとパルゲールの2人だけが会談場所へと通された。会談場所には既に、川山が1人で待ち構えている。

2人が部屋に入るや否や、部屋で少しくつろいでいた川山を見てダラスの顔色がサッと変わった。

 

「お、お前は!!!!!!」

 

「ど、どうしたのだダラスくん!」

 

「人を化け物の様に言わないでください。私は普通の、生きた人間ですよ」

 

まさかのご挨拶に、川山もジト目でダラスを見る。だがダラスからしてみれば、川山含め三英傑は疫病神なのだ。こうもなる。

 

「パルゲール殿、奴は、奴は!神谷浩三に並ぶ、三英傑の1人です!!」

 

「何だと!?!?」

 

そしてパルゲールも、漸く理解が追い付いた。あの捕虜奪還をやってのけた、神谷浩三・修羅の言っていた『三英傑』。その1人だとなれば、パルゲールでも目の前の男の重要性や危険性をすぐに理解できる。

 

「あのー、取り敢えず座りませんか?まさか私の顔を見るためだけに、態々ここまで来た訳ではないでしょう?」

 

「あ、あぁ。そうだな.......」

 

「.......」

 

川山の今の言動、これで話の主導権をまずは握れた。こういう場ではまず先に話し出した方が有利なのだ。主導権を握れば、今後の話をコントロールしやすい。

 

「.......先ほどは取り乱してしまい、申し訳なかった。グラ・バルカス帝国外務省、事務次官のパルゲールだ。官僚の事実上のトップ、と考えて貰いたい」

 

「大日本皇国外務省、特別外交官。川山慎太郎です。そちらのダラス外交官の言う通り、私は三英傑の1人でもあります。して、今回は一体どのようなご用件で?」

 

「単刀直入に聞こう。貴国、大日本皇国は我が国の皇太子であられる、グラ・カバル殿下を拉致しているのではないのか?」

 

「.......拉致とはまた、突拍子も無い話ですね。少なくとも私はその様な報告を受けておりませんが、よく知る者に話を聞きましょう」

 

という訳で、隣の部屋で待機していた神谷が呼び出される。ダラスは神谷の顔を見るや否や顔を青くするが、神谷の方はそん事には気づかずに堂々と川山の隣に座る。

 

「で、何だっけ?お宅の皇太子をウチが拉致したんだっけ?」

 

「あぁ。そんな作戦、実行していたのか?」

 

「してねぇよ。そりゃまあやろうと思えば皇太子だろうが皇帝だろうが、拉致も暗殺も出来なくは無いだろう。だけどなぁ、旨みねーもん。やる意味ないのにする訳ないでしょ」

 

「.......参考までに、その理由をお聞かせ願おうか」

 

「まず第一に国民性だ。帝国の国民は皇帝と皇族に、それはそれは並々ならぬ畏敬の念を持っている。国民が愛する存在を暗殺でもしてみれば「皇国を倒せー」「皇国は悪だー」という世論になって、戦争が悪化して面倒臭い。

第二に意味がない。仮に皇太子が国民から人気が高ければ、一つ目同様の事が起きる。よほどのクズで国民からも嫌われていたとしても、所詮は皇太子。次期国王ってだけで、国民への実害が無い以上は殺しても意味がない。

第三に誘拐するメリットがない。誘拐して、その後どうする?立てこもり犯でもないのに、そっちに身代金を要求するのか?まさか。誘拐しましたで終わったら、する意味ないでしょ?」

 

勿論、ICIBとJMIBの工作員はグラ・バルカス帝国本国にも潜入している。そのため、1人2人の要人を殺す位できる。だがそれをやるメリットが無い上に、わざわざ手間暇かけてやり遂げた工作員の潜入をそんな無意味な事で失いたくない。例え成功しようと失敗しようと、今後の工作員潜入に悪影響も及ぼすだろう。となれば、そんな変な真似はする必要がない。

 

「貴様、先程から聞いていれば何だその態度は!?!?!?仮にもグラ・バルカス帝国という、この世界の主人たる国家の使者を相手にしているのだぞ!!!!!」

 

「バゴスだがタコスだか覚えてねぇけど、テメェにだけは言われたく無い。そもそも俺は外交官じゃないし、アンタらの国と俺達の国は戦争中。こっちはそっちの用事にわざわざ答えてやってる立場である事を忘れるな。

別にアンタらの皇太子の生き死には、俺達には関係ない。ここで油売ってる暇があるなら、アンタらが草の根分けてでも探した方がよっぽどマシだろ」

 

「君、余り我々を舐めるなよ?我が国にかかれば、貴様らの国を滅ぼすなど容易い事だ!!!!!」

 

パルゲールが怒鳴った。だが怒鳴られた所で、こちらにはダメージがない。それより「滅ぼすなど容易い」とかいう、かなり聞き捨てならない発言が聞こえた。今度は川山がそこに噛み付く。

 

「我が国を滅ぼす?たかだか110年前の枯れた技術で、よくもまぁそこまで威張り散らかせられる物だ。そちらは他国の人間を野蛮人だの蛮族だのと言っている様ですが、礼儀を払わず、外交の場で恫喝。我々からしてみれば、そちらも十分蛮族ですよ?」

 

「貴様、その発言の意味を分かっているのか?我々を侮辱する言動、それをそのまま私が報告すれば貴様らの命運は決まる。分かるか?貴様らの命運は今、我らの掌の上なのだ。私が帝国の意思決定を左右できると知れ。

その様な言動を受けた以上、東京は灰燼に帰すだろう」

 

「なんだ、どうやって攻撃するつもりだ?海か?空か?まあ別に何でもいいが、結果は分かりきっている。我々の軍事力を舐めない方がいい。我々の兵器群は、アンタらの骨董品兵器より遥かに強い。そうだな、例えるならアンタらの軍隊は新聞紙丸めた刀と折り紙の兜を装備した子供であり、我々は最新鋭の装備を持った最精鋭の歴戦の猛者。その戦闘の勝敗は火を見るより明らかだろう?

アンタらが言った言葉、そのまんま返すぜ。我々と事を構え、もしその矛先を天皇陛下の住まう東京に向けた時、我々はお前達を滅ぼすまで進撃し続ける。首都アグラは灰塵どころか、その灰の最後の一片までも殲滅させる。覚悟しておけ」

 

パルゲールもダラスも何かまた怒鳴りそうだったが、神谷の殺気と川山の無言の圧に負けて早急に部屋を出ていった。残された2人は、どうしたものかと話し合う。

 

「なぁ、本当にその皇太子を暗殺してないんだよな?」

 

「あぁ。今ここで暗殺や誘拐しても、マジで旨みがない。というかまず、その皇太子殿下を俺は存じ上げん」

 

と言いつつ、神谷は素早くデータベースから検索して、工作員が送ってきた皇族の写真から探していた。そこでようやく、神谷は気付いた。あの刀で斬り殺した高級将校は、件の皇太子殿下だったのだと。

 

「.......」

 

「どうした?」

 

「.......なぁ、例のグラ・カバル皇太子。俺が殺してたわ」

 

「え、ごめん。もっかい言ってくれる?」

 

「グラ・カバル皇太子殿下殺害の犯人、俺でした」

 

「はあぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」

 

大使館がプリンやゼリーの如く、上下左右に震えた。ついでに窓もビリビリと揺れている。その声量は、最早音波兵器である。

 

「えぇ!?いや、なんで!?!?なに、本当に暗殺しちゃったのか!?!?」

 

「違う違う。この間のFOB同時攻撃作戦、あの時にバルクルス基地で皇太子と遭遇したんだ」

 

「分かってて殺したのか!?」

 

「な訳あるか!服装が妙に豪華だったから、今言われてみれば皇太子だと分からなくもないが、あの時は単に将軍クラスの将校だと思ってたんだ。しかもその皇太子が斬りかかってきて、そのままザクッと」

 

経緯を聞いた川山は、完全に頭を抱えた。今のグラ・バルカス帝国にとって三英傑、取り分け『神谷浩三』はダラスやシエリアの反応を見る限りかなりの禁句。そんな状況で「アンタらの皇太子殺したのは、神谷浩三です」という話が流れれば、帝国国内は大荒れだろう。

 

「.......なぁ浩三。これ、どうするんだ?火消し無理ゲーじゃん。仮に今のうちにこっそり燃やしたとしても、バレた時が大変だ」

 

「ならさ、もういっそ燃料投下してやれば良いんじゃね?」

 

「は?」

 

「この戦争、俺達の夢としてはかなり好都合だ。いつか健太郎が言ってただろ?「皇国をこの世界のリーダーにしたい」と。今、世界は疲弊している。これまで最強と言われた神聖ミリシアル帝国は敗退し、今やグラ・バルカス帝国を止める術はない。

だが皇国は違う。こっちは帝国の侵攻を止めるどころか、そのまま息の根を止めることだって造作もない。なら、この優位を活かさない手はない。既に取りつつある軍事的イニシアティブをより盤石な物とし、戦後国際社会でミリシアルと同格レベルの物に駆け上がる。その為にはこの戦争、長引いて貰う必要がある。他国民が何億何兆死のうと、構うことはない」

 

神谷の言動は明らかに倫理観としてはアウトだし、なにより人としてどう考えてもヤバい言動だろう。だが、国とはこういう物なのだ。あくまで合理的に、他国より自国を優先させる物なのだ。利用できる物は何でも利用し、使える物は何でも使う。他国民が危険に晒されても、被害に遭っても関係ない。そういう物だ。

 

「だが軍事だけでは.......」

 

「経済も潤う。戦争とは一部の業界では、文字通りの金のなる木さ。燃料弾薬、食料、医薬品、兵器、その他諸々etc。戦争は金になる。それに戦争で徹底的に破壊し、された後、神谷グループを始めとした企業が復興支援を行い、そのまま利権を貰う。

しかと復興支援とあらば、他国は皇国に恩ができる。その恩は外交でのカードにもなるし、復興支援という実績は政治的にも大きい筈だ。軍事、経済、政治、外交。全ての面でイニシアティブを取れる筈だ」

 

「確かにそれなら、良い手かもしれない。だがやはり、まずは健太郎に相談だ」

 

「あ、その辺は大丈夫。ほれ」

 

『全部聞いてまーす。イェイ』

 

そう。ここまでの会話、全部神谷が電話で送っていたのだ。というか何なら、神谷は一色から「出来れば良い感じにイニシアティブ取って、戦後に国際社会に踊り出たいんだけど、できる?」と依頼されてたりする。その為、元よりこの意見には大賛成だったのだ。

 

「まあ健太郎も良いなら、そのスタンスで行くか。で、浩三。どうやって燃料投下するんだ?」

 

「簡単だ。アイツらに皇太子殿下の死体をデリバリーする」

 

『ピザかよ』

 

「確かに燃料になるわそれ」

 

という訳で神谷は、すぐにリュウセイ基地に帰還。そのまま部隊を率いてバルクルス基地にまで進出し、そこでカバルの遺体を回収。仕込み(・・・)が完了次第、バルクルス基地を出発した。

 

 

 

翌日 レイフォル 管制塔

「カバル殿下、大丈夫なんですかね?」

 

「仮にも次代の皇帝であられるのだ。きっと生きておいでさ」

 

「チーフ!国籍不明機をレーダーで探知!!」

 

「なに!?」

 

この日、レイフォルにはAVC1突空5機とF8A震電II8機が飛来した。グラ・バルカス帝国側は、直ちに戦闘機をスクランブルさせる。だがその直後、神谷の乗る突空が無線を入れた。

 

『こちらは大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三元帥である。我々に敵対の意思はない。飛行場まで誘導されたい』

 

「チーフ、どうしますか?」

 

「すぐに司令部に連絡する!少し待ってろ!!」

 

そこから小一時間、軍の司令部では幹部達が雁首揃えて協議し、取り敢えず空軍基地に降りてもらう事にした。勿論基地内は、陸軍部隊が厳戒態勢を敷いている。

 

「配置急げ!!」

 

「何をしてくるか分からないぞ!気を引き締めろ!!」

 

「対戦車砲、準備急げ!!」

 

部隊の迎撃準備が終わると、飛行場に突空が降り立つ。帝国が大砲やら銃やらを向けているのと同じように、突空も装備している機関砲群を敵に指向させ、何かあれば即座に応戦できるようにしている。一触即発、火花ひとつで大爆発だ。

 

「大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三元帥である!!この件の担当者、もしくはこの中の最高階級者と話がしたい!!!!」

 

「私が担当者だ、神谷元帥」

 

そう言って出てきたのは、外交官のシエリアだった。これなら多分、話を分かってくれるだろう。

 

「確か、シエリアとか言ったかな?アンタなら話を分かってくれそうだ。今回俺がここまでの大所帯を連れて来たのは、今アンタらが1番欲しいものを持ってきたからだ」

 

「1番欲しいものだと?」

 

「あぁ。おい!」

 

神谷が合図すると突空の中から甲冑ではなく、儀礼用の正装を着た兵士が2人出てきて、タラップの両脇に立つ。そしてそのすぐ後、今度は同じ様に正装の兵士6人がグラ・バルカス帝国の国旗に包まれた棺を担いで出てきた。

出てきた瞬間、両脇の兵士は手に持っていた三八式歩兵銃を空へ向かって4発放つ。最初は周りを取り囲む全員が2人を撃とうとするが、すぐにそれが弔銃だと知ると撃つことは無かった。

 

「.......まさか」

 

「グラ・バルカス帝国皇太子、グラ・カバル殿下のご遺体だ。彼はバルクルス基地を巡る戦闘の際、俺と俺の率いる部隊と遭遇。剣を抜き、俺に臆することなく戦いを挑み、1人の戦士として、私が殺した。これはその時の服と、儀礼用の剣だ」

 

そう言いながら、神谷は血染めの軍服と剣を渡す。その瞬間、一斉に周りの兵士達が儀礼服姿の兵士達に攻撃を開始した。

 

「皇太子殿下を殺した者に鉄槌を下せ!!!!」

 

「あっちゃー、やっぱりこうなったか」

 

だが神谷も儀礼服姿の兵士も、全く動じない。儀礼服であれば防弾性能が無く致命傷を避けられないだろうが、今回は機動甲冑の上に儀礼服を着てるし、顔もメットの上にマスクを着けている。たかだか小銃弾では殺せない。

それに何故、突空を態々5機も連れてきている?残りの機体には完全武装の白亜衆の精鋭達が乗り込んでいるのだ。

 

「撤収を援護せよ!!!!」

 

「装甲歩兵前へ!!」

 

「俺達の後ろに隠れろ!!!!」

 

これに呼応して、護衛戦闘機隊も戦闘を開始。一瞬の内に基地内は戦場となった。だが例によって、火力で遥かに勝る白亜衆が敵を圧倒し、5分もしない内に飛行場から撤収。そのまま海を目指す。

 

「護衛戦闘機隊はこのまま基地へ帰還。我々は気にするな」

 

『ウィルコ。ご武運を、長官』

 

ここで護衛戦闘機隊とは別れ、5機は編隊を組んで海のある方へ進む。途中、アンタレスからの妨害を受けるが、突空の装甲には20mm弾も役に立たない。

 

「まもなく予定ポイントです」

 

「さぁ、アイツら驚くぞ」

 

次の瞬間、洋上に巨大な戦艦が浮上した。究極超戦艦『日ノ本』である。本来の予定では遺体を引き渡して、そのまま基地に帰るつもりだった。だが交渉が決裂した場合、威嚇の意味も込めて『日ノ本』で帰還する事にしていたのである。

 

「なんだあの戦艦は!?!?」

 

『わかりません!!』

 

『なんてデカいんだ.......。あ、おい見ろ!!』

 

『輸送機が戦艦に向かっている.......』

 

「あれは皇国の戦艦か!!こちら追撃隊!近海に超巨大戦艦出現!!至急、攻撃隊をあげてくれ!!」

 

追撃の戦闘機隊が基地に無線を送り、すぐに基地から応援部隊が発進する。だが攻撃隊が離陸してる間に手早く突空を収容し、ついでに周囲の戦闘機を迎撃して『日ノ本』は海へと潜った。

攻撃隊が現場海域に到達した頃には、もうアンタレスの残骸しかなかったという。ともあれ、グラ・カバルの遺体はどうにか帝国に引き渡す事ができた。そして帝国はこれを受け、この戦争でも五本指に入る負け戦を行う事になるのである。

 

 

 

 

 



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第七十話新たなる守護神

半年後 大日本皇国 統合参謀本部

「これは.......。大佐!」

 

「どうした?」

 

「ついに動きましたよ。1時間前と、今のラグナ軍港の写真です」

 

「.......動いている。それも戦艦、空母級の主力艦艇も。もしかしたら、単なる艦隊移動の可能性もある。引き続き監視を続けろ」

 

グラ・カバルの遺体引渡しより半年。この戦争は、開戦以来の静寂を保っていた。偵察機を堕としたり堕とされたり、輸送船団がちょこちょこ攻撃されたりと小規模の小競り合いはあったが、大きな戦闘は無く一時の平穏が訪れていた。

だがそれは、単なる準備期間に過ぎなかった。カバルの死に皇帝グラ・ルーカスは怒りに怒り、ついでにバイツの進言もあって「大日本皇国に鉄槌を与えよ!首都を焼き払い、奴らの軍隊を蹴散らすのだ!!」と命令を下した。だがこれまでの戦闘を見る限り、生半可な量では確実に返り討ちに遭う。そこで空前絶後の大艦隊を編成する事になり、編成を組み作戦を立てていたのだ。

衛星の探知より3日後。艦隊はレイフォルより南方、580kmの地点で合流。艦隊を形成し、大日本皇国を目指す。だがこの動きは全て、監視衛星によって筒抜けになっていたのである。そしてその情報は、この男の下にも報される事になる。

 

「長官。グラ・バルカス帝国の東進が開始されました。規模と方位から見て、まず間違いなく目標は皇国です」

 

「それは上々。奴ら、何も知らずに大所帯で来てくれるんだ。我が艦隊の姿を晒すのに丁度いい」

 

「では、やるんですね。あの計画を!」

 

「あぁ。各艦隊に伝達!『時は来たれり。かつての栄光、ここに在り。全艦、碇を上げよ』だ」

 

神谷は机の上で不適な、でも何処か楽しそうな笑みを浮かべた。遂にこの日が、待ちに待ったこの日が来たのだ。112年の時を超え、在りし日の聨合艦隊復活の時が来たのだ。命令を受けた各艦隊は全艦出航。フェン王国沖にて合流し、艦隊を形成して西進を開始した。

ではここで、大日本皇国懲罰攻撃艦隊、通称『インフェルノ艦隊』と我が聨合艦隊の兵力をご紹介しよう。

 

 

グラ・バルカス帝国

インフェルノ艦隊

第一艦隊(本隊)

○総旗艦

 ・戦艦『グレードアトラスター』

○戦艦26

 ・グレードアトラスター級 2隻

 ・ヘルクレス級 18隻

 ・オリオン級 6隻

○空母4

 ・ペガスス級 4隻

○重巡43

 ・タウルス級*1 25隻

 ・アマテル級*2 18隻

○軽巡94

 ・キャニス・メジャー級*3 38隻

 ・レオ級*4 56隻

○駆逐艦545

 ・エクレウス級*5 184隻

 ・キャニス・ミナー級*6 361隻

○航空機336

 ・アンタレス改 80機

 ・シリウス型爆撃機 128機

 ・アルゲバル型雷撃機*7 128機 

合計 713隻

 

第二艦隊(機動艦隊)

○戦艦12

 ・オリオン級12

○空母38

 ・グレードウォール級(旗艦)*8 2隻

 ・アリコーン級*9 8隻

 ・ペガスス級 28隻

○重巡31

 ・タウルス級 8隻

 ・アマテル級 23隻

○軽巡88

 ・キャニス・メジャー級 18隻

 ・レオ級 24隻

 ・アルドラ級*1046隻

○駆逐艦130

 ・エクレウス級 85隻

 ・キャニス・ミナー級 45隻

○航空機3038

 ・アンタレス改 876機

 ・シリウス型爆撃機 896機

 ・アルゲバル型雷撃機 1,266機

合計 299隻

 

第三艦隊(先遣艦隊)

○戦艦8

 ・ヘルクレス級 4隻

 ・オリオン級 4隻

○空母12

 ・ペガスス級 12

○重巡37

 ・タウルス級 25隻

 ・アマテル級 12隻

○軽巡184

 ・キャニス・メジャー級 68隻

 ・レオ級 86隻

 ・アルドラ級 28隻

○駆逐艦507

 ・エクレウス級 42隻

 ・キャニス・ミナー級 179隻

 ・スコルピウス級*11 286隻

○潜水艦23

 ・アルゲヌビ級*1215

 ・シータス級 8隻

○航空機1008

 ・アンタレス改 240機

 ・シリウス型爆撃機 384機

 ・リゲル型雷撃機 384機

合計 771隻

 

陸上航空隊1950

 ・グティーマウンI型*13 400機

 ・グティーマウンII型*14 120機

 ・ベガ型爆撃機*15 490機

 ・シュリアク型爆撃機*16 560機

 ・アンタレス改 380機

 

総数 戦艦47

   空母54

   航空戦艦24

   重巡111

   軽巡366

   駆逐艦1,182

   潜水艦23

   艦上戦闘機1,196

   艦上爆撃機1,408

   艦上雷撃機1,778

   戦闘機380

   爆撃機1,570

総艦艇数 1,783隻

参加航空機 6,332機

 

 

 

大日本皇国

聨合艦隊

第一艦隊(本隊)

○総旗艦

 ・総指揮大戦略級究極超戦艦『日ノ本』

○超戦艦8

 ・熱田型 8隻

○軽空母24

 ・龍驤型 24隻

○重巡34

 ・摩耶型 34隻

○駆逐艦96

 ・浦風型 40隻

 ・神風型 36隻

○潜水艦7

 ・伊1500号型 1隻

 ・伊900号型 6隻

○戦闘艇16

 ・松型 16隻

○攻撃艇240

 ・震洋 240隻

○特殊潜航艇200

 ・回天 200隻

○航空機3,408

 ・F8CZ震電IIタイプ・極 500機

 ・F8C震電II 1400機

 ・E3鷲目 58機

 ・SH13海鳥 137機

 ・AS5海猫 313機

 ・MQ5飛燕 800機

 ・AH32薩摩 50機

 ・AVC1突空 150機

合計 626隻

 

第二艦隊(連合機動艦隊)

○要塞空母16

 ・赤城型 16隻

○空母80

 ・鳳翔型 80隻

○重巡64

 ・摩耶型 64隻

○駆逐艦418

 ・浦風型 210隻

 ・神風型 208隻

○潜水艦7

 ・伊1500号型 1隻

 ・伊900号型 6隻

○航空機18,852

 ・F8C震電II 16,800機

 ・E3鷲目 288機

 ・SH13海鳥 1298機

 ・AS5海猫 466機

合計 585隻

 

第三艦隊(前衛突撃艦隊)

○戦艦64

 ・大和型64

○重巡48

 ・摩耶型 48隻

○突撃巡洋艦160

 ・阿武隈型 160隻

○突撃駆逐艦320

 ・磯風型 320隻

○駆逐艦226

 ・浦風型118

 ・神風型108

○潜水艦7

 ・伊1500号型 1隻

 ・伊900号型 6隻

○航空機974

 ・SH13海鳥 590機

 ・AS5海猫 384機

合計 825

 

第四艦隊(機動遊撃艦隊)

○航空戦艦24

 ・伊吹型 24隻

○重巡46

 ・摩耶型 46隻

○駆逐艦128

 ・浦風型 64隻

 ・神風型 64隻

○潜水艦7

 ・伊1500号型 1隻

 ・伊900号型 6隻

○航空機1,976

 ・F8C震電II 1,440機

 ・E3鷲目 96機

 ・SH13海鳥 192機

 ・AS5海猫 248機

合計 235

 

第五艦隊(潜水遊撃艦隊)

○潜水艦250

 ・伊3500号型 6隻

 ・伊3000号型 24隻

 ・伊2500号型 24隻

 ・伊2000号型 24隻

 ・伊1500号型 152隻

 ・伊900号型 24隻

○航空機1704

 ・F8C震電II 1,152機

 ・E3鷲目 72機

 ・SH13海鳥 288機

 ・AS5海猫 192機

合計 205

 

総数 究極超戦艦1

   超戦艦8

   戦艦64

   要塞空母16

   空母80

   軽空母24

   重巡192

   突撃巡洋艦160

   突撃駆逐艦320

   駆逐艦848

   潜水艦282

   戦闘艇16

   攻撃艇240

   特殊潜航艇200

   艦上戦闘機20,792

   早期警戒機514

   輸送機150

   哨戒ヘリコプター2,505

   ティルトローター攻撃機1,584

   攻撃ヘリコプター50

   無人機800

艦艇総数 2,476隻

参加航空機 26,395機

 

どちらも、ご覧の通りの大群である。実際はこれ以外にも補給艦、潜水母艦なんかもいるので、実際の数は更に上がる。

グラ・バルカス帝国海軍は最新鋭の艦隊に、艦載機や装備にはなるべく新しい物を搭載している。アルゲバル型とか、その最たる例だろう。この他、魚雷には酸素魚雷、対空砲弾にはVT信管、航空・艦載機関砲には薄殻榴弾、最新鋭の無線設備、レーダー類も新型、駆逐艦に至っては一部ヘッジホッグモドキを搭載する徹底ぶりであった。しかも総指揮官は三大将が1人、カイザル提督である。

だがそれすらも凌駕するのは、我らが大日本皇国海軍、聨合艦隊である。全部で八個ある主力艦隊を『日ノ本』の下に集わせ、更に六個の潜水艦隊もこれに合流。その結果、もう訳のわからない数になっている。仮に戦闘艇とかの艦載艇群を引いたとしても、インフェルノ艦隊のソレを上回る。かつてここまでの大艦隊があっただろうか。というかそもそも、グラ・バルカス帝国相手にここまでの大艦隊を準備して戦う国家が、他の二次創作にあっただろうか。あれば、是非教えて頂きたい。

 

「慎太郎、時が来た」

 

『動いたんだな?』

 

「あぁ。正確な総数こそまだ分からんが、1,500隻規模の大艦隊が皇国を目指している。これに呼応し、全主力艦隊に集結を命じた。今に聨合艦隊が112年の時を超えて、この異世界の海に蘇るだろうよ。

でだ。恐らくミリシアル辺りが、この海戦に横槍を入れてくるはずだ。それを先手取って封じてくれ。これだけの規模を運用するのは、俺含め全兵士達にとって初めてだ。不確定要素は取り除いておきたい。

何より、この戦争は俺達だけの物。それを邪魔されたくない。というか今後、ピーチクパーチク文句言うのなら、そのまま全部俺の所に持って来させてくれ。全部返してやる」

 

『わかった。すぐに根回しに移る』

 

これで取り敢えずの準備は整った。後は念の為、神谷戦闘団の連中を率いて『日ノ本』に乗り込むだけだ。

 

 

 

数時間後 神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス アルビオン城 

「それでは会議を開催します」

 

神聖ミリシアル帝国の帝都ルーンポリスでも、このインフェルノ艦隊について緊急の会議が開催されていた。皇帝ミリシアル8世を筆頭に軍務大臣シュミールパオ、国防長官アグラをはじめとした軍幹部達、そして通常は交わることの無い対魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部長ヒルカネ、更には対グラ・バルカス帝国戦に参戦した空中戦艦パル・キマイラ艦長メテオスそして情報を司る、帝国情報局長アルネウス、外務大臣ペクラスと外務省統括官リアージュ等、錚々たるメンバーが参加していた。

司会進行役となった情報局長アルネウスが会議の開始を宣言と共に軍、情報局が総力を挙げてつかんだ艦隊の動向について、報告が始まる。各人の持つ石版には魔法によって文字が浮かび上がった。

 

「先刻、文明圏外国家メーズに設置した魔導海上レーダーに、多数の人員が海上を進んでいることを感知、規模や魔力の無さ、速度からグラ・バルカス帝国に間違いありません。大艦隊が中央世界東側海域を東へ向かって進んでいる事が判明致しました。なお速度は13ノット、艦艇数1000以上と推定されます」

 

「やはり世界連合艦隊との戦いを上回るのか!!」

 

「今回発見された艦隊は、情報局が想定した軍の規模を遥かに上回るものです。これらの艦艇がすべて日本国への攻撃に当てられた場合、情報部の分析ではグラ・バルカス帝国にも相当数の被害が出ますが、おそらく日本の首都は焼かれ、多くの軍艦艇が撃沈もしくは撃破されます。

また工業地帯も空爆及び艦砲射撃で再起不能に陥るでしょう。想定される敵戦力が大きく変化したため、運用に再度意思決定が必要になってくるかと考えます」

 

国防長官アグラの頭には疑問が浮かぶ。これだけの大艦隊、大飯喰らいなのは機械だろうが魔法だろうが変わらない。

 

「やつらの補給はどうなっている?機械動力式の艦といってもあれほどの大艦隊、補給艦のみでも膨大な数にふくれあがるだろう?」

 

「1次補給は本国からレイフォルで行ったと仮定致します。既に第三文明圏外のニューランド島にある国家チエイズ、同島のグルートが実質的にグラ・バルカス帝国に降っております。

彼らはここに港を建設しており、補給基地も用意しているため、一度同島へ立ち寄ると推定されます」

 

「補給も可能か.......」

 

仮にこれから追撃しても敵の規模はあまりにも大きすぎ、こちらが艦隊を集結させる頃には補給を済ませ、皇国へ向けて出発してしまうであろう。

そもそも前回会議で皇国への攻撃は静観し、帰ってくる艦隊を狙い撃てとの皇帝陛下の言があったため、国防長官程度では何も言えない。さらに場がざわついた。

だが皇帝ミリシアル8世が手をあげ、場が静まる。

 

「このままでは、大日本皇国は再起不能となると?」

 

「はい。今回のグラ・バルカス帝国の艦隊はそれほどの大艦隊です」

 

「では、仮に艦隊を撃滅した場合はどうなる?」

 

「はっ!!さすがにこれほどの艦隊量、まだ本国艦隊が何隻あるのか詳細は判明しておりませんが、どのような国でもこれほどの艦隊が撃滅された場合、再建には相当数の日数がかかるものと思われます!!」

 

「ふうむ.......」

 

ミリシアルは考え込んだ。ここ最近、神聖ミリシアル帝国の存在感が少しずつ薄れている様に感じる。何せ活躍ができてない。カルトアルパスでも、世界連合艦隊でも、ミリシアルは負けている。この辺りで存在感を示しておきたいし、何よりイメージを強国に戻したい。

 

「さすがに友好国を見捨てたと他国から言われる訳にもいかぬ。最低限の事はしておくべきか.......。

大日本皇国には、最新のグラ・バルカス帝国艦隊の規模と進行方向を教えてやれ。軍は……もう間に合わぬな」

 

「はっ!!間に合いませぬ」

 

「では、軍部は帰投時の迎撃に備えよ。それとヒルカネ」

 

「ははっ!!」

 

「空中戦艦パル・キマイラの出撃は間に合うか?」

 

「現在整備中であります!!部品取り替え、燃料補給、弾薬補給を終えた後に派遣したとしても皇国本土に着く頃に間に合うかどうか、といった所です。

仮に東京に向かうとして、補給に想定以上に時間をかけるもしくはロデニウス大陸を南から大きく迂回でもしてくれれば間に合うのですが」

 

「良い、1機で良いので派遣してやれ。ただし、メテオスよ」

 

「ははっ!!」

 

「今回は日本国と世界に、ミリシアルは助けに来るという事を見せる事が目的である。皇国にミリシアルの力を見せつけるにも役立つだろう。

1号機のように、むやみに近づいて落とされるような事は許さぬ。決して無理な戦闘は行わず、時間をかけてでもじっくり攻撃せよ。燃料弾薬が少なくなってきた場合、無理せず確実に帰投せよ」

 

「ははっ!!承知いたしました」

 

尚も皇帝の指示は続く。

 

「リアージュよ」

 

「ははっ!!」

 

「文明圏外国家の各国に伝えよ。グラ・バルカス帝国の艦艇を1隻でも撃沈すれば、5級対象国から、3級対象国へ引き上げるとな。

それと、同じニューランド島各国には、チエイズとグルートに攻撃を仕掛けるならば、神聖ミリシアル帝国から後に支援があると伝えてやれ。

なめた態度を取る国家は潰さんとな。リームはミリシアル帝国が直に潰せ」

 

帝国の外交対象には等級が存在する。

皇国及び列強を含む特級国家、先進11カ国及び中央世界文明国である1級国家、第二文明圏である2級国家、第三文明圏である3級国家、そして文明圏外国家である4級国家。文明圏外国家、しかも第三文明圏の外側にある国家は神聖ミリシアル帝国にとって最低ランクの5級対象国となっていた。それを帝国艦艇を1隻でも撃沈したら3級対象国家。第三文明圏内国と同列に扱うという。

魔法の技術解放レベルでもあるため、国力は大きく向上するだろう。文明圏外国家群からすると、周辺国家を出し抜けるという破格の待遇向上であった。

 

「よ、よろしいので?」

 

「良い、日本の登場により、近い将来現在のパワーバランスは崩れる。文明圏外国家を使えるときに使わんとな。ああ、あと東方国家群の冒険者ギルド協会に対し、敵艦隊に導力火炎弾を1発でもたたき込むか、魔導砲を1撃でもたたき込めればミリシアルが褒美を与えると通達を行え。身分、門地は問わぬとな。

特に、チエイズとグルートのギルドには、攻撃を加えて当てた場合、褒美と神聖ミリシアル帝国の第3級市民権を与えると伝えよ。海賊でも良いと付け加えてやれ」

 

「ははっ!!直ちに!!」

 

会議結果は直ちに反映される。神聖ミリシアル帝国は謀略を巡らすのだった.......。だがしかし、ここでペルクラスの元に皇国からの通達が入った。

 

「陛下、大日本皇国外務省より緊急の連絡が入りました」

 

「読み上げよ」

 

「ははっ。.......現在我が国へ向け航行中のグラ・バルカス帝国海軍艦隊は、我が方にて補足、追跡済みである。進路、規模から見て、狙いが我が国である事はお分かり頂けるだろう。既に大日本皇国統合軍が迎撃作戦を展開中であり、この戦は手出し無用に願いたい。だそうです」

 

この連絡に全員が困惑した。普通に考えて、1000隻越えの艦隊に挑むのは自殺行為である。というかミリシアル艦隊ですら、まず間違いなく返り討ちに遭うだろう。

そんな困惑の中、今度はアグラの元に皇国の国防省からの連絡が届いた

 

「陛下、大日本皇国の国防省からも連絡が入りました。読み上げさせて頂きます。

.......現在、東進中のグラ・バルカス帝国艦隊は、我が聨合艦隊が迎撃する。新生聨合艦隊の初陣という、この記念すべき日に、例え神聖ミリシアル帝国であろうと他国の艦艇が戦列に加わる事は我々が回避したい事象である。どうか手出しは無用に願いたい。大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三元帥。

で、あります。どうなさいますか?」

 

「.......アルネウスよ。確か皇国は、グレードアトラスター級とそれ以上の艦艇を保有しておったな?」

 

「ハッ。使節団、そして先の世界連合艦隊での様子を見る限りですと4隻は確実に保有しております。またグレードアトラスター級を超える戦艦を1隻保有しております」

 

「シュミールパオ。仮にグレードアトラスター級4隻、そのグレードアトラスター級を超える戦艦1隻、その他、保有している思われる艦を総動員したとして、勝てると思うか?」

 

「.......かなり難しいでしょう。グレードアトラスター級を超える戦艦がどの程度の性能かは分かりませんが、これにグレードアトラスター級4隻を加え、更に空母や護衛の艦艇、それからカルトアルパス襲撃時の巨大飛行機械を動員したとしても、勝てるかどうか。

艦艇単体での性能差で皇国に軍配が上がると仮定としましても、数の暴力で捩じ伏せられるでしょう。引き分けでも大健闘である事は間違いありません。7:3、いえ。8:2というところでしょう」

 

ミリシアル8世は考える。普通に考えるなら、まず間違いなく無謀だと切り捨てて、問答無用で援軍を送るべきだろう。だがこれまで皇国は、力の一端を見せている。

カルトアルパス襲撃時にも、何百、何千kmと離れているにも関わらず、即座に事態を把握し援軍を送り込んだ。世界連合艦隊によるバルチスタ沖海戦では、たった4隻で敵の9割近くを倒した。そして第二文明圏に於いては帝国軍の軍勢を跳ね返すばかりか、占領された街や基地を奪還する戦果も挙げている。

 

「..............メテオス、くどいが答えよ。1隻で良い。パル・キマイラは、動かせぬのか?」

 

「今すぐは不可能です。しかしながら、作業を急げば明朝には動かせるかと」

 

「では明朝出撃し、皇国艦隊を目視にて捕捉。その様子を魔導映像送信機を用いて、我々に見せよ。それを見てどうするか決める」

 

「お任せを」

 

ミリシアル8世の考えは決まった。命令を受けたメテオスは明朝、皇国海軍を捕捉するべく飛び立った。

 

 

 

翌日 10:45 究極超戦艦『日ノ本』 艦橋

「艦長!レーダーに感。特大型艦以下150。IFFに反応!第八主力艦隊です」

 

「一番乗りは電蔵か。方位は?」

 

「後方8時方向、310。あ、レーダーに反応あり!第一主力艦隊を筆頭に、他六艦隊、到着しました」

 

「各艦に伝達!聨合艦隊陣形!!基準艦は、勿論本艦だ!」

 

聨合艦隊陣形とは神谷が考案した、聨合艦隊編成時の特別な編成である。本来であれば旗艦や主力艦は中心で護衛の駆逐艦や巡洋艦に囲まれるが、現代艦でそれをやると駆逐艦の本質が発揮できなくなってしまう。

そこで最も装甲の厚い『日ノ本』を先頭に、熱田型が両翼を魚鱗の陣の様に固め、そして大和型と伊吹型が最外部を縦方向に固める。真ん中に鳳翔型、その周囲を駆逐艦、突撃艦、摩耶型で固める。更にその周囲を赤城型が固めるのが聨合艦隊陣形である。上から見ると↑とか家のマークみたいに見えるので、それをイメージして貰いたい。

 

さて、ご存知の通り今回の総艦艇数は2,476隻となる超大艦隊。内、400隻ちょっとは『日ノ本』に収容されているとは言えど、それでも2,000隻越えの大艦隊なのには変わりない。その為、陣形転換にも1時間近く掛かる。だがこれだけの艦艇が居ながら、一切の事故もニアミスも無かったのは流石の練度と言ったところだろう。因みに操舵とかの水兵曰く「スラスターあるのマジ便利」らしい。

 

「戦艦『出羽』、所定位置に到着。聨合艦隊陣形、形成完了!!」

 

レーダー手の報告に、『日ノ本』の艦橋は歓喜に包まれる。神谷もその喜びの渦に乗るが、すぐに艦隊無線に切り替えて、聨合艦隊所属艦の全艦に放送を入れる。

 

『達する。統合軍司令の神谷だ。今さっき、聨合艦隊陣形が整った。喜べ!諸君らは今、歴史に立っている。諸君らは今、これから始まる新たな聨合艦隊の輝かしい歴史の始まりに立っている。

あの大戦以来、解体されていた聨合艦隊が100と12年ぶりに帰ってきたのだ。諸君らが立っている場所は、先人達の築き上げた栄光のゴールであり、同時にこれからの栄光の魁なのだ。今もし、映像が見れる者がいれば見て欲しい。これが今の、我が艦隊だ』

 

通信長に合図して、艦隊上空の海鳥のLIVE映像を各艦に送る。そこには堂々と大海原を突き進む、鋼鉄の城が映っていた。これを見て喜ばない海軍軍人は居ない。各艦でも歓喜の声が上がり、泣き出す者までいた。

時に西暦2059年、4月10日、12:03。112年3日と12時間ぶりに聨合艦隊は再び、皇国を護るべく蘇った。かつて旗艦であった『大和』と『武蔵』も含めた新生・聨合艦隊は、亜細亜の為に戦い抜いた時よりも更に強く、大きくなって還ってきたのだ。

 

「艦長!ホワイトホーンより入電!!所属不明機を捕捉、指示を求むと。あ、お待ちください。続報、機数1。反応が大きく、爆撃機以上とのこと!」

 

「いきなり来たか。だが爆撃機より巨大となると、なんか嫌な予感がする。直掩隊を急行させ、目視による確認を実施せよ。如何なる国家であれ、攻撃時には正当防衛による武力使用を許可する」

 

「アイ・サー!」

 

なんかいきなり過ぎて、正直もう少し聨合艦隊の再臨という感動を噛み締めたいし、せめて余韻位は感じていたいが、そうも言ってられない。多分上のパイロット達も同じ気持ちだろうが、そこはプロ。命令を受けた隊は直ちに当該地域へと急行した。

 

『にしても爆撃機以上の大型機って、一体なんなんですかね?』

 

『おいベア!確かお前、WWIIの航空機ファンだったよな?ぶっちゃけ正体分かるか?』

 

『爆撃機以上なんでしょ?となると、うーん。ドイツのギガントとかっすかね?』

 

『ギガント?』

 

『ナウシカのトルメキアって国あったでしょ?ほら、クシャナ殿下の』

 

『いや俺、ナウシカ未履修』

 

ベア、出鼻を挫かれる。因みにベアというのは、TAGネームである。TAGネームというのはパイロットが持つあだ名であり、これで交信なんかもする。エースコンバットシリーズに於けるタリズマンやエッジ、ピクシー、トリガーなんかはTAGネームである。

 

『ならあれ!ほら、ナウシカになんかデッカい飛行機出てくるでしょ?見た事ありません?』

 

『.......あぁ!YouTubeで見た事あるかも。たしか、あー、なんか火だるまになって墜落していく巨大なガンシップとかいうヤツ!!』

 

『その機体の元ネタっす』

 

『はー、デケェなそりゃ。ってかアレに元ネタあったのかよ』

 

こんな馬鹿話をしていると、現場空域付近に到達してしまう。ホワイトホーンからの無線が入るや否や、すぐに馬鹿話をやめて所属不明機の捜索を開始。程なくしてベアが、その所属不明機見つけた。

 

「所属不明機を目視にて捕捉。円盤状の機体。中心部に操縦設備を認む。恐らく、神聖ミリシアル帝国の空中戦艦パル・キマイラ!」

 

『———マイラ——きこ———』

 

どうやら無線を此方に入れてきたらしい。ホワイトホーンはすぐに周波数帯を魔導通信用のチャンネルにセットし、相手からの反応を待つ。

 

『こちらは神聖ミリシアル帝国、空中戦艦『パル・キマイラ2号機』の艦長、メテオスだ。まさか魔導電磁レーダーに引っかからないとは驚いたねぇ。一体どんな手品だい?』

 

「こちらは大日本皇国海軍所属、AEW、ホワイトホーンだ。機密につき先程の質問には解答しかねる。それより、貴機の飛行目的をお尋ねしたい」

 

『君達の様子を見に来たのだよ。君達は我々に、手を出すなと言ってきたねぇ。だがこの戦争は世界の命運を決する物。本来なら無視する所だが、皇帝陛下はご慈悲で戦力を見てから動くかどうか決めると言っておられる。早いとこ、君達の艦隊を見せてくれたまえ』

 

「生憎と私の権限では、その許可を出す事は出来ない。総旗艦に問い合わせる。その間、貴機は現在空域で待機せよ」

 

『嫌だと言ったら?』

 

「勿論、一番避けたい事態ではあるが撃墜も視野に入れさせて頂く」

 

『.......面白いねぇ。でも、君達と戦うつもりは無いのだよ。ここで大人しく待っていよう』

 

この話は即座に神谷の耳にも入り、神谷は案の定二つ返事OKした。曰く「どうせなら世界最強とやらのミリシアルに見てもらった方が、この世界では箔がつくだろう?」らしい。

 

「.......お待たせした。司令より許可が降りた。戦闘機隊が案内する。後に続け」

 

『随分早かったねぇ。ではホワイトホーンくん、引き続き任務を頑張ってくれたまえ』

 

『パル・キマイラ』は震電II4機の先導の下、聨合艦隊へと迫る。大体20分もすると、艦隊へと追い付いた。

 

「メテオス艦長。艦隊が見えて参りました」

 

「数はどの程度だい?」

 

「そ、それが.......」

 

見張り員は何も言わずに、メテオスに双眼鏡を渡して来た。訝しみながらも、取り敢えず覗いている。

双眼鏡を通してメテオスの目に飛び込んで来たのは、空前絶後の大艦隊であった。メテオスはすぐに魔導映像送信機を準備させ、この映像をミリシアル本国へと送信する。アルビオン城にてその映像を目にしたミリシアル8世以下、幹部や大臣達はその様子にただただ驚いていた。

 

「あれだけの艦隊が皇国には存在していたのか!!」

 

「おいあれは.......グレードアトラスター級じゃないか!?」

 

「本当だ!一体何隻居るんだ?」

 

「50隻近くはいるぞ!!」

 

議場は大混乱である。もう全員、頭に隕石が降って来たかのような衝撃であった。ミリシアル8世の言により、表向きは皇国を過小評価しなくはなった。だが当のミリシアル8世含めて、心の奥底にはやはり「世界最強の神聖ミリシアル帝国」というプライドや驕りというのは存在しており、何処か皇国を侮ったり下に見る節もあった。

だが蓋を開けてみれば、皇国はミリシアル以上の大艦隊を擁し『パル・キマイラ』を用いて漸く倒したグレードアトラスター級が50隻以上も居た。こんなの予想範囲外の外の外である。

 

「あれは.......もしや.......」

 

「陛下、どうなされました?」

 

「アグラよ、あれを見よ。あの先頭にいる艦を」

 

「五連装砲を搭載した戦艦.......もしや!」

 

ミリシアル8世とアグラが見たのは先頭を走る巨大艦。その艦には五連装砲が搭載されていた。そう、五連装砲を搭載した戦艦。エモール王国の空間の占いにて存在が確認されたという、あの戦艦なのだ。

 

『あー、あー、上空の巨大機。聞こえるか?』

 

全員が映像に齧り付いていた時、魔導映像送信機の中に若い男の声が入ってきた。一体なんだと全員が耳を傾ける。

 

『こちらは神聖ミリシアル帝国、空中戦艦『パル・キマイラ』、艦長メテオスである。君は誰だね?』

 

『俺か?俺は大日本皇国統合軍、総司令長官、神谷浩三だ。修羅と言った方が分かりやすいか?』

 

まさかの登場に、全員が更に黙って次の言葉に注意を払う。

 

『そうか。貴君が、あの神谷浩三なのか。意外と若いのだねぇ』

 

『若いからと侮る事なかれ。こちとら戦争屋だ。例えミリシアルの将軍だろうが、負けるつもりはねぇよ。

それより、どうだ我が皇国の艦隊は?これでこそ大日本皇国海軍。これこそ皇国の四方を護りし聨合艦隊だ。これなら単独で海戦したとしても勝てるだろう?』

 

メテオスは言葉に詰まった。流石に答えるには、ミリシアル8世の意向を聞く必要がある。だが本国に問い合わせるよりも先に、ミリシアル8世が直々に神谷へと語り掛けた。

 

「余は神聖ミリシアル帝国が皇帝、ミリシアル8世である。神谷浩三よ、喜ぶがいい。余の名の下、戦う事を許可してやろう」

 

『.......そりゃどうも。だがミリシアル8世皇帝陛下。貴方は一つ、重大な勘違いをしておられる。我が聨合艦隊は貴方の艦隊ではない。そしてこの私も、貴方の部下ではない。余の名の下、戦う事を許可するだと?それを許可なさるのは、貴方ではない。大日本皇国が主、天皇陛下を置いて他に無い。

あくまで其方に通達したのは、余計な横槍を入れられて作戦を破綻させられたく無いからにすぎない。勘違いなさるな。例え其方の許可が有ろうと無かろうと、我々は勝手に暴れる予定だ。我が祖国を。大日本皇国を。皇国の守護者たる我らの統合軍を、余り舐めない事だ』

 

まさかの反論に、ミリシアル側は全員が面食らう。だが幹部の誰かが「不敬だ」と言った瞬間、幹部達はボロクソに神谷への罵詈雑言を言い始めた。

 

「皇帝陛下になんたる口の聞き方か!!!!」

 

「艦や見てくれは良くとも、所詮は第三文明圏外国家の野蛮人か!!」

 

「皇帝陛下の慈悲をその様な態度で返すとは、泣いて許しを乞うがいい!!!!!」

 

『.......うるさ。まぁ、別にどうでもいいや』

 

最初、神谷はもう面倒だったので無視する方向で行くつもりだった。だが幹部の誰かが、こう言ってしまったのだ。「所詮蛮族国家の長も蛮族なのだろう?貴様の様な者を臣下に置く辺り、程度が良くしれるわい」と。こんなこと言われちゃ、黙ってられない。

 

『.......おい。今、畏れ多くも天皇陛下を馬鹿にしやがった奴、名乗りやがれ。どいつだ?』

 

「そんな事聞いて答えるとで」

どいつだって聞いてんだよゴラァ!!!!!!

 

ヤクザ並みの圧を無線越しで与えてくる辺り、流石神谷である。この一言で幹部達は漸く黙った。

 

『別にアンタらが皇国を下に見ようと馬鹿にしようと、それは所詮テメェらが下である事の表れだ。構いはしない。だが主人である天皇陛下を馬鹿にするという事は、大日本皇国への宣戦布告も同義!!そんなに死をお望みだと言うのなら、海戦の後、テメェらの頭上の砲弾の雨を降らせたって構わねぇんだぞ!!』

 

これ以上幹部が何か言えば、本当に艦隊が本土に来襲しそうな勢いなので、慌ててミリシアル8世が謝罪に入る。

 

「数々の非礼、誠に申し訳なかった。どうか、許して頂きたい」

 

『.......世界最強がこれじゃ、いつしか無くなるぞ。まあもう、それこそここで程度が知れて良かったわ。

いいか皇帝。謝罪とかはどうでも良い。とにかく、この戦、邪魔をするな。アンタらの介入は勿論、第三国や第三国の冒険者組合や海賊なんかの軍事組織を含む勢力を利用した介入もするな。この戦争は俺達だけの物。何人も邪魔は許さない。データが欲しいなら、そこの空中戦艦を射程範囲外から随伴する位は許してやる。だが勿論、武器使用は正当防衛時のみ。勝手に参戦して来たら、敵として認識する。それが嫌なら、パル・キマイラだかパラ・キメラだか知らんが、それも下げろ。いいな?』

 

言いたい事を言うだけ言うと、神谷は一方的に通信を切断した。この後も再三『パル・キマイラ』から通信を呼び掛けて来たが、必要最低限の返答だけして後は全無視してやったらしい。

何はともあれ、この異世界の海に聨合艦隊は復活した。守護神の戦闘は次回に見送るとしよう。

 

 

 

 

*1
妙高型二次改装に酷似

*2
摩耶に酷似

*3
阿賀野型に酷似

*4
川内型に酷似

*5
秋月型に酷似

*6
陽炎型に酷似

*7
流星に酷似

*8
信濃に酷似

*9
大鳳型に酷似

*10
五十鈴改装に酷似

*11
島風に酷似

*12
伊176型に酷似

*13
富嶽に酷似

*14
富嶽掃射機型に酷似

*15
深山に酷似

*16
連山に酷似



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第七十一話第二次バルチスタ沖海戦勃発

翌日 バルチスタ沖400km 総旗艦『日ノ本』 中央作戦室

「現在艦隊各艦はこの様に布陣しており、グラ・バルカス帝国艦隊を待ち構えております」

 

「潜水艦隊の状況は?」

 

「既に艦隊を捕捉、追尾中であります」

 

聨合艦隊の編成より一夜明け、艦隊は予てからの作戦通りに動き出していた。機動遊撃艦隊は半数ずつに別れ左右に100km間隔で布陣し、逆三角形を描く様に連合機動艦隊が布陣。さらにその後方250kmの位置に『日ノ本』を筆頭とした本隊が布陣している。潜水遊撃艦隊は潜水艦隊と潜水戦隊に別れ、艦隊は前衛突撃艦隊と共に機動遊撃艦隊の前方120kmの海域に進出し、通常の潜水艦のみで構成された潜水戦隊はグラ・バルカス帝国艦隊を追尾している。

 

「前衛の機動遊撃艦隊からは、攻撃許可の催促が来てます」

 

「そんなに?」

 

「かれこれもう10回以上」

 

「出させても良いんだけど、それじゃ面白くないからなぁ」

 

今回の海戦、どんなに素人の馬鹿が指揮をとっても勝てる。聨合艦隊とは全ての主力艦隊と潜水艦隊が、『日ノ本』という究極超戦艦の下に集って形成された艦隊。言い換えれば、大日本皇国海軍のほぼ全ての戦闘艦艇が1つの艦隊を成しているのだ。

一方のグラ・バルカス帝国艦隊は艦隊規模でも単艦性能でも劣っており、ミサイルの1発も落とせない。正直このままミサイル飽和攻撃で全艦薙ぎ払う事もできる。こんな具合に。

 

神谷「ミサイル全弾発射!」

 

シュボボボボボボボボボボ

 

ドッカーーーーーン

 

全⭐︎艦⭐︎撃⭐︎沈

 

ふざけているかの様に見えるかもしれないが、ホントにこれで戦闘を終わらせられるのだ。だがそれでは、折角引き連れてきたこの大艦隊の意味がない。

ならば、手間を掛けて嬲り殺しにするのが一番だ。軍隊を挙げて一兎を狩る者は居ないが、偶には軍隊どころか国家を挙げて一兎を狩ったって良いじゃない。

 

「長官、右翼の機動遊撃艦隊より入電。『我、敵偵察機を発見す!』です!!」

 

「よーし!一から百まで、全部向こうに送って貰え。無線傍受の上、ある程度位置が送られたら堕とせ」

 

「アイ・サー!」

 

完全に遊ばれている。だがそんな事は知る由もないリゲル型雷撃機の乗員達は、右翼機動遊撃艦隊の情報を無線で送る。

 

「俺達ツイてるな!」

 

「あぁ!だがコイツは多分、前衛の艦隊だ。本隊じゃない」

 

「にしても対空砲火一つ上がらないのは、妙ですね。護衛機がいる訳でもないし」

 

「奴ら思ってるより練度が低いのかもな!ははは!!」

 

機長の考え同意見なのか、3人揃って大爆笑であった。だが次の瞬間、リゲルは爆発。3人は死んだ事を認識する前に、バルチスタの海に散った。

 

「敵機、撃墜確認」

 

「よろしい。では航空参謀、艦載機を対艦装備で上げろ」

 

「アイ・サー!」

 

伊吹型12隻から、延べ700機のF8C震電IIと3機のE3鷲目が上がる。艦隊上空で編隊を組み、一度敵艦隊とは全く別の方向に飛び、敵機がまず到達できない高度まで上げてから敵艦隊を目指す。

一方のグラ・バルカス帝国艦隊側はアンタレス60機、シリウス型爆撃機140機、リゲル148機の編隊を繰り出して来た。

 

「司令、先遣艦より入電。『艦隊より2時の方向、敵機348機を探知』とのこと」

 

「対空戦闘用意だ。ただし、長距離の信長は使うな。家康と砲熕兵器のみで対応せよ」

 

「アイ・サー。では、迎撃はオートではなくマニュアルですね?」

 

「その通りだ」

 

「アイ・サー。迎撃管制、マニュアルにて行う!」

「アイ・サー、迎撃管制、自動(オート)から手動(マニュアル)に変更」

 

本来であればレーダーで探知した敵を、そのまま半自動で迎撃するのが皇国流である。だが流石に今回は敵も多い上に空母も多く含まれる事から、なるべく無駄弾は撃ちたくないのだ。いざという時に「ミサイルがありませーん!」では、如何な皇国艦艇と言えど駆逐艦なら沈む可能性が一気に上がる。え、戦艦ならどうかって?多分普通に耐える。

右翼機動遊撃艦隊が迎撃準備を整える一方、先遣艦である浦風型の『未来』には、目視でも敵が確認できるほどの位置にまで迫っていた。

 

「右30°に航跡視認!」

 

「軽巡洋艦級か?恐らく先遣艦だろう。だが、我が帝国のレーダーピケット艦的役目なら面倒だな。ハットン、ハットン聞こえるか?」

 

『こちらハットン。なんです隊長?』

 

「お前の隊であの軽巡を沈めろ。雷撃隊からも8機ばかり出張って貰う」

 

『お安い御用ですぜ。でも帰ったら、酒の1杯でも奢ってくださいよ!』

 

ハットン隊の4機のシリウスと、雷撃隊からリゲル8機、戦闘機隊から4機が本隊から分離し『未来』へと向かう。

 

「ハットン隊、俺に続け!高度3,000まで上昇!!」

 

「雷撃隊、これより雷撃針路に着く。高度50まで降下!」

 

どちらの航空隊も一糸乱れぬ飛行で攻撃位置に着く。それを見ていた攻撃隊の指揮官は、部下の成長に感慨深い物があった。

 

「ハットンの野郎、腕を上げてますね」

 

「アイツはウチの隊のエースだ。でもな、最初の頃は空母への着艦が下手で下手で。トンボ釣りを5回しでかして、着艦位置が悪くて整備兵にドヤされる事もあったんだぞ」

 

「あのー、そこは今でも余り成長してないんじゃ.......」

 

「あー.......」

 

考えてみれば、前回の訓練で危うく海に落ちかけていた。というか何なら降りた後に、本人が甲板から滑って海に落ちていた。まあ普通に飛ばす分には隊内随一の名パイロットなので、多分問題ないだろう。着艦の方は()パイロットだが。

 

 

『全機、突入進路確保!攻撃位置(アタックポイント)まで5マイル!』

 

「たかが1門の砲で、なにができる!!」

 

暫くして、攻撃隊による『未来』への攻撃が始まった。雷撃隊の隊長による盛大なフラグ建設が、攻撃開始の合図。

『未来』の名を冠するイージス艦にそのセリフは、ある意味「この戦いが終わったら結婚するんだ」以上のフラグだ。

 

「右対空戦闘、CIC指示が目標。撃ちー方ー始めぇ」

 

「トラックナンバー、2628。主砲、撃ちー方始め」

「撃ちー方ー始めぇ!」

 

砲術手の水兵が、机の下に引っ掛けてある主砲のトリガーを抜き取り、引き金を引く。

 

ドン!

 

主砲から放たれた砲弾は機体の中心線に命中し、起爆。爆風と衝撃波で機体は翼がもがれて、そのままバランスを崩し海面に突っ込む。パイロットも眼球の他、色々飛び出しちゃいけない物を飛び出させながら燃え尽きた。

 

ドン!ドン!

 

続くリゲルもVT信管で機体の正面で爆発し、爆風と衝撃波で機体を錐揉みに撃墜する。

 

「トラックナンバー2628から、2630、撃墜!」

 

「新たな目標、210度!」

 

砲塔が左側から接近するリゲルの方向へと旋回し、左翼の編隊に照準を指向させる。そして照準が整った瞬間…

 

ドン!ガシャコン ドン!ガシャコン ドン!ガシャコン

 

続け様に3機、一気に撃墜していく。上空から様子を見ていたハットン隊も、全員が戦慄した。

 

「隊長ッ!雷撃隊が!!」

 

「ッ!?」

 

一方的にやられた雷撃隊の復讐の為か、2番機が『未来』へ急降下を開始。爆撃態勢に移る。

 

「2番機!ま、待て!!」

 

 

「トラックナンバー2642、さらに接近!」

 

「家康発射始めぇ!サルボー!!」

 

今度は主砲ではなく、艦後部甲板に搭載された発射筒から短距離艦対空ミサイル家康が発射。2番機へ襲い掛かる。

 

「くっ.......うっ.......」

 

突入角度70〜80度という深い角度から来る重力加速とGで苦しく視野が狭まるが、2番機のパイロットは自機に襲い掛かる何かを確かに見た。「ぶつかる」と思った時には、自機に命中し機体が燃え上がった。

 

「2番機!!うおぉっ!!!!2番機!!な、何が起こっている!?!?」

 

2番機の爆炎と残骸の中にハットン機は突っ込む。だが周りは黒煙で、何も見えない。だが数秒で煙は晴れ、またさっきと同じ明るい空と青い海が見えた。

 

「デビット、ダメージはないか!?」

 

「大丈夫です隊長!銃座も身体も、ピンピンしてます!!」

 

「よし!うぉ!」

 

だがホッとする間も無く、またさっきのロケットが飛んできた。咄嗟に翼を少し振って、どうにか回避できた。ロケットの航跡を見るために振り返ると、ロケットはそのまま後ろにいる3番機、4番機を目指して飛んでいくのが見えた。

 

「ッ!?」

 

それに気付いた3番機が右上方に回避する為に、機体を右斜め上に傾ける。

 

「振り切れぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

だがロケットは3番機の腹に命中し、爆発。4番機は逆に降下してスピードを稼ぎ回避しようとするが、ロケットは余裕で追い付く。どうにか回避しようと機体を傾けた瞬間に命中し、機体は爆散。

更に2発のロケットが飛んできて、残っていた雷撃機にも襲い掛かった。1機は左主翼をもがれて、もう1機は回避しようと垂直上昇したところに、正面からロケットが突き刺さって爆散した。

 

(貧弱な武装だと?このハリネズミめ!!コイツは通常の攻撃じゃ沈められん!!)

「デビット。ケイン神王国との戦いじゃ、何度もお前に助けられたよな?」

 

「光栄です!」

 

「脱出しろ」

 

「えっ、どうしてですか!?」

 

「前を見ろ」

 

デビットが前を見ると、機体左前方から黒い液体が吹き出していた。エンジンオイルである。

 

「オイル漏れだ。油圧が下がってる。残念だが、母艦(ワインバーグ)まで戻れそうにない。今なら奴の攻撃が止んでいる。脱出の時は、尾翼に気を付けろよ!」

 

「隊長は、どうするんです!?まさかッ!!」

 

「心配するな。まだ死ぬつもりはない。だがコイツは、まだ奥の手を隠し持っている。奴の情報を持ち帰ることが、帝国が私に与えた、使命なのだ!」

 

ハットンがそこまで言うと、デビットも安心したのか脱出の為にパラシュートを準備した。そして準備を終えると、風防を開ける。

 

「隊長!先に行きます!!」

 

「おーう!後でな!!」

 

デビットはシリウスから訓練通りの姿勢で外に飛び出す。数秒後、真っ白なパラシュートが開いた。一方のハットン機は『未来』へと突っ込む。

 

「距離1,500!オッケー、センターに捉えた!!500kgの火の玉を、食らいやがれぇ!!!!」

 

ハットン機は機体中央部の500kg爆弾を切り離す。だがそれと同タイミングで、『未来』艦橋下に搭載されたCIWSの52式六銃身20mmバルカン砲が自動的に作動。爆弾を破壊する。

 

「各科、受け持ちの区画のチェックを行え!!」

 

「各部異常無し!!」

 

「ッ!?敵機直上!急降下!!!!」

 

ハットンの攻撃は終わらない。今度は機体を艦にぶつけるべく、操縦桿を倒しっぱなしにしたのだ。

 

「突入角度80°!経験のない角度で俺は、まだ、正気だ!!この化け物め.......。お前の呻きを、聞かせてみろ!!!!!!」

 

そう言いながら、ハットンは機関銃の発射レバーを引く。7.7mmの豆鉄砲が、艦橋付近に命中。軽快な金属音が鳴り響く。

 

「面舵いっぱーい!!右停止、左一杯急げぇ!!見張り員退避、衝撃に備えぇ!!!!」

 

「面舵いっぱーい!!右停止、左一杯急げッ!!見張り員退避!!!!」

「面舵いっぱーい!!!!!!」

 

艦長の号令は即座に艦橋の航海長が復唱し、水兵達が命令を実行する。操舵員は右に舵を切って、機関員は右スクリューを停止させ、代わりに左スクリューの出力を全開にさせる。

この頃には無人となったハットン機。これが幸いして『未来』の動きについていけず衝突コースから外れた上に、20mmバルカン砲の弾幕でズタボロになり爆発四散。『未来』の被害は艦橋のガラスが割れて、ついでに艦橋上部に穴が空いた程度で済んだのであった。

この間にも攻撃隊本隊は尚も前進し、遂に対空迎撃ラインに突入した。ここから攻撃隊にとっての悪夢が始まる。

 

「全艦、対空戦闘用意。主砲砲撃戦、弾種、時雨」

「対空戦闘よーい!」

「主砲砲撃戦、方位128、仰角最大。弾種、時雨弾」

 

「諸元合致しました」

 

「撃ち方ー始め!」

 

「撃てぇ!!!!!」

 

伊吹型12隻、合計36発の時雨弾が敵編隊目掛けて飛んで行く。460mm時雨弾には10発の小型ミサイルが内蔵されており、合計で360発のミサイルが襲い掛かる。だがその特性上、実は誘導性は余り高くないので1発ずつ個別目標に向かわせると命中率が結構低くなってしまう。そこでミサイル2発で1つの目標を追いかけるように設定されており、実質は最大でも180個の目標にしか当たらないのだ。

 

「ハットン隊はどうなったんですかね?」

 

「今頃、一足先に母艦に帰ってるだろうよ。こっちも早いとこ帰りたいもんだ」

 

既に攻撃が始まっているなんて知る由もない攻撃隊は、尚も艦隊目指して飛ぶ。だが次の瞬間、遥か前方で何かがキラリと光ったのが見えた。

 

「今何か光っ」

 

気付いた時にはもう遅い。先頭を飛んでいた攻撃隊、165機が撃墜されたのだ。

 

『敵襲!!』

 

『クソッ!!敵は一体どこから攻撃しやがった!?!?』

 

『太陽からか!?ちくしょ、全く見えなかったぞ!!!!』

 

『戦闘機隊、増槽を投下!!攻撃隊を守り抜け!!!!』

 

『今の一撃で先頭がほとんど吹き飛んだぞ!!』

 

攻撃隊は謎の攻撃に混乱し、編隊も疎になる。まさかこの攻撃がたった一斉射で齎された被害だとは、誰も思わなかった。一応グラ・バルカス帝国海軍にも三式弾の様な、対空戦闘用の主砲弾というのは存在する。だがそれはあくまで、もっと至近距離からの砲撃でないと対空戦闘では意味をなさない。

というか何なら至近距離から撃っても、グレートアトラスター級の主砲でないと余り効果がない。基本的に主砲を用いた対空戦は、低空の目標に対して、海面に砲弾を撃ち込んで巨大な水柱を形成し、そこに突っ込ませるか回避して高度を上げたところを対空砲でバリバリとやるのが基本戦法である。故に水上艦艇からの砲撃だとは、誰も夢にも思わなかったのだ。

 

「初段命中。第二射、砲撃用意」

 

「待て。40秒。先の砲撃より40秒待ったのち、第二射を撃て。あ、いや、1分後には摩耶型の射程範囲だったな?」

 

「ハッ。その通りでありますが」

 

「では摩耶型と同時に撃つ。弾種そのまま、照準任せる」

 

「アイ・サー!」

 

伊吹型も大和型も、その巨大な砲弾の割には超高速で装填可能なのだ。例えば海上自衛隊を筆頭に、西側諸国の主砲として採用されているオート・メラーラ社の127mm砲を例に挙げてみよう。こんごう型に採用されてるタイプであれば毎分45発、同社の76mm砲ならタイプにもよるが毎分80〜120発である。見て分かる通り、結構な高レートだ。だがあくまでこれは、使う砲弾が比較的小さいという理由がある。小さければ、それは勿論軽い。故に動かしやすい。どの位の大きさかと言うと、127mm弾でも頑張れば両手で抱えられる位だ。何なら運べる位の重さでもある。

所が戦艦の砲弾ともなれば、そうもいかない。大きさは大人1人分で、重量は物にもよるとは言えど普通に1t超え。持ち運ぶなんて、まず不可能だ。だから本来なら装填速度も遅くなるし、というか昔の大和型でも毎分1〜2発が限度だった。ところがどっこい、伊吹型も大和型も毎分20発である。勿論砲塔ではなく1門で。大体3秒で装填が終わるのだ。因みに熱田型なら毎分15発、日ノ本型なら毎分10発である。

 

「敵編隊、摩耶型の射程圏内に入りました!」

 

「第二射、撃て!」

 

「撃てぇ!!!!」

 

第二射の砲弾数は更に多い。摩耶型23隻かけることの6門。これに伊吹型の砲門も合わせて、合計で174発。ミサイル数もその分跳ね上がり、この一撃で攻撃機隊は全機撃墜された。

ハットン隊の全滅、そしてこの攻撃隊の全滅はハットン隊と共に護衛として残っていたアンタレスのパイロットによって艦隊に報告される。

 

 

 

同時刻 第三先遣艦隊 空母『ワインバーグ』

『こちら第一次攻撃隊!こちら第一次攻撃隊!第339戦闘飛行隊、第6小隊1番機より『ワインバーグ』へ!!』

 

「こちら『ワインバーグ』。どうした?」

 

『第一次攻撃隊は、大日本皇国艦隊接敵前に迎撃に遭遇したと思われる!部隊は本小隊以外は全滅!第二次攻撃隊を要請します!!第二次攻撃を!!』

 

第三先遣艦隊の旗艦『ワインバーグ』に飛び込んで来た報告に、司令以下幕僚達は戦慄した。全機合わせて308機の大編隊の内、304機やられたのだ。無理もない。

 

「司令、どうなさいますか?」

 

「.......第二次攻撃隊を上げる。第6小隊は直ちに帰還させよ」

 

「イェッサー!」

 

この時、司令も第6小隊のパイロットも、皇国の迎撃戦法が航空機ではなく遥か彼方からの砲撃による物だと知っていれば、第二次攻撃隊発艦という判断は下されなかっただろう。だが彼らはそれを知らなかったのだ。第6小隊だって、攻撃隊本隊の大半が撃墜された後に現場に到着し、海面に浮かぶ残骸からそう判断したにすぎない。

 

「『ワインバーグ』より任務中の攻撃隊へ。全機、帰還せよ。繰り返す。本艦は、第二次攻撃を準備中。こちら空母『ワインバーグ』。第一次攻撃隊は、帰還せよ。第二次攻撃隊は現在、発艦準備中」

 

もしかしたら生き残りがいるかもしれない他の第一次攻撃隊へも届く様、『ワインバーグ』から全機帰還の命令が無線で伝達される。この無線が届いたのは第6小隊しか居なかったのだが、それ以外に聞き耳を立てる者がいた。第一次攻撃隊発艦と同時に飛び立った、攻撃隊の支援についている鷲目である。

 

「懲りないねぇ」

 

「だがその方がこちらもやり甲斐がある。それは、あっちも同じじゃないのかい?」

 

鷲目の電測員が顎で編隊を組む震電IIを指す。第二次攻撃隊を飛ばしてくれる位、骨のある連中の方がこちらも攻撃しがいがある。

 

「こちらビッグボーイ!攻撃隊へ。敵さん、性懲りも無く第二次攻撃隊を飛ばそうとしている。その前に叩いてくれ!敵の編成は空母3、戦艦1、重巡6、軽巡10、駆逐60!」

 

正確な第三先遣艦隊の編成はペガスス級3、オリオン級2、タウルス級4、アマテル級2、アルドラ級8、レオ級2、エクレウス級12、キャニス・ミナー級48である。因みに他の先遣艦隊の陣容は以下の通り。

第一先遣艦隊

・ヘルクレス級4

・ペガスス級2

・タウルス級14

・アマテル級4

・レオ級20

・アルドラ級6

・キャニス・ミナー級31

 

第二先遣艦隊

・オリオン級2

・ペガスス級7

・アマテル級6

・レオ級4

・アルドラ級14

・キャニス・ミナー級20

・エクレウス級20

 

第四先遣艦隊

・オリオン級1

・タウルス級7

・レオ級60

・キャニス・メジャー級68

・エクレウス級10

・キャニス・ミナー級80

・スコルピウス級286

 

役割としては第一先遣艦隊が本隊、第二先遣艦隊が主力機動艦隊、第三が予備の機動艦隊、第四先遣艦隊が水雷戦隊を中心とした切込み隊、と言った所である。

 

『了解したビッグボーイ!野郎共、仕事の時間だ!!』

 

震電IIには今回、先述の通りASM4海山が満載されている。各機6発、700機なので4200発。この内、ミサイルを放ったのは100機で、それも2発ずつだった。なので計200発の海山が第三先遣艦隊目掛けて飛ぶ。

第三先遣艦隊はこの事に気付くことは無い。それもその筈。この海山はステルス性能が高い上に、ECMも装備している。オマケに速力はマッハ8を叩き出す、極超音速空対艦ミサイルなのだ。これだけの速度とステルス性能を持ってすれば、レーダーは勿論のこと肉眼ですら捉えられない。

 

「司令。報告が遅れましたが、第二次攻撃隊発艦準備完了まで後6分です」

 

「そうか。ありがとう、艦長」

 

「.......司令。司令は第一次攻撃隊の壊滅について、どうお考えですか?」

 

艦長はずっと疑問に思っていた事を投げ掛けた。明確な答えは期待してないが、もしかしたら何か新たな視点が見つかるかもしれない。そんな藁にもすがる思いで質問すると、司令は神妙な面持ちで語り出した。

 

「これは艦隊司令級にしか明かされてない情報なのだがね、カイザル将軍が言うには皇国の戦闘能力は我々の遥か先を行っているそうだ」

 

「と言いますと?」

 

「今回の様な防空であれば、直掩機による防空を除けば、我々のセオリーは敵が有視界に入ってからだ。高角砲と対空砲で弾幕を張るね?

だが彼らの場合、視界に入るよりも前に迎撃できるそうだ。ロケット兵器というのを、君も一度は聞いたこと位あるだろう?あれの進化系が駆逐艦に至るまで、大量に装備されているという話だ。恐らく第一次攻撃隊は.......」

 

「ロケットにやられた、と?」

 

「あぁ。少なくとも私はそう仮説を立てた。だから今度は数を多くし、なるべく編隊も広めに取って、限界ギリギリの高高度から攻める様に指示を出してある。これでやれれば良いんだが.......」

 

艦隊司令の考えた戦法は、逆の超低高度の飛行こそが正解である。艦隊司令の中ではロケット、もといミサイルに誘導性能は無いか皆無に等しいと思い込んでいたのだ。対空噴進砲のイメージが最も近いだろう。対空噴進砲は簡単に言えば、ロケット弾をばら撒いて弾幕を張る兵器。故に低高度は危ないと、そう考えていたのだ。まさかロケット弾1発1発に誘導性能があり、撃てばほぼ百発百中だとは思ってなかったのである。

というかそもそも、この時代の技術レベルでは高性能な誘導機能を有したロケットを作るには、巨大なビルと同等のサイズ。それを飛ばす様なエンジンは、現在に至るまで開発されてない。余談ではあるがアポロ11号の打ち上げに用いられた管制室なんかのコンピューターは、今のスマホよりもスペックが低かった。「ロケットが進路を変えて、機体を追いかけ回す」なんて発想、生まれるはずもない。

 

「成功する事を祈りましょう」

 

艦長が艦隊司令にそう言った瞬間だった。艦が噴火の様な轟音と共に激しく揺れ、右舷側に巨大な爆炎が上がったのが見えた。

 

「うっ!ぐおぉぉぉぉぉ!?!?!?」

 

「ぬぅ!?ぅぅん?」

 

艦長と司令は揃って、ASM4命中の衝撃で椅子から転げ落ちた。そればかりではない。他の艦橋にいた水兵達も、感じたことの無い揺れで立っていられず転けたり、角に頭を強打したり、監視員に至っては転落した者までいた。

 

(甲板にはまだ、魚雷や爆弾を抱えた機が!!)

 

艦長の脳裏によぎったのは、甲板で暖機運転を行なっていた第二次攻撃隊の航空機だった。魚雷も爆弾もしっかり満載状態で装備している上に、燃料もタンクにたんまり積んでいる。誘爆すればひとたまりも無いのだ。

実際、今の甲板は地獄そのものだった。爆風に煽られてバランスを崩した機体が隣の機体に衝突して爆発し、その腹に抱えた爆弾や魚雷に誘爆して甲板上で連鎖的に爆発。何なら先頭にいた戦闘機は爆風に煽られて、機首から甲板に突き刺さり、そのまま格納庫区画まで貫通して爆発している。

 

「ハァ!ハァ!ちく、しょ」

 

「消火急げ!!」

 

「消火ぁ!!消火ぁ!!!!」

 

「ダメだ、とても手が付けられん!!うわぉ!!!」

 

甲板はどうにか生き残ったパイロットが逃げ惑い、消火班が懸命にホースで放水するも、1つ消し終える前に10倍近くの爆炎が別の所から巻き上がり、もう焼け石にスポイトで熱湯を数滴垂らすような物だった。

 

「司令、お怪我は!?」

 

「私なら大丈夫だ。被害を、報告せよ!」

 

暫くして伝令の水兵が上がってきて、司令に被害を報告し出す。だがその被害は、想定以上の物だった。

 

「機械室は浸水。機関、停止!飛行甲板及び、弾薬庫にて誘爆多発!消火不能です!!負傷者の集計も、混乱を極めております!」

 

「本艦の他、艦隊所属艦は全て爆炎をあげており駆逐艦と軽巡に至っては全艦轟沈!!重巡と戦艦も傾斜が酷く、混乱の極みであります!!!!」

 

「破口からの浸水、拡大中です!!排水ポンプも機械室の浸水により稼働しません!!現在、艦傾斜角11°!復旧は、絶望的!!持って……30分です!!」

 

司令は艦橋の端まで歩き、その縁を優しく子供をあやすかの様に撫でた。「もはや、ここまでか.......」と呟くとすぐに艦長達に向き直り、力強く命じた。

 

「総員、退艦!!!!艦長、退艦の指揮を頼む!」

 

「イェッサー!!」

 

すぐに艦長は艦の比較的被害が少なかった、内火艇格納スペースに走り指示を飛ばす。

 

「総員離艦!!ボートを下ろせ!乗り切れん奴は海に飛び込め!!負傷者が優先だ!!」

 

「イェッサー!艦長も退艦を!」

 

「生存者の退艦を確認したら私も飛び込む!!私よりも司令を早く!」

 

「ハッ!」

 

次の瞬間、またしても艦が大きく揺れた。恐らく、上の機体がまた誘爆か何かで爆発したのだろう。咄嗟に艦長は手すりを掴んだ。顔を上げると、世界がスローモーションに見える錯覚に陥った。目の前を水兵が海に向かって落ちていくのが見える。それを目で追って下に向けると、海は血で赤く染まっていた。それだけではない。水兵達の死体が浮いていたのだ。眼球が飛び出した者、腕が千切れて泣き喚く者、両足を吹き飛ばされて仲間の水兵が必死で声をかけ続けられている者、顔を水面につけて動かない者、ガラスが顔中に突き刺さっている者、最早頭の側頭部ぐらいしか水面に浮かんでいない者と、まさに地獄絵図としか言い様が無かった。

 

「我々は一体、どんな国と戦っているのだ.......」

 

艦長がそう呟いた瞬間、再び艦全体が激しく揺れた。それもさっきのとは比にならない、最初の攻撃命中時の時の様な大きな揺れであった。床が急速に傾き、手すりに捕まって立っているのがやっとだった。見れば中心のあたりで、巨大な火柱が上がり艦が沈んでいくのが見えた。次の瞬間、床が直角になり、立ってられなくなって艦長は落ちていった。

 

 

 

同時刻 駆逐艦『未来』 CIC

「.......敵艦隊の反応、消えました」

 

「すぐに総旗艦に報告しろ」

 

「アイ・サー!」

 

第三先遣艦隊の全滅は、すぐに『日ノ本』に座乗する神谷の元に届けられた。神谷は中央作戦室に投影されている敵味方両艦隊の情報を見ながら、次の戦略を考える。

 

「長官、次の動きはどうなさいますか?」

 

幕僚の1人、航空参謀の加藤忠道少将が聞いてくる。因みに神谷の幕僚にはこの他、主席参謀の牛嶋穣中将、『日ノ本』の艦長である宗谷悠真大佐、安定の副官兼秘書兼陸上作戦参謀の向上六郎大佐がいる。

 

「ジョー、なんか良い案ないか?」

 

「本職としましては、前に加藤から聞いた作戦を推したいですな」

 

「どんな作戦だ?」

 

「あー、なんか牛嶋さんが勝手に作戦言ってるだけで、別にそんな大層な物じゃないですよ?ただこの艦隊、機動部隊なので早いとこ叩きたいなと。それで叩くなら第一潜水艦隊が近くに居ますから、ここの艦載機と砲撃でロングレンジから叩けば意表も付けて良いんじゃないかなーっと」

 

悪くない作戦である。この作戦は直ちに採用され、艦隊に伝達。次なる作戦に移る。バルチスタ沖での戦いは、まだ始まったばかりだ。

 

 

 



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第七十二話1000万人救済計画

第三先遣艦隊壊滅より数時間後 第一先遣艦隊旗艦『ラス・アルゲティ』 艦橋

「司令、第三先遣艦隊からの連絡が途絶えました」

 

「なに?どういう事だ」

 

第一先遣艦隊の司令にして、4つの先遣艦隊全体を取り纏める軍神カイザルの右腕、トレマイナー中将に信じ難い報告が入った。第三先遣艦隊の連絡が途絶したのだ。まあ前回を見て頂ければ分かるのだが、もう海の底で新たなるお魚さん達の住処と餌になっている。

 

「定時連絡が無く、こちらから呼びかけ続けているのですが何も返信がなく.......」

 

「やられたな」

 

「はい?」

 

「いや、何でもない。取り敢えず第三先遣艦隊には呼びかけ続け、3回連続で応えなければ壊滅したと考えよ。それよりカイザル司令に連絡を取りたい。すぐに準備してくれ」

 

「は、はぁ。了解であります」

 

報告に来た士官は何とも言えない指示に困惑しながらも、命令通りにカイザル座乗の戦艦『グレードアトラスター』に無線を入れる様に指示を出す。

一方、トレマイナーの脳裏には出撃前にカイザルから言われた事を思い出していた。

 

 

「トレマイナー、ネーロン。お前達にだけ、知っていて貰いたい事がある」

 

「カイザル司令、なんです改まって?」

 

カイザルの後輩にしてトレマイナーの同期。グラ・バルカス帝国において、機動艦隊の概念を飛躍させた空母運用の鬼才、ネーロンがカイザルに尋ねる。

 

「今回の戦闘、我々は勝てない。生き残る事すら難しい」

 

「軍神カイザルともあろう方が、その様なことを言いますか.......」

 

「不味いですよ!誰かに聞かれでもすれば…」

 

「なーに。私は世間じゃ『軍神』と呼ばれているのだ。そう簡単に首を切られる事はないし、帝国とてそんな余裕はない。

それよりも、これを見てくれ」

 

カイザルが鞄から出したのは、帝国の言語で『廃棄』と掘られたスタンプを押された書類だった。表題には『大日本皇国の兵器についての報告と性能考察』と書かれている。だがここで、2人とも可笑しな点に気付いた。

 

「これ、何で廃棄処分を受けているんだ?」

 

「ネーロン、この手の書類はこっちに回ってきているか?俺は覚えがないぞ」

 

「この書類は握り潰されたんだよ。恐らく私に反感を抱いている、ジーノ海軍大臣かガナノ軍令部総長辺りの差金だろう。まあ、この感じを見るにジーノだろうが。

揉み消されたのも問題だが、そこは取り敢えず置いておいて、まず今は中を見て欲しい」

 

中を確認するとそこに書かれていたのは、大日本皇国海軍の兵器の参考値とは言えど詳細なスペックが書かれていた。そのスペックは全て、コチラの艦艇を凌駕している。

 

「.......私の言う意味がわかるだろう?」

 

「えぇ。駆逐艦からしてまるで違う。砲塔1基で装甲は我が方の駆逐艦の主砲でも容易に貫通せしめるでしょうが、このミサイルという噴進弾。水平線の遥彼方から撃たれては、空母を用いなければ同等の射程は出せません。

それに威力も一撃で空母を葬り去るとなれば、コストも段違いです。何せ航空機なら機体と燃料弾薬という物的資源と、パイロットと搭乗員という人的資源を必要とします。もし撃墜されれば基本全部パァだ。しかしこのミサイル、撃った後は勝手に目標まで飛んでいくんでしょう?なら撃墜されても物的資源だけで済みます。優秀な搭乗員は時間と金が掛かる上、こと時間に関してはいくら金をつぎ込んでも克服できる物でもないですからな。飛行機より安価で、強力なのは戦略的にも大きいでしょうや」

 

「大和型とかいうグレードアトラスター級が64隻.......。しかもそのミサイルを装備している上に、主砲は51cmにパワーアップしている.......」

 

「51cm!?」

 

「君達も帝国が新たなる、グレードアトラスター級を超える戦艦を建造している噂は聞いた事があるだろう?その戦艦、A級には51cm三連装砲が搭載予定だ。だがそれでも、5隻しか建造されていない。量産にも向かない決戦兵器という位置付けである以上、二桁まで艦数は増やせないだろう」

 

このA級が何を示すのかはまだ敢えて語らないが、グレードアトラスター級を超える戦艦である事は間違いない。そのA級は現在、艤装作業が行われており、実戦投入される日も近いのだ。

カイザルの話を聞きながらもトレマイナーは、さらにページを捲っていく。大和型の次に出てきたのは、熱田型である。これを見た瞬間、トレマイナーは壊れた。

 

「あー帝国終わったー。祖国終わったー」

 

「トレマイナー!?おぉい、どした!?!?」

 

トレマイナーの脳内には教会の鎮魂の鐘が、カンコンカンコン鳴っている。取り敢えず持っていた報告書をひったくり、そのショックを受けたであろうページを見た。そこには熱田型のスペックが載っており、明らかに勝てる要素のない戦艦である事が一目で分かった。

 

「オヤジ、こりゃかなりヤバイんじゃないですか?」

 

「あぁ。ヤバイなんて範疇はとっくに通り過ぎて、どう足掻いても勝てない戦だ」

 

「なら、すぐにでも出撃を取りやめるべきです!!!!」

 

現実に戻ったトレマイナーが机を叩き、カイザルに詰め寄る。カイザルは申し訳なさそうな顔をしながら、2人の目を見つめながら話し出す。

 

「トレマイナーの言う通り、本来ならこんな戦い、止めるべきだ。これが軍令部の立案であったり、海軍省の強硬派だったならだったなら、私もどうにか出来ただろう。だが今回は皇帝陛下が望んでおられる。いつもの形式的な『皇帝の御裁可』ではなく、今回ばかりは故カバル前皇太子殿下の一件で、皇帝陛下ご自身が命令を出しているそうだ。

しかもバイツ現皇太子殿下もこれに賛同していて、さしもの私でも覆しようがない。一度、陛下に直談判もしたが、陛下からは「貴様はいつからその様な臆病者になったのだ?」と一蹴されて、取り付く島も無かったよ」

 

「であれば、我々は無駄死にか.......」

 

「兵達に顔向けできんな.......」

 

「いや。意味はある。勝てずとも、死のうと、この戦いに意味はある」

 

カイザル自身、こんな自殺作戦したくない。別に自分1人だけなら覚悟はできているが、インフェルノ艦隊には万単位の兵士がいる。この兵士達を無駄死にさせるというのなら、話は変わってくる。指揮官として、止めなければならない。

 

「一体どんな意味があると言うのですか!!」

 

「オヤジ、こんなの自殺しろって言っている様なものでしょ!?こんな作戦、兵達に面目が立たない!!!!」

 

「気持ちは痛いほど分かる。私だって本音で言えば、同じ気持ちなのだ。だが例え負けると分かっていても、死ぬと分かっていても、意味はある。このインフェルノ艦隊は帝国にある4つの方面艦隊の内、2つを投入して、ついでに新鋭艦や他の地方艦隊も動員した一大艦隊。もしこれが全滅に近い被害を受ければ、必ず世論も軍や政府内の空気も変わる。この無意味な戦いが1日でも早く終わり、国民が1人でも多く助かれば、それは我々にとって勝利と言える。我々の命はそこに還元する。我々は無駄死にする訳でも、自殺の為の悲しい航海をする訳でもはない。我々は死を持って帝国の民を護り、我々の航路は未来を切り拓く航路なのだ」

 

2人も分かっている。カイザルの言う事は所詮、綺麗事に過ぎない事であると。グラ・カバルという聖像の1つが失われた今、軍部と世論の空気は『憎き皇国を滅ぼし、亡きカバル殿下への手向けとせよ』の一色。世論が変わろうと、軍部の空気は変わらない。例えインフェルノ艦隊が全滅しようと、第二文明圏の占領地を奪還されようと、そして敵の艦隊や軍勢が眼前に迫って尚、変わる事はないだろう。世論が変わらない様にし、世論を変えようとする正常な者があれば弾圧し無かったことにするだろう。

軍部にいる高級将校や官僚は国を守る事なんて考えず、自分のプライドと利益と地位と名誉しか考えない。これら4つを守る為ならば恐らく彼らは平気で国を売るし、国民が何千何万死のうと国が滅びようと、お構いなしなのは目に見えている。だがそうだとしても、自分達が無駄死にでないと思わなければ、こんな自殺任務に参加なんてできない。乗るしか、なかったのだ。

 

 

(カイザル提督の言う通りだ。恐らく、第三先遣艦隊は既にやられているだろうな)

 

「トレマイナー司令!『グレードアトラスター』につながりました!!」

 

「うむ、ありがとう。済まないが、1人にしてくれないか?司令と話すんでな、悪いが君達には席を外して貰いたい」

 

「了解であります!!」

 

通信員達を外に出し、一応通信室にも鍵をかけて、マイクを手に持つ。意外かもしれないがグラ・バルカス帝国海軍ではモールス信号以外に、こういう音声会話式の無線も装備されている。と言っても装備されているのは主力艦隊の旗艦クラス、つまり戦艦か空母であり、無線自体も他の駆逐艦なんかを経由させて繋げる方式である。

その為、仮に途中の艦艇が沈んだり、無線電波の範囲外に出られると、その時点で無線は使えなくなる。電話線が切れたのと同じ、と考えて貰えれば分かるだろう。

 

「カイザル司令、聞こえますか?」

 

『トレマイナー。君から連絡が来たということは、何か不味いことが起きたんだな?』

 

「第三先遣艦隊が消息を絶ちました。恐らく…」

 

『.......そうか。敵艦隊発見の報は?」

 

「いえ、その様な報告は何も」

 

そのまま「上がってない」と続けようとした時、扉をノックされた。副官である。

 

「何事か」

 

「お話中失礼します。敵艦隊発見との報告が潜水艦『アクアリッシュ』より上がりました。読み上げます。「我、敵主力艦隊を発見す。超々大型戦艦1、超大型戦艦8、戦艦34、空母24、軽巡ないし駆逐80〜100」以上です」

 

「聞こえましたか?」

 

『あぁ。すぐにネーロンに連絡を取る!そっちは引き続き、敵艦隊の捜索と余裕があれば攻撃を頼む』

 

「了解!」

 

 

 

同時刻 第二先遣艦隊より南東250kmの海域 『伊2000』発令

「19:30。艦長、時間です」

 

「副長、この攻撃を成功させる秘訣は何だと思う?」

 

「いえ、分かりませんが」

 

「イメージだ!!敵を倒す、明確なイメージ!!!!ふはははは!!!!!」

 

「はいはい、救済おじさんの真似はいいから。艦長、指示を」

「マティアス・トーレスと呼べ!!!!」

 

「艦長」

「マティアス・トーレス!!」

 

(あーこれ、面倒なスイッチ入ったな)

「トーレス艦長、指示を」

 

この救済おじさんの真似をしている痛い艦長こそ、伊2000型のネームシップ。『伊2000』の艦長、安m「マティアス・トーレスだ!!!!」安「マティアス・トーレス!!!!」y「マティアス・トーレス!!!!!!!」はい、マティアス・トーレス艦長*1です。

勿論このマティアス・トーレスはあくまでキャラであり、本来は優秀かつカリスマ性のある艦長なのだが、イベントでガチのトーレス艦長のモノマネをした事があり、それ以来ずっと自身をマティアス・トーレスだと思ってしまっている。悪い奴ではないのだが、いかんせん面倒くさい。

 

「攻撃隊、対艦装備で発艦!!!!そういえばルイス・バルビエーリ中尉、貴官は遺書を書いていないと聞いたが?」

 

「家族は皆、戦争で死にました」

 

「いいぞ~貴官も救済の一部だ!死んで来い!発艦を許可する!」

 

「了解!!」

 

勿論ルイス・バルビエーリ中尉なんていない。本名は大鷹沢葛と言い、何なら階級も中尉では無く大尉である。大鷹自体、全然こういうノリはウェルカムなタイプなので問題ならないが、普通にパワハラモラハラに該当するヤバい発言である。それでも許されているのは、トーレスの人徳か、はたまた単純に恐ろしいのか。

こんなカオスな状態であるが、浮上した『伊2000』『伊2001』『伊2002』『伊2003』からF8C震電IIが対艦装備で発艦していく。前回は何百機と上がったが、今回は80機と少な目である。

 

「艦載機発艦完了!」

 

「鎮魂だ。鎮魂の為、我々は我々のポイントに赴くとしよう。急速潜航!!!!」

 

「メイィンタァンブロゥ!!!深度150!!!!」

 

今回の攻撃では、まず震電IIの攻撃が行われた後に、伊2000型によるロングレンジレールガン攻撃が行われる。使用するのは勿論、船体中央に格納されている大口径レールガンだ。さらにそれに加えて、後方の伊2500型によるミサイル攻撃が行われ、最後に伊3000型による雷撃が行われる段取りになっている。

攻撃隊はミサイルの代わりに爆弾を抱えて、月下の空を進む。機体の色も相まって、まるで空の忍者の様。しかも震電IIはステルス機であり、今回は翼下パイロンにも爆弾を懸架しているので普段よりもステルス性能は落ちているが、それでも機体自体は電波吸収率98.56%を誇る特殊塗料でコーティングしていて、機体形状もステルス性を考慮したデザインとなっている。それ故、グラ・バルカス帝国の保有する電探設備ではまず捉えられないのだ。実は既にレーダーピケット艦の真上を通過しているが、当のピケット艦には気付かれてない。

 

『隊長。凪いだ海ですね』

 

「あぁ。こんな警戒監視任務じゃなきゃ、酒でも飲みたいがな」

 

『お!なら陸に帰ったら、飲み行きましょうよ!!ほら、なんか最近、基地の近くに美味い店が出来たって三飛の連中が騒いでたんですよ』

 

『あー、アレですか。なんか可愛い子がいるとか何とか』

 

『そうそれ!なぁ、お前も行きたいだろ!?』

 

『勿論!!』

 

直掩のパイロット達も、まさか既に死神が列を成して艦に迫っているなんて思いもよらなかった。本来彼らの任務とは、レーダーピケット艦が探知した敵の通報を受けてから、本隊到着までの遅滞戦闘を展開する事。もしくはピケット艦がやられた時に、その場に本隊に先んじて急行し情報収集や威力偵察に当たる事である。

その為、連絡の無線が入らなければ彼らは平和そのもの。こんな風に夜景を見ながら話す位の事も出来る。レーダーピケット艦が艦隊の周囲をグルリと囲んでいるし、仮に撃沈されても全レーダーピケット艦はしっかりこちらの電探で捉えているので反応が消えれば連絡が必ず入る。だから、今この瞬間に敵が現れる事はない。そう、彼らは考えていたのだ。

 

『あれ?隊長、右上方、なんですかね?』

 

「右上方?」

 

一番若手の三番機から言われた方向を見てみると、無数の光の尾が見えた。流れ星にしては光の尾が赤く太い。というかそもそも流れ星は落ちていくものだが、この流れ星は平行に真っ直ぐ艦隊の方を目指して飛んでいる。

 

『敵か?』

 

『ピケットがやられたなら、無線が入るはずですよね?でもそんな連絡は.......』

 

「取り敢えず接近し、確認する。続け」

 

3機のアンタレスが、右下方から接近してくる。本来なら死角になる位置だが、震電IIの他、皇国の戦闘機には全て360°の視界が確保できる様になっている。機体各所のセンサーアレイと高解像、高倍率カメラがレーダーと連携してパイロットに情報を即座にフィードバックできるのだ。

今回ならレーダーで捉えたアンタレスを、カメラで実際に映し出し、その映像をパイロットのHUDに投影している。しかもデータリンクしているので、例えば左翼の最外縁部にいる機体みたいに位置的にアンタレスを捉えられない機体にも、しっかり映像は送られている。

 

『隊長、指示を』

 

「護衛1機を対処にあたらせる。ガルガリオ3、対処しろ」

 

『ウィルコ』

 

1機の震電IIが編隊から離れ、3機のアンタレスとヘッドオンができる位置どりをして接近していく。この辺りで、漸く直掩の3機も相手が流れ星ではなく敵であると気が付いた。

 

『敵機!!』

 

「こちら北東直掩隊!!敵戦闘機、約80が艦隊に向かっている!!!!」

 

『何だって!?了解した、すぐに戦闘機隊を発艦させる!!!!どうにか時間を稼いでくれ!!!!!』

 

「任せろ!!」

 

3機とも増槽を投下し、戦闘体制に入る。向こうがヘッドオンに仕掛けてくるのなら、こっちもそれに乗っかって相手してやるしかない。ここで散解しようものなら、すぐに後ろを取られて各個に撃破されてしまうだろう。そうされないためにも、乗るしかないのだ。

 

「奴ら、3機纏めてかかって来るのか。面白い」

 

ガルガリオ3は多機能ディスプレイより兵装パネルから、こんな事もあろうかと積んできたお誂え向きのご機嫌な兵器を選択する。HUDの表示も標準のミサイル系統の物から、専用の照準モードに変更され準備は万端。

 

「さぁ、堕ちろ!!」

 

ガルガリオ3が発射トリガーを引く。次の瞬間、機体中央部が一瞬光った。

その光を見たコンマ数秒後、1番機の右側が赤く光った。2番機が火だるまになり、落ちていくのが見える。

 

『2番機!!応答してください!!!!先輩ッ!!!!!!』

 

3番機の叫びが無線から聞こえて来る。1番機はすぐに仇を撃つべく機関砲のトリガーを引こうとするが、既に相手の機体が目前まで迫っており、やむを得ず機体を傾けて回避した。

震電IIは1番機の傾けてできた空間に突っ込み、そのまま相手の後ろを取るべく動く。

 

「3番機、嘆くのは後だ。奴を堕としてからにしろ」

 

『.......了解』

 

アンタレス2機も直ちに戦闘に入り、震電IIを追い掛ける。とは言えアンタレスの性能は零戦52型相当。単純な運動性能はレシプロ機の特性上、ジェット機を遥かに上回るが最高時速は564kmに過ぎない。かたや震電IIはジェットエンジンを搭載した、第五世代ジェット戦闘機に分類されるマルチロールファイター。マルチロールファイターとは言えど、純粋なファイターであるF9心神を相手取っても勝るとも劣らない傑作機で、最高時速もマッハ2.2を叩き出す。零戦如きにやられはしない。

 

「追い付けない!」

 

『なんて速いんだ!!』

 

いくら運動性能がよかろうと、スピード勝負になってはどうしようも出来ない。だがこのガルガリオ3、かなり性格が悪い男で態々3番機に背中を取らせてやった。え?良い奴じゃないかだって?まあ、見れば分かる。

 

『隊長!背中を取りました!!』

 

「!?絶対に堕とせ!!!!!」

 

『了解!!!!』

 

3番機にのる若き少尉は、今までで1番の怒りを覚えていながら、同時に今までにないほど冷静でいた。

 

「よくも先輩を.......」

 

撃墜された2番機は世話になった先輩であった。大酒飲み、女好き、賭博大好き、ベビースモーカーのダメ男ではあったが、兄貴みたいな人でいつも気に掛けてくれた。賭博のやり方を教えてもらい、美味い酒も教えてくれた。少尉自身長男で、兄というのはいなかった。故に本当の兄の様に慕っていたのだ。

 

「堕ちろッ!!!!!」

 

少尉はトリガーを引く。20mm機関砲と7.7mm機銃、合計4つの機関銃による同時発射。照準も完璧。必ず当たる。そして当たれば、確実に堕ちる。そう思っていたし、実際そうなのだ。だがガルガリオ3を筆頭とした全ての皇国軍パイロットは、化け物なのだ。

皇国軍はアメリカ程、実戦を経験をしていない。アメリカは第二次世界大戦後も朝鮮、ベトナム、中東等々、世界各地で戦闘を行っている。だが皇国は基本的に本物の戦争は、殆ど経験していない。その代わりに実戦以上の訓練を積んでいるのだ。リアル、VR、ARを用いた訓練により、パイロットの戦闘スキルはアメリカのトップガンをも凌駕し、世界最強のパイロット集団なのだ。その1人であるガルガリオ3が、まさか撃墜されるわけない。

ガルガリオ3はストール寸前まで機体を減速させ、その状態で機体の機首を上げた。機体はそのまま宙返り、所謂クルビット機動を行う。270°回転し次に機種が下を向いた時、正面にはアンタレスが入っていた。

 

「ぁぁ.......」

 

少尉は初めて見るクルビットの挙動を、まるでスロモーション映像を見ているかの様にしっかり見えていた。その挙動は今まで見たどんな戦闘機の動きよりも洗練されていて、美しかった。先輩を堕とされた恨みも消え、単純に凄いと、美しいと、そう思った。美しいと感じた刹那、30mm機関砲弾のシャワーがアンタレスに降り注ぐ。機体は爆散し、バルチスタの海に沈んだ。

 

「クソッ!2番機もやられたか!!!!」

 

残るは1番機のみ。この1番機だって相当の手練れ。流石に数十機や数百機を堕としたウルトラエースではないが、歴としたエースパイロットの1人。そのプライドと、何より可愛い部下達を堕とした奴を逃す道理はない。

 

「行くぞ!!」

 

1番機はガルガリオ3に真上から襲い掛かる。だがレーダーで接敵から今の今までしっかり捉えられていたのだから、攻撃が当たる訳がない。ガルガリオ3は機体を右に傾けて回避する。そしてそのまま、1番機の予測進路上に2番機を墜とした兵器で狙撃した。

 

「まだま…」

 

ガルガリオ3の放った特殊兵装EML、レールガンは1番機にきっちり命中し機体は爆散。1番機は最早、撃墜された事を認識する事なく戦死した。

ガルガリオ3と直掩隊の戦闘が展開されている中、攻撃隊本隊は艦隊へと接近し、いよいよ目視圏内にまで迫って来た。

 

「来た!敵編隊、方位30、高度約1000、機数80!!真っ直ぐ突っ込んでくる!!!!」

 

「対空戦闘よーい!!!!」

 

「主砲三式弾、砲撃始め!!!!」

 

「撃ちー方ー始め!!!!」

 

まずはオリオン級による三式弾の斉射から始まった。この三式弾、正式名称『三式焼夷榴散弾』はVT信管を搭載した代物である。まあ見た目及び用途は、帝国海軍の三式弾と変わりない。もしこれがムーとかに使われたなら、甚大な被害を航空隊に齎すだろう。だが相手は皇国軍。しかもジェット機。最高の回避方法がある。

 

「アリコーン1より全機、フルスロットルだ。そしてブレイク!」

 

マッハ2.2という高速を持って、敵艦隊に肉薄すれば良い。ついでに散開してしまえば、三式弾の効果は一気に半減する。

 

「1機も近づけさせるな!!」

 

「右20°、高角30°!!」

 

「撃て!!!」

 

第二先遣艦隊各艦は搭載された対空火器、25mmの単装、連装、三連装の各機関砲や12.7cm高角砲、或いは長10cm砲を用いて対空戦闘を開始する。だが所詮、対レシプロ戦闘機を想定した対空火器にジェット機がやれる訳がない。頼みのVT信管も震電IIが速すぎて、通り過ぎてから起爆してしまっている。

 

「そーら、喰らってみやがれ!!!!!!!」

 

主に駆逐艦に爆弾の雨が降り注ぐ。今回の震電IIは低コストで艦艇を倒せるかの評価の為、試験的に爆弾やロケット弾を装備している。本来なら発見される遥か前に空対艦ミサイルで攻撃するのが現代の戦争だが、流石にコストが掛かる。バカスカ撃っても問題ないくらいの潤沢な予算はあるが、削れる物なら削っておきたい、というのもある。

流石に戦艦ともなれば爆弾よりミサイルだが、駆逐艦相手なら問題ないだろう。という訳で、実験台となった駆逐艦達の末路は酷い物であった。何せ爆弾の雨が容赦なく降り注ぐので、主砲や魚雷発射管は勿論、艦橋なんかにも当たって、艦上の構造物は軒並み吹っ飛んでいる。お陰でマトモに行動できなくなり、駆逐艦同士で衝突している所もあった。

 

「アリコーン1より全機、撤退しろ。仕事は終わった」

 

震電IIは撤退していく。その姿を見た生き残った兵士達は安堵するが、あくまで今のは前菜。次はオードブルだ。

 

「610mm電磁投射砲、砲撃準備!!」

 

「アイ・サー。航空機発艦用回路、切断。電磁投射砲への回路、接続」

「バイパスをカタパルトから、電磁投射砲に変更します。電圧安定」

「照準装置、観測機に接続。以降、照準はレーダーからリアルタイム目視照準にて行う」

 

「イメージだ、敵を殺す明確なイメージを持て!!救済、執行!!!!!!」

 

「撃ちー方ー始めー」

 

『伊2000』『伊2001』『伊2002』『伊2003』の610mm電磁投射砲一斉射は、とにかく圧巻の一言に限る。時を同じくして、伊2500型4隻によるミサイル攻撃も始まった。

その成果がどうなったかは、グラ・バルカス帝国視点でお送りしよう。

 

 

 

同時刻 空母『サダルバリ』 艦橋

「し、司令!!ドラファラガー司令!!!!」

 

「被害は!?!?」

 

「ハッ!第38、41、42、54水雷戦隊全滅!第238〜241駆逐隊、全艦沈没!!重巡『アリオン』『アルカス』共に中破!!」

 

「各艦、溺者救助開始!!それから直ちに直掩隊を呼び戻し、艦隊防空に当たらせろ!!」

 

「ハッ!!」

 

ドラファラガーの指示は的確で早かった。だが、全てが遅すぎたのだ。まずは610mm砲弾がオリオン級2隻に命中、火柱が上がった。

 

「な、なんだぁ!?!?」

 

「戦艦『ハサチ』『タビト』炎上中!!」

 

「そんな事は分かってる!!!!何故いきなり燃えてるかだ!!!!攻撃されたのか!?!?!?」

 

「司令!『ハサチ』より続報です!読み上げます。「本艦、及び『タビト』の中央部に巨大な破口2つあり。竜骨が切断されており、遺憾ながら総員退艦を発令す」です!」

 

ドラファラガーは被っていた帽子を床に投げ捨て、癇癪を起こした。本来ならこういう時こそ起こすべきではないだろうが、こうも立て続けに攻撃されて被害も甚大では、流石に狂ってしまうだろう。

そして、まだおかわりがあるのだから最悪だ。今度は伊2500型から放たれた艦対艦ミサイル桜島が迫る。しかもこっちは、探知すらされてないので何の障害もなく艦隊に迫る。残る空母と重巡にも突き刺さり、真っ暗なはずの夜の海を真っ赤に染め上げていく。

 

「なんたる事だ。クソッ!クソッ!クソォォォォォォォォ!!!!!!」

 

ドラファラガーの慟哭が艦橋を揺らす。そんな事は知る由もない伊3000型が、さらに追い討ちというか、もうオーバーキルでしかない攻撃を仕掛ける。

 

「魚雷全弾発射」

 

「アイ・サー。撃てぇ!!」

 

皇国海軍が保有する魚雷は、主に潜水艦用の魚雷と対潜魚雷の2つ。後者は雷跡が見えた方が色々便利だったりするので普通の魚雷だが、潜水艦用の魚雷は化け物である。一撃で大戦中の重巡を破壊できるだけの炸薬を有し、放出されるのが水素、誘導方式はアンチデコイホーミング、最大で85ノットを叩き出すチートである。酸素魚雷、普通に超えやがったのだ。

そんな魚雷が第二先遣艦隊に襲い掛かる。放出されるのが水素で雷跡が殆ど見えないって言うのに、夜の暗闇もあって雷跡は一切見えない。そのまま魚雷は生き残っている各艦に突き刺さり、爆発。殆どの艦が轟沈したのであった。

 

 

 

数十分後 第一先遣艦隊旗艦『ラス・アルゲティ』 艦橋

「トレマイナー司令、第二先遣艦隊がやられました!!」

 

「被害は?」

 

「そ、それが、全艦轟沈だそうで.......」

 

「.......そうか。通信士、直ちに第四先遣艦隊に連絡を取り本艦隊と合流させよ」

 

「ハッ!」

 

既に先遣艦隊の半数がやられ、艦隊は壊滅状態。とは言え母数が多いので、まだやれる。それに恐らく夜明けにはネーロンの機動艦隊が攻撃を仕掛けるだろう。となれば、まだ可能性はある。

 

「司令。先程、偵察機より敵機動艦隊を発見したとの報告が」

 

副官からの報告に、トレマイナーの目の色が変わった。第四先遣艦隊は水雷戦隊が殆どを占める。夜戦を、仕掛けられるかもしれないのだ。

 

「ありがとう。直ちに第四先遣艦隊を交えた夜戦、水雷戦隊を主軸にした作戦を策定してくれ」

 

「仰せのままに」

 

(まだだ。まだ我々の戦争は終わっていない。せめて一矢、せめて一矢報いてから死んでやる)

 

時刻は間も無く21:00となる。夜はまだ、これからだ。

 

 

 

*1
本名は安元博樹とい「マティアス・トーレスだ!!!!!!」



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第七十三話夜戦の華は咲き誇る

数時間後 総旗艦『日ノ本』 中央作戦室

「お、敵が動き出しました」

 

「進路は?」

 

「恐らく、第二艦隊を狙うようですね」

 

グラ・バルカス帝国先遣艦隊は、残存艦艇を集結させ皇国の第二艦隊、つまり連合機動艦隊を叩く戦術を選択したのだ。

 

「長官、直ちに機動遊撃艦隊を動かしましょう!迎撃に当たらせるんです!!」

 

「いや、それには及ばないよ少佐。通信士、直ちに第三艦隊にプランF、第二艦隊にプランLの発動を指示せよ」

 

「アイ・サー!」

 

だがこの敵の戦術、全て神谷の読み通りなのだ。それに合わせた行動プランも各艦隊司令に伝達しており、符号を使う事で指示を出せる様にしてある。

 

「長官、何故迎撃されないのですか?」

 

「おいばか!」

 

「止めなくて良い中佐。分からない事を知ろうとするのは、まあ悪い事じゃない。別に軍事機密云々でもないからな。

少佐の言う通り、迎撃はする。だがどうせなら、奴等には喜び勇んで連合機動艦隊に攻撃してもらった方が面白そうだろう?連合機動艦隊という最上級の餌に食い付かせ、餌に興奮している間にその後方から前衛突撃艦隊でぶちのめす。最高に面白いだろう?」

 

「え、エゲツない、ですね.......」

 

質問した少佐も、まさかここまで情け容赦のない作戦とは思ってなかったのだろう。引き攣った顔で表情筋をピクピクさせている。

 

「とは言え、編成はどの様な具合なんです?」

 

「それについては、張り付かせてる潜水艦の方から報告が上がってるぜ」

 

向上の質問に牛嶋が報告文をチラつかせながら答えた。潜水艦からの報告によると、水雷戦隊による夜戦を仕掛けるらしい。それを聞いた向上と加藤は口を揃えて言った。

 

「「よりにもよって、赤城型に仕掛けるか」」

 

「仕方ねーよ、だって向こうの空母の認識は、海上に於ける航空機の運用プラットフォームにすぎない。言っちまえば『海上移動型航空基地』だ。武装も対空砲のみ。昔の『赤城』とか『加賀』みたいに戦艦上がりなら主砲くらい付いてるかもしれないが、それでも所詮は副砲だった20cm単装砲相当だろうよ」

 

「まあまあ諸君、その行く末はじっくり見るとしよう。そう、彼らの最期の戦いをね。ふふふふふ.......」

 

「(中佐、あれって.......)」

 

「(完っっっっっっ璧に入っちゃいけないスイッチ入ったな、ありゃ)」

 

まさか全部お見通しだとは知る由もなく、先遣艦隊は進路を第二艦隊へと向ける。残っていた第一先遣艦隊と第四先遣艦隊が合流した結果、頭数だけは大兵力の大艦隊である。

 

「トレマイナー司令、艦隊再編成完了しました!」

 

「よし、これより敵艦隊への夜襲を仕掛ける。各艦、無線封鎖の上、第四警戒航行序列へ遷移せよ!!」

 

「ハッ!!」

 

前回の最後、そして先述の通り、トレマイナーは第一先遣艦隊の援護の元、水雷戦隊を主軸に編成された第四先遣艦隊をぶつける作戦だ。それを踏まえ、今回は第四先遣艦隊を前面に出した第四警戒航行序列を選択する。この陣形であれば発見後、即座に攻撃に移れる。

 

「専任参謀、敵艦隊の位置はどうか?」

 

「ハッ。恐らく敵艦隊の進路から見て、大体この辺り。我が艦隊から見て12時から2時の方角、大体100海里圏内かと」

 

「よし。空母と重巡より、偵察機を発艦させよ!照明弾も持っていけ」

 

「ハッ!航空参謀!!」

 

着々と攻撃の準備が進められるが、その全てが皇国軍に筒抜けであった。空からは衛星、海中からは潜水艦が追尾し、あらゆる動きが総旗艦『日ノ本』へとつぶさに上げられている。しかも動きは全て、東郷指揮システムによって全艦艇に共有されている。

更にそこから中央作戦室に収められたスーパーコンピューターとAIにより解析され、敵の次の一手の予測までしているのだ。これでは勝ち目がない。因みに解析ではどの様なことが行われているかというと、例えば通信なら暗号の解析、発光信号や手旗信号ならパターン解析を行い、向こうが使えば使うほど内容の解析ができる様になっている。戦場に於いて、この力は絶大なアドバンテージとなる。

 

「空母『マルカブ』より、偵察機発艦準備完了との報告!!直ちに発艦させるようです!!」

 

「続けて重巡『エルナト』『アルキオネ』も水偵発艦準備完了との事。あっ、たった今カタパルトから射出されました!」

 

漆黒の空に航空機達が羽ばたく。生憎の暗闇かつ、ライトの類いは全て消している以上、音しか聞こえない。だがその音だけでも、とても頼もしいと感じられる物だった。

そしてその頼もしい偵察機達は、コイツらも捉えていた。

 

「敵艦隊より航空機が発艦した。恐らく偵察機だろう。艦隊に報告」

 

かれこれずっと第一先遣艦隊をストーキングしていた『伊934』である。本来真っ暗闇で音も拾えない潜望鏡では、航空機を発見するなんて不可能だろう。だがそれはグラ・バルカス帝国の潜水艦なら、である。皇国海軍や現代の各潜水艦の潜望鏡は電子式、簡単に言えばビデオカメラで撮った映像なのだ。つまりここに暗視装置、所謂ナイトビジョンやサーマルを仕込む事ができる。となれば、暗闇だろうが嵐の中だろうが関係ない。

この情報は数分後には全ての作戦艦艇に知れ渡り、この報告を受けた第二艦隊は艦隊の分離を決断。駆逐艦、重巡、空母を後方に下げ、艦隊は潜水艦と16隻の赤城型要塞超空母のみにしたのだ。その姿はすぐに偵察機に見つかってしまう。

 

「機長、アレ!!」

 

「敵空母だ.......。16隻と少ないし護衛もいないが、好都合だ。おい、すぐに無線だ!!」

 

「はい!!こちら偵察機1号!敵空母16隻を発見した!!方位2-8-3、距離80海里!!」

 

発見の報を受けたトレマイナーは空母を最低限の護衛と共に分離させ、いよいよ敵艦隊への突撃を敢行するべく動き出す。他の偵察機をまだいるであろう敵艦隊に向かわせ、数機をたった今発見した艦隊付近に張り付かせる。頃合いを見て、照明弾を投下させるのだ。

数時間の時が過ぎ時刻は02:00を回った頃、遂に先遣艦隊は敵艦隊を射程に収めた。さあ、戦闘開始だという時に、トレマイナー達が全く予想していなかった事態が起こる。

 

「照明弾、撃て」

 

なんと赤城型全艦が、一斉に自身の真上に照明弾を撃ち上げたのだ。数百万カンデラの光に照らされた艦隊は、まるで太陽が差しているかのように明るく、周りが真っ暗闇の夜である以上、とても目立った。

 

「て、敵艦、自身を照明弾で照らしています!」

 

「構うな!水雷戦隊突撃せよ!!!!」

 

即座にトレマイナーはそう命じた。これに呼応しレオ級とスコルピウス級を主軸とした水雷戦隊が速力を生かして突撃し、そのすぐ後ろを後詰めと言わんばかりにキャニス・メジャー級とキャニス・ミナー級が突撃。さらにその後方からは残りの軽巡、重巡、戦艦の各艦が援護射撃を敢行。最強の布陣である。

 

「夜戦だ夜戦だ!!!!」

 

「艦長、張り切ってますね!!!!」

 

「折角のスコルピウス級の初陣だ。どうせなら、勝ち星をやりてぇじゃーねぇか」

 

スコルピウス級駆逐艦は、他のこれまでの駆逐艦とは一線を画す駆逐艦だ。スコルピウス級は最新鋭のボイラーを搭載しており、最高速度40ノットを叩き出す。これに加えて六連装の魚雷発射管を三箇所に搭載しており、高速を活かした水雷奇襲が可能となっている。言うなれば、グラ・バルカス帝国版島風であろう。

だがこのスコルピウス級、まだ実戦を経験した事がない。旧世界ユグドでは一応実戦を経験しているが、それはあくまで敵の輸送艦潰し。こういう艦隊決戦に於ける水雷戦闘というのは、まだどの艦も経験した事がないのだ。だがそれは艦の話であって、乗組員の方は逆に百戦錬磨の精鋭やこの道何十年の古参兵がゴロゴロいる。練度に不足はない。だが今回ばかりは、相手が悪過ぎた。

 

「奴ら突っ込んでくるなー」

 

「我々は空母です。彼らの常識では武装と言えば、個艦防空用の対空火器。脅威になる兵装と言えば、精々が高角砲です。こっちが対艦用の武装をしているなんて、これっぽっちも思考の中にはありませんでしょうや」

 

「だろうな。では、格の違いというのを教育するとしようか。乗組員諸君!何故我が空母の艦型に『要塞超空母』の名が付くのか、その真髄を奴等に示してやるとしようではないか!!!!

主砲砲撃戦!!目標、接近中の敵水雷戦隊!!!!!」

 

「アイ・サー!主砲回頭90°!!仰角そのまま!!弾種、榴弾!!!!」

「主砲回頭90、仰角まま、弾種榴弾」

 

「発射準備、良し!!!!」

 

「撃てぇ!!!!!!」

 

そう。彼らが相手取っているのは、空母は空母でも赤城型要塞超空母である。大日本皇国海軍が世界に誇る海上移動航空要塞であり、主砲にかの戦艦大和と同じサイズの45口径460mm連装砲を採用した、言うなれば『空母戦艦』である。そんな艦に掛かれば、装甲の脆弱な駆逐艦なんぞ敵にならない。

 

「敵空母発砲!!明らかに戦艦クラスの砲です!!!!」

 

「んなバカな事、あるわけないだろうが!!!!」

 

見張りの報告に『スコルピウス』の艦長がそう怒鳴ったのと同タイミングで、右側に巨大な水柱が上がった。『スコルピウス』も右に左に上へ下へ揺れまくり、何かに掴まってどうにか耐えれるかどうかという経験した事のない揺れを体験する。ついでに水飛沫がスコールのように降り注ぎ、前も一瞬マトモに見えなくなってしまった。

飛沫がやみ着弾した方を見てみると、いた筈の僚艦10隻がゴッソリ消えている。その周りにいた艦も、転覆していたり船体のどこかが抉られている。

 

「な、なんだ今の攻撃はッ!?!?!?」

 

「今の攻撃、空母からの物です!!!!」

 

「アホか!!!!空母がこんな攻撃してくる訳がないだろう!?!?!?こんな芸当できるのは戦艦だ!!それもただの戦艦じゃねぇ!!!!グレードアトラスター級の46cm砲クラスだ!!!!!」

 

「そんな事言われても、どう見ても今の砲撃は空母から......」

 

見張り員の話を遮るかのように、また揺れが『スコルピウス』を襲う。今度は前衛を走っていた軽巡が狙われているらしく、凄まじい連射速度で正確に砲弾を命中させている。あんな砲撃、どんなに訓練したって到達できる次元ではない。

 

「こうなりゃ魚雷戦だ!!!!右魚雷戦!!敵空母の予測進路に、こっちの魚雷を叩き込んだやらぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「よしきた艦長!魚雷戦よーい!!魚雷戦よーい!!」

 

水雷長が伝声管で魚雷員に指示を出す。だがまずは、照準を定めなくてはならない。固定式の双眼鏡を覗き、狙いを定めていく、

 

「右魚雷戦。発射雷数18、散布角35〜47度。2度ずつで発射」

 

『了解。右魚雷戦、発射雷数18、散布角35度から2度ずつ』

 

この発射角であれば、確実に1本は当たる。何せ相手は図体がデカく、小回りは効かない。さらに言えば全長もあるので、当たりやすい的ではある。

 

『発射、用意良し!』

 

「放てぇ!!」

 

シュポンという気の抜けるような音と共に、18本の魚雷が空母目掛けて突進していく。その雷跡は『信濃』へと向かい、18本中7本が立て続けに命中。巨大な水柱が上がる。

 

「やったぞ!命中命中!!!!」

 

「よおぉぉし!!!!」

 

「いいねぇお前ら!!フォゥ!!!!」

 

艦橋は歓喜に包まれる。「一矢報いてやったぞ!」「味方の仇だ!」と言わんばかりだ。だが当の『信濃』はと言うと…

 

「敵魚雷、本艦右舷に被雷。雷数8発。されど浸水その他は認められず!各部正常!」

 

「飛行科整備員、衝撃による軽傷者2名発生。されど戦闘に支障、なし!」

 

「フッ、たかだか8本の魚雷如きで被害を受けていては『要塞』の名が廃るわ!!よーし、お返しだ!撃ち返してやれ!!!!」

 

まさかのノーダメージ。しかも負傷者2名も、所詮単なる打撲で翌日とか翌々日には治るような怪我である。精々、今日の風呂は沁みる位のダメージだ。

 

「て、敵空母健在.......。一切ダメージが通って.......ない.......」

 

「は?いやいや、8本!!8本だぞ!?!?ノーダメな訳がある.......か.......よ.......」

 

「そんな馬鹿な.......。動いてる、動いてるぞ!!」

 

『スコルピウス』の乗組員達は信じられなかった。61cmの魚雷8本を食らって無事な艦は、まず殆ど存在し得ない。戦艦でも撃沈せしめる。にも関わらず、目の前の空母は堂々と航行している。しかも破口は全く確認できない。こんな事、あってたまるものか。

今回ばかりは相手が悪過ぎたのだ。赤城型は空母でありながら大和型以上の防御力を有する。魚雷は同じ場所に数回ぶつける位の芸当をしなくては、装甲を貫徹する事は不可能なのだ。しかも仮に装甲を貫徹できたとしても、二重、三重、四重に構えた装甲水密区画が立ちはだかる。魚雷で沈めるのは、事実上不可能と言っていい。それこそ100本の魚雷でも、どうにか出来るかどうか微妙な所である。

 

「魚雷再装填!!急げッ!!!!」

 

水雷長の怒号が伝声管を通して、魚雷室に響く。魚雷員達がすぐに動き出すも、次の瞬間には『スコルピウス』は460mm砲弾に貫かれ轟沈したのであった。

この惨状を見ていたトレマイナーは、自分の選択が見事なまでに悉く外れた事を理解してしまった。しかもここからの逆転、まず無理である。だがそれでも、やるしかない。

 

「支援砲撃を続けよ!!奴らとて所詮は空母!!!!砲火力ではこちらに分がある!!!!!!」

 

そんな訳ない。あの事前情報によれば、確か目の前の空母の砲は460mm連装砲であった筈。そんな主砲、グレードアトラスター級でもないとマトモにやり合う事はできない。だがそうであったとしても、戦闘がここまで来てしまった現状では無闇に「撤退」とは言えない。言ってしまえば現場が大混乱し、全員仲良く共倒れであろう。それは避けたい。

 

(頼む!倒せなくていい!!せめて、せめて向こうを怯ませられるダメージを与えさせてくれ!!!!)

 

トレマイナーはそう念じ続けた。だが現実は非常な物で、新たな刺客がやってきてしまった。それも後方から、よりにもよって彼らが。

 

「これより、敵艦隊に突撃を敢行する。全艦突撃隊系!!!!!」

 

「アイ・サー!全艦突撃隊形。誘導赤外線、照射開始!」

 

旧大日本帝国海軍の誇る、切り込み番長の水雷戦隊の血を引く正統な後継者。突撃戦隊が後方からやってきてしまったのだ。なんだかんだでこの艦隊、殆ど本編で活躍してないので忘れていた読者も多いのではないだろうか?殆ど活躍してなかったからと侮る事なかれ。コイツら、かーなーりヤバい。

突撃戦隊とは『現代版水雷戦隊』なのは、まあ語るべくもないだろう。水雷戦隊の主武装が魚雷だったのに対し、突撃戦隊ではミサイルになっている。だが変わったのはそこだけではない。速力は70ノット以上を叩き出す快速艦であり、主砲は速射性に長け、機動性自体も極超音速ミサイルを避けることができ、装甲は戦艦クラスの主砲を使わないと撃沈はまず不可能という、頭の可笑しい性能を持っている。具体的にどうなるかは、この後の戦闘を見てもらいたい。

 

「突撃隊系、構築完了!!」

 

「突撃!!!!」

 

この号令が掛かれば、突撃戦隊は止まる事を知らない。敵を求め、敵が殲滅されるまで、彼らは狩り続ける。阿武隈型を先頭に、最高速力で艦隊に迫る。どの突撃戦隊も士気はすごいのだが、この部隊だけは特に凄かった。

 

「殴り込みだ!切り込みだ!カチコミだ!討ち入りだ!ただひたすらに敵を殲滅し、我ら『華の二突戦』の武勲を稼ぐのだッ!!!!!」

 

第二突撃戦隊。通称『華の二突戦』である。かつての大日本帝国海軍に存在した、水雷戦隊の精鋭達。第二水雷戦隊の血を引く突撃戦隊の華形であり、最精鋭の部隊でもある。

旗艦も態々『神通』にしており、更にもう1隻随伴する阿武隈型の艦名は『矢矧』と来ている辺り、完全に二水戦の生まれ変わりである。

 

「戦艦他、重巡、軽巡、駆逐艦多数発見!!!!」

 

「前部ミサイル発射管、開放!!撃てぇ!!!!!」

 

「サルボー!!!!」

 

まずは一番槍として『神通』の三連装近距離艦対艦ミサイル発射機から、3発の対艦ミサイル虎徹が発射される。ミサイルは最外縁部にいたエクレウス級3隻にそれぞれ命中し、他戦隊も最外縁部の駆逐艦を攻撃。そのまま高速を持って、敵艦隊の陣形内に侵入。四方八方に砲弾をばら撒く。

 

「て、敵水雷戦隊が陣形内に侵入!!外縁部の駆逐艦と軽巡に、相当数の被害が出ています!!!!」

 

「直ちに迎撃せよ!!!!」

 

「了解!!!!」

 

グラ・バルカス側もすぐに砲塔を旋回させるが、ここで問題が起きた。突撃戦隊はそのまま水雷戦隊の方へ突っ込んで行ってしまい、もし撃てば友軍の水雷戦隊ごと攻撃する事になってしまう。皇国海軍であれば火器管制レーダーFCSによる自動照準を用い、さらにIFFの敵味方識別を併用する事で誤射の確率は限りなく下げられる。だがグラ・バルカス帝国海軍の測距儀で測定した諸元をもとに砲を撃つアナログ式の砲撃では、まず間違いなく水雷戦隊にも被害が出るだろう。

オマケに今、水雷戦隊は目の前の空母からの砲撃に晒されている。ここに友軍であるコチラの砲撃で更に追い込んでしまっては、混乱はピークに達し隊列は瓦解。機能不全を起こして、そのままなし崩し的に殲滅される。ならばここは、水雷戦隊の退避が完了するまでは砲撃しないのが一番だろう。

 

「はっ!やっぱり奴らとて、友軍巻き込んで盛大に砲撃戦はしきらないか!!!!」

 

「ですな司令!ならこのまま、水雷戦隊を食い散らしましょうや!!!!!」

 

「おう!!撃って撃って撃ちまくれ!!!!!」

 

突撃戦隊が水雷戦隊の方に突撃していったのは、彼らを人質にし敵の攻撃を止めるためなのだ。幾ら装甲が厚くとも、あれだけの大艦隊で主砲クラスの弾幕を張られては、至近弾で転覆の可能性がある。

 

「クソォ!!!早く倒さんか!!!!!」

 

「無理です艦長!!奴ら速すぎて、こっちの砲旋回が追いつかねぇ!!!!」

 

「いや、待ってください艦長!奴ら、敵空母の方へ突っ込んでいきますよ!!」

 

監視員がそう叫んだ。今や味方の水雷戦隊は、あの高速艦によって大半が沈みかけている。だがそれでもやはり、母数が多いのでまだ組織的抵抗は出来る。そんな中、奴らが敵空母へと突っ込んでいくという情報が入ったのだ。なら、そのまま突っ込んで貰おう。

 

「砲撃を敵高速艦の艦尾に集中!!!!敵をそのまま、敵空母に衝突させてやれ!!!!」

 

「了解!!!!」

 

水雷戦隊各艦は突撃戦隊の後方、そして左右に砲撃を集中させ進路を固定させた。そしてそのまま、赤城型と衝突が回避不可能な位置まで誘導することに成功する。

 

「やった、やったぞ!!これでもう、絶対避けられないぞ!!!!」

 

「アイツら舵が壊れてたのに突っ込んできたのか?」

 

「バカだなぁ!!」

 

船というのはそうそう曲がれないし、車みたいにブレーキ踏めばすぐ止まれる訳でもない。だがそれは、普通の船ならの話だ。突撃艦は最初から『高速・高機動』を念頭に開発された高性能艦。曲がれる。

 

「ここだな。全艦面舵!!反転180°!!!!」

 

突撃戦隊各艦は左舷前部スラスターと右舷後部スラスターを全開にして、船体を180°回転させ進路を切り替えた。そしてまた、水雷戦隊へと突っ込んでいく。この反転戦法、これこそが突撃戦隊の上等戦術なのだ。

突撃戦隊というのは先頭と最後尾は突撃重装巡洋艦、真ん中は突撃高速駆逐艦が配置される。先頭は『船頭』、真ん中は『狩り方衆』、最後尾は『後追い』とも呼ばれている。この戦隊はまず敵艦に突っ込んで攻撃を加え高速を保ったまま敵艦を抜け、その後反転させ船頭と後追いをそのまま入れ替えて、また突撃していく。

 

「な、なんだ今の動きは!?!?」

 

「反転、しただと.......」

 

「無理だ。あんな艦、沈められるわけがない!!」

 

彼らがそう言うのも無理はない。だが例えそうであっても、そこはプロの軍人達。砲撃は続けている。だが突撃艦の装甲の前には、全くの無力なのだ。

しかも突撃戦隊に続けて、後方の艦隊には彼らが更に襲い掛かる。帝国海軍時代からの最古参にして、今尚戦艦という艦艇の代名詞として不動の人気を誇る戦艦。大和型前衛武装戦艦64隻がやってきたのだ。

 

「主砲砲撃戦、目標敵戦艦。撃ち方始めぇ!!!」

 

「撃てぇ!!!!!」

 

耳をつんざく轟音と共に、いきなり全艦による一斉射撃が始まった。500発以上の510mm砲弾による弾幕、まず当たれば大体の艦艇は致命傷だろう。実際多数の駆逐艦が真っ二つに船体が折れて、そのまま轟沈していっている。

 

「司令!!トレマイナー司令!!!!これはもう戦いとは言えません、撤退のご指示を!!!!!!」

 

「.......あぁ。撤退だ」

 

役目は充分果たせた、とは言えない。だがあれほどいた艦隊は、最早見る影もない。大半が沈むか、或いは燃えるかの二択。運良く生き残った艦も、あくまでどうにかこうにか浮かんでるだけで今沈んだところで不思議はない。ここから、どれだけの将兵が生き残れるだろうか。

そんな事を考えていると、艦が激しく揺れて急激に左へと傾き始めた。

 

「な、何か!?」

 

「敵弾、本艦左舷に2発命中!!!!行く足、下がります!!!!」

 

『こちら機械室!!浸水が始まった!!!!すぐに応急班を!!!!!』

『こちら左舷防空指揮所!!第2、第3高角砲大破!!第4〜第9対空機銃大破!!負傷者多数!!!!至急応急隊来られたし!!!!!』

『こちら第6副砲!!砲塔内、全滅!!!!』

 

伝声管を通じて、艦内各所の被害が挙げられていく。すぐにダメージコントロールの為に応急班を動かし、負傷者救助の為に医療班を向かわせる。だが続々と被害報告が上がってきており、指示も人も追い付かない。

しかもそんな事はお構いなしに、更に砲弾が飛んでくる。運悪く第3主砲の砲塔へ命中し、砲塔は大爆発。さらに艦内の混乱は増していく。

 

「致し方ないか。総員、退艦せよ」

 

トレマイナーは静かに、だがハッキリとそう命じた。トレマイナーは艦橋にいる部下達を一瞥すると、不動の姿勢で敬礼した。

 

「諸君!ここまでありがとう、良くやってくれた。さぁ、君達の航海はまだ終わってないぞ!!」

 

「し、司令!司令はどうされるのですか!?!?」

 

「そりゃ、私はこれだけの被害を齎した張本人だ。責任を取らなくちゃならん。だが、お前達は私について来ただけ。死ぬ必要はない。もし私と運命を共にしたいというのなら、それは犬死にだ。お前達は私の意志(・・)をつぎ、今度は君達が戦うのだ。国が滅ぶか、或いは君達が戦場を去る時まで、な」

 

トレマイナーにこう言われては、流石に「私達もお供します!」とは言えない。乗組員達はトレマイナーに返礼すると、そのまま退艦するべく走り出した。

 

「行ったか。なら私も、役目を果たすとしよう」

 

トレマイナーは傾斜し、未だ爆発音が響き焦げ臭い臭いが立ち込める艦内を歩き出す。向かった先は電信室だ。電源を入れ『グレードアトラスター』にいる、カイザルを呼び出す。

 

『私だトレマイナー』

 

「カイザル司令。申し訳ありません、どうやらダメだったみたいです」

 

『そうか!よく頑張った!!お前も早く脱出するんだ!!!!』

 

カイザルの言葉にトレマイナーは自嘲気味に笑った。そんな事、出来るはずがない。

 

「司令。俺はね、兵士を大勢殺してしまった。いくら作戦の為、お国の為といえど、若いのも古参も大勢死なせた。今や生き残ってるのも少ない。この『ラス・アルゲティ』が浮かんでいるのも、半ば奇跡に近い。にも関わらず、俺だけ生き残る訳にはいかんでしょう?」

 

『その責任は私が負うべきものだ!!だから!!!!!!』

 

「いいんだよ、俺は。カイザルさん、俺はアンタに命を預けた。その結末がこれなら、こう言う結末なら、俺は納得できる。今までお世話になりました。さようなら、我が最高の上官。さらば!!!!!」

 

そう言うと、トレマイナーは無線を銃で破壊した。今度はそのまま、右舷の高角砲へと向かう。

 

「流石に主砲は無理でも、コイツなら俺一人でどうにか動かせる。さぁ、もうひと暴れだ」

 

トレマイナー自身、艦長になる前は砲術科の人間だった。なんの因果か、この『ラス・アルゲティ』はかつて士官として初めて乗り込み、初めて砲を撃った思い出の戦艦でもある。そのせいか不思議と恐怖はなく、逆に冷静でいられた。

 

「良かった、俯角を全開で取ればどうにか狙える。砲弾装填、良し。照準、良し。発射!!!!」

 

トレマイナーは発射トリガーを引く。発射された砲弾は突撃駆逐艦『夕立』の近くに命中し、大体10m程手前に水柱があがる。

 

「どうやら、あの戦艦は生きているようだな」

 

「えぇ。やりますか?」

 

「無論だ。主砲、撃て」

 

「アイ・サー。主砲砲撃戦、目標、敵戦艦。撃ち方始め!!」

 

『夕立』の第二主砲塔が回転し、12.7cm高角砲を狙って砲弾を撃つ。砲弾は直撃こそしなかったものの、その下の機銃群に命中。衝撃でトレマイナーも後ろへと吹っ飛ばされてしまった。

 

「ガッ.......」

 

後頭部を強く打ち付け朦朧とする意識の中、トレマイナーの脳裏には初めて乗り込んだ時のことが蘇ってきた。初めて見た『ラス・アルゲティ』の威容に震えた事、主砲を撃った時の感動、仲間と共に上官からケツをバットでシバかれた事、色々である。

 

(こういう結末なら、まあ、悪くはないな。『ラス・アルゲティ』よ、ありが.......とう.......)

 

この夜、先遣艦隊は全滅した。生き残った艦は重巡1、軽巡2、駆逐艦12と少ない。それ以外の艦は燃えるか沈むか、或いは海を彷徨っている。

この情報は直ちに残る二艦隊にも送られ、彼らもまた反攻の準備に入る。だが一方の神谷は、この報せを聞くと中央作戦室で黒い笑みを浮かべた。

 

「次はどうでる?俺を楽しましてみろよ、グ帝共!!」

 

バルチスタ沖海戦はまだまだ続く。この戦いがどのような結末を辿るかは、まだ誰にも分からない。

 

 



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第七十四話Loser jackpot

先遣艦隊壊滅より数十分後 戦艦『グレードアトラスター』 無線室

『逝きやがりましたか、トレマイナーは』

 

「あぁ.......。こうなってしまった以上、私は私のやり方で兵達に筋を通す」

 

『オヤジ、無茶だけはしないでくださいよ?』

 

「心配するな。上に噛み付くだけよ。もうこの歳だ。守る者も、家族位しかない。それにこの地位もあれば、上も早々変な手は打てん。この権力と地位は、最大限利用させてもらうとするさ」

 

幾ら敵が強くても、先遣艦隊程の大艦隊が数時間足らずで完全に殲滅されてる辺り、明らかに異常だ。まだ帝国に航空機動艦隊と、グレードアトラスター級3隻を含む本隊がいるとはいえ、恐らく勝利するには奇跡を数回起こさなければ、まず不可能と言って良い。

イタズラに兵と艦艇を消耗する位なら、将として上に作戦中止を具申すべきなのだ。それも直属ではなく、真の意味でのトップに。

 

「通信兵、専任士官を呼んできてくれるか?」

 

「ハッ!しばしお待ちください!!」

 

まずは船務科の専任士官である中佐を呼び出す。大艦隊の旗艦を務める事の多い戦艦と正規空母には、必ず各科に機密事項を扱える専任士官がいるのだ。今回はそれを利用させてもらう。

 

「カイザル司令、お呼びですか?」

 

「休んでいる所を悪いな。悪いが、この周波数帯に無線をつなげてくれるか?」

 

「了解であります」

 

「あぁ、それから通信中は全員外に出て貰いたい」

 

「はぁ、分かりました」

 

カイザルが連絡した先は、帝都ラグナ。その中心部に聳え立つ、ニブルス城である。言わずもがな皇帝グラ・ルークスの住う城であり、政治、行政の中心。言うなればグラ・バルカス帝国という国家の、心臓そのものである。

では何故、ここにカイザルが連絡できたのか。それは三十数年前まで遡る。当時、カイザルは軽巡の艦長をしていた。その頃に皇太子であり、軍を自ら指揮していたルークスと知り合い、何度も共闘してきたのだ。特に冬戦争中はルークスの部隊を輸送する事も何度かあったし、一度、ルークスの部隊の救援に駆け付けた事もある。それ以来、カイザルとルークスは年に一回程度ではあるが今でも食事を共にしたりしている。その縁で緊急連絡先を教えて貰っていたのだ。

 

『この時間に誰だ?』

 

「カイザルであります、皇帝陛下」

 

『カイザルか。私は父上ではない。私はバイツだ」

 

「こ、これは殿下。とんだ失礼を。お声が皇帝陛下と似ておりました故」

 

『良い。して、何用か?』

 

正直、バイツが出て来たのは予想外だ。バイツは神谷に切り捨てられたカバルよりかは、一応話が分かる人間ではある。沈着冷静の優等生タイプではあるのだが、その実は周りを見下す傲慢な性格も隠されている。エリート思想が強いのだ。そんな相手に、この話が通じるかは五分五分である。

カバルは脳筋タイプなので「いやー、負けそうなんすよ」と言えば「貴様らの根性が足りん!」的な答えが返ってくるだろうが、バイツは仮にも優等生タイプ。流石に話が少しは通じる筈だが、鬼が出るか蛇が出るかハラハラ物である。

 

「殿下、できれば皇帝陛下にお替わり頂きたく」

 

『父上は公務により外出中である。帰ってくるのは3日後だ。私では不服か?』

 

「.......恐れながら、今からのお話は幾ら皇太子殿下とは言えど手に余る案件であります。どうしても全軍の統帥権を持っておられる、皇帝陛下に直接お話する必要がありまして」

 

『ふむ、では私を通すが良い』

 

こう言われては、流石に「いえ結構です」とは言えない。ならばもう、一縷の望みを賭けて話す他ない。カイザルはこれまでの事態を全て話す。先遣艦隊が壊滅し、その壊滅の仕方があり得ない物であること。敵が強大であり、今の艦隊では勝つ事は不可能であること。その為、作戦を中止したいという事。

だがバイツから返ってきた答えは、耳を疑う物であった。

 

『そうであるか。貴様、我が国に反逆するのだな』

 

「は?」

 

『なにが「は?」だ。貴様は栄えある帝国艦隊を預かる将でありながら、まだたかが(・・・)先遣艦隊が壊滅した程度で、尻尾巻いておめおめ逃げ帰ると?ふざけるのも大概にせよ!!!!!!!!貴様それでも、誇り高き帝国軍人か!!!!!!撤退は許可せぬし、例え勝利したとしても帰還は許さぬ!!!!!!戦って死ね!!!!!!!!!!!!』

 

そう言ってバイツは無線を切った。すぐに無線を掛け直すが、全く繋がらない。恐らく回線が切られたのだろう。これでは皇帝に申し開く事は出来ない。

 

「バイツのクソガキめが..............」

 

本来なら声を大にして叫んでやりたいが、幾らなんでもそんな事を言うのは不味い。何処ぞのダラスみたいな連中が騒ぎ出し、瞬く間に艦内の空気が悪くなるのは必然である。

 

「しかし、どうしたものか.......」

 

今の手段は、最終奥義であり禁じ手中の禁じ手。何度も使える物でもない。その手段が通用しなくなった今、希望は潰えたと言って良い。かと言って勝手に逃げ帰れば、それはもう敵前逃亡に他ならない。自分のみならず他の者の首も飛ぶ。それも社会的のみならず、一部は物理的にも。オマケにその罰は、下の現場の経験豊富な叩き上げや今後10年20年先の海軍を担う若手士官が被る。恐らく自分の様な高級将校は左遷程度で済み、お咎めというお咎めもなく終わるだろう。だからこそ、この手段は使えない。

かと言って、敵に降伏する訳にもいかない。降伏すれば自分達は助かるだろう。だが逆に今度は家族が裏切り者の汚名を着る羽目となり、恐らく高級将校クラスの妻ともなれば「私の死を持って謝罪を」とか何とか言って自殺する者すら出てくるだろう。それでは本末転倒である。

 

「やるしか無い、か.......」

 

カイザルの腹は決まった。もうこうなってしまった以上、戦う他ない。恐らく殆ど全員が死ぬだろう。だがそれでも、やるしか無いのだ。もしかしたら那由多の彼方分の一の確率を引き当て、勝利とまで行かずとも引き分けに持ち込めるかもしれない。敵が何かの拍子に撤退してくれるかもしれない。その可能性に賭け、進むしか無いのだ。

いつの日かこの無意味で悲惨な運命しか待たぬ進撃に、この艦隊に後に続く者達が意味を付けてくれる。その時に、この進撃の意味は初めて生まれるだろう。そうであって欲しいと願って、カイザルは通信室を出た。

 

「提督、次の作戦はどうなさいますか?」

 

「ネーロン指揮下の艦隊を動かす」

 

「では航空攻撃ですな?」

 

「あぁ。我が艦隊は前進し、然る後、敵艦隊との決戦を行う。忙しくなるぞ!!」

 

「何の為の参謀ですか。提督の為なら幾らでも!」

 

カイザルはすぐに参謀と共に作戦を練り直す。練り直された作戦は即座にネーロンにも伝えられ、夜明け前、第二艦隊から1609機もの大編隊を皇国艦隊へと送り出した。

 

 

 

数時間後 総旗艦『日ノ本』 司令長官室

「ふぁい、もしもし?」

 

『長官。敵が動き出しましたよ』

 

艦内電話のコール音で起こされた神谷の耳に入ってきたのは、最も嬉しい知らせであった。すぐに着替えて、中央作戦室へと走る。

中央作戦室には既に幕僚達が揃っており、中央の球形立体映像には敵の位置や進路が投影されている。

 

「諸君、状況は?」

 

「ハッ。0500より敵機動部隊より、艦載機発艦を確認。0600には編隊を完成させ、現在、我が艦隊に向けて飛行中です。機数は概算で1600機程度かと」

 

「機体の構成から見まして、恐らく我が艦隊の撃滅が目標でしょう。会敵予測は恐らく、昼前ですな」

 

加藤と牛嶋からの報告が上がる。敵が攻撃、それも航空機で攻撃してくれたというのなら好都合だ。最高の状況と言っていい。

 

「現在はE2辺りが追いかけてる感じか?」

 

「はい。本艦の所属機が追跡中です。勿論、高高度かつギリギリまで離れておりますし、護衛機もついております。安心を」

 

「そのまま追跡を続けさせろ。もし燃料切れとかで交代するとしても、くれぐれも慎重に。それから、そうだな。0930より本艦の航空隊を上げろ。制空装備だ」

 

「つまり、アレを試すと?」

 

「流石にレシプロ相手には贅沢な品だが、そろそろ奴らも暴れたいだろうよ。チュートリアルって事で、思う存分暴れて貰おうじゃないか」

 

そういうと、神谷は「それじゃ俺は飯行ってくる」と言って食堂へと向かった。本来なら士官室で食べるのが慣例だが、神谷の場合は朝食とカレーの日だけは兵員食堂で取る。こっちの方が自由におかわりできるし、兵や下士官と話すのが楽しいのだ。

 

「おっ!今日のメニューは……」

 

「今日のメニューは米、ネギと大根の味噌汁、だし巻き玉子、赤ウィンナー、海苔、タラコ、沢庵、デザートにみかんゼリーですよ」

 

先に並んでいた顔馴染みの水兵から今日のメニューを教えて貰う。因みに本来なら全員萎縮して食事も喉に通らないだろうが、ふつうに見慣れた光景となっている『日ノ本』では、さも当然の様に全員振る舞っている。食堂で会った兵や下士官達から「あれ、今日はこちらですか?」とか「長官。だし巻き、マジうめーっス」とか言われ、逆に神谷も気さくに返す。ある意味、異質な光景と言えるだろう。

 

「いただきまーす!!」

 

適当な席に着いて、食事を始める。やはり美味い。知っての通り軍隊は基本的に欲を抑えられる環境にあるので、三大欲求で一番満たしやすい食事は特に気を配られる。そして海軍は食事に関しては天下一品。しかもこの『日ノ本』は、軍の最高指揮官たる神谷が乗る事を想定した艦。乗り込む給養員も一流シェフ並みの大ベテランが配属され、最新鋭艦なので調理設備も最高クラスの物を装備している。不味い訳がない。

 

「ははっ。長官、そんなに急いでは喉に詰まらせますよ?」

 

「うるせー兵曹長!飯が美味いのが悪い!!」

 

「そうすっよ兵曹長。こんな美味い飯、掻き込んで食わねぇと失礼ってもんです。ねぇ長官!」

 

「そうだ!よく言った一等兵!!」

 

幾ら皇国側のトップと言えど、まだ普通に若い。ぎりぎりがギリギリ頑張ればお兄さんで通る。対して幹部達は基本年上だ。周りの側近クラスは若い者もいるが、それでも全体で見れば基本おじいちゃんクラスの年上ばかり。プライベートの話になれば、一気にジェネレーションギャップが顔を見せる。

まだ「最近孫がなー」とか「ウチの娘がなー」系統の話題なら良いのだが、昔のゲーム、アニメ、漫画の話とか野球とかの話になると、もう訳が分からない。特に好きだったアイドルとか音楽ユニットの話ともなれば、何が何だか。曰く「アレもう暗号。JUMPがどうだ、スマップだかスリップが何だ、ポリコレだのぴろゆきだの、なんとかタケシ弁護士だの。マジで分からん」らしい。

朝食を終えて、そのまま執務室で執務をすること数時間。遂に作戦開始時刻間近となり、格納庫内は慌ただしくなる。

 

『発艦準備ー。発艦準備ー。発艦準備ー』

 

「発艦準備だ!!戦闘機降ろすぞ!!!!」

 

「制空装備だ!!準備急げー!!!!」

 

熱田型では発艦口は後部甲板の1箇所のみであったが、この『日ノ本』では中央部に2箇所、後部に一箇所の計3箇所に増えている。更に格納庫も改良され、3層の甲板を有している。1層目は航空機、2層目にはAVC1突空、3層目にはヘリコプターを装備している。

更に1層目と2層目には左右にも3段の格納スペースがあり、1段に付き戦闘機を4機、輸送機なら2機を駐機できるスペースがある。この区画が1層目には左右合計30箇所、戦闘機360機を格納でき、2層目には左右合計20箇所、輸送機120機を格納できる。入庫、出庫時には床ごと大型クレーンで釣り上げて行う。

しかも各層には武装を円滑に装備できる様、甲板自体に武装を運ぶコンベアが地下に走っている。これにより弾薬庫からスムーズに運送でき、所定区画に配置すれば自動で装備までしてくれる。特に一部ミサイルは機体上部に装備する場合があるので、この装備があって初めてF8CZ震電IIタイプ・極の長所を活かせるのだ。

 

「発艦口解放!!」

 

「アイ・サー。戦闘機発艦口解放、カタパルトに電力伝達開始。信号灯展開」

 

格納庫内にある発令所も慌ただしくなってくる。クレーンやコンベアの操作に追われ、同時に艦艇自体の発艦準備も行っている。パイロット達も自身の愛機に乗り込み、エンジンに火を灯して暖機運転を開始。機体のチェックに取り掛かる。

一方、艦中央部のUAV格納庫でも発艦準備が行われていた。こちらはリボルバー発艦方式を採用しており、格納庫中央部にリボルバー型のエレベーターを配置。下段で弾丸をこめる様に無人機を配置していき、頂上に到達すると発艦する。下段に到達すれば機体をまた配置し、上についたら発艦口へ送る。このシステムにより素早い発艦が可能になっている。

 

「発艦準備完了!!」

 

「戦闘機隊、発艦せよ!!」

 

これより数時間後、震電IIタイプ・極とMQ5飛燕が大空へと羽ばたいた。飛燕は防空に残り、震電IIタイプ・極は攻撃隊の迎撃に当たる。各震電IIタイプ・極は、一度高度を取り、本部艦隊直上に布陣する空中戦艦『パル・キマイラ』の後方にて編隊を構成。構成完了後『パル・キマイラ』の真上を掠めて、敵編隊に向かう手筈になっている。

 

 

 

発艦開始直後 空中戦艦『パル・キマイラ2号機』 艦橋

「艦長」

 

「なんだね副長。漸く彼らに動きでもあったのかね?」

 

「そうです。どうやら、戦艦から戦闘機を発艦させている様です」

 

「戦艦から?それはそれは。かなり興味深いねぇ。すぐに魔導映像送信機で撮影したまえ」

 

「もうやってますよ」

 

映像を確認すると、真下にいる『日ノ本』の艦尾と艦中央部から戦闘機が発艦しているのが見える。機体の形状は何処か先導してくれた戦闘機を思わせるが、明らかに違う。恐らく強化された機体だというのは、科学技術を用いた兵器に疎いメテオスでも分かった。

 

「にしても、何だか巨大な機体だねぇ。あんなずんぐりむっくりでは、かなり遅いんじゃないのかねぇ?」

 

「エンジンは巨大ですからスピードは出るかもしれませんが、恐らく機動性は劣悪でしょうね。もしくはスピードも遅い代わりに、ペイロードを大きくとっているのかも」

 

副長の予測は普通に考えるのなら、全然正しい物である。大きさだけで言えば、F15イーグルやMiG25フォックバットよりもデカい。伊達にエンジン4基も載せている訳ではない。この辺りの機体よりもデカいとなると、本来なら機動性は劣悪である。それも速度極振りの機体ともなれば特に。

実際、MiG25は2023年時点に於ける最速の戦闘機であり、マッハ3を叩き出していた。だが完全な直線番長であり、速度が乗ればそのデカさも相まって中々曲がらない。機動性は他の戦闘機に劣っていた。逆にお隣の北朝鮮でも使われているMiG21は高い機動性を誇っており、本来なら機動性と速度はどちらか一方にしか振れないのだ。

だがそれを打ち崩す変態機が現れた。それが震電IIタイプ・極なのである。この機体、速度はマッハ6とか出すにも関わらず、本気を出せばレシプロ機よりもグリグリ曲がる。その機動性はこの後の戦闘でも明らかになるので、そちらに見送ろう。

 

「あの白い機体。アレは確か、カルトアルパスの戦いに来た機体ではないのかね?」

 

「しばしお待ちを。写真と確認してみます」

 

士官の1人が報告書を棚から引っ張り出し、そこに貼られている飛燕と写真を見比べる。特徴的な流線型の形に、ブーメランの様なL字型っぽい翼。間違いなくMQ5飛燕である。

 

「恐らく同タイプの機体と思われます。少なくとも側面は同じかと」

 

「あの機体は海上でも使えるのだねぇ。報告書にも書いておきたまえ」

 

「それにしてもあの機体、何処に人が乗るんですかね?」

 

「寝そべっているか、或いは高い知能を持つ小型動物でも乗せているのかもしれない。もしくは遠隔操作かもしれないねぇ」

 

まだミリシアルには『AI』や『無人機』という発想はない。砲塔の無人化は行われているが、これはあくまでコンピューターの次元の話。プロセス自体はレーダーが敵を捉え、それに合わせた武装が火器管制レーダーを照射し、ロックオンして発射という物である。

対してUAVはそこに機体を飛ばすプロセスが加わり、飛燕の場合は完全自律型の歴とした戦闘機。そんな単純な単一思考では不可能だ。1つ1つの思考は単純でも、それを同時かつ瞬間的に行う必要が出てくる。普通のコンピューターの処理ルーチンでは到底不可能だ。まだ原始的なコンピューターしか知らないミリシアルでは、AIの発想は余程の天才か変人でなければ思い付きもしないだろう。

 

「ん?なんだこれ」

 

「どうした?」

 

「魔導電磁レーダーの調子が悪いのか、飛び立った皇国の機体の反応が小さくなっていき、遂には消えてしまっていて…」

 

「堕ちたのか?」

 

「いえ。堕ちたのなら、全機もれなく墜落した事になります。わざわざ戦闘機が海に突っ込みますか?」

 

先輩士官がレーダー画面を覗き込む。確かにレーダー手の言う通り、機体が飛び立ってから海に突っ込んでいるかの様に機体の反応が消えていっている。しかも探知距離的には、普通に通常出力でも探知できる距離である。

 

「機械室!レーダーに異常はあるか?」

 

『いえ。各部正常、異常は見受けられません』

 

「どうしたのかね?」

 

メテオスもレーダー手達がワタワタしているのに気付き、話を聞きに来た。話を聞いたメテオスは、一番やってはいけない手段で探知しようとしてきた。

 

「それなら、射撃指揮魔導電磁レーダーを照射してみたらどうかね?」

 

「成る程。確かに射撃指揮魔導電磁レーダーは、通常の魔導電磁レーダーと違い指向性を持っている分、広範囲はカバーできませんが出力も大きいですからね」

 

「戦術員、直ちに射撃指揮魔導電磁レーダーを照射したまえ。目標は皇国の戦闘機。一番遠い奴にだ。ただし、間違っても撃ってはくれないでくれたまえ?」

 

「分かりました」

 

この射撃指揮魔導電磁レーダーとは、要は火器管制レーダー、所謂『FCS』と呼ばれる物ある。このFCSは火器管制、つまり攻撃を行う時に使用するレーダーなのだ。よく「ロックオン!」というセリフがある。このロックオンするのに使うのだが、これをされると攻撃ボタン押すだけで敵を倒せてしまう。その為、訓練では「FCSを照射される=被弾する」という風に扱われる。言ってしまえば「俺はいつでも、お前を殺せるぞ」という宣言に等しい。

いつぞやに起こった、韓国海軍の駆逐艦による自衛隊機へのレーダー照射事件。そのレーダーがFCSだったと言えば、どの位不味いか分かるであろう。よりにもよって、メテオスはこれを照射しやがったのである。

そのお陰で、最初の方で飛び立った機体のコックピットには警報が鳴り響いた。

 

ブーブーブーブー

 

「ロックオンされた!?」

 

すぐにコックピットのレーダー画面上では、ロックオンしてきた『パル・キマイラ』を敵として表示される。これは演習ではなく実戦。友軍でも許される行為ではない。

しかもこの情報は、第一艦隊各艦にもデータリンクを通して即座に共有されており、各艦にも緊張が走る。

 

「対空戦闘用意!!!!」

 

「対空戦闘よーい!!」

 

「ミリシアルの野郎、一体何のつもりだ!!もういい!!!!全艦、全武装で奴を狙ってやれ!!!!驚かしてやるんだ!!!!!」

 

「アイ・サー!!主砲、副砲、砲撃用意!!弾種、時雨弾!!!!」

 

「UAV及び上空待機中の各機は『パル・キマイラ』をロックし、警告射撃を実行せよ」

 

流石にこれには神谷もキレた。本当に迎撃するつもりは無いが、少しは驚かす、いや。脅しをかけなければ気が済まない。というかこれ、普通に外交問題である。要は友軍が自軍に銃突き付けた様な物なのだ。後で川山経由で厳重に抗議を入れなければならない。

 

ビーー!ビーー!ビーー!

 

「何の警報だ!?!?」

 

「か、艦隊の各艦から射撃指揮魔導電磁レーダーが照射されています!!!!それだけじゃない。戦闘機からもです!!!!うひゃぁっ!?!?」

 

『パル・キマイラ』の真上を、無数のオレンジ色の線が通過した。撃たれたのである。勿論これは警告射撃なので、威嚇に過ぎない。当ててはいないが『パル・キマイラ』の乗組員は兵士ではなく、どちらかと言えば研究者。目の前に迫る死の恐怖に、緊張と動揺が走る。

 

「艦長!皇国艦隊から通信です!!」

 

「すぐに繋げたまえ!!」

 

メテオスは通信員からマイクをひったくる様に受け取ると、すぐに文句を神谷へと喋り始めた。

 

「いきなり友軍を攻撃してくるとは、野蛮なのだね君達は!!」

 

『テメェ、そんなふざけた事抜かすなら撃墜するぞ。そもそもそっちが先にFCS、火器管制レーダーを我が方の戦闘機に照射した。それが意味する事は攻撃な訳だが、其方は我々と一戦交えたいという物でいいのか?』

 

「.......つまり君達は射撃指揮魔導電磁レーダーの照射が分かると?」

 

『わからなきゃ攻撃避けられないだろうがッ!!!!テメェら、本気で俺達と戦争するつもりか?いいぜ、相手になってやるよ。ほら、撃ってみろや。あぁ?撃ってみろやッ!!!!!』

 

メテオス含め、全員が冷や汗を滝の様に流す。彼らは軍人ではなく研究者、もしくは技術者。軍人としての訓練は受けておらず、間近で『死』を経験したことがない。一方の神谷は、何度も死線を潜り抜けた歴戦の猛者。兎が龍に睨まれている様な物だ。例え刀や銃を突き付けていなくとも、まるでそうであるかの様にメテオス達には感じられるのだ。

とはいえ、メテオスも今回ばかりは同情の余地がある。メテオス含めミリシアルの人間にとって、射撃指揮魔導電磁レーダーはオーパーツそのもの。それを運用しているのは自国を除けば、ラヴァナール帝国のみという考えだったのだ。幾ら皇国が強い国という認識が生まれてきていたとしても、まさかそんなオーパーツを保有していて、それを探知する機能が戦闘機にまで搭載されているとは思ってなかったのだ。

 

「それはすまなかったねぇ。まさか、君達が射撃指揮魔導電磁レーダーを運用し、しかも戦闘機にまで探知装置を搭載しているとは思わなかったのだよ。そもそも我々は、君達の戦闘機が魔導電磁レーダーから消えたから捜索のために使ったのだ。許してくれたまえ」

 

『だったらそれを先に言えよ。はぁーぁ、どうせ敵が来る。総員、そのまま戦闘配置にて待機。FCSは解除しろ』

 

そういう理由ならFCSを解除するしかない。流石に旧世界なら、その理由はまず通らない。だがこの世界に於いて、現状FCSやそれに準ずる兵器を運用しているのは皇国以外ならミリシアルのみ。それも秘密兵器級の兵器にしか搭載されてないのだから、そういった了解を知らないのも無理はない。

 

『ついでだ。ウチの戦闘機が消えた理由も教えてやる。我が国の戦闘機には、ステルス塗装が施されているんだ』

 

「ステルスとは?」

 

『そっちの魔導電磁レーダーの仕組みは知らんから、こっちのレーダーの仕組みで説明するが、レーダーってのは平たくいえば電波飛ばして、その跳ねっ返りで目標の位置を測定する。

皇国の機体はそもそもこの電波の反射断面積、つまりレーダー波を反射する面積を小さく抑えているし、他方向にレーダー波を逃す形状にもなっている。更に塗料にも電波吸収塗料を採用しているから、レーダー上では自機を小さく表示させたり、距離によっては完全に消す事もできる訳だ』

 

「参考までに、何故そのような機能が搭載されるかに至った理由を聞けるかな?」

 

『そんなの簡単だ。旧世界に於いてレーダー技術ってのは、ありふれた物だった。軍事は勿論、気象観測、民間航空や船舶の管制、果ては天体観測にもこの技術が応用されている。故にレーダーありきの戦闘がスタンダードになり、だったらレーダーに捕まりにくい技術を作ろうっていう方向に世界中がなっていただけだ』

 

この話にメテオスはただただ驚かされた。この世界にも魔力探知レーダーという物はある。だがこれは魔力を探知する装置であって、レーダーの名を冠していても、我々の知るレーダーや魔導電磁レーダーとは全くの別物なのだ。技術体系的にも、この2つに繋がりはほぼ無いと言っていい。この世界ではそれがスタンダード、常識だったのだ。

だが皇国が元いた世界では、魔導電磁レーダーが民間にまで普及しており、恐らく軍事の世界では当たり前の装備なのだろう。そんな世界は非常識すぎる世界であり、言ってしまえば「一家に一台宇宙船があるよ」と言われている様なレベルなのだ。普通に考えて、我々の世界ではあり得ない。だがそれが普通だと言われれば、物凄い衝撃だろう。その衝撃をメテオスは味わっているのだ。

 

『それから、そっちに警告しておく。現在、グラ・バルカス帝国の大編隊がこちらに接近中だ。我々は敢えてこれを航空隊で殲滅せず、艦隊まで誘き出す。その為、其方にも自艦防衛の為、最低限の火器使用を許可する。気兼ねなく撃ってくれ』

 

「何故そこまで無意味な事をするのだね?」

 

『簡単だ。その方が、アンタらの研究資料が増えるだろ?』

 

とは言っているが、実際は違う。本当の真意はミリシアルに皇国と敵対する事が、どんなに恐ろしいことかを刻み込む為の物なのだ。今後、世界情勢は目まぐるしく変わる。よく「あの国はヤバい。滅ぼしてしまおう」という各国の思惑で滅ぼされる国が小説なんかであるが、もしその国が各国連合の多国籍軍だったとしても勝てない様な相手だったら、そんな考えには至らない。そのための抑止力兼デモンストレーションの為に、彼らには生贄になってもらうのだ。

 

 

 

 

 



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第七十五話煉獄と聯合

FCS関連のゴタゴタより数分後 本部艦隊より北東200km上空

「それにしても、物凄い数ですね隊長!」

 

「あぁ!何せ空母艦載機全力出撃だからな!!」

 

前回報告が上がっている様に、現在第二艦隊の航空母艦各艦からは延べ1,618機という、空前絶後の航空機が編隊を組んで究極超戦艦『日ノ本』率いる本部艦隊に攻撃を仕掛けようとしている。陣容は最新鋭戦闘機、アンタレス改の他、安定のシリウス型爆撃機、そして攻撃機も最新鋭機であるアルゲバル型雷撃機を有し、それぞれアンタレス改478機、シリウス509機、アルゲバル631機がこの攻撃に加わっている。

アンタレス改はアンタレスよりも武装、防弾装備、機体強度が向上し、その分重量も嵩んでいる。だが新型エンジンの装備によりエンジン出力が大幅に向上した上に自動空戦フラップの導入で、高い機動力を有する機体に仕上がっている。アルゲバルもリゲル以上の快速と防弾性能を有し、エアブレーキとフラップも装備している事から本職には負けるとは言え場合によっては戦闘機として運用できる優れた機体である。

この機体達であれば、例え全盛期の旧大日本帝国海軍とて危険だと言えよう。だがまあ安定の下りではあるが、相手は皇国海軍。それも『日ノ本』以下、熱田型8隻をも擁する最強の艦隊。どう足掻こうが勝てる訳ない。しかも今回は、世界最強の戦闘機が最初のおもてなしを担当する。どうなるかは、もうご想像通りである。

 

「それにしても、変な命令ですよね!何が何でも敵に辿り着けって!普通の命令なら沈めろとかなのに!」

 

「まあ兵隊は知らなくてもいいさ!言われた事に最善を尽くすのみだ!!」

 

実はこの攻撃隊、決死隊なのだ。本人達にその自覚はないが、ネーロンは彼らを捨て石にする腹積りなのである。というのもバイツから「戦え」と言われたとしても、現状で皇国に勝てない事はわかっている。ならば敢えて壮絶かつ悲惨な負け方をして、今後続く戦闘に一石を投じようという方向性になった。その為にはド派手な艦隊を組んで、ド派手にやられる必要がある。ともなれば艦隊を合流させるしかないのだが、その間に敵の注意を他に背けておきたい。だったら燻ってる攻撃隊を使い、艦隊決戦で恐らく役立たずとなる航空機を今のうちに使い、体裁的にも一応は攻撃するので、今後「機動部隊が無能だった」というレッテルを貼られずに済む。

無論、『無能』というのを回避するのは『無能だった=俺達は無能じゃないorこの艦隊は勇敢だから、絶対に問題ない』という思考に至らせない為である。シナリオとしては「艦隊の全てが攻撃するも、力及ばず多数が撃沈されました」という、考え得る最悪のバッドエンド方向に持っていかなければ意味がないのだ。そこでネーロンは約半数の攻撃を向かわせたのである。この命令も、辿り着くのが難しいと分かっているからこその命令なのだ。

 

『こちらベリオ1番!前方に何か見える。.......あれは..............敵だ!!全機、戦闘態勢に移れ!!!!』

 

本来なら探知前の圧倒的遠距離からミサイルを叩き込む、アウトレンジ戦法が皇国軍の基本戦略。最近は恐怖を煽るべく、ギリギリ目視できる位の距離からミサイルを撃ったりもするが、少なくともガチガチのドッグファイトをする事は少なかった。だがF8CZ震電IIタイプ・極の場合は、このドッグファイトでこそ真価を発揮するのだ。

 

「敵さん、ドロップタンクを落としたな」

 

『艦長からの命令では、攻撃隊にはちょっかい掛けずに戦闘機の相手をする、でしたよね?』

 

『あぁ。だがちょーっと端を食う位は良いとさ』

 

「間違えてもそれをメインにやるなよ?俺達は戦闘機共を。艦隊は攻撃隊を相手するんだ。さぁ、この機体が伊達に極なんて大層な名前背負ってないって所、グラ・バルカス帝国の皆々様に見せてやるぞ」

 

各機はミサイルではなく、まずはこの機体から新装備された固定兵装、連装レールガンを選択する。砲弾は幾つか種類があるが、今回の任務は制空戦闘なので拡散榴弾を装填。単一の重装甲目標には不向きだが、面制圧や単一高機動軽装甲目標には絶大な威力を発揮する。

 

「野郎、絶対に攻撃隊へは指一本触れさせねぇぞ!!」

 

『隊長!今何か、敵の下で光』

 

レールガンの弾速はマッハ7.5をマークする。そんな速さにプラス、相対速度も追加される。この速さを目で終える者がいれば、それはもう人間業ではない。超能力者の域だ。普通は何が起きたか分からず、何も出来ずに終わる。実際、レールガンの一斉射で一気に50機以上のアンタレス改が撃墜されている。

 

「全機突撃せよ。サーカスの開幕だ」

 

『奴ら目ん玉回さなきゃ良いがな』

 

『それはそれで面白そうで良いじゃないですか』

 

震電IIタイプ・極は普通の戦闘機ではない。レールガンやらTLSやら全方位多目的ランチャーやらは、この機体の強さをより盤石にする要素にすぎない。この機体が最強と呼ばれるのには、しっかりとした所以がある。

 

「奴ら、よくも仲間を.......。第一小隊、全機続け!!!!ヘッドオンで奴らを堕とす!!!!」

 

どうやら実験台は、この勇敢にして血気盛んな第一小隊の皆様らしい。何も知らない第一小隊のアンタレス改3機は、そのまま震電IIタイプ・極の編隊の中に突っ込んでいく。

 

『1機、ヘッドオンで来ますよ』

 

『どうします?』

 

「.......タイミング合わせて避けて、そのまま攻撃だ」

 

一方の震電IIタイプ・極の方も3機出し、それぞれアンタレス改の真正面に付ける。例え下手くそが撃とうと、射程にさえ入っていれば確実に当たるだろう。だがそんな事をされては、第一小隊の皆様的には皇国側が舐めてる様にしか思えない。

 

「ふざけやがって!!!!」

 

「仲間の仇!!!!」

 

「クソ皇国に報いを!!!!!!」

 

パイロット達は好き勝手に罵り、そして発射トリガーを撃った。先述の通り、どんな下手くそだろうが新米どころかパイロット候補生でも当てられる。しかも撃ったのは20mm機関砲と12.7mm機関銃を2門ずつの計4門。例え爆撃機だろうと、ほぼ確実に堕とせる。まして戦闘機なら間違いなく堕とせるだろう。

だが次の瞬間、あり得ない事が目の前で起きた。震電IIタイプ・極が、航空機のできる挙動じゃない挙動をしたのだ。真ん中の機体は機首を下にしてホバリング、左右の機体はそれぞれ機種を左と右に90°回転させ、横転させてホバリングしたのだ。アンタレス改は何も出来ずそのまま真っ直ぐ飛んでしまい、機首の前を通過した瞬間、機関砲で穴だらけにされてしまった。いくら装甲やら機体強度を上げていようと、30mmバルカン砲4門の前には無意味だ。

 

「One kill!」

 

震電IIタイプ・極の真の恐ろしさとは、このあり得ない挙動である。震電IIタイプ・極には各所にスラスターを標準搭載しており、これにより通常の航空機であれば即座に墜落する様な無茶苦茶な挙動を可能としている。これにより各種マニューバへ即座に移行でき、更にはその姿勢をキープすることも出来る。極端な話、コブラの機首を上に向けたままの姿勢で飛んだり、延々クルビットし続ける事だって出来るのだ。

まあ前者はともかく、後者は機体云々以前にパイロットが酔ってゲロをマスク内で撒き散らしながら大回転する羽目になるので、全くもってオススメはできないが。

 

『うわぁぁぁ!!!!やめろ!!!やめてくれ!!!!!』

 

『なんなんだよコイツら!!!!!』

 

『こんな動き、聞いてないぞ!?!?!?』

 

『チクショッ!!上がれよおい!!!!あが———』

 

『ケツに憑かれた!!!振り切れない!!!!!』

 

『誰か!!援護を!!!!!えん——ガッ!』

 

出鱈目な機体性能の前に、歴戦のパイロット達はまるで新兵の様に震え上がり、無線では断末魔の悲鳴が木霊する。中には乱戦の瞬間にたまたま近付いて来た震電IIタイプ・極の後ろを取った者もいたが、次の瞬間にはスラスターを用いた機動で逆に真上を取られてしまい、そのまま機関銃に穴だらけにされてしまった。

だが攻撃隊には幸か不幸か、迎撃に向かったアンタレス改424機が足止めした事で艦隊に向かう事ができた。お陰で攻撃隊には被害が出ていない。まあ実際の所は、そういう段取りになっていただけで意図的に逃がされているのだが、彼らにそれを知る由はない。ついでに言えば、普通に追いつこうと思えば追い付ける。何せマッハ6の超快速機。たかだか頑張っても、精々500km後半位しか出せないレシプロ機如きに遅れをとる事はまずあり得ない。

 

「敵機大編隊来ます!!!!機数、1,194!!」

 

「約1200って、マジか」

 

「向こうさん、物量だけは化け物ですからね」

 

「いやいやいやいや牛嶋?こっちも物量、かなーりお化けだからな?っていうか、なんなら向こうより多いからな?質はもっと上だからな?」

 

加藤がそう突っ込んだ。だってインフェルノ艦隊も空前絶後の物量と言えるが、こっちは八個主力艦隊と六個潜水艦隊がいる。艦艇数は約1.5倍、航空機数に至っては4倍以上の差がある。しかもそこに骨董品と最新鋭兵器という、マンパワーではどう足掻いても塞げない格差もあるのだ。正直、牛嶋の発言は単純な煽りとすら言える。

 

「敵、ミサイル射程圏内です!!」

 

「艦長、撃ちますか?」

 

「いや、ミサイルは撃たなくていい。今回は新兵装を試したい。主砲も使うな。相手はレシプロ機だ。両舷の機関砲、両用砲でも充分対応できる」

 

「アイ・サー」

 

とは言っているが、その実は節約である。ミサイルはこの後起こるだろう艦隊決戦まで取っておきたいし、なるべく使わずにしておけば経費削減にもなる。

 

「敵が見えた!!!!」

 

『隊長!!艦が多過ぎます!!!!目標を固めなくては!!!!』

 

「お前達、雑魚に構うな!!!!俺たちが狙うはただ一つ、先陣を切る超大型戦艦ただ一つだッ!!!!!同時攻撃で行くぞ!!!!!!」

 

本隊たる第一艦隊は『日ノ本』以下、総艦艇数626隻という大規模艦隊である。知っての通り熱田型も全艦ここに配属されており、単純な投射火力であれば全艦隊最強となる。とは言え勿論、周囲には草薙防空システム搭載駆逐艦に、対空番長の摩耶型も展開している。突破は容易ではない。

 

『隊長!!上を!!!!!』

 

「.......あれはミリシアルの円盤戦艦じゃないか?」

 

「報告にある機影と一致しています」

 

「直掩隊聞こえるか?上の円盤、任せてもいいか?」

 

『了解、隊長殿。よっしゃ野郎共、増槽を捨てろ!!!!行くぞ!!!!!!!』

 

アンタレス改の編隊が攻撃隊から離れ、『パル・キマイラ』へと向かうべく翼を翻す。攻撃隊も二手に別れ、右と左から挟み込むように布陣。更に爆撃隊は上へ、雷撃隊は下へと向かい、四方向からの攻撃が行われようとしていた。

 

「敵は本艦が狙いのようです。四方向からの同時攻撃ですね」

 

「敵さん練度高いな。そんじゃま、暴れようか。全艦対空戦闘!!!!」

 

「対空戦闘!!」

「各両用砲、スタンバイ。対空モードへ」

「機関砲スタンバイ」

「TLS、エネルギー充填開始。同時にコンデンサーへの回路解放」

「パルスレーザー、エネルギー電導終わる」

 

「対空戦闘用意良し!!」

 

相手がわざわざ相手をしてくれると言うのなら、こちらも答えるのが礼儀という物だろう。いい実験サンプル兼生贄が向こうから出向いてくれたのに、それに答えない馬鹿はいない。

 

「全機、攻撃準備完了!!アタックポイントまで10マイル!!!」

 

「なんてデカさだ。グレードアトラスター級を超えてやがる.......」

 

流石に『日ノ本』相手では「たかが1門の砲で、何ができる!!!!」なんて死亡フラグは建てられない。例え知識が無くとも、一目でこの海の覇者たる艦だと分かる。

 

「目標群アルファ(右翼雷撃隊)及びチャーリー(左翼雷撃隊)、射程圏内に突入!!!!」

 

「両舷多目的ランチャー解放!!撃ち方始め!!!!」

 

「サルボー!!!!」

 

船体中央部の装甲板が上下にスライドし、内部からミサイル発射口が勢いよくせり出してくる。次の瞬間、無数のマイクロミサイルが飛び出した。その数、実に1万発。もう途方もない数だが、これで驚かれては困る。本気を出せば90万発同時に撃てるのだから。

とは言え、これ1発1発があんまり威力がないし、射程も短い。ついでに誘導性能も(皇国基準で)高いわけではない。威力としては大体携行式対戦車ミサイル程度で、誘導性能は百発百中というより十発十中というなんとも言えない兵器なのだ。というのもこの兵装自体、所謂「下手な鉄砲でも数撃ちゃ当たる」と「腐っても鯛」という考えで生み出されている。例え誘導性能が悪くとも、当たれば航空機なら撃墜は必至。艦艇も何十発と当たれば無視はできない。何よりパッと見はある意味一番派手なので、脅しには丁度いい。ついでに大量に撃っちゃえば、誘導性能の悪さもカバーでき面制圧や大型目標への攻撃に使えるだろうという考えで開発されたのだ。

 

『白煙視認!!ロケット弾と思われる!!!!』

 

「全機、海面スレスレで避けろ!!上に上がったら対空砲の的だぞ!!!!」

 

この指示から数秒もしないうちに、右翼と左翼の先頭集団はミサイルの弾幕に飲まれた。

 

『クソッ、翼が折れ———』

 

『6番機!体制を立て直せ!!海に突っ込むぞ!!!!』

 

『ヤバいミスった!!!』

 

「指揮官機墜落!!以降は本機が指揮を執る!!全機、進路このまま!!!!」

 

既に両翼共に150機は堕ちたが、今回は元の母数が多い。問題はない。それにミサイルによって撃墜、或いは回避に失敗して海に突っ込んだ機体の水柱のお陰で、他の機体はミサイルを回避する事が出来た。

だがミサイルを回避したからといって、まだまだおもてなしは終わらない。コース料理で言えばマイクロミサイルは前菜のサラダ。まだオードブルに、外しちゃいけないメインディッシュがまだ残っている。

 

「目標群アルファ、153機撃墜!目標群ブラボー、149機撃墜!尚も近付く!!!!」

 

「近距離対空戦!!両用砲、機関砲、パルスレーザー砲、自由射撃開始!!!!」

 

「アイ・サー!!両用砲攻撃始め!!」

「機関砲、攻撃始め!!」

「パルスレーザー、照射開始!!」

 

船体各所に所狭しと設置された両用砲、機関砲、パルスレーザー砲が動き出す。その弾幕は歴戦のパイロット達とて、未だ未知の濃密な弾幕であった。しかも僚艦たる熱田型8隻からも同様に攻撃されているので、毎秒10機近くが堕とされていく。

 

「目標群チャーリー(右翼爆撃隊)及びデルタ(左翼爆撃隊)、急降下開始!!」

 

「TLS全方位照射!!フェンスを張ってやれ!!!!」

 

「TLS、照射!!!!」

 

次の瞬間、『日ノ本』は禍々しい赤い光に包まれた。船体各所のTLSは航空機に搭載されるTLSと物は殆ど一緒だが、航空機は電力が限られるのに対し艦艇は問題なく電力を賄える。その結果、威力も射程も桁違いだ。まるでウニの様に全周に赤いレーザーを撒き散らし、航空機を溶断(・・)していく。撃墜とか撃破とか、そんな可愛らしい物じゃない。そんな攻撃を高密度で加えてくるのだ。ありの子一匹通さない、そんな鉄壁の防御。フェンスとは言い得て妙である。

 

「全目標群喪失」

 

「対空戦闘用具収め」

「対空戦闘用具収めー」

 

「艦長、敵機動艦隊に張り付かせていた潜水艦より報告です。艦隊は、本隊との合流を目指し進路を変えたと」

 

「それは上々。どうやらこの海戦、俺の想像通りになりそうだ。牛嶋、全艦に伝達。『final phase発動に備え』だ」

 

この『final phase』そのままの意味であると同時に、それ自体暗号も暗号となっている。その意味とは「作戦は当初通り行う。全艦集結せよ」である。このfinal phaseとは勿論、艦隊決戦である。しかも今回使う戦術は、神谷考案の艦隊決戦。神谷自身、今すごくワクワクしている。

だがそんなワクワクしてる神谷とは対照的に、上空にいる『パル・キマイラ』の中で冷や汗を滝の様に流す男がいた。メテオスである。

 

「な、なんなんのだ今のは.......」

 

「あんな弾幕、見た事がない.......」

 

「艦隊級極大閃光魔法なのか?にしては威力も何もかもが違いすぎる.......」

 

全てが異次元であった。ミサイルも、展開された濃密な弾幕も、レーザーも、何もかもが「あり得ない」の一言だった。

 

「副長。たしか敵は約1200機、だったよねぇ?」

 

「はい。こちらにも約100機飛来していますので、皇国艦隊には1100機程度が向かっていました」

 

「単刀直入に聞くが、防げると思うかね?」

 

「.......例え全ての艦艇を集結させ、我が『パル・キマイラ』を持ち出したとしても不可能でしょう。可能性があるとすれば、海上要塞パルカオンでしょうか」

 

「君もそう思うか.......」

 

メテオス含め『パル・キマイラ』の乗員は理解した。この世界に於ける最強、少なくとも対空戦闘の最強は大日本皇国であると。とは言えこれを上にどう伝えたものかと頭を抱えていると、通信員から報告が上がった。

 

「皇国艦隊からだと?読み上げてくれたまえ」

 

「ハッ。『発、大日本皇国聨合艦隊司令長官、神谷浩三元帥。宛、空中戦艦『パル・キマイラ』、メテオス艦長。本海戦は先程、いよいよ最終局面に突入した。ついては今夜、初となる新生・聨合艦隊の艦隊決戦をご覧にいれる。我ら聨合艦隊の真髄、しかと見届けられよ』以上です」

 

「こんな文章を送りつけられたら、見たくなってしまうではないか。通信員、『ご招待痛み入る。謹んでお受けする』と返信しておけ」

 

「ハッ!」

 

聨合艦隊、インフェルノ艦隊、『パル・キマイラ』と全ての勢力の準備は整った。特に『パル・キマイラ』というか、メテオスの力の入れ具合は目を見張るものがあった。最初こそしっかり観戦していたミリシアルの首脳陣だったが、ここの所は殆ど見られてすらいなかった。だが艦隊決戦を行うと言われた以上、首脳陣に見てもらうしかない。というわけで態々、皇帝のミリシアル八世に連絡して玉座の間に魔導モニターを引っ張ってくる徹底っぷり。行動力の鬼である。

 

 

 

約12時間後 21:50 究極超戦艦『日ノ本』 CIC

「各員、最終チェック」

 

「艦隊陣形、形成完了」

「航空機、発艦完了。特務部隊も予定ポイントにて待機中です」

「全艦戦闘配置よし」

「全潜水艦、配置完了してます」

「回天出撃準備完了」

 

「よーし、作戦開始だ。通信!全周波数帯で音楽を流せ!!」

 

「アイ・サー!!」

 

実は神谷、余興代わりに1つ趣向を凝らしていた。どうせなら向こうの恐怖を煽ろうということで、とある音楽を流す事にしたのだ。船乗り、それも軍艦乗り的には1番聞きたくないであろう音楽である。

 

「流しますよー」

 

通信員がコンソールを操作し、プレイリストからその音楽を選択する。その音楽が流れた瞬間、まずはいきなり女性らしき聞き取れない声が流れると、おどろおどろしいミュージックがスタートする。暫くすると微かに女性の声で「堕チロ」「沈メ」「沈ンデ溶ケテ、シズメシズメ」と聞こえ出す。

もうなんの音楽か分かっただろう。某大人気ブラウザゲーム。艦隊これくしょんのMI作戦BGM、所謂『シズメ シズメ』である。歌詞と言っていいのか分からないが、先述のフレーズは船乗りが聞きたくない単語達だろう。これを全周波数帯て流しているのだ。

 

「提督!無線に奇妙な音楽が.......」

 

「奇妙な音楽だと?」

 

この事はカイザルにもすぐに報告が上がり、無線兵からヘッドホンを受け取って奇妙な音楽を聞いてみた。だがその歌詞は酷い物で「溶ケテ」とか「堕チテ」とか「壊レテ」とかと続き、終いには「シズメシズメ」とまで言っている。

 

「何なのだこれは.......」

 

カイザルも恐ろしいのか、顔が少し青くなっている。というのも敢えてこの音楽は少し音質を悪くしており、本当にこの海で無念の戦死を遂げた水兵の亡霊とかセイレーン的な悪魔が歌っている様に見せかけているのだ。

だが暫くすると今度はしっかりとした音楽が流れ出す。とは言えこの音楽は『燃え落ちる誇り』というもので、さっきまでの『シズメ シズメ』に歌詞をしっかり付けた物である。だがまあ歌詞は大体3割は『沈メ沈メ』と言っており、船乗り的には航海中に聞きたくない音楽だろう。因みにこれ、ミリシアル側にも流れている。

約10分間の音楽攻撃が終わると、もう一つの仕掛けが動き出す。それは22:00になると同時に発動した。

 

「て、提督!!アレを!!!!」

 

「今度は何なのだ!?!?」

 

音楽の次は光のシャワーが現れたのだ。本当に目の前の上空から無数の線上の黄色い光が、そのまま流れる様に海に向かって落ちていく。文字通り光のシャワーである。

 

「まさか敵の攻撃なのか?」

 

「いえ、被害は出ておりません。精神攻撃ですかね?」

 

カイザル含め、この光のシャワーを目撃している将兵達は何が起きているのか分からず混乱していた。「シズメシズメ」と言い続ける音楽に、光のシャワー。こんなのと戦場で相対する事は、これまでの軍人人生の中で無かった。

だがこれだけでは終わらない。次は光のシャワーをバックに、まるでスロットマシンの様に何かが高速で上から下へ流れてきた。やがてそれが止まると、何かの紋章が現れる。

 

「アレは何だ?」

 

「わかりません」

 

「.......絵と文字ですね。確か「カンジ」とか言う、皇国で使われている文字です」

 

現れたのは今回の作戦に参加した、各艦艇のロゴマークであった。皇国海軍の全ての艦艇には、戦闘機部隊のアイコンの様にマークがそれぞれ存在する。広報やイベントでも使われるし、制服にも腕の部分にロゴマークのワッペンを貼る。今回はこれを使って、演出を行ったのだ。駆逐艦から始まり、突撃駆逐艦、突撃巡洋艦、重巡、軽空母、空母、戦艦、要塞超空母、超戦艦と続いた。

 

「専任参謀、君はアレをどうみるか?」

 

「私としましても、全くわかりません。敵の意図も計りかねます」

 

「うーむ.......」

 

大困惑のカイザルらインフェルノ艦隊の将兵を尻目に、この演出も最後の艦となった。残るは『日ノ本』のみ。これまでは単純にロゴマークが現れて終わりだったが、『日ノ本』だけは違った。まず現れるは菊の御紋。言わずもがな、天皇家の御家紋である。その菊の御紋がくるりと回り、そのまま旭日旗へと変化する。そしてその旭日旗を背に、金色の日本列島が現れ、それと一緒に「日ノ本」の文字も共に現れる。

 

「さぁ、決戦を始めよう」

 

次の瞬間『日ノ本』は海中から勢いよく飛び出し、周囲に海水を撒き散らせながら豪快に登場した。それに合わせて光のシャワーも消え、その背後から戦艦、超空母、超戦艦が姿を現す。

 

「て、敵艦隊目視にて捕捉!!!!超々大型戦艦1、超大型戦艦8、グレードアトラスター級64、航空戦艦24、超大型空母16!!!!」

 

「あれは時間稼ぎだったのか.......。小癪な真似をしおって!全水雷戦隊は重巡を先頭に突入せよ!!!!各戦艦は援護射撃だ!!!!機動部隊も航空隊を発艦させ、敵艦隊に向かわせよ!!!!!」

 

カイザルは即座に命令を飛ばし、艦隊を動かす。とは言え数百隻単位なので、実行までには少し時間がかかってしまう。だがその時間こそが、皇国のチャンスなのだ。

 

「初手から派手にいくぞ。全艦、統制波動砲戦用意。波動砲への回路開けッ!!!!!」

 

「アイ・サー。プラズマ粒子波動砲への回路開きます。非常弁、全閉鎖。強制注入機作動」

 

「艦首解放、プラズマ粒子波動砲展開」

 

統制波動砲戦とは、波動砲を搭載する各艦艇が一斉射撃を行う砲撃方式である。小回りは効かないが、広い面積を一撃の下に消滅させられる利点は大きい。

 

「安全装置解除」

 

「セーフティーロック解除。強制注入機の作動を確認。最終セーフティー解除。トリガー、艦長に回します」

 

「艦長、受け取った」

 

「薬室内、プラズマ化粒子圧力、上昇中。86、97、100。エネルギー充填、120%!!」

 

「波動砲、発射用意。対ショック、対閃光防御」

 

艦橋のガラスに防護シャッターが展開され、外の様子はシャッターに搭載されてるディスプレイに表示される。

 

「電影クロスゲージ、明度20。照準固定!」

 

スコープ内に表示される各艦艇とのリンクも『接続』から『同期』という文字に変わり、全艦が同期し射撃準備完了の合図であるブザーも鳴り響く。

 

「プラズマ粒子波動砲、発射ァァァァ!!!!」

 

ギュゴォォォォォォ!!!!!!

 

プラズマ粒子波動砲は水色の眩い光を放ちながら、前衛にいる水雷戦隊へと突き進む。その数、実に99本。凡ゆる攻撃を防ぐ『日ノ本』のバイタルパートを5隻分は余裕でぶち抜く威力の前では、たかだか駆逐艦やら巡洋艦の装甲など卵の薄皮の如く防御の意味を為さない。この一撃で600隻近くの艦艇が、文字通り消滅したのだ。

 

「ぜ、前衛艦隊、轟ち、いえ!消滅しました!!!!!」

 

「な、何を言っとるか貴様ぁ!!!!」

 

「か、艦長、そんなこと言われてもアレは轟沈なんて生易しいもんじゃねぇ!!!!消滅したんだよッ!!!!!」

 

「艦長やめたまえ!」

 

古参の見張り員に掴み掛かる艦長をカイザルが止める。とは言え、正直今の攻撃でほぼ戦意喪失と言っていい。というかこんな攻撃、予想外すぎる。前衛艦隊が何もできずに一斉に轟沈。というか古参見張り員の言う通り、消滅と言った方が適切なまでの壊滅の仕方をした。こんなの予想しろと言う方が無理である。

 

「こうなったとしても、我々には戦う以外に道が残っておらん。全艦、攻撃を開始せよ」

 

カイザルはそう静かに命じた。こんな戦闘、どう足掻いても負けるだろう。だが仮におめおめ逃げ帰ったとしても、将兵達がどんな目に遭うか想像もできない。であれば前に、ただ前に逝く(・・)しか無いのだ。

 

「これでも撤退してくれないか。まあ予想通りだがな。全軍突撃、奴らを海の底に返してやれ!!!!!!」

 

一方の神谷は堂々と命じた。本音を言えば神谷としては、このまま回れ右して帰って欲しい。ここまでの戦闘とさっきの波動砲で、既に彼らに恐怖は刻み込んだ。今回の戦闘目的である『恐怖』はインフェルノ艦隊に、そして帰還すればグラ・バルカス帝国全体に伝わる。神聖ミリシアル帝国にも『パル・キマイラ』を通して、皇国を敵にまわす意味を教えられた筈だ。であればこれ以上、戦う理由はない。だが敵が向かってくるのなら、戦うのが軍人なのだ。

 

「アイ・サー!!機関出力一杯!!!!」

 

「全艦突撃砲撃戦用意。各砲、スタンバイ!!」

 

「全航空隊、突撃せよ!!!!」

 

まずは『日ノ本』を先頭に熱田型、大和型が突っ込む。後方には、突撃戦隊が続く。伊吹型と赤城型は援護砲撃の為、さらにその後方から攻撃を開始する。オマケに上空には今やはるか後方にいる空母も含めた、現状投入できる全戦闘機を投入した航空隊がインフェルノへと果敢に突っ込む。ウェポンベイには爆弾、ロケットランチャー、果ては型落ち品の対艦ミサイルからレールガンことEMLやTLSの様な最新鋭兵器まで。パイロットや各飛行隊思い思いの兵装を積んでいる。

因みに駆逐艦と重巡は全て後方から、空母の護衛とミサイル攻撃による援護を行なっている。火力では優っていても、流石に現代艦引き連れて突撃はしない。戦艦の砲撃とかを喰らえば轟沈するか、過貫通して生き残るかの二択だ。仕方がない。

 

「敵艦隊、本艦に向け突撃を開始!!」

 

「迎撃せよ!!」

 

「ダメです!艦隊は極度の混乱状態です!!情報が錯綜し、手が付けられません!!!!」

 

「て、提督!」

 

「専任参謀!!冬戦争のラスパート作戦を思い出せ!!あの時も情報が錯綜し、指示が二転三転した。だが我々の砲撃に、他の艦艇も合わせ始めた。今回もそれを行うぞ!!」

 

「イエッサー!!」

 

即座に命令が飛び『グレードアトラスター』の主砲、46cm三連装砲が『日ノ本』に向けられる。弾種は徹甲弾だ。

 

「砲撃準備完了!」

 

「撃ちー方ー始めぇ!!!!」

 

「撃ぇ!!」

 

放たれたのは46cm砲弾6発。かつて妹たる『ブラックホール』は、バルチスタ沖海戦で『パル・キマイラ』を一撃で落とした。その姉たる『グレードアトラスター』ならば、出来ない通りはない。

 

「敵主砲弾、本艦への直撃コースです」

 

「初弾で当ててくるとは、中々いい腕だな」

 

そして幸運なことに発射された主砲弾の内、2発は『日ノ本』への直撃コースに入っていた。皇国海軍であれば優れた火器管制システムに加え、砲身には砲身安定装置を標準搭載している為、初撃で命中させるのは造作もない。だが旧世代のマニュアルで撃つ方式というのは、とにかく命中率が低いのだ。命中確率はたった数%である。その為、基本的に初撃は大体で撃って、そこから調整していく方式が取られていた。

だが『グレードアトラスター』は、グラ・バルカス帝国海軍そのものと言っても過言ではない。言うなれば顔なのだ。であればそんな象徴的な艦の乗組員には、勿論精鋭やベテランが乗り込む。その為、いきなり命中弾を出すと言う離れ業をやってのけたのだ。だがそんな奇跡すら、『日ノ本』には通用しない。

 

「APS、作動」

 

「APS作動します」

 

艦橋の最上部から青白い光の輪が生み出され、その光の輪が艦首と艦尾まで広がると、同じ色の球体が形成される。これは空中母機『白鳳』にも搭載されているActive Protection System、所謂APSと呼ばれる電磁バリアである。この電磁バリアは一定方向の物理的接触を無効化する性質を持っており、今回であれば外から内に向かう物理的接触を無効化する様になっている。その為、逆に内側からの物理的接触は無効化できない訳で、こちらの攻撃は通用するのに相手の攻撃は通用しないのだ。

 

「ほ、砲弾、着弾前にバリアで防がれました.......」

 

「.......提督、ご指示を..............」

 

「悪いが私には、もうどうすれば良いのか分からん。誰か、分かるものが居れば教えてくれぬか!あんな敵を、どう倒せばいいのかを!!」

 

艦橋にいる誰もが答えられなかった。分からないのだ。カイザルとてこれまで幾度となく戦場に立ち続け、時に勝ち時に負けてきた。当然、色んな敵ともそれと同じくらいの戦略、戦術とも戦ってきた。

だが皇国はこれまでとは別格であり、一線を画す力を持っている。これまでの常套手段はおろか、旧世界の常識やスタンダードとなる部分すら通用しない。そんな敵への対処、分かるはずがない。

 

「提督、こうなった以上、我々の命はあなたに預けます。例えそれで死のうと構いません。最期の最期まで、あなたと共に逝かせてください」

 

「提督殿、俺達兵士だって、軍神様とならどこへでも逝きますぜ?何せ神様が付いてきてくれるんだ。怖いものなしだろ。だよなぁ、野郎共ッ!!!!!」

 

艦橋の者達はカイザルに「戦いましょう」と言った。自分達もどうすれば良いのか分からない。だが、もう砲を撃ち続ける他ない。そして死ぬのなら、軍神カイザルと共になのだ。

 

「分かった。ならば命じよう。総員、死力を尽くせ!!何が何でも、あの化け物どもを斃すのだ!!!!」

 

カイザルは力強く命じた。その瞬間、艦橋内の兵士達が慌ただしく動き出し、皇国艦隊への攻撃を開始した。『グレードアトラスター』だけではない。まずはかつてカイザルの指揮した八八艦隊がこれに続いて攻撃を開始し、さらにカイザルの教え子や後輩達の乗る艦、やがては生き残っている全艦艇が反撃を開始した。

 

「ようやく敵さん撃ってきましたよ」

 

「そうか。ならば、正面切って我々も闘おう。主砲砲撃戦、弾種旭日!」

「アイ・サー。主砲砲撃戦、弾種、旭日弾」

 

「目標、左右に展開する敵艦隊!撃ち方始め!!」

 

「撃ぇ!!!!」

 

エネルギー兵器たる旭日弾を持ってすれば、例え旧式の重装甲艦だとしても容易に貫通し、その後ろの艦艇にすら攻撃を届けられる。こういった密集戦闘では、頼れる砲弾だ。

 

「敵重巡戦隊、本艦左346に展開中。右32には水雷戦隊!!」

 

「両舷、近距離対艦ミサイル解放!!」

 

「サルボー!!!!」

 

『日ノ本』両舷に搭載された横列二段八連装近距離艦対艦ミサイル発射機のシャッターが開放され、内部から対艦ミサイル虎徹が飛び出す。一気に128発も飛び出すのだ。迎撃は不可能である。

 

「撃って撃って撃ちまくれ!!!!何が何でも化け物戦艦を生かして返すなッ!!」

 

「敵艦中央部より白煙を視認!!」

 

「おぉ、遂にやったか!!!!!!」

 

「.......いや違う!!ロケット弾だ!!!!」

 

「何だと!?迎撃いそ」

「ダメだ間に合わない!!直撃コースです!!!!!ぶつかる!!!!!!!」

 

1発でも当たれば致命傷のミサイルが、超音速という速度を持って至近距離から放たれる。例えイージス艦であろうと迎撃は不可能であるのだ、旧式艦では迎撃の砲火を上げることすら叶わない。

 

「左右に展開していた敵艦、殲滅しました。続いて前方より、戦艦3隻が進路を塞ぎにかかってます」

 

「ミサイル飛来!!後続駆逐艦による、援護攻撃です!!!!前方の左右の戦艦がターゲティングされています!!!!

 

「魚雷発射管開け。ならば我々の目標は、前方中央の戦艦だ」

 

「アイ・サー!!」

 

この『日ノ本』は、知っての通り一応潜水できる。その為、実は魚雷発射管も搭載しているのだ。その数、実に80門。まあ今回は前方のみなので80門全部指向するのは物理的に不可能だが、それでも数十門の超高威力誘導魚雷は水上艦には天敵とすら言える脅威だ。

 

「ッ!?敵機捕捉!!方位0、58、348!!!!機数、約1500!!!!!」

 

「全艦対空戦闘、対空ミサイルと月華弾で片付ける!!!!」

「アイ・サー。VLS開放、攻撃始め!!」

「全部砲塔旋回。電磁投射砲モードへ。弾種、月華弾。方位、0!!!!」

 

先程までは左右の敵艦に対して砲撃を行っていた、主砲と副砲が正面に回頭する。さらに各砲塔の砲身が4本に分割し、内部に稲妻が走る。

 

「砲撃用意よーし!」

 

「撃ちー方ー始め!!!!」

 

「撃ぇ!!!!」

 

放たれた砲弾は、通常の火薬式とは比べ物にならない程の速度で目標へと飛んでいく。しかも今回は月華弾。所謂、燃料気化弾の一種である。この砲弾は近接信管が作動すると、周囲に数千℃の熱風が包む。次いで衝撃波が襲い掛かり、巨大な火球を形成。航空機や構造物を揉みくちゃにし、全てを溶解してしまう。いつかのムーの『ラ・カサミ改』が戦艦に撃ち込んだ砲弾。アレである。

これを撃ち込まれた編隊は、最早自分が何にやられたのかを理解するどころか死ぬ事を察する事すらなく死んでいった。例えこの砲弾を逃れたとしても、今度はミサイルの洗礼が待っている。避ける事も叶わず、やはりこちらも殆ど何が起きたか分からぬまま撃墜されていった。

 

「長官、そろそろ航空隊を突っ込ませますか?」

 

「あぁ、そうだな。奴らを撹乱してやろう」

 

ここで神谷考案の更なる仕掛けが動き出す。なんとこの砲弾入り乱れる、鉄風雷火の中に航空隊を突っ込ませるのだ。先ほど、皇国艦隊が撃墜した帝国軍攻撃隊はあくまでも後詰めの意味合いが大きい。本来なら海域付近にて待機し、敵が逃げ出したら追撃したり、落伍した艦がいればトドメを刺す役割にすぎない。この戦場に飛び込む事はしない手筈なのだ。

だが皇国の場合、出力とステルス性に物を言わせて突っ込ませるのだ。これが神谷考案の戦法である。水上艦、潜水艦、航空機を同時に用いた艦隊決戦。各艦のデータリンクとその情報を中央で一元管理しつつ、データと戦況を分析し安全なルートの選定や効率的な攻撃を行う指揮システムがあって初めて完成する新たな艦隊決戦の形。東郷指揮システム様々である。因みに本編では登場していない潜水艦だが、しっかり後方から魚雷を撃ちまくっている。

 

「敵機来ます!!」

 

「正気か!?!?」

 

「何処までも型にハマらぬか。対空戦闘始め!!!!」

 

VT信管こそ採用しているが、それはあくまで対レシプロ機用。音速を超えて接近してくる、現代のジェット戦闘機は想定されていない。幾ら弾幕を貼ろうと全く当たらず、本来なら高角砲の穴を埋める対空機銃ですら照準が追いつかず濃密な弾幕は形成できなかった。

 

「ロケットの雨を食らいやがれ!!!!」

 

「今なら爆弾もセットだぜ!!!!」

 

普通の震電II相手なら、まだ航空機らしい攻撃だろう。だがこれが極であれば、その限りではない。

 

「ホバリングモード!連打で沈める!!」

 

超高速で接近し、お互いの顔が見える位の近さで急停止。ホバリングしながら30mmと60mmの機関砲で、艦上構造物を破壊していくのだ。

 

「クソッ舐めやがって!!!!アレを堕とせ!!!!」

 

「やりやがったなチクショー!!!!!」

 

勿論至近距離なので機銃を撃てば当たる。だがコイツの場合、スラスターを装備しているので普通に避けてくる。それも航空機がするべきではない、あまりに変態じみた挙動で。こんな動きを目の前でされてしまえば、闘志よりも恐怖の方が勝ってしまう。

 

「なんだよあの動き.......」

 

「あり得ないだろ.......」

 

「おい!こっちを向いたぞ!!!!」

 

「.......逃げろ!!!!」

 

誰かがそう叫んだ。その言葉がトリガーとなり、その場の全員がばね仕掛けの人形のように、何かに弾かれたように逃げ出した。だがそれを許す震電IIタイプ・極ではない。機銃掃射とマイクロミサイルで乗艦ごと吹き飛ばされた。

 

「第338駆逐隊壊滅!!第89戦隊及び105戦隊、全艦轟沈!!」

 

「軽巡『ゴーント』戦艦『コーデッドマスク』戦列を離れる!!」

 

「まただ!左翼駆逐隊がまとめて吹き飛びました!!!!詳細不明!!!!」

 

既にインフェルノ艦隊はボロボロである。熱田型と『日ノ本』の主砲は、当たらずとも至近弾ですら致命傷となる。余りの威力に水柱だけで攻撃になるのだ。お陰で駆逐艦は、周りの他の駆逐戦隊ごと吹き飛ばされる始末。被害報告しようにも、多過ぎてどれが沈んだのか分からない。

 

「敵旗艦、本艦正面より突っ込んで来る!!!!」

 

「何だとッ!?!?ならば、主砲で迎え撃つのみ!!!!」

 

「戦艦『ワームホール』本艦前方に出ます!!」

 

「何!?」

 

戦艦『ワームホール』。グレードアトラスター級四番艦であり、インフェルノ艦隊に於いては同型艦である『ホワイトホール』と共に、旗艦たる『グレードアトラスター』の直衛艦である。

 

「『ワームホール』より入電!『我らこれより、盾となりて軍神の逝く道を護らん』です!!」

 

「ドレストル.......」

 

『ワームホール』の艦長であるボウリエルは、かつて軍大学にて教鞭を取っていた時の教え子でもある。その教え子が今、自分達の前に立ちはだかって盾となろうとしている。それを思うと、涙を禁じ得ない。

 

「そーら、教官殿の道を切り拓くぞ!!!!」

 

「軍神様の為ならば、この命掛けられますわ!!!!!」

 

「そりゃそうだ!!!!なんたって、神の為に死ぬんだからな!!!!!」

 

ボウリエル以下、乗組員達の士気は高い。『ワームホール』は『グレードアトラスター』の前に出て、そのまま舵を切り『日ノ本』に腹を見せる。これは船にとっては弱点であるが、同時に最大火力を浴びせられる状態でもある。46cm三連装砲3基9門の力を『日ノ本』に見せようというのだ。

 

「敵大和級、本艦前方に展開。自艦を盾にし旗艦を護る様です」

 

「ならば突っ込むぞ。回天を切り離した後、出力一杯。あの戦艦に突っ込め!!!」

 

「アイ・サー!!!!」

 

艦底部から回天を出撃させると、『日ノ本』はウォータージェットを起動させる。一気に90ノットまで加速し、『ワームホール』へと向かう。

 

「敵艦撃ってきました!!!!」

 

「構うな!!!!こっちの装甲なら、例え46cm砲であろうと豆鉄砲に過ぎん!!!!!」

 

「アイ・サー!!!!!」

 

『日ノ本』は速力と装甲に任せて、さらに突っ込む。『ワームホール』も負けじと撃つが、全て弾かれてしまう。最早、凹んですらいないだろう。

 

「APS作動!!!!」

 

衝突する直前にAPSを作動させ、電磁バリアに包まれた状態で『ワームホール』に突っ込む。金属の悲鳴にすら聞こえる圧壊音と、金属の軋む音を響かせながら、艦中央部から『日ノ本』の船首が出てくる。まるで化け物の口の様にも見える。

 

「側面砲、撃ぇぇ!!!!」

 

突撃ついでに、側面に搭載されている60口径710mm四連装火薬、電磁投射両用砲も火を吹き、旭日弾のビームで船体をさらに溶断。4つに船体が分断され、轟沈していった。

 

「何なのだあれは.......」

 

カイザルもこの光景には目を疑った。目の前で帝国最強の戦艦が、突き破られている姿を見たのだ。そもそも戦艦が突き破られるなんて、聞いたことが無い。そんな非現実的すぎる光景を見せられたのだ。この反応は、むしろ冷静だと言えるだろう。普通ならパニックになりそうな所だ。

 

「敵艦更に近づく!!!!」

 

「衝撃に備えろ!!!!」

 

てっきり突っ込んで来るかと思っていた『日ノ本』は、そのまま『グレードアトラスター』と『ホワイトホール』の間を弾幕を貼りながら通り過ぎていった。

 

「被害報告を!!!!」

 

「本艦右舷、各砲塔大破。使用できません!」

 

「妙ですね。なぜトドメを刺さないのでしょう?」

 

普通なら主砲を撃ってきそうだが、『日ノ本』は『グレードアトラスター』の右舷と『ホワイトホール』の左舷にある対空砲を破壊しただけだったのだ。これは可笑しい。何故だと考えていると、上空から思いもしない物がやってきた。

 

「敵機!直上!!!!」

 

「何だとッ!?!?!?」

 

なんと上空から敵機がやってきたのだ。それも戦闘機ではなく、AVC1突空である。実は神谷、この戦艦2隻を拿捕して次いでに敵指揮官も捕虜にしようと考えたのだ。その為、予め上空に突空を配備しておき、対空砲を破壊して穴を作り、さらに回天を忍ばせて歩兵を乗り込ませる算段までつけていたのである。無論、乗り込んでいるのは赤衣、白亜、ワルキューレを含む、安定の神谷戦闘団である。

 

『こちら機関部!!現在敵歩兵の襲撃を受けている!!!!助けてくれッ!!!!』

 

「何がどうなっているのだッ!!!!!!」

 

カイザルもいよいよもって何が何だから分からなくなった。流石にこれだけ非現実を見せられれば、狂いもする。その時だった。カイザルの身体は宙に浮いた。被弾し制御を失った駆逐艦が『グレードアトラスター』に衝突し、その衝撃でカイザルは椅子から飛ばされたのだ。そしてそのまま壁に後頭部を強打し、意識を失った。

 

「提督!!カイザル提督!!!!」

 

「すぐに衛生兵を早く!!!!」

 

数分後、艦橋に赤衣鉄砲隊の面々が突入してきた。勿論、先頭を切っているのは向上である。

 

「この艦は我々が占拠させてもらう。諸君らに危害を加えるつもりはないが、抵抗した場合はその限りではない。それから、指揮官と話をさせてもらいたい」

 

「戦艦『グレードアトラスター』艦長、ドレストルだ。悪いが提督はたった今負傷した。どうか提督を医務室に運び入れさせて欲しい」

 

「無論許可する。すぐに移動させなさい」

 

カイザルは医務室に運ばれていき、そのしばらく後に『ホワイトホール』も占拠したと連絡が入った。とは言え、海戦はまだ続いている。だがカイザルの負傷を聞いたネーロンが、撤退の指示を出してくれた。既に殆どの艦艇がやられたのだ。これだけやられていれば、流石に「奮戦虚しく…」という言い訳が通じるだろうとの判断であった。

斯くして第二次バルチスタ沖海戦は、グラ・バルカス帝国海軍の大敗を持って終結したのである。

 

 

 



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第七十六話Shattered Skies

海戦終結より10時間後 大日本皇国 統合参謀本部 防衛指令室

「第38レーダーサイトにて国籍不明機(アンノウン)を複数探知!!速力、320ノット!!!!」

 

第二次バルチスタ沖海戦が終結してから10時間が経ち、本土の統合参謀本部でもいつも通りの日常が繰り返される筈だった。だが、今日は大荒れになるらしい。

旧世界に於いては数日から1週間に1回の割合でロシアや中国辺りから、まるで定期便の如く領空侵犯をされていた事もあって、この地下指令室の取り分け防空担当の者は激務であった。だが転移後の世界は、ご承知の通り文明レベルが低すぎて航空機自体がレア物であり、皇国の周辺国は航空機を開発できる次元まで到達していなかった。その為、ここ最近は暇だったのだ。

無論、いつかのパーパルディア皇国が核ミサイルを飛ばしてきた事もある様に、いつ何時、何が起こるかは分からない以上、気が抜けないのは確かである。だが幸いな事に、これまで暇である事には変わりなかった。

 

「速力320ノットとなりますと.......」

 

「レシプロ機だろうな。正確な数は?」

 

「機数は.......およそ1300機!!!!!」

 

「1300!?」

 

これには室長も驚いた。明らかに迷い込んだとか威嚇行為とかではなく、明確なまでの攻撃意思を持った集団である。本来、この防衛指令室は暇でなくてはならない。ここは皇国本土に危機が迫った時に、防衛戦を指揮する為の場所なのだ。

これが単純な領空侵犯程度ならまだ良いのだが、今回は先述の通り99%の確率で攻撃しに来ている。となればここは今から戦場だ。

 

「目標は分かるか!?」

 

「現在の進路を進んだ場合、目標は東京ですッ!!!!到達まで2時間32分!!!!!」

 

「非常配置!!!!!直ちに本州防空に当たっている白鳳を差し向けろ!!!!近隣航空基地にスクランブル要請!!!!!特殊戦術打撃隊の各基地に連絡し、防空部隊を上げさせるのだ!!!!!提灯とストーンヘンジも使え!!!!!それから総理官邸に繋げろ!!!!!」

 

「了解!!!!」

 

次の瞬間、部屋の灯りが普段の白灯から緊急時を示す赤に変わった。それと同時に、部屋の中も慌ただしくなり無線やレーダー情報との睨めっこが始まる。

 

「首相官邸繋がりました」

 

「総理、防衛指令室の角丸であります」

 

『角丸准将、どうしたのですか?』

 

「はっ。先程、我が軍のレーダーサイトにてグラ・バルカス帝国と思われる国籍不明機の大編隊を探知しました。これを受け、斯く部隊が迎撃にあたる事をお知らせいたします。また総理におかれましては、当該編隊の目標と思われる首都圏一帯へのJアラートの発令を要請いたします」

 

この要請に一色としては、少しばかり承服し兼ねる。国民の生命が第一なのは分かっているが、そもそも首都は人が多過ぎる為、場合によってはパニックを起こして避難どころではなくなってしまう可能性がある。

またJアラートを発令すれば、首都圏の様々な流れがストップする事になる。特に皇国におけるJアラートは避難命令となるため、避難することが義務となる。罰則こそないが警察官、消防士などの人員には、強制的に避難させる事が職務規定にも記されている以上、首都が一時的に麻痺する可能性もある。これも出来ることなら避けたい。そして何より、そもそもここまで飛来する可能性が限りなく低いと神谷から聞いているので、わざわざ避難する必要があるのかとも思ってしまうのだ。

 

『それは本当に必要なのですか?』

 

「無論、高確率で首都圏上空に入る遥か前に、全て迎撃できるでしょう。しかし仮に入られた時が面倒です。単なる爆弾や機銃掃射で済むのならまだしも、グラ・バルカス帝国には原子爆弾を保有している可能性がありますので、仮にこちらを落とされでもすれば.......」

 

『首都圏壊滅は免れない、か。わかりました、直ちに関係各所に指示いたします。そちらはお願いします』

 

「首都上空には入れませんので、どうかご安心を」

 

ここからの一色の動きは早かった。内閣官房を経由して、消防庁に『航空攻撃情報』として伝達。首都一帯のスマホとテレビ、防災無線等に一斉送信し国民に事態を伝達する。

更に消防庁と国家公安委員会にも国民の避難誘導に、警視庁と消防庁の協力を要請した。これに加えて、遥か彼方にいる神谷にも連絡し、対応を協議する。

 

「本土に爆撃機が向かってる」

 

『あぁ。さっき、こっちにも第一報が入った』

 

「Jアラートの発表に加え、警察と消防に避難誘導の協力要請も出している。だがもし核だった場合、どういう対応を軍はとる?」

 

『仮に原爆だったとして投下されたと仮定しても、落ちた種類によってまた変わってくるから何とも言えん。だが初動は大宮の中央特殊武器防護隊と練馬の第一特殊武器防護隊が務めるだろうな。

ここの2つは50年とか40年以上前とは言えど、地下鉄サリン事件と東日本大震災の福間第一原発事故の、2つの実戦を経験した世界有数の対NBC兵器のプロフェッショナル達だ。コイツらが初動で動いて以降は状況にもよるが、通常の災害派遣と同じ様に支援に動くだろうな。尤も、放射能には弱いがな』

 

流石の皇国軍とて、目に見えない対NBC兵器戦は専門部隊でしか対抗できない。マスクを装着すれば、物にもよるがBC兵器はどうにか対応できる。だが放射能を発するN兵器は流石に、通常部隊では手に余る。

 

「分かった。原爆がない事を祈ろう。あぁ、そうだ。陛下は既にケース聖護*1に入られた」

 

『あぁ。流石に今回は大丈夫だろうが、既に原潜『八咫烏』*2が待機している。もしもの場合は、京都だな』

 

「お前の話の限りじゃ、そこまで行かないだろうがな。というかそうであって欲しい。こちらは俺なりにやるから、そっちは任せるぞ」

 

『あぁ』

 

取り敢えず軍事のプロたる神谷から、「多分だけど問題はない」という言質は取った。更に核爆弾が投下された際の対処も聞けた以上、今や不安は微塵もない。一色は執務室内のクローゼットから内閣のロゴが入った、水色の防災服に着替える。着替え終われば秘書を連れて、地下の危機管理センターへと降りて今後の対策を決めるべく会議に臨んだ。

 

 

 

同時刻 横田基地 ブリーフィングルーム

「集まったかね?落ち着いてくれ.......。静かにしてくれ!」

 

何事かと騒いでいたパイロット達は、司令の一言で即座に黙る。司令は少し咳払いをすると、状況を話し始める。

 

「ブリーフィングを始める。諸君らは転移以降、様々な場所で戦い抜いてきた。だが今回はいつもとも、転移前の日常とも、少々勝手が違う。先ほど、我が軍のレーダーサイトが、接近する所属不明機群を通報してきた。飛行速度から察して、恐らくレシプロ機、つまりグラ・バルカス帝国の可能性が高い」

 

ブリーフィングルームには青い日本地図の立体映像の上で、この所属不明機群の位置が赤く示される。所属不明機の予測進路も、同様に赤い矢印で示され、その行く先は東京を指していた。

 

「任務を伝える。諸君らには近隣航空隊と特殊戦術打撃隊と協同し、当該所属不明機の発見、捕捉、威嚇射撃を以って強制着陸せしめよ。もし敵から反撃を受けた場合、そのときには全兵器使用自由を宣言する。諸君、スクランブルだ!!」

 

パイロット達は椅子を蹴飛ばさん勢いでハンガーに走り出し、既に整備スタッフ達が準備していた愛機に滑り込む。今回は数が多い為、通常のミサイルではなく大型パイロンにマルチパイロンを搭載して、出来るだけ多くのミサイルを装備していた。

 

「スクランブルだ!早く空に上がれ!!」

 

『こちら管制塔!スカイボーイ隊は滑走路に向かえ!エンシェント隊テイクオフ、スカイキーパーは既に空に上がっている。リンクを確立せよ!スカイボーイ隊は離陸を急げ!』

 

管制塔からの指示で、戦闘機隊は順に滑走路に侵入。大空へと羽ばたいて行く。

 

『スカイボーイ2、離陸を許可する。離陸後はスカイキーパーにリンクし、指示に従え』

 

「スカイボーイ2、ウィルコ」

 

『スカイボーイ2、離陸!!サーベラス隊、滑走路侵入許可!!』

 

航空隊が現場空域へ向かっている頃、遥か洋上に居を構える特殊戦術打撃隊の基地も、防空の先発を担う『白鳳』の離陸を行っていた。

 

「スクランブル!これより『白鳳V』の打ち上げに入る」

 

「了解。マスドライバー、起動」

 

「『白鳳V』、エンジン始動」

 

後部に搭載された6機のサブプロペラと、2機の巨大な二重反転メインプロペラが始動し回転を始める。一定の回転数まで上がると、管制塔内にブザーが鳴り響いた。

 

「『白鳳V』エンジン正常、ミッションデータ、インストール完了。発射準備完了」

 

「マスドライバー、電磁加速カタパルトレール準備良し。電圧安定」

 

「最終カウントダウン開始」

 

模試水が自席の如何にもな赤いボタンを押すと、男声の機械音声がカウントダウンを始める。

 

『これよりカウントダウンを開始します。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0』

 

「リフトオフ!!」

 

マスドライバーのレールに無数の小さな稲妻が発生し、蒼白く光ると『白鳳V』が一気に加速していく。

 

「1、2、3。マスドライバー加速中。リフトオフ、今」

 

10秒と経たないうちにマスドライバーから『白鳳V』が射出され、青空へと白い巨鳥は消えていく。

 

「続けて空中母艦『白鯨II』及び支援プラットフォーム『黒鮫III』『黒鯨IV』、射出位置へ!!」

 

『白鳳』と『鳳凰』はマスドライバーで一気に射出するのに対し、『白鯨』『黒鯨』は『白鯨』が空母である以上、マスドライバーで上げると中に収めている機体が衝撃で壊れたりひっくり返ったりする。その為、この2機種は洋上から緩やかに加速させて飛ばすのだ。

 

「機関長、エンジンに火を入れてくれ」

 

「アイ・サー。エンジン始動、動力接続!」

 

機関長がコンソールを操作してエンジンに火を入れると、普通のジェットエンジンとは比較にならない爆音を響かせ始める。特にこの2機種のエンジンは、直径がボーイング747、所謂ジャンボジェットの胴体と同等クラスという超巨大エンジンである。しかもそれを『白鯨』なら24基搭載しているのだから、それはもう凄い音である。因みに『黒鯨』なら12基である。

 

「メインエンジン、コンタクト。出力安定」

 

「射出レール、固定確認」

 

「ロケットモーター正常!」

 

「第二空中空母艦隊、全艦出撃せよ!!!!」

 

艦長の号令が降るやいなや、側面の離水用ロケットモーターに火が灯り、同時に射出レールにも通電が始まり、船体が加速していく。

 

「『白鯨II』離水!!!!」

 

航空隊、空中母機『白鳳』、空中空母艦隊と大空に上がった。だが、防衛要員はこれだけに留まらない。

 

「提灯に火を灯せ」

 

「了解!98〜103番砲、起動!!」

 

提灯とは、無論お祭りとかでよく見るあの提灯ではない。超大口径レールガンの他、無人戦闘機、50口径510mm四連装砲、各種ミサイルと機関砲群を装備した、移動要塞とでも言うべき兵器である。

大口径レールガンは完全に対空、もしくは対宇宙に特化しているが、その威力は化け物である。射程は半径500km、東京から京都の手前までは届く。これが日本の周囲をグルリと囲むように、300個が配備されている。尚、無人の完全自律型である。

 

「FCSオンライン。戦術リンク構築及び、情報共有を開始。全システム、オールグリーン!」

 

「メインコンピューター、阿僧祇5000正常に稼働。現在、全タスクを消化…いえ、完了しました。砲撃、いつでも行けます」

 

提灯には1秒間に5000阿僧祇回の計算が行えるコンピューターを搭載しており、敵の進路予測、気象状態、周辺環境による砲撃への影響、最適な砲撃タイミング等々、様々な計算を同時並行かつ数秒で完了させられる。

 

「敵予測進路は変わらずか?」

 

「はい」

 

「では、長野と秋田のストーンヘンジを使う。砲撃指示を出せ!!」

 

「ハッ!」

 

角丸の指示が、今度は秋田県と長野県に飛ぶ。ストーンヘンジは九州、四国、北海道に1つずつ。本州には3つ建設されている。今回はその内の2つ、長野県と秋田県に建設されたストーンヘンジが火を吹くのだ。

因みにストーンヘンジは略称であり、正式には『120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲システム』という。なんか声に出して読みたくはなるが、長い。とにかく長い。という訳で、誰が言ったか『ストーンヘンジ』が略称どころか半分正式名称化している。

 

『これより120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲の砲撃を開始する!!総員、準備に掛かれッ!!!!!』

 

「く、訓練じゃないのか!?」

 

「おいおい敵が攻めてくるのか?」

 

「野郎共!!命令通りに動け!!!!それに、ここにあるのはアンチ飛行目標兵器たる、ストーンヘンジだ!!!!隕石だって堕とせるこの大砲が、高々普通の航空機如きにどうこう出来るものか!!!!!」

 

班長の言葉で、少しばかり浮き足立っていた兵士達が落ち着きを取り戻し、自らの任務に取り掛かる。

 

「ターンテーブル、起動。各砲、所定位置へ」

 

「敵速320ノット、方位93°、仰角56°」

 

「月華弾、装填」

 

各地で防衛準備が行われてる中、東京でも最後の悪あがき用の兵器が準備される。東京を始め、皇国の重要地域、例えば工場地帯や政令指定都市、経済的中心地といった場所には、必ず皇国の兵器ドームが建設されている。この兵器ドームには超高高度防衛ミサイル『富士』に前線防空ミサイルシステム『桜島』を合わせて簡易化したシステムが収められており、防空最後の砦として機能する。

このシステムはまず各地のレーダーや衛星の情報を分析し、最大の射程を誇る『富士』や他の長距離、中距離、短距離、連装20mmバルカン砲の順に攻撃する手筈になっている。因みに場所によっては武装が一部オミットされている事や、沿岸部には48式地対艦ミサイルを装備していたりする場合もあったりする。

 

 

 

数十分後 グラ・バルカス帝国攻撃隊 指揮官機

「航法士、後どのくらいだ?」

 

「ハッ。後、およそ1時間ほどで東京上空です」

 

「何でも皇国は、木造建築が多いと聞く。よく燃えるだろうな」

 

「どうせなら焼夷弾でも積んでくるべきでしたかね?」

 

「いや。流石に政府施設は、しっかりとコンクリートとかレンガとかで作られているそうだ。流石に爆弾の方が良いだろうよ」

 

帝国軍の最優先破壊目標は、東京そのものではなく、正確には東京に点在する主要な政府施設である。例えば国会議事堂、首相官邸、各省庁の庁舎ビルといった政治の中枢部に、消防庁、警視庁、警察庁の様な執行機関の施設、はたまた統合参謀本部といった軍事的中心施設。そして無論、恐れ多いは言えど、皇国の主たる天皇陛下の住う皇居も攻撃対象に入っている。

因みに念の為に言っておくが、何処かのパーパルディア皇国よろしく適当な情報で適当に決めた物ではない。しっかり皇国国内や周辺国に入り込んでいるスパイや情報提供者から得た情報を用いて立案したプランである。

 

「敵編隊、射程内に入りました」

 

「迎撃開始ッ!!!!」

 

「提灯、攻撃始め!!!!」

 

初撃を加えたのは提灯であった。超大口径レールガンから放たれた月華弾は、先頭集団を薙ぎ払う様に起爆。指揮官機を含め、たったの1射で250機近くが撃墜された。

 

『なんだぁ!?!?』

 

『球体の炎.......だと.......』

 

『全機、とにかく間を取れ!!!!あんな面攻撃に編隊組んで突入するのは自殺行為だ!!!!!』

 

誰が言ったのかは分からなかったが、パイロット達は即座に従った。命令系統とか指揮継承権だのはもう、全部まとめて先頭で吹き飛んだ。となれば今は、自分達が取るべき最良のものを独自に決断し実行する他ない。

 

「だ、大丈夫ですよね先輩!!!!」

 

「俺も聞きてぇよ!!だが今は、とにかく間隔をあける。そうでもなきゃ、俺達はまとめて死ぬ。あの炎の球体で焼き尽くされる!!」

 

今回爆撃に参加している部隊は軒並み、本国でも選りすぐりのエリート。特にグティーマウン型爆撃機を配備する、超重爆撃連隊の連中の判断は素早かった。

 

「超重爆撃連隊全機、最高高度まで上昇!!我に続け!!!!」

 

グティーマウン型爆撃機とは、グラ・バルカス帝国の生み出した戦略爆撃機であり、旧海軍の富嶽に似ている。この爆撃機は未だグラ・バルカス帝国では前人未到の高度1万2,000mでの巡航を可能にした機体であり、敵の防空網を悠々と突破し目標を爆撃せしめる機体なのだ。

とは言え設計的にはかなり無茶をしており、エンジンはよく故障するわ、そもそもエンジン出力で無理矢理飛ばしているものだから機体はフラつくし、お陰で離陸は良いとして着陸が超絶難しかったりと、結構な欠陥を抱えた機体でもある。

 

「敵機、2隊に別れました。目標群アルファ(爆撃機連合)、速度高度変わらないものの、機体間隔を広げています。目標群ブラボー(超重爆撃連隊)、速度増速の上、今尚高度を上げています」

 

「提灯、ストーンヘンジ、弾種変更。個別目標迎撃へ」

 

「了解」

 

ストーンヘンジも提灯も、その巨大さ故に再装填にはとにかく時間がかかる。提灯なら次弾装填と電力チャージ完了までには1分掛かる。一応、コンデンサーを使えば短縮できるが、今回は使わずに行くので次の射撃までは1分のインターバルが発生する。

 

「高度1万2,000!水平飛行に移ります!!」

 

「よし、全機このまま首都を目指す。最大推力で行け!!!」

 

超重爆撃連隊は下の爆撃機連合を置いて、首都に先行する道を選んだ。だが、その動きは全て皇国には筒抜けである。

 

「目標群アルファ、高度1万2,000mにて巡航中」

 

「ストーンヘンジ、攻撃始め」

 

「カウント5、4、3、2、1。発射!!」

 

ソニックブームを伴って、時雨弾がマッハ23という超高速を持って超重爆撃連隊に襲い掛かる。編隊の前方で炸裂し、周囲にミサイルをばら撒いて次々に血祭りに上げていく。特に砲弾そのものの直径がデカいので、内包されているミサイルの数は艦艇のソレとは比べ物にもならない。

 

『助けてくれ!!死にたくねぇ!!!!』

 

『何が起きた!?!?』

 

『おーい!!50機は落ちたぞ!!!!』

 

『落ち着け!!!編隊を開けろ!!!!!』

 

流石に一撃で数十機が堕ちる戦場は、百戦錬磨だったグラ・バルカス帝国軍とて経験したことがなかった。お陰で精鋭の筈の超重爆撃連隊の皆様も、このザマである。

だがしかし、まだまだ歓迎の式典は終わらない。まだ言ってしまえば、開会の言葉程度。ようやくスタートしたに過ぎない。次にやってきたのは、コイツらである。

 

『こちら臨時指揮官機。前方雲の中、何か見える。警戒せよ!!』

 

爆撃機連合の方に、次なる刺客が迫っていた。目の前には真っ白で綺麗な雲が浮かんでおり、その中に何かを見つけたのだ。

 

『何だあれは.......』

 

『何かの影か?』

 

先頭のパイロット達は、その雲の中に注目した。何か分からないが、確かに何かの影が見える。次の瞬間、彼らの目には見たこともない物が飛び込んできた。

真っ白な機体の、全翼機。巨大な二重反転プロペラを8つ搭載した、巨大な怪鳥とすら言える機体である。それが3機もいた。

 

『何かを落としています!!』

 

『爆弾か?』

 

『分からない。だが爆弾にしては平たくないか?』

 

知っての通り『白鳳』の翼下には、多数のUAVを抱えることができる。このUAVは『白鳳』から投下されると、機体を180°反転させてから敵に襲い掛かる。相対するパイロット達としては、結構トラウマになる光景である。

 

『敵機来襲!!!!』

 

『戦闘機隊、我に続け!!!!』

 

『うっしゃぁ!!!!あのデカブツを落とすぞ!!!!』

 

この時代の爆撃機には、防護機銃が至る所に搭載されている。例え当たらずとも、弾幕を張ればパイロットは怯み撃墜出来ずとも妨害する事はできる。

 

「おい野郎共、撃ちまくれ!!!!」

 

「おう!!」

 

ドカカカカカカカカカカ!!!!

 

「弾幕最高!!!!」

 

「コリがほぐれるぜ!!!」

 

「ヒャッハーー!!!!!」

 

先述の通り、弾幕を貼り続ければ被弾せずとも怯みはする。だがそれは、有人機の場合である。UAVであるMQ8飛燕には、そもそも人間の有する恐れの感情は存在しない。

 

「この弾幕を物ともしないのか!!」

 

「ヤバい後ろに付かれた!!!!」

 

「振り切るぞ!!!!」

 

オマケにジェット機な上に小型機で小回りが効くので、巨大で鈍重な爆撃機では振り切る事は不可能である。

 

「後ろに回り込む!!」

 

『はい!!!』

 

「よくも爆撃隊をやりやが——」

 

例え戦闘機であっても、背後に着けば他の飛燕が後ろから襲い掛かる。UAV同士は常に情報を戦術データリンクでやり取りしている関係上、連携プレイの技術は人間をも凌ぐ事も多々ある。特に新人のルーキーパイロットや、こういうUAVに不慣れのパイロットであれば鴨である。逆にエースやベテランは、枠に囚われずに行動できるのでUAVを完封する事もできる。

 

『隊長、爆撃隊が!!!!』

 

『後ろを振り返るな!!!我々はあの巨大機を惹きつけ、爆撃隊を前進させるのだ!!!!!!』

 

一部のアンタレス改には、小型ロケット弾が翼下パイロンに装備されている。本来なら対軽装甲目標に使うべきだが、こういう超大型機相手にはお誂え向きといえるだろう。

とは言え、目の前の『白鳳』は胴体中央部のレクテナを破壊するのが、航空機なら唯一の破壊方法である。そんな芸当は三本線の大馬鹿野郎(トリガー)クラスでないと不可能である以上、倒すのは不可能だ。

 

「よーい、撃て!!」

 

一斉に放たれるロケット弾。だがそれを感知した『白鳳』は、直ちにAPSを作動。電磁バリアを展開してロケット弾を無力化し、ついでに回避の間に合わなかった一部の戦闘機も墜とした。

 

『何だ今のは!!!!』

 

『クソッ!6番機、8番機、15番機もやられた!!!!』

 

『バリアかクソッ!!!!』

 

『SFの技術だろ!!!!何でそんなのがあるんだよ!!!!!!』

 

流石にAPSには対応できないらしい。だがAPSとて万能ではない。『白鳳』のAPSは言うなれば第一世代であり、内部の攻撃も無力化してしまう。つまり『日ノ本』がやっていた様に、APSで攻撃を防ぎながら一方的に攻撃というのは出来ないのだ。

 

『バリアが剥がれるぞ!!!!』

 

しかも持続性はあまり無い為、すぐに剥がれてしまう。だが、そうだとしても常にこっちのターンだ。

 

「よし、突っ込め!!!!」

 

『隊長に続けぇ!!!!』

 

そう言って突っ込んでくるが、『白鳳』の機体下部にはTLSとパルスレーザーがある。こちらの弾幕で全て破砕するのみだ。

爆撃機連合は『白鳳』との会敵から、僅か20分で全滅。生き残りはいなかった。さて、残る超重爆撃連隊も末路は似た様な物ではあるが、一応彼らの最期を見届けよう。

 

「レーダーコンタクト。敵影、射程に入りました」

 

「分かった。だがどうやら、彼らが先にやるらしい。まずは彼らに、だ」

 

超重爆撃連隊の上空、高度5万mに陣取った機動空中要塞『鳳凰』が動き出す。下方の敵編隊に向け、攻撃を始めた。

 

「エネルギーチャージ完了」

 

「敵編隊中心部に照準、固定しました」

 

「撃ち方、始め!!!」

 

まず降り注ぐはレールガンによる砲撃の雨。続けてTLSによる、レーザーの雨である。流石に高度5万mともなれば迎撃するどころか、肉眼で捉える事すらできない。

 

「編隊中央部、次々に攻撃されている!!!!」

 

『回避しろ!!!!』

 

『あぁダメだ!!!!68番機が堕ちる!!!!』

 

「クソッ、エーロリエの野郎!!!!」

 

既に三分の一がやられたが、それでも彼らは前に進む。首都の東京を燃やし、死んでいった仲間達への焼香とするために。だがそれを許してくれる程、皇国も優しくは無い。

 

「戦闘機隊、突撃せよ」

 

超重爆撃連隊の後方に布陣した本土航空隊と、空中空母艦隊の艦載機が攻撃を始める。しかも今回は皇国のセオリーたる、アウトレンジからのミサイル攻撃だ。彼らは何が起きたか分かる前に、撃墜されていく。

 

「よ、4、5番エンジン被弾!!!!6番も停止!!!!」

 

「い、いかん爆発するぅ!!!!」

 

『3番機がやられたぞ!!!』

 

『何処からの攻撃だ!?!?』

 

ミサイルは機体からの発射直後は煙とかの航跡が見えるが、一定のラインを超えると煙は目立たなくなる。故に彼らからしてみれば、何の前触れもなくいきなり爆発した様な物なのだ。

 

「エンジン被弾!!!!」

 

「消火器だ消火器持って来い!!!!」

 

「ダメだ隔壁ごと吹っ飛んでる!!!!脱出し」

 

爆撃隊の末路は、まるでなぶり殺しであった。エンジンが吹っ飛んで、そのエンジンのついてる主翼も吹き飛び、そのまま燃料に引火して機体ごと爆発する機体。胴体に命中し、爆弾が誘爆して中から爆発する機体。翼の付け根に辺り、片翼が折れて錐揉み状態に陥る機体。その死に様はそれぞれだったが、どれも悲惨であった。

 

「うおぉ!!!!」

 

「あぁぁぁぁ———-」

 

「尻尾がちぎれた!!!!」

 

「アナーリルが吸い出された!!!!」

 

「バランスが取れない!!!!」

 

「うおぉぉぉ!!!!!」

「操縦不能!!操縦不能!!」

「ダメだ堕ちる!!!!」

「助けてくれぇぇぇぇ!!!!!」

 

殆どの爆撃機がやられた時、空中空母艦隊が現れる。巨大な、まるで空のマンタの様な見た目に生き残ったパイロット達は恐るどころか、瞬時に仇だと勘付き襲い掛かる。

 

「行くぞ!!!!仲間の怨み、思いしれ!!!!!」

 

「こっちは掃射機型なんだよ!!!!」

 

「死ぬ気で行くぞ!!!!!」

 

幸か不幸か、生き残っていた機体で多かったのは編隊の最外縁部に配置されていた、掃射機型のグティーマウンだった。この掃射機型は爆弾の代わりに無数の57mm機関砲を装備しており、爆弾の代わりに機関砲弾の雨を降らせる。空中空母艦隊には爆弾よりも効果があるというか、攻撃がしやすいだろう。

 

「敵機、向かってきます」

 

「迎撃しろ」

 

だが、それが叶う事はない。

 

「突っ込——」

 

残る数十機は、全て空中空母艦隊の展開した弾幕の前に沈んだ。何せ『黒鯨』に至っては速射砲、機関砲の数だけで言えば熱田型にも匹敵する。それだけの弾幕を前にすれば、例え超重爆撃機と言えど機体が持たない。

この日、首都への爆撃を敢行した爆撃機編隊は護衛機諸共、全機撃墜という形で幕を下ろした。

 

*1
皇居の地下にある核シェルターであり、例え皇居上空でツァーリ・ボンバ級の核爆発が起きても耐えられる設計が施されている。この存在は国家機密であり、知る者はごく一部である。その為、一色と神谷はその職務上知っているが、川山は三英傑と言えど所詮は外交官である為、この存在は都市伝説程度でしか知らない。

*2
伊1500型を皇族脱出様に改装した物であり、内部は通常の潜水艦と変わりないが、エンジンをより高出力のものに換装し魚雷を降ろして、余剰スペースに皇族用の寝室を増設してある。だが全くの無武装という訳ではなく、SLBMを搭載できるVLSは装備しており、弾頭には核が搭載されている。これは最悪中の最悪の状況の際、それもバイオハザードレベルの事態が起きた際等に発動する、東京帝都放棄フェイズに突入した際に放たれる。



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第七十七話対応に追われる世界

海戦終結より1週間後 究極超戦艦『日ノ本』 医務室

「こ、ここは.......。何処だ.......?地獄、か.......?」

 

「ここは地獄ではないよ」

 

「では、天国か?」

 

「まさか。生憎と、ここはまだ現世。だが、そう。強いて言えばここは『天国の外側(アウターヘブン)』だ!!!!」

 

いきなり謎の男から謎の単語を言われ、見事に混乱するカイザル。そもそもここは何処かも分からないが、微かに潮の香りがする。恐らく、船の中なのは分かった。

 

「おーい先生、いきなりメタルギアネタを突っ込むんじゃないよ!異世界人にそれは分からんだろ!!」

 

「えぇー。なんか異世界人が昏睡状態から目覚めたら、そういう風にやれって先輩に言われたんですけど.......」

 

「誰だそれ言ったの」

 

「そりゃ勿論、『天之御影』の軍医ですよ」

 

「.......そういや、いつかのロウリアの将軍が目覚めた時にもやってたなアイツ。道理でデジャブった訳だ」

 

ベッドの横に、さっき謎の単語を言ってきた医者らしき白衣の男と、その横に紫色で幅広の袖を持つ服を着た男がいた。背中にはカンジとか言う、皇国の文字が書かれている。

 

「貴殿らは一体.......」

 

「あー、おいこら軍医!お前さんに突っ込んでたら、挨拶遅れたじゃねーか!」

 

「反省はしている。が、後悔はしてない!!!」

 

「いや後悔せんかい!!ほら、仕事が終わったら出てけー」

 

「ウィース」

 

明らかに上官と部下の会話ではない。カンジの書かれた服を着た男がゆっくりと振り返る。

 

「部下が済まなかったな。安心しろ、アンタは生きてる」

 

「私は生きているべき人間ではないよ.......。あの作戦を止める事もできず、部下をむざむざと死なせ、自分はのうのうと生き延びた.......。なんたる事だ..............」

 

「止めるも何も、アレは上が断ったんだろ?」

 

「ッ!?何故.......その事を」

 

「皇国の電波探知能力と暗号解析能力をみくびってもらっちゃ困る。幾らそっちが通信電波を暗号化していようと、その技術はとっくの昔に俺達が通った後。実質平文で打ってるのと変わらない」

 

カイザルに衝撃が走った。という事は、元より全て作戦はお見通しだったという事になる。これでは勝つ事はできない。

 

「貴殿は.......一体.......」

 

「そういやまだ名乗っていなかったな。大日本皇国統合軍司令長官、神谷浩三・修羅だ。神谷戦闘団と白亜衆の長、と言えば分かるか?」

 

「なるほど、何処かで見たと思えば思えば.......。こんな状態で失礼する。グラ・バルカス帝国海軍、インフェルノ艦隊司令、カイザル・ローランドだ」

 

カイザルは座った状態、神谷は直立不動で互いに敬礼した。敵として相対していたとはいえど、今や怨みも敵意も殺意もない。

 

「さーてカイザル司令、早速だが本題に入ろう。俺は交渉、というかアンタらの要望聞き及び質問の受け付けに来た。其方は我々に何を望む?」

 

「まずは状況を教えて頂きたい。私がそちらの医務室で治療を受けているのも、ここが船であることも、そして私が捕虜なのも分かっている。だがそれ以外が分からない」

 

「取り敢えず今日はあの夜から1週間が経っていて、今この艦は皇国を目指して航行している。とは言っても明日の昼には着くがな。でもってアンタらの状況だが、インフェルノ艦隊は壊滅。生き残って離脱できたのは空母3隻、戦艦1隻、重巡2隻、軽巡6隻、駆逐艦23隻。こちらは拿捕したグレードアトラスター級2隻、という状態だ。

捕虜はアンタを筆頭に、全体を通して大体3万6,000人って所らしい。中には重傷、瀕死、救助後に亡くなった者もいるそうだ。あ、救助後に戦死した将兵に関しては、そちらのやり方で水葬にさせてもらっている。伝えるべきはこんな所か?」

 

カイザルは驚いた。まさか敵にここまでの敬意を払ってくれているとは、全く考えてもみなかったのだ。特に死亡後に水葬するのは普通だが、態々その様式を帝国式にして見送らせて貰えたのは嬉しかった。単純に海に死体を流して終わりでも文句は言えないし、帝国では基本そうする。にも関わらず、皇国はそれをしなかった。これだけでも、信頼に足る国家だ。

だからこそカイザルは、最早艦隊司令でも提督でもなく、軍神ですら無くなった身ではあるが、この海戦を指揮した指揮官として最後の責務を果たすべく神谷の方に向き直った。

 

「.......まずは敵である我々にも救助の手を差し伸べて頂き、更には帝国式の水葬を持って手厚く葬って頂いた事、感謝する。ありがとう。

そして不躾は承知の上で、1つお願いしたい」

 

「どうぞ?」

 

「どうか、私の部下達には慈悲を頂きたい。捕虜となり、我が国が貴国の捕虜を虐殺しようとしていたのは承知の上、虫が良すぎるというのも分かった上で、どうか伏してお願いしたい。私はどうなっても構わない。だがどうか、私の部下達には温情を.......」

 

「無論、そのつもりだ。とは言え数が数だ。全部を皇国で面倒は見ないだろうが、それでも捕虜は人道的に扱う。3食の食事、温かい寝床、最低限の衛生と医療の補償、拷問、虐待、処刑といった事はしないと確約しよう。無論、引き渡す事になる国家に関しても正式に要請する。

我々は戦争をしているし、戦闘中であれば敵は容赦なく排除する。だが捕虜や戦えぬ者を痛ぶる趣味は、ウチの国にはないよ。というか軍規にその手の事は禁止と明記されているし、旧世界ではそれが当たり前ではあった。心配しなくていい」

 

「そうか.......」

 

これでカイザル・ローランド海軍大将としての、最後の職務は終わった。今後どうなるのかは分からないが、今は取り敢えず眠りたかった。

翌日、聨合艦隊は皇国に帰還した。一部の艦艇は軽傷者や無傷だった捕虜をムーを筆頭とする第二文明圏国家に引き渡すべく離れてはいるが、それでも殆どの艦艇は祖国たる大日本皇国の各母港へと帰還したのだ。だが神谷はそのまま、首相官邸へと赴く。無論、三英傑で集まるためだ。

 

「おー、お帰り」

 

「かなり大暴れだったそうじゃないか」

 

「あぁ、ただいま」

 

「そんじゃ、恒例の会議を始めますかね」

 

いつもの様に一色の音頭で会議が始まる。会議と名をうっちゃいるし中身こそ真面目だが、会議ほど緊張感のあるピリピリとした物ではない。良くてチームミーティング、下手をすれば学生の雑談である。

 

「まあ聞くまでも無いんだろうけど、無傷で勝ったんだよな?」

 

「あぁ。こちらの被害はない上に、新兵器の実戦データも取れた。ウハウハだ。一方、グラ・バルカス帝国海軍、インフェルノ艦隊というそうだが、そっちは壊滅的被害を受けている。いや、もう全滅と言って差し支え無い」

 

「どの程度やったんだ?」

 

「あー、慎太郎は知らなかったな。大体の概算で行くと戦艦50、空母60、航空戦艦20、重巡110、軽巡360、駆逐1000隻超えっていう大艦隊だった。だが最終的に生き残ったのは空母3、戦艦1、重巡2、軽巡6、駆逐艦23。軍隊では半数がやられると全滅表記な訳だが、今回では90%以上が撃沈されている。しかも生き残ってるのも、しっかりダメージが入ってる。仮に生き残っても長いこと修理する羽目になるし、場合によっちゃ廃艦の可能性も出てくる。ついでにグレードアトラスター級2隻も拿捕してきた」

 

思ってたよりも容赦ない事態に、川山ドン引きである。というかそもそも、普通にグラ・バルカス帝国が物量チートすぎる。皇国も大概だが、単純な国力で言えば当時の大日本帝国をも上回るだろう。そして何より、ちゃっかりとグレードアトラスター級を拿捕してきている。ん?グレードアトラスター級を拿捕?

 

「おいちょっと待て。え、なに。何を拿捕したって?」

 

「グレードアトラスター級戦艦2隻」

 

「.......え、マジ?それ、どうすんの?」

 

「そっちで有効活用できない?」

 

川山も外交官である以上、安全保障やパワーバランス云々の軍事の知識も持っている。流石に神谷には負けるが、それでもある程度はわかる。故にこのグレードアトラスター級というカードは、かなりのギャンブルであることが分かった。

まずグレードアトラスター級自体は、皇国内での利用価値は無い。スクラップにして鉄屑にするのが関の山だ。だが、対外的にはかなり重要となる。未だこの世界は大艦巨砲主義であり、グレードアトラスター級はその中では破格の性能を持つ。チート兵器であり、ゲームチェンジャーなのだ。特に『グレードアトラスター』自体がその悪名を世界中に轟かせており、もしそれが手に入るとなれば喉から手が出るほど欲しいだろう。皇国にとっては屑鉄でも、交渉次第で莫大な恩恵を齎す金のガチョウなのだ。

一方で、これはパンドラの箱ともなり得る。グレードアトラスター級1隻で、この世界のパワーバランスが崩壊するのだ。皇国がトップなのは変わらずとも、例えばムーが2隻とも持てばミリシアルを上回り、ミリシアルならミリシアル一強状態になる。他の国なら、ムーと同率かムーの上あたりになるだろう。今後の戦後国際社会がどうなるか、割と重要な岐路なのだ。

 

「.......難しいな。少し考える時間が欲しい」

 

「心配すんな。流石に無傷とはいってないから、どの道修復しないといけないし、何より念の為に解析はするつもりだ。一応、当時の大和型との比較とか性能テストとかをやっておきたい」

 

「分かった。それまでには答えを出しておこう」

 

「次は俺だな」

 

今度は一色が話し出す。内容は先の本土空襲に於ける、皇国内の被害についてだ。

 

「まあ言わなくても分かるだろうが、実害は無しだ。だが経済的にはちょっとばかし痛いな。あの時出したJアラートで、軽く株価が落ちた。今は回復方向だがな。後物流がストップした影響で、色々なところに皺寄せが少しばかし行ってる。こっちはそこまで気にする事ないが」

 

「やっぱり実害なくとも、微妙に面倒な被害は出るか」

 

「こればかりは軍でどうこうって訳にはいかないからな。流石に国民保護の観点から、あの規模で避難指示を出さない訳にもいかん」

 

地味にあの空襲で被害はあったのだ。ホント微々たる物だが。とは言えこの経済的損失の何百、もしかすれば何千倍もの損失をグラ・バルカス帝国は支払っている。

 

「次は俺なんだが、外交ルートとしては特に今の所はないな。第二文明圏への捕虜受け入れに関する話も纏まっているし、国ごとに差はあれど人道的に扱う様に強く要請した。虐殺とか拷問云々は無い筈だ。

あ、そうだ。浩三から連絡があったFCS照射と天皇陛下及び皇国への侮辱etcといったミリシアルのやらかしに関しても、しっかり文句言って来たから心配すんな」

 

因みにこれ、態々政府専用機で神聖ミリシアル帝国本土の外務省まで行っている。頑張って圧を出しまくったらしい。因みに言ってきた事を意訳すると「天皇陛下を侮辱することとはつまり、我が国への宣戦布告。そして火器管制レーダーを照射する事も、同じく宣戦布告である。貴国はウチと戦争がしたいのか?お望みとあらば、直ちに艦隊を差し向けて艦砲射撃を食らわせてやろう」である。

割とマジで事実上の宣戦布告と、皇国にとっての宣戦布告というダブルやらかしをしているので、これ位したってバチは当たらないだろう。まあ担当者は冷や汗物で、最終的には外務省統括官のリアージュと外務大臣ぺクラスが謝罪までした。

 

「そんじゃ、俺から質問。浩三、ぶっちゃけこの戦争はどうなるんだ?」

 

一色が神谷にそう聞いてきた。だが、余りにアバウトすぎる。どうなると言われても、戦争はなる様にしかならない。とは言え、言わんとしている事は分かる。この戦争のエンディングが、その見通しが知りたいのだ。

 

「帝国は負け続けた。皇国が介入するまで全戦連勝だった訳だが、俺達が介入した結果、全戦連敗だ。しかも海ではもう、恐らく同規模の戦闘は出来ない。というかできる訳ない。確実にあの艦隊は、帝国の保有する主力艦隊級を束ねた一大艦隊。その艦隊、それも4桁単位の艦艇が一気に纏めて消えた。無論、本土防衛用の艦隊とかはあるだろうが海軍どこらか、国家としての基本戦略をも崩壊させたと言っていい。今後の海軍の戦略は、確実に攻撃から防御に周るだろう。というかこれでも攻勢に転じてきたら、いよいよ持って救い様がない。いっそ核で真っさらにした方が良いくらいだ。

でまあ次は陸なんだが、陸も陸でやられてる。既に第二文明圏に於ける戦況は、拮抗状態と言っていい。少なくともムーに突き立てられていた刃は、既に根本から折れてしまっている。すぐにまた攻撃する事はないだろう。逆に今度はムーとかミリシアル辺りが、反撃に転じるやもしれん。そして第二文明圏が解放された時、恐らくもう一度世界連合軍を組んで本土に攻め込むだろうな」

 

「浩三も同じ意見か.......」

 

「あぁ。俺は軍しか見てないが、会議とかで見えてくる根本の考え方的に多分やる」

 

「実は俺と健太郎も、同じ様に考えていた。各国要人と会った事は殆どないが、会わずとも大体は演説とか本とか記事とかで分かる。そしてこの世界はそもそも覇権主義が多すぎるからな」

 

この世界に来て、皇国はこれまで様々な国家と交流を持ってきた。だがその国家のほぼ全ての根底には、覇権主義や拡大主義というものが存在していた。それは列強国であっても変わらない。特に列強国の場合はそのプライドも加わるので、こういう戦争を仕掛けられた時というのは止まるところを知らない。パーパルディアが良い例だ。あそこは驕りがいつしか妄想に変わり、最終的に国家が滅んだ。パーパルディアは極端でもあるのだが、この世界の本質の代弁者とも言える。

故に三英傑は個人個人で、いつの間にか1つの結論に辿り着いた。それは「この戦争、どちらかが滅ぶまで終わらない」という物である。一色は両勢力の国家システムや思想から。川山は実際に外交官として見聞きしてきた全てから。神谷は各勢力のドクトリンと将兵達の観察から。3人とも全く別の視点ではあるが、それでも答えは同じだった。

 

「ならば戦後、軍事のバランスはどうなる?」

 

「無論、今のままで行けば確実に皇国一強だろうよ。ミリシアルには魔法帝国の遺産があるらしいから未知数だが、少なくとも通常戦力級での勝負なら皇国は遥か上だ。寧ろ俺としては、是非、大日本皇国の国家としてのお考えをお聞きしたいね、総理大臣閣下」

 

「俺としてはいつか話した、皇国を世界一の国家にするべくこの戦争を使うつもりだ。俺には浩三という軍事の申し子、慎太郎という敏腕外交官がいる。更にこれに加えて俺自身も、政治能力としてはトップクラスだと思っている。このカードがあれば無敵だ。

まずそうだな、帝国含め世界各国の復興事業に皇国が全面的に支援する。更にそこに皇国の企業を送り込めば、財界にも恩が売れる。そしてここで形成した影響力を元に、新たに国連に準ずる世界機関を作るつもりだ。

そして皇国を、名実共に最強国家(・・・・) 大日本皇国(・・・・・)とする。おもしろそうだろ?」

 

この言葉に2人は不適な笑みを浮かべた。言うなれば、この世界を平和的に支配しようと言うのだ。言い方を変えればそれは世界征服というヤツである。そんな話、男なら誰もが喜んで協力する。

 

「すべては皇国の繁栄と未来のために。皇国がこの世界にやってきたのも、きっと何か意味がある。世界が皇国中心に回り出す時、何かが分かる気がするんだよ、俺は」

 

「面白そうじゃねーか。なぁ、慎太郎」

 

「あぁ。そういうことなら、俺達はお前の野望に手を貸す」

 

彼らはまた、皇国のために動き出す。世界を股に掛けて大立ち回りするのも、案外楽しいのだ。

さてさて皇国では三英傑の何か黒い話が出ていた訳だが、世界各国の取り分けミリシアルとグラ・バルカス帝国の方は地獄であった。というかミリシアルに至っては、あの海戦が発生した直後からである。という訳で、ちょっと時間を巻き戻して……

 

 

 

海戦終結直後 神聖ミリシアル帝国 アルビオン城

「な、なんだったのだアレは.......」

 

議場は見事なまでにお通夜ムードであった。何せ映像越しとは言えど、たった今、目の前であり得ない事が立て続けに起き続けたのだ。こうもなる。

 

「ペラクス、アルネウス、ヒルカネ、シュミールパオ、アグラ以外はゆっくり休め。悪いが今読み上げた者は、この場に残るのだ」

 

閣僚達はいそいそ部屋から出ていく。その顔に浮かぶは、やつれきった表情だ。動きも相まって、まるでゾンビである。

 

「.......さて、お前達を残したのは他でもない。お前達の意見が聞きたいからだ。まずは最初の光、アレは何なのだ」

 

「情報局としては、あの様な兵器の情報は把握できておりませんでした。恐らくは最新鋭の兵器か秘匿兵器、或いはその両方といったところでしょう」

 

実は大日本皇国にも、ミリシアルの諜報員がいる。勿論敵対的な諜報活動ではなく、あくまで力の一端を知る為である。だが皇国の場合、生活にインターネットが普通に入り込んでいる。この手の技術は、ミリシアルには概念から存在しない。言うなれば第二次世界大戦位の人間が、いきなり近未来で生活をさせられるのだ。普通に考えて、無理である。お陰で情報は殆ど集まってない。大半が雑誌などの紙媒体、それからテレビやラジオからの情報なのだ。

 

「あの攻撃、恐らくは艦隊級極大閃光魔法の様な物でしょう。しかし艦隊級極大閃光魔法は、どんなに威力を高めてもあの様な威力は出せない筈です。それにそもそも、アレは対空攻撃に主眼を置いています。あんな風に使うとは.......」

 

「では、あのシールド。あのシールドはなんだ?」

 

「では、私の方からお答えしましょう。恐らくあのシールドは、我が軍のシールドとは別物でしょう。我が軍のシールドは魔法で船体を覆う物ですが、アレは船体中央部から輪が広がり、最終的に艦全体を覆っていました。

それに防御魔法は中に攻撃を通さないか、耐えられずに割れるかの二択。対してあのシールドは防ぐ、というよりは砲弾を溶かしていた様に見えました」

 

これはシュミールパオの言う通りである。防御魔法の場合、攻撃は通さない。魔法で出来た装甲板を展開すると考えて貰えれば分かりやすいのだが、防ぐ時は弾いたり爆発を受け止める感じだ。強度以上の攻撃ならば、単純に割れたり砕けたりする。

対して皇国のAPSは正確には、防ぐのではなく電磁場で破壊すると言うのが正しい。ミサイルとかなら普通に表面で即破壊されるので溶ける様に消えるが、例えば超高速の物体や表面積が大きい物になると破壊するのに時間がかかる。その為、一応戦闘機で球体の中に入り込む事も出来る。それでも1〜2秒程度で破壊されるので、殆ど意味はない。

 

「他にも色々と兵器が出てきたが、この際だ。はっきり申せ。あの兵器群について説明できる者、或いはそれができる者を知る者はおるか?」

 

誰もが黙った。もう何が何だか分からないし、例え同じ映像を繰り返し見ても分かる気がしない。皇国の軍事力、少なくとも海軍に関しては分からなすぎて底が知れない。

 

「おらぬ、か。ではアグラよ、あの艦隊に勝てるか?」

 

「誤解を恐れず申し上げますれば、例え帝国軍の全戦力を投入したとしても勝率は2〜3割でしょう。可能性があるとすれば古代兵器か、或いはオリハルコン級戦艦の対艦誘導魔光弾ウルティマ位です」

 

「これは皇国に対しての外交戦略について大幅な見直しが必要だな。まずはそうだな、今後外交官を派遣する際は一等外交官、若しくは課長クラスの者を。国内で対応する場合は部長クラス、もしくは統括官クラスで対応せよ。状況に応じ、局長クラスや外務大臣を呼び出す事も許す。よいな!」

 

「ハッ!!」

 

因みにこの命令が川山来訪時に適用され、リアージュとペラクスが出張ってきたのである。

さて、では今度はお茶の間の反応を見てみよう。海戦が終結した2週間後、大日本皇国統合軍は先の海戦に関する発表を行い、各国メディアに広報用に撮影しておいた映像を送り付けているのだ。

 

「「「「かんぱーーーい!!!!!」」」」

 

「戦時下だろうと平和だろうと、うまい酒に肴は最高だ!!!!」

 

「これだけで世界は平和になる!!!!」

 

ムーのとある大衆酒場。常にうまい酒とそれに合う料理を提供する店であり、この辺りの呑兵衛共ご用達の場所である。だがそれと同時に、この店は最新の皇国製テレビを置いている数少ない店でもある。地元の気心知れてる呑兵衛の他、外交官や商人の様な国際情勢が鍵となる人種もここを利用している。

 

「にしても、今日なんか人が多いな」

 

「なぁなぁ外交官の兄ちゃんよ。なんか今日、大事な事でもあんのかい?」

 

「え?えぇ。何でも、大日本皇国が何かやったらしくて。その発表に関する報道があるそうなので、多分それで我々の人種が多いのかと」

 

「へぇー、そうかい。お、噂をすれば何とやらだぜ!」

 

テレビに映ったのは、ムーではお馴染みのニュース番組『ニュース12』のオープニング映像である。知っての通り、かつて神谷がゲストとして出演した番組だ。

 

『ニュース12のお時間です。本日は予定を変更致しまして、大日本皇国統合軍の発表について報道して参ります。

2週間前の中央歴1644年4月6日から8日に掛けて、バルチスタ沖にて戦闘が勃発致しました。グラ・バルカス帝国は昨年の世界連合軍との海戦時よりも遥かに莫大な艦艇を投入しましたが、これに対し大日本皇国海軍は聨合艦隊を結成。グラ・バルカス帝国軍との交戦の末、勝利を収めたとの事です』

 

『ヴィクトリアムさん、聨合艦隊というのは何でしょう?』

 

『皇国海軍の公式ホームページからの記述によりますと、聨合艦隊とは旧大日本帝國海軍時代の制度であり、現在では皇国海軍の八個ある主力艦隊を1人の司令官が指揮する艦隊、との事です。

今回の司令官は以前この番組にも出演頂いた、大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三・修羅元帥であり、出演時に解説して頂いた究極超戦艦『日ノ本』が総旗艦として参加したそうです。こちらはVTRがありますのでご覧ください』

 

映像が切り替わり、ダークブルーの背景に菊の御門と旭日旗が映る。その下にImperial Japanese Navy(大日本皇国海軍)の頭文字たる『IJN』が下に映る。

更に映像は切り替わり、オーケストラの演奏による壮大で厳かな雰囲気のBGMと共に聨合艦隊の上空映像が映った。先の第一次バルチスタ沖海戦時に参加した世界連合艦隊総艦艇数の、およそ3.4倍もの艦艇が広大な海を進む姿は見る者の目を釘付けにした。しかもこれ、実は広報用にやってた艦隊陣形なので観艦式ばりに気合が入った操艦をしている。お陰で全艦、寸分違わず綺麗に並んでいるのだ。

更に映像は進み、今度は艦隊陣容に関する記述が画面右側に表示される。詳しくは『第七十話新たなる守護神』にて記載しているので、そちらをご覧頂きたい。

 

「す、すげぇ!!!!」

 

「こんな大艦隊、見た事ないぞ!!!!」

 

「世界中の軍艦を集めても、ここまでの大艦隊になるか!?!?」

 

「そんな大艦隊をたった一国で.......」

 

ここまでの大艦隊、流石の異世界人とて見たことが無かった。この映像には酔っ払い共もしっかり画面に齧り付くかの如く見ている上に、いつもなら息をする様に消えていく酒も今回ばかりは止まっている。

 

『まさに空前絶後の大艦隊ですね!!』

 

『しかしフェアチルドさん!!それに画面の前の皆様!!驚くにはまだ早いですよ!なんと今回は、第二次バルチスタ沖海戦の最終決戦の映像が一部ですが入手できました!!こちらもご覧ください!!!!」

 

今度は最後の海戦の映像に切り替わる。まず最初に行われた波動砲の一斉発射に始まり、旭日弾の斉射、ミサイルと砲弾の雨と言ったあの海戦の一部始終が映し出された。最後にはあの戦艦『ワームホール』の土手っ腹を突き破るシーンまであり、スタジオもお茶の間も騒然であった。

 

『これが大日本皇国の戦争なのですね.......』

 

『全てが異次元すぎて、もう何とも言えません。しかし一つだけ言えるのは、大日本皇国がいる限り、このグラ・バルカス帝国との戦争は勝てるという事です。CMの後は先程の映像をより詳しく掘り下げていきますよ!!チャンネルはそのまま!!!!』

 

一瞬の間を置いて、酒場は一気に大歓声に包まれた。呑兵衛共はグラスを掲げ、商人とか外交官組も酒を頼んでグラスを掲げる。そのまま日本談義が始まりながら、酒とツマミが飛ぶ様に売れた。

同じ頃、グラ・バルカス帝国帝都ラグナでは、緊急の帝前会議が行われていた。議題は勿論、第二次バルチスタ沖海戦に於ける被害の話などである。参加者もグラ・ルークスを筆頭に、軍や政府の幹部達ばかりである。

 

「やられたようだな、サンド・パスタルよ。今後、貴様はどの様な手段を取るつもりなのだ?」

 

「は、はっ。恐れながら、海軍の主力艦隊級は完全に消え去ったと申し上げて差し支えありません。ですので、まずはこの艦隊の再建が急務であり、艦隊の再編成と各主要企業に艦艇を発注しております」

 

「で?」

 

「あっ.......えっと.......」

 

統合参謀本部議長のサンド・パスタルは、既に軽く過呼吸になりかけていた。負けた以上報告しなくてはならないのだが、こんな大敗北の報告なんてしたくない。言葉は詰まるわ、噛み噛みになるわで大忙しであった。だがここで、帝都防衛隊隊長たるジークスが話し始めた。

 

「今回帝国艦隊は皇国と交戦し、カイザル提督の戦死を筆頭に甚大な被害を受けました。しかも皇国に対しては全くと言って良いほどダメージを与えていない。強いて言うなら弾代と燃料代、それからちょっとした凹みの修理費程度の経済的ダメージしか与えていないといっても過言ではありません。。我々は過去の経験則から導きだした皇国はそこそこ強いと判断していました。

しかし、現実は規格外に強かった。荒唐無稽な前線での報告はほぼすべて本当の事だった。かなり強力な国と想定していましたが、それでも甘く見すぎていたとしか言い様がありません。

 

ジークスが話を続けようとしたとき、帝王府長官カーツが吼えた。

 

「馬鹿者っ!!甘く見すぎていたでは収まらんぞっ!!我が国は世界に宣戦布告をしているのだっ!!敵が思ったより強かったから、ごめんなさいで済むかあっ!!!!!!

グラ・カバル皇太子殿下の件と言い、軍部は弛んどるのかっ!!」

 

「軍部は決して弛んではいません。

カバル皇太子殿下の件は、軍部は反対意見を出しましたが、帝王府からの強い要請があったと聞いています」

 

「ぐっ!!今後はどうするのか言ってみろ!!」

 

「今後の基本戦略も積極的攻勢から、防衛に変更いたします。船団護衛や支配地域に配備する艦艇を増やし、当面の間は防御に徹します」

 

「なんだとっ!!栄えあるグラ・バルカス帝国が守りに徹するだとぉ!!」

 

「出来ぬことは出来ぬ。であれば今はその様な精神論よりも、現実的に物事を見るべきです」

 

このカーツという男、未だにカバル皇太子の事で軍を恨んでいた。あれは軍が何度もやめておけと言っておいたのに強行したから起きた事件であり、流石にこのことの責任を全部押し付けられては溜まったものじゃない。だが帝王府も責任は取りたくない。お陰で軍部と帝王府で、勝手に喧嘩が始まる始末であった。

だがそれをルークスが止め、ジークスに話を聞く。

 

「それほどまでか、大日本皇国?」

 

「……はい」

 

「解った。ジークス、本土防衛はお前に任せる。今後どうなると考える?」

 

「皇国の兵器の性能は想定を遙かに超えます。今回の海戦ではそもそも兵器自体に、説明がつかぬ兵装がいくつもあり、レーダーすらも使用不能にされます。

よって基本的にレーダーに頼りすぎる事無く、哨戒機を多数出して消息を絶った所に大量の航空機を投入、圧倒的物量でたたきつぶす方向性で行きたいと思っています。無線も使用不能にされることもある事から、有視界飛行と発光信号の面制圧哨戒を物量で行うしかありません。現在同戦法を行うための研究にとりかかっています」

 

ルークスは正直この場で頭を抱えたいが、帝王としてそんなみっともない真似はできない。そんな苦労も知らず、ジークスは続ける。

 

「敵はおそらくレイフォルに攻撃を仕掛けてきます。敵陸軍兵力の大規模上陸は行われていない事から、ムーが主力、皇国がサブとなって攻めてくるでしょう。

皇国のこれまでの戦法ならば、レイフォル沖に展開する海軍を無力化した後。兵糧攻めをしつつ空爆で重要施設を破壊し弱体化。最後にムーが攻め込んという戦法を取ると考えられます。

しかしムー国の最寄りの基地でさえレイフォル沖から800kmは離れている。皇国の戦闘機の戦闘行動半径は現在調査中ですが、800km以上あるなら脅威と言って良いでしょう。

ただ、我が軍の兵糧攻めを使用とした場合、主力は海軍になります。北回りの海域に、機雷を大量に設置して完全封鎖します」

 

「北回りの海域を封鎖したら、今後の神聖ミリシアル帝国戦で苦労するのではないか?」

 

「現在はそのような状況ではありません。帝都防衛隊長として、帝国本土だけは敵の侵略から守る必要があります。

本土防衛のため、レイフォルの陥落だけは避けたい。レイフォルさえ陥落しなければ帝都は安全であると断言できるでしょう」

 

帝都防衛隊長の口から帝都が危機に瀕していると聞き、皆戦慄する。軍に疎い大臣達の征服欲も、今回の海戦結果は沈黙せざるを得ない内容だった。

世界征服や、さらなる領土拡大だけでも危うい事を、会議の面々は文字通り身を持って知ったのだ。因みに帝国の本土は普通に大陸間弾道ミサイルの射程圏内だし、富嶽爆撃隊も空中給油を用いれば堂々と爆撃できたりするが、それは言っちゃいけないお約束である。

 

 

 

 



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第七十八話特殊部隊VS特殊部隊

1ヶ月後後 ヒノマワリ王国 首都ハルナガ京 グラ・バルカス帝国制統府

「話しが違います!!国民を餓えさせないとお約束したではありませんか!!あなた方の上位組織である外務省にも約束しているはずです!!

現在国民の多くが餓えに苦しみ、栄養失調による死者さえ出ているっ!!!

貴国軍が多くの食料を蓄えるため、我が国の食料流通さえも押さえているからですっ!!!すぐにでも貴国軍の倉庫から国民に食料を与えなさいっ!!!」

 

ヒノマワリ王国、第3王女フレイアは王室の制止を振り切り、単身でグラ・バルカス帝国正統府へ乗り込んできていた。帝国へ意見することは命に関わる事は承知の上であったが、国民の餓えの惨状を見るに見かねて飛び出してきたのだった。

そもそもヒノマワリ王国とは何処にあって、飢えってどういう事やねんという読者諸氏が大半であろう。これを語るためには、約1年前まで時を遡る必要がある。1年前、グラ・バルカス帝国軍は第二文明圏に侵攻を開始した。全然連勝による快進撃で、一時はムーの領土すらも占領した事もある。ヒノマワリ王国はその侵攻時に占領された国家であり、現在はお決まりのグラ・バルカス帝国の植民地となっているのだ。

だが先述の快進撃は大日本皇国の本格介入以降、止まるどころか逆に快進撃されて占領した地域を奪還されるに至った。ムー国内の占領地域を奪還された上に、皇太子たるグラ・カバルの戦死以降は下手に帝国軍も動けなくなり防備を固める様になった。占領地の民を人質にする形になるので、ムーも中々攻撃できなくなった上に皇国は皇国でムーの顔を立てる為にも陸での本格攻勢はするつもりはない上に、来る決戦に備え本土の部隊の派遣や弾薬の輸送等を行っていたのもあって動かなかった。だが1ヶ月前、帝国海軍は第二次バルチスタ沖海戦にて敗北。次は恐らく陸から攻められると踏んだ参謀本部は、植民地への大規模派兵や現地での食料の買い占め等を指示。その結果が現地民の餓死なのだ。

 

「うるさいな、何があった?」

 

そんな中、仕事で制統府を訪れていたのがグラ・バルカス帝国外務省のダラスである。この男の発言が、まさか結果的に大惨事を引き起こすことになるとは知る由もない。

 

「いえ、ちょっとヒノマワリ王国の関係者が来ておりまして、食料を国民にも流通させよとうるさいのです」

 

「ほう?よし、俺が対応しよう」

 

「え?いや、ダラス殿のお手を煩わす訳には.......」

 

統制府職員は慌てて断ろうとする。別業務で訪れた上級官庁の職員に仕事をさせるなど、失礼極まりい上に後で上司に何て言われるか解ったものではない。

 

「いや、これは決定権を持つ私が行った方が早く事が済むだろう。任せておけ」

 

「いやあの、そうじゃなくて!ってもう行っちゃてるし!!」

 

これまた大慌てでダラスの後を追い掛ける。もうこれ、多分ヤバいことになるのは確定だ。統制府職員は溜め息を吐きながら、この後の結末を思い浮かべては落ち込んでいた。

 

「グラ・バルカス帝国外交官のダラスだ。話しがあるなら私が聞こう」

 

ダラスが入ってくると、フレイアすぐに一礼した。ダラスは無能であるが曲がりなりにも外交官であり、外交官はスーツの襟にバッチを付ける。このバッチが外交官の証である為、内部は勿論、こういう植民地でも一定の敬意を払われるのだ。特に今回の場合は、ダラスの方が立場がかなり上となる。非礼は地獄への片道切符だ。

 

「ヒノマワリ王国第3王女フレイアです。今回は、食料に関してご相談するために参りました」

 

「食料?」

 

「はい、ヒノマワリ王国がグラ・バルカス帝国の配下に入る際、国民を餓えさせないというのが絶対条件でした。

しかし今、帝国軍が食料流通を押さえて備蓄しているため、国民まで食料が回っていません。 すでに餓死にする者が多数発生しています。帝国は誇り高いと聞いています。約束を違える事無く、すぐにでもため込んでいる食料を我が国民に行き渡るようお願いしたい!!」

 

「ほう」

 

黒髪で長髪、少女の面影を残す美しい女、フレイアは凜とした対応を見せる。今まで接して来た異国の外交官に無い堂々とした姿だった。だがダラスは、その姿とよく似た男を知っている。大日本皇国外務省、川山慎太郎特別外交官である。

 

「そうなのか?」

 

「いっ、いえ。現在の状況下では補給が途絶える可能性もありますので、それに備えて食料備蓄を大幅に増やしている最中でございます。尚、これは本国からの指示でもあります」

 

「聞いてのとおりだ。なら仕方ないな」

 

「なっ!!!民が、多くの国民が死んでいるのですよ!!軍の備蓄を放出しないのはおかしい、すぐに放出して頂きたい!!」

 

「おかしい?帝国の決定に意見すると言うのかっ!!!立場をわきまえない無礼者があっ!!!」

 

ダラスの態度は豹変し、部屋中に大声が響き渡った。特に憎っくき川山によく似た姿をしていたのもあって、余計にダラスは怒るというか不機嫌である。

 

「貴様ら蛮族は勘違いをしていないか?皇帝陛下は、異国の蛮族であってもいたずらに命を奪ってはならないとおっしゃった。海よりも深い慈悲ゆえに出たお言葉だっ!!

しかし、根本的な事だが、貴様ら蛮族の命と帝国臣民の命は当然釣り合わない。今、必要性があって食料備蓄をしているのだ。我らが宗主国のために命を投げ出して協力するのが植民地というものだっ!!貴様らは我らの高度文明に触れ、遙かなる高みの生活が出来る可能性を与えてもらったにも関わらず、自分たちは何も帝国に与えずに要求だけするつもりか?貴様らは皇帝陛下の言動に甘え、たかるウジ虫同様だっ!!」

 

「なにを言う!!武力で脅して国を乗っ取り、多くの富を奪い、食料さえも奪い、何もかも奪い去っていったくせにっ!!食料、生きるために必要なこの食料だけでも開放してほしいと頼みに来たっ!!

民が死んでいるのだっ!!!帝国は奪い去るだけなのか?食料が不足しているならともかく、国民が餓えないだけの食料があるにも関わらずだ!!ただ1点のみ、国民を餓えさせないという約束すら守れないのかっ!!我らを騙したのかっ!!!」

 

「帝国を嘘つき呼ばわりするなど、万死に値するぞっ!!バカな小娘が、お前は根本的な事が解っていない。食料は説明したとおりだ。自然界を見ても解るだろう?世の中は弱肉強食だ。くやしければ、ヒノマワリ王国が帝国以上の技術と力を持てば良いこと。

今まで弱小国に甘んじ、技術を研鑽する事も無く、国としての努力を怠った貴様らにはふさわしい現状だ。そんな基本的な事も知らずによくぞ外交の場に来られたな。しかも宗主国の上級職の者を前に無礼を働くとは.......。感情だけで国は動かん。今までお前が基礎も何も教えてこられず、身分のみにアグラをかいていたのが良く解る」

 

「身分にアグラ?私は常に民に寄り添ってきたっ!!」

 

「民に寄り添ってきただと?笑わせる。国の上に立つ者の義務は民に寄り添う事では無い。国家をより強くすることだ。国が強くなることにより、富が集まり、栄え、国民の生活水準が上がる。そして何より他国から国家を守れるのだ。

民に寄り添った貴様らは国を導く者として無能だ。今のお前たちの現状は、お前たちの歩んだ歴史の結果生み出された事実だ。解ったか?蛮族の無能の王に育てられた無能の姫さんよ」

 

もう無茶苦茶である。だがここまで凄まれては、いくら王女でも反論する程の思考は残らない。悔しさとか怒りとかの感情で塗りつぶされて、反論する方向に思考が回らないのだ。できることといえば、睨み付ける位しかない。

 

「もう良い、お前の顔は見たくない。さっさと去れ!!」

 

フレイアは動かない。いや、国民のために引くわけにはいかなかった。王女として、何が何でも食料を貰う必要がある。

 

「早く去れと言っている!!!」

 

「…………」

 

「出て行け貴様ぁ!!」

 

フレイアが平手打ちされる音が室内に響く。フレイアはなおも残ろうとするが、他の職員に拘束されて退出した。

 

「おい」

 

「はっ!!」

 

「先程の蛮族は、我がグラ・バルカス帝国に意見し、愚弄した。これは皇帝陛下を愚弄したも同然であり、不敬にも程がある。暗殺でもでっち上げた罪でも何でも良い。屋敷にいる者全員、始末しておけ」

 

「は?……はい!」

 

「手段は問わない、多少人が巻き込まれようが構わん」

 

制統府は他国を統治するため、実力行使を行う部隊が存在する。外交官ダラスはあの真っ直ぐな瞳を持つフレイアに何かしらの危険性を感じ、命令を降すのだった。

だがダラスは1つ、盛大なやらかしをしてしまった。この命令を伝えた統制府職員は、ただの職員ではなかった。皇国中央情報局『ICIB』のケースオフィサーに雇われた作業玉(エージェント)だったのだ。彼は即座にケースオフィサーに渡りをつけ、情報はそのまま神谷の耳にも入る事になる。

 

「一族郎党皆殺しとは、かなり過激だな」

 

「どうしますか長官?」

 

「どうしようか。あ、そうだ。確か後方のエマーソン基地に『夜彪』が居たな。アイツらを使うか」

 

『夜彪』部隊。皇国最強の特殊部隊、特殊作戦群の中でも夜戦に特化したエリート集団である。特殊作戦群隷下の部隊というのもあって、その練度はトップクラスであり夜に彼らと遭遇すれば最期、逃げ切る事は不可能である。

 

「戦力はどうするので?」

 

「流石に敵地からの要人救出に加え、最悪の場合は正面切って戦闘だからな.......。二個分隊、8名を派遣しよう。これに加えて、バックアップを厚くする。周辺の地図を見せてくれ!」

 

神谷は作戦地域となる、第3王女とやらが住む邸宅付近の地図と格闘を始める。正門のある南側は街に面しており、北側から西側は森林と山、東側は森林と大きめの川がある。地形としては、この上なくこちらに有利なフィールドである。

 

「まず『夜鷹』のヘリコプターは絶対だ。天神2機と、空軍から彩雲を出す。それから念の為、川に『河童』を配備しよう」

 

「了解しました。直ちに伝達いたします」

 

さて、地味に初登場となる『河童』に付いて解説しよう。無論、あの妖怪の河童ではない。正式名称、特殊水上輸送隊『河童』。河川、もしくは海上で特殊部隊員の任務を支援する部隊である。

神谷からの指示を受けた各部隊は出撃準備を開始し、20:00にはエマーソン基地より夜彪達を乗せたUH73天神が離陸。21:45には、邸宅付近の森林に着陸し部隊を展開した。

 

 

 

22:00 フレイア邸宅 自室

「フレイア様!!フレイア様っ!!」

 

「何事ですか?」

 

「帝国の制統府に働きに出ている料理人が、偶然にもトイレで聞いた情報です。フレイア様を暗殺しようと帝国が動いています。

ここは危険です。一刻でも早くお逃げ下さい!!!」

 

「え?暗殺???」

 

自分に向けられた殺意に背筋が凍る。どうやら帝国は、陳情に行っただけの者を消し去るらしい。

 

「手練れの女剣士を2名護衛につけます。時間が無い事と、少人数の方が見つかりにくいので、これで我慢してください。この2名は日輪級の剣聖です」

 

ヒノマワリ王国の中でも最上位である日輪級剣士を護衛につける辺り、本当に緊急事態らしい。

 

「しかし、いったい何処に行けば.......。それに国民が.......」

 

王国から自分の意思だけで外に出たことは一度も無い。それどころかフレイアはアグレッシブなタイプではなく、いつも部屋で本を読むタイプだった。よくある王宮脱走して城下を気ままに歩くとか、そういったこともした事がない。

それに王女としての責務がある為、命を守ってくれる事はありがたいが、どうしてもフレイアは1歩踏み出せない。

 

「私の願いとしては、バルクルスへ!!バルクルスへ行って、ムーの連合軍に接触してほしい!!そして、グラ・バルカス帝国を海戦で打ち負かしたとされる大日本皇国に、国の代表として助けを求めてほしい。

このまま食料が絞られれば、国民の多くが飢え死にしてしまいます!!ムーによれば皇国は、我々と同族である可能性があるそうです。きっと力になってくれるはず。

早く!!早くご用意くださいっ!!地下通路の先に馬と剣士が待っています」

 

万が一の時、脱出のための通用口があり、地下通路で森林までつながっている。すでに手が回っている可能性を考慮し、従者はそこを行けとフレイアに伝える。

 

「でも..............」

 

突如として正面の門に閃光が走り、猛烈な爆発音と共に門が四散した。爆発音と振動が腹に響く。

 

「まずいっ!!こんなにも早いとは.......。フレイア姫様、私は心優しき姫様の従者で幸せでした。これからも、ヒノマワリ王国の民をよろしくお願いします」

 

従者はフレイアにそう微笑むと、壁にかかっていた剣を引き抜き廊下へと飛び出していった。

 

「私の最後のお勤めです。姫様を必ず逃がします!!!」

 

玄関ドアが破壊される音が響く。すぐに女性の悲鳴が聞こえた。いつも明るく料理を運んできてくれるメイドの声。

 

「えっ?えっ?」

 

フレイアは動かない。というか、動けない。今まで経験したことの無い無慈悲な暴力を前に、彼女の身体は全く言う事を聞かなかったのだ。

 

「早くっ!!手遅れになる前にっ!!!!!」

 

「行けっ!!!我らの為に行ってくれっ!!!!」

 

他の従者達がフレイアの背中を押した。はじかれたように彼女は地下通用口に向かって走り出した。足音のする方向とは逆側の階段を駆け下りる。

 

「ここは通さんぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」

 

従者の怒号が響き渡る。その直後、連続した銃声が響いた。その後の直後、金属が落ちる音と何かが倒れる音を最後に、従者の声は二度と聞こえなかった。

すぐに地下通路に入り、真っ暗な通用口を走る。途中僅かな突起に躓いて転び、土だらけとなった。

 

「ううっ.......。ううううっ」

 

おそらく従者は、いや、お手伝いさんも、護衛の剣士も戦っているのだろう。明るく挨拶してくる若い剣士の顔が頭に浮かぶ。

 

「王女殿下!今日は天気がいいですよ。街で子供達が遊んでまして、私も誘われましたよ」

 

満面の笑みで料理を運んできたメイドの顔が頭に浮かぶ。

 

「今日のお食事は殿下の大好物、鶏肉のシチューですよ。ささっ、冷めないうちに」

 

すてきな人たち、家族の一員のように思っていた。そんな人たちは、今、死んでいっている。足は悲鳴を上げ、心臓はもう動くのは限界だと苦しさを伝えてくる。しかし、止まる訳にはいかなかった。泥だらけになり、汗にまみれて走った。

 

「ハアッハアっハアッ!」

 

裏山の出口から外に飛び出す。森林の中でも、少し小高い丘のような場所に作られた出口から、町が一望出来た。すぐに屋敷の方を向く。

 

「そんな.......」

 

先ほどまで住んでいた屋敷が炎に包まれていた。あれでは、中に居る者は誰も助からないだろう。

 

「そんな.......そんなぁ..............。う……うあぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!うあぁぁっぁあぁぁぁ!!!!!!!」

 

自分の行動が招いた結果、自分がグラ・バルカス帝国に交渉に行かなければ。担当者の怒りを買わなければ、死なずに済んだ命がある。

自分の行動の結果死んだ人たちがいるという事実に、彼女の心は壊れそうになった。

 

「フレイア様、すぐにこちらへっ!!」

 

「うあぁぁぁ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「姫様、失礼」

 

護衛の1人が王女の頬を強く叩く。それでようやく、我に返った。

 

「処分は後ほど受けます。犠牲になった命のため、そしてヒノマワリ王国のためにも、すぐに馬に乗って下さい。

グラ・バルカス帝国の鉄車は速く、そして戦士は強い。守り切れるか保証はありません。時は一刻を争うのです!!」

 

王家の姫という立場が、フレイアの精神崩壊を止めた。彼女は泣きながら馬に乗り明るい月明かりの元、バルクルスへ向かって走る。だがその道の先には、帝国軍の別働隊が待ち構えていた。

 

「隊長、馬車が来ますよ!」

 

「例の屋敷からの逃亡者だろうな。馬を射殺し止めよ」

 

「了解!!」

 

兵士2人が馬車を引っ張る2頭の頭を撃ち抜き、馬車を停車というかクラッシュさせて止める。馬車は前に一回転して地面に突き刺さり、身動きが取れなくなった。次の瞬間には、帝国兵が群がりドアを破壊してフレイアを引っ張り出した。

 

「この身なり、確定だな」

 

「フレイア様!!!!」

 

「しかも護衛付きか。隊長、どうします?」

 

「そっちのフレイアとかいう王女様には用があるが、こっちの護衛の女2人はどうでも良い。という訳だ、輪姦するか野郎共」

 

グラ・バルカス帝国というより、ダラスの怒りを買ったのはフレイアのみ。護衛2人は言うなれば、単なるオマケに過ぎない。であれば、別に殺そうが犯そうが問題はない。しかも護衛の2人、王女の護衛というだけあって結構スタイルもいい上に顔も良い。不良兵士の選択肢なんざ、犯す一択だろう。

 

「や、やめろ!!近寄るな!!!!」

 

「穢らわしい!!!!!」

 

「おーおー、吠える女ほど犯し甲斐があるってもんよ」

 

隊長が護衛の服を剥ぎ取ろうとした時、どういうわけか横に倒れた。そのままピクリとも動かず、まるで糸が切れた人形の様である。次の瞬間、周りにいた帝国兵が次々と倒れていった。だが悲鳴も何も聞こえず、ドサッドサッという何かが倒れる音しか聞こえなかった。

 

「い、一体何が.......」

 

「アキナ、フィーム、無事なのですか!?!?」

 

「無事です!!」

 

「でも縄で縛られて動けないです!!!!」

 

「こっちも縄で縛られ.......て.......」

 

今の今まで、フレイアの手は縄で縛られていた。縄抜けなんてやり方知らないにも関わらず、縄が1人手に解けてしまったのだ。

 

「き、切れた。なんで?ッ!?」

 

何の気なしに後ろを振り返ると、全身緑の人間がナイフを持って立っていたのだ。帝国の兵士でも、ヒノマワリ王国の者でもない。見た事がない人間がそこにいたのだ。しかも周りを見れば、他にも何人かいる。

 

「ヒノマワリ王国王女、フレイア・タカツカサ・ヒノマワリだな?」

 

「は、はい.......」

 

「安心しろ、我々は味方だ。大日本皇国統合軍特殊作戦統括局、特殊作戦群『夜彪』部隊。フレイア王女殿下のエスコートに参上した」

 

「貴様ら、本当は帝国兵ではなかろうな.......」

 

護衛のフィームとかいう剣士からそう言われたので、取り敢えず肩の日の丸を見せた。だがこれでは信用してくれないらしい。

 

「なら、これでどうだろう?」

 

隊長がヘルメットを外す。メットを外した下は、ヒノマワリ王国の民に近しい顔立ちの壮年の男だった。グラ・バルカス帝国の人間とは、全く似ても似つかない。

 

「わかりました、信じましょう。それで、私達はどうすれば?」

 

「このまま森林内を移動しつつ、ランデブーポイントを目指す。後はヘリでヒノマワリ王国を脱出する手筈になっている」

 

「しかし周囲には帝国軍が!」

 

「ご心配なく。我々の戦争は帝国の遥か未来を行く。既に上空にて無人航空機が、我々の支援を開始している。空からであれば、ある程度は敵を避けて行動できる。

そんなに心配だと言うのなら、これを耳に付けるといい」

 

隊長は護衛のアキナとフィーム、そしてフレイアにインカムを渡し、耳につけて貰った。話す事は出来ないが、無線の中身を聞く事はできる。

 

「HQ、こちらグルーム01。パッケージクイーンを確保、パッケージの他、護衛の剣士2名も確保した」

 

『HQ了解。以降、両名をパッケージジャンヌ、パッケージダルクと呼称する』

 

「グルーム01了解。これよりポイントE(エコー)まで撤収する」

 

『HQ了解。現在周囲に捜索隊が展開中。接敵に注意し、速やかに撤収せよ』

 

初めて聞く無線の中身は、3人にとっては異国の言葉だった。「えいちきゅー」だの「ぱっけーじ」だの「くいーん、じゃんぬ、だるく」だのと、まるで意味がわからない。

 

「撤収する。行くぞ」

 

そんな3人はお構いなしに、夜彪達は夜の森の中を突き進む。森の中を進んでいる最中に天気が崩れ、結構な大雨が降り出し月明かりも無ければ、虫の声や捜索部隊の音も聞こえない。聞こえるのは雨音と足音くらいだ。

 

「順調ですね」

 

「このまま何もなく終わってくれれば良いんだが」

 

一方、この作戦を統括するべく指令室にいた神谷と向上は、正面の巨大モニターに投影されている敵の反応を眺めながらボーっとしていた。何せ今回は作戦地域の上空を彩雲が飛んでいる。彩雲のカメラアイに搭載された赤外線スコープで、雨の中だろうと敵の動きは全て丸分かり。相手の位置が見えるかくれんぼは、探す側でも隠れる側でも簡単である。しかも情報は戦術データリンクによって共有され、常にヘルメット内部のHUDに投影される。いちいち口頭で指示する必要もない。

 

「長官、妙な部隊が動いています。こちらを」

 

メインモニターに表示された地上の映像には、味方を示す緑枠の後方から所属不明人員(アンノウン)を示す紫枠の集団が接近している。その数、概算で60名。一個小隊規模だろう。

 

「敵、ですね。これは」

 

後に判明する事だが、この謎の敵部隊の正体はシーン暗殺部隊というグラ・バルカス帝国軍側の精鋭特殊部隊であった。名前の通り暗殺は勿論、重火器を用いての拠点防衛・攻撃まで何でもやる部隊である。

また装備面も一般部隊とは一線を画しており、StG44によく似たメテオ自動小銃と、サイドアームとしてM1911に良く似たコスモ自動拳銃を全員が装備しており、分隊支援火器としてFG42をベルト給弾式にしたような見た目のアポロ軽機関銃を装備している。

 

「やはり、VIPを連れての山中は無理があったか。近いぞ、戦闘準備。グラ・バルカス帝国軍、ヒノマワリ王国統治部隊の捜索隊が散在している。距離間に注意。パッケージは生かせ。邪魔者は全部殺せ。『夜彪』部隊、戦闘開始」

 

ここに偶然ではあるが、世界初となる特殊部隊同士の全面対決の火蓋が切って落とされた。それではここで、色々皇国兵と帝国兵を比べてみよう。まずは兵力。皇国は43式自動小銃の5.56mm仕様が5名、7.62mmのマークスマンライフル仕様、42式軽機関銃、48式狙撃銃7.62mm仕様が1名ずつの計8名。対する帝国はメテオ自動小銃が50名、アポロ軽機関銃13名である。

次に銃以外の装備面であるが、帝国の場合は通常の破片手榴弾とスモークグレネード、後はライフルグレネード位で、無線機を持っている通信兵は数名である。対する皇国はグレネードは勿論、マイクロドローンを全員が装備し、ドローンの蝶と蜘蛛もある。無線も各々が装備しており、上空の通信衛星を用いれば星の裏側でも連絡できる。

そして支援部隊の数だが皇国はUAVによるエアカバー、戦闘艇とヘリコプターによる火力支援が可能となる。対する帝国は周囲の部隊は周囲に散らばる捜索隊を投入できるが、既にその手は使えない。何故なら…

 

「ECM戦開始。ジャミングしろ」

 

「了解。全周波数帯にて、ジャミングをかけます」

 

無線機にジャミングをかけられたからである。皇国は例えジャミングされよう無線に自動的にジャミングが解除される特定の信号を混ぜてあるので、ジャミング環境下であっても味方のジャミングで妨害はされない。

 

「来た!!」

 

『お出ましだ。散れ。囲まれるな!!』

 

先手を仕掛けたのは帝国であった。弾丸がフレイア達の頭上を通過し、フレイアは悲鳴を上げてパニックになる。だが夜彪達は臆する事なく、訓練通りに動く。茂みや草むらという遮蔽物を利用するべく、高速で走りながらの射撃。普通なら精度が著しく低下するが、夜彪達なら問題ない。

 

(1人1人は弱いが、装備が良すぎる上に数が多い。奴ら何者だ?)

 

「キャァァァァ!!!!!!イヤッ!!!!イヤッ!!!!!!死にたくない!!!!!!死にたくない!!!!!!!!!!!!」

 

「お静かに王女殿下」

 

シーン暗殺部隊も決して弱くはない。彼らは間違いなく、レベルとしては特殊部隊を名乗れる。だが相手が悪すぎた。皇国というより旧世界では既に特殊部隊は世界中の軍隊が保有する部隊であり、様々な作戦に投入されノウハウもある。更に皇国自身も独自のノウハウを持っていて、尚且つ装備も遥かに上の物を装備していては、シーン暗殺部隊に勝ち目はない。

 

「パイロットコピー、上空を旋回」

 

「サーチ、コピー。目標を探知」

 

「しぶといな。この少し離れた2人、恐らく機関銃組だ。一番北のユニット、分断して止めろ」

 

的確な指示で敵を撹乱し、今回の最重要目標たるフレイアを逃がす道のりを形成していく。対するシーン暗殺部隊は深夜の森林というのもあって、敵の正確な位置や数は分からぬまま戦闘を続けていた。

 

「クソッ!奴ら何者だ!!」

 

「弾が当たらない!!!!」

 

「完全に地形を利用してやがる!!オマケに素早い!!!!」

 

既に夜彪達は地形を利用し、遮蔽物から遮蔽物へ素早く移動しながら銃撃してくる。その上、各々が同時に動くので言うなればシャッフルされ続けられている状態だ。

 

「ウオォォォォォォ!!!!!!ッ」

 

「ダーキンズ!!!!」

 

「どうしたぁ!!!」

 

「ダーキンズがやられた!!!!」

 

「クソッ!!!!」

 

しかもスナイパーとマークスマンの2人は余り動かずに、浮き足だった奴から順に殺していっている。幾ら百戦錬磨の精鋭だろうと、人間である以上は死に恐怖を覚える。その恐怖は結果的に相手に隙を見せることになるのだ。

 

「何人やられた!!」

 

「分かりません!!!20人近くは既に!!!!」

 

「くっ、3割近くか。.......致し方ない、一度態勢を立て直す。退け!!」

 

ジーン暗殺部隊の隊長、シーン少佐は冷静だった。ここで泥沼化して全滅するのを避け、一度態勢を立て直す事を選んだのだ。

 

「敵影、後退していきます」

 

「パッケージの回収を急がせろ」

 

「了解」

 

これ幸いと夜彪達も動きだす。このまま森林を抜けて、その奥にある平原で迎えのUH60天神の特殊部隊仕様と合流する手筈になっている。そこまではまだ15分は掛かる。しかも王女というお荷物がある以上、そう簡単にすんなり脱出できるとは限らない。またさっきの部隊、或いは別の部隊に追い付かれる可能性もある。接敵はしないだろうが身動きが取れなくなれば万事休すである以上、早いところ脱出したいのが本音だ。

 

「あの、敵は?」

 

「撤退していった。とは言え、安心はできない。今のうちにとっとと撤収する。もう少し頑張ってくれよ王女サマ」

 

このまま順調に撤退できるかと思った矢先、問題は続く物でまたしてもアクシデント発生である。目標地点近くに、戦車部隊が展開してきたのだ。偶然ではあるだろうが、流石に戦車を破壊して進む事はできない。

 

『HQより各員。目標地域周辺にて、一個機甲大隊相当の戦車が確認された。これによりヘリによる回収を放棄、一時待機せよ』

 

「フェンサー1、了解。待機する」

 

「何か問題発生か?」

 

護衛の剣士、アキナがフェンサー1こと隊長に尋ねた。一瞬伝えるべきか迷ったが、誤解をまねかねないように慎重に伝える事を選択した。

 

「作戦が変更になった。さっき機甲大隊と言っていただろう?アレはまあ、鋼鉄の地竜が大量にいるって事だ」

 

「センシャとかいう兵器か!?」

 

「あぁ」

 

「だが確か、皇国の兵士は単独でも戦車を破壊できるだろう?」

 

「携帯式対戦車ミサイルを使えばできるが、生憎と今回は装備していない。上空にいるUAVにもスマート爆弾は装備しているが、大隊規模は流石に無理だ。という訳で我々は、一旦ここで隠れる。脱出手段は他にも用意してあるから、そこは心配しなくていい。今、本部でコースの策定を行っているからな」

 

数分後、本部より再び無線が入り作戦が伝えられた。ついでにHUDの表示も更新され、地図のピンの位置なんかが変更されている。

 

『夜彪達、神谷だ。これより作戦を説明する。当初ヘリで脱出する予定が、戦車に固められて身動き取れなくなったのは知っての通りだ。そこでプランBで行く。『河童』が回収する作戦だ。場所はマップの表示通りだが、見て分かる通りかなり距離がある。

そこで君達には、車両窃盗を行ってもらう。現在地から程近い街道を、君達の方に向けて帝国軍のトラックが接近している。護衛はいない。これを襲え。トラックパクって、後はそのまま脱出地点まで全開走行のドライブだ』

 

「了解しました。直ちに作戦にかかります」

 

夜彪達は即座に動き出し、指定されたトラックを襲うべく行動を開始する。丁度ルート上にまあまあ長い直線がある。ここで襲う事にした。その為に各員が準備を始め、すぐに配置に付いた。15分ほどすると、件のトラックが何も知らずにやってくる。

 

「センターに目標を捉えた」

 

「こっちもだ。敵は2人、どちらも運転席だ」

 

「俺は右、お前は左だ」

 

『ターザンの準備は完了している。頼むぞ』

 

次の瞬間、スナイパーとマークスマンの2人が狙撃を敢行。運転席にいた2人をヘッドショットで仕留め、トラックは停止…………する事なくドライバーが死んだ影響で、逆にその体重でアクセルベタ踏み状態になってしまい加速してしまった。

だがそれを見越して木の上に待機していた隊員が、トラックに飛び移って運転席から死体を引っ張り出して滑り込み、そのままトラックを普通に停車させたのだ。

 

「全員乗ったぞ!!出せ出せ!!!!!」

 

そう言いながら屋根をバンバン叩く。これを合図にアクセル全開に踏んで、『河童』との合流地点を目指す。だが途中で敵の集団とすれ違ってしまい、カーチェイスになってしまった。

 

「こんなの聞いてねぇよ!!!!」

 

「あそこに敵が居たのが悪いんすよ!!!!」

 

『あー、こちらHQ。すまない、我々のミスだ。彼らの位置は位置的に死角で、対処が遅れてしまった。既に彩雲の準備は整っている。支援攻撃が可能だ』

 

すぐに隊長は部下に彩雲を使うように指示を出す。今回作戦に参加しているMQ3彩雲には、SGB1暗鬼が搭載されている。これは所謂『スマート爆弾』であり、投下後に翼が展開されて誘導ができるのだ。これを用いればカーチェイスの様な激しい動きの相手でも、爆弾を直撃させることができる。

 

「投下された!到達まで18秒!!!!」

 

「それまでは牽制するぞ!!!」

 

ドカカカカカ!!ドカカカカカ!!ドカカカカカ!!

 

荷台に乗る隊員達が銃を撃ちまくって牽制していると、すぐに18秒経ち爆弾が命中。敵集団の排除に成功した。

 

『こちらHQ。目標地点に敵部隊がバリケードを構築中。注意せよ』

 

「どうします隊長!?」

 

「このまま川に突っ込め!!そのまま河童の皆さんに回収してもらう!!!!」

 

「わっかりました!!捕まっててくださいよ!!!!!」

 

ギアをもう一個上の物に入れて、アクセルを更に踏み込む。トラックは加速して、目標地点まで一直線だ。

 

「見えた!!目標ポイント視認!!!!」

 

「バリケードは!?!?」

 

「ありません!!このまま突っ込みます!!!!」

 

実はバリケードは正確にはカーブの先にあったので、その手前で川にトラックごと突っ込めたのだ。まあ仮に進路上にあっても、無理矢理突破するが。

 

「王女様!このまま川に突っ込むぞ!!!!」

 

「この鉄車ごとですか!?」

 

「そうだ!!!!」

 

まさかの脱出方法にフレイア、アキナ、フィアームの3人は唖然としているが、今はそんなリアクションをしている暇すらない。驚いている間に、トラックは川に突っ込んで巨大な水飛沫を上げた。バリケードに配備されていた帝国兵達は、目の前で起きた事態に理解が追いつかずオロオロしている。

 

「ぶはっ!」

 

「パッケージは!!!!」

 

「無事です!!!!」

 

パッケージたる3人の首に腕を回して、水面に浮かぶ。だがこの頃には帝国兵達が武器をこちらに向けて、すでに岸は兵士だらけ。絶体絶命というヤツである。

 

「ここまでですか.......!」

 

「いーや、俺達は逃げ切れる。

 

次の瞬間、高速艇が木々の影から飛び出してきた。『河童』がやってきたのだ。それも0式12.7mm機銃2挺、42式軽機関銃連装型6挺、58式六銃身7.62mmバルカン砲3挺で武装した高速戦闘艇2隻を引き連れて。

 

ドオォォォォォォォォ!!!!!!!!

 

銃声が重なりすぎてどれがどれだか分からなくなる程の弾幕を浴びせられ、バリケード陣地を構築していた帝国兵は逃げも隠れも出来ずに弾丸の雨にその身をさらす羽目になった。

 

「夜彪ってのは泳げるのか!?」

 

「あぁ!!」

 

「オーライ。川向こうのムーへの脱出便の終電だ!!乗って行くか!?!?」

 

「おうよ!!!」

 

その間に夜彪達とパッケージを回収し『河童』は、ものの1分程度で現場から離脱。昼頃にはフレイアをリュウセイ基地まで送り届けたのである。

 

 



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第七十九話穢らわしい真実と綺麗な嘘

パッケージ3名と『夜彪』部隊を回収した『河童』は、そのまま河川を遡上。1時間のクルージングの後、特殊航空輸送隊『夜鷹』のCH63大鳥に回収されて一行はリュウセイ基地へと向かった。

本来なら少し休みたい所だろうが『ヒノマワリ王国の王女としての責務を果たす』という固い意志で、休む間も無く皇国とムーとの3カ国会議に望んだ。

 

「リュウセイ基地司令、マックス・パーマー少将です。よろしくお願いします」

 

「小官はリュウセイ基地司令補佐、ゴンバイ・トリスターレ中佐であります。王女殿下にお会いでき、光栄であります」

 

「大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三元帥だ」

 

「大日本皇国統合軍総司令長官秘書官、向上六郎大佐です」

 

「ヒノマワリ王国第3王女、フレイアといいます。このような場を設けて頂き、誠に感謝申し上げます」

 

列強国序列第二位であるムー、そして列強に並ぶかそれ以上の強さを持つとされる大日本皇国の関係者を前に、フレイアは少し緊張気味に話し始めた。

深く礼をした後、彼女は現在のヒノマワリ王国の現状の説明、そしてヒノマワリ王国がグラ・バルカス帝国に降った経緯が説明される。

まず自国の立ち位置として、グラ・バルカス帝国による外圧が生じた際、圧倒的な軍事技術と規模の差がある国という事は容易に理解出来た。そして降る事を拒否し、戦った国家の民の行く末も十分に調査された。帝国と戦えば、ヒノマワリ王国の民が奴隷となる可能性が高く、王政を捨ててでも、民の命を最優先とする決断がされる。この結果を持って、ヒノマワリ王国はグラ・バルカス帝国の支配下へと入ったのであった。その為、侵略とは言っても戦争自体は回避していたのだ。

支配下に入る際、ヒノマワリ王国側は王族の存続と食料だけは絶対に取り上げない、民を餓えさせないという条件を課した。これは文章による調印だけでは無く、外交の場でも再三にわたって確認され、了承されたのだ。やがて制統府が王城の近くに設置され、職員と軍隊が派遣されてきたのだが、帝国の統治は過酷そのものだった。

現地民と馬鹿にされ、土地や資産はすべて帝国のものとされる。町ですれ違う民に対するグラ・バルカス帝国軍人の屈辱的な仕打ちも多々目撃された。帝国軍人は土足で家に上がり込んで金目の物は奪い、本能のままに様々な事が行われた。ストレスのはけ口、植民地という悲惨さがそこにあった。逆らう者はすぐに殺される。尊厳も何も無い、奴隷と変わらない生活。それでもヒノマワリ王国の民は耐えた。耐えて耐えて耐え抜いていたが、ついに帝国は食料に手を着ける。ついには餓えが蔓延し、餓死者が続出したのだ。

そして後はご承知の通り、たまりかねたフレイア王女が陳情に行ったところ、暗殺されかけ、逃亡したところを皇国軍に救出されたのだ。

 

「毎度毎度のことながら、帝国の連中のやり口は酷いものだ.......」

 

「他国も同じなのですか?」

 

「.......殿下はアルーという街はご存知ですか?」

 

基地司令たるパーマー少将がそう問いかけた。フレイアはかつて、幼い頃であったがアルーには訪れたことがある。移動の中間地点に過ぎない街だったが、活気のある街だったことを覚えている。

 

「えぇ。かつて訪れたこともありますわ」

 

「アルーはムーにおいては、最初に攻められた街です。しかし皇国軍との共同作戦で、アルーは2週間もしない内に奪還することができました。しかしそこに住む民は、金目の物やめぼしい物は全て奪い去られ、女は慰み者にされ、男は銃剣や射撃の練習台、つまりは的にされていました。彼らは1週間と少しで、地獄を作り出してしまうのですよ」

 

こんな話をしていると、窓の外からバサバサと音が聞こえる。見ればそこには、謎の紋章が刻まれたハトが居た。

 

「姫様、胸に王家の紋章が入っています!!!」

 

どうやら、所謂『伝書鳩』というヤツらしい。今や廃れた通信手段だが、かつては基地を移動してもその移動先に伝書鳩が来る方法があった位には、重要な情報伝達手段だったのだ。とは言え、随分前に廃れて以来、伝書鳩を見る事はなくなり、神谷と向上も初めてその姿を見た。

フレイアは慣れた手つきで足の紙を外し、手紙を広げた。だが読み進めていく内に、涙が頬を伝い、無言で震え出した。

 

「フレイア王女、大丈夫ですか?」

 

「王と王子が幽閉され、お姉様、王女達は殺されてしまったようです.......」

 

「なっ!!」

 

「私が.......、グラ・バルカス帝国に食料を融通するよう、交渉に行った事は先ほどお話ししたとおりですが.......帝国の実働部隊は私の顔は知っていますが、姉妹の見分けが出来ません。

帝国外交部門から私への暗殺指示を受けた部隊は私だけでは無く.......おっ、お姉様達まで........」

 

外交の場で、泣き出してしまうなどあってはならない事だと心では理解している。しかし、優しかった姉が殺された。もうあの笑顔、楽しい日々は決して戻ってこない。自分が行かなければ死なずに済んだかもしれない。つまり、自分が原因なのだ。

 

「うわああぁぁっ!!」

 

あのフレイアの抗議後、ダラスから暗殺指示を受けた制統府は王女暗殺をシーン暗殺部隊へ指示する。しかし確実に暗殺せよとの指令を受けた部隊は、肝心の姉妹の見分けがつかない。なにせ写真等の情報がなかったのだ。名前と簡単な身体的特徴はわかってはいたが、名前は個人を知らなければ意味を為さないし、身体的特徴だって姉妹である以上は何処となく似てしまう物だ。

だが、被害の規模は問わないと言われていた。逃げられてはならないと判断し、ヒノマワリ王家が所有する全ての邸宅を同時に襲撃。フレイアを襲った夜、別の王女達はグラ・バルカス帝国によって暗殺されていたのだ。そして制統府は王女暗殺が王家に伝わり、反旗を翻されては面倒なので、王家とヒノマワリ王国軍の連絡を遮断するため、すぐに王と王子達を幽閉したのだ。

 

「.......皆様、お見苦しい物をお見せ致しました。ヒノマワリ王国の王家は幽閉され、実質的に国内の権限を失いました」

 

フレイアは誓った。何が何でも姉の仇を取ると。地獄の業火に身を焼いて、復讐の怨嗟をグラ・バルカス帝国へ送ってやると。

 

「私はヒノマワリ王国第3王女フレイア・タカツカサ・ヒノマワリです。現在国内の王家の機能は停止しているため、非常時国家保護法により現時点をもってヒノマワリ王国の実質的権限は、すべてこのフレイアに移行いたしました。非常時国家保護法により、ヒノマワリ王国内法はすべて、一時的にこのフレイアの意思により決定されます」

 

本来なら役立つ事がない方がいい、非常時を想定した国家保護法。全ての国内法を乗り越え、権限を集中させた1人によりすべてが決定可能となる。

 

「ヒノマワリ王国として、対グラ・バルカス第二文明圏連合国家及び大日本皇国へ、正式に要請いたします。王国内において、国民を苦しめ続けているグラ・バルカス帝国を国外へ排除したい。協力を……要請致します!!どうか速やかなる王国の解放を!!!!」

 

「.......お話は分かりました。しかし結論から申しますと、今すぐに攻める事は不可能です」

 

パーマーの言葉に、フレイアは愕然とした。背後に控える護衛の2人も同様に、ショックを隠せないでいる。

 

「いくらグラ・バルカス帝国への脅威に対抗する共通意識があろうと、我々の一存で第二文明圏連合軍は動かせません。しかも戦闘となると、確実に王国民への被害も相当数出る事になるでしょう。というより、帝国の拠点が市街地に存在する為、攻撃しようにも出来ないのです。それこそ王国民への被害を顧みない、無差別攻撃を前提とすれば作戦上の問題はありませんが、我々としてもそれは避けたい」

 

「皇国軍としても同じだ。そもそも我々は本来、矢面に立つのではなく第二文明圏の皆様を支援する事こそが主任務。実際、現在の我が軍の状況は来る反攻作戦に向けての戦力の再編成や、燃料武器弾薬等の戦略物資の備蓄及び輸送ラインの構築中だ。それをいきなり防衛ならともかく、攻勢へと転換するのは難しい」

 

そもそも皇国自身、あくまでこの戦争は恩売りが基本である。無論、先の海戦の様に本格介入することもあるが、当面は一歩引いた場所からの支援が全体の方針だ。これは軍どころか一色と川山の考えから来ているし、神谷としても別に異論はない。いくら統合軍総司令長官でも、他国が絡んでくる状況では全軍を好き勝手には出来ない。

 

「そんな.......」

 

「だが!!」

 

とは言えだ。物事には常に『例外』という物が存在する。軍全体の方針が『第二文明圏各国等への軍事的支援』だとしても、それが軍の上位組織たる国家というシステムが決定した事であっても、それを覆したり無効とする事はできる。

 

「それはあくまでも、大日本皇国統合軍としての解答だ。今までの言葉も大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三元帥としての言葉だ」

 

「......まさか閣下!」

 

「向上!!」

 

「はっ!!!!」

 

「神谷戦闘団全部隊に伝達!1900時より即時待機!想定、作戦217、ケース58及び作戦199、ケース5。復唱しろ!!」

 

「1900時より即時待機。想定、敵支配地域への夜間奇襲電撃飛行強襲戦。以後は同・支配地域の解放及び要人のスナッチミッション」

 

神谷戦闘団。世界最強の最精鋭戦闘集団であり、神谷が構想するありとあらゆる作戦を完璧に実行に移す最強にして最狂の軍団。国家のしがらみに囚われず、常に自由な裁量で世界中ありとあらゆる地域へも赴く戦人だ。これが例外というヤツである。

 

「我々が何故『国境なき軍団』と言われ、部隊章に世界地図を背にしたアリコーンが描かれているのかを帝国の雑兵共に見せてやるぞ!!!!」

 

「ハッ!!!!」

 

「.......まさか、あの方が彼の修羅だったとは..............」

 

「どういう事ですかアキナ?」

 

「先進11ヵ国会議のすぐ後、帝国の支配域に1部隊で飛び込み、処刑寸前の捕虜を救出した『修羅の宣戦』を覚えていますか?」

 

因みにあの神谷が行ったレイフォルでの捕虜奪還作戦は、後に『修羅の宣戦』の名で世界中に轟いた。当初は神谷戦闘団を『修羅の軍』と呼称されていたそうだが、現在はしっかり神谷戦闘団か国境なき軍団で統一されている。

 

「まさか、あのお方が!?」

 

「どうやらヒノマワリ王国にもその武勇は轟いていた様ですね」

 

この会議中、ずっと黙っていたトリスターレが口を開いた。この男、実は神谷戦闘団の大ファンなのである。というのもトリスターレの妻と子が、あのオターハ百貨店立て籠もり事件の被害者であり、トリスターレ自身も本土防衛隊の士官として奪還作戦に参加していたのだ。

妻と子を助けてもらい、自らも神谷戦闘団の戦いを見た事で軍人として目指すべき高みを垣間見させてくれた存在として、尊敬の念を抱いている。

 

「トリスターレ中佐。あの、修羅という方はどの様なお方なのですか?」

 

「私自身、神谷戦闘団にいる訳ではないので詳しくは分かりません。しかしこれまでの戦いを見てきた限りでは、元帥という階級でありながら最前線の更に前に単身で飛び込む事も厭わず、現場と上を繋げるパイプとなり、的確な指示で戦場を自在に操る男、という所です。

しかし普段の方は、一般兵に紛れてあれこれ遊んだりもしていますよ。トランプをやったり、バレーやバスケに興じ、負けて部下に何かを奢ったりする場面もチラホラありましたし」

 

ヒノマワリ王国の先祖は、ムーと共にこの世界にやってきたヤムートの民。つまりは皇国と同じ大和民族である。それ故に結構な数の日本語が王国にも残っており、修羅もしっかり残っている。しかし王国での修羅の意味は、日本よりもより元の意味に近い意味で残っており、戦争や戦闘等を意味するのは同じだが、基本的に恐怖とイコールになる。日本では喧嘩程度でも修羅場扱いだが、こちらでは絶死の戦場や地獄の様な戦場でしか修羅という言葉は使われない。つまり修羅の名を冠する以上、かなり恐ろしい男だと考えていたのだ。

 

「さーて。そんじゃま、大暴れの準備と行きますかね」

 

そう独り言を言いながら部屋を出ようとした時、軍から支給されるスマホが鳴った。メールだった。その文面は今この状況では、かなりの良いニュースである。

 

「.......我が国のことながら、マジで抜け目ないなぁ。あー、王女殿下!」

 

「は、はい!」

 

「今から、そうだなぁ。3時間後。3時間後に俺の部屋に来てくれ。良いニュースが提供できる」

 

「は、はぁ」

 

何が何やら分からず生返事を返すフレイアを尻目に、神谷は部屋をさっさと出て行く。残されたフレイアら5名はポカーンとしたまま、部屋を出て行く神谷を見送った。

 

「あっ、コウくん!」

 

「おーエリス。どしたの、そんな慌てて」

 

「さっき、ロングキャスターとフーシェンがスイーツ作ってたのよ!それを今から試食するの!!」

 

「で、姉妹を呼びに行くと。お前ら見事にスイーツの虜だもんなぁ」

 

ナゴ村にいた頃は武闘派のアナスタシアと元々辛党のレイチェルはスイーツには興味なかったらしく、エリスは普通、ヘルミーナとミーシャがスイーツというか甘味好きだったらしい。所が皇国に移住し、ついでに神谷家に住まう様になった結果、神谷家お抱えパティシエだったり一流菓子職人のスイーツを食べる機会が爆増。で、見事にハマったのである。それも5人全員綺麗に。特にヘルミーナとミーシャに至っては、お菓子作りが趣味と化している。スイーツの魔法、恐るべし。

 

「それじゃアタシ急ぐから!」

 

「エリス!他の姉妹にも伝えろ。今夜は暴れるぞ」

 

「.......!へぇ、久しぶりに戦闘なのね。分かったわ。でも今は、スイーツの方が大事!!」

 

「ですよねー」

 

まあ当然と言えば当然で、武闘派のアナスタシアならともかく、どっちかと言うと普通に女の子してる方が好きなエリスは戦闘よりもスイーツに飛び付いた。別に本番はしっかりやってくれるのでノープロブレムではあるが、何故だか神谷は心に何とも言えないモヤモヤが残った。

 

 

 

3時間後 神谷執務室

「失礼します」

 

「おぉ、よく参られた。本来なら茶なりコーヒーなり出すべきだろうが、今はそんな暇がない。来てもらって早々悪いが、着いてきてほしい」

 

「は、はぁ」

 

護衛として控えるアキナとフィームも顔を見合わせ、何とも言えない困惑した表情を見せる。因みに本来なら不敬だ何だと言うべきだろうが、一応曲がりなりにも自分達と主人たる王女を助けて貰った組織のトップである以上、流石にこの程度の無礼は目を瞑る。

 

「ところで神谷様、はんがー?というのは何でしょうか」

 

「格納庫のことだ。今回は、正確にはハンガー前の駐機スペースに行くんだがね」

 

建物を出て格納庫区画を少し歩き、皇国が間借りしているスペースまで来た。暫くすると、ヒノマワリ王国のある方角の空から爆音が鳴り響く。自分達が乗ってきた飛行機械(CH67大鳥)よりは小さいが、同じ様な機体である。その飛行機械は爆音と爆風を起こしながら、フレイア達の前に降り立った。

 

「さぁ王女殿下!良いニュースだ!!」

 

「これの何処がです!?」

 

「まあ見てな!!」

 

目の前の飛行機械、UH73天神のスライドドアが開き、中から民兵のような格好をした数人の男と2人の女性が降りて来た。女性の方はフレイアと同じく、ヒノマワリ王国の伝統的な民族衣装を纏っている。

 

「.......ぁ.......あぁ!!」

 

「まさか、そんな.......」

 

「お亡くなりになられたのでは無かったのか!?」

 

天神から降りて来たのはフレイアの2人の姉、長女のサクラ・タカツカサ・ヒノマワリと次女のアジーサ・タカツカサ・ヒノマワリであった。

 

「フレイア、無事で良かったわ」

 

「よく逃げ切ったわね」

 

「.......お姉様!!!!」

 

フレイアは一眼も憚らず、2人の姉に抱きついて声を大にして泣いた。死んだはずの2人の姉が生きていた。これほど、嬉しいことはない。

 

「神谷殿、よろしいか?」

 

「なんで死んだ筈の王女2人が生きてるか、だろ?フィーム殿」

 

「あ、あぁ」

 

「あそこにいる男達がいるだろ?彼らはヒノマワリ王国に潜入していた、ウチの準軍事工作担当官。パラミリタリーオペレーションオフィサー、所謂『パラミリ』だ」

 

準軍事工作担当官、通称『パラミリ』とは簡単に言えば、諜報組織における軍事行動を担当する工作員である。敵地に潜入し標的の暗殺、爆破、拉致・監禁、拷問尋問、現地武装組織への軍事訓練等々、諜報機関に於ける軍事行動のほぼ全般を担う工作員である。

 

「ぱっ、ぱら、みり?」

 

「JMIB、皇国軍隷下にある諜報組織の軍事行動を行う兵士みたいな存在って事だ」

 

「でもなんで、そのぱーみり?がお二人と?」

 

「あー、それは…」

 

遡る事、フレイアの邸宅脱出より数時間後のこと。前回にもあったように、ヒノマワリ王国にはICIBのスパイが秘密裏に潜入していた。これを護衛、サポートする為にJMIBからもパラミリチームが潜入していたのだ。作業玉は各所の帝国占領機関に潜り込ませていたが、スパイたる自身は統制府の職員として潜入し、作業玉からの情報を得た後、このフレイア襲撃の杜撰な計画を入手した。先述の「どれがフレイアか分かんねーから、姉妹全部ぶっ殺すべ」というアレである。

本命であるフレイアは幸か不幸か、シーン暗殺部隊の本隊が動く本命扱いであり、運良く『夜彪』部隊が対応したのだが、残る2人の姉は協力要請を受けたパラミリチームが救出。適当な死体で死亡を偽装し、本人らはそのままここに逃したという訳だ。

 

「.......ねぇ、神谷殿。てことはさ、私達の国の実情は知ってたって訳?」

 

「あぁ。だが、動かなかった。動けなかった、と言った方がいいか」

 

「嘘つかないでよ.......。アンタら大国が早く動いてくれたらママも助かったのに!!!!」

 

「アキナ!!」

 

護衛たるアキナの母は、帝国の食糧買い占めによる飢餓の影響で亡くなった。父は無実の罪で帝国に捕まり処刑され、残る母は元々身体が弱く飢餓の影響で遂に衰弱死したのだ。

 

「神谷殿、どうかお許し頂きたい。アキナの母親は飢餓の影響で.......」

 

「いや、その怨みを俺は受ける義務がある。だがな、アキナさん。よく覚えておけ。大国ってのは、かなり理不尽のクソッタレな腐った連中の吹き溜まりだ」

 

「.......どういう意味よそれ」

 

「皇国は世界最強だ。ミリシアルだろうがムーだろうが帝国だろうが、現状で確認された兵器群は全て我が国の兵器が本気を出さずとも殲滅する事ができる。だがそれをしてしまうと、外交的に色々と不味い。世界最強の武力と他の追随を許さない経済力を持っていても、転移前の世界でトップクラスの影響力を持っていようと、こっちでは所詮はぽっと出の新参者。それがいきなり大暴れしすぎたら、こっちの権力に殺される。

この戦争、序盤とか前回の海戦で皇国は暴れた。本当ならここいらで休憩しないとならない位だ。とは言え現実問題としてヒノマワリ王国は地獄で、普通ならすぐにでも解放するのが道理だろうよ。だが世界をそれは許してくれない。それではいざという時に、俺達が自由に動けなくなる」

 

こうは言っているが、嘘である。全部詭弁だ。パフォーマンスにすぎない。別に皇国はヒノマワリ王国の民が何億人死のうが何兆人殺されようが、どうだっていいのだ。先祖が一緒だとしても、ヒノマワリ王国はヒノマワリ王国であって大日本皇国ではない。元が古代の皇国にいたのだとしても、証拠も何もない。であれば、彼らは単なる他国民。その生き死にに皇国は興味はない。

例え王国民が飢餓に苦しもうと、それはグラ・バルカス帝国ヒノマワリ王国統制府がやった事。であればそれは『帝国という悪を皇国という正義が討ち倒し、ヒノマワリ王国民に慈愛の救いの手を差し伸ばした』という美談になる。無論これが本当に正義だとか、人道的に正しいとは思っていない。ここでいう『正義』や『正しい』というのは、あくまで皇国が介入する口実として(・・・・・)正しいかどうかである。冷たいと思うかもしれないが、別に冷たかろうが温かろうが、臭かろうが汚れていようが、そんな事は問題にならない。あくまで重要となるのは『皇国がヒノマワリ王国を助けた』という事実のみ。その動機云々は、輝かしい栄光の裏にある影が更なる闇の中へと隠してくれる。

 

「神谷殿。であれば何故、貴殿は我々を助けようとしてくれるのだ?」

 

「言った筈だ。あくまで今回は皇国軍ではなく、神谷戦闘団が動くと。我が国において戦闘団とは本来、こういう戦時下で一時的に組織される部隊。だが我が神谷戦闘団は、常時編成されている特別な部隊。俺達だけは、あくまで俺達の判断で即座に行動できる。

今回で言えば、俺が王国を助けたいと思ったから動くってだけだ。ここには皇国は関係がないし、俺が俺の部隊で好き勝手やってるにすぎない。結論、何の問題にもならない」

 

「それは詭弁なのでは?」

 

「詭弁。嘘。政治とか外交なんてのは、基本全部そうだ。常に裏がある。俺が助けるのだって、名声を得られるチャンスだからだ。例え俺の部隊だとしても、曲がりなりにも皇国軍。燃料弾薬なんかの費用は全て、皇国臣民の血税によって賄われている。1円たりとも無駄にしてはならない」

 

これぞ川山直伝、誤魔化し術である。裏の理由に敢えて表向きの理由を作っておき、本当の狙いはさらに奥へと隠す。しかも表向きの理由に本当の情報を入れ込むことにより、真実味を引き立たせる。こんな事もあろうかと、習っておいたのだ。お陰で2人は既に、これが真実だと信じて疑わない。これが外交官や政治家相手なら付け焼き刃故にバレるだろうが、今回の相手は政治には関係のない単なる護衛剣士。騙せられる。

 

「でもそれって、独断専行とかにならないの?」

 

「ならんならん。どうせ王国の解放は基幹戦略に入ってた訳だし、それが早くなっただけだ。どうにでもなるさ」

 

この後、もう少し2人から質問攻めにされたりしたが、問題はこの後だった。この後、一行は格納庫の方へと歩いて行ったのだが、そこでフレイアから爆弾発言が飛び出した。

 

「.......あの、神谷様。神谷様は、その、意中の方とかいらっしゃるのですか////?」

 

「.......あー、意中の相手、はいないな。うん」

 

この時、ヒノマワリ王国側の人間はフレイアを温かい目で見てみたり、顔を赤くする者がいたりと和やかだったが、神谷以外の皇国側は凍りついた。神谷の中での『意中の人』の解釈は恋人までであるのに対し、フレイアは恋人は勿論、婚約者や結婚相手も含まれた。

ここにラノベとかのお約束、男女の勘違いが発生したのである。

 

「浩三!ここにおったのか!!」

 

「あれアーシャ。どしたの?」

 

「ロングキャスターとフーシェンの2人が菓子を作っていてな、ミーナ姉とミーシャがそれを見て2人も作り始めてスイーツパーティーだ。お前も来ないか?」

 

「いやー、今一応仕事中。でも、あー!すぐ行くから俺の分確保しとけ!!」

 

「了解だ団長殿!」

 

本来ならこのまま修羅場コース突入するか、アナスタシア達嫁側が勘違いするコースに突入するものだが、今回はアナスタシアがさっさと消えてしまったので特に問題はなかった。だが明らかに親しそうな間柄に、フレイアは取り敢えず聞いてみた。未来の夫になるかもしれない男に悪い虫がついていたら、ソウジしなくてはならない。

 

「ところで神谷様。先程の方は?」

 

「アナスタシア・ナゴ・神谷。俺の奥さんにして、神谷戦闘団特殊戦闘隊『白亜の戦乙女』の隊員だ」

 

「お、奥さん?奥さん!?」

 

「.......なにその、まるで俺が結婚しちゃいけない的なリアクションは」

 

フレイアの恋、僅か15秒で終了である。まあどちらかというと政略的な打算による物だったので、軽く一目惚れはしたのだろうがダメージは小さい。うん。小さい筈。

そう思いたかったが、フレイアの顔はなんか姉様死んだ報告を得た時よりも絶望感というか悲壮感があった。

 

「ふ、フレイア?大丈夫?」

 

「大丈夫よ、元気出して。まだ可能性はあるわ」

 

「そ、そうだ神谷殿!」

 

「お、おう、どうしたいきなり食い気味に聞いてきて」

 

「私はそろそろ身を固めようと思っておるのだがな、参考までに皇国での婚姻制度はどうなっておるのか知りたいのだ!」

 

フレイアの姉2人がフレイアのフォローに入り、フィームはフィームで情報を得る為に神谷に質問しつつフレイアの事を誤魔化す連携プレイを見せる。側から見れば、何だか面白い光景だ。

 

「婚姻制度って.......。男女共に18歳以上からで、基本は一夫一妻だけど?」

 

「ね、ねぇ!基本ってさ、貴族とか金持ちなら第二婦人とかいるんじゃない?私さー、いつかどっかの金持ちとくっ付いて玉の輿狙いたいんだよねぇ!!皇国の人なら良い人多そう!」

 

「いやまあ、探せば愛人とか事実婚とかで事実上の第二婦人がいる場合もあるけど、それ本当に極少数だぞ?ってかバレた時に、世間の目が冷ややかになるから普通はやらないぞ。何度その手の話で文春砲とか文春砲とか文春砲とかで著名人が吹っ飛ばされた事か。

とは言えこの世界に来てからは、郷に入っては郷に従え法で、例えば向こうの何かしらの掟なんかで複数の相手との婚姻関係を結ばないといけないとか、そういう特例があれば多夫多妻や一夫多妻なんかもできる。というか俺がそれ」

 

「えーと、それってつまり?」

 

「それが休暇中にアーシャの姉であるヘルミーナって娘を助けたら、なんか村の掟で姉妹全員と婚姻することになって、俺、5人の妻がいるんだよねー。あ、写真見る?」

 

神谷が懐からプライベート用のスマホを取り出し、写真アプリで適当な集合写真を探し出す。個別個別では撮っているが、5人まとめてのが中々無く適当に漁っているとディズニーへ行った時の物があったので、それを見せてみる。

 

「か、かわいい!」

 

「ホント!」

 

「美人さんですねー」

 

「いい人そうだな」

 

王女2人と護衛2人がそう言っている中、フレイアだけは違った。映っている5人は当然ではあるが、ディズニーランドなので普通に私服である。にも関わらず、服の上からでもその爆乳が分かる位に膨らんでいるのだ。しかもアーシャとヘルミーナはスキニージーンズを履いているので腰やお尻の周りのラインもよく見えているし、ミーシャはロングスカートなので足回りは分かりづらいが、エリスはミニスカ、レイチェルはショートパンツにハイソックスを履いていたので絶対領域が完成し、肉付きのいい太ももが眩しい。

さあ、一方のフレイアはどんな見た目かというと、まず髪型は黒髪ロング。顔もアジアン美人であり、全然女優としても活躍できる顔である。背も165cm位と普通位で、特段見た目に欠点はない。だが1箇所、自らも認める弱点がある。それが胸である。おっぱいである。フレイアの胸は、貧を超えて無なのだ。因みに姉2人はC位はあるし、護衛の2人もD〜Eはある。だがフレイアはAなのだ。彼女の名誉のため、BよりのAと言っておこう。

 

「妹王女さん、自分の胸を揉み始めたぞ」

 

「閣下の奥さん、全員ボインボインだもんな」

 

「貧乳はステータスだという名言を彼女に送ってあげたいよ」

 

「胸囲の格差社会と、まな板にしようぜも追加しといて」

 

もはや空気扱いだったパラミリの4人は、スマホと自分の胸を見比べて1人胸を揉むフレイアを遠い目をしながら見ていた。というか最後の奴、お前絶対貧乳敵に回すぞ。

そして戦後、フレイアは皇国からバストアップのサプリとか下着とかを購入したり、バストアップマッサージを試したりしては溜め息を吐くことになるのはまた別の話。

 

 



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第八十話ハルナガ京討ち入り(前編)

数時間後 19:10 リュウセイ基地 ハンガー

「全体、気をぉ付け!!」

 

リュウセイ基地内には、神谷戦闘団に割り当てられたハンガー区画がある。今そのハンガー内には、完全武装の兵士達が整然と並んでいた。出立ちだけでも、目の前の集団が精鋭部隊であることは素人でも分かるだろう。

 

「楽にしろ。今夜の任務は、ぶっちゃけ我々の練度では演習にもならない。実戦の形を模した実弾演習の体裁をとっている、お遊びとすら言える。本来なら我々以外の通常部隊や、第二文明圏連合軍が対応する筈だった。だが状況は我々の想定を超えて最悪であった。既に現地民の中には餓死者が出るくらいには、この世の地獄と化しているらしい。

そんな状況を憂い、ヒノマワリ王国第3王女、フレイア・タカツカサ・ヒノマワリ殿下は王国を脱出。第二文明圏連合軍と我々、大日本皇国統合軍に支援を直談判しに来た。だが両軍共に動けない。そりゃそうだ。我々も連合軍も、足並み揃えなくちゃ勝てる戦も勝てない。でもな、俺達は違う。俺達神谷戦闘団は国家のしがらみなんざ関係なしに、俺達が正しいと思える事をやる。『国境なき軍団』とは、そんな軍団の筈だ。さぁ、お前達。この世界でも、俺達の名を世界中に轟かせるぞ!!!!」

 

神谷の言葉に兵士達は自らの手に持つ銃を高く掲げ、雄叫びを上げる。ハンガーの壁とか屋根に反響し、その声は何倍にも増幅され基地中に轟いた。

 

「いいぞお前達。こうでなくてはな。さて、作戦の概要を説明する。今回の作戦は至ってシンプル。敵の重要施設を精密爆撃による空爆で潰して、後は我々が空挺強襲で敵地に侵入。敵を掃討しつつ、統制府内部に囚われているとされる王と王子を救出する。それだけだ。

敵の規模は占領軍とは言え、機甲師団を含む10個師団相当だ。オマケに『夜彪』部隊の連中が、王女のエスコート中に相手の精鋭特殊部隊と思われる部隊と戦闘もしている。装備こそ我々よりも貧弱とは言え、練度は一般兵とは一線を画す。足元を掬われないようにしろ。何か質問はあるか!」

 

誰も手を挙げない。質問はないらしい。

 

「ないようだな。では解散!!然る後、出撃する!!!!」

 

神谷の宣言で兵士達はすぐに、外に駐機してあるAVC1突空に向かって走る。突空の方も機体のチェックを行い、完了した機体からエンジンに火を入れていく。

さらに今回共同で任務にあたる第123戦術飛行隊のストライダー隊、サイクロプス隊、第366飛行隊『ガルム』、第408飛行隊『ガルーダ』、そして神谷戦闘団直属の飛行隊たる、ラーズグリーズ特別戦闘飛行隊が飛び立って行く。これに続くは神谷戦闘団の機甲師団と砲兵師団を乗せた、トランサー特別輸送航空隊である。

 

「神谷様!」

 

「王女殿下。なんだ、見送りにでも来てくれたのか?」

 

「い、いえ。1つ、お願いがあります。どうか私と、フィームとアキナを連れて行ってください!!」

 

どうやら王女殿下は相当ご冗談が好きらしい。笑い飛ばしてやる気満々だったが、フレイアは深々と頭を下げている。

 

「.......なぁ王女殿下。アンタ、馬鹿だろ」

 

「どうか!」

 

「あのねぇ、帝国はフレイア・タカツカサ・ヒノマワリ第3王女を殺そうとしていた。そのターゲットが態々戦地に行けば、確実に殺されるぞ。アンタが強いならいざ知らず、精々が護身術程度の素人が俺達と共に戦場に出るなんて愚かも良いところだ」

 

「ですが私は.......」

 

「分かった。なら分かりやすく言おう。邪魔だ付いてくるな足手纏い王女!!!!!!」

 

神谷はこういう、頭お花畑な奴は大嫌いである。側から見たりするのは良いが、こういう命が掛かってる場面でこういう行為をされるのは一番嫌いだ。幾ら神谷戦闘団が強く、装備が敵弾を弾くとは言っても、今から向かうのは戦場。いつ死んだって全くおかしくない、そんな狂った世界に行く。そこにこういう部外者のエゴで仲間の命が危険に晒されるのは、指揮官としても個人としても最も嫌う行為だ。

 

「な、何故ですか神谷様!!私は民を救いたいだけなのに.......」

 

「だーもー面倒臭え!!!!護衛騎士2人、俺の命令に絶対服従が条件で連れて行ってもいい。だが、お前はダメだ」

 

「何故です!!!!」

 

「だっかっらっ!!!!テメェがしゃしゃり出てきても邪魔でしかないし、テメェが殺されるとウチの国の立場ないの!!!!そもそもテメェは相手のターゲットだってのに、なんで態々お前を餌にせにゃならん!!!!」

 

尚も食い下がるフレイアに、一度刀チラ見せさせて脅してやろうかと思う位には神谷もイライラしてきた。だが幸い、その辺りでフレイアが渋々引いてくれたので良かった。

 

「あー、神谷殿。これは我々が同行しても良いのか?」

 

「正直邪魔ではあるが、まあ「王女付きの騎士が王女の命で国を救う」って筋書きは、国民が気に入りそうなストーリーだろ?」

 

「それで、私たちが付いていく条件は?」

 

「俺の命令には絶対服従の上、俺の周囲に必ずいること。そしてこの戦闘でお前達が死んでも、皇国は一切の責任を負わない。これを確約しろ」

 

フィームもアキナも今でこそフレイア付きの騎士だが、元はバリバリの軍人。幾ら戦力となっても、参加する軍の規律や戦術を知らない者が参加するのは邪魔でしかない。そんな無茶振りを受けても、条件付きとは言え参加させる決断ができる神谷に脱帽物であった。

 

「無論、異論はない」

 

「文句ないよ」

 

「分かった。それじゃ一先ず…」

 

次の瞬間、神谷は愛刀の二太刀を素早く抜いて2人に切り掛かった。普通なら反応できないだろうが、そこは流石、王女の護衛を務めるだけはある。しっかり反応し、腰に下げているサーベルで止めて見せた。

 

「2人とも合格だ。俺の太刀を受け止められた。少なくとも最低限は、使えるだろう。時間が推している、行くぞ」

 

2人はわたわたと神谷の後を付いていく。3人は駐機している数十機の突空の中を進む訳だが、突空の近くでは整備兵や搭乗中の兵士達がいる。その誰もが手を止め、不動の姿勢で敬礼してくる。外にいるものばかりか、機体の中のパイロットもガラス越しから敬礼していた。

一方の神谷も左に刺した2本の太刀に左手を添えながら、右手で敬礼して堂々と進んでいる。まだ自分達とあまり変わらないであろう年でありながら、既にその立ち居振る舞いは歴戦の将軍と遜色ない。

 

「神谷殿、この飛行機械は我々が乗った物とはかなり違うようだが.......」

 

「AVC1突空。我が軍の配備する新世代のVTOL輸送機であり、重武装・重装甲を施した機体だ。敵支配地域に突撃し、地上部隊の速やか展開と援護が可能な機体で、現状は俺の率いる神谷戦闘団にしか配備されていない機体でもある。

お前達が乗ってきたUH60天神よりも速力、積載量、航続距離、攻撃力、防御力で優っている。今回の様な敵支配地域への電撃的な奇襲作戦に於いては、最も適した機体だ」

 

「じゃあ色のちがいは?もしかして、赤いのは速いとか!?」

 

「アレは単純に乗り込む部隊の違いだ。黒に右翼の金の旭日旗と白の部隊章は通常の神谷戦闘団の隊員、白に右翼の赤の旭日旗と金の部隊章は白亜衆、赤に右翼の白の旭日旗と金の部隊章は赤衣鉄砲隊、そして…」

 

突空の列の最奥。他は左右に機体が並べられているのに、その機体だけはど真ん中に1機だけ駐機していた。カラーリングも真っ黒だが、さっきの機体よりも更に黒い。

 

「漆黒の機体カラー、金の旭日旗と部隊章、そして至極色のエンジンカウル。これが俺専用の輸送機だ。一応コイツは他の機体よりも通信設備にアップグレードが入っていて、所謂、指揮官機仕様になっている」

 

「長官!」

 

「向上、状況は?」

 

「全部隊間も無く準備完了します。間も無く我々も、出撃となるでしょう。所で、何故そちらのお2人が?」

 

「あー、なんかまあ、アレだ。ゲストだ。一応俺の剣を止めたし、俺の命令には絶対服従。ついでに死んだって文句は出ないから、色々面倒になって連れて来た」

 

向上はこの一言で、大方、あの王女辺りが無理矢理着いてこようとしたのを止めたが、それでも止まらず面倒になって妥協案として2人の同行を認めた辺りだろうと、そう悟った。

 

「そういう事ですか。お二方、会談の場でもお会いしましたが、改めてご挨拶を。統合軍司令長官秘書官、そしてこの神谷戦闘団の副長と赤衣鉄砲隊の隊長を勤めております、向上六郎大佐と申します。今回はよろしくお願いします」

 

「ヒノマワリ王国斯衛軍、筆頭護衛騎士、フィーム・ツクヨミだ」

 

「同じくヒノマワリ王国斯衛軍、第3王女殿下付き護衛騎士、アキナ・ナカジマです!」

 

「おーい団長!そろそろ閉めますぜー!!」

 

機長がコックピットでスイッチを弄りながら、そう伝えてくる。すぐに機体に乗り込むと、宣言通り扉が閉まった。神谷はコックピット、向上はアキナとフィームを予備座席に触らせて、自分も座席に座る。

 

「団長!全機、出撃準備完了!いつでも行けます!!」

 

「よし。神谷戦闘団、出陣ッ!!!!」

 

「よっしゃぁ!ジェネラルトランサーより、オールトランサー!!出撃する、我に続け!!」

 

機長の宣言と共に、機長と副機長がエンジンのスロットルを上げて、機体を浮かび上がらせる。それに合わせて後ろにいる他の突空達も飛び上がり、高度を徐々に上げて行く。

 

「頑張れー!!!!」

 

「絶対に生きて帰ってこいよー!!!!!!」

 

「戦果を楽しみにしてるぞー!!!!!!」

 

整備兵達が日の丸の旗や旭日旗を振り、それが無いものは帽子や腰に引っ掛けているタオルを振って、空に上がっていく突空を見送った。

突空はある程度の高度まで上がると、回転数を更に上げつつティルトを水平にして通常飛行に移る。そしてそのまま、先に上がった他のトランサー所属の輸送機や戦闘機隊と合流し、巨大なエシュロン編隊を組んでキールセキやアルーの上空を飛んでいく。

 

 

「あ、おヒゲのおじさんだ!」

 

「おヒゲのおじさーん!!」

 

神谷戦闘団が飛び立った夜、おヒゲのおじさんと子供達から慕われているアルー駐留軍の軍曹は、いつもの様に仕事帰りに孤児院に寄っていた。親戚が経営しているのもあって、最近は非番の日やこういうまだ夜の早い時間帯であれば孤児院に顔を出し、子供達の遊び相手になってやるのだ。

オタハイトには愛すべき妻と5歳の息子、2歳になったばかりの娘がいるが人の親として、せめて今くらいは身寄りの無い子供達の父親役代わりになってもバチは当たらないだろう。

 

「あのねあのね!きょうね、でっかいチョウチョつかまえたんだよ!!」

 

「ぼくはねぼくはね、かわにおちちゃったのね!!」

 

「OKOK。チョウチョはいいよ、あぁ平和だな。うん。だがお前、川に落ちたって大丈夫か?」

 

「うん!ちょっとハナからみずがでてくるけど元気だよ!!」

 

「風邪引いてるじゃねーか。病院にでも行きなさい」

 

こんな風に子供達の話し相手になっているだけで、不思議とかなり疲れが取れる。やはり子供と接すると、リラックスできるようだ。少なくともこんな無垢な子供達が何気ない事を、さも世界を冒険して来たかのように目をキラキラさせて話している姿は、見ていて心が洗われるようだ。

そんな中、窓の外を見ていた女の子が「ながれぼし!」と騒ぎ出した。何事かと外の庭に出てみると、真っ暗な空を何かオレンジ色の光の尾がこちらに向かって来ている。

 

「あれ、なにかな?」

 

「ながれぼしなの?」

 

「ちょっと待ってろよー」

 

軍曹はバッグの中から双眼鏡を取り出し、光の尾の方へレンズを向けてみる。薄々分かっていたが、これは流れ星では無い。動きが違いすぎる。

 

「見えた!あれは.......航空機だな。双発、ジェット機だ。皇国の機体だな」

 

「こうこく?」

 

「わたししってる!シュラのいるくにだよね!!」

 

この女の子の言う「シュラ」とは、勿論神谷の事である。流石に子供達含む、現地民の一部にはまだ『修羅』の名前は色濃く残っている。

 

「そうだぞー。ん?あのマーク.......」

 

軍曹は戦闘を駆る双発の無骨な見た目をした輸送機の下に、何やら金色の紋様を見つけた。その紋様は何かの地図を背にしたアリコーンと、その下にある2本の刀と一挺の拳銃という物。見間違いようが無い。この世界で、そんな紋様を掲げているのは1つしかない。

 

「アレは神谷戦闘団の機体だぞ.......!」

 

「かみやせんとうだん?」

 

「修羅の軍だよ!お前達が大好きな神谷浩三・修羅が率いる、世界で一番強くて、カッコよくて、自由な軍団だ」

 

「あのひこうき、シュラが乗ってるの!?」

 

「あぁ!アレだけの大編隊だ。絶対に乗ってる!!」

 

軍曹がそう言うと、子供達は喜んだ。みんなが編隊に向かって手を振る。その姿は、神谷の乗る機体が確認していた。

 

「お、団長団長。これ、見てくださいよ」

 

「なんだどうした?」

 

「アルーの街に、ほら。子供達が我々に手を振ってくれていますよ」

 

この時、偶々攻撃士官がマニュアル照準用のカメラを操作しており、そこに運良く子供達の姿が映り込んで、それを攻撃士官が見つけたのだ。それを神谷が聞いてしまうと、今度はサービス精神が顔を見せる。

 

「機長、もう少し高度は下げられるか?できれば子供達が、我々をしっかり見える高度がいい」

 

「お安い御用ですぜ。あ、そうだ。どうせなら、子供達の上でロールでもキメやしょう!」

 

「よーし、やっちゃえ機長!!」

 

「ウィールコ!あージェネラルトランサーより、全ての突空へ。下で子供達が目を輝かせながら、我が編隊を見ている。という訳でサービスタイムだ。俺の合図で全機ロールしろ」

 

機長もノリッノリで無線で指示を出し、他のパイロット達からも聞くからに悪戯を仕掛ける前の子供のような声色で返事をする。神谷戦闘団は色んな意味で自由なのだ。

 

「よーしそんじゃ5秒前!4、3、2、1、Cue!!!!」

 

機長の合図で全ての突空が、寸分の狂いなく右にロールした。それを見た子供達は大興奮である。

 

「すごーーい!!!!!」

 

「クルッてまわったよ!!!」

 

「わたしたちがみえたのかな!?」

 

「ははは.......まさか.......」

 

この軍曹はアルー奪還作戦に於いて、皇国と共に戦っている。神谷戦闘団と直接共闘はしていないが、それでも遠目から神谷戦闘団の戦いぶりも、一時的に駐屯していた日常も見ている。あの軍団なら、なんかやりかねないと思いながら子供達を部屋へと戻すのだった。

さて。ちょっとしたサービスという名のお遊びを挟んだが、今は曲がりなりにも作戦中。その後は特にふざける事はなく、神谷と向上は情報整理や最終的な戦術の確認をしていたが、他の護衛剣士の2人を含む兵士達は、適当に雑談をしながらヒノマワリ王国を目指していた。だがそんな空気も、神谷が入って来た事で一気に切り替わる。

 

「野郎共、時間だ。間も無く攻撃が開始される。装備、武器の最終チェックを行え」

 

その一言で兵士達の目つきが変わった。さっきまでの和やかな空気はどこへ行ったのか、今は張り詰めた糸のような緊張感が漂っている。この空気の変わりように、護衛剣士の2人も内心では驚いていた。

 

「お嬢さん方。まずはコイツを耳に付けてくれ」

 

「これは?」

 

「小型のマイクフォンだ。コイツがあれば戦場で、俺達と相互に通信できる。もしも互いに不測の事態が起きたとしても、連携できるって寸法だ」

 

2人の白亜衆の隊員が、フィームとアキナに最低限の装備を付けていく。因みに2人の自前の装備は白を基調とした金のラインが入った、スタイリッシュなデザインをした鎧で、背中には真紅のマントを羽織っている。武器は金の装飾が入ったロングサーベルである。尚2人には、インカムとメットのAR投影機能を装備したコンタクトレンズを装備してもらう。

他の兵士達は自らが装備する銃にマガジンを差し込んで初弾を装填し、グラップリングフックとジェットパックの動作をチェックする。白亜のワルキューレ達も自らの装備をチェックし、神谷も自身の装備チェックに入る。

 

「.......データリンク完了。問題無し。グラップリング、正常に稼働。ジェットパック、問題ない」

 

神谷は全てのチェックが完了すると、座席の下から桐箱を取り出した。紫色の紐を解き、中からいつもの羽織を取り出して機動甲冑の上から羽織る。

 

「ねぇねぇ団長さん。その紫色のはなに?」

 

「羽織だ。この羽織は大日本皇国が主、天皇陛下より賜った品であり、皇国一の剣の使い手に贈られる物だ。

なんて、かなり重苦しく言ったが、これは旗印だ」

 

「旗印?」

 

「この羽織を俺が纏う限り、そこが神谷戦闘団の居場所だ。そして団長たる俺が先頭に立ってこそ、後に続く団員達は力を発揮できる。将軍とか長官とか団長とかの前に、1人の戦士として戦場に立ち仲間を鼓舞する。それが俺の役目だ。この羽織はその導となる」

 

神谷が前に立って戦い続ける限り、神谷戦闘団は負けていない。例えの途中に戦死者が続出していようと、たった1人になろうと、戦い続ける限り神谷戦闘団は永久に負けは無い。いつもの羽織は、その導となるべく神谷が着用しているのだ。

他の突空でも準備がなされる中、戦闘機隊は一足先にハルナガ京へと前進。爆撃に移る。同時刻 ヒノマワリ王国 ハルナガ京

「明かりが少なすぎる。これが首都か?まったく、早く帝都の本省勤務になりたいものだな」

 

制統府を訪れていたグラ・バルカス帝国外務省のダラスは仕事を終え宿泊先のホテルへ歩いて向かっていた。ハルナガ京は首都というのにグラ・バルカス帝国に比べると遙かに明かりが少ない。空気は澄み、星は夜空にちりばめた宝石のように美しかった。しかも今宵は月が明るいため、町は月明かりに照らされる。だが、いかんせん街灯なんかの灯りは無く、帝国の片田舎の辺鄙な農村でも街灯くらいはあるのに、かたや蛮族の首都はこの有様。哀れでならない。

 

「しかし、やはり帝国はすごい。辺りの建物に対して遙かに重厚で、品がある」

 

支配後に作られた統制府庁舎はハルナガ京の中では異質だが、ダラスとしては慣れ親しんだ帝国式の建造物。重厚感の中に気品を備えたデザインは、一種のアートとすら形容できる。野蛮な現地民には到底理解できないだろうが、この世で最も優れた建築様式であろう。

そんな事を考えながら1人ニタニタしていると、街のあちこちで爆音と閃光が轟いた。

 

「な、なんなのだ!!」

 

逃げ惑う市民の中、ダラスはただ1人呆然と立ち尽くしていた。ただぼうっと、爆発の煙と赤く照らされる夜空を見る事しか出来なかったのだ。

だが暫くすれば、ショックから立ち直り思考が巡りだす。方向から見て、恐らく爆破されたのは全部対空砲のある辺り。しかも一斉に爆発しているので、何かしらの事故とは考えにくい。となればこれは攻撃。そしてこんな事を出来るのは、世界広しといえどたった一国。大日本皇国である。

 

「.......逃げなくては」

 

そう結論が出ると同時に、ダラスは走り出した。人に弾き飛ばされ、石段に躓いて転んで、泥と血に塗れた踏んだり蹴ったりの状況でも、生き残る為に恥も外聞もかなぐり捨てて森へと走った。

 

『ロングレンジ部隊!上出来だ、対空砲は全て煙を吐いているだろうな。全く、窓がないのが残念でならないよ』

 

「それなら俺達が、高解像度カメラで映像を送ってやろうか?」

 

『カウント、俺の食欲を減らしたいのか?』

 

『アンタは食欲減らした方がいいんじゃないか?』

 

『確かに、この間も「手頃なフィンガーフードがない」って愚痴っていたもんな』

 

ロングレンジ部隊恒例、誰かをいじり倒す時間がやって来たらしい。いつもはカウント辺りがターゲットになるが、本日はロングキャスターらしい。ロングキャスターいじりに他部隊の連中も加わって、空の上はかなり賑やかになった。

だが地上はもっと賑やかになる。何せ、彼らが暴れるのだ。地上は鉄風雷火吹き荒れる、お祭り騒ぎとなるだろう。

 

「ジェネラルトランサーよりオールトランサー!突撃開始だ!!全ての突空は我に続け!!!!!」

 

ここでC2鐘馗、C3屠龍は編隊から離れる。流石に街中にとかを降ろすと、確実に一般人も巻き込んでしまう。砲兵隊と機甲部隊はハルナガ京付近の平原に降下し、そのままハルナガ京へ進撃する手筈だ。

一方の歩兵部隊はそのままハルナガ京内部へ突空で乗り付けて、そのまま都市を制圧する作戦を選択している。

 

「見えた!ハルナガ京だ!!」

 

「よーし野郎共、時間だ。暴れるぞ。後部ハッチ解放!」

 

突空はハルナガ京外縁部に降り立ち、ここで歩兵部隊を展開する。降下した神谷戦闘団の面々は各々の担当地区を制圧次第、一斉に統制府へと進撃する事になっている。

 

「行くぞ続け!!」

 

「団長に続けぇ!!!!」

 

「突撃ぃぃぃぃ!!!!!」

 

神谷を先頭に、白亜衆と赤衣鉄砲隊の面々が突っ走る。このまま搭載は庁舎まで走って行ければ苦労はないが、そこは帝国も迎撃の部隊を展開している。流石に何の抵抗もせずに統制府を明け渡すほど、帝国軍兵士も馬鹿じゃない。

 

「突っ込んでくるぞ!!」

 

「バカめ!!!!重機関銃で蜂の巣にしてやる!!!!!」

 

最初に接敵したのは、重機関銃と軽機関銃を数多く保有する機関銃小隊である。しかも短時間で築き上げた簡易的な物ではあるが、しっかりとした要塞陣地もオマケで付いてきている。普通の歩兵なら圧倒的弾幕の前に倒れて、屍の山を築き上げる事だろう。

 

「撃てぇ!!!!」

 

だが皇国ならその限りではない。発砲される前に装甲歩兵が前に出て、後続の歩兵部隊の盾となる。

 

「HAHAHAHAHAHA!奴ら、何も知らずに撃ってきやがるぜ!!」

 

「装甲歩兵を舐めるなよ!!!!」

 

装甲歩兵が装備する装甲甲冑であれば、たかだか重機関銃の7.7mm弾程度は単なる豆鉄砲。精々装甲をカンキン鳴らす楽器位にしかならない。

 

「お返しだ!!!!」

 

帝国兵が使った重機関銃は大口径機関銃ではなく、小口径の固定式機関銃の方である。先述の通り、弾丸は7.7mmのライフル弾だ。一方の装甲歩兵が装備しているのは、35式七銃身5.7mmバルカン砲である。所謂ミニガンな訳で火力、速射性、威力の全てで帝国の重機関銃を凌駕する。

 

「うおぉぉ!!!!」

 

「伏せろ伏せろ!土嚢に身を隠せ!!」

 

即座に帝国兵も土嚢の後ろに隠れるが、生憎と攻撃しているのはミニガン。これがアサルトライフルや軽機関銃だったなら、それでもよかっただろう。だがミニガンは圧倒的な速射性を誇る。例え土嚢に隠れていようと、その土嚢が防ぎきれない量の弾丸が襲い掛かる。1発1発は威力が低くとも、それが秒間で数千、数万、あるいはそれ以上の数が一斉に着弾すれば、土嚢も意味を為さない。

 

「ガッ.......」

 

「なんだよこの弾幕!!」

 

「土嚢を貫通するなんて聞いてないぞ!!」

 

「クソっ!」

 

1人の兵士が土嚢の隙間から、ライフルを構えて装甲歩兵の戦列に向かって撃つ。だがその弾丸が当たったのか、そもそも届いたのかわからず、逆に何万倍もの弾丸が襲い掛かる。

 

「ッ」

 

「ひいぃぃぃ!!!!」

 

勇敢な兵士は頭を、顎の上から全部失って、土嚢が仕切る奥側へと力なく滑り込んできた。脳髄と血肉と血液が両隣の戦友に降り注ぎ、彼らは悲鳴をあげる。だが数刻後にはその悲鳴ごと、弾丸の嵐に掻き消されて遂に聞こえることはなかった。

 

「装甲歩兵はこのまま派手に暴れて敵を引きつけろ。歩兵はこのまま、機動遊撃戦を持って敵を各個に撃破する。行くぞ!!」

 

神谷の指示に白亜衆と赤衣はグラップリングフックを用いて屋根に上がり、一般の兵士達はジェットパックで空を飛ぶ。フィームとアキナはアーシャとミーシャが担いで、屋根まで登らせた。

 

「あ、あはは。人が生身で空を飛んでる.......」

 

「あれは魔法.......なのか?」

 

「魔法じゃないよ。科学の産物で、ジェットパックって言うんだよ詳しい仕組みは知らないけどねー」

 

レイチェルのあっけらかんとした回答に、2人はただただ混乱していた。流石にムーに加え、グラ・バルカス帝国と大日本皇国という存在により、科学技術が魔法技術よりも格下という発想はない。だがそれでも、生身で人が空を飛ぶのは魔法としか言いようがないのだ。

まだ尻の下に箒があったなら、どうにか説明ができた。実際、第一文明圏のアガルタ法国には、箒で空を飛ぶ熟練魔導士達がいる。だがその彼らも「箒だと魔力の燃費が悪いから、ワイバーンに乗った方が楽」と言う。更に言えば魔法を使って生身で空を飛ぶのは、まず不可能であると言っていい。種族的特徴として翼を持つ種族でもないと生身で空を飛ぶなんて芸当はできない。だが目の前に広がるのは、精鋭とは言えど一般の兵士が空を飛び交っている姿。もう無茶苦茶である。

 

「ちょっと、何ボーッとしてるのよ!おいて行くわよ!!」

 

「あ、あぁ!」

 

「ごめんねエリスちゃん!」

 

呆気に取られていた2人もエリスの声で現実に戻り、ついでに気も引き締め直す。これ以上戦場で無様は晒せられない。

 

「おっとぉ、下にお客様だ」

 

神谷の一言で全員の空気感が変わった。見れば下に、200人ばかしの帝国兵がいる。どういう指示が出るのかフィームとアキナが待っていると、神谷と向上だけが何も言わずに屋根から飛び降りていった。

 

「ヒャッフゥゥゥゥゥ!!!!」

 

セリフだけ見ればマリオだが、マリオとは似ても似つかない叫び声を上げながら、神谷が1人目に喰らいつく。真上から全体重×重力の加速で強化された一撃が、1人の兵士の脳天に突き刺さった。

更に向上もお得意の2挺拳銃で4人を即座に撃ち抜き、帝国兵にパニックを引き起こさせる。

 

「正義の味方御一行様のご到着だ」

 

「帝国兵は直ちに道を開けなさい。もしくは自決なさい」

 

「.......殺せぇ!!!!」

 

少し遅れて、帝国兵の誰かがそう叫んだ。次の瞬間、一斉に弾丸が飛び交い出す。だがそれを2人は諸共しない。

 

「狙いが粗い。素人丸出しは、早死にの元だ!!」

 

「んなへなちょこ弾で修羅のタマが取れるか!!!!」

 

神谷は敵を切り伏せ、向上は26式拳銃を乱射して敵を瞬く間に喰らい尽くす。既に初動で2人を取り囲んでいた20人は、もう物を言わぬ死体となっている。対する2人は返り血に塗れ、まるで地獄の悪鬼そのものだ。

 

「さぁ、次は誰が相手をするんだ?」

 

「我々を前に、無駄な抵抗は無意味な事。さっさと自決なさい。若しくは戦って死ね」

 

「コイツら.......人間じゃねぇ。化け物だ.......」

 

帝国兵の誰かが、ボソりとそう呟いた。帝国兵は全員が無意識のうちに、一歩二歩後ずさってしまう。生物が天敵を見つけたり、命の危機に瀕した時に発動する防衛本能が、目の前の2人を天敵ないし命の危機を与える存在だと認識したのだ。

この夜、ハルナガ京において、後に帝国の戦史に『地獄の一夜』として記録される戦闘に帝国兵は身を投じる事になった。断末魔の悲鳴が木霊し、鮮血の雨が降り注ぐ。その中でどの程度の帝国兵が生き残るかは、まだ誰にも分からない。

 

 



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第八十一話ハルナガ京討ち入り(後編)

ハルナガ京 メインストリート

「コイツ化け物だぞ!!」

 

「恐ろしく素早い奴だ!!!!」

 

「この乱戦で何で急所を正確ッ」

 

「君達では、俺の相手は務まらない!!!!」

 

向上は射撃と簡単な格闘を混ぜながら、乱戦に持ち込んで相手に攻撃をさせない。帝国兵が持つライフルはボルトアクション式であり、1発ごとのリロードが必要となる。更にライフルは無駄に長いので、こういう至近距離での格闘戦にはめっぽう弱い。例え銃剣で突こうとしても、帝国兵の数が多い方へ多い方へと向上が進むので、味方に刃が刺さりそうで刺すに刺さない。

 

「何なんだよコイツ!!!!」

 

「何で刀なのに、銃相手に戦えたんだ!!!!」

 

「コイツ神谷浩三!神谷浩三・修羅だ!!!!!!」

 

「気付いた所で、何にもなんねーよ!!!!」

 

一方の神谷は、そもそも根底から違った。向上は乱戦に持ち込ませて撃たせない様にするのに対して、神谷はその辺りは何も考えずに相手を殺すことのみを考える。放たれた弾丸は刀で切り裂き、突き刺そうとしてくる銃剣はライフルごと刀で弾き、刀をライフルで防いだら剛撃を持ってライフルを脳天にめり込ませる。無茶苦茶である。

 

「神谷殿は化け物か.......」

 

「団長さんもそうだけど、隣の副長さんも相当だよ.......。あんなの、見た事ない」

 

「お嬢さん方。頼むから、アレを皇国基準にするのはやめてくれよ?」

 

「そうそう。あそこで戦ってる2人がやばいのであって、それ以外はヤバくないから」

 

とは言うが、皇国にだってヤバいのはもっといる。鎌倉バイキングとか第四海兵師団とかコイツら神谷戦闘団とか、色々人間辞めてる連中がいるのだ。確かに神谷と向上クラスは殆どいないが、それでも普通に人間やめてる奴は結構いる。

 

「そんじゃま、我々も暴れますかね」

 

「そうだなー。多分、そろそろ潮目が変わるしな」

 

兵士達は屋根の淵へと並び出し、射撃態勢に入る者や銃剣を装着し出す者もいる。白亜のワルキューレも武器を構え直し、列へと並ぶ。

 

「.......あぁ、ごめんなさい。2人は分からないわよね」

 

「ヘルミーナさん。もしかしてこれって、あの戦いに飛び込むんですか?」

 

「そうよ。今は向上さんと浩三くんの攻撃で敵は混乱しているわ。でもそろそろ、統制を取り戻す筈。その瞬間に私達が更に奇襲を仕掛けるの」

 

ヘルミーナはさも当然かの様に言うが、戦場を読むのはかなり難しい。天気と同じで必ずしも予測が当たるとも限らないのが戦場だ。だが神谷戦闘団の面々は、命令もなく何を言わずとも全員が戦場を読んで同じ戦法を選択している。これだけでも恐ろしい。

 

「どうだ、2人も我らと共に行かぬか?」

 

「しかし我々が行けば、そちらの連携を崩すやもしれぬぞ?」

 

「問題ないよ。何せ、その為の我々だ」

 

真っ赤な機動甲冑を纏った男がアナスタシアの背後から現れる。赤衣鉄砲隊の隊員だ。

 

「我々、赤衣鉄砲隊は神谷戦闘団の中でも特に射撃に秀でた者が配属される。この理由は白亜のワルキューレを援護する為であり、我々は予測の難しい超至近での斬り合いの中でも正確な援護射撃を持って、ワルキューレの姫君を守れる様になっている。そこに同じ近接特化の者が2人加わったところで、さほど問題はない」

 

「彼らの腕は私が保証しよう。事実、我ら姉妹は一度たりとも誤射を受けた事はない。訓練中も含めてな」

 

アナスタシアの言葉に、2人は頷いた。フィームとアキナ、参戦決定である。2人が屋根の縁まで行くと、丁度戦闘の潮目が変わる瞬間だった。

 

「変わったな。野郎共、掛かれ!!」

 

白亜のワルキューレ、フィーム、アキナ、赤衣鉄砲隊、白亜衆の近接特化組が屋根から飛び降りて神谷と向上の戦闘に加わる。

 

「ナイスタイミング!!」

 

「うわぁ、かなり食い散らかしたわね。私たちの分を残してくれてもいいんじゃない?」

 

「そう言うなって!」

 

「これは帰還後に焼肉かBBQパーティーの詫びが必要だと思うが?」

 

「お!アーシャ姫いいねぇ!!」

 

「俺たちも欲しい!!」

 

「全く、今は戦闘中だ!!その辺の話は後後!あ、長官。松坂、神戸、佐賀、近江、鹿児島の黒毛。全部A5でお願いしますね!!」

 

「おい待て向上!お前今の流れ止める時のヤツだろ!!!!しかも高いヤツだし全部!!まあ別にいいけどさぁ」

 

戦闘前に敵がいる目の前で語るべき内容ではない。焼肉、BBQというのは分からずとも、多分食事か何かなのは分かる。それにしたって、普通なら上官からの鉄拳が飛ぶ様な会話だ。にも関わらず、普通に神谷もツッコミを入れながら乗っている。この時点でかなり異質であった。

 

「テメェら焼肉ないしBBQがしたいなら、敵を倒せ!!」

 

「肉ぅぅぅぅ!!!!!」

「ミーーーート!!!!!」

「A5和牛ぅぅぅぅ!!!!!」

 

近接組の白亜衆が銃剣片手に敵に襲い掛かり、まるでバーサーカーの様に雄叫びを上げながら敵を殺しまくる。これに合わせて上からも弾丸が飛んできて、ついでにレイチェルとミーシャも攻撃を開始。矢と魔法も飛んでくる。

 

「上にも敵だ!!!」

 

「クソッ、なんなんだコイツら!!!!」

 

「退け退け!!!!」

 

帝国兵はどうにか逃げようとするが、逃げて行く方向に矢と魔法が飛んでくる。もうこの時点で彼らの運命は降伏か死ぬかの二択でしかない。逃げるというのは、許されないのだ。

 

「逃げてはダメですよ。逃げられては、折角のパーティーが台無しです」

 

余談だが、完全にエルフ五等分の花嫁は神谷戦闘団に染まっている。神谷戦闘団は基本的に戦闘狂というか、少なくとも他部隊では「頭がおかしい」「狂ってる」と言われる連中がノーマルである。そんな狂った連中に揉まれた結果、普段は普通の出会った時と同じ様な感じなのだが、戦闘となるとドSというか容赦が無いというか、ナゴ村に住んでいた頃よりも戦闘を嬉々として楽しむ様な感じになっていた。簡単に言えば、全員まるで悪の組織の女幹部みたいな言動をすることが多々あるのだ。

 

「クソッ!!」

 

逃げ惑う兵士の1人が、ミーシャに向かってライフルを構えて、撃ち殺そうとしてくる。だがそうさせるよりも先に、ミーシャの横に控えている白亜衆の1人が射殺した。

 

「奥方様には傷一つ付けさせぬ!」

 

「我ら白亜衆。奥方様を害そうとするならば」

 

「まずは我らを倒し」

 

「我らの屍を越えてからでないと」

 

「その凶弾は決して届かぬと知れ!!」

 

「いよぉぉぉぉ!!」

 

なんか何処ぞの家臣団みたいな事を言っている、この6人。彼らはミーシャの護衛だ。ミーシャとレイチェルには基本的に護衛が必ず付く。というのも彼女達は前線の後衛からの援護が多く、特性も相まって、まあまあ敵にも狙われやすい。だがミーシャもレイチェルも総じて、一撃の威力は大きいが攻撃までに時間がかかるという欠点がある。それを補うために、供回りを付けているのだ。

無論これは神谷が嫁を守るためにプライベートな理由で付けたのではなく、戦略的に考えての判断である。しかも発案自体は白亜衆の隊員からであるし、他の3人はそういう供回りは付いていない。

 

「あー、こーきゅん?アレ、どうしようか」

 

エリスが指差す先には、機関銃を装備した装甲車がいた。恐らく、応援に駆けつけたのだろう。正直、下にいる味方を撤退させる暇はない。

 

「エリス姐さんお願いします」

 

「任せてこーきゅん!」

 

エリスは愛剣を地面に叩きつけて、剣の固有アビリティを発動させる。このアビリティは地面を割って、中から数千℃の溶岩を垂直に吐き出させる技で、例え皇国の戦車であろうと破壊できる威力を持つ。帝国の装甲車では太刀打ちできない。

 

「汚い花火ね」

 

「おぉ」

「エリス姫かっけぇぇ」

「流石エリス!俺達にできないことを平然とやってのける!そこに痺れる憧れるぅ!!」

 

エリスは得意げに髪を手で払いのけ、なんかカッコいい。そしてセクシーである。男どもはまたも「おぉ」という声を上げて、エリスを崇め奉らん勢いで拝み始めた。

一方、フィームとアキナもしっかり神谷戦闘団の戦闘についていっていた。

 

「はぁ!!」

 

「よくもパパとママを!!!」

 

フィームとアキナ。共にヒノマワリ王国内でも一、二を争う剣の使い手だ。相手が帝国兵相手でも、全く引けを取らない。だがそれでも、あまり実戦経験がない2人は少しアラが目立ってしまう。兵士を殺しきれてない事もしばしばある。

 

「アキナ、後ろだ!!」

 

「え?」

 

「.......死.......ね.......」

 

帝国兵の1人が、アキナを背後から撃とうとしていたのだ。もう避ける事もできない。だが撃たれるよりも先に、向上がそれを阻止した。

 

「後ろからレディを撃とうとは、無粋な帝国兵もいるものだ」

 

「副長さん!」

 

「お怪我は?」

 

「大丈夫!」

 

「よろしい。もう恐らく、掃討が終わるでしょう。次の場所へ進撃しますよ」

 

ひと足先にフィームとアキナを屋根の上へと運び、向上はまた戦場へと戻る。その姿をアキナはうっとりとした表情で眺めていた。

 

「かっこいい.......」

 

「お前のタイプだもんな彼は」

 

アキナ、向上に惚れた。全く、この国はどんだけ皇国の人間を好きになるのやら。だが知っての通り、向上は推しに恋して今は相思相愛となっている。付け入る隙はない。ぶっちゃけアキナが傾国の美女だったとしても、向上は推しを取るだろう。その位惚れている。アキナよ、お疲れ。

そんな恋路はさておき、戦闘は数分後には終結した。また屋根の上から次の場所へと進撃するべく進むのだが、ここで偵察用にドローンを飛ばしていた兵士が一団を止めた。

 

「この先にかなり頑丈な防御陣地を築いてますね。この先、広場あるでしょ?」

 

「あぁ。セントラル広場という、この都市で1番の広さを誇る円形の公園だ」

 

「そこに恐らく民家から引っ張ってきたであろう家財道具と土嚢を組み合わせた、簡易的な三重の陣地を構築しています。対戦車砲8門、迫撃砲19門、重機関銃が30挺はありますね。

うわ、しかも歩兵装備がかなり良い。全員が大型のアサルトライフルで武装してやがる」

 

この一言で神谷と向上は、そこに陣取っているのが例の帝国が保有する特殊部隊である事に気付いた。正直、突破できなくはないが面倒なのには変わりない。となれば、手段は一つだ。

 

「ところで、そのセントラル広場は歴史的な場所なのか?」

 

「うーん、特にそういうのはないよ」

 

「よし。なら、焼き払うか。極帝さん、やっておしまい!!!!」

 

闇夜の空に、超巨大な竜が現れる。その姿にフィームとアキナは震え上がった。ワイバーンや風竜を上回る、巨大な赤い体躯に、立派な角と巨大な翼。間違いなく、伝説の竜である。

 

『任せよ!!!!』

 

極帝はいつもの様に、魔力ビームでセントラル広場を焼き払う。シーン暗殺部隊の兵士達は、死体も残らず消え去った。それだけではない。綺麗だった公園は中の植物から、遊具やトイレなどの施設、シーン暗殺部隊の兵器群に至るまで跡形もなく消し去った。しかも一撃で。

 

『やはり焼き尽くすのは気分が良い!!!!』

 

「まさかあれ.......」

 

「竜神皇帝『極帝』だ.......」

 

現地民の取り分け武を極めようとする者や竜騎士にとって、極帝は並々ならぬ存在だ。竜騎士は言わずもがな竜の大親分であり、一説では全ての竜の父とまで言われる存在でもある。武を極めようとする者にとっては、極帝を武の化身や神として崇める者もいる。崇めるとまではいかずとも、最強の存在である極帝には畏敬の念を持つのが普通だ。

そんな存在がいきなり現れれば、ポカーンとするに決まっている。

 

「うへぇ。団長、見事に黒焦げです。グロ注意です。R18Gです」

 

「うわぁヒデぇ」

 

ドローンを操縦する兵士達からは、まあ一応の報告が上がる。とは言えあの攻撃では、もう残る物も残らない。全てが焼滅している以上、報告のしようがない。

 

「か、神谷殿。あれは.......」

 

「俺の盟友、竜神皇帝『極帝』だ。多分現地民なら、名前くらいは知ってるんじゃない?」

 

「もう驚くのも疲れたよ.......」

 

なんかもう、無茶苦茶すぎて驚く気力もなかった。取り敢えず広場のシーン暗殺部隊の撃退には成功したわけだが、まだまだ障害はいる。なんと次は機甲師団が出てきたのだ。

 

「次は戦車のお出ましです。どうします?」

 

「うーん、どうしようか」

 

「まさか戦車って、あの戦車?鋼鉄製の大砲つけた荷車」

 

「その戦車であってる」

 

2人は戦車の単語を聞いた瞬間に、見事に萎縮してしまった。というのも占領後、統治軍の演習に免れたことがある。そこで見た戦車の威容は、今も尚記憶にこびりついて離れない。大きな音を上げながら突き進む鋼鉄の塊に、巨大な大砲。更には機関銃までついている。あんなのと出くわして、生きて帰れる自信はない。

 

「まさか戦うのか?」

 

「どうだろ。団長がどう判断するかだな。まあ、あんなチハたん擬きに負けはしないがね」

 

「戦車に勝てるの!?」

 

「勝てるよー。何せ、あんなの皇国基準じゃ戦車じゃなくて、ただの装甲車とか歩兵戦闘車程度の扱いだし。あ、装甲車とか歩兵戦闘車ってのは戦車のワンランク下の兵器ね。あんなの、こっちのもつ携行式対戦車ミサイルで1発よ」

 

白亜衆の兵士の言葉に、2人は言葉を失った。あの威容を誇る戦車を歩兵が倒すなんて、全く考えつかない。イメージすら湧いてこないというのに、目の前の男は倒せるというのだ。狂っている。

 

「おいおい。あんなチハたん擬きにミサイルは勿体ねーよ。普通にジェットパックで屋根に取り付いて、中にグレネード投げ込もうや」

 

「いやいや。たかが二次大戦の骨董品にグレネードなんて、ご大層な兵器はいらんいらん。即席の火炎瓶をエンジンの上に投げつければ終わりよ」

 

「いっそ装甲歩兵の60mmオートで、履帯ちょん切って貰おうぜ?」

 

「だったら、ランスガンとかヒートブレードでボコボコにしようや。それが一番コスパがいい」

 

兵士達はどうやって戦車を破壊するかで盛り上がる。側から見たらかなりヤベェ奴らの集まりだが、この一団なら余裕でやってのける。というか第二次世界大戦程度の装備であれば、ジェットパックで真上から奇襲できる以上、結構簡単に破壊できてしまう。他の皇国兵でも難なくやってのけるだろう。

 

「よーし決めた。麗奈ちゃんよろしくー!!!!」

 

『はい!』

 

無線から響く銀鈴の声。次の瞬間、真っ白な四足歩行の戦車の様な兵器が屋根や通りに飛び出してきた。戦車を遥かに凌駕する機動性に、2人は目を見開いて驚いている。

 

「なにあれなにあれ!!」

 

「XMLT1土蜘蛛。第86独立機動打撃群(エイティシックス)にのみ配備されている、高機動多脚戦車だ」

 

赤衣の隊員がそう説明しているが、殆ど頭に入ってこない。あんな鋼鉄の塊が、まるで虫の様にわちゃわちゃ動くのは2人には異常な光景だったのだ。

そんな2人を他所に、彼らは敵戦車に食らいつく。

 

「戦隊各機、敵戦車は軽装甲かつ鈍重だ。主砲で撃ち抜ける。反撃に注意しつつ、全て破壊するぞ」

 

『俺は適当に撃って場を賑やかしますかね』

 

『雷電の60mm、今回ばかりは大活躍しそうだよね」

 

『そうねぇ。帝国の戦車、装甲薄いから』

 

『でもさー、主力戦車が機関砲に負けるってどうよ』

 

『ダセェ!』

 

シェイファーもハウンドも、共に装甲は紙同然。皇国基準ではあって無いような物に等しい。本来であれば軽装甲目標の掃討や、重装甲目標への火力拘束が目的の60mm機関砲が最強武器になってしまう。こんな戦場、中々ない。

 

『ブラッディレジーナより戦隊各機!敵戦車、総数30!殲滅してください!!』

 

「了解」

 

エイティシックス達はシンを先頭に、敵戦車群へと突貫。58式90mm滑腔砲が、あちこちから敵戦車に突き刺さる。

 

『21号車がやられた!!』

 

『クソッ、なんなんだコイツらは!?』

 

『素早いぞ!!』

 

『照準が追い付かない!!』

 

『退け退け!!』

 

戦車隊はどうにか撤退しようとするが、退路を塞ぐように攻撃しているので、撤退しようにも撤退路が存在しない状態になっている。そんな状態にもなれば、さらに戦車兵達は混乱し指示も二転三転しマトモな統制なんて取れやしない。

その瞬間を待ってましたと言わんばかりに、シンが駆るアンダーテイカーが真上から接近戦を仕掛ける。

 

『なんだアイツは!!』

 

『剣だ!剣が付いてるぞ!!』

 

『く、来るな!!来るんじゃね———ガッ』

 

流石の戦車も高周波ブレードで斬られる事は、全く予想だにしていない。接敵より、僅か2分。戦車30両からなる防衛部隊は壊滅。神谷達は統制府近くまで進撃した。

 

「長官。神谷戦闘団各部隊、集結完了しました。次はどうされますか?」

 

「簡単だ。統制府まで凱旋と行こうじゃないか。音楽を流せ!!」

 

「団長!曲はどうするんですよ!!」

 

「抜刀隊のremix版でいい!」

 

抜刀隊と言えば旧陸軍からある日本の軍歌の代表格であり、メロディーだけならミリタリーに明るくない者でも聞いたことがあるくらいには有名な物だ。それを現代風にアレンジした物が、大音量でハルナガ京に響き渡る。

神谷戦闘団の面々は、何もする事なくただ統制府に向かって歩く。なんなら整列する事なく、通りを歩く者もいれば屋根を歩く者、ジェットパックで空を飛ぶ者もいる。その後方には戦車や装甲車もズラリと並び、歩兵の後ろから付いてくる。

 

「掲げろ!!」

 

「おう!!!!」

 

軍団の先頭に5種の旗が翻る。白地に真ん中に赤い丸のある旗、白地に赤い太陽の意匠を象った旗、赤地に金の十六葉八重表菊が描かれた旗、黒地に白で丸と揚羽蝶の描かれた旗、旧世界の地図を背にしたアリコーンとその下に二太刀の刀と一挺の拳銃が描かれた旗だ。

日本の国旗、旭日旗、天皇旗、神谷家家紋、神谷戦闘団の部隊旗が翻り、その後ろから軍歌と共に軍人達が続く。まるで閲兵式である。戦闘が始まってから建物の中に隠れていたヒノマワリ王国の民も、窓から顔を出しその様子を何が何だか分からずに見ていた。

 

「奴ら、行進しているだと!?」

 

「舐めやがって!!機関銃で一掃してやる!!!!」

 

統制府前に陣取っていた最後の守備隊の兵士達は、舐めた行動を取る神谷戦闘団に対して怒りを覚え、自らの武器のトリガーに指をかける。だが兵士の誰かが、こう叫んだ。

 

「あの紋章、神谷戦闘団だぞ!!!!」

 

「神谷戦闘団.......?」

 

神谷戦闘団の言葉が出て数秒後、兵士達の士気は一気に下落した。神谷戦闘団と言えば、ムーへの侵攻を撃退した皇国の精鋭軍団。この辺りまでは末端の兵士でも知っている事だが、帝国上層部が神谷戦闘団に関する様々な情報を隠した結果、どんどん尾鰭が付いてよく分からない組織に進化した。「神谷戦闘団の兵士は全員化け物であり、生き血を啜り、捕虜を拷問して笑う狂人の集まり」だとか「化け物を飼い慣らし、敵に突撃させる」とか「全員不死身で、弾が全く効かない」とかである。

無論神谷戦闘団の人間は狂っちゃいるが、人道に反する事は基本しないし殺せば死ぬか弱い人間である。あながち間違いでもないが、少なくともそんな妖怪とかモンスターの集団ではない。ただちょーっと人間を辞めているだけに過ぎない。

 

「狼狽えるな!!総員着剣!!!!これより突撃を敢行する!!!!!!」

 

「お、おぉ!!!!」

 

「皇帝陛下万歳!!!!」

 

「グラ・バルカス帝国万歳!!!!」

 

「突撃ぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

 

帝国兵が恐らく儀礼用と思われるカトラスを持った士官を先頭に、ライフルに銃剣を装備して突っ込んでくる。だがそれを許すほど、神谷戦闘団は甘くない。

 

「撃て」

 

装甲歩兵の35式七銃身5.7mmバルカン砲と、歩兵の42式軽機関銃、32式戦闘銃、43式小銃といった火器が阻む。帝国兵はボルトアクション式のライフル銃で、連射できるのは機関銃部隊の機関銃のみ。対する皇国兵は全てフルオートな上、35式にいたってはバルカン砲であり発射レートはもう歩兵が装備するレベルの代物ではない。その圧倒的弾幕の前に、帝国兵は倒れていく。

 

「怯むな!!続けぇ!!!!!」

 

だがカトラス持ちの士官だけは、怯む事なく前へと進む。その姿を見た神谷は、素早く前に飛び出して士官の元へと走る。

 

「貴様ぁ!!よくも部下達をッ!!!!!!」

 

真上から振り下ろされるカトラス。普通なら神谷の頭は、兜割の要領で真っ二つになるだろう。実際、その位の威力は出る速さだ。

だが神谷の場合は違う。振り下ろされるカトラスの刃ごと、真横から斬り込んで首諸共飛ばしてしまう。身体を少し士官の腹の中に入り込むようにしてやれば、振り下ろされてる時の慣性が働いていたままの刃も背中を通って地面へと転がる。問題はない。

 

「刀と首を一撃!?」

 

「なんという腕だ.......」

 

アキナとフィームが驚くのも無理はない。よく映画だとサクッと切っているが、実際あんな綺麗に一撃で切れるのはギロチンか余程腕の良いか2択なのだ。ギロチンの場合は重力とか自重でスパンと行くが、刀の場合は使用者の腕前と刀自体の切れ味にも左右される。どちらか一方が欠けていても成立しない技。それが一刀での斬首というものなのだ。

 

「敵戦車3、近づく!!!!」

 

「46式、前に出ろ!!」

 

歩兵部隊と入れ替わるように、1両の46式戦車が前に出る。戦車は皇国兵にとって見慣れた存在ではあるが、それでもやはり46式だけは別格だ。その威容は見ているだけで闘志が湧いてくる。だがこれが敵の立場であれば、単なる悪魔だろう。

 

「見えた!敵集団発見!!!!先頭に巨大戦車!!!!!」

 

「徹甲弾、込め!!!!」

 

「装填完了!!」

 

「発射!!」

 

3両のハウンドIIから徹甲弾が放たれる。だがこの戦車47mm砲塔を搭載した新型とはいえ、所詮は47mmの豆鉄砲。装甲歩兵の60mmオートライフル砲よりも小さい。戦車が人間に負けるって、これ如何に。

一方の46式は正面装甲は250mm砲に耐えられる、幾重にも重ねられた特別な複合装甲を装備している。たかだか豆鉄砲では、精々凹みを作るくらいだ。

 

「敵さん撃ってきました」

 

「無駄な事を。返してやれ」

 

「撃て!」

 

46式の主砲と、上部の速射砲から計3発の砲弾が発射される。主砲は350mm、上部速射砲は120mmであり、チハたん程度の装甲しかないハウンドIIには防ぎようがない。

 

『前方クリア』

 

「よーし、また行くぞ。進めー!」

 

また陣形を直しつつ、行進を始める。また散発的に敵の襲撃こそあったが、その悉くを撃退し更に進軍。ついに統制府庁舎前にまで来た。

 

「ここが統制府で間違いないな?」

 

「そうだ。これが統制府。グラ・バルカス帝国による、我がヒノマワリ王国支配の象徴だ」

 

「もしかしてこれ、統治後に作った?」

 

「う、うん。そうだよ」

 

「つまり、ぶっ壊したって問題はないと.......」

 

ここで神谷の顔は、見事なまでに悪い顔をしだした。この顔は絶対に何か良からぬ事を考えている顔である。とはいえ「敵の、壊してもいい、まあまあ豪華な、デカい建物」と揃えば、神谷の次の命令は分かるのではないだろうか?

 

「向上。いつものアレ、やっちゃおうか」

 

「えぇ!?やるんですか、アレを今ここで!?!?」

 

「やっちゃいますとも。お前達、ド派手に決めてこい!!!!」

 

神谷がそう叫んで数十秒後、軍団の中から3台の44式装甲車ロ型が飛び出した。オターハ百貨店ぶりの登場、ヒャッハー装甲車である。

 

「ヒャッハーーーーー!!!!!!!!やっぱり突撃は俺達の出番だぜ!!!!!!!!!!!」

 

「俺たちゃ泣く子がもっと泣き叫ぶ!!!!!神谷戦闘団の突撃隊長だぜ!!!!!!!!」

 

「今回から俺もいるぜ魂バリバリ!!!!!!!」

 

えー、ヒャッハー装甲車は3台に増えました。はい。3台目の口癖は「魂バリバリ」なので、よろしくお願いします。

3台の装甲車は一直線に統制府へと走り、途中でジャンプ。統制府は4階建てなのだが、それぞれが4〜3階まで順番に突き刺さって攻撃を敢行する。

 

「な、なんだコイツは!!!!」

 

「装甲車が突っ込んできたぞ!!!」

 

「に、逃げろ。ここから逃げろ!!!!!!」

 

戦闘員ではない統制府職員は逃げ惑うしかないのだが、彼らにそれは関係ない。搭載している武装で、周囲の人間を徹底的に排除する。しかも搭載してるのが大口径重機関銃なので、壁の後ろに隠れようが部屋に逃げ込もうが、問答無用で弾丸の嵐が職員を襲う。まあ一応、軍人も中にいるのでセーフだ。

 

「上がおっ始めた。俺達も始めるぞ!一斉撃ち方、撃て!!!!!!!」

 

一方、まだ統制府前に陣取っていた残りの兵士達は、統制府の一階に向けて大量の弾丸を撃ち込んだ。圧倒的な弾幕と物量の前に、中で籠城をするつもりだった帝国兵はなす術がない。

 

「護衛騎士、向上、ワルキューレ共!!俺に続けぇ!!!!!」

 

アキナとフィーム、向上、白亜のワルキューレの5人は神谷を先頭に弾幕に牽制して貰いながら統制府へと突入。好き放題に暴れ出す。

 

「こ、こいつら化け物」

 

「クソッタレがぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「はいはい、うるさいうるさい。首を切り落としますよ」

 

「こっちのおっさん、口が臭いわ。剣に貫かれて死になさい!!」

 

「蛇はお好きか?」

 

弾幕に貫かれて死んでいった方がマシだったかもしれない。白亜のワルキューレに睨まれた者は、武器固有のアビリティを駆使して殺されている。例えば前衛を務めるヘルミーナ、アナスタシア、エリスならそれぞれ首を切り落とされ、毒を喰らってパープル・ヘイズで殺された様な無惨な死体になり、無数の剣が地面から生えてきて串刺しにされると、かなりエグい死に方をしていた。

後衛のミーシャ、レイチェルも基本的に死に方はエグい。魔法で焼かれるか溺れるか貫かれるか感電するか、矢で貫かれるかである。

 

「大将首だ!! 大将首だろう!? なあ、大将首だろう。おまえ?首置いてけ!!なあ!!! 」

 

「チクショォォォ!!!!!!」

 

神谷に睨まれた者はライフルで防ごうとガードするが、そのライフルごとぶった斬って頭を半分にされてしまう。向上なら有無を言わさず、頭や心臓などを撃ち抜かれる。

ある意味、護衛騎士の2人の方が平和だったかもしれない。一応、まだ互角に戦闘できたのだから。

 

「はぁ!!!」

 

「女が調子に乗ってんじゃねぇ!!!!!」

 

「アキナ!!!!」

 

例えばこんな風に、殺されそうになったとしよう。普通ならこのまま、アキナは死ぬ運命だと思う。だが背後に控える赤衣鉄砲隊がそれを許さない。

 

ズドォン!

 

「我ら赤衣。我らが後ろに構える限り、皇国の賓客にして、我が戦闘団の同志を凶弾の餌食にはさせん!!!!」

 

しっかり援護代わりに殺してくれるので、結果としてアキナとフィームも倒せないでいた。元より白亜のワルキューレという、皇国軍の中でも異端中の異端達を援護する為に作られた部隊。この手の援護はお手の物だ。

 

「あ、ありがとう!」

 

「どうも。さっ、早いとこ行きますぜ騎士殿!」

 

「おーいこっちだ!下への階段があったぞ!!」

 

兵士の1人が階段を見つけ、神谷を含めた10名程度が下に降りる。地下は監獄施設となっており、一番奥にヒノマワリ王国の国王と王子がいた。

 

「国王陛下!!王子殿下!!」

 

「アキナ!フィーム!」

 

「其方ら、無事であったか.......」

 

「神谷殿!鍵を!!」

 

「.......かぎ?」

 

神谷戦闘団の人間、全員が顔を見合わせた。そうだ、牢屋を開けるには鍵が必要なのだ。だが誰も鍵なんて持ってないし、全階既に穴だらけの無茶苦茶だ。鍵なんて埋まってる上に高確率で折れてるか、蜂の巣か、溶けてるかである。

 

「あ、うん。鍵ね、マスターキーあるから」

 

「そんな物、いつの間に?」

 

フィームがそう尋ねるが、全員がそれをガン無視して1人の装甲歩兵が檻の前へと歩き出す。そして両腕に装備された35式スレッジハンマーを構えて…

 

「パワー!!!!!!!」

 

そう言って振り下ろした。もはや、爆発音にしか聞こえない爆音と共に鉄格子が破壊され、鉄格子は奥の壁へと突き刺さっている。一応鉄格子は鋼鉄製だし、壁もコンクリート製の硬いやつだ。

 

「て、鉄格子が刺さった.......」

 

「エゲツねぇ.......」

 

神谷戦闘団の兵士も、これにはちょっとドン引きであった。我が皇国の兵器ながら恐ろしいなと、誰もが思った。王と王子はそのまま担ぎ出され、外傷はなかったが念の為に一度王国を離れて貰い、リュウセイ基地へと移送。検査を受けてもらう。

王と王子を見送ると神谷と護衛剣士の2人は統制府の屋根の上へと登り、最もやらなければならない事をやる。

 

「そんじゃ、行きますよと!」

 

神谷は統制府の屋根に翻るグラ・バルカス帝国の旗をポールから切り離し、ついでに火をつけながら地面へと投げ捨てる。それと同時に神谷の左右に控えていたアキナがヒノマワリ王国の国旗を。フィームはヒノマワリ王家の家紋の旗を掲げ、その後ろでは日の丸、旭日旗、天皇旗、神谷家家紋の旗、神谷戦闘団の部隊旗が翻る。

 

「我々の勝利だ!!!!!!」

 

神谷がそういうと、統制府前の広場にいた兵士達が声を上げる。この夜、ヒノマワリ王国は1年と5ヶ月ぶりにグラ・バルカス帝国から解放されたのである。

 

 



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第八十二話レイフォル戦略会議

ヒノマワリ王国奪還より2日後、神谷はどういう訳か神聖ミリシアル帝国の首都ルーンポリスにある、国防総省にあった。この国防総省は、アメリカのペンタゴンと同じ様に神聖ミリシアル帝国全軍を統括する場所であり、今日はそこで次の作戦についての戦略会議が行われる事になっているのだ。

 

「さーて、鬼が出るか蛇が出るか。向上、首尾は?」

 

「既に配置完了しています。何もなければいいんですけどね.......」

 

「まあ、何かありゃプラスになるし、無くてもマイナスにはならん。気楽に行こう」

 

2人がこうもピリピリしているのは、何も会議があるからではない。無論それも無くは無いが、会議の占める割合は微微たる物だ。メインは会議自体ではなく、会議中に起こるであろう事態である。

実はこの会議において、グラ・バルカス帝国の特殊部隊が奇襲を仕掛けるという話が出ているのだ。ただ奇跡的に断片的に手に入った情報であり、信用度としては余り高くない。無用な混乱を避ける為、この事は皇国軍内に留めている。とは言え仮にも襲撃情報があった以上、何も対策せずに会議に臨む程、皇国も愚かではない。急遽、付近を航行中だった究極超戦艦『日ノ本』を本部とし、神谷戦闘団の内、白亜衆と赤衣鉄砲隊を連れて来ているのだ。更に監視のために、JMIBとICIBのエージェントも大量に動員している。

 

「それもそうですね。さぁ、行きましょうか」

 

「そうだな」

 

因みに今回、流石に戦闘時の機動甲冑とか、機動甲冑の下に着るスーツの上から普段羽織るジャンパーとかで行く訳にはいかないので、しっかり統合軍の黒い制服を纏っている。皇国剣聖の羽織も今は羽織っていないが、愛刀と愛銃はしっかり装備している。

 

「止まれ!身分証を提示しろ」

 

「あぁ。これでいいかな?」

 

「ッ!?失礼いたしました神谷閣下!!」

 

門兵はまるでバネ仕掛けかの様に飛び動き、冷や汗と共に敬礼をしている。その姿に内心笑いながらも、しっかりと返礼する。

すると奥から、ミリシアル帝国軍の軍服を纏った士官がやって来た。恐らく、彼が案内役なのだろう。

 

「初めまして神谷元帥閣下、向上大佐殿。私、エルドルベと申します。こちらはニョナス大尉。本日、アグラより御二方の案内を仰せつかりました」

 

「よろしく頼むよ少佐」

 

「それでは閣下。いきなりで申し訳ないのですが、アグラが1対1での面会を希望しております。もしよろしければ、受けて頂けないでしょうか?」

 

正直に言おう。かなり面倒くさい。ぶっちゃければ、マジでやりたくない。とは言え、ここで国防省長官であるアグラと関係を持つ事は、メリットしかないだろう。

 

「では向上、お前は、あー、どうする?」

 

「私が待機用のお部屋までご案内します」

 

という訳で向上はニョナスと共に待機室へと向かい、神谷はエルドルベの案内の元、アグラの執務室へと向かった。

国防総省の庁舎内に入ってみて感じた率直な感想は「煌びやかすぎて眩しい」である。流石に何処ぞのパーパルディア皇国とまではいかないが、かなり煌びやかな装飾が施されており、皇国とはまるで違う。皇国の統合参謀本部や国防省庁舎で煌びやかな内装になっているのは、要人用の応接室等の極一部であり、大半は普通のオフィスの様な見た目である。一方こっちは王宮までとは行かずとも、並の貴族の邸宅程度には装飾されているだろう。

 

「失礼します!神谷浩三元帥閣下をお連れしました!!」

 

「おぉ、神谷殿。お初にお目にかかる!神聖ミリシアル帝国国防長官、アグラだ。以後お見知り置きを」

 

「大日本皇国統合軍総司令長官兼、神谷戦闘団団長兼、究極超戦艦『熱田』艦長、神谷浩三だ。こちらこそ宜しく頼む」

 

パッと見では和やかな雰囲気だが、その実は全くの逆である。互いが互いの腹を探り合う、かなりドロドロかつバチバチの状況だ。

 

「さて、本来なら適当な挨拶でも交わすべきだろうが、私も貴殿も軍人。無駄な前振りは抜きにして、ここにお呼びした理由を語ろう。貴殿はこの戦争、どう見る?」

 

「真意が見えない。何を見ればいい?行く末か?戦況か?はたまた別の視点だろうか?」

 

「無論、現在の戦況と行く末だ」

 

「.......現在の戦況は、取り敢えずはこちら有利という所だろう。先進11ヵ国会議以降、帝国が第二文明圏に伸ばした支配権は既に殆どが奪還されている上に、インフェルノ艦隊という主力艦隊級を集めた連合艦隊を文字通り殲滅した。これだけ見れば、我々の優勢と言えるが実はそうじゃない。

確かに海軍力は我々が有利。だが未だレイフォリア及び、その近郊には多数の陸軍部隊が駐屯している上に、レイフォリアの奥には堅固な要塞が構えられ、その後方には補給港があり、護衛付きの輸送船団が本土とを繋いでいる。兵糧攻めしようにもっていうのが現状だ」

 

この時点でアグラは、目の前の男な只者じゃない事を読み取った。実は世界連合軍全体でインフェルノ艦隊壊滅の報を受けて「我が国にも戦果を」という考えの下、見事なまでに好戦的な意見に傾倒しつつある。

だが現実は先述の通り、海軍戦力こそ失ったが陸軍戦力は健在な上に補給も万全で防御も鉄壁という、そんな簡単に落とせる状況じゃないのだ。それを見抜いているだけでも、アグラ個人としてはプラス評価なのだ。

 

「だが、貴国であれば殲滅できるのでは?」

 

「分かってるんだろうが、言ってやろう。そうだとも。仰る通り、攻略自体はできる。だがコストとメリットが釣り合わない」

 

「何?」

 

「戦争つっても、所詮は金金金金金。金がないんじゃ資源は買えないし、資源がないんじゃ最強の軍隊だろうが何だろうが単なる案山子。そういう訳だ」

 

なんて言っているが、まあ嘘である。確かに資源とか金の問題はあるが、実際はグラ・バルカス帝国位なら4、5回は滅ぼせるだけの物が揃っている。

敢えて金と資源の問題を表に出したのは、皇国の目的である「互いに潰しあってもらって権威を落としてもらい、そこを皇国が掻っ攫う」というプランを隠すためだ。流石に馬鹿正直には語る訳にはいかない。

 

「もし、我が国が支援するとしたらどうだ?」

 

「約250億ミル。何の値段かお分かりか?」

 

「.......?」

 

「皇国海軍に配備されている艦対艦ミサイル、そちら流でいう所の誘導魔光弾1発のお値段だ」

 

因みに為替レートは1ミル=100円である。つまりミサイル1発あたり、2.5兆円ということになる。

 

「.......それをどのくらい搭載できるのかな?」

 

「駆逐艦で96発、巡洋艦で128発、戦艦で200発以上って所だな」

 

アグラは卒倒しそうなのをどうにか堪え、殆ど気力だけで平然を装っていた。あの第二次バルチスタ沖海戦の時、皇国海軍が動員したのは数千隻単位の超大艦隊。空母もいたが、少なくともあの中の9割程度が駆逐艦、巡洋艦、戦艦といった艦種だった。その全てにこれだけの数のミサイルが搭載されていると考えると、その資金は馬鹿にならない。

 

「ま、まあ良いだろう。では、戦争の行く末はどう見ているのかね?」

 

「どう転ぶやら。少なくとも皇国としては、別にこれ以上の戦果は望まない」

 

「皇国は関係ないと?」

 

「皇国が参戦したのは、あくまでも友邦ムーの支援の為。そもそも我が国は新参者な上に、元々「絶大な軍事力をもった謎多き文明圏外国家」っていう認識だった筈だ。そんな国が暴れすぎたら、戦後社会に於いて我々がグラ・バルカス帝国の立場に収まるだろう。

もしかしたら、数十年後には世界連合対皇国の図式になっているかもしれない。それを避けるためにも、積極的に介入はしたくないのだ」

 

「それは考えすぎだ。皇国の力は誰もが認めている!」

 

「そう。それが問題でもある。皇国がパーパルディアと争ったのも、元を辿れば我が国が舐められていたからでもある。そして今度は、強い事が世界に知れ渡ってしまった。今は戦時下故に、我々は持て囃されている。だが戦後、この戦争がどういう形で終わろうと、強力な武力は各国がこぞって削ぎに掛かるだろう。そうなった時、今の様な良好な関係が築けるとは限らない」

 

アグラは黙るしかなかった。戦力を削ぎに掛かるとすれば、その矢面に立つのは確実に祖国たる神聖ミリシアル帝国だろう。ミリシアルというのは、世界最強でなくてはならない。元々はラヴァナール帝国が現世に復活した時、世界の守り手である為だった。

だがいつしか、そこに権威や権力が絡み出し、そんなお題目は形骸化していると言っていい。国民から皇帝たるミリシアル8世に至るまで、思考の根底には常に「世界最強の国家である神聖ミリシアル帝国の人間」というプライドがある。第二次バルチスタ沖海戦が始まる前、聨合艦隊が集った時のミリシアル8世の発言がそれをよく表している。

神聖ミリシアル帝国にとって、今の戦時下なら皇国は頼れる味方である。それは間違いない。だがもし戦争が終わり、世界に平和が戻った時、皇国の力を削ごうとする勢力は必ず現れるだろう。更に言えば技術開示を要求し、その戦力を我が物にしようとするなんて者も現れる筈だ。神谷の言っていることは、未来予知にも等しい。

 

(まあ、嘘ですけどねー)

 

深刻そうな顔をするアグラを、神谷は心の中で指差して大爆笑していた。どういう事かと言うと、別に皇国というか三英傑的には世界と敵対しようがどうでも良いのだ。資源が大量に眠るクイラ王国と、食糧の宝庫であるクワ・トイネ公国さえあれば、もっと正確に言えばその国土さえあれば皇国は生き残れる。ムーだって貿易で儲かりはするが、最悪なくなってしまっても国が滅ぶ程ではない。

もしも仮に、世界が皇国に戦争を仕掛けてくるのなら。もしも仮に、今のグラ・バルカス帝国の様に世界中で寄ってたかって攻撃してくるのなら。侵攻軍を全てを殲滅した後、第一、第二文明圏の全ての国家に、核の雨を降らせるまで。第三文明圏及び文明圏外国は、通常戦力で蹂躙すれば良い。第一、第二文明圏は例え核の放射能で侵されても、皇国へのダメージはほぼ無い。風向き的には問題ないし、海流の方は海辺だけイザナミ弾頭を用いれば良いだけだ。

 

「失礼します!アグラ長官、そろそろお時間です」

 

「.......あぁ、そうか。そうだったな。では神谷殿、行こうか」

 

会議室には、各国の代表達が集まっている。先進11ヵ国会議が各国の外交部門における有力者が集まっているのなら、この戦略会議に集まっているのは軍事部門に於ける有力者達。纏う雰囲気が独特だ。

因みに参加国は大日本皇国、神聖ミリシアル帝国の他、ムー、エモール王国、アガルタ法国、マギカライヒ共同体、ニグラート連合である。

 

「定刻になりましたので、これより戦略会議を始めさせて頂きます。ここに集まる人間は何度かお会いしたことがありますが、大日本皇国のお2人については、まず自己紹介をお願いします」

 

今回、というか大体ミリシアルで行う時は毎回司会を務めているアグラに促され、神谷と向上が立ち上がる。

 

「大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三元帥だ。宜しく頼む」

 

「大日本皇国統合軍総司令長官秘書官、向上六郎大佐です。よろしくお願いします」

 

「であれば、我らもするべきだろうな。まずは我らから」

 

ミリシアル側に座る3人の男が立ち上がる。緑、白、青の制服を着ている辺り、恐らく陸海空の軍人なのだろう。

 

「私はデイバーノック。陸軍の総司令を務めている。階級は大将だ」

 

「海軍提督、クリスベンである。修羅殿、お会い出来て光栄の極みだ」

 

「私がゴルゴー空軍大将である。栄えある神聖ミリシアル帝国空軍、総司令官を拝命している」

 

「となれば、次は我らであるな」

 

続いてミリシアルの三大将の隣に座る、2人の竜人が立ち上がる。この部屋でも数少ない亜人であり、かなり目立つ異色の2人組だ。

 

「久しいな神谷殿。コーナハカである」

 

「えぇ、お久しぶりですな。使節派遣以来、ですか」

 

「そうだとも。さて、でこちらにいるのが」

 

「エモール三竜が1人、イヴァン竜騎将である。修羅殿はご存知かな?」

 

「なんかまあ、凄そう位にしか」

 

いつかエモール王国に関する報告書だかレポートだかで、なんかそんな文言をチラーっと見た様な見てない様な、その程度にしか分からなかった。

 

「エモール三竜とは、我が国に3人しかいない極みの雷炎竜を操れる騎士である。有り体に言えば、我が国最強の騎士という物であるな」

 

「左様。我が極みの雷炎竜が勝てぬ竜は火、水、土、風、雷、闇、光を司る神竜と呼ばれる上位種と、その頂点に君臨なされる竜神皇帝の極帝様のみ」

 

「あー、やっぱアイツすげー竜なのね」

 

「よもや修羅殿は、極帝様にお会いになられたことが?」

 

「いやー、お会いになられちゃったどころか眷属にしてますけど?」

 

瞬間、議場が凍り付いた。極帝自体、この世界に於いては最も尊ぶべき竜であり、エモール王国においては前身のインフィドラグーン建国神話にも登場する父祖の竜みたいな存在なのだ。それを眷属って、もうどう反応すればいいのやら。

 

「なぁ極帝さん。なんか、全員フリーズしてんだけど」

 

「ふぅむ。我は一応、竜人からしてみれば創造神も同義であるからな」

 

ひょっこり現れたデフォルメバージョンの極帝が、神谷の横でこのリアクションの意味を解説してくれる。

 

「あー。じゃあ、マズい感じ?」

 

「まあそうかもしれんな」

 

「じゃあ、今のなし!議事録もカットで!」

 

「「「「「「なるかぁぁぁぁ!!!!!」」」」」

 

無論、総ツッコミである。向上も後ろで頭を抱えながら「アンタは何処のガープ中将ですか長官」とツッコんでいる。

 

「極帝様!!!!イヴァンと申す者です!!!!!!」

 

「イヴァンとやら、何用であるか?」

 

「はっ!!恐れながら極帝様、1つお答え頂きたく存じます!!何故極帝様は、修羅殿と主従の契約を結ばれたのですか!!!!!」

 

「決まっておろう。この男と、この男の祖国が強いからである。そして何より、共にいて楽しいのだ」

 

竜人としては、やはり何処か納得がいかない所がある。いくら神谷と言っても、所詮は非力な人間。竜人ではなく、何故よりにもよって人間と主従を結んだのかは知りたいのだ。特に竜騎士として最も高みに立つ者としては、それは余計に知りたい。

だがこの答えで納得した。神話の中での極帝は、全ての竜を統べる竜の皇帝でありながら、最も自由を愛し、常に自由を求めて突き進んだ竜でもある。「共に居て楽しい」という事は、それ即ち神谷が自由の戦士たる証拠でもある。

 

「修羅殿。いえ、神谷様。どうか我らが皇帝と共に、その命尽きるまで道をお歩みください」

 

「我らエモール王国、必要とあらば国を挙げて神谷様と極帝様に尽くす所存。その代わり、どうか極帝様と共にいつまでもお歩みください」

 

イヴァンとコーナハカが人目も憚らず、神谷と極帝の前に平伏した。流石に神谷も対応できず、周りを見渡すがその目はまるで神話を見ているかの様な目の輝き様で、こちらを見守っていた。取り敢えず向上の方を振り向くが、満面の笑みを浮かべながら「ごめん無理ー」と口パクで言われてしまい、見事に退路が塞がってしまう。

 

「貴様らの事情はしかと届いた。元より我は、この者の命尽きるその時まで共に歩むつもりだ。貴様らも、共に歩むが良い」

 

「「ははー!!!!」」

 

(事態悪化したぁぁぁぉぁぁぁ!!!!!!)

 

更に極帝が極め付けに完全に動きを封じてくれやがったので、もう逃れられない。こうなったら、川山に丸投げするしかないだろう。

 

「は、話を戻そうか。うん。とは言え、我々は面識があるしな」

 

「我々は飛ばして頂こう」

 

ムー代表のレイダーとは合同軍事演習以来、何度か会ったことがあるし、カサダラに関しては開戦以来、何度も会議で会っている。この2人は今更だ。

 

「では、次は私らの番か。我が名はゴウン。アガルタ法国魔導将にして、法国一の魔法の使い手である」

 

「私はドラッペン。アガルタ法国にて、全軍の指揮を任せられている。向上殿、それに修羅殿。武人として、お2人の強者と共に戦える事は最高の栄誉だ」

 

ドラッペン将軍は筋骨隆々の大男であるが、それだけで特段おかしな点はない。だがゴウン魔導将に関しては、姿形からして驚きであった。ローブによって顔を含めた全身が隠れていた為に気付かなかったが、この男、人間ではない。全身が骸骨で、ゲームとかでいうスケルトン・メイジとか、エルダーリッチとか言われる種族なのだろう。最早、エルフやドワーフといった亜人ですらない。

 

「次はオレ達だな。オレはマリオリル竜騎長!アンタみたいな連中と戦えて、すげー嬉しく思う!」

 

「トラマリと申します。マリオリルは口が悪いですが、悪い奴ではありません故、どうかお許しください」

 

続くマギカライヒ共同体代表のマリオリルとトラマリは、完全に正反対の2人だった。マリオリルの方は熱血系の血の気の多い若者だが、対するトラマリはサラサラの長髪に爽やかな風貌をしたエルフである。

 

「最後は我らであるな。我が名はエクニオール。ニグラート連合にて、将軍を務める者だ。1人の戦士として、2人には最大の敬意を表そう」

 

「私はペネッション筆頭竜騎士長である。強き者よ、お会いできて光栄の至だ」

 

エクニオールは白髪の老人であるが、その目には不屈の闘志が宿っている。老練な将軍をそのまま具現化した様な男だ。対するペネッションも、同じ様にベテランの風貌を醸し出す中年の男だ。しかも左目に眼帯をしている辺り、いかにも「ザ・エース」という感じで何だかかっこいい。

 

「では自己紹介も済んだ所で、本題に戻りましょう。本日皆様を招集したのは、今後の対グラ・バルカス帝国戦略を取り決めるためであります。

現状、グラ・バルカス帝国はムーから完全に撤退し支配地域に引き篭もっている状態であり、主力艦隊級を複数集めたと思える艦隊も第二次バルチスタ沖海戦にて撃滅されております。支配地域への攻勢計画ですが、まずは前段としてヒノマワリ王国の奪還を…」

 

「議長、よろしいか」

 

「神谷殿、なんでしょう?」

 

「ヒノマワリ王国についてだが、既に2日前に我が軍が奪還している」

 

いきなりの爆弾発言に、事情を知っているムーを除いた各国代表が驚く。というのもヒノマワリ王国には、例のシーン暗殺部隊が駐留していた為に何度か攻勢を仕掛けたものの、手も足も出ずに敗退しているのだ。以来、威力偵察などで国境線近くで軽く小競り合いが起こる程度の膠着状態だったのだ。

 

「修羅殿、ではあの精兵達はどうされたのだ?」

 

「ドラッペン将軍の言う精兵とは、シーン暗殺部隊の事だろう。確かに彼らは通常の帝国兵とは次元の違う、特殊部隊の位置付けだったのだろう。だが、たかだか第二次世界大戦程度の特殊部隊黎明期の集団が、各国の様々な事例を踏まえて高度に進化した我が国の特殊部隊やその特殊部隊を凌ぐ練度を誇る我が戦闘団の前には赤子にも等しい。奇襲の効果もあったとは言え、一夜で終わった。

尚、今回の軍事行動については我が軍の独断先行という形ではあったが、ヒノマワリ王国第3王女、フレイア・タカツカサ・ヒノマワリ殿下からの非常時国家保護法に基付く正式な要請と、ヒノマワリ王家の救出及び現地民の差し迫った人道的危機からの保護の為であったと申し添えておく」

 

一応あの行動は、世界連合軍的には面倒な事だろう。何を言われるか分からない。だがお題目さえ正当であれば、全てはノープロブレム。一色曰く、口実として正しいか正義であれば、後は基本ノー問題というのが政治という物らしい。

 

「ヒノマワリ王国の掃討はどの程度掛かりますか?」

 

「恐らく、掃討に後1週間。そこからインフラの整備等々、最低限の主要なインフラ整備に3週間という所だろう。補給拠点や前線基地の建設であれば、我が軍の即応拠点で良ければすぐにでも展開可能だ」

 

「失礼、即応拠点とは?」

 

「我が軍の保有する装備の1つであり、コンテナ化した兵舎、食堂、風呂、トイレ、車両整備設備、手術室、指令所等の設備の事だ。これにより一定の広さがあれば、世界中どこでも簡易的な拠点が設営できる」

 

即応拠点のメリットは展開の速さだけでは無い。コンテナの為、組み合わせて用途に合った拠点にできる。例えば手術室、診察室、兵舎、ICUといったコンテナを組み合わせて野戦病院にしてみたり、キッチンを大量に設置して炊事所にしてみたり、武器と車両の整備設備に武器庫や倉庫を組み合わせて補給拠点にしたりと、様々なバリエーションに変幻自在なのだ。

 

「ではヒノマワリ王国を前線拠点としつつ、レイフォル領域へと進軍する形でよろしいですか?」

 

全員が頷く。ヒノマワリ王国までは鉄道が通っており、それはそのままレイフォルまで続く。これにより補給線の確保も容易な上、アイアンレックスによる強襲も場所によれば可能となる。

しかもヒノマワリ王国とムー区間には一応の街道も整備されているので、輸送トラックを走らせる事もできる。陸路での補給線、及び負傷者等の後送も可能だ。

 

「次はレイフォルへの攻勢計画ですが、現状多数の防衛部隊が駐留しており、侵攻は困難を極めます。既に戦車と呼ばれる大砲を重装甲の車体に搭載した動く要塞兵器を主軸とした部隊が9個師団を筆頭に、5個砲兵師団、15個歩兵師団が確認されており、軍港には戦艦と空母を主軸とする艦隊が停泊し、航空基地にも戦闘機や爆撃機も多数確認されております。

加えてレイフォル自体が要塞化しており、戦艦の主砲クラスの要塞砲も確認されている他、内部に兵器廠を有する自給自足型の要塞です。更に後方には強固な要塞陣地が2つ築かれており、補給線も本国から海路で伸びております。この補給路はイルネティア島、パガンダ島の何れかを経由しています。両島には即応艦隊と思われる艦艇群の母港となっており、レイフォル自体が難攻不落の要塞と化しております」

 

将軍達の顔が一気に暗くなる。何せレイフォルを攻めるのが、各国の現有戦力では難しいのだ。まず陸路では流石に補給線が伸び切る可能性が出てくる上に、歩兵が主力となる侵攻軍には戦車は天敵である。仮にエアカバーとしてワイバーン等を随時展開しても、帝国のアンタレスに狩られる運命しか見えてこない。というかそもそも、前半は良いとして後半は航続距離の問題で難しくなってくる。空路も同様に、例え航続距離の問題をパスしても、性能差で狩られるのは目に見えている。

次に海路。ミリシアル、ムーを除いて艦隊戦に勝てる見込みがまず無い。例え艦隊を倒せても要塞砲という脅威がある上に、例え援護砲撃を行いながらの上陸もかなりの被害が予測されるだろう。

 

「陸路、海路、空路共にダメか」

 

「これはかなり難しいな.......」

 

ゴウンとイヴァンが頭を抱える。皆が、さてどうしたものかと考えていると、コーナハカが何かを思い付いた。

 

「皆の者。レイフォルを城と考えればどうだろうか?」

 

「城だぁ?コーナハカの爺さん、どういうことだ?」

 

「城攻めにも火や水とある訳だが、兵糧攻めもセオリーであろう?まずイルネティアとパガンダ両島を占領し、奴らの補給路を遮断するのだ。更に海域を封鎖すれば、レイフォルは待てば勝手に自滅するであろう」

 

他の将軍達からも感嘆の声が上がる。「確かにその発想ならば」とか「時間はかかるが、確実ではあるな」とか肯定的な意見が出た訳だが、神谷が一言、「甘いな」と呟いた。それをクリスベンが即座に拾い上げた。

 

「修羅殿。甘いとは?」

 

「確かにコーナハカ殿の言う通り、兵糧攻めは悪く無い手だろう。だがレイフォルに補給を届かせるだけなら、やりようはある。足の速い駆逐艦による輸送、輸送機からの物資投下、さらには潜水艦による輸送も考えられる」

 

「潜水艦とは聞かぬ名だな。何だそれは?」

 

「自分で浮き沈みできる艦艇だ。魚雷と呼ばれる水中航送式の爆弾で、艦船の喫水線下を攻撃してくる。この艦種は海に潜れば最後、探すのはかなりの困難を極める。

実際、旧世界においてグラ・バルカス帝国と同等の文明だった頃、潜水艦は各国で極秘の輸送任務に度々使用されていた。恐らく、数こそ減らせど戦える量は運び込めるだろうな」

 

海軍の将軍達は、一気にざわつき始めた。潜水艦という兵器の発想すらなかった上に、喫水線下への攻撃兵器。こんな攻撃された日には、自国の艦艇はあっという間に殲滅される事だろう。

 

「修羅殿。その物言い、何か考えがあるのでは無いですか?」

 

トラマリの指摘に、神谷はニヤリと笑う。そしてアグラに頼んで、部屋の灯りを消してもらった上で、カーテンを閉めてもらい部屋全体を暗くしてもらった。

 

「向上、準備を」

 

「はい」

 

向上は部屋の真ん中に台を設置すると、立体映像を映し出す小型プロジェクターを置いて離れる。次の瞬間、立体映像が部屋の真ん中に現れて、ムー大陸のレイフォル付近が映し出される。

 

「つまりはこうだ。グラ・バルカス帝国の補給路を遮断する為に必要なのは、まずこのパガンダ島とイルネティア島。この両島を占領し、ここを拠点に海上封鎖を試みる。それがさっきのプランだ。このプランの障害は、潜水艦の存在とすり抜ける可能性のある足の速い駆逐艦。後者は良しとして、問題は前者の潜水艦。これを探知、攻撃する術は、現状我が皇国海軍にしかない。

であれば私は、別のプランを申し上げよう。まずパガンダ島、イルネティア島を解放し、そこをレイフォル攻勢の拠点に据え置く。更に島内の飛行場を改装し、ここに皇国海軍の保有する対潜哨戒機と空軍の航空隊を配備。潜水艦と輸送機の警戒に当てる」

 

「では輸送船はどうすんだ?」

 

「輸送船については、我が国の潜水艦隊を使用しようと思う。こちらをご覧頂きたい」

 

さっきまでの地図の映像から、潜水艦隊の保有する伊3500号型、伊3000号型、伊2500号型、伊2000号型、伊1500号型、伊900号型のスペックと写真が表示される。

 

「我が海軍が保有する潜水艦だ。通常動力型なれど高い静音性を誇る伊900型。原子炉を持ち高い打撃力を誇る伊1500型。610mmの電磁投射砲と艦載機を保有する伊2000型。ミサイルキャリアーとして活動できる伊2500型。情報収集と偵察に特化した伊3000型、旗艦として機能し高い汎用性を誇る伊3500型。これらの潜水艦を用いて、海域を封鎖する。例え相手が護衛付きの輸送艦隊だろうと、戦艦や空母を主軸とした主力艦でも、殲滅して見せよう。

更に盤石にする為、我が軍の駆逐艦を両島に配置。マギカライヒ共同体、ニグラート連合には補給艦とバックアップの駆逐艦を配置させて貰えれば、ほぼ完璧に補給をシャットアウトできる」

 

本来なら各国の見栄とかが出てくるだろうが、相手が自らの理解の範疇の外にある兵器なら皇国に全てを押し付ける。故に今回は特段何の妨害もなく、寧ろ感嘆の声が上がる。

会議はまだまだ続く。レイフォルにいる帝国をどう調理するのか。そしてエージェントがキャッチした、この会議の襲撃計画は如何に。

 

 

 



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第八十三話会議崩壊

「では続けて、レイフォル解放に関して議論を進めていきたいと思います」

 

前回のあらすじという程、ご大層な物ではないが簡単に決まった事を纏めておこう。レイフォル解放作戦の前哨戦として、パガンダ島とイルネティア島を解放し、両島に対潜哨戒機を派遣。輸送ルートを遮断し、レイフォルに兵糧攻めを行うことが決定された。

前哨戦が決まったら次は、本戦となるレイフォル解放についてである。当然だが、こちらに関しては未だ何も決まっていない。

 

「ではまずは、こちらをご覧いただきたい」

 

デイバーノックが立ち上がり、魔導式のプロジェクターを使ってボードにレイフォル一帯の地図を映す。地図には地名や主要な街道が描かれており、こうやって見るとまあまあ広い国であることがよく分かる。

 

「最初の方で軽く説明されておりますが、改めて詳細を説明させていただきます。とは言え、かなりの障害があります。まず第一に補給。これはご承知の通り遮断する予定ですので良しとして、問題はここからです。次の障害は、この街道です。この5つ街道ですが、いずれも平原に設置されており上空からの攻撃に弱い。となるとこちらの2つの街道を使うことになるのですが、それぞれ問題があります。

この西にある街道は、単純に距離が長い上に道なりも険しく、岩場や砂漠を踏破する必要が出てきます。東は比較的侵攻しやすいとはいえ、ここのダイジェネラ山に要塞が築かれており、この要塞を占領しなくては進軍できません」

 

「では陸路では自殺覚悟で5つの街道を通るか、多数の犠牲を払って要塞を攻略するか、時間と疲労を対価に安全なルートでゆっくり行くかと言うことであるな?」

 

「コーナハカ殿の仰る通りであります。となると次は海路なのですが、先述の通り大艦隊が控えております。空路も戦闘機隊がいるので、かなりの犠牲を覚悟しなくてはなりません」

 

やはりレイフォルの攻略はかなり骨が折れる。皇国だけなら、やりようは幾らでもある。例えば例の5つの街道を、大部隊に空軍のエアカバーをつけた上で進軍しつつ、海上からは主力艦隊による火力支援と陸戦隊を持って上陸させ、レイフォリアには富嶽爆撃隊なんかを投入して焼き払えばいい。

とは言え活躍しすぎるのは、皇国としては何度も言う通り旨みが少ない。ここは各国合同、協調するべきだろう。

 

「デイバーノック殿。その要塞は、大体どの程度の規模なのだ?」

 

「我が国の諜報機関によれば、比較的小さいとは言えかなり厳重だと聞いている」

 

「対空兵器は?」

 

「そこまで多くはないようだが.......」

 

「であれば、極みの雷炎竜を用いようぞ」

 

イヴァンがそう言った。神谷と向上はそこまでだが、他の将軍達は目を丸くして驚いていた。何せ極みの雷炎竜とは、エモール王国に於ける最強の切り札であり、エモール三竜は王国最上位の戦力でもある。それを投入するというのは、かなり信じられない行動なのだ。アメリカが気前よく、邦人保護とかではなく空母機動部隊と遠征打撃群を速攻で送り込み、ついでに陸軍の特殊部隊を即座に投入したくらいの衝撃だ。

 

「で、であれば我が国もワイバーンを出しましょうぞ!!」

 

「我が国も!!」

 

「となれば、我が国も出しましょう」

 

ニグラート連合、アガルタ法国、マギカライヒ共同体もワイバーンの投入が決まる。早速、良い感じに纏まってきたが、ここでイヴァンが神谷に向き直った。

 

「極帝様、神谷様。どうかこの飛竜隊の指揮、お任せできませんでしょうか!!」

 

「ぁへ俺!?」

 

「ふむ。良いではないのか、我が友よ」

 

「いやいやいやいや!俺、艦隊と陸の指揮は何度もしたけど、航空隊は地上での管制くらいしかした事ないぞ!?!?」

 

神谷は知っての通りかつては海軍の人間であり、大東亜事変に於いて艦隊を指揮している。そして現在は神谷戦闘団を率いているので、海と陸の戦闘は指揮できる。だが、生憎と空は防空指揮とか指揮管制位しかやった事がない上に、ワイバーンの飛行隊の指揮とか余計に訳が分からない。無理だ。

 

「良いではないか」

 

「良かねーよ!!」

 

「いや、是非ともお願いしたい修羅殿!極帝様は、我らワイバーン乗り、いや!世界的にも敬意を払う神であると同時に、憧れでもあるのだ。我らワイバーン乗りはどの国の、どの立場の物でも、極帝様とそれを駆る真の戦士と共に戦場をかけるのは夢なのだ!!

ワイバーン乗りに「極帝様と真の戦士が来る」という話だけでも、士気は鰻登り。本当にその通りになった暁には、もはや天を貫き大地を裂く程の士気になるだろう。だからどうか、頼めぬだろうか」

 

ペネッションが深々と頭を下げると、イヴァン、マリオリルも頭を下げた。どうやら彼らにとっての極帝とは、こうやって新参に頭を下げられる程の存在らしい。

となれば、こちらとしても断るのは色々問題というか、禍根が残りそうだ。受けるしかないだろう。

 

「.......いいだろう、話を受ける」

 

「長官、よろしいのですか?」

 

「やるしかないだろ。ってか、極帝めっちゃノリノリだし」

 

「今から楽しみであるな。よし、今すぐ焼きに行くか!!」

 

「アホ、これは戦争だ。戦争ってのは、戦略を立ててスマートに戦う物だ」

 

なんか極帝なら今すぐ飛んで行きかねないが、そんな事をされては色々困る。

さて、これで取り敢えず要塞は目処がついた。次はレイフォリア本丸の攻略である。

 

「では次に、レイフォリア攻略について議論していきたいと思います。レイフォリアは要塞化が行われており、都市内部に大規模な航空基地、倉庫、兵器廠が建設されており、戦艦5隻を中核とする主力艦隊が隣接する港湾地区に陣取っております。

港湾地区には更に、戦艦の主砲を流用したと思われる大型砲が設置されており、艦艇での接近は自殺行為となるでしょう」

 

「それについてであるが、ここは我が国に案がある」

 

これまで基本的に沈黙を保っていた、ミリシアルの3人が手を挙げた。まずはクリスベンが話し始める。

 

「この艦隊と要塞砲についてだが、我が海軍にお任せいただきたい。現在海軍には、誘導魔光弾を標準搭載した最新鋭艦が就役しており、これを中核とした艦隊を持って敵艦隊と要塞砲を殲滅。港湾地区を解放し、ここに陸上部隊を送り込もうと考えている」

 

「陸軍としては、この作戦に3個歩兵師団、2個機甲師団の投入を決定している。これに加え別働隊として空挺旅団を降下させ、上陸部隊の援護を行わせる予定だ」

 

「空軍としても提案がある。このレイフォリアの空港、兵器廠を空爆で破壊したいと考えている。これにより、抵抗勢力は一気に減らせるだろう」

 

ここまでミリシアルが黙っていた訳だ。レイフォリア攻略という、この作戦に於ける天王山の主導権を握れば他は用無しという事らしい。確かにレイフォリア解放の名声があれば、取り敢えず『世界最強の神聖ミリシアル帝国』の看板は守られる。

 

「ではレイフォリア攻略は、全てミリシアルが行うと?」

 

ゴウンの指摘に、クリスベンが「まさか」と答えた。流石にミリシアルとて、ポーズとして他国を参加させる必要はあるらしい。

 

「主力が我々というだけであって、我々について来れる部隊であれば、他国の部隊でも歓迎しよう。例えば海なら、ムーと皇国からも艦隊を出して貰いたい」

 

「ならばムーとしては、新設の第一機動遊撃艦隊を派遣しよう。戦艦『ラ・カサミ』『ラ・イーセ』を筆頭とした、最新鋭艦で構成された艦隊だ。ミリシアルの新鋭艦でも、充分に着いていけるだろう」

 

「であれば皇国は、究極超戦艦『日ノ本』以下、熱田型超戦艦2、赤城型要塞超空母2、大和型前衛武装戦艦8、摩耶型対空巡洋艦10、駆逐艦30、潜水艦20を出そう」

 

皇国の編成を聞いた瞬間、クリスベンの顔色が一気に強張る。明らかに編成がガチガチの主力編成な上に、化け物艦艇がゴロゴロいる。これではミリシアルの立つ瀬がない。

 

「い、いや、修羅殿?皇国にはパガンダ島、イルネティアの攻略がある。無理をしてこちらに出る必要は.......」

 

「ご心配なく。我が海軍の艦艇、とりわけ大型艦の居住性は良好だ。兵の士気は旺盛にして、練度も高い。問題はない」

 

ミリシアルだけに美味しいところは持って行かせない。恐らくこの戦闘、これが実質的な決戦となる。それをミリシアルのみとか、絶対に許されない。確かに皇国としては散々言っての通り他国に出血を強いたい所だが、それは大前提てして国際的イニシアティブを確保できてこそ意味を為す。

旧世界に於いては軍事はもちろん、経済、文化、技術などでも取ることはできた。現実世界で言えば、今の日本は文化と技術では一定のポジションを確保している様に。だがこの世界では、国際的イニシアティブはイコールで軍事力に直通している。軍事を抑えれば、こちらの物だ。

 

「.......良いだろう。しかし上陸部隊については」

「無論、我が海軍陸戦隊を出そう。そうだなぁ、海の北鎮部隊、第七海兵師団辺りを投入するか」

 

ミリシアル陣営の顔はみるみると強張っていく。基本、ミリシアルが持ってる物はその進化系が皇国にもある。しかもミリシアルは平和が長い上に、戦略面やドクトリンでは「世界最強」に胡座を掻いていたので、古びた物や非効率的な物も散見される上、装備も皇国からしてみたら「なんかよく分からん切った貼ったのキメラ兵器」とか「ロマンを追い求めすぎた駄作」という、何とも言えないお粗末な物ばかり。

対して皇国はご承知の通り、数年前には東亜事変という紛争を経験し、以降も転移後のこの世界で戦争をしてきた。ロウリア王国に始まり、パーパルディア戦役、カルミアーク内乱介入、ウェルゾロッサ防衛戦、リーム王国侵攻、そしてグラ・バルカス帝国とは現在進行形で絶賛戦争中である。更に訓練プログラムとして各部隊は、千葉特別演習場での訓練が義務付けられている。この演習場は太平洋沖にある東京の2.5倍の面積を誇り、ジャングル、砂漠、山岳、岩山、森林、小規模な都市、平原、要塞陣地と基本的な戦場が再現され、ARで様々な敵を表示できる。海軍、空軍にもARを用いた相手を出現させられる演習装置があるので、実戦経験は少なくとも実戦と遜色ない戦闘を経験できるのだ。

そして装備だが、もうこれは語る必要もないだろう。世界中の国家を敵に回したとしても、その悉くを殲滅し敵対国家全てを消滅させられるだけの兵器群を有する。

 

「(長官、よろしいのですか?)」

 

「(こうもあからさまに美味しい部分を掻っ攫いに来たら、そりゃ抵抗するだろ。舐められたら終わりだ)」

 

「では、陸軍の方はこちらの我が軍の戦力だけでよろしいでs」

「いやいや!ここは我が皇国の誇る飛行強襲群より、第一空挺団を投入しよう。無論、バックアップだ。そうだ、ムーにも第212特別機動空挺大隊が居たはず。それを投入しては?」

 

「え?あ、あぁ。そうだな。是非我が軍も、戦力を派遣させて頂こう」

 

ムーも巻き込まれる形となり、派遣が決定した。ムーとしてはミリシアルと敵対したくないが、今はミリシアルよりも皇国の派閥についたほうが良いという考えである。問題はない。

 

「.......空の方はどうされるか?」

 

「それはもちろん、我が軍の富嶽爆撃隊を投入する.......と言いたい所ですが、現在富嶽爆撃隊の機体が皇国本土にてオーバーホール中でして、今回は見送らせて頂きます」

 

嘘である。海と違い、空の場合は基本的に見学というのは難しい。皇国の戦略爆撃機となる超重爆撃機富嶽IIは、1機でアメリカのB52ストラトフォートレス10機分の爆弾を搭載できる化け物機体。こんなのを投入してしまえば、確実にミリシアルのお仕事が消えてしまう。

 

「そうであるか。実に残念d」

「代わりに我が軍は、護衛部隊を提供しよう。爆撃機は何処の国も、やはり機動性は劣悪だ。護衛は多いに越したことはない」

 

「.......確かに、それは我が軍としても嬉しい申し出だ」

 

「では我が軍の超長距離戦略打撃群を護衛につけよう」

 

この超長距離戦略打撃群、通称『アウトレンジ部隊』は新たに創設された空軍に於ける特殊部隊である。この部隊には皇国が派遣しているエース級部隊の中でも、特に強いスーパーエース級、ウルトラエース級の一騎当千どころか当万、当億の連中が集まっている。というのも、これがその面子だ。

 

・第366飛行隊『ガルム』

・第408飛行隊『ガルーダ』

・第18戦闘飛行隊『スカーフェイス』

・第206戦術戦闘飛行隊『ラーズグリーズ』

・第118戦術飛行隊『メビウス中隊』

・第156戦術飛行隊『アクィラ(黄色)中隊』

・第123戦術飛行隊第1小隊『ストライダー』

・第123戦術飛行隊第2小隊『サイクロプス』

 

見ての通り、たった1部隊で戦局を変えてしまう航空隊が一堂に集まっている。上から順に円卓の鬼神&片翼の妖精、皇国の神鳥、皇国の不死鳥、ラーズグリーズの悪魔、リボン付きの死神&Mr.ベイルアウター、黄色の13(イエロー13)、3本線の大馬鹿野郎、伯爵殿と化け物だらけだ。

 

「さて、では次に後方の要塞攻略についてですが」

 

会議がこのまま進むかに思われたが、そうはいかないらしい。なにやら嫌な予感が、神谷と向上を襲う。いきなり武器を構えたりはしないが、いつでも構えられるようにした上で、意識を扉の外へ向ける。

暫くすると扉が開き、中にエルドルベとニョナスが入ってきた。手にはM1928トンプソン・サブマシンガンの試作モデルである、アナイアレーターIの様なサブマシンガンが握られている。

 

「少佐、大尉、どうした?」

 

アグラの問い掛けに、2人は無言で銃を向けてくる。次の瞬間、向上が動いた。即座にホルスターから26式拳銃を抜き、銃を壊す。

 

「ナイスショット向上」

 

「ありがとうございます。しかし、一体何の目的が.......」

 

何がどうなっているか分からないが、一つだけ言えるのは、これは恐らく帝国の攻撃だ。

 

「って、おいおいおいおい!銃口がヤバい方向向いてるぞ」

 

だが今はそんな事を考えさせてくれる暇はない様で、さっきのアナイアレーターIモドキで武装したミリシアル兵がズラリと廊下に並び、こちらに銃口を突き付けている。

 

「みんな!こっち側に転がり込め!!!!」

 

神谷がそう叫んだと同時に、ミリシアル兵は銃を乱射し始めた。ガラスが割れ、机にある書類が宙を舞い、椅子は穴だらけになる。取り敢えず机を倒して気休めの遮蔽物を作ってみるが、まあ殆ど意味がなく弾が貫通し頭上を弾が掠める。

 

「どうします長官!?」

 

「ここに引きこもっても破滅の先延ばしだ。奴ら、景気良く撃ってくれてるお陰でもう弾が尽きる。そこを俺が狩る!!アグラ殿、殲滅するけど文句ないな!!」

 

「む、無論だ!」

 

「よーし、言質は取った。向上、神谷戦闘団流の返礼を持って盛大にもてなす。3カウント!3、2、1、行くぞ!!」

 

まず神谷が飛び出して、敵陣に切り込む。距離が離れており、弾丸の応酬に晒されそうになるが、そこは向上が後方から援護射撃を持って時間を稼いでくれる。向上の射撃に意識が行けば最後、次の瞬間には神谷が懐に飛び込んでいる。

 

「この距離じゃ長物は使えねぇよなぁぁぁ!!!!!」

 

的確に急所だけを切り裂き、殺したら姿勢を低くして次の獲物へ。次を殺せば姿勢を低く這う様に次の獲物へを繰り返し、瞬く間にミリシアル兵を殲滅していく。神谷が突っ込んで僅か20秒で、全員が惨殺された。

 

「にしてもコイツら、どう見てもミリシアルの兵隊だが、なんでまた俺達を襲ったんだ?」

 

扉を閉めて、一旦部屋に立て篭もる。流石に無策で外で飛び出せる程、今の状況は楽観視できない。帝国の攻撃なのはタイミング的に見て間違いないが、そこに何故ミリシアル兵がいるかが気になる。

 

「私にも分からん。何故、我が軍の兵が.......」

 

「ミリシアル軍の制服を着た、帝国の工作兵の可能性はありませんか?」

 

トラマリの問いに、死体を見ていたデイバーノックが静かに答えた。「我が軍の兵に間違いない」と。となると、いよいよ分からない。

 

「てことは何だ?コイツら、裏切ったのか?こんな首都のど真ん中、世界最強ミリシアル軍の本部の兵隊が?」

 

マオリアルの言う通り、裏切りだとしたら意味がわからない。裏切ったとしても、理由がわからない。仮に何かしらの脅しだと言うなら数が限られるだろうし、賄賂で買収されたにしても、こんなに集まる物だろうか?仮にそうだとしたら、色々と違う意味で問題だ。

 

「であれば、私が調べてみよう。何か魔法的な痕跡があるやもしれん」

 

ゴウン魔導将が手に持つ黄金の杖を死体に向け何か唱えると、オレンジ色の光が死体を包んだ。

 

「!?これは.......。なるほど、彼らは操られたようだ」

 

「操られた、だと?」

 

「アグラ殿が驚かれるも無理はない。反応から察するに、使われたのは恐らく魔帝の産物。かつて書庫で、その手の記述を読んだことがある。この反応と私の記憶が正しければ、恐らくこの建物の1階の高さまでで、敷地内に居たものは全て支配下に置かれているだろう。しかも一度支配されれば最後、元には戻らない」

 

魔法が原因なら分かるが、次に出てくる謎は何故帝国が魔帝の魔法を行使できたかである。帝国も皇国と同じで、一部例外を除いて魔力がない上に、魔力がある者も微弱な物だと言う。そんな如何にも大魔法っぽい魔法を、早々行使できるのだろうか?

とは言え、今はそんな事を考える暇はないだろう。こうなった以上、ここを脱出するほかない。

 

「ゴウン殿。その魔法、今もその範囲に入ったら支配下に置かれるか?」

 

「いや、それは問題ない。使用直後、1分程度は残留するが流石にもう残ってはいない」

 

「ここの兵力、及び近隣の基地から増援が来るまでどの位だ?」

 

「警備要員、約1000人。指揮系統の混乱等から、援軍が到着するまで最短でも2時間はかかる」

 

皇国の場合なら例え神谷が殺されたようと、都内であれば15分〜30分以内に初動は完了する。ミリシアルの練度が知れるが、今はそんな事を気にしてられる暇もない。こうなった以上、こちらの盤上に切り替える必要がある。

 

「こうなった以上、皇国は独自に動く。向上!」

 

「ハッ!」

 

「待機中の各部隊は、国防総省庁舎に集結。我々の救援に当たらせろ。都市内飛行中は、拡声器で皇国軍機である事を明言し、誤射を避けさせるんだ。いいな!」

 

「了解!!」

 

向上が無線機で連絡を取っている中、神谷は腕にグラップリングフックを装備し、スマートコンタクトレンズを付けて、銃の残弾を確認。戦闘体制を整える。

向上の方も同じ様に装備を整えて、銃を構える。既にドアの付近に、ミリシアルの警備兵が集まっているのか、銃が擦れるカチャカチャという音が聞こえる。

 

「向上、合わせろよ」

 

「何年コンビやってると思ってるんです?完璧に合わせて見せますよ」

 

「上等!!」

 

向上と神谷は同時に扉を蹴破って外へ飛び出し、扉付近の敵を殲滅する。向上を銃を乱射、神谷は刀を巧みに操って切り裂く。

 

「流石に予想外か?」

 

「最強のミリシアル兵とて、我らの敵ではありませんね」

 

ドア付近の敵を殲滅すると、まるで談笑するかの様に普通に話しながら、ゆっくりと階段のある方向へと歩き出す。その後ろを他の将軍達が、ビクビクしながら着いていく。

歩いていると、神谷の足元に何かが転がってきた。恐らく見た目的に手榴弾だろう。手榴弾じゃなくとも、敵の足元に投げつけてくる時点で危険物には変わりない。

 

「手榴!」

「焦んなよ向上。こういうのは、な!」

 

だが生憎と、手榴弾を投げた程度で神谷は死なない。そのまま足で空中に蹴り上げて、それを投げてきた方向に蹴り飛ばして返却してあげた。手榴弾は先の突き当たりのあたりで起爆し、兵士の悲鳴が廊下に木霊する。

 

「ビビったら負けよ」

 

「いつもの事ながら、度胸がおかしいですよ長官。そんな簡単にできてたまるか」

 

「そう言うなって」

 

涼しい顔でそう言い合う2人だが、他の将軍達からすればヤベェ奴らでしかない。確かに将軍達の内、一部は戦闘もできる。だがその将軍達が攻撃に移る前より先に、神谷と向上が動く。神谷が斬り込み、向上が後ろから援護したり、或いは2人とも前に出て阿吽の呼吸でお互いをカバーし合い敵を殲滅していく。まるで芸術だ。

 

「あそこまでの物とは.......」

 

「ふん、我が友を甘く見るでないわ」

 

「極帝様!!」

 

「あの者は単なる指揮官にあらず。お主らは本陣から指揮を執るだろうし、それが将としての普通だろう。だが彼奴は己が自ら最前線に殴り込み、五感で戦場を感じ、意のままに全てを操る。その様はまさに、修羅である」

 

鮮血に塗れ、服を真っ赤に染めても尚、ただ相手の懐に飛び込み続ける神谷。その姿は修羅と瓜二つだ。これまで皇国は恐怖の対象だったが、この姿を見てしまったら皇国よりも神谷の方が怖く思える。

神谷と向上が不埒なミリシアル兵に最高のおもてなしをしている頃、国防総省があるルーンポリス上空には、白亜衆仕様の真っ白と赤衣鉄砲隊仕様の真っ赤なUH73天神が飛来していた。

 

「ルーンポリス上空に到達!!」

 

「高度を下げろ。ビルの合間を飛行する」

 

「了解!」

 

6機の天神は一気に高度を下げ、都市内部に突入。街中を爆音と強烈なダウンウォッシュを撒き散らしながら、ルーンポリスを飛んでいく。今日は普通の平日、それも丁度世間は昼休みの時間帯だ。学生も社会人も、ランチを食べるべく近くのレストランやカフェにいるし、中にはランチが終わり帰る者もいて、メインストリートは普通に人が多い。そんな中を見た事ない飛行機械が、頭上を超低空で飛んで行くとか軽くトラウマ物である。

 

「なんだありゃ!?!?」

 

「攻撃か!?!?」

 

「誰か!!警察呼べ!!!!!!」

 

この始末である。しかも都市内のビルとビルの間を飛行する上に、パイロット達は全員、皇国軍でもトップクラスの腕前を持つベテラン共の為、動きが一々素人目には危なっかしい。例えば交差点を、物凄い角度をつけて曲がっていたり、クソ狭い中で追い抜きを行ったりと、墜落しそうな挙動を見せていた。

 

「国防総省本庁舎、視認!!」

 

「このまま突っ込む。ハードランディングだ、行くぞ!!」

 

映画のSEALDsの様に、部隊を降下させる前にヘリごと撃墜されて二階級特進する訳にはいかない。天神はそのまま広場に、まるで飛行機が着陸するかの様に無理矢理滑り込む。

 

「うおっとぉ!!」

 

「ケツ痛!!」

 

「あいて!頭打った」

 

尚、着陸の衝撃で中に乗っている兵士達は、ケツとか頭とか腰とかを軽く痛めるが、コラテラルダメージだ。問題はない。

 

「ランディングゾーン確保!!GOGOGO!!!!」

 

扉を開けて、素早く広場に転がり込む。突入要員全員の展開が完了すると、ヘリはそのままルーンポリスへと戻る。ビルとビルの間で待機しつつ、スナイパー組を近くのビルに挟ませるのだ。

 

「どのビルがいい!!」

 

「ちょっと待ってくれよ.......。この先の角を右に!」

 

「よっしゃ!捕まってろよ!!レフトターン!!!!」

 

ほぼ真横で角に滑り込み、そのまま強引に曲がりこむ。高度が後6m下なら、確実にブレードが地面に擦れていただろう。

 

「次は左!」

 

「おう!!」

 

「今度は右だ!!」

 

「アイアイ!!」

 

曲芸飛行並みの捻り込みで、ビルとビルの間を器用に飛んで行く。5分程で目的のビルに到着し、ギリギリまで高度を落とす。

 

「ありがとう!」

 

「いいって事よ!帰りのルーンポリスジェットコースターファストパスは購入済みかい?」

 

「もう勘弁!命がいくつあっても足りねーや」

「ゲロ撒き散らしながら乗るしかないな」

 

「はは、ちげーねぇ。行きな!!」

 

「おう!!」

「行ってくるぜ!」

 

スナイパーとスポッターを下ろし、天神は潜伏予定ポイントまで一度退く。こうすれば例え、対空火器を相手に奪取されたとしても、攻撃する事はできない。歩兵が近づいてくれば、ドアガンで一掃するだけだ。

 

「な、なんだキミ達は!!!!」

 

「不審者だ!!」

 

どうやらここのビルは、普通のオフィスビルだったらしい。受付嬢のお姉さん3人は肩を抱き寄せあって震えているし、ロビーにいた男性陣から詰められている。無理もない。2人の服装は機動甲冑にライフルという、明らかにヤバい格好だ。不審者どころの話ではない。完璧なテロリストである。

 

「エレベーターで上がるぞ!!」

 

「何階だ!!」

 

「45階!!」

 

多分魔導式なので呼び名は違うだろうが、エレベーターに乗り込み45階を目指す。皇国の物とは違い、めちゃくちゃ揺れる上にガタゴトガタゴトガタゴトうるさいが、問題はない。

 

「どの部屋が最適だ!!」

 

「.......ここ!!!!」

 

スポッターの兵士が指差す部屋には、ミリシアルの文字で『総務部』とあった。2人には読めないが、ドアを蹴破って中に転がり込む。

 

「おお!?!?」

 

「な、なんだなんだ!!」

 

「コイツら誰だ!!」

 

中にいたサラリーマン達はビックリして、書類を投げてしまい紙吹雪の様に舞う。その中を2人は走り抜け、部長のデスクの前で止まった。

 

「な、何が目的だ.......」

 

「退け」

 

「は?」

 

「退けぇ!!」

 

「は、はいぃぃぃ!!!!」

 

部長、完敗である。まあ現役のそれも精鋭中の精鋭に名を連ねる兵士に恫喝されては、たかがサラリーマンでは太刀打ちできない。

 

「どうだ!行けるか!!」

 

「バッチリだ!!丸見えだ!!」

 

「よし!!」

 

スナイパーはライフルをケースから取り出し、手早くセット。スポッターもスコープを用意するが、ちょっと問題があった。絶妙に窓と彼らの身長が合わない。

 

「おいアンタ!」

 

「な、なんだ!!」

 

「机、いくつか借りるぜ?」

 

「は?」

 

部屋にあるデスクを5つ位並べて、即席のベッドを作る。ここに伏せて撃てば、良い感じに狙える。

 

「こちらスナイパー。配置良し」

 

『了解、待機せよ』

 

無線で仲間に知らせたのと同時に、警備員が部屋に入ってきた。不審者2人組を取り押さえて、警察に突き出す為である。

 

「お前達、そこを動くな!!」

 

「ん?心配すんな、仕事が終わるまで動かねーよ」

 

「そもそも貴様は何者だ!!」

 

「あ、そうだ俺たち名乗ってない」

 

「あー、そりゃテロリストが乗り込んできたみたいな反応になるわ。なら、ゴホン。サラリーマン諸君、我々は怪しい者ではない。我々は大日本皇国統合軍、神谷戦闘団白亜衆の兵士だ。現在、統合軍総司令、神谷浩三元帥の要請により、国防総省本庁舎への援護狙撃の為、ここを勝手ながら狙撃ポイントにさせて貰った。諸君には危害を加えないが、任務遂行の妨害その他に付いては実力を持って対処させて貰うのでそのつもりで」

 

全員ポカーンである。いきなり完全武装の二人組が押しかけてきた、ライフルを構え出した状況で、怪しくないだの白亜衆だの言われても理解が追いつかない。

スナイパー組がオフィスでサラリーマンから物凄い目で見られてる間、神谷達は会議室のある6階から3階へと下ることが出来ていた。

 

「うへぇ、死体だらけだ」

 

「しかもミリシアル兵同士で殺し合いですからね。目も当てられませんよ」

 

廊下にはミリシアル兵の死体が折り重なっている。見たところ戦闘服以外の制服の死体には、拳銃やカッターナイフといった武器が近くに転がっている。恐らく1階にいた兵士達は操られ、上階にいた兵士達は事務方のために武器がなく、手近な物で戦いを挑んだ結果がこれなのだろう。この光景には言葉が出ない。

 

「いやはやいやはや。お見事ですなぁ、神谷浩三・修羅閣下」

 

暫く歩くと、軽く拍手をしながら目出し帽の男が出てきた。装備からして、ミリシアル兵ではない。

 

「誰だアンタ。俺達は初対面のはずだが?」

 

「えぇ。そうでしょうねぇ。私が一方的に知っているだけですから。あぁ、申し遅れました。私、ダードラと申します。この地獄絵図を描いた、しがない芸術家ですよ」

 

「抜かせぇ!!!!テメェ殺してやる!!!!!」

 

「マリオリル!!」

 

マリオリルが剣を素早く抜いて切り掛かるが、ダードラはワルサーP38の様な拳銃を抜いて、脚に弾を当てて止めてしまう。多分この男、まあまあ強いだろう。

 

「ぐぁぁぁあ!!!!!」

 

「お静かに。ご心配せずとも、皆さんにはキッチリ死んでもらいますよ。さて閣下、1つ取り引きと行きませんか?」」

 

「取り引き?」

 

「えぇ。貴方の腰に下げる刀、それを私にお譲りください。私は芸術にら目がなくてねぇ、そういう綺麗な刀もコレクションしたいのですよ。そうすれば、楽に殺してあげますよ」

 

「なら、渡さなかったら?」

 

「苦しんで死んでもらいます」

 

神谷は少し考える。別に渡しても良いが、ここは時間を稼いでおきたい。もしかしたら、逃げ仰られるかもしれないし、どうせ死ぬならそれに賭けるも一興だろう。

 

「あぁ、逃げようだなんて考えない事ですよ。こちらには…」

 

パチンと指を鳴らすと、奥からダードラと同じ装備の男が10人ばかりと、60人のミリシアル兵がゾロゾロとやってきた。

 

「これだけの人員がいますから」

 

「あらまー。こりゃ逃げられんわ」

 

これは流石の神谷と向上でも、他の将軍を守って逃げることはできない。2人だけなら多分行けるが、それでも無傷とはいかないだろう。

 

「では、どうされますか?」

 

「そうだなぁ、わかった!刀を譲ってやる。ただ楽に殺すついでに、冥土の土産にこの絵について教えてくれよ。何か仕掛けがあるんだろ?」

 

「.......まぁ、良いでしょう。今回哀れなミリシアル兵の皆さんが操られているのは、魔帝だかライオン帝国だか覚えてませんが、古代の魔法遺物コレクターの男から譲って貰った魔道具とやらを使ったのです。一定範囲内の人間を支配下に置き、思い通りに動かすことができる。その結果が、これなのですよ。

最初は半信半疑でしたが、使ってみればビックリ。こんなにも効果があるとは」

 

「ほー。そりゃ良いことを聞いた。そうだ、お返しに俺も1つ良いことを教えてやるよ」

 

「それはそれは。何ですかな?」

 

「日ノ本発、ルーンポリス行き。死の超特急はな、世界一足が速いんだよ!!!!!!」

「皆さん伏せて!!!!!」

 

神谷と向上が同時に叫び、向上と共に他の将軍達がしゃがむ。次の瞬間、無数の弾丸が頭上を通過していった。

 

「閣下を助けろ!!!!撃ちまくれ!!!!!!」

 

「将軍方に誤射すんなよ!!!!俺たちのクビが物理でも社会でも飛ぶからな!!!!」

 

「おぉ怖いねぇ」

「そりゃ気をつけないとな」

 

何と後ろから、白亜衆と赤衣の兵士達が銃を乱射していたのだ。神谷が適当なトークで情報を引き出している間に、彼らは接近していたのだ。スナイパー組も狙撃で的確に援護し、ミリシアル兵を一掃する。

 

「ダードラさんよぉ。さっきの取り引きは無しだ!代わりに、これを受け取りな!!!!」

 

「グボァォ!!!!!!」

 

神谷が刀の峰でぶん殴り、無理矢理気絶させてダードラを確保。白亜衆と赤衣は内部の掃討を開始し、将軍達は近隣のミリシアル駐屯地へと移動。ダードラは一時的に皇国が身を預かる事となり、ここに神聖ミリシアル帝国国防総省本庁舎襲撃事件は、一応の終結を迎えたのである。

 

 

 

 

 

 



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2024お正月スペシャルphase I

神谷「新年あけまして!」
向上「おめでとうございます!!」
一色「今年もどうぞ」
川上「鬼武者シリーズを!」
エルフ五等分の花嫁「「「「「よろしくお願いしま〜す」」」」」


てな訳で、新年1発目言ってみようか!!


「いやー、なんで雪」

 

「何処ですかね、ここ」

 

神谷達、神谷戦闘団の面々の目の前に広がるのは、広大な雪が積もった森林だった。別に北海道とか東北とかに旅行に来た訳でも、どこかの北国に行った訳でもない。例によって、なんかまたよく分からん世界にやって来てしまったのだ。

 

「どうします長官?」

 

「あ、繋がりました!状況を報告します!!」

 

「GPS!」

 

「一応繋がってんですけど、マップの表示じゃここは海のど真ん中ですよ?」

 

神谷戦闘団が何故こんなところにいるのか。というのも本日神谷戦闘団は、来るパガンダ、イルネティア両島解放作戦の為の演習の為、一時的に千葉演習場に向かう途中だったのだ。

所がどういう訳か、いきなり何の前触れもなく雪が積もった広大な雪原にやってきてしまっていたのだ。本当に何か雷が落ちたとかではなく、普通に飛んでたらいきなり風景がスイッチで切り替えたみたいに雪の大地に早替わりし、撤収しようにも来た方向も森林だったのだ。取り敢えず着陸して、今に至る。

 

「どうするこれ?」

 

「どうしましょうか.......」

 

本国に撤退したいが、あくまで通信が繋がってるってだけで帰り方は分からない。見たところ、一面全部木と雪で出入り口は勿論、何かしらの境界線やガラリと変わってる場所もない。

 

「浩三様、私達が周囲の偵察に行きましょうか?」

 

「その心は?」

 

「私達はハイエルフ。知っての通り、森で生活する民族よ。だからこういう森とか山って、私達にとっては最も動きやすい、えっとふぉーるあうと?なの」

 

「ミーナミーナ。多分それ、フィールドだよ。フォールアウトは核戦争後の世界が舞台のゲーム」

 

レイチェルに突っ込まれて見事に台無しだが、ミーナの言っている事は一理ある。エルフはその長い耳により聴覚に優れ、魔法の素質も高い。更に彼女達はハイエルフという、エルフの上位種。エルフ以上の聴覚の他、並外れた高い身体能力も併せ持ち、魔法の才能は最上位の部類になる。

加えて彼女達の故郷、ナゴ村は山奥にある集落で幼少期の頃では日頃から遊び、大人になってからは狩りで毎日の様に出入りしていた。しかも数百年単位でである。実際、白亜衆と森林で模擬戦をした時も圧倒していた。悪くない手である。

 

「よし、白亜のワルキューレは半径1km圏内を偵察。ドローン出撃。飛行ログから航路を割り出し、それを辿らせろ。他は周囲を偵察。情報を集めろ。行動開始!」

 

神谷戦闘団の面々は行動を開始する。さて、数十分もしない内に早速ミーシャから連絡が入った。

 

『浩三さん、あの、ロボットが目の前にあります』

 

「ロボット?」

 

『は、はい。今映像で送ります』

 

ミーシャから送られた映像には、確かに巨大な人型ロボットが膝を付いていた。ただ、全く見たことがない。そもそも二足歩行兵器は基本的に、旧世界でも皇国でしか運用されていなかった。皇国とて二足歩行兵器ではあるが、完全な人型ではない。だが映像の兵器はまるで、ガンダムのMS並みに洗練された二足歩行人型兵器である。

 

「ラヴァナールとかいう、古の魔法帝国とやらの遺産か?」

 

「にしてはなんか、ザ・ロボットだよな」

 

「なんか異世界感がないというか、こっちと似た様な匂いがするというか、なんで言えば良いんだ?」

 

「いや、言わんとしてる事はわかるぞ。言葉にはしにくいが」

 

幹部達も映像に見入っている。だがこの世界特有の魔法とか、古の傍迷惑国家ことラヴァナール帝国の遺物という訳でもなさそうだ。勝手なイメージだが、古の魔法帝国の兵器はどっちかというとシュッとしていて、流線型というか何処かスタイリッシュさを感じる。対して目の前のロボットは、武骨で角ばっていて、尚且つ何処か古臭さを感じる。いやまあ、確実に皇国と同等かそれ以上の技術な訳だが、なんだか旧世代機とか量産機とかその手のロボットから感じる雰囲気なのだ。

 

「周囲にパイロットとかもなし、か?」

 

「あ、いや!長官、ここ!誰かいますよ」

 

映像の端に、赤髪の青年が映っていた。学校からして、恐らくこのロボットのパイロットなのだろう。リスキーだが、ここは接触しておきたい。

 

「ミーシャ、接触しろ。できればこっちに連れて来てくれ。無理そうなら全力で逃げろ」

 

『わかりました!』

 

赤髪の青年こと、テオドール・エーベルバッハは1人、愛機の前でコーヒーを飲んでいた。テオドールの所属するドイツ民主共和国陸軍第666戦術機中隊の本拠地がある、ベーバーゼー基地を同じくドイツ民主共和国国家保安省、通称シュタージの武装警察軍によって占領された。何故占領されたのかというとかなり長くなるのだが、簡単に言うと中隊全員が国家反逆とかの嫌疑があり、それを口実に武装警察軍が攻めて来たのだ。しかも中隊にスパイがいて、そのスパイがテオドールの義理の妹(肉体関係構築済み)とかいうオマケ付きである。

それでこの国家反逆の嫌疑の方は本当にクーデターを考えており、今はそのクーデターを起こすの同志と共に基地の奪還と中隊の仲間達を助けるべく動いているのだ。

 

「リィズ.......」

 

「あのー.......」

 

「誰だ!」

 

テオドールは即座に声のした方に銃を向けた。そこには金髪ショートのスタイル抜群の女がいた。だが格好が、まるでおとぎ話のワルキューレの様な格好である。こんな雪積もる森の奥でする格好ではないし、そもそも女1人な時点で怪しい。

 

「えっと、私はミーシャ・ナゴ・神谷と言います。怪しい者ではないです。その、私と一緒に来てくれませんか?」

 

「お前、シュタージの手先か!?」

 

「しゅたーじ?」

 

ミーシャは初めて聞く単語にハテナを浮かべていたが、テオドールも顔にこそ出さないが驚いていた。東ドイツ国民で「シュタージ」の名前を知らぬ者はいない。東ドイツの秘密警察であり、何の罪を犯しておらずとも「疑わしきは罰せよ」の考えで捕まり、拷問&処刑されるのはよくある話だ。亡命者狩りや反体制派狩り、果ては権力闘争&内部抗争と悪名高き組織だ。

 

「あの、せめてお名前は教えてもらえませんか?」

 

「.......テオドール・エーベルバッハ。少尉だ」

 

「エーベルバッハさんですね。私はミーシャと呼んでください」

 

「それでミーシャ。君は何者だ?シュタージか?ヴァアヴォルフ大隊の人間か?」

 

「私は神谷戦闘団、白亜のワルキューレの隊員です」

 

「カミヤ戦闘団?」

 

そんな部隊、聞いたこともない。そもそも『戦闘団』という部隊規模は、東ドイツ軍には存在しない筈だ。ますます怪しい。

テオドールが訝しんでいると、ミーシャは神谷からの無線に応答し出す。その内容とは、もう1人恐らく同じ所属のロボットを発見し、黒髪ロングにメガネの女性パイロットと接触したと言う物だった。

 

「エーベルバッハさん。あなたの仲間に、長い黒髪にメガネを掛けた女性はいますか?」

 

「中尉に何をした!!」

 

「何もしてませんよ!ただあなたと同じ様に、私の仲間がこんな風に接触しただけです。とにかく、状況を説明する為にも、私について来てくださいませんか?」

 

「いいだろう。だが、機体をそのままにする訳にはいかない。機体ごと動かすが、構わないな?」

 

「構いませんよ。ただ、できればその機体に私も乗せて貰えるとありがたいのですが」

 

「わかった」

 

何とか神谷戦闘団の仮拠点まで引っ張る事に成功したミーシャは、早速仮拠点へと向かう。どうやらもう1人のパイロットも呼ぶ事が出来たらしく、向こうも仮拠点にやって来た所だった。

 

「中尉!」

 

「テオドール!コイツらは何者なんだ?」

 

「わからない。だが、それを知る為にもここに来た。賭けだがな」

 

「私も同じだ。見た所、シュタージでも軍でもソ連軍でも西側でもない。そもそも何処の国かも検討も付かないからな。だから付いてくる事にした」

 

周りにいた兵士達は、ソ連だとかシュタージという言葉に首を傾げていた。西側というのは旧世界でも使われていたが、ソ連は1991年には崩壊し、ロシア連邦になっている。シュタージというのは、そもそも聞き馴染みがない。

 

「お二方、こちらへどうぞ。団長がお待ちです」

 

柿田を先頭に、2人は神谷のいる天幕に入った。2人はその道すがらで、兵士達の装備を見たが明らかに今のどの国の装備よりも数段先を行くものばかりで、まるでSFの軍隊である。お陰で余計に怪しさが深まる。

 

「柿田大尉、入ります!」

 

「入れ」

 

天幕の中に入ると、コーヒー片手にタブレットを操作する神谷が座っていた。その後ろには、向上が直立不動で控えている。

 

「ドイツ民主共和国陸軍第666戦術機中隊所属、政治将校グレーテル・イェッケルン中尉です!」

 

「同じく第666戦術機中隊所属、テオドール・エーベルバッハ少尉です!」

 

「大日本皇国統合軍総司令長官兼、神谷戦闘団団長、神谷浩三元帥だ。後ろに控えているのは、俺の秘書官にして戦闘団の副長兼赤衣鉄砲隊隊長の」

 

「向上六郎大佐です」

 

まさかの高階級2人に、見事に冷や水をぶっかけられてしまった。てっきり大佐とか少将位の階級と、少佐とか大尉位の階級の2人かと思いきや、全軍の総指揮官たる元帥と大佐という、もう何が何だか分からない2人組だったのだ。お陰で顔をピクピクさせている。

 

「取り敢えず出入り口でフリーズしないで座ったらどうだ?なにもとって食うつもりもないし、君達の国の元帥ではない。別に無礼も何も言わないから」

 

そうは言われても、流石に「はいそうですか」とはならない。軍隊とは階級が全て。一階級の上下であっても、礼儀はしっかりしなければならない組織だ。取り敢えず座って出されたコーヒーを啜るが、味も何も分かったものじゃない。

 

「さーて、それで君達はドイツ民主共和国、所謂東ドイツの軍隊、でいいんだな?」

 

「はい。そうであります、元帥殿」

 

「念の為に聞くが、いまは西暦何年だ?」

 

「1983年ですが.......」

 

神谷と向上は顔を見合わせると、また溜め息をついた。「あぁ、またこのパターンですか」と。また安定の、世界線ごちゃ混ぜ事件が起きたのだ。頭が痛い。

 

「OK、ありがとう中尉。お陰で状況が理解できた。まず我々は、この世界の住民ではない」

 

「はい?」

 

「元帥閣下、それは一体どういう意味なのですか?」

 

「少尉、あのロボット。確か戦術機、というのだったな?あんなSFロマン兵器、我々は知らない。そもそも我々の時間軸では、今は2059年だ。1983年、ざっと半世紀前であんな兵器があるのだ。もしアレが最重要国家機密級の兵器であったとしても、何かしらの情報は出ているだろうし、それを基幹とした進化系の兵器や装置が開発されている筈だ。だがそんな兵器、我が皇国を含め世界中何処にも存在しない。

つまり我々は君達とは異なる世界線、つまり戦術機が生まれなかった世界線の、君達の世界線から見れば半世紀後からやって来たのだ」

 

2人とも頭がパンクし殆ど理解できていないが、そんなのお構いなしに神谷は話を続ける。

 

「荒唐無稽だと思うだろう。俺が頭可笑しいと思うだろう。だがな、この手の話は初めてじゃないんだよ」

 

「どういう意味ですか?」

 

「この世界線スリップとでも言うべき現象は、これで4度目だ。最初は我が国、皇国。皇国はさっき言った世界にいたのだが、3年前に国土ごと突如異世界に転移した。その後も年一回、同じ日本だが異なる世界線の日本と邂逅している。恐らく今回は、君たちがそれに巻き込まれたのだろう」

 

いずれにしろ「はいそうですか」で信じれる訳がない。物的証拠がいる。それを分かっている神谷は、2人にとある魔法を掛けた。

 

飛行(フライ)

 

「お?おぉぉ!?!?」

 

「な、なんだこれは!!」

 

飛行(フライ)。第3位階魔法であり、対象に飛行能力を付与する事ができる魔法だ。その転移後の世界には魔法があって、俺はなんか知らんが使える様になった。

これで少しは信じて貰えるといいんだが、どうだ?」

 

「し、信じる!!信じるから!!」

 

「降ろしてくれ!!」

 

「はいはい」

 

物凄い絶叫で「降ろせ」と言われたので、そのまま地面にゆっくり降ろした。さて、これで取り敢えずはクリアだ。ここからのミッションは、協力を取り付ける事である。現状下では、何も情報がない。その為、少しでも情報が欲しい。仲間とまでは行かずとも、友好的な関係は構築しておきたい所だ。

 

「それで君達は何故、こんなところにたった2人で?中隊がどの程度の規模かは知らないが、少なくとも君達2機ではエレメントとか分隊規模だろ?」

 

「そ、それは.......」

 

「基地を襲撃する為です」

 

「エーベルバッハ少尉!!」

 

基地を襲撃とは、中々聞き捨てならない。一体何処の基地を襲撃するのやら。

 

「中尉、大丈夫。心配するな。別に我々は君達が、どの様な計画を実行しようとしていても邪魔するつもりはない。我々の兵器をかっぱらおうとか、我が軍と一戦交えたいとかなら全力で殲滅するが、その手の話でないなら止めるつもりも道理もない。

もし君達が我々を党の回し者、例えば秘密警察とかその手のものだと思ってるなら、それも違う。どうか信じてほしい」

 

「.......」

 

「なら、コイツを渡そう。おい。銃を彼らに渡せ」

 

「よろしいのですか?」

 

「銃ってお守りがありゃ、少しはこっちを信じてくれるかもしれん。持ってこい」

 

向上に指示を出し、43式小銃を持って来させる。それを2人に渡し、更に他の団員に武装を解除させる様に指示も出した。

 

「これで、信じてもらえたかな」

 

「.......良いでしょう」

 

2人が話したのは、これまでに起こった全てだった。中隊が反体制派の嫌疑で基地ごとシュタージに襲われ、現在占領下にあること。グレーテルは偶々別動中で難を逃れ、テオドールは仲間のカティアという少女と共にどうにか逃げられたこと。現在は反体制派の部隊やレジスタンスと共に、ベーバーゼー基地の奪還と仲間の救出の為に作戦行動中であること。全てを語り終えた時、1人の兵士が入ってきた。

 

「会談中に失礼致します!先程、アナスタシア少尉より報告が上がりました!茶髪の少女を保護したとの事で、カティア・ヴァルトハイムと名乗っているそうです!」

 

2人が勢いよく報告しにきた兵士の方を向いた。さっき言っていた、共に脱出した仲間だろう。

 

「すぐにこっちに連れてこい」

 

「了解!」

 

暫くすると、カティアという少女が天幕にやって来た。テオドールとグレーテルを見ると、駆け寄ってくる。

 

「テオドールさん!中尉!」

 

「カティア!」

 

「ヴァルトハイム少尉、何故ここにいる?」

 

「分かりません。気付いたら、ここに居ました。私、お手洗いに行ったんですけど、トイレから出たら森の中で、しかもドアも消えちゃって。すぐにここが基地の近くと分かったので、近かったテオドールさんの方に向かっていたら、アナスタシアさんに保護してもらいました」

 

いよいよ持って、転移の件が現実味を帯びて来た事に気づいた2人。一方の神谷も、なんだか嫌な予感がして来たので、テオドールに無線で味方と交信できるか頼んでみた所、やはり繋がらなかった。

つまり今この森は、元いた東ドイツのあるユーラシア大陸から、皇国の正確には海上にあるという事である。その証拠に先程、偵察に出したドローンから周囲10km圏内より外は全て、海上に出たと報告が上がって来た。

 

「状況を整理する。現在地は太平洋側、皇国より西に40kmの海上だ。ここら一帯はドイツ民主共和国の領土であるが、どういう訳か海上に転移している。しかし周囲からは姿形は見えず、こちらも見渡す限りの森林だが、ここより10km圏内より外は皇国に繋がっている。現在、ドイツ民主共和国とは通信がつながらず、物理的に遮断した物と思われる。

でだ、どうする666中隊?」

 

テオドールとグレーテルは偵察の意味も込めて本体よりも先に出撃しており、本隊や西方方面軍とは連絡も取れない。つまり孤立状態な訳だが、ベーバーゼー基地には恐らくまだ仲間とシュタージがいる。それは助けたい。だが、たった2機では、失敗するのは目に見えている。

 

「あの、神谷閣下」

 

「なんだ、ヴァルトハイム少尉。トイレは天幕出て右、コーヒーと紅茶や茶菓子はそこから、自由に取ってもらって構わないぞ?」

 

「いえ、そうではなくて。その、私達に力を貸して頂けませんか?」

 

まさかの提案に、天幕内にいた戦闘団の幕僚達もテオドールとグレテールも驚いた。だが神谷だけは、カティアの次の言葉を待つ。

 

「666中隊は私に居場所をくれました。お世話になった人もいます。だから、助けたいんです!でも私達だけじゃ、何もできない。お願いです、力を貸してください!シュタージを倒すのを手伝ってください!!」

 

「カティア、お前そんなことができる訳ないだろ!」

 

「そうだぞ少尉!閣下の国は大日本皇国。私達やシュタージは東ドイツ!2つの国が武力を用いて戦闘を行えば、それは戦争だ!!」

 

そうなのだ。大日本皇国とドイツ民主共和国の武装勢力が争えば、それは戦争に他ならない。普通の将軍ならそんな事に協力する訳がない。だが神谷は、普通ではない。常な法の抜け道を使って、不可能を無理矢理にでも可能にして来た。今回もそうするまで。

 

「向上。シュタージ、武装警察軍、ベーバーゼー基地、東ドイツまたはドイツ民主共和国なんて国、この世界にあったか?」

 

「は?い、いえ。ッ!長官、まさか!!」

 

「ここは法的には大日本皇国の領海上だ。そこに完全武装の軍隊がいて、拉致監禁している。本来警察が出張るべき案件だが、そのシュタージは例のロボットを保有しているんだろ?」

 

「そ、その通りだが.......」

 

テオドールの回答に、神谷は不敵な笑みを浮かべ、軽く拍手をしながら「それは良い。実に良い」と言う。もう最初の方で幕僚達も分かってはいたが、これで確信に変わった。

 

「あんなロボット兵器を警察じゃ相手できないし、そもそも軍隊並みの武装しているんだろ?そんなテロリストを放置していては、我が国の安全保障問題に直結する」

 

「あ、あの元帥閣下?」

 

「喜ぶが良い諸君。君達は我が国の保護下に置かれた。そして、これより我が神谷戦闘団は総力を上げて、誘拐罪、監禁罪、国家転覆罪、テロ等準備罪等々の罪により、武装組織『シュタージ』を殲滅する!!向上!全部隊に戦闘態勢を下令しろ!!!!本件は統合軍法第78条第3項、緊急治安出動に於ける案件とする。全兵器使用自由、シュタージを血祭りにあげるぞ!!!!!!!!」

 

神谷の考えというのが、治安出動である。本来であれば総理や都道県知事の要請が必要な治安出動であるが、転移後に少し改定され新たに『国家的非常時に直結する場合は、師団長、艦隊司令、基地司令以上の役職者の判断により出動を許可する』という物も追加されている。まあ色々と後が面倒だったりはするが、流石に未知の人型二足歩行兵器を持っているとなれば問題はないだろう。

 

「え?えっと、つまり?」

 

「ヴァルトハイム少尉、分からんか?要はウチの敷地に武装した上で土足で上がり込んだ挙句、戦術機とかいうヤベェ物まで持ち込みやがったシュタージってテロリストを殲滅して、ついでにシュタージが拉致って監禁した被害者を助けようって言ったんだ」

 

「き、詭弁だ」

 

「大佐殿。我々としては願ってもないのですが、その、よろしいのですか?」

 

「イェッケルン中尉。神谷戦闘団に入りなさい。そしたら、慣れますから」

 

向上は遠い目をしながら、薄っすら乾いた笑みを浮かべながらそう言った。苦労人立ち位置気取っているが、コイツも普通に神谷側である。人の事は言えない。

 

「偵察隊を出せ!ドローン出撃!」

 

「各員、雪上迷彩に換装の上、戦闘配置のまま待機!」

 

「展開中の偵察隊の一部を、そのまま本陣警戒に当たらせろ!」

 

幕僚達から指示が飛び、兵士達はそれに従って動き出す。ベーバーゼー基地の戦力や、666中隊の仲間の安否も分からない以上、まずは偵察からだ。

数時間もしない内に、ベーバーゼー基地の現状は分かった。一個大隊、凡そ700名。更にシュタージの協力者になってる物も含めれば、更にます。これに加えてMiG-23チボラシュカなるシュタージの戦術機とMiG-21バラライカもいるらしい。

歩兵だけならこちらも歩兵だけでいけるが、流石に戦術機とかいう機甲戦力にはこちらも戦車をぶつけたい。となれば全部隊で切り込むのが良いだろう。

 

「これより、ベーバーゼー基地強襲作戦の概要を説明する。耳かっぽじってよく聞け!

今回の戦闘で最も厄介かつジョーカーとなる存在は、例の戦術機とかいうロボットだ。これを歩兵だけでどうこうできないし、こちらの保有するのは3機で向こうは30機持っている。となればこちらも、それ相応の準備をしなくてはならない。51式をここと、ここに配置し支援砲撃を行わせつつ、戦車を先頭に機甲部隊を陸路で突っ込ませ、空から歩兵を降下させる。後は安定の陽動と撹乱で、適当に足止めしつつ各個に鎮圧する。相手に戦術機がいようと臆する事はない!彼らシュタージの武装警察軍は、言うなればアインザッツグルッペン。無抵抗な民間人とかを殺すのがお仕事な連中だ。奴らブリキの兵隊に、本物の戦争と真の兵士の戦闘を教育してやれ!!!!!!!」

 

次の瞬間、兵士達が銃を空高く掲げ鬨の声を上げる。士気は十分だ。

 

「神谷戦闘団、出撃!!!!!」

 

神谷の指示を受け、最強の猛者達が動き出す。まず突っ込んだのは46式を先頭とした、機甲部隊である。フェンスを突き破り、基地内に突入。そのままこちらに銃を向けてくるものを容赦なく射殺し、建物には砲撃を食らわせる。

 

「クソッ!何処の所属だ!?!?」

 

「戦車を呼べ!ミサイルも持ってこい!!」

 

シュタージ側にもT72が配備されていたらしく、46式の前に8両が現れた。だが46式を、そこらの戦車と一緒にされては困る。

 

「APFSDS装填!目標、前方の超大型戦車!!撃て!!!!」

 

ズドォン!!

 

基本、APFSDSを使えば正面装甲でもある程度の可能性はある。側面や背面なら、ほぼ確実に貫通せしめるだろう。だが目の前にいる46式は、たかだか125mm程度、簡単に弾く。

 

「効いてません!!」

 

「斉射だ!撃て!!!!」

 

8門の斉射に普通の戦車なら一撃だろうが、46式はそれすらも耐える。それどころかお返しに、主砲をお見舞いして2両一気に蹴散らす始末だ。

 

「隊長!だめです!!硬すぎる!!!!」

 

「後退だ。後退しろ!!」

 

「了解!!」

 

ギアをバックに入れ後進を始めるが、それを許すほど甘くはない。後方には34式戦車改が既に回り込んでおり、逆に砲弾を食らわす。残る6両も倒し、機甲部隊は基地内の掃討に当たる。

 

「そろそろ頃合いか。突入しろ!!」

 

テオドールとグレーテルを戦闘に、突空の編隊も基地に突入。そのまま牽制射撃を四方八方に行いながら、神谷戦闘団の兵士達を展開していく。

 

「全軍突撃!!テロリスト共をぶっ殺せ!!!!!!」

 

「閣下に続け!!」

 

「突っ込めぇ!!!!!」

 

格納庫前に降り立った戦闘団は、神谷を先頭に各所に雪崩れ込む。中は整備兵組がシュタージをボコボコにしたりと乱戦状態だったが、後方にはしっかりシュタージがいる。そっちを神谷戦闘団は対応するべきだろう。

 

「侵入者だ!!」

 

「応戦しろ!!!」

 

「テメェらに言われたくはねーよこの野郎!!!!」

 

侵入者にして現在進行形で不法占拠している奴らに、侵入者呼ばわりはされたくはない。ツッコミの弾丸がシュタージを襲い、シュタージの方が倒されてしまう。

 

「アンタら、何処の所属だ?」

 

「神谷戦闘団だ!それより、中隊の人間は何処にいる!?」

 

「地下にある独房だ」

 

「衛生兵、付いてこい!!他はここを死守!!!!!!」

 

神谷は衛生兵を引き連れ、地下に下る。地下にもシュタージはいるが、閉所での接近戦では神谷に叶う訳がない。

 

「こいつ何者だ!!」

 

「邪魔じゃぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「ゴフッ」

 

「閣下を援護しろ!」

 

神谷が切り捨ててつつ、後方から衛生兵組なんかが援護射撃しながら突き進む。暫くすると、独房区画と思われる厳重な扉が等間隔に置かれた場所についた。

 

「片っ端からドアを壊せ!!中を確認しろ!!シュタージはぶっ殺せ!!!!!」

 

扉は勿論鍵かかっていて開かないが、鍵を銃でぶっ壊せば問題ない。無理矢理こじ開けて、中にいる人々を次々に救出していく。そのうち第666中隊の隊員と思われる格好の者達も発見され、そのままストレッチャーに乗せて運び出す。

 

「残るはここだけですが、扉がガッチリしてて銃では無理です」

 

「チッ。テルミットだ!」

 

「誰か!テルミットを持ってこい!!」

 

ドアブリーチ用の爆薬であるテルミットは、3000℃の熱で凡ゆる妨害を焼き切ってしまう。その上で爆破すれば、扉は木っ端微塵だ。中には金髪のスタイルのいい女性が捉えられていて、隣にはシュタージ将校の格好をした男がいた。

 

「貴様ら、何処の者だ!?」

 

「姉ちゃん。アンタ、第666中隊のアイリスディーナ・ベルンハルト大尉か?」

 

「そうだ.......」

 

「おい聞いているのか!」

「エーベルバッハ少尉の使いだ。すぐに助けてやる」

 

神谷は縮地の要領で、将校の懐に一気に入り込む。そのままの勢いで、さっきからギャーギャーうるさい将校の首を一瞬で切り落とした。血を勢いよく吐き出させながら、首がゴロリと転がる。

 

「貴様、何処の所属だ.......」

 

「詳しくは後だ。あぁ、エーベルバッハ、カティア両少尉、それからイェッケルン中尉は既に仲間だ。上にいる。とりあえずアンタらは、すぐに病院に担ぎ込まねーと」

 

アイリスディーナを下に下ろし、そのままストレッチャーに乗せて上まで運ぶ。格納庫に戻ると、戦闘は既に終わっていた。戦術機の方も格納庫から出てくるや否や、51式をはじめとする砲兵隊が破壊してくれて、中に引き篭もればエイティシックスとか46式が集中砲火してたらしく、すぐに殲滅されたそうだ。更にテオドールの方が、1人捕虜を取ったらしく、そちらも確保済みだ。

 

「仕事は終わった。撤収するぞ!!」

 

「長官!」

 

「どうした向上?」

 

「皇国本土にて、深海棲艦に酷似したアンノウンが現れ、所属不明の部隊が交戦中とのこと!無線傍受によると、霞桜という単語が出ていたそうです!」

 

神谷はこの報告を聞くとニヤリと笑い、神谷戦闘団の面々も狂った笑みを浮かべた。彼らもこちらに来たのだ。こんな報告、嬉しい限りである。

 

「野郎共もうひと暴れだ!!一部はコイツらを病院と基地に運び込むが、残りは俺と一緒に戦争だ。行くぞ!!!!!!」

 

兵士達は嬉々として突空に乗り込み、ベーバーゼー基地から離脱して皇国へと帰還する。そしてそのまま、共に転移してきた横浜基地で戦闘を開始するのだが、それはまた別の機会に記そう。何はともあれ、新年1発目はこれにて終了だ。

 

 

 

 




phase IIは明日投稿予定です。まだ書けてないので、伸びる可能性はあります。その時は「あ、間に合わなかったか」と笑って許してください。お願いします。


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2024お正月スペシャルphase II

新年早々、能登半島地震が出て死傷者まで出る大惨事となった訳ですが、読者の皆様はご無事でしょうか?亡くなられた方々のご冥福を祈ると共に、被災された方々にお見舞いを申し上げます。また被害が未だ判然としていない状況ではありますが、1日も早い復興をお祈り致します。


「ここ、どこ?」

 

「わからぬな」

 

「僕たちって、どこかでバカンス中だったっけ?」

 

本来なら江ノ島で朝を迎える筈だった。一応時系列的には、日本脱出の前日で今日はその当日なのだが、目が覚めたら砂浜でしかも周りは海、後ろには密林である。

 

「しかもご丁寧に装備は一式揃ってる上に、強化外骨格を着ていると」

 

「主様、寝る時その格好だった?」

 

「まさか。普通に寝巻きだ」

 

流石に訓練でもないのに、強化外骨格装備の上で眠りはしない。というか寝心地悪くて、寝れたものじゃない。

 

「取り敢えずここじゃ埒が開かない。中に入って、何処か拠点を探す。八咫烏、空から探せ。犬神、左を頼む。俺は右側だ」

 

「心得た」

「はーい」

 

それぞれがそれぞれのルートに突き進むが、何も無い。木と虫位である。だが植物から見るに、ジャングルというよりこれはヤシの木みたいで、どっちかというと南国系だろう。

暫く歩くと開けた道に出て、奥に洞窟があった。しかも微かに焦げ臭い。恐らく、誰かいる。

 

(お前達、集合しろ。人がいる痕跡を発見した)

 

(心得た。すぐに向かう)

 

(オッケー。ちょっと待っててね)

 

数分後、合流した長嶺と2匹は洞窟の中へと突入した。中に入っていく程、何かの焼ける臭いは強くなり、微かに明るくもなっていく。恐らく人が居るはずだ。

 

「これからどうするかなぁ」

 

「基地との連絡手段が無い以上、無闇に動くべきでは無いだろう」

 

「SOSとヘルプマークは描いてある。それを見つけてくれることを祈るしか無いな」

 

「わたしたち、帰れるよね?」

 

「大丈夫よ、イーニァ.......」

 

中に居たのはアジア系、恐らく日本人の男1人と同じく日本人と思われる女性、それから多分スラブ系と思われる女性とその妹と思われる女の子がいた。話を聞く感じ、こちらと同じ事象に巻き込まれたのだろう。

 

「よぉ。アンタらも気付いたらここに居た感じか?」

 

いきなり声をかけた結果、4人ともバネ仕掛けのおもちゃの様に飛び上がり、こちらに銃を向けてくる。反応から見るに軍人だろう。それに格好からして、恐らくはパイロットと思われる。

 

「おい待て待て!争う気はねーよ」

 

「ならアンタ、なんで武器を持ってるんだ?」

 

「そりゃ中にいるのか誰か分からなかったんだ。護身用に持つに決まってるだろ。もし中に化け物でも居たら、こっちが食い殺されちまうからな。ほら、これでいいだろ?」

 

長嶺は手に持っていた阿修羅HGを地面に置き、刀も下ろして、両手を上げる。まあ素手でも普通に殺せるが、流石にこの状況下ではまだ殺せない。

 

「いいだろう、手荒な真似をして済まなかった」

 

日本人と思われる女性が銃を下げた事で、男とスラブ系っぽい女も銃を下ろした。妹の方は、姉の後ろから顔だけを出してこちらを伺っている。

 

「見たところ、そちらも軍人と思われるが、どこの所属だ?」

 

「怪しさ満点だろうが、一応特殊部隊扱いで所属は答えられない。だが、俺は自衛隊員だ」

 

「自衛隊?その様な隊は聞いたことがないぞ?」

 

「お姉さん日本人じゃないのか?」

 

「私は日本人だ。今は国連軍所属だが、元は帝国斯衛軍の所属だ」

 

いきなり訳が分からない単語が出てきた。まず日本人なのに自衛隊を知らない。更には国連軍に、帝国斯衛軍なんて軍隊は存在しない。よくフィクションで出てくる国連軍だが、実際は国連憲章41条の定める非軍事的措置が不十分であると安保理が判定した場合、同42条に基づいて使用される軍隊、つまりは国連の安全保障理事会が指揮する軍隊である。アメリカとかが指揮をする多国籍軍こそあったが、今日に至るまで国連軍は存在しない。深海棲艦との初期の戦闘、日本海反攻作戦と太平洋反攻作戦に於いても指揮を取ったのは、日米の幕僚達であり種別は多国籍軍となる。

そして帝国斯衛軍というのは、そもそも聞いたことが無い。近衛師団はかつて存在していたが、現在は解体され、その任務は皇宮警察等に引き継がれている。一応、陸上自衛隊の第32普通科連隊は『近衛連隊』を自称しているが、帝国は付かないし現状、帝国がつくのは海軍と陸軍だけである。

 

「アンタ、本当に日本人か?」

 

「あ、あぁ。そういうアンタは?見たところ、日本人と思うが」

 

「俺は日系アメリカ人だ。所属も今は国連だが、元は陸軍にいた」

 

「それよりも貴様、本当に日本人かどうか怪しいぞ。場合によっては、ここで捕縛する!」

 

「お、おい唯衣!」

 

なんか本当に今にもロープで縛ってきそうな勢いなので、長嶺の方も身構えるが、1つ思い出したことがある。なんか大体こういうよく分からん事態が発生した時、これまで出会ってきたのは別世界の住民達だった。となれば、さっきの国連軍どうこうも辻褄が合うのは合う。

 

「.......新・大日本帝国海軍連合艦隊司令長官兼江ノ島鎮守府提督、そして非正規特殊部隊、海上機動歩兵軍団『霞桜』総隊長、長嶺雷蔵海軍元帥。これが俺の所属だ」

 

全員が固まった。次の瞬間、全員が勢いよく立ち上がり直立不動の敬礼をする。特にさっき疑っていた日本人女性は、顔面蒼白であった。

 

「失礼しました元帥閣下!!」

 

「先ほどのご無礼、どうかお許しください!!」

 

「お、おぉ、落ち着こうか。そして座ろう。というか、俺が今心停止でポックリ逝かなかったのは奇跡だぞ」

 

流石にいきなり立ち上がられて、敬礼されては、こっちもビックリする。しかも声が洞窟で反響して増幅されるので、余計に心臓に悪い。

 

「あー、それから固いの嫌いだから普通に話せ。あ、これ命令な。そして名前と所属を教えろ」

 

「篁唯衣中尉です。アルゴス試験小隊にて、新型戦術機を開発しています」

 

「ユウヤ・ブリジッス少尉だ。アルゴス試験小隊でテストパイロットをしている」

 

「ソビエト連邦軍クリスカ・ビャーチャノア少尉だ。現在はイーダル試験小隊のテストパイロットをしている」

 

「ソビエト連邦軍イーニァ・シェスチナ少尉だよ。よろしくね、お兄さん」

 

もう驚かない。だが、これで別世界の住人説確定だ。今やソビエト連邦は、歴史の中の国である。

 

「ソ連に国連軍に斯衛軍。もう無茶苦茶だ.......」

 

「元帥閣下、1つ聞きたい。大日本帝国とはなんだ?日本帝国ではないのか?」

 

「明治維新後から1945年の敗戦までの日本の国名だ」

 

「明治維新以降、我が国はずっと日本帝国ですよ?それに終戦も1944年です」

 

篁が言うには、日本はずっと日本帝国を名乗っており、歴史に関してもこちらとはかなり差異があった。第二次世界大戦までは基本同じだが、例えば原爆は2発とも広島と長崎ではなく、ドイツのベルリンに落とされたらしい。さらに終戦も1944年らしく、そのまま東西の宇宙開発競争に突き進み、所謂冷戦が行われたそうだ。

 

「なぁ、アンタなんか可笑しいぞ?いくら歴史が苦手でも、それは余りにも間違いすぎてないか?」

 

「なぁ、お前らは異世界転移って信じるか?」

 

ユウヤの問いの答えが余りに突拍子も無さすぎて、大人組は「コイツ何を言ってるんだ」という顔をし、唯一イーニァだけが不思議そうな顔をする。

 

「俺はこれまで2度、別の世界にいる日本と接触した。恐らく今回も、それ関連なんだろう。悪いが俺の知る限りの、俺の記憶にある今日までの歴史を言わせてくれ」

 

長嶺が語ったのは、長嶺の生きた世界の歴史だった。原爆が1945年8月6日に広島、9日に長崎に投下され、1945年8月15日に終戦を迎え、それ以降の数々の戦争や、1969年のアポロ11号の月面着陸、1989年のベルリンの壁崩壊、といった大きな出来事。阪神淡路大震災や9.11テロ、東日本大震災やチェルノブイリ事故といった、事件や災害。そして2020年の深海棲艦の出現。だがその殆どが、向こうは知らなかったそうだ。

 

「ありえない。我が祖国が無くなるなんて.......」

 

「クリスカ.......」

 

「元帥閣下。BETAは、いないのですか?」

 

「BETA?なんだそりゃ。アルファ、ベータ、ガンマのベータか?」

 

長嶺の答えに4人は信じられないという顔で、こちらを見てきた。そのままその、BETAなる謎の存在の講義にシフトしていく。

 

「これがBETAです。閣下」

 

「え、何この気色悪い生物。新手のバイオハザード?」

 

篁から渡されたタブレットには、BETAという存在が映っていた。そのBETAの見た目を一言で表すなら、生理的嫌悪しか抱かないクソキモい生物である。しかもまあまあ種類がいて、しかもしかも一種類ずつがしっかりキモい。これをデザインした奴は、かなり趣味が悪いだろう。

 

「これがBETAです、閣下」

 

「これ、殺せるのか?」

 

「戦術機っていうロボットを使って戦うんだ。兵士(ソルジャー)級、闘士(ウォリアー)級は歩兵でも倒せるが、それ以上になるとかなり難しい」

 

「ならまあ、まだマシか。ん?」

 

「どうしたのお兄さん?」

 

「静かに」

 

長嶺は地面に耳を押し当て、音を聞く。何か引き摺られる様な音を出しながら、複数こちらにやって来るのが分かる。しかもかなり速い。

 

「なんか奥から来るぞ。下がれ」

 

「閣下こそ、お下がりください」

 

「アホ。お前みたいなパイロットは、空で戦うのが仕事だろ。こういうのは、プロに任せておけ」

 

篁から止められはするが、長嶺は阿修羅を抜きながら前へと進む。セーフティーを外し、こっちに来る何かに向けて銃を構える。

 

「誰だ!!姿を見せろ!!!!」

 

暗がりから現れたのは、例の兵士級とかいう白い気持ち悪い見た目のデカい人間の様な化け物だった。パイロット組は反射的に後ずさるが、長嶺は逆に一歩前に出る。

 

「よう。テメェ、言葉喋れんのか?」

 

兵士級は代わりに長嶺を捕まえ様と手を伸ばし、その大きな口を開ける。長嶺は素早くバックステップで回避し、逆にトリガーを引き、兵士級の胴体を吹き飛ばす。

 

「へぇ。いくら化け物でも、23mm弾には耐えられんか」

 

「お兄さん後ろにまだ一杯いる!!」

 

イーニァが叫ぶと同時に、奥からワラワラとゴキブリの様に這い出て来る兵士級達。流石にこの数を捌くのは、できなくはないがそれよりも後ろから逃げた方が早い。

 

「はーい、回れ右&ダッシュ!!」

 

「逃げるのか!?」

 

「そうだ!戦略的撤退って言葉はソ連にもあるだろ!!」

 

そのまま入り口まで走ったが、今度はその入り口に要撃(グラップラー)級とかいう蟹みたいな奴がいて、しかも穴を掘って中に入ろうとしてきている。

 

「クソッ!」

 

「ブリジッス撃つな!!撃ったところで、デカ物が塞ぐのは変わりない!!!!」

 

「じゃあどうするんだ!」

 

「簡単だ。兵士級、だったか?アレ全部、ぶっ殺すだけだ」

 

長嶺はホルスターに阿修羅をしまった代わりに、愛刀の幻月と閻魔を抜いて、いつもの様に逆手で構える。

 

「無茶です閣下!!」

 

「篁中尉の言う通りだ元帥閣下!せめて銃を!!」

 

「お兄さん死んじゃうよ!!」

 

「早まるな元帥!!」

 

「ガタガタ騒ぐな。なーに、心配すんな。さっきので、ある程度コイツらの戦法は分かった。要は捕まらず、噛みつかれなければ良いだけだ。簡単だろ?

さぁ、この煉獄の主人を楽しませてくれ。楽しい楽しいショーの開演だ。BETA共、足掻いて見せろよ!!!!!」

 

長嶺は前に飛び出すと、そのまま兵士級の群れの中に突っ込んだ。普通に考えて、捕まってグチャグチャに噛み殺されるのが運命の筈だ。特に篁は、かつて仲間がBETAが人を食べるのを見ている。

確かに普通の一般兵であれば、その末路を辿るだろう。だが今突っ込んだのは、かつて2つの国を世紀末状態の地獄に変え、1つの国を滅ぼし、更には世界中の裏で常に戦争を繰り広げていた正真正銘の化け物。ぶっちゃけBETAが可愛く思える程の、真の化け物である。負けるはずがない。

 

「な、なぁ唯衣。あれ、兵士級を倒してないか?」

 

「そんな事があり得る.......のか?」

 

「いや.......。私も何度もBETAと戦ったが、生身であんな事をしているのは見た事がない」

 

断末魔こそ聞こえないが岩肌には兵士級の血が飛び散り、長嶺が通った後には動かなくなった兵士級が転がる。余りの惨状に全員が言葉を失った。だが、イーニァは更に恐怖に怯えた顔でクリスカの服の袖を引っ張る。

 

「ね、ねぇクリスカ。変だよ。お兄さん、変!」

 

「ッ!?どうしたのイーニァ!!何が変なの!?」

 

「あのね、お兄さん、よろこんでる。BETAを倒して、戦ってるのをすごくすごくよろこんでるの!」

 

「喜んでいる?シェスチナ少尉、それはどういう事だ?」

 

「わかんないよ.......。でも、すごく喜んでる。普通のよろこびとは違って、ものすごく濃い色.......」

 

篁はイーニァの言ってる意味が、少し分かる気がした。篁の実家は譜代武家の本家であり、篁はその当主。故に小さい頃から武芸も嗜んでいたが、長嶺の動きは剣術を習ってる者からすれば歪であり野蛮そのものであった。明らかに人を一瞬で殺し、他者を圧倒し、とにかく勝つ為に、生き残る為に作られた独学の剣。そしてその端々に、どこか狂気を孕んでいる。その狂気さが野蛮性を添加し、余計に酷く見える。恐らく今、長嶺は戦闘に狂気している。

 

「唯衣。あれは、やっぱり凄い剣なのか?」

 

「明らかに実戦で編み出され、戦闘に、もっと言えば相手を殺す為だけに作られた剣だ。あれを術には落とし込めないだろう」

 

最近ユウヤは、剣術に興味が出てきた。というのもユウヤがテストパイロットを務める94式不知火・弍型は、接近戦に高いアドバンテージがある。日本機なだけあって、侍のように刀で戦えるのだ。それをテストする上で自分も剣術について知りたいと思っており、正直言うと長嶺の剣に見惚れていたのだ。

一方の長嶺は、ただ我武者羅に前を見て戦っていたのだが、段々と退屈になってきた。何せこの兵士級、動きが単調すぎる上に武器もないので、戦闘に張り合いがない。向こうは掴むか噛み付くかしかしないので、全くと言っていい程、脅威にならない。お陰で暇で暇で仕方がない。しかも数が多すぎて、向こうは身動きが取れないので基本されるがまま。最初こそ未知の敵に狂喜したが、今や単なる面倒な作業と化している。

 

(主様ー。助けいる?)

 

(いらねぇ。ってか弱ぇ。取り敢えず、外のキモい蟹モドキ。あれ冷凍しといて。流石に、ケツから来られたら面倒だし)

 

(はーい)

 

そのまま数分位は兵士級と遊んでいたのだが、いよいよ持って飽きてきた。長嶺は完全にお遊びというか、実験モードに入る。こんな未知の存在を、ただ殺すのでは勿体ない。肉体にどの程度のポテンシャルがあるのか。はたまた身体の構造はどうなってるのか。その辺りが気になって来る。

 

「よーし、遊びましょうかね兵士級さん」

 

長嶺は刀を仕舞うと、そのまま兵士級に肉薄する。そのまま捕まえようと伸ばした腕を掴み、力一杯引きちぎってそれを口の中に放り込ませたり、こちらに齧りつこうと開けた口に手を突っ込んで、そのまま頬肉を引きちぎりながら180度開いてみたり、目と思われる四つの器官を潰したり、下腹部に空いてる謎の開口部に引きちぎった腕を突っ込んでみたり、貫手でなどを突き破ったり、プロレス技みたいな事をしてみたり、無理矢理共食いさせてみたりと、いよいよ持って悪魔じみた所業をし始めた。

後ろからやってきた4人は、まさかの惨状にドン引きである。なにせ明らかに兵士級が、弄ばされて嬲り殺しされたのが分かる状態で転がっているのだ。これまでは首が飛んでたり、一刀両断されてたり、袈裟斬りにされてたりと、刀で斬られたのが分かる死体だった。対してこっちは、明らかに色々された状態で転がっているのだ。中には腕を口に縦で突っ込まれ、脚部を半分切られた、所謂ダルマに近い状態で放置されてる物もあった。しかも生きてるという。

 

「こ、これはかなり酷いな.......」

 

「ホラー映画のマッドサイエンティストでも、もうちょっとマシだぞ.......」

 

「お兄さん、凄い、ね.......」

 

「.......ユウヤ、それに篁中尉。元帥閣下は、本当に人間なのだろうか?」

 

「「.......」」

 

クリスカがボソリと発した言葉に、2人は答える事が出来なかった。だがまあ確実に言えるのは、間違いなく人間を超えた化け物であるというだけだ。因みに長嶺は人間ではあるが、艦娘の力とか神授才とか持ってるので、厳密に人間とは言えないのだが、それは気にしてはいけない。

更にもうしばらく兵士級と遊んでいると、遂に外に出た。だが外はどういう訳か見渡す限りの荒野で、開けている。周り建物も何もないが、代わりに車が置いてあった。三菱のランサーエボリューションXである。

 

「そんじゃま、これで逃げるか」

 

ダメ元でドアを引いたが、なんと普通に開いた。しかも霞桜が使う無線機もあり、一目でこれが霞桜仕様のランエボだと分かる。霞桜仕様だと他と何が違うのか。まずエンジン、足回り、吸排気等々、全てに手が入りフルチューンされており、車体も戦車砲を防げる程度の装甲を持つ。更に内部に武装を搭載しており、ボンドカーの様に振り回す事もできるのだ。

 

「閣下!その車は?」

 

「いいから早く乗れ!ブリジッス!お前は前な」

 

(八咫烏。犬神を連れて上空からの援護に備えろ)

 

(心得た)

 

4人が乗ったのを確認すると、そのまま車を発進させ荒野を爆走する。ラリーカーとしての信頼性もあるので、荒野での走行にも問題はない。まあ少し乗り心地は悪いが、そこは仕方がないだろう。

 

「これ、お兄さんが用意してたの?」

 

「いや。何故かは分からんが、ウチの部隊の特別仕様車が止まってたんだ。ウチの車は特別性だ。ちょっと乗り心地は悪いかもしれないが、この車にいれば大抵の事はどうにかなる」

 

「だがこれは、普通の車なんじゃないか?ちょっとチューンされてるっぽいが」

 

「そりゃパッと見じゃ分からない様に、しっかりと隠してあるからな。では、お見せしよう。戦闘モード起動」

 

長嶺がそう言った瞬間、車が変形し出した。屋根には30mm機関砲1門が展開され、フロント部分からは素早くM2重機関銃2基が組み立てられ、フロントフェンダーからは左右から計4挺のMINIMIが飛び出す。

 

「変形した!?」

 

「スゲェ。マジのボンドカーだ.......」

 

「すごいすごーい!」

 

全員驚いてるし、イーニァとユウヤは大興奮である。特にイーニァはキラキラした目でこちらを見るのがルームミラーでも見えるし、子供心的にもやはりこういうのは大好きなんだろう。

 

「しかし、態々車を変形させる必要はないだろ?戦車や装甲車を持っていけばいい」

 

「確かに、それは言うとおりだ。だがビャーチャノア少尉。その戦車やら装甲車を、一般市民が何も気にせずいつもの日常を送っている市街地に入れたら、どうなると思う?」

 

「目立ってしまうか.......」

 

「俺達の部隊は、一応、市街地でも戦闘するからな。こういう世を偲ぶ戦闘車がいるんだ。さて、それじゃ騎兵隊を呼びますかね」

 

長嶺は無線のスイッチを入れ、周波数を霞桜のチャンネルに合わせ江ノ島との通信を試みる。意外にも通信は繋がり、普通にオペレーターと会話できた。

 

「こちらゴールドフォックス。聞こえるか?」

 

『総隊長!?よかった、ご無事だったんですね!!』

 

「あぁ。ご無事ついでに、ちょっと回収を頼めるか?」

 

『お待ちを。GPSで位置を確認します。..............見つけました。直ちに回収部隊を送ります』

 

「よろしく頼む」

 

無線切った直後、またBETAが現れた。しかも今度は要撃級を筆頭に戦車(タンク)級と突撃(デストロイヤー)級まで、大量にである。

 

「なんか一杯来たんですけどぉ!?!?」

 

「閣下、スピード上げてください!追いつかれます!!」

 

「オッケー。コイツ、アフターバーナー.......クソッ!付いてないタイプかよ!!だったらアクセル全開だ!!!!」

 

アクセルベタ踏みで加速するが、それでも不整地なので車道よりも速度は落ちる。一応牽制射撃で、30mm機関砲を撃ってみるが何か全く効いてない。

 

「元帥閣下、あれに30mmは効かないぞ!あのBETAは突撃級と言って、あの衝角は120mm砲弾でも弾く。後方に回り込むのが一番だ!」

 

「それは無理な相談だ!そうだ、足!足は!?」

 

「前に試した事がある!足は36mmでも破壊できた!!」

 

「だったら、足を狙うのみ!!」

 

機関砲で足を狙うが、やっぱりそれでも無理があった。突撃級の足は地味に狙いにくい位置にあり、射角的に足の前の地面に着弾している。最早、焼け石に水にすらなっていない。

 

「ダメだわ。全然当たらん」

 

「他に手は!?」

 

「心配すんな。まだまだ手札は残ってる」

 

長嶺は念話で相棒達に指示を出す。その指示を聞いた2匹は、BETAの集団に急降下して突っ込んだ。

 

「ワオォォォォン!!!!!」

 

「カアァァ!!!!カアァァ!!!!」

 

犬神と八咫烏が巨大化し、BETAの目の前に立ちはだかる。2匹は妖術を用いて、BETAを瞬く間に殲滅していった。

 

「何だあれは!!」

 

「あの烏、もしや八咫烏?」

 

「おぉ、さすが日本人。そう。あれは八咫烏だ」

 

「八咫烏を使役しているのですか!?」

 

「なんか使役しちゃった。あ、犬の方は犬神な」

 

もう無茶苦茶だ。普通に考えて、神とか妖怪とかは使役できない。にも関わらず、それを当然かの様に使役してるあたりぶっ飛んでいる。

 

「ねぇねぇ唯衣。やたがらすってなーに?」

 

「.......日本帝国初代天皇、神武天皇を導いたとされる神様だ。神話にしか存在しない、御伽話の筈なんだがな」

 

「お兄さん凄いね!ね、クリスカ!!」

 

「え、えぇ。そうね」

 

「神を使役する人間って、あんた本当に人間か?」

 

「俺はどっちかっていうと、化け物だろうな」

 

なんて話していると、長嶺は急ブレーキを踏んだ。車はそのままドリフトの要領で滑らせて止まり、みんな頭ぶつけたりと地味に痛い思いをする。

 

「ど、どうしたのですか閣下?」

 

「最悪だ。道がない」

 

窓の外を見れば、巨大な渓谷が広がっており、恐らく100mはある大きな溝が地平線の奥まで続いている。しかも幅も50mはあり、まず飛び越えるのは不可能だ。しかもBETAはこっちに迫ってきており、何か手を早々に打たなくては死ぬだろう。

 

「回収部隊が到達するまで、後10分。それまでにコイツらを抑えるだけか。よし、お前ら全員降りろ!」

 

「何か策があるのか!?」

 

「あぁ。戦って時間を稼ぐ。オートモード起動、戦闘モードで接近する敵を殲滅しろ!!」

 

ランエボは即座に飛び出し、突撃の群れへと攻撃を仕掛ける。シュミレーター何千億通りの戦闘を経験させたAIだ。この程度の敵であれば、容易に対応できる。いざとなれば自爆する事になっているし、これで時間は稼げるだろう。

 

「オールウェポンズ!!」

 

長嶺は全ての武器を装備して、BETAの集団に突貫。攻撃を開始する。特に長嶺にとって、こういう1対多の戦闘は最も得意とする戦闘だ。敵の優先度を素早く判別し、それと同時に叩く。

 

「テメェらが幾ら頑丈に守ろうと、対深海徹甲弾を持ってすれば、大抵はどうにかなんだよ!!!!!!」

 

ジェットパックで地面をスケートの様に滑り、四方八方に弾丸をばら撒く。更に人間サイズという小ささを活かし、突撃級や要撃級の下に潜り込み、下から銃撃を加え、戦車級は真正面から素早く倒す。長嶺が参戦しただけで、BETAの群れは一部崩壊状態になり進軍速度が落ちていく。

 

「な、何だよあれ!」

 

「ありえない。あんな、あんな事が人間にできるのか.......」

 

「あんな動き、見た事がない.......」

 

「BETAって、あんなに簡単にたおせないよね?」

 

そのまま10分程遊び、BETA集団が半壊状態になった頃、戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』が飛来。ユウヤ達の前に着陸し、中から霞桜の隊員達が降りてくる。

 

「ここか。あ、アンタら!ここに総隊長殿、あー、いや。長嶺雷蔵って方はいなかったか?」

 

「閣下ならあちらで戦闘を繰り広げているぞ」

 

「あー、やっぱりか。取り敢えずアンタらは、先に機体に乗ってくれ」

 

「俺も忘れられては困るぞ」

 

いつの間にか帰ってきていた長嶺も合流し、全員とランエボを『黒鮫』に乗せて現場を離脱。そのまま江ノ島に戻るつもりだったのだが…

 

「おわっ!?」

 

パイロットがいきなり機体を横倒しにして、何かを避けた。次の瞬間、真横をレーザーが通り抜けていく。

 

光線(レーザー)級!!」

 

「なんだそりゃ!?」

 

「BETAです!レーザーを撃って、飛行目標を全て落とす厄介な存在です!!380㎞離れた高度1万mの飛翔体を的確に捕捉可能で、基本的に狙われれば最後。堕とされます!!!!」

 

流石の長嶺も一瞬顔が強張るが、しかしすぐに篁に聞き返した。まだ長嶺は、諦めてはない。

 

「その光線級の強度は!!」

 

「装甲はそれほどではぁぁ!?」

 

「よし。パイロット!!高度を上げまくれ!!!!コークスクリューだ!!!!レーザーに貫かれんなよ!!!!!!」

 

『このままじゃジリ貧ですからね!!やったりましょう!!!!!!』

 

確かにその光線級というのは、厄介なのかもしれない。だがこのまま放置していては、その内貫かれるだろう。だったら先に、光線級とやらを撃退すればいい。

 

「かなり揺れるぞ!!何かに捕まれ!!!!」

 

パイロットは『黒鮫』をブンブン振り回し、高度を上げまくる。お陰で貨物室では、悲鳴と絶叫の嵐だ。唯一長嶺とイーニァだけは笑っているあたり、子供は怖いもの知らずなのだろう。長嶺は、まあ、単純に狂ってるだけだ。

 

『高度1万5,000!!!!』

 

「カーゴドア開放!!」

 

長嶺は開いた扉から飛び降り、そのまま一気に降下していく。手には桜吹雪SR、背中には龍雷RGを装備している。降下状態のまま姿勢を立て直し、桜吹雪を構えて撃った。光線級は全部で16体、桜吹雪の装弾数は8発。7発撃って、8発目を撃ちながらマガジンを変更し、更に撃つ。そして最後に、確か重光線(レーザー)級とかいうゴツい奴2体も見えたので、龍雷を2発撃ち込む。

 

「死んどけレーザー野郎!!!!」

 

確かに光線級は、飛行目標に対して最強の天敵かもしれない。だがそれが、弾丸にまでは及ばない。それに賭けてみた訳だが、レーザーはずっと『黒鮫』にばかり向けてられており、こちらには見向きしないし、弾丸にも気付いてないらしい。18発の弾丸は全て、正確に光線級を撃ち抜き光線級の撃退に成功した。それを確認すると長嶺は最も速度の遅い体勢に変更し、『黒鮫』の方も長嶺回収のためにこちらに向かってくる。長嶺の下を『黒鮫』が通過する瞬間、ワイヤーを撃ち込んでそのまま機体の中へと入る。

 

「クリアだ。全速離脱!!江ノ島に帰還する!!!!」

 

『ラジャー!』

 

パイロットはスロットルを目一杯上げて、機体を最高速のマッハ6にまで加速させ、江ノ島を目指す。どうやら江ノ島でもゴタゴタがあったらしく、大隊長達が消えていたらしい。だが帰還途中で通信が回復し連絡がついたのだが、聞けば深海棲艦に襲われているらしい。

 

「総隊長、どうされます?」

 

「無論応援に向かうぞ。さぁ、戦争の時間だ!!」

 

 

 



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2024お正月スペシャルphase III

2001年10月29日 神奈川県 国連軍横浜基地

「紹介しよう、新たに207小隊に配属される訓練兵だ」

 

この日、国連軍横浜基地の207衛士訓練小隊に新たに6名が配属された。その新人というのが…

 

「栗武なおと訓練兵です!」

 

「魔戒けんと訓練兵です。よろしくお願いしますね」

 

「魂魄たけお。よろしく」

 

「剛田バール!!よろしくな!!!!」

 

「西條香織。よろしくね?」

 

「西條大吾だ。よろしく頼む」

 

いや、いきなり誰やねんと突っ込みたくなるだろう。コイツら6人、上から順にグリム、マーリン、レリック、バルク、カルファン、ベアキブルと霞桜の大隊長達である。

 

「見ての通り年は離れているが、今回とある事情によりここに配属された。小隊各員も自己紹介!」

 

「分隊長の榊千鶴です」

 

「御剣冥夜と申します」

 

「白銀武です」

 

「鎧衣美琴です」

 

「彩峰慧」

 

「珠瀬壬姫です」

 

「そして私が教官の神宮司まりもだ。では、これより訓練を開始する!」

 

さてさて、何故霞桜の大隊長がここにいるのか。これが謎である。皆、普通に夜に寝たのだが、なんか朝起きたらここの訓練兵宿舎に居た。しかも居たのは大隊長達だけで、他の部下や艦娘&KAN-SEN、長嶺もどこにも居ない。

取り敢えずグリムがハッキングで情報を盗んでみた結果、自分達は昨日付で配属された訓練兵ということになっていて、今日から訓練兵として活動する事だけは分かった。ここで変に動くより、そのまま訓練兵として動いた方が楽だろうという結論から、全員訓練兵として参加し、今に至るのである。

 

「午前中は行軍だ。装備を持て」

 

渡された装備は背嚢と鉄帽だけで、正直拍子抜けである。背嚢も軽いし、銃もない。これでは訓練にならないだろう。というかぶっちゃけ、フル装備であっても霞桜の訓練の方が重い。とは言え、楽に越した事はない。

 

「肩落とすな!顎上げろ!!」

 

神宮司から檄が飛び、訓練兵達はヒーコラ言いながら歩く。だが勿論、大隊長達は涼しい顔で風景を見ながら散歩でもしているかのように歩いている。無論ここで喋りでもしたら、キツくなりそうなので私語は慎んでいる。

 

「(ねぇ、グリちゃん。この世界のこと、何か分かった?)」

 

「(どうやら我々は、並行世界の日本に迷い込んだようですね。この世界ではBeings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race、通称BETAというエイリアンと戦争を繰り広げているようです。1967年から、今日に至るまで世界各地で戦闘を繰り広げ、月面から始まり現在ではユーラシア大陸の大半は支配されてしまったようですね)」

 

「(なんだその、BETA?ってのは)」

 

「(見てもらった方が早いですね)」

 

霞桜の隊員には、任務に応じてARコンタクトを装備する。こういう時に画像や映像で説明ができるので、とても便利だ。しかも自分にしか見えないので、周りの心配もいらない。

 

「(気持ち悪!!)」

 

「(これは何というか、生理的嫌悪感が凄いですね.......)」

 

「(私、吐きそうだわ.......)」

 

「(しかもこれ、基本的にかなり大きいですよ。この兵士(ソルジャー)級と闘士(ウォリアー)級というのは人間サイズですが、残りは車並み。下手をすればマンション並みの大きさだってあります)」

 

「(こりゃ倒せなくはねぇが、倒すのに骨が折れるぞ。艦娘とKAN-SEN、ここを総動員だな)」

 

続いてBETAに代わり、我々人類側の矛が紹介された。戦術機と呼ばれる、人型ロボットである。衛士というのも、このロボット兵器のパイロットの事らしい。

 

「(なんだこりゃ。ガンダムみたいだな)」

 

「(ふむ。やはり、ロボットは男心が擽られますね!)」

 

「(マーちゃんってそんなキャラだっけ?)」

 

「(マーリンの親っさんが壊れた.......)」

 

「(ロボットは浪漫!!マーリンに同意!!!!)」

 

ロボットの出現にレリックが壊れかけ、それを抑えている間に行軍はいつの間にか終わっていた。昼食を挟み、午後からは座学となったのだが、ここで最強特殊部隊の片鱗が垣間見えた。

 

「想定は作戦前の後方撹乱な訳だが、この様なレーダー施設をどの様に無力化する事が望ましい?前回、白銀が送電線の破壊と言っていたが、これ以外の方法でだ」

 

どうやら前にも似た様な問題が出たらしく、送電線の破壊という答えを出したらしい。正直、現場を知る人間としてはどの様に破壊するかで話は変わってくるが、目の付け所は悪くないだろう。

 

「.......教官殿、質問よろしいですか?」

 

「栗武、なんだ。言ってみろ」

 

「レーダー施設の種別をお教えください。レーダーのみか。管制室の有無。周囲の地形。警備状況、若しくは最短距離にある敵部隊の有無や戦力。敵支配域と味方支配域との距離」

 

「かなり細かく聞くんだな」

 

「当然です。教官殿もかつて戦場で戦われていたのなら、痛い程ご存知でしょう?情報はあって困る物ではありません」

 

グリムの問いに神宮司が出した想定は、次の通り。レーダーのみであり、周囲には小高い岡がある。警備は最低限であり、敵部隊の応援が到着するのは10分以内。敵支配域だが、味方支配域とは近い。こんな感じである。

 

「では、白銀訓練兵と同じ様に、破壊工作後の使用を考慮しましょうか。私なら付近に必ずある、点検用ハッチから内部に潜入。そのままハッキングして、情報を奪取しシステムにウイルスを流し込みます。こうしておけば、後から色々と利用できるでしょう?」

 

「.......栗武訓練兵、映画の見過ぎだぞ。そんなエリートエージェントみたいな兵士、いる訳が」

「ここにいるぜ?」

 

神宮司が顔を右に向けると、さっきまで机に向かっていた筈のベアキブルが真横に立っていた。しかもご丁寧に、指銃で神宮司のこめかみを撃ち抜いている。

 

「西條大吾!お前、何故そこにいる!!」

 

「だって教官殿が、そんな兵士居ねぇって言うだろうと思ったからさ。ここにいるぜ、そのエリートエージェントとやらは。しかも2人」

 

「1人だろ!」

 

「あら、私を忘れないでくれるかしら」

 

今度は反対側にカルファンが立っている。神宮司も白銀達も、全員目が点になっていた。神宮司は元は地獄と呼ばれた大陸戦線を。白銀はタイムリープしているので、この先の未来の激戦をそれぞれ潜り抜けている。その2人を持ってしても、霞桜大隊長の行動は驚愕の行動だったのだ。

 

「お、お前達、席に戻れ。というかそもそも!レーダーをハッキングってできる訳ないでしょう!!」

 

「現行レーダーは第四世代型ですからねぇ。アレ、バイパスを2、3個通せば一時的ですけど侵入に検知されないんですよ」

 

「そもそもレーダー装置が古い。こんなの無駄。破壊すべき。バル、じゃなさった。バール。破壊」

 

「そうさなぁ。手っ取り早く行くなら、基部の破壊だろうな。こういう即席軍事施設ってのは、案外構造脆いし。あーでも、警備があるんだよなぁ。とりま連絡網遮断して、皆殺しでいっか」

 

「EMPグレネード。後、変電設備の破壊」

 

「だったらよ、バールの兄貴。暗闇に紛れて、俺と姉貴でステルスキルするぜ?」

 

「では私は、岡から狙撃で援護しましょうか。そうですねぇ、1.5〜2km位でしょくからイージースナイピングですよ。そうだなぁ、どうせならAWMとかブレイザーR93を使いましょうか。バレットは大きいですが、7.62mmよりもストッピングパワーは欲しいですし。やはり長距離狙撃における.338ラプア・マグナムは使いやすいですからね」

 

もう無茶苦茶である。一応衛士とは言え、軍人である神宮司もある程度は分かる。が、グリムの発言は大半がわからないし、他の連中もある意味分かりたくない内容ばかりである。

 

「お前達、ふざけているのか?そんな事ができたら苦労する訳ないだろう!!!!」

 

「できるわよ、まりもちゃん」

 

「誰がまりもちゃんだ!!貴様ら、この後の格闘訓練覚悟してろよ.......」

 

座学の結果は神宮司、敗北である。生憎とコイツらは、生きてる次元が違うのだ。衛士としての土俵なら、確実に神宮司に軍配が上がる。だが、大隊長達は各々がその分野や戦闘スタイルに於いては、世界でも一、二を争う最強の戦士達なのだ。

副隊長兼本部大隊大隊長グリムはハッキングや電脳関連。第一大隊大隊長マーリンは狙撃。第二大隊大隊長レリックはメカ。第三大隊大隊長バルクは怪力と機関銃による分隊支援。第四大隊大隊長カルファンは隠密。第五大隊大隊長ベアキブルは近接格闘と、尖りまくった性能ではあるが適切な状況下であれば、たった1人で戦況をひっくり返すなんざ造作も無い化け物である。そんな存在に一衛士が勝てる訳ない。

 

「そ、其方ら仮にも教官に恐れはないのか.......」

 

「そもそも、あの受け答えは何ですか!あんな荒唐無稽な事、できる訳ないでしょう!!」

 

「榊分隊長、でしたね。我々はあんなの、いとも簡単にやってみせますよ。正直、アレよりAL攻略の時とか、房総半島防衛戦とかの方がキツかったですし」

 

「あーアレ、マジ地獄だったよな。ALの方は総長が途中まで居なかったし、本土戦の時は数多かったしな。何時間ぶっ通しだっけ?」

 

「確か12〜3時間では?」

 

「あら、15時間じゃなかったかしら?」

 

最強国家のみをご覧頂いてる読者の方々には、何を言っているのか分からないだろう。ALというのはミッドウェー攻略作戦の事であり、この時は作戦前に本拠地たる江ノ島が襲撃され、一時的に最強戦力にして最高指揮官である長嶺雷蔵が戦線離脱していたのだ。

そして本土戦というのは比較的最近起きたのだが、読んで字の如く日本本土同時襲撃防衛戦の事である。少し前、日本本土に深海棲艦が同時に来襲し、房総半島への上陸を許してしまう。幸い霞桜と江ノ島艦隊による迎撃で占領こそ免れたが、半島は壊滅状態。特に南部は逃げ遅れた一般市民が大量に犠牲になり、都市機能も崩壊。オマケに迎撃にあたった各鎮守府、基地の艦娘達、陸海空自衛隊、在日アメリカ軍でも、かなりの被害を出す大惨事となった。

 

「武さん以上の存在です」

 

「おいおい、俺を引き合いに出すなよ」

 

「いや、武も十分おかしいからね?」

 

「新人は規格外」

 

確かに彩峰の言う通り、コイツら揃いも揃って規格外である。だがコイツらというか、江ノ島の人間は総じて長嶺雷蔵とかいうヤベー奴によって、その辺りのハードルが上がりに上がりまくっており、自分達が規格外の異常者である事を理解していないのだ。

さてさて、今度は格闘訓練を行う事になったのだが、ここで神宮司、報復に出た。訓練教官として舐められない為にも、この場所で好き勝手させない為にも、ちょっとお灸を据えなくてはならない。そこで207小隊では一応先輩となる榊、御剣、鎧衣、綾峰、珠瀬、白銀対各大隊長1名ずつで戦う事になった。まず選ばれたのは、バルクである。因みに6人は、模擬戦用の武器を持っている。

 

「神宮司の嬢ちゃん。こりゃちょっと、アンフェアじゃないか?」

 

「戦場でそんな事を宣う暇はないぞ?」

 

「まあ、それもそうか。で、そのナイフ。偽物だろうけど強度は?」

 

「本物と遜色ないが?」

 

「そりゃいいや。じゃぁ、始めようぜ」

 

幾ら武装した6人が相手とはいえど、所詮は素人。この程度、お話にもならない。神宮司が笛を鳴らし、訓練が始まる。だがしかし…

 

「うおらぁ!!!!!」

 

なんとバルク、御剣の模造刀をパンチでへし折った。しかも勢いそのままに白銀を持ち上げて適当に投げ捨て、そのままタックルの要領で猪の様に他の女子5人を追いかけ回す。

 

「おらおらどうしたぁぁ!!!!!!」

 

「何なのアイツ!!!!」

 

「笑ってます!!怖いですぅぅぅ!!!!!」

 

「武は!?」

 

「あそこで伸びてる!!」

 

「流石の私でも、刀無しでは切れんぞ!!!!」

 

神宮司もまさかの展開に唖然としているが、大隊長達は完全に絵面が女を追いかけ回す変態のソレすぎて、腹抱えて笑ったりスマホで動画撮ったりして遊んでいた。

 

「そ、そこまで!!全員戻ってこい!!」

 

「えー。もう終わりかよ。もうちょい追いかけっこしたかったのによぉ」

 

「た、助かりましたぁー.......」

 

次に指名されたのはベアキブル。正直、格闘戦で言えば霞桜内でも最強の存在である。何せコイツは元極道で、接近戦に関しては右に出る者はいない。リアル桐生一馬である。あ、長嶺とか神谷は殿堂入りみたいな物なのでノーカウントだがあしからず。

 

「教官さんよぉ。悪いが本気で行かせてもらうぜ?」

 

「ほう。大した自信だな」

 

「あぁ。さぁ、相手してやるガキ共。本物のタマの取り合いってのを教えてやるよ!!!!!」

 

ベアキブルは勢いよく上着を脱ぎ捨てた。まあ元極道なので、しっかり刺青も入っている。しかもその柄というのが、背中には虎と不動明王。胸には般若。右腕に応龍、左腕に黄竜と超豪華な刺青である。

タダでさえ刺青自体イカついのに、その刺青が5種類も入っている辺り威圧感はカンストである。

 

「なんだ、来ないのか?なら、俺から行ってやるよ!!!!!!」

 

まず狙いを付けたのは、最も小柄な珠瀬。珠瀬からサバイバルナイフを奪い取り、ついでに一本取って無力化しておく。後は作業だ。元々ベアキブルは、ドスで深海棲艦とやり合う度胸と技術を持った狂人である。ちょっと武道の心があろうと、正面からそれをねじ伏せる。

 

「死に晒せぇぇぇ!!!!!!」

 

「いってぇぇぇぇ!!!!!!」

 

「腹掻っ捌いてやんよ!!!!!」

 

「は、速い!」

 

開始から僅か30秒で、全員の死亡判定を取ったベアキブル。完全なる独壇場である。続くカルファン、マーリン、グリムも流石にここまでの超圧倒的とは行かぬが、それでも1分程度で制圧してみせた。

てっきりこの行為で孤立するかと思いきや、207小隊の反応は意外にも好意的でどうにかして技術を盗もうとしてくる程であった。いい傾向である。

 

「凄いです大吾さん!!あんな動き、初めて見ました!!」

 

「そりゃ鉄火場を渡り歩いたからな。あれ位は当然だ。特にお前さんは小柄だ。コンプレックスに感じているのかもしれないが、その分俊敏性は他よりも高い。やりようによっちゃ、格闘センスが上がるかもしれんぞ」

 

「そ、そうですかぁ////?」

 

 

「バール、お前変態みたいだったぞ」

 

「ひでぇな坊主。コレでも一応、慈愛に満ちたナイスガイだぞ?」

 

「いや、どっちかっていうと悪役だろ」

 

 

「香織さんって、大吾さんと兄弟なの?」

 

「そうよ。私が姉で、あっちが弟。全然似てないけどね」

 

「でも雰囲気は似てるよ?」

 

「あらそう?嬉しいわ」

 

 

「これ、あげる。ここのおにぎりは美味しい」

 

「ん。.......うまい」

 

「良かった」

 

 

「なおとさんは、格闘の経験があるの?」

 

「基礎的なCQCはやっていましたが、基本は実戦で身につけた独学ですよ」

 

「独学であんな、1分で制圧できる物なのか?」

 

「えぇ。尤も、冥夜さんの様な剣士は相手にしたくありませんが。それに私は個人的に、剣士が苦手でして」

 

「何かあったのか?」

 

「我々6人が総隊長殿と仰ぐ、君達と同じくらいの歳の男性が居ましてね。何度も模擬戦をしましたが、一向に勝てないんですよ。何年もね」

 

グリムは御剣と榊に、長嶺の事を語った。流石に全部が全部話せる訳ではないので、適当にかいつまんで時折フェイクで繋いで矛盾がない様に。長嶺の人となりを聞いた2人の反応は、言うまでもないが軽く引いていた。

さて、場所は変わって基地内のラウンジ。ここでは神宮司とマーリンが、2人でお茶をしていた。

 

「私は教官の才能が無いのだろうか.......」

 

「いえいえ、教官殿は職務を忠実に全うしていますとも。ただ我々が、少々おかしいだけです」

 

「全く、君達は何者なんだ。こんな規格外な連中、初めて見たぞ?」

 

「あなた、いえ。衛士が対BETA戦闘でのプロフェッショナルなら、我々6人は戦争のプロフェッショナルなのですよ」

 

「戦争のプロフェッショナル?」

 

神宮司はマーリンの言うことが理解できなかった。戦争のプロフェッショナルとは、一体どういう意味なのかと。何せこの世界では、BETA襲来以来、人類同士での戦争というのが起きていない。そんな人間同士で仲間割れしてる暇はないのだ。まあ裏とか政治で起きる事はあるが、少なくとも国が全面衝突する戦争はなかった。

 

「どういう事かは、明日の訓練でお見せしましょう。確か1週間後には、白兵戦の訓練でここの警備兵との銃を用いた模擬戦闘だった筈。我々が存在意義とする物を、ぜひご覧ください」

 

マーリンはそう言い残すと、ラウンジを去っていった。翌日からの訓練でも、大隊長達はその異常性を遺憾なく発揮していった。本来50秒位掛かる銃の組み立てをレリックが15秒でやってのけたり、副司令の香月とグリムがコンピューターに関するハイレベルな談義を始めたかと思ったらスーパーコンピュターを組み出したり、マーリンが狙撃で全く同じ場所に5発全弾命中させて伝説化したり、かなり色々やった。

そして迎えた1週間後。この日の訓練内容は先述の通り、ここの警備兵との模擬戦である。だがこの模擬戦は、大群に押し潰される恐怖を体験するための物であり、負けイベントなのだ。そのため、6対600とかいう馬鹿げた数で戦う羽目になる。しかも固定機銃やら装甲車やら何でもかんでも出してくるので、どう足掻いても勝ち様がないのだ。実際、先に訓練を受けた白銀らは物の5分で殲滅されている。

 

「負けたな。完膚なきまでに」

 

「あぁ.......」

 

「あんなの勝てっこないよ!!」

 

「これは負けイベントよ。仕方ないわ」

 

「にしても、あの数は異常」

 

「うぅ.......」

 

完全にお通夜モードの6人の背後に、大隊長達が完全装備がやってきた。大隊長達からしてみれば、警備兵とて物の数ではない。寧ろ、歯応えがありそうで楽しみですらある。

 

「そう落ち込まないでください、皆さん」

 

「我々が仇を取りますよ。大丈夫、おじさん達に任せてください」

 

「そうだぜガキ共。俺達、ちょっと本気出すからよ。楽しみに待ってな」

 

「しっかり仇は取ってきてあげるからね」

 

「うっしゃぁ!!やるか!!!!」

 

「戦争。楽しみ」

 

グリムはマークスマンライフル仕様のAR10、マーリンはM24、レリックはFA-MAS、バルクはM249を3挺、カルファンはUZIを2挺、ベアキブルはガバメントと短ドス&長ドスを装備している。本来なら専用武装を使いたい所だが、この際仕方がないだろう。

白銀達は大隊長達を何も言えずに見送り、白銀達は観覧スペースへ。大隊長達は演習場へと向かう。

 

『模擬戦、始め!!!!』

 

神宮司の号令と共にブザーが鳴り、一気に警備兵達が動き出す。だがそれよりも先に、いきなりマーリンが先手を取った。開始直後から、指揮官クラスを立て続けに狙撃でキル判定を取っていったのだ。

 

「思ったとおり。彼ら、実戦には慣れていませんね」

 

実を言うと訓練前からグリムは監視カメラ映像を入手し、カルファンは詰め所へ実際に赴いて相手となる兵士達の階級や、練度を洗っていたのだ。そのデータから導き出されたのは、彼らは対人戦闘の経験が圧倒的に少ないという物であった。

というのも、基本的にこの世界の歩兵は対BETA戦の基本的に戦術機が相手する敵ではない、兵士級と闘士級であり、稀に対戦車ミサイルなんかで戦車(タンク)級と戦う。そのため、歩兵との戦闘経験が圧倒的に足りないのだ。対する霞桜は、深海棲艦を艦娘、KAN-SENと協力して狩り立てる部隊。更には戦争、戦闘のプロフェッショナルという名の狂人共が集まる最強にして最恐の最狂の軍団である。どうやらここの基地もオルタネイティブ4とかいう極秘計画の本部であるため、他の基地よりかはエリートが集まっているらしいがそれでも、大隊長達には物の数ではない。

 

『グリム、指揮官クラスは半分は潰せたでしょう。このまま援護に入ります』

 

「了解しました。そのまま援護をお願いします。皆さん、いつも通りです。マーリンが狙撃で援護、バルクが弾幕で敵を拘束、カルファンは遊撃、ベアキブルが突撃、レリックが撹乱。私はここから指揮を取ります。

バルク、あそこのコンテナまで前進。援護に入ってください。ベアキブルは左、カルファンは右から回り込んで備えてください。レリック、装甲車が来るまでに例の物を。総隊長殿はいらっしゃいませんが、この程度なら我々でもできる筈です。いつもの様に、楽しんでいきましょう!!」

 

大隊長が攻勢に転ずる。マーリンとグリムが手分けして、指揮官クラスや分隊支援火器を装備する兵士を優先的に排除し、なるべく通常の歩兵のみが残る様に仕向けていく。

指揮を取る者と打撃力を司る兵士が急速に減っていけば、装甲車を出さざるを得ない。大隊長達に取って厄介な存在は、その装甲車のみ。だが逆に言えば、その装甲車さえどうにかしてしまえば後は単純作業に過ぎない。

 

「クソッ、第一、第三大隊、大隊長及び中隊、小隊長全滅!!」

 

「第二大隊も大隊長、第一第三中隊長がやられました!!」

 

「くっ.......装甲車を出せ!!」

 

第三大隊の大隊長が苦虫を噛み潰したかの様な声で、そう命じた。大隊長の命令で動き出したのは、リモート操作の12.7mm機銃を装備した82式指揮通信装甲車である。

 

「おっ、出てきた出てきた。グリム、装甲車が出てきましたよ」

 

『了解しました。レリックを動かします』

 

グリムのハンドサインで、レリックが準備しておいた秘密兵器を準備する。今回この演習場内に予めEODボットを作れるジャンクパーツを、各所の訓練用デブリの中に配置しておいたのだ。ついでに即席の電気トラップも作れる様なジャンクも、同様に配置してある。

後はジャンクパーツをレリックが現地で組み合わせて、即席のEODボットと電気トラップを作成するという手筈なのだ。これを使って装甲車を無力化する。

 

「行け」

 

操作プログラムは予め情報端末内にインストールしてあるので、それで操作ができる。電波も演習場全域に届く様に、レリックとグリムで調整してある徹底っぷりだ。

 

「取り付いた」

 

「起爆」

 

「ポチっとな」

 

装甲車にEODボットが接触すると同時に、電気トラップが起爆。一瞬だが装甲車の回路に高電圧が掛かり、全ての回線がショートする。そうすればもう、装甲車は単なる遮蔽物だ。

 

「成功」

 

「一斉攻撃開始!敵を殲滅します!!」

 

グリムの指示に、全員の攻撃パターンが切り替わった。まず真っ先に動いたのは、ベアキブルとカルファン。遮蔽物に隠れながらのステルス行動だったわけだが、この命令が出るや否や一気に飛び出して攻撃を開始する。

 

「死に晒せやゴルァァァァァァ!!!!!!!」

 

「こ、コイツ何者だ!!」

 

「うおらぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

ベアキブルは敵陣に殴り込みドスで腹を抉り上げ、ガバメントを連射し、首筋を長ドスで掻き切り、相手の持つ銃を撃ったりぶん投げたりして、相手を乱戦の渦中に巻き込み瞬殺していく。

 

「こっちにも来るぞ!!撃て!!!!」

 

「甘いわ、よ!!」

 

「と、飛んだぁ!?!?」

 

「上がガラ空きね。キスしてあげるわ♡」

 

兵士達の頭上に、9mm弾の嵐が襲いかかる。本来なら鋼糸を用いた変則的な戦闘を繰り広げるカルファンであるが、今回はデュアルUZIである。カルファン自身、霞桜内での機動性というかアクロバット能力は随一であり、グラップリングフック無しでもパルクールなどの技術を用いて、三次元的な機動ができる。それを使った戦法は、基本的に初見で見切る事はまず不可能だ。

 

「オラオラオラオラ!!弾幕は救い!!!!!!」

 

次に動いたのはバルク。これまでは足止め及び殺せそうな奴を刈り取る射撃だったが、今はとにかく乱射しまくる戦闘狂モードになった。だがそんな撃ち方では、すぐに弾が尽きてしまう。

 

「弾切れだ!!撃ち返せ!!」

 

「よっしゃ!!!!」

 

兵士達が今まで動けなかった鬱憤を晴らすべく撃ち返そうと身を乗り出した瞬間、バルクは今まで握っていたM249をハンマー投げの要領でぶん投げて兵士の1人の脳天に直撃させた。当たった兵士は脳震盪でぶっ倒れる。

 

「弾幕のレクイエムは、まだまだ序章だ。第二楽章、真なる弾幕の救い。開演だ!!」

 

バルクは背中に背負っていた2つのM249を取り出し、デュアル軽機関銃とかいうフィクションでも早々お目にかかれない装備で暴れ出す。一応模擬弾とはいえ、銃の重さや反動は実銃と遜色ない。しかも本来軽機関銃は、バイポッドを立てて撃つ物だ。それを2挺同時とか、人間業ではない。

 

「カモカモカモン!!!!!」

 

圧倒的な弾幕に、兵士達は1人、また1人と倒れていく。マーリン、グリムも援護を続け敵陣に深く食い込んでいる仲間を背後から守っている。

そんな中レリックはこっそりと前進し、敵のM2重機関銃を奪取。トリガー部分に改造を施して、通常タイプのトリガーに直結させる。

 

「バルク。これ使え」

 

「M2!!しかもトリガーを変えてあるな?感謝するぜ!!!!!」

 

丁度弾切れになったM249を捨て、改造したM2を装備する。あくまで改造したのはトリガーだけであり、その目的は手持ちで撃ちやすくする為で反動とかは全く軽減されない。にも関わらずバルクは、普通に振り回して見せる。

兵士達は初めて感じる圧倒的なまでの練度差に、ただただ恐怖し満足な抵抗もできずに倒されて、遂には1人残らず全滅してしまった。

 

「そ、それまで!勝者、207小隊B分隊!!」

 

神宮司も信じられない様子で、そう審判を出した。あれだけの戦力差を。100倍もの戦力差を、たった7人でひっくり返し、あまつさえ殲滅してみせるなど、人間の成せる技ではない。この日、基地中の話題がこの事で持ちきりになったのは言うまでもない。

さてさて時は早い物で、数日後にはシュミレーターでの訓練が始まった。最初は大隊長達も戸惑いはしたが、操作系統はちがうが感覚が海戦型特殊装甲服シービクターに近いのもあって、意外とすぐに感覚を掴めていた。そしてそして、とんとん拍子で訓練が進んだ結果、早くも実機訓練へと移行する事になった。だが、その訓練を前日に控えた夜、横浜基地を地震が襲った。単なる地震ではない。震度3位だが、10分以上も揺れているのだ。

 

「これ、なんか経験ありますね」

 

「あ!アレだグリム!!ほら、異世界の日本に転移したヤツ!!」

 

「あぁ!!」

 

「グリム!と、それにバルクも!!私達の専用装備が、なんか各々の自室にありましたよ!!」

 

マーリンの報告に2人が部屋に急いで戻ると、そこには自分の専用装備と強化外骨格を始めとした装備一式が揃っていた。恐らく横浜基地は何処かしらに転移し、その影響で装備も転移してきたのだろう。そう考えたグリムはすぐに、江ノ島鎮守府に連絡を取る。

 

『グリムさんですか!?』

 

「大和さん!良かった。皆さん無事ですか?総隊長殿はいらっしゃいますか?」

 

『みんな無事ですが、提督は鎮守府を留守にしています。しかし先程、連絡が取れました。こっちに向かっているそうです』

 

「わかりました。では、我々も回収を…」

 

グリムが回収を頼もうとした時、基地のサイレンが鳴り「所属不明武装勢力が侵入した。総員戦闘配置」とのアナウンスが流れる。流石にただ回収してもらうだけでは済まなくなりそうになった以上、何かしらの保険はかけなくてはならない。

 

「やはり回収と、霞桜の派遣もお願いします」

 

『わかりました』

 

BETAならコード991が発令されるが『所属不明』と来た以上、BETA以外の存在であると見てまず間違いないだろう。となれば、こちらもそれ相応のもてなしが出来る。それに既に江ノ島と通信できた以上、もう訓練兵を演じる必要はない。海上機動歩兵軍団『霞桜』大隊長として、対処すればいい。

 

「皆さん完全武装!念の為、対深海徹甲弾も装備してください!!」

 

素早く強化外骨格を身に纏い、武器を装備して廊下に飛び出す。やはり訓練兵で色々力に制約があるよりも、こっちの大隊長として自由に動いた方が楽だし楽しい。

一方の白銀達は、戦術機格納庫で所属不明の武装勢力という名の深海棲艦に襲われていた。

 

「こ、コイツらBETAじゃないぞ!?」

 

「一体なんなのよコイツら!!」

 

「冥夜様をお守りしろ!!」

 

偶々基地に来ていた月詠中尉ら、帝国斯衛軍第19独立警備小隊の面々が御剣を守ろうと剣を抜く。

 

「冥夜様に近づくな化け物!!!!」

 

「人間ガ、アタシニ叶ウトデモ?」

 

「.......やってみなければ、分からぬだろう?

 

「馬鹿ハ早死ニスル。死ネ、人間」

 

「死ぬのはテメェだ」

 

月詠らを殺そうとしていたタ級の背後から、ベアキブルがドスを深々と突き刺した。一度抉り込む様に刺したのち、もう一度、別角度が抉り込む様に刺して完全に絶命させる。

 

「大吾!?」

 

「よう嬢ちゃん。っと、そっちの侍さん方は初めましてだな」

 

「何者だ貴様は.......」

 

月詠とその部下達は刀の切先を、ベアキブルに向ける。恐らくちょっとでも動けば、ザクっと斬られる事だろう。だが斬られるよりも先に、御剣が止めに入る。

 

「こやつは、私と同じ207小隊の訓練兵、西條大吾だ。敵ではない!剣を納めぬか」

 

「あ、冥夜嬢ちゃん。それ、違う」

 

「だ、大吾は訓練兵だろう!?」

 

「あー、それね。本当は違うんだ。俺は海上機動歩兵軍団『霞桜』第五大隊大隊長ベアキブル。この深海棲艦をぶっ殺す為の、特殊部隊の隊員だ!!」

 

次の瞬間、格納庫の扉が轟音と共に吹き飛ばされた。中に大量の深海棲艦が入ってくる。しかも基本的に、全部戦艦とか重巡である。

 

「バルクの兄貴!!出番ですよー!!!!!」

 

「おうよ!!!!」

 

バルクの声が聞こえると思ったら、天井からバルクが降って来る。物凄い轟音が格納庫内に響き、キャットウォークの上もグラグラ揺れる。

 

「そぉら深海共!!歓迎してやる。派手に踊れ!!!!!!」

 

ハウンドを装備したバルクが、弾幕を展開して深海棲艦の軍勢に向かって撃ちまくる。深海棲艦達の動きが止まれば、ベアキブルが敵陣深く切り込み格闘戦で殲滅していく。

 

「御剣!無事か!?」

 

「教官!」

 

「あの者達は一体.......」

 

「剛田と西條です」

 

「なんだと!?」

 

神宮司もまさか戦っているのが、自分の受け持つ訓練兵とは思っていなかったらしい。そんな中にグリムが強化外骨格装備でやってきたのだから、余計にややこしくなる。

 

「教官殿。よかった、ご無事ですね?」

 

「栗武訓練兵!貴様、この事態はなんだ!!」

 

「さぁ。私にも分かりかねます。しかし、敵が来て、我々は我々の為すべきを為している。それだけですよ。あ、そうそう。それから私は栗武ではありません。海上機動歩兵軍団『霞桜』副隊長兼、本部大隊大隊長グリムです。ここは危険です、付いてきてください」

 

まだ何が何やら分からないが、取り敢えずグリムについて行く一行達。途中で白銀や榊といった、その場にいなかった訓練兵とか香月みたいな基地要員も拾って行き、ついでに他の大隊長共合流して取り敢えず例の演習を行った演習場に出た。

 

「ここで仲間が来るまで待機します」

 

「仲間って、バールとか香織の事か?」

 

「まあ確かに彼らも仲間ですが、もっと他にもいるんですよ」

 

「敵機来襲!!!!!」

 

ベアキブルがそう叫んだ。ベアキブルの指差す方向を見れば、深海棲艦の艦載機が飛んで来ている。とは言えここは遮蔽物がなく撃たれれば最後、蜂の巣にされて見るも無惨な死体が転がる事だろう。

 

「バルク、レリック弾幕射撃!私とマーリンは狙撃で敵を減らします!!カルファンは糸で防御網を作ってください!!攻撃開始!!!!!!」

 

グリムの命令で、即座に動き出す大隊長達。グリムとレリックは人間CIWSとなり、グリムとマーリンが狙撃で正確に艦載機達を撃ち抜いて行く。数十機はいた航空機は1機、また1機と落ちて行くが、その後方から更に数百機の航空機が迫る。

 

「マージですか。グリム、後方から更に来ます。機数、凡そ300」

 

「流石に皆さん引き連れて戦っては、確実に守り切れませんね。少し引きます」

 

一団を少し遠ざけようとしたその時、上空から無数の弾丸が敵編隊に降り注いだ。そして演習場を強力なライトで照らされる。

 

「間に合いましたか」

 

「ば、バール!これが仲間なのか!?」

 

「そうだぜ坊主。コイツらが俺達、霞桜の隊員達だ!!!!」

 

演習場内に飛来したのは、数百機の戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』だった。中には霞桜の隊員達と艦娘達まで乗って来ており、降下後は即座に陣形を組んで基地要員達を守る様に布陣する。

 

「あー、栗武訓練兵。君達は、一体何者なんだね?我々の敵か?味方なのか?」

 

「ラダノビット司令。我々は敵ではありませんが、味方でもありません。我々は本来、表には出ない存在。しかしここの皆さんにはお世話になりましたので、そのお返しついでに職務も果たすだけです」

 

ラダノビットの問いにそう返した直後、基地中に不思議な女の絶叫が響き渡った。耳というより、脳に直接響き渡り頭蓋骨で反響している様な錯覚を覚える大絶叫である。

だが霞桜や江ノ島艦隊の人間は、この絶叫よりもその後に待ち受ける事態に警戒していた。

 

「コリナイ.......コタチ.......」

 

「ベーくん。アレって.......」

 

「姫級だな.......」

 

「離島。戦艦も8隻」

 

「おいおいおいおい!ありゃなんの冗談だ!!向こうにも飛行場姫とか戦艦棲姫がいるぞ!!!!」

 

「囲まれてますねこれは.......」

 

無論それで終わるはずもない。姫級の周囲には、姫を護る臣下の如く雑魚艦が大量にいる。ただ戦うだけなら問題はないが、基地要員を守りながらとなると、かなり難しい。しかも今回、長嶺が不在と来ればかなり不安だ。

いつもはどんな状況であっても、背後か戦闘に長嶺雷蔵という最強の戦力がいるからこそ、何も余計なことを考えずに戦えられた。先頭に立っているなら我武者羅に背中に付いて行き、背後にいるなら後ろを振り返ることなく前だけ見て戦える。言うなれば、最強を最強たらしめる為の支柱の様な存在なのだ。柱が折れた訳では無いので問題はないが、支柱が折れたままでは崩れやすくなる。

 

「やるしかないですね.......。総員、戦闘配置!!敵を迎撃しつつ、パッケージを逃します!!全兵器使用自由!!!!攻撃始め!!!!!!」

 

「定めが.......観える――」

 

「この力で、未来を切り開く…!」

 

「さぁ、決めますヨー!全主砲、Target!」

 

「艦隊前進、迎撃戦に移行します!サラに続いて!」

 

全員が迎撃を始める。艦娘、KAN-SENが砲撃で援護しつつ、霞桜の隊員達は前進。敵陣に突っ込んで敵を各個に迎撃して行く。しかもここで、予想にもしない増援がやって来た。

 

「おいおい、皇国の地を今年は深海棲艦が汚すのかよ。まあいいか。野郎共、やるぞ!!!!!」

 

真っ黒のAVC1突空が、真っ白と真っ赤な突空を引き連れて横浜基地上空に飛来した。神谷戦闘団の来援である。

 

「向上、降下後は好きに暴れろ。こんな事もあろうかと、いつかの余ってた対深海徹甲弾を装備していてよかった」

 

「お任せください」

 

「ワルキューレは試しに魔法を行使してくれ。倒せそうになかったら、そのまま援護に回れ。さぁーて、暴れるぞ!!!!!」

 

2022年の際に霞桜と共に戦ったあの時に使い、なんだかんだで余っていた対深海徹甲弾を神谷戦闘団は装備している。これがあれば、取り敢えずの戦闘は可能だ。神谷戦闘団は周囲に部隊を戦車や自走砲を含む全戦力降下させ、攻勢を開始する。

 

「まさか人間みたいな奴に、戦車砲をお見舞いする時が来るとはな。撃て!!」

 

「てぇっ!!!!」

 

因みに46式戦車の46式350mm滑降砲クラスともなれば、深海棲艦とて雑魚艦であれば問題なく吹き飛ばせる。霞桜の面々も予想外の来援に驚きこそすれ、去年は銀河帝国軍相手に共同戦線を構築しただけあったすぐに行動を合わせられた。

 

「お、グリム副長!!」

 

「あ、貴方は神谷閣下!?どうしてここに」

 

「多分アレだろ。例の世界線が一緒にやるヤツ。またそれらしい」

 

「ではここは、皇国ですか?」

 

「あぁ。皇国の土地を穢す化け物を撃退するんだ、俺達も協力する」

 

「ありがとうございます!」

 

共同戦線の構築が行われている中、もう1機の『黒鮫』が現場に飛来した。その中から1人と2匹が、パラシュートもなく降りて来る。1人と2匹は着地ついでに、手近の深海棲艦数体を倒す。

 

「なんたってまぁ、またこんな大所帯で来るんだよ」

 

「主様、どうする?」

 

「当然皆殺しだ。お前達、暴れろ!!!!!」

 

2匹は巨大化し、数十mの八咫烏と銀白の狼となって深海棲艦達を食い散らかす。もう誰が来たかは、お分かりだろう。

 

「また会ったな、雷蔵くん」

 

「おう!元気だった神谷さん?なんて、再会を祝してる場合じゃないな」

 

「あぁ。ここに2つの日本を護る存在が集ったんだ。やる事は1つだろう?」

 

2人の英雄は固く握手を交わすと、其々の部下達の方へと向き直り武器を抜きながら指示を出す。

 

「新・大日本帝国海軍、海上機動歩兵軍団『霞桜』及び、江ノ島鎮守府全艦隊!!」

 

「大日本皇国統合軍、神谷戦闘団全兵士!!」

 

「「攻撃開始!!!!!!!!」」

 

皇国最強の盾にして世界最強の最精鋭部隊たる『神谷戦闘団』と、世界最狂の影の最強特殊部隊たる『霞桜』及び人類最後の希望にして最高練度を誇る『江ノ島艦隊』がここに揃い、タッグを組んだ。神谷と長嶺の命令に、各員が雄叫びを上げて果敢に攻め込む。もうこの勢いは止まらない。

 

「テメェら!!親父に続け!!!!!!」

 

「野郎共!!第五を援護するぞ!!Barrage junkie(弾幕ジャンキーこそ)!?!?」

 

「「「「「「is the messenger of peace(平和の使者なり)!!!!!!」」」」」」

 

「第一大隊、空中援護!空から支援しますよ!!」

 

霞桜は第五大隊が中央突破を行い、その背後から第三大隊が援護しつつ、第一大隊が後方から戦場全体を見渡して支援射撃を開始する。いつものお決まりパターンだ。

 

「ワルキューレ!!俺に付いてこい!!!!向上!赤衣で援護しろ!!他はいつもの様に戦線を構築!!!!各個に鎮圧しつつ前進しろ!!!!!」

 

「浩三様!後ろは任せて!!」

 

「ポイズンヒュドラ!!」

 

「爆裂矢、行くよ!!」

 

「剣山で退路を塞ぐわよ!ハァッ!!!!」

 

「アイスランススコール!!!!」

 

「援護開始!!撃ちまくれ!!!!」

 

神谷戦闘団もいつも通りだ。神谷とワルキューレが前に立ち、その後方から赤衣鉄砲隊が援護を行う。その間に白亜衆と一般隊員は装甲歩兵で戦線を構築し、弾幕を張って敵を近づけさせない。さらにその前衛に戦車が展開し、最前線で敵を踏み潰す。

 

『戦隊各員、前進!敵を殲滅しつつ、戦況に応じて歩兵の援護を!!!!』

 

「スピアヘッド戦隊、各個撃破開始。ラフィングフォックス、上から回り込め。スノウウィッチは敵後方に展開中の、確か戦艦?それを叩いてくれ。ヴァアヴォルフは側面から回り込め。ガンスリンガー、援護射撃」

 

『シン、俺たちはどうする?』

 

『ブラックドックはヴァアヴォルフに付いていけ。兄さん、手伝ってくれるか?』

 

『いいよ。中央突破でしょ?俺が背中を守る。前だけ向いて気にせず突っ込め!』

 

エイティシックスも遊撃を開始。それに合わせてカルファンの第四大隊、レリックの第二大隊も動き出す。

 

「リ級ちゃん!お遊戯の時間よ!!」

 

「ヲ級。殺す!」

 

カルファンはリ級の体内にワイヤーを差し込んでいき、そのまま体内を這わせて即席の操り人形を作成。それを巧みに操り、半ば同士討ちをさせる。そしてレリックはマニュピレータに装備した重火器やチェーンソーで、ヲ級等の比較的装甲が薄い敵を狩る。特にチェーンソーは肉を掻き出しながら切るので、悲鳴と血飛沫が派手に上がり、軽くトラウマ物だ。

 

「本部大隊!パッケージを護ります!!近づいてくる機体は容赦なく落としてください!!!!」

 

本部大隊はパッケージこと、横浜基地の人員を守る様に展開する。陸は接近することはないが、空からは普通にやってくる。そこで本部大隊の出番だ。弾幕を張って、最終防衛ラインとなる。

雑魚敵を霞桜と神谷戦闘団が殲滅している中、戦艦やélite、flag shipと行った精鋭は、彼女達が相手する。

 

「ソロモンの悪夢、見せてあげる!」

 

「私が敵を侮ると思ったら大間違いよ!」

 

「主砲、撃てぇーいっ♪」

 

「阿賀野の本領、発揮するからね!」

 

「噛み砕け!あはははは!」

 

新・大日本帝国海軍最強の最精鋭艦隊。江ノ島艦隊の艦娘とKAN-SEN達が、精鋭達を相手取る。本来海上での戦闘が主な任務であるが、霞桜がいる特性上、艤装を用いた陸戦もできる様に訓練はしてある。その結果、駆逐艦、軽巡の様な魚雷を装備する連中は、こんなヤベェ技を会得してしまった。

 

「海の藻屑、いえ!陸の塵と!!」

 

「なりなよ〜」

 

大井と北上。クレイジーサイコレズビアンだの何だの、毎回ネタにされてる大井&北上のコンビ。だがこの2人、知っての通り重雷装巡洋艦という魚雷満載艦である。魚雷は水中航走式の爆弾であり、陸では使えない。なので彼女達は撃った瞬間に、蹴り飛ばして一種の砲弾として使い出す技を作ったのだ。

しかも技はそれだけではない。単純にぶん殴る鈍器にしたり、手榴弾みたいに投げつけたり、転がして足元に行ったところを狙撃したりもする。だが一番ヤバいのは、鉄血の許不和超巡ローンだ。

 

「HA☆NA☆SE!」

 

「ふふ、私のことを見て逃げようとするなんて、まさか逃げられるとでも思っているんですかぁ〜?」

 

「ヤメロー!シニタクナーイ!」

 

ローンさん、とっ捕まえたリ級flagshipを片手で保持しつつ、魚雷を1本抜いて弾頭ではなく、後ろのスクリューの方を顔に向ける。そして魚雷を起動して…

 

「ギャァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

「ふふふ。あら、もう終わっちゃいましたか?」

 

「ろ、ローンさん怖い!」

「か、返り血浴びて笑ってるとかホラーです!」

「ヤバいヤツ!アレはヤバいヤツにゃしぃ!!!」

「ろ、ろろローンさん!?」

「ヒエェェェ.......」

 

「ジャベリンちゃん綾波ちゃん睦月ちゃん吹雪ちゃん!アレは見たらダメよ!!!!比叡お姉様も見ないでください!!!!ビスマルクさん!!あれどうにかしてください!味方にダメージ与えてますよ!!!!」

 

「すまない霧島。私でもアレは止められない.......」

 

ローンの必殺、彼女曰く『魚雷スムージー攻撃』は味方の精神をも攻撃する。まああの狂気は基本味方には向かない筈なので問題はないが、それでも駆逐艦にはかなりショッキングである。だがそれでもドン引くだけで済んでるのは、長嶺がそれ以上に色々ヤバいあれやこれやをしてるからなので、割と駆逐艦達も壊れているのかもしれない。

因みにあの技を知った長嶺は、ローンを止めるでもなく「指巻き込んだりすんなよ?後、相手苦しめたいなら逆に足とか腕とか、男ならチンコ、女ならおっぱい辺りをやると良い拷問になる。あ、俺も今度やろう。それ、俺も借りて良い?」とか言ってたらしい。

 

「ローンったら、全くブレないわね」

 

「いや、アレはブレてほしいわ。流石にあれ、アタシでも軽く恐怖よ?」

 

「姉さん、グロいのとかホラー苦手だものね。この間も1人で見て」

「オイゲーン!!!!」

 

「あら、言ったらダメかしら?」

 

尚、ある程度の大人組や鉄血組に関しては、あまりにも平常運転すぎて少し引くが、それでも基本はどこ吹く風で流している。

さて、精鋭といえど基本は数だけの雑魚。その雑魚を撃退している間に、2人の英雄は本丸を目指す。

 

「ナンドデモ…ミナゾコニ…シズンデ…イキナサイ……」

 

「悪いが、そうも行かない。だが、一撃で終わらせてやるよ。超位魔法!!!!!」

 

神谷が両手を上げた瞬間、神谷を起点に無数の青白い魔法陣が形成され、それは数十mもの高さの巨大魔法陣となる。

 

天上の剣(ソード・オブ・ダモクレス)!!!!!!!!」

 

天上の剣(ソード・オブ・ダモクレス)は、超巨大な聖剣の様な物体を召喚する魔法である。剣といっても手に持てるサイズではなく、数百mの大剣で言うなれば東京タワーサイズの剣が空から降ってくる魔法だ。本来は建物をぶっ壊す役目で使われるが、こういう強大な目標を倒すのにも向いている。単純な質量攻撃であれば、姫級とて倒せる筈だ。その仮説は正しく、飛行場姫とお供の戦艦棲姫は一撃跡形もなく消し飛んだ。

 

「さて、プロのお手前拝見と行こうか」

 

一方の長嶺も離島棲姫と相対していた。こちらは戦艦棲姫8隻に守られていて、かなり厄介だ。

 

「ココマデ……。クルトワ…ネ…………。」

 

「来てやったぞ。歓迎しろや」

 

「フフフ。矮小ナニンゲン、何モデキナイ」

 

「そうかい?舐められんのも癪だ、本気で相手してやるよ」

 

本当なら神授才のアーマーか空中超戦艦『鴉天狗』を使いたい。だが少し時間が掛かる。そこで燃費は悪いが、普通に神授才を使う事にした。神授才の生み出す炎は、深海棲艦でも余裕で焼き尽くす。

因みに神授才とは、長嶺がその身に宿す一種の超能力の様な物である。古来より数十年或いは数百年に一度、特殊能力を持って生まれてくる。一応「神がその力をお授けになった」という話らしいので、神授才と言われている。長嶺には炎を自在に生み出し操る能力が備わっている。

 

「まずは掃除だな。焔柱!焔槌!」

 

8隻の戦艦棲姫の足元から炎の柱が勢いよく飛び出して串刺しにし、上からは焔の槌が振り下ろされて押し潰される。たった一撃で単なる炭の塊となり、しかもサイズも平たく延ばされた事で元が人の形をなしていたとは思えない。

 

「ナッ!?」

 

「お前は龍の腹の中で焼き尽くされるがいい。焔龍!!!!」

 

長嶺が右手の親指、人差し指、中指の3本で龍の口の様な形を作り、それを前に押し出す。その動きに合わせるかの様に、長嶺の後ろから巨大な炎の龍が現れて離島棲姫を飲み込んだ。離島棲姫は龍の腹の真ん中の辺りで焼かれ、塵1つ残らず消え失せた。攻撃開始の宣言から30分もしないうちに、姫級含め数百隻単位でいた深海棲艦は血祭りに挙げられたのである。

 




因みに次回は、おそらく三連休から来週中に投稿すると思います。


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2024お正月スペシャルphase IV

半年後 ユーコン基地 日本帝国格納庫

「おぉ、これが59式戦術歩行戦闘機、通称『浄龍』か。カッケェな」

 

神谷の目の前に佇む、2機の戦術機。浄龍の名を与えられた、皇国と霞桜の技術によって製作された初の戦術機である。この機体、皇国の技術と霞桜の技術屋ことレリック、更に地味に工学も齧ってる長嶺が参戦し、そして戦術機での戦闘が豊富な衛士達の意見を判断に取り入れつつも、既存技術で全て再現し量産性も高い化け物みたいな性能を誇るヤベェ機体である。

因みにあの転移後、ちゃっかり北海道の近くにアラスカのユーコン基地も転移しており、そこでユウヤらユーコン基地組は再会を果たした。更に都合のいい事に、このユーコン基地は他の基地とは違い、先進戦術機技術開発計画、通称『プロミネンス計画』と呼ばれる多国間で技術交流を図り、新たな戦術機を開発する為の国連軍基地であった。この計画の中で各国が独自の戦術機開発を進めており、例えばユウヤと篁の所属するアルゴス試験小隊は日本帝国の不知火という戦術機のアップグレードを行う『XFJ計画』というのを進めている。

とはいえ実情はかなりややこしく、東西冷戦はあくまで停戦であって未だにいざこざは残っているわ、海外への技術流入の危険やら、BETA大戦後の資源争奪戦の為の政治介入は起きるわ、ついでに企業の利権絡みで駆け引きは行われるわで、元々のお題目からはかなり逸れている。だが土壌にそういうお題目があれば、後は川山と一色が上手い事やってくれる訳で、実際転移から1週間で各国の協同歩調を取る事に成功している。その成果がこの浄龍だ。

 

「気に入ってくれたかい神谷の旦那?俺達メカニックも、この機体には惚れ惚れする」

 

「おぉ!ヴィセント!!それにオットーの親父さん!!」

 

「よおサムライ坊主」

 

やって来たのは今回の浄龍開発計画『龍が如くプロジェクト』に於いて中心的役割を果たした、不知火・弍型の主任整備士たるヴィンセント・ローウェルと、第666中隊の整備班長オットー・シュトラウスだった。

 

「ありがとう。こんな素晴らしい機体を作ってくれて」

 

「俺達技術屋、言うなればメカニックが、0から戦術機を作り上げるのは1つの夢であり、浪漫だ」

 

「その夢が、しかも最強の形で組み上がるのは嬉しい限りだよ。しかもインペリアルロイヤルガードのtype00に我がアメリカのラプターにもシュミレーター上とは言え勝ったとくれば、もう言うことないね!!」

 

この浄龍は単なる戦術機ではない。その性能は帝国斯衛軍向けに配備されている超高性能戦術機の武御雷、対戦術機を想定したアメリカ最強のF22ラプター。この2機を凌ぐ結果を叩き出している。

 

「浄龍、いい機体だぜ.......。なあ雷蔵!浄龍って言うのに、何か意味があるのか?」

 

下で2人の整備士と話していた神谷の上で、長嶺とユウヤはキャットウォークから浄龍を眺めていた。

 

「あー。あれば、よかったんだけどね.......」

 

「無いのか?」

 

「詳しくはイーフェイに聞けば.......あー、いや。それだと分からんか」

 

「浄龍というのは、確か特に意味はなかった筈だ」

 

「それに私も浄龍なんて、よく知らないわよ?」

 

「唯衣!それにイーフェイも」

 

キャットウォークの奥から篁と、統一中華戦線の衛士、崔 亦菲(ツィ イーフェイ)がやって来た。尚、2人ともユウヤを狙う恋敵だったりする。

 

「それで、どう言うことかしら元帥殿?」

 

「麟・鳳・亀・龍」

 

「麒麟、鳳凰、霊亀、応龍。四霊ね」

 

「そう。その内の応龍が進化というか、姿を隠した結果が浄龍だ」

 

だがイーフェイは、首を傾げる。読者諸氏は案外これでピンと来たかもしれないが、四霊などの伝説通りに行くのなら応龍が転じるのは黄龍とされる。物によっては四霊の長が応龍、神の精が黄龍ともされるが、いずれにしろ浄龍というのは出てこない。

 

「.......唯衣、どういうことだ?」

 

「すまんが、私もよくわからない。麒麟や鳳凰は分かるが、中国の神話は流石に専門外だ」

 

「一応伝説の一説では、応龍が老いて黄龍となったとされる。だがな、今回はゲームを持って来たんだ」

 

「げ、ゲーム?」

 

まさかの斜め上発言にイーフェイは、素っ頓狂な声を上げる。長嶺はスマホを懐から取り出し、Googleを開いて検索をかける。

 

「ユウヤー。プロジェクト・龍が如く、英語名は?」

 

「確か『project Yakuza: Like a Dragon』だったか?」

 

「ヤクザ!?」

 

「なんだ唯衣、知らなかったのか?」

 

篁もまさかの単語に驚きである。もうここまで来たら、浄龍の元ネタは分かっていただけただろう。

 

「因みにヤクザってのは、日本のギャングとかマフィアな」

 

「そんな意味だったのか!?」

 

「はいこれ」

 

3人の前に差し出したスマホの画面には、大人気アクションゲーム『龍が如く』のパッケージが映っていた。

 

「この真ん中の男、主人公で桐生一馬って言うんだが、コイツには刺青が入ってる。その刺青が応龍であり、浄龍ってのは桐生一馬が表向き死んだ後に使われたコードネームだ。黄龍は既にライバルが入れている。

でまあ神谷さんが言うには、皇国には元からメタルギアっていう二足歩行兵器があって龍の名が多く、この戦術機にも龍を入れるつもりで、どうせ最強の機体には最強の名を冠したい。そこで応龍を使おうとしたが、既に皇国に応龍の名を冠する兵器があるらしくてダブる。で、どうせなら浄龍っていう最強から取ろうぜってなったんだと」

 

「なんか、あんまり凄くない理由だな.......」

 

「そうねぇ。ダーリンの言う通り、そこまで深い意味は無かったわね」

 

「まあ、名前こそふざけ切ってるかもしれないが、その性能はかなりの物だぞ。それこそ既存の戦術機を超えるレベルだ」

 

この浄龍は戦術機開発時には無かった発想を取り入れたことで、オールラウンダーに活動できる機体に仕上がっている。ここでまた最強機体たる、武御雷とラプターに登場してもらおう。まず武御雷。御武雷は全身にスーパーカーボン製ブレードエッジ装甲という特殊な装甲を装備しており、物凄く平たく言うと全身が刀なのだ。更に主機の出力やらセンサー系やら関節強度等が著しく向上しており、接近戦最強の機体に仕上がっている。

一方のラプターは高いステルス性、というか戦術機の基幹技術がアメリカ製なのを利用してレーダーシステム等にバックドアから侵入して映らない様にしているチート機体であり、更には各部のパーツも一級品かつ、機体形状もステルスを意識した物になっており、高い性能を誇る機体かつレーダーに映らないステルス性が合わさって、対戦術機戦闘では最強の機体となっているのだ。

 

「確か、シュミレーター上では武御雷とラプターに勝ったんでしょ?」

 

「そうだ。まあ、実戦でぶん回してどうかは分からないがな。だがシュミレーターで倒したって事は、単純なマシンスペックで言えば最強なのは確かだ。さぁーて、明日は暴れるぞー!」

 

因みにこの2機は、それぞれ長嶺と神谷の乗機となる。お互い機体カラーは漆黒だが、長嶺は金色のラインが入り、右肩には霞桜、左肩には江ノ島鎮守府の紋章が入れられている。神谷の機体は至極色のラインが入り、背中には金で『皇国剣聖』の文字、右肩に真っ赤な『修羅』の文字が書かれ、胸部には神谷家の家紋、左肩には白で神谷戦闘団の紋章が描かれている。何れにしろ戦場ではよく目立つカラーリングだ。

 

「なぁ、雷蔵。この後って暇か?」

 

「まあ特に予定はないな。それがどうした?」

 

「俺に剣を教えてくれないか?頼む!」

 

「なんで剣を知りたいんだ?」

 

「今後、アルゴスは不知火を完成形に近づけさせる為にも近接戦闘のデータを中心に取る予定だ。その為にも日本の剣術を身につけて置きたい。不知火含め、日本の戦術機は長刀での戦闘を重視している。だから、何が何でも長刀のスキルはいるんだ。頼む!!」

 

そう言って頭を下げるユウヤだが、正直長嶺的には教えたくないというか、そういう理由なら絶対他を当たるべきという考えだ。何せ長嶺の剣術は、剣術ではなく戦闘術とか殺人術。そんな上品な物ではない。

 

「悪いが俺の剣は、あくまで闘争の中で俺が勝手に作り上げた物だ。お前が単純に強くなりたいって理由なら教えても良いが、そういう理由なら俺の剣はやめた方が良い。俺の剣はぶっちゃけ、唯衣みたいな純粋な剣士からすれば邪道も邪道。人によっちゃ忌避するレベルだ。悪い事は言わん、やめておけ」

 

「だ、だったらせめて心構えでも教えてくれ!剣術の精神とか考えとか、そういうので良い!頼む!!」

 

「いや、それこそ参考にならんぞ。俺が剣を振るってるというか、戦場で考えているのは仲間の位置、敵の位置、攻撃手段、戦況、地形、風向き、その他五感から得られる全て、第六感などの勘とかそういうのに至るまで、そういう事しか考えてない。なんかフィクションにありがちな、心頭滅却とかその手のことは一切考えてないぞ。

.......って言っても、理解してないって顔だなぁ。なんか手っ取り早く、俺の戦場で考えてることが分かる方法は.....................あ、そうだ」

 

「なにかあるのか!!」

 

「まあ心構えとか技とまではいかないが、戦場で戦う戦士や兵士として、最上位の部類入る者が出来る技を1つ見せよう。という訳で3人とも、俺の身体、どこでも良いから攻撃してみろ。チョップでもパンチでもキックでも、なんでも良いぞ」

 

長嶺は手を大きく広げて、堂々と3人の前に立ってみた。一応腰に阿修羅HGとかを装備してはいるが、基本的に丸腰だ。しかも手は大きく広げているから、防いだりとかもできない。3人は言われるがまま攻撃しようとするが、出来なかった。身体が全く動かないのだ。それどころか妙に悪寒と、震えが出始めるし、心臓の鼓動も早まる。

 

「まさかこれは、殺気なのか.......?」

 

「そうだ。殺気だ」

 

長嶺がそう言った瞬間、身体は自由に動いた。だがそれでも、まだ少し震えは残っている。篁は少し分かったっぽいが、ユウヤもイーフェイも何が起きたかは分からなかった。

 

「俺の殺気は特別性でね、弱い奴や耐性の無い奴に浴びせると、動きを止められる。さらに強めれば、心臓に負荷が掛かって相手を殺すことだって出来る。まあ、流石にそれはキツいから実戦じゃ殆ど使った事がないがな。

だが動きを止めるというのは、接近戦においては物凄いアドバンテージになる。もし今のが実戦なら、お前達は死んでただろう。どうだユウヤ、人間同士の戦争で培った一種の必殺技は?」

 

「心地いい物じゃないな.......。雷蔵はいつもこんな感じなのか?」

 

「.......あぁ。俺はもう見なくていいもん大量に見ちまって、とっくの昔に壊れてんだよ。お陰でこの感覚がスタンダードになっちまってる」

 

長嶺はこれまで10年以上、戦場に身を置いていた。それも普通の戦場ではなく、その裏に居たのだ。既に億単位の人間を殺した、恐らくギネス級の殺戮者。それ故に幾度となくこの世の地獄を見て来た。だから兵士(ソルジャー)級で遊ぶような真似が出来たり、戦場のど真ん中で狂ったように笑いながら戦闘できるのもそれが理由である。

 

「上がうるさいと思ったら、居たのかお前達」

 

いつの間にか上がって来ていた神谷に、4人は適当に挨拶を交わす。少し雑談をしていると、神谷が何かを思い出した様に長嶺にある提案をして来た。

 

「俺と模擬戦やらね?」

 

「はぁ?」

 

「いやさぁ。対等に渡り合えるマトモな相手がいないし、1人の戦士として俺が知る中でも最も強いお前と勝負がしたいんだよ」

 

丁度さっき、ユウヤに「剣術を教えろ」と言われてた訳だし、実際に戦ってるところを見せるのもいい訓練になるかもしれない。それに長嶺としても、本気でぶつかり合えるのは神谷位なものだ。敵方のトバルカインもいるが、あれは変則的すぎて戦い辛い。同じ様な戦闘スタイルを持つ神谷との戦闘は、こちらとしても利がある。

 

「いいだろう。レギュレーションは?」

 

「なんでもありだ。剣、銃、爆薬、魔法、何でもござれ。だが直接攻撃ありの魔法とか艦娘の力は、流石に勝敗以前に色々ヤバいから無し。強化とかで使うのはアリだ。これでどうだ?」

 

「勝利条件はキル判定か、降伏のいずれかって所か。良いだろう、乗った」

 

という訳で最強と最狂の決闘が行われる運びとなった。最初は千葉特別演習場でやるつもりだったが、考えてみればユーコン基地には戦術機の評価試験に使う演習場が大量にある。どれもこれも戦術機を基準にしているので、敷地面積は十二分すぎる位には広大だ。その中で2人が選んだのは、廃墟と化した都市の物である。ここであればお互いジェットパックとグラップリングフックを用いた三次元の戦闘ができる訳で、お誂え向きという訳なのだ。

さてさてこの演習、なんかいつの間にか関係各所に広まっており霞桜と神谷戦闘団の隊員達は勿論、転移して来た基地の幕僚、衛士などなど、とにかく大量の関係者が見学に詰めかけており、ドローンと目線カメラで戦闘模様を中継することになった。更に戦闘を盛り上げるために、各所に武器、弾薬を配置しており、それを用いての戦闘も行う。最初のスタート時はお互い愛刀と拳銃と選んだ好きな銃1挺からのスタートだ。

 

「あー。乗っちまったが、あんまりこういうガチモードの試合って、俺の趣味じゃねーんだけどなぁ」

 

演習開始を待つ中、長嶺はボソリと呟いた。長嶺は死合は好きだが、こういう試合はイマイチ燃えない。基本的に憂さ晴らしが目的になる。とは言え、今回の敵は神谷浩三という自分と同格の戦士。いつもの一方的な作業ではないはずだが、それでもやはり今はまだ気乗りはしない。

 

「長嶺雷蔵。これまで味方として戦ったが、敵となったらどんなものかね?」

 

一方の神谷は、この試合が楽しみで仕方がなかった。神谷の認識では長嶺は同格ではなく、単純な戦闘センスやバトルIQならば向こうが遥かに上だとなっている。恐らく接近戦ではこちらに分があるが、少なくとも銃撃戦では逆立ちしたって勝てない。だがそれ以上に、興味があるのだ。1人の戦士や剣士として、その頂を見てみたいと考える。その為にも楽しみで仕方がないのだ。

やがて演習場全体に、ブザーの音が鳴り響く。演習開始の合図だ。音が聞こえた瞬間、お互いすぐに動いた。

 

「なぁステラ。どっちが勝つかな?」

 

「ユウヤと篁中尉の話じゃ、例の長嶺って人、かなり強いらしいじゃない。BETAの軍団に生身で突っ込んで、生還どころか壊滅させたんでしょ?」

 

「マジで化け物だよなぁ。でもよでもよ、シュヴァルツェスマーケン の連中が言うには、神谷ってのも相当強いらしいじゃねぇか。賭けの方も白熱してるぜ?」

 

アルゴス試験小隊の面々が語っている様に、今回はお互いが最強すぎて賭けの方もかなり大荒れとなっている。因みに胴元は霞桜よりベアキブル、国連からは広報部隊の指揮官をやってるオルソン大尉、それから整備士の代表と化しているヴィンセント、江ノ島艦隊からはKAN-SENの明石が担当している。

観覧室ではあちこちで予想がなされていたが、演習場では早速動きがあった。開始から凡そ10分後の事である。

 

「ッ!?」

 

神谷は何か嫌な予感がし、咄嗟にバックステップで建物の影に飛び退いた。その瞬間、神谷の元いた地面のコンクリートに大きな穴が開く。その形状からして、確実に弾痕だ。それも単なる弾丸ではなく、大口径の代物ライフルサイズの物である。

 

(このサイズ12、いや、20mmクラスだ。だとしても、音が聞こえなかった。サプレッサーをしたのか?サプレッサーはその構造上、射程が短くなり狙撃には向かない。となるとまさか、想像もつかない距離から撃ってきたのか?)

 

神谷の予測は正しかった。長嶺はビルの屋上から撃ったのだが、その距離は10kmも離れている。一般的に狙撃の最長距離は3500〜4000mであるが、この域に到達する狙撃手はまずいない。だが長嶺は位置関係等も考慮する必要があるとは言え、弾さえ届けば10kmまでは狙える。

流石に10kmも先からでは、流石の神谷でも避け切る事はできない。だが早速神谷は行動に出た。取り敢えず即席の物でデコイを作り、粗方の距離を掴もうと考えたのだ。

 

「.......囮だな。撃ったらバレる」

 

たが長嶺も冷静だった。囮だと即座に見抜き、敢えて撃たない。どんな人間でも予測が外れれば多かれ少なかれ動揺するし、それが積み重なればどんなに冷静でもいつかはボロを出す。それを待てばいい。

 

「撃ってはくれないか。ならばまずは、偵察だな」

 

神谷は囮をそのまま放置し、建物中から周囲にある建物を軽く偵察する。音がなかった事から、かなり距離は離れているだろう。だがそれでも、ある程度の高さがなければ当たらない。弾丸とて重力の影響を受ける為、段々と下がっていき最終的には地面に突き刺さる。と

なると迫撃砲の様に弧を描く様に撃てばいいが、これでは狙撃は不可能だ。それに出来上がった弾痕も、真上から降ってる来るのではなく斜め方向に突き刺さっていた。つまり長嶺がいる位置は、かなり高い建物の上階から撃ってきた事になる。しかも跳弾の可能性も考慮しないとなれば、自ずと場所は絞れてくる。

 

「あぁ、そこか」

 

神谷はある程度の検討をつけると、第7位階魔法である上位転移(グレーターテレポーテーション)で転移し、長嶺の潜伏するビルの真下に移動した。

 

「魔法で転移とか、かなりズルいな」

 

だが長嶺は転移した瞬間、それに勘付いた。スナイパーにとって最も回避すべきなのは、背後に立たれる事である。見つからないのが1番なのだが、これは最悪場所を変えればいい。だが背後に忍び寄られるのは、基本的に気付かない事が多い。ターゲットに集中し、視界も塞がれる以上、後ろからの奇襲は通常の歩兵以上に脆弱だ。

だが長嶺の場合、気配が読める。少しでも何か起これば、ある程度はそれを察する事もできる。後はその勘に従って、逃げるなり逆に奇襲するなりすればいい。

 

(さぁ、奇襲される覚悟はできているか?)

 

長嶺はビルから飛び降りた。そのまま神谷の上を取り、持っている桜吹雪SRの残弾を神谷にバラ撒く。

 

ズドォン!ズドォン!ズドォン!ズドォン!

 

「いきなりか!!」

 

神谷も即座に刀を抜き、弾丸を斬って回避しつつジェットパックで空を飛ぶ。空中で長嶺を迎え撃つのだ。お互い刀を抜き、空中で鍔迫り合いを行う。お互い明らかに刀がへし折れる勢いでぶつかったが、どちらの刀も刃こぼれ一つなく鍔迫り合いで張り合えている。この時点で日本人の刀扱える組は、信じられない物を見る目で画面を見ていたらしい。

 

「見事!!」

 

「そっちもな!!だが、これは戦争だ!!!!!」

 

長嶺が一瞬のうちに、空いている手で阿修羅HG抜き神谷に向ける。神谷は即座にジェットパックを逆方向に吹かせつつ、ワイヤーを壁に撃ち込み回避する。

 

「おぉ凄い。今の避けるか」

 

「調子に乗るな!!」

 

神谷は飛びながらも43式小銃で長嶺を狙うが、長嶺も刀で迎撃しつつ三次元的に動いてそもそも照準を合わせさせない。だが逆に長嶺は神谷がどう動こうと、ほとんどの弾丸は直撃コースを捉えている。

 

浮遊盾(フローティングシールド)!!!!」

 

尤も直撃コースの弾丸も魔法で防がれてしまい、全く通用しない。更に神谷は、そのまま攻勢に出た。

 

「津波!!!!!」

 

周囲の建物に津波を起こさせて水圧で建物を破壊しつつ、こちらに倒れる様に仕向ける事で建物が長嶺を襲う。だが長嶺だってタダではやられない。

 

「焔舞!!」

 

長嶺が生み出した炎は長嶺に操られ、神谷の前に飛び出す。たまらず神谷は避けるが、避けきれずに炎にジェットパックが焼かれてしまい、オーバーヒートを起こした。長嶺も瓦礫にジェットパックを壊されて、片方が使い物にならなくなる。

共に地面に墜落するが、どうにか着地し刀を抜く。お互いが共に得意とする獲物で、勝敗を決めると阿吽の呼吸で理解したのだ。

 

「行くぞ!!!!」

 

「来い!!!!」

 

刀同士がぶつかるが、今度は鍔迫り合いではない。長嶺は得意とする連撃で神谷に手数で攻撃し、逆に神谷は長嶺に対してカウンターを合わせつつ体術も合わせた攻撃を仕掛ける。

相手が斬ればカウンターで返し、少しでもチャンスがあれば蹴りやら頭突きが飛び、果ては噛みつこうとすらする。獣同士の喧嘩に近かった。

 

「そぉら!!」

 

「おんどりぁ!!!!」

 

数分の戦闘の末、お互いの刀が空を飛んだ。長嶺は閻魔を、神谷は天夜叉神断丸を弾き飛ばされたのだ。

 

「まだまだ!!」

 

「終わってねぇぞ!!!!!」

 

互いにジャンプしてお互いの刀を奪い取り、そのまま突き刺す。神谷は逆手持ちにして上段から振り下ろし、長嶺は普通に順手で下段から突き上げる。数秒後、ブザーが鳴り響く。死亡判定はほぼ同時で、判別はつかなかった。VTR審査とか色々やったが、結局は相打ちの引き分けとなった。お陰で賭けの方もかなり面倒だったらしく、なんだかんだで全額払い戻しで終わったらしい。

このまま平和に終わるかと思っていたが、観覧室に皇国の士官が血相を変えて飛び込んできた。明らかにただ事ではない。

 

「こ、向上大佐!!向上大佐はどちらに!!!!」

 

「ここだ。何があった?」

 

「は、ハッ!先程、民間航空機がレーザーにより撃墜されました!発射地点を衛星で確認したところ、こんな物が海上に」

 

士官の差し出してきたタブレットの画面には、明らかに人の手による物ではない歪な建造物が5つあった。それを横目に見ていた香月が、ボソリと「ハイヴ..............」と呟いた。その瞬間、衛士達の顔付きが変わる。

 

「香月副司令、これが例のBETAの巣、ハイヴなのですか?」

 

「そうですわ向上大佐。それもこれは通常のハイヴではなく、真ん中にあるのはオリジナルハイヴと呼ばれる、言うなればハイヴの大元です。それに本来ハイヴは一地域に1つしか出来ないというのに、このハイヴは大型のハイヴを4つも有しています。恐らくフェイズ4〜5でしょう」

 

「総隊長殿!!急ぎお戻りを!!!!ハイヴが出現しました!!!!!!」

 

この報告を受けた神谷はすぐにユーコン基地に戻り、そのまま情報の精査、被害状況の確認等々、すぐに行動を開始した。一方の長嶺は一度、江ノ島に帰還し戦闘準備に入る。

 

『…状況は理解した。浩三、単刀直入に聞くが勝算はあるか?』

 

「全く分からん。このBETAって存在、当然だが皇国は戦ったことがない。だがいくら半世紀前の世界とはいえ、国連軍を組織して戦闘してもジワリジワリと追い詰められているのを見ると、かなり厳しいだろう。そこでだ、お前達に頼みがある」

 

『俺達の力がいるのか?』

 

「国連軍、帝国斯衛軍、東ドイツ、帝国海軍に応援を要請する。その為に慎太郎は各国との交渉、健太郎は天皇陛下から一筆貰ってきて欲しい。それも可及的速やかにだ」

 

流石に今回の戦争、最強国家とはいえ単独で戦うには余りに難しい。慎重に慎重を期して、万全の態勢で挑まなければ食われるだろう。初撃で全てを決する勢いでなければ、待つ未来は世界の崩壊だ。

 

『わかった、すぐに動こう。皇居に乗り込んでくる!』

 

『まずはドイツを動かさないとな。その後は国連、アメリカ、日本、最後に雷蔵くんだ』

 

三英傑は即座に動き出す。3人とも本物のBETAは見たことはないが、BETAが滅ぼした国や都市の写真は見たし、戦った話も衛士達から聞いている。その恐ろしさは、少しは理解しているつもりだ。既に国連軍協力の下、対BETAに関する戦術も構築してある。だがそれでも、応援が欲しいのが本音だ。

天皇陛下直筆メッセージ付き、BETA戦闘への協力要請に各国はほぼ二つ返事でOKを出してくれた。というかどうやら、要請が来る前から出撃するつもりだったらしく、準備はかなり進んでいた。お陰で出撃までの時間を大幅に短縮することができる。

 

 

 

翌々日 ユーコン基地 大会議室

『これより、BETA迎撃作戦『ワールドセイバー作戦』の最終確認を行う。今回のハイヴはオリジナル級のハイヴを中心に、四つのフェーズ4ハイヴが連結されている事が判明した。これによりBETAの数は推計数億体に登ると予測されている』

 

神谷の説明に、既に会議室内は響めき合っている。あの人類の敵が数億体というのは、どの衛士達でも経験したことのない数だ。全く予想がつかない。

 

『知っての通り、ハイヴは地下に伸びている。そこでまずは、この島の地表から上を全て吹き飛ばす!!我が軍の戦艦に搭載されている決戦兵器、収束プラズマ粒子波動砲の一斉発射を持ってすれば充分にハイヴ構造物諸共、地表を破壊できる。

更に伊邪那美弾頭搭載のSLEMを有りったけ叩き込み、地表を更地にした上でメタルギア水虎が上陸地点を確保。然る後、戦術機部隊で強襲。江ノ島艦隊も上陸する。以降はハイヴ内部に突入し、核とされる存在を破壊。不可能な場合は同海域を封鎖した上で、伊邪那美弾頭と核による飽和攻撃を持ってハイヴを地表より完全に消滅させる』

 

これが皇国の導き出した結論である。今回ハイヴが出現した地点は、公海上かつ海流や魚の動き的にも日本側に来る事がない海域。どれだけ汚染しても、影響は最小限なのだ。それ故に取れる超強硬策である。

この後も質問や説明は続いたが、数十分もすれば会議も終わり出撃態勢に移る。では最後に、今回の迎撃作戦に参加する戦力をご紹介して終わろう。

 

 

国連軍

◎横浜基地

 ◯特殊任務部隊A01『伊隅乙女戦隊(イスミ・ヴァルキリーズ)

  ・94式不知火弍型フェイズ2 12機

  ・00式武御雷R型 1機

  ・F4J撃震 1機

 ◯第一機甲戦術機大隊

  ・F4J撃震 36機

 ◯第二機甲戦術機大隊

  ・F4J撃震 36機 

 ◯第三機甲戦術機大隊

  ・F4J撃震 36機

 ◯第四機甲戦術機大隊

  ・F4J撃震 36機

 ◯第五機甲戦術機大隊

  ・F4J撃震 36機

 ◯第六機甲戦術機大隊

  ・F15J陽炎 36機

 ◯第七機甲戦術機大隊

  ・F15J陽炎 36機

 

◎ユーコン基地

 ◯アルゴス試験小隊

  ・94式不知火弍型フェイズ3 2機

  ・F15ACTV 2機

 ◯イーダル試験小隊

  ・Su37UB 1機

  ・Su37M2 3機

 ◯暴風(バオフェン)試験小隊

  ・近接戦強化試験型殲撃(ジャンジ)10型 4機

 ◯ドゥーマ試験小隊

  ・高速砲撃戦強化試験型ミラージュ2000改

 ◯アズライール試験小隊

  ・F14Ex 4機

 ◯ガルーダ実験小隊

  ・F18E 4機

 ◯グラーフ実験小隊

  ・MiG-29OVT 4機

 ◯スレイブニル実験小隊

  ・JAS39 4機

 ◯ガルム実験小隊

  ・F5E ADV 4機

 ◯ウォークライ実験小隊

  ・F18 4機

 ◯ 第37施設警備部隊アストライアス

  ・F16C 36機

 ◯第11施設警備部隊フェーニクス

  ・MiG-29 36機

 

 

日本帝国斯衛軍

 ◯第19独立警備小隊

  ・00式武御雷F型 1機

  ・00式武御雷C型 3機

 ◯白い牙中隊(ホワイトファングス)

  ・00式武御雷F型 1機

 

 

アメリカ合衆国陸軍

 ◯第65戦闘教導部隊インフィニティーズ

  ・F22A先行量産型 4機

 

 

ドイツ民主共和国国家人民地上軍

 ◯第666戦術機中隊シュヴァルツェスマーケン

  ・Su37M2 10機

 

 

大日本皇国統合軍

◎聨合艦隊

 ◯主力艦隊

  ・究極超戦艦『日ノ本』(総旗艦)

  ・熱田型超戦艦 8隻

  ・大和型戦艦 64隻

 ◯連合機動艦隊

  ・伊吹型 24隻

  ・赤城型要塞空母 16隻

  ・鳳翔型空母 80隻

  ・龍驤型軽空母 24隻

 ◯機動強襲艦隊

  ・出雲型強襲揚陸艦 16隻

  ・日向型揚陸艦 64隻

  ・摩耶型重巡 192隻

  ・阿武隈型突撃巡洋艦 160隻

  ・磯風型突撃駆逐艦 320隻

  ・LCAC 1260隻

  ・LCU 256隻

 ◯連合支援艦隊

  ・摩耶型重巡 192隻

  ・浦風型 432隻

  ・神風型 416隻

  ・潜水艦 282

 ◯航空隊

  ・艦上戦闘機 20,856機

  ・早期警戒機 514機

  ・輸送機 278機

  ・輸送ヘリコプター 160機

  ・哨戒ヘリコプター 2,569機

  ・ティルトローター攻撃機 1,648機

  ・攻撃ヘリコプター 146機

  ・無人機 800機

 

◎空軍

 ◯富嶽爆撃隊

  ・超重爆撃機富嶽II 750機

 ◯第五◯一〜第五一一航空隊

  ・A10彗星II 200機

 ◯第一〜第八機甲戦術機連隊

  ・59式浄龍 816機

 ◯超長距離戦略打撃群

  ・第366飛行隊『ガルム』

  ・第408飛行隊『ガルーダ』

  ・第18戦闘飛行隊『スカーフェイス』

  ・第206戦術戦闘飛行隊『ラーズグリーズ』

  ・第118戦術飛行隊『メビウス中隊』

  ・第156戦術飛行隊『アクィラ黄色中隊』

  ・第123戦術飛行隊第1小隊『ストライダー』

  ・第123戦術飛行隊第2小隊『サイクロプス』

 

◎神谷戦闘団

 ◯基幹部隊

  ・三個歩兵師団『ファランクス』

  ・二個重装歩兵師団『オーレンファング』

  ・二個戦車師団『アサルトタイガー』

  ・二個砲兵連隊『グラディエイターヴィーナ

   ス』

  ・三個対戦車ヘリコプター隊『ブラックス

   ター』

  ・特別輸送航空隊『トランサー』

  ・第86独立機動打撃群(エイティシックス)

 ◯白亜衆 

  ・試製56式浄龍タイプ・ザ・オーバーロード

  ・歩兵連隊『ラグナロク』

  ・重装歩兵連隊『アルマゲドン』

  ・機甲戦術機大隊『インペリアルドラゴンズ』

  ・特殊戦闘隊『白亜の戦乙女(ワルキューレ)

  ・赤衣鉄砲隊

 ◯陸軍

  ・第一〜第六十師団

  ・飛行強襲群

  ・特殊作戦群

 ◯海軍陸戦隊

  ・第一〜第七海兵師団

  ・先遣陸戦隊

 

◎特殊戦術打撃隊

 ◯空中艦隊

  ・空中空母『白鯨』 10隻

  ・支援プラットフォーム『黒鯨』 20隻

  ・空中母機『白鳳』 10機

  ・機動空中要塞『鳳凰』 30機

 ◯ADF

  ・ADF1妖精 600機

  ・ADF2大鷹 3000機

  ・ADF3渡鴉 3000機

 ◯メタルギア

  ・メタルギア水虎 800機

  ・メタルギア応龍 5000機

  ・メタルギア零 800機

  ・メタルギア龍王 800機

  ・メタルギア狼 2000機

 

 

新・大日本帝国海軍江ノ島鎮守府

◎江ノ島艦隊(艦娘)

 ◯戦艦、航空戦艦

  ・大和改二、武蔵改二

  ・長門改二、陸奥改二

  ・伊勢改二、日向改二

  ・扶桑改二、山城改二

  ・金剛改二丙、比叡改二丙、榛名改二丙、

   霧島改二

  ・Colorado改

  ・Iowa改

  ・Nelson改

  ・South Dakota改

  ・Washington改

  ・Cavour nouvo

 ◯航空母艦、軽空母

  ・鳳翔改二戦

  ・飛鷹改、隼鷹改二

  ・千歳改二、千代田改二

  ・鈴谷改二、熊野改二

  ・Gambier Bay Mk.II

  ・赤城改二戊

  ・加賀改二戊

  ・蒼龍改二

  ・飛龍改二

  ・翔鶴改二甲、瑞鶴改二甲

  ・雲龍改、天城改

  ・Saratoga Mk.II Mod.2

  ・Intrepid改

 ◯重巡洋艦

  ・最上改二

  ・古鷹改二、加古改二

  ・青葉改二、衣笠改二

  ・妙高改二、那智改二、足柄改二、羽黒改二

  ・高雄改、愛宕改

  ・利根改二、筑摩改二

  ・Northampton改、Houston改

  ・New Orleans改

 ◯軽巡洋艦

  ・球磨改二丁、多摩改二、北上改二、大井改二

  ・天龍改二、龍田改二

  ・五十鈴改二、名取改

  ・川内改二、神通改二、那珂改二

  ・夕張改二丁

  ・阿賀野改、能代改二、矢矧改二

  ・大淀改

  ・香取改、鹿島改

  ・Gotland andra

  ・Abruzzi改、G.Garibaldi改

  ・Perth改

  ・Atlanta改

  ・Brooklyn改、Honolulu改

 ◯水上機母艦

  ・秋津洲改

  ・瑞穂改

 ◯駆逐艦

  ・神風改、春風改、旗風改

  ・睦月改二、如月改二、弥生改、卯月改、

   皐月改二、水無月改、文月改二、

   長月改、菊月改、三日月改、望月改

  ・吹雪改二、叢雲改二

  ・潮改二

  ・暁改二、Верный、雷改、電改

  ・有明改、夕暮改

  ・村雨改二、夕立改二、海風改二、

   山風改二丁、江風改二

  ・峯雲改

  ・天津風改二、浦風丁改、磯風乙改、浜風乙改、

   萩風改、秋雲改二

  ・夕雲改二、長波改二、早霜改

  ・照月改、涼月改、冬月改

  ・島風改

  ・梅改

  ・Fletcher Mk2、Johnston改、

   HeywoodL.E.改

 ◯潜水艦

  ・伊19改、伊58改、伊26改

  ・伊168改

  ・伊8改

 ◯その他支援艦

  ・神威改

  ・あきつ丸改

  ・神州丸改

  ・明石改

  ・迅鯨改、長鯨改

 

◎重桜

 ◯戦艦

  ・武蔵

  ・紀伊、尾張、駿河、土佐

  ・天城

  ・長門、陸奥

  ・伊勢、日向、扶桑、山城

  ・三笠

  ・金剛、比叡、榛名、霧島

  ・出雲

 ◯航空母艦、軽空母

  ・赤城、加賀

  ・蒼龍、飛龍

  ・大鳳

  ・白龍、信濃

  ・翔鶴、瑞鶴

  ・葛城 

  ・鳳翔

  ・龍驤

  ・龍鳳、祥鳳

  ・飛鷹、隼鷹

  ・千歳、千代田

 ◯重巡、超巡

  ・伊吹

  ・古鷹、加古

  ・青葉、衣笠

  ・妙高、那智、足柄、羽黒

  ・高雄、愛宕、摩耶、鳥海

  ・鈴谷、熊野

  ・筑摩

  ・雲仙

  ・吾妻

 ◯軽巡洋艦

  ・四万十  

  ・夕張

  ・長良、五十鈴、名取、由良、鬼怒

  ・阿武隈

  ・川内、神通、那珂

  ・最上、三隈   

  ・阿賀野、能代、酒匂

 ◯駆逐艦

  ・北風

  ・島風

  ・神風、松風、旗風、追風、朝凪

  ・睦月、如月、卯月、水無月、文月、長月、

   三日月

  ・吹雪、白雪、深雪、浦波

  ・綾波改

  ・暁、響、雷、電

  ・初春、若葉、初霜、有明、夕暮

  ・白露、時雨改、夕立改、海風、山風、江風

  ・朝潮、大潮、満潮、荒潮、霞

  ・陽炎、不知火、黒潮、親潮、雪風、浦風、

   磯風、浜風、谷風、野分

  ・風雲、巻波、清波、長波

  ・涼月、初月、新月、若月、春月、宵月、花月

 ◯潜水艦

  ・伊19、伊25、伊26

  ・伊168

  ・伊56、伊58

 ◯その他

  ・明石

  ・樫野

 

◎ユニオン

 ◯戦艦、航空戦艦

  ・キアサージ

  ・ニュージャージー

  ・ジョージア

  ・ペンシルベニア、アリゾナ

  ・テネシー、カリフォルニア、

  ・コロラド、メリーランド、

   ウェストバージニア

  ・ノースカロライナ、ワシントン

  ・サウスダコタ、マサチューセッツ、

   アラバマ

 ◯航空母艦、軽空母

  ・ヨークタウンII、エンタープライズ

   ホーネットII

  ・ワスプ

  ・レキシントン、サラトガ

  ・エセックス、イントレピッド、

   タイコンデロガ、バンカー・ヒル、

   シャングリラ

  ・レンジャー

  ・ロングアイランド

  ・ボーグ

  ・カサブランカ

  ・インディペンデンス、プリンストン、

   ラングレーII、バターン

 ◯重巡、超巡

  ・アンカレッジ

  ・ウィチタ

  ・ペンサコーラ、ソルトレイクシティ

  ・ルイビル、シカゴ、ヒューストン

  ・ポートランド・インディアナポリス

  ・ニューオリンズ、アストリア、

   ミネアポリス、サンフランシスコ、

   クインシー、ヴィンセンス

  ・ボルチモア、ブレマートン

  ・ノーザンプトンII

  ・グアム

 ◯軽巡洋艦

  ・シアトル

  ・オマハ、ローリー、リッチモンド、

   コンコード、マーブルヘッド、メンフィス

  ・ブルックリン、フェニックス、ボイシ、

   ホノルル、セントルイス、ヘレナ

  ・アトランタ、ジュノー、サンディエゴ、リノ

  ・クリーブランド、コロンビア、

   モントピリア、デンバー、バーミンガム、

   ビロクシ、ヒューストンII

 ◯駆逐艦

  ・デューイ、エールウィン、

  ・カッシン、ダウンズ改、

  ・グリッドレイ、クレイヴン、マッコール、

   モーリー

  ・シムス、ハムマンII

  ・ベンソン、ラフィーII、ベイリー、ホビー、

   カーク

  ・フレッチャー、ラドフォード、

   ジェンキンス、ニコラス、バッチ、

   スタンリー、フート、スペンス、

   サッチャー、キンバリー、マラニー、

   ブッシュ、ヘイゼルウッド、

   ステフェン・ポッター、モリソン、

   スモーリー、オーリック、

   ハルゼー・パウエル

  ・アレン・M・サムナー、

   イングラハム、クーパー、ブリストル

  ・エルドリッジ

 ◯潜水艦

  ・ノーチラス

  ・アルバコア、ブルーギル、カヴァラ、

   デイス、フラッシャー

  ・アーチャーフィッシュ

 ◯その他

  ・ヴェスタル

 

◎ロイヤル

 ◯戦艦

  ・レナウン、レパルス

  ・フッド

  ・モナーク

  ・ヴァンガード

  ・クイーン・エリザベス、ウォースパイト、

   ヴァリアント

  ・リヴェンジ、ロイヤル・オーク

  ・ネルソン、ロドニー

  ・キング・ジョージ5世、

   プリンス・オブ・ウェールズ、

   デューク・オブ・ヨーク、ハウ

 ◯航空母艦、軽空母

  ・アーク・ロイヤル

  ・イーグル

  ・グロリアス

  ・イラストリアス、ヴィクトリアス、

   フォーミダブル、インドミタブル

  ・インプラカブル

  ・アーガス

  ・ハーミーズ

  ・ユニコーン

  ・チェイサー

  ・パーシュース、シージュース

  ・セントー、アルビオン

 ◯重巡洋艦

  ・チェシャー、ドレイク

  ・ケント、サフォーク

  ・ロンドン、シュロップシャー、サセックス

  ・ノーフォーク、ドーセットシャー

  ・ヨーク、エクセター

 ◯軽巡洋艦

  ・ネプチューン、プリマス

  ・キュラソー、カーリュー

  ・エンタープライズ

  ・リアンダー、アキリーズ、エイジャックス

  ・アリシューザ、ガラティア、ペネロピ、

   オーロラ

  ・サウサンプトン、ニューカッスル、

   シェフィールド、グラスゴー

  ・グラスター、マンチェスター

  ・エディンバラ、ベルファスト

  ・ダイドー、ハーマイオニー、シリアス、

   カリブディス、シラ

  ・ベローナ、ブラック・プリンス

  ・フィジー、ジャマイカ

  ・スウィフトシュア

 ◯駆逐艦

  ・アマゾン

  ・ヴァンパイア

  ・アカスタ、アーデント

  ・ビーグル、ブルドッグ

  ・クレセント、コメット、シグニット

  ・エコー

  ・フォックスハウンド、フォーチュン

  ・グレンヴィル、グローウォーム

  ・ハーディ、ヒーロー、ハンター

  ・イカルス

  ・エスキモー

  ・ジャーヴィス、ジェーナス、ジュノー、

   ジャベリン、ジャージー、ジュピター

  ・マッチレス、マスケティーア

 ◯砲艦

  ・エレバス、テラー

  ・アバークロンビー

 

◎鉄血

 ◯戦艦

  ・フリードリヒ・デア・グローセ

  ・テューリンゲン

  ・ビスマルクZwei、ティルピッツ

  ・ウルリッヒ・フォン・フッテン

 ◯航空母艦、軽空母

  ・アウグスト・フォン・パーセヴァル

  ・グラーフ・ツェッペリン、

   ペーター・シュトラッサー

  ・ヴェーザー

  ・ヤーデ、エルベ

 ◯重巡、超巡

  ・ローン、ヒンデンブルク

  ・ヨルク

  ・ドイッチュラント、

   アドミラル・グラーフ・シュペー

  ・アドミラル・ヒッパー、ブリュッヒャー、

   プリンツ・オイゲン

  ・プリンツ・ハインリヒ、

   プリンツ・アーダルベルト

  ・エーギル

 ◯軽巡洋艦

  ・マインツ

  ・エムデン

  ・エルビング

  ・ケーニヒスベルク、カールスルーエ、ケルン

  ・ライプツィヒ、ニュルンベルク

  ・マクデブルク、レーゲンスブルク

 ◯駆逐艦

  ・フィリックス・シュルツ

  ・Z1、Z2

  ・Z16

  ・Z18、Z19、Z20、Z21

  ・Z23、Z24、Z25、Z26、Z28

  ・Z35、Z36

  ・Z46

  ・オットー・フォン・アルフェンスレーベン

 ◯潜水艦

  ・U47、U73、U101、

  ・U81、U96、U410、U556、U557、

   U1206

  ・U37

  ・U110

  ・U522

 

◎東煌

 ◯軽空母

  ・鎮海、華甲

 ◯軽巡洋艦

  ・ハルビン

  ・逸仙

  ・海天、海折

  ・肇和、応瑞

  ・寧海、平海

 ◯駆逐艦

  ・鞍山、撫順、長春、太原

 ◯その他

  ・定安

 

◎サディア

 ◯戦艦

  ・マルコ・ポーロ

  ・コンテ・ディ・カブール、

   ジュリオ・チェザーレ

  ・アンドレア・ドーリア

  ・ヴィットリオ・ヴェネト、リットリオ、

   ローマ

 ◯航空母艦

  ・アクィラ

  ・インペロ

 ◯重巡洋艦

  ・トレント、トリエステ、ボルツァーノ

  ・ザラ、ポーラ、ゴリツィア

 ◯軽巡洋艦

  ・ドゥーカ・デッリ・アブルッツィ、

   ジュゼッペ・ガリバルディ

 ◯駆逐艦

  ・ニコロソ・ダ・レッコ、

   エマヌエーレ・ペッサーニョ

  ・マエストラーレ、リベッチオ

  ・アルフレード・オリアーニ、

   ヴィンチェンツォ・ジョベルティ

  ・カラビニエーレ

  ・アッティリオ・レゴロ、ポンペオ・マーニョ

 ◯潜水艦

  ・トリチェリ

  ・レオナルド・ダ・ヴィンチ

 

◎北方連合

 ◯戦艦

  ・ガングート、セヴァストポリ

  ・ソビエツカヤ・ベラルーシア、

   ソビエツカヤ・ロシア

  ・アルハンゲリスク

 ◯航空母艦

  ・チカロフ

  ・ヴォルガ

 ◯重巡、超巡

  ・タリン

  ・クルスク

  ・クロンシュタット

 ◯軽巡洋艦

  ・アヴローラ

  ・パーミャチ・メルクーリヤ

  ・チャパエフ、クイビシェフ

  ・キーロフ、ヴァシーロフ

  ・ムルマンスク

 ◯駆逐艦

  ・グロズヌイ、ストレミテルヌイ、

   グロームキィ、グレミャーシュチ

  ・ミンスク

  ・タシュケント

  ・ソオブラジーテリヌイ

  ・キエフ

 

◎アイリス、ヴィシア

 ◯戦艦

  ・ダンケルク

  ・ガスコーニュ、フランドル

  ・リヨン

  ・リシュリュー、ジャン・バール

 ◯航空母艦

  ・ベアルン

  ・ジョッフル、パンルヴェ

 ◯重巡、超巡

  ・サン・ルイ

  ・アルジェリー

  ・シュフラン、フォッシュ

  ・ブレスト

 ◯軽巡洋艦

  ・ジャンヌ・ダルク

  ・エミール・ベルタン

  ・ラ・ガリソニエール、マルセイエーズ

  ・ギシャン

 ◯駆逐艦

  ・ル・マルス、フォルバン

  ・ル・テメレール、ルピニャート

  ・ヴォークラン、ケルサン、タルテュ、

   マイレ・ブレゼ

  ・ル・トリオンファン、ル・マラン、

   ル・テリブル、ランドンターブル

 ◯潜水艦

  ・シュルクーフ

 

◎テンペスタ

  ・ロイヤル・フォーチュン

  ・メアリー・セレスト

  ・ウィダー

  ・ゴールデン・ハインド、

  ・アドヴァンチャー・ギャレー

  ・サン・マルチーニョ

 

◎深海棲艦

 ◯戦艦

  ・戦艦棲姫

 ◯航空母艦

  ・空母棲姫

  ・装甲空母姫

  ・欧州装甲空母棲姫

 ◯巡洋艦

  ・バタビア沖棲姫

 ◯拠点型

  ・港湾棲姫

  ・泊地棲姫

  ・超重爆飛行場姫

  ・集積地棲姫

  ・中間棲姫

  ・北方棲姫

 

◎江ノ島鎮守府基地航空隊

  ・メビウス中隊

  ・フォーミュラー隊

  ・レジェンド隊

  ・カメーロ隊

  ・グレイア隊

  

◎海上機動歩兵軍団『霞桜』

  ・試製56式浄龍タイプ・ザ・エンペラー

  ・本部大隊

  ・第一大隊

  ・第二大隊

  ・第三大隊

  ・第四大隊

  ・第五大隊




次回は今週中に投稿します


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2024お正月スペシャルfinal phase

さてさて、今回はかなーり長いですよ。文字数、33,000字越えですw。ですがまずは、こちらからご覧いただきましょう。

59式戦術歩行戦闘機『浄龍』
全高 25m
固定武装 頭部30mmPLSL 2基
     肩部全方位多目的ミサイルランチャー
     2基
     背部兵装担架システム 2基
     腕部60mm機関砲 2基
     腕部格納型近接格闘用戦闘爪 4本
     格納式格闘用サック 2基
     腕部TLS 2基
     腕部APS発生装置 2基
     脚部Sマイン 16基
     脚部全方位多目的ミサイルランチャー
     2基
皇国が開発した初の戦術機.......の筈なのだが、技術陣がはっちゃけてしまった結果できあがったヤベェ代物。通常の戦術機は基本的に固定兵装というのは、かなり少ない。ナイフとかチェーンソー位な物で、基本的に後付けで装備する。なのだが浄龍の場合は武装が全て使えなくなった状況でも継戦できる様、これまでのメタルギア開発で培った技術をふんだんに使用している。頭部兵装はマクロスシリーズのヴァルキリー、腕部兵装の武装はマクロスΔのVF31ジークフリードの様になっている。サックはトランスフォーマーダークサイドムーンで、ショックウェーブをぶん殴るのに使ったオプティマスの棘付きの拳である。
更にそもそもの機体自体も、元の戦術機とはかなり異なる。戦術機には電磁伸縮炭素帯(カーボニック・アクチュエーター)と呼ばれる素材が機体の中核であり、この素材が靭帯も兼ねる。これの周りにスターライト樹脂と呼ばれる素材で機体を組み上げていくのだ。だが浄龍の場合はカーボニック・アクチュエーターの代わりに、人工筋肉とカーボンナノチューブを採用し、外装にも熱田型や『日ノ本』の装甲に採用されている特殊合金を使用しており、既存の戦術機以上の高機動と重光線級によるレーザーも少しは耐えうる程度には強化されている。オマケにステルス性能もちゃっかり持っており、ラプターには負けるが通常の戦術機にはしっかり機能はする。しかもハッキングではなく、機体形状だとか素材でステルスを獲得している。OSにはXM3の強化回収型のXM4を採用しており、操作性も上がっている。

試製59式戦術歩行戦闘機『浄龍』タイプ・オーバーロード&エンペラー
全高 25m
固定武装 頭部連装40mmPLSL 2基
     肩部全方位多目的ミサイルランチャー
     2基
     胸部高出力TLS 2基
     背部兵装担架システム 4基
     腕部連装60mm機関砲 4基
     腕部格納型近接格闘用戦闘爪 4本
     格納式格闘用サック 2基
     腕部四連装TLS 2基
     腕部APS発生装置 2基
     脚部Sマイン 16基
     脚部60mm機関砲 4基
     脚部全方位多目的ミサイルランチャー
     2基
試作型の浄龍であるが、試作機だったが為に量産型浄龍よりもアレコレ武装が増えている。1番の特徴は胸部の高出力TLSだろう。通常のTLSも20倍の出力を誇り、一斉射で駆逐艦を消滅させてみせる威力を持つ。しかしコストが高すぎるので、量産型ではオミットされた。更に単純な出力もかなり上がっており、エンジン自体の出力は量産型浄龍の3倍、間接強度もそれに合わせて強化されている。指揮通信システムも通常よりも強化されている。またセンサーシステムも変更されており、量産型浄龍はバイザー型の頭部だが、こちらは二つ目の威圧感ある物に仕上がっている。
オーバーロードは神谷、エンペラーは長嶺の専用機となっている。オーバーロードの方は神谷専用機である事から、魔法の効果を増幅させる機能を有しており、機体登場状態からでも魔法を行使可能である。エンペラーの方は長嶺が降りて戦闘する事も考慮される事から、より高初速のイジェクトシステムと自動戦闘システム様のAIを搭載している。また量産型は基本的に機体カラーが灰色なのに対し、両機共に漆黒であり、エンペラーの方は金色のラインが入り、右肩には霞桜、左肩には江ノ島鎮守府の紋章が描かれている。オーバーロードの方は至極色のラインが入り、背中には金で『皇国剣聖』の文字、右肩に真っ赤な『修羅』の文字が書かれ、胸部には神谷家の家紋、左肩には白で神谷戦闘団の紋章が描かれている。

59式戦術突撃砲
使用弾薬 40mm
     200mm
給弾方式 マガジンコンベア式給弾
発射方式 火薬
装弾数 500発
    50発
浄龍向けに開発された戦術突撃砲。国連や各国で使われている36mmと120mmではなく、皇国が運用するAH32薩摩の40mmチェーンガンと主力戦車の200mm砲から流用する為、こちらに変更となった。銃本体にFCSを導入し、レーザー測距の他、高倍率でのマークスマンライフルの様に扱う事もできる。
下部には銃剣を装着可能な上、更にストックも可変する為、縮めて取り回しをよくし接近戦に対応する事も伸ばしてしっかり構える事も出来る。底部の200mmはモジュール化しているので、40mm機関砲を増設したり、ロングバレルパックで本格的なマークスマンにする事も出来る。

59式戦術狙撃砲
使用弾薬 250mm
給弾方式 マガジンコンベア式給弾
発射方式 火薬、電磁投射両用システム
装弾数 20発
国連の突撃砲、支援砲とは全く異なる、初の超長距離狙撃専用砲である。砲身に海軍の火薬、電磁投射両用砲の設計を流用した事で、火薬式とレールガンモードの2つを変更でき、レールガンモードであれば突撃(デストロイヤー)級5体を貫通せしめる威力を持つ。但しかなり巨大である為、両手で操作する必要があり取り回しは非常に悪い。

59式戦術機関砲
使用弾薬 40mm
給弾方式 ハイスピードベルトコンベア給弾方式
発射方式 電気ドライブ
装弾数 10万発
火力支援用の兵装であり、八銃身バルカン砲型の機関砲である。これを2つ並列で連結しており、取り回しこそ劣悪だが最強の正面火力を誇る。ただこちらも両手で操作する必要がある為、兵装ベイを圧迫する。

59式戦術近接装備
刀身 特殊合金
日本機という事で作った、戦術機用の侍の魂を筆頭とする装備群である。バリエーションは日本刀をモチーフにした長刀『泰平』、青龍刀をモチーフにした重刀『玄武』、ハルバードをモチーフにした『ゼノン』、バルディッシュをモチーフにした『ティターニア』、グレートソードをモチーフにした『エクスカリバー』、レイピアをモチーフにした『ランバントライト』、西洋剣をモチーフにした『ダークリパルサー』がある。
形状こそ違えど、全てにしっかりロマンをこれでもかと詰め込んである。まず刀身が特殊合金製であり、柄内部にヒートブレード様のエンジンを組み込んである為、突撃級を正面からバターの様に両断する化け物性能を誇る。更にはAPSシステムを応用した装置で、刀に何処ぞのライトセイバーの様なビームを纏わせて切る事も出来る。この状態であれば、突撃級が触れた側から蒸発する。

59式多目的追加装甲
追加装甲と名を打っているが、要は戦術機用のシールドである。内部に格闘用の3本のスパイクを隠しており、盾をそのまま槍の様に相手に突き刺すことも可能である。

59式ハングドマン
使用弾薬 伊邪那美弾頭
給弾方式 マガジンコンベア給弾方式
発射方式 多薬室加速電磁投射システム
装弾数 3発
兵装担架2つと左右いずれかの腕を犠牲に使える、究極威力の兵装。この武器は兵装担架に発電用のタービンエンジン、電磁投射システム付きの折りたたみ式バレルを装備し、腕にはマガジンと多薬室付きのチャンバーを装備する。戦場でこれらを組み立てて連結し、そのまま発射する化け物装備である。そしてこれを撃った人間に、何故か『愛してるんだ君達をぉぉぉ!!!!ギャハハ!!』とか言った奴が居たとか居なかったとか。

59式グラインドブレード
兵装担架2つを犠牲に装備する兵装であり、その見た目は12本の超大型チェーンソーである。使用時は片腕にチェーンソーを装備し、そのまま腕をぶん回して使用する。更にこれをドリル形態と呼ばれる、チェーンソー全てを円状に配置し直す状態になれば、ビルだろうが岩盤だろうが余裕で貫く、最強の近接兵装となる。


追加装備パック
これまでの戦術機を見てきて、技術者達は汎用性が絶望的に足りない事に思い至った。そこで機体自体の装備をその場で変更し、様々な任務や局面に対応できる圧倒的汎用性を獲得させる為に開発された、新型システムである。この装備と機体との接続には、可動兵装担架システム用のコネクターを使用する為、戦術機自体の背部兵装担架は使用不可能となる。

スーパーパック
装備 大型追加ブースターエンジン 4基
   胸部全方位多目的ミサイルランチャー
   2基
   背部兵装担架システム 4基
開発陣に居たマクロスF及びΔファンが考案した、戦術機の追加装備。戦術機のエンジン部分に、マクロスΔのスーパーパックに装備されるエンジンを追加搭載する。更に胸部にもランチャーを追加搭載することにより、戦闘力と機動性を上げる事が出来る。尚、後述のトルネードパック、アーマードパック、ヴァンガードパックは他の浄龍以外の戦術機以外にも装着可能である。またこれらパックは、戦闘中に要らなくなればパージ可能である。

トルネードパック
装備 全方位多目的ミサイルランチャー付き脚部
   追加ブースターエンジン 2基
   背部45口径460mm連装火薬、電磁投射両用
   砲 1基
   背部兵装担架システム 2基
こちらも同じ技術者が言い出した追加装備。こちらは支援用装備であり、遠距離から250mm砲弾を降らせる事ができ、戦艦の火力が届かない場所、例えばハイヴ内部等でも絶大な火力支援ができる。弾種も徹甲弾、徹甲榴弾、榴弾、フレシェット弾等々、海軍の砲弾をそのまま流用できるのでかなり便利である。

アーマードパック
装備 特大型追加ブースターエンジン 2基
   肩部全方位多目的ミサイルランチャー
   12基
   肩部MPBM用パイロン 6基
   胸部全方位多目的ミサイルランチャー
   2基
   胸部60mm機関砲 2基
   背部兵装担架システム 4基
   腕部50口径130mm連装砲 2基
   腕部49式35mmバルカン砲 4基
   脚部全方位多目的ミサイルランチャー
   2基
全身武装テンコ盛り。マクロスシリーズのアーマードパックにも劣らぬ重武装を施しており、対多数戦闘では高い戦闘力を誇る。またパックに装備される武装にはAPS発生装置が組み込まれている為、アーマードの名に恥じないタンク的役割も果たせられる。

ハンターパック
装備 大型追加ブースター 4基
   頭部偵察ユニット 1基
   背部大型レドーム 1基
   背部兵装担架システム 2基
   背部通信アンテナ 2基
   肩部偵察ユニット 2基
   脚部偵察ユニット 4基
武装を搭載しない代わりに、情報収集と通信に特化したパック。超高倍率カメラ、各種音紋探知、地上用ソーナーシステム、スキャンシステム、各種レーダーシステム等々、戦場に於いては偵察から観測まで、その他の活動は行える。

ヴァンガードパック
装備 背部大型ロケットエンジン 4基
   背部ロケットエンジン 8基 
   腕部ロケットエンジン 10基
   大型APS発生装置 1基
こちらはアーマードコアシリーズの追加装備、ヴァンガード・オーバー・ブーストに影響された装備。武装は搭載されない代わりに、極限までの加速性と高速性を付与する。元が宇宙ロケットのエンジンなので、普通に宇宙から弾道飛行で降下する事も可能であり、APSを用いて大気圏再突入や空気抵抗軽減もできる。因みに最高時速は脅威のマッハ24を叩き出す。しかしこのパック、スーパーパックとハンターパックに限り併用が可能となっている。

アルティメットパック
装備 全方位多目的ミサイルランチャー付き
   特大型追加ブースター 6基
   全方位多目的ミサイルランチャー付き脚部
   追加ブースターエンジン 2基
   肩部全方位多目的ミサイルランチャー
   16基
   肩部MPBM用パイロン 12基
   胸部全方位多目的ミサイルランチャー
   2基
   胸部三連装60mm機関砲 2基
   背部45口径460mm連装火薬、電磁投射両用
   砲 1基
   背部兵装担架システム 6基
   腕部50口径130mm連装砲 2基
   腕部49式35mmバルカン砲 4基
   脚部全方位多目的ミサイルランチャー
   2基
アーマードパックを超えし、武装全部乗せ追加パックである。こちらは試製56式でのみ運用可能であり、通常の戦術機や浄龍では著しく機体への負荷がかかるばかりか、そもそもマトモに活動できない代物である。シュミレーター上の話ではあるが、機体によっては足回りが搭載した瞬間に崩壊したり、載せても動かなかったり、動けても戦闘機動は行えなかった。だがこれを振り回せた時の威力は凄まじく、単騎で四個戦術機連隊を殲滅できる。アルティメットの名前に恥じないパックである。

◎装備
 ◯突撃前衛(ストーム・バンガード)
  ・アーマードパック
  ・59式戦術突撃砲 1挺、背部2挺
  ・59式戦術近接装備 背部2本
  ・59式多目的追加装甲 1個
 ◯強襲前衛(ストライク・バンガード)
  ・アーマードパック
  ・59式戦術突撃砲 2挺、背部2挺
  ・59式戦術近接装備 背部2本
 ◯強襲掃討(ガン・スイーパー)
  ・アーマードパック
  ・59式戦術機関砲 背部4挺
  ・59式戦術突撃砲 2挺
 ◯砲撃支援(インパクト・バンガード)
  ・トルネードパック
  ・59式戦術狙撃砲 1挺
  ・59式戦術突撃砲支援砲タイプ 背部1挺
  ・59式戦術近接装備 背部1本
 ◯制圧支援(ブラスト・ガード)
  ・トルネードパック
  ・59式戦術狙撃砲 1挺
  ・59式戦術機関砲 背部2挺
 ◯打撃支援(ラッシュ・ガード)
  ・トルネードパック
  ・59式突撃砲支援砲タイプ 1挺
  ・59式突撃砲 背部2挺
 ◯ 迎撃後衛(ガン・インターセプター)
  ・スーパーパック
  ・59式突撃砲 1挺
  ・59式戦術近接装備 背部1本
  ・59式ハングドマン 背部1セット
  ・59式多目的追加装甲 1個
 ◯打撃支援(ラッシュ・ガード)
  ・スーパーパック
  ・59式戦術突撃砲支援砲タイプ 1挺
  ・59式戦術突撃砲 背部2挺
  ・59式グラインドブレード 背部1セット



翌日 ハイヴ周辺海域40km地点

朝霧に紛れる様に、数十隻の巨艦が姿を現す。聨合艦隊の主力艦隊、究極超戦艦『日ノ本』が直接指揮を取る最強の海上打撃艦隊が、皇国からBETAへの宣戦布告の号砲を発さんと準備に入る。

 

『BETA、動き認められず』

『ハイヴからの動き、なし!作戦に支障は認められるず!』

『各艦配置良し』

『現在全艦回頭中』

 

無線から上がってくる報告に、神谷は1人コックピット内で笑みを浮かべる。この調子でいけば、予定よりも早く攻撃が可能な筈だ。本来なら宣戦布告の号砲を撃ちたいところだが、今回は艦隊ではなく神谷戦闘団を率いて陸で戦う。故に発射のトリガーは『日ノ本』の副長、宗谷が引く事になっている。

 

「ジェネラルマスターより、全作戦要員に次ぐ。間も無く、BETAへの宣戦布告の号砲が鳴り響く。総員、戦闘に備えよ!」

 

やがて各部隊からの準備完了との報告が上がると、神谷は無線を『日ノ本』に合わせて宗谷に発射の指示を出す。その命令を受けた宗谷は、基本的には座れない艦長席へと腰を下ろした。

 

「まさか、私が引き金を引く事になろうとは.......。全艦、統制波動砲戦用意。波動砲への回路開けッ!!!!!」

 

「アイ・サー。プラズマ粒子波動砲への回路開きます。非常弁、全閉鎖。強制注入機作動」

 

「艦首解放、プラズマ粒子波動砲展開」

 

統制波動砲戦とは、波動砲を搭載する各艦艇が一斉射撃を行う砲撃方式である。小回りは効かないが、広い面積を一撃の下に消滅させられる利点は大きい。

 

「安全装置解除」

 

「セーフティーロック解除。強制注入機の作動を確認。最終セーフティー解除。トリガー、艦長に回します」

 

「艦長、受け取った」

 

「薬室内、プラズマ化粒子圧力、上昇中。86、97、100。エネルギー充填、120%!!」

 

「波動砲、発射用意。対ショック、対閃光防御」

 

艦橋のガラスに防護シャッターが展開され、外の様子はシャッターに搭載されてるディスプレイに表示される。

 

「電影クロスゲージ、明度20。照準固定!」

 

スコープ内に表示される各艦艇とのリンクも『接続』から『同期』という文字に変わり、全艦が同期し射撃準備完了の合図であるブザーも鳴り響く。

 

「プラズマ粒子波動砲、発射ァァァァ!!!!」

 

ギュゴォォォォォォ!!!!!!

 

『日ノ本』以下、熱田型、赤城型、大和型、伊勢型が放たれた波動砲の水色のビームは、そのままハイヴのある島、作戦呼称『鬼ヶ島』を吹き飛ばす。それもただ吹き飛ばすのではない。地形とそこに展開するBETA群ごと東西南のハイヴを吹き飛ばし、オリジナルハイヴ級も半壊させる威力を見せた。

 

「オリジナル級半壊!ハイヴ1〜3、消滅を確認!!」

 

「BETA十個軍団以上の殲滅を確認!集計不能なれど、BETA損耗率は飛躍しています!」

 

「この機を逃すな。艦隊各艦は回頭しつつ行動開始!オリジナル級周辺に効力射!!」

 

「アイ・サー!全艦、撃ちー方始めぇ!!」

 

ここで艦隊各艦は、所定の行動に移る。現海域に大和型と伊勢型のみを残し、東部ハイヴと西部ハイヴには熱田型4隻ずつ、北部ハイヴには『日ノ本』が向かう。一時砲撃の手は弱まるが、そこはSLBMと潜水艦隊が全力で支援してくれる。

 

「鳳凰IIより通報!!北部ハイヴ及びオリジナルハイヴ級より、未確認のBETA確認!!飛行タイプと思われる!!!!」

 

「艦長!今の聞きましたか!?」

 

『あぁ。面倒だな』

 

こっちの世界にやってきた衛士組は、飛行型BETAに焦っている。だが皇国と江ノ島の人間は、全く焦りは見せない。何せ相手が化け物である以上、予測不可能なのが来るのは分かりきっていた。面倒ではあるが、問題はない。

 

「アウトレンジ部隊、君達に任務を与える。我々、突入隊を護れ」

 

神谷の命令に、アウトレンジ部隊は誰も答えない。だがその代わりに、彼らは行動を起こす。

 

『全機、トリガーの元に集まれ!編隊飛行だ』

『さっさと片付けるぞトリガー』

 

『行くぞ、ガルーダ2!』

『金色の王の微笑みが共に在らんことを』

 

『ガルム隊へ、撤退は許可できない。迎撃せよ』

『だろうな。報酬上乗せだ。生き残るぞ、ガルム2』

『あぁ。相棒、花火の中へ突っ込むぞ!』

 

『聞いていたな。スカーフェイス隊、BETAを迎撃しろ』

『オーライ、オヤジ!スラッシュ、エンゲージ!!』

『フェニックス、エンゲージ』

『エッジ、エンゲージ』

 

『ラーズグリーズ隊、俺に続け』

『ラーズグリーズの名を轟かせるぞ!!』

 

(イエロー)13より全機、飛行型BETAを始末しろ』

『了解、撃墜します』

 

メビウス中隊、状況を報告せよ(All Mobius aircraft, report in.)

こちらメビウス2。スタンバイ(Mobius 2 on standby.)

メビウス3から7、スタンバイ(Mobius 3 through 7 on standby.)

メビウス8、スタンバイ(Mobius 8 on standby.)

攻撃準備完了。(Preparations are complete.)攻撃を開始する( Ready for battle.)全機メビウス1に続け!(All aircraft, follow Mobius 1!)

 

彼らは世界最強にして、単騎で戦局をひっくり返す生ける伝説達。例えBETAが相手であろうと、全く臆する事はない。彼らは銀翼を翻して、レーザーなんざお構いなしに一気に高度を取る。

 

「ゴールドフォックスより、各機へ。機体をそのまま編隊真上に置け。戦術機の盾にするんだ!艦娘運送中の機体は、その中間に入れろ!戦闘機隊は前方に展開!撃ち漏らしたBETAに対応しろ!!」

 

長嶺もすぐに指示を出し、戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』の群れが、その指示に従って蠢く。アウトレンジ部隊が飛行型BETAの相手をしてる間に、こちらは鬼ヶ島へと近付かなければならない。

 

『あの、神谷閣下。よろしいでしょうか?』

 

「どうした白銀少尉。何か質問か?」

 

『その、戦闘機隊を向かわせて良かったのでしょうか。BETAのレーザーに対して、航空機は無力です。いくら同士討ちをしないと言っても、狙撃されたら一溜りも』

 

「心配するな。今向かったアウトレンジ部隊の連中は、単騎で戦局をひっくり返すウルトラスーパーエース級の集団だ。リボン付きの死神メビウス1、黄色の13、伝説のベイルアウターオメガ11ことメビウス8、円卓の鬼神ガルム1、片翼の妖精ガルム2、ラーズグリーズの悪魔、皇国の不死鳥フェニックス、皇国の神鳥ガルーダ、偽伯爵の詐欺師(イリュージョニスト)カウント、3本線の大馬鹿野郎トリガー。彼らが空にある限り、皇国の敗北はあり得ない。それに、レーダーを見てみろ」

 

データリンクで送られてくるレーダー情報では、予想外の出来事が起きていた。数百体規模の飛行型BETAが、会敵して1分も経っていないのに、既に10体以上墜とされている。そればかりか、その数はどんどん増えていく。明らかに異常だ。

 

「な?」

 

『ま、マジかよ.......』

 

「白銀少尉。心配すんな。伊達に皇国は、世界最強の国家やってねーよ。それにな、今目の前にいる男は大東亜戦争時代にアメリカの首都を占領した英雄の末裔にして、皇国剣聖として戦う最強無敵の司令長官閣下だぞ?勝とうぜ」

 

『.......ハッ!了解しました元帥殿!!』

 

白銀との会話の中で、神谷は少なからず兵士達に不安があることを察した。指揮官としてやるべき事は、彼らを勇気づける事だ。まずは長嶺に連絡を取り、軽く打ち合わせるとそのまま、この辺りにいる各部隊にチャンネルを開く。

 

「よぉ、野郎共。空の旅はどうだ?まぁ、ぶっちゃけ地獄への片道切符だ。楽しめる奴はいねぇだろう。だが、それがどうした。地獄への片道切符なんざ、俺達は何度も受け取っては普通に改札通って地獄に通い詰め、事が済めば現世に帰ってきた。今日もそうするだけだ。臆するな!俺達は死にに行くんじゃない。BETAとかいう摩訶不思議な化け物をぶっ殺し、その屍を積み上げて宇宙にいるであろうコイツらを作ってんだか操ってんだか知らんが、そういうご主人様に見える様にしてやれ。そして宇宙の彼方まで届く様な大声で言ってやるんだ。「地球に喧嘩売ったらこうなるぞ」ってな。

命令はいつも通りだ。生き残れ!!そして勝とうぜ!!!!」

 

次の瞬間、衛士達から雄叫びの声が上がる。それだけではない。AVC1突空の中には機体をロールさせる者や、衛士の中にはアームを動かす者もいた。

 

「これ、もう俺の必要ねーじゃん」

 

『まあまあ。そう言わずに』

 

「はぁあ。江ノ島の家族共は知っての通り、俺はこういうのは嫌いだ。こんな格式ばったのは大嫌い。だがまあ、アレだ。相手がBETAだかエイリアンだか知らねぇけどな、俺達に喧嘩売りやがったんだ。そのツケは払ってもらわなきゃならねぇ。しかも今回はまた異世界から、同じ戦士の同胞達が来たんだ。怖い物はねぇだろ?

俺が知る江ノ島の家族は、こんな状況に部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする様な連中じゃない。こんな状況だろうが狂った笑みで敵陣に斬り込み、更にはそのまま本陣まで攻め上がる戦闘狂の集団の筈だ。そして今ここにいる戦士達も、小便ちびって逃げ帰る様な臆病者じゃない筈だ。だったら俺から命じることはただ一つ。いつも通りだ。眼前敵を殲滅しろ!邪魔する物はぶっ殺しぶっ壊せ!さぁ碇を上げろ!!マガジンを刺せ!!魚雷を装填しろ!!チャージングハンドルを引け!!航空隊を青空に羽ばたかせろ!!砲を構えろ!!相手が深海棲艦からBETAになっただけだ!!いつもの様に敵を殲滅し、俺達の邪魔する全てをぶち壊してやれ!!!!!!」

 

神谷の演説が勇気を引き出させる物であるならば、長嶺の演説は闘争心を煽り兵士を戦闘狂にさせる演説であった。新人衛士によく行われる暗示とか薬物投与なんかよりも、2人の言葉はよっぽど効き目がある。

 

『ねぇ、お兄さん。今いい?』

 

「イーニァ?どうした、腹でも減ったか?」

 

『ううん、ちがうよ。あのね、すごくイヤな予感がするの。この戦い、何かくるよ』

 

「.......そうか。何か来るんだな?備えておこう。だがな、心配するな。何が来ようと、俺が全部ぶっ潰す。俺の本気、見せてやるよ」

 

これまでの戦闘の中で、長嶺の真の本気にして最強の切り札たる神授才の本格使用と艦娘の力は、まだ一度たりとも見せていない。その為イーニァも、その後ろに移るクリスカの顔も心配そうではある。だがもう、そんな事も言ってられない。いよいよ分離地点が来た。ここで白亜衆、霞桜、江ノ島艦隊、各戦術機部隊は分かれる事になる。

神谷&白亜衆、第19独立警備小隊、国連軍の第五、第六戦術機甲大隊、霞桜第一大隊が東部ハイヴ。国連軍の第三、第四戦術機大隊、フェーニクス、シュヴァルツェスマーケン 、霞桜第三大隊が西部ハイヴ。伊隅ヴァルキリーズ、国連軍の第一、第二戦術機甲大隊、アストライアス、霞桜第二大隊が南部ハイヴ。長嶺&霞桜第四、第五大隊、アルゴス&ホワイトファングス、イーダル、バオフェン、インフィニティーズ、国連軍の第七戦術機中隊が北部ハイヴを担当する。これに加えて皇国の戦術機連隊が各地方に2隊ずつ付き、江ノ島艦隊も均等に割り振られている。まずは南部戦域から見て行こう。

 

『そーらヴァルキリーの姐さん!目的地に着いたぜ!!』

 

「ありがとう。輸送に感謝する!」

 

『へっ!これが俺達の仕事ってあぶね!!』

 

「ぐっ!!」

 

伊隅の乗る不知火を吊り下げたメタルギア応龍が横にロールする。見れば真横を、レーザーが掠めていった。流石にこの状況では、狙い撃ちにされるだろう。

 

『悪いがハードランディングだ。構わないか!?』

 

「構わない!下ろしてくれ!!」

 

『おっしゃぁ!いってらっしゃい!!』

 

応龍は不知火を切り離し、そのまま周囲の掃討に移る。応龍は本来、敵支配域にメタルギアを突入させる為の兵器。こういう敵に包囲された状況下で投下しつつ、周りの敵を掃討するのだって通常戦闘の範疇だ。

 

『オラオラァ!!邪魔じゃ邪魔じゃBETA共!!!!!!!』

 

「危険だ離れろ!!」

 

『心配すんな!レーザーだってな!!』

 

更に応龍は、特殊なエンジンにより空中を素早くスライドできる。その為、レーザー照射を受けようが、素早く横滑りして避ける事ができるのだ。

 

『避けられんだよ!!とはいえ、俺の仕事はここまでだ。後は任せるぜ!!』

 

応龍が各戦術機を投下したのと同時に、霞桜の『黒鮫』からも続々と部隊が降下してくる。第二大隊は戦術機の前方150m地点に布陣。艦娘とKAN-SENは、最後尾に展開した。

 

『こちらは江ノ島艦隊、南部ハイヴ攻略艦隊旗艦、長門だ。ヴァルキリー1、応答願う』

 

「こちらヴァルキリー1。ビッグ7の1隻と行動が共にできるのは光栄だ」

 

『あぁ。今回の艦隊には、ビッグ7が全員揃っている。任せておけ。現在こちらは、艦載機を上げてエアカバーを行う予定だ。そちらの戦術は?』

 

「このまま上陸地点を確保しつつ前進し、ハイヴより10kmの地点で戦線を構築。後続部隊の進出を待つ」

 

『了解した』

 

今回、各ハイヴの攻略支援艦隊を臨時で編成しており、各々が各隊の旗艦を務めている。南部ハイヴの旗艦は艦娘の長門、北部ハイヴは大和、東部ハイヴはエンタープライズ、西部ハイヴはKAN-SENの赤城がそれぞれ担当しており、各旗艦の下には各艦種の代表が補佐官を務めている。

南部ハイブの場合は戦艦組は長門が兼任し、空母組からイラストリアス、重巡組からはザラ、軽巡組からはクリーブランド、駆逐艦は叢雲が務めている。

 

『A01、総員傾注!これより我々は戦線を押し上げつつ、後続の機甲戦力を待つ。決戦はまだ始まったばかりだ。あの世への先駆けは許さんぞ!!』

 

『『『『『『『了解!!』』』』』』』

 

『コマンドポストよりA01。BETA三個師団規模がそちらに侵攻中。幸い光線級は含まれてはいないが、突撃(デストロイヤー)級主体で侵攻速度が速い。直ちに対処せよ』

 

まだ着上陸して、たったの数分しか経っていない。しかも最初の波動砲、砲撃、SLBM、それからメタルギア水虎による海岸線掃討によって、かなりの数は削れていた。にも関わらず、いきなりこの数。流石BETAとしか言えない。

 

「ヴァルキリー1、こちらレリック。BETAへの一番槍貰う。構わない?」

 

『レリック!危険過ぎる!!』

 

「問題ない。この為に、対深海徹甲弾と自慢のチェーンソー持ってきた。突撃級の装甲、切れる。それに、議論の暇ない。出る」

 

レリックは伊隅の静止を振り切り、第二大隊の隊員達を引き連れて前に出る。A01と国連及び皇国の第一第二戦術機甲大隊も、それを大慌てで追い掛ける。

 

「ナガト。これ、どうするの?」

 

「こうなったら、やるしかないな。砲撃用意!!これより第二大隊、戦術機部隊の援護を開始する!!」

 

今回の編成には艦娘の長門、陸奥、コロラド、ネルソン、KAN-SENのネルソン、ロドニー、コロラド、メリーランド、ウェストバージニアが揃っており、かつてビッグ7の異名で恐れられた最強の戦艦が一堂に介している。これに加えて、イラストリアス級空母とユニコーン、飛鷹改、隼鷹改二、千歳改二、千代田改二もいる訳で、かなり重装備な艦隊なのだ。オマケに装備系も最強格。援護の人材として、これ以上ない布陣だ。

 

「行くぞ、主砲一斉射!て――ッ!!」

「長門、いい?行くわよ!第一戦隊、一斉射!てーっ!」

「Enemy ship is in sight…. 各々方…、さあ、始めるぞ!」

「Enemy in sight。さあ、始めます。蹴散らせ!」

「私が敵を侮ると思ったら大間違いよ!」

「敵に情けをかける必要がありませんね」

「今こそ見せてやる、ビッグセブンの真の力を!」

「おい、向こうの!あたしを失望させんなよ!」

「16インチ砲弾の重さを思い知れ!」

 

戦艦9隻、それもビッグ7の砲撃ともなれば、かなりの被害がBETAには発生する。しかもちゃっかり長門と陸奥は41cm三連装砲改二だったりとかするし、一部装備が変更されている艦もいる。他にも口径こそ変わらずだが強化されていたいたりするので、単純なビッグ7という訳でもない。

オマケに艦娘の艤装にはKAN-SENの艤装並みの連射力を付与し、KAN-SENの艤装には艦娘の艤装並みの威力を付与する改造を施してある。お陰で各艦共に「巡洋艦をワンパンする威力の砲弾を、マシンガンの如く発射する」という、あまりにカオスな装備を持っているのだ。お陰でBETAの前衛は、既にその砲撃で壊滅状態。砲撃でできたクレーターを突破して侵攻してくる為、進軍速度は一気に落ちていく。その間に第二大隊が到着し、更に攻撃を仕掛けていく。

 

「突撃級は硬い。が、後ろは柔い」

 

『だそうだ。つまり回り込めって事だ!!』

 

第二大隊第一中隊長兼副長のバーリがそう言ったことで、隊員達は即座に動く。レリックは圧倒的にコミュ力が低い。技術屋モードになれば超饒舌にハキハキ喋るが、基本的にコミュニケーションを取るのは慣れが必要である。だがバーリがいれば、全部補足してくれるので問題はない。

お陰で裏と言いつつ、軽く表でも「翻訳機」とか「レリックの声帯」とか言われてる始末である。

 

『あらぁ綺麗なお尻!』

 

『プリプリして可愛いなぁ。カマ掘ったれ野郎共!!!!』

 

『ヤ・ラ・ナ・イ・カ。ハッ!』

 

動けなくなっているところや、動きが遅くなっているところを第二大隊の連中が尻を撃ち抜き、素早く殲滅していく。突撃級を粗方殲滅し、戦車(タンク)級や後方の要撃(グラップラー)級が現れ始めた頃、A01が到着。そのまま戦闘に加わる。

 

『戦場でよく会うお友達だ!第一小隊、歓迎してやるぞ続け!!!!』

 

『第二小隊は右翼のを倒す!!付いてこい!!』

 

『第三は左翼だ!突撃前衛(ストーム・バンガード)の意地を見せろ!!!!』

 

今回、A01含めた各隊は砲撃支援(インパクト・バンガード)制圧支援(ブラスト・ガード)打撃支援(ラッシュ・ガード)はトルネードパックを装備し唯一珠瀬が59式ハングドマンを装備している。ストーム・バンガード、強襲前衛(ストライク・バンガード)強襲掃討(ガン・スイーパー)と隊長機はアーマードパックに各自の兵装、迎撃後衛(ガン・インターセプター)打撃支援(ラッシュ・ガード)はスーパーパックを装備している。実戦での使用は初だが、その効果はかなりの物であった。

 

「こ、これがアーマードパック!!」

 

『すごい性能。BETAが溶ける』

 

『BETAが全く近付いて来れぬぞ!!』

 

アーマードパックは、文字通り超重武装の装備パックである。各所に全方位多目的ミサイルランチャーが装備されていることで、無数のBETAを一挙に殲滅が可能なのだ。BETAは数に物を言わせて集団で戦術機の表面装甲に取りついたりするが、そんなことをする前に機関砲で排除できる。特に胸部の機関砲はオートモードがあるので、自動迎撃でセットしておき近付いてくるヤツをCIWSのように殲滅する事ができる。これだけでもかなり生存性が上がる。

 

『流石460mm!BETAの一団が1発で吹き飛びました!!』

 

『しかもこれ、電磁投射砲モードにしたら要撃級の集団を数十体貫通したんだけど.......。恐ろしい威力だよ全く』

 

トルネードパックは装備こそ数少ないが、唯一無二の460mm砲を装備している。伊勢型航空戦艦と同じ物を装備したいる為、言うなれば戦場のど真ん中に戦艦が現れた様な物だ。しっかり電磁投射砲も撃てるので、重装甲単一目標にも対応できる。無論、大多数の数を一撃で吹き飛ばす事だって可能だ。

 

『当然』

 

『レリック。どうしたの?』

 

『俺と総隊長と皇国が作った。性能は保証する』

 

『レリックなら信じられる』

 

(あ、綾峰がデレた?)

 

白銀、なんか驚きのものを見た気がした。一方のレリックがサムズアップで答えており、全く気にしてない模様。さてさて、そんな強力な追加装備パックだが、何も無敵という訳ではない。

A01は掃討を後続の戦術機大隊に任せ、BETA集団の最後尾にいる要塞(フォート)級の攻撃に移った。しかし見た限り5、60体はいる。オマケに光線級まで出てくる始末だ。

 

『光線級も遂に出たか.......。要塞級が運んだな』

 

『こちらで要塞級抑える。そっちは光線級をやるべき。こっち人間、レーザー喰らったらまず無理』

 

「大尉!自分も要塞級の迎撃にあたります!!」

 

『.......レリック、白銀を付ける!要塞級は任せる!!』

 

『要塞級、殺す!』

 

一応後方の艦隊から砲撃は飛んでくるが、やはりレーザーで迎撃されてしまう。だが少なくとも、囮にはなるはずだ。A01は光線級への攻撃を開始し、第二大隊と白銀は連携して要塞級を倒す。

 

「この!!」

 

『おおっと!いい感じだぜ武の坊主!!』

 

『こっちも負けてらんないな!!』

 

『霞桜の戦闘狂っぷりをみせてやるぜぇ!!!!』

 

白銀は単騎で要塞級と渡り合っている。だが、第二大隊の面々も負けてはいない。連携して翻弄し、隙を見せた瞬間に側面や背後などの死角から攻撃し殲滅する。特に要塞級の下にぶら下がっている触手は、なにかに触れると強酸を吐き出す。いくらシービクターとて、当たれば最後。死体も残らない。

それは戦術機であっても変わらず、本来は要塞級とは会いたくない。要塞と名の付くだけあって、基本全身硬い。120mmを使う必要があるくらいには硬いのだ。要撃級も突撃級も一部が硬いだけで、そこさえ外せば問題なく楽に倒せる。戦車級も数は多いが単体での脅威度はたかが知れている。だが要塞級は、かなり硬いので面倒なのだ。

 

『俺を殺せるものなら、殺してみろ!!俺はまだ、死なないんだぁぁぁぁ!!!!!!!』

 

「まるで総隊長並み。俺も、負けてられない」

 

白銀の攻撃を見て、レリックも闘争心を露わにする。要塞級に肉薄し、触手を敢えて撃たせて別の要塞級にぶつけたり、そのままぐるぐる巻きにしてやったり、何なら撃たせずに背後からチェーンソーで肉を掻き出す。コイツもかなりの者だ。

 

「くうぅ!!」

 

『武後ろだ避けろ!!!!』

 

「しまっ…」

 

武が着地した背後に、要撃級が居たのだ。しかも誰も援護が間に合わない位置で、武の機体も明らかに反応するには遅すぎた。だが、問題はない。

 

ドカカカカカ!!

 

武の背後上空から、ワイヴァーンとシーホネットが突っ込み要撃級を排除。更にそのまま爆弾を落とし、周囲の戦車級も掃討した。

 

『ご無事ですか白銀様?』

 

「い、イラスト、リアスさん?」

 

『よかった。ご無事で何よりですわ。ここからは、私達が引き受けます。前にお進みください』

 

見ればレーダーに、無数の光点があった。江ノ島艦隊の艦載機部隊が、レーザーも撃てない超低空からBETAを片付けている。プラモデルサイズで、武器の威力は実機並み。江ノ島艦隊の艦載機は、BETA相手には非常に有用だ。A01はオリジナルハイヴ級を目指し前進を続ける。

さて次は、シュヴァルツェスマーケンのいる西部ハイヴの方を見てみよう。

 

『さあ、野郎共。仕事の時間だ。光線級、戦車級、要撃級その他諸々目に付くもの全部ぶっ壊せ!!』

 

こちらの戦線は、メタルギア水虎の上陸戦から始まった。水虎は水陸両用メタルギアにして、各所に様々な武装を持つ。本来こういうBETA支配域への着上陸には、A6イントルーダーの様な機体が先遣隊として上陸し、一帯を確保する事になっている。だが今回イントルーダーは居ない上に、浄龍の開発で手一杯だった為、水陸両用メタルギアであり近いコンセプトを持っていた水虎が、その役目を務めているのだ。

更に海軍陸戦隊の先遣陸戦隊も共に上陸しており、そのまま観測拠点の設営に移る予定だ。

 

『BETA共掛かってこいや!!!!』

 

『近づけるものならな!!!!!!』

 

『ぎもぢぃぃぃ!!!』

 

瞬く間に地上を制圧すると、続々と後続部隊が上陸を開始。戦線も素早く構築される。

 

「指揮官様。西部ハイヴ攻略支援艦隊、展開完了しましたわ。これより前進し、BETAの排除を開始します」

 

『了解!気を付けろよ!』

 

「姉様、ご指示を」

 

「まずは一帯のBETAを掃討し、安全を確保するわ。後続の皇国軍は、輸送中は無力。加賀、いつも以上に気を引き締めなさないな」

 

西部ハイヴ攻略支援艦隊の旗艦はKAN-SENの赤城、戦艦組はアイオワ、重巡組はローン、軽巡組は矢矧、駆逐艦はZ23が務めている。

 

『こちらは海上機動歩兵軍団『霞桜』副長兼本部大隊大隊長グリム!現在鬼ヶ島に展開中の全軍に通達します。前線より後方50km地点に、補給陣地を構築しました。損傷の激しい機体、負傷者は直ちに撤退。補給と整備を受けてください』

 

この拠点には本部大隊と江ノ島鎮守府より数十人の警護艦隊が護衛しており、緊急時には拠点を収納し撤収できる。何せこの拠点、江ノ島に来た拠点型の深海棲艦なのだ。お陰で展開も撤収も移動も、物の数分で完了する最強の移動拠点なのだ。

 

「よお!赤城の嬢ちゃん!!」

 

「バルク様。そちらも到着なされたのですね」

 

「おうよ。今回も頼むぜ。お前達がいてくれるお陰で、俺達ジャンキー共は前だけ見てられる」

 

「えぇ。後ろはお任せください」

 

バルク達第三大隊が前線に向かうのと入れ違うように、シュヴァルツェスマーケンもやってきた。東ドイツ最強にして、対光線級戦術である光線級吶喊(レーザーヤークト)を行える精鋭集団である。

 

『こちらは東ドイツ軍、第666戦術機中隊シュヴァルツェスマーケン。私は中隊長のアイリスディーナ・ベルンハルト大尉だ』

 

「お会いできて光栄ですわ大尉。私は本艦隊の旗艦を務める江ノ島艦隊所属、重桜一航戦、航空母艦『赤城』です。以後お見知り置きを」

 

『無敵の空母だと聞いている。こちらも共に戦えて光栄だ』

 

「早速ですが、現状を説明致しますわ。既に周辺地域は皇国軍によって掃討されており、現在は霞桜第三大隊が数キロ前進し戦線を構築しています。貴中隊も、そちらの支援に向かわれてください」

 

『了解した』

 

シュヴァルツェスマーケンは直ちに、戦線構築のためにBETAの迎撃に移る。A01よりも数は少ないが、それでも東ドイツ最強と言わしめる精鋭部隊。数的劣性を一切感じさせない勇猛果敢な戦いっぷりである。

 

「カティア!ファム姉!そっちに行くぞ!!」

 

『任せて!カティアちゃん!!』

 

『はい!援護に入ります!!』

 

『要撃級が来る!シュヴァルツ03、シュヴァルツ05!右翼から回り込んで、迎撃にあたれ!!』

 

アイリスディーナが指揮官として戦況を俯瞰し、各機がしっかりとした連携で確実にBETAを殲滅していく。更にアイオワからの支援砲撃や、皇国海軍からの砲撃も加わり比較的速く殲滅されていった。

 

『テオドール君!後ろ危ない!!』

 

「チッ!」

 

『お兄ちゃんはやらせない!!!!』

 

「リィズ!!」

 

因みに皇国との初接触時にシュヴァルツェスマーケンを裏切っていたリィズ・ハーウェンシュタインだが、裏切っていた理由が例のシュタージに幼少期に筆舌にしがたいアレコレで洗脳されており、その後もハニートラップ要員とか高官の性接待要員として働かされ、かなりハードでディープな人生を送っており、完璧に心が崩壊していたのだ。

その話を聞いた神谷&シュヴァルツェスマーケンの全員は、流石にそのまま裏切り者の烙印を押して牢屋にポイする訳にはいかないという結論に至り、神谷が「もう『衛士』って事で、恩赦させよう。衛士って貴重だし、文句出ねーだろ」という理由をつけて無理矢理無罪放免で解放し、晴れて中隊の真の意味での一員となった。

しかも元々の衛士としてのセンスも高く、シュタージでもここ数年はヴァアヴォルフ大隊という戦術機部隊に配属されていたこともあって、操縦スキルが高かった為、しっかりと戦力強化にも繋がるというオマケまで付いてきた。

 

『邪魔!!お兄ちゃんを取らないで!!!!』

 

だがどうやらヤンデレ気質だったのか、義理の兄たるテオドールが絡むと一気にヤバくなる。特に戦闘中であれば、もうなんか味方がドン引きしてBETAに同情したくなる戦い方をする様になる。例えば盾でBETAを穿ったり、蹴り飛ばしたり、ナイフでズタズタにしたり、かなり酷い。

 

『ふぅ。お兄ちゃん、無事?』

 

「あ、あぁ。助かったよリィズ」

 

『えへへ、もっと褒めて褒めて!』

 

BETAの返り血というか、赤い体液に塗れたゴツい戦術機が可愛い動きするの、普通に恐怖である。だがここは戦場。そんな浮ついた空気があれば、大体面倒事が起きる物だ。

 

「ッ!?アカーギ!砲弾が堕とされ始めたわ!!」

 

「何ですって!?」

 

「赤城先ぱーい。私の艦載機、例の光線級に堕とされましたぁ!」

 

「加賀先輩!私のもダメでした!!」

 

「私のもだ。例の光線級のレーザー、艦載機どころか砲弾も迎撃するのか.......」

 

光線級の出現である。光線級はミサイルや航空機は勿論、砲弾も迎撃してくる。お陰で一度光線級が出張ってくると、支援砲撃の効力はかなり落ちるのだ。

 

「アイオワ!あなたの砲弾でも堕とされたの!?」

 

「No!私のはno problemよ!でも、皇国のは堕とされてるわ!!」

 

「.......姉様。どうやら光線級とてあまり近づきすぎなければ、こちらの艦載機は小さすぎて堕とせない様です」

 

「すぐに皇国軍の本部に連絡するわ。ローン、矢矧、ニーミ!レーザーヤークトの準備をなさい!!」

 

援護に入っていた艦隊からも、同様の報告が上がり始めていた。この事態を見て、司令部はシュヴァルツェスマーケンにある指示を出す。

 

『司令部より、第666戦術機中隊へ。貴隊の状況を報告されたし』

 

「我が隊は損傷機なし。コンディション、隊員の士気も良好だ」

 

『了解した。現在BETA支配域15km地点に、光線級及び重光線級が確認されている。これにより支援砲撃が迎撃されており、同光線級集団の掃討を要請したい。可能であるか?』

 

「問題ない。これよりレーザーヤークトを敢行する」

 

『感謝する。そちらの援護に霞桜第二大隊、及び江ノ島の西部ハイヴ攻略支援艦隊より突撃チームが投入される。シュヴァルツェスマーケン、武運を祈る』

 

シュヴァルツェスマーケンは機体をBETA集団に向けて、レーザーヤークトに向かう。

 

「総員傾注。これより我が隊は、レーザーヤークトを敢行する。相討ち覚悟の特攻作戦だ!準備整った、これで我々は一蓮托生だな」

 

『全く、同志大尉の指揮下にいればいつもこれだ』

 

「どうしたテオドール?怖気付いたか?」

 

『まさか。いつも通りにこなしてみせるさ』

 

『もし生き残ったら、みんなの前でお兄ちゃんのベッドの下の秘蔵本を見せてあげるからね!』

 

『あぁ。俺の秘蔵——って、ちょっと待てリィズ!お前どこでそれを!!』

 

テオドール、男の誇りと意地と名誉とプライドに賭けてその本は死守しなくてはない。何せその本、要はエロ本なのだ。しっかりベッドの奥底に色んな偽装用の箱を敷き詰めて、その内の1つに二重底までして隠していたのに、何故かバレている。軽く恐怖だ。

というかこれ、生き残ろうが戦死しようが何れにしろ待ち受けるのは地獄である。

 

『ねぇリィズ?その本の題名は、何だったのかなぁ?』

 

『えっと、確か題名は『金髪爆乳美女〜真夏のドキ♡ドキ♡水着特集〜』と『ブロンド爆乳全集〜イケナイあの子のセーラー服〜』ですよアネットさん!』

 

『おんやぁテオドールゥ?一体何でそんな本があるのかなぁ?』

 

『あ、アネット!落ち着け!!』

 

『テオドールさん.......』

 

『カティア!?そんな目で俺を見るな!!』

 

だが助かった。バレたのはまだその2冊だけだったのだ。前にリィズが来たばかりの頃、ブロンド爆乳物はバレている。つまりこれはノーダメージなのだ。

 

『あ、後他にも『アジアンビューティー 巨乳お姉さんの谷間 』っていうのと、『シルバー爆乳美女のイケないオフィス』っていうのもあって』

 

『やめろおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!』

 

『あら!』

『テオドール。いっぺん死ね!』

 

『若いな、テオドール』

 

『どうにか助けてくれよ!同じ男だろアンタ!!』

 

テオドール処刑ショーにより、戦闘前にしてテオドールの精神はゴリッゴリに削られる。ぶっちゃけ今のテオドールは、リィズがシュタージの犬と露呈した時並みのショックを受けている。かなりやばい。

 

『同志少尉。そのいかがわしい本については、後で私がきっちり処分してやる。ホーウェンシュタイン少尉、帰還後協力してくれるな?』

 

『ラジャー!』

 

「同志諸君、そこまでにしておけ。あぁ、エーベルバッハ少尉。基地に帰ったら、その『金髪爆乳美女〜真夏のドキ♡ドキ♡水着特集〜』と『ブロンド爆乳全集〜イケナイあの子のセーラー服〜』について、詳しく聞かせて貰うぞ」

 

『お姉さんもアジアンビューティーについて、詳しく知りたいかなぁ?』

 

『.......殺す』

 

『へぇー、日本の市外局番は0120なのか.......』

 

テオドールが壊れた。それにその番号、市外局番ではなくフリーダイヤルである。というかそもそも、その電話番号はどこから現れたのやら。

 

「オープンチャンネルで何話してやがるよ666!!」

 

『済まない、作戦前に浮ついていた』

 

「怒っちゃいねーよ!!こちらは霞桜第三大隊、大隊長のバルクだ!!とりあえずテオドールだかエーベルバッハだか知らんが、エロ本バレた奴!ご愁傷様」

 

バルクは合唱すると、他の大隊の隊員達も敬礼してテオドールを慰めた。同じ男として、その気持ちは良く分かる。そしてバレてしまった今、どんな思いかも良く知っている。

 

「今時エロ本って古風なのな。今度もっとバレねぇ方法を教えてやるさ。っと、話が逸れたな。ベルンハルト大尉だったな!光線級までの道は、俺達が必ず切り拓いてやる。光線級は頼んだぞ」

 

『あぁ。任せておけ!』

 

「いいねぇ、その返事。そーら野郎共!!姫君達と騎士殿達をお連れする!!我らは汝等に問う。汝らは何ぞや!!!!!!」

 

「「「「「「我ら弾幕信者!!地獄の神の代理人なり!!!!!!」」」」」」

 

因みに第三大隊は弾幕教 濃密弾幕宗の総本山である。彼らにとって弾幕とは、神聖な儀式らしい。無論これはおふざけ100%のネタであって、本当にそんな謎宗教を作ったわけではない。

だが実際かなりの弾幕信者であり、第三大隊の装備は大半のものが手に対深海棲艦用歩兵機関銃イシス2挺と、後ろの兵器担架にも2挺、そんでもって両肩に付けている追加のバトルシールドの内側にも連装ミニガンが装備されている。ぶっちゃけ、かなりヤバい連中だ。

 

『後方から友軍艦接近!江ノ島艦隊です!!』

 

『江ノ島鎮守府所属、鉄血のローンと申します。私達が道を切り拓きますから、光線級をお願いしますね』

 

ここで西部ハイヴ攻略支援艦隊より、ローン率いる援護艦隊が到着した。艦娘とKAN-SENの艤装には、水上と同等の速度が出せる様に調節してある。よって戦術機の素早い挙動にも追い付いていけるのだ。

因みに編成はローン以下、艦娘の高雄、愛宕、矢矧、阿賀野、能代、KAN-SENのハインリヒ、タリン、レーゲンスブルク、チャパエフがやって来ている。

 

「よし総員、続けぇ!!!!」

 

各隊が陣形を組み、BETAの集団に突っ込む。まず初めに接敵したのは、第三大隊の面々。

 

「オラオラオラオラァ!!!!撃って撃って撃ちまくれ!!!!

Barrage junkie(弾幕ジャンキーこそ)!?!?」

 

「「「「「「is the messenger of peace(平和の使者なり)!!!!!!」」」」」」

 

「弾幕はパワー!!!!!」

「弾幕こそ至高!!!!!」

「火力は正義!!!!!」

「火力こそ救い!!!!!」

「濃密弾幕は愛!!!!!!」

 

「聞かせてあげよう、弾幕による救済の鎮魂歌(レクイエム)を!!!!」

 

もう無茶苦茶である。片っ端から弾幕はって、とにかく敵をやっつける。しかも対深海徹甲弾装備な上に、使ってる銃が全部バルカン砲タイプなので、敵が倒れるというよりも溶けていくのだ。

ヤバいのは彼らだけではない。

 

「私を…舐めるなっ!!」

「大人しくなさい!!」

「全員かかれー!Los! Los!」

「ぱんぱかぱーん♪!」

「矢矧、突撃する!」

「馬鹿め!無駄な抵抗をするんじゃないわ!」

「阿賀野の本領、発揮するからね!」

「蹂躙する!」

「残念ね…捕捉済みよ!撃てっ」

「吼えろ!レジーナ!!」

 

艦娘とKAN-SEN達も暴れる暴れる。ゼロ距離で主砲を喰らわせ、遠目の敵には魚雷をぶん投げ、場合によっては艤装自体がバリボリとBETAを食い始める。

彼らが作り上げた突破口を突き進み、遂に光線級の姿を捉えた。ここでシュヴァルツェスマーケン、というよりアイリスディーナ、テオドール、リィズ、カティアが持って来た秘密兵器が放たれる。

 

「行けシュヴァルツェスマーケン!!!!」

 

「援護に感謝する!全機、MPBM一斉発射!撃ち尽くせぇ!!!!」

 

『『『了解!!!!』』』

 

放たれたMPBMは数本は迎撃されるが、キャパ以上の攻撃に抗戦級でも捌ききれない。重光線級に至っては、威力は大きいが連射は効かない為、こういう近接戦での対空戦には不向きだ。MPBMは起爆後、周囲を綺麗に焼き払う。数千℃の火球が地表に形成され、光線級を跡形もなく溶かした。

 

『やった!』

 

「まだ仕事は終わっていないぞ!補給を順次行い、前進に備えよ!!」

 

ところ変わって東部ハイヴでは、神谷戦闘団の面々が戦術機部隊と同時に上陸しようとしていた。空中からは戦術機、海岸線からはLCACとLCUに分譲した各部隊が上陸する。更には西部ハイヴと同じ様に、水虎による上陸支援も行われていた。

 

「応龍、ここまででいい。切り離せ」

 

『先行するんですね?ウィルコ!パージします!!ご武運を!!!!』

 

応龍から切り離された浄龍オーバーロードは、スロットルを全開に吹かして高度を取る。普通ならレーザーに晒される、新人でもやらない行為であるが、元からある2基と追加の6基、計8基のエンジンを持ってすればレーザーの回避など造作もない。

そもそも皇国には元々TLSや自由電子レーザーという、自前のレーザー兵装が普通に配備されていた。その為パイロットにはレーザー回避の訓練もパイロット養成課程の後半で行うし、機体自体のOSにもレーザー回避に関連するプログラムが搭載されている。戦術機と衛士に取ってのレーザーは、実は少しだけ脅威度が下がっているのだ。

 

「やっぱりレーザーは撃ってくるか!しかも太いのもあるし!!」

 

神谷はまるで空中で踊る様に、華麗にレーザーを避けていく。ある程度のレーザー級の位置を把握すると、高度を落として応龍の編隊に戻る。

 

「ジェネラルマスターより、インペリアルドラゴンズ各機へ。光線級の一団を確認した。我々の当面の目標は、この光線級の排除である。だがまずは、陸地のお掃除からだ。全機、フォーメーション、ウィングダブル5で我に続け」

 

神谷戦闘団白亜衆に作られた、機甲戦術機大隊『インペリアルドラゴンズ』は皇国の精鋭戦術機部隊である。機体カラーが通常の灰色から、濃い紺色に変更されており、全機がアーマードパックを装備した重装甲部隊であり、今回の様なBETA支配域への先行突入や膠着した戦線の打開の為に投入する為に作った最強の機甲戦力である。

インペリアルドラゴンズ各機は応龍から切り離されたと同時に、エンジンの推力を最大にして編隊を構築。東部ハイヴの上陸予定地点に先行していく。その後ろ、神谷の直掩には第19独立警備小隊がつく。

 

『神谷殿、我ら斯衛もお供します』

 

「帝国最強のエースが援護についてくれるとはな。俺もVIPになったもんだ。それじゃ援護頼むぜ、先輩殿」

 

ご承知の通り、神谷の実家及びその一族は1500年以上前から脈々と血が受け継がれてきた、天皇家並みに由緒正しき家柄である。しかも当初は武を誇りとする豪族であり、それからは武士の一家でもある。それを知った斯衛軍組、特にこの第19独立警備小隊の面々は御剣に向ける並の敬意を払ってくれているのだ。

 

『長官!前方に獲物です!!』

 

「このまま着上陸だ。派手に決めるぞ!!」

 

インペリアルドラゴンズと第19独立警備小隊は、海岸線に切り込む様に着地。それと同時に、一切砲撃を開始する。

 

「近づける物なら近づいて見ろや!!!!!」

 

神谷の装備するアルティメットパックと通常のアーマードパック装備の浄龍の恐ろしいところは、棒立ちでもかなりの威力となる事にある。単純計算で腕を前に広げてあげるだけで、130mm速射砲2門、60mm機関砲4門、35mmバルカン砲2門、30mmPLSL2門、TLS2基が指向されるのだ。これに手持ちと背部兵装担架の兵装も合わさる。

浄龍オーバーロードとエンペラーともなれば、その数は更に跳ね上がる。これに加えて全方位多目的ミサイルランチャーもあるとなれば、数分で一帯を殲滅し終えてしまうのだ。

   

『前方より要塞級!来ます!!』

 

「46cmを喰らわしてる!!」

 

ズドォン!!!!!

 

本来その巨体と装甲、そして尻尾というか尾の触手でかなり厄介な筈の要塞級であるが、アルティメットパックの前には無力だ。何せコイツの場合、背中にトルネードパックの460mm火薬、電磁投射両用砲を搭載している。いくら要塞級でも当たれば最後、弾け飛ぶ。

 

『エンタープライズよりジェネラルマスター。こちらの上陸は完了した。霞桜第一大隊も展開完了している』

 

「ジェネラルマスター了解。ユニオンの英雄、Big Eの加護があれば安心だ。我々はこれより、レーザーヤークトを敢行し一帯の制空権確保に移る。そちらには援護を頼みたい」

 

『了解した。艦載機によるエアカバーを実施する』

 

神谷戦闘団と白亜衆も共に降下し、戦線を構築。BETA相手ではあるが、いつもの様に暴れ回る。

 

「BETAって、普通に切れるのね!!」

 

「あぁ。毒もよく効く!」

 

「ライトニングサンダー!!魔法も効きますよ」

 

「いやぁ、爆裂矢も毒矢も火矢も、全部しっかり効くのは有難いよ」

 

「剣山!!物理攻撃は勿論効くわ!」

 

最前線で暴れ回るのはワルキューレこと、エルフ五等分の花嫁である。彼女達はエルフの上位種たるハイエルフであり、身体能力や魔力が通常のエルフよりも上なのだ。通常のエルフですら人間を軽く凌駕するというのに、ハイエルフともなれば忍者の様に屋根から屋根へ飛び移ったり、明らかに常人の反応速度ではない速さで反応する事もできる。その為、BETAが相手であっても、BETAの攻撃を貰う前に素早く離脱できるのだ。

しかも使う武器には毒とかの機能がついているが、BETAも一応人間と同じ肉体を持つ生命体(?)ではあるので、しっかり毒も通用すれば燃やしたりも出来る。お陰でいつも通りに戦えている。とは言え超至近距離での近接戦は、流石にリスクが高い。そこで、彼らがその背中を守る。

 

「ワルキューレ達突っ込みすぎだろ!」

 

「ぼやいてないで撃て撃て!」

 

「だぁーもー、邪魔なんだよBETA共!!!!」

 

「俺達が奥方様方の背中を守るんだよ!!!!」

 

赤衣鉄砲隊である。赤衣鉄砲隊は、こういう風にワルキューレと神谷を援護する為に作られた射撃の精鋭部隊。ワルキューレの動きに合わせて、正確にBETAを排除していく。しかも今回は分隊火力を単一目標に絞って射撃している上、使用するのが12.7mm弾を放つ32式戦闘銃である。BETAの前衛に多い戦車級位なら、余裕で排除可能だ。

ワルキューレ達が前衛たる戦車級を相手にするなら、もう1種類の突撃番長も倒す必要がある。だがそれは、コイツらがやってくれる。

 

「ヒャッハーーーーー!!!!!!!!やっぱり突撃は俺達の出番だぜ!!!!!!!!!!!突撃級をデストロイするぜヒャッハーーーー!!!!!!!!!!!!!!」

 

「俺たちゃ泣く子がもっと泣き叫ぶ!!!!!神谷戦闘団の突撃隊長だぜ!!!!!!!!突撃級なんざ目じゃねぇ!!!!!!!!!!」

 

「テメェなんざ突っ込むしか能がねぇ馬鹿どもだ!!!!!!!!そして俺達は突っ込んで敵を殺すことしか能がねぇ阿呆どもだ!!!!!!!!魂バリバリ!!!!!!!」

 

神谷戦闘団の最狂突撃部隊、ヒャッハー装甲車の3台である。コイツらの戦法かなり狂っていて、突撃級が基本的に直線番長であり急には曲がらないことに目を付けて、なんと時速170kmの速さで突き進んでくる突撃級の群れに自ら突っ込み、装甲がない背中や尻を機関銃で撃ちまくるという狂いきった戦法を編み出したのだ。

無論何かちょっと失敗やズレが生じれば、何の抵抗もできず突撃級に轢かれるか空中へ吹っ飛ばされて見事二階級特進コースである。だがコイツら、それをやりのけやがった。

 

「ヒャッハーーーー!!!!スリル満点だぜ!!!!!!」

 

「俺たちなら余裕だぜ!!!!!!」

 

「魂バリバリ!!!!!!」

 

ドリフトやら何やらで無理矢理曲がり、突撃級の間を縫って通り過ぎると同時に攻撃。その攻撃で突撃級の足を無理矢理止めて、後方から江ノ島艦隊の砲撃が襲う。かなり無茶苦茶かつ狂っているが、なぜか戦法として確立できてしまっていた。無論、他部隊では無理である。

そして、もう1匹。コイツがいる。

 

「その程度で、我は止まらぬわ!!」

 

ゴオォォォォォ!!!!!!

 

『やはり焼き尽くすのは気分が良い!!!!』

 

竜神皇帝『極帝』さんである。安定の魔力ビームの前には、BETA自慢の装甲も氷の様に溶ける。ついでになんだったら、バリボリ食べ始める始末だ。因みに要塞級の酸は「ピリリとして美味」らしい。

 

『光線級、目視にて確認!』

 

「TLSを使う。各機、俺の後ろに下がれ!」

 

浄龍オーバーロードは着陸すると、足を肩幅まで広げてチャージを開始する。数秒でゲージが溜まり、両腕を胸の前でクロスさせて解放。極太のレーザーが発射される。たった一掃射で大半の光線級と重光線級を破壊。間髪入れずに、インペリアルドラゴンズと第19独立警備小隊が残党を狩る。

 

『こちら西部ハイヴ!光線級の排除を確認!!』

 

「空中空母に連絡!降下開始させろ!!」

 

東部と西部の光線級が一時的にでも撃退された今、このタイミングで最強の機甲戦力を展開する。今回空中空母艦隊には、艦載機の代わりに有りったけの46式戦車、51式510mm自走砲を搭載してもらっている。この2つの機甲戦力は、輸送艦を横付けして下ろすか、大型機からの空中投下しか展開する方法がない。

だが肝心の鬼ヶ島の周囲は結構浅瀬で、輸送艦は座礁する可能性が高い。となると空中から落とすしかないわけで、それには光線級の掃討が絶対条件なのだ。無論、レーザーに備えて空中母機『白鳳』が護衛についているので、もしもの場合は盾として空中空母を守る。

 

「艦長!鬼ヶ島の空域に到着しました!!」

 

「よし!ではこれより、予定通り機甲部隊の投下を開始する!投下準備を成せ!!」

 

「アイ・サー!」

 

艦長の指示に、乗員達は慌ただしく動き出す。甲板に並ぶ投下装置に繋がれた46式と51式も最終チェックが行われ、戦士兵達は自らの愛機に乗り込む。

 

「下方よりレーザー来ます!!」

 

「舵そのまま、両舷増速!!」

 

「戦闘、撃ち方始め!!!!弾幕を貼り撹乱しろ!!!!!!」

 

BETAから迎撃のレーザー掃射を受けるが、その程度では空中空母艦隊は止まらない。弾幕を展開し、更に『白鳳』達がAPSを起動した上で下に潜り込み盾となる。

地上に展開している各部隊も、残党光線級への攻撃を敢行。援護に回る。

 

「投下ポイント上空!」

 

「降ろし方、始めぇぃ!!」

 

艦長の号令と共に、パレットが次々に投下。地面に向かって自由落下でおちていく。本来ならパラシュートとかがあるのだろうが、このパレットには代わりにスラスターが搭載されている。本来は対空砲に照準をつけさせない為の措置なのだが、期せずしてレーザー対策になった。お陰で光線級の死角に素早く潜り込める。

ある一定の高度に到達すると、スラスターが点火。減速し、パラシュート投下時よりも少し強い位の衝撃で着地し、着地すると同時に即座に移動を開始。友軍との合流を図る。今、皇国陸軍最強の機甲戦力が、鬼ヶ島に降り立ったのだ。

さて、最後に北部ハイヴだが、こちらはかなり毛色が違った。というのも北部ハイヴの指揮官は長嶺であり、その長嶺の戦闘はかなり他の戦区とは違うのだ。なんとこちらは、支援艦隊を前面に出して最前線でBETAと殴り合わせているのである。

 

「オラオラァ!!どうしたどうした!!!!」

 

無論、先頭に立つのは長嶺。浄龍エンペラーを駆り、最前線に1人で切り込んでBETAを殺し回っている。テストパイロットを務められる程に強いはずの歴戦達の衛士達ですら、長嶺には付いて行けていない。

 

『おいおい。単騎で突っ込んでBETAを片っ端から血祭りに上げてるぞ』

 

『す、凄まじい闘争本能ね.......』

 

『なぁユウヤ。アレが例の元帥閣下だよな?』

 

『あ、あぁ。戦術機でも殆ど変わらないって、どんだけ化け物なんだよ.......』

 

アルゴス試験小隊の面々もこの反応である。だがそれでもしっかり仕事はこなしており、BETAを殲滅し続けている。一方、北部ハイヴ攻略支援艦隊はというと…

 

「全主砲、薙ぎ払え!!!!」

「この武蔵の主砲は…伊達ではない!いくぞ…!!」

「撃ちます!Fire!!!!」

「気合い!入れて!撃ちます!!」

「勝手は榛名が許しません!!」

「距離、速度、よし!全門斉射!!」

「武蔵ならここにいる。怯みも焦りも不要、粛々と進むが良い――」

「ファイアコントロール、頼むわよっ!」

「凍れ、そして爆ぜろ!」

「我の射程内に真理あり」

「チェックメイトよ!」

「騎士の剣さばきを!」

「女王陛下に、栄光あれ!!」

「砲撃開始!押しつぶせ!」

「サディア帝国の力を見よ!」

「遊びはここまでだ!」

「天の裁きを受けよ!」

 

もう大暴れである。というのも長嶺、この北部ハイヴ攻略支援艦隊は各陣営の旗艦級&精鋭を集中運用しているのだ。今回の相手には小細工は通用しない。だが逆に正面切っての戦闘なら、こちらにも勝機はある。となれば各戦線に満遍なく配置すべきかもしれないが、精鋭をこちらにまとめる事で何か不足の事態が起こった際に遊軍として動かしたり、或いは事態の打開を図れると考えてこの配置にしたのである。

その恩恵として、最前線に艦隊を殴り込ませて砲弾の嵐で敵を掃討できているのだ。

 

「いい感じだお前達!!そのまま頼むぞ!!!!っと、オイゲン!水雷戦隊連れて右翼から回り込め!!吹雪!お前は大井&北上と二水戦連れて左翼だ!!機動部隊!!上空援護を絶やすな!!!!更に敵が来るぞ!!!!

ベアキブル!カルファン!部隊率いて吶喊!!正面に穴を開けろ!!!!全試験部隊!!俺に付いてこい!!!!戦術機部隊は戦線を維持だ!!!!!!」

 

長嶺は初めての戦術機での戦闘だが、全く問題ない。既に新米衛士が乗り越えられないという死の8分を乗り越えているし、その8分間に数千体のBETAを殲滅している。その傍らで指揮を継続しているのだから、その化け物っぷりは伝わるだろう。

 

『インフィニティ3より、ゴールドフォックス!』

 

「どうしたレオン!」

 

『俺とインフィニティ4で左、インフィニティ1、2で右から先行し、BETAの気を引きます!その間に、閣下は部隊を率いて光線級に向かってください!』

 

「任せるぞインフィニティーズ!教導部隊の精強さを見せて貰う!!!!」

 

『ラジャー!!』

 

ラプターは一列から一気に左右に広がり、そのまま圧倒的なまでの機動性でBETAを翻弄し殲滅していく。本来は対人戦闘、つまり対戦術機を想定した機体なのだが、その機動性は対BETA戦でも光る。

インフィニティーズが派手に暴れている間に、長嶺を先頭にレーザーヤークトを敢行。素早く光線級を撃破し、ついでに残党光線級も撃破したのだが、ここでヤベェ物と出くわしてしまった。

 

『な、なんだアレは!?ゴールドフォックス!未確認BETAを発見!恐らく光線級の一種と思われる!!』

 

「このタイミングかよ!唯衣!映像回せ!!」

 

篁の武御雷から送られてきた映像には、要塞級の様な脚を持ち、多分重光線級かそれ以上のレーザー発射口3つを束ねたレーザー砲を3本持つ、明らかに最強の光線級が映っていた。

 

「全機!一度離脱する!!退避しろ!!!!」

 

流石に突っ込もう物なら、こっちがやられかねない。ここは下がるしかない。だが撤退を開始した瞬間、例の最強の光線級、こいつが極太の波動砲並みのレーザーを洋上の『日ノ本』に向けて放った。

 

『なぁ!?『日ノ本』被弾!!!!』

 

幸いAPSが間に合ったらしく、数秒の掃射後に表したその姿には傷一つ付いていない。だがあんなのを地上目標に向けられよう物なら、まず間違いなくこの世から消え去ることになるだろう。

 

「イーニァ。もしかして、お前の言ってたのってコレか?」

 

『多分?でも、こんなの倒せないよ.......』

 

『大丈夫よイーニァ。落ち着いて』

 

『ゴールドフォックス、よろしいですか?』

 

イーニァとクリスカと話していると、思いもよらない人間から無線が入った。本土にある統合参謀本部にいるイーダル小隊の隊長、イェージー・サンダーク中尉と、アルゴス試験小隊の隊長、イブラヒム・ドーゥル中尉。それから横浜基地の副司令である香月夕呼からである。

 

「3人が雁首揃えて、どうしたんだ?」

 

『現在、他の東西南北ハイヴにもこの未確認の光線属種、差し詰め超重光線級が現れました』

 

『艦隊には被害が出ていませんが、それは恐らく時間の問題でしょう』

 

『一色総理は、核ミサイルの使用に舵を切り始めましたわ。直ちに撤退の指示をお出しください』

 

「まだ諦めんには早ぇよ。こっちはまだ、本気を出しちゃいないんだ。それにあんなヤベェの、なんの情報もないのは1番ヤベェ事になる近道だ。倒せずとも、情報はいる」

 

長嶺はそこまでいうと、一方的に通信を切り戦術機の外に出た。いきなり開いた浄龍のコックピット部分に、隣にいたクリスカとイーニァは驚いている。

 

『どこに行くのだ?』

 

「あれ。ちょっくら殺してくる」

 

長嶺は戦術機から飛び降りて着地し、1人超重光線級に向かって歩き出す。それを止めるクリスカとイーニァ。それを聞いた他の小隊からも、制止の声が上がるが江ノ島の家族共だけは、長嶺の後ろを黙ってついて行くだけだった。

 

「お前達、ここで待機だ。俺が指示したら突っ込め。

この無線が聞こえる全ての兵士に告げる!俺は江ノ島鎮守府司令、長嶺雷蔵だ!!これより例の超重光線級とかいう無駄に図体のでかい肉塊の注意を引いてやる!!!!その隙に有りったけの火力を叩き込め!!!!」

 

長嶺は稜線の影から飛び出すと、まずは7枚の式神を取り出して投げる。その式神は戦闘機となり、編隊を組んでエンジンのとは別の炎を後ろから吐きながら、炎の軌跡を残しながら半円を描く様に飛ぶ。その炎は残り続け段々と巨大な旭日旗の形を成す。そして旗に向けて回り込んだ7機が、炎の旭日旗をぶち破って突き進む。すると後ろから巨艦が姿を現し、完全に出て来ると炎は消え、戦闘機も高度を上げた。

次の瞬間、戦艦は炎に包まれて長嶺の元に集まる。炎が晴れればそこに居たのは、艦娘とKAN-SENの様に艤装を纏った長嶺の姿であった。

 

「今回はこれだけじゃねーぞ」

 

そして次は、懐から真っ黒な所々破れた御札を取り出した。紋様や文字は白や金ではなく、赤黒い溶岩の様な色で描かれている。

それを指で挟みながら、顔の前で呪文の様な事を喋り出した。

 

「我願うは、大和民族の火焔なり。この身は火焔と一体となり、全てを破壊し尽くす破壊者となり、全てを滅さん。八百万の神々とて、我が火焔は止められず。この火焔は天に、地に、海に、山に巡りて、全てを焼き尽くす。我、眼前敵を排するその時まで、火炎と成り、例え果てようと悔いは無し」

 

そう言うと、黒い御札が空高く飛んでいった。風も何も無いし、別に長嶺がぶん投げた訳でも無い。だが飛び上がった御札は少し移動すると、急に大きな火炎となった。そしてその中から、巨大な炎を纏った巨大な鬼が現れたのである。いつもの様に炎に包まれたのだが、炎から晴れると予想とは違う姿になっていた。

艤装が主砲は四連装86cm火薬、電磁投射両用砲12基、三連装46cm火薬、電磁投射両用砲39基となり、各所の機関砲や両用砲群は増え、更にはPLSLも搭載されている。艤装も全長が増し大型化して、足回りもエンジンのノズルが増設され、ここにも副砲が搭載される様になっている。全身が文字通り武器だらけとなり、服装も神授才の時のアーマーと艤装を合わせた物になっており、極め付けは背後にビットを備えていて神授才使用時の面影が残っている。

 

「へぇー?神授才と艦娘の力同時併用すると、こんな事になるのか。差し詰め空中超戦艦『鴉焔天狗』か」

 

長嶺雷蔵は単純な最強の存在ではない。長嶺は生まれ付き『神授才』と呼ばれる、謎の超能力の様なものが備わっており、これにより炎を操ることができる。アーマーとビットというのも、その神授才による物だ。

そしてもう一つが、人工的な艦娘なのである。長嶺はかつて中国でのミッションに成功するも重傷を負い、その時に長嶺の義理の父である東川宗一郎が助けるために人口艦娘の実験に参加させ、その結果としてその身に艦娘の艤装、空中超戦艦『鴉天狗』を宿すこととなったのだ。

 

「それじゃ、始めようか!!」

 

長嶺は推力全開で垂直上昇。ついでに砲撃を喰らわせて、こちらに気を引いて貰う。案の定、4体いる超重光線級はしっかりこっちにレーザーを連続して掃射してきた。

 

「連射もできるなんて便利だねぇ。まあ効かないけど」

 

だが長嶺は空中を縦横無尽に動き回って、レーザーを全て回避していく。どんなに強力だろうと、当たらなければどうということは無い。

 

「今だ突っ込め!!!!!!」

 

「親父のお達しだ行くぞ野郎共!!!!」

「ベーくんに続くよ!!!!!!」

 

「艦隊、大和に続いてください!!!」

「雷蔵ったら、エイリアン相手にもいつも通りなのね。みんな、行くわよ!!!!」

 

無線でそう叫んだ瞬間、北部ハイヴ攻略支援艦隊全艦と霞桜第四、第五大隊が動き出す。苛烈な砲撃を加え、光線級の死角から航空攻撃を行い、雑魚敵には格闘戦で蹴りを付けていく。

 

「成る程、そういう作戦か。全く、やる事が派手だな!!」

 

「クリスカ!ユウヤが行っちゃう!!」

 

「なら私達も行こうか、イーニァ」

 

「ホワイトファングより全戦術機部隊!!艦隊に続けぇ!!!!」

 

江ノ島の家族共が動けば、北部ハイヴに展開するすべての戦術機も続く。

 

『伊隅!戦況が動いたわよ!!』

「教官!すぐに部隊を率いて突撃準備を!!A01各機、超重光線級に攻撃を仕掛ける!!全機続けぇ!!!!!」

 

「666中隊、レーザーヤークトの時間だ。いつもより大きいが、やる事は変わらない!全機、我に続け!!」

 

「野郎共!!雷蔵くんが戦況を動かしたぞ!!!!俺達もこれに続く!!最大推力で突っ込め!!!!!!!」

 

他戦区は戦術機が先陣を切り、その背後から霞桜の各大隊と攻略支援艦隊が続く。それだけではない。洋上に控える各艦にも、その動きは伝わっていた。

 

「全艦砲撃用意!!皇国海軍砲術の誉れを見せてみろ!!!!!」

 

「アイ・サー!!全艦、撃ちー方ー始め!!!!」

 

「神☆仏☆照☆覧!!!!」

 

レーザーにやられようがお構いなしに、大量の支援砲撃を開始したのだ。なんなら迎撃されるの前提で敢えて対空用の時雨弾を装填し、対空ミサイルでレーザー級に攻撃を敢行している。流石にこれだけの物量と、長嶺の攻撃を受けてはキャパオーバーで全てを迎撃はできない。

数分の攻防の末、各戦区の戦術機が超重光線級に辿り着いた。東部ハイヴは白銀、西部ハイヴは神谷、南部ハイヴはテオドール、北部ハイヴはユウヤが取りついた。4人はゼロ距離からありったけの多目的ミサイルと各種機関砲群を浴びせる。

 

『超重光線級、沈黙!!!!』

 

先遣陸戦隊からの報告に、全員が歓喜した。だが、まだ仕事は終わっていない。ハイヴの攻略は済んでいないのだ。千葉特別演習場では、即席のカタパルトからハイヴ突入班に選ばれた試験小隊の各機が、スーパーパックかハンターパックを装備した上で、ヴァンガードパックを装備した上で射出されていく。

一方の上陸チームは、集結ポイントに集結し態勢を一度立て直す。各攻略支援艦隊も江ノ島艦隊に統合され長嶺直轄で動く事になるし、神谷戦闘団に参加している各皇国軍部隊も神谷配下に戻る。そんな中、オリジナルハイヴからアレが出てきてしまった。

 

「総員対空戦闘用意!!航空(エアリアル)級だ!!!!!」

 

航空級と名付けられたそれは、空を飛ぶBETAである。速度はあまり速く無い上に装甲も薄いらしいが、光線級のレーザー照射粘膜を搭載している。かなり厄介な相手だ。

 

『弾がないものは補給急げ!!弾に余裕ある者は、弾幕を張って近づけさせるな!!!!』

 

「一航戦赤城」

「同じく一航戦、加賀」

「二航戦蒼龍」

「二航戦飛龍」

「五航戦、翔鶴」

「同じく瑞鶴!」

「「「「「「戦闘機隊発艦!!」」」」」」

「行ける?よし、稼働全機、発艦始め」

「第六〇一航空隊、発艦、始め!―さあ、始めます」

「航空隊発艦! ……ひひっ、てかいいね、いいじゃーん!」

「熊野航空隊、発艦、お始めなさい!」

 

「一航戦、赤城」

「一航戦、加賀」

「「推して参る!!」」

「終わりだ!」

「終わりだ……Funebre!」

「聖なる光よ、私に力を!」

「うんうん、きっとこんな感じで……艦載機、飛べ!」

「これでどう?」

「汝、罪ありき…!」

「この行いはすなわち、アイリスの願い」

 

これが通常の戦術機と地上部隊だけなら、恐らくこの航空級の投入だけで全てが終わっていただろう。だが、今回は違う。戦術機には全方位多目的ミサイルランチャーが満載な上、江ノ島艦隊がいるのだ。対空戦闘なんてお手のものである。

しかもまだある。護衛でついていてきたアウトレンジ部隊、それから特殊戦術打撃隊のADFシリーズが飛来。更にこれに江ノ島鎮守府基地航空隊もついて来ているので、綺麗なまでの形成逆転となる。

 

「みんな暴れてるねぇ。俺も暴れねぇとバランス取れねぇよなぁぁ!!!!!!超多重力弾装填、撃て!!!!!!!でもってオールビットソード!!!!!!行ってこいや!!!!!!!!!!!」

 

オマケに長嶺が暴走した。超多重力弾は起爆後に、重力フィールドを形成して内部に引き込み、フィールド内部にある無数の重力点でバラバラにするというヤベェ代物である。つまりどういうことかと言うと、フィールド内部に入ると重力が四方八方に存在しており、対象物があちこちの方向に引っ張られるのだ。

そしてビット。長嶺の背後に控えるビットは、剣型とビーム発射機型とシールド形成機型に形状が変わる。このビットを用いれば遠近の攻撃と防御を、たった一兵装で行えるのだ。

 

「ジェネラルマスターより富嶽爆撃隊!!出番だぜ!!!!」

 

『了解した。これより突撃する!!』

 

南の空から、富嶽爆撃隊の富嶽IIが大編隊を成してオリジナルハイヴに接近する。今回富嶽爆撃隊にはハイヴ攻略用に、地中貫通爆弾を搭載している。富嶽爆撃隊の火力投射量は鬼ヶ島程度のサイズ感なら、余裕で全てを破壊せしめる量だ。それだけの量を使えば、いかなハイヴとて無傷では済まない。

 

『ハイヴ突入チーム飛来!!』

 

更に千葉特別演習場から飛び立ったハイヴ突入チームも飛来し、東西南北の各ハイヴに突入。中心部にいる頭脳(ブレイン)級の破壊を試みる。

暫くするとオリジナルハイヴへの爆撃は完了したのだが、それはもう見るも無惨な姿であった。見事に大穴が開いており、多分かなりの深さまで掘り進められているだろう。

 

「これよりオリジナルハイヴに突入する。突入班は俺、ゴールドフォックス、ヴァルキリー10と11、シュヴァルツ01、08、アルゴス小隊、ホワイトファング、イーダル1、霞桜各大隊長とする。武器の最終チェック急げ!!」

 

突入班には漏れなくアーマードパックを装備して貰う。流石に他のパックでは、何かあった時の生存性が下がる。装備パックの換装と、武器の換装が終わるといよいよハイヴに突入する。

 

『しかし、いくらバンカーバスター使ったとはいえ下まで届いてるのかねぇ?』

 

『確かにバンカーバスターとは言え、着弾はバラけるものね。さーて、どうしようかしら?』

 

「心配すんなお2人さん。このビット、こんな使い方もできるんだわ」

 

長嶺は穴に飛び込むと、ビットを全てビームにして自身の周りで高速回転させる。

 

「必殺ビームビットストームって所だ!こうすれば穴を掘り進められる!!」

 

『やれやれ、恐れ入るね』

『あはは!VGのグラインドブレード無駄になっちまったな』

『タリサ〜、それあなたも装備してるの忘れてないかしら?』

『うげっ!それは言うなよステラぁ』

『さっき「こいつは絶対いる!これで掘ったら楽だろ!」とか言ってたのにな』

『VGぃぃぃぃ!!!!』

 

『篁中尉。その、アルゴスはいつもあんな感じなのか?』

『あ、あぁ。大体あんな感じだ』

『イーダルとは違うな.......』

『でもみんな、あったかい色だよ』

『そう。ならいいわね、イーニァ』

 

『前に長嶺閣下の事は其方らから聞いていたが.......』

『なんか、突っ込むのも烏滸がましい位の化け物だよなぁ.......』

『総隊長殿はアレがデフォですから』

『悪い人ではないんですけどねぇ』

『総隊長、化け物』

『総長について行ったら楽しいんだが、命のストックはいるよなぁ』

『でもすごく優しいわよ?』

『敵にはドン引きするレベルで恐ろしい上に容赦ないけどな』

 

各隊、結構緩い感じで雑談を楽しんでいる。だが数分もすれば、何やらだだっ広い空間に出た。恐らく天井まで数百mはあるであろう、物凄く広い空間である。

 

「なんだこりゃ」

 

『戦術機でも余裕だな。普通に戦闘機動が取れるぞ』

 

『ハイヴの中というのは、こういう風になっているのか.......』

 

周囲をライトを照らしてみるが、BETAもいない巨大な広間である。周りは岩で覆われていて、特段これといった特殊な物はない。だが1つ、岩ではない何かがあった。

 

『アイリス!』

 

『どうしたテオドール!』

 

『コイツだけ岩と違わないか?』

 

『シュヴァルツ01より各機、こっちに来てくれ!謎の物体を発見した!!』

 

アイリスディーナの報告に、広間内に散らばっていた各部隊が集まる。テオドールが見つけた謎の物体というのは、まるで門や隔壁のような物であった。しかもかなり巨大である。

 

『なんだこれは.......』

 

『恐らくこの奥に、このハイヴの核的なヤツがいるんだろ。大体ゲームとかSFじゃ、こういうのはお約束だ。おーい霞桜の皆さん!周りに何かないか?』

 

「ないわよこーちゃん!」

 

「こっちもだ!」

 

「何かある。ここだけ、違う」

 

レリックは地面に何かを見つけた。ライトで照らすと、そこだけが岩ではなく目の前の隔壁のような物の素材とよく似ている。恐らくこれが鍵とかそういう物なのだろう。

 

「ちょっと見せてくださいねぇ.......」

 

「どうだグリム?」

 

「流石にエイリアンのシステムは専門外ですよ。ですが構造とか配置が地球のものと同じプロセスであるならば、恐らくこれが鍵の役目をしているだと思います。これをどうにかすれば、隔壁は開けるかもしれません」

 

「でも危険。これ、かなりの高電圧。破壊すれば最後、戦術機でも死ぬ」

 

グリムは元天才ハッカーであり、グリムは霞桜の技術屋。こういう時に頼りになる。どう破壊したものかと考えていると、いきなり地面が揺れ出した。地震かと思ったら、壁からなんか気持ち悪い巨大ミミズみたいのが顔を出し、口を開くと大量のBETAが現れる。しかもご丁寧に要塞級までいる。

 

「BETAかよ!!」

 

『戦闘配置!!距離に注意しろ!!!!』

 

幸い光線級はいないらしいが、それでもかなりの数だ。恐らく万単位はいる。しかもこれだけ狭いと、流石に戦い辛い。だが長嶺&霞桜の人間からすれば、こういう戦いは大の得意だ。

 

「ベアキブル突っ込め!!カルファン遊撃!!グリム!!2人を援護しろ!!マーリン後方援護!!バルク火力拘束!!レリックは固めた奴を片端から殺せぇ!!!!!!」

 

「うっしゃぁぁぁぁぉ!!!!!!!」

 

「ふふ。逝っちゃえ。ザーコ❤️」

 

「2人の邪魔はさせませんよ?」

 

「全く。ウチの部隊は血の気が多くて、困りますね!」

 

「レクイエムはまだ始まったばかりだぜ?一緒に歌おうやBETA共!!!!」

 

「上ガラ空き。殺す。素材一杯。万歳」

 

大暴れする霞桜の大隊長達。普通ならBETA1体でも逃げ出したくなるというのに、それをたった7人で数万倍の数と戦い、その上善戦するという訳の分からない状況に衛士達も気を取られるが、コイツらの後ろには更なる上が居やがりました。

 

「たしかアレ、強酸性の触手だよな。しかも伸びる。よし、ぶった斬って鞭にしよう!!」

 

なんと長嶺、頭のおかしい事に要塞級の尻尾みたいな部分を切り落とし、それを掴んでぶん回して鞭のようにしてBETAと戦い始めたのである。

 

「思った通り!!ぶん回して当たれば酸が出て溶けるし、そもそも先が硬いから単純な打撃にも使える!!!!」

 

『要塞級の尾を武器にして暴れてる.......』

 

『なっ.......』

 

『こ、こえぇ.......』

 

『あんな事、できるのね.......』

 

『本当に人間がどうか怪しくなってきたぞ.......』

 

もう皆さんドン引きである。しかも長嶺、それだけでは終わりません。まだ生きてる要塞級を掴んで持ち上げて、そのまま地面に叩き落としてBETAを串刺しにしたり、要撃級の爪を切り落として、それをぶん投げて要塞級の脳天貫いたり、あるいは爪を持ってブルドーザーのようにBETAに突っ込んで轢き殺したりと、かなりヤベェ戦い方をしていた。お陰で周囲のBETAは掃討できたが、なんか何とも言えない雰囲気となる。

 

『げ、元帥閣下?そ、その、あの戦い方は.......』

 

「ん?良い戦い方だろ。やはり戦場で有り合わせのものを組み合わせて戦うことも、兵士には大事なのだよ。うんうん」

 

『あぁ、はい.......』

 

『諦めるなアイリス.......。アンタの言わんとしてる事は正しい』

 

『そうですよ大尉殿!アレはあっちがおかしいんですから』

 

『流石、グリム達の上官というべきか.......』

 

衛士達は声を大にして言いたい「そういう次元じゃねぇ!!!!」と。というかあんな人類滅ぼし軍の、それも現在進行形で世界を滅ぼしにかかってる連中に、あんなヤベェ戦い方で勝たれたら、色々複雑である。

 

『さーて、この隔壁をどうにかしねぇとな。雷蔵くん、何か方法はあるか?』

 

「うーん?とりあえず、殴るか」

 

『殴るっt』

「ドラアァァァァ!!!!!!」

 

普通に隔壁をぶん殴る雷蔵。それで開いたら苦労はしないが、なんと普通に凹んでしまっている。多分これいけると確信した長嶺は、2、3発殴って蹴りも入れてみると、本当に突破できてしまった。

 

「なんか開いたわ」

 

『えぇ!?』

 

『もう、突っ込むのも疲れて来たな.......』

 

『お兄さんすごーい!!』

 

とりあえず中に進んでみると、中は気色悪く光る空間で、真ん中になんかいる。レーザー照射粘膜みたいな目を6つ持ち、無数の触手を生やした、明らかなボス的な奴がいた。

 

『取り敢えず全員に魔法をかける。翻訳(トランスレーション)!』

 

神谷が魔法を掛けた直後、触手がこちらに飛んできた。即座に各機が応戦し撃退すると、例のボスが話し始めた。口はないのだが、声が聞こえる。

 

「災害、排除する」

 

『こちらは大日本皇国統合軍、統合軍総司令長官神谷浩三元帥。直ちに戦闘行動をやめられたい!』

 

「大日本、該当ない。皇国、該当ない。統合軍、該当ない。総司令長官、該当ない。神谷浩三該当ない。元帥、該当ない。戦闘行動、該当ない」

 

『これまで散々やって来た事だろうが侵略者!!』

 

「戦闘、認識。侵略、該当ない。我々の目的は資源回収。重大災害に対処する」

 

ラスボス野郎は触手を勢いよく伸ばし、Su37UBの左腕に触手を突き刺す。その左腕はモーターブレードを起動させ、自らのコックピットブロックに腕を刺そうとする。

 

『何してるクリスカ!!』

 

『制御を受け付けない!!!!』

 

『助けてユウヤ!!!!』

 

「何が災害だ」

 

次の瞬間、長嶺が素早く触手を切り裂いた。そのままラスボスの目の前に突っ込み、愛刀の弦月と閻魔を突きつける。

 

「おい、よく見ろ。俺は煉獄の主人、アマテラス・シン。テメェらがこれ以上、俺の家族や仲間に手ェ出すってならぶっ殺す」

 

ラスボスは何も言わずに、触手を長嶺に突き刺そうとしてくる。だがその前に艤装で触手を全部撃退し、無力化する。

 

「そうか。これがテメェの答えか。テメェらの飼い主につたえやがれ!!お前らが何億何兆のBETAを送り込もうがな、俺達人類は全てを殲滅する!!!!人類を舐めるなよ!!!!戦士を舐めるなよ!!!!!!有象無象の区別なく、俺達の道を邪魔するものは殺すのみ!!!!!!!!」

 

長嶺はゼロ距離で指向できる全ての砲塔で、ラスボスを撃った。ラスボスは跡形もなく消し飛び、地上にいたBETA達も動かなくなる。作戦は成功した。地上でも司令部でも、全員が喜んでいた。

だが、まだ終わりではないらしい。鳳凰が隕石を見つけたのだ。それもBETAのエントリーシップと思われる、BETAの母船である。この事は未だ地下にいる神谷の元にも連絡が入った。

 

『みんな、まだ終わりじゃないらしい!BETAの母船、およそ200隻が接近中だ!!!!』

 

「はあぁ!?!?」

 

『まだ終わってないのかよ!!』

 

『BETAさんよぉ、空気読んでくれよ!今のは大団円って流れだったろうが!!!』

 

取り敢えず全員を魔法で地表に戻すと、地表は既に地獄であった。活動再開したBETAが群れをなして、こちらに接近中だったのだ。恐らくその数、億単位はくだらない。

 

「どうするよ神谷さん!!」

 

『雷蔵くんは宇宙の方をどうにかしてくれ!他は全力でBETAを撃退するぞ!!』

 

神谷は地上に戻るや否や、59式ハングドマンを展開。チャージを開始する。他にもハングドマンを装備している者はそれを構え、チャージを開始する。

 

『一斉撃ち方、撃てぇぇ!!!!』

 

物凄い轟音と共に放たれた伊邪那美弾が、BETA先頭集団を殲滅。だがそれでも、焼け石に水である。母数が多すぎて、大した被害になっていないのだ。

それでも各機が応戦を続ける。ミサイル、MPBM、大砲、機関砲、使える武器全てを使って攻撃を続けとにかく削りまくる。海軍の支援砲撃、そして皇国空軍のA10彗星IIによる近接航空支援を使い、さらには極帝と八咫烏&犬神も暴れるが、あまり効いていない。

 

『超位魔法!黒き豊穣への貢(イア・シュブニグラス)!!!!』

 

超位魔法も連発するが、効果は薄い。だがそれでも、召喚された黒い仔山羊たちが暴れてくれる。それで数は減るはずだ。

その間長嶺はとにかく上に上がりまくる。色々な情報が来るが、どうやら一隻だけ一際大きなヤツがあるらしく、これが所謂旗艦であると推測できるのだという。恐らく、これを撃退すればBETAも止まるだろうと予測されているらしい。一応、既に機動空中要塞『鳳凰』とストーンヘンジなんかが迎撃を開始しているらしいが、数が多すぎて地上と同様に焼け石に水らしい。

 

「素粒子砲、射撃準備!エネルギー充填開始、バイパス接続。エネルギー正常に伝達中」

 

右側の艤装に搭載された巨大な砲身が変形し、正面と左右の砲口がせり出す。エネルギーが充填されている証拠である紫色の光が、段々と砲口に宿り出す。

 

「スコープ解放。ターゲティング開始」

 

長嶺の顔の前に、水色の水晶体の様な半透明のディスプレイが現れる。画面には様々な素粒子砲に関する情報、例えばエネルギーの充填率とか各部の破損状況とか様々な情報が列挙されていた。真ん中には照準を定めるためのスコープ画面が映されており、それを旗艦に合わせる。

 

「ターゲットロック。オールビット、ビーム!!」

 

ビームビットを射線に配置し、素粒子砲のビームをさらに加速させるべくビームを掃射させるのだ。

 

「素粒子砲、発射!!!!!」

 

ギュゴォォォォォォォォォ!!!!!

 

紫色の15本のビームは一本に纏まり、さらにビームビットによって威力と速力が加速度的に上昇。最強の一撃、言うなれば『真・素粒子砲』となって旗艦級目掛けて飛んで行く。だが、ダメだった。

 

「クソ、そんなのありかよ!!!!」

 

素粒子砲の照準は完璧だったのだが、命中直前に周りの母艦級が盾になってしまい、旗艦の仮称司令船級に届かなかったのだ。今の一撃で母艦級も片手で数えるほどしか残らない程度に殲滅したが、これ以上接近されると迎撃困難になる。しかも最悪なことに、この船団の目的地は日本。それも東京だと言う。かなりヤバい。

 

『こちらゴールドフォックス!!周りのに阻まれた!!!!攻撃に失敗!!!!!』

 

「くっ.......。そうだ長官!極帝を使いましょう!!」

 

「極帝、いけるか!?」

 

「あの高度、流石の我とて無理だ!!」

 

「クソッ!!!!」

 

『総員、対ショック、対閃光防御!!』

 

「え!?」

 

その時無線から聞いたことがないはずなのに、どこか聞き覚えのある声が聞こえて来た。そして、神谷も知っているとあるアニメ作品でそのまま使われていた口上。

 

『3、2、1!』

 

神谷の脳裏に、電撃的に見た事も聞いたことも無いはずの風景がフラッシュバックする。彼、いや。彼らが来たのだと、そう分かった。今から何をするのかというのも含めて、全てが分かった気がした。

 

「スタングレネード!全員目を覆え!」

 

色々間に合わず無線にそれだけ怒鳴るのが精一杯だったが、白亜衆もエルフ五等分の嫁も衛士達も即座に動いた。長嶺もずば抜けた反射神経でとっさに目を覆っている。

 

『発射!』

 

強烈な閃光と轟音。そして一筋の青白い極太ビームが空を駆けた。稲妻を纏ったそれは一直線に大気を切り裂き、BETAの群れへと突進する。

今度もまた、母艦級が司令船級の盾になろうと前に出たが、その極太ビームは母艦級を一撃で真っ二つにし、そのまま司令船級へと直撃した。

言葉にできない凄まじい悲鳴のような音が響く。そして青白い閃光の中で、司令船級の身体がまるで紙か布が破れるようにボロボロに崩れ、その形を失っていった。司令船級をぶち抜いたビームは、後ろにいた1体の母艦級すらも貫通し、そのまま虚空の彼方へと飛んでいく。

地上には眩しい閃光と凄まじい爆風が吹き荒れており、流石の長嶺といえども両手を顔の前にかざして目を守るのが精一杯だった。だが、これだけの好機、見逃すはずがない。

 

「誰だか知らんが、良い一撃だ!!!!真・素粒子砲、発射ァァァァァァ!!!!!!!!!」

 

ギュゴォォォォォォォォォ!!!!!

 

残る敵全てを焼き払う。誰かは知らないが、援護してくれたまだ見ぬ友軍が作った一瞬。無駄にはしない。放たれた一撃は、残る全ての母船を破壊し尽くす。

 

「全目標の破壊確認!!!!」

 

次の瞬間、地上は大歓声に包まれた。

さてさて、さっきの謎の友軍は誰であろう。その戦艦は『鳳凰』が展開するのとは別の空域に浮かんでいた。全長265メートルの巨体を持つそれは、一見すると大和型戦艦を空中に浮かべたように見える。だが所々異なる艤装の形状、艦底部から突き出た第三艦橋、そして艦首に開いた巨大な穴が、それが大和型戦艦とは全くの別物だということを物語る。

 

「敵超大型船の撃沈を確認!さらに周囲にいた大型船も2隻撃沈しました!」

 

オペレーターからの報告を受けて、ゴーグルを外した若い男性……堺 修一は頷いた。そして静かに命令を下す。

 

任務完了(ミッションオーヴァー)これより帰還する(RTB)

 

それを聞いて、艦長席に座っていた長身の女性…艦娘の大和に戦闘班カラーの森船務長のボディースーツを着せたような女性が尋ねた。

 

「え、これだけで良いんですか?」

 

どうせなら会いに行ったりすれば良いのに、という考えであったが、ヤマトの質問に堺提督は両手を後頭部で組み合わせながら答えた。

 

「これ以上できることなんてないよ。主役の方々の出番奪っちゃ駄目でしょ、読者の皆様に悪い」

 

「何訳わかんないこと言ってるんですか提督」

 

ジト目のヤマトの質問を華麗にスルーして、堺は声を張り上げた。

 

「さて、帰ろう!あいつらがウチに侵攻してきたら洒落にならないし、戻って守りを固める」

 

実はハイヴとの戦闘の最中、またしてもタウイタウイ泊地が転移してきていたのだ。だが戦闘のどさくさに紛れる結果になってしまい、大日本皇国側でも観測できなかったのである。

転移が発覚してすぐ、堺は周辺の状況調査を命令。その中で電波情報に耳を傾けていたヤマトが、多数の無線交信を拾ったのだ。それらは強度の弱い暗号文であり、片っ端から解読していくとそれがなんと大日本皇国のものであることが判明。そしてどうやら、宇宙から飛来する敵と交戦しているらしいことが分かったのだ。

堺はすぐに「この敵がタウイタウイに侵攻してくる可能性が否定できない。先手を打ち、できれば大気圏外でこの敵を叩く」と決め、泊地を艦娘たちに任せて単身ヤマトで出撃してきたのである。そして司令船級と母艦級からなる部隊を発見し、神谷が指令のため使っている無線チャンネルを電波ジャックして警告を発した後に波動砲をぶっ放した、というわけであった。

 

「にしても、なんでさk——————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぁ?」

 

神谷は海中に潜む『日ノ本』の艦内で目が覚めた。頭がボーッとしているが、何が何だか分からない。ふとデスクにあるパソコンに目が止まり、画面を覗き込む。メールが1件来ていて、アドレスも知らない上に件名と本文はなく添付ファイルだけが付いていた。開いてみるとデータが入っていて、その名前には『龍が如く計画』とある。

 

「.......またこのパターンかい。作ってみても良いかもな。もしかしたら、BETAが来るかもしれねぇし」

 

開いてみると、浄龍を筆頭とした戦術機の技術が大量に入っていたのだ。今や現実なのか夢なのか幻なのか分からないが、この世界でも作ってみても良いかもしれないと思った。意外と衛士生活も楽しかったのだ。

神谷は部屋を出て歩き出す。皇国はまだ戦争中だ。今日はミリシアルで会議もある。

 

「「さぁーて、戦争の時間だ」」

 

 




はい、というわけで終わりましたお正月スペシャル!超大長編となりましたが、ここまでお付き合いくださりありがとうございます!
さて、ここで1つお知らせなのですが、マジでこれ書くのに疲れたので来週分は休ませてください。再来週より投稿を再開致します。次回は最強国家の方を更新するので、どうぞお楽しみに!因みに最強提督は、次回より新章開幕となります!


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第八十四話神谷幕僚団

国防総省庁舎襲撃より2日後 究極超戦艦『日ノ本』 執務室

「しくじったぁ。ダードラとかいう工作員、こっちで身柄確保すりゃ良かった.......」

 

「浩ちゃんが失敗って珍しいね。何があったの?」

 

「昨日のミリシアル国防総省の襲撃。あの絵を描いたダードラって人物、死んだ」

 

「え!?」

 

前回からずっとお正月スペシャルだったので、この本編時間軸上での出来事を忘れてしまった読者もいる事だろう。(ぶっちゃけ私も忘れていました)という訳で、一体何があったのかを軽く説明したい。

神谷と向上のコンビは、今後の対グラ・バルカス帝国戦略、厳密には旧レイフォル及びその首都レイフォリア攻略の為の戦略会議に赴いていたのだ。取り敢えず当面の戦略が決まりかけていたその時、古の傍迷惑国家ことラヴァナール帝国の遺物が使用されて、ミリシアル兵が操り人形と化し、神谷ら各国将軍を殺しにやってきた。帝国が何やらキナ臭い動きをしている事は事前に把握していた為、即座に反撃しこれを撃破。更にはこの襲撃を描いたという工作員、ダードラという人物の確保に成功した所で、前回は終わっている。

 

「それ、情報源死んだってこと?」

 

「情報源どころの話じゃねーのよ。言うなれば事件はほぼお蔵入りだ。あの後ミリシアル側の憲兵に引き渡したんだが、なんか移送中だか施設に入った後だかで、口内に仕込んでた毒薬噛んで自決したらしい。

お陰で情報は何も搾り取れず、対策の仕様も何もあったもんじゃない」

 

「なんか原因が魔帝の遺物なんだっけ?」

 

「らしい。とは言え、皇国はこと魔法&魔導技術においては最底辺もいい所。その手の技術に関しては、こちらの世界流で言えば蛮族どころか原始人だ。

しかも今回使った洗脳装置だか催眠装置の魔導具は、レイチェルの言う通り魔帝の遺物。オマケにアガルタのゴウン魔導将がちょっと知ってるってだけで、ミリシアルは知らない。というかぶっちゃけゴウン魔導将も偶々文献漁った時にチラッと見た程度で、実情はほぼ謎の魔導具だ。お陰で各国共に対策の仕様はない」

 

一応、ミリシアル側は各地の基地及び重要な政府機関施設の警備レベルを上げ、首都一帯には警戒の為の部隊を派遣してお茶を濁し、帝都ルーンポリスには実質的な戒厳令が敷かれている。

とは言え今回はあくまで兵隊だったが、これがもし一般市民に使われたらかなり面倒な事になる。もしも例えば大学やショッピンセンターの様な人が多く集まる場所で使用された場合、市民が暴徒化して暴れる可能性すらある。無論所詮は戦闘経験のない雑魚にすぎない。本気さえ出せば、鎮圧自体は容易だろう。だが、本質はそこではない。国内の暴徒を鎮圧するという行為は、本来護るべき国民に対し武器を構えるという事に他ならない。現場の兵士に伸し掛かる精神的ショックやストレスは計り知れない上に、これを政治的に利用された日には現政権への不満増大や最悪の場合は崩壊に直結する。

これは皇国でも他人事ではない。もし皇国で同じ事が起きた場合、対処や鎮圧こそ出来ても、その後に残る後始末は並大抵のものではない。最悪、自分と一色のクビが飛ぶ可能性もある。少なくとも国会は面倒な事になるだろう。

 

「でもさぁ、怖いよねぇ。人間が操られるなんて。まるでゾンビみたい」

 

「どっちも対処したくねーよ。とは言え、何にも対処しない訳にもいかない。取り敢えず、警備強化の指示だけは出しとかないと。

それにダードラの言葉を信じるなら、あんまり気にしすぎない方がいいかもしれない」

 

「どういう事?」

 

「魔帝の遺物とやらは各国で見つかっているが、今回集まった軍の代表の顔を見る限り、この手のブツが出てきた事は恐らく殆ど無かった。つまりその遺物も、かなり貴重性が高い。つまりは超レアアイテムって事だ」

 

ゲーマーでもあるレイチェルは、1発でその意味が分かった。超レアアイテムというのは、まず見つからない上に手に入りにくい。その上、使われにくい。

 

「つまり、そもそもの母数が少ない上に、レアすぎて早々に使えないって事だね!仮に使うとしたら、ボス戦みたいな特別な時とか格上相手の時だけ」

 

「そういうこと。さーて、とっとと帰還して作戦を練らないと」

 

この後、『日ノ本』は1週間程かけてムーの首都オタハイトに寄港。神谷ら会議参加組と作戦に参加した兵士達を降ろし、補給を済ませてから皇国へと帰還していった。

一方その頃、グラ・バルカス帝国の帝都ラグナの帝王府庁舎の地下会議室では、帝国の根幹を揺るがしかねない会議が行われていた。

 

「…以上がデス・スタンピード作戦の報告となります」

 

「ほう。この世界特有の世迷言や、単なる妄想かと思えば.......。Dr.マグーラよ、複製はできぬのか?」

 

「流石に我が帝国の科学技術を持ってしましても、あの様な代物は複製困難、いえ。不可能だと言って良いでしょう。仕組みが全く分かりません。ご期待に添えず、申し訳ありませぬバイツ皇太子殿下」

 

未だ本編登場2回目のバイツであるが、現在の帝国内はこの男無しには語れない。兄であるグラ・カバルが戦死した事で、バイツは王位継承権の序列が上がり、皇太子の位についた。元より「武のカバル、智のバイツ」と言われていただけあって、皇太子としての職務はカバル以上にこなせていた。

しかしここに来て、バイツの奥底に眠っていたエリート思想が表に出始め、最近では皇太子権限で色々やる様になっている。その最たる物がリザレクション計画であり、デス・スタンピード作戦は計画の一部である。このリザレクション計画とは、一言で言えばバイツの成り上がり計画である。現状の帝国の基本方針及び皇帝グラ・ルークスの考えは、レイフォルを絶対防衛圏とし護りを固めて、態勢を立て直そうという物。だが一方で帝国内部でも徹底抗戦を唱える者も多くいる。リザレクション計画ではそう言った徹底抗戦派の各派閥をバイツの名の下に統合し、その派閥を持って国の意見を徹底抗戦の一本化した後、これまでのツケを払ってもらうという物である。

 

「よい。リザレクション計画には、どのみち必ず必要という訳ではない。必要なのは少ない人員で、ミリシアル帝国軍の首脳部を攻撃し、失敗こそすれ多大な戦果を挙げたという事実なのだ。少ない人員で、大きな戦果を上げる。これ程に効率的な物はない。

とは言え、やはり複製ができず何度も使えない、というのは何とも勿体なくも思う。無理なのは分かっているが、やはり欲を張ってしまうな」

 

「それはバイツ皇太子殿下ではなくとも、誰しもが思うことかと愚考致します」

 

「ありがとう、カーツ。さて、それで次の作戦、どうするつもりか?」

 

「今回使った物は魔導具、つまりは魔法を用いた装置なのですが、次は趣向を変えまして、この錬金術で作られた秘薬を用いてみようかと」

 

マグーラは資料の束を取り出し、会議の参加者達に配っていく。因みにこのマグーラとは、帝国の天才技術者にしてマッドサイエンティストである。これまで捕虜や占領地民、時には自国民にすら実験を施してきた。結構ヤバいことをしている為、軍内部でもかなり嫌われている。だがバイツはこの男を心底気に入っており、今では1番の協力者でもある。

 

「ふむ。つまりこの薬、不死の薬ということか?」

 

「少し違います。不死というよりは、一時的に頑丈になると言った方が近いでしょう。心臓か頭を破壊、もしくは首を刎ねなくては基本死にません。手足をちょん切っても、生きていますからね。しかし1週間しか持ちません」

 

「1週間しか持たないとは、どういう意味だ?1週間の夢という事か?」

 

「この秘薬を飲むか吸った者は、強靭な肉体を手に入れ痛覚が消え失せ、不死に近い効能を会得しますが、身体は1週間しか持たないのです。しかしそれはあくまで、個人の話。この秘薬の効果が出た者は、非服用者に噛み付くことで、その数を鼠算に増やすのです」

 

まるでゾンビウイルスである。バイツはその話を聞くと、ニヤリと笑いマグーラの手を取った。

 

「面白い!我が名の下、好きにやるが良い!!」

 

「ありがたき幸せに御座います!では実験の候補地なのですが、パガンダ島で行おうかと思っております」

 

「理由はあるのか?」

 

「えぇ。まず島ですので、外には出られない。現地民の数が多い上に、帝国の入植民は少ない。そして軍事基地はあるものの、あくまで予備の補給拠点。最悪の事態になったとしても、どうとでも出来ます。もしもの場合、殿下が陛下に上奏した上で軍を差し向け焼き払えば良いでしょう。

それにデス・スタンピード作戦の際に送り込んだ諜報員の話によれば、パガンダ島には近々皇国の攻勢があるとか。上手くいけば皇国にも蔓延するやもしれません」

 

「それは良いではないか!うむ、ぜひやってくれたまえ!!」

 

ある意味、こういう面ではカバルの方が良いのかもしれない。というのも基本的にこの入植者達というのは、帝国内でも貧しい者達なのが多い。企業が入植してる場合もあるが、基本的には貧乏一家や家を継げない者達といった、社会的な弱者が行っていることが多い。カバルは誰であれ帝国臣民であれば全力で守るが、バイツは帝国臣民なのは一定階層以上の者にすぎず、スラム街の人間なんかは単なるゴミか血筋のいい蛮族という認識なのだ。

 

「喜んで!ではこの秘薬投与作戦についてですが、方法としては噴霧器での散布と、民間人への直接投与にしようかと思っております」

 

「何か理由でもあるのか?」

 

「当初は動物、例えばネズミ等に感染させ、それを放って広めるつもりでしたが、これではもし船舶に紛れ込んだ場合に別の他にも飛び火する可能性があります。植民地だけならいざ知らず、本土にまで来られては敵いませんからな。

そこで噴霧器と、直接投与者を各地に配置し、効果を見てみようかと思います。方法は後から検討致しますが、適当な人員を拉致するか何かしらの飲食物に混ぜるかになるでしょう」

 

「よろしい!では本作戦を『アンブレラ作戦』とし、実行段階に移す。すぐに準備をなせ!全ては帝国の勝利と更なる発展、そして引いては我が父、グラ・ルークス皇帝陛下の為に!!」

 

「「「「「御意!!!!!」」」」」

 

まるでクーデターでも練ってそうなノリであったが、バイツの行動原理はあくまでも帝国の勝利の為であり、ひいては父であるルークスの為である。ルークスは全ての国家を帝国の統治下に置き、恒久平和の世を作ろうとしているらしく、その礎になろうとしているのだ。クーデターを起こしたり、ルークスを暗殺して自分が王になるべく暗躍してる訳ではない。

一方で同じ頃、同じく帝都ラグナの中心に聳え立つニブルス城では、軍の高官達とルークスによる帝都の防衛策に関する会議が開かれていた。

 

「してジークスよ、新たな帝都防衛網とは何なのだ?」

 

「ハッ。陛下に於かれましては、既に本土防衛に於いて守らなければならない前線の要所をご理解されているとは思われますが、今一度再確認させて頂きます。

仮にレイフォル、またはレイフォリアが陥落した場合、帝都本土では南東部に広がるパラス海岸線、西部に広がるゴーリバル海岸線に敵部隊は上陸すると考えられます。それ以外の地点では海流が激しかったり、単純に海岸線が狭いため、大規模上陸には不向きです」

 

帝国本土というのは、実は結構海流が荒い上に数種類の海流がぶつかる地点も散見される魔の海域でもある。故に大型艦では問題ないが、上陸用舟艇の様な小型船では危険な海域も割と多くある。これが自然の防壁となり、これまで幾度となく上陸を諦めさせてきたのだ。

 

「更にこのムリムン海峡。ここも要所となります。ここは外海と内海を繋ぐ出入り口ですので、ここを抑えられますと海軍の身動きが取りにくくなります」

 

「やはり今も昔も変わらんな。だが皇国を含め、航空機が多く配備されている。幾ら自然の防護壁と鉄壁の防御陣地を築こうと、空から飛び越されてしまえばそれまでであろう?そこはどうするのだ?」

 

「それに関しましても、既に対策を指示しております。こちらをご覧ください」

 

ジークスが合図をすると、帝国本土とその周辺の地図が広げられ、ジークスの手元に作戦立案時に使う駒が準備される。

 

「現在、本土周辺の島々、それから元々監視所になっていたプラントに、各種レーダー設備の設営を開始しております。更に海軍には小型砲艦の増産要請と、空軍にはレーダー搭載型の複座機の開発を要請しており、これらを用いて早期警戒網を構築予定です。

基本的には据え置き式と小型砲艦のレーダーにて敵編隊を探知し、その後、空軍機による偵察、もしくは目視での確認を行なってもらい、当該航空隊にスクランブルが掛かる手筈となっております」

 

「貴様の事だ、まだ何か仕掛けがあるのだろう?」

 

「戦法はここまでですが、スクランブル対応する機体は迎撃任務に特化した新型機を割り当てます。

更に帝都の他、大都市や重要な工場施設等には防空塔を建設し、新型のレーダー連動式の高射砲を配置する予定です。尚、この防空塔は避難施設として一般人を収容することも可能な設計ですので、緊急時には避難所として機能します」

 

これまでとは違い、今後の戦場は帝国の本土。流石にその防衛につぎ込めるリソースは、これまでの各植民地とは一線を画す。それに加え、防衛戦の天才たるジークスの手腕も加われば鉄壁の要塞に本土は生まれ変わる。とは言え、幾ら防御を固めようと皇国には関係ない。レーダー連動式の高射砲を備えた対空陣地だろうが、最新式の迎撃戦闘機だろうが、幾重にも重ねられた早期警戒ラインだろうが、その程度で皇国が歩みを止める訳がない。ECM、ステルス技術、ミサイル等々、その手の手段は皇国はもう通り過ぎている。どうとでも出来るのだ。

この後も更に会議は続き、着々と帝国本土防衛の様々な対策が皇帝の名の下認可され、加速度的に要塞化が進むのであった。

 

 

 

翌々日 ムー リュウセイ基地 皇国軍専用会議室

「という訳だ野郎共。青写真を書くとしようや」

 

会議室に集まっているのは、向上を筆頭とした神谷戦闘団の指揮官達である。これまで神谷戦闘団の規模に関しては何度か語られてきたが、今回はこれまで謎に包まれてきた戦闘団の幕僚達を少し紹介しよう。

さてさてまずは、これまで判明している指揮官達を振り返って行こうと思う。まずは神谷戦闘団のトップ。団長は勿論、皇国が誇る戦う長官。神谷浩三・修羅元帥。そして戦闘団の副長にして、幕僚達の纏め役は推しが絡むとキャラ崩壊する『鉄砲頭』向上六郎大佐である。向上は白亜衆隷下の赤衣鉄砲隊の隊長も兼任している。同じく白亜衆隷下の部隊で判明しているのは、特殊戦闘隊こと『白亜の戦乙女(ワルキューレ)』。指揮官は神谷の嫁にして、エルフ五等分の花嫁の長女、ヘルミーナ・ナゴ・神谷中尉。神谷戦闘団隷下で判明しているのは、第86独立機動打撃群(エイティシックス)の指揮官、長谷川麗奈大佐である。ここまでが神谷戦闘団の、既に判明している幕僚達だ。

次はいよいよ、これまで判明していなかった幕僚達。まずは歩兵。三個歩兵師団からなる機動歩兵師団『ファランクス』。指揮官はプライベートでは自称パチンカスやってる癖して、普通にプロ並みの腕を持つ五反田仁大佐。もう1つの歩兵部隊、二個重装歩兵師団からなる前衛歩兵師団『オーレンファング』。指揮官は有能だが変態の愛すべきゴリラ、遠藤龍二大佐。46式を装備する二個戦車師団からなる突撃装甲師団『アサルトタイガー』の指揮官は、釣りと狩りのスペシャリスト、奈良山純也大佐。六個砲兵連隊からなる超重砲兵連隊『グラディエイターヴィーナス』の指揮官は、よく炊事班に混ざる隠れ板長、海原雄三大佐。三個対戦車ヘリコプター隊『ブラックスター』の隊長は、クルーザーと船舶免許を持ってる大神田通憲少佐。神谷戦闘団専門の輸送部隊、特別輸送航空隊『トランサー』の指揮官は、神谷専用機の機長も務めるジェネラルトランサーこと大空翔大尉。

最後に白亜衆。白亜衆の特別機動歩兵連隊『ラグナロク』の指揮官は、スキーの元オリンピック強化選手、槍河健吾大佐。特別突撃歩兵連隊『アルマゲドン』の指揮官は、ボディービルダー並みの筋肉とヤクザ顔を持ちながらシルバニアファミリーが好きなギャップ王、権田川力也大佐。

他にも補給とか広報関連の幕僚はいるが、彼らは基本、戦闘には参加しない為、また次の機会に見送ろう。以上11人が神谷戦闘団の幕僚達である。

 

「あれ、龍さんは?」

 

「そういやトイレに行くって言ったきり、一度も姿を見てない。確かミッチーもついていってなかったか?」

 

幕僚間では基本的に階級に関係なく、各々の愛称で呼ばれてる。五反田は仁、パチンカス、子供部屋監督。遠藤は龍、ゴリラ、犯罪者予備軍。奈良山は釣り人、チタタプ、ジュン、純水おっさん。海原は海原雄山、雄山。大神田は校長、プラモデラー、ミッチー。大空は翔、魚博士、船長。槍河はヤリケン、スキーヤー、ハルクバスター。権田川はシリアルキラー、ハルク、リキバニア。長谷川はブラッディレジーナ、女王陛下、乙女畑。ヘルミーナは姫様、騎士様、奥方様。

ぶっちゃけマトモなのが少ないが、基本的にコイツらもあんまりマトモではないので気にしてはいけない。

  

「いやアイツ、大に入ったから1人で出てきたんだが.......」

 

「それ、どのぐらい前?」

 

「2時間」

 

「.......行くか。トイレ」

 

大神田の一声に、槍川、五反田、大神田が付いていく。4人はトイレに行ったが、誰もいなかった。

 

「いねぇな」

 

「おらへんなぁ」

 

権田川と槍河がそう呟いた瞬間、1番奥のトイレの扉がそっと開いた。中には遠藤がいる。いるのだが、フルチンで尻が便座にすっぱりハマってしまっている。

 

「.......」

 

「「「「.......」」」」

 

遠藤は喜んでる様な、悲しんでいる様な、悟っている様な、なんとも言えない表情で4人で見つめ、涙を一滴こぼす。

 

「.......抜けなく..............なっちゃった.......」

 

「「「「.......」」」」

 

4人は何も言わず、そして何もせずにトイレから出ていった。遠藤?放置のままである。

 

「〜♪......ッ!?ごり、じゃなくて遠藤さん!?!?何やってんすかぁ!!!!」

 

この後、遠藤は通りすがった神谷戦闘団の兵士に救出されたらしいが、会議に出ることはなかった。

 

「で、遠藤は?」

 

「彼奴は、いい男でしたよ。団長」

 

「あ、うん。わかった」

 

五反田が遠い目をしながらそう言ったのを見て、何か面白い状況になってコイツらしっかり見捨ててきた事を見抜いた。ならばこちらも、それに乗るしかないだろう。

 

「で、では、これより戦略会議を始めます。まずは長官、状況を」

 

「今回の作戦は来るレイフォル奪還作戦の前段に当たる。本作戦は同時並行で、2つの島を占領する事が求められる。我ら神谷戦闘団と第二海兵師団はイルネティア島、第七海兵師団はパガンダ島を攻略する手筈だ」

 

「団長、パガンダ島の方が面積は広かったはず。それではバランスが悪いのでは?」

 

「海原の言う通り、バランスとしてはかなり悪い。だがこれを見て貰えれば、その理由がよくわかるはずだ」

 

神谷が立体映像で、2つの島と周辺海域の地図を表示させる。北にイルネティア島、パガンダ島は南に数十キロ離れた位置にある。

 

「確かにイルネティア島の方が狭い。だが地形を見てほしい。見ての通り、イルネティア島は全体的に平坦な土地が多い。だが一方のパガンダ島は山あり谷あり森林ありの、かなり複雑な地形をしている。お陰で、基地の方も少ないんだ。

一方のイルネティア島は島の大きさの割に、基地の数は大小色々ある上に、東と南にはそれぞれオリオン級2隻とペガスス級を筆頭とする主力艦で構成された艦隊が配置されてる始末だ。これを倒すんだ、俺達が出るしかないだろ?」

 

衛星や偵察機からの情報を精査した結果、パガンダ島は完全なサブ拠点。補給施設や小規模な航空基地しかない事が分かっている。一方のイルネティア島の方は大型の航空基地も有する上に、先述の艦隊が駐留している拠点である。当初は神谷戦闘団のみで当たる予定だったが、急遽、第二海兵師団を投入することにしたのだ。

 

「理由は分かりましたが、イルネティアにはどの様な戦力が?」

 

「東のイースティリア港にはオリオン級2隻以下、タウルス級4隻、レオ級3隻、キャニス・メジャー級6隻の15隻。南のサーザン港にはペガスス級1隻、アルドラ級1隻、レア級3隻、エクレウス級3隻、キャニスメジャー級9隻の17隻が確認されている。航空戦力もかなりの物らしい。アンタレス戦闘機の他、シリウス型爆撃機、リゲル型雷撃機も大量に確認されている。恐らく100機ずつくらいはいるだろうとのことだ。

ここまで海空共に、旧式となりつつある戦力だ。だが地上戦力は、どうやら最新式の物が集まっているらしい。これを見てくれ」

 

映像が切り替わり、今度は戦車が出てきた。だが明らかにこれまでのシェイファーとハウンドではない。

 

「新たに確認されたのはブル軽戦車。40mm機関砲を搭載し、40kmという快速を持つらしい。レトリバー中戦車、75mm戦車砲を搭載している。ドーベル重戦車、90mm戦車砲を搭載している。シェパード装甲車。所謂ハーフトラックで兵員輸送車型の他、対空トラック、ロケット砲、自走砲等々、いくつかのバリエーションが確認されている。

そして恐らく、1番俺達の敵となり得るのがこのカチューシャだ。60本のレールに、合計120発のロケット弾を搭載している。恐らくコイツの面制圧は、我々にとってもかなりの脅威となるだろう」

 

「へっ。問題ねぇや!46式で踏み潰してやる!!」

 

「落ち着け奈良山。だが、見ての通り元は唯のトラック。そこまで防弾対策もされていない。戦車は勿論、歩兵でも対処は可能だ。だが気を抜けば足元掬われて終いだ」

 

戦車にしろハーフトラックにしろ、皇国軍の敵ではない。だがロケット弾だけは話が変わってくる。ロケット弾を雨霰の様に落とされては、幾ら甲冑を着込んでいようと戦死するし、最悪の場合は戦車すらも行動不能に陥れかねない。誘導性はないとはいえ弾幕を張られては、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるで、何処かで命中してしまうだろう。

 

「だったらまずは、どう料理するか考えんとな」

 

「おぉ。海原先生が調理法を考えておられるぞ」

 

「校長、そちらのヘリは使えんか?」

 

「トラック相手なら、こっちのロケット弾と機関砲はかなり有効だ。それにこの手のロケット砲は、完全な対地上用。対空目標へはたかが知れてる。悪くはない」

 

先述の通り、この手のトラックは防弾性能なんて皆無。やろうと思えばライフルの乱射でも破壊できるだろう。しかも対空攻撃は近接信管も無しにできる訳もない為、パイロットとしてはこの上ないターゲットだ。

 

「あの、1つ私に案があります」

 

「女王陛下の策、しかと聞きましょうぞ」

 

「揶揄わないでください閣下!もう!」

 

「すまんすまん。で、作戦ってなんだ?」

 

「コホン。47式を使って、相手に撃たせればいいんです。47式の装備で相手の指揮通信網に潜入して、そのまま偽情報を送って見当違いの方向に全弾撃って貰い、撃ち切ったところをこちらから攻める。弾の節約にもなる上、兵の安全も確保できると思います」

 

長谷川は稀に、こういう奇想天外の作戦を出してきてくれる。いつもは若い組からは妹感覚でイジられたり、おっさん共は姪っ子か娘と接する感じで可愛がるが、それでも神谷が直々にスカウトしてきただけあって、その潜在能力は計り知れない。ブラッディレジーナに女王陛下。この2つの異名を持つに相応しい働きをする為、他の幕僚達や兵士達も敬意を持ってそう呼ぶのだ。

 

「団長、そうなりゃ俺とゴリラの装甲歩兵でも、容易う殲滅できるで!」

 

「いえ。うちと冥人の通常歩兵かて、制圧できるやろう。これなら安全に攻略できる上、なんなら鹵獲する事もできるかと」

 

白亜衆の2人もこの案には賛成らしい。白亜衆の中でも指折りの2人が言うのだ、間違いないだろう。

 

「ならカチューシャへの対応策はこれで行こう。とは言え、まだ決めなければならない事は大量にある。基地への対策、全体的な戦略、まだまだ山積みだ」

 

あくまでカチューシャ対策は、単なる一戦術に過ぎない。本題の戦略部分はまだ決まってないのだから、会議は終わらない。

 

「これわし達だけでっちゅうのんは、えらい無茶な話やんな」

 

「ヤリケンちゃん。第三海兵師団もいるからな?」

 

「にしたって無理な話や。この島を電撃戦で攻略したとして、えらい時間がかかってまう。幾ら精鋭の我が戦闘団でも、えらいめんどい筈やろ?」

 

槍河の言葉に他の面子も項垂れる。そうなのだ。幾ら神谷戦闘団でも、この規模の島を堕とすのはかなり面倒臭い。島全体が要塞みたいになっている上に、一応警戒はしないと殺される可能性のある装備。無論ベルカ式国防戦略よろしく、核爆弾を自国領内で起爆させる暴挙にでも出られたら勝てないだろうが、まあまずありはしないので勝ちはするだろう。だがそれでも、面倒なのは変わらない。

 

「あー、その事なんだけどな。実はその辺り、どうにかできるかも知れん」

 

「団長、そらどういう意味ですかい?」

 

「こんな事もあろうかと、ICIBが現地で諜報活動と現地民の懐柔をやってくれている。更に言えば彼方さんには自前のレジスタンス組織が複数あるらしくてな、ICIBのパラミリチームが軍事教練を施している。両組織からの要請でムーと皇国の余剰兵器、大量に輸送してあるし雑兵とか後詰めにはなるだろう」

 

「それでその余剰兵器というのは、どの様な物ですかな?」

 

「確か皇国からは89式、それからガバメントだな。銃は基本的にムーの余剰品を回してもらってる。皇国はどっちかっていうと、大型兵器とか対戦車兵器とかだな。パンツァーファウスト3とかカールグスタフ、それから軽装甲機動車と高機動車を送り込んであるらしい。無論、それに搭載する機関銃も添えてある」

 

一気に神谷戦闘団の面々の顔が引き攣った。その装備、普通に第二文明圏相当なら真っ向勝負ができる重装備だ。どう考えてもこの世界レベルでは、その装備は反乱軍ではなく正規軍である。

 

「な、なんというかそれは.......」

 

「一周回って恐ろしい装備であるな.......」

 

「何驚いてるんだ。会議を続けるぞー」

 

因みにこの武器供与、全てにGPSトラッカーが仕込まれてるので持ち逃げしようとしても分かる上に、車両に関してはC4を組み込んである為、鹵獲されればドカンである。

会議はこの後数時間にわたって続き、イルネティア島奪還作戦は1ヶ月後に定められ、幕僚達は本格的な準備に入った。尚、尻がハマった遠藤は、後日便座の修理費用として30万円が請求されたらしい。




・五反田 仁(ごたんだ ひとし)
年齢 33歳
階級 大佐
異名 神谷の冥人(くろうど)
神谷戦闘団隷下、機動歩兵師団『ファランクス』の師団長。神谷には劣るが、高い格闘センスを持っておりCQC、CQBでは部隊内随一の腕前を誇る。『神谷の冥人』というのも名前が本家本元と同じというのもあるが、その格闘性能故の戦闘スタイル、本人の口調が武士っぽいというのも理由である。
そんな猛者である一方、プライベートではプロ並みの腕前を持つ自称パチンカスでもある。パチンコ業界では『店舗殺し』とか『キングボンビー』と言われてるらしく、フラーっと現れては景品を根こそぎ奪っていくらしい。尚、たまに大損する事もある。最近は若い兵を捕まえては、パチンカスの道に引き摺り込む行為を行っており、本人は「布教」と言っているが何人か既にパチンカス入りを果たしている。

・遠藤 龍二(えんどう りゅうじ)
年齢 35歳
階級 大佐
異名 不動明王
神谷戦闘団隷下、前衛歩兵師団『オーレンファング』師団長。かなりの怪力を誇り、兵士2人を持ち上げるなんて造作もなく行えるパワーを持っている事からゴリラとも言われる。高い指揮能力を持っており、仲間を鼓舞し、自らも装甲甲冑を纏い、常に最前線で身体を張って必ず仲間を護り抜く事から不動明王の異名を持つ。
が、しかし!コイツは重度の変態であり、宿舎の自室で全裸でヨガを始めたり、よくフルチンになったり、全裸で屋上で寝てたり、極めてアウトというかもう一部一線を超えてる犯罪者の様な気がするが、一応犯罪者予備軍ということになっている。

・奈良山 純也(ならやま じゅんや)
年齢 52歳
階級 大佐
異名 戦車殺しの死神
神谷戦闘団隷下、突撃装甲師団『アサルトタイガー』師団長。戦車を操らせたら皇国随一の戦車乗りであり、単独戦闘も友軍各兵科との連携戦でも遺憾無く能力を発揮する高いポテンシャルを持つ。34式戦車改の連装砲を生かした2両同時撃破戦法を編み出した張本人であり、伝説の戦車乗りである。
プライベートでは雑誌やテレビに出る程の腕前を持つ釣りと狩りの名人であり、地元山梨の猟友会にも所属している。本人曰くアイヌ民族の血が入ってるらしく、良く獲れたての獲物をチタタプにしたりしてるらしい。

・海原 雄三(うみはら ゆうぞう)
年齢 58歳
階級 大佐
異名 戦場の調律師
神谷戦闘団隷下、超重砲兵連隊『グラディエイターヴィーナス』連隊長。神谷幕僚団の中で唯一、全軍の指揮を任せられる戦略家である。実際、神谷が留守の際はこの男が代理指揮官を務める。砲兵という兵科の特性上、最後方から戦況を見る為、指揮能力が自然と身につき、更には要請前に的確な支援砲撃を行ってくれる神技を持つ。普通ならそれで味方が死にかねない危険な行為であるが、これまで訓練でも実戦でも一度たりとも誤射した事はなく、兵士達もその腕を信頼している為、最強の武器として機能する。
そんな海原であるが、大の料理好き。実家が代々料理人の家であり、弟は赤坂に料亭を構える程の腕であり、本人もそれに勝るとも劣らない腕を持つ。年が近い事から奈良山との親交が深く、良く2人で海や山に繰り出しては、奈良山が獲った獲物をその場で調理してくれる。更に戦闘団の裏料理長兼花板であり、良く炊事場にひょっこり現れては料理を作っている。名前も相まって、海原雄山とも言われている。

・大神田 通憲(おおかんだ みちのり)
年齢 38歳
階級 少佐
異名 天空の魔王閣下
神谷戦闘団隷下、対戦車ヘリコプター隊『ブラックスター』の隊長。AH32薩摩のテストパイロットを務めた経験もある、凄腕パイロット。その戦果はかなりの物で、通算76台という皇国一の戦車撃破数を誇る。数だけ聞くと少なく感じるが、あくまで転移前の話である上、大東亜事変のみの戦果である。無論転移後も破壊しまくっており、戦車、装甲車相当の兵器もカウントに入れれば余裕で500を超える。
こんな男であるが、陸では趣味のプラモデルに命をかけるプラモデラーである。軍事系の物を作らせたら右に出る物はおらず、実際の戦場を経験した兵士だからこそ出せるリアリティで高い評価を得ており、雑誌からのオファーやコンテストの審査員なんかもやっている。

・大空 翔(おおぞら かける)
年齢 31歳
階級 大尉
異名 トランスポーター
神谷戦闘団隷下、特別輸送航空隊『トランサー』の指揮官にして、神谷専用機、コールサイン「ジェネラルトランサー」の機長。元は戦闘機パイロット志望だった事もあってかなり高い操縦センスを持っており、その腕はエース級である。実際に訓練ではあるが、第206戦術戦闘飛行隊『ラーズグリーズ』の追撃をノーダメージで交わし切った猛者である。
そんな恐ろしいパイロットではあるが、プライベートでは漁師だった父の影響で1級船舶免許を持ち、自前のクルーザーも保有している。その為、年は離れているがよく奈良山を海釣りに連れて行き、それに海原も同乗してるので、この2人と仲がいい。

・長谷川 麗奈(はせがわ れいな)
年齢 24歳
階級 大佐
異名 鮮血女王(ブラッディレジーナ)陛下
神谷戦闘団隷下、第86独立機動打撃群(エイティシックス)の指揮官。まあ名前からお察しの通り、エイティシックスのレーナと瓜二つである。XMLT1土蜘蛛を唯一運用する部隊であり、皇国一の機動力を持った機甲戦力である。その美しくも可愛らしい見た目とは裏腹に、超有能かつ作戦もかなりハードで容赦ないエグいのを持ってくる神谷戦闘団に恥じない指揮官である。隊内では同年代からは妹、年配組からは姪っ子か孫みたいに思われており、めっちゃ可愛がられている。
今後の神谷戦闘団を背負っていくホープではあるが、プライベートではかなり乙女を拗らせている。清純無垢を絵に描いたような性格で、想い人の千葉真影と手を繋いだだけで頭がオーバーヒートしかけ、少しでも千葉に関係あることになれば最後、稀にオーバーヒートの結果、気絶する事もしばしば。その姿を見る度に、マジで砂糖をゲロゲロしそうになると評判である。

・槍河 健吾(やりかわ けんご)
年齢 28歳
階級 大佐
異名 戦公家
神谷戦闘団白亜衆隷下、特別機動歩兵連隊『ラグナロク』の連隊長。元スキーのオリンピック強化選手であり、冬季戦技訓練隊を歴代トップの成績で卒業した猛者であり、狙撃の名手でもある。本人曰くオリンピックには興味ないらしく、国内大会でレコードを塗り替えた後、ひっそりと引退している。今では普通にスキーを楽しんでいる。
遠縁ではあるが、藤原氏と宮家の血を引いているらしく、とんでもなく途方もない順番ではあるが一応皇位継承権を持ってはいる。とは言えまず天皇になり得る事はなく、不謹慎ではあるが東京が核で皇族諸共死に絶えて漸く皇位継承の道が見えるとかの次元らしい。とは言え京都に本家を構える名家の出である為、京都弁を話し見た目も儚かさを醸し出すイケメンである。

・権田川 力也(ごんだがわ りきや)
年齢 29歳
階級 大佐
異名 白いハルク
神谷戦闘団白亜衆隷下、特別突撃歩兵連隊『アルマゲドン』の連隊長。ボディービルダー並みの肉体とヤクザ顔を併せ持ち、その見た目通り、性格もかなり凶暴である。所謂単細胞とか、頭まで筋肉、力こそパワーの典型であるが、野生の勘が凄まじく、普通にそれで乗り切っていく。大阪の出身で、子供の頃から何処かに遊びに行っては喧嘩三昧だったらしい。
とまあかなり怖いが、普段は基本的に優しく趣味はシルバニアファミリーとかいう可愛い一面を持つ。とは言えシルバニアファミリーでお人形遊びするのではなく、殺人現場とか拷問シーンとかそういうR15ないしR17.9なノリをやっている子供、特に女の子には見せてはならないジオラマを作ってはTwitterやブログに投稿している。偶に大神田もそれに乗っかる為、かなりリアルでヤベェ代物が出来上がる事もある。その独特な世界観から、リキバニアと名付けられた。

・ヘルミーナ・ナゴ・神谷
年齢 20歳
階級 中尉
異名 神谷の首切りバサミ
神谷戦闘団隷下、特殊戦闘隊『白亜の戦乙女(ワルキューレ)』の隊長にして神谷の妻。エルフ五等分の花嫁の長女であり、その5人で結成された部隊であるのは、言うまでもないだろう。今では公私共に神谷を支える頼れる幕僚であり、指揮能力や作戦立案では他の幕僚には遠く及ばないものの、ゲリラ戦に関しては他の幕僚よりも強い上、この世界への知識や常識面で幕僚達のご意見番をやっている。異名の由来は使用する武器が変形しハサミ上になり、それで首をちょん切れるからである。
その抜群のスタイルに加え、丁寧な物腰とまるで本物の姫であるかのようなルックスも相まって部隊内外、更には広告塔としても活躍している為ファンが多い。お陰で姫や騎士、姫騎士なんて言われたりもしている。


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第八十五話イルネティア上陸戦

数週間後 パガンダ島沖25km 特務艦『スターダスト』

「後どのくらいだ?」

 

「およそ1時間。準備を、アルバート大尉」

 

「あぁ」

 

特務艦『スターダスト』。ぱっと見は帝国内にありふれた極普通の輸送船である。だがその正体はグラ・バルカス帝国情報省管轄の国家情報局の所有する工作船である。

通常の貨物船は大体平均13〜15ノットしか出せない所を、この工作船は軍艦と同様の30ノットを出せる。機銃弾程度には耐えうる装甲を施し、内部には漁船に偽装したボートを格納できる格納庫を有し、野戦砲や対空砲、機関銃架を装備している。

 

「おぉ、大尉殿」

 

「ウォスカー。時間だ、準備しろ」

 

「はいはい。にしても今回の任務、薬を打つだけって逆に怪しいぜ?」

 

アルバートとウォスカー。この2人に課せられた任務は、例のアンブレラ作戦で使用する秘薬、もう面倒なので便宜上ゾンビウイルスとしておくが、このゾンビウイルスを適当な民間人に投与する事である。

このコンビはこれまで様々な困難な任務を切り抜けてきたベテラン工作員であり、常に危険度の高い任務や優先度の高い任務に割り当てられてきた。しかし今回は、言ってしまえば適当に市民とっ捕まえて注射プス。これで任務完了である。簡単すぎて、逆に色々考えてしまうのだ。

 

「ウォスカー。気持ちはわかるが、俺達は工作員だ。命令通りに仕事をこなすだけだ。そこに関してとやかく言う権利はない」

 

「まぁ、そりゃそうだ。ほんじゃま、とっとと終わらせて帰るかな」

 

「あぁ。俺達なら簡単な任務だ。早く終わらせよう」

 

アルバートとウォスカーはボートに乗り込み、パガンダ島内の有りふれた漁港に暗くなるのを待って入港した。そのまま近くの村に忍び込み、機会を待つ。

 

「はぁ〜ぁ。はよー帰りゃにゃ、おっかぁにしかられっぺ」

 

恐らく猟師か何かなのだろう。弓を持った老人が、まあまあの大きさの鳥を2羽担いで歩いてきた。即座にアルバートが背後に忍び寄り、首を締め上げる。

 

「ぐげぇぇぇ.......」

 

「お見事」

 

「ウォスカー、このまま運んでくれ。俺は後、10人ばかし狩ってくる」

 

アルバートはそう言い残すと、夜闇に消えていった。数時間後、アルバートは荷車に人をまるで物の様に乱雑に乗せて合流地点に現れた。

 

「これはまた、かなり大量に持ってきたな」

 

「当然だ。そういう任務だろう?」

 

「そりゃそうか。そんじゃとっとと、そこら辺に並べてくれ。コイツを投与する。後はコイツらを適当な街道に放置して、俺達はトンズラだ」

 

2人は手早く注射でゾンビウイルスを投与すると、適当な街道に昏睡している市民を配置してから離脱し、ボートに乗って『スターダスト』に帰還。

帰還後、イルネティア島に進出していたベガ型爆撃機が飛び立ち、パガンダ島の指定座標にゾンビウイルスを搭載したガス弾を投下していく。当初は噴霧機を使う予定だったが、これでは効果範囲が狭いため、より広範囲をカバーできるガス爆弾を使用することになったのだ。これによりパガンダ島は完全なる地獄と化し、各地でゾンビ化した市民や一部軍人は暴徒となって無差別に襲い始めた。

 

 

 

数日後 究極超戦艦『日ノ本』 中央作戦室

「ジョー、配置艦隊の状況は?」

 

「はっ。既に第三主力艦隊から派遣された艦艇が近海を封鎖しており、援軍及び脱出を阻止できる体制が整っております」

 

「よろしい」

 

パガンダ島がゾンビパンデミックで地獄になってるなんて知る由もない神谷ら攻略部隊は、揚陸艦や『日ノ本』に分乗しイルネティア島南西50kmの海域を航行していた。

 

「最終偵察の報告は?」

 

「間も無く無線が入る予定です」

 

なんて言っていると、丁度偵察機からの報告が来たのだが、その声は何かよからぬ物を見つけてしまった時の様な声である。

 

『か、閣下。パガンダ島にて、暴動が発生しています』

 

「暴動?反乱が発生しているのは好機じゃないか」

 

『い、いえ。それが、どういう訳か一部の住民と軍人が、同じ住民と軍人を襲っているのです!しかも片方は武器を持っていますが、大半が殴るとか蹴るではなく、噛みつきにかかっていて』

 

送られてきた映像には、確かに報告通りの惨状であった。片方は軍人であれば当然銃を持ち、民間人はそこら辺に転がっていたであろう角材や材木、恐らく何かのパーツであったろう鉄棒なんかで戦っている。が、もう片方の勢力は殴る蹴るではなく獣の様に噛み付いて攻撃し、腕をムチの様にしならせてはたく様に攻撃しており、その様はまるでゾンビ映画のそれだ。

 

『CICより中央作戦室!パガンダ島より無線傍受!島内にて狂人化した軍民間人による暴動が発生しており、傷を負った者も暴徒化するとの事です!!』

 

この2つの報告に、部屋にいた全員が顔を見合わせた。明らかにこの感じ、ゾンビ映画かバイオハザードのそれである。

 

「長官。これって、アレですよね?ゾンビパンデミック、バイオハザード的なアレですよね?」

 

「そうだよなぁ。明らかにそれだよなぁ.......」

 

生憎と、今日に至るまでゾンビパンデミックは二次元世界でしか発生していない。こっちのリアルワールドでのゾンビパンデミックなんて、いくらなんでも想定していない訳で流石の神谷と向上、そして『日ノ本』の幕僚達も頭を抱えていた。

 

「取り敢えず、だ。何が原因にしろ、大体こういう時は生化学兵器とか、未知のウイルス兵器とか、古代ウイルスの変異体とかが原因だ。今回は何が原因かは知らんが、負傷した者からゾンビ化、いや。暴徒化するって言うなら、ウイルスとかの可能性が高い。

どういう感染経路が分からない以上、パガンダ島への上陸作戦は延期だな。向上、大宮の中央特殊武器防護隊。アレこっちに回せ」

 

「了解!」

 

「ジョー。封鎖線を更に強固にしておきたい。仮に船舶、航空機がキャリアーにでもなれば事だ。以降、パガンダ島から出発する機体、船舶は引き返させろ。もしもの場合、武力を持って阻止して構わん」

 

「アイ・サー!」

 

「加藤。艦載機部隊で周辺を哨戒させろ。怪しい船舶、航空機、何か見つけられるかもしれん。そこから情報を手に入れられれば万々歳だ」

 

「アイ・サー!」

 

「宗谷。予定を変更し、上陸後はそのまま海中に身を隠せ。緊急時はこの艦が頼りだ」

 

「アイ・サー!」

 

指示を受けた幕僚達は、素早く動く。とは言え神谷も含め、かなり不安を抱えている。それを少しでも薄れさせる為、仕事に打ち込むのだ。

 

「戦略切り替えるかなぁ」

 

こうなってしまった以上、戦略も切り替える他ない。神谷は現有戦力と後方に残している戦力と敵戦力を見比べて、戦略と今回の作戦に参加する兵力を調節していく。

 

「こんな所か?」

 

参加兵力

大日本皇国軍

◯イルネティア島攻略部隊

・神谷戦闘団

・第二海兵師団

 

◯パガンダ島攻略部隊→待機部隊

・第七海兵師団

 

◯攻略支援艦隊

・究極超戦艦『日ノ本』

・第三、第八揚陸艦隊

・鳳翔型 3隻

・摩耶型 3隻

・浦風型 6隻

・神風型 6隻

・第三前衛潜水戦隊

 

 

◯封鎖艦隊

・第一、第二、第五潜水戦隊

・第三前衛遊撃艦隊

 

◯支援航空隊

・AC140 10機

・第九○八〜第九一一航空隊

・第一○○三〜第一○○九航空隊

 

◯現地部隊

・ICIBエージェント 60名

・JMIBパラミリチーム 20名

 

 

グラ・バルカス帝国軍

◯イルネティア守備隊

・ブル軽戦車 120両

・軽戦車シェイファーII 320両

・レトレバー中戦車 80両

・中戦車ハウンド 230両

・ドーベル重戦車 45両

・自走砲アシッド 180両

・シェパード装甲車 200両

・シェパード装甲車対空型 70両

・シェパード装甲車ロケット砲型 50両

・シェパード装甲車自走砲型 85両

・シェパード装甲車指揮通信型 10両

・トラック 120台

・ジープ 284台

・バイク 80台

・側車 35台

・150mm榴弾砲*1 60門

・105mmカノン砲*2 80門

・80mm野砲*3 129門

・80mm機動野砲*4 78門

・長75mm野砲*5 112門

・47mm対戦車砲*6 157門

・25mm機銃 147基

・25mm連装機銃 84基

・25mm三連装機銃 98基

・12.7mm重機関銃 146挺

・7.7mm重機関銃 285挺

 

◯イルネティア航空隊

・アンタレス型戦闘機 120機

・シリウス型爆撃機 150機

・リゲル型雷撃機 90機

・シュリアク型爆撃機 20機

 

◯イルネティア防衛艦隊

・オリオン級 2隻

・ペガスス級 1隻

・アルドラ級 1隻

・タウルス級 4隻

・レオ級 6隻

・エクレウス級 3隻

・キャニス・メジャー級 15隻

・水雷艇 30隻

・駆潜艇 20隻

・輸送船 15隻

・タンカー 20隻

 

 

ご覧の通り、お互いガチ編成である。衛星と偵察機からの情報では、沿岸部にはシェイファーIIとハウンドが固定砲台として運用されているらしく、さしもの皇国軍とて無策に突っ込めばかなりの被害を被るだろう。

皇国軍が最も危険に晒されるとすれば、それは上陸中である。幾ら歩兵戦闘車程度の戦車でも、歩兵には十二分に通用する上、例え46式戦車だろうと上陸用舟艇ごと沈められては手も足も出ない。しかし戦艦は今回連れてきていない上、この『日ノ本』も上陸部隊を展開したら海中に身を隠す。となると航空機で徹底的に爆撃する他ない。

 

「失礼します」

 

「どうした向上?」

 

「防護隊からの報告をお持ちしました。展開までは、最短でも4日から1週間は掛かるとの事です」

 

「そんなに掛かるか?」

 

幾ら中央特殊武器防護隊が他よりも特殊とは言え、流石にちょっとかかりすぎである。ムーまでは空路で1日あれば到着するので、準備を含めても2日か3日あれば到着できる筈だ。

 

「いえ。戦線への到達自体は2日もあれば完了するらしいのですが、そこから除染準備やパンデミックへの対応などを考慮すると、その位は掛かるそうです。向こうとしても、未知の生化学兵器の可能性が高い以上、万全の準備と支援体制を取りたいとの事でして」

 

「まあ背に腹は変えられない。そういう事なら、こちらは一度イルネティア島解放に注力するとしよう。裏を返せば、1週間もイルネティア島攻略に使えるんだ。ラッキーと思おう」

 

1週間もあれば、イルネティア島程度の島、簡単に解放できる。しかも今回は現地民の多くは、こちら側についてくれている。JMIBのパラミリチームが既に軍事教練を施し、こちら側についている各集落や街にはICIBエージェントが先んじて潜入し、連絡役を担ってくれる。

作戦が開始されれば元々中枢に潜り込んでるエージェントが動く手筈だし、パラミリチームも全ては無理でも1チーム位は動ける筈だ。それに現地民ゲリラは撹乱に使え、ゲリラでなくとも普通の一般人も買い物ついでに情報を集めて来てもらう事も出来る。「どこどこの街に、なんか軍人が多く出入りしていた」とか「こんな連中を見かけた」なんて情報でも、こちらとしては大助かりである。運が良ければ、食料や医薬品の支援も受けられる可能性すらある。この戦争、これ程やりやすい事はない。

 

『艦橋より中央作戦室。間も無く作戦ポイントです』

 

「どうやら時間らしい。行くぞ」

 

神谷と向上は艦艇部にある、ウェルドック区画へと降りる。既にウェルドックの上にある車両格納区画から、ウェルドック区画に車両が降ろされており、現在は艦艇への積み込み作業と固定作業が行われていた。

 

「オーライオーライオーライ、ストーップ」

 

「戦車入れるぞ下がれ下がれ」

 

「よし。コイツはオーケーだ!次の来い!」

 

その上では天井に吊り下げられたLCHHに、装甲車と兵員の搭載作業が行われている。このLCHHは新たに開発されたLCUの後継であり、LCUと同程度の搭載量と、それ以上の速度と武装を備えた所謂水中翼船である。

更に今回は新兵器、ALCACとHLCACも搭載してきている。ALCACは重武装重装甲のLCACというかホバークラフト艦とでも言うべき兵器であり、70mm機関砲も全方位多目的ミサイルランチャーすら備えたLCACである。HLCACはぶっちゃけ巨大化しただけのLCACなのだが、コイツは一つだけヤベェ機能がある。それが…

 

「オラ退け退け!!46式のお通りだぁ!!」

 

皇国最強の陸の王者、46式戦車が搭載可能なのである。これまで海兵隊では34式戦車は運用できていたが、46式とその相方である34式戦車改はLCACに搭載できなかった。しかしHLCACの登場により、海兵隊でも46式の打撃力を運用できる様になったのだ。

ただでさえ戦車は厄介だと言うのに、その戦車を破壊どころか踏み潰し、戦車砲を軽々と弾き、戦艦並みの大砲を備えた戦車が上陸してくるとか控えめに言って最悪この上ない。尚、HLCACの武装は機関銃程度な上、洋上から流石に主砲をぶっ放せないので、もし46式が乗ったHLCACが現れたらHLCACごと沈めよう。ALCACに乗せられていた場合は、まあ、辞世の句を詠んだ上で現実逃避しよう。

 

「浩三よ、遅いぞ」

 

「アーシャか。準備は?」

 

「無論できている。他の姉妹達も準備完了だ。さぁ、早く行こう」

 

アーシャを先頭に、今回乗り込むALCACに向かう。途中、乗り込み作業中の兵士達が敬礼で3人を迎えてくれる。それに歩きながら返礼する訳だが、進むごとに道が勝手に開けられていくのでまるで観閲式みたいになる。だがそんな普通では、なんだか神谷戦闘団らしくない。神谷はALCACのタラップに足を掛けた時、後ろを向いて兵士達の顔を見る。

 

「野郎共!!準備はいいか!!!!!!」

 

「「「「「応!!!!!!」」」」」

 

「戦意は十分か!!!!!!」

 

「「「「「応!!!!!!」」」」」

 

「暴れるぞ!!!!!!!!!!!!」

 

「「「「「応ぉぉぉぉ!!!!!!!!!」」」」」

 

これでこそ神谷戦闘団である。兵士達の顔付きが一気に自信に満ち溢れた顔付きになり、心なしか作業能率も上がっている様に思える。神谷がALCACに乗り込むと、奥から奈良山がやってくる。

 

「流石ですぜ団長。兵士の士気が上がってる」

 

「あぁ、これこそ神谷戦闘団の真髄だろう?」

 

「ははっ。違ぇねぇや」

 

奈良山は当然ではあるが、機動甲冑ではなくデジタル迷彩が施された通称『戦車服』を着用している。この服は装甲車、戦車、自走砲の搭乗員が着る服であり、大破した時に引っ張り出せる様、服自体に取っ手が付いている。更に長時間座っていても疲れない様、電気マッサージ機能が付いていたり、不意の衝撃から保護する為にプロテクターも入っている。

靴も緊急時に脱ぎやすい様に、ファスナーとマジックテープで止める戦車靴という特殊な物だし、ヘルメットも首まで覆い枕がわりにもなる特別性である。ゴーグルには甲冑と同じ様に車両のダメージなんかの分かるHUD機能が搭載されており、性能的には甲冑にも劣らない代物だ。

 

「それで、何か用か?」

 

「.......パガンダ島、何が起きました?」

 

「マジな話、何が何やら。取り敢えず様子見だ。だが俺達は、イルネティアの後はその何が何やら分からない戦場の、その最前線に殴り込むだろう」

 

「おぉおぉ、怖い怖い。怖いんで俺は、戦車に引っ込んでますよ」

 

神谷戦闘団の中でも、奈良山と海原の2人は勘が鋭い。副官で最も近くにいる向上ですら気づかない事でも、この2人は普通に気付く事がある。今回のパガンダ島の件も、神谷戦闘団の人間で知ってるのは向上だけで、他はまだ伝えていない。上陸後に伝えはするが、今は知るよしがない。にも関わらず、神谷に聞いてくる辺り軽く恐ろしいすらある。

だが2人とも言えるのは、必ずneed not to knowの原則を一応は守ってくれる。知りたがりで聞きはするが、あくまでそれだけ。そこから話を広める事も、こちらが本当に隠したい時は聞いてくる事もない。

 

「長官、そろそろ」

 

「もうそんな時間か。そんじゃま、始めるか!」

 

神谷と向上は、ALCACの艦橋に上がる。艦橋では既に艇長以下、乗組員達が配置についている。

 

「閣下、よろしくお願い致します」

 

「あぁ、こちらこそ頼む。俺達を地上に無事送り届けてくれ。君の責任は重いよ?もし途中で死んだら、二階級降格な」

 

「閣下。それは無理な話です。もし死んだら、今ここにいる者全員漏れなく三途の川を仲良く渡る羽目になるでしょうからな」

 

二階級降格なんて勿論冗談である。それを察した艇長は、すぐにそれに乗ってきて更なる冗談で返した。その結果、艦橋にいる人間からも笑みが溢れる。

 

「さぁ閣下。では、出航致しますよ。機関始動!空気注入開始!!」

 

「機関始動、エンジンプロペラ逆回転」

 

「空気注入口解放。コンプレッサー作動」

 

ALCACの後方から甲高くも、物凄い轟音が鳴り響き、徐々に船体が持ち上がっていく。エンジンの方は聞き慣れてはいるが、この艦がフワリと持ち上がっていく感覚はかなり変な感じだ。エレベーターとかで上に上がる感じではなく、結構不規則に持ち上がっていくのだ。バランス崩して倒れたりはないが、それでもやはり謎の浮遊感は違和感がある。

 

「こちらALCAC1号。出撃準備完了した」

 

『コントロール了解。ハッチを解放する』

 

通常の揚陸艦の後部ハッチと違い、この『日ノ本』は潜水機能が付いていたり単純に装甲が分厚かったりするので、ハッチは何枚も折り重なっている。まず観音開きで1番外が開き、そこから上下開きのハッチ、左右開きのハッチ、四隅開きのハッチが開いて、最後にスロープになるハッチが開くという、かなり大掛かりなプロセスを挟む。

だがそのハッチが開いていく様は、まるでSFのワンシーンの様にカッコいいというかロマン溢れるので、実はかなり燃えるシーン故か乗組員達には人気だったりする。

 

「ALCAC1号、出撃!!」

 

ALCACとHLCACがバックで続々と出撃していく。その数、ALCACが600隻、HLCACが800隻である。エアクッション艇の展開が完了すると、次は天井からレールがせり出してくる。レールが伸び切ると、天井に吊るされていたLCHHが射出されていく。着水寸前で水中翼を展開しながら海上に着水し、そのまま加速して上陸地点を目指す。

さらにこれに呼応して、他の揚陸艦隊からも同様に上陸部隊が出撃し、空母と強襲揚陸艦からは戦闘機隊とヘリコプター部隊、そして『日ノ本』からはトランサーのAVC1突空が飛び立つ。ヘリコプターとトランサーの目的は語るべくもないが、戦闘機隊に関してはかなり重要な役目を帯びている。というのもこの上陸作戦で、皇国が最も警戒するのは水際防衛と艦隊である。再三語っている通り、上陸用舟艇、今回で言えばHLCACやLCHHに搭乗している間は基本身動きが取れないな上、そもそもの船が装甲も薄ければ武装も貧弱である。ALCACは別だが、それでも防衛艦隊が出張ってきたら流石に、大立ち回りして掻い潜る事はまず不可能だ。そこでまずは、この艦隊と沿岸の防衛設備を一掃する。

 

『デッドアイより全機。仕事の時間だ。港の全てを破壊せよ。どうせ皇国とは技術レベルが違いすぎて、残ったところでマトモに使えるのは殆どない。先にこちらで壊してやろう』

 

「聞いたな馬鹿共。攻撃開始だ、続け!!」

 

戦闘機隊が群れをなして、イルネティア島東部のイースティリア港に殺到する。その翼下や胴体には、ミサイル、爆弾、ロケットが大量に抱えられており、イースティリア港程度であれば簡単に血祭りに挙げられる装備だ。

 

 

 

同時刻 イースティリア港 監視塔

「最近、ムーの方はヤバいらしいな」

 

「えぇ。噂じゃ、ここを拠点に反攻作戦に出るとか」

 

「そんな余力があるのかねぇ?」

 

「上はカバル殿下の敵討だって燃えてるらしいです。最も、陛下や軍の高官の殆どは防衛戦に舵を切るつもりらしいですけどね」

 

「おぉ、流石は方面総監の息子だ。その手の話は情報が集めやすいらしいな」

 

2人がいるのは港の監視塔であり、本来なら双眼鏡片手に海や空を見張らなくてはならない。だがこの2人は普通に仕事そっちのけで雑談をしており、完全に弛みきっていた。次の瞬間、GB8流星が命中。500kgの爆弾が、監視塔の上部フロアを完全に吹き飛ばし2人は何が起こったか知る間も無く消し飛んだ。

この攻撃を合図にするかの様に、港には空母艦載機隊が雲霞の如く殺到。いつも通りの日常が続くはずだった港を、一瞬で地獄の戦場に変えた。

 

「敵襲ー!!!!!」

 

「対空戦闘用意!!!!」

 

「走れ走れ!!銃座に取り付け!!!!」

 

港では怒号とサイレンと対空戦闘用意のラッパが鳴り響き、一気に大騒ぎとなる。兵士達は兵舎から飛び出して銃座に滑り込み、弾薬庫を開けて換えのマガジンやら何やらを引っ張り出す。

陸で大騒ぎの中、洋上に浮かぶ艦隊も同様に動き出す。こちらもラッパが鳴り響き、水兵達が銃座に滑り込む。

 

「缶の出力上がらずとも、ここで戦うぞ!!給電急げ!!!!」

 

「艦長!上陸してる者はどうされますか!?」

 

「もう間に合わん!艦内の手空きの者は、直ちに銃座に付けろ!!上陸してる者は各自の判断で、港湾守備隊の指揮下に入り全力で港を守るのだ!!!!」

 

「了解!!」

 

動くまでに時間が掛かる大型艦と違い、駆逐艦や水雷艇の様な小型艇はすぐに動き出し、戦闘を開始する。だが音速を超えて飛ぶジェット機相手に、手動の機関砲では照準が追いつかない。

 

「手始めに駆逐艦からやるか」

 

駆逐艦程度であればASM4の様な対艦ミサイルを使わずとも、AGM103旋風の様な対地ミサイルで事足りる。素早く主砲と魚雷発射管、それから煙突と艦橋に照準をロックして旋風を撃ち込む。

 

「ふ、噴進だ——」

 

「ヒュー、ビンゴだ」

 

元は戦車を破壊する為のミサイル。駆逐艦程度であれば、武装を破壊する事だって余裕だ。しかも主砲と魚雷という、火薬てんこ盛りの部分がやられたのだ。大爆発を起こした上に、艦橋が吹き飛んだ事で艦長以下、幹部連中は軒並み戦死。更に煙突がやられた事で機関室にはガスが充満し、たった数秒で駆逐艦は地獄となる。

 

「は、班長!!」

 

「情けねぇ声出すな!!まだコイツは沈まな、うおっとぉ!?」

 

「また爆発してます!魚雷の方がやられてるんですよ!!艦も傾斜してますって!!」

 

水兵達は右往左往するばかりで、教科書通りの混乱を引き起こしていた。その内、弾薬庫にも火が回り、着弾から1分としないうちに大爆発を起こした。

 

「駆逐艦がやられた!!」

 

「正面から来るぞ!!!!撃て撃て!!!!!」

 

駆逐艦以下の装甲しか持たない、というか何ならほぼゼロと言っていい水雷艇や駆潜艇は、機銃掃射で事足りる。20mm機関砲弾が毎秒何百発とばら撒かれるのだ。一溜まりもない。

 

「おー、意外と綺麗な物だな。海に花が咲いた」

 

『いやいや。その下、ミンチと化した兵士の遺体ありますからね?』

 

「ミンチは遺体って言えんのかねぇ?」

 

パイロットの言う通り、爆発の下ではミンチや焦げた肉片となった水兵達が泳いでいる。お陰で魚が嬉々として集まって食べ始めており、かなりのトラウマ映像となっている。まあ戦闘の最中なのだ。敵も味方も、そこまで気にする奴はまずいないし、海中の中は見えない。

 

「燃料貯蔵施設を守り抜け!!ここがやられたら大爆発するぞ!!!そしたらみんなお陀仏だ!!!!!」

 

港北部には巨大な石油タンクがあり、艦艇に搭載するための重油や航空機、車両の燃料がぎっしり詰まっている。つい数日前にタンカーが入港した事で文字通り満タンになっており、今ここで流れ弾でも当たれば大爆発を引き起こし、パイプで隣接しているタンカーも爆発する可能性すらある。

だから帝国兵も何が何でも守ろうとするが、そんな美味しい獲物をパイロット達は見逃さない。

 

「キャンプファイアーの時間だぜ!!へへっ、食らってみろや!!!!!」

 

翼に取り付けられた100mmロケット弾が、燃料タンクに突き刺さる。大量の可燃物およびガソリンの様な爆発物の中に、ロケット弾が突入すれば大爆発を起こすわけで、攻撃を受けた燃料タンク爆発。そのまま周囲の他の燃料タンクやオイルフィルターなんかにも連鎖的に爆発を起こし、タンクとパイプで繋がっていたタンカーにも炎が逆流して爆発。今度はその爆発が周りの輸送艦にも飛び火し、ラッキーパンチが続いて大戦果を挙げた。

 

「消化急げ!!!!」

 

「うおっ弾けた!!」

 

「油だ!!この炎、油なんだ!!!!水じゃだめだ!!!!!」

 

「どうすんだよこれ!!!!!」

 

油に引火した場合、水をかけると逆に弾けて炎が飛び散る。ご家庭でももし揚げ物中に引火した場合は、鍋や蓋で蓋をするか、濡れたタオルなんかを押し当てて消火するといい。

だがこれは、揚げ物程度の規模だから行える技な訳で、船を覆う火災ではそんな事は出来ない。もうボヤとかそんなレベルの話では無いくらい大炎上している。本来なら泡とかで消火するのだが、そんなご大層な物は輸送船には無い。

 

「あっちぃ!!!」

 

「壁や手すりに触るな!!!!火傷するぞ!!!!!」

 

しかもこれ最悪なことに被弾ではなくとばっちりの火災、言うなれば貰い火なので、船自体に沈む程のダメージはない。無論、機関室とかに巡って爆発を起こせばその限りでは無いが、現状はそこまででは無い。

だが輸送船だろうと、所詮は海に浮かぶ鉄の塊。金属には熱を伝える性質があるので、既に艦の鉄製の部分は大体灼熱のオーブンの様に超熱々に熱せられている。既に靴の底のゴムが溶け始めている始末で、状況は最悪である。

 

「タンカーがまた爆発したぞ!!!!」

 

更にタンカーが爆発したことで、錨と舫い綱が破損。そのまま輸送船は海流に合わせて、海を漂い始める。

 

「ッ!!!?舵故障!操舵不能です!!」

 

「何だとッ!?!?」

 

しかもよりにもよって、舵が壊れてしまった。今の輸送船の状況は機関停止状態で舵が効かない、艦の此方彼方に炎を纏った船である。

何の因果か不幸は続く物で、なんと海流の流れ的に戦艦に進路が固定されてしまった。舵が動けば回避できるかもしれないが、舵はぶっ壊れ機関は動くまでにそもそも半日掛かる。もうどうしようもない。

 

「お、おいっ!!アレこっちに来てないか!?!?」

 

「うおっ!!マジだ!!!!」

 

戦艦の方もそれに気付いたらしいが、もうどうしようもない。戦艦も今すぐには動けず、回避は間に合わない。お互い何もできず数分後、輸送船と戦艦は衝突。そのままお互いに破口が形成され、海水が艦内に流入。沈み始める。

 

「戦艦と輸送船が沈むぞ」

 

『こりゃスクラップ会社の株を買うべきかもな』

 

『あ、サルベージ会社も買っとけ。多分引き上げんだろ。世界にとっては、宝の山だしな』

 

パイロット達は呑気な会話を無線で言い合っている。襲撃からものの15分足らずで、イースティリア港は既に壊滅状態である。海には油が流入した上で引火し、文字通りの炎の海が完成する始末。軽く地獄だ。特に水雷艇と駆潜艇乗りは最悪である。

 

「ア“ ア“ ア“ ア“ ア“!!!!!!」

 

「あぢぃ!!あぢぃよぉ!!!!」

 

服や船自体に引火し、反射的に海に飛び込むが炎の海である以上、飛び込んだ側から重油に塗れながら焼かれる。そのまま火を消そうと海の中に潜っても、全く消えない上に油がまとわりついて身動きが取れない。これに加えて火傷で肌が引き攣って、余計に動けず沈んでいく。完全に地獄の責苦だ。

 

『フィナーレだ。幕を下ろせ』

 

「了解だデッドアイ。全機、海山のロック解除。撃ち尽くせぇ!!!!」

 

8機のF8C震電IIから、合計48発のASM4海山が放たれる。極超音速の異次元の速度で艦隊に迫る。当たれば最後、一撃で巡洋艦クラスなら轟沈せしめる威力のミサイルが群を成して襲いかかっていく。極超音速にミサイルという小型の目標を、人の目では捉える事はまず不可能だ。しかもステルス性能がついている上に、海面スレスレを飛翔してくるので、帝国のレーダーでは捉える事もまず不可能。帝国には存在しないが、仮にECM戦を用いてもECCMで無効化できる。

オマケに今回は、弾頭を月華弾に換装している。エコ・ニュークの異名を持つ、伊邪那美弾頭にも使われているデモリッシャーガスを封入した燃料気化弾だ。その熱は戦艦の装甲だろうと、ドロドロに融解せしめる。ASM4は港にいた艦艇に着弾し、次々に起爆。周辺施設諸共灰燼に帰し、海に沈んでいく。

 

『ミッションコンプリート、RTB』

 

デッドアイからの無線に、全機が高度を取りつつ編隊を組み直し、他の航空隊よりも一足先に空母への帰還の途につく。

一方、南部のサーザン港には、第三潜水戦隊が迫っていた。

 

「潜望鏡深度まで浮上」

 

「メインタンクブロー」

 

艦長が潜望鏡を覗き込む。周りに敵艦は居らず、目の前の港に情報通り艦隊が勢揃いであった。しかも全艦、魚雷の攻撃範囲にしっかりいる。

 

「魚雷戦用意。発射雷数10」

 

「アイ・サー。魚雷戦よーい、魚雷戦よーい。発射雷数10」

 

魚雷室では魚雷が発射管に装填され、蓋が閉まる。後は注水してしまえば、いつでも撃てる状態だ。

 

「発射管注水、完了!」

 

「撃て」

 

放たれた魚雷は有線誘導で、港に停泊中の艦艇目掛けて疾走する。内燃機関を備えた魚雷は窒素が排出され航跡が見え、酸素魚雷だったとしても最初の方なんかは航跡が見えてしまう。だが皇国の場合「俺達のひい祖父さんとかひいひい爺さんは、酸素魚雷を作ったんだ。なら俺達は、水素魚雷作ろうぜ」となり、マジで水素魚雷を作り上げてしまった。その為、排出されるのは水であり、航跡は一切見えない。そんなチート魚雷を放たれては、攻撃されたことに気付く事はない。

 

「続けてミサイル発射管解放。10発撃つ」

 

「アイ・サー。ミサイル発射管、解放!」

 

「撃て」

 

魚雷に続き今度は艦後部に搭載しているミサイル発射管が開き、中からカプセルに収まった対艦ミサイル虎徹が飛び出す。海面に出るとカプセルが割れ、虎徹のエンジンに点火。飛翔を開始する。

魚雷の着弾より遅れる事数秒、虎徹も港に着弾しサーザン港の機能は完全に喪失。イルネティア解放の狼煙はイースティリア港、サーザン港の壊滅と、そこに駐留する防衛艦隊の全滅を持って上がった。

 

 

*1
九六式十五糎榴弾砲に酷似

*2
九二式十糎加農に酷似

*3
九◯式野砲に酷似

*4
機動九◯式野砲に酷似

*5
改造三八式野砲に酷似

*6
一式機動四十七粍速射砲




今回新たに登場した兵器群は、設定中に追加してありますのでぜひご覧ください。また、今後時期を見て設定集の中規模アップデートを計画中です。新たに部隊規模項目の追加を検討しておりまして、現在鋭意製作中です!続報をお待ちください。


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第八十六話イルネティア解放第一段階

同時刻 イルネティア島北方20km ALCAC1号艦橋

「閣下。先発したイースティリア奇襲部隊、並びに第三潜水戦隊より、攻撃成功との報告が入りました。イースティリア港、サーザン港は既にその港湾機能を喪失。停泊していた防衛艦隊、並びに輸送艦は全艦撃沈。戦闘艦艇の撃破数は事前情報の艦艇数と同じである事から、恐らくは全て無力化された物と思われるとの事です」

 

「そうか。ならばこっちも、彼らに続くとしよう。航空隊を突っ込ませろ!」

 

「アイ・サー!!」

 

神谷の指令を受けた艦載機部隊60機が、上陸地点のアーバン要塞に殺到。大量の爆弾とAGM103旋風をばら撒き、効率よく上陸地点を確保していく。普通であればこの攻撃だけで上陸地点は掃討され、続く上陸部隊は簡単に上陸を果たすだろう。だがこのアーバン要塞は違う。

アーバン要塞、というよりイルネティア島とパガンダ島には、そもそもかなりの数の余剰兵器が集められていた。流石の帝国も負けまくって、これはヤバいと焦り色々研究を重ねた結果、見事この2つの島をイルネティア島攻略前に抑えるだろうと結論づけていた。となれば要塞化するべきなのだが、本土の要塞化が決まりこっちは後回しとされてしまった。だが軍部は代替案として、新型戦車に更新され余剰兵器化したハウンドやシェイファーIIといった戦車を派遣。即席の砲台として活用する方法を考案したのだ。

前回のイルネティア島守備部隊の戦車の数が、べらぼうに多かったのはこれが理由である。新型兵器の方は、もしもここを無視してレイフォルに攻め込まれた際、救援部隊として動かせる様にとの意味もあって大量に配備されている。無論、その際はハウンドとシェイファーIIも馳せ参じる手筈だ。

 

「な、何事か!!」

 

「わかりません!!」

 

アーバン要塞司令、ジャーズは何が起きたか何もわからなかった。大きな揺れと爆発音で、恐らく攻撃を受けたことだけはわかった訳だが、どこにどの程度の被害が出たかまでは分からない。

 

「報告!戦車砲台に攻撃を受け、大破炎上中!!被害規模は不明ですが、かなりの数が燃えています!!!!」

 

「何処の国の攻撃であるか!!」

 

「大日本皇国と思われます!!」

 

「くぅ!直ちに警報発令!!本部に連絡だ!!消火はもういい!!周りに引火しそうなのと建物内に煙が入ってくるのだけ消して、残りは戦闘態勢!!あの国のことだ。今のは戦闘開始の号砲にすぎん!!今から来る第二撃第三撃が本命だ!!!!」

 

ジャーズは冷静だった。すぐに次が来ることを見抜き、兵士達に迎撃を命令する。これまでの指揮官は、あんまりこういう咄嗟の行動ができていなかった。ジャーズはそれができるだけ冷静かつ、将軍として最低限の仕事はできる。兵士達もジャーズの命令で、決められた塹壕や点在するトーチカに滑り込み、皇国軍が来るのを待ち構える。

 

「間も無く上陸ポイントです!」

 

「戦闘配置だ!防御シャッターを下ろせ!!」

 

他の上陸用舟艇がある程度の重砲が排除、もしくは支援が行える状態なのを前提に作られているのに対し、ALCACは敵勢力下に援護なしでも殴り込める様に開発された兵器である。その為、窓は元から防弾ガラスではあるが、さらに厚さ60mmの防弾鋼板が3枚下りてくる仕様になっている。防弾板使用中は、各部のカメラアイで外の様子がわかる様になっている。

 

「攻撃始め!!」

 

ALCAC総勢600隻からのロケット弾攻撃により、上陸地点は爆炎に包まれて海が全く見えなくなる。通常の弾頭の他にも、煙幕弾を仕込んであるのでその効果は絶大だ。

 

「煙幕展開完了!!」

 

「このまま突っ込め!!」

 

ALCACはそのまま浜に乗り上げ、ハッチを解放。それと同時に、エンジンを掛けてスタンバイしていたアサルトタイガーの戦車軍団が飛び出す。

 

「野郎共!!戦線を食い破るぞ!!!!虎の名に恥じない戦いを見せろ!!!!!!!」

 

これまでは制圧後の輸送か、航空機からの空中投下でしか活躍できなかった46式戦車だが、その装甲と火力が最も生かされる局面とは、こういう攻勢作戦の先鋒である。特に上陸作戦に於いては火力が不足しがちなので、この突破力はまさに鬼に金棒だろう。

 

「敵超重戦車、多数上陸!!」

 

「天板を狙え!!上からの攻撃に戦車は弱い!!!!」

 

「了解!!!!」

 

生き残っている野砲及び戦車は、46式の天板に攻撃を集中させる。この攻撃で上に装備している機関銃なんかは破壊されたりもしたが、大したダメージにはなり得ない。何せコイツは天板に通常MBTの正面装甲と同等の装甲を配置しているのだから。

 

「お返しだ!撃てぇ!!」

 

「てぇっ!!!!!」

 

46式の砲身から榴弾が飛び出し、攻撃を加えてきた地点に砲弾が突き刺さる。46式の主砲であれば、単純な大口径で普通の榴弾でもMBTだろうと破壊できる。たかだか装甲車程度の装甲しかない帝国の戦車など、単なるウザい障害物程度にしかなり得ない。

 

「おーおー、暴れてる暴れてる。それじゃ、俺達も暴れますかね」

 

要塞の前線を46式、34式戦車改が食い破り、その後方でALCACが弾幕を展開している中、LCHH、LCAC、HLCACといった後続の上陸部隊が到着。敵の注意が逸れている間に、手早く上陸を果たす。

 

「団長に続け!!」

 

「進め!!」

 

「GO GO GO!!!」

 

兵士達は素早く敵方の塹壕内に転がり込み、素早く背後から敵を殲滅していく。特に塹壕内では神谷の刀、ワルキューレの魔法と剣、向上の2丁拳銃が猛威を振るう。

 

「こ、コイツら危険だ!!」

 

「ゴフッ」

 

「ちゃ、着け」

 

「隊長!?く、来るな。来るなぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

塹壕の様な閉所戦に於いて、近接武器を持った連中はかなり厄介な相手となる。とは言え二丁拳銃は良しとして、剣と刀はかなり扱いが難しくなる。剣と刀は本来、振り回して相手を斬る武器。塹壕の様な横幅が狭い場所では、本来あんまり使い物にならない。その筈がこの集団の場合、そんなのお構いなしに殺しに掛かってくる。

ヘルミーナのブロードソードは鋏としても運用できる為、普通に相手の首や腕を切断し、アーシャのレイピアは元々フェンシングの様に突き刺す攻撃を行うので、相手の弱点である首とか胸を突いて回り、エリスの大剣はアビリティの剣山で塹壕内に剣を無数に生やし、それで即座に串刺しにしていく。そして神谷の場合、愛刀の天夜叉神断丸と獄炎鬼皇の切れ味が良すぎて、ちょっとの動きでスパスパ切れてくれる。お陰で狭い範囲での動きが可能となり、素早い攻撃が可能であった。

 

「切れ味抜群。流石、一族の家宝だ」

 

「もうそれ、ライトセイバーもびっくりですよ長官!!」

 

「て、撤退!撤退しろ!!!!」

 

兵士の1人がそう叫んだ。その声に、全員が脱兎のように彼らのいる反対方向へと群がる。一応それをミーシャの魔法、レイチェルの矢、向上の12.7mm弾が襲うが、殆ど効果はない。

だが生憎と、彼らが逃げた先には別の地獄があるだけだ。何もこの場にいるのは、神谷達だけではない。神谷戦闘団の兵士達も、この場にはいる。

 

「あ、アイツら化け物か!!みんな死んじ.......ま.......う.......」

 

逃げ出した兵士の目の前に、それはいた。ずんぐりむっくりしたトラックで轢いても問題なさそうなガチガチの装甲を纏った、言うなれば人間戦車とでも言うべき奴がいた。

 

「あぁ、神よ.......」

 

次の瞬間、塹壕の狭い空間に5.7mmライフル弾の嵐が巻き起こる。装甲歩兵の両腕に装備された35式七銃身5.7mmバルカン砲が作り上げる、毎秒数百発の弾幕を前に逃げ場はない。とは言え、まだバルカン砲装備ならマシだろう。死体は最早、死体と呼ばないくらいのミンチ肉に加工されるとは言え、死ぬ時の苦痛は苦痛を感じる前に死ねる。

新開発の59式重火炎放射器を装備していたタイプに遭遇したら、もっと酷い目に遭っていた。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「火炎放射器だー!!!!!!」

 

「逃げろ下がれ!!」

 

「おい押すな!!来るな!!」

 

塹壕は知っての通り、基本的に人がギリギリ2、3人通れるか通れないかのサイズである。本部区画とか砲兵の区画ならもっと広いが、基本は狭い。その為、神谷達から逃げてる集団と火炎放射器装備の重装歩兵から逃げる連中がぶつかり、お互いに押し合う最悪の事態になってしまったのだ。

それを神谷戦闘団の面々が見逃す筈もなく、寧ろ一塊に固まってくれるのはこちらとしても楽である。という訳で真上から手榴弾放り込まれたり、火炎放射で焼かれたり、単純に弾丸叩き込まれたりして、最早「殲滅」ではなく「駆除」とでも言わんばかりの末路を辿った。

 

「大体片付いたか?」

 

『こちら五反田。要塞司令部を占領しました』

 

「あらぁ速ーい。そんじゃ、部隊集結後、予定通り進撃を開始する」

 

アーバン要塞攻略戦は上陸後、凡そ20分という素早さで終わり、その後の部隊集結や後続の上陸なんかを待っていると、何だかんだで1時間過ぎており、戦闘よりも集結に時間のかかる訳のわからない事態が発生した。

部隊集結後、神谷戦闘団はイルネティア島の首都を目指し前進。とは言え一目散に首都を目指すのではなく、途中にあるどんなに小規模の村にでも立ち寄り、敵兵1人見掛ければ戦闘をしていくので、普通に向かうよりも何倍の時間が掛かる。無論、神谷戦闘団全員が揃って行うわけもなく、幾つかに部隊を分けて行動している。

 

「なんか、海の方が騒がしいのぉ」

 

「そうですねぇ爺さん」

 

「帝国の馬鹿共が演習でもしとるんかのぉ?」

 

「そうですねぇ爺さん」

 

アーバン要塞の近くで、牧場を営んでいた老夫婦はいつも通り、朝食を家のテラスで摂っていた。雨だったり暑かったり寒かったりしなければ、この老夫婦は必ず外で食事を摂る。

帝国の占領後に食糧その他が配給制となり、前程の量はない。前はパンにスクランブルエッグにベーコンかウィンナー、デザートにフルーツといったメニューだったが、今や半分の黒パンとミルク位な物だ。だがそれでも、老夫婦のこの日課だけは変わらない。今日もいつも通りの日常が始まる思っていたが、生憎と今日始まるのは老夫婦の人生でもイルネティア島の歴史に於いても非日常である。

 

「爺さんや。あれは何じゃろうか?」

 

「.......何じゃ、アレは?」

 

老夫婦が目にしたのは、土煙を上げて近付いてくる何かであった。動物にしては早すぎるし、見える影自体がそもそも動物的ではない。

だんだんと近付いてくると、それには人間が跨っていることが分かった。しかし馬とかロバではなく、機械的な物である。

 

「ありゃぁ、オータバーとかいう乗り物じゃ」

 

「おーたばー?」

 

「昔、ムーで見た事がある。2個の車輪がついとってな、速いんじゃよ」

 

そのオータバーこと偵察バイクは、神谷戦闘団の斥候である。彼らは部隊に先んじて既に協力が確定している村々を回り、敵上や進撃ルートの情報を手に入れる役目を帯びているのだ。

 

「御免!家主は居られるか!!」

 

「おーおー。ワシが家主じゃよ。どうしたんじゃ?金なら無いぞ」

 

「物盗りではありません。私は大日本皇国統合軍、神谷戦闘団所属。植島軍曹であります。この先の地理についてお教え頂きたく参上致しました」

 

「あら、お茶でもいかがかしら?」

 

「お気持ちは嬉しいのですが、現在作戦中ですので。それよりも、この先の地理や村の場所等、知っている範囲で限りませんので、お教え願います」

 

ぶっちゃけさっきから良い匂いがするので、飲めるなら飲みたいし何か食べれる物なら食べたい。とは言え、今は仕事中でそれも作戦中だ。そんな事は出来ない。

 

「まあ、よくわかんねぇけども上がりなはれ」

 

お爺さんの一声で家に上げさせてもらい、現状の説明を行う。我々は神谷戦闘団であり、その目的は帝国軍の殲滅とイルネティア島の開放であること。現在はその作戦中であり、自分はその斥候であること。この周辺の地理や集落の位置、できればその規模、もし帝国軍の駐屯所があるのならその情報も欲しいこと。

これを話すと、老夫婦は最初は疑った。しかし腕にある日の丸と旭日旗で信じてくれて、最終的には快く教えてくれた。曰く、この先には村が3つばかりあり、その真ん中には町もあり、そこには帝国兵が駐屯しているらしい。

 

「ありがとうございます。では私はこれ」

 

そう言って出ようとした時、玄関の方でガラスの割れる音が聞こえた。そのまま5人の軍服姿の男達が、土足で上がり込んでくる。

 

「金目の物を出せ!!」

 

「な、なんじゃ貴様ら!!」

 

見ればその軍服は、帝国軍の軍服。ご丁寧にライフルも肩に引き下げている。どこの所属かは知る由もないが、民間人を脅して金品を毟り取ろうとする連中な時点で例え味方だろうと容赦する道理はない。

 

「うるせぇ!!」

 

そう言いながらライフルの銃床部分で、お爺さんの腹を殴る軍人。齢70前半と思われる老人の腹を銃で殴り付けては、最悪骨折や臓器損傷の可能性すらあるだろう。植島は物陰から飛び出して、装備している37式短機関銃を構える。

 

「あ?テメェ、皇国の兵士か?」

 

植島は何も答えずに、37式を撃つ。閉所戦での短機関銃は、帝国兵の小銃よりも遥かに取り回しが良い上に連射力も上だ。抵抗どころか殆ど動くことなく、確実に殲滅されていく。

とは言え37式にも弱点はある。連射力が高すぎて、弾の減りが速いのだ。お陰で4人しか倒せていない。だが1人残る事も計算して撃っている為、問題はない。残る1人には腰に装備している銃剣をぶん投げて、首に当てる。首であれば致命傷となり、最悪殺さずとも一定の隙を作り出せる。

 

「お婆さん。もう大丈夫ですよ。お爺さん、失礼します」

 

お爺さんの方は、取り敢えず目立った外傷はないので問題ないだろう。死ぬ程痛いだろうが、死ぬ事はない。例えアザが残ろうと男かつ人生のラストスパートに突入している年齢である以上、傷が残って人生が左右される事もまず無い。問題はないだろうが、念には念を入れて本隊に連絡を取り回収は頼んでおく。

老夫婦の回収が完了したのと同時刻、五反田の部隊は植島の報告があった村の一つに到着していた。

 

「師団長!報告のあった村、アレじゃないですか?」

 

「どれ」

 

五反田は47式指揮装甲車のハッチから身を乗り出し、ヘルメットの双眼鏡機能で確認する。村の入り口辺りに刺さっている看板の文字にも、イルネティアと帝国双方の文字で報告通りの名前が書かれていた。

 

「ん?アレは.......」

 

「敵車両、トラック3台。どうされますか?」

 

「決まっておる。排除せよ!!」

 

五反田の指示で後方からWA1極光2機が飛び出す。武装は58式六銃身7.62mmバルカン砲と大太刀という、典型的な対人装備ではあるが輸送トラック相手なら余裕である。

 

「行くぞ。俺は右から」

 

「なら左は貰います」

 

2機の極光はトラックの死角となる位置から高速で接近し、射程に入った瞬間、バルカン砲を撃つ。基本的に民生品と何ら変わらないトラックなのだ、数秒で破壊できる。

 

「はい終了」

 

「いやー、弱いっすねぇ」

 

「所詮トラックだからな」

 

トラックを血祭りにあげると、2機はまた部隊へと戻る。そのまま部隊は村に突入。帝国兵がいないか確認しつつ、住民の保護を行う。

 

「怪我をしている者は1箇所に纏めよ!栄養状態はどうか!!」

 

「師団長、村長がお話ししたいと」

 

「無論だ。案内せよ」

 

「こちらです」

 

部下の案内に付いていくと、村の中でも恐らく1番大きな建物に着いた。1番大きいと言ってもさほど変わらないが、こういうのが村長の家というのはお約束というヤツだろう。

 

「村長殿。私が当部隊の指揮官、五反田である。何用であるか?遠慮なく申されよ」

 

「五反田様。どうか、少しで良いのです。食料を恵んでくださりませんか.......?」

 

村長の口から語られたのは、かなり痛々しい内容であった。この村含め、基本的に村には基幹産業がある。この村では畑、正確には麦の栽培がそれに該当するらしいが、今ではその殆どを帝国に持っていかれているらしい。

 

「その比率はどの程度の物なのだ?」

 

「ほぼ全てです」

 

「何だと!?」

 

「それも買い付けではなく、徴収ですから、代金その他はありません。残った作物は次の作物を作る種なので、殆ど食べられません.......」

 

確かに村長含め、ここに来るまで見た村民は既にガリガリに痩せこけている。栄養状態はかなり悪いだろう。殆ど食べていないのなら、この姿も当然である。

 

「酷い物だな.......」

 

「我が村はまだマシな方です。ここを担当する大尉殿は良心的でして、最低限の食料は残す様に誤魔化してくださります。しかし他の村では、村民全員が餓死して廃村になっている村や、その、村民同士を食らっている村もある位ですから.......」

 

「なんたる事だ.......。安心なされよ村長殿。我が隊の食料は今後の攻勢作戦上分け与えられぬが、後続部隊に食料を輸送している部隊がいる。すぐに手配しよう。1時間もすれば到着する筈だ」

 

村長は涙を流して、五反田の手を取った。村長にも、村民にも、五反田達は文字通りの救世主に見えたのだ。

五反田はすぐに後続の輸送部隊に連絡すると、彼らはすぐに動いてくれた。だがすぐに医療チームから待ったがかかる。というのも長らく低栄養状態で、そこにいきなり栄養を摂取すると代謝機能が狂って死亡するリフィーディング症候群というのがあり、今の村民達は正にその状態なのだ。

つまり今ここで食料を普通に食べると、それが毒となって死ぬ可能性があるのである。となればやる事は決まっている。

 

「村長殿!」

 

「五反田様。どうされましたか?」

 

「村民を1箇所に集められよ!この村から我々の拠点に移動する!!」

 

村民達を1箇所に集め、ヘリコプターとVCシリーズを動員して現在の野営地に運び込む。更にこの報告を受けた神谷は念には念を入れて、ムーに停泊している大鯨型潜水救難母艦の出動を指示。護衛の駆逐艦を随伴させ、医療拠点として動かす事を決定した。

 

「にしてもまあ、帝国の連中もかなり胸糞悪い。ホロドモールじゃん」

 

「国家的な道徳心なんかが、あの辺の時代で止まっているんでしょう。全く、腐ってますね」

 

「なら、そんな腐り野郎共を掃除しよう。大掃除の時間だ」

 

現在神谷は白亜衆と赤衣鉄砲隊を率いて、飛行場を目指している。AVC1突空を超低空から飛行場に突っ込ませ、そのまま電撃的に奇襲。最小限の施設破壊で、基地機能を奪取するのが目的である。

 

「団長ー!基地が見えてきましたぜぇ!!!!」

 

「よっしゃ!カーゴドア開けろ!!」

 

編隊は飛行場の敷地内に飛び込む。速すぎて対空砲の照準も追いついておらず、航空機のスクランブルも気付くのが遅すぎて間に合っていない。理想的な状況だ。

 

「敵機来襲!!!!」

 

「対空戦闘用意!!!!」

 

「多いぞ!!迎撃急げ!!!!!」

 

「見張りは何やってたんだ!!」

 

「戦闘機隊スクランブル!!迎撃しろ!!!!」

 

一気に基地内は騒がしくなり、兵士達が慌ただしく動き出す。対空用員は自分の受け持つ対空砲に走り、照準を突空に合わせる。補給員達は弾薬を引っ張り出し、整備士は戦闘機の離陸準備を手早く行い、パイロットは自分の愛機へと走りコックピットに滑り込む。

だが、余りにも遅すぎた。突空はその準備を嘲笑うかの様に、搭載した武装で地上を薙ぎ払う。

 

「クソッ!地上でやられてたまるか!!回せェェェェ!!!!!!」

 

「何が何でも航空隊を上げろ!!」

 

航空機を空に上げれば、どうにかなるかもしれない。そんな期待を込めて、整備兵達は素早く準備を行い、パイロットはそれに答えるために操縦桿を握り締める。

 

「上げさせるかよ!!」

 

だがそれを許してくれる訳がない。徹底的に爆弾と機関砲群が、飛び立つ前の航空機を一方的に排除する。航空機、取り分け戦闘機は生まれてこの方いつの時代でも空の覇者である。だが裏を返せば、飛ばなければ脅威にはなり得ない。「飛ばない豚はただの豚」という訳だ。

あぁ、飛ぼうと飛ばなかろうと豚は豚だとかいう反論は一切受け付けないので悪しからず。

 

「野郎!航空機を破壊しやがって!!!!」

 

「撃て撃て!!撃ちまくれ!!!!」

 

対空砲も苛烈に攻撃を加えるが、そもそも戦車級の装甲を持つ突空に通用する訳がない。逆に攻撃してきた奴を、こっちが殲滅していく。

地上の掃討が終われば、今度はコイツらが動き出す。神谷率いる神谷戦闘団の精鋭。白亜衆と赤衣である。

 

「まずは外の航空機を破壊しろ!!残骸の山にすれば、格納庫のは鹵獲できる!!!!」

 

「聞いたな野郎共!目に付く飛行機全部壊せぇ!!!!」

 

そう命令すると権田川はいの1番に飛び込み、手近の航空機に肉迫。そのまま35式ヒートブレードで両断し、そのまま近くのタンクローリーに35式ランスガンを突き立てる。装甲甲冑の装甲であれば、目の前でタンクローリーが爆発しようと問題はない。それを知っているとはいえ、普通にその戦闘は狂っている。

 

「ば、化け物!!」

 

「こ、殺せ!!」

 

整備兵達は武器を持たない。だが工具という、鈍器はあるにはある。整備兵達は群れをなして、権田川に襲い掛かる。だが権田川は武器を背中に装備する35式スレッジハンマーに切り替える。右はアックス型、左はハンマー型だ。

 

「オラァァ!!!!!もういっちょぉぉぉ!!!!!!」

 

1人はアックス型で縦に切り裂かれ、もう1人はハンマーで横腹をぶん殴られ、身体が曲がってはいけない方向に曲がった状態で錐揉みになり、そのまま地面にぶつかる。頭が割れて、地面には整備兵の多分脳みそと思われる肉片が飛び散る。

 

「なんだよそれ.......」

 

整備兵相手なら、これだけでも戦意喪失させるには充分だった。誰かが逃げる。それに連れられて周りの2、3人が。さらにそれに連れられて、どんどん逃げ出す。

だが逃げる先には権田川の部下が先回りしており、1人残らず殲滅していく。

 

「全く単細胞はこれやさかい困る。さて諸君、私達も仕事を始めまひょ」

 

「へい!」

 

槍河達、ラグナロクの面々も動き出す。槍河を先頭に手近の対空砲群にジェットパックで飛びながら群がり、中にいる砲員を殲滅していく。

 

「コイツら何で空を飛んでるんだよ!!」

 

「照準が追いつかない!!」

 

ジェットパックは何も空を飛ぶだけでない。地上スレスレを飛び、ブースターを吹かせまくってトリッキーな動きで相手を撹乱し、そのまま懐に飛び込む使い方だってできる。

 

「遅いなあ。そないなんじゃすぐ死ぬで?こないな風に」

 

槍河はそのまま陣地内に突っ込むと、クルリとジェットパックを使いながら回った。ジェットパックのブースターから出ているのは、言わずもがな火である。この火でも人は殺せる。人1人を浮かばせ、そのまま高機動できるジェットパックなのだ。その推力を産むバーニアからの炎は、普通の生活で目にする炎とは格が違う。掠めただけでも、服は引火する。

 

「あぢいぃぃぃ!!!!」

 

「うわ!うわっ!うわぁぁ!!?!?」

 

「汚物は焼却滅菌するのんは常識や。知らへんとは言わせへんよ?」

 

槍河は戦公家とか言われる位のイケメンだが、それでも神谷戦闘団のそれも白亜衆に名を連ねる隊長である。確かにお淑やかで品があるが、その本性は人を人とも思わない程の思い切った残虐な手段も取れる男なのだ。一度敵と相対すれば、一切の容赦なく相手を狩る。

 

「槍河と権田川にここは任せ、俺達は内部に突っ込む!行くぞ!!!!」

 

飛行場の制圧は任せ、神谷達は建物内の制圧に移る。特に建物は情報の宝庫。何か面白いネタがあるかもしれない。流石にここを破壊するのは、些か勿体なく思う。

 

「し、侵入者だ!!」

 

出会った帝国兵は容赦なく殺し、無理矢理押し通る。こういう建物の中に詰めている大半は、直接戦闘するのではなく後方からの支援に特化した連中が多い。それにここは前線であっても、後方な上にこういう大規模な白兵戦は想定されていない航空基地。そもそも普通の銃とかの武器自体、数が少ない。航空機と対空砲さえ越えれば、余裕で制圧できてしまう。

 

「一掃しろ。部屋を虱潰しだ」

 

「了解です隊長!」

 

赤衣の隊員達は部屋という部屋にライフルを撃ち込み、中にいる人間を兎に角殺す。降伏してきたら保護するが、この世界にはジュネーブ条約を筆頭とした戦時国際法はない。別に撃ち殺したって問題はない。

だが流石に後味悪いので、降伏してきたら基本的には保護することにしている。尤も、その降伏ができる暇があればの話だが。

 

「隊長!」

 

「どうした?」

 

「この部屋、資料室ですよ!」

 

「長官!!」

 

すぐに向上は神谷を呼びに走る。神谷もすぐに走ってきて、資料室に入ってみた。どうやら、かなりの当たりを引いたらしい。

 

「これはこれは。ご丁寧にあちらの文字で㊙︎的な意味を持つ物が書かれてる。しかも奥には鍵付きの別室もある辺り、これはかなりの大当たりだ。よし、ここに兵を配置しろ。他はこのまま建物全体の排除に向かう!!」

 

程なくして基地は神谷戦闘団の占領下に入り、計画していた最初の攻勢は終わりを迎えた。だが、イルネティア島攻略作戦はまだ始まったばかりである。とはいえ、この島から帝国が駆逐されるのも秒読みだ。

 



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第八十七話野暮仕事(Black ops)

数時間後 帝国支配領域の街 宿の一室

「お前達、仕事の時間だ」

 

イルネティア島への攻勢が始まった日の夜、決して表の記録には残る事のない作戦が開始されようとした。街中の極々ありふれた宿の一室に、4人の男が集まっている。

彼らは普通の旅人や商人ではない。大日本皇国統合軍諜報局、通称『JMIB』のエージェントである。JMIBの任務はCIAに於けるパラミリタリー、準軍事工作担当のエージェントを数多く有する軍の暗部である。作戦の為なら暗殺、誘拐、爆破、拷問、監禁、処刑といった凡ゆる違法行為をも躊躇わない狂気の集団であり、本家本元となるCIAからも「本気で怒らせたら1番ヤバい」と言わしめる集団だ。

 

「知っての通り、今回の任務はイルネティアの古都フリッチオにある、帝国諜報局管轄の極秘地下バンカーに潜入し、そこの指揮官であるヤーデル大佐を確保。そのまま旧パーパルディア皇国南東海岸地区の秘密基地に連行する。

だが今回、飛び込みで別の任務が追加された。詳しくは、この方にご説明頂く」

 

今回の指揮官、スティールヘイズがタブレットを取り出しテレビ通話に切り替えて、アイツとの通信を繋げる。

 

『.......あれ映らねぇぞ。おーい、映ってる?お?おぉ、あー、きたきた。はい、どーも長官です』

 

まさかの人物の登場に、エージェント達も面食らう。だがすぐに椅子から立ち上がり、画面に向かって敬礼をした。

 

「閣下、お願いします」

 

『はいよ。さーて諸君、今回飛び込みで任務を突っ込んだこと、まずは謝罪させてくれ。申し訳ない。こちらとしても、ちょっと想定外のことが起きていてな。早急に情報が欲しいんだ』

 

「何があったんですか団長」

 

『大尉。いや、エフィメラ。まだその名で呼んでくれるのか?』

 

「あ、失礼を長官」

 

このエフィメラというエージェント、転移前に神谷戦闘団に参加していた。所謂『第1期生』というヤツで、転移直前の人事でJMIBのエージェントに移籍し、今ではチームリーダーをやっている。

 

『さぁ、話を戻そうか。本作戦ではイルネティアとパガンダ、ここを同時に攻める。その筈だったんだが、作戦前の偵察で有り体に言えばゾンビパンデミックがパガンダで起きてるっぽくてな』

 

「ゾンビィ?そりゃぁ、ゾンビですか?死体が動いて噛まれたらゾンビになる、バイオハザードお馴染みの?」

 

『まあ確定情報じゃないし、あくまで写真と映像で見た感じはってだけだがな。だがパガンダ島内にて帝国兵、現地民、そして恐らく入植してきた帝国の一般人が暴徒とかし、無差別に人を襲っている。しかもその攻撃手段が暴徒の方は武器を持たず、噛み付く攻撃しかしていない。それが同時多発的に島内各地で発生している。この顛末は事実だ。

これが何かの政治的、或いは宗教的な理念からの暴動か、或いは自然界から発生した未知のウイルスなのか、はたまた帝国や何処ぞの第3勢力がばら撒いた生化学兵器かは、中央特殊武器防護隊の到着と調査がないと何とも言えん』

 

ここで神谷は一度話を区切り、横にあるバインダーを取ってページを捲る。バインダーに挟まっているのは、基地襲撃の資料保管庫から発見した極秘書類の一部だ。

 

『ここまでが前段だ。本題に入ろう。俺の率いる神谷戦闘団は上陸後、予定通り侵攻ルート上の街や集落を解放して周り、今いる航空基地を奪還し拠点化を進めている。その際に接収した機密文書の中から、こんな物が見つかった。

簡単に要約すると、この書類は今から96時間前に飛来し、84時間前に飛び立った1機の爆撃機の記録だ。備考欄には『アンブレラ作戦につき、詳細は極秘』とある。俺の見立てでは、パガンダ島での騒ぎの原因じゃないかと考えてる。諸君にはこのアンブレラ作戦とやらの記録、詳細、或いは何か手掛かりを持ち帰って貰いたい。無論これは飛び込みの作戦である為、優先順位は下だ。ヤーデル大佐の確保、なにより諸君の命を最優先として貰いたい。以上だ、諸君の奮闘に期待する』

 

「という訳だ。これより作戦を開始する。状況開始!」

 

エージェント達はボストンバックに詰めていた装備を取り出し、バックパックに移し替える。防弾チョッキ、ナイフ、拳銃は上からコートなんかを羽織れば問題はないので装備してしまう。

準備が完了すると、ランダムに時間を置いて宿を出る。ここからフリッチオまでは馬車で2時間で着く距離なので、見かけた馬車に飛び乗りフリッチオまで向かう。フリッチオに到着したら、そのまま近くの河辺に下りここで仲間との合流を待つ。

 

「全員来たな。これより内部に突入する」

 

「それにしても川に排水施設を作って警備なしって、些か不用心すぎね?」

 

「突貫工事で作ったんだ。仕方ないだろ」

 

流れに逆らって歩いていくと、やがて小高い崖が見えてくる。崖の下には鉄格子が嵌められただけの、粗末な水道の出口があった。しかも鉄格子が全部ゆるゆるで、錆びてもないのに簡単に取れそうである。

 

「こ、これマジ?」

 

「ゆるっゆる。施工不良だな」

 

「仮にも秘密拠点がこれかよ.......」

 

軽口を叩いているが、水道に入った瞬間、空気が一気に変わる。静かに迅速に、バンカー内の監獄へと移動する。既に鍵はICIBのエージェントが開けている手筈になっているので、簡単に入り込めるだろう。

因みにICIBというのは、敵の懐に入り込み諜報を行う「スパイ」と聞いてイメージする事全般を担当する。エージェント、或いは協力者を作って情報を集め、それを繋ぎ合わせて1つの情報にしたり、或いはこちらに都合の悪い情報を消したりもする。今回はエージェントの1人が帝国軍の将校として潜入しており、この作戦での情報提供や各種支援を行う事になっている。

 

「ここだ。行くぞ」

 

暫く歩くと、梯子が見えてきた。この上が監獄となっている。正確には監獄のある洞窟の、ちょっとした空間に出るのだ。

 

「ひでぇ臭いだ。コイツは.......」

 

「カビ、血、湿気、汚物。拷問されてる奴もいる筈だ」

 

「(隠れろ。誰かいる)」

 

ランセツの声で、8人は素早く物陰に滑り込み隠れる。電灯で顔こそ見えないが、格好からして帝国軍の将校だろう。流石に階級は分からないが。

 

Zdravstvujtye(こんにちは)

Да здравствует Родина(祖国万歳)

 

聞こえてきたのは、この世界にはない筈のロシア語。それもかなり流暢な発音である。ハルは物陰から出て、将校の前に立った。

 

Guten Tag(こんにちは)Es lebe das Mutterland(祖国万歳)

 

スティールヘイズがドイツ語を話すと、2人は握手を交わした。この将校こそICIBのエージェントであり、さっきのは暗号なのだ。英語はまだしも、ドイツ語やロシア語は単語ならまだしも、文章や幾つかの単語をくっ付けて使うことは早々無い。お陰で暗号には最適なのだ。

 

「大佐は2階の執務室にいる。資料保管庫は3階、他の各施設は見取り図を用意した。それから4人分の制服もな。これに着替えておくといい。何か聞かれたら「特務機関の者だ」と言えばいい。これでどうにかなる。それから外に脱出用の車も用意しておいた。

ここの施設は当然だが電子ロックは無いし、お前達にとってはイージーミッションの筈だ。任務の成功を祈っているよ」

 

「協力に感謝する」

 

ICIBのエージェントは情報を伝えると、また外へと戻って行く。スティールヘイズの分隊は早速着替え、エフィメラの分隊は周囲の安全を確保する。

 

「(歩哨2名。排除執行する)」

 

「(カバー)」

 

まず手始めに手近にいる歩哨2名を背後からナイフで殺し、死体を引きずってさっき来た水道に落とす。そのまま監獄の看守室へと向かう。

 

「報告します軍曹殿。異常ありませんでした」

 

「うむ、ご苦労。最もここは臭いが異常だがな」

 

「言わないでください。正直、こっちも軽い拷問受けてるみたいなもんですよ。お陰で最近、肉が食えなくて」

 

「私もだよ。私はそもそも食欲がね。まあ、年もあるかもしれないが。所で、他の2人はどうした?」

 

「今日は水道のチェックもありますので、少し時間がかかっているそうです」

 

看守室で談笑している2人は知る由もないが、その仲間の歩哨は既にあの世へと旅立っている。もう戻ってくる事はない。だが心配せずとも、報告は聞けるだろう。

 

「(排除執行する)」

 

尤も、その報告を聞く場所があの世である以上、何の意味も持たないだろうが。

 

「囚人名簿をチェックしろ。こちら側に引き込めそうな奴は引き込め。無理なら殺す」

 

「あー、反乱軍の奴が3人いるわ。コイツらは確保で。それとこの上官に取り立ての緩和を進言してぶち込まれた奴も確保。残りの懲罰で監獄に入れられてる奴2人は、もう普通に殺していいだろ」

 

反乱軍のメンバーだった3人は助けて問題ないが、この上官に進言して恐らく命令不服従とかの嫌疑で入れられた奴は扱いに困る。会って決めるしかない。

 

「なんだ、こんな時間に。ここから出してくれるのか?」

 

「グラ・バルカス帝国情報部、ゴーバッツ・デュノベル少佐だな?」

 

「.......おい待て。お前は、誰だ?」

 

いきなり喋りかけてきた謎の男。明らかに帝国軍の装いではない不審者に、デュノベルも驚き困惑している。

 

「俺が何処の誰かは関係ない。お前に問う。お前は何故、上官に取り立ての是正を求めた?」

 

「決まってるだろ。幾ら何でもやり過ぎだ。確かに帝国の勝利には物資が必要で、尚且つ植民地の住民である現地民は帝国臣民よりも下だ。それにしたって、この惨状は無いだろ.......。

一昨日産まれた子は死に、昨日産まれた子は虫の息。今日産まれた子も養えぬ親は一思いに殺す。こんなのあんまりだ」

 

デュノベルの言葉に、エフィメラ分隊の隊員であるレッドシフトも黙るしかなかった。スティール分隊、エフィメラ分隊の他にも、JMIBのチームはオープンフェイス分隊、ローダー分隊、ライガーテイル分隊がいる。この五つの分隊は、半年近く前からイルネティア島にて反乱軍への軍事教練を行っていた。それ故に、ここの惨状はよく知っている。帝国にもこういうマトモな者がいたのかと、そういう感想を抱いた。だからこそ、殺したくはない。

 

「だったら、裏切れるか?祖国を」

 

「それはできない。祖国を裏切る事は、家族を裏切る事だ」

 

「.......だがその祖国が、この引き起こした様がこれだ。お前もその、破壊者の一員になっていいのか?それに本当の意味で家族を裏切るっていうのは、お前が死んで一生会えなくなる事じゃないか?」

 

レッドシフトの言葉に、今度はデュノベルが黙った。実を言うとデュノベルにはまだ顔も見たことがない、2歳になる娘がいる。産まれてくる1週間前に戦争が始まり、そのままここに赴任してきたのだ。それ以来帰れることもなく、今では牢獄にぶち込まれる始末。もしこのまま居たらきっと殺されるだろうし、例え殺されずとも何処かの最前線に送り込まれる可能性すらある。友人も上官の腹いせ人事で最前線に送り込まれ、程なく戦死したと聞く。迷った末にデュノベルは、決断した。

 

「裏切る。俺は祖国を裏切るぞ」

 

「その答えを待っていた。とは言え詳しい事は俺ではなく、上の者が決める事になる。だが、悪いようにはしない」

 

「分かった」

 

レッドシフトはすぐにエフィメラに報告し、そのままスティールヘイズにも報告した。これで捕虜が手に入ったのだが、この駒をどう使うか決めあぐねていた。取り敢えず監獄に監禁しておき、後からICIBのエージェントに任せる事にした。

 

『ではこれより、手筈通りに動く。エフィメラ分隊は破壊工作、その後資料保管庫を襲撃する。我々は変装し混乱に乗じてヤーデル大佐を確保、連行する』

 

「ならこちらは早速動く。成功を祈っているぞ」

 

エフィメラ分隊が先にバンカー内部に潜入し、少しずつ敵を減らしていく。監視カメラやトラップもなし、警報機は手動、セキュリティは鍵かダイヤル式のロック。皇国基準からすれば、ザルもいい所だ。

 

「(歩哨2人、排除執行)」

 

背後から近づき、素早く首をへし折る際に絞めてしまえば血も出ずに殺害できる。死体は適当な部屋のロッカーに押し込むなり、トイレの大にでも押し込めば当分はバレない。後からバレてもその頃には、脱出している頃だろう。

 

「ここが電源室だな。C5を設置する」

 

奥の方にC5を設置し、電気式雷管をセット。端末とのチャンネルを接続し、ボタン一つで爆破できるように準備しておく。

 

「よーし、誰もいないなー」

 

「この電源室、普段誰も入らないからサボりには持ってこいなんだよなぁ。さぁてタバコ♪タバコ♪」

 

ここまで順調だったのだが、大体こういう時には何か不測の事態が起きるもので、歩哨の2人が電源室に入ってきてしまった。このまま放置するとC5を見つけてしまう可能性がある以上、殺して無力化しておく必要がある。エフィメラはネブラとアウロラにハンドサインで射殺する様に指示を出し、2人は素早く狙いをつける。

 

「チッ。マッチが切れちまった。火、くんね?」

 

「はいはい」

 

片方がマッチを出した時、ネブラとアウロラは引き金を引いた。寸分の狂いなく頭を撃ち抜き、そのまま倒れる。

 

「排除執行完了」

 

「用事は済んだ。資料保管庫に行くぞ」

 

死体を適当な見つかりにくい所に隠し、今度は資料保管庫目指して歩き出す。途中、鍵で施錠された扉もあったがピッキングで素早く突破し、歩哨も例によって血の出ないやり方で倒して隠し、資料保管庫に無事到着した。

 

「さぁ、宝探しの時間だ」

 

「お宝ちゃーん、出ておいでー」

 

「意外と楽そうだな」

 

この際なので、使えそうな資料は持てる限り持っていく事になっている。とは言えまずは、例のアンブレラ作戦の資料を探すべきだろう。幸いにして、想定よりも本棚の数は少ない。

 

「.......なぁ、エフィメラ」

 

「どうしたネブラ。何か見つけたか?」

 

「この山からどう探せと?」

 

だがネブラが指差した先には、想像の5、6倍の量の本棚と膨大な資料があった。ここから当たりを引くのは、かなりの至難の業だろう。というかこんな大量の本というかファイル、ファンタジー系の魔法使いの書斎とかでもないと見た事がない。

 

「何か法則を見つけるしかないな」

 

「法則?」

 

「紙媒体で管理するにしろ、サーバーでデータを管理するにしろ、何か法則性がある筈だ。日付とかあいうえお順とか」

 

アウロラの考えに、全員が色々試行錯誤を開始する。資料を適当に取り出して中をパラパラ捲り、内容や日付、タイトルの確認を行う。その結果、日付ごとに分けられている事が分かった。

だがそれでも、1つ問題がある。計画や作戦の中身が、全然重要度の低い物ばかりなのだ。例えば何かの尾行記録、何かしらの疑いのある兵士の内定調査の結果、犯罪組織の資金の流れや各種記録といった大局を左右する情報ではなく、統治や内部事情に関する物ばかりだったのだ。

 

「この棚じゃないのか?そっちはどうだ!?」

 

「駄目。こっちは何か本土の議員だか何だかのスキャンダル写真。車の中で熱いキスを交わしてる写真しか無かったよ。しかも相手男」

 

「oh.......」

 

ある意味最強の兵器であろう。ジェンダーなんだ言われてる昨今ではあるが、流石に恐らくかなり年の行ったおっさんのキスシーンとか誰得である。これが美形のイケメンとか、イケおじ枠なら腐女子界隈で需要があるかもしれないが、脂ぎったオヤジの男とのキス写真とか需要はかなり限られる。そして何より、見てしまったこっちの身にもなって貰いたい。

 

「こうも無い物か?」

 

「出てくるのはスキャンダル、スキャンダル、スキャンダル、帳簿、リスト、スキャンダル。しかも総じて優先度が低そうというか、何なら最悪紛失しても然程影響がないカスばかり」

 

「俺達入る部屋間違った?」

 

「こうも見つからないと、段々病んでくるぞ」

 

エフィメラ、ネブラ、アウロラ、レッドシフトの4人が頭を抱えて悩む。幾ら何でも、こうも見つからないのは可笑しい。正直、こんな大層な地下バンカーで極秘裏に守る様な物でもない。まあプライバシー云々とかの観点からでは極秘にした方が都合がいいのかもしれないが、それにしたってこうも当たりが無いのは逆に不自然だ。

 

「ッ!?みんな、上見ろ上!!」

 

だがその時、レッドシフトがある事に気付いた。天井に屋根裏収納の階段が隠されてる時にある、棒を引っ掛ける穴が空いていたのだ。つまりここには2階があるのだ。

 

「よし、あの名前知らんけど、とにかくなんか、階段開ける棒!あれ探すぞ!!」

 

適当にロッカーとかを漁るとすぐに見つかり、階段を下ろす事に成功した。一応念の為、武器を構えながら階段を登ると、上り切ってすぐに鉄製の扉があった。しかもチェーンでぐるぐる巻きにして南京錠をはめ、その奥に鍵穴があるかなり厳重な封鎖がされている。

とは言え、所詮は普通の鍵。サクッとピッキングされて、簡単に解除されてしまう。しかもこのピッキング、よくある針金でカチャカチャするタイプではなく、自動で素早く開けてくれる優れ物だ。お陰で開けるのに5秒と掛からない。

 

「はーい、オープンセサミっと」

 

「中は下と変わらないな。取り敢えず探すぞ」

 

本棚から適当に資料を引っ張り出してみたが、どうやら当たりには近づいたらしい。下のどうでもいい内容とは違い、こっちは是が非でも隠し通したい内容ばかりだった。

 

「拷問とそこから得た情報の記録か.......」

 

「こっちは暗殺作戦の記録だ」

 

「おいおいコイツは.......。いつか現地民(アイツら)の言ってた、街一個の集団失踪事件か。やっぱり大量虐殺の的にされてたな」

 

「人体実験の記録もある。まるでナチスだ」

 

数々の非道な行いの数々。だがこういうのが出てきたという事は、それだけ当たりに近付いている証拠でもある。取り敢えず重要そうなのは写真を撮り、端末に記録していく。

 

「ヤバい代物ばっかだが、アンブレラ作戦とやらは見つからねぇな」

 

「また更に上でもあるのか?」

 

レッドシフトとエフィメラが悩んでいると、今度はネブラが何かを見つけたらしく、2人を呼びに来た。ネブラについて行くと、アウロラがいるが別に何の変哲もない本棚の前で止まる。

 

「これ、本が取れないんだ」

 

「.......ッ。ホントだ、ビクともしない」

 

「じゃあ押すか?」

 

エフィメラの言葉に4人は顔を見合わせると、頷き合い本と本棚を押してみる。すると本棚ごとドアの様にぐいっと曲がり、奥に数冊の資料があった。

 

「表題は『アンブレラ作戦概要書』。これだ、間違いない」

 

「んで隣はっと。『プラミティーバ・フランマ計画』?なんじゃこりゃ」

 

レッドシフトが『プラミティーバ・フランマ計画』と書いてある本を手に取り、中をパラパラ捲ってみる。だがレッドシフトの顔はみるみると青褪めていき、最後まで行き着くと震える手でそっと閉じた。

 

「レッドシフト?」

 

「エフィメラ。こりゃぁ、ヤベェぞ。だが同時に、幸運でもある。これは持ち帰ろう」

 

「.......一体何が書いてあったんだ?」

 

「結構専門的な事だらけで詳しくは分からないが、コイツはとどのつまりウラン採掘計画(・・・・・・・)だ」

 

全員が息を呑んだ。知っての通り、ウランは核兵器や核燃料の材料として用いられる物質である。第二次世界大戦相当の技術力を持つ戦時国家がウランを求める理由は、まず間違いなく核爆弾の製造を目論んでいると見て間違いないだろう。

 

「よし。とにかくこの『プラミティーバ・フランマ計画』に関する書類、資料は根こそぎ奪う。時間も迫っている。急げ!」

 

エフィメラの指示に全員が即座に動く。このプラミティーバ・フランマ計画に関する書類は、かなりの数があった。だが幸い、こちらには軍用の高性能スマホがある。片っ端から資料を取り出して撮影し、撮影しては引っ張り出しを繰り返し全ての書類を保存する事に成功した。

 

「長居は無用。撤収し、捕虜達の移送準備に入る」

 

エフィメラ分隊は資料室を後にし、さっきの監獄へと戻る。今度は捕虜達の誘導に備えなくてはならない。丁度準備が完了するとスティールヘイズから連絡が入り、すぐにC5を起爆させる。電源室が爆発すれば、ハンガー内は大混乱に陥り兵士達は右往左往しながら大慌てだ。

 

「何処が爆発した!!」

 

「電源室ですッ!!」

 

「消火急げ!!ホース持ってこい!!スプリンクラーはどうした!!!!」

 

スティールヘイズ分隊はその混乱を尻目に、ヤーデルの執務室へと早歩きで向かう。焦ってる感を出しつつ、何なら小走り位の速さだ。こうすれば焦りを演出でき、大佐を避難させる様な優秀な兵士に見えて丁度いい。

 

「失礼致します!」

 

「な、なんだ君達は!!」

 

「大佐殿、今は一刻の猶予もありません!如何なる処罰もお受けします故、今はご無礼をお許しください」

 

スティールヘイズの合図でレーザイサーとサンプはヤーデルの両脇を抱き抱え、素早く立ち上がらせる。ヤーデルも対抗するが、流石に50代くらいのおっさんが精鋭の特殊工作員2人に敵うはずも無く引きずられていく。

 

「ま、待て!待ってくれ!!その鞄だけは持って行かせてくれ!!」

 

「そんな余裕はありません」

 

「あの鞄にはこの国の未来が掛かっているのだ!!」

 

その言葉にスティールヘイズは止まった。何かの情報である可能性が高い以上、確保しておいて損はないだろう。そこでスティールヘイズは仕方がなさそうな仕草と態度で、ランセツに合図を出し鞄を持って来させる。

 

「こちらでありますか?」

 

「そ、そうだ!」

 

「では私がお運び致します。大尉殿!」

 

「あぁ。お連れしろ!!」

 

ヤーデルを引きずったままエレベーターに乗り込み、そのまま地上階へと移動。用意されていた車に分乗し、バンカー基地から離れる。

 

「それで何処に向かうのだ?司令部かね?」

 

「地獄だよおっさん」

 

次の瞬間、両サイドに座っていたレーザイサーとサンプがスタンガンでヤーデルを気絶させて黙らせる。そのまま車は道を外れ、合流ポイントに向かう。

 

『エフィメラよりスティールヘイズ。こちらは手筈通りに、車列を離れ反乱軍と合流する』

 

「了解した。こちらは大佐殿をお連れした後、反乱軍との合流を目指す。また会おう」

 

『あぁ。だがこちらは、少佐を閣下に預ける為に一度会うつもりだ』

 

「了解した」

 

ここでエフィメラ分隊と反乱軍の捕虜、それからデュノベル少佐を乗せたトラックは別の道を進みだす。程なくしてスティールヘイズ分隊は、回収班との合流地点に到着しヤーデルを引き渡す。

 

「スティールヘイズ分隊、ご苦労だった。後はこちらで引き継ぐ」

 

「あぁ。丁重(・・)に頼むぞ。大佐殿だからな」

 

「皮肉にしか聞こえないぞ」

 

「あぁ。皮肉だからな」

 

ヤーデルを乗せたVC4隼は、イルネティア島を離れ旧パーパルディア皇国の南東海岸地区にある秘密基地に向かう。この秘密基地が何なのかというと、平たく言えばブラックサイトというヤツである。

パーパルディア戦役に於いて、皇国は首都のあったエストシラントからクラールブルク含むデュロまでの南東海岸地区を確保した。この地域は戦争の影響もあり、不発弾やパーパルディア皇国が使用した兵器によって汚染されている地域も多い。その為、一般人の立ち入りは禁止されている。だがこれはカバーストーリーであり、実際の所はここに対外諜報組織であるICIB、対外工作組織であるJMIB、国内でのテロ事案等の捜査を行う公安警察、天皇家直属の諜報工作組織である八咫烏の4組織が共同運営する秘密基地が設立されている。

ここでは大日本皇国憲法を筆頭とした全ての法律は機能しない。その為、拷問や処刑が簡単に行えるのだ。無論扱い的には大日本皇国の国土なのだろうが、何せ距離が離れすぎている上に土地自体が立ち入り禁止区域に指定されている。空から見ようが、あるのは単なる廃墟だけだ。お陰で皇国本土にバレる事はなく、色々と後ろ暗い事ができてしまう。ヤーデルは今後、余生をそこで過ごす事となる。

 

「あ、そうだ。預かった鞄の中身を検めておけよ。何やら大事な物が入ってるらしい」

 

「了解。てぇーと、ペンにノートに、あん?なんだこりゃ。ハスタム・ソリス計画?」

 

この隼は軍ではなくJMIB管轄の機体である為、搭乗員の中に帝国の翻訳家がいた。すぐにその搭乗員に資料を渡すと、その隊員の顔色が変わった。

 

「すぐに神谷閣下に無線を繋げてくれ!!!!」

 

「ど、どうしたいきなり!?」

 

「核だ!帝国は核を作ってやがる!!!!」

 

プラミティーバ・フランマ計画とハスタム・ソリス計画。帝国が生み出そうとした狂気がどの様なカオスを齎すかは定かではないが、少なくとも世界にとって最悪の始まりである事は間違いないだろう。何せこの兵器一つで、今の軍事バランスは崩壊するのだ。例え前線で勝ちを得ようと、遥か後方にある自国の手薄な都市を消し飛ばされては意味がない。

隼は白み始めた空を駆け抜け、秘密基地へと急ぐ。一刻も早く翻訳を進め情報に纏めなくては、時間切れになってしまう可能性すらあるのだ。

 

 

 



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第八十八話神竜

数時間後 メーリーン航空基地 正面ゲート

「止まれ!!」

 

もうすぐ夜明けだろうという頃、1台の車が神谷戦闘団によって占領されているメーリーン航空基地にやって来た。その車は帝国が使う、ジープに相当する車だ。機関銃が据え付けられている訳ではないが、それでも敵の可能性はある。

門兵の叫びに、ゲート近くで待機していた兵士達が続々と中から飛び出し、即座にライフルを車に向け、スポットライトの光も向けられた。

 

『そこの車のドライバー。エンジンを切り、ゆっくり降りてこい。敵対行動を取った場合、即時射殺する』

 

車のドアが開けられ、中から人が降りて来た。だがその格好は帝国兵や現地民でもなく、明らかに皇国軍兵士の格好であった。

 

「私はJMIBエージェント、エフィメラ!直ちに神谷閣下とお会いしたい!!」

 

その言葉に兵士達も驚いていたが、1人が判断を仰ぐ為に神谷の元に走った。普通に睡眠中であり、爆睡していたが叩き起こされてこの状況の報告を受ける。

 

「どうされますか?」

 

「取り敢えず会議室に通せ。俺はぁぁぁ。着替えるわ.......」

 

未だ頭が回転してないが、取り敢えず自動運転でコーヒーを淹れてカフェインをキメる。苦味で少しは目が覚めるが、それでもやはり本調子ではない。

だがそれでもどうにか頭を回し、素早く着替えて会議室へと向かう。会議室前にいた兵士に、コーヒーを頼んでから部屋に入る。

 

「閣下、朝早くから申し訳ありません」

 

「全くだ。折角夢の中に居たんだだがなぁ?

なんて、嫌味を言うつもりはないさ。お前が来たってことは、作戦中に何かあったんだろ?それもとびきり重要な事が」

 

「はい。これをご覧ください」

 

そう言ってエフィメラが取り出した、例の二つの書類である。作戦当初のお目当てだったアンブレラ作戦概要書、それから見つけてしまったプラミティーバ・フランマ計画の書類である。

 

「アンブレラ作戦はいいとして、なんだこのプラミティーバ・フランマ計画というのは」

 

「解読員に頼まなければ詳細は分かりませんが、とどのつまりウラン採掘計画です」

 

エフィメラの報告に、神谷は言葉を失った。だが一方で、神谷の思考回路が即座に繋がり考え始める。だがこれは、かなり厄介な代物だ。三英傑で話し合いを持たなくてはならないだろう。

 

「誰か!解読員叩き起こしてこい!!コイツをすぐに翻訳させろ!!!!」

 

「了解!」

 

「エフィメラ、何か掴んでいる事はないか?」

 

「いえ。ただ分かるのは、このイルネティア島にウラン鉱山があり、帝国はウランを集めている。これしか分かりません」

 

この後エフィメラからもう少し報告を聞き、それから捕虜を引き渡されて、1時間程度で自分の分隊に戻っていった。更に数十分後、ハスタム・ソリス計画についても報告が上がり、すぐに三英傑会議を行う事となった。

 

「グッドモーニング、お前達」

 

『国の為とはいえ、一応さっきまで俺寝てたからな?今日朝イチで閣議があんのに』

 

『俺、徹夜明け』

 

「悪いが、最悪その辺の予定はキャンセルだ。かなりヤバい事になってる」

 

『なんだぁ?ゾンビパニックがそっちでも発生したか?』

 

一色の半分冗談の発言に、神谷は静かに首を振る。この行動だけで2人も、マジの案件でありおふざけ要素を突っ込む隙すらない事案であると分かり、顔色が変わった。

 

「昨夜、JMIBのエージェントが作戦を行った。当初はゾンビパニックについての情報収集だったが、その時にヤバいものを見つけた。帝国はこのイルネティア島でウラン鉱石を採掘し、核を開発しているそうだ」

 

『おいおいそいつは.......』

 

『道理で朝早く起こす訳だ』

 

普段軍事に疎過ぎる一色も、ヤバい事はわかる。というか一色の場合、核抑止論だけはしっかり理解している。核のトリガーを任せられているだけあって、こと核兵器関連に関してはちゃんと知っているのだ。

 

「流石に設計だとかは分からなかったが、どうやら奴らはイルネティア島でウランを採掘し、本土に輸送。本土の極秘施設で作っているそうだ。とは言えまだ何処までの代物かは分からないが、恐らくかなり完成に近いだろう」

 

『おいちょっと待て。それは少しあり得ないんじゃないか?』

 

『健太郎、どういう事だ?』

 

『アメリカのマンハッタン計画に於いても、本格始動したのは42年。手探りではあったとは言え、あの工業力チートのアメリカを持ってしても約3年の月日を掛けて漸く完成させている。

だが帝国は負け続きかつ、資源もかなり他の部分に持っていかれてるはずだ。にも関わらず、イルネティア島占領から暫く経ってからと言っても、もう完成できる代物か?』

 

マンハッタン計画では多数の人員、資源、資金を投じても、本格的にプロジェクトがスタートして3年掛けての完成であった。確かに帝国も出来なくは無いだろうが、恐らくウランもイルネティア本来の文明レベルから考えても占領後暫くして発見したものと思われる。となれば少しばかり勘定が合わなくなってくる。

 

「健太郎の言う通りだ。恐らく本来なら、まだ完成にまで漕ぎ着けてないだろう。だが奴らには教材があった。傍迷惑国家こと、ラヴァナール帝国。あそこが使っていたとされるコア魔法の実物を、奴ら何処かで入手していたらしい。

後はそれをリバースエンジニアリングで構造を解析し、それを魔法から科学に置き換えていったそうだ」

 

『またあそこか.......』

 

『ホント、何してくれてんだ』

 

そう。ハスタム・ソリス計画の書類によると、帝国の核開発計画は何処かから掻っ払って来たコア魔法を分解、解析し、それを元に原爆を作るという物らしい。そのコア魔法がどの程度の技術レベルかは分からないが、それでも恐らく原子爆弾系統ではあるだろう。

 

『浩三。もし完成したとして、考えられる攻撃地は?』

 

「東京、オタハイト、ルーンポリス。慎太郎なら、言わずとも分かるだろう?」

 

『.......あぁ』

 

介入以来、常に全戦全敗させられて来た最強国家たる大日本皇国。現在の最前線がある第二文明圏の盟主的存在であり、皇国を除けば軍事面での主敵たるムー。世界を我が物顔で牛耳る、この世界に於けるアメリカ的存在たる神聖ミリシアル帝国。この3国の首都である以上、狙う理由としては充分だ。

 

「とは言え、恐らく東京というか本土はあり得ない。帝国相手では完璧にして鉄壁の防衛網がある上、奴らは一度大編隊を向かわせるも殲滅させられている。流石にリベンジしてくるなんて展開はまず無いだろう。

となると可能性として高いのは、ミリシアルとムーだ。ミリシアルに落とせば「あの世界の盟主ですら、灰燼と化してしまうのか」的な世論が各国で巻き起こり、一気に戦意を失わす事が出来るだろう。ムーならば、単純に前線に穴が開く。そこを攻めれば、戦線の打開とか色々できるだろう」

 

『慎太郎、外交官としてはどうする?』

 

『無論ムーとミリシアルとは言わず、主要各国に周知させるべきではある。とはいえ、現状では余りに情報が少なすぎる。どの程度完成しているか分からない以上、イタズラに情報を広めては混乱して逆効果だろうな』

 

『浩三。奴らが核を使うとして、考えられるプラットフォームは?』

 

「空爆、自爆、砲撃、後は専用の超大型魚雷を作るか。考えられるのはこの辺だろう。流石にICBMやらSLBMはない筈だ。尤も、パーパルディアの時みたいな遺産を発掘していたら、流石にその限りじゃないがな」

 

コア魔法に関しては前例がある。かつてのパーパルディア戦役では、切り札としてICBM型コア魔法が秘密裏に隠されており、それを皇国に対して放っている。転移国家であり異世界の土地は占領地しか無いとはいえ、パーパルディア皇国にあったのと同じ遺跡がある可能性も低い確率ではあるが存在する。

 

「念の為に確認だが、もし仮に皇国に核攻撃を仕掛けて来た場合はどうする?」

 

『結果に関わらず即報復するつもりだ。常にケースは持ち歩いているしな』

 

皇国には現在『核の四本柱』と言うのが存在する。第一に本土に配備されているICBM。第二にローテーションで近海に24時間365日潜んでいるSLBM搭載タイプの伊1500号型原子力潜水艦。第三にA9ストライク心神、若しくは超重爆撃機富嶽IIに搭載する航空機搭載型の核爆弾。そして第四に日本近海に配備されている提灯と伊2000号型原子力潜水艦の核砲弾である。

更にこれに加えて、皇軍増強計画にて建造中の宇宙軍事要塞にも核は搭載される予定であり、完成すれば五本柱として報復を行う事が出来る様になるのだ。

 

『.......なぁ、お前ら。俺ちょっと、考え付いた事がある。だがこれ、これでは言いたく無い。直接会って、話したいんだが』

 

『こっちは別に国内にいるし、外交で動く事もないが浩三が問題だな』

 

「少なくともイルネティアとパガンダが片付かないと、そっちに帰還できないだろう。その後でいいか?」

 

『あぁ。別に今日明日落ちる訳じゃ無いんだ。構わない』

 

一色が何を思い付いたかは知らないが、取り敢えず方針は決まった。となればこちらは、急いでイルネティアとパガンダの問題を片付けなくてはならない。

回線を切り、すぐに幹部達を招集。無論寝てるものもいるが、他の兵士に頼んで文字通り叩き起こすなり、冷や水をぶっかけるなりして無理矢理起こして集めた。

 

「全員、揃ったな?」

 

「あのですねぇ団長。朝っぱらから部下に氷水ぶっかけられ、ついでに犬のうんこを鼻の周りでぶらんぶらんされた俺の気持ち分かりますか?」

 

「.......海田?」

 

「はい.......」

 

海田宗吾。遠藤の部下であり、かなり腕の良いロケラン使いである。が、かなりドS。ドSが服を着て歩いてる様な男である。おふざけ要員筆頭であり、日常のゴタゴタに首突っ込んでたり問題の元凶だったりすることの多い奴だ。

名前が銀魂の沖田総悟と似ている事も拍車をかけており、稀に沖田と言われる事もある。

 

「まあ、お疲れ。うん。だが今回文字通り叩き起こしてでも集まって貰ったのは、お前達に共有しておきたい情報があるからだ。

昨夜のエージェントによる作戦の結果、帝国がウランを採掘し核を開発していることが発覚した」

 

さっきの遠藤の話で明るかった空気は一片し、全員が驚愕と少しの恐怖を混ぜたような顔をしている。軍人としてこの世界に身を置いている以上、核の恐ろしさは嫌というほど知っている。それを開発しているという話は、流石に驚くなと言う方が酷という物だろう。

 

「ほな団長。作戦を何処か変えるんどすか?」

 

「いや、このまま行く。ウラン鉱山の調査も解放後、もし時間があればパガンダ島上陸前にやるって感じだ。核自体も当然だが帝国本国でやってるみたいだし、流石の俺たちも手出しはできない。そもそも何も今日明日落とす訳でもないしな。

とは言え、開発施設の場所、戦況、進み具合によっては、俺達神谷戦闘団が殴り込む可能性も有り得なくはない。気にするな、と言うつもりはないが、取り敢えずイルネティアとパガンダの一件が片付くまでは、頭の片隅に追いやるなり忘れるなりしてくれ」

 

この後いくつか質問が出たりしたが、会議はそのまま今日の作戦に関する話へとシフトしていき、朝食を摂りながらの会議となった。因みにメニューは至ってシンプル。トーストとバター、それにダブルエッグの目玉焼きにウィンナー4本である。

どうやら目玉焼きに何をかけるかの話になり、塩派、コショウ派、塩胡椒派、醤油派、ケチャップ派、ソース派、何もかけない派で別れたとか何とか。

 

 

 

数時間後 メーリーン航空基地より数十キロ パラティア村

「大変だ大変だ!!!!」

 

「どうした?」

 

1人の中年農夫が、村の集会所に飛び込んできた。中には大勢の人間がおり、机には周辺の地図が広げられている。中にいる男達も皆、鎧やら防弾チョッキを着ており、かなり重武装だ。

彼らは反乱軍、キルクラス同盟のメンバー達だ。本日正午、各地で一斉に反乱を起こす手筈となっている。今はその最後の作戦会議中なのだ。

 

「む、向こうの丘に、帝国の連中が大量にいるぞ!!しかも例のセンシャを持ってやがる!!」

 

彼らの脳裏に、数ヶ月前にやってきた皇国のエージェントを名乗る男が行った訓練の座学の記憶が蘇る。

 

『いいですか。この戦車という兵器を見つけたら、直ちに逃げなさい。歩兵は太刀打ちできません』

 

『何故だ?』

 

『弾丸を弾く装甲に、人を轢き潰すには十分な重さ。それに戦車を破壊できる大砲。これと戦うのは愚かな行為。どんなに聞き分けのない駄犬だろうと、必ず避ける存在。それが戦車です』

 

授業の中で彼。コードネーム、オープンフェイスはそう語った。オープンフェイスはかなりキツイ、というか偉く見下した言い方をしてくる男であったが、その指導は効率的かつ合理的であり、一才の無駄が無かった。ただ、毎回かなりイラついた。

それは置いておいて、オープンフェイスは同じ授業の中でこうも言っていた。

 

『しかし、もし万が一、逃げられない場合。その際は死ぬ覚悟で戦いなさい。対戦車ミサイルを撃ち込むか、爆弾を投げ込むか、もしもの場合は爆弾を抱えて戦車の下に滑り込み、自爆すると良いでしょう。そうでもしなければ、勝てる相手ではありません』

 

幸い、対戦車ミサイルとやらをオープンフェイスの部下、アイスワームという男が持ってきてくれた。弾薬もたんまりある。アイスワーム曰く「コイツなら例え正面から撃ち込んでも、物によれば一撃で破壊できるだろう」と言っていた。つまり倒せる可能性は0ではない。

 

「やろう。戦車を壊すんだ!!」

 

「そうだ!彼が俺たちの、祖国を取り戻す第一歩だ!!」

 

男達は口々にそう言うと、拳を高く掲げる。これまで帝国には何度も苦しめられてきた。友人、親兄弟、恋人、妻、我が子。殺されたもの、慰み者にされた者、追い詰められて自殺した者、苦しめられて人としての尊厳もなく死んでいった者。たくさん見てきた。今更自分が死ぬくらいで躊躇する様な、そんな正常な判断を下さる時ではない。戦って、例え自分が死のうと仲間に希望を託し、王国から帝国を叩き出さねば、明日はないのだ。

 

「待って!」

 

その時、このむさ苦しい集団の中にいた可憐な少女が声を上げた。金色の長い髪を後ろで結び、軽い化粧をしているが防弾チョッキを見にまとった勇ましい姿の少女である。

 

「どうしたんだライカ?」

 

「そのセンシャ、わたし。いや!わたし達に任せてくれないかな?」

 

「まさか、イルクスを使うのか?」

 

「そうだよ。イルクスなら、センシャでも倒せる!!」

 

ライカの言うイルクスとは、彼女が保護して育てた竜の事である。イルネティア王国侵攻時、共に飛び立ちアンタレス戦闘機を6機撃墜する戦果を上げるも、多勢に無勢で迎撃されてしまい、生き残りはしたがお互い重傷を負った。

しかし今では完治し、イルクスもさらに成長して強くなっている。それに元より戦車自体、航空機からの攻撃には弱い物だ。流石にライカ含め、それは知らないが戦術的にもイルクスという航空戦力を用いた戦車への対応は正解と言えるだろう。

 

「.......わかった。だが無茶はするなよ」

 

「分かってるよ。じゃあ、行くね!」

 

ライカは集会所を飛び出し、村の通りを抜けて裏手の山の方へと走る。この山の麓にある洞窟に、イルクスは身を隠しているのだ。ライカは洞窟に入ると、一切の迷いなく奥へと突き進む。

 

『ライカ。どうしたの?』

 

「イルクス、あのね。村の近くにセンシャが一杯いるの。センシャを倒さないと、わたしの村が滅んじゃうかもしれない。お願い、また力を貸して」

 

『わかった。さぁ、背中に乗って!』

 

イルクスはのそのそと外へと這う様に出ると、翼を大きく広げた。ライカはその背中に飛び乗り、いつもの跨る場所に鞍を付けて固定し手綱の代わりに握るロープをイルクスの身体に巻き付ける。

 

「準備できたよ!」

 

『わかった。行くよ!!』

 

イルクスは助走をつけるべく地面を蹴り、そのまま大空へと飛び立つ。その姿は伝承に聞く極帝と見違う程に美しく、また同じくらい勇ましい姿であった。

 

『それで、センシャは何処にいるの?』

 

「えーと確か.......向こうの丘の方!」

 

『わかった。じゃあそっちに行くよ』

 

農夫の言っていた丘の方に向かうと、そこには無数の戦車軍団がいた。戦車だけではない。兵士は勿論、装甲車やテントなんかもある。だがそんな普通に目視で見える距離に竜が来たとなれば、兵士達も対空砲や機関銃に滑り込み、そのまま攻撃を開始する。

 

「撃ってきた!」

 

『少し荒っぽいけど、突っ込むよ!しっかり掴まって!!』

 

イルクスは翼を翻し、急降下しながら近づく。そして口から雷属性のビームを吐き出し、一帯を焼き払う。数千℃のプラズマは離れた戦車にも感電し、内部の搭乗員を蒸し焼きにし、塹壕にいた兵士達も感電する地獄絵図と化し、ほぼ一撃の下に完封して見せた。

 

「前よりも威力が上がってる.......。すごいよイルクス!!」

 

『ありがとう。でもまだ、終わってないよ』

 

イルクスの視線の先から、独特の甲高くも地響きの様に重い音が聞こえてくる。ライカもイルクスも、この音によく似た音を知っている。自分達を撃墜した、帝国の戦闘機のエンジン音だ。

イルクス自身、前の戦いから数年経ち、身体もより大きく頑強になり、新たに雷属性の魔法も使える様になった。これまでの風魔法もより強力な物になっているし、そもそもの魔法を制御する技術も格段に上がり、例えまたあの戦闘機が相手であろうと遅れを取るつもりはない。しかしそれでも、イルクスとて生物。かつて自分を死の淵に追いやった物への恐怖は、拭いきれてなかった。

 

「大丈夫だよ、イルクス」

 

微かに震えている事に気付いたライカはそっと背中に触れ、そのまま抱き締める。さっきまで心を恐怖が支配していたが、ライカが触れて抱き締めてくれると、不思議とそういうのは消えていった。

 

「わたし達なら、きっと大丈夫。今度こそ、アイツらを倒そう!」

 

『うん。そうだね、行こう!』

 

イルクスは音のする方へ向き、そのまま加速する。だがイルクスとライカが強くなった様に、相手もまた強くなっているのだ。アンタレスよりも武装、速力、強度、機動性の全てに於いて性能が向上したアンタレス改がイルクス達の相手だ。向こうもそう簡単にやられる相手ではない。

暫く進むと、お互いの目視圏内に姿が入ってきた。戦闘機隊も、イルクスとライカも、互いにヘッドオンで始めるつもりだったらしく、そのまま真正面から突っ込み合う。だが次の瞬間、アンタレス改のいる場所に水色のビームが降って来た。

 

「なに今の!?」

 

『そんな.......あり得ない.......。何でここに.......』

 

「イルクス!?ねぇ、どうしたのイルクス!?」

 

今の攻撃で前衛の4機は消し炭となり、残る機体も散り散りに散開してとにかく距離を取る。4機が消し炭になった場所には、真上から真っ赤な巨大な竜が突っ込んできて、そのまま次の獲物を狙うべくアンタレス改の真後ろに食らい付く。

 

「友よ!!後ろから狙われておる!!!!」

 

「任せろ!!」

 

戦場に飛び込む無茶を仕出かしたのは他でもない。この世にいる全ての竜を統べ、竜種の頂点に君臨し続ける最強にして唯一無二の神竜。竜神皇帝『極帝』と、その盟友たる神谷のコンビだ。

正面の機体は極帝が担当し、後方等の死角は神谷が担当する。今回は大量の33式携行式対空ミサイルを持って来ており、これを使えばほぼ確実にアンタレス改を叩き落とせる。

 

「ロック!堕ちろ!!」

 

「我がブレス、心して食らうが良い!!!!!!」

 

極帝のブレスはいつもの魔力ビームではなく、より高スパンで放てる炎、雷、風の魔法を使ったブレスである。威力は弱まるが、当たれば所詮はジュラルミンの塊でしかないアンタレス改は一溜りもない。

神谷の使う33式もロックオンすれば最後、アンタレス改程度の機動性では避ける事も不可能だ。例え奇跡的に最初を回避できても、そのまま追いかけて来るので最終的には命中するだろう。

 

「友よ!こうも数が多いと、中々勝負が付かんぞ!!」

 

「魔力ビームを使え!拡散させる!!」

 

「アレだな?心得た!!」

 

極帝はアンタレス改から少し離れると反転し、そのまま魔力ビームを放つ。その瞬間、神谷が手を伸ばして魔法を行使する。

 

三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)!!追尾拡散級(ホーミングデュフューザーレンズ)!!!!」

 

魔力ビームの射線上に、巨大な半球の水晶の様な物が生成され、そこにビームが触れると一気に拡散し、正確にアンタレス改を追いかけて貫いていく。

 

「イルクス。あの竜は何なの?」

 

『あの竜は、きっと極帝様だよ。全ての竜を統べる、竜の皇帝。でも何で、極帝様は人間と共にいるんだろう?』

 

「そんなにおかしな事?」

 

『うん。極帝様は気高く孤高で、人間は勿論、同じ竜とも関わらない。だから凄く珍しい事なんだ』

 

神谷の前や神谷戦闘団の兵士達からはぶっちゃけ「喋る竜」位にしか思われてないが、この世界に於ける極帝とはエモール王国の面々の反応を見てもらえれば分かる通り神様同然なのだ。

同じ竜の中でも極帝は別格であり、一度極帝が号令すれば例え地の果てであろうと、全ての竜が極帝の元に馳せ参じる位には尊敬を集めている。イルクスからすれば、夢の様な一時でもあるのだ。

 

「掃除は済んだな。おっ、あそこにもお仲間がいるぞ」

 

「む?アレは神竜種か」

 

「神竜?」

 

「そうだった、お主は竜の事を知らぬのだったな。竜にも様々な種類がいてな。1番下がワイバーン。これが最も多い。その次が風竜等の属性竜。その次に亜神竜というのがおる。確かエモールの小童共が切り札として持っておる極みの雷炎竜とやらは、この亜神竜だ。

ここまでは番いから産まれるが、神竜からは自然に発生する。それ故にとても稀少であり、知能も人間のそれを上回る。その上には火、土、水、風、雷、光、闇の属性神王竜がおる。この属性神王竜は7匹しかおらん。そしてその竜達の頂点には、この我。竜神皇帝『極帝』がおる」

 

初めて竜の階級を聞いてみたが、かなり種類がいるらしい。他にも亜竜やら水竜やら、かなりの種類がいるらしく竜世界も色々あるそうだ。

 

「なぁ。今思ったんだが、その属性神王竜。会えたりするか?」

 

「友よ。既に我という最強がおるというのに、よもや属性神王竜に手を出すつもりか?」

 

「あー、まあ間違ってない、のか?俺が契約するんじゃなくて、アイツらに契約させたら良いんじゃねって思ったんだよ」

 

「ほう、それなら話は早い。ひと段落すれば試してみるとするか」

 

長嶺の言うアイツらとは勿論、エルフ五等分の花嫁と三英傑の事である。エルフ五等分の花嫁は魔法という土俵で戦う以上、どうしても他の兵士達よりも科学技術の恩恵を受け難い。竜を味方につければ戦力アップにもつながるだろう。

三英傑の場合は、単純な抑止力として使える。近い将来。それも数年後の未来で、皇国はこの世界の表舞台の頂点に君臨する事になるだろう。だが生憎と皇国には魔法が無い以上、ミリシアルの様な分かりやすい魔法的な面の指標がない。ならば作ればいい。その属性神王竜とやらを詳しくは知らないが、きっと国際社会では旧世界での核兵器の様な抑止効果を期待できる。それに極帝を呼び出せたのだ。その格下であれば、恐らくまた呼び出せるであろう。

 

「そんじゃ帰るか」

 

「そうだな。この後も暴れるのだろう?」

 

「あぁ。こんなのは前菜ですらない。言うなれば食前酒の様な物だ。これからの戦闘こそ、フルコースの真の始まりだ」

 

その言葉に極帝は笑う。2人は当面の拠点であるメーリーン基地へと帰るべく、進路を変える。イルクスとライカは遂に極帝と、その背中に騎乗する者の正体は分からなかった。だがそれでも、一つだけ分かったことがある。騎乗していた者の背中には、金色の文字が書かれていた。しかもその文字自体は、村に来たエージェント達が使っていた者によく似ている。

 

「決めた。私、きっとあの人とまた会う。そして弟子にしてもらう」

 

『そっか。じゃあ今は、王国を解放しよう!』

 

「うん!戻ろう、イルクス!」

 

ライカとイルクス。後の世に『伝説の聖騎士と高貴なる神竜』として伝承に残るコンビの、初勝利はこうして幕を下ろした。

 

 



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第八十九話反乱

12:00 経済都市ドイバ メインストリート

 

カンコーン…カンコーン…カンコーン…

 

今日も鐘の音が鳴り響く。かつて王都と港湾地区の中継都市として、様々な商人の館や外国企業のオフィスが置かれ、交易の街として栄えていたドイバは変わり果ててしまった。在りし日のドイバは王都に勝るとも劣らない、美しい都市であった。街のどこかでは必ずと言っていいほど毎日の様に露天市が開かれ、イルネティア王国の特産品は勿論のこと海外から輸入されてきた珍しい物が売られていた。お陰で常に人で溢れ、例え夜でも人通りのある程に活気のある街だった。

だが帝国が進駐してきて、全てが変わってしまった。最初こそ市が開催されていたが、いつしか消えて無くなり、人通りで溢れたメインストリートは浮浪者と物乞いがカップを揺らし、或いは娼婦が帝国兵相手に売春を持ち掛ける都市となってしまった。だが今日、歴史が変わる。12:00になる鐘の音を合図に、彼らが動き出す。

 

「な、なんだ貴様ら!!」

 

「撃ちまくれ!!!!!」

 

帝国軍の憲兵は、ボルトアクション式ライフルを装備した民兵に取り囲まれた。普通の歩兵ではなく憲兵であった為、持っているのは拳銃のみ。何処か重要施設の憲兵とかなら短機関銃位持っていたかもしれないが、生憎とこの憲兵は普通の街中をパトロールする任務だったのだ。お陰で抵抗する間も無く、射殺されてしまう。

 

「行くぞ!!!!!!」

 

「「「「「おーー!!!!!!!!!」」」」」

 

彼らが誰かは、もうお分かりであろう。イルネティア解放戦線、つまりレジスタンスのメンバーである。12時を合図に、各地で一斉に反乱を起こしたのだ。なので何も、このエーベンダルトだけではない。他の都市や街でも、レジスタンス達が行動を開始している。

レジスタンスには第八十四話『神谷幕僚団』に於いて語られている通り、皇国より武器が供与されている。かれこれ半世紀近く前の89式小銃を筆頭に、コルト・ガバメントM1911だとか色々である。だがこの辺の兵器をメインに使わせると、もし横流しされた場合、戦後のパワーバランスが可笑しな事になってしまう。その為、ガバメントはともかくとして89式等は精鋭にのみ配備されており、大半の民兵はムーが装備更新で余りに余りまくっている、型落ちのボルトアクション式ライフル等を使用している。

 

「王国を我らの手に取り戻すのだ!!続けぇ!!!!」

 

「王国万歳!!!!!」

 

「王国の名の下、全ての侵略者には死の鉄槌を!!!!」

 

メインストリートから裏通りまで、武装した民兵達が帝国兵を見つける度に殺して行く。更には帝国臣民も殺して回る。帝国臣民は現地民を蛮族として扱っていたのもあって、自らが帝国臣民である証明として必ず胸には帝国の国章が刻まれたバッチを付けている。これが仇となって、バッチをつけている者は問答無用で殺された。

それはもう酷いもので、これまでの恨みを晴らすかの様に嬲り殺しにしていった。銃剣で突き殺す、撲殺、焼き殺されるなんて可愛いもので、敢えて殺さずに足と腕を撃った状態で犬に食わせてみたり、馬に縛り付けて街中を引き摺らせたり、ナイフとかデカい釘で壁に打ち付けて、胸から腹まで文字通りに切り開いて放置したりとか、無茶苦茶な殺し方をしていた。

 

『こちら憲兵09!現在暴徒による襲撃により、我が方被害甚大!!救援を乞う!繰り返』

『いたぞ!こっちだ!!』

 

『ッ!?頼む助けてくれ!!戦車か装甲車を!!助け』

『殺せぇ!!!!!』

 

『や、やめ!ゴフッ.......』

 

「隊長!!」

 

「すぐに出るぞ!!暴徒どもに分を弁えさせろ!!!!」

 

本部に駐屯している独立機械化憲兵小隊は、この無線を受けて市街地に出撃した。この小隊は暴徒鎮圧や叛乱部隊への強行突入等を視野に入れて試験的に編成された部隊であり、最新のシェパード装甲車とブル軽戦車を装備している。更に憲兵の武装も短機関銃やら催涙ガスグレネードやらと、かなり重武装なのだ。因みにこれ、バイツが提言したらしい。

さて、こんな重武装憲兵軍団であるが、彼らには一つ誤算があった。彼らが鎮圧しようとしている暴徒は、単なる暴徒ではない。鎮圧対象の暴徒は、皇国のパラミリチームが軍事教練を施した統率の取れている民兵なのだ。そんじょそこらの、鉄パイプとか角材を振り回しているような連中とは訳が違う。

 

「こちら監視班。装甲車と戦車がそっちに向かった」

 

『了解。対処する』

 

こんな感じでしっかりと司令部前に、反乱軍の同志が一般人に扮して監視している。まさかこんな事になっているとは知らない憲兵隊は、メインストリートを堂々と進軍。なんならスピーカーで軍歌を流す余裕っぷりである。

だがその進軍を、手ぐすね引いて待っている連中がいた。

 

「お前達、仕事の時間だ」

 

「おう!合図は頼むぜ、ハンドラー・ハル」

 

「あぁ」

 

パラミリチームの一つ、ローダー分隊である。この分隊はパラミリチームの中でも別格であり、ローダー分隊が正式名称ではあるが、こう呼ばれている。『レイヴン分隊』と。メンバーはローダーことレイヴン、ハル、ソル、ターナーである。

 

『ハル。こちらは準備完了です。レイヴン、ターナー。そっちはどうですか?』

 

『問題ないアルよ』

 

『いける』

 

「ハウンズ。準備しろ」

 

ハウンズとは反乱軍の精鋭であり、ハル及びレイヴン分隊の指揮下に入っている独立部隊である。この部隊には皇国が供与した89式やカールグスタフ等のチート兵器を運用しており、こういった危険な任務に駆り出される部隊だ。

因みに何故、隊長のレイヴンが指揮を取らないかと言うと、単純に大人数を動かすのが下手だからである。パラミリチームには序列があってないような分隊が多いが、この分隊は異質で実質的な指揮はハルが執る。しかしここぞの判断や咄嗟の判断にはレイヴンに定評があり、その能力を最大限活用する為に分隊長をしているのだ。その為、ハルはしばしば『ハンドラー・ハル』と呼ばれる事もある。

 

『車両、補足したアル!』

 

「ハウンズ。燃え残った全てに火を付けろ」

 

ハルの命令で、ハウンズ達は一斉にカールグスタフM2やパンツァーファウストIIIを撃つ。先頭のブル軽戦車を破壊し、そのすぐ後ろのシェパード装甲車も破壊。車列は完全に停車した。

シェパード装甲車から武装した憲兵隊が降りてくるが、その前にこのコンビが迎撃に移る。

 

「レイヴン、私は右を仕留めます。あなたは左を!」

 

「任せて!」

 

この2人はある、特別な装備を持っている。レイヴンは左右の腕にパワードスーツの腕を装備しており、36式散弾銃を二挺装備できる。しかも下部レールにはグレネードランチャーを装備しており、遠近共に対応できる。

一方のソルは左手には刀、右手には37式短機関銃を装備しており、完全に近接特化の武装だ。この2人のコンビネーションの前に、憲兵隊はなす術なく殲滅された。

 

「ハル。終わりましたよ」

 

『こちらでも確認した。レイヴン、お前の方は?』

 

「こっちも終わった」

 

『一先ず戦闘終了だ。一度帰還しろ』

 

 

 

同時刻 裏通り 元バーの廃墟

「どうやらメインストリートではパーティーが始まった様だな。では作戦内容を説明する。一字一句聞き漏らすな!今回本部は反乱軍援護の為、このエーベンダルト内の司令部を破壊する事を決定した。指揮系統の破壊により、連中が泣いて逃げ回る状況にするのが目的だ。愉快な遠足の始まりだ!!」

 

メインストリートが地獄の様な状況になっている中、JMIBのパラミリチームも動き出す。今回アサインされているのは、ライガーテイル分隊。分隊員はライガーテイルを筆頭にタイヤングショウ、サンタイ、ベリルである。

 

「全く、ライガーテイルのオヤジは相変わらず声がデケェ」

 

「チッ。こんな地下で怒鳴るなよな」

 

「ほう、どうやら耳が寂しくて仕方がないようだな。だったら集音器でも付けて、環境音を爆音で聞いていろ!!!!!」

 

ベリルが「テメェのせいで聞こえねぇよ!!」と怒鳴りそうになったが、それを察したサンタイが無理矢理ベリルの口を塞ぎ、それを言わせないようにする。それを見てタイヤングショウは遠目から笑っていた。

 

「これより作戦行動を開始する。突入しろ!役立たずども!!!!」

 

ライガーテイル分隊が司令部を強襲している頃、もう一つの分隊も動き出した。彼らの仕事は、言うなれば誘拐だ。どういう事かと言うと、実はライガーテイル分隊が攻め込む司令部にいる指揮官は、自らの保身しか考えないクズなのだ。となればライガーテイル分隊が攻め込んで来た瞬間、必ず司令部から逃げ出してくる。そこを誘拐するのだ。

しかもこの指揮官、コネと情報は持っている。イルネティア島駐留部隊の総指揮官は、かなりやり手らしく間違いなく徹底抗戦なり降伏なりしてくる。少なくとも、逃げることはない筈だ。だがこっちの指揮官も、それに劣るとは言えかなりの情報を持っている。こちらからしてみれば、お手頃な獲物にも関わらず得る物が大きいボーナスキャラのような存在なのだ。そしてこの任務を任されている分隊は…

 

「分隊各員。統率を欠かぬように」

 

オープンフェイス分隊である。分隊員は分隊長のオープンフェイスと前回の回想に出ていたアイスワーム、これにアーキボーイとバルテウスという分隊員がいる。

 

「アーキボーイくん、駄犬の情報を」

 

「えっとー、駄犬の名前はシュナイダー・アーキバース。略奪行為を主導した男で、この国の惨状の8割はコイツのせいだねー」

 

「ほう」

 

「この男が略奪推奨して、ついでに現地人を人猿呼ばわりして色々やってたみたいー。まあ平たく言って、クズだねー」

 

「ではアーキボーイくんとバルテウスくんは、都市内部で帝国臣民及び帝国兵をできるだけ残虐に殺してきなさい。可能であれば、新型薬剤の投与も。私とアイスワームくんは、駄犬の捕獲に向かいます」

 

ここで分隊は別れ、オープンフェイスとアイスワームは司令部を目指す。正確にはその裏手だ。到着から10分もしないうちに、ライガーテイル分隊が動き出したのか爆音が鳴り響く。

それから更に10分すると、一台の車が猛スピードで飛び出してきた。指揮官クラスの高級将校が乗る乗用車である。それを確認した瞬間、アイスワームは無反動砲を構える。弾頭には通常弾の代わりに、車をスタンさせる新型砲弾が装填されている。これが車に命中し、敢えなく車は停車。動かなくなる。

 

「目標を無力化。ええ、指示どおり生かしてありますよ。まったく、皇国を出し抜こうなど、身の程を弁えない駄犬には教育が必要です。それから、そのツレにも」

 

アイスワームからの報告を受けると、オープンフェイスはスタンして動けない車に近付く。車からは例のシュナイダー・アーキバースと、その護衛と思われる将校が出てきてこちらに銃を構えてくる。

 

「動くな!!」

 

「…どいつもこいつも、身の程というものを弁えない。途方もない頭の悪さだ…!あくまで噛みつくつもりか…?そう言えば、帝国人は慢心しているのだったな。胡座を掻いて踏ん反り返る事しかできないわけだ」

 

「なんだと貴様!?!?」

 

護衛の1人とアーキバースが拳銃を撃つ。しかしこんな状況に追い込まれたことがないのか、戦場を知らないのかは分からないが、弾丸はオープンフェイスを掠めるだけだった。

 

「シュナイダー・アーキバース。駄犬というのは訂正しましょう。貴様は…駆除すべき害獣だ!

略奪で私服を肥やすのはいいでしょう。バレても勝手に内輪揉めするだけです。こちらになんの被害もない。

現地民を虐げたのも、まぁ、いいでしょう。

だが貴様はこの私を.......。皇国を殺そうとした。害獣め、駆除以外の選択肢はない!!消えろ…!害獣!!!!」

 

「貴様は何を言っているんだ!?!?」

 

「殿様外交しかできない無能外交官。頭の悪い上層部。そして何より、災厄を撒き散らす世界の害獣.......。どいつもこいつも、この私を苛立たせる…!

死んで平伏しろ!!

私こそが皇国だ!!!!

 

オープンフェイスは護衛とアーキバースを殴り飛ばす。この男、見た目こそ嫌味なインテリメガネなのだが、そのパワーはかなりの物で殴り飛ばされた2人は1発ノックアウト。口から泡を吹いて倒れ伏した。

 

「貴様らのせいで、再教育(・・・)の手間が増えてしまった。また忙しくなる」

 

因みにこのオープンフェイス分隊、再教育のスペシャリストである。皇国の再教育センターとは素晴らしい物で、どんな堅物だろうと再教育センターで再教育を受ければ従順になる。

とまあ、こういう触れ込みだがその実情とは、再教育センターというのもブラックサイトや秘密監獄等を示す隠語であり、再教育もそういう名の拷問である。科学的根拠に基づいた人間がギリギリ死なない程度の加減が行われるが、これはつまり「どんなに苦しかろうと死ぬ事のない、生物学上の最大苦痛を長期間与えられ続ける」という事でもある。この2人がどの様な末路を辿るかは、オープンフェイス分隊の気分次第だ。

ドイバ他、各地での一斉蜂起が始まってから1時間後。この蜂起に合わせる形で、皇国軍も出撃。第二海兵師団と神谷戦闘団は首都を挟み込む様な形で進軍を開始し、各所の街や村々で帝国軍を殲滅しつつ首都を目指す。

 

「長官、戦況報告です。第二海兵師団、第三連隊は予定通りに進軍。現在、首都キルクルスの東方30km地点にて、合流してくる反乱軍を纏めています。第一、第二連隊はこことここに布陣。待機しています」

 

「偵察隊からの報告は?」

 

「現在、本島守備隊は首都に集結中であり、首都に三重の防衛網を構築しています。例のカチューシャも配備されており、反乱軍を殲滅する構えですね」

 

上陸から2日目にして、既に王手を掛けている現状であるが、ここに至るまでに帝国軍ご自慢かどうかは知らないが、例の新鋭機甲部隊やカチューシャ擬きも殆ど遭遇していない。カチューシャ自体の装甲は弱いが、数を揃えて攻撃されると面倒な事この上ない兵器なのだ。

特に反乱軍は数だけの存在であり、幾らパラミリチームが鍛えたとは言え所詮は民兵。武器で障害を排除する戦闘行為はできても、本職の軍人の様に戦略を立て、戦術を考え、それを実行して戦争をするという戦争行為はできない。そういう相手に、このカチューシャはとにかく有効だ。無誘導ロケット砲のコンセプトは、基本的に下手な鉄砲数撃ちゃ当たる理論であり、命中精度よりもバカスカ目標周辺に撃ちまくって弾幕を張って面制圧を行い、それによって生じた隙をつく戦法を取る。実際、ソ連でもカチューシャで面制圧と注意を引いて、野戦砲等の精度が高い兵器で重要な施設や装備を破壊する戦法が一般的だった。

 

「あの、閣下。よろしいでしょうか?」

 

「何だ長谷川大佐」

 

「何故、そんなにも悩んでいるのですか?機甲師団でゴリ押して、戦線を無理矢理こじ開ければよろしいのではないのですか?」

 

長谷川の言う通りではある。確かに恐ろしい兵器だが、こちらの機甲部隊、特に46式戦車を前面に出して突破させれば被害はなく突破できるだろう。だがそれでは態々、民兵達に兵器を持たせた意味がない。

 

「これは一種の実験なんだよ」

 

「実験、ですか?」

 

「我々の武力を持ってすれば、いとも簡単に突破できるだろう。それこそ神谷戦闘団だけで、この島を解放するのも簡単だろうさ。だがそれでは、ここの民には意味がない。自らの手で独立を、勝利を勝ち取らせる必要がある。そうしなくては、いつかまた危機に瀕した時に頼り切りになってしまう。

例え現地民に大量の被害が出ようと、取り敢えずは「共に戦い、共に独立を勝ち取った」という体裁は取っておきたい。そうすれば例え共闘であっても、それは彼らの手にした揺るぎない勝利だ。その事実が王国には必要であって、皇国にはその結果が必要なんだよ。

今回、この方法を模索する実験として、早期からのパラミリチームによる軍事教練や、ICIBとJMIBによる武器の密輸を行ってきた。その成果を見る為にも、ここは彼らにどうにかして貰いたい所だな」

 

なんて言っているが、その実は経費削減である。もし今後、金のかかる正規軍を動かさずに、皇国製の古い兵器を融通するだけで勝利できるのなら、こちらとしては願ったり叶ったりである。

また既に一色と川山の間では、戦後世界の枠組みも議論されている。その中で2人は恐らくはミリシアルと皇国は、軽い冷戦になるのではと予測が出ている。流石に米ソ程ではないにしても、互いを牽制しあったり紛争を影から操ったりと、そういう事はする可能性がある。その為にもこの辺りで異世界での裏工作を実験しておきたいのもあり、この作戦はそういう側面もあったりするのだ。

 

「まあ、とにかく今はこっちも前進あるのみだ。向こうで考えよう」

 

途中、敵戦車と遭遇したが、先頭を走るアサルトタイガーの46式で、ものの見事に撃破し、そのまま残骸を踏み潰して進撃してきた為割愛する。数時間後には、目標地点に到着。キルクルスは完全に包囲された。

 

「浩三さん。ここからどうするのかしら?」

 

「さてどうしましょ。別にゴリ押しでもいけるが、それじゃぁな」

 

「このまま包囲して兵糧攻め?」

 

「兵糧攻めしたとこでなぁ。ぶっちゃけ期間長くなるし」

 

どう料理してくれようかと、緑茶片手にキルクルスを見ていると、急に極帝が装甲車から這い出てきた。何かあったらしい。

 

「友よ。どうやら、この国の英雄が現れた様だぞ?」

 

「この国の英雄?」

 

「あぁ。空を見よ」

 

空を見ると、夕焼けの太陽を背に竜がこちらに猛スピードで接近してきていた。その竜は見るからに、ワイバーンとは違う。明らかにその上位種なのだと、竜の知識がない神谷でも分かるくらい巨大だった。

 

「.......まさか、昼の竜か?」

 

「幼き神竜と、それを手懐けた女子である。友よ、彼女らであれば突破できると思うが?」

 

「..............悪くない」

 

救国の英雄が幼き神竜と、それを手懐けた将来有望な少女というのは、分かりやすい英雄譚だろう。何より反乱軍の士気は、これで否が応でも上がる。これを使わない手はない。

 

「総員戦闘配置!突撃に備えろ!!どうやら彼女達が、道を切り開いてくれそうだ!!各部隊にも伝達!!!!さぁ、フィナーレを飾るぞ!!!!!!」

 

神谷は巨大化した極帝の背中に飛び乗り、大空へと飛び立つ。見つからない様に不可視化の魔法も掛けてある。

 

「イルクス!わたし達なら、きっと大丈夫だよね!!」

 

『僕たちなら大丈夫だよ!!行こっ!!!!』

 

イルクスとライカのコンビは、果敢にも帝国が築いた防御陣地に飛び込む。さっきの戦闘でも、いとも簡単にセンシャは倒せた。例の戦闘機さえ来なければ、きっとどうにかなる。

そう考えていたのだ。だがこの防御陣地に結集した戦力は、この島の全戦力に等しい。幾ら神竜とは言え、たかが1匹では戦局を打開できる訳がない。しかもここに集結している大半は、最新鋭の兵器群。対空砲の弾幕も濃密で、なんの訓練も受けていないライカとイルクスは攻撃できずに、上空に逃げる始末だ。

 

「な、なにあれ!!!」

 

『分からない!でも、ちょっと危ないかもね.......』

 

「か、勝てるよね!わたし達はなら、大丈夫だよね!?」

 

『.......』

 

イルクスは答えられなかった。これだけ濃密な弾幕は、当然だが生まれて初めて見る。こんな弾幕を掻い潜って、しかも背中にライカを乗せて飛び回るなんて、流石に神竜と言えど無理があった。

それを察したのか、ライカはイルクスを抱きしめた。何も言わずに、ただ抱き締めるだけ。お互い、言わんとしていることは言葉に出さずとも分かった。

 

「イルクス。やろう!」

 

『.......そうだね、やろう!!』

 

イルクスとライカは再び突っ込んだ。イルクスは喉に魔力を溜めて、それを解放。口から雷属性のビームを吐き出した。そのビームは地上を焼き払い、防衛線の穴を作り出す。

だが次の瞬間、イルクスの左翼を砲弾が貫いた。

 

『ぐっ.......』

 

「イルクス!!」

 

『しっかり.......掴まっ.......て..............』

 

生き残ってる翼をフルで使い、どうにか不時着に漕ぎ着ける。ライカに傷一つ付けることなく、不時着に成功したイルクスだが、そこは敵陣のど真ん中。すぐに兵士達が駆けつけて、銃を突き付けてくる。

 

「イルクスを撃たないで!!!!」

 

『ダメ!下がって!!』

 

「イルクスは私を守ってくれた!!だから今度は、私が守る!!!!!!」

 

ライカはイルクスの前に立ち塞がり、両腕を大きく広げてイルクスを守ろうとした。だが次の瞬間、真上に巨大な竜が飛来した。

 

「幼き竜とは言え、人間に遅れを取るでないわ。小僧」

 

『極帝.......様.......』

 

「だが、友を守ったその意気は良し!!」

 

いきなり現れた巨大な竜に、帝国兵達は困惑する。取り敢えず銃や砲を向けるが、そこからどうするかは考えてないらしい。極帝はそれを知ってか知らずか、天地万物を震わす巨大な咆哮を上げる。

 

「我こそは竜神皇帝『極帝』である!我が前に立ち塞がるは、その身を業火に焼き尽くされるのみと知れ!!!!」

 

「おいおい。そんなカッコいい名乗りをやるなら、先に言ってくれよ」

 

極帝の背中から神谷が飛び降り、刀を構えながら着地する。いつも通りの羽織りを纏った姿は、ライカにはとても眩しく、物語の勇者が現れた様な興奮を覚えた。

 

「貴様は.......」

 

「この顔を忘れたか?俺は大日本皇国統合軍総隊司令長官にして、神谷戦闘団の団長!!神谷浩三・修羅だぞ!!!!」

 

この一言で兵士達は一気にざわつき、顔色は真っ青になる。神谷の名は、半ばフーファイターの様な都市伝説じみた事になっているのだ。やれ悪魔の化身だの、人の肉を喰らい生き血を啜るだの、ゆっくりジワジワと殺されるだの、かなり酷い話が広まっている。故に屈強な帝国兵も、恐怖でどうにかなっているらしく逃げようとする者も居るほどだった。

 

「極帝。そっち任せる」

 

「心得た、友よ」

 

そこから始まったのは一方的な戦闘であった。極帝は戦車とか人間の区別なく焼き払い、神谷は相手の懐に飛び込んで刀を振り回し、的確に命を刈り取っていく。

更に砲弾が神谷達に被害が出ないギリギリの地点に着弾し爆炎を上げ、帝国兵の数をみるみる減らしていく。

 

「初弾命中!」

 

「団長の周囲を薙ぎ払う。51式を使え!」

 

「ハッ!」

 

神谷戦闘団隷下、グラディエイターヴィーナスに続く形で他の砲兵部隊も攻撃を開始。これに呼応して、戦車を先頭に歩兵部隊も戦線に殺到。首都を目指して進撃する。

 

「そんな.......。まさか、これが狙いだったのか!?!?」

 

指揮官らしき男がそう叫んだ。だが神谷は冷ややかな目をその男に向けると、さも当たり前かの様に語る。

 

「狙い?そんなもんあるかよ。彼らは俺が思い描いたタイミングで、最高の仕事をやってくれるんだよ。まあ、お前達は運がなかったってことで」

 

「や、やめっ!」

 

「死んでいいぜ」

 

神谷は指揮官らしき男の首を切り落とす。その頃には周囲の敵部隊も壊滅状態であり、殆ど大勢は決した様な物だった。そんな中、極帝はイルクスに話しかけた。

 

「幼き竜よ。歩けるな?」

 

『は、はい!』

 

「ならば、その足を持って敵に突っ込まぬか。気高き竜が、翼を折られた程度で終わるものか」

 

『わかりました!!』

 

イルクスはライカを背中に乗せて、そのまま王都の門の方へと走って行った。この頃には機甲部隊を先頭に各部隊も続々と門に殺到し、数時間後には王都は解放され、ここにイルネティア島の帝国軍は駆逐されたのであった。

 

「あ、あの!!」

 

戦闘後、部下達に戦闘後の後始末を命令していたところ、ライカが神谷に話しかけてきた。その目はキラキラ輝いており、神谷自身も逆に身構える。

 

「何の用だい、嬢ちゃん?」

 

「えっと、わたしを弟子にしてください!!」

 

「.......はぁい?」

 

まさかの頼みに、変な返事をしてしまう神谷。流石に一応初対面の少女に、いきなり弟子にしろと言われても反応に困る。

 

「.......な、何故弟子に?」

 

「修羅様が強いからです!!!!!!私もそうなりたいのです!!!!!!」

 

「お、おぅ。そうか」

 

物凄い剣幕でそう言ってくるが、コチラとしてもますます対応に困る。生憎と神谷は弟子を取るつもりないし、寧ろ魔法に関しては何処かの高名な魔術師に弟子入りしたい位だ。

だが流石に、こういう時にNOを突きつけるだけでは面白みがない。少し夢を守ったっていいだろう。

 

「悪いが、君を弟子にはしない」

 

「そ、そんな!どうしてですか!!」

 

「もっと強くなりなさい。まだ君達は、経験が足りなさすぎる。いつか時が来たら、皇国へ来るといい。その時は君に教えを授けましょう」

 

こう言っておけば、大体どうにかなる。夢も守れて弟子も取らなくて一石二鳥かつ、本人も遠くないうちに忘れてくれるので全て丸く収まる。

 

「はい!わかりました師匠!!!!」

 

ライカの返事に、神谷は優しい笑みを浮かべて頷いた。これで神谷は終わりだと思っていたが、後日マジで弟子入りの為に皇国にやってくる事になるとは神谷は思っても見なかった。

 

 

 

 




設定集が中規模リニューアルしました!陸軍と海軍陸戦隊に、部隊の規模の項目が消え、新たに編成の項目が追加されてあります!皇国軍の強さの秘訣、その一端ですw。


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第九十話バイオハザード・パガンダ(前編)

5日後 イルネティア島 メーリーン航空基地 執務室

「長官。ウラン鉱山の報告書です」

 

「あぁ」

 

早いもので、イルネティア島の解放から5日が経った。現在は残敵の掃討に移りつつも、新政府樹立に向けて動いている。既に皇国軍の出番は、殆ど終わった様な物だ。

だが今回は、ウラン鉱山の探索がある。戦闘から2日後には当該鉱山の調査に部隊を派遣し、かなりの情報が集まったとは聞いているが詳細はまだ神谷も知らない。

 

「採掘されていたのはウラン235と238であり、まず間違いなくヒロシマのリトル・ボーイと同じ、ウラン型原子爆弾でしょう。どうやらウランは既に帝国本土に大部分が輸送されているらしく、恐らく濃縮も本国で行っているのでしょう。輸送経路に関する文書も発見しましたので、分析すれば恐らく秘密基地の場所も判明するものと思われます。

しかし当面の問題は、こちらです」

 

「おいおいコイツは.......」

 

神谷の目の前に広げられたのは、数十枚の写真であった。その写真に収められているのは、ウラン採掘に従事させられたイルネティア王国の国民達。髪は完全に抜け落ち、黒い血を吐き、皮膚はパンパンに膨れていたり爛れてたりと、明らかに重度の放射能被曝を引き起こしたいる症状だ。しかもこれは、まず助からないレベルの重症。ここまで来たら、悪いがサクッと殺してあげる位が当人には楽な位、死ぬまで苦しみ続ける事になる。

 

「ご覧の通りです。島内各地にある、村から人が1人残らず消えたという話。どうやら、その答えがこれの様です。男はウラン採掘、他は人体実験に使われる様です。本部の資料を確認した所、本国の研究施設への輸送記録がありました。恐らく、ナチスドイツの様に様々な実験が施されるのでしょう」

 

「死んでいると思われているのが、果たして幸運なのか不運なのか。取り敢えず、ウチの部隊の軍医を連れてこい。出来れば放射能被曝に強い奴」

 

「対策会議ですね」

 

「あぁ.......」

 

形式上はそういう体裁を取るが、正直神谷としては皆殺しを視野に入れている。流石に本職の医者には負けるが、それでも放射能被曝の脅威は仕事柄独学で学んでいる。そんな偏った知識を持つ神谷から見ても、彼らの生存は絶望的なのが見てとれた。

今回の場合、ここにいる人間を王国は死んだと思っている。認識が早かっただけで、別に今死んだとしても結果は殆ど変わらない。ならば苦しまない様に、サクリと殺してやるのが彼らの為だとも思う。幸いこのイルネティア島は不安定かつ、今はまだ王国も皇国も目が行き届いていない。殺しても、その証拠の抹消や改竄は容易だろう。

 

「お呼びですか団長」

 

「来たな。早速だが、これを見てもらいたい」

 

「これは酷い。もう手遅れですね」

 

「あー。やっぱりそう言い切れるか」

 

軍医は写真を見るなり淡々と、そう告げた。最早、何も考えてないだろうと言わんばかりの高速解答である。

 

「これだけ皮膚が爛れてるっていう事は、既に染色体がやられてる証拠です。もう新しい皮膚が作れません。となれば、血液やら組織液やらの体液が体外に溢れ出し、あっという間に失血死です。輸血しようにも、今から間に合うかどうか。それならば、違法でも安楽死をお勧めします」

 

皇国の法律で、安楽死は既に解禁されている。だがそれは本人が望むか、一年以上の昏睡状態ないし植物状態かつ近親者の過半数が望み、尚且つ担当医師と担当外の医師、それから病院外の専門医が助かる見込みがないと判断した場合に限られる。

軍法では軍医の判断により、戦闘中はトリアージの一環として自決様の手榴弾等の配布、場合によっては他の兵士による殺害が許可される。だがそれはあくまでまで、大日本皇国軍人のみ。皇国臣民は該当するわけがない。まして他国の国民を殺すなんて、単なる殺人である。

 

「やはりな。.......お前、覚悟はあるか?」

 

「医者としては不合格でしょうし、人間としても外道でしょう。ですが彼らをもう、楽にしてやりたいです」

 

「いいだろう。哀れなウラン鉱山の鉱夫は、グラ・バルカス帝国が殺害した。せめてもの情けに、楽に苦しませずにな。君には軍医として、現場の確認をお願いしたい」

 

「了解!」

 

無論これは、神谷からの実質的な殺害命令である。普通に軍規違反かつ単なる殺人と殺人教唆だ。だがそうだとしても、その汚名を背負うだけの覚悟がある。

軍医は神谷の命令を遂行し、鉱山労働者達に安楽死で使われる毒薬を注入し殺害。死体は念の為、火葬の上で骨は近くの大木の根元に埋めた。せめてもの手向として、花と酒も添えてある。

 

「そうか。処置完了か」

 

『はい。成仏してくれる事を祈りますよ』

 

これでイルネティアでの諸問題は一先ず終わった。次に考えるべきは、パガンダ島。忘れている読者もいるかもしれないが、現在パガンダ島ではゾンビパンデミック擬きが発生している。これの調査、場合によっては鎮圧が今後の神谷戦闘団の目的になる。

既に皇国本土より放射能、生物兵器、化学兵器のスペシャリストである中央特殊武器防護隊が進出してきており、パガンダ島に投入予定だった第四海兵師団、究極超戦艦『日ノ本』が待機中である。また皇国本土から、もう一つの切り札も持ってきている。もしもの場合の最終手段まで準備してある辺り、神谷の身長っぷりがよく分かる。

 

「こーきゅん!全員準備完了よ!!」

 

「よーし。そんじゃ、バイオハザードの世界を探検するとしようか」

 

今回は神谷戦闘団全軍を投入する。白亜衆含む歩兵部隊はAVC1突空でパガンダ島に向かい、一部の機甲戦力も空路から空挺降下で向かう。だが大半は海路でHLCACやALCACといった舟艇に乗せて輸送する事になっている。

 

 

 

同時刻 パガンダ島 王都パーミンガム

「コイツら何なんだよ!!」

 

1週間ほど前から、パガンダ島は地獄になってしまった。人間や動物が突如凶暴化し、人を襲い始めたのだ。凶暴化した暴徒は、マトモな人間に噛み付いて攻撃してくる。噛みつかれれば最後、その者も暴徒と化し、さっきまで隣で共に戦っていた戦友だろうと、一緒に逃げてきた親や子であろうと、噛みついてくるのだ。

こんなゾンビ物のパニック小説の様な事態を前に、パガンダ島駐留部隊は効果的な対処はできず、司令官以下、幕僚達や各部隊の指揮官は軒並み戦死するか暴徒化するかして消息不明であり、今や判明している最高級者は第6歩兵中隊の中隊長、バーディー・ボイル大尉に委ねられる始末である。

 

「大尉殿!!ここはもうダメです!!!!」

 

「一旦退くぞ!!司令部なら取り敢えずは強固な筈だ!!!!」

 

「了解!!」

 

ボイルは部下達を引き連れて、壊滅した司令部に立て篭もる。中を掃除さえしてしまえば、軍用拠点なだけあって頑丈だ。それにボイルには直属の部下以外にも、ここに来る途中で合流した他部隊の兵士達に加え、行く先々で保護してきた帝国臣民と少数だがパガンダ島の現地民もいる。

今のボイルには元からの部下159名、合流した残存兵631名、帝国臣民及び現地民といった民間人126名の命が肩にのしかかっている。正直かなり重いが、そんな事をどうこう言える時ではない。指揮官として、軍人としての責務を果たすだけだ。

 

「大尉!軍曹!!早くこっちに!!!!」

 

「援護するぞ!!前進!!!!」

 

司令部から数人の兵士がボイルらの撤退を援護するために出てきて、適当にボイルの後ろを追いかけてくるゾンビに向かって撃つ。ボイルと軍曹が中に入ったのを確認すると、援護に出ていた兵士達も中へと戻り扉を固く閉ざした。

 

「大尉殿。その、街の方は?」

 

「ダメだ。どこもかしこもゾンビだらけだ。生存者も見つからなかった。他のチームは?」

 

「他もダメですよ。全く、このゾンビ共は一体.......」

 

「現地民も分からないんだったな?」

 

「そ、そうです。こんな事、生まれて初めてです。言い伝えにも無かった筈です。私共が知らないだけで他の集落に存在していたのか、記録が長年を掛けて消えたのか、それも今となっては.......」

 

現地民の男がそう言うのも無理はない。かつてパガンダ王国は、帝国の皇族を殺した。それも外交のために平和的にやってきたのだが、結局、色々吹っ掛けられた挙句処刑されてしまった。それ以降、帝国は積極的な拡大政策を取る様に今に至る。言ってしまえば今の世界で起きている世界大戦とでも言うべき戦争の、直接的な引き金となった事態を引き起こした国なのだ。

そんな訳でパガンダ王国は最初に攻め滅ぼされ、以来王国民は虐殺の憂き目にあった。だがその中でも、王国民に差別されていた側の原住民族達だけは、逆に帝国の臣民として生かされていた。元々、パガンダ王国に於けるヒエラルキーは王国民が上だった訳だが、今や帝国臣民、原住民族、旧王国民の順にひっくり返ってしまったのだ。

 

「少尉!この司令部に立て篭れるのは、後どのくらいだ?」

 

「建物自体はまだまだ持ちますが、食料が持って3日です。補給の目処がないとなると生存は絶望的かと.......」

 

「イルネティア島への連絡は?」

 

「ダメですね。どうやらイルネティア島はイルネティア島で、例の大日本皇国に攻め込まれた様でして」

 

援軍も補給も見込めないこの状況で、未だに反乱や暴動が発生しないのは、食料がしっかり配給されているからである。その希望の食料がなくなれば最後、内部で争って最終的に自滅するだろう。

 

「脱出するしかないか.......。使える兵器は?」

 

「幸い、車両と燃料は大量にあります。ここにいる全員を乗せても余裕があるくらいに。しかし問題は、ここから脱出できたとして、どうやって島から脱出するかですよ。所詮は島ですから、どの方向に進んでも必ず海に行き着く。そこから船で逃げられるかどうか」

 

パガンダ島は島だ。その為、その外に行くには船か航空機しかない。勿論この島にも両方ある。飛行場は大きいのと小さいのが1箇所ずつ、港は漁港が2つと大型の帝国が作り上げたのが1つだ。

ゾンビ発生時、この5箇所は即座に部隊が派遣され防衛体勢が引かれたのだが、飛行場は陥落し基地機能は喪失。航空機も燃えたらしく、飛行場の機能は完全に潰れた。漁港はそもそも派遣した時には既にゾンビだらけで近づけず、残る港は一時は防衛に成功するも結局は崩壊し生き残りもどうなったかは分からないらしい。

 

「偵察隊を出す余裕はないか.......。こうなったら見切り発車で、全員をトラックに乗せて港に逃げる。準備にかかれ」

 

「しかし、それでは例の変異体に襲われる可能性が!」

 

「どうせここにいても破滅を待つだけだ。ならば少しでも、生存の可能性がある方に賭ける。それに変異体と言えど、倒せない訳じゃない。やるしかない!!」

 

このゾンビウイルスにもそういう変異体は、ご多聞に漏れずしっかり存在する。例えば人型でありながら翼が生えてたり、一部が肥大化していたり、人型でありながら人間らしからぬ見た目だったりと、総じて気持ち悪い見た目な上に普通のゾンビよりも数段強い。物によっては、単騎で戦車を破壊する程だ。

 

「最新鋭の兵器が配備されてたのは、こちらとしても不幸中の幸いでしたね」

 

「そうだな。では諸君、旅の準備を始めよう」

 

「はい大尉殿」

 

司令部の地下駐車場から大量のシェパード装甲車とトラックを準備し、適当な武器や装甲を装備していく。特に今回は相手がゾンビなので、機関銃を大量に増設していき、ついでに有刺鉄線を張り巡らせたり、使わなくなった刀剣類を溶接したりして、突貫作業で対ゾンビ車両を作り上げた。彼らはこのトラックとシェパード装甲車に乗り込み、港を目指して司令部から飛び出した。

この数時間後、奇しくも目的地の港に彼らは上陸した。世界唯一の実戦経験を持つ中央特殊武器防護隊、世界最強にして転移以来、数多の戦場を駆け抜けている神谷戦闘団、海軍陸戦隊内の最恐部隊たる第四海兵師団。彼らはこの港を前線拠点とする事を決めたのだ。

 

「案の定と言いますか、何というか」

 

「ゾンビだらけだな」

 

「じゃあゾンビハントするか!」

 

帝国軍は手を焼いたゾンビだが、皇国の場合はゲームで嫌というほどゾンビの生態は学んでいる。無論それが本当かどうかは別として、戦闘のイメージは付きやすい。それ故に、かなり簡単に掃除ができてしまうのだ。

 

「あ、そっち行った」

 

「おりゃぁ!!!!!」

 

「わーお装甲歩兵恐ろしいー」

 

「頭かち割られてやんの」

 

「ひぃー、怖い怖い」

 

普通映画の中でもゾンビが現れたら……

 

大尉「ノーーーン!ゾンビだ!!!!!!」

 

軍曹「ジャック二等兵!!こっちだ早く!!!!」

 

ジャック「あわわわ」

 

ゾンビ「あ"あ"あ"あ"!!」

 

ジャック「ぎゃぁ!!いだい、いだいよぉ!!」

 

軍曹「ジャーーーック!!!!」

 

大尉「あいつはもうダメだ!!軍曹、退くぞ!!!!」

 

とまあ、こんな感じに歴戦の軍人でもパニックになったり、仲間が噛まれてゾンビ化したりと、かなり大騒ぎとなる。だがご覧の通り皇国の場合はまるで射撃演習の的を倒すかの如く、サクサクとゾンビを倒してしまう。というか何なら、味方の装甲歩兵の近接装備に倒されたゾンビの死に様がグロすぎて、逆にダメージを受けるとかいう訳のわからない事態が発生する始末だ。

 

「どうだこの、まぁゾンビでいっか。このゾンビくんの生態というか習性は?」

 

『我々の知るゾンビのイメージと変わりません。腕や胴体を撃った程度では死なず、首を切り落とすか頭を破壊せねば死なぬ化け物。武器は持たず噛み付くか、腕を振り回して薙ぎ払うかです。尤も、噛まれた後にどうなるかは分かりませんが』

 

「噛まれてゾンビになりゃ、目も当てられんからな」

 

『しかし検体は確保済みです。お客人に渡せば、何か分かりましょう』

 

五反田の報告を聞く限りでは、バイオバザードやらゲームのゾンビモードにあるイメージ通りのゾンビらしい。

 

「おーし野郎共ー。死体は1箇所に集めて燃やしとけー。融合して巨大ゾンビにでもなられたら、目も当てらんねーからな」

 

無いとは思いたいが、ゾンビが融合してデカいゾンビになるパターンは少なからず存在する。映画やゲームとは違い、今回は完全武装な上に戦車と戦艦すら備える戦力を持ってきている以上、全滅なんて事は無いと思う。

だがそれでも、そんな巨大ゾンビに出てこられては面倒だ。何より、何人死んでゾンビ化するか見当も付かない。

 

『こちらブラックスターロード。帝国軍部隊を補足した』

 

「ジェネラルマスターより、ブラックスターロード。編成は分かるか?」

 

『例のハーフトラックにトラック。かなりの数ですね。港湾地区に向かっています。どうやら、馬ゾンビに追いかけ回されてる様で』

 

「勝手に自滅してくれるなら、それで構わないんだが連れて来るのはアレだな。掃除するかな」

 

今回の目的はゾンビとこの原因を突き止める事。帝国軍との戦闘は積極的には行わない。だが、拠点に向かってくるというのなら潜在的脅威の排除として攻撃を行う。幸い、こちらにはグラディエイターヴィーナスの51式510mm自走砲を始めとした砲兵器が待機中だ。遠距離から一方的に対処できる。

 

「海原先生。お仕事のお時間ですよー」

 

「ほう。この雄山に仕事とな?よろしい、どの様な仕事かな?」

 

『ッ!?攻撃中止!!民間人を確認した!!!!』

 

「どういう事だ?」

 

『接近中の車両には多数の民間人を乗せている模様!!繰り返す!接近中の車両に民間人を認む!!指示を!!』

 

この世界にジュネーブ条約は存在しないし、こんな辺鄙な島で民間人に誤射しても誰も分からない。だが民間人がいると知っていながら引き金を引くのは、基本的にあってはならない。それを皇国軍がやれば、その時からもう皇国の軍隊でなくなってしまう。

 

「だそうだ。海原!攻撃準備のまま待機!!援護射撃に備えよ。全軍に告ぐ。戦闘用意だ。当港湾地区を暫定的な防衛ラインにて区切り、戦闘に備えよ。『日ノ本』にも連絡。戦闘配置のまま待機の上、こちらの要請に備えよ。ブラックスターロードは状況を動画にて共有し、追って指示あるまで待機せよ」

 

神谷の指示に各部隊が一斉に動き出す。幸い防衛線は帝国軍が残していったと思われる塹壕があったので、これを流用すれば問題ない。すぐに歩兵達が滑り込み、装甲歩兵がその前や後ろに陣取って備える。

 

「長官。ブラックスター隊からの映像ですが、かなり切迫した状況の様です」

 

向上から渡されたタブレットの映像では、かなりの数のゾンビに追いかけられている車列が映っていた。しかも普通のゾンビではなく、馬や狼、それから変異種と思われる翼が生えたタイプ、それに尻尾にサソリの尾を持ったデカい蚊のような虫、デカいバッタもいる。

そんなクリーチャー軍団がトラックを襲い、そのまま中にいる人間を貪り食っている。ゾンビに噛まれればゾンビらしいが、虫の場合は血を吸っているみたいで死体がゾンビになれないのもある様だ。

 

「エイティシックス、アサルトタイガー、ラグナロク出撃準備。救出に向かう」

 

「配置はどうされますか?」

 

「スピード命だ。ブラックスター隊を初手で突っ込ませ、アサルトタイガーが突撃。エイティシックスは右翼と左翼から遊撃しろ。ラグナロクはジェットパックで車列に近い奴のみを排除するんだ」

 

指示を受けた各部隊は直ちに前進。車列の救出に向かう。

一方その頃、ボイル率いる車列はそんな救援が来ているなんて梅雨知らず、とにかくゾンビに向かって銃を乱射しまくっていた。

 

「クソクソクソ!!撃ちまくれ!!!!」

 

「弾幕を絶やすな!!とにかく近づかさせたらダメだ!!!!」

 

「大尉殿!ダット曹長のトラックがやられました!!!!」

 

「クソッ!!!!!!」

 

ボイルは壁に拳を打ち付ける。既に8台のトラック、若しくは装甲車が襲われた。それに乗っているのが戦友だろうが民間人だろうが、助けを求める声を見捨てて車を前に進めさせてきた。

だが既に、万策尽きたも同然だ。何せこんなに追ってこられては、例え港についても到着した瞬間に襲われていくのが関の山だろう。かと言って、どうにかする方策もない。

 

「た、大尉!上空にオートジャイロです!!」

 

「オートジャイロだと!?」

 

帝国軍にもオートジャイロは存在する。だがそれは哨戒用の機体であり、航続距離も短くこんな所にいる筈がない。ボイルが双眼鏡で部下の指差す方法を見るとそこには、帝国のオートジャイロよりも遥かに洗練された黒いオートジャイロがいた。しかも胴体には、赤い日の丸が輝いている。

 

「大日本皇国軍が何故こんな所に!!!!!!」

 

ボイルは困惑するのと同時に、脳内にある一つの疑惑が生まれた。この惨状は大日本皇国による攻撃なのではないかと、そう思ってしまったのだ。

だがそんな事を考えている間に、上空のオートジャイロは高度をぐんぐん下げてこちらに突っ込んでくる。

 

「迎撃用意!!!!」

 

ボイルがそう命じた瞬間、オートジャイロは攻撃を開始した。後方に迫る、ゾンビの集団に向けて。

 

「な!?」

 

「大日本皇国軍機、ゾンビ集団に向けて攻撃を開始!!」

 

「我々を.......助けている?」

 

「そんなことがあるのか?だって彼らは、我々とは戦争状態なんだぞ?」

 

ボイル含め全員が困惑していると、車列の前方から兵士が空を飛んで接近してくる。すぐさま兵士達は銃を向けるが、ボイルは何か変な感じがして、攻撃を止めさせた。

 

「こないなゾンビ相手に、ようここまで大立ち回りをしたな。助けたるさかい安心しい」

 

「あ、アンタらは一体.......」

 

「大日本皇国統合軍神谷戦闘団白亜衆。アンタらには『修羅の軍』って言うた方伝わるかいな?」

 

全員が余計に困惑した。神谷戦闘団と言えば本格的に戦端が開かれる前に帝国領内に強襲して宣戦布告を行い、第二文明圏に出現して以降は戦線を押し上げ、更にはその指揮官はグラ・カバル皇太子殿下を殺害した帝国の敵だ。そんな帝国最大の敵が助けてくれるというのは、中々に怪しい。

 

「なんも助けた後に殺しはしいひんし、捕虜にもしいひん。ちゅうか殺すんやったら最初から、ちゃっちゃと大砲でゾンビごと焼き払うてる」

 

「なら何故、我々を助ける!!」

 

「わてらの仕事は戦争をする事。軍人は殺しても、民間人を喜んで殺す事しいひん。それになんか情報を持ってるかもしれへんやろ?」

 

「.......わかった。信じよう」

 

「大尉殿!それは流石に反対です!!」

 

ボイルの決定に、他の兵士達も意を唱える。だがそれでも、この状況下では敵だろうが何だろうが利用しなくては助からない。指揮官としてプライドよりも実利を優先したのだ。

 

「お前達の気持ちも分かる。だが、この状況で我々がなすべき事は民間人を助ける事だろ!!ならば敵だろうが何だろうが、プライドを捨てでも利用できるものは利用する!!!!」

 

「ええ判断や。アンタ、団長も気にいんで。ほなこのまま、港を目指して進め。殿はこっちで引き受ける。前だけ見て、なりふり構わへんで突っ走るんや」

 

「分かった。信じるぞ!!」

 

「うっとこ名に誓うて、背中から撃つ様な卑怯な真似はしいひん。行け!!」

 

車列は加速して、港を目指して突き進む。それをラグナロクの兵士達は見送るとゾンビに向き直る。

 

「にしても揃いに揃うて、きしょい見た目やな。美しないものは、死あるのみ」

 

「隊長。それ、どこの悪役ですか?」

 

「なんや似合わへんか?」

 

「俺達の白い機動甲冑はどっちかっていうと、そういう連中を倒す聖騎士側でしょうよ。悪役ムーブは他の奴に任せましょうや」

 

逃亡中の車列はゾンビに攻撃されれば最後。一溜まりもない。というか突進でもされれば吹き飛ばされて、そのままなす術なくバリボリやられるだろう。

ならば、そうさせなければいい。

 

「皆の者、準備はええか?」

 

「「「「「「「応!!!!!」」」」」」

 

「散開!!!!」

 

馬にしろ狼にしろ、厄介なのはその機動力。だがそれは基本的に、直進に限定される。こうも高速で動くと遠心力や単純に間接強度で、そこまで急ターンは出来ない。

ならばこちらは、散開の上で真横から攻撃してやれば向こうは対応できない。

 

「横にはガラ空きかコイツら!!!!」

 

「足を狙って転けさせろ!!玉突き事故みたいに動きが止まるぞ!!!!」

 

「おっしゃぁ!!!」

 

脚を撃って転けさせれば、そのまま数十頭が一気に巻き込まれて身動きが取れなくなる。他の身体に頭が潰されて死ぬ場合もあるが、大半が起きあがろうと踠く。だがそうはさせない。

 

「ゾンビってのは、総じて炎に弱いんだよ!!!!」

 

29式擲弾銃にナパーム弾を装填し、それを蠢くゾンビの集団に叩き込む。着弾して信管が作動すれば、面白いように燃え上がってくれる。場合によっては火が付いたまま他のゾンビに突進し、そのまま仲良く燃えてくれたりとかなり有効な戦法である。

 

「戦隊各員。攻撃を開始する。いつもの様に付いてこい」

 

『スノウウィッチ。こっちから援護するから、面制圧いける?』

 

『任せて。クレナちゃん。背中は任せるわよ?』

 

『任せといて!』

 

エイティシックス達が右翼と左翼から挟撃する形で動くのと同時、帝国軍の車列の前にはモンスターが現れた。陸上最強のモンスター軍団、アサルトタイガーである。

 

「どけどけどけ!!!!!」

 

「なんだありゃ!?」

 

「戦車だ!!なんてデカさだ.......」

 

『あー!あー!こちらはアサルトタイガー!!帝国軍のトラック!!道開けろ!!戦車のお通りだ!!!!』

 

拡声器片手に奈良山が自らが駆る戦車から身を乗り出して、車列に向かって叫ぶ。慌てて車列は道を開け、そのど真ん中を戦車隊が通過していった。

 

「よっしゃ行くぞ!弾種、榴弾!!撃て!!!!!

 

「てぇ!!!」

 

46式戦車と34式戦車改による砲撃に、ゾンビの集団もたちまち吹き飛ばされ一帯の掃討が行われて行く。それを尻目に、帝国軍の車列は森を抜けて港を目指す。

 

「た、大尉殿!!アレを!!」

 

「あんな陣地をもう作り上げたのか!?」

 

既に港には無数の旗が翻っており、煙も立ち上っているが、兵士達が防衛線をしっかりと引いた上で、本陣には多数のテントや小屋まで建てられていた。こんな事、帝国ではできない。

 

「帝国軍!!こっちだ!!付いてこい!!!!」

 

偵察用のオートバイが車列の横に誘導する為に付き、そのまま防衛線の隙間を縫って本陣を目指す。ここまで来ればもう安心である。彼らはどうにか、あの地獄から生き延びたのだ。

 

 

 

 



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