怪獣ハーレムは作りたいけど美少女擬人化ハーレムが欲しいとは一言も言ってない (バリ茶)
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怪獣好き(ケモナー)とクソザコ宇宙人


擬人化要素は2話からです



 

 

 どこにでもある一軒家の居間で、とある映像が流れていた。

 家族が共有する一般的な32インチ程度の液晶テレビからは、けたたましい鳴き声が響き渡っている。

 父、母、幼い妹に小学校低学年ほどの兄。

 家族団らんとはこのことを言うのか、律義に四人並んでソファに座りながら、食い入るように画面を見つめていた。

 

『キシャアァァアッ!!』

 

 大音量で放たれる()()の咆哮が鼓膜を揺らす。

 そのビルよりも大きな化け物が暴れる様を観て息を呑む。

 

『こちらが三日前に討伐された怪獣の映像になります。いやはや、まったく恐ろしい存在ですね』

 

 画面左上には『世界を脅かす災害! 巨大怪獣の秘密にせまる!?』と大仰で派手な配色のタイトル。

 特番、怪獣特集。

 先ほどのセリフは専門家やらコメンテーターやら、ともかく偉そうに踏ん反りが得ってるオッサンのもので。

 そんなものはどうでもいい俺たち家族は、彼の声を無視したまま怪獣の映像を眺めて──

 

 

 ──興奮していた。

 

 

 

 

 

 

 俺は怪獣が好きだ。

 

 好き、という言葉の意味は様々だが、俺の場合は性的趣向の中心を占める部分が怪獣で構成されている、という意味になる。

 端的に言えば俺は怪獣で性的に興奮する人間ということだ。

 世界には人間以外の動物に興奮したり無機物に対して発情するヒトもいるのだから、俺みたいなやつがいても不思議ではないだろう。

 いまどきケモナーとかいっぱいいるでしょうし。

 アレの怪獣バージョンってだけの話だし、珍しいもんでもないと思う。

 まぁ、さすがに少数派(マイノリティ)であるという自覚はあるけども。

 

 名乗ろう。

 俺の名は田中次郎(ジロウ)

 どこにでもいそうでなかなか居ない名前だと学友からよくからかわれる、ごく普通の高校一年生だ。

 性の目覚めは小学三年生の頃。

 両親と一緒に初めて怪獣の映像をテレビで見ていた時、同年代の女子のパンチラを目撃したり友達が内緒で学校に持ってきたグラビア写真集を眺めたりしても反応しなかった俺の分身がそのとき遂に覚醒した。

 ちなみに精通はその一週間後、隠れて使っていたパソコンから見つけた怪獣の画像を眺めていたときである。

 

 自分でも何で怪獣に興奮してしまうのかは分からないけど、しちゃうものはしょうがない。

 生まれ持ったサガってやつだ。

 俺の()()()は『ゴモラ』という怪獣で、彼女を見つめていたらいつの間にかパンツの中が凄いことになっていた。

 あの時の衝撃と快感は今でも鮮明に思い出せる。

 ちなみにゴモラという怪獣は、簡単に言うと一般人に『怪獣のイメージを思い浮かべてください』と言った際に必ず例に挙げられるような、恐竜をそのままデカくしたような感じの怪獣だ。

 怪獣と言ったらとりあえずこれだろ、ってイメージ。

 いわゆるスタンダードタイプで、怪獣ナーの諸兄たちも初体験はだいたいコイツだそうだ。

 お世話になっております。

 

 ……いやそもそも怪獣とはなんぞや、という話になると『数十年前から突如として地球上に現れるようになった未知の巨大生物』としか説明できない。

 どこから来たのか、元々この地球にいたのか、何もかも不明だ。

 最初のうちは空から降って来たり地中から出て来たり海から上陸したりとかしてたけど、最近は突然市街地に出現したりと何でもありになっている。

 

 例えば、こんな風に。

 

『キシャアァァアッ!!』

 

 俺が通っている高校の体育館がドでかい二足歩行の恐竜に踏み潰されてしまった。

 あぁ、球技大会明日から始まるはずだったのにな。

 容赦なく我が学び舎を蹂躙している巨大な怪物の名は『ゴモラ』。

 高層ビルよりも大きく二足歩行の恐竜のような姿のその怪獣は、授業がひと段落して生徒も教員も食事休憩を挟む憩いの昼休みに突然学校付近で出現した。

 

「落ち着いて誘導にしたがってください!」

「こちらです! 先頭の方から避難バスに乗車を!」

 

 そのおかげで大事なランチタイムはこの通りの大惨事に。

 中高一貫のわが校は逃げ惑う生徒たちで溢れかえっている。

 かく言う俺もその一人だ。

 流石に命の危険を伴う場所で怪獣に見とれたりはしない。

 校庭から道路に出て交差点付近のバスに駆け込む人波に揉まれる中、俺はなんとかそこから抜け出して校舎の方へ逆走している。

 

 その理由については数分前まで遡る。

 

 俺はクラスメイトの山岡と一緒に他のみんなと同じく避難誘導について行っていたのだが、その途中で現在中学二年生である妹の夜空(ヨゾラ)と同じクラスの少女を見かけた。

 彼女に声を掛けてみれば、なんと夜空は昼休みになってから腹を下してトイレに行っていたらしくそれ以降彼女の姿は見ていないと。

 

 もしかしたら避難が遅れている可能性がある。

 

 山岡にそう言われた俺は居てもたってもいられなくなり、いつのまにやら逆走しながら夜空を探し始めていた。

 いない、いない、いない。

 モブっぽい俺と違って妹の髪は亜麻色で、他の子たちにも埋もれず圧倒的に探しやすい特徴をしているにもかかわらず見当たらない。

 ついに人ごみから脱して高い塀の上から見渡しても──瞬間、脳裏に嫌な想像がよぎった。

 

 いやダメだろう。

 もし学校に夜空がとり残されていたとして、妹を見捨ててこのまま逃げるなんてお兄ちゃんにはできません。

 というわけでレスキュー隊員の目を掻い潜って校舎まで戻ることにしたのだが、後ろを見てみると屈強な体格の坊主頭な少年が付いてきていた。

 野球部の新入生期待の新人、高校に入ってからできた初めての友達こと山岡くん。

 

「何でついてきてんだ山岡」

「バカか!? 言っても止まらねえからだろうが!」

「逃げろって。そろそろ避難バスなくなっちゃうぞ」

「うるせーなアホ! オレも夜空ちゃん助けるの手伝うから、見つけたらさっさと逃げんぞ!」

 

 口を開けばバカだのアホだの暴言ばかりだけどやっぱり山岡は良いヤツだ。

 さすが野球部の新星。

 眩しいくらいの主人公オーラが溢れ出てるぜ。

 

「俺オマエのこと好きだわ。怪獣がいなくなったら何か奢るよ」

「んなこと言ってる場合か!」

 

 校舎内は既に人っ子一人存在せず、廊下中で警報が鳴り響いている。

 とりあえず中等部二年の教室がある棟まで移動すると、そこには階段付近で蹲っている少女がいた。

 あの亜麻色の髪をツーサイドアップにしている少女こそ我が妹こと田中夜空だ。

 急いで駆け寄って声を掛けた瞬間に彼女は顔を上げ、めちゃくちゃに泣き崩れた表情で俺の胸に飛び込んできた。

 

「お゛にぃ゛ぃぃ~ッ!」

「よしよし、兄ちゃんが来たからな」

「ぁ、あしくじいちゃって……いたくてぇ……っ」

「もう大丈夫だから、とりあえず一緒に逃げような」

「夜空ちゃんはオレが背負うから、早くいくぞ!」

 

 俺よりはるかに体躯が屈強な山岡に夜空を預け急いで廊下を駆け抜ける。

 もうさっきからずっと地響きで校舎がガタガタ悲鳴を挙げていて不安だ。

 校舎から出ると、目と鼻の先にいる怪獣ゴモラが体育館を破壊し終えたところで()()は次の標的をこの校舎に切り替えた。

 

『キシャアァァアッ!!』

 

 雄たけびをあげながらご自慢の太くて(エロ)い尻尾を振り回し、体育館の瓦礫をこっちに投擲してくるゴモラ。

 まるで隕石のように降り注いでくるそれらを一介の学生でしかない俺たちが華麗に避けられるハズもなく、夜空を背負った山岡は運よく当たらなかったものの俺はサッカーボールサイズの瓦礫が片足に直撃してしまった。

 

 転倒。

 瓦礫ミサイルを受けた左足は──膝から下が潰れている。

 

 もう歩くの無理だわコレ。

 極限状態でアドレナリンがドバドバなのかは知らんが痛みはないが、冷静に考えて自分はもう駄目だという事実を客観的に捉えることができてしまった。

 肩を貸してもらえれば逃げられるだろうけどさすがの山岡でも夜空と俺の両方を連れていくことは不可能だろう。

 

「山岡ァーっ!」

 

 逡巡する時間を与えることすら惜しい。

 このままじゃあの二人も危ないし一刻も早く逃げてもらわないと。

 

「夜空のこと頼んだぞーっ!」

 

 怪獣の咆哮と建物の崩れ去る音で山岡からの返事は聞こえない。

 しかし俺の表情から察してくれたのか彼は心底悔しそうに下唇を噛みしめながら夜空を背負ってそのまま校庭から走り去っていった。

 妹と友人が無事に逃げてくれたようで何よりだ。

 特に山もなければ谷もない平坦な人生だったけど、最後に妹を助けられたんなら多少は格好がつく死に方だよな。

 

 

 まぁ、悔いしかないけど愛しのゴモラに踏みつぶされて死ぬんなら本望だ。

 

「……うっわ。改めてみるとエロいなこの光景……」

 

 こうして生きている怪獣を目の前で見たのは初めてだが、それにしても下から彼女を見上げるローアングルは刺激的すぎた。

 なんかいまさら下半身が元気になっておられる。

 今まで見てきたのは生物図鑑みたいな全身図とか各部位のちょっとした拡大程度だったけど、いきなりこんなグラビアの写真撮影会でもやらなそうなスケベアングルでその姿を見せられたら息子がおはようするのも仕方がないと思う。

 やべぇ前言撤回。

 これ見ながら死ねるんなら悔いねぇわ。

 コスプレイベントとかでレイヤーに張り付くカメラマンの気持ちが初めて理解できた。

 こりゃ周囲の目とか気にしてる場合じゃないわな。

 

「どこから見ても生殖器が見えないの美しすぎるだろ……バカかよ……」

 

 マジで意味わからん。

 最初は単一個体の生命体かと思ってたけど一部の怪獣はタマゴも見つかってるしこいつらどうやってセックスしてんだよ意味わかんねぇ。

 生殖器や異性をアピールするための部位すらないその圧倒的に潔いフォルムはビューティフルの一言に尽きる。

 逆にキモイ。

 もうちょっと醜くてもいいんだよ?

 生態系の進化を冒涜しすぎているだろ……エロ獣がよ……。

 

「うわこっちきた。俺のこと好きすぎか?」

 

 瓦礫に潰されるなんて残念な最期じゃなくてよかった。

 精神的に幸福なまま死なせてもらえるなら後悔はない。

 

「うん」

 

 ゴモラに全身を包み込まれて消えて無くなるのなら全然いい。

 

「……うん」

 

 後悔はない。

 よかったんだこれで。

 

 これで──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……やっぱ死にたくねぇェェッ!!?

 

「うぎゃああーっ!! 誰かたしゅげでェーッ!!」

 

 いやだー! こわいしにたくない! しにたくなーいッ!!

 いろいろ言ってたけどやっぱり命は惜しいんじゃあああッ!!

 

 

 ──と、そんな感じでぴーぴー情けなく生き汚く喚いたところ。

 

 

『■■ッ!!』

 

 

「うぇっ、な、なに……?」

 

 空からなんか降ってきた。

 まったく聞き取れない言語を発しながら。

 人型の怪獣なのかよくわからないけど、とにかく『全身真っ黒な巨人』が現れて俺の前に立ちふさがってくれた。

 デュアっ?とかシュワッ?とかおおよそ地球の生物じゃ絶対に言わなそうな鳴き声を挙げて巨人はゴモラと戦い始める。

 

「助けてくれたのか……?」

 

 ──なの、だが。

 

「よっわ……」

 

 颯爽と現れた黒色の巨人──めちゃめちゃ弱い。

 貧弱というか、戦い方がへなちょこだ。

 全体的には細マッチョな感じなんだけど腰が引けてるし、ゴモラに浴びせているキックとかチョップは全く効いてるようには見えない。

 さっきから怪獣に転がされまくってて完全にマウントを取られてる。

 見た目は強そうなんだけど中身が追い付いてない、といった印象を受けてしまった。

 てか土煙すごいな。

 

「けほっ! けほっ、うぅ……が、がんばれ巨人~……!」

 

 校庭の砂場に寝そべりながらやる気のないエールを送る。

 他にできることもないし。

 ていうかさっきから潰れた足の痛みが地味にジワジワきてる。

 

『っ! ~~ッ! ■■っ!!』

 

 そしたら巨人の視界に偶然俺が入っていたのか、エールを送る姿を見た彼(彼女?)は深く頷いたあと、少しだけ態勢を持ち直してゴモラを蹴っ飛ばした。

 なんだ、アレか。

 応援で強くなるヒーローショータイプのやつか。

 いやそもそもあの黒い巨人が味方って保証はないんだけどもさ。

 なんつーか……そう、見た目がヒロイックなんだよな。

 眼は白くて宇宙人っぽいけどなんとなくテレビに出てくるようなヒーローっぽい雰囲気を感じる。黒いけど。

 いまここで応援すべきは間違いなくあの巨人の方なんだろう。

 

「……? なんだアレ……」

 

 一転して攻勢に出たように見えた巨人だったが、胸部の中心にある丸っこい宝石みたいな物体が赤く点滅し始めた。

 途端に膝から崩れ落ちる巨人。

 もしかしなくてもエネルギー切れとか極度の疲弊とかそんな感じか。

 見るからにヤバそうだし胸部の宝石から警告音みたいなのも聞こえてくる。

 

「さすがにヤバくね……?」

 

 今回のゴモラは妙に強くて、いままで怪獣を殺処分できていた防衛軍の火器などもほとんど通用していないため、いまここであの巨人が負けたら少なくともこの地域一帯は終わってしまう。

 ヤベーヤベーと思いつつも立ちあがれない巨人。

 太くて長くて美しい尻尾を振り回す初めての女性(ゴモラ)

 攻撃が直撃した巨人は為す術もなく吹っ飛ばされてしまう。

 

「こ、こっ、こっちに落ちてくる──ッ!?」

 

 ちょうど俺が寝そべっている校庭の真上に落下してきて──

 

 

 ──プチッ。

 

 






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解釈違いです

 田中次郎です。

 気がついたら真っ暗で不思議な空間に立ってました。

 そんでもって目の前にはあの黒い巨人が立っています。

 身体の黒さとこの空間の暗さからなんか保護色みたいになってて見えづらいけど彼の眼が白く光ってるので存在の視認はなんとかできた。

 

 ……おれ、倒れてきた巨人に潰されて死んだんじゃなかったっけ。

 

『■■ッ、■■■……』

「はい?」

 

 なんて?

 たぶん巨人が喋ってるんだろうけど外国語よりも何を言っているのか分からない。

 言葉の節々から日本人じゃ絶対に発音できないような独自の言語体系を感じる。

 俺が露骨に聞き返すように耳を傾けると、巨人は意図を察したのか左腕に巻いている腕輪みたいなやつを何回かポチポチっと押してからこちらを向いた。

 

『すまない地球人、これで言葉は通じるだろうか』

「あー……はい、通じてますね」

『ホッ』

 

 文字通りホッと胸を撫で下ろす巨人。

 厳つい見た目に反してかわいらしい動作をしていてなんともギャップがすごい。

 声質からして恐らく男性。

 状況を鑑みるにきっと俺はこの黒い巨人に助けられたのだろう。

 

『申し訳ないが、お前は死んだ』

「ハァ!?」

 

 助けられてなかったし普通に死んでたらしいわ俺。

 じゃあ何だこの場所は天国か何かか。

 ……っていうか、俺いま()()()()

 瓦礫で左足潰れてなかったっけ。

 

『私の力を分け与えたんだ。一応お前の足は治ってはいるが、このままだと私たちは二人とも死んでしまう』

「よく分かんないんだけど……」

『ならば一から説明しよう。あまり時間はないが──』

 

 

 うんたらかんたら。

 むつかしい説明が三分くらい続いた。

 

 

「はぁ……なるほど……?」

『分かってくれたか!』

「まぁ、はい」

 

 ぶっちゃけ話の半分も理解できなかったけど、とにかく『二人で合体すればなんとかなる』という事だけは分かった。

 俺も半分死んでてこの巨人も瀕死。

 でも二人の生命力を共有させれば──とかなんとか。

 他にもいろいろ説明されたが今大事なのはこの部分だ。

 

「俺たちがゴモラを何とかしないと──街がヤバいんだよな」

『そうだ。共に戦おう、地球人!』

「お、おう!」

 

 気合入れて返事をしたあとは何か変な玩具を手渡されて、適当にガチャガチャ弄ってたらいつの間にか俺たちは合体──もとい『変身』していた。

 

 

 

「シュアッ!」

「っ!?」

 

 てなわけでクソでかい巨人になって再び街に現れたワケなのだが、俺たちの突然の登場に驚いたのかゴモラは固まっている。かわいい。

 で、俺と巨人の合体した姿はいわゆる強化形態ってやつらしく、あの巨人がいろいろと武装したような姿になっている。

 顔が銀色になってたり身体中に銀や青のラインが入ってたり──とにかくさっきまでの巨人とは別人に見えるという事だ。

 ゴモラからすれば、敵をやっつけたかと思えばそれよりもっとゴツい敵が現れたということになるので……まぁビビるのも分かる。

 

 そんなことより。

 

(ひぃっ、お、俺、ゴモラと対面してる……同じ体格になって向き合ってるゥ……!)

(ち、地球人!?)

 

 ゴモたんだけでなく俺まで緊張してきた。

 写真集で精通に貢献して頂いたグラビアアイドルが目の前にいるような状況なんだから緊張しない訳がない。

 童貞だってことも災いして完全に動けなくなっちゃった。

 こう、言い知れぬ罪悪感とかもあって感情が無理になってる。

 

(おいしっかりしろ! この姿でいられるのは三分だけなんだぞ!)

(わ、分かってますよフヒッ……大丈夫、ちゃんと戦うから……)

(ていうか何でそんな興奮してるんだ……? 合体してるからその感情私にも伝わってくるんだけど)

 

 いや興奮なんてしてねぇし。

 怪獣を前にしてすぐに発情するような猿だと思われるのは心外ですわ。

 俺だって弁えるとこはしっかり弁えるぞ。

 まずは挨拶からだよな。基本。

 

「デュアッ」

「……?」

 

 よろしくお願いします、とか初めましてって意味を込めてお辞儀をした。

 ゴモラさんは首を傾げている。

 キュートな仕草だぁ……!

 

(おいバカなのか!? 何で怪獣に挨拶してるんだよ!?)

(挨拶は礼儀なのですが……)

(今は必要ないだろ礼儀!)

(ばっ、おま、あのゴモたんだぞ! ザ・有名怪獣で名を轟かせているお方だぞ! ふざけたこと言ってんじゃねぇ!)

(え、えぇ……なんなのこの地球人……)

 

 初対面なのに挨拶の必要なしだなんてふざけた宇宙人だぜ全く。 

 たとえこれから倒す相手だとしても何度か息子がお世話になった女性なのだからしっかり──

 

 

 ……倒す相手。

 

 ……た、たおす……?

 

 

「キシャアァァッ!!」

「デゥアッ!?」

 

 ゴモラの長くて太い尻尾にぶっ飛ばされた俺は街の十字路に倒れ込んだ。

 なんとか建物は壊さずに済んだがその代わり俺の心が壊れそうになってる。

 

(む、むりぃ……ゴモラをこの手で殺すなんて……そんなことしたら俺が死ぬゥ……っ)

(地球人!?)

 

「ッスゥアッ!」

 

 ゴモラが死者を出さないよう、急いで起き上がり彼女にしがみついた。

 これくらいの拘束ならできるが()()()()の俺にこれ以上の攻撃なんて出来るワケがない。

 確かに宇宙人の話を聞いているときはなんとなくゴモラを止めなきゃヤバイってことは理解してた。

 それから彼女と戦うことになるってことも──しかしいざ相対してここまで怖気づいてしまうとは思わなかった。

 

(しっかりしろ! 今ここで私たちがやらなきゃ大勢の犠牲が)

(分かってるけどさァ!? それにしたって初恋のヒトを殺せとか鬼畜過ぎない!? お前できんのかよぉ!!)

(逆ギレ……! この地球人想像以上に怪獣愛こじらせてるッ!)

 

 いや俺も分かってはいるんだ。

 戦わなきゃ街に多大な被害が出るだなんてことは百も承知なのだ。

 でも、それにしたって、ゴモラを自らの手で殺せだなんて酷すぎる。

 俺と合体してるこの宇宙人は家族や友人の為を想うなら戦えとそう説得してくるのだろうが、俺にとってはどちらも天秤にかけられるようなものではない。

 妹や友達のことは守りたい。

 かといってその為ならこの手で初恋の怪獣を惨殺できるかと言われたらノーだ。

 

(おい宇宙人! なんかこう、折衷案とかないの!? ゴモラを殺さずに無力化する方法とかさ! このままゴモラを殺せって言われたら俺あの女性(ひと)を葬ったあとお前と一緒に自爆するくらいの勢いなんだけど!!)

(落ち着け地球人!? 早まるな早まるな! ある!方法あるから一旦落ち着け!)

 

 えっマジ? 無力化する方法あるの?

 

(あ、あぁ……本当に一応、な)

(詳しく!!!)

(うるさいな騒ぐな! ……確かにこの手段を取ればゴモラを無力化して、尚且つヤツの身体を地球人サイズまで縮ませることができる)

(おぉ……)

 

 何だよー! そんな方法があるなら早く言えよこの~! 

 ったくお前と組んで正解だったぜ宇宙人くん!

 

(熱い手のひら返しに困惑してるよ私は)

(ありがとな宇宙人。ゴモラを人と同じ大きさまで縮ませることが出来るならいつか叶えたいと思っていた俺の夢も実現できそうだぜフフフ……)

(たぶんロクでもない夢だろうから聞かないぞ)

(なんで! まぁ聞けよ)

 

 ずばり夢とは怪獣ハーレム。

 俺は別に怪獣の大きさ自体にエロスを見出してるわけではないので、同じ大きさにして侍らせることが出来たらそれでいいんだ。

 四六時中怪獣に囲まれた生活をしたい。

 鳴き声を目覚ましにして尻尾を抱き枕にして寝たい。

 幼き頃からの純粋な夢だ。

 

(どこが純粋な夢なんだよ……煩悩にまみれすぎてるだろ……)

(男ならハーレムは一度でも夢見るもんだろ? 俺はお前と組んでそれが実現可能な夢になりそうで感動してるぜ)

(協力してもらう地球人まちがえたかな?)

 

「デュッ?」

 

 そんなこんなで宇宙人と心の中でやり取りをしていたら、いつの間にか胸のランプみたいなやつがピコンピコンと音を立てながら赤く点滅し始めた。

 

(あと三十秒しかこの姿でいられない!)

(マジでヤベーじゃん)

(ここまで追い詰められたのはお前のせいでもあるんだがな! もういいからさっき言った方法でトドメいくぞ!)

 

 殺さずに無力化する手段──宇宙人と合体しているからなのか、自然とその方法が頭の中に伝達された。

 両腕を十字にクロスさせて特殊なビームを放ちそれをゴモラに命中させればいいらしい。

 そうすればゴモラは暴れる力を失い、且つ人と同サイズまで縮むとのことだ。

 

(ふ……ふひっ、小さくなったゴモラの処遇はどうしようか)

(そんなことは後で考えろ! とにかく呼吸を合わせて──)

 

「スィアッ」

 

 プロレス技のような態勢で拘束していたゴモラから一旦離れ、全身の血液を両腕に集中させるかのように意識して力を込めた。

 その瞬間バチバチと周囲に電撃が飛び交う。

 それらが一気に発射されゴモラに着弾、身体を痺れさせることで彼女の拘束に成功した。

 これなら確実に必殺技を当てられる。

 

 ──いくぞっ!

 

 

(( 超・生体変化・光線(ハイパー・トランス・ブラスター)ッ! ))

 

「ディィアッ!!」

 

 

 腕を十字にクロスさせたそのとき青白い閃光の稲妻が迸り──怪獣は爆炎を上げて四散した。

 

 

 

 

 

 

 どうも田中次郎です。

 実は学校周辺にゴモラが出現したあのときから一週間が経過してます。

 

 ……さて、突然だがここで俺の両親が従事している職場の名前を思い出してみよう。

 怪獣研究所だ。

 その名の通り怪獣の研究をしている公的機関で、父も母も毎日変質者のように興奮しながら怪獣の研究にのめり込んでいる。

 どうして両親がそこで働いていることを改めて思い浮かべたのか──その理由は昨日の夜まで遡ることになる。

 

 実は俺と宇宙人の戦いの一部始終はビデオ撮影で事細かに記録されていたらしく、俺たちが超生体変化光線で()()()したゴモラはすぐさま怪獣研究所に捕獲されてしまった。

 謎の宇宙人による攻撃で肉体が大きな変貌を遂げ縮小化したゴモラ──彼女が国の研究材料として使い潰されることは誰の目から見ても明らかであり、それを危惧した両親が誰よりも早く彼女を回収もとい”保護”したのだった。

 

 そして問題の昨日の夜。

 学校が終わって家に帰ってく来た時、父から電話がかかってきた。

 

『明日からゴモラと一緒に生活してくれ! 昔からの夢だったろ、怪獣と暮らすの! それじゃあよろしく!』

 

 時間にして僅か五秒。

 それだけ言って父は息子との電話を即切りし、病院で検診を受けている妹の夜空を甘やかしに行ったのだった。

 一応メールで今回の諸々についての説明はきていた。

 ゴモラを研究材料として扱うのは間違っている、彼女には()()()()生活をする権利を与えるべきで、そうすることが怪獣との共存の第一歩になるんだ──とかなんとか。

 ぶっちゃけ怪獣キチの両親がゴモラを殺処分させたくなかったのと、合法的に手元に置いておきたかっただけなのだろう。

 

 で、今日。

 日曜日のお昼。

 研究所からゴモラがやってくる。

 夢に見ていた怪獣との同棲──そうなるはずだった。

 

 いや、実際はそうなのだろう。

 事実から言えば俺は怪獣との同居を始める。

 しかし、だ。

 

 

「こんにちは、黒田ミカヅキです! これからよろしくお願いします!」

 

 

 玄関を開けるとその先には元気に挨拶をしてくれた同い年くらいの美少女がいた。

 彼女の名は黒田ミカヅキ。

 またの名を──ゴモラ。

 

 

 

 ……いや人間化した怪獣と生活したかったわけじゃないんですけどォ!?

 

 

 

「えっと、田中次郎くんですよね。話は事前に聞いていたと思うんですけど……」

「あぁ、はい。そうですね」

「……あ、あの」

「よろしくね、とりあえず上がりなよどうぞ」

「は、はい」

 

 うわの空で返事を返しながら彼女を家に上げる俺の顔はきっと引きつった笑みになっていたことだろう。

 謎の宇宙人に”肝心な部分”を説明されないまま喜々として怪獣の無力化を行った俺だったが、現実は幼少の頃から夢見ていた怪獣との生活に程遠い残酷なものだった。

 ぬか喜びもいいところであった。

 光線が直撃したゴモラは女の子になった。

 とてもかわいらしく怪獣のかの字も見当たらないような美少女へと変貌を遂げていた。

 なんかゴモラのコスプレみたいな姿には変身できるらしいけどしょせんコスプレの域を出ない人間そのものな姿であった。

 

 

 ──うわあああぁぁぁァ゛ァ゛ッ!!?

 なんじゃそりゃあああッ!!!

 話しがちげぇぞォォーッ!!

 

『ふふふ、一時的に肉体は消滅してしまったがこのスマホとやらの中は案外快適だな、地球人!』

「うるせぇよ勝手に人のスマホん中に住み着きやがって! 何でもありかテメェは!」

 

 そうだ、そうなのだ。

 超生体変化光線とは怪獣を人間の少女──怪獣娘とやらに変化させることで無力化する必殺技だったのだ。

 デメリットとしてエネルギー消費が激しく使用後は三十時間のあいだ変身できなくなるとかいろいろ言われたけどそんなの俺の知った事じゃねえ。

 怪獣とお近づきになれると思ったらちょっと雰囲気が似てるだけの女の子が出てきて挙句正体不明の不審者がスマホの中にインストールされた今の俺の気持ちがお前に分かるのかよこの野郎。

 

『怪獣に関してはきみの早とちりだろ、タナカジロウ?』

「うるせぇ……うるせえんだよバカ野郎ぅ……っ」

「じ、次郎くん? だいじょぶ?」

 

 スマホと口喧嘩しながら項垂れる俺に寄り添う黒田ミカヅキちゃん。

 意地でもこの子をゴモラとは呼ばねえと思ってたけど、その怪獣から生まれた彼女の優しさがいまはちょっぴり嬉しかった。

 

 でもやっぱり擬人化は解釈違いですゥ!!

 

 



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とてもムラムラする

 めっちゃムラムラする。

 

「……はぁ」

 

 ベッドの上でゴロゴロしながらそんなことを思い耽る。

 いやいきなり何なんだよって話なのだが俺は現在とても困った状況に陥っているのだ。

 変な宇宙人がスマホに住み着き、さらに擬人化したゴモラがウチに来てからはや三日が経過しているのだが──

 

『見ろジロウ! この動画の主は何故自ら始めた”ほらーげぇむ”とやらで発狂したり文句を言ったりしているんだ? 気になる!』

「あー、うん。そういうネタなんだよ」

『ネタ? それはスシという食べ物の上に乗っている魚類の肉のことでは?』

「……」

 

 こんな感じで宇宙人はスマホの中でネットサーフィンしながらほぼ毎日やかましく騒ぎ立てている。

 うるさいことこの上ないのだがコイツがいなければ俺も死んでいたのであまり強くは出れないのがもどかしい。

 この宇宙人こと”(クロ)”だが──名前が地球語に翻訳できなかったのでとりあえずそう呼んでいる──こいつかなり不思議な生命体で、電子機器にも憑依できるためかスマホだけでなくパソコンや電子レンジにも入ることが出来る。

 そのせいで危うくパソコンの恥ずかしい検索履歴を見られそうになったりもした……とか、まぁ行動を共にするようになってからはいろいろあったのだけども。

 

(ムラムラする……!)

 

 いま最も困っている部分はコイツがほぼ四六時中俺と一緒に居るせいでシコれない──自慰行為(オナニー)をすることが出来てない、ということである。

 

(もう一週間以上抜いてない! スマホの中に他人がいるんだからオナニーなんて出来るワケねえし地獄! つらいッ!!)

 

 ハッキリ言ってクソつらい。

 別にめちゃめちゃ性欲が旺盛だとかそういうワケではないけど俺はこれでも一介の男子高校生だ。

 ぶっちゃけ性欲は持て余している。

 他の男子たちと違ってオカズの供給が少ないことも相まって日々シコるのに苦労してたのに、そこへ更に強制的にシコれない環境を作られて拷問されるとは思わなかった。

 

(……ふっふっふ)

 

 しかし俺もバカではない。

 このクロを一時的に家から追い出せばシコれるとそう考えた俺は既にそのための作戦を用意してあるのだ。

 これでコイツを数時間くらい外に放置してまったり癒しの時間を堪能することにするぜ……ッ!

 

「なぁクロ」

『むっ? どうしたジロウ』

「あそこにドローンがあるだろ。二年前に親父が誕生日プレゼントでくれたものなんだけど」

『うん』

 

 そう、俺の秘策とはクロをドローンで外に飛ばして窓を閉めることで強制的に自宅への出入りを制限するという方法なのである。

 これは勝った。俺って天才。

 

「俺たちって巨大化して戦うだろう? だからあらかじめこの街の地形を知っておけば、戦う際の被害を最小限に食い止められると思うんだ。この前なんて危うく小屋を踏みそうになってたしさ」

『すごい早口。……まぁ、確かに一理あるな』

 

 おっ、いけそう。

 

『まだ元の姿には戻れないしドローンで街の調査をするのは良いかもしれない』

「だろ? ドローンもちゃんと充電しておいたからさ、六時間くらいは余裕だぜ」

『ありがとう。では早速行ってくるよ』

 

 あっという間にドローンへ憑依したクロは窓から旅立っていった。

 そして彼が見えなくなるまで家から離れたのを確認して窓をピシャリと閉める。

 何かあったら窓を叩いてくれるだろうしコレでしばらくは大丈夫だろう。

 

「……よしっ! よしよし! やった!」

 

 思わずガッツポーズしてしまう程に嬉しかった。

 俺はついにオナニーが出来るんだ……!

 あの巨人になって自分と同サイズのゴモラを前にしたあの時からずっとムラムラして昂っていた性欲をいま解消できる!

 

「事前に買ってダウンロードしておいたエロ同人をいま開くとき……」

 

 クロがパソコンに憑依している間にスマホでダウンロード販売の同人誌を買って即座に履歴を消したのが数日前のこと。

 常に未開封の同人誌を傍らに置いている感覚はもどかしいの一言であった。

 ちなみに怪獣なら三次元でも二次元でもイケる。

 両方に違った良さがあるけど自慰に耽るならば抜きに特化した二次元の方に軍配が上がるだろうか。

 現物と違って穴が存在する場合もあるがそれはそれで良い。

 顔や体つきがちょっとだけ人型キャラクターに寄っているのも許容範囲だ。

 

「よし、では……」

 

 カーテンを閉めて部屋を真っ暗にする。

 俺の憩いの時間に陽の光は必要ないのだ。闇バンザイ。

 スマホをポチポチっと操作して机の上からティッシュ箱を取ってベッドに座る。

 いざ、いざ──!

 

 

「うわああん次郎くーん! またお皿割っちゃったぁぁっ!!」

 

 

 ノックも無しに部屋へ飛び込んできたのは、三日前から同居することになったゴモラの擬人化少女こと黒田ミカヅキちゃんだった。

 ……クソぁッ!!

 

 

 

 

 超生体変化光線は俺の記憶の()()から一般常識や人格を形成して怪獣に付与する光線だ。

 なので擬人化したとは言っても中身まで完全にヒトになったわけではなく、お約束のような感じで怪獣娘はいろいろと常識に疎いところがある。

 黒田ミカヅキの場合は電子機器の扱いだったり手元が不器用だったりなどだ。

 既に我が家のお皿は三枚粉々になっている。

 もしかしたら怪獣娘は力をセーブしているだけで実は怪力だとかそういう設定でもあるのかもしれない。

 これは検査入院してる妹が帰ってきたらこっぴどく叱られそうだ。主に俺が。

 

「じゃあ皿片づけてくるから」

「うぅ、ごめんなさい……」

 

 リビングで割れていた皿を新聞紙に包んで庭へ出る。

 物置小屋のそばにでも置いとけばいいか。

 

「……クロのことばっかり考えててミカヅキのこと完全に忘れてた」

 

 とてもつらい。

 寸止めオナニー地獄である。

 一難去ってまた一難とはこの事を言うのだろうか。

 基本的にはリビングや先日与えた空き部屋で過ごしてもらっているのだが、間違いや質問などで俺の部屋に突撃してくることが割と頻繁にある。

 あまり要領がよくないのか未だにノックは忘れてしまうし洗い物も力が入りすぎて割っちゃうし……大変だなぁ。

 

「どうしたもんか──な……?」

 

 ベランダからリビングに戻ったその瞬間、俺の目には信じられない光景が映った。

 

「はっ、はわわ……」

「……」

 

 ミカヅキが俺のスマホを見ている。 

 インターネットを開けば即座にゴモラのエロ同人が表示される状態になっていたスマホを起動している。

 若干うろたえながら顔を赤くして画面をスライドしているその様子から察するに──ゴモラのエロ同人を読んでいる。

 

 

 ──んああぁァ゛ァ゛ッ!!

 

 

「……ご、ごめんなさい! 人のスマホって勝手に見ちゃダメなんだね……!」

「いやもういいよ教えなかった俺が悪いから」

 

 こればかりは俺が悪い。

 常識を先に教えておかなかったこともそうだがスマホを無防備な状態でテーブルに置いておいたのがいけなかったのだ。

 これは飼っている猫が空いてる段ボール箱に突っ込むくらいしょうがない事なんだ、忘れよう。

 

 いや、でもそれにしたって恥ずかしい。

 同い年くらいの女子にスマホの中身を見られたとか穴があったら入って爆発して死にたいくらい恥ずかしすぎる。もうむり……。

 

「元気だして、ね? 男の子ならあぁいうの読むのだって普通だよっ」

 

 きみに見られたから凹んでるんですよ!

 気を遣われると余計みじめな気分になるわ!

 

「……そ、その、次郎くんってゴモラで……あの、えっちな気分になっちゃうの?」

「いわないで……」

 

 マイノリティなんですぅ! 少数派なんですぅ! 

 だから改めて言葉にして晒し上げるのは勘弁してください。

 

「そうじゃなくてね! ……えっと、もしかしてアタシでもそういう気分になったり……する、のかな……なんて」

「えっ?」

 

 ソファに腰かけて項垂れている俺の横に座ってなんだかモジモジしているミカヅキ。

 質問の意図がよく理解できないが──

 

「いやキミでは興奮しないかな」

「えぇっ!?」

 

 割ときっぱり言ったら驚かれた。

 いやしませんが……。

 

「ごめん、本当にめちゃめちゃキモいこと言うけど、俺って怪獣の不思議な姿に興奮してるからさ」

「キモいね……」

「ごめんね!? でも改めて言われると傷つくからやめて!?」

 

 何なんだよこの女ァ!

 俺は正直に自分の性癖を言っただけなのに!

 ……いや女子に自分の性癖を告白するのってよく考えなくてもおかしいな。

 逆に俺が冷静じゃなかったわ。ごめんなさい。

 

「じゃ、じゃあこの姿ならどうなの! 変身!」

「うぉっ」

 

 ソファから立ち上がったミカヅキが変なポーズを取ると、彼女の体が一瞬光った後に”怪獣娘”の姿に変化した。

 あのゴモラのコスプレみたいな姿だ。

 頭のてっぺんからはゴモラの鼻頭にあったツノが生えていて、独特な三日月型の頭部の一部も頭の左右から生えている。

 二の腕から先と太ももから下はゴモラ特有の無骨で肉厚な硬い皮膚に覆われておりお尻からは尻尾が。

 そして何より──というか。

 

「なんでスク水……?」

「知らないよ!」

 

 人間の状態を保っている上半身から股関節にかけてまでが黒いスク水でおおわれている。

 ゴモラにスク水要素あったっけ。

 ていうかアイツ水中での活動できない筈なんだけど。

 

「そういう面倒くさいのはいいから! ほら、ちゃんとゴモラになってる部分を見てみてよ」

「いやセクハラになりますし」

「興奮しないんでしょ!?」

「それとこれとは話が別だろ!?」

 

 俺が興奮しないからと言って女子に触っていい理由にはならない。

 ……とかなんとか言い訳をしていたのだがほんの数分で口論に負け、俺は何故か怪獣のゴモラに対抗心を燃やしているミカヅキの身体を見ることになった。

 あと多少の触診もOKらしい。

 

「ちゃんと見たり触ったりして、本当に興奮しないのかを証明してください」

「どうして」

「あ、アタシだってゴモラだし。……なんかくやしいっていうか」

 

 なんだこの展開エロ同人か?

 友達に自慢したら殺されそうだぜ。

 というかミカヅキはアレか。

 同じゴモラなのに自分は例外的に性の対象として見られないことが癪なのか。

 確かに『キミは恋愛対象としては見れないかな……』って女子に言われたら傷つく男子もいるかもしれないけど……まぁ、どうやら俺の不用意な発言で少なからずミカヅキを怒らせてしまったらしい。

 ここは本心を隠して気を遣ってあげるのが一番だろう。 

 

「わぁ~エロ~い興奮するぅ~」

「流石にそれは嘘だって分かるよ?」

「うぐっ。……い、いや、だって女子の体を触るなんて……」

「いーいーの! アタシが許可出してるんだから合法! いまなら合法でゴモラ触り放題だよ! ほらどうぞ!」

「──っ!!」

 

 合法でゴモラを触り放題──という単語に心のイチモツが勝手に反応した。

 いいのか、俺はゴモラを触って……?

 

「い、いいよ、はい……」

 

 俺の前に立って腕を広げるミカヅキ。

 彼女の許しを得て改めて怪獣に変化している体の部位を注目してみると、気づいたことがあった。

 

「……コスプレ、じゃない。完全に肉体と同化している……?」

 

 分厚く硬い皮膚や鋭い爪先を持つゴモラの腕は決してコスプレ用の手袋などではなく、指の先まで神経が通っている”腕”だ。

 指先を軽く触ると──

 

「んっ……」

 

 ミカヅキが反応する。

 ツルツルな人間部分とゴツゴツな怪獣部分の境目をじっくりと観察してみても、やはり彼女の体は一部分が途中から完全にゴモラのソレへと変貌しているのが分かる。

 

「なんてこった! 大発見だ……ッ!」

 

 コスプレじゃない。

 これはれっきとした肉体変化だ。

 このゴツゴツな手足やツノは正しくゴモラが持つ身体の一部だ。

 

 なら、尻尾は。

 

「尻尾、触ってもいいか?」

「う、うん」

 

 あの太く長く美しい尻尾──俺がゴモラの体の部位で一番性的な魅力を感じるエロの頂点を触ってみたい。

 はたして尻尾までもが本当にあのゴモラのモノなのか。

 仮にそうだったとしたら──俺はどうなってしまうんだ?

 

「……うそ、だろ」

 

 触れたその瞬間、体が固まった。

 視線が尻尾に釘付けにされる。

 俺は彼女のコスプレにしか見えなかったその尻尾を前にして、自らの性を覚醒させたあの偉大なる尻尾を感じ取れてしまったのだ。

 

 

 ……これはゴモラの尻尾だ。

 

 

「じ、次郎くん」

「……?」

「その……ちょっと、くすぐったいかなって。……えへへ……」

 

 

 

「──うぐっ!?」

 

 なんだ! 何が起きた!?

 無機質で無骨故に美しいと感じていた怪獣の尻尾に触れて、そこへ人間の少女の敏感な反応と儚い笑みをプラスされて俺は何を感じたのだ!?

 この破壊力の正体は一体何なんだァッ!?

 

 ま、まずい、俺の息子が勝手に反応してしまう── 

 

 

 

 

『ジロウ~ッ!! 窓を開けてくれ! 黒い鳥怪獣たちに襲われているんだっ! このままだと──ちょ、やめっ、精密機械なんだぞッ!!』

 

 

 

「……ふぇっ?」

「……はぁ」

 

 

 ベランダの窓の外には大量のカラスに襲われているドローンが見えた。

 その瞬間バグっていた俺とゴモラ……ミカヅキの思考がまともに戻ったのか、二人して急速に冷静さと羞恥心が吹きあがってくる。

 

「……わっ、あ、ごごごめんなさいっ!!」

 

 湯気が出るかのように真っ赤になったミカヅキはリビングから飛び出して二階の自室へと戻っていく。

 それと同時に俺の愚息はギリギリ踏みとどまり、勃起を回避した俺は無表情でカラスたちからドローンを助け出し、半泣きになっているクロをスマホに戻してソファに倒れ込んだ。

 

「……クロ、ありがとな」

『えっ、礼を言いたいのは私の方なのだが……』

 

 タイミングよく帰ってきてくれた宇宙人のおかげで命拾いした俺は、罪悪感から「もうしばらくはシコらなくていいかな……」と小声でぼそりと呟きつつソファの上で瞼を閉じるのであった。

 

 

 





R15タグいる……?いらないか…いいか…(慢心)


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