ダン狂~くるみ(偽)とリリのダンジョン探検~ (ヴィヴィオ)
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ソーマ・ファミリア
ダン狂~くるみ(偽)とリリのダンジョン探検~


プロローグ追加です。


 

 

 

 

 

「あら?」

「どうしましたの、わたくし?」

「黒い渦みたいなのに突撃させたわたくしと連絡が取れなくなりました」

 

 わたくし達の目の前に現れた黒い渦。そこに分身体を送り込んで調査させたのですが、これはこれで面白そうですわね。

 

「いいんですの?」

「構いませんわ。どうせもう時間が少ないわたくしですもの。こちらも消費した時間を集めないといけませんし、些事に構っていられませんわ」

 

 わたくしに後ろから抱き着いてくるわたくし。彼女に話しながら、黒い渦の方を見ると段々と閉じていきます。白の女王と戦ったせいで空間も時間も不安定になっております。これはこれで面白い事が起こりそうですわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い渦を越えた先は不思議な場所でした。どうやら異世界のようですわね。訪れた直後に複数の人達が襲い掛かってきたので、彼等を処分しました。少し強い精霊も居ましたが、そちらも衰えているとはいえ只人に負けるわたくしではありませんわ。

 

「さて、ここは……あらあら、素敵な場所ですわね」

 

 周りを確認すると壁には培養液に入れられた不気味な胎児。手術台の上には幼い子供が乗せられ、身体のあちこちから血液を垂れ流してすでに事切れていますわね。その子の身体は精霊の胎児であろう物と融合させられているようで、身体の中に歪な二つの力が入っています。その二つが拒絶反応を起こして死んだようですわね。

 その子だけでなく、実験体にされたのは複数の誘拐されたであろう子供の死体が積み上がっています。そもそも普通にやって種族すら違う精霊と人の融合などほぼ不可能です。わたくし達のように霊結晶(セフィラ)を埋め込んで適応するか、胎児からしてそのように生み出されるしかないでしょう。今回はどちらでもなく、無理矢理寄生させて融合させただけでできるわけありません。そもそも両方に意思があれば成功するはずがありません。

 

『許さない』

『なんでこんな事……』

『助けて……』

 

 なるほど、殺された子達の絶望と憎悪が精霊に影響して性質を反転させようとしていますね。ここの連中はこれらも狙ったのですね。反転した精霊、魔王との戦いはひどく大変でしたし……ムカつきますわ。

 

「帰る方法も、力もありませんし、このまま消えるしかありません。でも、癪ですから、嫌がらせも兼ねて楽しませてもらいましょう。何れわたくしもこちらに来るかもしれませんし……プレゼントを仕込んでおきますか。それにこの子達も随分と恨みを持っているようですしね」

 

 死体の中から良さそうな子を選んで精霊の胎児達を全て使用します。わたくしの劣化した部分を融合させた精霊の胎児で補いましょう。この世界は霊力が豊富ですし、肉体を戻して……わたくしの体内に入れますの。あとはここにあの方のDNAを入れて掛け合わせ、使えそうな人を探します。ギリギリ生き残っている死に掛けの子供の記憶をオリジナルから貰っている十の弾(ユッド)で読み、見つけたのは面白い存在でした。

 まさか、まさか、わたくしと同じ異世界の魂があろうとは……ましてやわたくし達の世界を見て、わたくしのファンになる方とは……気持ち悪いですわ。ぶち殺してやりたいのですが、もう死んでいますし……それにこれは僥倖ですわね。このまま愛せなくても、子供としてならできます。それにこの世界以外の知識はアドバンテージになるでしょう。

 

「完了ですわね。後は外に行きましょうか」

 

 お腹を撫でてから生き残りの子達を治して差し上げてから連れて外に出て、その子達を解放してあげてからしばし異世界を堪能します。とりあえずじゃが丸君というのを食べてからこの異世界の街を堪能していきますの。

 次第に苦しくなってきましたので、わたくしは裏路地に入り、準備を整えますわ。時間も残り僅かなので最後の仕上げです。わたくしの身体と胎児を融合させ身体を作り直します。ああ、本当に楽しみですわ。

 彼の知識から何れこの世界に皆さんがやってくる事は確実。その時のわたくしとあの方の反応がとっても楽しみですわ。どんな表情をしてくれるんでしょうか?

 特に彼女達は暴走するでしょうね。それを見るのもまた楽しみです。わたくしは愛しい子供の中からゆっくりと特等席で楽しませていただきましょう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ある日♪ ビルの中♪ 気が付けば~中世ヨーロッパ~♪ TS幼女になっていたですの♪ ザッケンナコラー!」

 

 ガラスに写る姿はまごうことなき七歳ぐらいの幼女。黒色のフリルがあしらわれた赤色のワンピースドレスを着た可愛らしい黒髪ツインテールだ。頭には赤色のヘッドドレスまであるから完全なゴシックロリータの分野にある赤ロリといった感じ。とても似合っていて、胸の下にあるリボンもアクセントになって可愛らしいのでグッド。

 ここまではただの可愛らしい、美少女の幼女ちゃんでまだ問題ない。問題は瞳が深紅のような瞳と黄金のような瞳のオッドアイだろうということ。また、左にある可愛らしい黄金ちゃんの瞳の中には時計の文字盤があり、針までしっかりと動いているものとする。

 

「どうしてこうなったァァァァァッ!」

 

 思わず叫び声を上げると周りから視線が集まってくる。ソイツ等は武器とか持っていて、明らかにファンタジーな感じ。だって、ケモ耳とかエルフ耳とかの人も居るしね。正直、大好物です! モフモフハムハムしたい! 

 

「可愛らしいお嬢ちゃん。おじさんといい事しない?」

「迷子かな? お兄ちゃんがいいところに連れていってあげるよ!」

「ぜひ私の家族に!」

「ひっ!?」

「待てやっ! この幼女はうちがもらっ!」

 

 身の危険を感じたので逃げるが勝ち! そんなわけで脱兎の如く逃走です。

 

「逃げたぞ! 追え!」

「ヤバイ! あっちはまずいで!」

 

 路地に入り、適当に走っているとドンドン道が入り組んできていて、わからない。追手がやってくるので、木箱に隠れてやり過ごし、また走る。それを繰り返すスニーキングミッションをどうにかやり遂げたけれどガチで迷った。

 空もだんだんと暗くなってきたし、お腹も減ってきたし、正直泣きたい。いきなり気が付けば幼女にされて変態共に追いかけ回されるなんて悪夢だ。

 

「むしろ、本当にどうしてこうなった……?」

 

 記憶を整理してみよう。とりあえず朝起きて、パソコンつけて狂三ちゃんまとめ動画をエンドレス再生して聞きながら、食事と着替えをして外に出たら……地震が起きたんだ。そこで近くの子供に操作を誤ったのか、車が突っ込んできたので弾き飛ばした気がする。

 そこで多分死んだんだろう。つまり、これは神様転生的な奴なはず。多分きっとそう。そうじゃないと色々とおかしい。異世界TS転生とか、そうでもないとありえない。きっと手紙とかが服の中にあるはず……ない。不親切だ。まあ、貰った特典は予想できる。

 この身体の瞳から時崎狂三の幼女バージョンだという事は確定だろう。デート・ア・バレットで異世界に迷い込んだ彼女が幼女になっていた姿と同じようにも感じる。つまり、巨大な時計の形をしており、時間を操作し、自分自身を複製する事も出来る天使刻々帝(ザフキエル)と時喰みの城という周囲に影を張り巡らせ、影を踏んでいる人間の時間を吸い上げたり、影を踏んでいる人間は体が重くなり動けない状態としたりできる。また、内部は真っ暗な一種の異空間になっており、自らは中に沈んで移動や潜伏ができる他、特定の人物を引きずり込んでの捕食や保護も可能。

 時間を消費しなければ力を行使できない狂三にとっては不可欠な能力と言える。そうじゃないとすぐに寿命が尽きて死んじゃうから。

 

「物は試し……刻々帝(ザフキエル)

 

 声に出して言ってみても反応しない。なら武器である霊装はどうかと試してみるけれどこちらも出ない。つまり、この身体は可愛いだけのただの幼女だった? 

 本当にどうしてこうなった……チートもないただの幼女が中世で生きていけるはずないだろ! いい加減にしろ! 行き着く先は奴隷や娼館とか、良くてホームレス! 超幸運に恵まれたら保護されるかも……どちらにしろ食い物にされる可能性は高い。

 

「とりあえず動こう」

 

 テクテクと歩いて人通りの多い所に進んでいくこと、数十分。大通りに出ない。そんな時、呻き声が聞こえてきた。そちらに向かうと、小さな女の子が蹲っていた。どうやら生きているみたいだ。残念。死んでいたら荷物を貰ったのに

 

「大丈夫、ですか?」

「……こほっ、こほっ……」

 

 殴られたのか、咳き込んでいるので背中を撫でてあげると、しばらくして呼吸がましになってきたみたいで顔を上げてきた。彼女はこちらの姿を見るなり、嫌な目で見て来た。まるで獲物を見るかの様な目だ。

 

「言っておきますけど、お金なんてありませんよ。生憎と絶賛迷子中で、家も何もない根無し草ですからね」

「その格好で?」

「知りません。幼女趣味の変態が用意したのでしょう。私は気が付けばこの街に居て、途方にくれていただけですから。というわけで、助けてあげたので寝る所を貸してください。貴女も同類でしょう?」

「私が同類、ですか……」

「根無し草じゃないんですか?」

「違います!」

「それはごめんなさい。それなら、大通りに案内していただけるだけでもいいですが……」

「いえ、もう遅いので寝床も提供します。こっちです」

 

 ヤバイ感じもするけれど、どうしようもないのでついていこう。どうせ夢だ。夢だという事にしておこう。夢だったらいいにゃあ……それに利用できる。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 彼女に連れていかれたのは大きな建物でした。その中には飲んだくれの人がいっぱいいて、なんだか凄く怖い場所な感じがする。視線がいっぱい集まってきますが、彼女は気にせずに私を奥に連れていく。

 

「団長。迷子の貴族様です。家に届ければお金になります」

「ほう」

 

 団長と呼ばれた男はこちらにやってきて、何故か少しも汚れていない私の服を上から下まで見てくる。

 

「良くやった。何処の貴族か聞き出せたか?」

「そこはまだです。逃げられる前にここに連れてきたんですから」

「わかった。ではこちらで預かろう」

 

 そう言って彼女は私の腕を彼に渡した。私は彼女を見ると、ニヤリと笑っていた。

 

「信じるから馬鹿を見るのですよ……」

「いえ、はなっから信じてませんが」

「え? なら何で付いて来たんですか?」

「妥協ですが?」

「だ、妥協?」

「言った通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ニコリと笑ってあげると、ビックリした表情をしている彼女。そんな彼女を置いてクルリと回って団長と呼ばれた男性の方を見上げる。

 

「さあ、私が何処の誰で、どのようにしてこの街に連れてこられたのか、探してくださいな。報酬は貰えるかもしれません。保障はしませんけどね」

「……名前は?」

「覚えていませんが、まあ仮にくるみとしましょ」

「ソーマ様に確認する。来い」

「はい」

 

 連れて行かれた先で、黒髪のなよなよした男性がいました。彼はこちらを一瞥しただけで興味が無さそうな感じだ。

 

「ソーマ様、彼女について聞きたい事があります。彼女の言葉が真実かどうか、お教えください」

「……面倒……」

「お酒を造るために必要な事です」

「……わかった……」

 

 それから、団長さんの質問に答えていくけれど、嘘についてはバレた。どうやら、このソーマという人は本物の神様で、神様は嘘を見抜くらしい。なので、真実を混ぜて異世界などは誤魔化しつつ、何故ここに居たのか、私が誰なのかはわからないと言った。ただ、名前は多分くるみだとも。

 

「ザニス、彼女と二人っきりにしてくれ」

「ソーマ様?」

「いいから、これは命令だ」

「……わかりました」

 

 団長さんが渋々出ていくと、ソーマ様は立ち上がって私が座っている所までやってきた。そして、両手で顔を掴んで瞳を左目に近付けてくる。

 

「え、いや、そういうのは困ります……」

「お前、()()だな」

「え?」

「いや、正確には半分精霊か……身体は人間だが、その左目には精霊の力が、精霊その物が入っている感じがする」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何故か口から出た言葉が勝手に変換された。怖い。ガチで怖い。

 

「先程の言葉に嘘はなかった。だったら、お前は死んだ。おそらく、精霊と人との融合実験でもしたのだろう。その身体の持主と精霊は死んで、混ざった物が出来たか、まったく別の物が生まれたか。どちらにしろ、コレを飲んでみろ」

「はぁ……」

 

 貰ったコップを飲むと、凄く美味しかった。極上の美酒と言えるもので、身体がポカポカしてくる。

 

「これ、お酒ですか?」

「やっぱり、普通に飲めるか」

「ええ、美味しいお酒ですわね。気に入りました。おかわりを所望します」

「ああ、いいだろう」

 

 ソーマ様はグラスを二つ用意したので、こちらも注いであげて一緒に飲む。とろける甘さがあり、病み付きになりそうなほど美味しい。

 

「これ、もっと欲しいなら、瞳を差し出せと言われたら差し出すか?」

「は? 断固拒否ですが? なんでお酒のために身体を差し出すんですか? お酒は嗜好品。身体の方が大事ですのよ?」

「……」

「確かに美味しい事は美味しいですし、また飲みたいのでお金に余裕があれば貯めて買いたいと思いますが、身の破滅をしてまで買うつもりはありませんわね」

「わかった。くるみだったか、行く当てがないのなら、私のファミリアに入るか?」

「ファミリア、ですか?」

「そうだ」

 

 この世界では神々がファミリアというグループを作り、人々に神々の恩恵を与えてステイタスを強化するらしいです。それによって人は新たなるステージへと進む。オールドタイプがニュータイプやエックスラウンダー、イノベイターなどになる感じらしい? え? 違う? そうなんだ。

 

「どちらにしろ、重要なのは君が魔法を使えるようになる可能性が高いという事だ。今の状態では人と精霊の融合はできても、力を発現する事はできていない」

「なるほど、そういうことでしたか。では、よろしくお願いします」

「じゃあ、脱げ」

「え? 変態ですか?」

 

 思わず身体を抱きしめてドアへと下がる。幼女趣味の鬼畜外道な野郎だった? 

 

「背中に神の恩恵(ファルナ)を刻むだけだ。だから、背中さえ見せてくれればいい」

「なるほど、わかりました」

 

 肩紐を外して服を降ろしてベッドに横になって背中を見せる。可愛らしい乳首とかが見えたので、慌ててしっかりと寝転がる。冷たい物が背中に触れると身体中に激痛が走った。特に左の瞳からの痛みが強い。噛み合っていない物を無理矢理嚙合わせるかのような感覚に悲鳴をあげる。

 

「終わったぞ」

「はひぃーっ」

 

 起き上がって肩紐を直して服を整える。ベッドは色々と汚れてしまっているけれど仕方がない。

 

「これがくるみのステイタスだ」

 

 渡された紙を見ますが、読めません。なんだこの変な文字は……日本語で書け、日本語で。

 

「読めないので、書ける物とペンを貸してください。書き写します」

「口頭でいいだろう」

 

 聞いた限りではこんな感じだった。

 

 

 

 

 ➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

【くるみ・ときさき】

 

 レベル1

 力 I 0

 耐久 I 0

 器用 I 0

 敏捷 I 0

 魔力 I 0

 

【魔法】

 

刻々帝(ザフキエル)

一の弾(アレフ)】:対象の外的時間を一定時間加速させる。超高速移動を可能とする。

二の弾(ベート)】:対象の外的時間を一定時間遅くする。意識までには影響を及ぼせないが、対象に込められた運動エネルギーも保持される性質がある。

三の弾(ギメル)】:対象の内的時間を加速させる。生き物の成長や老化、物体の経年劣化を促進する。

四の弾(ダレット)】:時間を巻き戻す。自身や他の存在が負った傷の修復再生が可能で、精神的なダメージにもある程度有効。

五の弾(へー)】:僅か先の未来を見通すことができる。戦闘中、数秒先の光景を視ての軌道予測等に使用できる。

六の弾(ヴァヴ)】:対象の意識のみを数日前までの過去の肉体に飛ばし、タイムループを可能とする。

七の弾(ザイン)】:対象の時間を一時的に完全停止させる。

 強力な分消費する時間は多め。

八の弾(ヘット)】:自身の過去の再現体を分身として生み出す。分身体は本体の影に沈む形で待機が可能。生み出された分身体を全て駆逐しない限りいくらでも呼び出すことが可能であり、殺害されても何度も蘇る。分身体のスペックは本体より一段劣っており、活動時間も生み出された際に消費した『時間(寿命)』しか活動できない。また、基本的には天使を行使することも出来ない。情報のやり取りを通じて記憶を共有する事もできる。

九の弾(テット)】:異なる時間にいる人間と意識を繋ぎ、交信することができる。撃ち抜いた対象者と会話したり、見聞きしたものを共有できる。

一〇の弾(ユッド)】:対象に込められた過去の記憶や体験を知ることができる。

十一の弾(ユッド・アレフ)】:対象を未来へ送ることができる。進む時間に応じて消費する時間・魔力は加速度的に上がってゆく。

十二の弾(ユッド・ベート)】:対象を過去へ送ることができる。遡る時間に応じて消費する時間・魔力は加速度的に上がってゆく。歴史を改変し元の時代に戻ってきた場合、その特異点となった人物は改変前の記憶を保持、または思い出せる。

 魔力と寿命を消費して発動する。発動には基礎コストとして十日を消費する。また、発動する魔法の数字が上がるにつれて十日ずつ関数で消費が増加する。六の弾(ヴァヴ)からは百日に増加。

 

「神威霊装・三番(エロヒム)

 歩兵銃と短銃の二丁拳銃を物質化する。攻撃に使う銃弾は物質化した影で出来ている。

 

【スキル】

 

「時喰みの城(0)」

 周囲に影を張り巡らせ、自らの影に異空間を作成する。影に触れている存在の時間を吸い上げる。異空間の中に沈んで移動や潜伏ができる他、特定の人物を引きずり込んでの捕食や保護も可能。作成には寿命を一年消費する。寿命を一年消費するごとに異空間の広さを拡張できる。一メートル四方、一年ずつ増やせる。

 

 ➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 ザ・狂三ちゃん! ガチチートです、ありがとうございます! ただ、寿命を使って制作する所から始めないといけない。というか、一の弾(アレフ)使うだけで、寿命を発動時のコスト十日と弾丸の十日で二十日を消費する。二の弾(ベート)なら三十日か。

 六の弾(ヴァヴ)からはコストが跳ね上がって、六百十日も発動コストに必要となるここから更に八の弾(ヘット)などは活動時間も使われるので、普通に考えて八百十日と追加で一日からになる。でも、発動コストが重いから、使うなら最低でも一年単位で用意しないと元が取れない。二年でコストと釣り合いが取れ、三年以降で収支はプラスになる計算かな。

 

「神威霊装・三番(エロヒム)

 

 発動しようとしてもうんともすんとも言わない。

 

「時喰みの城から作らないと駄目なのではないか?」

「なるほど。ちなみに私の寿命ってどれくらいかわかりますの?」

「しらん」

「デスヨネー」

 

 仕方ない。最低の一年を消費しよう。それに神様なら寿命は存在しないはず。きっと多分。寿命がないなら奪えない可能性もあるけれど、気にしない。きっと一年くらいなら大丈夫! 

 長ったらしい詠唱をして時喰みの城を発動。一年の寿命を消費する事で一メートル四方の影の異空間を作成できた。続いて神威霊装・三番(エロヒム)を生み出すと短銃ではなく小銃の方が出て来た。こちらも赤くて色が服にマッチしてる。

 

「問題ないようだな」

「はい。それじゃあ、寿命ください」

「……まあ、やってみるといい」

「時喰みの城、展開」

 

 展開した時喰みの城でソーマ様を囲ってみますが、効果なし。寿命が増えた気もしない。無限ではなく、存在しないのだから無理みたい。残念無念。

 

魔物(モンスター)から集めるといい」

「ですね。ダンジョンに潜っていっぱい稼ぎましょう」

「好きにしろ。ただ、酒の改善点があれば教えてくれ」

「お酒ですか。ワイン、蒸留酒、日本酒など色々とありますが……全部作ってみるのもいいかもしれませんね。スランプに陥っているのなら、別の物に手を出して発想を得る方法もありますわ」

「……確かにそうだな。金が要るか」

「お酒を売ればよろしい。充分にお金になるはずですから」

「ザニスに相談してみよう」

「それと泊る部屋を用意してもらってもいいですか?」

「……ここで寝ればいい」

「え、嫌ですけど。だって布団が……」

「誰かに掃除させろ。それから、この部屋は好きにしろ。私は別の部屋で寝る。世話係も用意するように言っておく」

「あっ、ちょっ!?」

 

 ソーマ様が出ていってしまったので、仕方なく私も外に出ます。外に出ると、見覚えのある少女がこちらを見詰めていました。

 

「貴女、お名前は?」

「えっと、リリはリリです……」

「ボウケンシャーですか?」

「サポーターですが……」

「サポーター?」

「ダンジョンで荷物持ちなどをする役割です」

「なるほど。では、貴女に決めました。ソーマ様、この子を私の世話係にしてください。同じ女の子ですから、構いませんよね?」

「ああ、好きにしろ」

「ソーマ様?」

「彼女は特別だ。それよりも酒作りに関してだ」

 

 あちらは何か揉めていますが気にしない。

 

「さあ、神様の許可は取りました。来てください」

「え、えっと、リリに何をさせる気ですか?」

「まずは掃除ですね」

 

 部屋に連れていってベッドを見せると、何とも言えない表情になったけれど、すぐに何かを悟ったのか、大人しく片付けてくれた。聞かないでくれて良かった。もちろん、私も手伝います。

 

 

 

「えっと、次はどうしますか?」

「ご飯を食べて寝ます。一緒に食べましょう」

「お金は……」

「ソーマ様から貰ってきましょう」

「待ってください! 本当に待ってください! リリが用意してきますから!」

「わかりました。では、お願いします」

「……はい……」

 

 椅子に座って残っていたお酒を飲みながら待つ事数分。女の子が急いで帰ってきました。その手にはホカホカの芋っぽいものがありましたとさ。

 

「それは?」

「じゃが丸君です。それよりも本当にリリも食べていいんですか?」

「構いませんよ。それに明日から一緒にダンジョンとやらに潜るのですから」

「本気ですか? お嬢様が?」

「大丈夫です。ふぁるななる物ももらいましたし、スキルも魔法もあります」

「あ、そうですか……ソーマ様のお気に入り……いえ、愛人になっただけでは……

 

 おかしい。彼女の目が死んだ。でも、きっと大丈夫。不安なだけだろう。私が守ればそれでよし! 

 

「必要な物は全部任せます。撤退のタイミングもお任せしますから、そちらのペースでお願いします」

「それなら、まあ……武器は何を?」

「これです」

 

 影から小銃を取り出すと、かなり驚いたようだが、すぐに呆れた表情になった。

 

「銃は単発なら強力ですが、連射はできません。ダンジョンには向かない武器です」

「連射できますよ。これ、魔法の武器ですから」

「えっと?」

「ですから、魔法で作った銃であり、弾丸も魔法です。連射も魔力が続く限り、可能だと思います」

「……わかりました。まずは試しましょう」

「それがいいですね」

 

 庭に出てから的を用意し、そちらに向かって撃つ。弾丸は明後日の方向へと飛ぶ。何度か撃っているとコツを掴んできたので、普通にあてられるようにはなった。ただし、フラフラになってくる。

 

「マインドダウン寸前ですね」

「マインドダウン?」

「魔力の使い過ぎです」

「それはヤバイですわ。とりあえず、弾丸は先に作って置いておけばいいでしょう」

「それが出来るのなら、かなり便利ですよ……」

「流石は私。さいきょーさいあくの精霊ですの」

「はいはい」

「あ、信じていませんね~」

「しんじてますよ~。それより、なんとお呼びしたら?」

「くるみです。くるみ・ときさき。それが私が私であるためにつけた名前ですわ」

「……わかりました。クルミ様。リリはリリです。リリルカ・アーデといいます。リリでいいですよ」

「はい、リリ。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ」

 

 射撃訓練を終えた後、リリにダンジョンで必要な知識を教えてもらっていると、眠たくなってきた。

 

「もう寝ましょう。明日は迎えにきます」

「リリも一緒に寝ましょう」

「ですが……いえ、わかりました。一緒に寝ます」

「はい」

 

 大きなベッドを二人で使って寝る。リリを抱き枕にするような事はできないので、普通に寝る。いえ、隣に可愛い女の子が寝ているから寝れない。故にさっき知ったマインドダウンを利用する。弾丸を寿命を使わずに作り上げ、影の異空間に収納しまくる。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

 朝。マインドダウンから目を覚ますと目の前にリリの顔があった。驚いて叫び声をあげてしまった。その声も大変可愛らしくて、思いだした。TS異世界転生をしたんだった。

 

「朝からなんですか……」

「おはようございます。取り乱しました」

「ああ、そうですか。おはようございます」

 

 とりあえず、朝の挨拶をしてから顔を洗い、朝食を摂りに外へと出る。ソーマ・ファミリアでは食べないらしい。屋台で軽い物を食べてからバベルの塔というまんまな場所に向かい、ボウケンシャー登録をする。

 

「ソーマ・ファミリアですね。年齢は……」

「女性に年齢を聞くものではありません」

「……小人族の方ですか?」

「それ以外に見えますか?」

「……見えませんね。受け答えもしっかりとしていますし……はい、わかりました。では初心者研修については……」

「リリ、受けた方がいいですか?」

「要りませんよ。リリがついているのですから、必要ないです」

「だそうなので、要りません」

「畏まりました。最後に一つだけ。冒険者は冒険してはいけません。いいですか?」

「ボウケンシャーなのに冒険をしてはいけないとは矛盾していますね」

「なんかイントネーションが違いますよ」

「えっと、冒険してはいけないというのは命を大事に無理をせずに帰ってくるということです」

「なるほど、わかりましたわ。安全マージンを確保して虐殺すればよろしいのですわね!」

「……ええ、その通りです……」

 

 ヒット&アウェイで殺していけばいい。他にも色々と聞いて、初期武器が貰えるらしいので、リリに換金効率がいいのを選んでもらった。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 そんな訳でダンジョンである。一階にはゴブリンが現れる。そう、ゴブリンか? のゴブリンである。ゴブリンスレイヤーさん、お願いします! 

 

「来ましたよ」

「はい。じゃあ、撃ちます。パーン」

 

 頭が弾け飛んだ。ぐろくて気持ち悪い。出来る限り、殺さないようにしよう。そうしよう。銃では殺さない。まあ、死体は綺麗に消えるんだけどね。

 

「銃声を聞いて魔物(モンスター)が集まってくるかもしれません。すぐに魔石を回収して移動しますよ」

「了解です」

「ここからは真剣に行きます。リリの指示に従ってください」

「もちろんです。わたくしの命、預けますからね」

「……わかりました」

 

 次に現れたゴブリンは足を撃つ。足が弾け飛んだので、近付く。するとリリが声をあげてきた。

 

「危ないですよ!」

「大丈夫です。少し試すというか、やらないといけない事があるので」

 

 そのまま近付いて時喰みの城を発動。恐怖で動けないゴブリンを取り込む。二時間分の時間を確保できた。それだけだ。もしかしたら、血液を流していたから、寿命が現在進行形で減っていたのかもしれない。

 

「その力は……?」

「影に取り込んで対象を殺します。魔石ははい、どうぞ」

 

 影から拾い上げて渡すと、リリは凄くビクビクしていました。

 

「さあ、どんどん殺しましょう!」

 

 とりあえずしばらく戦うとゴブリンは馬鹿なので、時喰みの城で動きを封じるか、そのまま突撃して取り込んだ方が効率がいい事がわかった。ゴブリンを無傷で捕らえると一日の時間が貰える。ただ、かなり接近しないと時喰みの城の射程に届かない。なので、目標は365体だ。

 

「この階層は余裕ですね。もっと潜りましょうか」

「ええ、もっと殺しますわ!」

 

 リリと一緒に潜って、コボルトや複数のゴブリンを倒す。流石に複数体になると何体かは撃ち殺して、時喰みの城で捕食する。

 

「天井にダンジョン・リザードが居ます」

「ああ、アレですわね。擬態して待ってるのなら、好都合」

 

 前足を撃ってから、影に落として捕食。だんだんと相手の生命力、寿命が見えてくるようになったのでそれから逆算して相手の位置を把握し、膝立ちになりながら狙撃していく。出来る限り、撃たないようにしながら進んでいくと。四階層ぐらいで適当にぐるぐる回りながら、時喰みの城と三番だけで倒していく。というか、三番も弾に限りがあるから出来るかぎり使わない。

 

「……ずるいです。強すぎです……これがレベル1?」

 

 リリが何かを呟いている間に壁から生まれてきた魔物(モンスター)に近付いて時喰みの城を使うのだが、一つリリから聞いた話で気になった事がある。ダンジョンは……生きている。つまり、寿命がある可能性があるのだ。

 

「時喰みの城」

 

 壁から生まれている魔物(モンスター)を取り込み、そのまま奥へと接続してダンジョンその物から寿命を吸い取る。予想通り、吸い取れた。正確にはダンジョンの物ではないけれど、ダンジョンが生み出して、生み出そうとしている魔物(モンスター)からダンジョンを通して吸うのだ。

 

「キヒヒヒヒヒッ!」

「ど、どうしたのですか!」

「いえ、いっぱい吸えてテンションが上がって……」

 

 その時、ダンジョンが震えて壁に大きな穴が空いた。そこから顔を見せたのは……

 

「なんですかッ!? なんなんですかっ!」

「カッコイイですわね!」

 

 鎧を纏った恐竜のような姿をした大型級のモンスターが壁から生まれてきている。その口は明らかに凶暴そうで、試しに撃ってみるけれどダメージが入らない。

 

「いいから逃げますよ! ダメージが通らなければリリ達では絶対に勝てません! 死にます!」

「……二の弾丸(ベート)一の弾丸(アレフ)

 

 相手に二の弾丸(ベート)を放ちながら時喰みの城を試す。少しでも吸収できたらもうけもの。生まれる前に遅くして吸収しつつ、自分とリリに一の弾丸(アレフ)を放つ。

 

「なんでリリを……アレ?」

「速度を上げる魔法を放ちました。逃げますよ」

「っ!? 了解です!」

 

 二人で脱兎の如く逃げました。四階層に化け物が出現した事により、急遽討伐隊が組まれたらしい。どうしてこうなったのか、誰も知りません。

 

「いいですね、リリ。わたくし達は何も知りません」

「……はい、そうですね。リリ達は何も知りません。バレたら罰金が凄い事に……」

 

 ダンジョンから得た時間は十年に相当したので、とりあえず時喰みの城を大きくしておきます。本体を増やして作業効率……時間の回収も考えましたが、時喰みの城が小さすぎるのでまだまだ使えないから。11まで上げたので、11メートル四方の空間になった。まだまだ小さい。最低でも100は欲しい。範囲攻撃は正義なのだから。

 

「もう一度やろうかな?」

「駄目ですからね! 絶対に駄目ですよ!」

「リリがそう言うなら、仕方がありませんね」

 

 まあ、流石にMPK、魔物(モンスター)を使ったプレイヤーキル。この場合はボウケンシャーキルになるが、やるのは気が引けるのでやらない。というか、そもそも狙うなら人間の方が効率的に上だ。流石にそれをやるのは駄目だと思う。ただ、まあ……襲ってきたら……キヒヒヒヒヒッ! 

あ、ソーマ様の部屋にお邪魔してステイタスを更新しておきました。

 

 

 



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危険な狩り

 

 リリの前に現れたのはリリよりも小さな女の子でした。その子は貴族様が着るようなドレスを身に纏い、肌にはリリにあるような傷は一切ありませんでした。どう見てもいい所のお嬢様であり、ダイダロス通りに居るような子ではありません。

 騙されやすそうな世間知らずのお嬢様。おそらく迷子なのでしょう。ですから、とりあえず言いくるめてリリの最低な家であるソーマ・ファミリアへと連れていきました。

 彼女はあろうことか、リリと同じだと言いやがりました。リリは断じて彼女と同じではないです。リリの人生はあんな綺麗なお姫様が着るようなお洋服どころか、新品の品なんて一度も着た事はありません。両親にもほとんど関心を寄せられず、与えられるご飯を食べて生活していました。

 そんな両親もお金を求めてダンジョンに潜り、あっけなく死にました。リリは生きるために、ただ生きるために必死にサポーターとしてダンジョンに潜りました。そこで冒険者の人に殴られ、役立たずだと言われながらも藻掻きました。

 それでもどうしようもなく、辛くて逃げました。老夫婦の花屋さんに拾われて一時は幸せを得る事ができました。でも、見つけ出されて居場所は奪われました。

 だというのに汚れていない綺麗な服を着て、何不自由なく過ごしてきたであろう彼女がリリと同じと言った事は許せませんでした。

 だから、地獄であるソーマ・ファミリアに連れていって団長に任せました。少なくともお金儲けの道具にされて酷い目に遭うだろう。そう思っていたのに……彼女の方が上手でした。

 リリの事などはなっから信じておらず、目的は団長やソーマ様と会う事だったらしいのです。実際、その後は団長とソーマ様の三人で話をして、少ししたら団長が出てきました。

 

「どうやら、本当に何故オラリオに居たのかもわからないらしい」

「つまり、誘拐ですか?」

「そのようだ。どこの家の娘か判明したら金がたんまり貰えるだろう。良くやった」

「はい。ありがとうございます」

「とりあえず、明日は捜索願いが出ていないか確認しに行かなくてはならない」

 

 彼女の家は絞り尽されるようでしょう。良い気味なのです。

 

「まあ、名前もわかっていないようだが、あの容姿ならばすぐに足が付くはずだ」

 

 名前もわからないなんて、本当に記憶がないみたいですね。そんな風にしていると、奥の部屋から彼女の絶叫が聞こえてきました。

 

 私達は不思議に思っていると、しばらくすると、奥の部屋からソーマ様と彼女が出てきました。彼女はニコニコしながら、私の手を取ってきました。物凄く嫌な予感がしたのです。

 

「貴女、お名前は?」

「えっと、リリはリリです……」

「ボウケンシャーですか?」

「サポーターですが……」

「サポーター?」

 

 どうやら、サポーターというのもわかっていないみたいですね。本当に冒険者というものを知らないのですね。オラリオに見学をしにきただけなのでしょうか? そこで何かに巻き込まれて記憶を失ったとか? どうでもいいですね。

 

「ダンジョンで荷物持ちなどをする役割です」

「なるほど。では、貴女に決めました。ソーマ様、この子を私の世話係にしてください。同じ女の子ですから、構いませんよね?」

「ああ、好きにしろ」

「ソーマ様?」

「彼女は特別だ。それよりも酒作りに関してだ」

 

 ソーマ様は団長と何かを話だしました。彼女は私の腕を掴んで引っ張っていきます。

 

「さあ、神様の許可は取りました。来てください」

「え、えっと、リリに何をさせる気ですか?」

「まずは掃除ですね」

 

 そうして連れられていったソーマ様の部屋にあるベッドは酷い事になってました。さっきの悲鳴はこういう事だったのですね。彼女の粗相を片付けながら、思った事はソーマ様が手を出したのか、彼女がそうなったのか、どちらにしろソーマ様が変態だったという事です。

 ソーマ様が特別扱いすると宣言した事とこの件を考えるときっとそうなのでしょう。はじめては痛いと聞きますしね。実際、その後の食事もソーマ様からお金を出してもらおうとしていました。

 私はすぐに自腹で買いにいきました。流石にソーマ様に出してもらうわけにはいきませんし、団長にいちゃもんつけられる可能性が高いですからね。

 じゃが丸君を買って戻ると、彼女はソーマ様がお作りになられたお酒を飲んでいました。団長に怒られるかもしれませんが、ソーマ様が許しているのでしょうし、おそらく大丈夫なのでしょう。それよりも、彼女が酒に溺れたらどうなるか……不安に思っていたのですが、全然そんな事はないようで、普通に会話も成立しました。

 それから予定を聞くと、本当に、本当にムカつく事に魔法もスキルも発現したから、ダンジョンに潜ると言いだしました。無理だと思って確認してみたら、第一級冒険者とはいかなくても第二級や第三級で活躍できそうな装備でした。連射が出来る銃って普通に強いですね。それに弾丸も魔法で生成するのでお金もかかりませんし。

 世話係という事で、雑務やダンジョンの用意も全てリリに任せてくれるらしいので、死ぬ事は避けられそうですが、儲ける事はできません。ソーマ様のお気に入りである彼女に何かあれば、リリの身に危険が及ぶのは確実なのです。ですから、本気で用意して冒険者登録をしました。

 文字も書けないらしいので、代筆しました。これでくるみ・ときさきというソーマ・ファミリアの冒険者が誕生です。

 そして、さっそくダンジョンへ。そこでリリは……才能の差というものを徹底的に見せつけれたのです。

 銃を撃てばゴブリンの身体が吹き飛び、影を操るスキルを使えばゴブリンが飲み込まれて姿を見せる事はありませんでした。リリが、リリがどれだけ苦労して覚えた技術も意味が無いとでも言うように圧倒的な火力による虐殺でした。

 たまにフラフラしてこけそうになったりもしましたが、それでも四階層まで普通に進めました。魔法とスキルの強さにリリはくるみを本気で殺したくなります。もちろん、やりませんが。くるみは絶対にリリを信頼してはいません。信用はしているかもしれませんが、裏切られる事も想定しているはずです。実際、後ろから近づけばあの影によってリリはゴブリン達と同じように捕食されるか、撃ち殺されるでしょう。それよりもこの強さを利用して小金をせしめる方がいいかもしれません。

 

「キヒッ、キヒヒヒヒヒッ!」

 

 怖い笑い方をしながら虐殺をしていく彼女は正直言って、リリは即座に帰って縁を切りたいと思う人材です。ええ、そうです。ダンジョンで彼女が行った所業からその判断は正しかったのでしょうとも! 

 

 

なんで四階層で竜が出てくるんですかぁぁぁぁぁっ! 

 

 

 幸い、彼女が後ろに黄金の時計盤みたいなのを出現させて私と相手、自分を撃つ事で、身体を加速させる魔法を使ってくれたので逃げられました。この事は絶対に報告できませんし、クルミ様には厳しく注意しておきました。

 

「ところで、この魔石はどうしますか?」

「食費と生活用の経費さえ貰えれば全部リリが管理していいですよ。好きにしてください」

「本当にいいんですか?」

「ええ、私がダンジョンに求めているものは出会い(寿命)ですもの」

「は?」

「それにリリの装備を整えた方が深く潜れるでしょうしね」

「わ、わかりました。では、リリが管理しますね。()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 リリは思わずニヤリと笑ってしまいます。彼女もキヒッと笑っています。二人共、別の意味で互いの目的があるのがわかりました。リリはお金の安全を手に入れ、彼女はリリのお金を狙ってきた人をどうにかするつもりなのでしょう。

 換金してダンジョンから戻り、くるみは私を連れてソーマ様の部屋へ連行していきました。そこでステイタスの更新をお願いしたのです。団長は良い顔をしませんでしたが、ソーマ様は普通にしてくれました。くるみがリリの分も頼んでくれたので、ついでに更新してもらえたのは良かったです。まあ、スキルとかは生えていません。

 

「それでお酒の件だが……」

「そうですわね。日本酒から作りますか? 極東系のファミリアにも売れるでしょうし。といっても、方法は詳しく知りませんのでそちらのファミリアに居る主神の方々にお聞きした方がいいでしょう。ソーマ様のお酒を持って赴けば必ず飛びついてくるでしょうし」

「ふむ。だが、面倒ではないか?」

「ソーマ様。一ファミリアだけでお酒を造るのは大変ですし、原材料の事もございます。それに販売は面倒でしょう?」

「そうだな。出来れば酒造りだけに集中したい」

「でしたら、他のファミリアに任せてしまいましょう。ソーマ・ファミリアだけでお金を集めてお酒を造ろうとするから大変なのです。資金稼ぎも含めて他のファミリアに任せてしまえばよろしいのです」

「ザニス、出来るか?」

「それは無理です。現状ではとてもとても……」

「あらあらまあまあ。それでしたら私とソーマ様で話を付けてきましょう。子供なら相手も簡単とはいかなくても、話くらいは聞いてくれるでしょう」

 

 とても楽しそうに笑うくるみに団長が凄く、すご~く嫌そうな表情をしていました。リリにはよく分かりません。ええ、わかりませんとも。

 

「ふむ。確かにそうだな」

「ま、待ってください。わかりました。調整しますから、時間をください」

「いいだろう」

「では、日本酒の製造方法などを聞きにいく事だけはしましょう。実際に作れないかもしれないですし、実験すればいいでしょうから」

「そうだな。方法を聞いたら手伝ってくれ」

「ええ、もちろんですわ。わたくしも美味しいお酒は飲みたいですもの」

 

 話は終わったみたいで、リリ達は部屋に戻って一緒に寝ます。朝、ダンジョンに向かうのですが、その前に団長に呼び止められました。

 

「くるみを監視しておけ。何か有れば知らせろ。いいな?」

「わかりました」

 

 団長はレベル2なので、ひょっとしたら殺せるかもしれません。リリはクルミ様の事が嫌いです。大っ嫌いですが、彼女のおかげでソーマ・ファミリアが変わるのなら、利用していいかもしれません。大っ嫌いな団長とクルミ様が殺し合ってくれればリリは漁夫の利を得られるかもしれません。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 この世界に来て二日目。本日は最短ルートで六階層まで潜りたいとリリに告げた。今回の狙いは新米殺しと名高いウォーシャドウ。コイツなら上層部でもそれなりの時間を持っているかもしれない。ちなみに昨夜は緊急の討伐部隊が入り、大変だったらしい。朝も討伐されてから安全が確認されるまでダンジョンに入れずに食事をとっている。

 

「ま、このわたくしなら影相手なら余裕ですわね」

「何言っているんですか……普通に考えて勝てませんよ。ですから六階層には行きません。五階層までです」

「しかし、効率が悪いんですよねぇ~」

 

 テラス席にある椅子に座りながら、テーブルの上にあるジュースを手に取って、足をプラプラさせながらストローで飲む。他にもパンケーキが置かれているので、それを上品に食べていく。

 

「確かにお金の効率は悪いですが……」

「そっちじゃありませんの。敵の数です。おびき寄せる物とかありませんか?」

「ありますけど、かなり危険ですよ?」

「なら、少しの実験をしてから実行ですね。リリはそれを沢山用意してくれますか?」

「ほ、本当にやるんですか?」

「やらないならもっと深く潜るだけですわね。別にリリは嫌なら残っていても構いませんよ?」

「行きますよ! 行けばいいんでしょ! でも安全はしっかりと確保しますよ!」

「ええ、実験が成功すれば安全はほぼ確実ですの」

「それならいいんですけどね」

「では、準備をお願いします。わたくしは一階層で待ってますから」

「わかりました。くれぐれもそれ以上進まないように」

「ええ、もちろんです。待ち合わせ場所は二階層への入口です」

 

 リリと一度別れ、封鎖が解除されたダンジョンに入る。そのまま通路から少し離れてゴブリンを探していく。昨日、ステイタスを更新してもらったけれど耐久の伸びは皆無で、魔力と器用、敏捷は上がっていた。まあ、狙撃していたら器用も上がるし、武器は魔法で作っているのだから当然。

 

「さて、【一の弾(アレフ)】」

 

 短銃を呼び出して自らの頭にあてる。私の後ろに黄金の時計盤が現れ、そこから秒針にそって弾丸が生まれて装填されていく。そして引き金を引く。少し頭が仰け反ったけれど、加速は充分。

 そのまま通路を走りながら、見つけたゴブリンがこちらに反応する前に頭を掴んで影に押し込んで時喰みの城に取り込む。

 

「ふむ。このままでも問題ありませんわね。リ……っと、居ないのでした」

 

 リリは居ないので高速で駆け抜けながら、格闘の訓練も兼ねてゴブリンを蹴り飛ばし、地面に転がるところを影へと落としていく。

 直に下の階層へと降りる場所に到着したので、ここからは周りのゴブリンを狩っていく。いや、その前に実験をした方がいいですわ……いいか。

 

「くるみちゃんの三分クッキング~」

 

 まず、ゴブリンをみつけます。続いて軽くゴブリンを叩いてから、松明の影に飛び込む。するとあら不思議。ゴブリンさんはキョロキョロとしてこちらを見失いました。ですので、影の中から手を突き出して、足を掴んで引きずり込みます。

 

「いらっしゃいませ」

「GUGIっ!?」

 

 時喰みの城に取り込んだら、しっかりと吸収していく。しばらく間近で観察していると、身体が消えて魔石だけになった。その魔石も吸収できるか、試してみるとできた。なんと、魔石を吸収すると十日分、一の弾(アレフ)の半分もの寿命が回収できてしまった。

 

「これにて三分クッキングは終わりですわ」

 

 実験も終わった。リリには悪いがソロの時は半分ほどもらう。なのでゴブリンを見つけたら本格的に回避の訓練をする。ゴブリンに攻撃させて、それを回避したり、身体で受けて耐久を上げたりしていく。

 最初は時喰みの城で影を踏ませて動きを遅くしてから、戦う。ゴブリンは殴りかかってくるのでそれをゆっくりと回避していく。慣れたら次第に早くする。

 

「飽きましたね」

 

 小銃で殴りつけて近接戦闘の準備もしつつ撲殺する。気が付けば血しぶきがドレスを汚していた。そのまま放置していると大変な事になりそうだ。でも、不思議としばらくすると綺麗に消えていった。この服も含めて霊装なのかもしれない。ザ・時崎狂三コスプレセットって奴だ。

 暇なので三匹のゴブリンを集めて、複数体を同時に相手をする。流石に普通に殴られるけれど、耐えて殴り返す。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「?」

 

 声をかけられたので、そちらを見ると金色の髪の毛をした人形みたいな美人さんがいた。その後ろには褐色肌の女性もいる。

 

「ああ、大丈夫ですわ。格闘戦の訓練をしているだけですもの」

「だから言ったじゃない。一階層でゴブリンが三体も集まるはずないから、わざとだって」

「でも……子供だよ」

「小人族だってだけだよ。こんな格好で来てるくらいだし、強いんじゃない?」

 

 ゴブリンに右ストレートを決めて、少しよろけさせてから次の相手に裏拳を叩き込む。こちらもたいしたダメージになっていない。最後の一匹が噛みつこうとしてくるので、ジャンプして膝を叩き込む。

 

「ダメージ全然入ってないね」

「倒す?」

「いらないですわ」

 

 小銃を呼び出してゴブリン達を殴って吹き飛ばし、三体重ねた所に小銃を突きつける。ゴブリンは恐怖からかガチガチ震えているが、気にせず引き金を引いて三匹をまとめて殺す。

 

「今の何処から?」

「銃だよね?」

「そうですわ。でも、それ以外は秘密ですよ」

「それもそうだね~」

「うん……別のファミリアだしね」

 

 二人と少しお話をしていると、こちらを呼ぶ声が聞こえてきた。そちらを向くと、リリが大きな荷物を持ってこちらにやってきていた。

 

「クルミ様~!」

「リリ、こちらです」

「お待たせしました。っと、こちらの方々は……」

「ここで知り合っただけですわ」

「そうですか……」

「知り合いが来たみたいだし、私達も行こうよ。お金を稼がなきゃ」

「うん。バイバイ」

「はい、またお会いしましょう」

 

 二人を見送ってからリリに向き直る。彼女はなんとも言えなさそうな表情をしていた。

 

「リリ?」

「彼女達はロキ・ファミリアです。気をつけてください。いえ、他のファミリア全てです」

「ええ、わかりましたわ。でも、ソーマ・ファミリアもでしょう?」

 

 リリと話しながら階段を降りていく。ロキ・ファミリアの人達が始末してくれていたので、簡単に奥へと進んでいける。

 予定通り、五階層へと到着したので、大通りから離れて路地を進んで上層と下層へと続く階段から離れた袋小路の場所へと移動する。

 

「では、リリ。お願いしますね」

「わかりました! どうなっても知りませんよ!」

 

 少し離れた位置に魔物(モンスター)をおびき寄せ中と書いた看板を設置してから、おびき寄せるお香を焚いてもらい、私とリリは袋小路の入口で待機する。もちろん、影の中に潜ってだ。拡張してあるので二人が入っても余裕。

 

「ひっ!? 沈む! 沈んでます!」

「大丈夫です。私と一緒なら死ぬ事はありませんわ」

「それって一緒じゃなかったら死ぬって事じゃないですか!」

 

 リリが抱き着いてきたので、そのまましばらく異空間で待機する。少し顔を上げるとわらわらと魔物(モンスター)達が大量に集まっていたので、そこを外に出てから時喰みの城を展開して一網打尽にしていく。袋小路なので展開する場所を奥へ奥へと進めていけば全てを飲み込める。十一メートル四方を超える広さはここにはないので逃げられない。

 

「はい、処分完了です。さあ、隠れますよ」

「……はい……」

 

 目が死んでいるリリと共に待機。大量に取り込んで魔物(モンスター)達から時間を吸い取って、魔石に変える。その魔石をリリに回収してもらう。後はこれの繰り返しで魔物(モンスター)を狩りまくる。

 とりあえず、お香を焚いても敵が来なくなるまで徹底的にやってみた。おかげで私もリリもウハウハですよ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「この狩りの仕方は儲けが出ますが、かなり危険です!」

「楽して狩れますよ?」

「それはいいんですけれど!」

 

 リリがフォークを大きいステーキに突き刺しながらそう言ってくるので、こちらはスパゲッティを食べながら答える。今日はお高いお店に来ているというわけだ。

 

「明日もやりますよ」

「……六階層行きましょうか」

「いえ、もう少しこの狩りを続けましょう。保険は欲しいですから」

「わかりました……」

 

 一週間ほど五階層で魔物(モンスター)を集めて狩りをする。次第に現れてくる魔物(モンスター)の数がどんどん増えてきているので、こちらも楽しい。寿命のストックも欲しい。はやく襲ってきてくれないですかね? 

 

「しかし、小さな子供二人で大金を稼いでいるのに襲われないですね」

「襲われたいんですか?」

「ええ、襲われたいですね。返り討ちにしますから」

 

 私の弾丸はレベルなんて関係ありませんもの。さて、食事を終えたらソーマ・ファミリアに戻る。ステイタスを更新してもらう。

 こちらが一週間の成果。

 

 

 

 ➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 

 

【くるみ・ときさき】

 

 レベル1

 力 I 0→25

 耐久 I 0→40

 器用 I 0→50

 敏捷 I 0→60

 魔力 I 0→20

 

【魔法】

 

刻々帝(ザフキエル)

一の弾(アレフ)】:対象の外的時間を一定時間加速させる。超高速移動を可能とする。

二の弾(ベート)】:対象の外的時間を一定時間遅くする。意識までには影響を及ぼせないが、対象に込められた運動エネルギーも保持される性質がある。

三の弾(ギメル)】:対象の内的時間を加速させる。生き物の成長や老化、物体の経年劣化を促進する。

四の弾(ダレット)】:時間を巻き戻す。自身や他の存在が負った傷の修復再生が可能で、精神的なダメージにもある程度有効。

五の弾(へー)】:僅か先の未来を見通すことができる。戦闘中、数秒先の光景を視ての軌道予測等に仕様できる。

六の弾(ヴァヴ)】:対象の意識のみを数日前までの過去の肉体に飛ばし、タイムループを可能とする。

七の弾(ザイン)】:対象の時間を一時的に完全停止させる。

 強力な分消費する時間は多め。

八の弾(ヘット)】:自身の過去の再現体を分身として生み出す。分身体は本体の影に沈む形で待機が可能。生み出された分身体を全て駆逐しない限りいくらでも呼び出すことが可能であり、殺害されても何度も蘇る。分身体のスペックは本体より一段劣っており、活動時間も生み出された際に消費した『時間(寿命)』しか活動できない。また、基本的には天使を行使することも出来ない。情報のやり取りを通じて記憶を共有する事もできる。

九の弾(テット)】:異なる時間にいる人間と意識を繋ぎ、交信することができる。撃ち抜いた対象者と会話したり、見聞きしたものを共有できる。

一〇の弾(ユッド)】:対象に込められた過去の記憶や体験を知ることができる。

十一の弾(ユッド・アレフ)】:対象を未来へ送ることができる。進む時間に応じて消費する時間・魔力は加速的的に上がってゆく。

十二の弾(ユッド・ベート)】:対象を過去へ送ることができる。遡る時間に応じて消費する時間・魔力は加速度的に上がってゆく。歴史を改変し元の時代に戻ってきた場合、その特異点となった人物は改変前の記憶を保持、または思い出せる。

 魔力と寿命を消費して発動する。発動には基礎コストとして十日を消費する。また、発動する魔法の数字が上がるにつれて十日ずつ関数で消費が増加する。六の弾(ヴァヴ)からは百日に増加。

 

「神威霊装・三番(エロヒム)

 歩兵銃と短銃の二丁拳銃を物質化する。攻撃に使う銃弾は物質化した影で出来ている。

 

【スキル】

 

「時喰みの城(20)」

 周囲に影を張り巡らせ、自らの影に異空間を作成する。影に触れている存在の時間を吸い上げる。異空間の中に沈んで移動や潜伏ができる他、特定の人物を引きずり込んでの捕食や保護も可能。作成には寿命を一年消費する。寿命を一年消費するごとに異空間の広さを拡張できる。一メートル四方、一年ずつ増やせる。

 

 

 

 ➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 

 

 一週間、敵を呼び集める方法で頑張った成果で時喰みの城が20まで成長した。もう、100は諦めて先にあちらの方をするべきかもしれない。その方が効率的ですしね。刻々帝(ザフキエル)は使えなくても、スキルである時喰みの城は使えるので複数になれば効率的に狩れるはず。そろそろステイタスも上がってきたし、やってやりますか。

 

 

 

 

 

 




リリ:才能にあふれるくるみは大っ嫌い。
ザニス:くるみを危険視。




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必然の遭遇

グロイです。後半はとくにやばいです。当初の予定はここまで。次がエンディング予定でした。


「質問っ、ですわっ、リリっ!」

 

 洞窟の中を全力で、ええそれはもう全力で走っている。何故って? それは決まっている。

 

「なんっ、ですかっ!」

「ダンジョンってっ、牛さんがおられるんですわね!」

「こんな低階層に普通は居ませんよ! ミノタウロスですよ! 普通は15階層からです! 沢山居るからもっと下のはずですっ!」

「じゃあ、後ろからわたくし達を追ってきているのは幻ですわね!」

「現実逃避しないでください! したくなる気持ちはわかりますけれど!」

 

 そう、ある日。洞窟の中で、何時もの通りに魔物(モンスター)を引き寄せて狩りをしていたら、なんと見たことがない洞窟の牛さんが現れたのでした。それも集団で! ざけんなっ! 

 

「時喰みの城!」

 

 後方二十メートルに通路を覆うように展開した時喰みの城。今まではこれで捕らえて寿命を吸い取る事で確殺してきた。今回も最初はそうだと思った。

 

「「「BUMOOOOOOOOOO!!」」」

 

 突撃するしか能のない牛さんは時喰みの城へと落ちていきます。深さも二十メートルぐらいありますから、そう簡単には抜け出せない。そう思っていたのだけど、連中は同胞を足場にして脱出してきました。閉じたとしても、後方の連中は普通に飛び越えてきたり、仲間を足場にしたり、飛んででてきたりするので追いかけっこは継続している。

 

「なんで他の人には目もくれずにこっちに来るんですの!」

「それはもちろん、リリ達の身体に魔物(モンスター)を引き寄せるお香の臭いが染み込んでるからじゃないですか!」

「納得、ですわねっ! 二の弾(ベート)!」

 

 走りながら後方に突出してきた牛さんに対象の時間の流れが遅くなる二の弾(ベート)を撃ち込む。すぐにソイツは遅くなって後方から来た連中に弾き飛ばされる。続いて通常の弾丸をリロードして撃つ。こちらは両手をクロスして突っ込んでくるミノタウロスの肌に弾かれる。

 

「リリ、リリ、ダメージが通りませんわ!」

「レベル2が複数人で相手をするような奴ですからね!」

「……仕方がありませんね。ここが命の賭け時でしょう」

「くるみ様?」

「リリ、魔物(モンスター)を引き寄せるお香はまだありますか?」

「あ、ありますが……」

「貸してください」

「わ、わかりました……荷物の中にあるので取ってください」

 

 リリの荷物の中から目的の物を手に入れ、通路が曲がる時、リリが進んだ方向の反対側に移動して自分の上に放り投げて撃ちぬく。これでわたくしの全身にお香がかった。

 

「何をしているんですか!」

「リリ、このまま逃げてください。運が良ければまた会いましょう」

「いや、普通はリリを囮にすべきところでしょう!」

「私、リリよりも長く生きているんですのよ。だから、こういうのは年上の役目ですわ!」

 

 リリとは反対側の通路を走り、後続に弾丸をお見舞いして注意を引いておく。リリが何かを叫んでいるけれど、気にしない。それよりも自分に一の弾(アレフ)と未来を予測する五の弾(へー)を使い、数秒先の未来を予測しながら逃げる。

 通路の奥へと進みながら、近付いてくるミノタウロスの背後からの突進を未来を見て左に飛びながら回避し、加速した身体を利用して短銃を横を通り過ぎるミノタウロスの瞳に放つ。放たれた弾丸はミノタウロスの片目を粉砕して悲鳴を上げさせるけれど、出鱈目に暴れ出す姿が見えたのでしゃがんで一撃を回避して前に飛ぶ。

 ミノタウロスの一撃が空中に居る私に直撃するので、短銃を小銃に変えて両手で持って受け止める。腕が折れて身体が馬鹿みたいに通路の奥へと飛んでいく。

 空中で自分から回転して勢いを殺しつつ、足から着地してクルクルと回って突き当りの壁に激突して止まる。けれど、物凄く痛い。

 

「いっ、痛い痛いっ、痛いですっ」

 

 すぐに激痛に我慢しながらも短銃を呼び出して耳の上辺りに銃口を当てて刻々帝(ザフキエル)を呼び出し、四の弾(ダレット)を放つ。身体の時間が巻き戻されて身体は元通りになり、痛みは完全になくなった。折れた腕も問題ない。

 なので、地面に転がってうつ伏せの体勢で二の弾(ベート)をミノタウロス達の足の指先を狙って撃つ。相手の速度が遅くなったので、こちらも通常の弾を後続のミノタウロスの瞳を狙っていく。

 後続のミノタウロスが暴れているミノタウロスと激突してくれたので、時間を稼げた。そうでなければ時間を巻き戻す暇もなく殺されていた。

 時喰みの城も展開しなおして移動妨害をかけておく。中に居たミノタウロスは混雑しているところに解放して、更に混戦状態を誘発してやる。通路に詰め込まれたミノタウロス達はほとんど身動きが出来なくなった。後はこれで時喰みの城でゆっくりと寿命を吸い取りながら攻撃していけば大丈夫、だと思う。少なくとも時間は稼げる。

 

「今のうちですわね」

 

 小銃から短銃に変更し、八の弾(ヘット)を自らに放つ。頭が衝撃で傾くけれど気にしない。すぐ隣に現在最高の状態である私とまったく同じ姿のくるみ・ときさきが現れる。八の弾(ヘット)は、時崎狂三の代名詞でもある大量の分身体を作り出すための弾だ。自身の過去の再現体を分身として生み出せる。ただ与えた寿命の分しか活動はできないし、スペックは多少本体に劣っている。

 

「状況は理解していますね、わたくし」

「ええ、理解しておりますとも、わたくし」

「よろしい。では死んでください」

「心得ましたわ」

三の弾(ギメル)

 

 三の弾(ギメル)は対象の内的時間を加速させる。生き物の成長や老化、物体の経年劣化を促進させるので分身体に放って未来の成長した私の戦力を手に入れ……あ、寿命がなくなって消滅した。

 

「無駄撃ち~~~!」

 

 くっ、スーパー狂三ちゃんタイムはできなかったか。あわよくば本体である時崎狂三と同じ姿になれれば強いと思ったんだが。まあ、オリジナルである私に試さないといけないようだ。でも、正直言って怖いからできない。だって、成長しすぎたらヤバイし、そもそも未来が存在するのかどうかもわからない。故に自分には使えない。

 

「仕方ないですわね。というわけで、もっと力を寄越しなさいバル……時崎狂三ッ!」

 

 叫びながら八の弾(ヘット)を三発。先程と同じ条件で使う時間は初期コストが百日×八の弾(ヘット)なので八〇〇日。それが四発使ったので三二〇〇日。約八年八ヶ月の寿命を消費。しかもこれが初期コスト。追加で四人一ヶ月分なので実際は九年分。凄く怖い。

 

「さあ、逃げますので後は任せましたわ、わたくし達」

「「「ええ、任されました」」」

 

 さて、逃げるのだけど、まず一人を囮にして別方向に走らせる。こちらにどんどん寄ってきている魔物(モンスター)の処理もさせる。もう一人は小銃を持たせて狙撃させる。この二人にも一の弾(アレフ)を撃って加速して戦ってもらう。

 残り二人で短銃を持って逃げる。二人の反応がなくなれば時喰みの城は解除すればいい。オリジナルのわたくしはもう一人の影に隠れておく。これぞ鉄板。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 逃げる事、九分。わたくし達が突破されました。ちなみに死んではいません。時喰みの城を解除して分身体が再展開。そこから影に潜んでこちらへと移動。わたくしの横にまた現れてゴブリンやコボルトをサブミッションなどで動きを封じて時喰みの城へと取り込んで時間を補充。

 

「「「BUMOOOOOOOOOO!!」」」

 

 鬼ごっこはまだ続く。ただ、まあ……こんな感じで適度に逃げ狩りをしていけばいいと思う。私の時間が尽きるか、相手の時間が尽きるかの勝負というわけだ。

 

「さあ、もう一度です。わたくし達。一の弾(アレフ)

「私達使いが荒いですわね」

「生き残るためですから仕方がありません。至難の戦場、わずかな報酬、ミノタウロスと鬼ごっこの日々、耐えざる危険、生還の暁には名誉と賞賛を得る。まさにこれですわね」

「命を賭けて目的を達するに値する目的ではありますわ」

「オリジナルが死んだら終わりですもの」

「ええ、ですから冒険をしましょう。ボウケンシャーらしく」

「了解です。ただ、まあ……狩ってしまっても構わないですわよね?」

「もちろんですわ。貴君等の奮闘に期待します」

 

 分身達に任せて逃げます。こちらは時間の補給も兼ねて色々とやります。まあ、簡単に言えばミノタウロスの足止めに使う雑魚の回収だ。

 

「撃って撃って撃ちまくれですわっ!」

「キヒヒヒヒヒッ!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 さて、そんな逃走劇も終わりが見えてきた。ミノタウロス達を倒せた? 否! 増援が来た? 否! 

 

「迷って追い詰められました!」

「まあ、そうでしょうね。移動先は全部リリにお任せしておりましたし?」

「当然の帰結ですわ」

「わっふーっ!」

 

 袋小路に追い詰められたので、もう逃げ道はない。ただ、頑張った。頑張ったのです。ええ、少しチビりながら頑張った! 

 

「残っているミノタウロスは八体。万全なのは二体。それ以外はほぼ達磨ですわ」

「良くやりました。こちらも既に魔力はマインドダウンにならない程度です。ええ、時間で代用しております」

「つまり、ここからが本番ですわね」

 

 洞窟内にある大きな部屋の入口にミノタウロス達が入場してくる。二体を除いて片目だったり、両目が無かったり、足の指が無かったりする。

 やる事は単純明快。ミノタウロスを使ってミノタウロスを狩らせる。それだけだ。時喰みの城もこの部屋を包めるように展開して影へと自由に入れるようにもしておく。

 

「「「「さあ、私達のデート(戦争)を始めましょう」」」」

 

 分身一人が短銃で乱射して弾幕を展開し、二人が左右に散る。そして私は影に入って移動し、狙撃ポイントに着く。といっても、柱の影に隠れてタイミングを見るだけだ。正直火力不足がやばい。こんな事なら分身達に持たせる武器を用意しておくべきだった。

 

「「「BUMOOOOOOOOOO!!」」」

 

 雄叫びを上げてこちらに何かしてくる。リリから聞いた話では強制停止(リストレイト)というらしいけれど、予兆を確認したら影に入ってやり過ごすか、そもそもわたくしには何故か効かない。抵抗(レジスト)でもしているのでしょう。半分とはいえ精霊なめんなっ! でも、レジストするごとに時間が減ってるかもしれないので止めてください、お願いします! 

 

「てりゃっ!」

 

 健常のミノタウロスが両手をクロスして弾幕を正面から突破してくる。その間に瞳を怪我しているミノタウロスを左右から攻め、常に死角に入るように動きつつ、突撃してくるタイミングを合わせて囮の二人が影に潜る。すると視界が制限され、止まれないミノタウロスは両者互いに激突して吹き飛び合う。

 同時に健常なミノタウロスが弾幕を突破したので、分身も影に入って移動。短銃を持った方とわたくしが倒れたミノタウロスの上に立ち、互いに撃ち抜いた方の瞳に銃を突き入れて容赦なく連射する。目の奥は脳に繋がっている。だからこそ、ここが弱点になるはず。

 

「時間です!」

「「っ!」」

 

 声に即座に反応して影に逃れる。直後に他のミノタウロスが突撃して、倒れていたミノタウロスを吹き飛ばす。互いに死角を補いながら声もかけて即座に逃げる。

 もちろん、わたくし達全員に一の弾(アレフ)で加速し、五の弾(へー)で数秒先の未来を見て回避と連携を行う。相手は二の弾(ベート)で遅くさせているので、普通なら対処できないミノタウロスの突撃(チャージ)も避けられる。

 適度に狙撃して効果を切らせないようにしながら、ダメージを積み重ねる。後は三の弾(ギメル)をミノタウロスの膝に使い、経年劣化を引き起こさせて動きを鈍らせる。

 それにしても、健常体が鬱陶しい。こいつらのせいで中々止めをさせない。

 

「オリジナル。良い考えがあります」

「なんですか?」

「このままではジリ貧なので、わたくし自身を武器としませんか?」

「……健常体を倒すにはそれしかありませんか。許可します。やりなさい」

「了解ですわ!」

 

 三人の分身体で囮を務めさせ、狙撃の準備をする。突撃が終わって止まったところに三人で襲い掛かる。ミノタウロスは両手で反撃してくるんで、それを一人ずつで相手をさせて残った一人が短銃をもって口に突撃する。ミノタウロスは笑いながら大きく口を開ける。そこに自ら入り込んで噛み砕かれる。

 バキボキと骨が砕ける音と私の悲鳴が響く中、一発の銃弾を放つ。それは食べられている私に命中して複製を開始する。

 

「BUMOOOOOOOOOOッ!?」

 

 複製された場所は体内だ。ミノタウロスの口の中から胃にかけて私が実体化して、口の中にあった短銃を乱射する。ミノタウロスの内部が光り、頭部が弾け飛んで中から血塗れで所々が変な方向に曲がっている私が笑いながら出てくる。

 

「キヒヒヒヒヒッ! まずは一匹でしてよ」

 

 クルリと顔を回転させて残りのミノタウロスを見る私に恐怖したのか、後退るミノタウロス。その間に新たに生まれたばかりの私に四の弾(ダレット)を撃って身体を修復する。

 

「残り七体!」

 

 相手は怖気づいたようなので回避から攻撃を優先する。といっても、ミノタウロスもこちらが相手にダメージを与えられるのは二丁の銃だけだとわかったようで、囮を気にしなくなった。まあ、これも問題ない。

 

「わたくし!」

「ええ、どうぞ!」

 

 手元から小銃を消すと、気にもされなくなって接近を許した分身体の私の手元に小銃が現れる。あちらの私はそれを下からミノタウロスの鼻に突き刺して発砲する。鼻血を噴き出し、鼻を押さえながら蹲るミノタウロスの瞳を小銃で突き刺して何発も撃つ。

 両目と鼻を壊して頭蓋骨に何発か叩き込んだミノタウロスは方向感覚を完全に失っているようなので、時喰みの城に取り込んで時間を回収する。

 

「「「BUMOOOOOOOOOO!!」」」

 

 最初とは違い、悲痛の叫びを上げだすミノタウロス。しかし、今度は囮にもちゃんと反応してきた。見えない中で気配だけで察知したのか、分身体の髪の毛を掴まれて何度も地面に叩き付けられて頭皮が千切れる前に分身体が死んだ。

 ミノタウロス達もこちらが狩られるだけの獲物ではなく、自らを殺す力を持った相手だと理解したのか死力を尽くして襲ってくる。

 こっちの銃撃では止まらないし、なんとか回避しながら隙を探す。三体になったので、こちらも積極的に攻撃していく。

 影から突撃が終わって停止している状態のミノタウロスの下から現れて、アソコにしこたま銃弾をプレゼントする。よくよく考えたら弱点はもう一つの穴にもありました。

 ミノタウロスが飛び上がった瞬間。もう一人の私が背中から飛び乗って首を掴み、そのまま背後へと落ちる。空中に加えて痛みで体勢を上手くとれなかった相手をそのまま地面へと激突させて首を折った。その分身体もペシャンコになって潰れる前に空中で影の中に避難したので問題なし。

 

「格闘の訓練が活きていますわ」

「ルチャこそ最強の格闘技ですわ。異論は認めます」

「適当に言ってるだけですものね」

 

 素早くその場を影で移動する。先程まで居た場所にミノタウロスが両手を握って打ち付けてきた。地面は陥没してしまったので、あそこに居たら死んでいました。

 

「これで残り三体。どうにか勝てそうですわ……ね?」

 

 そう思っていたら、ミノタウロスの一匹が味方の残り二匹を素手で貫いて魔石を引き抜き、それを食べた。すると身体が一回りも二回りも大きくなり、明らかにやばい感じになっていく。周りを見ればいつの間にか殺したミノタウロスの魔石もなくなっている。

 

「ふう……」

 

 冷静に、冷静に、クールになれ、わたくし。この程度はピンチでもなんでもありません。ええ、時崎狂三ならば笑顔で対処するでしょう。

 

刻々帝(ザフキエル)四の弾(ダレット)

 

 冷静に放った弾丸を相手は避けた。当てれば勝てる。当てなければ負ける。ただそれだけ。そう思ったら、目の前にいきなり現れていたミノタウロス。奴の拳が回避不可能な速度でこちらに来る。その瞬間に分身体に弾き飛ばされてゴロゴロと転がる。

 分身体の方を見れば身体の上半身が消し飛んでいた。もう一人の分身体が短銃から弾丸を放つも、それを軽く避けられるか、分身体の死体を盾にしてきた。受け止めると駄目な事を理解しているようで、学習されたみたい。そして、もう一人の分身体が掴まれて首をコキリと折られ、頭から食べられる。こちらの弾丸はキッチリと回避されてどうしようもない。

 

「第二、第三のわたくしが……」

 

 小銃で牽制しながら、短銃で自分を撃って増やそうとしたら身体を掴まれて両手を纏めて折られ、絶叫をあげる。

 

「あっ、あぁぁぁ……」

 

 口が大きく開けられ、涎が顔にかかってくる。恐怖で身体が震えてくる。

 

「いっ、いやっ、死にたくないっ、死にたくないっ! 助けてっ、助けてお願いッ! なんでもするから刻々帝(ザフキエル)ッ!」

 

 叫んだ瞬間。私は口の中に入れられて……目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「団長!」

「これは……」

 

 周りに散乱する肉片。そして、泥や血に汚れた服の切れ端。髪の毛などから死んでいるのは複数の幼い少女だとわかる。周りの壁や地面は破壊の跡だらけであり、そこで激しい戦いが行われたのだとわかった。

 

「ミノタウロスは?」

「強化種だった。この子、一階層で訓練してた子なんだ」

「知ってるのかい?」

「うん。アイズと一緒に潜った時に会ったの」

「そうか……リヴェリア、彼女は……」

「ミノタウロスに咥えられて食べられようとしていたところだったらしい」

「わかった。どのファミリアかわかるかな?」

「背中を見ればわかるだろうが、地上に連れていく方がいいだろう」

「そうだね」

「私がもっと早く来ていれば……」

「ティオナ……」

「これは僕達の責任だ。僕達がミノタウロスを逃がさなければ彼女達は……いや、今はよそう。それよりも先に残っているミノタウロスの排除だ」

「うん!」

 

 本当にどうしてこうなったのか、頭が痛い。

 

 

 

 

 

 

 




チートがあるからって調子に乗るからバットエンドになるのです。魔物(モンスター)を引き寄越せるお香とか使ってなければこんなにミノタウロスが来ません。つまり、自業自得。後、圧倒的に準備が足りない。まあ、こんなところにミノタウロスが群れで上がってくるなんて思いませんもの。

ただ一つ忘れていた事が……べるきゅんの前でくるみを殺すことができませんでした。残念。






「おお、半精霊くるみよ。死んでしまうとは情けない」


冒険の書を記憶しますか?
このまま続けますか?
やり直ししますか?


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リリとクルミのその後

 なんとかダンジョンから逃げだしたリリはすぐにギルドに助けをお願いしました。それから必死に願いながら待っていました。でも、帰ってきたのは物言わぬ躯となったくるみ様。

 

「か、確認してください……」

「……確かにリリのファミリアの……くるみ様です……本当に死んでいるんですか? だって、だって、綺麗なんですよ!」

 

 彼女の身体は傷がありますが、血は流れていません。今にも動き出しそうな感じなんです。だから、一縷の望みを託して、ロキ・ファミリアの人が呼んでくれたディアンケヒト・ファミリアの聖女様に聞きます。

 

「残念ながら心臓が止まっています。エリクサーでも魔法でも治せません。そもそも魔法が効いていません。傷だって治りませんし、血が流れるはずなのに流れていません。この状態では死んでいると判断するしかありません」

「そんな……リリは、これからどうすれば……」

 

 このまま帰ったら、リリは、リリは絶対に殺されます。彼女は主神のお気に入りで、そんな彼女を囮にして生き残ったと知られたら……団長だって黙っていません。団長は彼女でお金を稼ぐつもりのようでしたし……リリに待っているのは絶望だけです。もういっそ死んだ方が楽になれるかもしれません。

 絶望に覆われたまま、フラフラと歩いてその場から離れていきます。誰の声も聞こえません。もう、楽になりたいです。そう思ったら、無理矢理こちらを向かされて──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ばぁっ!」

「ひっ!?」

 

 舌を出してこちらをからかってくるクルミ様が居ました。

 

「え? えぇ?」

「キヒヒヒヒヒッ! 良い反応ですわね、()()()()

 

 周りを見たら驚いているギルドの人達がクルミ様を見ています。特にディアンケヒト・ファミリアの聖女様は唖然としておられます。

 

「なんで生きてるんですか! 心臓が止まっていたんですよ!」

「実際に止まっていたんですから、当然ですわね♪」

「意味が分からないです……」

「リリさん。絶対的な防御とはなんだと思いますか?」

「え? わかりませんが……」

「では、宿題ですわね。どちらにせよ、私はこうして無事ですので問題ありません。ミノタウロスから生き残れました。めでたしめでたし。それでいいですわね」

「良い訳ないですよ!」

「ええ、まったくその通りです。まずは治療からです」

「「あっ」」

 

 クルミ様の身体は動き出したと同時に傷口から血液が流れ出ています。つまり、大怪我をした状態というわけですね。

 

「あらあら、まずはこちらからですわね。この軟弱な身体には困りますわ。刻々帝(ザフキエル)四の弾(ダレット)

 

 自らの頭に短銃を押し当てて躊躇なく引き金を引いたクルミ様。そんな彼女にギルドに居た皆が騒然となりましたが、次の瞬間には綺麗に傷がなくなっていました。

 

「さて、帰りますよリリさん」

「わ、わかりました」

 

 良かった。本当に良かった。リリはこれからも生きていけます。でも、それだけじゃなくて、彼女が無事で本当に良かったです。友達が居なくなるのは嫌です。リリが勝手にそう思っているだけかもしれませんが。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 さて、リリさんはこれで大丈夫でしょう。他の人達もとりあえず、無視します。主神を通してお話しないといけませんし、今回の原因の調査を依頼してもらいましょう。低階層でミノタウロスとか止めて欲しいですしね。

 そういうことで、一度帰らせてもらいました。帰ると死んだという連絡は届いていたらしくかなり驚かれましたが、こちらも無視で大丈夫ですわね。有象無象などどうとでもできますし。

 

「帰ったか」

「ええ、ただいま戻りました。ソーマ様」

「……魂の割合が変化しているな。近付いたか」

「はい。改めて理解しました。わたくしはわたくしであると同時にまだわたくしではありません」

 

 あのような場面で命乞いなど、時崎狂三は断じてしません。いえ、幼い時はわかりません。ですが、私の理想ではないのは確実ですわ。

 だからこそ、時崎狂三が通ってきた道筋を通り、精霊となります。刻々帝(ザフキエル)の力を使う度に精霊に浸食され、刻々帝(ザフキエル)に、時崎狂三へと変化していくのでしょう。ですが、それがどうかしましたか? わたくしはわたくしである。そうでしょう、わたくし(時崎狂三)

 

「まずはステイタスを更新するか。来なさい」

「はい」

 

 ソーマ様の部屋でステイタスを更新してもらいます。

 

「ランクアップは可能だ。スキルは発現していない」

「すぐにランクアップする必要はありますか?」

「アビリティを鍛えてからの方がいいな」

「では、しません。このままで構いませんわ」

「そうか。しかし、心臓が止まっていたと聞いたが大丈夫なのか?」

「自分で止めたのですから大丈夫ですわ」

「自分でか?」

「はい。七の弾(ザイン)。対象の時間を一時的に完全に停止します。これにより、私は時間という法則から逃れて無敵状態となりました。つまり、絶対防御と言えます」

 

 空間ごと絶たれたらどうしようもありませんし、コストも重いのでやろうとは思いません。そして、人間としての私では発動は無理でした。ですが、精霊としてのわたくしなら可能でした。人の私が死ぬ事で、精霊としてのわたくしが強くなるという事ですわね。

 そう、私はまだくるみ。これから狂って狂三になるのです。雛鳥は飛び立ち、成長して狂三へと至る。これがわたくしがわたくしの力を発現した理由。

 

「そうか。無事で良かった」

「ソーマ様、そんなに心配してくださったのですか?」

「当たり前だ。お前が居なくなれば酒を造るのが辛くなる」

「はい?」

「お前の時を進める魔法は酒を造る上で強力な武器になる。発酵を速める事が可能なのだぞ? これほど酒造りに関して適している能力はない」

「……それもそうですわね。ですが、まだお預けですわ。私、今回の件でかなり時間を使ってしまいましたし、補給せねばなりませんの」

「そうか……わかった」

「では、次はリリさんも更新してくださいな」

「いいだろう」

 

 リリさんを呼びに部屋を出ると、扉の外で不安そうにしながら待っていました。

 

「あの、クルミ様……」

「明日から忙しくなりますよ。私とリリさんで今回の件を起こした連中から大金を頂きますわよ」

「え?」

「それで武器を揃えます。今回の件でわかりました。私達には圧倒的に火力が、装備が足りません」

「数じゃなくてですか?」

「数はどうにかできます。それともう魔物(モンスター)を引き寄せるお香を使うのは無しです。懲り懲りですの」

「それはリリも同じです。というか、死に掛けたのにまだ潜るんですか?」

「当然です。私は時間を集めないといけません。リリさんには教えますが、私の魔法は寿命を、時間を消費します。今回の件でストックしていた分も含めて十年は無くなりました。ですから、なんとしても回収しなくてはいけません」

「寿命が魔法の代価……確かにそんなに強力な魔法なら……もしかして、時間を操るからコストが時間なのですか? だとしたらクルミ様が助かったのは……」

「リリさん。次はキラーアントを狙います」

「待ってください! さっき魔物(モンスター)を引き寄せるのは止めるっていいましたよね!」

「ええ、魔物(モンスター)を引き寄せるお香を使うのは止めます。他の魔物(モンスター)を引き寄越せたら危険ですしね。でも、キラーアントは問題ありませんわ。何せ、彼等だけが集まるのですから」

「……こんな人を少しでも友達だと思ったリリが間違っていました……」

「あら、私はリリさんの事を友達だと思っていますわ。だからこそ、彼も助けて差し上げたんですもの」

「彼?」

「こちらの話です。それよりもステイタスを更新してアビリティを二人で最大値まであげますわよ!」

「リリも付き合わされるんですか!?」

「友達で私のお世話係ですもの。当然です」

「拒否権はないんですか!」

「拒否しても構いませんわ。悲しいですけれど……拒否します?」

 

 手を差し出して聞いてみます。

 

「拒否しませんよ! リリは前より今の生活の方がいいですから! ええ、そうですとも!」

 

 リリさんが握り返してきてくれたのでホッとしました。

 

「さあ、リリさん。わたくしと楽しい迷宮探索(デート)をしましょう。ダンジョンに出会い(時間)を求めるのです」

 

 

 

 

 

 

 

 



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地雷原でのタップダンス

感想と高評価、お気に入り登録、誤字修正ありがとうございます。後日談みたいな感じです。


 

 

 

 

 ➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 

 

【くるみ・ときさき】

 

 レベル1

 力 I 25→I 36

 耐久 I 40→D 535

 器用 I 50→H 246

 敏捷 I 60→G 120

 魔力 I 20→D 503

 

【魔法】

 

刻々帝(ザフキエル)

一の弾(アレフ)】:対象の外的時間を一定時間加速させる。超高速移動を可能とする。

二の弾(ベート)】:対象の外的時間を一定時間遅くする。意識までには影響を及ぼせないが、対象に込められた運動エネルギーも保持される性質がある。

三の弾(ギメル)】:対象の内的時間を加速させる。生き物の成長や老化、物体の経年劣化を促進する。

四の弾(ダレット)】:時間を巻き戻す。自身や他の存在が負った傷の修復再生が可能で、精神的なダメージにもある程度有効。

五の弾(へー)】:僅か先の未来を見通すことができる。戦闘中、数秒先の光景を視ての軌道予測等に使用できる。

六の弾(ヴァヴ)】:対象の意識のみを数日前までの過去の肉体に飛ばし、タイムループを可能とする。

七の弾(ザイン)】:対象の時間を一時的に完全停止させる。

 強力な分消費する時間は多め。

八の弾(ヘット)】:自身の過去の再現体を分身として生み出す。分身体は本体の影に沈む形で待機が可能。生み出された分身体を全て駆逐しない限りいくらでも呼び出すことが可能であり、殺害されても何度も蘇る。分身体のスペックは本体より一段劣っており、活動時間も生み出された際に消費した『時間(寿命)』しか活動できない。また、基本的には天使を行使することも出来ない。情報のやり取りを通じて記憶を共有する事もできる。

九の弾(テット)】:異なる時間にいる人間と意識を繋ぎ、交信することができる。撃ち抜いた対象者と会話したり、見聞きしたものを共有できる。

一〇の弾(ユッド)】:対象に込められた過去の記憶や体験を知ることができる。

十一の弾(ユッド・アレフ)】:対象を未来へ送ることができる。進む時間に応じて消費する時間・魔力は加速的的に上がってゆく。

十二の弾(ユッド・ベート)】:対象を過去へ送ることができる。遡る時間に応じて消費する時間・魔力は加速度的に上がってゆく。歴史を改変し元の時代に戻ってきた場合、その特異点となった人物は改変前の記憶を保持、または思い出せる。

 魔力と寿命を消費して発動する。発動には基礎コストとして十日を消費する。また、発動する魔法の数字が上がるにつれて十日ずつ関数で消費が増加する。六の弾(ヴァヴ)からは百日に増加。

 

「神威霊装・三番(エロヒム)

 歩兵銃と短銃の二丁拳銃を物質化する。攻撃に使う銃弾は物質化した影で出来ている。

 

【スキル】

 

「時喰みの城(20)」

 周囲に影を張り巡らせ、自らの影に異空間を作成する。影に触れている存在の時間を吸い上げる。異空間の中に沈んで移動や潜伏ができる他、特定の人物を引きずり込んでの捕食や保護も可能も可能。作成には寿命を一年消費する。寿命を一年消費するごとに異空間の広さを拡張できる。一メートル四方、一年ずつ増やせる。

 

 

 

 ➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 

 

 Total1,245のステイタス上昇ですわね。まあ、無理もありません。文字通り肉体がミンチにされたり、時間停止状態とはいえハムハムされていたわけですし。強敵相手に自らの死をもって戦ったのですから。魔力も時間をアレだけ盛大に使えばここまで上がるというのも納得ですわ。いえ、やっぱり納得できませんわね。どう考えても身体が精霊に近付いたせいでステイタスが上がっただけでしょう。

 

「あの、ベッドに寝転びながら足をバタバタさせるのは、はしたないですよ」

 

 リリさんがテーブルの上に置いてあるティーセットで紅茶を入れながら注意してきましたので、大人しく足をばたつかせるのを止めます。確かにワンピース一枚で、お風呂上りとはいえベッドの上で足をばたつかせるのははしたないですわね。可愛らしいのでたまにやる程度にしておきましょう。

 

「ところで、そのなんて書いてあるかわからない物はなんですか?」

「これはわたくしのステイタスでしてよ。こちらの文字はわからないので口頭で聞いて書き写したものですわね」

「そういえば文字がわからないんでしたね。勉強しますか?」

「ええ、そうしましょう」

 

 まあ、勉強は違う分身(わたくし)にやってもらえば共有できますので問題ないでしょう。武術の訓練もしかり……と、言いたいところですが、残念ながら私の分身は記憶や情報を共有できても、八の弾(ヘット)を撃った時点の私を複製するだけです。武術の知識や経験は可能ですので、そこから本体の方で訓練をしないといけません。まあ、それでも他の人と段違いで効率は良いはずですわ。技術が継承できるという点はNARUTOの影分身に負けますが、耐久力では勝てると断言できます。だって、一撃で消されませんし。

 

「紅茶が入りましたよ」

「頂きますわ」

 

 ベッドから降りて椅子に座り、リリさんが入れてくれた紅茶をいただきます。

 

「ダージリン……」

「残念ながら違います」

「無念……」

 

 というか、普通に甘くないので余り美味しくないです。ですので、壁にある戸棚からボトルを取り出して少し入れますの。

 

「ちょっ!? それってソーマですよねっ!」

「そうですわよ。これを入れるととっても美味しくなりますの」

「勝手に使っていいんですか?」

「この部屋にある物は全て私の物ですもの。問題ありませんわ」

 

 ソーマ様から鍵も貰っていますし、自由にする許可はとっています。ただし、ちゃんとお酒造りを手伝うように言われていますが。

 

「それに今日は頑張ったのでご褒美です。リリさんもどうですか?」

「……リリは結構です」

「私のお酒が飲めないと?」

「……いただきます……」

 

 セクハラならぬアルハラですが、まあ大丈夫です。一滴たらしてからボトルを戻してリリさんと二人で飲みます。

 

「「はふ~」」

 

 鼻にくる芳醇な香りと口に広がる程よい甘み。身体の疲れが取れていくようです。リリさんは両手でカップを持ちながらチビチビと飲んでいますが、表情が蕩けています。俗に言うアへ顔という奴ですわね! 

 つまり、今ならリリさんの身体に悪戯し放題というわけですが、流石にやりませんわ。やるのなら、まずはこのくるみちゃんの身体からです。自分でしっかりと勉強してからでないと傷つけてしまいますもの。分身とやるのでしょうが、これも自家発電ですわね。

 こんな馬鹿な事を紅茶を飲みながら考えていると、扉がノックされました。

 

「はい。どうぞ」

「失礼する。ギルドから連絡が来た」

 

 入ってきたのは我等がソーマ・ファミリアの団長であるザニスさん。ギルドに頼んでいたのは私達が襲われたミノタウロスについての報告が来たのでしょう。それをわざわざ知らせてに来てくれたようです。

 

「で、原因はわかりましたの?」

「どうやらロキ・ファミリアのようだ。彼等が遠征で潜った深層から帰還途中に出現したミノタウロスの群れが一斉に逃げだしたそうだ」

「なるほど。それが上層まで上がってきて、あの悲劇になったと。これはロキ・ファミリアには相応の誠意を見せてもらわないといけませんわね」

 

 こっちは寿命を十年は削りましたしね。まあ、自業自得な部分もあるのでそこまで要求はできませんが。そもそも明文化はされていないらしいですが、魔物(モンスター)を引き寄せるお香を使った狩りはグレーゾーンです。お香を使ったMPKは当然禁止行為です。

 お香を禁止したらいいかと思うかもしれませんが、これって別の使い方もできるんですよね。例えば逃げる時に遠くに投げて逃げればそちらに魔物(モンスター)が集まるので、逃げ延びる確率があがりますの。

 狩りで使われる事が想定外という事です。そもそも、そんなに大量に狩れるのなら大人しく下の階層に潜った方が時間効率も金銭効率もいいですしね。多勢に無勢で延々と戦い続けるのって集中力をかなり使いますし、普通はやりません。以上の事から、ギルドはお香の使用は禁止してはいません。

 

「交渉は私がする。お前は関わるな」

「わかりました。取り分は私が八でそちらが二でいいですわよ」

「全てこちらが貰う」

「は?」

「お前達が行っているステイタスの更新は本来、金が要る。それを特別にソーマ様が許されているだけだ。故に今回、ロキ・ファミリアから得られた金は全てファミリアの運転資金とする。これで他の者達からのやっかみも減ろう」

「……」

 

 一瞬、怒りそうになりましたが、確かに団長さんの言う事はもっともですわ。私とリリさんは特別扱いされているのですから、こういう時に資金を纏まって提供するのもいいですわね。ファミリアが潤うのなら、私にもメリットがありますし。

 

「わかりました。その方がソーマ様もお喜びになるでしょうし」

「では、私はロキ・ファミリアに行ってくる。くれぐれも大人しくしているように」

「はい」

 

 団長さんが出ていったので、暇になりました。流石に今日は疲れているのでこのまま寝ようと思いますが、リリさんが覚醒するまで少し待ちましょう。それに明日の予定を変えなくてはいけません。人為的でないなら、大人しくダンジョンに向かう予定でした。犯人のファミリアがわかればそちらに乗り込んで慰謝料を要求して装備を整えるつもりでした。ですが、団長さんのおかげで予定が変わりました。

 装備を整えるお金はありませんし、普通にダンジョンで稼ぎますか。それとも何か高値で売れるものは……ありますわね。私自身とか、結構高く売れるはずです。確か、異種族レビュアーズに出て来たデミア・デュオデクテットが私と同じような分身を作り出して経営した娼館がありました。アレと同じ事をすれば儲けられるのではないでしょうか? 客から時間も少し頂戴してお金も貰う。そして気持ち良くしてあげるなんて……あり得ませんわね。相手が女性限定なら構いませんが。男性とのエロはありえません。

 そう考えると……ふむ。妹や娘貸出しサービスなら売れませんか? くるみちゃんの素晴らしいキュートで可愛らしいスペックを活かした商売です。それにアレですよね。老い先短い方々にレンタルして身のお世話をして……遺産を貰います。病気で苦しんでいる方は老衰による安楽死を提供。これは普通に商売になるのでは? 

 馬鹿な事を考えていましたが、なんだかいけそうな気がします。寿命に余裕ができたらやってみましょう。

 問題はすぐに資金を手に入れる方法ですわね。神威霊装・三番(エロヒム)だけじゃ数も火力も足りませんし。かといって、ファミリアにお金を出してもらうのはできないですし……

 

「リリさん、お金を稼ぐ方法は何か有りますか?」

「ダンジョンに潜るしかないですね……?」

 

 虚ろな表情のまま紅茶を飲み終わり、幸福を噛みしめている彼女は今ならなんでも許してくれそうですの。

 

「もっと手っ取り早くありませんか?」

「盗みますか?」

「それは駄目です。犯罪にならない方法で……」

「それなら、アレを売ればいいんじゃないですか?」

「……アレをですか。なるほど、確かに売れるでしょうね。わかりました。ちょっとソーマ様に聞いてきます」

「はい」

 

 部屋から出てソーマ様に確認したら、少しお仕事をするだけで許可を頂きました。そのお仕事も私にとって軽いお仕事でした。樽三つに三の弾(ギメル)を撃つだけですし。

 さて、リリさんを抱き枕にして寝ましょう。部屋に戻り、リリさんをベッドに誘導して一緒に入ります。すぐに彼女が抱き着いてきて、スリスリしながら眠りにつきました。これ、私の方が抱き枕にされていますね。まあ、私が小さいので致し方無いです。これで勝ったと思わない事ですわ! 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 朝起きて井戸水で身体を綺麗にしてから、洗濯しておいた何時ものドレスを着ます。この服は常に綺麗ですが、やはり洗わないと気持ち悪いですしね。特に昨日の殺し合いの後だと。

 さて、朝食を食べて歯磨きをしてから神威霊装・三番(エロヒム)の短銃を呼び出して自分の頭に向けて撃ちます。使う弾丸は八の弾(ヘット)。分身を二体作成しますの。どちらも活動期間は一年。約六年三ヵ月分ですね。大丈夫です。だいたいの時間消費はいっぱい刻々帝(ザフキエル)を使ったのでわかってきました。後十年は大丈夫です。ですが、それ以上になると死ぬ可能性が高いですわ。

 

「召喚に応じて参上いたしましたわ。あなたがわたくしのマスター(オリジナル)ですわね」

「同じ……なんのクラスにしましょう? セイバー? ランサー? オリジナルはアーチャーですわよね?」

「というか、なんでFateネタなんですの?」

「「気分ですわ」」

「そうですか、流石はわたくしですわね。なら、セイバーとアサシンにしておきましょう」

 

 セイバー。剣を扱うクラスであり、Fateでは剣を扱う英雄がこのクラスにあてられます。アサシンはその名の通り暗殺者。これが私に一番適正が高いクラスでしょうね。私と同じ力を持つ集団のハサンとかもいますし。ちなみにセイバーには剣術を練習させ、アサシンには歩法や暗殺の方法などを練習してもらいましょう。今日は関係ありませんが。

 

「さて、それでは本日の予定をご説明いたします。まずセイバーはコレの売値と買値の市場調査を。アサシンは私の護衛をお願いしますわね」

「「了解です、わたくし」」

 

 正直、名前をつけないとややこしいですし、番号で呼ぶよりもクラス分けしておいた方が楽ですわ。

 

 

 

 

 準備が整ったので、外でリリと合流してソーマ・ファミリアから出るのですが、その途中でイライラしている団長を見つけました。なんだか、かなり怒っているようでしたが、面倒なので近付かないようにしておきましょう。

 

「あの、なんであんなにイライラしているんですか?」

「アーデか。簡単だ。ロキ・ファミリアの奴等からあんまり搾り取れなかったそうだ」

 

 酒をぐびぐびと飲んでいるドワーフのチャンドラ・イヒトさんが答えてくれました。しかし、リリがわざわざ聞くなんてどうしたんでしょうか? 

 

「ロキ・ファミリアが……」

「それと……いや、これはいいか」

「まあ、いいです。イヒト様、武器の目利きってできますか?」

「できるぞ。これでもドワーフだからな」

「クルミ様。イヒト様に選んで頂いた方がよろしいかと。それに交渉もお手伝いいただけます」

「リリさんがそう言うのであればお任せいたしますわ」

 

 わたくしよりもリリさんの方が詳しいはずですしね。それにドワーフが武器に詳しいのも定番ですから。

 

「おい。俺は報酬が無ければ動かんぞ」

「わかっています。ですから、報酬は……」

 

 リリさんが耳打ちをしていくと、イヒトさんは驚いた表情をした後、ニコニコと怖い笑顔をしてリリさんの肩を掴んできました。事案ですか? 事案ですのね。

 

「嘘じゃねえだろうな?」

「はい、嘘じゃありません。ですから、リリ達に良い武器を出来るだけ安くお願いします」

「……わかった。任せろ」

「それと高く売る方法はありますか?」

「あるぜ。少し時間がかかるが、俺に全て任せろ。だが、即金は無理だな」

「それならリリに考えがありますので大丈夫です。ただ、護衛をお願いします」

「任せろ」

 

 私が参加する間も無く決まっていきましたが、まあ大丈夫でしょう。そんなわけで、くるみちゃんはドワーフのチャンドラ・イネスさんを雇いました! 

 

 

 

 ~幼女移動中~

 

 

 はい、やって参りました。ロキ・ファミリア! そうです、ロキ・ファミリアです。ちなみに来る途中にこっそりとセイバーは影から野に放っておきました。仕事をしっかりと完遂してくれる事を願っていますわ。くれぐれも命を大事にと命令してありますので、大丈夫でしょう。後、裏路地を使わないようには言ってあります。ハイリスクハイリターンですからね。

 

「何の用だ?」

 

 門番の人が近付いていくこちらに気付いて直に話しかけてきました。実力はそこまで高くないように思えます。

 

「ソーマ・ファミリアです。主神様と団長に話があるので取次をお願いします」

「昨日来ていただろう?」

「リリ達は昨日、貴女達のせいで死にかけた張本人です。直接、クルミ様を助けて頂いたお礼と感謝の気持ちとして贈呈の品を持ってきたのです。どうか、お願いできませんか?」

「そう言う事ならわかった。少し待つように」

 

 門番の一人が中に入っていったので、私はリリさんの裾を掴んで引っ張ります。

 

「どうしました?」

「リリさん。品物は……」

「わかっております。少し小分けした物を渡すだけです」

「ああ、なるほど。試飲させるのですわね」

「はい。その方が売れます」

「俺も飲みたい」

「なら、皆さんで飲みますか」

「いいな!」

「いや、だから少しだけですよ!」

 

 話していると、門番の人が戻ってきた。彼女の他にもう一人、見覚えある褐色肌の少女がやってきました。その人はいきなり私に飛びついてきて、身体をペタペタと触ってきました。護衛達が反応する暇もありません。

 

「生きてる! 動いてる! 良かった! もう大丈夫だよね?」

「ええ、はい……大丈夫ですよ。昨日も見ましたよね?」

「いや、でもあんな長い間心臓が止まってたんだよ? 普通死んだと思うよ。それにミノタウロスに齧られたり、叩き付けられたりしていたし……」

「オノレ、ミノタウロス……コノ恨ミ、何レ晴ラシテヤリマスワ……」

「う、うん」

「あの、案内してくれませんか?」

「わかった。こっちだよ」

 

 何故か抱き上げられてそのまま連れていかれました。まあ、構わないのですが。ロキ・ファミリアのお城に……そう、お城です。財力の違いに涙が出てきますわ。

 城の中に入り、案内された応接室で少し待つと青年と少年が入ってきました。片方は寿命が見えないので、神なのでしょう。もう一人は子供にしては寿命がかなり減っているように感じる人です。

 

「マジもんの赤ロリ幼女やん! マジでかわええな! うちの眷属にならんか!」

「なりません。正直、ダンジョンの外に連れ出してもらえたとはいえ、ロキ・ファミリアの印象は最悪なので」

「だろうね。本当にすまないと思っている。ミノタウロスがあのような行動をするとは思えなかった。今まで報告もなかったしね。そこはこちらの責任だ。だから、その分も含めてそちらの団長には昨日、慰謝料を支払っておいた。それで全て水に流してくれとは言わないが、示談としていただきたい」

「ええ、こちらにも責任はありますから、わかっておりますわ」

「なあなあ、その前に自己紹介やろ。うちはロキ! ファミリアの主神や。で、こっちのが団長をしとるフィンや」

「フィン・ディムナだ。ロキ・ファミリアの団長をしている」

「私はティオナ・ヒュリテ! よろしくね!」

「ソーマ・ファミリアのくるみ・ときさきです。こちらが……」

「リリルカ・アーデです。クルミ様の世話係をしております」

「チャンドラ・イヒトだ。俺は今回、護衛としてきただけだから気にしなくていい」

「わかった。では、座って話そう。どうぞ」

 

 促されてから、座ります。それからすぐに頭を下げます。

 

「この度はダンジョンから連れ出して頂き、ありがとうございました。お蔭様で助かりましたわ」

「いや、こちらこそ済まなかった」

「いえ……」

 

 互いに何度か頭を下げた後、もういいかという事でリリさんが箱を渡してきたのでそれを受け取ってテーブルの上に置きます。

 

「これは?」

「お礼の品ですわ。ですわよね」

「はい。失礼します」

 

 リリさんが箱を開けると小瓶が出てきます。中身は透明な液体で、リリさんが蓋を取ると芳醇な香りが辺りへと漂います。

 

「これはソーマやな!」

「はい。我が主神が作られたソーマです。どうぞお収めください」

「いや、これは受け取れない」

「なんでや! ソーマやでソーマ! めっちゃくちゃ美味いんやで! しかもこれ……市販には出回らん奴やろ!」

「ええ、そうです。ソーマ様私蔵の物ですから。ですよね?」

「そうですわね。ソーマ様が手元に置いておいた物ですから間違いありません」

「マジで嘘ついとらん。値段は時価やで!」

「だから貰えないんだ。ロキ、こちらが支払った慰謝料よりも明らかに高いんだ。わかるだろ?」

「ぐっ……」

「いえ、これは関係なく差し上げますわ。条件はここで私達の前で飲む事です。ああ、もちろんロキさんだけで構いません。それと飲まないなら勿体ないので私とイネスさんで飲ませて頂きます」

「フィン!」

「……本当に関係なく貰えるのかい?」

「こちらは試飲です。それを飲んでこちらを買うかどうかを判断してください」

 

 そう言ってリリが取り出したのはソーマ様の部屋、つまりわたくしの部屋にあったボトルです。ロキさんとフィンさんの目が引きつけられております。

 

「つまり、商談というわけだね?」

「はい。ミノタウロスクラスを相手にするには現状の武器では駄目だと今回の件で理解しました。そのため、良い武器が欲しいのです。それを買うための資金としてソーマ様より頂いた秘蔵のボトルを売り出す事にしました」

「ちなみにソイツはオレ達ドワーフのネットワークでもオークションに出す予定だ」

「つまり、そっちが欲しいのは即金と武器というわけだね?」

「はい。リリ達の願いはそうなります。もちろん、現物でも構いません。そちらほどの大きなファミリアであれば死蔵されている武器もあるでしょう」

 

 なるほど、リリがイネスさんを連れてきたのはこのためですのね。確かにドワーフの目利きであれば変な物を掴まされる事はないでしょう。一級品の武器は無理でも二級品などならあるかもしれません。

 

「フィン! 買ってええやろ!」

「いや、それでも高い」

「では、こちらから更に追加条件を出しましょう」

「条件?」

「はい。私に武器の使い方や戦い方を教えて欲しいのです」

 

 ロキ・ファミリアほどの大手になれば使い手はかなりの数が居るはずですし、その人達の技術を貰えるのならばお金を払う価値はあるでしょう。

 

「教導という訳か……それなら確かに問題ないか」

「じゃあ、ええんか!?」

「どれだけ値段を下げられるかだが……」

「ねえねえ、それなら私が教えてあげる!」

「君の場合は大型武器だろう。僕や彼女のような小人族には使えないよ」

「いえ、大型武器どんと来いです。もちろん、サイズは小さくしますが構いません。小さな身体に大きな武器とかロマンですからね!」

「お、わかる口やな!」

 

 ロキさんは試供品として渡したお酒を早速飲みだしました。続いて、こちらの品も出しましょう。昨日、ソーマ様から頂いたお酒です。

 

「こちらの商品はソーマ様が新しく作られた試作のお酒です。こちらなら普通の人が飲んでも大丈夫ですよ」

「ふむ」

 

 新しいボトルを出してお酒の試飲会を行っていきます。皆さん、仲良く飲みながら値段交渉をしていきます。途中でロキ・ファミリア所属のドワーフの人達が乱入してきましたので、お開きという事を告げて、樽ごと買うか買わないかを聞くとドワーフの人達がお金を出し合って買うとの事でした。樽は影に入れてあるので取り出して渡してあげました。

 

「それは物を持ち運べるスキルなのかな?」

「秘密ですわ。残念ですけれど教えられないですわね。女は秘密を着飾って美しくなるらしいですし」

 

 唇に人差し指をあてながら上目遣いで言ってあげると、一瞬だけ彼の表情が変化した。それと同時にとんでもない殺気のような物が感じられて身体がぶるりと震えてしまいました。慌てて周りをキョロキョロと見ますと、そこに……修羅がいました。

 

 

 

 

 




ロキ・ファミリアで団長さんにそんな事をすればね……


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くるくるくるみん

感想、高評価、誤字脱字修正、お気に入り登録ありがとうございます。Спасибо(すぱしーば)


 

 

 認識した瞬間。その修羅から放たれる憎しみと嫉み。強烈な殺気が重圧となって私を襲ってきます。それは進化したミノタウロスよりも更に怖く、私の身体を震わせます。

 

きひっ!!(なめんなっ!!)

 

 あんなの(命乞い)時崎狂三(わたくし)じゃありませんっ! 恐怖なんて寿命を削ってる時点で今更ですわっ! 

 

刻々帝(ザフキエル)! 七の(ザイ)

「ティオネ!」

 

 わたくしの手に短銃を、影の中に居る護衛の手に小銃を召喚し、両方に装填して偏差射撃を修羅に向けて放とうとした瞬間。私の腕をいつの間にかフィンさんが叫びながら掴んで止めていました。時を操る私が見えなかったのです。それに万力のような力でビクとも動かす事ができません。

 

「ティオナ、ティオネを拘束してリヴェリアの所へ連れていってくれるかな?」

「団長っ!?」

「ガレスも頼む」

「わかったわい。ほら行くぞ」

 

 強制的に修羅の人が連れ出されたので、私は身体から力を抜きます。同時に足で指示して影のアサシン(わたくし)も下げさせます。

 

「すまなかったね。こちらは危害を加えるつもりはない。だから、それを仕舞ってくれないかな?」

「クルミ様?」

「……わかりましたわ」

 

 装填した弾を外して保管しておきます。七の弾(ザイン)は貴重ですから無駄撃ちなんてもっての外です。本格的に危なくなってきているので、アサシンは明日からダンジョンでデスマーチが確定ですわね。

 

「その方が良い。流石に護衛とはいえレベル6に天変地異が起こってもかなわん」

 

 後ろをチラリと見れば武器に手をかけずにリリさんの肩を掴んで押さえていたイネスさんが居ました。彼は動くつもりがなかったようですね。報酬を減額してやりましょうか? いえ、仕方ない事ですね。

 

「で、どういう事ですか?」

「あ~ティオネはフィンにゾッコンなんや。同じ小人族で美少女なクルミたんにフィンを取られると思ったんやろうな。それで殺気を出してしまったんやろ。まあ、動く前にフィンが止めとった。でも──」

「その前に私が反応したんですわね」

「そうや。悪かった。この通りや。追加で迷惑料も支払ったる。武器庫にあるティオネの場所からゾルアスを一本持っていき」

「いいのかい?」

「ああ、ええ。今回はこっちの不手際やしな。クルミたんたちが求めてるのは武器や。罰としてティオネの予備武器を一本、渡したるで! 一級品の武器や。これで勘弁したって」

「……いいでしょう」

 

 刻々帝(ザフキエル)を解除します。リリさんもホッとした表情をしていますが、無理もありません。戦いになれば私達に勝ち目はありませんし。それでもわたくしはわたくしとして抗いますが。それで問題はないはず……そのはず。何か違和感がありますが、まあ些事でしょう。

 

「それがクルミたんの魔法なんやね。詠唱しているようにはみえへんかったな」

「確かにそうだね」

「お教えするつもりはありませんわ。弱点をみすみす曝すほど甘くはありませんの」

「それもそうやな」

「それとゾルアスとはどんな武器ですか?」

「ククリナイフだよ。飛竜の牙で作られた物で値段は五千八百万ヴァリスだったはずだよ」

「なるほど。それなら確かにありがたいですわ」

「せやろ? だから、これからもお酒の供給を頼むで。後、クエスト発注してくれてもええ。代わりにちょっと手伝ってもらうけど」

「……まあいいでしょう。ただ、手伝うかは内容によりますわね」

「何、僕達の遠征についてきてくれるだけでいい」

 

 彼等、ロキ・ファミリアの目的はなんでしょうか? 彼等に見せたのはあくまでも時喰みの城と効果がわからない魔法。この中で彼等にとって価値ある物はお酒でしょう。けれどもそれ以外となると……ああ、遠征という言葉から先程見せた時喰みの城が狙いというわけですわね。断定はできませんが、おそらくそうなのでしょう。遠征というのなら、遠くに出向くのですから物資は大量に運ばないといけません。軍事行動と同じで補給は大切という奴ですわね。

 

「報酬次第ですわね」

「お金なら支払うで?」

「お金よりも魔石が欲しいですわ」

「魔石かいな?」

「はい。わたくしの銃は魔石を使いますので」

 

 神様に嘘は効きませんが、真実でない事でもどうにかなります。例えば今回の事なら、魔石から時間を吸い取れるので、魔石を使うという事では間違いではありません。

 

「フィン、どうや?」

「遠征に連れて行くのなら、レベル1では危険すぎる」

「わたくし、何時でもレベルアップ可能ですわね。今、基礎アビリティを上げるためにしていないだけです」

「マジで?」

「ええ、誰かさん達のお蔭で死闘を繰り広げましたの」

「あ~そっか。ミノタウロスと戦ってたもんな~」

「そういう事ですわ。ただ、もう一度やれと言われましても拒否しますが」

「了解や。とりあえず、ソーマの代金分で鍛えてやってくれ。それとフィンが直々に指導するのは無しやで」

「そう、だね。残念だけど」

「当然です。先程の様なことは困りますもの。いえ、その度にゾルアスというのを貰えるのであればその限りではありませんわね」

「そうですね。確かに殺気を浴びるだけで五千八百万ヴァリスは美味しいとリリも思います」

「ね~」

 

 リリさんと一緒に笑顔で言うと、フィンさんが引きつりました。危険がなく怖い思いをするだけでそれなら、普通に誰だって受けると思います。

 

「笑えんわ」

「それで誰をつけるんだい?」

「せやな……何から習いたいんや?」

「適正もありますが、剣と大剣、斧や槌は習いたいですわね。他にも色々と」

「……ほんまにやる気なん?」

「もちろんですわ」

「なら、とりあえずアキに頼むか」

「なるほど、彼女なら問題ないだろう。ロキ、案内を頼むよ。僕はアキに頼んで来る」

「まかしとき!」

 

 リリさんとイネスさんを引き連れてロキさんの後をついていきます。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ロキ・ファミリアの武器庫には色々とありました。使われていないというだけで結構な業物が置かれています。引退した人が残していった物らしいですわね。

 

「この中から好きなもんを選んでええで」

「ありがとうございます。リリさん、大型武器をみますわよ」

「本当にやるんですか?」

「ええ、やりますわ。でも、その前にイネスさん。選定をお願いします」

「わかった」

 

 イネスさんが見ていく中、少し見て回りますが……どれも私達には大きな武器ですわね。でも、それぞれ使い勝手が良さそうで歴史を歩んで……ん? 歴史を、歩んで……? 

 

「きひっ、きひひひっ」

「ど、どうしたんや? 笑い方が怖いで!」

「ロキさん。()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()

「確かに教えるのはできるけど、使えんと思うで?」

「構いません」

「まあ、うちのファミリアに所属してたんやなくて、遺品を拾って手に入れただけなんやけどあるで。ティオナの武器の元になった奴や」

 

 案内された一番奥深くにソレはありました。余りに巨大で何を考えているのか訳が分からない品物です。全長二メートルを超える巨大武器。片刃の剣でどう見ても普通の人が扱えるものではありません。使われている金属も普通の金属ではありません。

 

「コレ、どこの大英雄が使っていたんですの」

「ゼウス・ファミリアのギガントマキアって奴が使ってた武器や。レベル6やったはずや」

「これ、くださいな」

「いや、絶対に使えんやろ」

「リリさん」

「いや、無理ですからね!」

「ものは試しです」

「えぇ……無理です……」

「頑張ってください!」

「無茶振りやな」

 

 リリさんが超巨大武器を小さな手で持ち上げようとしますが、当然上がりません。

 

「ロキさん。これ、ロキ・ファミリアに使える人は居るんですか?」

「誰もおらんで。かといって素材にもできひんしな。そもそもダンジョン産のネイチャーウエポン。ダンジョンのボスが使ってた奴を改造していたらしいし」

「なるほど。では賭けをしませんか?」

「賭けかいな?」

「わたくしが持ち運べたら、これを無料でください。駄目ならソーマを差し上げます」

「……ええやろ! やってみい! レベル5でも使えん奴や。持てるはずない」

「では……時喰みの城」

 

 台座の上にあるその()()*1を取り込み、影に収納しました。誰もわたくしが持つなんて言っていませんの。持ち運べたら、としか言っていませんものね。

 

「……なるほど、馬鹿みたいな重量は持ち運べるんやな。で、どう使うつもりや?」

「そんなの、上から落とすに決まっておりますの。まあ、リリさんには使えるように訓練してもらいますが」

「待ってください! 無理です! 絶対にリリには無理です!」

「できます。むしろ、させます」

 

 リリさんの持つスキル、縁下力持(アーテル・アシスト)は 一定以上の装備過重時に重量による能力値補正です。つまり、彼女ならこれが使える。巨大すぎて重量がやばすぎるからこそ、逆に使えます。

 

「というわけで、訓練用の装備一式と通常装備一式をもらいましょうか。イネスさん」

「わかった」

「手加減してな……」

「うぅ……リリはリリはどうなるんですか……?」

 

 リリには持てる限界の大剣を選び、私は普通にショートソードという名のほぼ私にとってのロングソードを選びました。

 

「ロキ、来たけど……」

「アキ、この子……だけでええの?」

「はい。私が鍛えてもらいます。それからリリさんに教えますので、大丈夫です。そこまでロキ・ファミリアに迷惑はかけられませんので」

「こっちは代金もらっとるからええけどな」

「正直、リリさんは先に肉体改造が必要ですからね」

「そっか。頑張るんやで!」

「た、助けては……」

「無理やな」

「くっ……神様も冒険者様もリリは大っ嫌いです!」

 

 そんなリリを置いて、アキさんと呼ばれた人と自己紹介をする。彼女はアナキティ・オータム。長剣使いのレベル4で、猫人(キャットピープル)らしいですの。

 

「あの、アナキティさん」

「何かな?」

「耳と尻尾触っていいですか!」

「ほほう……それを頼んでくるのね。いいわよ。代わりに撫でたり抱きしめたりしていい?」

「交渉成立ですわね」

「ええ」

「ずるい! うちも交ぜてや!」

「男性はちょっと……」

「「「ぷっ」」」

「うちは女や!」

 

 上から下まで見ます。もう一度見ます。

 

「ダウト?」

「嘘やない! 触ってみい!」

「では……硬いです」

「くぅぅぅぅっ! 下触ったらわかるやろ!」

「流石にそこを触るのは……男でしたら触りたくもないですし」

「アレ、もしかして自分……男駄目なん?」

「駄目ですわ」

「赤ロリ黒髪ツインテールオッドアイ美少女の百合やとっ!?」

 

 ロキさんが床に血を吐くようなまねをして倒れたので、アナキティさんをみます。

 

「ちなみに本当にロキは女だから。こんなのでも」

「こんなのでも……」

「というか、クルミ様と同類ですよね?」

「……リリさん」

「ご、ごめんなさい!」

「可愛いは大正義なのですわ」

「え”」

「たとえ女性でも容姿が男性なら駄目です。ただし、男性で容姿が女性なら……まあ、ある程度の接触は許しましょう。男の娘ですし。でも、男装の麗人は駄目です。ごめんなさい」

「うわぁぁぁぁぁぁぁんっ! アキ慰めてぇっ!」

「いやよ」

 

 ルパンダイブのようなジャンプをして、アナキティさんに抱き着こうとしたロキさんは避けられて床をゴロゴロと転がっていきました。

 

「では、師匠。訓練をお願いいたします。明日の朝からでよろしいでしょうか?」

「……そうね。明日の朝からでいいわよ。お金は貰ってるらしいし、クエストならキッチリとこなすわ。それでノーマルとハードがあるけれど、どちらがいいかしら?」

「ルナティックで」

「え?」

「ルナティック……こちらの事など考えずに壊すつもりで徹底的に最短コースでお願いしますの」

「本気?」

「回復ポーションの代金も十分にあるはずです。ロキさん、ソーマのボトルを一本預けるので、お金を借りたりできますか? 正確にはポーションが大量に欲しいのですが」

「ええで。オークションに出したら回収できるやろしな。うちが纏めて買っとるさかい、そこから渡したる」

「ありがとうございます。という訳でお願いしますね」

「……わかったわ。厳しくいくから覚悟なさい」

「はい。殺しさえしなければ構いませんわ」

「良い覚悟ね。カリキュラムを徹底的に組みましょう」

「ああ、泊まり込みで構いませんからね」

「了解よ」

 

 さて、話は終わったのでポーションとお金、装備を受け取って帰りましょう。私の装備は影に収納して普通にリリさんには短剣や防具など良い物を装備させておきます。手を出してくれませんか? 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ロキ・ファミリアからの帰りに必要な物を色々と買っておきました。市場調査もある程度終わったようなのでソーマの値段もだいたいわかりました。もちろん、それ以外にも調べてもらったので買物はスムーズでした。後、鍛冶師に必要な物を発注したりもしました。

 そんな訳で、ソーマ・ファミリアに戻って参りました。イネスさんには報酬のお酒を渡す前にもう少しお願いする事があるので、庭まできました。他の人達がリリさんの変わった装備に目の色を変えていますが、気にしません。

 

「では、イネスさん。お願いします」

「わかった。言われた通りに組み立てておく」

「お願いします。リリさん、着替えますよ」

「はい」

 

 部屋に戻り購入した運動着に着替えます。まあ、シャツとズボンですね。着替え終えたらリリさんが着替えている間にアサシンにゾルアスとショートソードを渡してダンジョンに行ってもらいます。

 

「しばらく帰ってこないで籠って狩ってください」

「ええ、畏まりましたわ私」

「セイバーは朝まで荷物の護衛をお願いしますね。盗んだら捕らえて尋問します。そうですわね……十年から三十年ほど時間をいただきましょう。それから解放してください。それと侵入者が来た時点で知らせてください。修行を中断して影に隠れます。それ以外は休息してください。明日、荷物は全てロキ・ファミリアに持ち込むので荷造りもしておいてください」

「わかりましたわ、わたくし。そちらも修行を頑張ってくださいな」

「ええ、かしこまりました。頑張って鍛えましょう」

 

 リリさんが着替え終わったようなので、影を伝って移動してもらってアサシンにはダンジョンへ出稼ぎに行ってもらいます。私はリリさんと合流してソーマ・ファミリアの庭にある一角へと移動しました。

 

「あの、ここで何をするんですか?」

「運動です。まずは筋力を鍛えましょう」

「あの、なんで手枷をするんですか?」

「必要だからです」

 

 無茶苦茶重い鉄の塊を両手につけてから、両足につけて足の方を鉄の棒に固定します。それをイネスさんに持ち上げてもらって逆さ吊りの状態でY字にして地面に固定してある棒にセットします。これでリリさんは吊るされました。

 

「では、イネスさん。こちらを」

「うむ」

 

 お酒を用意して、リリさんが吊るされている下で火を焚きます。

 

「ちょ!?」

「火から逃れるには常に身体を上下に揺らすしかありません。それで出来る限り腹筋と背筋を鍛えます。ポーションも大量にあるので大丈夫です」

「大丈夫じゃないです!」

「私もやりますので。これは最強の弟子を作り上げるための訓練メニューです。大丈夫、凡人でも天才に対抗できるほど育つ事が出来たのです。神々の恩恵を頂いた私達ができないはずがありませんわ。この辛い訓練を乗り越えたら、リリさんも立派なボウケンシャーになり、今まで見下してきた連中をボッコボコに粉砕できるようになります。連中が憎くはありませんか? 殺してやると思った事は?」

「ありますけれど……」

「思いだすのです。彼等のようなゴミ共に好き勝手にされたままでいいんですの? 限界を突破し、連中を粉砕してやりましょう。彼等も、小人族を笑う連中も、私達を馬鹿にする連中全て、蹴散らしてやりましょう。私と一緒に頑張ってみませんか? どうしても嫌だというのなら構いませんわ。わたくしは一人でもやりますから」

「……わかりました。リリも、リリもアイツ等は許せません! やってやります!」

「では、一緒に頑張りましょう。イネスさん、お願いします」

「心得た」

 

 さあ、史上最強の弟子くるみ・ときさきとリリルカ・アーデ計画始動ですわ。もっとも、師匠も居ませんし、うろ覚えの訓練を実行するので彼のようになれるとは限りませんが、こちらには神々の恩恵とポーションがあります。それに壊れたら時間を戻せばいいのです。試行錯誤は何事においても基本です! 

 二人で吊るされて火から逃れるために必死に筋トレを頑張りますが、少しでダウンしました。まず最初に関節を柔らかくする所からやらないと駄目でした。ですので、一度ぶっ壊してからポーションで治します。二人で交互にやってから、先程と同じ修行をします。

 

「「ひぃぃぃぃぃっ!!」」

 

 とりあえず千回できるようになるまで四時間かかりました。ポーションを飲んでから腹筋と背筋を休ませるために次は腕立て伏せです。背中に鉄の塊を載せてやります。この日はこれで終わりです。

 次の日は発注しておいた回転車を持ってきて、それを設置しました。もちろん、細く短い針を複数用意して走る速度が遅くなったらそこにぶつかるようにしてあります。痛い思いをしたくなければひたすら走るのみですわ! 

 

「死にます! 死にますぅぅぅっ!」

「人はそう簡単に死ななっ、痛っ、痛っ!」

 

 ただひたすら筋肉を虐め抜いてポーション(プロテイン)を飲んで、組手を二人でします。ちなみに筋肉痛でよろよろとしたへなちょこな戦いです。外から見たら非常に微笑ましいですね! さて、一日の最後には剣斧を取り出して二人で持ち上げる訓練もします。正直、良くケンイチおにーさんは耐えたと思います。どう考えても拷問ですわ! まあ、彼と一緒で開花するまで死ねませんし、逃げられません。というか、他の私達が逃がしてくれません。そして、私がリリを逃がしません。道連れが居た方が頑張れますもの! 

 

 この間にセイバーはアナキティさんよりロキ・ファミリアに住み込みで徹底的に型の訓練と斬り合いをしています。寝てるタイミングでも襲われるので良い訓練になりますわね。三日後にはアサシンが現在進行形で溜めている戦闘経験値のお蔭で複数人での戦いにも発展して、三日後には剣姫と呼ばれる人とみんなで戦いだしたようですわ。あちらも地獄ですわね! 

 

 アサシンはダンジョンでひたすら殺し合いです。こちらは食料を影の異空間を通して渡しているので問題ありません。寝る時は影の異空間で寝ればいいですしね。ちなみにアサシンの方はアナキティさんから教えられた剣術と体術を活かしながら、暗殺術の方を自己流で頑張ってもらっています。こちらも漫画などを参考にしております。怪我はポーションで回復し、本当にやばい怪我は時間を戻す四の弾(ダレット)で回復するので延々と戦います。一の弾(アレフ)を使った高速移動で狩ってはいますが、六階層に降りてウォーシャドウ相手に普通に勝てたので三日目からはキラーアントで稼いでいるようです。効率が段違いに良かったので、四日目からもう一人追加して、キラーアントを二ヶ所で、反対側の位置でおびき寄せる狩りをしてもらいました。こちらはわたくしのアーチャーを譲ってわたくしはルーラーにしておきます。本当は格闘技の実戦訓練を積みたいですが、キラーアント相手に自殺行為なので、普通に遠距離ですね。アサシンも影に隠れて気配をけして背後から処理する感じですし。

 どちらにしろ、順調にステイタスは上昇しております。ほぼ休まず訓練と戦闘をしているので当然ですわね。筋力などは本体しか意味がありませんが、戦闘経験と技術はありがたく更新しております。

 

 こんな風にお祭りも無視して修行の毎日を過ごしていると一週間目でイベントが起きましたの。なんと、わたくしとリリさんが一週間頑張ったご褒美に豊穣の女主人でお高いメニューを食べようと出かけたら──

 

「嬢ちゃん達、随分と良い装備してるじゃねえか……ちょっと俺達にも分けてくれよ」

「そうそう。嬢ちゃん達はここで大人しくしているといいぜ。俺達が有効活用してやるからよ」

「ぐへへ、楽しみだなぁ……」

「おまえ、ロリコンか」

 

 ……襲撃を受けたのでした。裏路地を通ったかいがありました。相手は三人。二十代と三十代ですから、平均寿命が六十としても四十年と三十年というボーナスタイムでしてよ! 

 

「リリさん、リリさん、どうしましょう♪ 強盗ですわよ!」

「嬉しそうですね……」

「待ちに待ったイベントですもの!」

「あ? まあいい。寄越してもらおうか」

 

 手を振り上げて時喰みの城を発動しようとすると、誰かが私達の前に立ち塞がりました。乱入してきたのは何処の何方でしょうか? 

 

「女の子に寄ってたかって何をしているの!」

 

 白い男の子が乱入してきたのでした。正直、邪魔ですわ。退いてくださいませんか? ソイツ等を殺せませんの。

 

「クルミ様、凄く怖い顔をしています」

「……はぁ……」

 

 白い男の子は見た感じ、それなりにやりそうではありますが……相手の方が強そうですね。ここはさっさと蹴散らしましょうか。

 

「王子様気取りか?」

「僕は王子様なんかじゃないよ。ただ、女の子を助けるのは当たり前のことで……」

「そうかよ!」

「やっちまえ!」

 

 相手が剣を抜いてきたので、男の子が短剣で受け止めていきます。そうしている間にリリさんが袖を引っ張ってきました。

 

「もう行きませんか? もう目的を果たせませんよ?」

「いえ、まだいけます。リリさんは左を。私は右をやります」

「……わかりました」

 

 互いに男の子の左右から攻撃を仕掛けようとした男の脇腹に攻撃を仕掛けます。リリさんは拳を、私は貫き手をやりました。リリさんの拳で相手は吹き飛び、私の相手は脇腹が少し斬り裂かれました。相手は即座に剣を振り下ろしてきたので、掌で弾いてから首筋を掴んで時喰みの城を極小に展開して時間を吸い取ってあげます。

 

「なっ!?」

「くそっ、聞いてた話と違う! だが……」

 

 男の子と斬り合っていた男がそう言って、男の子の短剣を弾いて懐から何かを取り出そうとしましたが、その前にまた乱入者です。

 

「そこまでにしておけ。これ以上の狼藉は覚悟してもらおう」

「ちっ、引くぞ!」

「覚えてろよ!」

「くそがぁっ!」

 

 エルフの人が現れたので、ここはもう大丈夫でしょう。

 

「リリさん。少し離れます。後で合流しましょう」

「わかりました」

 

 私は影に溶けて連中を追います。気になる事を言っていましたもの。

 

 

 

 

 

「雑魚の小人族が高価な装備を持ってるから奪うって話じゃなかったのかよ!」

「何処が雑魚だよ……おい、大丈夫か?」

「あぁ、あぁ、身体がフラフラして……」

 

 しばらくした所で、アジトみたいな場所に入ったので、私もお邪魔しました。ちゃんとノックはしましょう。ですが、残念ながら気付いてくれなかったです。他にも四人ほど居るようですわね。

 

「お前達、大丈夫か?」

「ああ、なんとか……」

「まさか、毒か?」

「いいえ、老衰ですわ」

「「「っ!?」」」

 

 全員がこちらに振り返ったので、もう一度扉をノックしておきましょう。同時に時喰みの城を展開して周りを覆っておきますの。

 

「お邪魔しておりますわ」

「つけられてんじゃねえかっ!」

「すいませんボス」

「まあまあ、争うのは後でしていただけませんか? それよりも先程、面白い事を言われておりましたね? 雑魚の小人族が高価な装備を持ってるから奪うと。わたくし、それに興味がありますので誰に私達の事を聞いたのか、答えて頂ければ殺しはしませんわ」

「やられるのは嬢ちゃんの方だぜ」

「そうだな。どうやら一人のようだし……なっ!」

 

 襲い掛かってきた男性はレイピアを抜いて刺突を放ってきます。それを回避して片手を振り抜きます。貫き手にした状態で身体を回転させながら遠心力も合わせて放った一撃は首を切り裂きました。血飛沫が噴き出し、わたくしのドレスを真っ赤に染めます。

 唇についた血をペロリと舐め取ってから次の人に目を向けると、その人は剣を振り上げていました。ですので、影から剣を取り出して低姿勢で突撃して相手の攻撃より先に懐に入って一閃します。もちろん、身体の回転もしっかりとして全身で振ったのでそれなりの威力がでました。

 

「まずは二人ですわね」

 

 二人を時喰みの城の効果で時間を全て吸い取ります。すると老人のようになっていきました。とっても美味しいです。

 

「後五人もいらっしゃるのね。食べきれるかしら?」

「何をしやがった!?」

「それをお教えする馬鹿は居ませんわ」

 

 震脚*2を使って一気に接近しながら武器の弓を構えだした相手に投げます。その間に二人が槍を手に取って突いて来るので、上に飛び上がって天井を蹴ってお二人の間に入り、小さな手で頭に触れて時間を吸い取ります。

 

「あらあら、毛根が死んでしまいましたわね」

 

 真っ白になった髪の毛が全て落ちていく死体となった彼等は更に魔物(モンスター)のように砂へと変化していきます。

 

「化け物めっ!」

「こんな可愛らしい女の子を捕まえて化け物だなんて、酷いお方ですわね。後四人ですわよ? そろそろ答えていただけますか?」

「っ!」

 

 矢が放たれたので、横に身体を倒して回避。ツインテールの片方に命中して髪の毛が数本飛びました。こちらが体勢を崩したと思ったのか、即座に残りの三人が突撃してきます。わたくしはそのまま倒れて影に入り、彼等の背後に回って蹴り、時喰みの城の異空間へと叩き落します。

 

「さて、残りはお一人ですわね」

「ひっ!? わっ、わかった! 話すから命だけは助けてくれっ!」

「ええ、構いませんわよ。わたくしは約束を守りますもの」

 

 剣を拾って残った弓兵さんに近付きます。彼はガタガタと震えながら、私を絶望に染まったかのような表情で見てきます。訓練を追加で言ったリリさんの方がとても可愛らしくてゾクゾクします。でも、これはあんまりですわね。

 

「で? 誰から聞いたんですの?」

「アンタとこのファミリアだ!」

「どこのファミリアか正確に言っていただけます?」

「ソーマ・ファミリアのカヌゥ・ベルウェイだ! アイツに言われて襲ったんだよ! ソーマを売って大金を持ってるから山分けにしようって! ただ絶対に殺すなとは言われた。痛い目にあわすだけにしろって……」

「なるほどなるほど。良くわかりましたわ」

「あっ、ああ……それじゃあ、俺達は……」

「ええ、わたくしは殺しませんわ」

 

 短銃を取り出して自らの蟀谷(こめかみ)にあてて引き金を引きます。

 

刻々帝(ザフキエル)八の弾(ヘット)

 

 三発ほど撃って新しいわたくしを三人生み出します。彼女達はわたくしからブレるように生まれて、それぞれが勝手に行動しだします。その内の一人が男を掴んで時間を吸い取っていきます。

 

「な、なんで、助けて……くれるって……」

「ええ、わたくしは助けました。でも、別のわたくしが助けるとは言っておりませんもの」

「詐欺、じゃ……か……」

 

 動かなくなったので、家探しを参りましょう。彼等が必要なくなった物は全てもらいます。テーブルとイスも使い道はあるので回収です。七人から三〇年、三〇年、五〇年、一〇年、二〇年、四〇年、四年の一八四年分を貰えました。ここから三人を生み出したので二四〇〇日と三六五日。約八年消費です。残り一七六年。一三〇年を使って時喰みの城を一五〇メートル四方まで強化します。残り二六年。こちらは緊急時に残しておきましょう。

 放った三人が荷物を回収してきてくれたので、それを選別します。あまり良い物はありませんでした。それと捕まっている女性も居たので、そちらはガネーシャ・ファミリアに……いえ、先にディアンケヒト・ファミリアに届けるべきですわね。

 

「お待ちなさい、オリジナル。ディアンケヒト・ファミリアに届けるよりもわたくし達で使った方がいいですわ」

「時を吸うのはなしですわよ、わたくし」

「もちろんですわ。彼等から奪った時間で彼女を回復して選択肢を選んでもらいましょう。ソーマや他の物を販売するにしても、手の者が必要ですわ。全てをわたくし達がやるわけにはいきませんもの」

「その意見を採用しましょう。刻々帝(ザフキエル)四の弾(ダレット)

 

 彼女に時間を巻き戻す弾丸を打ち込んで叩き起こして事情を聞くと二ヵ月前に攫われていたらしい。そこで身体を綺麗にしたり、精神的なダメージも少しは治したりできると話すと、是非にと頼まれました。彼女の家の事を聞くと普通の一般家庭らしいですわ。娘と一緒に誘拐されて娘は売られていったそうです。やはり殺して正解でした。

 

「お姉さん。娘さんも助けられたら助けて欲しいですか?」

「当たり前です!」

「でしたら、わたくし達と契約しませんか?」

「け、契約ですか?」

「はい。わたくし達の一人を娘として扱い、家と衣食住を提供してください。わたくし達はそこを拠点として娘さんを探します。つまり、拠点が欲しいのです。ギルドにもファミリアにも知られない拠点がです。これから内偵するにしても、何処に敵が居るかわかりませんから」

「わかりました。夫と相談させてください……」

「はい。じゃあ、そこのわたくし。貴女は彼女について行ってください。その後、契約できたら姿を変えてそのまま居つくように。名前をもらっておくのも忘れないように」

「かしこまりましたわ。変装はツインテールを解いて服装を変えればいいですわね。後は瞳ですが……左目は隠さないといけません。眼帯でもしますか? コンタクトは怖いですし……」

「中二病みたいでいやです。包帯で隠すか、髪の毛でお願いします。いえ、この際です。目隠しで生活して心眼を開いてください」

「無茶苦茶言いますわね、わたくし!」

「気配察知は必要な技能です。よろしくお願いいたします」

「……かしこまりました。その命令、拝命いたしましょう」

 

 残り二人は内偵です。娼館を探してもらいます。ですが、もっと数が欲しいですわね。ここはやはり、最大効率の人間狩り(マンハント)がいいでしょう。ガネーシャ・ファミリアに潜入して犯罪者を何人か殺すのは……駄目ですわね。敵対する事になります。大人しくダンジョンで稼ぎましょう。本当に時崎狂三がどれだけ凄いのか良くわかります。目標は数千体のわたくし達を集める事。まだまだ先が長いですわ。

 やはり、追加で六人作成し、キラーアント狩りをさせましょう。七階層、八階層、九階層があるので各階層に二人ずつ配置します。残り二人はローテーションの交代要員として常に狩り続ければ効率は上がるはずです。それに前に作った二人よりも、今作った六人の方が強いです。こればかりはどうしようも……いえ、良い方法がありますわね。ひょっとしたら、前の私でも強化できるかもしれません。ソーマ様には面倒をかけますが、わたくし達にもファルナがあるのですから、ステイタスを更新してしまえば理論上は昔のわたくしを更新できるはずです。元は同じなのですから。実験も兼ねてお願いしてみましょう。

 

 

 

 

*1
イメージはFateのヘラクレスが持つ巨大武器

*2
中国武術の用語で、足で地面を強く踏み付ける動作のこと





オリジナル:リリとひたすら訓練
セイバー:ロキ・ファミリアでアキと訓練中
アサシン:ダンジョンでキラーアント狩り
アーチャー:ダンジョンでキラーアント狩り
くるみ六人:ダンジョンでキラーアント狩り
くるみ二人:娼館など情報収集
くるみ(娘):民家で娘として目隠し状態で生活
くるみの寿命:三〇年。分身の寿命一年
十三人の刺客ならぬ、十三人のくるみが存在。

刹那に生きてる……一年以内にある程度、体勢を整えないと終わりだと思ってる生き方です。

リリ:最強の弟子計画により全体的に成長中。才能が無い? 人はやればできるのです(おめめぐるぐる


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リリのこの恨み、晴らさずおくべきか

 

 

 クルミ様が逃げた連中を追っていったので、どうしようか悩みます。まあ、お礼を言ってさっさとお店に向かうとしましょう。訓練……いえ、修行で身体中が痛いですし。

 

「あの、助けて頂いてありがとうございました」

「いえ、僕の方こそ助けてもらってありがとうございます」

「そもそも助けは必要なかったようですね」

「みたいですね……凄い力をお持ちで……」

 

 壁には人が埋まったような跡があります。これ、リリがやったんですよね。ちょっと信じられないです。確かにクルミ様から施される修行は厳しいですが、着実に力が付いているのがわかります。たった一週間でこれなのですから、リリが今までどれだけ怠けていたのが理解できて、少し憂鬱になります。

 

「いえ、リリも自分で驚いています」

 

 靴と腕輪、服。どれもかなり重量がある物になっています。クルミ様が用意した鉄製の重りをそこかしこに縫い付けてあるので、重量は数十キロを軽く超えています。リリが普段持っているバックパックより重いです。

 

「っと、急いでいるのでそれではこれで失礼しますね」

「アレ、もう一人の子は……」

「既に行かれましたよ」

「そうなんですね。それよりも助かりましたリューさん」

「貴方が怪我をしたらシルが悲しみますから。それに私はほとんど何もしていません。声をかけたくらいですよ」

 

 そんな会話を後ろで聞きながら、移動していきます。ある程度離れたら、シンダー・エラで獣人(シアンスロープ)に変身してから豊穣の女主人に向かいました。

 到着したら、高い物をいっぱい頼んで先に食べておきます。大きな肉に齧りついてパクパクするのはこの姿ではとっても美味しいです。

 

「霜降りステーキおかわりです!」

「かしこまりましたにゃ。だけど、お金は大丈夫かにゃ?」

「お金なら……あ、予算は二万ヴァリスで、そのうち一万ヴァリスはお持ち帰り用の料理を小分けにしておいてください。お金は先に渡しておきますので、そちらにメニューはお任せします」

「ありがとうございますにゃ」

 

 先にお金を渡しておけば文句は言われません。お持ち帰り用はクルミ様の影へと入れて皆で食べる物だそうです。皆とは誰かは知りませんけど。

 それより、次はパスタを食べましょう。たまにしかこんな豪華な食事はできませんしね。明日からまた修行漬けの毎日ですし。

 

「はうっ!?」

 

 食べていると、後ろから抱き着かれて耳をモフモフ、カミカミされて身体の力が抜けて変な声が出てきます。とりあえず裏拳を放ちますが、その前に離れられました。後ろを向くと予想通り、クルミ様が悪戯っ子のような表情でおられ、こちらに歩いてきます。店の人達の視線がかなり集まっていてはずかしいです。

 

「な、にゃにをするんですかっ!」

「何って、先に食べていたお仕置きですわ」

「……注文していなかったら、いなかったで怒るじゃないですか。それに熱い内に食べるのが一番美味しいんです。作ってくれた人の為にもその方がいいのです」

「まあ、わたくし達だけですから別に構わないのですけどね」

「でしょうね。リリの耳を弄びたかっただけですもんね!」

 

 向かいの席に座り、テーブルの上にある料理を食べていくクルミ様。クルミ様は肉ではなく、魚をメインに食べられました。マナーが凄く良くて綺麗に食べていく姿は服装も合わさって完全に何処かのお姫様です。

 

「すいません。お酒は何がありますか?」

「お酒ですね。エールと……」

「ワインとかはありますか?」

「あります」

「では、料理に合うお酒を。値段は気にしなくていいですわ」

「かしこまりました」

 

 いつの間にか近くに居た先程会ったエルフの人がワインを持ってきてくれました。それをグラスに注いでリリとクルミ様に渡してくれます。一口飲むと確かに美味しいです。美味しいですが……

 

「駄目ですわね」

「何か不手際がございましたか?」

「いえ、わたくし達の舌がこのお酒に合わなかっただけですわ」

「クルミ様。普段からあんなのを飲んでいたら普通のお酒じゃ満足できないのは当然ですよ。少ししか飲んでいないリリでもそうなんですから」

「それもそうですわね。すいませんが、自前のお酒も使って構いませんか? その方が美味しく頂けるので」

「少しお待ちを。相談してまいります」

「お願いします」

 

 嫌な客ですね。まあ、リリはこのお酒でもいいのでリリが飲みましょう。

 

「あ、こら。待ちなさい。これは混ぜて使うのです。全部飲んだら駄目ですわよ」

「何にするんですか?」

「カクテルといって、複数のお酒を組み合わせて飲む物があるんです。そうすればここのお酒だって飲めるように……」

「へぇ、私んとこの酒が飲めねえってのかい?」

 

 クルミ様の肩に大きな手が置かれました。クルミ様はギギギという感じで後ろを向くと、そこに身長の高いポニーテールの女性が居ました。

 

「いえ、飲めなくはないんですが、料理に比べるとお酒がいまいちなのです」

「ここは高級なもんもあるけれど、あくまでも大衆食堂だからね。お嬢ちゃんのようなお貴族様に合うようなお酒は高すぎて置いてないよ」

「ですが、料理のレベルは高いのに勿体ないですわよ?」

「安く仕入れられるんならいいんだけどね……とりあえず、嬢ちゃんの言うお酒を少し飲ませてもらおうか」

「なるほど、勝負ですわね。賭け金は……そこのエルフさんの耳を触らせてくれれば……」

「え、嫌です」

「リューの耳はお高いから駄目だね」

「エルフに何を言っているんですか」

「じゃあ、そこの猫さんで。一緒に試飲していいですよ」

「私ですか?」

「クロエか……いいだろう。アンタもいいよな?」

「私は構いませんよ」

「では、勝負と参りましょうか」

 

 クルミ様はリリが持っていたバッグに手を入れるふりして影の異空間から必勝のボトルを取り出しました。ええ、必勝です。

 

「あほかぁっ! ソーマなんて持ってくるんじゃないわっ!」

「きひひっ! 純正品の市場にほぼ出回らない物でしてよ! これでわたくしの勝ちは確定ですわね!」

「大人げないですよ、クルミ様」

「まったくだ。数千から下手したら数億ヴァリスの酒なんて出されたら勝ち目ないっての」

「勝負ならばありとあらゆる手段を用いて勝ちますの。まあ、冗談ですが」

 

 ボトルを仕舞いこんで、次のボトルを複数出しました。この一週間でソーマ様と一緒に隙を見て作られていたお酒ですね。製作日数が一週間ですが、ソーマ様とクルミ様が協力して作られたお酒は大衆向けの物です。

 

「こちら、わたくしが販売する予定のリキュールと言われるお酒です。大衆向けの量産品となりますのでかなりお安くできますわ」

「ちゃんとした物もあるようだね」

「まずは単品で飲んでみましょう」

 

 リリも含めた四人で飲みます。まあ、これは先程のお酒よりも少し美味しい程度ですね。ソーマには比べ物になりません。

 

「これならそこまでかわらんだろ」

「ですね」

「はい。次はこちらの器具を使いまして……」

 

 クルミ様が器具を取り出して複数のお酒を混ぜたり、果物の汁を絞って混ぜました。それから蓋を閉じて両手でシャカシャカ振っていきます。というか、楽しそうに踊りながら振っていますね。

 

「それ、要るのかい?」

「いえ、別に上下に振るだけで問題ありませんわ。今のはパフォーマンスですわね」

「なるほどね」

 

 新しいグラスを用意し、そこに器具の中身を入れていきます。色が赤くてとても綺麗です。やっぱり赤が好きなようですね。

 

「カシスです。もう一品作りますので飲んでみてください」

「ふむ。これは美味しいね。どちらかというと女性向けの物になるか」

「はい。男性向けのもありますが、とりあえずは女性向けを出しました。見た限りでは女性客は少なそうですし」

「男共の方が多いから、これは客寄せになるかも」

「だね。問題は値段だが……」

「一杯三〇〇ヴァリスぐらいですわね」

「これなら冒険者なら飲めるか」

「ええ。それにもっと高級にもできます。例えばこちらの市販されているソーマよりも熟成が弱い、若い物ですが、お値段はボトルで六〇〇万ヴァリス。ですが、一滴からスプーン一杯分を混ぜるだけでかなり味が変わります」

 

 クルミ様が新しく作ったお酒をソーマを入れた物と入れない物を作り、それぞれ飲み比べをさせてくれました。ソーマが入った方はランクアップしていました。もう、存在としての格が上になっているのです。

 

「一気に美味くなったね。確かに入れるのが少しならその分安くはできるか……」

「ミア母さん。買ってください」

「そうにゃ! クロ達だけずるいにゃ!」

「そうだそうだ! 俺達にも飲ませろ!」

「あ~ソーマ・ファミリアに注文したらいいのかい?」

「わたくし達はソーマ・ファミリアではありますが、これはわたくしが作っているお酒なので、わたくしにお願いします。この権利は誰にも渡しません。わたくしが命を削って作っているんですもの」

 

 普通に聞いたらそれだけ大事な物って聞こえますが、文字通り命を、時間を削って作っているので嘘とも言えないんですよね。

 

「ああ、ボトルはお高いので樽で買いませんか? そちらの方が安くなります。まあ、劣化も早くなりますが……」

「ボトルと両方かね。気に入った客が買って帰るようにするべきだろう」

「いえ、そこまで生産が追いつかないので、この店だけにしばらくは卸しますわ」

「いいのかい?」

「代わりに大量の注文に応えてくれませんか? ここの料理をわたくし達全員で食べたいと思いますので」

「……事前に注文してくれたら仕入れの量を増やすからいいよ。予約なしは無理だけどね」

「では、それでいきましょう。器具に関しては発注をあげないといけませんが、とりあえずはこちらでお試しくださいませ。味は振り方などによっても変わるらしいので、研鑽が必要です」

「リュー、アンタがやんな」

「わかりました」

 

 エルフさんが色々とやっていきますが、早すぎて分離までしたものまでありました。クルミ様がしっかりと教えていってます。所々でエルフ耳を狙って動いていますが、キッチリガードされていますね。

 

「ところで、アンタ……いいのかい?」

「はい?」

「ほとんど連れの嬢ちゃんに食べられてるけど……」

「え? あーっ! リリさん! ずるいですわよっ!」

「クルミ様。食事は弱肉強食なのです。早い者勝ちです。ちなみにコレ、クルミ様に教えられましたからね。何度リリのおかずを取られたか……」

「くっ……アレも修行の一つですが……いいですわ。追加注文するだけですし」

「じゃあ、これとこれを……」

「アレ、なんでリリさんが注文を……」

「文字読めませんよね?」

「くっ……」

 

 ちなみに私が注文したのは激辛料理です。それをミアさんに監視されながらヒーヒー言いながら必死に涙目で食べるクルミ様は可愛らしかったです。これで少しは復讐できました。もちろん、監視して影に収納させるような事はさせません。

 

「リリさんのバーカ、バーカですわっ!」

「馬鹿じゃないです。クルミ様が文字を読めないのが悪いんですよ。一つ賢くなりましたね?」

「このっ! 覚えているがいいですわ! この恨み、何れ晴らしてくれます!」

「それはリリの台詞です! 無茶苦茶な修行をされている恨みは忘れていませんからね!」

「隙ありですわ!」

「甘いです」

 

 リリの口に目掛けて投げられた激辛肉団子をフォークで弾きます。クルミ様も打ち返そうとして別の手が肉団子を掴んで食べました。そして、すぐに私達の口に更に激辛なヤバイ鶏肉が放り込まれ、私達はそろって口を押え込んで悶えます。

 

「アンタ達、食べ物を粗末にするんじゃないよ! 遊ぶなんてもってのほかだ! いいね!」

「「(こくこく)」」

 

 二人で一生懸命に頷いてとっても怖くなったミアさんから許してもらい、二人で和解して全部平らげました。その後はクルミ様に四の弾(ダレット)というのを撃ってもらってダメージを完全に抜きました。味覚が破壊されるのはヤバイです。あの辛さは凶器だとリリは思います。

 

 




お酒の売り込みをしつつミア母さんにお叱りを受けるというだけのお話です。


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ロキ・ファミリアのくるみちゃん

ロキ・ファミリアの下の部分を加筆修正しました。


 

 

 

 やってまいりましたロキ・ファミリア! 本日からここでしばらくお世話になります。セイバー・くるみとして頑張りますわ! 

 

「たのも~です!」

「ああ、話は聞いている。どうぞ」

 

 門番の人に案内してもらい、ロキ・ファミリアの中へと入っていきます。すぐにアナキティさんの所へと連れていってもらいました。

 

「それでは後はよろしくお願いいたします」

「ええ、任せてください」

 

 案内してくれた人が居なくなったので、アナキティさんの方を見ながら、今日来る前に買ってきたバッグからお菓子を取り出してアナキティさんに渡します。

 

「本日よりよろしくお願いいたしますわ」

「ご丁寧にありがとう。これから部屋に案内するわね」

「はい」

 

 案内してもらった部屋は一人部屋だったので、荷物を置いて早速お願いしようと思います。

 

「では、剣術を教えてください」

「ええ、わかったわ。でも、その前に着替えなさい。まさかその格好でやるわけにはいかないでしょう?」

「一応、これでダンジョンに潜っているんですが……」

「そういえば……その服を着た子が……」

「どうしましたか?」

「いえ、なんでもないわ。それでそのままの服でダンジョンに潜るつもりなの?」

「はい。これで行きます。これが私のアイデンティティーですから」

「そうなのね。ならいいでしょう。こっちよ。訓練は中庭でするから」

「畏まりましたわ」

 

 アナキティさんに案内してもらい、中庭に連れていってもらいました。そこには新人であろう人達も訓練しています。

 

「まずは剣の握り方から教えるわね」

「お願いします」

 

 剣の握り方を教えてもらい、続いて振り方を教えてもらいます。振り下ろし、振り上げ、左右からの薙ぎなど、基本的な四つの型を教えてもらいました。究極的な剣での攻撃はこの四つだけらしいです。

 

「とりあえず正しい持ち方で一〇〇回、振って動きを矯正しましょう」

「一〇〇回……わかりました」

 

 まずは基本的な振り下ろしからアナキティさんに矯正してもらいつつ、最適な動きを身体に覚え込ませていきます。

 

「正直言って、才能がありませんね……」

「わかっております。ですが、努力で覆しますわ。剣こそがわたくしの存在意義ですもの」

 

 さて、一時間ほど剣を振りましたが、才能はないのでやはり上手くできません。ですが、どうにかする方法はあります。わたくし達は互いの記憶を参照する事ができます。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 更に一時間。常に最適な動きと比べて修正していくことで、剣の軌道が安定し、身体全体を使って剣に力を全て伝えられるようになりました。

 

「きひ、ひひ、ひひひひっ」

 

 しかし、もっとわたくしに合った効率的な剣筋ができるでしょう。徹底的に鍛えましょう。テンションも上がってきました! 

 

「急に良くなったわね。次の型を教えましょう」

「お願いしますわ」

「ええ」

 

 一日目は全ての型を教えてもらい、それをただひたすら振って、振って、振り続けて最適化して他のわたくし達に渡しておきます。

 今日は筋肉痛でここからの更なる最適化は任せます。というわけで、アサシンにバトンタッチですわ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 アサシンが寝ずにダンジョンで狩りを続けて実戦に適したように組み替えていってくれました。その知識と記憶をダウンロードし、インストールします。頭が少し痛くなりますが、他のわたくし達の記憶は要らないので、問題ありませんわ。

 さて、しっかりと記憶を確認してから外に出て、戦闘で最適化した剣術を身体に覚えさせます。イメージトレーニングとして相手の魔物(モンスター)を投影して戦いますわ。

 

「おはよう。早いのね」

「時間は有限ですし」

「そうね。それじゃあ、相手してあげるわ」

 

 アナキティさんが剣を抜いて相手をしてくれましたので、濃厚な戦闘経験が手に入れられます。わたくしに合わせてしっかりと指導いただけます。

 わたくしの限界ギリギリに対応できる速度で襲ってくる剣を必死で弾きますの。弾くだけではすぐにジリ貧ですので、こちらから攻撃をしかけます。ですが、剣を弾かれてやり直し。ただひたすら剣でアナキティさんと模擬戦をして、身体を切り刻まれます。少しでも体勢が崩れたり、ミスをすると傷が増えます。

 しばらくして身体中を斬り刻まれて動けなくなり、沢山の傷から血がでてきますの。それをポーションを使ってすぐにもう一度戦います。

 

「まだまだ甘いわ」

「はっ、いっ!」

 

 戦っている間に真剣に考えます。アナキティさんの剣技を吸収し、自らの力とします。これが私の役目。セイバーのくるみとしての存在意義ですわ。それも一年という短い時間で剣の深奥へと到達しなければいけません。

 しかし、普通の方法では不可能ですですので、偉大なる先人を見習いましょう。心も身体も全て剣として作り変えます。そう、私が目指すべきはかの赤い弓兵さん。体は剣で血潮は鉄。心は硝子そんな彼を目指します。故にやる事はたゆまぬ訓練。そして、赤い弓兵さんと同じ裏技をやりますわ。

 

「さあ、もっともっとです!」

「ええ、いいわよ」

 

 何度も何度も模擬戦を繰り返し、倒れては立ち上がり、再度挑みます。それから食事をしてもう一度やります。アナキティさんが仕事で席を外す時はただひたすら剣を振ります。模倣するにしても、まずは基礎が大事ですもの。

 

 

 

 ◇◇◇ アナキティ 

 

 

「アキ、彼女はどうかな?」

「最初は才能が無いと思ったけれど、努力の才能はあるみたい。それと記憶力がとてもいいみたい。一度教えた事は反復してしっかりと修正してくるわ。でも、それだけ。やっぱり剣は一定以上の力にならないと思います。身体が非力すぎるし、リーチが足りない」

「まあそうだろうね。それに彼女本来の武器は銃みたいだし」

「どうしますか?」

「彼女が満足するまで付き合ってあげてくれ。それが契約だ」

「わかりました」

 

 夜になって団長に報告した後、部屋に戻る時にふと中庭を見るとそこに何かが動いていた。視線をやると金色の光が動いている。それは瞳のようで、集中して見ると人影でした。

 

「あの子っ!」

 

 慌てて中庭に向かうと、未だにクルミは動いていた。彼女の動きはどんどん洗練されていき、振るわれる剣はかなり鋭くなっている。

 

「もう寝なさい」

「いえ、まだですわ。まだ一万回に達しておりませんもの。アナキティさんは先に休んでいて構いませんよ」

「付き合うわ。私が貴女の指導係なのだから」

「では、お願いします」

 

 無理矢理寝かすためにも彼女をボコボコにしたのだけど、それでも異常な執着で立ち上がり、挑んでくる。三十回目でようやく気絶してくれたので、彼女をベッドに放り込んでから私も寝る。まるで人形姫と言われていた時のアイズみたいにがむしゃらにやっているみたいで、不安になる。同じぐらい、それ以上に幼い身体なのにやっている事は狂気の沙汰ね。

 

 次の日。彼女の実力が更に上がっていた。驚いていると、それを見たアイズも彼女の成長の秘密を知ろうと参加してきた。だから、アイズ対くるみを含めた新人達で戦わせてみたけれど、アイズが圧勝していた。普通は絶望に覆われるところを、彼女は楽しそうに笑いながら果敢に挑んでいく。数日で彼女もいっぱしの剣士となり、それなりに斬り合える程度には成長していたのは本当に驚く。でも、やっぱり不安になる。アイズみたいにならないかしら? 

 そう思っていたら毎日朝から深夜までアイズと一緒に戦いだして二人を叱って寝させる日々になってしまった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 2月22日。彼女がロキ・ファミリアで過ごすようになってから一週間が経った。そこで何時もの通り、朝からアイズとクルミ、私の三人で訓練してから朝食を食べていると、ティオナ達がやってきた。

 

「ねえ、アイズ~! お金稼ぎにいかない? こないだ大双刀(ウルガ)を壊しちゃったでしょ? 買い直すのに代金が必要でね~。たしか、アイズもそうだよね?」

「……うん、私も借りたレイピア壊しちゃったから……四千万の……稼がないと……」

「ティオネやアキ達もどう?」

「私はパス」

「私は……クルミの訓練がありますから……」

「ダンジョンでやればいいじゃん! 訓練ばかりするよりも、適度にダンジョンで実戦をした方が強くなれるって! ね! そうだよね? そう思うよねクルミちゃん!」

「……そうですわね。その考えに一理ありますわ。わたくしはお金は要りませんが、もっと下の魔物(モンスター)とも戦ってみたいですし」

 

 くるみも乗り気になってしまった。これはどうしようかと思っていると、団長がやってきた。

 

「どうしたんだい?」

「お金を稼ぐために皆でダンジョンに行こうと思って話してたの。団長もどう?」

「ふむ。確かにたまには身体を動かすのもいいか。幸い、片付けないといけない仕事は終わっている。いいだろう。僕も行こう」

「それなら私も行きます!」

「ティオネもかい?」

 

 ティオネは確か、くるみと揉めていたはずだから、団長の懸念ももっともね。大丈夫? 

 

「それは……」

「あら、わたくしは構いませんことよ」

「いいのかい?」

「ええ、問題ありませんわ。既に謝罪の品物は頂いておりますし、わたくしとしては仲良くしたいですもの、ええ」

「私は仲良くしたくない」

「「ティオネ……」」

「だって団長につく悪い虫なのよ!?」

「そうですわね。でしたら、少し二人だけでお話しませんか?」

「「「ちょっ!」」」

「大丈夫ですわ。こちらへどうぞ」

「いいでしょう」

「待った。一応、ティオナを連れていってくれ。もしもの場合はあったら困るからな」

「まかせて!」

 

 団長の言葉に三人も納得したようで、少し離れた場所で話しだした。こちらが聞こえない場所みたい。

 

 

 

 ◇◇◇ ティオネ

 

 

 

「さて、ぶっちゃけますが……わたくしがディムナさんに靡く事はありえませんわ」

 

 泥棒猫が後ろからティオナに抱きしめられながら言ってきたけれど、そんなの信じられるわけがない。

 

「は? 団長の素晴らしさがわからないとでも?」

「いえ、それ以前の問題ですわ。わたくし……女の子が好きですので」

「「え?」」

 

 コイツ、同性愛者という奴なのかしら? 

 

「わたくし、中身が女性より男性よりなので、恋愛対象も女性の方になりますの。ですから、無理矢理にでもされない限り、わたくしが男性とお付き合いする事はありえませんわ。考えただけでも虫唾が走りますもの。そちらもそのように考えて行動してくださいまし」

「……つまり、私とかも対象になるのかな~?」

「ティオナさんは十分になりますわね。だから、こうして抱きしめていると……襲うかもしれませんわよ?」

「……っ!?」

「きひっ」

 

 急にティオナが後ろに跳んでから、身体を両手で抱きしめる。それを見た彼女はニヤリと笑ってティオナを振り返ってみている。それは獲物を見るような目で……

 

「これガチな奴だよ! だって、私の大切な所を触ろうとしてきたもん!」

「まあ、わかりやすくしただけです。この身の存在意義は剣ですから、今は性欲よりもそちらが最優先ですわ」

「……そうなのね。じゃあ、本当に団長には手を出さない?」

「ええ、ええ、もちろんですとも。むしろ、早くくっついて頂けませんの? わたくしやリリが狙われても迷惑ですわ。なんでしたら、協力してさしあげても構いませんわ」

「本当?」

「ええ、本当ですわ。ただ、無料というわけにはいきませんから、そうですわね……ゾルアスの使い方を教えてくださいまし。報酬はそれでかまいませんわ。裏切った場合は後ろからでもバッサリやってくれて構いませんから」

「……いいでしょう。よろしく頼むわね」

「きひっ。任され、ましたわ……あの、ティオナさん? なんでまた抱きついてくるんですの?」

「よくよく考えたら別にいいかな~って。くるみちゃん可愛いし、撫でまわしたいから! それに可愛い悪戯程度だもん」

「……そうね。むしろ、ティオナが悪戯する方じゃないかしら?」

「ちょっ、何処触ってっ! たすけっ!」

「それは契約外よ」

「そ~れ~」

「ひゃぁっ! 脇はらめっ、ですってぇっ!」

 

 悲しいけれど、レベル1とレベル5じゃ悲しいぐらい実力が離れているのよね。とりあえず、これで一緒に行っても問題ないわね。

 

「団長~こっちは問題なくなったよ~」

「そうかい?」

「ええ、だから一緒に行きましょう団長」

「あ、ああ……問題は何処までいくかだね」

「上層はお金にならないから、下層がいい」

「レベル1の彼女が居るんだ。あまり無理はさせられない」

「いえ、戦えないレベルになれば支援とサポーターとしての仕事に徹しますのでお気になさらず。ただ、一度ステイタスの更新にファミリアへ戻らせて頂きますが、それだけですわね」

「それは構わない。じゃあ、とりあえず、リヴィラまで潜ってみようか。各自、一緒に向かう者は準備してくれ」

「「「はい!」」」

 

 最終的に向かうメンバーは二人追加されて、アイズ、ティオナ、レフィーヤ、リヴェリア、フィン、くるみ、アキ、私になった。

 

 

 

 

 



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ロキ・ファミリアのくるみちゃん2

時系列が混乱しましたが、問題ありません。
オリジナルが22日にベルと会っていますが、セイバーちゃんはその時にはダンジョンに潜っていますからね。

前の話は追加があるので、今日読んでない人は繋がってないと思います。


 ロキ・ファミリアと共にダンジョンに潜る事になりましたので、ソーマ様にステイタスを更新してもらう為に戻ってまいりました。庭からリリさんの悲鳴が聞こえていますが、気にしません。

 

「ソーマ様、くるみです。失礼しますわね」

 

 ノックしてから返事を待たずに部屋に入ると、ソーマ様は相変わらず酒造りに没頭しています。現在は様々なリキュールを作り出しているようですわね。

 

「ソーマ様」

「くるみか」

「ステイタスの更新をお願いしますわ。これからダンジョンに潜って参ります。リヴィラまでは行くそうですので、そこで何かお酒に出来そうな物を確保してまいります」

「わかった」

 

【名前】くるみ・ときさき

 

【レベル】1

 

【基礎アビリティ】

 力  I 036→H 124

 耐久 D 535→C 606

 器用 H 246→E 408

 敏捷 G 120→G 241

 魔力 D 503→C 697

 

【魔法】

 

刻々帝(ザフキエル)

一の弾(アレフ)】:対象の外的時間を一定時間加速させる。超高速移動を可能とする。

二の弾(ベート)】:対象の外的時間を一定時間遅くする。意識までには影響を及ぼせないが、対象に込められた運動エネルギーも保持される性質がある。

三の弾(ギメル)】:対象の内的時間を加速させる。生き物の成長や老化、物体の経年劣化を促進する。

四の弾(ダレット)】:時間を巻き戻す。自身や他の存在が負った傷の修復再生が可能で、精神的なダメージにもある程度有効。

五の弾(へー)】:僅か先の未来を見通すことができる。戦闘中、数秒先の光景を視ての軌道予測等に使用できる。

六の弾(ヴァヴ)】:対象の意識のみを数日前までの過去の肉体に飛ばし、タイムループを可能とする。

七の弾(ザイン)】:対象の時間を一時的に完全停止させる。

 強力な分消費する時間は多め。

八の弾(ヘット)】:自身の過去の再現体を分身として生み出す。分身体は本体の影に沈む形で待機が可能。生み出された分身体を全て駆逐しない限りいくらでも呼び出すことが可能であり、殺害されても何度も蘇る。分身体のスペックは本体より一段劣っており、活動時間も生み出された際に消費した『時間(寿命)』しか活動できない。また、基本的には天使を行使することも出来ない。情報のやり取りを通じて記憶を共有する事もできる。

九の弾(テット)】:異なる時間にいる人間と意識を繋ぎ、交信することができる。撃ち抜いた対象者と会話したり、見聞きしたものを共有できる。

一〇の弾(ユッド)】:対象に込められた過去の記憶や体験を知ることができる。

十一の弾(ユッド・アレフ)】:対象を未来へ送ることができる。進む時間に応じて消費する時間・魔力は加速的的に上がってゆく。

十二の弾(ユッド・ベート)】:対象を過去へ送ることができる。遡る時間に応じて消費する時間・魔力は加速度的に上がってゆく。歴史を改変し元の時代に戻ってきた場合、その特異点となった人物は改変前の記憶を保持、または思い出せる。

 魔力と寿命を消費して発動する。発動には基礎コストとして十日を消費する。また、発動する魔法の数字が上がるにつれて十日ずつ関数で消費が増加する。六の弾(ヴァヴ)からは百日に増加。

 

神威霊装・三番(エロヒム)

 歩兵銃と短銃の二丁拳銃を物質化する。攻撃に使う銃弾は物質化した影で出来ている。

 

 

【スキル】

 

時喰みの城(150)

 周囲に影を張り巡らせ、自らの影に異空間を作成する。影に触れている存在の時間を吸い上げる。異空間の中に沈んで移動や潜伏ができる他、特定の人物を引きずり込んでの捕食や保護も可能も可能。作成には寿命を一年消費する。寿命を一年消費するごとに異空間の広さを拡張できる。一メートル四方、一年ずつ増やせる。

 

 

 スキルや魔法の追加はありませんでしたが、それでも順調に成長しております。問題はこれがオリジナル(ルーラー)と共通しているのかどうかですわね。それはルーラーが確かめないとわかりません。魔法の二つが薄くなっているのは、わたくしがルーラーではないので使えないからですわね。

 

「ありがとうございます。それでは行ってまいりますわ」

「ああ」

 

 こちらも見ずにすぐに作業に戻られたソーマ様を置いて、影を使って外に移動します。ついでにルーラーから短銃と一の弾(アレフ)から四の弾(ダレット)までの弾丸を貰っていきますの。これで緊急時でもある程度は対応できますわ。わたくしも魔法を使えたらいいのですが、そう上手くはいきませんわ。

 さて、他にも欲しい物があるので色々と買ってから鋼鉄の金庫に保管して影に沈めておきます。

 

 

 

 準備が整ったので待ち合わせ場所に向かうと、既に皆さんがお待ちでした。わたくしが一番最後のようでした。

 

「お待たせいたしました」

「本当にその格好でいくんだね~」

「ええ、これがわたくし達の正装ですもの」

「可愛いから大丈夫」

 

 ティオナさんと話していると、アイズさんもこちらにやってきてわたくしの頭を撫でてきます。何故か、彼女の近くに居ると落ち着くのです。身体の奥底でわたくしの何かが共鳴しているような……もしや、彼女はわたくしの一人!? いえ、それはありえませんわね。

 

「よしよし、いい子」

「ふにゃ……って、流石に顎とか首は撫でないでくれませんかっ! ペット扱いとかぶち殺しますわよっ!」

「ごめんなさい」

「まったく……」

「二人共、遊んでないで行くよ」

「うん、行こう」

「ええ」

 

 差し出された手を握ってダンジョンに入っていきます。ダンジョンの中に入ればすぐに下の階層を目指すために皆さんが走ります。私は流石に第一級冒険者である彼等にはついていけませんので、アイズさん肩車してもらいながら進みます。

 六階層までジェットコースターみたいな速度で駆け抜けたので、すこしフラフラしますが問題ありません。そんなわたくしはある魔物(モンスター)が生まれようとしている壁の前で降ろされました。

 

「ウォーシャドウよ。コレを相手に戦ってみて。危なくなったから助けるから。いいですよね、団長」

「ああ、構わないよ。くるみもいいかな?」

「ええ、構いません」

 

 少し動いてから、影から剣を取り出して構えます。ウォーシャドウは地面に降り立つと、すぐにわたくしの方へと駆け抜けてきます。相手の身長はわたくしよりも大きいので、懐に入り込むように駆け抜けて、刃となっている相手の腕を剣で弾き空いている手で魔石がある位置に手を突き入れて引き抜いてやります。

 

「えっ、えぇ……」

「剣使うんじゃないんだ……」

「この程度なら余裕ですもの」

 

 魔石を袋に入れてから自分の影に落としてから皆の方に向こうとして、即座にその場で回転して一閃します。剣を振るった先にはダンジョンリザードが居ました。そいつの腹を微かに斬りました。即座にバックステップで下がる事で、血と相手の身体が先程までいた場所に落ちて来たダンジョンリザードを避け、影にした部分からそのまま底なし沼のように時喰みの城へとご招待してさしあげます。

 

「ナニソレ」

「収納スキルか魔法じゃないの?」

「知っておりますか? 生物って高所から落ちたら死にますのよ?」

「「っ!?」」

 

 質問してきたティオナさんとアイズさんに教えてあげてから、松明の光で壁に出来ている影に手を入れて魔石を取り出します。

 

「なるほど。君にとってそれは収納というだけでなく、攻防一体のスキルでもあるというわけだね」

「ええ、ご慧眼ですわ。これのお蔭でミノタウロスの相手をできましたもの。もっとも、ミノタウロスはこじ開けて出てきましたが……」

「団長。どうですか?」

「使えるね。お金を出して雇っても問題ないレベルだ」

「わかりました。くるみ。ここからは貴女が先行して魔物(モンスター)を狩りなさい。私がサポーターにつきます」

「了解ですわ」

「私達はいっぱい来たら処理かな~?」

「ええ、お願いします。アイズさんもくれぐれも手を出さないように」

「うん……残念……」

 

 話は決まったので、アキさんと一緒にツートップで駆け抜けます。現れた魔物(モンスター)は効率的に首や魔石を串刺しにするか、時喰みの城に落とし込んで処理していきますの。もちろん、魔石は取り込まないようにしておきます。

 そうして六階層から七階層に移動し、そのままわたくしが先頭で七階層を目指します。七階層ではニードルラビットやパープル・モスが出てきますが、どちらも身体全体で振るう剣で殺せる事がわかっておりますし、アサシンからのフィードバックで嫌というほど戦い慣れているので弱点をついて瞬殺します。

 そのまま七階層を突破して八階層、九階層と進んでいきます。九階層はもう通いなれた庭みたいなものです。アサシンのわたくしが常にここに常駐しておりますもの。

 

「待て。そこに居るのは誰だ!」

 

 フィンさんの言葉でわたくし達は止まり、曲がり角の先を注視します。そこでわたくしは気付きました。ですので、すぐに走ってそちらに向かいます。他の人も追ってきますが、その前に通路に入った瞬間に剣を振ります。相手はしゃがんでそのまま見えなくなりました。

 

「危ないよ」

「いえ、問題ありませんわ。それに誰も居ませんでした。もしくは逃げたのかもしれませんわね」

「誰かが居たのが確実だが……まあ、逃げたのならいいだろう。他の冒険者かもしれないしね。ただ、くるみ。飛び出すのは止めてくれ。今回は僕達が一緒なんだ。危険がある場合は僕達の中から派遣する。君はあくまでもソーマ・ファミリアから預かっているお客さんなんだからね」

「ええ、そうでしたわ。ごめんなさいまし」

 

 剣を腰にある鞘に戻し、隊列の真ん中に戻りますわ。ここからはわたくしにとって未知の領域ですものね。一人かリリさんと共にあればわたくしが先頭に立ちますが、今は先達が居るのですから、彼等に任せるのが道理でしてよ。そうでしょう、()()()()

 

『ええ、その通りですわ、わたくし。この階層に飽きてきていましたの。ですから、もっと下へ行きたいのです。連れて行ってくださいまし』

『まったく、いきなり現れてビックリ致しましたわ。もう少しでバレるところでしたわよ?』

『こちらこそ、いきなりわたくし達が現れて驚きましたわ。とりあえず、ルーラーには伝えずにこのまま行きましょう。記憶を読みましたが、リヴィラはわたくしも興味もあります。あの街なら何人か消えても問題にならないかもしれませんしね』

『確かにその通りですわね。まずは調べる事が重要ですしね。許可しますが、後で怒られてもしりませんよ、わたくし』

『あちらもわたくしなんですし、連帯責任ですわ。そもそもわたくしの責を糾弾するのもわたくしですもの。意味をなしませんわ』

『やれやれですわね』

 

 影の中に居るわたくしと話している間に新しい階層に踏み入りました。そこは荒野のような場所でした。木々が所々に存在し、寂れた物哀しい雰囲気を醸し出す場所。そんな場所に霧が薄っすらとかかっております。

 

「ここから十一階層だ。インファントドラゴンも出るから発見したら教えてくれ」

「狩るんですか?」

「彼女に実演しながら危ない所を教える」

「なるほど。わかりました。アイズ、オークを一匹残して潰してください」

「了解」

 

 しばらく歩くと分厚い筋肉の鎧でできた二メートルから三メートルくらいはある巨体の存在が棍棒を持ってやってきました。

 

「くるみ。一匹を任せます」

「わかりましたわ」

 

 駆け抜けながら剣を引き抜き、まずは足を狙います。相手が手に持つ棍棒を叩き付けてくるのを横に飛んで、避けます。即座に走り出そうとしたら、相手が棍棒を横薙ぎで振るってきました。それを剣を水平にして片手を剣の腹に添えて盾にしながら自ら飛んで吹き飛ばされながら空中で回転して足から着地します。着地してから確かめますが、両手が少し痺れていますね。幸い、受け身はアイズさんに何度も飛ばされているので平気です。

 

『使います?』

『いえ、ここではまだ温存ですわね』

 

 一の弾(アレフ)も勿体ないので自力だけで行かせてもらいます。相手のオークは他の人達を警戒しながら、わたくしの方をしっかりと見ています。ですので、速さで周りを移動しながらタイミングを見計らいます。

 

『わたくし、どうせなら肢曲(しきょく)をしません?』

『確かHUNTER×HUNTERに出て来た暗歩の応用技でしたか。歩行速度に緩急をつけることで、敵に残像を見せるとかでしたがこんなのいきなり出来る訳ないですわ! むしろ、貴女が習得すべき技術でしてよ、アサシン』

『試してみたけど無理でしたわ』

『鍛錬が足りませんの』

『こっちは実戦で試しているので、なかなかできませんの』

『交代要員が要りますわね。今度、進言しておきましょう』

 

 オークがこちらを見失った瞬間、相手の振り向く速度に合わせながら常に死角にいながら近付いて背後から首へ刺突を叩き込みます。

 

「はっ?」

 

 パキンッという音と共に剣が折れました。余りの事に驚いて隙が出来たわたくしを相手は見逃すはずもなく、棍棒を振るってわたくしの頭を弾き飛ばそうとして一刀両断されました。オークの血飛沫を浴びながら、目をぱちくりしていると、オークが消滅してその先に剣を振るった状態のアイズさんが居ました。

 

「大丈夫?」

「ええ、大丈夫です。助かりましたわ」

「ううん。ごめんね、武器が折れたの……たぶん私のせい」

「アイズさんのせいじゃありません!」

「毎日アイズと打ち合っていたし、折れるのも仕方ないわよ」

 

 アイズさんにエルフのレフィーヤさんが慰めている間にやってきたアナキティさんがわたくしの顔を拭いてくれますが、焼け石に水ですわね。

 

「少々お待ちくださいませ」

「え?」

 

 影の中に沈んで身体を拭きながら、アサシンとバトンタッチします。アサシンにはゾルアスを持たせていきますので、戦いも問題ありません。わたくしは着替えて休憩しておきましょう。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「お待たせいたしましたわ」

「あ、綺麗になってる」

「大丈夫なんですか? 影に沈んでいきましたけれど……」

「予備の服に着替えて武器を取ってきただけなので問題ありませんわ」

「あ、それ私の!」

「正解ですわ。こないだ貰ったゾルアスです」

 

 セイバーの彼女が使うより、アサシンのわたくしが使う方が効率がいいですもの。交代できるのであれば交代するのが当然ですわ。

 

「つまり、これからはゾルアスを使うんだ~」

「ええ、そうなります。もちろん、別の装備もありますが……シッ!」

 

 湧いてきたオークにアームカバーに取り付けてある針を飛ばし、瞳を貫通させてやります。そこから走って暴れるオークに背後から肩の上に飛び乗り、首筋にゾルアスを一閃して首を斬り裂いて殺してやりますわ。そして、返り血を浴びないように後ろへと飛び降ります。

 

「うわ、暗殺者みたいな戦い方だね~」

「こちらの方が効率よく殺せますからね。それに武器によって戦い方を変えるのは当然でしてよ」

「確かにね~」

「うん……細い剣と普通の剣じゃ壊れる時間が違う」

「それ、別の奴ですよ、アイズさん……」

「話はそこまでにしておけ。早くリヴィラに向かうぞ」

「そうだね。ここからはアイズとティオナが先頭で行ってくれ」

「了解!」

「任せて」

「では、わたくしは荷物持ちに努めましょう」

「頼む。では行くぞ!」

 

 フィンさんの指揮で彼女達が殲滅していく魔物(モンスター)の魔石を時喰みの城で一気に回収してセイバーに分けて保存してもらいます。

 

 

 

 

 一瞬で十八階層まで到着しました。出て来た魔物(モンスター)はどれも一撃で、レベル差が如実に表れる結果となりました。まあ、仕方がありませんわね。

 十八階層は水晶と大自然に満たされた地下世界でした。一瞬、アガルタかと思ってしまいましたわ。面積はオラリオの半分くらいのようで、天井が全て結晶で出来ておりました。時間に合わせて結晶の光がなくなり夜になるそうです。とても幻想的でロマンチックな光景に思わずクルクルと回りながら空を見詰めます。

 

「危ないわよ」

「ああ、気をつけるんだ」

「ええ、わかりましたわ」

 

 ティオネさんとハイエルフのリヴェリアさんから注意されたので、大人しくついていきます。それでもちょっとワクワクしてアッチにフラフラ、コッチにフラフラしてしまいます。そのせいか、アイズさんとレフィーヤさんに手を繋がれてしましました。

 湖畔にある島の東部に木で作られた町に連れていかれました。ここで本来はドロップアイテムを売る予定でしたが、わたくしが居るのでその必要はありません。野営道具も持ってきているので泊る必要はありませんが、どうせなので案内していただくようにお願いしました。

 

「ここがリヴィラですか……」

「ボッタクリだから、くるみちゃんには必要ないかもね~」

「物資を大量に持ち込めるならそうよね……」

「本当に便利なスキルだよ」

「ええ、このスキルはとても使えますわ。それとお願いがありますの。物を売れる場所に連れていってくださいますか?」

「どうしたんだい?」

「地上で大量に物資を買い占めてもってきていますの」

「……流石はソーマを売り込んできただけはあるね。わかったよ。ここの顔役に案内する」

「……」

「リヴェリア、どうしたの?」

「妙だ。街の雰囲気が少々おかしい」

「そういえば人が少ないような……」

「わたくしははじめてなのでよくわかりませんが……」

 

 話していると、少し先の扉が開きました。看板を見る限りではおそらくお店なのでしょう。そこから眼帯をした中二チックなオジサンが愚痴りながら出てきましたわ。

 

「たっく、たまったもんじゃねえぜ」

「ボールス!」

「あぁ? ロキ・ファミリアか……なんだってこんな時に……」

「何かあったのかい、ボールス?」

「殺しだよ。ビリーの宿でな」

「それなら僕達も行こう」

「関わってくれなんぞ一言も言ってねえぞ」

「今回はこの街で厄介になるしね。それに商談を持ってきた」

「ロキ・ファミリアが商談だぁ?」

「今は殺しの方を優先するべきだろう。商談は何時でもできる」

「ちっ、そうだな。わかった。こっちだ」

 

 案内された部屋には下着だけの男性が地面に寝転がっておりました。彼の頭には白い布が被せられ、その周りには血の塊があります。フィンが男の身体を確認しながら、犯人の目星についてフィンさんがボールスさんに聞いていきます。その間にわたくしは移動して布を剥ぎ取ります。

 

「ひっ!?」

「おい、この嬢ちゃんは……」

「くるみ?」

「おやおや、顔の皮が剥ぎ取られておりますわね。なるほどなるほど……」

「おい、お前はコイツが誰か知ってるのか?」

「いいえ、まったく存じませんわ。何処の何方でしょう? ですが、顔の傷を治す事はできますわ」

「本当か!?」

「ええ、本当です。ですが、お高いですわよ?」

「金を取るのかよ……」

「代償がそれなりに高いので、代金はキッチリと頂きませんと……そうですわね、この人の死体を頂きたいですわ」

「死体だと?」

「ええ、地上に持ち帰ってファミリアの方々に引き渡します。そうすればコネクションができますから、報酬になりますわ。どうなさいますか?」

 

 ちなみに死体を回収して恩を売るだけでなく、別の目的もあります。ここまでこれるならレベルは3から4はありそうですし。まあ、2でも問題ありません。

 

「ボールス、彼女の言う事は本当だ。実際に彼女は傷を瞬時に癒す魔法を持っている」

「お前がそう言うんならそうだろう。それに俺達に損はないしな。いいぜ、やってくれ」

「畏まりましたわ」

 

 影から短銃を取り出して、四の弾(ダレット)を使います。念の為に二日前と一日前、時間単位で用意しておいてもらって正解でしたわ。

 

刻々帝(ザフキエル)四の弾(ダレット)

「おいっ!」

 

 声に出して言いますが、実際には何もおきません。普通に撃つだけですわ。撃たれた男の顔は巻き戻るように綺麗になりました。身体は生きている状態と変わりませんが、死んでいます。魂まで戻せないので仕方がありません。しかし、十の弾(ユッド)があれば犯人をすぐに見つけ出せますが、残念ながら無理ですわね。

 

「見覚えはありますか?」

「確かガネーシャ・ファミリアだったはずだ。名前はわからないが……」

「それならやっぱコイツを使うしかないか」

「ステイタスシーフか。死者を冒涜するつもりか?」

「そんな事言ってる暇はねえだろ」

「ガネーシャ・ファミリアの人を探してくるとか?」

「そんな時間はねえ。ハイエルフさんよ、コイツが読めるだろ?」

「……ガネーシャ・ファミリア。名前はハシャーナ・ドルリア。レベル4だ」

「んな馬鹿な! レベル4が何もできずに一方的に殺されたってか!」

 

 彼等が話している間に周りを調べて、彼の身体もしっかりと調べて情報を集めます。わかった事は店主のビリーさんが言う通り、二人で泊って事に及ぼうとしたところで女性に殺されたという事。殺害方法は絞殺。両手で首を絞めて殺していますわね。時間を戻した時に首元に手の跡がくっきりと残っていたので間違いはありません。

 

『問題はどうして殺したか、何故頭皮を剥いだか、その二つですわね』

『ええ、どう考えても殺して顔を剥ぐ理由はありませんものね』

「さて、とりあえずこの死体はもう回収させていただきますわ」

 

 指を鳴らして彼の死体と荒らされている荷物を含めて影に仕舞いこみます。

 

「それでは町に居る全員を集めましょう。それからこの顔をしているのが犯人か、持っているのが犯人ですわ」

「え? 何を言っているんですか!」

「ああ、そうか。顔を剥ぐ理由として考えられるのは変装だな。確かにそういう魔法があってもおかしくない」

「それもあるし、荒らした荷物からして物取りなのは確実だ。ただ、暴れた理由を考えるとその品物がまだ見つかっていないのだろうね」

「つーことは町に居るってか。よし、持ち物検査と顔を調べればいいんだな。すぐにやるぞ! ビリー全員を集めろ!」

「ああ!」

 

 さて、これで犯人さんがどう動くか高みの見物ですわね。わたくしは美味しい所を取るために動くとしましょう。そうでしょう、わたくし。

 

 

 

 しばらくして全員が集められ、女は脱げと言われました。そこから逃げる女の人が居たので、そちらに移動するとレフィーヤさんも気付いたようで、アイズさんと一緒に追いかけていきました。もちろん、わたくしも分かれて行動します。一人はこちらに残し、もう一人が追います。

 それから二人が追いついて話を聞いていきます。わたくしも一緒に話を聞きましょう。

 

「そのお話、わたくしも交ぜていただけますか?」

「えっと……」

「あ、この子は私達の仲間ですから大丈夫です」

「そうなんだ……」

「それで、これがハシャーナさんの荷物?」

「うん、そうだよ……」

 

 アイズさんが布を開くと、そこに宝玉がありました。それをアイズさんが持つと宝玉の中に居た何かが叫び声を上げ、アイズさんが何かを感じています。いえ、わたくしもです。

 

「っ!?」

「これは……」

 

 左目が疼きます。その宝玉をアイズさんが落としたので、私が拾います。その瞬間……宝玉の中から赤ん坊みたいなのが飛び出してきました。だから、咥えてやります。すると何故わたくし達の中に何かが入り込んでくる感覚がありました。これは同化とかそんなものですわね。

 

『『『『『いらっしゃいませ。わたくし達の中へようこそ! 歓迎いたしますわ。ええ、それはもう盛大に』』』』』

 

 わたくし達と主導権争いをするなど無意味。時喰みの城を全員で展開してしっかりと吸収してやります。すると、何かの欠片が現れるではありませんか。まるであの“霊結晶(セフィラ)"の欠片みたいです。もちろん、わたくしはそれを取り入れます。

 

「きひっ! きひひひひっ!」

 

 取り込むと力が格段に増えました。ああ、これでわたくしはよりわたくしに近付きます! 

 

「く、くるみさん?」

「っ! 危ない!」

「ふぇ?」

 

 誰かが私の身体を掴んで高速で移動していく。そう、まるで誘拐みたいな感じですわね。いえ、誘拐ですね。アイズさんが必死に追いかけてきてくれます。相手を見たら赤髪の短髪さんですわね。

 

「まさかこんなところで失敗作と出会うとはな。いや、生きて動いているのだから失敗とはいえんか。それにアレを取り込んで意識を保っているのなら……彼女の器として成功か」

「ちょっと貴女は誰ですの?」

「私か? 私はお前の……っと!」

 

 後ろから風を纏ったアイズさんが来てくれました。それに対して犯人はわたくしを俵のように持って片手で剣を使って防いでいきます。レベル5であるアイズさんが全力で戦っているのにこの人、まだ余裕があります。わたくしのために争わないで! と言いたいですが、やる事はやりましょう。

 剣戟による火花を利用して時喰みの城を発動。彼女から時間を吸い取ります。チビチビとしか吸えませんが、問題ありません。後は片手で短銃を呼び出して一の弾(アレフ)を撃とうとすると……

 

「そうか、お前はアリアか。これはいい。一度に二人も回収できるとは幸先がいい、なっ!」

「くっ! くるみを返して!」

「これは私達の物だ。返すのではない取り返しただけだ」

「違う。彼女は……」

 

 アイズさんも精霊。つまりご同輩ですのね。なら、情報収集も兼ねてあちらに行くのもいいですわね。どうせこの身は分身ですもの。

 

「アイズさん」

「今、助けるから!」

「さようならです」

「え?」

刻々帝(ザフキエル)二の弾(ベート)

「なに、を……」

 

 至近距離から埒外の存在による一撃。見事にアイズさんに命中し、彼女の動きは遅くなりました。

 

「さて、連れていってくださいませ。ただし、連れていくのはわたくしだけですわ。アイズさんも連れて行こうとするのなら、覚悟してくださいませ」

「お前が私に勝てると思うのか?」

「思いませんので、自害いたします」

「……本気か?」

「試してみますか?」

 

 自分の蟀谷に銃口をあてて本気度を教えてあげます。

 

「だ、だめ……くるみ……」

「……いいだろう。この場は引いてやる」

「感謝しますわ」

 

 アイズさんが吹き飛ばされて転がっていきます。そして、すぐに槍が飛んできたので、彼女に一の弾(アレフ)を放ち、即座に逃げていただきます。

 

「待てっ!」

「くそっ!」

 

 そのまま湖に飛び込んで連れていかれました。後は任せます、わたくし。ロキ・ファミリアについては説明をお願いしますわね。

 

『リヴィラでやる事が終わればいいですわよ』

 

 あ、すぐに出るつもりはありませんのね。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 さて、さて、セイバーであるわたくしはアサシンのせいで深層に行けませんでした。ロキ・ファミリアの皆は即座に深層へと追撃に向かいましたので、その間にリヴィラで用事をすませますの。まあ、魔物(モンスター)の襲撃にあってボロボロなんですけどね。

 

「ボールスさん、商談と参りましょう」

「あ? 嬢ちゃん、誘拐されたって聞いたんだが……」

「魔法でちょちょいとかわしました」

「ロキ・ファミリアの連中が必死の表情で追ってたんだが……」

「迫真の演技で騙されたでしょう? それに敵を騙すにはまず味方からといいますしね」

「……小さいなりして悪女だな」

「わたくし、悪い子ですもの。というわけで、商談をしましょう」

「ああ、いいぞ。で、何を売ってくれるんだ? 先の戦いで色々と足りねえからな。売ってくれるもんならなんでも歓迎だ」

「では、こちらを」

 

 時喰みの城から大きな鉄製の金庫を取り出します。驚いた表情のボールスさんを無視して中身から地上で買い付けた品々を出していきます。その量は大規模な遠征で使われる量とほぼ同じです。

 

「さて、見ての通りわたくしは地上から大量の物資を持ってきました」

「マジかよ……」

「貴方達が買い叩いているドロップ品と交換としましょう。お金よりもそちらの方が好ましいですわ。値段は互いに利益が出る値でどうですか?」

「……いいだろう。乗ったぜその話!」

 

 値段交渉をする事一時間。ドロップ品をこちらで買い取る値段と同じ金額で買い取ります。あちらは食料を地上と同じ値段で手に入れます。これにより、相手側は高額な輸送費が丸々浮く事になりますの。物資を補充するにも、ドロップ品を売りに上がるにもそれなりの人数が必要ですからね。わたくしの場合はここに分身を常駐させておけば時喰みの城での物資交換はもちろん、わたくし自身の影から影への移動は普通にできるので、本体に連絡して一体派遣しておいてもらうだけですの。後は地上で買って、こちらに輸送すれば丸々儲けになります。

 

「交渉成立ですわね。きひっ!」

「あくどい顔してんな」

「だって、ぼろい商売ですもの」

「俺達もかなり儲けが出るからいいけどな」

「持ちつ持たれつでいきましょう。なんでしたら、リストを作って頂ければそれも買ってきますわよ」

「おう。それならすぐに作らせる」

「後、ここまで壊されたのならいっそのこと区画整理もして、防衛の事も考えませんか?」

「あ~バリスタとか確かに欲しいな。頼めるか?」

「お任せくださいまし。ああ、それともう一つ条件をつけてよろしいですか?」

「なんだ?」

「犯罪者をわたくしに引き渡してくださいませ。そうですわね、一人につきそれなりの金額で買い取りますわ」

「おいおい、何をする気だよ」

「名声を手に入れるためですわ」

 

 寿命のほとんどを貰ってからガネーシャ・ファミリアやギルドに引き渡せばそれで解決ですもの。わたくしにとって、どちらも大変美味しゅうございます。

 

「わかった。それぐらいならいいぜ。しかし、人も運べるなら俺達も頼めるのか?」

「あ~お勧めはしませんわよ。わたくしのスキルって普通の人が入ったらそれ相応の代償が発生しますからね。あくまでも攻撃スキルの応用ですもの。死んでも責任は取りません。それでも良かったらお好きにどうぞというところですわね」

「……おっかねえな、おい」

「あ、それとわたくしの家も用意してもらえますか? ここで活動する事になりますので、拠点は欲しいですわ」

「用意してやるよ。だから良い物をくれよ」

「良い物……お酒ですわね」

「酒か!」

「ソーマ・ファミリアで作っているお酒とかいかがですか?」

「最高だ!」

「では、改めて交渉をしましょう」

「おうよ!」

 

 楽しくお話して家を一つ貰いました。そこでルーラーにお願いしてこの階層に常駐するわたくしを作ってもらいました。それとアサシンの代わりもですわね。ルーラーも何時の間にか人数を増やしてキラーアントで狩りまくっていたのと、あちらに連れて行かれたアサシンが魔石をパクパク食べているようで、時間の回復が結構はやくなっているようですの。ですので、人数を増やしてこの階層に三人ほど常駐させます。

 この子達の役目はこの階層にある薬草や水の回収と探索。それとリヴィラへの物資の売買。ここでならソーマ・ファミリアのお酒を売っても団長にバレませんのでとやかく言われません。魔石は全て時間に変換し、ドロップ品は他のファミリアに卸してお金を稼ぎ、良い武器を持ちます。その武器を使ってどんどん魔物(モンスター)を狩っていけばわたくしは加速度的に強くなっていきますわ。

 

 

 こんな感じで過ごしています。なんとこの階層で武器が盛り上がった土に突き刺されている場所がありました。なんでしょうか? これを引き抜いた勇者は……とかいう奴ですか? まあ、ボロボロのようですが、使えない事はないので貰っておきましょう。

 ボルスさんの所に戻り、本日の物資を引き渡していると、扉が開いて誰かが入ってきました。

 

「あの、これを預かって……え? くるみ……?」

「ふぇ? あ、アイズさん。お帰りなさいませ。お元気そうでなによりですわ」

「それはこっちの台詞だよ?」

「まったくだな」

 

 入ってきたのはアイズさんとリヴェリアさんでした。アイズさんは私に抱き着いて涙を流しております。リヴェリアさんも涙を浮かべながら、わたくしの頭を撫でてきます。なんだか、すっごい罪悪感が湧き上がってきます。アサシンの私だって普通に魔石を食べてあの赤髪の人と訓練していますもの。

 

「ソイツ、お前等が追って行った直後に現れたぞ」

「どういう事だ? 説明してもらおうか」

 

 優しく撫でていたのが、頭をガッチリと捕まれて強制的にリヴェリアさんの方を向かされました。アイズさんは不思議そうに首を傾げております。

 

「ほ、ほら、敵を騙すには味方からと言いますし? 必死に追撃してくれたおかげでわたくしは無事です。ありがとうございます……」

「つまり、お前は私達を利用したわけだな?」

「ごめんあそばせ」

「よし、わかった」

 

 リヴェリアさんに頬っぺたを掴まれてグニャグニャされていきます。

 

「私もする」

 

 アイズさんまで参戦して身体中を弄ばれました。もうお嫁にいけません。元から行くつもりはありませんが。

 そんな訳で、無事にアイズさんとリヴェリアさんと合流したので帰ります。別のわたくしが既にここには待機しているので問題ありません。

 帰っている途中でルーラーの知り合いである人が倒れていました。

 

「マインドダウンだな。考えもしないで魔法を撃っていたのだろう」

「私、この子に……」

 

 何か相談している間にリヴェリアさんの言葉でアイズさんが膝枕をする事になりました。わたくしもここに残って狩りをしようとしたのですが……

 

「お前はこっちだ」

「あ~れ~」

 

 首根っこを掴まれてリヴェリアさんに引きずられていきました。それから地上で皆様の前で正座させられ、説明することに……どうしてこうなったのでしょうか? はい、全部わたくしが悪いですわね。

 

「ああ、そうだ。それとくるみ」

 

 お仕置きが終わった後、フィンさんとリヴェリアさん、それにロキさんとガレスさんを加えて団長のお部屋に連れ込まれました。

 

「なんですかフィンさん」

「君、何人居るんだい?」

「え? どういうことですの?」

「流石に君が誘拐されて僕達が確認しないわけないだろう。ソーマ・ファミリアへ行ったら、君はここ数日庭でずっと訓練をしているというじゃないか。だが、それは明らかにおかしい。僕達とダンジョンに潜った。それ以外にも君の目撃情報が出ている。それも同じ場所、同じ時間。有り得ない位置でだ。一応、神ソーマにも確認をとろうとしたが出来なかった」

「だけど、目撃証言をした者達に嘘はなかったで。うちが酒を奢りながら確認したから間違いない」

「私も違和感があった。味方を騙すために誘拐された。そこはいい。だが、あれほどの手練れからレベル1のくるみが脱出できるとは思えない。しかし、そもそもくるみが複数人居ると考えると合点が行く。攫われたくるみはまだ敵の手に居るのだな?」

「やれやれ……」

 

 パチパチと手を叩きながら、ロキ・ファミリアの幹部の皆様をみます。

 

「おめでとうございますわ。皆様はわたくしの魔法の効果を一つ、解き明かしましたわ」

「では……」

「はい。わたくしの魔法は分身を作り出す事ができますの。この身も分身であり、攫われたのも分身ですわ。ですので、本当に気にしなくて構いませんわ。どうせ残り一年も無い命ですからね」

「どういうことだ!」

「わたくしの魔法で作られた分身は活動できる時間が決まっております。それを超えた分身は元の塵芥へと戻るのは必然です。この身も一年未満しか生きられませんの」

「それは……」

「嘘やないな」

「君はそれでいいのか?」

「ええ、構いませんとも。わたくしはわたくしですし、記憶や知識など経験は全てオリジナルへ引き継がれますので、無駄でもありません。わたくし達は個であり群なのです」

「それが強くなる速さの秘密かいな。アイズたんが知りたがってたけど、こんなん普通に無理やん」

「……納得はできんが、確かにそれなら……」

「後、言っておきますがわたくしはわたくしであるので、与えられた命題をこなしつつ楽しんで生きておりますからね」

「命題?」

「剣を極めることですわ。わたくしが与えられた役割はセイバー。剣を極め、剣に生きる事。そしてわたくしが培った剣技はわたくし達に延々と受け継がれ、精錬されて昇華されるのです。わたくしがわたくしとして生きた証は確実に残ります。だからいいのです」

 

 与えられた役割ではあるとはいえ、好きな事を突き抜けてやり切る事が求められております。代わりがいくらでも生み出す事が可能だからこそ、逆に諦められません。それにオリジナルの中に私が居たという事を剣技という形で刻み込んでやるのです。

 

「そうか……」

「それじゃあ、最後の質問や。くるみたんは精霊なんか?」

「ええ、()()()()()()()()()()

「嘘やない。嘘やないけど……くるみたんは……人やで?」

「いいえ、この身は精霊です」

「わかった。それでええわ。で、アイズたんと狙われる心当たりはあるか?」

「わたくしが彼等の実験の失敗作から成功体へとなったかららしいですね。まあ、どうでもいい事ですわ」

「彼等の情報がわかるのかな?」

「ええ、記憶を繋げばわたくし達はそれぞれの記憶を閲覧できます。ですから、アサシンが何をしているかもわかります」

「そのアサシンというのは……攫われた子か?」

「そうですわ。暗殺技術をメインに鍛えていた子ですわね。あの子から伝わってくる情報はありますが、まだ詳しいのは教えてもらっていません」

「ほんまや」

「じゃあ、情報が分かり次第教えてくれるかな?」

「そうですわね。ものにもよりますが、代価は頂きますわ」

「代価か。何かな?」

「別のわたくしに槍を教えてくださいませ」

「……君達はもしかして全部を極めるつもりなのかな?」

「もちろんですわ。人海戦術が取れるのですから、やらない手はありませんもの」

「……影に潜む大量のレベル2か。それも様々な武器を使いこなす……厄介だな」

「厄介ってレベルじゃないで。下手したら……待てよ? くるみたんは増えるんやんな?」

「ええ、増えますわよ。今は十人を超えていますし」

「なら、一人ぐらい貰ってもええやん。うちのファミリアにこうへんか?」

「……改宗は……ソーマ様のところがはじめてなので、可能ですが……いいんですか? いろんな情報が抜かれていきますわよ」

「……それはまずいね。今みたいに外部協力者の方がいいだろう」

「いやや! うちは欲しい! 一家ならぬ一ファミリアに一人のくるみたんがええ!」

「あ、それ計画していますわ。数が確保できたらわたくしのレンタルサービスをする予定ですの。もちろん、エッチな事はなしで」

「マジかいな! エロなしでも買うわ」

「後、改宗は試した事がないのでわかりませんの」

「まあ、せやろ」

「どちらにしろ、鍛える事は確定だ。アイズと同じ精霊なのだから、奴等に渡すわけにはいかん」

「僕としてはロキ・ファミリアに入ってくれるのがありがたいんだが……」

 

 少しルーラーに聞いてみましょう。記憶を見てもらえばすぐですし、どうぞ。

 

『問題ありませんよ。むしろやってくださいませ』

「あ~ルーラー、オリジナルからギルドに報告せずにコッソリと入るのなら別に問題はありません。実験してみましょう」

「ひゃほーっ! 赤ロリ幼女ゲットやで!」

「身の危険を感じるのでやはり無しで」

「待って! 冗談やから!」

「まあ、情報の取り扱いを気をつけなくてはいけないが、物は試しかな」

「リヴェリアさん、一緒に居てください。ロキさんが怖いですから」

「わかった。任せろ」

「信用ないやん!」

 

 当たり前なんですよね。さて、本当にどうなるのでしょうか。わたくしも彼女のように消滅するのか、それとも生き残るのか、わかりませんが……面白いスキルか魔法が欲しいですね。ロキさんから連想するとやはりレーヴァテインですね。そうなると火ですから、例えば灼爛殲鬼(カマエル)とか? 剣だと鏖殺公(サンダルフォン)も選択肢に入ります。まあ、どちらも時崎狂三ではないですし、どうなんでしょうか。

 

 

 

 

 



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二人の黒髪ロリと眼帯

ちと時系列の関係で修正



 

【二月二三日】

 

 

 

 

 朝、起きたらセイバーから報告が来ておりました。アサシンが誘拐されたようで、現在ダンジョンの奥深くに居るもよう。そこでは変な人達がアサシン(わたくし)に乱暴しようとしたので、時喰みの城で喰らってやったみたいです。七人の変態共が犠牲になりましたが、アサシンは攫ってきた人の後ろに隠れて報復も凌いだようです。その攫った人、レヴィスの後ろに隠れながら、他の人との話し合いで、変な事をしなければ手を出さないという事で決着がつきました。後、ご飯として魔石が出されているので、それを食べてこちらに時間を供給してくれているのでグッドですわ。

 七人はそれぞれ六〇年、一〇年、五〇年、八〇年、四〇年、九年、四〇年の時間を頂きました。合計で二八九年となり、本当に人狩りは美味しくて止められませんわ。

 この内訳は約一六〇年消費して六〇人のわたくし達を増員。また、それに伴い一〇〇年を時喰みの城に与えて二五〇メートル四方まで強化します。正直、数を増やしたら時喰みの城も成長させないといけません。手狭になってどうしようもありませんもの。

 さて、残り二九年は確保しておき、アサシンは名前をアヴェンジャーに変更します。代わりに新しく生み出した個体をアサシンとします。他にも輸送用のライダー、ランサー、バーサーカー、シールダーに加えてサポート要員としてオペレーターを作成します。

 これでルーラー、セイバー、アーチャー、ランサー、アサシン、ライダー、バーサーカー、シールダー、アヴェンジャー、オペレーターが出来ました。

 セイバーは剣を、アーチャーは弓を、ランサーは槍を、バーサーカーは斧を、シールダーは盾を、アヴェンジャーは臨機応変に対応。オペレーターはFateのサーヴァントにはいないですが、商売を主軸にして資金稼ぎをしてもらうのでこちらにしておきます。八人を除いた残り六五人のわたくし達の内、四十人で一〇チーム作成します。

 六チームはダンジョンの六、七、八階層で交代しながらキラーアントを狩ります。八時間の睡眠と四時間の休息。六時間の狩りで残り六時間の訓練時間。これをローテーションで行う事で楽しく元気に働きます。

 残り四チームは十一階層で狩りをしてもらいます。二チームずつ一二時間交代で残りは休息などを行うようにして命大事にしながら霧に紛れてインファントドラゴンを見つけ次第狩るように。モンスターハンターのお時間です。

 残り二五人の内、二〇人をオラリオに放つ密偵にします。この中には目隠しして一般人の子供として生活しているくるみも含めます。彼女をトップとするわけですわね。また、彼女達はオペレーターとも協力してもらいます。五人はわたくしの護衛として影に潜んでもらいます。

 合計七三人のわたくしと五九年分の時間がございます。キラーアントなどで手に入れた時間は諸経費で消えてしまいましたが、まあ問題ないですわ。

 

「訓練の時間ですよ、クルミ様!」

「ええ、そうですわね」

 

 リリさんと朝練をします。まず簡単に機器を使った訓練をして身体を温めた後、リリさんと全力で殴り合います。互いに容赦なくやりますが、全身を馬鹿みたいな重量の金属をつけての殴り合いなので、はたから見たらゆっくりとやっているように見えます。乙女の柔肌が傷だらけになって大変な事になりますが、一切気にせず殺す気でやり合います。もちろん、頭はなしで。

 何度も転げまわってドロドロのボコボコになったらお風呂に入って服を洗濯します。リリさんとわたくしは別々に入ります。リリさんは井戸の水でサッと洗って朝食の準備をするのに対して、わたくしはちゃんとシャワーを浴びます。もちろん、リリさんも食事の後に入ります。

 

「というわけで、嬉し恥ずかしのシャワータイムですの」

 

 服を脱いで生まれたままの姿になります。身体中に泥などの汚れや擦り傷があり、ロリ狂三の可愛らしさを損ねてしまっていますの。魔道具に触れてお湯を流し、汚れを洗い流すと鏡に綺麗で可愛らしい幼い狂三の神々しい裸体が拝めますわ。

 ロキ・ファミリアの女性陣に教えてもらったボディシャンプーを手で泡立て、胸や大事な所を重点的に洗います。鏡に映る可愛らしい幼女姿の狂三が悶えながら、喘ぎ声をあげていく姿が拝めると同時に気持ち良くなっていけます。しかし、自分でやっても刺激はあんまりなので、他のわたくし達にお願いして全身洗ってもらいますの。全身泡だらけで白い幼いすべすべな手が柔らかい瑞々しい餅肌を滑る感覚がまた気持ち良く、マッサージも兼ねているので最高の気分になりますわ。まるで狂三とやっているような視覚も身体も心も満たされる至福のひと時です。

 普通なら自分の身体に興奮なんてしませんが、この身体と心はまた別みたいな物ですもの。正直言って、わたくしはこの身体でも、少女の狂三でもいけます。いえ、もちろん、この身体になる前は流石に手を出すつもりはありませんでしたけれど、普通に男としての性欲もありますし、命懸けで戦い、殺されたりする記憶を見ていると正直溜まります。それに娯楽もろくにありませんしね。

 娼館に行くのも手ですが、お金が勿体ないですし、お断りされる可能性もあります。それに隣で寝ているリリさんに手を出しそうな時もあるので、自分自身で解消するのがベストです。これぞ自分で自分を慰める最強形態ですわ。だって、処女を自分で貫いて楽しんでも四の弾(ダレット)で元通りですし、いろんなシチュエーションが楽しめて最高ですの。死にさえしなければ結構無茶な事もできますしね。実際にリリさんが居ない時にセルフSMプレイやリョナもちょっとやってみようかと思います。リョナは安全に耐久をあげるためですね。普通にやるより死ぬ手前まで経験した方が上がりやすいでしょうし。まあ、こちらは最終手段ですわね。まずは痛みに慣れないといけませんし。目指すは基礎アビリティオールSです。

 ここ一週間、常にこんな感じで朝はシャワーを浴びてます。ダンジョンから帰ってくるなと言ったわたくしも、実際はこちらに来てシャワーは浴びております。日本人として毎日身体を洗わないのは気持ち悪いですもの。

 

「「「っ!?」」」

 

 アサシンと目隠しで生活している密偵のわたくしのお陰で人の気配には敏感になっており、誰かが入ってきたのがわかったので、即座にわたくし達は一人を除いて影の中に戻ります。

 

「リリさんですか?」

 

 これがリリさんであれば問題ありませんが、他の人なら問題ですので両手で胸とアソコを隠しながら振り返ります。するといきなり五人もの男の人達が簡易的な扉が押し開いて中に入ってきました。

 

「なんのっ」

 

 声を出そうとした瞬間。彼等の内の一人が接近してきました。わたくしは後ろに下がり、すぐに鏡にぶつかって口に手を当てられて声を出せなくされました。

 

「お前やアーデだけに良い思いをさせるわけにはいかねえんでな」

「そういうこった。分け前を俺達にも貰おうか」

 

 別の男達に身体を隠していた腕を掴まれて開けられ、口を塞いでいた男が空いている片手でナイフを身体に這わせてきます。

 

「静かにしろよ? そうじゃないと綺麗な身体に傷がつくぜ?」

「まあ、今から傷がつくけどな」

「違いねえ……」

 

 男達の言葉に仕方なく頷くと、口からは手を離してくれました。

 

「こ、こんなことしてソーマ様が黙っていませんよ。それに団長だって……」

「あ? これはその団長様の指示だ。お前、やりすぎたんだよ。それにランクアップまでもう出来るらしいな。羨ましいぜ。俺達はもう何年もレベル1だってのにな!」

「まったくだぜ。ソーマ様の愛人になって良い装備を使いたい放題なんだから、いいご身分だよな?」

「へけ、団長の指示ですのね……ですが、ソーマ様はどうするつもりですか?」

「そっちはお前自身に黙っておいてもらうんだよ。趣味じゃないが、お前を徹底的に犯してチクれなくしてやるよ」

「そういうこった」

「……わかり、ました……大人しく……従いますので、放してくださいませ……しっかりとお相手させていただきます……」

「ああ、それでいい」

「ええ、しっかりとわたくし達でおもてなしさせていただきますわ」

「はっ、コイツアーデも売るつもりのようだぜ」

「まあ、それでいいんじゃねえか。数が居るからな」

「おい、離してやるのか?」

「馬鹿言うんじゃねえ。コイツは装備が無いとはいえ最速でランクアップする事が可能な奴だぞ。油断するんじゃねえよ」

「良い判断ですわね。でも遅いですわ」

「詠唱なんかさせる訳が……」

「ざんねんでしたわねぇ……もう終わっていますわ」

 

 時喰みの城を展開してここに来ていた者達と一緒に影の異空間へと落ちます。現在、わたくし達の異空間は二五〇メートル四方。上から落ちたらまず助かりません。まあ、この空間はあくまでもわたくし達が自由に扱えるので法則も自由なのですが。

 

「なにしやがったっ!」

「きひっ!」

 

 左右の男に二人のわたくしが攻撃をしかけ、不遜にもわたくしの柔肌を触っている愚か者の両手を剣で切り落とします。わたくしは自由になったので、改めて身体を両手で隠すと、わたくしの一人が服を渡してくれましたので、そちらに着替えます。

 

「なんだここは!」

「コイツ等いったい何人いやがるっ!」

「ああ、わたくし達。殺さずに捕獲してくださいまし」

「「「「「「「「「「ええ、お任せくださいませ」」」」」」」」」」

 

 密偵に出していた一〇人も呼び出して五人を拘束してやります。彼等は所詮、レベル1。数の上でもステイタスでも上になっているわたくし達の相手にもなりませんわ。

 

「くそがっ! 離しやがれっ!」

「化け物めっ!」

「どうするのですか、わたくし?」

「決まっておりますわ。ぶち殺してやりますの。ええ、それも嬲りに嬲って解体して並べて曝してやりますの」

「……ルーラー、ガチでキレておりますわね」

「まあ、裸を見られて触られたので仕方ありませんわね」

「判決を取りますわ。わたくしは公平ですもの。わたくし達の答えは?」

「助けてくれ! 俺達は団長に言われただけなんだ!」

「無罪ですわ」

「無罪ですわ」

「無罪……」

 

 神威霊装・三番(エロヒム)で無罪といった奴の頭を撃ちぬき、もう一度聞いてあげます。ええ、わたくしは優しいですからねぇ。

 

「お耳を立ててもう一度お伺いいたしますが、判決は?」

「「「「「「「「「「死刑ですわ!」」」」」」」」」」

「よろしい。では、満場一致で死刑ですわね。どのように殺しましょうか……まあ、まずはわたくしの裸を見た目を抉りましょう。あ、片目だけですわよ? 最後まで自分がどうなるか、しっかりと見せてさしあげませんとね」

「ルーラー、意見具申よろしいでしょうか?」

「なんですの? ふざけた事を言ったら、今度は二の弾(ベート)ではなく実弾でぶち殺してやりますからね」

「人体破壊の練習がしたいですわ」

「ふむ。続けて構いません」

「格闘技の勉強はしておりますが、いかに効率良く人体を破壊するかはまだしておりませんの。ですから、こいつらの死刑がてら教材にしたいと思いますの」

「いいでしょう。ああ、ちゃんと手袋をして殴り殺すのですよ。わたくしはシャワーを浴びなおしてまいります。それと記憶も確認するので何も感じなくなるまで徹底的にやるように」

「「「「「「「「「「Да(だー)」」」」」」」」」」

「何故ロシア語? まあ、構いませんわ」

 

 ロシアの軍隊格闘術でも試すのでしょう。時喰みの城から出て改めて身体を洗います。本当に、本当に気持ち悪くて最悪な気分ですの。わたくしを汚していいのはわたくしか、わたくしの認めた女の子だけですのに……徹底的に洗わないといけませんわね。

 そう思って服を抜いでシャワーを浴びていると、また人の気配を感じたので三番(エロヒム)を向けますが、声で止めました。

 

「あ、あの、クルミ様……」

「リリさんですか。どうぞ」

「はい……えっと、大丈夫ですか?」

「最悪の気分ですが、どうしましたか?」

「その、ごめんなさい。部屋が荒らされていました」

 

 こっちは囮でしたか。まあ、ここにある物は全てどうでもいい物なので構わないです。本当に大事な物はロキ・ファミリアに借りている部屋や娘ちゃんの部屋に保管してありますからね。誰がこんな危険な場所に置くというのですが。ちゃんと盗まれても問題ないものしか置いていませんわ。

 

「わかりました。まあ、それは後で対処するのでいいとして……リリさん、身体を徹底的に洗ってくださいませんか?」

「構いませんが……一緒に入るのは嫌がってたのにいいんですか?」

「今日は特別です」

「わかりました」

 

 リリさんに身体を隅々まで綺麗にしてもらい、嫌な気分を払拭しておきます。もちろん、リリさんの身体も洗わせてもらいました。

 その後、着替えてから部屋に入ると、確かに荒らされていました。そして、床には夥しい血液もあります。明らかに戦闘があったようですわ。

 

『あら、遅かったですわね、わたくし』

 

 振り返ると、リリさんが片付けをはじめている場所から見えない影にわたくしが立っていました。どうやら、新しくアサシンにしたわたくしのようですの。

 

『犯人は?』

『カヌゥ・ベルウェイ。片目を抉って追い返しておきましたわ。彼の影にわたくしを潜ませておいたので、情報は筒抜けですわ』

『同期します』

『ええ、どうぞ』

 

 彼女の記憶を確認し、別のわたくしの記憶も確認します。そこでわかったのは、本当に団長の指示のようで、片目を押さえながら団長に報告しているカヌゥ・ベルウェイが居ました。

 

『どうするのですか?』

『乗っ取るつもりはありませんでしたが……やられたら倍返しにするのは基本ですし、ソーマ・ファミリアを掌握しますわ。ただ、もう少し泳がせます。殺しても問題ないように他のファミリアと絡ませて問題を起こさせましょう』

『その辺りは任せますわ』

『よろしくお願いいたします』

「それで、その、今日はどうしますか? 部屋も片付けないといけませんし……」

「いえ、その必要はありません。わたくしは先程襲われたので、ここから出ていきます」

「え? 本当に? 襲われたって……彼等がクルミ様に勝てるはずないじゃないですか!」

「ええ、返り討ちにしましたが、心配の前にそれですか?」

魔物(モンスター)を集めて影に落とし、虐殺するようなクルミ様にスキルの情報も知らない彼等が勝つ事なんてありえませんから」

「まあ、そうなんですけどね」

「あ、リリはついていきますよ」

「駄目です」

「そんなっ! 見捨てないでくださいっ!」

 

 リリさんが抱き着いてくるので、頭を撫でてあげると涙目で見上げてきますの。可愛らしいのでもっと撫でてあげます。

 

「リリさん、わたくしがリリさんを見捨てる事はありません。ただ、ちょっとやる事がありますので他のファミリアのお方を適当に見繕ってしばらくダンジョンで活動してくださいまし」

「……他のファミリアを? ああ、リリは囮ですか」

「護衛はつけますし、装備も今からヘファイストス・ファミリアに行って買い揃えます」

「そういう事ならお任せください。リリはお役目を果たしてみせます」

「ええ、わたくし達を侮った愚者共に裁きをくだしましょう」

「やってやります!」

「では、準備しましょうか」

「はい!」

 

 リリさんと一緒に荷物だけ回収して、ソーマ様とソーマ様が保管していたお酒も道具も素材も全てを持って出かけます。場所? ああ、団長、ザニスさんが一向にやらなかった極東系ファミリアの場所に行ってそこでお勉強とお酒作りをしてもらいます。

 オペレーターのわたくしが連れて行ったらソーマ様は大喜びでしたので何も問題ありません。あちらのファミリアも酒蔵を新しく、大規模に作ると言えば他のファミリアも巻き込む事になりました。とりあえず、デメテル様を巻き込む事は確定なので、交渉をお願いしておきました。利益で結びついて仲良くなればソーマ・ファミリアを乗っ取るのに協力していただけますのでこれは絶対に成功させます。オラリオの食を支配するデメテル様を味方につければ百人力ですしね。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 本体であるわたくしはリリさんと共にヘファイストス・ファミリアへとやってきました。そこでバベルの塔の上層にある高級店に移動し、店員さんの所へとやってきました。

 

「いらっしゃい、可愛らしい冒険者君達。何をお求めかな?」

「ヘファイストス様と団長である椿・コルブランド様ですね」

「あのクルミ様! いきなり団長と主神様に会おうなんて無茶ですよ!」

「嘘じゃないようだけど、そっちの子が言う通りだね。神友であるヘファイストスへ紹介するにはそれ相応の理由がいるね」

「商談ですわ。こちらの品を売りにきました」

 

 影から巨大金庫を取り出し、中に入っているリヴィラで買い取ってきた素材の数々を見せてやります。

 

「いきなりレアスキルを見せるんじゃないよ! 心臓に悪いじゃないか!」

「とりあえず、呼んできてくださいまし。こちらは継続的に品を渡す事が可能なのです。それに大量注文もいたします。無理なら違うファミリアへ行くだけですわ」

「……わかった。嘘は無いようだし、ちょっと待ってて」

 

 わたくしと同じ黒髪ツインテールで物凄い爆乳の神様が奥へと走っていかれました。

 

「あの、大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですわ。多分」

「多分なんですね」

 

 少しすると右目に眼帯をつけた赤髪で男装の麗神と黒髪赤眼で、左目に眼帯を装着している和服姿の女性がやってきました。何この二人……眼帯つけたペアルックですか? 

 

「貴女が大量の素材を持ってきたっていう子ね」

「うむ。これは確かに大量であるな」

「ええ、ソーマ・ファミリアのくるみ・ときさきと申します。こちらはわたくしの世話係である……」

「リリルカ・アーデでございます、神様」

「私が主神であるヘファイストスよ」

「手前は椿・コルブランドだ。それでこの素材を定期的に卸してくれるのだな?」

「値段次第ですが、可能です。それとわたくし達が求めている大量の武器も用意して頂きたいのです。それと私達専用の、特に彼女に持ってもらう大型の武器を用意していただきたいのです」

「レベルは?」

「わたくし達は1ですが、アビリティが限界まで成長すれば2になります」

「ランクアップは既にできる状態なのだな」

「はい。そして、最後にコレの整備ですわね」

 

 そう言って取り出したのはロキ・ファミリアから賭けで貰った剣斧です。それを出すと床が軋しみました。ですが、二人の目は釘付けになりました。何れ気付かれるのは時間の問題です。ですから、今の間に協力者の確保する必要があるわけですわ。

 

「それはギガントマキアの奴じゃな」

「ええ、何処にあったの? まさかソーマ・ファミリア?」

「ロキ・ファミリアが死蔵していたのを頂いてまいりました」

「「ロキか!」」

「コレの整備もしくはわたくし達が使えるように改造していただきたく思うのです」

「それは生半可な物じゃないから時間がかかるわ」

「うむ。流石に時間をもらうことになるな。仕事も立て込んでおるし……」

「ちなみにコレを改造するのはお二人にお願いしたいのですが、まずは腕をみないと駄目ですわね」

「ほう、この私にそれを言うのね?」

「うむ。挑戦と受け取るぞ」

「鍛冶の神であるヘファイストス様は神の力を使えませんし、椿さんの実力はわかりませんもの。ですから、彼女の武器を作ってくださいませ。使う素材や代金はコレを売った代金からお願いします。また、わたくしが負けた場合、ソーマを差し上げます。後、わたくしに鍛冶を習わせて欲しいです」

 

 鍛冶能力も欲しいですわ。色々と便利ですし、調べた限りでは魔剣とかも作ってみたいですしね。

 

「そちらについてはまた後の話だな。まずはその者の武器か」

「ええ、そうね。重量武器らしいだけどどれくらいのがいいのかを調べないと」

「リリさん、重しを全て外してお二人に協力してくださいまし」

「わかりました」

 

 次々と重い武器をリリさんが試していきます。その中で一番しっくりときたのは戦斧のようですわね。中々に良いチョイスです。

 

「ふむ。スキルのお蔭で結構持てるようだな」

「だけど、明らかに身長に合っていないわ。もっと小さいのがいいわね」

「その、重さはこれぐらいでいいんです。リリのスキルは重量があればあるだけ能力が上がるので……」

「なるほど。それなら重量が大きい小さめの戦斧を作れば良いのだな。しかし、手前はロキ・ファミリアの仕事で手が空いておらん」

「私が作るわよ」

「なら、それまではこれを使っておくといいだろう。手前が作った戦斧だ。持ち手をこうすればよい」

 

 そう言って椿さんは持ち手の部分を切り落として小さくし、先端の部分を調整してくれたようです。これでリリさんの武器はとりあえずいいでしょう。他にも腕や靴に防具を整えていきます。なんというか、鎧は布系なのでテイルズのプレセアみたいになりそうです。

 

「ではリリさん、よろしくお願いいたしますね」

「はい。行ってきます」

「行ってらっしゃいませ」

 

 護衛として三人のわたくしをつけましょう。これで死にはしないはずです。やばくなれば時喰みの城を経由して移動させますしね。

 

「おや、別行動するのか?」

「ええ、ちょっとファミリアでごたごたしてまして……しばらくは鍛冶を習いがてらこちらにお世話になろうかと」

「何があったのよ?」

「シャワーを浴びていたら襲われたので返り討ちにしましたの。どうやら団長さんの指示らしいので、ぶち殺してやろうかと思いましてクーデターの準備中ですわ」

「「「うわぁ……」」」

「ちなみにわたくしは便利ですわよ。こんな事もできますし。刻々帝(ザフキエル)八の弾(ヘット)

 

 蟀谷を撃ちぬいて分身を作成します。彼女達の目の前で二人になった事で、信じられないような表情になりました。

 

「「わたくし達は人海戦術で鍛冶を覚えます。ロキ・ファミリアのお仕事が大変でしたら、お手伝いいたしますわ。身の回りの世話だけでも有用ですわよね? ああ、鍛冶は見て盗みますのでご安心くださいませ。施設さえ少し貸していただければ……」」

「ありえないわ……」

「うむ。採用じゃ。手前が直に教えてやろう」

「売り子だってやりますわよ」

「待って、それは僕の仕事が奪われるんじゃないかな!」

「では、そちらは任せますわ」

「あ、リリさんの武器を作るヘファイストス様の様子はわたくしも見せてもらいますからね」

「まあ、いいわ。素材と資金さえ渡してくれるのならメリットは確かにあるしね。それにヘスティアにこないだ作ったばかりだし。後、ソーマ・ファミリアの団長が同じ女としてもムカつくからね」

「うっ……」

「じゃあ、さっそくやりましょうか」

「畏まりました、師匠」

 

 さて、ぶち殺してやった奴等の時間を使って追加で生み出して鍛冶を覚えましょう。そして作るのです。わたくしだけの、わたくしによる理想の漫画に出てきた武器達を! とりあえずは神威霊装を作り出す事を目標としましょう。未来の事を考えると、そちらの方がいいですしね。敵対する可能性もありますし、皆さんが死んだ後もわたくしは生き残る可能性が高いです。もしくは過去改変をしたりするかもしれません。そうなると最初から交渉をしないといけないので、自ら鍛冶能力を身に着けた方が何かと便利です。椿さんとヘファイストス様の技術、頂きますわ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 リリはクルミ様に言われた命令を実行するため、よさそうな人を物色していると見覚えのある人を見つけました。

 

「おにいさん、おにいさん! 白い髪のおにいさん! おひとりですか?」

「あれ、君は……」

「突然ですが、リリと一緒に冒険しませんか!」

「たしかこないだの……」

「混乱しているんですか? でも、今の状況は簡単ですよ。冒険者さんのおこぼれに預かりたいサポーターが自分を売り込みにきているんです!」

「いや、そうじゃなくて、君、昨日の小人族(パルゥム)の女の子だよね? もう一人の子と組んでいるんじゃないの?」

「それがその、リリはどんくさくてクビになっちゃいました。ですから、助けてくれたおにいさんと一緒に冒険したいなって……それにリリ、一人だと不安で……だから、サポーターとしてでもいいので駄目、ですか?」

「わかった。一緒に行こう。僕もちょうどサポーターが欲しかったし」

「ありがとうございます!」

 

 ニヤリとリリはこっそりと笑います。ちょろくて助かりました。それに広場に来てからこちらを監視している人達にクルミ様に捨てられた事を伝えられたと思いますので、襲われやすいでしょう。椿様からいただいた戦斧はバックパックとの間に隠しておけば大丈夫です。腰に魔剣もありますし、クルミ様が密かに護衛も配置してくれています。

 ですから、この人にとってもメリットがあります。クルミ様ならリリだけでなく、この人も助けて……くれるといいですね。助けてくれないかもしれません。でも、やっぱりついでなら可能性はあります。まあ、リリには関係ない事ですね。死のうが生きようが、自己責任なのが冒険者ですし。

 

「あ、名前を教えていなかったね。僕はベル・クラネル。よろしく」

「はい。リリはリリルカ・アーデです。リリと呼んでください、ベル様」

 

 ダンジョンに潜り、八階層で戦っていましたが、普通に強いですね。リリと違ってベル様はクルミ様よりの方のようです。妬ましいです。それに武器も凄く強いのをお持ちです。まあ、今はリリも高い武器を持っているのですが。椿様が持ち手を切り落として調整し、渡してくれたのは一千万ヴァリスした物ですし。それに今、ヘファイストス様が作っていただける武器は億単位になると思います。何せ神様が直接作ってくれる物ですからね。

 

「リリ危ない!」

「ふえ? あっ」

「あれ?」

 

 つい後ろから襲ってきたニードル・ラビットを裏拳で叩き潰してしまいました。背後からの奇襲なんて散々クルミ様にやられていますしね。それにリリのステイタスは戦斧と装備によって強化されていますから……はい、普通に倒せちゃいました。

 

「強いんだね。普通に戦えるんじゃないかな?」

「いえいえ、今のはまぐれですよ、ベル様。リリなんかとてもベル様やクルミ様にかないません。ええ、かないませんとも。いっつもボッコボコにされるんですよ!」

「えっと、それは……」

「聞いてくださいベル様! クルミ様ったら……」

「あはは」

 

 ついついベル様に愚痴を言ってしまいます。でも、仕方がありません。本人に言ったら何をされるかわかったものじゃないですしね。

 

「それにしても……キラーアントが異常なほど少ないんですが、なにかあったのでしょうか?」

「そうなの?」

「ほとんど遭遇していません。普段の八割以下です」

「気をつけて進もうか」

「はい。それがいいかと」

 

 そう言えばクルミ様がキラーアントを使った狩りをすると言っていたような……でも、今はヘファイストス様の所のはずですし、他の誰かが呼び寄せているのかもしれませんね。どちらにしろ、危ないので教えなくていいでしょう。キラーアントの群れとか悪夢でしかありませんし。

 

 

 

 

 




ヘファイストスと椿は武器目当てと女としてクルミに協力しました。ファミリアとしても安く大量の素材が手に入るのは嬉しいからです。後、単純にくるみの労働力も期待しての事ですね。

くるみちゃん合計74人。これでも原作の十分の一以下なんだよね。うん、本当にヤバイ。時崎狂三を見たら千体はいると思えが、常識ですしね(ぇ
しかも一体一体がコラボイベでおそらく分身がレベル5から4はあります。本体は6から7は最低でもあるでしょうし……うん、悪夢に間違いないですね!


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裏技

続ける事にしたので、ちょっと連載に設定を変更して序章を追加しようかな。くるみの身体が作られる話とか。植え込まれている物とか。ダンメモとデアラのコラボのネタバレが一部はいるかもしれませんが、大丈夫ですよね、うん。こちらを書くのは月曜日ぐらいです。


今回は視点がコロコロ移動しますが、流石に団長側とかもやらないといけないので勘弁してください。


 

 

 

 ソーマ・ファミリアにある団長の部屋に入り、片目を押さえながら報告する。団長はソファーに座り、隣に女を侍らせている。

 

「すいません、失敗しやした……」

「どういう事だ? アイツの行動は完全に把握していたはずだ。まさか、武器もない状態で負けたのか?」

「そっちに行った奴等は誰一人として帰ってきてやせん。そもそもこちらの情報が漏れていたのか、あの野郎部屋に潜んでやがった!」

「何? 今回の事は子飼いの連中にしか話していないはずだぞ」

「そうとしか考えられやせん」

 

 今思いだしただけでもムカつきやがる。こちらが荷物を漁っている最中に声をかけられ、振り向いた瞬間に光る何かが飛んできて激痛が走った。痛みの余り、しゃがみ込んで耐えている俺にアイツは近付いて嬉々として俺の瞳を針ごと抉り取りやがった! お蔭でエリクサーもききやしねえ! 

 

「絶対にぶっ殺してやるっ!」

「殺すのは駄目だと言っているだろう。アイツの魔法は酒作りに使えるらしいからな」

「詳しいアイツのステイタスはわからないんですかい?」

「これだ。読めるか?」

「はい? なんですかい、これは……」

 

 渡された紙には全く見た事もない分からない言語で書かれていた。これでは何が書かれているのかもわからない。

 

「やはり読めないか」

「ええ、まさかこれがそうなんですか?」

「ソーマ様が言う通りなら、そうだ。だが、実際に酒は熟成が増している。それに関するものだろう。まあいい。それよりもくるみはどうしている?」

「俺は知りませんぜ。傷の治療にかかりきりでしたからね」

「っ!? 今すぐ所在を確認しろっ! あの生意気で高飛車な小娘が泣き寝入りするはずがないっ!」

「了解しやした」

 

 他の連中を呼んでファミリア内を探すが、クルミはもちろん、アーデも、ソーマ様も居なくなっていた。酒蔵も酒を造る道具も全て空になっていた。

 

「あ、ありえない……なんだそれは……いったいどうやって運び出したんだ! 誰か見ていないのか!」

 

 団長が酒場にたむろしていた奴に怒鳴りつけるが、ほとんどの奴は知らないようだ。

 

「チャンドラ! お前はどうだ! アイツ等と仲が良かっただろ!」

「あ? ああ、クルミならアーデとソーマ様を連れて出て行ったぞ」

「なんで止めなかった!」

「止めるなって言われたからな。それにどうせソーマ様が一緒なら酒に関する事だろう」

 

 そう言ってチャンドラは高そうな酒瓶から芳醇な香りを漂わせる酒を味わって飲んでいく。

 

「チャンドラ、その酒はどうした?」

「コイツは試供品って貰った奴だな。やらんぞ」

「賄賂かよ!」

 

 良く見たら、チャンドラ以外にも何人か酒を貰っているようだ。

 

「待て。その酒は酒蔵に在った物だ。勝手に持ち出された物だから回収する」

「ふざけんな!」

「そうだそうだ!」

「はっ、それは無理だぜ団長。コイツはソーマ様がくれたもんだからな。もう俺達のもんだ。コイツを取ろうってんなら……覚悟できてんだろうな、あぁ?」

「くっ……貴様等! それ相応の覚悟はできているんだろうな!」

「あ? 何言ってやがんだ?」

「出て行け! 俺に従わないのであれば即刻荷物を纏めて出ていくんだな!」

「いいだろう。おい、聞いたか? 酒がねえ上に出て行けだってよ! 酒が飲めねえならこんなところに用はねぇ。俺は行くが、お前等はどうする?」

「チャンドラっ!」

「あてはあるのかよ?」

「ああ、あるぜ。来るんなら口きいてやるよ」

「何処に行くというんだ?」

「ロキ・ファミリアだ。ガレスに誘われてんだ。俺と来る奴は今ならロキの所に世話になれるぞ」

「俺は行くぜ!」

「俺もだ! 酒が飲めんのなら用はねえ!」

「待て!」

「団長さんよ。俺達を止めたければ酒を用意してくるんだな」

「くそがっ!」

 

 チャンドラ達は本当に荷物を纏めて出ていきやがった。何人かをつけさせたが、確かにロキ・ファミリアの所に入っていったようだ。

 

「探せ! なんとしてもあのくそ餓鬼を見つけてソーマ様を奪還しろ! 俺は俺で手を打ってくる! 任せたぞ」

「へい」

 

 あの餓鬼は俺が殺す。なんとしてもだ。覚悟しておけよ……

 

 

 

 

 ◇◇◇ チャンドラ

 

 

 

 

「ガレス、悪いが世話になる」

「構わんぞ。一時だけだろう」

「ああ、一時だけだ」

「うむ。うちの若いのと競わせておけばよい。何時もと違う相手との戦いも経験になるしの。それにかかった費用はそっち持ちでいいんじゃな?」

「ああ、嬢ちゃんが全て出すそうだ。俺達はここで訓練して酒を飲んでたらいいってよ」

「良い身分だな、おい。わしもあやかりたいぞ」

「なら移るか?」

「それは御免じゃ。ここがわしの居場所よ」

「残念だ。っと、そろそろ時間だ。俺は先に行って準備しないとな」

「ああ、今日じゃったな。わしも行くぞ」

「好きにしろ」

 

 ガレスと別れ、装備をしっかりと整えてギルドへと向かう。その途中で幼い黒髪の童がこちらにやってくる。髪の毛はストレートで腰辺りまである。瞳は怪我をしたのか布で覆われており、杖を持っている。服装は白いワンピースだ。近くに母親であろう女性と一緒だ。

 

「おじさん、肩車して~」

「すいません! この子ったら……」

「いいぞ。今は気分がいいからな!」

 

 望み通り、彼女を肩車してやる。すると彼女は俺の頭に手を置いて声をかけてくる。母親の方は杖を持ってついてくるだけだ。

 

「首尾はどうですか?」

「上々だ」「では、もう少し泳がせましょうか」

「そっちは大丈夫なのか?」

「はい、問題ありません。ちゃんと盾は手に入れました。それにソーマ様がこちらの手にある以上、正式な手続きをしてしまえばどう言いつくろっても無駄ですもの」

「怖い嬢ちゃんだな」

 

 嬢ちゃんが出ていってから少ししてあちらから接触してきた。大量の酒と金を置いて団長からまともな団員を集めて離反させろと言ってきた。俺達としても沈む船には乗りたくねえ。それに酒がないなら団長につく意味なんてねえんだ。だから、俺達はクルミについた。ただ、それだけだ。

 

「ギルドに着いたな」

「では、()()を提出して会場に行こ~!」

「おう」

 

 予約しておいた会場に到着すると、既に多数のドワーフたちが集まっている。中には神々すら居る。嬢ちゃんは俺から降りると、壇上にある司会席に移動し、何処からか木箱を取り出してその上に乗って高さを調整する。そして、拡声器の魔道具へと触れた。

 

「さて、本日はわたくし達が開催するオークションにお越しいただきありがとうございます。知っての通り、出品するのは市場に出回らない本物のソーマ。その限りなく完成品に近い品物ですわ。ですが、買うのも飲むのも自己責任。当方は一切関与しません。もちろん、毒ではありません。ただ、美味しすぎる。それだけです。それでも良いという方のみ、入札にご参加くださいまし」

 

 そう、今日は前々から予定していたオークションだ。本来はドワーフだけだったのだが、何時の間にか神々にまで情報がバレていた。

 

「さてさて、神々まで来られる事は予想外でしたが、問題はありません。品物は二つございます。故にドワーフ限定オークションとフリーの誰でも入札できるオークションの二つを開催いたします。奮ってご参加くださいまし」

 

 一つ目の酒が取り出され、それが本物である事を証明するために栓が取られ、一杯分だけ注がれる。それだけで酒の香りがオークション会場を包み込んだ。

 

「本物かわからないと思いますので、この一杯だけは試飲として値段に含みません。そして、その試飲に選ばれるのはこの箱からランダムに引いた数字の方。数字はそれぞれの席に書いてある物を使いますので、運が良ければ飲めます。では……」

 

 試飲したのはドワーフだったが、ソイツはあまりの美味さで幸せそうに倒れた。ドワーフがだ。それを見て会場は大盛り上がりだ。

 

「では、ドワーフ限定を一〇〇万ヴァリスよりスタートですわ!」

 

 値段がどんどん跳ね上がっていく。馬鹿みたいな金額だが、四九〇〇万ヴァリスで落札された。落としたのはロキ・ファミリアのガレスだ。

 続いて神様も入るソレは値段が跳ね上がっていく。最終的に落札したのはフレイヤ・ファミリアで落札額は一億四千万ヴァリス。神フレイヤが落札されたようだ。神ロキはかなり悔しがっておられる。

 この代金から俺達がロキ・ファミリアで滞在する代金も渡されるし、新しい酒を造る資金へと回される。団長のザニスは自らが私腹を肥やすばかりで、このような事はしていなかった。それに対してクルミのこれなら、俺達としても納得できる金の使い道だろう。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 カンカンと槌を振るう音がします。わたくしの目の前で魔物(モンスター)の素材とアダマンタイト、ミスリルが使われて、武器へと作り変えられていきます。リリさんの戦斧が作られておりますので、わたくしもお手伝いをさせてもらっています。まあ、身の回りの世話程度です。

 他の場所でも同じ事をしているのですが、意外に人気で皆さん、喜んでくださいます。可愛い女の子にお世話されるのは嬉しいのでしょう。

 

 2月25日。ヘファイストス様の作業を分身が見ている間に、数日で暇になったので本体のわたくしは別の実験を行いますの。セイバー達がどれだけ頑張ろうと、一年で剣術などを極めることなど不可能です。いくら大量のマンパワーを投入し、それぞれがリンクして最適化をしていったとしてもたったの一年では達人には追いつけません。

 では、どうするか。諦めるなんて選択はできません。故にわたくしらしい裏技を使います。今回、用意したのは一八階層で見つけてきた朽ちかけたボロボロの武器ですの。きっと良い記憶が手に入るでしょう。

 

「では、やりましょうか。刻々帝(ザフキエル)十の弾(ユッド)

 

 十の弾(ユッド)は対象に込められた過去の記憶や体験を知ることができます。つまり、物の記憶を見る事ができますの。起動に千日を使い、更に遡る時間だけ追加が発生します。

 どうやら、この剣達は壊滅したアストレア・ファミリアでの生き残りが墓標として置いていったみたいです。その方は毎年、ちゃんとお参りにきています。

 その事を知ってダラダラと嫌な汗が流れてきますの。四月までに戻しておかないと、命を狙われるでしょう。でも、やっぱりちょっと試したい事ができました。

 

「ヘファイストス様、炎を纏った剣を素材にしたらどうなりますか?」

「は? それはその効果を移したりできるわよ。もちろん、依代とか魔石はいるけれど……」

「そうです、か……あ、剣が纏った炎を別の物に移したりはできますか?」

「まあ、難しいわね。出来るとしたらヘルメスの所に居る万能者でもないと無理でしょうね」

「ありがとうございます。そちらにも声をかけてきますわ」

「待った。でも、使うとしても使い捨ての魔石を使用することになるはずよ。武器と組み込むことは大変よ」

「あの、それならこういうのはどうですの?」

 

 わたくしはヘファイストス様にあるシステムについて教えると、楽しそうに笑って嬉々としてやってくださいました。ただし、わたくしの作業量がヤバい事になりましたが、交代してやればいいとの事で、お付き合いさせていただきました。

 

 

 ヘルメス・ファミリアの本拠地である旅人の宿へとやってきました。

 

「万能者に依頼したいのですが……」

「お急ぎですか?」

「急ぎでお願いします」

「では、特急料金はこちらになります」

「構いません」

 

 欲しい魔道具の仕様書と耐久性なども書いてしっかりと渡しておきました。可能かどうか聞いてくる間、待っているようにと言われたので、他の団員さんに暇つぶしがてらに話を聞いていると……わたくしはなんて視野が狭かったのか思い知らされました。ええ、そうですの。何もオラリオに拘る必要はありません。分身を外へと放って勢力拡大に努めればいいのです。数が多くてバレるかもしれない? 村に一人なら問題ありません。それに村はともかく、大きな町になれば犯罪者は居るはずです。その人達を懲らしめて人助けをしながら時間を頂く。ええ、これなら問題ありませんわね。

 

「お待たせしました。私がアスフィ・アル・アンドロメダです」

「くるみ・ときさきです。よろしくお願いいたします」

「それでこの魔導具はどのような事に使うのですか?」

「ヘファイストス様に作って頂いている武器に組み込みたいのです。とある魔法を魔石を使う事で使用できるようにして……」

「面白い試みですね。使い捨てではない近距離用の魔剣といったところですか」

「お願いできませんか?」

「代金と素材さえ頂ければ構いません」

「では、お願いいたします。成功したら数を発注するかもしれません。それと使う物の大きさと形はこちらを」

「承りました」

 

 さて、どうなるかわかりませんが、完成したら面白い事になる事は確実ですわね。劣化カマエルにすらならないでしょうが、そこはそれ、これから改造していけばいいのですから。手に入れた精霊の欠片、アレも取り出して武器の方に植え付けて成長を狙うのもいいかもしれません。アヴェンジャーの方で作られているらしいので、何体か頂いておきましょう。

 さて、本日の残りは得られた技術をこの身体に染み込ませるとしましょう。

 

 

 




十の弾(ユッド)による物の記憶を確認。これを使って使い手たちの記憶、技術を回収して手に入れるという裏技。もちろん、劣化しますが、それでも強力ですし、鍛えあげればある程度は近付けます。
何を想い、散っていったのかも知れるのでリューさんの秘密も筒抜けに。本当にやばい力です。

ちなみに精霊と精霊は食べられる関係だそうな。つまり、相手にとってくるみちゃんは勝手に増える格好の餌であり、くるみちゃんにとっても精霊はセフィラの欠片を手に入れる格好の餌であります。尾を飲み込む蛇のような、不倶戴天の仇敵のような関係ですね。その心はどちらも

「「食べたい」」



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股間を潜る幼女と小竜と戯れる幼女

わ、ワスレテナイヨ


 

 

 

 さて、分身体のオペレーターがオークションをやっている間に、分身体であるわたくしもわたくしで行動しますわ。同時進行という奴ですわね。

 

「それにしても……これはなんというか、入りたくないものですわね……」

 

 まあ、それでも入るしかないので、入りますけれどね。そんな訳で、適当に買った棺と滑車を引いてあぐらをかいた巨大な像の股間を通っていきます。

 中に入るとすぐに広いロビーになり、色々な人が働いています。まるで警察所みたいなところですわね。案内カウンターは流石にないですが、複数ある受付に色んな人が並んでいます。

 オラリオの治安維持をしている関係で事件の報告やギルドを通さない直接依頼などがあるのかもしれません。どちらにしろ、ソーマ・ファミリアと比べ物にならないくらい大きなファミリアです。オラリオで一番多くの第一級冒険者を確保しているらしいだけはあります。

 そんな場所で幼い女の子がキョロキョロしていますと、普通は迷子と思われるかもしれませんが……持っているのは棺なんですよね。そんな異質な存在が入ってきたら注目を集めて警戒されるのは当然ですの。まあ、わたくしは良い子なので、ちゃんと受付に並びますわ。

 

「ようこそおいでくださいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「ソーマ・ファミリアのくるみ・ときさきと申します。ガネーシャ・ファミリア所属、ハシャーナ・ドルリア氏の死体をお持ちしました。つきましては神ガネーシャか団長もしくは幹部の方に取り次ぎをお願いいたしますわ」

「は? し、死体ですか?」

「ええ、死体ですわ。リヴィラの件はこちらへ届いてませんの? どちらにせよ、受付で話す事でも確認する事でもありませんので、奥へ通していただけますか?」

「じょ、冗談は……」

「なんなら、ここで開けて確認なさってくださいまし。こちらは別にどちらでも構いません。死者の眠りを妨げるつもりがあれば、ですが……」

 

 わたくしは妨げるというより、失われる技術などを継承する感じですので、冒涜するつもりはありませんわ。用件が終わったらちゃんと供養いたしましょう。まあ、ハシャーナさんより、リューさんとお話する方が先でしょう。そのための準備もしないといけません。専属のわたくしを用意して、例の武器ができたらカチコミしに行きましょう。

 

「え、えっと……」

「少しこちらで話を聞こ……っ!?」

 

 肩を掴まれそうになったので、手を掴んで背負い投げで相手を飛ばします。相手は空中で体勢を整えてカウンターを蹴ってこちらに向かってきます。相手の飛び蹴りをしゃがんで回避しながらアームカバーに隠してある針を取り出して投擲します。狙いは男女共に弱点である股間ですが、相手はその場で身体を回転させて針を飛ばし、そのままかかと落としをしてきました。こちらも拳を足の横から叩き込んで体勢を崩させます。

 地面に相手が着地すると同時に蹴りが放たれてくるので、こちらも震脚を使って生み出す力を全て肘撃(ちゅうげき)*1に注ぎ込んで迎撃します。激突する力は相手の方が遥かに強く、今度はわたくしが吹き飛ばされました。

 空中で自ら後ろに力を加える事で後転し、足から地面につき構えを取ります。相手の褐色肌の女性はニヤリと笑いながらあちらも構えを取りました。

 

「きひっ!」

「あはっ!」

 

 明らかに手加減されているのはわかりますが、それでも持てる技術で挑みます。だって、楽しいんですもの。相手の方もきっと同じですわね。

 互いに接近して拳を交えますが、わかるのは相手の身体能力が圧倒的である事。また、リーチの差が凄まじいので防戦一方になりますの。

 

「何をやっている!」

「あ、団長」

「貴女がガネーシャ・ファミリアの団長さんですの?」

「ああ、そうだ」

「先程、こちらの方に少し稽古をつけていただきました。ありがとうございます」

「稽古?」

「まあ、始まったのは突然肩を掴まれそうになったからです。少し前に襲われたばかりでしたので、過剰反応をしてしまいましたわ。申し訳ございません」

「そうか。確かにいきなり女性の肩を掴むのはどうかと思うぞ。エルフのように肌に触れられるのを極端に嫌がる者も居るのだからな」

「申し訳ない」

「いえ、こちらこそ申し訳ございません。改めましてわたくしはソーマ・ファミリアのくるみ・ときさきと申します。今回、こちらの棺の中身をガネーシャ・ファミリアの主神様と眷属の方々にお届けにまいりました。引き取られないと言われるのでしたら、こちらで勝手ながら埋葬などをさせていただきますわ」

「……棺か。わかった。こちらで話を聞く。ついて来てくれ」

「かしこまりました」

 

 連れていかれた部屋で複数の高レベルであろう完全武装のガネーシャ・ファミリアに囲まれました。一応、用意された席に座って棺が開けられるのを横で見ております。

 

「間違いない。ハシャーナだ」

「なんで死んじまったんだ……」

「身体は綺麗なのに……」

「確認した。すぐにガネーシャ様を呼んで来てくれ」

「はっ!」

 

 あちらが指示をしている間、ハシャーナさんの記憶からガネーシャ・ファミリアの団員の名前と顔を一致させていきます。

 

「待たせた。それでは話を聞こう」

「俺がガネーシャだ! ハシャーナが死体になって戻ったと聞いたぞ! うぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 神ガネーシャが入ってきて、ハシャーナさんを見るなり泣き出しました。団長の方を見ると、コホンと咳払いをしてから改めて話を求めてきたので、リヴィラであった殺人事件の事を詳しく話していきます。

 

「……ガネーシャ様、嘘は……」

「ない。全て事実だ」

「すぐにリヴィラに団員を派遣しろ。それとロキ・ファミリアにも事情を聴きにいけ!」

「「はっ!」」

 

 団長さんが指示を出しているので、わたくしはガネーシャ様を見て……少し落胆しました。いえ、像の時点でわかっていたのですが、やっぱりFGOのガネーシャ(ジナコ)さんじゃないんですね。少し残念です。

 

「さて、名を聞こうか、小さき少女よ」

「くるみ・ときさきですわ」

「くるみ・ときさきか。ガネーシャ覚えたぞ!」

「ありがとうございます。光栄でございます」

「うむ。礼をしたい。何か望む事があるか?」

「二点ほどございます」

「聞こう」

「あくまでもまずは聞くだけだ。それを叶えるかはこちらで判断させてもらう」

「もちろんですわ。まず一点目。神会が開かれて行われる二つ名決定の儀式があるとか……」

「あるな」

「そこでわたくしの二つ名をこちらが指定する物にしていただきたいのです」

「そう来たか! ガネーシャ驚きである!」

「それと神会で飲み物を提供したいと思っております。給仕として参加させていただけませんか?」

「ふむ。それぐらいならば良かろう。二つ名に関しては努力するが、確実とはいえん。故に二つ目の願いを一つ目としよう」

「ありがとうございます。では、ガネーシャ様に時が来ればわたくしにお力添えをお願いいたします。もちろん、犯罪ではありません。実は所属するソーマ・ファミリアの団長に襲われまして……」

 

 シャワールームでの事を事細かに教えます。もちろん、わたくしにとって不利な事は言いません。

 

「ガネーシャ様?」

「嘘ではない。実際に襲われ、その裏に居たのがソーマ・ファミリアの団長である事は間違いないだろう」

「では、即刻捕らえましょう」

「いえ、それには及びませんの」

「どういう事だ?」

「これはソーマ・ファミリアでの揉め事です。いくらオラリオの治安維持を務めるガネーシャ・ファミリアの皆様であろうと、他のファミリアから干渉を受けるのは後々、わたくし達ソーマ・ファミリアにとってマイナスとなります。ですので、住民に被害が出るまでは手出し無用にお願いしたいのです」

 

 もうソーマ・ファミリアを乗っ取る事は決めました。つまり、私かリリさん、チャンドラさんが団長になるでしょう。他の人はまともな人が居ませんしね。さて、この中でまともに団長になれるのはわたくししか居ません。何故ならわたくしは分身を業務にあてれば基本的には自由だからです。つまり、他の皆さんも団長という面倒な業務をしなくてよいのです。フィンさんがとても大変そうだというのはロキ・ファミリアに居るわたくし、セイバーさんが報告してくださっていますので、人海戦術が取れるわたくし達が対応するのがベストでしょう。

 つまり、ソーマ・ファミリアを運営する事になるので、他のファミリアに干渉されておんぶに抱っこ状態だと見られ、舐められると非常に困るのです。値段交渉や売り上げ、他のファミリアの態度など様々な要因にかかわってくるのは確実。そもそも不名誉ですし、自分達で解決できるのですから自分達でやるのが筋ですわ。

 

「だが、それではどうするつもりだ?」

「わたくしが力をつけて自力で団長の座を簒奪いたします。その時に起こる様々な処理にご協力願いたいのです。もちろん、費用はお支払いいたします」

「しかし、それは……」

「良かろう」

「ガネーシャ様?」

「構わん。民に被害が出ればその限りではないが、自ら勝利を掴み取ろうという姿勢はガネーシャ気に入ったから待つとしよう! 本来は帰る事がなかった我が子を連れて戻って来てくれたのだ。この程度は容易い。しかし、犯罪行為には手を貸さんし、取り締まる。また監視もつける。それは心得ておけ」

「はい。肝に銘じておきます。私は犯罪者達に目にモノを見せるだけです」

「うむ。他に何かあるか? 簡単な願いであれば聞いてやってもよいぞ」

「ガネーシャ様は……」

「でしたら、お金を支払うので教導をお願いいたします。わたくしを鍛えてくださいまし。ガネーシャ・ファミリアのお仕事も協力させていただきます。こちらの方が身を隠すためにもいいですから」

「嘘はない。どうだシャクティ」

「……先程の戦いを見る限り、鍛錬はしっかりとしているようですが、まだまだ拙いのは事実……新人達と共に訓練を施すのであれば問題ないかと」

「うむ。ではそれでいこう」

 

 これでガネーシャ・ファミリアにわたくしを送り込む事が出来ました。彼等の行動パターンなどを調べておけば色々と便利です。助けを呼ぶ時もその逆もです。それにコッソリとわたくし達を影に潜ませておけば情報収集がはかどります。また、こちらが手に入れた情報を差し上げ、代わりに襲撃と救出をしてもらう事だってできますもの。ガネーシャ・ファミリアとのコネクションは値千金ですわ。たった数十日の時間でこのリターンなのですから最高ですわ! それにハシャーナさんの技術も手に入れたので充分に儲けは出ました。後はわたくし用に最適化するだけですわ。目標は最短で最速にわたくしの理想である時崎狂三に到達する事ですわ! 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇ ダンジョン一二階層 

 

 

 

 

 

 

「くそっ! 運がねぇっ!」

「良いから走れ! 死ぬぞ!」

「くそぉぉぉっ!」

「もう、駄目……」

 

 後ろから走ってくる四メートルはあろう巨大な竜。小竜と言われているが、俺達からしたら暴虐の化身だ。レベルアップしていない俺達ではどう足掻いても追ってきているインファントドラゴンには勝てない。希少種であるインファントドラゴンと出会うとは本当に運がない。

 

「いいから走れ!」

「もうどっちに行っていいのかもわからないんだぞ!」

「くそっ! この霧めっ!」

「ああ、どうしたら……」

 

 倒れかけている女達を男達で抱えて必死に逃げる。女は魔法を使ってインファントドラゴンの足止めをしてくれるが、意味はあまりない。もう、俺達に助かる道はない。インファントドラゴン以外にも出てくる魔物(モンスター)共を無理矢理突破したから傷も増えて血をかなり流した。もう全滅しかありえないのかもしれない。

 

「あの、すみません。つかぬ事をお聞きしますが……」

「あ?」

 

 声に隣を向くと何時の間にか、場違いのような赤色のドレスを身に纏った八歳ぐらいの幼い女の子が俺達と並走していた。

 

「あのインファントドラゴンから逃げているとお見受けいたしました。倒さないのでしたら頂いてもかまいませんか? 一応、タゲ取りはそちらですので、お聞きします」

「倒せるなら倒して!」

「おい!」

「このまま死ぬのは嫌なの!」

 

 この子が戦っている間に逃げれば確かに俺達が助かる可能性はある。彼女が勝とうが負けようが俺達には関係ない。だが男として幼い女の子を残して逃げるのか? 

 

「じゃあ、もらいますわね」

「まっ」

 

 声をかけようとした瞬間、彼女は振り向きざまにインファントドラゴンへと何かを投擲するが、それはすぐに弾かれた。高レベルでもなさそうだし、やはり勝ち目はないだろう。

 

「今のうちに逃げましょう!」

「あ、あぁ……」

「だが……」

 

 インファントドラゴンは長い首を彼女に向けて振るってくるが、走って避けてはいる。彼女は逃げながら何度も攻撃を放ってこちらからターゲットを切り替えさせていく。その間に霧がだんだんと深くなって周りがろくに見えなくなってくる。

 

「霧に紛れて逃げるぞ」

「あ、ああ」

「早く!」

 

 きっと無事だろうと思う事にして、必死に逃げていく。すると何かの悲鳴のような物が後ろから聞こえてきた。それを聞こえないふりをして走る。

 

「嘘、でしょ……」

「なんでだよ! なんでここにも居るんだ!」

 

 逃げた先には絶望が居た。そう、インファントドラゴンが俺達の目の前に居たのだ。絶望に力が入らなくなり、地面に足をつくと他の二人が弾き飛ばされる。俺はそれをゆっくりと眺め、次は俺の番かと思った。

 

「二匹目ですわ、わたくし!」

「これは運がいいですわよ、わたくし!」

 

 幼い声が聞こえ、すぐに俺の横を赤い何かが通りすぎた。それは先程見た幼い女の子だった。彼女はインファントドラゴンの前に出てこちらに振り向いて両手を組んで腰を落とした。

 

「行きますわよ!」

「来てくださいまし!」

 

 もう一人の同じ姿をした幼い女の子が走り、彼女が組んだ両手に飛び乗る。すると飛び乗られた方は思いっきり上に飛ばす。飛ばされた彼女もタイミングを見計らって跳んだりのか、一〇メートルくらいは跳んでいる。たが、空中ではどうしようもない。インファントドラゴンは口を大きくあけて幼い女の子が落ちてくるのを待つ構えだ。

 

「きひっ!」

 

 そんな状況だというのに地上にいる幼い女の子は笑いながら上に何かを投擲した。それが爆発して光を発すると、空を飛んでいた幼い女の子の手に二メートルから三メートルであろう巨大な武器を何時の間にか持っていた。幼い女の子は空中で体勢を変えて振り下ろしてくる。インファントドラゴンは咄嗟に避けようとし、首をずらす。それに対して彼女は身体を器用に回転させて巨大な武器を命中させ、インファントドラゴンの首を両断して地面に激突する。爆発のような音が響き、すぐ後には地面が抉られた跡と巨大な武器が突き刺さる地面があった。

 

「捕らえてじっくり残さず頂くのではありませんでしたの? 殺してしまっては魔石からしか搾り取れませんわよ?」

「人命優先でしてよ、わたくし」

 

 幼い双子であろうそっくりな幼い女の子は巨大な武器を地面へと沈めていくと、魔石も同じように地面に沈めてしまった。

 

「あっ、魔石をそのまま入れたらまずいですわよ!」

「対処してきますわ!」

 

 一人が霧の中へと消えて残った一人がこっちにやってきた。

 

「おにいさん! おにいさん! お仲間さんが死にそうですが、辻ヒールならぬポーションなどは要りませんか?」

「あっ、ああ……」

 

 慌てて仲間を確認するとかなりやばい状況だった。だが、ポーションは全部使いきった。

 

「すまない。ポーションを分けてくれるか? その辻ヒールというのがわからないが、ポーションをくれるのだろう?」

「お金はもらいますわ」

「もちろんだ。ドロップ品から持っていってくれ」

「冗談ですわ。おにいさん達のお陰でインファントドラゴンを二匹も狩れましたもの。ですから、無料で治療して差し上げますわ」

「ありがとう……」

 

 ポーションを貰って治療を開始していく。その後、傷が治った俺達は彼女に案内してもらってこの階層を無事に脱出する事ができた。彼女はまたインファントドラゴンを探しに行くとの事で、別れた。

 俺達はダンジョンから出てドロップアイテムを換金し、酒場で彼女について話しながら生き残った事を感謝し、乾杯をした。

 

「旦那。その赤いドレスの子供について教えてくれやせんか?」

「ん?」

「彼女には世話になったんで、お礼がしたいんです。ここは奢らせてもらうんで、お願いしますよ」

「ああ、そういう事なら……」

 

 俺は眼に包帯をつけている男の言葉を信じて、彼女に助けられた事を教えていった。

 

 

 

*1
八極拳においては岩壁を打ち破る強力なハンマーと化す肘打ち




くるみロケットを打ち上げてから、光を発する魔導具を上に投げて影を発生させ、そこから時喰みの城経由で剣斧を出してインファントドラゴンを切断するという簡単なお仕事です。探す方が大変だったりします。
なお、一匹目は時喰みの城に閉じ込めたもよう。強化種になる前にしっかりと沢山のくるみに食べられました。


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ロキ・ファミリアのくるみちゃん3

スキルなどは習得せず、刻々帝(ザフキエル)のみになります。なお、元から時崎狂三に備わっているものは別です。


 

 

 くるみちゃんをうちの部屋に連れ込み、リヴェリアママと一緒に彼女のストリップを見ようとしたら、ママに視界を塞がれた。

 

「ちょっと見えへんねんけど!」

「流石に見せるわけにはいかん」

「そんな~」

 

 少しして目から手が退けられると、リボンが解かれてドレスが下にずらされている。つまり、傷一つない綺麗な素肌が曝されておるんや。少し指を這わせてみるとスベスベのモチモチで羨ましいぐらいや。

 

「んっ……あの、何しているんです、か?」

「確かめとるんや。それよりやるで」

「ええ、お願いします」

 

 まずはロックを解除してステイタスを表示させる。そこから神の恩恵(ファルナ)を上書きしていく。彼女の魔法は刻々帝(ザフキエル)と神威霊装・三番(エロヒム)。それに時喰みの城。明らかに人が持つレベルの魔法やない。人としての枠を超えとる。なんやねん時間操作って、うちら神様でもそんな特殊な奴しか無理やで。こんなんクロノスとかそっちの領域や。それこそ神々の代理として降りた……そういえば、アイズたんはこの子に何か感じると言っとった。誘拐された時にアイズたんが聞いた言葉から予想できるのは……

 

「これは……ロキ、彼女は……」

「黙っとれ! これをやったんはソーマ……はありえへんな。アイツは酒しか興味がないんや。それやからありえへん。となると……闇派閥(イヴィルス)の可能性もあるか」

「何をしていますの? 人のステイタスをコッソリと見て考え込むなんて失礼でしてよ?」

 

 後ろから抱き着かれて振り向くと、そこにはうちの下で寝転がっている子とまったく同じ姿をした彼女が居た。彼女の手には短銃が握られており、うちの蟀谷に押し付けられとる。

 

「まあ、それは構いませんが、何を知っているのか教えていただきましょうか。わたくしも過去の記憶がございませんので、知っている事があるのなら、教えてくださいまし」

「ロキを離してもらおう」

「少し大人しくしておいてくださいませ」

「っ!?」

 

 リヴェリアの周りにも無数のくるみたんが現れてリヴェリアに抱き着いて動きを封じていきよる。というか、部屋の中に十人は居るんやけどっ!? 

 

「ほとんど知らんで。うちが知っとるんは……くるみたんがエインヘリヤルと同じようになっとるって事だけや」

「エインヘリヤルですか? 確か、死後に集められる戦士の魂でしたか?」

「詳しいやん。そうや。くるみたんは死んだ者の魂が使われとる」

「それがどうしましたか? そんな事、とっくに知っていますわよ?」

「マジで!? 自分、死んでるんやで!」

「ええ、わたくしがわたくしになる前、おそらく死んだのでしょうね。気付けばオラリオにおりましたし。他には?」

「あ~他は精霊と人の身体を融合させた存在って事ぐらいしかわからんで。くるみたんの左眼が特殊な精霊の物やっていうんはわかっとるぐらいやな」

「その程度ですか?」

「ああ、せや。嘘はない」

「そうですか。残念ですわ。やはり闇派閥(イヴィルス)達の方が知っていそうですわね」

「そらそうやろ。こんな馬鹿げた禁忌を行うんは連中だけや。いったい何人犠牲にしたんかもわからん。普通は成功すらせん。作られた身体にくるみたんの魂を降ろす事で奇跡的にエインヘリヤルになっとるだけや」

 

 両手じゃ数えきれんほど犠牲になっとるのは確実やろう。まあ、それ以外に外的要因がないと成功するはずはないんや。精霊が自ら望んだら別やろうけど、そんなん普通はありえへん。

 

「わかりましたわ」

 

 うちに抱き着いていたくるみたんが指を鳴らすと、うちやリヴェリアに抱き着いとった子達が彼女の影に入って消えおった。ほんま便利なスキルと魔法やで。その分、コストも高いんやけど、時喰みの城で他者から吸い取る事で賄っとるんやな。

 

「なあなあ、抱き着いたままでええで?」

「……」

「うわっ、その生ゴミを見るような目で見るんわやめてくれへん? 流石に傷つくんやで!」

 

 うちから離れたくるみたんがリヴェリアの隣に移動して、いや、後ろに隠れてこっちを滅茶苦茶冷たい目で見て来とる。なんや、新しい扉でも開きそうや。

 

「リヴェリアさん……」

「知らん。それよりもくるみ。お前はアリアという言葉を知っているか?」

「知りません……いえ、わたくしを誘拐した方達が良く口にしておられますわね」

「やはり連中は何かを知っているか……」

「まあ、難しい事は後でゆっくりと考えればええ。今はくるみたんの柔肌を蹂躙したるで!」

「はいはい、もうそれでいいですわ。早く終わらせてくださいまし」

「ほな行くで!」

 

 ステイタスを書き換え、改宗をさせてやる。実行すると、ベッドの方のくるみたんがビクンッと跳ねてから仰け反り、絶叫をあげだす。同時に彼女から物凄い力を感じ、やばい気配がプンプンしよる。

 

「ロキ! これはどうなっている!」

「うちは普通に改宗しただけや!」

「あらあらまあま……」

 

 ベッドのくるみたんの左目が金色に輝き、後ろに巨大な時計盤みたいなのが出現した。それから狂ったような叫び声が聞こえ、くるみたんの髪の毛が先端から真っ白へと変化していきおる。

 

「ああ、なるほど……分身体が神の恩恵を受けるとこうなるのですね。過剰反応……いえ、しぶとくもわたくしの中にまで生き残っていた……ああ、そう言えばパクっておくように指示を出しておいたんでした。宝珠と神の恩恵。そして本体よりも隙が出来る分身体の身体。ある意味では納得ですわね」

「何落ち着ちついとんねん! これヤバイやろ!」

「ええ、ヤバイ奴ですわ」

「ロキ! 避難しろ!」

 

 その言葉とほぼ同時にベッドに居たくるみたんが手を振るうと、うちの部屋が切断された。それはもう、綺麗にや。

 

「こうなれば仕方ありませんわね。殺しましょう。魔王が降臨されるよりましですもの」

「ふざけるな! 殺すだと! 彼女はお前なのだろう!」

「ええ、ですからわたくしがわたくしの手で殺します。わたくし達!」

 

 無数のくるみたんが飛び出し、斬り殺されながらも接近して身体を押さえ込んでいく。そして、オリジナルであろう彼女が素手を白いくるみたんの胸へと突き入れて心臓を引きずり出しおった。彼女の手には未だ動く心臓とそこに浮かび上がる胎児のような顔。

 

「コレも精霊なのですから、こねこねしたら使えそうですわね。意思は要りません。力だけになるまで巻き戻しましょう。刻々帝(ザフキエル)四の弾(ダレット)

 

 くるみたんが生み出した時計盤から何かを銃に込めて、それを撃つと心臓の形が宝玉になり、種子みたいな結晶体になりおった。そこからは確かに力を感じる。

 

「これを集めたら、わたくしと同じ存在を作れそうですわね」

「やめい!」

「わたくし、同族が欲しいんですが……」

「それは禁忌や! 絶対に駄目や! NO!」

「わかりましたわ。仕方ありません。わたくしを食べさせて養殖し、結晶の量産計画は止めておきましょう」

 

 どうやら、わかってくれたみたいでポケットに入れおった。渡してはくれへん……量産計画? 考えただけで恐怖やな。

 

「さて、もう一発四の弾(ダレット)。追加で四の弾(ダレット)。はい、修復完了ですわ。気分はどうですか、わたくし?」

「最悪ですわ、わたくし……」

 

 心臓を抜かれた毛先が白くなったままのくるみたんが、元の身体の綺麗なままでおった。おそらく、あの四の弾(ダレット)というのは対象の時間を巻き戻す効果があるんやろう。それで治療したということかもしれん。

 

「異物は取り除きましたが、問題があります。理解しておりますわね、わたくし?」

「わたくしが白の女王になっていないかという事ですわね」

「ええ、そうです。魔王化などされては困りますもの。いえ、能力は欲しいですが……」

「リンクは途切れているようですが、問題はありませんわ」

「問題おおありですわよ。殺処分を考える程度にはですが……」

「死にたくないので再考をお願いいたしますわ」

「では、リンクを再接続できるように巻き戻します。その後からは短い命、好きに生きなさい」

「ありがとうございますわ、わたくし」

 

 こっちを無視して互いに話しとるが、一応は穏便になったようや。何度か更に巻き戻してリンクが復活したみたいや。でも、髪の毛は変わってへん。

 

「貴女は黒と白が混ざった灰色。グレイと名乗りなさい」

「グレイですわね。畏まりました」

 

 二人が話している間にフィンたちもやってきて、かなり大事になっとる。それに気付いたようで、くるみたんは四の弾(ダレット)を周りの壁に撃ち込むと、綺麗にぶっ壊された部屋も元に戻った。時間を操るというのは本当にずるい反則的な力や。でも、代償に彼女は文字通り寿命を削っとる。

 

「ああ、肝心な事を忘れておりましたわ。ロキさん。グレイのステイタスはどうなってますか?」

「せやったな……えっと所属はロキ・ファミリアになっとるで。ただ魔法もステイタスも全部消えとる。あるんは神威霊装・三番(エロヒム)だけやな」

「魔王化する前に排除したので完全にはならなかったようですわね。惜しいような、惜しくないような……」

「いや、精霊が反転するとか笑えんって」

 

 精霊とは神の代行者として地上を管理運営し、人々を助けて導く存在や。民を愛し、慈しみ、助けるような存在。それが反転すると憎悪し、破壊をまき散らす正に破壊の神と呼べるような存在となる。うちらかて神としての力を使わなやばい。

 

「ですから、魔王と言うのでしょう?」

「闇派閥の狙いはそれっちゅーわけか。って、それやったら自分の分身体ってかなりまずいんちゃう?」

「まずいですわね。反転されると凄く楽しくて笑うしかない愉快な事になりますわ。何せ反転したわたくしは時間ではなく、空間を操りますもの。とっても素敵でしょう?」

「時間と空間の激突って、最悪やん! 即座に撤収させい!」

「……いえ、撤収はさせません。ギリギリまで情報収集して自害させます。それに彼女はレベル1、ランクアップしたわたくしが飛んで殺してくればいいだけですわ」

「……それもそうやな。裏目に出ん事を願うで」

 

 とりあえず、基本的に改宗させへん方がええやろ。下手に反転されたら困るしな。オラリオを滅ぼしかねへん。それだけ反転した精霊は危険や。なんせ神の力を際限なく使えるねんからホンマにヤバイ。空間と時間、勝つのはどちらかわからんけど……同レベルならともかくランクアップしていたら問題ないやろ。その場合、くるみたんは完全に人間じゃなくなるやろうけどな。

 

「とりあえず、グレイたんとくるみたん、二人はロキ・ファミリアに常駐させておってな」

「何故二人ですの?」

「決まっとるやん。うちが可愛がるためや!」

「……身の危険を感じたら斬って構いませんからね、グレイ」

「ええ、そうさせてもらいますわ、わたくし」

 

 二人は互いに抱き合いながらこっちを見ながらそんな事を言ってきた。本気の目やったのでセクハラはほどほどにせなあかんようや。セクハラを止めればええって? そんな事はできへん。うちの生き甲斐やしな! よし、まずは魔法少女の衣装を着せて二人はキュアキュアでもしてもらおうかな!

 

 

 

 

 




今回の話。
分身体とのリンクが切れて反転する可能制あり。宝玉を持っているとほぼ確実に反転しだす。その前に巻き戻すか殺処分を推奨。
霊結晶(セフィラ)の欠片を新たにゲット。前のと合わせて多少の大きさ、ビー玉くらいにはなるもよう。完成体を入れて適合した人から精霊へと変化できる。基本的にデート・ア・ライブの精霊はこのようにして作られている。くるみたんも精霊の力の結晶を体内に埋め込まれております。


グレイは軍刀と短銃を使えます。軍刀は基本的にスパスパ切れますが、斬撃を飛ばしたりはできません。時喰みの城もありません。空間操作もできません。ただ斬れる軍刀と短銃を持つだけです。
もちろん、時喰みの城も使えないので寿命の追加もなしです。一年と経たずに死亡します。
またオリジナルも彼女の軍刀と短銃は使えません。使うと浸食を受けて反転する可能性が高まります。
オリジナルに勝てる分身は居ないとはっきりとわかります。そもそもリンクが一度切れたので、ステイタスも最初からです。ランクアップのために死闘をしましょう。なお、過保護なお母様達がなかなか出してくれないもよう。






反転体

精霊及びその霊力を扱えるようになった人間の精神が急激に深い絶望に塗りつぶされた際、体に宿った“霊結晶の反転”という現象が起きることで変質した姿。
現世に関する事柄が全て「虚無」となり記憶の一切を失う、または人格そのものが入れ替わり、冷酷無比かつ周りの物を破壊しつくす、あるいはその場にいる敵対する者と認識したものを排除するのみの狂暴な存在へと化してしまう。
また、この姿になると普段纏っている霊装や“天使”も劇的に変化し、霊装は暗色の鎧へと、“天使”も“魔王”と呼ばれる闇色に染まったものへと変化し、能力も若干変質する。
時崎狂三の場合は時間操作から空間操作へと変更される。


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ギルドの床に沈むリリ

一話の最初にクルミの制作話を追加しました。くるみちゃんの身体は裏設定とはちょっと変えてあります。ですので、あちらは消させていただきます。

誤字脱字報告ありがとうございます。大変助かっております。


ヘスティア・ファミリアについて追加しました。最後の方です。


 

 

 

 

 リリはベル様と一緒にダンジョン探索を終えてギルドに戻ってきました。今日も無事に帰還です。ええ、残念ながら襲撃される事はありませんでした。

 

「ベル君、ベル君。ちょっといいかな?」

「エイナさん。はい、僕は大丈夫ですけど……」

 

 綺麗なハーフエルフの人が声をかけてきて、ベル様はこちらの顔を見てきたのでリリは溜息を吐いてから二人の顔を見上げます。

 

「リリは換金してくるのでお二人でどうぞお話をしておいてください」

「ごめんね」

「いえ、別に構いませんよ。それでは失礼いたします」

 

 換金所に走り、ドロップアイテムを支払っていきます。手に入れたお金は少しピンハネしてベル様に渡しましょうか? 

 

「ひっ!?」

「盗むのは駄目ですわよ」

 

 いきなり足を掴まれて悲鳴を上げかけましたが、なんとか飲み込みます。視線を足元にやればクルミ様の手がリリの足を掴んでいて、頭がありました。それ以外は全て影の中です。

 

「怖いですって、クルミ様……」

「そうですか、ではこうしますね」

「ちょっ!?」

 

 足を掴まれたまま影の中に引き込まれます。無茶苦茶怖くて悲鳴を上げそうになりましたが、何時の間にか後ろに移動してリリの口を手で塞いできたので叫び声もあげられませんでした。

 真っ暗闇な世界でどこまでも沈んでいく恐怖に暴れるのですが、無数の手に掴まれてそれもできません。そのまま沈んでいくと、近くからインファントドラゴンの叫び声まで聞こえてきました。

 恐怖に震えていると何時の間にか椅子に座っていました。リリは何を言っているのかわかりませんが、事実なのです。しかも隣にはスタンドが置かれていて、灯りも確保されています。テーブルもあり、そこには紅茶も用意されていました。もちろん、ソーマもあります。目の前にはクルミ様が優雅にお茶を飲んでいます。

 

「えっと、クルミ様?」

 

 そこには沢山の、はい、とても沢山のくるみ様が居ました。彼女達は忙しそうに動き回っております。というか、結構な頻度で魔物(モンスター)も落ちてきては彼女達に狩られています。一番多いのは大量のキラーアントですね。

 

「リリさん、飲まないのですか?」

「この状況で飲まないですよ。むしろ、クルミ様はなんで飲めるんですか?」

「もう日常ですし」

「そうですか。それでこの大量のクルミ様はなんですか?」

「ああ、彼女達は分身ですわ。わたくしの魔法は分身を作り出せますからね。ですから、わたくし達はたくさんいますよ。常にリリさんの影にも三人待機させておりますわ。ですから、リリさんの身は安全です」

「ちょっ!? 待ってください! それってリリは常に監視されているって事じゃないですかッ!?」

「ナンノコトカワカリマセンノ」

「……」

 

 ジト目で見ますと、クルミ様は視線をリリに合わせませんでした。つまり、リリは絶対にクルミ様から逃げられないって事ですね。

 

「今はいいですけれど、普段は止めてくださいね」

「わかりました。流石にプライバシーの侵害ですしね。でも、わたくし達の一人でも仕込んでおけば便利ですわよ。何時でも連絡ができますし」

「いえ、それでも嫌です」

「まあ、普通はそうですわね。わたくしだって嫌ですもの」

「でしょうね」

 

 まあ、基本的にリリはクルミ様と一緒に寝たりもしていたので普段から一緒にいるわけで、意味はないんですけどね。アレ、そう考えるとあまり問題はないのかもしれません。

 

「それでわざわざこんな所に連れ込んだんですから、何か用件があるんですよね?」

「ええ、ございますわ。貴女と組んでいるベルさんでしたか……」

「はい、ベル様であってます」

「その彼が持つヘファイストス製のナイフ、アレを盗んできてくださいませんか?」

「いや、さっきリリに盗みは駄目だって言いましたよね?」

「ええ、駄目ですわよ。ですから、ちゃんと返すんです。売ったり、無くしたりしないようにです」

「は?」

 

 クルミ様が両手を組んでこちらを見詰めてきます。ちょっと威圧感がありますね。いえ、やっぱりツインテールがピコピコ動いて可愛らしいだけです。

 

「ですから、盗んで一人でダンジョン内を逃げてください。そこをカヌゥさん達が襲ってきます。わたくしと出会う前のリリさんの行動から彼等はそう読んで待ち構えております」

「ああ、なるほど……彼等の影にもクルミ様がいらっしゃるのですね」

「そういう事ですわ」

「悪夢じゃないですか! 気づかない間に監視されて全部情報を引っこ抜かれ、更には暗殺だって可能ですよね!」

「ちなみに言うと数十人で襲い掛かれますわね」

「リリ、クルミ様の敵には絶対になりません」

「ええ、わたくしもリリさんが裏切ると何をしでかすかわかりませんもの」

「肝に銘じておきます」

「えっと、冗談ですのよ? 流石に分別はつきます」

「敵対者には?」

「容赦しませんが?」

 

 つまり、味方で友達としてならセーフという事ですね。わ~い、リリ嬉しいです。これからの生活が凄く楽になります。やった~! ってなりますか! 

 

「ああ、もちろんですが……ベルさんでしたか。彼は殺されないように護衛をつけておきます。同じツインテールロリのヘスティアさんに申し訳ありませんしね」

「そんな理由ですか……というか、盗む必要はないですよね?」

「いえ、ありますよ。彼の人となりを確かめるのと、ヘスティア様より依頼がありました。ソロでダンジョンに籠っている彼が心配だから、護衛とは言わないまでもわたくしの一人から三人を派遣して欲しいと」

「なるほど、確かに分身体なら冒険のお手伝いができますし……サポーターでもするんですか?」

「そういう商売も考えておりますわ。というか、ソーマ・ファミリアを手に入れたらもっと大々的にやりますわ。目標はわたくしなくしてオラリオが動くに動けない状況を作り上げてやります」

「できるんですか?」

「できますわよ。リリさんはリヴィラを知っていますか?」

「ええ、知っています。十八階層にある街ですよね?」

「はい。あそこが発展している理由はダンジョンにおける補給ポイントがあるからです。では、各階層といかないまでも数階層ごとにお店と護衛を受けられるサービスがあればどうしますか?」

「そんなの受けるに決まってるじゃないです……か……まさか……」

「人海戦術でダンジョンの一角を完全制圧します。そこでボウケンシャ-の皆様に品物を売り込み続ければわたくし達の意向をそう簡単に無視できなくなります。弱小ファミリアでも他のファミリアの生存に関わるのならば無茶は言えません」

「確かに可能ですが、なんですか、酒と補給でオラリオを支配する気ですか?」

「いえ、面倒なのでそれはしませんよ。でも、攻略は楽になりますでしょう?」

「確かにそうですが……クルミ様の取り合いが確実に発生しますが……」

「分身体を派遣すればよろしい。それで拒否するなら、そこは利用禁止か他のファミリアを扇動して潰しますわ」

 

 うわぁ、誘導だけでなく脅す事も普通にするんでしょうね。情報を集める事はクルミ様の得意分野とも言えますし。

 

「話を戻しますが、盗む理由はもしかして、ベル様の意識改革ですか?」

「そういう事です。騙されやすい彼が本物の悪人に利用される前に痛い目を見て覚えてもらおうという事ですね」

「うわ~それをリリとクルミ様がやるんですか? リリ達、充分に悪人ですよ?」

「リリさん、わたくし達は悪人ではありません。もちろん、善人でもありませんわ」

「じゃあなんなんですか?」

「ただの可愛い女の子ですよ?」

「……」

「知ってますか、可愛いは正義です。つまり、わたくし達は正義なのです」

「言いたかっただけですよね。確かに可愛いですが」

「バレましたわね。まあ、教訓を与えるだけです。ヘスティア様を通してナイフを返却するので問題はありませんわ。というか、知ってますか? あのナイフ……ヘファイストス様が神友価格で自ら作られて二億ヴァリスですって」

「にっ、二億!?」

 

 そんな凄く高いナイフをあんな無造作に対策もせずに持っていたんですか、ベル様! 何を考えているんですか! 

 

「おわかりいただけましたか? 彼がどれだけ危険か」

「ええ、わかりました。リリにお任せください。ベル様にはしっかりと教えてさしあげます! ちなみにヘスティア様には?」

「許可を取っています。ヘファイストス様と一緒にしっかりとお話しましたから」

「わかりました。それでカヌゥさんはどうするんですか?」

「わたくしがガネーシャ・ファミリアの方と駆け付けるので現行犯逮捕で構いません。ああ、殺さなければ何をしてもいいです。ですが、傷口はしっかりと焼いて生かしておいてくださいね?」

「殺すのは駄目なのですね」

「はい。彼の証言から団長、ザニスさんを追い詰めます。まあ、殺してしまったら、それはそれで別の方法を取るので構いません」

「別の方法?」

「団長の座を先に貰います。既にギルドに団長交代の書類をソーマ様の印を頂いて出しております。ギルドが承認次第、わたくしが団長ですわ。ですから、ザニスさんがオラリオから消えても問題はありません」

「どう転んでも潰れるんですね?」

「はい。影響力の大きいガネーシャ・ファミリアも、ロキ・ファミリアも、ヘファイストス・ファミリアも、味方につけました。こちら以外にも懇意にしていただくヘスティア・ファミリアなど他のファミリアはありますが、今は置いておきます。少なくともギルドは団長交代に関しては何も言ってこないでしょう。何か言ってくるのなら、わたくしも誠心誠意、OHANASHIさせていただきますわ」

 

 ヘスティア・ファミリアはベル様だけですし、リリと一緒に居た事で狙われた第三者という事にするつもりみたいですね。こうする事でヘスティア・ファミリアに同情を集め、有利に事を運ぶつもりなのでしょう。

 もちろん、裏では繋がっているので協力はするという事のはずです。今回の件に巻き込んだ責任も取らないといけませんし。だから今回の依頼なんでしょう。これはリリもレポートを書いて渡しておいた方がいいかもしれません。本当にベル様は危なっかしいですし。

 

「では、そちらは任せるのでリリはリリで役目を果たします」

「お願いします。それと頑張ってくれているリリさんに申し訳ないのですが、武器はまだ完成していませんの。ヘファイストス様と一緒にヘルメス・ファミリアより受け取った機構の組み込みに予想外の時間がかかっていますので……」

「いえ、問題ありません。カヌゥ様と戦うまでに用意してくれたら嬉しいですが、今は椿様の戦斧がありますので十分です」

「そうですか。まあ、用意するのはリリさんでも使いこなせるかわからないんですけどね」

「どんな化け物を作っているんですか……」

 

 まあ、リリに才能がないのは事実なので多分使いこなせないでしょうけど。

 

「オラリオの歴史が変わるらしいですわよ?」

「リリにそんな高価な物はいらないんですが……ところで値段はどうなりますか?」

「時価になるらしいですが……とりあえずベルさんの持っているナイフより格段に高いですわ」

「……わぁい、リリはとっても嬉しいです……」

「喜んでいただけて何よりですわ」

 

 ニコニコと笑っているクルミ様を死んだような目で見ながら、これからリリが使う事になるとっても高価な武器に今から胃が痛いです。というか、リリに使えるのかもわかりません。とりあえず、今はベル様を嵌める計画でも作りましょう。

 

 

 

 



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怪盗カリン!

一話の冒頭に文章追加しておりますが、しばらく意味はありません。



 

 

 

 

「えっと、それでお話というのは……」

「ベル君がサポーターを探していたから、こちらでも探してみたんだけど……もういらないみたいね」

「はい。彼女がサポーターをしてくれて……」

「彼女の所属は分かるかしら?」

「確か、ソーマ・ファミリアだと言っていました」

「ソーマ・ファミリア……」

「どうしたんですか?」

「あそこは良い噂を聞かないの。探索系のファミリアでお酒も売っているの。そこまでは普通のファミリアなんだけど、何処か死に物狂いっていうか……それより、ベル君から見てそのリリルカさんって子はどうだったの?」

「とってもいい子でした!」

「そっか。だったら私は反対しないよ。最後はベル君次第。やっぱり最後は君が決めないとね」

「ありがとうございます!」

「ベル様! お待たせいたしました!」

「あ、リリ!」

「そちらの用事はお済ですか?」

「えっと……」

「こちらはもういいよ」

「大丈夫だよ」

「でしたら、こちらをどうぞ! リリは用事が出来たので失礼しますね!」

 

 リリが僕にお金が入った袋を押し付けて止める間もなく出ていってしまった。

 

「僕、お金を払ってないんだけど……」

「明日にでも渡せばいいんじゃないかな? それか彼女は自分の分をすでに取ってるかもしれないしね」

「そうですね」

「それでどうするの?」

「今日はこのまま帰ります。神様に美味しい物でも買って帰ってあげようかな……」

「そっか。それじゃあまた明日ね」

「はい! また明日!」

 

 ギルドから外に出て背伸びをしてから歩き出そうとすると、急に何かとぶつかって転げそうになる。体勢を整えて慌てて確認すると小さな女の子がぶつかってきていた。

 

「リリ?」

「えっと、ごめんなさい。おにいさん。それとカリンはおにいさんと初めて会いましたよ? そのリリという人とは違うんじゃないでしょうか?」

「でも……あれ、耳?」

「ええ、カリンは狐人(ルナール)ですから。尻尾もありますよ?」

「本当だ」

 

 彼女の尻尾をこちらにやってから両手で抱きかかえようにする。かなり可愛らしい。

 

「っと、ごめんね」

「いえ、カリンの方こそごめんなさい。怪我はないですか?」

「うん。そっちは大丈夫?」

「はい。カリンは大丈夫です。ありがとうございます」

「そっか良かったよ」

「あ、急いで帰らないとお母さんに怒られちゃうのでごめんなさい」

「いや、大丈夫だよ。ばいばい」

「はい! ばいばいですおにいさん!」

 

 彼女は走り去って雑踏の中へと消えていく。

 

「ベル君。まだいたの?」

「あ、エイナさん。実はちょっと女の子とぶつかっちゃって……」

「そうなんだ。怪我はないみたいだし、一緒に帰る?」

「そうですね。途中まで一緒に行きましょう」

「うん。アレ?」

「どうしました?」

「ベル君、ナイフはどうしたの?」

「え? あれ? あれ? アレェッ! おっ、落としたァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「落としたァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 背後から聞こえてくる叫び声を聞きながら、裏路地に入って尻尾の中に隠したベル様のナイフを取り出す。ヘファイストス・ファミリアの印が刻まれ、他にも摩訶不思議な紋様が刻まれています。これ、二億ヴァリスもするんですよね。売ったらリリはお金持ちです。

 本当に馬鹿なベル様です。こんな簡単に盗まれるなんて、前のリリなら確実に売っています。どうせだから値段でも聞いておきましょうか? それぐらいなら怒られませんよね。

 

「~♪」

 

 盗品だって扱う何時ものお店にフードを被って行ってベル様のナイフを見てもらったら、驚きの値段がしました。

 

「あの、リリの勘違いですかね? 有り得ない値段なんですが……」

「いや、コイツは刀身が死んでおる。引いて押しても斬れん。やはり三〇ヴァリスじゃな」

「待ってください。それ、二億ヴァリスするんですが……ヘファイストス・ファミリアから買って」

「騙されたんじゃろう。確かに形や装飾は一級品じゃが、斬れんのでは意味がない。ガラクタじゃな」

 

 え、なんですか? ベル様達はヘファイストス様に騙されたって事ですか? でも、ちゃんと魔物(モンスター)は殺せてましたし、もしかしてユニークウエポンとか、専用装備とかいう奴ですか。クルミ様のお話にも出てきました。意思を持つ武器が存在し、担い手を自ら選ぶと。有り得ないと思っていましたが、ヘファイストス様が直接作られたらしいですし、それなら可能性がありますね。

 

「売るかね?」

「いや、売りませんよ。値段が気になっただけですし、売ったらリリが殺されます。いえ、もっとひどい目に遭うかも……」

「じゃあ、なんで持ってきたんじゃ……」

「値段が知りたかっただけです。後、鎖ください。ナイフに取り付けます」

「ほら、五〇〇ヴァリスじゃ」

「はいはい。他には……」

 

 必要な物を買ってから外に出ます。外に出てからナイフに鎖を取り付けつつ移動していると、前から豊穣の女主人に働いている金髪エルフと銀髪のウエイトレスが二人やってきました。残念ながら目標の相手でもないので、リリはナイフを死角になるように袖へと隠してそのまま通りすぎます。

 

「待ちなさい。そこの狐人(ルナール)の子供。袖に仕舞ったナイフを見せて欲しい」

「リュー?」

「知人の持物に似ていたので確認したい」

「あ、あいにくですが、これはカリンの物です。貴女の勘違いでしょう……」

 

 何故か凄く嫌な予感がするので戦闘態勢を取りながら、ナイフをしっかりと握りしめてます。

 

「抜かせ。神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれたナイフの持主など私は一人しか知らない!」

「ひゃぁっ!?」

 

 コインが飛ばされてナイフが弾き飛ばされました。ですが、甘いです。リリだって落とさないように対策はしっかりとしているのです。ですから、取り付けた鎖を引いてナイフをキャッチします。同時に袖から先程買った閃光玉を叩き付けて視界を奪ってやります。

 

「ほう」

 

 ですが、相手は気にせずやばいくらいの速度で突っ込んできました。ですから、リリは地面に手をついて……いえ、影に手を入れて掴んだ物を振り上げます。

 

「何ッ!?」

「おりゃぁぁぁぁっ!」

 

 エルフは更にコインを出してリリの戦斧の刃を受け止めてそのまま上へと飛び上がり、空中で体勢を整えていきます。だから、次は影から大型のクロスボウを取り出して放ちます。

 

「なん、だと!?」

「こっちのセリフです!」

 

 クロスボウの矢を投げたコインで粉砕して屋根に着地した彼女は本当にヤバイ気配がしてきました。

 

「撤退を進言します! って、却下ってなんでですかぁっ!」

「何を言っている?」

「一人ですけど……」

 

 クルミ様から撤退を拒否されたので、なんとか一人で対処しないといけない。このエルフ相手に……あ、相手をしなければいいんでした。

 

「持ってけ泥棒!」

「お前がそうだろう!」

 

 影からバックパックを渡してもらい、空中に放ります。相手は当然、それを弾こうとしてきますが、その前に身体を回しながら戦斧で切断して中身をばら撒きます。

 

「エルフさん、エルフさん。貴女は確かに強いです。でも、そちらの人はどうでしょうか?」

「何?」

「今、ばら撒いたのは対魔物(モンスター)用の煙玉です。当然、人にとってかなり有害な物となります。さて、カリンと戦いながら守れますか?」

「貴様っ!」

「死にさらせ恵まれた冒険者様っ!」

「シルっ!」

 

 起爆用の紐を思いっきり引っ張って裏路地に大量の煙を充満させてリリはさっさと逃げます。その中でも飛んでくるコインを戦斧を盾にして防いだのですが、勢いが強すぎてリリはゴロゴロと転がって通路から出ますが……そこで誰かとぶつかりました。

 

「あの、カリンちゃんだったかな? 大丈夫?」

「た、助けてください! 強盗エルフに襲われているんです!」

「え!」

「誰が強盗エルフだっ!」

 

 空から銀髪ウエイトレスをお姫様抱っこして降りて来た彼女は所々が白くなっています。ただそれだけです。本当に嫌になるくらい実力の差があります。こちらが大型クロスボウの矢や使った道具にかなりのお金をかけて手に入れた物を使って攻撃しているのに被害がそれだけって涙が出てきます。

 

「何が毒の煙ですか。ただの小麦粉じゃないですか!」

「こんな街中で毒なんて使う訳ないじゃないですか! 常識を考えたらいいんじゃないですか?」

「街中で大型のクロスボウを撃つ人に言われたくない言葉ですね」

「あ、あの、どういう事なんでしょうか? リューさんが襲うなんて……」

「「この人が強盗なんです!」」

「「っ!?」」

 

 互いの言葉にベル様は凄く混乱し、もう一人のウエイトレスさんは苦笑いです。

 

「えっと、シルさん、どういう事ですか?」

「リューが彼女の持つナイフをベルさんの物じゃないかって気付いて……でも、彼女は自分の物だって……」

「僕のナイフを持ってるの?」

「ええ、持ってますよ」

「認めたな!」

「まあまあ、落ち着いてください。えっと、どういう事なのかな?」

「だって、おにいさんとさっきぶつかった後にカリンの荷物に入ってたから、多分おにいさんの物かなって思ったんです。だから、おにいさんを探していたんですけど……そこにこの強盗エルフがナイフを寄越せって言って襲い掛かってきたんです!」

「ああ、そういう事ですか。つまり、彼女からしたら知らない私達は持ち主じゃないのにナイフを奪おうとする人という認識だったんですね」

「シル。私はちゃんと知人の物だからといいました」

「そう言って持ち逃げする気だったでしょう!」

「違います!」

 

 知っています。あくまでもこれはリリが言い訳をしているわけですからね。でも、ここは有耶無耶にさせてもらいます。

 

「つまり、二人共、僕にナイフを返そうとしていた?」

「「その通りです」」

 

 はい、間違ってはいません。リリはヘスティア様に渡してベル様に返却する予定でしたので嘘はありません。ただ過程が違うだけで結果は同じです。

 

「そっか、二人共ありがとう! でも、街中で戦闘はやりすぎだよ?」

「……そう、ですね。確かにやり過ぎてしまいました。私は何時もやり過ぎてしまう。申し訳ない」

「いえ、こちらこそ本当にごめんなさいです」

 

 ええ、本当にごめんなさい。ちゃんと謝ってからベル様にナイフを返します。これは偽物でも用意して再チャレンジでもしましょうか。それに計画通りには行ってません。カヌゥさん達はリリを見張っているようですが、先の戦闘で即座に逃げたのか、襲撃はかけてきていません。

 

「それじゃあ、ナイフを返してくれる?」

「はい、どうぞ」

「ありがとう……って、なんか鎖がついてるけど……」

「落とすのを防ぐためです。これをおにいさんのベルトにつければ落とす事はもうありません。戦う時は少し不便かもしれませんが、街中ではつけておいた方がいいですよ」

「うん。ありがとう。そうするよ。それでこの代金は……」

「あ~全部で五万四百ヴァリスですね!」

「高っ!」

「その鎖にそれほどの値段がするわけないはずですが……」

「あ、それってもしかして……」

「はい。ベル様のナイフを守るために使った道具の代金も含まれています」

「つまり、リューが壊した矢の代金が大半なのかも?」

「ぐっ」

「ですね~」

「えっと、僕が払うよ……」

「いえ、要りませんよ。請求は必要経費として別の所に請求しますので」

「あの、どういう……」

「っと、すいません。待ち合わせがあるのでこれで失礼します。遅れると殺されるぐらい酷い目に遭うので急がないと! それではさようなら!」

 

 急いで逃げます。だって、この後は報告して本当に殺されるかもしれないほど大変な事になるので、リリは急ぎます。それにクルミ様から離れるように叩かれましたので離脱します。

 

「行っちゃいましたね」

「ええ、そうですね。ところでクラネルさん。宜しければシルの荷物を……」

「お前達か。街中であのような物をぶちまけたのは……」

「「「え?」」」

「ガネーシャ・ファミリアだ。キッチリと片付けてもらうぞ。あの白い粉を!」

「「「逃げられた!」」」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 赤い炎が轟々と燃え、壊し合うかのような金属音が響く中、リリは変身魔法を解除してから跪いて報告をしています。報告対象は二人と二柱の神様です。どの方もリリより明らかに強くてヤバイ人達です。

 

「申し訳ございません。失敗してしまいました。途中でエルフの邪魔が入り……」

「ふっ、これは僕の勝ちだよね、クルミ君」

「いいえ、わたくしの勝ちですわ。だってリリは盗む事に成功し、外部の協力が無ければ逃げられていたのですから。ええ、ですからうちのリリの勝ちです」

「そんな訳ないだろ! 結果が全てだ!」

 

 黒髪ツインテールのお二人が言い争っています。内容はリリが盗みに成功するか、ベル様がナイフを盗まれないかという勝負です。

 

「ヘファイストス! 判定は!」

「引き分けかしら? リリはここに持ってこれなかったし、ベルは一度盗まれている。だから引き分けね」

「くそっ!」

「まあ、それが妥当な落とし処ですわね」

「う~ボクの借金が少しは無くなるかもしれなかったのに……」

「捕らぬ狸の皮算用って奴よ。地道に働きなさい」

「いや、まだ引き分けただけだ。延長戦はあるよね!」

「ええ、もちろんですわ」

「勝てない勝負なんだから止めておきなさいよ」

「勝てる! というか、負けても特に損はないしね。ただ、クルミ君に借りが一つできる程度だし」

「それがどれだけ怖いかわかってないのね」

「あら、そこまで酷い事はお願いしませんわ。胸を揉みしだいて抉り取るぐらいかしら?」

「怖いし酷いよ!」

「まあ、冗談ですわ」

 

 あちらは和気藹々としていますが、リリの恐怖体験はコレからです。

 

「リリよ。負けたそうだな」

「はい……申し訳ございません」

「良い良い。次に勝てば良いだけだからな。何、手前がしっかりと鍛えてやろう」

「リリは遠慮したいな~って……」

「残念ながら、椿さんはリリが勝つ方に賭けているんですよね。ですから、諦めて訓練を受けてくださいまし」

「わかりましたよ……」

「椿、仕事は終わったの?」

「おお、終わった。クルミのお蔭で休みなくできるから捗る捗る」

「代償はわたくしが支払っていますので、あまり多用はできません。これはわたくしとリリの訓練代金ですわよ」

「わかっておる。それよりも今日はアレだ」

「わかりました」

 

 リリは椿様に掴まれてクルミ様の影に連れ込まれました。そこでリリの目の前に用意された相手は……インファントドラゴンでした。

 

「あの、昨日はオークでしたよね?」

「うむ。今日はこのインファントドラゴンをソロで討伐してもらう」

「無理です! どう考えても偉業じゃないですか!」

「安心しろ。クルミからの支援はアリだ。リリは加速し、インファントドラゴンは遅くなる。なに、危なくなれば手前が助ける。手足の一本や二本、気にせず行け!」

「治療はお任せくださいまし」

「ああ、もう! やってやりますよ!」

 

 ベル様のナイフを盗めたら今日は休めたのに! おのれエルフゥゥゥゥゥッ! 

 

「大型武器の使い方がまだまだ甘い!」

「はい!」

「もっと全身を使って攻撃せい!」

「はい! みぎゅっ!?」

四の弾(ダレット)

 

 何度潰されても次の瞬間には巻き戻されるので、ただひたすら椿様の指示に従ってインファントドラゴンと戦闘です。リリは、リリは負けません! ご褒美のソーマ入り紅茶とデザートを食べるのです! 

 

「インファントドラゴンが終わったらウォーシャドウがいいか」

「逆じゃありませんの?」

「大型武器を使うならインファントドラゴンの方が楽じゃ。逆に小回りがきくぶん、ウォーシャドウは戦いづらい相手となる。まあ、回復がある事が前提じゃがな!」

 

 四三回倒される頃にはようやくまともに使えるようになったと、一応の合格点はいただきました。でも、やっぱりインファントドラゴンには勝てません。

 

 

 

 

 

 




小人族は普通にベルにバレます。犬人はリュー達にバレます。なので魔法で狐人です。狐のリリ、可愛い。ちなみにクルミにモフモフされる運命。


掃除:リューは荷物を持って先に戻りました。シルとベルがしばらく二人きりでやった後、戻ってきたリューとシルが交代して掃除します。なお、リューが戻ってくるまであまり進んでいなかったもよう。掃除を押し付けられたリューとベルはお金の事もあって文句は言えません。

経費:くるみちゃんが全部支払ってくれます。ヘスティアが勝てば

「ベル君! 頼むよ!」

なお、ヘファイストス様がお金を受け取らないので、ヘスティアは地道に稼ぐしかありません。



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不審者が現れた

 

 

 

 リリさんが失敗してから数日。リリさんはベルさんと食事をしてヘスティアさんが拗ねたり、ベルさんが魔法を強制的に発現させられる魔導書を手に入れて読んで試し撃ちしたりしました。試し撃ちの結果、マインドダウンしてダンジョンで倒れました。助けようかとも思たのですが、ロキ・ファミリアと一緒にダンジョンから上がってきたセイバーが来ていたのでそちらに任せました。結果、アイズさんがベルさんを膝枕するという大変羨ましい光景が発生しました。全部、リヴェリアさんが悪いです。まあ、ベルさんは起き上がると急いで逃げたんですが。

 ロキ・ファミリアに色々とバレたのですが、すでにヘファイストス・ファミリアである程度ハデに動いているので問題ありません。

 リリさんは基本的にベルさんとダンジョンに行き、終わってから椿さんとの訓練です。ダンジョン探索の方が息抜きになっているという変な事になっております。ですが、そのおかげで支援があればインファントドラゴンに手傷を負わせてもう少しといったところまで強くなっています。

 もちろん、わたくしはリリさん以上に厳しい訓練をします。リリさんだけに厳しい訓練をさせるわけにも行きませんしね。といっても、戦闘ではなくわたくしはわたくしの厳しい戦いをします。ええ、ちょっと数十人分のわたくし達の記憶をインストールするだけです。普通に血を吐いたり、頭から血が噴き出したりしますが、必要な事なので致し方ありません。

 

「おや、リリさんが仕掛けるつもりのようですね」

「待つ事数日。ようやく第二ラウンドかな?」

「ですわね。ちなみに十階層で魔物(モンスター)を引き寄せてベルさんの油断を誘うようですわね」

「よし、即刻中止させようか」

「駄目ですわ。それに危なくなればわたくし達が始末してお助けしますので安心です」

「いや、それって僕的には全然安心できない。君は充分に可愛いからね。そんな君がピンチなベル君を颯爽と助けたら……」

「でしたら援護だけにしておきましょうか……いえ、その前に増援が向かったようなのできっと大丈夫ですわ」

「増援?」

「アイズ・ヴァレンシュタインさんとグレイさんですわね」

「ヴァレンなにがしか……ヤバイ! 僕のベル君が取られちゃう!」

「それは仕方ありません」

 

 話していると、店の扉が開きましたのでそちらにてくてくと移動してお客様を迎え入れます。

 

「いらっしゃいませ。ヘファイストス・ファミリアにようこそお越しくださいました。ご用件をお伺いいたします」

「えっと、何故ソーマ・ファミリアのクルミ様がこちらにいらっしゃるんですか?」

「こちらで働いているからです」

「どうしたのかな? って、ハーフエルフ君、いらっしゃい」

「ヘスティア様!」

 

 どうやら、ヘスティアさんの方に用事があるようですわね。しきりにこちらを気にしているようですし、あちらも動いているようですから行きましょうか。

 

「ではヘスティアさん。こちらはよろしくお願いいたしますわ。わたくしは直接出向きますので」

「うん、行ってらっしゃい。ベル君をよろしくね!」

「お任せくださいまし」

 

 影に潜んでから観戦のために買物をしてからダンジョンに向かいます。残念ながらヘファイストス様に頼んだ武器は間に合いませんでしたが、今のリリさんなら大丈夫でしょう。インファントドラゴンと普通に戦えるようになっていますからね。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「あの、ヘスティア様は彼女を知っているのですか?」

「うん。彼女とは仲良くしているよ。彼女の魔法でベル君を手伝ってもらえるからね」

「そうですか……でも、ソーマ・ファミリアは……」

「ああ、聞いているよ。ソーマ・ファミリアは団長のザニスとやらが支配し、ソーマの酒を使って私利私欲を肥やしているらしい」

「それがソーマ・ファミリアの現状……そんな人達にベル君を預けて大丈夫なんですか?」

「ああ、彼女はソーマ・ファミリアを乗っ取るつもりだからね。その為の準備をしているようだ」

「乗っ取り、ですか?」

「ああ、乗っ取りと言っても主神は既に確保しているから問題ないらしい。今は相手側の爆発待ちとの事だよ」

「ですが、彼等はベル君のナイフを盗んだようです。ベル君は気付いていませんでしたが……」

「ああ、それは僕が依頼した。彼女達の報告を聞いたらベル君はかなり危なかしいようだったからね。これで少しはベル君は人を警戒する事を覚えるだろう。まあ、無理だったとしてもベル君の仲間を用意する事ができるし、彼女に任せておけば大丈夫だしね」

「ベル君の仲間のあてがあるんですね」

「うん。だから安心していいよ。どうせ結果はすぐにわかるしね。ところでそれだけかな?」

「いえ、心配してソーマ・ファミリアを調べにきたんです。それで神様に質問をしようと……」

「なるほどね。ありがとう。わざわざベル君のために色々としてくれて。でも、ベル君は僕のだからね!」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 ダンジョン十階層。深い霧が立ち込める中、リリさんは崖の上からクロスボウでベルさんの荷物を固定するベルトと荷物本体を撃ち、糸を通してナイフが入っているポーチを取りました。その状態でリリさんは崖下で大量の魔物(モンスター)に襲われているベルさんに声をかけているようです。

 

「ごめんなさい。ベル様……もうここまでです」

「何を言っているの!」

「リリの狙いは最初からこのナイフです。ヘファイストス様がお造りになったナイフなんですから、その価値は計り知れません。こんな簡単に取られるようじゃ、このナイフを持つ資格はありませんよ。まあ、リリにもないんですけどね」

「リリっ!」

「リリが記念にもらったバゼラードはあげるので、適当な所で逃げてくださいね」

 

 リリがあげると言ったバゼラードはヘファイストスさんが作ったわけではないですが、椿さんが作った物です。素材はリヴィラで購入した物を使っているので一級品とは言えませんが、使われている技術は一級の物なのでベルさんが持てる装備ではありません。まったく、優しいのか優しくないのかわかりませんわ。

 

「さようならです、ベル様」

「リリっ! リリィィィッ!?」

 

 オークとかをスパスパ斬っているベルさんを置いて上層に上がっていきます。わたくしはじゃが丸君を取り出して食べながら確認しておきます。

 必死に戦っているベル君を見ているのですが、あまりに楽勝すぎて見ていて面白くありません。インファントドラゴンでも叩き付けてやりましょうか? 

 

「いえ、それも必要はありませんわね。無駄になりますもの……」

 

 深い霧の中から魔物(モンスター)の大群に突撃する二つの存在。それらはかなりの速さで魔物(モンスター)を斬殺していきます。灰色と金色の二人が乱入したことにより、引き寄せられる魔物(モンスター)も一瞬で蹴散らされました。

 

「エイナさんが送り込んだ増援が到着したのなら問題はありませんわね」

 

 ベルさんは直ぐに魔物(モンスター)達を突破してリリさんを追っていきました。それを確認しながらじゃが丸君を食べていると……

 

「じゃが丸君……」

「おや、アイズさんじゃないですか。グレイが教えましたの?」

「違う。じゃが丸君の匂いがした」

「……どこの腹ペコ王ですか。まあ、食べ……喰います?」

「たべる」

 

 アイズさんにじゃが丸君を渡してグレイの戦いを見ると、彼女は持ち手を覆うように刃が設置された片刃の大剣を使ってオークを一刀両断しています。グレイはツインテールではなく、ポニーテールにしているのでわたくし達との区別化はばっちりです。

 

「そちらは終わりましたの?」

「終わりましたわ」

 

 少しするとグレイもやってきたので、ドリンクとじゃが丸君をあげます。しかし、軍刀と短銃を使っていないのは訓練のためなのでしょう。

 

「そちらはこれからどうするのですか? ベルさんならわたくし達が護衛についているので問題ありませんわよ」

「どうしよう?」

「このまま潜りますか? 訓練にしてもオークでは話になりませんもの」

「うん。もうちょっともぐ……誰?」

 

 アイズさんの言葉にそちらを向くと、ローブを着た怪しい人が居ました。

 

「こちらに敵意は無い。私はギルドからきた。依頼をしたいだけだ」

「依頼ですか?」

「そうだ。二十四階層の食料庫で異変が起きている。騒動の調査と鎮圧を依頼したい」

「二十四階層ですか……」

 

 そういえば何か仕掛けているとアヴェンジャーから報告がありましたわね。彼女の記憶を確認すると、確かに彼等が仕掛けているようです。

 

「依頼を引き受けましょう。報酬は魔導書でお願いしますわ」

「待て、高すぎる。そもそもこれはロキ・ファミリアに……」

「ええ、ですが相手からしてアイズさんだけではきついです。何せ相手はレベル6クラスの敵が一人と闇派閥の幹部が居るんですもの」

「情報を得ているのか?」

「もしかして……あの人?」

「ええ、そうですわ。ですので魔導書を要求します。それを頂けるのでしたら、すぐに伝達してロキ・ファミリアの精鋭を動かしましょう」

「……いいだろう。やってくれ」

「畏まりました。わたくし達、すぐにフィンさん達に連絡を入れてくださいまし」

「わかりましたわ」

 

 複数のわたくし達に伝達して、すぐにロキ・ファミリアの主力にこないだのレヴィスが居ると教えて呼び寄せます。明らかに過剰戦力でしょうが、問題ないでしょう。報酬の魔導書は相談になりますが、わたくし達が確保したいので、金銭的に渡す感じにしておきましょう。

 

 

 

 

 

 



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注意報発令中

お気に入り登録と評価、誤字脱字修正、感想ありがとうございます。第三期がはじまったので初投稿です。


 

 

 

 ベル様と別れてから寄ってくる魔物(モンスター)を出来る限り回避し、上層を目指します。前にリリが使っていた出来る限り安全なルートを通る事で無事に上層へと続く階段に到着できました。

 階段を上りきる直前、無数の矢が飛んできました。矢はリリの胴体と頭部を避けて手や足に命中する軌道を取っているのがなんとなくわかったので後ろにジャンプしながら身体を反転させてバックパックで受け止めます。こうする事で間に挟んでいる戦斧や他の道具でリリが怪我をする事を防げました。

 

「誰、ですか?」

 

 ゴロゴロと階段を転がり落ちてから矢が何本も突き刺さっているバックパックを下ろして戦斧の柄を握りしめます。階段の上を見ると、眼帯を付けた人と複数のローブ姿をした人達が下りてきます。

 

「よう、アーデ。会えて嬉しいぜ」

「……カヌゥ様ですか……今、リリを殺そうとしましたね?」

「あ? 殺しはしねえよ。手足を使えなくしようとしただけだ。そうですよね?」

「ああ、そうだ」

「奇襲を上手いこと避けたナ。レベル1のサポーターと聞いていたが、なかなか動けるじゃないカ」

 

 ローブ姿の存在は二人。その二人は両手にクロスボウを持っていました。フードに隠された中から赤い瞳に刺青のような物が見えます。彼等の他にも後、三人も居ます。どの人達もリリを人とは見ておらず、ただの獲物として見ている感じがします。これは本格的にクルミ様に助けてもらわないとやばいかもしれません。

 

「この方達は……見た事はありませんが、ソーマ・ファミリアの方ですか?」

「いいや、違うぜ。団長がお前達を探す為に用意してくれた特別な方々だ。お前じゃ敵わないから大人しくしろよ? なんたってレベル2や3の方々だからな」

「っ!?」

 

 レベル2や3なんて冗談じゃありません! 団長と同格かそれ以上の人達じゃないですか! インファントドラゴンをソロ討伐できていないリリが相手をできるレベルじゃありません! 

 

「だから、大人しく投降しろ。ソーマ様を何処に隠した? あのくそッタレなクソガキは何処に居る?」

「リリが言うとでも?」

「言うだろ。お前は自分が一番可愛いもんな?」

「ええ、()のリリなら言うでしょう。でも、()のリリは違います!」

「ほう。言うじゃねえか。だったら俺が可愛がってやるよ」

「おい、殺すなよ。ソイツは後で楽しむんだからよ」

「ええ、わかってやすよ。だから、手足を落とす程度にします」

 

 カヌゥさんが無防備にこちらへと剣を持ちながら下りてきます。前のリリなら恐怖に震えて冒険者様に挑もうなんて思いません。でも、今のリリにとってカヌゥさんは……憎むべき敵でしかありません。だって、オークとそんなに変わらないのです。インファントドラゴンやウォーシャドウとは違います。ましてや椿様と比べるべくもありません。

 

「避けるなよ。変な所にあたると即死だぞ! アーデェェッ!」

 

 カヌゥさんが階段から飛び降りながら剣を振り下ろしてきたので、リリはバックパックを切り離して戦斧を身体全体を使うように回転させて横薙ぎを行います。

 

「え?」

 

 間抜けな声を漏らしたカヌゥさんの剣に戦斧が命中し、一気に砕けると同時に叩き付けた衝撃で壁の方へ吹き飛ばされます。リリは止まらずに同じ方向へ更に回転して二撃目を回避できない状態のカヌゥさんへと放ちます。

 

「おっと、させねえぜ」

「ちっ」

 

 割り込んできたローブの男は戦斧の一閃を柄と剣の腹に手をあてて防ぎました。激しい金属音が鳴り響きましたが、それだけです。相手の蹴りとリリの膝が激突して更に金属音が響きます。リリは踏ん張らずに自分から飛んで相手の攻撃を利用して離れながら、袖に仕込んで痺れ粉を放ちながら下がろうとしますが、粉が入った袋が矢で撃ちぬかれ、リリの方にも複数の矢が飛んできます。それを戦斧を使って弾くのですが、防ぎきれないものがローブをかすめていきます。

 

「随分といいローブを着ているナ。普通の物ならさっきので毒が入ったはずダ」

「武器もそうだな。その戦斧はかなりの業物と見た」

「このローブは特別なんです。武器もですが」

「コイツ等はソーマを独り占めして売ってやがるんで、金だけは持ってるんですわ……それよりも、よくもやってくれたなアーデ」

「こちらは反撃しただけなので、当然です」

「テメェは大人しく俺達の玩具になってればよかったのによぉ……それを……絶対に許さねえ!」

「許さないのはこっちのセリフです。今まで散々リリを殴ったり蹴ったりして、リリが稼いできたお金を奪ったり……それだけじゃ飽き足らずクルミ様を襲って……そのせいでリリがどれだけ大変な目にあったか! ええ、強くなれたのと装備をくれた事は感謝しています! でも、でも! 毎日毎日レベル5に無茶ぶりされて強制的に身体で覚えさせられ! インファントドラゴンと戦わされるリリの、気持ちをっ! 思い知れぇぇっ!」

「ざけんな! かなり恵まれた境遇じゃねぇかぁぁぁっ!」

 

 叫びながらクロスボウの攻撃を戦斧とローブで弾き、剣で攻撃してくるローブ姿の敵に戦斧を振るうと見せ掛けて蹴りを腹に叩き込んで吹き飛ばし、やってきたカヌゥさんの新しい武器と鍔迫り合いになります、そうしている間にも他の三人が下りて来て、リリを逃がさないように背後に回ってきました。

 

「キヒッ!」

「ちっ」

 

 戦斧を手放し、両手を足に隠してあるクロスボウを取り出して回り込もうとしている人達に放ちます。ですが、相手は普通に矢を掴んで止めました。

 

「馬鹿野郎!」

「なっ」

 

 矢の先端には爆弾が設置されていて、矢を放つと同時に紐が抜かれて内部で薬品同士が混ざり合って少ししてから発火し、燃焼する液体と混ざるように仕掛けてあります。インファントドラゴン相手に使う装備ですので、レベル2や3でもそれなりに効きます。インファントドラゴンの適正はレベル2ですからね! 

 轟音が響き、火達磨になっているあちらは無視してクロスボウを態勢を整えだした他の連中に回転しながら投げつけ、戦斧の柄を掴んで一閃します。

 

「やるナ」

 

 こちらの一閃を短剣でなんなく弾き、リリの体勢を崩してくる相手はリリの腹を蹴って吹き飛ばしました。空中で回転して戦斧を調整し、足で壁を蹴って油断している別の相手に接近してその首に戦斧を叩き込んで殺そうとしたら、間一髪といった感じで槍を盾にしてきたので空中で身体を捻って軌道を変えて斜めから柄に振り下ろして切断してやります。代わりに顔に拳の一撃を喰らって吹き飛ばされましたが、すぐに地面に戦斧を叩き付けて場所を移動します。移動した瞬間、そこには無数の矢が突き刺さりました。

 

「よくもやってくれたな。サラマンダーウールがなければ即死だったぞ」

 

 火達磨にしてやったはずの男二人がポーションをかけながらこちらにやってきました。本当に死んでいてくれたら助かったんですが……

 

「遊びは終わりダ。真面目に殺るゾ」

「「「了解」」」

 

 雰囲気が一気に変わりました。これは本格的に不味い状況です。せめて油断してくれている間に三人くらい殺せればよかったんですけれど残念ながら無理でした。リリの周りにそれぞれ武器を構えて接近してくる者達。絶体絶命な感じです。

 

「ファイアボルト!」

 

 そんな時にベル様の声が聞こえて炎がリリの近くを通っていきました。魔法を回避するためにできた隙に移動しながら片手でナイフを投擲しながら回転します。当然、防がれますがそこを戦斧を片手で振るって叩き付けます。相手は剣でガードしてきましたが、空いている片手で籠手に仕込んだ杭を放って目から体内に叩き込んでやります。これでようやく一人目ですね。

 

「ちっ」

「リリ!? 何をしているの!」

「寝ぼけているんですかベル様! コイツ等はリリを殺そうとしている襲撃者です! 殺さなければ殺されます! リリは大丈夫ですから逃げてください!」

「リリを置いて逃げられるわけないだろ!」

 

 飛び込んできたベル様は槍を失った人がサブウェポンであろう剣を使って攻撃してきたのをバゼラードで防ぎます。すぐに援護に向かおうとしたら、別の奴が邪魔をしにきました。

 

「オイ、コイツはどうするんダ?」

「知らねぇ馬鹿な奴です。見られたからにはやるしかないでしょう」

「そうだナ。目撃者は消ス」

「ああもう! ベル様の馬鹿!」

「なっ! リリが悪いんでしょ!」

 

 四人に囲まれて、その外にカヌゥさんが居ます。リリとベル様は背中合わせになりながら周りを警戒しながら考えます。というか、もう諦めるしかありません。

 

「ベル様が来なければもうちょっと頑張れたんですが……」

「ごめん。でも、女の子が襲われているのに見過ごす事なんてできないよ。ましてや襲われているのはリリだし……」

「……まったくもう……ベル様はお人好しですね。わかりました。ベル様のために交渉しましょう」

「え?」

「皆さんはクルミ様とソーマ様の居場所を知りたいんですよね?」

「ああ、そうだ。教えるなら助けてやらんでもないぞ」

「そうですね。リリはソーマ様が何処に居るのかは知りません。ですが、クルミ様が何処に居るのかは知っています」

「だろうナ。明らかに俺達をおびき寄せるために行動していタ」

「旦那、罠だっていうんですかい?」

「明らかに準備が良すぎル」

「まあ、リリもまさかレベル2や3が居るなんて思ってもみませんでしたが……」

「えっと、どういう事なの?」

「ベル様。これはリリのファミリアが現在行っている内輪揉めです」

「ふぁ、ファミリア同士で殺し合っているって事!?」

「ええ、そうです」

 

 ヘスティア様は本当に優しい方なので、ベル様には信じられないことでしょう。

 

「そんな事はどうでもいい。早く教えろ」

「その前に返す物だけ返しますね。はい、ベル様」

「う、うん……ありがとう」

 

 ナイフを返すと神聖文字が光りました。これでベル様は大丈夫でしょう。

 

「さっさと教えろ」

「変な動きはするナ」

「ええ、もうリリは諦めました」

「リリ?」

「ですから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「何を言っているんダ?」

 

 

 

 

 

「あらあら、負けてしまいましたわ。ですが、これは仕方ありませんわね。ええ、仕方ありませんもの。おめでとうございます。ヘスティア・ファミリアの皆さん」

 

 

 

 

 リリがそう言うと、階段の方からクルミ様が拍手をしながらこちらにやってきました。まるでなんでもないかのように戦場であるこちらに歩いてきています。全員の視線がクルミ様へと向きます。

 

「知らない方もいらっしゃるのでご挨拶させていただきますね。ソーマ・ファミリア所属、くるみ・ときさきと申しますの。以後お見知りおきを」

 

 スカートを両手で掴んで挨拶をしてくるクルミ様は完全に場違いです。そんなクルミ様に対して突撃していく者が一人。

 

「死ニサラセェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェッ!!!!」

「危ないっ!」

「あらあら、お熱い歓迎ですわね」

 

 カヌゥさんがクルミ様へと突撃し、ベル様が動こうとしたので腕を掴んで止めます。カヌゥさんの剣がクルミ様の胸を貫きました。

 

「やった! やったぞ! ざまぁみろ! 俺の目を奪った報いだ!」

「あ~あ、死んでしまいましたわ」

 

 リリの後ろから抱き着いてきたクルミ様の発言に皆がこちらを向きます。当然、突き刺されたままのクルミ様も居ます。

 

「あら、失礼ですわね。まだ死んでいませんよ、わたくし」

「そうでしたのね。ごめんなさい、わたくし。ところで、その醜いお人をさっさと処理してくださるかしら?」

「そうですわね。痛いですし、さっさとぶち殺してやりましょう」

「ひっ!? はっ、離せっ!」

「うふふ、わたくし一人で死ぬのは寂しいので、何処の何方か存じませんが、一緒に死んでくださらないかしら?」

「ふざけるな! お前だけで死ね!」

「もう遅いですわ。マダンテ、というのかしら?」

「メガンテですわよ、わたくし」

 

 剣を貫かれたクルミ様の身体が内部から爆発して肉片となりました。カヌゥさんや近くに居た人達も吹き飛び、かなりのダメージを負ったようです。全身に穴が空いていてもはや生きては居ないでしょう。

 

「うっ……」

「ふむ。報復用にわたくしの身体に爆弾と鉄球を仕込んでおいたのですが、これはちょっと惨過ぎますわね。自爆特攻は最終手段としましょう」

「ええ、それがいいです」

 

 ベル様は吐いています。リリもちょっと吐きそうです。完全に悪夢ですよ。知り合いが目の前で爆発するんですから。

 

「お前、イイナ。流石ハ成功例ダ」

「あら、わたくしの出自を知っておいでですの?」

「お前は俺達の物ダ。だから回収しにキタ。複数居るのは驚いたガ……アレと同じ存在ならば納得ダ。分身なんだろウ?」

「正解ですわ。ところで皆様……一つ忠告があるんですが……」

「なんだ?」

「ロキ・ファミリア注意ですわ」

「「「は?」」」

 

 クルミ様がそう言った瞬間。上層の階段から複数の人達が現れました。

 

「くるみちゃん来たよ~!」

「コイツ等を倒せばいいの?」

「ふむ。とりあえず現状からして倒せばいいだろう。クルミが居るのだから殺さなければ事情は聴ける」

「関係ねぇ。邪魔するならぶっ潰す」

「アイズさんが待っているんですからいそぎましょう!」

 

 現れたのはロキ・ファミリアの幹部達。アマゾネスの双子ティオネ様とティオナ様と狼人のベート様。レベル3のレフィーヤ様、エルフの王族であるハイエルフのリヴェリア様。

 

「ああ、そうだね。彼等を拘束してボク達は急いで下に向かおう。アイズとグレイが待っている」

 

 そして、ロキ・ファミリア団長、フィン・ディムナ様。レフィーヤ様以外、レベル5で団長と副団長に至っては6です。ここに居る人達なんて一人でも居たら殲滅できるような過剰戦力です。

 

「「「なんでここに居る!」」」

「決まっているじゃないですか。わたくしが呼びましたの。本来はもっと下での戦いに呼んだのですが、まあ……通り道ですし? 序に処理してもらえばよろしいと思いましたの」

「うわぁ……この人達が可哀想ですよ……」

「わたくし、敵には容赦しませんの。それにわたくしの大切なお友達であるリリを傷付けたのですから、当然の報いですわ」

「あはは、嬉しいです……」

 

 敵の人達は一瞬で無力化されました。その人達は何かをしようとしていたのか、複数のクルミ様が現れて彼等の口を開けさせたり、装備を剥ぎ取ったりしていました。彼等も自爆用の道具を持っていたようです。それを回収した後、クルミ様に十の弾(ユッド)という弾丸を撃たれ、彼等の情報をフィンさんに伝えていきます。

 

「さて、リリさんベルさん。わたくし達はもう用件が終わったので帰りましょう。ヘスティアさんと椿さん、ヘファイストスさんがお待ちです」

「リリは帰りたくないです……」

「えっと、神様と知り合いなんですか?」

 

 リリ達はロキ・ファミリアの人達と別れてそのまま帰ります。別のクルミ様が残っているので問題ないですしね。

 

「仕事仲間です。その縁からリリさんにはベルさんに警戒心を抱いてもらうため、ナイフの窃盗をするように頼みました。この件はヘスティア様も了解しているので、リリさんを怒らないであげてくださいね」

「ベル様は無防備すぎるんです。ヘスティア様から贈られた武器の値段を知っていますか?」

「いえ、教えてもらっていないので……」

「……なるほど、それは無理もありませんね」

「ちなみにリリさんがベルさんに贈ったバゼラードは八〇〇万ヴァリスですわね」

「そんなにするの!?」

「ヘスティア様が送られたのはさんじゅ……三倍は確実にしますからね」

「……神様……あ、これ返した方が……」

「言った通りあげますよ。リリに勝った記念にどうぞ。それにベル様はリリを助けてくれましたし。まあ、リリ的には逃げて欲しかったのですが……」

「保護対象ですものね」

「ええ、ベル様に何かあったらヘスティア様にリリが殺されます」

「神様がそんな事をするはずが……」

「ベル様はヘスティア様の愛情を甘く見ております。いいですか……」

 

 ベル様にしっかりとお話をしつつ帰ります。出てくる敵は全てクルミ様が対処してくれるのでリリ達はやる事がありません。ヘファイストス様の所へと移動し、そこでベル様のナイフやリリの武器を整備に出しておきます。それから恐怖の時間ですね。

 

「お帰りベル君! 無事で良かったよ!」

「神様……ただいまです」

 

 あちらは抱きしめあっているのですが、リリは椿様の前で正座しております。

 

「申し訳ございません。負けてしまいました」

「うむ。手前達の負けではあるが、相手がレベル3や2だったのだ。致し方あるまい。良くぞ頑張った」

「それでは……」

「手前の正式な弟子としてしっかりと鍛えてやろう」

「待ってください。リリは負けました。ですから……」

「うむ。次は負けぬように鍛えてやるから安心しろ! さあ、次はどんな武器を仕込もうか……」

「あの、クルミ様……」

「諦めてください。椿さんはリリさんで大型武器を試すつもりです。やはり自分で使っただけではどうしても評価が偏りますからね。それにリリには新機軸の武器を使ってもらうので、そちらの訓練もありますからね」

「よくよく考えたら、いい環境ですし……頑張ります」

 

 そうです。リリがレベル2や3と戦えたんですから、リリだってやればできるんです! しっかりと訓練して見返してやります! 

 

「あの、クルミ様……」

「なんですか?」

「ご褒美はないですよね……?」

「今日はわたくしが腕によりをかけて料理を作ってあります。ですので、ここに居る皆さんで一緒に頂きますよ」

「クルミ様が……料理……?」

「材料はマカロニ、チーズ、牛乳、バター、鶏肉、玉葱、塩コショウ、ジャガイモですわね。グラタンという食べ物です」

 

 クルミ様が用意されたグラタンなる食べ物は大変美味しかったです。ソーマも少し入っているみたいで、フォークが止まりませんでした。ベル様達も大変気に入ったようで、酒盛りしながら沢山食べていました。クルミ様がミトンとエプロンをつけて料理して甲斐甲斐しく世話をしてくれている姿は普通にお母さんみたいでした。まあ、椿様やヘファイストス様、ヘスティア様と酒盛りをしているクルミ様も居るんですけどね。

 

 

 

 



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ソード・オラトリア 24階層1

 

 リリさんとベルさん。それに分身のわたくしが地上へと帰っていきました。残っているのはわたくしとロキ・ファミリア。それにわたくしを狙って襲ってきた人達。この人達はわたくしを生み出した組織の一員みたいで、目的はわたくしの回収のようです。

 わたくしの所在についてはザニスさんが彼等に教え、わたくし達を確保する戦力として雇い入れたようですわね。そもそもわたくしを売り渡す予定のようで、彼等と交渉していたと記憶が教えてくれました。

 

「それで彼等はどうするんだい? 地上に運ぶのもこれからの事を考えると戦力を割くわけにはいかない。何分、急に言われて急いできたから物資も乏しい。そちらはクルミ君が用意してくれるようだが……」

「んなもん、さっさと処理すればいいだろう」

「ですわね。欲しい情報は手に入れたので、後はこちらで処理しておきますわ」

 

 時喰みの城を発動して彼等を影の中へとご招待しておきます。レベルがわたくしよりも高いので時間を吸い取るには長い時間が必要でしょう。ですが、それは考えようによっては旨味となりますわ。彼等には死ぬまでわたくしの為に働いて頂きましょう。

 

「では、向かいましょう。ティオナさん、おんぶしてください」

「オッケー!」

「じゃあ、私はレフィーヤを運びましょう」

「わ、私ですか!?」

「リヴェリアもベートに運ばれるかい?」

「断る」

「俺もごめんだ」

「じゃあ、僕がリヴェリアと一緒に行く。君達はリヴィラを目指して最短で行ってくれ。クルミはもう一人をこちらにつけるように」

「「「了解!」」」

 

 リヴェリアさんとフィンさん。それに分身のわたくしが残り、わたくし達は急いでリヴィラを目指して突き進みます。

 

 

 

 

「さて、彼等から引き出した情報を教えてくれ」

「ええ、かしこまりましたわ」

 

 三人で進みながら先程手に入れた情報を伝えていきます。

 

「子供を誘拐して人体実験か……ふざけた事を!」

「彼等は闇派閥(イヴィルス)だったわけだ」

闇派閥(イヴィルス)というのはなんですか? 彼等との記憶と齟齬があるかもしれませんし、教えてくださいます?」

「リヴェリア」

「わかった。闇派閥(イヴィルス)というのはかつて迷宮都市オラリオの暗黒期に活動した邪神を名乗る神に率いられた過激派ファミリアの総称だ。様々な犯罪活動を行い冒険者、一般人関係なしに多くの犠牲を生み出した。大概は滅ぼしたが、未だに残党が活動している。彼等もそういう存在だろう」

「なるほど。人体実験をしていたのですから、当然ですわね。つまり、彼等がわたくしの親というわけ……でも、ないようですね」

「どうしたんだい?」

「彼等の記憶を見ると確かな事はわからないのですが、わたくしの容姿を持つ子供は居なかったようです。ですが、精霊と人の融合体など普通は行いません。ですわよね?」

「当たり前だ。そのような馬鹿げた事を行うなど、狂っている」

 

 リヴェリアさんはそうとう怒っているようですね。まあ、エルフの子供も相当数が犠牲になっているようです。というか、エルフは精霊との親和性がよいそうなので仕方がありません。中にはハイエルフの子供を拉致して実験体にしたとの記憶がございました。

 

「彼等しか行っていませんから、彼等によって作られたのは間違いないはずなのです。ですが、おかしいのです。実験を行っていた者達は()()によって滅ぼされております。実験体として捕らえていた子供の生き残りがガネーシャ・ファミリアに救助されたとも記憶が残っています。ですから、残った連中は成功例であるわたくしを狙っているようですわ」

 

 何故彼等がわたくしに気付いたかというと、ザニスさんがソーマ様から聞いた話を彼等に伝えたからです。そのせいでわたくしが精霊との融合に成功した存在と理解し、実験を行っていた者達を滅ぼしたのがわたくしだと思っているようですわ。流石はわたくし! 時崎狂三ならば普通に可能な事ですわ! と、言いたいのですが、神の恩恵を貰うまでは能力を使えなかったので、わたくしではないでしょう。施設の場所はわかったので、そちらに後で行きましょう。何かの手掛かりが残っているかもしれませんし。

 

「しかし、ソーマ・ファミリアは闇派閥(イヴィルス)と取引したという事だね。これは見逃す事はできないね」

「フィンさん」

「なにかな?」

「勘違いしないでいただけますか? ソーマ・ファミリアは闇派閥(イヴィルス)とやらと取引はしておりませんわ」

「ほう?」

「ザニスさんが個人的にやっているだけです。彼はもう()()()()団長ではなく、ファミリアを追放された存在です」

「書類上か。かなり苦しいね」

「まあ、そうなんですよね」

「一度解体してロキ・ファミリアに来ればいい。歓迎するぞ」

「そうだね。それがいいだろう」

「それも一考に値するのですが、わたくしはソーマ様に拾っていただきましたし、そのご恩はお返ししたいのです。ですから、今はまだこのままですわね。本当に危なくなれば解体も考えますが……」

「なら、その時を期待して待とうか。他に情報はあるかな? 例えば彼等の主神とかね」

「タナトスのようですわね」

 

 他の闇派閥(イヴィルス)に関する情報を伝えながら移動し、縦穴へと到着しました。そこになんの躊躇もなく飛び込んで降りていきます。

 下の階層につく前にフィンさんがローブを投げてくれたので、それを掴んで彼が槍を壁に刺して減速してくれます。わたくしはそれで着地します。リヴェリアさんも同じようにしていますが、おそらく彼女は必要なかったでしょう。

 

「リヴィラへのショートカットは完了だ。このまま突き進むよ」

魔物(モンスター)の処理はお任せくださいな」

「大丈夫なのかい?」

「撃ち漏らしだけお願いしますわ」

「わかった。リヴェリア」

「わかっている」

 

 リヴェリアさんが防御魔法などをかけてくれたので気にせずに突撃して時喰みの城へと大量の魔物(モンスター)を落としていきます。

 

「なるほど。影に入れてしまえばいいのか」

「はい。叩き込んで頂けると助かりますわ」

「わかった。任せてくれ」

 

 フィンさんが素手で魔物(モンスター)を掴んでは影に入れてくれるのでかなり効率良く取り込めています。一の弾(アレフ)を使って加速していきます。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 しばらくして何の問題もなく待ち合わせをしているリヴィラにある酒場へと到着しました。酒場に入り、カウンターに居るマスターに符丁を伝えます。

 

「じゃが丸君抹茶クリーム味を一つ」

「あの扉だ」

「ありがとうございますわ」

 

 扉まで移動すると、フィンさんが呟きました。

 

「これ決めたのはアイズだろう」

「正解ですわ」

「まったく、あの子は……」

 

 扉を開けて中に入ると、かなり険悪な感じになっておりますわね。まあ、無理もないでしょう。わたくしは面倒なのでフィンさんを前に出してさっさと影の中へと入ります。

 

「やれやれ……すまない。待たせたようだね」

「ようやくの到着ですか」

 

 部屋の中に入るとこちらに気付いた眼鏡を掛けた理知的な雰囲気を持つヒューマンの女性が声をかけてきました。それにより、皆がこちらへと視線をやってきます。

 

「ですが、援軍がロキ・ファミリアの団長と副団長となれば待ったかいはあります。それほど危険な相手なのでしょうから」

「雑魚共は置いていけばいいじゃねえか。邪魔なだけだ」

「ベート!」

「なるほど、この雰囲気はこういう事か。すまない」

 

 ベートさんが相手側のファミリアに噛みついているだけのようですわ。すぐにフィンさんが謝罪し、リヴェリアさんがベートさんに注意していきます。

 

「いえ、相手がレベル6クラスとなれば彼の言い分はもっともです。ですが、こちらも依頼を受けているので、はいそうですかと下がるわけにはいきません」

「だろうね。広範囲の探索と調査はそちらに任せる。僕達は敵戦力の撃滅に力を入れさせてもらうよ。僕達は戦闘は得意でも調査は苦手なメンバーだからね」

「はい。戦闘はお任せします」

「では話がついたところで行きましょう」

「そうだね」

 

 ヘルメス・ファミリアとロキ・ファミリア。それにソーマ・ファミリアのわたくしによる合同調査の開始です。もっとも、大量発生している魔物(モンスター)はレベルアップしたばかりのアイズさんとわたくしがほとんど処理しました。

 渓谷を一方向に向かう魔物(モンスター)の群れなんて、わたくしにとってはただの餌場でしかありません。相手の進行方向に時喰みの城を展開して取り込み、中に居る捕らえた闇派閥の方々に処理してもらいます。どちらが死んでも時喰みの城の中でなら時間を回収できますので、一石二鳥ですわ。

 大量の魔物(モンスター)を処理したら、いよいよ相手の本拠地……というか、前線基地へと乗り込みます。

 

「なにこれ、気持ち悪い壁……アイズさん、近付かないようにしましょう!」

「うん。確かに気持ち悪い」

 

 やってきたのは各階層に何個か設置されている魔物(モンスター)達の食糧庫です。ここで魔物(モンスター)達は食事をしているというわけです。魔物(モンスター)の大量発生は広いマップを食糧を求めて移動しているからこそ起きた現象でした。食糧庫を壁を作って封鎖されたら仕方がありません。

 

「魔法で壊しますか?」

「ならば私がやろうか?」

「いえ、ここはわたくしがやらせていただきますわ」

「貴女が、ですか?」

「はい。取り出したるは種も仕掛けもないただのバリスタですわ」

「「なんでそんな物を持って来ているんだ!」」

 

 わたくしは皆の先頭に移動し、影から巨大な攻城兵器であるバリスタを取り出して設置します。矢の先端を肉のような壁に向けて固定してある紐を切ります。するとバリスタから放たれた矢が壁を粉砕してその先へと進んで何人かをぶち殺します。

 

「開幕の一撃としては十分でしょう。では皆様。後はよろしくお願いいたしますわ」

 

 バリスタと共に影に沈み、わたくしはアヴェンジャーの方へと移動します。するとそこではレヴィスさんが矢を受け止めていました。

 

「ロキ・ファミリアめ、手荒い訪問の仕方だな」

「まったくですわね。ところで、その矢。使わないなら欲しいのですが……」

「これはこうする」

 

 アヴェンジャーの言葉にレヴィスさんは矢を放り上げてから回転させ、投げ返しました。バリスタで撃つよりも素早く移動して突入してきたフィンさん達に襲い掛かります。ですが、アイズさんが切断してしまったのでわたくし達は泣きました。ええ、泣きましたとも。アレ、すごく高いのですもの。

 

 

 



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ソード・オラトリア 24階層2

感想ありがとうございます。励みになります。



 

 

 レヴィスさんが投げ返した矢をアイズさんが切断し、彼女は一時的に止まりましたわね。その背後からベートさんとフィンさんが躍り出て駆け抜けていきます。

 

「ちっ、流石にこの数は無理だな」

「だから言ったのだ。溢れた魔物(モンスター)を処理しろと!」

 

 白いローブの仮面の男が、レヴィスさんに言いながら魔物(モンスター)達を操っていきます。

 

巨大花(ヴィスクム)食人花(ヴィオラス)ッ!」

 

 柱に巻き付いている蛇みたいな植物の巨大花と食人花達を溢れさせ、ロキ・ファミリアの方達に襲わせます。ですが、それを予想していたのか、即座にフィンさんとベートさんが来た道を戻りました。それを見たレヴィスさんはわたくしの分体を掴んで走ります。

 

「レア・ラーヴァテイン」

 

 リヴェリアさんの言葉と同時に無数の巨大な炎の柱が洞窟内に溢れ出し、周りを魔物(モンスター)もろとも焼き尽くしていきます。洞窟内で逃げ場の無い場所に広範囲殲滅魔法とか、容赦がありませんの。そこに痺れて憧れますわね。

 

「何故だっ! あり得ぬっ! 何故っ、何故っ! ロキ・ファミリアの主力が纏めて来るのだ! 精々一人か二人であろう!」

 

 白いローブ姿の仮面さんが服のあちこちを叩いて火を消しながら叫んできます。まあ、普通に考えたらその通りなんでしょうね。今回のような中層の調査に呼ぶのなんてレベル4ぐらいでしょう。それがレベル5数人とレベル6二人とか、オラリオでも最高峰の戦力がいきなり現れたのですから、取り乱すのも無理はありませんの。

 

「決まっているだろう。こちらの情報が漏れていた。それだけだ」

「まさかお前が漏らしたのか!」

「私じゃない。居るだろう怪しい存在が」

 

 そう言ってレヴィスさんは掴んでいたわたくしを持ち上げます。わたくしは気にせず魔石をもきゅもきゅと食べておりますわね。

 

「あり得ぬ。監視はしていた。ソイツはただ魔石を食べていただけだ」

「ああ、そうだな。だが、コイツが来てから情報が流れたのは確実だ。それに他の連中から報告が来ていただろう?」

「っ!? 分身かっ! おのれっ! 殺してくれるわっ!」

「やめてくださいまし。わたくしが情報を流したという証拠はございませんでしょう?」

「ああ、そうだ。だからここで使い潰す事にした」

「え!?」

 

 レヴィスさんがアヴェンジャーの首に注射機のような物を押しあて、中身を注入していきます。すると、アヴェンジャーの身体がビクンッと震えて絶叫を上げだします。

 

「くるみっ!」

 

 アイズさんがまだ燃える中を飛び込んできてくださいました。レヴィスさんはそんなアイズさんと剣を交えていきます。アイズさんの後ろからはベートさんが現れて仮面の人と格闘戦を始めました。

 

「くるみに何をしたの!?」

「何、少し活性剤を打ち込んだやっただけだ」

 

 アヴェンジャーの左目が光り、有り得ない事に背後に天使(時計盤)が現れます。その天使がラグのように震えた後、姿や文字が変化していきます。

 

「キヒッ! キヒヒヒヒヒッ! 憎い憎い! 殺せ殺せ殺せぇぇぇ!」

 

 同時に白い髪と白い軍服に変化し、左目は青い文字盤の時計へと変わっていきます。

 

「これは……」

「反転だ。彼女は精霊と人との融合体。ダンジョンの憎悪と殺意(意思)が宿っている魔石をたらふく食わせてやったらどうなると思う?」

「まさか……」

「答えは簡単だ。お姫様が誕生する。精々あがけ」

「ところがぎっちょんですわ」

 

 反転しかけているアヴェンジャーの足を掴んで時喰みの城へと引き込んでやります。

 

「甘い」

「みぎゅっ!?」

 

 レヴィスさんに顔面を踏みつけられて時喰みの城へと落とされましたが、しっかりと掴んでいたので問題ありません。ただ、レヴィスさんもアイズさんも一緒に落ちてきましたけれど。

 

「ここは……?」

「時喰みの城。わたくしの支配する異空間ですわ」

「なるほど。影を使って情報のやり取りを行っていたというわけか。だが、どこであろうと問題はない」

「ええ、そうですわね。ですから、停止させますわ。アヴェンジャー、あの子の相手はわたくしがしますので、アイズさんはそちらの方をお願い致しますわね」

「うん。任せて。今度は私が勝つ」

「ほう、いいだろう。返り討ちにしてくれる」

 

 アイズさんとレヴィスさんが掻き消えるように移動したので、わたくしは神威霊装・三番(エロヒム)の短銃と小銃を取り出して反転しかけているアヴェンジャーへと向かいます。まず短銃で自らを撃ち、一の弾(アレフ)で加速。小銃で二の弾(ベート)を撃ち、相手を遅くしようと思いましたが、相手もこちらに気付いて即座に神威霊装・三番(エロヒム)を呼び出し、軍刀と歯車仕掛けの短銃の形状をしたものを生み出してきました。

 

刻々帝(ザフキエル)二の弾(ベート)!」

「きひっ! 狂々帝(ルキフグス)巨蟹の剣(サルタン)

 

 こちらが撃った二の弾(ベート)が軍刀によって空間ごと絶ち切られ、命中するだけで効果を発揮する二の弾(ベート)が無効化されました。

 

「わたくし達!」

「ああ、愛していますわ! 愛していまませんわ! 憎い、憎くない……愛しくて憎いから、消しましょう。狂々帝(ルキフグス)獅子の弾(アリエ)

 

 複数のわたくし達が武器を持ってアヴェンジャーに殺到しますが、彼女が刻々帝(ザフキエル)から変化した狂々帝(ルキフグス)によって放たれる獅子の弾(アリエ)というのは空間を削り取る能力があり、わたくし達の身体に綺麗な穴が空きました。そこから大量の血と臓物が溢れ出てきて倒れます。

 

「空間操作とかチートすぎますわよ!」

「時間操作ができるわたくしに言われても困りますわね!」

 

 わたくし達にバリスタなどの遠距離攻撃武器で攻撃してもらいますが、巨蟹の剣(サルタン)の魔法をかけた軍刀でわたくし達が収集して鍛えた剣技をもって切断され、獅子の弾(アリエ)でバリスタなどが潰されていきます。

 

刻々帝(ザフキエル)四の弾(ダレット)

 

 壊された物は四の弾(ダレット)で時間を巻き戻して対処します。これは貫かれたわたくし達も同じですの。

 

「きひっ! きひひっ!」

 

 アヴェンジャーはこちらに突撃してくるので、わたくし達が前に出て武器を持って挑みますが、巨蟹の剣(サルタン)を纏った軍刀に斬り捨てられるのがおちです。互いに剣技などの技術が拮抗していますが、相手は魔石を取り込んで魔王化したことにより身体能力では相手の方が上ですの。こちらは数が勝っている程度では勝ち目が薄いです。

 

「接近戦だと武器が壊されるのが痛いですわね。とりえあずはこちらから。刻々帝(ザフキエル)五の弾(へー)

 

 五の弾(へー)を自らに撃ち込んで数秒先の光景を視て飛んで来る弾丸を回避。即座に軌道を予測した場所に時間を巻き戻す四の弾(ダレット)の弾丸を放ちますが、アヴェンジャーはそこに来るのがわかっていたように巨蟹の剣(サルタン)を纏った軍刀で切断します。軍刀に纏われている空間の時間が巻き戻ったところで意味はありません。

 お返しとばかりに飛んできた獅子の弾(アリエ)を回避しますが、いつの間にか背後に居たアヴェンジャーが数秒先の未来で軍刀を振り下ろしてきていたので、その場を影に潜って回避します。完全には間に合わず、腕が切断されたので、離れた場所で自らに四の弾(ダレット)を撃ち込んで再生させます。

 

「空間と時間の勝負……まるでポケモン映画のパルキアとディアルガではないですか」

「もっと愛しましょう! きひっ!」

「ああ、もう!」

 

 横合いから別のわたくしが攻撃するも、ニュータイプのように超感覚を発動しているみたいにキュピーンと気付かれて不意打ちを対処されます。本当にまるでニュータイプ……ああ、そうでした。そうでしたわ。空間を操るのなら、空間認識能力もかなり高いはずですし、わたくしの攻撃を全て認識していてもおかしくはありませんわ。

 過去にわたくしを送ってやられる前にアヴェンジャーを戻した方がいいのですが、残念ながらそこまでの時間の余裕はありません。十一の弾(ユッド・アレフ)十二の弾(ユッド・ベート)は一発で精霊一人の時間全て……人間でいう数百年ぐらいは軽く必要な物です。ただ、ランクアップした人達から得られる時間は極上なので地球よりはやりやすいでしょうが。

 どうすれば有利に戦える? あちらとのわたくしの違いは? 原作で、デート・ア・バレットで狂三さんは白の女王(クイーン)に対してどのように勝利……って、そこまで進んでませんわっ! 

 悩みながらも回避行動を取りつつ、銃弾をお見舞いしていきますが普通に対処されてしまいます。ですので、周りを見ると、少し離れたところでアイズさんとレヴィスさんが戦っています。そちらは驚いた事にアイズさんが押していますので、こちらは時間稼ぎをすれば──

 

「冒険せずして何がボウケンシャーですかっ! それによくよく考えたらなんと滾るシチュエーションでしょうか! だって、反転体のわたくしと戦えるという事はわたくしが! 時崎狂三である事の証明にほかなりません! 何故なら彼女も戦っているのですから! きひっ!」

 

 ──時間稼ぎなどやめです。冒険して私が勝ってみせます。その為に足りないリソースを生み出しましょう。そう、勝つ手段が思いつかないのならば思いつけるようにすれば良いだけですの。

 

「わたくし達、全員の記憶と経験を同時進行でリンクさせます。今こそオリジナルを超えますわよ!」

「このまま死を待つだけよりも面白そうですわね」

「名前をつけるのならばくるみねっとわーくですかしら?」

「カタカナではなくひらがななのがわたくし達らしいですわね」

 

 軽口を言いながら高速で回避しながら、アヴェンジャーとグレイを除く全ての分身体と接続します。彼女達、残存する四二体のわたくし達とリンクする事で身体中が限界を突破して至る所から血管が破裂して血飛沫が舞いますが、ポーションを使って回復します。

 

「苦しいのでしょう。すぐに楽にしてあげますわ。わたくしはわたくし達を愛していますもの」

「「「「お断りですわ!」」」」

 

 身体中が痛くて視界が滲みますが、常に互いの位置を視認して、それらをリアルタイムで確認する事で死角を無くして相手の空間認識能力に対抗してこちらも認識能力を上げて対処しますわ。

 限界を超えて酷使しているせいか、左目が光っている上にちかちかしていますが、構いません。それよりもやる事はいっぱいあるので、些事には構っていられません。記憶と経験から更にリンクさせる項目を増やし、今度は脳を、思考をリンクさせます。

 増えた演算能力で神威霊装・三番(エロヒム)の短銃と小銃を移動させながら全員に一の弾(アレフ)を適応させて高速で時喰みの城内部の空間を飛び回りながら銃弾と矢の雨を降らせて相手が認識しきれない攻撃を放ちます。

 

「憎い愛しいイラつく嬉しい……」

 

 矛盾した思考の中にありながら、軍刀と短銃を使ってクルクルと回転しながら三百六十度、全方位から放たれるこちらの攻撃を迎撃してくれます。

 

「きひっ! 良い事を思い付きましたわ!」

「それは良かった、ですわ!」

 

 身体中を襲ってくる激痛を我慢し、ポーションで傷を癒しながらクリアになっていく思考を以て作成した計画にのっとり、アヴェンジャーを誘導していきます。あちらもこちらを追ってくるので、その人達が居る場所へはすぐにつきました。いえ、予想よりはかかりました。どうやら、時喰みの城の空間も一時的に拡張されているのかもしれません。時間と空間がぶつかりあっているので、この異空間自体が不安定になるのもおかしくはありませんもの。

 

「なんだこれは……」

「くそがぁっ!」

 

 向かった先には四人の方々が居ます。彼等は縛られているので即座に銃弾で縄を撃ち抜いて自由にしてあげます。それから武器も地面に突き刺して返してあげます。

 

「撤収!」

「あん?」

「ナニッ!」

 

 即座にわたくし達は逃げます。アヴェンジャーは見境なく彼等にも襲い掛かるので、彼等は武器を取って必死に対応しだします。本来、彼等はこのようにして魔物(モンスター)達を死ぬまで狩ってもらう予定だったのですが、アヴェンジャーへの時間稼ぎとして使いましょう。

 その間に武器へ細工を施していきます。おそらく、これで問題なく殺し合えるはずですわ。遠距離攻撃を持つ者達は闇派閥(イヴィルス)の方々を援護してもらい、残りの方はタイミングを見計らいます。

 三人の闇派閥(イヴィルス)は一瞬で殺されてしまいましたが、残りの一人は普通に対応して回避しながら戦っています。レベル3なだけはあると思いますわ。

 

「それ、良さそうですからわたくしにくださいな。蠍の弾(アクラヴ)

「お断りさせていただきますわ」

 

 アヴェンジャーの対象に自身の印を刻み自らの手駒のルークへと仕立てる弾をこちらの銃弾で撃ち落とします。手駒にした者に更に寄生させることで相手をビショップに仕立てることも可能なので、防いでおきます。

 

「貴様ラ、俺をなんだと思っていやがル!」

「「手駒ですわ」」

「殺ス! 殺してヤル!」

「鬱陶しいわ」

 

 アヴェンジャーが瞬時に彼の背後に空間転移を行って軍刀を彼の心臓へと突き刺しました。その瞬間に剣斧を持ったわたくしが上から現れて全力で振り下ろします。

 

「無駄ですわ」

 

 アヴェンジャーは獅子の弾(アリエ)を放つ事で剣斧ごと消滅させようとしますが、剣斧に着弾すると同時に左右に割れていきました。

 

「っ!? 何故ですかっ!」

「「「油断しましたわね!」」」

 

 複数のわたくしが影を使って転移し、それぞれが持つ剣や槍でアヴェンジャーを串刺しにしますが、次の瞬間には首を斬り落とされてまとめて殺されました。ですが、確実に傷を与えました。その上、上から剣斧による攻撃が決まり、相手は軍刀で防ぎます。剣斧と軍刀は質量の違いにより、軍刀が圧し折れてアヴェンジャーを切断するはずでした。ですが、その前にレヴィスさんがアヴェンジャーを横から殴りつけて吹き飛ばす事でアヴェンジャーの片腕を斬り落とした程度で終わってしまいました。

 

狂々帝(ルキフグス)水瓶の弾(ドゥリ)

 

 極めて高い自己修復を得たアヴェンジャーの身体はみるみるうちに再生していきます。その前に七の弾(ザイン)を放ちますが、そちらも避けられてしまいました。

 

「ごめん、取り逃がした」

「……まあ、仕方がありませんわ」

 

 隣に来たアイズさんは申し訳なさそうにしていますが、まだまだチャンスはあります。

 

「アイズさん」

「ん?」

刻々帝(ザフキエル)七の弾(ザイン)

 

 アイズさんの剣に向かって七の弾(ザイン)を使う事で時間の完全停止を行います。これによって空間事切断される事はありません。空間と時間が互いに干渉して打ち消し合うのです。わたくし達の近接武器にもこのようにして相手の攻撃を防ぎました。

 

「二人で殺りますわよ」

「うん。やる。でも、白い子はくるみだよね……?」

「アレはもう敵ですわ。殺すしかありません。戻せる可能性もあるかもしれませんが……」

「それなら僕達も交ぜてもらおうか」

 

 上からフィンさんやグレイ達が降りてきました。どうやら、外の制圧は終わったようです。残るのはこの二人だけですわね。

 

「ここまでだな。撤退するぞ。出来るか?」

「わたくしはまだ愛したりませんが、仕方ありませんわね。おいとましましょう」

「逃げられるとでも?」

「さあな」

「また遊びましょう。わたくし」

「そうですわね。今度は殺してあげますわ、わたくし」

「楽しみですわ」

 

 空間が捻じ曲げられてレヴィスさんと共にアヴェンジャーである反転した白いわたくしが消えました。実力は相手の方が上ですし、空間を操る関係上、時喰みの城の支配権もあちらに一部奪われているので仕方がありません。こちらが上なら逃がしはしませんのに……

 

「くるみ。もしかして、あの時の子なの……?」

「そうですわよ。ただ、あの子はダンジョンに入られてから合流した子なので、直接的な関わりはグレイがほとんどです。気にしなくても問題ありませんわ」

「でも……」

「アレはわたくしが相手をすべき敵です。誰にも邪魔はさせません」

「それはいいのだけど、彼女の名前はどうするんだい? 流石にくるみと同じ名前だと困るからね」

 

 フィンさんの言葉で少し考えます。アヴェンジャーでも良いのですが、既に彼女はその役割から逸脱し、別個体となってしまいました。そうなるとやはり白の女王(クイーン)が候補にあがります。ですが、それはあくまでも十六歳くらいのわたくしです。ですので、幼い七歳の姿であるわたくしは……王女でしょう。小さな王女(プリンセス・リトル)とかになります。なら、名前はこれで決まりですわ。

 

「白の王女(プリンセス)としましょう」

「プリンセスか」

「可愛いからいいと思うよ」

「可愛いのは当然ですわ」

「同意ですわ」

「自分達で言うのか……」

 

 呆れられていますが、気にしません。時崎狂三が可愛くないはずありませんもの。

 

「それよりも早くここから出ますわよ。異空間その物が不安定になっていますので、下手したら崩壊してしまいますからね」

「そうだね。道を開けてくれ」

「ええ。それとアイズさん」

「なに?」

「気に病んでいるのなら、今度こそわたくしをちゃんと地上まで連れていってください。もう限界ですわ」

「えっと、わかった。今度は必ず無事に連れて帰る」

 

 アイズさんに抱き着いてから外への扉を開いて力を抜くと、彼女がギュッと握り返してくれてました。それからすぐにお姫様抱っこのような感じになり、近くで綺麗なアイズさんの顔を見れたのはご褒美でしょう。

 まあ、流石に無茶をやりすぎましたので限界です。後始末や安全は全てロキ・ファミリアに任せてわたくしは夢の世界へと旅立ちましょう。本当、ランクアップしてから戦いたかったですわ……。

 

 

 




ソード・オラトリアは次、遠征ですね。
その前には普通に地上での話ですが。
ちなみに白の王女はラスボスです。やっぱり、くるみちゃんの相手は彼女じゃないといけません。黒には白です。ブラック★ロックシューターとホワイト☆ロックシューターしかりですね。



後、FGOで天啓持ちの冥王なのは(田村ゆかり(卑弥呼))さんを引けました、やったね!

次回は流石にランクアップさせます。スキルはくるみねっとわーくをスキルにする予定です。普通ならこのまま続ければ死にますが、神の恩恵によってスキル化される事で問題なく使えるようになります。


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宴とランクアップ1

誤字脱字修正ありがとうございます。そしてごめんなさい。ステイタスまでいけませんでした。なお、少しだけ別作品のアニメキャラがでてきますが気にしなくて構いません。出す神様の都合でキャラクターを考える手間をなくすために出しただけですので、ほとんどかかわりません。


 

 

 

 

 

 

 目を開けると白くて上下に動く柔らかい二つの膨らみあり、誰かに抱きしめられているように感じられます。視線をずらすと知らないような知っているような天井が見えます。

 

「んん~」

 

 可愛らしい声が聞こえて柔らかい中でもぞもぞと動いて脱出すると、すぐ近くで眠っている整った顔立ちの美少女が居ました。サラサラな金色の髪からいい匂いが漂ってきます。つまり、これはアイズさんに抱きしめられて眠っているという状況のようです。ということは……合法的にこの胸を堪能できるということですわね。

 

「うへへへ」

 

 アイズさんの程よい胸を堪能しようとしたら、口から欲望が漏れたのかと思いましたが、よくよく聞いてみたら可愛らしいくるみちゃんボイスじゃありません。そこで別のわたくしを呼び出して改めて現状を確認すると、ベッドの上でアイズさんがわたくしを抱き枕にして眠っており、その反対側にあるベッドではグレイがわたくしと同じようにティオナさんに抱き枕にされて眠っています。

 そしてわたくしの横、反対側にはヤバイ気配を漂わせているロキさんがベッドの傍におり、上半身をベッドの上に乗せておりました。

 

「二人共かわええなぁ……このままちょっと悪戯してもバレへんよな? 揉みしだいてもかまわへんやろ?」

「駄目に決まっていますわ」

 

 自分の事は棚に上げてロキさんの頭に短銃を突き付けてやります。するとロキさんはギギギという感じで分身体の方へと振り向きました。

 

「お、おはようくるみたん。起こしにきただけやで?」

「悪戯しようとしていませんでしたか?」

「う、嘘はついてへんで。ちょ~と起こす時にぷにぷに頬っぺを弄り回そうとしただけやもん」

「一回十分、百万ヴァリスでいいですわよ?」

「ボッタクリやん!」

 

 とりあえず、ロキさんを見ていたらアイズさんの身体を堪能する気も失せたので大人しくしておきましょう。

 

「ところでダンジョンから戻ってきてどれくらいが経ちました?」

「一日やね。くるみたんは眠ったままやったから、グレイたんとアイズたんの部屋に連れてきたわけや。まあ、普段はアイズたんに抱き枕されとるグレイをティオナが取って寝たみたいやけど」

「確かにその記憶は……ありますわね」

 

 グレイとはあまりリンクを繋がないので彼女が普段ロキ・ファミリアでどう過ごしているかなんてわかりません。今回の同期接続からも外しましたから。彼女は別個体として目覚めているので、どんなバグが起こるかわからなかったですからね。下手をしたらグレイを通してわたくし達も反転する可能性もありますから、この考えに間違いはないでしょう。

 

「つまり、次の日という事ですわね」

「そうやで」

「なるほ……っ」

「可愛らしい音やな!」

 

 次の日だと意識したら現金なお腹は音を鳴らして朝ご飯を要求してきました。それをロキさんに聞かれたのでとても恥ずかしいです。ですから撃っちゃいますわ。

 

「ちょっ!? やめっ、やめやっ! 照れ隠しで銃撃せんといて!」

「大丈夫ですわ。模擬弾なので命中してもちょっと痣が残る程度です。きっと」

「実弾とちゃうみたいやけどヤバイって!」

「セクハラされた対処という事にすれば問題ないかと」

「確かにしようとしたけれど! してないのにやられるのは堪忍やで!」

「仕方ありませんわね。ご飯、奢ってくだされば許してあげましょう」

「ええよ。もとから奢るつもりやったしな。今回の件はこっちにもメリットがあったからな。闇派閥の白髪鬼にアイズたんの事もある。それぐらいならかまわんで」

「報酬の件ですが……」

「それはアイズたんとグレイたんの二人と話し合う事やね。依頼を受けたんは三人やしな」

「では、問題なさそうですわね」

「自分、そんな強力な魔法を持っているのにまだ魔法が欲しいん?」

「ええ、欲しいですわ。今回の件で痛感しました。わたくしには戦力が足りません。ですから、一つ考えた魔法があります。その魔法をなんとしても手に入れますわ。この魔法は上手くいけばロキ・ファミリアの利益にもなります」

「いくら魔導書とはいえ、魔法の発現はランダムやけど……」

「時間操作が出来るわたくしですよ? 自ら望んだ結果を引き寄せてみせますわ」

「チートやん! 知ってたけど! で、利益ってなんや?」

「死者の復活ですわ」

「自分、正気か?」

「ええ、正気です。もっとも本人であって本人ではないでしょう。対象の記憶を全て読み込んでわたくしの分身体を依代として再現させますわ。これで疑似的な死者の復活です」

「偽物やけれど、本物の経験と記憶は有していると。けど、既に死んでいるもんは無理やろ?」

「物から読み込みます。その人物が生前、身に着けていた物なら可能でしょう」

「確かにうち等の利益にもなる。けど、駄目や。それはやったらあかん」

「何故ですか? 悲しんでいる人達がいます」

「全員を救うつもりか?」

「まさか。わたくしの利益となる方だけですわ。わたくしは聖女ではありませんの」

「……やっぱあかん。それだけは認められん。この世界は、この時間は今を生きる者達のもんや。過去の者達がでてきたらあかん」

「記憶を再現する魔法であればどうですか?」

「それならまあ……って、かわらんやん!」

「ちっ、気づきましたか」

「こっちの条件としてはくるみたんが使わん事を入れておこうか。まあ、買えるぐらい稼ぎそうやけど」

「まあ、いいです。魔導書は自分で買うとしましょう。とりあえずはリリさんに読ませてみましょうか」

「そうしとけ。それに疑似的とはいえ死者の復活なんてしてみい。他の神々やファミリアが黙ってへんで」

「……まだ基盤も力も足りませんね。この計画は保留としましょう」

 

 いざとなれば時間を貯めて過去を改変すればいいだけですからね。この件は置いておいてリリさんに新しい魔法を覚えてもらいましょう。後は霊結晶(セフィラ)を取り込んでもらうかどうかも考えないといけません。いえ、普通に適応できずに死ぬ可能性が高いので止めておきましょう。リリさんが自前で持つ魔法を強化する感じの魔法が発現できたらいいですね。

 

「ほんま、成長したらくるみたんはヤバイやろうな。普通に考えてくるみたんと同レベルの存在かその下を量産してくるわけやし。敵対したら確実に悪夢やで」

「その悪夢、きっとすぐに現実になりますわよ」

「止めてほしいなあ~」

「ふぁ……おはよう……」

「おはようございます」

「おはようや」

 

 話はここまでにして起きて来たアイズさんと一緒にティオナさんとグレイを起こして朝風呂を貰ってから朝食です。朝風呂は当然、皆で一緒に入りました。天国ですが、正直恥ずかしくてまともに見れません。むしろ、わたくしとグレイが彼女達に弄ばれる側でした。身体を隈なく洗われて湯船では常に抱っこされて入るのです。屈辱です。逆ならばウェルカムなのですが。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 夕方。わたくし達はロキ・ファミリアの皆さんと一緒に豊穣の女主人にやってきました。ここでロキさんが奢ってくださるそうです。事前にミアさんには伝えておきました。

 

「しかし、本当にわたくし達に奢ってくださいますの?」

「そうや。女に二言はない! ここの会計はうちが持ったる! 今回の祝いや!」

「ロキ。私は忠告するぞ。止めておけ」

「僕も止めておいた方がいいと思う。クルミがニヤニヤしているから碌な事にならないよ」

「がっはっは! いいではないか! ただ酒が飲めるのだからな!」

「気にせんでええ! アイズたんもたんと召し上がるんやで!」

「うん。ロキ、ありがとう」

「ゴチになりますわ」

 

 早速席に座る皆さんを置いて、ミアさんの所に移動して貸し切りにするようにお願いします。もちろん、現在居る人達を追いだす事はしません。

 

「なあ、くるみたん。なんで貸し切りにする必要があるん?」

「それは席が足りないからですわ」

「もう皆入ってるで? ほら、席が余ってるぐらいや……」

 

 ロキさんは何かに気付いたようで、冷汗をかいていますが、知りません。ええ、知りません。

 

「さぁ、()()()()()。今夜はロキさんの奢りです。好きなだけ食べましょう」

「そうですわね。楽しみですわ」

「お腹一杯食べましょう」

 

 わたくしの影から数十人のわたくし達が出てきて、それぞれ席についていきます。すぐに席が埋まり、立ちながら食べる事になる子もいますが、大丈夫でしょう。

 

「ミアさん。食糧の貯蔵は十分ですか?」

「もちろんさ。事前に言われた通り、大量に買い込んでおいたからね!」

「では全メニュー、端から端まで全てください♪」

「やめてぇぇぇっ!」

 

 ロキさんの言葉を無視して注文し、皆で食べていきます。生き残ったわたくし達は総勢で四十四人。二十人以上が犠牲になりました。ですが、魔王を相手にしたにしては損害は軽微でしょう。

 

「亡くなったわたくし達を悼んで盛大に楽しみましょう」

 

 お酒も自前のを出してロキさんが泣いても食べたり、飲んだりするのを止めません。皆さんも同じです。まあ、流石にロキさんのお財布が限界を超えたらわたくしが支払っておきます。

 

「ところでガレス~」

「なんじゃロキ」

「ガチもんの完成品のソーマを買ったやろ」

「やらんぞ。アレは何かを成し遂げた時に儂への褒美としてチビチビやるんじゃからな」

「ええやん! 一口でええから!」

「駄目じゃ! 断じてやらん!」

「頼む! ここでお金がなくなるんは確実なんや! しばらく禁酒せなならんねんで!」

「自業自得じゃろ。とにかく儂のソーマはやらん!」

 

 オークションで買ったのはガレスさんでしたね。ロキさんが絡んでいます。流石に可哀想なのでロキさんとガレスさんに近付いて二人のテーブルにある空いている席に座ります。

 

「そこまでにしてあげてください」

「そうだそうだ!」

「だけどうちも飲みたいねん!」

「どうしても飲みたいというのなら、モニターとして新しく出すお酒の試飲会をやるので来ますか?」

「マジで!?」

「なんじゃと!?」

「今、ソーマ様とわたくしは極東系ファミリアと協力して日本酒という彼等の地域で飲まれるお酒を作成しております。ロキさん達にも売れるかどうか、飲んで試してください。これはお仕事でもあるので報酬も出します。ですが、レポートを提出してもらいます」

「ただ酒でお金までもらえるとか最高やん!」

「うむ。是非とも参加したいわい」

「では日取りが決まり次第、ご連絡いたします。まあ、本格的にやるのはわたくしがソーマ・ファミリアを乗っ取ってからになりますが」

「さっさとやりぃや。今回の件で確実やろ。なんせ闇派閥の連中と取引して呼び寄せたんやからな」

「じゃな。流石に庇いきれん。ギルドに報告をあげねばならん」

「取り潰しと罰金が悲惨な事になりそうなので止めてください。こちらで処理いたしますので」

 

 本当はギルドも介入させて穏便に団長交代をする予定でした。ですが、それはあくまでもソーマ・ファミリアに被害が出ないようにしてです。しかし、今回の件でザニスさんが闇派閥と繋がりを持った事で先にも言った通り、最悪はソーマ・ファミリアの取り潰しか馬鹿みたいな罰金を支払わなければなりません。それほどオラリオにとって闇派閥はやばい相手です。そもそも彼等の目的がオラリオの破壊にあるのですから当然ですわね。

 

「殺す気かいな」

「ええ、殺しますわ。彼も十分に良い目をみたでしょう。後はそうですわね……文字通り、わたくし達ソーマ・ファミリアの礎となっていただきますわ」

 

 今回の件でかなり時間と人材を消費したのでその補充は急務です。彼にはソーマ・ファミリア発展の為に犠牲となっていただきます。

 

「貸し一つや」

「でしたら、次回の遠征に無料でわたくしを三人お貸し致しますわ。レベル2なので問題ないでしょうし、増援も送ってあげます。死んでも三人居れば大丈夫でしょう。それと深層の魔石はわたくしが色を付けてギルドよりも高値で買い取ります。魔石を時間に変換する事ができますので、別料金で支援をしてさしあげる事も可能です」

「わかった。それでええやろ。くるみたんの支援はありがたいしな」

「時間を巻き戻しての再生と速度の増加か。確かに安いもんじゃな。それに深層だと碌に持って帰れんからの」

 

 深層では魔石やドロップ品も大きくなり、そういうのはとてもかさばるらしく厳選して持ち帰ってくるのがほとんです。そういうのをわたくしが回収すれば無駄はなくなります。

 

「レンタル料が無料なら大歓迎やな」

「最悪、攻城兵器もご用意いたしておりますので、拠点に設置しておけば防衛も問題ありませんわよ?」

「……でも、お高いんでしょう?」

「当然ですの。こちらは別料金となっておりますわ。矢だって馬鹿みたいに高いんですのよ?」

「良いのじゃと数百万じゃからの」

「矢の代金はいただきます。今回だって一本アイズさんに切られたんですから。リヴィラでまた採取しないといけませんわ」

「リヴィラ産かいな」

「あそことは懇意にしてもらっておりますしね。っと、そういえば後で依頼があります。わたくしをリヴィラまで最短で届けてくださいまし」

「もしかして分身体も全部導入したんから配置し直しかいな?」

「ですわよ。本当に総力戦だったのですから」

「それなら、誰かに聞いてみるとええやろ」

「ですわね。アイズさん! ティオナさん! リヴィラまでデートしませんか!」

「デートぉっ!?」

 

 早速二人に聞いてみると、オッケーを貰いました。レフィーヤさんも付いてくるらしいので、グレイも合わせて五人で潜る事になりました。レベルアップしてから調整も兼ねて行きましょう。

 とりあえずレフィーヤさんをからかってやりましょう。ついてきたければ耳を触らせてくださいと言ったら、凄く悩んでいました。リヴェリアさんに怒られたので何も無しです。今度リリさんに変身してもらいましょう。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 豊穣の女主人で食事を終えてから、オラリオ郊外にある極東ファミリアが居るエリアへとやってきました。わたくしが関わる前とは違い、大きな酒蔵が作られております。少し離れた場所には水田もあり、放置されていたこの辺り一帯は一気に開発が進んでおります。こうなったのはソーマ様と一緒に周りのファミリアを巻き込んだからです。

 お金はソーマの代金があるので、そちらを使って一気に解決し、人手はファミリアの方々や専門の建築ファミリアに加えて日雇いの方達を使いました。水田は極東からタケミカヅチさんの所にいらしていた国津神であられるウカノミタマさんがやってくれました。

 ウカノミタマさんは伏見稲荷大社の主祭神であられ、穀物の神様であられます。ご協力いただき、最高峰の水田が用意されました。この方もオラリオでファミリアを作ろうと考えてらっしゃったようで、眷属として狐人(ルナール)を複数人連れてこられておりました。つまり、狐の巫女さん達です。旅館を経営するから資金を出さないかとも持ちかけられておりますので、もちろん協力させていただきます。旅館の名前は此花亭にするそうです。

 

「お帰りなさい」

「ただいま戻りましたわ」

 

 迎え入れてくれたのは紺色の着物に身を包んだ金髪の狐人の桐さんです。キセルをふかしていたので、休憩中でしょう。

 彼女に挨拶をしてからタケミカヅチ・ファミリアの一室にお邪魔します。中にはソーマ様とリリさんもおり、彼女はステイタスを書き写したであろう紙を見て嬉しそうにニヤニヤしていました。

 

「ただいま戻りましたわ」

「お帰り」

「おかえりなさいクルミ様! 見てください! リリもついに、ついに! レベルアップです!」

「あら、おめでとうございます!」

「何年もレベル1だったのに信じられません! これもクルミ様のお蔭です!」

「リリさんの努力があったからこそですわ」

「いえ、リリ一人なら絶対に無理でした。ここ何年もレベル1のままでしたし……全てはクルミ様のおかげです!」

「そう言っていただけると嬉しいですわ」

 

 リリさんが嬉しそうにしているのでわたくしも嬉しくなります。

 

「発展アビリティとスキルが出ました。魔法は残念ながら発現しませんでしたけれど、リリとしては十分です!」

「何がでましたの?」

「発展アビリティは闘争と調合、破砕です。スキルは怪力といって力を強化するものでした」

「まあ、リリさんの戦い方からするとそうなりますよね」

 

 この子、椿さんに弟子入りしているだけあって大型武器をメインに使っていますし。本当に小人族(パルゥム)か信じられなくなります。

 

「それで何を取るんですの?」

「闘争にしました。これで戦闘中で更に活躍できますよ! 火力こそ正義だとリリは理解しました! たとえ防がれても防御の上から撃ち貫く火力があれば問題ないんです!」

「破砕という名前の方があっている気がしますが……」

「そちらは補正が力だけなんですよね。闘争だと力と敏捷、器用も上がりますから、トータルを考えるとこちらにしました。リリは小人族(パルゥム)ですから、当たれば死んじゃう可能性が高いですからね」

「なるほど。まあ、速度は力ですから、それはそれでありですわね」

 

 それに怪力のスキルと闘争が合わされば実際にかなりの力を発揮するでしょう。ひょっとしたらバリスタのような大型クロスボウを持ち上げて撃ったりもできるかもしれません。それに開発中の武器からしてこの選択は間違っていません。

 

「これで新しい武器を使いこなせるかもしれません」

「リリさん、椿さんとは相談しましたか?」

「はい。ちゃんとしてきました。椿様もこの発展アビリティがいいと太鼓判を押していただけましたから問題ありません」

「そうでしたか。なら大丈夫ですわね。ソーマ様、わたくしのステイタス更新もお願いしますわ」

「わかった。そこに寝転がれ」

 

 調合していたソーマ様にお願いしてから、服を脱いでベッドに寝転がります。すぐにソーマ様がステイタスを更新してくださいました。面倒な事ははやく終わらせたいのでしょう。

 

「アビリティが全てオールSになっている。限界まで上がっているな」

「流石ですクルミ様!」

「まあ、魔王様と死闘を繰り広げましたからね」

「新しいスキルも習得している。それでレベルアップをするんだな?」

「お願いしますわ」

 

 レベルアップすると選択できる発展アビリティが馬鹿みたいな数がありました。十個以上あるんですけど、明らかにおかしいですわ。リリさんは驚いていますし、間違いないでしょう。ソーマ様は気にもしていません。

 

「人海戦術の賜物ですわね」

「それでどうする? ヘファイストスの所に出入りしているなら鍛冶か?」

「いえ、()()でお願いしますわね」

「わかった」

 

 精霊。ええ、精霊です。オラリオの中でも所有者は一人も居ないレアアビリティでしょう。この発展アビリティは神々の神々たる由縁である奇跡を発動させることができ、このアビリティを使う事で魔道具を制作することが可能となる神秘と魔法の発動時に魔法円(マジックサークル)が発現し、魔法の威力や精神力の運用効率が向上する魔導が合わさった感じですわね。どう考えてもヤバイアビリティなのは間違いありませんが、精霊であるわたくしには間違いないアビリティですわ。

 

 

 

 




伏見稲荷大社の主祭神であられるウカノミタマ様なら、お狐様ということで狐人として此花亭のキャラを出しました。普通に商業ファミリアになりますので、ダンジョンにはいきません。言ってしまえばば日本酒を売るための舞台装置ですね。あと此花亭は良いアニメです。続きがみたい!


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宴とランクアップ2

ステイタスの説明を注釈に変更しました。


【名前】くるみ・ときさき

【レベル】2

【基礎アビリティ】

  力 I 0

 耐久 I 0

 器用 I 0

 敏捷 I 0

 魔力 I 0

【発展アビリティ】

 精霊I*1

【魔法】

刻々帝(ザフキエル)*2

神威霊装・三番(エロヒム)*3 

【スキル】

時喰みの城(150)*4

くるみねっとわーく*5

 

 

 

 これがわたくしの更新されたステイタスですわ。とりあえず、基礎アビリティは全てリセットされ、発展アビリティの精霊が追加されています。そして追加されたスキルはくるみねっとわーく。このスキル効果はよりわたくしが強くなるために必要です。それに分身体を経由して魔法を使えるようになったのは嬉しいですわ。もちろん、分身体が習得した魔法やスキルをわたくしも使えるようになるのはとても助かります。ええ、助かりますわ。

 

「クルミ様が書かれている言語はわかりませんが、口頭で教えてもらったスキル……やばいですね」

「くるみねっとわーくは最高のスキルです」

「おそらくだが、過剰に貯蓄されていた経験値がこのようなレアスキルとして発現したのだろう」

 

 まあ、確かに過剰に溜めていますものね。考えてみたらミノタウロスの撃破から始まって自分以上の高位冒険者の撃破と空間を操る精霊と引き分け。普通に考えて複数の偉業を達成していてもおかしくはありませんわね。

 

「レベルアップができるほどの経験値を使ったのなら納得できますね。どちらにしろ、これでリリと同じレベル2なのです」

「ですわね~。リリさんのも見せてくださいます?」

「はい、どうぞです」

 

 リリさんからもらったステイタスを確認します。

 

 

【名前】リリルカ・アーデ

【レベル】2

【基礎アビリティ】

  力 I 0

 耐久 I 0

 器用 I 0

 敏捷 I 0

 魔力 I 0

【発展アビリティ】

 闘争I*6

【魔法】

シンダー・エラ *7

【スキル】

縁下力持(アーテル・アシスト)*8

怪力*9

 

 

「……なんというか、頭がおかしくありません?」

「リリはおかしくありません。おかしいのはクルミ様ではないですか?」

「言ってくれますわね」

 

 どう見ても脳筋スキルです、ありがとうございました。闘争で力、器用、敏捷をブーストして、怪力スキルによって自身の重量を超える三倍、六倍の装備をして上位レベルの力でぶん殴るわけですわね。それに自分以上の重量を装備する事で縁下力持(アーテル・アシスト)も発動して更にステイタス上昇。脳筋ですわね。

 

小人(パルゥム)であるリリさんの重量を超える装備なんてそこら中にありますし、常に効果が発動しているようなものですわね」

「まあ、流石に三倍が限界です。六倍以上になるのは難しいと思いますよ」

「でしょうね」

 

 とりあえず、リリさんが前衛でわたくしが後衛と遊撃といった感じでしょう。小人(パルゥム)が非力とはいったい……? まあ、わたくしも非力ですし、間違いはありませんわね。

 

「もういいだろう。更新したのだから出ていけ。私は日本酒の完成度を上げる」

「おっと、そうは行きませんわ。ソーマ様にはこれからザニスさんを絶望させるために一緒に来てほしいのです」

「断る。お前が連れて来い。私はここから動かんぞ!」

「……」

「ソーマ・ファミリアに居た時よりも施設が上ですしね」

 

 リリの言葉と同時にノックが響きました。すぐに入室の許可を出すと金色の髪の毛を持つ可愛らしい着物の姿の女の子が入ってきました。

 

「あの、ソーマ様のお食事をお持ちしました」

「そういえばここだとお世話も完備でしたわね」

「ですね。リリ達のステイタス更新以外は食事と寝る以外、全てお酒造りができるここをソーマ様が離れるはずがありません」

「強制的に拉致してやりましょうか?」

「あの! 無理矢理は駄目だと思います。ごめんなさい」

「いえ、構いません。仕方ありません。わたくしだけで行きましょう。リリさんも来ますか?」

「リリは……はい。行きます。レベルアップした身体を慣らしたいですからね」

「では、チュートリアルと参りましょうか。柚さん。少し出かけてまいりますので、ソーマ様のお世話をよろしくお願いいたします」

「かしこまりました。いってらっしゃいませ!」

 

 リリさんに抱き着いて一緒に影の中に沈んでいきます。それからソーマ・ファミリアの近くで潜ませているわたくしの影へと移動します。

 

「目標はどうしていますか?」

「カヌゥさんの連絡が来なくてイライラしながらも、逃げる準備をしていますわ」

 

 影から出て夜の裏路地で塀の上に足をプラプラさせながら居るわたくしとお話をします。くるみねっとわーくを使えばリアルタイムで情報が全てくるのですが、まだ怖いのでやりません。それにステイタスの更新作業をしているとその子はネットワーク上でも休眠状態になるので纏めて更新はできません。更新にも一日ぐらいかかるので交代でするしかありませんしね。

 

「それでどうしますか?」

「もちろん、乗り込みますわよ。わたくし達、配置についてくださいまし」

 

 指示を出すとわたくしの影から複数のわたくし達が出てきてソーマ・ファミリアを包囲していきます。もちろん、隙間なく誰一人逃がさないようにしております。

 

『狙撃部隊、配置完了しましたわ。何時でも狙い撃ってやります』

『包囲完了しました』

 

 数分して、わたくし達の配置が完了したのでわたくしはリリさんを連れてソーマ・ファミリアの正面に移動します。すると当然、見張りに気付かれますので、こちらに気付いた瞬間に彼等を照らす篝火の影からわたくし達が二人現れ、後ろから抱き着いて口に小さな手をあてます。他にもわたくし達が影から腕などを出して影の中へと引きずり込んでいきますの。

 

「これで見張りは処理できましたわね」

「それでここからどうするんですか?」

「そうですわね……正面突破ですわ。リリさん、やっておしまいなさい」

「わかりました」

 

 リリさんが戦斧を持ちながら走っていき、扉を蹴破りました。中に居た人達はかなり慌てているようです。

 

「何事だ!」

「どこのファミリアが襲撃してきやがったっ!」

「ソーマ・ファミリアですわよ。ええ、こういう時はなんというのでしたか? そうですわね、御用改めである。でしたかしら?」

「多分違いますよ」

 

 わたくしとリリさん達がソーマ・ファミリアの本拠地に入ると、すぐに視線が集まり、入ってきたのがわたくし達だとわかると彼等は即座に武器を取りました。

 

「さて、皆様。大人しくしてくださいまし。抵抗する場合は容赦なくぶち殺します」

「何ふざけた事を……」

「あら、こちらは本気でしてよ。ザニスさんがわたくし達を襲うように指示した事も明白であり、そちらにつくというのであればわたくしの敵ですもの。ですからこんな風になりたくなれば大人しく投降してくださいまし」

 

 クルミ様は影からカヌゥさんの死体を取り出して皆に見せやすいように蹴って彼等の方へと移動させました。

 

「カヌゥさんのようになりたい人はどうぞ挑んできてくださいませ」

「やってやらぁっ!」

「おう! コイツ等を捕らえたらソーマが貰えるぞ!」

「あらあら、勇猛果敢ですわね。リリさん」

「はい。ぶっ飛べです」

 

 突っ込んできた連中が前に出たリリさんに襲い掛かります。複数の剣をリリさんが戦斧を振るって纏めて吹き飛ばしました。吹き飛ばされた方々は壁にめり込んでしまいましたので、生きている間にわたくし達を出して時喰みの城で回収しておきます。

 

「嘘、だろ……アーデがこんな強いはずねえ……」

「前のリリではありません。今のリリは冒険者のリリルカ・アーデです! 皆さん、覚悟してください。今までリリがされてきたようにボッコボコにしてやります! 行きますよクルミ様っ!」

「ええ、わたくし達の戦争(デート)を始めましょう」

 

 短銃でリリさんに一の弾(アレフ)を撃ち込んで加速させ、小銃を呼び出して襲ってくる方々の手足を撃ちぬいていきます。もちろん、わたくし達も出して制圧にかかりますが、レベル1ばかりなので簡単に倒していけます。わたくしはちゃんと手足を潰して反撃できないようにしていますが、リリさんの一撃はほぼ即死ですわ。途中からは力のコントロールが出来てきたのか、殺さなくなってきたので時喰みの城で回収が美味しいですわね。

 

 

 

 

*1
奇跡を発動でき、魔道具を制作することが可能な発展アビリティの神秘と魔法の発動時に魔法円(マジックサークル)が発現し、魔法の威力や精神力の運用効率が向上する発展アビリティの魔導が複合されている。

*2
一の弾(アレフ)】:対象の外的時間を一定時間加速させる。超高速移動を可能とする。【二の弾(ベート)】:対象の外的時間を一定時間遅くする。意識までには影響を及ぼせないが、対象に込められた運動エネルギーも保持される性質がある。【三の弾(ギメル)】:対象の内的時間を加速させる。生き物の成長や老化、物体の経年劣化を促進する。【四の弾(ダレット)】:時間を巻き戻す。自身や他の存在が負った傷の修復再生が可能で、精神的なダメージにもある程度有効。【五の弾(へー)】:僅か先の未来を見通すことができる。戦闘中、数秒先の光景を視ての軌道予測等に仕様できる。【六の弾(ヴァヴ)】:対象の意識のみを数日前までの過去の肉体に飛ばし、タイムループを可能とする。【七の弾(ザイン)】:対象の時間を一時的に完全停止させる。強力な分消費する時間は多め。【八の弾(ヘット)】:自身の過去の再現体を分身として生み出す。分身体は本体の影に沈む形で待機が可能。生み出された分身体を全て駆逐しない限りいくらでも呼び出すことが可能であり、殺害されても何度も蘇る。分身体のスペックは本体より一段劣っており、活動時間も生み出された際に消費した『時間(寿命)』しか活動できない。また、基本的には天使を行使することも出来ない。情報のやり取りを通じて記憶を共有する事もできる。【九の弾(テット)】:異なる時間にいる人間と意識を繋ぎ、交信することができる。撃ち抜いた対象者と会話したり、見聞きしたものを共有できる。【一〇の弾(ユッド)】:対象に込められた過去の記憶や体験を知ることができる。【十一の弾(ユッド・アレフ)】:対象を未来へ送ることができる。進む時間に応じて消費する時間・魔力は加速的的に上がってゆく。【十二の弾(ユッド・ベート)】:対象を過去へ送ることができる。遡る時間に応じて消費する時間・魔力は加速度的に上がってゆく。歴史を改変し元の時代に戻ってきた場合、その特異点となった人物は改変前の記憶を保持、または思い出せる。魔力と寿命を消費して発動する。発動には基礎コストとして十日を消費する。また、発動する魔法の数字が上がるにつれて十日ずつ関数で消費が増加する。六の弾(ヴァヴ)からは百日に増加。

*3
歩兵銃と短銃の二丁拳銃を物質化する。攻撃に使う銃弾は物質化した影で出来ている。

*4
周囲に影を張り巡らせ、自らの影に異空間を作成する。影に触れている存在の時間を吸い上げる。異空間の中に沈んで移動や潜伏ができる他、特定の人物を引きずり込んでの捕食や保護も可能も可能。作成には寿命を一年消費する。寿命を一年消費するごとに異空間の広さを拡張できる。一メートル四方、一年ずつ増やせる。

*5
分身体の脳を同期接続させてリアルタイムで視界、記憶、知識、認識、経験などを共有することができる。中枢個体(オリジナル)のステイタスが更新された場合、他の個体も更新させる事が可能。また、分身体を利用して中枢個体(オリジナル)が魔法を発動する事ができ、分身体が習得した魔法やスキルを中枢個体(オリジナル)もスロットを関係なく会得できる。

*6
力、器用、敏捷を1ランクアップ

*7
体格が大体同じなら、どんな姿にでも変身できる変身魔法。詠唱式は【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】。解除詠唱は【響く十二時のお告げ】

*8
一定以上の装備過重時における補正。能力補正は重量に比例する。

*9
力のステイタスが限界突破し、成長能力が増加する。自身の重量の三の倍数を超える武器を持つ場合、超えた分だけ力のステイタスをレベルアップさせる。



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リリとくるみの共同作業1

遅れたのはFGOが悪いんです。撃滅戦のせいです。ごめんなさい。


 

「くそっ! なんでこうなったっ!」

 

 入口の方から大きな音が聞こえ、すぐに叫び声や争う音が響く。建物にも衝撃が走り、明らかに尋常じゃない事が起こっているのはわかる。

 カヌゥが戻ってきていないのだから、殺されたか捕まったのだろうと思ってもしものために準備していた物を持ってすぐに脱出経路へと走る。

 

「団長! 大変です……? 何をしているんですか!」

「私は忙しい。要件だけ伝えろ」

「……わかりました。アーデとあの小娘が戻ってきましたっ! それもカヌゥさんの死体を持ってやがった!」

「なんだとっ!?」

「どうしたんですか……? はやく増援に来てください!」

「それは出来ない」

 

 奴等は私の依頼でカヌゥにはレベル2と3の連中をつけたはずだ。そのカヌゥが死体になって餓鬼共が所持していたというなら、一緒に行った奴等も殺されているのだろう。レベル2や3を殺すか退ける事ができたのなら、餓鬼共は確実にレベル2になるか彼等に対処できる増援を連れて来ている事は確実だ。それに小娘に限って言えばソーマ様曰く、何時でもレベルアップができる状態だったのだから確実だろう。

 

「何故ですか!」

「相手は餓鬼共だけではないからだ。それよりお前もコレを持ってついて来い。逃げるぞ」

「……わかりました。女共はどうします?」

「……人数が居るからな。連れて行くぞ」

「了解です」

 

 団員を引き連れてもしもの場合と連絡用に作っておいた隠し通路を通って、オラリオの地下に張り巡らされている水路に入る。

 私が先頭を歩き、次に女達を連れて最後に団員だ。これは女達に逃げられるのを防ぐためでもある。

 

「団長、これからどうするんですか?」

「まずは味方と合流する。そうすれば対応できるだろう。それからは歓楽街でしばらく身を隠す」

「歓楽街……イシュタル・ファミリアですか」

「そうだ」

 

 女達が悲鳴を上げるが、気にせずに進む。女達を売ればそれなりの金になるはずだ。それに彼等と合流する時に引き渡して報酬としてもいいからな。

 

「……なにか、聞こえる……?」

「あ?」

「こ、怖い……なに……」

「静かにしろ」

 

 声を潜めて確認すると、コツコツと私達以外の歩く音が聞こえてくる。それと同時に歌声も聞こえてきた。

 

か~ご~め、か~ご~め~

 

 子供の声が複数の場所から聞こえてくる。それと何か硬い物を引きずるような音も聞こえてきた。水路を照らす灯りが不気味に揺れていく。

 

「そういえばアーデの奴、馬鹿でかい戦斧をまるで小枝のように振り回してやがった……」

「このままじゃ不味いな。お前でいいか」

「ひっ!? やっ、やめてっ! なんでもするからっ! 言われた通りに舐めるからっ! いやぁぁぁっ!」

「これでいい。さっさと行くぞ」

「はい」

 

 あまり使えない女の足を軽く斬り、動けなくしてから移動する。女は必死にこっちに這ってこようとするが、走る俺達には追いつけない。

 通路を曲がって目的地を目指していくと、後ろの方から泣き声や叫び声だけでなく、悲鳴が聞こえてきた。それからは何も聞こえなくなった。

 

「やられたんですかね?」

「おそらくな」

 

 走りながら話していると、今度は前方から足音が聞こえてまた歌が聞こえてきた。

 

籠の中の鳥は~

 

 もしや、すでに包囲されているのかもしれない。ここも女を使ってやり過ごす。今回は目隠しをしてこちらがどちらに進んだかわからないようにしてだ。

 

いついつ出やる~

 

 しかし、包囲も完成していないはずだ。それだけの時間はなかった。ならば囮を利用してどうにか進む事ができるだろう。

 

「一度隠れてやり過ごすぞ」

「はい!」

 

 通路の少し上にある横穴に入り込んで女達の口を塞ぎながらそっと通路に居る女を確認すると、そこにあの餓鬼が一メートルぐらいの剣を引きずりながら歩いている。その剣には複数の血液であろう液体と肉片が付着しているように見えた。

 

「ひっ!? だ、誰っ! お願い、助け……」

「あらあら、鬼さんを見つけましたが、外れですわね。それではさようなら」

 

 柄を両手で持って重そうに振り上げ、一気に女に振り下ろした。女の悲鳴が響き、すぐに床と剣が激突する音が通路に木霊する。

 

夜明けの晩に~

 

 また歌いだして移動していく。しばらくして歌声も剣を引きずる音も聞こえなくなった事でほっと一息をつく。

 

「だ、団長……アイツ、なんの躊躇もなく殺しやがった!」

「ああ、全員を殺すつもりのようだ」

「いっそ一人だけなら俺達だけで……」

「殺るのなら、増援と合流してからだ」

「わかりました」

「いやっ! いやよっ! 死にたくなっ……」

「馬鹿が!」

「あががっ!」

 

 叫んだ女を放りだして急いでその場所を逃げる。きひっ! という笑い声がしてすぐに剣を引きずる音が聞こえてきた。

 

「こうなったら仕方がない。分かれて逃げるぞ。いいな? 外に出てガネーシャ・ファミリアにでも助けを求めれば大丈夫だ。あの餓鬼は明らかに人を楽しんで殺しているからな」

「了解です」

 

 残っている女も必死に頷くので、私達は全員で別々の方に走って逃げる。私はこの通路をしっかりと調べているから問題なく逃げられるだろう。

 

 

 

 

 

「なんでっ、なんでそっちにいやがっ!」

 

 

 

 

 進んでいると分かれた団員の叫び声が響き、何かを切断する音と共にぽちゃんッという水に何かが落ちる音が聞こえてきた。

 おそらく殺されたのだろう。もうすぐ増援が居るはずの場所に着く。これで私は生き残る事ができる。

 

鶴と亀が滑った~

 

 通路を必死に走り、最後の曲がり角を曲がる。目的の隠し扉がある場所が見えてきた。音も聞こえてきたが、あそこに隠れればやり過ごす事ができる。いや、それ以前にあの餓鬼を殺せる! 

 

後ろの正面だぁれ~? 

 

 すぐ背後、耳元から聞こえて即座に剣を抜いて振り返る。剣が通路の壁にあたる音がするが、それだけだ。剣を正眼に構えて周りを警戒するが、誰も居らず何も居ない。

 

「恐怖で幻聴でも聞こえたか」

 

 剣を鞘に戻し、一息ついてから振り返って目的地へとすす──

 

ばぁっ! 

ひぃっ!? 

 

 ──振り返った瞬間。返り血を浴びて血だらけの状態で逆さまなのに舌を出したあの餓鬼がいた。その事に思わず腰がぬけて床にへたり込む。

 

「きひっ! きひひっ! ああ、ああ、いい表情ですわ。とってもいい表情ですわね、ザニスさん!」

「きっ、貴様っ! だ、団長である私にこのような事をして……」

「バッキューン」

「がっ!?」

 

 何時の間にか握られた短い銃みたいなのから弾が吐き出され、足を撃たれた。足が熱くなり、激痛が襲ってくる。

 

「な、なにを……」

「一つ思い違いをしているようなので、優しい優しいわたくしが訂正してさしあげますわね。貴方はもう団長ではありませんの」

「なん、だと……!? ありえん! そんな事は断じてありえん!」

「いいえ、それがありえますの。ちゃんとギルドも認めていますわ。何せソーマ様の自記印を頂いて書類を提出しましたもの。これで名実共にわたくしが、このくるみ・ときさきがソーマ・ファミリアの団長です。今回の件は不法占拠されていた我がファミリアの土地を取り返したのです! と、ガネーシャ・ファミリアへ報告してありますの。ですから、他のファミリアは動きません。安心なさってくださいまし」

「嘘だ! 嘘だっ!」

「いいえ、事実ですわ。貴方は選択を間違ったのです。大人しくファミリアの改革をしていれば団長で居られたものを、わたくしに喧嘩を売るからですわ。お蔭で面倒な団長なんて仕事をしなくてはいけなくなりました」

「ふざけるなっ! それではお前は団長になど興味がないということではないか!」

「ありませんよ、そんな面倒な物。わたくしの目的はわたくしを愛でてわたくしが楽しむ事。ああ、中途半端なこの状態から完全体になるという目的もありましたわね」

 

 意味が分からない。なんなんだこいつ! 名前の通り狂ってやがる! 

 

「団長なんて本当に興味はありませんでしたわ。ですから、はじめからリリさんだけを貰ってそちらには干渉しませんでしたでしょう?」

「う、嘘だ!」

「嘘ではありませんわ。自意識過剰もいい加減にしてくださいまし。わたくし貴方に興味はなく、敵対する気などありませんでしたわ。わたくしをソーマ様に会わせてくれた恩があるんですもの。でも、狂三の身体であるわたくしを襲ってきたというのなら話は別です。誰がレイプしようとしてくる連中が居る家でゆっくりできますか? 少なくともわたくしは出来ませんし、改善する事にしました。 ええ、ですから……自らの選択を恨んで死んでくさいまし」

「っ!?」

 

 銃声が響き、もう片方の足も撃たれた。アイツは楽しそうに笑いながらこちらに銃を向けてくる。

 

「たっ、頼む! 恩があるというのなら見逃してくれ!」

「どうしましょうか? 悩んでしまいますわ」

 

 片手での片方の手の肘を掴んで顎の下に空いている手をやって小首を傾げる化物。

 

「もう二度とお前の前には現れない! 今まで貯め込んだ金もやる! だから、助けてくれ!」

「いいでしょう。では今回は見逃してさしあげますわ」

「あ、ありがとう。助かる……金はこれに入っている」

 

 持ってきていた荷物からポーションを取り出し、それ以外を渡す。ポーションを即座に使って傷を癒す。

 

「随分と少ないのですわね」

「金はこっちにある。ついてきてくれ」

 

 これでこの化物を室内に入れて中に居る彼等と一緒に襲撃すれば確実に私の勝ちだ。思わずニヤリと口元が笑いそうになるのを必死に抑える。

 

「かしこまりましたわ」

 

 化物を連れて隠し通路の前に立ち、定められた手順に従って松明の台を操作してから火を消してからあらためて台にセットする。その後、火をつけると扉が開いていき……噎せ返るような血の匂いと水が流れてきた。

 隠し部屋の中は明るく、ランタンの灯りが室内を照らしている。床一面が血の海となっていて、血を吐き出し続けている手足が転がっている。そして、部屋の中心には──

 

「遅いですよ、クルミ様」

「ごめんなさいまし。この方が余りにも無様でしたので、遊んでしまいましたわ」

 

 ──部屋の中にはアーデが肩に身長の倍はあろう巨大な血塗れの戦斧の柄を肩にあてながら立っていた。思わず呆然としながら周りを見ると、テーブルに紅茶を用意してお茶を楽しんでいる二人の化物がいる。思わず後ろに振り返る。

 

「なんですの?」

 

 全く同じ姿をした化物が後ろにも当たり前のようにいた。何を言っているのかわからないが、頭がどうにかなりそうだ。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてない! 

 

「何故っ! 何故だっ! ここに居た者達はどうした!」

「それでしたら、クルミ様とリリがぶち殺しておきましたよ。闇派閥は見つけ次第始末するのが認められておりますから」

「悪即斬ですわね。あ、わたくし。そちらのケーキをくださいます?」

「仕方がありませんわね。はい、あ~ん」

「あ~ん。おかえしですわ。あ~ん」

「あ~ん」

「なにやってんですか……」

 

 やれやれと言った感じでアーデがこちらに向く。

 

「さて、団長……いえ、元団長。大人しく投降してください。そうしたら苦しまずに一撃で殺してあげます」

「ふ、ふざけるなっ! 助けてくれるといったじゃないか!」

「言ったのですか、わたくし?」

「ええ、言いましたわよ。記憶を参照してくださいまし」

「わかりましたわ。ああ、なるほど。確かに()()は見逃してさしあげたのですわね。でも、これは次回ですし、リリさんには関係ないことですわね」

「ええ、ええ、その通りですわ。ですので、リリさんのお好きになさってくださいまし」

「騙したのかぁぁぁぁぁぁっ!」

「そちらも騙すつもりでしたでしょう? ならおあいこですわよ」

「クルミ様の方が一枚上手だったようですね。そもそも地下で恐怖を煽るようにして判断能力を奪ったみたいですが……」

 

 戦斧を振り上げてこちらに迫るアーデに剣を抜いて構える。アーデの速度はまだまだ遅い。レベル1にしては速いが、レべル2にしては遅い部類だ。レベルアップしたばかりなのだし、仕方がないだろう。だからこそ付け入る隙がある。

 重量のある戦斧を再度振り上げるのはアーデの小さな身体では困難。避けて攻撃すれば容易い。アーデを人質にすれば逃げ──え? 

 

「なっ!」

 

 いきなり戦斧が目の前に飛んできて慌てて回避する。戦斧は壁を粉砕してその先の通路へと飛んで行った。思わずほっと一息を入れようとした瞬間、目の前にアーデが飛び込んできていて拳を握り込んでいた。

 

「ぶっ飛べです」

 

 剣で顔面を狙ってきていた拳を防ぐ。剣から嫌な音がしたが、問題はない。そう思った瞬間には腹に衝撃を受けて激痛が走り、吹き飛ばされながら胃の中身を吐き出す。

 

「山突きですわね」

「上段と中段に同時攻撃。見事ですわ」

「ただ、レベル1には打っては駄目ですわよ。死んでしまいますもの」

「武器を投げ捨てたのですが、それでもかなりの力がありますね」

「力だけならレベル2でも上位じゃないですか? 服や靴も重たい物ですし」

「そういえばそうでした。ザニス様、生きてますか……?」

 

 苦しみ悶えていると、アーデがツンツンしてくるのがわかる。アーデではないかもしれないが、その都度、激痛が走って暴れまわる。

 

「とりあえず、生きていますね……」

「では、ソーマ様の所にお連れしましょう」

 

 ソーマ様……ソーマ様なら助けてくれるはずだ。今まで散々世話をしてきたのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ソーマ様。ザニスさんをお連れしました」

「そうか」

 

 気が付けば別の場所に居て、両手両足を縛られている。ソーマ様は広い机に無数の瓶を置いて、それぞれに少量ずつ入れて実験をなさっている。

 

「お、お助けください! この者達は私を不当に捕らえているのです!」

「そうなのか?」

「違いますわ」

「だ、そうだ」

「ソーマ様っ! 信じてください! 私は今まで貴方様に尽くしてきたでしょう!」

「……嘘ではないな」

 

 当たり前だ。これは不当な事だ。私は嘘をついていない。私はソーマ様に尽くしてきたのだ。

 

「まあ、それはどうでもいいんです。ソーマ様、これからわたくしが団長をさせていただきますね」

「好きにしろ」

「何故ですか! 私が団長のはずです!」

「お前とクルミの能力を見た結果、クルミの方が酒造りに優れている。それだけだ」

「私は今までソーマ様のために!」

「……お前は何週間かかっても頼んだ極東の酒について進展を見せなかった。だが、クルミは一週間で整えた。能力の違いは明らかだ」

「そ、それは……」

「他にもロキ・ファミリア、ヘファイストス・ファミリア、ガネーシャ・ファミリアとも契約を取り付けたらしい。よくわからないが、金がかなり手に入るから、好きなだけ酒を造っていいらしい。うん、やっぱりクルミの方がいいな」

「ふざけるなぁあああああああああああああぁぁぁぁぁっ! 私は! 私はっ!」

「あはっ! あははははっ! どんな気分ですかだんちょぉっ! リリ達を虐げてきた報いですよ!」

「アーデェェェェェッ!」

「はいはい、落ち着いてくださいまし。それの処分は少し待ってくださいな」

「クルミ様?」

「後で撲殺でもなんでも好きにしてかまいません。ですが、貰う物はもらわないといけませんもの」

 

 化物が私の前に立つと、アーデが私の髪の毛を掴んで無理矢理顔を上げさせてきた。そして、化物は私の額に銃をあてる。

 

刻々帝(ザフキエル)十の弾(ユッド)

「や、やめろっ!」

「ぱ~ん♪」

 

 引き金が引かれ、何かがあたった感覚がしたが、それが何かわからない。

 

「本当に助けてあげようかとも思いましたが、止めです。婦女暴行、人身売買、殺人教唆及び殺人、闇派閥への物資の横流し、誘拐に監禁……沢山の犯罪をしていますわ。まあ、正直言って可哀想だとは思いますが、あくまでも他人なので徹底的にいたぶって殺したいと思うところがないともいえます。ですが、わたくしの中に許せないと思う気持ちがあるんですの」

「クルミ様?」

「リリさん、この人ったら……無理矢理手籠めにした女性に産ませた子供……闇派閥へ実験体として売ってたらしいんです。つまり、わたくしの同胞というわけですわね」

「ならば私の子供だろう! 私を助け……あぎっ!」

「思わず足が出ましたが、まあいいでしょう。それとわたくしの父親では断じてありえません。何故か、わたくしの中の何かが超絶に否定していますので、おそらく事実でしょう」

「で、どうするんですか? リリも恨みがあるんですが……」

「ええ、そこで一緒に殺りましょう。二人の共同作業ですわ♪」

「……いいですね。そうしましょう。押さえてくださいまし、わたくし達」

「「「は~い」」」

「ここではやめろ。酒に入るだろう」

「……でしたら、影の中にしましょう」

「ですね」

 

 複数の化物に押さえられ、影の中へと沈んでいく。気が付けば木製の首手枷を嵌められていた。

 

「では、リリさん」

「はい、クルミ様」

 

 横から声が聞こえて振り向くと、そちらに戦斧の柄を二人で握って持ち、振り下ろそうとしているアーデと化物がいた。

 

「やめろっ! やめるんだっ!」

「わたくし達、判決は?」

「「「「ぎるてぃ」」」」

 

 何時の間にか周りに数十を超える化物がおり、全員で一斉に言葉を発した。

 

「満場一致で死刑ですわ♪」

「ですね。でも、一撃で終わらせますか?」

「運が良ければ一撃で、運が悪ければ何度もという事にしましょう。どうせですから四の弾(ダレット)がどのタイミングで有効か試しましょう」

「いいですね。やりましょう!」

「いやぁだぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!」

 

 それから何度も、何度も……殺された。

 

 

 

 

 



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残務処理

ソーマ・ファミリアの乗っ取りは終わりです。次は本編ですね。といっても、リリとくるがベル君と一緒にミノタウロスへと挑むだけです。嘘です。くるみとリリの相手は別に用意します。


 

 

 ザニスさんをリリさんと一緒に倒してハッピーエンド! とはなりません。残念ながらまだまだ処理しなければいけない事があります。と、いう訳でソーマ様も強制的に拉致してリリさんと共にソーマ・ファミリアの本拠地へと戻ってきました。

 

「なんというか、ボロボロですわね」

「ごめんなさい。リリがやりすぎました……」

 

 加減がわかっていなかったのか、そこら中が壊れております。一部は外まで壁を貫いているので通りからこちらが見られております。通報を受けたガネーシャ・ファミリアの方々もこちらに来ておりますが、別のわたくしが対応しているので問題はありません。

 

「それで彼等をどうしますか?」

 

 リリさんの言葉にロープで縛られて転がされている人達を見ます。彼等は全員、例外無く縛られており、女子供や怪我人もいます。そんな彼等は恐怖に震えてこちらを見ていますわ。まあ、リリさんが何人か殺しているので無理はないでしょう。

 

「わたくしは正直、どうでもいいですし詳しくは知りませんのでリリさんにお任せしますわ。リリさんが始末したいのでしたら、こちらの穴に捨ててくださいまし」

 

 カンテラに照らされて出来た影の一部に時喰みの城を展開して、廃棄場を作っておきます。これでここに入った生命はもれなくわたくしに時間を吸い取られてしまいます。

 

「リリがやるんですか?」

「ちゃんとソーマ様も連れてきました。ソーマ様、これからこの人達を選定します」

「面倒だ。そちらで勝手にやってくれ……」

「それは出来ません。それにこれはソーマ様が効率良くお酒を造る為に必要な事ですの」

「そうなのか?」

「ええ、そうですわ。残す者達にはしっかりとお酒を造るためのお金を稼いできてもらいます。ですので、途中で中抜きしたり、盗み飲みをするような奴はぶち殺してやります」

「その言い方だと、ザニス様とまるで変わりませんよ?」

「わたくしは私腹を肥やすなど……するかもしれませんね。武器とか欲しいですし。むしろ私腹を肥やす為に売って売って売りまくっちゃいます!」

「そういう人でしたね。まあ、いいんですが……」

「とりあえず、ソーマ様は協力してくださいまし。わたくしの言う通りにしておればちゃんとお酒を造る環境を整えてみせますので」

「いいだろう」

 

 ソーマ様も納得して頂いたので、改めてザニスさんについた皆様を見ます。いえ、ザニスさんにもわたくしにもつかなかった人も居るのですが、そこは仕方がありません。まとめて選定します。わたくし、味方以外には優しくありませんもの。

 

「皆様。ザニスさんに代わり、わたくしがソーマ・ファミリアの団長に就任しました。ですので、体制を一新いたします。まず、犯罪行為や他のファミリアに迷惑をかける行為は一切禁止いたします。もちろん、やられたらやり返します。ええ、容赦なく徹底的に、です」

「今回みたいにですね」

「そうですわね。今回の乗っ取りはザニスさんがわたくしの邪魔をしたからですわ。ですので、邪魔をしなければ問題ありませんでした。

 まあ、団長になったからには真面目に運営させていただきますわ。そんな訳でまず犯罪行為を洗い出して処分させていただきます。ソーマ様は神様なので嘘はつけません。わたくしは記憶を読む魔法を持っていますので、誤魔化しは一切通用しませんのであしからず。

 今からする尋問に嘘偽りなく、真摯に事実を答えなさい。さもなければ行き着く先は死だと心得るように。では、リリさん。お願いいたします」

「わかりました。まずリリは子供に罪はないと思うので、子供は誰の子供だろうと関係なく無罪とします」

 

 リリさんが子供達を運んで一ヶ所に集めていきます。ですので、わたくしはテーブルなど壊れた物を時喰みの城で回収して廃品回収所やゴミ捨て場に移動させておきます。

 テーブルなどを新しい物に替えてクロスもしっかりと備え付けて綺麗にします。その上に他のわたくしを使って買い出しに行かせた料理が入った鍋などを並べていきますわ。

 すぐに室内にいい匂いが漂いだしました。リリさんが移動させた子供達を別のわたくし達でロープの拘束から解放し、手洗いうがいをしっかりとさせます。

 

「はい。手洗いうがいをしたら食べていいですよ」

「お、お金は……」

「要りません。好きなだけ食べなさい」

「やった!」

 

 子供達は我先にと食事にありついていきます。まるで飢えた狼のようです。流石に素手で食べるのは見ていられないので、サポートにわたくし達をつけてテーブルマナーを最低限は仕込みます。

 

「「美味しいっ!」」

「フォークとナイフを使うのです。これで食べないと取り上げますわよ」

「「っ!?」」

 

 わたくし達の言葉を聞いて青ざめた子供達はすぐに使い方を覚えてしっかりとフォークとナイフを使いだしました。子供達の中からは笑顔も見えてきたのでいいでしょう。

 リリさんの方を見ると、容赦なく何人かを捨てる……なんて事はしていませんでした。ちゃんとソーマ様と聞き取り調査をしています。

 問題ないと判断した人達は解放されたので、ポーションで治療してからこちらの食事会に参加してもらいます。だいたいが新入りだったり、子供と仲良くしている人達ですわね。まっとうにダンジョンに潜って稼いでいる人達です。そのほとんどが巻き込まれ、中立として今回の件をスルーした人達です。

 

「残りは子供達に聞きます。こちらに居る中で親に生きて一緒に居たいと思えるなら、解放してあげてください」

 

 リリさんの言葉に動いた子供達は本当に少数です。数組の男女が解放されて子供と抱き合っています。彼等はリリさん的には合格といったところなのでしょう。リリさんは幼い頃からソーマ・ファミリアで過ごしてきたので、子供達に自分を重ねているのでしょうね。

 

「おいキアラ! 俺を助けろ! お前は俺の娘だろう!」

 

 キアラと呼ばれた金色の髪の毛を持つハーフエルフの子供はビクッと震えて、恐る恐る縛られている方を見ます。見ると、服装は大きなボロボロのシャツ一枚だけで身体中に殴られたような跡もあります。

 

「大丈夫です。本当に心から一緒に居たいと思うなら助けてください。そうでないなら、無視してください。貴女の事はリリとクルミ様が守りますから」

「そうですわ。貴女みたいな可愛い子はわたくしがしっかりと守ってさしあげます。何も心配いりませんわ。ですから、キアラさんがどうしたいかですわ」

 

 リリさんが肩を掴んで止めて視線を合わせ、わたくしは後ろから抱き着いて頭を撫でてあげます。騒いでいる親の方は別のわたくし達が取り押さえたので問題ありません。

 

「話してください。今までどんな事をされてきましたか?」

「……殴られるの、嫌です……客を取らされるのも嫌です……でも、そうしないとご飯がもらえなくて……」

「ソーマ様」

「本当だ」

「そうですか。キアラさん。貴女はこれからもあの人と一緒に居たいですか?」

「嫌っ! おとうさん、おかあさんみたいに成長したらわたしの事、売るって言ってた!」

「ふがぁぁっ!」

「なるほどなるほど」

 

 わたくしは神威霊装・三番(エロヒム)を呼び出し、小銃を父親の方へと向けます。

 

刻々帝(ザフキエル)十の弾(ユッド)

 

 父親の頭を撃ち抜き、彼の記憶を探りますと、色々ととんでもない事が判明しました。どうやら、彼女の母親は拉致されて凌辱されたエルフのようです。

 暗黒期と呼ばれる闇派閥の全盛期というオラリオがバイオレンスな状況でやってきた綺麗なエルフの少女。彼女はリヴェリアさんに憧れて高貴な家から家出してきた娘で、彼等に誘導されて拉致されて監禁されたようです。

 そこで散々弄ばれ子供を出産。心が壊れていた彼女は薬で無理矢理何度も子供を生まされ、限界がきたのか、隙を見て武器を奪って自らの腹を引き裂いて命を絶ったようです。

 彼はそんな失態で自分が処分されるのを恐れて彼女が最後に産んだ赤ん坊を連れ出し、ソーマ・ファミリアに入って事なきを得たようです。本来なら闇派閥から報復の襲撃を受けるのですが、その闇派閥はロキ・ファミリアなどに壊滅された事でうやむやになったようですわね。そして、成長した子供を娼婦としてイシュタル・ファミリアに売るために育てていたと。それでもストレス発散や資金稼ぎのために本番以外をさせていたようです。

 まあ、エルフは肌を触れられることすら極端に嫌う種族で、美男美女が多いみたいですから高く売れるらしいです。それに魔法や精霊との親和性も高いので、それこそ高貴な生まれのエルフなら実験体には最適でしょう。しかし、エルフ達にバレたら戦争案件ですわね。

 

「クルミ様?」

「この子はわたくしが貰います。しっかりと可愛がって育てるので安心して死んでくさいまし」

「まっ、まてぇぇぇっ!」

 

 記憶をくるみねっとわーくによりリアルタイムで情報を共有わたくし達がずるずると引き摺って時喰みの城へと続く穴へと投げ入れました。

 

「あの……」

「もう大丈夫です。怖い人はいなくなりましたので、こちらでケーキでも食べてくだいまし」

「あ、ありがとうございます……?」

「リリさん、闇派閥の関係者とこの子に関与した人を見つけて排除してください。ちょっと秘匿しないとロキ・ファミリアと全てのエルフが敵になる可能性があります」

「了解です」

 

 リリさんと子供達の選定から外れて最後まで残った四十人。その人達の犯罪経歴をソーマ様と一緒に暴いて問題ないと判断したのが十一人。それ以外の人は全員、時喰みの城へと叩き込んで処分しました。追加の仕事もできたので、半数のわたくし達を彼等が使っていた闇派閥の施設へと向かわせ、関連書類とそこに居た連中の身元を十の弾(ユッド)で記憶を見て精査し、崩壊した後で住んでいる一般人以外は殺しました。

 わたくし達以上のレベルの人はザニスさんが増援としていた人達を殺したように麻痺毒を充満させて倒す予定でした。ですが、そんな人達は居なかったのでどうにか残されていた痕跡もキッチリと処分できました。どうしてもできない物はソーマ・ファミリアで買い取って店舗か倉庫として利用させていただきます。

 とりあえず、リヴェリアさんに知らせる前に少しでも彼女の好感度を稼いでおかないと、本当に終わります。なのでしばらくは内緒です。妹として可愛がればいいでしょう。いえ、いっその事、

 ウカノミタマさんに預けてあちらで育てる事も考えましょう。どう考えても地雷ですし。

 わたくしが動いている間にロキ・ファミリアに居たチャンドラさん達を呼び戻し、そこで改めて方針をお話します。

 

「まず、犯罪行為は一切なし。探索ファミリア以外にも商業ファミリアとして登録します。よって、我々はオラリオに酒屋を持つ事になります。そこの従業員を皆さんにしてもらいます。もちろん、ボウケンシャーとしてダンジョンに潜って頂いても構いません。武器や防具が無かったり、壊れたりしたらこちらでお金を稼いでくだいまし」

「もちろん、商品のお酒を勝手に飲むのは駄目です。給料から倍の値段を引かせてもらいますからね」

「リリさんの言う通りです。真面目に働けば毎週、一本のお酒をさしあげます。それ以外は買って飲むように。だいたいファミリア割引で八割の値段で買えるようにしますので、我慢してくださいまし。それと週休三日制にしますから、休みの日は好きにしてください」

「後、ヘファイストス・ファミリアと提携する予定ですの、見習い鍛冶師さん達の武器がかなり安く手に入ります。それを使ってダンジョンに潜るのもいいと思います」

 

 リリさんが椿さんの弟子になったので、ヘファイストス・ファミリアの初心者達とソーマ・ファミリアを組ませる事を提案されたそうなので許可しました。ヘファイストス・ファミリアから武器や防具を提供してもらい、こちらはお酒と戦力を提供します。まあ、こちらの方が貰いすぎになりますが、それぞれのパーティーにわたくし達がお目付け役として入りますので、ヘファイストス・ファミリアとしては安全に発展アビリティの鍛冶が狙え、未来の専属顧客をゲットできるというわけです。

 

「ああ、それとダンジョンで手に入れた魔石はギルドに売らずにこちらへ持ってきてください。買取の値段に少し色かお酒をつけてお渡ししますので。後、完成品のソーマは売り物とわたくし達で飲む用を用意します。お祝い事があれば皆で飲みますわ。例えば今日とかですわね」

「「「うぉぉぉぉぉっ!」」」

「会場はここではないので後程、移動しますわよ! 全員、移動先が新しい本拠地となりますので、ここは店舗へと改築するので荷物を纏めるように!」

 

 色々と提出する書類が必要ですが、問題ないでしょう。有力者達は味方につけているので、お酒を本格的に販売する許可は下りるはずです。ギルド関連はわたくしがしますし、子供達は英才教育を施して……ああ、どうせなら孤児院もやりましょう。合法的にモフモフできるはずですし、わたくしにも役得はございます。未来の労働力にもなりますしメリットはございますものね。商業許可が得られたら、本格的にくるみレンタルサービスを行いましょう。

 貸し出す場所はドラクエの酒場……ルイーダの酒場みたいな感じなのをいずれは用意するとして、今はヘファイストス・ファミリアの方ですわね。

 

 

 

 

 

 

 

 




週休三日……ホワイト企業かな?
子供は無償で飲み食いが可能です。リリの事もあるので子供には手厚く保護されます。ええ、手厚く……英才教育が施されます。リリとくるみが使っていた機材もありますからね!


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温泉入りたい

昨日のはちょっと端折り過ぎたので除去して改めてこちらで追加しました。


 新しい本拠地で宴会が終わってから部屋決めを行いました。本拠地は酒蔵の部分とは別に大きな建物となります。隣には旅館として開業する予定の此花亭があり、どちらも渡り廊下などで繋がっております。これは此花亭の人達にこちらの掃除なども含めてまとめて依頼するからです。代わりにこちらからは酒類を無償で提供するという契約になっております。なので言ってしまえば此花亭がソーマ・ファミリアの本拠地とも言えますわね。

 さて、わたくしとリリさんは隣同士の部屋でリリさんの反対側にキアラさんの部屋を用意して、女性陣で高層階は占拠しました。景色が良い所が一番ですからね。権力があるなら使わなければ損ですもの。

 他の子供達はそれぞれの両親と一緒に暮らしたり、皆で集めて暮らしたりするようにしてあります。ちなみに戦闘が嫌な人達は子供達も含めて此花亭で働く人と一緒に此花亭でしっかりと勉強してもらえば従業員として問題ないでしょう。

 それと建築系のファミリアに依頼して安全に配慮したアスレチックエリアも作ってもらいました。まあ、これはわたくしとリリさんが使った修行器具を安全にしたものです。もちろん、安全の為に常にわたくしを三人ほど張り付かせておきます。

 そんな風に忙しく過ごして数日。リリさんにはベルさんとダンジョンに行ってもらい、わたくしはギルドに伝手のあるファミリアの推薦状を頂き、ギルドに商業ファミリアも兼任する許可を頂きにまいりました。ついでにレベルアップの報告もしないといけませんしね。

 

「はい。こちらが商業ファミリアとしての許可書です」

「ありがとうございますわ」

 

 確認すると、確かに許可証でした。ファミリアとして商売をするならギルドに許可を求めないといけません。個人で商売するならその限りではありません。ただ、その場合はダンジョンから出た品物は使えません。

 

「確認完了しましたわ。問題ありません」

「では、次にソーマ・ファミリアのメンバーについてです」

「ええ、ダンジョンでの行方不明や逃げ出した者もいますので、現状ソーマ・ファミリアに居るメンバーについてはこちらですわね」

「確認します」

 

 随分とメンバーが減りましたので、報告しておきます。ファミリアにはギルドへの報告義務があり、人数やレベルについて報告を怠ると罰金とかもあります。

 

「えっと、くるみちゃん……」

「なんですか?」

「人数がかなり減っているのはいいの。確かに無理をして探索したらありえることですからね。ただ、ソーマ・ファミリアには色々と問題がありましたから……」

「それらの問題はわたくしが団長になった事で解決します。ええ、他の方々に迷惑をかけないように言ってあります。もし何かあれば報告くださいまし」

「わかりました。今回の件はあくまでもソーマ・ファミリア内部の問題という事で片付けます。ギルド長からもそのようにお話を伺っておりますから」

「ええ、ええ、それでお願い致しますわ」

 

 まあ、ギルド長に賄賂と共にしっかりとお話をしておりますし、問題はないでしょう。エイナさんからかなり冷たい目で見詰められておりますが、問題ありません。

 ギルド長はギルドの最高権力者であり、一世紀以上勤めているエルフらしいですの。今の地位に就いてからは豪遊と放蕩生活をおくっており、でっぷりと太っておられます。更に金を使うのも好きなのかカジノに遊びに行っていらっしゃいます。他の人からはギルドの豚と呼ばれており、全てのエルフから忌み嫌われていますの。

 

「それよりもこちらの事です。この書類ではくるみちゃんとアーデさんの二人がレベル2になっているのだけれど……間違いですよね?」

「事実ですわ」

「え? ちょっと待ってください。たしか登録してから二ヵ月経っていませんよね?」

「ですわね。リリさんは何年目か知りませんが、わたくしの所要時間は二ヶ月以下です。そもそも一ヶ月でレベルアップも可能でしたし」

「……と、とりあえず登録しておきます。その、確認のためにステイタスを……」

「見せませんわよ。神様を呼んで確認をお願いしますわ」

「わかりました。では……あ、すいません!」

 

 エイナさんが連れてきた神様は、わたくしを見るなり口説いてこられました。

 

「どうだい、俺の眷属にならないかな! 君みたいな可愛い子は歓迎だ!」

「お断りいたしますわ」

「申し訳ございませんが、彼女が嘘をついていないかの確認をお願い致します」

「仕方ない。勧誘はまた今度にしよう。彼女が怖いからね」

「そもそも団長なので無理ですわよ」

「残念だ。膝に乗せて愛でたかったのに!」

「あの?」

「わ、わかった。それで嘘かどうかだったな?」

「はい。彼女とリリルカ・アーデ氏のレベルアップについてです」

「わかった。君とその子はレベルアップをしたのかな?」

「はい。確かにレベルアップをしております」

「うん、わかった。確かに嘘はない。保証しよう」

「ありがとうございます。確認が取れましたので、書かせていただきます」

「お願いしますわ」

「では、用事も終わったから、お茶でもどうだい? 奢らせてもらうよ」

「本当に奢ってくださいますの?」

「ああ、もちろんだ」

「では、お受けいたしますわ」

「いいんですか! かなり怪しいですよ!」

「大丈夫ですわ」

 

 神様に案内されたお店でたっぷりと、それはたっぷりとご馳走になりました。最初は驚いていた神様も最後には泣きが入りましたが、知りません。五十人分くらい奢ってもらえてわたくしは幸せです。

 

「悪夢だぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「哀れ。赤ロリ一人だと思ったら数十人居たという恐怖……」

「一人ぐらい持ち帰っても大丈夫じゃね?」

「着せ替えしたいわ」

「いいかも」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「くるみ、温泉が欲しいのです」

 

 優しい神様に奢ってもらえたので、気分ルンルンで帰ってきたら、ウカノミタマさんに捕まりました。まあ、彼女の眷属にはお世話になっているので聞いてあげたいのですが……

 

「ウカノミタマさんのお言葉とはいえ、そう簡単には……」

「ソーマにも許可を取ったわ。温泉を使ったお酒を作りたいんですって。やってくださいます?」

「わかりました。やりましょう」

「お願いしますね」

 

 仕方がありませんので、リリさんに剣斧を持たせて空高くから落とすを繰り返して地面を掘って掘ってほりまくりましょう。と、いうわけでリリさんのお部屋まで時喰みの城を通じて移動しますわ。

 

「リリさん、ちょっといいですか?」

 

 自らの部屋にある大きなベッドでゴロゴロしているリリさんに声をかけます。

 

「どうしたんですか?」

「ソーマ様とウカノミタマさんより依頼がありました」

「え、聞きたくないんですが……」

「温泉を作るようにとの事ですわ」

「聞きたくないって言いましたよね!?」

「残念ながら逃れられませんの」

「まあ、リリも温泉には入りたいので大歓迎なので……やりましょうか!」

「随分と聞き訳がいいですわね?」

「だって、クルミ様の言う通りにすれば何年もレベルアップしなかったリリがレベル2になれたんです。なら、もっと頑張ればレベル3にもなれるかもしれません!」

「まあ、それならお願いしますわ」

「任せてください! それで方法は?」

「ええ、方法は考えております」

 

 リリさんと一緒にわたくしの部屋から屋根に出ていきます。そこで自分の足と手摺にロープを結びました。

 

「クルミ様、クルミ様。リリはすごく嫌な予感がするのですが……」

「リリさん、度胸試しです。まずはわたくしからいきますね」

「えぇ……」

 

 ハイライトが無くなってきたリリさんを放置して普通に屋根から飛び降ります。ちなみにここ此花亭と同じくらいの高さなので五階建てであり、一階ごとに六メートルから十メートルの広さがあります。つまり、約五〇メートルからのバンジージャンプとなりますの。

 飛びながら時喰みの城から剣斧を取り出して地面に投擲します。剣斧は地面を粉砕してそれなりの穴を開けました。私は逆さ吊りの状態で地面すれすれの場所で止まりました。つまり、盛大に礫を喰らってしまいました。

 

「大丈夫ですか~?」

「だいじょばないです……痛いですわ」

「当たり前です」

 

 ロープを外して剣斧を回収。影を通り、リリさんの下へと戻りました。

 

「で、これをリリもやるんですか?」

「……もうしばらくわたくしが安全確認をしますね」

「お願いします」

 

 何度か試しているとある程度安全な長さというものが理解できてきましたが、問題もありました。柚さん達、仲居さん達に見られて盛大に悲鳴をあげられたのです。柚さんなんて腰が抜けて尻尾を持ちながら耳をペタンとしていて大変可愛らしいかったです。

 

「普通に投げるか落としませんか?」

「建物が潰れますわよ?」

「時間停止をしてから投げるとか?」

「それは構いませんが、そもそも持てるのですか?」

「……試してみます」

 

 地上に戻って試してみたのですが、リリさんの馬鹿力でも無理でした。まあレベル5でもまともに運用できなかったので、最大でレベル4程度しか出せないリリさんの力では無理でしょう。まあ、レベル二つも上の力が出せるとか全身筋肉でしょうけど。

 

「何かいいましたか?」

「イイエ、ナニモイッテマセンワ」

「そうですか。やはり飛び降りてやるしかありませんね」

「ですわね。まあ、ダンジョンにある竪穴を最短コースとして利用する訓練だと思えばいいのではないですか?」

「確かにその通りです。じゃあ、一緒に飛び降りましょう」

「ですねー」

 

 この後、無茶苦茶バンジージャンプをしてなんとか温泉を掘り当てました。外れた無数のクレーターは溜池や魚の養殖場にしようと思います。釣り堀というのもありですし、色々な趣向を凝らした温泉や露天風呂、プールもありだと思いますからね。

 此花亭の事はわたくしに任せてリリさんは契約しているベルさんの方に午後から行ってもらいます。もちろん、他のわたくしと一緒にです。

 わたくしはわたくしで此花亭でやる事がありますので、しかたありません。まず此花亭の玄関は石畳の道を設置し、左右に無数の桜を植えます。この桜は極東から取り寄せてもらった苗木を植えて、わたくしの刻々帝(ザフキエル)三の弾(ギメル)を撃ちまくり、成長させる事で桜並木を作りあげます。もちろん、温泉部分にも桜を植えておきます。時間を進める三の弾(ギメル)と時間を巻き戻す四の弾(ダレット)を使うことで常に桜が満開の状態を維持できます。

 

「いたいた。くるみ、温泉についてだが、私達に任せてくれ」

「これはこれはタケミカヅチさん。ええ、お任せいたしますわ。少しはわたくしも手をだしますけれど」

「感謝する」

「お任せください! 温泉には自信があります!」

 

 タケミカヅチ・ファミリアの方々にいくつかを任せます。わたくしはとりあえず滝風呂でも作りましょう。複数の温泉を楽しめるのであれば人気は出るでしょう。限定のお酒も売ればなおのこと。アスレチックエリアやプール、釣りなどの遊ぶ場所も完備……娯楽施設として完璧ではないでしょうか? 

 

「団長、酒場についてだが……」

「チャンドラさんですか」

 

 やってきたのはリリさんと共に副団長に指名したチャンドラさんです。別に副団長を二人置いても問題ないので、彼には酒造関係を任せています。好きこそものの上手なれといったところです。

 

「酒場になにか問題が?」

「綺麗な方だ」

「ああ、バーの方ですわね」

「俺達にはそっちの事がわからん。こじゃれた店なんてな……」

「それならエルフにバーテンダーをさせましょう。人気が出るはずです」

「エルフか。うちにはあまりいないぞ」

「歓楽街と一般エルフを引き抜いてきましょう」

「イシュタル・ファミリアが激怒するぞ」

「……そちらは面倒ですわね。バーテンダーはやはりエルフがいいので、わたくしたちに探させます。刻々帝(ザフキエル)八の弾(ヘット)

 

 自らの蟀谷を複数回撃ち抜いて、二十人生み出してオラリオにエルフの勧誘に向かわせます。ついでに欠損して団を辞めた人達の情報も収集してその人達も雇いましょう。

 

「ここまで娯楽施設を作るなら、イシュタル・ファミリア以外にも手に入れようとする連中が必ず来るぞ。その筆頭がギルドだろう」

「ギルドは対策がありますわ。ここは極東系のファミリアを含め、複数のファミリアが共同で運営しているので現状の法律では税金は高くなりません」

 

 参加人数やレベルによって税金が変動するので、支払う税金はほぼ変わりません。土地代だってすでに購入しているので一定額を支払うだけでかまいません。むしろ、ほとんどが郊外や塀の外なので追加の塀までこちらで作る予定です。水田やアスレチックエリアとかは完全に外ですしね。

 

「それ以外の連中はロキ・ファミリアとガネーシャ・ファミリアに常駐してもらう予定です。彼等には温泉の無料利用権と食事をさしあげます。これにより、表向きは彼等が客としてやってきて問題ある客を対処したという事にできます。我々運営側は暴力事件を起こすとマイナスになりますが、客同士なら関係ありませんしね」

「黒いな」

「いえいえ、この程度は普通ですわ。後はテナントとしてデメテル・ファミリアやヘファイストス・ファミリアの店も出店していただきますから、そのつもりで」

「お前、食料を担っているデメテル・ファミリアまで巻き込むつもりか」

「ここに喧嘩を売るという事はそうなりますわね。それと不埒者には行方不明者がでるかもしれませんが、死体がダンジョンで出れば問題はありませんでしょう?」

「あ~やっぱザニスより嬢ちゃんの方が怖いわ」

「褒め言葉として受け取っておきますわ」

 

 野外ステージも作っておきましょう。歌って踊れる場所もあってもいいでしょう。あ、劇場もありですわね。とりあえず歌と踊りが楽しめるステージだけ用意しておきましょう。正直、借金がヤバイ額になってますし。ソーマの売上とザニスさんと闇派閥の隠し財産だけでは足りません。今回の計画にヘファイストス・ファミリアやデメテル・ファミリアにも噛んで貰って借金という形でご協力頂いております。どちらのファミリアも収入が増えるので普通に貸していただけました。そもそもわたくしだけで返せる目途はありますもの。人海戦術と影を使った移動は伊達ではありませんのよ。

 

「まあ、そっちの準備ができたのならいい」

「ええ、問題ありません。そちらもお酒関係は任せました」

「ほとんど団長がやってるから問題ないけどな」

「一部門に一人のわたくしですからね」

 

 とりあえず、ソーマ様には一の弾(アレフ)を撃ち込んで馬車馬のようにお酒を造っていただいでおります。疲労も四の弾(ダレット)で回復するので休みなく働いて貰っております。我がファミリアの労働基準法はわたくし達人にしか効果がありません。神様は対象外ですの。もちろん、わたくしも対象外で一日三六五時間は働いておりますの。

 

「じゃあ、俺は蒸留施設を見てくる」

「いってらっしゃいませ。そちらのわたくしによろしくお願いいたします」

「どうせリンクしているんだろう」

「もちろんですわ」

 

 チャンドラさんを見送ってから、別個体に各ファミリアと交渉をしてもらっていますが、そちらも問題ないようでロキ・ファミリア、ヘファイストス・ファミリア、ガネーシャ・ファミリア、デメテル・ファミリアなども許可を頂きました。どのファミリアも一度はこちらに来てからになりますが、成功は間違いないでしょう。

 

「クルミ君~!」

「あらあら、ヘスティアさんではないですか。どうしましたか?」

 

 こちらにやってきたのはヘスティアさんです。ベルさんが居ないのでアルバイトでもしているんでしょうか? 

 

「えっと、じゃが丸君の支店をここに出したいって店長が言っているんだよ。ほら、今はここにいっぱい人が集まってるからね!」

「工事関係者ですわね。いいでしょう。許可します」

「やった! じゃあ、ついでに僕も雇ってくれない?」

「構いませんよ。ヘスティアさんはヘスティアさんですわよね?」

「そりゃそうだよ」

「でしたら、子供達の相手をお願いします。心に傷を負っている子達も多いので……」

「うん、任せて! それでその、その子達が望んだら……」

「彼等はソーマ・ファミリアが引き受けております」

「ちぇ~」

「まあ、ヘスティアさんの働き次第ですわ」

「わかったよ。頑張る!」

 

 ヘスティアさんもベルさんが一人なので心配なのでしょう。わたくしとリリさんはあくまでも雇われているだけですしね。

 

「あ、そうだ。レベルアップおめでとう! うちのベル君もはやいけど、君も大概だね」

「なんせわたくしは最凶の精霊ですもの」

「嘘じゃないんだよね……驚いた事に」

「もちろんです。だって、真実なんですもの」

 

 書類を持ちながら各フロアを回って不備がないかを確認します。ついでにヘスティアさんをタケミカヅチさん達と会わせていきます。このように常に働いていると、目の前にローブ姿の怪しい人が現れました。

 

「怪しいけれど、彼は……」

「依頼人ですわ」

「ああ、そうだ。報酬を渡しに来た。これが魔導書だ」

「作り方を教えていただけますか?」

「別の依頼を受けてくれれば構わない」

「別の依頼ですか?」

「ああ、そうだ。何れここに魔物(モンスター)達を置いて欲しい。地上の者達が触れ合えるように」

「モンスターフィリアの縮小版って事だね」

「その通り。頼めないだろうか?」

「問題ありませんわ。魔物(モンスター)の移動も容易いですもの」

「では頼む。報酬は先払いとしよう」

「ありがとうございます」

 

 彼がわたくしに作り方を教えてくれました。それが終わればわたくしのように現れた時と同じように消えていきました。とりあえずいいでしょう。今はお仕事が大事ですからね。

 

「そうだ。次の神会をここで開けば良い宣伝になるんじゃないかな?」

「ガネーシャ様に相談してみましょう」

「それがいいと思うよ」

「ありがとうございます」

「僕もお世話になるからよろしく頼むね!」

「お任せください」

 

 では今日も元気にお仕事をしましょう。っと、その前に寝ないといけませんので、くるみねっとわーくで引継ぎをして別のわたくしに後を任せましょう。交代で休めるので元気いっぱいで働けます。

 

 

 



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ドクター・くるみん

 

 

 神様にアイズさんとの修行がみつかり、ボクとアイズさんの修行を神様が見学する事になった。月明かりで照らされている中、神様に見られているから、張り切って防壁の上でアイズさんに挑んだけれど全く手も足も出なかった。

 

「気持ちがいいくらいボッコボコにされていたね! ヴァレン何某君は君の事をなんとも思っていない! これはもう決まりだよ、決まり! そうだよねクルミ君!」

 

 ボク達三人しかいないのに神様がそう言うと、階段がある塔の方から赤色と黒色のドレスを着た神様ぐらいの幼い可愛らしい少女が歩いてきた。

 

「こんばんはですわ、アイズさん、ベルさん」

「クルミ。もしかしてずっと見てた?」

「ええ、見ていましたわよ。わたくし、ヘスティアさんに雇われていますもの」

「そうなの?」

「えっと、ボクもしらないんですけど……」

 

 確かに彼女はリリと一緒にボクの冒険についてきてくれている。といっても、基本的にリリが一人でついてきていて、何時の間にか隣にいたり、危なくなったら助けたりしてくれているらしい。助けてくれる事に関してはリリが言っていたことでよくわからない。時たまリリがインファントドラゴンと戦うか聞いてくるけど、居場所がわかるかと聞いたらクルミが教えてくれると言っていた。普通に勝てないから遠慮したら、何故かリリが不機嫌になったのは謎かな。

 

「まあ、これはベル君が知らないことだよ。ベル君がリリ君からナイフを奪われなかった報酬として君のパーティーメンバー兼護衛を頼んでいるんだ」

「ああ、そっか。くるみレンタルサービスだね。グレイがやるって言ってた。もうやってるんだ?」

 

 くるみレンタルサービスって何!? え、レンタルできるの? 

 

「身内や取引のある方だけですわ。人も時間もたりませんもの」

「身内……なら、わたしも一人欲しい」

「ロキ・ファミリアにはグレイとわたくしが居るじゃないですか」

「ティオナとティオネに取られる……」

「抱き枕にされるぐらいでしたら、別に増やしても構いませんが……」

「抱き枕っ!?」

「うん。クルミを抱いて寝ると良く寝れるの。なんでかな?」

「ほら、ベル君。彼女は君よりクルミ君に興味津々だよ! というわけで、クルミ君。ボクが借りている一人を彼女に貸してあげたまえ!」

「いいの?」

「ああ、いいとも! いいよね?」

「別に構いませんわよ。依頼主のご要望にはできる限り応えますもの」

「やった」

 

 アイズさんが両手を広げると、クルミが抱き着いてくるりとこちらを向く。アイズさんはクルミを後ろから抱きしめてご満悦みたいだ。とくに頬っぺたをぷにぷにして遊んでいる。

 

「思ったけれど、クルミが居るなら、彼女に教えてもらった方がいいかも。短剣の使い方をティオネに習っているから」

「そうなのかい?」

「技術的な事でしたら、教えられますわね。超特急コースと普通に教えるコースの二つですわ。ただお値段は別料金となります」

「おいくらかな?」

「百万ヴァリスからですわね」

「むり~!」

「ヘスティアさんの給料から天引きでも構いませんわよ?」

「ごめん、許しておくれ!」

「給料から天引きですか? あれ、神様はクルミを雇って居るんですよね?」

「雇っているけれど、雇われてもいるんだ。彼女、バイト先の幹部みたいなものだしね!」

「あそこか。皆、温泉できたら行くって言ってたよ」

「だよね~職員だと無料で入りたい放題だし!」

 

 えっと、つまり神様はクルミと互いに仲がいいって事でいいのかな? 

 

「ん?」

「どうしました?」

「クルミ」

「きひっ! お任せくださいまし」

 

 アイズさんが街の方を見たら、クルミが急にアイズさんの影へと沈んでいった。何処に行ったのかわからないけれど、アイズさんは少し残念そうにしている。

 

「そろそろ帰ろう」

「そうだね~」

「わかりました」

 

 神様とアイズさんの二人と一緒に暗い路地を歩いてメインストリートを目指していく。神様は僕の左腕に抱き着いて歩き、アイズさんが先頭を進んでいる。

 

「いやぁ、メインストリートと違って、こちらはかなり暗いねぇ~」

「あ、あの、神様……」

「ベル君♪ ボクが転ばないようにしっかりと手を繋いでおくれ♪」

 

 そう言いながら、ボクの腕に抱き着いている神様の……その、胸が当たってとても柔らかくてなんともいえない感じに……

 

「っ!?」

 

 屋根の上から誰かが飛び降りてきて、アイズさんに向かって槍を振るう。アイズさんは剣を一瞬で引き抜いてその槍を弾いた。ボクにはとても見えない速度だ。更に四人の小人族(パルゥム)が飛び降りてきてボク達を包囲する。

 

「神様っ!」

「うんっ!」

 

 神様はすぐに手を放してくれた。だから、ナイフを抜いて構えを取り、空いている手で神様を後ろに庇う。その間にも槍を持った襲撃者とアイズさんが高速で武器を振るっていく。剣と槍が何度も交差する中、アイズさんが相手の横薙ぎを下から掻い潜るようにして避け、相手が引き戻す間に上段から一撃を入れる。相手もさるもので、自分から飛び退る事で致命傷を避けた。

 

「ちっ」

 

 防具の斬れた部分を撫でた襲撃者は舌打ちしてから、すぐに下がって一気に屋根の上まで戻る。気が付けば四人の小人族(パルゥム)も屋根の上に戻っていた。

 

「これは警告だ。今後一切の余計な真似はするな」

「どういう意味?」

「大人しくダンジョンに籠ってろってんだ人形女。もし、あの方の邪魔をするなら……殺す

「よくわからないけれど……警告してくれたから、こっちも警告してあげるね。危ないよ……?」

「なに? 何をふざけたことを……」

「「「「避けろっ!」」」」

「っ!?」

 

 槍の人が他の人の警告で振り向きながら、槍を振るうと槍が弾かれて吹き飛んだ。それから彼等目掛けて防壁の方から高速飛来する黒いナニカが槍の人を守るように立った小人族(パルゥム)の一人が大槌で飛来したナニカを弾くと、それがボク達のすぐ横に落ちてきて地面に突き刺さった。

 

「今度はなんだい! この黒くて太い物は!」

「えっと……」

「これはバリスタの矢。それも鋼鉄製」

「「え”」」

 

 驚くボク達を他所に上では必死の攻防が続けられている。彼等を狙って防壁の方からバリスタらしい物が立て続けに放たれているのだ。

 

「くそっ!」

「バリスタ以外にも小粒のがっ」

「四方からきやがる!」

「鬱陶しい!」

「剣姫っ、貴様の仕業か!」

「うん。誰かに見られていたのはわかったから、援軍を呼んだ?」

「街中でバリスタを使うとは無茶苦茶だろ!」

 

 襲撃してきた人達が言う事じゃないと思う。あ、槍を持った人が頭を何かで打たれて血を流した。彼等は高速で動きながら攻撃を回避してそれぞれの死角を防いでいるみたい。でも、尽きる事のないように攻撃が続いていく。

 

目覚めよ(テンペスト)

 

 アイズさんが魔法を準備しだした。それを見てボクは改めてとんできた大きな鋼鉄の矢を見ると……それがなくなっていた。良く良く見ると彼等が弾いたバリスタの矢や逸れた矢などは全て消えている。近くにまた落ちて来たのを見ると、赤いドレスを着たクルミが掴んで地面に沈んでいっている。

 

「あの、これってもしかして……クルミがやってるの?」

「ああ、そういう事か」

「うん。防壁の方からバリスタを撃って、色んな所から狙撃しているみたい。それにほら、彼等の周りを見てみて」

 

 アイズさんに言われた通り、良く観察すると彼等の周りがなにかに覆われていた。その中に居るせいか、彼等の動きは前よりも遅くなっているみたい。

 

「そろそろいいかな。行く……リル・ラファーガ」

 

 アイズさんが嵐のような風を纏って突撃し、それに気付いた四人の小人族(パルゥム)を吹き飛ばし、本命である槍の人に一撃を入れに行く。槍の人は反応してアイズさんの剣に槍を合わせるけれど、槍が風と剣によって跳ね上げられて剣が肩へと突き刺さる。そこにバリスタの矢が()()()()()()()()から飛んできて腕を撃ち抜いた。

 

「剣姫ィィぃィぃっ!」

「……これは私じゃない」

「腕ゲットですわ」

 

 何時の間にか現れたクルミが腕を掴んでそのまま何処かへと消える。そちらに目を取られている隙にアイズさんも僕の隣に戻っていた。そして、また再開される容赦ない攻撃。

 

「ここは引くぞっ!」

「逃がすかよっ!」

 

 上の方から飛んできた誰かの蹴りが小人族(パルゥム)の人が振り上げた大剣へと命中し、互いに吹き飛ばされる。

 

「くるみんに呼ばれて飛び出たよ! えいやー!」

「アイズを襲うなんて舐めた事をしてくれるじゃない!」

「全くです! アルクス・レイ!」

 

 褐色肌の二人とエルフの人が放った光の矢が彼等を襲う。

 

「アマゾンにヨルムンガンド、ヴァナルガンドか……」

「残念ながらそれだけではありませんの」

「ガネーシャ・ファミリアだ! 動くな!」

「イルタ・ファーナだと!?」

「レベル6が一人」

「レベル5が四人」

「こちらは負傷……」

「無理だ。撤退を進言する」

「ちっ。逃がしてくれたらいいのだがな!」

「逃がす訳ねぇだろうが!」

「ええ、全くですの。わたくしの護衛対象を狙うなんて……ただでは帰せませんわ」

 

 クルミがやってきた人達の傍に立ち、それぞれの人を銃で撃つ。ベートさんだけは拒否したみたい。撃たれた人は更に高速で動いて襲撃してきた人達と戦っていく。

 

「ああ、ああ、とても楽しいですわ。そうですよね、ベルさん、ヘスティアさん!」

「うわっ!?」

 

 何時の間にか神様へ後ろから抱き着いて首に手を回しているクルミ。彼女はとても楽しそうに必死に戦っている五人を見ている。

 

「これ、クルミ君が呼んだのかい?」

「ええ、ええ、そうですわよ。近くに居たわたくし達にお願いしまして、事情を説明して即座に駆け付けてもらいました。わたくし達とアイズさんだけでは厳しそうでしたし、そうでなくてもアイズさんが襲われたとなればロキ・ファミリアの方々は黙っておられないでしょう?」

「ロキの事だからどうだか」

「ロキさんはアイズさんをとても大事になさっておりますわ。必ず増援を送りますの」

「随分と詳しいね!」

「お得意様ですもの」

「知ってるよ!」

 

 ニコニコと本当に楽しそうに笑うクルミと、忌々しげに見詰める神様。アイズさん達の戦いは更に苛烈になっていく。

 

「くそがぁっ!」

 

 少しして彼等は一ヶ所に追い詰められる。包囲してそれぞれと戦う最中にクルミが何かをしたみたいで、彼等の動きが一瞬だけ、一秒くらい停止した。その瞬間を逃さずに攻撃を叩き込まれて小人族(パルゥム)の四人が倒される。地面に倒れた彼等をそれぞれが押さえつけ、アイズさんは残っている槍の人を相手していく。

 

「確保ですわね」

 

 複数のクルミが小人族(パルゥム)の四人に銃弾を撃ち込んで、きひっ! と笑いだした。

 

「クルミ、此奴等の正体がわかっただろう。教えろ」

 

 ガネーシャ・ファミリアの人に聞かれたクルミがしゃべりだしていく。

 

「この人達は闇派閥じゃないんですか? 襲撃してきましたし」

「「「「「ふざけるなっ!」」」」」

「あら、違うのですか。まあ、わたくしはどちらでもいいのですが……」

「ならば、返してもらおう」

 

 その言葉にそちらを向くと視界を焼くかのような強烈な閃光が放たれて、ボクは神様を抱きしめて背中で庇う。次の瞬間には悲鳴が聞こえてきた。

 

「大丈夫ですか、神様……」

「うん、ボクはベル君のお陰で大丈夫だよ……でも……」

 

 視界が元に戻ると、襲撃者の人達は全員が消えていた。

 

「逃げられたか」

「臭いはまだある。追撃するぞ」

「オッケー!」

「当然ね」

「ならばこちらも行かせてもらおう」

「私も行く。ベルとヘスティア様は……」

「ボク達はクルミ君に送ってもらうから大丈夫だよ。それよりも早く追わないと逃げられる。行った行った」

「わかりました。またね」

「はい!」

「むぅ……」

 

 アイズさん達がベートさんを先頭に移動していく。ボクはクルミの方へ向くと……彼女は恍惚な表情をしていた。

 

「レベル5って少しだというのにとっても美味しんですのね。病み付きになりそうですわ」

「君、そういう趣味なのかい?」

「いえ、いえ、わたくしが好きなのはリリさんのような可愛い子達ですわ」

「嘘、じゃないだとっ!? まあ、知ってたけど。だからベル君の護衛にしているんだし」

「どうしたんですか?」

「なんでもないよ。それより帰って食事にしよう」

「でしたら、安全も兼ねてわたくし達のファミリアでお泊りになりますか? モニターも兼ねれば無料ですわ」

「そうだね。そうしよう。喜べベル君! 温泉だよ!」

「温泉、ですか?」

「うん。ベル君とこん……いや、なんでもない。早く戻ろう」

「はい、神様!」

 

 それから連れていってもらったのはとても大きな旅館で、そこで泊りながら温泉を堪能するというとても贅沢なひと時でした。代金を聞くとボクじゃ、まだまだこれない値段だった。一日の稼ぎが全部飛ぶような値段だしね。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

 部屋で読書をしていると、子供達の回収に向かわせた者がやんちゃな子達を連れて戻ってきたみたい。どうやら、お風呂に入ってから報告にきたみたいね。まあ、下水道を通って戻ってきたのだから当然でしょう。

 

「お帰りなさい。随分と手酷くやられたようね」

「「「「「……申し訳ございません……」」」」」

「まあいいわ。先にその腕をどうにかしないといけないわね」

「エリクサーを使っても治りませんので、義手を用意するしかないかと」

「ありがとうございます……」

「腕は後で注文するとして……あの子はいいのだけれど、あの混ざり物には困ったものね。まさか貴方達の魂を曇らせるなんて……」

「始末なさいますか?」

「できるの? 彼女は無数に居るわよ」

「ご命令とあらば……っ!? フレイヤ様っ!」

 

 オッタルが私の前に割り込んでバルコニーの方に武器を向け、警戒する。バルコニーには可愛らしい姿をした混じり物がこちらに向かって立っていた。彼女の手には木で出来た箱が二つ持たれているみたい。

 

「何の御用かしら?」

「あらあら、わからないのですか?」

「ええ、わからないわね」

「そうですのね。こちらの用件は簡単ですわ。先程の件についてお話にまいっただけです」

「何の事かしら?」

「そちらの方々がロキ・ファミリアやヘスティア・ファミリアを襲撃した件ですわ」

「わからないわね」

「こちらは証拠を握っているので言い逃れもできませんわ。まあ、知らないというのなら、ギルドに報告して、市民にはフレイヤ・ファミリアが見境なく襲撃する闇派閥だったと教えて回るだけですわね」

「貴様っ!」

「あらあら、わたくしは事実しか言っておりませんわ。ねえ、そうでしょう、フレイヤさん。先のモンスターフィリアに関する事や今まで貴女様が彼等に指示してきた事は人死にが出ていなくても器物損壊など十分な犯罪ですのよ? まさかお分かりでないと?」

 

 クスクスと笑う彼女にアレンが槍を投擲しようとするけれど、私が手を上げてオッタルに止めさせる。

 

「離せ! フレイヤ様を侮辱する者は生かしておけん!」

「フレイヤ様の命令だ」

「そうよ。お話をしているの。少し待っていなさい。それに本体じゃないからいくら殺しても無駄よ」

「はい……」

「それで、証拠はあるのかしら?」

「ええ、先程も言った通り、証拠はありますわ。神様なのですからおわかりでしょう?」

「そうね。わかったわ。お話というのは何かしら?」

「謝罪と賠償を頂きにまいっただけですわ」

「私の可愛い子供達の魂を吸い取っておいてそれを言うの?」

「あら、アレは戦闘の結果ですわ。戦闘の手段としてそのようなスキルを使ったというだけです。そうでもしないとか弱いわたくしではとてもとても」

「良く言うわね。まあいいでしょう。それで謝罪と賠償かしら? それはごめんなさい。貴女には用はなかったらしいのだけれど、巻き込んでしまったわ」

「アイズさんに余計な事をするなという警告からして狙いはベルさんですか?」

「さあ? アレンが勝手にやった事だもの。私にはわからないわ」

「そうですか。まあ、そういう事にしておきましょう。賠償の件ですが、こちらをお収めください」

「あら、なにかしら?」

 

 差し出された四角い箱をオッタルが受け取り、開けると中には大きな果実が入っていた。

 

「メロンです。こちらが請求書になりますわ」

「……」

 

 オッタルではなく、自分で受け取って中身を見る。かなりの金額が書かれていた。破り捨てたい気分になるけれど、仕方がないわね。

 

「随分と高いのだけれど?」

「口止め料も入っておりますので、随分とお安い値段かと思いますわ」

「……フレイヤ様、おいくらで……」

 

 無言でアレン達に渡してやると、彼等は驚く。書かれている値段は五千万ヴァリス。払えない事はないけれど、決して少ない金額じゃないわ。

 

「貴様っ! ボッタクリにも程があるだろう!」

「修繕や見舞金などの費用と慰謝料を兼ねれば適正価格ですわ。ああ、それとこちらの商品もございますが、買われますか?」

 

 そう言って彼女が箱を開けて見せてきたのは……箱に収められたアレンの千切れた腕でした。

 

「今なら特別サービスで接続までキッチリとさせていただきますわ」

「でも、お高いのでしょう?」

「お値段は……」

 

 提示された金額は馬鹿みたいな物だった。アレンは即座に拒否したけれど、私としてはそうはいかない。

 

「もう少し安くならないかしら?」

「フレイヤ様にとってアレンさんの片腕はこれだけの価値もないと言われるのでしたら、安くいたしましょう。ええ、値段を決めるのはフレイヤさんですもの」

「……本当に神を神とも思わない子ね。不敬よ?」

「生憎とわたくし、無神論者ですので」

「神々の恩恵を利用し、あまつさえ神の代行者が混ざっている者が無神論者? 笑えないわね」

「事実ですから仕方がありませんわ」

「そう。まあ、関係ないわね。その腕、買うから治療してちょうだい」

「代金は?」

 

 私は無視して本棚に移動して一冊の本を選び、彼女に渡す。

 

「腕一本、魔導書一冊と交換よ。私にとってアレンの腕は魔導書より高いわ」

「……驚きましたわ。値切ると思いましたのに値段を倍以上に跳ね上げてきますか……」

「見くびらないでちょうだい。私は子供達を愛しているの。だから、試練を与えるのよ」

「傍迷惑ですわね」

「あら、神とはそういう者よ。一つ賢くなったわね、お嬢さん」

「ええ、そうですわね、おば様」

「誰がおば様ですって? そんな事を言うのはこの口かしら?」

「いっ、いたいれひゅっ!」

 

 口に指を入れて柔らかい頬っぺたを思いっきり引っ張ってやる。

 

「はなしぇ~!」

「ふん。次、言ったら、こんなものじゃ済まさないから」

「ひゃい……」

 

 赤くなった頬っぺたを撫でる彼女の首元を掴んでアレンの下へと連れていく。

 

「さて、治療してちょうだい。しっかりと元通りにできるんでしょう?」

「もちろんですわ。今から少し撃ちますが治療のためですから気にしないでくださいね」

「ええ、嘘はないようだから構わないわ」

 

 短銃を呼び出し、アレンの額にあててから()()引き金を引いた。発射された弾丸は立て続けにアレンへと命中し、アレンの身体が、急速に臭くなり、続いて箱に収められた腕が消えて元の場所に戻っていた。まるで切断された事なんてなかったかのように。

 

「どうかしら?」

「……動きます。問題ありません。無くなる前と寸分たがいません。信じられませんが……」

「そう。オッタル、どう思う?」

「私にはわかりかねます」

「そうなのね。これは時間を戻したのでしょう。ところで二発目について聞きたいのだけれど?」

「(わたくしに)必要だったからですわ」

「そう……まあ、いいでしょう。それじゃあ、もう用はないわね?」

「ええ、これでなくなりました。それではまたのご利用お待ちしておりますわ」

「そうね、またお願いするわ」

 

 バルコニーから飛び降りて消えていく彼女を見送ってから、オッタルに向かい合う。

 

「オッタル」

「なんでしょうか」

「塩をまいておいて」

「かしこまりました。ですが、塩ですか?」

「様式美という奴よ」

「はぁ……」

 

 それにしてもまたのご利用、ね。試練を与えるなら代金次第で見逃すか、手伝うという事でしょう。実際、後始末はしてくれるみたいだし。

 

「オッタル。試練用のはどうなっているかしら?」

「今は別の者を見張りにつけておりますので問題ありません。もうまもなく仕上がるかと」

「彼女達が邪魔をしてきたらどうなるかしら? その子はちゃんと試練の役目を果たせるかしら? 例えばバリスタを複数受けて対処できるとか……」

「……難しいかと。先程の娘がバリスタをダンジョン内部に持ち込めるなら、ですが……」

「可能よ。あの子は普通にダンジョン内部にも持ち込んでいるわ」

「……規格外ですね」

「ええ、規格外よ。だって、精霊の混じり物でエインヘリヤルですもの。規格外は当然よ。だから面白くないのだけれど……」

「フレイヤ様」

「どうしたの?」

「私にチャンスをください。わたしが試練として奴の前に立ちます」

「そう。アレンが……でも、殺せないから後でお金を請求されるでしょうね」

 

 高いお金で買ったメロンを斬ってもらって、食べる。高いだけあって確かに美味しいわ。

 

「私が払います。どうか、許可を頂けないでしょうか?」

「「「「俺達も出します! ですから、アイツを殺る機会をください!」」」」

「レベル2にレベル6と5を複数ぶつけるのはちょっと問題よね?」

「でしょうな」

「でも、いいわ。おいたをした悪い子にはお仕置きをしないといけないものね。早い者勝ちで、ミノタウロスと彼が戦っている時に相手なさい。オッタルはロキ・ファミリアが介入してきたら妨害してちょうだい。ああ、彼等があの子の意思を無視して手を出そうとした時でいいわ。一対一の状況さえ作ればいいから」

「畏まりました。それにしても彼女は使えますね」

「ええ、使えるわね。今まで少し遠慮していたけれど、言ってしまえば代金さえ用意したら手足の一、二本ぐらい治してくれるんだもの。貴方達も冒険しなさい。特にアレン達五人は冒険してレベルを上げないと不味いわ」

「どういう事ですか?」

「「「「?」」」」

「貴方達、彼女に寿命を吸われているわよ。今のままだと数年は大丈夫でしょうけれど、確実に減っているの。だから、レベルアップして戻しなさい」

「「「「「はっ!」」」」」

 

 資金稼ぎをしないといけないわね。デメテルやヘファイストスに手を回して私もあの子がやり出した商売に噛ませてもらいましょう。まずはアレン達との死闘を見せて頂戴。()()がどのような過程を得て()()になるのか、楽しみにさせてもらうわ。

 

 

 

 

 

 

 

 




フレイヤ様がやってる事は色々とヤバイと思うのでこういう形に。狂三がやられたらやり返さない事はないですし。もちろん、フレイヤ様もやり返します。むしろ利用します。


メロンです。領収書です ドクターXのアレです。


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魔導書 リリルカ

詠唱が思いつかないです。


 目の前に迫ってくる死を連想させるリリの身体がすっぽり収まりそうな大剣。視界一杯の戦斧が物凄い速度でリリへと迫ってくるのをリリは身体を回転させて横からタイミングを見計らって戦斧の腹へと叩きつけます。

 金属と金属が衝突してもの凄い音が響きますが、次の瞬間にはもう片方の手に持たれた戦斧が振り下ろされます。これを喰らったら、リリの小さな身体ではひとたまりもなく殺されてしまうでしょう。相手もそのつもりで攻撃してきています。

 だから、リリも命を懸けて必死に抗います。地面を震脚で踏みしめ、全身の力を使って無理矢理軌道を変えて相手のもう一本の戦斧をこちらの戦斧を内側から押し開くようにして弾き、その反動を利用して更に一歩踏み込みます。

 

「ほぅ」

 

 相手は戦斧を両方とも手放し即座に腰に差していた刀を抜刀してリリの戦斧を正面から受け止めてきました。

 

「うにゃぁっ!? かふっ!?」

 

 驚いていると膝打ちをくらって吹き飛ばされます。戦斧で地面を削りながら停止すると、目の前には刀が迫っています。もう戦斧では間に合わないので、リリも戦斧を破棄して両手に潜ませた暗器である杭打ち機を放ちます。

 

「ふっ」

 

 発射した杭二本は中心を捉えて切断され、迫る刃に対してリリはやはり前に出てガントレットで滑らせて相手に一撃を入れるために右手で正拳突きを放ちます。相手はあっさりと刀を手放して素手でガントレットと殴り合ってきます。

 拳と拳が命中し、身体が泳ぐのでその場で回転するように蹴りを放つと、相手は片足を上げてリリの足が肘と膝の間に入るタイミングで合わされました。

 

「みぎゃぁぁぁぁっ!?」

 

 リリの足は見事にグリーブごと叩き潰され、地面にのたうち回ります。

 

「うむ。少しヒヤッとしたが……まあ良いだろう。本日の模擬戦はここまでとしよう」

「あ、ありがとうございました……いたゃい……」

 

 涙目になりながら痛みを我慢してポーションで完全に折れている足を治療します。相手をしてくれた師匠はリリ達が放り投げた武器を回収して整備してくれます。

 

「よし、次は素振りだ。模擬戦で感じた事を修正するぞ」

「わかりました……」

 

 腕で涙を拭いながら立ち上がり、師匠である椿様の言う通りに修正し、リリに合うように何度も確認していきます。椿様は厳しく、一切の妥協をしてくれません。少しでも武器に力を伝えるための姿勢が崩れたら叩かれます。

 

「午後からはダンジョンで試すのなら試すといい。威力が変わるはずだ」

「サポーターとしての活動なので戦いはしませんが……」

「では、もう一度模擬戦をするか」

「か、勘弁してください! リリが死んでしまいます!」

「良いのか?」

「え?」

「このままではクルミに置いていかれるぞ」

「クルミ様に、ですか?」

「うむ。クルミは止まらんぞ。ああいう手合いは手前と同じか、それ以上に止まらねばならん場所を軽く超えて行くぞ」

「リリには計算高く行動していると思えるのですが……」

「いいや、彼奴は止まらん。それは本人から聞いた話でわかっている」

「どういう話ですか?」

「彼奴は自らの分身体を自爆させたのであろう? 同じ意識も記憶もあるというのにだ。つまり自らが死ぬのをなんとも思っていないという事だ」

「あ……」

 

 確かによくよく考えたら実験だとしてもアレはないですよね。リリだったら絶対にできません。そもそも彼女達にはオリジナルであるクルミ様と同じ意識と記憶があるのです。なのになぜ自爆を受け入れたんでしょうか? そうです。これはつまり、必要ならクルミ様は自爆をするという事じゃないですか。

 

「それにだ。リリよ。よくよく考えると手前と全く同じ姿の手前がいっぱいいるというのはどうなのだ? 手前は便利だと思う反面、受け入れられない部分がある」

「リリは……どうなんでしょう? よくわかりません」

「まあ、リリは変身願望もあるようだからな。どちらにせよ、そのような魔法が発動しているという事は分身願望があるという事だ。自らを分割するなど、名前の通り狂っているといえる」

「確かにそう、ですね。でも、リリとしては凄く便利だと思いますけど……」

「毒されているだけかもしれんが、まあよい。手前が言いたいのはクルミは止まらない。冒険に冒険を重ねて続けていくだろう。それも最短で最速でだ。そんな彼女はすぐにレベルアップするだろう。そうなるとリリは置いていかれる。そうなると……」

「捨てられる……?」

「可能性は十分にあるだろう。何せ自らの分身体を平気で使い潰すのだから可能性はあるだろうと、手前は思っている。まあ、クルミはリリの事を気に入っているようだから、愛人とかであれば一緒に居てくれるかもしれんぞ」

「あ~確かにクルミ様は時々、リリにそういう獣のような視線を向けてきますね」

「うむ。手前も見られた事はあるな。まあ、胸の大きさで悩んでいるのかとも思っていたのだがな……それで、どうする? 手前としても、リリにはもっと頑張ってもらいたい。クルミに依頼されている武器は手前と主神様だけでは作る事は不可能だ」

「そうなのですか? お二人ならどんな武器でも作れそうですが……」

「魔導具であるからな。手前と主神様、ヘルメスの万能者(ペルセウス)、クルミが居なければ生まれない新たな武器だ。リリにはその武器を使ってもらう予定だが……無理ならばクルミが自ら使うであろう。そもそも爆発する危険があるのだから、最初はクルミに使ってもらう。で、どうする?」

「やります。やりますよっ!」

 

 武器を構えて椿様に挑んでいきます。だって、クルミ様に捨てられるとか地獄です。あの地獄がまたくる可能性が限りなく少ないとしても、想像するだけでも嫌です。レベルアップしたリリならどうにかできるかもしれませんが、その場合はクルミ様が敵になるのでどう考えても地獄です。それにリリだって感謝しているんです。クルミ様はなんだかんだありましたが、リリを救ってくれた王子様ですからね! 

 

「行きますよ!」

「うむ。来い……と、言いたいのだが、使う物を変えるぞ。リリがこれから使う武器には必須の物だからな」

「はい……あれ、これってサラマンダーウールですよね?」

「うむ。それとこれだ」

 

 サラマンダーウールと同時に渡された、鉄で出来た斧に布が巻かれています。その布は液体がたっぷりとしみついていました。

 

「あの、これは……」

「うむ。火をつける」

「えっと……正気ですか?」

「ああ、正気だとも! 言ったであろう。武器の特性上、仕方がないのだ。いいか、火に慣れろ。火は友達だ」

「えぇ……」

 

 驚いていると、本当に斧に火をつけました。燃え盛る炎でリリは熱すぎてすぐに手放してしまいます。

 

「いいか。今回使われるのは炎を纏う戦斧だ。炎に慣れねば自ら喰われるぞ」

「……ああ、わかりました。これ、クルミ様がかかわっているだけありますね! 無茶苦茶です!」

「ふはははは! まさに狂気の産物であるからな!」

 

 手放した戦斧をもう一度握ります。今度は手の皮膚が焼けるのも気にせず我慢します。熱いのも我慢です。どうせポーションで治るのです。この状態で戦斧を何度も何度も振るっていきます。今日はベル様とのダンジョン探索は休みなのでこのまま椿様の監視のもとでやらせてもらいます。リリが死なないためにも必要ですからね。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 修行が終わり、ポーションを使ってからすぐにベッドに飛び込んで仮眠を取ろうとしました。すると疲れていたのか、泥の様に眠ってしまいました。

 リリの上に重たい物が乗っている気がして目を開けると、クルミ様がニコニコしながらリリの上に乗っていました。これ、襲われるのかもしれません。

 

「あの、クルミ様……リリの上で何をしているんですか?」

「リリさんの寝顔を見ていただけですわ。部屋を訪ねたらもう眠っているんですもの」

「はぁ……わかりました。一緒に寝ているんですから、別に構わないんですが……用件はそれだけですか?」

「もちろん違いますわ。寝る前に読書でもと思いまして……」

「読書ですか?」

「はい。読書です。一緒に魔導書を読みましょう」

 

 そう言ってクルミ様は一冊億単位の値段がする魔導書を二冊も取り出しました。

 

「売りましょう。これを売れば借金が幾分かましになります!」

「いえ、読みます。お金は回収できるので問題ありません。それよりも今は魔法を得る事が重要です。わたくし達が強くなればそれだけ稼げます」

「ですが……」

「どうしても気になるのでしたら、魔導書を使った実験にご協力くださいませ」

「実験……そういう事なら、わかりました」

「では、今からお話しします」

 

 それからクルミ様は色々なお話を聞かせてくださいました。お話が終わった後、クルミ様は魔導書と共に不思議な結晶みたいなのを渡してくれました。

 

「では、読みましょう」

「はい」

 

 魔導書を開き、読んで行きます。

 

『魔法は先天系と後天系の二つに大別することができる。先天系とは言わずもがな対象の素質、種族の根底に関わるものを指す。古よりの魔法種族はその潜在的長所から修行・儀式による魔法の早期修得が見込め、属性には偏りが見られる分、総じて強力かつ規模の高い効果が多い。

 後天系は神の恩恵を媒介にして芽吹く可能性、自己実現である。規則性は皆無、無限の岐路がそこにはある。【経験値】に依るところが大きい』

 

 何か引き込まれるものがあります。不思議な感じです。

 

『魔法とは興味である。後者のことに限って言えばこの要素は肝要だ。何事にも関心を抱き、認め、憎み、憧れ、嘆き、崇め、誓い、渇望するか。引き鉄は常に己の中に介在する。『神の恩恵』は常に己の心を白日のもとに抉り出す』

 

 リリの前に大きな鏡が現れました。

 

『欲するなら問え。欲するなら砕け。欲するなら刮目せよ。虚偽を許さない醜悪な鏡はここに用意した』

 

 鏡にはリリであって、リリではない分身のようなリリが居ました。

 

『じゃあ、始めましょう』

 

 聞こえてきたのは確かにリリの声でした。

 

『リリにとって魔法って何ですか?』

 

 リリにとっての魔法はやはり、変身魔法。それとクルミ様の分身魔法でしょうね。それとクルミ様にお話しいただいた七罪(ナツミ)と呼ばれる精霊が使う魔法、贋造魔女(ハニエル)。この精霊様の力はリリのシンダー・エラと似通った所があります。

 

『リリにとって魔法とは?』

 

 神様から与えていただく奇跡です。どのような不可能な事だって可能であり、どんな事だって出来る力です。そして、クルミ様についていく為に必要なものです。

 

『リリにとって魔法はどんなもの?』

 

 弱い小人族(パルゥム)から別のリリへと姿を変えて地獄から逃げるための魔法。今までは逃避の為に、人を騙す為に使ってきました。でも、リリはクルミ様と出会ってからはクルミ様に気に入ってもらえるようにモフモフされるための魔法になっています。

 

『魔法に何を求めるの?』

 

 色んな姿や物になり、別のリリを生み出す力。今のリリではクルミ様についていけません。ですから、求めるのはついていける力です。

 

『それだけ?』

 

 リリは……リリはクルミ様のようになりたいです! 確固たる自分があり、他人に左右されないあの力! リリもクルミ様のような特別に! 

 

『リリはシンデレラ。十二時の鐘により夢はさめます。リリは誰かになって特別を得る事なんてできません。所詮は猿真似でしかないのですから』

 

 それでも、努力すれば限界を超えられるってわかりました。ですから、諦めません。ええ、もう絶対に諦めたりなんてしません。力尽くでも打ち破ってみせます! 

 

「それが今のリリです!」

『それが今のリリですね。これから色んなモノになりましょう。諦めなければ可能性は無限大なのですから』

 

 目が覚めると、隣にクルミ様が居ました。まだ眠っているようなので、起き上がると魔導書がリリの上から落ちていきます。それを見て昨日、クルミ様から渡された結晶が見つかりません。

 

「無くした? いえ、まさか……」

「んん~どうしましたか、リリさん……」

 

 目を擦りながら起きてきたクルミ様に結晶が無くなった事を伝えます。怒られるか、不安ですが伝えない方がまずいです。

 

「そうですか。ああ、成功したのですね。とても嬉しいです。早速ですが、ソーマ様のところに向かいましょう」

「は、はい!」

 

 ソーマ様にステイタスを更新していただくと魔法が増えていました。名前は贋造魔法少女(ハニエル)。色々と調べてみると、この世に存在するあらゆる生物、様々な無機物に変身することができ、自身の分身を生成できる魔法のようです。

 分身の作成は一体のみ。本体か分身が変身している場合は変身ができない。でも、シンダー・エラを使えば可能となります。贋造魔法少女(ハニエル)の方は身長とか一切関係なく変身できました。ですが、分身を生み出している効果時間は短く、十分で消滅してしまいます。

 言ってしまえばシンダー・エラの上位互換です。まあ、難点としては贋造魔法少女(ハニエル)で変身できるのは詳しく知っているか、シンダー・エラで何度も変身する必要がありました。また、詳しく知っていれば相手のスキルや魔法も再現可能となり、リリが持っているスキルは使用不能となります。分身を生み出す詠唱がミラー・ミラーでした。

 

 

 

 

 




リリは劣化している贋造魔女(ハニエル)を魔法少女にしてみました。


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魔導書 くるみ

お気に入り登録、感想、高評価、誤字脱字報告、誠にありがとうございます。大変やる気に繋がっております。あとがきにステイタスを載せていますので、いらない方はお飛ばしください。一応、見やすいように注釈を使いました。

壊れたので注文した新しいパソコンが届きました。ユーザー辞書登録も頑張ったので再開します。
とりあえず、魔法について説明を少し修正しました。


 魔導書を読んでいると、不思議と引き込まれるような感覚に襲われました。抵抗しようかとも思いましたが、なんとなく嫌な感じはしなかったので、そのまま引き込まれてさしあげます。

 するとわたくしは何時の間にか真っ暗な宇宙空間のような場所に居ました。周りには様々な無数の時計や時計盤が存在しています。その時計盤などの陰から見た事があるような、ないような子供達が赤ん坊の世話をしながらこちらを覗いているではありませんか。

 

「もし、少しよろしいでしょうか?」

「っ」

 

 声をかけてもすぐに逃げて隠れられるので追いかけっこをご所望かと思って追いかけると、転んで泣いてしまいました。仕方がないので抱き起こして頭を撫でてあげると、小さな女の子は可愛らしく笑ってくれました。

 

「迷子なのですか? でしたら、一緒に探してあげますが……」

「違うよ。でも、遊んで欲しいかも!」

「……まあ、いいでしょう。遊びましょう!」

 

 他の子達と一緒に色々と遊んでいると、満足したのか子供達は眠り出しました。どうしようか、途方に暮れていると、別の女の子がやってきて、わたくしの手を引いてくれます。

 女の子の他愛無い遊んだ話を聞きながらしばらく歩いていくと、テーブルと椅子がありました。女の子はわたくしをそこに座らせると、何時の間にか居なくなっていました。向かいの席は空席のままですが、ティーセットが置かれています。

 

「あらあら、あの子は随分と優しいのですわね」

「楽しかった~!」

「もっと遊びたいけど、駄目?」

「ご迷惑をおかけしてはいけませんわ。あの子はまだまだやる事がありますのよ」

 

 声が聞こえてきた方を向くと、そこには男の子と女の子の二人と手を繋ぎながらやってくる少女がいました。彼女の服装は赤と黒を基調としたフリルのあしらわれたワンピースドレス。肩紐で支えており、脇や背中は開いており、とても露出が多いです。それに首にはチョーカーまであります。もちろん、ヘッドドレスやガーターベルトまで完備しており、まさにわたくしが理想とする姿です。

 つまり、大人のわたくし(時崎狂三)が居ました。ちょっと驚きましたが、ここは魔導書が作り出した夢であるのならばこういうのも可能でしょう。

 

「お待たせしてしまいましたか、くるみ」

「いえ、今来たところですわ、わたくし」

「あらあら、そうなのですね。ですが、それでしたらまるでデートの待ち合わせですわよ?」

「間違いではありませんの。わたくし達にとってデートは特別ですもの」

「それもそうですわね。確かに特別ですわ」

 

 彼女は子供達の手を放してから、しゃがんで見送った後、わたくしの前にある席に座りました。

 

「さて、わざわざご足労を頂いたのは魔法についてですわ。本来、会うはずもないのですが、魔導書の力が変に作用したみたいですわね」

「色々と聞きたい事がございますの。わたくしはわたくしですの?」

「ええ、間違いはありませんわ。そうでないのなら、<刻々帝(ザフキエル)>と神威霊装・三番(エロヒム)を発現する事など不可能でしてよ」

「では、わたくしはわたくしになりましたの?」

「そこは秘密ですわ。全て教えてしまうのは面白くありませんもの。ですから、くるみはくるみの好きなように生きてくださいまし。それがわたくしの目的でもありますので、ここから楽しく見学させて頂きますわ」

「そうなんですね。わたくしがわたくしであるのならば何の問題もないでしょう」

 

 それにどうせこれは夢ですもの。まあ、夢でも大人のわたくしに会えたのはとても嬉しいですわ。

 

「ええ、ええ、何の問題もありませんわ。わたくしにとって可愛い子供ですもの。時が来るまでこの世界を十分に堪能してくださいまし」

「わかりました。それでその、魔法は発現しますの?」

「要りますの? <刻々帝(ザフキエル)>があるでしょう?」

「欲しいですわ!」

「あらあら、欲張りなのですね。ですが、せっかくここまで来てくださいましたし、他の子達とも遊んでいただけましたし……差し上げましょう。魔導書の力など、わたくしがどうとでもできますもの」

 

 わたくし(時崎狂三)は人差し指を唇にあてながら少し考えた後、そう言ってくださいました。

 

「では、質問いたしますので答えてくだいまし。くるみにとって魔法とはなんでしょうか?」

「<刻々帝(ザフキエル)>ですわね」

「……くるみにとって魔法とはどのような力でしょう?」

「<刻々帝(ザフキエル)>です」

「…………くるみにとって魔法のイメージとはどのようなものですか?」

「<刻々帝(ザフキエル)>ですわ!」

「なるほど、なるほど……よくわかりましたわ」

 

 そう言いながら、わたくし(時崎狂三)は口に両手の指を入れてぐにぐにと引っ張ってきました。

 

「いたゃぃれしゅ……」

「黙りなさい。そんなに<刻々帝(ザフキエル)>が好きなのなら<刻々帝(ザフキエル)>だけでよろしいではありませんの!」

「やりゃ、ほしぃれぇすの!」

「強欲な……」

「わゃたくしぃれすもの!」

「納得してしまいましたわ。ええ、ええ、納得してしまいましたの。でしたら、もう欲しい魔法を言ってくださいまし」

「えっと、死者の復活……」

「却下ですわ。そんなものリソースが足りませんし、わたくし達に必要がありません。死者を復活させたいのであれば過去を改変してくださいまし」

 

 却下されてしまいましたわね。まあ、確かに無茶苦茶ですもの。外側だけなら本人と同じ物が作れたとしても、魂がないのですからそれはその人の力を持った人形でしかありません。まあ、その人形が欲しいのですが。

 

「戦力が足りませんの」

「くるみはまだ産まれたばかりですもの。仕方がありませんわ。むしろ産まれてから二ヶ月足らずでよくやっていましてよ」

「? まあ、頑張っていますもの」

 

 二ヶ月というのはこの身体になってからの話でしょうね。そうでないと色々とおかしいですもの。まあ、わたくしがわたくしに生まれ変わってからというのなら、あっていますの。気にする事でもないでしょう。

 

「では<灼爛殲鬼(カマエル)>が欲しいですの」

「琴里さんの天使ですわね。まず結論から言って無理ですわ。そもそもわたくし達に適性がありませんもの」

「適性ですか?」

「そうですわ。わたくし達は時の精霊。時を操る事しかできません。まあ、くるみは他のも混ざっているので多少は使えるかもしれませんが、全てのリソースをわたくしと<刻々帝(ザフキエル)>に振っていますので時に関する魔法以外は無理ですわね。諦めてくださいな」

「じゃあ、読み込んだ人達の記憶を魔導書にしてその人の魔法やスキルを他者に習得させたりは……」

「そんなものでよろしいんですの?」

「え?」

「だって、それって普通に作れますわよ?」

「いやいや、無理ですわよ」

「何を言っていますの。魔導書を作る感じでやればいいんですの。それ用の魔導具を用意すれば問題ないでしょう。要は魔導書に書かれている内容を読んだ方に植え付ければよろしいだけですもの」

「っ!? 脱帽ですわ! 言われてしまえば確かにそうですの!」

 

 アレです。とある魔術の禁書目録とかに出て来た学習装置(テスタメント)みたいなのを魔導具で作って、その効果を魔導書に乗せてしまえばいいんですの。わたくしは神秘と魔導が一緒になった精霊を持っているのですから、不可能ではありませんし、試す価値はありますわ。

 

「固定の魔導書や技術書が出来れば戦力増強に繋がります。感謝いたしますわ」

「喜んで頂けたら幸いですわ」

「じゃあ、魔法はどうしましょうか?」

「そうですわね……貴女達、なにか意見はございます?」

 

 わたくし(時崎狂三)がそういう時、何時の間にか子供達が沢山集まっておりました。その子達は小首を傾げながら色々な意見を出してくださいます。その中には金色の髪の毛をしたハイエルフであろう子達もいます。

 

「わたし達はずっと遊びたい!」

「わたしも!」

「わたしも~!」

「時間いっぱい~」

「それがいいね~」

「ふむふむ……なるほど。では、決めましたわ。貴女達も手伝ってくださいまし」

「「「「「は~い!」」」」」

 

 わたくし(時崎狂三)が子供達の意見を聞いて何かを決めたようで、子供達にお菓子をあげながらお手伝いを頼みました。その後、紅茶を入れ出したので思わず質問します。

 

「どんな魔法ですの?」

「それは発現してからのお楽しみですわ」

「意地悪ですわ」

「可愛い子には意地悪したくなるものですわ。くるみもリリさんに意地悪をしているでしょう?」

「否定はできませんの……」

 

 差し出された紅茶を一口飲むと、とても美味しくて思わず言葉に出してしまいます。

 

「……美味しいですわ……わたくしが淹れるのと違って……」

「淹れ方がまだまだ甘いのですわ。どうせなら覚えて帰ります?」

「お願いしますわ」

「ええ、では紅茶の淹れ方から女の子としての知識も教えてさしあげましょう。子供であるくるみに教えるのはわたくしの役目ですもの」

「……いらないのもあるんですが……」

「却下ですわ。子どもの頃とはいえ、わたくしと同じ姿なのですからしっかりとしていただきますわ。ええ、拒否権は認めませんとも」

「それでも拒否したらどうなりますの……?」

「ぶち殺しますわ」

「是非教えてくださいまし!」

「よろしいですわ」

 

 紅茶の淹れ方を手取り足取り教えていただきました。膝の上に乗せられながらなのでとても嬉し恥ずかしの体験でしたわ。胸が凄く柔らかくてドキドキしました。それに失敗したらやり直させられましたが、成功したら優しく撫でていただけて大変気持ちが良かったです。なんだかとても安心しますの。流石はわたくし(時崎狂三)ですわ! 

 

「では、次は女性としての行動ですわね。足技は基本的に使わないようにしてくださいまし。するのなら、ちゃんとスパッツでも穿きなさい」

「パンチラは男の子の夢でしてよ?」

「捨てなさい。今は女の子なんですから。だいたい他の男に見せるなど論外ですわ」

「わかりましたの。とりあえずリリさんにお店を聞きましょう」

「それがいいでしょう。それと変な神にも注意するのですよ。奢って貰えるからって軽々しくついていってはいけません!」

「わかっておりますわ。ちゃんと逃走手段を確保しておりますし……」

「それでも危険なので止めなさい」

「はいです」

「次は……」

 

 普通に立ち振る舞いや礼儀作法などのマナーを叩き込まれてしまいました。歩き方とかも矯正され、生理の時の対応などしっかりと教えられてしまいました。この身体に生理とかあるかはわかりませんが。

 

「後は……力の使い方でも教えるとしましょう」

「力なら使えていますが……」

「時喰みの城の使い方などが甘いですわ。それに貴女は何故空を飛ばないんですの?」

「え?」

「わたくし達は普通に空を飛べますわよ」

「人が空を飛べるはず……」

「まあ、完全に精霊になっていないので無理かもしれませんが……最低でも時喰みの城を展開中であれば空を飛べるはずですわ」

「っ!?」

「時喰みの城は影に異空間を作り出す事と結界を作る事は別です。そもそもわたくし達の戦いとは時喰みの城による結界を展開してからが本番でしてよ」

 

 分身達を使って相手の影を踏んで身体を重くしてからですか。確かにその通りです。

 

「技術も拙いですし……指導してあげますわ。しっかりと覚えて帰りなさい」

「え?」

「おいでなさい──────〈刻々帝(ザアアアアアアフキエエエエエエル)〉!!」

「ちょっ!?」

 

 影から時計盤の天使を出しながら放り投げられました。空中で回転しながらそのまま落ちていきますが、ここが夢なら普通に着地できるはずです。そう思うとちゃんと着地できました。そして、改めてわたくし(時崎狂三)と向き直ります。

 

四の弾(ダレット)

 

 文字盤にある四の数字から黄金の光が小銃へと吸い込まれ、わたくし(時崎狂三)が自らを撃つと彼女の身体がわたくしと同じ姿へと変化しました。

 

「さあ、始めますわよ。まず一の弾(アレフ)は基本中の基本。これは出来ていますわね?」

「もちろんです。というか、本当にやりますの?」

「ええ、ええ、やりますとも。しっかりと教育してさしあげますわ」

「わかりましたの。<刻々帝(ザフキエル)>! 一の弾(アレフ)!」

 

 互いに天使から銃弾を供給して自らを撃って加速した後、互いに撃ち合いを始めましたが、全ての技術があちらが上です。わたくしの理想とする動きを身体に叩き込まれていきます。

 

「小銃は射撃武器だけではありません。接近専用の武器としてもお使いなさい」

「壊れますけれど!」

「銃としての機能は壊れません。斬られたとしてもすぐに手元に作り出せるのですから、撲殺の道具としなさい。それと二丁拳銃についても練習なさい。小さな身体とはいえ、精密射撃をしなければ問題はありません」

「わかりました!」

 

 くるみねっとわーくを使って全員の脳とリンクさせて演算領域を確保してわたくし(時崎狂三)の動きをトレースして身体に覚え込ませていきます。

 

「では、次のステップです。わたくし達!」

 

 わたくし(時崎狂三)のわたくしが大量のわたくし達を呼び出したので、こちらも対抗して呼び寄せます。集団戦闘の基礎と弱点など戦い方をわたくし(時崎狂三)からしっかりと教えて頂きます。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「よろしい。及第点ですわ」

「……あ、ありがとう……ございました……」

「まだまだ弱いですが、精進してくださいまし」

「頑張りますわ」

「っと、そろそろ時間ですわね。では頑張るのですよ」

「はい!」

 

 大人姿に戻ったわたくし(時崎狂三)に抱きしめられて撫でられた後、急速に意識が遠のいていきます。

 

「「「「「ばいばい~!」」」」」

「「「「「またね~!」」」」」

 

 子供達の声が聞こえた後、目を開けるとリリさんも起きていました。ですので、一緒にソーマ様の所に向かい、ステイタスを更新してもらいます。まずはリリさんからです。すると〈贋造魔法少女(ハニエル)〉という劣化〈贋造魔女(ハニエル)〉の魔法が追加されていました。

 

「やりましたね!」

「クルミ様のお蔭です! リリなんかに魔導書なんて高価な物をいただけるなんて……」

「リリさん、なんかではありません。リリさんだから渡したのです。そこを間違えないでくださいまし」

「クルミ様……」

 

 リリさんに抱き着いて頬っぺたをスリスリと擦りつけてあげます。大変柔らかくて気持ちが良いので、グッドです。

 

「あ、あの、こそばゆいです……それに次はクルミ様の番ですよ」

「そうでしたわね。ソーマ様、お願いいたしますわ!」

「わかった」

 

 わくわくしながらステイタスを更新していただきます。勉強してある程度は読めるようになりましたが、不安なのでリリさんと一緒に読んでみます。

 

停止世界(ザ・ワールド)?」

「ちょっ!? 詳しく!」

「えっと、待ってください! なんですか、これ!」

 

停止世界(ザ・ワールド)

 ・結界型時間封印魔法

 ・結界内部の流れる時間を封印し、使用者以外の時間を全て強制的に停止させる。停止させた時間の十倍、魔力か寿命を消費する。追加詠唱で効果上昇。

 ・詠唱『時よ、止まりなさい』

 ・追加詠唱『時の精霊たるわたくし(時崎狂三)が命じます』

 

「DIO様やメイド長、ほむほむごっこができますわ!」

「いや、何言っているのかわかりません」

 

 つまり、停止している世界の中でわたくしだけが動いて色々と出来るというわけです。これは強いですわ(断言)。ちょこっとわたくし達に試させてみましょう。ちょうどインファントドラゴンと遊んでいますしね。

 

「ひっ!?」

「どうしました? 喜びから一転して恐怖に染まっていますが……」

「分身とインファントドラゴンが消し飛びました。後、ダンジョンに大きな穴を開けました」

「は?」

「リリさん、知っていますか? 速くなると質量が増大していきますの。時間が停止している中で動いた物体はどのような速度になるのでしょうか?」

「……えっと、よくわかりませんが、物凄くはやいのではないですか?」

「正解です。では、その速さに身体が耐えられるでしょうか?」

「無理、だと思いますが……まさか……」

「はい。解除した瞬間、爆発しました。後、時間停止中は全ての物が破壊不可のようで、動くのもかなり力が入りますわね」

「……はい、使用禁止ですね」

「うぅ……せっかくの魔法が……ただの自爆魔法……ぐすっ……」

「よしよし。大丈夫です。クルミ様は普通に強いですから。それにレベルアップすればどうにかなるかもしれませんよ」

「そう、ですわね。それに賭けましょう」

 

 リリさんが抱きしめて慰めてくれたので、涙を腕で拭ってなんとか立ち直ります。レベルアップすればまともに使えるようになるかもしれません。それに使い方が無いわけでもありません。要は自爆覚悟で攻撃すれば火力が大幅に上がるというだけの事です。つまり、分身体(わたくし)を弾丸にして攻撃させればさながら超電磁砲のように馬鹿みたいな火力を持った質量攻撃ができるというだけです。

 

 

 

 

 

 

 

 




【名前】くるみ・ときさき
【レベル】2
【基礎アビリティ】
  力 I 0→I 084
 耐久 I 0→I 181
 器用 I 0→I 093
 敏捷 I 0→H 106
 魔力 I 0→C 661
【発展アビリティ】
 精霊I*1
【魔法】
刻々帝(ザフキエル)*2
神威霊装・三番(エロヒム)*3
停止世界(ザ・ワールド)
 ・結界型時間封印魔法
 ・結界内部の流れる時間を封印し、使用者以外の時間を強制的に停滞または停止させる。停滞させた時間の十倍の時間か魔力を失う。停止させた時間の百倍、魔力か寿命を消費する。詠唱で停滞。追加詠唱で時間停止。
 ・詠唱【時よ、止まりなさい】
 ・追加詠唱【時の精霊たるわたくし(時崎狂三)が命じます】
【スキル】
時喰みの城(150)*4
くるみねっとわーく*5


【名前】リリルカ・アーデ
【レベル】2
【基礎アビリティ】
  力 I 0→B 756
 耐久 I 0→H 102
 器用 I 0→I 099
 敏捷 I 0→I 051
 魔力 I 0→I 009
【発展アビリティ】
 闘争I*6
【魔法】
シンダー・エラ*7
贋造魔法少女(ハニエル)
 ・この世に存在するあらゆる生物や様々な無機物に変身することができる。詳しく対象の事を知っていればいるほど*8再現度は上昇する。本体か分身が変身している場合は変身ができない。
 ・変身詠唱【(リリ)は貴女で貴女は(リリ)。夢幻は現実へ、現実は夢幻へ】
 ・十分間だけ活動できる能力と魔法、全てが同じ自らの分身を一体のみ生成できる。
 ・分身作成詠唱【鏡よ鏡(ミラー・ミラー)】 
【スキル】
縁下力持(アーテル・アシスト)*9
怪力*10



停止世界(ザ・ワールド)の詳しい仕様。
空間レベルで時間を停止すると、空間の時間まで止めると周囲の大気も固まってしまうため、生きながらにして動けず、何も見えず五感も効かない状態になるが、くるみの場合は時の精霊なので身体が重い程度で動けるし、感覚なども正常に作動する。ただし、仲間をこの空間に引きずって動かすとこのような状態となる。
 時間停止した世界でポイントAからBへと動き、時間停止を解除すると移動した場所に瞬間移動した事になる。
 時間が停滞した中で動いたことで超高速で質量が移動した事になる。これにより発生した運動エネルギーは天文学的な数値となり、摩擦によって消滅ないし大ダメージを受けて衝撃波を発生させる。
時間が停止した世界では全てのエネルギーが停止するため、時間を操る事が出来る存在以外では生命活動すら停止している。そのため、一切のダメージが発生せず傷つく事も破壊される事もない。なんらかの力で対象の時間を動かせられれば活動は可能になる。ただし、その行きつく先はお察しください。

*1
奇跡を発動でき、魔道具を制作することが可能な発展アビリティの神秘と魔法の発動時に魔法円(マジックサークル)が発現し、魔法の威力や精神力の運用効率が向上する発展アビリティの魔導が複合されている。

*2
一の弾(アレフ)】:対象の外的時間を一定時間加速させる。超高速移動を可能とする。【二の弾(ベート)】:対象の外的時間を一定時間遅くする。意識までには影響を及ぼせないが、対象に込められた運動エネルギーも保持される性質がある。【三の弾(ギメル)】:対象の内的時間を加速させる。生き物の成長や老化、物体の経年劣化を促進する。【四の弾(ダレット)】:時間を巻き戻す。自身や他の存在が負った傷の修復再生が可能で、精神的なダメージにもある程度有効。【五の弾(へー)】:僅か先の未来を見通すことができる。戦闘中、数秒先の光景を視ての軌道予測等に仕様できる。【六の弾(ヴァヴ)】:対象の意識のみを数日前までの過去の肉体に飛ばし、タイムループを可能とする。【七の弾(ザイン)】:対象の時間を一時的に完全停止させる。強力な分消費する時間は多め。【八の弾(ヘット)】:自身の過去の再現体を分身として生み出す。分身体は本体の影に沈む形で待機が可能。生み出された分身体を全て駆逐しない限りいくらでも呼び出すことが可能であり、殺害されても何度も蘇る。分身体のスペックは本体より一段劣っており、活動時間も生み出された際に消費した『時間(寿命)』しか活動できない。また、基本的には天使を行使することも出来ない。情報のやり取りを通じて記憶を共有する事もできる。【九の弾(テット)】:異なる時間にいる人間と意識を繋ぎ、交信することができる。撃ち抜いた対象者と会話したり、見聞きしたものを共有できる。【一〇の弾(ユッド)】:対象に込められた過去の記憶や体験を知ることができる。【十一の弾(ユッド・アレフ)】:対象を未来へ送ることができる。進む時間に応じて消費する時間・魔力は加速的的に上がってゆく。【十二の弾(ユッド・ベート)】:対象を過去へ送ることができる。遡る時間に応じて消費する時間・魔力は加速度的に上がってゆく。歴史を改変し元の時代に戻ってきた場合、その特異点となった人物は改変前の記憶を保持、または思い出せる。魔力と寿命を消費して発動する。発動には基礎コストとして十日を消費する。また、発動する魔法の数字が上がるにつれて十日ずつ関数で消費が増加する。六の弾(ヴァヴ)からは百日に増加。

*3
歩兵銃と短銃の二丁拳銃を物質化する。攻撃に使う銃弾は物質化した影で出来ている。

*4
周囲に影を張り巡らせ、自らの影に異空間を作成する。影に触れている存在の時間を吸い上げる。異空間の中に沈んで移動や潜伏ができる他、特定の人物を引きずり込んでの捕食や保護も可能も可能。作成には寿命を一年消費する。寿命を一年消費するごとに異空間の広さを拡張できる。一メートル四方、一年ずつ増やせる。

*5
分身体の脳を同期接続させてリアルタイムで視界、記憶、知識、認識、経験などを共有することができる。中枢個体(オリジナル)のステイタスが更新された場合、他の個体も更新させる事が可能。また、分身体を利用して中枢個体(オリジナル)が魔法を発動する事ができ、分身体が習得した魔法やスキルを中枢個体(オリジナル)もスロットを関係なく会得できる。

*6
力、器用、敏捷を1ランクアップ

*7
体格が大体同じなら、どんな姿にでも変身できる変身魔法。詠唱式は【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】。解除詠唱は【響く十二時のお告げ】

*8
名前、年齢、性別、身長、体重、魔法、スキル、所属ファミリア、人間関係、歩んできた歴史など

*9
一定以上の装備過重時における補正。能力補正は重量に比例する。

*10
力のステイタスが限界突破し、成長能力が増加する。自身の重量の三の倍数を超える武器を持つ場合、超えた分だけ力のステイタスをレベルアップさせる。



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皆で冒険(強制)しよう!

お待たせしました。
パソコンが壊れて書けませんでしたが、新しいパソコンを購入して設定が終わったので再開です。
ユーザー辞書を戻すのがすごく大変でした。ええ、とっても時間がかかりました。後、お金がすごく消えました。くすん


 わたくし達が停止世界(ザ・ワールド)の魔法を、リリさんが贋造魔法少女(ハニエル)の魔法を手に入れた数日後。わたくし達の内、四人とグレイはバベルの前に立っています。

 

「これよりダンジョン深層への遠征を開始する。今回も上層の混乱を避けるために二手に分かれて移動する。一班は僕、二班はガレスが指揮をする。今回はヘファイストスの鍛冶師とソーマのクルミが参加する。合流するのは十八階層だ。そこから一気に五十階層に移動する。それと知っての通り、今回はヘファイストス鍛冶師はもちろんだが、クルミに関しては何としても守るんだ。彼女が今回、僕達の生命線だ。いいね?」

「「「はい!」」」

「クルミの護衛には私とガレスがつく。私達が雇ったのは三人で、一人はホームに待機だからな。だが、アイズが個人的に連れてきたクルミに関してはアイズとグレイに護衛してもらう」

 

 アイズさんがわたくしを後ろから抱きしめて頭に顎を置いてきます。それを見たレフィーヤさんが恨めしそうに見ていますわね。ちなみにグレイはティオナさんに抱きしめられております。

 

「今回、彼女のスキルに頼った初の遠征だ。僕達にとってかなりの利益が出るが、念の為に最低限の荷物は持っていく。彼女が何らかの形で殺されてしまっては困るからね」

「失礼ですわね。オリジナルが()られない限り、一人でも生き残っていれば即座に増援を送って差し上げますわよ」

「でも、別料金だろ?」

「特急料金で三割増しですわね」

「それだと六割も持っていかれるから赤字だよ」

「言っておきますが、さすがに冗談ですわよ。まあ、お金はともかく魔石はいただきますが」

「わかっている。その代わり、いざという時の治療も頼むよ」

「ええ、お任せくださいまし」

 

 今回、ロキ・ファミリアの遠征でクルミレンタルサービスによって派遣されるのは三人。報酬は全体売り上げの三割。それも魔石はギルドに売らずにすべてソーマ・ファミリアでギルドの相場より一割増しで買取る契約をしております。このオプションをつけることで、もう一つのサービスである緊急時における治療も受けられます。一の弾(アレフ)による行動速度の増加と四の弾(ダレット)による喪失した手足の復元。これらは戦闘を行う方々にとってはとてもありがたいサービスとなりますわね。もちろん、代金は手に入れた魔石を使用させていただく契約なのでわたくしの懐は痛みません。

 そもそも基本サービスである戦闘の補助などもございますが、正直言ってわたくしが足手纏いなのでこちらのプランは今回なしです。代わりに物資の無制限移動が基本プランとなっております。今回でいうと一人がロキ・ファミリアのホームに待機して、ついていく二人と情報を常に共有して必要な物資を集積されているホームから前線に時喰みの城(ときばみのしろ)を経由して送り込みますの。物資の中にはベッドはもちろん、医療品や服、拠点防衛の攻城兵器なども含まれます。ええ、普段なら絶対に持っていけない物も、わたくしが経由することでダンジョンに持ち込めます。また、手に入れたドロップ品も全てホームへと渡されるのでそれらを換金して追加の物資を集めることも可能です。

 また、追加料金をいただきますが、殿も承ります。自爆特攻攻撃と攻城兵器を際限なく使用して皆様が安全に撤退できるように文字通りの命を懸けて務めさせていただきます。使った費用もしっかりと請求させていただきますので、オススメはできませんが。

 

「ベッドで寝られるのも、美味しい温かい新鮮な料理が食べられるのも魅力的だよね~」

「まったくね」

「うん。寝袋より絶対に快適」

「それに服も着替えられるのがいいですね。あまり持ち込めませんし……」

「確かに! それはおっきいかも! 一ファミリアにクルミ一人だね!」

「ティオナの言う通り」

 

 ギューと抱きしめてくるアイズさんの腕を有り得ない情報がくるみねっとわーくを通して伝わってきたことで思わず掴みます。するとアイズさんがこちらを見詰めながら、不思議そうに小首をかしげます。色々とバレているようです。

 

「アイズ、痛いんじゃない?」

「あ、ごめんなさい。大丈夫?」

「平気ですわ。それよりも、フィンさん」

「なんだい?」

「ちょっとレベル5以上を数人貸して下さいません? 代金は一割の削減で構いませんので」

「只事じゃなさそうだね。何があったのかな?」

「別のわたくしがレベル4以上で武器を持ち、鎧を着たゴブリンと追いかけっこをしておりますの」

「「「は?」」」

「ええ、ええ、皆様の驚きもわかりますが、事実ですの」

 

 というか、おそらくレベル5の方々です。その彼らがゴブリンの格好をして襲撃してきているわけですわね。

 

「レベル4以上のゴブリンとか笑えるな」

「ふむ。それ、もしかしなくても他のファミリアじゃないかな?」

「ゴブリンの泣き真似をしているのでゴブリンでしょう。そういうことにしておいた方がふんだくれますので」

「なるほど、ふんだくれるのか」

 

 フィンさんはこの間の事をアイズさんから報告されているので、しっかりと理解してくださっているようですね。ですので、わたくしが伝える言葉は決まっております。

 

「ええ、ふんだくれますわ」

「いいだろう。報酬は僕達もかましてくれるなら構わない。アイズ、ベート、ティオナ、ティオネ、付いてきてくれ。リヴェリアは僕の代わりに一斑の指揮を頼む。ガレスは予定通りだ」

「了解した」

「任せておけ」

「椿さんも一緒に来てくださいませんか?」

「手前もか?」

「リリさんが一緒なので、実地で見てあげてほしいのです」

「良かろう。手前の弟子だからな。師匠として助けてやるとしよう」

 

 全員が準備できたので、わたくし達は神威霊装・三番(エロヒム)の小銃と短銃をそれぞれ呼び出して一緒に来てくださる皆様とわたくしを狙います。

 

「「「「<刻々帝(ザフキエル)>。一の弾(アレフ)」」」」

「よし、行くぞ! 先ずはゴブリン狩りだ!」

 

 加速の支援もかけたのでゴブリンを殺すRTA、ゴブリンスレイヤーのお仕事開始です。最速で、最短でゴブリンは皆殺しですの! 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 わたくしとリリさんの二人はベルさんと一緒にダンジョンへと潜っております。現在位置は九階層を移動中です。主にベルさんが先頭を歩いて魔物(モンスター)を狩っているのをわたくしとリリさんで見学しておりますの。

 

「凄いふぇすベル様っ!」

 

 ベルさんがウォーシャドウと毒を巻き散らかすパープル・モスの集団をヘスティア・ナイフとリリさんがプレゼントしたバゼラードの二刀流で手早く斬り殺しました。魔物(モンスター)達から現れる魔石とドロップアイテムはすべて時喰みの城(ときばみのしろ)で回収してヘスティア・ファミリアのホームではなく、此花亭(このはなてい)と隣接しているソーマ・ファミリアのホームにある一室へと送ってあります。

 後でわたくし達の方で換金して渡す契約ですし、戦いの後は温泉を楽しんでゆっくりとしてから食事をしてヘスティアさんとご一緒にお帰りになられるという予定ですわ。

 

「あはは……リリの方がもっとすごいよ」

 

 リリさんは嬉しいのか、耳と尻尾がブンブンと振られていてちょっとムカつきますの。

 

「リリなんてまだまだ……んんっ!」

 

 ちなみにわたくしは贋造魔法少女(ハニエル)ではなく、シンダー・エラを使って獣人に変身しているリリさんに後ろから抱き着いて耳をハムハムしております。だって、暇ですもの。

 

「クルミさまぁっ! いい加減にしてくださいっ! ダンジョンなんですよ!」

「だって、九階層ですわよ? わたくし達のお庭なんですのよ?」

「いや、そうなんですけど……」

「あははは」

 

 ベルさんも笑って目を逸らしていますが、実際にわたくし達にとって熟知した安全な階層なのです。壁から生まれ落ちる一番危険な生物ともいえるキラーアントは生まれると同時にダンジョンの四方から聴こえる仲間を呼ぶ声に近い方に向かっていきます。当然、進行方向に居る冒険者は行き掛けの駄賃として襲撃されますが、少し道からそれたり、隠れていたりすれば放置されます。

 何より、背後から襲撃することが可能となるので、他の敵が居ない状況で確実に殺せれば安全です。まあ、殺しきれなくて周りにもキラーアントが居たら優先的に狙われますが、階層中から集まることはないのでましですの。

 

「でも、集めて狩るのってどうやるんだろ?」

「見に行きますか? 正直、気持ちいいものではありませんわよ」

「あ~ベル様にとってクルミ様が行っている事は刺激が強すぎるかもしれません」

「そうなの?」

「はい」

 

 リリさんが優しく説明しておられるのですが、ここで少し悪戯心が芽生えてしまいました。ですので、しっかりと教えて差し上げましょう。これも勉強でしょうしね。

 

「簡単な事ですよ」

「クルミ様っ!」

「いいではありませんの。知りたいのなら教えて差し上げれば……ベルさんが決める事ですわ」

「それは……」

「あの、どんな風に……?」

「まず、ダンジョンの端にある広いルームを探します。そこに大きな傷をたくさんつけてから、手足を切り取って止血した複数のキラーアントを縛って吊るしておきます。もちろん機材は持ち込んでありますの。あとはそこに仕掛けをして待つだけですわ。ね、簡単でしょう?」

「ひっ……」

 

 ベルさんが青白い顔になってわたくし達から少し距離を取りました。この方法はカヌゥさんが自分やザニスさんの邪魔な方々を始末する時に使っていた方法を応用したものです。やってきたキラーアントはすべて時喰みの城(ときばみのしろ)の効果で瞬時に時間を吸い取られて死んでいきます。だというのに健気に仲間を助けるために集まってくるのですから、少し愛しくなってきます。女王蟻にせっせと餌を運んでくる働き蟻のようでとても素敵ですわ。もちろん、時喰みの城(ときばみのしろ)以外にも戦技訓練として普通に戦ってもいます。

 

「いともたやすく行われる残虐行為ですよ、まったく……」

「なんでそんなことを……」

「もちろん、効率良く狩りをしてコストを得るためですわ」

「コスト?」

「わたくしの魔法は自らの時間、寿命を削って発動しますの」

「それって……」

「ええ、使いすぎれば死にますわ。ですが、時喰みの城(ときばみのしろ)というスキルを使う事で他の生物、魔物(モンスター)の時間を吸い取る事で時間の回復ができますの。ですから、集めていますの」

「そっか、そんな理由があるんだね」

「はい! この話は終わりです! それよりも先に行きますよ!」

「仕方がありませんわね。素敵なお耳と尻尾は後程堪能させてもらうとして、今はさっさと進みましょう」

「うん。いっぱい稼いで神様に美味しい物を食べさせてあげるんだ!」

「ベル様……ヘスティア様は此花亭で良い物を賄いとしてもらっていますよ?」

「そうだった!」

 

 他愛ない話をしながら洞窟の中を駆け足で進んでいきます。もちろん、出てきた魔物(モンスター)はベル様が殺して、時喰みの城(ときばみのしろ)で回収します。わたくしとリリさんはベルさんが取りこぼしたり、数が多かったりした場合はさっさと処分させてもらいます。レベル2になった事で相手になりませんし、これで問題ありません。ただ、いつもより魔物(モンスター)がかなり少ないのは気になります。

 

 

 

 しばらく進んでいくと、広いルームへと到着しました。わたくしとリリさんはベルさんが足を止めたので一緒に停止します。彼は首の後ろをかきながら辺りを見渡しました。釣られてわたくし達も見渡して警戒しますわ。

 

「何か感じない? 誰かに見られているような……」

「確かに見られているような感じがしますわね」

「さぁ、リリにはわかりません。ですが、何か違和感があります。遭遇した魔物(モンスター)もクルミ様が狩っているにしては少なすぎます」

「うん。それに冒険者も……っ⁉」

「どうしました?」

「ううん、なんでもない……行こう二人共……」

「そうですわね」

「わかりました」

 

 少し進むと奥から複数の魔物(モンスター)の鳴き声が聞こえてきました。それはどこか聞き覚えがあるものです。

 

「いっ、今のは……」

「く、クルミ様……リリ、この声に聞き覚えがあります……」

「奇遇ですわね。わたくしもありますわ」

「ぼ、僕も……」

 

 声が聞こえた方に振り向くと、複数の柱に支えられた通路の先から複数のミノタウロスが歩いてきます。まるで少し前の再現であるかのようにです。

 

「な、なんで九階層にミノタウロスが……ベル様クルミ様! 逃げましょう! レベルアップしたとはいえ強制停止(リストレイト)に対抗できなければ即死です! ベル様は対抗できません!」

「そうですわね。ですが、あの時と同じです。殿は必要ですの。ですから、リリさんはベルさんを連れて逃げてください。ここはわたくしが死守して見せますわ」

 

 神威霊装・三番(エロヒム)を呼び出し、<刻々帝(ザフキエル)>を発動して即座に短銃で頭を撃ち、小銃で足を撃つ事で一の弾(アレフ)五の弾(ヘー)を使用します。

 

「た、確かにクルミ様は分身ですから死ぬことはありえません……」

「あ、わたくしは本体(オリジナル)ですわよ?」

「なにやってんですかぁぁぁぁぁっ⁉ ロキ・ファミリアの遠征は今日からですよ!」

「ちょっと書類仕事に疲れたので運動しに……」

「あほですかぁっ! ああもうっ! 逃げるのは無しです! リリの武器をください!」

「逃げないのですか? 別にわたくしだけでしたら、何時でも逃げられるのですが……」

「それなら……いえ、やっぱりなしです。リリが今度は殿になるので分身と交代してください。オリジナルは直ぐにダンジョンから撤退を……」

「だが、断る」

「く・る・み・様?」

「わたくしがリリさんを置いて逃げることはありませんわ。ええ、ええ、ありえませんの」

「っ⁉ ば、馬鹿な事を……」

 

 そう言いながらリリさんの武器を取り出して渡します。

 

「今週のびっくりどっきり武器は何時もの戦斧です」

「なんですか、それ」

「様式美でしょうか?」

「まあ、確かにクルミ様の武器はびっくりでドッキリなおもちゃ箱のようなものですね」

「トイ・ボックスとはしゃれておりますわ」

 

 わたくしとリリさんは固まったままのベルさんの前へと進み出て、二人で武器をクロスさせます。もちろん、ただカッコイイからしているわけではありません。

 

「ベル様! ここはリリとクルミ様で抑えます! ですから逃げてください!」

「で、でも……」

「大丈夫ですわ。もともとわたくし達はベルさんの護衛としてヘスティアさんに雇われていますもの。これは業務内容ですわ。それに……倒してしまっても構わないでしょう?」

「ベル様! おはやく!」

 

 私はリリさんにも一の弾(アレフ)五の弾(ヘー)をクロスさせた小銃から撃ちます。ミノタウロス達はこちらに気づいて走りだしてきました。ですので、こちらも開始します。

 

「さぁ、リリさん。わたくし達の戦争(デート)を始めましょう」

「何時ものですね。はい、リリ達の戦争(デート)を始めましょう」

 

 わたくしはミノタウロス達に小銃と短銃を向けながら時喰みの城(ときばみのしろ)を展開してます。ミノタウロスの時間を奪いながらの戦闘を行い、時間切れによる勝利も狙いますの。

 

「わたくし達!」

 

 影から呼び出した二十八人のわたくし達による弾幕を展開します。まず八名が掃射し、次の八名が掃射。前の八名が再装填を行い、次の八人が射撃態勢を取って狙いをつけます。残り四人は神威霊装・三番(エロヒム)ではなく、剣や大剣、戦斧などを装備して前衛をさせます。

 

「きひっ! これが魔王の三段撃ちですわ!」

 

 レベルアップして魔力が格段に増えました。ですから、作られる影の銃弾も威力が上昇しておりますの。故に前みたいにミノタウロスの肌で弾かれるなんて事はなく、皮膚にめり込む程度のダメージは与えられます。

 その間にリリさんが地面に火花を散らせながら震脚を使いもう一人のわたくしと共に高速で移動し、ミノタウロス達の横に到着します。そこからリリさんが両手を組んで足場を作り、わたくしを打ち上げます。打ち上げられたわたくしは柱を蹴ってミノタウロス達の上に移動しながら影から取り出した武器を捨ててていきます。無数の重量武器がミノタウロス達の集団に降り注ぎますが、ミノタウロス達は前方のわたくし達が放つ三段撃ちによって突進を阻害されていたのでそれなりのダメージを与えられます。

 

「「「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」」」

 

 咆哮を複数あげられて強制停止をさせられそうになりますが、精霊であるわたくし達には効きません。もちろん、霊結晶(セフィラ)を取り込んでいるリリさんもです。故に彼女はミノタウロスの背後から接近して腹に一撃を決めます。

 

「うりゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 全身を回転させながら腹に放った戦斧の一撃は咆哮を放つ事で無防備なミノタウロスの横腹へと命中し、巨体のミノタウロスを吹き飛ばして柱に激突させました。

 

「ギャ」

「ちっ、殺しきれませんでしたか」

 

 両断はされておりませんが、大きく横腹が斬り裂かれたことで少しすれば死ぬでしょう。今は放置で構いません。ですが、リリさんはそうは思わなかったようで、壁に居る方にガントレットに仕込んだ杭を放ってしっかりととどめをさされました。

 そうしていると、ミノタウロスの何匹かはリリさんの方に気づいて彼らも手短にある適当な武器を掴んで攻撃してきます。

 

「甘いです! リリがどれ、だけっ! 椿様に武器で攻撃されていると! 思っているんですかぁっ!」

 

 相手の雑な攻撃を回避して懐に飛び込んだリリさんは足の指を狙って切断して動けないようにして無効化します。

 前面は銃撃で防ぎながら残り四人でリリさんを援護。わたくしはバリスタを取り出して照準を調整します。

 

「カウント五! 四!」

 

 リリさん達に聞こえるように伝えながら準備して、未来予知による弾道計算を行って確実に命中するように放ちます。放たれた鋼鉄製の矢はミノタウロスの皮膚を貫き、後ろに居た他のミノタウロスをも貫いていきました。バリスタの一撃で数匹、殺せた事はとても大きいですわ。

 次弾装填のために別のバリスタと交換します。その間にリリさんの方もわたくし達と共に再突撃を行います。あちらもミノタウロスの攻撃を未来予知により先読みし、加速で強化された速度を活かして回避しながら攻撃に繋げていっております。

 一人が剣などで受け止めると別の二人が攻撃して確実に殺していきます。リリさんの方も力だけならレベル3から4はあるので、その力で地面を蹴る震脚を使った高速移動により火力を上昇させた一撃でミノタウロスの防御を粉砕して大ダメージを与えていきます。怪我を負っても即座に四の弾(ダレット)による治療を行います。

 

「僕は……僕は……」

 

 このまま戦えば普通に勝てるでしょう。もうレベル1とは違うのです。戦闘能力は格段に上昇しているのでミノタウロスも人海戦術と攻城兵器を利用すれば勝てますわね。

 

「かはっ⁉」

 

 そう思っていたら、リリさんが吹き飛ばされてきました。リリさんは空中で体勢を整えてちゃんと足から着地して地面を削って速度を殺します。

 

「リリさん、何が?」

「敵の増援です」

 

 ミノタウロス達の方を見ると全身鎧を着て大剣を引きずる者がこちらにやってきました。

 

「GIGI!」

 

 ソイツはわたくし達が苦戦していたミノタウロスをまるで紙でも切るかのように大剣を一振りして殺し、こちらに突撃してきます。

 

「撃ちなさい! <刻々帝(ザアアアアアアフキェェェェェェル)>‼ 七の弾(ザイン)!!」

 

 相手は高速で大剣を振るって銃弾をすべて吹き飛ばしてきました。もはやレベルが違います。

 

「リリさんっ! ベルさんを連れて撤退なさい。はやく!」

「待って! 僕は……」

「邪魔です! いいから逃げなさい! リリもです! 優先順位を履き違えるなっ!」

「はいっ!」

「ちょっ⁉ 離してリリっ!」

 

 リリさんがベルさんを無理矢理掴んで持ち上げ、走り去っていきました。これで構いません。わたくし達の勝利はベルさんが生きて帰る事。次点でリリさんが生き残る事。最後に如何にして被害を減らすかです。

 

「GIGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGI!!」

「はっ、どうやら狙いはわたくしのようですわね! ええ、相手をしてさしあげますわよ!!」

 

 銃弾を放っても効きやしません。こちらの弾丸が命中すれば終わりだとまるでわかっているかのように執拗に銃弾を弾いていきます。

 

「とりあえず、これから始めましょう」

 

 大量の小麦粉をぶん投げて切らしてやります。そこに銃弾を叩き込んで粉塵爆発を巻き起こしてやります。もちろん、わたくし達は影に退避します。

 

「っ⁉」

 

 ですが、退避する前に爆発の中から煙を引き裂きながら現れた鎧を着た相手の手に首を掴まれて引き倒されます。滅茶苦茶臭いゴブリンの臭いがする相手に馬乗りされて動きを封じられ、新しく引き抜いた短剣をわたくし目掛けて振り下ろそうとしますが、その前に飛びのいて煙に隠れました。彼が居た場所を無数の弾丸が通過したので、どうにか助かりましたわ。

 そう思った瞬間にはまた煙の中から現れて大剣を振り下ろしてきます。別のわたくしが小銃を盾にして防ぎますが、吹き飛ばされるので五人くらいで支えます。それでも直撃を受けたわたくしの腕はへし折れておりました。

 

「散っ!」

 

 散らせる事で誰がオリジナルかわからなくさせます。ですが、各個撃破されるだけではあります。ですので、何人かを生贄にします。

 相手の剣を体で受け止めて、その位置をくるみねっとわーくで把握。そこに向けて停止世界(ザ・ワールド)を発動させます。

 

「「「「「時よ、止まりなさい。停止世界(ザ・ワールド)」」」」」

 

 わたくし以外の五人による神威霊装・三番(エロヒム)による時間が停滞した世界での攻撃。発射された弾丸はわたくしの魔力によって構成されている為に時間が停滞した世界でもある程度は普通に動きます。ですが、一定の距離を離れると空気の壁などの影響によって急激に遅くなって止まっているかのような速度になります。

 

「「「「「解放(リリース)」」」」」

 

 発動させて行動した五人は指がはじけ飛び、その衝撃で身体が消し飛びます。放たれた弾丸は摩擦によって消滅して衝撃波だけを巻き散らかします。停止世界(ザ・ワールド)内部での移動は世界が辻褄合わせのように相対性理論を適応してくるようです。ポイントAからBへの移動を完全な零秒で行う事は世界にとって矛盾を生み出す事になります。Aにあった物がBに移動しているというのは世界に同時に存在しているということでもあります。そこで世界は矛盾を解消するために0.000何秒かに書き換えて認識し、相対性理論を適応させるのでしょう。そうでないと矛盾によって崩壊する可能性があるからでしょうね。これが完全な0秒でなければその通りに適応されるのでしょうが、停止世界(ザ・ワールド)は完全停止ですから仕方がありません。

 

「GIっ⁉」

 

 無限質量によるエネルギー攻撃。その包囲攻撃ですので、逃げれる道はございません。外れた攻撃はダンジョンの壁を粉砕し、その奥の通路まで次ぐ次とぶち抜いてくれました。ですので、同じく吹き飛ばされてボロボロでかろうじて生きている身体に四の弾(ダレット)を撃ち込んで再生します。後は空いた穴から逃げます。ええ、逃げます。

 

「GIGIGI⁉」

「「「「GUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!」」」」

 

 相手も流石の破壊力に驚いているようですが、無視です。ええ、何せ敵に増援が現れたのですからね! 逃げるが勝ちですの! 

 

 

 逃げていたら、槌を持つ別のゴブリンさんと出会って襲われます。背後から必死に逃げてきているゴブリンさんも居ます。楽しい楽しい追いかけっこですわね。ですから、ゴブリンさん達には二の弾(ベート)をプレゼントしてさしあげますわ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「離してリリ! クルミが死んじゃう!」

「クルミ様はこの程度で死にません! ええ、死にませんと……っ⁉」

 

 急に通路から現れた戦斧に咄嗟にベル様を投げ捨ててリリの戦斧を盾にして受け止めます。リリの足は地面に埋まりながらもなんとか防ぐ事ができました。

 

「ゴブリンの臭いをさせていますが、冒険者様ですよね? こんな事をしていいと思っているのですか? ギルドに報告しますよ?」

「GIGI?」

「はっ、何を言おうとしらばっくれると? レベル3を超えるリリの力に対抗できる小人族がロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリア以外に居るもんですか!」

「GI!」

 

 相手は気にせずにこちらに攻撃してきます。それを捌いていきますが、やはりレベル差を覆す事はまだ難しいです。

 

「ベル様! 逃げてください!」

「できない! リリを置いていくなんて無理だよ! 僕も戦う!」

「GI!」

 

 まるでその意気やよし! とでもいうかのように相手は連撃を強めてきます。ですから、リリは飛び退って仕切り直しを図ります。相手は応じてくれないので、わざと武器を打ち上げさせてその隙に残っていたもう片方から仕込み杭を放ちます。ゴブリンさんはヘルメットの隙間を通る矢を口で受け止めてそのまま振り下ろしてきました。それを両手で挟み込んで無理矢理止めます。

 

「今助け──」

「ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッ!!」

「──え?」

 

 リリ達が居る場所に大剣を持ったミノタウロスが入ってきました。このゴブリンモドキを相手しているときにミノタウロスまでなんて絶望的です! 

 

「ベル様逃げてぇぇぇぇっ!」

「……できない! それに逃げちゃダメだ。逃げちゃ駄目なんだ!」

「ベル様っ!?」

「僕は、僕は! アイズさんに追いつきたいんだ! だからっ! 冒険しないとっ! リリ! ミノタウロスは僕に任せて! 君はそのゴブリンの強化種に集中して!」

「ああもうっ! どいつもこいつも馬鹿ばっかですかっ! うがぁあああああああああああああぁぁぁぁぁっ! やってやりますよ! ええ、リリも冒険してやろうじゃないですかっ! 鏡よ鏡(ミラーミラー)! そして私は貴女で貴女は私! 夢幻は現実へ、現実は夢幻へ! 贋造魔法少女(ハニエェェェェェェル)‼」

「GI⁉」

 

 リリの姿が変化していきます。体格から服装、武器まですべてです。怪力のスキルがなくなり、力は少し下がりますが、全体的に能力はかなり上がります。

 

「行くぞ! ()()の戦いを存分に味わえ!」

「GIIIIIIIっ!?」

()()も負けていられません!」

 

 手前(リリ)の師匠である手前(椿様)の事なら戦い方に関してほぼ全て教えてもらっておる。故にスキルも魔法も再現可能! 

 

「ふははははははははっ!」

「あははははははははっ!」

「GIIIIIIIっ!」

 

 両手に大剣を持ちながら、振り下ろすと相手は戦斧でしっかりとガードしてきます。そこを分身のリリが戦斧で攻撃し、吹き飛ばす。その逆もしかり。互いに自分であるうえに師匠と弟子のコンビネーションアタックだ。このまま叩き潰してくれる! 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「行くぞミノタウロス!」

「ブモォオオオオオオォォォォォッ‼」

 

 戦いだすベル・クラネルと鍛えたミノタウロス。それにソーマ・ファミリアのリリルカ・アーデ。ベル・クラネルだけではなく、あのリリルカ・アーデというのも面白そうだ。フレイヤ様は気に入らないかもしれないがな。

 

「ちっ、先に取られたか」

「アレンか。それに残り一人だな」

「俺たちの誰かが参加するか? あっちは二人だろ」

「アレは魔法で増やしただけだ。ルールに抵触する」

「残念だな」

「はぁい♪ ご機嫌いかがですの? とっても愉悦していますか? わたくしは全然ですの♪」

「「「「っ!?」」」」

 

 声に振り返ると、そこにあの小娘が居た。彼女の金色の瞳にある時計の針は高速で回転している。

 

「見学している皆様にとっておきのプレゼントがございますの」

「なに?」

「こちら、請求書ですわ」

「あ?」

「メロンはないのかよ?」

「メロンの代わりにこちらですわ。たっぷりと堪能してくださいまし」

 

 後ろから急速に接近するソレは請求書を渡してきた小娘の頭をパクリと咥えて持ち上げて噛み砕いた。彼女の血液が俺達に降り注ぐ。

 

「コイツがメロンの代わりとか狂ってやがるだろ!?」

「ジャガーノートだとっ!?」

「しかも複数だ」

 

 通路の奥を見ると、ガリバー兄弟の残り二人と、彼らを追ってきているジャガーノートが五匹。普通なら有り得ない状況だ。何があったのか、皆目見当もつかん。

 

「兄貴!」

「助けてくれ!」

 

 全部で六体のジャガーノート。ジャガーノートは37階層に出現する階層主であるウダイオスと同等のレベル6。つまり、レベル7である俺よりは下であり、レベル6のアレンと同格。そしてレベル5のガリバー達にしたら格上だ。

 

「フレイヤ様に言ってたな。お前達も冒険すると」

「いいだろう。やってやる!」

「マジで!?」

「無理だって!」

「死ぬ!」

「それな!」

「俺が三体を受け持つ。アレンは二体。残りはお前達だ。行くぞ」

「「「ちくしょう!」」」

「レベル7になってやる!」

 

 久しぶりに本気で()るとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 




ベル君は原作通り強化種。結果は変わらないので簡素化。
リリはガリバー四兄弟の一人、戦斧使いに劣化椿との二対一。
クルミはガリバー四兄弟の大剣と戦闘後、ジャガーノートと追いかけっこ。そこに槌が合流。、なお普通に分身と入れ替わってバックレた。分身は請求書を渡した後はマミられた。
フレイヤ・ファミリアはジャガーノート六匹。大剣使いは重症をエリクサーで治した模様。

ダンジョン(ダイスの神様)がお怒りです。それとデアラの精霊の力って神様と似ているんですって。時間停止からのダンジョン破壊。うん、ダンジョンからしたら神様による攻撃を受けたと判断してもおかしくないですね。


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君の名は

ジャガーノートの魔石部分を修正しました。


 

 

「きひっ!」

 

 ダンジョンが何度か震えてからどこもかしこも地獄が展開されて、皆が皆、死力を尽くして冒険しないと生き残れない地獄が九階層という上層部で展開されております。巻き込まれた適正レベルの一般人は巻き込まれただけで即死間違いなしという、まさにこの世の地獄ですわね。

 

「なんだか楽しそうだね」

「ええ、とっても楽しいですわよ。というか、楽しまないとやってられないというのが正直の感想ですわ」

「そんなにそのゴブリンが強いの?」

 

 ダンジョンの内部をロキ・ファミリアの方々と最短で突き進むわたくしにティオナが話しかけてきました。ちなみにわたくしはアイズさんにお姫様抱っこされております。速度差が凄まじいので仕方がありません。何れは追いつき、追い越したいですわね。

 

「いえ、ゴブリンから相手が別の物に代わりまして……もうまもなくわかるかと」

「それならば急ごう。すぐそこだ」

 

 フィンさんの言う通り、すでにかなり近づいております。その証拠に奥の方から複数の轟音と魔物(モンスター)の咆哮。そして、雄叫びのような悲鳴が聞こえてまいります。

 

「誰か来るぞ!」

 

 奥の方から冒険者であろう方々が血を流しながら必死に逃げてきます。

 

「たっ、助けてくれぇぇぇぇっ!」

「死にたくない死にたくない!」

 

 そんな彼らの後ろから骨の形をした魔物(モンスター)が吹き飛んできました。ソイツは彼らの近くに着地し、クルリと吹き飛んできた方に向き直ります。それと同時に尻尾が死神の鎌となって冒険者の二人に迫ります。

 

「させるかっ!」「おりゃぁっ!」「てりゃぁぁっ!」

 

 ベートさんとティオネさん、ティオナさんの三人が骨の尻尾を攻撃することで勢いを殺していきますが、そのまま三人ごと吹き飛ばされます。ですが、その間にフィンさんが二人の冒険者を掴んでいつの間にかわたくしとアイズさんの隣にやってきていました。

 

「クルミ。これがゴブリンの代わりかな?」

「そうですわ。全部で六体居ますの」

「……聞き間違いかな? ジャガーノートが六体?」

「この子達はジャガーノートとおっしゃるんですのね。ええ、ジャガーノートが六体。それで間違いありませんわ」

「そうか。それでクルミ。君は何をしたんだい? 正直に答えてごらん?」

「わ、わたくしがやったとおっしゃるんですの?」

 

 アイズさんに降ろしてもらいます。アイズさんはすぐに戦闘に参加していきます。三人だけなら辛かったようですが、そこにレベル6であるアイズさんが加われば普通に戦えているようですの。

 

「ゴブリンというのはフレイヤ・ファミリアだ。大手である彼等はジャガーノートが生み出される理由を知っている。だから、これはそれを知らない者がやらかした事だろう。そんな事が可能であろう冒険者を僕は君以外に知らない」

「わたくしだって不可能ですの」

 

 プイっとフィンさんから視線を逸らして高速戦闘をしているアイズさん達の方を見ます。

 

「じゃあ、こう言おうか。人と精霊の融合体であり、精霊の発展アビリティが出ている君ぐらいにしか、そのような奇跡は起こせないし、ダンジョンがジャガーノートを六体も生み出すことなんてまず有り得ない」

「なんでわたくしのアビリティを知っていますの?」

「グレイから聞いたからだけど?」

「あの子はっ!」

「で、何をやらかしたのかな?」

「わ、わたくしは無実です。ええ、わたくしは悪くありません」

「それを判断するために教えてくれないかな? ジャガーノートの対象までは契約外だ。このまま撤退してもいい」

「……襲われたので新しく習得した魔法を使いましたの」

「もしかして、魔物(モンスター)を召喚する魔法だったのかな?」

「いえ、ゴブリンさんに向って数人で撃ちました。威力が高すぎてコントロールも効かないので範囲攻撃をしましたの」

「もしかして、それで外れてダンジョンの壁を粉砕したと?」

「その通りですわ。もう周りが粉々で危うくわたくしも死に掛けましたわね」

 

 フィンさんは痛そうに頭を手で押さえました。ですが、やはりわたくしは悪くありませんの。だって、生き残るためにやったことですし? 責任があるなら試練とか言って襲撃してきたフレイヤ・ファミリアの皆さんでしょう。

 

「わたくしは被害者で、自らの命を守るために危険な魔法を使っただけですの。ですので、問題はありません。ですよね?」

「ああ、そうだね。だが、今後は出来る限り使用禁止で頼むよ。もちろん、生命の危機があった場合はその限りではない。ただ君の場合は本体さえ地上に居れば問題ないだろ?」

「それだと冒険にならないではないですか。そんな者はボウケンシャーではありません。ましてやてそんな者は時崎狂三でもありませんの」

「君は君なのだから、何を言っているかはわからないが……確かに安全な場所から分身を送り出すだけでは冒険とは言えないか」

「はい。ですのでダンジョンには入りますの」

「まあ、僕としては君が無事で居るのならそれでいい。ロキ・ファミリアから護衛を送るのも考えよう」

「あら、随分と過保護なのですね。別のファミリアでしてよ?」

「それだけ君の価値は高いという事だ。僕達ロキ・ファミリアにとっては特にね」

 

 フィンさんがアイズさんを見ながら伝えてきた内容を精査する限り、ロキ・ファミリアは……いえ、アイズさんはわたくしか、精霊に関係するとみていいでしょう。なんとなくアイズさんは同類に近いような、そうでないような不思議な感じがしますしね。

 

「さて、そろそろ僕も行くとしよう」

「頑張ってくださいまし」

「ああ、問題ない」

 

 フィンさんが駆け抜け、槍をジャガーノートに思いっきり投擲しました。それはジャガーノートの頭部に命中し、大きく体勢を崩します。そこにアイズさん達が畳みかけようとしましたが、背後から現れた全身怪我だらけの大きな人によってジャガーノートの首が切断されて霧へと代わりました。

 

「おい! コイツは俺達の獲物だぞ!」

「いいや、俺の獲物だ」

 

 その方は無骨な大剣を肩に乗せて、もう用はないと奥へと走っていきます。奥の通路からは身体中の骨が欠けてボロボロになっているジャガーノート二体がその方に襲い掛かっていきます。彼はそのまま突撃して振るわれている爪を掻い潜り、もう一匹の爪を大剣で弾き、相手の爪を掴んで引き寄せてもう一匹にぶつけて体勢を崩させます。そして、大剣を突き刺して一匹が苦しんでいる間にもう一匹へと接近して腕を叩き込んで骨を砕き、それだけでは飽き足らずに一部の骨をへし折りました。

 

「これで残り一匹だ」

 

 全身から血を噴出させ、骨が刺さって折れている腕を無視しながら獰猛に笑う彼に残ったジャガーノートは数歩後退り、即座に突撃して飛び上がります。彼は構えを取ってジャガーノートを待ち構えますが、ジャガーノートはそのまま天井を蹴ってわたくしを目指してやってきました。

 

「愚かな」

 

 彼が即座に転がっている大剣を手にもって投擲すると、大剣はジャガーノートの首を切断して天井に突き刺さります。ですが、ジャガーノートは首だけになりながらもわたくしの下までやってきて噛みつこうとしてきます。

 

「させない」

「甘い!」

 

 ロキ・ファミリアの皆さんが弾いてくださり、わたくしは椿さんに掴まれて後ろに下がらされました。ジャガーノートの頭部は壁へと激突して止まりましたが、こちらを恨めしそうに見ながら塵へと消えていきます。

 

「オッタル。随分と派手にやっているようだね」

「そこの小娘が原因だ」

「責任転嫁は止めていただけます? そちらが襲ってきたのが原因ですの」

「だが、ダンジョンに直接的な被害を出したのはお前だろう」

 

 そう言いながら、わたくしにジャガーノートの残った骨の一部を掴んで投げてきました。意味もわからず受け取ると倒れそうになりましたが、ティオナさんとアイズさんが支えてくださいました。

 

「迷惑料ですの?」

「違う。今すぐ俺を治療しろ。まだ残っているからな」

「ああ、治療か」

「そうだ。十分なはずだ」

「毎度ありがとうございますわ。<刻々帝(ザフキエル)>、四の弾(ダレット)

 

刻々帝(ザフキエル)>を呼び出し、肉体の時間を巻き戻す弾丸を短銃に装填してオッタルさんを撃ちます。みるみるうちに彼の身体は巻き戻され、怪我が一切無くなりました。

 

「ふむ。血液も戻るか。便利だな」

 

 手を握ったりして確かめた後、彼は即座に大剣を天井から引き抜いて奥へと踵を返していきます。わたくしはジャガーノートの骨に抱き着いてしっかりと時間を回収します。ジャガーノートさんの骨から回収できた時間はなんと一八九年分。流石はレベル6。美味しすぎますわ! 

 

「それ、魔法を完全反射する装甲殻なんだが……」

「にゃんですってっ!?」

 

 フィンさんの言葉に既に遅く、ジャガーノートのドロップアイテムは力を失って綺麗さっぱりなくなってしまいました。

 

「待ちやがれ!」

「ちょっ!」

 

 悲しんでいると、ベートさんとティオネさんがオッタルさんを追っていったので、わたくし達も進んで行きます。通路の奥では槍を持った男性がジャガーノート二匹相手に超高速でダンジョンの壁を足場に駆け回り、翻弄して着実にダメージを与えて足止めしていっています。

 

「邪魔すんな! くそ犬!」

「あんだとくそ猫がぁっ! 一匹寄越せって言ってんだ!」

「断る!」

 

 彼の腕はよく見るとなくなっており、服を切って縛っているだけです。その状態で高速移動しながら着実に削りとっていますの。

 

「まだだっ! もっと速く! 速く速く速く!」

 

 ジャガーノートが口を開けた瞬間、自ら飛び込んだのか、いつの間にかジャガーノートの体内におり、内部から馬鹿みたいな速度で移動して槍で骨を次々と砕いておりました。

 ジャガーノートの一体がボロボロになって崩れると、そのままの勢いで転がって地面を削りながら壁に激突して腕をへし折りました。そんな状態でも彼は近くに落ちた槍の持ち手に噛みついて残ったジャガーノートに突撃していきます。

 

「うわぁ、すごっ」

「いいわね。あそこまで全力で戦うなんて……少し見直したわ」

「だね~。ただの口悪い猫じゃなかったんだ! 流石はフレイヤ・ファミリアの副団長だね!」

「まあ、彼もレベル6だしね」

「絶対に追いついて……追い越してやる」

 

 彼等を見ながら時喰みの城(ときばみのしろ)を展開し、全身の骨を砕かれて消えかけているジャガーノートの時間を回収します。砕かれた骨からは急速に時間が失われていきますが、巨大な分だけ美味しいです。 時喰みの城(ときばみのしろ)内部であればわたくしの領域です。この中で倒されたのであれば余すところなくいただくことができますわ。

 先程回収した一八九年の内、一五〇年を時喰みの城(ときばみのしろ)の強化に充てて広範囲から搾取できるようにしておきます。

 

「助けるならあっち?」

「止めてもらおう。まだその時ではない」

 

 オッタルさんがガリバー兄弟さん達を見守りながら、待機しております。彼等は三人で頑張って相手をしております。

 

「ベーリングが居ないから辛い!」

「「それな!」」

 

 槍、大槌、大剣を持った鎧姿のゴブリンの臭いをさせる三人が連携してジャガーノートを翻弄しております。一人が狙われたら、即座に他の二人で相手の攻撃を弾き、残り一人が噛みつこうとしてくる頭部や尻尾を弾いていきます。三人共、鎧はボコボコになっておりますが、普通に戦えております。

 

「ベーリングだけ楽をしてズルい!」

「「まったくだ!」」

 

 あちらを無視してわたくしは椿さんと一緒にリリさんとベルさんの所へと向かいます。ですが、わたくし達の前にオッタルさんが立ちふさがります。

 

「あちらも手を出すな」

「わかっておりますが……」

「死にそうになったら手を出させてもらう」

「死ぬのならばそれまでだ。邪魔をするというのなら……」

「なら、そうなったら僕達が止めさせてもらおう」

「本気か? 遠征の最中だろう」

「だからだよ。戦争になるが、こちらは遠征をしている最中だ。戦う先が深層からフレイヤ・ファミリアに変わるだけさ」

「……いいだろう。だが、それを判断するのは奴だ」

「ああ、もちろんだとも。僕達は予定通り救援に向かう。行くぞ」

「ちっ」

 

 皆さんでオッタルさんの横を駆け抜けて更に奥にあるルームに入りました。そこでは有り得ない光景が起こっております。

 

「なんで椿が二人も居るの!?」

「うむ。アレは確かに手前だな」

 

 椿さんとリリさんが共闘して一人の鎧を着た……もうガリバー兄弟でいいですわね。そのガリバー兄弟の内、大戦斧使い、ベーリングさんと激しく戦っております。

 大戦斧と二振りの大剣が激闘し、その隙をリリさんの戦斧が襲います。椿さんの戦い方は椿さんにそっくりです。体格もまったく同じです。

 

「これはどういう事なんだ?」

「まさかお前も分身しやがんのか?」

「いやいや、手前には無理だ。アレは手前の弟子であるリリが変身した姿であろう。しかし、手前が見てもそっくりであるな。面白い」

「リリさんの魔法は分身と変身です」

「しかし、なんで彼女はあんな大きなバックパックを装備しているんだ?」

「捨てたほうがいいよね~」

「スキルの関係だな」

 

 そうこうしていると、偽椿さんの攻撃をわざと腕のガントレットで受け、その衝撃を利用してやってきていたリリさんに大戦斧を叩き込んで吹き飛ばしました。そのリリさんは幻のように虚空へと消えてしまいます。そうなると、即座に偽椿さんは下がってきました。

 

「助かった! クルミ様、増援を連れてきてくれたのだな!」

「ええ、そうなんですが……」

「リリよ。お主はこのまま一人であやつの相手をせよ」

「は?」

「何、殺されはせん。ちゃんと助けてやるわ」

「いやいや、リリを助けてくださいよ!」

 

 そう叫んだ偽椿さんは姿がブレて小さくなり、何時ものリリさんの姿に戻りました。

 

「あっ!? つい何時もの癖で叫んでしまいました……」

「解除されたか」

「なりきらないとダメなのですね」

「そのようです。で、本当にリリが一人で相手をするんですか?」

「うむ。師匠命令だ。やれ」

「ああ、もう! わかりましたよ!」

 

 リリさんに一の弾(アレフ)四の弾(ダレット)五の弾(ヘー)を撃ち込んであげます。それからリリさんはベーリングさんの方へ向かい、互いに戦斧と大戦斧を構えます。これ、レベル2と5の戦いなんですよね。そのせいか、ベーリングさんは余裕みたいなのがあります。

 

「クルミ」

「なんですの?」

「少しお願いがある。リリの武器はもう限界だ。一級品のアレと打ち合っていたのだから当然ではあるが……」

「新しい武器ですわね」

「そうだ。主神様のところから持ってきてくれ。八番のケースだ」

「了解しましたわ」

 

 即座にくるみねっとわーくを通して、ヘファイストス・ファミリアで働いているわたくしに影へと入れさせます。大きな黒いケースを時喰みの城(ときばみのしろ)を経由して取り出し、椿さんに無茶苦茶重い大きなケースを渡します。その間にリリさんの武器は完全に破壊されました。

 ですが、リリさんは格闘戦に切り替えて戦っております。背中のバックパックを盾に……いえ、ハンマーのようにしながらドゴンドゴンと質量攻撃をしだしました。更にローブに仕込んだ爆弾や煙玉などなんでも使いだしました。

 

「ねえねえ、アレ毒物なんじゃない?」

「うん。毒だね」

「なかなか強かな戦い方だ」

 

 観戦している方々の横で椿さんがケースを開けると、そこに黒色の柄に深紅の刃を持つ巨大な戦斧が入れられておりました。刃や柄には神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれており、両端が深紅の刃がある黒色の基礎部分には大きな深紅の宝玉が埋め込まれております。そこには当然のように神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれており、宝玉の中には燃え盛る炎が見えます。

 

「刀身と柄の外側は手前と主神様で鍛え上げて圧縮に圧縮を重ねたアダマンタイトを使用。持ち手の中心にはオリハルコンとミスリルの合金を内部にコーティングし、弾丸を挿入できるようにしてある」

「装填されている魔力は?」

「すべて充填済みだ。手前が今回の遠征で実験する予定であったからな」

「なるほど。システムはどうです?」

「ヘルメス・ファミリアのペルセウスから貰った魔導具も組み込んである。それをクルミが調整した奴だ。間違いはあるまいよ」

「ですわね」

「そして中心にはクルミから頂いた精霊の力が結晶化した霊結晶(セフィラ)の欠片であったか。アレを主神様とヘスティア様の血液を利用して一週間、炉心に入れてアダマンタイト、ミスリル、オリハルコン、魔石をふんだんに混ぜ合わせて宝玉化した物を配置してある」

「弾丸は?」

「ソーマを蒸留して純度を99.9%にした物と魔石の粉末を混ぜ魔力を限界まで溶け込ませてある」

完璧(パーフェクト)ですわ」

「恐悦至極じゃ。手前も主神様も十分に楽しませてもらった。問題は多々あるが、一応は完成であろう」

「(資金的な)問題はないです」

「そうだな! 試作機が金喰い虫なのは当然だ!」

 

 椿さんは神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれた大戦斧を持ち上げ、全力でリリさんの方に投擲しました。

 

「リリよ! 新しい武器だ! 受け取れ!」

「ちょっ!?」

 

 相手側はそれを聞いて即座にその武器を壊しにかかりました。相手の大戦斧がリリさんの大戦斧と激突して……盛大に爆発しました。

 

「あら?」

「うむ?」

「君達は何をやっているのかな?」

 

 どうやら、激突した衝撃でシステムが発動したようで、周りを燃え盛る炎で包んでしまいました。リリさんと相手は燃え盛る炎に焙られて必死に逃げ回っています。

 

「リリさん、サラマンダーウールのローブと手袋です」

「助かります!」

 

 サラマンダーウールを渡してあげると、すぐにそれを着ました。ちなみにこのサラマンダーウールは白色で猫耳が付いている可愛いやつです。リリさんは気にせず着ました。

 

「あの、武器が明らかに壊れているんですが!」

「その程度では潰れんよ。なんせ不壊属性(デュランダル)だからな!」

「いくらしてるんですかぁ!?」

「何億ヴァリスでしたっけ?」

「プライレスではあるが、十億……いや、二十……まあ、五十億はせんだろう。なんせ使っている素材が素材で新システムも搭載してあるからな!」

「ふざけんなですっ!」

 

 リリさんが炎の中で大戦斧の柄を持ち上げようとしますが、重すぎて持ち上がらないようです。

 

「欠陥品ですか!?」

「認証をしておらんからな。その大戦斧の銘はイフリートだ。呼べ」

「認証する詠唱は教えておいたはずです」

「アレですね! わかりました!」

 

 燃え盛る炎の中、リリさんの声が響きます。

 

「風は空に、太陽は天に、不屈の魂はこの胸に! この手に魔法(天使)を! イフリート! セットアップ!」

 

 その言葉と同時に神聖文字が光り、リリさんの髪の毛がツインテールになりました。そして、服装がイフリートの元ネタである<灼爛殲鬼(カマエル)>の所有者、五河琴里が精霊になったときの服装になりました。つまり、天女のような姿ですね。

 

『贋造魔法少女リリルカ・アーデの誕生です! 全てを焦がして灰燼に帰してやります☆』

「って、なんでリリの声でこんな発言しているんですかぁっ!」

 

 もちろん、リリさんが発した言葉ではなく、イフリートに取り付けられている魔導具がリリさんの声で発しただけですの。声はわたくしが録音機器を作って、リリさんに子供達と遊ばせたときにとったものです。

 

「わたくしの趣味です!」

「ああ、あの意味のわからなかった魔導具のアタッチメントはこれであったか」

「はい。変身の様式美ですわ」

「うにゃぁぁぁぁぁぁっ‼」

 

 そんな中、相手さんが炎をまとって突撃してきましたので、リリさんがイフリートを振るうとあら不思議。炎を纏って相手と接触した場所を爆発させました。そして、すぐに炎は消えました。

 

「なんですか、これっ!?」

「ああ、リリさん。カードリッジロード・炎華(アルヴェリア)と言ってくださいまし」

「か、カートリッジロード炎華(アルヴェリア)?」

 

 ガコンという音とともに空の薬莢が排出……なんてされません。そんな物は流石にまだ作れません。システムとしてはショットガンと同じです。使い終わったら纏めて排出です。その場合は強度が落ちるので戦闘中に交換したり捨てたりするのはダメです。

 

「熱っ!?」

 

 再び馬鹿げた熱量に大戦斧が包まれました。リリさんも炎に包まれていますが、サラマンダーウールで作られたあの服も魔導具として特別に仕立てた物なので被害は少ししかありません。長時間使うと肌が乾燥してひび割れたりするぐらいです。

 

「さあ、灰燼に帰すのです! 魔法少女リリルカ・アーデ!」

「ノリノリですね! やってやりますけど!」

 

 リリさんがイフリートを振ると同時に炎が刃のように追従していくので普通に受けることもできません。近づくだけで火傷して、最後には燃やされます。特に鎧なんて着ていると、蒸し焼きか鉄板焼きですわ。

 

「さあ、貴方も冒険してくださいまし。貴方にも()()を用意してさしあげましたわ。フレイヤさんの期待に応えてみせなさい。まさかご兄弟が冒険なさっているのに尻尾を巻いて逃げるとはいいませんわよね?」

「くそがぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 鎧を脱ぎ捨てた彼は大戦斧の柄を自らの服で覆ってから持ち、全力で攻撃して炎を吹き飛ばして攻撃しますが、それ以上に供給される炎と勢いはリリさんの方が上です。そもそも重量も凄まじいですからね。

 ちなみにこの炎はアストレア・ファミリアのアリーゼ・ローヴェルが使っていた武器から得た付与魔法、アガリス・アルヴェシンスの記憶と知識を使って魔導具として再現しました。紅の正花(スカーレット・ハーネル)に相応しい力ですわ。

 

「ああ、成功だ! 間違いなく成功だ! 手前と主神様! クルミとペルセウスの協力があって手前達は新たな領域へと踏み入れた! これは偉業に間違いあるまい! 何せ魔剣に代わるあらたな武器であるからな!」

「ですわね!」

「フィン、アレの風がほしい」

「わたしもわたしも!」

「俺はいらん。あんなのやってられるか!」

「私は団長さえ……」

「いや、あんな馬鹿みたいなお金を支払えるわけないだろう。完全に趣味の領域だよ」

 

 そもそも素材に霊結晶(セフィラ)の欠片みたいなものまで使っておりますからね。どう考えても量産不可の一品ものであり、神器です。神造兵器・神姫ですわね。

 

 

 




リューさんが見たらなんていうか楽しみ。

変身詠唱は魔法少女リリカルなのはから。風は天にはそのままにしました。あの姉妹と声が同じですし、こちらで一応服ももらっていますしね。

ヘスティア様はバイトとしてお手伝いです。お金をいっぱいもらえてホクホクです。ちなみにほとんど返済に使われました。
製作費事態は二億から三億ヴァリスくらいですが、クルミの代金を引いて新技術の提供と実験などのもろもろもあり、技術費と人件費をすべて省いてこの金額となります。もちろん精霊の欠片も計算されておりません。オリハルコンなどの素材の代金のみですね。代用品から作らないと話になりません。



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ボウケンシャーの戦い

 

 

 

 

「フレイヤ様のために死ねぇぇぇぇぇっ!」

「リリ達のために燃え尽きてくださいぃっ!」

 

 燃え盛る炎の海の中。互いに叫びながら手に持つ武器を相手を殺すためになりふり構わず全力で振るいます。大戦斧と大戦斧が激突し、中心で炎の渦が巻き起こります。リリの火に対する耐性があるサラマンダーウールを素材にして仕立てあげられ、全ての布に神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれたこの服は同じサラマンダーウールでも性能が段違いです。

 

「ああもうっ! さっさと死んでくださいっ!」

「断るっ!」

 

 身体を燃やされ、皮膚が火傷で爛れ、肉が焼ける臭いが立ち込めているというのに、相手は気にせずに大戦斧を振るってきます。相手の大戦斧はリリの大戦斧、イフリートが放つ熱によって金属が赤くなっています。更に相手の持ち手も布が燃え尽きて皮膚が完全に焼き付いてしまっています。その状態ですら、リリに対抗できる力と速さ、技術を持っています。リリなら確実に死んでいます。

 

「「あああぁぁぁぁっ!!」」

 

 相手の振り下ろしを横に避けようとしたら、途中で軌道を無理矢理変えて柄の方で攻撃してきます。それをイフリートで受け止めてカートリッジをロードして爆発させて更に燃やします。当然、リリの方もこの服を超えてダメージが入ってきます。

 

「ぐっっ!?」

「もう降参してください! 本当に死にますよ!」

「断る! 勝利するのは俺だ!」

 

 顔の半分が焼けても戦斧を振るってきます。その表情は悪鬼羅刹のようでとても怖く、下がりそうになりますが……ここで下がればリリはもうクルミ様やベル様と一緒に冒険できない気がします。ですから、リリも負けられません。

 

「いいえ、勝つのはリリですっ!」

 

 地面にイフリートを叩きつけ、爆発を起こします。その衝撃で空を飛び、天井に到達するとそこを蹴って身体中の筋力を使って全身で回転しながら上段から振り下ろします。当然、イフリートの火力はカートリッジをロードすることで炎華(アルヴェリア)を発動させて全力の一撃を放ちます。

 

「避けても炎からは逃れられません! これで終わりですっ!」

「なめるなぁぁぁっ!」

 

 リリの全力全開の一撃を相手の人は大戦斧を合わせて全身の力で激突させてきます。激突と同時に炎が解放されてまるで華のように綺麗に咲き誇りました。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!」

 

 相手が炎に包まれ、地面に埋まっていき、ついには大戦斧が熔けて刃が彼に迫ります。ですが、自分から身体を引いてリリの横に移動してイフリートを持つリリの腕を蹴ってきました。

 彼の一撃は地面に力が流れるようにされていて、リリの腕を簡単に砕きました。激痛に襲われる中、視界に迫る拳が一瞬だけ見えたので腕をあげてガードしようとしますが、間に合わずにお腹を蹴られて吹き飛ばされます。酸素どころか血液を口から出しながら何度も地面を転がって止まります。

 呼吸もできなくて、視界もチカチカして、全身から激痛が襲い掛かってきます。もう休んで楽になりたいと思ってしまいます。ですが、明滅する視界の中でクルミ様の姿と遠くで戦っているベル様を見たら、ここで諦めるなんてできません。

 

「終わりか?」

「……相手がまだ立っているのに、リリができないはずが……ありません!」

「うむ」

 

 折れていない腕で立ち上がり、相手を見るとあちらは折れて熔けていった自分の武器を無視して、リリが手放したイフリートを掴みました。その瞬間、イフリートが燃え上がって彼を焼いていきます。相手の人はすぐに手を放してから怪我を気にせずにこちらに歩いてきます。リリもそれに応えるように歩いていきます。互いの速度が段々と上がり、走り出していきます。

 

「「死ねぇぇぇぇぇっ!」」

 

 拳と拳が激突し、リリの拳も相手の拳も砕けました。ですが、それだけでは止まりません。露出した骨を武器として殴って来るのがわかったので、頭を移動させます。すると相手の骨で頬が裂けました。リリも蹴りを放ちますが、相手は腕でガードしてきます。それを粉砕して吹き飛ばしにかかると、相手は蹴りを放ってきました。

 足を上げている状態では股間ががら空きになっているので受けるとまずいです。ですので、残っている腕で相手の足を受け止めて自ら飛びます。

 空中で回転してかかと落としを放ちます。相手も蹴りを放ってきていて、互いに足同士が命中して吹き飛んで回転し、なんとか身体を起こすとあらぬ方向に向いている足がありました。腕も足も砕かれました。もうここで終わりでもいいかもしれません。ですが! 

 

「貴方の、刻印(きず)は……かはっ!? わ、私のもの……私の刻印(きず)は私のも】……しんだ、えら……贋造魔法少女(ハニエル)

 

 魔法を発動すると同時に相手がこちらに飛んできました。リリの上に着地した彼の肘がお腹を強打して血を吐きますが、魔法だけはなんとか維持してクルミ様の姿に変わります。相手は気にせずリリの顔を殴ろうとして、苦しみだします。

 

「なん、だ……これ……」

 

 答えは簡単です。シンダー・エラでクルミ様に変身したことで伸びた髪の毛を贋造魔法少女(ハニエル)で猛毒を持つ無数の蛇に変化させて噛みつかせました。首も締め付けてやります。

 

「こふっ……これで、かったのは……リリ、です……」

「いいや……俺だ!」

 

 握っていた拳を攻撃され、首を絞められているのに気にせずに殴ってきました。リリはその一撃で鼻や顎を砕かれ──

 

「そこまでですわ」

「うむ。勝負ありだ」

 

 ──死に掛けたところで止まりました。リリに放たれるはずだった拳はクルミ様が受け止めており、クルミ様の小さな手は折れ、掌に関しては砕かれています。相手の背後には椿様がおられて身体を押さえつけています。

 

「離セ! 離セェェェェッ!」

「ええ、離してあげますわ。この世界の軛からね」

 

 クルミ様が冷たい声が響き、彼の額に短銃が押しあてられています。クルミ様の背後には時計盤が見え、三の数字を表していました。

 

「そこまでだ。殺すというのなら、手を出させてもらう」

 

 声が聞こえた方を向くと、ボロボロの方々とロキ・ファミリアの方々がいらっしゃいました。同じような小さな方々がクルミ様達に殺気を向けています。

 

「クルミ、やめておけ。お主も納得済みであっただろう」

「むぅ……そうですけれど、そうなんですけれども! ここまでボロボロにされて殺されかけたリリさんを見たらどうしてでもですね……というか、椿様が止めなければ介入していたのですが!」

「カッカッカ! 手前が弟子の冒険を止めるかよ。師匠としてそれはできんのでな! 許せ!」

「く、るみ……さま……」

「ああもう! せっかくレベル5を殺せる機会でしたのに! <刻々帝(ザフキエル)四の弾(ダレット)!」

 

 そう言いながら、短銃の銃弾を引き抜いてから別の銃弾を入れてリリに向って引き金を引きました。銃弾がリリに命中すると、今までの激痛などが嘘のように元気に動けるようになってきました。

 

「反則級の回復能力だな」

「本当にね」

「手前も欲しいな」

「このサービスが欲しければクルミレンタルサービスか治療をご利用くださいまし」

 

 団長の方々に言われたクルミ様は、リリの上に乗っている人を掴んで知らない方々の方に投げようとしましたが、ちっとも動いていません。

 

「……」

「「「ぷっ!」」」

「今笑った奴。ぶち殺してやりますから名乗り出やがりなさい!」

「ああ、すまない。あまりに可愛らしかったのでね」

「うむ。大変愛らしかったぞ」

 

 クルミ様は椿様に頭を無造作に撫でられて、頬を膨らませて影から複数のクルミ様を呼び出しました。

 

「よし、おかわりのジャガーノートが欲しいようですわね。今度は十体くらい召喚してやりましょうか?」

「「「止めろ!」」」

「でしたら、さっさとリリさんの上から退けてくださいます? リリさんに乗っていいのはわたくしだけですわ! ハリーハリー! 早くしないとこの弾丸を撃ちますわよ」

「ちなみに効果はなんなのだ?」

「肉体の加速。つまり、老化ですわね。さて、大怪我をしている状態でこの弾丸を撃てばどうなるでしょうか? 興味がありませんか?」

「オッタル!」

「助けてやって!」

「頼むよ!」

「やれやれ……」

 

 オッタルと呼ばれた人がリリの上に乗っていた人を持ち上げてくれました。彼はもう力は入らないようです。というか、オッタル……フレイヤ・ファミリアの猛者じゃないですか!? オラリオ唯一のレベル7! 

 

「おい! ベーリングも治療してくれ!」

「嫌ですわ。エリクサーでも使えばいいじゃないですか」

「もうないんだよ! それにここまでいったらエリクサーでも無理だ」

「「それな」」

「頼む。金は払う! フレイヤ様に誓ってもいい!」

「「絶対に払う」」

 

 反応を見せないクルミ様に起き上がったリリは横に居るクルミ様のスカートの裾を掴んで引っ張ります。

 

「クルミ様。リリのためにも治療してください」

「リリさん? この人達はわたくしだけでなくリリさんも襲撃して死に掛けるほどの大怪我を負わせたのですよ?」

「それはリリも同じです。それに……このまま負けたままは嫌なのです。ええ、嫌なんです。今度はリリの手で勝ってやります。ですから、万全の状態じゃないと困ります」

「よくぞ言った! クルミよ。手前からも頼む。なんならクルミ専用の武器も無料で作ってやる」

「マジで言っていますの?」

「ああ。弟子の成長祝いだ。何が欲しい?」

「では、ジャッカルを」

「なんだそれは?」

「後で説明しますが、オラリオには無い武器ですわ。まあ、後程フレイヤ・ファミリアに請求しましょう。で、誰が要りますの?」

 

 そう言うと、オッタルさん以外の人が手をあげました。槍の猫人族の方は嫌々ですが、手をあげていますね。手をあげた三人の中では一番怪我が酷いです。

 

「副団長の治療もとなるとお高いですわね」

「絶対に支払ってやるから、治療しろ」

「あら、してくださいの間違いではありませんの? 別に拒否してもいいんですのよ?」

「……」

「「「してください!」」」

 

 喋れなくなっているベーリング様以外のご兄弟は即座に言いました。というか、普通に頭も下げています。

 

「ちゃんと頼むぐらいで助かるなら安いもんだ」

「「それな!」」

「では、四名様ですわね。どれだけの時間、戦闘しました?」

「えっと一時間くらいだよな?」

「いや、もうちょいだ」

「追いかけっこもふくめたら二時間だな」

「でしたら、一人三時間としましょう。<刻々帝(ザフキエル)四の弾(ダレット)

 

 容赦なく四人に弾丸を一発ずつ撃ち込んでいきます。すぐに四人のガリバー兄弟様は傷が消えました。ベーリング様にいたっては起きてから周りを走りだしましたね。

 

「で? どうしますの? ん?」

「……た、たのむ……」

「してください、クルミ様」

「貴様!?」

「聞こえませんね。空耳でしょうか?」

「アレン。フレイヤ様のためだ」

「くそがぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁっ! 頼みます、クルミ様……

「声が小さくて何を言っているのか聞こえませんね」

「……頼みます、クルミ様……」

「空耳が……」

「頼みますクルミ様! 治療してください! お願いします!」

「よろしい。治療してさしあげましょう」

 

 フレイヤ・ファミリアの副団長であるアレン様は顔を真っ赤にして、周りの方々は腹を抱えて笑っている方も居ます。クルミ様はニヤニヤした後、ちゃんと治療してあげました。彼の腕も元通りで、即座に報復に移ろうとしますが、すぐにやめました。

 

「あら、攻撃を仕掛けてくるかと思いましたが、意外に賢明ですわね」

「今、俺もオッタルもここに居る。お前は複数存在していて、影に潜む事もこいつら(ガリバー兄弟)の報告でわかった、そして、ダンジョンを大規模に破壊する手段がある事もな。だから、手を出さん」

 

 苦々しそうに告げた内容から察するに、クルミ様が報復に動けばフレイヤ様が殺される可能性がある事がわかったのでしょう。何せ、先程笑われただけで団長の皆様が必死に止めるような連中を召喚しようとしたぐらいですからね。冗談だとは思いますが、クルミ様だとやりかねません。

 

「って、クルミ様! ベル様は大丈夫ですかっ!」

「ああ、それなら大丈夫ですわ。別のわたくしがしっかりと見ていますし、すでにアイズさん達もあちらで観戦なさっておりますし」

 

 クルミ様が指差した方向ではベル様がミノタウロスと戦っているところでした。今までそれどころじゃなかったので、気づきませんでしたが……なんだか普通に勝てそうです。

 ベル様はミノタウロスの角にバゼラードを命中させて切断しました。ご本人も予想外のようで少し驚きましたが、普通にダメージを積み重ねています。当たれば大怪我ですが、リリが相手をしたベーリング様よりは格段にましです。ガードさえすれば死なないんですから。

 

「うむ。手前がリリに売ったバゼラードか。アレならばミノタウロスの断ちにくい皮膚も問題なく切断できる」

「彼が使っているのは椿の作品か」

「主神様には初心者に渡す物ではないと怒られたが、あの武器の代わりでは仕方があるまいて」

「あのもう一つの武器だな。かなりの業物だ」

「うむ。オッタルの言う通りだ。もう片方の武器は主神様の作品だ」

「ちょっと待ってくれ。つまり、彼はヘファイストス・ファミリアの主神と団長が鍛え上げた一級の装備を持っているってことかい?」

「そうなりますわね」

 

 フィン様が本当に頭が痛そうにしました。

 

「一つ聞くが、ちゃんと盗まれないように言及して対策はとっているんだろうね?」

「リリが盗んでしっかりと教えました!」

「何をしているんだ……だが、確かに教訓にはなるか」

 

 話しながら見ていると、ベル様はミノタウロスの突進を回避してから背後に回って飛び乗り、首にヘスティア・ナイフを、背中にバゼラードを突き刺して魔法を使いだしました。ミノタウロスは内部から焼かれていきます。

 

「美味しそうですわね」

「「「え”」」」

「今夜はステーキにしましょう。子供達の分も買って……いえ、この際ですから牛をまるごと買って焼肉でもいいですね」

「すいませんクルミ様。リリはお肉はいいです……考えただけで吐きそうになります……」

「ああ、リリさんは仕方がありませんわね。さっきまで人を焼いていましたもの」

「やめてください! 思い出させないでください!」

 

 焼かれた人が隣に居るんですよ。というか、椿様はイフリートの柄の底を開けて弾丸を取り出していき、整備しだしていきます。

 

「クルミよ。ほれ」

「ああ、ありがとうございます。<刻々帝(ザフキエル)>、四の弾(ダレット)

「うむ。回復完了だな。再装填すればまた使える」

「あの、もしかしてリサイクルですか?」

「当然だ。これ一発だけでもバカ高い値段がしおるからな」

「ソーマの蒸留酒に魔石を混ぜてた物ですもの。再装填は一発で百万ヴァリスはしますわよ。外側だけでも似たような物ですが」

「運用するのはクルミがいる前提だな。巻き戻さんと話にもならんわ」

「まあ、特別弾はもっとするんですが……」

「アレは主神様達に使用禁止と言われてしまったからな」

「ソレはどうしてなんだい?」

「使用者が死ぬからですわ」

「え?」

「ぶっちゃけるとリリが着ている法衣でも一瞬で焼失する炎を放ちおった。おかげで安全面の観点から禁止となった」

「まあ、神の力みたいなものですからね」

「素材からして神の血であるからな!」

「なんという冒涜を……」

 

 その特殊弾はヘファイストス様かヘスティア様の血と魔石の粉末を高純度に蒸留したソーマに混ぜて作り上げた弾丸という事ですね。それを使えば神様の力が宿った炎になると……使ったら死ぬのが納得です。

 

「まさに神姫であろう?」

「神姫とはどういう意味でだい?」

「神の姫だ。神の使徒である精霊を表している。この武器は精霊の欠片を利用して作っておるからな」

「へぇ……それで神の姫ね」

「何れ成長して精霊となるのも兼ねていますわ。炎の精霊として十分な力をつければ……きひっ!」

 

 話している間にベル様がミノタウロスが消えたことで落ち、地面に着地しました。そのまま背中を見せて動かなくなりましたが、おそらくマインドダウンでしょう。

 

「さて、あちらも片付いたようだが、君達はどうするんだい?」

「用件はすんだ。帰る」

「寝たいからな」

「「「それな!」」」

「ああ……」

「フレイヤ・ファミリアは撤収か。君達は?」

「リリさんは一緒に深層に来ますか?」

「帰ります! か・え・り・ま・す!」

「わかりました。では、ベルさんを運んで帰りましょう。フィンさん、アイズさんを借りますね」

「わかった。皆! 僕達はこの階層を徹底的に調査する! ジャガーノートが残っているかもしれないし、怪我人が居るかもしれない! 警戒して調査にあたってくれ!」

 

 フィン様がしっかりと後始末をしてくれるので、ここはお任せしましょう。ベル様はアイズ様におんぶされて運ばれていきます。リリとクルミ様はそれについていきます。道中は一足先に戻るフレイヤ・ファミリアの方々がしっかりと処理してくださったので問題もありませんでした。

 

「クルミ君! 護衛である君が居ながら何をしていたんだ!」

「彼が冒険をしようとなさったので介入準備だけして待機しておりました。ボウケンシャーは冒険してこそです。そうでないボウケンシャーに価値などございません。彼も一端の男になったという事ですわ」

「むむ……」

「落ち着いて欲しい。クルミとリリはフレイヤ・ファミリアと交戦し、ジャ……レベル6相当の魔物(モンスター)にも追われていた。彼女達がそちらを優先するのは当然だ」

「それにちゃんと逃がそうとしましたよ。でも、ベル様が拒否したんです」

「うん。この子はすごく頑張って冒険してたよ。もちろん、リリもクルミも」

「本当、みたいだね。わかった。今回の事は大目にみるよ。だが、ヴァレン某がベル君の頭をなでている事は別だぁぁぁぁっ!」

 

 ベッドに寝ているベル様の横にアイズさんが座って優しく頭をなでていました。それを見たせいか、クルミ様も座っているリリの後ろから抱き着いてリリの頭を優しく撫でてくれています。

 

「アイズ、遠征に戻るぞ」

「わかった。行こう、クルミ」

「いや、こっちの私は残りますわよ」

「え……」

「そんな悲しそうな顔をしないでくださいまし。ああ、もう! 別のわたくしを貸してあげますから、その子と一緒に行ってください!」

「ありがとうクルミ。お姉ちゃん、頑張る」

「姉ならもっと頑張ってくださらないと困りますわ」

「うん。次はレベル7になる」

「いえ、そっちではなくてですね……まあいいです」

 

 別のクルミ様がアイズさんと手を繋いで出ていったので、リリもお暇します。

 

「お風呂に入って仮眠を取ります」

「確かにそれがいいですわね」

「一緒に入りますか?」

「いえ、一人で入りますわ。色々と仕事が残っておりますもの」

「わかりました」

「ただ、柚さんやキアラさん辺りに一緒に入るように言っておきますわね。お風呂の中で寝たら困りますわ」

「お願いします」

 

 お風呂に移動してお二人に身体を洗ってもらってから干してもらっていた温かいお布団で眠りにつきます……

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りましたフレイヤ様」

「お帰りなさい。待っていたわ! よく頑張ったわね!」

 

 お喜びになられているフレイヤ様が俺達一人一人、抱きしめながら祝福をして頂いた。涙を流し、喜びを感じた後、ステイタスを更新していただく。

 

「最高よ貴方達。おめでとう。全員レベルアップよ。オッタルは残念ながらまだだけれど、アレンはレベル7に、アルフリッグ、ドヴァリン、ベーリング、グレールはレベル6に上がれるわ。これは盛大に宴を開かないといけないわね」

「よし! 追いついた!」

「「「「やり~!」」」」

「ちっ。これなら三匹ではなく全てを相手するべきだったか……」

「拗ねなくていいわ。あなたはレアスキルが発現したもの。憤怒猛執っていうらしいの。力が大きく上昇して物理耐性、魔法耐性が上がるみたいね」

「確かにフレイヤ様のおっしゃる通りですね。更に鍛錬を重ねましょう」

「ふふ、頑張ってちょうだい」

「俺も負けません!」

「俺達も!」

「「「それな」」」

「では、その前にこちらをどうぞ」

「来たわね」

 

 今回は普通に来たようで、案内の者が居る。どうやら、フレイヤ様が事前に通達していたようだ。クルミはフレイヤ様の前に立つと、手に持つ箱の上に乗せていた紙の筒を渡してくる。

 

「請求書です。メロンです」

「いただくわ。アルフリッグ、メロンは貴方達で食べなさい」

「ありがとうございます!」

 

 フレイヤ様がメロンをアルフリッグにそのまま渡し、席に座られてから紐をほどいて中身を確認していく。俺も横から確認する。

 

「アレンが六〇〇万ヴァリスで、アルフリッグ、ドヴァリン、ベーリング、グレールは一人五〇〇万ヴァリスね。治療費が二六〇〇万でその他が一八〇〇万ヴァリス。合計で四四〇〇万ヴァリスと……」

「高過ぎるぞ」

「「「それな!」」」

「ジャガーノートはそっちが呼び出したんだろうが!」

「原因はそちらですもの。本来なら億単位を結構下げておりますのよ?」

「オッタル、支払ってあげて。そうね、五千万ヴァリスでいいわ」

「よろしいので?」

「ええ、気分がいいもの。それに貴方達のレベルアップ費用だと考えたら安い買い物よ。後は彼女へのご祝儀ね」

「はっ」

「……もうちょっと吹っ掛けてもよかったかもしれませんわね」

「あら、少し色をつけてあげたじゃない」

「どうせリリさんの戦いに目を奪われたんですよね?」

「ええ、そうよ。まさか石炭(コール)金剛石(ダイヤモンド)の原石になるなんて思わなかったもの。貴女に関わった事で結合して磨き上げられたあの子はこれからどうなるのか、とっても楽しみよ。もちろん、貴女もね」

「勘弁してほしいのですわ」

 

 そう言いながら踵を返すクルミ。

 

「またいらっしゃい」

「今度はもっと高額にしてやりますわ」

「期待しているわ」

「……これで勝ったと思わないでくださいまし!」

 

 部屋から出て行った彼女を見送ると、フレイヤ様は笑い出した。

 

「本当に可愛らしい子ね。見ていて飽きないわ」

「戯れもほどほになさった方がよろしいかと。アレは神でも手を出します」

「ええ、わかっているわ。あの子は特別だもの。でも、だからこそちょっかいをかけるのよ」

「かしこまりました。これからは念の為に私かアレンがお傍に控えておきます」

「そうね。お願いするわ。それとあのイフリート、同系統の武器が欲しいわね。オッタルの武器にどうかしら?」

「あのような物は必要ありません。あれば便利ではありますが、高過ぎます」

「素材を聞いて取りに行ってもらうのもいいかもしれないわ。とりあえず次の神会でヘファイストスに聞いてみましょう」

「フレイヤ様……さすがに二〇億ヴァリスも出すのは無理です」

「ダメ、かしら?」

「……駄目です」

「やっぱり稼がないと駄目ね。ロキの子供達が遠征を終えたら、私達も出なさい。クルミも連れていって稼いであげなさい。あの子に死なれても困るもの」

「かしこまりました」

 

 

 

 

 




オッタルはさすがに三匹じゃ上がらないと思うの。格下だもの。
基準としてアイズがウダイオスに勝ったときを使っております。

フレイヤ様にリリがロックオンされました。どちらも輝いていたから仕方がありません。

ベル君は少しだけ改変。それ以外は原作通りです。


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星の導き手と神会

誤字脱字報告と感想ありがとうございます。大変励みになっております。
キアラちゃんのキャラ付けと能力付け。彼女は世界樹の子にしました。ボウケンシャーですからね!


 

 

 

「ん……何時の間にか寝ておりましたか……」

「ちゅっ、ぺろっ」

 

 どうやら、事務作業をしている間に机に突っ伏して寝てしまっていたようです。おかげで書きかけの書類に涎手とインクの跡があります。

 書類の作り直しはかなり痛いです。ここ此花亭の宣伝も兼ねてギルドやガネーシャさん、ヘファイストスさんなど、神々に手を回して神会(デナトゥス)を誘致しました。

 その為に書類が馬鹿みたいに増えております。それに加えて先日のダンジョンで行われたフレイヤ・ファミリアの襲撃。そのせいでわたくし達の数が取られた上にギルドに提出する書類が複数できました。

 

「んんっ!?」

 

 ヌルヌルした物が足を這ってきました。執務机の下に視線をやると、中には服を脱いだ金髪の幼い女の子がわたくしの足をペロペロと小さな舌で舐めていました。

 

「キアラさん……何をしていますの?」

「舐めて起こしてた……お父さん、こうして起こすと喜んでいたから……駄目だった?」

「駄目ですの。年齢的に……というか、キアラさんは何歳ですの?」

 

 とりあえず、机の中から引きずり出してから服を着せながら話を聞きます。聞いた年齢は人からすれば成人まじかの十四歳で、もうすぐ誕生日みたいですの。ただ、エルフからしたら幼い子供でしかないようです。エルフのような長命種にとってはままある事ですわね。

 

「舐めなくていいの? 気持ち良くするよ……?」

「魅力的なお誘いですが、遠慮しますわ。むしろわたくしが舐めたいぐらいですし」

「わかった。舐めていいよ。わたし、それぐらいしかできないし……」

 

 両手を広げて身体を差し出してくる彼女を抱きしめてベッドに連れていき、座ります。それから膝の上に彼女の頭を乗せて撫でてあげます。まあ、ほぼ身長が変わらないので少し大変ですの。

 

「先も言いましたが、そのような事はしなくて構いませんわ」

「……いや……捨てないで……」

「捨てません。というか、もしかして、何かしないと捨てられると思っていますか?」

「ん」

「では、まずその勘違いから取り除きましょうか」

 

 しっかりと説明していきますが、キアラさんが受けてきた教育が根強く残っているようです。何もしなかったら捨てると言い聞かせてられてきたからでしょう。彼女からしたら、今の生活を捨てたくないようで、最高権力者であるわたくしに身体を差し出すぐらいなんとも思っていないようです。

 このまま放置していたら悪い人に騙されて大変な事になりそうです。悪い人達はまだソーマ・ファミリアにもいますからね。今は大人しくなさっておりますが、詐欺をしたりするのは普通にやっていましたからね。

 

「何か役割があれば安心しますか?」

「一緒がいい。離れていると不安……」

 

 撫でながら考えますが、彼女もダンジョンに連れ込むのがいいかもしれません。それならわたくしが四六時中一緒に居ることができますしね。ですが、他に何かないか聞いてみましょう。

 

「やりたい事とかありませんか? 出来る限り叶えて差し上げますよ」

「ん……別にないよ……?」

「好きな事はありませんか?」

「ん~星をみること?」

「星ですか?」

「お父さんに命令されていない時はずっと星を見ていたの。とってもきれいだし、見ていると嫌なことがはやく終わるから。それにたまに不思議な生き物も見れるの。ぐにゃぐにゃしてたり、炎の鳥さんがいたり、面白いんだよ」

「待ってください。それは見てはいけないものなのではありませんの?」

「?」

「いえ、いいです。わたくしと一緒に居たいのであれば、ダンジョンに行くしかありませんが……」

「ダンジョン?」

「もちろん危険ですし、死ぬかもしれません。ですので、もう一つの選択肢として……わたくしにその可愛らし耳を触ったり、舐めたりさせて頂ければいいですの」

「じゃあ、両方」

「いや、冗談ですの」

「ん! ん!」

 

 舐めろと差し出されてきたので、抗えずにコリコリ楽します。開発されているキアラさんは喘ぎだして色々とやばいですの。

 

「クルミ様っ! リリは……って、何をしているんですか?」

 

 リリから見たらベッドで幼いエルフの幼女を抱き上げて耳をハムハム、コリコリしている姿です。

 

「ガネーシャ・ファミリアを……」

「同意ですので問題ありませんわ。年齢もギリギリセーフですしね!」

「本当ですか?」

「ん。お願いした」

「なら、構いませんが……詳しく教えてください」

 

 リリさんにキアラさんの事情を説明し、わたくしと一緒にキアラさんについて相談します。彼女の特殊性から、あんまり置いておくのはかなりまずいですしね。

 

「まあ、リリ達と一緒に冒険させるのが無難でしょう。ベストはオリジナルのクルミ様と一緒にキアラをここに置いておくことですが……」

「無理ですわね」

「イヤ」

「まったく……」

「まあ、そういう訳でわたくし達のパーティーに入れましょう。ベルさんに許可を貰わなければなりませんが、おそらく大丈夫でしょう」

「ベル様は女の子には甘いですしね。それにベル様もレベルアップしましたから、中層に向かう事になるでしょう。人数を増やしておいた方が無難です」

 

 リリさんも椿様から中層については詳しく聞いているようです。ぶっちゃけ、人数が居て装備があれば普通に活動は可能なようです。中層で警戒するのは魔物(モンスター)の数と炎を吐いてくるヘルハウンドのみ。それもサラマンダーウールを装備すれば問題ありません。わたくし達の全てとはいえませんが、中層で活動する子達には全員、サラマンダーウールを標準装備させた前衛を二人つけて運営しようと思っております。

 

「まあ、わたくしとキアラさんの二人だけで向かうのでも構いませんよ」

「ベル様に相談してからにしましょう。問題はソーマ・ファミリアの内部にどう説明するか、です」

「そうですわね」

 

 現状、わたくし達のパーティーに入りたがっているソーマ・ファミリアのメンバーは多いです。わたくしが居れば安全は確保されますし、装備だってリリさんみたいに供給されるので待遇が段違いなのです。

 

「明らかに嫉みが発生します。クルミ様の性格からして懐に入れた子は甘々ですし。いえ、耳と尻尾を持つ女の子に、でしょうか?」

「あははは……」

「ハムハムする?」

「後でしますわ。まあ、仕方がありません。ここはリリさんにわたくしのお世話係を外れてもらい、キアラさんをお世話係とします」

「え”!? リリはクビなんですか!? 捨てないでくださいっ! どんな姿にでもなりますから! なんだったらキアラになって二人で……」

「リリさん……貴女は副団長ですから、忙しいでしょう。わたくしの世話はキアラさんにお願いします。負担は減りますよ」

「いそ、がしい? 全てクルミ様がやっていて、副団長のお仕事なんてクルミ様の世話ぐらいしかないんですが!」

「……アレ? あ、本当でした。人海戦術で全て片付けておりますわね」

「じゃあ、もう愛人にしましょう。これなら手を出す事はありませんし」

「お世話係も似た感じですが……」

「よし、二人に増員です。どうせわたくしはいっぱいいますもの。何の問題もありませんわ」

「ですね!」

「おー!」

 

 二人共、納得してくれたようでよかったです。しかし、かなり依存してしまっているのが問題のような感じもしますが、きっと大丈夫でしょう。わたくしと可愛い二人のゆりゆりしい姿を第三者のわたくしで確認すれば最高ですもの。

 

「ところで、リリさんの用件はなんだったのでしょうか?」

「あ、そうでした。聞いてください! リリはレベル3になりました!」

「は? おかしいですわね。空耳が聞こえてきました」

「ですから、レベル3です! 最短ですよ! 一ヶ月未満です! レコードホルダーになりました!」

「……リリさんに……抜かれた……? わたくしがスロウリィ……?」

「リリの勝ちです。クルミ様!」

 

 ニヤリと笑うリリさんの姿にわたくしは立ち上がります。キアラさんがベッドから落ちそうになりましたが、別のわたくしがしっかりと抱きとどめて降ろしてあげます。

 

「今すぐソーマ様のところに向かいますわよ! リリさんがレベルアップして、わたくしがレベルアップしていないはずがありません!」

「どんな理屈ですか。普通に無理じゃないですか? だって、今回のクルミ様、援護していただけですし?」

「いえ、ちゃんと一人はつぶし……きれてはいませんでしたわね。アレ、本当にレベルアップしていないかもしれません! やばいです! 団長としての威厳が! キアラさん! 行きますわよ! リリさんはこの書類をガネーシャさんと此花亭の皆様にお届けくださいまし!」

「ん!」

「わかりました。いってらっしゃいませ」

 

 急いでソーマ様の部屋に入ります。相変わらず酒を造っていますが、強制的に停止させてステイタスを更新してもらいます。

 

「レベルアップはどうですか!?」

「できる。だが、アビリティは上がりきっていない。それでも上げるか?」

「……」

 

 やっぱりあのレベル5は殺しておくべきでしたか? 

 

「偉業は達成している。何時でもレベルアップはできるが……」

「……ちなみにリリさんはどうでした?」

「アイツは力がSSSでそれ以外はAだったな」

「……このままレベルアップするのはなしですわ。よろしい。深層でガチでやってやりますわ」

「好きにしろ。それでは酒作りに戻る」

「あ、キアラさんのステイタスもお願いします」

「……面倒だ」

「お願いします。強制的にもっと止めさせますわよ?」

「代わりに発酵を頼むぞ」

「お任せくださいまし」

「では来い」

「ん」

 

 神の恩恵(ファルナ)を刻まれてステイタスを得られたキアラさん。流石は高貴なエルフの血筋の方であり、魔法を発現されておりました。

 

「魔法名は星術。星々から天空に存在する魔力(エーテル)を集め、それを触媒に発動する魔法のようだ。その特性から星空か空が見える場所では魔力が回復し、威力が増す。スキルは精霊の加護(エーテルマスター)と精霊の寵姫という早熟スキルを持っている」

 

 この子、ハイなエルフちゃんですが、ゾディ子じゃないですか。育てたらメテオとか撃てるかもしれません。あ、ハイなエルフならおかしくありませんでしたね。リヴェリアさんは普通に撃てますし。寵姫はわたくしのせいかもしれませんが、まあいいでしょう。かわいい子なので全然問題ありませんしね。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇ クルミ→ヘスティア

 

 

 

 

 

 僕はベル君のレベルアップを祝ってから、此花亭にやってきた。今回はお客としてやってきたので正装に着替えている。といっても、クルミ君がソーマのついでに用意してくれた服なんだけどね。

 

「やあ、ヘスティア」

「タケミカヅチ。今回はよろしく頼むよ」

「ああ、そちらも頼む。だが、今回は安全だろう」

「圧力を思いっきりかけるからね」

「うむ」

 

 タケミカヅチと一緒に満開の桜並木の道を取り、階段を登って高台にある此花亭に到着した。階段以外にも迂回する遊歩道もあり、そちらも桜並木の道で他の場所に繋がってたりもする。プールなどのアスレチックエリアまであるんだよね。

 

「「「いらっしゃいませ、お客様」」」

 

 狐人族の仲居さん達が迎え入れてくれてる。彼女達に荷物を預けて案内してもらう。案内された部屋は良い景色の部屋でオラリオを一望できる。室内風呂もあるから露天風呂に行かなくてもいい。

 部屋には呼び出し用の鈴もあるから、用件があったらこれを鳴らせばいい。でも、まずはお風呂に行ってから神会(デナトゥス)かな。

 

 露天風呂に入って身体を綺麗にしてから正装に着替えて待機する。仲居さんが迎えにきてくれるので、案内に従って宴会場へと移動する。

 宴会場では既に何人もの神達がやってきていて、席に座っている。僕も席に案内されて座る。すると直ぐに膳が運ばれてくる。簡単なおつまみと良い匂いのお酒が載せられている。

 

「俺がガネーシャだ!」

「知ってるぞ~!」

「うむ。今回は趣向を変えて新しくできたこちらの旅館で神会を行う。温泉もレクリエーション施設も完備されていて、ガネーシャ感激!」

「何より出てくる酒がソーマだしな!」

「確かにそうよね。温泉が気持ちよかったし、そのあとの一杯は最高」

 

 しばらくすると、今度は料理が載った膳が運ばれてきて、おつまみが載ったのが回収されていく。今度の膳には透明なボトルに入った高そうなお酒が二瓶も置かれており、料理も小さな鍋と焼き魚や飾り切りされた煮物などがある。仲居さんが一杯目は説明しながら入れてくれる。それによると、普通のソーマと純米酒と呼ばれるお酒みたい。

 

「うまっ! なんやねんこの酒……」

「ほんまもんのソーマやで! 店に出回らん奴や!」

「やべぇ、病みつきになるっ!」

「お代わり!」

「申し訳ございません。こちらのお酒は特別な物となっており、神会(デナトゥス)限定でご用意させていただいたものになりますので、おかわりはございません。後程、制作者であるソーマ・ファミリアの者が譲渡する用意があるとは言っておられましたが……」

「お土産まであるんだ……」

「ふふ、何を仕掛けているのかしら?」

 

 ヘファイストスやフレイヤ、ロキも皆来ている。ただ、今は食事を楽しませてもらう。なんせただだし、デメテルが丹精込めて作った野菜とかが使われていて、粗末にしたら殺される! しっかりと味わって食べないとね! 

 

 食事が終わり、膳が下げられて壁際に仲居さん達が待機して飲み物、カクテルなどを渡してくれる。ここからは適当に好きな神々と一緒に座る感じだ。僕も美味しいカクテルを飲みながらヘファイストスに近況報告をする。するとフレイヤ達もやってきたので軽く話しておく。なんだかフレイヤはとっても気分が良さそうで、逆にロキは忌々しげに見ているね。

 

「さて、これから神会(デナトゥス)のメインイベントである二つ名を決定するで! 今回はいっぱいや!」

 

 ロキがそう言うと、同じタイミングで扉がバンッと開けられてクルミ君が堂々と入ってくる。神々の視線が集中するけれど、一切気にもしていない。

 

「すいません。主神様を連れてくるのに手間取りましたわ」

 

 彼女の後ろには襟首を掴まれて引きずられてきたであろうソーマが居る。うん、どうやらバックレようとしたみたいだね。勇者だ! 

 

「くるみたん! ソーマは顔が真っ青やけど大丈夫なん?」

「知りません。生きてさえいれば構いませんの。それにこの程度、わたくしが神会(デナトゥス)の誘致にどれだけ苦労したかをわかっているはずですので、当然の対応ですわ。それをコイツは台無しにしようとしやがりました。ええ、普段なら許しましたが、わたくし達の二つ名が決定する時だというのにこの諸行。ぶち殺してやろうかと思いました」

 

 絶対零度の視線に殺気を乗せながらソーマを見るクルミ君は本気でやばい。そんな彼女に神々は面白そうに見ているけど、彼女の怖さを理解していないように思える。

 

「さて、神の方々には申し訳ございませんが、二つ名の前にわたくし、ソーマ・ファミリアの団長からお酒の宣伝をさせていただきます。皆様が飲まれたお酒についてです。お断りなされるのなら持ち帰らせていただきますが、構いませんか?」

「大歓迎や! どうぞどうぞ!」

「おうよ! いいなお前達!」

「「「いいともー!」」」

「俺がガネーシャだ!」

「ありがとうございます。では、お願いします」

 

 クルミ君が手を叩くと、外からソーマ・ファミリアのメンバー達が台車を押してくる。その上には木で出来た箱が複数置かれているみたい。

 

「こちらは純米酒と呼ばれる極東のお酒です。皆様がお飲みになられたのは六割の品ですが、こちらの箱に入っていますのは八割の完成品となります。まあ、ソーマさんが満足することなんて滅多にありません。ましてや新しく手を出したお酒です。それでもかなりの味になります。まずは一献、試飲してくださいまし」

 

 箱を開けて取り出されたボトルにはヘファイストスとソーマ、極東系ファミリアの印が刻まれている。善く善く見れば、箱にも凝った意匠が施されていて、明らかに職人が作ったのだと思われる。

 そんなお酒の蓋が開けられると、部屋中に濃厚な香りが漂ってくる。それをクルミ君が影から無数に呼び出した分身達に神一柱ずつ手渡ししていく。

 僕にも渡されたが、コレは目の前にしただけで美味しいと断言できる。自然と口がおちょこと呼ばれるものに移動していき、飲む。まるでベル君とデートして愛を囁きあって口付けするかのようなもの凄い幸福感に包まれる。そんな美味しさだ。気付けば全てを飲み干していた。もう一杯と手を出しそうになるが、すでにクルミ君は消えていた。

 

「さて、皆様。先程お飲みいただいた純米酒と完成品のソーマ。それに加えてワイン、リキュールの四点セットをご用意いたしております。どれもソーマ・ファミリアが、ソーマさんが自信を持って提供する逸品となります」

 

 その言葉に神々が本気でクルミ君を見詰める。彼女の横にある台車には沢山の箱が積まれており、全員が持ち帰っても問題ない数がある。

 

「な、なあ……くるみたん……それ、くれるん? 無料で? お土産やんな?」

「不思議なことをおっしゃいますのね。もちろん無料であげるわけないじゃないですか。売れば数百から数千万ヴァリスはするのですよ?」

「「「デスヨネー」」」

「わたくし達ソーマ・ファミリアとヘスティア・ファミリアのお願いを聞いて頂ければ差し上げますわ。聞いていただけないのなら、差し上げません。もちろん、売りもしません。これはわたくし達がヤケ酒として全部飲ませていただきます」

 

 唇に指をあてながら可愛らしくも妖艶な感じで言ったクルミ君に全員の視線が釘付けになる。

 

「神を脅そうというのか?」

「とんでもありませんわ。わたくしはギブアンドテイク。商取引を持ち掛けているだけですもの。購入するのにお金を支払うのは当然ですのよ。ましてやこちらのお酒はデメテル・ファミリア、ヘファイストス・ファミリアに加えて極東系の方々にご協力頂いて作った物ですもの。ですから、もちろん、わたくし達身内のファミリアだけで頂く事にします。ええ、ええ、今回はわたくしのお願いを聞いてもらうために無理をしてわたくし共、ソーマ・ファミリアの持ち分から捻出しておりますしね」

「そうなのかい?」

「ええ、そうよ。と、言ってもお酒の九割はソーマ・ファミリアの持ち分で、私達に流れてくるのは一割。それを分けるくらいね。もちろん、販売分は別よ。あくまでも身内で消費するための奴ね。そもそも子供達に飲ませるには劇物だし、私達が飲むための奴なの。水割りとかなら子供達でもなんとか飲めるかしら?」

「つまり、対神兵器というわけだね」

 

 古来より神や怪物を倒すのにお酒を使われてきたのもまた事実。クルミ君は何も間違っていない。

 

「うむ。ガネーシャとしては受け入れよう。ただし! その内容が犯罪でなければだ!」

「ええええ、もちろんですわ。二つ名を指定させて頂きたいだけです。変な二つ名をつけられたら……わたくし、報復しそうですもの」

「た、例えばどんなんや?」

「まずソーマ・ファミリアはそのファミリアと一切の取引をしません。売りませんし、買わせません。横流しをしたらそのファミリアとも取引をしません」

「「「え”」」」

「続いて協力ファミリアにも要請し、同じようにさせていただきます。その際にかかる代金は全て、ソーマ・ファミリアで持ちます」

「ちょい待ち! 協力ファミリアってヘファイストスとデメテルのとこやろ!?」

「そうですが、それが何か?」

「デメテル!?」

「別にいいと思うわよ。もちろん、食材が無駄になるというのなら、許さないけれど……全部お酒にするのよね?」

「はい。買い取った食材は全てお酒にして販売します。ですので、取引できるファミリアは助かるのではないでしょうか? 買取額もファミリアに売る倍の値段で構いませんし」

「ならいいわよ。食料は別に私のファミリアから買う必要もないわけだし……」

「「「っ!?」」」

「外から来るっていってもかすかやん! 絶対にぼったくられるで!」

「衣食住の内、衣と住はなくても最悪なんとかなりますが、食はどうでしょうか? 食べなくては生きていけません。それに最高級の味を味わい、それに魅了された方々がそう簡単に抜け出せるとは思いませんわ。少なくともわたくしは無理ですわね」

 

 オラリオの食を押さえられたらどうしようもないね。外から入ってくるのだって、クルミ君は普通に買うだろうし、そうなるとただでさえ少ないパイを取り合うことになる。うん、悪魔の諸行かな? 

 

「なにも戦うのは武力だけではないわ。経済的につぶしてやるっていう宣言ね」

「それだけじゃないわよ。武力もあるわ。彼女、ダンジョンを大規模に破壊できる火力を発揮できるの。相手が仕掛けてきたら、当然反撃するわよ」

「フレイヤはどうなんや?」

「わたくしは賛成よ。そもそも二つ名なんてただの余興でしかないもの。それで命を狙われるなんてごめんだわ。彼女、普通の子供でもないもの。神様の事を敬っていないのは様をつけない時点で明らかでしょう?」

()る時は()るってか」

「そこまではわからないけれど、彼女が特別なのは事実よ」

「そうやな。まずそっからや。ソーマ。お前、彼女を改造したか?」

「していない。誓ってそれはない。彼女はもとからこうだった。闇派閥がやったのだろうが、人と精霊の人体実験の結果、生まれた存在だ。その性質は人というよりもエインヘリヤルであり、それよりも精霊だ」

「……つまり、地上で制限なく神の血を使えるってわけやな?」

「なにそれ、悪夢じゃねえか……」

「それが事実かどうかはこの場ではどうでもいいことではありませんか。重要なのはこちらがお願いしているのは皆様の懐が一切痛まない二つ名の決定権です。代価までしっかりとご用意いたしましたので、どうかお認めになってくださいまし。仲良くいたしましょう?」

「せやな。ロキ・ファミリアは彼女の願いを聞き入れたる」

「フレイヤ・ファミリアも同じよ」

「私もよ」

「私も~」

 

 ある程度はわかっていたけれど、賛成する神々が多い。ただ、反対する者もいる。だって、別に断ってもお酒を諦めるだけだしね。クルミ君が言っているのは、あくまでも変な二つ名をつけた場合だし。普通のをつければいいんだよ。

 

「ガネーシャは犯罪でもないからかまわん!」

「それと、まだ隠し玉があるでしょう? 彼女、治癒能力がとっても高いの。その分、お金をいっぱい取られるけれど、すぐなら手足の欠損ぐらい簡単に治療してくれるわ」

「「「っ!?」」」

「本当か!」

「確かに可能ですが、時間経過が重要なので古い傷などはかなり高くなります。ですので精々、一ヶ月くらいの傷なら治療が可能です。それ以上はわたくしが支払うコストが大きすぎます」

「一ヶ月か……値段は?」

「その日であれば1レベルで百万ヴァリス。二レベルだと二百万ヴァリス。そこから一日ごとに百万ヴァリスですわね」

「高っ!」

「わたくしも命を消費して治療しますので、このお値段です。それと多少の割引サービスもございます。ダンジョンへの随伴や護衛。身の回りのお世話やお手伝いをするわたくしの分身レンタルサービス、クルミレンタルサービスを行いますので、そちらを契約いただいたら、怪我をしたその場で治療も可能ですし、分身なので殿も引き受けます。また、人海戦術を利用してダンジョンの階層出入口を制圧し、そこで治療や商品の販売や引取なども計画しております」

「ダンジョンを安全に攻略する用意というわけか」

「はい。ですが、わたくしは殿方と普通に接する程度は構いませんが、えっちぃことはしません。そういうサービスをお求めの方は歓楽街に行ってくださいまし。それが判明したら、キッチリと請求と報復をさせていただきます。ですので、できるのは娘や孫、教導やダンジョン探索でのヘルプや護衛、事務作業のお手伝いなどとお心得ください」

「傭兵みたいなもんやな。ちなみにうちは今、使っとる。物資の高速輸送までやってくれるから、遠征には楽や。三人雇って遠征の売り上げ三割持ってかれるけど、その価値はあると判断した」

「遠征の値段か……」

「物資移動は二人雇って頂かないと出来ませんのであしからず」

 

 僕は完全に賭けで手に入れたから無料なんだけど、普通に考えて高いよね。その分だけ有効性は非常に高いんだけど。

 

「低レベルほど安く雇えるのはいいな」

「高レベルほど大変だけどな。そもそもレベル2だし、そんな低い階層は……いや、火力は頭がおかしいのか」

「まあ、雇う雇わないは今はいいじゃない。それよりも、二つ名でしょう?」

「そうやな。まず、その二つ名を言ってみい。うちらがそれを気に入ればなんの問題なしや」

「そうだな。まずはそこからだ」

「では……わたくしの二つ名はナイトメアでお願いします」

「痛い! いや、痛くないのか?」

「確かにナイトメア……敵にしたら悪夢のような存在ではある」

「これなら確かに普通のような、普通ではない……微妙な辺りだ」

「そこはくるくるくるみんとか、ときときとかどうよ?」

 

 銃声が部屋に響いた。クルミ君の手には小さな短銃が握られている。どうやら、撃ったのは空になった瓶みたい。

 

「何か言いまして? わたくし、どうやら空耳が聞こえたみたいでして……」

「幼女くるみ……あぎゃっ!? な~~~に~~~を~~~」

「勇者だな」

「うむ。勇者だ」

 

 どうやら、殺されたわけではないみたい。ただ、無茶苦茶遅くなった。

 

「よし、くるみたんの二つ名はナイトメアで決定や。ただし、そのままつけるのはムカつくから、小さい悪夢、リトル・ナイトメアや! これならくるみたんの要望も入れとる! どうや!」

「それならいいんじゃないか? 確かに小さいし」

「だな」

「貴女はどうかしら?」

「……まあ、妥協点としてリトル・ナイトメアなら、いいでしょう。わたくしもまだまだ小さいですし。でも大人になったら外してもらいますからね!」

「「「は~い」」」

「いや、はずさん! 娘はお嫁にださんのだ!」

「いつからお前の娘に……いや、レンタルサービスを使えばいけるのか。彼女みたいなかわいい子にパパやお父さんと呼ばれるのは……」

「「「ありだな!」」」

「お母さんやママもいいわね!」

「確かに!」

 

 クルミ君はリトル・ナイトメアに決定した。ベル君についてもフレイヤが協力してくれたし、クルミ君とのからみも合わせてリトル・ルーキーに決定された。ベル君については所要時間もあって疑われたが、同じく圧倒的に早くレベルアップしたクルミ君もいるので追及はなんとかかわせた。

 

「で、次はフレイヤやな」

「うふふ、私のところのアレンとガリバー兄弟がレベルアップしたわ」

「まじかよ……」

「ロキ、はなされたやん」

「やばくね? フレイヤ・ファミリアの一人勝ちか?」

「まあ、私の子供達は二つ名は決まっているからいいわね。それよりも最後よ」

「これで終わりじゃないのか?」

「確か、残っているのはソーマの子供があと一人だったな」

「この十年ぐらいかけてレベル2になった子か。数年だっけ?」

「まあ、どっちでもいいだろう」

「ああ、皆様。彼女に関しては資料がありますが、それはもう古いです」

「「「いやいや、古いって三日前の奴なんだけど……」」」

「昨日、リリさんはレベル3になりました」

「「「まてぇぇぇぇいっ!」」」

「所要期間は一ヶ月未満?」

「マジかよ」

「というわけで、リリさんの二つ名はリトル・ウィッチです。魔法のように駆け抜けているシンデレラ。わたくしという魔法使いに出会い、お姫様ではなく魔法を使う魔法少女となった彼女にピッタリな名前です」

「魔法少女?」

「ん?」

「こちらをご覧ください。新しい資料ですわ。徹夜で十人導入して作りました」

 

 ニコニコしてクルミ君が提出してきたのはフルカラーの漫画だった。そこにはリリ君とガリバー兄弟のベーリング君の戦いが描かれている。特に変身シーンは念入りにだね

 

「マジか。マジで変身すんの?」

「変身したのか。どうやって? やっぱり魔法? いや、変身魔法はあるんだが、こんなのありか?」

「ウチのアスフィも協力して魔導具を作り上げた」

「万能者が……なるほど」

「というか、ヘファイストスさん? この武器について一言」

「反省も後悔もしていないわ。神の力を使わずに地上にある素材だけで作り上げた逸品よ。いえ、嘘ね。ちょっぴり反省はしているの。お金をかけすぎたわ」

「中規模ファミリアが吹っ飛ぶような値段よね」

「てか、レベルアップしたのも納得だわ。そりゃ、レベル2がレベル5を相手にここまで追い詰めたらレベルも上がるってもんよ」

「ベーリングの方もレベルアップしてるしな」

「本当に恐ろしいのはこの武器と装備だな。確実に1レベルは上昇しているぞ」

「かかってる費用から言って、用意できないけどな!」

「まあええやろ。リトル・ウィッチなのは魔女やなくて魔法少女やからか」

「です。わたくしとの兼ね合いもありますし、変身魔法も使いますからね」

「で、ダンジョンでフレイヤ・ファミリアとかち合った理由はなんだ?」

「不幸な行き違いよ。うちの子がゴブリンで遊んでいたらしいのよ。それで全身鎧がゴブリンの血で汚れてしまっていてね? ダンジョンで出合い頭に互いを敵だと思って攻撃した後は、そのままやりあったのよ。そのあとはもう互いに引くに引けなくて止まらなかったみたい。ちゃんと慰謝料も支払って解決してあるわ。そうよね。ソーマ」

「全てクルミに任せている。クルミ」

「ええ、その通りです。不幸な事故です。そう全ては不幸な事故なのです」

「……ああ、もう色々とわかったわ。不幸な事故であんなん呼び出したんやな。レベル5を相手に生き残るために」

「結果的にそうなりましたが、ちゃんとフレイヤ・ファミリアが自ら処理しましたので問題ありませんわ」

「せやな。うし! ガネーシャ! これで名付けも終わりや! 宴をしてええか!」

「俺がガネーシャだ! いいだろう。酒はクルミとソーマが提供してくれるソレでいいだろう」

「確かにそうやな。お前らもわかっとるかと思うが、子供に飲ませんなよ。高レベルのドワーフとかでもないと、ソーマに鞍がえされんで」

「おうよ!」

 

 クルミ君が仲居さん達に頼んで全員にしっかりと箱を渡していった。中には確かに四種類のお酒が入っている。このお酒を売れば一気に借金が返せるかもしれない。

 

「このお酒、さすがに売れないわよ。ここに居る神様が全員もらったわけだしね」

「う~む。さすがにコレを売るのは無粋だよね」

「そうよ。まあ、祝い事があった時にあけるぐらいでいいんじゃない?」

「でも、保管が不安なんだよね~」

「なら、私の方で預かってあげる」

「いいのかい?」

「どうせ一緒に飲むでしょう」

「ああ、そうだった。皆に伝えておく。そのお酒は持ち出し禁止だ。飲むのは此花亭の中でのみ。保管はしっかりとしておいてあげる」

「なんでや!」

「子供達にとって劇物だからさ。まあ、自分達の責任で持ち出すのならそれはそれでいいけれど、うちらは責任を取らないからね。それにファミリアで保管が困難なところもあるだろうし、こっちで保管しておくということだ」

「そういうことならええか。ようは守り切れる自信があるなら、持って帰ってもええってことやし」

「襲われるかもしれんな!」

「そうね。私は持って帰るわ。アレン達を呼んだらいいでしょうし」

「うちは遠征中やし無理やな」

「宣伝になるけれど、此花亭にもバーを用意しているわ。そこでより美味しい飲み方とかも紹介しているから、ここで飲むことをお勧めするわ」

「よし、それなら今はとりあえず乾杯や!」

「「「おうよ!」」」

「乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 

 皆で飲みだしたら普通に止まらなかった。僕はなんとか二本を残したけれど、ほとんどの神々が飲み切ってしまっていた。そこにクルミ君が今度は普通に販売をしだしたので、お金があるファミリアは飛びついていく。驚いたことにフレイヤはすごく悩んでから、結局買わずに3ランクほど下のお酒を大量に契約していた。どうやら、子供達に与えるものみたいだ。ちょっと見直した。

 ロキ? ロキは買ってから顔を青くしていた。ママからの雷が落ちるとかどうの言ってたけど、自業自得だし気にしない。

 

「ヘファイストスとデメテルは買わないの?」

「私達はもらえるもの」

「資金提供の利息としてね」

「ああ、そっか。クルミ君にかなり貸してるんだっけ」

「すぐに返せる額だから不安はないわ」

「そうね。新技術だけでも充分なお釣りがくるわ」

「ベル君の武器に搭載は……」

「無理よ。大型の重量武器じゃないと搭載はまだ無理ね。そもそも素材がないわ。それこそ、クルミがまた何かをやらかさないとね」

「ヘファイストスさん、椿様から許可をいただきましたので、こちらの設計図をお渡ししておきます。素材の準備と値段の見積もりをお願いしますわ」

「言ってる傍から面白い物を……」

 

 図面を見てもよくわからないけれど、名前はわかった。ジャッカルという銃みたいだ。使われている素材もアダマンタイトとか、すごく高い物になりそうだね。クルミ君いわく、魔法が無効化された時の対策として物理攻撃手段として欲しいみたいだ。彼女の攻撃はあくまでも魔法ありきだから、必要なんだろう。

 

 

 




キアラ:ハイエルフ版のゆるふわウェーブの金髪ゾディアック。世界樹の迷宮Ⅲの子ですね。紫の子も好きですが、今回は金髪の方です。天使はメタトロンを予定。
彼女が星空に見ていたのは精霊。精霊ったら精霊です。星空の下でしか魔力が回復しないのでダンジョンでは泊まり込みがしんどいデメリットを想定。マジックポーションで回復しないといけません。もしかはカードリッジのような魔力タンクを装備することです。


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ソードオラトリア
ロキ・ファミリアのくるみちゃん4


今回は短め。時間がなかったのです。金曜日と土曜日、日曜日は短くなります。
次は五十階層から下の階層攻略です。


 

 

 

 

 

「やっと着いた~!」

「ここまで五日じゃからのう」

「クルミとグレイは大丈夫だった?」

「平気ですわ」

「問題ないよ」

 

 ロキ・ファミリアに雇われて移動してきたわたくしは皆さんと無事に50階層にある安全地帯に到着しました。ここは大荒野(モイトラ)と呼ばれ、灰色に染まった木々がある荒野や灰色の大樹林。亀裂のように走る川ありました。

 それらを超えて次の階層への入口がある場所にやってきました。そこは崖の上にある高台で、柱のような石柱がいくつかあり、平らな地面と木々が階段のすぐ近くにあります。

 

「クルミ。ここが拠点作成予定地だ。荷物を頼む」

「了解しましたわ。少々お待ちください。あちらのわたくしに連絡を取ります」

「頼む。それとロキにも無事に到着したと伝えてくれ」

「畏まりました。では、影を作っておいてくださいまし」

「了解した。ラウル!」

 

 眼を瞑ってくるみねっとわーくを通し、ロキ・ファミリアのホームで待機しているわたくしに連絡をと取り、ロキさんに到着を伝えるようにお願いし、こちらも準備を始めます。

 伝えてもらっている間に現在、時喰みの城(ときばみのしろ)の内部に居る魔物(モンスター)を処分してから、わたくしの荷物をソーマ・ファミリアのホームに居るわたくしに取り出させ、綺麗にしてからロキ・ファミリアのホームに居るわたくしに荷物を全て回収してもらいます。

 

「では、出しますので離れておいてくださいまし」

「ん、わかった」

 

 アイズさん達が離れてから、作られた影に触れて時喰みの城(ときばみのしろ)を展開します。内部に収められた大量の木箱を人海戦術で次々と取り出していきます。取り出した物は積み上げていき、溢れ出したら別の場所で同じようにします。出し終わった荷物はすぐに移動させられ、仕分けされていきます。

 

「まずはバリケードを設置するぞ! また連中が湧いてくるかもしれんからの!」

「了解です!」

「手前達ヘファイストス・ファミリアはバリケードの設置を手伝うぞ!」

「おう!」

 

 バリケードは鉄製の品で、それぞれを杭で固定する感じです。螺子はありません。最初に設置する場所は出口で、そこからぐるりと囲むように作っていきます。

 

「私達の班は食事を作る。といっても、今回は温めるための竃ぐらいだろうがな」

「はい!」

 

 リヴェリアさん達のところは基本的にエルフや女性陣などがおり、料理が作られていきます。食材は全て新鮮な物で、下拵えなどは全てホームの方で終わった奴が送られてきます。

 

「僕の班は天幕を張る。今回はベッドがあるから多く作るように」

「了解です」

 

 流石に全ての物を送り込むことはできないので、木を伐り出して作っていきます。ただ、生半可な物は作らせません。頑丈でしばらく使える物にします。これからしばらく住むつもりですし、ロキ・ファミリアが退却した後もここはわたくしが使わせていただきますの。ですので、わたくしも人数を呼んでお手伝い致します。

 資金はフレイヤ・ファミリアから頂いた五千万ヴァリスをこちらの拠点開発費にあてております。こんなところに来られるのはロキ・ファミリアかフレイヤ・ファミリアのどちらかですが、彼等が居ない時は灰色の大樹林や川から薬草や水などの物資を回収して地上に送ればかなりの資金源になります。

 薬草はポーションの材料にもなります。何より水はお酒の材料になりますので、ここで定期的に手に入れられるのは非常に利益がでます。安全地帯ゆえに量と質はあまりいいのはありませんが、それでも対抗馬が居ないので普通にいいです。対抗馬が来た時は宿と物資を提供すれば儲けはでますからね。

 皆で忙しく拠点を作る中。わたくしは野営場から少し離れた位置で閃光玉を空に投げて無理やり影を作りだします。そこに時喰みの城(ときばみのしろ)を展開し、地上から持ち込んだ巨大な石で出来た代物を設置します。柱のような岩と岩の間に配置しました。その後は岩を登ってロープを垂らして布を取り付けて外から見えないようにします。他にも此花亭を作る時に一緒に発注しておいた魔導具を配置していきます。

 

「クルミ、こんな感じでいい?」

「ええ、ありがとうございます」

「これはここがいいかな?」

「岩の柱に取り付けてください」

「わかったー!」

 

 アイズさんとティオナさんなど、女性陣が精力的に協力してくれます。まあ、作っている物がお風呂なので、皆さんも生き生きしています。

 

「シャワーの設置終わったよ~!」

「こっちもタンクの取り付けは終わった」

「わたくしもボイラーの設置が終わりました」

「じゃあ、後は……」

「一番大変な水の確保ですわね」

「やるぞ~!」

「「「お~っ!」」」

 

 タンクから伸びるホースを近くの川に設置するのですが、普通に届かないので水路を作るしかありません。そこで地上で作っておいた水路を取り出して、連結させていきます。川が崖の下なので途中までは水路で運んで、組み上げる仕掛けを使います。

 

「ナニコレ面白い~!」

「くるくるまわる」

 

 というわけで、川に移動してよさそうな場所に設置します。設置するのは水車です。水車が水を汲んで水路に流し込んで運んでいきます。崖の部分には魔道具のポンプを配置して崖の上まで水を汲み取るようにしました。これで水は川から常に供給されます。壊されたとしても、最終手段はあるので問題はありません。

 川の水をタンクに溜めたら別のタンクへと移してからボイラーの魔道具で水を温めてまた別のタンクに入れて浴槽とシャワー用に使います。

 

「実験開始ですわ!」

「いけ~!」

「楽しみ」

 

 スイッチを押して全て作動させると、地上で試した時と同じ効果を発揮してくださいました。水がお湯となり、浴槽に流れこんできます。すぐに湯気が立ち上って周りを熱していきますの。

 

「これで終わり?」

「後は棚とか?」

「そうですわね」

 

 脱衣所も設置し、椅子や桶、灯りもしっかりと用意しました。これで何時でも入れます。ですが、入るのは後です。流石にお湯が溜まるまで時間がかかりますからね。男性用と女性用で分けてあるので、かなりの広さですから仕方がありません。

 お風呂が出来れば各天幕にベッドとタンスを出していきます。だいたいこれで生活環境は出来たので、続いて防衛面の強化をはかります。まず、バリスタを全方位に設置して固定してもらいます。続いて見張り台も作っていきます。まあ、ここに来られる人達にとってバリスタなんてほぼ使えない武器でしかないんですけどね。

 仕事が終わったので、女性陣はお風呂に入ります。

 

「あの。そういえば何があったのか聞けなかったんですけど、来る時にアイズさんがあの人を抱えて地上に行ってましたよね?」

「うん」

「どうしたんですか?」

「冒険してたの」

 

 エルフのレフィーヤさんの疑問を湯につかりながらアイズさんが説明していきます。ここには二人の他にもティオナやアキさん、椿さんもいます。

 

「本当に凄かったんだから! 特にあの子達! あの白髪の子と椿のお弟子ちゃん! 名前はなんだったけ?」

「手前の弟子ならリリルカ・アーデだな」

「白髪の子はベル・クラネル」

「その子達!」

「そういえばリリはレベルアップしたのであろう?」

「ええ、しましたわよ。ベルさんもして神会で二つ名をいただきました」

「ほほう」

「地上の情報がこんなにすぐ伝わるなんて……」

 

 まだステイタスは見ていません。だって、見たら敗北を知らしめられますもの。ですので、わたくしがレベルアップするまでは見ません! 

 

「二つ名か~。どんなのもらったの?」

「私も気になる」

「うむ。確かに気になるな」

「わ、わたしも教えて欲しいです……」

「リリさんはリトル・ウィッチ。ベルさんはリトル・ルーキー、わたくしはリトル・ナイトメアですわね」

「みんなリトルなんですね」

「色々と手を回しましたので、おおむね予定通りですわ」

「手を回したんですか!?」

「さもありなん。クルミならやるであろうよ」

「まあ、同じファミリアの人達には恨みを買いましたが、宣伝はしっかりとできましたし、販売でしっかりと稼いだので問題ありません」

「そこまでしたんですか……」

「だって、ナイトメア以外の二つ名なんて認められませんもの」

「並々ならぬ拘りであるな」

「うん。でも、クルミならもっとかわいい名前がいいのに……」

「お断りですわ」

 

 皆さんを視界に入れないようにしながら、そう伝えます。

 

「とりあえず、地上はそんな感じです」

「レベル3……一ヶ月も経たずに……」

「レフィーヤ、追いつかれちゃったね」

「はい……でも、私だって負けていられません!」

「うむ。その意気だ。頑張るといい」

「はい!」

「私も負けないぞ~!」

「私も」

 

 しっかりと温まったら、わたくし達は次の人達と交代します。お風呂が終われば少しして、天幕で囲うように作った広場に集まり食事を取ります。それが終わればミーティングですわね。

 ミーティングの内容は簡単で、レベル5以上の方々とサポーターとしてわたくし、ラウルさん、レフィーヤさんが選ばれました。レフィーヤさんは心ここにあらずの感じでしたが、その後の椿さんによる不壊属性武器の配布会でちょっとは変わったようです。

 どちらにせよ、わたくしにはどうでもよいことです。今回、わたくしはサポートですが、()れるところは()らせていただきますわ。

 

 

 

 



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ロキ・ファミリアと51から59階層1

 

 五一階層への入口。そこでわたくしを含めた突入組と待機組に分かれております。これからまだ見ぬロキ・ファミリアの未到達領域へと足を踏み入れる方々の見送りというわけですわ。

 

「わたくしも行きたいです。クルミ達だけずるいですわ」

「グレイは駄目です。死んでしまえば戻れませんもの」

「そうよ。だからグレイは私とお留守番」

 

 アキさんがグレイを後ろから抱きしめて、彼女の頭の上に顎を乗せました。

 

「そうそう。こっちは私達に任せておいてよ」

「団長と一緒にしっかりと守ってあげるから」

「うん。グレイはここに居て」

「仕方がありません。レベルを上げてさっさと追い付きましょう。どうかご無事で帰ってくる事をここからお祈りいたしますわ」

 

 グレイはわたくしであってわたくしでないので、残念ながらくるみねっとわーくに参加できても、魔法とスキルは別物です。ですので自ら冒険してレベルを上げなくてはいけません。それにロキ・ファミリアの所属なので、派閥などを考えるとわたくしが援助するわけにもいきませんの。

 

「リヴェリア、頼む」

「ああ、任せてくれ。ヴェール・ブレス!」

 

 わたくし達の下に緑色の魔法陣が展開され、緑色の光が下から徐々に上へと上がっていき、円を描いていきます。身体の周りを何週か周回した後、魔法陣と一緒に消えました。

「物理属性と魔力属性に対する抵抗力を上昇させる防護魔法をかけた。効力はしばらく持つが、過信しすぎるな」

「五十一階層は一気に突破する。雑魚には構うな。例の新種には警戒しろ。それとクルミは僕とリヴェリア。ガレス……いや、すぐに治療できるように全員の影に潜んでくれ。一人はこの野営地に残るように」

「かしこまりました」

 

 契約以上の数を呼び出し、皆の影に入り込ませます。三人なんてちゃちな事は言いません。一人三人ほど入れておきますの。

 

「それとオプションの加速支援を頼めるかな?」

「お勧めできませんわよ」

「どうしてかな? 身体能力が上がるのなら、使えるが……」

「出し惜しみじゃねえだろうな?」

「いえ、わたくしの加速魔法は時間の流れを操作してその方の肉体を速くする魔法です。ですので、リヴェリアさんの魔法まで効果時間が短くなってしまいますわ」

「加速した分だけ時間が進むのであれば、確かに切れてからの方がいいだろう。その場合、張りなおす暇などないだろうしな」

「リヴェリアの言う通りだ。リヴェリアの魔法が消えた者は一度下がり、クルミから支援を受けて前線に復帰してくれ。これは怪我を負った時も同じだ。いいか。今回は腕の一本や二本、どうとでもなる。お金はかかるが、気にするな。今回、僕達にとって大事なのは未到達領域を探索する事ともう一つ。レベルアップしたフレイヤ・ファミリアの連中に差を広げられない事だ。かと言って、死ねと言っているわけではない。即死しなければどうとでもなるとはいえ、頭や心臓をやられれば死ぬ。そうなればクルミの治療も間に合わないからね。命を大事に怪我を気にせず冒険しよう。言っててなんだが、矛盾しているね」

「確かにな。普通なら止めるのだが、今回は別だ」

「うむ。このままではフレイヤ・ファミリアの連中に好き勝手される事になるからな」

「でも、いいの~? 報酬なくなるんじゃない?」

「一人一割だったかしら?」

「ご本人からの依頼だ。問題ないよ。僕達と同じで彼女も尻に火が付いたようだからね」

「ええ、そうですの。ふふ、このままではいられません。ええ、ええ、いられませんとも!」

「くっくく、それほどリリに抜かれたのが堪えておるのか。レベルアップは手前達と作った神造兵器の神姫で偉業は達成しておるだろうに」

「リリさんはステイタスをしっかりと上げ切ってからレベルアップしましたからね。わたくしも上げきってからにしますわ」

 

 これ、前と同じ状況になるかもしれません。特に白の王女(プリンセス)が出てきたら激しい殺し合いになるでしょう。それでも意地を優先します。どうしようもなくなればレベルアップしますが。

 

「というわけで、お金は気にしなくていい。制限は解除された。好きなだけ暴れろ。行け、ベート、ティオナ!」

「おう!」

「うん!」

 

 二人を先頭にして、次にアイズさんとティオネさん。その次にわたくしと椿さん。その後ろにラウルさんとガレスさん。最後にリヴェリアさんとフィンさんで五十一階層へと突入します。

 

 

 

 洞窟の中を進み、カドモスの泉と呼ばれる泉が湧いている、林に届かない密度の木の場所を通りすぎました。一応、そこで時喰みの城(ときばみのしろ)を展開して水をゴッソリと回収し、地上に居るわたくしにソーマ・ファミリアの蔵と此花亭にある巨大タンクに移しておいてもらいます。温泉や飲み水に使えば売りになりますし、ポーションなどの素材としても重宝されておりますからね。

 そんな場所を越えてしばらくすると、ブラックライノスと呼ばれるサイ型で二足歩行する魔物(モンスター)の群れとかち合いました。その群れをベートさんとティオナさんが虐殺していきますの。

 

「ちょっとは獲物をこっちに寄越してくださいませんか?」

「断る! 非戦闘員は大人しくしてろ!」

「わたくしだってアビリティを稼がないといけないんですが!」

「駄目だよ! ダメージ通ってないじゃん!」

「うん。目に命中させてもダメージなしだと……無理だよ?」

「むぅ」

 

 ティオナさんとアイズさんの言う通り、わたくしの攻撃は残念ながらブラックライノス達には効きませんでした。火力が全然足りません。バリスタの矢もおそらく効かないでしょう。レベル4が普通に居ますからね。

 

「諦めて大人しく支援していろ。それでも十分に経験値は稼げておるだろうよ」

「リリさんの火力ならダメージは与えられそうなのに……」

「クルミの数にその火力が合わさったら、それこそやばかろう」

「でも、リリさんも分身しますよ。それもイフリート込みで」

「……十分に我が弟子もおかしかったか」

「よかったな、フィン。フレイヤ・ファミリアも含めたら順調に増えているぞ」

「まったくだ。僕達、小人族(パルゥム)の未来は明るいね。問題がないわけでもないけどね」

「問題とはなんだ?」

 

 リヴェリアさんとフィンさんの会話に椿さんが気になったようで聞きました。

 

「いや、クルミが問題なんだよ。彼女……残念ながらアレなんだよ」

「うむ? ああ、もしかして男嫌いという奴か」

「マイルドに言ったらそれだね」

「男嫌いというより、女性が好きなのだろう。恋愛対象が女性だと堂々と宣言している」

「ほほう。間違いないのか?」

「ロキにも確認したが、事実のようだ」

「そういえばリリの事を自分のと言っておったな。なるほど、そういう事か」

「これで普通に男性が好きだったら、小人族(パルゥム)の未来は盤石なんだが……」

「フィンはアタックしないのか?」

「したけど振られたよ。ああ、こっぴどくね」

「ティオネが認めるぐらい、全力の拒否だったな」

「その話、気になるぞ」

「クルミがフィンに言った言葉はこうだ。とりあえず、男に抱かれるか、抱いてから出直して来いとの事だ」

「それはまた……だが、不可能ではないのか?」

「無理だ。たとえ、想像したくもないが、やった後だとしても話を聞いて逃げられるのが目に見えている」

「嫌がらせもかねた断り文句だということだな。うむ。クルミを攻略するには性転換せねばならんということか」

「それをする意味がないんだよ。僕が欲しいのは強い小人族(パルゥム)の子供だからね。そもそも女になるものごめんだけど」

「安心してくださいまし。わたくしがどうにかしてみせます。ええ、してみせますとも」

「女同士で子供を作る方法か?」

「それも視野に入れておりますが、性転換薬を作るか、魔法で姿を変えるか、です」

「リリならできるであろうな」

「それだとわたくしが産まなくてはならないので嫌ですわ。私は孕むのではなく、孕ませたいので」

「馬鹿な話をしている間に着いたぞ」

 

 どうやら五十二階層への入口に到着したみたいですわ。本当、ベートさんもティオナさんも凄い暴れっぷりです。相手になっておりません。

 

「ここからは補給はできないと思ってくれ。止まる事ができない」

「なぜだ?」

「止まると狙撃されるっす」

「狙撃、ですか?」

「この先は地獄っすから」

「地獄?」

「きひっ! いいじゃありませんの、地獄。と~っても楽しみになってきましたわ」

「行くぞ!」

 

 フィンさんの言葉でわたくし達は五十二階層へと突入いたします。

 五十二階層は石で作られた通路がひたすら続く洞窟で、敵らしい敵も見えません。

 

「フィン、狙撃とはどういうことだ? それらしい気配もないが……」

「いや、もう捕捉されている」

「なんですか、この音……」

「ベート! 転進しろ!」

「ちっ!」

 

 聴きなれた音が聞こえてくると、ベートさんが移動先を変えます。すると、彼が先程まで居た場所が突如赤くなり、炎の柱が生まれました。炎の柱が消えると、そこには大きな穴があります。

 

「西のルートに迂回する!」

 

 急いでベートさんを追っていきます。わたくし達が走った後を追ってくるように下から炎の柱が生まれていきます。

 

「なるほど、これが狙撃かぁ!」

「ラウル避けろっ!」

「え?」

「ラウルさんっ!」

 

 レフィーヤさんがラウルさんを突き飛ばすと、何処からか飛んできた糸がレフィーヤさんの腕にとりつき、そのまま彼女を攫っていきます。その先を見ると天井に蜘蛛の魔物(モンスター)が居ました。レフィーヤさんもそれに気付いて、恐怖に恐れ慄きますが、その瞬間に炎の柱が巻き起こって蜘蛛の魔物(モンスター)を消し炭にしました。糸で釣られていたレフィーヤさんはそのまま炎の柱が作った大きな穴に落ちていきます。

 

「きゃぁぁぁぁっ!?」

「「「レフィーヤっ!?」」」

 

 わたくしは即座に彼女の影に潜んでいる者達を呼び出し、わたくし自身も転移します。

 

「大人しくしてくださいまし」

「クルミさんっ!」

 

 レフィーヤさんを抱きしめ、別のわたくしに時喰みの城(ときばみのしろ)を展開させます。その間に下を見ると、緑色のワイバーンや大きな赤い色をしたドラゴン達が複数見えます。

 

「アレが、かいそう……ぬし?」

「焼け石に水でしょうが……やらぬよりはましでしょう」

 

 時喰みの城(ときばみのしろ)から魔道具を取り出して彼女の首に無理矢理装着させます。

 

「な、なんですかこれっ!?」

「いいから付けてくださいまし! セットアップ!」

 

 サラマンダーウールで作ったリリさんの服を強制的にレフィーヤさんとわたくしに瞬間装着させます。この魔道具は予備であり、実証実験のための物でもあります。流石に変身シーンもなければ声もありません。そもそもレフィーヤさんの声で作っていないので仕方がありません。ちなみにわたくしのは真っ赤なドレスです。ほぼ何時もの変わりません。

 

「このまま飛んで戻りますか、わたくし?」

「いえ、それには及ばないようです。それに逃げる前に殺されますわ」

「ですわね」

「えっと……」

「んにゃろぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 ティオナさんが落ちてきて、わたくし達の先に出て迫りくる死をもたらす赤い炎の柱を不壊属性(デュランダル)の大剣で叩き切りました。彼女も炎に包まれますが、リヴェリアさんの防護魔法によって事無きをえました。

 

「あっちぃぃぃっ! ふぅ~さすがはリヴェリアの魔法!」

「何やってんだノロマっ!」

「レフィーヤ、クルミ、無事? このまま五十八階層まで落ちて片を付けるわ。レフィーヤ詠唱!」

「はっ、はい!」

 

 ベートさんとティオネさんも降りてきたようなので、これで大丈夫でしょう。レフィーヤさんも詠唱を開始しましたし。なら、わたくし達も動きましょう

 

「誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる……」

 

 レフィーヤさんが詠唱していると、また炎の柱が襲ってきたのでわたくし達が前に出ます。

 

「ちょっとクルミ!? 私がなんとかするわよ!」

「いえ、ここはわたくし達にお任せくださいまし」

 

 時喰みの城(ときばみのしろ)を使って炎の柱を受け止めます。当然、すぐに炎は時喰みの城(ときばみのしろ)の内部を焼き尽くして出てきますが、その前に入口を再設定すればよいだけの事。いえ、追加で時喰みの城(ときばみのしろ)の領域を二〇〇年分くらい増やしました。ジャガーノート君をオッタルさん以外が殺した時に掠め取った時間が全て吹き飛びましたが、構いません。

 

「お返しいたしますわ!」

 

 再設定した入口はわたくし達の下。つまり、炎の柱をUターンさせました。出口になったわたくしの一人が死にましたが、必要経費です。

 

「面白い事をするわね!」

「ふん。まあ、やるじゃねえか」

「当然ですわ。レフィーヤさん、詠唱の続きを」

「はい! 押し寄せる略奪者を前に弓を取れ」

 

 落ちている最中に五の弾(ヘー)を皆に撃ち込み、未来を先読みする力を授けます。すると、即座にベートさんとティオナさんが壁を蹴って加速し、下へと落ちていきます。ですので、わたくしも剣斧を取り出して突撃します。

 

「待てやごらぁっ!」

 

 ベートさん達を剣斧の重量で追い越し、未来予測で自分という弾丸の弾道を計算して赤いドラゴンの上になるように調整します。あと、動かれても嫌なので七の弾(ザイン)を先に撃ち込んで一時停止させて時喰みの城(ときばみのしろ)も全力展開してやります。すぐに解除されましたが、その時にはもう目の前です。

 

「きひひひひっ!」

 

 顔を上げていた赤いドラゴンさんは炎を吐いてきましたが、気にせず突撃します。一応、二の弾(ベート)を撃ち込んで炎の動きは遅くし、本体は時喰みの城(ときばみのしろ)で影を踏んで遅くします。その状態で炎を突破します。身体の一部が焼かれてものすごく痛いですが、リリさんも我慢したので我慢です。

 

「GURAAAAAAAAAっ!」

 

 炎を突破して口内に突入。そのまま魔石を貫いて着地します。クッションのドラゴン君は亡くなられたましたが、すぐにわたくしも後を追いそうなので自らの蟀谷に短銃をあてて四の弾(ダレット)を使って回復します。

 その間に剣斧君は別のわたくしに渡して再突撃です。ベートさんは足で、ティオナさんは大剣で切り裂き、それぞれ赤いドラゴンを処理します。

 

「戻って来てやったぞ、くそったれ共」

()ちゃえレフィーヤ!」

「ヒュゼレイド・ファラーリカ!!」

 

 上からティオネさんにお姫様抱っこされたレフィーヤさんが詠唱していた魔法を放ちます。放たれたのは数百数千にも及ぶ炎の矢を雨のように降らせる魔法です。炎属性の広域攻撃魔法。ワイバーンっぽい魔物や新種のイモムシの魔物、ドラゴンの魔物も纏めて焼き払ってしまいました。

 

「死ぬかと思いました」

「これだけの魔法を放っておいて何言ってるのよ」

「新種も砲竜(ヴァルガングドラゴン)も一通り燃やしたもんね」

「本当、レフィーヤさんは見かけによらず負けず嫌いというか、なんというか……やられたら数倍にして返す方ですのね」

「ち、違いますよ! 私はそんな事はしません!」

「でも、確かに炎でやられたからって炎でやりかえしてるわね」

「だよね~」

「うぅ……」

「おい! 来るぞ!」

 

 ベートさんの言葉と同時に地面が割れて、馬鹿みたいに大きな十メートルはありそうな巨大な砲竜(ヴァルガングドラゴン)が現れました。

 

「でかい」

「階層主ってわけじゃないでしょうけど……」

「やべぇっ!?」

 

 砲竜(ヴァルガングドラゴン)は更なる暴虐によって虐殺されます。そう、降ってきたガレスさんは砲竜(ヴァルガングドラゴン)の炎を受けても平気のようで、そのまま相手を大戦斧で叩き斬ってしまいました。その後、全員でフィンさん達が来るまで魔物(モンスター)の処理を頑張ります。

 

「わたくし達!」

 

 砲竜(ヴァルガングドラゴン)やイル・ワイバーンには効かなくも、新種のイモムシ魔物(モンスター)になら攻撃は効きます。ですので、大量のわたくし達と神威霊装・三番(エロヒム)による制圧射撃とバリスタによって纏めて貫いて殺します。

 レフィーヤさんを囲むようにして展開して殺してまわり、レフィーヤさんは魔法を使って囮と同時に殲滅もしてもらいます。他の方々は砲竜(ヴァルガングドラゴン)やイル・ワイバーンを優先的に倒してもらいます。

 

「きひっ! 入れ食いのカーニバルですわねっ!」

「これをカーニバルとか、頭が狂ってんじゃねえかっ!」

「そんな事はありませんわ。だって、とっても楽しいではありませんか!」

「いやいや、大変だからね!」

「ならもっと呼びましょう!」

 

 追加を呼んで全員に一の弾(アレフ)を叩き込んで連射に連射を続けます。魔力が足りないので、マジックポーションをがぶ飲みして時間を消費しまくります。こんな馬鹿みたいな狩りをしていても、他の方々が砲竜(ヴァルガングドラゴン)を数匹狩ってくださればお釣りがきます。

 時喰みの城(ときばみのしろ)もどんどん強化して、吸い取る時間効率も増やし、砲竜(ヴァルガングドラゴン)やイル・ワイバーンからも徴収できるほど強化してやります。わたくしにとって深層とはボーナスステージと同義ですわ。

 

「しつこい奴らだぜ」

「ウィン・フィンブルヴェトル!」

 

 ですが、ボーナスタイムは終わりのようです。リヴェリアさんの魔法が飛んできて、周りを氷漬けにしていきました。どうやら、皆さんが合流したようです。戦いは終わりになったので、ドロップアイテムを回収して地上に送りましょうか。

 

 

 

 




レフィーヤ、レベル3でこの火力なんだよね……どう考えてもレベル詐欺。レベル4や5であろう砲竜(ヴァルガングドラゴン)やイル・ワイバーンをまとめて一撃ですわ。ヤバすぎ。
クルミちゃんは非力だからダメージを与えられません! バリスタもレベル4や5にはたいして効果は得られません。頑張れ! 頑張れ!


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ロキ・ファミリアと51から59階層2

 

「皆、無事なようだね」

「ああ、問題ないわい」

「そのようだ」

 

 合流してきたフィンさん達はすぐにわたくし達を集めて無事を確認し、周りの魔物(モンスター)を駆逐して安全を確保していきます。

 

 

「一度休憩を取る。椿。全員の武器を整備してくれ」

「任せておけ。クルミ、手伝え」

「かしこまりましたわ」

 

 椿さんと一緒にわたくし達は一緒に整備していきます。わたくし自身もヘファイストス・ファミリアでサポートのお仕事をしていますので慣れたものです。

 

「はい、どうぞですわ」

「うむ」

「次はこちらですわね」

 

 椿さんが次の欲しがる工具を渡し、使っていた工具を回収して次に必要な補修資材を用意して渡していきます。

 

「すごく息が合ってるね~」

「すごい」

「はっはっはっ、毎日一緒に鍛冶をしておるからな」

 

 椿さんの記憶を読ませていただいたわけではありませんが、それでも椿さんがどのように整備していくかは記憶しています。後は今までの統計データからどのようにすれば椿さんの仕事が捗るのかはわかります。

 

「ちゃんと整備できるならいいけどよ。その辺りはどうなんだ?」

「手前としても団長としても認めておるからまったく問題ない。まあ、裏技を使いおったがな」

「裏技だとぉ?」

「それは秘密ですわ。女の子の秘密を暴こうだなんて駄目ですわよ?」

 

 裏技というのは記憶を読むという事です。ただ、先にも言った通り、椿さんの記憶は読んでいません。わたくしが読んだのは鍛冶場に宿っている記憶そのものですの。炉や槌など、様々な鍛冶道具の記憶です。故に使用者である椿さん達の事は良く把握しておりますの。

 

「それは駄目だね!」

「ベートさん……」

「俺が悪いのかよ? まあいい……腕は確かなんだろうな?」

「言ったであろう。手前が保証するとな」

「ならいい。さっさと終わらせろ」

「はいですわ」

 

 リリさんの武器であるイフリートを作るためにも鍛冶技術はしっかりと覚えたので、整備も問題なくできます。手抜きなど一切なく、全力で取り込みます。

 

「どうでしょうか?」

「うむ……問題ない。手前とほぼ変わらぬ整備能力だ。鍛冶スキルがない身ではこの辺りが限度であろう」

「恐悦至極に存しますわ」

「後は実際に使って微調整であろう」

「じゃあ、やるね~!」

 

 ティオナさんに試してもらってから、多少の微調整をして整備を終わらせました。その間にレフィーヤさんとラウルさんは謝罪と返事を繰り返して無限ループさせておりました。

 

「団長、どうしたんですか?」

 

 座りながら次の階層へと続く地面にできている穴を睨むフィンさんにティオネさんが質問しました。わたくしも少し気になります。できればその手記とやらを見せて頂きたいですわ。

 

「ゼウス・ファミリアの手記によれば五十九階層から先は氷河の領域。と、記されていた」

「はい。至る所に氷河湖の水流があって進みづらく、極寒の冷気が身体の動きを鈍らせると……」

「そう聞いたので、人数分のサラマンダーウールを用意したっす。品物不足で予想以上に値段がしてしまったす」

「それはそこの二人のせいだろう」

「何の事やらわかりませんの」

「うむ。手前達はただサラマンダーウールを買って強化していただけだからな!」

 

 当然のようにリリさんの変身服を作る上で失敗した物は数が多いです。そのサラマンダーウールも再利用して手袋などにリサイクルしているとはいえ、かなり買い占めました。お陰で値段が高騰したのでしょう。

 

「まあ、それはいい。それよりも僕が言いたいのはその極寒の冷気が僕達の下へと伝わって来ないか、という事だ」

「あっ! 確かにおかしいよね!」

「何かあるってのか……」

「わからんが、ゼウス・ファミリアの誇張とは考えにくい。ここまではあっていたからな」

「どちらにせよ、行くしかないんじゃありませんの? それともこのまま戻りますか?」

「それはできない。サラマンダーウールは装備せずに三分後、出発する。全員、準備を整えておいてくれ」

 

 わたくしもしっかりと準備を整えておきましょう。バリスタの再装填や銃弾の作成など色々とやる事がございます。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「まもなく、ロキ・ファミリアが五十九階層に足を踏み入れる」

「いよいよか」

「見せてもらおう」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 洞窟を歩いて行きます。冷気など一切伝わってこず、むしろ蒸し暑い感じです。ドレスを着ているので、全身から汗が流れてきて、肌をしたたり落ちて胸の間などに入って少し気持ち悪いです。他の人はそうでもないようですが、低レベルのわたくしには結構な暑さに感じますわ。

 

「寒いどころか……」

「蒸し暑い、ですね……」

「クルミ、大丈夫?」

「大丈夫です。ですが、近づかないでくださいね」

「うん……でも、きつかったら言ってね?」

「ありがとうございます。その場合は影に避難させてもらいますわ」

 

 アイズさんが心配して抱き着いてこようとしたので止めました。ここで抱き着かれたら死んでしまいます。

 

「フィン。やはりこれは……」

「ああ」

 

 ティオナさんとベートさんがカンテラを持ちながら先頭を進んでいきます。しばらくすると、通路の先に太陽の光のような灯りが見えてきました。

 

「今から僕達が目にするのは、神々ですら目撃した事がない未知だ」

 

 洞窟を抜けた先。そこにあったのは濃密な緑と土の臭い。降り注ぐ太陽の光に木々を微かに覆う雲。そこは完全に密林、ジャングルでした。遠くには無数の傘のような巨大な木々が存在し、天井には岩肌の大地が存在します。所々に太陽の光のような物が降り注いでいて、明るいです。

 

「視界いっぱい、密林ね」

「まるで二十四階層のプラントみたい……」

「同じだな。アレと……」

 

 入口がある崖の上から見渡していると、何かが動いて木々が倒れるような音がしてきました。

 

「前進!」

 

 フィンさんの指示に従ってわたくし達は隊列をしっかりと組んで移動します。最初はベートさんとティオネさん。次にアイズさんとラウルさん、ティオネさん。続いてレフィーヤさんとわたくし、椿さん。その次にリヴェリアさんとフィンさん。最後にガレスさんです。

 

 

 

 

 しばらく警戒しながら密林の中を歩いていると、広場のようなところに出ました。そこでは巨大な植物型の魔物(モンスター)が新種である芋虫を触手のような蔦で捕まえて次々と捕食しています。

 

「何よあれ……」

「あれって宝玉が変化した魔物(モンスター)ですよね!?」

「寄生されているのは死体の王花、タイタン・アルムか」

「やべぇぞ……」

「魔石をあんなに……」

 

 美味しそうにパクパクと食べているので通常のタイタン・アルムとは比べ物にならないぐらい強くなっているはずです。魔物(モンスター)は魔石を食べる事でどんどん強化されていきますので、あんなにパクパクと芋虫を食べていればそれだけ強化されているはずです。

 

「強化種か」

「うぁぁぁ……」

「あっ!?」

 

 タイタン・アルムのお腹が膨れ上がり、罅割れていきます。そして、ひび割れた部分が崩れていくと、お腹の中から緑色をした女性の姿が現れます。同時に天候が変わり、紫色の気味が悪い空へと変化しました。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 生まれたての赤ん坊のように産声を上げます。その声は凄まじく、皆さんが思わず耳を押さえますが、わたくしの耳は鼓膜が破れて血が流れでてきます。

 

「ッ!?」

「ッッ!」

 

 何を言っているのかわからないので、ポーションを使って治療します。すると聞こえてきたのはとても気味が悪い声でした。敵対しているのは変わらないので、気にせずに時喰みの城(ときばみのしろ)を展開して敵の方々から容赦なく時間を吸い取ってやりますわ。

 

「あぁ、アリア、クルミ……貴女達も一緒になりましょう。貴女達を食べさせて」

「アレが精霊だなんてっ!?」

「おとぎ話とはかけ離れているわね」

「全てはアレを成長させるための手段だったのか……」

「あの新種の魔物(モンスター)すらも魔石をここに届けるための存在にすぎなかったのか」

「面白ぇ……精霊の強化種かよ!」

「全然面白くはありませんわ……」

 

 相手にとってわたくし達は食料ですか、そうですか。まあ、わたくしにとっても彼女は食料なんですけどね。

 

「アイズさん……」

「……」

「アリア、クルミ。待っていたわ。ずっと待っていたの。貴女達を早く食べさせて!」

 

 その言葉と同時にわたくし達の背後に無数の植物が地面から突き出してきて、瞬く間に壁が作られていきます。

 

「道がっ!?」

「総員戦闘準備っ!」

「フィン! わしも前に出るぞ!」

「やる事はかわらねぇ……ぶっ殺す!」

「アイズ、やれるな?」

「うん。クルミ達は下がっていて」

「援護をしますわ」

「お願い」

 

 わたくしとレフィーヤさん、リヴェリアさん。それに護衛としてラウルさんと椿さんを残して皆さんが突撃していきました。精霊の強化種の前には無数の食人花(ヴィオラス)や芋虫の魔物(モンスター)が待ち構えて壁のように阻んできます。

 

「誇り高き戦士よ、森の射手隊よ」

 

 皆さんにとって精霊の強化種以外は相手ではありません。次々と倒していかれます。ですが、それはあくまでも数匹の場合です。数十匹が壁となり、精霊の強化種への道を封鎖します。

 

「フィン! 纏めて焼き払うぞ!」

「待て! 親指の疼きが止まらない。何か来るぞ!」

「地ヨ、唸レ──」

 

 精霊の強化種の下に紫色の巨大な魔法陣が展開されました。嫌な予感しかしませんので、わたくし達の一部をここから急速に離脱させておきます。

 

「詠唱!?」

「来タレ来タレ来タレ大地ノ殻ヨ黒鉄ノ宝閃ヨ星ノ鉄槌ヨ開闢ノ契約ヲモッテ反転セヨ」

魔物(モンスター)が嘘でしょっ!?」

「超長文詠唱だとっ!?」

「っ!? リヴェリア! 結界を張れ! ラウル! レフィーヤ! 椿! クルミ! 敵の詠唱を止めろ!」

「はっ、ハイっす!」

「舞い踊れ大気の精よ、光の主よ。森の守り手と契を結び──」

「ヒュゼレイド・ファラーリカ!」

 

 ラウルさんと椿さんが魔剣を使って精霊の強化種を攻撃しました。レフィーヤさんも広域攻撃魔法でまとめて攻撃していきます。

 

「わたくし達!」

 

 こちらも全てのバリスタを動員して後の事など気にせずに全て発射します。しかし、相手は花弁を閉じることによって防御力を上げて耐えました。

 

「嘘……」

「怯むなっ! 攻撃を続けろ!」

 

 私達が連続で攻撃していきますが、相手は気にもせずに詠唱を再開しました。レフィーヤさんの魔法は花弁を閉じて対応したくせにわたくし達と椿さん、ラウルさんの魔剣による攻撃は一切効いていないようです。

 

「空ヲ焼ケ地ヲ砕ケ橋ヲ架ケ天地ト為レ降リソソグ天空ノ斧破壊ノ厄災──」

「大地の歌をもって我等を包め」

 

 激しく雨のようにこちら攻撃を続けます。わたくし達も神威霊装・三番(エロヒム)を使って徹底的に叩き込みますが、効いていません。

 

「フィンさん! わたくしも魔法を!」

「まだだ! 嫌な予感がするからクルミはまだ使うな! リヴェリアを、僕達を信じろ!」

「っ!? 畏まりましたわ!」

 

 一時的な時間停止を行う七の弾(ザイン)による足止めをしようかとも思いましたが、フィンさんにこう言われては仕方がありません。

 

「代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ地精霊大地ノ化身、大地ノ女王──」

「我等を囲え大いなる森光の障壁となって我等を守れ──我が名はアールヴ」

「全員! リヴェリアの結界まで下がれぇぇっ!!」

「メテオ・スウォーム!」

「ヴィア・シルヘイム!」

 

 なんとか皆さんが結界まで入ると、その直後に空から無数の炎を纏った塊が落ちてきます。まさにメテオ・スウォーム! わたくしが愛してやまない魔法の一つ! 是非とも欲しい魔法ですわ! 

 結界に隕石が直撃すると爆発を起こして結界が震えていきます。

 

「くっ!」

「結界がっ!」

「耐えろリヴェリア!」

「わかっている!」

 

 メテオ・スウォームは敵味方関係なく破壊の嵐をまき散らし、正に災厄と呼べるだけの魔法です。噴煙が晴れると、そこにはクレーターだらけで結界に守られたわたくし達と放った本人である精霊の強化種だけは残されておりました。

 

「止んだ、の……?」

「これが精霊の力……」

「調子に乗りやがって……今度はこっちから仕掛けてやる!」

「待てベート! まだ何かある」

「なぁっ!?」

 

 フィンさんの言葉で全員が精霊の強化種を見つめます。すると精霊の強化種は更なる詠唱を行っていました。

 

「火ヨ、来タレ──」

「連続詠唱っ!?」

「猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ」

「早い!」

「もう来るのか」

「アレだけの物を放っておきながらこれか!」

 

 レフィーヤさん、椿さん、ガレスさんの言葉にわたくしはフィンさんを見ます。

 

「燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号砲ヲ我ガ愛セシ英雄ノ命ノ代償ヲ──」

「クルミ! 結界の時間停止!」

「っ!? <刻々帝(ザフキエル)>」

「代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ火精霊炎ノ化身炎ノ女王──」

「来るぞ!」

七の弾(ザイン)!」

「ファイアーストーム!」

 

 馬鹿みたいな炎の嵐がわたくし達を襲います。地面以外の視界全てが炎に包まれます。レフィーヤさんはアイズさんに押し倒され、皆さんが伏せております。自分では結界の時間停止など思い付きませんでしたが、フィンさんの言葉通り、無事に結界は耐えております。

 

「ガレス! リヴェリアの前に出て盾を構えろ! リヴェリア! クルミの時間停止が解除されたら結界が解除される! ガレスの後ろに伏せながら全力の攻撃魔法を詠唱しろ! レフィーヤは今すぐにリヴェリアの結界魔法を詠唱! 三発目が来る前に叩き込め! 前衛部隊はその直後に走れ!」

 

 フィンさんが次々に指示を飛ばしていきます。そして、わたくしの方へ見ました。

 

「クルミ。結界を解除したらリヴェリアに加速の弾を間髪入れずに叩き込め。いいか、タイムラグなしだ。それで詠唱を早くできる。それ以外は今すぐ頼む」

「畏まりましたわ。わたくし達」

 

 一の弾(アレフ)を込めた弾に他のわたくし達が入れ替え、リヴェリアさん以外に叩き込みます。レフィーヤさんはかなり震えながら詠唱をしています。

 

「レフィーヤ、大丈夫。私達が守るから」

「そうだよ。大丈夫! 私達が勝つよ」

「そうね。こんなところで死ねないわ。だって、団長の子供だってまだ生んでないもの」

「ティオネさん……」

「大丈夫だ。レフィーヤ。お前ならできる。私の一番弟子なのだから、私の魔法を使いこなせる。なに、ほんの少しだけ時間を稼げばいい。その時間だってガレス達が手伝ってくれる」

「それにちょうどいい機会ではないですか。皆で冒険しましょう!」

「はい。わかりました! 確かにあの人にも負けていられません! 行きます! ウィーシェの名のもとに願う。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか──力を貸し与えてほしい」

 

 加速されたレフィーヤさんが一気に詠唱していきます。

 

「クルミ」

「なんですか?」

「悪いが、死んでくれ。埋め合わせはする」

「高いですわよ。文字通り、命を賭けるのですから」

「あの精霊のドロップを全てやる。それでどうだ?」

「きひっ! いいですわね! 乗ってやりますわ!」

 

 くるみねっとわーくを通して残り時間の少ない者から、十人を選びます。その十人の皆さんは快く快諾していただきました。わたくし達の目的は同じであり、ともにこんなところで死ぬつもりはありません。自分達の記憶も感情も全てがくるみねっとわーくによって共有され、自分達が分身であり、オリジナルでもあるという状況になっています。故に死を厭いません。最終的にだれか一人でも生きていればそちらにわたくしの霊結晶(セフィラ)を譲渡すればその者がオリジナルとなります。これは原作のデート・ア・ライブでも取られていた方法ですもの。わたくし達がそのように行使するのはなんの問題もありません。

 

「もうまもなく解除されますわ!」

「舞い踊れ大気の精よ、光の主よ。森の守り手と契を結び、大地の歌をもって我等を包め。我等を囲え大いなる森光の障壁となって我等を守れ──我が名はアールヴ!」

 

 時間停止が終わり、結界が破壊されます。その瞬間、炎がわたくし達を襲いますが、ガレスさんがしっかりと防いでくださいます。

 

「ヴィア・シルヘイム!」

 

 レフィーヤさんによる結界魔法が発動しますが、流石にリヴェリアさんよりも脆いのです、即座に七の弾(ザイン)によって時間停止をして時間を稼ぎます。その間に炎の嵐が終わりました。

 

「う、後ろに……」

「嘘……」

 

 後ろには大量のイモムシ型の魔物(モンスター)がこちらにやってきていました。それも馬鹿みたいな数です。そして、そのイモムシ達の中には精霊の強化種がもう一匹居ました。更に精霊の強化種はイモムシ達から魔力を吸い上げています。残念ながらわたくしよりも相手の吸収能力の方が大きいのであまり奪えていません。それでも全て回収されるよりは格段にましです。

 

「ぁぁ、そんな……」

「くそっ……」

 

 絶望的な状況です。後方にはイモムシが数えるのも億劫になるほど存在し、広域魔法を連射してくる精霊の強化種までいます。前方にも先程攻撃をしてきた精霊の強化種です。皆さんの中に諦めのような物が漂ってきます。

 

「何を恐れている。僕達がやることは一つだ。あの魔物(モンスター)達を討つ。君達に勇気を問おう。その瞳には何が見えている? 恐怖か、絶望か、破滅か! 僕には倒すべき敵、勝機しか見えない! もとより退路など不要だ! 全身全霊でこの槍を以て道を切り開く! 小人族(パルゥム)の女神、フィオナの名に誓って君達に勝利を約束しよう! 付いてこい! それとも、ベル・クラネルやフレイヤ・ファミリアの真似事は君達には荷が重いか?」

「ちっ、雑魚やアイツに負けてられるかぁっ!」

「上等じゃない。私達も冒険しないとね」

「ベル・クラネル……」

「手前も弟子に冒険させておいて、師匠である手前が冒険せぬなど、許せぬな」

 

 全員の瞳に生気が宿りました。これがロキ・ファミリアの団長。目指すべき姿ですか。勉強になりますわ。

 

「クルミが道を作る。リヴェリアはその道を通して本体に攻撃しろ。そこにベートとティオナ、ティオネは突撃。アイズは僕と一緒にその後だ。次にレフィーヤ、君も付いてこい。ガレスと椿、ラウルは背後を押さえろ。前方を全力で殺してから背後に転進する。それまで耐えろ」

「言ってくれるな……」

「無茶苦茶だな」

「お前達にはできないのか? ならばそこでうずくまっていろ」

「誰にものを言っている」

「まったくだわい。逆にぶち殺してやるわ!」

「それでこそだ。クルミ!」

「きひっ! デートの始まりですわね! 盛大に開始の花火をあげましょう! わたくし達!」

 

 わたくし達が一斉に突撃してから詠唱します。更に人数を増やしてですわ。

 

「「「「「時よ、止まりなさい! 停止世界(ザ・ワールド)」」」」」

 

 全員が詠唱し、世界の時間を停止させます。しかし、完全詠唱ではないのですぐに緩やかに動きだしていきます。時間が停滞した世界。その状態で前後に向かって五人ずつ、計二回の合計二十人による連続射撃を行います。

 停止世界(ザ・ワールド)が解除され、弾丸は音速を超えて光速の領域へと到達して弾丸が耐えきれずに消滅します。しかし、光速で移動したことで発生する衝撃自体は残ります。

 魔物(モンスター)達の壁を容易く蹴散らしますが、その前に植物で出来た巨大な壁が現れます。そこを後ろから来た二発目が粉砕して大きな穴を開けます。盛大に魔物(モンスター)達を虐殺してくださいましたが、当然、被害はこちらにも来ます。ええ、結界がぶち壊れました。

 

「いいタイミングだ。行くぞ!」

「「「「おおおおおおおおおおぉぉぉっ!」」」」

 

 二十人のわたくし達が逝きました。ですが、その死は無駄にはなりません。即座にリヴェリアさんが追撃を放ちます。

 

「レア・ラーヴァテイン! 行けっ!」

 

 全方位に無数の巨大な炎の柱を突き出す広範囲殲滅魔法が放たれ、フィンさん達の進路を妨害しようとした魔物(モンスター)達を焼き殺していきます。

 

「地ヨ、唸レ──来タレ来タレ来タレ大地ノ殻ヨ黒鉄ノ宝閃ヨ星ノ鉄槌ヨ開闢ノ契約ヲモッテ反転セ」

「ヘル・フィネガス! おらぁぁぁっ!」

 

 詠唱を開始していた前方の強化種に狂暴化したフィンさんが槍を投擲します。相手はそれに気付いて即座に花弁を閉じて防御にかかります。ですが、その前に槍が到達して相手の顔が消し飛んで詠唱が止まりました。

 

「ナイスだフィン!」

「団長に続くわよ!」

「お~!」

 

 フィンさんの影に居るわたくしが新しい槍を投擲すると、すぐに掴んで戦闘を継続します。阻んでくる蔦を切り落としていきます。その間に精霊の顔が再生して詠唱をしだします。

 

「突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊雷ノ化身雷ノ女王──サンダー・レイ!」

「しゃらくせぇっ!」

 

 放たれる雷をベートさんが風を纏った足で蹴り飛ばし、自らも吹き飛ばされて地面をバウンドしていきます。見れば足がなくなっていますので、影に潜んだわたくしが四の弾(ダレット)で即座に回復させます。

 

「おりゃぁぁぁっ!」

「ふんっ!」

 

 ティオナさんとティオネさんが怪我も気にせずに閉じようとしていた壁に自ら入り込んで無理矢理止めます。そこをアイズさんとレフィーヤさん、フィンさんが入って精霊の強化種に肉薄しました。

 

「誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ。帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢。 雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え」

 

 フィンさんは命中すれば身体を貫く無数の蔦を紙一重で回避し、できない物は切り落としてまるで踊るようにしながら槍を交差せて突き刺して一気に左右へと広げて切り裂きます。

 

「レフィーヤ! ベル・クラネルと同じようにしろ!」

「はい!」

 

 フィンさんが飛びのいた場所にレフィーヤさんが入り込んで、両手を引き裂いた体内に入れます。しかし、相手もただでやられるわけもなく、蔦を放ってきますが、新しい槍を渡したフィンさんが投擲して蔦を串刺しにします。

 

「ヒュゼレイド・ファラーリカ!」

 

 ゼロ距離の体内から放たれた広域攻撃魔法により、全身が炎に包まれます。その状態でも体内から蔦を生やしてレフィーヤさんの腕を切り落として魔法を中断させました。

 

四の弾(ダレット)! 再開なさいまし!」

「ヒュゼレイド・ファラーリカぁぁぁぁぁぁっ!」

「クッ!」

 

 たまらずに精霊の強化種がレフィーヤさんに口を向けます。その中に魔法陣が見えたので二の弾(ベート)を叩き込んで時間を遅くします。それでもレフィーヤさんとわたくし達を殺す氷の塊は降ってこようとします。

 

「アイズさんっ!!」

「リル・ラファーガ!」

 

 身に纏った風と一の弾(アレフ)に加えて天井を蹴って加速したアイズさんがこちらを向いていた精霊の強化種の頭へと突撃していきます。

 

「アリアァァァァァァッ!」

「私はアリアじゃない!」

 

 突撃したアイズさんは精霊の強化種を貫き、体内に入った剣から風を解放します。体内で炎と風が混ざり合ってさながら先程のファイアストームのようです。精霊の強化種はバラバラに粉砕されて残ったのは何もありません。ドロップアイテムすらありませんが、しっかりとその力は吸収させていただきました。

 

「全員転進! 次は後方を討つ!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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ロキ・ファミリアと51から59階層3

◇◇◇の後から胸糞展開のようなものがあります。ですので、いやな方は二つめの◇◇◇までお飛ばし下さい。
基本的に乱発はしませんが、デート・ア・ライブにつきもののアレです。彼女ならこのタイミングでやらないわけないです。


 

 フィンさん達が突撃して行った後、残ったのはわたくし達とガレスさん、ラウルさん、椿さん。そして、魔力が切れたリヴェリアさんです。相手は数十数百のイモムシと食人花(ヴィオラス)、精霊の強化種です。

 

「これを耐えろとか無茶言ってくれるわい」

「なら逃げるか?」

「馬鹿を言うな、いけ好かないエルフ! お前こそ魔力が切れておるだろ。寝ておれ」

「黙れ……野蛮なドワーフめ……クルミ、マジックポーションをありったけ寄越せ」

「こっちは斧だ」

「畏まりましたわ」

 

 箱ごと武器を取り出して渡していきます。

 

「ふむ。クルミよ」

「なんですの?」

「ここでならアレを使っても主神様も怒らんではないか?」

「ああ、アレですわね。なるほど、やっちゃいますか?」

「切り札があるならば切れ。このままじゃジリ貧じゃ」

「あちらが戻るとは言っても、限界を超えてきているだろう。使えるなら使ってくれ。請求はロキ・ファミリアが持つ」

「だ、そうだ」

「きひっ! きひひひひっ!」

 

 短銃に一発の弾頭がアダマンタイトで薬莢がオリハルコン。びっしりと神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれた弾丸を取り出して装填します。

 

「高くつきますわよ、ロキ・ファミリア」

「構わん」

「まあ、問題は直撃させんとさすがに殺せんことだろう。手前が運ぶか?」

「ソイツを叩き込めば相手は殺せるのかの?」

「確実とはいいませんが、普通にやれますわ」

「なら答えは簡単じゃな。わしが道を開く。付いてこい」

「ですわね。では、その前にもう一度一掃いたしましょう」

 

 そう言って準備をしようとした瞬間、相手も魔法を用意していたようです。

 

「代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ地精霊大地ノ化身大地ノ女王──メテオ・スウォーム」

「走ってください! 大丈夫ですわ! <刻々帝(ザフキエル)>!」

「行くぞ!」

「やるしかないっす!」

「付き合ってやる!」

「うむ。楽しみだな!」

 

 全員でメテオ・スウォームの中を突撃します。わたくしはくるみねっとわーくをフルに使って降ってくる隕石の軌道と影響する範囲を計算し、未来予測と併用して七の弾(ザイン)によってこちらの進路を塞ぐ物と影響する物だけを撃って停止させて移動します。

 同時にほかのわたくし達も時喰みの城(ときばみのしろ)の空間内である事を利用し、大人のわたくし(時崎狂三)に教えてもらった空を飛ぶ方法を利用してメテオ・スウォームが降ってくるさらに上から攻撃を行います。

 

「閃光ヨ駆ケ抜ケヨ闇ヲ切リ裂ケ代行者タル我ガ名ハ光精霊光ノ化身光ノ女王──」

「ガレスさん!」

「おうよ!」

「ライト・バースト!」

「ぐぅううううううううぅぅっ‼」

 

 ガレスさんを盾にして七の弾(ザイン)をガレスさんに叩き込み、一時的に無敵化して耐えていただきます。効果が切れてガレスさんの身体が焼かれますが、四の弾(ダレット)で修復して即座に駆け抜けます。

 

「魔剣で前方の四つを吹き飛ばしてくださいまし!」

「了解した! 手前は右二つをやる!」

「左二つっすね!」

「終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬──」

 

 魔剣とわたくしの銃撃などを利用して相手の魔法を時には防ぎ、時にはガレスさんに耐えてもらいながら突撃します。また、上空に居るわたくしが空から急降下して、接近すると同時に時間を停滞させての攻撃も行っています。無数の攻撃がこちらにも放たれて幾人ものわたくしが全身を貫かれて身体を引き寄せられ、食べられます。ですが、完全に食べられる前に停滞空間を別のわたくしが発動させ、爆発物で自らを殺します。

 近距離から放たれる暴虐の嵐に何度も身体を粉砕されながらも再生して復活してくるのは脅威というしかありません。

 

「こんな事ならもっと七の弾(ザイン)を大量生産しておくべきでしたわ!」

「後の祭りであるな! 次の魔剣を寄越せ!」

「どうぞ!」

「突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊雷ノ化身雷ノ女王──サンダー・レイ!」

 

 無数の雷が降ってくるので、わたくしの一部に槍を持たせて投擲させ、避雷針にします。

 

「我が名はアールヴ。ウィン・フィンブルヴェトル!」

 

 吹雪によって魔物(モンスター)達が氷漬けにされてます。その状況でも地下を通して蔦が襲い掛かってきます。ガレスさんが身体中を貫かれながらも耐えて前進し斧で切断していってくださいます。

 

「アア、ナゼ! ナゼ食ベサセテクレナイノ! イッショニナリマショウ! クルミィィィッ!」

「勘違いしないでいただけます? 貴女が食べるのではなく、わたくしが食べるのですわ!」

「おいおい、コイツを喰う気か」

「腹を壊すな」

「まったくだ」

 

 少し回避が遅れたリヴェリアさん達の身体が欠損しますが、すぐに巻き戻して戦います。そうこうしていると、敵が口から氷の塊を出してきました。

 

「むぅっ!」

 

 ガレスさんが氷の塊を受け止めると、そのまま後方に飛ばされていきます。

 

「ラウル! ここからは手前達が行くぞ!」

「はいっす!」

 

 前衛を二人出して、迎撃してもらいます。わたくし達も次々と死んでいく中、様々な武器を持って接近戦を仕掛けていきます。四人一組となって運用する方法で連携し、確実にダメージを与えていきます。本当にガリバー兄弟には助かりました。同じ小人族(パルゥム)の体格で連携戦闘が得意なんですもの。彼等の記憶から技術を引き出せばかなり戦えますわ。

 

「いてぇぇっ! 腕が、腕がぁぁぁぁぁぁっ!」

「一本や二本で泣くでないわ!」

「無茶苦茶っす! あ、戻った!」

 

 二人の身体の一部がポンポン飛んでいますし、わたくしの身体もそこらじゅうに転がっております。それを狙って魔物(モンスター)達がやってきますが、そこにちゃんと爆弾を仕掛けてあるので、食べた瞬間ボンッです。仕掛けられない物は時間を吸い取ってさっさと消滅させます。

 そんな中、壁を作り出してわたくし達の進行を塞ごうとしてきますが、そこに空からガレスさんが降ってきました。

 

「おりゃああああああああああああああぁぁぁぁぁっ‼」

 

 そして、何度も攻撃して壁を破壊します。身体を貫かれながらも穴を大きく開けてくださいました。そこを通り、精霊の強化種まで数メートルという目前までやってきました。そのタイミングで他の方々、アイズさん達が追い付いてきました。

 

「待たせたね」

「遅いぞフィン」

「もう手前まで来てしまった」

「これは遅れてしまったか」

「まったくですわ。ですから、援護してくださいまし。それとわたくしが接近したら即座に撤退してくださいね。死にますわよ」

 

 皆さんボロボロです。身体は再生できても精神力の問題です。魔力がなくなれば強制的にマインドダウンしてしまいますもの。

 

「わかった。全員で、クルミを援護する! その後、後退だ!」

「いっくよ~!」

「もう一体なんて楽勝よ!」

 

 相手は自らの身体を崩壊させながらも新しい口を生やして詠唱を高速で二つも行ってきます。

 

「「代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ地精霊大地ノ化身大地ノ女王、火精霊炎ノ化身炎ノ女王──メテオ・スウォーム、ファイアーストーム!」」

 

 自らの命を削った魔法が放たれますが、もう死ぬので問題ありません。この距離ならどうとでもなります。

 

「時の精霊たるわたくし(時崎狂三)が命じます。時よ、止まりなさい。停止世界(ザ・ワールド)

 

 完全詠唱による世界全ての時間停止。身体が物凄く重い中、移動して停止している精霊の強化種に上って彼女の額に短銃を押し付けて引き金を引きます。弾丸は即座に発射されて止まりました。

 

「解除」

「エ”?」

 

 停止世界(ザ・ワールド)を解除すると、即座に世界が動き出して弾丸が効果を発揮します。弾頭が彼女の体内にめり込み、弾頭に刻まれた神聖文字(ヒエログリフ)が崩壊することで中にある液体と反応して膨大な熱量を生み出します。

 

「あっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 一瞬で精霊の強化種とわたくしは金色の炎柱に包まれて一秒未満で身体が焼失します。続いて周りに炎が広がっていき、魔物(モンスター)達を飲み込んでいきます。即座にくるみねっとわーくを通して別の個体に切り替えます。

 

「撤退!」

 

 フィンさん達が逃げてある程度の距離ができたら、わたくしが時喰みの城(ときばみのしろ)をこの周りだけにして、三の弾(ギメル)を叩き込みまくって効果がなくなるまで待ちます。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「うむ。流石は主神様と炉の女神の血を使った炎だ。綺麗であるな!」

「いやいや、なんてものを作っているんだよ」

「しかし、これで終わりか」

「いや、まだだ。親指の疼きが止まらない」

「クルミ……」

「っ!? アイズ避けろ!」

「え?」

 

 アイズさんの胸に手が生えて、引き抜かれます。そこには空洞ができていて何もありません。

 

「「「「アイズっ!?」」」」

「あっ……」

 

 倒れたアイズさんにすぐに四の弾(ダレット)を撃ち込もうとしますが、その間にわたくしには軍刀が生えてきました。

 

「油断大敵ですわよ、黒のわたくし」

「白の王女(プリンセス)

 

 後ろを見ると、白く長い綺麗な髪の毛を靡かせた幼い少女。彼女の手に持つ軍刀がわたくしを貫き、もう片方の手には脈動する心臓が握られておりました。

 

「あむっ」

 

 彼女はそれを食べました。

 

「貴様ああああああああああああああああああぁぁっ!」

「ぶっ殺す!」

「きひっ! できもしない事を言うものではありませんわ!」

 

 白の王女(プリンセス)は即座に消えて、ベートさんの背後ではなく、リヴェリアさんの背後に現れて軍刀を振り下ろしていました。それをフィンさんが反応して槍を突き刺すことで防ぎます。

 

獅子の弾(アリエ)

「レフィーヤっ!」

「あっ……」

 

 アイズさんを抱きしめて泣いていたレフィーヤの胸に斜め横から空間を飛んで現れた弾丸が彼女を上下に切断しました。

 

「あああああああ! ああああああああああああああああああぁぁっ!」

「きひっ! きひひひひっ! 楽しいですわね、ええ、楽しいですわ!」

「お前ぇぇぇぇっ」

 

 激情で頭がおかしくなりそうですが、冷静に冷静に対処します。

 

「時よ、止まりなさい。停止世界(ザ・ワールド)

 

 一度、停止世界(ザ・ワールド)を使って思考だけを行います。まず、アイズさんとレフィーヤさんは即死です。どちらも心臓を潰されました。わたくしのように予備があるわけでもありませんので、もう助かりません。

 次にこのタイミングという事は、白の王女(プリンセス)はこちらを狙って待機していた事になります。つまり、こちらが何時来るかというタイミングがバレていたに違いありません。

 まあ、ダンジョンに来てから知られていた可能性もありますが、どちらにしろ、これはやるしかありませんわ。誰ならいける? 誰ならアイズさんとレフィーヤさんを救える? そんなの決まっていますわ。

 

「ああ、もう! 気持ち悪いですがやってやりますわ! フィンさん!」

 

 フィンさんの影に潜ませたわたくしにフィンさんを掴ませます。彼は怒りで狂暴化しかけていますが、なんとかなるでしょう。

 

「全員! 数秒でいいのでわたくしを命を賭けて守りなさい! アイズさんとレフィーヤさんを助けます!」

「あ?」

「できるのかい?」

「できます! 二人が死んだままでいいのなら、構いませんが!」

「ふざけんな! やれ! いますぐやれ!」

「そうだよ!」

「私達が守ってやる!」

「フィンさん!」

「ぐっ……!」

 

 フィンさんに後ろから抱き着いて四の弾(ダレット)を叩き込んで強制的に冷静にさせます。

 

「クルミ……?」

「いいから聞きなさい。これだけは絶対に守ってください。わたくし以外に知られてはならない。自分に見つかってはいけない。これを破れば二度とアイズさんとレフィーヤさんは戻ってきません。ですが、フィンさんなら、我ら小人族(パルゥム)の勇者であるフィンさんなら可能ですわ」

 

 耳元で囁いてしっかりと注意事項を伝えます。正直言ってどうなるかはわかりませんが、命を賭けるだけの価値はあります。

 

「何を言って……」

「時間です。よろしくお願いいたしますわ。<刻々帝(ザフキエェェェェル)>!」

「させると思っていますの! 黒のわたくし!」

「やらせるか!」

「団長を殺させるか!」

 

 現れた<刻々帝(ザフキエル)>が軋みながら、弾丸を短銃にチャージします。一気に、ゴッソリとほぼ全て……いえ、全ての時間が持っていかれますが、消滅するまでの時間があります。

 

「くっ! ああやっぱり厄介ですわね、わたくしぃぃぃぃっ!!」

 

 ティオナさんが足を切断されながらも、白の王女(プリンセス)の足を止め、ティオネさんが身体を張ってわたくし達の前に出て槍を構えますが、槍を軍刀がすり抜けて真っ二つにされます。

 

十二の弾(ユッド・ベート)!! 

 

 引き金を引く前に迫る白の王女(プリンセス)にリヴェリアさんとガレスさんが自らの身体でわたくしとフィンさんを弾き飛ばします。二人が纏めて貫かれ、後ろから迫っていたベートさんが獅子の弾(アリエ)で打ち抜かれます。

 

「手前で作った未完成品だが、持っていけ!」

 

 椿さんが持っていた宝玉の失敗作を取り付けて大剣を振るいます。大剣は軍刀をすり抜けますが、その直前に大爆発を起こして白の王女(プリンセス)は吹き飛びます。彼女はその状態で椿さんに短銃を向けて獅子の弾(アリエ)を叩き込みます。

 

「あっ、あああ……」

「離せクルミ!」

 

 フィンさんが暴れてわたくしを吹き飛ばします。そして、笑う白の王女(プリンセス)が軍刀を振り下ろしてきます。ですが、その前に短銃はラウルさんのそばに行きました。

 

「ラウルっ! フィンさんを撃ちなさい! 誰も死なずに地上へ、皆が待つホームに笑顔で帰るために!」

「ああああああああぁぁぁぁぁっ!」

どういうつもりだ! どういうつもりだぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!! 

 

 軍刀で切断されながらも、フィンさんの身体に震える身体で撃ってくれたラウルさんの姿が見えました。これで、負けが決まった盤上はひっくり返しました。勝負はわかりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どういうつもりだ! どういうつもりだぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!! 

 

 皆の死を受けて、戦う邪魔をしてきたクルミに怒りを募らせながら叫んだ。心の底から叫んだ。動く身体で即座に槍を振ろうとして無い事に気付く。

 

「ここは……」

 

 周りは新種の魔物(モンスター)だらけであり、そこに死体の王花、タイタン・アルムが居た。おかしい。明らかにおかしい。彼等は僕に気付くと即座に襲い掛かってくる、しかし、武器がないので即座に撤退を選択する。

 

「ヘル・フィネガス!」

 

 ヘル・フィネガス は高揚魔法だ。碧眼が紅眼に変化し、詠唱すると指先に紅い魔力が集まって槍の穂先の形となり、それで自身の額を撃つ事で戦闘意欲が引き出され、全能力が超高強化される。代償として、発動中はまともな判断能力を失ってしまうが、限界以上に怒ると冷静さを保ったまま発動することが可能だ。

 沸き上がる怒りを冷静に振るうべき時に備えて敵を蹴散らして移動する。タイタン・アルムとは戦わずに離れた場所に移動し、身を隠す。何をするにしても考えないといけない。

 

「ん? アレは……馬鹿な……」

 

 タイタン・アルムが居た場所の先。密林から歩いてくるのは死んだはずの皆だった。その姿を見て涙が溢れてくる。しかし、その中に僕自身が居ることに気付くと、一気に冷静になった。

 

わたくし以外に知られてはならない。自分に見つかってはいけない

 

 クルミが魔法を発動する前に伝えてきた言葉。それと彼女が自らを時の精霊と自称し、実際に持つ時間を操る反則級の魔法。そこから冷静に考査すれば答えは見えてくる。

 

「はは、誰も死なずに地上へ、皆が待つホームに笑顔で帰るために、か……言ってくれるじゃないか。どっちが勇者かわからないね。本当に……」

 

 彼女は言っていた。時間を巻き戻すのには代償が要ると。では、どれだけの代償を支払った?

 決まっている。過去が改変できるほどであり、彼女が普段は絶対に使わない十番以上の魔法。その最後の魔法だ。

それに最後の彼女は顔面蒼白で消えていくように身体が薄くなっていた。おそらく、自らの時間を全て使ってでも僕をこの時間に送り込んだんだろう。

 

「ならば死んだ皆と女神フィオナに誓おう。僕は何度やり直しても必ずやりとげてみせる。皆でロキの待つホームへと帰って見せよう。待っていてくれ」

 

 まずやる事は簡単だ。クルミと合流する。そして、予備の武器を受け取ることからだ。最悪、今回は捨ててもいいのかもしれない。ただ、それはクルミから情報を聞いてから判断すべき事だ。今は助け切る方向で動こう。もし、もう一度過去に戻れないのであれば今回で助けないといけないからね。

 肝心の合流方法だが、見つからずに合流するには精霊の強化種が二体現れ、僕達が分かれてクルミが盛大に分身を呼び出して戦っていたところ。そこで彼女達を攻撃すれば必ず一人か二人はこちらに反撃してくるだろう。それを回避してこちらに呼び寄せる。そうすれば全てのクルミに情報を伝えられる。

 相手はクルミの反転体だ。どうにかして対処しないといけない。それにはあのすり抜ける軍刀についても知らなければならない。流石に彼女とてこの状況で情報開示はしてくれるだろう。

 

 

 

 




次回予告 「レベル6勇者フィン! 時をかける冒険!」

「情報開示してくれ」
「いやですわ!」

こういうタイトルだと弱く見える不思議ー



ダンメモとデアラのコラボではベル君が過去に戻りましたが、今回はフィンさんです。
理不尽なくらい白の王女(プリンセス)が強いのは魔石をパクパクと食べ続けて、深層で普通に狩ってるからです。空間転移と空間操作による防御不可の全距離攻撃を叩き込んでくるバグキャラ相手に生半可な魔物(モンスター)が勝てるはずありません。
くるみ<超えられない壁<白の王女(プリンセス)。基本的にこんな感じですね。超えられない壁を超えるためには色々としないといけません。勇気、努力、根性、知力、仲間で超えられるよう頑張りましょう!
また、今回の襲撃はルーク化して支配下に置いた精霊の胎児を寄生させ、育てて手駒にしております。そんな彼女が居る深層に降りてきて全力戦闘をしてギリギリ勝利したら……そりゃ襲います。勝って一息ついたところが一番狙いやすいですからね。


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勇者フィンの時をかける冒険上

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「メテオ・スウォーム!」

 

 

 

 

 助けに入りたいという思いを押さえ込み、隠れて様子を確認していたが親指が疼いて即座に逃げた。こちらにも当然のように降ってくる隕石から必死に走って逃れる。

 隕石が地面に激突する衝撃で何度も身体が吹き飛ばされ、僕と同じように吹き飛ばされ木々が激突してくる。それらを蹴り返したりしてどうにか防ぎ、精霊の強化種が放ったメテオ・スウォームから逃れる。しかし、精霊の強化種は休ませてもくれない。

 

「ファイアーストーム!」

 

 紫色の炎が嵐となってこちらにも襲い掛かってくる。それらを先程、メテオ・スウォームによってできたクレーターに入り、やり過ごす。炎が通り過ぎたら、すぐに別のクレーターに移動して襲ってくる炎をやり過ごしていく。

 あくまでも地表に居るロキ・ファミリアを狙っている攻撃なので逃れられているが、少しでもミスしたら死ぬのは確実だ。

 しばらくすると、後ろから大量の新種が現れる。ソイツらを素手で殴り飛ばし、逃げ回る。本来なら殺すのは容易いが、武器もない状態でこいつらの酸を受けるのは遠慮したい。

 

「何を恐れている。僕達がやることは一つだ。あの魔物達を討つ。君達に勇気を問おう。その瞳には何が見えている? 恐怖か、絶望か、破滅か! 僕には倒すべき敵、勝機しか見えない! もとより退路など不要だ! 全身全霊でこの槍を以て道を切り開く! 小人族の女神、フィオナの名に誓って君達に勝利を約束しよう! 付いてこい! それとも、ベル・クラネルやフレイヤ・ファミリアの真似事は君達には荷が重いか?」

「ちっ、雑魚やアイツに負けてられるかぁっ!」

「上等じゃない。私達も冒険しないとね」

「ベル・クラネル……」

「手前も弟子に冒険させておいて、師匠である手前が冒険せぬなど、許せぬな」

 

 死んだ皆の声を聞きながら、クルミがこちらに気付くまでどうにか対処をする。一瞬、あちらの僕がこちらに向くが、その前にどうにか新種の下に隠れることができた。当然、新種は口を僕に向けてくる。

 

「落ち着いてくれ。僕は食べても美味くはない!」

 

 あちらの僕がベート達を率いて一体目の精霊の強化種へと攻撃を仕掛けに行くタイミングを確認してから、新種を蹴り飛ばして下から這い出る。

 あちらの方を見ると、丁度いいタイミングでクルミが無数の分身達を呼び出して周りの殲滅と精霊の強化種への時間稼ぎに動きだしている。そこで、空に居るクルミの方へ寄ってくる新種を掴んで思いっきり投げてやる。

 

「っ!?」

 

 だけど、驚いただけで無視して精霊の強化種へ集中していく。だから、次々と投げていくと、クルミも流石に鬱陶しくなったのか、こちらを見た。そのタイミングで直撃するコースで送り込むと、彼女は避けてから数人でこちらに銃撃を放ってきた。その弾丸を新種を打ち上げることで迎撃すると、流石に気付いたようでこちらに飛んできた。

 

「あらあら、先程から鬱陶しいことをしてくださっていたのは何処の何方かと思っていたら、フィンさんではありませんか」

「ええ、そうですわね、わたくし。ですが、おかしいですのよ。だって、フィンさんはあちらに居ますもの」

「では、偽物でしょうか、わたくし」

 

 彼女達は当然、僕に向かって冒険者には非常に珍しい……ほぼ皆無といっていい銃を向けてくる。銃は一般の者が使うなら確かに弓より強い。だが、それはあくまでも単発の場合だ。弾丸を一回一回込める手間と威力、連射速度を考えるとどうしても冒険者が使う場合は弓の方が強くなる。彼女の場合は魔法によって作り出されているためか、普通にほぼタイムラグ無しでいくらでも連射してくるので脅威だ。

 

「では撃ちましょう」

「ええ、そうですわね」

「待ってくれ! 事情があるんだ!」

「事情、ですか?」

「聞く必要はありませんわよ、わたくし。だって怪しすぎますもの」

「……確かにその通りだ。だが、信じて欲しい。僕は未来から来たんだ」

「「未来、ですか……?」」

「そうだ。信じられない話だろうが、事実だ。頼む、時間がないんだ」

 

 数人がそろって小首を傾げるクルミ達。だが、彼女の銃口はこちらを向いたままで、地面に降りてこない。そもそもどうやって飛んでいるのかもわからない。

 

「未来、未来ですって、わたくし」

「ああ、ああ、もしかして、もしかするかもしれません」

「ですが、そうなるとわたくしがこちらに送ったという事ですわよ? ありえなくありませんか?」

「そうですわね。このわたくしが、フィンさんを送る? 送るのならばアイズさんか、ティオナさんではありませんの?」

「彼女達は死んだ。生き残っているのはおそらく僕だけだ」

「なるほど、なるほど。確かにそれが事実ならばフィンさんを過去に送るかもしれません。そうなると、未来を変えるために来られたんですの?」

「そうだ。皆が生きて地上に帰るために協力してくれ!」

「しかし、それだと未来のわたくしは過去のわたくしに連絡を取る手段を使っていないのがおかしいんですの」

「その時間がなかったんじゃないのかな? あの状況では仕方がない」

「あの状況というのが、何なのかわかりませんが……それが事実だと証明できます? 流石に簡単に信じられませんわ」

「できない。だが、信じてくれとしか言えない」

「でしたら、証明する手段があります。それをさせていただけますか?」

「わかった。やってくれ」

 

 彼女達からしたら、僕は怪しすぎる。敵が化けている可能性もあるのだし、この対応は納得だ。僕が僕であるという事が証明できるのならば構わない。

 

「今から貴方に打ち込む弾丸は対象の記憶を読みます。つまり、フィンさんがこれまで辿ってきた道を全てわたくしが見て、聞いて、体験することができます。これにより、フィンさんの言っていることが事実であるならば証明ができます」

「それは……駄目だ。ロキ・ファミリアの機密情報が全てクルミに流れることになる」

「でしたら、諦めてお帰りなさいませ。たとえ、わたくし達が全滅するというのが事実ならば、フィンさんは団長として五十階層に帰還し、残っているロキ・ファミリアの方々を率いて地上に戻るのがベストでしょう」

「それはそうだ。だが、助けられる手段があるのならば助けたい! 頼む!」

「では、記憶を読ませて証明してくださいまし」

「だからそれは無理だ」

「でしたら、こちらも無理ですわ。そちらの言葉を一応、信じて警戒ぐらいはしてさしあげますが……」

 

 何を警戒しているのかがわからないが、僕が記憶を見せない限りは頑なにこちらの言葉に納得しない。いくら会話を積み重ねても平行線だ。

 

「わかった。もういい。時間がないんだ」

「ですわね」

「せめて武器だけは渡してくれ。僕が命を賭けて皆を救う。その行動を見てクルミが判断してくれ」

「……仕方ありませんわね。わかりました。では、武器を渡します」

 

 クルミはそう言って予備として渡しておいた槍を二本、こちらに投げてきた。僕はそれを受け取り、何度か振るってから確かめる。

 

不壊属性(デュランダル)ではないが、どうにかできるだろう」

「参考までに敵は何方でしたか?」

「君だ。君の反転した彼女だったよ」

「……白の王女(プリンセス)ですか」

「白の王女(プリンセス)か。可愛らしい彼女にはお似合いの名前だね」

「わたくしですもの、当然ですわ」

「彼女について知っている情報があれば教えてくれ」

「教えてさしあげるとよろしいのではなくて?」

「……敵の情報ですから、構いませんか。いいでしょう。彼女の能力は空間を操ります。彼女にとって距離は関係ありません」

「もしかして、あのすり抜ける攻撃もそうか?」

「すり抜ける、ですか?」

「ああ、そうだ。武器で防御しようにも武器をすり抜けて軍刀でティオナ達が一撃だった」

「……そもそもその場所を斬っていたのか、武器が通る空間を書き換えて別の場所に出現させていたのか、どちらかはわかりません」

「ありがとう。それだけでもかなりの情報になった」

「……一つ、合図を決めます。わたくし達が勇者と呼んだら、放った弾は確実にくらってくださいまし」

「それは?」

「過去へ飛ぶための弾ですわ」

「やはり、何度もやり直せるのかな?」

「わたくしの時間が続く限りです。おそらく、未来のわたくしは自らの死を選び、貴方を過去に送りました。ですが、今のわたくし達はそのようなことはしません。ですが、保険はかけさせていただきます」

「それで十分だ」

 

 全ては彼女達の気分次第という事だ。だが、それに文句をつけられるはずもない。何せ文字通り、彼女達が全てを犠牲にして放つ弾丸だ。自らの完全消滅をしてでも現実を変えたいという思いがなければできない。だから、彼女達を置いて襲撃を仕掛けられる場所に移動する。

 

「貴方の言葉が事実であれば、貴方は見つかってはなりません。わたくし自身、何が起こるかはわかりませんが、ろくでもないことが起こるのは確実です。遠距離からの全力投擲。ただの一度に全てを賭けるとよろしいでしょう」

「忠告痛み入る。ところで、一つ聞きたいのだが……」

「なんですの?」

 

 気になって振り返り、彼女達に問う。

 

「もし、僕ではなく、アイズやティオナだったら君は素直に協力するのかな?」

「「当たり前ですわ!」」

「……そうか……そうか……すごく複雑な気分だ」

「わたくしが二人と何度一緒に寝たと思っておりますの? 彼女達に違和感があれば気付きますし、ティオナさんであれば普通に記憶を読むのだって受け入れてくださいますわ。アイズさんに至ってはわたくし達は近しい物があります。ですから、彼女の事はわかります」

「うん。それを聞いて少し安心したよ。僕はこの状況でもこれからの事を考えてしまう。君達の信用と信頼を得るためには全てをさらけ出す必要があるんだろう。だが、それはロキ・ファミリアの団長としてできない。たとえ、君達が悪用しないと誓ったとしてもだ」

 

 僕の記憶を読ませるという事は僕だけじゃない。ロキ・ファミリアに所属する全ての者達が持つスキルや魔法。様々な個人情報にどのような緊急時の対応マニュアルを作っているかなど、防衛に関することもある。

 

「団長として家族は裏切れませんか」

「ああ、そうだ。僕にとってロキ・ファミリアは野望を叶える手段であり、大切な守るべき家族だ。そのためなら命ぐらいいくらでも賭けよう。ロキと女神フィオナに誓ってね」

「少し見直しましたわ」

「おや、軽蔑されていたのかな?」

大人のわたくし(時崎狂三)達が選んだ五河士道(あの人)は自分の記憶なんてわたくし達の信用と信頼を得るためならば平気で、一切の躊躇なく渡してきますもの。だからこそ、わたくし達はあの時、協力したのでしょう」

「そんな人が居るんだね。なるほど、そういう意味では僕は不合格だったわけだ。だったらなぜ忠告やヒントをくれたのかな?」

「今まで世話になっておりますもの。恩を仇で返すつもりはありません。ですから、貴方をわたくし達の勇者と認めたわけではありませんので、あしからず」

「そうか。わかったよ。小人族(パルゥム)の勇者として相応しいかどうか、判断してくれ。認められるよう、全力を尽くす。いや、違うな。全力を、限界を超えて皆を救おう。その為なら、精霊の一人や二人、倒してみせる」

「期待しておりますわ」

 

 そう言って、彼女達は他の子達とは別に違う場所に飛んでいった。どうやら、戦いに参加するつもりはないようだ。それでいい。これは僕達ロキ・ファミリアの問題だ。彼女の反転体とはいえ、そうなる原因を作ったのも僕達であるのだから。

 

 

 

 

 

 この辺りがいいだろう。見晴らしもよく、彼女達がよく見える。投げるタイミングはあの炎が現れた時でいい。しかし、逆境時に魔法およびスキルの効力が高増幅されるスキル、小人真諦(パルゥム・スピリット)と槍を装備している時に発展アビリティ【槍士*1】が一時的に発現するスキル、騎心一槍(ディア・フィアナ)、高揚魔法であるヘルフィネガスは発動できるのはいい。

 問題はLv.および潜在値を含む全アビリティ数値を魔法能力に加算させ投槍による攻撃を放つ投槍魔法ティル・ナ・ノーグを既に使っていることが痛い。この魔法は一度発動すると、再度使用するのに24時間のインターバルが必要だからね。

 

「まあ、それでもやるしかない」

 

 詠唱を開始する。碧眼が紅眼に変化し、指先に紅い魔力が集まって槍の穂先の形となる。それを自身の額を撃ち、戦闘意欲が引き出す。全能力が超高強化され、僕は一時的にレベル7と同レベルのステイタスを得ることができる。

 

「さあ、行こう」

 

 槍を掴み、全力を以てアイズの少し後ろに向けて投擲する。一本目と二本目は時間差を置いてほぼ同じ場所に向かって投擲だ。

 

「っ!? アイズ避けろ!」

「え?」

 

 超高速で飛来した槍はアイズの背後の空間を貫き、彼女を吹き飛ばす。それだけだった。先程までアイズが居た場所には小さな白い手が見え……そこにはアイズの心臓が握られていた。

 

くそぉおぉぉぉぉぉっ!!!! 

 

 その後は前回の焼きまわしだ。僕はあちらに進もうとする身体を必死に押さえつける。するといつの間にか隣にクルミが立っていた。

 

「失敗しましたわね。流石にあちらも警戒して初手は遠距離から空間を繋げての一撃でしたか。まあ、わたくしの事を知っているのですから、当然の対策ですわね」

「……失敗すると、わかっていたのか……?」

「いえ、二割は成功するかもしれないと思っていました」

「八割は失敗するという事か……」

「あちらもこちらの手を知っていますもの。白の王女(プリンセス)はわたくしでもあるのですよ?」

「ああ、確かにそうだ。時間を遡って未来を変えに来ることぐらいは予想してしかるべきか」

 

 初手は防がれることのないように確実に殺しにきている。それからはわざと姿を見せてアイズの心臓を喰らう姿を見せて冷静な判断をさせないように立ち回っているようにも感じる。

 

「クルミ……頼む」

 

 頭を下げて駄目もとで彼女に頼んでみる。僕の頭ぐらいでいいのならばいくらでも構わない。

 

「お断りしますわ」

「……そうか……」

「どうしますの?」

「決まっている。このまま戦いに参加する」

 

 戦場に進もうとすると、僕を包囲するようにクルミが現れ、銃を向けてくる。どうやら、僕を行かすつもりはないようだ。

 

「わたくし、言いましたわよね? 自分に見つかってはならないと」

「それがどうした。もはやアイズを救えないというのなら、出来る限り被害を少なくする。僕自身がどうなろうともだ」

「被害がフィンさん自身で止まるとは思えませんよ」

「それでも、だ」

「というか、無駄死にですわよ?」

「言っただろう。それでも、だ」

「やれやれですわね。でしたら、まず報酬のお話をしましょう」

「……そう言えばしていなかったね。確かに断るわけだ。僕も頭にかなり血が上っているらしい。言い値で支払う。ただし、僕の裁量に超えるものはできない」

「わかりました。こちらの要求は三つ。まず、わたくしのお願いにどんなことでも絶対に二つだけ叶えることです。もちろん、ロキ・ファミリアに損害はでませんし、フィンさんが叶えられることですので安心してください」

「それが二つだよね?」

「はい。最後の一つは単純です。ロキ・ファミリアの副団長、リヴェリア・リヨス・アールヴの説得です。こちらも彼女がロキ・ファミリアを離れるという事ではなく、わたくしのファミリアに居る団員について、隠匿と発覚した場合の沈静化にご協力いただく確約を頂きたいのです」

 

 リヴェリアを指定してくるという事は、エルフについてだろう。彼女のファミリア、ソーマ・ファミリアはエルフに知られてはまずい誰かを匿っているのだろう。それがエルフにとって敵か味方によって判断が分かれることになる。

 

「君は色々なファミリアに繋がっている。それでもリヴェリアの力が必要なのかな?」

「ええ、絶対に必要ですわ」

「そうか。確信しているのなら僕が言うことはない。つまり、君達はエルフの王族であるハイ・エルフに関わる何かを握っているわけだ」

 

 クルミの表情が変わった。これで確実だ。エルフの森を焼き払った魔剣に関する者達を匿っている方かとも思ったが、そちらではないようだ。

 

「ハイ・エルフの遺児か何か、もしくは犯罪か」

「わたくし、フィンさんの事は嫌いですわ」

「僕は好きだけどね」

「止めていただけます? 寒気がしますわ」

「傷つくね」

 

 身体を抱きしめて離れる彼女達に本当にダメージを受ける。彼女達が男性に興味がなく、女性の方に興味があるとわかっていてもだ。

 

「わかった。説得は手伝うが、決めるのはリヴェリアだ。団長として要請はする。これで勘弁して欲しい」

「ええ、構いませんわ。では、契約成立ですわね」

「ああ、契約成立だ。ロキと女神フィオナに誓って先の内容をたとえ、君達が忘れても達成しよう」

「いえ、その必要はありませんわ。だって、わたくしは忘れませんもの」

「そうなのかい?」

「はい。緊急時以外であれば方法はありますの」

「わたくし。来ましたわ」

「では、行きますわよ」

「ああ、やってくれ」

「<刻々帝(ザフキエル)>、六の弾(ヴァヴ)

 

 まず、彼女は自分自身を撃った。その撃った彼女は倒れてしまった。すぐ隣の彼女が引き継いだのか、僕に銃を向ける。

 

「今のは?」

「対象の意識のみを過去の肉体に送る弾ですわ。効果は数日ですが、問題ないでしょう。フィンさんはわたくしがお送りいたします。移動したらその場に留まっておいてください」

「了解した。頼む、やってくれ」

十二の弾(ユッド・ベート)。それでは良き未来を得られるまでの絶望と苦難に満ち溢れた旅路がハッピーエンドの先へと到達する事を願っておりますわ」

「ああ、任せてくれ。僕は諦めない」

「期待しておりますわ」

 

 銃声が響き、僕の額が撃ち抜かれた。すぐに目の前が真っ暗になり、目の前に時計版が現れる。前も現れていたのかもしれないが、あの時は気付かなかったのだろう。その時計版が高速で巻き戻っていく。

 

 

 

 

 

 

「ばぁっ!」

 

 目を開けると、そこにはクルミが居た。周りからは激しい戦闘音が聞こえてくる。どうやら、僕は地面に寝かされていて、彼女に覗き込まれているようだ。

 

「こういう時、膝枕をしてくれるんじゃないのかな? アイズはベル・クラネルにしていたそうだが?」

「何をとち狂ったことをおっしゃっておりますの? ぶち殺しますわよ」

「遠慮しておこう。それよりも、だ」

 

 起き上がってすぐさま周りを確認する。そこには大量の新種が居たが、複数のクルミ達が銃撃で殺している。それも数々の武器を持ち、それで新種を殺しているようだ。ただ、その武器は新種の体液を受けても壊れているようには見えない。

 

「もしかして、その数十の武器は全て不壊属性(デュランダル)かい?」

その通りでございますわ(Exactly)。ちょっと数日前に意識が未来から勝手にダウンロードされてきましたので、インストールしました。そこで必要になる物をオラリオ中を駆け回り、鍛冶師達を不眠不休で働かせ、持ってるファミリアにカチコミをして借りうけてご用意いたしましたの」

 

 周りを見ただけで、いったいいくらしたのか、頭が痛くなる。少なくともフレイヤ・ファミリアや鍛冶師達には借りができた。

 

「そして、フィンさんの神、ロキさんよりプレゼントですわ。何が起こってるかはようわからんが、可愛いアイズたんの危機や。金とうちができることは惜しまん。だから思いっきりやってこい! との事ですわ」

「ロキに伝えたのか」

「概要だけです。ただ、このままではフィンさんを除いたアイズさん達が確実に死にますので協力してくださいとお願いしただけですわ。フレイヤ・ファミリアの説得もご協力いただきました。今までの貸しをチャラにする代わりだそうです」

「そうか。ありがとう」

 

 彼女が影からうやうやしく取り出し、僕に渡してきた二本の槍は今までのどの品よりも、力強い力を感じる。一つは穂先が月光の様に青く輝き、三十もの魔石が設置された槍。もう一つは真っ赤に燃えるような力を感じる槍だ。

 

「この武器は……まるで生まれた時から持っているかのように手に馴染む」

 

 二つの槍を手に持つと、全ての部分に刻まれた神聖文字(ヒエログリフ)が浮き出してくる。片方から水のような清々しい気配がし、もう片方の槍からは熱い炎のような感じがする黄金の槍。

 

「材質はオリハルコンとアダマンタイトの合金です。そこにロキさん自身が神聖文字(ヒエログリフ)を刻み、魔導具を組み込むことで新たに生み出した魔装です」

「製作者はヘファイストス様かな?」

「その通りです。フィンさんの武器に使用した設計図などがあったので、そちらを基礎として生み出しました。青の方はとある神の血液を素材に使っております。銘はビルガ。黄金の槍はロキさんの血を使って生み出したオルラスハラと言います」

「フィオナ騎士団が使っていた魔槍だね。うん、完璧だ(Perfect)

「恐悦至極でございますわ」

 

 用意された槍を掴み、軽く振ってだけでも今までの槍とは格が違う。これなら彼女に対応できるかもしれない。

 

「これから行うのは失敗を前提とした試行錯誤です。フィンさんが死ねばその時点でフィンさんはリセットされます。そして、未来から戻ってきた別のフィンさんがまっさらな状態で頑張ってくれる……かはわかりません」

「つまり、僕は死ねないという事だね。クルミは?」

「わたくし達は意識を過去に送る事で、全員に共有させますのでどうとでもなりますわ。ですのでご説明はさせて頂きます。懸念事項はありますが、まずはトライ&エラーです」

「そうだね。できるだけの事はやろう。最初は彼女の居場所を割り出す事だ」

「探索はお任せくださいませ」

「方法があるのなら、任せる」

「では、フィンさんは周りの敵を狩ってわたくしに時間をささげてくださいまし」

「了解した」

 

 クルミは時喰みの城(ときばみのしろ)と呼ばれる結界を全力で展開して白の王女(プリンセス)を探してくれる。結界は結界で干渉できる。それは空間でも変わらない。だから、クルミは異常が検知された場所に白の王女(プリンセス)が潜んでいると判断したようだ。

 しかし、力の入れようが半端ない。これは最初から助けるのは確定事項として準備をしていたのかもしれない。そうでないと、いくら時間があってもここまではやらないだろう。おそらくだが、依頼という形で報酬を受け取るのが、彼女自身が全力で手伝うために必要なことなのかもしれない。それが過去を改変するルールなのかもしれないね。もしくは絞れる時に絞ろうという考えなのかもしれない。

 

 

 

 

*1
補正効果はLv.に依存する。




フィンさんの武器は元ネタであろうフィン・マックールより、彼の魔槍を選びました。ただの不壊属性(デュランダル)じゃ白ちゃんの相手はできないので、このように。それに数日前に意識が戻るのに準備しないはずがないですしね。
え? お金かけすぎ? 全部借金ですよ。どうせ過去改変で踏み倒せるし(もちろん踏み倒せません。作った理由は変わりますが、存在するという事はそれ相応の因果が発生して辻褄が合わされますから)

クルミは助けるつもりはありますが、しっかりと契約で報酬を頂きます。それが無理なら自腹を切って助けます。やる事は変わりませんが、報酬がある方がいいと思っているのと、フィンが白の王女(プリンセス)にルークを植え付けられて手駒にされている事も考え、記憶を読むことにこだわっておりました。白の王女(プリンセス)を攻撃したことと、それからフィンが過去に送られた事で問題ないと判断したわけです。裏切りが一番怖いですから仕方ないです。


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勇者フィンの時をかける冒険下

赤から転落……でも、お気に入り登録が二千件を超えてた。やったね!
感想と評価が欲しいです。

あと、正直フィンさんを描くのは難しい。やっぱり、クルミとリリがメインですね。ソードもアニメしか持ってないので知らないですし。漫画は買ってみよう。
そういうわけで、基本的にベル君たちの方がメインになります。アニメがプライムで見れますから。ソードは基本的にちょちょい書いて挟む感じになるかもしれません。


 クルミが移動を開始してからしばし待つ。その間に近寄ってくる新種を狩って新しい武器、ビルガとオルラスハラの二つを使って合わせていく。どちらも魔石を使う事で魔剣よりも弱いがそれなりの効果ではあるが、発揮できている。

 

「フィンさん、お待たせいたしました。敵の巣穴は見つけました。ですが、あちらにも気づかれました」

「それは想定内だ」

 

 彼女が行ったことを考えると、あちらに気づかれるのは当然だ。何せ結界と結界を干渉させて焙り出す方式だからね。

 

「問題はあちらの僕達がこちらの戦いに気付いて来ないかという事だね」

「それでしたら、わたくし達が上手いこと誤魔化しておきますわ」

 

 おそらく、彼女が後方で戦っているとでも言うんだろう。まあ、彼等が来なければ問題ない。

 

「それで何処かな?」

「あちら……いえ、ここですわね」

「そうだね」

 

 クルミの言葉と同時に前方に飛び出すと同時に後ろに振り返って槍を振るう。すると、そこに現れた弾丸を弾くことができた。

 

「やはり気付かれましたか」

「親指が疼いていたからね」

 

 視線を声の方にやれば木の枝に座る白い髪の毛に白いドレスを着た彼女の姿が見えた。彼女の手にはクルミが持つのとよく似た短銃が握られている。

 

「しかし、どうしてわたくしが潜んでいると気付かれたのでしょうか。細心の注意を払っていたのですよ? 空間を別にしてフィンさんの感知能力の外におき、念の為にもう一体ご用意しましたのに……」

「それは秘密だ!」

 

 怒りに我を忘れそうになるが、無理矢理押さえ込んで一気に距離を詰める。彼女は瞬時にその場から消えて背後に現れる。ビルガの方を背後に振るうと、やはり擦り抜けてこちらへと迫ってくる。オルラスハラをその場で回転させることによって別の場所からきているであろう軍刀を弾く。

 

「命中させる時には必ず刃が届く場所に転移させてくる。それならその時に弾けばいい!」

 

 今度は右に転移してきたので、そちらを無視して左右両方を纏めて薙ぎ払う。すると彼女は軍刀で弾かれていく。その状態でもこちらに弾丸を飛ばしてくる。

 

「<狂々帝(ルキフグス)>、獅子の弾(アリエ)

「<刻々帝(ザフキエル)>、二の弾(ベート)

 

 空間を削り取る弾丸と時間を遅くする弾丸がぶつかり合い、対消滅を起こしたようだ。クルミは僕へ加速させる一の弾(アレフ)と数秒先の未来を見せる五の弾(ヘー)を撃ち込みんでくれた。これでもっと速く動ける。

 

「ちっ、厄介ですわね、わたくし!」

「そちらこそですわ、わたくし!」

 

 空間を断ち切った場所へと獅子の弾(アリエ)を放ち次々と飛ばしてくる弾丸をクルミは人数を動員して未来予測を利用して撃ち落としていく。

 

「どっちもだろう!」

 

 白の王女(プリンセス)が軍刀を振るってくるので、回避を優先して槍の優位な距離で連続で突いていく。そうすれば彼女は防戦一方となり、距離を取るしかない。

 

「わたくし達!」

 

 距離を取ろうにもクルミが数を頼りに銃撃してくる。こちらに命中しようがお構いなしだ。僕の方で回避して彼女をサポートする形を強制されているといった感じだ。だが、それでいい。お陰様で対処はできている。

 槍と軍刀を幾度もぶつけ合いながら、激しく切り結ぶ。彼女の戦闘力はクルミを遥かに超えてレベル6の領域に到達している。そこに空間を操る能力なのだから、実質はレベル7相当だろう。

 

天秤の弾(モズニーム)

 

 彼女がそう言って弾を放つと、こちらにメテオ・スウォームが降ってきた。どうやら、精霊の強化種が放った魔法を一部とはいえ空間を操作してこちら放ったようだ。

 メテオ・スウォームの迎撃まで加われば下がる事しかできない。そうなると厄介だ。ファイアーストームとかだと防ぎきれないだろう。

 

「フィンさん。死なないでくださいまし!」

「は?」

「ぱっきゅーん♪」

 

 白の王女(プリンセス)ではなく、クルミの方から嫌な感じがして即座にその場から離れる。可愛らしい声で発射の合図をしてきたが、飛来したのは音を置き去りにした爆発で、白の王女(プリンセス)を中心に百八十度から弾丸の雨が降ってくる。

 

巨蟹の剣(サルタン)!」

 

 空間を切断して防壁を張るが、それは一部。他の場所も含めて近距離から放たれたそれを回避することは不可能。彼女はなんとか転移したようだが、身体がボロボロだ。そこに僕が接近して首を狙う。だが、回避されたので二の刃を放ち、手足を切り落とす。

 

水瓶の弾(ドゥリ)!」

七の弾(ザイン)

 

 自らに自己修復の効果を持つ弾を撃ち込むが、クルミが一時停止をする弾を撃ち込んで回復を阻害する。僕は炎を起動させ、とどめを刺しにかかる! 

 

「きひっ!」

「フィンさん!」

「くそっ!」

 

 突き出した槍は彼女の前に空いた穴を通し、その先にあった物を串刺しにした。それは僕が守るべき者の命だ。

 

「あっ、ああぁあぁぁぁぁっ!」

十二の弾(ユッド・ベート)!」

 

 クルミの声が聞こえて視界が暗転する。気が付けばまた時間を巻き戻っていた。それでも、僕が槍で彼女の心臓を貫いた感触が手に残っている。だから、蹲って吐いた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「大丈夫ですの?」

「だい、じょうぶだと思えるかい?」

「止めますか?」

「いいや、まだ止めない。次こそは……」

 

 諦めない。諦めてたまるか! 

 

 だが、現実は非情だ。何度やっても必ず誰かが死ぬ。白の王女(プリンセス)を追い詰めにかかると、こちらを無視してアイズ達を殺しにかかるからだ。アイズ達だけでなく、精霊の強化種が行う魔法を別の階層にいるアキ達にすら届かせる時もある。それだけでアウトだ。

 こちらが過去を改変できる事を知っているからだ。つまり、僕達にははなっから勝ち目がない。絶望の未来しか用意されていない。

 

「これはもう、アキさん達を助ける方に行きませんか?」

「駄目だ。まだ試していないことがあるはずだ」

「ですが、もう六六回目ですの。その数だけ、わたくしも死んでいるんですが……」

 

 確かに彼女は何度も死んでいる。僕と違って意思と記憶を過去に送っているだけだ。何十回も頑張っても必ずアイズが殺される。それにレヴィスが増援としてくる時もあった。だから、どんなに撤退に追いつめても必ずアイズを仕留めて帰られる。

 

「女神フィオナよ、どうすれば……どうすればいいのか……」

「神頼みなんてだいぶ逝ってきましたわね。そろそろ殺してリセットしますか?」

「それもいいかもしれない。まるで世界が必ずアイズを殺したがっているかのように一度も救えていない」

「世界? ああ、確かにそうですわね。それなら、世界をだまくらかすしかないでしょうけれど」

「世界を騙す? いや、そうか。できるかもしれない。クルミ、お願いがある」

 

 僕は思い付いた方法をクルミに説明する。内容からして、当然のように彼女は激怒した。当たり前だろう。

 

「は? ふざけてますの? ぶち殺しますわよ。やばいですね☆じゃなくて、ガチでヤバいです。それをわたくしが許容するとでも?」

「可能なはずだ。安全にできるんじゃないか?」

「危険には変わりありませんよ。それにそんな事をしたら、絶対に白色のわたくしは彼女を狙うでしょう」

「それでも頼む」

「本当に貸しが大きいですからね。それと拒否されたら諦めてくださいまし」

「わかった。その場合は別の方法を探そう」

「……本当にリヴェリアさんとエルフの件、お願いしますわよ」

「命を賭けてでも説得する」

「いいでしょう。では、特別ゲストをお呼びしましょう」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「「きひっ! きひひひひっ!」」

 

 何回、何十回目になる白の王女(プリンセス)との殺し合い。すでに彼女の癖や戦術は頭に叩き込み、身体に教え込んだ。クルミも同じで、未来予知に頼らずもその行動は読める。

 

「ああ、楽しいのですが、何故こうも対応されるのでしょうか? もしかして既知が止まりませんか?」

「ええ、ええ、貴女のおかげで既知が止まりませんの。ですから、いい加減にくたばってくださいません?」

「お断りですわ!」

 

 彼女が転移してくる場所に前もって槍を置いておく。すると白の王女(プリンセス)が現れて勝手に貫かれる。当然自己修復により、無事だ。それにしても、的確に大事な部分は守っているのが凄い。

 

「痛いですわ。女の子には優しくしませんといけませんわよ? ですから、今までお相手がいらっしゃらないんじゃありません?」

「痛いところをつくね。だけど死んでくれ」

 

 全力で槍を振るうと、その場から消える。僕は顔をずらすとそこに弾が通り過ぎていく。お礼として槍の炎をプレゼントとする。すぐにまた消えるので空間に水を撒いて彼女が現れる場所を確定させてやる。

 

「これは敵いそうにないので、お暇しておきますわ」

「逃がすかっ!」

「待ちなさい!」

 

 僕とクルミが叫ぶも、彼女はすでに居ない。視線を精霊の強化種と戦っている場所に送ると、そこではアイズが倒れていくところだった。

 

「クルミ」

「心得ておりますわ」

 

 即座にクルミ達が襲撃をかけていく。アイズごと銃弾の雨によって粉砕することで白の王女(プリンセス)は負傷を負いながらも撤退していった。残ったのは肉片となったアイズの死体だけだ。

 

「さて、完全に退却したようですし、ミッションコンプリートですわね」

「ああ、そうだ。これでようやくこの無限のような旅から止まれる」

「いい経験ができましたわね」

「もうごめんだけどね」

 

 視界が点滅していき、身体に力が入らなくなって地面に倒れる。すると、クルミが受け止めて膝に乗せてくれた。

 

「お疲れ様でした。それではまたのご利用お待ちしておりますわ」

「もう勘弁してくれ。今から請求書が怖い」

「逃がしませんから」

「あははは」

 

 眼を瞑るとどこかに引っ張られるような感じがする。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「フィン! フィン! 起きろ! どうした!?」

 

 声が聞こえ、さらに頬に痛みを感じて目を開く。するとリヴェリアとティオネの顔があった。

 

「団長! しっかりしてください!」

「ここは……」

「アイズの事があったとはいえ、惚けている場合ではない!」

 

 リヴェリアの言葉に周りを確認する。そこは最初に僕が過去に送られた場所だった。近くにはアイズの肉片だろう物と包囲されているクルミ。彼女を襲おうとして止められているベート達。

 

「てめぇ、なんでアイズごとやりやがった!」

「必要だったから、と言っているではありませんの」

「クルミ」

「あら、お帰りなさいませ。この人達、退かしてくださいません? さっきから近くて、唾がかかって汚いですの」

「ああ、悪かった。ベート下がれ」

「何を言ってやがる! コイツは……」

「大丈夫だ。クルミ、計画通りだな?」

「ええ、完璧に」

「そうか。それでは戻るとしよう。僕達を待っている子がいるからね」

「フィン。どういうことじゃ?」

「説明はまた今度する。今は移動が先だ。クルミ、ドロップアイテムの回収は?」

「できております」

 

 皆は文句を言うが、ここにまだ彼女達が居たら困るからね。すぐに五十階層まで戻る。クルミに巻き戻す弾ももらって補給もしてもらったので帰りはどうにかなった。雰囲気は最悪だが、警戒を密にするようには言っておいた。

 

 そして、五〇階層に到着すると、フードを被った少女とアキ達が迎え入れてくれる。

 

「ただいま戻った。アキ、そちらは大丈夫だったか?」

「はい。アイズさんが先に帰ってきた事には驚きましたが、それ以外はとくにありません」

「「「は?」」」

「え、アイズさんって死んだんじゃ……」

「嘘いってんじゃねえ! 俺達の前でアイズは……」

「ひどい。勝手に殺された。生きていたら駄目なの……?」

 

 フードの少女から発せられたアイズの声にレフィーヤが震えて抱き着いていく。他の者達も同じだ。

 

「フィン。説明しろ」

「そうじゃ」

「何、アイズが狙われていたから、ゲストとアイズを精霊の強化種を一体目に倒したところで入れ替わってもらった。アイズに変身してもらった彼女とね」

「なら、その子は……」

「地上で文句いいながら殺された恐怖から逃げるために劣化ソーマでヤケ酒中ですわ」

「もう地上に戻ったのか。いや、クルミが移動させたのか」

「そういう事ですわ。内緒ですわよ」

「わかった」

 

 僕が頼んだのは分身を生み出せ、変身できる彼女にアイズとなって身代わりとして死んでもらう事だ。アイズだけはどうしても助けられないのなら、殺させて騙すというわけだ。

 だからこそ、心臓を抜かれて魔法が消えるまでにクルミが銃撃して粉々に判別できないようにするしかなかった。まあ、その銃弾の中に肉片も混ぜていたようだけど。しかし、駄目元で言ってみたのだが、実際に深層である五十九階層まで一瞬で来れるとは思わなかった。クルミ曰く、デメリットがあるらしいが、それが本当かどうかも怪しい。どちらにせよ、彼女達の価値は上がったのは事実だ。

 

「まずは休息を取る。全員、解散!」

 

 僕が指示を出してから、団長用の天幕に入る。クルミも何も言わずに僕の後ろを付いてくる。まるでそれが当然のように。僕も何も言わないし、リヴェリア達も入ってくる。

 

「さて、詳しい事を教えたいが……構わないか?」

「却下に決まっていますわ。頭がお花畑になりましたの?」

「やれやれ、相変わらず手厳しいね。アレだけ濃密な長い時間を共に過ごしたのに?」

「事実無根とはいいがたいですが、わたくしの命が危ないのでやめてくださいます? ほら、後ろに鬼がいるじゃないですか!」

 

 クルミは後ろにいつの間にか居たティオネに首を掴まれて持ち上げられた。足をプラプラさせて彼女の手を叩いている。

 

「ねえ、クルミの身体から団長の匂いがするんだけど、どうして? ねえ、どうしてなの? まさか、裏切ったなんて言わないわよね?」

「わたくしはティオネさんの味方ですわ。それにわたくしの身の安全のために良いお話を持ってきましたのよ?」

「本当に? 信じていいのよね?」

「ええ、信じていただいて構いません。嘘でしたら、殺してくださって構いませんから」

「……よろしい」

 

 普通ならリヴェリア達が止めるはずだが、先程のアイズの件もあって、まだ警戒したままのようだ。流石に攻撃しだすと止めるだろうけど。

 

「ティオネ。悪いが席を外してくれ。それとアイズには必ず君とティオナ、アキがついていてくれ。まだ狙われる可能性がある」

「……わかりました」

 

 ティオネが出て行ったので、僕はクルミに目を向ける。彼女は首筋を撫でてからこちらを睨み付けてきた。

 

「クルミは彼女が来たらすぐにわかるよう、結界を張っておいてくれ」

「既にやっておりますわ」

「助かる。リヴェリアとガレスには説明できる範囲でする。だが、二人も交代でアイズの護衛について欲しい」

「了解した」

「構わんぞ」

「では、説明だが……クルミ。出来る範囲で頼む。僕からしたらどこまでが可能かわからない」

「まあ、わたくしも使いこなせている訳ではありませんので、詳しくは知りませんが……反転したわたくしが空間を跳躍してアイズさんを喰らいに襲ってきたので、頑張って撃退した。それだけ覚えていただければよろしいかと」

「あの攻撃か」

「空間を捻じ曲げて直接体内から心臓を狙ってきた。生半可な方法では防げなかった。それこそ時間を操る彼女でなければね」

「……私は記憶していないが、そういう事なのだろう」

「よくわからんが、アイズが助かったのならよしとするわい」

「そうだね」

 

 話している間にクルミがこちらにやってきた。彼女はいつの間にか大きな樽を影から取り出していた。

 

「メロン……と、いいたいのですが、残念ながらお店が閉まっておりましたのでソーマです。請求書です」

「ああ、ありがとう」

 

 受け取って巻かれた羊皮紙を開いてみると、絶句するような値段が書かれていた。思わず手を離した。その羊皮紙はリヴェリアとガレスの方へと飛んで行った。

 

「なんじゃい?」

「どれどれ……」

 

【請求書】

 ロキ・ファミリア様

 ソーマ一樽 6,800,000,000ヴァリス

 

「なんじゃいこの値段はッ!?」

「高過ぎるぞ!」

「仕方ありません。だって、わたくしのオリジナルが六十六回、死んでますもの。お金で換算できるだけ、良心的なお値段ですのよ?」

「まあ、そうだね」

「「フィン!?」」

 

 僕が納得すると、二人はそろって身体を揺さぶってくるけれど、仕方がないことだ。

 

「ところで、僕と契約した内容とは違うのだけど?」

「はい。これはあくまでも金額に換算した場合、というだけですわ。ロキ・ファミリアの、いえ、団長であるフィンさんへの絶対命令権。これを三つで千万ヴァリスまで減額いたしますわ。この一千万はアイズさんの代わりに死を体験した彼女の取り分です」

「いいだろう」

「フィン」

「僕が叶えられる事でアイズ達を助けられるなら、と受けたことだ。まあ、その一つにリヴェリアの説得があるんだけどね。残りにしてもロキ・ファミリアに被害が出ないようなものに限定されている」

「私の説得だと?」

「はい。わたくし達が保護している方について、わたくしとご本人の意向が叶うようにしていただきたいのです。残りの命令も今、この場で使わせていただきますのでご安心くださいませ」

「リヴェリア、あくまでも本人の意向があればという事なので、どうだろうか?」

「アイズを助けるための負債ならば負うのはかまわん。だが、誓って犯罪ではないのだな?」

「はい。むしろ、わたくし達が被害を受けずに助けて欲しいぐらいです。爆弾を背負わされておりますのよ?」

「……爆弾だと? つまり、前ソーマ・ファミリアの団長かその団員がやらかした事か?」

「ですの」

 

 クルミが両手を重ねてウルウルと瞳を潤ませながらリヴェリアを見詰める。僕からもリヴェリアにお願いする。

 

「頼む」

「……内容を話せ。話はそれからだ」

「でしたら、誓ってください。絶対にここ以外で外部に漏らすのはなしですの。それで事情をお話しましょう。もしも、ばらすのであれば……それ相応の覚悟をしてもらいます」

「舐めるな。私は約束は守る。アールヴに誓ってやる」

「わかりました。では、お話いたします。えっと、リヴェリアさんに憧れたのか、同じようにオラリオにやってきたとあるハイ・エルフの方が居ましてね?」

「……マテ……」

「その方、闇派閥(イヴィルス)に騙されまして……」

「……マッテクレ……」

「子供を何人も産まされて自殺なさいました」

「…………」

「その自殺をさせてしまった方が、最後の子供を連れてそこを脱走。ソーマ・ファミリアに入られました。そこから、その子供を歓楽街に売ろうと教育なさっておりましてね?」

 

 話を聞いているうちにリヴェリアの爪が自らの皮膚に食い込んで血を流していく。僕とガレスは恐る恐る彼女を見るしかない。

 

「彼女の保護をかねて此花亭でお世話になっております。ただ、わたくしの愛人という事にして、他のファミリアの方々に手を出させないようにしておりますの。そこでご理解とご協力をお願いしようと思っております。具体的には彼女の教育をぜひにお願いいたします」

「……一つきく。その愚か者はどうなった?」

「しっかりと残りの時間を吸い取って養分にしました」

「生温いが、既に死んでいるのならばいい。それで愛人か。手をだしたのか?」

「彼女から望んできたので、耳をはむはむしただけです。ただ、舐めさせられたりはしていたようで、そういう事を進んでしてきました。ですので、一般的な、とはいいませんが普通のエルフ少女としての常識をリヴェリアさんにお願いいたしたく……」

「……ソーマ・ファミリアを滅ぼしていいか? いずれその子が成長すればバレて滅ぼされるぞ」

「却下です。色々と手は考えております。ですので、時が来るまでは誤魔化して頂きたいのです」

「フィン!」

「すまない。彼女の願い通りにしてやってくれ。もちろん、その彼女にロキの前で聞き取り調査をして、彼女がロキ・ファミリアかソーマ・ファミリアのどちらかを選んでもらう。僕に譲歩できるのはそれぐらいだ」

「今、ソーマ・ファミリアでは身寄りの無い子供達を集め、教育して夢を叶える力をあげています。今、ソーマ・ファミリアがなくなればその子達も路頭に迷いますの。どうか、見逃す事だけはお願いいたします」

「……いいだろう。その子と会って話をしてからだ。彼女が移籍したいというのであれば認めてもらうぞ」

「はい。もちろんです」

「しかし、この怒りを何処にぶつけてやろうか……」

「でしたら、闇派閥(イヴィルス)残党にぶつけませんか? まだ生き残りは潜んでおりますし」

「わかった。分かり次第私も呼べ。消し炭にしてやる」

「ええ、一緒に根絶やしにしてやりましょう!」

 

 クルミがリヴェリアに見えないようにガッツポーズを取っている。まあ、リヴェリアも気付いているだろうが、共に闇派閥(イヴィルス)は許せないと思っているし、問題はないのだろう。クルミ自身も闇派閥(イヴィルス)の被害者だろうからね。

 

「それで残り二つの命令権はどうするんじゃ?」

「ああ、それでしたら少しお待ちくださいまし」

 

 そう言って彼女は部屋に置いてあった鈴を鳴らす。すごく嫌な予感がする。

 

「お呼びになられましたか団長!」

「わたくしが呼びました」

「クルミが?」

「ええ、そうですわ。さて、ティオネさん。わたくしは貴女の味方です。ですから、ここにフィンさんに対する絶対命令権がございます。それを譲渡いたします☆」

「マジ! マジでいいの!?」

「ちょっと待て!」

「わたくし、命が惜しいのでフィンさんをティオネさんに売ります!」

「年貢の納めどきじゃな」

「それじゃあ……」

「まあ、待て。さすがにデートぐらいにしておけ」

「う……でも……」

「嫌われるぞ?」

「ぐっ……」

「ティオネ」

「団長……」

「週一の手を繋いだデート。キスやそれ以上は同意の上で。これでいいんじゃありません?」

「その辺りが妥当だろう」

「僕の意見は?」

「これぐらいなら、男の見せ所ではありませんの?」

「まあ、わかった。これ以上は危険そうだからね」

 

 襲われないだけマシだろう。彼女はアマゾネスだ。強い人の子供を産みたいと考えている。まあ、彼女の場合は僕の、だろうけど。僕以外に興味はないらしいし。

 

「して、最後の命令権はなんじゃ?」

「こちらもっと簡単ですの。金輪際、フィンさんから小人族(パルゥム)の女の子へアタックをかけるのは禁止とさせて頂きます」

「待ってくれ。それはつまり……」

「フィンさん。大手の団長様に女の子が迫られたらコロリと落ちてしまうでしょう。そこから嫁と姑の戦いが勃発しそうですし、小人族(パルゥム)で狙われそうな強い女の子ってわたくしの、わたくしのリリさんぐらいでしょう?」

「予防線じゃな」

「二回言うぐらい本気のようだ」

「ナイスよクルミ!」

「わたくし、ティオネさんの味方ですから~」

 

 彼女の頭を撫でまくるティオネ。本当に嬉しそうだ。ただ、これは僕からアタックが禁止されているだけであって、相手からなら問題ない。そういうあたり、ちゃんと配慮はしてくれたようだ。

 

「安いか高いかは微妙だな」

「僕にとっては結構高いけどね。ただまあ……」

 

 クルミの能力からして、これから小人族(パルゥム)は活気づくだろう。何せロキ・ファミリアの団長である僕と、急成長しているソーマ・ファミリアの団長であるクルミ。レベル2から3まで最速をたたき出したリトル・ウィッチのリリルカ・アーデがいる。フレイヤ・ファミリアにはガリバー兄弟だっているんだ。そうなると、小人族(パルゥム)だって劣っていないのだと知らしめていける。

 

「うん。それでいいだろう。僕もティオネとの関係は前向きに検討しよう」

「本当ですか!」

「ああ。ただ小人族(パルゥム)の復興を目指すのは止めない。その事だけは心してくれ」

「もちろんです!」

「ああ、ティオネさん。フィンさんを手早く落としたいのであれば、小人族(パルゥム)の第二婦人ぐらいなら認めてあげてもいいんじゃありませんか? それならお二人の要求を叶えられますわ」

「は? 第二婦人? 団長を共有するってこと?」

「そうですわ。フィンさんは強い小人族(パルゥム)の子供が欲しいので……そういう事も考えるとよろしいかもしれません」

「エルフ的にはなしだな」

「わしは別にいいと思うぞ。もめなければな」

「どちらにしろ、ティオネさんの意思次第です」

「ちょっと考えてみるわ。本当にいい子ならいいけど、合わない人と一緒に生活とか無理だし」

 

 頭が痛くなってくるが、思っていたよりも安くついた。実際の費用はかかっていないし、その他の事だって許容範囲ではあるしね。

 

「よし、話は終わりだ。せっかくバカ高いソーマを買ったんだ。戻ったらこれで祝杯をあげよう」

「今じゃ駄目なのか……と、言いたいが、駄目じゃな。襲撃される可能性があるしの」

「地上でも変わらんがな」

「それでも感知できるよう、クルミに結界を常に展開してもらう」

「費用がかなりお高くなりますよ」

「僕達が魔石を荒稼ぎしてくるから、君はそれを使って空間を拡張すればいい」

「畏まりました。そういう事であればお引き受けいたします」

「ふむ。差し当たって今は休息か」

「ああ。僕はもう寝る。後は任せた」

「了解した」

 

 風呂に入って汗を流し、寝るとしよう。感覚的にはもう何日も寝ていないからね。本当に疲れた。それでもこれで、全員で帰れる。

 

「ところで、フィンが持っている槍についてだが……」

「クルミが用意したのであろう。代金はアレに含まれておる……といいのう」

「まったくだ」

 

ああ、聞こえない。聞こえない。地上に戻ったら、もう一度資金稼ぎにこないと……待てよ。それこそクルミに頼んでここに来るか。ソロでなら彼女もそこまで文句は言わないだろう。うん、報酬として四割……六割ぐらいあげれば聞いてくれそうだ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

大樹に凭れながら、取ってきた魔石を喰らっていると、すぐ隣の空間が捻じれてから一人の子供が現れる。

 

「やれやれ、五月蠅いのが戻ったか。それで、首尾はどうした?」

「アリアを殺して……あれ?」

 

彼女が手に持っていたアリアの心臓であろうそれは光となって消えていく。

 

「あれ?」

「どうやら偽物を掴まされたようだな」

「なんでなんで、なんでですの!? 確かにアリアをこの手でやりました! 皮膚と骨を無視して心臓を掴んだのですよ!」

「貴様のオリジナルと似たような存在が居たのだろう」

「……ナニコレ、骨折り損のくたびれ儲けですの?」

「そういう事だ。ロキ・ファミリアの方が一枚上手でだったな」

「きぃっ! 絶対にオリジナルがかかわっていますわ! フィンさんが二人居ましたし、わたくしの行動を完全に読まれておりましたもの!」

「時の精霊か。本当なら厄介極まりない奴だ。こちらが勝利する目前でひっくり返されるのだから」

「本当にムカつきますわ、ムカつきますわ! もっと殺してやればよかったです! いえ、今からでもやはり殺しに……」

「止めておけ。今回の必要分は回収できている」

「まあ、沢山黒のわたくしを殺しましたしね」

「それに五月蠅い奴もいる」

「ワタシのコトカ?」

 

フードを被った魔導士が一人、こちらにやってくる。奴は地上に居るとある神の駒だ。

 

「そうだ。だが、今から襲撃してもロキ・ファミリアは警戒しているだろう。無駄だ」

「確かにそうですわね。黒のわたくしも居ますし、もうしばらく手駒を増やしてからにいたしましょう。彼女達が付けてくださった白の王女(プリンセス)の名に相応しいようにね。まずは乗り物からかしら?」

 

そう言って彼女が空間を軍刀で断ち切り、別の場所に繋げる。どうやら、無数のイル・ワイバーンが飛んでいる姿が見えたので、59階層に移動したようだ。

 

「彼女ハ大丈夫ナノカ?」

「問題ないだろう。好きにさせておけ。奴は私よりも強い」

「ダカラコソダ」

「今は味方だ。自らの半身を喰らうか、苛めることにご執心のようだからな」

「ダガ……」

「そもそも、あちらにいる精霊モドキを止められる戦力を用意できるのか?」

「オ前ナラ可能ダロウ?」

「撃退はできる。だが、殺せはせん。わらわらと居るからな。やるなら纏めて地上に居るのも殺さなくてはならん。最低でも本体をみつけることだ」

「……了解シタ。コチラデモ探ストシヨウ」

「好きにしろ。私も好きにする」

 

そうだ。私の狙いはアリアだ。精霊モドキには精霊モドキに始末してもらうのが一番だ。

 

「レヴィス! 捕まえたので殺さないでくだいね!」

「……ちゃんと餌をやれよ」

「もちろんですわ!」

 

イル・ワイバーンを三十匹ぐらい連れて戻ってきた奴はすぐさまここの空間を広げて飼育場を作る。

 

「では、これから皆さんには殺し合いをしていただきますわ♪」

 

支配下に置いたイル・ワイバーン同士で殺し合いをさせて生き残った個体に魔石をあげて育てていくようだ。それを何度も繰り返して砲竜(ヴァルガングドラゴン)も喰らわせていく。狙いは空飛ぶ砲竜(ヴァルガングドラゴン)らしい。

 

「わたくしの騎士団が完成したらオラリオにいる黒のわたくしのところに遊びに行ってきます。レヴィスさんもどうですか?」

「考えておこう」

 

五十九階層の魔物(モンスター)が地上に移送されて暴れるなど、楽しいパーティーになりそうだ。アリアたちがどのような反応をするか、楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

 




次回はリリとクルミが鍛冶師のクロッゾと出会い、二人にキアラを紹介することですね。
そして、クルミちゃんは借金が膨れ上がったよ、やったね!


本編には出ないかも。


「クルミ様、クルミ様」
「なんでしょうか?」
「正座」
「はい」
「この請求書の山はなんですか?」
不壊属性(デュランダル)の購入とレンタル費用ですわね」
「つまり、借金ですか」
「はい。で、でも、大丈夫ですの。わたくしを返済完了まで無期限で利息なしで貸し出しておりますし、喜ばれておりますわ!」
「お仕置きのお尻ぺんぺんです」
「いやぁぁぁぁぁっ!」



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ソーマ・ファミリア2
地上でのリリ


リリがやらかすだけです。
前の話の最後に敵側の加筆しております。本当はこの前に書いていたのですが、時系列が少し前になるため、前の話に載させていただきました。


 

 ◇◇◇リリルカ・アーデ

 

 

 

 

 リリはベル様と一緒に豊穣の女主人にやってきております。なんでもクルミ様はちょっと本当に深層で忙しいから最低限の人材だけをこちらに置いておくと言って、リリの護衛を一人だけ配置するという事になさいました。ベル様の護衛も含めて二人だけらしいです。それも深層での戦いに力を割くとの事で、ほとんどの業務を後回しになさっています。

 フレイヤ・ファミリアや鍛冶ファミリアを回っているので何かあったのでしょう。まあ、リリには関係ないといえば関係ないのでこちらに来ております。キアラは此花亭でダンジョンについてのお勉強をしております。これから連れていくのですからね。

 

「それでどうしたのですか?」

「うん。それがね……僕の二つ名がリトル・ルーキーに決まったって神様が……どう思う?」

 

 ベル様が項垂れながら聞いてきたので、足をぶらぶらさせながら答えます。

 

「そうですね……普通?」

「だよね! 神様は普通でいいっていうんだけど!」

「まあ、リリの二つ名もリトル・ウィッチですからねえ」

「リリはいいじゃない。小さな魔女って意味なんだよね?」

「ええ、まあ……後は魔法少女という意味も隠れているみたいですが」

 

 一応、二つ名はクルミ様が教えてくださいました。クルミ様の二つ名はリトル・ナイトメア。悪夢らしいですね。はい、クルミ様にあっています。一匹見つけたらたくさんいるアレみたいで。クルミ様に聞かれたら殺されますね。

 

「私は好きですよ、リトル・ルーキー」

「ランクアップおめでとうございます。クラネルさん、アーデさん」

「今日はたくさんお飲みになってくださいね。ベルさんとアーデさんの祝賀会ですから!」

 

 やってきたのは料理と飲み物を持ってきた豊穣の女主人で働く二人の給仕さん。エルフとヒューマンの人です。どちらもリリは知っていて、エルフの人とは()りあった仲ですね。

 

「おい、まさかあいつ……」

「剣姫を抜いて最速でレベル2になった奴か」

 

 酒場に居た冒険者の方々がベル様を見ます。リリの事はまだバレていないようです。まあ、ソーマ・ファミリアの内部でもまだ伝わってないですしね。今回の神会で発表するとは言っておられましたが、祝賀会はクルミ様と一緒にやる予定です。予算の都合もありますからね。

 

「もしかして、僕の事を言ってる?」

「ええ、名をあげた宿命みたいなものです。レベルアップすればするほど注目が集まりますよ」

「人気者になったと思えばいいんですよ」

 

 そう言ってヒューマンの人が飲み物をそれぞれの席に置いて、ベル様の隣に座りました。リリの横にもエルフの人が座りました。ですから、思わず殺気を込めるような感じでジト目を向けます。だって、殺されかけましたし。

 

「アレ、お二人はここに居ていいんですかぁ? 仕事中ですよね?」

「私達を貸してやるから、存分に笑って飲めと、ミア母さんからの伝言です。後、金を使えと……」

「あははは」

 

 リリとベル様はミア様の方を見ると、ソーマのボトルを磨いていたのを置いて、ニコニコと笑って手を振ってきました。

 

「なんですか、ソーマを注文しろとリリに言ってるんですか? 割引が普通に受けられるし、自前のを持っているんですけど」

 

 もちろん、ここで売られているのと同レベルの奴です。完成品はリリでもなかなか飲めません。ほとんど神会で使ったようですしね。

 

「そうですよね。ですので、アーデさんにはこちらです。私が作ったカクテルです。味見をお願いします」

「そういう事ならいいですよ」

「えっと、リリも納得したみたいだし、遠慮なく……乾杯」

「「「かんぱ~い!」」」

 

 注文した商品を食べ、お酒を飲みながらお話をしていきます。まあ、冒険者であるリリ達の話はダンジョンについてになります。

 

「では、クラネルさん達はこれから中層に向かわれるのですね」

「はい。まあ、もちろん調子を見ながらですけれど」

「そうですか。差し出がましいようですが、十三階層より下は二人で潜るのはまだ止めておいた方がいい」

「は?」

「え?」

「なんですか。ベル様とリリでは中層に太刀打ちできないというんですか!?」

「そこまで言うつもりはありません。ですが、上層と中層は違う。魔物(モンスター)の数も質も出現頻度もです。能力の問題ではなく、少数では処理しきれなくなります。貴方達は仲間を増やすべきだ」

「それなら、丁度いいです。実は……」

「ははぁっ! パーティーの事でお困りかぁ! リトル・ルーキー!」

「へ?」

「俺達のパーティーに入れてやろうか? 俺達はレベル2だ。中層にもいけるぜ。でも、その代わり……このえれぇ別嬪の嬢ちゃんたちを貸してくれよ。仲間なら分かち合うべきだろ? なぁ?」

 

 そう言って複数の男性がこちらにやってきます。狙いはエルフとヒューマンの人ですか、そうですか。リリの事は無視ですか。よし、決めました。

 

「あの!?」

「失せなさい。貴方たちは……むぐっ!?」

 

 リリは立ち上がってエルフさんの口を塞ぎます。すぐに離しましたが、こちらを睨まれました。でも、気にしません。

 

「そこの人達。リリ達をパーティーに入れてくれるんですよねぇ?」

「ああ、そうだぜ。なあ?」

「ああ、そうだ」

「リリ?」

「でしたらぁ、リリと勝負をしましょう。リリ達をパーティーに入れる力があるか、判断してあげます。リリが負ければそちらの要望を飲んであげます。でも、リリが勝てば貴方達の全財産、置いていってもらいましょうか」

「アーデさん?」

 

 立ち上がろうとするエルフさんの肩に手を置いて押さえつけます。それですぐに気づいてくれたようです。

 

「わかりました。いいでしょう」

「リュー?」

「ど、どうしたんですか!」

「マジかよ! リトル・ルーキーじゃなくて、そっちのお嬢ちゃんの方が相手か。いいぜ」

「ああ、ハンデとして三人の内、一人でも勝てばいいですよ」

「そいつはいいな。勝負方法は?」

「腕相撲です」

「リリ! どうしたの!」

「大丈夫ですよ、ベル様。リリは負けません。ええ、絶対に」

「面白れぇ。やってやる!」

 

 さあ、リリを無視したことを後悔させてやります。舐めるなよ、ヒューマン共。

 

 

 そういうわけで、店の中央にテーブルを一つ貸し切って、腕相撲です。

 

「はい、皆さん! これからリリとこちらの三人と腕相撲をします! どちらが勝つか賭けをしましょう! リリが勝つ方はリリの側に、あちらが勝つという方はあちら側に。それぞれ、こちらの袋にお金を入れてください! アーニャ様、クロエ様!」

「よし、ニャーに任せるにゃ!」

「賭けにゃ! さあさあ、どっちが勝つにゃ!」

 

 すぐに乗ってきてくれた二人のおかげでお金がいっぱい集まります。当然、リリはリリが勝つ方にかけます。

 

「ほら、ベル様もリリが勝つ方に賭けてください」

「う、うん……」

 

 賭けを締め切ってから、相手をします。

 

「まずは俺からだ」

「よーい、スタートにゃ!」

 

 即座に相手の腕をテーブルに叩きつけてやります。レベル2で怪力スキルを持つリリの相手をするなど無謀です。確かに重量装備は足にしかつけていませんが、それでもリリの体重の二倍はあります。アダマンタイトのグリーブを付けていますからね! 

 

「リリの勝ちにゃ!」

「ば。馬鹿な……なんだその力!」

「レベル2だろう! 不正じゃないのか!」

「いいえ、不正はしておりませんよ。それと、リリはレベル2だなんて一言も言っていません」

「は? こないだレベル2だって張り出されていたはず……」

「リリはぁ……いまぁ~」

「「「今?」」」

「れべるさ~ん~なんですよね~」

 

 にっこにこで告げてあげます。目の前の男達や、後ろに控えていた彼等に賭けた人達が絶望した表情になりました。いい気味です。

 

「う、嘘だ! こないだ上がったばかりだろ!」

「本当ですよ」

「すごいよ! リリ! もしかして、こないだの戦い?」

「そうですそうです。ちょっとレベル5の人と殺し合いをしました。負けましたけれど、あと少しのところまで追い詰めたんですが、惜しかったです。ええ、もうちょっとであのムカつく小人族(パルゥム)の首を落として焼き尽くし、消し炭にしてやったのにぃ……次は絶対にぶち殺してやります!」

「り、リリ……?」

「おっと、散々ボコボコにされたのを思い出していました。今はそうじゃないですね。さあ、残り二人です」

「マテ! レベル3が相手なんて聞いてねえぞ!」

「そうだそうだ! 反則だ!」

「勝手に勘違いしたのはそっちです。ちゃんと情報は確認しましょう。勉強になりましたね! リリを無視した報いです! 精々反省しやがるといいです!」

「ちくしょう!」

 

 当然、残りの人達を瞬殺してあげました。賭けはほぼリリの一人勝ちなので、そのお金をミア様に渡します。

 

「リリとベル様のランクアップ祝いです! このお金でここに居る皆さんにソーマ・ファミリアのお酒をふるまってください!」

「「「おおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」」」

 

 ソーマ・ファミリアに限定することで、リリが支払ったお金はリリ達ソーマ・ファミリアの利益になって返ってきます。ミア様は食事が売れるのであちらも儲けになります。それに味を覚えれば病み付きになりますからね。

 

「冒険者達のヘイトを稼いでから彼等に利益を還元することでお二人への嫉妬を減らしましたか」

「それも元手はあいつらのお金と支払った冒険者達の物にゃ。それにしっかり自分のファミリアの宣伝もしているのにゃ」

「恐ろしいにゃ。やっぱりソーマ・ファミリアの副団長様なだけあるにゃ」

「アレ、お二人はお酒要らないんですか」

「「要るにゃ! リリは最高ですにゃ!」」

「むふん。よろしい」

 

 改めて席に戻ってお酒と料理を楽しみます。もちろん、ベル様もお二人もです。

 

「えっと……」

「ベル様は気にしなくていいですよ。嫉妬を散らしただけですから」

「先程の言葉は訂正します。レベル3と2の二人であれば中層は厳しいでしょうが、なんとかなるでしょう。それにアーデさんの言葉が正しく、レベル5と戦えるのであれば普通に行動できるはずです」

「まあ、リリのは炎を身に纏う装備ありきでした。炎華(アルヴェリア)も使用回数が決まっていますからね」

 

 そういうと、何故かエルフの人が持っていたコップから手をすべらせました。すぐにリリは彼女のコップを掴んで受け止めたので、零れることはありませんでした。

 

「炎を纏う? それに炎華(アルヴェリア)……? どういう事だ!」

「え? え? どうしたんですか?」

「リュー、落ち着いて」

「あの、リューさん!」

炎華(アルヴェリア)はアリーゼの始動キーだ! 炎を纏うなど間違いがない! 答えろ!」

「いや、誰ですかそれ! リリは知りませんよ! ただ、渡されたリリ専用の試作武器にそういう始動キーが設定されていたんです」

「そ、そうか……彼女の事を知っている者なら、それをやってもおかしくはない。不謹慎だが……」

「あ、でもクルミ様が確か、リヴィアの近くの森で拾った武器の持ち主を参考にしたって……」

「……」

 

 ガタッと、彼女が立ち上がり、すごく怖い表情でリリの方を見てきました。

 

「クルミは今、何処に居る?」

「えっと、今は深層ですね。深層でトラブルがあったらしく、リリ達の方にはほとんど意識を割いていません」

「……そうか。なら、彼女に暇が出来たら……いや、今やっているそのことが終わり次第、こちらに来るように伝えてくれ。その拾った武器について、話があると。いいな?」

「わ、わかりました……」

「それとその武器を見せてくれ」

「まあ、貴女なら盗みはしないでしょうから見せるのは構いませんが、触るのは無しです。リリと製作者の方以外が触ると燃やされるので」

「わかりました。見せて頂くだけで構いません」

「でしたらソーマ・ファミリアに来てください」

「仕事が終われば伺います。いえ、今からちょっと相談してきます」

 

 そう言ってミア様の方へ行かれました。どうやら、リリはやらかしたみたいです。でも、リリは詳しい説明なんて受けていません。ですから、仕方ないですよね? 

 

「と、とりあえずリリがレベル3なら問題ないんだよね?」

「みたいです」

「そういえば、何か言いかけてましたよね?」

「あ、そうでした。ベル様。リリのファミリアの都合で申し訳ないんですが、一人パーティーに追加させてください」

「いいけど、どうしたの?」

「訳ありでリリ達が面倒をみないといけない子なんです。冒険者登録したばかりの子ですけど、魔法はすでに覚えています」

「僕は別にかまわないよ」

「ありがとうございます。これで三人から四人になりますので、中層も比較的安全に探索できるかもしれません。一応、ベル様も心当たりがあればよろしくお願いいたします」

「うん」

「あ、ベルさん。これ、どうですか?」

「ありがとうございます」

 

 ベル様がヒューマンの人にお世話されてデレデレしている姿を見つつ、エルフの人が持ってきていた野菜スティックを見ます。

 

「貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のも。シンダー・エラ」

「リリ?」

 

 キアラの姿に変えて野菜スティックを食べます。美味しいです。

 

「ベル様。連れていくのはこの容姿の子です。間違えないでくださいね」

「エルフの女の子?」

「はい」

 

 まあ、実際はハーフなんですが、ハイエルフの血が強く出ちゃっているんですよね。

 

「お待たせ……しました……は?」

「お帰りなさい」

「リリが姿を変えているだけです。野菜スティックはこっちの方が美味しいですから」

「そ、そうですか。なるほど、偶然ですね」

「それで仕事が終わったらいくの?」

「いえ、今日はこれで終わりにしてもらいました。ですので、着替えてまいりました」

 

 確かに彼女は着替えていました。私服も可愛らしいです。

 

「そうだ。リリ、明日はお休みでいいかな? 明日は壊れた防具の代わりを買いにいくから」

「構いませんよ」

「でしたら、私と模擬戦をしましょう。炎華(アルヴェリア)の力がみたいです。私の友人のものか確かめたいのです」

「まあ、構いませんけど」

「ありがとうございます」

 

 二人でベル様達を見ながら、食事を終えてソーマ・ファミリアに移動します。帰るとキアラが抱き着いてきたので、エルフの人に紹介します。

 

「やはり、あの方に似ておられる……」

「キアラ、クルミ様は?」

「まだ忙しいって。構ってくれないからお星様みてたの」

「そうですか。では、これからリリと一緒に遊びましょう。良い物を見せてあげます」

「本当!?」

「はい、本当です。こちらへどうぞ」

「ああ」

 

 イフリートを持ってきて、カードリッジに魔石の魔力を移しておきます。それから、エルフの人に見せます。

 

「これが……この気配は……」

「行きます。セットアップ」

 

 変身シーンを見せて、恥ずかしい言葉は無理矢理叫んで別の言葉に塗り替えます。エルフの人はすごく微妙な感じで見ていました。

 

「それは……」

「言わないでください。クルミ様の趣味らしいです」

「貴女も苦労しているんですね」

「……はい……」

「良い物みせて~」

「わかりました。カードリッジロード・炎華(アルヴェリア)!」

 

 炎を身に纏うと、キアラは楽しそうに笑い出し、エルフの人は……泣き出しました。どうしたのかわかりません。

 

「大丈夫?」

「ああ、大丈夫。ありがとう。ちょっと亡くなった友人を思い出しただけだ」

「そうなのですか?」

「その炎は間違いない。彼女の、アリーゼ・ローヴェルの物だ」

 

 エルフの人がフラフラとイフリートに触ってこようとします。慌てて引き離そうとしますが、その前に炎が勝手に出てエルフの人を包みます。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「ああ、大丈夫だ。何故かなんともない。それに彼女の声が聞こえた気がした……」

「気のせいだと思いますが、よかった」

「ああ。アーデさん。彼女……武器は大切か?」

「大切です。クルミ様が馬鹿みたいなお金をかけてリリのためだけに作ってくれたんですから」

「そうか。だったら、その炎の使い方を私が教えよう」

「え?」

「その炎のモデルになったのは私の友人だ。共に戦った戦友だから、その戦い方はわかる。彼女の技術を出来る限り、継承してもらいたい」

「えっと、それはいいんですか?」

「ああ、むしろ頼む。彼女達が残せなかった生きた証が受け継がれていくんだ。私にとっても、彼女達にとっても幸いだろう」

「わかりました。お願いします」

「任せろ。っと、先に改めて名乗ろう。私はリュー・リオン。リューでいい」

「リリはリリルカ・アーデです。リリでいいですよ」

「キアラ。よろしくリュー?」

「よろしく、リリ、キアラ」

「はい」

「さて、早速明日から修業しよう。ただ、私は何時もやり過ぎてしまう」

「え”」

 

 もしかして、リリはとんでもない人に目をつけられたかもしれません。実際に次の日は控え目に言って地獄でした。何がアリーゼなら出来たですか! リリは知りませんよ! 炎の使い方は大変参考になりましたけれど! 

 

 

 

 




リューさんはとりあえず、クルミとお話をしてから決めてくれます。やったね!


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リリとリュー、キアラの不思議な不思議なナニカ

37話勇者フィンの時をかける冒険下の最後にすこし加筆しております。そちらもよろしければどうぞ。


 

 

 

 朝。リリの平穏は脅かされました。クルミ様も忙しく、椿様も深層でいません。つまり、修業する必要がないというものでした。でも……

 

「それでは普段の修業を教えてくれ」

「おー」

「キアラは元気ですね……まあ、いいです」

 

 早朝、日が出る前に此花亭で泊まられたリュー様とキアラに起こされたので、仕方なく修業します。まあ、毎日やっていることではあるので構いません。

 

「では、こちらに来てください」

 

 リュー様とキアラを案内するのはアスレチックエリアです。他にも起きて働いている仲居さんの人達もいます。彼女達は六時間、四交代で常に誰かが働いておられます。ソーマ・ファミリアからも仲居さんになられた方々もいらっしゃるので、皆が従業員で家族みたいな感じです。

 

「おはようございます!」

「おはようございます」

「おはよう」

「おはよ~」

 

 挨拶してからお外に出ます。まだ真っ暗なので、仲居さんからランタンを受け取ってお見送りされます。

 

「この時間でも普通に働いておられるのですね」

「泊まられている方々が居ますから、当直の人は当然います。朝早くに到着されたり、夜遅くに到着されたりしますからね」

「大変な仕事ですね」

「ですね」

 

 キアラと手を繋ぎながら歩きます。この子は良く星空を見上げていて転んだりするので目が離せません。さて、アスレチックエリアに到着しました。

 

「既に誰かいますね」

「まあ、皆さん何時でも好きな時間に使えますからね」

 

 アスレチックエリアでは既に何人もの人達がランタンを持って、流れるプールの上に作られた足場を移動したり、同じような別の場所で戦っていたりします。

 

「視界の悪い中で戦うのはダンジョンを想定してですか」

「そうです。落ちたら流されて下にある砂浜まで流される仕掛けです。昼間は半分ほど、子供達の遊び場になっていますけれど」

 

 もちろん、これら以外にも沢山の訓練器具があります。通常の奴です。拷問みたいな奴はもっと奥です。管理者はソーマ・ファミリアの人員がやっているので、何時でも助けが入ります。

 

「プールエリアは埋まっているようですか、森林公園に行きましょう」

「ふむ」

 

 ライトアップされている桜並木の道を進み、深い森の場所に入っていきます。まあ、人工的に森というか、林が再現されています。確か、竹とかいう極東の植物らしいです。ここも中に入って戦うことができます。

 

「ここも誰かが居ますね」

「……タケミカヅチ・ファミリアの方々ですね。刀術の修業をなさっているようです」

「小さい子もいるようだけど……」

「タケミカヅチ様にはソーマ・ファミリアで保護している子供達にも刀術を教えていただくよう、お願いしております。しかし、これはほとんど取られているかもしれません」

「普段は何処でやっているのですか?」

「リリはヘファイストス・ファミリアですね」

「何故そこに……」

「師匠がヘファイストス・ファミリアに居るので」

「なるほど」

「ん~わかった。こっちが空いてるって」

「キアラ?」

「こっち」

 

 キアラに引っ張られていくと、確かにそこは使っている人は誰もいませんでした。まあ、ここは仕方がありません。だって、拷問みたいな器具やトラップが置かれている場所ですから。

 

「ん? アーデにキアラか。クルミが居ないのに来るとは珍しいじゃねえか」

「チャンドラさん。ここで何やってるんですか?」

「酒を飲んでる」

 

 居るのは月見酒をしている人達です。本当はここを管理している者ですけど。そんな彼等をリュー様はにらみつけていますが、気にもしていません。

 

「使えますか?」

「整備はしてある」

「わかりました」

 

 奥へ進むと、人工的に作られた崖が見えてきます。崖の上から見下ろすと、複数の足場とロープがあり、崖の下には剣山のような物が設置されています。当然、刺さりませんが、痛いぐらいには感じるように作られています。ちなみに強風も時たまきます。

 

「これはいいですね」

「……本気で言っています?」

「本気ですが……」

 

 駄目です。この人もクルミ様や椿様と同じ人種です。

 

「では、まずは一戦してみましょう」

「……はい……」

 

 互いに配置について直径一メートルや二メートル、最大で三メートルある足場の上に飛び乗って、互いに十メートルほど距離を取ります。

 

「まずは武器なしでしましょう。体術がどれほどできるか確かめたいですから」

「わかりました」

 

 スタートの合図を受けて突撃します。まずは勢い良くジャンプして空中で回転して全体重と全身の筋力を合わせて蹴ります。リュー様は即座に飛びのき、リリの一撃は轟音と共に足場に激突します。足場は吹き飛びました。ガラガラと破片が舞うので、それをリュー様の方へ纏めて蹴り飛ばします。

 

「なるほど、力は随分と強いようですね」

 

 リュー様は普通に回避したり、手でたたき落としたりしました。相変わらずこのエルフは強いです。レベル3になってもまだ届かないようです。

 足場が崩れたので、落ちていきますが、途中で腕のガントレットからワイヤーを打ち出して別の足場に巻き付かせて、そちらに引き寄せて壁に着地すると同時に外して、足場を蹴って上に戻ります。

 

「では、今度はこちらからいきます」

 

 そう言ってリリがギリギリ見える速度で接近して蹴りを放ってきました。それを両手をクロスさせてガードします。リュー様は空中で身体をひねって即座にかかと落としをしてきますが、リリは両手を上げてそれもガードします。

 

「力と耐久力もかなり高いですね。それに素早さも力を使っているようですが……」

 

 一旦離れたリュー様に今度はリリが攻撃を仕掛けます。リーチの関係もあって、やはり足技が主体となります。斜め下に刃のように振り下ろし、回転する反動を利用して腕を鞭のようにして連続で仕掛けます。足、手、足と、仕掛けますがリュー様の速さはリリでも対処できません。

 

「甘いです」

 

 足を掴まれていなされて後方に投げ飛ばされます。ですので、壁を蹴って再度背後から仕掛けますが、同じくいなされました。

 

「体術もそれなりにできるようですね」

「そこはしっかりと教えこまれていますから……」

「まだまだ付け焼き刃ではありますので、反復練習が必要です」

「うぅ……その通りなんです。リリも始めたばかりですし……」

「でしょうね」

 

 リリはクルミ様がこちらに来てからなので、まだ二ヶ月前後しか、ちゃんと体術を習っていません。

 

「では、次は武器を使ってやりましょう」

「わかりました!」

 

 イフリートを持ち出して戦いだすと、リュー様といい勝負ができます。何せリリに触れられませんからね! そう思っていた時がありましたが、緑風を纏った無数の大光玉を生みだしてこちらの炎を吹き飛ばしにきました。リリも負けずに打ち返してやったのですが、数が多くて何度も崖の下に落とされました。

 

「キアラもやる! 天明らかにして星来たれ」

「「え?」」

「フォーマルハウトの星は召臨を厭わず。月天は心を帰せたり来々、くとぅぐぁ!」

 

 急激に空が明るくなり、上を向くと星空から文字通り星が落ちてきていました。即座にこちらにやってきたそれはどうやら、視界一杯の大きな炎の鳥のようでしたが、段々と小さくなっていきました。小鳥サイズになったその子はキアラの肩に止まり、徐に口を開きます。

 

「くぁ!」

 

 口から巨大な炎が吐き出され、リリ達に襲い掛かってきます。

 

「回避!」

「カードリッジロード・炎華(アルヴェリア)! てりゃあああぁぁぁっ!」

 

 イフリートで炎と炎をぶつけます。その瞬間、盛大に爆発して炎の柱が生み出されました。リリは焼かれるのではなく、イフリートに炎を吸わせていきます。そして即座に使っていきます。というか、使わないと死ぬ気がします。

 リュー様もお手伝いしてくださり、どうにかなりました。周りは結晶化した大地が広がっております。明らかに熱量がヤバすぎです。

 

「くーちゃん凄い!」

「くぁ!」

「あの、その子は……」

「どうやら精霊のようです。やはり、ウィーシェの……」

 

 炎の鳥をキアラが撫でていると、彼女の身体が炎に包まれました。

 

「っ!?」

「大丈夫です。問題はありません」

 

 リュー様に止められ、しばらく様子を見ると炎はキアラの中に入り、小鳥は満足したように空へと飛び上がり、そのまま大きくなって空で輝く星へと帰っていきました。その星もまた離れていきます。

 

「契約できた。炎の星術、使えるようになったよ」

「今のが契約なんですか!」

「そうです。エルフの中でも特別な血筋の者が精霊に愛されていた場合、呼び出して契約が可能なうちの一柱である炎の精霊です。成功して良かった」

「失敗したらどうなっていました?」

「何も起こらないか、辺り一帯が焼失します」

「それって……」

「エルフにとっては禁忌、禁術です。そもそも使い手はもう存在しないはずでした……」

「なるほど、先祖返りですね!」

「いえ、そのはずは……」

「せ・ん・ぞ・が・え・りです! 彼女はハーフエルフなんですから! ハイエルフであるはずがありません!」

 

 断じて認めてなるものですか! 認めた瞬間、終わりです! 

 

「いや、そんなはずは……確かに耳はハイエルフにしては短いですが……本当に?」

「そうです。そうなんです。残念ながら」

「キアラ、貴女の両親は……」

「えっと、私の両親はクルミとリリだよ」

「本当の両親は」

「教えたら駄目って……」

「ええ、駄目です。リュー様、これはソーマ・ファミリアの機密です。ですので、お教えできません。ただし、神様の前でも宣言できます。彼女の父親はエルフではありません」

「なるほど……わかりました。会いにきて見守ることは許して欲しい。彼女は危険だ。ハイエルフでないのなら、禁忌を使った彼女の身が危ない」

「では、普通の炎魔法としましょう。それで解決です」

「ええ、それでいきましょう」

「キアラ、いいですね。炎の魔法を使える。他は言ってはいけませんよ」

 

 口を押えるキアラを見ながら、炎を出していくキアラ。それは鳥のような姿をして、周りを飛び回ります。

 

「……リュー様。これ、セーフですか?」

「まあ、炎の形を変えるだけなら自由です。アレを呼び出さない限りは問題ありません」

「わかりました。では、それでいきましょう」

「ですが、先程の炎についてはどう説明しますか?」

「問題ありません。リリがやったことにします。キアラ。この弾丸に魔法を込めてください」

「ん!」

 

 炎の鳥が沢山入りました。それをイフリートにロードすると大きな炎の鳥が飛んでいき、通った場所を焼き尽くしていきました。

 

「予定通りです。これでリリの火力アップです! あのにっくきレベル5を今度こそ焼き殺してやれます!」

「おー!」

「……そのレベル5は誰ですか?」

「フレイヤ・ファミリアです。今度襲ってきた時に潰してやります」

「フレイヤ・ファミリアはレベル6になられた方が多かったようですが……」

「……レベル5から6になったんですか。リリの倍……」

「目標は遠いですね」

「ですね。キアラ、修業しますよ」

「わかった」

「では、互いに撃ち合うといいでしょう。炎になれるところから始めるといいかと」

「「はい!」」

 

 キアラは星の下であれば魔力がどんどん回復するので、いっぱい撃ってもらいます。それを取り込んだり、切ったりして戦います。身体中が焼かれる感じがしますが、サラマンダーウールの特別製装備で乗り切ります。

 

 

 

 

 




詠唱の元ネタは守護月天です。キアラを守護する精霊、星神達。もちろん、分霊であり、欠片です。本体がきたら終わるしね!
星術……星の精霊と契約し、その力の一部を行使できるようになる。なお、契約相手の気分次第で力は増減する。基本的にゾディアックの1から10レベルを想定。


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地雷案件の追加です

 

 

 

 リュー様との修業の次の日。リリはキアラを連れてバベルの前にやってきています。ここでベル様と合流するわけです。相変わらずクルミ様は忙しいようで、動き回っておられます。こちらにほとんど意識を割いておられません。だから、今なら好き勝手にできます。

 

「おおきいね」

「そ~ですね~」

 

 キアラが色々と見ています。彼女は猫耳フードを被らせて耳をしっかりと隠しているので、沢山の小鳥を連れた小人族(パルゥム)と思われるでしょう。

 

「リリ~!」

「あ、来ましたね」

 

 ベル様の後ろに別の方が歩いてきます。赤い髪の毛に大剣を背負っておられます。

 

「ほう、こいつがベルの連れか」

「ベル様、この方はどなたでしょうか?」

「うん。昨日、出会ったんだ。リリが心当たりがあればよろしくって言ってたしね」

「そういうわけだ。俺もパーティーを探していてな。って、嬢ちゃんは何処かで見たことが……」

「奇遇ですね。リリも見た事がありますよ」

「アレ、二人は知り合いなの?」

 

 何処かに行こうとするキアラの手を掴んで引き寄せながら、彼を見ます。彼はヘファイストス・ファミリアで見ました。

 

「知り合いではないです。たしか、ヘファイストス・ファミリアの鍛冶師さんでしたよね?」

「そういうそっちは団長に新技術を教える代わりという事で弟子入りした別のファミリアの奴だな。こっちも知り合いとは言えないな。まあ、これからよろしく頼むわ」

「椿様が団長をされている提携ファミリアの方では無下にはできませんね」

「あたらしい仲間?」

「そうです。まあ、もう少し話をしてから判断します。改めて、ソーマ・ファミリア所属、副団長のリリルカ・アーデです」

「俺はヴェルフ・クロッゾだ」

「クロッゾ? クロッゾ!? あの没落した魔剣鍛冶師の!?」

「そのクロッゾだ」

 

 やばいです。なんでこうもエルフにとっての地雷案件ばかりが寄ってくるんですか! キアラをクロッゾと同じパーティーにするとか、エルフの方々が知ったら激怒間違いなしですよ! 

 思わずベル様の方を見ますが、ベル様は小首をかしげるだけです。キアラもそれを真似して小首を傾げています。可愛いです。

 

「えっと、それでそっちの子は……」

「キアラ」

「キアラ。ソーマ・ファミリアのレベル1」

「よろしくお願いね」

「そっちも女か。よろしくな、リリスケ、キースケ」

「ちょっ!? リリはリリルカ・アーデという名前がですね!」

「キースケ、うん、それもいい。お姉ちゃんと一緒」

「ぐっ……まあ、いいでしょう」

 

 椿様の手前、あまり無下にできませんし、納得してあげましょう。

 

「キアラちゃん、よろしくね」

「よろしく」

 

 さて、今回、リリはクルミ様が居ないのでサポーターとして活動します。ですので、久しぶりにバックパックを担いでいます。それ以外の装備は何時ものままです。アダマンタイトのガントレットとグリーブ、プレートメイルを装備しています。その上にリリ愛用のフード付きローブを着ています。内側には念の為にサラマンダーウールで外側は白いローブです。内側はサラマンダーウールを仕込んだ赤色です。

 これだけでリリのスキルである縁下力持(アーテル・アシスト)*1と怪力*2のスキルも効果が発揮します。

 今のリリはレベル3であり、発展アビリティは耐久・敏捷・器用が上昇する剛体か力と敏捷が上昇する軽身のどちらかでしたので、剛体を習得しました、軽身は確かにそれぞれの効果は大きくなるのでしょうが、正直リリにとっては重い装備をするので防御力も欲しいです。イフリートを使うことを考えるとリリ自身が燃えてしまいますし、現状では火力は問題ありません。むしろ、力に技が付いてきていない現状ですから。

 魔法は発現せず、効果が少し上がったくらいです。例えば……贋造魔法少女(ハニエル)でリリの持ち物を小さくしたりできるようになりました。リリが所有物でかつ、リリの魔力を受けている物。つまり、武器とかですね。イフリートを小さくしてペンダントにして首からかけています。問題点は重量とかそのままですし、変身させていたらもう変身はできません。

 

「リリは今回、サポーターをしますので、魔石の回収などはお任せください」

「そっか。今日はクルミが居ないもんね」

「はい。それとキアラは魔法使いです」

「魔法、使う」

 

 そう言いながら渡した杖をクルクルと回している彼女。ただし、その杖の上には炎の鳥が既に止まっています。ローブの中にもいっぱいいます。

 

「その可愛らしい鳥さんなにかな?」

「俺も気になっていたんだ」

「ああ、それがこの子の魔法です。その鳥、燃えますから気をつけてくださいね」

「え」

 

 ベル様が触れようとしていた指を引っ込めました。

 

「なんで今から使ってるんだよ」

「事情があるんです。とりあえず、その鳥の数が攻撃回数だと思ってください」

「何羽いるの?」

「二六羽~」

 

 ローブ以外にもリリのバックパックに沢山、乗っていたりもします。

 

「多いね」

「ああ、そうだな。だが、威力次第だな」

「そうですね。まずは潜ってから試しましょう。今日の目的はどこですか?」

「とりあえず、十一階層かな」

「でしたら、そこで試しましょう」

「わかった。ヴェルフもいいよね?」

「ああ、いいぜ」

「おー」

 

 さてダンジョンに入ります。一応、念の為にキアラとは手を繋いでいきます。前衛はベル様とヴェルフ様にお任せします。ゴブリンやコボルト如きにこの子の魔法は使えないので、さっさとおります。

 

「おい。なんかやばくね?」

「うん。物凄く数が多いね」

「ですね」

「う?」

 

 うじゃうじゃと、それはもう大群で存在する無数のキラーアント。普段は余り見かけないですし、見かけても何処かを目指しているので軽く殺せます。ですが、そのキラーアント達が今は近くに居る冒険者を目指して殺到してくるのです。壁や天井、全てをキラーアントが埋め尽くし、襲ってくる姿は気持ち悪いです。

 

「どうすんだ? 逃げるか?」

「僕とリリならやれるだろうけど……ヴェルフとキアラが居るから……」

「面倒です。キアラ、焼き払いなさい」

「ん。いけ、くーちゃん」

「くぁ!」

 

 キアラの杖から飛び立った赤色の小鳥はすぐに大きくなり、その身を炎に包んで突撃して通路そのものを覆いつくしました。数秒すると炎の鳥は消え、炎も何事もなかったかのように消滅します。キラーアント達はまだ残っていたので、次の鳥が飛び立って同じように全て処理しました。

 

「強いな、おい」

「凄い火力だね」

「やばいですね☆」

「くーちゃん凄い」

「くぁ!」

 

 流石は星の精霊を操る星術です。火力がやばいです。まあ、今は魔石を回収しましょう。久しぶりですが、なんとかなります。

 

「気を付けていこう」

「おー」

「おうよ」

 

 進んでいくと大量に遭遇するキラーアント達。ダンジョンが大量生産してくれているようで、とっても面倒です。思わず壁を殴りつけて現れたのを潰します。あ、足元にも出てきたので踏み潰します。椿様が作ってくださった装備なので痛くも痒くもないです。とりあえず、後ろに出てきたのはリリが潰しておきます。

 

「なぁ、キラーアントってこんなに出るもんなのか?」

「ううん、何時もはこんなに出ないけど……」

「不思議な不思議なこと~?」

「かもね」

「そうですね。リリは嫌な感じがしますけど」

 

 そのまま十一階層に到達しました。キラーアントを焼き払うので結構鳥も消費しましたが、初のダンジョン探索は充分な成果です。

 

「やってきたぜ十一階層!」

「じゅういちー!」

 

 ヴェルフ様とキアラが飛び出して両手を上げて喜んでいます。まあ、キアラはヴェルフ様につられただけですね。

 

「悪いなベル。昨日の今日でこんな無茶を聞いてもらって……」

「ああ、いえ、ヴェルフさんが鍛冶のアビリティを手に入れるのなら、専属契約した僕も無関係じゃないですし」

「そりゃ、ヴェルフ様は万々歳でしょうけれど……」

「なんか言いたそうだな」

「ご自分のファミリアの人と探索しないのですか?」

「できたら苦労しねえよ。だいたい他所のファミリアと冒険しているのはそっちも同じだろ」

 

 椿様に報告すれば解決する気がするんですけど、流石にプライドが許さないのでしょう。

 

「まあ、そうなんですよね。今、ソーマ・ファミリアって探索に出る人ってかなり少ないですから」

「そうなの?」

「はい。クルミ様の改革でダンジョンに潜らなくても稼いでお酒が普通に飲めるんです。ですから、無理してダンジョンを探索する必要がないんです」

「あ~確かに地上で安定して稼げるなら、冒険者になる必要はないわな」

「今、ソーマ・ファミリアは完全に酒造ファミリアですからね。探索は団長であるクルミ様の趣味と言ってしまえるかもしれません」

「リリスケとキースケはどうなんだ?」

「リリ達はクルミ様のお世話係。そば付きですからね。クルミ様が潜るのであれば潜ります」

 

 まあ、個人的な理由もできたのでそれだけではありませんけど。

 

「それにリリ達は僕の神様に雇われているんです」

「護衛ってことか」

「そういう事ですね。護衛を受けた本人は今、忙しいようですが……」

「クルミ様、大変」

「っと、沢山出てきたな」

「うん」

「こんな話をしている場合じゃない」

「いっぱい、燃やす?」

「まだいいですよ。お二人が頑張ってくださいますし」

「なんだ、リリスケは戦ってくれないのか?」

「リリは見学してます。サポーターですから」

「あはは、リリが出たらすぐ終わって僕達の経験にならないよ」

「あ~レベル3ならそりゃ、ここは楽勝だろう。うし、やってやるかベル、キースケ!」

 

 三人が、正確には二人が戦い始めます。ある程度、集まればキアラが纏めて焼き払う方法で処理していきます。ベル様もレベルアップで魔法の威力や殲滅力が上がっているようなので、安心してみていられます。

 

「やっぱいいよな、パーティーっていうのは!」

「はい! 前より随分と動きやすくなった気がします」

「二人共、凄い」

「パーティーの利点だな。余裕を持てれば魔物(モンスター)への対処も変わる」

 

 三人が話している間にリリはせっせと魔石を回収していきます。すると悲鳴を上げて逃げてくる人達がいました。

 

「逃げろ!」

「インファントドラゴンだ!」

 

 魔石を拾っていると、すぐ隣にインファントドラゴンから逃げてきた冒険者が通り過ぎていきます。顔を上げると、そこにはインファントドラゴンの大きな赤い顔がありました。

 

「リリ! 危ない!」

「リリスケ!」

「お姉ちゃん」

 

 赤い竜の身体に鋭い牙と大きな口。歯は鉄を噛み砕くでしょう。魔石を取っているのに邪魔です。

 

「GRUUUU!」

「邪魔です」

「リリ?」

「消えてください。き・え・て」

「っ!?」

 

 インファントドラゴンはクルリと反転して走っていきました。これで邪魔者は居なくなったので、魔石を回収していきます。

 

「こええぇ……」

「あははは……」

「お姉ちゃん、すごい」

「インファントドラゴンなんて……あ、失敗しました。キアラ、さっきのを狩ってきてください。経験値稼ぎに丁度いいです」

「「え?」」

「ん!」

 

 キアラが走っていき、霧の中に消えていきます。

 

「ちょ!? リリ!」

「おいリリスケ! やばいぞ!」

「え? インファントドラゴンはレベル1で相手するのが普通ですよ」

「んなわけあるか!」

「危なくなったら助ければ……」

「その前に死んじゃうよ!」

「いや、まさかインファントドラゴンですよ? リリがレベル1のころから修練相手にしてた……」

「どんな地獄だよ!」

「椿様からやらされたんですが……」

「団長かよ! どっちにしろやばいわ!」

 

 連続して上がる火柱に慌てて皆で追っていくと、そこにはインファントドラゴン……の群れが居ました。はい、群れです。八体も居ました。中の一匹はとても大きく、色が青色でした。キアラはそんな相手に震えながらリリに気づいてこちらに抱き着いてきます。

 

「キースケの魔法、あんまり効いてないみたいだぞ」

「さすがにこれは……」

「あーヴェルフ様、キアラをお願いします」

「わかった。やっちまえ」

「行くよ、リリ!」

「はい」

 

 ベル様と駆け抜けて殴り殺します。一撃です。ベル様は光る手から魔法を撃ちました。そちらも一撃でしたね。なんだろう。本当にインファントドラゴンが弱く感じます。殴れば頭が吹き飛び、蹴れば胴体に穴が空きます。

 

「キアラ、一匹に全力で攻撃してください。押さえておきますから」

「ん!」

 

 恐る恐る全ての鳥をインファントドラゴンに叩き込み、燃やしていきます。リリはちょっと炎に焙られながら考えます。どうやら、リリは……いつの間にかクルミ様と椿様に毒されていたようです。インファントドラゴンはレベル1で相手するものだと……やばいです。

 

「しかし、明らかに異常だろう」

「キラーアントにしても、インファントドラゴンにしてもちょっと多すぎだよ。リリが居なければ危なかったかも」

「お姉ちゃんすごい」

「エッヘンと胸を張りたいのですが……これ、報告した方がいいでしょう」

 

 強化種を踏みつけて地面に押し込みながら、告げます。相手にはならないので、このまま終わりです。

 

「今日は魔石を回収してここまでにしようか。ギルドも行かないと」

「ですね。ヴェルフ様、それでいいですか?」

「ああ、構わないぞ」

「キアラは……」

「大丈夫。もう鳥さんいない」

「じゃあ、戻ろっか」

 

 ギルドに戻りエイナさんに報告します。すると、彼女は深刻な表情をしました。

 

「他の冒険者からも連絡を受けてる。だいたいキラーアント達とインファントドラゴンが大量に生まれているみたいで……怪我人が結構出てるの」

「あのエイナさん……」

「どうしたの、アーデ氏」

「ダンジョンで大量の魔物(モンスター)を常に殺し続けていて、それを急に止めたらどうなります?」

「そりゃ、ダンジョンも生きているから、常に魔物(モンスター)を量産して放出してきます。冒険者を減らすためにです。そして、止めたらしばらくはその倒した状態のままに……もしかして、心当たりがあるんですか? あるなら教えてください!」

 

 エイナさん以外のギルド職員の視線まで集まってきます。

 

「……原因がわかりました。実はですね。今、クルミ様はダンジョンで狩りをなさっていません。深層でロキ・ファミリアと本気で戦っておられるので」

「それがどうしたんですか? 低レベルでロキ・ファミリアの遠征についていっているんですから、当たり前のことですよね?」

「クルミ様はキラーアントとインファントドラゴンを集中的に分身を放って大量に、常に殺し続けていました」

「「「あっ!?」」」

「はい。エイナさんが先程教えてくれたことが起こっているのかと。おそらく、前の水準よりちょっと上になっているのではないでしょうか?」

「今すぐ全ファミリアに注意喚起! キラーアントとインファントドラゴンの大量増殖中って!」

 

 ギルド職員の方々が大急ぎで動き出しましたが、まあリリには関係ありません。だって、今回の事でソーマ・ファミリアが文句言われることはありません。だって、普通に魔物(モンスター)を始末し続けていただけですからね。こちらに落ち度はありません。もしもこれで文句をつけようものなら、冒険者に魔物(モンスター)を狩るなと伝えているようなものですし。あくまでもダンジョン側が量産しているだけですしね。

 

 

 

*1
一定以上の装備過重時における補正。能力補正は重量に比例する。

*2
力のステイタスが限界突破し、成長能力が増加する。自身の重量の三の倍数を超える武器を持つ場合、超えた分だけ力のステイタスをレベルアップさせる。



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怪物進呈

ゴライアス君のレベルとアスフィがアスティになっておりましたので修正させていただきました。誠に申し訳ございません。


 

 

 

 

 早朝。ボクはボクの可愛い眷属(子供)であるベル君を見送るために外にいる。ベル君は赤色のローブに包まれてウサギっぽさが少し半減している。

 

「行ってきます神様」

「うん! 今はクルミ君の護衛もないんだから気をつけて行っておいで。一応、副団長のリリ君が居るとはいえ、彼女も中層は初めてらしいからね」

 

 クルミ君の護衛を何時もの通り、受けられたら良かったんだけど、彼女はロキ・ファミリアの深層についていき、そこでトラブルがあったらしい。そのトラブルを解決するために色々と奔走していて、護衛どころじゃないとの事だ。

 これが普通の依頼しての護衛なら違約金をたっぷりとふんだくっているんだが、あくまでも継続してくれているのは彼女の好意だ。ベル君に頼んだ護衛ってベル君が安全に冒険できるまでだし、レベルアップした時点で契約完了みたいなもんだ。流石に中層まで料金に含まれるなんて言えない。追加料金がかなりふんだくられるだろうしね。ベル君のためなら惜しくはないが、今はリリ君だけでよしとしようじゃないか。

 

「わかってます。僕がリリ達を守ります」

「そっちではないんだけど……まあ、いいや。それにしても、そのサラマンダーウールは明るいところだとかなり目立つね」

「中層に行くならエイナさんに必ず装備しなさいってきつく言われたんです。少し派手かなって思うんですけど……」

「ま、あのアドバイザー君が言うなら聞いておいて間違いないだろう。とにかく、レベル2になったからって無理はするんじゃないよ。リリ君が居ても限界があるからね」

「はい! 行ってきます!」

 

 走り去って行くベル君を見送るけど、なんだかちょっと不安になる。っと、いけない。いつまでもこうしていられない。ボクも仕事があるから準備して行くとしよう。

 

 

 

 

 

 ベル君を見送ってから、ヘファイストス・ファミリアがやっているお店があるバベルの前にやってきた。今日は此花亭ではなく、こっちで働く日だからね。

 相変わらずバベルの塔前には冒険者君達が多い。その群衆の中に知り合いの神を見つけた。

 

「大事なのは無事に帰ってくること! いいな!」

「「「はい!」」」

「命もランクアップしたからといって力み過ぎるなよ」

「はい!」

「では行ってきます、タケミカヅチ様」

「うん」

 

 タケミカヅチ、タケの子供達がダンジョンに向かって行ったタイミングで声をかける。

 

「へぇ~アレがタケの子供達か」

「ん? ヘスティアか」

「中層に向かうのかい?」

「ああ。お前のところのリトル・ルーキーもそろそろだろう?」

「まさしく今日が初挑戦さ。今朝早くに出発していったよ」

「ま、心配していても何も始まらないからな。俺達は信じて待つだけだ」

「うん」

 

 急に足元が揺れる。どうやら地震みたいだ。最近多い。たまたま続いているだけだと思うけれどね。大丈夫だよね、ベル君……

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「では、最後の打ち合わせをします。あそこを抜ければ十三階層。中層となります。中層以降の魔物(モンスター)は炎などによる遠距離攻撃を仕掛けてきます。離れていても、決して油断しないでください」

「おうよ」

「ん」

「わかった」

 

 リリの言葉に皆さんが頷いてくれます。リリ達は現在、一二階層の最深部で休憩を取りながら最終確認をしております。リリの横にはキアラが居て、反対側にはベル様とヴェルフ様が座っています。皆さんは視線を十三階層への入口へ一度向けてからこちらを見直してきました。

 

「では、ここから定石通り、隊列を組みます。前衛はヴェルフ様。もっとも負担の大きい中衛はベル様。後衛には魔法使いであるキアラです。リリはいざという時の為に最後尾を歩きます。サポーターが一番最後を歩くのは本来なら火力が不足しますが、リリのレベルなら中層でもおそらく問題はありません。後ろは気にせずに戦ってくださって結構です」

「がんばる」

「おーキースケはやる気満々だな」

「ん!」

「ぷっ」

「何を笑ってるんですか?」

「いや、みんなで力を合わせて冒険するのはワクワクしてこない?」

「確かにな。男ならワクワクするよな!」

「よくわかんない。キアラは女のこだし」

「リリも女の子なので賛同しかねますが、すこしお気持ちはわかります」

「お姉ちゃんがそういうならキアラもー」

「それでは準備はよろしいですか?」

「ああ」

「うん」

「ん」

 

 四人で笑いあった後、改めて気合いを入れて中層、十三階層へと足を踏み出します。

 

 

 

 十三階層に入ると、即座に犬型の魔物(モンスター)に襲われました。そいつらはベル様の小手に噛みつきました

 ベル様は身体をずらして相手を横に誘導します。そこにヴェルフ様が大剣を横から叩きつけて倒しました。

 もう一匹の犬の魔物(モンスター)、ヘルハウンドが炎を吐こうとしてきたので、キアラに指示を出します。キアラは腕に取り付けた小さなクロスボウを放ち、ヘルハウンドの鼻に命中させます。そこをヴェルフ様が接近して斬りました。

 

「よし!」

「ま、中層で最初の戦闘にしては上出来じゃないか?」

「ですね。キアラもよくやりました。褒めてあげます」

「ん!」

 

 キアラのフードの中に手を入れて撫でるとすごく喜んでくれます。

 

「うん。ヘルハウンドの火炎攻撃もなんとか対処できそうだし、全然歯が立たないって訳じゃない」

「だな」

「ともかく、開けた場所に向かいましょう。こんな狭い場所で魔物(モンスター)に襲われた厄介です」

「きゅー!」

「ん?」

 

 声にそちらを振り向くと、小さなベル様が居ました。白い毛に赤い瞳をしています。

 

「ベル様?」

「うん、ベルだな」

「可愛いベル~」

「アルミラージだってば!」

 

 ウサギ型の魔物(モンスター)、アルミラージは後ろに隠していた斧を前にして飛び上がってきます。数にして三匹です。

 

「うおっ! ベルが来た!」

「ベル様、せっかちですね!」

「ベル~!」

「アルミラージだって! あっ!」

「あそぼ!」

 

 キアラの言葉に炎の小鳥が飛び出してアルミラージを焼き払いました。キアラを見るとしょぼんとしています。

 

「もふもふのお友達……」

「流石にクルミ様がそばに置くだけはありますね。この子もケモナーですか」

「なんだそれ?」

「動物をもふもふしたい人達の総称らしいです。キアラ、後でぬいぐるみを買ってあげますから、あれらは排除してください。敵です」

「ん、約束だよ?」

「はい。約束です。どうせなら大きいベル様を買いましょう。リリもちょっと興味があります」

「だからアルミラージだって!」

「ベル買う~!」

「ああもう!」

 

 そんな感じで進んでいきます。中層の探索は順調に進み、いくつかのルームを超えると階段があるすり鉢状のようになった広い空間に出ました。

 無数の段差が存在し、それぞれ階段があり、先に行くには降りていくしかないようです。だから、リリ達は下まで降りて先へと続く洞窟へ向かおうとしました。ですが、その直前に上から沢山のアルミラージが降ってきました。

 

「後退を……」

「駄目です! 後ろもいっぱいです!」

「罠か!」

 

 どうやら、ここはアルミラージ達の狩場のようで、完全に囲まれていました。リリ達の前はもちろん、段差の上にも居ます。ですので、キアラに纏めて焼き払ってもらいました。

 

「くそっ! どれだけ居やがる!」

「斬っても斬ってもきりがない!」

 

 ヴェルフ様が大剣で纏めて数匹を殺し、ベル様が走り回って斬っていきます。数が多く、キラーアントのように仲間を呼び寄せている可能性すらあります。

 

「キアラ、焼き払ってください!」

「「っ!?」」

「くーちゃん!」

 

 リリの指示にキアラが反応する前に二人が即座にリリ達の周りに戻ってきます。そのタイミングで杖とローブの中から六羽の小鳥が飛び立って周りを炎の海へと変えていきます。その炎の海を越えてアルミラージが襲撃をしかけてきます。

 ベル様とヴェルフ様が対処していると、通路の奥から走ってくる人の足音が聞こえてきました。その人達はすぐにこちらへとやってきて、走り抜けていきました。彼等の姿を見ると、一人が怪我をしているようで抱えられています。それだけならまだいいです。彼等が来た方向からヘルハウンドの声が響いてきました。

 

「やられました! 怪物進呈(パス・パレード)です!」

「どうすんだ!」

「お姉ちゃん……」

「リリ、お願い!」

「わかりましたぁ! リリに任せてください!」

 

 バックパックを降ろし、イヤリングにしたイフリートを取り出して上に投げます。空中で贋造魔法少女(ハニエル)を解除して元の大きさに戻します。

 

「セットアップ! 鏡よ、鏡(ミラー・ミラー)

 

 変身してから分身を作成します。当然、例の恥ずかしい音声が流れました。二人が唖然とした表情でこちらを見てきて、キアラはキラキラしております。そんなベル様とヴェルフ様にキアラを押しつけて全力で踏み込んで、周りのアルミラージを虐殺します。

 

「マジか」

「すごっ」

 

 一振りで七匹を殺し、二十四匹を吹き飛ばします。分身も同じ速度で殺していくのでみるみるうちに数が減ってきますが、その後ろからヘルハウンドの群れがきました。

 

「ベル様! 撤退です! リリだけならともかく、このままでは突破されます!」

「わかった!」

 

 全員で通路に走ってもらいます。正直、リリだけならどうにかなりますが、ベル様はともかく、キアラが死ぬ可能性がとても高いです。

 

「殿と先導はリリがします!」

「頼む!」

 

 襲い来る邪魔な敵を全てイフリートで粉砕し、斬り殺し、前後の道を確保しながら逃げていくと、橋に到着しました。そこは竪穴で、上も広いです。

 

「ごめんなさい。しくじりました」

「リリ?」

「……後ろも前も敵か」

「上も居る」

 

 キアラの言葉で上を見ると、無数の蝙蝠みたいな魔物(モンスター)が居ました。もうこうなるとやるしかありません。

 

「「カードリッジロード・炎華(アルヴェリア)」」

 

 炎を身に纏い、やってくる魔物(モンスター)を対処しますが、どうしても空の相手は対応が遅れます。何匹かを逃して三人にも戦ってもらいますが、度重なる戦闘で疲労がどんどん蓄積していきます。

 

「くそっ!」

「ヴェルフ!」

 

 見ればヴェルフ様が腕を噛みつかれました。なんとかベル様が倒してくれたようです。キアラも空の敵に鳥を放っていますが、もう数羽もないでしょう。

 そうこうしていると、リュー様がおっしゃっていたダンジョンが牙を向いてきました。天井が崩落してきたのです。

 

「うわぁあああああぁぁぁぁっ!!」

 

 崩落に巻き込まれ、橋は崩壊してそのままリリ達は下へと落ちていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 ベル君達が帰還予定の時間を大幅に過ぎているのに帰っていない。だから、僕は仕事を休んでギルドに来た。

 

「本当ですか!? ベル君達が帰還していないと!」

「ああ、本当だ。リリ君も居るから大丈夫だとは思うんだけど……その様子だと、ここにも立ち寄っていないんだね?」

「はい……少なくとも私は会っていません」

「そうか……」

 

 リリ君はレベル3だ。それもヘファイストスが作った武器を持っている。そう簡単には死なないはすだ。おそらく、ベル君達を守るために頑張っているだろう。なんせ彼女はレベル5と渡り合えた逸材だ。戻ってこれないのには相応の理由がある。怪我か何かをして著しく機動力が低下し、動けない事態に陥っていると判断できる。

 

「クエストを発注したい。内容はベル君達の捜索と救助!」

「畏まりました!」

「ヘスティア!」

「タケ……?」

 

 振り向くと、タケが話があると言ってきた。彼の周りには他の親交がある神まで呼ばれているようで、何かがあったのは確実だ。だから、僕の本拠地で話を聞くことにする。

 

 

 

「すまんヘスティア」

「では、彼等がベル達に魔物(モンスター)を押し付けたというのは……」

「こいつらも必死だったとはいえ、申し訳ない」

「もし……ベル君達が戻ってこなかったら、君達の事を死ぬほど恨む。でも、憎みはしない。約束するどうか、僕に力を貸してくれないか?」

「「「仰せのままに」」」

 

 これで捜索隊は作れる。そう思っていたら、何処からか拍手が聞こえてきた。上を見ると、壊れた屋根の柱に座り、こちらを見降ろしながら手を叩いていたドレス姿の幼い少女が一人居た。ただし、逆光でよく見えない。

 

「大変素晴らしい光景でしたわ。夕日の光を受けて神々しく、まるで女神のようでした」

「僕は本当の女神だよ! 失礼だな! だいたい君が居たら解決していただろう」

「あら、わたくしにだって不可能はありますわ。今回だって不可能なことだらけで、約半数のわたくし、一八〇人ほど死んでいますのよ?」

 

 そう言いながらスカートを押さえて降りてきたクルミ君。彼女の言葉が本当なら、解決は難しいかもしれない。いや、それ以前に彼女の気配がまた変わっている。人から精霊へとかなり近づいてしまっている。

 

「ヘスティア、ごめんなさい。まずは深層での報告を聞かせてちょうだい」

「わかったよ」

「クルミ、椿達は無事?」

「ええ、とっても苦労しましたが、全員無事ですわ。ロキ・ファミリアも含めて」

「そう。それは良かったわ。貴方が発注して無理矢理持っていた代金の請求はゴブニュの分も含めてこっちで精算しておいたわ」

「助かります。後程、お返しします」

「別にいいわ。椿が死ぬと言われたら、出さないわけにもいかないもの。詳しくは聞かない。代わりにヘスティアの子供達を助けてあげて」

「ヘファイストス! ありがとう!」

「お断りしますわ」

「ちょっ!?」

「ベルさんにはわたくしのリリとキアラがご一緒なさっているのですよ。そんな依頼がなくても助けますわ」

「……ああ、そうだったわね」

「よし、これで勝った!」

「言っておきますが、わたくしはかなり弱体化しております。ですので、他の方に協力してもらわないといけませんわ」

 

 まあ、クルミ君ならリリ君達を何があっても助けるだろう。今、それをしていないという事はそれだけ力が弱まっているという事だろう。

 

「困ったわね。うちの目ぼしいメンバーはロキ・ファミリアの遠征に同行しちゃってるのよね」

「うちからも中層に送り出せるのは桜花と命。それにサポーター代わりに千草がいける程度だ。後は残念ながら足手纏いだ」

「「「くっ」」」

「しかし、四人だけというのは……」

「俺も協力するよ、ヘスティア」

「ヘルメス!」

「おや、アスフィさんではありませんの」

「クルミさん。お久しぶりです」

「お前何しに……何時旅から戻った!」

「何、神友が困っていると聞いてね。助けにきた。俺もベル・クラネルの捜索依頼に手を貸すよ」

「神友とか言って、下界に来てからヘスティアにろくにかかわってなかったじゃない」

「確かに」

「随分といい加減な友ではあるな」

「あ~れあれ。これは手厳しいな~。でも、ヘスティアに協力したいのは本当さ。俺もベル君を助けたいんだよ。捜索にはこのアスフィも連れていく。うちのエースだ。安心してくれ」

「はぁ……」

「どうするヘスティア?」

「今はベル君達の救助が最優先だ。今は少しでも人手が欲しい。頼むよ、ヘルメス」

「ああ、任されたよ」

 

 皆が準備をしていると、ヘルメスがアスフィ君と何かをコソコソと話していた。だから、ボクは彼等の話を聞いて決断する。

 

「ボクもダンジョンに連れていけ」

「落ち着け。ダンジョンに神が入るのは禁止事項で……」

「バレなきゃいいんだろ?」

「ボクもベル君を助けに行く。あの子を誰かに任せることなんてできない」

「あんたね……死ぬかもしれないわよ」

「覚悟の上だ。それに大丈夫。ベル君はまだ生きている。ボクの与えた恩恵は生きている」

「わかったわ。だったら、ヴェルフに伝言と届け物を頼めるかしら?」

「わかった。クルミ君は……」

「わたくしも準備をしてきます。とりあえず、レベル3になってきますわ」

「そうか……い?」

 

 その言葉と同時に彼女は影の中に消えていった。おそらく、ソーマ・ファミリアに戻ったんだろう。彼女の言葉が事実なら、レベル2ではなく、レベル3の彼女が一緒になる。これはかなり戦力アップだ。

 

「アスフィ、俺とヘスティア、二人を守れるかい?」

「クルミさんの実力次第ですが、厳しいかと」

「だったらもう一人、連れていくか」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、ついてねぇな……一刻も早く上に戻りたいのに二階層分も落ちるなんて……」

「あの崩落の中、四人共生きているのは奇跡です」

 

 そうは言っても、無事なのはリリとベル様だけです。ヴェルフ様の足は崩落の石の下敷きになって折れ、腕は怪我をしています。キアラも同じです。足が折れています。

 だから、ヴェルフ様はベル様が背負い、リリがキアラを背負っています。

 

「うん。崩落に加えてヘルハウンドの炎だからね。サラマンダーウールがなければとっくに全滅してた」

「アドバイザーさまのお陰だな」

「そうだね」

 

 曲がり角を曲がると、そこは行き止まりでした。これで何度目かわかりません。

 

「また行き止まり……」

 

 話している間に魔物(モンスター)の鳴き声が洞窟内を響いてきます。どうやら、近くに居るみたいです。

 

「ベル、リリスケ、キースケ。いざとなったら俺を置いていけ。おとりを兼ねた時間稼ぎくらいはしてやる」

「ヴェルフ何を言って……」

「どの道! このざまじゃ俺は足手纏いにしかならねえよ」

「だからってそんなこと、絶対にできないよ!」

「キアラもやだ。置いていかれるのはさみしいよ?」

「仕方ないだろ! どうしようもないんだ!」

「あえて、生きて帰るために下の階層、十八階層まで進む手があります」

「リリ待って。ここから更に下の階層を目指すなんて!」

「敵は強くなる一方だぞ!」

「十八階層はダンジョンにいくつか存在する安全地帯です。つまり、魔物(モンスター)が生まれない階層です。そこまで行けばリヴィラの街があります。そこはソーマ・ファミリアと懇意にしている方が代表をしていて、街の運営にソーマ・ファミリアもかかわっています。ですので、上級冒険者を紹介してもらったり、治療してもらったりは普通にできます」

「確かにそれならいけるかもしれないけど、どうやって……」

「竪穴を使います。中層には下層に続く竪穴が無数にあります。上へ登る階段を探すより、遥かに効率的に下へ行けます」

「階層主はどうする? 十七階層だろう。例のでか物がいるのは」

「ゴライアスなら、ロキ・ファミリアが遠征で倒していると思います。ですので、ギリギリインターバルに間に合います。もし、間に合わなくてもリリがゴライアスを足止めもしくは倒します」

 

 ゴライアスはレベル4。ですので、レベル3に上がったリリなら勝てるはずです。無理でもお二人を連れたベル様が十八階層に撤退するまでの時間は稼いでみせます。

 

「リリ?」

「リリ一人なら戦えます。リリにはレベル5と殺し合いできるだけの力はあります。ですが、それはリリが気兼ねなく戦える前提です。正直に言います。リリ一人なら、ここからでも生還は可能だと思います。でも、それは嫌です」

「お前、正気か? ゴライアスをソロで倒すってことだぞ」

「この程度の無茶なんてもう慣れました。リリはどれだけクルミ様と椿様から無茶振りされてきたと思っているんですか!」

「……その、すまん」

「あくまでも選択肢の一つです。キアラを殺すわけにもいきません。ですから、決めるのはリーダーであるベル様です」

「いい、決めろ。どうなったって俺達はお前を恨みはしない」

「はい。それに時間はリリ達の味方です。クルミ様が救援に来てくださるはずですから」

「ん。クルミ様、絶対に助けてくれる」

「進もう!」

 

 ヴェルフ様の大剣にロープを巻いてつっかえ棒にして竪穴を降りていきます。それからは順調に進みます。魔物(モンスター)が嫌う臭いを出す袋を使って移動します。どうしても近くで生まれたりする魔物(モンスター)はリリの分身が手早く片付けますし、無理ならヴェルフ様の魔法で相手の魔力を暴走させて自爆させます。

 

「くちゃい」

「我慢してください。というか、もう切れます」

「リリ」

「ああ、ミノタウロスですね」

「ボクがやる。リリは力を温存していて」

「わかりました」

 

 ゴライアスもあるので、ベル様にミノタウロスを任せます。ベル様は壁を蹴って通路を縦横無尽に移動してミノタウロスを切り刻みました。更にミノタウロスが持っていた斧を取り、ベル様のスキルか魔法かを使って纏めて消し飛ばしてみせました。

 

「おぉ~かっこいい」

「本当にレベル1でミノタウロスを倒したのか」

「ですね……」

 

 フラフラしているベル様の口にポーションを飲ませてから、移動します。エリクサーを持ってきていた方が良かったです。今度はちゃんと常備しましょう。何時もはクルミ様がいるので必要なかったのですが、居ない時と居る時の感覚が混在してかなり危険です。

 

「また敵っ!」

「任せろ」

「キアラも!」

 

 キアラの鳥は既に尽きています。ですから、今度は彼女自身の魔力でやるしかありません。そんな無茶をやって進んでいきます。

 

 

 

 

 

 

「リリ」

「マインドダウンですね。キアラも同じです」

 

 十六階層までやってきました。ですが、そこでヴェルフ様とキアラがリタイアです。ですが、そのおかげで比較的、リリは力を温存できました。

 

「ベル様。ここからはベル様が二人を運んでください。リリは全力で敵を排除します」

「わかった。お願い」

「はい! お任せください!」

 

 十六階層を突き進み、十七階層へと続く穴を見つけたのですぐに飛び込みました。リリ達は滑り台のような物で十七階層に放りだされます。

 更に進むと一面真っ白の綺麗に整えられた大きな壁がありました。これが嘆きの大壁と呼ばれるものでしょう。その嘆きの大壁に罅が入っています。

 

「ベル様! 早くいってください!」

「リリっ! お願い!」

「リリにお任せです!」

 

 荷物を全て使い、傷を完全に回復させてから、イフリートを構えます。嘆きの大壁が崩れ、移動しているベル様に命中しそうなものは全て弾きます。

 

「ウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!」

 

 七メートルを超す灰褐色の肌を持つ巨人です。

 

「さあ、ここからはリリが冒険をする番です。行きますよ、イフリート。ロード・炎華(アルヴェリア)

 

 炎を纏い、足裏で爆発させて移動します。これはリュー様に習った移動方法です。それでベル様に向けて振るわれる手を横合いから全体重と力を使って切りつけます。

 激しい激突音が響いてゴライアスとリリは互いに吹き飛びます。壁に激突する前に体勢を入れ替えて、壁を蹴って突撃します。落ちてくる嘆きの大壁の欠片を足場にして登り、ゴライアスの首に全力でイフリートを叩きつけます。

 

「カードリッジロード・炎華(アルヴェリア)!」

 

 ゴライアスの首に傷が生まれ、血が噴き出します。すぐに炎華(アルヴェリア)によって焼かれ、再生を停止させます。ゴライアスは当然、咆哮をあげながらリリをはたきおとそうとしてくるので、飛び降りて、ガントレットに仕込んだ杭を壁に撃ち、突き刺さった場所に繋げてあるワイヤーを巻き取らせて移動します。

 

「ガァァァァァァッ!」

 

 ゴライアスは自らの手で頭を殴り、傷口を広げました。即座にこちらを殴りつけてくるので、今度は天井にもう片方の手で撃ち、上に上がりながら壁を走ってゴライアスに飛び乗ります。ゴライアスの腕の上を走って先程与えた首に同じようなにイフリートを叩きつけ、カードリッジをロードして傷口を押し広げます。

 

「ちっ」

 

 今度はひっかくように手を伸ばしてきたので、脊髄に杭を撃ち込んで背中から飛び降りながらイフリートで斬ります。かすり傷程度しか与えられませんが、構いません。するとゴライアスは後ろに転がるように倒れてきました。リリはどうにか下敷きにならないように抜け出しましたが、その瞬間にはゴライアスの手が迫っていました。ですから、イフリートでガードします。

 

「かはっ!?」

 

 壁に吹き飛ばされ、外壁にすこし身体が埋まりました。血を吐きましたが、これぐらいは何時もの事なので無視します。

 

「まだリリは動けますよ!」

 

 ゴライアスが起き上がろうとしているので、その辺にある嘆きの大壁の破片を蹴り上げ、イフリートで打ちます。狙いは顔です。相手は嫌がるように両手で顔を防ぎました。これにより、頭を下げた状態になったので、突き進んで首にもう一撃を入れます。同時に懐に忍ばせておいた猛毒の蓋を指で弾いて首の傷口にぶっかけてやります。

 レベル4に効くかはわかりませんが、大丈夫でしょう。後は煙幕を展開してから離れます。ゴライアスが暴れだしたので、リリはその間に離れて少し休憩します。ベル様はすでに出口の付近にいます。

 

「ミラー・ミラー、贋造魔法少女(ハニエル)

 

 分身した私達で、嘆きの大壁の欠片の内、大きいのを上に打ち上げ、一斉にワイヤーを使って登り、その欠片に触れます。

 

「「贋造魔法少女(ハニエル)!」」

 

 嘆きの大壁の欠片にイフリートを突き刺し、そこから魔力を流し込んで欠片を作り替えます。作り上げたのは巨大なイフリートの刃です。それを分身と一緒に握りながら、振り下ろします。全長、四メートルあるイフリートの刃をゴライアスは両手をクロスさせて防ぎました。片腕を切り落としましたが、残念ながらそこまでで、今度はこちらが振るわれて吹き飛ばされました。

 地面を何度もバウンドしてから、身体を回転させて、片手で地面をひっかいて速度を落として空いている手でイフリートを構えます。大きさは四メートルのままです。分身の方を見れば、ゴライアスに握り潰されました。

 

「そろそろいい感じではあるのですが、まだですね」

 

 炎華(アルヴェリア)を使って空を飛び、ゴライアスの首を狙います。イフリートが重すぎて力のランクがかなり上がっています。ですので、全力で振るってゴライアスの拳と打ち合うことができました。

 そのまま、何度か拳と打ち合っていると、ゴライアスがこちらを見詰めてきました。ゴライアスは今度、嘆きの大壁の欠片を持ち、こちらに投擲してきます。打ち払いますが、次々と飛来する欠片にさすがに手がまわらず、身体に命中して腕が折れ、足が折れます。そして、とどめをさそうと拳を振り下ろしてきました。

 もう駄目かと思って目を瞑ると、身体が急激に移動しました。目を開くと、そこには見知った方の姿があり、リリはお姫様抱っこされていました。

 

「遅いですよ」

「ヒーローは遅れて登場するものらしいですわよ」

 

 現れたクルミ様はリリに向かって弾丸を数発、撃ち込みました。その瞬間には元通りになり、視界がさっきよりスローモーションになりました。更に未来の映像まで見えてしまいます。

 

「さて、相手はゴライアスですか」

「二人なら倒せるでしょう。レベルアップはしてきましたよね?」

「当然ですわ」

 

 二人で武器を合わせてから、共に駆け抜けます。クルミ様は数人を呼び出し、銃撃を与えてゴライアスの行動を遅くしていきます。

 

「<刻々帝(ザフキエル)二の弾(ベート)!」

 

 立ち上がろうとしているゴライアスの足にイフリートを叩きつけ、痛みを与えておきます。続いてそこにクルミ様が銃弾を叩き込んで更に傷を広げます。どうやら、肉体的な時間を進ませる弾みたいです。更に追加としてバリスタをゼロ距離から撃ち込み足にダメージを少し与えました。

 

「バリスタはもう駄目ですわね」

「相手がレベル4ですからね。むしろ、その矢をリリにください」

「それもそうですわね」

 

 クルミ様から受けとったバリスタの矢を全力で投擲します。ゴライアスは口で噛んで防ぎましたが、逆に言えば防がないと駄目だったというわけです、

 ゴライアスが矢に集中している間にクルミ様がゴライアスの横に飛んで移動し、銃弾を叩き込みました。それにより、ゴライアスが一時停止します。

 

「リリさん」

「はい!」

 

 リリも駆け上がって首にイフリートを叩きつけます。その瞬間にゴライアスが動き出しますが、気にせずに攻撃です。イフリートを叩きつけ、首の傷に食い込ませることはできましたが、断ち切ることはできていません。

 

停止世界(ザ・ワールド)。さようなら」

 

 そのクルミ様の声と同時に無数の弾丸がイフリートの刃の部分に衝突してどんどん首に食い込んでいきます。ゴライアスは悲鳴を上げながら、首が空へと飛んでいきました。リリ達も衝撃波でかなり飛ばされております。

 

「リリ、イフリートは?」

不壊属性(デュランダル)なので壊れてはいませんね」

「なら問題ありませんね。お疲れ様でした」

「はい、お疲れ様でした」

 

 イフリートを元の通常状態に戻し、互いの武器を打ち合わせてから、地面にへたり込みます。安心したら気が抜けました。

 

「大丈夫ですの?」

「安心したら腰が抜けただけです。少しすれば大丈夫ですよ」

「そうですか。では、こうしましょう」

「ちょっ!?」

 

 リリはクルミ様にお姫様抱っこされました。そのまま十八階層に向かって歩いていきます。十八階層に入ったすぐの場所では草の絨毯があり、そこに三人が倒れていました。そのすぐ横にアイズさんとクルミ様が居て、ベル様達に弾丸を撃ち込んで治療しておりました。

 

「皆、無事でよかったです」

「遠征のタイミングでダンジョンに籠るのは考えものですわね」

「ですね~」

 

 ああ、風が気持ちいいです。はやく寝たいです。でも、これでリリはまた強くなれました。クルミ様とのゴライアス討伐は偉業として認められるかはわかりませんが、経験値にはなりました。どちらにしてもリリは止まりません。

 

 

 

 




ゴライアス君が死んだ! この人でなし!
クルミとリリならたぶん軽く狩れる。一時的な時間停止を含んだサポート特化にちょっとした火力もあるクルミ。それに火力特化といえる怪力娘のリリ。怪力スキルで使う大型武器とイフリートで2から3レベルアップクラスの力を発揮……うん、レベル5から6の力が気付いたら避けられない位置から超高速で放たれる。ゴライアス君でも無理ですね。黒かったら大丈夫でしょうが


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十八階層での話し合い上

感想、高評価、お気に入り登録、誤字脱字報告、大変ありがとうございます。続けるモチベーションになっております。


 

 

 

「さて、話を聞こうか」

「そうだな。彼女についても教えてもらうぞ。地上に居るのではなかったのか?」

「まあ、そうあせるではない。一つずつじゃ」

 

 十八階層にある迷宮の楽園、アンダー・リゾートでロキ・ファミリアのトップ三人に詰問を受けております。

 

「まず、彼女達が本日中層に挑み、そこで怪物進呈にあったようです。その後、ダンジョンの崩落に巻き込まれて負傷。そこから上を目指すのではなく、安全地帯であるここを目指したとの事です」

「ふむ。無茶をするね」

「だが、中層に入った初日でここまでくるのは将来有望じゃな」

「問題は例の子まで巻き込まれていることだ」

「エルフにとっては大問題か。その辺はどうなんだい?」

「足が折れた程度なので、問題ありませんわね。すでに完治させておりますし」

「クルミ!?」

「ボウケンシャーなのですから手足の一本や二本、どうという事はありませんわ」

「いや、それは君が居る前提なだけだからね」

「今回のような緊急事態でなければ問題ありませんわ」

「……確かに今回は君の力をほぼ全てこちらに向けてもらったからね。だから、多少の回復を手伝っている」

「助かっておりますわ」

 

 本来、わたくし達は既に十八階層から地上に出ているはずでした。ですが、深層からゆっくりと警戒しながら戻るついでに他の団員のレベルアップと資金稼ぎの為に階層をくまなく探索してきました。ですから、本来よりも遥かに時間をかけて戻ってきました。念のため、地上に居るわたくしにロキさんに連絡をしてもらい、ついでにリリさんやヘスティアさん達に知らせに行こうと思ったら、ダンジョンに行っているので驚きました。

 彼女達につけていた護衛もこちらに引き寄せていました。それにリリに護衛の件を伝えるのを忘れておりました。ですので、リリはリリでわたくしが居る前提でダンジョンに潜ってしまったようです。意識を向けていないのではなく、完全に居ないとは思わなかったみたいです。これはわたくしの落ち度です。言い訳をすると六十回以上の記憶を共有したことで知らせたのか、知らせてなかったのか、ごちゃ混ぜになっていたのも理由の一つです。

 

「それで彼等はどうする?」

「こちらで引取りますわ。幸い、ゴライアスのドロップで十分に回収できましたし、数もある程度は回復してきました」

 

 深層で失った分の分身は確保できるぐらいの時間は集めた魔石からわたくしが貰う報酬分で溜まっております。先に貰う許可は頂いているので問題はありません。ロキ・ファミリアの治療に使う分もありますしね。

 

「それに迎えもこちらに向かって来ておりますので」

「なるほど。もう少しここで休息したら地上に戻るとしよう。これで僕からはない。ガレスは?」

「わしもないぞ」

「リヴェリアは……」

「私はある。彼女を紹介してもらおう。それと護衛についても話がある」

「そちらは僕達はノータッチだ。好きにしてくれ」

「フィンさん!?」

「そこまでは契約に入っていない。黙っていることについてリヴェリアの説得は手伝ったからね。後は頑張るといい」

「行くぞ」

「あ~れ~」

 

 リヴェリアさんに引きずられていきました。移動先はリヴェリアさんの天幕です。そちらでキアラが眠っております。護衛としてリリがつき、他の人はいません。

 

「話の前にベルさんはどうします?」

「アイズに任せておけばいいだろう」

「……そうですわね。アイズさんにちょっとお願いしてきますわ」

「了解した」

 

 すぐ近くの天幕なので中に入ると、ベルさんとヘファイストス・ファミリアのヴェルフさんが眠っております。

 

「リヴェリアにクルミ。どうしたの?」

「アイズさん、アイズさん。少しお願いが……」

「ん? それぐらいならいいよ。やっておく」

「ありがとうございます」

 

 さて、これでベルさんへのお礼はいいでしょう。そんなわけでリリさんとキアラさんが眠っているリヴェリアさんの天幕に移動します。

 

「あ、お帰りなさい」

「戻った」

「ただいまです」

 

 リリさんに迎え入れられ、ベッドで寝ているキアラの様子を確認します。傷はしっかりと治療しておいたので、普通に眠っているだけなので問題はありません。

 

「では、キアラさんについて話し合いをします」

「うむ」

「あの、リヴェリア様。キアラはやはり間違いないのですか?」

「ああ、私が保証しよう。彼女は王族の血を引いている。それもレフィーヤの故郷、ウィーシェの森に関する血だ」

「そうなると、レフィーヤさんに見つかれば大変ですよね?」

「間違いなく本国、最低でもウィーシェの森へは連絡が行くだろう。口止めを先にして味方に引き込んだ方がいい」

 

 レフィーヤさんはレベルアップすることは確実でしょう。アイズさんと一緒に精霊の強化種にとどめを刺しておりますしね。そんな彼女なら戦力として申し分はありません。

 

「それに私が護衛につくわけにもいかんからな。その点、レフィーヤならばソーマ・ファミリアとの交流をお題目にして派遣が可能だ。クルミにこちらへ来てもらっているのだから問題は起きない。レフィーヤならば護衛としての実力もある」

「確かにリヴェリア様が護衛をすると、そこから色々とバレますね」

「ハイエルフの王族が直々に護衛するなんて、要人ですって言っているものですものね」

「ああ。それと念の為にレフィーヤが無理でも、ティオナとティオネのどちらかもダンジョンに行くときはついていくよう、指示しておく。あの二人であればクルミに好意的だ。問題ないだろう」

「ありがとうございますわ」

 

 リヴェリアさんはキアラさんの頭を優しく撫でながら、こちらへの戦力派遣を決めてくださいました。それにこれならエルフの方々にバレても、リヴェリア様がコッソリと匿っていたという言い訳もつきます。

 

「他のエルフに接触がないのなら、これでどうにかなるだろう。ロキ・ファミリアに来るのも、クルミと一緒にお酒の納品ついでにレフィーヤと共に授業を受けさすという理由づけもできる」

「ですわね」

「あ、あの……」

 

 リリさんが顔色を悪くしながら手をあげてきました。どうやら、何かやらかしたようです。

 

「どうしました?」

「その、実は一人、エルフの方と会っていまして……」

「誰だ! 話せ!」

「ほ、豊穣の女主人で働いているリュー・リオン様です」

「彼女か。彼女の名前はコミュニティで聞いたことはないが、危険だな。そちらには私が直接会いに行って話をつけよう。豊穣の女主人ならば、打ち上げを開くからな」

「ところが、今回は此花亭の方にロキさんが入れてましたわ」

「……個人的に飲みに行くか。付き合え」

「畏まりました」

「とりあえず、私はレフィーヤを呼んでくる」

「それでしたら、わたくしが行きますわ。お願いします、わたくし」

「畏まりましたわ、わたくし」

 

 すぐに数人のわたくし達が出ていきました。ここの地理はライダーの記憶を参照して隅々まで理解していますので、問題ありません。

 

「それと話は別の、いえ、完全には別ではありませんが……リュー様の件でクルミ様にお伝えしないといけないことがあります。実はクルミ様がこちらで手に入れた武器について、もっというと炎華(アルヴェリア)について詳しいようでして、その……」

「は? もしかしてばらしたんですの?」

「はい……」

「こっそり今から返しても遅いと?」

「ですね☆」

「笑い事じゃないですわ!」

「いたゃいれす」

 

 思わずリリさんの口に両手の親指を突っ込んでぐにぐにしてやります。

 

「ならばその件も私が立ち会って話し合う場所を作ろう。そうすれば平和的に話し合いはできるだろう。後は知らん」

「すいません。助かりますわ」

「ありひゃとうごじゃいます」

「まったく、世話がやける……」

 

 そうこうしていると、天幕の扉が開いてわたくしとレフィーヤさんが入ってきました。

 

「あの、大事な話があるから、私一人で来いとクルミさんが……」

「間違っていない。私が呼ぶように頼んだ。いいから入れ」

「わかりました。失礼します」

 

 レフィーヤさんが入ったので、他のわたくし達には結界を展開させ、防諜をしっかりとした後に見張りとして立っておいてもらいます。セイバーとランサーの二人なら問題ないでしょう。どちらも不壊属性(デュランダル)を装備していますしね。

 

「それで、このメンバーでご用件とは……あと、大丈夫ですか?」

「気にしないでくさい。これはお仕置きですから」

「ひゃ~」

 

 リリさんの頬っぺたで遊びながら、答えます。一応、口から指を引き抜いてあげます。ついた唾液を舐めとるなんて事は流石にできないので、ハンカチを取り出して拭いておきます。

 

「とりあえず、座れ」

「はい」

「レフィーヤ、これから話す事はここに居るメンバー以外には口外を禁じる。いいな?」

「わかりました。それだけ大事な事なんですね?」

「そうだ。事はエルフ全体の問題だ。誓えるか?」

「誓えます。リヴェリア様の仰る事であれば間違いありませんから」

「そうか。今はそれでいい。レフィーヤ、これからハイ・エルフとして命令を出す」

「はい!」

「ソーマ・ファミリアに出向し、彼女の護衛と教育を務めてくれ」

「はい! はい? はいぃぃぃ!?」

 

 当然のように混乱しているレフィーヤさん。彼女はリヴェリアさんとわたくし達を見た後、額を指で押さえてからもう一度聞いてきました。

 

「私が、ソーマ・ファミリアに出向して、そこで寝ている子の護衛と教育をしろと言いましたか?」

「ああ、間違いない」

「それがリヴェリア様が普段絶対に使わないハイ・エルフとしてのご命令ですか?」

「そうだ。私の弟子であり、後継者であるレフィーヤであれば適任であり、やってくれると信じている」

「あの、それは大変うれしく思います。身に余る光栄なんですが……その子はもしかして、リヴェリア様の……その……」

「私の子では……いや、そうだ。私の子供のようなものだ」

「お子さんがいらしたんですか!」

「私も会った事はなかったが、王族である事は保証する。クルミ、対外的には私の子という事にしておけ。それでどうにかなるだろう」

「ありがとうございます」

 

 そうこうしていると、キアラが起きてきました。目を擦りながら起き上がると、すぐにわたくしを見つけて飛びついてきます。彼女に押し倒されそうになりますが、なんとか耐えました。

 

「キアラ、紹介する人がいます。貴女の親族であるリヴェリアさんとレフィーヤさんです」

「ひっ!? いや、捨てないでっ! なんでも言う事を聞くから!」

 

 キアラは何を勘違いしたのか、思いっきり抱き着いて頭を押し付けてきます。その言葉にエルフのお二人から殺気が漏れ出てしまっていますが、気にせずにキアラを抱きしめかえして撫でます。

 

「大丈夫です。捨てたりしません」

「本当?」

「本当です。いいですか、貴方の父親は屑です。最低のごみ野郎です」

「ん!」

「ですが、母親である方はそうでありません。彼女達は貴女の母方の親族です。かと言って、わたくし達がキアラを手放すつもりはありません。ですが、エルフにはエルフにしかわからない事や常識があります。例えば病気ですが……」

「クルミ様なら治せる」

「そうですね。ですが、エルフに伝わる礼儀作法とかその辺りの事はわたくしではわかりません」

「いらない」

 

 ……よくよく考えたら、キアラからしたらエルフ関連の事って必要な事ではないですね。世間一般的な事は普通にわたくし達、ソーマ・ファミリアが教えておりますし。礼儀作法に至っては此花亭の方に協力頂いているので普通にお客様をお迎えして問題ないレベルです。

 

「……よし、わかりました。では、こう言いましょう。キアラがわたくし達と一緒に居るために彼女達が持つエルフのコミュニティに対する影響力が必要です。それがない場合は離れ離れにされてしまいます。キアラもそれが嫌ですよね?」

「やっ!」

「普通に説得するのを諦めましたね」

「五月蠅いです。そんなわけで、彼女達から教わりましょう。大丈夫です。お二人も納得してくださっているのです。それに……そうですね。わたくしと一緒にエルフについてお勉強しましょう。リリさんも巻き込んで構いません」

「リリもですか!?」

「リリならエルフにも変身できますし、カモフラージュにも持ってこいですもの」

「ああもう、わかりましたよ! キアラ、一緒に勉強しましょう」

「ん、それならわかった」

 

 さて、こちらが落ち着いたのでエルフのリヴェリアさん達の方に見ます。一応、キアラを膝の上に乗せて話をします。

 

「こういう事になりましたが、構いませんか?」

「一人に教えるのも二人に教えるのも纏めてやるならばたいした労力ではないから構わん。レフィーヤもいいな? レフィーヤ?」

「……リヴェリア様……この子、いえ、この方の顔に似た方を、私、知っています……壁画で見ました。確か、少し前に行方不明になったと……」

「少し?」

「エルフは長命種ですから……数年から数十年は少しかもしれません」

「なるほど」

「そうか。わかったようで何よりだ。口外するなよ」

「なんでですか?」

「色々と事情がある。先程の事を見てわかるだろう」

「はっ!? クルミさん! こともあろうに……」

「ひっ」

「……もしかして、ですけどエルフの事、嫌いですか?」

「エルフどころか、わたくし達以外の人は基本的に嫌いか苦手ですわ」

「リリと同じく虐待されて育てられておりましたからね。ですから、ならす為にもよろしくお願いします」

「ウィーシェの森には……」

「話すな。話したら絶対に連れ戻しに、奪いに来るだろう。そうなると……」

「焼き払って差し上げますわ」

「エルフすべてを敵に回しますよ?」

「レフィーヤさん。バレなきゃ犯罪ではありませんの。ええ、ええ、こと暗殺と諜報に関してわたくしとやりあってみますか?」

「レフィーヤ、止めておけ。クルミの能力からして行方不明者が続出するだけだ。たとえ見つけて倒しても、別の者が現れるだけだしな」

 

 リヴェリアさんがレフィーヤの肩に手を置いて止めました。実際に事、殺しと諜報に関してならわたくしは白の王女(プリンセス)と同じくらい得意ですわ。空間と時間、扱うのは違えどどちらも反則級の力ですもの。

 

「リヴェリア様はそれでいいのですか?」

「勘違いするな。エルフの教示や国の威信よりも、彼女の幸せが優先だ。遥か昔とはいえ、知人の、始祖を同じくする友の忘れ形見だ。そちらを優先するに決まっているだろう。あまり私を見くびるな」

「す、すいません! わ、私もそちらの方がいいと思っています。でも、ちゃんと確認しておかないと覚悟が決められません……」

 

 下手をしたら全てのエルフを敵に回す事になるのですから、仕方がありません。むしろ、彼女はリヴェリアさんの弟子なだけあって、リヴェリアさんと同じ考えをしてくださるようで助かります。

 

「基本的にはフードを被ってもらって小人族(パルゥム)と偽装します。リリも一緒に獣人に変身して過ごしていれば恥ずかしがり屋の妹が居る姉妹とみなされるでしょう」

「フードが取れた時が問題だが……」

「その辺りはお任せください。取れなくしたり、取っても判別できなくしたりすればよいのです」

「ん? どういう事だ」

「まず、魔導具で動くつけ耳と尻尾を開発して売り出します」

「「「は?」」」

「ジョークグッズやなりきりセットなど、おもちゃとして販売するのですよ。つまり、これをつけることで本物のエルフなのか、獣人なのか、わからなくします。耳も尻尾も動くようにして、それ専用のフードも販売します」

「なんというか、無駄に高度な技術を使うんですね……」

「木を隠すのは森の中、か。確かにそれならぱっと見はわからないだろう。開発費などは私の個人資産から出そう」

「ありがとうございます」

「あれ、これってクルミ様が好きなケモナー計画なだけが……」

「シャラップです、リリ」

 

 とりあえず、これで誤魔化す方向にもっていけます。

 

「キアラ、私達は味方だ。信じて欲しい。誓って君に危害を加える事はない」

「そうです。私達がなんとしても守ってあげますからね」

「ん……?」

 

 二人がそう言って手を差し出してきたので、キアラがこちらを見てきたので、頷いてあげます。

 

「ん!」

 

 キアラもおずおずと握り返しました。エルフ関連はひとまずこれで大丈夫……そう思ったら悲鳴が聞こえました。男性の悲鳴です。

 

「ベル様の声ですね」

「ベルの声~」

「どうやら、クルミの悪戯が成功したようだな」

「失礼ですね。ご褒美をあげただけです」

「とりあえず、見に行きましょう」

「アイズさんになにか……」

 

 皆でアイズさんの天幕を覗くと、なんということでしょう。アイズさんがベルさんを膝枕して押さえつけているではありませんか。

 

「あ、アイズさん! は、離してください!」

「駄目。離したら前みたいに逃げる」

「逃げませんから!」

「なら……いい」

「あの、それでボクの仲間は……」

「男の人ならそこ。女の子ならそっち」

「え? リリにキアラ! それにクルミまで! よかった無事だったんだ!」

「はい。無事でした」

「無事~」

「ゴライアスは?」

「当然! リリだけで倒しました! と、言いたいんですが、クルミ様が助けてくださいました。ですので、二人での討伐ですね」

「それでもすごいよ! って、あ……もしかしてさっきの見て……」

「昨夜はお愉しみでしたわね!」

「違いますぅうううううううううううぅぅぅぅっ!」

「「???」」

 

 キアラさんとアイズさんはわかっていないようで小首をかしげていますが、リヴェリアさんとリリさんは噴き出しました。レフィーヤさんはベルさんに殺意の籠った視線を向けています。はい、元気なようでなによりですわ。

 

 

 




次はリュー様との話し合いの下です。リュー様とは一度ガチ勝負させてみるのもいいかもです。ベル君ももルドたちとやりあいますからね。


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十八階層での話し合い下

 

 

 カンテラの灯りに照らされる中、中央に配置した木箱に乗ったフィンさんが演説をしております。その周りを囲うようにして皆が座って話を聞いていますの。

 

「彼等は互いの為に身命を投げ打ち、幾つもの危機を乗り越えてここまでたどり着いた勇気ある冒険者達だ。同じ冒険者として敬意を持って接してくれ」

 

 リリさん、キアラさん、ベルさん、ヴェルフさんが立ち上がり、頭を下げます。

 

「フィンさん、よろしいですか?」

「クルミか。いいよ」

 

 許可を貰ったので、中央に出る。

 

「そちらの方々はわたくしと同じソーマ・ファミリアと懇意にしておりますヘスティア・ファミリアの方です。赤髪の方は椿さんと同じヘファイストス・ファミリアの方ですので、わたくしの方からも彼等を救助していただき、感謝いたしますわ」

「うむ。手前の方からもお礼をさせてもらう」

「と、いうわけで……」

「飲むぞ! 手前とクルミの奢りだ!」

 

 酒樽をドンと、三つほど取り出します。全員の視線がギラギラした物に変わります。そして、すぐにフィンさんへと集まります。

 

「好意だ。ありがたく頂くとしよう。だが、くれぐれも節度を持って楽しむように」

「私からも注意しておくが、夜勤の者は飲むなよ」

「「「そんなっ!?」」」

「お前達の分は残しておく。クルミ、追加でボトルを用意してくれ。お金は支払う」

「よいよい。手前達で出しておく。クルミ、よいであろう?」

「スポンサーの意向には逆らえませんもの。夜勤の方は地上に戻り次第、こちらからボトルを届けさせていただきますわ」

「うむ。今飲むか、夜勤を終えてより多くの酒を飲むか、決めるがいい」

「夜勤! 代わって!」

「わたしも!」

「アキ、ラウル。希望者を纏めて編成を変えてくれ」

「了解しました!」

「うっす!」

 

 分身達を動員して、皆様の前に料理が載った膳を配膳していきます。全て、地上から出来立てを輸送しました。小さな鍋に火をつけていき、わたくし達がそれぞれの方にお酒を入れて渡していきます。夜勤希望の方はジュースです。

 

「では、歓迎の宴をはじめよう! 乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

 

 宴が始まると、ベルさんのところに人が集まります。リリさんはキアラさんの世話をしていますし、そのキアラさんの横にレフィーヤさんとリヴェリアさんが行って色々と話をしています。相変わらず、レフィーヤさんはベルさんをにらみつけていますが。

 さて、ベルさんはティオネさんとティオナさんの二人に挟まれ、ティオナさんに抱き着かれて質問攻めにされています。それを見てアイズさんは何処か面白くなさそうにしておられます。わたくしはその姿をニヤニヤと見ながら、給仕をしております。

 

「うわっ! うわぁあああああぁぁぁぁっ!」

 

 すると、聞き覚えのある声が十七階層の方から聞こえてきました。

 

「「「「んぁ?」」」」

 

 何かに気づいたのか、ベルさんが立ち上がって十七階層への入口へと走っていきました。その後をアイズさんが追っていきます。

 

『どうやら来たようですの』

『誰がいきますか?』

『ここはオリジナルに行ってもらいましょう』

『そうですわね。火中の栗を拾うのはオリジナルにお任せしましょう』

『ちょっと待ちなさい、わたくし達』

『ルーラーであるのですから、頑張ってきてください』

『殺されはしないですわ』

「ちくしょうめっ! 覚えてなさい!」

『行ってらっしゃいませ~』

 

 すぐに踵を返してわたくしも入口へと、カンテラを持って向かいます。入口に到着すると、ベルさんが押し倒されて、その上にヘスティアさんが乗って泣いておられました。

 

「心配かけてごめんなさい」

 

 ここはやるべきでしょう。ですから、後ろからコッソリとヘスティアさんを押そうと手を伸ばします。背中にえい♪ としようとすると、横合いから手が伸びてきて掴まれました。

 

「何をしているのですか、クルミ・トキサキ」

「ヘスティア様の援護ですが……?」

 

 汗をダラダラとかきながら、隣を見ると不思議なギザギザの緑色のフードを被ったリューさんが居ました。わたくしの腕を握りしめる手にかなり力が入っております。仕方ないので、別のわたくしに背中を押させようとすると、その前にヘスティアさんがこちらに振り向いてしまいました。

 

「あ~! クルミ君! 君、置手紙だけでボク達を置いていくなんて酷いじゃないか!」

「緊急事態でしたもの皆様は地上から進み、わたくしはここから進む。下と上から同時に探索するのが理にかなっているでしょう? 実際、リリさんがゴライアスと戦っている最中でした。ですので、わたくしは悪くありませんわ。後悔も反省もいたしません」

「まあ、確かにそれなら納得かな。でも、ボク達を一緒に連れていってくれてもよかったじゃないか」

「嫌です。わたくしの移動方法は特殊なので、基本的にわたくし以外にはさせません。させても寿命の半分は最低でもいただきますわ」

「ボクに寿命はないぜ!」

「ええ、ですから断固拒否です。無銭乗車は犯罪でしてよ?」

「あの、神様……クルミとリリには本当に助けられて……」

「わかっているよ。だから、クルミ君、ありがとう。ベル君を助けてくれて感謝しているよ」

「リリさんとキアラさんのついでですけどね」

「それでもだよ」

 

 話している最中も腕を握られているので、とても痛いです。そう思っていると、リューさんの腕を今度はアイズさんが掴んできました。

 

「痛がってる。離して」

「ヴァレン某君!」

「……剣姫。私は彼女に話がある。逃がすわけにはいかない」

 

 二人が視線をバチバチなるような感じで交わしているので、ここは例のセリフを言ってみましょう。

 

「わたくしのた──」

「ああ、君がベル・クラネルかい?」

「──め……」

 

 ヘルメスさんが乱入してきたので、止めます。残念ですわ。あのセリフを言ってみたかったのですが。男のセリフじゃありませんけれど、言ってみたかったです。

 

「はい」

「そうかい! 会いたかったよ! 俺の名前はヘルメス。どうかお見知りおきを」

「あ、ありがとうございます」

「なに、神友のヘスティアのためさ。感謝なら俺以外の子達にしてやっておくれ!」

 

 そう言いながら、踵を返してこちらを見詰めている方々を紹介しました。そこにはタケミカヅチさんのファミリアである三人の人が居ます。普段のわたくしなら、如何にして追い詰めて搾り取ってやろうかと思うところですが、相手がタケミカヅチ・ファミリアならできません。

 彼等はわたくし達、ソーマ・ファミリアの身内でもあります。此花亭に関して提携しているファミリアの一つなのですからね。特にタケミカヅチさんにはわたくしや子供達も含め、剣術ならぬ刀術を習っております。師匠の子供達に酷い事はできませんわ。リリさん達が死んでいたのなら、寿命を全て頂いて十二の弾(ユッド・ベート)を使わせてもらいますけれど。

 

「彼等のお陰でここまでこれたんだ」

「くっ……」

「はい、はい、注目してくださいませ」

 

 手を叩いて注目を集めます。そうでないと、ヴェルフさんが噛みつきそうでした。

 

「まず、このようなところで立ち話は止めましょう。下りてくる方々に迷惑ですし、なによりベルさんとヴェルフさんは病み上がりですの。完治させたとはいえ、念の為に安静にしておいてくださいまし」

「それもそうだね」

「確かにそうだ」

「リューさんも話があるのはこちらも同じなので、この後、例の場所で落ち合いましょう。場所はわかりますわよね?」

「……いいでしょう。逃げないでくださいね」

「逃げませんよ。わたくしは誰に恥じる事もやっておりませんもの」

 

 リューさんの目をしっかりと見ながら、答えると殺気をくれました。ですが、すぐに手を放します。今、この場には怖い保護者の方もいますもの。

 

「アイズさん。これはわたくし達の問題なので、わたくし自身が解決します。リヴェリアさんにも許可を取っているので、ベルさん達のお相手をお願いしますわ」

「わかった」

「では、後は任せましたわ。リヴェリアさんには後程、お伺いいたしますと伝えておいてください」

 

 そう言って影の中に飛び込みます。カンテラは地面に落ちて転がりましたが、問題ありません。皆さんが回収してくださるでしょうしね。

 

「待てッ!?」

「お待ちしておりますわ。()()()

 

 わざとリューさんではなく、リューと呼んで移動します。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 さて、盛り上がった土がある場所に戻りました。水晶の光が降り注がないため、周りにカンテラを複数設置し、周りを照らしておきます。そして、ちょっとした仕掛けを施しておきます。

 本当ならここでリヴェリアさんも合わせて説得の方がいいのですが、その前にやる事があります。ちょっと、本気でリューさんを虐めてみようと思います。そのための準備もします。地上に居るわたくしにとある神から許可を頂いておきます。それから自らの蟀谷に短銃を向けて一の弾(アレフ)五の弾(ヘー)を撃ち込みます。

 

「きひ! とても楽しみですわ! リューさん、早く来ませんでしょうか?」

 

 土の盛り上がった場所を背に待っていると、風が吹き抜けてきました。やってきたのは当然、風ではなく緑の衣を纏ったリュー・リオンです。

 

「やはり、ここか」

「待っておりましたわ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「彼女達の武器を返してもらおう。それは墓標なのだ」

「お断りしますわ」

「なんだと?」

「まあ、納得しないでしょう。ですので、質問をさせてくださいまし。その回答次第でお返ししましょう」

「質問だと?」

「ええ、質問です。まず一つ目。貴女はこの七年、何をしていましたか?」

「それは……」

 

 リューさんの顔が歪みます。わたくしはカンテラを持ち上げながら、彼女の顔をしっかりと照らします。

 

「やれやれです」

 

 カンテラで作り出した自らの影から剣を引き抜きます。アストレア・ファミリアの団長であるアリーゼ・ローヴェルが使っていた剣です。

 

「それは……」

「アガリス・アルヴェシンス」

「なっ!?」

 

 剣と周りが森に引火しないように炎に包まれます。といっても、これはリリさんのイフリートに取り付けた完成品ではなく、未完成品の試作品です。それを彼女の錆びて壊れた剣を修復して組み込み、鍛え直しました。ですので、剣身は甦り、綺麗な炎の中できらめいております。もちろん、ただ炎を纏っただけなのでぶっちゃけ演出効果しかありません! そのくせ、サラマンダーウールの素材で作ったグローブが無いと火傷で死にます。

 更に追加でリリさんのイフリートに使った変身魔法と幻術を起こす魔導具の応用で、髪の毛を赤色のポニーテールに変化させ、装備をアリーゼ・ローヴェルと一緒にします。そして、記憶から読み込んだボイスチェンジャーのチョーカー型魔導具を装備! 

 

「使命を果たせ! 天秤を正せ!」

「その姿は、その声! それは……」

「いつか星となるその日まで! 天空を駆けるがごとく、この大地に星の足跡を綴る!」

「何故それを知っている!」

「正義の剣と翼に誓って!」

 

 明らかに動揺するリューさん。わたくしはとっても楽しいです。

 

「どうしたの、リュー? アストレア・ファミリアの恒例よ?」

「わ、わたしにその資格は……」

「ぶわあああああああああぁぁぁぁかめ! たわけ! 資格など、糞雑魚妖精がアストレア・ファミリアであるだけで十分だ! 相変わらず視野が狭い! 判断が甘い!」

「くそ雑魚……か、輝夜……わ、わたしは貴女を……」

 

 別のわたくしが髪の毛を伸ばしたストレートにし、赤い着物を着て刀を持ったゴジョウノ・輝夜の姿で彼女の台詞、口調、話し方を完璧にトレースして攻めます。

 

「このような糞雑魚妖精をジャガーノートから逃がすため、我が主が死んだのだと思うと不愉快の極み乙だ」

「我が主……? 輝夜ではない? いや、それに彼女とアリーゼの身長はもっと高い! 貴様の仕業かクルミ!」

「状況把握が温すぎるぞ」

「まあ、わたくしの仕業かと言えば、わたくしの仕業ですわね」

 

 別のわたくしがこちらにやってきます。いえ、それ以前に次々とやってきます。そのメンバーは全員、身長が違いますが、アストレア・ファミリアの姿と武器を持っています。当然、彼等の声で話ます。

 

「どういうつもりだ! 死者を冒涜するなど許さんぞ!」

「許さないというのはこちらの台詞だよ、リュー。なんで正義を全うしないの?」

「ましてやアストレア様を一人にする!」

「まさか、あんな子供みてぇな理由で七年も放置したなんていわねえよな? ぶち殺すぞ」

「それは……私には、資格が……」

「そう、アストレア様が言ったの?」

「そんな事はない! 断じてない!」

「だったら糞雑魚妖精が勝手にそう思ってるだけだろ」

「私は正義ではなく、復讐のために人を殺したんだ!」

「それがどうした。相手は私達を襲った連中だ。なんの問題もない」

「それで問題があるというのなら、そいつらと繋がっている奴らが言う事だ」

「リュー、貴女は無関係な人を殺したの?」

「そんな事はしていない! あくまでも狙ったのは相手のファミリアだけだ! 確かに手段は択ばなかった。だが、それだけは断言できる!」

「なら、いいじゃない。私達が、いえ、リューが取る行動は一つ! 悲しみの涙を拭い、みんなの笑顔を守る! そのために戦うのが私達、アストレア・ファミリアよ!」

「ああ、そうだな……そうだった……」

 

 もちろん、彼女達本人が言っているわけではありません。あくまでも武器から記憶を読みこんだ物をもとにしただけです。

 

「クルミ、一つ聞きたい。彼女達は……」

「わたくしは時の精霊。人や物に宿った記憶を読み取る事ができます」

「では、彼女達は……」

「武器から記憶を読みました。彼女達自身が戦いたがっています。ですから、鍛え直しました。まあ、わたくしが勝手に思っているだけですが」

「いや、確かに武器ならば戦いたがるのは当然かもしれない。ここで朽ち果てていくよりも、彼女達の戦い方を学習したクルミが使う方がいいのだろう」

「じゃあ、リューもこれからアストレア・ファミリアに復帰して……」

「それはできない。だが、アストレア様と話してみようと思う。まだ心の整理がつかないんだ。いや、やはり私はアストレア・ファミリアに復帰はできない。やりすぎてしまったんだ。こんな事をしたのは私の為なのだろうが、すまない」

「まあ、リューさんのためでもありますが……この武器達から得た記憶、知識、経験はわたくしを更なる領域へと高めてくださいました。ですから、そのお礼も兼ねて、彼女達が望むであろうリューさんとアストレアさんの幸せを実現したかったのです。ですが、それも無意味だったようですわね」

「すまない」

 

 リューさんはアストレア・ファミリアに戻らない。アストレアさんも幸せにならない。この武器達から伝わる彼女達の思いは無駄になります。生憎と、わたくしはそこまで人ができていません。ええ、できていないからこそ、傲慢に貪欲に気に入らない物は気に入らないのです。

 

「わたくしはリュー・リオンさんにこう問いましょう」

「なんですか?」

「過去を変えたくはありませんか?」

「は?」

「アストレア・ファミリアの壊滅という過去を改変し、アストレア・ファミリアが現存し、幸せになるという未来を得たくはありませんか?」

「ふざけているのか! そんなの欲しいに決まっているだろう!」

「それは重畳ですわ。これは悪魔の契約です。アストレア・ファミリアとして戻らないのであれば、アストレア・ファミリアの消滅を無かった事にしましょう」

「ふざけるな! 私が何度願ったか! でも無理なんだ。過去は変えられない!」

「いいえ、過去は改変できます。他ならぬわたくしならば」

「何を言っている?」

「言ったでしょう、わたくしは時の精霊。時を操る事が可能です。その中には過去へ遡り、改変する事も可能です」

「本当なのか? 本当に私はアリーゼ達を助けられるのか?」

「ええ、可能です。ですが、それには代償が伴います」

「なんだ? 私にできる事ならなんでも言ってくれ!」

「では、リューさんの全てをください」

「は?」

「全てです。余すところなく全て。わたくしの手駒となってくださいな」

「どういう事だ?」

「わたくしが過去に遡るために必要な時間を稼がなくてはなりません。いえ、わたくしとリューさんの二人分です。ですので、四年前になりますから八年分ですわね。余裕を見て九年分……失敗も計算に入れて考えるとコストも合わせて最低でも一六〇〇年。いえ、ここは余裕をみて二〇〇〇年ぐらいは必要でしょう。この時間を集める手助けをしてください。わたくしにこの時代に生きる生命体の時間を捧げるのです」

「悪魔の契約か……」

「ええ、悪魔の契約です。ですが、わたくしはアストレア・ファミリアの意思もある程度は継ぐつもりです。ですから、狙うのは悪者達だけです。一般人には被害を出しません。こればかりは納得してくださいまし」

「それは願ってもない事だ。だが、何故そこまでしてくれるんだ?」

「わたくしも変えられるのなら、変えたい過去が七年前にございますの。ですので、闇派閥、完膚なきまでにぶっ壊しませんか?」

「あはははは! いいだろう! 乗ってやる! 私は何度も彼女達に助けられた。今度は彼女達を私が助ける番だ!」

 

 わたくしが手を差し出すと、リューさんが力強く握ってくれました。目指すは敵以外の皆が、笑って暮らせるハッピーエンドです。そのためにリューさんは利用させていただきます。キアラさんを幸せにするつもりではありますが、やはり母親も生きていた方がいいでしょう。リューさんの方がメインですが、過去を変えるならばついでにそちらも変えさせていただきます。わたくしは強欲ですもの。

 

「ええ、その意気ですわ。ですが、まずはレベルを上げましょう。レベル4では足りません。レベル7を目標とします。最低でも6まで上げますよ」

「わかった。それで私はクルミのファミリアに移ればいいのか?」

「はい。それでお願いします。基本的にキアラさんの護衛も頼みたいのですが、構いませんか?」

「構わない」

 

 レフィーヤさんも派遣されるので、これで守りは盤石になるでしょう。そして、何より……リューさんならお金稼ぎをしてもらえます! 我がファミリアの借金がちょっとやばいですね☆状態なので、深層で稼ぎます。

 

「では、リューさん星となった彼等を取り戻しましょう。正義の剣と翼に誓って」

「ああ、正義の剣と翼に誓って……まあ、私達がやるのは悪魔の諸行だが……」

「何を言っていますの。正義は人それぞれが持つものです。つまり、これも正義の行いです。ええ、悪を正すのですから、間違いありません」

「それも、そうだな……」

 

 ああ、リューさん。貴女には感謝致します。わたくしは先の白の王女(プリンセス)との戦いで痛感しました。

 わたくしは弱い。フィンさんの援護があってもまだ、貴女には勝てない。わたくしには経験が、力が、何より時間が足りない! 

 ならば回収できるところに行けばいいのです。では、それは何処か? 決まっています。一番効率がいいのは人から回収できる場所です。しかし、普通の冒険者や一般人から回収するのはわたくしが嫌です。なら、犯罪者からになるのですが、それも絶対数が少ないです。今のオラリオはある程度平和ですし、そもそもそれで足りるのであれば白の王女(プリンセス)に負ける事はありません。

 故に過去。過去の暗黒期であれば、殺していい餌がわんさか跳梁跋扈しております。まさにわたくしのために用意された収穫場。わたくしが大人のわたくし(時崎狂三)に成長するために盛大に、それはもう盛大に稼がせていただきますわ! 

 

「輝夜、ライラ、ノイン、ネーゼ、アスタ、リャーナ、セルティ、イスカ、マリュー……そして、アリーゼ。待っていてくれ。また皆で笑って過ごそう。だから、それまではアストレア・ファミリアから離れる事を許してくれ」

「別にアストレアさんが説得できれば、アストレア・ファミリアのままでも構いませんよ」

「……自信がない。アストレア様を説得できるか……どうやって説得すればいいんだ……会うのも怖い……」

「ポンコツですか。はぁ……わかりました。一緒に行ってあげますから、話しに行きますよ」

「……すまない……できればミア母さんとシルに話す時も……」

「……ああもう! 全部一緒にやってあげますわよ!」

「ありがとう、クルミ!」

 

 本当に大丈夫なのか、少し心配になりました。ですが、なんとかなるでしょう。いえ、なんとかしてみせます。

 

 

 

 




おかしい。おかしいですよ。リューさんとガチバトルさせて曇らせようと思いましたが、武器からしっかりと記憶を読んでいるクルミなら、普通に彼女達を助けようとします。だって、過去に行くのも狩場的に本当に美味しいですから。それにクルミ側、秩序側の戦力も増えますから、メリットはいっぱいあるんです。それにリューさんの加入で時間を集める事もできます。
ぶっちゃけると、私がリューさんが好きで、アストレアの人達も好きです。輝夜さんいいですからね。シャクティの妹さんもいい人だし、うん、皆助けるのもいいかもです。
せっかく、過去改変が可能な能力があるんですから、やらないといけませんよね。一応、アストレア・レコードの改変についてはアンケートをとります。出来なければリューさんは時間を稼ぐだけ稼ぎつつ、他の人と交流していきます。


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十八階層での死闘

ダンジョンさん、今までも含めて怒りの投下。ベル君側は飛びます。


 

 

 

『俺は二度と魔剣は打ちません』

『そう。今はそれでもいいわ。でも大切な者を得た時、きっと貴方はその力を使えなかった事を後悔する。意地と仲間を秤にかけるのは止めなさい』

 

 主神様からの伝言と渡された魔剣。俺にとってはかなりの大きな事だ。確かに魔剣が使えたら、あそこまで危ない目に遭う事もなかった。そもそも最初の時点で敵を一掃出来ていたかもしれねぇ。

 

「ちくしょう……」

「何をやっておるのだ?」

「あ? 団長か」

 

 振り返ると、そこには俺達、ヘファイストス・ファミリアの団長である椿が居た。酒瓶を片手に持ち、酔ってはいるようだが、しっかりとした足取りで俺の横に座ってくる。

 

「ソイツが主神様からの届物か」

「ああ……魔剣だ」

「うむ。今回の件はお前達の甘さが招いた結果だ。使える手札を使わなかった。リリの奴も慢心しておったしな」

「俺がリリスケと同じかよ……」

「そうであろう。クロッゾの魔剣はイフリートの火力と引けを取らん」

「魔剣、魔剣……どいつもこいつも……」

「まあ、飲めっ!」

「ちょっ!」

 

 無理矢理酒を飲ませられる。酒はかなり美味い。ソーマ・ファミリアが作っているだけはある。

 

「ヴェルフ。手前は一つ思った事がある」

「あ?」

「お前は使い手を置いて折れるから、魔剣は嫌だと言ったな」

「そうだ。そんなのは武器じゃない」

「なら、何故折れぬ魔剣を作らぬ?」

「は? できるわけないだろ!」

「うむ。できるわけがない。手前もイフリートを作るまではそう思っていた。後で聞いたら、クルミ曰く、我々の努力は無駄の極みだそうだ」

「どういう事だ? まさか、折れない魔剣を作れるのか?」

「うむ。おそらく、技術的に可能だ。確かに今のままならばできん。手前達は魔剣という事で剣の形に拘ってきた」

「当然だろう。剣なんだから……」

「剣とは、叩きつけて押し斬るための武器だ。何故それに炎を撃たせるのだと言われたわ」

「は? そんなのは……まさか……」

「構造的な欠陥だそうだ。魔剣は内部にため込んだ神秘の力を発現させる。発現する場所は剣の内部だ。故に内部から溢れ出るような力に剣自体が耐えきれるはずもない。自壊するのは当然、というわけだな」

 

 ああ、そうか。確かにそう言われると納得はできる。

 

「そう言われて手前は二つ三つ、考えた。一つはまず魔剣の部分と剣の部分を別に作る」

「どういう事だ?」

不壊属性(デュランダル)の剣に魔剣を取り付ける。こうすることで魔剣が壊れても不壊属性(デュランダル)の剣は普通に戦える。絵にすればこんな感じだな」

 

 団長が見せてくれたのは、片刃の剣が二つ、左右に置かれて中央に筒のような物が配置されている図だ。

 

「この真ん中に魔剣のコアを入れて放つ」

「いや、構造的にもろくなるだろ」

「うむ。故に実験は半分だな」

 

 片方の剣を消し、筒が取り付けられた片刃の剣になった。

 

「剣と銃の合体か」

「うむ。ガンブレードだな。魔剣を剣の形に拘らせる必要はない。それこそ弾丸にしてしまえば持ち運びも便利であろう?」

「はっ、あはははは! こいつは参った。確かに俺は剣に拘っていたようだ。武器と魔剣を分けるのもありだな!」

「うむ。ありだ!」

 

 それに剣に合わせなくても、魔剣……いや、魔弾を用意すれば懐に入れられるようなクルミが使っている携帯式の銃を用意すればやりやすいだろう。

 

「ヴェルフ、手前は実証実験を行う。手を貸せ」

「俺でいいのか?」

「クロッゾの魔剣を作り替えるからこそ、いいのだ。お前も今回の件で理解しただろう?」

「ああ、そうだな……わかった。やってやるよ。でも、失敗するだろうから、素材をかなり駄目にするぞ」

「その程度構わん。クルミに馬鹿みたいに金を貸し付けておるからな。素材を運んでくる。それに完成したら新しい主力製品の完成だ。主神様もお喜びになるだろう」

「なら、問題はないな」

「うむ。クルミからもっと知識を引き出し、面白い物を作るぞ!」

「ああ、ソイツはいいな!」

 

 酒を飲みながら乾杯を幾度もして、設計図について意見を交わしていく。そこで銃の構造をもっと理解する必要がある事が判明した。だから、クルミから洗い浚い吐かせることになった。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 リューさんの説得が終わり、直ぐにリヴェリアさんに話をつけてキアラの護衛にリューさんもいれる事を伝えました。彼女の出身についても話さなければいけませんでしたが、アストレア・ファミリアのレベル4である事を伝えました。もちろん、彼女の事は黙っていてもらいます。

 次の日、私は滞っていた仕事をするためにボールスさんの下へと移動して雑務というか、物資の輸送を行っておきます。一応、ロキ・ファミリアの遠征前に余裕を見て数回分先渡ししておいたのでそこまで面倒ではありません。

 

「これで今回の取引は終わりだ」

「毎度ありがとうございます」

「こちらも儲けさせてもらってるからな」

「では、次にこちらについて話をしましょう」

「ああ。このリヴィラの改造計画だな」

「はい。どう考えても防衛力が貧弱ですからね」

 

 物資の輸送がかなり自由になった事で、この街の強化計画を進めているところです。そのタイミングで誰かが扉を開けて入ってきました。

 

「ボールス! 大変だ! 馬鹿共がソーマ・ファミリアの関係者に手を出しやがった!」

「馬鹿野郎!」

 

 ボールスさんは恐る恐るこちらを見ております。リューさんとの約束もあるので、無駄遣いはできませんが、これは必要経費です。喧嘩を売られたなら、買うのがわたくしですも。

 

「<刻々帝(ザフキエル)>、八の弾(ヘット)

「お、おい! 俺達は関係ないからな!」

「ええ、ええ、わかっておりますわ。わたくし達、ちょっと塵を掃除してきてください」

「「「了解ですわ」」」

 

 三人ほど、新しく呼び出してて向かわせます。

 

「では、続きをはじめましょう」

「お、おう……」

 

 

 

 

 さて、目標の場所まで移動すると、なんということでしょう。ベルさんがお一人で戦っています。その周りを複数の冒険者が取り囲み、彼等の後ろからベルさん救助隊の方々が突撃していっておられます。

 

「まずは時喰みの城(ときばみのしろ)を展開ですわね」

「あらあら、覗き見をしている悪い方がおりますわね」

「撃ち殺してさしあげましょう」

 

 神威霊装・三番(エロヒム)を呼び出して敵陣に向けて銃撃を開始します。放った弾丸はアスフィさんに弾かれてしまいました。残念ですわ。

 冒険者の方に放ったのはちゃんと命中して手足を撃ち抜きました。

 

「待ってくれ。俺達だ!」

「これ、仕掛けたのは貴方達ですか?」

 

 一応、カマかけをしておきます。覗いているだけで助けにいかないなんておかしいですもの。

 

「いやいや、俺達じゃないよ」

「そうですか。では、さようなら」

 

 銃撃を再開するフリをすると、慌てて止めてきました。しっかりとヘッドショットを狙った甲斐があります。

 

「悪かった。ちょっとベル君に人の悪意を知ってもらおうと思ってね」

「すいません」

「後で請求書をお持ちしますわ。慰謝料は覚悟しておいてくださいまし」

「わかったよ」

「ヘルメスさま~!」

「すまない」

 

 あちらはどうなっているかというと、キアラとリューさんも一緒です。護衛の関係上、あまり離れられません。そのため、他の人達も押され気味です。

 

「数で押せ! 俺達の方が多い!」

 

 その言葉でわたくしはとりあえず、三十人ほど呼び出して空から乱入してあげます。

 

「数には数で対抗してあげましょう」

 

 皆で突撃して殴る蹴るなどボコボコにしていきます。レベル3のステイタスがありますし、鍛えていますので、普通にボコボコにできます。また、影を踏んで重くして彼等の時間も少しだけいただきます。人数が多いので新たに生み出した分は回収できました。

 

「ふぎゃっ!?」

「がはっ!?」

「「「きひっ! きひひっ!」」」

 

 相手の攻撃を避けて丁度いい位置にある鳩尾に一発入れます。幼女のパンチですが、レベル差もあって相手は少し吹き飛びます。正面のわたくしの攻撃を運良く受け止めた方は、横合いから二人のわたくしに脇腹に拳を叩き込まれて吐き出します。

 汚いので影に潜んで回避し、別のところに出て背後から飛びながら回し蹴りを頭部に叩き込んでやります。流石に最低でもレベル2の冒険者。非力なわたくしでは一撃とはいきません。ですので、反対側から別のわたくしが同じく蹴る事で衝撃を逃さず脳へと叩き込んで潰します。

 武器は使わずに無手での制圧なので時間がかりますが、意外にこういう乱闘は楽しいですの。もちろん、殴られたりもしますが気にせず倍返し、三倍返しでお返しします。ええ、人数が三倍になって襲い掛かるだけなので間違いではありません。

 

「くそがぁっ! 小さすぎてやりにくい!」

「しかも何人いやがるんだ!」

やめろ! 

 

 声が聞こえて、そちらに振り向くとリリさんに連れられたヘスティアさんが居ました。彼女の身体が光と、リボンが落ちて髪の毛が風もないのに揺れ動きます。

 

止めるんだ。子供達、剣を引きなさい

 

 神々しい気配を漂わせながら、こちらに歩いてくる姿は明らかに人とは格が違う気配を漂わせています。故にタケミカヅチ・ファミリアの人達は跪いて臣下の礼を取ります。他の冒険者の方々も、すぐに左右に退いて道を開いていかれます。その姿はさながらモーゼの海割ともいえるかもしれません。

 

「待てお前らっ!?」

 

 ベルさんと戦っている人以外は全員が逃げていきました。その人もすぐに逃げていき、ベルさんは尻餅をつかれました。そこにヘスティアさんがダイブして、胸に顔を埋めてしまいます。わたくしはその姿を尻目に地面をペタペタと触りながら人海戦術で探していきます。

 何してんだコイツという視線を無視して、指に触れた物をしっかりと回収します。ヘルメスさんとアスフィさんの方を見ると顔が少し青ざめております。

 

「壊れたハデスの兜、ゲットですわ」

「やりましたわね、わたくし」

「後はこれを解析して使えばわたくし達が好き勝手できますわ」

 

 ちゃんとベルさんの方も見ていたので、相手が姿を消していることもわかっていました。というか、そこから時間が流れてくるのでわからないはずがありませんもの。

 

「これで一件落着ですね」

「そうだな」

 

 そう言っている地震が起きました。いえ、ダンジョンそのものが震えております。

 

「これは……嫌な揺れだ……っ!」

「あっ」

「おいっ!」

 

 リューさんが何かに気付いたようなので、空を見ると……なんという事でしょう、巨大な水晶の中に巨人の姿が見えるではありませんか。骸骨の頭を持つ黒い身体の巨人はそのまま落ちてきます。

 

アァァ、アアァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!! 

 

 巨人が地面に着地して雄叫びを上げると、大人しく休息していた魔物(モンスター)達が暴れだしていきます。先程逃げ出した冒険者の人達が早速、襲われておりますね。

 

「あっ! 早く助けないと!」

「待ちなさい。本当に助けに行くつもりですか? このパーティーで?」

 

 駆け出しかけたベルさんが、リューさんの言葉で止まり、わたくし達を見詰めてきます。明らかに落ちてきた巨人、黒いゴライアスはやばいです。わたくしとリリが殺したゴライアスの強化種でしょう。しかし、全員がやる気のようです。

 

「助けましょう」

「貴方はリーダー失格だ。だが、間違ってはいない」

 

 そう言ってリューさんは駆け抜けていきました。その背中にわたくしは一の弾(アレフ)五の弾(ヘー)を撃ち込んでさしあげます。

 

「<刻々帝(ザフキエル)>。リューさん、餞別です。回避しないでくださいまし」

 

 こちらの声が聞こえたようで、回避せずにそのまま受けてくれました。そして、更に加速していきました。

 

「千草さん、神様をお願いします。行こう、皆!」

「「「はい!」」」

 

 キアラも神様と一緒に居てもらいましょう。

 

「キアラ、貴女はヘスティアさんと居てください。今の貴女ではストックはないでしょう?」

「ん。でも……」

「ヘスティアさんと千草さんを守ってくださいまし」

「ん!」

 

 納得してくれたようで、ふと視線を感じて空を、黒いゴライアスが落ちてきた場所を見上げます。すると、目が遭いました。ソイツはまるで、コンニチハ! とでもいうかのように()()()で水晶をこじ開けていきます。

 

「待ちなさい。待ちやがってくださいまし!」

「どうしたの?」

「リリさん! 貴女は残りなさい!」

「はい? リリはあいつとまともに戦える……」

 

 わたくしが空を指差すと、リリさんもそれを見ました。そしてなんとも言えない表情になりました。

 

「うわぁ……マジですか。マジなんですか。リリ達、アレに好かれすぎでしょう」

「そうですわ。まだ何もやっていませんわよ!」

()()だからじゃないんですか?」

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──―! 

 

 

 ソイツの頭が水晶から出てくると、盛大に産声がダンジョン全体から響きました。まるでダンジョンがわたくし達を殺そうとしているかのようです。いえ、確実に狙いはわたくしとリリさんなんでしょう。

 

「なんか、ナチュラルにリリを含めていません?」

「なんのことやら……」

「ねえ、アレってかなりまずいよね?」

「そうだね。あの黒いゴライアスはヘスティアを殺しに来たようだけど、あの()()()()()()()()()()()は君達を殺しに来たみたいだ」

「やれやれ、()るしかありませんわね」

「そうですね。()るしかありませんね」

「君達も大概、殺伐としているね」

「いやはや、アレに挑もうとはすごいね」

「やりたいわけではありませんよ!」

「やるしかないだけですもの! <刻々帝(ザフキエル)>! 一の弾(アレフ)、五の弾(ヘー)!」

 

 わたくしに短銃を向け、リリさんに小銃を向けて撃ちます。弾丸が響き、身体能力が増加したのでその場から駆け抜けます。

 

「ボールス! 今から攻城兵器を投下します! 好きなように使ってくださいまし!」

 

 時喰みの城(ときばみのしろ)を全力展開して、この辺り一帯を覆いつくしてやります。同時に使わない武器をばらまいてやりました。これであちらはどうにかしてもらいます。

 その状況でわたくし達と共に空を飛んで銃弾の雨を降らせてやります。当然、まったくもって効きません。相手はジャガーノートの強化種。故に装甲殻は魔力反射(マジック・リフレクション)の効果を持ちます。

 

「まあ、わたくしには関係ありませんわ!」

 

 魔法の反射? 物理攻撃です! 二の弾(ベート)は効果を発揮しませんが、それならそれでやりようがあります。とりあえず、攻撃を続けて相手を離れた位置に誘導します。

 黒いジャガーノートは落ちると同時にこちらに突撃してきます。その速度は不可視のような高速で、わたくしの一人が咥えられて持っていかれました。

 地面を削りながら停止し、こちらに振り向きます。口にはわたくしの身体があります。即座に停滞状態の停止世界(ザ・ワールド)を発動し、自爆させます。それでも頭を揺らす程度の攻撃しかできません。

 

「速過ぎますわね。致し方ありませんわ。<刻々帝(ザフキエル)>、一の弾(アレフ)一の弾(アレフ)一の弾(アレフ)

「クルミ様、追いつきました。リリにもお願いします」

「ええ、やりますわ」

 

 リリさんにも一の弾(アレフ)の重ねがけをします。他のわたくし達にも同じようにして黒いジャガーノートと同じ速度まで加速します。肉体の限界もあるので、自壊する前に四の弾(ダレット)で修復しての戦闘です。

 

「行きます! 炎華(アルヴェリア)!」

 

 リリさんが地面を砕いて突撃します。相手側も突撃してきて互いに馬鹿みたいな速度で駆け抜け、中央で激突します。巨大な爪、破爪が迫りますが、リリさんはイフリートで破爪を弾きます。リリさんの身体から血が噴き出します。

 相手は待ってくれず、もう片方の破爪で攻撃してきます。それをわたくし達が不壊属性(デュランダル)の武器を持って三人で打ち付けて防ぎます。

 リリさんとわたくし達が吹き飛ばされ、即座に別のわたくし達が後退します。全員、不壊属性(デュランダル)の武器で回転されて振るわれる刃のような尻尾を十人で受け止めてます。

 十人でも地面を削りながら数メートルは離れさせられます。ですが、すぐに別のわたくし達がカバーに入り、相手の破爪と尻尾を受け止めます。

 少しでも掠ればこちらの防御なんて関係なく、切り裂かれて殺されます。一撃一撃が致命傷です。

 相手の攻撃の余波で傷を負い、自らの限界を超えた身体の酷使で傷を負います。

 

「後衛部隊は受け止めた者には即座に四の弾(ダレット)を叩き込みなさい!」

「「「了解ですわ!」」」

 

 前衛で剣や大剣を使って戦って、命を賭しているわたくし達に時間を巻き戻す四の弾(ダレット)が命中して傷を無かった事にします。

 

「残り時間が少ない子は命を使いなさい」

「了解ですわ!」

 

 相手の攻撃を全て弾いたタイミングで指示を出します。後方から不壊属性(デュランダル)の武器を持つわたくし達が、停止世界(ザ・ワールド)を発動して命の限り、駆け抜けます。

 

「ランサー!」

「任されましたわ、ルーラー! 停止世界(ザ・ワールド)からのなんちゃって彗星走法(ドロメウス・コメーテース)

 

 あらゆる時代の、あらゆる英雄の中で、最も迅いというアキレウスの伝説が宝具となった奴です。適当に言っているだけでFateの真似事ですわね。ですが、やってることはえげつないです。

 停滞させた世界で上がった身体能力を使った全力移動をして、その分質量を増加させて放つ不壊属性(デュランダル)の槍です。ましてや何重にも一の弾(アレフ)を重ね掛けしています。速度だけなら音を置き去りにして光の領域です。

 

「死にさらしなさい!」

 

 衝撃波を撒き散らかしながら、生命の全てを捧げた一撃。余すところなく、短いとはいえ人生で得た記憶と知識、技術を生かして放つ最初で最後の一撃です。

 黒いジャガーノートは両手をクロスさせて受け止めます。槍の矛先が両手を貫いて砕き、その先の胴体へと突き刺さり、止まりました。放ったわたくしも身体が消し飛び、そこには槍があるだけです。そして、肝心の黒いジャガーノートは再生していきます。

 

「「「「ざけんなぁっ!」」」」

「あの、クルミ様、ジャガーノートは魔石がないんですよ? それで再生持ちとか、無理じゃないですか?」

「無理ですわ。なんですか、このジャガーノートを殺すためには一撃で跡形もなく滅ぼせとおっしゃいますの?」

「クルミ様、クルミ様」

「なんですか?」

 

 リリさんが袖を引っ張ってくるので、耳を傾けると、面白い事を教えてくださいました。

 

「ああ、確かにできたら可能ですわね。やってしまいましょうか」

「ええ、やってしまいましょう。それとクルミ様。イフリートだけでは足りません。アレも貸してください」

「リリさん。いくらリリさんでも無理ですわよ?」

「後、三発、いえ……五発ほどください。それでなんとかしてみせます」

「……いいでしょう。どうせ生きるか死ぬかです。一の弾(アレフ)一の弾(アレフ)一の弾(アレフ)一の弾(アレフ)。そしてこれがご所望品ですわ」

 

 リリさんに渡す間にも何人かのわたくしが殺されました。やはり、わたくしの力では大型魔物(モンスター)である黒いジャガーノートを相手にするにはまだまだ力が足りません。

 

「いきます」

「ええ、やっちゃってください、リリさん!」

「はい! 炎華(アルヴェリア)!」

 

 リリさんはイフリートを地面に叩きつけて炎華(アルヴェリア)を使って飛んで加速していきます。彼女はもう片方の手でわたくしが取り出した巨大武器、剣斧を持ちながらカッ飛んでいきます。その援護にセイバー達を送りつけます。

 わたくしは後方から指示をしながらリリさんに四の弾(ダレット)を連射し続けます。常に巻き戻さないとあっさりと死んでしまいますからね。それとこちらに居るわたくしに指示をして地上に移動して準備してもらいます。

 

うりゃああああああああぁぁぁぁっ! 

 

 イフリートを移動手段として、空中で回転しながら剣斧を振り下ろします。ジャガーノートは破爪を振るってきますが、それはこちらで弾いてなんとか道を作りだします。怪力スキルなどの重量による超強化を受けたリリさんの一撃は黒いジャガーノートの頭部を砕き、胴体のところで止まります。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──―! 

「まだです!」

 

 そこに重ねるようにしてイフリートを上から体内に叩きつけます。剣斧とイフリート、二本の武器を体内に納めた黒いジャガーノートに対してまだリリのターンです。

 

「ロードカードリッジ・炎華(アルヴェリア)! 炎華(アルヴェリア) 炎華(アルヴェリア) 炎華(アルヴェリアァァァァァァッ)‼‼」

 

 体内が盛大に業火が放たれ、黒いジャガーノートは炎の柱に包まれていきます。別のわたくし達がイフリートから使い終わったカードリッジを抜き、別の新しいカードリッジに交換します。

 当然、相手も攻撃してきますが、刀を持ったサムライが抜刀術を停止世界(ザ・ワールド)を使いながら放ち、尻尾を切り落とし、破爪はセイバーとアサシンが同じように破壊して防ぎます。

 

炎華(アルヴェリア)炎華(アルヴェリア)炎華(アルヴェリア)贋造魔法少女(ハニエェェェェェル)!」

 

 そして、贋造魔法少女(ハニエル)によって巨大化して黒いジャガーノートと同じサイズになりました。剣斧もイフリートも巨大化させたので、黒いジャガーノートの内部は膨れ上がります。

 

「ミラー・ミラー!」

 

 そこに分身で倍に膨れ上がります。

 

「「炎華(アルヴェリア)炎華(アルヴェリア)炎華(アルヴェリア)炎華(アルヴェリア)炎華(アルヴェリア)!!」」

 

 大規模な視界一面が炎の柱に包まれ、周りに居たわたく達も焼失していきます。リリさんの身体も何度も焼けてはわたくし達の四の弾(ダレット)が殺到して再生していきます。焼かれて死んでいく子達もリリさんの身体に四の弾(ダレット)を撃ち込みます。本当は時間停止ができる七の弾(ザイン)を撃ち込む方がいいのですが、それをすると攻撃ができません。

 大爆発が起こり、最後に七の弾(ザイン)をリリさんに叩き込んで爆発を耐えてもらいます。少しして、リリさんが吹き飛んできたので、受け止めてわたくしも転がります。

 

「やりましたか!?」

「それ、フラグですわ」

 

 視線を黒いジャガーノートにやると、奴はバラバラになって焼けた一部から再生していってます。

 

「魔法が効かないので爆発と熱による融解を狙ったんですけど……」

「駄目ですわね」

「どうしますか?」

「愚問ですわ。時間を稼ぎます。リリはここで諦めますか?」

「まさか。お付き合いしますよ。これぐらい平気へっちゃらです」

「では、わたくし達の戦争(デート)を続けましょう」

「はい!」

 

 絶望なんてほど遠いです。無限に再生するのなら、何度も殺してやればいいのです。再生する暇も与えず攻撃を続けてどちらの限界が来るかの勝負です! 

 

進軍進撃進行(ゴーゴーゴー)!」

 

 わたくし達が駆け抜け、爆発で飛ばされた不壊属性(デュランダル)の武器達を掴んで戦闘を再開します。大剣を叩きつけ、槍で突いて骨を引きはがし、ハンマーでたたき壊し、戦斧で粉砕し、剣で再生中の隙間を斬ります。

 再生が早過ぎるところは……あれ? これ、チャンスでは? 

 

「予定変更! 尻尾と破爪は順番に再生させて叩き斬りになさい! パーツを確保したわたくしは順次撤退して地上に輸送! 各拠点に配置して上級冒険者に監視要請!」

「クルミ様、それって!?」

「無限に再生するならば! それはドロップアイテム無限生成装置と同じですわ! つまり、資材、資源、お金! 今やらないで何時やるんですの! 今でしょ!」

「クルミ様の馬鹿! そんな事言われたら、気が抜けちゃうじゃないですか!」

「モチベーションが上がるの間違いでしょう!」

 

 実際、わたくし達は黒いジャガーノートをくるみねっとわーくの演算能力を使って弱い箇所や脆い箇所をみつけ、行動パターンや再生パターンを算出して的確にダメージを与えます。それにダメージを与えられるように技術を高めていきます。こっちには不壊属性(デュランダル)の武器もあるのです。

 ちょっと調整が必要になってきたら、別の武器に変えて、地上に戻して鍛冶師の方々に超特急で修理してもらってこちらに再度輸送します。

 

「さあ、リリさん。ここからは黒いジャガーノートが消滅するか、わたくし達が飽きて失敗するかだけですわ!」

「ひ、疲労は?」

「そんなもの、四の弾(ダレット)で回復します! 精神も回復してあげます! ええ、もっともっと稼ぎますわよ! 明らかにわたくし達よりもレベルが上の相手ですし、偉業とステイタス稼ぎにも丁度いいです! ああ、滾ってきますわ!」

「リリは可哀想になってくるん、ですけどぉっ!」

「じゃあ、止めますか?」

「いえ、リリとクルミ様のために死んでください! いえ、ドロップ寄越しやがれです!」

「その意気ですわ!」

 

 四時間ぐらい戦っていると、歓声が上がりました。どうやら、あちらの巨人さんは討伐されたみたいです。ですが、こちらはまだまだ元気のようです。

 

「お待たせしました。助けに参りました」

 

 振り向くと、キアラを除く皆さんがこちらにやってこられました。満身創痍でボロボロです。そんな状況で助けにきて頂いたのはありがたいのですが、未来予知も使っているので相手が行動する前に潰せるんですよね。時間の消費こそ半端ではないぐらい減っていますが、それでもロキ・ファミリアの方々に稼いでいただいたので、収支はプラスですし。

 

「お前ら、攻撃準備を……」

「あ、お構いなく」

「は?」

「いえ、練習相手と素材稼ぎに利用しているので、皆さんは休憩してください」

「意味がわからないよ」

「あははは、本当にな。事実だし」

 

 神様たちがまるでどこぞの詐欺師マスコットみたいな事を言ってますが、気にしません。

 

「あの! リリは休みたいんですけど!」

「リリさんは無理です! 休んだら攻撃力が足りませんから!」

「ベル様の一撃は……魔法でしたね!」

「そもそも、この速度は彼女以外では入れないでしょう」

「ですね。私が少し援護します」

「わかりました。リューさん、魔法効かないので武器でお願いします。その辺に転がってる武器は不壊属性(デュランダル)なので気にせず使ってくださって構いません。それとボールス!」

「な、なんだよ?」

「取ったらわかっていますわよね?」

「わかった、わかった。お前ら、見学だけして手を出すなよ!」

「へい!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──―!」

 

 黒いジャガーノートがどこか悲鳴のような声を上げますが、気にしません。さらに八時間、戦闘を行って素材狩りと経験値稼ぎに勤しんでいると、時間がきました。

 

「リリさん、リリさん」

「なん、ですかぁっ! クルミ様のために死にさらせぇぇぇぇっ!」

 

 いい感じにハイになって無駄な力が抜けて血飛沫を飛ばしながら剣斧とイフリートを振り回し、黒いジャガーノートを的確に切断していっているリリさん。

 

「時間ですけど、後一日ぐらいやります?」

「嫌です! もう寝たいです! 帰りたいです! 休みたいです! でももっとぶち殺したいです!」

「矛盾してますね~」

「あの、ボク達も帰りたいから、終わらせられるなら終わらしてあげてよ」

「そうだね。流石にこれ以上、ダンジョンに居るのはまずい」

「頼むよ、クルミ君!」

「やれやれ、神様に頼まれては仕方がありません。じゃあ、ちょっと殺しますか。リリさん、下がってくださいまし」

「了解です!」

 

 リリさんが下がった瞬間、顔だけになった黒いジャガーノートがリリさんに噛みつこうとしたので、わたくしが受け止めて、そのまま時喰みの城(ときばみのしろ)を再展開して影に沈んでいきます。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「さて、ジャガーノートさん。お別れの時間です。安らかに炎に焼かれて死んでください」

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──―! 

 

 時喰みの城(ときばみのしろ)の一番高いところが開いており、そこからは満天の星空が見えます。そして、そこから覗く小さなフードを被った女の子の姿もです。

 

「お待たせしました。キアラさん。やってしまってください」

「天明らかにして星来たれ! フォーマルハウトの星は召臨を厭わず。月天は心を帰せたり来々、くとぅぐぁ! ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ! くとぅぐあ!」

 

 空から炎の塊が降ってきます。それが入った瞬間、わたくしの目の前に巨大な炎の鳥が顕現しました。即座に時喰みの城(ときばみのしろ)を閉じます。このわたくしは脱出しません。いえ、できません。すでに身体が燃えています。

 黒いジャガーノートも同じで、フォーマルハウトの星から直接力を受けたクトゥグアの力は絶大であり、跡形もなく食べられてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おのれおのれおのれおのれぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇっ!!! 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「「いぇーい」」

 

 リリさんとハイタッチを交わしてから、二人で、数十人で地面に倒れて寝ます。身体はともかく、精神の限界ですからね。一部の人達からはすごく怖がられていますが、まあ構いません。

 

「わたくし達の勝ちです!」

「はい! リリ達の勝ちです!」

 

 どんなに死のうが、どんなに泥臭い戦いだろうが、勝てば官軍負ければ賊軍。勝利こそ時崎狂三に求められる絶対的な真理なのです。だって、基本的に負けたら巻き戻しますもの。例外は時崎狂三が心から動かされた時ぐらいでしょう。

 

「そういえば、ジャガーノートの骨っていい出汁が出るんでしょうか?」

「それは止めてください。本当に止めてください。フリじゃないですからね!」

「冗談ですよ」

 

 リリさんと手を繋いで笑いながら眠りにつきます。久しぶりに全員、眠りましょう。

 

 

 

 




クルミとリリはダンジョン怒りのジャガーノートは殺せません。そこまで火力がありません。でも、ガチものの精霊は別です。フォーマルハウトの星が近づくまで待つ必要がありました。なのでひたすたら遅滞戦闘です。

ダンジョンはクルミが精霊である事も、神に似た力を使う事も時を操ったり、神威霊装を使ってわかっているので、ヘスティアの神威を受けて纏めて殺そうと黒いゴライアスと黒いジャガーノートを投入。
そりゃ、今までダンジョンをあんだけ怖し続けてたら殺しにかかりますわ。ジャガーノート君も激おこぷんぷん。



リザルト
ロキ・ファミリアの深層での狩り及び報酬417年
消費時間496年
クルミ 22人死亡
バリスタ*7台破損 修理費600万ヴァリス
矢代300万ヴァリス
不壊属性(デュランダル)武器17本の調整費900万ヴァリス
黒いジャガーノートの全身パーツ五体分
経験値 いっぱい
称号 やべー幼女。鬼畜幼女、怪力幼女、巨大幼女、化物幼女、二人は魔法少女





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レベルアップ

今回は繋ぎなので短いです。


 

 

 気が付いたら、暖かい温もりに包まれておりました。目を開けると、そこは肌色の天国です。後ろから誰かに抱きしめられており、視線を上にやればアイズさんが居ました。

 左右にはリリさんもキアラさんも居ます。キアラさんは私の手を握りながら、リヴェリアさんの膝に座っています。逆側にはリリさんが湯舟に浸かっています。

 

「あ、起きた?」

「ここは……お風呂、ですか?」

「そう」

 

 洗い場の方ではアキさんやティオナさん、ティオネさん、ロキ・ファミリアの方々が身体を洗っています。それに周りを見て思いだしたのですが、ここは此花亭の露天風呂のようです。

 

「とりあえず、どうしてここに?」

「クルミ達が気絶したから、地上に連れ出してきたの」

「それで何故お風呂ですの?」

「汚れてたから。宴の前に綺麗にしようってことになったの」

 

 よくよく見たら、他のわたくし達も居ます。どの子も意識がないようで、ティオナさん達が世話をしてくださっています。おそらく、くるみねっとわーくをフル稼働してやっていた弊害でしょうね。

 

「じゃあ、後は任せておきますわ。もう少し休憩しておきます」

「うん、わかった」

 

 眼を瞑り、くるみねっとわーくに接続を再起動します。そこから繋がりを通して全てのわたくし達に接続し、叩き起こします。

 

『朝ですわ。起きてくださいまし!』

 

 フライパンとオタマを取り出してくるみねっとわーくに響かせます。

 

『みぎゃぁぁぁぁっ!?』

『やめてぇぇぇぇっ!?』

 

 皆さんが一斉に起床したようで、次々とくるみねっとわーくの演算能力が回復していきます。もちろん、他のわたくし達に睨まれますが、知ったことではありません。わたくしもダメージを負いましたし。

 

『さて、現状について意見がある方……』

『このまま見るにきまってるではありませんか』

『いやさすがにそれは……』

『記憶に焼き付かせ、胸の感触を楽しむのですわ』

『この会話は全てわたくしにも筒抜けですが……ばらしますわよ』

『『『おのれグレイ!?』』』

 

 まあ、こんな三文芝居をしながら、くるみねっとわーく上に円卓を配置して皆で座り、脳内会議を行います。

 

『真面目に議題について話し合いをしましょう。わたくし達の火力不足をどうするかです』

『自壊覚悟の攻撃力はやはり使い勝手が悪いですからね。本格的に装備をどうにかしないといけませんね』

『やはりジャッカルの開発をしましょう。大人のわたくし(時崎狂三)が教えてくださいましたが、わたくしの身長では短銃と小銃の二丁拳銃は難しいです。ですので、ジャッカルと三番(エロヒム)の二丁拳銃にしましょう』

『それでも火力が足りませんわ』

『いっその事、電磁加速でもしますか』

『その電力がありませんし、レールも配置せねばなりません。それこそ巨大化します。ざっと演算しましたが、列車砲クラスの代物ですわよ。わたくし達なら持ち運びは可能ですが、保存場所も考えると使えません』

『では、電磁加速は無理でも風で加速させませんか? 風ならばアイズさんとリューさんが居ます』

『風圧を使った加速ですか。確かにアリですね』

 

 素材がかなり必要ですし、圧縮率を考えると丁度いいのが魔法反射能力がある黒いジャガーノートの骨でしょう。内部で圧縮して引き金を引くと同時に解放されるようにしましょう。小銃のバレルにも螺旋構造を採用して回転率を上げて弾道を安定させ、貫通力も上げます。

 

『まあ、そんな物はすぐに用意できないので、作るのは普通の武器でしょう』

『魔法を斬って反射する武器とか、フルカウンターではありませんか』

『ですが、相手の魔力を利用するのは面白いではありませんか。相手の攻撃魔法を吸収して貯め、放つようにしましょう』

『そちらも吸引口と出口を作らねばなりませんし、すぐには無理です』

『ですよね~。では、今は不壊属性(デュランダル)の武器をジャガーノート製品に作り替えましょう』

『ある程度の不壊属性(デュランダル)武器は作り直しか、売り払うしかないですね』

『剣斧の調整もありますし、今しばらくは冒険ができませんね』

『ですわね。少し、充電期間としましょう』

『まずはヘファイストスさんと椿さんにジャガーノートの骨を渡してわたくし達専用の武器を作っていただきましょう。それとしばらくは戦技強化に勤しみましょう。レベルアップしすぎですからね。これに異議あるものは居ますか?』

『『『異義なし!』』』

 

 さて、気が付けばお風呂は終わりましたので、着替えて宴を楽しみます。とりあえず、何人かをアイズさん達のお相手を任せ、わたくしは別のところに向かいます。

 

「さて、やりますか」

「やってやりましょう」

「おーですわ~!」

 

 ソーマ・ファミリアの一部にジャガーノートの骨を飾っていきます。全身ありますので吊るしておきます。

 

「よろしいのですの? 絶対に狙われますわよ」

「それが狙いですもの。これは餌ですからね」

 

 四体の黒いジャガーノートを配置します。もちろん、盗まれないために即座に時喰みの城(ときばみのしろ)へと収納可能にしておきます。残り一体はヘファイストス・ファミリアに運び込んでおきました。ヘファイストスさんは狂喜乱舞しておりましたが、放置しておきます。

 

魔物(モンスター)には効かなくても、人には効きますしね」

 

 バリスタを始めとした攻城兵器をしっかりと用意し、床にも色々と仕込んでおきます。これで来た人は楽しいことになりますわ。

 

「ルーラー、お楽しみのところ申し訳ありません」

「なんですの?」

「歓楽街に関して面白い情報が入りましたわ」

「あらあら、なんですの」

「殺生石らしいですわ」

「いいですわね。情報収集を密に致しましょう。これからは多少、余裕がありますからね」

 

 レベル4の大量生産。これでわたくし達ソーマ・ファミリアの力は急速に高まっています。ですので、提携しているファミリアの関係もあって、ソーマ・ファミリアが襲われる事はありません。ですが、問題はソーマ・ファミリアが今まで行っていた事が明るみに出た時です。

 ここまで力をつければそろそろ裏に居た連中が接触してくるでしょう。その対策も練らねばなりません。まあ、解決策はあるにはあります。ただ、それをするには色々と問題があります。今はチャンスを待ちながら根回しだけはしっかりとしておきましょう。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 さて、ソーマ様にステイタスを更新してもらいます。さすがにリリさんと二人でゴライアスと黒いジャガーノートを倒したのでレベルアップです。ステイタスも黒いジャガーノートさん道場があったので、たっぷりと経験値が稼げております。

 

「2レベルアップしたり……」

「わくわくですね」

「ん」

 

 リリさんとキアラさんの二人と一緒にソーマ様にステイタスを更新してもらいます。キアラさんも黒いジャガーノートを倒したのでレベルアップ可能です。

 

「クルミのステイタスはこれだ」

 

【名前】くるみ・ときさき
【レベル】4
【基礎アビリティ】

 力 I 0

 耐久 I 0

 器用 I 0

 敏捷 I 0

 魔力 I 0

【発展アビリティ】

 精霊 I→C*1

 精癒 I

 破砕 I

【魔法】

刻々帝(ザフキエル)*2

神威霊装・三番(エロヒム)*3

停止世界(ザ・ワールド)*4

【スキル】

時喰みの城(150)*5

くるみねっとわーく*6

時間の支配者*7

 

 レベル3の時に手に入れたのは精癒です。作成に魔法を沢山使いましたからね。今回手に入れるのは破砕です。黒いジャガーノートを沢山破壊しましたからね。

 新しいスキルは時間の支配者というものです。これは普通にわたくしにとってかなり有利なスキルになります。過去を改変して黒いジャガーノートを倒したからこそ、手に入れたスキルですね。

 

【名前】リリルカ・アーデ
【レベル】4
【基礎アビリティ】

 力 I 0

 耐久 I 0

 器用 I 0

 敏捷 I 0

 魔力 I 0

【発展アビリティ】

 闘争 B*8

 剛体 C*9

 大物殺し*10

 

【魔法】

シンダー・エラ*11

贋造魔法少女(ハニエル)*12

【スキル】

縁下力持(アーテル・アシスト)*13

怪力*14

精霊と共に歩む者*15

 

 リリさんはレベル3で剛体で、レベル4で大物殺しです。この大物殺しはリリさんがレベル2の時にレベル5を、3の時に推定4と6レベルの大物を殺していたからでしょう。普通にヤバイレアスキルだと思われます。

 

「リリ、自分がヤバイと思います。これ、クルミ様と戦っていたら、普通に馬鹿みたいに強くなりますよね?」

「6と戦えるんじゃないですか? やばいですわね☆」

「お姉ちゃん、すごい」

 

 それに何気に変身魔法の贋造魔法少女(ハニエル)も効果が四つまで発揮できるようになっています。シンダー・エラも少し変わっています。こちらはもっとやばい能力に変化しました。まったく同じ相手となるので、その傷もリアルタイムで写し取られるようです。互いに。そう、互いにです。まあ、リリさんと同じ体型にしか効果が発揮しませんけれどね。

 

「では、次はキアラだ」

 

【名前】キアラ
【レベル】2
【基礎アビリティ】

 力 I 0

 耐久 I 0

 器用 I 0

 敏捷 I 0

 魔力 I 0

【発展アビリティ】

 精癒 I

 

【魔法】

星術*16

【スキル】

精霊の加護(エーテルマスター)*17

精霊の寵姫*18

 

 

 うん。キアラさんは異界の神々……いえ、こちらも異界なのでおかしくはありませんか。どちらにせよクトゥグアとかやばい者と契約しているようです。一応、クトゥグアも星の神様であり、精霊といえるのかもしれない。このままだと普通に氷と雷も契約しそうですが、まあ放置です。

 

「さてさて、わたくし達の更新を行います。リリさん達はどうしますか? しばらくゆっくりとしてくださって構いません」

「なら、しばらくは身体を慣らします。色々とステイタスが変わるみたいですから」

「キアラはお勉強?」

「そうですね」

「ならば、私はゆっくりと酒が作れるな」

「そうですね。これからも盤石なためにもお酒をいっぱい作りましょう」

「ああ」

 

 さてさて、これからしばらくは暗躍の時間ですわね。お祭りもありますし、楽しみですわ。皆で楽しみましょう。

 

 

 

 

*1
奇跡を発動でき、魔道具を制作することが可能な発展アビリティの神秘と魔法の発動時に魔法円(マジックサークル)が発現し、魔法の威力や精神力の運用効率が向上する発展アビリティの魔導が複合されている。

*2
一の弾(アレフ)】:対象の外的時間を一定時間加速させる。超高速移動を可能とする。【二の弾(ベート)】:対象の外的時間を一定時間遅くする。意識までには影響を及ぼせないが、対象に込められた運動エネルギーも保持される性質がある。【三の弾(ギメル)】:対象の内的時間を加速させる。生き物の成長や老化、物体の経年劣化を促進する。【四の弾(ダレット)】:時間を巻き戻す。自身や他の存在が負った傷の修復再生が可能で、精神的なダメージにもある程度有効。【五の弾(へー)】:僅か先の未来を見通すことができる。戦闘中、数秒先の光景を視ての軌道予測等に使用できる。【六の弾(ヴァヴ)】:対象の意識のみを数日前までの過去の肉体に飛ばし、タイムループを可能とする。【七の弾(ザイン)】:対象の時間を一時的に完全停止させる。強力な分消費する時間は多め。【八の弾(ヘット)】:自身の過去の再現体を分身として生み出す。分身体は本体の影に沈む形で待機が可能。生み出された分身体を全て駆逐しない限りいくらでも呼び出すことが可能であり、殺害されても何度も蘇る。分身体のスペックは本体より一段劣っており、活動時間も生み出された際に消費した『時間(寿命)』しか活動できない。また、基本的には天使を行使することも出来ない。情報のやり取りを通じて記憶を共有する事もできる。【九の弾(テット)】:異なる時間にいる人間と意識を繋ぎ、交信することができる。撃ち抜いた対象者と会話したり、見聞きしたものを共有できる。【一〇の弾(ユッド)】:対象に込められた過去の記憶や体験を知ることができる。【十一の弾(ユッド・アレフ)】:対象を未来へ送ることができる。進む時間に応じて消費する時間・魔力は加速的的に上がってゆく。【十二の弾(ユッド・ベート)】:対象を過去へ送ることができる。遡る時間に応じて消費する時間・魔力は加速度的に上がってゆく。歴史を改変し元の時代に戻ってきた場合、その特異点となった人物は改変前の記憶を保持、または思い出せる。魔力と寿命を消費して発動する。発動には基礎コストとして十日を消費する。また、発動する魔法の数字が上がるにつれて十日ずつ関数で消費が増加する。六の弾(ヴァヴ)からは百日に増加。

*3
歩兵銃と短銃の二丁拳銃を物質化する。攻撃に使う銃弾は物質化した影で出来ている。

*4
・結界型時間封印魔法・結界内部の流れる時間を封印し、使用者以外の時間を強制的に停滞または停止させる。停滞させた時間の十倍の時間か魔力を失う。停止させた時間の百倍、魔力か寿命を消費する。詠唱で停滞。追加詠唱で時間停止。・詠唱【時よ、止まりなさい】・追加詠唱【時の精霊たるわたくし(時崎狂三)が命じます】

*5
周囲に影を張り巡らせ、自らの影に異空間を作成する。影に触れている存在の時間を吸い上げる。異空間の中に沈んで移動や潜伏ができる他、特定の人物を引きずり込んでの捕食や保護も可能。作成には寿命を一年消費する。寿命を一年消費するごとに異空間の広さを拡張できる。一メートル四方、一年ずつ増やせる。

*6
分身体の脳を同期接続させてリアルタイムで視界、記憶、知識、認識、経験などを共有することができる。中枢個体(オリジナル)のステイタスが更新された場合、他の個体も更新させる事が可能。また、分身体を利用して中枢個体(オリジナル)が魔法を発動する事ができ、分身体が習得した魔法やスキルを中枢個体(オリジナル)もスロットを関係なく会得できる。

*7
 時間を操作する力の効果が上昇し、消費する時間と魔力を削減する。

*8
力、器用、敏捷を1ランクアップ

*9
耐久・敏捷・器用が上昇する

*10
相手が自身のレベルよりも上の場合、全能力値が大幅に上昇する

*11
体格が大体同じなら、どんな姿にでも変身でき、常に対象と同じ状況になる変身魔法。詠唱式は【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私と貴女のもの】。解除詠唱は【響く十二時のお告げ】

*12
・この世に存在するあらゆる生物や様々な無機物に変身することができる。名前、年齢、性別、身長、体重、魔法、スキル、所属ファミリア、人間関係、歩んできた歴史など詳しく対象の事を知っていればいるほど再現度は上昇する。同時に変身させていられる数は四つ。・変身詠唱【(リリ)は貴女で貴女は(リリ)。夢幻は現実へ、現実は夢幻へ】・十分間だけ活動できる能力と魔法、全てが同じ自らの分身を一体のみ生成できる。・分身作成詠唱【鏡よ鏡(ミラー・ミラー)

*13
一定以上の装備過重時における補正。能力補正は重量に比例する。

*14
力のステイタスが限界突破し、成長能力が増加する。自身の重量の三の倍数を超える武器を持つ場合、超えた分だけ力のステイタスをレベルアップさせる。

*15
精霊と共に居る時、全能力値増加する。共に居ない場合、全能力値が低下する

*16
星々から天空に存在する魔力(エーテル)を集め、それを触媒に発動する魔法のようだ。その特性から星空か空が見える場所では魔力が回復し、威力が増す。・詠唱【天明らかにして星来たれ! ○○星は召臨を厭わず。月天は心を帰せたり来々、○○! ・炎の星術 エーテル及び魔力を使い、生ける炎を操る。・クトゥグア召喚 召喚詠唱【ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ! くとぅぐあ!】

*17
クトゥグアの加護。生ける炎を操り、炎への完全なる適性及び耐性を得る。

*18
精霊に愛される限り早熟する。経験値補正。ステイタスが限界突破する。精霊に愛されなくなるとこのスキルは失う



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クルミの平和な休息日……?

 

 

「ん……」

 

 寒くなって目を開くと見知った天井があります。ですが、何時もはある温もりがありません。ですので、布団を除けて外に出ます。すると姿見に一糸まとわぬ綺麗な肌をしている幼い黒髪ロングの美少女が映ります。はい、わたくしです。

 振り返ってみると、誰も居ません。普段ならリリさんとキアラさんが居ますし、どちらかが居ない場合はわたくし自身を抱き枕にするか、されるかして寝ています。

 

「久しぶりに起きたら一人でした……」

 

 少し寂しいですが、普段の服である赤いドレスに着替えようとしたら、ありません。着替え用の籠に入っていたのは赤色の生地に桃色の牡丹の花があしらわれた着物があります。

 

「ふむ」

 

 着方なんてわからないのですが、まあ適当になんとかなるでしょう。せっかく用意して頂けたのですし、可愛らしいわたくし(時崎狂三)が見られるのなら構わないでしょう。

 そんな訳で着替えたのですが……少しはだけた感じになってしまっています。まあ、これはこれでいいのでよしとします。何時もの通り、ツインテールにして赤いヘッドドレスを装着します。

 今回はこちらにも牡丹の花があしらわれていて、大変よろしいですわ。ツインテールにして鏡を確認すると、ロリバージョンではありますが、浮世絵木版画狂桜美人図時崎狂三のと同じような感じですわ。では行きましょう。

 外に出て廊下を歩いていきますが、人がほぼどころか皆無です。不思議に思って移動し、部屋を探していくとジャガ部屋君から侵入者の反応がありました。

 

『応援は要りますか、わたくし』

『ええ、必要ですわ。対処に困りますもの。ですから早急に来てくださいまし』

 

 わたくし達が対処に困るというのは不思議ですが、影を通ってあちらに移動すると、すぐにわかりました。

 

「カッコイイ」

「いえ、怖いですよ~」

「ふぇぇぇ」

「これは客寄せになりそうだねえ」

 

 此花亭の方々がやって来ていたのです。リリさんとキアラさんも着物姿で居ます。どちらも大変、可愛らしいです。

 

「このような場所にどうなさいましたの、女将さん」

 

 狐人である女将さんに声をかけると、あちらもわたくしに気づいて近づいてきました。

 

「丁度いい。これ、貸して欲しいんだよ?」

「貸すのは構いませんが……この服といい、なんなんですの?」

「新月祭だよ。どうせなら客寄せにできるもんはないかと聞いたら、着物を着せてたリリがコイツの事を教えてくれてね。それと柚、蓮。クルミの服を直してやんな」

「はい!」

「確かにこれはないわ」

 

 女将さんは明るい茶色の長髪で、頭頂部に短い一束のアホ毛がある柚さんと薄いピンク色でやや巻毛のオシャレな蓮さんにわたくしの服を修正させてきました。されるがままになりながら、話を聞いていきます。

 

「それで、ジャガーノートをどうするんですの?」

「ロビーにドンと飾ろうぜ!」

「それは雰囲気がぶち壊しなので止めてくださいまし」

「特設ステージを用意してライトアップかね」

「まあ、その辺りが妥当でしょう。プールの一部を使いましょう。水を抜いて配置すれば構いません。もちろん、プールは侵入禁止にしてです」

「コイツはいくらぐらいするんだい?」

「一部でも億は超えるかと」

「……なんつうもんを置いてんだい。さすがにまずいか」

「いえ、構いませんわ。ライダー、運び出して配置してくださいまし。警備はセイバーとランサー。アーチャーとアサシンはバックアップをお願いしますわ。こちらの警備もお願いします。わたくしは本日、色々と回らなくてはいけませんので」

「「「横暴ですわ!」」」

「交代で子供達と一緒に新月祭へ遊びに行って構いません。ただ、キアラさんは駄目です。危険ですので、此花亭かホームで過ごしてくださいまし」

「むー」

「むくれても駄目なものは駄目です。まだ変装用の装備ができていませんもの。すいませんが、今回は諦めてください。さすがに祭の中でフードを被ったまま活動するのは怪しまれるだけですから。女将さん、柚さんと櫻さんを貸してください。キアラさんのお相手をお願いしますわ」

「コイツの代わりなら仕方がないね」

 

 さすがにリューさんの件もまだ終わっていません。これから交渉に赴くので無理です。かと言って、ロキ・ファミリアのリヴェリアさんとレフィーヤさんに頼むのもまずいです。お二人も新月祭を楽しまれるでしょうし、注目が集まるでしょう。ですので、ここで過ごしてもらうのが一番です。

 

「キアラさん、祭りは変装道具ができれば此花亭で盛大にやりましょう。それで勘弁してくださいまし」

「ん。我慢する」

「いい子です。ただ、お祭りを堪能できない代わり食べ物は買ってきてさしあげます。わたくし達、三十万ヴァリスで、これで子供達の分もふくめて買ってきてくださいまし」

「屋台まるごと買えそうな値段だね」

「多過ぎよ。一人五千ヴァリスはあるわよ」

「構いませんわ。これからちょっと稼いできますので。リリさんは……」

「リリは今日、ここでお手伝いしますよ。この子達の世話もしないといけませんしね」

「お願いします。わたくしもう出ますわ」

「行ってらっしゃい」

「またね~!」

 

 子供達と別れて、箱を持ちながら新月祭の準備を進めている街の中を歩いていきます。さすがに高い高級な見慣れない着物や髪飾りをしていると注目が集まってきます。まあ、わたくし自身が最速でレベル2になり、レベル3でこそリリさんに負けましたが、レベル4は史上最速ですので結構有名になっておりますわ。まあ、レベル4に関してはまだギルドに報告していませんけれど。

 

「そこ行くお嬢さん。ちょっと私とお茶しませんか!」

「あら、わたくしは高いですわよ」

「おいくらで?」

「お茶なら百万でいいですわよ」

「高いわ!」

「ソーマを買って頂ければお酌ぐらいはしますわ」

「ソレ、高い奴じゃん!」

「ソーマの元締めだから仕方ねえだろ。ところで今夜、ホテルで……」

「星になりたいのしたら、新月祭ですからちょうどいいかもしれませんわね」

「ごめんなさい」

 

 神威霊装・三番(エロヒム)を呼び出し、男神の顎に突き付けてあげると即座に謝ってきます。

 

「クルミた~~ん!」

「っ!?」

 

 振り返るとロキさんがとびかかってきたので、髪の毛を掴んでそのまま体重移動をして投げ飛ばします。投げた先にわたくしが居て、手には神威霊装・三番(エロヒム)を持っており、それで打ち返そうとしたら、さすがに護衛のグレイが掴んで止めました。

 

「ロキさん、わたくしが居るのに浮気とか、良い度胸ですわ。これはもう帰りますわね」

「待って! グレイたんとクルミたんは別腹やねん!」

「「髪の毛の色ぐらいしか違いませんわ」」

 

 グレイが本当にスタスタと歩いていったので、その後をロキさんが追っていき、食べ物で釣り出しました。お二人を見送ってから、わたくしは他の神々や別の人達が声をかけてきますが、簡単な挨拶をしてすぐに別れます。それからお土産のお菓子を買ってから向かいます。

 

「お邪魔しますわ」

 

 目的地に到着したので、中に入ります。中では忙しそうに仕事をしている方々がおります。空いているカウンターの方に行き、用件を告げます。

 

「団長と主神様はいらっしゃいますか? ソーマ・ファミリアのくるみ・ときさきですわ」

「あ~団長でしたら少し前にオラリオの外から戻られました。神様は居ません」

「でしたら、団長さんだけでいいですわ」

「どうぞ」

 

 何度も訪れていますので、普通に通してくれます。そして、部屋の前でノックしてわたくしが来た事を告げると嫌そうな声が響いてきました。

 

「どうぞ」

「お邪魔しますわ」

 

 案内してくださった方にお礼を言ってから、部屋の中に入ります。そこではここのファミリアの団長さんが書類の束に囲まれております。

 

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「本日はこちらをお渡しに参りました」

 

 木箱を渡すと、不思議がりながらも開けました。

 

「美味しそうなメロンですね」

「ええ、そうですわ。お買い上げありがとうございます。こちら請求書です」

「は?」

 

 胸元に手を入れて、丸めた紙を取り出して開き、相手に渡します。受け取った彼女は請求書を見てから、付き返してきました。

 

「こんな物、頼んでいませんし要りません! 大体、なんですか、このべらぼうに高い金額は!」

「おや、それはおかしいですわね。ヘルメス様のご注文ですよ。その場にアスフィさんもいらっしゃったではありませんか」

「そんなはずは……」

「つい先日、ダンジョンで透明な兜を見せて頂いた時ですわ」

「っ!? そういう事ですか! ですが、それはギルドに罰金として支払わされています!」

「ギルドに支払った罰金はあくまでも、ダンジョンに神様が侵入された事による罰則です。ですが、そこにもう一つの罪が加われば罰金が五割から八割に上がるでしょうか? いえ、九割?」

「待ってください! 待ってください! お願いですから!」

「では、お支払い頂けますわね?」

「む、無理です。今、五割もギルドにもっていかれたばかりなんです! 七千万もの大金はありません!」

「でしたら、その身体で支払ってもらいましょうか」

 

 神威霊装・三番(エロヒム)の小銃を呼び出し、アスフィさんの身体に押し付けてするりと撫でるように降ろしていきます。

 

「なっ!?」

 

 アスフィさんが身体を抱きしめて後ろに下がります。

 

「団長である貴女が支払いますか? それとも団員に支払わせますの?」

「……うぅ……わ、わたしが支払います……」

 

 涙目になってこちらを見詰めてくるアスフィさんにゾクゾクしてしまいます。

 

「では、こちらの製作をお願いしますわね」

「え? 製作?」

「あらあら、何を想像したのでしょうか? わたくし、子供なのでわかりませんわ。ですから、教えてくださいます?」

「ななななっ!」

 

 顔が真っ赤になったアスフィさんをニヤニヤしながら見ていると、彼女は即座にわたくしが出した要望書と設計図をひったくって見ていきます。

 

「変装用の魔導具ですか」

「変身魔法、幻影を利用した魔導具はすでにありますの。それを応用してこのように動く機能を付けた猫耳と尻尾を作ってくださいまし。エルフの付け耳もですわ」

「これなら確かに作れますが、費用は……」

「そちら持ちですわ。販売もお願いします。安く広めてくださいまし」

「いやいや、こんなの……」

「神様の趣味としてなら売れるでしょうが、普通には売れない、ですか?」

「ええ、そうです」

「それは効果を追加したらどうですか?」

「効果ですか?」

「例えば猫耳とかに音を増幅して遠くの音をよりよく聞こえるようにしたり、尻尾を金属製にして動かせるようにしたりです。後、尻尾は……」

 

 アスフィさんの隣に移動して耳元でゴニョニョと伝えると顔を真っ赤にしました。

 

「絶対に売れますわよ。特に金持ちに。マンネリは嫌ですものね」

「わ、わたしにこんな物を作れというんですか!」

「別にただ動くだけの機能なら、アスフィさん以外の方がパーツを取り換える程度で作れるでしょう。これ、儲け話なのですが、いやなのでしたらわたしが自分で作ります。時間をかければ作れますもの。わたくしのファミリアであるリリさんとキアラさん。それに友好関係にあるヘスティアさんとヘファイストスさんのファミリアの救助に来てくださって負った五割ですからそちらに提供させてもらおうと思ったのですが、どうなさいます?」

「……あ、ありがたく頂戴させていただきます……」

「では全体の利益から一割、いただきます」

「わかりました。三割と言われないだけましですね」

「もちろん、提供者がわたくしである事は内緒にしてくださいまし。ヘルメスさんが持ってきたという事にすればよろしいかと」

「わかりました。って、何をしているんですか」

「紅茶を入れておりますの」

 

 設計図を見ていたアスフィさんの横で大人のわたくし(時崎狂三)に教え込まれた方法で紅茶を入れ、そこにソーマをちょこっと入れます。

 

「さあ、どうぞ。疲労回復になりますわ。お菓子のパウンドケーキもございます」

「ありがとうございます……」

「それはそうと、ヘルメスさんにお仕置きをした方がいいですわよ」

「お仕置きですか……?」

「ええ、コレの実験台になってもらえばよろしいかと」

「……なるほど。確かに罰になりますね。ふふふ」

「アレ、冗談のつもりだったのですが……」

「聞いてください! ヘルメス様ったら、私に後処理と外出申請書類を押し付けてご自分はもう遊びに出かけているんですよ!」

「あらあら、それはひどいですわね」

「本当です!」

 

 ソーマを飲んだせいか、たまりに溜まった文句というか、のろけを含んだ部分もどんどん聞かされていきます。逃げられないので少し手伝えるお仕事を手伝ってさしあげます。

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 午前中に行ったのに出た時にはお昼を過ぎており、約束の時間に遅れそうで走って待ち合わせのところにやってきました。そこにはウエイトレス姿のリューさんが噴水の前でオロオロしながら待っておられました。

 

「お待たせしました」

「遅いです! 何かあったのではないかと心配したではないですか!」

「すいません。ちょっとアスフィさんの愚痴を聞かされておりまして……」

「ああ、彼女の……ギルドからの罰則、聞きました。確かに愚痴も言いたくなりますね」

「はい。それでは参りましょう」

「ほ、本当に大丈夫だろうか?」

「大丈夫ですわ。ほら、行きますわよ。改宗するにしろ、しないにしろ、どちらにせよ筋を通すためにお会いしなければなりません」

「わかった」

 

 リューさんの手を掴み、彼女を連れていきます。アストレア・ファミリアの主神、アストレアさんの居場所は把握しております。別のわたくしを護衛として配置しておりますので、現在位置もバッチリです。

 

「や、やっぱり無理だ……」

「問答無用ですわ!」

「ちょっ!?」

 

 扉を開き、とある一軒家の中に入ります。そこには何処かやつれた雰囲気のある茶色の髪の毛をした女性が席に座っていました。家の割に不釣り合いな大きなテーブルには遺影のような物が置かれており、そこにはお菓子のような物が捧げられています。

 

「あ、アストレアさま……」

「りゅ、リューなの……?」

 

 彼女はこちらを見て、後ろに居るリューさんを見ると立ち上がってフラフラしながら寄ってきます。リューさんはどうしていいのか、オロオロしていたので、後ろに回って彼女の方に向かって背中を押してあげます。

 

「リュー、リュー……」

「アストレア様……」

 

 アストレアさんは泣きながら彼女に縋り付いています。リューさんはようやく、アストレアさんを抱き締めかえします。

 しばらくかかりそうなので、家の外で待っています。暇なので歌いながら待っていると、扉が開いて目を真っ赤にしたアストレアさんとリューさんがやってきました。どうやら、泣き止んでからしっかりと話し合ったようですね。

 

「待たせた。どうぞ入ってくれ」

「ええ、詳しい事を聞かせてちょうだい」

「はい」

 

 改めて家の中に入り、彼女達の遺影に手を合わせてからお二人に向かい合います。それから、しっかりとご説明させていただきます。

 

「それで、本当に皆を甦らせる事ができるの? ちょっと信じられないのだけど……」

「過去の改変ができますので、七年前に行って暗黒期を改変すれば可能ですわ。実際に試して数時間ですが、やってみせました。ですが、今回はわたくしがオラリオに存在しません。その事も考えると、どうしてもわたくし自身が行く必要があります」

「嘘ではないわね。それで時間を逆行するために必要な時間を集めるのが、リューの仕事になるのね?」

「はい。正直に言ってわたくしは当事者ではありません。あくまでも第三者の協力者です。そこまでの労力を賭けてまで行くメリットはないかと言えばあります」

「あるのね」

「あるのか」

「はい。ですが、彼女達を助けられるかと言えば無理です。そもそも聞いたような状況で見ず知らずの子供に力を借りますか? レベルが明らかに強いのに今まで聞いたこともないような子にですよ?」

「どう考えても怪しいな」

「確かにそうね。あの時期は疑心暗鬼にもなっていたから……」

「そこでリューさんです。エルフであるリューさんならば七年前と姿はほぼ変わりません。ですので、アストレア・ファミリア以外の方々にご紹介頂ければなんとか問題を解決できます。それこそエルフの森からやってきた協力者という役割でもいいですしね」

「そううまくいくかわわからないけれど……」

「アストレア様のサインと私が要れば情報収集はできるはずだ。それに倒すべき敵もわかっている。だから、アストレア様……お願いします」

「……わかりました。リュー、貴女をアストレア・ファミリアから除名します。ギルドにも通達してブラックリストからも解除させます。ですが、以後私と会う事も許しません」

「……はい……」

「だから、次に合う時は皆でね」

「それは……ありがとうございます!」

「クルミ。リューの事、よろしくお願いね。なんとか伝手を頼って根回しをしてくるわ」

「お供しますわ。<刻々帝(ザフキエル)>、八の弾(ヘット)

 

 分身を二体、改めて生み出します。わたくしが読んだ記憶のせいで、アストレアさんをこのまま一人にさせておく訳にはいきません。闇派閥から狙われている可能性だってあるのですからね。

 

「この子達をアストレアさんの護衛とお世話係とします。レベル4二人なので、護衛として問題ないでしょう。武器は後程届けますが、今は不壊属性(デュランダル)の刀を使ってください」

「輝夜の子供みたいね」

「よろしくお願いしますわ、お母様。それともお姉様かしら?」

「お母様でいいわ」

「クルミ、頼む。私は……」

「今日ぐらいはいいでしょう。というか、こちらの受け入れ準備ができるまで少々お待ちくださいまし。少し考えている事があるので、そちらをする場合、アストレアさんに協力していただかなければなりません」

「あら、いいわよ。昔みたいに過ごすのもいいものだし」

「では、しばらく私はアストレア・ファミリアのままで居た方がいいのか」

「ステイタス更新もアストレアさんにして頂けばいいだけですから、改宗する意味は本当にありませんもの。それから、会わなくなるのはこちらの準備が出来てからでお願いしますわ」

「わかりました。伝手を頼るにしても、時間がかかるからちょうどいいわ」

「数ヶ月以内にはこちらに移っていただきますので、ご安心ください」

「随分と幅があるわね」

「ソーマ・ファミリアは色々と問題点がありまして……具体的には過去の犯罪です。もちろん、わたくしはしておりませんが、その辺りをキッチリと精算してからお迎えにいたします。アストレア・ファミリアの方をお迎えするのであれば、それが筋というものでしょう」

「ありがとう」

「では、わたくしはこれで失礼いたします。どうぞ、ごゆるりと久しぶりの再会をお楽しみくださいまし」

 

 しっかりと挨拶してから外に出ます。続いて行く場所はミアさんのところです。ウエイトレスを一人、ほぼ辞めさせてしまうので、代わりを用意しないといけませんもの。

 

 

 

「話はわかった。つまり、リューが冒険者として復帰するから、ここでの仕事があまりできなくなるという事だな」

「困るにゃ! リューがいなければ誰に仕事を押し付ければいいにゃ!」

「そうにゃ! 困るにゃ! 仕事は押し付けないけれど、使える奴がいなくなるのは困るにゃ!」

「ええ、代わりにわたくしの分身達がお手伝いいたしますわ」

「レベル3だろ?」

「レベル4になりました。ですので、リューさんの代わりに二人、派遣させていただきます。お酒に関してお任せくださいまし」

「……いいだろう」

「いやいや、いくらなんでも嘘にゃ! そんなに早く上がるはずないにゃ!」

「いやでも、コイツら、あたまおかしいからにゃ……」

「ちょっと待ちなさい。誰が、頭がおかしいとおっしゃいますの? ぶち殺しますわよ」

「面白いにゃ! やれるものならやってみるにゃ」

「よろしい、では戦争ですわ」

 

 指を鳴らして二四人ほど呼び出します。それを見てアーニャが青ざめます。レベル3でも、二四人とわたくしの合計二五人を相手すればさすがにレベル4だろうと倒せます。

 

「止めんか、馬鹿者」

「止めるにゃ! だから戦いはなしにゃ!」

「あの、聞いていたらアーニャさんはよくサボるのですよね?」

「違うにゃ!」

「サボるにゃ!」

「サボるね」

「でしたら、彼女も貸していただけませんか? ダンジョンで魔石を稼いで欲しいのです」

「嫌にゃ! でも、たまにならいいにゃ!」

「にゃーもたまにならいいにゃ」

「なるほど、つまり仕事を押し付けられた分だけ、ダンジョンに叩き込んでこき使えばいいのですわね」

「それなら文句ないよ」

「確かにそれがいいにゃ」

「待つにゃ。にゃーは全然よくにゃいにゃ!」

 

 アーニャさんの言葉を無視して、わたくし達は話していきます。ついでなので皆でお仕事を覚えるためにもお手伝いします。ピカピカに綺麗にします。料理の方もミアさんのをトレースしていけば問題ないでしょう。

 

 

 

 

 

 すっかり夜になりました。新月祭なので何人か、働いてもらっておりますが、まあよいでしょう。すると誰かにつけられている気配がしたので、裏路地に移動してしばらくしてから振り返ります。同時に時喰みの城(ときばみのしろ)を展開しておきます。

 

「どなたでしょうか。か弱いわたくしを襲おうとする狼さんですの?」

「……ソーマ・ファミリアの団長だな」

「ええ、そうですわ」

 

 フードで顔を隠し、口元も布で隠した怪しい人達がやってきました。明らかに犯罪者ですので、殺してもいいでしょうか? 

 

「ソーマがお求めなら、販売店の方に行ってくださいまし」

「我々はお前に資金提供を願いたい」

「あら、代価は何かしら? 生憎と借金だらけでわたくし共は自転車操業をしているだけなのですが……」

「なんだそれは?」

「いえこちらの話ですわ。それで資金提供した見返りはなんですの?」

「ソーマ・ファミリアが行ってきた悪事を黙っていよう」

「何の事かわかりませんわね」

「とぼけるつもりか?」

「ええ、だって本当にわかりませんもの。知っていそうな方々は既にいませんからね。わたくし、新しく団長に就任して、そういう方々はキッチリと脱退していただきましたもの」

「それでも、こちらは貴様らがやった悪行の証拠を握っている。これを公開すればギルドからの罰則は避けられん」

 

 わたくしの周りを囲むようにやってきたので、こちらもその外側から囲んでさしあげます。もちろん、ばれないようにです。

 

「それは困りましたわね。今、罰則を受けては立ち行かなくなりますもの」

「ならば支払え」

「と、言いましても今はお金はありませんし、さすがにわたくしの一存では決められませんわ。ファミリア内で相談しませんとね」

「貴様が全てを牛耳っているのはわかっている」

「ですが、主神様や副団長とは相談しますわよ」

「どうやら身の程をわきまえさせる必要がありそうだな」

「言ったでしょう。わたくし、か弱いので戦いは嫌なのですが……」

「問答無用だ。だが、殺しはしない」

「あら、お優しいのですね。わたくしと違って」

「ぬかせ!」

 

 沢山の方々が一気に襲い掛かってきましたので、手をあげます。すると複数のところから銃声が響いて襲撃者さんの方々を撃ち抜きます。運が良ければ手足を撃たれ、悪ければ頭や急所にあたって即死です。

 

「貴様!? どうなってもいいのか!?」

「あら、わたくし言いましたわよ。か弱いので戦いは嫌いだと。ですから、護衛ぐらい配置しているに決まっているではありませんの」

 

 残っているリーダーさんに近づきます。彼の視界を遮りながら、アサシンのわたくし達には生き残っている方の影に入っていただきます。

 

「それにわたくしは断るとも言っていませんわ。早い男性は嫌われますわよ?」

「くっ……」

「武力で来るのなら、ちゃんと殴り返される覚悟はしておくのですわ。勉強になりましたわね?」

「覚えていろ! 必ず後悔させてやる!」

「あら、お金は要らないんですの? やりあうのなら、容赦はしませんわよ」

 

 そう言ってから、リーダーさんの横を通って歩いていきます。草履で血を踏まず、着物につかないように気を付けて歩きます。

 

「待てっ!?」

「あら、ここに居ていいのですか? 銃声を聞きつけてガネーシャ・ファミリアが来ますわよ?」

「くそがぁっ!」

 

 生きている動ける人達と共に動けない人を殺してから走り去っていきました。どうやら、口封じのようですが、その前に時間は吸い取っておきますので、自分たちで殺したつもりになってくださるでしょう。

 

「ガネーシャ・ファミリアだ! 動くな!」

「あら、ご苦労様ですわ。今しがた襲われまして、撃退させていただきましたの。あちらの方に逃亡していったので、追うなら追ってくださいまし」

「君は……」

「そいつなら問題ない」

「あら、シャクティさんではありませんの。団長自ら警邏ですか?」

「新月祭をパトロールも兼ねて楽しんでいただけだ。お前はもう少し格好をどうにかしろ」

「あら? 襲われたせいで少し乱れておりますわね」

 

 肩からずり落ちて胸元が現わになりかけております。手で直しながらシャクティさんの横に移動します。

 

「それでお前の事だ。情報を得るためにどうせわざと逃がしたんだろう?」

「あら、何の事ですか?」

「わからないはずがないだろう。ガネーシャに居るお前には何度もやられているからな」

「シャクティさんにはかないませんわね。どうやら、ソーマ・ファミリアが過去に行った不正の証拠があるようですわ。ですので、お金をゆすられました。まあ、考えさせていただきます。と、返答しておきましたわ」

「どう始末するかを考えるわけだな」

「ご想像にお任せしますわ。まあ、有象無象に好き勝手やられるのは気に食わないので、根元から処分させていただきますわ」

「不可能だろう。どちらにせよ、一時的にダメージを受けるのは確実だ」

「でしょうね」

 

 ギルドの豚さんなら、わたくし達から黒いジャガーノートを取り上げようとするでしょう。その前に手を打たないといけません。いっその事、全部ヘファイストス・ファミリアに渡してしまうのも手です。あ、それいいですわね。担保として預けておきましょう。管理はわたくしがして、所有権はヘファイストス・ファミリアにある。書類上だけでもこうしておけばどうにかできますわね。念の為、他の資産も全て別の場所に移しておきましょう。

 ツインテールをクルクルしながらそう考えていると、シャクティさんが飽きれた表情になっております。

 

「あくどい顔をしているぞ」

「気のせいですわ。それより、やる事がありますので、これでお暇いたしますわ」

「事情聴取は……」

「何時もの通り、ガネーシャに居るわたくしが書類作成までしっかりとやってくださいますわ」

「わかった……行け」

「それではごきげんよう」

 

 シャクティさんと別れてからお土産を買い付けて此花亭に送っておきます。その途中で人だかりを見つけました。そこから知った事のある声が聞こえてきます。

 

「さぁさぁ、お立会い! 遠き者は音に聞け、近き者は目によ見よ! そして、腕に覚えのある冒険者であれば名乗りをあげよ! さぁ、この槍を引き抜く英雄は誰だ!」

 

 どうやら、ヘルメスさんが舞台の上で水晶に突き刺された槍を前にして口上を述べておられます。

 

「これは選ばれた者にしか抜けない伝説の槍。手にした者には貞潔なる女神の祝福が約束されるだろう! 更に抜いた者は豪華世界観光ツアーにご招待! それにギルドの許可済みだぁぁぁっ!」

 

 ふむ。これは是が非でも抜かなくてはいけませんわね。外に出られるのなら、わたくし達を投下するチャンスでもありますし。

 

「「あ~~~!」」

 

 知り合いの声が聞こえますが、無視して舞台の上に上がります。

 

「おっと、ソーマ・ファミリアの団長、クルミちゃんの登場だ! 彼女はトップスピードでレベルを上げている期待の新星だ! 果たして伝説の槍を引き抜けるかぁっ!」

 

 槍を握りしめ、少しあげてみますがびくともしません。ですので、魔力を流し込んで水晶を破砕させて引き抜きます。

 

「ちょっと待ったぁっ!」

「なんですの?」

「それ引き抜くじゃないから! ぶち壊そうとしてるよね!」

「ちっ。結果は同じですわ」

「駄目! 駄目だからね! はい、次の人!」

 

 仕方ないので降りると、代わりにリリさんがやってきました。

 

「あら、どうしたんですの?」

「ちょっとベル様達と遊びにきてます」

「リリさんなら抜けるかもしれませんわね」

「はい! あの、フル装備をお願いします」

「かしこまりましたわ」

 

 リリさんに装備を渡します。彼女が槍の前に立ち、全力を出して引き抜こうとすると……舞台の方が壊れて槍が持ち上がりました。

 

「見てください! 抜けました~!」

「ちが~う! そうじゃない! 水晶から抜かないと駄目!」

「ぶ~ぶ~! 言われ通りに抜きましたよ~!」

「説明不足のヘルメスさんが悪いですわね」

「確かに俺が悪かった! でも、舞台ごとぶっ壊すなんて思わないじゃん! だから勘弁してくれ!」

「仕方ないですね。どうしますか、クルミ様?」

「そうですわね。わたくし達も旅行についていくという事で手を打ちましょう」

「最初からそれが狙いか! はぁ~わかった。それでいいよ。まあ、確かにその方が都合がいいか

「次は私です!」

 

 レフィーヤさん、アイズさんが挑戦し、続いてベルさんが挑戦します。どうやら、レフィーヤさんとアイズさんはキアラさんの様子を見た帰りみたいです。

 

「うわぁっ!?」

 

 どうやら、ベルさんが引き抜いたようで、ヘスティアさんがベルさんに抱き着きました。そのあと、旅のスポンサーであるアルテミスさんが紹介され、ヘスティアさんが抱き着こうとしましたが、無視されて彼女はベルさんに抱き着かれました。その後、怒ったヘスティアさんが皆さんを連れてホームへと向かわれます。

 もちろん、わたくしもご一緒します。書類は別のわたくし、オペレーター達に任せておきます。楽しい旅行の始まりです。あの人達はもうちょっと泳がしてから収穫しましょう。

 

 

 




バカンスが楽しみですね。なお、そこには……



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オリオンの矢
オリオンの矢1


 

 

 

「さっきのはどういうつもりだアルテミス!」

「すまない……つい、うれしくて……」

「嬉しいってどういう事だぁぁぁぁっ!」

「め、女神様、僕達、初対面ですよね?」

「え? え?」

 

 薄暗い廃教会の中、ヘスティアさんの叫び声が響きます。アルテミスさんはベルさんをずっと見詰めています。それで尚更、ヘスティアさんがイラついておりますね。

 

「ヘルメス~! アレがアルテミスだって! おかしいだろう!」

「あ~アルテミスも下界の生活に染まっちゃったんじゃないかな?」

「そんなバカな~!」

「元々、どんな方だったんですか? アルテミス様って」

「天界の処女神の一柱なんだ。貞潔を司り、純潔を尊ぶ。言っちゃえば不純異性交遊撲滅委員長。大の恋愛アンチだ」

「「「恋愛アンチ!?」」」

 

 わたくし達の声が揃いました。どう見てもそうは思えません。アルテミスさんはベルさんに恋をしているような感じに見えます。

 

「それがどうしてこうなったぁぁぁぁっ!!」

「でも、なんでそんな恋愛アンチの女神様がスポンサーなんですか?」

「確かにおかしいですわね」

「実はオラリオの外に魔物(モンスター)が現れた」

「オラリオの外に?」

「ああ、アルテミス・ファミリアが発見したんだが、ちょっと厄介な相手でね。それでオラリオに助けを……」

「つまり、観光ツアーとは名ばかりで……」

「アルテミス様がご依頼された魔物(モンスター)討伐のクエスト、というわけですか?」

「さっすが! 鋭い!」

「話が旨すぎると思ったら……」

「詐欺ですヘルメス様! どうしてやりましょうか、クルミ様」

「そうですわね……詐欺はわたくしも困りますわ。この昂った気持ちをどうしたらいいのしょうか? 困りましたわ」

「まあまあ……」

 

 話していると、アルテミスさんが立ち上がって槍を掴み、わたくし達を遮ってベルさんの前に立ちました。

 

「私はずっと貴方を探していた、オリオン」

「いや、僕はベル・クラネルと言って……」

「いいや、貴方はオリオン。私の希望」

 

 アルテミスさんは話を聞いてません。どうあってもベルさんをオリオンさんにしたいみたいです。

 

「どうして僕なんですか? アイズさんとか、僕より強い人はいっぱいいるのに……」

 

 ベルさんはそう言いながらわたくし達の方を見てきました。確かにまだレベル2のベルさん、レベル4になったわたくし達では力が違います。

 

「この槍を持つ資格は強さではない。穢れを知らない純潔の魂」

 

 なるほど、それならわたくし達に反応するはずがありませんわ。わたくし、魂が汚れている自信がありますもの。

 

「わたくし達が引けないのは納得ですわね」

「ですね。リリもそう思います」

「そこで頷くのかい!?」

 

 わたくしとリリさんが汚れているのは知っています。わたくし達はどちらも人を食い物にして生きてきましたしね。わたくしは現在進行形ですけれど。

 

「ヘルメス様、この槍……」

「言っただろう! 伝説の槍だって! ヘファイストスもお墨付きの武器だぜ! 君は槍に選ばれたんだよ、ベル君!」

「「おぉ~」」

 

 リリさんとわたくしで拍手してあげます。ベルさんは未だにキョトンとした感じです。

 

「槍に選ばれた……僕が槍に……」

「うぇっ!?」

 

 アルテミスさんがベルさんの頬に手を伸ばして触れました。それにヘスティアさんが声をあげます。

 

「その穢れなき魂と共に槍を携えて私と共に来て欲しい、オリオン」

「僕は……」

「ソーイ!」

 

 驚いたことに怒りが限界まで来たのか、ヘスティアさんが飛び上がってアルテミスさんの額と自らの額を衝突させました。

 

「くぅ~~」

「うぅ~~痛いぞヘスティア~」

「僕だって痛いやい!」

「大丈夫か?」

「あ、ありがとう」

 

 アルテミスさんは自ら攻撃してきたヘスティアさんの額を撫でていきました。普通にいい人、いえ、神様なんでしょうね。

 

「って、違うわ~い! アルテミス! そのクエスト引き受けた!」

「え、神様!?」

「神友が困っているなら、助けるのは当然だ!」

「っ!? ありがとうヘスティア! 本当にありがとう!」

 

 アルテミスさんが感極まったのか、ヘスティアさんに抱き着きました。

 

「それに君とベル君を二人っきりにさせるのも危険だしね」

「あ~リリ達はどうしますか?」

「そうですわね……旅行でないのなら、そこまで行く必要はあまりありませんわね」

「「それは困る!?」」

 

 ヘスティアさんとヘルメスさんの言葉が同時に発しました。

 

「どうしたんだいヘルメス? 僕はベル君の護衛に彼女達が来て欲しいと思ったんだけど……」

「あらあら、これは正直に告白して頂きたいですわね。わたくし、別にリリさんと一緒にこのまま帰ってもいいのですが……」

「わかった。正直に言おう。今、僕のファミリアが討伐魔物(モンスター)が居る遺跡を監視している。そこから、大量の魔物(モンスター)が溢れ出している。とてもではないが、僕のファミリアだけでは抑えきれないのがわかっていた。何せ、アルテミスのファミリアでも無理だったんだ。だから、別の優秀な者を追加で連れて行き、どうにかなると思った。その子は大事な用があるから抜けられないと言われたんだ。ああ、もうわかるだろう。君のせいだよ、クルミ」

「知った事ではありませんね。たまたま都合が悪かった。それだけでしょう」

「そうなんだけどね! まあ、用意できないのなら仕方がない。実際に行って確認してみたが……やはり無理だった」

 

 皆さんの視線がこちらに集まってきますが、気にしません。むしろ、ニコニコして答えます。

 

「それもあって、アルテミスと共に奴を倒せる槍の使い手を探し、戦力を集めにアスフィとアルテミスを連れてオラリオに戻って来たわけだ」

「あれ、それなら別にクルミ様でもなくていいですよね?」

「いや、彼女でないと駄目だ。馬鹿みたいに敵の数が居るんだ。被害を抑えるためにはこちらも数を揃えないといけない。それに時間もないから、物資と戦力の輸送に優れた彼女が適任なんだ」

「なるほど。確かに大手が動くのに時間がかかります。それにカバーできる範囲は少ないでしょう。クルミ様ならその手段が全て解決できます」

「と、言うわけだ。頼むよ」

「その敵は魔石がありますの?」

「ああ、あるよ」

「大量に居るのですわね?」

「ああ、地面を埋め尽くす勢いだ」

「なるほど。わたくしを雇うなら高くつきますわよ」

「アルテミス・ファミリアの全財産をあげる。それで手を打ってくれないかしら?」

「アルテミス!?」

「お願い。子供達。今も襲われている子供達を助けるためにもお願いできないだろうか?」

「そう言われたら、断れませんね。リリは行きます。クルミ様はどうしますか?」

「もちろん、胡散臭いおじさんに言われたのならともかく、女神様のお願いでしたら叶えてさしあげましょう」

「おじさんは酷いな。せめてお兄さんと呼んでくれ」

 

 さて、バカンスの予定でしたが、残念ながら楽しい戦争になりそうです。

 

「さて、皆は来てくれるようだ。後はベル君だけだが……答えはもう決まっているんじゃないかな?」

「わかりました。そのクエスト、お受けいたします」

「ありがとう、優しい子供達。貴女達は私の眷属ではない。だが、これからは旅の仲間。どうか私と契りを交わして欲しい」

「え?」

「キスだよ、キス」

「あっ!」

 

 アルテミスさんの手の甲にキスをしていきます。男ならお断りですが、女性なら構いません。キスしてから、すぐに準備をしなくてはいけません。

 

「よし、今から出発だ。準備はすでにできている。アスフィ!」

「はい、ヘルメス様」

 

 アスフィさんが沢山の荷物を持って他の眷属の方々とやってきました。どうやら、忙しかったのはこれらを用意していたからのようですわね。

 

「今からサイズを調整します。急いで着替えてください」

「わたくしは自前のがあるので必要ありません」

「リリもです」

「まあ、君達の装備は馬鹿みたいにお金がかかってるしね。それより、リューを呼べるかな? 戦力が多い方がいい」

「それは駄目です。今、リューさんはアストレアさんと共に居ます。ですので、邪魔はできません。彼女の分もわたくしが努めますわ」

「なるほど、相手はアストレアか。それなら仕方がないか」

 

 ヘルメスさんも納得してくれたようなので良かったです。わたくし達が話している間に皆さんが準備できたようです。

 

「後は細かい準備だが、出来次第南外壁の上に来てくれ。そこから出発する。そうだね、一時間で用意してくれ」

「「「はい!」」」

 

 さて、わたくしも用意しましょう。どうせなら黒ジャガ装備を作ってみるのもいいかもしれません。ヘファイストスさんと椿さんにお願いしておきましょう。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 南外壁の上に移動したわたくし達はそれぞれ装備をしています。もちろん、わたくしの装備は輸送する予定なので持っていません。服は何時もの赤いドレスです。

 

「あれ、ヴェルフ様、魔剣を持っていくんですか?」

「一応な。敵が多いらしいからな」

「あの、アルテミス様。ここからどう行くかわかりますか?」

「……ごめんなさい。わからないの」

「そうなんですね」

「安心したまえ! 今、来た!」

 

 ヘルメスさんが上を指さすと、空から誰かが落ちてきました。

 

「ガネーシャ!?」

「そう、俺がガネーシャだ!」

 

 どうやら、ガネーシャ・ファミリアに依頼したみたいで、外壁の上に複数のワイバーンが降りてきました。そのワイバーンがリリさんを舐めまわしだしました。

 

「ガネーシャに事前に依頼していた。地上から向かうと三十日はかかるけれど、これなら十日で行けるからね」

「竜の数が足りませんね」

「確かに足りないな」

「ぶっちゃけ用意できなかった!」

「そんなわけで二人から三人で頼む」

「二人!? それならベル君と……ベル君と……」

 

 ヘスティアさんがベルさんを誘う前にアルテミスさんが誘って二人で乗りました。わたくしは当然、リリさんと乗ります。残ったのはヴェルフさんとヘルメスさん、それにヘスティアさん、アスフィさんです。

 

「アスフィは……」

「私はヘスティア様と乗ります。ヘルメス様はヴェルフさんとお願いします」

「アスフィ!?」

「ヘスティア様、こちらに」

「うむ。ベル君がいいけど、仕方ないね」

 

 そんなわけで、ワイバーンに乗って飛び立ちます。こちらの意思通り、ちゃんと伝えれば飛んでくれます。しっかりとテイミングされているだけはあります。さすがはガネーシャ・ファミリアです。

 

「いってらっしゃーい!」

 

 ガネーシャさんに見送られつつ、わたくし達は空の旅へと出ていきます。

 

「大丈夫ですか? 怖くないですか?」

「怖い?」

「暗いし高いし、竜が怖かったりとか……実は僕もちょっとドキドキしているっていうか……」

「鼓動が早くなってる。これがドキドキというのか?」

「むきー! ベル君から離れろぉぉぉっ!」

「ヘスティア様! 待って、落ちますから!」

 

 あちらは混沌としています。わたくしは大人しくリリさんをモフモフしていましょう。そう思って振り返ると、後ろにリリさんの顔があります。

 

「はいはい、大人しくしておいてくださいね、クルミ様」

「むぅ……」

 

 リリさんに後ろから抱きしめられて固定されてしまいました。これではリリさんをモフモフできません。むしろされる側です。ですので、大人しく景色を眺めるとしましょう。山の先から太陽の光が差し込んでとても幻想的な光景です。

 

「ところでヘルメスさん。急いでいるんですよね?」

「ああ、そうだが……」

「わかりました。<刻々帝(ザフキエル)>、一の弾(アレフ)。さっさと行きましょう。でないとパーティーに遅れてしまいますからね」

「「「いきなり速くなったぁ!?」」」

 

 ワイバーン達の身体能力を上げて加速させ、素早く移動しましょう。時は金なりです。ここからしばらく空の旅を楽しませてもらいましょう。

 

 

 



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オリオンの矢2

 

 草原を越え、山を越え、川を越え、早三日。早々に景色に飽き、楽しみと言えば食事とリリさんの耳をモフモフするだけ。そのモフモフも早々にリリさんに騎獣である(ワイバーン)の操作が乱れるという理由で禁止されてしまいましたので、もう本当に暇です。

 ですので、基本的に魔導具の設計図を作るだけの時間です。他のわたくし達はオラリオで戦争の準備をしており、精力的に武器や解析用の魔導具を作っています。わたくしが作ってくるみねっとわーくで送った設計図を基にしてヘファイストスさんと椿さんに工房をお借りして作っています。此花亭と隣接しているソーマ・ファミリアのホームでは危険ですからね。

 

「やぁ~いい風だね~何時までも飛んでいられるねぇ……」

「何を呑気な事を……」

「もう三日ですものね」

「いやいや、かなり速いペースで移動しているよ。普通ならここまで竜でも一週間はかかるからね」

 

 リリさんに背中を預けながら、趣味武器(大鎌)の設計図を作っていると、ベルさんとアルテミスさんの乗る(ワイバーン)が急に方向を変えて森へと降りていきました。

 

「リリさん」

「なんですか?」

「何かあったようですので、行ってきますわ」

「え?」

 

 竜から飛び降りて時喰みの城(ときばみのしろ)を展開して空を飛んでベルさん達が乗る(ワイバーン)を追いかけます。

 

「クルミ様ぁぁぁぁっ!?」

 

 リリさんの悲鳴が聞こえますが、暇つぶしのイベントかも知れません。逃すつもりはありませんわ。

 

 

 

 追っていると、爆音が響いてきました。森の中、木々を避けながら急速飛行していくと、アルテミスさんが(ワイバーン)から降りて、数十から数百匹のサソリ型魔物(モンスター)達から親子を守って戦っている姿が見えます。それもアルテミスさんが囲まれて、ベルさんも魔物(モンスター)に阻まれてかなりピンチの状況です。

 

「仕方がありませんわね。わたくし達、やってしまいなさい」

「間に合えぇぇぇぇっ!!」

 

 わたくし達が銃撃する前にベルさんが持っていた槍を投擲しました。その槍は空中で神聖文字(ヒエログリフ)が槍に浮かび上がり、更に先方に次々と魔法陣が現れてどんどん加速し、飛んでいきました。

 

「きひっ! ああ、ああ……最高ですわ!」

 

 森の中で停止し、思わず見惚れるような破壊をもたらした槍。嬉しさのあまり、歪む顔を両手で押さえておきます。それでもわたくしが邪悪な微笑みを浮かべているのはわかります。

 

「風の圧縮とかどうでもいいですわ。これです。これですわよ、わたくし達」

「ええ、そうですわね。大変素晴らしい」

「鱗が落ちるような気分です。わたくし達は内部による改造を考えておりました。ですが、外部に加速用の魔法陣を展開するなど、考えもしませんでした」

「銃に拘り過ぎましたわ。ところで、わたくし達。あの槍に刻まれた魔法陣、覚えましたか?」

「うろ覚えですわ」

「確実とは言えません。刻まれた神聖文字(ヒエログリフ)については魔力を流した時にある程度は……」

「でしたら、あの槍を徹底的に調べますわよ。解析用の魔導具はできましたか?」

「まだできておりませんわ」

「早急に最優先で作ってくださいまし」

「わかりましたわ」

 

 わたくし達が木々の影から消えていったので、わたくしは森から出てベルさん達と合流します。落ちている魔石は時喰みの城(ときばみのしろ)で回収しておいきましょう。

 

「すげぇ……」

「アレが槍の力……」

 

 ヴェルフさんやリリさん達もこちらに到着したようです。ベルさんはアルテミスさんのところへ駆けていき、無事を確認しておりますね。

 

「アルテミス様! 大丈夫ですか!」

「ああ……」

 

 わたくしは親子の方へと向かいます。

 

「お怪我はございませんか?」

「お姉ちゃん綺麗……」

「あの、貴女は……」

「あちらの方々の連れですわ。怪我は……見たところございませんわね?」

 

 親子は怪我がないようなので、ポケットに入れておいた飴を取り出して小さな女の子の口に入れてあげます。

 

「助けていただき、ありがとうございます……」

「ありがと~!」

「いえいえ、お礼はあちらの二人にお願いしますわ。ところで色々と聞きたいのですが、構いませんか?」

「はい」

「あの魔物(モンスター)達は何処に居ましたか?」

「わかりません。逃げていると急に現れて……」

「なるほど。これまで見た事はありますか?」

「ありません。でも、最近は近くの村や街が襲われたという話も聞こえてきてはいました。ですから避難している最中に襲われて……」

 

 どうやら、この辺りまで来たのは斥候のようですね。アストレアとヘルメスの両ファミリアが取りこぼしたのがこちらに回ってきているのでしょう。そもそも防げていない可能性が高いです。

 

「女の子だから! 女の子は守るものだっておじいちゃんが……だから!」

「うふふふ。そんな事を言われたのは初めてだ。こう見えて私はヘルメスやヘスティアよりずっと強いのだぞ」

「それでもですよ……」

 

 まったくもって面白い人です。女たらしと言えます。要注意人物ですわね。リリさん達を寝取られたら……鉛玉を額にぶち込んでさしあげます。

 

「っ!?」

「どうしたのだ?」

「な、なにか寒気が……き、気のせいかな?」

「アルテミス! ベル君! クルミ君! 三人共無事かい!」

 

 殺気を収めてから、皆さんが歩いてくる方を見ます。

 

「ああ」

「君が強いのは知っているけれど無茶はしないでくれ」

「今、貴女の子供にも同じ事を言われてしまった」

 

 リリさんがこちらにやってきました。怒っているようなので、緊急回避を実行します。

 

(ワイバーン)に乗ってみたくはありませんか?」

「いいの!」

「リリさん、この子を乗せてあげてください」

「は?」

「だ、だめ……?」

「くっ、卑怯ですよクルミ様!」

「お願いしますわ」

 

 リリさんに任せてから、わたくしはベルさんの所へ移動します。ベルさんはヘルメスさんに肩を抱かれて何か、内緒話をしておられます。もちろん、聞き耳を立てます。

 

「ベル君。危ないから余り槍は使わないでくれ」

「あっ、はい。ヘルメス様、この槍って……」

「それに気付かれたくないしね」

「はい?」

「ベルさん。ちょっといいですか?」

「クルミ、どうしたの?」

「その槍を少し見せてくださいまし。わたくし、鍛冶技能も収めておりますので、調整が可能です。魔導具にも詳しいので」

「いや、それは大丈夫だよ」

「どうしてそう言えるのですか?」

「これが伝説の槍だからだ!」

「あほですか」

「ちょっ!?」

「最低でも持ち手の部分を調整します。ベルさんが使い易いように」

「確かにそうだな。手に合うようにしておいた方がいい」

「そうだね。お願いするよ、クルミ、ヴェルフ」

「任されました」

「おう」

 

 二人で槍を預かり、引っぺがして刻まれている神聖文字(ヒエログリフ)を書き記していきます。もちろん、普通にやったら咎められる事はわかりきっているので、わたくしが見てくるみねっとわーくを介して他のわたくし達がそれぞれの担当部分を書き記していきます。

 

「さようなら、神様! ありがと~!」

 

 女の子がお礼を言い、手を振ってきます。隣の母親である女性はわたくし達のリュックを背負っています。その彼女の隣には別のわたくしも居ます。護衛という事で、わたくしの分身をつけておきます。彼女達が街につけばそれだけでも交易路の確保というメリットにもなりますしね。

 

「人助けはいいんですが、食料、全部渡してしまってどうするんですか?」

「残りはパンだけだな……」

「私は食べなくても大丈夫だ」

「アルテミス様が良くても! リリ達はすっかり空腹なんですぅ!」

「え?」

 

 アルテミスさんがわたくし達を振り返って見渡してきます。

 

「「「「うん」」」」

 

 わたくし達が一斉に頷くと、キョトンとした表情になった後、アルテミスさんが土下座してきました。

 

「申し訳ありませんでしたぁ!」

「なんなんですかぁ! このポンコツわぁ!」

「おいおい、一応女神だぞ」

「ヴェルフさんも一応とか言っていますわね」

「女神様とはいえ、ポンコツはポンコツです! ポンコツを司るポンコツ女神様ですぅ!」

「はぁ……なんでこうなったかなぁ……」

「そんなに違うんですか?」

「あぁ。怖いくらいに毅然として女傑というか、天界じゃ沐浴を覗かれただけで、恥を知れ! この豚共! って言って、男神共にありがとうございます! とか、言われていたよ」

「いやぁ、そんな事もあったなぁ~うんうん」

「ヘルメス様ぁ~!」

「落ち着けアスフィ!」

 

 ヘルメスさんがアスフィさんに襟元を掴まれて揺すられていますが、どうにか執り成しができたようです。

 

「今日はもう日も暮れます。ここで休んで明日の朝、出発しましょう」

「アスフィの言う通りだ。日が落ちる前に寝床を用意しないといけないからね」

「じゃあ、食事は~!」

「今日は我慢かな」

「そんな~! お腹空いたよぉ~!」

「す、すまない~!」

「あ、じゃあわたくしはオラリオで食べてきますわね」

「「「まてやぁぁぁっ!」」」

 

 くるりと踵を返してその場を移動しようとすると、皆さんにしがみ付かれました。

 

「そういえばクルミ君って移動はもちろん、物資の輸送もできるんだよね~!」

「ああ、そうだ。ロキ・ファミリアでの話も聞いているぞ!」

「俺も団長から聞いた。攻城兵器すら移動可能なんだってな?」

「クルミ様。クルミ様。リリは別ですよね! 同じファミリアで、リリはクルミ様の忠実な僕なんですから!」

「クルミ、すまない。どうにか用意してあげてくれないだろうか?」

「やれやれですわね。こんな事もあろうかと既に注文してありますわ」

 

 両手を叩き、影からテーブルを呼び出します。大きなテーブルには沢山の料理が並んでいます。それもほぼ出来立てです。

 

「ナニコレ!?」

「凄い豪華だな!」

「アレ、この匂い……」

「クラネルさんも気付きましたか。豊穣の女主人の料理だと思います」

「アスフィさんの言う通りですわ。あちらに居るわたくし達が注文してテーブルに置いてもらい、それごと運びました。後、これは貸しですからね。代金は後程、ヘルメスさんとアルテミスさんに請求いたします」

「いや、アルテミスだけじゃないのか!?」

「そうです。うちに支払う余裕なんてありませんよ!」

「わたしが支払うぞ」

「いえ、そもそもアルテミスさんの全財産は既にわたくしの物です。そういう契約ですもの。それに今回のツアーはあくまでも、スポンサーがアルテミスさんで、企画と運営はヘルメスさんです。ですので、請求はヘルメスさんにもいきます。むしろこちらがメインですわね」

「くっ、反論できません!」

「はっはっはっ、お手柔らかに頼むよ。本当にね」

「ええ」

「もう食べていいかい!」

「あ、手洗いだけはしっかりとしましょうか。水も出します」

 

 楽しい食事会の始まりです。皆さんが食事をしている間にわたくし達に指示を出して周囲を探索させていきます。今夜は狩りの時間です。他に魔物(モンスター)が居ないとも限りませんからね。

 

「ああ、旅先でこんな豪勢な料理が食べられるなんて!」

「確かにな」

「クルミ、貴女は凄いのだな」

「これでも精霊ですからね」

「そうなのか? 確かに人とは違うな。だが、精霊とも言い切れない。なんというか、ごちゃ混ぜだ」

「彼女にも理由があるんだ。詮索は無しで頼むよ、アルテミス。怒らせて帰られると困るんだ」

「おっと、すまない」

「いえ、気にしておりませんわ」

「あ、あの、アルテミス様は食べないんですか?」

「あぁ、私はいい」

 

 おかしいですね。普通に神様は下界に来たのなら食事をします。そういえばここに来るまでの間、アルテミスさんは()()も食事をしておりません。それに排泄にも行っていません。下界に降りてきた神はほぼ人間と変わらないはずです。いえ、トイレはしないのかもしれませんが。どちらにせよ、アルテミスさんから感じるはずの体臭は……しませんね。

 

「そうですか?」

「はい、あ~ん」

 

 アルテミスさんがベルさんにあ~んをしました。

 

「させるかぁ!」

 

 ヘスティアさんが無理矢理ベルさんにあ~んをさせます。わたくしもリリさんにスプーンで料理を掬って口元に運んであげます。

 

「あ~ん」

「なんですか。そういう事はキアラにでもしてあげてください。喜びますよ」

「あ~ん」

「だから」

「あ~ん」

「無限ループ!? わかりましたよ!」

 

 食べたリリさんに満足したのでどんどん食べさせます。満足したからこそ、食べさせます。

 

「ちょ!? そんなに要りませんから! こうなったらお返しです! あ~ん!」

「もきゅ」

 

 こちらもお返しして、二人で交互に食べさせていきます。こんな風に平和な食事が終わりました。

 

「それにしても、あの魔物(モンスター)はなんだったんだ?」

「サソリ型の魔物(モンスター)は居ますが、アレは見た事がありません。下層以降に居る魔物(モンスター)ならリリ達が知らなくてもおかしくはありませんが、それにしては弱すぎます」

「近くの村を襲っているって言っていたけれど……」

「事の始まりは魔物(モンスター)の異常な増殖が確認された事だった。原因を調べるために多くのファミリアが派遣されたが、全て消息を絶った」

「私達、ヘルメス・ファミリアが調べたところ、全てのファミリアが全滅していました。おそらく、あの魔物(モンスター)達にやられたんでしょう」

 

 ヘルメスさんとアスフィさんが焚き火を囲いながらわたくし達に教えてくれます。ですので、わたくし達は紅茶を飲みながら聞いていきます。

 

「場所は彼の地、エルサス。そこの遺跡にはある封印が施されていた」

「封印? 何をですか?」

「面白そうな話ですわね」

「丘を腐らせ、海を蝕み、森を殺す。あらゆる生命から力を奪う」

 

 あらあら、わたくしと同じ存在なのかもしれませんわね。わたくしも同じ事ができますし。

 

「古代、大精霊達によって封印された魔物(モンスター)……アンタレス……」

「アンタレス……」

 

 魔物(モンスター)であればわたくしとは別ですね。しかし、その力はわたくしにとっても福音となるかも知れません。これは是が非でもドロップアイテムか、アンタレスの力を手に入れましょう。力を吸収して奪う魔導具を早急に作りましょう。その為には情報収集からですわね。

 

「アンタレスは私達が気付かないように長い時を掛けて深く静かに力を蓄え、ついに封印を破った」

「封印を破ったって……」

「それじゃあ……」

「ああ、今回の件をオラリオのギルドも重く受け止めていてね。俺のファミリアを派遣したんだ」

「私達も全力で戦っていますが、戦力が足りませんでした。相手の数が凄まじく、遺跡の近くに陣地を構えて監視することぐらいしかできません。とてもではないですが、殲滅することは無理です」

「俺達だけでは精々、数を減らす程度というわけだ。そこで同じ目的で活動していたアルテミスと出会い、援軍を呼ぶ為に俺とアスフィはアルテミスを連れてオラリオに戻った」

「アスフィさんもですか?」

「ええ。医療系や食料系のファミリアに避難民の援助要請や武器の調達。お金がありませんので、借金という形でしか無理です。そのため、団長である私が出ないといけません。ヘルメス様はギルドへの依頼書や対処するために戦力をオラリオの外へと出す事の許可。それに槍の使い手を見つける方法などを考えておられました」

「待ってください。それならもっと強いファミリアでいいじゃないですか。それこそフレイヤ・ファミリアやロキ・ファミリアで……」

「無駄だ。アンタレスはあの槍でしか倒せない。そして、槍は槍に選ばれた貴方にしか扱えない」

「なるほど、特効武器というわけですわね。そして、わたくしとリリさんの役目は妨害してくるだろう護衛の排除、というところですか」

「そういうわけだ! いやぁ、話が早くて助かる! なぁに、大丈夫さ! 槍さえあれば全て上手くいくさぁ! 明日に備えてもう寝よう!」

 

 ヘルメスさんが無理矢理話を切りました。それから、わたくし達はそれぞれの天幕へと戻って眠りにつくことになります。わたくしは起きて見張りをします。ええ、皆さんの影にわたくし達を潜ませながらです。

 

「それでね。この間もベル君、起こしてくれなかったんだ」

「それでバイトには間に合ったのか?」

 

 怪しく感じるアルテミスさんの監視を優先しています。アルテミスさんはヘスティアさんと一緒の天幕で下着姿になり、一緒に寝ころびながら話しています。ちなみにベルさんはヴェルフさんと一緒で、リリさんとわたくし、アスフィさんは同じ天幕です。ヘルメスさんはアレです。木に縛られております。覗きとかするので仕方がありません。

 

「うん。なんとかね。でも、危なかったよ。遅れていたら、ヘファイストスとクルミ君が何を言い出すか……」

「ふふ、ヘファイストスも相変わらずだな。しかし、クルミもか?」

「彼女はヘファイストスのところでも働いているからね。それに僕が働いている別の場所、旅館なんだけど……そこの幹部なんだよ。それも幹部の中でも他の神々と同等の権力を持ってる」

「それは凄いな」

「そんな訳でヘファイストスのところに遅れると、クルミ君のところにも筒抜けになっちゃうんだ。バイトが無くなると困るしね」

「そうか。ヘスティアも変わったんだな」

「何がだい? 君の方が変わったと思うけど……」

「正直、意外だった。ヘスティアがファミリアを持つとは思わなかった」

「まあ、ベル君しか居ないんだけどね」

 

 これが女子トークという奴なんですね! ちょっと背徳感があります。盗聴ですし。

 

「ヘスティア」

「なんだい?」

「貴女はオリオンの事をどう思っているんだ?」

「ひゃあっ!? どっ、どどうって! 可愛い眷属だと思っているよっ!? いやぁ、正確にはそれ以上というか、ボクにとって不可欠な存在というか……」

「ん?」

「ボクの宝物なんだ」

「そうか……私も彼と共に居ると胸がドキドキする」

「なぬぅっ!?」

「なんなのだろう。この気持ちは……」

「べ、ベル君はボクの眷属だぞ!」

「知っているぞ?」

「だ、だからそんな事を思っちゃ駄目だ!」

「何故だ?」

「何故って……なんでもだっ! 君はそういうの駄目だったじゃないかアルテミス!」

「そうだったか?」

「まったく! 恋愛アンチの君は何処に行ったんだ!」

 

 急に足を暴れさせていたヘスティアさんが落ち着き、ジッとアルテミスさんの方を見ます。

 

「ん? ヘスティア?」

「ねえ、アルテミス。今、君のファミリアは?」

「…………ここには居ない。だが、私の帰りを待っている」

 

 長い沈黙の後、アルテミスさんが告げた言葉でもうわかりました。彼女の眷属は既にアンタレスに()られてしまったのでしょう。

 

『無理ですよ、ルーラー』

『ええ、不可能ですわよ、オリジナル』

『わかっておりますわ。まずは情報収集に努めます』

 

 アルテミス・ファミリアの壊滅が一日二日であれば過去改変は可能でしょう。ですが、それ以上であれば色々と手段を講じなければなりません。一朝一夕で過去改変ができるほど、わたくしは強くありません。だからこそ、まだリトル・ナイトメアなのです。

 

「……本当に君は変わったね」

「そうか?」

「ああ、不変な神々なはずなのに君は変わった」

 

 ヘスティアさんはアルテミスさんの胸に顔を埋めながら眠りにつきました。アルテミスさんは灯りを消して一緒に眠りにつきます。

 

「はぁ、ままならないなぁ……」

「何がですの?」

「うわぁっ!?」

 

 大きな木の枝に座らされてロープで縛られているヘルメスさんを上から逆さまの状態で覗き込みました。すると良い反応で驚いていただけました。

 

「ちょっと、クルミちゃん。そういうの止めてくれないかな? マジでビックリするからさ」

「それもそうですわね」

 

 木の枝に立ちながら、ヘルメスさんと視線を合わせます。

 

「アルテミスさんについて、隠している事を全て話してくださいまし」

「もう話しただろ?」

「食事を取れない理由を教えてもらっていませんわ」

「それは神々の自由ではないかな?」

「そうですか、そうですわね。わかりましたわ」

「そうか。それは良かった。じゃあ、出来ればこのロープを外してくれないかな?」

「お断りますわ」

「なんで!?」

「それは今から撃つ獲物が逃げないためですの。神威霊装・三番(エロヒム)

 

 小銃を呼び出し、ヘルメスさんの額へとあてます。

 

「え!? いや、ちょっと待って!? 今わかったって言ったよね!」

「ええ、わかりました。真実を教えてくださらない事がわかりました。ですから、強制的に教えていただきますわ。<刻々帝(ザフキエル)>、十の弾(ユッド)

()()()()

 

 ヘルメスさんが神威を解放して止めてきましたが、もう遅いですわ。

 

「残念ながら、わたくしにそれは効きませんの」

 

 引き金を引き、弾丸をヘルメスさんの頭に叩き込みます。同時に寝ているアルテミスさんが飛び起きた瞬間に彼女も別のわたくしが十の弾(ユッド)で撃ちます。ついでにベルさんが持って寝ていた槍も撃ちます。

 すると膨大な、それはもう膨大な記憶が流れ込んできました。くるみねっとわーくを通して全員で一斉に処理します。必要な情報はオリオン、アルテミス、アンタレス、槍など今回の事件について。

 

「きひっ!! きひひひひひっ!」

「何をしているんですかクルミ・トキサキ!」

「何事ですか!?」

 

 ヘルメスさんの神威を受けて皆さんが慌てて天幕から出てこられました。アルテミスさんに至ってはヘスティアさんを掴んでこちらに出てきて、武器を構えております。もちろん、ヘルメス・ファミリアの団長であるアスフィさんもです。

 

「まさか、アルテミスにも撃ったのか!」

「ええ、ええ、当然ですわ。事を実行するには防がれないように怪しまれず、同時に実行すべきですものね」

「な、何事だい!?」

「ヘスティア! クルミが私に攻撃してきた! それにヘルメスが神威を解放した」

「クルミ君、どういことだい?」

「ボクも聞きたい事があります。槍を撃ちましたよね?」

「ええ、そうですわね」

「クルミ様? リリはどうしたら……」

 

 オロオロしているリリさんも可愛らしいです。皆さんの事がかなり好きになっているようですわね。

 

「リリさんはどちらにつきます? わたくしですか? それともヘルメスさんですか?」

「もちろん、クルミ様です! でも、ベル様達と戦えと言われると……その、手加減してしまいます」

「ああ、そうですか。そうなんですね」

 

 手加減という事はこちらの味方になってくれるようです。それなら構いません。

 

「おっと、アスフィさん。動かないでください。ヘルメスさんの頭に風穴が空きますわよ」

「くっ……」

「神殺しは大罪だよ?」

「その神殺しを無知で純粋なお人にやらせようとしている方がそれを言いますの?」

「「「え?」」」

「待て! これはそういう(物語)では……」

「そういう(物語)ですわ。神々の戯れも遊びもいい加減にしないと……ぶち殺してさしあげますわよ?」

「な、何を言っているんだい!?」

「ヘスティアさん、帰ってください。ベルさんと一緒に」

「え?」

「コイツ等は……」

「やめろ! 止めるんだ!」

「ベルさんにアルテミスさんを殺させようとしています」

「なんだってっ!? 嘘をついていない! どういう事だヘルメス! アルテミス!」

「どういう事ですか!」

「違う! 俺達は……」

「わたくしの<刻々帝(ザフキエル)>、十の弾(ユッド)は対象の記憶を読みます。これでヘルメスさん、アルテミスさん、その槍の記憶を読みました。それで判明した事実です」

「これは世界のためなんだ! 大事な事なんだ!」

「情報隠蔽も大概にしてくださいな。わたくし、怒ってますの。わたくとリリさんの大事なお友達であるベルさんに心の傷を植え付けるような事をされて平静でいられるとでも思っていますの?」

 

 本当にいい加減にして欲しいです。ちゃんと情報を伝えるのは当然の事です。心構え一つで危険度が全然違うのです。

 

「あ~とりあえず全員落ち着け! 冷静に話し合おう!」

「そうですね。まず、ヘルメスさんとアルテミスさんから根こそぎ情報を引き出しましょう。アスフィさんもそれでいいですよね?」

「……ええ、事が神殺しを犯させようというのでしたら、許されません」

「アスフィ……」

「ヘスティア様。クルミの言葉に嘘は無いんですね?」

「ああ、保証する。ボクの全てを賭けてもいい。彼女は嘘を言っていない」

「ヘルメス様。話してください」

「クルミ様もいいですよね?」

「ええ、構いませんわ。わたくしが読み取った情報を全て提供します。これで嘘がない事を証明できるでしょう」

「ヘスティア……貴女は聞かないでくれ。その方がいい。悲しむ事になる」

「いや、それはできない。ベル君がかかわっているんだ。それに神友である君の事だ。聞かないわけにはいかない」

「そうか……残念だ」

「とりあえず、話し合いの為にテーブルとイスを用意いたしますね」

 

 ソーマ・ファミリアの食堂から長いテーブルと数のイスを取って配置します。テーブルの上にカンテラを置いて灯りを確保しました。

 

「では、現状を説明します。こちらに居るアルテミスさんは槍に宿った残留思念です。本体はアンタレスに取り込まれています」

「なんだって!? それでアルテミスは無事なのかい!」

「生きてはいる。だが、完全に融合してしまった。私を殺さなければアンタレスは殺せない」

「そうだ。そのアンタレスとアルテミスを殺すにはその槍でしか無理だ」

「そういう事ですか……」

「相手はアルテミスさんの神の力(アルカナム)を自由に使えます。そうですね?」

「ああ、そうだ。アルテミスが制限なく放つ。純潔の女神が放つ最強の矢も使われるだろう。そうなれば下界は文字通り、なにもかも吹き飛ぶ」

「「「そんなっ!?」」」

 

 下界が吹き飛ぶというのなら、発動前に出来る限りの生命を吸収してわたくし自身が十二の弾(ユッド・ベート)で過去へ飛ぶ、という方法もできますわね。本当に最悪ですが……

 

「どうにかする方法はないんですか!?」

「それがベル君が選ばれた槍だ」

「その矢は私が取り込まれながら神の力(アルカナム)を使って召喚した」

「神造武器か」

 

 本物の神造武器。そのデータが手に入りました。それにアルテミスさんとヘルメスさんのデータもです。これを基にしてわたくしが取るべき手段は一つ。

 

「神造武器ってリリが使ってるイフリートですか?」

「確かに君が使っている武器は神造武器とはいえる。だが、それはあくまでも神が造ったといえるだけで、ランクは最低の中でも最低だろう。今、言った神造武器は神々すらも殺せる武器だ」

「その名はオリオン。神々の言葉で射貫くものを意味する。それでどうか、私を貫いて欲しい。私は下界が好きだ。子供達が好きだ。だから、この世界を壊したくない。頼む、オリオン」

「そんなっ!? そんな事って!?」

「先にも言ったが、これは神殺しじゃない。魔物(モンスター)であるアンタレスを殺すんだ。結果的に確かにアルテミスも死ぬだろう。だが、それは彼女を救う事だ」

「詭弁ですわね。神を殺す事に変わりはありません」

「なら君は下界が滅べばいいというのか!!」

「そうは言っておりませんわ」

「ならどうするというのだ! 俺達にはコレしか方法がない! 俺だってアルテミスを殺したくはない! だが、それしかないんだ! だからあえて情報を隠し、どうしようもない状況まで追い込んで撃ってもらうつもりだった。それなら俺が恨まれるだけでいいからな!」

「ヘルメス様……」

「馬鹿馬鹿しいですわね。どちらも自己犠牲に酔っていますの?」

「なんだと!? ならば代案を出せ! それでアルテミスが救われるならいくらでも手伝ってやる!」

「ボクもだ。クルミ君、君ならどうにかできるんじゃないか? 時間を操れる君なら、アルテミスを巻き戻せば可能だろう!」

「神々には時間という概念が存在しません。ですので不可能ですわね。精々が記憶を読んだりすることでしょう」

 

 まあ、それも普通にパンクするような膨大な記憶です。もうちょっとで廃人になりかけましたわ。大部分を廃棄してこれですからね。本当、神々というのは規格外です。

 

「少しお待ちください」

 

 さて、くるみねっとわーくを使って全てのわたくし達に決議を取ります。アルテミスさんを助けるかどうか。またその方法はどうするか。

 

「決めました。わたくし達はアルテミスさんに……死んでもらいますわ」

「く、クルミ君!?」

「クルミ!」

「ほら、それしか方法がないだろう!」

「ええ、神の力(アルカナム)さえ使っていなければ確かにわたくしが巻き戻し、アンタレスから分離することは採算を度外視すれば可能でしょう。ですが、神々には時間の概念がないので、巻き戻しが無理になります」

「そうですね。それなら確かに神の力(アルカナム)を使ってオリオンを召喚したアルテミス様は強制退去させられることになります」

「はい。助かったとしても下界から天界に戻るのでは意味がありません。こちらであれば命は助かります。ですので、わたくしはあえてアルテミスさんには死んでいただくことを選んでいただきました。そんな無駄なことにわたくしの命は賭けられません」

「無駄なことだって!」

「彼女が下界で生きられるのであれば、わたくしも危険を冒して助けるのは構いませんが、それでは私の天秤はアルテミスさんを助けることには向きません。ええ、向きませんとも」

「利益が出ませんものね」

 

 皆様の殺気を一身に受けますが、構いません。特にヘルメスさんからは酷いです。

 

「さて、リリさん。わたくしはやる事ができたので遺跡に到着したら教えてください。影に居ますわ」

「何をするつもりですか?」

「決まっているじゃありませんの。アルテミスさんが死んだ後、最大限の利益を得られるようにする準備ですわ。今回の報酬はアルテミス・ファミリアが所有する全財産。なら、少しでもその価値を上げて回収させていただきます」

 

 そう言いながら影に沈みます。明らかに空気は悪くなっていますが、構いません。わたくしとて万能ではありませんの。無理なことは無理。ですから、アルテミスさんを殺すことは満場一致で全てのわたくし達から可決されました。

 

 

 影の空間を通り、ヘファイストス・ファミリアにお借りしている工房に移動します。そこにはすでにわたくし達が準備を整えています。追加に無理矢理呼びつけたヘファイストスさん、椿さん。それにゴブニュ・ファミリアの団長と主神さんにも来ていただきました。

 

「さて、皆さんのお力を貸していただきます」

「いきなり拉致してきておいてよく言うわい」

「まったくだ」

「そうね。どういうつもりかしら?」

「手前は楽しそうなことなら構わんがな」

「報酬は強化種のジャガーノートの全身。それを二つのファミリアが自由に扱う権利です。出来た装備はわたくしが貰いますが、適正な代金をソーマでお支払いします」

「ほう。あの此花亭で展示されとったアレを使わせてくれんのか」

「それも私達が自由に使っていいのね?」

「ええ、そうです。一匹ずつではありますが、わたくしの要望など気にせず、思いっきり好きなように弄りまわして構いません。つまり、鍛冶師のお勧めで構わないのです。さすがに危険な装備になるでしょうから、他の方々に譲りはしませんけどね」

「それは当然じゃな。わし等からしたらあの素材で作れるだけいいもんじゃ」

「そうね。まったくもってその通りだわ」

 

 主神さん達は乗り気なので良かったです。

 

「今から公開する情報をしっかりと聞いてください。もちろん、守秘義務が発生します。では、アルテミスさんとアンタレスについて……」

 

 さあ、神々が大好きな悲劇を少しでもましな喜劇にするため、奇跡を起こしましょう。何、素材はあるんです。ええ、ええ、とびっきりの神話素材があるんですから、やらない手はありませんわ。

 この戦いで勝つのは神々でもアンタレスでもありません。勝つのはわたくし達、下界に生きる人々です。何時までも神の掌の上だと思わないことです。

 

 

 さて、わたくし達のわたくし達によるわたくし達のためだけの戦争(デート)を始めましょう……九の弾(テット)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




空気を悪くするだけ悪くしたクルミは悪女。でも、仕方がありません。あんな極限な状況で覚悟するよりも、安全なところで覚悟してもらった方がクルミとしてはいいと思いました。ベルの事を嫌いではないですから。



アルテミスさんは死んでもらいます。過去改変はさすがに時間が足りません。準備期間がないので、できません。フィンの時のようにソロでどうにかできる事でもありませんし、単日で解決できることでもありません。
圧倒的に貯蓄されている時間が足りません。一期と二期の間ですけど、これロキ・ファミリアが戻ってから二日以内。でも出れないはずのロキ・ファミリアがすでにそのころには港へ出ているという矛盾。だって、ベル達が戻ってきてから十日も飛んで行ったら、確実に二日は過ぎてロキ・ファミリアは港へ向かっているはずですからね!
というわけで時系列はちょいっと改変されます。映画なので仕方がありません。
それでもまだリューさんも動いていないので貯蓄が足りません。アルテミスさんには今回、救いがありません。リューさんに期待ですね!


次回『アルテミスの矢3 アンタレスとの戦い』


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オリオンの矢3

ゴッホが来なかった。爆死しました。うう、もうネットで見て諦めます。



 

 

「なんやて! オラリオから出られへん!? どういう事や!」

「どうやらギルドからの命令らしい。オラリオの中に居るよう、厳命されてしまったよ」

「うちらは港街(メレン)に用があるちゅうねん!」

「当然、中止だね」

 

 これは困ったで。港街(メレン)にある海竜の封印(リヴァイアサン・シール)を調べなあかん。うちらが得た堕ちた精霊に変化する宝玉。それに加えてもう一つのダンジョンの入り口。それが十五年前に封印された海竜の封印(リヴァイアサン・シール)や。こっちは広く知られている。

 だから、そこから魔物(モンスター)が出入りしてへんか調べるのが目的や。それにメレン近海で見たこともない蛇のような緑黄色の魔物(モンスター)も目撃されたらしいしからな。

 

「ふざけんなよギルドの連中! 何を考えとんねん!」

「何かがあるのだろう。クルミが精力的に動いている。ロキ・ファミリアからもグレイを残して出ていくほどだ」

「クルミたんがか?」

「そうだ。僕の時もそうだったんだろう?」

「まあ、確かにいきなりやってきてフィン達がピンチやから力を貸せって言われた。よくよく聞いたらアイズたんがこのままやと確実に死ぬっていうから、フレイヤの奴にも頭を下げたった。嘘がなかったからな」

「おそらく、それに近いか、もっとヤバイ事件になる」

「ギルドはそれを把握してるから、うちらをオラリオに止めさせとるってわけやな」

「だろうね」

「それやったら、戦う準備はしとかなあかんか」

「何時でも動けるようにしておくよう通達は出してある。後はグレイから情報を引き出すぐらいかな」

「せやな」

 

 どちらにせよ、生半可なことにならんやろ。まずはグレイたんに色々と教えてもらわなあかんな。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 昨夜。クルミ様がひっかき回すだけ回して空気を悪くしてから影へと潜りました。クルミ様はアルテミス様を助ける気が無いようにも思えますが、何処か引っ掛かります。そもそも助ける必要がないのなら、わざわざ準備する必要もありません。

 

「それでどうするよ?」

「昨日は各自で考えるってことで一旦解散しましたからね」

「それなんだが、一晩じゃ考えられないだろう。そこでだ。とりあえず、進もうじゃないか。どちらにしろ、遺跡までは行かないと駄目だからね」

 

 ヘルメス様がおっしゃられた通り、ベル様がアルテミス様を殺す殺さないの判断をしても間に合わなければ意味がありません。

 

「私もそれでいい。一刻も早くアンタレスを倒さねばならない」

「アルテミス様はそれでいいんですか?」

「ああ、そうだ」

「ベル君。アルテミスは自分の手で子供達が居る下界を壊したくないんだ」

「それは……」

「とりあえず、進みましょう。ここでこうしている間にも私達のファミリアが抑えるのも限界です」

「そうだな」

 

 皆で竜に乗って移動を開始します。

 

 

 

 

 二日ほど飛んで、渓谷の間を進んでいくと段々と開けてきました。リリ達の視界に飛び込んできたのは緑の大地……ではなく、紫色に変色している森でした。

 

「どういう事だ?」

「なんですかこれ!?」

 

 森には生物が一匹も居ません。虫や鳥もです。完全に死んでしまっています。

 

「アンタレスの仕業だ。そして、アレがエルサスの遺跡」

 

 アルテミス様が指差した方向には複数の塔のような高い建物が見えてきました。

 

「あそこにアンタレスが……」

「っ!? くっ……」

「アルテミス様!?」

 

 アルテミス様が急に胸を押さえて呻きだされました。

 

「来る」

「よけろぉっ!!」

「クルミ様!」

 

 アルテミス様の言葉と同時に空から無数の光の矢が降り注いできます。リリの影からクルミ様が出てきて、大きな盾を構えました。その盾に光の槍が命中すると反射されて別の矢に命中していきます。

 クルミ様のおかげでリリ達はどうにかその矢を防ぐことができましたが、完全には防ぎきれずに竜の翼を貫かれてしまいました。

 

「大丈夫ですかアルテミス様!」

「ああ、私は大丈夫……」

「よかった。神様! リリ! ヴェルフ!」

「こっちは大丈夫だよ!」

「リリ達もです!」

「俺もだ」

 

 どうやら、皆さん無事のようです。ヘルメス様もアスフィ様が起こしてあげられています。

 

「なんなんださっきの光は……」

「アルテミスの神の力だよ」

「おそらく、私を……彼が持つ槍を狙って取り込んだ私の力を放ってきたんだろう」

「クルミ様、準備はできましたか?」

「ある程度は、ですわね。ですが、その前に邪魔者を始末しましょう」

 

 周りを見ると、森の中に大量の瞳がいつの間にかありました。前見たのとは違う、進化したサソリ型の魔物(モンスター)が大量に寄ってきます。

 

「この数は不味いな……」

「いえ、そうでもありませんわ」

 

 サソリ型の魔物(モンスター)の後方から爆音が響き、空に無数の魔物(モンスター)が打ち上げられていきます。それらは空中で魔石になりました。

 どうやら、高速で何かがこちらに突撃してきています。その正体はリリ達のよく知る人です。隣に居ますし。

 

「ルーラーです。交代の時間ですか?」

「まだ早いのではないですの?」

 

 サソリ型の魔物(モンスター)が尻尾を片刃の大剣で尻尾を切断され、頭にある目玉を踏み砕かれて消滅します。隣の魔物(モンスター)はハンマーで叩き潰されました。

 そんな二人に続くようにわらわらと、森の中から魔物(モンスター)を虐殺しながら出てくるのは、それぞれに不壊属性(デュランダル)の武器を装備した無数のクルミ様達です。

 

「あの、なんでここに居るんですか?」

「そうだよ! ボク達は竜に乗ってきたのに!」

「答えは簡単ですわ。あの時点ですでに空を飛んで不眠不休でこちらに向かっておりました。それにわたくしは竜より速いですからね。後はこちらに到着次第狩りを続けておりました。ただそれだけですわ」

 

 隣に居たクルミ様が指示を出すと、彼女達は即座に別のところに向かって散っていきました。森中で銃声や破壊音が響き、森が崩れていきます。

 

「リリ達も参加した方がいいですか?」

「必要ありませんわ。今の所は大丈夫なので、ヘルメス・ファミリアの拠点へと急ぎましょう」

「確かにそれがいいだろう」

「はい。案内します」

 

 ベル様はまだふさぎ込んでいるようで、アルテミス様も元気がありません。ヘスティア様がそんな二人の手を引いて連れていきます。

 周りを警戒しながら進みますが襲ってくる敵はおらず、無事にヘルメス・ファミリアが拠点としている場所につきました。そこには大量の攻城兵器や武器、食料や医療品があります。

 

「ファルガー。状況は?」

「そっちの嬢ちゃんのおかげで大分好転した」

「そうなのですか?」

「物資や攻城兵器の提供はもちろん、本人が強い上に数が居る。近隣の街は壊滅したが、すでに敵を駆逐してこの辺りの残党狩りをしているぐらいだ」

「では、残るのは遺跡ですね」

「ああ、そうだ。遺跡からは相変わらず魔物(モンスター)が大量に出てきている」

「遺跡へのアタックはどうかな?」

「残念ながら門に阻まれてアンタレスのところへはいけなかった」

 

 なるほど。流石はクルミ様ですね。人海戦術は得意というだけはあります。レベル4が数十人単位とか、敵からしたら悪夢でしかありません。ちょっと弱いリュー様が大量に居る感じですしね。

 

「長旅で疲れていませんか? ここから少し行ったところに水浴びができる泉がありますよ」

「本当ですかぁ! 助かります! 汗でベトベトなんです!」

 

 同じ小人族(パルゥム)のメリル様に良い事を教えていただきました。これは是非とも案内をしてもらわなければなりません。

 

「ベル君、ベル君」

「ヘルメス様?」

 

 何かよからぬことを考えている気がします。これは皆様と一緒に警戒しないといけませんね。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「今日君達は伝説になる! 良いか、よく聞け! この奥に広がるのは乙女の楽園! リリちゃんやアスフィ達が生まれたままの姿で身を清めている!」

 

 ヘルメスさんがベルさんを何かしていたので、気になって草花の影から覗いています。ヘルメスさんは岩の上に立ちながら演説していますね。

 

「そしてアルテミス! 三大処女神に数えられる彼女の一糸まとわぬ姿を見た者は居ない! 神々でさえ! 俺の夢は一度敗れた。だけど、俺の心が言っているだ。諦めたくないって! そして今、俺には君達が! 志を同じくする仲間が居る! 我々の眼前に立ちふさがるは困難な頂だ! だが、これを乗り越えた時、君達は後世に名を残すだろう! 立ち上がれ若者達! 真の英雄となるために!」

「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ‼‼」」」」」」

「……帰りたい……」

「天よご照覧あれ! 誇り高き勇者達に必勝の加護を! 続けぇぇぇぇっ!!」

 

 彼等、男性達は一心不乱に乙女達が身体を清めている場所へと目指していきます。彼等の心意気やよし。わたくしも身体は女性になりましたが、心は男性です。ですから、彼等の気持ちが大変良くわかります。ですので、見逃してさしあげますわ。

 

「な~んて、言うと思いましたか?」

 

 手を上げて彼等の進む先に潜ませていたわたくし達に発砲の合図を送ります。数十の神威霊装・三番(エロヒム)の小銃から放たれる模擬弾は彼等をボコボコ打ち下げていきます。

 

「馬鹿なっ!? いくらなんでもやりすぎだ!」

「わたくしのリリさんの肌を覗こうとしたんです。殺されないだけありがたいと思ってくださいまし。ああ、アルテミスさん達の裸体はわたくしがしっかりと堪能させていただきますわ」

「貴様あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 全員をロープで結んで木から吊るしておきます。全員の首に覗きの犯人と書いた板もつけておきます。後はここの皆さんにお任せしましょう。

 

「? 何か違和感が……」

 

 数を数えていくと、一人足りません。

 

「アレ、ベルさんが居ませんね。探しますか……」

「アルテミスさんのところに居ますよ」

「行くのは止めておきましょう。予定通りに進んでくれる方が助かりますから。それよりもあちらの準備はできておりますの?」

「やはり時間が足りません。それにどうしても必要な素材が足りません」

「それならあてがあるではありませんか。これから行く場所で眠っておりますわ」

 

 そう、準備は着々と進んでおります。わたくしの計画は成功すれば下手すれば神々や他のファミリアに殺される可能性すらあります。ですが、やるしかありませんわ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 月に照らされる泉の畔で僕はアルテミス様と会話する。僕は座り、アルテミス様は浅い泉の中を歩いている。

 

「貴女は運がいい。昔の私なら即座に矢で射貫いていた」

「うぇ!? か、神様の話は本当だったんですね?」

「さあ、どうだろ?」

「じゃあ、昔の神様。ヘスティア様も違ったんですか?」

「そうだな。私の知っているヘスティアは結構ぐうたらで面倒くさがりで……」

「ああ、そこは変わっていないかもしれませんね」

「それからよく神殿に引き籠っていたな」

「引きこもりですか!?」

「ああ。私が行くとそれは嬉しそうで、遊んで欲しい子犬のようにはしゃいでいた」

「なんだか想像できちゃいます」

「何時も一緒に泣いて、喜んで……笑顔を、慈愛を分けてくれる彼女に私は憧れていた」

「僕は神様が大好きです」

「すまない。巻き込んでしまった。本当ならヘスティアも貴方も関係がなかった。それなのに私は……」

 

 落ち込むアルテミス様に慌てて声をかける。

 

「大丈夫です! 僕が必ず……」

「私を殺してくれるか?」

「っ!? そ、それは……」

「オリオン。貴方に辛い役目を押し付けるが、どうか聞いて欲しい。ヘルメスも言っていたが、これは私を殺すことではない。私を助けることなんだ」

「アルテミス様……」

「私はね、オリオン……この手で、私の可愛く大切な子供達を殺したんだ。その感触が今でも鮮明に思い出せるんだ……」

「え?」

 

 アルテミス様は両手を見詰めて涙を流している。まるで自分の手が血塗れかのように見えているのかもしれない。

 

「私がアンタレスに取り込まれたことで子供達は抵抗できなかった。奴は私の力で子供達を嬲り殺しにしたんだ。私はアンタレスもそうだが、自分が断じて許せない」

「そんなのアルテミス様のせいじゃありません!」

「いや、私のせいだ。私の力が子供達を殺したんだ。だから、今度はその過ちを繰り返したくない。それも犠牲になるのは私の子供ではなく、私が世話になっているヘスティアやヘルメスの子供達。そしてなにより……無辜の戦う力もない子供達だ。頼む。どうか、私に子供達を殺させないでくれ」

 

 アルテミス様は僕に縋り付きながら、伝えてくる。アルテミス様の心が痛いほど伝わってくる。もし、これが逆で、僕が自分の力で神様を殺してしまったらと考えると僕は僕が許せなくなる。

 

「……ほ、本当にアルテミス様が助かる方法はないんですか?」

「無い。アンタレスは神の力を使えるし、オリオンの矢で融合した私諸共殺すしかない。私はもう覚悟を決めている。子供達が待っている場所に行かせてくれ。それにもう長くはないんだ。あくまでも私はオリオンの矢に宿った残留思念でしかない。近い内に完全に取り込まれて消えるだろう。だから、その前に頼む」

「……アルテミス様……」

「気に病むなら、そうだな……ヘスティアの事をこれからもよろしく頼む。どうか彼女を見捨てないでやってくれ」

「そんなの当たり前です! 僕の大事な神様ですから!」

「そうか。なら安心だ。後は……そうだな。私と踊ってくれないか?」

「踊り、ですか?」

「ああ、そうだ。子供達にある時言われてしまった。恋は素晴らしいと。そして、本当に楽しそうに踊っている姿を見せられた。今なら、私もその気持ちが少しわかる。だから、私と踊ってくれ」

 

 アルテミス様は泉に入り、振り返って僕の方に手を差し出してくる。アルテミス様の姿が月の光で照らされ、泉に光が反射して幻想的な光景を映しだされた。更には光の粒までアルテミス様の周りで舞い踊っている。

 

「踊ろう」

 

 誘われるようにフラフラと泉の中に入り、気が付けばアルテミス様の前に立っていた。アルテミス様は服の裾を持ち上げて礼をしてくる。僕も慌てて手を胸にあてて礼をする。

 差し出れたアルテミス様の両手に手を合わせ、泉の透き通った水を切りながら踊る。どんどんと光の粒が空へと舞い上がっていくけれど、それよりも僕はアルテミス様の姿に見惚れてしまう。

 

「知っているか? 下界に降りた神々は一万年分の恋を楽しむそうだ」

「一万年分の恋?」

 

 泉の中で立ち代わり、水面に波紋を作って踊っていく。次第に笑顔が溢れてきて、とても楽しいひと時を感じていく──

 

「生まれ変わる貴方達、子供達との悠久の恋。オリオン、最後に貴方に出会えて良かった」

「アルテミス様……僕もです。貴女に出会えてよかったです」

「そう言ってくれると……うん、とても嬉しい」

 

 ──楽しい時間は何時までも続かない。

 

「ありがとうオリオン。楽しかった」

「僕もです」

「それでは行こう。あまり遅いとヘスティア達が心配する」

「……はい……」

 

 僕とアルテミス様はヘルメス・ファミリアの拠点へと戻っていく。アルテミス様はずっと楽しそうに僕を先導するかのように先を歩いてくれた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「ヘスティア。どうしたんだい? こんなところで一人で」

「ヘルメスか。ちょっと考え事をね」

 

 僕が滝壺を眺めていると、後ろから声が聞こえて振り返るとヘルメスが居た。

 

「いいのかい? ベル君を探さなくて。ひょっとしたらアルテミスと二人っきりかもしれないぜ」

「よく言うよ。ずっとそう仕向けていたくせに」

「二人の心が通じ合うほど、槍の力は強まる」

「本当に、本当にこの槍じゃないと駄目なのか!?」

「駄目だ」

「もっと他に方法があるだろう! 僕達が力を合わせればいい! そうればきっと!」

「ヘスティアっ!」

「っ!?」

「無いんだ。時間も方法も。俺だって救えるなら救いたい。だから、一縷の望みを賭けて詐欺まがいの事をしてまでクルミをここに呼び寄せた。記憶を読まれるのは想定外だったが、それでも彼女の性格からしてああすれば俺に反発してアルテミスを助けるように動くだろうと思っていた。だが、それでもクルミは無理だと判断し、アルテミスを殺すと断言した。わかるか、ヘスティア。この地上で唯一、地上の者として神に等しい力を行使できる半精霊である彼女がだ! 彼女にできないのであれば誰にもできない! 人では摂理を捻じ曲げる神の力を超えられないんだ!」

 

 その言葉に僕は力が抜けて地面に座り込んで泣が勝手にあふれてきてしまう。

 

「だって、今のアルテミスは昔と違うけれど、すごく楽しそうなんだ。でも、ときおりとっても辛そうにしている。僕にはわかるんだ。アルテミスはずっと心の中で泣いている。僕達に気を使わせないように気丈に振舞っているだけだ……アルテミスが可哀想だよ……」

「相変わらず優しいな、ヘスティアは……」

 

 ヘルメスが僕の頭に帽子を被せて涙を見ないようにしてくれた。

 

「これは確定じゃないが、ヘスティア。君がダンジョンに潜る数日前、違和感を覚えたことはなかったか?」

「え?」

「既知感を感じたことは?」

「……ボクがダンジョンに潜る前……確かにちょっと感じたことがある。うん、そのせいで僕は仕事で失敗した。いや、失敗を解除できたのか?」

「極微かな期間だが、明らかに世界に何かが起こった」

「それが何を……」

「その時、クルミは何をしていた?」

「え? そういえば忙しそうに動き回っていたね。地上でもヘファイストスのところで必死な表情になりながら、何かに追いつめられているような感じだったかな」

「今の彼女はどうだ?」

「余裕がある感じ……いや、だいたい同じかも?」

「なら、まだ可能性は捨てなくていいかもしれない。どんでん返しがあるかもしれないぞ」

「本当に?」

「何せ時を操る精霊様だ。大精霊というほどの力はなくても、レベル2からレベル4に成長している」

「時を巻き戻せるかもしれないってこと?」

「その可能性を否定することはできない。だが、期待はできない。彼女は既に力を行使している。そう簡単に力が回復するとは思えない。それこそ俺達が思いも寄らない方法で回復でもしない限りできないだろう」

「うん。それでも希望は捨てない。まだ可能性があるんだ。なんせ神々にとっても彼女の存在はジョーカーだからね」

「ああ、俺達が扱える気まぐれで福音を齎す天使にも、災厄を齎す悪魔にもなるジョーカーだ」

 

 ヘルメスに差し出された手を握り返し、立ち上がらせてもらう。

 

「リトル・ナイトメア、か。確かにそうだね。味方にとっても、敵にとっても悪夢だ。どうなるか、全ては彼女の心持ち次第というわけだしね」

「ああ、俺も痛感したよ。神だろうと容赦なく記憶を読むのは反則だ。それでも、こういう時は期待してしまう」

「ベル君にアルテミスの心を救ってもらう。そして、クルミ君にはアルテミスの身体を救ってもらう。それがヘルメスの計画かな?」

「ヒールは俺の役目だ。本来はロキの役目なんだがな」

「ロキは丸くなったからね。君は腹黒くなったけど」

「アッハッハッ! 耳が痛いね~! まあ、子供達に期待しようじゃないか、ヘスティア」

「うん」

 

 頼むよ、ベル君、クルミ君。僕の神友を助けてくれ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「皆も承知の通り、遺跡周辺は魔物(モンスター)の巣窟と化している。アンタレスは今この時もその力を蓄えている。疑うべくもなく、我々の前には困難が待ち受けているだろう。しかし、臆するな! 恐れるな! 我々に敗北は許されない!」

 

 アルテミスさんが整列するわたくし達の前に立ち、鼓舞してくださいます。

 

「それでは作戦を伝える。ヘルメス・ファミリアは敵の揺動。引き付けるだけでいい。決して無理はするな」

「「「はい!」」」

「ファルガー」

「はい!」

「指揮は貴方に任せる」

「わかりました」

「そして、揺動部隊が敵を引きつけている間に我々は内部に突入。アンタレスを討つ」

「我々? アルテミス様も来られるのですか?」

「神殿にある門は私の神威でなければ開かない。私も行く」

「アルテミス様!」

 

 ベルさんが声を上げますが、アルテミスさんが来ないとどうしようもありませんので、仕方がありません。ただ、そうなると黙っていない神が他にも二柱ほどいらっしゃいます。

 

「僕も行くよ。君を一人にさせるわけにはいかないからね」

「なら、当然俺もついていこう」

「ちょっとヘルメス様!? またそんな!」

「アッハッハ! こうなることはわかっていたくせに~」

「もうやだぁ……」

「いっちょやってやりましょう!」

 

 ヘルメス・ファミリア、副団長のファルガーさんの言葉に皆さんが頷きます。

 

「金にはうるさいですけどね」

「報酬を期待しています」

「もちろん、リリ達もです」

「お前なぁ……」

「正当な権利ですから」

「ありがとう子供達。苦しい戦いになるだろう。犠牲者も出るかもしれない。しかし、成し遂げて欲しい! 私達の愛する下界の為に!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!!!」」」

 

 皆さんが雄叫びを上げるなか、わたくし達は一部が参加して、それ以外は狩りに勤しんでいます。

 

「はいはい、皆さんにクルミちゃんサービスからのお知らせです。現在、敵側の魔物(モンスター)がこちらに奇襲を仕掛けております。適当に狩っていますので、お早く来なければ獲物がなくなりますわよ」

「作戦を開始する! 行け!」

「……行くぞお前ら! 本当に全て()られてしまうぞ! 道を作れ!」

 

 皆さんが戦場に走っていかれます。わたくしもアルテミスさん達と一緒に走りだします。

 

 

 

 

 遺跡は数十メートルもある石造りの建物でした。かなりの大きさであり、こんなところにあるなんてオラリオでは聞いたこともありません。

 

「こんな遺跡があるなんて……知っていましたか?」

「初めて知りましたわ」

「歴史に忘れられた神殿です。各地にあります」

「静かですね……」

「先程の奇襲の事もあります。気を付けていきましょう」

「いきましょう」

 

 石で出来た通路を進むと、壁から青い光が溢れ出していて照らしてくれます。壁にはサソリ型の魔物(モンスター)の彫刻が設置されています。

 

「この光は?」

「封印の光だ。これを施したのは私に類する精霊達……言わば私の最も古い眷属だ」

「そんな昔から……」

 

 わたくしのご同輩達が封印した遺跡ですわね。もしかしたら、良いアイテムが眠っているかもしれません。後でトレジャーハントしましょう。

 

「着きました。ここがファルガー達が報告した封印の門です」

「いよいよって訳か……」

「この奥にアンタレスが!」

 

 アルテミスさんが進み出て、門の彫刻に触れながら神威を解放されます。すると彫刻が回転して門が開いていきます。

 

「これは……」

「神殿に寄生しているようですわね。さしずめ、魔物(モンスター)の出産所でしょうか」

 

 目の前には石の壁ではなく、触手のような肉の壁によって通路全体が覆われていました。天井やあちこちに蕾のような物があります。

 

「そんな……」

「まさか、ここまでとは……」

「ん? 出口がっ!」

 

 アスフィさんの言葉に後ろへと振り返ると、肉が盛り上がって門を覆っていきます。数秒で出口が完全に塞がれてしまいました。

 同時にパカっという音と共に蕾が開いてサソリ型の魔物(モンスター)が念液まみれで落ちてきます。

 

「おいおい、嘘だろ……」

「アレが全部卵!?」

「……クルミ様が出産所とか言うから事実になったじゃないですか!?」

「知りませんよ。もとからですわ。わたくし達」

 

 無数の蕾、卵が割れて中から大量のサソリ型の魔物(モンスター)が落ちてきます。ですので、わたくし達を呼んで神威霊装・三番(エロヒム)の小銃を構えます。

 

「各自、ネットワークによる射撃統制を行います。撃ちなさい」

 

 複数の発砲音が響き、サソリ型の魔物(モンスター)を次々と貫いて殺していきます。

 

「殺虫剤が欲しいですわね!」

「リリがやりますか?」

「駄目です。リリさんは温存です」

「了解です!」

 

 虐殺していると、次第に銃撃を弾く個体が出始めました。そこにアスフィさんが瓶を投げます。瓶は割れると即座に炎を広げて周りを燃やしていきます。ですが、炎の中からサソリ型の魔物(モンスター)がこちらに向かって進んできます。

 

「まさかアレを耐えやがったのか!?」

「バーストオイルが効かない!?」

「自己増殖、自己進化。それすらこの中では異常なスピードで進むというのか……」

 

 目玉が大きくなり、全長も三メートルぐらいまで巨大化しました。こうなると小銃では貫けません。仕方がありません。

 

「これより白兵戦を開始します。各自、付いてきてくださいまし。<刻々帝(ザフキエル)>、一の弾(アレフ)五の弾(ヘー)

 

 短銃で自らの額を撃ってから、この場に居る全てのわたくし達にくるみねっとわーくを通して数秒先の未来映像を伝達します。同時に時喰みの城(ときばみのしろ)も展開して雑魚の命を刈り取ります。

 

進行進軍進撃(ゴーゴーゴー)!」

 

 加速したわたくし達はそれぞれ愛用の不壊属性(デュランダル)の武器を持ち、地面を蹴って駆け抜けていきます。

 大型の個体に向けて駆け抜けたわたくし達はまず大剣と戦斧が足を切断します。サソリ型の魔物(モンスター)が針を向けてきますが、それを壁を蹴って横から現れたハンマーが弾きます。そして、槍が魔物(モンスター)の影から現れて目玉を槍で突き刺して殺しました。

 

「大型個体以外が即死させます。行きますよ」

「うわぁ……」

「えげつな……」

「どっちが悪役かわからないね」

「だけど効率的だ」

 

 時喰みの城(ときばみのしろ)をどんどん広げて卵の中から……いい事を考えました。

 

「きひっ! きひひひひひっ!」

「あ、また悪いことを考えましたよ、この人!」

「失礼ですわね。面倒なので纏めてぶち殺してさしあげるだけですわ」

 

 卵の粘液だらけの殻に上半身を入れて、奥にある穴に手を突き入れます。身体中が粘液だらけになりますが、不快感以上のメリットがあるかもしれませんので構いません。

 

「何をやっているんですか!?」

「と、止めなくちゃ!?」

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 魔物(モンスター)に栄養を与える管みたいな物を掴み、そこから時喰みの城(ときばみのしろ)を最大展開してアンタレスが魔物(モンスター)を生み出すエネルギーを奪い取ってやります。

 ダンジョンで出来たようにアンタレスからもできました。ジャガーノートの発生もありません。故に奪いたい放題です。

 

「十人、これからアンタレスの妨害を開始します。エネルギーを奪い取ってやりなさい」

「稼ぎどきですわね」

「とりあえず、レインコートを着てやりましょう」

 

 ついでに色々と仕込みをしましょうか。観測用の魔導具を設置してデータを習得します。

 

「さて、別個体に意識を移しましたので、これからわたくしが皆さんと一緒に行きます。参りましょう」

「普通に自分を使い捨てにするクルミ様、さすがです」

「ほめても何も出ませんよ。あ、お菓子食べますか?」

「たべりゅ~!」

「余裕か!」

 

 リリさんに飴玉をあげながら、先頭を進んでいきます。とりあえず、吸収した時間はどんどん時喰みの城(ときばみのしろ)の強化へと伸ばしていきます。範囲が広がるにつれてサソリ型の魔物(モンスター)が死滅していきますから。

 

「<刻々帝(ザフキエル)>~二の弾(ベート)~」

 

 適当に二の弾(ベート)を叩き込んで相手の速度を遅くしながら進んでいきます。もちろん、わたくし達を先行させて正解の道を見つけながら進みます。敵は全て潰しながらです。

 順調に探索しながら進んでいると、アルテミスさんが苦しみだしました。

 

「アルテミス……大丈夫?」

「大丈夫だ。進もう。時間がない」

「ベルさん。アルテミスさんをおんぶしてください」

「え!? 僕がですか!?」

「いいからしてくださいまし。このままでは行軍速度が落ちます」

「……そうだね。ベル君、頼むよ」

「私は……いや、頼む」

「ヘスティアとアルテミスがこう言っているんだ。ここはやらないと男じゃないぞ、ベル君」

「わかりました。失礼します」

 

 ベル君がアルテミスさんをおんぶしたので、速度は今まで通りです。それよりも、欲しい物が見つかりません。

 

 

 そのまましばらく進むと大きな吹き抜けの広間に出ました。中央には巨大なサソリの胴体に人型のような胴体。背中から四本、両手と合わせて六本のハサミを持っています。もちろん、サソリの方にはも更に大きなハサミが二本あるので、八本もあります。全身が黒いジャガーノートみたいに黒く、赤い線が無数に走っています。

 そんな魔物(モンスター)に壁から無数のチューブが接続されて遺跡へと力を送っているようです。つまり、わたくしに栄養(時間)を供給してくれるありがたい物です。

 

「なんですか、あの黒い靄は……」

「神威だ」

「月に送られていますわね」

 

 観測と解析用の魔導具を発動させながらアンタレスを調べます。ついでに十の弾(ユッド)も叩き込んでおきます。普通の銃撃と合わせて潜ませることで気にせず喰らってくださいました。

 

「くっ!?」

「アルテミス様!」

 

 ベルさんがアルテミスさんを降ろして背中をさすります。アルテミスさんは胸を押さえながら、ベルさんの方を見ます。

 

「撃ってくれ、お願いだオリオン。アレを!」

 

 アルテミスさんが残っている力を使ったのか、タイミングよくアンタレスの腹が開いて魔石を見せてくれます。その魔石の中にはアルテミスさんが入れられておりました。

 

アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!」

 

 アンタレスが叫ぶと、黒い光の柱が立ち上り、吹き抜けを通って月まで昇っていきました。それから直ぐに空から無数の矢が降ってきます。

 

「全員集まってください!」

「リリさん!」

 

 リリさんとわたくしで黒ジャガ君の大盾を使って防ぎます。反射する方向を斜めにする事でアンタレスへも攻撃します。ですが、馬鹿げた破壊力に地面が破壊されて足場が崩壊してわたくし達はそのまま下の空間へと落ちていきます。仕方ないので最優先であるベルさんとアルテミスさんを確保します。リリさんの方は別のわたくしを送れば構いません。

 

 

 

 どうやらかなり落ちてしまったようです。ですが、宝物もありました。

 

「こ、これは……」

「私の子供達だ」

「あぁ……」

「言っただろう。私は見ているしかなかった。いや、それどころか、私自身の手で彼女達が殺されるところを……」

 

 アルテミスさんは眷属の人の頬を愛しそうに撫でていきます。それだけでどれだけ愛情を込めていたのかがわかるほど、労わっておられます。

 

「アルテミスさん」

「ん? なんだ?」

「契約、覚えておられますか?」

「報酬の件か?」

「クルミ、何を言ってるの!? 今、それどころじゃ……」

「いいえ、今だからです」

「ああ、覚えている。私達、アルテミス・ファミリアの全財産だったな。オラリオにあるから持っていくといい」

「いいえ、それだけではありませんわ」

「え?」

「ここで死んでいる方々もアルテミス・ファミリア。つまり、この死体もわたくしの所有物ですわ」

「待て! 何をするつもりだ! まさか死者を汚すつもりか!」

「クルミ……?」

「ええ、汚しますし、冒涜します」

 

 時喰みの城(ときばみのしろ)を展開して死体を全て影の空間へと回収します。ベルさんはすごく驚いた表情をして、アルテミスさんは信じられないと言ったような表情です。

 

「さあ、わたくし達。必要なパーツは手に入れました。計画(プラン)を次の段階へと進めましょう」

 

 時喰みの城(ときばみのしろ)のコントロールをそちらに譲渡します。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 地上ではアンタレスの力に恐怖したのか、ダンジョンが暴走して魔物(モンスター)を大量増殖させて地上へと送り込んでいます。それの討伐にロキ・ファミリアに命じられました。ですが、その前に月が増えました。

 

「何あれ……」

「どうなっているの?」

「月が二つ……」

「違う。アレは月じゃない」

「アイズさん、呼ばれたのでこれでさようならですわ」

「クルミ……?」

「ちょっとあそこに行ってきますわ」

「え?」

 

 アイズさんを無視して影を使ってバベルの上へと移動します。そして、そこにバリスタを設置し、足場を作った矢に乗ります。

 

「行きますわよ、わたくし達」

「ふんがー!」

「懐かしいですわね」

「乗ってくれませんでしたわ」

「時間がありませんもの」

 

 バリスタのロープを投げナイフで切り、発射させます。当然、ぐんぐんと空へと上がっていきます。ですが、途中で失速します。そこで、閃光弾を上に投擲して時喰みの城(ときばみのしろ)を展開。上まで飛んで落ちながら展開してを繰り返して空へと上がっていきます。

 何度も何度も繰り返し、閃光弾が尽きるとわたくし達は自分達で大剣などを使って打ち上げていきます。そうすることで無事にアルテミスさんの神の力で作られた魔法陣の月に到着できました。本当に月と同じ宇宙空間になくてよかったです。もしあれば移動できません。

 

「さて、始めますわ」

 

 両手と両足首、首、胸元、それにツインテールの髪飾り。それらには黒ジャガ君を使って作った小さな鳥籠が設置されております。それに加えて両手にはおおきな杖に取り付けた鳥籠です。中身は当然、ありません。

 

「術式展開」

 

 生命を燃やして鳥籠に設置した巨大な魔法陣を展開します。魔法陣は指定した通りに解析された神の力を吸収し、籠の中へと貯めこんでいきます。

 アルテミスさんとオリオンの矢、アンタレス。この三つの記憶データをもとに解析して作った簒奪術式です。精霊のわたくしを依代として神の力を全て奪い取るのです。狙いはアルテミスの術式、いえ、権能ですわ! もちろんアルテミスさん限定の術式なので他の方には一切意味がありません! 

 この術式を作るために複数のわたくしと鍛冶の神々、それと団長。未来のわたくし達の協力がございます。ええ、はい。時間が足りないので過去と未来を繋げてくるみねっとわーくの演算能力を格段に上昇させ、過去、現代、過去、現代という方法で技術革新を起こしてやりました! 消費を考えたくありません! こんな特定技術のみの汎用性もないガラパゴス化なんてもうやりたくありませんわ!

 

「ああ、でも最高ですわね。さすがは神の力。これを時間に変換はできずとも、わたくしを新たなステージへと進化させてくださいます。命を賭けるだけの価値がここにはあります」

 

 もちろん、これだけでは吸収しきれませんし、破裂してしまいます。ですので、手に入れたアルテミス・ファミリアの精鋭達、彼女達の死体を使います。アルテミスさんの神の恩恵(ファルナ)が刻まれたままであり、彼女の力への親和性が非常に高い素材となります。

 

「死者の冒涜をした後、術式展開・神の力(アルカナム)。それでは皆さん、さようなら」

 

 純潔の女神が放つ天界最強の矢。その力、試させていただきますわ。これがわたくし達が放つ、神への反逆です。

 

 

 

 世界は光に包まれます。

 

 

 

 

 




終わらない。おかしいぞ~次回になっちゃいました。

次回 クルミちゃん死す!(何時もの事) デュエルスタンバイ! 



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オリオンの矢4

明日には終わると思います。伸びても明後日ですね。


 

「なんやアレは!?」

 

 バベルの塔にあるフレイヤのところに怒鳴り込んできた。ここからが一番よう見えるからな。

 

神の力(アルカナム)でしょう。そして、アレはアルテミスの矢。純潔の女神が放つ天界最強の矢」

「んな事はわかっとるわ! 下界であんな力は明らかなルール違反や! アルテミスのあほが使ってるなら、とっくに天界に送還されとるはずやろ!」

「或いは……何かに囚われているか……」

 

 フレイヤの言葉と同時に地震が……いや、ダンジョンが振動する。

 

「ダンジョンが震えとる……」

「怯えているんでしょう。アレが発動すれば下界なんて吹き飛ぶもの」

「ウラノスの爺め! こうなる事がわかっとってうちらをオラリオから出さへんかったな!」

「無駄よ。たとえ、オラリオ中の神が束になっても受け止めきれないもの」

「知るか‼ たとえそうでもケジメをつけるんはうちらしかおらんやろ!」

「そうね。そもそもアルテミスの矢は既に対処がされているわ」

「なんやて!?」

「あの可愛くも小憎らしい娘が登っているわ」

「あ?」

 

 部屋から出ようとしていたのを止めて、バルコニーに戻って空を見上げると、一本の矢が空へと昇っていきよる。そこから小さな人影が飛び出しては打ち上げていきよった。

 

「アレはクルミたんか」

「彼女はこの件を知っていたみたい。だから対策を練っているわ」

「いや、無理やろ。いくらクルミたんが例外的で反則な特別な力を持っとるからと言って、神ですら無理なもん……」

「地上では神の力(アルカナム)は制限されるし、対象である神が囚われているか死んでいたらどうかしら?」

「まさか……」

「神の権能を簒奪した魔物(モンスター)とその神の力(アルカナム)を解析して作った入れ物。そして、神の力(アルカナム)に宿る彼女の意思が魔物(モンスター)と悪ぶりながら下界を守ろうとしている子供。どちらに天秤が傾くなんてわかりきっている事でしょう?」

「いや、いくらなんでもそんなん神の協力でもない限り……ヘファイストスとゴブニュか」

「下界の危機だもの。協力ぐらいするわ。オッタル。ロキ・ファミリアがダンジョンから溢れる魔物(モンスター)を止めているわ。子供達を引き連れて協力しに向かいなさい」

「よろしいので?」

「ええ。その代わり、ロキにはここに居てもらうわ。いいわよね?」

「ふん。ええで。ここで子供達の冒険を見といたるわ。うちにも酒を寄越せ」

「好きに飲みなさい」

 

 フレイヤからもらった酒を飲みながら見学していると、アルテミスの矢がクルミたんに吸収されていく。それだけやない。クルミたんが取り出したのはどう見ても死体や。

 

「おい! クルミたんが禁忌を犯すつもりや!」

「あらあら、怖いわね。子供というのは無邪気で恐ろしい事を平気でやるわ」

魔物(モンスター)から神の力(アルカナム)を簒奪し、神が禁忌としているアレをやるつもりか! あとで殺されるで!」

「無理よ。今回の事で彼女はアルテミスの矢を解析して手に入れた。アルテミスの神の力(アルカナム)が尽きるまでは神々でも手を出せないわ。誰も殺されたくはないものね」

「クルミたんの暗殺には対抗できんか」

「レベル5なら数人。6ならなんとか対処できるでしょうね。それも何時までも続かないわ。そもそも、あくまでも神々のルールであって子供達には関係ないし、周知されていないわ。ちゃんと公布しろと言われるでしょうね」

「まあ、どうせ失敗するやろ。術式を見る限り、無駄が多いし破綻も存在しとる」

「普通なら失敗するでしょう。欠陥だらけの術式ですもの」

 

 その欠陥を埋めるもんがアレば別やけど、そんなもんは存在せん。それこそ下界に存在できへんもんや。この企みは失敗する。そもそもクルミたんも成功するとは思ってへんやろう。あくまでも自分のルーツを探すための実験やろうしな。

 

「どっちにしても、禁止事項として公布せなあかんな」

「そう簡単に実行できないでしょうけれどね」

 

 しかし、クルミたんの倫理観はどうなっとんねん。自分の分身を普通に素材にして使い捨てにしとる。ヤバイ子やわ。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「クルミ、彼女達は……」

「素材になっていただきます」

「何を……」

「っと、お話ししている暇はありませんわ」

「っ!? 来る!」

 

 上からアンタレスが降ってきます。わたくし達を確認したアンタレスは着地する前に胸の青い結晶、アルテミスさんが入れられている魔石から青い光を収束して放ってきます。

 アンタレスの瞳はアルテミスさんの残留思念やベルさん、オリオンの矢を無視してわたくしを見詰め、攻撃もわたくしに向けております。

 

「きひっ! そんなに力を簒奪されたのがムカつきましたの? それでしたらごめんなさい。でも、アルテミスさんから盗んだのですから、盗まれる覚悟はするべきでしてよ?」

 

 相手の攻撃をバックステップで影に回避して、アンタレスの上に乗りながら告げます。アルテミスさんとベルさんは別のわたくし達が掴んで影に避難しましたので攻撃は完全に回避しました。

 

アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!」

 

 背中にあるハサミがこちらに迫ってくるので、剣斧を取り出して突き刺して飛び降りて影に逃げこみます。剣斧によって重量が格段に増したアンタレスはそのまま地面に突き刺さります。さすがに剣斧はしっかりと刺さってくれました。

 

「わたくし達」

 

 アンタレスが地面に着地すると同時に時喰みの城(ときばみのしろ)を通って無数のわたくし達が柱の影から踊り出て大型武器で背中を一斉に攻撃します。

 

アアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!」

 

 アンタレスは口から黒い光線を吐きながら攻撃してきますが、こちらも飛び回って回避します。中には黒いジャガーノートで作った盾を構えてあえて光線に突撃する子までいます。

 

「「まずは腕を一本、いただきますわ」」

 

 二人のわたくしが上下から同時に大剣と戦斧を振り下ろしと振り上げのタイミングを合わせて激突させ、両方から斬る事で切断しました。ですが、すぐに肉が盛り上がって新しい腕ができます。

 

「……」

「ねえ、わたくし。空は対処しましたよね?」

「ええ、対処して地上は問題ありませんわ」

「時間経過でエネルギーを奪い取れますわよね?」

時喰みの城(ときばみのしろ)と遺跡に残っているのは現在、奪っておりますわ」

「でしたら、黒ジャガ君と同じではありませんの?」

「……本当ですわね」

 

 わたくし達の目の色が変わり、全員が武器を持ち出しました。神話生物である素材なんて黒ジャガ君よりもレア物ですわ。ここでやらなければボウケンシャーではありません。

 

進行進軍進撃(ゴーゴーゴー)!」

 

 全員が一斉に一の弾(アレフ)五の弾(ヘー)を追加で決めてから高速で動き回り、二の弾(ベート)をアンタレスに重ね動きを遅くしていきます。

 

「狙うは装甲の、皮の隙間ですわ!」

「ハサミに気を付けて! 毒針には警戒を怠らないように!」

ガァァァァァ!!!」

 

 アンタレスの尻尾が高速で振るわれます。槍を持つわたくしが弾こうとして潰されました。別のわたくしが槍を回収して戦い直します。遅くしてもまだまだ速いのでどんどん畳み掛けます。三百六十度、全方位から影を通って槍や剣を突き刺して部位を切り取っていきます。次の瞬間には再生しており、黒ジャガ君より再生能力が高いですわ。

 

「無駄だ! アンタレスはオリオンの矢でしか倒せない!」

「無問題ですわ!」

「僕がやらなきゃ……」

「覚悟を決めたなら参加して構いませんが、殺す覚悟がないんでしたら邪魔ですわ。それに……わたくし!」

 

 離れた位置で小銃を構えているわたくしの前には神聖文字(ヒエログリフ)で書かれた円形の魔法陣が複数展開されており、それらが青い光を発しながら回転しています。

 

「アンタレスさん! わたくしとあなたのアルテミスの矢! どちらが強いか勝負ですわ!」

■■■──!!!」

 

 青い光を纏う小銃から放たれ、加速していく青い弾丸とアンタレスのアルテミスさんが入った魔石から放たれる青い光線。どちらも中央で激突します。銃弾が光線を引き裂いて進んでいきますが、途中で減速して押し切られました。残った光線は撃ったわたくしを飲み込みますが、その前に黒ジャガ君の大盾を持ったわたくしが前に立って防ぎます。

 反射された光線は周りを破壊していきますが、次第に大盾に罅が入っていき、割れてしまいました。当然、そこに居たわたくし達は吹き飛ばされて空中で体勢を整えて天井から伸びている鍾乳石を蹴ってこちらに戻ってきます。

 

「盾が割れましたわ」

「さすがに何度も神の力(アルカナム)は防げませんか。致し方ありませんわね」

「巻き戻せないから回収して別のに作り変えますか」

 

 黒ジャガ君の装備は魔法を全て反射するので、巻き戻しが効きません。故に使い捨てにできない貴重な武器です。一応、不壊属性(デュランダル)にはしてあるのですが、神の力(アルカナム)は摂理を捻じ曲げるので不壊属性(デュランダル)ですら破壊されてしまいます。

 

「今のは私の力か……?」

「どういう事ですか!?」

「クルミ、何をしたんだ?」

「ベルさん。言いましたわよね。アルテミスさんを殺すと。ええ、わたくしが殺します。ですから、殺す手段を用意してきましたわ。ですのでご安心くださいまし。貴方はアルテミスさんを殺す必要はありません。そこで大人しくしアルテミスさんを守っていてください」

 

 言外に邪魔だと伝えてながら、全力で戦闘を続けます。相手はどんどん学習して進化してくるようで、ハサミが伸びるようになり、振るう速度が格段に速くなりました。それによってハサミに捕らえられたわたくしが頭と足を少し残して潰されました。

 

「ちぃっ!」

 

 尻尾も全てがブレードとなり、武器で滑らせるしかありません。更にハサミの間から紫色の光線も放つようになり、尻尾の先端も合わされば十もの砲塔が加わりました。

 もちろん、わたくしも負けておりません。くるみねっとわーくを使って常に相手の進化に合わせてデータを収集して適応化させて戦います。また並行して遺跡内部の探索と掌握を行い、各所にアルテミスさんの力を吸収する魔導具、鳥籠を設置していきます。

 

「散開!」

 

 即座に前衛のわたくし達が影に逃げ込むと、先程まで居た場所を無数の光線が通過して洞窟内部を破壊していきます。そこに後衛部隊からオリオンの術式を使った弾丸の雨がプレゼントされます。

 アンタレスは即座に光線をその弾丸達に向けますが、微かに勢いを削いで軌道を変えるしかありません。その弾丸がアンタレスの身体に命中すると、その部分が弾けとんでいきます。

 

「高速回転させる術式でライフリングを再現し、弾丸を球体からライフル弾に変更しました。貫通能力は上がっておりますわね」

「それはいいけれど、撃ったら即座に逃げなさい! 反撃が来ますわ!」

 

 見ればお返しとばかりに魔石に青い光が収束して散弾のように矢を放ってきます。こちらも緊急回避をして、被害を最小限に済ませます。手足を貫かれた子は即死していなければ四の弾(ダレット)で巻き戻して戦線に復帰させます。

 

「「……」」

 

 互いに気づいたのは神の力(アルカナム)神の力(アルカナム)で防ぐべきであるという事でしょう。アンタレスが撃ってくれば、こちらも銃撃で迎撃して散らします。それ以外は紫色の光線を黒ジャガ君の防具や槍の先端に結び付けた割れた盾などで対応します。

 

「きひっ! 楽しいですわね!」

「まったくですわ!」

「もっと、もっと()りあいましょう!」

■■■■■■■■■■■■──!!!!!」

 

 ハサミを剣で受け止め、足を切り裂き、関節を砕いて破壊して部位を回収します。代わりに三人が死にました。ですが、遺跡中から回収しているので問題にもなりません。

 そう思っていると、尻尾にある方からハサミが開いて砲塔から極大の光が集まってきます。どう見てもやばい奴です。

 

「退避~~!」

 

 一目散に散っていきますが、間に合いません。これ、死んだかと思いましたが、尻尾が何かにぶつけられて尻尾ごとアンタレスが吹き飛んで壁に激突して爆発しました。

 爆炎の中、光る物があり、そこに視線をやると煙の中から大きな炎を纏った戦斧が飛び出してきます。その戦斧が行く先を見ると、崖がありました。三メートルほど高い場所に平らな場所があり、そこに戦斧が銀の糸に引っ張られて飛んでいき、小さな女の子の手に収まります。

 

「遅いですわよ、リリさん」

「無茶苦茶言いますね!」

 

 飛び降りるのではなく、震脚で地面を蹴って天井から伸びている鍾乳石に移動し、そこを蹴って煙の中に入って爆炎を撒き散らかします。

 煙が晴れると、そこには背中の腕を交差させてリリさんのイフリートを防いでいるアンタレスの姿がありました。一回り大きくなり、皮が装甲のようになったアンタレスが雄叫びを上げます。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──!!!!!」

 

 どうやら、ここからが本番のようです。それでも、こちらにも増援が来たので問題はないでしょう。ちゃんと切り取った部分は一時的に時間停止して確保しておきましょう。これも必要な素材になるかもしれません。

 

 

 

 

 



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オリオンの矢5

オリオンの矢はこれで基本的にラストです。映画を何度も見て書きましたが、色々とツッコミがあるでしょうが、ごめんなさい。


 

 

 

 僕はどうすればいいのだろうか。目の前で行われている激しい戦いを見ながら、悩む。

 彼女は、クルミ達は高速で駆け回ってアンタレスの攻撃を回避しながら、ダメージを積み重ねて装甲の薄い部分を破壊して壊れた部分を影に入れて何処かに運んでいく。

 それでもアンタレスは破壊された部分を瞬時に再生して攻撃を再開する。クルミもそれがわかっているようで対抗している。アルテミス様の力が宿った弾丸を味方が居るのも気にせずに放ち、的確に破壊していく。アンタレスも負けじと青い光線を放って迎撃し、そこかしこで爆発を起こしている。

 

「味方ごと……って、言いたいが、全部計算して紙一重で避けてやがるな」

「そうですね。これでは下手に手が出せません」

 

 銃撃部隊と近接部隊で分かれ、同じ存在である事を利用して、戦っているクルミが首を傾げた瞬間、そこを銃弾が通ってアンタレスのハサミを弾き、その隙に柔らかい部分を大剣で切断する。

 さっきからこういう戦い方をしているので、アンタレスがかなりダメージを負っている。そんな中にリリが気にせずに突入してアンタレスの尻尾を切断していく。

 

「リリさんは尻尾をメインでお願いしますね」

「まっかせてください! 贋造魔法少女(ハニエル)鏡よ鏡(ミラー・ミラー)!」

 

 リリは二人になり、常に交互で尻尾を斬って叩き落としていく。リリの攻撃はまるでアンタレスの強靭な装甲が普通の鉄のように切断されている。武器自体も炎で赤くなっているけれど、力がおかしいと思う。

 

「ねえ、ヘルメス。リリ君の力って明らかにレベル4じゃないよね?」

「下手をしたら5か6か?」

「凄いな。だが、何時までも持たないだろう。やはり、オリオンの矢が必要だ」

「確かにクルミ君がアルテミスの力を使うのは驚いたが、それ以上にアンタレスが進化している。おそらく、上に使っていた神の力(アルカナム)をこちらに集中させているのだろう」

「地上と地下で力を割いて慢心してくれていたのが、クルミ君が頑張ったからこっちに集中しだしたってところか」

「だろうね。アスフィ!」

「わかっています! クルミ、一時的に下がりなさい!」

 

 アスフィさんが空を飛んでバーストオイルをばら撒きました。それでもアンタレスには余り効いていないみたい。

 

「視界を遮りました!」

「助かりますわ。リリさん、これを思いっ切り、アルテミスさんが捕らえられている魔石の周りに突き刺してくださいまし」

「黒ジャガ君を使った特別製ですわ」

 

 そして、四メートルくらいありそうな全てが黒くて先端が円形で中身が空洞な槍をリリに渡した。その槍は何故か変な物がついていて、リリはなんでもないかのように持ち上げてしまった。

 

「鳥籠がついた槍ですか?」

「抜けないようにできれば胴体もしくは顔面から串刺しでお願いします。囮はこちらが務めますわ」

「お任せください!」

 

 クルミが銃撃を再開すると、そちらにアンタレスの攻撃が集中し、その間にクルミ達が接近して攻撃を行っていく。アスフィさんもアンタレスの頭部の周りを飛びながら、目玉にバーストオイルを投げつけていく。

 アンタレスはハサミから光線を放ち、クルミ達ごと周りを破壊していく。クルミ達は走り回り、時には飛び、時には転がって回避しながら攻撃を積み重ねていく。

 

贋造魔法少女(ハニエル)

 

 槍を二つにしたリリが走り出し、クルミ達に集中しているアンタレスに向けて思いっ切り投擲する。槍は衝撃波を発しながらアンタレスの身体を左右から刺し貫きました。

 

■■■■■■■■■■■■■■■──!? 

 

 アンタレスが絶叫をあげながら、倒れる音が響きます。砂煙が晴れると、アルテミス様が居る魔石を避けるようにして大きな黒い槍が左右から交差するように突き刺さっていた。露出された大きな魔石に入れられているアルテミス様の目から涙が落ちていくのが僕の目には入った。

 

「おしぃです! もうちょっと上でしたね。そうすれば頭部を砕けたんですが……」

「十分ですわ」

 

 アンタレスは槍を飲み込むようにして身体を再生させていく。そんな状況でクルミは鳥籠の部分に立ちながら笑っている。

 

「術式展開」

 

 クルミの言葉と同時に黒い槍に青い光が迸り、刻まれた神聖文字(ヒエログリフ)が光を発する。すると鳥籠の中にアンタレスの血液がどんどん溢れ出してきて、籠から外へと出ていっている。そして、血液が排出されたら籠の中に何か青い物と黒い物が見える。

 

「くっ……」

「アルテミス!?」

 

 振り向くと、アルテミス様が胸を押さえて蹲っていた。アルテミス様の身体は光の粒子へと変わって、崩れていく。

 

「アレはアンタレスを通して私の力を吸い取る槍のようだ」

「そんな……」

「いや、これでいい。オリオン。頼む。私を、私達を、世界を救ってくれ。やはり、オリオンでないと駄目だ。クルミでは倒しきれない。彼女は戦いを長引かせ、力を奪う事に集中している。アンタレスを殺す気がないのだろう」

 

 アルテミス様が僕が握っているオリオンの矢を掴みながら、そう言ってきた。アルテミス様の身体から出た光はオリオンの矢へと吸収されていく。

 

「アルテミス様……わかりました。僕に任せてください。泣いている女の子は助けなくちゃ!」

「そうだな、助けてくれ。よろしく頼む……」

「なぁっ!?」

 

 アルテミス様が僕の頬に口づけをしてから、槍へと消えていった。クルミの言う通り、覚悟を決めた僕は槍を握りしめ、英雄願望(アルゴノゥト)を発動させる。イメージする英雄は槍を持ち、一度投擲すれば稲妻のような速さで敵軍に残らず突き刺さり、敵を逃さず命中する必中の槍。

 

「俺も行くぜ」

「僕も……」

「いや、ベル君はここで準備をしておいた方がいい。もっとチャージするんだ。先のアルテミスの言葉が本当なら、クルミは妨害してくる」

 

 僕も行こうとしたら、ヘルメス様に止められた。クルミが本当に止めてくるかはわからない。それでももっとチャージした方がいいのはその通りだ。一撃に全てを賭けなくてはいけない。

 

「ベル君、君はアルテミスを……」

「覚悟はできました。本当はやりたくありません。でも、泣いている女の子を放ってはおけません」

「そうか。君が決めたのなら僕はなにも言わない。頑張れベル君! アルテミスを救ってくれ!」

「はい!」

 

 見ればクルミはリリ達に指示を出し、アンタレスの身体に次々と鳥籠の付いた槍を刺して打ち付けている。そこから血液が抜かれ、血が通った後にはアルテミス様の力が入った結晶とどす黒い結晶がある。

 

「背中は封じました! これで再生するのは足と頭部、尻尾だけです!」

「ヴェルフさん! 足を斬りますので傷口に突き刺してください! それで再生が止まります!」

「了解だ!」

 

 尻尾はリリが切り落とし続け、頭は執拗にアスフィさんとクルミを追っていっている。下半身のハサミもクルミ達が絶え間なく攻撃しているので完全に防げている。今なら、確実に魔石を貫ける。

 

「あら、覚悟は決まりましたの?」

「クルミ、教えて。君は何をしているの?」

「言ったではありませんか。アルテミスさんを殺すと」

「うん。でも、僕にはそれだけには見えない。殺すつもりなら今ならすぐに殺せるよね? それなのにアルテミス様を余計に苦しませている」

「でしょうね。常に全力で力を吸い取られ続けているんですもの。苦しくないはずがありません」

「それなら! なんでこんな事をするんだ!」

「報酬のためですわ」

「報酬だって!」

「はい。アルテミス様はアルテミス・ファミリアの全財産をくださるとおっしゃってわたくし達に依頼されました。ですが、アルテミス・ファミリアは既に壊滅し、残っているのは壊れた武器と死体、オラリオにある建物ぐらいです。それでは割に合いませんの。故にアンタレスを利用して神の力(アルカナム)を頂きます」

「君は苦しんでいる女の子を放っておくのか!」

「関係ありませんわ。わたくしにとって、大事なのはわたくしの大事な子達であり、それ以外はどうでもいいです。そして、それ以外は数で計算します。小を救うために大を切り捨てるのではなく、大を救うために小を切り捨てます」

「そんなのは駄目だ!」

「何故ですか? これがベルさんの目指すべき英雄と呼ばれる方々が行ってきた事ですよ」

「違う! 英雄は全てを救うんだ! 大も小も全て!」

「子供の理論ですわね。御伽噺の中だけですわよ。現実はそんなに甘くありません。いくら準備しても力が足らずに助けられない事がほとんどです」

「それでも諦めない!」

「ええ、ええ、ですからここでアルテミスさんには苦しんでいただきます」

「は?」

「ベルさんが先程言った、全てを助け、救う為に。わたくしはより強い巨大な力を欲しております。それがこの手に入るチャンスです。何故、ここで止められましょうか? アルテミスさんがおっしゃいました。下界の子供達が好きだと。ですから、わたくしは彼女の子供達も救います。そのための準備をしておりますの。邪魔をしないでくださいませ」

 

 クルミが立ち塞がり、銃を構える。僕も槍を持ちながら、ヘスティア・ナイフを抜いて構える。

 

「仲間割れは止めてください! 時と場合を考えてください! リリが死にますよ!」

 

 リリが実際に光線に貫かれて分身が消えた。僕とクルミは互いを見合わせた後、すぐに武器を仕舞う。

 

「……はぁ……リリさんを殺すわけにはいきませんね。それだけで再走案件ですし。ベルさん、これだけは教えてくださいまし。貴方は現在で救えれば過去と未来はどうでもいいのでしょうか?」

「違うよ、クルミ。僕は全部助けたい。それだけの力を手に入れたい。でも、その力は今はない。だけど、今、泣いているアルテミス様を放ってはおけない」

「……ベルさんは不合理ですね。まあ、不条理のわたくしが言ってもアレですが……いいでしょう。ボウケンシャーの先達としてここは譲ってさしあげますわ。どうせ必要分は足りました。他の分はここを使えばどうにかなるでしょう」

「ありがとう。僕が手伝える事なら手伝うから、なんでも言って」

「本当に意味がわかりませんわ。敵対しているわたくしに何をおっしゃっていますの?」

「クルミは敵対していないよ。ただ、どういう方法で救うかの違いでしょ?」

「ああもう! 本当に訳がわかりませんわ! 全員、計画(プラン)を変更します! 半分は遺跡の制圧を最優先し、使い終わった鳥籠を設置! 遺跡その物を時喰みの城(ときばみのしろ)で覆いつくしなさい!」

「「「絆されましたか、ルーラー!」」」

「うるさいうるさい! ぶち殺されたくなければ動いてくださいまし!」

「「「横暴反対! 労働基準の改定と労働組合の設立を要求しますわ!」」」

「却下です。はい、閉廷! 時間がありませんの。行きなさい、わたくし達!」

「「「「「「は~い」」」」」」

 

 散っていったクルミ達を確認したのか、僕の前に立ったクルミは僕に銃を向けてくる。でも、今度は嫌な感じもしない。

 

「<刻々帝(ザフキエル)>、一の弾(アレフ)五の弾(ヘー)。ベルさん。外したら許しません。ぶち殺してやりますわ」

「任せて!」

 

 撃たれると、身体が軽くなって全てが遅く見える。それに少し先の未来まで見えてきた。だから、アンタレスに向けて駆け抜ける。アンタレスはこちらに気づいて目の前に弓を形成してくる。

 

「その神の力(アルカナム)貰いですわ!」

 

 クルミ二人が左右から矢に向かって鳥籠がついた槍を振るうと、鳥籠の中に光が吸収されて霧散してしまった。アンタレスは即座に紫色の光線を放ってくる。それを高速で移動しながら回避していく。未来が見えているので楽に躱せる。

 それにリリがアンタレスの頭を蹴り上げて、ヴェルフが足を切り落として体勢を崩してくれた。アスフィさんがアンタレスの大きな目に何かの瓶を投げつけると、アンタレスの絶叫が響く。

 

「特殊な酸です。炎は効かなくてもこれは効くでしょう。行きなさい、ベル・クラネル」

「行ってくださいベル様!」

「行けっ、ベル!」

「ベル君! アルテミスを助けて!」

「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!」

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■────!!!!!!! 

 

 全力でオリオンの矢を投擲する。アンタレスは絶叫を上げながら、急速に新しく生やした大量のハサミでオリオンの矢を防ごうとしてきた。でも、不安は全然ない。だって、僕には強い味方が居るから──

 

「させませんわ」

 

 ──青い光を纏った弾丸が上から僕を避けて降り注ぎ、アンタレスのハサミを全て粉砕してオリオンの矢が命中する。

 

「胸を閉じなさいアンタレス!」

「「「なんで!?」」」

 

 クルミの発言にアンタレスが咄嗟に胸の装甲を閉じてオリオンの矢を防ぎ、速度を落としてアンタレスの身体のほとんどを吹き飛ばす。そして、オリオンの矢はギリギリに魔石に命中して魔石を砕いた。中から一糸まとわぬアルテミス様が落ちてくる。僕はナイフを抜いて駆け抜ける。

 そして、アルテミス様の胸に突き刺そうとしたら、クルミが飛び込んできてボクのナイフは彼女の背中にあっさりと突き刺さった。

 

「なんで!?」

 

 別のクルミがアルテミス様の身体を鳥籠のついた黒い槍で身体中を串刺しにしていく。

 

「生憎と、ベルさんに……殺させはしませんわ……これはわたくしの獲物ですもの!」

「そこまでベル君に殺させたくないか……」

「クルミ君……君は……」

 

 アルテミス様の身体が光に包まれ、光の柱が生まれて僕の視界を押しつぶした。

 

 

 

「オリオン」

 

 アルテミス様の声が聞こえて見を開けると、そこは満天の星空が広がる場所だった。遠くには木々が見えて、足元からそこまですべてが見渡す限り水面で、星空や木々が水面に映っていて、光の弾が水面から生まれて星空へと昇っていく。その光景がとても綺麗だけれど、悲しくて涙が出てくる。

 

「……アルテミス様……」

「知っているか? 神も死んだら生まれ変わるんだ」

 

 それを聞いて、僕の顔は自分でもわかるほど歪んでいく。

 

「だから笑って。また出会うために」

 

 拳を握りしめながら、必死に笑顔を作ろうとするけれど、どうしてもできなくて歪な感じになってしまう。

 

「それは何時……」

「さぁ? 百年後か千年後か。ひょっとしたら一万年、かかってしまうかもしれない」

「僕、もう生きてないですよ……」

 

 アルテミス様は近づいてきて、僕の頬に手を伸ばして撫でてくる。その感触が冷たくて、もうアルテミス様が死んだのだと理解させられる。

 

「でも、きっと生まれ変わった貴方がこの下界には居る。きっとまた貴方と巡り合える」

 

 アルテミス様の言葉で涙が溢れ出しそうになる。そんな僕からアルテミス様が後ろに波紋を生み出しながら下がっていく。

 

「だから、次に会った時は一万年分の恋をしよう、ベル!」

 

 涙を流しながら、笑顔でそう言ってくれるアルテミス様に僕は泣きながら返事をした。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「お、魔法陣が完全に消えたな」

「クルミも居なくなったようね」

「やっぱり失敗か」

「どちらにしろ、アルテミスは死んだようね」

「間違いないやろ。見送ったるか」

「そうね」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「ヘルメス様」

「大丈夫。俺達は待っていよう。それにまだクルミが動いていない」

「絶対に何かやらかしますよ。リリにはわかります」

「そんなエッヘンみたいな感じで言うなよ。本当に思えるだろ、リリスケ」

「何を言っているんですか。クルミ様の事はリリが一番良くわかっています。ですから、まだ終わっていません」

「本当にそうだったらいいんだけどね……今回ばかりは流石に無理かもしれないけど」

「いいえ、消えているクルミ様がその証拠です」

「普通にベルに突き刺されて死んだんじゃないのか? アレがオリジナルだったらやばいんじゃ……」

「アレは分身ですよ。それよりもこんなに明るくて天気がいいんですか……ら……」

「ああ、うん。リリ君の言う通りだね」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 遺跡から出ていく皆を見送ってから、僕は湖を見る。

 

「救えませんでした。僕、約束したのに……結局、クルミに全部押し付けて……クルミを殺してしまった」

「ベル君。君は自分が許せないかもしれない。でも、クルミ君は自分からわかっていてああしたんだ。それにアルテミスだって救われているよ」

「どうしてそんな事がわかるんですか?」

「だって、ほらこんなに綺麗な光が……光が……」

「どうしたました、神様?」

「ベル君。僕の目の錯覚かな? 空が黄金に光輝いているんだけど……」

「え?」

 

 空を見ると、確かに一面が黄金の光に輝いていました。そのタイミングで後ろから誰かに蹴られて僕と神様は外に投げ出された。

 

「な、なんだい!?」

「か、神様!」「あぁ、ベル君にお姫様抱っこ……最高! ってちが~う!」

 

 空中でどうにか神様を確保して橋の部分に着地したけれど、先程まで居た遺跡の外壁を見ると、そこには僕と神様を突き落とした……ううん、蹴り落した犯人が居た。

 

「こほん。さてさてさ~て、始めましょう」

 

 クルミは服装が違っていた。フリフリした白と赤の衣装。たしか、極東の服だったと思う。

 

「巫女服だと!?」

「知っているのかいヘルメス!」

「アレは神に仕える者達が着る極東の女神官にのみ許された服だ。清い乙女しか着る事が許されない」

「じゃあ、クルミ様は駄目じゃないですか? いえ、そこまではやっていないのかも?」

「知っちゃいけない情報じゃ……」

「こふ」

「ヘルメスさまぁぁぁっ!」

 

 クルミは外壁の上に立ちながら、鳥籠のついた槍を持ち、それで遺跡を何度か叩く。すると、魔法陣が遺跡全体を覆うようにして現れた。

 

「天よご照覧あれ! 誇り高き勇者達に貞潔なる処女神のご加護を!」

「それ俺の奴じゃん! いや、アルテミスのか?」

「どうでもいいよ! それよりも……」

 

 クルミが防壁の上で踊りながら青い光を発する鳥籠の槍と短銃を振るっていく。それと同時に遺跡中に小さな青い魔法陣が生み出されていく。

 

「うわぁ、アレ……神の力(アルカナム)ですよ」

「何をする気なんでしょうか? 止めなくていいのですか?」

「やらせてみよう」

 

 次第に遺跡中から青い光の柱が立ち上がっていく。よく見ればここに居るクルミ以外にも、別の場所でクルミが鳥籠がついた槍を持って踊りながら遺跡を叩いている。

 

「<刻々帝(ザフキエル)>、四の弾(ダレット)

 

 遺跡中から銃声が響き、同時に周りの何かが変わり、遺跡が振動して崩れていっている。

 

「たしか、四の弾(ダレット)は巻き戻す力を持つんだったよな?」

「遺跡を巻き戻したところで……」

「何をしている? 何をしているんだ! 神の気配が強くなっている!」

「うわぁ……」

 

 神殿へと空にあった黄金の光が降り注いでいく。

 

「さぁ、お休みの時間は終わりです! 目覚めなさいわたくし達の同胞よ!」

 

 アルテミス様の気配が強くなってくる。

 

「巻き戻したのは力を失った精霊か!? だが、意味がないぞ。いくら神の力(アルカナム)を受けたとしてそれまでだ……」

「なんか出してきたぞ」

「アレはアルテミス様のファミリアの方々です!」

 

 死体の彼女達は身体中が結晶化していた。その中にはクルミも居る。そして、その人達の前にアルテミス様の死体が置かれる。その人達と一緒に新しい魔法陣が展開され、重ねられて一つに変化していく。

 

「死体に神の力(アルカナム)! 作っているのはエインヘリャルか!」

「そ、そそそれってやばくないかなぁ!」

「やばいぞ! クルミ君! やめるんだ! それは駄目だ!」

「きひっ! きひひっ! 今まで鳥籠で集めに集めたアルテミスさんの神の力(アルカナム)とアンタレスの力。新鮮な神様の死体に時喰みの城(ときばみのしろ)で封じ込めた天界に送還前のアルテミス様の詳細情報が入った黄金の粒子! そして、何よりここに残る大精霊達の残滓! それらを受け止めるはアルテミスさんの神の恩恵(ファルナ)を受けた死体! ええ、集めましたとも、集めましたとも!」

「止めろ! 神々はたとえ死んだとしても転生するんだ! 君がやろうとしている事は大罪だ!」

「知った事ではありません。それに転生だって何百何千、何万年も先の話でしょう? そんな物は認められませんの。ええ、認めてやるもんですか。私は助けたい方を助けるのです」

「まさか……」

「今転生させる気かあぁぁぁぁぁっ!」

「アスフィ! 止めろ!」

「やらせるなベル君!」

「「っ!?」」

「クルミ君! 君はアルテミスを救えないって!」

「わたくしはアルテミスさんを殺すと言いましたが、転生させないなんて言っていませんわ。死体と魂、素材があればエインヘリャルが生み出されるのです。神様を素材にしても何の問題もありませんわ!」

「ありまくりだぁぁぁっ!!」

「わたくしを騙して利用しようとした報いです! 後処理を頑張ってくださいまし!」

「あぁ……ヘルメス様……」

 

 アスフィさんが泣き出した。無理もないし、僕には助けられない。僕もクルミに賛成だ。

 

「アスフィ、頼む防いでくれ!」

「無理です。これを見てください」

「え……? あ……」

「えへへ、逃がしませんよ~。リリの所属はソーマ・ファミリアで、クルミ様の補佐をする副団長なんです♪」

「うん。無理かな!」

 

 リリがアスフィさんの腕を抱きしめている。アスフィさんが下手に動いたら彼女の腕は折られるか、もぎ取られると思う。もしくは燃やされる。

 

「周りに漂っていた意思が消えていた精霊達もクルミ君に巻き戻され、アルテミスの神の力(アルカナム)を受けて微かな力だけど復活した。これでエインヘリャルを作る材料は全てそろっている」

「クルミ君の分身が素材にもなってるから生きている精霊という部分にも当てはまる。ガチのエインヘリャルだ。それもアルテミス自身でだ。これ、俺が報告して後始末しなきゃ駄目なの?」

「頼むよヘルメス!」

「ああくそがぁ! 腹くくってやる! 神友のためだもんな!」

「そうだそうだ」

 

 ヘルメス様がドカッと座り込んだので、全員が儀式を見ている。アルテミス様の身体に全ての力が入り、いつの間にか回収されていたオリオンの矢も取り込んでいく。アルテミス様の周りには死んだはずの彼女達がおり、順番に入っていった。

 

「さて、それでは最後の素材を入れましょう」

「待て! それは待て!」

「ちょ!? 何を考えているの!」

「ある程度は分離させましたが、アルテミスさんとアンタレスは融合しすぎております。どうしてもアンタレスの残滓は残ります。ですので、それならこっちが色々と細工して使ってやるんです。ええ、アルテミスさんの力を散々使ったんですから、次はアンタレスが使われる番ですわよね?」

「倍返しですね!」

「そういう事です!」

 

 黒い結晶体がアルテミスさんの身体に入れられると、彼女の身体がビクンッと震えて髪の毛の色が変化していく。いや、髪の毛だけじゃない。他にも色々と変化していく。

 

「諸君!」

「はい?」

「うん?」

「わたくしはケモ耳が好きです!」

「何を言っている?」

「愛しています! 大好きです! ですから、わたくしのものであるこの身体にケモ耳をつけても何の問題もありませんわ! 以上、証明終わり。QED」

「「「まてぇぇぇぇっ!」」」

「「あはははは……」」

 

 リリと僕だけが乾いた笑いをする。本当に獣耳が生えていきた。それに髪の毛の色も色々と混ざったせいか、青色から緑と金色に変化したみたい。

 

「術式施術終了」

 

 全ての光と鳥籠がついた槍ごとアルテミス様の身体へと入れられ、一人の女の子が目を覚ます。彼女はキョトンとした表情で周りを見てから、僕を見つけると──

 

「オリオン! 私()は子供達のおかげで生まれ変わったぞ! 約束通り、恋をしよう!」

 

 ──抱きついてきた。裸のままで。

 

「こらぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「ごめんなさいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃっ!!」

 

 僕と神様の絶叫が崩壊していく遺跡に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




クルミちゃん式エインヘリヤル計画。

アルテミス様の記憶とアンタレスの記憶、オリオンの矢の記憶。ここから必要な術式を習得します。具体的にはオリオンの矢とエインヘリヤル関連の術式など。
神の力(アルカナム)とアルテミス様の残滓を回収するため、ヘファイストス様とゴブニュ様に協力を要請し、下界の危機という事でご協力いただきます。
二人の神様監修の下で黒ジャガ君の魔法反射装甲を使い、神の力(アルカナム)の檻である鳥籠を作成。アルテミス様を逃がさないためなので鳥籠です。槍というよりは注射器ですね。アンタレスに撃ち込んで血液ごと神の力(アルカナム)を回収します。また融合されている事がわかっているので、アルテミス様とアンタレスを分離する術式も必要。
過去と人とやり取りをできる力を利用し、情報を伝達。技術情報を改変し、改変して作り上げた鳥籠を黒ジャガ君を使って量産。両ファミリアが全力を持って他の仕事を無視してやったために完成。両ファミリアは報酬の黒ジャガ君を一匹ずつ自由に作れる権利を得ました。
ちなみに……エインヘリヤルとか聞いてません。おふたりはクルミちゃんに利用されただけです。
神の肉体アルテミス本人と彼女のファミリアの死体。生きた半分人で半分精霊のクルミ。どちらも神の力を取り込んで親和性を格段にアップさせた状態で、遺跡に眠るアルテミスの眷属である精霊達をアルテミスの神の力(アルカナム)で呼び起こして、アンタレスから奪った大量の力で四の弾(ダレット)連打である程度意識と力を取り戻してもらい、潤滑液の代わりになってもらい、融合です。
以上が、今回クルミちゃんが計画したアルテミス救済作戦。殺すのはどうしようもありません。巻き戻しても無理ですし、アルテミス・ファミリアが崩壊する前にしても、そこまで戻れません。また、その場合だとオリオンの矢も使い手もいないのでクルミだけでやり切れるかわかりません。
そもそもが、リューさんが過去改変のために協力してくれるので、その時にやればいいとクルミは思っています。そのために戦力となる使い魔としたエインヘリヤルを手に入れる計画ですね。アルテミス・ファミリアの主神含めて全財産を余すところなく使い切る作戦です。

ケモ耳は完全にクルミの趣味です。耳と尻尾はライオンです。クルミがイメージしたのが、FGOのアタランテなので、そちらになります。
下界の子供であり、女神アルテミスの加護(神の力)を受けた子なので名前的にも間違っていません。中には当然、アルテミス、アルテミス・ファミリアの子供達、精霊達が居ますが、基本的にはアルテミスがメインであり、取り込んだアンタレスの制御をしております。ときおり、表に出て遊ぶぐらいですね。


ステイタス? アルテミス様と基本的には同じ。神の力(アルカナム)だってある程度は使えます。必殺技は天穹の弓でオリオンの矢で放つアローレイン。つまりオリオンの矢が降り注ぐ範囲攻撃です。・ファミリア


やったね、ヘスティア様! 神友を助けたら強いライバルが出来たよ!



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オリオンの矢6

後始末な感じです。


 

 

 

 

 

 オラリオに戻ったボク達はクルミ君とアルテミス達と別れた。彼女達はギルドに何かされる前にアルテミス・ファミリアの者を押さえにいったようだ。

 ヘルメスはギルドに報告に向かったので、ボクはベル君と一緒にオラリオでしっかりと休憩を取っていた。するとヘルメスとアスフィ君が来て強制的に拉致された。

 

「は、離すんだヘルメス!」

「ヘスティア。諦めろ」

「ヘルメス……ボクを巻き込まないでくれ!」

「無理だ。お前も原因の一旦だ! 神会(デナトゥス)への招集命令が来ている」

「くそぉぉぉぉぉっ!」

 

 無理矢理連れて行かれた神会(デナトゥス)の会場はギルドだった。ボク達が連れていかれたのは広いホールの中央で、そこにボクとヘルメス。それにヘファイストスとゴブニュが居た。二人共、どこか苛立っているみたいだ。

 

「ヘファイストスもなのかい?」

「知らないわよ。それよりも詳しい事を聞かされてないんだから」

「まあ、この席を見ると仕方がないだろう」

 

 周りを見ると、多数の神々がボク達を囲むような席順で座って居た。これはアレだ。裁判だ。うん、なんで嫌そうにしていたのかわかった。でも、ここに肝心のアルテミスとソーマが居ない。

 

「遅い! どうなっている!」

「落ち着けよアポロン」

「これが落ち着けるか! 我が姉の事だぞ!」

「まあ、姉が殺されたとなれば憤るのも当然か」

「それに奴等はアルテミスの資産を全て持っていきよったのだ!」

「あ~」

 

 アポロンの奴はかなりご立腹のようだ。まあ、クルミ君なら本当に笑いながら根こそぎ持っていくだろうね。うん、目に浮かぶようだ。

 そう思っていると、扉が開いて新しい神が入っていた。いや、ここの主催者か。

 

「ウラノスが来たぞ」

「まあ、今回の呼び出した張本人ならぬ張本神だからな」

「ああ……」

 

 ウラノスの後ろにはギルド長であるロイマン・マルディール君もいるね。かなり緊張していて、汗をかいているようだ。その更に後ろからロキやフレイヤ達も入ってきた。他にもデメテルやディアンケヒトなどほぼオラリオに居る神々が全員来たようだね。それだけ今回の件は不味いことでもある。

 

「さて、集まったな? これより緊急の神会(デナトゥス)を開催する」

「ちょっと待った! 肝心のソーマ等が来てへんで」

「それは大丈夫よ。来たみたい」

 

 フレイヤの言葉で扉の方を見ると声が聞こえてきた。

 

流石にそれはまずくないだろうか? 

問題ありませんわ! ええ、問題ないですとも! 

 

 少し待っていると、扉が開けられて何時ものドレス姿のクルミ君と翠緑の衣装を纏った野性味と気品を併せ持つ少女が入ってくる。先導しているのは少女の方で、クルミ君の方が後から入ってくる。

 

「すまない。遅れた」

「おい、アレが……」

「アルテミスだと……!?」

「なんだこのおぞましいものは……」

「何を言っているんだ! 綺麗じゃないか!」

「確かにあの耳は最高……」

「いや、そんな事よりもや! ソーマはどないしてん!」

 

 そう、入ってきたのは彼女達だけで、ソーマが居ない。今回、ベル君が呼ばれる事はなかったけれど、ヘルメスの所は団長であるアスフィ君が連れてこられている。原因を作ったクルミ君が来るのも当然だ。もちろん、話の中心になるであろうアルテミスもだ。だが、クルミ君の主神であるソーマが居ないのはおかしい。

 

「ソーマ・ファミリアの団長、クルミ・トキサキ。神ソーマはどうなさいましたか? まだでしたら少しはお待ちしますが……」

「必要ありませんわ、ギルド長」

 

 クルミ君が手を出すと、アルテミスが何かの書類を出して彼女に渡した。クルミ君はそれを開いてこちらに見せると、誰もが息をのんだ。

 

「マジでやりやがった!」

「そら遅れるし、機嫌が悪くなるのもわかるわ」

 

 それは委任状と書かれていて、全権をクルミ君に与えると書かれていた。もちろん、ソーマの実印もつけられている。ところどころに何かの液体がついているようなのは気にしないでおこう。つまり、ソーマは来ないということだ。

 

「どうにかソーマ様に委任状を書かせるので遅れました。文句があるなら買いますわ」

 

 ほぼ全員が頭を振るう。だってクルミ君から神の力(アルカナム)が漏れ出ているからね。アルテミスはかなりオロオロとしている。

 

「ど、どうしましょうか、ウラノス様」

「構わん。全権を委任したのだ。決定には従ってもらう。始めろ」

「かしこまりました。それでは今回の件についてお知らせします。まず、今回の緊急の神会(デナトゥス)は先にアルテミス様の神の力(アルカナム)が使われ、下界が消滅の危機にあった事とソーマ・ファミリア団長、クルミ・トキサキが行ったエインヘリャルの儀式とその……かの方についてです」

 

 エインヘリャルと言った瞬間、神々が全員クルミ君を見た。それほどやばい事だからだ。

 

「下界でエインヘリャルを作るとか、マジかよ」

「それも神ではなく、子供がだろ?」

「明らかな違法行為だろ」

「処分しろ! 私は断じて認めぬ!」

 

 神々が好き勝手に言っていく。事が事だ。ボク達神々は子供の改造や死者を冒涜するエインヘリャルは禁止している。そもそも、エインヘリャルとは神々の黄昏、終末戦争で使う為に作り出された兵器だ。下界で運用していいものでは断じてない。

 

「やはりこうなったか……」

「ヘルメス、アルテミスは大丈夫なのかな……?」

「出来る限りの事をするが……正直言ってわからん」

「アルテミスが殺されるなんて事は嫌だよ」

「わかっている。俺もそれだけは防ぐ」

「鎮まれ!」

 

 話していると、木の槌が叩かれて視線が一斉にウラノスに向く。ウラノスはボク達を見渡してから、ヘルメスを見る。

 

「ヘルメス、説明を」

「わかった」

「待ったヘルメス。その前にわたしから言いたい事がある」

「ウラノス」

「構わん」

「ありがとう。皆、今回は私がしでかしてしまった事、誠に申し訳ございませんでした。皆の子供達を危険にさらしてしまった」

 

 アルテミスが皆に頭を下げる。でも、クルミ君は下げたりしない。それどころか、アルテミスが下げた頭にある耳を触ろうとしていた。うん、宣言していたもんね。ボクがしっかりと防止しておこう。

 

「こほん。皆、気になるのはわかるが、静かに聞いてくれ。今回起こった事を嘘偽りなく伝えよう!」

 

 ヘルメスが今回の事件について話していく。アルテミスは頭を下げたままだけれど、クルミ君は飽きたのかテーブルを取り出して紅茶を入れだした。完全な熟成されたソーマまで入れた物だ。それをヘファイストスやゴブニュに渡していた。

 

「自由か!?」

 

 当然、神々はこちらを睨み付けてくるけれど、クルミ君は一切気にしていない。

 

「ああもう! ともかく、遥か昔アルテミスが遣わした大精霊達によって封印されていた魔物(モンスター)、アンタレスが密かに長い年月をかけて力を蓄えていた。それに気付いたアルテミスが自らの眷属と共にアンタレスの討伐に赴き、敗北した。この時に取り込まれたアルテミスはアンタレスによって力を吸い取られ、神の力(アルカナム)を使ってオラリオと下界を滅ぼそうとしたという事だ」

「追加しますと、ギルドは複数のファミリアを調査隊として派遣しましたが、どの隊も全滅しておりました。そこでヘルメス・ファミリアにお願いいたしました。はい」

「そこでアルテミスは取り込まれた後で最後の力を振り絞り、自らごとアンタレスを殺すために神造武器であるオリオンの矢を下界に召喚した!」

「間違いないか?」

「ああ、間違いない」

 

 アルテミスがウラノスの言葉に素直に頷いて答える。

 

「俺達もアンタレスが居る遺跡にアタックしたが、アルテミスの大精霊達が封印した門に阻まれてどうすることもできず、溢れ出てくる魔物(モンスター)を狩るしかなかった。だが、アルテミス……オリオンの矢に宿ったアルテミスの残留思念と合流し、俺はオラリオの街に戻ってオリオンの矢を使える純粋な白き魂を持つ者を探した。そこでヘスティアの眷属がヒットし、俺だけでは足りない戦力を補う為にソーマ・ファミリアに依頼して、来てもらった。結果、世界を滅ぼそうとしたアンタレスは無事に討伐されてめでたしめでたしだ」

「それがどうしてエインヘリャルの発生になるねん!」

「俺だって知るか! 気付いたら手遅れだったんだよ!」

「おいおい……」

「沈まれ! ロイマン」

「はい! 被告人。クルミ・トキサキ。アルテミス様をエインヘリャルにした件について……」

「何故我が姉を汚した! 答えろ! 貴様が何をしたのかわかっているのか!」

 

 クルミ君がロイマンを見た後、席を立って神々の前に堂々と移動した。ヘルメスと交代した彼女はニコリと微笑む。

 

「知っていますし、わかっておりますが?」

「なんだと!?」

「それにわたくしは悪くありません」

「「「は?」」」

 

 堂々と宣言したクルミ君に神々がコイツ何言ってんだ? という感じになった。一部の神々はやっぱりと思っているようだね。

 

「そもそもわたくしが最初に今回の件に関わったのは、アルテミス・ファミリアがスポンサーで、ヘルメスさん主催者の旅行ツアーです」

「え? 旅行ツアー?」

「もしかして、神話の魔物(モンスター)討伐が旅行ツアー?」

「ええ、ヘルメス様に騙されました!」

「いやいや、待ってくれ。それは仕方がなかったんだ。オリオンの矢を使える者を探すためさ」

「まあ、オラリオを出る前に魔物(モンスター)討伐の話は聞きました。ええ、ただの魔物(モンスター)討伐です。その魔物(モンスター)神の力(アルカナム)を使ったり、ましてや何も知らない無垢な他のファミリアの方に神殺しをさせようだなんて一切思っていませんでした。ですので、報酬としてアルテミス・ファミリアの全財産でお受けしました。そのアルテミス・ファミリアも壊滅していたのですが……」

 

 皆の視線がヘルメスに集中していく。さすがにこれはね。ボクも未だに許せていない。

 

「わたくし達がソレを知ったのは旅の途中です。ヘルメスさんはそのまま隠して連れて行きたかったようですが、アルテミスさんが食事を取らなかった事や自身のファミリアについて何も言わない事などがあり、不審に思って問い詰めさせていただきました。ええ、自白剤のような物を使って洗い浚い吐いていただきました」

「ヘルメス」

「事実だ。だが、言い訳をさせてもらうと、オリオンの矢はアルテミスと信頼を築き、関係を深める事で力を増していく。だからこそ、アルテミスを取り込んだアンタレスを討伐するにはこうするしかなかった。さすがにアルテミスと下界を救うためとはいえ、彼女を殺すために彼女と仲良くしてくれとは言えなかった。それにクルミ君ならなんとかできるんじゃないかとも思っていた。予想の斜め上をいかれたけどね」

「ふむ。それでどうした?」

「当然、糾弾させていただきました。討伐魔物(モンスター)への虚偽の報告はわたくし達の生死に直結します。事前に知っていたのでしたら、伝手を頼ってロキ・ファミリアかフレイヤ・ファミリアの方々から団員をお借りして連れていきましたわ」

「確かに教えてくれたら、オッタルを派遣したわね。下界の危機は見逃せないもの」

「うちもや。港へ行こうと思って準備してたから、すぐにでもほとんどの子供達を動かせた。それこそ、オラリオをフレイヤに任せても遠征に出たったわ」

「無駄では無いが、意味がない。アンタレスはオリオンの矢でしか殺せない。クルミが居た時点で過剰戦力だ。実際、クルミは途中までアンタレスを相手に生かさず殺さずにして、神の力(アルカナム)を回収していた」

「弁明は?」

「ありませんわ。事実ですもの。神の力(アルカナム)はその後に行うアルテミスさんを転生させるために必要でした。もちろん、わたくしが強くなるという目的もございます。でも、それは何もおかしな事ではありません。力を得られる機会があれば逃さないのが普通です。おかげでこんな便利な力を手に入れましたわ」

 

 クルミ君の掌に青い神の力(アルカナム)で作られた矢が形成される。それは小さいながらも確かにオリオンの矢だった。その矢を握りつぶして取り込み直したクルミ君は改めて神々を見渡す。

 

「貴様! どれだけ不敬な事をしているのかわかっているのか?」

「不敬、ですか。では、言わせてもらいますが、わたくし達下界に住まう者は神々の玩具ではありません。わたくし達にだって譲れないモノがございます。それを侵されたら、たとえ神々だろうと例外なくぶち殺してやりますわ」

「貴様! それは全ての神々に対する宣戦布告と取るぞ!」

「戦争をしたいのでしたらどうぞ。何時でも相手になってさしあげますわ」

「待った! 止めろアポロン!」

「黙れ! 穢れた口で私の名を呼ぶな!」

「アポロン!」

「黙れ! 私は断じてお前をアルテミスなどとは認めん! 認めんぞ!」

「静まらんか! ガネーシャ! アポロンを黙らせろ!」

「俺がガネーシャだ!」

 

 ガネーシャがしっかりと他の神々と協力して口をふさぎました。

 

「ヘルメス、ロキ、フレイヤ。戦争になれば彼女を止められるか?」

「そもそも私は戦わないわ」

「うちもやな。今回の件についてはヘルメスが悪いわ」

「正直に言おう。オラリオが壊滅する。まず、アルテミスはエインヘリャルになった。この意味がわからない者はここには居ないだろう。下界で問題なく神の力(アルカナム)が使える神殺しが可能な存在だ。そして、エインヘリャルには裏切り防止機能としてマスターである神への服従権が存在する。この時点でオラリオにオリオンの矢が降る事を意味する。皆は能力を制限された下界で狩猟の女神であるアルテミスの本気を相手にして生き残れるか? 俺は無理だ!」

 

 ヘルメスが説明していくと、神々が青ざめていくのがわかる。エインヘリャルは巨人族の神々を殺すために存在するのだから、下手したら強化されている疑惑すらある。

 

「了解した。クルミ、嘘偽りなく申せ。エインヘリャルについてどう思っている。これは明らかな禁忌である」

「知った事じゃありませんの。エインヘリャルを禁忌と定めたのは神々だけであり、わたくし達下界の法律にはそんなもの、存在しておりません」

「当たり前や! エインヘリャルを作るには神の力(アルカナム)が必要なんやからな!」

「ええ。神の力(アルカナム)が必要です。ですので、頂きました。さて、ここに神の力(アルカナム)とそれを受けられる受皿がございます。術式もヘルメスさんなどから貰いました。更に下界の危機という事で超一流の技術者である鍛冶神の方々にご協力もいただきました。そして、何より……」

「何より?」

「神々が行った事すらない、神その者を素材として作り出されるエインヘリャル! 更にそこにその神すら取り込み、神の力(アルカナム)を使う事のできる魔物(モンスター)の素材! 神の眷属である精霊の残滓! また神々からオーダーがありました。アルテミスを救ってくれと! ですから、ええ、救いました! 好奇心の赴くままに神々ですら見た事がない未知の領域! 未知の存在! ここでやらなくてなんとするのです!」

「「「確かに!」」」

「故にわたくしはアルテミスさんが殺され、彼女を構成する魂が天界に送還される前に閉じ込め、死した神の肉体と彼女の新旧含めた全ての眷属達とアンタレスを融合させたわたくしオリジナルのエインヘリャルを生み出しました。オマージュこそしましたが、オリジナルなのですから神々に文句を言われる筋合いはありません! 別の術式ですから!」

「あの欠陥はわざとかぁぁぁぁ!」

「あの大きな術式の空白はアルテミス本人を入れるためだったのね。だったら、あの不合理な術式も説明できるわ。何せあくまでも素材を精錬していた段階なんだもの」

「アルテミスさんの死は逃れられません。神造武器であるオリオンの矢を召喚した時点で強制退去は免れませんし、一度強制退去したら戻ってこれないらしいではありませんか。かと言ってオリオンの矢で殺されては助けることができません。確かに神々は何千何万もの年月をかければ転生するのでしょう。ですが、そこに居るわたくし達子供達は別人です。同じ魂を持っていても、記憶もない別人なのです! 故にわたくしは認めません。記憶も出来る限りの能力も引き継がせ、死した神々をこの世界の者として甦らせたのです。だからあえていいましょう。わたくしは悪くありません! 神だろうと人だろうと助けたい存在を助けることの何がいけない事なのでしょうか!」

 

 虚空を掴むようにして拳を掴んで演説するクルミ君に多数の神々が乗せられた。この場を支配して見せたのは小さな半分人で半分精霊の彼女だ。

 

「よく分かった。だが、ヘファイストスとゴブニュについてどう説明する? こちらでは買収したという話があるが?」

「全くの事実無根ですわね。わたくしが徹頭徹尾利用しただけです。ですが、実際に嘘はついていません。こちらに現れたアルテミスさんの矢は消して見せました」

「そうね。私達は神の力(アルカナム)を取り込んで止めるための物を作っただけよ」

「うむ。依頼は魔物(モンスター)に使われる神の力(アルカナム)を捕らえ、抑え込む事であった」

「故に二柱の神々も無罪を主張します。ヘスティアさんに至ってはヘルメスさんに騙されて大切な一人しか居ない眷属に神殺しをさせられそうになりました。ですので、こちらは被害者です」

「良かろう。その旨、認める」

「やった! やったよアルテミス! ヘファイストス!」

 

 思わず二人に抱きついてしまったけれど、仕方がないよね。

 

「クルミ・トキサキのエインヘリャルを生み出した件についても無罪とする。だが、これ以降は禁止とするよう公布を出す。エインヘリャルなど地上に居ていい存在ではない」

「神よ、ここはエインヘリャルである彼女をギルドの管理としましょう。そうすることで、罰金などの免除する方向で……」

「ふむ」

「却下ですわ」

「なに?」

「彼女はわたくしのものです。誰にも、いえ、彼女本人が心から愛する人以外には渡しません。何せ、彼女はわたくしが苦労して生み出した子なのです。故に断じて渡しませんわ」

「貴様……」

「ヘスティア、私はクルミの子供なのか?」

「う~ん、確かにクルミ君も今のアルテミスを構成している素材になっているし、血縁関係はあるといえるのかも? 生み出した事からして子供といえなくもないかも」

「つまり、クルミがお母さんか」

「幼女がママだと!?」

「アリか、いやなしか……」

「アリだ!」

「ナシだぼけぇ!」

「アリだぁぁぁっ!」

 

 変な争いが勃発したけれど、まあいいや。今はそれよりもギルドとクルミ君だ。

 

「エインヘリャルのような危険な存在を一ファミリアに置いておくことなどできません!」

「知りませんわ」

「話になりませんな。では、ソーマ・ファミリアに制裁をかしますが、よろしいですか?」

「なるほど、そうするのであればギルドはわたくし達に挑んでくるという事ですわね。よろしい、ギルドを破壊しましょう」

「なっ!? 正気ですか!?」

「何か勘違いしているようですから、教えてあげますわ、森の豚さん。ギルドは絶対必要ではありません。便利だから使っているだけですわ。必要がないどころか、邪魔であれば排除する。当然の事ですわ」

 

 いつの間にか、武器を装備した大量のクルミ君達にボク達は包囲されていた。もちろん抜いていないけれど、何時でも戦いを始められるという宣言だ。つまり、最初から武力衝突も考えられていた……違うか。武力制圧をする気だったんだ。

 

「知っていますか? 戦争も政治のカードなんですのよ?」

「ちょっと待ちなさい。さすがにギルドが壊されたら面倒よ」

「確かにそうやな」

「ああ、そうですわね。でしたら、ギルドはわたくしが制圧して代わりになりましょう。わたくしなら分身達が作業してくださいますしね。業務を問題なくこなせますわ。あら、これならエインヘリャルをわたくしが持っていても問題ありませんわね。ええ、解決ですわ! 解散!」

 

 すぐにぞろぞろと神々の影を通って帰っていくクルミ君達。恐怖でしかない。

 

「ふ、ふざけるな!」

「ウラノスさん、どうですか? わたくしがギルド長になるというのは?」

「ふむ。確かにエインヘリャルを自由に扱えるのであれば考慮する価値はあるか」

「安全面を考えると中立のギルドがエインヘリャルを保有するんは確かに問題ないで。今回のような事がまたあるかもしれんし、暗黒期のようにならんとも限らん」

「確かにそうね。神の力(アルカナム)を使える戦力を保有しておけばいざという時、便利よ。それに彼女は下界で生まれたエインヘリャルだから、生み出したクルミが責任を持つのもおかしくはないわ」

「か、神よ! それでは公平性が認められません!」

「だが、ロイマン。彼女はアルテミスを手放すつもりはないだろう」

「当然ですわね。そもそも何故、最強の矢を自ら手放すのですか? あり得ませんわ。アルテミスさんが欲しいのであれば、戦争遊戯でもなんでも挑んできなさい。アルテミスの矢が粉砕してくださいますわ」

 

 わぁ~喧嘩を売ったらもれなく下界産、神のエインヘリャルが出てくるってことだね。悪夢かな! 

 

「クルミたん、敵には本当に一切容赦せんから、出すやろうなあ」

「そうね。使わないはずないもの」

「絶対に使う。断言していいわ」

「ロキやフレイヤ、ヘファイストスに同意かな」

「わ、わかりました! わかりました! 認めます! 認めます! ですが制限をつけないといけません!」

「それは当然だな」

「うむ」

 

 我関せずのガネーシャまでそう言ってきたので、神々の満場一致でアルテミスには制限が設けられる。と、言っても現状では下界を救った事と武力に関する事でクルミ君の意見が通りやすい。フレイヤもロキも反対しないしね。

 

「制限についてはダンジョンでの神威の使用禁止。ギルドのクエストを受ける事、オラリオの治安維持に協力する事。緊急事態における戦力となる事。この辺りか?」

「ダンジョンでの制限は了解しました。神威の危険性はわかっておりますからね。ギルドのクエストに関しては難易度と報酬次第です。今回のようなオラリオや下界の危機という時は協力させていただきますが、それ以外はエインヘリャルを使うだけに値する報酬を頂きます。格安で馬車馬のように働かされるつもりはありませんもの」

「くっ……」

「また個人依頼は禁止です。わたくしを通して受けてもらいます。オラリオの治安維持に関してはガネーシャ・ファミリアの要請に従います。ガネーシャ・ファミリアに派遣しているわたくしを通して連絡をいただければ緊急事態と判断すれば援軍として派遣しましょう。それ以外は自由にさせてもらいますわ」

「確かにそんなもんとちゃう? うちらかてそういうので協力するし」

「いいだろう。他にあるか?」

 

 ウラノスがボク達を見渡す。すると、おずおずと言った感じでアルテミスが手をあげた。

 

「アルテミス、なんだ?」

「その、今の私はアルテミスであるが、それ以外も混ざっている。神ではなくなったのだから、新しい名前を貰おうと思う。それにこの名は子供達と一緒に眠らせたい。転生したのだから、新しく神生、人生を歩むからな。いいだろうか?」

「確かにそうやな。さっき、アポロンが認めんとかも言っていたし」

「いいんじゃないか?」

「でしたら、わたくしが決めます。親として断固として譲りませんわ!」

「とりあえず、候補を言ってみ?」

「アタランテです! アルテミスさんの加護を受けた純潔の狩人ですからね!」

「ああ、彼女か」

「確かにかの英雄の名ならエインヘリャルとしても問題ないと思う」

「私が彼女の名を名乗るのか?」

「間違いではないな。下界で生まれて加護を得てるんやし……」

「その、駄目でしたら別のを考えますが……」

「いや、それでいい。彼女も納得してくれるだろう。だからそんな不安そうな顔をしなくていい。よし、これから私はアタランテだ。そういう事でよろしく頼む、皆」

「「「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」」」

 

 神々が雄叫びをあげる中、ボクはアルテミス……アタランテに聞いてみる。何か嫌な予感がするんだよね。

 

「本当に良かったのかい?」

「ああ、これでいい。アルテミスなら、オリオンと恋愛ができないからな」

「まてぇぇぇぇい! ベル君はボクの子供だぞぉぉぉ!」

「知っているが? それがどうしたんだ?」

 

 不思議そうに小首をかしげてくる彼女。ああ、くそぅ! あの時の事が思い出されて文句も言えない! 本当に生まれ変われてよかった! でもベル君はあげないからなぁ! 

 そう思ってきたけれど、普通にアタランテはついてきて、ベル君と楽しそうにお話していく。クルミ君に聞いてみたら、必要な時は召喚するから、自由にしていいと言ったらしい。

 

「ヘスティア、ここに泊まっていいか?」

「いいよ、ちくしょう!」

 

 もちろん、ベル君とは寝させない。ボクが抱き枕にして寝てやるんだ。アルテミス……アタランテが笑って過ごしている姿を見たら、文句は言えないし、これでいい。ベル君も笑顔になっているし、鏡を見たらボクも笑っていた。うん、予想外ではあったけれどこれでよかったのだろう。これ以上は願えないよ。

 

 

 

 

 

 

 ありがとう、クルミ君。ボク達は幸せだ。

 

 

 

 

 

 

                       ~オリオンの矢 Fin~




次回は第二期だよ! 予想外に大変でしたが、楽しんでいただければよかったです。


ヘルメスさんはさすがに記憶を読まれた事は伝えておりません。それとアルテミス、アタランテ出力ですが、だいたいアンタレスがベル達に、ベル達がアンタレスに攻撃したのと同じぐらいです。大空に大量に魔法陣を生み出すのは使いませんし、使えません。
名前を変えた理由ですが、ぶっちゃけると、このままいけばアルテミスが二人になってしまうからです。アストレア・レコードをやると、どうしても二人になりますので、そういう意味で名前を変更しました。

クルミが今回、神々に対する態度が悪いのは怒っているのもありますが、アタランテを取り上げられないためと罰金などを課せられないためです。優しくしたら奪い取られる危険が高いですし、何をするかというよりも、本当に武力行使してくると思わせた方が安全を確保できるからです。クルミだけなら問題ありませんが、事がソーマ・ファミリアやそこに居る子供達も狙われるかもしれないからです。なお、子供達の守護はアタランテさんがしてくれます。ついでに黒ジャガ君の守護もね! 是非もないよね!


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アポロン・ファミリアとの戦争遊戯(ウォーゲーム)
アポロン・ファミリア1


感想、高評価、誤字脱字報告、大変助かっておりますし、モチベーションアップしております。
アタランテの強さは現状では基礎レベル7+神造武器+獣の聴覚と視力、身体能力、神の技術です。
神の力(アルカナム)を解放して使用すると基礎がレベル+3されます。ゼウス・ファミリアなどはレベル10を想定。ゼウス・ファミリアやヘラ・ファミリアのトップレベルの英雄達と同レベルの計算です。
神話存在ヤバイです☆
なお、神ではないので不変存在ではなくなっております。混ざりものがひどいですから、倒せます。倒せるのです。


 

 

 

 

「おのれ! 許さんぞクルミ・トキサキ! 貞潔を司る純潔の女神である我が姉を汚してくれおって! ましてや穢れた魔物(モンスター)との融合などもってのほかだ! 遺産を全て奴が引き受けるなども許せん!」

「アポロン様」

「ヒュアキントスか! 何かないのか! 奴とあの穢れた怪物を処分する方法は!」

「エインヘリャルであるかの者を殺す事は不可能です。我らでは神の力(アルカナム)を使われればどうしようもありません」

「ではどうしろというのだ! この怒りは! 苦しみは!」

「は。私に名案がございます。あの怪物は調べたところどうやら、ヘスティア・ファミリアに入り浸っております。そこの団長であるベル・クラネルをオリオンと呼んで慕っているのを確認しました」

「ベルきゅんか……」

「まずはあちらから落とし、追いつめてから……」

「忌々しい奴を消すか」

「はい。気を許した者と長く会えず、再会した時ならば油断も生まれましょう。そこを狙えば如何にエインヘリャルといえど、殺す事は可能かと」

「殺せはしないだろう。だが、暴走するキッカケにはなるか。それから世論を排除にもっていけばいい。何よりベルきゅんも手に入る。やれ、ヒュアキントス」

「かしこまりましたアポロン様」

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「「「「かんぱ~い!」」」」

 

 現在、リリはヴェルフ様のランクアップを祝いする為にヘファイストス・ファミリアの近くにある酒場で飲んでいます。もちろん、パーティーメンバーであるキアラとクルミ様が居ます。ダンジョンでは更に三人いらっしゃいました。タケミカヅチ・ファミリアの命さんと深層に向かわれる途中のアルテミス様……アタランテ様とクルミ様です。

 はい、中層だったのですが、明らかな過剰戦力でした。クルミ様とアタランテ様はリリ達が帰る時に深層に向かう為に竪穴を飛び降りていかれましたので、こちらには居ません。クルミ様の分身はおり、キアラと一緒にジュースを飲んでいます。この後もお仕事をするらしいのでお酒は駄目なのです。

 

「レベルアップおめでとうヴェルフ!」

「ありがとうな。やっぱりアンタレスと戦ったのはでかいわ」

「レベル2ですから、ヘファイストス・ファミリアの上級鍛冶師となりますね。作る武器の価値も跳ね上がります」

「まあな。これでますます神の名を汚すような下手な物は作れないな」

「ですが、これでこのパーティーも解散という事になりますね」

「そうなの?」

「ヴェルフさんはレベル2になるためにこのパーティーに入っておられましたから、仕方がありませんわ」

 

 クルミ様がキアラの疑問に答えながら、彼女の口元を拭っていきます。そうなんです。欲しいスキルが手に入ったら、もうリリ達は用済みになります。

 

「ヴェルフ……?」

「ヴェルフ、いっちゃうの……?」

「そんな捨てられたウサギみたいな顔をするな。用が済んだらはい、さよならみたいな事はしない。これからも一緒だ。しかし、命も一緒に来られれば良かったのにな。もう知らない仲じゃないんだ」

「ん。一緒に食べたかった」

「まあ、此花亭でならまた会えますし、こちらからお邪魔しても構いませんからね。タケミカヅチ様もよくいらっしゃいますし」

「リリさんの言う通りですわね」

「命は用があるって言ってたから仕方がないよ」

「気を使ったんじゃないでしょうか? 自分は別のファミリアだからって……」

「ここに居るのはリリスケとキースケ、クースケ以外は全員、別のファミリアだけどな」

「そういえばそうだったね」

「クルミ様、キアラが……」

 

 キアラはヴェルフ様の言葉に安心したのか、うつらうつらしだしています。眠そうに目をこすったりしているので何時寝てしまってもおかしくはありません。

 

「あ~わかりましたわ」

「リリが連れて帰りましょうか?」

「別に構いませんわ。リリさんは楽しんでいてください。それにこれから仕事がありますので先に連れて帰って寝かせておきます」

「了解です!」

 

 リリは副団長なので、ソーマ・ファミリアの財政から現状まで色々と聞いています。借金がヤバイですが、どうとでもなりますし、これから本格的にアタランテ様を深層に輸送して五〇階層の拠点を作り、素材集めをすると聞いています。

 五二階層で出てくる蜘蛛の糸は丈夫な布製防具になりますし、泉から取れる水は回復薬の原料としても重宝されます。拠点の防衛能力が問題でしたが、エインヘリャルのアタランテ様とレベル4のクルミ様が二十人、改宗予定のリュー様がいらっしゃれば問題ないそうです。

 本来は遠征で少ししか持って帰れない素材を迅速にかつ安全に大量輸送するのです。医療系ファミリアとも売り上げの何パーセントかを貰う契約を交わしています。まずはミアハ様のところですが、それでも十分です。現状で売られているエリクサーの半額以下で売れますし、価格破壊が可能です。利益が少ないのでやりませんけれど。それに借金はぶっちゃければクルミ様とリリが持っている黒ジャガ君とアンタレスを売ればすぐに回収できます。信頼できる方々にしか売りませんけれどね。

 ネックなのは前団長であるザニスさんやリリ達が犯していた犯罪行為です。こちらでクルミ様が脅されたそうですが……まあ、そちらも我々なら対処可能という判断をクルミ様と話していますのなんとかなります。

 

「それではお楽しみください。会計はお祝いという事でこちらで持っておきますので」

「ああ、ありがとうな」

「またね」

 

 クルミ様がキアラを連れて店の外に出ていきました。机の上にはお金が入った袋が置かれていますが、明らかに代金が多いです。

 

「ステーキ頼みましょう、ステーキ!」

「これ高い奴じゃねえか。いいのかよ」

「いいんですよ。どうせクルミ様のお金ですし、リリの懐は痛みません! まあ、財布をほぼ共有しているんですけどね!」

「リリ、それって結局、リリが支払う事になってない?」

「申請したらお金が貰えますし、小遣いはいっぱい貰っていますからね。というか、イフリートの値段を支払わないと後が怖いですから」

「あははは」

「そんな事より、ベル様のランクアップはまだですか!」

「まだステイタスが上がりきってないんだよね。アンタレスを倒したからかなり成長したけれど、上がり切ってからの方がいいんでしょう」

「ですね。リリはよくわかりませんが、基本にステイタスが上がらなくなったら上げてますね。いっつも力だけは馬鹿みたいに上がるんですけどね~」

「リリスケは脳筋というより全身が筋肉だからな」

「失礼ですね! ちゃんとぷにぷにですよ!」

「話を戻すが、そんなすぐにレベル3になられたらようやく追いついたってのに困るっての」

「でしたら、リリにお任せください! レベル3にすぐに上げてみせますよ! 大丈夫です。クルミ様と椿様のお二人と一緒にちょこっと熊さんやマンモス・フールとソロバトルするだけです!」

「いや、それって7,8メートルある奴じゃねえか」

「ボクでも無理だよ」

「リリはできますよ~! こないだ持ち上げて武器にしました! ネイチャーウエポンです!」

「リリ、酔ってる? 酔ってるよね?」

 

 実際に影の中でマンモス・フールという皮膚が臙脂色の魔物(モンスター)と戦いました。圧勝でしたよ。ちなみに依頼はガネーシャ・ファミリアからで、テイミングするから弱らせてくれとの事で、やりました。何度か、地面に叩きつけてあげたら大人しくなってくれました。

 

「どちらにしろ、ベル様は時間の問題でしょうね~」

「ふざけろ。そうなったら本気で追いついてやるよ」

「言いましたね~」

「な~にがレベル3だよ。レコードホルダーだかなんだか知らないけれど、インチキもほどほどにした方がいいぜぇ~!」

「あ?」

 

 ヴェルフ様が振り返った先には真っ黒な揃いの服装にアポロン・ファミリアのマークが刻まれています。つまり、アポロン・ファミリア所属の小人族(パルゥム)の方ですね。その後ろにはこちらを見ている四人が居ます。クルミ様が帰るまで待っていたのかもしれませんが……アレですね。ちっさいですね。色々と。

 

「逃げ足だけが得意なウサギが魔物(モンスター)から逃げまくって、別のファミリアのおこぼれを貰ってランクアップ~! 今度はレベル3も近いだぁ? オイラだったら恥ずかしくてホームから出られねぇよぉ!」

「やれやれ」

「ああ、なんだ。ただの僻みですか。身長と同じでちっさいですね。本当に男ですか?」

「なんだと!?」

「おい、リリスケ」

「え~と……リリ?」

 

 リリが立ち上がり、彼の前に移動して上から下までじっくりと見ます。

 

「ん~顔だけの小物ですね。ホームに帰ってお母さんのミルクでも吸ってきたらどうですか?」

「今、なんつった?」

「ああ、アポロン様は男性でした。すいません。ホームにお母さんも居ませんでしたね。でも、アレですね。貴方のような雑魚で品性もない方がアポロン様のファミリアに居るとは……恥ずかしくないんですか? アポロン様の名前を汚しておりますよ? ああ、それとあのポン……アルテミス様と違って アポロン様はそういう駄目駄目な方なんですか? 貴方のような人を眷属になさっていて、矯正すらさせないなんて品位を疑います。ほら、主神様にも迷惑をかけているのでさっさとファミリアを辞めて故郷に帰ったらどうです? 小人族(パルゥム)がレベル1を超えられるかどうかマレですけど、その性格じゃ無理です。レベル1ならインファントドラゴンに挑んで勝利すればレベル2になれますし、リリが間違っているのならやってきてください。リリはやりましたよ? ほら、どうしました? 殺してこいよ。ソロで踏みつぶされ、食べられる恐怖を乗り越えてハイになってぶち殺してやりましょう! 大丈夫、リリにだってできたんですから、同じ小人族(パルゥム)の貴方ができないはずありません。さあ、さあ!」

「できるわけがないだろうがぁぁぁ!」

「リリは出来ました!」

「嘘つけや!」

「神様の前で証言してやりますよ! 事実だったらやってくださいね! じゃあ、行きましょうか!」

「ちょ、離せ! どこに連れていく気だ!」

「その辺の神様を捕まえて証言してもらいます! それからダンジョンです! 何、一時間もかければインファントドラゴンなんて見つけられます!」

「やめ、やめて! 助けて! 殺される!!」

「リリ! 落ち着いて!」

「嫌です。こういう心根が腐った甘ったれをみると……リリと同じ目に遭わせてやりたくなります! 大丈夫! たとえ手足がなくなろうともクルミ様が居ればなおります!」

「そのクルミが居ないからぁぁぁ!」

「……わかりましたぁ! 先にクルミ様とインファントドラゴンを捕まえてきます! ガネーシャ・ファミリアにお願いして場所も用意すれば興業にもなりますね!」

「頭狂ってんじゃないのか! お前のとこの神様は糞かぁ!」

「はい、糞です!」

「「「え!」」」

「ええ、そうです。それがどうしましたか? 酒にしか興味がなく、仕事をリリ達に押し付けて神会(デナトゥス)すらでない糞神様です! どれだけ引っ張り出すのにリリ達が苦労しているか、わかりますかぁ! 更新すら満足にしてもらえないんですよ!」

「「「あぁ……」」」

「まあ、だからこそ……好き勝手にしても問題ないんですけどね。例えば別のファミリアをダンジョンに連れていって、修業をつけた結果、どうなろうが……うちの神様は関与しません。何せ団員にすら関与しませんからねぇ……」

「ひっ!?」

 

 さ~て、楽しくなってきました! クルミ様から聞いていた通りなら、仕掛けてくるはずです。それを以てリリ達も仕掛けます。何せ大切な姉を汚したファミリアが相手ですからね。戦争遊戯になったらそれはそれで美味しいです。アポロン・ファミリアの資産を貰ってアルテミス様の時に生じた負債を帳消しにしましょう。クルミ様は長期で考えておりますが、リリは短期でも借金漬けの生活は嫌です! だいたいアポロン様は……リリ達が命を賭けて助けたアルテミス様、アタランテ様に穢れた存在や怪物とか言ったそうじゃないですか。許しません。

 

「ルアンを離せ」

「なんですか? これからこの恥知らずの小人族(パルゥム)を鍛え直すんです。これは小人族(パルゥム)の問題です。引っ込んでいてください」

「そうは行くか! やっちまえ!」

「面白れぇ!」

「やらせない!」

 

 喧嘩が始まりました。ベル様とヴェルフ様の圧勝です。どうやら、レベル1しか居ないようで、こんなんでリリ達ソーマ・ファミリアに喧嘩を売るとか、正気かと疑いたくなります。もしかして、仕掛ける相手が違ったのでしょうか? 

 

「次はどいつだ!」

「相手になろう」

 

 ヒューマンが立ち上がると、ヴェルフ様に瞬時に近づいて殴り飛ばしました。次にベル様の方です。ベル様の顔に乱打を決めて首を持って持ち上げました。

 

「その程度か? まだ撫でただけだ。我が仲間を傷つけた報いは受けてもらおう」

「確かにそうですね」

「っ!?」

 

 相手の人がベル様を離して即座に下がりました。そこにリリの蹴りが入り、床が吹き飛びます。

 

「じゃあ、次はリリが相手ですね。安心してください。リリは優しいのでベル様が殴られた分だけ、顔面を殴る程度で許してあげます」

「やってみろ。小人族(パルゥム)風情が」

 

 言われるまでもなく、ゆっくりと接近します。相手の人が殴りつけてくるので、拳を受け止めて引き寄せ、顔面に一撃いれます。歯が吹き飛びました。

 

「がはっ!?」

「次」

「ぎぃっ!?」

「次」

 

 鼻が折れて顎が砕け、執拗なまでに顔面を壊してさしあげます。

 

「そこまでにしておけ。酒が不味くなる」

「ん? あ~ベート様でしたね。クルミ様とグレイ様から聞いております」

「そうか。弱い者虐めはそのへんにしておいてやれ。戦い足りねぇなら、俺が相手になってやる」

「……面白そうですね」

「だろ?」

「止めてくれ! 店が壊れる!」

「「……」」

 

 店主の悲痛な叫びに周りを見ると、血だらけの人と床が完全に破壊された酒場がありました。互いに構えをときます。格闘技を修める者同士、ちょっとやりあってみたいです。

 

「やめましょう」

「興がそがれたな。ロキ・ファミリアに来い。相手してやる」

「行かせてもらいます」

 

 ベート様が帰られたので、大人しくアポロン・ファミリアの方々からお金を徴収します。

 

「なに、しやがる……」

「迷惑料です。そちらと同じだけの金額をこちらも出します。店主さん、どうぞ」

「確かに……」

「それで修理ですけど、こちらで手配するとこれだけお金がかかりますが、一時間以内に元通りになって営業が再開できます。いかがでしょうかか?」

「迷惑料に入らないの?」

「入りません。それはそれ、これはこれです」

「……まあ、これならいいか。頼む」

「毎度ありがとうございます。では、ちょっと呼んできますのでおまちください!」

「あいよ」

「ちゃっかり自分たちの分は回収しやがったな」

「当たり前です」

 

 クルミ様を呼んで巻き戻してもらう必要もありません。贋造魔法少女(ハニエル)でクルミ様に変身し、借り受けていた銃と弾丸を撃てばあら不思議。綺麗な酒場に元通りです。

 

 

 

 

 

「意外だね。ベル君が喧嘩をするなんてね」

「仲間を見捨てるなんてしませんよ。それに僕達は一生懸命に命を賭けて戦ってきたのに、あんな言い方……許せません!」

「そうかそうか。いいんじゃないかな。でも、ちょっとリリ君は相手を挑発しすぎだね。狙ってたんだろう?」

「ええ、もちろんです。あちらが仕掛けてきてくれれば、リリ達ソーマ・ファミリアが目にもの見せてやります! クルミ様から聞きましたよ。アポロン様はクルミ様やベル様達で頑張って一生懸命に助けたアタランテ様を罵ったらしいですから」

「まあ、神からしたら確かに異物であり、魔物(モンスター)が入っているのなら怪物なんだ。そもそもアルテミスの死体を使っているからね。いくら彼女が生きているとは言っても認められないんだろう。特に潔癖の神はそうだ。もちろん、ボクは感謝しているけれど」

「動く死体って事になるんですか?」

「いいや、クルミ君自体が素体になっているから、ちゃんと生きている。だから食事もするし、睡眠も取るし、様々な生理現象だって起きる。神と子供達、どちらの子供だって産めるだろう。言ってしまえば混沌だね。全ての因子を掛け合わせて作り上げられた原初の生命だ。そういう意味では神々はクルミ君の偉業を認めている。何せ天界の術式を下界風にアレンジして改造し、作り上げたんだ。まさに天才と言えるだろう。誰も考えついてもやらないよ。ああ。神々だってやらないし、できない。そもそもなんだいあのごちゃ混ぜは……まるでボクの考えた最強のエインヘリャルだよ」

「あ~確かにそうですよね」

「カッコイイじゃないですか!」

「ベル君ならそう言うと思ったよ。まあ、どちらにしろ下界で天界のエインヘリャルと同等とはいかないまでも、かなり強い事は間違いない。レベル7は超えているとみていい。なんせ神造武器でフル装備しているアルテミスだ。街一つぐらいなら容易く消し飛ばすさ。もちろん、神の力(アルカナム)を使う前提だけどね」

 

 普通にやばいです。神の力(アルカナム)を使うとシャレにならないのがわかります。

 

「まあ、そんなんだからアポロンがアタランテを拒否するのはわかる。ボクだっていきなりベル君が無茶苦茶改造されて戻ってきたら一日ぐらいは悩むさ」

「それで一日なんですか?」

「やばいですね☆」

「ああ、やばいな」

 

 リリならもっと悩んでちょっと距離を取るかもしれません。きっと戻ってきますけれど。

 

「そんな訳で許してやってくれ。アポロンにだって時間が必要なんだよ」

「そう、ですね。わかりました。ちょっと計画を修正しておきます」

「どんな計画だったのか聞かないでおくよ」

「いえ、ただのアポロン・ファミリアを潰して資産を全部奪おうと思っただけですよ」

「怖いよ! そして恐ろしいよ!」

「リリは身内には甘いですからね!」

「ベル君、この子クルミ君に毒されすぎてないかな?」

「あははは……」

「だけど大丈夫か? リリスケはやり過ぎてないか?」

「別に喧嘩を売られたら買いますよ。ですので、安心してください」

「そうだね。それじゃあ、傷の手当も終わったし、解散としようか」

「はい!」

 

 ソーマ・ファミリアに戻ってクルミ様に報告だけあげておきます。クルミ様は執務室で机に乗りきらない量の書類を複数のクルミ様が処理しています。

 窓のところに執務机があり、左右の壁に長い机が置かれています。そこで十六人のクルミ様が左右に分かれて座り、書類を片付けていっています。

 

「アポロン・ファミリアと揉めた、ですか」

 

 こちらを見ずに答えるクルミ様ですが、仕方がありませんし、リリはなんとも思いません。

 

「はい。ごめんなさい。リリが軽率でした」

「いえ、問題ありませんよ。元から潰す予定でしたから」

「そうなんですか?」

「アポロン・ファミリアは気に入った眷属を無理矢理、改宗させています。ですので、潰して吸収するのも手かと思っておりました。ですので、襲ってきたのなら、見せしめとして潰しましょう。それ以外であればヘスティアさんとアタランテのために手出しはなしでいきましょう。慰謝料を請求されたのであればある程度は支払ってあげてください」

「わかりました。それではリリは休ませてもらいますね」

「ええ、お休みなさい。身体には気をつけてくださいね」

「クルミ様に言うセリフですよ」

「交代で休息していますから問題ありません。むしろ、深層に到着したアタランテさんが砲竜(ヴァルガングドラゴン)やイル・ワイバーンと戦いだしているので、それに付き合う方が大変です」

「一日で五〇階層を突破したんですか!?」

「エインヘリャルの肉体を舐めていました。休憩しらずでトップスピードで駆け抜けて穴を使って飛び降り続けました。ついでにフレイヤ・ファミリアと一緒になって遊んでいます」

「あの、蜘蛛を相手にするって……それにしてもフレイヤ・ファミリア?」

「降りている最中に深層に移動しているオッタルさんと合流したんです。どうやら、アレンさんがレベル7になったので、護衛を任せてレベルを上げるために一人で深層に出向こうとしていたようです」

 

ソロで深層とか、頭がおかしいんでしょうか?

 

「その、大丈夫なんですか?」

「ああ、しっかりとわたくしのサービスをフレイヤさんから依頼されているので、問題ありませんよ」

「なるほど。食料などはクルミ様が届けるのですね」

「はい。ついでに近くでオッタルさんの戦いを勉強できますから、最高の環境です。ただ、フレイヤさんからオッタルが余裕ならアタランテさんをぶつけて試練を与えるよう依頼がありました。これ、どうしましょう?」

「知りませんよ! 適当でいいんじゃないですか? 狩り勝負でもさせて余った時間でいいと思いますよ?」

「それもそうですね。アタランテさんも身体を慣らすのに丁度いいと言っていますし」

「それでなんで更に下に行っているんですか?」

「二人が弱すぎて狩り甲斐がないと、五八階層に降りられたからです。アタランテさんは神の力(アルカナム)がなくても普通にヤバイ実力です。弱点や魔石を一撃で、それも速射で射貫いていかれるので、神の経験とエインヘリャルの肉体のコンボはやばいですね☆」

 

 つまり、深層はエインヘリャルとレベル7のオラリオ最強の二人が暴れているんですね。どんな魔境ですか。行きたくありませんよ。余波で死んじゃいます。

 

「ただ、明らかに前よりも魔物(モンスター)が少ない事が気になりますね」

「それは調査するしかないかと。お任せします」

「まあ、そうですね。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさいです」

 

 リリはキアラと一緒に寝ます。キアラと別のクルミ様が寝ているので、キアラを挟んで一緒に寝ます。明日は皆さんと一緒に中層でリヴィラを目指してできる限り下りる予定です。レベル4三人とレベル2が三人入れば余裕です。はい、明日はリューさんもキアラさんの護衛として合流予定なので過剰戦力です。

 

 

 

 

 

 




ダンジョン「ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアをようやく殺したと思ったら、また変な連中がでてきた……助けて」


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アポロン・ファミリア2 襲撃と神会

覚醒ヘスティアさん。略して核ヘス。誤字であらず。


 ダンジョンに潜る前に昨日の事をアドバイザーであるエイナさんに報告しに来た。そこでエイナさんにも怒られている。

 

「アポロン・ファミリアと喧嘩をしたの?」

「はい。神様に注意はされました」

「まあ、聞いた限りではソーマ・ファミリアのアーデさんがやったようだし、たぶん大丈夫でしょう」

「すいませんエイナさん」

「過ぎた事は仕方がないよ。でも、今後は気を付けてね。ファミリア同士のいざこざで街が戦場になる事だってあるんだから」

「街が戦場に!?」

「気をつけてね」

「は、はい!」

 

 部屋から外に出る。エイナさんが扉を閉めて振り返る。

 

「当面は降りても十八階層のリヴィラまでよ。レベル4の護衛が二人居る時ね。一人なら十四階層ぐらいに止めておいてね」

「わかりました。当面は無理の無い範囲で進んで行くつもりです」

「そっか。それじゃあ、頑張ってね」

「はい。ありがとうございます」

「ベル・クラネルで間違いない?」

「ん?」

 

 振り返ると見た事もない二人が立っていた。一人は黒色の長髪に垂れ目で、普段からおどおどした感じかな。もう一人は赤色の短髪に吊り目の綺麗な女の人。黒髪をした人の制服には覚えがある。白い服を着た赤髪の人は服にアポロン・ファミリアのマークがついていた。

 

「はい、そうですけど……」

「これ、貴方の神に渡して」

 

 差し出されたのは手紙だった。受け取ると、蝋でされた印はアポロン・ファミリアのものだった。

 

「ウチはダフネ。こっちはカサンドラ。察しの通り、アポロン・ファミリアよ」

「それ、アポロン様からの宴への招待状、です。別に来なくても結構なんですけど……あうっ」

 

 ダフネと名乗った人にチョップを決められた。

 

「確かに渡したから……それとご愁傷様」

 

 手紙を受け取ってから、ダンジョンに潜る。探索自体は順調だったけれど、あまり集中出来なくてリューさんに怒られてしまった。

 戻ってから言われた通り、神様にアポロン・ファミリアからの手紙を渡す。

 

「まさかこのタイミングでアポロン・ファミリアが誘いをかけてくるとはねぇ~。流石に無視するわけにはいかないよなぁ~」

「やっぱり神の宴なんですか?」

「ああ、それも普段とは違った面白い趣向なんだ。アポロンとは天界でも下界でも色々とあるけれど……この際だ。ミアハもタケも……来るかわからないけれどソーマも誘って皆で参加しようかベル君!」

「はぁっ!? みんなで!?」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 数日後。タキシードに着替えてボクは神の宴の会場へとやってきていた。

 

「似合っているぜ、ベル君!」

「あ」

「恥ずかしがらなくても大丈夫さ」

「そ、そうですか?」

 

 神様は胸元が露出されている青いドレスを着ていて、とても似合っていた。

 

「アポロンめ。必ずファミリアの子を一人同伴させろだなんて、偶には気の利いた事も考えるじゃないか」

「本当にすまんな、ヘスティア。服も馬車も何もかも手配してもらって」

「なぁに、ナァーザ君のためさ。偶には贅沢も必要だよ」

「ありがとうございます、ヘスティア様」

「タケミカヅチ達ももう着いている頃だろう。そろそろ行こうか」

「はい、神様」

 

 僕は神様をエスコートして宴の会場へと入っていく。

 

「おお、ヘスティア! ミアハ! ベル君とナァーザちゃんも!」

 

 会場に入ると、すぐにヘルメス様とタケミカヅチ様のお二人と、一緒に来ているアスフィさんと命がこちらにやってきた。

 

「相変わらず騒々しいな、ヘルメス。まさか、タケと一緒にいたとはね」

「別に好き好んで一緒にいたわけじゃ……」

「水臭いぜタケミカヅチ! 俺達は一緒にベル君の救出作戦にあたった仲じゃないか!」

「おいやめろ暑苦しい!」

「ん。命ちゃんも素敵だが、二人共決まっているじゃないか! だが、見てくれ! ウチのアスフィも中々だろう!」

「や、やめてくださいヘルメス様! ほ、本気で殴りますよ」

「照れてるアスフィも可愛いぜ」

 

 そう言うと、ヘルメス様が肘打ちを喰らって吹き飛んでいった。

 

「神様……」

「やっぱりソーマは居ないね。まあ、予想していたけれどね」

 

 ヘルメス様を心配しつつ、周りを見たけれどやはりいない。

 

「諸君! 今日は良く足を運んでくれた!」

 

 声に振り向くと、赤い髪をした男性が立っていた。

 

「あの方がアポロン様……」

「はい。そのようです」

 

 アポロン様の後ろにカサンドラさんとダフネさん。それにおそらくボクをボコボコにして、リリにボコボコにされた顔に包帯を巻いた男性の三人が立つ。

 

「今日は私の一存で普段とは趣向を変えてみたが、気に入ってもらえただろうか? 日々可愛がっている子供達を着飾り、こうして宴に連れ出すというのもまた一興だろう」

「いいぞアポロン!」

 

 他の神様達から、喜ばれているみたいで皆が称えていた。

 

「多くの同族、そして子供達の顔を見られて喜ばしい限りだ。今宵は新しい出会いに恵まれるそんな気さえする」

「っ!?」

 

 何か、こっちを見られた気がした。慌てて別の人かどうか周りを確認するけれど、誰も居ない。

 

「さぁ、夜は長い。皆、存分に楽しんでいってくれ!」

 

 そうして宴が始まった。ボクは知り合いもいないので、神様が食事をしている近くで、先程の視線が気になってアポロン様の方を見る。

 

「アポロンと話したいのかい?」

「あ、いえ……神様とちょっと挨拶を、と思って……」

「アポロンとは天界の頃から付き合いがあるんだが、面白い奴だよ。特に色恋沙汰の話題が尽きなくてね。なあ、ヘスティア」

「知らないよ!」

「後はそうだな……執念深い」

「え? それってどういう意味……」

 

 聞こうとしたら、どよめきが起きた。そちらを見ると、神様ともう一人の男性が入ってきた。

 

「あの方は……」

「聞いたことがあるだろう? フレイヤ・ファミリアの主神、フレイヤ様さ」

「フレイヤ様……」

「連れているのはオッタルじゃないな。珍しい。アレンを連れてきているな」

「見るんじゃないベル君! 子供達が美の神を見るとたちまち魅了されてしまうんだ!」

 

 あちらはボク達に気づいたようで、こちらにやってきた。それを見て、神様は諦めたのか、ボクの前に立った。

 

「久しぶりね、ヘスティア。ミアハ、タケミカヅチもお元気かしら?」

「あぁ、まあね」

「あ、あぁ……」

「其方は今宵も美しいな」

 

 そう言った瞬間、何故かお二人がくぐもった悲鳴をあげた。するといつの間にかボクの前に来て、頬を撫でてくる。

 

「今夜、私に夢を見せてくれないかしら?」

 

 ゆ、夢? 

 

「見せるかぁ!」

 

 気が付けば神様が腕を叩き落としていた。

 

「ベル君も何赤くなっているんだい! この女神は男と見れば手当たり次第に食べてしまう奴なんだ! 君みたいな子なんて一瞬で取って食われるぞ!」

 

 神様は気付いていないけれど、ボクはすぐに神様の手を引いてボクの後ろにやって庇う。フレイヤ様と一緒に居た人から強烈な殺気が神様に向けられていたからだ。

 

「ごめんなさい。ごめんなさい!」

「残念だけれど、ヘスティアのご機嫌を損ねてしまったようだし、もう行くわね」

「ほっ」

 

 去っていくフレイヤ様と男の人を見送ると、次の声が聞こえてきた。

 

「ここにおったんか、ドチビ」

「んん!?」

 

 振り返ると黄緑色のドレスを着たとても綺麗で美しいアイズさんが居た。隣には赤いタキシードを着た神様。

 

「アイズさん……」

「何時の間に来たんだよ、君は! 音もなく現れて地味な事この上ないな!」

「うっさいわぼけぇ! 文句やったら色ボケ女神のフレイヤに言えや! うちらの登場シーンを全部持っていきおってからに!」

「人のせいにするするんじゃない! だいたいなんだい! ドレスじゃ胸がないのが目立つからって今日は男役かい!」

「ドアホ! 今日の主役はうちのアイズたんや! そんな事もわからんのか、このドチビが!」

 

 あまりに見ていたせいで、アイズさんが照れてロキ様の後ろに隠れてしまった。

 

「その子がドチビの子か? なんかぱっとせんなぁ……ウチのアイズたんとは天と地の差や!」

「君のところのヴァレン某君よりもボクのベル君の方がよっぽど可愛いね! ウサギみたいで愛嬌がある!」

「笑わすなぼけぇ! アイズたんの方が実力も可愛さも何万倍も上や!」

「なんだとぉ!」

 

 しばらく神様たちの言い合いが続き、僕達は分かれる事になった。ロキ様と去っていくアイズさんの姿を見ると、なんとなく理解できてしまった。これがファミリアの距離なんだ。今までがおかしかっただけなんだと。

 

 慣れない空気で疲れてしまって、ボクはテラスに出て、綺麗な月と星を見ているとヘルメス様がやってきた。

 

「いい機会だ。ちょっと話さないかい?」

「はい」

「ベル君はどうして冒険者になったんだい?」

「その祖父が、育ての親が言っていたんです。オラリオにはお金も、可愛い女の子との出会いもなんでも埋まっている。手っ取り早く可愛い女神のファミリアに入って眷属になるのもありだって」

「はっはっはっ、本当かい、それ?」

「本当ですよ。なんなら英雄にもなれると言っていました。覚悟があれば行けって」

「ふっ、本当に愉快な人だね……ん? ああ、ベル君。ところで君は踊らないのかい?」

「え!? む、無理ですよ。やった事もないですし……」

「君のお爺さんが言っていたんだろう? ここは世界が羨む美女、美少女がそろっている。お近づきになる絶好の機会さ」

「で、でも……」

「君が遠慮するなら、俺が躍らせてもらおうかな」

 

 そう言ってヘルメス様が立ち、歩いて行く先にはアイズさんが居た。

 

「あぁ、麗しの剣姫。どうか、このヘルメスと踊っては頂けないでしょうか」

「え?」

「おおっと、いかん! いきなり急用を思い出してしまった! 俺とした事が……誘った女性を放りだしては男がすたる! と、いうわけでベル君! 俺の代わりに剣姫と踊ってくれたまえ!」

「えっ!? えぇえええええぇぇっ!!」

「頼んだぜ。俺の顔に泥を塗らないでくれよ」

 

 ヘルメス様にアイズさんの目の前に連れていかれ、そのまま放置された。

 

「んんっ! 私と一曲踊っていただけますか、レディ」

「喜んで」

 

 隣にやってきたミアハ様とナァーザさんが手を合わせて歩いていく。それを見て、ボクも見様見真似で同じ事をしてみる。

 

「ぼ、ぼく……私と踊っていただけませんか?」

「喜んで」

 

 信じられない事にアイズさんが答えてくれた。だから、ボクはアイズさんと一緒に中央に行って踊る。失敗しそうになったけれど、タケミカヅチ様と命様、なによりアイズさんが助けてくれてなんとか踊れた。とても幸せな時間が過ごせた。

 

 

 

 

「ヘルメス様、後でどうなっても知りませんよ」

「なに、覚悟はしているさ……」

 

「アレン。ここにミノタウロスの群れを連れてこれないかしら?」

「フレイヤ様のご命令であれば今からダンジョンに行って捕獲してきますが……」

「いいわ」

 

 

 

 

 アイズさんと踊った幸せは長くは続かなかった。アポロン様がこちらにやってきて、ボク達に濡れ衣を着せてきたからだ。

 

「ヘスティア。私の子は君の子に重症を負わされた。だから、それなりの代償を要求をしたい」

「は? どういう事だい! ベル君だって怪我をして帰ってきたんだ。そんな一方的な話が……」

「これを見てもそれを言えるかな?」

「いてぇ! 超いてぇよぉ!」

 

 頭や身体中に包帯を巻いて杖に折れた腕を包帯で巻いているみたい。

 

「ベル君! 本当にこんな……」

「してません!」

「先に仕掛けたのはそちらだと聞いている。それにこちらも見てくれ」

 

 そう言って次にきたのは包帯を巻いた男性だ。彼が包帯をほどくと、そこには顔が変形してボコボコになっていた。

 

「証人も居る。言い逃れはできない」

「冗談じゃない! こんな茶番に付き合ってられるか! だいたいソレをやったのはボクの子供じゃない! ソーマの子供達だろう! 喧嘩を売るならそっちにするんだね!」

「ほう、どうあっても罪を認めないつもりか。パーティーの責任はパーティーのリーダーにあるものだぞ、ヘスティア」

「くっ……」

「ならば仕方がない! アポロン・ファミリアは君に戦争遊戯(ウォーゲーム)を申し込む!」

「待ってました戦争遊戯(ウォーゲーム)!」

「アポロン容赦ないな!」

「逆に見てみたいわ!」

「我々が勝てば君の眷属、ベル・クラネルを貰い受ける!」

「はぁっ!?」

「だぁめじゃないか、ヘスティア。こんな可愛い子を独り占めにしたら」

「最初からそれが狙いか! いや、それだけじゃないな! 聞いたぞ! ソーマ・ファミリアには招待状を出していないみたいじゃないか! ここにクルミ君達に来られたら困ったんだろ! 汚いぞアポロン! ベル君に何をさせる気だ、変態め!」

「酷い言い草だ、ヘスティア。天界では愛を囁きあった仲だろう?」

「嘘を言うな、嘘を! ボクは速攻でお断りしただろうが! とにかく、こんな茶番に乗る義理はないね。戦争遊戯(ウォーゲーム)なんて受けるわけないだろう。馬鹿じゃないのか!」

「ほぉ……」

「後悔するぞ」

「するものか! だいたい後悔するのはそちらだ! 行くぞベル君!」

「あっ、はい!」

 

 神様と一緒に宴の会場を出ていく。

 

「でも、大丈夫なんですか? ヘルメス様が、執念深いって言ってましたけれど……」

「ああ、それなら大丈夫だ。ボクはもう怒った。だから、明日は出るところに出てやる」

「え? ギルドですか?」

「違うよ。今現在、オラリオでもっとも恐ろしいところだ。気に食わないがボクが、このボクがわざわざアルテミスの顔を立ててとりなして手を出さないようにしてやったのに! もう許さん。知った事か!」

「あのそれって……」

「決まってるじゃないか。アポロンがどうなろうと知らない!」

 

 つまり、前に言っていたリリの計画を実行に移すって事かな? それでどうにかなるといいけれど……

 

 

 

 

 

 怒った神様とホームに戻り、朝早くに起きて準備を整える。これからダンジョンに向かう前にソーマ・ファミリアを訪れて、昨日の事を伝えるためだ。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)って、ファミリア同士の戦いでしたっけ?」

「そうだよ。ルールを決めて勝った方が全てを奪う。団員からお金から家まで何から何までね。アポロンめ! うちのファミリアに居るのがベル君だけだとわかっていてあんな手を……絶対に許さん!」

 

 扉を開けて教会の外に出ると、そこにはアポロン・ファミリアの人達が待ち構えていた。エルフの人が手を振るうと、大量の炎が降り注ぐ。ボクは慌てて神様を抱きしめて奥へと飛び込む。

 

「大丈夫ですか神様!」

 

 爆発から逃れる事にはどうにか成功した。

 

「う、うん! アポロンめっ! いきなり強行手段で来たか!」

「まさか、これって……」

「アポロン・ファミリアの襲撃さ! おのれ、良くもボクとベル君の愛の巣を!」

「え!?」

「来るぞ!」

 

 飛び降りてきた二人をナイフで迎撃する。砂埃が舞って、ボクは神様を連れながら煙に紛れて逃げる。

 

「こんな街中で仕掛けてくるなんて!」

「とにかくギルドに向かうんだ! いや、街中にあるソーマ・ファミリアの店でいい! そこにはクルミ君が居る! 彼女に伝えればあんな奴等なんて文字通り瞬殺だ!」

「はい!」

「って、そっちは行き止まりだよ!」

「つかまっていてください!」

 

 壁に到達する前に飛び上がり、屋根に乗る。すると屋根の上にもアポロン・ファミリアが居た。

 

「諦めた方がいいよ。アポロン様は気に入った子供を地の果てまでも追いかける。うちやカサンドラがそうだった。都市から都市。国から国。観念するまでずっとね」

「うぇ……」

「投降しない? 仲間になる人に手荒な真似はしたくないんだけど……」

「できません」

「まあ、そうだよね。じゃあ……」

「あ~そうだね。うん、諦めようかベル君」

「え? 神様」

「手加減するのを諦めよう。君達、死にたくなければいますぐ帰れ」

「何を言って……」

「ベル君、使え」

「ま、待ってください! アレはやばいですって!」

「知った事か。アポロンが始めたんだ。アポロンが負債を負う。それだけだ。ボクは怒っている。君達、最後通告だ」

「だ、駄目。帰りましょう! 本当にやばいの!」

「何を言っているの。そんな事あるわけが……」

「ヘスティアの真名において、解放を許可する」

「ああ、もう! 知りませんからね!」

 

 神様が取り出した小さな物が躍り出て元の姿に戻る。神聖な気配を漂わす青い槍。持ち慣れたそれを手に取ると、手に馴染んで起動する。

 

「攻撃開始!」

「はっ!」

 

 振るうだけで相手の攻撃全てが弾き飛ばされる。屋根ごと吹き飛んだ。

 

「アポロンの拠点はあっちだったかな。この方向で……うん。よし、あっちに投擲するんだ」

「ま、まさか……」

「食らうといいアポロン。君が始めた戦いだ。死んでもいいだろう? 神造武器の恐ろしさをその身でとくと味わえ。君の姉が受けたものだ」

「止めろ! なんとしても止めろ!」

「君達が防ぐよりも投擲した方が早い。やっちゃえベル君!」

「ああもう! 大人しく引いてください! そうじゃないと、これをアポロン・ファミリアの本拠地に叩き込みます!」

「なに、アポロンごと更地になるだけだ! 何も問題ないとも!」

「は、ハッタリだ! 流石にそんな事をすれば……」

「だ、だめだよ、ダフネ! すぐに逃げよう。怖い、怖いのが来るの!」

「うん。そうだね。でも、もう遅い」

「は?」

「何をしている。子供達」

 

 声が響き、全員がそちらを見ると、金色の獣耳が生えて緑の衣を纏った血塗れの少女が立っていた。その手には巨大な竜の首が握られている。

 

「オリオンの矢の発動を感じて来てみれば、ヘスティア。これはどういう状況なのだ?」

「アポロンがとち狂ってボク達に襲撃を仕掛けてきた。だから、解放して時間稼ぎをした。アタランテならすぐに来てくれるだろう?」

「なるほど。しかし、困った。私がやれば殺してしまうぞ、ヘスティア」

「だろうね。でも、帰らないなら仕方がない。ボクはホームを壊された上にベル君を狙われた。もう堪忍袋の緒が切れた」

「ふむ。とりあえず軽く撫でるように攻撃してみよう。なに、オッタルとの戦いで調整してきた。きっと生き残ってくれるだろう」

 

 アタランテさんが弓を構えたと思ったら、もう誰かが射貫かれて片腕が消しとんで血が噴き出していた。

 

「やっぱりフラグだったね。オッタルはオラリオ最強だよ。耐久力が全然違う」

「そうだった。すまない」

「さて、君達。これが本当の最後通告だ。か・え・れ。ボク達、神に子供達を殺させるな」

「……撤退する!」

 

 良かった。これでどうにかなったかな。

 

「さて、アタランテ。ボクとベル君をソーマ・ファミリアに連れていってくれ」

「ヘスティア……私は帰りたくないぞ。絶対に怒られる」

「ボクもだよ!」

「諦めましょう、神様」

 

 ボク達はソーマ・ファミリアがある此花亭まで護衛してもらった。攻撃してくる人達はもれなく武器を撃ち抜かれ、たまに手足が吹き飛んだ。

 

「腕が落ちたのかい?」

「調整が難しいんだ。子供達の耐久力がバラバラすぎる。どんなに優しく射っていると思うんだ」

「よ~し、わかった。君はベル君と模擬戦闘はするなよ」

「むぅ、残念だ」

「ところで、どうやって戻ってきたんですか?」

「クルミに頼んだ」

「そのクルミ君は?」

「置いてきた。私の方が速いからな」

 

 ソーマ・ファミリアの本拠地に到着し、ボクと神様はすぐに執務室に通された。でも、そこには誰も居なかった。神様達とボクは正座して待つ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「あっ、あぁっ、お許しください。お嬢様……」

「駄目ですわ」

「ひゃんっ!? そ、そこは駄目ですっ! あぁ……!」

 

 布団に寝転がり、身体を差し出す彼女の上に乗りながら、耳を甘噛みして舐めながら尻尾を撫でまくります。空いてる手は彼女の大切なところに入れたりして楽しみます。

 

「ふふ、こんなに濡らして悪い子ですわね……」

「少し休ませてください……昨日からずっと……」

「まだ駄目ですわ。もっと堪能させてくださいまし。このケモ耳を!」

「ひぃん!」

 

 歓楽街にあるイシュタル・ファミリア。そこにわたくしは来ています。もちろん、お客としてであり、組み敷いている少女はここで娼婦をしている狐人(ルナール)のサンジョウノ・春姫さんですわ。娼婦なので、ある程度好きにしても問題ないですし、リリさんや自分とする時の練習にもなります。流石にキアラには手を出せませんからね。

 

「み、水を……」

「わかりましたわ」

 

 わたくしが自ら飲ませてあげながら、肌を重ねていきます。可愛い反応をする方で、男性の肌を見るだけで昏倒してしまうので娼婦としては駄目駄目でまだ処女です。ですが、女であるわたくしには関係ありません。

 

「あ、ありがとうございます……その、春姫は……何時になったら……引き取ってもらえるのでしょうか?」

「イシュタル・ファミリアに春姫を買いたいと言って、一千万ヴァリス用意したのですが、断られましたわ」

「い、一千万……」

「まあ、仕方がありませんわ」

「そう、ですね……」

 

 残念そうにしている春姫さん。ですが、イシュタルさんが正攻法で渡して来ないのなら、仕方がありませんわ。殺生石を求めているらしいので、この子を生贄にするつもりなのでしょう。フレイヤを狙って色々とやっているみたいですしね。

 

「ああ、そんなに落ち込まなくてもちゃんと迎えに来てさしあげますから、安心してくださいまし」

「はい……お待ちしております」

「では、続きを……」

『ルーラー。お楽しみのところ申し訳ありませんが、緊急のお仕事です』

『は? こちらは楽しみだったのですが……』

『代わりますので、お仕事にどうぞ』

『ち』

 

 別のわたくしと交代します。基本的に入り浸っておりますが、問題ありません。春姫さんが歓楽街を動くことで調査範囲がどんどん広がっていきますからね。

 ソーマ・ファミリアの本拠地である自室に移動すると、床の上でアタランテさんが内また座りで両手を股の間に置きながらしょんぼりとしていました。そのアタランテさんの隣にはヘスティアさんとベルさんが居ます。三人はわたくしに気づくと土下座をしてきたのでした。

 

「何をしでかしやがったのですか?」

「違う! ボクは悪くない!」

「わ、私も悪くないぞ! ヘスティア達を守っただけだ!」

「そうですか。事情は……は? 神造武器を地上で使ったから、それを感じてアタランテさんが急行した、と」

「その通りだ」

「おかげで命拾いしたよ!」

「なるほど、それで?」

「「力を貸してくれ! 頼む!」」

「は?」

「くるみく~ん! 頼むよ~! 君しかいないんだ!」

「うぅ、私からもお願いする。その、出来る事ならなんでもするから……」

「マジですの?」

「ああ」

「よし、まずは話をしてみるといいですわ。アタランテさんの耳を楽しんでいる間であれば聞いてあげましょう」

「あ、やっぱり耳なんだ」

「当たり前です。散々さっきまでケモ耳と尻尾を堪能していたのに急に呼び出されて代わらされたんですのよ! せっかくの癒しの時間が!」

「あははは」

「あ、ありがとう!」

 

 アタランテさんの耳をもみもみなでなでしながら聞いていると、ちょっと意味がわからなかったです。

 

「えっと、もう一度、最初からお願いします」

「うむ。実は……」

 

 ベルさんとヘスティアさんの話を聞くとだいたいわかりました。本当に厄介ごとで緊急事態でしたね。神造武器の解放は他の神々も気付いているでしょう。ですが、まあ……そちらはどうとでもなります。何せ、治安維持しただけです。こちらはヘスティアさんの要請もあるので問題なし。ベルさんに神造武器を預けていた件は、彼がオリオンの矢の使い手なので預けっぱなしになっていた事にすればよし。

 

「さて、どうするか、ですが……」

「アポロン・ファミリアを潰してくれ! これはリリ君が招いたことだから、君達も無関係じゃないだろ!」

「そうですわね。ええ、本当になんでこっちに仕掛けずにそちらに仕掛けたんでしょうか?」

「ベル君が狙いなのだろう」

「ベルさんが……ああ、そういう事ですか」

「どうしたんですか?」

「いえ、神造武器を使えるベルさんを絶対に渡せないというだけです。とりあえず、解決については了解しましたし、その依頼を受けます。と、いっても戦争遊戯(ウォーゲーム)をやるように調整しましょうか」

「ボクのファミリアはベル君一人なんだけど……」

「そうですが、いざとなれば神造武器かアタランテさんを使えば勝てます。ですが、それは最終手段ですね。まずは戦争遊戯(ウォーゲーム)を受けて、内容を決定しましょう。それからこれからの事を相談します。まあ、わたくしの計画(プラン)通りに動いてくだされば勝利を約束いたします」

「頼めるかい?」

「はい。ですが一度、依頼の内容を切りましょう。安全に神会(デナトゥス)を開くという事で」

「ああ、それでいい。ベル君、すまないが後は任せてくれ」

「はい、お願いします!」

 

 さて、お仕事ですわ。ああ、楽しみです。リリさん。貴女は本当いい仕事をしてくれました。

 

『わたくし達。神々に連絡を出して神会(デナトゥス)を開いてください。ヘスティアさんがアポロンさんから挑まれた戦争遊戯(ウォーゲーム)をお受けになるそうです』

『了解ですわ』

 

 すぐに通達が行き、次の日には神会(デナトゥス)が開かれました。

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 時間に少し遅れながら神会(デナトゥス)の会場にやってきました。わたくしとヘスティアさん、アタランテさんが一緒です。わたくしが神会(デナトゥス)に参加するためにギルドで手続きをしていたのですが、手間取りました。あの豚さんが妨害してきたようですね。

 

「やあ、待たせたね」

「ヘスティア、どういうつもりだ。ここにそいつらを呼ぶとは……」

「ん? 状況説明が必要だからだよ。さて、諸君! ボクはアポロンの子供達に殺されかけた」

 

 ヘスティアさんがアポロンさんを指差して糾弾します。こないだの仕返しですわね。

 

「な!? 待て! それは違うぞ! 狙ったのはベル君だ!」

「何が違うのかな? ボクは実際に彼等に攻撃されたぞ。たとえ近くに居たとしてもその時に攻撃してきたのは彼等だ。ましてや範囲攻撃をホームにしてきて、もう少しでボクに瓦礫とかが命中して死ぬところだった。

 これは神への反逆であり、禁忌を犯したと言えるだろう。故にアポロン・ファミリアに対してギルドに制裁を要求する。まさか、拒否しないよね? 拒否するならばこれから、全ての神々が狙われて殺される事になる。眷属を狙ったという免罪符を持ってね。異議ある者は居るか!」

「異議ありだ!」

「「「異議なし!」」」

 

 アポロンさん以外は異議がないようです。実際にやられるとたまったものではありませんもの。

 

「確かにヘスティアの言う通りよ」

「せやな。これを認めるのはあかんやろ。ガチの殺し合いが起きる」

「言っておくが、ボクの要求がのまれないなら、こちらもやるぞ。何せ、許可が下りたのと同じだからね」

「ヘスティア、貴様!」

「皆も聞いてくれ。ボクは今回、本気で怒っている。ロキとやりあうのとは別ベクトルでね。だから、やると言ったらやる。それだけは覚えておいてくれ。ヘルメス、ウラノスを連れて来てくれ。彼に決議を取らせ、ギルドとして正式に今回の件を発表してもらう」

「待て! それでは私のファミリアが神を殺そうとした事になるだろう!」

「その通りだ。事実だろう? 何も問題ないね」

「これ、絶対にクルミたんの入れ知恵やろ」

「でしょうね」

 

 まずはアポロン・ファミリアの戦力と士気、人気を徹底的に落とします。このような大義名分ができればデメテルさん達に要請し、食料などの供給を止める事が可能です。補給線から攻めるのは当然の戦略ですわ。

 

「だから待て! それならば地上で神造武器を使ったヘスティアも問題だろう!」

「ボクは自分の身を守るために使っただけだ。神を取り込んだ相手に神造武器を使う事は先のアルテミスの件で行われている。前例に従って問題はないだろう。ただ、その神造武器が神本人が召喚したか、してないかの違いでしかない」

「だが、そこの怪物は私の子供達に攻撃した! これは明らかな危険行為だ! 即刻処分するべきだろう!」

「否! 彼女は神殺しをしようとした者達から神を守っただけだ。治安維持行動なのだから、なんら罰せられる事ではない。これが罰せられるというのであれば、君達が襲われた時、大人しく死ぬのかな? 答えは否だろう! 故にアタランテと神造武器の使用については問題ない。何せ彼女には我々が決めた通り、オラリオを守護する時には神の力(アルカナム)の使用が認められている。今回、神の力(アルカナム)自体は使っていないが、神殺しを行いかけたという神々への混乱を齎す事を引き起こしている。故に問題なしと判断されるべきだ。違うかな、ウラノス」

「問題ない」

 

 ウラノスさんがヘルメスさんに連れられて入ってきました。アポロンさんとヘスティアさんの間に新しく椅子を用意してそこに座っていただきます。

 

「さて、向かいながらヘルメスに話は聞いた。神殺しの件であるな」

「我々アポロン・ファミリアは断じて神殺しなど計画していないと宣言しよう!」

「実際にボクは襲われている。これは事実であり、変えられない事だ」

「クルミ・トキサキ。ヘスティアが襲われた時の事について答えられるか?」

「わたくしはいませんでしたが、証人を確保しておりますわ。ベル・クラネル本人に聞いて嘘がない事を証明してもいいですし、証人をこちらに連れてきても構いません」

「そうか。ヘスティアの提案を了承し、布告する。如何なる時であれ、神が居る一定範囲への攻撃を禁止する。ただし、神自身が危険な場合と相手が闇派閥の場合は除くものとする。これらを破った場合、制裁を課す」

「妥当だろう」

「ああ、今回、公布する時にアポロン・ファミリアの攻撃が原因だとしっかりと明記しておくようにね。どういう理由において施行されたのか、民にも知らせないと同じ事が起こる」

「了解した」

「くっ……ヘスティアァァァァッ!」

 

 これでアポロン・ファミリアの名声は地に落ちました。下味としてはまだまだですが、とっかかりとしてはいいでしょう。

 

「さて、次の議題だ。ヘスティア、神造武器を持っていたのか?」

「借り受けていた物を封印して持っていた。これはボクが持ち、ボクの許可がない限りは解放されないよう設定してある。先のような事件もあったから、使えるよう事前にボクが持つことで神造武器でないと倒せない敵への対処する予定だった。

 アタランテが動けない時や彼女が殺された場合には必要な処置だろう。それとも、また誰かの神が送還覚悟で召喚するのかい?

 さすがに非効率すぎるだろう。それならアタランテに事前に召喚してもらい、使い手と認められているベル君の傍にいるボクが持てばいい。ギルドにおいておくのも緊急時にいちいちギルドに取りに行くのも無駄だし」

「依怙贔屓やん! ヘスティアが悪用できるやろ!」

「そうだね。うん。悔しいけれどロキの言う通りだ。だから……神様全員が持つかい? 何、アタランテに召喚してもらえばいい。ただ、常に全員が身に着けているのを確認し、それが失われていればその神に罰がいくようにしないといけない。

 闇派閥に奪われてもことだ。いくら使えないとはいえね。それとコレを身につけるという事はアタランテに監視されているということでもある。その事を理解しているなら、持つといい」

「……つまり、それってクルミ、ソーマ・ファミリアに筒抜けって事じゃない」

「そうなるね! ヘファイストスの言う通りだ。ボクは問題になるような秘密もないから問題ない。なんせ弱小で眷属が一人だ。知られるよりも守ってもらえる方が大きい」

 

 これで神造武器の所持についてはどうにかなります。本当に希望者には渡せばいいんです。清い魂の持ち主しか使えないんですから、その魂の持ち主が悪行をすればすぐに染まって使用禁止になりますから基本的に安全面以外で持つ意味がありません。

 

「オリオンの矢については所持を許可する。ただし、申請式としてギルドに届けてからだ。封印もギルドが施す。アタランテについては確かにオラリオの守護を正式に依頼している。今回の件は事が神殺しの未遂である事を考慮し、治安維持行動として認める。以上だ。

 戦争遊戯(ウォーゲーム)についてはそちらで話し合え。私は戻る。ヘルメス、後は任せる」

「さて、それでは司会は俺が担当する。で、戦争遊戯(ウォーゲーム)についてだが……」

「ボクのファミリアは一人だけだ。そこで一対一の代表戦を提案する」

「却下だ。眷属が一人なのはヘスティアの怠慢だろう。それを理由にされても困るな。ああ、そうだ。皆の提案の中からくじ引きで決めようじゃないか」

「じゃあ、それで行こうか。それで、君が勝てばベル君を貰うんだったね」

「ああ、そうだ。それとそこの怪物の処分だ」

「それはボクの管轄じゃないね。ソーマ・ファミリアの領分だ。だが、まあ……君が勝てば認めてあげよう。で、そんな無茶な要求を受け入れるんだから、ボクが勝てばなんでも言う事を全て聞いてもらうぞ。今、ボクの眷属はベル君だけなんだからな」

「いいだろう」

 

 クジ引きの箱を用意して、皆さんに紙とペンを渡して書いてもらいます。そして入れてもらった後、お二人に順番にかき混ぜてもらいます。

 

「では、ヘルメス。引いてくれ」

「こんな重要なクジを俺が引くのか」

「君なら中立だろう」

「ボクもそれは認めよう。やってくれヘルメス。君に全てを託す!」

「まいったな……よし、これだ」

 

 ヘルメスさんが引きます。すると見て、彼はヘスティアさんに謝りました。変なのを引きやがりましたか。

 

「すまん、ヘスティア。攻城戦だって……」

「あははは! 攻城戦だ! これは決まったな!」

「ああ、攻城戦か……くそっ! よりによって人数が一番必要な奴じゃないか!」

 

 攻城戦ですか。攻城戦……バリスタの次の武器を考えていましたが、それの実験に使うのもいいかもしれませんね。

 

「たった一人で数が要る防衛は無理だろう。攻めはヘスティアに譲るとしよう」

 

 つまり、ヘスティアさんが攻撃し、アポロンさんが守るという事ですか。アポロン・ファミリアの守る城を攻める……これは面白い事ができそうですね。ええ、どうせ必要な物になるのでアレを作ってしまいましょう。素材はアタランテさんに用意してもらえば大丈夫です。

 

「すまない。クジを引いたから言うわけではないが、さすがに数に差がありすぎる。どうだろうか、ヘスティアに助っ人を認めては……面白くないぞ」

「駄目だ。戦争遊戯(ウォーゲーム)はファミリア同士の戦いだ。助っ人など認めれば神聖なルールが壊れる!」

「怖いのかしら、アポロン。助っ人程度で随分と怖がっているみたいだけれど、貴方の子供達への愛はその程度なのかしら?」

「おお、そうだそうだ!」

「不甲斐ないぞ!」

 

 アポロンさんの視線があちらに向いている間にヘスティアさんの耳元に囁いておきます。他の神々に見られましたが、問題はありません。

 

「馬鹿にするな。助っ人は認める。ただし、人数は一人だ! オラリオ以外のファミリアに限る! これでどうだ! ましてやそこの怪物はなしだ! もちろん、神造武器の使用も認めん!」

 

 ヘスティアさんがこちらを見てくるので、ニコリと返して頷いておきます。

 

「ああ、もういいよ。余りのセコサに気がそがれた。いいだろう、アポロン。助っ人も要らない。ボクだけのファミリアで君達を潰してあげよう」

「おいおい、マジかよ!」

「ヘスティア! どういうつもりだ!」

「ふん。要らないと言っているんだ。精々、首を洗って待っているんだね、アポロン。本当、君には失望した」

 

 ヘスティアさんが堂々と踵を返して出て行かれるので、わたくしもついていきます。

 

「なんか今日のヘスティア……覚醒してね?」

「怖い」

「やばいわ~」

「絶対に何かやらかすわ」

 

 さて、エレベーターに乗るとヘスティアさんが……不安そうにわたくしの袖を掴んできます。

 

「ほ、本当に大丈夫なんだよね! 言われた通りにしたけれど!」

「ええ、あれで構いません。むしろ、少し驚きましたわ。あそこまで堂々とされるとは思ってもいませんでしたし」

「本当にヘスティアかどうか、ちょっと自信を持てなかった。クルミに操られてないか?」

「失礼だね! ボクだってやる時はやるんだ。それで、どうするんだい?」

「どうもこうも、普通に正攻法ですわね」

「「え?」」

「とりあえず、これからヘスティアさんは……いっぱいサインして頂きます」

 

 ソーマ・ファミリアに連れていき、大量の書類にサインして頂きます。

 

「山がいっぱいあるんだけど、何枚あるの?」

「1600枚ですわね。これを戦争遊戯(ウォーゲーム)を始まる一週間……いえ、三日以内にやってもらいます。では、頑張ってくださいまし。

 わたくしはやる事があるので、そちらを片付けてきます。ああ、内容は読まなくて構いませんから、ただひたすらサインをしてくださいまし。それでヘスティアさんに不利益になる事は断じてありえません。勝つために必要な事です」

「わかった。嘘はないし、クルミ君を信じるよ。ただ、この量だとベル君には会えそうにないね」

「ベルさんならリリさんと一緒にロキ・ファミリアへ送り込みました。そこで徹底的に対人戦の訓練を受けてもらいます」

「あそこにはヴァレン某君が居るじゃないか!」

「必要ですからね。それよりもよろしくお願いいたします」

「……ああ、任された。ベル君が取られるのは嫌だしね!」

「アタランテ、貴女は深層で狩りをお願いします。お金と素材が要ります。大量に」

「わかった。ちゃんと稼いでくる」

「お願いします。ああ、リューさんも一緒にお願いしますね」

「連れていく。任せてくれ」

「では連れていきます」

 

 リューさんとアタランテさんを五〇階層に送った後、ホームに集めておいたファミリアの全員を前にして壇上に立ちます。ヘスティアさんが頑張ったのでわたくしも頑張りますわ。

 

「諸君! これから大事な話をします。清聴するように! では、皆さんに問います! 我々が好きなのはソーマさんか! それともお金を生み出す美味しいソーマか!」

「「「ソーマだ!」」」

「よろしい! では、我らソーマ・ファミリアはソーマの為に生き、ソーマの為に新たな変革の時を向かえましょう! 前団長であるザニスさんが犯した数数の犯罪行為により、我々新生ソーマ・ファミリアは強請りを受けました! どうやら、ザニスさんが行った犯罪の証拠があるそうです。ですが、連中に払う金やソーマなど一切ありません!」

「「「そうだそうだ!」」」

「「「絶対にない!」」」

「故に我々は決断しなければなりません。この決断には不安な事もあるでしょう。ですが、わたくしを信じてついてきてください。必ず皆さんに現状と同じく、いえ、それ以上にソーマが飲める事を約束いたしましょう!」

「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」」」」」

「奮い立ちなさい! ジーク・ソーマ‼」

「「「「「ジィィィィク、ソォォォォマァァァァァァァッ‼‼」」」」」

「よろしい。では、戦争の準備をします! なんとしてもヘスティア・ファミリアを勝たせます! 全員で協力し、勝利を掴んだ暁には最高級のソーマで乾杯です!」

「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ! やるぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ‼」」」」」

 

 さあ、わたくし達の戦争を始めましょう。わたくし達、ソーマ・ファミリアがソーマ・ファミリアである由縁を見せつけて差し上げます。勝つのはアポロン・ファミリアではなく、わたくし達ソーマ・ファミリアです! 

 踵を返し、スカートを翻しながらソーマを振る舞う事で熱狂的になった会場を後にします。全てはヘスティアさんがわたくしの計画(プラン)通りに動いてくれれば勝てます。ですので、わたくし達ソーマ・ファミリアの勝利の女神になってくださいまし。

 

 

 

 




「攻城戦・戦争遊戯」
条件。
ヘスティア・ファミリア、アポロン・ファミリアのみ参加可能。エインヘリャル、神造武器(オリオンの矢)の使用禁止

ヘスティア・ファミリア勝利条件
アポロン・ファミリアが守るフラッグの奪取もしくは破壊
団長であるヒュアキントスの撃破

アポロン・ファミリア勝利条件
ヘスティア・ファミリアからの攻撃に対して三日間守りきる事
相手を全滅させる事

報酬
ヘスティア・ファミリアが勝てばアポロン・ファミリアの必要な物全て。
アポロン・ファミリアが勝てばベル・クラネルの身柄
以上。神の名の下、偽りが無い事を宣誓する。
                           ヘスティア
                           アポロン


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アポロン・ファミリア3 戦争遊戯(ウォーゲーム)の準備期間

ころころ視点がかわりますが、頑張って用意している感じです。


「あの、リリ……修業するって言ってたけれど、ここ?」

「そうです」

 

 近づいて行くリリ達に門番の人達が気付いて槍を交差させます。

 

「ここはロキ・ファミリアだ。何用か」

「ベート・ローガ様に喧嘩を売りに来ました!」

「は?」

「マジで?」

「マジです。ちなみにアポイントメントはありませんが、ご本人様からロキ・ファミリアで戦おうと言われております!」

「……どうする?」

「え、本人に言われてるんなら、流石に呼ばないとまずいだろ」

「ちょっと貴女達……戦争遊戯(ウォーゲーム)の援軍をたの……」

「あ、それがベートさんに喧嘩を売りにきたようです」

「は? どういうこと?」

「酒場で戦おうとしたんですが、店を壊しそうになったので次回になりました。その時にロキ・ファミリアに来いと言われたので来ました。こっちのベル様はリリの付き添いですので気にしないでください」

「……よし、ベートに確認してきて」

「はい!」

 

 門番の人がベート様を呼びに行って、しばらくすると両手をポケットに入れながらこちらにベート様がやってこられました。

 

「お前、本当に来たのか」

「はい。殴り込みに来ました!」

 

 片方の掌に拳をあてながら伝えると、ニヤリと笑われました。

 

「面白れぇ……来い!」

「ちょっ!? ベートさん!?」

「コイツは俺の客だ。訓練場を使うだけだ。問題ねぇ。フィン達にそう伝えておけ」

「だけどこっちの人は今……」

「あ? あ~ソイツは知らん」

「リリの付き添いです。さすがに一人で別ファミリアを訪ねるのはアレですから」

「まあ、いいだろう。ソイツも纏めて相手してやる」

「さすがです!」

「おうよ!」

 

 ロキ・ファミリアの中に入って、訓練場に移動していると、恐る恐る他の人も集まってきました。そして、そこに到着すると……

 

「あ、ベル様は好きにしていてください。ここからはリリがやりますから」

「えっと、うん……」

 

 訓練場の真ん中に移動したベート様がこちらに向かって手をコイコイとやってくるので、リリも同じように近づきます。

 

「あ、リリは装備のありきで格闘戦も変わってきますが……装備アリでやりますか?」

「アリに決まってんだろ!」

「いいですね、いいですよ。なら、少し待っていてください。邪魔な装備を外します」

 

 端っこに移動してローブを脱ぎ、ついでに身体中に仕込んでいる重量装備を外していきます。暗器とかですね。今回は格闘戦だけで戦うので必要ありません。

 

「うわ、全部重い金属じゃん!」

「どんだけつけてんのよ……」

 

 装備はガントレットとグリーブ、ブレストプレートのみです。これでもリリの数倍の重量はあるのでスキルは発動します。

 

「ソーマ・ファミリア所属、リリルカ・アーデです」

「ロキ・ファミリア、ベート・ローガだ」

 

 互いに距離を取り、構えて──

 

「行くぞ!」「参ります!」

 

 ──同時に飛び出して中央で拳と拳を激突して互いの中心で衝撃波が発生し、ベート様が吹き飛ばされていきます。すぐに地面を削りながら着地しました。

 

「嘘、ベートが吹き飛ばされた!?」

「レベル4だったよね、あの子!」

「はっ、これがレベル4だ? 嘘こけ、レベル5は最低でもあるぜ」

 

 ベート様は腕をプラプラさせておりますが、拳から血が出ています。いえ、あれは砕けておりますね。

 

「スキルで上がる力と身体能力のおかげですけどね!」

「それでもこれか……」

「ポーションか、クルミ様に治療して頂きますか?」

「要らねえよ。こっからはマジだ。コイツは……ハンデだ!」

 

 即座に駆け抜けるベート様の速度は一瞬で視界から消え、気付いたら近くで蹴りを放たれていました。リリの身体がどうにか反応して腕を上げると、そこに命中して金属音が響いて今度はリリが吹き飛ばされます。

 地面を削りながら耐えると、即座に追いついてきたベート様が連打を重ねてきます。ですからリリは……ガードを止めて殴り返します。

 

「らぁっ!」

「うりゃぁぁぁっ!」

 

 リーチの差が酷くて普通に吹き飛ばされて戦いになりません。速さは相手の方が格段に上です。故にリリがやる事はカウンターしかありません。

 

「てやぁぁっ!」

「あ!?」

 

 地面を思いっきり蹴って飛び上がり、回転しながらそのまま落ちます。ベート様が何をするのか、様子見になったのでそのまま地面を粉砕して砂埃を巻きあげて姿を覆います。

 

「臭いでまるわかりだぞ!」

「わかっておりますよ! リリがやるのはコレです!」

 

 全力で適当に砂埃を殴り飛ばします。そう、飛ばすのは砂です。砂を弾丸としてぶっ放してやるのです。

 

「てめぇっ! 無差別か!」

「これは喧嘩なのです! ルールなど無用! というか、攻撃があてられませんからね!」

 

 地面を破壊しながら弾を確保して無茶苦茶に攻撃します。流石のベート様もリリの力で吹き飛んでくる砂粒はそれなりにダメージになるでしょう。ならなくても居場所はわかります。そして速度が下がったところを迎撃するのです! 

 

「シッ!」

「ヤッ!」

 

 リリの足とベート様の足が激突して周りの砂埃を吹き飛ばします。同時に掴んでいた砂を投げ付けてやります。それを圧倒的な速度で回避しますが、軌道は予測できます。そちらに裏拳の要領で掌を叩き込めばベート様の拳と激突して掴むことができました。

 

「捕まえました!」

「ちっ! 面白れぇ!」

 

 互いに離さずに腕を掴みあいながら近距離で殴り合います。普通に顔も当たりますが、気にもしません。気にしている暇があるなら、攻撃して相手を倒す事が重要なのです。それがクルミ様と組んで戦う真理です。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「アイズさん、お願いします! ボクをまた鍛えてください!」

「……いいよ。ここで見捨てるのも違うと思うし……」

「ありがとうございます!」

「私も手伝うよ~!」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇ ロキ

 

 

 

 

 神会(デナトゥス)から帰ってきて、内容をフィンに伝えていく。

 

「フィン。ドチビは勝てると思うか?」

「普通なら無理だ。だが、クルミがついているなら話は変わってくる」

「断言すんねんな」

「彼女は特別(スペシャル)だからね」

「クレイジーと言わんか?」

「そうともいうね。ただ、ヘスティア・ファミリアの戦力は一人だけだ。この状況で攻城戦というのは不利を通り越して無謀すぎる。いくら装備を整えてもレベル2では無理だね」

 

 フィンの言う通り、普通は無理やけれど……あのドチビとクルミなら何かやらかしやがる気がする。なんせエインヘリャルなんてもんを下界で作り出すクレイジー共や。神としての勘が告げとるし、このままじゃ終わらんやろ。

 

「というか、ここにはクルミに繋がっている彼女が居るんだから、彼女に聞きなよ」

「グレイたん、教えてぇな!」

 

 窓際に立ちながら、外を眺めているポニーテールのグレイたんに聞くと、こちらを振り向いて答えてくれる。

 

「……詳しい事は教えてあげません」

「いけずやな」

「でも、賭けるならヘスティア・ファミリアに賭けた方がいいのと、ソーマ・ファミリアからのお酒の供給が止まります」

「なんやて!?」

「一時閉店、リニューアルオープンまでお待ちください、です」

「リニューアル、ね」

 

 グレイたんもクルミたんと離れてそれなりに経ったから、変化が起きとる。まあ、遠征帰りにレベル2になって得たスキルが、一番の影響やろう。使う武器はアイズたんと違って片刃の大剣でクルミたんが持つ技術の内、剣だけは同じように習得しとる。

 レベル2になって得た発展アビリティは大剣士。大剣を使うと補正がかかる奴とスキルで鬼神とか出とる。鬼神は死者の霊をその身に宿し、その力を学習して自らの物にするスキルや。あほみたいなレアスキルやし、強いけど代償があるんは必然や。死者を宿すという事は、その死者に乗っとられる危険もあるっちゅうことや。グレイたんはその死者と殺し合いをして勝った方が相手の残留思念や魂を得て身体の所有権を得るという感じやな。

 当然、使用禁止と言いたいんやけど、隠れて使っとるのはわかっとる。スキルが結構、色々と増えとる。本来ならレベルアップでしか得られん発展アビリティすら、稀に手に入れとる。

 オラリオとダンジョンには死者の残留思念なんてそこら中に転がっとるさかい、手に入れるスキルには事欠かんのやろう。グレイたんが黒と白の間に居る半端もんやから手に入れたスキルともいえる。

 

「むぅ……私も行ってきていいですか?」

「あ?」

「一人で出かけるのは禁止だよ」

「残念です。面白い事をしているのですが……」

「ん?」

 

 グレイたんがそう言った瞬間、轟音が訓練場の方から響いてきた。それが何度もや。

 

「何事や!」

「ベートさんとリリさんが、アイズさんとベルさんが戦っていますわ。私も行きたい」

「どないなっとんねん!」

「クルミが対人戦を鍛えるためにベルさんをここに送り込んできただけです。ついでにリリも訓練のためにベートさんが前に酒場で言ったことを利用してやってきました」

「やれやれ、ベートに注意しないといけないね」

「……利用されているのは気に食わんな……」

「報酬は好きにヘスティア・ファミリアの勝利の方に賭けて稼げという事です。私は賭けておきます」

「確実に勝てるとは思わへんねんけど……」

「勝てます。勝ちます」

「断言するんだね」

「勝つのはソーマ・ファミリアですから」

「そこはヘスティア・ファミリアじゃないのか……」

「ソーマ・ファミリアです」

「ドチビは徹頭徹尾、利用されとるだけなんか」

 

 まあ、ええわ。

 

「それよりも臨時休業するなら、酒を追加で買っとかんとな」

「自腹でね」

「ええやん! ソーマを飲みながら観戦したいねん!」

「駄目だ。というか、グレイは出て行こうとしないでくれ」

「ちっ」

「アイズたんの子供のころみたいやな~」

「まったく、厄介だ。リヴェリアの用事がなければ頼むんだが……」

「無理やて。今、出かけとるし」

「だね」

「フィン」

「なんだい?」

「訓練場、壊れてるけれどいいの?」

「……よし、ボクも行こう。おいたをする子達には厳しい訓練をつけてあげよう」

「やったです」

 

 フィンがグレイたんを連れて行ったら、より凄い事になったようや。爆音と炎、水、風、吹き飛ばされる子供達。レベル7になったフィンによる動けなくなるまで、徹底的にボコられる訓練や。修理はクルミたんに金を払えば……って、今、クルミたんが動けへんのやったら普通に直すしかないで! まあ、子供達がどうにかするやろ。うちは知らん。賭ける金でも用意しておこか。

 

 

 

 

 ◇◇◇ 椿

 

 

 

 

 

 手前達、ヘファイストス・ファミリアの鍛冶師はクルミから大量の依頼があるという事で、ほとんどの鍛冶師がやってきておる。それだけ、クルミが提示した金額は凄い値段だったからだ。もちろん、ソーマ・ファミリアの者達やゴブニュ・ファミリアの者達もおる。

 

「うむ。余裕がある鍛冶師達は全員来ておるようだな」

「当たり前だろう。報酬が通常の三倍だ。それに団長が手の空いてる者と手が空いていなくても空けて来いと命令したからだろう」

「はっはっはっ、必要な事だからな!」

 

 オラリオの郊外。此花亭の近くにある場所に手前達は集められた。ここはソーマ・ファミリアが所有する一帯だ。なに作るのかは知らんが、だだっ広い場所である。そんな場所に集められた手前達は壇上に登ったクルミを確認する。その後ろには大きな木の板が布で隠されておる。

 

「ヘファイストス・ファミリアに依頼するのはオラリオ中の鍛冶師達に依頼した品物を組み立てる事と、その時に出た歪みなどの修正です。作る物はこちらですわ!」

 

 クルミが布を取り払うと、巨大な設計図が出てきた。それはどう考えても個人で使う物ではない、集団で使う物だ。

 

「皆さんはおそらく、既に聞いているでしょう。ヘスティア・ファミリアがアポロン・ファミリアに戦争遊戯(ウォーゲーム)を挑まれ、受けました。この際、アポロン・ファミリアは神殺しをしようとしました。そのような事、ヘスティアさんやその眷属であるベルさんと親交のあるわたくしも団長である椿さんも許せません。なにより、ヘスティアさんの神友であるヘファイストスさんは絶対に許せないでしょう」

 

 全員が息を飲んで聞き入る。クルミの言う事は正しい。普段から仲が良いし、ヘスティア様はヘファイストス様の下にいた。また、今でもヘファイストス・ファミリアで働いてくれている仲間といえる。

 

「ですが、戦争遊戯(ウォーゲーム)では大々的に協力はできません。ですので、ヘファイストスさんから皆さんに手伝えなど指示はできません。心でどう思っていても、できないのです。ですが! 依頼なら、ただの製作依頼なら別です! ましてやそれがヘスティア・ファミリアではなく、別のファミリアならば問題ありません!」

「なるほど、これを作って譲渡する気か」

「皆さんの中にはこの言葉で動かない人もいるでしょう。ゴブニュ・ファミリアの方もおられます。ですから、わたくしはこうも言います。せっかくの戦争遊戯(ウォーゲーム)です。それも攻城戦です! 

 普段は作れない大型武器を作り、実験したくはありませんか! わたくしはしたい! 故にアポロン・ファミリアを倒しうる武器……いえ、兵器を考案しました! 

 反動などの理由で土台はとても大きいですが、部品はすでにオラリオ中の鍛冶師に発注して作らせています。もともと、ダンジョンのリヴィラや五〇階層などで作る予定の街に設置する予定で考案しました。それらのテストを兼ねて今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)を利用します。ヘスティアさんから全権を頂いているので好き勝手にできます。ええ、好き勝手にできますとも! さあ、わたくし達の好奇心と思い付いた技術でオラリオの歴史を塗り替えてやりましょう!」

「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ‼‼」」」」」

 

 大型兵器……そんなものではないが、移動はクルミが担当するのであれば可能であろう。それにクルミの横に積み上げられるように置かれていくドロップアイテムや魔物(モンスター)そのものの素材達。これだけの深層素材を扱うのであれば鍛冶師達の経験値もかなり高くなるだろう。なにより、主神様のためだ。やらないわけにはいかん。

 

「者共聞け! これはあくまでも依頼であり、戦争遊戯(ウォーゲーム)を利用した実験である! 我らは新兵器を作る依頼を受けただけだ! その結果、ヘスティア・ファミリアが勝とうが負けようが、我らにはどうでもいい。だが、鍛冶師として、ヘファイストス・ファミリアの名を汚す事は許さん! 全力で、否。全身全霊で魂を込めて当たれ! これは我らヘファイストス・ファミリアが威信を賭けて作成する! 手前共にとっての戦争だ! やるぞ!」

「我らゴブニュ・ファミリアもこと建造において他のファミリアに遅れをとるわけにはいかぬ! ここで遅れては主神様に顔向けできぬ! 我らが普段できぬ考えるだけにとどめていた物を作れるのだ! 最高の代物を作り上げ、主神様に評価して頂くぞ!」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ‼‼」」」」」

 

 主神様の為に出来る事をやってやろう。神友が殺されかけたのだから、主神様も心穏やかにはおられまい。手前達は手前達で出来ることをやろう。ゴブニュ・ファミリアは純粋にやりたいからやるのであろうが、それもまたよし。

 

「それでは皆さん。鍛冶師(わたくしたち)戦争遊戯(ウォーゲーム)を始めましょう」

 

 各自を割り当て、製作を開始するように指示を出すクルミ。手前も手伝って造っていく。巨大な建造物だ。明らかに時間は足りないが、必要な部分だけ作り、後でつなぎ合わせるようだ。それに各自に割り当てられた部分さえ終えれば過剰な素材を使って好き勝手に大型兵器を作り、設置できるとのことだ。

 本当に戦争遊戯(ウォーゲーム)をテストとして利用するだけのようだ。だが、これはこれでやったことのない仕事だ。新しい仕事を開拓できるのはいい事だろう。

 

「クルミよ。これは全てが魔導具なのか?」

「装甲には魔法に対するために神聖文字(ヒエログリフ)を刻んだ魔導具になります。攻撃兵器の方は魔導具になるんでしょうね」

「この丸い部分は不壊属性(デュランダル)か」

「ええ、そうです。そこだけは絶対に不壊属性(デュランダル)でないと壊れます」

「巨大な銃のようだが、別物か?」

「間違いではありませんが、別物ですわ。まあ、歴史が変わるのは確実です。なんせ火力は身をもって体験しておりますしね」

「だろうな。アレを基礎としておればさもありなん。うむ。実際に運用できるのであれば命中さえすれば一撃でアポロン・ファミリアを潰せるだろうよ」

「照準の調整は狩猟の女神様……いえ、女神の加護を受けた純潔の狩人にやってもらいます」

「ほぼ百発百中ではないか!」

 

 女神様が調整するのであれば、基本的に外れはせんだろう。

 

「まあ、場所の関係もあるので外れることはあるでしょう。流石に現地で試し撃ちはできませんしね。どちらにせよ、壊れるまで撃ち続ければいいだけです。着弾観測をして微調整すれば余裕ですわ」

「恐ろしいの。まさに戦争の歴史が変わる。ところで弾はどうするのだ?」

「知ってますか、椿さん」

「ん?」

「今回、禁止されたのはエインヘリャルと神造武器です。ですが、術式まで禁止されていないんですよね」

「悪い顔で笑っとるな! そうかそうか、これに刻まれたるは天界の術式か」

「いえいえ、まさか……ちゃんと下界用に落とし込んでわたくし好みに改造しておりますわ。ボウケンシャーであれば誰にでも使えなくては防衛兵器として欠陥品ですもの」

「確かにそうであるが、やはりダンジョンでは使えんな。持ち運べるものではない」

「拠点に据え置きます。わたくしは持ち運べますが……普通に運用するにはコストが重すぎますわ」

 

 本当にリヴィラなど冒険者の街を守るための武器か。確かに安全さえ確保できればダンジョンの探索は捗るであろう。手前達としても素材がさらに流通するようになるので歓迎できる事ではあろうよ。

 

「それでも作るのであろう?」

「三機作って二機を配置という考えですわね。一機はわたくしが使いますが……普段は死蔵することになるでしょう。もったいないので、観光資源として使うかもしれません」

「コイツが観光資源か! 剛毅な事だ!」

 

 制作費用だけで普通のファミリアなら確実に二桁は破産する。それが今回使われている深層の素材代金だ。今回の手前達に支払われる報酬もこの深層の素材で現物支給となる。

 エインヘリャルが取ってきてくれるからこその運用であろうし、リヴィラなどに配置するのであればそこを利用する者たちからも資金を徴収するのであろう。相変わらず長期的に資金回収を考えておる。

 それに今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)で賭けをするのであろうから、そちらでも資金回収をするつもりか。アポロン・ファミリアの資産も勘定に入れているのだろうが……負けるつもりはないと。

 しかし、どうやって運ぶのであろうな。クルミが参加することはソーマ・ファミリアであるが故に不可能だ。今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は他のファミリアが助っ人としても参加できない。かと言って、クルミがリリを手放すとも思えんし、リリではこの攻城兵器とも言えんような物を運ぶ事はできん。

 流石に現地に設置して放置し、それをベル・クラネル達が使う予定なのだろうか? しかし、それでは明らかに文句が出るであろうし、相手に奪われる可能性もある。いやはや、何をしでかすつもりやら、楽しみであるな。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「イシュタル様、ご報告がございます」

「なんだい?」

 

 幹部達との定例会議が最後になり、それぞれに何かあるかと聞くとサミラから報告が上がった。

 

「ソーマ・ファミリアの団長、クルミ・トキサキがまた春姫を身請けしたいと言ってきております」

「こないだの条件は伝えたんだろうね?」

「はい。それが……一千万ヴァリスでも即金で用意してきました。担当した者を叱責して更に値段を吊り上げるのではなく、こちらでまた精査すると伝えました」

「アイツは春姫と何度も寝てるんだったね?」

「はい」

「だったら、春姫のスキルがバレているのかも知れないね。それなら欲しいと思うのは当然だろう。特にクルミ・トキサキの分身能力と春姫の魔法が合わされば馬鹿みたいな相乗効果が生まれるだろうしね」

「……分身全てがレベルアップして襲い掛かってくる? 反則じゃない……」

「確かにアタシでもレベル5に大量に襲われると負けてしまうね。ムカつくけれど、ソイツは事実だ」

 

 団長であるフリュネも認めるほど、クルミ・トキサキの分身能力は反則中の反則だ。そして、あの小娘の手にはエインヘリャルとなったアルテミスが居る。今はアタランテか。どちらにせよ、神をエインヘリャルにするという天罰をも恐れぬ暴挙をやり遂げた。まさに二つ名に表される悪夢のような小娘だ。

 

「それよりも此花亭だったか。あそこのせいで売り上げと上納金が結構減っている。それをどうにかする方が先じゃないか? クルミ・トキサキの資金源の一つにもなっているしね」

「そっちも痛い問題だね。いっそ何人か攫って潰すか?」

「止めておきな。嬉々としてエインヘリャルを連れて攻め込んでくるのが目に浮かぶからね」

「ちっ」

「男であれば魅了して誑し込むんだが……クルミ・トキサキには魅了が効かん。数秒効いても元に戻るようだ。エインヘリャルであるアタランテも同じ。女だから効きも弱い」

「それって、はなっから誰かに魅了されている可能性の症状じゃなかったかい?」

「だとしたらフレイヤか……それはないか。まあいい」

 

 

 

 

 クルミ・トキサキとソーマ・ファミリアには伝手を頼って手を出しているが、完全に無視しているようだ。あちらは報復も考えているだろうが、失敗するだろう。そもそも、あくまでも前団長がやったことであり、そいつらをクルミ・トキサキは排除している。精々が店の売り上げを下げる程度が限界だろう。普通のファミリアであれば名声が傷つくと脱退者が増えるが……奴等が信仰しているのはあくまでもソーマが作り出す神酒のソーマだ。ソーマさえ提供されるのであれば文句など出ない歪すぎるファミリアなのよね。

 

「制裁はどうしますか?」

「資金源にダメージを与えられ、小娘の思惑を外すほうがいいわ。そうね、確かソーマ・ファミリアについて面白い情報があったはず。寝物語として広めてやりな。

 奴等にとって致命的になる毒を放ってやりな。理屈ではなく、感情で動く連中の恐ろしさを味わわせてやれ」

「「「はい!」」」」

 

 ついでにアポロン・ファミリアに援助もしてやろう。今回の事でまともに物資をそろえられないかもしれないしね。

 

 

 

 

 




攻城戦なら攻城兵器を使うのは当たり前です。ですのでクルミちゃんとヘファイストス・ファミリア達が作り、ヘスティア・ファミリアが運用します。
運用には人数が欲しいので、原作通りタケミカヅチ・ファミリアから命さん、ヘスティア・ファミリアから、ヴェルフさんが移動します。そもそもクルミの計画を知らないので、少しでも戦力を集めるのは当然です。


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アポロン・ファミリア3 戦争遊戯(ウォーゲーム)の準備期間2

 

 

 

「これで、どうだぁぁぁっ!」

 

 ヘスティアさんがテーブルの上にあった書類を全て片付けました。ですので、それを受け取って確認しながら別の書類を渡します。

 

「はい、確認しましたお疲れ様です。では、次はこちらの書類をお願いしますね」

「待って。まだあるの!?」

「冗談です。これからやってもらう事がございますが、こちらはわたくしの方で処理する書類ですもの」

「良かった~」

 

 おかわりのソーマ入り紅茶を入れて渡してあげます。ヘスティアさんは美味しそうに飲んだ後、机の上にぐったりと倒れました。

 

「もう腕が上がらない。ボクは寝るぞ!」

「残念ながらこれからもっと大変ですわ」

 

 そう言うと、執務机の扉が乱暴に開けられました。顔面蒼白なソーマ・ファミリアの団員に何かがあったのは確実でしょう。

 

「団長! た、大変です!」

「落ち着いて報告してくださいまし」

「は、はい……前団長が主導した悪事が広まっています!」

「そうですか」

「いや、大変な事じゃないのかな?」

「その程度なら問題ありません。すでに前団長は逮捕され、死亡しています。関わった者達もファミリアにはいません。この事を神の前でしっかりと説明すればいいだけです」

「じゃあ、大丈夫……」

「だ、団長! え、え……」

「「え?」」

「エルフが攻めてきました! 色々なファミリアのエルフ達が、武装してきています!」

「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁっ!」

 

 ヘスティアさんの言葉を聞きながら、即座に他のわたくしから情報を広います。同時に窓から外を見ると、確かにエルフの方々が武装してソーマ・ファミリアの前に陣取っておられます。

 

「く、クルミ君」

「面倒ですね。テストがてら皆殺しにしてやりましょうか」

「駄目だからね!」

「わかっていますよ。どうせ彼女の事がバレたのでしょう。なるほど、ファミリアの不正を知っているというのはこちらでしたか」

「冷静だね。どうするんだい? ボクの戦争遊戯(ウォーゲーム)もあるのに!」

「大丈夫ですよ。既に対策はとれていますから。わたくし達、ソーマ・ファミリアが運営する全ての店を封鎖。出店している場所から撤収させてください」

『『了解ですわ』』

 

 さて、誰が仕掛けてきたのかはわかりませんが、売られた喧嘩は買うとしましょう。

 

「ヘスティアさんはこちらです。次のお仕事を頑張ってくださいまし」

「わ、わかった! そっちも頼むよ!」

「ええ。お任せください。ああ、エルフの皆様を倉庫にご案内してください」

「かしこまりました!」

 

 黒ジャガ君を保管している倉庫にエルフの方々を呼び、時間を稼ぎながら現在のキアラの位置を確認します。今はダンジョンでわたくしとレフィーヤさん、リヴェリアさんの四人で戦い方を習っておられます。

 この時点でエルフを差し向けた方々がわたくし達が既にリヴェリアさんを抱き込んでいる事を知らない事がわかります。

 

『アサシン。ダンジョン探索を中断し、リヴェリアさんにこの事を伝えて戻って来てくださいまし』

『了解しましたわ』

 

 さて、倉庫で黒ジャガ君の展示を見ながら少し待っていると、扉が開いて続々とエルフの方々が入って来られました。皆様、とても殺気だっておりますのが背中からわかります。

 

「さて、アポイントメントもなく武装しての今回のご来訪。戦争遊戯(ウォーゲーム)ではなく、ルール無用の殺し合いをしに来たと捉えますが、それが各々のファミリアによる正式回答という事でよろしいんですの?」

 

 左右に黒ジャガ君を置いた状態でクルリとスカートを翻しながら振り返ります。すると、先頭に居た男性はアポロン・ファミリアの方でした。

 

「ファミリアは関係無い! だが、貴様らソーマ・ファミリアが我らが王たるハイ・エルフのお方を凌辱し、無理矢理産ませた子供を売ろうとしていた事は明白である! 我々は彼女の引き渡しを要求する!」

 

 そう言って彼が提示してきたのはあの男が所属していた闇派閥の契約書類でしょう。実験材料として捕らえたハイ・エルフの子供の売買記録です。そこに確かにソーマ・ファミリアに所属していた男の名前があります。

 

「それが本物であるという証明をしてくださいまし」

「なんだと?」

「いくらでも偽造ができますもの。そんなものを提示されたところで困りますわね。それよりも、こちらとしてはたとえエルフの方々だけとはいえ、各所属ファミリアの正式回答として宣戦布告を受けたと判断し、正式にギルドを通し、抗議させていただきます」

「ならば探させてもらう! 居なければ我らも引こう!」

「拒否しますわ。何故、捜査権も何もないあなた方の言う事を聞く必要がありますの?」

「ふざけているのか?」

「立ち入り調査がしたいのであれば、正式なウラノスさんの印が入ったギルドからの書類を持ってきなさい。それができないのであれば、せめて一般エルフではない、王族を連れてきなさい。権力もない、ファミリアの団長でもないのであれば、話を聞く必要も一切ありません。こちらは現在、大変忙しいのです。何せ戦争遊戯(ウォーゲーム)は稼ぎ時なのですからね。それとも、そちらのファミリアに損害と売り上げを見込む金額も含めて請求いたしましょうか?」

 

 エルフの方々が殺気を振りまいてこられます。中にはすでに詠唱を始めようとしているエルフも居ますので、こちらも攻撃準備はできています。

 

「ちょっと待った!」

「貴女は?」

「ガネーシャ・ファミリアに所属するエルフです。こちらとしても色々と聞かないといけない事があります。ガネーシャ・ファミリアであれば、捜査権を持っておりますので、問題ないですね?」

「ふむ。確かにガネーシャ・ファミリアであれば問題ありませんが、団長か副団長を連れてきなさい。そうすればある程度は譲歩してもよろしいです」

「まあ、その前に一部確認したいのです。こちらにお暇している神様も連れてまいりました」

「俺が、ガネーシャだ! 連れて来られたぞ!」

 

 本当にガネーシャさんを連れて来られたので、対応するしかありませんね。まあ、別に構わないのですが。

 

「で、ガネーシャさんは何しにきましたの?」

「うむ。騒乱の気配がしたので先に布告されたギルドの法を利用し、戦いを停止させに来たのだ!」

「案外まともな理由で文句も言えませんわ!」

「ガネーシャだからな!」

「では、解決の為にお聞きします。ハイ・エルフの血を引かれる方はソーマ・ファミリアに居ますか?」

「答えるのであれば、今は居ません」

「今は、ですか」

「では居るのだな! 魔の手からお救いせねば!」

「では、答えたのでお帰りを。わたくしの時間を割き、これ以上邪魔をするのであれば本当に敵対者として駆逐させていただきます。続きを聞きたいのであれば代価を支払ってもらいましょう。こちらは一分一秒が争われる戦争状態ですの。ヘスティア・ファミリアとアポロン・ファミリアが終わった後、ロキ・ファミリアにいらっしゃるリヴェリアさんを交えて話し合いを致します。わたくしが問題点としてあげている一つが、権限がろくにないエルフの代表者でもない方とお話しても同じ話をしなくてはいけないという時間の無駄があるからです。皆様もリヴェリアさんの言葉なら従うでしょう?」

「確かにリヴェリア様のお言葉ならば従います」

「今は忙しいのも事実でしょうが……」

「騙されるな! その間にかのお方が隠されたらどうする!」

 

 ここ、ですわね。

 

「では、ガネーシャさんもいらっしゃるのでこう致しましょう。わたくしは作業時間の関係で今は対応できません。ですので、わたくしの時間を欲するのであればあなた方が労働力としてわたくしの分まで働くというのはどうでしょうか? それでしたら、わたくし共といたしましても、労働力が手に入るので少しばかり時間を消費しても問題ありません」

「確かにそれならそちらも損害は生まれないので、お話はできますね。ですが、アポロン・ファミリアの方はどうしますか? 彼等はこれから戦争遊戯(ウォーゲーム)が控えていますよ」

「彼等はこの場でお帰り頂きます。他の方々も神様方に誓って話の内容を漏らさないで頂きます。この内容はとてもデリケートな事ですから、公表するなどもってのほかです。また、働いてもらう間はソーマ・ファミリアから一切出しません。戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まると同時に解放いたしますので、各々のファミリアに伝えておいてくださいまし。以上の条件を飲まれる方にのみ、嘘偽りなく真実をお教えしましょう。こちらもエルフとの戦いは望んでいませんので、攻撃されない限りはなにもしません」

「うむ。クルミの言葉に嘘はない!」

「では、私は参加します。構いませんね、ガネーシャ様。休暇という事にしておいてください」

「任せろ!」

「ああ、アポロン・ファミリアの方もこの条件で良ければ参加して構いません。ですが、戦争遊戯(ウォーゲーム)には間に合いませんよ」

「くっ……」

 

 アポロン・ファミリアの方が出ていきました。ガネーシャさんが居ますし、普通の言葉ではエルフの方々が納得しないとわかっているのでしょう。

 

「では、ぶっちゃけますので最後まで静かに聞いてください。質問などは終わってからでお願い致します」

 

 エルフの方々がわたくしの言葉に頷きます。

 

「ハイ・エルフの血を引く方はいらっしゃいます。現在ソーマ・ファミリアの団員としてわたくしの世話係という特別な役職に入れて保護しております」

「事実だ」

「皆様も知っての通り、前団長は犯罪を犯しておりました。どうやら、その伝手を頼って暗黒期の間にソーマ・ファミリアへ逃げ込んできたようです。そこからその子を売るために育てておりましたが、わたくしが団長になった時にまとめて処分しました。団長はギルドの牢獄で死んだのはガネーシャさんは知っておられますね?」

「うむ。死体は確認した。老衰と判断された」

「はい。ガネーシャ・ファミリアでも確認しております」

「さて、売るために虐待されて育てられた彼女は激しい人見知りで、エルフの常識など一切知りません。普通の常識も知りません。知っているのは娼館に売られる予定でしたので、それに関する知識だけです」

「「「っ!?」」」

 

 エルフの方々は怒りと悲しみで涙を流したり、歯を食いしばって血を流したりしている人もいます。特に年齢が高そうな方が多いです。外見はすごく若いのですが。

 

「ああ、まだ続きがありますので聞いてくださいね。さて、彼女を保護したのですが、わたくしが団長になって知りました。もちろん、団長としてソーマ・ファミリアを安全に運営し、団員を守る義務がございます。ですので、ハイ・エルフの血を引くことから、血族であられるリヴェリアさんに助けを求めることにしました。ハイ・エルフの血を引くとはいえ、凌辱されて無理矢理産まされた子供です。わたくしはエルフを含めて信用していません。何が起こるかはわかりませんが、彼女もわたくしが守るべき団員です。ですから、秘密裏にリヴェリアさんに接触して彼女の人となりを確認し、問題がないとわかった時点で助力を得ることにしました」

「事実だ」

「それからとても大変でした。何せ、ロキ・ファミリアの副団長様ですからね。伝手を作り、関係を深めてリヴェリアさんがわたくしのお願いを聞いて頂けるように環境作りをして、そこで彼女の事を打ち明け、ご協力をして頂きました。そこで決まったのが、リヴェリアさんの弟子としてだけではなく、リヴェリアさんの養子として引き取って頂ける事になりました」

 

 拳を突き上げながら演説をすると、エルフの方々はおおっと喜ばれました。

 

「つまり、彼女はリヴェリアさんの養子として後ろ盾を得ることができました。そうは言っても、リヴェリアさんですら、彼女からしたら赤の他人です。ですので、心を開かれているわたくし達のファミリアに居るまま、家庭教師や護衛として日々の時間を少しずつ共に過ごしていただいて、交流を深めてリヴェリアさんに慣れていってもらっているのが現状です」

「事実である」

「護衛は?」

「リヴェリアさんと彼女の弟子であるレフィーヤさん。それにわたくしの分身とレベル4のエルフの方を我がファミリアに神様ごと招き、護衛をしてもらいます。この方はこちらに改宗しても構わないと伝えていただけております。ですので、護衛は基本的に足りております。今は心の傷を癒し、ハイ・エルフの常識などをリヴェリアさんに教えていただいています。ですので、皆さん。彼女の幸せを願うのであれば、接触せず、付け回さず、街で見かけた時に軽く注意を払うぐらいでお願いいたします。それ以外であれば街の治安維持にご協力くださいまし」

「接触は駄目、なのですか?」

「虐待されて過ごしていたので、人を怖がります。知らない人が大勢いればストレスを感じてしまいます。ですので、まずはわたくしのファミリアとリヴェリアさんがいらっしゃるロキ・ファミリアの方々。それから懇意にしているヘファイストス・ファミリアなど、だんだんと人の輪を広げていっております。まあ、どうしても接触したいのであれば……此花亭で働いてください。ソーマ・ファミリアの家事などは全て此花亭にお任せしています。そちらであれば従業員として少しずつ彼女と仲良くなるか、ソーマ・ファミリアの団員となって仲良くなるかの二択ですわ。それと今、こちらにリヴェリアさんと一緒に向かってきてもらっていますので、武装解除してお待ちください」

 

 エルフの方々は即座に武装を解除してくださったので、争う必要はなくなりました。さて、ここから調査をさせていただきます。誰が主導したとか、しっかりと教えていただかないといけませんもの。

 後、エルフの方々はキアラさんの為という理由でしっかりと働いてもらいましょう。魔石から魔力を吸うだけでは連射できませんしね。

 

 

 

 



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アポロン・ファミリア3 戦争遊戯(ウォーゲーム)の準備期間3

 

「団長様! 団長様! お願いです! ヘスティア・ファミリアとの戦争遊戯(ウォーゲーム)を止めてください!」

 

 団長様にすがりつき、なんとかお願いする。このままじゃ、黒い時計に太陽が飲み込まれて皆が死んじゃう! 

 

「ふざけるな! ここまで虚仮にされているのだぞ! 我らは既に勝たねばならんところまで追いつめられているのだ! それがわからんのか!」

「無理です! 勝てないんです! 戦争遊戯(ウォーゲーム)を受けられた時点で私達に勝利なんてないんです!」

「黙れ! 我らは勝つ! 卑怯な手で我らの妨害をしようが、ヘスティア・ファミリアの独力などたかが知れている!」

「敵はヘスティア・ファミリアじゃないんです! ソーマ・ファミリアです!」

「ふん。それこそ話にならんな。奴等は参加できん。たとえ改宗したとしてもレベル1がほとんどで2は二人だけだ。そのレベル2と副団長は団長であるトキサキが溺愛している。あの糞ガキを手放すことなどないだろう。故に貴様の心配など杞憂だ! それよりも食料と武器はどうなっている!」

 

 団長様が話を聞いてくれずに弾き飛ばされて床に転がる。それでもお願いしないといけない。夢で見たのは黒鉄の城から放たれる攻撃によって防壁から外に打って出た私達が全滅させられるところ。周りが火の海になり、黒鉄の城から放たれた無数の矢や岩が空から降ってくる。皆は必死で走って炎に焼き殺されていく。黒鉄の城の防壁に到達したところで私達には突破する手段がなくて……そのまま嬲り殺しにあう。

 

「どちらも予定通りには揃っていません。ですが、どうにか外から来る商人達を捕まえて用意しました。代金は予想以上にかかりましたが……」

「武器もか?」

「はい。問題ありません。現在輸送中です」

「だったら護衛を出せ。途中で襲われて奪われてはならん」

「は!」

「くそっ! 神殺しをしようとしたなどというデマがなければどうにでもなったものを! だいたいオラリオの鍛冶師は何をしている!」

「その、全ての鍛冶師が大口の依頼が入っているとの事で……調整程度なら極微かに可能との事です」

「こちらは戦争遊戯(ウォーゲーム)だぞ! 何故拒否してくる!」

「報酬が違いすぎます……深層の素材が貰えるのですから……」

「どこのどいつだ!」

「ソーマ・ファミリアです。ソーマ・ファミリアがリヴィラなどで使う巨大な防衛装置を作るために鍛冶師を集めたとの事です。こちらは戦争遊戯(ウォーゲーム)が決まるかなり前々からギルドに提出されており、認可も実際に下りています。リヴィラの顔役も承認しております」

「くそがっ! だが、まあいい。このままでも勝てるだろう」

「無理です。団長様!」

「まだ言うか!」

「せ、せめて、攻撃する準備も、攻城兵器の準備をしてください!」

「ふざけるな! そんな無駄なことはできん! そもそも今回は防衛側だぞ! そんなこともわからんのか!」

「今、ソーマ・ファミリアで造られているのは防衛装置なんかじゃありません! 敵を滅ぼす破壊の、悪魔の城なんです! ここの城なんて簡単に壊されてしまいます!」

「ふん! 問題はない! そのソーマ・ファミリアであればエルフ達が妨害しているはずだ」

「お願いします! お願いします! 今のままじゃ絶対に勝てないんです!」

「黙れ! おい、こいつを連れ出せ!」

「なあ、ここまで戦争遊戯(ウォーゲーム)を拒否するなんて……こいつ、裏切り者じゃないか?」

「え? ちがっ」

「……そうだな。そうだ。裏切り者だ! 俺達を惑わそうとしているんだ!」

 

 いつの間にか集まっていた人達の中からそのような声が聞こえてくる。

 

「そもそも神殺しの汚名をきせられたのだって、ダフネが指揮したからだろ? ダフネを操ったのはコイツじゃないか?」

「ありえるな……」

「ちがっ、違います! 私はそんなことをしていません! 信じて! や、やめて、こないで……信じてください! だ、団長様! たすけ……」

「牢屋に入れておけ。裏切り者がどうなるか、見せしめだ。殺しさえしなければ何をしてもいい」

「よろしいのですか?」

「今回、我らはなんとしても勝たねばならんのだ! 我らアポロン・ファミリアは神殺しをしようとしたという汚名を着せられた! この戦争遊戯(ウォーゲーム)で撤回させなければ白い目で見られ、食料も武器もまともに買えん! ましてや新しい団員もこないだろう。戦争遊戯(ウォーゲーム)で手に入れるしかなくなる。それすらまともにできなくなる! このままではアポロン・ファミリアは遠からず消滅する! それだけはなんとしても防ぐ! 良いか! 士気を乱す者は何人足りとも許さん! 我らに残されたのは勝利しかないのだ! それを心得ておけ!」

「「「はっ!」」」

 

 口を塞がれて牢屋に連れていかれ、両手を縛られて吊り上げられて服をはぎ取られる。そこらひたすら殴られる。恥ずかしさよりも痛みが支配して必死に耐える。

 

「吐け! なんの情報を漏らした!」

「わ、わたしは……裏切って……あがぁっ!?」

 

 気絶しても叩き起こされる。顔だけはアポロン様の事もあって殴られないけれど、逆に言えばそれ以外は好きなようにされる。

 

「あなた達! 何をやっているの!」

「だ、ダフネ、ちゃん……たすけ……」

「コイツは裏切り者だ。お前もそうなのか?」

「は? そんなわけないでしょうが! だいたいヘスティア・ファミリアに勝ち目なんてないのになんで裏切るのよ」

「……本当にそうか? お前が指揮したせいで俺達は神殺しの汚名を着させられたんだからな……」

「違うわよ!」

 

 ああ、ダフネちゃんまでこんな目に合わされるのは駄目。ここは私がどうにかするしかない。私がもっとちゃんと止めなかったのが悪いんだもの……

 

「わ、わたし……が……ダフネちゃんを……そそのかしたの……ダフネちゃんは、騙された、だけよ……」

「カサンドラ? 何を言って……」

「ようやく吐いたか。おい」

 

 大丈夫。耐えて神様の前で証言すれば私は助かる。だから、頑張ればいい……だから、ダフネちゃんは生き残って……

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「あらあら、追い詰められた人の行動とはかくも醜きものですわね。いくらポーションで再生させられるとはいえ、同じファミリアの仲間をここまでしますか。これはちょっとやりすぎましたわ。でも、貴女の名前からしてこれは運命なのかしら?」

 

 辛い辛い時間が終わって眠っていたら、声が聞こえてきた。また酷い事をされるのかと思ったら、もうどうでもよくなってきた。

 

「起きなさい」

「ぎぃっ!?」

「あら、ごめんなさい」

 

 身体に液体をかけられて激痛を感じる。意識が強制的に覚醒させられ、掠れる視界で見たら牢屋には不釣り合いな女の子がいた。その子はよく知っている子。街でよく見るし、有名な女の子。最速で駆け上がっていった私達アポロン・ファミリアの天災。

 

「生きてはいますわね。さて、ポーションを使いました。これで会話ができるでしょう」

「ソーマ・ファミリアの団長……クルミ・トキサキ……なんで、ここに……」

「それはもちろん……情報収集と工作のためですわね」

「っ!? だっ……あがっ!?」

 

 声を上げようとしたら、小さな手を口の中に入れられて舌を掴まれた。

 

「歯がないとこんな感じなのですわね。不思議な感触ですね……ああ、噛みつこうとしても無駄です。それと人を呼んでいいのですか? わたくしはさっさと消えますので、貴女だけになります。そうなると、酷いことが再開されますわ。それともお人形さんでいたいのかしら?」

 

 その言葉に恐怖が浮かんできて、涙目になりながら必死に首を振るう。すると、彼女はニコリと微笑んでくれた。

 

「では、お話をしましょう。大丈夫です。ここに来る連中はしっかりとわたくしが気絶させておきますから。いいですわね?」

 

 頷くと、口から手を抜いてくれた。

 

「今から歯を治療します。眼を瞑りなさい」

「んがぁ」

「いい子です。<刻々帝(ザフキエル)>、四の弾(ダレット)

 

 目を瞑ると、衝撃を感じた後、あれほど感じていた身体中の痛みと倦怠感、不快感とかが全て消えました。視線を下ろして身体を見ると傷一つない綺麗な肌に戻っていて、思わず涙が溢れてきました。

 

「ありがとう、ございます……」

「いえ、正直言ってわたくしのせいですしね。むしろ、ごめんなさい」

「え?」

「ここまでになるとは予想外でしたの。はい……」

 

 しょんぼりしたような感じの言葉に驚いていると、彼女は話だしてくれました。

 

「ほら、裏切り者とか怪しいとか誰かが言ったでしょう?」

「あ……あれ……」

「わたくしがコッソリとばれないように誘導しました。内部分裂なんて策略の基本でしょ?」

「ま、まさか……」

「城の内部構造の把握。妨害工作や離反工作。戦争では基本的な手段です。遊戯とはいえこれは戦争です。ですので、勝つために必要な事は全てやりますの。ヒュアキントスさんが輸送部隊に護衛を派遣しなければ奪う予定でした。もちろん、商人の方々にはお金を倍額で支払って商品をもらいますが……」

「ひ、ひどい……正々堂々……」

「正々堂々なんてしませんわ。だって、貴女達もしていないでしょう? 一人しかいないファミリアを百人以上いるファミリアが襲う。これは卑怯ではありませんの?」

「卑怯……です……でも、違うファミリア……」

「関係ありませんわ。わたくし達はヘスティア・ファミリアより依頼を受けました。

 それゆえ、ヘスティア・ファミリアを勝利させるだけの事。ヘスティアさんが悲しむと、わたくし達のファミリアに居る子供達が悲しみますもの。子供達を預かる団長としては助けないわけにはいきません。

 さて、こんな話はどうでもいいです。それよりも……何故、貴女が知っているはずのない事を知っているのか、教えてくだいません?」

 

 そう言って彼女は私の頬を撫でてくる。さっきまでの申し訳なさそうで優しそうな雰囲気は完全に霧散して、とっても怖い顔をしている。

 

「な、なんの事……」

「あら、貴女がヒュアキントスさんに報告していたじゃないですか。わたくし達ソーマ・ファミリアが作っているのが、防衛装置ではなく、敵を滅ぼす破壊の、悪魔の城だと」

「あ……」

「ですから、わたくし。予定を変更して貴女を裏切り者に仕立て上げました。誰も信じないように他の場所に偽造した証拠まで作って見つけさせましたよ」

「あ……じゃあ、あなたのせいで……」

「当たり前です。こちらの計画(プラン)を知られて対処されてしまえば、万が一がありますもの。

 我々ソーマ・ファミリアの勝利が儚く消えてしまうのは困ります。ええ、非常に困ります」

 

 ヘスティア・ファミリアの勝利なのに、ソーマ・ファミリアの勝利? どういう事なの?

 

「今回の件でスポンサーをつける予定なんです。ですので……アポロン・ファミリアの方々には精々わたくしの掌で踊っていただきたいんです。そのため、鍛冶師の方々はもちろん、ソーマ・ファミリアを含む全ての方々にはソーマ・ファミリアから出さないように軟禁までして情報封鎖を徹底しております。気付かれないように細心の注意を払っていますが……」

「絶対になんてありませんよ……?」

「いいえ、ありえます。だって、全員をわたくしが展開する檻の中に入れて、わたくし達が常に監視していますもの。

 ですから、逃れられるはずがないんですよ。逃ればわたくしが必ず感知いたします。だというのに……貴女は知っていた。まるで未来から過去に遡ってきたかのように……」

「わ、私は……」

「話してくだされば助けて差し上げますわ。なんならわたくし達のファミリアに迎え入れても構いません」

「……いらない、です」

「何故です?」

「皆を、裏切れません……」

「こんなにひどい目にあわされたのにですか?」

「貴女のせいだってわかったから……」

「わけがわかりませんわ。これを実際にやったのは彼等ですよ?」

「それでも、です」

「まあいいでしょう。誰も貴女の事を信じないように手を打ちました。ですが、念の為にここで殺しておくのも手なんでしょうね」

 

 いつの間にか彼女の手に巨大な鎌が握られていて、私の首に刃あてられる。

 

「っ!? し、死にたくない……」

「なら……わたくし達のファミリアに来ますか?」

「で、できないよ……ダフネちゃんだっているんだから……」

「やれやれです。では殺しましょう」

 

 身体を震わせながら、額に何かを押しあてられた。私は目を瞑ってくる痛みに備える。

 

「本当に殺しますわよ? ほら、わたくし達のファミリアに来れば待遇は今までよりも明らかにいいですわよ?」

「それでも嫌。でも、ダフネちゃんは助けて欲しいの……」

「殺されるのも嫌で、ついでに別の人も助けて欲しいなんて調子に乗っていますか?」

「ち、違います! ほ、本心です!」

「……もういいですわ。では、こうしましょう。貴女の能力だけ教えてくださいまし」

「それなら、信じないと思うけど……夢で未来が見れるの……」

「なるほど、なるほど……未来予知ですか。貴女はわたくしと同質の力をお持ちのようですわね。ますます気に入りました。裏切るのであれば迎え入れる価値は無いかと思いましたが……カサンドラさん、貴女……わたくしの物になりなさい」

「え? え?」

 

 信じてくれたことも嬉しい。それに私と同じような力を持っているのなら、本当にとても嬉しい。でも、でも、自分のモノになれなんて告白――

 

「ですから、わたくしの物になるのでしたら、特別に貴女とそちらのダフネさんでしたか。彼女も助けましょう。すくなくともこの戦争遊戯(ウォーゲーム)内で死ぬ事がないよう、取り図りましょう」

「ほ、本当ですか?」

「はい。嘘はつきませんわ。貴女の力、わたくし達の為に生かして頂きたいのです」

「本当に信じて、くれるの……? 誰も信じてくれないのに……」

 

 信じてくれるとは言ってくれたけれど、やっぱりどこか信じられないところもある。

 

「先も言いましたが、わたくしも似たような力を持っていますからね。ですから、貴女の力がわかります」

「あっ、あぁ……」

 

 思わず涙が溢れてくる。幼馴染で仲のいいダフネちゃんだって信じてくれない。それなのに信じてくれて、私と同じような力まで持っているなんて……

 

「わたくしの力は時間の操作。先程、貴女の身体を巻き戻して治療しました。ですから諸々の心配はありませんわ」

「わ、私は……」

「どうしますか?」

「お願い、します。助けて、ください……」

「では、戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わったら迎えを……いえ、ファミリアのホームでお待ちなさい。こちらから行きますわ」

「はい。それまではアポロン・ファミリアとして頑張ります」

「ここに居たら辛いままですわよ」

「それでも、です。その方が、喜んでくれますよね? わ、私達が頑張ってヘスティア・ファミリアを追い詰めたら……」

「きひっ! ええ、ええ、その通りですわね。わたくしは全力で貴女達、アポロン・ファミリアを叩き潰す用意をしています。それらを突破してこれるのであれば……貴女達の魂は輝き、更なる昇華を向かえるでしょう。それほどの試練を用意いたしました。ええ、わたくし自身がドン引きするような数々の仕掛けが施されておりますし」

「それは……」

「死ななければ回復はしてあげます。頑張って冒険をしてください、ボウケンシャー」

「はい!」

「それでは見守らせていただきましょう」

 

 そう言って、彼女は拘束を外してから楽しそう踊るように回りながら影に入って消えた。影から影へと移動するスキル。あんなのがあるなら、どんなに守ったところで意味はない。彼女が遊んでくれているうちに私達の価値を見せないといけない。

 でも、その前にまた酷いことをされるんだよね。そう思っていたけれど、いつの間にか牢屋じゃなくて別の部屋に居たみたいで知らないところだった。ベッドも食料もあって過ごす事は問題ないみたい。

 少し調べると、ここが隠し部屋である事はわかった。私の無実か、戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まるまでここに居ろということなんだと思う。

 

 

 

 

 

 




カサンドラは原点のアポロンから求愛され、その代わりに未来を見れる予言の力を授けられます。ですが、その力で自分がアポロンに弄ばれてから捨てられる事がわかり、求愛を断ります。
アポロンは与えた力を取り上げる事はできず、変わりに予言の事を誰にも信じてもらえないように呪いをかけました。
予言の力でトロイの木馬などを見破りますが、信じてもらえずに大虐殺が起こりました。その時、逃げ込んだアテナ神殿で敵軍の将小アイアスに強姦され、総大将アガメムノンに引き渡されました。そして彼に妾にされますが、その際彼に「自分を連れ帰れば不名誉な死を遂げることになる」と警告し、同時にそれが自分の最期となることも予知していたとのこと。
しかしどうすることもできず、予言を聞き入れなかったアガメムノンは妻とその愛人によって暗殺され、彼女自身も殺されてしまいました。
これがカサンドラの名前と能力の由来だと思います。実際にアポロン・ファミリアがどこまでやったかはご相談にお任せします。
ですが、まあ神殺しをしようとしたという汚名で彼等は精神的にも多大に追い詰められ、ストレス過多の時にカサンドラのように不安をあおるような言葉を言い、先導者まで隠れていたら……暴走します。
 ヒュアキントスとしてはこれ以上、団結に罅が入らないように締め付けるためにストレスの捌け口としてカサンドラを利用しました。その後、実際に偽造されたとはいえ、裏切りの証拠がでてきたので、どんどんエスカレートです。クルミもびっくり。
 でも、止めるタイミングが無かったので仕方ありません。敵のカサンドラか、味方の計画となれば味方を優先します。クルミとしてもカサンドラは仲間にならないなら、最優先で排除する対象です。
 彼女の力がどれほど恐ろしいかはクルミ自身が特にわかっていますから。それこそ白の王女(プリンセス)に手駒にされたら悲惨な事になるのが確実です。故に殺すか、味方にするかの選択です。

 さあ、アポロン・ファミリア。生き残る道筋が一つできました。攻略の正解ルートをたどればカサンドラ以外も生き残れます! やってね!


※黒鉄の城はマジンガーではありません。ロボットはさすがに作れませんのであしからず。


次回「戦争遊戯(ウォーゲーム)





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アポロン・ファミリアと戦争遊戯(ウォーゲーム)

地獄の開幕です。


 戦争遊戯(ウォーゲーム)当日がやってきた。昨日、ベル君とタケのところから来てくれた命君、ヘファイストスのところから来てくれたヴェルフ君の三人を送り出した。クルミ君の計画(プラン)通りなら勝てる。それでも不安に違いない。でも、皆が戦場で戦う間にボクにはボクでやる事がある。

 

「それではエスコートさせて頂きますわ」

「頼むよクルミ君」

「ええ、万事お任せくださいまし」

 

 彼女の手を取って馬車に乗る。そこには既にボクの知り合いであるアタランテともう一人の女神が居る。彼女はこちらに微笑んでくれたので、ボクも同じように微笑みかえしてお話しながら進んでいく。

 バベルの塔に着いたら、エレベーターに乗って上に移動する。クルミ君はボクの影へと入った。さすがに今回は彼女を連れていくわけにはいかないしね。

 

「安心しろ。ここからは私がエスコートする」

「頼むよアタランテ」

「よろしくね」

「任せてくれ」

 

 アタランテはもう純粋な神ではないけれど、神の力(アルカナム)が使えるので現地神という感じで神会(デナトゥス)にも申請さえすれば参加も可能だ。そんな彼女にエスコートしてもらいながら会場に入る。

 

「お、ヘスティアとアタランテがきよ……え?」

「あら、珍しい人が来たわね」

「お久しぶりね、ロキ。ヘファイストス」

「まじかー」

「まさか、彼女を引っ張り出してくるなんて……」

「まあね。それよりもロキ。嫌だけどお礼は言っておく。ありがとう、ロキ。ベル君を鍛えてくれたようだね」

「はっ! あくまでもリリたんのついでや。それにフィンが勝手にしたことやからうちは知らん」

「そうか。それでもだよ」

「……勝てんのか?」

「勝てる。たぶん!」

 

 うん。勝てる。勝てるはずだ。アポロンがこちらの策略に気づいていなければ普通に勝てる。さすがに向こうが戦力増強してきたらまずい。

 

「たぶんかい!」

「だって、ボクはほとんどノータッチで、クルミ君にお任せコースなんだからね!」

「ああ、なるほどね。まあ、何か暗躍しているのは確実よ。私の子供達をほぼ全員、連れていったし」

「今日はどんなびっくりどっきりが起こるか、ほんま楽しみやで」

 

 話していると、他の神々もボクに気づいてきた。ボクは彼等に軽く挨拶をしてから座る。隣にアタランテが座り、反対側には彼女が座る。

 

「お、アポロンが来たな」

「ヘスティア。ベル君とお別れは済ませてきたかな? この戦争遊戯(ウォーゲーム)が終われば、君にはオラリオから……いいや、下界からそこの汚らわしい怪物と一緒に去ってもらうからね」

「ふん。君こそ覚悟しておくんだね。今回は神々が本当に踊らされているという事を知るだろう」

「何を言っているんだ? それにそこに居るのはアストレアか?」

「久しぶりね、アポロン」

「君がここに来るなんて七年ぶりかな?」

「そうね。私も動こうと思ってね」

「なるほど、なるほど。ヘスティアの援軍は君か。だが、忘れていないだろうね? 今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は私とヘスティアのファミリアのみ参加できる。アストレアのファミリアは参加できない。確か残っていたのはギルドのブラックリストに登録されている子だったか」

「そうね。登録されていたわ」

 

 彼女は確かに登録されていた。オラリオの内部で容赦なく報復に、復讐に走っていたらしい。それもアストレアのコネとクルミ君達の協力でギルドのブラックリストから抹消させて冒険者として復活させた。そのせいでアタランテはギルドからの依頼を一つ、無条件で受ける事になってしまった。

 

「ヘルメス様。そろそろ……」

「そうだな」

「アポロン。最後の忠告だ。今すぐ負けを認めて許しを乞うた方がいい」

「黙れ! 許しを請うのは貴様達の方だ! 勝つのは私なのだからな!」

「そうか。姉として忠告はした。介錯は私がしてやる」

「戯言を……」

「ウラノス! 力の行使の許可を!」

『許可する』

 

 空間が歪み、戦争遊戯(ウォーゲーム)の会場である場所が映し出されていく。荒野にある防壁に守られたお城。見ただけでも頑丈なのだとわかる。

 

「ヘスティア、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。だって、()()()()()()が負けるはずがないんだからね」

「そうね。負けるはずはないわ」

 

 そう、勝つのはボク達ヘスティア・ファミリアだ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「アポロン・ファミリアに五千!」

「俺は五万!」

「おいおい、アポロン・ファミリアばっかりじゃ賭けにならねえぞ」

「ヘスティア・ファミリアに十万!」

「おいおい、モルド! 頭大丈夫か! こりゃ良い鴨だぜ」

「ヘスティア・ファミリアに三十万」

「え?」

「同じくヘスティア・ファミリアに三百万」

「は? ソーマ・ファミリアの連中か」

「そうか。じゃあ、手前は一千万だ」

「なら、俺はアポロン・ファミリアに四十万!」

「あ、あの、私はヘスティア・ファミリアにい、一万で……」

「狐の嬢ちゃん達もか」

「当然よ」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「シル、そんな心配な顔をしなくて平気にゃ」

「そうにゃ。リューも居るにゃ」

「でも……」

 

 クロエとアーニャがそう言ってくれるけれど、不安なものは不安なの。

 

「それよりもソーマ・ファミリアが店を閉めている事の方が問題にゃ」

「美味しいお酒が入らにゃいにゃ」

「一応、契約分は入れてくれましたけれど、このまましまっていれば確かに困りますね……でも、今はベルさん達の方が大事です」

「だから心配しすぎにゃ。あいつらは腹黒だから、絶対にろくでもないことを考えてるにゃ」

「そうにゃ。クロエの言う通りにゃ」

「あんた等、仕事しな!」

 

 ベルさん。頑張ってください……信じて待っています。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「アイズ! グレイ! 始まるよ!」

「うん」

 

 アイズさんが窓の外を見ていたのが、ソファーのところに向かってきます。私は本棚にある本を読んでいたので、戻してから一緒にソファーに座ります。

 

「大丈夫ですかね?」

「問題ないだろう。信じるしかない」

「確かにこれでヘスティア・ファミリアが勝たなければ大損よね」

「本当だよ。グレイ、大丈夫なんだよね?」

「ん……大丈夫ですが、ある意味でお金がなくなるかもしれません」

「どういう事だい?」

「だってこれから始まるのは戦いではありませんから……」

 

 私の言葉に皆さんが不思議そうにしていますが、戦いではありません。これは……アレです。

 

 

 

 

 ◇◇◇ ダフネ

 

 

 

 

 なんで、どうしてなの、カサンドラ……裏切るなんておかしいわよ。ヘスティア・ファミリアに勝ち目なんてないの。どう考えても不可能なのに! 

 

『ただいま正午となりました! 戦争遊戯(ウォーゲーム)開始です!』

 

 防壁の上に立ちながら、周りを警戒する。私の他にも何人もの人が居るけれど、彼等の視線は外だけじゃなくて私も監視している。カサンドラと仲が良かったから。

 

「始まったな……」

「とはいえ、三日もある。いきなり仕掛けては……あ?」

「アレは……」

「どうし……なんだアレは!」

 

 空がヘスティア・ファミリアの開始地点の方から急激に暗くなっていく。すぐに私達が居る城が取り込まれ、更に遠くの方まで黒くなっていく。空を見上げると、巨大な時計盤みたいなのが見えた。そして、上空に穴が広がるとそこから巨大な物体が降ってきた。そう、降ってきた。

 

「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」」

 

 地面に激突し、轟音と共に衝撃が巻き起こって私達は吹き飛ばされた。壁に頭をぶつけて痛みに耐えて手で押さえながら起き上がると……そこにはカサンドラが言っていたように黒鉄の城が存在していた。

 

「あはははは、何よそれ……意味がわからない! あり得るわけないでしょう! なんで城が落ちてくるのよ! ふざけんなぁあああぁぁぁぁっ!?」

『なんじゃそりゃあぁあああああああああああああああぁぁぁぁっ!?』

 

 そして上空に空間が歪んで黒鉄の城にあるだろう防壁の上が表示された。そこには玉座のような椅子が二つ取り付けられており、一つはベル・クラネルが座っており、もう一つは有り得ない存在が座っていた。その隣にはヘスティア・ファミリア以外にも彼女達が並んでいる。

 

『さて、この映像はヘルメスさんの術式をジャックして放送しております。ああ、気にしないでくださいまし。あ、何方かは何故わたくし達がここに居るのか、と思いましたわね? ええ、答えて差し上げますわ。そのためにこのような映像をお送りしておりますもの』

「反則だ! ヘスティア・ファミリアは反則負けだ!」

 

 私達は思わず叫ぶと同時に勝利を確信した。どれだけあの城が化物でも、これは明らかなルール違反なのだから。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「あはははは! まじかー! マジなんかー! 空から城が降ってきやがったで!」

「ありえねー!」

「やる事が派手だな! 流石はソーマ・ファミリアのクルミたん! 神でエインヘリャルを作るだけあるわ!」

「腹が痛ぇ~!」

 

 笑い転げたり、驚愕する神達。そんな中でアポロンが立ち上がり、ボクに指差してくる。

 

「ヘスティア、どうやら私の勝ちのようだね?」

「何を言っているんだい? まだ始まったばかりだよ?」

「そちらこそ何を言っている。皆、これはどう見てもルール違反だ! 彼女はソーマ・ファミリアの団長だ! ヘスティア・ファミリアではない!」

「確かにそうだよな」

「そうね。どういうことかしら?」

「そうやそうや! どういうつもりやねん」

「ヘスティア・ファミリアの反則負けだ!」

「待って。ヘスティアは反則をしていないわ」

「何を言っているんだアストレア。彼女は……」

「アポロンも君達も何を言っているんだ。あの場に居るのだから、()()()ボクの眷属(子供)に決まっているじゃないか」

「馬鹿な事を……」

「よっと」

 

 さて、ボクは立ち上がって皆の前に歩いてから、クルリと回ってニヤリと笑ってアポロンを見る。

 

「そもそもアポロンや君達は何を言っているだ。ソーマ・ファミリア? ()()()()()()()()()()()()()()()()

「「「はぁああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」」」

「どういうこっちゃ!」

『それではご質問もあるのでお答えしましょう。わたくし達、元ソーマ・ファミリアは前団長が主導で行った犯罪行為がございました。闇派閥の方とも繋がっていたようで、様々な犯罪をしていました。ですので、わたくしは彼を捕らえてギルドに引き渡しました。その後、しっかりとソーマ・ファミリア内部の掃除もし、犯罪行為を撲滅させていただきました。元団長様は観念したのか、牢屋でお亡くなりになりました。その事に関してはコメントを差し控えさせていただきます。さて、この時点でわたくし共としましては新しくまっとうに商売をさせていただきました。すると今度は闇派閥の残党か、それと繋がる方々から脅迫を受けました。犯罪行為を公開されたくなければ金や物資を融通しろと』

 

 うんうんと頷いておく。

 

『もちろん、拒否しました。すると今度は実際にその事を公開して妨害してきました。こちらはしっかりと掃除して綺麗にしたのですが、大変残念ですがそれでも理解されずに色々と被害を受けました。そこでわたくし共は考えました。このままソーマ・ファミリアとして活動する必要はあるのか、と』

「いやいやあるやろ!」

「普通はそうよね? でも、ソーマ・ファミリアだから……」

「あっ!」

『そこで我々はソーマさんに前団長が犯した責任を取ってもらい、ソーマ・ファミリアを解散する事に決めました。同時に改宗先の神様として、わたくし達と仲が良く、保護している子供から信頼も厚いヘスティアさんへと決めました。彼女はアポロン・ファミリアから襲撃を受け、眷属が一人しかいないのにその眷属を狙われて戦争遊戯(ウォーゲーム)を受けざるをえなくて大変困っており、わたくし達に助けを求めてこられました。ですので、わたくし達は決めました。ここでヘスティアさんのファミリアへ移籍しよう。理不尽な目にあっているわたくし達の友達を、仲間を助けるために!』

 

 本当に苦労したよ。書類を全てサインさせられた。アレは全部、資産をヘスティア・ファミリアへ移して、団員の改宗に関する書類だった。だからこそ、ボクがやらなくてはいけなかった。

 

「馬鹿な! たかだか他の神を助けるためにファミリアを潰したのか!? というか、何故ソーマはそれを認めた! ありえないだろう!」

「あ~ぽ~ろ~ん。君は勘違いをしていたね。ソーマ・ファミリアが信仰しているのはソーマじゃない。ソーマが作る神酒のソーマだ」

「それがなんだというんだ!?」

「ソーマの身柄はボクが引き受ける契約になっている」

「つまり、ソーマはヘスティアの下で好きなだけお酒を造る事に没頭できるのね? 煩わしいファミリアの管理を全てヘスティアにやらせて」

「フレイヤの言う通りさ。ソーマは快く頷いてくれたそうだ。もちろん、お酒に関しては彼とクルミ君に一任する契約だけどね」

「ソーマにとっちゃ天国やな。クルミたんが金を稼いで施設をどんどん作ってくれるし、ステイタスを更新するのだってヘスティアがやってくれる。神会(デナトゥス)にすら出る必要はない」

「まったくもってその通りですわ。ろくに更新もしてくれない。わたくし達が色々と手間暇かけて調整し、神会(デナトゥス)でソーマを売り出そうとした時もお酒作りのために参加を蹴ろうとしたので無理矢理連れていきました。大変苦労しましたの、ええ。そこでわたくし共は考えました。神酒であるソーマさえ作ってもらえて供給されるのであれば別の神様でもいいのではないか、と。団員に決議を取った時、満場一致でしたわよ」

 

 クルミ君がボクの影から現れて、ボクを後ろから抱きしめてくる。

 

「「「ソーマェェェ」」」

『つまり、わたくし達は正真正銘。ここに居る全員、ヘスティア・ファミリアです』

「ふざけるなぁぁぁっ! ヘスティア! お前は、お前はファミリアを売ったのだぞ!」

「そうや! 本当に理解してんのか? これ、ようは名前だけで実質的にソーマ・ファミリアって事になんねんで?」

「眷属の規模とレベルから考えても実権は全てソーマ・ファミリア側でしょうしね」

「うん。そうだね。そういう契約だ。全部、クルミ君に任せてある。で、それがどうしたのかな?」

「「「は?」」」

「ベル君を失うぐらいなら、ファミリアの実権ぐらいくれてやる! クルミ君は悪ぶってるだけの良い子だし、リリ君達も言うには及ばず! 別にボクがちゃんと面倒を見ればいいだけだ! ボクは子供達の神様だ。舐めるなよ! ボクだってやる時はやるんだぞ!」

「だからこそ、私の子供もヘスティアに預けた」

「アストレア……」

「あれ、アストレアの子供って残ってるのはリュー・リオンだけだよな。レベル4だっけ?」

「朝、レベル5になったって張り出されてたな」

「つまり、レベル5一人とレベル4が二人、レベル2が二人か。いや、タケミカヅチとヘファイストスのところからもレベル2は二人移動したし、レベル2は四人か」

「そのうちのレベル4は二人といっぱいに増殖するぞ」

 

 他の神達も気付いたようだ。そう、これからボクがステイタスを更新する事によって、遅かった彼等の成長が加速する。すぐにレベル2や3は出てくるだろう。なんせクルミ君が付きっきりでブートキャンプをするからね! 

 

「嘘だ。嘘だぁぁぁぁぁっ!?」

『さて、不正行為がない事の証明になりましたので、ここで皆様にお知らせしましょう。この城はヘファイストス・ファミリア、ゴブニュ・ファミリアなどオラリオの中の鍛冶師やエルフの方々に協力して作っていただきました。ダンジョンで運用する拠点ですわね。十八階層に存在するリヴィラの街。あそこは防衛力の欠如が色々と問題でした。ですので、お城を作りました。まだ未完成ではありますが、この戦争遊戯(ウォーゲーム)の場をテスト場とさせていただきます。ですので、アポロン・ファミリアの方々は頑張ってせめてきてくださいまし』

「普通は攻めないけど、クルミの事ですから、攻めさせるでしょう」

『ところで、ここの空の色が変わっておりますのがわかるでしょうか?』

「わかるで~!」

『これは結界ですの。わたくしが敵と判断した存在の寿命を奪っていく結界です。この結界はわたくしを基準としたレベル以下であれば三日もかからずに全ての寿命を奪えます。さて、アポロン・ファミリアの方々は確か、団長でレベル3でしたよね? わたくし、レベル4です。あなた方の命は持って二日。三日の朝は迎えられません。もう言っている事はわかりますわね? 

 さあ、頑張って城を攻めてきてくださいまし。攻城戦をするのはわたくし達、ソーマ……ヘスティア・ファミリアではありません。貴方達アポロン・ファミリアです。我々は全力を持ってヘファイストス・ファミリアとゴブニュ・ファミリアの方々が作り出した兵器で歓迎いたしましょう。生き残りたければわたくし達ヘスティア・ファミリアに貴方達の価値を示し、神々を喜ばせて魅せなさい。さあ、お話は終わりですわ。さあ、わたくし達の遊戯の戦争(ウォーゲーム)……いいえ、戦争遊戯(デート)を始めましょう』

 

 うん。ここまでは聞いていなかったけれど、本当に容赦はなくてえげつないね。

 

「アポロン?」

「駄目だ。燃え尽きてやがる」

「オーバーキルだもの。仕方がないわ」

「まあ、これでせいせいするけどな」

「確かに」

「あ、皆様。こちらをご覧ください。今回使われる武装とお値段になっております。また、ヘスティア・ファミリアから販売する事になるお酒です。これからもよしなに頼みますわ」

「「「よしなに~!」」」

 

 うん。もう勝負はついた。クルミ君は言っていたけど、戦争は戦う前に勝つように準備が全てだと。確かに言う通りだ。クルミ君の想定ではアポロンがレベル5や6を連れてくる予定で準備していたらしい。どう考えても仮想敵が前のロキ・ファミリアかフレイヤ・ファミリアなんだけどね。

 

「あ、クルミ君。ボクにもお酒をちょうだい」

「どうぞ」

「よ~し、アタランテ、アストレア、タケ、ヘファイストス。ボク達の子供の勇姿を楽しもう」

「そうね」

「いいわ」

「私達も交ぜてくれないかしら?」

「構いませんわ。でも、どれか買ってくださるか、リヴィラや更に下層に作る拠点のスポンサーをお願い致します」

「資金を出すなら内容と旨味が大事やで?」

「全施設の無料です。食事以外、資金はいただきません。つまり、小さいですが持ち家を提供いたしますし、入場料はいただきません。物資も地上と同じ値段で提供します」

「……十分やな」

「そうね。深層や下層でこのサービスが受けられるなら喜んで投資するわ」

「うちもやけど、金を稼がな……」

「そこで提案です。フレイヤ・ファミリアとロキ・ファミリア。共同で深層に行きませんか?」

「地上が心配よ?」

「わたくし達が守ります」

「クルミたんの護衛つきか。まあ、アタランテがおれば余裕か」

「いいわね。ロキ、本格的に検討しましょう」

「せやな。この武装や防衛力が資金を出すに値するならば、やけど」

「見せてもらいましょう。子供たちの頑張りを」

 

 クルミ君が商売をさっそくしている。ボクは気にせず飲んでいられるからなんの問題もないね。一応、ベル君が団長でクルミ君が副団長だけど、そこはまあ……後で相談かな。実力も実績もクルミ君が上だしね。対外的な事を考えると、クルミ君の方が団長になってもらった方がいい。その方がベル君の手間が減るしね。まあ、ベル君がどうしても団長がいいというなら、そっちでもいい。ただなぁ……団長でないと処理できない書類とか、多いんだよね。今回、それが身に染みたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ソーマ・ファミリアを解散して握られている証拠もなにもかも、完全に意味をなくします。だって、別ファミリアだから、関係ないです。国が作り替えられたようなものです。
お酒さえあれば皆さんも納得できるからこその荒業です。まあ、ちゃんとヘスティアがこれまで働いて子供達と仲良くしていたので移籍先がヘスティアのところなら、と文句も出ておりません。大人はお酒でいいけど、子供達はそうではないですからね。
ちなみにギルド関連の書類は全てエイナさん達が豚さんに隠れてやってくれました。別に事務処理する順番を変えるだけですからね。


頑張れアポロン・ファミリア! 眷属達は神様に頑張りを魅せたらスカウトして助けてもらえるぞ! 冒険しない者にボウケンシャーたる資格はなし!


クルミちゃんによる勝手にルール変更。
時喰みの城(ときばみのしろ)により、アポロン・ファミリアは守ってるだけでは全員が死亡しますわ!
勝つ方法は黒鉄の城の城壁の上で観戦しているクルミちゃんに触れる事! なお。防衛としてレベル5が一人、4がいっぱいいます。
生き残る方法は神様達におのが価値を魅せることですわ。さあ、この難攻不落っぽい城を攻略するのです!
攻城戦の攻撃側と防衛側が入れ替わっただけです。よくあることなので問題なしですわ!


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アポロン・ファミリアと戦争遊戯(ウォーゲーム)

 

「「「これはひどい」」」

 

ロキ・ファミリアのホームにある部屋で空中に投影された戦争遊戯(ウォーゲーム)の映像を見ていた。少し前に空の色が変わり、そして鉄で出来た城が落ちてきた。何を言っているのか、僕にもわからないけれど実際に落ちてきたのだから仕方がない。

 

「城に乗って登場か~派手だね~」

「これ、ルール違反じゃないの?」

「いや、彼女達がそんな初歩的なミスを犯すはずがない」

「うむ」

 

話している間にクルミが自分達から今回の事を伝えてきた。

 

『それではご質問もあるのでお答えしましょう。わたくし達、元ソーマ・ファミリアは前団長が主導で行った犯罪行為がございました。闇派閥の方とも繋がっていたようで、様々な犯罪をしていました。ですので、わたくしは彼を捕らえてギルドに引き渡しました。その後、しっかりとソーマ・ファミリア内部の掃除もし、犯罪行為を撲滅させていただきました。元団長様は観念したのか、牢屋でお亡くなりになりました。その事に関してはコメントを差し控えさせていただきます。さて、この時点でわたくし共としましては新しくまっとうに商売をさせていただきました。すると今度は闇派閥の残党か、それと繋がる方々から脅迫を受けました。犯罪行為を公開されたくなければ金や物資を融通しろと。もちろん、拒否しました。すると今度は実際にその事を公開して妨害してきました。こちらはしっかりと掃除して綺麗にしたのですが、大変残念ですがそれでも理解されずに色々と被害を受けました。そこでわたくし共は考えました。このままソーマ・ファミリアとして活動する必要はあるのか、と』

「そこは普通にあるんじゃないかな?」

「普通はそうよね?」

「ああ、そのはずだが……」

「わ、私が同じ立場ならしません」

「私も……」

「皆の考えが正しいね。うん。これは……」

「狂ってやがる」

 

皆の言葉通り、明らかに僕達の常識とはかけ離れている。それだけ神と眷属の絆は大事なものなのだ。

 

『我々はソーマさんに前団長が犯した責任を取ってもらい、ソーマ・ファミリアを解散する事に決めました。同時に改宗先の神様として、わたくし達と仲が良く、保護している子供から信頼も厚いヘスティアさんへと決めました。彼女はアポロン・ファミリアから襲撃を受け、眷属が一人しかいないのにその眷属を狙われて戦争遊戯(ウォーゲーム)を受けざるを得なくて大変困っており、わたくし達に助けを求めてこられました。ですので、わたくし達は決めました。ここでヘスティアさんのファミリアへ移籍しよう。理不尽な目にあっているわたくし達の友達を、仲間を助けるために!』

「ええと、これはソーマ・ファミリアが全員、そっくりそのままヘスティア・ファミリアになったって事でいいんだよね?」

「そのはずだけど……これっていいの?」

「現在、彼女達は改宗して間違いなくヘスティア・ファミリアなのだろう。だったらルール違反にはならない」

「今回のルールはあくまでもアポロン・ファミリアとヘスティア・ファミリアの戦いだ。それに改宗は禁じられない」

 

アポロン側はおそらく、来てもレベル4が一人と想定していたのだろう。それに人数差でどうにでもなると思ったのかもしれない。だから改宗を禁じていなかった。いや、他の神々の手前、禁じる事は不可能だろう。それに戦争遊戯(ウォーゲーム)前に改宗を禁じることは今まで無かった事なのだから、そのまま対応したのだと思う。そこをクルミ達が付け込んだ。

 

「そもそもファミリアを解散するなんてどうかしています!」

「それがそうとも言えない。一年に一度限りの手だが、相手の意表をついて逆転するには打って付けの手だ」

「連中が崇めてんのは神じゃねえ。酒のソーマだ。だから、連中にとってはソーマ・ファミリアである必要なんてねぇ。それにクルミの奴がソーマに堪忍袋の緒が切れたってのもあるんだろうよ」

「彼女、アルテミス様の事件の時にかなり怒ってたからね。まあ、せっかく根回しとか色々とやっていたのに主神に壊されたら怒るよね」

「ああ、その通りだ」

「それにこれで彼女達、ソーマ・ファミリアが飛躍するための枷が一つなくなった」

「枷ってあるんですか?」

「ステイタスの更新を神様がしてくれないんです。それよりも酒造りが大事だって。皆も酒の方がステイタスよりも大事だから、我慢している。でも、こまめに更新できるようになれば……」

「あ!?」

「そういう事だね。ソーマ・ファミリア……ヘスティア・ファミリアに移った人達はどんどん強くなっていく」

「今、オラリオは好景気だ。クルミ達がお金を稼いでは派手に使っているからね。ソーマで稼いだお金を鍛冶師達を動員した武器づくりや投資に使っている。それもかなりの額だ。大金が手に入った連中にクルミ達はソーマを売りつけてお金を回収する。回収できなかった分は色々なところを辿ってオラリオを回る。クルミ達が回収したお金は更なる投資と借金の返済に回されているんだろう」

 

こうなればギルドとて容易くクルミ達には手が出せなくなる。クルミは自らの力を使って大量で格安に素材を外に放出している。更にオラリオの経済を回しているし、冒険者の為に施設を作るのにギルドが文句を言う事はない。いや、言いたくてもいえない。それだけクルミ達は武力、金、コネクションの力を揃えた。僕達大手と同じくらいの権力を擁するようになったというわけだ。

 

「ヘスティア・ファミリア、一気に大きくなっちゃうね」

「そうですね。まあ、あの子の事もあるのでそれはそれでいいんですけど……ベルのファミリアになったのが、ちょっと複雑です」

「護衛には申し分ない戦力だ。だが、それよりも……手伝わされたアレはそういう事か」

「手伝ったのかい?」

「エルフの一部が踊らされてやらかしてくれた。ガネーシャ神の執り成しがあったので事なきを得たが、かわりに労働力を提供した。私もエルフの王族として力を少し……いや、かなり貸した」

「大丈夫な奴なんだよね?」

「大丈夫だ。見ていろ。歴史が変わるぞ」

「それは楽しみだ」

 

鉄で出来た城に動きがあった。防壁の上にせり上がってきた巨大な筒のような物。それをアポロン・ファミリアが籠る城へと向けていた。

 

「なんだかわからないけど、ワクワクするね! グレイ教えてよ! アレはなに!」

「主砲です」

「主砲?」

「大規模殲滅攻撃を行います。使われているのは砲竜(ヴァルガングドラゴン)の素材をふんだんに使った不壊属性(デュランダル)のバレルです。神聖文字(ヒエログリフ)も刻まれており、城そのものが生きているといえます。そろそろ撃つようです」

 

グレイの言う通り、クルミが砲身の上に立ちながら指示をしだした。それに伴い、砲塔が動いていく。そして、号令と共に轟音が響いて主砲とやらの後ろから大きな筒状の物が排出されてきた。発射されたであろう弾は逸れてアポロン・ファミリアの城ではなく、その背後に着弾した。着弾する寸前にその弾であろう物から放たれたのは見覚えがある魔法だった。

 

「アレ、リヴェリア様の魔法ですよ!」

「本当だ。覚えがある」

「どういう事じゃ?」

「簡単だガレス。アレには私の魔法が閉じ込めてある。リボルバーとかいうシステムで六連発できるそうだ」

「恐ろしいの……」

「まったくだ」

 

次々と放たれるリヴェリアの魔法はアポロン・ファミリアの城に着弾はしなかった。その周りを前方以外、包囲するかのように燃え続けているだけだ。

 

「これ、わざと外してるね」

「ふん。テストと言っていたから、先に潰すのは困るんだろうよ」

 

ベートの言う通り、彼女達にとったらこれは実弾練習なのだろう。他の兵器の機能テストが終わるまではそう簡単に潰しはしない。

 

「今のは魔法を閉じ込めて撃つ実験です。次はただ普通に放ちます。私達は天の火と呼んでいます」

 

今度のは魔力を収束させて放つ普通の攻撃のようだ。砲塔とその前の空間に無数の青い魔法陣が展開され、回転していくと同時に砲塔に神聖文字(ヒエログリフ)が浮かび上がり、中に青い光が満ちていく。ついこないだ、空で見た感じがする奴だ。

 

神の力(アルカナム)じゃない?」

「違う。これは純粋な魔法技術の産物だ」

 

放たれた一条の光はアポロン・ファミリアの城をかすめて、防壁を文字通りに消し飛ばしてその遥か後ろにある地面に激突して巨大なクレーターを発生させた。そこからは水が溢れ出している。

 

「オリオンの矢を解析して作られた術式が刻まれています。ですから、火力はとびっきりです。これならウダイオスだって一撃なのです」

「階層主を相手取る予定なら、確かにこれぐらいの火力は必要か」

 

この城の性能は恐ろしい。コレを僕達に向けられたらかなり厄介だが、色々と難点はありそうだ。それに問題は城よりも、魔法を封じ込めて何時でも放つ事ができる技術にある。詠唱という縛りがなくなる事を意味しているのだから、これから魔法使いは同じ系列の武器を使うようになるかもしれない。

 

「リヴェリア、ガレス。予算をかなり使うだろうが……手持ちサイズの魔法が込められる銃を注文する。保険も兼ねてリヴェリアの魔法を込めた攻撃手段は用意しておこう」

「それがいいな」

「それなんだが……私の魔法はいれられないだろう。どうしても手持ちできるサイズにはならなかった。技術の問題だ。まだ同じ容量を持つ弾はそこまで小型化できないと聞いている」

「そればかりは仕方がないか。ただ、色々と試してみるのはいいかもしれない。どちらにしろ一つは購入して試そう。クルミ達への祝いも兼ねてね」

「それがいいだろう」

 

リヴェリアの魔法は込められなくても、それなりの魔法が込められるのならいいだろう。それこそディアンケヒト・ファミリアにお願いしてアミッドの回復魔法をもらうだけでも大きい。クルミのでもいいが、彼女のはかなり高いだろうし。

 

「ねえねえ、あのお城はなんて名前なの?」

「アイギスです」

「アテナ様が持たれている盾かな?」

「そうです。ちなみに主砲は八〇センチ砲です」

「それはよくわかりませんが、火力が高すぎるような……」

「防御力も高いです。皆さん、いっぱい楽しんで作ったようですから。頭が悪い兵器もいっぱいありましたけれど」

 

グレイが紅茶を飲みながら告げてきた内容からしてアポロン・ファミリアの受難はまだまだ続くようだ。

この後、再チャージまでの時間がクルミから大々的に先程と同じ方法で提示された。どうやら一日、回復が必要なようだ。それはつまり、後二回は撃てるという事を意味している。その間にアポロン・ファミリアは攻め込むしかない。

 

 

 



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アポロン・ファミリアと戦争遊戯(ウォーゲーム)

ま、毎日投降はまだ終わっていない! 大丈夫、やれる! やれる!


 

 城その物を揺らす衝撃を感じてから、空中に投影された物により流された映像は信じられないものだった。だから、私達は最低限の見張りを残して団長の下に報告に来ている。

 

「ふざけるな、ふざけるな! なんなのだそれは!? 認めん! 認めんぞ! ソーマ・ファミリアそのものではないか!?」

 

 報告をする前に団長のヒュアキントスは激怒している。他の皆も悔しそうにしているけれど、これは仕方がない。相手の戦力はソーマ・ファミリアの全てどころか、トキサキが出てきたらそれで終わる。無数に存在する彼女はレベル4の集団だ。確かにレベル4にしては少し弱いのだろうけれど、それでも数がいるというのはそれだけ恐ろしい。

 

「これは明らかな違反行為のはずだ!」

「残念ながら、神々は問題なしとしたようだ」

「そもそもソーマ・ファミリアへの妨害はどうした! お前の担当だろう!」

「私はヒュアキントスから提供された情報を他のエルフに伝え、ソーマ・ファミリアへと押し掛けたが、戦争遊戯(ウォーゲーム)を理由に退出させられた。他のエルフは残ったから大丈夫だと思ったが……」

「アレが造られてたから追い出されたんでしょうね」

 

 窓から外を見れば鉄製の城が見える。そこから何か光った。すると城の周りが火の海になっていく。それが六度。城の周りは前を除いて全てが完全に火に包まれたみたい。

 

「馬鹿な……連中は強力な魔法使いは居なかったはずだぞ! この威力と破壊力はどう見てもレベル5を超えている! それを六度だと!?」

「なにアレ……まだ来ます!」

 

 砲塔が現れ、そこに青い光が収束したかと思ったら、城の一部が消し飛んでその後ろまで飛んでいった。その後、轟音が響いて慌てて廊下の外から窓を見て確認すると城の後方に爆発でできた巨大なクレーターが現れていた。

 

「い、威力がおかしすぎるわよ!」

「あんな物を喰らえばこの城なんて吹き飛ぶぞ! どうするのだヒュアキントス!」

「分かるわけがなかろう! あのような馬鹿げた攻撃を防げるはずがない!」

「それに彼女の言う事が本当なら、三日目には私達は全員死んでいる……」

「大方嘘であろう。その証拠がどこにある。防衛側の方が有利だから攻めてきて欲しいだけだ」

 

 ヒュアキントスがそう言うけれど、防衛側が有利とかそんなものはもう関係ない。人の数はともかく、量が同数とは言わず、こちらの方が多い。それでも質は圧倒的にあちらの方が上だ。有利だったのは戦う前までであり、始まってからは全てが逆転されている。

 

「確かにそうよね」

「ああ、そうだな」

 

 ヒュアキントスの言う事もわかる。確かに証拠がない。こちらから攻めるように場を整えているだけかもしれない。ただ、カサンドラの言う通り、黒鉄の城が用意されていた。

 

「でも、カサンドラの言う通り、攻城兵器も用意しておいた方が良かったな」

「裏切り者か。逃げだしてからの行方は?」

「まだ見つかっていない」

 

 カサンドラ……本当に何処に行ったの? どうにかして助けようとは思っていたけれど、私にも監視がついていて無理だった。その間に彼女は消えてしまった。心配だ。

 

「あらあら、彼女は裏切り者ではありませんわよ?」

「「「っ!?」」」

 

 声が聞こえて振り返ると、そこには左右で不釣り合いな長い黒髪をツインテールにした幼い少女にして今回、私達を追い詰めた元凶。ヘスティア・ファミリアに移動したソーマ・ファミリアの団長、クルミ・トキサキ! 

 

「お話をしに──」

()れ! ソイツを殺せば私達の勝ちだ!」

「──あらあら、わたくしは戦いに来たのではないのですが?」

 

 団長であるヒュアキントスの命令により、皆が一斉に彼女を囲んで一斉に剣や槍などの武器で突き刺す。ろくに動きもしない彼女は突き刺されるかに見えた。

 

「「「は?」」」

 

 彼女は包囲されて突き刺される状況で何時の間にか回避し、交差された剣と槍の刃の上につま先立ちで立って微笑んでいた。

 

「あ、ありえない……」

「ば、馬鹿な……」

 

 剣と槍の上で彼女はニコリと笑う。皆が一斉に恐怖に引きつる。彼女の動きが一切見えなかった。これがレベル4、第二級冒険者の実力……

 

「何をしている! 攻撃を続けろ!」

「詠唱!」

「「「はい!」」」

「あらあら、こちらはお知らせに来たのですが……主神と同じで野蛮ですわね」

 

 更に剣や槍を振り上げたり、他の連中が突き刺そうとした瞬間微かに影が上に飛び上がっていたのが見えた。視線を上にやると、彼女は壁に着地しながら大小ある筒のある物から何かが発射された。

 

「「「がっ!?」」」

 

 次の瞬間には攻撃していた皆の両手が吹き飛んで、武器を放り出して痛みに転げ回る。血飛沫が舞い散る中、彼女が重力を感じさせないようにふわりとスカートを膨らませながら着地した。彼女は両手に長さの違う銃を持っていた。そして小さな方を口元にやりながらクスクスと笑っている。

 

「その油断が死に繋がる!」

「撃て!」

 

 団長の指示で魔法を使える者達が転がっている者達を気にせずに全力で魔法を叩き込む。全員わかっている。ここで彼女を仕留めなければ負けは確実だと。だから、団長自身も魔法を放っている。

 

「激しいですわね。ですが……無駄ですわ」

 

 彼女が長い物と小さい物で殺到する魔法に振るうとありえない事がおこった。彼女の武器に触れた魔法は全てが反射されてきた。私は放ってなかったから大丈夫だけど、団長を含めて他の人が顔のすぐ横を魔法が通りすぎて尻餅をついた。

 

「馬鹿な……馬鹿な! ありえない! ありえないだろう! 魔法を! 魔法を反射するなどありえん!」

「ところがそれがありえるんですわよ。黒ジャガ君の端材を砕いてコーティングしただけでこれなのですから、本当に理不尽ですわよね?」

「理不尽の権現が何を言っているのよ!」

「あら、貴女は確か……ダフネさんでしたわね?」

 

 トキサキがこちらを見詰めてきた。私はそのまま自分の位置を変えながら他の人が、最大戦力である団長が動きやすいように視線を釘付けにしながら移動する。

 

「そうよ。それでヘスティア・ファミリアの団長ともあろう人がわざわざここにやって来たの?」

「もちろん、それは貴女方を始末しに……来たわけではありませんわ。先程、全体に申し上げました通り、わたくし達としては挑んできて欲しいんですもの」

 

 相手の目的はあの城のテストも兼ねているようだから、こちらから攻めないと旨味がないんでしょう。だから、彼女としては城から出て欲しいのでしょう。

 

「本当は来るつもりはありませんでしたの。ただ、カサンドラさんの事がありますからね」

「カサンドラの……まさか……」

「やはり奴は裏切り者か!」

「証拠があったからな」

 

 話している間に背後から団長が駆け抜け、剣で突き刺そうとした接近した瞬間。頭から転んだ。有り得ない。この場面で転ぶなんて何を考えてるの! 

 

「あらあら、転ぶなんて大丈夫ですの?」

「き、貴様の仕業だろうが!」

「なんのことかわかりませんわ」

 

 彼女は転んだ団長が起き上がろうとしたら、何時の間にか移動していて頭を踏みつけて床に思いっきり顔を叩きつけさせた。

 

「足をどけろ! お前達! 助けろ!」

「この足置きったら、何度も動きますわね?」

 

 何度も何度も浮かしては叩きつけることを繰り返している。私達は助けようと動き、彼女に向かおうとするけれど私達は誰も動けなかった。

 

「ひっ!? なによこれ!」

 

 動かない足を見れば、何時の間にか影から生えた無数の手によって足を掴まれて固定されていた。周りを見ると皆、同じ感じだった。

 

「なんだよこれ!」

「やめっ、助けっ!?」

 

 悲鳴が上がるなか、無理矢理足を引っ張られて強制的に転ばされる。そして、四つん這いになった瞬間、新しく出来た影から無数の手が現れて私達の両手も掴んでいく。どんなに引きはがそうとしても力の差がありすぎるようでびくともしない。

 

「さて、ようやく大人しくなったところでお話をしましょうか」

 

 視線をやれば彼女は団長が座っていた場所に移動し、そこに座る。まるで自分がこの城の王であるかのようだ。実際に制圧されてしまっているから笑えないわ。

 

「連れてきましたわ、わたくし」

「ご苦労様です、ライダー」

 

 部屋の扉が開いて入ってきたのはトキサキ・クルミと全く同じ姿をした幼い少女と探していたカサンドラだった。

 

「ダフネちゃん!」

「カサンドラ!」

 

 彼女は私に抱きついてきた。それを見たからかはわからないけれど、掴まれた手足が解放されていた。でも、他の人は解放されていない。

 

「この裏切り者め!」

「だから、カサンドラさんは裏切っていませんわよ?」

「そう、なの?」

「うん。私、裏切ってなんていないよ。全部、その人が仕掛けた策略なの」

「「「っ!?」」」

 

 カサンドラの言葉に視線を一斉に玉座に座っているトキサキ・クルミに向けると、彼女はニコリとほほ笑んでみせた。

 

「楽しいぐらいに愚かに踊ってくださいましたね」

「貴様っ!?」

「あら、わたくしはカサンドラさんの言葉を聞いて対策される前に彼女の事を妨害しようと声を上げただけですわ。その後に貴方達がしたことは知りませんわ」

「じゃあ、あの証拠は?」

「証拠? ああ、これの事ですか」

 

 クルミが団長から取り出した文書を見せてくる。それには確かにヘスティア・ファミリアとのやり取りが記載されている手紙だ。

 

「これで勘違いされたようでごめんなさい。コレ、わたくしがヘスティアさんや他のわたくし達とやり取りしていた内部文書ですわ。無くしたと思ったら潜入していた時に落としていたんですわね。拾ってくださって感謝しますわ」

「「絶対に嘘だ!」」

 

 クスクスと笑う彼女に嵌められた事がわかった。あんな内部文書がカサンドラの部屋に落とされているわけがない。

 

「カサンドラ……ごめんなさい」

「いいのダフネちゃん。悪いのは全部あっちだから」

「失礼ですわね。私は背中を押しただけで決めたのは団長さんでしょう? それに戦争遊戯(ウォーゲーム)の前に情報収集や離反工作は禁止されていませんもの。こちらの情報が流れていたのなら防ぐのは当然ですわ」

「確かにそうね……」

「さて、カサンドラさんを合流させてあげたので、用件の大半は終わりました。ですが、まだわたくしの力を信じておられないようですから、少し面白い事をしてあげますわ。そうですわね……そこの貴方と団長さん、エルフの方でいいでしょう」

「「「っ!?」」」

 

 四つん這いにされた人達の近くに彼女が移動して前髪をかき上げた。赤い瞳と金色の瞳が見えてくる。特に金色の瞳には時計盤のような物が入っているみたい。魔眼の類かも。

 

「はい、ご注目してくださいまし。これからこの人達の時間を吸い取ります」

「や、やめろっ!」

「あら、先程はわたくしの力がブラフとおっしゃっていらっしゃいましたわよね? ですから、証明してあげますわ。まずは貴方です」

「お、俺が何をしたっていうんだ!」

「貴方様は少し前に散々カサンドラさんをいたぶって楽しんでおられたじゃありませんの。わたくしが可哀想に思えるぐらいでしたので、少し仕返しをしてあげようと思いますの。自己満足でしかありませんが貴方は必要ありません。失格です」

「ひっ!? それはお前が……」

「あらあら、責任転嫁はいけませんわ。やった事に責任はとりましょう?」

「や、やめろぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 押さえつけられながらも叫び声を上げ、身悶える彼の身体は急激に萎んでいく。すぐに髪の毛が白くなり、筋肉が衰えて骨と皮だけになって倒れた。

 

「う、嘘だ……」

「八八年。意外に長生きですわね。放送されているので三年。それだけ残して差し上げました」

 

 慌てて彼に駆け寄って確認してみると、彼は老人のような姿へと変化していた。

 

「か、完全に老人になってる……」

 

 どう見ても戦えるわけがない。そんな状況にした本人は次にエルフと団長の方へと視線を向けた。

 

「ああ、そう言えば色々と仕掛けてくださいましたよね。そのお返しはしておきませんといけません。まったく、わたくしが秘匿していたあの子を良く知っていましたね」

「なんの事だ……?」

「し、知らん」

「あら、とぼけるのですわね。それならこちらに考えがありますわ。<刻々帝(ザフキエル)>、十の弾(ユッド)

 

 クルミ・トキサキの後ろに巨大な文字盤が現れ、銃に吸い込まれていく。二人を銃でそれぞれ撃った。死んだと思ったけれど、二人の身体に一切傷がない。

 

「おっと、わたくしとしたことが失敗してしまいましたわ。ですから、こちらにしましょう」

 

 彼女が指を鳴らすと、次の瞬間には団長達が悲鳴を上げて顔を押さえている。クルミ・トキサキを見れば彼女の金色の瞳に文字盤が急速に動いているのが見えた。

 

「なるほど、さすがは長命種のエルフ。持たれている時間も多いですわね。まあ、これぐらいで勘弁してあげましょうか」

「わ、私の顔が、私の顔がぁぁぁぁぁっ!?」

 

 副団長の方はそんなに変わってないみたいだけれど、団長の方はかなり変わってしまった。顔に複数の皺があらわれ、初老に入った感じになってしまっている。本当に恐ろしい。

 

「さて、身を以て体験したのでわかったでしょう。二日後の夜には皆さんは死にますわ。全ての時間をわたくしに取られて、です」

「そんな……」

「嘘……」

「嘘ではありません。わたくしはやります。ですが、わたくし達が移籍したヘスティアさんは大変優しいお方ですの。ご自身の命と眷属が危険にさらされたというのにごみ屑のアポロンさんに無理矢理眷属にされた方も居るから、そういう方々は助けてやってくれと頼まれてしまいました。ええ、もちろん……拒否しました」

「拒否したの!?」

「敵対者に容赦する必要はありませんから。そこで折衷案を提案しました。それがあの城を攻略する事です。ああ、攻略と言っても城門に団長であるヒュアキントスさんを届ければ貴女達、アポロン・ファミリアの団員は命を助ける事にしました」

 

 つまり、誰か一人でも団長をあの城まで連れていけば私達は殺されなくて済むということね。

 

「そんなこと……」

「ああ、ヒュアキントスさんが助かるにはベルさんと一騎討ちをして頂きます。そこで勝てば助けて差し上げますわ。ですが、負ければわかっておりますわよね?」

 

 そう言いながら小さな手で自分の首を掻っ切るような仕草をする彼女に団長は青ざめる。

 

「妨害を潜りぬけてあの城に到達すれば、本当に助かるの?」

「ええ、約束致しますわ。タイムリミットは二日目の夜ですわ。それまではこの結界も解除はしませんが、皆様を対象から外しておきます。レベル2でしたら即座に殺せますからね」

「そのベル・クラネルを倒したら?」

「その次はわたくしとリリさんでお相手するので勝利はヘスティア・ファミリアに変わりありません。ですので、皆様は自らの命を賭けて戦ってくださいまし。どちらにせよ、ベルさんが負ければ降伏も認めましょう。それでゲームは終わりですわ」

 

 内容はわかった。無理にでも到達するしかない。アポロン様が私達の事を思って降伏してくれたら助かるけれど、それも期待できない。

 

「大丈夫。ダフネちゃん。私、いっぱい夢を見たから……仕掛けはわかってる」

「……信じられないんだけど……」

「なら、私が作戦を作るから、ダフネちゃんは現場の指揮をお願い」

「……それならいいか。クルミ・トキサキ。質問」

「どうぞ」

「団長を届ければいいのね? 状態は気にしない?」

「ええ、気にしませんわ」

「わかった。それと物資が足りないの。融通してくれないかしら?」

「お断りですわ」

「あの、提供してくれた方が神様達や貴女のテストについても盛り上がる……よ?」

「……いいでしょう。そちらの方が利益が出るでしょうから」

 

 彼女が指を鳴らすと大量の木箱が落ちてきた。そこには新品であろう多数の武器や防具、それに治療用のポーション、食料などが入っていた。

 

「これで足りるでしょう。では、神々を楽しませてくださいまし」

 

 それだけ言って、彼女達は影に沈んでいった。他の人達も解放されたみたい。

 

「ダフネちゃん。頑張ろう」

「アポロン・ファミリアは終わり。でも、まだ助かる目はある」

 

 なら、やるしかない。私達には選択肢があるようでないのだ。死にたくないなら冒険をして神々とクルミ・トキサキを楽しませるしかないのだから。

 

「皆! 準備して! ここで終わりたくないなら武器を取って戦うのよ! なめられっぱなしで終われない! どうあってもアポロン・ファミリアは終わりだけれど、私達は生きていける! 次のファミリアに入るためにもガキの想定を超えて城に到達してやろうじゃない!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」」」

 

 アポロン様に無理矢理入れられた皆が奮起してくれる。アポロン様は確かに良くしてくれたけれど、私達としては自分達の好きにしたかった。それは他の皆も同じだ。

 問題は団長だけれど、団長がどんな状態だったとしても到着さえすればいい。最悪、死体でも身体の一部でも構わない。だから、やるだけの事はやってやる! なんとしてもカサンドラと一緒に生き残る! 

 

 

 

 

 



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アポロン・ファミリアと戦争遊戯(ウォーゲーム)

時間がとれないです。


 

 

 

 

「ただいま戻りましたわ」

「お帰りなさい」

「お帰りなさいませ」

「お疲れ様です」

 

 お城、アイギスに戻るとキアラさんが抱きついてきますので、受け止めてしっかりと彼女の頭を撫でます。後ろにはウエイトレスというか、メイド服姿になったリューさんがキアラの少し後ろに控えています。その隣にリリさん達もいらっしゃいます。リューさんはあくまでも護衛ですが、ファミリアの最大戦力でもあります。本来は姿を隠すべきなのでしょうが、ギルドのブラックリストからも解除されたので問題ありません。

 

「お帰りなさい。怪我とかしていない?」

「戻ったか」

「どうしますか?」

 

 ベルさんとヴェルフさん、命さんや他の方々も準備の手を止めてこちらに注目してくださいます。

 

「皆さん。これでアポロン・ファミリアの方々は攻めてきます。準備はどうですか?」

「出来てるぜ。マニュアルは貰ってるからな。それの通りにはやった。後はどうなるかはわからん」

「こちらも万全だが、ヴェルフの言う通りだ。一応、事前のテストで動作確認だけはしているが……不安だ」

 

 準備してくださっていたヴェルフさんとチャンドラさんが言われた通り、皆さんは好き勝手に作られましたからね。

 

「当たりはあります」

「それもそうだがよ……」

「まあ、取り敢えずはその当たりから使うか」

「はい。やっちゃってください。アポロン・ファミリアが準備している間にです」

「了解だ」

「おうよ! ベル手伝ってくれ!」

「わかった」

 

 城の両脇に設置された巨大なカタパルト。そこに次々と滑車に載せられた巨大な物体が運び込まれて発射されていく。

 巨大な物体は空に上がり、ある程度すると起爆スイッチが押されて盛大に爆発して重ねられていた物はバラバラになって地上へと落ちて突き刺さっていく。

 

「一瞬で防壁が出来た……」

「配置はランダムですけどね……」

 

 ベルさんの言葉に答えながら次の場所を別のわたくしに指示を出して、他の団員の方々にカタパルトを修正してもらいます。そして、次弾発射。荒野だった場所に次々と防壁による迷路が造られていきます。もちろん、地形の関係や重なるところもあって防衛側の死角が出来たり、攻撃側の盾が出来たりしますが、それはまあ試作品なので仕方がないです。それにこれはこれで使えますからね。

 

「これ、把握できるんですか? かなり適当ですけれど……」

「今から把握するに決まってるじゃないですか」

「ですよね~頑張ってくださいね、クルミ様」

「わたくし達がやる予定ですが、そう言われるとムカつきますわ」

「リリはできませんからね」

「……リリさんは贋造魔法少女(ハニエル)でトラップを仕掛けましょう」

「いいですね。では……仕掛けてきましょう」

「行ってきてくださいまし、わたくし達!」

 

 リリさんとわたくし達の一部が防壁の上から飛び降り荒野に一瞬で出来た迷路を駆け抜けていきます。宝箱も設置したり、様々なトラップも仕込んでおきます。ついでに防壁と防壁の隙間を深層のスパイダーから作ったトリモチ弾を打ち込んでしっかりと封鎖しておきます。解除しようとしたら爆発する爆弾もセットしておけばよしですわ。

 次に防壁の上に作られた水路と水路の間も繋いで完成です。この水路はしっかりと燃えないようにサラマンダーウールと鉄を混ぜて神聖文字(ヒエログリフ)を刻んだ特別製です。

 

「毒の設置は完了。砲撃場所の照準も終わり。後は砲弾ですか……」

「砲弾の配置は終わった。後はぶっ放すだけだ」

「了解しましたわヴェルフさん」

「僕はどうしたらいい?」

「ベルさんは休憩していてください。万が一、到達されたら一騎討ちをして頂きますから」

「わかった。頑張る」

「はい、頑張ってくださいまし」

 

 辿り着けないようにしていますが、実験も兼ねている上にわたくしとリリさんは戦いません。ですので、普通に突破される可能性があります。カサンドラさんが居なければ不可能なのだと思いますけどね。

 

「ああ、魔物(モンスター)達を解き放ちたいですね。砲竜(ヴァルガングドラゴン)とは言いませんから、ミノタウロスやヘルハウンド達を……」

「それはギルドに許可されていませんよ」

「外ですから駄目ですか?」

「駄目です」

 

 白いメイド服姿のリューさん注意されました。彼女はキアラさんを後ろから抱きしめながらそう言ってきます。キアラさんもリューさんに関しては慣れてくれました。何度も豊穣の女主人で会っていますし、修業を見てもらったりしているからですね。

 

「しかし、本当にキアラ様を出すのですか?」

「彼女はレベル2ですから、問題ありません」

「それだと私も出れませんが……」

「あら、わたくしが約束したのはわたくしとリリさんが出ないという事であって、レベル制限ではありませんわ」

「貴女はひどい人だ」

「いえいえ、ひどくはありませんわ。ですから、リューさんにはキアラさんの護衛を任せているんですから」

「キアラ様の護衛というのがひどいのです。巻き起こされる事をわかって言っていますよね?」

「そんな簡単な試練なんて面白くもなんともありませんもの。ですから、キアラさん……全力で思いっ切り遊んでいいですわよ」

「……いいの?」

「はい。あ、ただ本体の招来は駄目ですからね。アレが出たら絶対に攻略不可ですから」

「ん!」

 

 可愛い小鳥達とのふれあいセンターです。そして、ここは外……空には見えないけれど星が広がっております。キアラさんも私達がアンタレスと戦っている間に色々としていたみたいですし、その成果を見せていただきましょう。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 準備が出来た。死ぬ気で挑む事を了承したのは二七人。それ以外の人達は心が折れてしまった。それはそれで仕方がない。

 

「次は何をしてくるかしら?」

「こちらから仕掛けなければもっとひどくなるよ」

「あちらの目的を考えたらそうでしょうね」

 

 まさか一瞬で防壁による迷路を作り出すなんて思わなかった。アレさえなければ荒野を進めばいいだけで、攻撃されるのさえ防げばどうとでも対処はできた。何故なら考えられる妨害方法としては城から攻撃するしかないのだから。

 

「あの防壁は仕掛けがいっぱいあるから気を付けてね」

「でしょうね」

 

 カサンドラの言葉に頷いてから、私達は装備を整えて城から出る。こちらの防壁は既に壊されているので、守りにはもう適さない。

 

「団長、わかっていますね」

「わかっている! 私は力を溜める! あの舐め腐ったガキを殺してやる!」

「そっちは多分無理ですけどね」

「ちっ! 後は任せるぞ! なんとしても私をあそこに連れて行け!」

「わかっています。私達も命がかかっていますから」

 

 最初。団長はぐずっていたけれど、なんとか説得した。顔の恨みをあいつらにぶつけるために誘導し、ベル・クラネルとの戦いを承諾させた。

 話している間に驚いたことに団長はベル・クラネルを倒した後、クルミ・トキサキとリリルカ・アーデに戦いを挑むつもりみたい。勝ち目なんてないのにそこまでやろうと思えるのはかなり驚いた。

 

「それでどうするの?」

「これ、覚えているだけの事を書いたよ」

「そう……取り敢えずこれで行きましょう」

「本当にソイツの言葉が信じられるのか?」

「信じるしかないわ。どんなに疑わしくても、ね」

「ふん。私達は私達で動く」

 

 リッソスが他のエルフの団員、アルトと共に小人族(パルゥム)のルアン達と何人かが進んでいく。

 

「防壁の迷宮など防壁の上から進めば問題ない」

「だよな!」

「行きます」

 

 梯子を持ち出した彼等は防壁に設置してそこから登っていく。確かにこれなら素早く確実に進める。

 

「行かせちゃ駄目。死んじゃう」

「そうでしょうね」

「ダフネちゃん?」

「私なら確実に潰すわ」

 

 そう思っていると、彼等が少し進んだ辺りで風切り音が聞こえてきた。

 

「ひぎゃぁぁぁっ!?」

「ひゃぁああぁぁっ!?」

 

 悲鳴が聞こえてくる。確認するまでもなくわかった。何故なら私達の方まで矢が回転しながら飛んできて、城の門に複数突き刺さったから。なるほど、防壁の上に行ったら容赦なく城に設置されたバリスタが放たれてくるんでしょうね。これは正面から攻略するしかない。

 

 



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アポロン・ファミリアと戦争遊戯(ウォーゲーム)

2359。二日連続でこれ……頑張った。明日は休みだから大丈夫なはずです。たぶん、きっと、メイビー。


 

 

 私の夢の事を信じてくれる。だからいっぱい見て頑張って覚えていた。それからもっといい事が起きた。ダフネちゃんが信じてくれたの。いえ、信じてはくれなかったのかもしれない。どちらにしても私の力を頼ってくれる。それだけで私は頑張れる。だから、私は覚えている限りの地獄を書き出した。

 

「防壁の上は通れないってわけね」

「うん。防壁の上は通ったら今の攻撃がいっぱい飛んでくるの……火力は見ての通りだよ」

「普通のバリスタよりも威力が高いわね。新兵器ってところかしら?」

「詳しくはわからないけれど、速度も威力も高いから普通には防げないよ……?」

「わかったわ。まずは全員の救助が先ね。何人か行って救助してきなさい」

 

 ダフネちゃんが指示を出すと皆が行ってくれて、すぐに助け出されてきた。というのも、防壁の上から下に落ちて回避したから助かったみたい。怪我も私達が用意したポーションで治せる程度だった。貰ったポーションは明らかに質が良さそうなので今は使わないみたい。

 

「死ぬかと思った。いきなり視界が黒一色になった。アルトが助けてくれなければ即死だったな」

「私も後ろに居たから気付けた。間に合わないから射ったけれど、傷は大丈夫?」

「平気だ。ポーションで治った」

 

 どうやら、気付いたアルトさんが矢でリソッスさんの足を射貫くことで体勢を崩させて回避させたみたい。

 

「まったくだぜ。危うくおいらの髪の毛が全部なくなるところだった」

「あんた、それ……」

「ぷっ」

「笑うな!」

 

 ルアンさんは髪の毛の真ん中の部分が吹き飛んでいた。どうやら、身長が低いからしゃがんだ事で髪の毛以外の被害はなかったみたい。あくまでもリソッスさん達を狙ったからだと思う。

 

「ルアンの事はどうでもいい。問題は俺達が進むには連中の思惑通りに防壁の間を進まなくてはいけない事だ」

「そうですね。団長の言う通り、相手が罠を仕掛けている場所を通らなくてはいけません」

「絶対にろくな事にはならないだろう」

「この情報を見る限りではそうね」

 

 皆が私が書き出した情報を見ていく。信じてはくれないけれど、この情報を行動方針に入れてくれるだけでも多分、未来は変わると思う。

 

「まずは検証からね。これからやるのはダンジョンに潜ってる感覚でやりましょう。それ以上に大変かもしれないけれどね」

「「「了解」」」

 

 改めて先行部隊を出し、ゆっくりと進んでいく。落とし穴とかはないけれど、左右の防壁の一部が開いてそこから矢がいっぱい放たれたり、狭い通路で槍のような矢が正面から飛んできたりもした。

 それを前衛の人が弾き、後衛の人が攻撃してその罠自体を破壊して道を作る。今も通路の先から巨大な鉄球が転がってきて、それをレオンさん達が受け止めて防ごうとしてくれているけれど、それは駄目。

 

「その鉄球は爆発するみたいだから弾き飛ばしなさい!」

「了解だ。おらぁぁっ!」

 

 複数人で大剣を地面に突き刺して、その下に入って支えながら上をすごい勢いで鉄球が転がって空へ上がったところを狙撃されて上空で大爆発を起こしながら私達の城の方へと飛ばされていった。

 

「殺意やばすぎでしょ!」

魔物(モンスター)達を殺すために用意されているから……」

「それを俺達で実験するとは許せん」

「そうね。それよりもそろそろ、全員解毒ポーションを口に含んでマスクをつけなさい」

 

 ダフネちゃんの指示の通りにして先へと進むと防壁から色のついた煙が出てくる……なんて事はない。無味無臭の毒が漂っている。ここに漂っているのは麻痺毒で、吸い込むと身体が痺れてそのまま動けなくなってどんどん毒が身体に取り込まれて行って最終的には心臓が止まってしまう。

 

「焼き払え!」

「ファイア!」

 

 魔法使いの人が火の玉を出して通路を焼却して消毒して進んでいく。魔力の関係で連射はできないけれどこれでなんとか進める。

 

「矢が来たぞ! 盾を構えろ!」

「迎撃はするな! 無駄だ!」

 

 盾持ちの人達の下に潜り込んで上から降ってくる矢を防ぐ。それはまるで雨のように大量に降り注いでくる。威力自体は低いのでどうにかなるけれど、凄い量の矢が絶え間なく降ってくるので盾の人達はみるみるうちに怪我が増えていく。そんな彼等に抱き着いて必死に支えながら耐えていく。

 

「よし、防いだわね。ポーションで回復してすぐに行くわよ。次の攻撃までのタイムラグは約六分! それまでに安全圏に移動するわ!」

「「「はい!」」」

 

 ポーションを走りながら使って移動し、防壁が斜めになって洞窟のようになっている場所に潜り込む。ここが今の所、安全なの。

 

「次のエリアは……」

「火の海だよ」

「火か……全員、サラマンダーウールを着用していくわよ」

 

 ダフネちゃんの言う通りにサラマンダーウールを装備して進むと、広い場所についた。中央には盛り上がった岩があり、外周には赤色の実や葉をしているを黒い木々がある。そして、岩の上には幼い金髪の可愛いハーフエルフの女の子とメイドさんが居た。

 

「おお、あのお姿は……!?」

「正しく貴きお方の血を引いておられる……」

「うわぁ、ハイ・エルフの王族か……こっちから攻撃したらやばいじゃない!」

「ダフネ、気を付けろ。あのメイドの奴は最低でも第二級冒険者だ」

「団長?」

「見た事がある。アストレア・ファミリア所属、レベル4……リュー・リオンだ」

「レベル4……」

「俺が知っているのは七年前だ。おそらくレベルが上がっている可能性がある」

「第一級冒険者……」

 

 あちらもこちらに気付いたようで、メイドさんが地面にお絵描きをしている女の子に注意を促すと、彼女がこちらを見る。それから、スカートをつまんで挨拶をしてくる。

 

「……元、ソーマ・ファミリア……ヘスティア・ファミリアのキアラ……よろしく……?」

「私は護衛のリュー・リオンだ。私はキアラ様に危害を加えなければ戦わない」

「ちょ、それって……」

 

 危害を加えなければ戦わないと言っているけれど、あのキアラって子はやる気満々です。

 

「皆、急いで駆け抜けて! 戦っちゃ駄目!」

「……行ってクーちゃん!」

 

 その言葉と同時に周りにあった木の実や葉っぱから炎が上がる。よくよく見たら、木の実も葉っぱも炎で出来ていて、それらが小鳥の姿へと変化して私達に突撃してくる。

 

「相手にしちゃ駄目! 物理攻撃は効かない! 何より手を出したらエルフが敵に回る!」

「ひぃぃぃぃっ!?」

 

 ダフネちゃんは事前に指示していた水魔法を放たせたけれど、炎によって水魔法は一瞬で蒸発した。けど、これで発生した水蒸気によって見えなくなる。その間に一気に駆け抜けていく。それでも何人もの悲鳴が上がる。炎に包まれて焼かれていくのだ。

 

「くそがぁっ! 引火した! もう駄目だ! 後は頼むぞ! うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」

 

 ハイ・エルフなど知った事かという人達が炎に包まれながら術者である者に突撃していく。当然、彼女の前に立ったメイドさんによって殴り返されて防壁に激突して気絶する。そんな中を突破して進んでいくけれど、背後から炎の鳥が追ってくる。その迎撃をしながらトラップを避けなくてはいけなくて残ったのは二〇人だった。

 それに休憩は許されず、絶えず背後から炎の鳥が向かってくる。火力と量は明らかにレベル2を超えていて、レベル3にも到達しているかもしれない。

 

「掛けまくも畏きいかなるものを打ち破る我が武神(かみ)よ、尊き天よりの導きよ。卑小のこの身に巍然たる御身の神力を 救え浄化の光、破邪の刃 払え平定の太刀、征伐の霊剣(れいおう) 今ここに……」

 

 詠唱が聞こえてきたので即座に防御魔法を展開して防ぎます。ダフネちゃんが指示を出して放った矢を彼女は防壁を蹴って回避し、更にナイフを投げて罠を発動させます。左右の防壁から無数の矢が放たれてくるので、それの対処をしないといけません。それなのに相手は防壁に刺さった矢を足場にして防壁の上に上がりながらも詠唱を続けています。

 

「我が()において招来する 天より降り、地を統べよ 神武闘征、フツノミタマ!」

 

 魔法が発動し、私達は身体が押しつぶされそうになる。でも、相手も動けない。そこに相手側に増援が来て動けない私達に武器を向けてくる。

 

「私は動けませんが、他の方が攻撃の準備をする時間は稼げます。それとご愁傷様です」

「え?」

「投げろ!」

 

 彼等が構えていた武器は瓶で、それが投げられて周りが凄くお酒臭くなりました。これだけでは何がしたいのかはわかりませんが……

 

「ぴぃいぃぃぃっ!」

 

 空から絶望が飛んできました。炎の鳥が着地すると同時に液体に、お酒に火がついて一気に周りを炎の海へと作り替えていきます。

 

「足止めは十分です。参ります!」

「馬鹿な! この炎の中で戦うつもりか! 死ぬぞ!」

「ソーマ・ファミリアの連中は頭がおかしい奴等しか居ねえのか!」

「ご心配なく。この炎は我等には効きません。それに私はソーマ・ファミリアではなく、タケミカヅチ・ファミリアからの異動ですし、我等はヘスティア・ファミリアになりました」

「命」

「失礼しました。総員、攻撃開始!」

 

 ヘスティア・ファミリアに移籍した方々が武器を抜いて突撃してきます。私達は炎に口や身体の中を焼かれながら武器を交わしていきます。

 戦場で怒声が響きながら、幾度も鉄と鉄の衝突する音が聞こえてきます。こちらは人数を削られているのに相手は炎を一切気にせずに攻撃してくるのです。

 

「取った!」

「カサンドラ!?」

 

 後ろを振り向けば炎の壁を強引に突破してやってくる人が見えた。その赤髪の人は大剣を振り上げながらこちらに降ってきていて、視界いっぱい大剣に埋まって死んだのが自分でもわかる。でも、夢だったら私は助かった。

 

「させないわよ!」

 

 ダフネちゃんが私の前に飛び出して大剣を横から細剣で斬って弾いてくれた。赤毛の人はすぐに追撃せずにバックステップで距離を取る。するとそこに複数の矢が炎の壁を越えて飛来してくる。それをダフネちゃんが切り払うけれど、少しは通る。その矢はダフネちゃんの身体に張られた防御魔法によって弾かれる。

 

「治療は必要ないけど、これはキツイわね。仕方ない……放て!」

「あめぇよ……燃えつきろ、外法の業、 ウィル・オ・ウィスプ!」

 

 ダフネちゃんの合図に魔法使いの人達が一斉に魔法を放とうとしたら、赤毛の人に妨害されたのか盛大に爆発した。爆発が起きる事自体は予知していた私はソールライトを発動してまとめて治療する。

 

「戦いの内容までは詳しくわからないか……」

「ごめんなさい」

「いいわ。それより出口はわかる?」

「出口はあっち……でも、タイミングはまだ……」

 

 指差した方を見たダフネちゃんは頷いてくれてから、相手と向き直る。相手の人も下がってから背中に背負った剣を取り出してくる。

 

「魔剣……」

「いいや、違う。魔砲剣だ」

「え?」

 

 剣をこちらに向けてくる。その上の部分には筒みたいなのがあって、その中に剣がセットされていた。

 

「エクレール!」

 

 筒から閃光が放たれ、それをダフネちゃんが真正面から回避して剣に流して防いだ。でも、防御魔法が打ち消してくれた。ダフネちゃんの魔法も消えちゃった。

 

「今のを防ぐのか……」

「そちらこそ、クロッゾの魔剣を使ってくるなんてね」

「これでもクロッゾなんでな!」

「ちっ!」

 

 ダフネちゃんが魔剣を放たれないようにしながら斬りあっていく。一対一ならダフネちゃんが有利なのは間違いない。でも、周りが炎だらけなせいで呼吸もままならないから、ダフネちゃんが不利。それを覆すために何度も回復魔法を放つ。

 

「魔法を準備できたら放ちなさい。コイツはウチが押さえておく! カサンドラは回復を続けなさい!」

「「「了解」」」

 

 相手は詠唱と攻撃をしないといけないからこのままでも大丈夫。他の団員もサラマンダーウールを盾にして炎を突っ切り、矢を放った人達に襲撃をしている。それに団長も動いて複数の相手を倒してくれている。本当は団長は温存しておいた方がいいんだけど、そうも言ってられない。

 

「ヴェルフ殿! そろそろ潮時です!」

「ああ、わかった! 勝負は預けるぜ!」

「何を……」

「ダフネちゃん! 上!」

 

 空には巨大な、それはもう巨大な氷の塊が存在していた。今まで炎や熱によってできた陽炎でわからなかった。どちらにしても、あんなのが落ちてきたら終わる。

 

「カサンドラ。タイミングは?」

「もうすぐ」

「わかった。総員、こちらに来て! 今から突破する!」

 

 皆が集まり、陣形を組んで一斉に突撃する。突撃する場所は私が指示した場所で、そこには防壁しかない。でも、この防壁は回転扉になっていて、ヘスティア・ファミリアの人達が撤退した奴と同じ。もちろん、私達じゃ開けられないけれど……

 

「おらぁぁっ!」

「ふんぬぅっ!」

 

 壊してしまえば関係ない。だから、ハンマーで連続して叩いて破壊し、全員で通る。すぐ後ろから衝撃が伝わってきてどうにか私達は助かる事ができた。でも、その代償は大きい。残ったのは十人にも満たない。

 

「もう少しで到着するわ。でも、本番はここからね」

「ここから先は城の攻撃範囲だったな」

「はい。それに炎の魔人達も……」

「駄目だって……無理なんだ……オイラ達はここで死ぬんだ……」

「進む気のない者は置いていく。来れるものだけ来い。私達はアポロン・ファミリアだ。太陽の輝きを見せてやる」

 

 団長様はミアハ・ファミリアの最高級ポーション、エリクサーを飲んでから先へと進んでいく。私とダフネちゃんも一緒に続く。私達以外にも残った人が立ち上がる。エルフの二人、リソッスさんとアルトさんは耳が切り落とされ、腕に深い傷ができている。傷はエリクサーで癒せたけれど、耳はどうしようもない。それに武器の弓は壊れている。

 

「なんでだよ……どうあがいたって無駄じゃん」

「ならそこで寝ていろ、ルアン。運良く生き残れば故郷に帰れ。お前は冒険者に向いていない」

「……そんなの、オイラだってわかってらぁ! でも、勇者(アイツ)に憧れちまったんだ! 仕方ないだろ! 無理だってわかってんだ。オイラに力なんてないからな!」

「大丈夫。ルアンならできるよ」

「あ? それも夢で見たってのか?」

「うん」

「信じられるか!」

「でも、ここまではある程度はあっているのよね。信じる価値はある。というか、それしか信じる物がないわ」

「……わかったよ! やってやる!」

 

 ルアンさんが立ち上がって私達を追って、追い越して先に向かって罠を調べていく。リソッスさんとアルトさんも予備の近接武器を取り出してルアンの近くで警戒している。

 

「伏せろ!」

 

 リソッスさんの言葉に全員が地面に倒れる。その次の瞬間には私達の背後が爆発してクレーターができた。

 

「すぐに起き上がって走れ! 出来る限り防壁に沿ってだ!」

 

 言われた通りに走る。飛んできたのは岩だった。どうやら、こちらの退路を封鎖しにかかっているみたい。背後から炎の鳥も来ているので、どうしようもないし、進むしかない。

 更に砦から黒い鉄の塊が飛んでくる。それは空中で爆発して無数の金属片を撒き散らかしてくる。それらを団長様が中心になって前衛の人達が身体を張って防いでいく。私はマジックポーションを飲みながら範囲回復魔法を使ってどうにか傷を癒していく。それでも無理ならエリクサーを使う。

 

「うわっ! 宝箱があるぜ!」

「絶対に罠だ。止めておけ」

「いやいや、でももしかしたらお助けアイテムが……」

「あると思うか?」

「ないな」

「ないわね」

 

 宝箱は放置する。放置が正解。アレは開けた瞬間、拳が出てくるしアラームがなってそこに沢山の攻撃が集中される。何度か見た夢で倒れた原因の一つなの。

 こんな風に罠や城からの攻撃を回避しながら、犠牲を積み重ねて進んでいく。私達は全身が傷だらけになりながらも必死に先へと進む。

 

「次は……」

「ここが終わりか」

 

 城の前に到着した。城までの距離は約五百ぐらい。でも、その前に彼等も布陣している。城門の前にはハイ・エルフの血を引く幼い女の子とその護衛。その前には武装したヘスティア・ファミリアの人達。防壁の上には無数の矢を高威力で連射する攻撃兵器。

 

「ここを突破して扉に触れればいいんだったな?」

「そのはずですが……」

「そうか。ならばお前達が道を切り開け」

「わかっています」

 

 団長様とダフネちゃんが作戦を練っている間に皆を回復する。もう私の役目は盾になるぐらいしかない。マジックポーションもほとんどを団長様に渡しておく。

 相手を見ていると、城の前に陣取っている人達に炎の鳥が舞い降りてその身体を燃やしていく。その人達は全身を炎に包まれながら武器を構える。

 

「アレが炎の魔人か。正気じゃないな」

「クレイジーすぎるわよ……」

 

 城の防壁に居る人達もちょっと引いている感じがする。あの人達は報酬に釣られた元ソーマ・ファミリアの人達だったと思う。ソーマの為にとか言いながら突っ込んでくるから。

 

「……ダフネ。ルールは私が到達し、門に触れればいいんだな?」

「そうです」

「部位は指定されていなかったと記憶しているが、どうだ?」

「していませんね」

「わかった。なら、私の覚悟を見せてやる」

 

 そう言って団長様は耳を自ら切り落とした。慌ててエリクサーを使って傷を治療する。欠損は治らないけれど、傷自体は塞がりました。

 

「ダフネ、リソッス。片耳ずつお前達が持て。私が到達できなければソレを門に叩きつけろ。それで条件は達成できる」

「団長様……」

「お前達も私の手足が吹き飛んだら、それを拾っていけ」

「その前に俺らが死んでますって」

「ふん。行くぞ」

 

 団長様に包帯を巻いてから、全員で団長様を守りながら進むために武器を仕舞い、サラマンダーウールの外套の上にウンディーネウールの外套でしっかりと全身を覆っていきます。外に出すのは目の部分だけです。

 

「やれ」

「はい。ご武運を! 先に行って待っています! 我、願いたもうは天より賜りし災禍の雫。火の災禍を退ける恵の雨。されどそれは破滅を呼ぶ雫なり! アシッド・レイン!」

 

 大規模な魔法が発動されます。空から降り注ぐのは酸の雨。炎の魔人達の周りで水蒸気が発生していきます。土砂降りの雨は鉄を溶かしていきます。しかし、術者の方も口から血を吐き、身体の端から溶けていきます。相手も味方も溶かし、自らも内側から溶かしていくこの魔法は普通なら彼も使いません。使えば死ぬのですから、使うはずがありません。アポロン・ファミリアと敵対していた派閥に居た彼が使える人生で一度きりの魔法です。

 

「総員、突撃!」

 

 視界が塞がれたところを相手を避けながら駆け抜けますが、相手側からも攻撃が飛んできます。相手からしたら、こちらの位置など気にせず攻撃したらいいからです。矢が雨のように降り注いできますが、その一部は酸の雨によって溶かされるので私達に被害はありません。

 

「……凍って……」

 

 ハイ・エルフの血を引く女の子の瞳が光ったと思ったら雨と矢が一瞬で氷柱となって降り注ぎます。

 

「どう考えても禁忌の精霊と契約しているんだけど!」

「何を考えているんだ! あの護衛はちゃんと役割を果たしているのか!」

「ヒャッハー! ソーマのためにしねぇぇぇっ!」

「一人一本だ! 絶対に潰すぅぅぅ!」

「この酒狂い共がっ!」

 

 地上から炎の魔人が襲い掛かり、私達はそちらの対応をするしかありません。ですから、皆で体当たりのように身体が燃えるのも気にせずに相手を押して団長様の道を開きます。団長様は一人で砦に向けて突撃します。当然、攻撃が集中しますが剣で必要最低限の攻撃だけを弾きながら並行詠唱をなさっていきます。

 

「我が名は愛、光の寵児! 我が太陽にこの身を捧ぐ!」

 

 矢が頬を切り裂き、腕を貫こうとも気にもしていません。

 

「我が名は罪、風の悋気! 一陣の突風をこの身に呼ぶ!」

 

 駆けながら、左右に移動して的を絞らせずに最小限の動きで矢を避けて近づきます。すると門の上から油が流し落とされます。こちらのアシッドレインは停止したので、炎が自由に使えるようになりました。

 

「放つ火輪の一投! 来れ、西方の風! アロ・ゼフュロス!」

 

 放たれた円盤の光弾は矢を粉砕して道を作っていきます。それだけではなく、即座にエリクサーとマジックポーションを使って続けて詠唱をします。

 

「我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ! 我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ! 放つ火輪の一投! 来れ、西方の風! アロ・ゼフュロス!」

 

 一切止まらずに団長は駆け抜け、円盤をハイ・エルフの女の子へと放ちました。すると一瞬だけ、炎が弱まります。当然、護衛の人が動いて円盤を防ぎましたが、団長様は円盤をその前に爆発させて視界を防ぎ、晴れた時にはいませんでした。

 

 

 




ヒュアキントスさんが強い? 精神的に追い詰められまくっているので覚悟も完了して油断も慢心もありません。レベル3としてフルスペックの力を出してきます。魔法戦士が並行詠唱できないはずがないよなぁ……?


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アポロン・ファミリアと戦争遊戯(ウォーゲーム)

先頭描写が難しいです。スーパーヒュアキントスさん


 

 

 

 ヒュアキントスさんが信じられない事に新型の連射型バリスタから放たれる矢に対処しておられます。こちらはオリオンの矢に仕込まれていた加速術式を解析して、魔石で代用できるようにした術式を砲竜(ヴァルガングドラゴン)とデフォルメス・スパイダーの素材を使って作り上げた連射型バリスタです。弦などはデフォルメス・スパイダーの糸を魔石を砕いて作った水に入れて魔力に馴染ませてから編んで加工した物ですね。

 砲竜(ヴァルガングドラゴン)の口内から食道、火炎袋などを採取し、そちらを鉄と混ぜて加工して砲身を作成しました。内側にはライフリングを施し、びっしりと外側と内側に神聖文字(ヒエログリフ)を施して作り上げた一品が連射型バリスタです。要は砲身の中で上から落ちてきた矢がセットされ、自動で巻きあげられてライフリングに施された術式で高速回転しながらどんどん加速して発射されるだけです。

 主砲の方はもっとちゃんと作っていますこちらは実際に爆発させて弾丸を発射していますので、威力は更に高いです。

 

「キアラやリュー様は大丈夫でしょうか?」

「まあ、平気でしょう」

「それでも心配だよ……」

 

 どうやら、ヒュアキントスさんは矢を回避しながら並行詠唱で光弾の円盤をキアラさんやリューさんに放ったようです。当然、リューさんが対処しに前に出ましたが、弾く前に爆発して煙で視界を遮られたようですね。まあ、キアラの無事は確認しているので問題ありません。

 

「アロ・ゼフュロス!」

「っ!?」

 

 そう思っていると、爆発の煙からヒュアキントスさんが円盤に乗りながら、更に数十メートルはあろう巨大な円盤を作成していて、こちらに投げられていました。

 高速回転する巨大な円盤はわたくし達の目前へと迫っており、わたくしはベルさんとリリさんを弾き飛ばします。

 

「クルミ様!?」

「クルミ!?」

 

 わたくしの身体は真っ二つに切断されてしまいました。ですが、くるみねっとわーくからダウンロードとインストールした別のわたくしが起動し、問題ありません。そもそもオリジナルであるルーラーは安全な場所(ヘスティアさんの隣)に居ますからね。

 

「大丈夫です……ね、はい」

「か、身体が真っ二つなのに……」

「死体は回収ですわ」

 

 しっかりと取り込んでからあちらを見ると、耳が無くなったヒュアキントスさんが防壁の上に立っておられます。彼の横には通常サイズの円盤と特大サイズの円盤があります。

 

「一騎討ちなのですが、わたくし達を狙いましたか」

「知らん。私はベル・クラネルを狙っただけだ」

「あくまでもそうおっしゃいますか……」

「事実だ。そもそも、ベル・クラネルなどは前座にすぎん。お前達が戦えというから戦ってやるだけだ。私の敵は貴様等だ」

 

 ベルさんを見ると、悔しそうにしておられます。ですが実際問題としてヒュアキントスさんはレベル3で、ベルさんはレベル2ですからね。ヒュアキントスさんからしたらわたくし達の方を警戒するのは当然です。

 

「では、わたくし達がお相手いたしましょうか?」

「リリがしますよ。今度もボコボコにしてやります」

「ごめんなさい。この人はボクが、ボクがやります!」

 

 ベルさんがわたくし達の前に立ちました。やはり、男の子としてはここまで虚仮にされたら前に出ざるをえませんね。それにヒュアキントスさんの狙いはおそらく、ベルさんと戦いながらわたくし達を狙う事でしょう。ベルさんと一騎討ちの最中、攻撃がソレてこちらに来たとしても、ヒュアキントスさんの落ち度はないわけですしね。安全な場所で見学しない方が悪いのです。

 

「よかろう。相手をしてやる」

「はい。お願いします!」

 

 わたくしとリリさんは下がりながら、二人の戦いを見学します。ヒュアキントスさんは容赦なく、円盤をベルさんに向けます。同時に巨大な方は近場の攻城兵器群へと向かっているので、急いで回収しておきます。壊されたら大損ですもの。

 

「ファイアボルト!」

 

 ベルさんがファイアボルトで円盤を攻撃しますが、円盤は炎を高速回転することで後ろへと流してダメージらしいダメージを受けていません。

 

「我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ! 」

 

 ヒュアキントスさんは追加で更に円盤を増やしていきます。マジックポーションをがぶ飲みして自動迎撃させながらわたくし達との戦いの準備を整えておられます。

 

「我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ! 放つ火輪の一投! 来れ、西方の風! アロ・ゼフュロス!」

 

 ベルさんに向けて飛んでくる円盤が増えました。ベルさんはバク転することでどうにか避けましたが、その円盤は途中で空中に静止して、またベルさんを襲います。

 

「自動追尾か迎撃の魔法ですね」

「そうですね。魔力さえあればいくらでも出せるようですし、厄介な魔法です。ベルさんは果たして対処できるでしょうか?」

「伊達にアポロン・ファミリアの団長ではありません。ベル様では辛いかもしれません」

 

 下以外の全ての場所から順番に襲い掛かってくる円盤をベルさんが必死に回避しながら、ヒュアキントスさんに向かいます。ヘスティア・ナイフを持ちながら背後からやってくる円盤もしっかりと余裕を見て回避しました。円盤は鉄を削りながらヒュアキントスさんの方へと向かっていきますが、彼は円盤を止めて投げてきます。その間も詠唱を続けて数を増やしていっております。

 

「ベルさんが飛んだり跳ねたりしていますね」

「本当にウサギさんみたいです」

 

 ヒュアキントスさんが油断せず、確実にベルさんの回避行動を見極めて攻めたてています。ですが、ベルさんも回避技術がかなり成長しているようで既に円盤の間合いを把握したように行動しだしております。

 

「確かに貴様は前に戦った時とは別人のようだ。だが、そんなものはリトルの連中なら当然だ。数日でレベルを上げてきやがるからな!」

「くっ!?」

 

 円盤をくぐり抜けた瞬間、ベルさん目の前にヒュアキントスさんの足が迫っており、ベルさんは蹴り飛ばされました。倒れる前に片腕を床について即座に移動すると、先程までベルさんが居た場所に円盤が衝突して床を削ります。

 

「さっさとくたばれ!」

「嫌です! 僕は神様のためにも負けません!」

「自らのファミリアを売り払った神のためか! くだらん! 私はアポロン様の威光を知らしめる! その為に貴様は邪魔だ。死ね」

 

 冷徹な声と共に十もの大小さまざま円盤が一斉にベルさんを襲います。ベルさんは身体を回転させるようにしなが自ら前にとんで一部の円盤をヘスティア・ナイフで動かしてどうにか突破しました。ですが、全身にできた傷から血が噴き出します。

 

「まだだ! 僕は負けてない!」

「そうか。その心意気は認めてやろう。だが! もはや付き合う理由はなくなったぞ」

「え?」

 

 ヒュアキントスさんはマジックポーションを飲んで、その空き瓶を捨ててから空を見上げます。

 

「時間だ。我が名はイカロス! たとえこの身が滅びようとも我が太陽にこの身を捧ぐ! 我が名は傲慢! 一陣の突風をこの身に宿し自由の翼持ち、遥かな頂きへと到達す! 我が身は太陽を宿す蝋の翼(ヘリオス)!」

 

 無数の円盤が全てヒュアキントスさんに集まると、彼の円盤が変化して光の翼に変化しました。また空に輝く太陽からヒュアキントスさんに膨大な力が降り注がれているのを感じます。

 

「なんですか、なんですかこの暑さ!」

「あははははは! 太陽! 太陽の力を一部とはいえ地上に顕現させますか! 馬鹿ですわ! 馬鹿に間違いありません! わたくし達ごと自らを消し飛ばしますか!」

「笑い事じゃありませんよ!」

 

 イカロス。翼を作り、自由に空を飛べる力を手に入れた者達。しかし、傲慢にも太陽に近づきすぎたために太陽によって翼を固めていた蝋を融かされ落とされました。なるほど、ヒュアキントスさんがイカロスという事でアポロンさんが太陽。ならばこの魔法を覚えていてもおかしくありません。

 もちろん、普通は使いません。疑似的とはいえ地上に太陽を顕現させるのですから、その力に身体が耐えられるはずがありませんもの。アポロンさんからも使用を禁止されているでしょうし、ダンジョンで使うわけにもいきませんし、使えないでしょう。キアラさんと同様の制限がかかっていると見るべきです。

 

「我が身が蝋として燃え尽きる前に貴様等を滅ぼしてくれるわ! プロミネンス!」

 

 紅の炎がヒュアキントスさんの左右の手に現れ、そこから炎の龍が現れてわたくし達を襲い掛かってきます。当然、避けますが……先程まで居た砦の部分が燃え尽きた上に残った部分までガラス化しています。

 

「ベルさん、これベルさんの負けでいいですか?」

「え?」

「何を言っているんですかクルミ様! 今はそういう事じゃないでしょう! 死にますよ!」

「いえいえ、あくまでも一騎討ちですから」

「そうだ。一騎討ちだ。貴様等がそこに居るから巻き込まれるだけだ! この城もろとも全てを燃やし尽くすだけだからな!」

「まだ……まだ僕は負けていない!」

「いや、ベル様!?」

「よろしいですわ! では続行です!」

 

 四の弾(ダレット)を叩き込んで元に戻せば封じられます。もしくは時間を早くしてやればそれで終わるのです。ですがしません。

 

「ベルさんは男の子です。ですから、決着をつけさせてあげましょう」

「馬鹿ですか! 馬鹿なんですね! 死んだら元も子もないんですよ!」

「大丈夫ですわ」

「絶対にですか!?」

「たぶん」

 

 リリさんに肩を掴まれてガタガタと揺らされますが、ベルさんが動きました。何も気にせず突撃しています。いえ、両手を後ろにやってプロミネンスが迫る前に自分から飛びました。

 

「ファイアボルト!」

 

 後ろにやった手からファイアボルトを地面に撃って爆発させ、加速と飛翔能力を得てヒュアキントスさんへと突っ込みます。ヒュアキントスさんは動きません。いえ、動けません。空を飛びながらもその身が融かされていっているので、動けないのです。

 

「トキサキ・クルミィィ! リリルカ・アーデぇぇぇ! 死ねぇっ!」

 

 ベルさんが炎に包まれます。一度これで死にますが、ベルさんが首にかけているペンダントから防御魔法が発動しました。それにより焼失を免れてヒュアキントスさんの前へと到達します。ですが、彼の身体からもプロミネンスが生み出され、ベルさんを焼きます。その状態でもベルさんはヒュアキントスさんをヘスティア・ナイフで斬ります。顔に傷が刻まれますが、気にもしていません。

 

「お前の相手は僕だ! 僕を見ろぉぉぉぉぉぉっ!? ファイアボルトォォォォ!」

「っ!?」

 

 ベルさんがヘスティア・ナイフを持っていた片手はなくなりした。残った手でファイアボルトを更に放ち続け、加速してヒュアキントスさんの喉元に噛みついてえぐり取りました。血飛沫が一瞬で蒸発させながら、ベルさんが落ちていきます。

 

「ベル・クラネルゥゥゥゥッ!」

「あぁぁぁぁっ!」

 

 ベルさんは更に空中で身体を高速回転させました。残っている彼の腕にはしっかりと鎖が巻きつけれらています。リリさんがプレゼントした盗難防止用の鎖です。それよってヒュアキントスさんの炎により鎖が消滅してそのまま彼に刺さりました。

 

「まだ、だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 地面に足がついて瞬間、全身の火傷を無視して飛び上がり、ファイアボルトを使って加速。そのままアポロンさんの身体を空いている手で引き寄せます。当然、手は燃えますが、その前にベルさんは刺さっているヘスティア・ナイフを咥えて斬り裂き、首へと顔の動きだけで突き刺しました。

 

ふぁいあぼるとぉ(ファイアボルト)! ふぁいあぼるとぉ(ファイアボルト)! ふぁいあぼるとぉ(ファイアボルト)! ふぁいあぼるとぉ(ファイアボルト)!」

「あぁあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」

 

 何時か見たように身体の中から炎の魔法が放たれ、ヒュアキントスさんの熱量が更に上がります。ヒュアキントスさんの魔法は太陽の力が使えるとはいえ、イカロスの翼。つまり、身体という蝋が融けるまでしか使えません。故に彼も燃え尽きるまで止まりません。ですが、それをベルさんは加速させました。

 

「自爆を速めたんですか? 無茶苦茶ですよ!」

「リリさんが言うとアレですね~」

「リリは勝算があるからです! でも、ベル様のこれは……」

「わたくしでもタイミングが非常にシビアですわ」

 

 互いに燃え尽きるのがどちらが早いかの勝負でしかない。いえ、どちらに女神が微笑むかですわね。ええ、女神という時点で勝負は決まっています。

 

「<刻々帝(ザフキエル)>」

 

 準備だけはしておきます。二人が燃えながら地面に落ち、炎が消えます。そして、立ち上がって咆哮を上げたのは幼い方です。

 

「……貴様等も……太陽に……近づき……れば……こうなる……覚えて……おけ……」

 

 もう一人の方は灰となって──

 

四の弾(ダレット)

 

 ──消えたりしません。なんということでしょう。お二人の身体が逆再生するかのように戻っていくではありませんか。はい、わたくしです。

 

「「「()?」」」

「ところがぎっちょん。という奴ですわね。まさか、まさかわたしくが華々しく散らせてあげるとでも思いました? 残念でした。自爆特攻が可能な者をむざむざ捨てるわけないじゃないですか、もったいない」

「本音が出ました! 使い潰す気満々です!」

「ふざけるな! 私は、私は皆に死ねと命じたのだ! だからこそ私も死なねばならん!」

「そうですか。無駄でしたわね。そもそもわたくしに姿を見せた状態での自爆攻撃なんて効きませんわ。ご愁傷様ですわね。きひひっ!」

「くそがぁああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!」

「あははは……これ、どっちが悪役なんだろう?」

「決まってるじゃないですか、ベル様。クルミ様とアポロン様ですよ」

「ヘルメスさん!」

『勝者ヘスティア・ファミリア! どちらも素晴らしい。大変素晴らしかった。アポロン・ファミリアとヘスティア・ファミリアの死闘は我等神々が認め、祝福しよう! この戦いは新たなオラリオの歴史として刻まれる! 誇るがいいアポロンの子供達!』

 

 さて、勝利しました。砦に四の弾(ダレット)を打ち込んでこちらも再生しておきます。ヒュアキントスさんに壊されましたからね。ついでに捕まえたアポロン・ファミリアの人達も取り出しておきます。

 ポイポイ、ポイっと。彼等も治療してあげているので元気いっぱいです。アシッド・レインを撃った人も回収してちゃんと再生させてあります。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わりましたので、両陣営で宴を開催します。各自、ファミリアに関係なく近場に居る怪我人の救助と治療をしてください。楽しい遊びは終わりました。ソーマを飲んで親睦を深めます。後始末と後処理はわたくしがやっておきます」

「待て。全員無事なのか……?」

「言ったではありませんか。わたくし達に貴方達の価値を示せと。示してくださったのですから、殺しませんわ」

「そうか……」

「なんとも言えませんが……乾杯でもしますか団長?」

「そうだな。どうせこいつらの奢りだ。たらふく飲んでやるぞ」

 

 さて、こちらは料理とお酒をいっぱい出して色んなところで酒盛りを始めます。まあ、殺しあった仲なので微妙かもしれませんが、美味しいお酒と料理にはかないません。

 

「あ、皆さん。攻略側と防衛側で何処が悪かったのか、しっかりと話し合って後程レポートを出してください。それによっても報酬を差し上げますので」

 

 こちらはこれでいいとして、問題はあちらですわね。さて、あの泣き虫神様をどうにかしましょう。

 

 

 

 

 

 




ベルさんの最後の攻撃はガンゲイル・オンラインのレンちゃんみたいな感じですね。喉笛を噛んでダメージ。そこから更に追撃ですが、こちらはミノタウロス戦。

ヒュアキントスさんの力はアポロン・ファミリアの団長に相応しい太陽の力を追加しました。あの人、円盤だけだと少し弱い気がするの。覚えていなかっただろ? 負けが確定した時点で残していた魔導書を読んだに決まってるじゃないですか。ですから、自ら死んでも相手を確実に殺すための魔法を発現しています。最初からヒュアキントスの狙いはクルミとリリですから、仕方がありません。


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アポロン・ファミリアと戦争遊戯(ウォーゲーム)7 事後処理

神会(デナトゥス)側と一部です。


 

「うぅ~! ベル君が生きててよかったよぉ~!」

「そうだな、ヘスティア」

 

 神会(デナトゥス)の会場ではヘスティアさんがアタランテさんの胸に抱き着いて泣いています。アタランテさんは優しく頭を撫でています。ちなみに止めさせようとしたヘスティアさんの口は何度か塞いでおきました。

 

「しかし、確実に死んだと思ったんやけど、あのペンダントは……」

「フレイヤの仕業でしょう」

「違うわ。アレは私が別の子にあげたの。その子が渡したようね」

「致死性の攻撃を防ぐ防御魔法……いったいいくらするの?」

「安くはないわね。魔導書ぐらいかしら?」

 

 実際、あのペンダントが無ければ介入していました。ヒュアキントスさんの魔法は予想外でした。なんですか、イカロスをもじった太陽の一部顕現とか馬鹿ですか! 非常識にもほどがありますわ! わたくしが言えませんけれど! 

 

「ああ、僕のヒュアキントス……素晴らしかった」

「確かに素晴らしかったけれど、もう貴方の物じゃなくなるわよ?」

「へ、ヘスティア!」

「僕は君の子供達の頑張りに手心を加えてもいいかとも思う」

「なら!」

「だけどね、アポロン……」

「なんだヘスティア?」

「ボク、今回の件に関して……ううん、ファミリアの運営に関してほぼ全部、クルミ君に渡す契約になっているんだよね~。そう、ボクは雇われ神様なのさ!」

「ぶふっ!? なんやねんそれ!」

「だってボクの仕事ってステイタスを更新するのと、子供達の面倒を見ること。あと、ソーマの味見とかかな?」

「いまなんって!? ソーマの味見やと?」

「うん。毎日一本は出てくる契約だよ!」

「死にさらせぇぇぇぇっ! なんやねんその羨ましい契約は!」

「ボクはお酒にはあんまり興味がないんだけど、ほら、子供達に飲ませるのは問題だろう? 商品としても複数の神様の意見が欲しいらしいし、僕のファミリアだからね?」

「クルミたん! うちに代わって! いくらでも意見を言ったるで!」

「まあ、ヘスティアさんが許せば多少は構いませんが……」

「ふっふっふっ、ろ~き~? ボクに言う事があるだろう?」

「くそがっ!」

 

 ケラケラと笑っている間にこちらを見詰めてくるアポロンさんのところに移動します。

 

「た、頼む。わかるだろう? 姉がいきなりああなったんだ……」

「わかりませんね」

「なんだと?」

「今のアタランテ……アルテミスさんの何が気に食わないんですか! 獣耳に尻尾! 最高じゃないですか! モフモフでサラサラな髪の毛にスベスベの肌! 処女神の穢れ無き肉体を基にしただけあって最高の肌触りですよ!」

「うんうん」

「最高だよな!」

「全くもってその通り! 反語!」

 

 神々も頷いてくださいます。男神が多いですが、同じくケモナーであろう女神様達も同じです。一緒に女神専用のお風呂に入る事もありますしね。その場合、気を使われたのか洗ってもらったそうです。

 

「くっ……」

「それにわたくしが頑張った成果を無にしようとしましたね? いったいいくらかかってると思っているんですか? アポロン・ファミリアの総資産なんて軽く超えてますよ? この世にただ一柱しかいない処女神のエインヘリャル。値段なんて兆を軽く超えます。希少価値なんですから」

「ヘスティア、私は希少価値らしいぞ?」

「当たり前だよ! 君はこの世に君一人だけの僕の神友なんだ! 他の代わりなんていないやい!」

「ありがとう」

 

 イチャイチャしているあちらは放置し、アポロン・ファミリアの処遇を決めましょう。

 

「まず、アポロン・ファミリアの全財産。団員も含めて全て没収してヘスティア・ファミリアの所有とします。アポロンさんの処遇は被害に遭った神々に決めていただきます。天界に強制送還する場合、施行はわたくしが行います。また、団員に関しては無理矢理団員にされた方々へは聞き取り調査を行い、神様達と団員が両方、元に戻る事を希望すれば認めます。ですので、名乗り出てくださいまし」

「はい!」

「俺もだ!」

「私も!」

「わらわは違うが、友の子が奪われてアポロンに送還された。故に友の代わりとして参加したい」

「他の神々が事実であると認めるならば構いません」

 

 アポロンさんの顔が絶望に染まっていきますが、知った事ではありません。さて、鳥籠をしっかりと用意しましょう。今度は安く作れます。何せ必要なのは太陽の力のみ。アポロンさんの精神や心は必要ありません。イフリートをより完成させるために必要です。

 

「頼む! 私が悪かった! だから送還だけは勘弁してくれ!」

 

 さて、一部は返還しないといけませんがアポロン・ファミリアの戦力が手に入りました。ヘスティア・ファミリア、ソーマ・ファミリア、アポロン・ファミリア、アストレア・ファミリアの四つが融合しました。いえ、アルテミス・ファミリアも含めれば五つですね。規模としてはそれなりにはなりました。遠征もさせられるでしょうが、そちらはそちらでどうにかなります。

 

「クルミ」

「むぎゅ!?」

 

 後ろから抱きしめられましたので、上をみます。大きな二つの山の間からヘファイストスさんの顔が見えます。

 

「私の許可も得ずにうちの子達を好き勝手に使ってくれたわね?」

「何を言っていますの。子達達の意思ですわ。神友であるヘスティアさんが悲しめばヘファイストスさんも悲しむと伝え、わたくしの仕事を受けてもらいました。皆さん、大喜びでしたよ?」

「でしょうね。あんな馬鹿みたいに物を深層の素材使い放題で持ち帰り用まであるとなれば私でもやるわ。私が怒っているのは何か、わかるかしら?」

「もしかして、省いたことですの?」

「ええ、そうよ。あんな楽しそうな事を除け者にされて怒らないとでも思ったのかしら?」

「いえ、流石にヘファイストスさんを呼ぶ訳にはいきません。わたくし達がヘスティア・ファミリアに移動すると、ヘファイストスさんがヘスティアさんに力を貸した事になりますから。子供達だけならちゃんとした依頼なので問題はないですが、流石に神様は駄目です」

「わかっているわよ。でも、色々と作ってみたいのよ。特にあの主砲はいいわね」

「でしたら、よかったですわ。これから反省点を生かして改造しますので、もとからヘファイストスさんとゴブニュさんを呼ぶつもりでしたもの」

「つまり、私達に見せる前にある程度は作っておきたかったというわけね?」

「子供達の成長を見るいい機会でしょう?」

「確かにそうね。だって、ゴブニュ。貴方はどうする?」

「決まっておる。参加する。既に色々と図面を引いておるわ。城……いや、城塞都市を作るなど滅多にできん。ましてやそれがダンジョンで運用するなど面白い事この上ない。むしろ、参加させなければ許さん」

「では、改めましてよろしくお願い致します」

「うむ。任せよ」

「私もね」

 

 よし、予定通り二柱の鍛冶神が釣れました。ギルドからも依頼は入るでしょうし、他のファミリアからも間違いなく入ります。特に連射型バリスタなんて小型化すればサポーターの人達だって普通に戦力になります。冒険者の予備武器としても使えます。また、加速術式なら弓や杖に適応する事だって可能です。

 

「クルミちゃん」

「ヘルメスさん」

 

 ゴブニュさんとヘファイストスさんの二柱と別れて撤収準備をしていると、ヘルメスさんが声をかけてこられました。

 

「悪いんだけど、魔導具を組み込んだ武器について俺達のファミリアも交ぜて貰えないかな? クルミちゃんも一人じゃ大変だろう?」

「財政難なんですね」

「そうなんだよ。頼むよ」

「まあ、構いませんわよ。ただ一つ。お願いがございますの」

「なんだい?」

 

 ヘルメスさんの服を掴んでしゃがむように指示すると、しっかりとしゃがんで耳を差し出してくださいました。小さな声で告げます。

 

イシュタル・ファミリアが手に入れようとしている殺生石。それをわたくしにくださいな。アレは使わせてはなりません

殺生石か……確かにイシュタル・ファミリアから依頼されているな。だが、俺は受けた依頼は確実に守る

でしたら、この話は無しですわね

まあ、待て。これは一般論だが、俺達が受け取る前に奪われたのなら、それは俺達ヘルメス・ファミリアの責任じゃない

なるほど、なるほど。ヘルメスさんも悪ですわね

いやいや、クルミちゃんほどじゃないさ

 

 イシュタル・ファミリアが殺生石を狙っているのは知っています。殺生石がどんな物かも知りました。アレは狐人(ルナール)の魂を込め、砕くのです。そうすると砕いた破片を持つだけで魂を込めた人の魔法が使えるようになるというアイテムです。

 こんなもの……此花亭に居る子達はもちろん、春姫さんにも使わせません。それに殺生石は……わたくし達が解析して量産すれば悪用が可能です。ですので、なんとしても確保します。わたくし達は人には使いません。ええ、人には使いませんとも。

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ! 途中からわかり切っていたが負けた! 持っていけ!」

「まいど!」

「こんなにいっぱいのお金……ど、どうしましょう!」

「護衛を呼んであるから大丈夫」

「護衛、ですか?」

「わたくしですわ」

「あ、クルミさん!」

「お前ら、ソーマ・ファミリア……ヘスティア・ファミリアと繋がっていたのか?」

「わたくし達が勝つのでそちらに賭けるように言ってお願いしただけです。問題ありませんわ」

「だな」

「ああ」

 

 各地の酒場などを巡って賭けをしているところからお金を徴収します。そのお金の一部は奢りの代金として還元しておきます。これでヘイトは下げられます。それにわたくし達でないとアポロン・ファミリアが実際に勝っていたと思われるので問題にもなりません。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「白髪頭が勝ったにゃ!」

「本当にゃ。死んだかと思ったにゃ!」

 

 本当によかった。あのペンダントを持ち出してきて良かったです。届けてくれたアレンさんには感謝しないといけません。

 

「しかし、リューはあまり活躍しなかったにゃ」

「あくまでも護衛だからにゃ。そもそもリューが出てたら勝負になってないにゃ」

「それもそうにゃ」

「話題のほとんどがアポロン・ファミリアの善戦についてなのがおかしいですよね。勝ったファミリアじゃなくて負けたファミリアなのに」

「無理もないにゃ。連中の勝ちは始まる前から決まっていたにゃ」

「そうにゃ。クルミとリリが動いたらその時点で負けだったにゃ。そもそも主砲とやらをぶっ放す場所を変えたらそれで終わりだしにゃあ」

 

 実際、最初に見たあの一撃ならアポロン・ファミリアの城を壊すことなんて容易いはずです。バリスタの攻撃だってお城に届いていたんですから、いくらでも倒す方法があったのをアポロン・ファミリアにも花を持たせてあげた感じです。

 

「どちらにしろ、ソーマ・ファミリアがヘスティア・ファミリアに変わっただけで、看板を付け替えて営業を始めるはずにゃ」

「ソーマの美味しいお酒が飲めるなら文句はないにゃ」

「それじゃあ、今日のお仕事を頑張って終わらせましょう。クルミちゃんにお願いして私達も宴に交ぜてもらいましょうよ」

「それはいい考えにゃ!」

「確かにただ酒が飲めるにゃ!」

「アンタ達! 何時までもサボってないで働きな! こっちは大量注文が入っているんだからね!」

「はい」

「「はいにゃ~!」」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「うん。なんというか……善戦したんじゃないかな?」

「そうだな。キアラの魔法はやはり地上で使うのは危険だな」

「ですね。炎だけでなく氷まで……地上ならあそこまでの火力を発揮するとは思わなかったです」

「レフィーヤも姉弟子として負けていられないな」

「はい! 私もお姉さんとして頑張ります!」

「キアラも凄かったけど、やっぱりアルゴノート君だよ! 身体を燃やされながらも最後まで諦めずに喉元を噛み千切ってからの追撃! すごくかっこよかった!」

「確かにそうね。アレはいい闘志だったわ。ね、アイズ」

「うん。でも、すごく不安。あんな戦い方じゃ……すぐ死んじゃう」

「……成長しおったな」

「確かにそうだね」

「あのアイズがな……」

「むぅ……私だって何時までも子供じゃない。お姉ちゃんだもん」

「そうだね。ところでベートとグレイ。どこに行くのかな?」

「何処だっていいだろう?」

「そうです。何処だっていいのです」

「ダンジョンか?」

「ダンジョンだね?」

「グレイは駄目だぞ」

「そんな……身体がうずうず疼くのです。だから、ダンジョンに行くのです。ベートさんが居れば大丈夫です」

「俺を巻き込むな。というか、裾を掴むんじゃねえ!」

「ん~そうだ。どうせなら私達も行こうよ。見てたらグレイじゃないけれどうずうずしてきたしさ!」

「そうね。それもいいかも。団長もどうですか?」

「僕は……」

「私は残る。ヘスティア・ファミリアにキアラを労いに向かうからな。レフィーヤもアイズも来い」

「なら、わしは残るか」

「わかった。それなら僕がダンジョン組についていこう。グレイは特に心配だからね」

「大丈夫なのです」

「鬼神を使ったら駄目だよ」

「……」

「顔を逸らさない。まったく、変な霊を降ろさないで欲しいよ」

 

 

 

 

 

 



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アポロン・ファミリアと戦争遊戯(ウォーゲーム)8 事後処理

お気に入り登録が三千を超えました。ありがとうございます!


 

 

 

 

 

「どういう事だっ!? どういう事なのだ!」

「そうだ! 勝てるはずではなかったのか!」

 

 私はギルドの長を勤めているロイマン・マルディールだ。その私は現在、オラリオの郊外にある治外法権の場所、娯楽都市(サントリオ・ベガ)にある最大賭博場(グラン・カジノ)。そこにある貴賓室(ビップルーム)に来ている。

 そんな私は目の前に居る長髪の深紅の髪の毛をした女性にここの支配人であるテリー・セルバンティスやその他にも金持ち達が居る。そんな彼等が目の前に居る彼女を睨み付けているが、彼女は気にもしていない。

 

「私が申し上げたのは此度の戦争遊戯(ウォーゲーム)で賭けをしませんか、と伝えただけです。どちらに賭けるかは皆さんの自由でした。その事について言われても困ります」

「貴様! こうなる事を知っていただろう!」

 

 目の前の女性が大量の資金を投入して勝利し、貴賓室へとやってきた事が始まりだった。彼女はそこで負けたのだが、その時に近々行われる戦争遊戯(ウォーゲーム)で賭けをしないかと言ってきた。

 

「私も最初、アポロン・ファミリアに賭けようとしていたのです。ですが、皆さんがアポロン・ファミリアばかりに賭けられるので、ヘスティア・ファミリアに賭けさせていただいただけです」

「しかし賭ける額が尋常ではなかっただろう!」

「ただの三十億ヴァリスではありませんか。負ければ私の身諸共差し上げる契約でしたので、しっかりと代金を頂きますわ」

「「「ぐっ……」」」

 

 そう、問題はヘスティア・ファミリアが勝った事もそうだが、彼女が賭けた金額だ。三十億ヴァリス。実際に彼女は黄金の山を持ってきて見せた。だからこそ、ここのオーナーであるセルバンティスも受けた。アポロン・ファミリアが勝つのがわかっていたし、話の内容から彼女が私達の後に賭けると言っていた。それで彼女はヘスティア・ファミリアに賭けたのだ。

 

「全員分を合わせて九十億ヴァリス。しっかりとご用意してくださいね。支払えないというのであれば、このカジノの利権を頂きます」

「ふざけるな……」

「正式な契約書を交わしているのです。拒否されるのでしたら、出るところに出ますが……構いませんか?」

「用意しますが、どうやって持って帰るつもりですかな?」

「もちろん、運び屋を用意してありますので、ご心配なく」

「……わかりました。支払いましょう。少々お待ちください」

 

 私もせっかくため込んだお金が彼女の懐に消えていく。リーゼ・アーベルと名乗った彼女だが、この後、悲惨な目に遭うかもしれない。

 少しして彼女が用意した運び屋がセルバンティスが用意したお金を箱に詰め込んで馬車に乗せていく。

 

「それではまた今度賭けをしましょう」

 

 リーゼ・アーベルが去っていくので、私も自らの馬車に乗ってギルドへと向かっていく。その途中で複数の賊に彼女の馬車ごと襲われてしまったが、何処から飛来した矢が容赦なく身体に風穴を開けて肉片を撒き散らかしていた。

 

「ど、どうしますか?」

「放っておけ」

 

 護衛の者達にそれだけ告げてしばらく待つと、何事もなかったかのようにリーゼ・アーベルの馬車はオラリオへと進んで中に入っていった。残ったのは矢によってできたクレーターと死体の山だ。

 

「ガネーシャ・ファミリアに処理させておけ」

「了解しました」

 

 ギルドへと戻り、私はハーフエルフであり、ヘスティア・ファミリアを担当していたエイナ・チュールを呼び出す。

 

「なんでしょうか、ギルド長」

「これはどういう事だ? 私はこんな報告を受けていないぞ!」

 

 ソーマ・ファミリアがヘスティア・ファミリアに改宗や資産の譲渡に関する報告書を叩きつけてやる。

 

「ギルド長は戦争遊戯(ウォーゲーム)や他のお仕事でお忙しいとの事でした。そもそも報告するのは何時も処理が終わってから纏めてそこに置いておけと言われておりましたから、置いていました。それの何処に問題があるのですか?」

戦争遊戯(ウォーゲーム)に関わる事だぞ! それぐらい融通をきかせろ!」

「わかりました。では、次は全ての書類をお持ちしますね。早速、ヘスティア・ファミリアに関する書類が六〇〇枚を超えていますので確認をお願い致します」

 

 ドンと机の上に置かれたでたらめな数の書類に頭が痛くなる。

 

「アポロン・ファミリアからヘスティア・ファミリアに移譲される資産と改宗される冒険者の情報です。これらも戦争遊戯(ウォーゲーム)に関わっておりますので突き上げが来る前に処理をお願いします。それでは失礼します」

「まっ!」

 

 言う前に彼女が出て行った。私は残された書類を処理するしかない。戦争遊戯(ウォーゲーム)に関わる事なので、言ってしまった手前やるしかないのだ。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

 部屋に入ってきた深紅の髪の毛をした女性が声をかけてきます。彼女の背後には運び込まれてくる箱が複数あります。その中には金や大量のヴァリスが収められていました。

 

「あら、お帰りなさい、リーゼ。それでいくら稼げたのですか?」

「九〇億ヴァリス。ちょろいですね」

「偽物の金塊を見て目が眩むなんて可哀想な人達ですね」

「偽物ではありません。本物です。本物とまったく同じなんですから。それよりも良かったのですか? 問答無用で殺してしまって」

「あら、こちらは賊を長距離狙撃しただけです。何の問題もありません」

「それもそうですね。これで資金回収ができました」

「大変結構です。それとその姿はもう解除したらどうですか?」

「そうですね。贋造魔法少女(ハニエル)

 

 深紅の髪の毛をした女性が小さな可愛らしい赤毛の少女へと変わります。そう、彼女はわたくしが所属することになったヘスティア・ファミリアの団員、リリルカ・アーデさんです。

 

「詐欺をしなくてもよろしかったんですのよ?」

「クルミ様、クルミ様。リリは詐欺をしていません。ちゃんとした賭けをしていただけです。ちょ~と見せ金と話術で誘導しただけです。勝敗はわかりませんでしたしね」

「それもそうですね」

 

 姿を偽った以外は問題ありません。そう、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)の裏側でリリさんはベートさんと遊んでいない時はカジノに行って楽しんでおられたのです。投資した額と合わせると、九億ヴァリス引いた八一億ヴァリスが収入になります。

 

「これで城の補填ができました」

「お釣りが来ますよ。ほぼ人件費と金属代ぐらいですし」

「深層の素材を除いた代金じゃないですか……」

「それを入れたら赤字ですからね」

 

 立ち上がってから、お金と金を全て影に取り込んで金庫に移動させておきます。それから元ソーマ・ファミリアの本拠地にある地下に移動します。リリさんも後ろについて来られております。

 そして、ある部屋に入りました。そこにはある神様が監禁されております。両手を縛られて天井から吊るされ、わたくし達に囲まれながら色々な場所に杭が突き刺されているのです。

 

「ん! んん~!」

「アポロンさん。貴方の処刑が決まりました。全会一致で天界への強制送還でしたわよ。嫌われておりますね」

 

 彼の身体から杭を通して流れる神の力(アルカナム)が術式を通してリリさんの武器である両方に刃のある戦斧、イフリートに注ぎ込まれています。

 その横で机に向かいながらアポロンさんから手に入れた記憶の中から必要な情報を抜き出し、本に書いていくわたくし達が複数います。

 

「さしずめ太陽の書(ブック・オブ・ヘリオス)ですわね。太陽の力と神話に謳われるカサンドラさんに与えた予知の力。呪いを解除した能力を与える書。素晴らしいです」

「神様にこのような事、かなり冒涜的ですけどね」

「処刑が決まっているのですから、使える力はいただきますわ。これでわたくし達が作り上げた神造兵器が更なる段階へと進化するのです」

 

 鍛冶の神と神の力(アルカナム)を使わずに作り上げたイフリート。そこに太陽の力が加われば一気に素材にした霊結晶(セフィラ)が成長します。

 

「アルテミスさんの時は彼女を蘇生させるために力を使いましたが、アポロンさんは別です。力さえあれば中身などいりません」

 

 絶望に染まったアポロンさんの顔がとてもいいです。自ら死を願い、神の力(アルカナム)を行使しようにもその前に吸い取られていきます。イフリートが成長しすぎるのも問題ですけど、リリさんが取り込んだ霊結晶(セフィラ)も成長させますので、どちらも大丈夫なはずです。

 

「貴方に眷属を奪われ、強制送還されていった方々の苦しみをその身で受けなさい」

 

 手に入れた術式を下界でも使えるように改造していきます。神威霊装・三番(エロヒム)の強化に色々と使えそうですし、神炎の弾丸も用意しておきましょう。どれだけ準備しても足りません。白の王女(プリンセス)と暗黒期で全てとはいかないまでも、できる限りを助けて乗り越えるために必要な事です。

 

「さて、皆さん。残り日数が少ないですが、搾り取れるだけ搾り取りますわよ」

「「「はい!」」」

 

 さて、こちらは別のわたくし達に任せて次の仕事を行います。

 

 

 

 

 翌日。わたくしはアポロン・ファミリアのホームにやってきました。隣にはヘスティアさんもおられます。

 

「ここが今日からボク達のホームになるんだね!」

「改修しないと使えないですよ」

「そうなのかい?」

「はい。見るに堪えない物が沢山ありますから」

 

 ヘスティアさんと一緒に門を潜ると、複数のアポロン・ファミリアの方々が迎え入れてくれます。もう、ここはわたくし達ヘスティア・ファミリアの物ですから当然です。彼等もヘスティア・ファミリアに編入される人がほとんどです。ただ、こちらも篩にかけないといけませんけれどね。

 

「ようこそおいでくださいましたヘスティア様」

「いらっしゃいませ」

「うむ。出迎えご苦労!」

 

 ダフネさんとカサンドラさんが中心となって迎え入れてくださいましたので、彼女達に案内してもらいます。

 

「こちらが食堂です」

「お風呂に……」

 

 わたくしとヘスティアさんは案内されていく度に目が死んでいきます。わかっていた事ではありますが、よく皆さんは平気ですね。

 

「よしクルミ君! まずはこの邪魔な大量の気持ち悪い像を撤去しようか」

「いいんですか!」

「ダフネちゃん……何時も睨んでるからね……」

「お風呂にすらあるから見られてるみたいで本当に撤去したかったの」

「あ~なるほど。うん、全部撤去だ。必要ない。売れないかな?」

「売れませんが、使い道はありますので庭に運び出すように指示をしてください。それと団長であるヒュアキントスさんはどうしました?」

「それが……」

「ベル・クラネルに負けた事が余程ショックだったのか、部屋に閉じこもっているわ」

「大見栄切って自爆覚悟で特攻したのにあっさり無効化されたから仕方がないね。わかるよ」

「まあ、しばらくは別にいいんですけれど、荒療治が必要ならしますね」

 

 とりあえず全団員に指示を出してアポロンさんの銅像を全て外に出してもらいます。それが終われば全員を集めて庭に整列してもらいました。

 

 

 

「ボクがヘスティアだ。これから君達の主神になる。ならない人も居るけれど、そこは置いといてもらおう。ボクが優先するのは子供達の幸せだ。だから、どうしてもボクのファミリアに居たくないという人については退団して別の所に行くのを認める」

「聞いてないんですが?」

「いたくもない人が居て空気を悪くされるよりもいいだろう?」

「まあ、それはそうですわね。効率も悪くなるでしょうから、退団を認めます。ただし、選別をしてこちらから残ってもらわないといけない方は別です。その辺りが妥協点ですわね」

「わかった。それでいいよ。じゃあ、これから君達には……」

「儀式をしてもらいます。こちらに用意したアポロンさんの石像をご自身の手で粉砕し、砕いてください。これを以てアポロン・ファミリアとの決別とさせていただきます。しない方はステイタスを把握し、犯罪歴がないかを調べてから問題なければ退団を認め、問題ありならガネーシャ・ファミリアに引き渡します。では、始めましょう」

 

 躊躇なく壊した人達と躊躇してから壊した人。壊さなかった人に分かれた。もちろん、非力で壊せない人もいるので、そういう人は意思を見せた方向で判断します。

 

「見事に分かれたね」

「まあ、仕方がありません」

 

 無理矢理加入させられた人達は躊躇なく石像を壊しました。躊躇した人達も居ましたが、そちらは一応アポロンさんにお世話になったからだそうです。そして、破壊しなかった人達はごく少数でした。その筆頭がヒュアキントスさんです。

 

「私はヘスティア・ファミリアへの編入を希望もしないし、アポロン様を裏切らん。だが、戦争遊戯(ウォーゲーム)の結果だ。従う事は従う。だが勘違いするな! 何れ貴様を倒してやる!」

「勝負なら何時でも受けて差し上げますが、アポロンさんの送還は決定事項です。ステイタスが失われる事になりますが……」

「ちっ。一年だ。一年だけ、お前達に力を貸す。それ以降は私達も好きにさせてもらう」

「ヘスティアさん、どうですか?」

「構わないよ。一年間、僕の子供として力を貸してくれたらいい。僕が君達の主神として相応しいと思えば残ってくれたらいい。思わなければ別のところに行ってもいい。悲しいけれど、それは子供達自身が決める事だからね」

「……ありがとうございます。ヘスティア様。これより一年。我等は貴女様を主神とし、お仕えさせていただきます」

「うん。よろしく頼む」

 

 ヘスティアさんの言葉にヒュアキントスさんを始め、アポロン・ファミリアの人達が臣下の礼を取りました。ヘスティアさんはやはり懐が広いです。ベルさんが関わらなければですが。

 

「やれやれです。各自、自分の部屋で良ければアポロンさんの銅像を所持する事を許可します。私物までとやかく言いませんので、好きになさってください。それとアポロン・ファミリアへ無理矢理入れられた方は一週間以内に前の神様と連絡を取り、こちらに連れてきてください。一週間後、アポロンさんを送還しますので、それまでに決めるようにお願いします。他の方は一週間は自由時間とします。問題さえ起こさなければいいので、心を決めておいてください」

「一週間か……」

「続いてのお知らせですが、ダンジョンを探索したくない方は探索しなくても構いません。代わりにヘスティア・ファミリアとして商売の売り子などの仕事をしてもらいます。無理にダンジョンに挑まれて死なれるのは困ります。ですので、戦いに不向きな方はおっしゃってください。別の働き先を用意します。また、逆に強くなりたい方もおっしゃって頂ければわたくし達がやっているブートキャンプを施します」

「後はなにかあるかな?」

「そうですね……ああ、ここのホームは宿泊可能なお店に改築しますので、ヘスティア・ファミリアの本拠地になる元ソーマ・ファミリアのホームへ移動する準備もお願いします」

 

 ダンスホールとかあるんですから、利用しない手はありません。一般の人でも気軽に使える場所にすればいいでしょう。ダンスや礼儀作法の講習とかをセットコースとして販売すれば儲けが出るでしょう。

 正直、ホームとして使うのなら広い土地を確保できた郊外の此花亭に隣接している場所が一番都合がいいですからね。お酒を造るにしても、わたくしの兵器を保管するにしても、広さが重要ですから。 

 

 

 

 

 



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新・ヘスティア・ファミリア歓迎会

繋ぎ回です。ええ、次回への繋ぎです。


 

 

 

 

「諸君! 集まってくれてありがとう! 今日は新しいヘスティア・ファミリアの発足式をかねた歓迎会だ!」

 

 此花亭の外に作られた桜に囲まれた大宴会場。そこに作られた壇上に立ちながら神様が宣言する。そんな神様のすぐ近くで僕やクルミ、リリ達も居る。もちろん、僕達以外にも元ソーマ・ファミリアやアポロン・ファミリアの人達も皆、居る。その数、一八〇人。そう、僕達のファミリアはこんな大所帯になっちゃった。なっちゃったのである。

 

「ソーマ・ファミリアとアポロン・ファミリアが合流した事で一気に人数が膨れ上がった。色々と問題は起こるとは思うけど、皆で解決していこうと思う。さて、ベル君」

「はい!」

「ごめん。ボクとしては君を団長にしたい!」

「む、無理です! 無理ですよ神様!?」

 

 ヘスティア・ファミリアは僕だけだったから、団長になっていた。でも、ソーマ・ファミリアとアストレア・ファミリア、アポロン・ファミリアが合流して人数が膨れ上がった今、僕なんかじゃとてもじゃないけど処理しきれない。

 

「だよね。ボクもそう思う。それにアポロン・ファミリアから移籍する子供達はともかく、ソーマ・ファミリアからの子達は認められないだろう」

「いえ、別に構いませんよ? わたくし達はちゃんと運営できるのであれば文句はありません」

「クルミ様がそう言うのならリリもありません」

「キアラも~」

「我々はお酒さえあればいい!」

「いや、皆わかってて言ってるだろう! ベル君にそんな力はまだない!」

「無理です! まだ……まだ?」

「何れベル君が団長になるにしても、しばらくは元ソーマ・ファミリアの団長であるクルミ君に務めてもらう。ぶっちゃけるとその方が効率的だしね!」

 

 神様の言葉に皆さんが頷く。まあ、ボクも見た事があるけれどソーマ・ファミリアでクルミがやっていた仕事量は本当に絶望的な量だった。ボクじゃ絶対に無理だ。

 

「まあ、団長でないと処理できない書類もありますから、ベルさんは確実にダンジョンに行けなくなりますね。フィンさんですらあまりダンジョンに行けない感じですし」

「全くもってその通りだね。お勧めはできない」

 

 少し離れた所でお手伝いしてもらったロキ・ファミリアの人達やヘファイストス・ファミリアなど様々なファミリアの人達が呼ばれている。

 

「それにぶっちゃけたら、信用の問題からしてもクルミたん以外できへんって。エインヘリヤルを握る事になるんやで? 絶対に他から突き上げくらうわ。うちも下手な事されたら怖いしそうするしな」

「なんだと! ボクのベル君じゃ無理だというのか!」

「私はオリオンの指示に従っても別にいいのだが……」

「アホか! それが問題やっちゅうねん! 感情で動かれて焼野原にされたらたまらんのじゃぼけぇ!」

「あははは……」

「はいはい。そこまでにしておきなさい。ファミリアの力関係的にもヘファイストス・ファミリアとしてもクルミの方がいいわ。それにベルがついたら彼が潰れる可能性もあるからね」

「わかってるよぉ……」

 

 僕が団長になってクルミの補佐を受けながらだとしても絶対に彼女と比べられる。そして色々と言われる事になるし、ダンジョンにも潜れなくなると思う。

 

「そんな訳で、団長はクルミ君! いいね!」

「「「はい!」」」

「副団長はベル君とリリ君! リュー君は……」

「私は辞退します。キアラ様の護衛ですし、豊穣の女主人でも働きますので……」

「雑務はクルミ様がやってくださいますので、リリ達は気にせずにダンジョンで稼いでくればいいだけです。簡単なお仕事です」

「そういう事なので皆さん。ダンジョンに向かう方はしっかりと冒険して魔石とドロップアイテムを回収してきてください。もちろん、わたくしの分身をつけますが……ボウケンシャーの方々にはしっかりとこちらが指定する訓練をクリアした人達だけにします。まず、徹底的に基礎鍛錬を施して簡単に死なないように鍛えあげますからそのつもりでいてください。それ以上に力が欲しい方は……ブートキャンプをします。こちらのブートキャンプは同盟の方々も参加費を頂ければ受けられるようにしますのでふるってご参加ください」

 

 戦闘技術を徹底的に教えてくれるみたい。僕はとりあえずブートキャンプをやってみようかな。レベル3にはなったけれど、ギリギリ勝てただけだ。ヒュアキントスさんが最初から僕に集中していたら負けていた。せっかくクルミが教えてくれるんだから、習おうと思う。アイズさんに体術とかは教えてもらったけれど、ナイフの戦い方はあくまでも我流だからね。

 

「それと商売に関してですが……元アポロン・ファミリアのホームを改造し、パーティーや宿泊ができる場所として提供します。幸い、アポロン・ファミリアの方々は顔がいいので従業員としても十分にできます。戦闘が嫌な方はこちらで働いてください。衣食住はこちらで持ちますし、給料も支払います。最低限、ファミリアとしての礼節は叩き込ませてもらいますが、給料は保証します。これらの事業の拡大に伴い……酒蔵を新しく二十ほど増やします」

「「増やしすぎだろ!?」」

「ヘルメス・ファミリアとの伝手が……こほん。商売の契約が有利に進められますので、ソーマを世界中にばら撒きます。その為に増やす訳ですね。まあ、こちらも人手不足になるので……酒蔵で働く方々はブートキャンプ強制参加です。最低でもレベル2。通常でレベル3になってもらいます。なに、レベル1ならソロでインファントドラゴンをぶち殺したらいいだけですわ」

「無理っす! 絶対に無理っす!」

「そうだそうだ! 無謀だ!」

「完成品のソーマ一本。レベルアップの祝いにつけます」

「「「っ!?」」」

「レベル3ならもう一本なんてケチな事はいいません。二本です」

「「「おっしゃあああああああああああああぁぁぁぁっ!!」」」

 

 さっきまで絶望的な表情になっていた彼等が一気に闘志を漲らせた。

 

「馬鹿だろ、こいつら」

「まったくです」

「……うん。ついていけない……」

 

 元アポロン・ファミリアの人達と同じで僕もついていけない。本当にお酒の事しか考えていないみたい。

 

「というわけで、ヴェルフさん。貴方がヘスティア・ファミリアの鍛冶師筆頭です。皆さんの武器についてよろしくお願いいたします」

「やれと言われたらやるけどよ……流石に一人じゃ無理だぜ?」

「わたくし達も手伝いますが、ヘファイストス・ファミリアと提携しておりますのでそちらにも仕事を振って構いません。いいですよね?」

「ええ、構わないわ。椿もいいわね?」

「うむ。クルミからの面白い依頼ならいくらでも受けるぞ」

「まあ、やる事は変わらんか」

「その通りだ。ヴェルフのファミリアが変わった程度で別になんの問題はない。ああ、ヘファイストス・ファミリアの名が使えなくなるのか? その辺り、どうするのだ?」

「別に構わないけれど、共同の作品は両方の印を入れるか、新しい印を作ろうかしら?」

「その辺りは任せます」

 

 色々と話されていくけど、簡単な事はクルミが団長でボクとリリが副団長になった。それと提携するファミリアも増えるみたい。

 

「歓迎会を始めようか。盛大に飲もう! 乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 

 皆で楽しく話し合いながら食事をしていく。僕は神様の後ろに立ちながら、来られている神様達に挨拶していく。

 

「ふふん。どうだいロキ! これでボクも大手の仲間入りだぞ!」

「ほんま、ありえへんは……なんやねん! 眷属一人から一気に一八〇人って意味わからんわ! どこぞのシンデレラかいな!」

「まったくね。これから大変よ、ヘスティア」

「わかっているよ。でも、僕はやってみせるよ」

 

 神様がロキ様達と話していると、新しい人達がやってきた。その人達はフレイヤ・ファミリアの方々だ。フレイヤ様と護衛の人達がいる。

 

「挨拶に来たわ、ヘスティア」

「フレイヤ。わざわざ君が来るなんてね」

「だって、面白い余興だったもの。はい、これお祝いね」

「ありがとう」

 

 神様が受け取ったのをクルミが回収していく。その間にフレイヤ様が僕に近づいてきて頬を撫でてきた。

 

「貴方の戦い、とてもよかったわ。これからも頑張りなさい」

「はっ、はい!」

「こら! ボクのベル君だぞ! おさわり禁止だ!」

「残念ね。まあ、いいわ。クルミ。ブートキャンプだったかしら、それに私の子供達も参加させてくれないかしら?」

「高位冒険者を貸してくださるなら構いませんよ」

「あら、どこでやるつもりなのかしら?」

「十八階層と五十階層です。そこでならギルドにとやかく言われませんしね。それに城を設置する時にダンジョン側からの介入があるかもしれません」

「いいわ。オッタルかアレン。それにガリバー兄弟もつけましょう。いいかしら?」

「十分です」

「うちの所も参加するわ」

「ロキのところも来るの?」

「なんやねんドチビ。うちのところを外すつもりか?」

「いや、二大ファミリアと一緒になると合同遠征じゃない?」

「おもろそうやな」

「そうね。ギルドに根回しをしておきましょう」

 

 神様達が話している間にまた新しい馬車が来て、降りてくる。そこには僕とリューさんが招待した人達だ。

 

「ベルさんにリューおめでとうございます!」

「ありがとうございます、シルさん」

「ありがとうございます」

「ただ酒を飲みに来たにゃー」

「おめでとうございます。こちらミア母さんと私達からのお祝いの品です」

「ありがとうございますルノアさん」

「美味しそうな匂いがいっぱいにゃー……」

「おい。馬鹿者。まずは挨拶をしろ」

「ひぃっ! な、なんでいるにゃ!」

「フレイヤ様の護衛だ。愚妹」

「アレンが居るなんて聞いてないにゃー!」

 

 なんだか複雑な事情があるみたい。とりあえず、皆さんに食事と飲み物を配っていく。他の人や此花亭の人達と協力しながらやっていくと、少し離れた所で物凄い殺気がぶつかり合った。

 

「前の決着をつけさせていただく」

「面白い。来るがいい」

 

 オッタルさんがアタランテ様に戦おうとしていた。アタランテ様は弓を構え、オッタルさんは大剣を持ち、互いに打ち合う。そう、打ち合う。アタランテ様が大剣を弓で防いでいる。二人の余波だけで桜吹雪が起きてしまっている。

 

「「やめなさい!」」

 

 神様とフレイヤ様が即座に止めたおかげで被害はなかったけれど、地面は足の跡にえぐれていた。最高クラスの冒険者は強い。

 

「深層の感覚で始めないでください。やるならもっと郊外でやってください。被害がどれだけ出ると思っているんですか?」

「すまない……」

「失礼した」

「アタランテはともかく、オッタルも随分とアレだね?」

「挑むべき壁が現れて張り切ってるのよ。昔みたいでとてもいいの」

「そうなんだね~」

「オッタルさん、アタランテさん。勝負をしたいのならコレでやりましょう」

「「む?」」

 

 クルミが樽でお酒を取り出した。二人は見つめあった後、樽のお酒を飲む準備をしだした。そこでロキ・ファミリアのガレスさんやヘスティア・ファミリアになったチャンドラさん達も食いついてきた。

 

「どうせなら大飲み大会でも開きましょうか。勝者には豪華景品をプレゼントします。景品は炎系の魔法が発現する事間違いなしだと思われる魔導書です! ちなみにアタランテさんにはガチの完成ソーマです。これじゃないと酔わないですし」

 

 クルミが取り出した魔導書にはアポロン・ファミリアのマークが刻まれている赤い魔導書だった。

 

「オッタル、アレン。いえ、誰でもいいわ。勝ちなさい」

「「「はっ!」」」

「こっちもや! ガレス!」

「おう!」

「ボクも負けてられない! 皆、勝つんだ!」

「「「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!」」」

 

 皆がお酒を飲む大会に参加しだして、どんどん飲んでいく。神様達も飲みながらそれを見て楽しんでいる。アーニャさん達も参加している。

 

「私も飲んでいい……かな?」

「駄目です。アイズさんは飲んじゃ駄目ですからね。こっちでキアラ様達とジュースを飲んでいましょう」

 

 皆さん、本当に楽しんでいて笑顔が溢れている。こういうのもやっぱりいいと思う。それに仲間が沢山増えたのが嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「何をしている?」

「何ってペットの様子見よ」

「地上に送り込むのか?」

「そのつもりよ。でも、まだまだ弱いわ」

「コイツが弱い、か」

「とりあえず地上に放ってみましょう。面白いでしょう?」

「好きにしろ」

「それじゃあ、そうしようかしら」

 

 いっぱいいっぱい作ったけれど、実戦テストはしていない。だからこそ、お祝いにプレゼントしてあげましょう。

 

「行ってきなさい。ヴァルガング・アルティメットドラゴン。装備もろくにしていない愚か者たちを粉砕してくるの!」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「「「は?」」」

 

 空間が歪み、空に変な穴が現れた。ボク達は全員がクルミ君を見る。そこから十メートルを超える巨大な三つの首が存在するドラゴンの顔が覗かせてきた。

 

「わたくしじゃありませんわ」

砲竜(ヴァルガングドラゴン)の頭部が三つか」

「フレイヤ様。お下がりを……」

「武器なんてないが、どうする?」

「決まっていますわ。アタランテ、神の力(アルカナム)を解放してやってしまいなさい。この場にいる神々も同意してくださいますわね?」

「もちろんだ」

「そうね。あんなのが地上で暴れたらやばいわ」

「頼む」

「よ~し、やっちゃえアタランテ~!」

 

 アタランテさんが弓を含めた装備を召喚し、矢を番えて空へと向けます。彼女の周りに青い光球が無数に現れ、弓の前には魔法陣が複数現れた。

 

天穹の弓(タウロポロス)。オリオンの矢……穿て」

 

 鉤爪の手によって引かれたオリオンの矢は万力のような力で引き絞られた天穹の弓(タウロポロス)から放たれ、一条の光となって音を置き去りして現れたドラゴンを跡形も無く消し飛ばし、そのまま空へと上がって何かを粉砕する音が響いた後、雲を吹き飛ばして遥か彼方へと飛んでいきました。当然、その後にくる衝撃波によって僕達は吹き飛んだ。

 

「とりあえず、迎撃はしたが……なんだったのだ?」

「ドラゴンでしたよ! ドラゴン!」

「三つも首があったねぇ……」

「それよりもコレ、どうするのよ……」

「引き絞れば引き絞るほどにその威力を増す天穹の弓(タウロポロス)を神の肉体と神の力(アルカナム)、エインヘリヤルの身体で使えばそらそうなりますわよねぇ……」

「す、すまない……やりすぎてしまった……」

「お酒が入っていたから仕方がないね!」

「じゃあ、飲み直しますか。一応、ギルドには報告を上げておきますが……」

「え!?」

 

 吹き飛んだ場所を巻き戻して本当に飲み直し始めたクルミ達に僕達は……うん、ちょっと引いた。結局、宴を再開した。それにしても、ドラゴンってあんな簡単に倒せるんだ。そうアタランテ様を褒めると、耳と尻尾が動いて大変可愛かった。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「プレゼントが何もできずに死んだ! 何故ですの!」

「早過ぎたんだろう。しかし、これでハッキリとした。地上に手を出すのはもっと戦力を溜めてからだ」

「せっかく酔っぱらったタイミングを見ていたんですが……残念ですね」

「ところで、何かが破壊される音も聞こえたが、大丈夫なのか?」

「空間が破壊されただけです。勝手に修復されますから放置しておけば構いません。それに……いえ、これは置いておきましょう。どちらにしても黒のわたくしが対処するでしょう。わたくしはし~らない」

「いいのか?」

「はい。だって、あちらがやらかした事ですもの。わたくしに責任は少ししかありません。でしたら、無視しますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ソーマで酔っぱらって放ったオリオンの矢により、空間が壊れました。空間が壊れたのです。ええ、空間が壊れてしまったのです。大事な事なので三回です。
ヴァルガング・アルティメットドラゴン君はブルーアイズ・アルティメットドラゴンの赤いバージョン。強さ? 砲竜(ヴァルガングドラゴン)の三倍です。三匹を空間を歪ませて融合させただけですからね。砲撃も三連射は当たり前で、三つの首を同時に倒さなければ再生します。アタランテが居なければレベルアップできたかもしれませんね。しょせんは踏み台(アタランテにとって)じゃけんのう。

次回「ベルとリリのクエスト!」



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剣姫カタストロフ
デート・ア・ライブ 始まりの邂逅


 

 

 

 ソーマ・ファミリアがヘスティア・ファミリアになってから一週間。わたくしは全員を動員してようやく後処理が出来ました。やはり、アポロン・ファミリアの吸収と一部の方々の移籍。アイギスの完成の為にスポンサー契約。酒蔵及びホームの追加、ソーマ・ファミリアからヘスティア・ファミリアへの変更に伴い看板の付け変えなどなど……馬鹿みたいな仕事量でした。

 特に移籍に関しては一年以内に改宗した方は改宗できませんので、それまでの経験値を聞いてそれを無にするか、期間がすぎるまで普通の人として働くか決めて頂かないといけませんでした。大概の方が戻してくれと頼まれたので肉体をわたくしの力で巻き戻して改宗前に変更し、そこからヘスティア・ファミリアに移籍です。この方法を取るとギルド側に証明書など追加の書類が求められてとても大変でした。

 

「これ、わたくしじゃなければ過労死ですわね。まあ、一週間で終わらせる仕事量じゃないだけですけれど……」

 

 とりあえず、借金は無くなりました。ヘスティアさんがヘファイストスさんにしていた借金もこちらが纏めてお支払いしておきましたので身綺麗です。リリさんが稼いできてくださいましたお金のおかげですわね。まあ、すぐにアイギスの二号機、イージスを作ったりするのでお金なんて消し飛びますが。

 

「今日はもう休んで街にでも遊びに行ってきなよ。後はもうギルドに提出するだけだろう?」

「そうですわね。お願いしますわ」

「うん。頼まれた」

 

 ヘスティアさんは流石にもうバイトを止めてこちら一本になられております。というか、そうじゃないと普通に皆さんのステイタスを更新するだけでも間に合いません。まあ、契約上はヘスティア・ファミリアから給料扱いでお小遣いが渡されており、そこから一部がヘスティアさんが個人でした借金の返済にあてられます。要らないと言ったのですが、ヘスティアさんが聞きませんでした。

 

「では街にでも遊びに行きましょうか。久しぶりにジャガ丸君でも食べたいですし」

「いいね。お土産でも期待しているよ」

「わかりましたわ」

「あ、この頃地震が多いから気を付けるんだよ」

「ヘスティアさんもですよ。書類を無くすとかは止めてくださいね」

「ん~一応、何人かに一緒に来てもらうよ。ベル君がいいけれど、ベル君はクエストで十八階層に行ってるしね」

「確かモルドさんから依頼でしたわね」

「大丈夫か、心配だね」

「リリさんも一緒ですから大丈夫ですわ」

 

 レベル4とレベル3なんですから問題ありません。ましてやリリさんは二人に分身できますし、アポロンさんの力を吸い取ったイフリートがありますのでレベル1から2は上げられるので実際はもっと強くなっております。

 アタランテさんはギルドの依頼で他の場所に出た強力な魔物(モンスター)を倒しに行っております。なんでも強力な魔物(モンスター)が外に出ている可能性があるらしいです。

 

「キアラ君達は……ロキ・ファミリアだったかな?」

「はい。そちらでエルフの方々と勉強会ですね。帰りはリヴェリアさんとレフィーヤさんが豊穣の女主人に寄ってリューさんを拾ってから送り届けてくれる予定です」

「それなら大丈夫か。今、空いているのは……カサンドラ君とダフネ君か。二人を連れていくよ」

「かしこまりましたわ。伝えておきます」

「よろしく~」

 

 お二人に執務室に行ってヘスティアさんと一緒にギルドへ行くように伝えてから、私はシャワーを浴びて着替え、ジャガ丸君を求めて外へと出ます。

 

 

 外に出ると太陽の光が突き刺さってくるので、手で覆い隠していると軽く地面が揺れました。確かにヘスティアさんが言うように地震が多いようですわね。

 まあ、特に気にする事でもないのでヘスティア・ファミリアの子達や此花亭の子達に挨拶をして街へと向かいます。

 

 

 途中の屋台で飲み物を買って、飲みながらオラリオでジャガ丸君を売っている中でも一番美味しいとジャガ丸君キチのアイズさんが太鼓判を押す屋台にやってきました。

 

「どうだいお嬢さん。ジャガ丸君、一つ要らないかい?」

「あらあら、困りましたわ。こちらのお金は使え……ませんわよね?」

「どこの国のお金だいこれ? 残念だけど紙はお金じゃないし、硬貨の方は換金所に行けば使えるかもしれないが……」

「ですわよね。困りましたわ」

「だけど、あんた。アレだろ。ヘスティア・ファミリアの関係者だろ。こないだの戦争遊戯(ウォーゲーム)見たよ。妹さんか親戚さんだろ?」

「いえ、あの……」

「儲けさせてもらったから、やるよ。クルミさんだろ?」

「ええ、確かに狂三ですが……」

 

 どうやら屋台の前に来ると先客が居ました。その人は十七歳前後の黒髪ツインテールで、肩が剥き出しになっている赤と黒を基調としたドレスを着用しておられます。その姿に思わず手に持っていた飲み物を落としてしまいます。

 

「あら?」

「……」

「あらあら、まあまあ」

「え? げ、現実? 夢でも見ていますの……?」

 

 思わず頬っぺたを抓ってみると、とても痛いです。つまり、これは現実であり目の前に居る方は夢の存在ではなく現実に存在している事で……やばい。なんで居るのかわかりませんが、本当にやばいです。☆をつけられないぐらいやばいです。

 

「っ!?」

 

 即座に踵を返して歩き去ります。ええ、逃げます。逃げますとも! 

 

何処に行こうというのですか、偽物さん? 

「ぴぃっ!?」

 

 後ろから露出させている肩をがしりと掴まれ、ギギギと恐怖に震えながら振り返ると、わたくしを押さえている大人のわたくし(時崎狂三)とジャガ丸君を受け取って食べている大人のわたくし(時崎狂三)が居ます。

 

「さてさて、ここは何処なのか、貴女は誰なのか、色々と聞きたい事がございますの。ですが、そんな事よりも……貴女はなんでわたくしの幼い姿をしておりますの? 教えてくださいませんか? 教えてくださいますよね?」

「じ、自分と瓜二つの人は世界に三人は居ると……」

「あらあら、名前まで同じなんてあり得ると思っていますの? あり得ません。ましてや……」

 

 前に回り込んだジャガ丸君を食べている方の大人のわたくし(時崎狂三)が、金色の瞳を覗き込んできます。

 

「不思議ですわね。わたくしの幼い姿にあるはずの無い時計盤が埋め込まれている金色の瞳、<刻々帝(ザフキエル)>までお持ちだなんて……あり得ると思っておりますの?」

「せ……」

「せ?」

「戦略的撤退!」

 

 影に潜んで即座に逃げます。ですが、次の瞬間には影から強制的に出させられました。ええ、周りは暗くなっています。

 

「能力もやはり同じですわね。時喰みの城(ときばみのしろ)を利用した影から影への移動もできるようですが……出力が全然なっていませんわ」

 

 全力で逃げます。だってどう考えても殺されます。普通に考えて自分が知らない間に幼い時とはいえ自分の容姿と能力がコピーされ、好き勝手に使われていたら許せるでしょうか? 

 答えは断じて否。そんな気持ち悪い事、許せるはずがありません。特に女性であるオリジナル、時崎狂三だったら許しません。食べられて(殺されて)しまいます。

 

「鬼ごっこですの? 懐かしいですわね」

 

 くるみねっとわーくを使って援軍を要請。即座に皆を集めて決戦の用意をします。一人に停止世界(ザ・ワールド)を発動させて時間を稼ぎます。

 

「あら? これはこれは……世界を停止させましたの? いえ、封印と言った方がいいかしら?」

「なんで動けるんですか!」

「貴女が動けるのに上位互換であるわたくしが動けない訳はありませんわ」

「ですわよね~!」

 

 時の精霊である大人のわたくし(時崎狂三)なら動けると思いました。駄目元でやってみただけですので、急いで解除して角を曲がります。

 

「ばぁっ!」

「ひぃっ!?」

 

 曲がった瞬間にしゃがんだ状態で待ち構えていた大人のわたくし(時崎狂三)が居ました。思わず口から可愛らしい声が上がりますが、瞬時に震脚で地面を蹴って飛び上がり、回避して逃げます。

 

「ですから、何処へ行こうというのですの? 逃げ場なんてありませんわ。わたくしに美味しくいただかれてくださいな」

 

 どんなに逃げてもわたくしが行く先々に大人のわたくし(時崎狂三)が待ち構えており、包囲されておりました。

 

「無駄ですわ。どんなに逃げようとも、わたくしはわたくしを処分する事には慣れておりますもの」

「ああもう! こうなれば自棄ですわ! わたくし達!」

 

 わたくし達を呼び出し、神威霊装・三番(エロヒム)を装備して大人のわたくし(時崎狂三)と対峙します。

 

「あらあら、幼いわたくしが沢山いますわね。これはわたくしも負けておれませんわ。ねえ、わたくし達」

「ええ、その通りですわね」

「きひ、きひひひ!」

 

 沢山の大人のわたくし(時崎狂三)達も出てきます。違いは身長と装備、数の違いです。相手の方が圧倒的に数が多いので、普通にやばいです。アタランテさんを召喚するわけにもいきません。あちらもあちらで世界の危機かもしれませんしね。

 

「「「「「「<刻々帝(ザフキエル)一の弾(アレフ)」」」」」」

 

 わたくしと大人のわたくし(時崎狂三)が同時に使い、身体能力を上げてから突撃します。大人のわたくし(時崎狂三)達は弾幕を回避しながらこちらに突っ込んでくるので、不壊属性(デュランダル)の武器でぶち殺してやります。身体能力はあちらの方が上ですが、そこは技術で対応します。

 

「なるほど、なるほど……武器を使うというのは確かに効率的ですわね。それに技術の研鑽は……記憶でも読みましたか」

 

 大人のわたくし(時崎狂三)の背後から影を移動して大剣を頭部に振り下ろす前に銃口が向けられて、身体を消し飛ばされました。こちらもオリオンの矢を使って纏めて数十人の大人のわたくし(時崎狂三)達を消し飛ばします。

 

「わたくしには無い力ですわね。不思議な力です……面白いです。ええ、面白いですわ」

「わたくしは! 全然面白くありませんわ!」

「まあまあ、そうおっしゃらずに遊びましょう? 八の弾(ヘット)

 

 どんどん数を生み出してくるので必死に殺していきます。五の弾(ヘー)も使って相手に二の弾(ベート)を叩き込むように動いても一の弾(アレフ)で無効化して面白いぐらいに千日手です。いえ、若干こちらが不利です。オラリオの街に被害を出さないように出来る限り立ち回らないといけませんもの。

 

「「本当に厄介ですわね、わたくし!」」

 

 思わず二人で同じ言葉を告げてしまいます。死んだそばから八の弾(ヘット)で数を増やしていきますし、互いに時喰みの城(ときばみのしろ)を展開しており、異空間で時間というパイを奪いあっております。それもわたくしが不利なんですが。

 

「<刻々帝(ザフキエェェェェル)>! 七の弾(ザイン)!」

「<刻々帝(ザフキエル)>、三の弾(ギメル)

 

 一時停止させようにも即座に動かされてしまいます。あちらの小銃とこちらの小銃で殴りあったり、近距離で銃撃をしたり、足を掴まれてたので銃弾を叩き込んで吹き飛ばしたり、斬り殺したり、素手でズタズタに殺されたり、銃で消し飛ばされたり、大量に互いの死体が量産されては消えていきます。

 

「ふ、不毛な事は止めませんか? 話し合いましょう。わたくし達は言葉が話せる人類、いえ……精霊なのですから」

「それもそうですが、精霊なら殺し合う時もありますわよ?」

 

 流石に何時間も殺し合いをしていると、互いに不毛だという事がわかりました。他の人が増援に来ても時喰みの城(ときばみのしろ)の内部では皆さんが時間を吸い取られて死んでしまいます。ですので、増援も呼べません。

 

「士道さんに嫌われてしまいますわよ?」

「あらあら、士道さんがこちらに来ているとでもおっしゃるのですか?」

士道さん(精霊の英雄)なら、精霊が暴れていたらいらっしゃるんじゃないですの? たとえ世界を超えても……」

「……それもそうですわね。十分にあり得そうですわ」

「互いに妥協点を探しましょう。お金なら支払えますから」

「妥協点ですか……わたくしが被害者なのですが?」

「じ、示談金という事で一つ……というか、わたくしもなんでわたくしになったのか知りませんから」

「あら、ご自分の記憶は読んでいませんの?」

「だって怖いですし……」

 

 どう考えてもやばい事間違いなしです。わたくしの出自なんて転移者であり、転生者である事ぐらいしか覚えておりませんし、意味のない事でしょう。

 

「意味の無い事はしませんわ」

「……貴女、思考誘導とかされてませんか?」

「え?」

「貴女の言葉から考えてご自身がわたくしの姿になったのも知らないのでしょう? でしたら、普通は調べますわ。記憶を読むなんて簡単で確実な方法がありますもの。ええ、ええ、わたくしならば絶対にやりますわ。何故やりませんの? 戦い方もほとんどわたくしをトレースしておりますのに。不思議ですわ。不思議ですわ」

「時間の余裕が無かったから……」

「それもおかしいですわね。分身を作るよりはコストが要りますが、そこまで生み出しておられるのでしたら、余裕はあるはずですわ。何時爆発するかもわからない爆弾を抱えながら過ごすとか、頭がどうかしているんじゃありませんの?」

「え、それを大人のわたくし(時崎狂三)が言いますの?」

「良い度胸ですわね。やはりぶち殺してあげましょうか?」

「ごめんなさい!」

「やれやれ……まあ、わたくしからの条件は貴女の記憶を読ませなさい。それでいいでしょう。話はそれからですわ」

「……わかりました。どうぞ」

 

 殺されない可能性があるのならそれで構いませんわ。一応、敵意が無い事の証明として時喰みの城(ときばみのしろ)を解除します。

 

「では、<刻々帝(ザフキエル)十の弾(ユッド)

 

 わたくしが大人のわたくし(時崎狂三)に短銃を突き付けられて衆人環視の前で撃たれました。不思議な感覚ですが、なんとも言えません。大人のわたくし(時崎狂三)は……壊れました。

 

「きひっ! きひひひひひひひひっ! あははははははははは、最高ですわよわたくし! ええ、ええ、やってくれましたわね、わたくし!」

 

 お腹を抱えて思いっきり笑っている大人のわたくし(時崎狂三)についていけません。そうしていると、現実空間に戻ったせいか、周りに人が集まってきます。

 

「クルミ様!」

「狂三! お前何をしてくれたんだ!」

 

 あちらの方から水着のようなお腹丸出しでベルトと鍵つきの首輪をしたリリさんと紺色っぽい黒髪の何処かの学校であろう制服を着た高校二年生の少年が走ってきました。その後ろからは紫色の鎧を着た黒髪長髪の剣士さんと白いウエディングドレスのような恰好をした銀髪の少女さんがやってきました。

 剣士さんの方は夜刀神十香(やとがみとうか)。わたくし、時崎狂三が出てくる『デート・ア・ライブ』のメインヒロイン。精霊であり、識別名は<プリンセス>。容姿は紫色の目に宵闇色の長髪をポニーテールに結い上げています。精霊としての姿は、霊装として紫を基調色としたドレスと騎士の鎧を組み合わせた衣装をまとい、手には大剣を携えておられます。

 性格は健気で純粋無垢かつ直情です。言動は人間社会の経験が少ない故に勘違いによる天然ボケで可愛らしい一方、武人のように戦闘的な対応は冷静かつ凛々しい感じですね。

 士道さんと出会い始めの時は、自衛隊の特殊部隊っぽいASTとの戦闘から人間不信で、人間や未知の物に対する警戒心が人一倍強く、相手に冷たく接していました。士道さんに封印された後、人間社会で学生生活を送るうちに、"世界は敵ばかりじゃない"という事を実感する様になってトゲトゲしさは無くなり、明るく好奇心旺盛に振舞う子犬系女子となりました。

 ウエディングドレスの方は鳶一折紙(とびいちおりがみ)。表情に乏しい精緻な顔立ちをした短めな銀髪です。基本的に淡々とした口調の無表情ですが、同時にアグレッシブでもあるという風変わりかつ極端な性格です。興味の無い相手に対してはとことん無関心を貫いている一方、逆に好意や敵意といったモチベーションが湧いた相手や目的に対してはとてつもない行動力を発揮される困った人です。

 恋愛方面に関しては本人がそれを相手側に伝える事に関して不器用であるため本気と書いてガチの肉食系(プレデター)たる静かな肉食系ヤンデレ。(士道の)浮気相手は全員根絶やしにすれば後はいいらしいです。

 士道さんの情報は身長・体重から詳しい健康状態まで正確に把握しており、さらに彼の実妹である真那さんに「(士道さんの)恋人」と名乗り、自身を「義姉さま」と呼ばせている。

 士道さんが最初に部屋を訪ねた際はメイド服で出迎えたり、大量の精力剤を茶と偽って飲ませた上、突然シャワーを浴びに行ってバスタオル1枚で士道の前に現れたりと、話が進むにつれて奇行が目立つようになっていきました。ヤンデレストーカーさんです。やばいですね☆

 

「あらあら、士道さん。ちょうどいいところにいらっしゃいました」

「何を言っているんだ! 俺達はお前のせいでな……」

「はい?」

「そうだぞ。狂三のせいで大変な目に……」

「狂三。その小さい子は何? どことなく士道と似た気配を感じる」

「何を言っているだ?」

 

「士道さん士道さん。この子はわたくしと士道さんの子供ですわ。認知してくださいまし」

 

 大人のわたくし(時崎狂三)はわたくしを後ろから抱きしめながら、士道さんの方へ向けて爆弾発言をしてくださいました。

 

「「「「はぁああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」」」」

 

 阿鼻叫喚の地獄ですね。皆さんがフリーズした中、大人のわたくし(時崎狂三)はきひひと笑い、リリさんは特に気にせずにこちらにやってきました。

 

「クルミ様が襲われていると聞いてやってきたのですが……お母様だったのですね」

「そうみたいです」

「よかったじゃないですか。ご両親が無事に見つかって」

「そう……ですわね」

「ど、どういう事だ士道!」

「士道……どういう事なの? ねえ、どういう事なの?」

 

 首を掴まれて揺さぶられる士道さんは二人に詰問されていきます。首閉まっていますわね。ここはやるしかありません。

 

「ま、待て! 狂三が言っているだけでなんの事かわからん! だいたい狂三に似ているとはいえ俺は関係ない! 冗談だろう! そうだよな!」

「酷いですわ士道さん! わたくしとあんなに熱く激しい夜を共に過ごしてわたくしの中にそれはもうたっぷりと出されましたのに……」

「嘘じゃない。神である俺達が保証しよう」

「うむ。嘘はついていない。酷い奴だ」

「うわぁ、子供を産ませて認知しないとか最低ね……」

「待って! 本当に待って! 酷い誤解だから!」

 

 激しい夜というのは十香さんを助ける時に軍隊にカチコミした時の事でしょう。確かに熱く激しい夜でした。銃弾や光線が弾幕のように放たれる戦場を突っ切って乗り込んだのですからね! わたくしの中に出したというのは時喰みの城(ときばみのしろ)に取り込んだ時に怪我をした場所から血液でも出したのでしょう。ええ、嘘は言っていません。

 

「……ぱ、パパはわ、わたくしの事を……認めてくれないの……ですか……ぐすっ」

 

 涙を流しながら追い打ちをかけます。幼い女の子のロールプレイをしながら後ろを向いて大人のわたくし(時崎狂三)に抱き着いて顔を隠します。ニヤリとしそうですから仕方がありません。

 

「酷いですわ。酷いですわ。わたくしを守るとか助けるとか言ってくださいましたのに……」

「「「サイテー」」」

「「「鬼畜外道」」」

「「士道~~~!!」」

「俺は無実だぁぁぁぁああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 大人のわたくし(時崎狂三)は優しくわたくしの頭を撫でてくれました。これで死亡フラグは折れましたね。士道さん。ごめんなさい。わたくし……わたくしは時崎狂三派閥なんですの! ええ、時崎狂三と士道さんのカップリングが好きです! ですのでこちらを優先させていただきます。というか、そうじゃないと命も危ないので是非もありません! 

 

「てめぇ、何してやがる」

「べ、ベートさん……」

「ま、まずい!」

「よくもこんな街中で堂々と姿を現してくれやがったなぁ」

「まったくだね。君を拘束させてもらう」

「あら? あなた達は何処の何方でしょうか? 知っては居ますが、会った事はありませんわよ?」

「あぁ? すっとぼけてんじゃねえぞくそ女ぁっ!」

「あらあら、随分と乱暴なワンちゃんですわね? 可愛らしい猫さんに生まれ変わってから出直してくださいまし」

「てめぇえええええええええええぇぇぇぇっ!!」

「狂三ぃぃぃっ! 何煽ってんだぁぁぁぁっ!!」

「待つんだベート」

「フィン! 止めんじゃねぇ!」

「待て! クルミ。彼女は君のなんだい?」

「「母親です? (娘ですわ)」」

 

 大人のわたくし(時崎狂三)と二人でクルミと言われたので答えてしまいました。正直言って意味が分かりません。

 

「すまない。どういう事かな?」

「あらあら、そういえば貴女もクルミと名乗っておりましたわね」

「この姿なのですから当然ですわ」

「なるほどなるほど、確かに勘違いしてもおかしくはありません。ええ、ここは父親である士道さんに名前を考えていただきましょう」

「く、狂三よ! 本当に士道の子供なのか」

「ええ、そうですわ。DNA上、確実にわたくしと士道さんの子供ですわね」

「待て待て、俺は本当にそんな事はしていない! 俺はまだ童貞だ!」

「「「士道……」」」

「くそっ! そんな目で見るなぁぁぁっ!」

「大丈夫。私がすぐに貰ってあげる」

「結構です!」

「えっと、どういう事かな?」

「知るか!」

 

 楽しんでいるみたいですが、大人のわたくし(時崎狂三)は何かに気づいたのか、わたくしを士道さんの方に突き出しました。わたくしはそのまま士道さんに抱き着きます。彼はこんな意味のわからないわたくしでも優しく抱き留めてくれました。

 

「さて、少し用事ができましたのでここでお暇致しますわ。士道さん、その子の事をお願いいたしますわね。本当にわたくしと士道さんの子供ですので、父親としての働きに期待しておりますわ」

「「「まっ!?」」」

 

 大人のわたくし(時崎狂三)は影の中に沈んで消えていきました。かき回すだけかき回して帰っていきました。流石は大人のわたくし(時崎狂三)ですわね。

 

「くそがっ! また逃げられた!」

「まあ、落ち着きなよベート。クルミに色々と聞けばいい」

「別に話してもいいですが、わたくしも本当に知りませんよ? それに今はパパに会えた喜びでいっぱいですからね」

 

 ぎゅ~と抱き着いておきます。まじもんの士道さんですよ、士道さん。ヒャッハーです。十香さんも折紙さんも楽しみです。いやぁ、小説のキャラに会えるとか、最高です! 

 

「ええと、本当に君は俺の子供なのか?」

「知りません。ですが、なんだかとっても安心します」

「……DNA上は士道の子供……私は士道のお嫁さん。だから、私の事はお母さんと呼んで」

「折紙! ずるいぞ! 私の事も……」

「この人達って馬鹿ばっかなんですか?」

「僕に聞かないでくれ。というか、クルミもおかしくなってないか?」

「あ~クルミ様。ここ一週間。事後処理でほとんど寝ずにお仕事されてましたからね」

「何人も居るのにかい?」

「はい。他のファミリアに派遣しているのはそのままに全て同時進行で片付けておられましたから……酒蔵とかもう完成してますし」

「そういえば鍛冶も出来たんだったね。それにさっきまで彼女と激しい親子喧嘩をしていたみたいだし、疲れ切っていても仕方がないのか」

「ですね。ですが、話を聞かなくてはいけません」

「そうだね。ここはロキ・ファミリアに連れて行こう」

「いえいえ、ヘスティア・ファミリアのホームで……」

「いやいや、今回はロキ・ファミリアが請け負っているからね」

「何を言っているんですか。士道さん達を保護したのはリリ達です。ですから、ヘスティア・ファミリアのホームが……」

 

 リリさんとフィンさんがバチバチやってる間に士道さんの肩に登って肩車をしてもらいます。下に居たら十香さんと折紙さんの二人に抱きしめられて色々と大変なので退避です。

 

「これ、本当に琴里になんて説明しようか……」

「おばさんに会うのも楽しみですわ」

「……本当に娘だとそうなるのか……これ、琴里に殺されないか?」

 

 頑張れ士道さん。頑張れ頑張れですわ。大丈夫、精霊を封印できる主人公である貴方様であれば可能ですわ。デレさせてデートでもすれば一発です。しかし、挑発して本物の<灼爛殲鬼(カマエル)>を見せてもらうのもいいかもしれないですわね。

 どちらにせよ、わたくしの出自を知る機会に恵まれたので調べてみましょう。それに何かあったみたいですからね。眠いですが、まあやってやりましょう。

 

 

 

 




空間が破壊されたので士道さん達、デアラ勢が落ちてきました。つまり、アタランテとクルミが悪い。
士道さんは狂三の被害者になったのです。まあ、何時もの事ですね。助けてもらえるのでいい関係だと思います。今回は時崎狂三が回っていた四十回以上の話も少し書いてみたいと思います。


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デート・ア・ライブ リリ達と士道の出会い1

 

 

 

 

 ロキ・ファミリアかヘスティア・ファミリアの場所かで揉めていましたが、折衷案でバベルの塔になりました。ギルドが保有する一室、そちらを特別にレンタルして関係者を集めているようです。

 

「初めまして琴里叔母さん。くるみです。何時もパパがお世話になっております……」

「は? 今なんつったの?」

「こと……」

「わぁわぁぁぁっ!」

 

 口を士道さんに塞がれてしまいました。目の前に居る赤い髪の毛を白いリボンでツインテールにしている中学二年生の美少女精霊、五河琴里。身長145㎝でバスト72、ウエスト58、ヒップ74だった気がします。好きなものはチュッパチャプスで、嫌いなものは怖い話。

 士道さん達が所属している対精霊機関、ラタトスクの司令官。ラタトスクは“精霊との対話による空間震災害の平和的な解決”を目指し結成された秘密結社です。

 ちなみに震災害はこちら側の士道さん達の世界に顕現する際“空間震”と呼ばれる空間の歪みが発生し、世界に甚大なる破壊による被害をもたらす為、人類に災いをもたらす存在として本人の意思に関わらず討伐対象となっています。

 人類は精霊に対抗する手段として「武力による倒滅」を試みていたものの、精霊のもつ絶大な戦闘力によってことごとく失敗に終わり、彼女らの人類に対する敵意や忌諱をより強めるだけの状態に陥りました。

 しかし、主人公である五河士道は、何故か世界で唯一「自らに心を開いた精霊にキスをする事で、その力を封印し無力化する」能力を有しており、それを事前に人から精霊になった五河琴里によって把握していたラタトスク主導の下、「精霊とデートして、デレさせる」という前代未聞の形で、世界と精霊両方を救う使命に身を投じていくことになりました。時崎狂三もそのうちの一人ですね。

 

「士道?」

「その、琴里……この子は……」

「士道と狂三の子供らしいぞ」

「……士道、私とも作ろう……」

 

 琴里さんは無言でポケットからチュッパチャプスを取り出して口に入れ、噛み砕きました。

 

「で? まさか本当に子供なんて言わないわよね?」

「ち、違うぞ!」

「酷いですわ! 認知してくださらないばかりか、子供ではないだなんて……うぅ……」

「嘘泣きは止めなさい。燃やすわよ」

「きゃ~」

「クルミ。真面目にやってくれ。アイズが大変な事になっているんだ」

 

 一発でバレました。まあ、アイズさんが大変らしいので仕方ないです。ちゃんと挨拶をしましょう。リリさんもやれやれと言った感じですしね。

 

「では、改めてましてわたくしはヘスティア・ファミリアの団長をしておりますクルミ・トキサキです。大人のわたくし(時崎狂三)が言うにはわたくしはそちらにおられる士道さんと大人のわたくし(時崎狂三)がご両親のようですわね」

「本当なの? 士道にそんな事はできるとは思わないんだけど……」

「そもそも俺はこっちの異世界に来た事もない! 狂三はわからないけれど、彼女とはデートした事はあってもそこまでの事はしていない!」

「ヘスティア」

「本当だね。うん、神としてボクが認めよう。彼は嘘をついていないよ」

 

 士道さんはほっとしたようです。まあ、本当に士道さんが大人のわたくし(時崎狂三)に産ませたとも思えませんしね。

 

「そう。となるとこの子が……いえ、時崎狂三が嘘をついているかだけど……」

「それは騒ぎを聞きつけて集まってきていた神々が彼女の言葉に嘘がないと保証していました。ですから、リリは間違いではないと思います」

「……そうなると、士道の言葉も時崎狂三の言葉も正しいという事になるわね。そんな事ってあり得るの?」

「あり得るだろうね。ボク達がわかるのはあくまでも嘘をついていないかという事だよ」

「可能性としてはこの子が人工的に作られた生命体であるという事」

「折紙?」

「ああ、なるほど。人工授精とかそんな感じか。それなら士道が知らなかったのもわかるわ」

「ちなみに大人のわたくし(時崎狂三)も知りませんでしたよ。わたくしの記憶を読んで理解されました。その前までは普通にわたくし達は互いに殺し合っていましたから」

「殺し合いって……」

「時崎狂三ならやりそうね」

「間違いなくやる」

 

 琴里さんと折紙さんの言う通りですわ。否定しません。だって、事実ですもの。

 

「だからあんなに殺しあっていたんですか」

「普通に勝てませんでした。まあ、負けもしませんでしたが……どちらかというと、遊ばれていた感じもしました」

「彼女とは実際にボク達ロキ・ファミリアも総員で戦ったが、かなりやられたよ。クルミと似ていたし同じ能力を使っていたのが理解できたからある程度は対処できたけど……強さは彼女の方が上だ。いやらしさや強かさはクルミの方が上だろうけどね」

「失礼ですわよ。ですが……」

 

 大人のわたくし(時崎狂三)よりわたくしが上? 手加減をしていたのでしょうか? 普通にわたくしよりも強いはずですが……まあ、今は気にしなくていいでしょう。

 

「つまり、纏めると時崎狂三も知らない間に自分の遺伝子を使われていたって事ね?」

遺伝子(DNA)というのは何かな?」

「人の設計図という奴だ。一人一人違うんだ。それで子供は両親の遺伝子が合わさってできる」

「なるほどね。つまり、狂三は二人の遺伝子とやらを持っていると……」

「そうなりますわね」

「じゃあ、クルミ。自分で自分を撃てばいいじゃないか。それで記憶が読めるだろう?」

「そうですわね。そうなんですわ……まあ、試してみますか。<刻々帝(ザフキエル)>、十の弾(ユッド)

 

 短銃に記憶を読む弾を込めて撃とうとしますが、身体が震えて撃てません。何か心が拒絶しているかのようです。大人のわたくし(時崎狂三)が言っていた思考誘導というのは事実かもしれませんわね。

 

「リリさん。これでわたくしを撃ってくださいまし。どうやら、わたくしでは撃てないように何か仕掛けられている可能性があります」

「わかりました。行きますよ」

「はい」

 

 リリさんに十の弾(ユッド)が装填された短銃を渡して撃ってもらいましたが……わたくしの身体が勝手に避けました。

 

「……」

 

 無言で何度もリリさんが撃ってきますが、避けてしまいます。

 

「クルミ様?」

「……避ける気はないのですが、勝手に避けてしまいますわね。押さえつけて撃ってくださいまし」

「わかりました」

「流石にやりすぎじゃ……」

「あの、止めた方が……」

 

 壁際に寄ってからリリさんに押さえつけてもらいながら銃口を押し当て引き金を引いてもらう瞬間。いつの間にか影に入っていました。

 

「クルミ様?」

「わ、わかりません。何故でしょう……身体が震えてきました。おかしいですわね……何時も自分で撃っている時はこのような事などないのに十の弾(ユッド)だけどうして……?」

「おそらく、身体が拒絶反応を起こしているのでしょうね。それだけ思い出したくないのか……はたまた思い出したらヤバイ情報なのかもしれないわ」

「ですが、思い出さない限り、わたくしが士道さんの子供かどうかなんてわかりませんわ」

「いや、もう俺の子供でいい」

「「「士道?」」」

「流石にこんな状況の小さい子に無理はさせられない。狂三は知っているんだから、そっちに聞けばいいさ。だから無理はするな」

「……わかりましたわ」

 

 どうやら、確実にわたくしには何かあるようです。これはますます大人のわたくし(時崎狂三)から聞き出さないといけません。教えてくれるかどうかなんてわかりませんけれどね。

 

「士道、私も子供が欲しい。作ろう」

「それとこれとは話が別だ。それよりも彼女の事だ」

「アイズさんの事でしたわね。詳しく教えてくださいます?」

「ああ。どちらにせよクルミには協力を要請しようと思っていた。いざという時は()みたいに頼むよ」

「本当にやばければやらせてもらいますわ。アイズさんはグレイが世話になっていますからね」

「すまない。よろしく頼む」

「では、詳しく説明してくださいまし」

「リリから説明させていただきます。まず士道様達とリリ達が出会ったのは……」

 

 リリさんの説明を聞いていきます。本物の戦争(デート)を間近で見れる千載一遇のチャンスです。ですから、この機会は逃せませんわ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 本日。リリはベル様と共に二人で十八階層にいます。モルド様に『冒険者依頼(クエスト)を手伝えー!』と言われてやってきました。クルミ様は事後処理で動けず、ヴェルフ様も鍛冶の依頼が入っていて動けません。キアラはリヴェリア様とレフィーヤ様のところでお勉強中で、リュー様は豊穣の女主人が忙しいらしいのでそちらのお手伝いです。アタランテ様は外に出た強力な魔物(モンスター)の討伐に赴かれました。

 以上の理由からリリとベル様だけでお手伝いする事になりました。他にもヘスティア・ファミリアの面々を誘う事もできましたが、レベル4のリリとレベル3のベル様が居れば余裕ですから誘う必要もありません。

 実際、簡単に目的のドロップアイテムを手に入れる事ができ、モルド様も依頼人(クライアント)のもとへ行ってしまいました。リリは手に入れた目的以外のドロップアイテムと魔石をリヴィラの街にある元ソーマ・ファミリア、現ヘスティア・ファミリアの拠点へと運び込んでおきました。これで後程クルミ様が地上に運んでくださいます。

 ベル様は街を見たいとの事なので別行動をしていました。リヴィラにはヘスティア・ファミリアに手を出すような人は居ませんし、居てもレベル3のベル様が簡単にやられないので誰かが知らせてくれます。リヴィラの住民もお得意様であるリリ達には手を出しませんしね。

 そんな訳で用事が終わったリリは集合場所である入口に戻ってきました。すると、ベル様が少し離れた場所で眠っておられました。

 

「ベル様、ベル様」

 

 ですので、覗き込むようにして声をかけて起こします。ベル様もすぐに目を開いてくださいました。

 

「……あ、リリ?」

「おはようございます、ベル様。冒険者依頼(クエスト)中に居眠りなんて、とてもとても余裕ですね~」

「あ、ご、ごめんっ! リリとモルドさんを待っている間に眠くなっちゃって……!」

「まあ、仕方がありません。いきなりでしたからね。それで欲しい物は買えましたか?」

「うん。神様がここで買った香水。気に入ってたみたいだから、戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝利と日頃の感謝の気持ちを込めて渡そうと思って……」

「何もこんなぼったくりの所で買わなくてもいいじゃないですか……」

 

 平均で三倍から五倍はしますからね。まあ、リリ達ヘスティア・ファミリアはほぼ原価で売って貰えるんですけど。むしろ、仕入れて十八階層のリヴィラまで運び込んでいるのはヘスティア・ファミリアですから、現地で作られている物以外はここで買う必要なんてありません。

 

「思い出の品だからここでいいんだよ。それよりも、モルドさんはまだ?」

「モルド様でしたら一足先にドロップアイテムを持って依頼人(クライアント)のもとへ行かれてしまいました。『次もよろしく頼むぜ』、ですって」

「じゃあ、冒険者依頼(クエスト)は終わったって事でいいんだよね?」

「はい。後は適当にパーティーに入るか、このまま二人で地上に戻るか、ですが……ベル様、どうなさいますか?」

「二人でも余裕だし、このまま帰ろうか」

「わかりまし──」

 

 

「──■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

 

「──今のは興奮した魔物(モンスター)の遠吠え? 街の外に集まっているんでしょうか? まさか、誰かが襲われて……」

「行こうリリ! 魔物(モンスター)の群れが見える! あの数は普通のパーティーじゃ危ない!」

「は、はい!」

 

 駆けだしたベル様の後を追いながら、リリはガントレットに仕込まれているギミックを起動してクロスボウを展開します。クルミ様が作られた最新式の魔道具になります。装填数はマガジンを設置しなければ三発ですが、マガジンを突き刺せば二十発増やせます。

 小さくしていたマガジンを元の大きさに戻して設置し、前方を走るベル様の援護の為に構えてスイッチの代わりである宝石に触れます。そこから魔力が吸われてクロスボウの前に三つほど魔法陣が展開されます。その状態で引き金(トリガー)を引くと発射された矢は魔法陣を通る事で高速で回転させられながら加速して魔物(モンスター)達を貫いていきます。装填されるそばから撃ち込んで始末していきます。

 

「道が開けました! 行ってくださいベル様!」

「ありがとう! ファイアボルト!」

 

 ベル様が相手に知らせる意味も兼ねて魔法を放ち、襲われている人達に近づいている魔物(モンスター)を消し飛ばしました。ベル様もちゃんと英雄願望(アルゴノゥト)を使ってチャージしてくれていたようで、かなりの威力を出されておりました。

 

「リリも負けてられませんね。贋造魔法少女(ハニエル)

 

 イフリートを戻し、魔物(モンスター)の群れへと突撃します。アポロン様の力をたっぷりと吸ったこの子はとっても元気で炎を常に纏ってとっても危険です。どれくらい危険かというと……リリに耐火スキルが増えるぐらい危険です。

 

 

 

 

 

 



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デート・ア・ライブ リリ達と士道の出会い2

精霊と空間震についての説明もいれておきました。精霊が危険視されている理由です。この辺りはあまり変わっていません。本格的に変わるのはロキ・ファミリア側が終わってからになります。
短いですが、ごめんなさい。


 

 

 

 

「……ドー! シドー」

「ん、んん……」

「シドー! しっかりしろ、シドー!」

 

 十香の焦ったような声が聞こえて慌てて閉じていた瞼を開けると、目の前に広がっていたのは視界一面に広がっている水晶からもたらされる幻想的な光景だった。ある程度は非常識な事に慣れている俺からしても明らかに異常な光景だ。

 

「え……?」

「シドー! おお、目覚めたのか!? 良かった!」

 

 紫色の目と宵闇色の長髪をポニーテールに結い上げている綺麗な美少女。俺が初めてデートして力を封印した精霊*1だ。

 何故かわからないが、俺には彼女達の力を心を開かせて身体接触をする事で封印する事ができる。これは俺が失った記憶に何か関係があるのかもしれない。

 どちらにせよ、空間震*2が起こる場所に彼女達、精霊が現れるので向かって封印している。

 今回も精霊に関する事だと思う。というか、それ以外に原因が思いつかない。もしかしたら、妹の琴里に無理矢理拉致されて精霊が居るであろう場所に連れてこられたのかもしれないが……いや、説明くらいはあるか。

 

「と、十香……? ここはいったい……?」

 

 頭を押さえながら立ち上がり、周りを見るとそこは深い森だった。さっきの光景は木々の間から見えていたようだ。

 

「私にもわからん……まるで見たことのない景色だ。だが、今は大事がなかったことを喜ぼう。シドーが無事で何よりだ」

「お、おお。よくわからないけれど、心配かけたみたいだな……すまん」

「──私の方が心配していた」

「うぉっ!? お、折紙もいたのか!」

 

 やってきたのは俺のクラスメイトである折紙だった。彼女は色々と凄い。うん、色々と凄い。

 

「そう」

「そ、そうか……とりあえず全員、怪我はなさそうだな。良かった」

「油断しては駄目。目に見えない場所を負傷している可能性がある。放置していては危険。早急に調べるべき」

 

 そう言って俺に近づいてくる折紙。どことなく嫌な感じがする。

 

「へ? 調べるって、どうやって……」

「さしあたって、服を脱いでもらう」

「ちょっ……!? 折紙、大丈夫だから! なんともないから!?」

 

 こちらに接近してくる折紙の視線がかなりやばい。いや、ある意味では普段通りの行動だ。

 

「こ、こら折紙! シドーになにをする!?」

「邪魔をしないで。士道に何かあったらどうするの?」

「な、なんだと……?」

「素人が判断しては危険。何かがあってからでは遅い。十香も協力して」

「むぅ……それは困るぞ。一体何をすればよいのだ?」

「まず服を脱がせる」

「な、なるほど……」

「騙されるな十香ぁぁぁぁっ!」

 

 顔を赤らめながら寄ってくる十香に必死に声をかける。助けを求めるために視線を周りにやると、森の中にぼぉっと立っている一人の少女を見つけた。

 

「…………」

 

 彼女は水銀のような色の瞳をしていて、髪を後頭部で結い上げている。右手首と右足首に引き千切られた鎖の付いた錠を付けていて、お腹や肩を丸出しにして短いズボンを穿いている。

 

「ん? あれは……耶倶矢(かぐや)!?」

 

 何か違和感があるが、耶倶矢で間違いない。

 

「私は……あれ?」

「耶倶矢! お前も来ていたのか!」

 

 心配なのもあったが、これ幸いと折紙と十香から逃れるのも兼ねて彼女の下へと走る。

 

「……士道? どうして私、こんなところに……え? あれ? 夕弦……は? え、えっ!? 夕弦っ、夕弦!? なんで、どうしていないの!? なんで私ひとりだけ……!? 何が起こっているの!? 夕弦ー!?」

 

 耶倶矢は自分の分身である夕弦が居なくて取り乱しだした。これは仕方が無い事だ。彼女は双子の精霊……いや、厳密には双子ではなく同一人物だ。元々は八舞という1人の精霊だったが、何度目かの現界、こちらの世界に来る際に二人に分裂し、現在のような状態になった。どちらが吸収されて真の八舞として残るかを決めるため幾度も争っているが、実際は互いが互いを大事に想っており、相手を残すためにそれまでの勝負でも実はわざと負けようとしては失敗していた。そこを俺が封印してどうにか納得させて二人で双子の精霊として過ごす事になった。それからは常に彼女達は一緒に居る。

 

「しっかりしろ、耶倶矢!」

「そうだぞ、耶倶矢! 落ち着くのだ!」

「そう。息を吸って。ゆっくり吐いて。それでも駄目なら士道の胸に顔を埋めて、深呼吸するといい」

「何を言っているんですかねぇ折紙サン!?」

「……! ごめんなさい。無神経だった」

「い、いや、わかってもらえれば……」

 

 意外にあっさりと理解してくれた折紙にちょと違和感を感じる。

 

「それをしていいのは私だけということ?」

「やっぱりわかっていなかったな!?」

「みんな……ごめん、取り乱して。変な場所にいて、夕弦もいなくて、私……」

「いや、耶倶矢たちは双子の精霊だからな。取り乱すのもしょうがない。不安だろうけれど、まずは状況を把握するのに力を貸してくれ。俺達もここがどこなのか、何なのか、どうしてここに居るのかもわかっていないんだ」

「う、うん……ごめん、士道……」

 

 耶倶矢も落ち着いてくれたようなので、改めて周りの森を確かめてみる。他に誰か来ているかもしれない。それこそ、夕弦や四糸乃、琴里だって来ている可能性がある。

 

「どうやら、ここにいるのはこれで全員……みたいだな」

 

 軽く探してみたが、俺達以外には誰も居なかった。

 

「おそらく。少なくとも、周囲から霊力は感じない」

「霊力……あ。そういえばみんなのその格好は……霊装だよな? 一体なんで……」

 

 封印されているから、ストレスで感情が高まったりしない限りは霊装を身に纏う事はない。だというのに十香は紫を基調色としたドレスアーマーを身に纏い、折紙は頭部を囲う浮遊するリングから流れるベールと白いドレスとスカートでウェディングドレスのような恰好をしている。耶倶矢は全身に張り巡らされたベルトと片手足首の錠、南京錠に鎖付きの首輪と、ボンデージに近い衣装になっていた。

 

「うむ。先程から力がみなぎっている感じだ」

「そういえば、士道に力を封印される前みたい……」

 

 十香と耶倶矢の言葉を受けて俺の身体に流れる霊力の経路を確認してみるが、異常はない感じだ。

 

「俺の方はなんともないけど……」

「おそらく、士道が原因とは違う」

「え?」

「うむ。なんというか……シドーから力が逆流しているのとは違う感覚だ。この場所そのものに力が満ちているというか……ここに居ると力が溢れる感じだ!」

「霊力みたいな力がここには充満しているってことか……? いや、でも、そんなこと……」

 

 あり得るのか? 今までこんな事はなかったし、琴里達からも聞いたことがない。

 

「腑に落ちないのは私も同じ。けど、何もわからない今の状況において、霊力があるのは心強い」

「……そうだな。とりあえず、ここがどこなのか手がかりを……」

「──■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

 いきなり咆哮が聞こえてそちらを見ると、目が赤く光っている巨大な熊や巨大なカマキリといった明らかに異常な生物が森の奥から俺達を目指してどんどんこっちにやって来ているのが見えた。

 

「っ!? な、なんだアレ……!?」

「巨大な熊……いや、本当に熊なのか? それに昆虫の化物もいるぞ」

 

 緑色をした巨大なムカデやクワガタのような生物が金属のような音をハサミから鳴らしている。十香が言っている通り、色んな巨大生物が捕食者のような目で向かってきている。

 

「……明らかに異様な生物。私達が知る生態系ではないことは確か」

「ちょっと、どーなってんの!? 本当にここ、どこなのよー!」

「っ! 来るぞ!!」

 

 そう思った瞬間。風切り音が聞こえて俺達に迫ってくる怪物達を何か銀色の物が貫いた。貫かれた怪物は黒い霧となって消えて、何かを落としていく。それが立て続けにおきた。

 

「ファイアボルトォォォォッ!」

 

 更に声が聞こえて炎の塊が飛んできて怪物の集団を纏めて焼き払ってしまった。そこに白い髪をした同じ年齢であろう少年が俺達の前に飛び込んできて、化物に向かってナイフを構えた。

 

「大丈夫ですか!?」

「あ、ああ……無事、だけど……」

「──■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

 答えている間にも奥からどんどん溢れてくる。白髪の少年がナイフを持ちながら動き回って怪物を倒していく。そんな中、大きな熊が走ってきてジャンプした。その熊は明らかに有り得ない距離と高さを飛び、こちらに迫ってくる。

 

「シドー」

「大丈夫」

 

 十香が声を上げたけど、それを折紙が止めた。その瞬間、空から炎が降ってきた。いや、文字通り炎だった。

 回転する炎は熊を上から強襲してあっさりと切断して地面に激突。火柱を作り出して周りに居た怪物達を焼き払う。

 

「うわぁ、火力増えすぎですよ……」

 

 火柱の中に何処か見覚えがあるような白い衣装を身に纏い、これまた何処か見た事があるような巨大な戦斧を持った小さな女の子がそこに居た。

 

「「「琴里……?」」」

「はい?」

 

 戦斧が振るわれて炎が吹き飛ばされ、そこに居た女の子の姿が見えた。それは妹の琴里とは違う女の子だった。だが、装備と服装は同じデザインだと思える。文字が刻まれていたりといった細部は違うけれど、限りなく似ている。炎を扱うところもそっくりだ。

 

「リリ! そっちは任せていい?」

「はい。こちらはお任せくださいベル様。貴方達はまだまだ魔物(モンスター)が来ますので下がってください!」

 

 白髪のベルと呼ばれた少年は怪物達を殺しながら、奥へと進んでいく。リリと呼ばれた琴里と同じ装備をした女の子は俺達に近づいてきた怪物を瞬殺していく。

 

「も、魔物(モンスター)……?」

「おお……あやつ、強いな! とても素早いぞ。まるでテレビで観た兎のようだ!」

「それよりも、炎を放出している……? 見たところ精霊ではない。魔術師(ウィザード)でも……彼は一体……」

「こっちの琴里みたいのは私達と似た力だな。あの武器から強い精霊の気配と彼女自身からは弱い精霊の気配を感じるぞ」

「確かに人の気配がほとんどだけど、微かに精霊の気配もする」

 

 琴里が俺達をここに送り込んだというのなら、今回の相手はリリと呼ばれた彼女になるのかもしれない。

 

「もぅ駄目、私、頭パンクしそう……あぁ夕弦~……」

 

 耶倶矢がだいぶ限界みたいだ。それでも戦っている二人の邪魔になるような事はせず、大人しく下がってくれている。

 十香と折紙は何時でも助けに入れるように準備をしてくれているし、危険はないだろう。二人がその気になったらすぐに殲滅できるからな。精霊の力を使えるみたいだし、警戒はして見学をしよう。出来れば二人からここが何処なのか教えて欲しいし。

 

 

 

 

 

*1
俺達の世界とは異なる隣界に存在する謎の生命体。その発生原因や存在理由は謎に包まれているが、絶大な戦闘能力を有する上、こちらの世界に現れる際に空間震という大爆発を引き起こすため、人類からは特殊災害指定生命体とされ、天敵として恐れられている。地上での実体は存在し食事も普通に出来たり、流血をする描写から身体の構造は人と大差はない模様。個体によってその姿は様々だが、共通点として強大な戦闘能力を持つ、若い女性の姿をしていることなどが上げられる。そしてその身を護る絶対の盾・霊装を身に纏い、それに対を成す最強の矛たる武装・「天使」を有している。「天使」は“形を持った奇跡”とも呼ばれ、旧約聖書、生命の樹の10大構成要素セフィラの守護者に由来した名を持つ。霊力で編まれた鎧である霊装は堅牢な防御力を誇り、物理攻撃はおろか顕現装置による攻撃でもほとんどダメージを与えることは出来ない。天使の形や能力は個体によって異なる。人類が精霊に対抗する手段は武力による倒滅か(士道による)対話のみであるが、両方とも非常に困難を極める。

*2
発生するとその爆心地に存在する建物や地面などは巨大なクレーターを残して跡形も無く消滅し、その周辺は爆発によって甚大な被害が生じる。爆発の規模は精霊によって大きく異なる。30年前、ユーラシア大陸の中央(当時のソ連・中国・モンゴルを含む一帯)が一夜にして消失し1億5000万人の死傷者を出した〈ユーラシア大空災〉を皮切りに世界各地で小規模の空間震が頻発した(地球上の全大陸・北極・海上、さらには小さな島々でも確認された)が、その6カ月後に東京都南部から神奈川県北部にかけての一帯で起こった〈南関東大空災〉を最後に一時は途絶えていたものの、5年前から士道達の住む天宮市周辺で再び発生し始めた。しかし、なぜか狂三だけは空間震が途絶えていた頃にも関わらず7年も前からこの世界に現界していた。空間の地震の名の通り、爆発する直前に“余震”が起こる。精霊の存在を知らない一般人にはその発生原因は知らされていないが、〈ラタトスク〉やASTなど精霊の存在を知る者たちは隣界に存在する精霊が、こちらの世界に現界する際に発生する空間の揺らぎによって発生する大爆発とそれによる被害と認識していたが、空間震を発生させずに精霊が現界(静粛現界)することもあるため、その発生原因は謎に包まれている。なお、精霊の中には自分の意思で空間震を発生させる者も存在するが、同規模の空間震を同時にぶつけると相殺することが出来る。



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デート・ア・ライブ リリ達と士道の出会い3

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

「ベル様。お疲れ様でした。怪我はありませんか?」

「うん。僕は大丈夫だよ。リリも援護してくれたし、使わなかったけどヴェルフがくれた保険の魔剣もあるしね」

 

 どうやら戦闘が無事に何事もなく終わったようだ。それにしても、リリと呼ばれた女の子の方は精霊の力を感じるから戦えるのはわかるけれどベルと呼ばれた白髪の少年は人間を止めているような動きだ。まるで魔術師(ウィザード)のようだ。だけどそれはありえない。

 魔術師(ウィザード)は現代の魔導士とも言われる彼等は頭部に直接、脳波増幅器を埋め込む事で顕現装置(リアライザ)を扱えるようになる。これでによって魔法のような現象を扱え、精霊に対抗できる。その対抗するために作られたCR-ユニットを扱っている感じでもない。そもそも脳にかなり負担があるらしく、最悪死に至る。

 彼の様子を見る限り、そんな無茶をしているようでもないし、精密機械のようなCRユニットではなくナイフのような原始的な武器を使っていることからもそれがわかる。

 

「それより……」

 

 彼等がこちらに向かってきたので、まずは俺の方からお礼を言わせてもらおう。折紙達には任せられないし、こういう時は男である俺が前に出るべきだ。

 

「……助けてくれて、ありがとう。俺は五河士道という。それで、助けてもらったばかりで悪いんだが……ここは、なんなんだ? 教えてくれないか?」

「え?」

「あの、ここが何処か知らないんで入ったんですか?」

 

 驚いた表情の彼と呆れた表情をした彼女の姿を見る限り、彼等にとって常識なんだろう。どうやら、本当に俺達が知らない世界なのかもしれない。七罪(ナツミ)に化かされている可能性もあるが、いくら彼女でもこんな冗談ですまない事は前はともかく、今はしてこないしできない。

 

「うむ。我等はここの情報を全く持っていないのだ。だから教えてくれ」

「えっと……ギルドの人達に止められませんでした?」

「そもそも私達はいきなりここに来た」

「という事は転移トラップでも踏んだんですか?」

「転移トラップというのがあるのか?」

「滅多に無いですが、ダンジョンの中にあるとは聞いたことがあります」

「待って。今、なんて言った?」

「ですから、ダンジョンの中には……」

「ダンジョン? ダンジョンって言ったか?」

「言った。士道の言葉に間違いはない」

「そりゃ、ここはダンジョンですから間違いじゃないですよ」

「えっと、ちょっと待ってくれ」

 

 彼と彼女の言葉を整理すると、ここはダンジョンらしい。ダンジョンというのはアレだ。RPGとかでよくある宝を求めて入り、魔物(モンスター)と戦闘して経験値やお金を稼いでいくアレか。

 

「もしかして、さっきのは魔物(モンスター)か?」

「そうですよ」

「そんな事も知らないでダンジョンに入ってきたんですか?」

「いや、だからいきなりきたんだって」

「……もしかして、気が付いたらここに居たんですか?」

「さっきから士道はそう言っている」

「そんな馬鹿な……」

 

 あまりに現実離れしているので、こちらの事を説明していく。十香や折紙と学校から帰宅している最中、いきなり目の前が真っ暗になって気が付いたら森の中に居た。それを伝えると、彼はなんとも言えない表情になった。彼女の方は……何かを考えこんでいる。

 

「ベル様、ベル様。ありえますよ」

「リリ?」

()()()()が似たような状況でこちらにやって来られたらしいですから、彼等もその可能性がありま……」

「今、狂三って言ったか!?」

「は、はい」

「それって時崎狂三か?」

「はい。順番は逆ですが、クルミ・トキサキです」

「彼女なら僕達が所属しているファミリアの団長をしています」

「「「っ!?」」」

 

 狂三がここに居るのなら、全ては彼女の企てかもしれない。狂三ならやりかねない。だけど、団長というのが意味が分からない。狂三なら対外の事は一人で全てやってのける。何か、違和感がある。

 

「あやつがいるのなら、会ってみればよいのではないか?」

「確かに。何か情報を握っているはず」

「そうだな。それで他にも教えてくれないか? さっき、君が使っていたのはなんなんだ? 確か、ファイアボルトとか言ってたような……」

「それは僕の魔法ですね」

「魔法……」

「そちらの質問ばかりなので少し待ってください。こちらも聞きたい事があります」

「そうだな。わかった」

「じゃあ、僕から質問ですけど……学校ってなんですか?」

「え? 学校は……学校だろ?」

「士道。ここは私達の常識とは違う。最初から説明した方がいい」

「そう、だな……わかった。学校というのは……」

 

 俺達が普段暮らしている場所など、懇切丁寧に説明していく。互いに質疑応答をしていく事で最初からかなりの齟齬があった事が判明した。

 

「魔法、魔物(モンスター)、ダンジョン……ああもう、頭がこんがらがりそうだ。明らかに俺達の世界とは違う。十香達が言うには隣界とも違うらしいし、ここは俺達の世界とは完全に違う異世界だっていうのか……?」

「えっと、僕らも士道さんたちの世界のお話を聞いても正直、よくわからないというか……」

「ああ、悪い……お互い様ってことだよな」

 

 彼からしたら俺達の世界の事を話されても俺と同じ状況だろう。

 

「なんだか、すみません……士道さんたちの力になれそうになくて……」

「いいよ、そんなの。助けてくれただけで十分さ」

 

 それにまだ手掛かりは残されている。狂三が居るようだし、彼女が持っている琴里の霊装によくにた服装と同じくよく似た天使の<灼爛殲鬼(カマエル)>という武器を持っている。それについても聞きだしたいところだ。

 

「それと……“さん”なんてつけなくていいぞ?」

「え?」

「なんか、くすぐったいっていうかさ……あんまり同年代のやつに“さん”付けされるのに慣れてないっていうか……」

「あっ……す、すみません、士道さん……!」

「ほらまた」

「あ……ご、ごめん、士道……僕の事はベル・クラネルです。ベルと呼んでください。こっちは……」

「リリはリリルカ・アーデと言います。クルミ様の知り合いであれば無下にはできません。地上までリリ達がご案内いたします」

「ベルとリリルカといったな! よろしく頼むぞ! 私は十香だ!」

「私は折紙。この世界で初めて会った人が友好的でよかった。情報を聞き出すのに手間がないのは助かる」

「……一応聞くけど、友好的じゃなかったらどうするつもりだったんだ?」

「指を」

「止めて! 聞きたくない!」

「あはは……」

「ベル様。この人達は良い人でクルミ様のお知り合いかもしれませんから、ある程度は構いませんが……ご自身の魔法やスキルについて話すのは無しにしてくださいね。もうベル様も大手のファミリア、その一角になったヘスティア・ファミリアの副団長なんですからね。魔法やスキルなんて秘匿すべき機密情報なんですからね!」

「うっ……ごめん」

 

 どうやら、この世界では魔法やスキルは機密情報らしい。俺達の世界でも個人情報は大事に扱われているが、ベル達の場合は直接命に係わるからだろう。ベルのように良い人ばかりじゃないだろうしな。

 

「んあー!! んああああああああああああああああああああああああーっ!!」

「―わっ!?」

 

 いきなり耶倶矢が雄叫びを上げて暴れ出した。もしかして、我慢の限界がきたのかもしれない。

 

「やっぱり夕弦がいないと落ち着かないー! 怖い! 不安! 夕弦! 夕弦ー!」

「び、びっくりしました……どうなされたのですか、彼女は?」

 

 両手で頭を押さえて叫びながら動き回る耶倶矢にリリルカが心配そうに聞いてくる。知らない人からしたら、確かにやばい状況だ。

 

「ああー……耶倶矢は双子の精霊でさ。夕弦っていうのは耶倶矢の半身みたいなものなんだけど……なぜかこの世界にはきていないみたいなんだ。異世界なんて場所も相まって、情緒不安定になっているんだと思う……さっきまでふさぎ込んでたしな」

「なるほど……まぁ、気持ちはわからなくもないですが……」

「──ん?」

 

 耶倶矢が何かに気付いたようで、リリルカの方を見る。

 

「──ん?」

 

 それはもう、じろじろと見て彼女の周りを周回していく。

 

「な、なんですか? リリのことを、じろじろ見て……」

「おりゃ──―!!」

「ギャア──―ッ!?」

 

 風の精霊である耶倶矢がいきなり突風を発生させてリリルカを風の防壁で囲んでしまった。

 

「り、リリー!?」

 

 ベルの声が響いた後、すぐに風が霧散して彼女の無事は確認された。いや、無事ではない、のかもしれない。

 

「なっ──なんじゃこりゃああああああああああぁぁぁぁっ!? 

 

 リリルカの姿は琴里の霊装のような姿から耶倶矢の霊装……ボンテージのような露出が多い姿に変化していた。首輪についた南京錠や手枷などもしっかりとある。

 

「なんですか、なんなんですかっ、何が起こったんですかぁーっ!? とりあえず、ベル様っ、士道様っ! 見ないでくださぁーい!!」

 

 身体を抱きしめて肌を隠す彼女に俺とベルは視線を逸らす。

 

「ふははははは!! 他人の衣装を霊装のように弄るのは初めてだったが、上手くいったようだな!」

「なに訳のわからないことを言っているんですかぁ!? 何なんです、この恥ずかしい恰好!?」

「かか、光栄に思え! 八舞の霊装<神威霊装・八番(エロヒム・ツォバオト)>とはいかぬが、伝説級の装身具<颶風具足(シュトゥルム・パンツァー)>であるぞ。その装身具を身に纏ったからには、貴様は我の仮初の半身となることが運命づけられた!」

「だから、訳がわかりません!! なんでリリが、そんなこと!?」

「うむ……それは……ほら、あれよ。夕弦ほどでないにしても、なんか私と似てる気がしたから。声とか?」

ふざけんな──っっ!! クルミ様みたいな愉快犯ですかぁぁっ!! 

「おお……背格好はともかく、夕弦の装いと瓜二つだ!」

「び、びっくりしたな……十香達が自分の霊装を変えられることは知っていたけど……」

「きっと、この世界だから。霊力が溢れているせいで、あんな芸当も可能。私も試してみようと思う。士道、ちょっとそこに立って」

「いやだよ! 何の恰好をさせる気だ!?」

 

 急いで折紙の下から逃げて、少し離れた所に移動していたベルの下へと移動する。

 

「ははは……大丈夫ですか?」

「ああ、慣れているからな。慣れたくないけど……まあ、でも、ありがたいな」

「え?」

「くかかかっ! 我が半身として、せいぜい邁進するがよいぞ!」

「アホなんですか、この人──っ! 離してくださーいっっ!」

 

 落ち込んでいた時とは違い、元気ではしゃいでいる何時もの耶倶矢の姿が見える。

 

「リリルカ、って言ったか? あの子のおかげで、いつもの耶倶矢に戻ったみたいだ。よっぽど相性がいいみたいだな」

「確かに、似てるような気はするけど……」

「折紙じゃないけど、最初に会ったのがベル達でよかった。正直、さっきまでは俺も不安だったけれど、少しは前向きになれた」

「夕弦達も待っているだろうし……元の世界に戻る方法をみつけたい。もし迷惑じゃなかったら、力を貸してくれいないか、ベル?」

「もちろん! クルミの所に案内したらいいんだよね?」

「ああ、それで頼む。狂三なら俺達に何が起きたのか知っていると思う。知らなくても彼女の力は情報収集や戦闘などとっても助かる」

「知ってるよ。僕も何度も助けてもらったから」

「そうなのか?」

「うん……」

「──■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!」

 

 ベルと話している最中にまた魔物(モンスター)の咆哮が聞こえてきた。森の奥を見ると、こちらに続々とやって来るのが見えた。

 

「……!! また魔物(モンスター)とやらが出たぞ!」

「さっきよりも数が多いです! 気を付けてください!」

「くく、我が半身と巡り合えた刹那に現れるとは運のない化物どもよ……」

「か、耶倶矢様……?」

「かか、今の我々は久方ぶりに全力で暴れられるぞ! <颱風騎士(ラファエル)>!」

 

 耶倶矢がこちらに向かってくる魔物(モンスター)を相手取るために天使を発動させる。身の丈を有に超える巨大な突撃槍穿つ者(エル・レエム)を振り下ろして生み出した暴風によって魔物(モンスター)を吹き飛ばしていく。

 

「私も行くぞ! 先程はベル達に助けられてしまったからな!」

「士道達は下がっていて。私達で十分」

「<鏖殺公(サンダルフォン)>!」

「<絶滅天使(メタトロン)>……」

 

 十香が巨大な剣が納められた玉座の天使を召喚し、大剣を引き抜いて魔物(モンスター)を斬り倒していく。

 折紙は無数の細長い羽状のパーツで構成される光の王冠をターゲットの頭上に移動させる。そこで無数の光弾をばらまきながら回転させ、ばらまかれた無数の光弾により広範囲飽和攻撃を行って一気に殲滅していく。()()()()()()()()()()()()ことになってしまっている。

 

「す、すごい……あの数の魔物(モンスター)を次々に……」

「十香様達の力……<天使>でしたか? あまりに規格外です。これではまるで……クルミ様の<刻々帝(ザフキエル)>みたいです。やはり知り合いというのは間違いではないんでしょうか? どちらにしても、力は第一級冒険者並みでまだまだ余裕がありそうですね……」

 

 リリルカから気になる言葉が聞こえてきたが、その直後に地面が何度も跳ねた。

 

「なんだ!?」

「これは……地震?」

「……本当にそうなのか? まるで世界そのものが揺れているような……!」

「ちょ、ちょっとちょっと! 何か嫌な予感しかしないんだけどぉ!?」

「べ、ベル様! う、上を見てください!」

 

 上を見ると黒い塊が二つ、降ってきた。

 

「あれは……そんな……!?」

「なんで……どうして、あの魔物(モンスター)が……って、折紙様ぁぁぁぁぁっ! 壊しすぎですぅうぅぅぅぅっ!!」

 

 

 

「ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!」「──■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!」

 

 

 

 

 二人はあの降ってきた。黒い巨人と黒い骨の恐竜を知っているみたいだ。というか、折紙のせいみたいだ。大丈夫なのかこれ、一体どうなるんだ? 

 

 

 

 

 

 

 




テッテレー!

リリルカ・アーデは伝説級装備<颶風具足(シュトゥルム・パンツァー)>を手に入れた!


折紙の<絶滅天使(メタトロン)>による攻撃。ダンジョンは修復不可能なダメージを負った。

ダンジョン「また貴様等かあぁあああああぁぁぁぁっ!」

ダンジョンはジャガーノート・ゴライアスを召喚した。

神と似たような力を感じたダンジョンさんおこですよ、おこ。


敵陣営
ベル・クラネル レベル3
リリルカ・アーデ レベル4+イフリート+<颶風具足(シュトゥルム・パンツァー)>(レベル1~2上昇)
五河士道 レベル0 <鏖殺公(サンダルフォン)><絶滅天使(メタトロン)><灼爛殲鬼(カマエル)><颱風騎士(ラファエル)>……など。一部使用可能かもしれない。
十香 レベル6 )<鏖殺公(サンダルフォン)>(なんでも斬れる天使レベル+4)
折紙 レベル6 <絶滅天使(メタトロン)>(広範囲高火力殲滅天使レベル+4)
耶倶矢 レベル6 <颱風騎士(ラファエル)>(高火力単体射撃……夕弦がいないために使用不可。レベル+2)

味方陣営
ゴライアス・ブラック
ジャガーノート・ブラック


精霊達は全力全快戦闘でのステイタスです。こいつら、天使の能力がやばすぎるので。<刻々帝(ザフキエル)>がいかに戦闘タイプじゃないという事がわかりますね。実際問題……精霊は神の力(アルカナム)と同じような力が使える者達なので、これくらいは強いと思われます。そもそも精霊なので時空震を起こしたらそれだけでもう……やばいです☆
攻略方法? デートしてデレさせましょう。まさにデート・ア・ライブ。生死をかけたデートをするのです黒ゴラ君、黒ジャガ君!

「orz」「きゅーん」

か て る か !



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デート・ア・ライブ 精霊達とロキ・ファミリア1

感想、お気に入り登録、高評価、誤字脱字報告ありがとうございます。大変助かっております。これからもよろしくお願いします。


 

 

 

 

 

「わわわわわっ!? なんだっ、なんだ!? 地震!?」

 

 バベルの前に居ると、急激に地面が揺れて胸が痛いので押さえる。まるで下から突き上げるかのような連続する振動──

 

「いや、これは……ダンジョンが震えてるのか? まさか、どっかの馬鹿な神がダンジョンに入った!?」

「かもしれへんな。こないだもどっかの馬鹿神が二人も入ってえらい事になったしなぁ」

「ロキ!? どうしてここに……というか馬鹿神とはなんだい!」

「うっさい! 自分でも言っとるやん!」

「は、反論できない……」

 

 ボクは実際に少し前、ベル君を助けるために迷宮(ダンジョン)に入ったのだから、ロキの言葉を否定する事は出来ないんだよね。後悔も反省もしていないけど。

 

『──都市内に存在する全ファミリアに通達! ギルドは強制任務(ミッション)を発令します! これよりロキ・ファミリアとヘスティア・ファミリアを除き、一般冒険者のダンジョンへの立ち入りは禁止! ロキ・ファミリアとヘスティア・ファミリアは速やかにダンジョン内にて原因の捜索と排除の任についてください! 繰り返します。ギルドは──』

強制任務(ミッション)!?」

「どうやら迷宮(ダンジョン)に入っただけやなくて、どっかの馬鹿は迷宮(ダンジョン)内部で神の力(アルカナム)を使ったようやな。一番の被疑者はヘスティア・ファミリアの団長であるクルミたんやねんけど、その辺りはどうなん?」

「あ~クルミ君ならホームで必死にお仕事中だよ。何徹目だったかな?」

 

 ここ一週間。ほとんど寝てないはずだ。戦争遊戯(ウォーゲーム)の事後処理にかこつけて色々と他の事業も纏めて作業をしているからね。ギルドへ出す申請書類だけでも馬鹿みたいにある。それに税金関係の事でギルドとやりあったりしているしね。

 

「分身が迷宮(ダンジョン)に居るなんて事は……」

「無いね。今回はガチで彼女も事務処理に全力を出してる。護衛も普通に高レベル冒険者をあてるぐらいだ。リリ君やキアラ君の護衛ですらだよ?」

「あ~そこまで人手不足っちゅう事は流石にありえへんか」

 

 ボクとロキはギルドへと向かいながら話をしていく。

 

「ドチビの所は誰を出せる?」

「あ~ベル君とリリ君は迷宮(ダンジョン)に居るはずだよ」

「……なあ、うちはもう一人被疑者になりえそうな子を見つけてもうてんけど……なんや、アポロンを送還するついでにクルミたんが何かしとったってグレイたんから聞いたで?」

「あははは、リリ君なら大丈夫……じゃないね。うん。だって、彼女が持ってる武器はクルミ君とヘファイストス達が作り上げた神造兵器で、そこにアポロンの神の力(アルカナム)が注ぎ込まれていたら……」

 

 流石に神の力(アルカナム)を変質させて使っているのだろうけど、それを迷宮(ダンジョン)が誤認する可能性もあるわけで──

 

「「ありうる」」

 

 ボクとロキの意見は残念ながら一致してしまった。これはボクの方からもメンバーを送った方がいい。

 

「ダフネ君!」

「はい。なんでしょうかヘスティア様」

「豊穣の女主人に居るリュー君をすぐに呼び出して完全武装でロキ・ファミリアと共に迷宮(ダンジョン)に潜って原因を調査するように伝えてきて。ヒュアキントス君と君達はキアラの護衛をお願い。ロキのところからリヴェリア君達も行くだろうしね」

「当然や。うちも全員を出す。ギルドの前に集合するよう言っておいてや」

「わかりました。すぐに伝えてきます」

 

 ダフネ君が行ったので、これで大丈夫だろう。ボク達も一応、ギルドに詰めておこうかな。

 

「ロキ!」

「おお、フィンか。準備は……できてるみたいやな」

「一応、即応できる者達だけを集めてきた。僕達はこれから迷宮(ダンジョン)に潜る。場所はわかるかい?」

「わからん」

「それは大丈夫だよ。でかいのが生まれてると思うから、盛大に暴れている場所に向えばそこに原因が居るはずだよ」

「了解した。総員、行くぞ!」

「一応、ボクのところからもレベル5を出す。迷宮(ダンジョン)にベル君とリリ君が居るから二人と合流してくれ!」

 

 手を上げてから迷宮(ダンジョン)に潜っていった。彼等を見送っていると、ボクにぼふっと抱き着いてくる子が居る。そちらを見ると、キアラ君だった。どうやら、リヴェリア君達がついでに連れてきてくれたようだ。

 

「……キアラも行く……」

「駄目だよ。邪魔になるしね」

「……むぅ……」

「大人しくボクと一緒にギルドで待っていようか」

「ん」

「お菓子でも奢ったるから、あっちでのんびり待ってようか」

「ちょっと! どこなのよ、ここは!?」

「「ん?」」

 

 声が聞こえてそちらを向くと、赤色の髪の毛を黒いリボンで結んでツインテールにした見た事がないような服装をした女の子が立っていた。

 

「いきなりわけのわからない場所に放りだされて……何が起こってるの!!」

「ん!」

「キアラ君?」

 

 キアラ君がボク達からいきなり離れて彼女に突撃していった。

 

「ちょっ!? な、なんなの!?」

「……火の精霊、捕まえた……」

「は? 何を言って……」

「なんの事かしら?」

「嘘やな。はい、確保~!」

「っ!?」

「ちょっと事情を教えてくれるかな、精霊君。大丈夫、ひどい事はしないよ。話を聞くだけだ」

 

 拡声器で呼び出されていたボクの眷属達も集まっていたので、ヒュアキントス君達にお願いして包囲する。

 

「あんた達が私をここに拉致した連中って事?」

「違うよ。ボク達はこの街を管理監督しているところから、依頼を受けて動いているんだ。今、ちょうど事件が起こっているんだ」

「そこに現れたキアラたん曰く、炎の精霊や。精霊なんてよっぽどの例外が起こらん限り、この世界にはほぼおらん。だから、事情を話してもらう。そっちも先の言葉を聞く限り、なんもわかってへんのやろ? 情報交換と行こうや」

「それから先は応相談って事でどうかな?」

「……いいでしょう。嘘じゃないのであれば手を組む事も考えるわ」

 

 彼女をギルドへと連れて行って、事情を聞くと信じられない事が判明した。彼女は地球という場所からやってきたらしい。そこでは機械文明が発展しているなどといった差異が大きい。

 

「つまり、琴里たんは気が付けばここに居たんやな?」

「そうよ。それよりも琴里たんというのを止めてくれないかしら?」

「う~ん。なるほど、異世界の精霊が放つ力か。確かに迷宮(ダンジョン)神の力(アルカナム)だと誤解してもおかしくはないのかな?」

「せやな。琴里たんは嘘をついとらん。つまり、事実や」

「だからたんって言うな! いえ、それよりも聞いた限りだと、迷宮(ダンジョン)というのに精霊が居るの?」

「みたいや」

「それなら、もしかしたら私の仲間かもしれないわね」

「なら、その子達も保護してこっちに連れてこないとまずいね」

「フィンには排除もありうると言ってしまっとる。伝令に誰か行かすか」

「リュー君に伝えるように頼んだらいい。その子達の名前を教えてくれるかな?」

「ええ、かまわないわ」

 

 彼女から教えられた名前を記してからリュー君に渡し、ロキ・ファミリアを追ってもらう。彼女が間に合えばばいいのだが、最悪死んでいなければクルミ君がどうにかしてくれるだろう。

 

「ところで、クルミたんを使った方がええやろ」

「そうだね。彼女にも伝えたのかな?」

「それがその……居ないんです。どうやら街に遊びに出たみたいで……」

「タイミング悪いね」

「探せ。あの子の力が居る!」

「了解です。ギルド員も使って探します!」

「あの、さっきからクルミって言ってるけれど……もしかして、時崎狂三?」

「そうだよ。クルミ・トキサキ」

「あのナイトメアが居るの? もしかして、そいつが黒幕なんじゃ……」

「どういう事?」

 

 そこで聞いた彼女達の世界に居るクルミ君とこちらの世界に居るクルミ君。二人の容姿、能力、話し方は非常によく似ていた。これは彼女に色々と聞かなければいけない事が増えてしまったみたいだね。まあ、今はベル君達が無事に帰ってきてくれる事を祈ろう。

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 迷宮(ダンジョン)から生み出された絶望。一人は巨人ゴライアスの強化種。黒いゴライアス。そして、リリ達が命を賭けて倒して倒して素材を剥ぎ取った黒いジャガーノート。その黒いジャガーノートは一回りも二回りも大きくなっています。逆にゴライアスは同じくらい小さくなっております。

 

「リリ、気のせいかな……ゴライアスが武器を持っているんだけど……」

「気のせいじゃありませんよベル様」

「やっぱりそうだよね……」

 

 そして、黒いゴライアスは……黒いジャガーノートの上に乗っていました。そう、乗っていたのです。はい、騎乗しておられますね。だから黒いゴライアスは手に馬上槍と盾を持たれているんですね。わ~い、リリ納得しました~! 

 

「「ふざけんな──っっ!! 」」

 

 思わずベル様と一緒に叫んでしまいましたが、仕方がありません。ネイチャーウエポンのようですが、巨大で強力な武器には変わりありません。

 

「なあ、あの魔物(モンスター)っぽいのはそれほど強いのか?」

「理不尽なぐらいですよ」

「そうか。で、あれば相手にとって不足はないな」

「任せて。士道の敵は私が排除する」

「かかか! 我等に任せよ。あの程度の相手、軽く蹴散らしてくれるわ!」

「うむ。参るぞ!」

 

 皆さん、やる気満々のようです。まあ、先程の戦いを見る限りでは大丈夫だとは思いますが、少し不安です。

 

「まず先手は我が貰い受ける! 穿つ者(エル・レエム)!」

 

 耶倶矢様が金属質の右翼と右手甲から暴風を呼び出して空を駆けて行かれます。耶倶矢様の手には身の丈を有に超える巨大な突撃槍が握られており、まるで矢のようです。

 

「ゴァアァッ!!」「──■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!」

 

 対する相手も馬上槍を構えて黒いジャガーノートが耶倶矢様と同じようなかき消えるような馬鹿みたいな速度で互いに駆け抜け、その中心で互いの槍を交わします。

 流石は黒いジャガーノートと黒いゴライアス。力は耶倶矢様より上のようで、彼女が吹き飛ばされました。

 

「ぬわぁぁぁぁっ!」

 

 しかし、悲鳴を上げながらも暴風を操作して風の足場を作って直後に背後から強襲していきます。黒いゴライアスは盾を背後に回す事で耶倶矢様の攻撃を弾かれました。

 

光剣(カドゥール)

 

 折紙様が分離させたパーツを遠隔操作で縦横無尽に動かし、各先端部分より強力な光線を発射して黒いゴライアスの身体を無数に貫いていきます。同時に黒いジャガーノートの方にも攻撃されておりますが、そちらは反射されました。

 

「乗り物は反射してくる。面倒」

「ならば下は私に任せるのだ! ハッ!」

 

 十香様は大剣を振るって斬撃を飛ばします。黒いジャガーノートはそれをジャンプして回避しようとしましたが、複数の放たれた斬撃によって足の部分に命中して切断されました。外れたものも背後にある木々を切断してしばらくして消えましたね。

 

「■■■ッ!!」

 

 黒いジャガーノートは口から光線を吐き出してきました。それを十香様はなんでもないかのように大剣で切断して分断しました。黒いジャガーノートは即座にその場から飛びのきます。何故ならその場所に光の柱が降ってきました。黒いゴライアスが盾を構えて避けきれなかった一部を防ぎますが、盾ごと周りが融けました。もちろん、迷宮(ダンジョン)にも大きな穴が空いてかなり下まで繋がってしまいました。

 

「避けられた。残念」

「トドメは貰った!」

 

 暴風を纏った耶倶矢様が馬鹿みたいに動き回って加速し、周りが風で色々な物が吹き飛んで風に流されていきます。そんな暴風を纏いながら一条の矢となった耶倶矢様の一撃に対して、再生中の黒いゴライアスは動けず、黒いジャガーノートが対応します。

 破爪で迎え撃つのですが、耶倶矢様の穿つ者(エル・レエム)はあっさりと破爪を貫き、黒いジャガーノートの口から入って尻尾まで駆け抜けて出ていきました。その後に解放された暴風によって黒いジャガーノートは内部から吹き飛んでいきます。

 

「ぬぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 耶倶矢様も吹き飛んでいきました。リリ達も同じです。出鱈目な、出鱈目すぎる風によって纏めて吹き飛ばされたのです。

 

「士道!」

「シドー!」

「ベル様!」

「皆!」

 

 そのままリリ達は離れ離れになり、森の中に落ちていきました。落下の途中で体勢を変化させて着地の瞬間に贋造魔法少女(ハニエル)を発動させて周りの物をクッションに作り替えてそこに落ちます。何度かバウンドしてから無事に着地できました。

 

「本当に加減というものを理解して欲しいです」

 

 それから周りを確認すると誰もいません。それに先程、折紙様がやらかした大破壊でまた魔物(モンスター)が大量生産されたみたいで襲い掛かってきます。

 それらの対処をしながら皆様を探していきます。流石にジャガーノートは生まれてきていないようなので良かったです。迷宮(ダンジョン)も無駄だと判断したのかもしれませんね。

 

 

 数十分、探索していると声が聞こえてきました。

 

「速かったし、手強かった……まさか避けられるなんて予想外。それに反射も厄介だった。どうやら倒せたみたいだけど……」

 

 いらっしゃるのは折紙様のようなので、リリは早速合流いたします。

 

「折紙様ー!」

「あなたは……よかった。怪我はない?」

 

 折紙様の周りにはたくさんの魔石が転がっております。やはり、折紙様も狙われていたようですが……はい、怪我もないようで何よりです。

 

「ええ、まぁ……というか、折紙様たちが凄すぎて、リリ達は逃げ回るだけでしたが……」

 

 戦いに参加できませんでした。なんですかあの高速戦闘。クルミ様が居ない状況では絶対に戦えません。リリが死んでしまいます。あの時だってクルミ様の一の弾(アレフ)を重ねてもらってようやく黒いジャガーノートの速度に対処できる速度まで追いつけましたが……それでも動く度に身体が軋んで血管が破裂するような状況で巻き戻してもらいながらの戦闘でした。あんなの、レベル上がった今でも無理です。

 

「と、とにかく、折紙様も無事でなによりです。ベル様や士道様は?」

「わからない……けど、大丈夫。士道のもとには十香がいる」

「いがみ合っているように見えましたけど、信頼なさってるんですね」

「私達も色々とあったから」

「そうなんですね。ところで、折紙様」

「なに?」

迷宮(ダンジョン)を破壊するのは止めてください! 大規模な破壊されると先程の骨で出来た魔物(モンスター)が生まれるんです!」

「そうなの?」

「はい。ですから、もうちょっと手加減をしてください」

「難しいけれどわかった。これからは気を付ける」

「お願いします」

 

 これでもうジャガーノートと戦う事はないでしょう。クルミ様がおられれば戦ってもいいんですが……流石にジャガーノートを相手するにはリリではまだ力が不足しています。耐久力と力は自信がありますが、攻撃をあてられませんからね。

 

「あ、いたー! じゃなかったっ、くくく! ようやく見つけたぞ、我が半身よ!」

「あーっ! もうどこまで行ってたんですか!? リリをほっぽって!」

「しょ、しょうがないじゃん! 私だってあの巨人を倒す時に吹き飛ばされちゃったんだからー!」

「あれは自業自得。それに皆が吹き飛んだのは耶倶矢のせい」

「だいたい人にこんな恥ずかしい恰好までさせてるんだからちゃんと守って下さいっ! もーっ!!」

 

 クルミ様が居ないので怪我をしたくありません。カートリッジの予備も持ち込んだ分はあまりありませんし、彼女達が精霊なのでステイタスの低下はありませんが……やっぱり不安です。何時も、影には居てくださるのが居ないのですから。ですので、耶倶矢様がリリに求めていることはリリが耶倶矢様に求めることと等価です。

 

「恥ずかしいとはなんじゃこらー!」

「え……?」

 

 こちらに向かって走ってこられる人達が居ます。

 

「今度は逃がさないわよ」

「光る服……さっきの人とは違いますけど、間違いありません……」

「ちっ、あのくそ女……どこに行きやがった」

「ろ、ロキ・ファミリア……?」

 

 やってきたのベート様にレフィーヤ様。それにティオネ様です。それ以外にも後ろからロキ・ファミリアの団員の方々が沢山きております。

 

「リリルカか……おい、どけ。そいつらは潰す」

「は……? えっ? ちょっ、ちょっと待ってください! この人達はリリ達を守ってくれて……!」

「うるせぇ。邪魔すんなら、てめぇも容赦しねぇ」

「なっ!?」

「ふたりか……さっきのお仲間よりは楽しませろ」

「お、お仲間? まさか……士道と十香!?」

「……っ! <絶滅天使(メタトロン)>!」

「ハッ、上等だ……」

「待てって言ってんでしょうがぁっ! イフリートォォォォッ!」

 

 全力起動でイフリートを発動させ地面を吹き飛ばしてやります。ロキ・ファミリアの方々はもちろん、耶倶矢様や折紙様も飛び退いてリリから距離を取りました。

 

「ちょ、これってしゃれになってない威力じゃない?」

「そういえばキアラちゃんがリリルカさんの炎はヤバイって言ってました……」

「こいつ、神の力(アルカナム)まで使ってやがる」

 

 アポロン様の力をたっぷりと吸ったイフリートは新たな段階に進んでいます。リリも同じく、アポロン様の力を体内に入っているらしい霊結晶(セフィラ)が吸収して炎に対する耐火属性を習得しています。ですので、普通の炎はもはやリリの身体を傷つけるものではありません。

 

「これは琴里と同じ力?」

「うむ。流石は我が半身よ!」

「お二人もちょっと黙っていてくださいね。それで、ロキ・ファミリアの皆さんは……ヘスティア・ファミリアと戦争をするって事でいいんですか?」

「あ? やるっていうんなら買ってやるぞリリルカ。こないだみたいにボコボコにしてやる」

「はっ、装備がないリリと戦っただけで良い気にならないでください。リリは装備があった方が何倍も強いんですからね」

「これ、装備に頼ってるように聞こえるが……」

「実際にリリは格闘戦はあくまでも超近接距離に入られた時の保険と戦いの流れを構築するための手段として格闘を使っているだけです。リリの専門は武器(イフリート)です。やるっていうなら、容赦なく消し炭にしてやります。言っておきますが、リリだってまだ全力運用はしていないので手加減なんて出来ませんからね」

「面白れぇ……」

「って、そっちこそ待ってください! これはギルドから正式に発令された強制任務(ミッション)です! ヘスティア・ファミリアだって依頼を受けています! ですから、ヘスティア・ファミリアと戦争なんてする必要はありません!」

「は? え? 強制任務(ミッション)?」

「……そういえばそうよね。ずっと迷宮(ダンジョン)に居たってんなら知るわけないか。えっとね……」

 

 教えてもらった内容は納得できるものでした。ただし、殲滅という事には否です。

 

「わかりました」

「リリ?」

「我が半身よ、まさか……」

「彼女達はヘスティア・ファミリアが保護します。先に接触して友誼を結んだのはリリ達です。依頼を受けているのが、ロキ・ファミリアと共にヘスティア・ファミリアという事であれば、リリ達にも彼女達に関する権限はあります」

「正気か、てめぇ?」

「これはヘスティア・ファミリアの副団長としての正式な通達です。彼女達から手を引いてください」

 

 前までならそうはいきませんでしたが、今のヘスティア・ファミリアは零細ファミリアではありません。レベル5が一人とレベル4が二人と六十人以上。レベル2が沢山。そして何よりエインヘリャルであるアタランテ様がいらっしゃいます。武力ではロキ・ファミリアに多少は引けを取るかもしれませんが、それ以外の部分では取りません。

 

「至極真っ当な事です。そちらは交戦した。リリ達はしていない。なら、それぞれ対処が変わるのは当然です」

「ど、どうしますか、ティオネさん……」

「リリルカの言っている事は団長の命令に背く。だから、やりたくない。でも、ヘスティア・ファミリアには……クルミには団長との仲を取り持ってくれている借りがある。それに団長からもヘスティア・ファミリアとは争わず出来る限り仲良くするように言われているし……」

「ですね。私もキアラ様と争うのは無理です。じゃあ……」

「うん。これは団長に報告して丸投げよ!」

「それが一番ですね!」

 

 当然、そうなります。ヘスティア・ファミリアとロキ・ファミリアは結構な蜜月ですしね。やるとなったら互いに容赦はしませんが、被害が尋常じゃないレベルで出るのがわかりきっています。お互いに内部情報がある程度筒抜けです。あちらにはグレイ様がいらっしゃいますし、こちらはキアラ様やリリ達、クルミ様の情報が持たれています。

 

「という事でベート、ストップよ。流石に副団長として要請されたらこっちも団長か、同じ副団長であるリヴェリアかガレス辺りじゃないと無理よ」

「ちっ」

「という事で、ついてきてはもらうわよ」

「こちらもベル様と他に保護している方がいらっしゃるので、そちらとの合流が先ですが、構いませんよ」

「オッケー。それでいいわ。ただ、そこの二人は戦闘禁止。リリルカのソレは抑えてね。魔物(モンスター)はこっちで排除するから」

「了解です。お二人もいいですね? 悪いようにはしませんから」

 

 イフリートを全力稼働から通常モードに戻し、何時でも戦えるように手に握っておきます。その状態でお二人を見ます。

 

「……士道達の安全も保証される?」

「もちろんです。リリが手出しさせません」

「なら、私は文句ない」

「うむ。我が半身に任せるぞ!」

「ありがとうございます。それで、そちらは何があったんですか?」

「あ、歩きながら説明しますね。えっとですね……」

 

 歩きながら横に並んだレフィーヤ様に色々と教えて頂きます。どうやら、別の方と遭遇して戦闘になったようです。その方が皆さんを食料として襲い掛かってきたことでロキ・ファミリアは排除する方向で動いたようですね。詳しく教えていただきましょう。

 

 

 

 

 




原作ではここでかち合っていますが、リリがかなり強く、かつヘスティア・ファミリアも巨大化しているので普通に交渉が可能です。先に彼女達と出会って接触しているのがヘスティア・ファミリアなので。それにレベルは下とはいえ、権限から考えると幹部とはいえ副団長であるリリの要請を団長達に通さずに断る事はできません。


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デート・ア・ライブ 精霊達とロキ・ファミリア2

 

 

 

 

 ギルドから発令された強制任務(ミッション)を受けて迷宮(ダンジョン)を潜っています。

 全速力で駆け抜けています。問題の神の力(アルカナム)かそれに似た力を発揮する存在を確保または排除する。

 これが私達ロキ・ファミリアに命じられた強制任務(ミッション)の内容です。

 

「ちっ、なんだっての。いきなり強制任務(ミッション)とか、ふざけやがって! 何があるってんだ!」

迷宮(ダンジョン)を刺激する何かがあるということなのだろう。さて、何が出てくるか……」

「正体は不明なんですよね? 新種の魔物(モンスター)とか、闇派閥や神様の仕業かもわかっていない……」

「そうじゃ。逆に目標に敵意がないのなら、ことを構える必要もない。あくまでも任されとるのは事態の究明と解決よ」

「そうです。これがクルミやリリが引き起こした事であれば問題はないのです。出てきた魔物(モンスター)を処理さえすれば……」

「その通りだ。我々を動員するからには楽観視はできないということだ」

 

 私がクルミ達の知っている情報の一つとしてアポロンの力を手に入れたということです。そして、その力をイフリートとリリ自身に組み込んである霊結晶(セフィラ)に取り込ませて成長させたということです。ですので、二人はどちらも神の力(アルカナム)やそれに類似する力を使う事ができます。

 

「グレイ。クルミから何か情報はあるかな?」

「ありません。今、ネットワークから私はハブられています。再接続も出来ません。オリジナル、ルーラーの方で切られています」

「何故なんだい?」

「嫉妬の防止です」

「は?」

「嫉妬……なのか?」

「嫉妬です。『何故、わたくし達は地獄のような書類仕事をしているのにお前達は楽しい事をしているんですの!』と、いうことで、強制的にネットワークから弾かれています。連絡不可です」

「それはまあ……」

「うん。理解はできるね。繋がっている弊害か」

 

 繋いだままなら血で血を洗う擦り付けあいがおきます。ですので、じゃんけん大会して一部の勝者は外部に絶対に配置しないとならない存在になった子達と私はネットワークから一時的に切断されました。逆に言えば、今はルーラー達の目を気にする事なく好き勝手にやれるのです。

 

「縦穴だ。飛び降りるぞ。後続部隊は階層を調査しながら来い!」

「「「了解」」」

 

 フィンさんの指示が出る前に飛び降りて、下に居る魔物(モンスター)共を大剣でぶち殺してやります。

 現れてきたミノタウロス達に突撃して壁を走りながら一定まで近づいたら壁を蹴って大剣を全身の力を余すところなく伝えてミノタウロスの首を切断してやります。

 隣に居たミノタウロスはベートさんが頭を蹴り砕き、更に隣はティオナさんがウルガで一刀両断しました。魔石を拾わずにそのまま走り抜けます。

 

「……アイズ?」

「どうしたの?」

「悩み事です?」

 

 並走しているアイズさんの様子が何処かおかしいのです。いえ、私もなんだか変な感じがします。懐かしいような、そうでないような……訳の分からない変な感じです。

 

「……この迷宮(ダンジョン)の感じ、嫌。早く止めないと……」

「ごちゃごちゃ喋ってんな! もうすぐ一八階層だ。行くぞ!」

 

 ゴライアスが生み出されるルームは何事もなく通過できました。ゴライアスが湧く時間はしっかりと把握してクルミ達が常駐して狩り続けているので当然です。

 十八階層に踏む込むと、明らかな異変があります。ここからでも見えるぐらいに大きく空いた巨大な穴。えぐり取られたクレーターだらけの大地。斬り倒された沢山の木々。明らかな大規模戦闘の跡が入口から見えたのです。

 

「きひひ、ひひひひひひひ」

 

 丘を駆け降りるとすぐに森があります。その森の部分に誰かが立っていました。その人は特徴的な笑い声をあげながらこちらに振り向きます。

 

「!!」

「あれは……」

「冒険者……違うな……それにあの笑い方に声は……」

「クルミさんと似ている姿……もしかして、お姉さんなんでしょうか?」

 

 濡れ羽色のような綺麗な髪の毛を左右非対称のツインテールに括り、赤と黒を基調としたドレスを身に纏う少女がこちらに振り返ります。その姿は私にはとても見覚えがあります。ここに着いたロキ・ファミリアの方々も何処か見覚えがあるはずです。

 

「うふふ……面白いですわねェ。本当に、この世界はァ。霊力……いいえ、魔力? とにかく力が詰まったごちそうがこぉんなに沢山……」

「ごちそうだと?」

「ああ、ああ、申し遅れましたわね。わたくしは時崎狂三……貴方がたが最後に出会った精霊──ということになりますわねェ?」

 

 そう。相手はオリジナル。本当の意味でのオリジナル。大人のわたくしこと、時崎狂三。その本人の可能性があります。急いでルーラーに知らせようと思いますが、通達は出来ません。

 

 

「──精霊? それにその姿と名前は……」

「あぁ……貴女達ですのね? わたくし達と似た、異界の存在は。貴女達に惹かれて、わたくしはここまで来てしまいましたのよ? そう、貴女達がとっても()()()()()()()──」

 

 時崎狂三が魔力を放出すると、迷宮(ダンジョン)が揺れ出しました。どうやら、少なくとも精霊という事は間違いはないようです。

 

「力の発現とともに、迷宮(ダンジョン)が……!」

「フィン!! この女は──!」

「──わかっている! クルミと同じ名前だが、彼女じゃない! 総員、戦闘準備! 彼女を()()()()()()()()()と断定する!」

 

 言われる前にスキルを使って全力で加速して突撃します。<刻々帝(ザフキエル)>を使われる前に倒す。それがベストです。ですから。<鬼神>ガチャをします。

 

八百万の神々に 聞食しめせと 恐み恐み申す

「──うふふ。さあ、さあ、素晴らしいごちそうの皆さん? どうかわたくしに食べられてくださいまし」

 

 憑依されたのは雷を身に纏うエンチャント魔法、<疾風迅雷>を使う方でした。これは当たりです。

 

「一歩音超え、二歩無間、三歩絶刀……」

「──あら?」

 

 風を纏い、雷のごとき高速で駆け抜ける<疾風迅雷>を使い、()()()()()()()()()()()()()を放ちます。電磁誘導の加速も合わさった神速の攻撃。限定的ながら空間歪曲と時間操作で多重次元屈折現象を引き起こし、頭・喉・みぞおちの急所を以てまったく同時に貫きます。これが鬼神を使って編み出した精霊としての技です。

 

「ぎぃ……っ!?」

 

 三ヶ所を同時に貫き、大剣の質量と速度によって時崎狂三の身体が肉片となって吹き飛びました。

 

「や、やったんですか……?」

「随分と呆気なかったのう。拍子抜けするほどに」

「確かにそうだが、グレイは後で説教だ」

 

 リヴェリアさんの言葉に思わず視線を背けて冷や汗をかきます。現在、憑依している方はゼウス・ファミリアの方のようです。善性の方のようで乗っ取る事はせずに力を貸してくださいます。

 ちなみに多重次元屈折現象を習得する時はひたすら太刀を振り回して身体に教え込まされました。はい、燕返しです。もしくは無明三段突きですね。対戦相手はタケミカヅチさんです。技術を習得したら、次は大剣で出来るようにしました。くるみねっとわーくも借りて頑張りました。えっへん! 

 

「まだです」

「え? これで異常事態は収まったんじゃ……」

「時崎狂三はこの程度ではありません」

「そうだろうね。予想が正しければ……」

「あらあら……どうやらわたくしの事をしっかりと理解されているようで……おかしいですわね? お強いのはわかりますが……何故そこまで理解していますの?」

「なっ!?」

 

 少し離れた場所にある木に背中を預けながら拍手をしてくる時崎狂三。その身体に一切の傷がありません。やはり、分身体のようです。

 

「正面から戦わないで正解でしたわ」

「……予想通りか」

「同じ奴が、もう一匹だぁ……こんなところまであの餓鬼に似てやがる」

「くふふっ……さぁ、行きますわよ!」

 

 こちらに銃弾を叩き込んできますが、これぐらいなら切り払えます。レフィーヤさんも普通に回避しています。

 

「は、速いですけど……! これぐらいなら私でもなんとかなります!」

「あらあら、勇ましいですわねぇ。では、これならいかがでして? <刻々帝(ザフキエル)>、一の弾(アレフ)

「自身に銃弾を……っ!」

「速度がっ!? きゃぁ──」

「させないです!」

 

 レフィーヤさんを抱きかかえながら疾風迅雷を使いつつ叩き斬ってやります。ですが、彼女は後ろに飛び退って、短銃をこちらに向けてきました。

 

七の弾(ザイン)

 

 一時停止の弾丸を放たれ、顔を背ける事で回避しながら更に踏み込んで大剣で横薙ぎします。短銃でガードされて彼女は大きく下がりました。ですが、その間に別の方に銃弾を叩き込んでいきます。流石にレフィーヤさんを抱いたままでは戦えません。

 

「きひひっ!」

「させない」

「てりゃぁぁっ!」

 

 アイズさんとティオネさん、ティオナさんが対応してくれます。弾丸に木々や石などを命中させてそれらを停止させる事で防ぎます。皆さん、しっかりと対策を取られているのです。

 

「加速と停止。魔法には見えん手段……グレイよ、こいつは確かにクルミだな?」

「はいです。<刻々帝(ザフキエル)>も使えるので間違いありませんが、私達の知るクルミとは別の狂三です。オリジナルと言っていいかもしれないです」

「オリジナル……か」

「やはりそうか。おそらく、闇派閥の連中は彼女を基にして私達が知るクルミを生み出したのだろう」

「うふふ。やはりおかしいですわね? 異なる世界、異なる摂理で生きてきましたのに……貴女達はわたくしの対処法をしっかりと心得ておられます。普通は理解が及ばないはずですのに。ええ、ええ、おかしいですわ! 特にあなた! 貴女からわたくしの力を一部とはいえ感じます。これはどういうことですの?」

「知りたければ大人しく降伏をお勧めするです」

「それは無理ですわね。それに降伏するのはそちらだという事を教えて差し上げますわ。わたくしの、影の中で──時喰みの城(ときばみのしろ)

「させるかっ!」

 

 ベートさんが時崎狂三の背後に周り、蹴りを放ちます。ですが、その前に彼女は影に潜って距離を取りました。

 

「ちっ」

「あらあら、不思議ですわね。いつの間にわたくしの背後にいらしたのですか? 七の弾(ザイン)

 

 ベートさんに向けて時崎狂三は一時停止の弾丸を放ちますが、ベートさんが回避して銃を持つ腕を切り落としました。

 

「どうして一の弾(アレフ)で追いつけませんの? どうして七の弾(ザイン)で撃ち抜けませんの?」

「てめぇがとれぇからだ。てめぇの腕がくそだからだ。雑魚をいたぶって調子に乗ってんじゃねぇ、くそ女──ブチ殺してやる」

「……ああ、その品のない口調、その殺気……まるで真那さんのようですわ」

 

 真那……確か、崇宮真那でしたね。天宮駐屯地の補充要員として配属された隊員で、左目の下の泣き黒子が特徴の少女。琴里が密かに行ったDNA鑑定で五河士道の実妹ということがわかっていますが、色々と不明な点もあります。血の繋がりは確かですけれど。

 昔士道さんと一緒に撮った写真を手掛かりに探していた時に精霊との戦いを記録した映像に士道さんが映ったことで彼を見て実兄と確信し再会を果たしました。

 士道さんのことを兄様と呼び、折紙さんのことを彼の恋人と名乗ったことから義姉様と呼んでいます。高い実力の持ち主ですが、その秘密はDEM社による徹底的な人体改造を施され精霊と同じぐらいの力を発揮できます。力を行使すればするほど自身の寿命を擦り減らしてしまう諸刃の剣のようなもので、残りの寿命は十年。勝手に人体改造された可哀想な少女です? どちらにせよ、時崎狂三を何度も殺している人です。

 

「うふふ、ふふ。ああ……いいですわね。昂ぶりますわ。昂ぶりますわ。でェ、もォ……わたくしだけは殺させて差し上げるわけには参りませんわねぇ! おいでなさい! <刻々帝(ザアアアアアアフキェェェェェェル)>!」

「「「!?」」」

四の弾(ダレット)

 

 切り落とされた腕が綺麗に戻っていきました。

 

「切られた腕が戻った……やっぱり回復魔法まで……」

「予想通りだ」

「ああ、その通りだ」

「時間を戻したのですが……やはり驚かれませんのね。では、こちらも驚かれませんか? わたくし達」

 

 そう言って彼女の影から数十人を超える時崎狂三が出てきました。ルーラーなら喜んで殺し合う数です。ロキ・ファミリアに殺させて時間を回収できますし。

 

「あ~やっぱりかぁ~」

「うん。クルミと同じ能力ならやると思った。影の中にいっぱいいるのは何時ものこと」

「なんだか調子が狂いますが……構いませんわ。さぁ、淑やかに舞うとしましょう、わたくしたち!」

「「「うふ、うふふふふ……きひひひひひひッ! あはッ、あははははは!」」」

 

 皆でいっぱい殺します。やりづらい相手ではありますが、容赦なく殺します。それでも無限にも思えるほどです。三十人以上、斬り殺しても、それ以上に供給されます。

 

「おひとつ聞きたいのですが、貴女はわたくしですの?」

 

 私の大剣を小銃で受け止め、短銃をこちらに向けてきます。頭をずらして銃弾を避けますが、髪の毛が何本か飛びました。

 

「貴女であって貴女ではありません」

「……おかしいですわね。わたくし達はここに来たばかり。何故、貴女のような存在がいますの? ねえ、なんでいますの?」

「私達にもそれは知りません」

「そうですか。ですが、まあ……わたくしならわたくしに従いなさい」

「お断りです。私はグレイ。黒でも白でもない半端者です。ですから、どちらに染まるつもりも、オリジナルに従う理由もありません!」

「そうですか。では死んでくださいな。いえ、食べてあげましょう」

「させません。かしこみかしこみもうす」

「あら?」

「高天ヶ原におわす八百万の神々よ、鬼神たる我が身を依り代にして顕現せよ。深度をあげるです!」

「っ!? 巫女と呼ばれる存在ですか……」

 

 身体の大部分を降ろしている方に譲渡して肉体を作り替えて力を発揮してもらいます。相手が善性だとわかっているからこそできる方法です。もしも、悪性の方なら一瞬で身体を乗っ取られて取り込まれます。

 ですが、その分だけ強い力を発揮できます。大剣が、身体がより雷を発して相手の時崎狂三を焼き払います。

 

「わたくし達!」

 

 左右から沢山の時崎狂三が突撃してきますが、自動で雷撃が迎撃する上にアイズさん達も援護してくれます。

 

「まだまだいる」

「百は倒したのに!」

「む、無限なんですか!?」

「総員、下がれ!」

「焼き尽くせ、スルトの剣──我が名はアールヴ! レア・ラーヴァテイン!」

 

 広範囲殲滅魔法であるリヴェリアさんの魔法が発動して、空を埋め尽くすような炎の矢で作られた雨が降ります。時崎狂三の分身は次々と貫かれて死んでいきます。ですが、一部は時を止められて防がれてしまいます。

 

「あらあら、力の劣る分身とはいえ、ここまで数を減らされてしまうとは驚きですわね」

「ごちゃごちゃ言ってんな! 次はてめぇだ!」

「まぁ、いいでしょう。この辺りが頃合いでしょう。時間もありませんし、収穫は十分ですわ」

「あぁっ!?」

「では、みなさん御機嫌よう。次はきちんと食べてさしあげますわ」

「影に沈んで逃げたか」

「……あれが原因で間違いはない。すこぶる質の悪い、な」

「ああ。目標を敵性存在として排除する。クルミには色々と聞かないといけない事ができたが、その前に彼女を倒す」

「この階層に幾つかの魔力の高まりを感じる。同じような存在がまだ複数ある」

「ここから散開する。第一級冒険者を各班に配備。必ず数をもって対応しろ。敵はクルミと同じ力を持つ想像の埒外の怪物だ! 速やかに殲滅する! 例外はない!」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」」」」」

 

 ロキ・ファミリアの皆が武器を突き上げて雄叫びをあげる中、私はオロオロとします。流石に時崎狂三は死なないのでそれでも構いませんが、他の人が予想通りの人達なら非常に困るのです。

 

「フィンさん……」

「グレイ。君にも色々と聞かせてもらうよ」

「その前にお話があります。殲滅は止めてください」

「それは出来ない。先程戦ったクルミと同じ名前を名乗った彼女は危険だ」

「あの人は絶対に殺せません。フィンさんなら知っているはずです。彼女はクルミと同じ力を持っています。対抗するには<刻々帝(ザフキエル)>でしか無理です」

「あの力の事か……」

「それに予想通りなら、他の方達は友好的なはずです」

「……君の言葉は受け入れよう。だが、それは一度試してからだ。本当に友好的な存在か、見極める」

「それならすぐに伝令を出した方がいいぞ。すでにアイズやべート達が走っている」

 

 リヴェリアさんが何故か、私の肩に手を置いてきました。ガタガタと震えながら上を見ると、無表情で見降ろされます。

 

「……ラウル、行ってくれ」

「了解です!」

「では、私達はこのバカ娘を説教するとしよう」

「そうだね」

「使うなと言っとるのに」

「き、鬼神ガチャはいい文明なのです」

「何処がだ!」

 

 疾風迅雷を習得できました。デメリットとして一度効果を発動すると、魔力切れまで延々と発動し続けることです。使えば最後、マインドダウンするまで発動するです。このデメリットは身体が慣れれば調整可能なはずですので、どんどん使って私の力まで押し込めてやるのです。

 それとたんこぶが痛いです。くすん。

 

 

 

 

 

 

 

 




鬼神ガチャ
ランダムな死者の霊がきます。当たりから外れまであります。今回は三番目にいい方。身体の事を考えて手加減はしてくれました。暴走してたら身体は焼け落ちたり、感電死します。


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デート・ア・ライブ 精霊達とロキ・ファミリア3

原作はだいたいこの辺りで一時停止です。次からはBriah(創造)のお時間です。語られなかった時崎狂三がどんなことをしていたか。そして、一週目の終わりの始まりです。わ~い、たいへんだ~!


 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ!」

 

 暴風に吹き飛ばされ、落下する時に木々に身体をぶつけた。枝をへし折り、身体中に傷が出来たけれど、どれもかすり傷程度で、あの二匹を相手にしては軽い怪我だ。

 

「大丈夫か、ベル……」

「う、うん……なんとか……それよりも……十香さん達だけで、あの黒いゴライアスとジャガーノートと互角以上……ううん、圧倒して倒しちゃうなんて……リューさんやクルミ達より凄い……よ……」

 

 士道の方を見ると、彼の服は所々破れていた。だけど……()()()()()()()()()()()。それがどれだけ異常な事なのか、僕でもわかる。そう思っていると、近くの茂みから音が聞こえてきて振り向く。

 

「シドー! 大丈夫だったか!?」

 

 どうやら、やってきたのは十香さんだけみたいで、他に人の姿が見えない。僕よりリリの方が強いけれど、心配なのは心配だ。

 

「ああ、助かったよ十香」

「うむ。なかなか手強かったが、皆が無事でよかったぞ!」

 

 あのレベルが手強かったで済むなんて、本当に強すぎですよこの人達。

 

「しかし、なんだったのだ、あの黒い巨人と骨の恐竜は……明らかに私達を狙っていたぞ?」

「わからない、ですけど……今は、はぐれた人達と合流しないと……」

「ああ。折紙に耶倶矢。それにリリルカも……戦っている間、その間にバラバラになっちまった」

 

 最後のはやりすぎだと思いますけど、こちらに来て手加減が出来なかったというのなら納得できます。

 

「む。そうだったな! よし、早く折紙たちのもとへ──」

「──見つけた」

「え?」

「ア……アイズさん!?」

 

 こちらにやってきたアイズさんは剣を抜いていて、僕達……士道達へと斬りかかった。アイズさんの剣が

 士道の身体に到達する前に十香さんが割り込んでアイズさんの剣を大剣で弾く。アイズさんは一切気にせず連撃を叩き込んでいき、それを十香さんが捌いていく。どちらの剣筋は僕には見えない。

 

「くっ……! なんなのだ、いきなり!」

「……!」

 

 どんどん激しさを増していく剣戟に声を振り上げて止めに入る。二人が戦うところなんて見たくない! 

 

「アイズさん!? 待ってください! どうして士道や十香さんに攻撃をするんですか!?」

「彼女達は危険。その答えが、出た」

「彼女達……?」

「──そして私も、()()()の存在を認めることができない」

 

 少し距離を取って話してくれたアイズさんはそれだけ伝えると、また十香さんに向って行って攻撃していく。何度も銀の閃きが交差し、互いの間で衝突する金属の音が響いてくる。

 一撃、二撃、三撃とどんどん激しさを増していく。アイズさんの表情は少し厳しくなっている。受ける側の十香さんは逆に困惑している。

 

「ぐぅっ……!?」

「貴女達は魔物(モンスター)と一緒なの? それとも、もっと悪い()()?」

「何を言っている……! 意味がわからんぞ……!」

「……覚えてる。迷宮(ダンジョン)がざわつく、この感じ。この後、とてもよくないことが起きることも……だから! 

 

 アイズさんがより力を入れて攻撃してくる。だから、僕は二人を止めるために前に出る。

 

「十香!」

「アイズさん! 十香さん! くっ!!」

 

 だけど、その前に新たに現れた他の人によって阻まれてしまう。その人達は冒険者でエルフやヒューマンの人達だ。

 

「ロキ・ファミリア!? これじゃあ、十香さんのところに……!!」

「くそっ、なんでこんなことに……!」

「待ってください、アイズさん! 話を聞いてください! 十香さんは、その人達は悪い存在なんかじゃない!」

 

 ロキ・ファミリアの人達に止められているので、動けない。アイズさんは聞こえていないのか、無視されているのか、激しい攻撃を続けている。それに十香さんも対応している。二人の戦いは激しくも美しいようにすら感じてくる。

 

「なっ……」

「剣の精霊である十香と互角……?」

「なんなの……あの剣士……」

 

 声が聞こえてそちらを見ると、リリと折紙さん、耶倶矢さんが居た。その後ろからロキ・ファミリアのベートさんやレフィーヤさん、ティオネさんも来ている。

 

「け、剣姫様と斬り合えるなんて……十香様、すごい……」

「<鏖殺公(サンダルフォン)>の力は使っていないみたいだけれど、それでも凄い」

 

 二人はしばらく剣を交わしてから中央で鍔迫り合いになる。

 

「待つのだ! 話を聞かせろ! なぜ私たちを襲う! お前は<AST*1>と一緒なのか!? 私達が起こす空間震を恐れているのか!?」

「……言っている意味がわからない」

「私は確かに! 確かに世界を恨んでいた! 私を否定する世界に疲れて、破壊を振りまいていたこともあった! だが私はシドーのおかげで変わることができたのだ! 私はシドーが好きだ! きなこパンが好きだ! ともに喜び、ともに泣いてくれる、あの世界が好きになれた! 異世界などという場所に来てしまったが、ベルやリリルカという良き者達に出会えた! 私はこの世界も、愛せると思う!」

「……何を言っているの。意味がわからない」

「剣を収めてくれ! お前は私のことを知らない! 私もお前のことを知らない! だから! このまま殺し合うのは、きっと間違っている!」

「私は……」

 

 アイズさんが答える前に迷宮(ダンジョン)が揺れます。

 

「この揺れは……! まさか、私達の力に反応しているのか……!?」

「やっぱりできない」

「っ!」

「貴女達は迷宮(ダンジョン)を狂わせる。貴女達はまた悲劇*2を呼び起こすかもしれない。私みたいな人をもう増やすわけにはいかない──目覚めよ(テンペスト)

「っ!? まさか……<天使>?」

「誰かが悲しむのなら。誰かが泣くのなら……私は魔物(モンスター)を、貴女達は──殺す!」

 

 アイズさんが風を纏っていく。それでも十香さんは対応していく。どうやら十香さんの力はまだまだ上がるみたいで、アイズさんの剣にもすぐに適応していっている。

 

「到達、です」

「アイズ達以外は戦っていないようだが……リヴェリア、ガレス」

「ああ。風を纏ったアイズと互角か、それ以上だな。信じられん」

「まだ互いに余力を残しておるようじゃが……次で決まるな」

「ん」

 

 ロキ・ファミリアの人達がやってきた。彼等はアイズさんの方を見詰めている。

 

吹き荒れろ(テンペスト)!」

 

 アイズさんが本気の攻撃を仕掛けて、辺り一帯に暴風を巻き散らかされていく。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「ぐぅ~~~~~~~~っ!!」

 

 加減は……無理だ。できぬ。必殺(あれ)の前では私もやられる。私が倒れればシドーも殺される! こうなればやるしかない。

 

「<鏖殺公(サンダルフォン)>!」

 

 大剣と共に召喚された玉座を細分化されて大剣に一体化させる。これにより、全てを破壊する最後の剣へと変化する。

 

最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)

 

 アイズと言ったか。彼女の攻撃のみを破壊する! 

 

「十香様の剣が、どんどん巨大に……!」

「それより、この風……っ!?」

「近づけない……! 誰も!」

「く……っ! 目を開けていられない……!」

「ぐぅうううううううう……!? ……? 今のは──」

「──リル・ラファーガ! はああああああぁぁぁぁぁぁっ──!」

「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ──!」

 

 大規模な爆発が私と相手の力によって巻き起こった。

 

 

 

「無秩序に死と破壊を撒き散らす──凶悪で、醜悪、残酷な──倒さないといけない……滅ぼさないといけない……そんな──憎いものは、すべて──」

 

 

 

 

「ベル、大丈夫か?」

「し、士道……? うん、なんとか……っ! 十香さんは? アイズさんは!」

 

 空が赤色に染まり、爆発が収まると相手は禍々しい装いに変化している。これではまるで私が反転した時と同じだ。

 

「おまえ……その姿は……」

 

 彼女の身体から圧倒的な霊力が溢れ出している。

 

「……アイズ?」

「なんじゃ、あの禍々しい魔力は……」

「……まさか、反転したのか……? グレイ!」

「反転したのは間違いありません」

「馬鹿な! アイズが反転するなどありえん!」

「普通はありえません。ですが、実際にありえました」

「まさか、奴等が原因か!」

「影響はあるはずです。ですが……これは……気のせいなはずです」

 

 まさか、これは私のせいなのだろうか? そう思っていると、彼女は憎いという言葉を残して消えてしまった。これは絶対に私のせいだ。どうしよう。

 

「どうするのだ?」

「全員を拘束しろ。絶対に逃がすな」

「おっと、それはさせませんよ。この人達はリリ達ヘスティア・ファミリアが保護していますからね」

「リリルカ・アーデ。それは本気か?」

「本気です。これはヘスティア・ファミリアの総意と考えてもらっていいです。ヘスティア様も納得していただけるでしょう。何より、彼女達は精霊です。クルミ様が保護しないわけありません」

「……了解した。殲滅命令は解除する。正し、僕達にも協力してもらうよ。アイズを助けないといけない。クルミの説得は任せる」

「はい。ベル様もそれでいいですか?」

「もちろんです! アイズさんはなんとしても助けましょう!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「と、いう事がありまして……地上に戻ったらクルミ様が派手に戦っているじゃないですか」

「それも僕達が戦った相手だそうだ。そこでみんなで駆けつけたんだが……親子なのかい?」

「親子みたいですね」

「そうか。それじゃあ、被害の請求は君にすればいいかな?」

「それなんですが、色々と違和感があるんですよね……」

「違和感?」

「はい。ですので、請求は全てが終わってからでお願いしますわ。今、支払ったら協力する理由はありませんしね」

「……なるほど。こちらとしてもアイズが助かるのなら構わない。そのために前みたいに協力してもらうよ」

「構いませんわ。どうやら、今回の件も無関係ではいられないようですし、わたくしも色々と気になりますからね。とりあえず……ママを探すとしましょう。全てを握っているのはママである時崎狂三です」

「……ややこしいね」

「ややこしいですね」

「ではここはパパにお願いしましょう。わたくしの呼び名でも愛称でもどちらでもいいです」

「クルミ・トキサキで登録してあるし、なれてるならくーちゃんとか?」

「くーちゃんはアレを連想しますが、まあそれでいいです。ではしばらくわたくしはくーちゃんでお願いしますわね」

「了解した」

「わかりました」

「おっけ~!」

 

 さてさてさ~て、お母様であるママ、時崎狂三を見つけ出して色々と聞きだしましょう。ベートさんと出会った時の言葉も気になりますし、グレイの記憶を確認して違和感を感じました。

 そもそも……なんで、ベートさんは避けられるんですの? なんで。七の弾(ザイン)があたらないんですの? 時崎狂三が外すなどありえるのでしょうか? それも簡単に腕を切り落とされる? 馬鹿も休み休み言いなさい。

 断言します。ありえません。そんなものは未来を見て回避しています。一の弾(アレフ)だけしか使ってない時点でおかしいのです。五の弾(ヘー)で未来予知をして、七の弾(ザイン)二の弾(ベート)を叩き込むのが基本です。更に言ってしまえば何故むざむざリヴェリアさんの魔法を受けたのですか? その前に三の弾(ギメル)を叩き込んで時間を加速させてヴェルフさんのように爆発させるか、四の弾(ダレット)で巻き戻してもいいですし、それこそ七の弾(ザイン)で停止させるべきです。

 結論から言って、遊びがすぎます。お母様にしては温過ぎます。甘々です。以上の事から、ロキ・ファミリアを襲撃した人は……七罪(ナツミ)さんかまったく別の方という可能性があります。まあ、単純にお母様が舐めプをしただけかもしれません。真那さん相手にはよくやって遊んでいますしね。あれ、こう考えると普通……いえ、異世界に来てやることじゃありませんわね。

 

 

 

 

*1
AST(Anti Spirit Team)とは空間震を伴い、あたりに甚大な被害を齎し、強大な戦闘能力を有する謎の特殊災害指定生命体『精霊』を武力でもって討滅するために人類が極秘に結成した特殊部隊の総称。

*2
アイズの両親が迷宮(ダンジョン)で死亡したことなど



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デート・ア・ライブ 精霊達とロキ・ファミリア4

割り込み投降です。ちょっと前の話の開始が突然でしたので。


 

 

 

「それではそろそろアイズを助ける方法について教えてくれ」

「うむ。よろしく頼むぞ」

「そうです。アイズさんのために早く方法を教えてください!」

 

 フィンさんの言葉でわたくし達はソファーに座っているフィンさんやリヴェリアさん達、ロキ・ファミリアの方を見ます。

 

「確かにそうね。士道もいいわね?」

「ああ、俺は構わないよ。皆も構わないよな?」

 

 パパがわたくしや他の人達を見詰めてくるので皆さん頷きます。ベルさん達もアイズさんを救う方法を知りたいようですし、問題ないですね。

 

「えっと、今のアイズさんは反転しているんですよね?」

「そうね。リリルカさんの言う通り、アイズという人は聞いた限り、間違いなく反転しているわね。そうよね?」

「ああ、間違いないぞ」

「わたしも保証する」

 

 精霊である十香さんと折紙さんが保証してくれたのなら、確かに彼女、アイズさんは反転してしまったようです。彼女もなぜか一部とはいえ精霊の力を持たれているようなので反転してしまったのでしょう。

 

「それじゃあ、言うわね」

「「「ごくり」」」

 

 皆さんが唾を飲む中、机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってきた琴里さんはハッキリとアイズさんを助ける

 

「私達は以前、反転した十香や折紙を元に戻しているわ。相手が精霊なら任せてちょうだい。私達は精霊対応のエキスパートよ。相手が精霊ならすることは一つ。つまり──」

「「「つまり?」」」

「──デートして、デレさせろ!!」

「「「「──は?」」」」

 

 ロキさん、ベートさん、レフィーヤさん、リヴェリアさん達が驚いた顔をしています。まあ、普通に考えてみるとありえませんよね。

 

「ここにいる士道には、霊力を……精霊の力を封印する力があるのよ。その条件が対象の精霊に心を開かせること。つまり、そのアイズって子を士道がデレさせる! そして最後は──」

「さ、最後は?」

キスよ!!!! 

「「え──ええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」

「どこをどうなったらそうなんだボケがァァ!?」

「──────────」

 

 ベルさんとレフィーヤさんが悲鳴を上げ、ベートさんが叫び、リヴェリアさんは完全に固まりました。まあ、無理はありません。

 

「フィン、リヴェリアが思考を停止させおったぞ」

「あはははは……無理もないよ」

「あの、本当にそんな方法なんですか?」

「本当、みたいだね……」

「クルミ様……本当にデートすれば反転を解除できるんですか?」

「ええ、可能ですわ。間違いありません」

 

 そうなんですよね。ありえない事ですが、本当の事なんですよ。反転を戻すには精霊の力を封印するしかありません。そうするには士道さんと粘膜接触、キスが必要なのです。

 

「とにかく、好感度を上げてキスをすれば全部解決するのよ! 士道はこれで精霊達を救ってきたんだから!」

「事実や」

「ということは……まさか、皆様も……」

「「「…………」」」

 

 十香さん、耶倶矢さん、折紙さんが視線をそっぽに向かせました。

 

「……え、ええと……まあ……」

「わーお、ゼウスもびっくりだ」

「そうとなれば早速作戦を──」

「「そんなの許すかぁああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」」

 

 ロキさんとレフィーヤさん雄叫びをあげました。レフィーヤさんに至っては琴里さんの腕を掴んで離しません。精霊の力が封印されている琴里さんではレベル3であるレフィーヤさんの力に対抗できません。

 

「オーケー、落ち着きましょう。今必要なのは剣ではなく言葉よ。人は対話によってのみわかりあえるわ。力によって通した意志は、また力によって駆逐されるもの。自らの意見を通すのに暴力を用いるのは、この上なく愚かな行為じゃないかしら?」

「ぐふっ」

「クルミ様……?」

 

 琴里さんの言葉はわたくしにクリティカルヒットです。結構、武力や経済力による脅しで通していますしね。これは少し、対話による方面も……でも、めんどくさいですし……悩みどころですね。

 

「少なくとも私は貴女達を理知的な人間と評価しているわ」

「つまり、君は何をいいたいのかな?」

「……この子を離してくれないかしら?」

「フーッ! フーッ!!」

 

 レフィーヤさんがやばい感じのイッた眼で睨み付けています。流石にそんなヤバイ目をしているレフィーヤさんに腕を掴まれている状態は琴里さんも辛そうです。

 

「レフィーヤ、ステイ。ステイや。とりあえず話を聞いたろ……」

「あのレフィーヤという少女──」

「ん? どうした折紙?」

「どこか不思議なシンパシーを感じる」

「いや何にだよ!?」

「互いに好きな人に集中しているからじゃないですか?」

「確かに……って、それはそれとして、琴里。一体どうするっていうんだ?」

「一応考えがないわけじゃないわ。地上に居る時にヘスティア達から聞いたんだけど、この都市には凄腕の魔導具作成者(アイテムメーカー)っていうのがいるんでしょう?」

「おるでー! 万能者(ペルセウス)に頼めば、どんな道具(ツール)も一晩でやってくれるわー!」

「またアスフィさんの心労が増える……あ、でもクルミも作れるよね?」

「そうだね。クルミ君も作れるよ。特に精霊の力関係ならクルミ君の方がいいと思う」

「本当? それなら士道の力をトレースした道具を作ってくれない? 対象の霊力、精霊の力を封印する装置を、ね」

「確かに作れますわよ。たぶん」

「そんな事が可能なのか?」

「そりゃ、やってみないとわからないでしょうね。話を聞く限り、作れるんじゃない? 何故か知らないけれど、イフリートだったかしら? <灼爛殲鬼(カマエル)>みたいなもんを作り出しているぐらいだしね」

「<灼爛殲鬼(カマエル)>!?」

 

 どうやらヘスティアさん達から情報が漏れたみたい。いや、まあ聞いた限りではリリさんが使ったのでそちらからかもしれません。

 

「それに今回の目標は、私達の知る精霊とは違って、この世界の力を帯びた疑似精霊……いえ、精霊と人の混血なんでしょう? それならむしろそっちの方が相性はいいんじゃないかしら? まあ、もちろん、誰かがデートして、そのアイズの心を開かせないといけないのは同じだけど」

「……話を聞く限り、僕達の専門分野ではないというか、とにかくデートとやらは君達に一任した方がよさそうだ。代わりに僕達は万が一の事態に備えさせてもらおう」

「万が一ですか?」

「ああ。アイズを討つための準備だ」

「「なっ……!?」」

「君達の作戦の成否にかかわらず、アイズがオラリオに被害を出す確率は高い。この認識は間違っているかい?」

「……いいえ、間違っていないわ。もちろん最善は尽くすつもりだけど、イレギュラーはいくらでも起きるでしょうね。今、彼女は恐らく隣界にいる。いつ、どこに現れるかは私達にもわからない。空間震が起こるのかさえもわからないわ」

「僕達がその災害に対処できるかはわからないが、手をつくさない理由はない。アイズの出現に幅広く対応するため、都市中、および迷宮(ダンジョン)に団員を配備する。相手が相手だ。他のファミリアには任せられない。無論、被害を食い止められればそれでいい。が、もしそれが叶わず最悪を迎えたのなら──僕達はアイズを排除する」

 

 まあ、ファミリアの団長としては当然の判断ですわね。いくらアイズさんがロキ・ファミリアにとって大切でも、他の人達には関係ありませんし。

 

「フィンさん!?」

「っ」

「止めるなよ、リヴェリア。止める事は許さない」

「わかっている。わかっているさ、フィン」

「リヴェリア様……」

「待って、ちょっと待ってください! いくらなんでもそんな……!?」

「若造、状況を見ろ。今の盤面を見下ろせ。儂等はもう、その時に片足を突っ込んでおる」

「!?」

「なんだよ、それ……なに言ってるんだ!? あんた達はそれでいいのかっ!? 大事な仲間なんだろ! それを──っ!」

「原因を作ったてめえ等が何をほざいてやがる!」

「っ!?」

 

 パパが虐められています。パパ達に原因はありません。普通に考えて襲われて反撃しただけなので正当防衛です。また、誰が異世界転移した先でその力を使ったら駄目だと思いますか? ありえません。

 

「君のその優しさは素直に嬉しい。だが、感情と理性は切り離すべきだ。単純な話なんだ。アイズが魔物(モンスター)を超える災厄になったというなら、殲滅するしかない。秤に掛けるのはオラリオすべての命だ。さしもの第一級冒険者でもこれには釣り合わない。それに僕達がアイズを討たなければ他のファミリア……いや、ヘスティア・ファミリアが討つだろう」

「僕達がそんな事をするはずがありません! そうだよね!」

「それは……」

「リリ?」

「きっちりと討ちますわね」

「クルミ!?」

「たとえアタランテさんが拒否したとしても、強制的に始末させますわ」

「なんで!?」

「ギルドから正式な依頼が来るからだ。先も言ったが、アイズの命とオラリオの……いや、空間震の規模を聞いた限りではこの世界の危機になりうるだろう。アンタレスと同じだ。ギルドは神造兵器や神の力(アルカナム)の使用を許可し、必ず討滅させる。これは神々とこの世界に生きる者達の総意となる」

「そんなっ!?」

「ベルさん。申し訳ございませんが、わたくしはわたくし自身はもちろん、ファミリアを預かる団長として他の団員も含めて彼等の命と財産を守る義務があります。ですから、その時がくれば容赦はしません」

「組織の長はどんな時も最悪を想定して動くべきよ」

「まあ、僕はその保険が必要になるとは思っていないけれどね」

「あら、そうなの?」

「ああ。こちらには切り札が居るからね。そもそも君達の計画が成功すればいいだけだ。()()()()()頼むよ」

 

 これは巻き返せと言われておりますわね。まあ、やるんですけど。ええ、やりますとも。アイズさんを殺すなんてとんでもありません。ただ、わたくし一人だと問題があるんですわよね。

 

「それじゃあ、団員を配備するために僕達はもう動く。ここからは別行動だ」

「ドチビ。そっちは任せたわ。うちはフィン達についてく。こっちはこっちでケアせなあかん子が多そうやからな」

「君達の作戦の成功を願っている」

「……っ。貴女達さえ、現れなければ……」

「あ──」

 

 十香さんが何かを言う前にロキ・ファミリアの方々は出ていきました。残ったのは士道さん達とわたくし達とヘスティア・ファミリアだけです。

 

「何さ、言いたい放題言ってくれちゃって。私達だって好きでこの世界に来たわけじゃないのに。謝らせてさえくれないってわけ?」

「胸が……苦しいな……なんだか……ギュっとする……」

「十香……あんまり気に病むな。おまえが悪いわけじゃない」

「む……うむ、だが……」

「彼は部隊を切り分けた。私達に仲間を任せたくない。それは彼等の何よりの本音。けれど、彼は私達との内紛の方を危ぶんだ。互いが障害となって作戦に支障を来す……最悪の可能性を排除した。だからこそ……彼はその時が来たら、本当にやる」

「ええ、切れるわねあの金髪。とても残酷で合理的。私情を挟まない鋼の精神。最高の現実主義者(リアリスト)。個人的には嫌いじゃないわよ。ああいうのを、この世界じゃ英雄っていうんじゃないの?」

「琴里!」

「でも……現実なんてものをぶっ壊して理想を掴むのが、本当の英雄(ヒーロー)ってもんでしょうが!!」

「「!」」

「バッドエンドなんか要らない! 誰も死なせてやるもんですか! それが私達、ラタトスクのやり方よ!」

「……そうだな。そうだよな!」

「私が原因であの者が変わってしまったというのなら……私こそ命を賭けなければならん!」

「私と士道が力を合わせれば不可能はない。愛は全てを救う」

「なんであんたと士道だけなのよ! 私達も入れろし!」

「あははっ! ば、ボクも目指すんだったら断然こっちだな」

「その通りです! ベル様、クルミ様! 剣姫様を救いましょう!」

「うん!」

「ですわね」

「さぁ──私達の戦争(デート)を始めましょう」

「「「おう!」」」

 

 皆さんで一致団結してヘスティア・ファミリアはアイズさんを救うために動きます。ですので、最大効率で趣味と実益を兼ねてやらせていただきます。

 

「じゃあ、まずその一手としてやらねばならないことがあります。琴里お姉ちゃん、よろしいでしょうか!」

「何かしら?」

「お姉ちゃんの記憶……くださいな♪」

「は!?」

 

刻々帝(ザフキエル)>を呼び出し、短銃を琴里さんに向けます。皆さんは驚いていますが、気にしません。

 

「どういうことか、説明してくれるかしら?」

「もちろんですわ。まず、わたくしの仕事として、超特急でパパの力を模倣した魔導具を作成しなくてはなりません」

「そうね。それがないと話にならないわ」

「確かにそうだな」

「で、士道さんや皆さんのデートを詳しく記憶しているのはこの中で誰でしょうか?」

「それは……琴里か?」

「そうですわ。司令官であるお姉ちゃんならば確実に知っています。パパの事はもちろん、精霊の封印される前のデータから封印された後のデータまで余すところなく、きっちりとはっきりと記憶なさっています。司令官ともあろう方が彼女達のデータを見ないことなどありえませんわ」

「私が普通に提供するっていうのは……」

「忘れている可能性があります。でしたら、強制的にわたくしが見た方が魔導具を作成する最短距離です」

「……貴女の狙いはそれだけじゃないでしょ。知りたいのは<灼爛殲鬼(カマエル)>や他の子達のデータもでしょ」

「さぁ、なんのことかわかりませんわ」

「嘘だね。彼女は嘘をついた。明らかに君達のデータも狙っているよ~」

「ヘスティアさん?」

「おっと、口が滑った」

「……まあ、別にいいけど。他人には……他の人には一切漏らさないでちょうだい。それが約束できるのなら、認めてあげるわ」

「あら、意外に素直ですわね」

「必要な事なら、私は戸惑わないわ。ハッピーエンドにしてくれるんでしょう?」

「約束しますわ。アイズさんを救い、わたくし達が思うハッピーエンドにします」

「よろしい。なら持っていきなさい。あ、痛くはしないでね」

 

 琴里さんを撃ち、皆さんに関する情報を貰います。これでより精巧に短時間で作る事ができます。

 

「ありがとうございます。十二時間もあれば作れますわ」

「そう。それなら恥ずかしい記憶を見られたかいはあったわね」

「琴里、大丈夫か?」

「ええ、大丈夫よ。家族みたいなものになるんだし、これぐらいなんてことないわ。ええ、なんてことも……」

「では、次にパパ」

「な、なんだ?」

「ママを見つけたので情報を収集してきてくださいまし」

「え? 俺?」

「パパじゃないと無理です。いいですか、パパ。なんとしてもママを味方に引き込んでください。そうじゃないとハッピーエンドを迎える事は不可能です。ですから、ママをデレさせて骨抜きにしちゃってください」

「なるほどね。確かに時崎狂三の力は必要ね」

「でも、彼女は敵」

「だからこそ、デレさせるんじゃない。士道、狂三とデートしなさい」

「わかった。デートはともかく、事情を聞かないといけないしな。それにくーの言う通り、狂三が居ると居ないとでは全然違う。今から行ってくる」

「一応、持ってきていた小型通信機があるから、それをつけていってきて」

「了解! 案内してくれ」

「こちらですわ」

 

 お父様(パパ)お母様(ママ)にけしかけた後、それを邪魔しようとする人達をしっかりと止めておけばママのことですから攻勢を仕掛けてくれるでしょう。正直、出力的に言っても勝てないので、巻き戻し合戦では確実に負けます。ですので、ママを味方に引き入れないとバッドエンド確定ですわ。

 

 

 

 

 



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デート・ア・ライブ 士道と狂三1

 

 

 

 

 

「すいません。この本をいただけますか?」

 

 見つけた本屋さんに入り、本を幾つか読んでから目的の物を見つけてカウンターにもっていきます。

 

「構わないよ。お金は……」

「こちらで……」

「これは使えんよ」

「と、そうでしたわね。これは困りました。この本は欲しいので……そうですわ。若返りでいかがでしょうか?」

 

 わたくしはこの世界のお金をまだ持っていません。ですので、売れる物を売りましょう。

 

「ほう、若返りじゃと?」

「ええ、いかがでしょうか?」

「悩みどころじゃが……やはり現金がよいのう」

「でしたら、この建物を新築に戻すというのはどうですか?」

「それが本当じゃったら、それでよいぞ。リフォームする予定じゃからな」

「では、それでいきましょう。<刻々帝(ザフキエル)>、四の弾(ダレット)

 

 銃弾を壁に撃ち込んでお店の時間を巻き戻して差し上げます。これで新築と同じになりました。汚れも全てなくなり、匂いも変わります。

 

「おお、これはたまげた……」

「では、約束通りこの本は頂いていきますわね」

「本以外にもお金が必要じゃろう。リフォーム代金じゃ」

「あら、ありがとうございます。では、こちらはサービスですわ」

「ほ?」

 

 店主さんを四の弾(ダレット)の銃弾で撃ち、彼の身体も若返らせてさしあげます。

 

「確かに若返えったようじゃ!」

「それでは代金を頂いていきますわ」

「うむ。ありがとう」

「いえいえ」

 

 この世界は霊力に満ちあふれています。ですから、数年程度なら容易いですわ。ですが、この世界の時間を巻き戻したところで、わたくしが目的としている十五年前の世界に行っても無駄ですしね。

 

「さて、お勉強しましょうか」

 

 噴水がある広場でベンチに座りながら本を読みます。しばらく本を読んでいると、影が覆ってきたので顔をあげると、そこには真剣な表情をした彼が居ました。

 

「狂三。話がある」

「ええ、わたくしもありますわ、士道さん。隣、どうぞ」

「ああ」

 

 少し横に退いて士道さんを座らせてあげます。

 

「狂三。もう一度聞くが、彼女は本当に俺達の子供なんだな?」

「それについて話してもいいですが、邪魔な人達が居ますわね」

「ちょっ!?」

 

 士道さんにもたれかかるようにして抱きつき、彼の耳に挟まれているイヤホン型通信機を取り外してあげます。

 

「そちらに誰が居るのかは知りませんが、無粋なことは止めてくださいまし。邪魔をするというのであればそれ相応の覚悟をしてくださいませ」

 

 そう言ってから電源を切ってからポケットにしまいます。返してはあげません。

 

「これはしばらく預かってあげますわ。それと必要ならこの周りの人を排除させていただきましょうか」

「おい」

「わたくしたち。周りを囲んで邪魔な方々を排除してくださいまし」

「「「かしこまりましたわ」」」

「他の人に被害を出させるなよ」

「それは十香さん達次第ですわ」

 

 士道さんが緊張した表情でこちらを見詰めてこられます。

 

「とりあえず、身体を離してくれ……」

「あら、わたくしはこのままでも構いませんのよ」

「いや、大事な話をするんだろう?」

「それもそうですわね」

 

 さて、わたくしは隣に座る士道さんの腕を掴んで抱え込みます。胸に挟んであげると、うろたえてくれてとても楽しいですわ。

 

「さて、小さなわたくしについてですわね。それとあの子の事についてですが、詳しい事を教えますが、あの子には教えないでくださいまし。いえ、士道さんが判断するのであれば構いませんが……」

「わかった。それで本当に俺達の子供なのか?」

「ええ、わたくし達の子供ですわ。本当にわたくしが産んだようですわね」

「マジで!?」

「はい。士道さんのDNA……血液が付着していた物を使ったようですわね」

「え!? クローンか何か!? というか入手先は!?」

「一緒に襲撃をかけたじゃないですか。その時でしょうか? 十香さんが反転した時に空間とか割っていましたし、その辺りからわたくしの分身が落ちたようですわね。もしくは未来のわたくしか……その辺りはわかりませんでしたわ」

「あ~狂三なら時間軸を移動したりできるもんな」

「はい。そもそもあくまでも記憶を読んだのは小さいわたくしですもの。記憶を読んだのはわたくしではありませんからね」

 

 そう、読んだ記憶にあるのはあの子の身体が用意された時からですわ。彼女が作られた作成理由です。

 

「そうか。それだけか?」

「もちろん違いますわ。士道さん、あの子の記憶を読むような事をさせませんでしたか?」

「やった。失敗したけどな」

「まあ、やりますわよね。それは絶対に駄目ですわ。彼女、死にますわよ」

「え”!?」

「正確には精神の死です」

 

 わたくしは立ち上がり、士道さんの前に移動して彼の頬を両手で挟み込んで額と額をくっつけます。顔を赤らめて驚いている士道さんに至近距離から告げます。

 

「士道さんは自分の身体が無数に切り刻まれて体内に別の生命体の異物を入れられ、様々な薬品を投与されて拒絶反応などで苦しみながら助けを求めても助けてもらえず、その果てに世界など全てを憎んで死に絶えた子達の記憶を体験しても耐えられますか?」

「なんだよ、それ……」

「まあ、士道さんなら耐えられるかもしれませんわね。なんせ何度も絶望を体験しながらも十香さんや折紙さん達を助けていきましたしね」

「いやいや、いくら俺でも……」

「実際、何度も死んでますから本当に可能でしょう?」

「無理だって。それでそんな事か?」

「ええ、そうですわ。それも複数人の記憶が再生されるはずですわ」

「じゃあ、彼女が無意識に拒否していたのは……」

「死を理解しているのか、わたくしの残留思念が残っていて、彼女が助けてくれているのかもしれません」

 

 魔導書の時にはわたくしと出会ったようですし、その可能性は十分にありますわ。

 

「どちらにしろ、彼女はその……複数の人が素材にされているのか?」

「それも子供達、ですわね」

「まさか、狂三は……ありえないか」

「いくらわたくしでもそんなことはしません。そもそも無駄です。生半可な方法でどうやって拒絶反応を抑えるんですの?」

「あ~でも、もう一人の狂三はやったんだろ?」

「あの子がやったのはそこに漂っていた子や生き残っていた子供を基準にして用意されていた魔法陣や魔道具、その場に居た微精霊や精霊の残滓を利用し、自らの肉体を依り代にして新たに子供を自らの胎に宿す事で拒絶反応が起こらないようにしました。そもそもわたくしの身体自体が精霊ですしね」

「だが、それだと精霊の力に耐えきれるはずが……」

「ここに精霊の力を封印し、順次解放することで物にしているお方がおりますわね?」

「それで俺か!?」

「はい。士道さんの持つ精霊を封印する力。それを以て彼女の力を封印し、耐えられるようになった時に順次解放していっているのですわ。幸いにしてここには神の恩恵(ファルナ)なんてものもあって器の強化には持ってこいですもの」

「……彼女はどうしてこんなことを?」

「どうせ消えていく命なら次に繋げるつもりだったようですわね。それと士道さんとわたくしの反応をあの子を通して愉しんでいるのでしょう」

「俺達がこの世界に来ることを知っていたのか?」

「そこはわかりません。ただ、知っていたようですわね」

 

 その辺りは知らせるわけがありません。だって、彼女は……いえ、彼はわたくし達の事を全て知っているんですもの。

 

「で、どうしますか士道さん?」

「何がだ?」

「ですから、子供についてです。士道さんがどうしても嫌がるのでしたら、わたくしだけが育てますわ。わたくしがやらかしたことでもありますからね」

「……俺も育てる。ここで拒否したら俺が育児放棄したみたいになるだろ!」

「まあ、そうですわね。ちなみにあの子はこの世界では大手のファミリアの団長……つまり、大会社の社長みたいですわね」

「うわぁ……」

「権力も資金も施設も持っています。正直、このままではわたくし達が養ってもらう方になりますわね」

「それは流石に……」

「ですわよね。そこでこれです」

「えっと、そういえば何の本を……子供の躾方で、こっちは子供との接し方?」

 

 そう、わたくしが買った本は子育てに関する本ですわ。せっかく、わたくしがわたくしと士道さんのために用意してくださったプレゼントですもの。利用しないわけにはいきませんわ。

 

「確かに必要だよな……どう接していいかなんて一切わからんし……」

「ですわね。まさか子持ちになるなんて予想外ですものね」

「ところで狂三」

「なんですの?」

「そろそろ離れてくれないか?」

「ところで彼女はわたくし達の子供ですわよね?」

「そ、そうだな……」

「でしたら、わたくしと士道さんは夫婦になりますわね?」

「ちょっと待て! お願いだから待って!」

「あら、士道さんは両親が離婚していても大丈夫ですか?」

「え? いや、それは……そういうことになるのか?」

「そうなりますわ。ですから、士道さんはわたくしの夫ですわね」

「そう、なのか? そう、なのだろうか……」

「それに士道さんは釣った魚に餌を与えないんですの……? わたくしを救ってくださるんですわよね?」

「うっ……わかった」

 

 本当にナイスな采配ですわよ、わたくし。これで他の方々に抜きんでて士道さんを手に入れられます。わたくしの目的にも近づきますしね。

 

「というわけで士道さん。デートをしましょう」

「で、デート?」

「はい、デートですわ。子供に送るプレゼントを買わないといけません。幸い、お金が手に入りましたので、子供のお金で買うなんていう失態は犯しません。士道さんも父親として何かを贈った方がいいですわよ?」

「確かにそうだな。わかった。それじゃあデートをしようか」

「とっても楽しみですわね」

 

 士道さんの前から立ち上がり、手を差し出しますと士道さんが掴んで立ち上がらせます。そんな士道さんの腕に抱き着いて一緒に買い物を楽しんでいきます。

 

 

 

 

 



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デート・ア・ライブ 士道と狂三2

士道と狂三1の前に一話、挿入させていただいております。こちらは1の続きです。ほぼデアラ組しか出ないのでさっと終わらせます。というか、これ以上甘いのを書けないです、はい。
それと年末年始は忙しいので毎日投降は無理です。黄色にもなったので気力が尽きたじぇ。
ありふれた職業の方も更新しないといけませんからね。

感想、高評価、誤字脱字報告、誠にありがとうございます。感謝感激でございます。

デアラ勢がどうでもいいという方は見なくても大丈夫です。ぶっちゃけデートしているだけですから。次回が次の日になり、ベル君達とアイズさんを助けるために動くお話です。


 

 

 

 

 俺は狂三と共に異世界の街を移動していく。本当に俺達が住んでいた世界とは違い、まるで中世ヨーロッパの街中を歩いている感じだ。そんな場所を観光気分で歩く……訳にもいかない。何故なら、右腕に抱き着いている狂三から伝わってくる柔らかい胸の感触と彼女の温もりが伝わってくるからだ。

 

「あら、どうしましたか、士道さん?」

 

 楽しそうにこちらに微笑んでくる狂三の笑顔に思わず見惚れてしまう。

 

「士道さん?」

「……いや、これからどうする? プレゼントと言っても何にするか問題だよな。俺達ってここの街の事を知らないし……いや、狂三はくーの記憶を読んだから大丈夫か?」

「くー?」

「狂三とクルミだから、ややこしいとなってな」

「くーと言う名前は可愛らしいのでいいですわね。それではわたくしもあの子の事はそう呼びましょう。それでこの街の事ですわね?」

 

 どうやら、狂三も受け入れてくれたようで良かった。本当は俺がリードすべきなんだろうが、さすがに情報がないから無理だ。

 

「ああ、俺は本当に知らないから狂三のオススメで頼む」

「ええ、任せてくださいまし。士道さんは何処か行きたいところがありませんか?」

「そうだな……服屋がいい。それも向上心が高いデザイナーとかが居るようなところとかな。あるか?」

「ありますわね。では、まずはそこから参りましょうか」

「頼む」

 

 狂三の案内で移動し、俺達はオラリオにある服屋に移動した。そのお店はかなり大きな店みたいだ。ただ、そこは女性専用の服飾店のようだ。

 

「あの、狂三さん? ここは女性専用の服飾店のようなんですが……」

「どうせ、デートなんですからここで士道さんに服を選んでいただこうかと。わたくしの分とくーの分もね」

「あ~そうだよな、そっちだよな」

「どうしましたか?」

「いや、なんでもない。じゃあ、選ばせてもらおうかな」

 

 そうだよな。流石にアレはないはずだ。気にしすぎだろう。気にせずに店の中に入るとしよう。

 店の中には当然のように女性しか居ない。そんな中で男の俺が入ってきたら当然、視線を集めるが、隣に狂三がいるので直ぐに視線は外れていく。

 

「それで士道さん。服飾店に何のご用だったのですか?」

「ああ。それは簡単だよ」

 

 狂三を連れてカウンターの方へ移動する。カウンターには店員の人が当然居るので、彼女に要件を告げる。

 

「ちょっといいかな?」

「はい、なんでしょうか?」

 

 店員の人と交渉し、身分証として預かっていたヘスティア・ファミリアの関係者である証明書を見せる。それから店主の人を呼んでもらう。言われていた通り、ヘスティア・ファミリアの関係者である事を示せばすぐに対応が変わった。それだけ力があるという事だろう。

 少し待つと店主の人が走ってやってきた。その人に携帯端末にある地球の服飾関係の画像やデザインなどを見せていく。

 

「素晴らしい!」

「じゃあ……」

「買い取らせてもらいます! 色は……」

「つけなくていいから!」

「かしこまりました」

 

 予想通り、異世界である地球のデザインなどはオラリオに無い物がほとんどで、目の色を変えて買ってくれることになった。まあ、ヘスティア・ファミリアの後ろ盾が無ければ買い叩かれたり、デザインだけ取られていた可能性もあったかもしれないな。

 

「なるほど、資金調達ですのね。ですが、わたくしもそれなりに持っておりますから、わたくしが出しましたわよ?」

「いや、流石に狂三のお金で全部支払ってもらうのはあれだしな。後はボールペンとか、今着ている服とかも売る予定だったんだが、流石に女性用のところじゃ売れないしな」

「士道さんの服でしたら、折紙が喜んで買いそうですわね」

「止めて! 本当に買いそうだから!」

 

 折紙なら本当にやる。というか、実際に俺の服が取られていたこともあったし、襲われそうになったこともあった。そういうこと以外は普通にいい子なんだけどな。

 

「それにしても士道さん」

「ん?」

「何故、士道さんの携帯に女性服の画像や着かたなどが詳しく入っていましたの?」

「それは……って、狂三も知ってるだろ。アレのせいだよ」

「そのアレじゃわかりませんわ♪」

「絶対に嘘だ!」

「くすくす」

 

 とりあえず、資金は出来たので狂三とくーの服を選ぶために二人で店内を移動していく。くーの趣味とかは狂三が知っているので、色々と選んでいく。

 

「士道さん、士道さん」

「なんだ?」

「こちらとこちら、どちらがよろしいでしょうか?」

「大きさからして狂三の服か?」

「はい。士道さんはどちらがよろしいですか?」

 

 狂三が手に持っているのは黒と白のゴシックなワンピースドレスとスカートタイプの着物だ。こういう時は何度も遭遇しているので対処は間違わない。

 

「俺としてはどちらも似合うと思うが、こちらの方がいいかな……」

「あら、ドレスの方ですのね。どうしてかしら?」

「その、なんだ……今の服装もそうだが、狂三はちょっと肌が出ているから、こっちの服の方が露出が少ない」

 

 狂三の服装は肩とか胸元とかが大胆に露出しているタイプのドレスだ。だから、こっちの方がいい。着物の方も狂三に似合うだろうが、スカートなので動きが阻害される事はないだろうが、もしもの場合を考えると狂三が動きなれているであろうゴスロリの方だろう。

 

「それってもしかして……」

「そうだよ。悪いか?」

「いえいえ、士道さんがわたくしの事を思ってくださっているのなら、構いませんわ。では、こちらを購入致しましょう」

「俺が出すよ。くーの服はどうする?」

「そうですわね。わたくしと幼さ以外はほぼ変わりませんので、縮小したものでいいかと思いますわ。それと士道さん、今日は髪の毛をストレートにしてみますわね」

「それならこの赤い薔薇の髪飾りが似合いそうだな」

「ありがとうございます」

 

 狂三は今日、大人っぽくするようだ。くーがいるせいだろう。自分も幼くみられるのを嫌ったのかもしれない。

 

「下着はどちらがよろしいでしょうか……?」

「それはお揃いにしてやるとくーも喜ぶと思うから、狂三が選んでくれ。父親が娘の下着を選ぶとかアレだろ!?」

「それもそうですわね。でしたら、別にわたくしが穿く分を……」

「そ、それならそのドレスに似合う白色で!」

「なるほど、わかりましたわ」

 

 レースの白色を選んだようだ。くーのもみたいだが、そこは気にしない。気にしたら負けだ。それにかなり視線が痛い。

 (ライフ)が削れられていく中、狂三とくーの服を購入した。狂三は着替えて黒と白のゴシックドレスへとなっている。胸元と髪飾りに赤い薔薇をつけている。髪の毛を下ろした狂三はお嬢様といえる状態になった。

 

「どうですか、士道さん」

「似合っているよ。本当に」

「それは良かったですわ」

 

 俺の前でくるりと回って、ふんわりと風で靡くストレートの綺麗な濡れ羽色の髪と外側が黒色で左右に分かれているスカートと、内側にある白色のスカート。どちらも狂三に似合っている。新しい衣装に身を包んだ姿を見せてくれた狂三は俺の言葉を聞いて嬉しそうに微笑んでくれる。

 

「それじゃあ、デートの続きをしましょう」

「わかった。ただ、先にくーのプレゼントを買わないか?」

「流石に服だけじゃ駄目ですわね」

「ああ。何か残る物が……」

 

 そこで前髪から覗く狂三の時計盤となっている金色の瞳が見え、思わず見詰める。綺麗なそれに見惚れていると、狂三が何処か顔を赤らめていく。

 

「し、士道さん……?」

「ああ、悪い。それよりも良いプレゼントを思い付いた」

「それはどのような物ですの?」

 

 俺は狂三の耳元に囁いていく。すると彼女は驚いた表情をした後、楽しそうに笑ってくれる。

 

「確かにそれは良いですわね。ですが、彼女は冒険者……いえ、くー曰くボウケンシャーです」

「あ~それってもしかして世界樹の迷宮とかそっち系統の?」

「そっち系統ですわね。とりあえず、ボウケンシャーである彼女が肌身離さず持ち、使える物と言えば……」

「ファンタジーの定番、魔道具か」

「はい。というわけで次の行き先は決定ですわね」

「わかった」

 

 着替えた狂三と共に次の目的地へと向かう。そこはヘルメス・ファミリアという場所だ。そこの受付の人に向かう前に何故か男の人が現れて俺達を奥へと連れていかれた。

 狂三が大人しくついていっているので、俺も大人しくついていく。すると団長室という場所に案内されたようだ。

 

「初めまして異邦より来た諸君。俺はヘルメス。このファミリアの主神をしている。で、こっちはアスフィだ」

「どうも」

「初めまして。俺は五河士道と言います。こっちは……」

「時崎狂三ですわ」

「聞いていた通り、名前は同じなんだね」

「ややこしくてすいません」

「いやいや、勝手に知らない間に作られていた子供を認知するとは流石だ! それに精霊を複数落とす偉業はゼウスにも引けを取らないだろう! 俺は神として君の偉業を称えよう!」

「いやいや何言ってんですか!?」

 

 俺がヘルメス様と話している間に狂三はアスフィさんと色々と話していく。

 

「あの、この仕様通りになるとかなりの素材と金額が必要になります。それに私だけでは無理です」

「そこをなんとかお願い致しますわ」

「無理な物は無理です」

「どれどれ……確かにここまでの細工に力を与えるとなるとかなりの素材が必要だな。高位の魔物(モンスター)から出るドロップアイテムが要るが、何かあるかい?」

「それなら、これって使えませんか?」

 

 俺は迷宮(ダンジョン)で十香達が倒した後に拾った黒い物を見せる。大きさは拳一つくらいの大きさだから、ポケットには入った。これがなんなのかはわからないが、使えるのなら使って欲しい。

 

「……これ、どこで手に入れました?」

迷宮(ダンジョン)で巨人と骨の恐竜を倒した時だな」

「……ヘルメス様」

「うん。これなら問題ない。ただ、俺達だけじゃ加工はできない」

「あら、万能者でもできませんの?」

「流石にこの素材は特殊すぎるんです」

「そうだ。鍛冶の神に近い連中じゃないと無理だ。だが、幸いにしてあてがある。俺が話を通そう。彼女達ならクルミにプレゼントするという事なら喜んで引き受けてくれるさ」

「じゃあ、お願いします。代金はこれで」

「わたくしからもこちらで」

 

 俺と狂三で少しのお金を除いて全て差し出す。かなりの金額になると思う。だけど、これじゃ足りないだろうから、ボールペンなど筆記用具とかも売ることにする。

 

「ではすぐに取り掛かります。時間は……」

「明日までによろしくお願い致しますわ」

「え!? いや、流石に加工とか刻む物もありますし……不壊属性(デュランダル)までつけるのでそれは……」

「明日までです。よろしくお願いいたしますわね。その条件で受けてくれるなら、わたくしも今回の事件を解決するためにご協力してさしあげますわ」

「いいだろう。アスフィならやってくれるさ! あちらもこの素材なら大喜びで引き受けてくれるしね」

「そんなっ!?」

「ごめん。でも、お願いできないだろうか?」

「……どうにかしましょう。ヘルメス様」

「なんだい?」

「この書類仕事、お願いします」

「え!?」

「私はこれからヘファイストス・ファミリアに行って作ってきますので、後の事はお任せします。ファルガー! ヘルメス様を逃がさないようにお願いしますね!」

「おう。任せておけ」

 

 グルグル巻きにされて椅子に縛り付けられるヘルメス様。いいのかとも思うが、気にしないでおこう。ついでに俺も鍛冶が出来る人には用があるから、アスフィさんに追加で依頼しておく。

 

「……まあ、魔道具でもない物ですが、余った素材で作らせてもらいましょう。しかし、本当にいいのですか? 彼女はあくまでも貴方にとって知らない内に作られた存在です。貴方に責任は一切ありません」

「わかってはいる。でも、それでもやっぱり俺の血を引いていて、境遇がアレだから俺は受け入れようと思う。俺の両親も死んでいないんだ。それどころか、過去の記憶もない。だからこそ、両親や家族がいない不安とかは俺にも少しは理解できるしな」

「ファミリアの仲間が……とは、言えませんね。やはり、血のつながりというのも大事ですから。わかりました。その依頼、確かにお受けいたします」

「頼む。この借りは何れ返す」

「わかりました。期待せずに待っています」

 

 アスフィさんに依頼した後、俺は狂三と共に移動する。

 

「何を頼んでいらしたのですか?」

「内緒だ」

「そうですか……」

 

 話をそらすために周りの屋台を見ると、その中で見覚えがあるものがあった。それは狂三とこちらの世界で出会った時の事を詳しくくーに聞いた時に出てきた屋台だ。

 

「狂三、そういえばアレを食べたがっていたんじゃないのか?」

「あら、そうでしたわ。士道さん、ぜひ買いましょう! くーの記憶からも美味しい物だとわかっておりますわ」

「そうだな。どの味がいい? 色々とあるみたいだが……」

「そうですわね……色々な味を食べてみたいですが、流石に少ししか食べられませんわ」

「それなら俺が食べるから、狂三は好きなように食べたらいい」

「いいんですの?」

「ああ、構わない」

「でしたら、塩味と小豆クリーム味。ケチャップ味もいいですわね」

 

 狂三が楽しそうに選んでいるのを横で見ながら、ふと思った。全部買って、他の狂三達に分けたらいいんじゃないかと思ったのだ。だが、それは無粋だ。伝えるのは止めておこう。楽しそうだし。

 

「では、こちらで」

「毎度あり!」

 

 支払ってから二人で腕を組みながら移動していく。噴水がある場所に設置されたベンチに座り、二人で食べ始める。

 

「士道さん、こちらも美味しいですわよ」

「じゃあ、少しもらうか」

 

 取ろうとすると、狂三がガードしてきた。彼女の方を見ると、悪戯っ子のような表情をしながら、ジャガ丸君を掴んで口元に運んでくる。

 

「あ~ん」

「く、狂三……」

「ほら、士道さん。冷めてしまいますわ。あ~ん」

「あ、あ~ん」

 

 狂三に押されてジャガ丸を食べる。甘いクリームと小豆、ジャガイモの味が口の中に広がってくる。気恥ずかしさも合わさって、美味しいことは美味しいが、なんというか変な感じだ。

 

「士道さん。今度はわたくしにそちらをくださいまし」

「まさか……」

「あ~ん」

「わかったよ……あ~ん」

 

 ジャガ丸君を食べやすいように千切ってから狂三の口に入れてやると、指ごと食べられた。そのまま腕を掴まれて指を舌が這っていく。その感触に身体が震えてくる。

 

「く、狂三ッ!?」

「ああ、とっても可愛らしいですわね、士道さん。このまま食べてしまいたいですわ」

「だ、駄目だからな!」

「わかっておりますわ。そんな事はしません。今はこの関係を楽しみますわ。さあ、次はわたくしの番ですわ♪」

 

 楽しそうな狂三に付き合ってジャガ丸君を食べた後、屋台巡りやオラリオの観光名所を二人で歩いていく。とても回り切れなかった。

 なので最後は此花亭というヘスティア・ファミリアのホーム近くにある夜にライトアップされている桜並木を歩いてから、帰る。

 

「見つけた士道!」

「シドー! 何処に行っていたのだ!」

 

 やってきた二人は複数のくーを引き摺ってやってきていた。どうやら、俺と狂三のデートを妨害させないようにしていたのだろう。

 

「気が利く娘ですわね」

「そう、だな……」

 

 折紙の言葉に手を繋いだままなのに気付いて離そうとしたが、やっぱり止めた。

 

「何時まで手を繋いでいるの! この泥棒猫!」

「あら、にゃ~と泣きましょうか?」

「うぅ、狂三にシドーが取られた……」

「邪魔はさせませんわ!」

 

 二人と複数のくー達のやり取りを見ながら、狂三と笑いあってからそのまま此花亭に入る。女将さん達に迎え入れられ、俺達は同じ部屋に案内された。当然のように折紙達もついていくる。部屋にはすでに琴里が居て、身体から湯気を立たせている。どうやら温泉に入ってきたようだ。

 

「お帰りなさい。その様子ならちゃんと狂三を攻略できたみたいね。いえ、攻略されたのかしら?」

「どうだろうな?」

「まあ、どっちでもいいわ。時崎狂三。貴方に聞きたい事があるの」

「なんですか、琴里さん」

()()()()()()()()()()()()()()()()

「その答えは──」

 

 狂三の言葉は驚くべきものだった。そして、それが嘘ではないことを俺はわかる。今回の件、どうやら一筋縄ではいかないようだ。

 

 

 



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デート・ア・ライブ 指輪の相手は……

新年あけましておめでとうございます。ボチボチ再開させていきます。


 

 

 

 此花亭に併設されたヘスティア・ファミリアの本拠地のある一室。そこには現在、ヘスティア・ファミリアの主だった面々とロキさん、お父様(パパ)お母様(ママ)や異世界の精霊さん達がいらっしゃいます。その方々が席に座り、壇上に立っているわたくしに視線を向けております。

 

「さて、本日ご用意しましたのはこちら」

 

 掌に乗せた高級感溢れるケースを持ち出します。純白のケースは表面に飾り彫りがされており、作られた水に黄緑色の樹脂を流し込んであるのでとても綺麗です。

 

「指輪ケースという事は完成したのね?」

「はい。琴里お姉様から提供していただいたデータを基礎として作り上げさせていただきました」

「綺麗なケースだね」

「確かにそうですね……」

「いったいいくらするんだろ……」

「ご説明いたします。こちらのケースは大理石を刳り貫き、作り上げました」

「待て」

「更に表面には神聖文字(ヒエログリフ)を刻んでありますので、指輪に溜め過ぎた力の貯蓄も可能な一品です」

「け、ケースも魔道具なんか?」

「その通りでございます」

 

 驚いているロキさん達を見ながら説明していきます。それが終われば蓋を開けて肝心の中身である指輪見せます。

 

「こちらがアイズさんに送られるエンゲージリングとなりますわ」

 

 ケースの中には銀色のリングに大小のエメラルドグリーンの宝石が複数取り付けられた物です。こちらも神聖文字(ヒエログリフ)を回路のようにして設置し、術式が発動するように仕上げてあります。

 

「リングの部分は精製金属(ミスリル)聖皇鉱石(ホーリーダイト)を使用。宝石はエメラルドとイル・ワイバーン、砲竜(ヴァルガングドラゴン)の魔石を砕いて粉にして混ぜ合わせ、黒ジャガ君の骨で作った粉で回路を作り、立体的な術式を構築できるように細工して圧縮して固定しました。それがこちらに取り付けてあるエメラルドグリーンの宝石です」

「綺麗やけど高いんやろ? 深層やリヴェリアの杖と同じ素材まで使われとるし……」

「間違いなく高そうだな……」

「ですわね」

「お値段を知るのはまだ早いですわ。こちらの効力はアイズさんが発する精霊の力を封印するだけではありません。封じた精霊の力を溜め込むことができるのです!」

「「「おぉ~!」」」

「貯蓄した力はエンゲージリングであるペアリンクされた二つの指輪を循環して力を増幅し、装着している方々に変換する事が可能ですの!」

「ふ、封印だけじゃなくてパワーアップアイテムかいな!」

「そうです! 封印だけなんて言いません。わたくしが三十人がかりで徹夜して作り上げたのは互いの力を蓄えて混ぜ合わせ、増幅して二人に還元するもの。正にこれこそ愛し合う二人が持つに相応しい壊れないエンゲージリングですわ! まあ、残念ながら、極東に伝わる陰と陽の概念を利用しているので男性と女性のペアでしか使えませんが……」

「いや、増幅までしている時点で明らかにやばいアイテムだからね?」

「胃が痛いレベルや」

「……円環を二つ合わせて無限という意味もあるのね。なるほど、いい仕事をしたようね。それに八舞姉妹の二人で一人という特性も利用しているんでしょう」

 

 そう、これはパパだけではなく、八舞姉妹も参考にして作りました。だって風の精霊ですもの。それと微精霊も術式をちゃんと制御するために組み込んでいます。微精霊達は増幅される力を得て成長していけるのでウィンウィンな関係という奴ですわ。

 

「あ、あの、代金はいくらになるんでしょうか?」

「リリさん」

「はい。リリの方から代金を発表させてもらいます。素材と技術料、特急料金もかねてお値段はなんと!」

「な、なんと……?」

「一億九千万ヴァリスです!」

「「「一億九千万ヴァリス~~!」」」

 

 無茶苦茶高いです。言ってしまえばヘスティア・ナイフと変わりません。でも、仕方がありません。だって、素材が素材ですし、リリさんが貰った<颶風具足(シュトゥルム・パンツァー)>よりは下とはいえ、かなりの性能です。使っている術式も神界の物を下界風にアレンジした物と八舞姉妹が使う風の精霊としての力を劣化とはいえ再現していますからね。

 

「払えるのかい、ロキ……」

「ちょっと高すぎやで……」

「そんな貴女様にいまらななんと、特別価格の一億ヴァリスでご提供しますわ! 今だけのお買い得商品で一品物でございます! 買わなきゃ損ですわ!」

「なんで通販番組?」

「うむ。まごうことなき通販番組だな」

「これが通販番組というものなんですのね」

 

 パパが発言した言葉に十香さんが答え、ママが楽しそうにこちらを見詰めてきます。ですので、張り切っていきましょう。

 

「い、一億ヴァリスか……それならアイズたんの為に出せる! 怒られそうやけどしゃあない」

「更にもう一声お願いします、クルミ様」

「はい。今回はわたくしの方も色々と実験もかねてやらせていただきましたし、有益なデータを琴里お姉様やパパ達から提供して頂けましたし、リリさんが耶倶矢さんから<颶風具足(シュトゥルム・パンツァー)>を頂きましたのでヘスティア・ファミリアの方から半額の五千万ヴァリスを出させていただきます」

「マジで!?」

「マジですの」

「どうせ追加で条件があるんでしょう?」

「その通りです。これはペアリング。もう一人はわたくしの方から指定させていただきます」

「でも、それって士道って子じゃないと駄目やないん?」

「いえ、士道の力を再現したキスの代わりの指輪があるのなら、士道に拘る必要はないわ。むしろ、こちらの世界の住人が望ましいわね。誰かアイズって子と親しい人はいないの? 彼氏とか旦那とか」

「いるわけないやろ!」

 

 琴里お姉様の言葉にロキさんが即座に否定されました。その言葉を聞いて我らが主神であるヘスティアさんは舌打ちをし、副団長であるベルさんはほっとしたようです。

 

「だったら、アイズって子が心を開く可能性がある子がいいわ。そんな子はいる?」

「男性となるとベルさんですわね」

「ベル様ですね。それ以外となると、アイズ様に好意を抱いている方はいらっしゃいますが、アイズさんの方は思っておられませんし……」

「待つんだ! ベル君はボクのだ!」

「アイズたんはうちのや!」

「それにベル君よりもカッコイイ人はいっぱい居るだろう! フィン君とか!」

「神様ぁ~っ!?」

 

 ヘスティアさんの攻撃によってベルさんに大ダメージです。まあ、私もベルさんはカッコイイよりもカワイイという感じだと思います。

 

「私が見た感じ、彼女は年下の可愛い男の子にお姉さんぶりたい感じ。年上のしっかりしたカッコイイ見た目よりもそっちの方が確率は高い」

 

 折紙さんが断言しました。確かにアイズさんはベルさんと仲良くされております。色々と世話を焼きたいような感じですので間違ってはいないと思います。というか、こちらもベルさん用に調整しているのでベルさん以外は使えないんですけどね! 

 

「じゃあ、ベルより可愛い男の子は居る?」

「居るわけないだろ! ベル君が一番可愛いんだ!」

「神様っ! 何を言っているんですか! 僕は可愛くなんてないです!」

「いや、僕はベル君が可愛いと断言できる! 神様の生を賭けてもいいね!」

「そんな……」

「じゃあ、アイズって子のお相手はベルに決定ね。これならヘスティア・ファミリアが半分を出すのもいいでしょう」

「待つんだ! だからベル君は僕のだと……」

「ヘスティア・ファミリアからベルさんが、ロキ・ファミリアからアイズさんが出るとなればバランスはとれますわね。レベル差は大きいですが、まあそこはわたくしがどうにかしますので問題ありません」

「……うちのアイズたんと釣り合うもんをくれるっていうんか?」

 

 わたくしの言葉にロキさんが少し神威を出しながら威圧してきますが、わたくしには効きません。

 

「指輪の代金を全てわたくしが負担しますし、今回の件でかかるわたくしが支払う費用を全て無料とさせていただきますわ」

「それだけの価値があるっていうんやろうな? 数億ヴァリスじゃアイズたんはやれんぞ」

「数十億ヴァリスの価値はございますし、そもそも所属はそのままで構いません。ただ、お二人が本当に愛し合うことになれば認めてくださるだけで構いませんわ」

 

 巻き戻しの代金も含めてなので、数十億ヴァリスで済むかどうかもわかりません。お金がまた溶けていきます。ですが、アイズさんを救う為ならば惜しくはありません。

 

「僕は認めないからなぁぁぁっ!」

「だ、そうですのでこのままではベルさんはロキ・ファミリアに改宗ですわね」

「なっ!?」

「それは……アリ、やな」

「ロキ!?」

「アイズたんを取られるんは業腹やけど、アイズたんの幸せのためやったらうちは涙を呑んで認めてやる! やけど、ちゃんと愛し合っているならやで!」

「それで十分です。で、ヘスティアさんはどうするのですか?」

「ぐぐぐ……」

「それに妻が一人だけとは限りませんし、いいんじゃないですか? そもそもベルさんってハーレムを目指してこちらにこられたんですし……」

「なるほど……それも考えに値するか。断腸の思いだけど……」

 

 ベルさんに女性陣の視線が集まってきますが、間違いではありません。お爺さんに誘導されたようですが、別にいいと思います。わたくしは参加するつもりはございませんし、ゆりゆりなハーレムを作りたいとは思っていますし! 

 

 

 



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デート・ア・ライブ 指輪の相手は……

前に入れられなかったので……次回がベル君とアイズさん。


 

 

 

「アイズの相手は決定したけれど、問題は彼女が何処に居るかよね。隣界に居られたら手がでないわ。一応、アイズを見かけたら連絡をもらうように頼んであるけど……」

 

 隣界という異界に居られてはわたくし達には手がでませんからね。ですので、アイズさんがこちらの世界にやって来ない限りはどうしようもありません。

 

「それでしたら、わたくしがお手伝いしてさしあげますわ」

「狂三が手伝ってくれるの?」

「ええ。人海戦術で探すのであればわたくしが適任でしょう。くー、手伝ってくださいまし」

「かしこまりましたわ、ママ」

「士道さんもこちらに……あら?」

 

 気がつけば士道さんが居ませんでした。まあ、問題はありませんので、わたくし達を呼び出してオラリオ中に配置して確認しましょう。

 

「どうせならわたくしの分身とくーの分身を一緒に行動させましょうか。暇つぶしもできますしね」

「確かにそれがいいですわね」

 

 ママの誘いどおり、わたくし達の分身は二人一組となってオラリオ中に散っていきます。

 

「ただいま」

「お帰りなさい、士道さん」

「シドー! どこに行っていたのだ?」

「ちょっとな。それで狂三とくー。ちょっとこっちに来てくれ」

「わかりましたわ。行きますわよ」

「私達はどうするのだ?」

「十香達は少し待っていてくれ。すぐ戻るからな。できたら折紙を押さえておいてくれ」

「了解した」

「士道、士道、どこ行くの?」

「あ、ちょっとな。少し待っていてくれ」

「わかった」

 

 パパに連れられて此花亭にある一室に移動しました。そこには何故か凄い隈を作った疲れたようなアスフィさんがいらっしゃいました。彼女の前にはなにやら大きな箱が置かれておりますね。

 

「なんですかこれは?」

「いいからいいから」

「後のお楽しみですわよ」

「さっさと並んでください。こっちは眠いんですから……」

 

 頭を押さえるアスフィさんの指示に従って私達は箱の前に並びます。順番はわたくしが真ん中で左右にパパとママです。

 

「はい、こっちを見ていてくださいね」

 

 アスフィさんの言葉でだいたいわかりましたので、大人しく言われた通りに従います。すると眩い光……なんてものがせずに普通に終わりました。

 

「では、少々お待ちください」

「ああ、ありがとう。狂三」

「ええ」

 

 パパとママが二人で一つの綺麗にラッピングされた箱を持ちながら、わたくしに差し出してきました。

 

「あの、これって……」

「誕生日プレゼントだな」

「知らなかったので数年分ですけれどね。まさか子供を作られているなんて思ってもいませんでしたもの」

「まったくだな。だが、それでも生まれてきてくれたことは祝わないとな」

「あ、ありがとうございます……」

 

 プレゼントを受け取り、胸に抱きしめると何故か涙が勝手に流れてきます。こんな事で泣くなんて自分が信じられません。そもそも受け入れてくれるなんて思ってもみませんでしたし……

 

「ほら、開けてみてくれ」

 

 そう言いながらパパが人差し指で涙を拭ってくれました。ママは私の肩に後ろから手を置いてきました。

 

「ほら、開けてくださいまし。わたくしと士道さんで用意したものですから、きっと気に入ってくださると思いますわ」

「わかりました……えいっ」

 

 ラッピングを外して中身の箱を開けると、木屑の上に金色に光り輝く楕円形の物がありました。それを持ち上げてみると、それは懐中時計で蓋は中央にむかって黒い文様が刻まれており、中心にはガラスがはめ込まれていて中の歯車と針が見えるようになっています。

 上のボタンを押して蓋を開けてみると、金色の縁に黒い盤。そこに金色で文字や秒針が刻まれており、ローマ数字が刻まれておりますわ。

 

「どうだ?」

「すごいです……ありがとうございます! これ、欲しかった奴ですの!」

 

 わたくしの記憶に刻まれている時崎狂三をイメージして作られた懐中時計。記憶にあるそのままの姿でとても、とても、嬉しいですわ。

 

「それだけじゃありませんわ。蓋の裏は鏡になっておりますし、これで身嗜みを何時でも整えられますわ」

「あはは……」

「ついでに言うと、ここを何度か押すと……」

「開いた?」

 

 時計盤がまるごと開いて蓋と同じところまで降りていきました。どうやら、この時計盤は裏側にも設置されているようです。それだけではなく、底の部分に写真が仕込めるように作られていました。

 

「まさか……」

「アスフィさん」

「はい、できてますよ」

 

 アスフィさんが懐中時計を取り、操作して何か小さい物をくっつけると底に先程取った写真が映し出されました。

 

「この魔道具で映像を切り取り、こちらの魔導具に入れることで複数の映像を見れるようにしておきました」

「なんですかそのオーバーテクノロジー!」

「俺達が頼んだのは普通の写真なんだけど……」

「こちらの方が便利でしょう」

 

 何を言ってるんだとでも言いたげなアスフィさん。そういえばこの人も規格外でしたわね。人の身でありながら精霊の力を使わずに下界の素材だけで神器の力を再現する人ですし。なんですか、透明になれるハデスの兜って。こっちとら神代の知識と地球の知識を使ってようやく対抗しているんですのよ! 

 

「デジタル印刷……魔法って凄まじいな」

「そうですわね。これは驚きました。ですが、どうせなら色々と撮りましょう」

「そう、だな」

「では操作方法などは仲井さんに説明しましたので私は帰ります。あ、士道さんはこちらをどうぞ」

「ありがとう」

 

 パパがアスフィさんから何かを受け取ったみたいです。わたくしはわたくしでチェーンを用意して取り付けます。チェーンだけは自分で用意しろという感じでした。そこまで時間がなかったのでしょう。

 

「お手伝いしますので、こちらへどうぞ」

 

 仲井さんに手伝ってもらって和服の写真も撮っていきます。その写真も全て懐中時計に入れて眺めるのが日課になりました。やはり、両親に認めてもらえるというのはとても嬉しいことのようで、身体の奥がポカポカして表情が崩れるのが自分でもわかります。

 

「すっかり落とされてしまいましたわね。士道さんったら、手が早いですわよ」

「違うからな! それと狂三、手を貸してくれ」

「はい?」

「これ、一応な。責任を取るって言ったから……」

「あらあら、まあまあ……」

 

 嬉しそうなママの声に振り返ると、パパがママの左手を離すところでした。ママは左手を見ながら、頬に掌をあててウットリしながら薬指に光る指輪を見詰めていたのでした。

 

「あ、この映像はどうしますか?」

「柚さん、撮りましたの?」

「はい! 思い出に残ると思って……駄目でした?」

「ナイスです!」

 

 パパとママが指輪を嵌めている写真を確保しておきました。これは後で琴里お姉様に見せないといけません。照れながらも撮ってくれた柚さんには感謝です。後で何か、美味しい物をプレゼントしましょう。

 

 

 




プレゼントを渡すタイミングがここしかないのでいれました。短くてごめんなさい。でも古戦場中なんだよ~!


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デート・ア・ライブ デート作戦開始

待ってくれているかはわかりませんが、お待たせです。


 

 

 懐中時計を見詰めていると、分身達がオラリオの街中でアイズ・ヴァレンシュタインを見つけたと連絡を入れてきました。

 アイズさんが見つかったので、皆さんを連れて街へと移動しました。移動した場所は屋台がある市場です。そう、屋台がある市場なのです。

 

「ここにアイズが居るの?」

「はい、お姉ちゃん。あそこですわ」

 

 視線の先にある屋台には紫色の露出が激しいドレスに身を包んだアイズさんが、無表情で注文しておられます。

 

「ジャガ丸くん。小豆クリーム味三つ……やっぱり、五つ」

「毎度あり!」

 

 そう、ここはジャガ丸くんが売っている屋台なのです。

 

「は? ちょっと待ちなさい。まさか、ジャガ丸くんを食べたいがために隣界*1から現実世界に静粛現界したっていうの!? 時空震も起こさないで!?」

「被害を出したら食べられませんものね」

「いやいや、まさかそんな……」

 

 信じられない。そんな表情をしている琴里お姉ちゃんですが、事実なんですよね。その証拠に他の方々は納得しておられます。

 

「アイズさんならあり得ます……」

「はい。アイズ様ならありえますね」

「確かにヴァレンなにがし君はジャガ丸くん屋台の常連だよね」

 

 はい。ベルさんやリリさん、ヘスティアさんが認めるようにアイズさんはジャガ丸くんを食べにやってきたわけですね。わざわざ世界を越えてです。本当、どんだけ好きなんでしょうか。

 

「本当にずっともしゃもしゃ食べているわね」

「おお、本当にいい食べっぷりだな! 私まで何だかお腹が空いてきたぞ!」

 

 呆れている琴里お姉ちゃんの言葉に続いて十香さんがお腹を撫でながら呟きました。確かにその通りで、食べたくなってくるほどいい食べっぷりですね。

 

「くくっ、異世界のジャガなる物……それは抗いがたき馥郁(ふくいく)たる香りをもたらし、精霊すら魅了して虜にする禁断の蜜ッ!!」

「少し黙っていて」

 

 耶倶矢さんが中二病を炸裂させていると、折紙さんが耶倶矢さんの口を止めました。まあ、他のお客さん達の視線が集まってきていますから仕方がありませんね。

 

「楽しそうですね、クルミ様……いえ、くー様」

「楽しいですからね。出羽亀しているだけですし」

「なんですか、それ」

 

 呆れたような声色で告げてくるリリさんの手を握り、そのままジャガ丸くんの屋台の方へと向かいます。

 

「どうするんですか?」

「買いますよ」

「荷物持ちですか。わかりました」

「トマトクリーム味も含めて全て、四つずつくださいな」

「毎度あり!」

「こっちもトマトクリーム味」

 

 リリさんと注文していると、アイズさんも食べ終えたのか追加注文なさいました。わたくしは気にせずに品物を受け取ってから皆さんの所に戻ります。その間に琴里お姉ちゃんがベルさんに色々と説明しておりますね。

 

「それじゃあ、私達は離れて監視だけしておくから後は任せるわよ」

「そんな!?」

「ベル君には無理じゃないかな?」

「と、言っても通信機も小型の高性能顕現装置(リアライザ)*2無いのよ。ご都合主義的に持ってきていたら良かったんだけど……無い物は仕方がないわ」

「それがなんだかわからないが、ボク達が傍でサポートしたら駄目なのかい?」

「簡単なことよ。サポートを受けてデートしてるなんてのを見られたら、対象の好感度が下がっちゃうでしょ?」

 

 戻ると琴里お姉ちゃんがこちらに話を振ってきたので、リリさんが答えてくれます。

 

「まあ、それはそうかもしれませんが……ベル様にできるんですか?」

「どうにかしてデートの雰囲気を盛り下げず、陰からガッチリサポートするのが私達のやり方なんだけど、流石に道具がないのよね。くー。そういう魔導具とかってないの?」

「残念ながらありませんわね。時間がアレば開発するのですが……」

「その時間は指輪に使ったものね。仕方ない。なら、原始的な方法でサポートするわよ」

「原始的な方法ってなんだよ?」

「カンペよカンペ! もしくはプラカード! それをアイズ・ヴァレンシュタインの死角からベルだけに見えるようにするの。幸い、人海戦術は可能だしね」

 

 まあ、それぐらいしかやる方法がありませんね。仕方がないのでその辺りはお任せしましょう。こちらはこちらでやることがありますし。

 

「大丈夫なのか、コレ……」

「多分?」

「面白そうではあるが、きっと無理だな!」

「うむ。私でも無理だとわかるぞ……」

「ま、まぁ……とりあえず置いておきましょう。それよりも作戦に移るわよ! 目標はアイズ・ヴァレンシュタイン。識別名<ソード・プリンセス>! ベル・クラネルは目標を速やかにデレさせ、左手薬指に指輪を嵌めて精霊の力を封印すること──」

「は、はい……!」

「さぁ、戦争(デート)開始よ!」

 

 始まりました。ベルさんとアイズさんの嬉しドキドキな戦争(デート)です! 失敗したらオラリオの危機ですので頑張ってください! 

 おもしろおかしいデートを観察するだけの簡単なお仕事です。まあ、わたくしは次の事を考えて無線機ぐらいは作る準備をしておきましょう。アレば色々と便利ですからね。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「ジャガ丸くん、トマト大福味も……」

「あ、アイズさんっ!」

「それから、激辛ソース味も。チーズましましで」

「聞いてないっ!?」

 

 屋根の上に移動して、ベルさんが見えるように琴里お姉ちゃんの言葉をプラカードに書いて伝えていきます。

 

『落ち着きなさい、ベル。まずは対象の興味を引くのよ』

「そ、そんなことを言われても、どうしたら……」

 

 ベルさんの言葉は彼の影に潜む別のわたくしから伝えていただき、それを琴里お姉ちゃん達に伝えていきます。その言葉を受けてプラカードで返していくわけですわね。面倒ですわ。

 

「ふ。さっそく顕現装置(リアライザ)の出番……って、無いから仕方がないわね。それじゃあ、ベルが話すべき会話内容を私達で決めましょう」

 

 本当は人工知能が解析して提示してくれます。それが顕現装置(リアライザ)なわけですわね。

 

「アイズはジャガ丸くんが好きなのだろう? だったらそれでいいではないか。うむ、美味しいな」

「確かにその通りだと俺も思う」

「士道がそう言うなら、それが正解」

「まあ、アイズ様ならジャガ丸くんですね」

「うむ。間違いないな」

「わたくしはアイズさんのことを詳しく知りませんのでお任せしますわ。興味もありませんし」

「興味はありますが、お任せしますわ」

「我は家に連れていくのがいいと思うぞ!」

「いやいや、それは……」

「なんや、面白そうなことしとるやん! うちも交ぜて~! というか、交ぜろ」

「いいよ」

 

 やってきたロキさんに説明していきます。あちらも一応は片付いたのでしょう。その証拠に護衛の人もいますし。

 

「で、アイズたんを誘う方法か。それで、ジャガ丸くんを使って誘うか、家に誘うかやな」

「そうだよ」

「ちゃうな」

「え? 間違ってる?」

「アイズたんはジャガ丸くんをストイックに食べる子や。ジャガ丸くんをダシにして声をかけるとか、地雷になりかねん。アイズたんの意識をジャガ丸くんから引き離すんやったら……」

「だったら家に誘うのかしら?」

「ちゃう! ここで第三の選択肢を発動や! クルミたんを使う!」

「なんでわたくしですの!?」

「グレイたんと一緒で妹のように可愛がっとるクルミたんを使えば気を引けるはずや!」

「なるほど。それはそれでアリね。やってみましょう」

 

 強制的に決められました。そもそも選択肢があったとしても、琴里お姉ちゃんが納得した選択肢が選ばれるのであって、多数決ですらありませんからね。黒いリボンのお姉ちゃんは暴君だとわかりますね。

 

「では、take1」

 

 影に潜むわたくしをベルさんの横に立たせて、言われた通りに不安そうな表情でベルさんに腕を掴んでもらいながら教えた通りに答えてもらいます。

 

「あ、アイズさん! クルミの事で話があります! 僕と一緒に来てください! そうじゃないとクルミが大変なことに……」

「……あ、アイズさん、お願い……」

 

 お願いしてみると、アイズさんがジャガ丸くんから視線を外してこちらに向いて……すぐにジャガ丸くんに向かいました。ほほう、いいでしょう。

 

「……うぅ……アイズ、お姉ちゃん……おねがい……たす、けて……」

 

 上目使いの涙目で服の裾を掴んでお願いすると、アイズさんがわたくしをしっかりと見た後、ジャガ丸くんと交互に見た後……わたくしを抱きしめてジャガ丸くんを食べだしました。

 

「あ、あの、アイズさん……アレ? アイズさん? アイズさ~ん!」

 

 次の瞬間にはアイズさんはわたくしごと消えていました。

 

「アイズたんをロストした!」

「何処行った!」

「隣界に戻ったのだと思うぞ」

「くそっ! 時間をかけすぎたわね!」

「というか、くーが連れ去られてますわね」

「ですわね~」

「いや、狂三も連れ去られた本人もなんでそう呑気なんだよ」

「いやですわ、パパったら……リンクが繋がって……切れましたわね。流石に世界の壁を越えられませんでしたか。惜しい子を亡くしました」

「全然そう思ってないよね」

「いえいえ、そう思っていますわ。八の弾(ヘット)

 

 頭を撃ち抜いて分身を再生成します。これで使った分は大丈夫です。生き残っている可能性もございますが、わかりませんしね。

 

「とりあえず、しばらくはベルを練習させないといけないわね。士道、ベルに指導してあげて」

「わかった」

 

 とりあえず、場所を此花亭に移動します。そこで士道さんの姿を見てベルさんはお勉強です。わたくしは隣でママを椅子にして設計図を書きましょう。ママはママでわたくしの髪の毛を弄って遊んでいるので問題ありません。

 

 

 

 

 

 

 それから何度もアイズさんを見つけては挑戦しましたが、ことごとく失敗しております。あはははは! 

 

「やあ、花のように美しいお嬢さん。俺は、今日君に会うために生まれてきたんだと確信したよ」

 

 士道さんが目を瞑りながらしっかりと立ちながら、スタイリッシュな感じで決めていきます。彼の目の前には十香さんがいます。

 

「次」

「あぁぁぁっ! 俺をなじって! 罵倒して! 踏んづけてくださいぃぃぃ! 下僕! そう俺は貴方の下僕ですぅっ!」

 

 頬を赤らめながら上気した感じで叫ぶ様は正に変態です。お茶を持ってきた柚さんが思わずわたくし達の後ろに隠れましたね。

 

「次は折紙の時ね」

「あぁ? 俺とデートしたいなら、スクール水着に猫耳、首輪くらいはマストだろうがっ!」

「……」

「と、まあ……精霊とデートする時はこんな感じで振る舞うのよ」

「嘘ですよね? 絶対に嘘ですよね!? 最初の奴以外、絶対に口説こうとしてませんよねぇ!?」

「私はどれでもイケる。実際にやった」

「うそだと言ってぇぇぇぇぇっ!?」

 

 ベルさんの絶叫が響きますが、事実なんですよね。折紙さん、本当に旧スクール水着に猫耳、首輪でデートしましたからね。尊敬はしませんし、憧れもしません。でも、ホテルとか部屋の中でなら見たいですし、させたいです。今度、リリさんにさせてみましょうか。ガチの猫耳と尻尾装備でスクール水着とか、良さそうです。

 

「っ!? なにか悪寒が……」

 

 リリさんが身体を抱きしめて震えています。可哀想なので、分身のわたくし達で抱きしめて暖を取ってあげましょう。むぎゅー! 

 

「まあ、折紙がエクストラ・イージーモードなのは否定しないわ。士道限定だけど」

「ベル。こういうのは慣れだからさ。慣れれば自然と台詞も出てくるんだ。本当だよ? ほんとほんと、ラクショーさー……」

「士道……目が死んでるよ……」

「いい、ベル? 私達はもう何度もアイズと接触を試みて、これに失敗しているわ。声をかけてみても無視! くーは連れ去られるし意味無し。 もはや攻略以前の問題! まずは目標の興味を引くためにスキルアップが急務なの!」

「わかってますけど……」

「苦労なさってますね……」

「まあ、ベル君からしてみれば一番無縁というか、荷が重い話だしな~」

「あの折紙っちゅう子、めっちゃ美少女のくせに攻めでも受けでもイケる口やなんて……あかん、胸が滾ってきたわ」

「君はどこ見てるんだよ」

 

 ヘスティアさんがロキさんを冷めた目で見詰めていきます。

 

「あ、そこ間違ってますわよ」

「え、どこですか」

「ここですわね」

「本当ですわね。ありがとうございます」

 

 ママに指摘された場所を修正して顕現装置(リアライザ)の設計図を魔導具に落とし込んでいきます。神代の術式も使ってどうにかこちらでも再現してみせましょう。失敗したら困りますし。

 

「……ぼ、僕をなじって、罵って……ふ、ふ……踏んづけてっ……ぶ、ブヒィー!」

「だから恥ずかしがってたら意味がないでしょ!? 自信のない男の言うことなんて、誰が聞いてくれるのよ!」

「そもそも自信満々に言うことじゃないですよぉ!?」

「……致し方ない。ベル、これを」

「お、折紙さん……? なんですか、この小瓶のようなもの……?」

「飲むとドキドキが止まらなくなる不思議な薬」

「ファッ!?」

 

 人はソレを媚薬といいます。とっても強力な奴でしょうね。なんせ折紙さんが常備しているようなものですし。

 

「これをアイズに飲ませて押し倒せば全て上手くいく」

「いきませんよッ!!」

「……ごめんなさい。確かに安易だった。襲われて身も心も凌辱されてしまうのはベルの方だった」

「なに言ってるンですかァァァァッ!!?」

「あの薬、いったい何に使うつもりだったんだ……さ、寒気が止まらねぇ……」

 

 それはもちろん、士道さんを襲うために使う予定だったんでしょう。もしくは襲ってもらうためにですか。折紙さんはどちらもいけますが、襲ってもらう方が色々と得ですから、きっとそっちでしょう。

 

「大丈夫ですわ、士道さん。わたくしが守って差し上げますから」

「すまない、狂三」

 

 果たしてママはどのタイミングで助けるのでしょうか? 媚薬を飲まされた後? それともその前でしょうか? 楽しみですわね。

 

「……今ある情報を踏まえても、<ソード・プリンセス>は元々の好物であるジャガ丸くんを食べるために静粛現界をしたと見て間違いない。反転体といっても、おそらく十香とは違って少なからず元の人格と記憶を有していると考えるべきね」

「??? どういうことだ、琴里」

「つまり……<ソード・プリンセス>はベルの情報をちゃんと持っている。けれど、関心が限りなくゼロに近い状態にあるってこと。そこさえ覆えれば、攻略の糸口になるはずなんだけど……」

「……」

「とはいえ、どうする? 宿命を負いし運命の子がこのままでは、我々の求めし希望には依然遠く……」

「……時間も無い、か。こうなったら作戦を組み替えるわ! 士道、準備なさい!」

「へ……?」

 

 今度は士道さんとママ、ベルさんでアイズさんの所へと出むきました。それ以外の方はお留守番ですわ。まあ、わたくしは分身を中継してみるんですけどね。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「えっと、これって……」

「ダブルデートですわね」

「なんか妙なことになってきたな」

「ですが、仕方がありませんわ。ベルさんが使えないのなら、士道さんがお手本を見せて導いてさしあげるしかありませんもの」

「ご、ごめんなさい……」

 

 そう、お姉ちゃんが提案した方法はダブルデートで士道さんの技術をベルさんがまねるということですわ。

 当然、士道さんの相手は他の精霊さん達が立候補してきましたが、全て排除しました。ええ、全力で排除しました。ママが指輪を見せながら口撃して撃沈させました。彼女達は現在、部屋の隅でのの字を書くような雰囲気です。

 

「こちらに……ああ、居ましたわね」

 

 ママの案内でアイズさんが居る場所まで無事に到着できました。

 

「いいかベル。まずはダブルデートに持ち込むんだ。でなきゃ、何も始まらない」

「う、うん……!」

「あ、アイズさん! 今は何を……」

 

 ベルさんが声をかけますが、相変わらず無視されてそのまま歩いていきました。

 

「くぁ……!? やっぱり無視されて……!」

「──どうしたんだ狂三。ジッと屋台を見て、ジャガ丸くんを食べたいのか?」

「流石に同じ味付けばかりでは飽きてきましたわね」

「ははっ、悪い悪い。確かにそうだよな。けど、俺は食べたくなってさ。一緒にジャガ丸くん巡り、しようぜ? 新しい味に出会えるかもしれないし、見たことも聞いたこもないようなジャガ丸くんがあるかもしれない」

「……そうですわね。それでしたら士道さんにお付き合いいたしますわ。ですが、全部は食べられませんので、二人で一つのを食べましょう。ふふ♪」

「ああ、それでいい」

 

 楽しそうにパパの腕に抱きつくママ。いい感じです。ベルさんも二人の姿を見て動きだしました。

 

「……!! アイズさん! 僕と一緒にジャガ丸くん巡りをしませんか!?」

「……ジャガ丸くん巡り?」

「は、はい! 僕、いっぱいジャガ丸くんを食べたくなっちゃって……美味しいお店も知っているんです! どうですか?」

「……行く」

 

 とりあえずは第一段階をクリアしました。これからが問題ですが、なんとかしてくれるでしょう。ですが、一応は保険の準備もしておきましょう。

 

「あのアイズさんを一発で呼び止められた……!? すごいっ! 士道しゅごいいいいいいいぃぃぃっ!!」

「いや、俺もデートの達人ってわけじゃないんだが……ベルがいると逆に客観的になれるというか、冷静になれるというか……とりあえず、俺が全力でサポートするぜ! ついてきてくれ、ベル!」

「一生ついていくよ、師匠! じゃない、士道!!」

 

 こしょこしょ話が終わってから本格的にデートが開始されました。さてさて、どうなるか楽しみですわ。

 

「狂三、あっちにジャガ丸くんスペシャルサンデーが売ってるぞ。一緒に食べないか?」

「アイズさん、あっちでジャガ丸くんジャンボパフェが売っています! 一緒に食べに行きませんか?」

「「行く(行きますわ)」」

 

 お店に入った四人はそれぞれ近くにある別の席に座って注文していきます。ジャガ丸くんスペシャルサンデーとジャガ丸くんジャンボパフェ……意味がわかりません。すぐに注文した商品が店員さんによって届けられました。

 

「狂三。ほら、あ~ん」

「あ~ん。ふむ。なかなかいけますわね。では、次はこちらから……」

 

 ママがパパが持っていたスプーンを手に取り、そちらで同じように差し出しました。パパは少し恥ずかしがりながらもしっかりと食べさせっこしていきます。とりあえず、わたくしに写真を撮ってもらっておきます。

 

「アイズさん、ど、どうぞ。あ~ん──」

「──はむっ」

「ほぁぁぁぁぁっ!? 指っ、僕の指食べてますからぁアイズさぁぁぁぁん!?」

 

 あははは、最高です! どんどん撮っていきましょう! 

 

「狂三。ジャガ丸くんが口に付いてるぞ。取ってやるからじっとしてろ」

「あら、ごめんくださいまし。士道さん、舐め取ってくださる?」

 

 指を唇に当ててニコリと微笑むママ。絶対にわざとつけましたわね。士道さんも何か覚悟を決めたようにママの顎を掴んで上に向かせて……指で拭って口に入れました。ヘタレやがりましたね。

 

「あらあら、舐めてくださっても良かったですのに……」

「流石にベルが真似できないだろ」

 

 隣を見ると、ベルさんがアイズさんに挑戦していっておられます。

 

「あ、アイズさん、ジャガ丸くんが口に付いていますよ? とってあげます! じっとしていてください……」

「……ん」

 

 アイズさんが唇を差し出したことでベルさんが止まりました。どうせ、キスをするみたいだと思って彼女の唇を見詰めてしまっているのでしょう。

 

「……ベル、まだ?」

「い、今、とりまぁぁすっ!」

「えい♪」

「「あっ」」

 

 おっと、つい手を出してしまいました。具体的にはベルさんの頭と背中を押してあげました。

 

「あ、あああぁぁぁ、アイズさん……」

「ん、取れた?」

「は、はいぃぃっ!?」

「唇で強制的に取らせやがった」

「あらあら、まあまあ……」

 

 いともたやすく行われるえげつない行為をしてしまいましたが、仕方がありません。もっと進展させたいですから。

 

 

 

 

*1
精霊が移動することができる異世界

*2
コンピューター上での演算処理結果に基づいて、物理法則を歪めて現実世界に再現する機械。感情の動きなども計測できる




原作では十香がデートをしていますが、今回のルートでは狂三に変更です。是非もないよね!


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デート・ア・ライブ バットエンドのその先へ1

バットエンドです。バットエンドなのです。


 

 

「アイズさん! どうか受けとってくださいっ!」

「? わかった」

 

 夕暮れ時、噴水の前でベルさんはアイズさんに指輪を差し出しました。アイズさんは差し出された指輪を嵌めます。

 

「これでどうかしら?」

()()()()どうだ!」

 

 琴里お姉ちゃんとヘスティアさんが固唾を飲んで見守りますが、前と同じく何も起きません。どうやら、また失敗のようですわね。

 

「これは……」

「また失敗ね。好感度が足りなかった。アイズ・ヴァレンシュタインは落ちていない」

「なんでだ! なんでなんだ! あれからもう二日だよ! ボクなら一日目で落ちてるよ!」

 

 そうなんですよね。デートを開始してから二日。アイズさんとデートして、指輪を渡してを何度も繰り返しています。その度にパパはママや別の女性とデートをしてベルさんをあの手この手で導きましたが、駄目だったのです。ママは他の人がデートしている姿をわたくしを膝に乗せながら楽しそうに見つめていました。わたくしの頬っぺたをムニムニして遊びながらです。

 

「ヘスティアが折紙と同じくベリーイージーなだけじゃない。しかし、本当に顕現装置(リアライザ)が無いのは痛いわね。アレさえあればアイズの感情値を計測して判断できるんだけど……」

「それよりもベル君だよ!」

「そうね……私達のアプローチ方法が間違っていたのかはともかくとして、ベルのケアが必要でしょう。カウンセラーっているのかしら?」

 

 アイズさんはそのまま姿を消しました。残された指輪はカランという音を立てて地面に落ちました。ベルさんはその指輪を拾って夕日を見上げます。

 

「ベル、大丈夫か?」

「士道……うん、大丈夫……じゃないかも。慣れないことばっかりで、アイズさんは僕を見てくれなくて……誰かに好きになってもらうって、すごく大変なんだな……って」

「ははは……わかるよ。俺もそうだったしな。いきなり女の子をデレさせてキスしろ、なんて言われてもな……」

「当たり前だけど、俺達の世界に来て人に襲われていた精霊はみんな、最初から好意的じゃない。殺されかけたことも何度もあったし……」

「……士道は、もとの世界でこんなことをやってるんだね。すごいなぁ……」

「まあ、俺なんかより……精霊の方がずっと大変なんだ。いや、とても悲しい境遇にいる」

「悲しい? それにさっき、人に襲われたって……」

「琴里がちょろっと言っただろ? <AST>*1とか。精霊は生まれた瞬間から、人類に恨まれ、殲滅対象になっちまう……」

「っ!? 僕達の世界の怪物(モンスター)みたいに……?」

「ああ……本当に怪物とか災害扱いだ。精霊にも感情があって、生きてるのに……それにもっと恐ろしい連中もいたんだ。恨みや悲しみからじゃなく、精霊を利用しようとする奴が……」

「り、利用……? それは誰が……?」

「得体が知れなくて、おぞましい男だ。俺はあの男がとても怖いと思った。あの、アイザック・ウェストコットが……」

「アイザック……アイザック・ウェストコット……?」

「ちょっと関係の無い話もしちまったけれど、とにかく俺は、精霊達(あいつら)をそんな奴等から守りたいと思ったんだ。ベル。精霊をデレさせて力を封印するのは、ただの手段だと思っている」

「え?」

「目的は、本当にやりたいことは……」

「精霊を救うこと──」

「──」

「それを忘れなかったからこそ、俺は立ち上がれた。だから、ベルにだってできるさ。困ったら、いくらでも相談しろよ! 俺達はチームなんだからな!」

 

 士道さんがベルさんから離れていきました。ベルさんはまだ一人で色々と考えているようですわね。ヘスティアさんがベルさんのところに行こうとしていますが、それは琴里お姉ちゃん達が止めています。これはベルさんが答えを出さないといけませんから。今は一人にしてあげましょう

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

()()……? 誰が……? 誰を……? 僕が……アイズさんを……()()? ずっと、考えつかなかった……いや、考えないようにしていた……()()()()()()()()()……だって、助けられてきたのは、ボクじゃないか。強くて、綺麗で、遠過ぎて……()()みたいで。誰よりも憧れて、だから追いつきたいって……僕は……そんな僕が……どうやってあの人を……!?」

 

 暗くなった空に何かが空に現れるのが見えた。注視してみると、どうやらアイズさんのようで市壁の方に向かっているみたい。北西の市壁は僕と、アイズさんが訓練してた場所だ。必死に走っていると、流れ星が落ちていくのが見える。

 

「いや、今はそんなことより……!」

 

 荒い息を吐きながら市壁の階段を登ると、アイズさんは露出の多い姿で市壁の上からオラリオの街を見詰めているアイズさんがいた。

 

「アイズさんっ!」

「……どうしたんですか、アイズさん。こんなところで……」

 

 息を整えて努めて明るく声をかける。

 

「……空を、見てた」

「空……?」

「あとは、街……」

「……」

「……あ、アイズさん! また、ジャガ丸くんを食べにいきませんか? 僕、一緒に行きたいところが……」

「もう、いい」

「え?」

「もう、たくさん食べた。もう食べなくてもいいように、たくさん。もう大丈夫。だから──ダンジョンごと、この都市を壊す

「なっっ!?」

 

 アイズさんは信じられない言葉を吐きながら、無表情のまま光が灯るオラリオの街を見詰める。

 

憎い。だから壊す。許さない。だから殺す。もう()を増やさない。だから滅ぼす。私は怪物|怪物(モンスター)を許さない。私はダンジョンを、許せない。だから、願うの。()()()に。全てを壊してくださいって……

「どっ……どうして!? モンスターがっ、ダンジョンが憎いのならっ、迷宮都市(オラリオ)を壊す必要なんて!?」

「どうしてだろう、わからない。でも、()の奥がいっているの。この光景を、壊そうって──」

 

 アイズさんは市壁の上で風に煽られる髪の毛を押さえながら、不思議そうにそう告げた。

 

()の奥が今も囁いてる……ううん、違うのかな。私はずっと、この場所(オラリオ)が……幸せなみんなが、嫌いだったのかもしれない……」

「……っ!? アイズ、さん……」

 

 悲しそうに伝えてくるアイズさんに何があったのか、僕はわからない。どうしたらいいのかも、わからない。

 

「──ねぇ、ベル。()()は、いるのかな?」

「──」

 

 アイズさんの言葉で僕が英雄だと思い浮かべるのはおとぎ話にある、アルゴノゥトの物語に出てくる主人公。でも、それはあくまでもおとぎ話の中だけだ。

 

()()は、いると思う?」

()()、は──アイズさんです。()()は、アイズさんみたいな人だから! アイズさん達のような人を、みんなは()()と言うから! だから僕は……! 僕は、アイズさんがいれば……!」

「……………………………………………………そう。そうだね。()()()()()

 

 音が聞こえた。取り返しのつかない音が。致命的な何かを間違えてしまった音が。()()()()()()を選んでしまった()()の音が──

 

「っっ!?」

 

 アイズさんが風を巻き起こして僕を吹き飛ばす。僕は市壁の壁に身体を打ち付けられながら、アイズさんを見詰める。アイズさんはこちらを見ずにオラリオを見続けている。

 

()()なんていない……わかってた。あの時から、ずっと。だから……私は……」

 

 アイズさんが何かを掴むように空に浮かび上がって手を虚空にやる。けれど、そこには何もない。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 市壁の方で魔力のような、霊力のような、精霊の力が溢れ出すと同時にオラリオの各所で黒色の暴風が発生しだしました。

 

「な、何が起こっているんですかぁっ!?」

 

 叫んだリリさんの身体が浮きそうになります。ええ、リリさんの身体が、です。わたくしですか? わたしくは吹き飛びそうになっているので、リリさんの身体に抱きつきます。完全装備していないわたくし達ロリっ子にはかなりきついです。

 

「黒い暴風……! 都市全体を包み込むほどの……!!」

「これじゃあ、まるで空間震……いや、それ以上の……!?」

「あらあら、これはいけませんわね」

 

 士道さんは折紙さんとママに左右から抱き着かれながら、黒い暴風を見ています。ロキ・ファミリアの方々も一緒に見ています。

 

「アイズ、さん……」

「……くそがッッ」

「叶わなかったか」

「行くぞ。もう一刻の猶予もない。そうだろう……リヴェリア」

「ああ……」

「総員、武器を持てっっ! 目標は市壁北部──! 【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン──!!」

 

 皆さんの言葉を聞いてフィンさんが号令をかけます。悲壮な表情をしたロキ・ファミリアの方々は市壁へと走っていかれます。

 

「クルミ! ロキ・ファミリアの団長として正式に要請する。もしも僕達がアイズを討てなければアイズを第一級の危険存在としてアタランテ様の出動を願う。ギルドには既に話は通っている。()()()()()

「心得ましたわ」

 

 ロキ・ファミリアの方々を見送ります。それから、わたくしはリリさんの装備を時喰みの城(ときばみのしろ)から取り出し、渡します。

 

「クルミ様……くー様、本当にやるんですか?」

「やりますわ」

「くー! 何を考えているんだ! アイズは友達なんだろ!」

「それでもです、パパ。わたくしは個人としてはアイズさんを助けたいです。ですが、ヘスティア・ファミリアの団長として動かないわけにはいきません。アイズさんよりも、リリさんやキアラさん達の方がわたくしにとっては大切ですもの」

「っ!?」

 

 そう言って、わたくしは影に入ってバベルの塔の最上階へと移動します。皆さんも走って行く姿が見えますが、アタランテさんの召喚準備をします。魔法陣はすでに用意してありますから、時短も可能です。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の精霊。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 Fateの召喚呪文。ぶっちゃけますと意味はありません。必要なのは魔力を与えるパスとエインヘリャルの契約。契約は身体と魂に刻み込んであるので魔力さえあれば何処でも呼べますの。

 

「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。契約に従い、応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝 神と精霊を纏う死せる戦士、ヴァルハラより来たれ、狩猟にして貞潔の女神の加護を受けし純潔の狩人──―!」

 

 魔法陣から光の柱が立ち上り、中から獣耳尻尾の美少女戦士アタランテが現れます。

 

「クルミ。急に呼び出すとはかなりヤバイ状況か?」

「はい。アレを見てください」

「アレは……アイズか。しかし、なんなのだあの歪な感じは……」

 

 わたくしが空に浮かんで北部の市壁でロキ・ファミリアの方々を風で吹き飛ばし、歯牙にもかけずにオラリオを滅ぼす準備をしているアイズさんを指さします。すると、彼女は塔の欄干に足をかけながら、遠くを見るために目を細めました。

 

「そこに気付きますか」

「私は狩猟の女神だぞ。当然だ」

「では、女神様。アイズさんを反転せしめている核を撃ち抜けませんか? アイズさんを助けたいのですが、可能でしょうか?」

「無理だな。アイズが持つ精霊の力と邪悪な力が融合している。核を撃ち抜けばアイズも殺すことになる」

「そうですか……」

 

 市壁に視線をやると、ロキ・ファミリアの方々だけではなく、ママやパパ達も参戦しだしました。ですが、アイズさんの力の方が大きいです。流石は反転した精霊といえますね。それに比べて十香さん達はあくまでもこの世界が霊力に満ち溢れているための限定解除であるので、力としては封印されていないアイズさんの方が圧倒的に大きいです。こうなると、あちらの援護も必要でしょう。

 

「どうする? アイズを殺すか?」

「殺せますか?」

「殺せる。問題ないが……」

 

 アタランテは天穹の弓(タウロポロス)とアポロンの矢 を召喚し、構えます。

 

「被害はそれなりに出るぞ。アルテミスの矢を使う必要すらあるかもしれん。アイズが召喚しようとしている天の門は私が放つアルテミスの矢と同じ物だと思ってくれていい」

「わかりました。まずは援護をしてくださいまし。ロキ・ファミリアの方々と協力して倒します。もしも彼等がやられた場合は……ロキ・ファミリアごと()ってください」

「本気で言っているのか?」

「彼等の時間を回収させていただきますわ。どうせ滅びるのであれば有効活用させていただきましょう。それに黒幕も気になりますし、もろとも滅ぼせば何かアクションがあるかもしれませんね」

「そうか……私はやりたくないし、やらない方がいいと思うぞ」

「やらなくてはなりません。今回は全てを切り捨てて……痛っ!?」

 

 頭を思いっ切り硬い物で殴られて、頭を押さえます。すると、そこには大人のわたくし(時崎狂三)が居ました。顔は笑っていますが、目が笑っていません。ちなみに手には神威霊装・三番(エロヒム)を持っております。コレで殴ったようです。

 

「何、士道さんごと殺そうとしていますの? 怒りますわよ?」

「もう怒ってますよね! それにちゃんと助けます。時喰みの城(ときばみのしろ)を使えば可能ですから」

「そうですか。ですが、却下です。ソレ(守るべき者も含めて皆殺しして時間の回収)をすれば後悔します。何度も何度も巻き戻し、犠牲にしてきた者達の命を積み重ね、引くに引けなくなって心が擦り減っていき……やがて貴女は壊れますわ。ただの人であればそれもいいでしょう。ですが、わたくし達精霊にとって、それは反転を意味します。わかりますわね?」

「……うにゅぅ……」

 

 指を口に入れられてぐにぐにと好き勝手にされて、涙が出てきます。アタランテさんに助けを求めると、こちらを心配そうに見ながらあちらを見ずに狙撃を開始していました。こちらに気付くとあちらに視線を戻します。

 

たしゅけてぇ

「うむ……あまりひどいことは……」

「これは教育ですわ。娘の教育は母親としての役目ですもの。ましてや、わたくしと同じ道を通ろうとしているのであれば尚更ですわ」

「そういうことであれば思いっ切りやるといい。私は援護している」

うりゃぎりものー! 

「ふふ、許可が得ましたからたっぷりと可愛がってあげますわ……は?」

 

 黒い竜巻が市壁を覆い隠し、中が見えなくなりました。その瞬間。中から極大の炎が巻き上がる……なんて生易しいことではなく、金色の炎が周囲を焼き尽くし、黒い風を巻き込んで膨張していきます。そう、そこには小さな太陽が顕現していました。それもだんだんと黒くなっていきます。

 膨大な熱量が黒い風に運ばれ、住民を、建物を、次々と発火させて火柱へと変えていきます。その炎が風によってオラリオを全体へと広がっていくではありませんか。

 

「な、ななななにがどうなってやがるんですかぁぁぁっ!? どう考えてもアイズさんだけの力じゃありませんのっ! 琴里お姉ちゃんまで反転しやがったのですか!」

「乱れていますわね。落ち着いてくださいまし」

「……クルミ」

「「はい?」」

「どちらも反応するのか……まあ、いい。あの炎には覚えがある。小さい方のクルミもよく知っている奴だ」

「あ、ありませんわ! だって、だってあの力は……しっかりと封じていますし、琴里お姉ちゃんだって封じられて……」

「居るだろう。アイズより精霊の力は弱くても、後天的に同じ条件になっていて封印されておらず、あの力を持つ担い手が……」

あっ!? 

 

 なんで、なんでわたくしはアイズさんやママ達、異世界の精霊だけが反転すると思っていたんですの!? わたくしだって反転しました! なら、彼女だって、リリさんだって反転するじゃないですかっ! 劣化している疑似とはいえ霊結晶(セフィラ)を身体と装備に埋め込んであるんですから! 

 

「あははははは……やってしまいましたわ……」

 

 ぺたんと、地面に座り込んみます。その時にポケットに入れていた懐中時計が転がり落ちて、蓋が開きました。そこにはリリさんとわたくしが一緒に楽しそうに笑顔で写っている写真があり、思わず拾って抱きしめます。

 

「もはやこれまでだな」

 

 アタランテは天穹の弓でアポロンの矢を雲より高い天へと二本、撃ち放ちました。月女神アルテミスの力が多分に含まれた矢は空で巨大な魔法陣を形成し、そこから豪雨のごとき神造兵装であるアポロンの矢を降らせます。

 

訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)

 

 さながらそれは災厄のようで黒い暴風(反転したアイズさん)黒い太陽(反転したリリさん)を破壊し続けていきます。市壁から半径数キロが消し飛び、オラリオの北はほぼ消滅し、巨大な穴が開いたことでそこから迷宮(ダンジョン)へと繋がってしまいました。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」

 

 

 そして、そこから大量の怪物(モンスター)が押し寄せてきます。先頭を切ってやってくるのは複数の翼竜と呼ばれるドラゴンであるのですが、中には砲竜(ヴァルガングドラゴン)なども複数でてきています。

 

「大挙として押し寄せてきたか。どうする、クルミ?」

 

リリさんが、リリが死んだ。リリが、リリが、リリが、リリ、リリ、わたくしのリリ! 居ない、居ない! 何処にもいない!

 

「どうしよう、どうしよう……どうしたら……? ま、巻き戻して……でも、足りる? 足りますの? いや、やるしかありません……元からそのつもりでした。でも……どこまで、どこまで巻き戻したら……?」

「……ここは任せる。私は出てきたモンスターを狩る。マスターを頼む」

「ええ、お任せくださいまし」

「あっ……」

 

 アタランテがバベルの塔から飛び降りていくと、ママはわたくしの首根っこを掴んで持ち上げて視線を合わせてきました。

 

「さて、わたくしの娘……いえ、偽物。貴女はどうしますの? わたくしは士道さんを助けるために過去に戻りますわ。ここで諦めるというのであれば……死になさい。いや、それはそれでもったいないですわね。わたくしの養分として差し上げましょう」

「なんで……」

「士道さんが居たから、貴女を娘として迎えいれましたが、士道さんが居ないのであれば必要ありません。ただ気持ち悪いだけですわ。

 貴女は知っていますわよね? わたくしの目的はあちらの世界で過去へと戻ること。士道さんはその時に必要な駒なのです。ええ、もちろん、個人的には士道さんの事が好きなのもありますが……」

「わ、わたくしは……いらない……?」

「ええ、惰弱なわたくしなど必要ありません。必要のない物は処分します」

 

 そう言ってママはわたくしの懐中時計を取り上げて、地面に叩きつけて踏みつぶした。

 

「あああああああああああああああああああぁああああああああああああああああぁぁぁッ!!!!」

「きひっ! きひひっ! いいですわね、その表情……もっと虐めたくなりますわ。<刻々帝(ザフキエル)>、十二の弾(ユッド・ベート)

 

 暴れて暴れて、どうにか抜け出して踏まれて粉々になった懐中時計を抱きしめて泣き出します。

 

「あらあら、みっともありませんわね。興味も失せました。どうせこの時間は終わりですし……精々泣きわめいているがいいですわ。それではさようなら。わたくしは戻りますわ。十二の弾(ユッド・ベート)

 

 ママは側頭部に神威霊装・三番(エロヒム)をあてて撃ちました。薬莢がカラン、カランと薬莢が落ちる音と共に姿が消えていきました。わたくしは安堵と後悔、罪悪感などで色々な感情でごちゃ混ぜになって目の前が真っ暗になっていきます。

 

 

 

 

 

 

 

*1
空間震を伴い、あたりに甚大な被害を齎し、強大な戦闘能力を有する謎の特殊災害指定生命体『精霊』を武力でもって討滅するために人類が極秘に結成した特殊部隊の総称。




|十二の弾が二回、最後に出てきてますが、誤字ではなくわざとです。あしからず。
カラン、カランなのですよー。


クルミはリリに依存。リリもクルミに依存。そんな相手が自分のせいで死んだら、そらそうなるよね。
ママは狂三ママなので優しくありません。士道さんが居ないんだから仕方がないです。父親の分も厳しく育てないとね!

バットエンドのその先へ、プリコネみたいにいきましょう! 次回は壊滅したオラリオからスタートですよ、女神様!



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デート・ア・ライブ バットエンドのその先へ2

 

「クルミ君! しっかりするんだクルミ君! お願いだ! 目を開けてくれっ!!」

 

 わたくしを呼ぶ声が聞こえ、頬に伝わる冷たい水に目を開けます。すると視界一杯に広がるヘスティアさんの顔が映り込みました。

 

「あぁっ、良かった! 良かったぁぁぁっ!」

 

 泣きはらした赤くなった瞳で見つめるヘスティアさんはわたくしの頭に両手を回し、その巨大な胸に顔を押し込めてきやがりました。

 

「はな、放してくださいまし」

「うわぁぁぁぁんっ!」

「離しなさいっ!」

「うひゃぁっ!?」

 

 バァン! と銃弾を放った音が響きます。ええ、わたくしが撃ちました。流石にヘスティアさんも下がってくださいました。

 

「危ないなっ、もう!」

「窒息死させられそうになったのですから、仕方がありませんわ」

「それよりも、病室で銃を撃たないでください!」

「……ごめんなさい」

 

 よくよく周りを見ましたら、どうやらわたくしは病室に居るようですわね。ここはディアンケヒト・ファミリアのようで、聖女のアミッドさんが怒っておられます。病室で銃を撃つのはわたくしが悪いので、謝っておきますの。

 

「うぅ、ひどいよクルミ君……」

「それよりも、何故わたくしはここにいますの?」

「クルミ君がバベルの塔の最上階で倒れていたんだ」

「バベルの塔……? そう、ですか……それよりもリリは何処に……」

 

 急に頭が痛くなり、頭を押さえながら聞きます。するとヘスティアさんとアミッドさんの二人は互いを見つめ合った後、頷いた。

 

「いいかい、よく聞くんだ」

「はい」

「リリ君は死んだ」

「え? は? リリが、死んだ……? そんなはず、ありえませんの……あっていいはずが……」

「ベル君も死んだ。ヴェルフ君もだ。ロキ・ファミリアも消し飛んだ」

「な、何を言って……」

「そんな嘘ですわ。わたくしを騙そうとしたって……」

「事実だ」

「嘘ですわ!」

「クルミ君!」

 

 ヘスティアさんの言葉に思わず外に出て、変わりないオラリオの街並みと人を視界に収めます。

 

「やっぱり、嘘……」

「よく見るんだ」

「っ!?」

 

 見えていた何時も通りの街並みは陽炎のように消え失せ、複数の倒壊した建物に変わりました。住民は包帯を巻いてほとんどが死に掛けの人達ばかり。

 街中から響いてくるの街の喧騒ではなく、ボウケンシャー達の怒声と魔物(モンスター)の鳴き声。そして、巨大な穴。

 

「これが今のオラリオだ。あの日、ボク達は敗北しかけた。それをアタランテが吹き飛ばしてくれた。精霊と神の力がぶつかり、街の建物は倒壊し、その代償として巨大な穴が開いた。残っていたフレイヤ・ファミリアの子供達が押さえてくれているが、長くは持たないだろう。それほどに迷宮(ダンジョン)は精霊とアタランテの力に恐怖した」

「あっ、ぁぁぁっ! あああああああああああああああああああぁああああああああああああああああぁぁぁッ!!!! 

 

 頭を押さえ、叫びながら蹲る。わたくしは全てを思い出した。リリさんが反転して死にました。アイズさんも死にました。パパも死にました。ママに捨てられました。

 

「ヘスティア様」

「わかっている。【この身は炉の神にして家庭を守護する処女神。死への魅了に平伏せず、其を断固として拒む。邪とは絶望、正とは希望。今、我が子達にかけられた呪縛を祓おう。すなわち破邪、浄化の祭炎】『偽現・炉神の聖火殿(ディオスアエデス・ウェスタ)』」

「っ!? ヘスティアさん……?」

「落ち着いたね?」

 

 強制的に落ち着かされました。ヘスティアさんを見ると、どう見ても神気が、権能が解放されています。彼女の権能がわたくしが持つ絶望を消し飛ばし、安心感を抱かせてくれます。

 

「何を、何をやっていますの! そんな事をしたら……!」

 

 ヘスティアさんの身体は光っていて、身体の端から消えていっている。

 

「何って子供達の為にボクの加護、神の力を、街に使うべき物を全て君一人に与えた」

「な、なんで……」

「ベル君が死んだ。ボクの可愛い子供達も死んだ。残っているのはクルミ君だけだ。そのクルミ君を助けるためなら、強制送還ぐらいなんてことはないさ」

「わたくしは……」

「クルミ君はリリ君を失ってどうしていいのかわからなくなっているだけだ。助ける方法を持っていても、それもできない。何故なら代償となる力が足りないから。かと言って、君はボク達オラリオの人達を大切に思っているから無理に殺して時間を奪うこともできない」

「それは……いえ、わたくしはできますわ」

「ああ、そうだね。できるかもしれない。でも、ボクはやらせたくない! 

「ヘスティアさん……」

「だから、ボクはボク自身の力を全て託すよ。クルミ君は皆を助ける為に過去へと行くだろう。多少は立ち止まったとしても君は行く。ボクには確信している。何故って? ボクは君の神様だからさ!」

「なんですか、それ……」

 

 消える身体でわたくしを抱きしめてくださり、頭を撫でてきます。まるでお母さんみたいです。

 

「でも、わたくしはママにも見限られました……」

「本当に?」

「え?」

「本当に彼女は見限ったのかな?」

「でも、ママはわたくしに……」

 

 わたくしはママに言われてやられた事をそっくりそのまま告げます。

 

「あははは、君は勘違いしているよ」

「え?」

「彼女が素直に伝えるはずないじゃないか。聞いた限りでは不器用なツンデレっ子なんだよ?」

「いや、いくらなんでも……」

「ボクから見た彼女は本当に君達の事を愛していたよ。子供としてね。家庭を司るボクが保証する」

「でも……」

「その証拠にほら」

「……あ……」

 

 ヘスティアさんが渡してくださったのは壊れた懐中時計と……二発の銃弾。その内の一発は弾丸が無く、使用済みの物です。ですが、残されたもう一つの弾丸にはたっぷりといえるほど潤沢な霊力が込められた弾頭が残っている物でした。

 

「それに彼女はどう言ったか思い出してごらん」

「たしか……」

 

 懐中時計を壊された時の事を思い出します。そうするとママの言葉が一字一句たがわず思い出されました。

 

「惰弱なわたくしなど必要ありません。必要のない物は処分します……」

「惰弱なクルミ君は要らない。逆に言えば惰弱じゃない何時ものクルミ君は認めていたってことだよ。残されたクルミ君だけが使える弾丸とこの言葉から考えられるに……彼女にとっての励ましってことじゃないかな?」

「わかるかぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 思わず喉が痛くなるほど絶叫をあげました。ええ、なんですかそれ。いくらなんでもひどすぎます。荒療治にほどがありますの。そして、なんでわたくしはそれに気付かなかったのでしょうか? 相手は時崎狂三だというのならばあんな感じでもおかしくないではないですの。ファンとして猛省ですわ。

 

「うんうん、そうだよね。でも、言いたい事があるなら本人に言うといいよ。これで追えるだろう?」

「ええ、ありがとうございます。こんなところで立ち止まる事はできません。ヘスティアさんに頂いたこの聖火がある限り、止まりませんわ」

「それでいい。ボクは子供達の道標になれて幸せだ」

「わたくしも、ヘスティアさんの子供になれて幸せですわ。ですから、ベルさん達の事は任せてください。必ず助けます」

「そうか。それならついでにロキ達も助けてやってくれ。ロキの子供達に悪い子はいないからね」

「はい……はい……」

「っと、もう無理みたいだ。じゃあ、後は頼んだよ」

「お任せくださいませ、ヘスティア()

「じゃあ、ばい……いや、またね!」

「はい、因果の交差路でまた……」

 

 夕日が照らす中、笑顔で消えていったヘスティア様。わたくしの中に灯る聖火が消えるまでは問題なく行動できるでしょう。ならばやることは一つですわ。

 

「ん!」

 

 腕で涙を……目の汗をゴシゴシと拭ってから、ママが残した弾丸を仕舞いこみます。

 

「使わないのですか?」

「ええ、使いません。これはママに叩き返してやりますわ。娘はそんなに弱くないと知らしめてやりませんといけません。これ以上の施しを受けるなんてごめんですもの」

「では、どうするのですか?」

「決まっています。奪って問題ないところから奪いますわ。来なさい、アタランテ」

「覚悟は決まったようね」

「ええ、決まりましたわ。命令(オーダー)を出します。全力全開で見敵必殺(さーちあんどですとろい)ですわ♪」

命令(オーダー)を受託しよう」

 

 アタランテを引き連れて新しくできた大穴に移動します。移動しながら時喰みの城(ときばみのしろ)を展開し、襲い掛かってくる魔物(モンスター)を取り込んで殺し、ボウケンシャーは引きずり込んでバベルの塔へと強制的に送還します。

 歩いていくと、大穴の下に神々が集っていました。まるでわたくし達を送り出すかのように無数の神々が左右に分かれて道を作ってくださっています。

 

「止めるべきなのであろうが……」

「止めるのであればわたくしの敵ですわね。だったら殺しますわ」

「ウラノス、ヘスティアがあそこまでの覚悟を示したんだ。それに俺達にとってもいい事だろう。それに一人立ちしようとしている子供は黙って見送るもんだ」

「好きにしろ」

「と、いうわけで行きたい奴等だけ行かせてやってくれ」

「ヘルメスさん達の勝手にしてくださいまし。わたくしは止まりません」

「だったら、勝手にするわ」

 

 穴の縁に立つと、わくしの背後にオッタルさんやアレンさん、ガリバー兄弟が立ちました。更にアスフィさんやリューさんまでいらっしゃいます。本当に物好きですね。

 

「いいんですの? 死にますわよ?」

「構わん。このままではオラリオが崩壊する。それはフレイヤ様の望むところではない」

「そういうことだ」

「そもそも死ぬ気じゃねえよ」

「そうだそうだ」

「私は非常に行きたくありませんが、いくしかありません。リヴェリア様を助けるためですから、頑張りますよ」

「リューさん」

「キアラは別のエルフに任せて閉じ込めてきました。問題ありません。この命はアストレア様とクルミの為に使わせていただきます」

「そうですのね。本当に馬鹿ばっかりですの。じゃあ、殴り込みましょうか」

「「「「ああ(おう)!」」」」

 

 穴に飛び降り、出てこようとするワイバーン達を虐殺し、皆さんを時喰みの城(ときばみのしろ)で取り込んで地面に出します。

 

「アタランテ」

「ああ」

 

 アタランテにチャージさせた後、わたくしもチャージして地面に向けてオリオンの矢を放ち、ダンジョンの地面を数十階層、纏めてぶち抜きます。そこに全員で降りますの。

 到着した階層で突撃してくる魔物(モンスター)はアタランテが消し炭にし、わたくし達は再チャージ。上の階層や下の階層、壁からジャガーノート達が生み出されてきますが、他の方々が蹴散らしてくださいますの。

 蹴散らされた連中は全て時喰みの城(ときばみのしろ)で時間にして取り込みます。もちろん、壊した壁からも時喰みの城(ときばみのしろ)を使って大量の時間をダンジョンから徴収します。

 

「次」

 

 撃って貫き、虐殺してを繰り返してどんどん下へ行きます。他の方々が手足を失おうが、四の弾(ダレット)で巻き戻すので問題ありません。ある程度したら地上に戻り、ステイタスを更新してまた戻ります。もちろん、わたくしは更新できませんが、他の人は可能ですからね。改宗を勧められましたが、ヘスティア様のところから移動するつもりはありませんので、このままです。

 

「居たぞ」

「ではやりましょう」

 

 黒いドラゴンとそのそばにいる白いわたくし。楽しい楽しい全力の殺し合いですわ。他の方々には黒いドラゴンさんの相手をして頂き、わたくしは白いわたくしが相手ですわ。

 

「このような暴挙、狂ったか」

「クルミちゃんですから!」

 

 時間と空間の戦いは決着がつきません。いえ、むしろ無駄な事はしません。適当に相手して遅延戦闘に努め、バフとデバフ、回復をまきながらアタランテ達がドラゴンを殺すまで待ちます。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」

 

 決着がついた瞬間、ドラゴンさんを皆さんごと時喰みの城(ときばみのしろ)で取り込んで撤収します。殿はアタランテにさせ、地上に戻ったらアタランテを再召喚して黒いドラゴンさんから貰った大量の時間を使います。十の弾(ユッド)を使って対象に込められた過去の記憶や体験を知ります。対象は黒いドラゴンさんと一緒に行ったメンバー達ですの。これでわたくしはより強くなれました。

 

「そでは皆様、いつかまた因果の交差路で会いましょう」

「「「また」」」

 

 オッタルさんはアタランテと軽く武器を打ち合わせた後、再戦を約束なさいました。わたくしはアスフィさんと魔導具を作る約束を交わしました。アレンさん達とは再戦ですわね。

 

 

 

 

 

 

十二の弾(ユッド・ベート)

 

 

 

 

 

 

 

「あら、来ましたのね?」

 

 声が聞こえて目を開くと、そこにはママが壊れる前の外壁の上に立ちながら、こちらを見詰めていました。ママはそこから飛び降りてこちらにやってきたので、わたくしは心の中に灯る聖火を意識しながら強い意志を込めて見返します。

 

「ふむ……ちょっとはマシになったようですわね」

「ん」

「はい?」

「返しますわ」

「使いませんでしたの?」

 

 ママが十二の弾(ユッド・ベート)が入った弾丸を掌で弄り回しています。だから、わたくしは試す意味も込めて抱き着いてママのお腹に顔を埋めます。

 

「自分で集めてきましたわ」

「まさか……」

「キッチリ魔物(モンスター)さん達から徴収してきました」

「あらあら、それは災難でしたわね。魔物(モンスター)達……」

 

 ママは優しく頭を撫でてくれます。どうやら、ヘスティア様が言っていた事は本当のようです。

 

「それで、貴女はこれからどうしますの?」

「決まっています。リリもアイズさんも皆も助けてハッピーエンドを目指しますわ」

「幾千幾億の苦労に襲われるいばらの道ですわよ」

「それでも、走りきりますわ。それが時崎狂三(わたくし)ですもの」

「よろしい。それでは行きましょう。わたくし達の戦争(デート)をはじめに」

「はい。戦争(デート)の開始ですわ」

 

 聖火をこの胸に込め、わたくし達は成し遂げる。それが家庭を守護するヘスティア・ファミリアですわ。

 

 

 

 

 

 




可哀想なダンジョンさん。特に必要ないのにクルミちゃんの意地のためだけにぶち壊されて襲われました。

サポーターのクルミちゃんが本気出して、レベル10の神気解放アタランテとオッタル達がいればね。

ヘスティアのは絶望など負の感情を打ち消し、強制的に正常な状態へと戻します。負の感情に魅了されていたクルミちゃんを打ち消します。聖火がともり続ける限り。効果はBST無効、強制的に勇気状態。もう何も怖くない。


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デート・ア・ライブ 二週目

 

 

 

 

 崩壊したあの時の街とは違い、活気あふれるオラリオの街をママと手を繋いで歩きます。瓦礫や怪我人もおらず、とっても平和ですの。この平和がとても大切な物に思えてきました。

 

「ほら、美味しそうですわぁ」

「美味しそうって何を……そんな事を言っている暇はあり……ふぐっ!?」

「まあ、まあ、ジャガ丸くんでも食べてこれからの事を決めましょう。<刻々帝(ザフキエル)>を使える先達として言わせてもらえるなら、冷静に冷徹に理屈で効率を優先して動きなさい。焦っていては失敗しますわ」

「にゃるほど……」

 

 はふはふしながら熱々のジャガ丸くんを食べますの。塩加減がいい感じですわね。前よりも好きになっていそうですの。

 

「じゃあ、どうしますか?」

「そうですわね……とりあえず、あちらのお店で休憩しながら現状を整理しましょう。士道さんと行くのにいいかもしれませんし……」

 

 ママが指差したのは大きな木をくりぬいたようなお店ですわね。二階の外にテラスがあり、ある一定の種族の方々が集まっておりますの。

 

「ああ、あそこですか。エルフのお店ですの」

「エルフですか……本当に異世界ですのね。ところで猫は居ますの?」

「猫は居ませんね。少なくとも見ては居ませんわ。ただ、猫耳と猫尻尾を持つ人、猫人(キャットピープル)ならいますわね」

「猫の耳を持つ人ですか……微妙ですわね。ふむ……くーに猫耳をつけて……いえ、流石にありませんわね」

「当たり前ですの」

 

 わたくしの姿はロリ化した時崎狂三の姿ですの。ですから、流石に大人のわたくし(時崎狂三)も幼い自分と同じ姿に猫耳を装備させるのは躊躇しましたね。

 

「それよりも入りましょう」

「そうですわね」

 

 お店の中に入ると、いえ、近づくと視線が集まってきますわね。このお店は基本的にエルフ専用みたいなものですし、仕方がありませんの。でも、気にしませんの。

 

「いらっしゃいませ。このお店はエルフの方か、ご紹介が必要になり……」

「あら、いけませんの?」

 

 ママが先に入りましたので、店員さんが止めに入りますの。ですが、わたくしがママの後ろから顔を出して声をかけます。

 

「ヘスティア・ファミリアの団長クルミ・トキサキですわ。よろしいですわね?」

「は、はい! 貴女様のご紹介であれば問題ありません! それでキアラ様は……」

「下見に来ましたの。ちゃんと自分で確認しないと連れてこれませんから」

 

 エルフ専用ともいえるここは他種族であればそれなりに地位や身分が高い人でないといけません。それもわたくしの場合は王族に連なるキアラが所属している団長ですし、保護者みたいなものですので問題ありません。リヴェリアさんから保証されていますし、通達されていますから。王族の威光を自由にできますの。

 

「か、畏まりました! それでどのお席をお望みでしょうか?」

「二階のテラス席をお願いしますの」

「どうぞこちらへ」

 

 ママと一緒に二階にあるテラスへ移動します。木の中を進み、窓から外に出て用意されている席へと座りますの。

 

「ここには来た事がありますの?」

「ありませんわ。でも、知っています」

「そうですのね。でしたら、お任せしますわ」

 

 メニューを見てから直ぐに閉じてわたくしに任せてきました。さては読めなかった? いえ、わたくしの記憶を読んでいるのですから、知っているはずですが……まあ、いいですの。

 

「おすすめのケーキセットと紅茶でお願いしますの」

「畏まりました!」

 

 ママが呆れた表情をしてきますが、これが一番ですの。何故ならエルフにとって王族の血を引くリヴェリアさんとキアラの威光は絶大なので、最高級品を出してくれるでしょう。

 

「大丈夫ですの?」

「ええ、この店が出せる最高級の物が出てくるでしょう。少しでもわたくし達の印象を良くするために」

「なるほど。それならいいですわ。問題は支払いですわね」

「わたくしが持ちますわ」

「流石に娘に出してもらうわけにはいきませんわ」

「ふむ……」

 

 ママとしては譲れませんわよね。なら、代価を頂くことにしましょう。

 

「それでしたら弾丸をくださいませ」

「弾丸ですの?」

「はい。ママであればわたくしが用意するよりも低コストで用意できますわよね?」

「この世界は霊力が豊富ですからね。消費する時間を回収する方法も豊富にありますし、構いませんわよ」

「では、それでお願いしますの。これからする相手は一筋縄ではいかないでしょうし……」

「少なくとも精霊の力を使える相手ですものね」

「はい。ママの姿と力を扱える相手ですの。それはもう精霊としか言えませんわ」

 

 ロキ・ファミリアから教えて頂いた情報から考えて、相手は七罪と同じか、似たような力を持っているのでしょうね。コピー系か変身系かはわかりませんが、厄介な事でしかありませんの。

 

「必ず殺しますわ」

「ええ、ぶっ殺してやりますの」

「わたくしの姿でやりたい放題してくれたことはキッチリと精算しませんとね?」

「……ひゃい……」

 

 向かいの席から指を伸ばして椅子に座っているわたくしの頬をぷにぷにと押してきます。わたくしは受け入れるしかありません。わたくしだってママの幼い姿と力を好き勝手に使っていますもの! 

 

「お待たせいたしました。こちらはケーキセットとエルフの里より取り寄せた世界樹の葉を使用した紅茶でございます」

 

 用意されたケーキはどれも手の込んだ物で、宝石のような果物が乗ったタルトやアップルパイなどがありますの。どれも小さく美味しそうですの。

 

「ん~良い匂いですわね」

 

 ママはカップを持ち上げて紅茶の匂いを楽しんでから飲みだしました。わたくしも同じように楽しんでから飲みますが、かなり美味しいですわね。ソーマの素材に使えるかもしれません。と、いうか世界樹の葉とか、いかにもなアイテムですの。あるかは知りませんが……

 

「これ、持ち帰りたいですわね」

「値段は……一ケース百万ヴァリスです」

「高すぎですわね」

「笑えますわね」

 

 紅茶が入った木箱は五センチ四方の小さな物です。これ一つで百万ヴァリスとか、笑えますわ。この紅茶だってたった一杯で数万でしょう。ポットだと数十万ヴァリスですわね。

 

「基本的に王族が飲まれる物ですので……こちらもリヴェリア様がいらっしゃるので、特別にエルフの里より取り寄せております」

「とりあえず三箱ほどいただけます?」

「畏まりました。ご用意いたします。それでは失礼いたします」

 

 店員のエルフさんが下がったので、食事をしながらお話をします。

 

「それでこれからどうしたらいいですの?」

「そうですわね……それならまずは推理小説になぞらえて考えていきましょう」

 

 ママは紅茶を飲んだカップを口元から外して手に持った受皿に置き、テーブルに降ろしました。それからわたくしの方を見詰めてきます。

 

「推理小説……?」

「Who had done it、How done it、Why done it」

「ああ、エルメロイの事件簿……」

「なんですのそれ?」

「いえ、なんでもありませんの。えっと……はうだにっとからですの?」

「Howdunit、どのように犯罪を成し遂げたのか。これから考えましょうか。では、クー。相手はどのようにしましたか?」

「それは簡単ですわ。精霊を反転させることでオラリオを壊滅させました」

「それでは少し足りませんね。反転した精霊はどちらも半端者で、あくまでも精霊の血を引いているか、精霊の力をその身に宿しているか、ですわね。十香さん達は判定していないようですしね」

 

 ママにとっては二人を半端者と判断したようで、少しもやっとしますの。

 

「半端物であればわたくしもそうですわよね?」

「ええ、そうですわね。ですが、貴女は現状()()していますから、大丈夫ですわ」

「安定?」

「ソレをくれた人に感謝することですわ」

 

 ママは対面の席からわたくしの胸の間を指差してきました。そこにある物が何かを少し考えてから理解できました。わたくしの中にある聖火の事を言っているのでしょう。そうなると半端者というのはある程度はわかりました。

 

「アイズさんやリリは力や感情が不安定なのですわね?」

「そうですわ。精霊の力を人の身体に宿すのですから、少し後押しされるだけで容易く反転してしまうのです。その身に宿る力を使いこなせていないせいですわね。心が未熟なのですわ」

「それって対策はあるんですの?」

「デートしてデレさせたらいいんじゃないですの?」

「対策が投げやりですの!」

「ようは心持ちでどうとでもなるんですもの。言い換えてしまえば心の芯がしっかりとしていればいい……支えがあればどうとでもできるというわけですわね。つまり、貴女は彼女にとってまだまだというわけですわね?」

「うぅ……」

 

 頬っぺたをツンツンとつかれながらママに弄ばれてしまいますの。リリとのスキンシップが足りなかったから、反転されてしまったのかもしれませんわ。

 

「Howdunitに関してはこれ以上、現状ではどうしようもありませんわ。次はWhydunit。なぜ犯行に至ったのかですわね。はい、クー」

「えっとオラリオを破壊する事が目的ですの?」

「もしくはわたくし達の抹殺でしょうね。最悪、愉快犯という線もありますわ」

「うわぁ……最悪ですわね」

「ええ、最悪ですわ。こちらも現状ではわかりません。犯人の正体が不明ですし、情報が不足していますからね」

「ではフーダニット、犯人は誰なのか、ですわよね?」

「そこから重点的に考えていくしかありませんわ」

 

 ママが紅茶を飲みだしたので、わたくしもアップルパイを食べます。うん、サクサクした後、しっとりとしたリンゴの感触と甘味で大変美味しいです。

 

「はふ~」

「口元についていますよ」

「あう」

 

 口元を拭ってもらった。恥ずかしくて顔が赤くなってしまいます。

 

「そ、それで犯人が誰かなんて心当たりはありますの?」

「この世界でなら神話を紐解いていけば自ずと敵はわかりそうですが……今回に限っては違うでしょう」

「え? どうしてそう思いますの?」

「犯人もしくはその関係者が最初にわたくし達の前に現れた時の姿をお忘れですの?」

「犯人が最初に……あ、ロキ・ファミリアの時ですわね」

「その通りです。ええ、わたくしの姿を取り、ロキ・ファミリアと戦闘を行った。これが現状で判明している明確な犯人の行動でしょう」

 

 確かにママの偽物がロキ・ファミリアと戦うことで士道さん達は苦労したそうですし、和解するのも大変だったようです。リリが居なければどうなっていたかわかりません。

 

「つまり、ロキ・ファミリアと対面する時の偽物が犯人の一身というわけですから、捕らえるか殺してしまえばいいのですわね?」

「ええ、()っちゃってくださいな。このわたくしの力と姿を奪うなんて、許しませんわ」

「はい、ママ! ()らせていただきます!」

「よろしい。混乱するでしょうから、わたくしは地上に居ます。そちらは任せますわ」

 

 コクコクと頷きますの。分身とはいえ、デート・ア・バレットで時崎狂三の姿と力を奪った響さんが許されたのは凄く運が良かったですわね。

 

「ところで、十二の弾(ユッド・ベート)の制限は覚えていますか?」

「確か、過去の自分と出会ってはいけないんでしたわよね?」

「過去の自分に姿を見られては駄目、という事ですわね。見られたら強制的に元の時間に戻されます」

「それ、少し実験してみたいですの」

「はい?」

「いえ、わたくしはくるみねっとわーくで全部共有しているわけですが……」

「ああ、それで個体の裏切り防止も兼ねているんでしたわね。よくやりますわ。普通は壊れて死にますわよ」

 

 ママがちょっと引き気味に言ってきました。ママでもやらない事ですから仕方がありませんの。

 

「そういう事であればわかりましたわ。実際に試すしかないでしょうし、予備の十二の弾(ユッド・ベート)を……」

「必要ありませんわ。全てを共有するのですから、わたくしが消えたとしても別のわたくしが引き継いでくれますから」

「疑似的な書き換えではありませんの、ソレ……」

「裏技ですわね。まあ、このままだと消えそうなのでちゃちゃっとステイタスを更新して上書きしてきますわ」

「それがいいでしょう。その前にネットワークに情報を流して出会わないようにする実験もした方がいいですわね。弾丸は提供しますからやってみなさいな」

「了解ですわ」

 

 まずはくるみねっとわーくに接続して、この時代の中枢個体に全情報を流してやります。さて、これでどうなるか……

 

『て~へんですわ!』

『わ~! わ~!』

『オラリオは滅亡しますわ!』

『きゃ~!』

 

 わたくし達が一斉に伝えられた情報でわちゃくちゃしだしておりますが、無視ですわ。身体を見ると少し薄くなっていますね。

 

「消えはしませんが、少ししたら弾かれそうですわね」

「簡易的に歴史を変えておりますもの。仕方がありませんわ」

「では、次の実験に行ってきます」

「ええ、いってらっしゃい」

 

 お金が入った袋を置いてヘスティア・ファミリアへと走ります。当然、ネットワークにわたくしの居場所と目的地を知らせてこちらに来ないように伝えておきます。

 

「ん~」

「居ましたわ!」

「わっ!?」

 

 ダフネさんとカサンドラさんの二人と買い食いしているヘスティアさんを見つけました。思わず抱きついてしまいました。

 

「クルミ君か、どうしたんだい? 随分と震え……いや、これは……何があった。教えてくれ。君が泣くなんて余程の事だろう」

「すいませんが、時間がありませんの。すぐにわたくしのステイタスを更新してくださいまし」

「わかった。でも、場所は……」

「そこの路地で構いませんわ。カサンドラさんとダフネさんは盾になってくださいまし」

「それほどなの!?」

「あ、もしかして……うん、ダフネ、言う通りにして」

「わかったわよ……」

 

 路地に移動し、二人に通路を封鎖してもらってその間で上の部分を脱いで背中を露出させます。すぐにヘスティアさんがステイタスを更新してくださいます。

 更新されると、わたくし達はこの世界の存在として定着しました。ええ、定着してしまいました。おそらく、ステイタスを更新する事で、この世界の者として確立されてしまったのでしょう。つまり、戻る事はできなくなりました。ですが、これでこの世界のクルミちゃんは倍増しましたわ。どう考えてもバグ技ですの。世界がバグりますわ! 

 

「ステイタスを紙に移すことはできないけど、やっぱりこれって……」

「ありがとうございますわ」

「クルミ君、それで何があった?」

「時間がありませんので詳しくは言えません。ですので、こちらの場所に居る大人のわたくし(時崎狂三)にあってくださいまし」

「大人の君?」

「ママですわ」

「そう。わかった。新しいスキルだけ伝えるね。スキル名は炉神の聖火(ファケル・ウェスタ)。想いが続く限り、あらゆる不浄の力は焼き払われ、勇気を与える希望の灯となる。君の……あちらのボクの想いが続く限り、この聖火は消えないだろうね。つまり、永遠だ」

「ヘスティアさん……気付いて……」

「他ならぬボクの力だよ。気付かないほど鈍くはないよ! 失礼だね!」

「ごめんなさい」

「おや、素直だね。まあ、いいや。いいかい、クルミ君。君がボクの大事な子供である事に変わりない。だから、言えない事や言いたくない事は聞かない。君は君の望む通りに行動しておくれ。だけど、これだけは言っておく。死ぬな! 必ず元気に()でボクの所に帰ってくるんだ。いいね?」

「はいっ!」

「よし、行っておいで」

 

 ヘスティアさんに見送られながら、わたくしは走っていきます。目指すはダンジョン、十八階層。そこが現状では犯人と接触できる唯一のポイント、つまりターニングポイントですの。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「行かせてしまってよろしかったのですか?」

「行かせるしかないよ。だって、ボクには止められない。未来のボクが全てを賭して繋いだ希望だからね」

 

 たとえそれが、これからのクルミ君を終わらせるものであってもだ。もはや彼女は止まらない。行き着く先は決まってしまった。ほかならぬボクが決定してしまった。確かに皆を助ける為には必要な事だったんだろうけれど、怨むよ、未来のボク。

 

「未来、ですか?」

「気にしなくていいよ」

「あ、あのヘスティア様……」

「どうしたの、カサンドラ君」

「い、今、思い出したんですが……夢が……」

「また夢? 貴女の夢は……」

「クルミ君からどんなに疑わしくても必ず聞いてそれが起こるものとして行動しろって言われてるね。話してみて」

「はい」

「よし、なら準備をしようか。ヘスティア・ファミリアの全メンバーを緊急招集……いや、連絡してカサンドラ君が必要だと思う物資を全部集めて。各ファミリアへの協力体制への連絡もしようかな。何処が必要だい?」

「ヘファイストス・ファミリアとヘルメス・ファミリア、フレイヤ・ファミリアです。ロキ・ファミリアは巻き込まれますから、大丈夫?」

「ヘファイストスはともかく、フレイヤにヘルメスか……まあ、愛しい子供達のためだ。す───ごく嫌だけどやるか。とりあえずダフネ君はボクをギルドに送ったら、緊急連絡としてヘファイストスとヘルメス、フレイヤにギルドへ来るように言ってきて。ボクがギルドにアタランテの全力解放を求めたと言えば事態はわかるだろう」

「それほど、ですか?」

「それほどだね」

「はい。夢ではオラリオが崩壊しました」

「嘘でしょ!?」

「事実なんだろうね。ボクも信じたくはないけれど……」

 

 ボクが子供達を残して神界へ強制送還も辞さずに全力の神の力(アルカナム)を使ってクルミ君の中に聖火を残した。それが意味する事は簡単だ。ヘスティア・ファミリアが崩壊し、オラリオが致命的な事になったということだろう。

 あちらのボクもボクなのだから、認めたくないだろうけれどベル君は死んだのだろう。クルミ君の様子からしてリリ君もかな。ヴェルフ君はわからないけど、相当数の子達が亡くなっただろう。そうでもないとボクがクルミ君の人生を決定するような事はしない。

 はぁ……絶対にヘファイストスとかに怒られるよな……ボクがやったわけじゃないけど、ボクがやったとしか言えないし、神会(デナトゥス)案件間違いなしだ。でも、やるしかない。今なら根回しができるし、やってやる。可愛い子供のためだ。新たなる精霊の誕生を祝おうじゃないか! 

 しかし、時間と炉心を扱う精霊ってことになるのかな。じっくりことこと何時如何なる時だろうと見守る存在……意外に悪くない? あ、そういえばアポロンの力も抽出して取り込んでたっけ? あれ、一気にやばくない? 大丈夫だよね? 大丈夫だ。問題ない! 

 時間を操る太陽の炉心……時間を操作して瞬間的に太陽の力を使う炉心を地上に顕現させる……うん、駄目だ。これは駄目だ。どう考えても破壊神とかそんなのだ。

 

「よし、ヘファイストスに泣きつこう!」

「何言ってるんですか」

「これからのクルミ君への教育方針だよ」

「あ~無理じゃないですかね」

「頑張る。為せば成る、何事もってね!」

「どうぞ頑張ってください。手伝いませんから」

「薄情だよ!」

「無理な物は無理です」

「あはは……」

 

 そんな二人と一緒にギルドへと向かう。到着したらボクは直ぐにウラノスの下へと向かう。キルド長が困るとか言ってきたけれど、無視する。

 

「ウラノス!」

「なんだ? と、いうか、ロキに似てきているぞ」

「ぐはぁっ!? ごめん、気を付けるよ。って、それどころじゃないんだ。クルミ君が()()()()()

「そうか。それほどの事態か」

「ああ、そうだろうね。ボクが神の力(アルカナム)を彼女に託して消えるほどの事態だ。だから、ボクはアルテミス、アタランテの全力解放を要求する」

「許可する。ロイマン、オラリオの全域に緊急事態宣言を発令しろ。一般市民はオラリオの外に避難させる。デメテルとガネーシャにも支援要請を出せ」

「よろしいのですか!?」

魔物(モンスター)達が溢れるのだろう?」

「溢れると思うよ。クルミ君はステイタスを更新したら即座にダンジョンへと向かったからね。詳しい事はわからないけれど、ボクはこれから事情を知っているらしい人の所に行ってくるよ」

「誰だ?」

「クルミ君のママらしいね」

「そうか。そちらは任せる。こちらは冒険者達と迎撃の準備を始める」

「頼むよ。よし、じゃあ行ってくる」

「ああ」

 

 ウラノスの方はこれでいいだろうし、クルミ君のママに会いに行こうじゃないか。護衛は誰にしようかな。そう考えながらギルドの一階に戻ると、クルミ君が柱にもたれかかって短銃をクルクルさせていた。

 

「クルミ君」

「あ、終わりましたの? ママに会いに行くのでしたら、わたくしが護衛いたしますわ」

「どっちのクルミ君だい?」

「全部、統合されましたのでどちらとも言えませんわね。一応、集団は別れて行動する事になっておりますので、元から居た方ですわね。精鋭となった彼女達は犯人へ襲撃に向かいましたから」

「そうか。それなら護衛を頼むよ」

「かしこまりましたわ。わたくし達、行きますわよ」

「わ、ビップ対応だね」

 

 ボクの周りに四人の彼女達がそれぞれついてくれた。それも武装した状態でだ。

 

「わたくし達はヘスティアさんを見直しましたわ。駄目駄目な神様ではありませんでしたわね」

「ぐはぁっ!? いや、確かにベル君や君達におんぶ抱っこだけども! ヘファイストスのところから追い出されたけど!」

「ですから、見直しました。と、申し上げたではありませんか。貴女は少なくともわたくし達の主神として恥じない行動をなさいました」

「ですから、わたくし達も認めますわ。怠惰にならない限り」

「あははは……うん、頑張るよ。でも、ボクは死ぬ気も送還される気もないからね」

「ええ、当たり前ですわ。ただ、これだけは言わせてもらいましょう」

 

 クルミ君達がボクの前に並んで頭を下げてきた。

 

「「「「ありがとうございました」」」」

「いいんだよ。それにボクだけどボクがやった事じゃないからね。それにボクがやった事は取り返しのつかない事でもあるんだから……」

「何を言っているのかわかりませんが……霊結晶(セフィラ)の成長に関して言えば、わたくし達は大歓迎ですわ。わたくし達は大人のわたくし(時崎狂三)に近づいた事になるんですもの」

「そうなんだ……まあ、わかったよ。でも、君達が気にしなくてもボクは気にするから何か考えるよ」

「お好きになさってくださいまし。わたくし達も好きにしますから」

「うん。好きにしよう」

 

 なんとしても彼女達を幸せにしないと。何れこの世界から弾かれるとしてもだ。今は、まだ人としていられるのだから、出来るだけ長い時間をこの世界で過ごせるように……それはそれとして、ベル君は大丈夫かな? 心配だな~

 

 

 

 



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デート・ア・ライブ 二週目から三週目

デアラの四期とアサルトリリィでコラボしたので初投稿です。


 

 

 

 ヘスティア様に見送られ、ダンジョンに向かったわたくしは別の階層に存在するわたくし達の影を経由する事でゴライアスが生み出されるルームへと直行いたしました。幸い、ゴライアスはいらっしゃらなかったので何事もなく通過できました。もっとも、ゴライアスが湧く時間はしっかりと把握してわたくし達が常駐して狩り続けているので当然ですが……

 ルームにある下り坂を下りて十八階層に踏む込みますと、明らかな異変がありますの。十七階層への出入口(ここ)からでも見えるぐらいに大きく空いた巨大な穴とえぐり取られたであろうクレーターだらけの地面。斬り倒された沢山の木々。明らかな大規模戦闘の跡が入見えました。

 

 周りを確認してみると、十八階層の奥の方からリリの気配がしますわね。それにわたくしであって完全なわたくしではないグレイの気配もしますから、目標はこちらでしょう。

 

「さぁ、狩りを始めますわよ、わたくし達!」

「「「きひひ」」」

 

 全力で駆け抜けると崖が見えてきましたので躊躇する事なく飛び降ります。飛び降りた先には森林が広がっておりますので、身体を回転させたり、木々を掴んでこちらも回転して勢いを殺して枝の上に着地したりします。

 

『アサシン、行きなさい。他のわたくし達はアサシンの情報を基にして包囲いたしますわ』

『護衛はどうしますの?』

ルーラー(オリジナル)に死なれては困りますわ』

 

 確かにここで死ぬわけにはいきませんが、ルーラー(オリジナル)であるわたくしは別のわたくしが引継げばよいだけですわ。ママと違ってわたくし達はくるみねっとわーくにより、アップロードとインストールが行われておりますのでが死んでも別のわたくしがルーラーになるだけですもの。

 

『次のルーラー(わたくし)は地上に待機しているわたくしにいたします』

『了解しましたわ。ですが、何人かのわたくしを護衛として配置するべきだと進言いたしますわ。何も時間を沢山保持しているルーラーをみすみす殺させるのは愚の骨頂ですもの』

『その通りですわね。では、シールダーを用意するという事で……』

『盾を持っても動けませんわよ。わたくし達は非力ですもの』

『肉盾ですの?』

『肉盾ですわね』

『つまりリリが居ればよろしいのですわね』

 

 そもそも、前衛はリリの役目ですからね。リリは前衛……タンク兼アタッカーです。わたくし達が持てる盾ではわたくし達のレベル滞では脆くて使えませんが、リリであれば重量が馬鹿みたいに重いのも使えますから。

 

『やっぱりシールダーってコスト的に要らなくありませんか?』

『後輩キャラはそれだけで萌えますのよ?』

『先輩!』

『目隠れ盾少女は置いておいて、シールダーは却下します。ただ護衛としておと……殿要因は必要ですわね。誰がやりますか?』

 

 くるみねっとわーくを通して聞いてみると、誰も返事をしません。流石はわたくし達。誰も好き好んでやりたくはありませんわね。わたくしだって嫌ですもの。

 

『……仕方がありませんので、ルーラー権限で新しいわたくしを作りましょう』

『意義なしですわ』

『同意しますの』

『きひひ』

 

 八の弾(ヘット)を使って新しいわたくしを切り取り、生み出します。もちろん、文句を言ってきますが、ルーラー権限で強制しておきます。

 

『こちらアサシン。目標を発見しましたわ』

『了解いたしました』

 

 そんなこんなをしながら森の中を駆け抜けていると、アサシンから連絡が来ましたので彼女の情報をくるみねっとわーくを通してインストールして行動を起こします。

 

「きひひ、ひひひひひひひ!」

 

 森の中を進んで行き、アサシンの近くに到着して少し離れた場所を覗き込みますの。そこには誰かが立っていらしゃいますわね。その人は特徴的な笑い声をあげながらその場に居るロキ・ファミリアの皆さんへと振り向かれました。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇ グレイ

 

 

 

 

 

「きひひ、ひひひひひひひ!」

 

 十八階層の道を進んでいると、先にある坂道を登り切った場所に立ちながら怪しげな気配を放っている少女を見つけた。

 

「!!」

「あれは……」

「冒険者……違うな……それにあの笑い方に声は……」

 

 その少女は濡れ羽色のような綺麗な髪の毛を左右非対称のツインテールに括り、赤と黒を基調としたドレスを身に纏っている。その姿は私にはとても見覚えがある。ここに居るロキ・ファミリアの方々も何処か見覚えがあるはずです。

 

「クルミさんと似ている姿……もしかして、お姉さんなんでしょうか?」

「うふふ……面白いですわねェ。本当に、この世界はァ。霊力……いいえ、魔力? とにかく力が詰まったごちそうがこぉんなに沢山……それにどうやらわたくしを知っていらっしゃるご様子ですわね」

「ごちそうだと?」

「ああ、ああ、申し遅れましたわね。わたくしは時崎狂三……貴方がたが最後に出会った精霊──ということになりますわねェ?」

 

 そう。相手はオリジナル。本当の意味でのオリジナル。大人のわたくしこと、時崎狂三。その本人の可能性があります。急いでルーラーに知らせようと思いますが、通達は出来ません。

 

「──精霊? それにその姿と名前は……」

「あぁ……貴女達ですのね? わたくし達と似た、異界の存在は。貴女達に惹かれて、わたくしはここまで来てしまいましたのよ? そう、貴女達がとっても()()()()()()()──」

 

 時崎狂三が魔力を放出すると、迷宮(ダンジョン)が揺れ出しました。どうやら、少なくとも精霊という事は間違いはないようです。

 

「力の発現とともに、迷宮(ダンジョン)が……!」

「フィン!! この女は──!」

「──わかっている! クルミと同じ名前だが、彼女じゃない! 総員、戦闘準備! 彼女を()()()()()()()()()と断定──」

 

 全力で加速して飛び出そうとした瞬間、声が聞こえました。

 

『邪魔ですわ。下がりなさい。死にたいのでしたら構いませんわよ』

 

 次の瞬間。差し出しかけていた足を思いっきり地面に突きさして土を削りながらブレーキを行う。同時に武器を手放して飛び退りながら私と同じく飛び出そうとしていたティオネさんとティオナさんの腕を掴んで一緒に下がります。後、ついでにベートさんも蹴り飛ばして下げます。

 

「わっ!?」

「ちょっ!?」

「なにしやがっ!?」

伏せろぉぉぉぉぉぉっ! 

「きひ?」

 

 こちらが下がったタイミングでフィンさんが折れた指を押さえながら、指示を出しつつ皆さんを押し倒して地面に伏せます。他の人もフィンさんの指示に従って皆さんが伏せます。

 次の瞬間、複数の方面から飛来した銀色と金色の螺旋がお母様の偽物へと殺到し、その周囲が纏めて極大の爆発を巻き起こします。

 神の力の奔流によって私達はまとめて吹き飛ばされ、頭や身体を打ちながら転がってようやく止まったのは階層の壁でした。

 

「なにが……」

 

 えぐれたり、折れたりした木々や土砂を退かして視界を回復すると地獄のような光景が写り込んでいました。

 

「なに、これ……」

 

 地面が消し飛び、複数の階層が纏めて消滅したかのような巨大な、それはもう巨大な穴が出現していました。階層の半分くらいもありそうだ巨大な穴は底が見えません。何より恐ろしいのは今だに中心部でアポロンの炎であろう球体はくすぶっていることです。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──! 

 

 迷宮(ダンジョン)が絶叫をあげながらジャガーノートやゴライアスなど様々なモンスターを生み出してきますが、次々と放たれる銀と黄金の光線により極大の柱が生み出されては消し飛ばされていきます。その発生源にはオリジナル達が様々な銃を向けてトリガーハッピーのようにぶっ放なしていく。

 

「あれ、クルミだよね?」

「何をやっているんだ!」

「グレイ、どうなっている?」

「わかりませんが……」

 

 空に浮かぶ無数の私達は全力でオリオンの矢で作った術式に弾丸としてアポロンの炎を使った物をこれでもかというほど叩き込んでいます。

 

「私達、どうなっているのですか?」

『初手で全力ぶっぱしただけですの。お気になさらないで撤退してくださいまし。偽物の相手はこちらで……』

 

 私達がそういった瞬間。迷宮(ダンジョン)の奥の奥から光が溢れて──

 

 

 

 

 

【三周目。エルフの喫茶店】

 

 

 

 

 

「で、どうだったんですの? 詳しくは聞いていませんでしたし、教えてくださいまし。何せ見るまでも無くヤバイ感じでしたので、十二の弾(ユッド・ベート)を使いましたから……」

 

 エルフのお店にある二階のテラス席。そこに座るママの膝の上にわたくしは座っておりますの。後ろから抱きしめられる感じなので、本来なら気持ちいいのですが……そんな事を考えられません。

 

「失敗しましたよ……多分討伐できてはいたと思いますが……」

「まあ、オラリオが消滅したのはどうでもいいのですが、士道さんが死んだら意味がありませんわよ」

「ごめんなしゃい……」

 

 ママに頬っぺたをぐにぐにされながら叱られます。まあ、無理もありませんわ。迷宮(ダンジョン)さんは激怒し、自爆しやがりました。自分が神様によって殺されるのならお前達も道連れにしてやる! と、いうことですの。

 私とママは地上に居たので即座に時間を巻き戻して逃げましたが、恐らく世界は滅んだ可能性があります。最低でもオラリオのあった大陸は消し飛んだでしょう。

 

「初手に最大火力のぶっぱは格上との戦闘では基本戦術ではありますが、場所がわるかったです」

「それが理解できたならtake3とまいりますわよ」

「はい、ママ」

 

 結果だけいうと三周目も殺せませんでした。火力が、火力が足りなかったのです……いえ、言ってみたかっただけですの。火力は足りておりましたが、その火力を出すとオラリオが滅んでしまうので意味がないです。

 中途半端な火力じゃ殺しきれませんし、かと言って殺しきれる火力では迷宮(ダンジョン)が自爆します。

 これぞ八方塞がりという奴ですわね。いえ、八方ではありません。あくまでも火力でゴリ押しするのが出来ないというだけですしね。

 まだわたくし達には次善策のベルさんによる封印があります。こちらに関してベルさんがアイズさんを封印するだけではリリにシフトされるだけだと思われます。ですので、わたくしもリリとデートをして頑張ってみようと思います。

 

「と、いう訳でデートしましょう」

「いや、どういうわけですか?」

 

 別のわたくしが封印の指輪を作る為に工房(アトリエ)に向かい、更に別のわたくし達がママとパパのデートを妨害しようと他のお姉さん達と激しいバトルを展開しだしました。

 工房(アトリエ)に一緒に向かって開発に参加しようとしていたリリさんの手を掴んで裏路地に引き込み、壁に押し付けて両手で彼女の頭を挟みました。はい、壁ドンですわね。

 

「遊んでいる暇はありませんよ。指輪を作らないといけませんし……」

「それならわたくし達だけで問題ありませんわ。明日には予備も含めて五組はできていますわ」

「いや、そんなはずは……」

「わたくしがリリに嘘をついたことがありますか?」

「あるような、ないような……」

「まあ、問題はありませんので二人だけでデートしますわよ」

「……デートですか」

「はい、デートですの」

 

 リリが至近距離からわたくしの瞳を覗き込んできます。可愛らしいリリの顔が近くて少しドキっとしますわね。

 

「ああ、なるほど。つまりアイズさんと同じくリリも反転してオラリオを滅ぼすんですね」

「な、なんのことでしょう?」

「このタイミングでクルミ様がリリをデートに誘うのですから、まるわかりです。リリも精霊を取り込んでいるんですからね。と、いうかクルミ様も危ないですよね?」

「わたくしはヘスティア様のおかげで状態異常が無効になりましたので問題ありませんわ」

「……ヘスティア、様ですか」

「はい」

「ああ、つまりクルミ様は戻ってこられたんですね」

「なんでわかって……」

「ああ、やっぱりですか。時間を操れるクルミ様でしたら可能だと思っていました」

 

 誘導尋問に引っかかってしまいましたわね。まあ、別にバレても問題は……普通ならありますが、わたくし達は過去と未来のわたくし達で上書きしておりますのでママと違って制約はありません。まあ、あくまでもわたくしが過去に戻った場合に限りますけどね。

 

「秘密ですわよ。色々と制約はありますから」

「わかっていますよ。それよりもデートですか……」

「はい、デートです。何処から行きましょうか?」

「いや、それ以前にリリは女なのですが、相手はベル様ではなくてクルミ様ですか?」

「当たり前ではありませんか。リリはわたくしのですわ。ええ、誰にも渡しません」

 

 リリの頬に手をあててから顎にやり、持ち上げて互いの顔を見詰めます。やってみましたが、顔が赤くなってきますね。

 

「そういえばクルミ様は女の人が好きで、リリはクルミ様の愛人でしたね。わかりました。デートをしましょう。ですが、果たしてリリが心の底からクルミ様を受け入れていると思いますか?」

「え?」

「え? ではありません。今までどれだけ、どれだけリリの事を好き勝手にしてきたか覚えていますか?」

「そんな事は……」

「火で焙って強制的に筋トレさせたり、無理矢理ジャガーノートと戦わされたりしました。即死しなければ手足の再生だってできるからって危険な戦いを強制させられてきたんです。これで好きになるとでも?」

「あっ、アレはリリだってノリノリに……」

「ノリノリにならないと死ぬからですが、何か!」

 

 思わず後退ると、今度はリリの方が詰め寄ってきて壁ドンをされかえされ、ドキリとしました。

 

「だいたいクルミ様はいくら死んでも代わりの自分が居るからって、毎回毎回無茶ばかりして何を考えているんですか!」

「ご、ごめんなさい……」

「こうなれば言わせてもらいますが……」

 

 リリに色々と言われてへこんでいきますの。

 

「はぁ~まあ、いいです。それよりもこれからの事です。リリとデートするんですよね?」

「でも、リリが心を開いてくれないと無駄ですわ」

「それならリリの鬱憤を晴らさせてくれたらいいですよ。デートの内容と行き先はリリに任せてくれますよね?」

「まあ、構いませんが……」

 

 ニヤリと笑ったリリがわたくしの手を掴んである場所に連れていかれました。

 

「あ、あの、リリさん……? ここは……?」

「歓楽街の部屋ですね」

 

 はい。連れてこられたのは歓楽街にある宿屋でした。そこにはベッド以外にも色々とヤバイのが色々とあります。

 

「じゃあ、脱いでください」

「え、あの、リリ、さん……? なんで鞭なんて持って……」

「リリが可愛がられた分、今度はクルミ様をリリが可愛いがってあげますね♪」

「ひぃっ!?」

 

 片手に鞭を持ち、もう片方の手に金色の炎を灯したリリの顔が薄暗い部屋の中、不気味に迫ってきました。

 

 

 

 

 

「ふぅ。スッキリしました」

「汚されてしまいましたわ。責任、取ってくださいまし。それと覚えておきなさい……ふふふ」

 

 左手薬指に指輪を嵌めたリリが拘束されたわたくしの身体をくすぐってきます。その時にパリパリとした物が取れていきます。ちなみに本番はしていません。ただわたくしの身体がリリに弄ばれただけなのです。

 

「もっとお尻を叩いてあげましょうか?」

「やめなさい。と、いうかもうさせてあげませんからね! 反撃しますわ! ええ、しますとも! わたくし達!」

「あ、ちょっ!?」

「すでに指輪を嵌めた今、もはやリリの言う事を聞く必要はありませんからね! 全身をくすぐり返してやりますの!」

「数人がかりとか反則ですよ!」

「良いではないか、良いではないか~!」

 

 複数のわたくし達でリリを押さえつけて身体を揉んだり、くすぐってやります。二人でくんずほぐれつ遊んだ後、一緒にお風呂に入って洗いっこしました。

 後、次の機会があればリリに問答無用に指輪を嵌めてキスしてやります。リリはあんなことを言っていましたが、よくよく考えるとおかしなこともあったので、くすぐっている時に普通に受け入れていました。ただわたくしで遊びたかっただけだと白状したので問題ないでしょう。

 

 

 

 



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