TS転生さやかちゃん!!! (21号)
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原作前
私ってほんとにさやか?


初投稿です!小説書く練習しようと思って始めました!よろしくお願いします!


皆はジャ〇プ好きかい?

 

そう、大人も子供も関係なくどの世代にも夢と希望を与えてくれるあの週刊少年漫画雑誌だ。

 

友情・努力・勝利の方程式に憧れたことがない奴はいないだろう。俺も大好きである。

将来の夢の欄には海賊だの忍者だのって書いたし、覇気が使えると思い込んでいた中学時代は不良に「失せろ...!!」とかやってしまってボコボコにされた経験がある程にな!

 

おっと自己紹介が遅れたな。俺はどこにでもいる男子高校生。愛読書は当然ジャン〇だ!

 

そんな俺は今「いっけなーい!遅刻遅刻ぅ!」とばかりに全速力で通学路を走っている。

 

いや別に漫画のような出会いを期待して毎朝そうしている狂人というわけではなく、普通に寝坊して遅れそうなだけだ。心のどこかで少し期待してるのは否定しないが。

 

このままのペースで行ければなんとか間に合いそうだと、スマホで時間を確認しながら曲がり角から飛び出た俺は―――その瞬間強い衝撃を受けて吹っ飛んだ。

 

何が起こったのかわからなかった。

 

ゴロゴロ転がった体がようやく止まると、霞む視界の中でトラックから降りる運転手が見えた。

どうやら曲がり角でぶつかったのは転校生じゃなくて鉄の塊だったようだ。

 

こんなのってないよ...あんまりだよ...

 

最後まで読んでない漫画、いっぱいあるのになぁ。

そんな思考を最後に俺の短い人生は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると白い天井が俺を迎えた。

 

幕閉じたーとか言っちゃったけど、どうやら助かったらしい。やったぜ。でも視界もぼやぼやしてるし音も聞こえ難い。事故の後遺症かもしれない。

まぁ生きてるだけ儲け物である。贅沢は言わないでおこう。感謝します神よ。

 

そう、思っていたのだが。

 

どうやら助かったわけではないらしい。

じゃあ当然、今これを語ってる奴は誰なのかって話になる。

改めて自己紹介しよう。

 

私の名前は美樹さやか。見滝原中学の二年生だ。

 

◆◆◆

 

生まれ変わってから数年は半分寝てるような感覚で、意識が浮かび上がったり沈んだり不安定だった。後から聞いた話だがよく寝てる子で今生の親も心配したらしい。

4才ほどでやっと安定して思考が出来るようになった。

 

自分の意思の通り動く小さな手。未だに現実味がないけど本当に生まれ変わったらしい。

 

転生トラックは実在したのだ...!

 

しかしあんなあっけない死に方するとは思わなかったな。育ててくれた前世の両親には本当に申し訳ねぇ。天に向かって土下座して謝った。

 

よし、懺悔終わり!何の因果かもう一回チャンスが貰えたんだ楽しく生きよう!

 

そうと決まれば生まれ変わった自分の容姿確認である。人は中身だ、なんて言葉もあるが外身は大事だ。持論だが、第一印象は結局見た目からだしそれを覆すほどの中身がある人なんて滅多にいない。

今生の親がけっこう美形なので正直イケメンを期待してる。

 

特徴的な水色の髪。ふむ。悪くない。きっと外人さんなのだろう。親が喋ってんの普通に日本語だった気がするけど移住してきたに違いない。

 

透き通るような青い眼にくりっとした可愛い目元。きっと将来美人さんになるだろうと容易に想像できる。うーん100点。こりゃ人生イージーモードですわ。ガハハ、勝ったな風呂入ってくる。

 

 

いや待てよ。なんでこんな可愛いんだこいつ。

 

慌ててパンツの中を覗けばなんとマイ☆サンが消滅していた。オーマイガー。そういやなんか股がすっきりしてんなと思ってた。永遠の童貞が確定した瞬間である。

 

「さやかー早く来なさーい?今日から幼稚園よー」

 

世界に打ちのめされていたその時、声をかけてきたのは今生の母上。

 

「いまいきまする~」

 

そう、さやかというのは俺の新しい名前。美樹家のさやかちゃんである。

 

 

 

 

「はいみんな~これから一年間、よろしくね~」

「「「「はーい!!」」」」

 

自分の周りに響くクソデカボイス。耳が死ぬかと思った。

 

いや高校生にもなって園児やんの辛すぎるわ。正直転生舐めてた。初日でこの調子とかやっていけるのかこれから...?

あからさまに元気がないと親に心配をかける。だから無理くり調子を合わせたせいで心の底から疲れた...明日からは親同伴じゃないし、静かに本でも読んで過ごそう。

 

二日目。登園した俺は自己紹介やらオリエンテーションやらを無心で済ませるとさっさと園内の探索を始めた。園児用スペースには絵本しかないのだ。園児の筋力でも持ち歩けるサイズの本がないか、教員に見つからないよう隠れながら探す。なんだかどこぞの蛇みたいで楽しい。

 

そしてしばらくして教員用の休憩スペースに忍びこんだ俺は――ジャ〇プを見つけた。この世界にもあったのか!神よ!重ね重ね感謝いたしますぅ...!!

ちなみに騒いだせいで一瞬で見つかってしまった。くっダンボールさえあれば...

 

次の日、俺は意気揚々と登園した。なにせジ〇ンプがあるのだ、バラ色園児生活は約束されたも同然である。フフフハハ...フハハハハ!!

 

 

「おっご機嫌だな~さやか」

 

「そんなに幼稚園気に入ったのかしら...?」

 

 

いつになくハイテンションの俺は両親に生温かい視線を向けられていたことには気づかなかった。

 

 

「おはよーござーやーす」

 

「はーい、おはようさやかちゃ...ってどこに行くの!?」

 

挨拶もそこそこに男性教員の机からブツを強奪し人気のない場所へ走る。前世よりかなり古い週の物だがまぁこれも味があると言うものよ...うへへへ...

 

 

「なにみてるのー?」

 

 

む...夢中になってて気付かなかった。いつの間にそこにいたのか、ピンク髪の幼女が話しかけてきた。

 

 

「ジャ〇プだ。しらんか?」

 

「ごほんー?」

 

「まぁ...そうだな」

 

「ひとりでよめるの?すごいね~!」

 

 

なんだかほんわかした雰囲気の奴だな...なんで俺なんかに構ってきたのかわからんけど折角だ、ここは一つ布教でもするか!

 

 

「よめんのならおれがよみきかせてやろーか?」

 

「うん!」

 

「すなおなやつはすきだぞ!こころしてきくがいい!とみめいせいちから、かつてこのよのすべてを...」

 

ピンク髪は終始楽しそうに俺の音読を聞いていた。たぶん内容はよくわかってないだろうが。...そういやこいつの名前知らないな。布教を受け入れてくれたこいつはもうダチ公だし、名前くらい知りたい。

 

 

「おまえさー」

 

「なぁにー?」

 

「なまえなんてーの?」

 

「まどか!です!てぃひひ」

 

「まどかか!いいなまえだな!おれはさやかだ!よろしくなまどか!」

 

「さやかちゃん...うん!よろしくね!」

 

 

これが俺とまどかの出会いだった。その後仁美や上条といった奴らとも仲良くなるんだがそれは割愛。ともあれ最初はどうなることかと思った園児生活が楽しく過ごせたのは俺の今生最初の友達、まどかのおかげだろう。

 

 

問題は幼稚園を卒業し皆と一緒に小学校の入学式を迎えた時に起こった。

 

二年間も幼稚園児やってた俺は肉体の影響もあってかすっかりちびっこ気分で、友達100人できるかなー!レベルのルンルンステップを踏みながら入学式へ向かった。

 

入口に刻まれた名前は見滝原小学校。

 

見滝原?その特徴的な名前はなんだかとてつもなく見覚えがある。

そう引っかかりを覚えた瞬間、今更脳裏で単語が繋がっていった。

 

見滝原。美樹さやか。鹿目まどか。志筑仁美。上条恭介。

 

 

いや嘘だろお前。まどマギじゃねぇかこの世界。

 

 




続くかは...ナオキです...


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痛みさえ感じな...いややっぱ痛ぇわ

三人称の使い方がわからないわ?!小説書くのってこんな難しかったねんな...


魔法少女まどか☆マギカ。

 

タイトルから想像されるファンシーな内容からかけ離れたダークファンタジー物語。

 

前世においてその知名度は圧倒的でダーク魔法少女物ジャンルの立役者と言っても過言じゃない、平成を代表する有名作品だ。

 

マスコットを騙る宇宙人に唆されて魔女という化け物と戦う魔法少女になった、年頃の少女達が絶望の運命に立ち向かうそんな世界観。

 

美樹さやかは作品に登場するメインキャラクターの一人だ。

 

主人公である鹿目まどかの幼馴染であり、好きな男のために魔法少女になるものの失恋するわ魔法少女の真実に絶望し最後には死んでしまうわ...改めて羅列すると扱いがひっでぇ。

 

 

「くっそー...またまけたぁ」

 

 

そう言って後ろから追いついてきたやんちゃ坊主、こいつは原作で俺をフった上条恭介。一度おにごっこでボロカスに負かしてからなにかと勝負ごとをしたがる奴で、完全に俺のことを男扱いするので接しやすい。原作のようなことには絶対ならんだろうと確信している。

 

 

「フハハハまだまだだなきょーすけ!」

 

「なにおう!?」

 

「はぁ、はぁ...さ、さやかちゃんもかみじょうくんもはやいよぉ」

 

 

遅れてまどかが息を切らせて到着した。後ろを見ると仁美は大人しく大人組と歩いてくるみたいだ。この辺性格が出るよな。

 

 

「すまんすまんまどか~おゆるしを~」

 

「てぃひひ、くすぐったいよさやかちゃーん!」

 

 

置いてきてしまった謝罪に頭をくしゃくしゃ撫でると子犬を連想させる無邪気さで喜んでくれる。

はぁ...今日も我が親友が可愛い...

 

 

「...なにやってんの?」

 

 

心底呆れた目をしているどこぞのかけっこ少年は無視だ無視!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

入学式の様子を座りながらぼんやり眺める俺が考えてるのはさっきの続き。

 

 

実はこの世界、俺が中学二年の年に滅亡する可能性が高い。

 

 

まるでわけがわからんぞ!?と言う人のために説明するとその年に化け物の中でもとびっきりにヤバい『ワルプルギスの夜』という魔女がこの町を襲ってくる。最低でも町は壊滅するし我が親友は死ぬし、下手すると巻き添えで世界まで滅ぶって寸法よ。

 

今から7年と少し後の話だ。生まれ変わったと思ったら余命宣告受けてて草。

 

いや草生やしてる場合じゃねぇ!

その未来を知ってるのは俺だけだ。なんとかしないと。

何もしないで死の運命を受け入れるなどまっぴらごめんだ。

 

悟〇や承〇郎が運命だからと諦めるか?否だ。断じて否である!!

 

死期の決まってる友達を...見捨てて俺の、明日食うメシが美味ェかよ!!

 

 

「どしたの、さやかちゃん?」

 

 

密かに世界に反逆する意志を固めているうちに入学式は終わったらしい。

 

...そうだ俺がなんときゃしなきゃこの可愛い親友が死ぬのだ。そんなことは認められない。

 

 

「まどか、あんしんしろ。おまえをしなせはしない...!!」

 

「も、もぅ!またジャ〇プのはなし?」

 

「いやおれはほんきだ、まどか」

 

「う、ぅぅうう~~...」

 

 

そうと決まれば今日から行動を始めよう、出来ることから。

 

拳を握りしめ後ろを振り返ると仁美が鼻血を出しながらぶっ倒れていた。

 

なんで...?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「面あり!」

 

 

ワァァ!と歓声が上がる。

 

私の幼馴染で親友のさやかちゃんは小学校入学を機に剣道を始めた。

今日は他校との練習試合の日で仁美ちゃんと一緒に応援に来てるの。

 

 

「さやかちゃん、お疲れ様!」

 

 

控室にスポーツドリンクを持って差し入れに行くのが私の楽しみ。

 

 

「おぉまどか~、いつもありがと!」

 

 

おいしそうに喉を鳴らして水分補給するさやかちゃん。首筋を流れる汗が艶っぽい。

 

最近の私は少し変だ。

さやかちゃんの汗の匂いになんだか、変な気分になっちゃう...。

 

何故か照れ臭くて顔を合わせられかったけど、視線を感じて前を向くとじっと見つめられてた。

 

 

「ど、どうしたの私の顔なんかじっと見て...?」

 

「もっと強くなるよ、まどかのためにも」

 

 

優しく微笑みながら私の目をまっすぐ見つめてそんなことを言う。

 

うぅ...さやかちゃんはいつもこうだ。

 

女の子同士なのにドキドキしちゃう。やっぱり私変かなぁ?

 

恥ずかしくてママにも相談できないしどうすればいいんだろう...?

 

 

顔を赤くしてそっぽを向くと壁に半身を隠しながら、イイ笑顔でサムズアップしてくる仁美ちゃんがいた。

 

あはは...いつも通りで安心するや。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「はぁ...げほっ...さやか、ちょっと、30秒まって...」

 

「おそいぞー!きょーすけぇ!」

 

 

あれからおにごっこついでに町を駆けずり回ってキュウべぇやら魔女結界やら見つからないかと探し回ったが成果は0だった。恭介は息が切れてひっくり返ってたので置いてった。

 

俺が美樹さやかであることを鑑みれば魔法少女の才能はあるはずなんだけどなぁ。

 

見つからない物はしょうがないので次の手として戦闘勘を磨くために剣道を始めることにした。

 

ジャ〇プでも修行パートは大事。これは常識である。

 

突然そんなことを言いだした俺に両親はびっくりしてたが特に反対されるということもなかった。結構お金かかるのに...恵まれてんなー俺。頑張ろ。

 

文字通り命がかかってる俺は必死こいて練習に励んだ。

まどかや仁美も応援してくれたから頑張れた。

 

音楽に目覚めたらしい恭介に勝負を仕掛けられて大会結果で競ったりもした。

 

結果で言えば原作で明確に天才扱いされてる恭介には正直及ばなかったが、いい勝負はしてたんじゃないかと思う。

 

全部が始まった、あの日までは。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

僕には昔からどうしても勝てない奴がいた。名前は美樹さやか。

 

女の癖に男みたいな喋り方するしいっつもジャ〇プ読んでる変なやつ。

 

自信があったおにごっこで正面から負けて、それで絡むようになった。

 

でもアイツ頭はいいし足は速いし喧嘩も強いしで正直勝てる所がなくて、悔しい思いしたっけなぁ。

 

 

そんな僕がさやかに勝てるようになってきたのはヴァイオリンを始めてからだ。

 

両親に連れていって貰ったオーケストラのコンサート。

その演奏を聴いて音楽の虜になった僕は親にねだって楽器を買って貰った。

 

色々試したところどうやら僕にはヴァイオリンの才能があったみたいで、大会で賞までとれる様になった。

 

さやかは剣道を始めたらしい。アイツらしくメキメキ腕を上げてるんだとか。

 

 

負けないようにお互い切磋琢磨する日々。楽しかった。

 

初めて僕に負けた時のさやかはほんとに悔しそうな顔してて、悪いとは思ったけど笑ってしまった。

 

 

 

でもそんな日々は唐突に終わりを迎えた。

 

 

 

僕たちが五年生になってしばらくした頃。

 

事故に遭いそうになった僕を、たまたま一緒にいたさやかが庇って大怪我を負ってしまった。

 

あれだけ頑張っていた剣道も、もう二度と出来ないかもしれないという。

 

なんで、僕なんか庇って...

 

どんな顔して会いに行けって言うんだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「知らない天井だ...」

 

 

よっしゃ誰もが一度は言ってみたいセリフを使えたぜ...!

 

 

どうもどうも、絶賛入院中のさやかちゃんだぞー。

 

なんで入院なんかしてんのかって?バッカお前...言わせんなよ。名誉の負傷ってやつだ。

 

なんでも出血多量で一時は危なかったらしく、皆には多大な心配をかけた。両親やまどかには泣かれたし、特に恭介なんてめちゃめちゃ暗い顔してたな。気にすんなって言っといたけど。

 

 

いや本当に気にする必要ないと思うのだ。

 

友達を庇って長いことやってきた剣道が出来なくなってしまった魔法少女の素質がある小学生女子。

 

こんな優良物件をあの契約淫獣(インキュベーター)が黙って見過ごすわけねーだろ!

 

恭介の腕はもちろん、俺の怪我もわけなく完治でき、原作と変わらない固有魔法になるというわけだぁ!(ネットリボイス

 

 

さぁ早く来るがいいぞ、我が運命よ!

 

 

 

 

 

そして二週間後、奴は現れた。

 

 

「やぁ美樹さやか。その腕、治したくはないかい?」

 

 

正直安心した。

この二週間、周りがお通夜もかくやってレベルの暗さでほんっとにしんどかった。

差し入れの漫画本も片手しか使えないから読み難かったし。

 

それに恭介が責任とるだのなんだの言いだしてなだめるのが大変だった。

それを聞いたまどかも「さやかちゃんは私のだもん!!」とか言って錯乱するし。

全く愛いやつめ。

 

 

「僕と契約して魔法少女に、なってよ!」

 

「いいだろう結ぶぞ、その契約。私の怪我を治せッ!」

 

 

その瞬間、左腕の違和感が消失すると同時に胸から光輝く宝石が生み出される。これが...ン我が魂ィ...!!

 

 

「...よかったのかい?そんなにすぐ決めてしまって」

 

 

白いのがなんか言ってるが初めて魔法を見て興奮した俺の耳には入らなかった。

 

 

「おぉ...すげ...ほんとに治った」

 

 

さっきまでうんともすんとも言わなかった左腕が何事もなかったように動かせることに感動を覚える。

 

 

「君の魔法少女としての素質を考えれば、それくらいは容易いことさ」

 

「へぇ...そんなに才能あったのか?私は」

 

「君の境遇から考えると少しこの因果量は多いと思うね。不可解なほどと言うわけではないけれど」

 

 

転生した影響だろうか?前世の分の因果が上乗せされてる、と考えるのが一番しっくりくる。

特典なんてないと思ってたけど少しはあったみたいだ。

 

 

「さて、それじゃあボクはこれで失礼するよ。退院した頃にまた会おう」

 

 

そう言って返事も聞かずに窓から去って行く白ダヌキ。いや説明とかないんかーい。最初に碌に聞かなかったのは俺だけども。

 

 

 

 

その後突然の完治に医者は困惑しきりだったが無事退院と相成った。

 

「ざやがぢゃん...よがっだ...!!」

 

「おかえりなさい!さやかさん!」

 

「さやか...その、おかえり」

 

 

退院する時は皆がお祝いに来てくれた。

 

 

「わだじっ、ずびっほんどにっ...しんぱいでぇ...!!」

 

「うわぁ!ごめん!ごめんよまどかぁ!!」

 

 

顔が頂上戦争直後のル〇ィみたいになってんぞ!?

 

 

「鼻水まで垂らしてもう...!ほらチーンしなさいチーン!」

 

「う"ぅうう...はひ...」

 

 

おいコラぁ!笑ってんじゃねぇぞ恭介ェ!仁美ィ!

 

 

「ふふっ、ふふふ...!久しぶりのやり取りで、なんだか安心してしまいまして...」

 

「ははっ、うん本当にさやかが帰ってきたんだなぁって感じするよ」

 

 

む、むぅそんな顔されると言い返せんな。

 

俺が微妙な顔でいるとまどかが抱き着いてきた。

 

 

「えへへさやかちゃんだぁ...おかえりさやかちゃん...」

 

「...ただいま、まどか」

 

 

心配させてしまってごめん。

 

 

「うブふっ!!」

 

「うわっ!?大丈夫かい仁美!?」

 

 

その光景を見ていた仁美が突然鼻から出血した。

 

またかよ。

 

でもこんなバカ騒ぎをするのも久しぶりな気がして四人で笑ってしまった。

 

 

そうだ、俺はこんな温かい場所を失わないために。

 

運命との戦いを選んだ。

 

 



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眠気なんて、あるわけなひ

話が...話が進まない...!!


退院した夜、早速と言わんばかりに白い雑巾が訪ねてきた。

 

 

「こんばんわ、さやか。退院おめでとう。今日から魔女退治と行こうか」

 

 

その前に原作情報とのすり合わせがしたい。

もしかしたら全部解決してる原作後世界の可能性が無きにしも非ずだし。

 

 

「それはいいんだけど結局魔法少女ってなんなのさ」

 

「おっと、説明が足りていなかったかい?」

 

「こないだは契約してすぐに帰っちまっただろお前」

 

「それもそうだね。それじゃ改めて説明するよ。君は願いと引き換えにソウルジェムを手にした。その石を手にした者は魔女と戦う使命を課されるんだ」

 

 

魔獣じゃなく魔女ってことはこの世界線は原作かそれ以前の時間軸ってことか。

全部終わった後です、なんてそう甘いことないよねぇ。

 

 

「魔女ってなに?魔法少女とは違うのか?」

 

「願いから生まれるのが魔法少女とすれば、魔女は呪いから生まれた存在なんだ。魔法少女が希望を振りまくように、魔女は絶望をまき散らす。しかもその存在は普通の人間には見えないから性質が悪い」

 

 

どの口が言うんだこいつ。お前が作ったもんじゃろがい。

 

 

「不安や猜疑心、過剰な怒りや憎しみ。そういう禍の種を世界に齎しているんだ」

 

「ナルホドナー」

 

「真面目に聞いているかい?」

 

 

一応原作と同じ質問をしてみたが返答に変わりはない。

ここまで同じ説明されるといっそマニュアルでもあるのかと疑いたくなる。

 

 

「よしそれじゃ説明も終わったことだし出発しようか、さやか」

 

「あーその前に寄りたい場所があるんだがいいか?」

 

「きゅっぷい。わかったよ」

 

 

おいナチュラルに肩に乗るな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

そうしてやって来たのは人気のない山の中。

 

 

「こんな所に何の用なんだい?さやか」

 

「準備運動!」

 

 

答えながらソウルジェムを指輪から宝石の状態に戻す。

 

初変身だ、気合い入れていくぜ!

 

 

「...変身ッ!」

 

 

ソウルジェムを握りしめた手の先から青い魔力の光が覆い、少しずつ纏う衣服が変換されていく。

 

右腕を細身の籠手が肘まで覆い、続いて片袖の巫女装束が身に纏う。

 

すり足で進んだ左足、力強く踏み込んだ右足にお洒落な下駄と青い脚絆が装備される。

 

腰から青藍色のスカートが伸び、首元には魂の宝石(ソウルジェム)が形を変えたブローチが出現。

 

そこから羽のように光が広がり身を翻すと光は黒いケープとなって肩を彩る。

 

最後に上段に振り上げた手の中に鈍く光を反射する瑠璃色の刀が生まれた。

 

それを振り下ろすと同時に纏った光が弾けるように吹き飛ぶ。

 

刀を中段に戻し、静かに残心。

 

変身が完了した。

 

 

初めてやったはずなのになんとなくやり方がわかるの微妙に気持ち悪いなコレ。

ていうか原作の衣装と全く違うんだが。

ガワが同じだけの別人だし当然かもしれないけど。

 

 

「どうだい?君の魔法少女としての姿は」

 

 

そう言われて刀の刀身を鏡代わりに全身を眺めてみる。

 

 

「かぁっけぇ...」

 

 

思わず声が漏れた。

露出が右肩くらいしかない、魔法少女というより陰陽師と言われたほうが納得できそうな和風ファンタジー衣装。

 

 

「いたく気に入りました!」

 

「それはよかったよ。それじゃ魔女を探しに行こうか」

 

「準備運動するって言ったよね?」

 

「きゅっぷい」

 

 

こいつそれやっとけば何でも許されると思ってないか?

 

 

気を取り直して体を動かしてみる。真剣なんか振ったことないし今までの感覚とだいぶ変わっているだろうから、慎重にやらないと。

 

ゆっくりと刀を上段に振り上げ――振り下ろす。

 

何度か繰り返して感覚の調整が済んだら、段々と素早く姿勢が崩れないように素振り。

面胴小手と順番に繰り返す。

 

うん、大丈夫そう。

 

次は足捌きの確認。

刀を中段に構え両足の間隔を適度に開き、左足のかかとを浮かせる。

そのまま足の配置と構えを維持しながら前後左右に素早く動く。

 

脚力が飛躍的に上がった影響ですんごい早く動ける。

しかも動体視力も上がっているのか目が追い付かなくなるといったことはない。

 

攻める動きもやってみるか。

『継ぎ足』と呼ばれる左足を右足の近くまで引き付け、その勢いを利用する足運びだ。

 

 

勢いをつけ、全力で踏み込む―――!

 

 

と地面が陥没し体が前へすっとんだ。

 

 

「え、ちょっまっ」

 

 

慌ててブレーキを掛けようとするが間に合わず、木の幹が目前に迫る。

 

とっさに右腕の籠手を盾にしてそのまま突っ込み――なんと木がブチ折れた。

 

 

「ひぇー...」

 

「大丈夫かい?さやか」

 

「あぁ、大丈夫だよべぇさん。それにしても防御力凄いなこの服」

 

 

結構な勢いで突っ込んだと思うんだが。

 

 

「当然だよ、魔女と戦う戦士だからね。その程度ではかすり傷一つつかないよ」

 

「ほーそりゃ頼もしい」

 

 

でも魔女や使い魔相手じゃ、そう易々と攻撃貰ってたらすぐ死んじまうだろうし今みたいな体たらくじゃ駄目だ。

 

もうちょっと走りこみとかしてみよう。

 

 

 

そうして障害物を避けながら山中を駆け巡り木から木へ跳び移り、刀を振るった。

 

数時間経った頃、ようやく魔法少女の体が隅々まで思い通りに動かせる満足の行く仕上がりになった。

 

 

「よっしオッケー!行こうか!」

 

「さやか...もう朝が近いよ?」

 

「え"っ」

 

 

見上げると東の空が既に明るくなり始めていた。そんなバカな。

どうやら熱中しすぎたらしい。

 

 

「しかたない、今日はもう帰ったほうがいいだろう。また明日の夜にくるよ」

 

「うっ...ごめんべぇさん」

 

「きにしなくていいよ。初陣で命を落とす魔法少女は多い。準備を怠らない君のその姿勢は賢明だと言えるね」

 

「...そうだよね」

 

 

キュゥべぇが言う通り、俺が行くのは命を懸けた戦いの場だ。

準備しすぎと言うことはないだろう。

 

その後は何事もなく家に帰ってきた。

 

 

「それじゃぁ、おやすみさやか」

 

「あぁおやすみ」

 

 

明日は初陣だ。戦いの気配に武者震いが走った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「さやかちゃんどうしたの!?目のクマがすごいよ...?」

 

「まぁ...ほんとですわ」

 

 

次の日、会うなりまどか達に心配されてしまった。

 

帰ってきた時間が朝方だったし興奮してほとんど眠れなかったのだ。小学生にこれはキツい。

 

 

「昨日夜更かししちゃってさー...」

 

「いけませんよさやかさんは病み上がりなのですから。それに夜更かしは乙女の天敵ですよ?」

 

「そうだよ、ちゃんと寝なきゃダメだよ?さやかちゃん」

 

「はひ...うぅ眠い...」

 

 

説教されてしまった。

いやほんとにマジで眠いの。授業中隠れて居眠りするしかないかなぁ。

 

知られたらまどかたちにまた怒られそうなことを密かに考えていると、少し顔を赤くしたまどかが目線を逸らしながらある提案をした。

 

 

「えっと...よ、良かったら授業始まるまで時間あるしその...膝枕とか...ど、どうかなって...てぃひひ...」

 

「えっいいのか助かる」

 

「うんっ...!!てぃひひひ...♪」

 

まどかの膝とかすげぇぐっすり眠れそう。お言葉に甘えて今日一日の英気を養わせて貰うかー。

 

 

「先生来たら起こしてなー」

 

「うんっえへへ、おやすみさやかちゃん」

 

「おー...おやすみーまどかー...」

 

 

あっやばいこれ。すんごい寝心地いい、すぐ寝ちゃ...う...。

 

 

 

30分ほど寝ただけでとてもスッキリした。まどかは治癒魔法が使えるのかもしれない。

俺が元気になったからかやたら嬉しそうにしてて可愛かった。

 

ほんとにいい子だ、俺が守らねばならぬ...。

 

 

 

席に戻る途中で仁美に視線を送ると机の上で鼻血の海に突っ伏していた。

 

血文字でダイイングメッセージのようにさやまどと書かれている。

 

いつものことだが、なにやってんだろこいつ。

 

 



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魔法少女になるって、こういうことよ(震え声)

戦闘描写書くの難しすぎない?
今回からフォント使ってみました。行間とかもだけど見づらいとかあったら教えてね。
オリ魔女出しちゃったけど許し亭許して。原作よりかなり前だから出せるのいなくて...

誤字報告、こんなワンクリックで誤字直してくれる便利機能があるのか...誤字報告してくれたジャック・オー・ランタンさん、ありがとう!


静かな夜。あるマンションの窓辺に、小さな白い獣が降り立った。

 

「いい夜だねさやか。魔女退治の時間だよ」

 

獣の言葉に応じるように、目を閉じ座禅を組んでいた少女がゆっくりと目を開いた。

 

「あぁ、行こうか」

 

立ち上がり手を掲げる少女。その体を青い光が覆い尽くす。

 

光の中から現れるは青き衣の戦巫女。

 

背負う使命は闇に蠢く化生狩り。

 

行き先も行く末も知れぬ、一人の魔法少女の物語。

 

今宵はじまり、はじまり―――。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ビルの屋上から屋上へと跳び移る影が一つ。

 

「魔力反応はこのまま真っすぐだね」

 

俺はキュゥべぇを肩に乗せて夜の街を駆ける。

 

いくら夜とは言えまだ人通りがある時間にそんなことして目撃されないかと思った人もいるかもしれないが、心配ご無用だ。

羽織っているこの黒いケープ、魔力を流すと薄い闇の靄が発生する機能があるようで暗い場所限定だけど隠蔽効果がある。

 

「そこだ、下に降りよう」

 

放課後に散策して予め手頃そうな使い魔に目星をつけていた。まずはそいつで初戦闘だ。

 

キュゥべぇが示した場所には地下道の入り口があった。感じる雰囲気からして恐らくここにいる。

結界に入った瞬間、極彩色の目に痛い色をした空間が俺を迎えた。

 

「うわ、気色悪いな」

 

「魔女も使い魔も結界は似たようなものさ。慣れて貰わないと」

 

「へぇい」

 

少し歩くと異形の怪物が姿を現した。

原作では見たことがないタイプの四足歩行の使い魔だ。けっこうデカい。

 

相手もこちらに気付いたのか体を揺らしながら振り向く。

刀を鞘走らせ中段に構えると、すぐに襲い掛かって来た。

 

自分からは仕掛けずに相手を観察する。

その結果わかったのが攻撃パターンは大まかに分けて二種類だということ。腕を振り回す大振りの攻撃と倒れ込むような突進。図体がデカいから当たれば痛そうだが、前動作が大きすぎて避けるのは難しくない。

油断を誘っている...と考えることも出来るがそれほどの知能があるようにも思えないし、前に出るか。

 

攻撃を見切って懐に飛び込む―――!

 

「胴ォ!!」

 

 

瑠璃色の刃が翻り、使い魔の胴体を真っ二つに両断した。

 

 

 

「うっし、なんとかなったな」

 

ちょっと緊張して動きが固かったかもしれんが、それでも使い魔程度なら危なげなく倒せることがわかっただけ収穫だ。

 

「さやか、うしろだ!」

 

「なっ...」

 

もう一体ィ!?

 

油断する瞬間を狙ったかのように別種の小柄な使い魔が迫る。

敵を撃破して安心していた俺はその突進を避けることが出来ず――

 

 

「お"っ...ぐぇ...!」

 

「さやか!」

 

 

直撃を受けて地下道の壁に叩きつけられる。

 

 

「いッ...てぇなぁ...!!」

 

更に追撃せんと迫り来る使い魔を刀を振るって叩き切った。

 

壁を伝い地面にずり落ちると同時に空間が揺らぎ、結界が消滅する。

 

「大丈夫かい?さやか」

 

「ゲホッゲホッ...大、丈夫問題ない」

 

体当たりを食らった部分に魔方陣が光輝き、鈍く残る痛みが消えた。治癒の固有魔法便利ィ~~~!

 

「君は癒しの祈りを契約にして魔法少女になったからね。ダメージの回復力は人一倍さ」

 

確認するように腹を擦っていると俺が不思議がってると思ったのかキュゥべぇが解説を入れた。

 

「なるほどな」

 

何も返さないのも不自然なので適当に返事をするが考えていたのは別のこと。

二体目の使い魔、あいつ最初の使い魔と戦っている間ずっと隠れてたのか?大柄の個体で注意を引いて小柄の個体で奇襲...随分と狡猾だなオイ。まんまと隙を突かれてしまった。

連携と言うよりは役割が最初から決まっているような動き、二体一組の使い魔だと考えるのが妥当だろう。

 

今の戦闘、使い魔だったから大事には至らなかったがこれが魔女相手だったら今ので死んでてもおかしくない。

気を引き締めないと。

 

「次の魔力反応がある。大きさから鑑みるに恐らく魔女だ。いけるかい?」

 

「当然ッ!」

 

攻撃は貰ってしまったが魔力的にはそんなに消耗したわけじゃないし、大丈夫。

 

地下道から出てビルの間の外壁を交互に蹴りながら上昇、屋上に着地する。気分は某配管工のおじさんだ。残機99くらいに増えねぇかなー俺もなー。

 

キュゥべぇのナビに従って進むと、結界の入り口は寂れた古いマンションにあった。原作だと悪いイメージばかりのこいつだがサポート能力は普通に有能なんだよな...。

 

「さぁ準備はいいかいさやか、いよいよ本番だよ」

 

戦闘に備え鯉口を切って、親指と人差し指で上下から鍔を固定。これで鯉口を切ったまま走ったり移動したり出来る。

準備は整った。

 

「いつでもいける!」

 

使い魔戦で学んだいつ奇襲されても対応出来るように備えるという教訓を胸に、警戒して入口を潜る。

 

結界の内部は歪な形をしたコンクリートマンションのような光景をしていた。大量に並ぶ扉をさっき戦った奴とはまた違った、使い魔だと思われる人型の存在がドンドンと叩いて不快な不協和音を奏でる。

 

「不気味ィ...」

 

「魔女は結界の最深部にいる。すすもう、さやか」

 

遂にスルーするようになったなこいつ。まぁええけど。

狂ったように扉を叩き続ける使い魔に後ろから近づくが、こちらに気付く様子もないのでそのまま首を斬って部屋に入った。

 

「ゲッ」

 

するとそこにいたのは二体一組の例の使い魔。またかよ。

マンションの一室に窮屈そうに鎮座する大柄な使い魔が立ち上がって攻撃してくる。

 

 

「てめェらの弱点はもうわかってんだよなぁ!?」

 

 

最初に戦った時一切俺に感づかせなかった小さい方、あいつ戦闘中出番がくるまでずっと動いてないんじゃないか説。いくら小さくても動いてたら気づくわ。

 

デカいほうは空間の狭さが仇になって碌に動けてない。

そのうちに最初から注意して探せば――ほら、見つけた。

 

「そこだッ」

 

天井近くにいたチビに刀をぶん投げて仕留める。後は残ったデカブツをなます斬りにして仕舞いだ。

 

そんな戦闘を繰り返しいくつかの部屋を経由したが、なかなか魔女の元に辿り着かない。低リスクで実戦経験が積めるのはいいかもしれないが同じ相手ばかりで流石に飽きてきた。

 

 

「かなり深い結界だね。思っていたより強力な魔女かもしれない」

 

「こちとら初心者だぞ?勘弁してくれよ...」

 

 

辟易としながら次の部屋を開けると赤くおどろおどろしい、今までとは毛色が違う空間が現れた。

 

 

「ようやく当たりみたいだな」

 

「どうやらそうみたいだね。気をつけて、さやか」

 

 

奥の扉を開くと更に扉があって、手を掛けてもいないのに勝手に開いてその先の空間へと導いていく。

 

いくつもの扉を潜った先は劇場になっていた。観客席には使い魔がまばらに詰め、舞台の中央では首に仮面をぶら下げた大女と小男のペアが人形染みた動きで踊っている。あいつがこの結界の主だろう。

 

最深部に侵入されたというのにこちらに見向きもせず踊り続ける魔女と思しき大女。目算だが6mくらいありそうだ。...デカすぎない?まだ距離あるのに威圧感パネェんですけど。

 

及び腰になりそうな自分を自覚し――

 

パァン!と頬を叩いた。

 

怯むな、勝てる物も勝てなくなる。怖い時こそ全力で...恐れずに、進めッ!!

 

 

Laut

 

「今の音で気付かれたみたいだ!さやか、攻撃に注意して!」

 

敵に存在を知らせてしまったが必要経費だと割り切ろう。奇襲する機会を失ったけど、そもそも攻撃手段が近接主体な俺じゃ大ダメージを与える効果的な奇襲をするには突っ込むしかない。初手からそんな無謀をかますのは御免こうむりたい。

 

観客席から立ち上がった人型の使い魔が襲い掛かってくると同時に、魔女が俺の体くらい大きな硬貨と思しき物を投げて攻撃してきた。

 

うっそだろお前それどこから出したんだよ。魔法にとやかく言っても仕方ないけどどこからともなく1mの金属の塊が湧いてくるの恐ろしすぎるだろ。

 

慌てて回避すると近くにいた使い魔が攻撃に巻き込まれて液体をまき散らしながら潰れた。味方もおかまいなしか。

使い魔に対処しながら剣を投げて硬貨の迎撃を試みるが、質量差がありすぎて刺さってもほぼ効果がない。

 

迎撃が無理なら、回避するしかない。回避と接近を同時にする方法は...?

 

何かないかと視線を巡らせたら使い魔と目が合った。

 

おっ(顔面)開いてんじゃ~ん。

 

背後から硬貨が迫るのとタイミングを合わせて、使い魔の顔面を踏み台にし大ジャンプ。硬貨を飛び越えた。哀れ踏み台=サンは硬貨に潰され爆発四散!ナムアミダブツ!

 

空中で垂直に魔方陣の足場を作り、全力で跳躍。加速して魔女に迫る。

 

 

「メェェンッ!!!」

 

schmerzlich

 

 

顔面を狙った大上段からの一撃は、確かにその顔に傷をつけたが――浅い。

 

 

Rückkehr

 

お返しとばかりに振るわれる剛腕の一撃を魔女の体を蹴ってなんとか回避する。

あっぶねぇ!ちょっとカスった!

 

しかしまた距離が離れてしまった。

 

傷つけられて怒っているのか暴れまくってて近づけないし...

一か八か戦闘が始まってからずっと魔女のそばでうずくまって一切動かない小男を狙ってみよう。魔女もあれを守るように動いているように見えるし、弱点なのかもしれない。

 

方針を決めると大回りして魔女の死角になるようなルートを通って壇上を狙える位置へ。

小男に攻撃をしようとした瞬間、目の前に小柄な使い魔が現れ妨害してきた。

 

クソッ護衛が隠れてやがった!魔女に気付かれる、早く離脱しないと...!!

 

unverzeihlich

 

 

 

バツンッ!!と大きな音がした。

 

 

吹き飛ばされて攻撃を受けたことを遅れて理解した。

 

すぐに立ち上がろうとするが、何故かバランスを崩して転んでしまった。上手く立ち上がれない?なんで?

 

疑問の次に感じたのは熱さだ。

 

左肘がもの凄く熱い。

 

視線を向けると―――肘から先がなくなっていた。

 

 

「は?」

 

 

切断面から赤い血がドバドバと溢れ出している。

 

あつい。あつい、あつい、あついアツイアツイアツイ!!

 

 

「さやか!攻撃がくるよ避けて!」

 

 

周りを確認している余裕はなかった。

 

がむしゃらに地面を蹴り、右へ体を跳ばすと数瞬前まで居た場所を魔女のストンピングが襲い、砕かれた地面の欠片が全身を叩いた。

 

至る所に小さな裂傷が出来るが失った左腕と同時に魔方陣が浮かび上がり、着地する頃には何事もなかったかのように無傷の状態に回帰している。しかし受けた苦痛が消えるわけではない。

 

フラつく体に鞭打って前を見ると魔女は千切り取った俺の左腕を夢中で喰らっていた。

 

 

ここだ。偶然だが体を張って作り出された千載一遇のチャンス。

ここで一発デカいのかまして勝負を決めてやる。

 

刀に魔力を流し込み、より大きく、より硬く再構築する。

身の丈の二倍以上も大きい幅広の刃となり、まるで巨人のために誂えたような大剣を肩に抱えて吶喊。余剰魔力が推力となって噴出され、青い光が流星のように尾を引く。

 

 

「ぶった斬れろォ!!!」

 

 

流石にマズいと思ったのか振り向き腕で防御された。ガードした魔女の腕と拮抗し激しい火花を散らす大剣。

 

 

Hass Hass Hass

 

「オォォォオオオオ!!!!」

 

 

段々とその肉に刃が喰い込み、そして...魔女が背後に庇っていた使い魔ごと斬り裂いた。

 

 

「よっし...!!よっしゃあ!!初めて魔女を、倒し――」

 

 

 

結界が消えない。この感じは覚えがある。

 

直感に従って横っ跳びに一歩動くと、その空間を鋭い牙を備えた咢が通り過ぎた。

 

 

「同じ手は、喰わねェ!!」

 

 

不意打ちを避けて今度こそ、刃が魔女の命を刈り取った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

...終わった?本当に今ので最後か?

 

まだ結界は崩れてない。警戒を解くな。

 

顎を伝う汗を拭うことすら忘れ、一秒、二秒―――五秒目で空間が揺らぎ、一点に吸い込まれるように消滅した。

 

「ハッ、ハッ、はぁ、ははっ...きっつ...」

 

戦いが終わったことが確認できると張りつめていた緊張の糸が途切れ、変身が解けて膝から地面に崩れ落ちてしまう。

 

「お疲れ様、さやか」

 

「おう...サンキューな...」

 

疲れた。心の底から。

 

 

息を整えて周りを見渡すと、黒いゴルフボールのような物が転がっていたので手に取る。

 

「それはグリーフシード。魔女の卵さ。魔女を倒すと手に入る見返りだよ。ソウルジェムに当ててごらん」

 

言われた通り少し色が濁ったソウルジェムを近づけると、黒い靄が浮かび上がりグリーフシードに吸い込まれた。

 

「これで消耗した魔力は元通り。あと一度くらいならまだ使えるんじゃないかな」

 

返事を返す気力も湧かず、立ち上がった。

 

...帰ろう。

 

 

 

 

「それじゃおやすみ、さやか」

 

ようやく家に着いた。

 

ベッドに倒れ込むとドッと疲れを感じる。初戦の相手にしては強すぎねぇかあいつ...。

原作の魔女は割とあっさり倒されてるようなイメージ多いし、たまたま今回の魔女が強かっただけだと思いたい。毎回ここまで命懸けの戦いだったら精神こわるるぅ~...

 

精神的にも肉体的にも疲れ果てた俺はあっと言う間に睡魔に呑まれて意識を失った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

異形の存在達が観戦する古びた劇場。

 

そこでは巨大な怪物と幼い少女が戦っている。

 

善戦していた少女だが一瞬の油断から怪物の攻撃が少女を捉え、細い腕が千切れ飛んだ。

 

痛みに身動きが取れない彼女の視界いっぱいに怪物の咢が開かれ―――その首を喰い千切った。

 

 

 

「うわぁあ!!!?」

 

 

毛布を跳ね上げ跳び起きる。

 

周りを見渡してここが魔女結界じゃなくて自室だと認識する。

 

 

「はぁっ...はっ...なんだよ、夢かよ...」

 

 

思わず首に手をやるとちゃんとくっついていた。よかったぁ...

感触が思い出せるほどリアルな夢だった。

 

自分が死ぬ夢を見るとか縁起でもない。

 

ベッドの端に腰掛けて、ふぅと息を吐く。遮光性のカーテンで覆われた窓は一切の光を通さず、部屋は真っ暗だった。

 

 

...どうしても思い出すのは今日の戦い。

一度は失った左腕を見てしまう。これ数時間前まで生えてたのとは違う魔力で作られた腕、なんだよな。腕だったからまだ良かった。もし攻撃を受けたのがソウルジェムの装備された首元だったら。一歩間違えれば死んでいたことに今さら震えがくる。

 

俺は心のどこかで思っていたのだ。自分がそう簡単に死ぬはずがないと。何の根拠もなく。

 

でも現実は違った。

 

こっちが初めての魔女戦だなどと一切気にすることなく相手は殺しにかかってくるし、俺は死にかけた。

 

死力を尽くして、辛うじて生き長らえたのだ。

 

原作が始まる中学二年になるまであと二年以上ある。

 

俺はそもそもそれまで生きていられるのか?

 

でもどうせ何もしなければそこで死ぬのだ。世界ごと。

 

 

...今は考えてもどうしようもない。寝汗が酷いし着替えて寝直そう。

 

新しいパジャマと下着に着替えてもう一度ベッドに潜りこむ。

 

 

今日は全然、眠れる気がしなかった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

さやかちゃんが学校を休んだ。

 

今日は久しぶりに教室でさやかちゃんに会えると思って楽しみにしてたのに...どうしたんだろ。

 

退院して元気な姿をこの目で見たと言うのに何かあったんじゃないかと、不安になって一日中落ち着かなかった。

学校が終わってすぐにさやかちゃんの家にお見舞いに行くことにした。仁美ちゃんと上条くんも行きたがってたけど、二人とも今日はお稽古があるみたい。

 

さやかちゃんのご両親は共働きで、すぐには帰ってこない。一人で心細いに違いない、早く行ってあげないと。

走ってさやかちゃん家に着いたら入口横の植木鉢の下から鍵を取り出す。

小さい頃から何回も遊びに来ているのだ、これくらいは知っている。

 

勝手に入るのは少し気が引けたけど、きっとさやかちゃんなら「なんだぁまどか?私に会いたくて来ちゃったのかー?うりうり愛い奴め~」とか言って撫でてくれるに違いない。きっとそうだ。

 

「おじゃましま~す...!」

 

声をかけても家の中はしーんと静まり返っていて、誰かが居るような気配はない。さやかちゃん、寝てるのかな。

 

一目でいいから顔が見たくてさやかちゃんの部屋の扉を開けると―――

 

 

膝を抱えて、頭から毛布を被ってベッドの上に座り込むさやかちゃんがいた。

 

 

「さやかちゃん!?どうしたの!?」

 

想像と違う、今まで見たこともない憔悴した姿に慌てて駆け寄る。

 

「ま、どか...?」

 

「どこか痛いの!?大丈夫?病院に...!!」

 

「まって」

 

慌てて病院に連絡しようとした私を、さやかちゃんが抱き締めて止めた。

 

 

...え?私今さやかちゃんに抱き締められてる!?さやかちゃんのベッドの上で!?

 

 

「わ、わわわわ...!!ひぁぁあ...」

 

「しばらく、こうさせて」

 

「う、ぅん...いいよ」

 

「ありがと」

 

 

顔が熱い。真っ赤になってるのが自分でわかるほどだ。

どうかさやかちゃんに気付かれませんように。

 

 

「まどかは、安心するなぁ」

 

「そ、そう、かな?てぃひひ...」

 

それってどういう意味なんだろう。確かめてみたい。

 

でももし私の思ってる気持ちと違ったらと思うと、ちょっと怖くて躊躇ってしまう。

 

しばらくするとさやかちゃんは、すぅすぅと小さな寝息を立てて寝てしまった。

 

...こんなに弱ってるさやかちゃんを見るのなんて、初めてだ。

 

何があったのか気になるけど、なんとなく教えてくれなさそうな気もする。剣道を始めた時も、理由を聞くとはぐらかされちゃったし、さやかちゃんたまに秘密主義なんだもん。

 

寝ているさやかちゃんをベッドに横たえて毛布を掛ける。

無防備な顔を見ているとたまらなくなって、頭を撫でてしまった。いつもと逆でなんだか可笑しい。

大丈夫だよさやかちゃん。私は、ずっと傍にいるからね。




ABAGNALE(アバグネイル)

詐欺師の魔女。その性質は念望。

叶わなかったかつての望みを夢見て踊り続ける。

使い魔と踊る大きな女は理想の自分。

本体は涙を流す、小さな化け物。


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自分の都合しか考えてない!?あ、俺もか

深夜にひっそり更新
展開に迷って遅くなった、ごめそ!

UA一万お気に入り500件!?そんなに読んでくれてる人いるの!?
ありがとう...亀更新だけどこれからもよろしくな!!


絵の具をぶち撒けたような気味の悪い色をした空間。

およそ生物とは言えない様な異形の怪物に正面から立ち向かう少女がいた。

 

そのサイズ差は歴然で、少女に勝ち目はないかに思えたが――彼女は一歩も引かない。

 

怪物の繰り出す攻撃を俊敏な動きで避け、同時に左手の指に挟んだお札のような物を操り貼り付けていく。

 

攻撃が当たらないことに業を煮やしたのか激しい攻勢に出た怪物に防戦一方に見える少女。

あわやここまでかと思われた瞬間、

 

「そろそろいいかな」

 

そう呟くと指を二本立て独特な構えをとった。

 

「滅ッ!!」

 

少女が叫ぶと、怪物に貼り付けられた札が輝き爆発を起こす。連鎖するようにいくつもの札が起爆し、最後に一際大きな大爆発を起こし怪物が弾け飛んだ。

 

 

 

 

「ふぃ~楽勝楽勝!」

 

「流石だねさやか。魔法少女になってひと月とは思えない戦いぶりだよ」

 

「ま、このさやかちゃんにお任せあれってね」

 

 

魔法少女デビューしたあの夜から一ヶ月が経った。

 

え?お前魔法少女じゃなくて忍者か陰陽師だろって?

...いやそれは俺も正直思ってたけど言わない約束だろ。

 

最初の魔女戦で普通に死にかけたので、もっと余裕を持って戦えるように新しい攻撃方法を考えたのだ。そのうちの一つがこれ。

原作の美樹さやかの剣には本編未使用ギミックが色々あり、その中に射出した刀身を爆破するという物がある。

 

それを思い出した俺は早速とばかりに試した。

刀を投げた後に念じると内包された魔力が爆発し、内側から破裂した刀が破片手榴弾(フラグメンテーション)さながらの効果を発揮。使い魔はズタボロになって死んだ。強い。

 

ただこれ威力は申し分ないんだが使う度に新しい刀を生成しなきゃいけないうえに、その数秒間は一時的に武器を失う。練度が上がってもっと早く武器が生成できるようになれば問題じゃなくなるかもしれないけど、今の俺じゃ僅かな時間であってもそれは致命的な隙になりかねない。

 

だったら予め手軽に使い捨てられる形で作っておこうという発想で生まれたのがこのお札だ。破片による攻撃がない分威力は多少下がるが攻撃の隙が極めて小さい。

 

うん、お気づきの人もいるだろう。NARUT○の起爆札である。

 

作り方としては使いやすいサイズにカットした紙に魔力を染み込ませるだけ。すると真ん中に爆と書かれた和風でオサレな紋様が滲み出てきて完成である。お手軽ぅ。

 

ある程度自由に動かせるし回避しながら繰り出したり出来て中々使い勝手がいい。誤爆対策に印とキーワードの発言を同時に行わないと爆発しないようセーフティもかけてある。

...本家の忍術みたいに複雑な印にしたら戦闘中に使うのに手間取るので簡易化してあるが。悔しい。

 

あと実戦で使ってみて初めてわかったんだが、単一対象に複数枚貼ってから起爆すると魔力が共鳴して威力が上がる。使い魔に貼りまくって敵陣に投げ込んで起爆、みたいな戦法が有効かもしれない。

 

卑劣な術だ...夢が広がる。我ながら結構いい出来じゃないか?

 

 

二戦目の魔女はそんな新戦法を引っ提げ、かなり覚悟して行ったのに割と楽勝で肩透かしを食らった。

この一ヶ月でも特に苦戦してないしやっぱ最初がおかしかっただけらしい。

いや悪いことじゃないんだけど微妙に納得いかない。

 

 

「でも油断は禁物だよさやか。予想出来ないような攻撃をしてくる魔女もいる」

 

「忠告ありがとうべぇさん。肝に銘じるよ」

 

 

まぁ慣れた頃が危険ってそれ一番言われてるから。足元を掬われないように気をつけよう。

 

それにこの程度じゃ全然安心できない。素質に恵まれてるし順調に経験を積めている実感はあるが、まだまだ初心者に毛が生えたレベルだし、ラスボスたるワルプルギスには手も足も出ずに殺されるだろう。

 

6000億枚の起爆札用意したらオ○トは倒せなくてもワルプルギスならワンチャンあるかな。無理か。そもそも魔力足りないし6000億枚の紙が用意できねぇわ。あれどうやってあんなに調達したんだろうな。永遠の謎。一応ちまちまと起爆札の貯蓄してるけど使っちゃうから全然貯まらん。

 

それに実際に用意出来ても倒せるかは未知数なのがあれの怖い所だ。

原作において暁美ほむらがどれほどの時間を繰り返しても決して倒すこと叶わなかった、最悪の魔女。魔法少女の間で何百年も語り継がれる魔女の集合体。多少強くなった所で一人じゃどれほど抵抗できるかなど高が知れている。

 

これ絶望しかねぇな?

 

でもそれは一人で戦うならの話だ。

 

一人で無理なら複数人で殴れ。

囲んで棒で叩くのは古代から続く由緒正しい必勝戦法だ、戦隊ヒーローの常套手段とも言う。

魔女よ、卑怯とは言うまいな...誉は投げ捨てる物!

 

というわけで仲間になってくれそうな人を探したいんだけど、小学生の身上じゃ遠出は出来ないし今はただ闇雲に鍛えるしかねぇか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

そんなわけでやってまいりました初日の準備運動にも使った裏山。

 

ひふへ(行くぜ)!!」

 

そこには刀を口に咥えた剣士が!

 

「なにやってるんだいさやか」

 

キュゥべぇが心底不思議そうに尋ねてきた。口が塞がってるのでテレパシーで答える。

 

なんだ見てわからんか。男の夢、三刀流の練習だ。

 

「そんな剣技非効率だよ?見たことがない」

 

はぁ...?非効率?取り消せよ...今の言葉...!!

 

「断じて取り消すつもりはないよ」

 

ノってきた!?いや偶然か...偶然だよね?

 

「何のことだい?まったくわけがわからないよ」

 

意外とノリがいいのかと思ったがそんなことはなかったぜ。

 

気を取り直して、両手にも刀を持って腕を交差させた構えをとる。繰り出すのは某海賊狩りの技。

 

ほに、ぎい(鬼斬り)!」

 

空中を三条の光が煌めいた。

木を斬り倒すことには成功したが命中した瞬間、ぼぎっ...と鈍い音が鳴って口の中に鉄の味が広がった。

これ歯欠けたな。いたひ。

 

「うぐぐぐぐ...」

 

「ほら言った通りじゃないか」

 

うるせぇやい。

 

何遊んでんだよと言わんばかりの目で見られているがこれは遊んでいるわけじゃなくて、起爆札が予想以上に強かったので他の技も実は強いのでは?と思って検証しているのだ。

 

なんで三刀流なの?と聞かれると好きだからとしか答えようがないけど。

ロマンを求めてなにが悪いんじゃい。

 

その後もなんとか使えるようにならないかと試したが、歯や顎を魔力で強化して折れないように出来ただけで実用レベルには至らなかった。

 

俺は諦めんからな...!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ある日の昼休み。

 

 

「うりうり~まどかぁ~」

 

「さやかちゃ~ん、てぃひひ...くすぐったいよぉ」

 

 

椅子に座った俺は膝の上にまどかを乗せて愛でていた。

 

疲れた時はまどかに癒して貰うに限るぜ!理由も聞かずに甘えさせてくれるまどかマジ天使。

 

中身男が何やってんだ通報すんぞと思ったそこのアナタ、ちょっと待って欲しい。

乗って来たのはまどかからだし同意の上だぞこれは。

 

それに守りたい物を確認するための行為であって下心はない。...なんかいい匂いすんなーこいつ。おっと話が逸れた。ほら何も疑わしい所などないだろ?

 

最近のまどかはスキンシップに遠慮がなくなってきてて、俺も拒まないので距離感がすげぇ近い。

周りにはやっとくっついたかだの遂にデキたかとか好き放題言われてるけど面白がって揶揄ってるだけだと思う。

 

「あはは、さやかと鹿目さんは相変わらず仲いいね」

 

「えぇ...本当に素晴らしいことですわ...」

 

だからその、少し離れた所から目ん玉かっぴらいてこっちを見つめる仁美もその類いだ。たぶん。いい加減に俺も察してるが触れたら負けだ。

 

「それでねその時仁美ちゃんが...ってさやかちゃん聞いてる?」

 

「ん~聞いてる聞いてる」

 

「もぉー!さやかちゃんてばー!」

 

あぁ~~かわいい...まどか成分がチャージされていくぅ~⤴

 

これがあれば俺はあと10年は戦えるぜ!!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

四ヶ月が経った。

もう俺は魔法少女として一人前と呼んでいいらしい。

 

キュゥべぇが言うには一人前になれるのは全体の約半数なんだってさ。殉職率五割とか高すぎ...高すぎない?そんだけ少女減りまくってて人口とか大丈夫なのこの世界。

 

原作でインキュベーターは有史以前から人類に関わって来たってドヤってたし、そうなっても問題ないようにされてるんだろうか。怖すぎない?収穫を待つ家畜の気分。小さい女の子を家畜扱いとかやはり畜生か...

 

なんでそんな益体もないことを考えているのかと言うと現実逃避だ。

今は少女畜産系宇宙人(インキュベーター)よりも直接的に悩まされてる相手がいる。

 

 

「ちょっとさぁアンタ話聞いてんの!?」

 

 

ご同業、魔法少女だ。

 

 

一人前と言っても俺のナリは小学生だし侮って勝負を吹っかけてくる奴は実は結構いる。

そういう子は大体中高生辺りのお年頃で、高圧的に縄張りを明け渡せだの部下になれだの好き勝手言ってくる。

 

「はいはい、聞いてますよ?」

 

「ここらはアンタみたいなちんちくりんが独占していい狩場じゃないの。わかる?」

 

「わかりますわかります。」

 

攻撃的なJKとかどう対応したらいいのかわかんなくて取り敢えず話合わせとくのが常なんだけど、その態度が気に障るのか大体キレる。

 

「...ナメてる?死にたいらしいね」

 

 

でもそれで武器向けてくるか普通?最近の若者怖い。

 

 

「言ってもわからないなら力づくでわからせるしかないよねぇ!」

 

「ヴェっ!?」

 

 

わからせる!?年上のメスガキにわからされちゃう...!?

 

 

「チッちょこまか避けるのだけは上手いなぁ!」

 

まぁそんな攻撃当たらないんですけどね、初見さん。

魔女とはそこそこ戦い慣れてるのかもしれないが対人戦の経験値が圧倒的に足りてない動きゾ。

 

苛立ちは動きを鈍らせ隙を生む。

そこを突いてスルリと攻撃を避け肉薄し首筋に刃を突きつければ――

 

 

「なっ...!」

 

「なにか事情があるなら聞きますけど、無いなら帰って貰えます?」

 

「クッ...ソ...!!」

 

 

大体は大人しく帰ってくれる。首なんて刺された所で魔法少女は死なないのにね。

 

 

「気をつけて帰れよー」

 

「覚えてやがれクソガキ...」

 

 

そんなテンプレセリフ吐く人おる?おったわ。ちょっと感動した。

 

こんな感じの襲撃がたまにある。

人気のないとこで魔力を放出して呼び出したかと思えば決闘まがいのことしたがる奴とか、魔女との戦闘に割り込んできて横取りしようとしたりする奴だとかまぁー色々いる。

 

これらの経験からわかるのはソウルジェムの秘密を、魔法少女の真実を知らない人がほとんどだってことだ。

 

だって知ってて魔法少女同士の戦いなんて不毛なことしたがる奴とか、例え殺してでも通したい意思がある覚悟ガンギマリか、危険性が分からないアホか、故意に殺すつもりがあるヤベェ奴かの三択だもの。

 

仲間は増やしたいけどそんな奴を仲間にしても背中預けられないよ...。

 

真相を話して錯乱されても困るし、今の俺がそれ知ってたらキュゥべぇに違和感持たれるだろうしでどうしようもない。

 

あーあ、どっかに才能あって人格もしっかりしてる魔法少女落ちてねーかなー!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

求めた仲間は、存外あっさりと手に入った。

 

 

 

魔法少女になって半年ほど経ち冬休みに入った頃。

 

縄張りを防衛し続けた結果か、最近はめっきり襲撃してくる奴もいなくなった。

 

魔女狩りにもすっかり慣れて最近いい調子だ。

少し余裕が出てきたから起爆札の在庫を増やしたり新技の開発に勤しんだり、まどか達と遊びに出掛けたりと日々を満喫していた。

 

 

だからこれは、怠慢だったのだろう。

 

 

「さやか、紹介しよう。ついこの間契約した新しい魔法少女だ」

 

「...巴マミです!よろしくお願いしますね」

 

 

毛先が痛んで枝分かれした黄色い髪。原作の記憶より若干幼い印象を受ける顔は、無理に笑っているみたいにぎこちない。

 

 

「彼女は君の一つ年上だが、魔法少女としては新人だ。先輩として色々教えてあげてくれないかい?」

 

 

原作の巴マミは幼い頃に交通事故に遭いそれがきっかけで魔法少女になる。

つまりもう――両親を喪ったってことだ。それも、つい最近。それが起こるって知ってたのに。

時期を知らなかった、忘れていたで済まされる話じゃない。見殺しにしたのだ、俺がこの子の両親を。

 

 

「君は仲間を欲しがっていただろう?丁度いいと思ってね。...さやか?」

 

反応を返さない俺に首を傾げるキュゥべぇ。マミさんも隣で困惑気味だったので慌てて右手を差し出した。

 

「ごめんごめん!私は美樹さやかだ。こちらこそよろしく!」

 

もう起こってしまったことだ。過去は変えられない。例え奇跡を体現する魔法少女であろうとも。

 

はにかんで手を握るこの儚げな少女も――俺が、守らないと。

 

 

 

 



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