海渡る願い (哨戒艦艇)
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プロローグ

艦これ2次創作をふと書いてみたいと思い執筆し始めました。見切り発車&処女作なので温かく見守ってくださると幸いです。


 

 

 

 頭が割れる程の痛みとはよくいったものだ。酷い頭痛が仕事帰りで疲労している私を襲い、コンビニで買ってきた開けたばかりのビールを思わずこぼしそうになる。こういった時の痛みは中々ひかないもので、どうしようものかと悩んでるうちに電子レンジで温めておいたおつまみが温まったぞとこちらの様子お構いなしにチ──ンっと軽快な音を鳴らして自己主張してくる。この痛みに耐えてわざわざレンジまで取りに行くほど私は飲んべぇではないのだ。そう自分に言い聞かせながら今は煩わしく感じるお笑い芸人達の笑い声が聞こえてくるテレビを消し、布団に潜り込んだ。こんなことだったら頭痛薬を買っておけばよかったと小言を言いながら少し横になって目を閉じた。だが、この頭痛が治ったら頭痛薬を買って常備しておくという発想はきっと忘れているのだろうと思うと少しの笑いと余裕が出てきて多少痛みが和らいだ気がした。男の一人暮らしなんてそんなものだと思いながら私は鈍い痛みとともに意識を手放した。

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────

 

 

 

 

「く……いとく……提督! ……大丈夫ですか? どこか具合が悪いのですか?」

 

 

 心地よい女性の声で目を覚ますとそこには見知らぬ風景が広がっていた。知的な雰囲気を醸し出す眼鏡をかけた女性と正面には赤い袴らしき物を着ている女性が私の様子を伺っている。よくみると眼鏡をかけている女性はセーラ服だがスカートの側部は謎の穴が開いているのに気づいた。悲しいかな男とは簡単に罠にはまってしまう生き物なのだ。決して私だけがやましい心をもっているのではない。男とはそういうものである。

 

 

「いや……大丈夫だありがとう。ところでここは……?」

 

 

 いつの間にか頭痛が治っているのに気が付きながらも状況が掴めず、思わず尋ねてしまったがここは夢の中なのだ。夢の中で美女との会話でも楽しむとしようかと意識を切り替えながら自分に言い聞かせ落ち着きを取り戻そうとする。しかしこうもリアルな夢だと違和感はどうしてもぬぐい切れない。思考を巡らせていると

 

 

「提督もご冗談を言われるようになったのですか? ここは○○鎮守府の執務室ですよ」

 

 

 ……執務室とは一体? 執務室自体の意味はわかるのだが鎮守府? まるで海軍の基地みたいな場所ではないか。実際は鎮守府なるものが基地なのかは私にはわからぬがそういう場所に違いない。女性からもたらされた情報によって私はさらに混乱していた。よくみると自分の来ている服は寝る前と違う軍服らしき物を着ているではないか。こんな上等な服なんて久しく買ってないと自分の最近の買い物事情を思い出しながら心の中で笑いつつ、少しおいてから、まぁ夢なのだからそういうものかと冷静になることができた。提督と呼ばれていたのでおそらく私は司令官的な立場なのだろう。華麗に軍を指揮し、敵を倒して戦果を挙げるという子供ならだれもが一度くらい憧れるシチュエーションだなと懐かしい気持ちになりながら2人の様子を見てみると強張ったような緊張しているような様子でこちらを伺っていた。とくに目の前の女性は私の言葉にどう反応していいのかわからないといわんばかりに口を噤んで立っていた。

 

 

「あの……提督……先日申し上げました艦載機の補充の件なのですが……」

 

 

 かんさいき……? 戦闘機のことなのか? とすればこの赤い袴を来ている女性はパイロットかなにかなのか。その恰好で戦闘機の操縦をするのか? はたまたなにか武道を嗜んでいてその合間にこの部屋にやってきたのか今の私にはわからないが、とりあえず

 

 

「ああ。いいぞ。その件については任せる」

 

 

 と無難な回答をしたところ女性はまさかと言わんばかりに驚いた表情をしていた。まるで誕生日にダメ元でゲーム機をねだったら買ってもらえたような雰囲気だった。これが子供であればやったやったと喜びまわるのだがあいにく目の前にいるのは大人の女性だ。流石にはしゃぎはしないが驚きつつも、表情はどこか固いままだ。そこまで驚くことなのか? しかしここは軍事基地で彼女は軍人なのだから当然兵器の補給、補充は必要だろう。その了承をもらって驚いたことにこっちが逆に驚いていまった。妙な空気の中、傍にいたもう一人の女性が私に尋ねてくる。

 

 

「あの……提督。何点か質問をよろしいでしょうか?」

 

 

「かまわんよ」

 

 

「先日の作戦において出撃させた部隊についてですが……補給が済んでおりません。この補給を行ってないのはご存知ですか?」

 

 

「いや、そのことについては知らなかった。申し訳ない。直ちに補給、修理を行ってくれ。万全な状態でな」

 

 

「…………本部から送られてくる予定の資材関係についてですが、こちらに関してはどうされるおつもりでしょうか?」

 

 

「君に任せるつもりでいるが……なにかまずかったか?」

 

 

 明らかに2人が動揺しているのがわかる。私が何をしたというのだ。こちらも不安になってくるではないか。まるで私が悪いことをしているような気分になり罪悪感みたいな感情が生まれてくる。先ほどよりも不穏な雰囲気が空間を包む。いたたまれない気持ちになり、なんとかしようと思わず白状するような形で私は喋る。私は悪くないぞ決して。

 

 

「すまない……正直に言うとな……以前の記憶がないのだ。というよりも私が持っている記憶と君達が思っている私としての記憶はおそらく一致しない。何を言っているのかわからないとは思うが自分でもこの状況がわからないのだ」

 

 

 こんな気まずい夢なら早く覚めてくれと願うばかりであった。




投稿の仕方がわからず時間がかかってしまいました。修正できるところは順次していく予定です。見やすく読みやすい文章を書けるように心がけて執筆できるよう頑張ります。


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第1話

なるべくこまめに更新していきたいですね


 おそらくこの場にいる3人誰もが困惑していただろう。何せ自分の上司がいきなり記憶がないのだと言い出したら戸惑うに決まっている。無論私だってこの状況に頭が追いついてないのだ。勘弁してほしい。が、このまま黙っていても埒が明かないので私から話を切り出していく。

 

 

「言っておくが冗談ではない。君達の上司には悪いが、この体の主の名前はおろか君たちの名前すらわからないのだ。突然の事態に混乱しているとは思うが君たちの名前、そして今この体の主のこと、現在の状況を詳しく教えてはくれないか。頼む。」

 

 

 2人は顔を見合わせると、どうしたらいいのかわからないのか、あるいは私の言葉をまだ信用できてないのか黙り続けている。やがて意を決したのか、眼鏡の女性が私に語り掛けてきた。

 

 

「では改めて自己紹介をさせていただきます。軽巡洋艦、大淀です。この鎮守府では提督の秘書、補佐を務めております。」

 

 

大淀が会話の口火を切った事により彼女も多少は言いやすくはなったのだろう。続けて赤い袴姿の女性も続いてくれた。

 

 

「航空母艦、赤城です。空母機動部隊として艦載機を中心に戦闘を行っております。」

 

 

 先ほど言っていた『かんさいき』とはやはり戦闘機のことで間違いなかったのだろう。日本海軍にもそういえば赤城という空母があったような・・・名前も一致しているしなにか関係でもあるのだろうか?にしても大淀も名乗る前に軽巡洋艦といっていたな・・ここが海軍の基地だからそう名乗る決まりでもあるのかも知れない。

 

 

 「大淀と赤城だな。自己紹介ありがとう。そういえば私の自己紹介がまだだったな。私の名前は真船洋太郎という。よろしく頼む。」

 

 

 簡潔に自己紹介を終えた後、いくつか質問をするとにわかには信じられないような話ばかりだった。この世界では深海棲艦なるものが突然現れたという事。その不思議な力により当時圧倒的な軍事力を誇っていたアメリカ合衆国が戦いに敗れ世界の制海権を握られた事。そして程なくして自分たち艦娘なるものが現れ日夜世界の平和を守るために戦っているという事。あまりに話のスケールが大きすぎてついていけない。特撮映画にしようとしても1本じゃ収まりきれないぐらいだぞこの話は。ツッコミを自分の心の中で入れつつも、大淀に質問を投げかけ自分の中で整理していく。

 

 

 ここまでくると大淀はどこか確信が持てたようで、しかし恐る恐るこの話題を出してきた。

 

 

 「そして・・今現在提督が憑依?とでもいうのでしょうか・・?その体の主は佐賀山という名前で普段は提督と呼ばれています。」

 

 

 大淀とは対照的に赤城はいまだ困惑の表情がとれない様子だ。そんなに喋っていいのかと言わんばかりに大淀とこちらの顔を交互に伺いながら不安そうな顔をしている。赤城は意外と心配性なのだなと楽観的な考えにひたっていると大淀から続けられた話は聞くに堪えないものだった。

 

 

 この佐賀山なるものは艦娘がこの世に現れ始めてから艦娘を扱う特務部隊の責任者としてこの鎮守府に自ら着任願を出した。対深海棲艦として艦娘の力に期待した。ここで目覚ましい戦果をあげ、護国の英雄として名をあげえ本部に凱旋する算段だったのだが、実際は目立った戦果を挙げることができず、それどころか本部からは何故結果がでないのかと日々、誹謗の的になってたそうだ。その環境に段々耐えきれなくなった佐賀山のとった作戦は捨て身の作戦ともいえるべきものだった。艦娘にはいくつか区分分けがされているらしく、戦艦クラスから駆逐艦、潜水艦など作戦に合わせて様々おり、戦艦は火力がでるが動きが駆逐艦と比べてどうしても遅く被弾がしやすい。その分装甲が頑丈にできているのだが修理にそれなりの資材を使うらしく、(それでも現代兵器や艦艇に比べれば破格の安さで修理できるらしいのだが)被弾、修理を繰り返すと資材もバカにならない。そこで目を付けたのが駆逐艦だった。駆逐艦は戦艦と比べると安価で建造でき、なおかつ速度もでるので無茶がきくとのことで、建造したばかりの駆逐艦の艦娘を囮として前線に立たせることで、狙われている間に後方の高火力艦が敵を墜とすという漫画やゲームでしか実際にはみたことない作戦だった。ゲームなどでは囮として使っても心は痛まないが、この世界では実際に戦うのは艦娘である。ましてや非常に人間の姿に近い彼女たちだ。そして建造したてといえば新兵同然。初めての戦場に駆り出されてお前は囮だ。逃亡せず敵の前で攻撃をよけ続けろなど無茶な命令にもほどがある。そうして海に沈んでいく仲間を何人もみてきたと2人は涙ぐんだ声で語ってくれた。やはり特撮映画は1作では終わらなかったか・・しかも2作目は重い話ときた。どうしたもんかと悩みつつも、話はこれだけでは終わらない。

 

 この戦法は初めは一定の戦果を上げてはいたものの、相手側もこちらの作戦を学習したのかあるいは囮としてでてくる駆逐艦の動きになれたのか、簡単に沈められるようになり、思ったように戦果があがらなくなった。こうしてさらに本部につめられていくうちに限界が来たのだろう。本部にばれないように私利私欲に走るようになり、挙句には艦娘に手を出そうとしている所まできていたのだとか。確かにこれだけ見た目麗しい美女ばかりだとそっちに走ってしまうのもわからなくはない気がするが。決して羨ましいわけではない。私は節度はわきまえているつもりだ。なにせ大人だからな。

 

 大体状況を把握できたところで辛い状況の中、勇気をもって話してくれた2人に感謝の言葉をかけた。なるほど2人が最初に言い淀んでいたのもわかる。私が記憶をなくしたといった時、パワハラセクハラ上司がいきなり無理難題なことをまた言ってきたとおそらく思ったのだろう。機嫌を損ねるとどうなるかわからない。地雷原の中を無理やり歩かせるような行為に等しいことをさせてしまった。後で何かお詫びでもせねばなと思いつつ、改めて部屋を見回すと何やら部屋の本棚の近くにもぞもぞとなにか小さいものが動いている。目を凝らしてみると小人のような形をした人?がこちらをちらちらと覗いては隠れを繰り返していた。もう何があっても驚くまい。自分に言い聞かせながら私の視線に気づいた大淀が話しかけてきた。

 

 

 「提督?いかがされたのですか?」

 

 

 「大淀よ・・この世界には小人?妖精?みたいな物は存在するのか?」

 

 

 この言葉を聞いた2人はおそらく今日一番の反応を見せた。

 

 

 「提督は妖精がみえるのですか!!?」

 

 

 見えるも何もそこにいるのだから見えているのだ。あと私は提督じゃない。ただのサラリーマンだ。再び目が合った妖精とやらは本棚にシュッと隠れてしまった。シャイなのか?

 




人物の名前を考えるのが一番悩みました。


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第2話

デイリー更新を目標に。


 

 なんでも妖精という生き物?は艦娘とは切っても切れない関係らしい。艦娘が扱う装備の開発や整備、はてには建造も担っているときた。つまりこの妖精がいないと艦娘はまともに戦うことすらおろか、この世に生まれてくることすらないのだ。例外的な艦娘もいるらしいが滅多に表れないとのこと。艦娘達にはこの妖精は見えるのだが我々人間には存在が確認ができず、妖精が見えるという艦娘らの主張はにわかに信じがたいものだったのだろう。実際私だって見えていなかったら何を言ってるのだと痛い子を見るような目で見ていたに違いない。それほどオカルトな話だ。だが実際に見えているこの現実を受け止めなければならない。むしろ私も艦娘の仲間だったりする可能性があるのか?

 

 

 「人には見えぬ存在だと思っていましたがやはり例外もいるものなのですね・・赤城さんら航空母艦の艦載機のパイロットも妖精たちが務めているんですよ。」

 

 

 この小さいのが?しかし妖精とやらは万能すぎやしないか。戦闘、整備、開発なんでもござれときた。もうこいつらだけでいいのでは?と思っていると大淀に実際の艦娘達が戦っている記録映像を見せてもらった。何やら気味の悪い鯨のような形をしたものなどと艦娘が必死に戦っている姿をみるといかに自分が素人丸出しの考えだったのかがわかる。妖精達だけで戦えばいいと思っていた安易な考えは吹き飛んでしまった。現実はそう甘くはない。私にとっては夢の中の話かもしれぬがな。

 

 

 しかし佐賀山の代わりに私ができることなどあるのだろうか。自薦でこの鎮守府にきたという以上ある程度打算的な考えはあったのだろう。しかし曲がりなりにも佐賀山は海軍でしっかり勉学、そして深海棲艦が現れる前は艦に搭乗員として現場経験もあったはずだ。艦娘という特異な部隊を扱うのに慣れていないのはしょうがないとしてその道の経験を積んだ者が上手く運用できなかったのだ。素人の私にできることなどあるはずもない。戦果を上げることができず、追い詰められた結果がこの現状を生み出したのだ。おそらく私もそっち側の仲間入りする日も遠くないように思える。

 

 

 思い悩んでいると、いつの間にか複数の妖精が机の上の茶菓子の近くにきていた。この盗人どもめ。明らかに欲しそうな顔をしている。成敗してやろうと手を伸ばしたが先ほど大淀の言葉が脳裏をよぎる。この妖精なくして艦娘は戦う事はできない。つまりこの妖精達がいなければ何事も始めることができないのだ。ここはひとつ大目にみてやろうではないか。何せ大人だからな。私は。茶菓子と私の顔を交互にみてまるで許可がでるまで餌を食べることのできない犬のような感じがして思わず笑みがこぼれる。つんつんと袖を引っ張るようなつつくような弱い力を感じて袖の部分をみると他の妖精が茶菓子を指さしこちらを見上げている。ついに直接交渉してきたか。おねだりしてきた妖精を軽く撫でてあげ、食べていいぞと袋からとりだし目の前に差し出すと、満面の笑みで菓子を受け取り、妖精達の群れの中に走って行く。つんけんな態度をとるものばかりだと思っていたが、お菓子を自慢しながらそれをみんなに分け与えて仲良く食べる姿は愛らしいものだった。私だったら自慢しながら独り占めしていたかもしれない。清い心はどこか遠くに置いてきてしまったみたいだ。しかし一つだけだとすぐに完食してしまったらしく、食べ終わるとともに残念そうな顔をみなでしていた。当たり前だ。そんな人数で等分したらすぐになくなってしまうに決まっている。物欲しそうな目で御馳走を眺める姿に私の手はいつの間にか袋から菓子を取りだしていた。逆に私がツンデレではないかこれでは。1人ずつ頭を撫でて大事に食べるんだぞ。と声をかけつつ配っていく。丸々1つの菓子をもらえるとは思っていなかったのだろう。先ほどよりも歓声が大きくわーきゃーわーきゃーと喜んでいた。妖精達にも個性があるようで少し食べて残りを大事に持って帰ろうとするもの、一度に食いすぎて口が膨らんでいるもの、自分と違う種類のお菓子をもっているものと半分こしてトレードしているものなど様々だった。こうしてみるとなんだかペットを飼っている気分になるな。

 

 

 妖精の姿を微笑みながら観察していると鑑賞会の終演を知らせる声が聞こえてきた。正直もう少し見ていたかったと思っている自分が何故か悔しい。

 

 

 「提督。これからのことですが・・正直に申しますと、どうしたらよいのか皆目見当もつきません。このようなこと初めてですので・・」

 

 

 「そうだろうな。私にもわからない。海軍本部に私が中身が入れ替わりましたと言っても信じてはくれまい・・しかし私が本部に提督を辞めたいと申し出れば後任にマシな提督とやらがきてくれるのではないか?素人同然の私が指揮がとるよりも何倍もよかろうに」

 

 

 「それは困ります・・!もし今提督が辞めてしまったら後任の提督はおそらくですがこないでしょう。最近は目立った戦果も挙げられず、いたずらに資材を消費し挙句の果てには艦娘は深海棲艦のスパイなのではという陰謀論まであがっているとのこと。このままでは私たちの立場はなくなりいずれ・・・」

 

 

 終わりというわけか・・仮に私が戻れたとしても肩身の狭い思いをしながら生きないといけない。佐賀山が嫌な思いをするのであれば問題ないのだが嫌な思いをするのは私だ。赤の他人の尻ぬぐいをしなければならいのか。むむむ・・許さんぞ佐賀山め・・そしてこの鎮守府の提督に着任すると本部からのサンドバックになること間違いなしだ。誰も好き好んで着任するはずもない。結構つんでないかこれ?

 

 

 「わかった・・では当面の間は私が役職を全うしよう。だが当然なにもできないぞ。そこは了承してくれ。大淀、赤城、頼んだぞ。」

 

 

 「お任せください。この大淀、力の限り提督の補佐を務めさせていただく覚悟です。」

 

 

 「一航戦の誇りにかけて必ずや。」

 

 




未経験の仕事?にいきなり転職させられた真船の運命はいかに。


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第3話

誤字脱字や文脈がおかしいところがあればご指摘いただくと幸いです。


 まずは現状確認から始めるとしよう。大淀によると現在の戦況は敵側に制海権をとられ物資の海上輸送もままならない状態だという。海軍も精力的に戦闘、船団護衛をおこなってはいるがじり貧。戦うにしても割に合わなさすぎるみたいだ。そりゃそうだろう。相手は人型サイズの大きさの敵がわらわらと湧いてくる。しかも1匹、1人当たりの火力もバカにできず、サイズ的にも非常に小回りが利く。対してこちらは1隻あたりにかかる費用、搭乗員や弾薬、食料などを考えれば積極的に敵を倒しにいくことは難しいみたいだ。1隻沈めば何百の熟練の兵が失われることになる。船艇の建造費、修理費、そしてかかる時間を考えればどうやっても勝ち目はないように思える。諦めかけていたところにこちら側にも似たような存在、つまり艦娘が現れたとなれば皆の期待もさぞ大きかったことだろう。しかし実際はこちらも艦娘を囮につかう消耗戦でなんとか現状維持するのがやっとというところ。そうなると資源の問題的にやはり人間側が不利になっていく。人間側は戦果を焦りすぎたのか。だがこうなってしまった以上はこの結果を受け止め、そして改善しなければならない。幸い日本は艦娘の出現によりまだましな方だという。艦娘がいないそして海軍力に乏しい国はさらに酷いことになっているらしい。余力があるうちになんとかせねばな。

 

 

 「資材帳簿をみるかぎりではかなり資材には余裕があるではないか。この資材を使ってもっと色々なことができたのではないか?佐賀山は一体何をしていたのだ?」

 

 

 当然の疑問をぶつけていくと意外な答えが返ってきてた。じり貧な戦況を変えるためには戦艦クラスの火力がもっと必要だと考えた佐賀山は資材をため込み、大型建造を大量に行い大和型なる艦娘の建造を狙っていたとのこと。戦艦大和か。おそらく日本で1番有名な戦艦であろう。素人の私ですら聞いたことある名前だ。世界最大の主砲をつんで最後まで立派に戦ったと聞いている。その大和型を建造すれば戦いで勝てるのだと信じて資材をためこんでいたみたいだ。大和型さえいれば・・・とよくつぶやいていたそうだ。戦いに負けそうになると一発逆転を狙いたくなるのはやはりどの人間もそうなのだなと少しばかりの共感を覚える私もそのタイプなのだろう。しかしそのやり方ではだめだったみたいだ。考えを改めなければ。

 

 なんとか苦しい状況の中資材をため込み大量建造を行おうとした矢先、度重なる艦娘の特攻にも似た扱いや冷遇に嫌気がさしたのか妖精達が突然いなくなってしまった。佐賀山には妖精が見えないといっていたので少しずつ減っていった妖精達の存在に気が付くはずもない。妖精がいないと艦娘の建造はできない。そして完全にいなくなった時には大量に余った資材だけが残ってしまったというわけだ。同情したくなるような展開だな。

 

 

 「しかしこの余った資材は何か別の使い道はないのか?例えば・・・武器の製造とか。流石に建造だけに必要なものとは思えないのだが。」

 

 

 

 「実はその件で相談にあがったのです。先ほど申し上げたように我々航空母艦、空母は艦載機を使って索敵や戦闘を行います。佐賀山提督は大和型建造のために必要最低限の装備しか我々には与えてくれませんでした。しかしこのままでは海はおろか空まで敵に好き勝手されて戦えるものも戦えません。どうか艦載機の補充の許可をどうかお願いします。」

 

 

 赤城の必死な懇願を聞きながら考える。制空権か・・確かに空の戦いを有利に進めることでこちら側がとれる選択肢がぐっと増えそうな気もする。それに敵がどこにいるのかどれくらいの規模なのか位置はやく情報を握れば迎撃態勢もとりやすくなるというもの。これだけある資材なのだ。おそらく少しぐらい空母にまわしてもびくともしないはずだ。

 

 

 「わかった。艦載機の補充を許可する。失われた分といつでも出撃できるように予備の分までしっかり作っておくべきだと思うのだがどうだ?予備は過剰か?」

 

 

 「いえ!予備の分まで作っていただければ余った艦載機で妖精たちの操縦訓練にも使えますのでとてもありがたいです。いきなり新兵を戦いに出向かせるのは心苦しいので。本当にありがとうございます!」

 

 

 そうだったな。艦載機も妖精達が操縦するのだったな。妖精達がいなくなれば当然空母の出番もなくなる。目の前の仲間が次々と戦場にでていきそして帰ってこない日々を彼女たちは一体どういう気持ちで見送っていたのだろうか。しかしふと気が付く。

 

 

 「しかし艦載機を作るのも妖精たちの力が必要なのだろう?妖精たちはいなくなったと言っていたではないか。先ほどはしゃいでいた妖精たちだけで人手は足りるのか?」

 

 

 そうなのだ。まさに先ほどの説明で妖精が消えたと言っていた。作り手がいないのでは生み出せるものも生み出せない。どうすべきかと思っているとご心配なく。と頼もしい言葉が私に届く。まるで有能秘書のようだ。私は秘書がつく御身分ではないので実際秘書の人がこんなセリフを言ってくれるのかどうかはわからないが。ともかく頼もしい言葉だ。

 

 

 「おそらくですが先ほどの提督と妖精たちのやり取りで妖精たちも提督の中身が入れ替わったことは気づいているでしょう。妖精は本来、人には積極的には近づかないものですが真船提督には懐いていた様子でした。この短時間で妖精たちの間で情報が回っているはずです。現状が変わるかもしれないとわかれば妖精たちもじきに鎮守府に現れるはずです。それにほら。頭の上にも。」

 

 

 言われてみれば先ほどからほんのり頭が重い気がする。帽子を優しくとって見てみると先ほど菓子をあげた妖精の中の1人が帽子に這いつくばるような形で、だらーんとしている。〇れパンダみたいな恰好をしやがって。頭が重いのはコイツのせいだったのか。少しお仕置きをしてやろう。妖精を帽子から手のひらにすくいあげると痛くない程度の力でわしわしともみくちゃにしてやった。かまってもらってうれしいのか妖精はきゃっきゃと笑いながら目をつぶりながらもニコニコとしている。ふふふ・・これが罰なのだ。甘んじて受け入れるがよい。戯れていると扉の向こうからどこか急ぎ気味な足音が聞こえてきたかと思えばノック音が響く。

 

 

 「提督失礼する!火急な件により無許可での入室を許していただきたい!明石から工廠に妖精たちが出現した・・・と・。」

 

 

 長い黒髪の凛々しい顔立ちの女性が現れたことよりも妖精たちのアグレッシブさのほうに驚きを感じる。早すぎだろこいつら。

 

 

 




新たな艦娘の登場です。


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第4話

休日だと執筆も捗りますね。


突然の事態に明石も困惑していた。姿を眩ませていた妖精達が突然現れたかと思うと、うぉーと雄たけびをあげながら一心不乱に開発し始めた。提督からの命令は届いてはいない。にもかかわらず勝手に作り出す妖精達。このままでは私が勝手に資材を使い込んだ罰を受けるかもしれない。しかし一体なぜ・・・?恐怖心と突然再び現れた妖精達への疑問が思考を妨げる。理由はどうあれ妖精達が戻ってきてくれたことは素直に嬉しい。妖精達がいなくなった後は私1人で整備を行っていたのだ。そして大型建造のために節約され、限られた資材の中での修理は私の仕事への誇りを失わせるには十分だった。疲労、資材不足、提督からの圧。国を守るために生まれてきた自分は一体何のために戦っているのか。もういっそのこと解体してもらい楽になったほうがマシだとさえ思うようになってきたところへまさかの妖精復活。希望がみえた反面、やはり提督からの罰が脳裏をよぎる。まずは報告しなければ。そう思った矢先にたまたま通りかかったのが長門であった。渡りに船とはこのことだ。急いで長門を呼び止めた。

 

 

 「長門さん!大変です!大変なんです!妖精たちが急に・・!」

 

 

 「妖精だと?これは・・!?一体どうしたというのだ?妖精たちは姿を消していたはず・・?」

 

 

 「そうなんです!つい先ほど急に現れたと思えば艦載機の開発を始めちゃって・・提督からの命令は出ていないのにもかかわらずです!どうしたらよいのでしょうか?」

 

 

 妖精達はさらに勢いづいてるようでよっしゃーうぉーとヒートアップしている。妖精達は無許可でいきなり物を作ったりしたことは初めてだったのでどうしたらいいのかわからなかったのだろう。しかしせっかく戻ってきてくれた妖精達。下手すればまたいなくなってしまう可能性もあり、止めるわけにもいかない。ここは提督に指示を仰ぐ必要があるな。

 

 

 「わかった。この長門が報告に向かうとする。明石は現状を見守りつつ、妖精達の動きに変化があれば使いを出して追って報告してくれ。では行ってくる。」

 

 

 こうして急いでやってきた長門を出迎えたのは、妖精と戯れている提督とその反応を見守っている大淀と赤城の姿だった。赤城は心なしか嬉しそうな顔をしている。提督が妖精の存在を認識している?どういうことだ?しかしまずは報告が先だ。

 

 

 「提督。先ほど工廠にいる明石から報告があった。妖精たちが現れ艦載機らしき物を作り始めた。開発を止めさせるように言うべきだろうか?」

 

 

 「いや。それには及ばない。先ほど赤城から打診があってな。艦載機の補充と予備の開発許可をだしたのだ。おそらく陰に隠れていた妖精たちがそのことを聞きつけて先駆けて作り始めたのだろう。妖精たちに任せておけ。」

 

 

 「・・・了解した。ではそのように明石に伝えてくる。ところで提督。貴方はいつから妖精がみえるようになったのだ?」

 

 

 いきなり墓穴を掘ってしまった。そうだった。佐賀山は妖精が見えなかったのだ。それは艦娘達も知っているはず。それがいきなり妖精の存在を認識しおまけに妖精とじゃれあっている姿も見られている。ここは無理やりにでも嘘をつき押し切るべきか・・・?いや・・おそらくばれるであろう。そうなった時に色々とややこしくなる可能性がある。ばれるとしても混乱を避けるために必要最低限の人数には私のことを話さなければなるまい。それに執務室に入ってきたときの会話はかたい言葉遣いではあるものの、こちらに完全にへりくだったな感じではない様子をみるとこの者も、鎮守府の中ではまとめ役的な上の立場なのだろう。

 

 

 「長門さん提督はその・・・」

 

 

 大淀が何とか場をつなげようとしてくれるものの、とっさの状況のためか言葉が続かない。赤城もどうしたらよいのかと悩んでいる様子だった。

 

 

 「長門と言ったな。この際だ。お前にも聞いてもらいたい話がある。ただし私が許可するまではこの話は他言無用にしてもらう必要がある。それを約束できるのであればすべてを話そう。約束できるか?」

 

 

 「・・・わかった。この長門、許可が下りない限り秘密を厳守すると誓おう。ただし今まで妖精が見えていたのであれば秘匿していたことに対する納得のいく説明を求む。」

 

 

 少し考え込んだ後ゆっくりと言葉を選ぶように、そして感情を抑えるようにつぶやく。長門としては妖精が最初から見えていたのであれば他にとれる選択肢がもっとあったはず。仲間も失わずに戦えたかもしれないという気持ちがあるのだろう。気持ちをくんで丁寧な説明をしてやらねばならない。そして提督の中身がいれかわったということもな。信じてもらえるかどうかはわからないが。

 

 

 「明石?も妖精の姿を再確認したのだな。ついでだ。明石もここに呼んできてはくれないか。」

 

 

 「了解した。明石をここに連れてくるとする。少しだけ待っていてほしい。」

 

 

 長門が執務室を後にした後に2人に相談する。

 

 

 「提督。秘密をばらしてもいいのでしょうか?信じてもらえるかどうかもわかりません。長門さんは人一倍責任感が強く、仲間が沈んでいく状況を嘆いていました。下手な説明の仕方では怒りを買う可能性も否定できません。」

 

 

 「心配するな大淀よ。いずればれてしまうことだ。ある程度この状況を理解できる者がいたほうが艦隊の指揮もうまくいくはずだ。長門の話し方をみるに、感情的にならず理性で抑えることができていたように思えた。納得はしてもらえぬかもしれないが理解はしてもらえるはずさ。第一ここで内輪もめしたところで誰も得をしないのだ。私のためにも、艦娘のためにも、国のためにも。」

 

 

 ピリピリした空気を感じ取ったのか手元にいた妖精は不安そうな顔でこちらを見上げている。大丈夫だと声をかけて優しく撫でてあげると少し緊張が和らいだのか、そのまま私の腕をよじ登って胸ポケットにスポッと入りそこから顔をだして収まってしまった。カンガルーかなにかなのか私は。

 

 

 「大淀、赤城、さっきから立ったままではつらかろう。椅子を用意して各々座るようにしろ。あと長門と明石の分も用意してやれ。内容によっては今後の展開についてしっかりみなで話し合いたい。」

 

 

 自分たちにも椅子を用意してくれる。たったそれだけの事かもしれないが、前任者が前任者だっただけに何気ない優しさが心に染みる。真船提督ならもしや。心にともった希望が少しずつ大きくなっていくのが2人にはわかった。

 




矛盾がないようにできるだけ頑張ります。


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第5話

勢いそのままに投稿です。


 「提督。長門だ。明石を連れてきた。入室の許可をもらいたい。」

 

 

 コンコンと軽快なノック音の後に長門の声が聞こえる。入室を許可すると桃色の髪の色をした女性ともに入ってきた。

 

 

 「失礼します提督。工作艦明石。只今参りました。」

 

 

 そういうと長門ともにビシッと敬礼をしてきた。私も立ち上がり敬礼を返す。海軍の返礼の仕方はよくわからないが、とりあえずこの方法でいいだろう。・・・よく見るとコイツも大淀と同じようなスカートをはいているではないか・・スケベスカートとでも呼ぶべきか。非常にけしからん。私が返礼をしたことに驚いたのか大淀と長門は少しばかり驚いた表情をみせていた。そして自然と胸ポケットの例のヤツのところに目線が動いている。気になって仕方ないようだ。ここはあえて気が付かないふりをしてやろう。後々に話題にでるであろうからな。しかしそんな考えとは裏腹に長門は単刀直入にきりこんできた。もっと会話を楽しむべきだなこいつは。

 

 

 「提督よ。先ほどの私の言葉は覚えているだろう。妖精が見える件についてきっちりと説明を求む。」

 

 

 長門の言葉に明石は驚きを隠せない。提督には妖精がみえていたのか?ならばなぜ秘匿していたのか?疑問が浮かぶがその言葉を直接提督にぶつけるわけにはいかない。その件については長門さんが問いただしてくれるだろう。自分が呼び出された理由を考えるだけで手一杯だった。そして大淀と赤城さんがいるのだが違和感を感じる。そう。2人は座っているのだ。普段は執務以外では席を与えられずこういった時、私たちは立ったままだ。どうして座っているのか。しかし提督の様子をみると怒った様子もない。だとすれば提督の指示なのか。事の成り行きを見守っていくべきだと判断した。

 

 

 「長門、明石よく来てくれた。そして明石よ。先ほど長門には話したのだが今から君たち2人にも話を聞いてもらう必要があると判断しここに呼ばせてもらった。ただし条件がある。それは私が許可をするまでこの話を秘匿してもらうということだ。もちろん先に着席している2人にはこのことを了承してもらっている。長門にもだ。君にも聞いてもらいたいが、できないというのであれば執務室を去ってもらいたい。判断は君に任せる。」

 

 

 「・・いくつか質問をしてもよろしいでしょうか?」

 

 

 「かまわん。」

 

 

 「ありがとうございます。この話というのは妖精再出現と関係あるのでしょうか?」

 

 

 「もちろんだ。大いに関係がある。」

 

 

 「話を聞いた後に仮にこの話を漏らした場合はどうなるのでしょうか?」

 

 

 そこまでは考えていなかったな。私自身が秘密を守ってもらう前提で話をしていたことに気が付いた。勝手に物事を決めつけて話を進めていく癖は悪い癖だな。おかげで長門にもすぐにばれてしまった。この癖は直していく必要がある。特に私いはこの世界で身内とよべるものがいないのだ。佐賀山の家族や親族がいたとしても真船洋太郎としての親族は存在しないはず。敵はつくらないにこしたことはない。がしかしここは強気にでて事の重大さを匂わせるべきだ。

 

 「この秘匿情報がもれた場合はその原因をつくった者を解体処分とする。これは絶対だ。」

 

 

 「ありがとうございます。・・・・・この話を内密にとどめることを誓います。私も会議に参加させてください。」

 

 

 よくわからないが話を聞いてみるべきだ。ちらっと見てみると心なしか赤城さんと大淀の表情は明るい。そして提督の近くには何故か妖精がいる。なにか変化があったはずなのだ。それもいい方への。けれど期待して裏切られたらどうしようとう不安な気持ちは私からは完全には消えなかった。怖いのだ。でもここで踏み出せなければ変わらない。

 

 

 「わかった。では2人とも着席してくれ。大淀が用意してくれた飲み物は自由に飲んでいいので落ち着いて聞いてくれ。」

 

 

 提督の着席許可がおりると2人は席につく。どういうことだ?明らかに提督が私たちに気を使っているのがわかる。作戦や展開について具申をしても突っぱねてきた同じ人とは思えない。この前は陸奥とともに諫言を行った時は怒鳴り散らして癇癪をおこしていたのだ。それがこうも短期間でかわるものなのか?長門は思考を巡らしながらもせっかく与えてくれたのだ。ここは素直に好意を受け入れることにした。

 

 

「ここは単刀直入に話すべきだな。実はな。」

 

 

 私は自分におきた状況を説明した。ある日家で頭痛に襲われ眠ったらいつの間にかここにきたこと。大淀と赤城からこの世界、この鎮守府の現状のことを聞き自分でも未だに信じられていないこと。人間には妖精がみえないはずなのだが何故か私にはみえるということ。赤城からの要望により艦載機の開発を許可したら妖精がすぐに行動を起こしたので恐らく工廠に出現したのではないかということ。

 

 

 その話を終えた後の2人は何も話さずただただ茫然としていた。違う世界から来ただと?では佐賀山は一体どこに行ったというのだ?そして素人同然の者に中身が入れ替わったと思えば妖精が見え意思疎通ができる。信じられない。目の前の人間は佐賀山だ。間違いない。しかしよくみると顔つきが心なしか、どこか憑き物がおちたかのような顔をしている。最近の佐賀山は顔色も悪く、やつれたような顔をしていた。が、今目の前の彼はどこか不安そうだがこちらをしっかり見つめ、なおかつ大淀や赤城も会話に交え、真摯に説明してくれたことが伝わってきた。どういうことなのか。まさかおとぎ話のような展開が目の前であったとでもいうのか。

 

 

 長門が明らかに動揺しているのがわかる。にわかには信じられないのだろう。当たり前のことだ。無理もない。が、長門はこの鎮守府のリーダー的存在であり、明石は工廠と呼ばれる工場のようなものの責任者らしい。この2人の協力なくしては物事は上手く進まない。なんとか理解して協力してもらわなければ。どうやったら信じてもらえるか。そう悩んでいるといつのまにか胸ポケットから移動していた小さな怪獣がつんつんと私の肩から頬をつついてきた。長い話に飽きたのだろう。少しの間は無視したがあまりにしつこい。こっちは大事な話をしているのだ。それでもなお、つついてくるのを止めないことに腹を立て、妖精を捕まえ机の上におろしほっぺをぐにぐにぺしぺしと軽くたたいてやった。このっ。このっ。こっちは今大事な話をしていてお前にかまっている暇はないのだ。遊んでもらえてうれしいのか嬉しそうな顔をして妖精がはしゃぐ。ふふふ。可愛い奴め。

 

 

 「本当に見えていたのか・・・」

 

 

 やりとりを見ていた長門はつぶやく。どうやら話は嘘ではないようだ。

 

 

 



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第6話

改めて日本語の難しさを感じる今日この頃。国語って大事ですね。


 視線を感じてふと見渡すと長門と明石がこちらを見つめていた。大淀はお茶を飲みつつ資料を整理し赤城に至っては妖精達と淡々と食べている。いつのまにか妖精が戻ってきていたみたいだ。私は恥ずかしくなり、ちっぽけな威厳を取り戻そうと咳払いをし気持ちを落ち着かせる。私は今提督なのだ。この鎮守府の長としてしっかりせねばな。しかし過ぎてしまったことはもう遅い。

 

 

 「提督の中身が入れ替わったという事、にわかに信じられないが妖精に触れ、認識しているうえに大淀と赤城の表情をみると嘘ではないように思える。一つ約束してほしいことがあるのだ提督よ。私たち艦娘は国を守るために生まれてきたのだ。勿論戦いに犠牲はつきものだ。提督という立場である以上非情な命令を出さねばならぬ事もこれからあるやもしれぬ。だが決して無駄死にさせるようなことはしないでほしいのだ。何かを守るために力尽きたとしたならば我々は本望だ。せめて散り際だけは誇りを胸に沈みたい。この長門の後生だ。頼む。」

 

 

 「その点においては問題ないぞ長門よ。君たち艦娘の戦闘映像を見させてもらったが国を護りたいという気持ちに嘘偽りは感じなかった。そして今君の発した言葉にもだ。君たちがただの兵器だというならば使い捨て戦略も候補にあがったかもしれないが違うだろう?君たちには感情がある。そして人と同じように考え、理解し、自分たちの意思を伝え学習することができるのだ。厳密には人とは違うのかもしれないが関係ない。今は私の部下なのだ。必死に戦う部下を見殺しにするほど私は鬼畜ではないつもりだ。それにさっき言った通り君たちは学習することが出来る。つまり戦闘や訓練を重ね、精鋭と育て上げることでこの艦娘を使い捨てる戦略の打破を考えている。私は貧乏性でな。使えるものは大事に取っておくきらいがあるのだ。なにより見た目麗しい美女たちを苦しめるのは私の趣味ではないのでな。」

 

 

 「ふふっ美女・・・か。賛辞としてありがたく受け取っておこう。これからよろしく頼む。艦隊の指揮や運用などについてはこの長門に任せてくれ。今は苦しい状況かもしれないが必ずや提督を勝利に導くと約束する。」

 

 

 頼もしい言葉だ。長門にはわかってもらえたようだ。長門と明石がくるまでの間に赤城と大淀にこの方針で行く予定と相談したところ、喜んで賛同してくれた。数の戦いで劣っているのであれば、一人ひとりの練度をあげていくしかない。そしてこちらも少しずつ数をふやしていくしかないのだ。勿論戦況が戦況なだけに悠長なことは言ってられないが深海棲艦も急な戦線拡大に兵站がおいついていないはずだ。日本近海のみと考えれば海軍の船艇で哨戒、防衛で時間は稼げるはず。後は稼げた時間でどれだけ艦娘達の練度があがるか、国内の物資がもつかにかかっている。問題は山積みだ。

 

 

 「私は・・私も提督のお役に立てるのであれば一緒に戦いたいと思います!私は工作艦という艦種である以上前線でお役にたてることはありませんが・・・それでも。」

 

 

 「何をいうのだ明石よ。後方支援も大事な役割だ。整備や補給をおろそかにすると前線で戦うものは存分に力をふるうことはできない。ゆえに艦種別に軽視するということはしないつもりだ。その力を私にために、そして仲間や国のために貸してはくれないか。」

 

 

 ねぎらいにも似た言葉が心にすっと入り込んでいく。私はきっとこの言葉がほしかったのかもしれない。前の提督は装備を開発するのが当たり前、妖精達が減っていき手が回らないようになってもノルマは変わらず。遅れれば叱責を受ける日々。心が折れかけたところにこの優しさを受けてしまってはどうしようもない。私がこの提督についていくと決めるのに十分な言葉だった。

 

 

 「ついでといっては失礼かもしれませんが・・・私からもお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」

 

 

 明石からも要望があるみたいだ。この際なんでも受けつけて改善できるものは改善していくべきだ。なるべく要望には応えてあげたいところ。

 

 

 「現在工廠は必要最低限の設備しか整っておりません。妖精たちが戻ってきた今の規模だと装備の開発や修理、そして建造のことを考えると手狭になります。これから提督は我々に配慮してくださるとおっしゃっておりました。宜しければ工廠の拡張の許可をお願いできないでしょうか。」

 

 

 「大淀、この鎮守府にある資材で工廠の拡張は可能か?できれば明石の要望は叶えるべきだと私は思っている。まずは装備、環境を整えていきたい。」

 

 

 「はい。問題ありません。十分な資材を残しつつ、拡大することは可能です。工廠が大きくなるのであればそれだけ人手が必要となるはずです。妖精たちだけではなく夕張にも工廠の補佐として働いてもらうのはどうでしょうか?」

 

 

 ゆうばり?なんだそいつは?そいつも艦娘なのか。私はその夕張とやらの存在は知らないがまぁいいだろう。設備だけひろげてそれを人手不足で満足に動かせないのであれば意味がないからな。

 

 

 「わかった。その夕張とやらにも補佐命令を出しておこう。明石よ、夕張に急になぜ拡張できたのかなどと聞かれてもそれとなく濁しておけ。いずれ夕張にもこのいきさつを話す機会もあろう。それまでは情報の秘匿を頼むぞ。」

 

 

 「はっ!工廠拡張の許可、ありがとうございます!早速行動に移したいと思いますので下がってもよろしいでしょうか?」

 

 

 「かまわん。しっかり頼むぞ。くれぐれも働きすぎて体を壊さないようにな。」

 

 

 「ご配慮ありがとうございます!それでは失礼します。」

 

 

 そういって部屋から出ていったかと思うと、小走りで遠のいていく足音が聞こえなくなっていった。どんだけうれしかったんだあいつ。しかし私の中身が変わったことは相手をみて徐々に認知してもらう必要がある。

 

鎮守府の中には私を恨んでいるものもいるだろう。もし恨んでいる艦娘にこの情報が伝われば私を追い出す口実として本部に密告するやもしれぬ。政治闘争に知らずに巻き込んでしまうことは避けてあげたい。そうなってしまった場合、待ち受けているのはこの鎮守府の解体、そして私の尋問は避けられないだろう。末端の艦娘は国のために戦っている自分たちが処分の対象になってる可能性があるのだと知りもしないはずなのだから。そう頭を悩ませながら一息つこうとコップに手を伸ばす。少しぬるくなったコーヒーが飲みやすい。茶菓子に手を伸ばそうとすると私の前の籠から菓子がなくなっていることに気が付く。見渡すと赤城の前の籠には空になった大量な袋が綺麗に折りたたまれていた。

 

 

 「あの・・・提督・・その・・お菓子のおかわりをいいでしょうか?」

 

 

 思わず失笑してしまった。

 




少しずつ艦娘たちが自分の色をだせるようになればいいかなと。


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第7話

原稿を間違えて消してしまい、11月1日の投稿に間に合いませんでした。急いで書いたので誤字脱字があるかもしれません。後日訂正したいと思います。


 赤城に追加のお菓子を渡すとおいしそうに食べていた。大淀と鎮守府内をどう回るか話し合いながら準備をする。長門にお前はどうすると声をかけようとすると赤城のお菓子を羨ましそうに眺めている。お前も欲しいのか。

 

 

 「長門よ。お前もおかわりが欲しいのか?欲しければやるぞ。遠慮するな。」

 

 

 「いや・・・その・・別に欲しいわけでは・・」

 

 

 コイツ嘘つくのが下手だな。遠慮するなと菓子を渡すと恥ずかしそうに感謝する。と受け取り食べていた。凛々しい見た目とは裏腹に可愛いところがあるじゃないか。今度甘味でも奢ってやろう。そのためには厨房を改善しなければ。そうなると厨房から視察をしていったほうがよさそうだ。まずは厨房に向かうと伝えるとお供します。と大淀が後に続く。一度やってみたかったんだよこのシチュエーション。秘書とともに廊下を歩く姿はまるでドラマのワンシーンのようだ。

 

 食堂につくまでは誰にも会うことはなかった。ひどく活気がない建物だ。そうつぶやくと状況が状況ですから。と大淀が返す。この状況を変えるためには根本的なところから変える必要がある。

 

 

「間宮さんいらっしゃいますか?」

 

 

 大淀が間宮と呼ばれる女性を呼ぶと奥の方からはーいっと返事が聞こえる。声の主がくる前に厨房をのぞいていると、1人の割烹着らしきものを着た女性がいた。こちらの存在に気が付き、慌てて出てくる。

 

 

 「気づくのが遅れて申し訳ありません。なにか厨房に気になることでもあるのでしょうか?」

 

 

 そう言って出てきたのは例にもれず美しい容姿の女性だった。これが食堂のおばちゃんだというのか?レベルが高すぎる。むしろお姉さんではないか。心を落ち着かせながら特に用事はない、かまわず仕事を続けてくれというと困惑した様子で厨房に戻っていく。しかし戻ったとしても仕事がないのだろう。明らかに暇そうな様子だったしな。かといって私の前でぶらぶらとするわけにもいかないのでどうすればいいのか困っている。一通り厨房の確認を終えると間宮に再び声をかける。

 

 

 「間宮よ。仕事がないのであれば今から執務室にくるように。」

 

 

 そういうと間宮は青ざめた様子ではい・・っと力ない返事をした。なんか私が悪いやつみたいになっているではないか。全く心外だ。だが間宮本人にとっては死刑宣告にも等しい言葉だったのだろう。明らかに委縮し、泣きそうな顔をしている。事前に大淀と話し合った結果、間宮も私におきた出来事を話すことに決めた。食事、工廠、主力艦、この3点にはこちらの意図を理解しもらい、戦闘にでる艦娘をサポートしてもらう必要がある。大淀に間宮を落ち着かせるように言いながら私は先に戻ると伝え足早に戻る。戻る途中で数人の艦娘と出会った。彼女達は私を見つけるといなや、きれいな敬礼をしてきた。だがその目は恐れを抱き、じっとしている。まるで嵐が去っていくのを待つかのように。早くこの状況を変えねばならぬ。だが焦ってはいけない。確実に少しずつ事をなすべきだ。艦娘に手をあげてご苦労。と声をかけ通り過ぎ私は執務室に戻った。今後の戦闘方針について赤城と長門は話しあっていたようだ。

 

 

 「失礼します。間宮さんをお連れしました。」

 

 

 失礼します。と大淀に続いてやってきた間宮。大淀と話して少し落ち着いたのだろう。ある程度は固さはとれているがまだ不安げな様子だ。しかし長門と赤城がいるこの状況を推測するになにか罰を与えられるのではないのだろうと察したみたいだ。間宮を椅子に座らせ皆と同じように脅しをかける。秘密を厳守できるか。できないのであれば解体だと。間宮はうなずくことしかできなかった。恐ろしいことを言われている気がするのになぜこうも皆は落ち着いているのか不思議でならなかった。がその考えは提督からの話でどこかに吹き飛んでしまった。

 

 

 説明をひとしきり終えると間宮は考えこんでいた。実際に妖精を認識し触っているのであれば嘘ではないのかもしれない。仮に嘘だったとしても今要望をだせば願いは通るのではないか。そう思った間宮は提督に向かって声を発した。震えていた体はいつの間にか止まっていた。

 

 

「ではわたしからもお願いがあります。厨房の拡張及び新設備の導入、そして艦娘への食事提供の許可をお願いします。毎日希望を見いだせない顔をしているみんなを見送るのはもう嫌なんです。私は給糧艦という立場上戦う事はできません。私にできるのは食事をつくり、みんなを励ますことぐらいしかできないのです。今の食事はレーションのみです。これでは存分に腕を振るうことができません。私も皆のお役に立ちたいのです!」 

 

 

 「その件についてはすべて許可をする。元々間宮の了承がとれれば拡張する予定だったのだ。美味しい食事は人生の楽しみの一つだ。それは艦娘だっておなじだろう。すでにここに2人もいるのだからな。食事だけでなく、甘味も作ってもらっても構わない。美味しい食事。甘味のために戦い、帰ってくるというささやかな願いでもいいのだ。君たちには希望を持ってもらいたい。」

 

 

 食い気がある2人をからかう。2人は恥ずかしがっていたがすぐにある言葉に反応して目を輝かせていた。1人は食事というワード、もう1人は甘味だ。非常にわかりやすい。間宮にありがとうございますと感謝される。業者に食材等の発注をかけるように大淀と話し合って決めてくれと誘導すると早速要望を伝えている。あとは『住』だな。寮のほうもなかなか悲惨と言っていた。この目で確認し改善していかなければならない。

 

 

『甘味か・・・胸が熱いな・・・』

 

 

 そんなに楽しみなのかお前は。




雪風改二楽しみですね。うなぎフェスに参加された方はお疲れ様でした。


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第8話

誤字報告システムというものがあることにたった今気が付きました。ご報告していただいた方に感謝です。


 残る主だった視察するべき施設は艦娘の寮と工廠となった。全ての部屋を視察するわけではないが、うら若き乙女達が住んでいる部屋を視察するのだ。流石に準備をする時間を与えるべきだろう。隠したい秘密も一つや二つあるはずだ。尤も、この環境で隠すほどの物があるとは思えないが。長門と赤城に寮に向かい皆に私が視察にくるので準備をするように伝えろと命令をだすと、2人とも綺麗な敬礼をすると足早に向かっていった。では今のうちに工廠の様子をみてみるとするか。大淀を供に連れて私も歩き出す。

 

 

 カーンッ、カーンッ!とけたたましい音が近づく。工廠につくと聞いてたよりも綺麗で広い空間だ。何に使うのか分からない重機まである。この設備では足りないというのか?一体明石の奴はこれ以上何を求めているのか?巨大兵器でも作ろうというのか・・・疑問に思いながらバチバチと火花を散らして作業を行っている明石を呼び止める。

 

 

 「思った以上によい設備じゃないか。この設備でも装備の開発はできないのか?」

 

 

 「提督!お疲れ様です!実は私が戻った時にはすでにこの状態になっていて、驚いているんです!執務室に呼び出される前はこんな重機もなかったし工廠自体も狭くて汚れていたのですがいつのまにか新しい状態になっていました。明らかにグレードアップしています!」

 

 

 どういうことだ?こんな短時間で設備環境を変えることなど普通ではどうやっても不可能だ。妖精の仕業か?・・・と思ったが実際にこの世界では妖精がいることを思い出した。まさかこいつらが?明石の後をトコトコとついてきた彼らを見る。私を見上げてピシッと敬礼をした後はひそひそと話し合っている。あいつが例の・・みたいな感じで会話しているのかもしれない。ここの妖精達はヘルメットらしきものや火花対策のゴーグルなどの防具やハンマーやレンチを身に着けていた。部屋に現れていた妖精とはまた違った雰囲気だ。妖精達に向かって感謝の言葉をかけ、後で選別の菓子をもってこさせようと言った途端にやったやったと歓声があがっていた。どうやらお菓子が好きなのは共通のようだ。

 

 

 「ではもう装備の開発に移っているのだな?となれば今作っているのは赤城が言っていた艦載機なのか」

 

 

 戦闘機らしきものがすでに何機か完成しており、私は近づいて見てみる。サイズこそ小さいがその作りはしっかりしていて、何分の1スケールという言葉がしっくりくる。戦闘機がそのまま小さくなっただけだ。これにパイロット妖精が乗り込んで戦うと考えればちょうどいい大きさなのかもしれない。

 

 

 「艦載機の他にも駆逐艦や軽巡洋艦が使う一式装備の開発を頼む。」

 

 

 「了解しました!妖精達はやる気に満ち溢れていてとても作業が早いです。私も負けてられません!」

 

 

 ガッテンポーズをする明石に頼りにしてるぞ。と返事をし、しっかり休憩をはさんで作業をするように指示をだすと工廠を後にした。工廠を去ろうとする時に妖精達がきゃいきゃいと大きな声で見送ってくれた。真の目的は見送りではなくお菓子をちゃんと約束通りもってくるのだぞという念押しだろうな。その様子をみていた明石と大淀も互いに困ったような顔をしながら互いに手を振って別れていた。しかしその顔は決して嫌な顔ではなかったように思える。少なくとも私にはそう見えた。

 

 

 「期待に応えなければなりませんね。」

 

 

 期待されているのは戦果ではなく甘味だな少なくとも今の感じでは。フフっと大淀が笑いながらも次に向かいましょうと寮に案内をしてくれた。

 

 

 長門が寮の部屋の前で出迎えてくれた。気を利かせて艦娘に部屋で待機するように指示してくれていたそうだ。非常に助かる気づかいだ。これで視察に集中できる。ここが私たち艦娘が暮らす部屋です。と紹介された部屋は殺風景。まさにその言葉しかでてこない。今は誰も割り当てられていない空室の部屋に入ってみると小さなタンスに壁にハンガーがあるだけだ。何より布団がない。たまたま見た部屋が和室でこのような感じなのかと大淀に尋ねると洋室、和室の2種類があるようで基本的には和室とのこと。そして備品はタンスと少しのハンガーのみだという。となると畳に雑魚寝しているのか?流石にあんまりではないか?食事もまずい、命を落としかねない無茶な命令、そして温かく寝ることができないこの環境。よく反乱起こされなかったな。

 

 寝具の発注をしておいてくれ。と大淀に指示を出す。あとはエアコンもほしいところだがこれはどうなのだろうか?もし作れるのであればお願いしたいところだ。悩んでいるとつんつんと頬をつつかれた。ちょうどいいところに現れてくれた。肩に手のひらを広げるとわずかな重みを感じ、目の前に持ってくる。執務室に現れた妖精だ。エアコンお願いできるか?ときくと胸をトンっと叩きフンスっと鼻息を荒くしていた。頼もしいやつだ。これについては資材の応用でできるみたいなのですぐに導入できるみたいだ。布団は流石に作れないようだ。鉄から羽毛は作れまい。後は艦娘を食堂に集めてご飯を食べてもらっている間にエアコンの工事を頼むとしよう。大淀も長門もエアコンが部屋で使えるようになると喜んでいる。その分しっかり働いてもらうぞ。とくぎを刺すと勿論だ。と力強い返事が返ってくる。よしよし。いい方向に話が進んでいる。ごはんについては今日は材料の納入が間に合わないのでレーションで我慢してもらうが明日のお昼にはご飯をたべれるようになるはずだ。明日の朝から間宮は忙しくなるだろう。頑張ってもらわねば。何より私もおいしいご飯を食べたい。毎日レーションなんてごめんだ。

 

 

 寮がこんな感じであるのであれば風呂ももしやと思い大淀に尋ねると案の定こんな感じに廃れているらしい。思わず頭を抱えてしまいながらも、案内してくれと声をかける。長門はこの場に残り艦娘にエアコン設置と布団の支給の件を伝えるように指示をだし別れた。風呂はあまり使っていないのか、それとも掃除をしていないのか汚い印象をうける。佐賀山は部屋のシャワーで済ませていたのだな。流石にここに入りにくる勇気は私にはない。

 

 

 「艦娘は艤装を外した後に特別な効能のある風呂に入ることによって傷を癒します。故にここをおろそかにしては損傷の修理が行えないのです。」

 

 

 何っ!?何故それを先に言わなかったのだ!艤装を修理すれば戦えるようになるのではないのか・・・?大淀いわく、艦娘は体が丈夫にできてはいるが、自然治癒することはないのだという。ではどうやって今まで損傷した分はどうやって直してきたのだ?と思ったが奴がいるのを忘れていた。明石は工作艦と自分で言っていた。ある程度の修理はできるのだろう。艤装をつけたまま修理をすれば艦娘本体の怪我も回復するのだという。が致命傷となると修理はもうできない。つまりそういうことだ。この風呂が復活すれば艦娘が致命傷を負って帰投したとしても艤装と艦娘に分離し、明石は艤装を、艦娘は風呂で入渠という形をとればいいわけだ。この特別な効能というのは妖精おらずして成り立たないらしい。いかに妖精が重要な存在かがわかる。

 

 

 「ここはエアコンよりも最優先で補修を行うべきだ。妖精たちには苦労をかけるがここも何とかお願いできないだろうか?」

 

 

 胸ポケットにいつのまにか収まっていた妖精から任せてっと心強い返事が返ってくる。どうやら間宮特製甘味第一号の試食者は私でも艦娘でもないらしい。

 

 




予想よりも多くの方にこの小説を読んでくださっているのに驚きを隠せません。朝の通勤時間の合間や、夜寝る前にお休みのお供といて見ていただければいいなと思っております。できるだけ更新できるように頑張っていきます。


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第9話

お待たせしました。


 一通りの視察を終え、執務室に戻ってくる。鎮守府の大規模改装を行ってからが本当の勝負だ。装備を整えさせた艦娘達の訓練、飛行隊の戦力回復を図り深海棲艦どもを叩ける力を蓄えなければ。この改装により資材の半分は消費してしまうがそれでも十分に手元に残すことができる。作るばかりではなく装備の補修や弾薬補充にも資材は使うので無駄遣いはできない。考えなしに使っていくとあっという間だ。細かい計算は大淀がやってくれるので非常に助かる。というより私には恐らくできないだろう。しかし大淀ばかりにこういったことをやらせると負担は当然大きくなる。秘書の補佐をしてくれる艦娘がもう少しいればよいのだが。人員を増やそうか。と声をかけると私1人で十分ですよ。と書類に目を通しながら電卓をパチパチと弾いていた。

 

 

 「待て待て。確かにお前の処理能力を見たところかなり優秀だというのはわかる。しかし1人で全てをやるとなると、休む日がなくなるではないか。非番の日ぐらいつくらないと休まるものも休まらない。ここは人数を増やし私や大淀がいない時でも回せるシステムをつくっていくぞ。」

 

 

 大淀は書類から顔をあげ眼をパチパチとさせ、少し驚いたような顔をしていた。なんだその盲点でした。みたいな感じは。

 

 

 「私たち艦娘は人間よりも丈夫にできているのでその点については心配ないですよ。それにお休みをもらっても何をすればいいのかわからないので。」

 

 

 社畜魂全開のセリフを聞いてしまった。美人な上に優秀。そしてこの発言である。世の中のブラック企業の社長達が喜んでスカウトにくるだろう。しかしこの鎮守府の総括は私に変わったのだ。艦娘達の運用指揮官として、ある程度の権限は任されているとの事なので出来るだけ環境改善をしていかなければ。何より艦娘と同じペースで働くと私の体がもたない。私のためにもやらねばならぬ。休みの日ぐらいゆっくりしたいのだ。

 

 

 「君たち艦娘にだって趣味とかあるはずだろう。それこそ甘味を食べてゆっくりするとか酒を飲んでぱーっとするとか。」

 

 

 「佐賀山提督の時は休みなどなかったので。それに私たちは物を自由に買えるお金など渡されもしなかったので休みを頂いても本当にやることがないのです。もちろん外出することなどもできませんでした。なので気を紛らわせるために働くといった感じです。」

 

 

 ・・・外出禁止はまだなんとなくわかる。外出禁止であれば売店みたいなところがあり、そこで嗜好品や娯楽品を買うという方法をとればいいと思ったのだが視察してまわった時にはそのようなものはなかった。もしや存在しないのだろうか?となると帳簿にのっているこの艦娘の給料はどこに消えたのだ?だいたい察しはつくが。

 

 

 「そんなことはないぞ大淀。これからは甘味処もできるようになったではないか。それにこの鎮守府施設内に売店を設けよう。君たち艦娘にも給料がでているではないか。安全のために複数人数で行動するなど条件付きではあるが、いずれ外出もできるようにしよう。細かい規約も決めていかないといけないがな。」

 

 

 「給料・・ですか。それに売店。酒保のことですね。目立った戦果を上げていない私たち艦娘が頂いてもよろしいのですか?それに外出許可もいただけるなんて。」

 

 

 「何と言おうと本部からは君たちには給料が出ている。それを受け取るのは当たり前だ。だが発言を聞くに手元には届いていないみたいだな。この金はどこに消えたか知っているかな?」

 

 

 おそらく提督の部屋のどこかかもしれません。と言っていた。艦娘達の給料だが現金手渡しらしい。このご時世には珍しいな。だが佐賀山のとっていた戦闘方法では多くの艦娘が沈んでいく。いちいち囮のための艦娘に銀行口座など個別で用意していてはキリがないと判断したのだろう。おまけに艦娘には家族がいない。姉妹艦なるものはいるがそれは決して人間のような家族ではない。戦争で殉職した物の家族には多少のお金がはいるが、家族がいない艦娘が殉職したところで払う相手がいなければ払わなくてもいい。その影響もあるのか、囮作戦に踏み切ったというのもあるだろう。そしてその浮いたお金をため込んでいたというわけか。今日部屋に戻ったら探す必要があるな。しかし次から次に問題が出てくる。普段ならありえないと思うようなことも戦争という非常事態な環境が冷静な判断を奪っていくのだろうか。私もいずれ佐賀山のように狂気に飲まれていくのか。だがせめてこの艦娘達の上司として環境を整えてあげたい。できるうちにできるだけ。

 

 

 「そろそろ日も暮れ腹も減ってきた。今日のところはここまでにしよう。その前に明日のことについて打ち合わせをしとかなければならないな。大淀、長門と赤城を呼んできてくれ。」

 

 

 大淀に頼むと間もなく長門と赤城を連れて戻ってきた。綺麗な敬礼をしてくると、楽にしてくれと返し座らせる。思ったより帰ってくるのが早かったな。もう少し考える時間が欲しかったがまぁいい。

 

 

 「3人とも聞いてくれ。私が君たちと出会った時のことを覚えているか?私は元のいた世界で寝て起きたらここにいた。いまだに一種の夢の可能性もあると思っているのだ。問題は私が今晩寝て明日起きた時だ。どこかに消えた佐賀山の意識がこの体に戻ってくる可能性も否定はきでない。そうなった時にどうするかということだ。」

 

 

 3人の顔が青ざめていく。まさか、そんな、など口々にしている。希望の光が見えてきたときに再び前の環境に戻るかもしれないと言われればそうなるのは当たり前だ。

 

 

 「ゆえに明日3人で執務室にきてくれ。合言葉をきめよう。その時の反応でどうなったかわかるようにしておこう。もし私真船ではなかった場合は申し訳ないがどうしようもない。だが私がこの世界にとどまっていた場合は力を貸してくれ。合言葉は―――――」

 

 

 3人には脅すような言葉を言ってしまい申し訳なくなる。が私の意識が元の世界に戻ってしまう可能性も0ではないのだ。それを念頭に置いてもらわなければならない。にしても疲れた。今日は部屋に戻って早めに寝よう。せっかくだからレーションを食べてみるとするか。滅多にない経験だ。解散し部屋に戻ると室内に併設されているシャワーを浴びて部屋の捜索をする。思いのほかお金はあっさり見つかった。まぁいきなり大量の金が口座に振り込まれたら調査対象にもなるかもしれないからな。タンス預金するしかなかったのだろう。この金も上手く使っていかねばならないな。酒保や甘味処が完成したら配ってやろう。私は他人が使っていた布団に少し抵抗を感じながらも眠りについた。

 

 

 

 

 起床ラッパが鎮守府内に響く。それぞれ身支度を終えた長門、赤城、大淀は緊張した様子で執務室の前に集まる。昨日はよく眠れなかったのだろう。少しだけ疲れているような顔を互いに指摘しあいながら小声で話す。

 

 

 「もし提督が・・・真船提督がいなくなっていたらどうすればいいのでしょう。」

 

 

 「私は信じている。提督は約束してくれたではないか。信じてこの扉をあけるしかないのだ。私が先陣をきる。任せろ。」

 

 

 「そうですね。あの方を信じましょう。きっとあの人ならば。」

 

 

 提督、長門だ失礼するとノック音の後に3人が入ってくる。入室許可を求めずに入ったことに入った後に気が付き自分でも知らず知らずに緊張していることが分かった。自覚したことよりさらに鼓動が高まっていく。落ち着くのだ長門よ!そう自分に言い聞かせ声をかける。

 

 

 「本日の哨戒任務及び作戦の指示を。」

 

 

 腕を机の上で組み考え込んでいる。そして立ち上がりゆっくりと口を開いた。この時提督からもたらされた言葉に私達3人の顔はきっと歓喜に満ち溢れていただろう。

 

 

 「真船洋太郎が提督として○○鎮守府に着任する。これより艦隊の指揮に入る。」

 

 

 




提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮に入ります。


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第10話

2連投です。


 どうやら夢から覚めることはなかったみたいだ。昨日食べたレーションの味を思い出しつつ業者には一刻も早く来てもらって食材を届けてもらわなければならない。あれを毎日食べるのはごめんだ。長門達の嬉しそうな顔につられて私も笑みをこぼす。佐賀山よりかはまだ私の方がましだろう。その点については自負がある。管理面については大淀を中心に軍事では長門を中心に頼って行こう。私が無知の素人であることをいいことに、艦娘達にいいように扱われる可能性もあるだろう。しかし彼女達が私を信じてついてくると言ってくれるのであれば、私もその期待に出来るだけ応えよう。ここにいる3人にレーションについてあれは食えたもんじゃないなと笑いながら問いかけると3人ともうなずいていた。特に赤城はうんうんと食い気味に首を縦に振っていた。今日の昼までは我慢だぞ赤城。

 

 

 

 

 「明石!!提督は昨日のままの提督だった!」

 

 

 提督から明石にこのことを一応報告してこいと言われ工廠に向かった。嬉しさのあまり柄にもなく走って来たため少しだけ息が上がってしまう。なんだかんだ言って私も浮かれているのを自覚し冷静になろうと咳払いをする。そんな私とは裏腹に明石はやったぁ!!と素直に喜んでいた。こういう素直なところは見習いたいものだ。明石と同室の部屋で普段を過ごす私は寝る前に昨日の夜のいきさつを話していたのだ。その時の明石の反応は私達と一緒だった。不安も大きかったのだろう。昨日の装備開発の続きを行っている妖精達も報告を聞いた途端手を止め、一緒にばんざーいっと大きな声で喜んで三唱していた。

 

 

 「これで大淀も気がだいぶ楽になるねぇ!しかもお昼からレーションじゃなくてちゃんとしたご飯がでるようになるんでしょ?もうこれだけで幸せだよぉ~。」

 

 

 心底嬉しそうな喜びの声にわたしもうんうんとうなずく。これから。これからなのだ。しっかり提督を支えていくのだと高鳴る気持ちを確認する2人なのであった。

 

 

 

 

 「間宮さん!今日のお昼ご飯よろしくお願いしますね!!」

 

 

 一方食堂では厨房に向かって赤城のご機嫌な声が間宮に届けられていた。赤城から昨日のいきさつをきいた間宮は不安な様子だったが今目の前にいるご機嫌な顔をみるにうまくいったのだろう。つられて笑顔になって任させてくださいね!と力強い返事を返す。いつの間にやら改修されて広くなっているキッチン。そして提督の続投。こんなにいいことが続いてよいのだろうかと思わず頬をつねってみる。間宮さんどうしたんですか?と伊良湖からの問いかけに何でもないのよ今日から忙しくなるから頑張りましょうね。と声をかけ早朝から届いた食材に目を通した。設備が新しくなって驚いて質問してくる伊良湖を上手くいなしつつ、これからきっとこの鎮守府は少しずつ変わっていくと優しく返しながら食事の準備に取り掛かった。

 

 

 「提督よ。実は少し不安だったのだ。提督がもしかしたらどこかにいってしまうのではないかと。昨日は恥ずかしながらあまり眠れなかったのだ。だが提督はこうして、目の前にいる。これほどうれしいことはない。」

 

 

 執務室に残った長門が嬉しい言葉をかけてくれる。

 

 

 「長門よ。私は昨日も言った通り素人だ。戦闘の指揮は基本お前に任せることにする。私は大まかな戦略目標を伝えるだけだ。」

 

 

 「何を言うのだ提督よ。これから学んでいけばいいのだ。誰だって最初から上手く出来る者などいないさ。だが指揮を預けてくれるというのはありがたい。装備の件といいこれで奴らとも戦えそうだ。」

 

 

 戦場の様子を確認できない私が実際に現場で戦っている者たちにどうこういうつもりはない。要はスポーツクラブのオーナー的なポジションになればいいはずだ。ある程度現場の者たちに指揮を任せて大まかな方針を伝え、その目標達成に必要な提案や進言があれば取り入れていけばいいはずだ。金はだすが、現場のきめたことにいちいち文句を言わないオーナーであれば、現場の者たちにとってやりやすいはずだ。きっとそんな感覚でいいはずだ。後はおいおい私も学んでいけばいい。資材や施設管理についてはサラリーマンの時の経験をいかして応用していけばなんとかなるはず。当面は軍事関係の座学が必要だと思っているとそれぞれ伝令を頼んだ2人が戻ってきた。いちいち使いをだすのも面倒なので工廠や厨房に内線をつくってもらうのもいいかもしれない。妖精達の報酬をたかる様子を思い浮かべながら思いついた案をメモをしていると3人がそろったのを見計らって長門が声をかける。

 

 

 「本日の任務については哨戒行動のみでよろしいか?」

 

 

 「それで構わない。出撃する際に明石の工廠で生産された装備を一式駆逐艦と軽巡洋艦の者たちに装備させるように。なれない装備だろうが使っていかないことには慣れることはないからなどんどん経験を積ませていけ。そのうち実践形式の演習もやっていく予定だ。」

 

 

 「装備につきましてはさきほど工廠に伝えに行ったときに装備の開発はほとんど終え、人数分は開発済みとのことです。あとは予備の分と損傷した艤装の修復作業にうつるとのことでした。」

 

 

 大淀の痒い所に手が届くような報告をしてくれた。こちらが求めている情報を先回りして報告してくれるのはありがたい。赤城達空母組も訓練ができるはずだ。

 

 

 「では赤城たち空母組は艦載機のパイロットたちの訓練を行ってくれ。パイロットの育成は時間がかかると聞いた。日ごろから訓練をつんでいざというときに戦えるようにしとおいてくれ。訓練で消費する燃料等についてはしっかり報告してくれればいくらでも使って構わん。」

 

 

 「了解しました。近海であれば哨戒任務もかねることができます。飛行訓練ついでに行えますのでそちらの訓練もおこなってよいでしょうか?」

 

 

 「了解だ。そちらについても許可する。ただしメインはあくまで発着訓練であることを忘れずにな。」

 

 

 「ありがとうございます。新兵に空の感覚を叩き込み、いち早く使い物になるようにさせてみせます。」

 

 

 あまり過剰な訓練はしないようにな。と声をかけると勿論です。と返事を返すとともに赤城が部屋から去っていく。工廠に向かい艦載機の確認をしにいくのだろう。哨戒については軽巡洋艦に偵察機を使ってもらうようにするので赤城の艦載機もあわせれば敵の早期発見につながるはずだ。長門も駆逐艦達に装備の件を伝えてくると部屋を後にする。残された大淀に覚えていただくことはいっぱいありますよと眼鏡をくいっとさせて目の前に書類や分厚い本をどさっと出される。漫画みたいな行動しやがって。だが彼女達も頑張っているのだ。私も頑張るとするか。先生に質問をしながら一つ一つの書類を整理していく。今日の朝飯を抜いた分さぞかし昼飯はおいしく感じるだろう。モチベーションを高めつつ作業をこなしていくのであった。




無事?2日目を迎えた真船。次話から駆逐艦たちも登場予定です。


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第11話

艦娘のセリフ回しを考えるのが一番難しい。


 哨戒任務の準備のために工廠に集まっていた吹雪達は驚きを隠せない。工廠がいつのまにか広くなっている。そして自分の艤装が新品とまではいかないが、損傷が明らかに修理されており、見違えている。思わず自分の物なのかと再確認したくらいだ。食堂の厨房といい、いつの間にリニューアルされていたのか皆目見当もつかない。

 

 

 「明石さんこの艤装本当に私のなんですか?」

 

 

 「そうだよ吹雪ちゃん。これは正真正銘吹雪ちゃんの装備なの!詳しい理由は言えないけど提督が大幅な方針転換をしたみたいでね。それでみんなにしっかりとした装備をって話になってそれでこうなったって訳!」

 

 

 「一体どういう風の吹き回し?すごい今更感が強いけど。前までは私たちに碌な装備や修理をうけさせてくれなかったのにさ!」

 

 

 急な方針転換に戸惑いを隠せないのかそれとも提督に対する怒りからなのか川内は不満を垂れていた。川内姉さん!っと神通が抑えるように宥める。いつ提督がきて耳にはいるかわからないのだ。口を慎めと言わんばかりだ。

 

 

 「なにはともあれ水雷戦隊にとってはありがたいことに違いありません。ここは喜んでつかわせてもらいましょう。」

 

 

 「はっ!あの提督のことだから艤装に火薬をつませて特攻させるんじゃないの!?私は信用できないね。」

 

 

 「姉さん。その発言は流石に聞き捨てなりませんよ。確かに今までのことを考えるとそれもあり得ない話かもしれません。ですが明石さんがそのようなことをするようにみえますか?その発言は明石さんも侮辱してるようなものです。ここはしっかりと明石さんに謝ってください。」

 

 

 「・・・・軽率な発言だった。ごめんね明石。」

 

 

 ハッとした川内はすぐに明石に謝ると気まずそうに頬をポリポリとかいた。そうだ。明石は自分たちが負傷して帰ってきたときも寝る間を惜しんで修理をしてくれたではないか。その明石が長としてこの工廠を担っているのだ。当然艤装に関してもチェックをいれているはず。そんな大事なことを私達に伝えないはずがない。自分の浅はかさに情けなさを感じつつ頭を再び下げた。

 

 

 「いえいえ!大丈夫ですよ!確かに今までのことを考えるとこの待遇は戸惑うかもしれません。私も実際そうでした。詳しい理由は機密のため話すことはできないですけどきっとこれから私たちの待遇は改善されていくと思いますよ!実際に食堂の厨房やここをみて期待できると思いませんか?」

 

 

 確かにこの話が嘘であればわざわざ私達をだますためにここまで大がかりなことをするだろうか。そんな予算や資材はないはずだ。ともなれば本当に信じていいのだろうか。

 

 

 「明石さんを信じてみましょう姉さん。これだけ立派な装備であれば仮に戦闘となっても再び戻ってくることができるはずです。」

 

 

 「そうだね。神通の言う通り。ここはありがたくつかわせてもらうとすることにしよ。よし!準備ができ次第哨戒任務に行くよ!」

 

 

 気を取り戻した川内は神通とともに艤装の確認のために明石に装備の詳細を尋ねていく。改良された主砲だけでなく魚雷、しかも酸素魚雷だ。それに水偵、電探、機銃まで用意されているときた。フル装備で出撃など今まであり得なかった。逆に使いこなせるかどうか心配になってくる。しかしその弱気な気持ちを吹き飛ばしてくれる心強い助っ人がいることに気が付いた。各装備にはそれぞれ妖精がサポートとしてつくため一緒に出撃してくれるのだ。出撃の際、妖精は光となって艦娘の体内に吸い込まれるように消えていく。頭の中に響く妖精達の士気高い声に励まされた川内と神通は戦意が高まっていくのを感じた。これなら哨戒どころか戦闘に即移っても勝てる!そんな風に思えてならないのだ。

 

 

 同じように吹雪達駆逐艦用の装備の説明を聞いて喜んでいた。今までは申し訳程度の単装砲だけしか支給されなかったのに対し、立派な装備を使っていいと言われ喜ばない艦娘などいないだろう。酸素魚雷はもちろん連装砲や電探、そして機銃と戦える装備をもらえる。おまけに明石と妖精達によって整備された艤装は以前のように不調を起こしそうな感じではない。やったね睦月ちゃん!同じ水雷戦隊に属する睦月に対して笑顔がこぼれる。他の駆逐艦たちも明石に矢継ぎ早に質問をし、上手く使えるかな?と小声でつぶやいたりしていた。しかしその顔は心配する発言とは裏腹に笑顔が見える。明石も頑張ったかいがあったと笑顔で見渡していた。

 

 

 工廠のとなりにある出撃所に向かう。重機で艤装をとりつけてもらうと妖精達も光となって艦娘達に乗り込む。

 

 

 「第一水雷戦隊、旗艦川内。出撃するよ!」

 

 

 「第二水雷戦隊、旗艦神通。出撃します!」

 

 

 第一水雷戦隊は川内、吹雪、睦月、島風、響、霞。第二水雷戦隊は神通、時雨、夕立、雪風、曙、電という布陣だ。出撃してしばらくすると、装備をつんでいるのに前より早い!旋回が滑らかにできるよ!とみな思い思いの感想を述べていた。明らかに修理前と違う艤装の感触に違和感は感じるもののすぐになれるであろう。程なくして分岐点につくとそこから二手に分かれて哨戒を開始する。それぞれの旗艦は水偵をとばすと陣形変更の訓練をしながら哨戒任務についた。

 

 

 少し遅れて空母組が工廠にやってきて川内と同じような感じで不満を口走っていた瑞鶴と翔鶴をなだめながら説明をうけていた。赤城に言われ了承はするもどこか納得がいっていない様子だったがまぁそこはいいでしょう。おいおいわかる話なのだから。と言い聞かせ赤城を中心に空母達は不知火と朝潮を護衛としてつけて近海の海に訓練のために出撃していった。補充された艦載機は九九式艦爆機や九七式艦攻ではなく、彗星、天山といった名前の物だ。ゼロ戦とよばれる零式艦上戦闘機も紫電改二という名の戦闘機に生産ラインが変更されたみたいだ。赤城と赤城隊の妖精達は見慣れない艦載機に説明を受けた際多少混乱はしたものの、そこは歴戦のパイロット達、何度か発着訓練や自由に操縦すると感覚をつかんだようだ。

 

 

 『ゼロには悪いがこいつはいい。機銃も強力になってる上に、速度も上がっている。新兵にはもったいないぐらいいい機体だ。』

 

 

 操縦している妖精が品評会をおこなっていると同じように彗星や天山のパイロット達からもこっちも上々だ。と無線がはいり、赤城は満足げに様子をみている。対して翔鶴や瑞鶴のパイロットはいまだになれないのか発着訓練でぎこちなさがとれないみたいだ。瑞鶴は簡単にこなしてしまう赤城とそのパイロット達に少しばかりの嫉妬心を胸に感じつつ黙々と数をこなしていくのであった。

 

 

 

 




艦載機関係についてもしっかり勉強しないと細かい描写ができないので資料を見ながら書き込んでいます。詳しい方がいれば、ご指摘していただければ幸いです。この艦これの世界では空母達の戦闘方法は発艦は弓などで行い、帰艦はそれぞれ装備している甲板を使って着陸させて着陸後、光となって元に戻るというシステムです。


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第12話

戦闘描写はとても難しい。


『敵の艦隊を捕捉!方角は200から220!距離80000!数は戦艦級1!重巡2!軽巡2!駆逐が6の模様!』

 

 

 

 「このままではまずいですね。まず通信妖精は緊急電を!鎮守府の提督に指示を仰ぎましょう。」

 

 

 

 戻ってきた水偵の情報を伝えるため司令部に連絡をつなぐ。提督の指示を仰ぐ必要がある。このまま戦っても火力、人数の差で押し切られるのは必然だ。一度撤退を行いたいが、自分の要望は届くことはないのだろう。半ばあきらめの境地にいる自分がいる。1隻でも多くの敵を沈め華々しく散ること。恐らくこの答えが返ってくることは明らかだ。自分の分まで生きてと沈んでいった妹に遭える時がきてしまった。先に那珂ちゃんと会えるのは私が先になりそうです姉さん。と心の中でつぶやく。しかし現実は悲観に浸ってる時間を与えてはくれない。鎮守府の司令部に連絡がつながるまでのこの短い時間がとてつもなく長く感じた。 しかし下った命令はいつものような命令とは全く違う内容だった。驚きのあまり無意識に再確認をするぐらいその時の私は驚いていただろう。

 

 

 

 「本当でそれでいいのですか?提督。」

 

 

 

 いいもなにもそんな戦法では困るんだよ!神通からの再確認がくる。そんな作戦をとっていたら装備をどれだけ新調しても足りないだろうが。緊急通信が入り、長門と大淀とともに作戦室にはいり、大淀がなにやら機械をいじって神通の声が私と長門にも聞こえるようにしてくれた。ようはハンズフリー状態だろこれ。内容は敵を発見したが敵はこちらの戦力よりも多く、現状ではやられる可能性が高いが、いつもの通りの作戦でいいのかということだった。いつものってなんだ?と長門に小声で聞くとデコイ作戦とでもいうべきか囮作戦の戦法を教えてくれた。戦艦はあとから出撃する重役出勤ってことか。弾薬など消耗させた敵を倒すのは確かに容易いことなのかもしれないがこの戦法はもう使わないと決めているのだ。神通に数分だけ待ってほしいと伝え、長門に相談する。大淀は通信を切り替えこちらの声が神通に届かないようにしてくれた。相変わらず気が利く。

 

 

 

 「ここは一旦ひいて川内との部隊と合流させ、せめて数で有利をとれるようにするのはどうだ?火力がちと足りないかもしれないが合流させる間に赤城たちに指示をだし援護をもらえばいけるのではないか?」

 

 

 

 「その作戦でおおむね間違いはないだろう。私はその作戦に賛同するぞ。」

 

 

 

 てっきり自分も出撃するぞと言い出すと思ったが意外な言葉が返ってきて驚いた。

 

 

 

 「提督が我々を信じてくれるのだ。私も仲間を信じないでどうする。それに赤城たちがいれば大丈夫だ。あいつは結構な手練れだぞ。」

 

 

 

 長門が言うならば私からは何も言うまい。私とてこれが初陣みたいなものだ。スクランブルでだしたとしても戦闘に間に合うことはまずないだろう。これからのことを考えてもやはりここはこの状況を乗り越えてもらう必要がある。しかし皆が帰ってくることを祈ることしかできない私はなんと無力なのか。大淀に通信を再び開くよう指示をだすと作戦の旨を伝えた。了解しました。感謝します提督。とほっとしたような声を最後に通信をきる。急ぎ川内につなぎ同じように作戦を伝えたところ、神通以上に驚いていたが直ぐに気を取り戻し、合流地点に向かいます!と張り切っていた。この分なら士気も高く、そう簡単にくじけることもないだろう。後は赤城達がまにあうかどうかだ。

 

 

 

 「提督からの指示をみなさんに伝えます。速やかに反転し指示された合流地点に向かい、川内たち第一水雷戦隊と艦隊を再編成し川内を旗艦にし指揮をとるようにとのことです。つまり一旦逃げて川内姉さんの艦隊の指揮に入れとのことです。」

 

 

 

 第二水雷戦隊みんながざわつく。どういう事なのだ?今までの戦闘パターンとまったく違う。哨戒任務中に敵と遭遇した場合はそのまま交戦し消耗させ、あとから増援できた戦艦などの部隊がとどめを刺すといういわば前座役、敵を確実に倒すためのコマとしか見られてなかったはずだ。装備の件といいなにか今までとは違う。しかしどうあれみんなの命が助かる可能性がでてきた。このまま命令に従っても罰が下ることはないはずだ。なにせ提督の命令なのだから。混乱状況にあるみんなをまとめ、追いつかれる前にここを離脱して戦力を立て直さねば。那珂ちゃんに会うのはまだ先になるかもしれない。前言撤回ですと心の中でつぶやき皆をまとめて合流地点を目指していった。

 

 

 

 「第一次攻撃隊、発艦してください!」

 

 

 

 訓練中の艦載機を戻し、補給をすませ爆撃機と艦攻機を発艦させる。提督からの通信を受けた後、速やかに皆に状況報告をすませる。腕がなるわっ!と意気込む瑞鶴としっかりするのよ翔鶴。と自分を鼓舞する翔鶴。実践経験こそ少ないものの2人とも歴とした空母である。赤城航空隊に続いて2人の航空隊も次々と発艦し、敵艦隊めがけて飛び立っていったのだった。情報によると敵空母がいないはずだがもしやがあるかもしれない。念のため護衛に戦闘機を発艦させ、艦爆、艦攻を目標地点まで護衛するように指示をすると、戦闘機部隊の隊長妖精から任せてくれと頼もしい言葉を残し飛び立っていった。

 

 

 

 『まさかこんなに早くお披露目会がくるなんてなぁ。腕が鳴るぜ!』

 

 

 

 『しかも相手は空母がいないって話だぞ。対空にさえ気を付ければ後はもらったも同然だ。』

 

 

 

 飛行中の赤城隊の会話は緊迫した様子のかけらもなかった。それどころか敵を求めてうずうずしている。常に最前線で戦ってきた経験が自信の裏付けになっているのだろう。やってやるという強い意志を誰もがもっていた。そんな赤城隊とは逆に翔鶴隊と瑞鶴隊のパイロットは緊張していた。再編成されたばかりのため初陣の者が多く、操縦桿を握る手は固いままだった。

 

 

 

 『おいルーキーども。やけに静かじゃねぇか。怖くなったのか?』

 

 

 

 自分たちはわいわいと話しあっているのにあっちの隊のやつらはやけに静かだ。問いかけられて少しおくれたテンポで無線に返事が届く。

 

 

 

 『自分は緊張などしておりません!自分たちだってパイロットです!なにがなんでも戦果をあげる覚悟です!』

 

 

 

 『いいかルーキー。戦果を求めて絶対に命を粗末に扱うんじゃねぇぞ。先陣は赤城隊が預かる。今のお前たちの目標は生きて帰ることだ。戦果は二の次だ。経験を積めばおのずと腕は上がってくるもんだ。生きて帰ってくるたびにみっちりしごいてやるからな。だから絶対に生きて帰るぞ。』

 

 

 

 は・・はっ!!とあいつらの顔をみなくても敬礼している様子が目に浮かぶ。かっこつけた手前先輩としていいとこ見せなきゃな。間もなく敵艦隊を発見すると赤城に突入する旨を打電する。悪いが水雷戦隊の嬢ちゃんたちには手柄を譲るつもりはないぜ。予想通り敵機の妨害がなかったのをいいことに、爆撃体勢にはいる、敵艦隊の手厚い歓迎を受けながら目標にぐんぐんと近づいていく。

 

 

 

 『手厚くもてなしてくれたんだ。こっちもお礼にプレゼントをあげなくちゃなぁ!!』

 

 

 

 弾幕の中、次々と急降下して爆弾を落としていく彗星。今回は25番のため少し威力が低いのが悩みだがまぁよかろう。全弾命中とまではいかないが、戦艦と軽巡2隻を沈める大戦果だ。その様子を見ていた後続の新兵たちも活気づく。

 

 

 

 『流石先輩たちだ!よし!我々も負けてられんぞ!翔鶴隊も後に続け!』

 

 

 

 先行した赤城隊がヘイトをとりつつ何隻か沈めてくれたため、対空も薄くなっている。これならばと続く天山の魚雷も大きな水しぶきと爆発を起こし敵駆逐艦を沈めていくのであった。  

 




彗星が水平爆撃できるかどうか調べたのですが結局わからずじまいでした。仮に水平爆撃ができるのであれば、すこしだけ展開は変わっていたかもしれません。


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第13話

前の話で文章が重複していることに全く気が付きませんでした。お恥ずかしい限りです。ご指摘いただいた方に感謝です。


 『第二陣部隊には悪いがメインディッシュは頂いたな。よし!このまま引きあげるぞ!』

 

 

 自分たちの後に続いた翔鶴隊は獲物こそ小さいがしっかり当てたみたいだ。上々の戦果に満足した様子の赤城艦爆隊の隊長は遅れて突入している瑞鶴隊の様子を眺める。こちとらきっちり対空をひきつけてやったんだ。上手くやってもらわないと困る。工廠のやつらの話だとなんでも酒保ができるらしい。生きて帰ったらあいつらに一杯ぶどうジュースでも奢ってやろう。

 

 

対空がよわまっているとはいえ、それでも弾の雨は降り注ぐ。最後に突入する瑞鶴隊の艦攻隊も投下体勢に入った。

 

 

 『投下高度よし!進路よし!まだだっ。びびるな!もっと近づいてっ・・・!投下!!よし・・ってうわっ!!?』

 

 

 先頭を走る艦攻は魚雷の投下に成功したものの、投下後の上昇中に敵の対空砲火に右主翼を撃ち抜かれ煙を上げている。しかしこちらとてただでやられたわけではない。放った雷撃は敵重巡の横っ腹に突き刺さり大きな水しぶきをあげていた。後に続いた列機の雷撃も上手くいったようで、水柱が次々と上がっていく。

 

 

 『ルーキーにはルーキーの意地があるってもんよ!瑞鶴隊の戦果も赤城隊に負けてねぇぞ!』

 

 

 瑞鶴艦攻隊隊長の声に無線越しにうぉぉーーー!!っと歓声があがる。流石に赤城隊には及ばないが、それでも重巡2隻のうち一つを沈め、もう1隻は小破、駆逐1隻を沈めた。こちらも多少の損害を出したがそれでも初陣としては破格の戦果と言える。戦果の最終確認をし、空母部隊と水雷戦隊に打電する。これでかなりの数を減らすことができた。戻って瑞鶴に報告するのが楽しみだ。笑みを浮かべながら操縦桿を握っていた手のひらの汗はいつのまにか渇いていた。

 

 

 『瑞鶴飛行隊から打電!雷撃及び爆撃により戦艦1、重巡1、軽巡2、駆逐2の撃破に成功!及び敵重巡1を小破においこんだとのこと!!』

 

 

 無事神通と合流できた川内は先行した航空部隊からの通信を確認する。航空隊は半分も、しかも重火力のものばかりを沈めている。残りは手負いの重巡と駆逐4だけ。戦況報告を聞いた他の駆逐艦たちも味方の活躍に歓声をあげた。これならばいけると神通とうなづきあい、はるか先に見える黒煙を目標に進んでいく。

 

 

 「これより第一水雷戦隊及び、第二水雷戦隊は残った敵艦を追撃し叩く!みんな遅れずについてきて!」

 

 

 深海棲艦は旗艦を失い、慌てふためく。まさかいきなり敵機に奇襲を仕掛けられるとは思ってもいなかったのだ。あれほど痛めつけていた人間側にこれほどまとまった戦力がのこっていようとは。しかも明らかに最初に襲ってきた航空部隊は手練れだった。こちらの弾幕をかいくぐりあっという間に仲間達を沈めていったのだ。残されたのは駆逐が4隻。自分を含め計5隻だ。先ほどの雷撃により通信まわりがやられて連絡をとることができない。駆逐のやつらは人のなりをしていないので会話ができない。生きて帰り、この情報を仲間に報告しなければ。撤退命令をだし進路を反転する。タービン回りもやられているようで思うように進まない。もたついているうちに遠くからダーーーーン!と複数の音が聞こえたかと思うと自分のまわりに水柱が立っていく。この時すでに狩るもの、狩られるものの立場は切り替わっていたのだと気づいたときにはもう遅かった。

 

 

 『これより着弾観測を開始する!』

 

 

 戦闘開始を告げるラッパの音が鳴り響いた後に川内及び、神通それぞれの水偵から報告をうけると狙いを定めて一斉に砲撃を開始する。今まで散々こけにしてくれたカリを返すときが来たのだ。それぞれの戦意は非常に高く、砲を構えるその目にはいつもの怯えは誰一人なかった。

 

 

 『弾着まで・・3.・・2・・1・・川内至近弾!次弾発砲諸元、高め1!左寄せ1!時雨至近弾!次弾発砲諸元、下げ2!右寄せ1!』

 

 

 それぞれの水偵からの情報と敵味方の発砲音、そして火薬の匂いが穏やかな海の上に広がっていく。深海棲艦側も応戦するもいかんせん数の差が大きい。そして負傷した重巡の速度にあわせているため距離はみるみる詰められていく。そしてついにその時がきた。

 

 

 『敵駆逐に夕立の射撃命中!敵駆逐に夕立の射撃命中!』

 

 

 「当たったっぽい!?妖精さん次弾装填急いで!このままきめるっぽい!」

 

 

 夕立の放った主砲が敵を捕らえることに成功する。そして1隻を沈めるとまた1つ、1つと沈めていく。敵との距離はすでに開戦当初よりはるかにつまっている。

 

 

 姉さん!と神通の呼びかけにわかってると返事を返し全軍に指示を出す。今の距離、角度が絶好のチャンスだ。こういう戦いを自分は望んでいたのだ。夜戦でないのが少々不満だがそんなことは今はどうだっていい。猛る水雷魂を抑えきれない。敵を倒すのだ。敵からの反撃に被弾する者が出てくるがそれでも反撃の速度は緩まない。

 

 

 「全軍魚雷発射準備、川内隊の敵目標は敵重巡!神通隊は後続の敵駆逐艦を狙え!3.・・・2.・・・1・・・魚雷発射!!撃てぇーーーーーーー!!」

 

 

 号令を合図に足元の魚雷が一斉に投下され敵に向かって走っていく。当たるのを祈りながらすかさず発砲を再び開始し、水偵の観測をまつ。やがて伸びていったわずかにみえる魚雷の軌跡が敵にたどりつくと大きな水柱が複数上がった。

 

 

 『川内及び吹雪の魚雷の命中を確認!敵重巡撃沈です!』

 

 

 『神通、並び時雨と雪風の魚雷命中!こちらも撃沈を確認!やりました!敵艦隊殲滅です!』

 

 

 それぞれの水偵から通信がはいる。やった・・・やったのだ。数がこっちが勝るとはいえ自分達の力でやり遂げたのだ。やりましたね!姉さん!と神通が声をかけてくる。こちらの損害を出すことなく勝つことができた。これ以上の何を望むだろうか。皆と勝利の喜びを分かち合いつつ、 敵残存兵力がいないか確認しつつ水偵を納め、提督に戦果報告をする。提督と会話をしなければならないことに少しだけテンションが下がったが、今はそれ以上に喜びが大きかった。

 

 

 「提督。第一及び、第二水雷戦隊の戦闘終了を報告します。敵重巡1及び駆逐4の轟沈を確認。殲滅に成功しました。こちらの被害は軽微で終えることができました。」

 

 

 「よくやった。君たちの奮闘に感謝する。帰投後速やかに詳しい戦果報告を行ってくれ。帰投中も油断せぬようにな。1人も欠けることなく帰ってくるのだ。」

 

 

 何かが違う。やはり何かが違うのだ。ねぎらいの言葉出てくるとは思わず、周りの駆逐艦たちも驚いていた。もちろん神通もだ。装備の件といい、提督の中でなにか大きな変化があったに違いない。だが今はこの子達と勝利を分かち合い、しっかり戻ることが最優先だ。それが旗艦である私と神通の役目なのだから。初めて上げた戦果のおかげか、後ろの駆逐艦たちは長いこと騒がしかった。仮にも任務中だ。だが今回は特別に許してやろう。




ついに戦果をあげることができた水雷戦隊。翔鶴、瑞鶴のパイロット達も上々の戦果をあげることができました。


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第14話

一筋縄ではいかない鎮守府。


 それぞれの母艦に帰投中の妖精達の会話は明るかった。水雷戦隊からの敵殲滅完了の電報をうけとるとこちらも撃ち落とされ、脱出したパイロットの回収を頼むと水雷戦隊に打電する。瑞鶴隊の面々はあの時の感触が忘れられないのか子供のように興奮していた。

 

 

 『見てくれましたか先輩!我々の雷撃で敵の重巡が沈んでいく様子を!この調子でスコアをどんどん稼いでやりますよ!』

 

 

 『もう少し上手くできたのに・・・悔しい・・』

 

 

 調子に乗っている瑞鶴隊とは裏腹に翔鶴隊の面々は暗い。戦果をあまり上げられなかったことを悔やんでいるのだろう。すこし声をかけてやるか。

 

 

 

 『俺たちが翔鶴隊の分の目標まで食っちまったんだ。落ち込む必要はねぇ。むしろあの状況からとっさに切り替えて1隻持っていけるなんて大したもんだ。なかなか新人にできるもんじゃねぇ。あと瑞鶴隊はビビッて予定投下距離よりすこし遠かったのを俺らは見逃さなかったぞ。』

 

 

 笑いながら瑞鶴隊の面々を茶化すとビビッてなんかいないですよ!!っと口早に返事が次々に返ってくる。笑いながらわかったわかったと適当に流す。が予定投下距離よりも長かったのにもかかわらず、しっかり当てていくやつが多かった。荒削りながらも光るセンスを感じずにはいられない。翔鶴隊も訓練通りこなしつつ、状況に応じたとっさの目標変更への対応の仕方。後輩の育成が楽しみだな。がまだまだエースの座は譲るつもりはないがね。若い戦力が育ちつつあることにうれしさを感じるのであった。それぞれの母艦に戻った航空隊は手荒い歓迎を受けた。とくに赤城隊の2番隊の面々にはなんで俺達にも獲物を残してくれなかったんだ。と笑いながらバシバシと叩かれる。うるせぇお前らが50番をつもうとして配備がおくれたのがいけねぇんだろうが。と反撃する。荒い言葉遣いでしか会話できないが、そこには戦果を上げてきた仲間達が無事帰ってきたことに対する喜び以外の何物でもなかった。

 

 

パイロットの回収を終えた水雷戦隊が間もなく帰投するみたいだ。作戦室から戻り執務をしていた私は大淀から報告を受けると出撃所に迎えに行くぞ。と帽子をかぶり立ち上がる。できたばかりの無線を使い、間宮の厨房に連絡入れる、間もなく水雷戦隊が帰投するみたいなので、ぼちぼちごはんの準備をしてあげるように指示をだす。お昼前に始まった戦闘から時間はすぎ、外はすでに夕焼けに染まっている。私自身も戦闘の指揮のおかげで昼飯を食い損ねた。執務もキリがいいのでこれで終わりにするとしよう。大淀をつれて出撃所に向かう。途中長門と遭遇し、お前もついてこいと引き連れていった。

 

 

 「第一水雷戦隊旗艦川内。及び以下5名。全員無事帰還しました。」

 

 

 「第二水雷戦隊旗艦神通。右に同じく。」

 

 

 工廠で艤装をはずし終えると、明石から何やら紙をうけとった川内が並ぶように指示すると計12名がずらりと並び、川内と神通が少し前に出て敬礼をすると後ろの者たちも同じように敬礼をした。私も敬礼を返し、ご苦労と声をかけ、戦果報告を頼むと声をかけると大淀に記録するように声をかけた。

 

 

 「はっ。では代表して私川内がご報告します。赤城航空隊を中心とした航空部隊の突入後、敵残存部隊を捕捉し、まもなく追撃戦に入りました。しばらく戦闘を行った後、夕立の主砲が敵を捕らえ、駆逐1を撃沈。続いて霞、曙が駆逐1隻ずつ撃沈。その後に好機と判断し魚雷の一斉発射で敵重巡1、駆逐1を撃沈。それぞれ私川内と吹雪。神通と時雨、雪風の共同戦果です。被害につきましては、神通及び響、睦月が小破となっております。弾薬及び燃料の必要補給量はこちらとなっております。」

 

 

 そういって川内が私の前に歩いてきて紙を渡してくる。あの短い時間の中で補給に必要な量を一瞬で計算できたのか。たしかに艤装を外した瞬間妖精達が群がっていたが・・・恐るべき計算力だ。紙を確認後大淀に預かるように渡すと、楽にするようにと川内達に声をかける。

 

 

 「まずはよくやってくれた。航空部隊の活躍もあったとは思うがそれでも君たちが戦果をあげ無事戻ってくれたこと嬉しく思う。艤装に関しては、被害点検をし、緊急修理が必要なもの以外については明日に回してくれ。補給の件については滞りなくやっておこう。そしてもう他の者には少し前に伝えているのだが、入渠施設を拡張し使えるようにしたのでしっかり休んでくれ。あと食堂もだ。今日から3食しっかり食べて英気を養ってもらう。並びに人数分の布団とそれぞれの部屋にエアコンをつけたので必要であれば活用するように。もちろんある程度の温度までしか設定できないようにしてあるが、それでもマシであろう。私からの話は以上だ。よく帰ってきてくれた。では解散。」

 

 

 話は以上だと私は踵を返し大淀と執務室に帰ろうとする。この戦果報告を終えて飯を食べて風呂に入ってさっさと寝よう。今日も疲れた。酒保はまだ完成してないので酒は手に入らない。酒保を管理する人物の割り当てもせねばなと考えながら歩き始めたと同時に待ってください!!と大きな声で私を呼び止める声の方へ振り替える。失礼を承知で質問をよろしでしょうか?と神通が私をみつめていた。

 

 

 「ここにきて以前の提督の方針とは全く違うのは何故なのでしょうか?装備の件といいこの補給や施設の改装もそうです。明らかに違います。これが本部の意思でないのであれば何故ここまで急に変わるのでしょうか?まるで別人の方のような。何故なのですか?」

 

 

 川内が神通に下がるように声をかける。しかし神通は止まらない。

 

 

 「なんで・・なんで今更なのでしょう・・?もっと早くこんな風になっていればこの子たちの姉妹も仲間も・・多くの者が救えたはずです。私たちの妹だって!!抗命罪により私を解体してもらってもかまいません!けれど納得のいく・・納得のいく説明をしてください!」

 

 

 神通の目には涙がたまっている。川内が私から言い聞かせますので何卒どうか許してくださいと懇願する。後ろの駆逐艦たちも気まずそうな顔していたり、すすり泣いている者も多数いた。

 

 

 心配そうに私をみつめてくる長門と大淀、そして明石に大丈夫だとうなずいてゆっくりと神通に諭すように声をかける。

 

 

 「そのことについてはまだ話すときではない。だがいずれ必ず話すと約束しよう。君たちは私が憎いだろう。あるいは恐怖の対象になっているかもしれない。だがこの鎮守府は変わっていく。それを生きて見届けるのだ。私を信じられないのは当然だ。だが大淀や長門などは信じることができるだろう?この者たちは君たちの今の環境を変えようと必死に頑張ってくれている。赤城や明石、間宮だってそうだ。私は信用しなくてもいい。だが君たちを支えようとしている者たちだけは信じてあげてくれ。そして今回の神通への罰だが、神通の抗議はもっともだ。故に罪に問わないとする。これからも水雷戦隊の旗艦として頼りにしている。話は以上だ。では解散。」

 

 

 言葉にならない声で泣いている神通をさすりながら、お許しいただきありがとうございます。という川内の声を後に工廠をさっていく。あんな大人しそうな子が必死に声をあげるとは思ってもいなかった。それぐらい心にたまっていたものがあるのだろう。なんとか改善していかなければ。そう固く誓ったのであった。




時間が許す限り延々と執筆できそうですが、休みはとれないという悲しい現実。


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第15話

ゲーム内で持っていない艦娘も多数いるので、その子がとんな感じの子なのかわからず、細かい描写ができなさそうで困っています。瑞鶴って名前の子なんですけどね。


 執務室に戻り、戦果報告と資材帳簿をつけて伸びをする。大淀に君も今日の業務を終えるようにと声をかける。本日もお疲れ様でしたと執務室の前で解散し、自分の部屋に向かいシャワーでお風呂をすますと食堂に向かおうとするが足を止める。食堂は今夕ご飯のためにごった返しているだろう。そんな中に私が行ったら皆がおいしくご飯を食べれないなと考え部屋に戻る。困ったものだ。少し時間をずらしていくかと考えているとコンコンと扉をたたく音のあとに赤城の声が聞こえる。お迎えに参りました提督。と声がするのでドアを開けるとお昼にみた戦闘時の恰好とは真逆のラフな格好をしていた。この鎮守府では食事前に風呂に入って1日の汚れと疲れをとってからご飯を食べてもらうように指示をだしている。ボロボロの服のまま飯を食わすのはさすがに忍びないしな。赤城の新しい服を見る限りではどうやら発注していた寝まきやジャージ等の動きやすい服などは届いているみたいだ。色やデザインなどの好みはわからなかったので無難なものしか選べなかったが、おいおいは自分達で買いに行ったりできるようにする予定なのでそれまでは我慢してもらおう。

 

 佐賀山の隠していたお金があるため、当面のこういった金銭面の心配はいらない。あとは不自然にならぬよう大淀に帳簿をいじってもらうだけだ。最初にこの提案をした大淀は不正なのでは・・?と心配していたが責任は自分がすべてとるし何よりもともと艦娘が受けとる予定だった金だ。お前達のために使って何が悪いとやや強引な形で押し切る形となったが、満足している姿をみるとこれでよかったのだろう。私もお昼の出撃でお昼ごはんを食べ損ねたのでお腹がペコペコなのです。はにかみながら自分のお腹を両手でさする。こうしてみるとやはり普通の女性と変わらない。だが艤装という謎の兵器を操り妖精とともに戦っている姿をみるとやはり人間とは違うのであろう。艤装と呼ばれるものは非常に重く、人間にはとても軽々しく扱えるものではなかった。だが今は彼女たちは軍人であり、私の部下だ。守ってやらねば。食事もほどほどにな。と会話しながら廊下を歩いく。

 

 

 なによこれ・・・曙は驚愕していた。潮がやけにうれしそうに一緒にご飯食べよ?と声をかけてきた理由がようやくわかった。そしてなによりも風呂。湯舟につかるのは初めての経験だった。あんなにも気持ちいいものだとは思ってもいなかった。シャワーだけの生活には恐らくもう戻れないだろう。今日はおかしいことばかりだ。出撃から戻ってくると明らかに違った様子の提督が自分たちを迎えてくれると私達をねぎらい、そして施設の拡張、弾薬や燃料の補給。そして抗議の声をあげていた神通さんを許すなど意味がわからないことだらけだった。正直あの時神通さんが先に声を上げていなかったら私もつっかかっていたかもしれない。きっと神通さんは私達が爆発しないためにも代表となる形で抗議してくれたのかもしれない。もちろん自分の中に不満もあったかもしれない。それでも解体されるリスクを考えたらあの場面での抗議は相当な勇気が必要だったはずだ。感謝しなければならない。出撃任務がなかった潮は先にこの新しい食堂でお昼ご飯を食べたのだがそれがよほどおいしかったのだろう。きっと曙ちゃんも気に入るよ。と何度も何度もいってくるのでわかったからわかったからとあやすと列にならぶ。なんでもお昼は唐揚げ定食というものが出たらしい。パリッとしててジュワっとしててとってもおいしんだよ!と説明してくれた潮。こんなに嬉しそうな顔をした潮をみるのはいつぶりだろう。

 

 

 先に並んでいた吹雪や白雪にどんな感じなの?と声をかけ晩御飯の内容を聞いた、今日の晩御飯はカレーというものらしい。何やら嗅いだだけでお腹がすいてくる奇妙な感覚に包まれていたが、その正体がこれか。前に並んでいる吹雪と白雪の会話も私達と変わらない。大人しい白雪が吹雪にお昼ご飯の内容を語っていた。どの子も同じようなものか。と笑いながら順番を待つ。違うのは吹雪は白雪の内容に食いついて、興味津々の様子で合いの手をうっている。こんないい性格の子になりたいなと思いつつ自分の隣の子に視線を向けると、そこには背伸びして厨房の様子を覗く潮。ちょっとがめついわよと潮をつつくとえへへ、ごめん。と笑顔で返してくれる。私達には私達のベストな距離感があるなとお互いに笑顔になった。

 

 「なにこれちょーうまいじゃーん!!」

 

 

 「千歳お姉ぇ!これ美味しいよ!」

 

 

 あちらこちらで声があがる。僕も妹の夕立と並び順番を待つ。なんだかすごいいい匂いっぽーいっ。といつもの口ぐせをぽいぽいと連呼していた。ぽいんじゃなくていい匂いなんだよ。伊良湖さんと間宮さんがカウンターごしに今日もお疲れ様!と声をかけて差し出したお盆に器をのせていってくれる。これが例のカレーというものか。お米にどろどろとした茶色いものがかかっている。そしてこれは野菜やお肉だろうか。食べやすい形と大きさに切り分けられた具が、ご飯のとなりをごろごろと皿のふちにむかって転がっていく。サラダとスープ、それに切り分けられた数種類の果物の小鉢をもらってこぼさないように空いている席にもっていく。夕立の分のお水をコップに注いでもっていくと、夕立のもってきたカレーは僕のカレーよりもなんだがこんもりとしている。大盛りというやつか。そんなに食べれるの?と声をかけると大丈夫っぽい!とあいかわらずぽいぽい言っている。

 

 じゃあ食べようかと2人で手をあわせ、スプーンで適量をすくい、口にもっていく。僕がおいしいねこれ!っと言おうと夕立に声をかけようとする前に、夕立はおいし~い!っと少し大きな声おあげていた。ぽいを付けないなんて相当なことだ。たしかにとてもおいしい。これがおいしいという事なのか。スプーンを止められない自分にびっくりしている。間にスープやサラダをはさむことで口の中のカレーの油を調和しさっぱりとしてくれることでカレーを飽きずにたべることができる。やがてキンキンっとスプーンがサラの底にぶつかる音が聞こえるようになると、大盛りを頼まなかったことに後悔する。僕って結構食べることができたんだ、と思いながら夕立をみる。相変わらずおいしそうにたべる可愛い妹だ。

 

 量の違いに少し後悔するも、まぁいいさ。と気を取り直し、果物に手を伸ばす。梨とみかんと食堂前と配膳前の看板に書いてあったのでそういう名前の果物なのだろう。だがどっちがどっちなのかはわからない。けれど、どっちでもいいのだ。何故ならどっちも甘くておいしいのだから。1日をこんな風に終えることができるなんて思ってもいなかった。きっと明日はいい日になる。今日よりももっと。さらにおかわりをしに行く夕立を眺めつつ、僕は今ある幸福を抱きしめた。




話を進めたい自分vs艦娘の描写を細かく書きたい自分の戦い。


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第16話

艦これをプレイするよりもキーボード叩いている時間の方が圧倒的に多くなっていることに気が付きました。


 「それでね!そこで主砲を撃った後に川内さんの号令でみんなで一斉に魚雷を撃ってそのあとドカーンって!!」 

 

 

両手を使って嬉しそうに表現する吹雪。あの時の興奮が蘇るのだろう。自分の大戦果を聞いて聞いてとご飯を食べ終わった後も食堂に残って白雪や睦月、皐月と話していた。

 

 

 「あの時の吹雪ちゃんかっこよかったね!私ももっと活躍したかったなぁ。」

 

 

 「そんなことないよ睦月ちゃん!睦月ちゃんだって主砲をガンガン当てていたし、なんなら私の方が外してばっかりで焦っていたよ~。」

 

 

 「いいなぁ~二人とも。僕も戦場にでて、ドカーンと活躍したいなぁ。」

 

 

 2人の話を聞きながら皐月は今度は僕も!といきこんでいる。白雪は楽しそうに話す吹雪と睦月を見ながら相槌をうち、微笑んでいた。食堂の入口から赤城の声が聞こえてくる。吹雪と睦月は今日のお礼を言おうと立ち上がって赤城の傍によって行くが、やってきたのは赤城だけではないことに気が付き、そして足がピタッと止まってしまった。

 

 

 やはりこうなったか。今度からは控えるようにしよう。赤城と食堂に入った瞬間、それぞれ楽しそうに話をしていた艦娘達が私の存在に気が付くと一斉に立ち上がり、敬礼をしてくる。楽にするように、といって座らせたものの、先ほどの活気は一体どこにいったのか。声のトーンが明らかに落ちてひそひそと話す程度になっている。赤城にやはり私は失礼するとする。と言って部屋に戻ろうとすると赤城に腕をつかまれ、何を言っているんですか提督。ご飯ですよと無理やり列に並ばされる。力でかなうはずもないので早々に諦め、わかったわかったといいながら連行されていく。そんな一連の流れを見ていた者たちはさらに小声でひそひそと話している。ほらみろ。明らかに疑いの目で見られているじゃないか。だから嫌だったのだ。

 順番が回ってきてお盆を前に差し出すと提督!お疲れ様です!と間宮が声をかけてくる。調子はどうだ。不備や足りないものがあれば遠慮なく言うように。と声をかけるとなにかあったらまたお願いしますね。とお辞儀をしていた。赤城と同じようにカレーとその他をもらい、赤城が座っている席に向かっていく。流石に気を使ってくれたのか、端の席に座り、注目の的にならぬようにしてくれた。それでも十分注目されているとは思うが。

 

 

 「いただきます。」

 

 

 その言葉ともに彼女のスプーンは重機のごとく米とルーをかっさらい、口の中に運んでいく。明らかに私の器に盛っている量と赤城の量は違う。日本昔話並にこんもりとしていたご飯があっという間になくなっていく。だがその食べる姿はまったく下品ではない。むしろ見ていて気持ちいいぐらいにおいしそうに食べる姿に感動すら覚えてしまった。私の視線を感じたのか、赤城はあげませんよ?と少し首をかしげるようなポーズをしてこちらを見つめ返す。逆に今のお前から飯を取り上げるやつがいたら見てみたいよ。私が半分も食べる前に彼女は平らげ、おかわりもしていいのでしょうか?とひそひそと声をかけてくる。誰かこのモンスターを止められる奴はいないのか。あきれたやつだと笑いながらまわりを見渡すと、お盆にご飯を乗せたまま明らかにこっちに向かって歩いてくる者がいる。それも2人だ。1人はやや戸惑い気味にあるいてくるがもう1人の歩みに迷いはない。まっすぐこちらにくると、私の隣にお盆をおろし、椅子を引く。

 

 

 「失礼します。提督。ご相伴に預かってもよろしいでしょうか?」

 

 

 神通と川内だ。川内も同じように声をかけ、椅子を引いていた。今はちょっとした会議中なのだ。あっちに行ってくれ。と追い払う。だが神通はにっこりとほほ笑むとそんな風には見えませんでした。むしろ私たちにも今後の作戦について提督の考えを宜しければお聞かせください。と許可なく座ってきた。こいつ強いぞ。なんなら私の存在に薄々感づいている可能性もある。いただきます。と両手を合わせ食べ始める2人。意外と押しに弱いのだな自分は。と押し切られた自分に情けなさを感じつつ食事を進める。そんな様子をみたのかまた新たな足音がこちらに近づいてくるのがわかった。これ以上はやめてくれ。そんな願いもむなしく。よかったら私もよろしいでしょうか?と声が聞こえた。観念して振り返ると、そこには見たことのない艦娘がいた。

 

 どことなく落ち着いた雰囲気の持ち主だ。鳳翔さん!ささこちらにっ!と赤城が隣の席の椅子をひいてウェルカム状態をつくる。もはや私の意思は関係のないところまで来てしまっている。ありがとうございます。と席にすわり食べ始める。なんとも品のある艦娘だ。カレーとてもおいしいですねとはにかんで声をかけてくる姿はとても絵になる。ああそうだな。と生返事をするとスプーンを進める。そしてそれぞれの皿が空になったころ、鳳翔が切り出してきた。

 

 

 「実はお昼に間宮さんとお話しする機会があり、その際になんでも酒保をつくられるようで。その際の酒保を管理する方は決めていらっしゃるのですか?」

 

 

 「いい話題をもってきてくれた。実はそのことを決めかねていてな。残念ながらこれといった候補がいない。いい者がいなければ人選は大淀に任せようかと思っている。酒なども扱うのでできればある程度上の者がいいとはおもっているのだ。駆逐の者が管理するとなった場合どうしてもな。不安が残るからな。誰かいい人材を知っているのか?」

 

 

 「でしたら私に任せてもらえないでしょうか?私は航空母艦ですが性能的には旧式で、赤城さんたちに到底及びません。ですが何かお役に立ちたいと思っていたところ、このようなお話を耳に挟んだので。」

 

 

 確かに鳳翔の雰囲気やまわりの態度をみるに、敬意を払われているのがわかる。そういったものが管理してくれるとなるとまず間違いないだろう。だが自分で旧式とは言っていたがそれでも空母だ。新兵の訓練などできることも結構あるのではないか。そう思い今自分が思っていたことを鳳翔に告げる。私の言葉に鳳翔はうなずきつつ言葉を返す。

 

 

 「もちろん新兵の訓練などは私も行っていく予定です。ですが艦隊の充実をはかっていくのであればいずれは私は不要になるでしょう。そうなった時も、私も皆を支えたいのです。どうかお願いします。」

 

 

 赤城もこの時ばかりはスプーンを止めて聞いていた。一体いつになったらおかわりを止めるんだお前は。悩んだ末に鳳翔の提案を受け入れ、酒保完成時にはお前に任せるというとありがとうございますと喜んでいた。そんなやりとりの様子を見ていた神通はこの会話の勢いを殺すまいといいタイミングで次の話題を繰り出す。

 

 

 「今後の水雷戦隊の運用方法はどういう方針なのでしょう?宜しければお聞かせいただきたいです。」

 

 

 きたか。きっとこいつは佐賀山提督の身になにか大きな変化があったことに確信をもっている。こちらを見つめる目は真剣そのものだ。さきほどの鳳翔との会話を聞いていた川内もこちらに身を乗り出して聞いている。こちらとしても本性をばらさなければ内容ぐらいはしゃべってもいいだろう。せっかくやる気になってくれている者たちの士気をくじくべきではない。

 

 

 「それについては長門や大淀、そして赤城と協議したのだが、私としては今後、水雷戦隊の作戦方針は大幅に切り替える予定だ。装備を整える段階はすでに進んでいるのが、お前たちも今日の海戦でわかっただろう。今後さらに充実させていく予定だ。そして囮作戦で戦果をあげるのではなく、水雷戦隊単体で戦果をあげられるように練度を高めていってもらう。それぞれの艦娘が装備に慣れ始めたら実践形式で演習を行い、その結果をフィードバックし実際の戦闘で役にたてることができるようにするのだ。戦艦や重巡に火力が劣るが、高速艦ならではの利点を生かし、強みを敵に押し付け、戦いを有利に進められるようにしていくぞ。そのためには、お前たちにしっかり水雷戦隊をまとめてもらう。ついてこい川内。神通。お前たちの力が必要だ。」

 

 

 この言葉を聞き終えた神通と川内の心の中には風が吹き始めていた。熱い。とても熱い風だ。自分達を信じ、任せ、何より必要としてくれている。囮ではない。純粋な戦力としてだ。失われた艦娘の誇りに火がつく。思わず2人はその場に直立し、はっ!と敬礼をしていた。そんな様子をみた提督は焦りすぎだな2人とも。もっと気楽にいてくれてかまわないんだぞ。と笑っていた。信じ、この方についていくこと。この選択が間違っていないことだけはたしかにわかった。

 

 




迷いを捨て、覚悟を決めた神通は強い。


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第17話

出したいキャラがいるのですがゲーム内で持っておらず、細かい描写に自信がありません。故にお話にだせない。悲しい。


 「わわっ、フカフカなのです!」

 

 

 支給された布団をひろげてダイブする響の真似をして布団に飛び込む電。もう~はしたないわよ電!と声のする方をみるとすでに飛び込んでいる雷の姿が見えた。雷ちゃんだって同じことしてるのです。と心の中でつっこむ。これはいいな。と響は気持ちいいのか、目を閉じてうとうととしている。確かに凄く気持ちがいい。今までは雑魚寝だったのにこんなにいい待遇をしてもらっていいのだろうか。布団の温かいぬくもりと不安な気持ちが同時に襲い掛かってくる。だが今日の司令官はいつもと違う雰囲気だった。上手くは言えないが、少なくともどこかギラギラとした様子ではなかった。明日もあんな感じだったらいいのに。と思いながら寝る支度をする。これとってもすごいわね!っと雷がエアコンの温度や風量をぴっぴっと押しまくっていた。そんなことをしたら壊れちゃうのです。と雷を止め、それぞれ布団に入り、眠りにつく。温かくて美味しい物を食べ、温かい布団で寝る。だがどんなに温かくなろうと、心の隙間は満たされなかった。4人で今日の日を迎えられていたら。3人の枕はしっとりと濡れていく。エアコンの風の音がやけに耳に残っていた。

 

 

 

 話し合いを終えて食堂を後にする。赤城はお部屋まで送り致します。とついてくる。ハメられたな。鳳翔と事前に打ち合わせをし、自然な形で話し合いの場を設けようとしていたのだろう。もっとも川内や神通の登場は予定外だったのか、少し焦っていたように見えたが。まぁ鳳翔に関しては酒保という場所を管理してもらう以上嫌でも定期的に連絡をとる必要があるからな。あの様子であれば私の秘密も漏らすことがないだろう。こちらとしても事情を分かってくれる者が多いほうがやりやすいのは確かだ。次回酒保についての話し合いの時に秘密を話すとするか。問題は急激に広まることによって混乱状態になることだ。それは避けねばならない。赤城に今日は君にやられたな。と声をかけると、なんのことでしょうか?とほほ笑みながら返事を返してきた。女の嘘と涙は許せとよく言うが、私はあいにく怪盗ではない。そんな度量の広い心の持ち主ではないのだ。だが今回の話し合いは実りもあったので許すとしよう。

 

 

 私の部屋の前につくとではまた明日もよろしく頼む。と声をかけドアノブに手をかける。提督っと私を呼び止めてきたので振り返ると、神妙な顔立ちでたたずんでいる赤城がいた。どうやら温かい眠りにはまだ早いらしい。どうした?と声をかけると、やがて彼女は話し出した。

 

 

 「提督のおかげで私たちは誇りを取り戻すことができそうです。感謝の念に堪えません。私は提督と執務室で初めて出会った日、いえ、先ほどまではきっと心のどこかで疑っていました。きっと口だけなのだろうと。この数日という短い期間ですが、提督の姿や言動、眼差しをみるとそれは私の間違いなのだと気づきました。今日の戦闘も決してむやみな命令をせず、帰投後もねぎらいの言葉をかけてくださりました。それに入渠施設や食堂、工廠まで。提督にとっては当たり前のことをしただけだと思うかもしれませんが、私たちにとってはそれだけで嬉しかったのです。私たち艦娘は元々は兵器でした。兵器とは道具、人が使って初めて機能するものです。ぞんざいに扱われることは何より悲しかった。ですが提督は私たちのことを認めてくださります。先ほどの食堂の会話でそう確信したのです。少しでも長く、大事にしてくれる。道具、いえ艦娘にとってこれ以上の冥利に尽きることはないのです。この感謝の気持ちをどうしても伝えたかったのです。引き留めてしまってすみませんでした。」

 

 

 深々と頭を下げてくる姿に私も胸が熱くなっていた。がらでもないが、年をとってくるとこういった生の感情に弱くなる。

 

 

 「大丈夫だ、君達の働きには感謝している。私もできるだけ君達の期待に応えられるように努力する。」

 

 

 ありがとうございます。と再び赤城が頭を下げる。このままではらちが明かないので今日はもう寝て戦闘の疲れを癒すように。と命令するとはっ!と敬礼をしている。が、まだ赤城は動かない。その様子を察してあげてまだ何か言いたいことがあるのだろう?と促すと赤城は口を開く。

 

 

 「実は・・・提督に会っていただきたい人、いえ、艦娘がいるのです。明日にでも会っていただけないでしょうか?」

 

 

 となにやら訳ありな感じの様子で話してきた。事情の説明が欲しいところだが、今日はもう遅い。明日にでもその艦娘から直接話を聞くとしよう。そう伝えると赤城は満足したのか、再びありがとうございます。と嬉しそうな表情を見せてくれた。いつ言い出すか悩んでいたのだろう。では明日執務室にその者ときてくれというと赤城と別れ、ドアの向こうから聞こえてくる眠りへの誘いに導かれ布団に潜り込むとやがて眠りについた。

 

 

 起床ラッパで目を覚ますと、身なりを整え、食堂に向かう。食堂の片隅で手早く食事をすますと、執務室に向かう。大淀と合流し、昨日の件を話す。鳳翔についてはいいと思います。とお墨付きを頂いたので、後に話し合うとしよう。次に赤城の件を話すと、はきはきと喋っていたのに突然黙り込み始めた。なにか問題でもやってきそうな展開だな。と思い理由を尋ねようとすると、執務室の扉を叩く音がする。赤城が入室を求めてきたので入れと促す。失礼します。と緊張した様子で入ってくるのでこちらも身構えてしまう。

 

 

 「昨日お話した例の艦娘を連れてきました。只今執務室の入口で待機してもらっています。入室を許可していただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

 かまわん、と快諾するとありがとうございますとお辞儀をし、執務室をでていく。ある程度声はもれているはずだ。何故入ってこない?疑問に思っていると、次の瞬間その理由を即座に理解できた。

 

 

 「失礼します。このような姿で再会となり、申し訳ありません。航空母艦、加賀。只今参りました。」

 

 

 これは確かに訳ありだな。私の目の前には加賀と名乗る女性が車椅子に乗ってあらわれた。




皆さんが誤字脱字をチェックして報告してくださるので、ついつい甘えてしまう自分がいます。自分自身のチェックが甘くなることはいけないことだと思いつつも、更新が捗るので非常に助かります。


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第18話

なんだか急激に読者の方が増えているような気がするのはきのせいでしょうか。


 赤城が不安そうな様子でこちらを見つめている。昨日のうちに軽くでも事情を聞いておけばよかったと後悔するはめになった。なにせこの加賀という艦娘が何故このような状態なったのかが全く分からない。ましてやどのような性格をしているのかもわからない。加賀は挨拶を終えるといかなる処分も受け入れます。といい目をつむっていた。完全に私が悪者の流れだ。困り果てていると赤城がすかさず前に踊りだし、頭を下げながら話し出した。

 

 

 「提督。この方は加賀、という名前の艦娘で私と同じ航空母艦、そして先の大戦で赤城と加賀は一航戦と呼ばれ、航空戦隊の主力を担っていました。つまり加賀さんは私の相方ともいうべき方なのです。改修された入渠施設と明石さんの工廠施設があれば必ずや加賀さんも再び海に出れるようになるはずです。加賀さんは私よりも知的な方です。提督の事情をきっと理解し、今後力になってくれるはずです。無礼を承知なのはわかっています。どうか、なにとぞ!なにとぞ!」

 

 

 赤城はいっぱいいっぱいになっており、冷静な様子ではななかった。なんとかして加賀を助けたいという気持ちが先走ってしまったのだろう。半ばこちらの秘密を加賀に話すような流れになっているのは気になるが、赤城と同等の戦力になると考えれば早急に和解し、力になってほしいところだ。和解といっても私が悪いことをしたわけではないのだが。

 

 

 「おちつけ赤城。君の誠意に免じて今回は加賀に私の秘密を打ち明けるとする。ただし今後はこのような真似はしないように。こちらも色々と考えたうえでの行動を行っていきたいのでな。昨日の鳳翔の件もそうだ。わかったな。」

 

 

 昨日のことがばれていたのに驚いたのか、赤城はすみません・・・小さくなって謝っていた。過ぎたことだもうよい。と声をかけると、ありがとうございます。と困ったような顔でお礼をいってきた。慣れない嘘をつくからこうなるのだ。汚い化かしあいは我々のような汚れた世界の大人に任せればいいのだ。そんなことをしり目に1人置いてけぼりにされた加賀は一体なにがどうなってるかさっぱりわからないと言いたげな表情をしていた。そりゃ私が同じ立場になっていてもそうなるだろうと少し同情しながら声をかける。

 

 

 「加賀と言ったな。ほかならぬ赤城が君のことをたいそう信じているみたいなので君に私の秘密を打ち明けることとする。だがこの話は私が許可するまで他言無用だ。もし情報が漏れた場合は解体処分とする。今なら引き返すことができるがどうするかね?」

 

 

 少しばかりの圧をかけて話かけると、私の想像とは裏腹に力強い返事が返ってきた。

 

 

 「私は死んだも同然のような存在です。解体処分を望んでお伺いしたのです。今更なにを恐れましょうか。提督のお話をお聞かせください。」

 

 

 流石歴戦の一航戦といったところか。迷いなく返事をしてきた。日々生死のはざまで戦ってきた彼女達にとって私の圧などなんともないのだろう。少しばかり悔しい気持ちになりつつもこれまでの経緯を話した。

 

 

 「なるほど。にわかには信じられませんが、赤城さんがこうして提督の前に私を連れてきたことを考えると嘘ではないのでしょう。数日前から急にこの鎮守府が騒がしくなったのはこれが原因だったのね。」

 

 

 「理解が早くて助かる。ちなみに君は何故その姿になったのかね?そして今までどこに姿を隠していたのだ?デリカシーのない質問かもしれないが、あいにく私は当事者ではないので君のいきさつを知らない。話すのはつらいかもしれないが、詳しく教えてほしい。」

 

 

 加賀はわかりました。と、了承して話し始めた。数か月前の海戦で戦艦たちとともに出撃し、敵を撃破したのはいいものの、負傷してしまったため、戦闘不可能になった。他の戦艦達は増援の対応のため、その場を離れて新たな戦線に向かうよう命令が下され、加賀は自身は1人自力で戻ってくるように命令が下される。だが足回りもやられているため速度はでない。そんなところを敵航空隊に見つかり、奇襲をうける。沈む覚悟をしていたところ、命令違反をして護衛に戻ってきた複数の駆逐艦の捨て身の攻撃で何とか退けることに成功。しかし敵の追撃はやまず、このままでは全滅するという判断を下した1人の駆逐艦が殿を申し出る。皆が反対したが、彼女は他の駆逐艦に加賀の護衛を託すと、1人反転し突撃していったのだ。そして戻ってくることはなかったという。命令違反をした駆逐艦たちは戦艦達の優しさだったのだろう。その時の命令違反を佐賀山に報告せず、ばれることはなかった。加賀を安全圏内まで送り届けると再び戦艦達と合流するために戻って行った。

 

 

 「あの時あの子がいなかったら私はここにいることができなかったでしょう。私はあの子によって生かされたのです。ですが私が負傷していなければきっとあの子も沈むことはなかった!!いっそ私が沈んでおけば・・・!!」

 

 

 そして帰投した加賀は明石に修理をうけるも傷が深く、艤装も直ることはなった。佐賀山は加賀はもうとっくに沈んだと思い込み、確認をしなかったみたいだ。しかし艤装が修復できない艦娘は解体が待っている。赤城と明石は加賀を密かに避難させ、使われなくなった人通りのない部屋でかくまっていたみたいだ。

 

 

 「なるほど。経緯はわかった。辛かっただろう。よく話してくれた。そして君はどうしたい?話の切り替えが早くて冷たいと感じるかもしれんが、君の意思を確認したい。解体を望むのか、それとも再び戦場に立てるのであれば立つつもりなのか。それを聞きたい。」

 

 

 「私は先ほど言った通り、解体される覚悟できました。ただしそれは佐賀山提督だった時のことです。真船提督の言う通り、入渠施設などを利用し再びこの足で立ち上がることができるのであれば、私は再び弓をとります。」

 

 

 加賀さん!!っと赤城が嬉しそうな顔をする。よし。こちらとしても航空戦力が増えるのはありがたい。明石に内線で事情を伝えると、何か伝えづらそうな感じの雰囲気を電話越しに感じた。どうした。いってみろ。とうながす。

 

 

 「加賀さんの艤装についてですが・・・最新の工廠をつかって修理をしても完全に治すことができなかったのです。申し訳ありません・・」

 

 

 赤城と笑顔と加賀の決意はもろくも崩れ去って消えていった。




暗雲立ち込める展開。


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第19話

プロローグ含め、20話まで来ることができました。読者の皆様に感謝です。


 直すことができないということはそれほど艤装の損傷がひどかったということか。こればかりはどうしようもない。明石に後でそちらに出向く。と内線を切り気持ちを一旦落ち着かせる。赤城はなんとか加賀を励まそうと入渠施設でひとまず体の古傷をいやしましょうと話題をそらし、気を使っているのがわかる。

 

 

 「ひとまずは赤城の言う通り入渠施設を利用して体を癒すといい。それから詳しいことを明石に説明してもらってもおそくはないだろう。赤城は加賀を入渠施設につれていってくれ。」

 

 

 かしこまりました。と敬礼をした後に加賀を連れて執務室から去って行った。残った大淀と加賀の対応について話す時間もほしい。簡単な執務をこなしつつ、大淀と今後の対応について情報交換をおこなう。

 

 

 「艤装が完全に直らないというのはどの程度のラインによるかですね。完全に、と言っていたので、ある程度は運用可能とは思いますが、以前のような活躍は期待できない可能性が高そうですね・・」

 

 

 「ああ。だがしかし完全復帰とまではいかなくても、パイロット育成の訓練や哨戒任務などできることは沢山ある。それに執務の補佐だって探していたところだ。道はいくらでもあるさ。だが問題は加賀自身のプライドだ。赤城も誇り高い部分がある。恐らく加賀もそうだろう。一航戦という看板がそうさせているのだろう。仮にダメだったときに、自分の現状と向き合い、納得できるかどうかだな。」

 

 

 そうですね。と大淀は神妙な面持ちで相槌をうつ。なんにせよ今は入渠施設に向かった赤城と加賀を待つとしよう。その間にできることをせねばな。いつもそばにいる妖精も今回ばかりは陽気な雰囲気は鳴りを潜め、悲しそうな顔をしている。大丈夫さ。と頭を撫でてあげるも、いつものようにご機嫌になることはなかった姿をみて、私の不安な心は晴れることがなかった。

 

 

 「ごめんなさいね。赤城さん。気を使ってもらって。」

 

 

 「いえ!そんなことないですよ。後で詳しい話を提督と一緒に明石さんに聞きにいきましょう。まずは体の方を癒してから。ですよ。」

 

 

 赤城が加賀を抱えて風呂につかっていく。艦娘はある程度この特別な風呂に浸かってしばらくすると体の傷を癒すことができる。私がいない間にこんな立派な施設ができていたのね。赤城さんが言っていた通り、これは気持ちのいいものだわ。この時ばかりは先ほどの悪い知らせのことを忘れ、ゆっくりすることができた。それから2人でいろいろな話をした。新しい艦載機を提督が配備してくれたこと。食堂の他に酒保が近日できること。甘味処もできること。部屋も新しくなっていること。話題はつきなかった。秘密にかくまわれていたので、長々と毎日会話ができなかったのだろう。昼間の入渠という貸し切り状態のおかげもあってか、この時の2人は会話を純粋に楽しめた。艦娘という使命を忘れて。

 

 

 少しばかりの時間がたち、そろそろいいだろうと赤城が加賀に上がりましょう。と声をかける。そう言って赤城は立ち上がり、浴場からでようとすると、後ろから赤城を呼び止める声がする。どうしたんですか?加賀さん。振り返ると背を向けたまま動かない加賀の姿があった。

 

 

 「ごめんなさい。赤城さん。私はもう力になれそうにないわ。」

 

 

 背中越しから聞こえた少し震えた声が聞こえた。その時の私はただただ立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

 「何っ!?入渠しても加賀の体は元にもどらなかったというのか!!」

 

 

 はい。申し訳ありません。と赤城は泣きながら返事をする。艤装だけでなく、体まで治らないのは想定外だった。一体どういうことなのか。加賀はただただ申し訳ありません。と力なくうつむいていた。適切な治療が遅れたことが今回の原因となったのやもしれない。人間だって骨折したときに適切な治療を行わなければ正常な位置にくっつかないまま治り、痛みが後遺症となって残ってしまうパターンもあるという。恐らくその類だろう。正常ではない状態で傷が癒えてしまい、それを体がすでに正常状態だと受け入れてしまってるので手の施しようがないのだ。佐賀山がもっと早く治療を行っていれば。だが後悔したところで何も始まらない。私がしっかりしないでどうするのだ。

 

 

 「そうか・・・艤装はある程度直ったという。確認のために工廠に向かうとするぞ。泣いている暇はない。仮に艦娘として戦場に立てなくなったとしても、君には任せたい仕事がいくつかある。そう気を落とすな。というのは気安い言葉かもしれんが、私は君の力を必要としているのは間違いない。では向かうとするぞ。」

 

 

 そう声をかけ、立ち上がり執務室を皆で後にする。加賀はありがとうございます。提督。と感謝の言葉を述べていた。心なしか調子を取り戻した様子でほっとした。なにも漫画のようにすべてが上手くいくわけではない。ありのままの現実を受け止め、のりこえていくしかないのだ。

 

 

 「お待ちしておりました。提督。」

 

 

 工廠につくと、早速明石に加賀の艤装の場所に案内された。艤装も隠していたようで、私がこの鎮守府にやってきた時に引っ張り出し、修理を行っていたのだという。だが結果は先ほどの通りだ。そして明石から説明を受ける。

 

 

 「艤装についてですが、運用自体は可能となっています。ですが、搭載できる艦載機の減少と速度の低下、この二つはどうしても避けることができません。当時の損傷がひどく、この状態にまでしか持ってくることしかできませんでした。申し訳ありません。」

 

 

 そんなことない。よくやってくれた。とねぎらい、加賀に艤装をつけてみるか?と声をかける。だが本人がたちあがることができないのに果たしてつけることができるのだろうか?と疑問に思いつつも、返ってきた返事はやります。の一言だった。加賀はなんとかまわりの者に手を貸してもらいながら立ち上がると、機械によって艤装を取り付けられていく。そして完全に装着して少ししてから赤城が支えを外すとそこには出撃所の水面に自らの足で立つ加賀の姿だった。赤城は感極まって泣いている。立っている。自分の力だけで立っているのだ。小さな声でやりました。と加賀はつぶやくと、私の方を向いて深々とお辞儀をしていた。気にするな。と声をかけ、試しに湾の入り口で調子を確認してきたらどうだ。と提案するとうれしそうにはいっ。と笑顔で返事をしていた。赤城も私も付き添いたいので艤装の装着の許可を。と言ってきたのでもちろんだ。と了承すると、赤城はお礼をいうと早速艤装を装着していた。緊急出撃要請をうけたパイロット妖精達が何事かとわらわらと現れると。見慣れない者が1人増えていることに気が付いた。そして口々に喋りだす。

 

 

 『か・・艦長!!!艦長がいるぞ!どういうことだ?亡くなったはずなのでは?本当に艦長なんですかい!?』

 

 

 『見間違えるはずがねぇ!理由はどうあれ戻ってきたんだ!よくぞご無事で・・!』

 

 

 「色々あったけど、こうして再び戦場に立つことができそうです。今まで秘密にしていてごめんなさいね。貴方たち。」

 

 

 『いえ!めっそうもありません。こうして艦長が戻ってきてくれただけで・・・!!我々加賀隊はこれ以上の何を望みましょうや!』

 

 

 

 加賀隊のパイロットたちは自分達の艦長であり、母艦ともいえる加賀の帰還に沸いていた。なかには男泣きをしているものもいる。感動の再会とはまさにこのことだ。しかしずっとわんわんと泣いていては何も始まらない。私は咳払いをすると手をパンパンと叩き、この場を一旦仕切りなおそうと音頭をとる。

 

 

 「感動の再会もいいが、今は後にしてくれ。加賀が今から復帰のために走行テストや艦載機の発着訓練を行う。故に君たちを呼んでもらったのだ。ただし加賀の艤装は完全に修復できなかったので搭載できる艦載機の数に限りがあるのと速度が以前よりもでないようになっている。そのことを踏まえたうえで再び加賀と戦いたいというものは乗り込んでくれ。加賀隊のパイロット達は赤城隊の者たちから聞いてはいると思うが、艦載機は以前の旧式から彗星など新型にきりかわっているためその操作訓練もかねるように。私からは以上だ。」

 

 

 そう言い切ると同時に加賀隊の者は誰一人欠けることなく再びともに戦います!と志願していた。加賀はありがとうあなたたち。というとほほ笑んでいる。だが搭載できる艦載機の数は限りがある。どうするのかという問いかけに対して妖精達は自分がたとえ操縦できなくても加賀に乗り込み戦うと言っていた。皆加賀を慕っているのがわかる。よい部下に恵まれたな。と加賀に声をかけると、私もよい上司にめぐりあえたようです。と返してきた。私はどうやら美人からのお世辞になれていないらしい。恥ずかしくなり帽子を深々と被りなおすと、妖精達に乗船命令をだすと妖精達は艦載機とともに光となって腰元の矢筒に収まっていく。赤城隊も準備を終えると2人は並んで訓練海域に出撃していった。あの様子をみるに彼女に執務の補佐をさせるのは到底無理な話だったな。と思いながら工廠をあとにし執務に戻った。

 




全盛期までとはいえないが復帰を果たした加賀。最近ついつい文字数が多くなってしまい、更新がおくれてしまいそうになります。


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第20話

更新速度で休みの日ばれてしまう説。


『畜生早く戻ってこいってんだ!ぼやぼやしてると俺が乗るころには昼飯に間に合わねぇぜ!』

 

 

 そうぼやきながら空を飛ぶ新型を眺める加賀艦内に取り残されたパイロット妖精達。あの時パーを出しとけばよかった。と自分の運の無さを後悔しつつも、先に乗り込んだ妖精の感想を無線越しに聞く。案の定こいつはいい。乗ってみればわかる。と具体的な感想が返ってこない。新型に夢中になっているのだろう。碌なやつがいやしねぇ。とぼやいていると予定時間を大幅にオーバーした先陣組が慣れた手つきで甲板に着陸し、艦載機から降りてくる。悪びれた様子がまったくないのが実に腹立たしい。

 

 

 『てめぇ予定時間よりかなりすぎてるじゃねぇか!艦載機の数がないから使いまわしで交代して乗るって事前に決まってただろうが!』

 

 

 そう文句を言いよると、悪い悪い、お詫びに今度酒保ができたら甘酒奢ってやるからさ。とりあえず乗って見な。おれの気持ちがきっとわかるぜ。と言われむむむ、と引き下がる。まぁそれならいいだろう。と思いながら燃料補給を済ませた直後に乗り込んでいく。現金なやつ。と呆れながら前任のパイロットは発艦していった紫電改二を見送るのだった。

 

 

 こいつはいい。確かに夢中になるのもわかる。撃たれてみないことにはわからないが、燃料タンクにも防弾タンクを装備しているらしい。相手の装備にもよるが一発当たってお釈迦になるってことはなさそうだ。もっとも被弾するつもりはないがな。速度、上昇力も零と比べて申し分ない。あとは馴れるのみだな。20ミリも4丁に追加されており、これで深海棲艦の野郎どもをぶちぬくことができるぜ。一通りの操作をこなしてもう一度。と繰り返していく。提督が変わってから燃料弾薬関係は出し惜しみする必要がなくなったのはありがたい。訓練に励み、後は己の腕をあげるだけだ。無線の会話では隊長はまだ乗っているのかとっくに交代の時間を過ぎているのにもかかわらず、降りてくる気配がないようで、隊長そろそろおりきててくださいよ~!!という声が聞こえる。航空隊の隊長として機体のことを誰より熟知しなければならないのだ。許せ。という上官の権限をフルに活用してひたすら訓練をしているようだった。そんなぁ~っと残念そうな待ち組の声が容易に想像できてニヤけてしまうも、限られた時間での訓練なのだ。誰よりもモノにせねば。と気を引き締めていくのだった。

 

 

 「やはり足回りに少し不安が残るわ。流石に以前のようにはいかないものね。」

 

 

 赤城に感想をきかれると今感じていることを素直に話す。思った通りに体が動かないことに少しのいら立ちを覚えるも、動けるようになっただけましだ、じきになれると自分に言い聞かせ、艦載機のパイロット達の反応も聞いていく。問題は速度だ。20ノットを超える速度がでないのだ。それに旋回速度も鈍っている。これでは艦隊の中心として運用されることはないだろうと残念な気持ちになる。赤城さんの隣で戦うことは叶わないか。残念だけど諦めましょう。少しずつ自分にできることを。そう思いながら訓練を終え、港に帰投した。

 

 

 執務を大淀とともに行っていると、扉をノックする音が聞こえ、入るように促すと、車椅子の加賀と赤城がはいってきた。調子の具合を聞くと、どうやら主力艦隊としてはついていけなさそうとのむねを伝えられた。だがもともと空母は最前線で戦うものではない。どうにでもなるさと励ましつつ、少し会話をしていると昼時になっているのに気づく。執務を一旦切り上げ食事にありつこうとするが、加賀が食堂に現れた時に恐らく質問攻めにあうだろう。その際に私がいたら気まずくなるなと想像し、私を残していくように命令をだした。案の定赤城や大淀は提督ご一緒に。と誘ってくるが今回ばかりは遠慮させてもらう。と丁重に断った。内線で厨房の間宮に連絡し、時間をずらしていく予定なので私の分を残しておいてくれと伝え、少し仮眠をするかと部屋に戻る。気を使ってくれたのか妖精も私から離れようとせず、私の近くでうたた寝をはじめていた。可愛いやつだ。と様子を見ていると、いつの間にやら私の意識はおちていった。

 

 

 提督と一緒に食事ができないことで残念そうな顔をしている赤城とは裏腹に、加賀は内心楽しみにしていた。大淀は気を使ってくれたのか、たまには水入らずで食事を楽しんでくださいね。と明石の工廠にむかっていった。赤城が車椅子を押してくれながら食堂に向かう途中で想像が止まらない。入渠中に赤城が食事のことをあまりに事細かく話してくるものだからいやがおうにも期待してしまうのだ。赤城さんにはきっとグルメリポーターなる仕事が似合うわね。クスっと笑いながら会話していると、まもなく食堂についた瞬間、今日は何がきたんだ。と皆の注目をあびる。少し恥ずかしいがしょうけどないわね。開き直ると赤城さんに早速並びましょうと声をかけ列に並ぶように促す。あちらこちらから加賀さんだ。生きていたんだ!という声やあの人は一体誰なんだ?という顔をしている者もいる。私がいなくなって数カ月たっているのだから知らない子が増えても当然か。と考えていると加賀さん!と声をかけて近寄ってくる者たちがいた。視線をむけると数カ月しかたっていないというのにひどく懐かしい気持ちになっている自分がいた。

 

 

 「加賀さん・・・生きていたのです?・・よかった・・本当によかったのです!」

 

 

 半泣きになりながら自分に抱き着くとこらえきれなくなったのか、わんわんと泣き始めた電。その様子を眺めてあやす雷。信じられないね。と驚きながらもどうやら崩壊一歩手前で踏みとどまった様子の響がそれぞれ加賀を取り囲んでいた。

 

 

 「あの時は本当にごめんなさい。貴方たちに合わせる顔がないわ。でも貴方たちがいなければ私はこうしてここにいることができなったわ。あの時のお礼がやっといえるわ。ありがとう。」

 

 

 「そんなことないのです!!電は・・!加賀さんが無事で本当にうれしいのです!暁ちゃんがいなくなって加賀さんもいなくなって私・・私・・・!」

 

 

 「そうだ。加賀さんがこうして帰ってこれていたのなら暁もきっと喜んでくれてるよ。」

 

 

 感極まってもはや喋れなくなっている電とそれに続いてフォローをしてくれる響。雷もきっとそうよ!と健気に励ましてくれる。3人を抱きしめありがとうというと、続きのお話は食べながらしましょ。と赤城がとりまとめ、列に並びなおす。そして自分の番がまわってきてお盆に食欲をそそる香りをはなつ物体を器にもらい、早く食べましょう、と赤城に席に着くように促す。一航戦の血が騒いでいるのだ。これは戦いになる。間もなく響たちを含め5人で席につくと両手をあわせ、箸を手に取った。茶色い楕円形の物体に黒く、少しだけ濃度がありそうな艶めかしい液体がかかっている。ほかほかと白ご飯とその物体から放たれている湯気が自分を惑わせる。つけあわせのコーンサラダという瑞々しい野菜も色鮮やかで美しい。そしてさらにコーンスープというほのかに甘い香りを漂わせてくるこの液体もなかなか手ごわそうだ。どれから手を付けるか迷っていると。今日のご飯もおいしいのです!と目を少し腫らした電がおいしそうに食べていた。負けていられないと覚悟を決め、謎の物体に箸をいれ縦にわる。こぼれるのではないかという勢いで油が溢れ、ツツーっと皿にこぼれていったかと思うと、気づかないうちにその物体は口に運ばれていた。あぁ。これは抗えない。そこからの箸のスピードは止まらなかった。濃厚なソースと呼ばれるものを絡めたこの食べ物はどうやら私の好物第一号ね。と思いながら目の前の皿が少しずつ寂しくなっていく。サラダもシャキシャキとしておいしく、スープも想像していた味よりもまろやかでほっとするような味だった。雷によるとこの料理ははんばーぐというものらしい。メニュー表にのっていたのだがその存在をしったのはたった今なのだ。無理もない。お腹いっぱいなのです。と満足そうにお腹をさする電をしり目に満たされていない自分がいる。意を決して赤城に神妙な面立ちで問いかける。

 

 

 「ところで赤城さん。これはおかわりすることはできないのですか?」

 

 

 「いえ、提督の計らいにより、おかわりは自由となっていますよ!」

 

 

 一航戦の戦いは始まったばかりだ。




先生の次回作にご期待ください


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第21話

矛盾がないよう丁寧に。


 時間をずらしてやってきた食堂は寂しいもので食堂の入り口からでも間宮たちが食器を洗う音がカチャカチャと聞こえてくる。すまない遅れた。と声をかけると、お疲れ様です!と元気な声で食事を用意してくれた。宜しければご一緒してもよろしいですか?と間宮が声をかけてくる。かまわないぞ。と返事を返すと業務用の自動洗浄機の音を背景に自分たちの食事をもってきた間宮と伊良湖。伊良湖は緊張している様子か、本当にいいんですか?間宮さん?と小声で間宮に尋ねていた。この静寂のなかだと丸聞こえだぞ伊良湖。だが伊良湖には私の話を通してなかったことを思い出すとどうすべきか悩むところだ。向かいの席に着席した2人はいただきます。と食事をとり始めた。食べながら甘味処のメニューについて話してくる。きっとこのことを相談したかったのだろう。私も世話になることになると思うので相談にのることにした。

 

 

 「メニューについてなのですが、手始めに洋菓子と和菓子を数種類つくっていこうと思います。鳳翔さんに酒保をまかせるという情報も本人からききました。私たちがつくったお菓子を酒保で販売していくという流れでよろしいですか?」

 

 

 「まぁそれが無難だろうな。日々の食事の準備もあるだろうし、菓子作りだけに専念するわけにもいくまい。ある程度慣れてきて時間に余裕ができてきたらお前たちがつくりたいものを作って行けばいいさ。ただしあまりに金がかかるものはやめてくれよ。さっき聞いた話だと赤城だけでなく加賀の食事の量も結構な量みたいだな。これではいくつ米俵があっても足りん。」

 

 

 うふふっとはにかみながら口に手を添え笑っている間宮。割と冗談じゃない量を消費していく可能性になっているだけに心配だ。まぁいざとなれば大淀に頼めばなんとかなるだろう。すでに楽をしようとしている自分に呆れつつ、話を進めようと思ったが、せっかくなら鳳翔もよんで話を詰めるとするか。食事の後に2人とも時間あるか尋ねると、夕ご飯の準備にはまだ早いので大丈夫だと返ってきた。間宮と伊良湖に少ししたら執務室にくるように指示をだし、おいしかった御馳走様と食器を返却スペースにもっていき、食堂を後にした。執務室に戻ると大淀がお帰りなさいと声をかけてくれる。不思議と懐かしい気持ちになりつつ、戻った。と返事をし、椅子にすわり大淀に話しかける。

 

 

 「実は先ほど間宮と伊良湖3人で話をしてな。酒保にあいつら2人の甘味をおくことになった。数は少ないがおいおい増やしていく予定だ。となると鳳翔もまじえてこの後執務室で話し合おうと思う。君も会議に参加してくれ。」

 

 

 「了解しました。鳳翔さんと伊良湖ちゃんには提督の秘密を打ち明けるので?」

 

 

 「いずれは艦隊の皆に休みを定期的に取ってもらうつもりでいる。そうなると間宮がいない日に伊良湖が1人で食堂を切り盛りする日も出てくるだろう。その時に何か問題があったり疑問が生まれた時に、伊良湖側から私に声をかけづらい雰囲気があればそこでコミュニケーションエラーが出る可能性がある。それを防ぐためにも今回話すことにする。この際だ。工廠組にも伝えるとする。明石に連絡を入れ、夕張もつれて参加してもらうように伝えろ。そして改めてこの鎮守府が解体されないようにするにはどうしたらいいか考える必要がある。私の秘密を知っている者を集め、知恵を貸してもらうとするか。」

 

 

流石に人数が多いかと思ったが意見が少ないよりは多いほうがいいだろう。それらを吟味し、ブラッシュアップしていけばいいのだ。内線を工廠につなぐと、少ししたら会議をするので夕張もろとも参加するように伝えた。長門と赤城、加賀にも連絡を頼むといい準備をする。茶菓子の用意をしているとふらふらといつものように妖精達が現れた。甘い物には目がないみたいだ。だが今回は我慢するように。というとぶーぶーと不満を漏らしていた。今から話すのは甘味のことについてなのだ。大人しくしていれば話が早くまとまってお前達のもとに本格的な甘味が届くのが早くなるぞ。というとおぉ~っと歓声を上げながら我慢する雰囲気になっていた。ちょろいやつらだ。いい子だ。と頭をなでて用意がおわったころに続々と集まってきた。これだけ執務室にいればなかなか壮観だ。皆が着席したのを見届けると話を切り出す。まずはいつも通りに、私の秘密を他言しないように念を押すと秘密を打ち明ける。鳳翔は何となく理解していたのだろう。とくに驚きもせずなるほど。と納得していた様子だった。夕張と伊良湖はとても驚いていた。明石この話ほんと?とひそひそと確認をとっている。なんだがドッキリのネタばらしをしている気持ちになる。慣れないとは思うがこれからはもっと気楽にしてほしい。もちろん公の場ではしっかり頼むぞ。と声をかけると3人は了解しました。と気を引き締めていた。それから話を進めていく。甘味処に少しずつだが、甘味をおくことになり、それを間もなく完成する酒保で販売という形で取り扱うことだ。数人の艦娘が反応を示したのをスルーしつつ入荷していくものの種類について話し合う。酒やスナック菓子、雑誌などちょっとしたコンビニみたいな感じになりそうだ。販売、というワードが気になったのか質問がとんでくる。

 

 

 「提督よ。菓子は販売、と言っていたが我々には手持ちの金がない。どうやって甘味を購入すればよいのだ?」

 

 

 必ず食いついてくると思った。長門が率先して切り込んでくる。一航戦の2人はうんうんと首を縦にふっている。こいつらの食に対する団結は一体何なんだ。ツッコミを入れつつ、今まで艦娘あてに支給されていた金があること、それらの配布を再開することを伝えると、っし!と小さいガッツポーズを赤城がしていた。めちゃくちゃ嬉しいんだろうな。なるべく多くの艦娘にいきわたるよう買い占めは控えるようにいうと少し悲しそうな返事をしてきた。買い占めるつもりだったのか。大人げないぞ。金が給付されると聞いた工廠組はひそひそと話し合っており、内容がまとまったのか夕張が声をあげる。

 

 

 「例えば酒保に自分が欲しい物がなかった場合はどうしたらいいのでしょうか?」

 

 

 「なかった場合はカタログを酒保に置いておくからそれで発注してもらって買うという流れだな。つまり予約制ってことだ。あと艦隊運用に余裕がでてきたら当番制にして外出許可も出すようにする予定だ。もちろんある程度規制はかけさせてもらうがな。」

 

 

 そう伝えた途端やったーと喜んでいた。〇ークマンってところ、いってみたいとおもっていたのよねー!と笑顔で明石と話している。なかなかに変わったやつだ。だが人それぞれだ。何を趣味にしてもらってもかまわんさ。そして細々とした話をはさんだ後についに本題にはいる。




個人的に工廠組は人の懐に飛び込むのが上手そうな感じがします。人懐っこいというかなんというか。


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第22話

もっと文章について勉強する必要があるなぁと思う今日この頃。書くからには読みやすい文章をかけるようになりたいですね。


夕食の準備がある厨房組と、まもなく訓練から帰ってくる水雷戦隊の艤装のメンテ準備がある工廠組は部屋を後にし、残された5人と私で話し合う。話題はこの鎮守府をどうやって存続させるかについてだ。

 

 

 「君たちの中には聞いたことがある者もいるかも知れんが、念のためもう一度説明させてもらう。この鎮守府が解体される可能性があることについてだ。解体理由については目立った戦果があがらず、艦娘の存在を疑問視する声が本部で上がってきている。割に合わないのであれば予算を他に回すべきとの意見もちらほらとな。これを私はどうしても避けたいと思っている。解決案を君たちとともに話し合い、まとめていきたい。」

 

 

 そんなことになっていたのですね。と鳳翔が驚く、加賀も情報が遮断された生活を送っていたのだから知っているよしもないだろう。さらに私は話を続ける。

 

 

 「今までは損害の上に戦果を上げてはいたが、前回の海戦で私は君たちの力の可能性を感じた。このままの調子で被害なく戦果をあげていけば、本部側としてもこの艦隊の有用性に気づくはずだ。本部で解体が決定する前に一定の戦果をあげて存続を認めてもらうようにする。と同時に、佐賀山の人格が復活する可能性への備えとして佐賀山時代の不正をまとめて報告しようと思っている。」

 

 

 「待て、提督よ。本部側は提督の人格が入れ替わっていることは知らないのだろう?それだと提督がしょっぴかれるだけになってしまうぞ。そんなことになれば、提督の言っていた鎮守府の存続どころか、提督自身の身が危うくなってしまう。私は真船洋太郎と言う人間についていくと誓ったのだ。無茶をしないでくれ。」

 

 

 「長門の意見はもっともだ。もちろんそうなる可能性はある。ゆえに君たちの力が必要だ。プランはこうだ。今から一定期間、多大な戦果をあげる。そうすると本部も当然なにがあったのかと思い、こちらに連絡を直接とってくるだろう。その時に私の正体を明かす。と同時に中身が入れ替わった信憑性を上げるために、佐賀山時代の不正を報告する。今私が考えている案はこんな感じだ。何か意見はあるか?」

 

 

 「佐賀山提督時代はよろしくなかったけれども、真船提督に変わった途端、戦果があがるようになったので、このまま存続を認めてほしい。ということですね。ですがその案だと中身が入れ替わったことを報告しなくてもいいような気はしますが?」

 

 

 鳳翔が簡潔にまとめて話してくれる。かみ砕いて要約してくれるので非常にありがたい。

 

 

 「確かに鳳翔の言う通りだ。だが佐賀山の記憶が私にはない以上、佐賀山の本部との交友関係がわからぬ。いずれぼろが出てしまうだろう。そうなった時に色々と問題がでてきては困る。それに佐賀山の復活対策も兼ねているからな。復活したときのことを考えて、本部とのパイプをつないでおき、もしもの時に対処できるようにしたいという思惑がある。パイプづくりも狙いの一つだ。」

 

 

 「提督の考えはわかりました。ですがその案は綱渡りをしているのも同然です。本部の人間が手のひらを返し、真船のことなど知らぬ存ぜぬ、で押し切られてしまえば世間には、佐賀山が不正を働いた、という事実だけが残り、提督が佐賀山として処罰を受ける可能性があります。弱みを握られたままの状態になってしまうのはよろしくないかと。」

 

 

 赤城はこちらの身を案じてなにか別の案はないでしょうか。と代案を模索していた。とてもありがたいことだ。だが私としては最優先でこの子達を守ってあげたい。私のことなどどうでもいいのだ。

 

 

 「だが私の存在を認めてもらいつつ、鎮守府存続、佐賀山対策を行うとなればこれが現状ベストだと思う。唯一の難点は信頼できる上司を見極めなくてはならないことだな。佐賀山が復活したときに直接抑えられ、更迭できるぐらい権限が強く、なおかつ君たちの存在に理解を示してくれる人だ。今は戦闘詳報の提出のみで済んでいるので、そのあいだにこちらも動いていく必要がある。まずは先ほど言った通り、戦果をあげていくことだ。よろしく頼むぞ。」

 

 

 提督。貴方という人は。加賀がそう呟いてこちらを見つめている。まぁ仕方ないだろう。これ以上の私のおつむではこれが精いっぱいだ。もっといい案もあるかもしれないが、艦娘達が危険な目にあう必要はない。大淀に知っている限りの交友関係と本部の人間の情報をあつめてもらうよう指示をだすと茶菓子の封を開ける。堅苦しいことは苦手なのだ。餌やりでもやって癒されるとするか。話し合いが終わったのを察して妖精達がわらわらと集まりだす。よしよしよく我慢できてたな。えらいぞ。そう呟きながらお菓子を食べやすい大きさにわけ、与えていく。妖精がみえるというのもアドバンテージの一つだな。しかし妖精は他の人間に見えないらしいので証明は難しそうだ。本部の人間と話し合うとなった時に、厨房や工廠の様子を見てもらうのもいいかもしれない。直接的には証明にならないかもしれないが、こういったことも指示ができるとわかってもらえば有利に話し合いを進めることができるかもしれない。考えることは山積みだ。

 

 

 「わかりました。あの環境から救っていただいた私を含め、提督の身を案じている者が少なくないことだけは理解いただけるかしら。決して無茶をしないでください。」

 

 

 加賀は、はぁっとため息をついた後に言葉を続けた。わかっているさ。大丈夫だよ。と返事を返す。わかっているのかわかっていないんだか。そんな顔をしながら赤城や鳳翔とともに部屋を出ていった。すこしずつ砕けた感じになってきているのをみるに、心に余裕がでてきているのだろう。この調子で自分らしさ、が戻ってくれればと願いつつ、餌を与える。やがてお菓子がなくなったことに残念がり、しゅんっとなっている妖精達。また今度な。と撫でてやると多少機嫌はなおったみたいだ。

 

 

 「提督よ。くれぐれも無茶をするなよ。いつでも私たちを頼ってくれ。後、空母組の人数は増えてきているのに戦艦組は会議に増やしてくれないのか?提督さえよければ陸奥も今度から連れてくるぞ。陸奥はな。-----」

 

 

 そういって陸奥と呼ばれる艦娘のセールストークをうけ、わかったわかったといい流す。むっとした顔になり、約束だぞ。と言い残し去っていく。今回の会議では、赤城には加賀という存在がいるが、長門にはいなかった。気心しれる者が隣にいないのが少し寂しかったのだろう。意外と乙女チックなところがある可愛いやつだな。大淀が私と長門が会話中に集めてくれていたのか、本部の人間の資料を差し出してくれた。仕事が早くて助かる。一つ一つ吟味しながら、こちら側から接触する人間を慎重に絞っていく。最悪私の命がかかっているのだからな。しっかり選ばねば。

 

 時間がたち、鎮守府が少しずつ騒がしくなっていく。訓練から帰ってきた者たちが遠くではしゃいでいるのだろう。間もなく川内と神通が今日の訓練内容と消費した燃料、弾薬などの報告をしてくると執務室を去っていった。いつのまにか差し込んできた夕日を眺め、書類の整理をする。今日は終わろうか。大淀に声をかける。今日の晩御飯も楽しみだ。執務室を後にし、部屋に戻る。今日こそは1人でご飯を、と考えていた時に部屋をノックする音が聞こえる。提督、長門だ。陸奥もつれてきた。一緒に食事をどうか?とドア越しに聞こえた声に、今晩も赤城の時みたいな二の舞になるのか。と半ばあきらめつつ、返事を返す。では食堂に向かうとするか。美女からのディナーの誘いは断れないからな。




以外に押しに弱い真船。


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第23話

文章の記載もれに気が付き、12:09で投稿した22話の内容を12:44分づけですこし更新しています。気が付かず申し訳ありません。


 「今日の訓練きつかったねぇ~。私倒れるかと思っちゃったよ。」

 

 

 入渠施設で汗を流し、皆で風呂に浸かりながら今日の訓練内容について振り返っていた。吹雪の言葉を皮切りに皆次々に疲れただのやばかったっぽいだの意見を言っていた。

 

 確かに今日の訓練はすごかった。初めての本格的な訓練ということで神通や川内も多少気合いが入っていたのもあるだろうが、それでも想像以上のものだった。あの優しい神通が鬼のような厳しさで指導してくるので思わず別人ではないかと思ったくらいだ。演習用の近海で敵を想定した的を浮かべ撃ち抜く訓練をしたり、陣形変更の訓練をしたりと大忙しだった。射撃を外しようものならもっと訓練が必要ですね。とにっこり微笑みながら訓練量を増やしていく。あまりの内容の過酷さにお昼ご飯がでてきてしまいそうになったほどだ。明日からこんな訓練が続くのか。と思うとぶるぶると身の毛がよだつ思いだ。お風呂につかっているのに震えるなんておかしな話だ。と思いつつ吹雪は自分の出した話題でテンションがさがりつつある一行に申し訳なさを感じていると、その空気を読んだのか、あるいは深く考えていないのか夕立が晩御飯のことについて語りだした。

 

 風呂に入る前に食堂のメニューを確認に行ったところ、今日はちゃんぽん、というものらしい。すごいいい匂いがしたっぽいと興奮気味に話していた。訓練はきついがその分ご飯もおいしくなった。なにより布団でぐっすりと眠ることができる。前よりもずっとずっと1日が充実していてあっという間だ。皆で楽しみだねとわいわいしながら風呂を後にし、食堂に向かう。食堂につくと、夕立の言う通り、とてもいい匂いだ。もっと強くなるためにはご飯もいっぱいたべなきゃね!と大盛りへの大義名分を掲げ、注文していくのであった。

 

 

 「長門から少しだけ話を伺っております。まるで人格が入れ替わったようだとか。私もご飯をご一緒してもよろしいのでしょうか?」

 

 

 一方そのころ、真船は陸奥と呼ばれる長門と同じぐらいの背丈をした茶色のショートカットの女性と話していた。

 

 このやりとりも飽きてきたな。長門の姉妹艦であれば話しても問題なかろう。しかし自分の秘密のセキュリティ管理はガバガバだ。と思いつつ、長門と陸奥を自分の部屋に招き入れ、陸奥に事情を話す。そういうことだったのね。と陸奥が納得した様子でうなずいていた。

 

 

 「道理で長門がここ数日元気になったと思っていたのよね。それに提督と話すときも前よりフランクになっていたし。あっ、私もこの話言葉で大丈夫かしら?」

 

 

 とフレンドリーな感じで話しかけてきた。長門よりも落ち着いた雰囲気だ。お姉さんといった感じか。かまわんよ。と返事をすると、ありがとっ。とウインクをしながらお礼をいってくる。なかなか茶目っ気もある感じだな。だが公の場ではしっかりと頼むぞ、と念を押すとわかっているわ。しっかり場をわきまえないとね。と理解してくれた。TPOはわきまえてくれてるみたいで安心した。では向かうとするか、と仕切りなおすと部屋を後にし、食堂に向かう。

 

 食堂につくと、メニューを確認し列に並ぶ。相変わらず私がくると、少しばかりピリッとした空気になるが、そこは我慢してもらおう。私だってお腹は減るのだ。早く食べて去っていくので許せ。と心の中で謝ると、久しぶりのちゃんぽんに心躍らせるのであった。配膳を受け取りいつもの席につくと、長門と陸奥も私に続いて着席した。いただきます。の声が重なると3人で麺と野菜を同時に口に運び舌鼓をうつ。うん。今日もおいしい。

 

 

 「提督のおかげでこうやっておいしい食事をとることができて感謝しているわ。ありがと。 」

 

 

 食べながら陸奥がお礼を言ってくる。グッとくるシチュエーションに少しだけドキドキしつつも、礼なら間宮や伊良湖に言ってやれと返事を返す。色気ある女性にこういった風にいわれるのはやはり慣れないものだ。どぎまぎがばれないようつとめていると長門が私も感謝しているぞ提督よ。と長門も後に続いた。気にするな。と声をかけ、少しずつ他愛もない会話を続けることで長門と陸奥の性格が少しずつ分かり、打ち解けてきたような気がした。やがて食べ終わると、長門がおかわりをしにいくぞ。陸奥よ!と勇ましく厨房のカウンターにどんぶりを持って歩いて行った。陸奥は提督の前ではしたないわよ。と注意しつつも、背に腹は代えられないと自分もおかわりしに行った。どうやら艦娘というのは、体が大きいものは大食の傾向があるらしい。私は先に戻っているぞとお盆をさげ、部屋に戻る。この前みたいに新たな乱入者がくるのはごめんだ。部屋にもどるとゆっくりとくつろぎながら考える。

 

 私がこの世界にきてから数日がたったが。元の肉体はどうなったのだろうか?死んだのか?それとも佐賀山と入れ替わりになっているのか。正解はわからず、疑問は深まるばかりだ。しかし今はあの子達のためにできることをやっていくだけだ。布団に寝転がると、近くに現れた妖精たちをつんつんとつつきながらあやしているといつもまにか眠りにおちていった。

 

 

 「今日の訓練ちょっと厳しすぎじゃなかった?初日からあんな張り切ってるとみんなついていけないよ?」

 

 

 電気が消えた暗闇の中、布団にくるまれながら妹に話しかける川内。今日の神通は鬼気迫るものがあった。これが妹なのか。何度も確認したぐらいだ。いつもは大人しい神通があんなに熱い性格をしているとは思ってもいなかった。だがあれでは皆がついてこれない。やりすぎだと諭すと神通からはいえ、と反対の言葉がでてきた。

 

 

 「このままではダメです。提督は私たちを信頼し、新しい装備を授けてくださりました。以前の戦いは空母の援護あってのもの。今後は戦いも激しくなり、援護を見込めない時も多々でてくるでしょう。そうなった時に敗れてしまうことがあってはならないのです。戦場での負けは死につながります。あの子たちは今苦しい思いをしてこの訓練を乗り越えていけば、きっと次につながるはずです。何もできないまま残されていく悲しみは姉さんも知っているでしょう?抗う力を、戦う力を皆につけてもらわなければ。そのために私は鬼になる覚悟です。」

 

 

 何も言い返せない。那珂が沈んだ時の自分の無力さを思い出してしまった。そうだ。あんな思いはもうごめんだ。嫌われてもいい。あんな思いをこれ以上、下の者たちにさせないようにしなければ。明日も頑張ろうね、神通と声をかけ目をつむる。はい。お休みなさい。姉さんと返ってくると2人はどちらからともなく寝付いていくのであった。

 




史実でも神通の訓練の激しさは有名だったそうですね。華の二水戦と呼ばれる裏にはどれほどの努力があったのでしょう。


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第24話

皆様の反応やコメントに嬉しさのあまり、返信時に今後の展開をネタバレしそうになってしまいます。気を付けなければ。


 数週間の時が流れ、鎮守府の面々が新しい生活スタイルになれてきたころ、演習海域では一航戦の赤城、加賀を中心に翔鶴、瑞鶴の五航戦、龍驤と隼鷹が合同訓練に励んでいた。

 

 

 「全然だめね。なってないわ。普段から訓練をしているのか怪しいものね。」

 

 

 加賀のダメ出しが瑞鶴に容赦なくささる。頭にきているのかむっとなり、だったらみせてみろと加賀を逆に挑発する。すると、見ておきなさい。と台詞を吐き、風上に向かって走り出す。腰の矢筒から矢をとり、構えて撃つと放たれた矢はまっすぐに空を裂くように飛んでいき、赤い火花のようなものに包まれたかと思うと、たちまち戦闘機へ姿を変え飛び立って行った。次々と矢から姿を変え飛び立っていく艦載機に瑞鶴は圧倒されていた。

 

 

 明らかに自分との発艦速度が違う。瑞鶴は啖呵をきってみたはいいもの、自分の力がいかに未熟かを思い知らされた。以前の海戦で手柄を上げたと思っていた自分が恥ずかしくなった。

 

 空母から艦載機が発艦するときは、風上に進路を変え全力航行をする。その際に艦載機に向かい風をあてることにより発生する揚力を利用し、発艦に必要な距離を短縮することができるのだ。しかし加賀は負傷と艤装の状態が完全ではない。速度もでないとなれば当然艦載機が発艦するときの負担は大きくなる。にもかかわらず、加賀の艦載機は発艦直後も不安定な様子でふらつくこともなく、しかも矢継ぎ早に飛びたっていた。

 

 握りこぶしに入る力が次第に強くなる。惨めだ。これではただただ自分が惨めなだけではないか。認められないと、今度は模擬戦を挑む瑞鶴。今回は訓練用の模擬弾やペイント弾をもってきている。戦闘ならばと意気込むが、艦内のパイロット達の士気は低いままだ。一航戦と戦って勝てるのか?ハンデもなしに挑むとか無謀すぎるぜ艦長などわいわい言ってくるがなんとか一矢報いてやるのよ貴方たち!と叱咤激励するもそれでもパイロット達の威勢のいい声は聞こえてこなかった。

 

 

 「せっかくなんやし、ここはひとつ、一航戦対五航戦ってのはどうや?加賀の艦載機が少ない分ハンデになるやろ?どや?我ながら名案やないか?」

 

 

 成り行きを見守っていた龍驤がレフェリーは任せてやとしゃしゃりだす。隼鷹もいいねぇ~と野次馬根性丸出しだ。出撃方法が異なる2人だからこそこの立場に立てるのだ。公平性も高くなる。頑張りましょう加賀さん!と乗り気な赤城とは対照的にお手柔らかに・・と苦笑いをしている翔鶴。翔鶴姉ぇやってやろうよ!と声を張り艦載機を発艦していく。

 

 

 今回のルールはお互いの戦闘機のみの戦いとし艦爆、艦攻隊の出番はお預けとなった。納得いかない結果に一部の者からブーイングがあがるも、加賀の大概にしてほしいものね。の一言でピタッと収まった。おそるべし一航戦。

 

 お互いのチームが程よい距離をとったと同時に戦いのひぶたがきられた。数はやや一航戦の方が劣るが、同じ紫電改二という機体に乗っている以上、この模擬戦に勝利するためには純粋な腕が求められる。模擬戦とはいえ、久々の戦闘。お互いが射程距離にはいる前の会話は盛り上がっていた。

 

 

 『ようし。前回の海戦では出番なしだったからな。訓練ばかりでなく、たまにはこういった模擬戦でもやらないと腕がなまっちまうぜ。』

 

 

 『油断するな五番機。相手もこちらと同じ機体に乗っているんだ。油断するとあっという間に撃墜判定になるぞ。それに先輩としての威厳を保つにはそれ相応の勝ち方ってもんがある。わかるな?』

 

 

 『了解です。我々には万が一の油断もありません。加賀隊のもんも遅れをとるなよ!』

 

 

 『そちらこそ。スコアのことを考えず、勝利を第一と考えていくぞ。』

 

 

 一方そのころ反対側の戦闘機のパイロット達の会話は何としてもという声であふれかえっていた。弱気だった翔鶴飛行隊のパイロット達もいざ戦闘機にのると、やってやる!と意気込んでいた。パイロットとしての血が騒ぐのだろう。瑞鶴隊の隊長と翔鶴隊の隊長は盛り上がっている隊員を横に冷静だった。

 

 

 『練度はあちらが上だが数はこちらが有利だ。落ち着いて各個撃破をねらえばいけるはずだ。』

 

 

 『おまけに乗っている機体は同じだ。先輩たちほどではないが我々だって訓練を重ねているんだ。簡単に負けてはやらんさ!各機体へ。翔鶴隊は赤城隊と当たる。我々瑞鶴隊は加賀隊を抑える。数はこちらが有利だ。速やかに加賀隊を抑えたのち翔鶴隊の援護に向かうぞ!』

 

 

 了解!!と威勢のいい返事とともに射程距離に入る。やがてどちらとなく打ち合いが始まると敵味方入れ乱れての戦闘になった。同じ機体ということで分かりづらいことを考慮して機体の一部をそれぞれ赤、青、白、深緑色に塗っているので多少はわかるが。それでもパッと視界に飛び込んできた機体を瞬時に見分けなければならない。パイロット達の神経は限界まで研ぎ澄まされていく。

 

 

 『畜生おもったよりやりやがるぜ。組み付かれたらなかなか振り切れねぇ、まぁ同じ機体だから当然か!』

 

 

 小言を言いながら赤城隊のパイロットは巧みな操作でひらりひらりと交わしていく。ところどころペイント弾が機体をかすめていくが、撃墜判定の命令が下ってこないのでまだまだ戦える。やがてしびれを切らしたのか、後ろについていた翔鶴隊のパイロットは射程距離を詰めて確実に当てようと加速してきた。いまだ!!この時を見逃さず、ロールしつつ思い切り減速する。とてつもないGが襲ってくるが、なんとか歯を食いしばりながら耐えると再び急加速し後ろを逆に取る。追い抜いてしまった翔鶴隊のパイロットはしまった。と言いつつ後ろをとられまいと急速旋回で振り切ろうとするが、目の前の敵だけに集中しすぎたのだろう。追い抜いてしまった後ろの機体と上空から現れた機体の両方から射角をぴったり合わせられ集中砲火を浴び撃墜判定が出てしまう。キャノピーは一時的にべったりとペイント弾の塗装で塗られていた。しかも直撃判定かぁ~。そう力なくつぶやく声は他の戦闘機の音にかき消されていった。

 

 

 『思った以上になかなかやる。艦長命令とはいえ、勝負を挑んでくるだけはあるな。』

 

 

 一方こちらでは青いマークをつけた加賀隊の戦闘機と深緑のマークをつけた瑞鶴隊の艦載機が戦っていた。数の有利を生かしてか、瑞鶴隊が高度の有利をとり、どんどん下に追いやっていく。

 

 このまま我慢できずに浮かび上がってきたところを頂く!瑞鶴隊の2人は連携をとりながら追い詰めるもなかなかしぶとい加賀隊の艦載機に焦りを感じていた。

 

 

 『まずいぞ。翔鶴隊の奴らがやられ始めた。こんなところでちんたらしている暇はないぞ!』

 

 

 『わかってはいる!だがこうも当たらないものなのか!』

 

 

 次々と無線で味方の撃墜判定が上がるごとに焦りは増していく。冷静さを失ったら終わりだ。と自分に言い聞かせるも照準にとらえた敵の艦載機はまるでこちらの発射タイミングがわかっているかのように躱される。やがてうわぁ!!っと無線越しに声が聞こえ、一緒に追い詰めていた僚機の方を見ると、直上からやってきた敵に撃たれたのか主翼と胴体がカラフルにそまった紫電改二が力なく戦場を離脱していくのが見えた。やられたのか!だがなんとしても・・そう思い視線を戻すと、いない・・どこにいったんだ!?仲間がやられた焦りと見失ってしまった焦り、二つが同時に襲い掛かりパニックになる。海面にぶつからないように上昇し、その間に自分に落ち着くように言い聞かせる。追い詰めていたと思っていたら追い詰められている。狩人と獲物の立場が逆転した瞬間だった。下からダダダダダっという音が聞こえたかと思うと胴体下腹部と水平尾翼を撃ち抜かれ、自慢の深緑色は無残にもぬりかえられたのだった。

 

 

 『今の時期は寒いからな。しっかり腹回りを温かくしないとあっという間に風邪をひくぞ。気をつけるこったな。』

 

 

 無線ごしに加賀隊パイロットの者と思われる声が聞こえる。こちらが目を離した後に減速し、視界から消えて上昇したところを追撃してきたのか。完敗だ。だが今度はこうはいかない。うなだれる顔とは裏腹に心の中の火は燃えあがっていた。

 

 終わってみれば、赤城加賀組の40機対翔鶴瑞鶴50機のハンデマッチは残22対0と半分も倒すことができなかった。観念したのか、瑞鶴はがっくりとうなだれると、参りました。と小さな声で白旗を上げていた。

 

 まだまだ鍛えがいがありそうね。うなだれる瑞鶴を見ながら加賀はこの子をどうやって育てていこうか。と考えを巡らせていた。新しい力の可能性を信じて。

 

 

 




コテンパンにされた五航戦。実際の戦闘機のパイロットは1000時間の搭載期間をえて一人前とよばれていたそうですから、いかにパイロットの育成には金と時間がかかり、難しいかを物語っています。


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第25話

待ち望んだ甘味処。


 訓練から戻ってきた空母組は艤装を外すとそのまま食堂に向かっていった。艦載機のパイロット達も工廠組の整備兵と点検を行い、愛機に異常がないか入念にチェックしていた。点検が終わると、それぞれのパイロット達は反省会でもしてるのか、五航戦のパイロット達は一航戦の先輩達から指導を受けていた。夕張と明石は微笑ましく見守りながら私たちも今日はあがりにしましょ、とキリのいいところであがって食堂に向かっていく。パイロット妖精達も続きは飯を食いながらだな。と同じように工廠を去って行った。

 

 

 食堂ではいつものように列をつくり、自分の分の料理がまわってくるのを今か今かと待ち望んでいる艦娘でにぎわっていた。しかし最近は食事以外にも楽しみが増えた艦娘も多いことだろう。その理由は食堂の隣にあるこの施設であることを皆が知っている。少し前に酒保がついに開設されたのだ。酒保の開設数日前に提督から簡単な説明があり、給与が配布され、その給与で好きな物を買っていいとの事だった。当時は訳が分からず、物は試しでと皆それぞれ酒保に入って物色していたのだが、間宮や伊良湖の菓子が置いてあるのを見つけると、我先にと殺到しはじめたのだった。今では小腹がすいた時のためのお菓子やジュース、雑誌などを買って部屋でそれぞれ楽しむものが増えていた。勿論一番人気は間宮のお菓子だ。毎日のように売り切れては食事をそれぞれの艦娘に渡すときに明日のショーケースには何が並ぶのか。という質問ばかり受けるほどだ。初めは少なかった種類も、今は当時の倍以上の数が並んでいる。忙しい時は鳳翔も厨房でてつだってくれるようになり、間宮達のお菓子作りは捗っていた。鳳翔さまさまである。

 

 

 「相変わらず、すごい人気だな。だがあれだけ皆が群がるのもわかる。確かに間宮の菓子はおいしかった。」

 

 

 「私もあんなにおいしいものだとは思ってもいませんでした。頂いた給与がこのままだとあっという間になくなってしまいそうです。」

 

 

 大淀と食事を共にしている私は、大繁盛している酒保を眺めながら食事をとる。ふとまわりを見渡すと、視線の先には羨ましそうに酒保を眺めながら食事の配膳をまつ長門がいた。そういえばあいつは菓子のことになるとやけにテンションが上がっていたな。長門の隣にいる陸奥がなにやら酒保の方を向きながら喋っているが、長門は何か迷っている様子だ。何を悩んでいるのかはわからないが、買いに行きづらい雰囲気に困っているのだろうか。そんな風に推測していると、お盆をもった陸奥がこちらをみつけると、嬉しそうに近寄ってきた。こうなるともう逃げられない。半分まで進んだ食事の食べるペースを落としながら長門と陸奥を出迎えた。

 

 

 「提督、大淀お邪魔するわね。なんか長門が悩んでるみたいで相談に乗ってあげてくれない?」

 

 

 「そんなことはないぞ陸奥よ・・ただ・・その・・あれなのだ・・うむ。」

 

 

 明らかにそんなことありそうな言い草をしているのに思わず笑ってしまった私は、どうした。言ってみろと悩みを打ち明けるように促した。長門の話を要約すると、私自身も甘いものが好きなのだが、駆逐艦の者達が群がっている中に入っていきづらい。なおかつあれだけ不憫な思いをしながらも、最近少しずつ力をつけて頑張っている者達から楽しみを奪ってしまうのは忍びないとのことだった。何とも優しいやつだ。だがお前だって頑張っているんだ。自分への褒美をあげてもいいだろう。と訴えながら食事を終える。長門と陸奥は食事のペースが早く、私と同じタイミングで完食していた。

 

 

 「ちょうどいいタイミングで食べ終わったな。私もたまには甘いものが食べたいものだ。酒保に並ぶとするか。長門よついてこい。」

 

 

 昨日も執務中の休憩時に妖精達と食べていたじゃないですか。と小声でつぶやく大淀とそれにあらあら。とほほ笑む陸奥。うるさい私だって食べたいのだ。戸惑う長門を引き連れて酒保に入る。中に入ってみると、意外に広くて驚く。今までは大淀にお使いを頼んでいたので今回入るのが実は初めてだったりする。予想もしない入店者に先に入っていた艦娘達は一瞬驚くも、すぐに敬礼をしてくる。気にするなと声をかけると、再び目当てのものを物色していた。最近は私が無害なことに気が付いたのか、以前よりもまわりの反応が和らいでいた。それでも一部の者以外からは声をかけてもらえないのだが。

 

 目当てのショーケースの前にくると、所狭しと並んでいるケーキが飛ぶように売れていた。以前鳳翔が許可をとりにきたので予想外にいそがしかったのだろう。非番の者が鳳翔の酒保の手伝いもおこなっているようだ。今日は白雪が手伝いとしてショーケースの向こう側に立っている。長門さんと提督は珍しいねとまわりで声が聞こえるのが恥ずかしいのか、長門は引き返そうとしている。そんな長門をしり目に私は近くにいた子に声をかける。確かこの子は夕立といったはずだ。ちょっと時間をもらってもいいか?と聞くと声をかけられるとは思っていなかったのだろう。はっとかしこまった様子だった。

 

 

 「なに。そんなにかしこまる必要もないさ。今は業務外だから気楽にしてくれていい。相談というまでの内容でもないのだがな。ここにいる長門はたいそう甘いものが好きでな。自分も甘味が食べたいのだが、君達から楽しみを奪うのは忍びないと我慢しているそうなのだ。だが長門だって君たちのために頑張っているのは知っているだろう?だからこれからは長門がここにやってきたら一緒に甘味を選んだり、最新作について話したりと仲良くしてほしいのだ。どうだ?お願いできるか?」

 

 

 そういうと夕立はわかったっぽっ・・・と言いかけたところを了解しました!と言い直して敬礼していた。敬礼はもうさっきしたからしなくていいんだぞ。と諭し、あとさきほども言ったが業務外だから堅苦しい言葉遣いはなしで頼む。というとわかったっぽい。とおそるおそるながら言ってきた。その返事に満足した私は、ではまわりの者も頼むぞ。と言い酒保をあとにした。

 

 駆逐艦の者達がぞろぞろと集まり、長門に声をかける。長門さん甘い物すきなんだね!これがおいしいですよ!と集中砲火を浴びていた。長門はいつも凛々しく、堂々としているイメージがあったため、気軽に話かけづらい雰囲気があったようだ。ところが共通の趣味があると分かった途端、この話題を皮切りにみんなが寄ってきてくれた。駆逐艦の者達もどうせなら仲良くしたい。という気持ちがあったのだろう。質問攻めにあい、少し恥ずかしくなる長門だがこれからは堂々と酒保にはいり、甘味を買うことができる、なによりこれまでどこか距離を感じていた下の者達からこんな風に話しかけてもらえ、これほど喜ばしいことはない。提督にまた借りができたな。と思いつつ、わいわいと素敵な時間を過ごすのだった。

 

 

 「結局お菓子は買ってこれなかったのですね。」

 

 

 「そういう流れになってしまったのだ。悪いがまた今度買ってきてくれるか。」

 

 

 はい。了解しました。と快く快諾してくれた大淀としょうがない人ね。とため息をつきながらやれやれ、と笑っている陸奥のところに戻った私は食堂で解散し、1人悔しい思いをしながら部屋に戻るのであった。

 

 

 




戦時中の人気艦といえば長門。子供たちから大人気だったみたいですね。大和型は秘匿されながら建造されたため、そもそも認知度がなかったとか。現代では戦艦=大和。時代は変わっていくものです。
通算UAが10000をいつのまにか突破していました。UAが何を意味するのか正直わかりませんが読者の方という認識でよいのでしょうか。なんにせよありがたい限りです。


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第26話

寝る前に投稿です。


 「そろそろ建造を行い、艦娘を増やして戦力の拡大をはかってもよろしいのでないでしょうか?」

 

 

 訓練から帰ってきた川内と神通の報告を受けながら、大淀が私に問いかけてくる。

 

 

 「今私たちが率いている者たちも十分とは言えませんが、それなりに訓練を重ね、動けるようになっています。新しい戦力を増やしてもかまわないと私は思います。」

 

 

 「同じく。提督が以前からおっしゃっていたローテションなるものを行うためにも人数は多いほうがいいかと。非番の日が回ってくる回数を増やすことで心身を休めることでさらに激しい訓練を行うことができるようになるかと。」

 

 

 1人恐ろしいことを言っていたような気がするが、確かにその案は魅力的だ。艦隊としての戦力拡大を図り、スクランブルや大規模な戦闘にも対応できるようにしなければ。幸い今は小競り合いで済んでいるが、いつ深海棲艦が大艦隊で攻めてくるかわからない。備えは多いことに越したことはないのだ。建造を許可すると工廠の明石に連絡をとり、昼から建造を行うので用意をするように内線で連絡を入れる。昼ご飯をすませ、大淀と供に工廠へ向かい、明石と夕張、そして妖精達が迎えてくれた。

 

 

 「突然の決定ですまないな。事前準備もドタバタだっただろう。」

 

 

 「いえ!大淀からそろそろ準備が必要かもしれないと部屋で相談を受けていたので提督から声がかかる前に用意はしていました。なので準備はばっちりです!」

 

 

 明石の頼もしい返事を聞きながら相変わらずできた秘書だ。と大淀をほめると、恥ずかしながらも嬉しそうに頬をポリポリとかきながら照れ隠しをしていた。だが私は建造については全くの無知だ。大淀からもらった資料で一応確認はしているが、実際に見たことがない。では始めてもらってもいいか。と声をかけると、夕張がみんな頼んだわよ!と声をかけると、妖精達が一斉に持ち場につき、トンテンカンテン、バチバチバチと作業を始めた。台のようなものに船の下地らしきものがあり、それをつくってるようだ。明石いわく、建造は妖精達にしかできず、自分たちは一切手出しができないという。しかも戦艦や重巡、駆逐などある程度はオーダーできるのだが、細かい指定はできず、どんな艦娘ができるのかは一切わからないみたいだ。つまり運任せという事か。と明石に尋ねると、まぁそんな感じですね。アハハと困ったように笑いながら妖精達を眺めていた。

 

 にしてもとてつもないスピードだ。一切無駄のない手際で艦のプラモデルみたいなものが出来上がっていく。このプラモデルをどうするのか?と悩んでいると、できあがったのだろう。みんなでばんざーいと三唱していた。他の組は少し大きい艦を組み立てているのか、少し時間がかかっているみたいだ。このできたプラモデルが一体なにになるのか?とおもっていると、重機でプラモデルが窯みたいなところに台にのせて運ばれ、中に押し込まれていった。そして扉を閉じると火が入ったのか、扉の上の灯が赤く光り、音を上げながら熱を発していく。扉の近くにいくと熱がもれてきているのか、少しばかり熱かった。中を覗くことができないようになっていたので、気になるところだが覗けないのであればしょうがない。

 

 

 「中でどうなってるのか私たちもわからないんですよ。」

 

 

 夕張にそういわれ、そんなものか。と納得し、しばらく雑談をしながら待つ。やがて次々に完成したプラモデルが同じように窯にはいっていくと、それぞれの扉の灯が赤く光り、

 

フル稼働で建造にはいったのがわかった。妖精達はやり遂げたことに満足したのか、だらーんとしながら飲み物などをとって休憩している。事前に大淀にこれをわたしてあげてください。と用意された、間宮特製の甘味をご苦労だった。といいながら妖精にあげると、疲れていた様子などどこに行ったのか、わぁっと群がってきてあっという間に配給が終わってしまった。甘味の力は絶大だ。

 

 しばらくすると最初にいれた灯が緑に光った。間もなく完了ですよ!と明石がいうと、扉からぷしゅーっと少量の煙が出たかと思うと、扉がぎぃーと空いてこつこつと足音が聞こえてきた。扉から出てきた少女はあたりをきょろきょろとみまわすと、やがてこちらの存在に気が付いたのか、歩み寄ってきて綺麗な敬礼をして自己紹介を始めた。

 

 

 「駆逐艦、霰です。よろしく願いします・・・」

 

 

 あまり元気がなさそうな子だ。不思議な雰囲気を醸し出している。独特な雰囲気とでもいえばいいのだろうか?駆逐艦といえばもっとはきはきした子が多い印象だったが、こんな感じの子もいるのか。と思っていると、遅れて投入した窯もぷしゅーっと煙をあげ次々に完成の合図をだしてきた。もれなく扉がそれぞれあき、艦娘が歩み寄ってきて私に挨拶をする。

 

 

 「駆逐艦、暁と申します。水雷戦隊の一員として身を粉にして戦う覚悟です。」

 

 

 これまた幼そうな子が出てきた。難しい言葉を覚えた子が一生懸命に披露してきたような印象を受けた。にしても霰といい暁といい、誰かに似ているような気がする。駆逐艦は姉妹艦も多いみたいなのでおそらく仲間なのだろう。霰と同じように敬礼を返した後、よろしく頼む。と握手をし、暁は霰の隣に並んでいく。その後も綾波、敷波、長波、長良、妙高、摩耶といった艦娘が現れ、合計8人の艦娘が増えた。中には艤装だけがでてきた場合もあり、明石も大淀もこれは初めてのケースなのでわからない。といいながら興味深そうに眺めていた。艤装はなにかにつかえるかもしれないと、一応保管することにした。やけに駆逐艦に波がつく子が多いのが気になるがまぁいいだろう。と気を取り直して皆に挨拶をする。

 

 初めは堅苦しい感じだったが、公の場以外では楽にしてもらっても構わないというと、皆それぞれ砕けた感じになってくれた。古参組はどうしても前任者の思い出があるため気軽に私に話しかけることができないのだろう。このような反応は新鮮だった。とくに摩耶に関しては、どうせなら私の姉妹も頼むぜっと言ってきたのを皮切りに妙高もよろしければ・・とお願いしてきた。狙って出せるものではないと説明するとちぇっと摩耶はつまらなさそうな顔をしていた。資材には余裕もあるし、どうせならあと数回やるか。と建造を行ったところ、摩耶と妙高が興奮したようにしゃべり始めた。出来上がっていくプラモデルらしき物をみて、なんでも自分の型と同じだと喜んでいた。

 

 まさかの展開に困惑しつつも、少しばかりの時間の後に窯から出てきた艦娘は確かに妙高や摩耶と同じような格好をしていた。那智と鳥海というらしい。2人は私に挨拶を終えると、それぞれ姉妹の再会を喜んでいた。残りの二つの窯からは、マイペースそうな感じの北上という子と大井という愛想のいい子がでてきた。これまた挨拶を終えたあと、2人は再会を喜んでいた。こんなに都合よくでるものなのだろうか。そろそろ妖精達もへばっていることだしこれぐらいにしておこう。後で追加の差し入れを持ってこなければな。

 

 

 そう考えていた矢先、後ろの方から、足音が聞こえたかと思うと、ざわつく声が聞こえた。振り返ると、昼からの訓練を行う水雷戦隊達が艤装を装着しにきたようだった。だが一部の子達の様子がおかしい。朝潮や霞、響、雷、電といった子達は固まっていて、やがて我に返ると少しずつそれぞれ歩み寄って行った。それぞれワンワンと泣きながら会話をしていた。暁と霰は戸惑いながらも照れ臭そうに喜んでいる。先ほど生まれたばかりなのだから、いきなり泣いてこられても困るはずだ。だが2人も何となく事情を察しているのだろう。今度はきっと大丈夫と励ましつつ姉妹に再会できたと敬礼し感謝の意を述べてきた。以前恐らく沈んだであろう暁と、霰本人ではないだろうが、それでも今目の前にいるのは自分の姉妹なのだ。気にするな。と返事をし、

 

 

 「着任したばかりで申し訳ないが今から訓練にでてもらえるか」

 

 

と新参組に声をかけると、了解です。と返事が返ってくる。艤装に装備を付けている間、今日は早めに訓練を引き上げ、それぞれ鎮守府の案内をしてあげるよう指示を出す、新参組は初めての訓練なので無理をしないように。と念を押し見送った。戦力の拡大はこれでしばらく大丈夫そうだ。あとは部屋割りだな。と考えながら工廠を後にした。




人数が増え、戦力の拡大に成功です。もちろん古参組にもまだ出てきていない艦娘もいるのでそのうちお話に出そうと思っています。


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第27話

雪風改二の設計図が足りない。悲しいです。


 訓練を終え、艤装を外した一行は、鎮守府の案内を大淀から受けている。特に摩耶と暁は綺麗な食堂や部屋をみるたびに目を輝かせてあれこれ質問していた。打てば響く反応に大淀はなぜか少しだけ自慢げな気持ちになった。やがて案内が終わると、それぞれの部屋の割り当てと制服の採寸にうつる。暁は採寸中の鳥海を見つめ、やがて自分の体に視線を移すとペタペタと体を触っていく。毎日牛乳を飲めばきっと・・・と小声で呟いている姿が微笑ましくてついつい笑顔になってしまう。暁ちゃんは立派なレディーになれますよ。と笑顔で話しかけながら暁の採寸をしていく。やがて全員の採寸が終わり、後日届きますので届くまではこれを。と言いながら用意していたフリーサイズの着替えをそれぞれ支給する。やがて解散になるとそれぞれが部屋に一旦戻り、入渠施設に汗を流しに向かった。

 

 

 賑やかな場所だ。この分ならここで退屈はしなさそうな予感。北上は湯舟につかりながら、周りできゃいきゃい騒ぐ駆逐艦達を見ていた。隣の大井はさっきから話しかけてくれるが、騒ぐ駆逐艦達のせいでところどころ聞こえない。なんでこんなに元気あるんだこいつら。と思いつつ、今日の訓練内容を思い出す。私達建造組は初回とあってか、訓練内容は軽く流しただけだったが、今騒いでいる子らは文字通り死に物狂いで訓練していた。神通とかいう艦娘。訓練前と訓練中の性格ががらりと変わっていて驚いた。優しそうな雰囲気が一変、かなり厳しい内容を次々とこなすように命令し、その訓練内容にみな苦しい表情を浮かべていた。特に暁は自分の姉妹がぼろぼろになりながらも訓練を続けていることに若干ひいていたぐらいだ。まぁ確かにあれはやりすぎなんじゃないかとは思うが、そこがここのやり方なのだろう。ついていけっかな~と心配していると、これから一緒に頑張っていきましょうね!と大井がニコニコしながら握りこぶしを両手でつくり、グッとしていた。大井っちがいればなんとかなるか~と楽観的な気持ちになり、がんばろーね!と笑顔で返す。そろそろ食事の時間だ。ぞろぞろと上がっていく群れの流れに身を任せて私達もあがるとしますか。脱衣所でもきゃいきゃい騒ぐ艦娘達。あまりのはしゃぎっぷりに何とかならないものかとため息をつく。やっぱ駆逐艦ってうぜーわ。

 

 

 以前よりも人数が増えたため自然と活気づく食堂。うめーなこれ!と摩耶が鳥海に話しながら食べる姿に、もう。行儀悪いわよ。とまるで母親のようにめっと叱りながら食べていた。那智は酒保にある酒が気になる様子で目の前のご飯を食べつつも、視線はちらちらと目当ての酒のある方から離せずにいた。妙高はご飯を食べ終わってからにしなさい。他の子がみて真似したらどうするんですか。とぴしゃり。どの姉妹もやはりしっかり者にはかなわないようだ。提督が食堂に現れても以前のようにシンっとした空気にはならず、活気は衰えることはない。真船が着任して1カ月。相変わらず一部の古参組以外は声をかけてくることはないが、それでも確実にこの鎮守府は変わっていっている。みながその空気を感じていた。

 

 

 「提督。じつはお話があるのです。宜しければ聞いていただけませんか。」

 

 

 あくる日の朝、大淀のおかげで早めに業務を終えた私は鳳翔から相談を受けていた。いわく、間宮達の仕事を手伝っていくうちに自分もなにか料理をつくってみたいと言い出したのだ。料理なら手伝いでつくっているからいいのでは?という私の問いかけに待ってました。と言わんばかりに鳳翔は本を取り出す。そして一部のページを目の前に広げて見せながら話し出す。

 

 

 「酒保で仕入れている雑誌を色々見ていると、晩酌にあう料理というのがあり、それを夜にお酒と一緒にだせたらなぁと。私も嗜む程度ですが、お酒も飲みますし、提督もよくお酒を買いにいらっしゃるでしょう?そういう場があってもいいのではと思ったのです。」

 

 

 「つまり君は居酒屋みたいな感じの店を切り盛りしたいということかね?」

 

 

 お恥ずかしながらそういうことです。と少し照れながらお願いします。と両手をあわせ神頼みポーズをしてくる鳳翔。なんだがこういう大人びた感じの子が、親にお小遣いをねだる子供みたいな行動をしてくるギャップというのだろうか。やられてしまいそうになるが、実際問題そんなことが可能なのか?と、問いかけると鳳翔は酒保をやりながらでも十分に可能。キッチンも酒保と厨房は間宮、伊良湖の菓子を運ぶためにつながっているのでそこを使う。調理スペースも厨房の改装により、余っている部分もあるのでそこを使うとのこと。物は試しだ。それにそれが鳳翔の趣味なのだろう。問題さえおこさなければ大丈夫だ。それに飯を食べ終わった後、部屋で酒をつまみであおるよりも、誰かの手料理で飲む方がいい。許可をやると、ありがとうございます。と嬉しそうに礼をいいさっていった。近くにいた妖精に頼めるか。と声をかけると、びしっと敬礼し、姿を消していった。現場で鳳翔の要望を聞きながら改装をしていくのだろう。

 

 

 後日完成した酒保あらため、居酒屋鳳翔ともいうべきだろうか。彼女の店は繁盛していた。主な客層?は戦艦や空母、重巡など大人の見た目をした艦娘が多い。私も間宮と酒を飲みながら、カウンター越しにいる鳳翔と3人で会話をしていた。間宮は自分達が料理やお菓子をつくるのもいいが、たまには人が作った料理を食べたくなる時があるみたいで、それが実現してうれしいようだ。もてなす側でなく、たまにはもてなされる側につきたいと思うことがあったのだろう。厨房組の2人のリフレッシュできる場所をつくれたのはいいことかもしれない。鳳翔の料理に舌鼓を打ちうつつ酒を飲んでいると、人がぞろぞろとはいってくる。那智と隼鷹だ。

 

 

 「おぉ。提督ではないか。今日は私も飲みたい気分でな。先ほど隼鷹とたまには飲むかという話になってここにきたのだ。どれ、テーブル席に移ってみんなで飲むとしようではないか。」

 

 

 なにがたまにはだ。開店そうそう頻繁に入り浸っているともっぱらの噂だぞ。隼鷹はすでに飲んできてるのか執拗に絡んでくる。わかったわかった飲もう飲もうとあやし、席を移した私たちは再び乾杯した。財布の中身を確認する。まぁ今回初めてここで遭遇したわけだし奢ってやるか。こうして鎮守府の夜は過ぎていくのであった。




居酒屋が完成。そしてのんべぇが集っていく。


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第28話

誤字が多いなと気になっていたら、どうやらキーボードが壊れ始めているようで困っています。


 建造された艦娘達が鎮守府に着任してから数週間が過ぎた。厳しい訓練や、工廠組の装備開発もおかげもあってか、以前と比べると見違えるようだ。深海棲艦達と小規模な戦闘はちょくちょく起きてはいるものの、こちらの損害無くすべてを撃退し、〇〇鎮守府は着実に戦果をあげていた。本部にあげる戦闘詳報も日に日に調子よくなっていくのがわかる。あとはいつ本部がコンタクトをとってくるかだ。真船提督をお守りしなければ。大淀は執務に励む真船をこそっとみながら気合いをいれ自分も執務に励むのであった。

 

 

 ブロロロロとけたたましいプロペラの音を聞きながら彩雲のパイロット妖精は今日も偵察をいつもの通り行っていた。最近できたばかりのこの彩雲は主に偵察運用を目的として開発されたものらしい。確かに武装はとても貧弱だが、その分速度は速く、長い距離を飛行できるため偵察にうってつけの機体だ。最近深海棲艦のちょっかいが多いのを気にしてか、飛行ルートを遠くまで長めにとるようにした。海から哨戒するよりも上空から広い範囲を見渡したほうが効率がいいのは決まっている。なにより最近は新型も配備されるし、お菓子も沢山食べれるので任務も苦ではない。哨戒を終え、いつものように異常なし。と打電しようとした瞬間、はるか遠くの海に黒いつぶのようなものが見えた。気になって目を凝らしてみると、やがてそれは群れで動く大きな何かということに気が付いた。

 

 

 『おい!あれは敵ではないのか?急いで打電しろ!』

 

 

 後ろにいる通信妖精に声を荒げると、雲を上手く使って近づいていく。かなりの数だ。これは大規模戦闘になる。少しでも情報を得ようとするが、流石に敵も気が付いたか、少数の戦闘機がこちらに進路をむけて突っ込んできた。これ以上は無理だと判断した一行は方向転換し、逃走を図る。得た情報を打電するように伝えると、後ろから敵戦闘機が追いついてくる。少しずつ距離が縮まることに焦りを感じ、フルスロットルで加速する。すると思った以上の速度が出始め、彩雲の性能の高さを思い知った妖精達。こんなんならもっと敵の情報をとって敵をおちょくってやればよかったぜ、と笑いあいながら帰投する。気持ちのいい逃走劇に気分が上がってしまったのだろう。

 

 

我ニ追イツク敵機ナシ。

 

 

敵艦隊発見の報告とともに送られてきたこの電報に長門はため息をつくのであった。

 

 

 偵察機から送られてきた情報により鎮守府は慌ただしくなっていた。近海で訓練をしている水雷戦隊を呼び戻し、実弾の装填と燃料補給などをすまし、いつでも出撃をできるようにする。同時に作戦指令室に真船と大淀、そして長門と向かい、敵艦隊の迎撃態勢を話しあうことになる。遅れて赤城と加賀、陸奥がやってきて面子がそろったのを確認すると、真船の声で会議がはじまった。

 

 

 「緊急事態だ。敵の大規模な艦隊がこちらにむけて進軍しているとの情報が入った。敵は小笠原諸島近辺で発見され、こちらに進軍中。艦種は戦艦4、空母2、軽空母4、重巡8、軽巡10、駆逐18の大艦隊だ。」

 

 

 私の報告にみな緊張した面持ちで海図を眺めている。敵はこれまでの小競り合いの結果を考え、それなりの戦力を投入する必要があると判断したのだろう。だがこれはチャンスだ。深海棲艦は世界中で発生しており、戦線を広げすぎている。これほどの規模を再び集めるとなるとかなりの時間を有するはず。ここを叩けば南東にある島々の再確保に向けて有利に進めることができるはずだ。そう鼓舞すると、長門はこの戦い、負けることはできんなと気合い十分になっていた。ほかのものも頷くと、私は作戦を立案していく。

 

 

 「敵部隊はかなりの規模だが空母や戦艦の数はこちらも劣っているわけではない。だがもたらされた情報以外にも別働隊がいる可能性も否定できん。」

 

 

 「敵は小規模戦闘を繰り返したことにより、こちらの戦力規模をある程度把握しているはずよ。本気でつぶしにきているのならそう考えたほうが妥当ね。」

 

 

 「陸奥の言う通りだが、仮に敵の別働隊がいた場合、どのルートを通ってくるかが問題だ。何も考えず直進してくる可能性もあるが、そうとも言い切れん。提督よ。ここは戦力をまとめて投入するよりかは、少数の部隊を後詰として残しておくべきだろう。」

 

 

 「では後詰の部隊の役目は私が引き受けます。艤装の問題で速度が出ない以上、高速の水雷戦隊の機動力が失われてしまうのは痛いですもの。ちょうどいいわ。」

 

 

 長門と加賀がそれぞれの案を口にし、それぞれ承認していく。 最終的に長門を旗艦とし、そこに翔鶴や瑞鶴、隼鷹、龍驤の空母陣を水雷戦隊が護衛につく布陣になった。館内放送で命令をだしたあと、私も出撃所に向かう。出撃命令のためにぞろぞろと集まってきたものと、訓練から補給整備のために戻ってきた部隊で出撃所は艦娘であふれかえっていた。私は聞いてほしい。と声をあげ、みなに聞こえるように話しかけた。

 

 

 「君たちの活躍により、小規模ながらそれなりの戦果を誰一人欠けることなくあげてきた。しかし業を煮やしたのだろう。敵がかつてないほどの大規模な攻勢をしかけてきた。これだけの規模の戦闘だ。犠牲もでるやもしれん。しかし、だからといってここで逃げるわけにはいかない。我々の後ろには国がある。民がいる。護るべきものがあるのだ。皆の力を貸してくれ。」

 

 

 「なにを言うのだ提督よ。我々艦娘は戦うために、国を護るために生まれてきたのだ。戦いの中で華々しく散れるのであればそれは本望だ。この長門を含め、今のこの鎮守府には臆病者など一人もいないぞ!」

 

 

 私のちょっとした演説のあとに長門が反応し熱い言葉を返す。それに呼応し、そうだそうだ!と皆の高ぶる声が聞こえてくる。戦闘だって訓練だってこなしてきた。装備だってある。もうあの時とは違う。私達だって戦えるんだという強い自信が彼女達の心の中に宿る。その様子をみて私はうなずき、出撃開始の号令を出す。それぞれが艤装をとりつけて順番に海へでていく。最後に長門が艤装を装着し出撃すると、陣をくみながら、敵方向へと向かっていった。陣が整うのを確認すると、長門は吠えた。

 

 

 「これだけの大規模な敵部隊を叩けば、そう簡単に部隊を再編することもできんはずだ!なんとしてもここで叩くぞ!私に続け!」

 

 

長門の一部の艤装がいつもとは違う色に塗り替えられている。四種の色をしたその艤装はこの部隊が不退転の覚悟で挑むことの証だった。

 

 

皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ




z旗を掲げられそうな感じが艤装になかったのでカラーリングを変える表現で対応しました。すごい派手な色になってそう。


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第29話

先日頂いた感想に対して返信をしていたのですが、いつのまにか消滅していて困惑しています。なにか私の間違えで感想ごと消してしまったのではないかと思うのですが、原因がよくわかりません。自分の感想が消されたと不快な気持ちになっているのであれば、誠に申し訳ないです。頂いた感想はすべて読み、返信をしていくつもりですのでこれからも本作品を宜しくお願いします。


 「ではそろそろ私たちも準備をしましょう。」

 

 赤城がそういうと、加賀とその護衛の子は返事とともに艤装の装着を行う。その様子を見守っていると、頬をつんつんとつつかれる感触があり、視線を肩にむける。いつも私の近くにいる妖精が今日はきちんとした格好をしていた。なんだこいつは。あのだらけている感じがまったくないな。と思っていると、こしょこしょと耳打ちしてくる。自分も一緒に戦うときがきた。艦娘と一緒に海へでたい。だと。こいつはそもそも戦闘要員なのか?いつも菓子をねだっている様子しかみてないので全く想像がつかない。お前が行っても役に立たないと思うぞ。と声をかけると、それでも首を縦に振らず懇願してくる。どうやらよほどの覚悟らしい。根負けした私は妖精が指をさす方向へ歩いていき、その艦娘に妖精をたくした。

 

 「加賀よ。すまないがこの妖精もつれていってくれないか。こいつがお前をご指名でな。正直役に立つかはわからないがお願いできるか。」

 

 

 「ええ。かまいません。しかしこの子は一体どういう妖精なのでしょう?みたことのない妖精なので私にもわからないわ。」

 

 大淀や赤城、明石も首を横に振る。やはりどうやらみたことのない恰好をした妖精らしい。私のまわりにいる時はその他大勢の妖精と思っていたので気にしていなかったが、こうやって後から乗り込むタイプの妖精は確認されていないみたいだ。まぁ悪さをすることはないだろうからきっと大丈夫だろう。 

 こうして赤城と加賀が後詰の部隊として先行部隊の後に出撃していった。本来は加賀とその護衛のみにするつもりであったが、加賀が心配だということで赤城も後詰として後方で備えることになった。前線の航空部隊が少し手薄になるのが不安になるが、今回は龍驤もついていっている。あいつの航空部隊もなかなかの手練れぞろいなので問題ないだろうということで赤城の後方待機を許可した。二人の護衛については、第六駆逐隊が務めている。加賀が後詰として後方に残るとなった時に、駆逐艦達の子は戦果をあげようと前線での戦闘にこだわる中、彼女達は護衛の役目を志願してきたのだった。今度こそは護るのだと意気込みながら二人の周りを囲む。頼りにしてるわ。と加賀の優しい返事とともに先行部隊が背後を突かれないような位置をとりつつ進んでいく。決戦の時は近づいていた。

 

 『伊五八から入電!彩雲からもたらされた情報と敵艦隊数差異なし!及び敵の航空部隊による第一次攻撃隊はこちらに向かってる模様!第二攻撃部隊は別方角へ飛行していったとのこと!』

 

 彩雲とともに哨戒に出ていたゴーヤから無線が届く。長門は通信妖精からの報告を全艦隊に共有する、第二部隊が飛んでいった方角に恐らく敵の別働隊がいるのだろう。指令室の大淀に情報を送ると、こちらも戦闘準備をとるように指示をだす。まもなく戦いが始まる。待ち望んだ艦隊決戦だ。胸が熱くなってくる。なんとしてもここで勝利し、国を護るのだ。だが使命感に燃えているのは長門だけではなかった。

 

 「空母艦載の攻撃が終わり次第、我々第二水雷戦隊がまず敵に同行戦をしかけ先陣を切ります。その後、後方から主力艦隊が砲撃を開始し、隙ををみて我々は一旦離脱。入れ替わりで第一水雷戦隊と第三水雷戦隊が敵の進路をふさぐように突貫し、一時的にT時有利をとるように進むので、頃合いをみて私たちも反転し、再突入します。海戦と同時に魚雷は私の号令で一斉射します。離脱中にしっかり魚雷装填はすませておいてください。みな心するように。」

 

 

 これまで厳しい訓練をこなしてきたのだ。きっとやれる。以前はただただ逃げ回り、囮となるだけの存在だった私たちとは違うのだ。神通は今までの雪辱を果たす時と、鼓舞し先行していく。第二水雷戦隊の面々はそれぞれ装備している武装を力強く握りしめ、決戦にそなえるのであった。

 

 「一番槍は神通たちになってしまったけど私たちだって同じぐらい重要な役目を任されたんだ。気を引き締めていくよ!」

 

 後発で突入していく部隊になった第一水雷戦隊と第三水雷戦隊は川内を中心にまとまっていた。長良率いる第三水雷戦隊は第一水雷戦隊に比べ、少々練度に不安が残るので、単縦陣をとる第一水雷戦隊の後に続くように決まった。敵が一時的に神通達に火力を集中しているときに突入しT字をとり、魚雷を一斉射しつつ砲撃を開始し敵の進路を絶つ。沈んだ那珂の恨みを果たすときがきた。ここで敵をとらずしていつとるのか。そして勝って護国の海を護るのだ。川内は執念の炎を燃やし、陣形を整えてその時を待つのであった。

 

 味方主力艦のさらに後方では空母組が艦載機を次々と発艦させていた。全艦爆、艦攻機を発艦させると、翔鶴航空隊を中心に敵方向へと飛び立っていった。

 

 『各機へ。我々の任務は敵主力艦隊への攻撃及び、味方艦隊への攻撃をしかけてくる敵航空部隊の殲滅だ。敵攻撃部隊の迎撃は龍驤隊及び、隼鷹隊軽空母組、そして翔鶴隊、瑞鶴隊のそれぞれ半数の戦闘機で行う。味方の船団の護衛は残りの翔鶴隊、瑞鶴隊で護衛につく。各員の健闘を祈る。』

 

赤城隊の隊長みたいに上手いことは言えないな。翔鶴隊の飛行隊長は今回大隊長を任された責任が重いのか、少し緊張している。今回は実践だ。以前のような戦闘訓練ではない。そう自分に言い聞かせる翔鶴隊と瑞鶴隊のパイロット達。模擬戦ではほろ苦い結果となったが、あの訓練のおかげで一回りも二回りも成長できた。別方向へ飛んでいったという敵飛行部隊が気になるが、そこは一航戦の先輩たちがなんとかしてくれるだろう。我々は我々のなすべきことをなすだけだ。気合いをいれると、攻撃部隊の先陣を切りながら目標に向かっていく。雲一つない快晴に海面からの光の反射がところどころ眩しかった。

 

 

 

 

 




 執筆に必要な資料集めや、仕事の関係で更新速度が少し落ちそうです。


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第30話

第29話の内容を少し修正しております。


 発艦して編隊を組みながら航空部隊は青空を進む。そろそろだな。と翔鶴隊の隊長妖精は頃合いをみてみなに声を届ける。

 

 『まもなく会敵予想空域に入る。各員気を抜くな。見張りを厳に!』

 

 了解!という多くの返事が無線ごしに響き、緊迫した空気になっていく。やがてはるか遠くにこちらに向かって飛んでくる群れを見つけた。急いで艦隊に打電し、戦闘用意の声とともに、それぞれ増槽を投棄し身軽になった戦闘機。しっかり守ってくれや!と龍驤隊の者らしきパイロット達からの要望を聞き届けると、任せておけと返事を返した後に深呼吸をする。ここでしっかり敵を叩き、何としても艦隊や攻撃隊を護らなければ。そう思っているうちに敵も次々と増槽らしきものを投下し、散開してくるのが見えた。

 

 『我々五航戦は敵に組み付く!隼鷹隊と龍驤隊はこちらの攻撃機の護衛を優先してくれ!各員生きて会おう!』

 

 そう指示をだし、突っ込んできた敵戦闘機にこちらも向かっていく。奴らの好きにさせてたまるか!それぞれの戦闘機が入り乱れての乱戦になる。敵も攻撃隊を護ろうと必死だ。艦爆、艦攻機を狙おうとする暇を与えてはくれない。翔鶴隊と瑞鶴隊のパイロット達は、はやる気持ちも抑えつつ、冷静に対処していく。

 

 『しつこいんだよ!お前らにかまっている暇なんてねぇんだ!』

 

 巧みな操縦で敵を撃ち落としていく瑞鶴隊のパイロット。あの模擬戦に比べればこんなもの!と開戦前に緊張していた様子はすでに消え去り、次々と敵を撃ち落としていく。研ぎ澄まされた思考が視界をクリアにしていく。面白いように敵の行動がてにとるようにわかる。一航戦の先輩達はきっとこういう感覚で戦っているのだろうか。戦場が一人のパイロットを育て上げていく瞬間だった。

 

 『敵の攻撃にビビッて編隊を崩すなや!はぐれたやつから狙いうちにされていくで!それに護衛の戦闘機もいくらかついとる。焦らずに狙ってきた敵を後部機銃の集中砲火で墜とすんや!最悪やられそうになったら爆弾や魚雷を投棄してでも母艦に帰投して帰るようにしとき!命あってのもんやからな!』

 

 前回と違い、初めての敵からの追撃に焦っているのか動きが悪い五航戦の攻撃機達。それを見かねた龍驤隊の爆撃機隊長が無線で激をとばし、落ち着くように言い聞かせる。いくらかの効果があったのか、了解!と返事が聞こえると、被弾しつつも、何が何でもと爆弾を離さずについてきていた数機の攻撃機は隊列を離れ母艦に戻って行った。敵も魚雷や爆弾を投棄した敵を狙う暇なぞないのか、再びこちらの編隊にむけて進路を変えようとするも、護衛の龍驤機や隼鷹機に落とされていく。全ての追撃部隊を墜とすと後は敵直掩機だな。そしてそのあとにいよいよ本番だ。無念の脱落した味方攻撃機の意思を引き継ぎ、、敵艦隊にむけて進んでいった。

 

 『ようし。この時をまっていたぜ。味方艦隊には指一本触れさせるんじゃねぇぞ!各機敵の撃墜ではなく、撃退を最優先とせよ!魚雷、爆弾を投棄した敵の追撃など不要だ!艦隊を護るぞ!』

 

 直掩部隊として艦に残っていた半数の部隊は敵艦隊と交戦の電報を受け取ると、翔鶴及び瑞鶴はすばやく発艦させ、迎撃態勢を取らせていた。なんとか突破してきた敵攻撃部隊にさらに襲い掛かる直掩部隊。敵護衛部隊はすでに先行して戦っている第一次戦闘機部隊によって壊滅させられているため、ボーナスステージ状態となっていた。

 『敵攻撃機に組み付くときはあまり距離を詰めすぎると撃墜した機体の破片や燃料がとんでくるから注意しろって言われてたが・・まさにその通りだな』

次々と襲い掛かる紫電改二の前になすすべなく狩られていく敵攻撃機。一方的な状況にも拘わらず、パイロット達は先輩の教えを忠実に守り、油断なく敵を叩いていく。 幾分かの数を取りこぼしてしまったことに悔しさを覚えつつ、残りの敵攻撃機の数を打電し、離脱する。後は艦隊が撃墜してくれることを祈るのみだ。先輩達だったら・・とタラればを考えてしまうが、できることはやったのだ。あとは結果を待つのみだ。

 

 「どうやら敵が少数突破してきたらしい。敵機を迎撃し万全の状態で艦隊決戦に挑むぞ!」

 

 報告を共有した艦隊は敵攻撃機に備え、長門を中心に警戒を強める。やがて敵攻撃機がこちらに編隊を組み飛んでくるのが見えた。

 

 『四時方向より敵編隊確認!数は12機!艦攻部隊です!距離およそ12000高度1700、速度300にて接近中!』

 

 『同じく八時方面より敵編隊確認!距離およそ12000!数は15機!同じく艦攻!』高度1500、速度300にて接近中!』

 

 敵はどうやら時間差で挟み撃ちを狙っているらしい。右舷を第一、左舷を第二水雷戦隊を中心に迎撃態勢をとるように指示し、三式弾の装填を急ぐ。提督のおかげでフル稼働の工廠でつくられた三式弾は戦艦、重巡に配備ずみだ。絶え間ない弾幕で海に沈んでもらう!十分に敵をひきつけて撃ち始めるよう指示し待ち構える。やがて敵機が射程圏内に入ると、一斉射を開始した。

 

 『やったれやったれ!敵を近づけさせるな!弾は撃ち放題だ!間もなく機銃の射程圏内にも入るぞ!何が何でも撃ち落とせ!』

 

 砲と妖精達の怒号が響く中、次々と飛んでいく弾はやがて敵艦攻機をとらえ撃墜し海に叩き付けられる。全てを撃墜すると、休んでいる暇はないと急いで装填し、反対側からやってくる敵にむけて砲塔を旋回させる。すでに反対側の敵攻撃機は何機か投下体勢をとっている状態だった。

 

 『なんとしても撃ち落とせ!ここで敵の魚雷で沈んだら笑いもんになるぞ!主砲も敵を狙え!直接当てられなくても水柱をあげてたたきおとしてやりゃあいいんだ!撃て撃て!』

 

 敵攻撃機に魚雷投下される直前に何とか撃ち落とす。それでも対応が遅れた最後の数機の意地とでもいうべき投下された雷撃がこちらに向かって伸びてくる。敵機雷跡ぃ!!っと妖精の声に反応し、回避運動をとり魚雷を見事にかわした。過ぎ去っていく魚雷を見ながら日頃の訓練が役に立ったと胸をなでおろす艦娘達であった。敵艦攻隊壊滅に成功した艦隊は歓声をあげて進軍していく。後はこちらの攻撃部隊の戦果を期待しよう。長門はさらに気を引き締めるよう艦隊をまとめると進撃していくのであった。

 

 

 

 




こういう風にしたいという構図はあるのですがそれに文章力が追いつかない。


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第31話

資源集めと執筆の両立ができない。


 『まもなく敵直掩部隊が見えてくる。その後が本番だ。こちらも少なからず犠牲はでるだろう。だがここまで来て怯むわけにはいかない。なんとしても敵戦力を削るのだ!各員健闘を祈る!』

 

 翔鶴爆撃隊隊長の声を聞き終わると向こうからこちらに向かってくる部隊が見える。おそらく敵の直掩部隊だろう。艦爆、艦攻隊はそれぞれの高度をとり退避していく。エスコートはどうやらここまでのようだ。隼鷹、龍驤の護衛部隊は、後はしっかり頼むで!と激励の言葉を後に、敵直掩部隊に突っ込んでいき、激しい戦闘に入った。

 敵も味方も炎に包まれ、火だるまとなって海に落ちていく。直掩部隊とだけあって、敵戦闘機もなかなかにやるようだ。犠牲となっていく味方に後ろ髪を引かれる思いになりつつも、意識を切り替え迫りくる敵追撃部隊を迎撃する。

 

 『あとちょっとで敵艦隊に接触できるんだ。こんなとこで・・!』

 

 

 『七番機!脱出しろ!機体がもう持たないぞ!天蓋を開け!おい!聞こえているのか!』

 

 追撃部隊により蜂の巣となった瑞鶴隊の爆撃機は意地でも引こうとしない。やがて、掛け声むなしく彗星は推力を失い、火に包まれる機体から脱出装置が作動することなく爆散していった。なんてことだ。無茶をしやがって・・!しかし戦友の死に悲しむ時間を敵は与えてはくれない。ここは戦場なのだ。敵と味方の命の奪い合い。敵を殺さなければ自分が、仲間が死ぬ。後部機銃を任されている妖精達は味方の仇!と叫びながら敵を撃ち落としていく。なんとか敵を殲滅するものの、損害はでてしまった。だが進まなければならない。妖精達の精神は戦場特有の雰囲気に飲まれていった。

 

 「必ず敵の別働隊が潜んでいるはずです。敵別働隊の発見を急いでください!」

 

 そのころ後方の予備部隊の赤城と加賀は後方の索敵を行っていた。敵の第二次飛行部隊の向かっていった方向をもとに、敵のルートを予測する。おそらく敵は艦隊をわけてこちらの先行部隊の側面をつこうとしているはず。早期発見し、こちらの艦載機で損害を与えて足止め、そのあいだにこちらの先行部隊が敵艦隊を壊滅させ逆に挟み撃ちにしてやるのだ。そのためにも敵がどの位置にいるのかという情報は第一優先目標だ。なかなか報告があがってこないことに若干の焦りが出始める。索敵部隊を増やそうかと考え始めた時だった。味方索敵機から電信がはいる。ようやくみつけたと喜んだのもつかの間。届いた情報はこちらの喜びを一瞬で冷やすものだった。

 

 二時方向より敵艦隊発見。戦艦二、重巡二、駆逐二、計六艦なり。いずれも赤い気のようなものをまとっており、その存在は異質。注意されたし。

 

 敵の魔の手はこちらに迫っていた。

 

 

 『圧巻だな。前回の時よりも獲物が多くて助かるぜ・・!』

 

 瑞鶴航空隊の艦攻機パイロットは震える自分を抑えるかのように声をだす。あの数だ。生きて帰れる奴は果たしてどれぐらいになるのか。だが今はやるしかない。突撃隊形をつくれ!という隊長の号令とともに隊列を整える。狙いは輪形陣の中心にいる空母たちだ。訓練の賜物である超低空飛行で敵艦隊に近づいていく。弾の雨がこちらを貫こうと向かってとんできては通りすぎを繰り返していく。途中後ろの方から激しい爆発音が聞こえる。味方が撃ち落とされたのだろう。だが振り返る暇はない。やられた分だけやりかえせばいい!

 

 『敵艦との距離1000!今だ!魚雷投下!!・・くっっ!!』

 

 弾幕をかいくぐった残りの部隊が次々と魚雷を投下していく。だが敵もただではこっちを帰すつもりはないらしい。投下後の離脱中の味方も次々とおとされていく。それにもれなく自分の機体も損傷し、操縦桿がいう事をきかなくなっている。おそらく自分の投下した雷撃は当たるだろう。だが物足りない。これでどうせ最後なのだ。最後ぐらいは欲張っていい。

 

 『へへっ。このままだとちょっと寂しい結果になっちまうからおまけにもう一つ頂いていくぜ!』

 

 火を噴きながらも体勢を立て直し、敵に向かっていく一機の天山。やがてその機体は深海棲艦に接触し大爆発を起こす。沈みゆく敵駆逐艦と折れた翼。沈みゆく敵艦を見届けて満足したのか、折れた翼はゆっくりと海の底に消えていった。

 

 『なんて無茶をしやがる。艦攻隊の勇姿を無駄にするな!先行部隊のおかげで我々艦爆隊への対空砲火が弱まっている!この時を逃すな!我々も続くぞ!攻撃開始!』

 

 『隊長に続け!高度600・・500・・400・・300!投下!』

 

 次々と目標へ50番を投下していく艦爆隊。次々と命中報告があがり、敵艦に火の手が上がっていく。そんな中、翔鶴隊隊長は投下後もある程度高度を維持し、敵砲撃のヘイトを集める。赤城隊の先輩たちが以前の戦いの時、投下後もすぐに離脱しないのが謎だったが、先陣をきって投下した今ならわかる。爆撃後も敵の注意を分散させることによって後続の爆撃部隊の負担を減らしていたのだと。今度は自分が護る番だ。敵の対空を躱しながらある程度爆撃隊が投下したのを見届けると、少しぼろぼろになった機体をみながら離脱し笑みをこぼす。あの状況で被弾しなかった隊長はやっぱり化け物だな。火の手があがっている敵艦隊を背に帰投命令と戦果報告を打電するよう指示しながら先ほどの戦闘をふりかえる。果てしない背中を追いかけながらもいつかは追いついてみせると意気込むのであった。




被害を出しながらも敵艦隊に損害を与えることに成功です。


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第32話

艦隊決戦。


 『翔鶴攻撃隊からの電信あり!戦艦1、空母2、重巡2、駆逐4の撃破に成功!』

 

 「よし。味方の航空隊が戦果を上げてくれたぞ!ここまでおぜん立てしてくれたのだ。我々も負けてられんぞ!間もなく敵艦隊と会敵する。当初の作戦通り抜かりなく!」

 

 長門は通信妖精から報告を受けると、味方に檄を飛ばし決戦に備える。まもなく主力艦隊の有効射程距離だ。水雷戦隊の突撃をいつでも援護できるように準備にぬかりはない。そしてまもなく合戦用意のラッパの音が海に鳴り響いた。

 

 「日頃の訓練の成果を今こそ見せる時です。各艦。突撃用意!!行きましょう!」

 

 「神通たちを援護するのだ!各艦!一斉撃ち方はじめ!」

 

 突撃していく第二水雷戦隊は魚雷を一斉射して敵に突き進んでいく。その後方で長門を中心とした主力艦隊の砲撃が美しい弧を描いて敵に吸い込まれるように飛んでいく。だが相手もただ黙っているわけがない。同じように敵主力艦隊の砲撃がこちらに向かって飛んでくると、妖精達と艦娘の怒号が戦場に広がる。

 

 『次弾装填いそげ!我々戦艦の砲の再装填には時間がかかる!一撃必殺のつもりでしっかりあてていけ!』

 

 『長門にいいとこもってかれてたまるかってんだ!重巡にだって意地はあるぞ!撃てうて!!』

 

 『敵軽巡に陸奥の射撃命中!敵軽巡の轟沈確認!』

 

 開幕射撃はどうやらそれなりに上手くいったらしく上々の報告が入ってくる。やがて神通達第二水雷戦隊も敵の砲撃をかいくぐりながら自分達の有効射程距離に入ったのを確認すると砲雷撃を開始し始めた。頃合いだ。機会をうかがっていた第一水雷戦隊が動き出す。

 

 「よし!第二水雷戦隊が砲雷撃にはいった!私たちは機関最大で敵の前に突き進む!さぁ仕掛けるよ!私に続け!」

 

 「私たち第三水雷戦隊も続きます!みんなついてきて!」

 

 川内と長良率いる水雷戦隊も待ってましたとばかりに突撃を開始する。敵と味方、互いの艦隊の距離は少しずつ縮まっており、互いに損害が出始める。

 

 「雪風は沈みません!」

 

 「もう以前の僕たちとは違うんだ!残念だったね!」

 

 激しい砲撃の中、第二水雷戦隊の面々は良く粘っていた。訓練の成果が実感できる。あの頃のただただ逃げ回るだけの悔しさ、無力さのおかげで厳しい訓練に耐えることができた。被害は出しながらも致命傷には至ってない。やがて第一水雷戦隊が入れ替わるように自分達の斜めを通り過ぎていくのを確認すると神通の号令で魚雷を一斉射し、妖精達に被害部分の応急修理をするよう指示すると一旦離脱する。戦局は少しずつこちらに傾きはじめていた。

 

 「各艦魚雷斉射用意!しっかり狙って!5・・4・・3・・2・・1・・一斉射!」

 

 前線に躍り出た第一、第三水雷戦隊から魚雷と砲撃が放たれた。敵は迫りくる波状攻撃にたじろぐ。やがて敵の戦艦がこちらの主力艦隊の誰かが放った主砲に直撃すると炎上し沈んでいく。敵は旗艦を倒され統率を失って動揺したところを見逃す川内達ではなかった。旗艦を失い、進路を塞がれたことで逃げ場もなくなった。迷っているうちに足元にスゥーと伸びてくる魚雷が自分たちに到達し次々と爆散していく。勝ち目がないと悟ったのか、次々と反転、あるいは強行突破して戦線離脱を試みる敵艦隊。長門は追撃命令をだして一網打尽だ!と叫ぶと追撃態勢にはいった。敵は逃げようと必死に後退しながら反撃してくるもまたもや進路を塞がれる。

 

 「どこにいこうというのですか?まだ戦いは終わっていませんよ?」

 

 負傷しながらも微笑みながら神通が敵に優しく語り掛ける。だがその時の目の奥は表情と違った感情を抱いていたに違いない。一旦離脱した第二水雷戦隊は体勢を整えると、あらかじめ回り込むように進路をかえていたのだ。こうも変わる物なのね。姉妹ならではの息の合った連携に陸奥は驚いていた。提督が変わってから厳しい訓練を重ねていたのは知っていたが、こうも変わるとは。装備だけではない。彼女達の心も強くなったのだろう。いい報告ができそうだわ。そう思いながら残存部隊を次々と殲滅し、最後に残った軽巡にとどめをさし轟沈を確認すると、周りを見渡す。長門と視線があい、互いに頷くと、んんっ!と咳払いをした長門が静かに目を閉じる。まわりのものは感情がたかぶっているのか、こちらを見つめながらいまかいまかと、まっているのがわかった。

 

 「思えばあの長い屈辱の日々を耐え続けたかいがあった。この時をどれほど待ち望んだことか!!諸君らの奮闘のおかげで誰一人欠けることなく敵を殲滅することができた。我々は勝った!勝ったのだ!今こそ勝鬨を上げる時だ!」

 

 あたりにみんなの声がこだまする。ぼろぼろになったものもいる。砲塔がひしゃげたり、服も破れたりしているものもいる。だが勝ったのだ。犠牲をだすことなく。長門は胸に熱いものがこみあげてくるのを我慢する。まだ作戦はおわっていない。別働隊発見の報告を受け取っているのを思い出す。赤城達の援護に向かわなければ。負傷していない者で水雷戦隊を組みなおし、先行して援護に向かうように指示をだすと、指令室の大淀に電信をする。勝利の報告と赤城達の援護にむかうことを伝えた。誰もが大戦果に浮かれていた。だがその勝利の余韻に浸っている時間はひとつの電信によってあっというまに打ち砕かれた。

 

 敵艦隊の攻勢により加賀轟沈。至急援護を求む。

 

 周囲の歓声はぴたりとやみ、物々しい空気が漂っていくのであった。




艦隊決戦は勝利したものの・・


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第33話

繊細に。


 してやられた。まさかこっちが本命とでもいうのか。本隊の艦隊決戦が始まったのと時を同じくして、赤城率いる後方部隊と敵の別働隊は激しい戦いを繰り広げていた。

 

 

 

「敵の発見が遅れたためこちらの攻撃機をあげる余裕がありません!戦闘部隊は急いで発艦準備を!」

 

 

 赤城の指示に急いで準備をするパイロット妖精達。やがて準備が整った部隊から発艦準備完了の合図を赤城に送ると、赤城は弓を構え大空に放つ。加賀も続いて矢を放ち、空に伸びていく矢はたちまち戦闘機に姿を変え、敵別働隊の航空隊へ突撃していく。いかんせん敵との距離が短すぎる。こちらの部隊が全員発艦するころにはとっくに敵の射程圏内だ。先行して飛び立った赤城航空隊隊長は空中で味方と編隊を整えると、発破をかける。

 

 

 『アポイントなしでやってくるとはなかなかの無礼もんだ。戦闘部隊はそろい次第敵攻撃部隊を叩くぞ!なんとしても味方を守り抜くんだ!』

 

 

 『調子に乗って赤く色気づいてやがってあの野郎ども。赤城隊より赤が似合うもんがいないことを証明してやるぜ!』

 

 

 危機的状況にありながらも冗談を飛ばしあうパイロット達。歴戦の猛者ならではの余裕なのだろう。ひとしきり笑いあうと編隊をくみ敵攻撃部隊につっこんでいく。加賀隊も数では劣るが精鋭中の精鋭だ。加賀隊に左翼を頼んだと無線で連絡し、まもなく敵とぶつかり合う。

 

 

 『こいつら今までの奴らとは一味違うぞ!気を引き締めてかかれ!油断するな!』

 

 

激しい爆発音があたりに響き渡りはじめながらも連携を崩すことのない一航戦のパイロット達。だが相手も簡単に落ちてはくれず、怒涛の粘りをみせる。今までの敵よりも墜とすのに時間がかかる。そうこうしていくうちに敵攻撃隊の突破をゆるしてしまった。味方戦闘機が全機発艦できていないものあり、次々とすり抜けていく敵攻撃機。会敵海域がもっと遠くだったら。タラればの願いはかなうはずもなく、敵航空隊が爆撃体勢に入ってくる。敵は狙いを一点集中で墜とすつもりなのか、1人の艦娘に狙いを集めていた。加賀だ。動きが悪いのを見破られたのだろう。避けられない。敵の艦爆機が今まさに投下しようとしたとき、無数の弾幕が敵機を撃ち抜き、加賀の頭上で爆散した。

 

 

 「電は・・・電はもう逃げないのです!」

 

 

 「そうよ!あの時の私たちとはもう違うわ!もっと私たちを頼ってもいいのよ!」

 

 

 護衛をかってくれた六駆の面々が機銃の一斉射で敵を撃ち落としていく。あの時は自分達の無力さゆえになにもできなかった。ただただ逃げ、姉を失い、加賀を負傷させてしまった。だが今はもう違う。自分達は変わったのだ!手に入れたこの力を今使わずしていつ使うのか!

 

 

 「そっそうよ!レディーは困っている人を見捨てたりしないんだから!」

 

 

 建造組のため他の六駆のメンバーよりも練度が劣る暁だったが長女の意地があるのだろう。怯みながらも自分を鼓舞し、敵に食らいついていく。そんな六駆の様子をみた加賀はまるでわが子の成長に嬉しさを感じるような気持ちになった。この子達が頑張っているんだもの。私もやらねば。艦爆機を発艦させると次の発艦準備のため矢をつがえようとした瞬間、妖精の声が響く。

 

 

 『右舷九十度雷跡!!距離1000!・・・さらに右舷七十度雷跡!距離1200!』

 

 

 見張り妖精の声をうけ右方面を確認する。撃ち落とせなかった敵艦攻機が魚雷を投下し、こちらにむかって泡が近づいてくる。勿論狙いは加賀だ。なんとか面舵をとり、避けようとするが、体が思い通りに動かない。こんなこところで・・!!そう思った瞬間、加賀の体は爆発に包まれた。加賀さん!!!と赤城や六駆の声が遠くで聞こえる。足に力が入らない。そうか。私はここで・・やがて加賀の速度はおち水面に力なく倒れると、空を見上げる形になった。敵攻撃機は投下を終えたのか、空の彼方に去っていった。本隊は無事なのかしら。赤城さんは?この子たちは?色々な思いが脳裏を駆け巡る。これが走馬灯というやつなのかしら。少しずつ遠のく意識の中叫び続ける声が聞こえる。

 

 

 「加賀さん!しっかりしてください!私が・・!私がもっと敵を早く発見できていたら!!」

 

 

 「嫌だ。また守れないのかい?見送るのはもう嫌だ!」

 

 

 涙を流しながらまわりを囲む赤城と六駆。ごめんなさい。お役に立てなくて。と力を振り絞って謝る。謝らなくていいんです!目を開けてください!と赤城が懸命に励ますも、浸水しているのか少しずつ体が冷たくなっていく。ああ。願わくばこの子達が無事に過ごせますように。赤城さん。あなたが無事ならいいの。提督。後は・・たの・・・

 

 

暗くて冷たい深い深い海に加賀は沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 復讐に燃える別働隊の鬼気迫る声が響き渡る。間もなく敵別働隊が射程距離にはいる。このままでは射程の差で一方的に撃たれるだけだ。そんなのは許せない。ユルサレナイ。素早く体勢を整えると、こちらも反撃と戦闘態勢をとる。六駆の面々の目は赤くなっていたが、すぐに切り替えると砲雷撃の準備に取り掛かる。

 

 

 電信を受け取った真船は焦っていた。加賀が沈んだ?一体なぜ?だが赤城からの電信だ。間違いのはずがない。自分の無力さをこれほど呪ったことがっただろうか。大淀も下を向いてどう言葉をかけていいかわからないと口を結んでいた。だがここで加賀の犠牲を無駄にしてはならない。彼女は自分にできることを。と常に日頃口癖にしていた。今の私にできることをなすだけ。悲しむのはその後だ。気持ちを切り替え、戦勝報告をしてきた本隊に急いで救援に向かうよう指示をすると、新しい情報を待つ。握りしめたこぶしに爪が食い込み、血が出ていることに気づかないままだった。

 

 

 「仇を・・仇をとります!艦爆隊!艦攻隊!発艦開始!」

 

 

 復讐に燃える別働隊の気迫迫る声が響き渡る。間もなく敵別働隊が射程距離にはいる。このままでは射程の差で一方的に撃たれるだけだ。そんなのは許せない。ユルサレナイ。素早く体勢を整えると、こちらも反撃と戦闘態勢をとる。六駆の面々の目は赤くなっていたが、すぐに切り替えると砲雷撃の準備に取り掛かる。

 

 

 『・・・各機に告ぐ。赤城本隊は敵との距離は近く、我々が攻撃後に帰艦し、再度出撃する時間がない。一発で決めろ!必ず勝つぞ!』

 

 

 発艦した赤城艦爆隊、艦攻隊、の妖精達は静かに闘志を燃やすと敵に狙いを定めて次々と攻撃を繰り出していく。敵は少数だ。この手数は防ぎきれまい!次々と爆撃、雷撃を決めていく赤城隊。しかし、先ほどの戦闘機同様、敵が妙に固く、思った以上に損傷を与えられない。たった六隻相手になんて様だ!と叫びつつ離脱する。しかし敵重巡を2隻沈め、戦艦をそれぞれ小破に追い込んだ。後は援軍を待ちながら別働隊の戦闘を見守るのみとなった。頼む。どうか生き残ってくれ!祈ることしかできない自分達に歯がゆさを覚える妖精達であった。

 

 

 「敵重巡が二隻沈んだわ!これで私達六駆で突撃して四対四になるわ!」

 

 

 「だけど相手はまだ戦艦が残っている。私たちの火力で墜とすことは不可能だわ!」

 

 

 「一撃必殺の魚雷で・・やるしかないのです!」

 

 

 赤城航空隊の戦果を電信で確認し、突撃体制を整える六駆。赤城はもう攻撃に参加できない。あとは自分達しかいないのだ。先ほどの対空戦闘で負傷した体と艤装にむちをうち、やってやると意気込む。赤城は情けないこの気持ちをどうぶつけたらいいのかわからない。加賀さんは沈み、自分はもう戦えない。艦載機のパイロット達が戻ってきて弾薬装填をして再発艦するころにはもう間に合わない。あとはこの子達に任せてしまう状況を作ってしまった。旗艦として、一航戦としてなんと情けないことか。だが現実は代えられない。

 

 

 「こんな状況になってしまってごめんなさい。あとはあなたたちが頼りです。きっと本隊もこっちに向かっているはずです。それまでなんとか沈まないで。」

 

 

 「大丈夫よ赤城さん!きっと仇はとるわ・・見守っててちょうだい!」

 

 

 いっぱい訓練したんだから!と雷の頼もしい返事を聞き届けると、六駆は前進し、敵の射程圏内に入っていく。戦艦の射程はこちらより圧倒的に長いため、こちらの攻撃はまだ届かない。陣形を崩すために、そしてあわよくば当たれと願いながら魚雷を放ち、砲を構える。やがてこちらの射程圏内にはいると砲撃を開始した。敵駆逐にはなんとか損害を与えることはできているものの、やはり敵戦艦にはダメージがあまり通っていない。このままだといずれ弾着修正され敵の攻撃が当たるのも時間の問題だ。敵駆逐を仕留めると、残るは敵戦艦2となった。いける!六駆に希望が見えてきた瞬間、暁が爆炎ともに悲鳴を上げる。敵戦艦の副砲がどうやら当たったらしく、ボロボロになっていた。機関部がやられ、速度が落ちていく。三人に悪夢がよぎる。加賀さんも暁もいなくなるのは嫌だ!だがこのままでは。敵の主砲がこちらを捕らえる。主砲の装填がおわったのだろう。

 

 

 「へへ。もう・・後はお願い。ね・・」

 

 

 目を閉じる暁。させまいと三人は前に体をだし、腕をバツ字に組み衝撃に備える。敵から主砲を撃つ音が聞こえる。だが、敵の主砲はこちらに届くことなく遠くで爆発音だけが響いた。恐る恐る顔を上げると味方の紫電改二が敵のまわりを飛び回っている。攻撃をしかけ、砲塔にダメージを与えたのだろう。敵戦艦の砲等は2隻ともひしゃげていた。颯爽とヒットアンドウェイを仕掛ける紫電改二。その機体達の一部の色は海と同じ色をした青色のマークだった。

 

 

 あたりを見渡すと遠くに誰かいるのがわかる。そのものは再び弓をつがえながら語りかける。 無線越しに聞こえた声に赤城と六駆は信じられないと言いつつも、その声は喜びの声だった。その艦娘の肩には白いねじり鉢巻きに青い半纏、手にはインパクトドライバーをもちながら腕を組んでいる。 青い半纏は強い風を受け、パタパタと力強くそよいでいた。

 

 

 「鎧袖一触よ。心配いらないわ。」

 

 

 

 



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第34話

自分で作品を書いておきながら、今第何話なのかいつも忘れてしまう。


 体が軽い。はるか昔の、あの頃のような感覚に包まれながら矢を構えていく。いつも提督の傍にいたこの妖精のおかげだろうか。沈みゆく中、突然体が光に包まれ気が付くと海の上にたっていた。突然の出来事に戸惑ったが、私はこうして生きている。はるか先にあの子達が戦っているのがみえる。今度は私が護る番だ。発艦用意の号令を妖精達にだすと次の矢を構える。

 

 

 「ここは譲れません。」

 

 

 放たれた矢は太陽の光を浴びながら姿を変え、姿を変えていく。艦爆隊、艦攻隊は次々と飛び去っていき編隊を整える。後は任せておけと無線で連絡をとりあう妖精達。綺麗な編隊を組むと敵戦艦に向かって突撃していった。

 

 

 『悪いが早くしてくれ。艦相手に戦うのは未経験でな。流石に20mmでは戦艦相手じゃどうにもならん。』

 

 

 『お前らのおかげで六駆のお嬢さんたちを護れたんだ。仕返しは俺らに任せて艦で甘酒でも用意しておいてくれ。』

 

 

 先行して囮役を引き受けてくれた戦闘機組にねぎらいの言葉をかけると、みな、わかっているな、と無線をつなげて後続に続く部隊に確認をとる。

 

 

 『敵は派手にやってくれた。加賀の復帰祝いもかねてきっちりお礼をしてやらんとな!艦爆と艦攻同時攻撃を行う!攻撃後の空中衝突に気をつけろ!敵は対空能力ががた落ちしている状態。ボーナスステージだ!』

 

 

 了解!次々返事が返ってくると間もなくそれぞれの投下高度をとり体勢を整えていく。その様子をみて暁は負傷しながらも気をはき、妹たちに指示をだす。

 

 

 

 「うちかたやめ!味方機に誤射する可能性があるわ!タイミングをあわせて魚雷一斉射で援護するのよ!」

 

 

 まもなく一斉に放たれた魚雷は敵戦艦にむかって伸びていく。上からは爆撃機、横からは攻撃機、舵をきれば敵駆逐の魚雷に直撃してしまう。すでに忌々しい敵の戦闘機によって砲塔は破壊され反撃らしい反撃はできない。こんなはずではなかった。人間どもはここまで強くなっていたのか。決して油断したわけではなかった。先行部隊が敵と膠着状態になっているところを迂回し背後をつき、一網打尽にする予定だったものを。エリートである私が・・!こんなとこ

 

 

深海棲艦の最後に見た景色は頭上から降り注ぐ雨というには大きすぎる塊だった。

 

 

 「加賀さん!もうだめかと・・!」

 

 

 すべてが終わった後、赤城は航空隊を収容し、加賀に近づいてくる。六駆も敵残存戦力がないか警戒した後にぞろぞろと集まってくる。電にいたってはもうすでに泣いている。やがてそれぞれ生存していることの喜びを分かち合うと、指令室に電信を送る。この海戦が人類及び、艦娘の反撃の狼煙をあげる歴史的海戦になったのは間違いないだろう。帰ろう。私たちが帰る場所へ。帰艦中のみんなの顔はこれ以上ないぐらい誇らしげだった。

 

 

 加賀が轟沈したと思ったらいつの間にか復活して敵を壊滅させたという情報を受け取った真船は混乱していた。一度沈んだ者が再び甦るものなのか?大淀に尋ねるといいえ。と首を横に振り否定する。

 

 

 「通常ではそんなことはまずありえません。ですが、妖精の中にはこのような奇跡をおこすことができるものがいるというのを聞いたことはあります。」

 

 

 つまりあのいつもそばにいた菓子をねだっていたあいつがそれに該当するやつだったということなのか。あんなぐうたらしながら菓子ばっか食べていたあいつがな。だがあいつのおかげで加賀は助かったのだ。帰ってきたらうんと褒美をあげてやらんとな。遠海で戦闘がおこったため、みなが帰投するまでは時間がかかる。その間に執務を終わらせるとしよう。大淀とともに作戦室をでて、いつもの部屋に戻ってくる。厨房の間宮に連絡を取り、指示をだすと私も負けてられんな。と気合いをいれ、少しうつ慣れてきたデスクワークに励むのであった。

 

 

 「間もなく全艦帰投してきますよ!」

 

 

 無線で明石から連絡があり、迎えに行くか。と小言を言いながら工廠に向かう。やがて続々と帰投し、艤装を取り外していく艦娘達。しかし出撃前と明らかに違う変化があった者がいた。加賀だ。赤城が先に艤装を外し、加賀をささえようと車椅子を準備しながらかまえていると、加賀は微笑みながら優しく声をかける。

 

 

 「赤城さん。ありがとう。でも私、きっと大丈夫な気がするの。」

 

 

 そういうと艤装が取り外されたかと思うと、二本の足でしっかりと自分の力で歩き始めた。その姿に赤城は泣きながら加賀に抱き着き、言葉にならない喜びの声をあげていた。真船も驚いていたが、顔に出さないよう努めていた。ススッ。肩に重みを感じ視線を向けると。出撃前に加賀に乗り込んでいった妖精がいつもまにか戻ってきていた。一仕事したぜ。とでも言いたげな顔をしながら額の汗をぬぐうポーズをとる。バシッときめていた恰好もいつもの普段着に戻っており、あの勇ましくかっこいい姿はどこいってしまったのか。なでくりまわしてやりたいところだが、今は皆の前だ。あとでお菓子も一緒に渡してやるか。そう考えているうちに出撃していた艦娘が綺麗に整列し、敬礼をする。私も敬礼を返すと、長門が代表して声をあげた。

 

 

 「先ほど行われた海戦により敵艦隊及び、敵別働隊の殲滅に成功。こちらの被害は損傷多数ではあるものの、轟沈した艦はゼロ。提督。艦隊無事帰投しました!」

 

 声高らかに戦果報告する長門。後ろに並ぶ皆の顔も凛々しい顔をしている。これが軍人なのだろう。戦士の帰艦に私も応える。

 

 「みなよくやってくれた。この戦いの戦果は人類にとって大きな一歩となるだろう。みなまわりの仲間をみてほしい。凛々しい顔をしているものばかりだ。きっとこれが本来の君たちの姿なのだろう。軍人として、艦娘として、立派に戦い、そして誰一人欠けることなく戻ってきた君たちを私は誇りに思う。みなよくやってくれた。」

 

 

 こういう空気は苦手だ。何を話していいのかわからなくなる。無難な感じでまとめ上げて皆をほめたたえ、それぞれ傷を癒すように。そしてそれぞれの部隊の旗艦に後で詳細報告するよう指示をだし、執務室に戻る。工廠から遠のいていくと後方からわぁー!と歓声があがっている。自分達が勝利したことを再び実感して感情が爆発したのだろう。私はどこか嬉しい気持ちになりながら執務室のドアノブに手をかけ、報告を待つのであった。

 




 戦艦、護、色々考えた結果、応急女神での復活パターンにしました。これからも加賀には戦線を支えてもらいます。


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第35話

世間は三連休ですね。私は・・まぁそうねぇ・・・。


 執務室に戻った私は長門達からの報告を受け取り、書類の整理をすます。大淀にもあがってもらい、執務室に一人になる。机の上にいつのまにか妖精がひょこっと現れ、私にきづいてほしいのか、手をぶんぶんとふりながらアピールしていた。頭を撫でながら、ありがとう。お前のおかげだ。と言葉をかけて冷蔵庫から間宮のお菓子を取り出し、目の前に差し出す。うれしそうに食べる妖精に語り掛ける。その時の私は、はたからみたらきっと何もない机にただただ独り言を喋る危ないやつにみえていただろう。妖精は力を使い果たしたため、当分このような力を使えないとのことらしい。申し訳ないという顔をしている妖精に気にするな。お前がいてくれるだけで十分だ。妖精用の小さいコップに紅茶を注いでやると、私も用意した自分用のお菓子を食べながら紅茶で甘い余韻を洗い流す。アフタヌーンティーというにはとても遅い時間だったが、心地よい時間がゆっくりと流れていた。

 

 2人で仲良く食べ終わると、工廠近くに住居があると妖精から情報をもらったので、工廠にむかう。人気のいなくなった工廠の明かりをつけると、甘い匂いにつられたのか、妖精がぞろぞろと集まってくる。間宮のお菓子をみんなに分けると、嬉しそうにする妖精達。そして少しの酒と菓子をそれぞれパイロット妖精に渡し、労いの言葉をかける。

 

 

 「今日ここに帰ってこれなかったパイロットの分だ。立派な最後を迎えたと聞いた。気持ちばかりの量で申し訳ないがこれを供えてやってくれ。」

 

 

 何人かの妖精が代表して受け取ると、綺麗な敬礼をしてくれた。きっと思いが伝わったと信じたい。あまり遅くならないようにな。と声をかけ部屋に向かって戻る。シャワーを浴びて今日はもう寝よう。そう思いながら工廠を後にした。

 

 

 『しんみりしてちゃあ、あいつらもきっと浮かばれねぇ。もらった分の酒で今日は騒ぐぞ!ただし逝っちまったやつらの分には手を出すなよ。ちゃんとお供えしてやらんとな。』

 

 

 大空に散って行った戦士達。あいつらの分まで生き抜いていつかあの世で会った時に戦果スコアを自慢してやるさと妖精達は騒ぎ、乾杯する。なみなみ注がれた誰も口にしていないグラス達とともに勝利の美酒を味わう。こんなにうまい酒は久々だ。次もこうやって飲み明かしたいものだ。航空隊の夜はふけていった。

 

 

 妖精達がよろしく始めだしたころ、食堂ではいつもと違う光景が並んでいた。入渠を終え、ご飯と集まってきた面々の前に広がっていたのは一部のテーブルにぎっしりと並んだ大量の料理だった。どういうことなのかと誰かが間宮に問いかけると、今日はどうやら半立食形式で食べることになったとのことだ。艦隊の勝利報告を聞いた提督がめでたい日なのだから、今日ぐらい贅沢をさせてやってほしい。是非君たちの腕をふるってくれ。と指示をもらった厨房組は張り切って作った結果こうなったそうだ。普段はあまりみない料理がずらりとならんでおり、おいしそうな匂いをそこら中に漂わせている。なんとデザートまで種類がそろっているではないか。湧き立つ面々の中、明らかにオーラが変わっている者達もいた。

 

 

 「ちなみに提督からの伝言で、空母組に料理を独り占めさせないように。と忠告をうけていますので、ほどほどにしてくださいね。」

 

 

 と間宮が声をかけると、声をかけられた二人はそんな…。とショックを受けていた。せめて皆が一式まわってからおかわりをしてほしいものだ。実際、洗い物が減るから洗い物も楽なのだ。間宮は大食艦に心の中で感謝すると、追加の調理に対応できるように厨房の近くの席で一足先にご飯を食べ始めた。それを皮切りに用意された皿を手に取り、お目当ての品の近くに集まり皿を彩っていく艦娘達。賑やかな活気に食堂は溢れかえっていた。

 

 

 「カレー!カレーがいっぱいあるっぽい!さらにここにハンバーグを合体させて・・!」

 

 

 「これは上手い・・!この品をもってそのまま酒保に向かうのも悪くない。」

 

 

 「食べ放題。なんて素敵な響きなんでしょう。こんなおいしい料理が食べ放題!箸がとまりませんね加賀さん。」

 

 

 「この品は譲れません。」

 

 

 大淀と明石は盛り上がる面々をよそに静かにおいしいねこれ、と料理に舌鼓をうちながらゆっくりと食べる。ほんと今日すごかったねぇみんな!と艦隊の勝利を振り返りながら整備や装備開発が役に立ってよかったと喜んでいる。どうやら提督に褒められたらしい。ちょっとだけ羨ましくなるが、明石や工廠の整備妖精達が普段から点検や修理してくれてなければきっと被害は増えていただろう。それぞれが輝ける場所を与えてもらい、結果をだす。自分はなにか役に立っているだろうか。センチメンタルな気分になってしまうが、今は美味しい料理を食べて英気を養うのよ!大淀は自分に言い聞かせると、その後も皆で喋ったりして充実した時間をすごした。

 

 解散となり部屋に戻ると、ドアノブに何かかかっているのを見つけた。包装された包みと手紙だ。一体だれが?気になりその場で手紙をあける。

 

 

 

 

 

 今日の艦隊決戦時、色々な情報が飛び交い不安だったが、君がいてくれて助かった。きっと私だけではパニックになっていただろう。緊急時だけでなく、普段の執務でも大いに助かっている。日ごろの感謝の意味もこめてささやかだがこれはお礼だ。好きな時にゆっくり食べてくれ。今後もよろしく頼む。頼りにしている。

 

                                        真船

 

 

 

 にやけ顔がとまらない。自分は必要とされている。このことが大淀にとってたまらなくうれしかった。やはり言葉にしてもらうと嬉しさが実感できるものだ。一人浮かれていると、たよりにされてるねぇ~と明石が手紙を覗きながら茶化してくる。覗くなんて失礼よ、と少し怒るも、部屋に入った二人はもらったケーキを仲良く食べた後、寝床につくのであった。




大淀、明石は縁の下の力持ち。


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第36話

頭を使う文章は苦手。


 「これほどの戦果を艦娘部隊があげたというのか。間違いではないのかね?」

 

 

 海軍本部の一室で一人の人間が上がってきた報告書に疑問を投げかける。谷上は報告をあげてきた部下に念入りに確認していた。さきの海戦で佐賀山率いる艦娘の部隊が敵艦隊を打ち破り大戦果をあげたのだ。今まで苦戦していた相手にこのような大勝できた理由がわからない。確かに最近あがってきていた報告では少数戦ではあるものの、勝利を収めていた。だが、だからといってこうも上手く勝てるものなのか。しかもこちらの沈んだ者はゼロ。できすぎだ。なにか大きな変化があったに違いない。そう考えると谷上はすぐに行動にでる。部下にスケジュールの確認をさせ、鎮守府への視察確認にいけるよう調整しておいてくれ。と指示をだし立ち上がって窓から外を眺める。あの佐賀山がな。確かに三十半ばと若くして中佐まで上り詰めたエリートであったのは間違いない。しかし、いささか強情な部分があり、柔軟な発想を苦手としていそうなタイプではあった。俗にいう堅苦しい感じのタイプだ。とにかく一度あって様子をみないことにはわからん。仮にもしこの調子で使えそうな感じならこちらの派閥に引き入れなければ。

 

 

 「全く一体誰と私たちは戦っているのかわからなくなるな。」

 

 

 部下にそう皮肉をまじえて冗談を飛ばすと、困ったような返事でそうですな。と返ってくる。引退間近の老兵をこき使うのもやめてほしいものだ。と呟きながら今後の展開を関上げていくのであった。

 

 

 

 

 「突然だが五日後に海軍本部から視察したいという申し出があり、お偉いさんがやってくることになった。この鎮守府にやってくる谷上中将という方はどのような人なのだ?もし知っている情報があれば教えてほしい。」

 

 

 執務室に長門、陸奥、赤城、加賀を呼び、大淀と私、六人で問題について話し合っていた。今までパッとしなかった部署がいきなり多大な利益をあげてきたのだ。そりゃ上の者はなにがあったのかと確認をとるに決まっている。だが今回は事情が特殊すぎた。違う世界から来たといっても信じてもらえるかどうかわからない。信じてもらえず、佐賀山時代の不正が明るみにでれば、更迭、失職すらあり得る。身寄りのないこの世界でそれだけは避けたい。それにこの子達も心配だ。最悪私がいなくなってもこの子達がしっかりとした環境で戦う事ができるのが望ましい。交渉しようにも相手がどのような人柄なのかわからなければどうしようもない。佐賀山が谷上中将とどれくらいの仲なのか。どのような口調で話していたのか。まるでわからない。大淀を中心に集めてもらった佐賀山時代の不正の証拠がカギを握ることになるのは間違いなさそうだ。

 

 

 「提督よ。何も心配することはない。噂によると谷上中将は我々艦娘の存在も特に邪見にあつかっている様子ではないみたいだ。私たちが誠心誠意こめて谷上中将を説得してみせよう。」

 

 

 いささか脳筋ぎみな答えが返ってくるが、期待しているぞ。と返事をしてやるとうむ。と長門は満足げに腕を組み目を閉じている。陸奥の若干冷ややかな視線なんて何のその状態だ。そんな簡単にいくわけないでしょ。とお叱りの言葉をうけた長門は少ししゅんとなっていた。

 

 

 「提督は前任者との明確な違いは妖精が見え、意思疎通がとれることです。我々艦娘が妖精の力を借りて戦っているというのは本部側の人達も認識しています。同時に前任者が妖精がみえないという事実も。これは人格が入れ替わっているという明確な差です。加えて妖精の力を借りなければ建造、新しい艦娘は生まれてきません。多大な戦果をあげつつある我々の状況を垣間見るに、妖精に好かれている提督を前線から外すということは現状してこないと思われます。」

 

 

 大淀の後押しもあり、私が真船ということは本部側の人間に伝えることに決めた。辻褄がだんだん合わなくなり、のちにぼろがでてばれるというよりかはよっぽど印象がいいだろう。だいたい相手は色々な経験を積んできた人間なのだ。下手に逆らうよりも下から出ていったほうがいい。最悪飼い殺しにされてもこの鎮守府のみんなが無事ならば私は満足だ。そう皆に伝えると、みな私のことを絶対に護ると意気込んでくれた。短い付き合いだが信頼してくれる部下を持てて私は自分のやってきたことに少しだけ誇りをもつことができた。

 

 

 神通は張り切っていた。本部の人間がくるということでその際おそらく訓練の様子も一通り見るはずだ。その時に無様な姿を見せるわけにはいかない。駆逐艦の子達も少しずつ厳しい訓練になれてきたのか、始めたころと比べると目覚ましいぐらい成長しているのがわかる。神通はみんなの成長を嬉しく思い、そして自分自身もさらに高みへ目指せるように気合いをいれていく。

 

 

 「五日後に本部から視察がくるそうです。その時に情けない姿を見せないようにしっかり頑張りましょう。というわけでこの一週間は訓練の量をさらに増やしますので覚悟しておいてください。」

 

 

 駆逐艦達が悲鳴をあげる。何か文句でも?とにっこり微笑むとビシッと隊列を組み訓練に再び戻っていく者達。慣れてきたと思ったらさらに地獄がまっていた。へとへとになって訓練から戻って入渠をすますと、腹が減っては戦ができぬと食堂でご飯をいつも以上に食べていく駆逐達。食事でお腹いっぱいになると甘味を買いそれぞれの部屋で食べながら談笑する。なんだかんだで艦娘達は逞しい。明日の訓練も頑張ろうとしっかり干したふかふかの布団で今日の疲れを癒していくのであった。




神通先生は怒らせたら怖い。


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第37話

私の鎮守府では野分の大冒険が始まることなくイベントを迎えそうです。どこにいるんだ野分・・・


 「私としたことが情けないものだ。」

 

 

 日向は訓練に出ていく皆を伊勢と一緒に見送りながらため息をつく。先の艦隊決戦で勝利したはいいものの、艤装をひどくやられてしまった。沢山の艦娘が一斉に出撃したのだ。色々な艦娘の艤装が損傷したため、工廠は今日もフル稼働で艤装の修理を行っている。これに加えて失われた艦載機の開発や装備のメンテナンスなども行わなければならない。いくら妖精の力を借りているとはいえ、人手が全く足りていない状態だ。戦艦の艤装は大きく、修理する箇所も多い。損傷が大きければさらに時間がかかる。日向は自分の艤装が直るまで待ちぼうけとなった訳だ。同じく艤装が損傷して海上での訓練ができない伊勢が仕方ないわよ日向。と慰めの言葉をかけてくれたものの、悔しい気持ちは収まらなかった。同じ戦艦の長門と陸奥は流石というべきか、大きな損傷は避けながら戦い、最後まで陣頭指揮を執り続けていた。もし、仮に。自分が旗艦をあの時任されていた場合、旗艦がやられてしまった艦隊は大きな混乱状態になっていただろう。これから艦隊の人数も増え、そのうち旗艦を任されることもあるかもしれない。そうなった時にあのようなことに二度とならないようにしなければ。今はただ艤装が直るのを待っているだけの自分の情けなさにため息をつきながら海を見つめる。眺めた先の海では水上機母艦達がなにやら艦載機らしきものを飛ばして訓練をしている。艦載機か。我々戦艦とは無縁のものだな。だが後学のためにも見学でもしようか。そう思っていると伊勢も同じ気持ちだったのか、せっかくだから見に行こうよ。と誘ってきた。仕方ない。見にこうではないか。

 

 

 「千歳お姉ぇ、いっぱい訓練して私たちも戦場で活躍できるにならないとね!」

 

 

 「一緒に頑張りましょう千代田。せっかく装備を提督から頂けたんですもの。皆に負けないように訓練していきましょ。」

 

 

千歳と千代田は港近くの演習場で訓練に励んでいた。今まで水上機母艦という艦には装備が与えられず、出撃さえさせてもらえなかった。だが最近は装備をもらえ戦力として出撃、出番が増えつつある。そして今回新しく配備されたこの瑞雲という水上機。これはなかなかの優れもののようだ。偵察と爆撃の両立ができ、性能自体もそれなりに高い。パイロット妖精たちも本当は戦闘をしたかったのだろう。偵察だけでなくこれで戦闘もできるぜと意気込みながら訓練を行っている。あまり無理をしないようにね。とパイロット達に声をかけると、ふと視線にきがつく。振り返る先には港近くに立っている伊勢と日向が見える。なにか用事でもあるのかと思い、訓練を一時中断して千代田共々近づいていく。

 

 

 「ごめんなさいね。やることなくって見学にきちゃったの。気にしないで続けてちょうだい。」

 

 

 「そうだったんですね。私たちも新しい水上機を配備されてそのテスト飛行をしていた所でした。なかなかいい機体のようでパイロット達もはしゃいでて困ってます。」

 

 

 伊勢と千歳が会話をしている間、日向は空を飛ぶ水上機を見つめていた。そして盛り上がっている二人をしり目に暇そうな千代田に声をかけた。

 

 

 「千代田よ。あの水上機は戦闘もある程度こなせるのか?」

 

 

 「はい。瑞雲といって偵察、戦闘、艦爆の統合を図った機体だそうですよ。」

 

 

 瑞雲。何故かはわからないが胸にストンとおちるいい名前だ。艦載機とはまた違ったあの形。気になるな。千代田にお願いし間近で瑞雲をみせてもらう。ふむ。愛らしい形をしているではないか。この丸っこいフォルム。そしてフロート部分。あまり艦載機に興味はなかったが、この水上機、瑞雲は気に入った。まぁだからといって私は戦艦だからおもに偵察目的以外でつかうことはないのだがな。妙に興奮してきた気持ちを落ち着かせるために自分に落ち着くよう言い聞かせ、見学を続ける。やがて訓練を終えた二人から帰投しますと伝えられると、今日のお昼なにかな?と伊勢が歩きながら問いかけてくる。しかし彼女の頭の中は昼食のことなど欠片も気にしてはいなかった。

 

 

 食堂に到着すると相変わらず混んでいた。皆食べる時間帯が同じだからしょうがないと言えばしょうがないのだが。列に並ぶとほどなくして後ろから足音が聞こえる。そして自分の後ろで足音が止まった。提督だ。挨拶をすると艤装を修理中だからやることがないみたいだな。今はしっかり休んで直ったらまたしっかり頼むぞ。と優しく声をかけてくれた。同じ人物なのに以前の提督とは大違いだ。近寄りがたい雰囲気は消え、こうして食堂にも現れるようになった。まだ少し緊張してしまうが、今ではそれなりに話せるようになった。そうだ。せっかくだし今日の朝のことでも話すか。そう思っていると伊勢が提督にいつのまにか話しかけていた。

 

 

 「提督、今日の千歳、千代田の訓練の様子をみてたんですけど、日向ったらずっと瑞雲のことみてたんですよ。途中から私が話しかけても上の空。あんな日向初めてみました。」

 

 

 「瑞雲か。工廠組が開発したから是非使ってくれといってきてな。偵察機なのか爆撃機なのかよくわからんがパイロット妖精達にはどうやら好評らしいな。」

 

 

 伊勢の奴恥ずかしいことを。これでは私が瑞雲に夢中みたいではないか。私は物珍しさにみていただけなのだ。そんなことはない。と否定するもとぼけちゃってぇ~と伊勢にヒジでくいくいっとされる。むむむ。少し成敗してやる必要があるな。

 

 

 「ははは。日向は瑞雲が気に入ったみたいだな。確かに戦艦が爆撃機などを積むことができれば、一人で空中と海上から立体的に攻撃できて面白いかもしれないな。」

 

 

 その時日向に衝撃が走った。瑞雲を私が飛ばす?その発想はなかった。だが提督の言った通り、普通の偵察機ではなく、瑞雲ならば弾着もしつつ、爆撃もできる。そして私自身も砲撃が可能。艦載機を放って突撃。これだ!!!昼食を受け取り席に着くと、日向は一緒にご飯をどうだろうか。と席に招き、自分の思いのたけを熱く語った。余りの情熱っぷりに伊勢も日向ってこんな一面があったのね。と驚いていた。

 

 

 「日向落ち着け。わかった。まずはご飯を一旦食べ終えよう。その後執務室に二人ともくるように。話の続きはそこでしよう。」

 

 

 ヒートアップしていたことにようやく気が付き、少し恥ずかしくなる日向。だがさきほどの提督の言葉がきっかけでなにかに目覚めてしまったかのように吹っ切れた日向。こうなった彼女をもはや何人たりとも止めることはできないのであった。




ご飯とみそ汁。パンとバター。日向と瑞雲。出会うべくして出会った二人?


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第38話

イベントはじまりましたね。持ってない艦娘を狙って掘りをしていくので堀が落ち着くまで更新が遅れるかもしれません。


 「出迎えご苦労。早速で申し訳ないが、色々と案内してもらえると助かる。」

 

 

 ついに海軍本部から谷上中将がやってきた。私は大淀とともに無難な挨拶で出迎え施設を案内していく。谷上中将と数名の護衛はこの鎮守府の施設に驚いている様子だった。まぁそうだろうな。以前の設備を妖精の力を借りて増設、改装しているので見違えるほどに綺麗になった。私自身も当時は驚いたものだ。いくつかの質問を受けながら工廠に向かう。工廠では明石と夕張が作業をしているのか、けたたましい音が聞こえてくる。やがて中に入った私達に気が付いた二人は作業を止めて立ち上がり敬礼をしてきた。谷上中将は敬礼を返すと、少しお邪魔するよ。といいながら工廠を見学していた。視察団の質問に明石と夕張が次々と答えていく。熱が入っているのか、少し熱く語っている感じになってきている二人。おいおいその人偉い人だから余計なことはしゃべんないでくれよ。私は心の中で心配しつつ、いつもとは違う工廠を見渡す。妖精達は見知らぬ人たちが近づいてきた気配を感じたのか、今日は一人もみていない。一般人にとって妖精は見えぬ存在。機材が勝手に空中を浮いて火花を散らしたりして修理作業が進んでいたらそれはそれでこわいので今回は引っ込んでいてもらって正解かもしれない。明石と夕張のことを気に入ったのか、工廠を後にする頃にはすっかり打ち解けていたようだ。このまま機嫌のいいまま帰ってくれるのが一番いいのだがそううまくいかないだろうな。

 

 

 「このまま相手の思うようにさせてはいけません!一点集中砲火で敵の陣形を崩しつつ一定の距離を保ち砲撃戦に持ち込みます!」

 

 

 「ここが踏ん張りどころだよ!ひるまず突っ込んで敵に食らいつけ!日頃鍛えた成果をみせてやろうじゃない!」

 

 

 私は素直に驚いていた。この鎮守府に来てからというもの驚かされていてばかりだ。一度視察にやってきたことはあったが、その時よりも設備が整っている。佐賀山君がいうには妖精の力を借りて資材のみで改装できたのだとか。妖精は私達人間に姿は見えないが、好意的な存在だということなのか。そして工廠の艦娘達。明石と夕張といったか。二人は活気ある麗しい乙女だったが、知識と技術は本物だ。熱く自慢げに語り掛けてくる二人に元気をもらえたような気がした。そして実際に目の前の演習場で繰り広げられている模擬戦。どうやら弾薬は訓練用の特殊な物を使っているらしいが、それでも実戦と見間違うぐらいみな真剣に取り組んでいる。以前の参考映像を見せてもらった時は、どことなくぎこちないというか、撮影用な感じの動きだった。艦娘の轟沈報告を聞いたとしても、まぁそうだろうな。ぐらいにしか思っていなかったが目の前の艦娘達は映像とまるで違う。明らかに練度が違うのだ。旗艦の軽巡の艦娘を中心にしっかり連携がとれている。射撃も正確なのだろう。挟夾ばかりなのか、艦娘の周りに水柱が次々と上がっている。それを紙一重で次々と互いに躱していく。やがて赤いハチマキをしたチームが勝利となり、港に立つ私達に艦娘達が海の上をすべるように近づいてきて目の前で止まると、綺麗に並んで敬礼をしてきた。

 

 

 「君たちの動きをみれば、先の艦隊決戦で勝利を掴んだ理由が分かったような気がする。これからも国のためによろしく頼むぞ。」

 

 

 そう声をかけると、勇ましい返事が返ってくる。確かにこの練度であれば深海棲艦にも対抗できるやもしれん。考えを改めなければ。こうして一通りの視察をおえ、建物に戻る。後は佐賀山君の話を詳しくきくとしよう。

 

 

 

 「内密にしていただきたいお話があります。人払いをお願いします。」

 

 

 応接室に案内し、私は谷上中将にお願いをする。護衛達はそれは聞き入れることができないと静かに反論するが、谷上中将はいろいろと察したのか、護衛の者達に隣の部屋で待機しておくように指示をだし、環境を整えてくれた。ありがたい反面、物分かりが良すぎて逆にこわい気持ちになる。部屋をぞろぞろと人が出ていき、残ったのは私と谷上中将、そして大淀だけとなった。ここまできたら腹をくくるしかない。私は意を決して語り掛ける。

 

 

 「まずは人払いをしていただき、ありがとうございます。実はこれから話すことはにわかには信じてもらえない可能性があるうえに色々と問題もあります。」

 

 

 「かまわん。君が話したいと思う事をとりあえず話してみなさい。」

 

 

 そこから私は今までに自分の身に起きたことを話した。目が覚めたら違う世界だったこと。着任したときの鎮守府の現状、佐賀山の不正、妖精がみえることなど、私が知っている限りのことを話した。私がひとしきり話し終えると、今まで黙っていた谷上中将は静かに口を開いた。

 

 

 「確かに佐賀山君の様子が依然と比べて穏やかな雰囲気になったと感じてはいた。だがにわかには信じられんな。とらえ方によっては、暗にこの活躍で今までの不正をちゃらにしてくれと言っているようにも聞こえる。仮に私が君という存在の情報を握りつぶしてしまえば君は営倉行きでは済まない問題だぞ。赤の他人の罪をかぶる可能性だってあるだろう。」

 

 

 「できる限りの情報を調べたところ、私にはこの世界に身内と呼べるものがいませんでした。故に保身のためにこの鎮守府を利用するつもりでした。おっしゃる通り赤の他人の罪をかぶって冷や飯を食いたくありませんから。ですが大淀をはじめ、ここの艦娘とよばれる子達と過ごし、話していくうちにこの子達の国を想う気持ちに私も心動かされてしまったようで。私が来たばかりのひどい環境の時でさえ、この子達は国を護るんだと言っていました。自分達の環境は劣悪なのにもかかわらずですよ。なんとかこの子達の力になってあげたい。そしていつのまにか、私自身も国を護るんだという気持ちが芽生えてきたのです。全くの素人なのにおかしな話ですよね。幸い、妖精達も力を貸してくれるようで、以前の鎮守府とは見違えるようにきれいになりました。毎日を絶望していた子達もよい装備や、訓練を重ねたことで先の艦隊決戦で活躍し、勝利を収めることができました。この先深海棲艦と戦っていくには彼女達の力が間違いなく必要です。彼女達の居場所を安堵していただけるなら、私は喜んで罰を受ける覚悟です。」

 

 

 「・・・・・君の考えはよくわかった。現状普通の人間には妖精が見えないのは事実。そして君は妖精の姿がみえ、意思疎通ができる。これは非常に大きい。このまま艦娘の部隊が戦果を上げ続ければ、そのうち別地方にも同じような部隊ができるやもしれぬ。その時のために運営のノウハウは必要だ。以上を踏まえて引き続き君にこの鎮守府を任せたいと思う。ひきうけてくれるかね?」

 

 

 「ありがとうございます。謹んでお受けいたします。」

 

 

 若い。若いな。だがこういった若いまっすぐな気持ちが今のこの国に必要なのかもしれぬ。だが中身が入れ替わったという話はいまだに信じられぬ。この鎮守府の艦娘に色々と話をもっと聞いてみるとするか。私は何人かの艦娘と話をしたいのだがよろしいか?と真船君に尋ねると、かまいません。希望があれば呼んできましょうか?と言われた。真船君の事情を知っている者と知らない者がいると先ほど説明を受けたので、両方数名ずつたのんだ。さて、鬼が出るか蛇が出るか。見極める必要がある。

 




シリアスなお話は難しいですね。気づかないうちにちぐはぐになってそう。
話は変わるのですが、仕事帰りの途中、イタリア駆逐4人と六駆4人がなんかで対決するという謎のシチュエーションが頭に浮かびました。全く需要がなさそうですがいつか書く機会があれば書きます。


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第39話

イベントの堀りと執筆活動の両立が難しい。


 「突然呼び出した形になってすまないね。少しばかり老人の世間話に付き合ってくれるとうれしい。」

 

 

 まずは真船の事情を知っている組が面談をすることとなった。赤城や加賀、長門、明石は掛けるように言われそのままソファーに座る。提督から谷上中将がお前達と話がしたいそうだ。聞かれたらありままのことを話してもらってもかまわない。と言われたがやはり提督やこの鎮守府の進退がかかっているかもしれないとなると少し緊張してしまう。長門達の様子を察してか、そう固くならないでいいと言われるが、そんな簡単に緊張はほぐれるものではない。みかねた谷上は彼女達が欲しかったであろう言葉を紡ぐ。

 

 

 「ちなみに真船君には引き続きこの艦隊の司令官として働いてもらうことになった。いらん心配はしなくても大丈夫だよ。」

 

 

 この言葉を聞いた瞬間に四人は安心したのか、顔を見合わせてよかったと喜びあっている。

 

なかなかに慕われているようだ。そこから佐賀山君が真船君にかわった時の話を聞いていくとやはり本人達も最初は信じていなかったようだ。冗談だとしても佐賀山君はどうもとっつきにくい感じだったらしく、冗談なのか確認をとるのさえ恐れていたそう。下から意見が上がりにくい環境を自ら作ってしまっていたわけか。そこに真船君が入れ替わるように現れ環境をかえていったと。以前と比べて今の環境はどうだという質問に四人はみな感謝していると言っている。食堂や工廠、そして入渠施設や部屋の改装により劇的に改善したこの鎮守府に愛着を感じ始めているようだ。戦闘面においても経験豊富な艦娘をしっかり頼り、独断で決めることもないようで好感が持てる。彼自身が言ってた通り、どうやら手柄を貪欲に求めるタイプではないらしい。佐賀山君とは真逆のタイプと言える。その姿勢が艦娘達の信頼を勝ち取った秘訣なのかもしれない。

 

 

 「私個人としても、真船提督には大恩があります。」

 

 

 そう話を切り出してくれた加賀君。彼女は航空母艦としてこの鎮守府を支えているそうで以前使い捨てにされそうになったところを保護してもらい、さらに妖精の力を借りて完全復活したとのこと。朽ちて海に沈む運命だったところを救ってもらったとなれば、彼を慕うのも納得できる。工作艦の明石君も仕事がもらえず、くすぶっていた所を工廠を改装し自分達が活躍できる場を与えてくれたことに感謝しているようだった。なるほど。現場からの評価は上々ということか。私は彼女達に礼をいうと、次の子達を呼んできてもらうようお願いする。次は事情を知らない子達か。彼の言う通りならばまた違った反応が返ってくるはずだがどうだろうか。

 

 長門達が面談中に私は鎮守府内を歩き回り、誰か面談を受けてくれそうな人を急いで探し、ようやく見つけて声をかけた。

 

 

 「川内、神通すまない。君達と谷上中将がお話がしたいと言ってきてな。少しの時間ですむようなので面談をうけてくれないか?」

 

 

 声をかけられた私達は訳が分からず少し茫然としていたが、我に返り大丈夫ですと返事を返す。模擬演習で見学に来ていた方のことだろう。しかし私達と話をすることなどあるのだろうか。疑問に思っていると特別きにすることはなく、ありのままを答えてくれればよい、と言われたのでそれならばと引き受けた。待機する部屋に向かう途中で朝潮と霞に遭遇したので二人も一緒に面談を受けることになった。別の部屋で待機していると面談が終わったのか、長門さんが私達を呼びに来た。偉い人と話すのは意外に緊張するものだ。夜戦とは違うこの緊張感はどうも好きになれない。

 

 やはり緊張している様子だ。さっきの子達よりも幼い見た目をしている子達が多い。軽巡級と駆逐級の子達だろう。ゆっくりと話し合いたいが、面談を予定に入れてなかったため少し時間に余裕がない。要点だけまとめてきいていくとしよう。

 

 

 「突然の呼び出しですまない。私は本部からやってきた谷上というものだ。今回呼び出したのは他でもない。最近の佐賀山君の行動に変化があるらしいではないか。そのことについて聞きたいと思っているので君達が感じたことを遠慮なくいってほしい。」

 

 

 そういうと少しの間をおいて神通と名乗る子が語り始めた。

 

 

 「初めのうちは勝利を重ねていたものの、敵もてごわくなってきて、こちらの損害がでているのにもかかわらず、無理難題を押し付けるような命令ばかりを以前の提督は繰り返していました。その結果、私たちの仲間は次々と沈み、帰らぬ存在となってしまいました。その中には私達川内型の姉妹艦である那珂も含まれています。ここにいる朝潮と霞も姉妹艦と別れています。にもかかわらず、この鎮守府の環境は劣悪になっていき、私たちは一体何のために戦っているのかという思いを募らせて苦しい日々を過ごしていました。ですがある日突然。劇的にこの鎮守府の環境がかわりました。妖精があらわれるようになったのです。妖精の出現と同時に提督もなにか憑き物が落ちたかのように人柄がかわりました。レーションだけだった食事も毎日おいしい食事がでるようになり、修理されず使いまわしの装備が新しくなるだけでなく、それぞれの艦娘達に配備されみな戦えるようになりました。大和型の建造のためと節約され続けた燃料や弾薬などの補給も許されるようになったおかげで訓練もできるようになりました。そのおかげか、先の艦隊決戦で私ども含め、誰一人欠けることなく帰ってこれたあの時ほどうれしかったことはありません。この方針を最初からしていただければ。と思っていましたが過ぎたことを悔やんでもせんなきことです。今は前のような悲劇を起こさないように日々精進しています。」

 

 

 「正直に申しますと、以前の司令官はクズでした。神通さんの言った通り、無茶な突撃命令、そして私達駆逐艦を囮としてつかうような作戦。今思い出すだけでも怒りがわいてきます。そのせいで私たちの仲間がどれだけ沈んだことか・・同じことを言ってしまいますが、ある日突然司令官の気性?性格とでもいうのでしょうか。ぴりぴりしていた雰囲気が急に穏やかになったような気がして。私達にも配慮してくれるというか、なんというか優しい感じになったんです。最初は自己満足の罪滅ぼしのためかと見下した目でみていたのですが、少しずつ話していくと、どうもそうではないような気がして。狙ったわけではないと思いますが、私達の姉妹艦である霰も建造してもらいました。これだけ方針や物腰がガラッと変わると何か司令官に大きな変化が起きたのだと思いますが、その変化自体は私にはわかりかねます。」

 

 

 神通君に続いて霞君も話してくれた。鬱憤がたまっていたのだろう。途中途中言葉が強くなるところもあったが、朝潮君に宥められて落ち着きを取り戻していた。やはり中身が入れ替わったことについては、ほぼほぼ間違いなさそうだ。話終えた四人に改めて佐賀山君を呼んできてくれとお願いし、一時的に誰もいなくなった部屋で一人ため息をつく。川内君と神通君については人格が入れ替わっているという事に感づいてそうな感じではあった。彼女達は水雷戦隊の旗艦を務めているのだから真船君と話す機会も駆逐の子達よりもはるかに多いのだから当然と言えば当然か。にしても佐賀山君が思った以上に恨まれているようで危なかった。彼のままだったら最悪艦娘の反乱などもありえたかもしれない。そういった意味では真船君に感謝だな。そして建造を行ったという報告書が上がっていたが、これも事実なのか。となるとますます今彼を手放すわけにはいかん。なんとかこの戦線を支えてもらわねば。

 




もっといろんな艦娘だしていきたいけど私の文章能力では収集つかなくなりそうなので控えめにしています。朝潮にもっと台詞をあげたかった。


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第40話

お仕事で投稿遅れました。


 「正直にいうとな。私はどうでもいいのだ。艦娘が兵器だろうと人間だろうと。どんな手段を使おうと、世間にどんな評価をされようとも。この国を護れるのであればな。使える者はつかっていく。それが私のポリシーでな。冷たいと思うかもしれないが世の中綺麗事だけではやっていけん。それは君もなんとなくわかっているだろう?それどころか悲しいことに海軍本部でも今回の勝利に浮かれてもう戦後のポスト争いの話をしているものもいる。全く呆れるよ。国が滅んでしまえばそれどころではないのにな。そんな奴らにこの国の防衛の中枢を担わせるわけにはいかん。ゆえにいちはやく君と接触したというのも今回の狙いだったのだ。君は私の傘下にはいってもらう。見返りとして佐賀山時代の不正を私の権限で上手くにぎりつぶしてやる。悪いことは言わん。どうだね?」

 

 

 艦娘達との面談が終わった谷上中将と再び応接室で話をする。この状況でどうやら私に拒否権はなさそうだ。よろしくおねがいします。と頭を下げると満足げにうむ。と中将はうなずいていた。

 

 谷上中将とその後も話をしているとコンコンと扉からノックをする音がする。どうやらそろそろ中将の時間がきているようで、大淀が中将の護衛から呼んできてほしいと頼まれたようだ。私は何とかなったのか正直よくわからないが、この鎮守府がなくなるという最悪の事態は避けることができ、内心ほっとする。立ち上がる中将を見送るために私も立ち上がる。

 

 

 「君についての話だが、私の副官と秘書官には話しても構わないかね?今後色々と君と連絡を取るときに不便が生じる可能性があるのでな。もちろん内密にさせるので安心してほしい。」

 

 

 

 かまいません。と返事をすると肩にポンと手をのせてよろしく頼むぞ。と声をかけられる。

 

 

 「早く戦争を終わらせて平和な世の中に戻ってきてほしいものだな。その際は私のおごりで美味しい寿司でも食べに行こう。そのころには私も引退できていれば、なお嬉しいものだが。」

 

 

 そう言いつつ笑いながら護衛と合流し、外まで見送り、まもなく車に乗って去って行った。なんとかなったのか。この鎮守府をまもれただけでもよしとしよう。大淀と執務室に歩いて戻る。椅子に座ってお茶をのみ心を落ち着かせていると、いつの間にか机の上に小さいちゃぶ台があり、お茶をのみながらリラックスしている妖精達がいた。中将たちが帰ったことにより再び現れたのか。明石からも作業再開の報告を受け取り、いつもの鎮守府が戻ってきた。後は中将の言っていた他鎮守府創設の可能性を考えより多くの艦娘を建造しておく必要がある。おそらくここの鎮守府からある程度引き抜いて派遣するかもしれない。新人ばかりの艦隊だけだと戦闘は難しいかもしれないからな。あとは護送船団の結成だ。この鎮守府の近海限定だが、漁船や輸送船、商船の護衛任務もやっていけるようにしないとな。中将のおかげで資材も優先的に回してもらえるようになるのでそれ相応の艦隊の強化、増設をしないと手が回らなくなる。そろそろ秘書も増やしたほうがいいかもな。大淀も最近忙しいみたいなので早め早めに楽をさせてやりたいものだ。日が落ちる前にそれぞれの艦娘への指示や書類整理を終わらせ、執務室を後にする。シャワーを浴びて食堂に向かうと入渠を済ませた艦娘達の声で賑わうこの食堂も今では当たり前の光景だ。私の前に並んでいる摩耶と鳥海は馴れ馴れしく、よっ!っと声をかけてくる。そんな摩耶をもっと礼儀正しく!もうっと少し呆れながら宥める鳥海のやりとりはもはや様式美だ。

 

 

 「提督今日は大変だったな~。なんか偉い人が本部からきたんだって?私は遭遇しなかったけど提督は気疲れしたんじゃねーの?」

 

 

 「正直いうとめちゃくちゃ緊張したな。かなり大変だったぞ。」

 

 

 「司令官。摩耶が申し訳ありません。しかしそのご様子だと良い結果だったみたいですね。」

 

 

 まぁ悪くはない結果だった。と返事をするとやったなぁ!とひじをくいくいさせておちゃらけてくる摩耶に鳥海がなにかいおうとするも、私が気にしなくていいぞと鳥海に声をかける。ご飯をいっしょにどうだと二人から誘われるもすこしミーティングをしたい子がいるので今度私から誘うと返事をすると絶対約束だからなと笑顔で返され出番がやってきたトレイに今日のメニューをのせて席に向かう。まもなく川内と神通達が現れ、トレイを手に空いてる席を探している様子だったのでこれ幸いと声をかける。川内達二人はまっすぐ向かってくるが、後続の駆逐艦達は初めて食事を共にするのに怯えているのか戸惑っているのか。私達も行っていいのだろうかと顔を見合わせていた。見かねた川内が大丈夫大丈夫と後ろの子達を連れてくる。何とも面倒見のいい子だ。少し大人数になったがまぁ大丈夫だろう。先に食事を食べていた私は食べながらでいいので聞いてくれと言葉を続ける。

 

 

  「今日の谷上中将の視察の際、演習内容に大変満足している様子だった。これも川内、神通をはじめ、君達の日頃の訓練の賜物だ。これからもしっかりがんばってほしい。と同時にこれから対潜警戒の訓練も本格的に加えていってほしい。そのためのソナーや爆雷の作成を明石に頼んでいる。じきに完成するはずだ。それぞれの戦隊に行き届いたらでいいのでよろしく頼む。」

 

 

 了解しました。と川内と神通が返事をする。何か質問がある者はいるか?と問いかけるとすっとよろしいでしょうか。と手を挙げる者がいる。不知火だ。

 

 

 「ここにきて対潜の訓練も導入していく理由をおしえてはいただけないでしょうか。もちろんゆくゆくは必要だとは思っていますが、明確な理由があれば今後の訓練に活かせると思いますので。」

 

 

 相変わらずきちっとした性格だ。だがそれが彼女のいいところなのだろう。ものおじせずよく質問してくれた。こっちとしても駆逐艦の子達がどんどん自主的に質問や会話は気軽にできる環境をつくっていきたい私としては大助かりだ。

 

 

 「実はだな。先の海戦で勝利をおさめただろう?その影響もあってかここの近海の制海権がとれつつある。ゆえに商船や輸送船、漁船の護衛任務も行っていこうと考えていてな。そのための訓練というわけだ。もちろんこのままだと人数不足で手がまわらなくなるので近日また建造を行おうと思っている。そうなると軽巡だけでは流石に皆の面倒を見切れなくなる可能性もあるので、駆逐艦のお前達も旗艦を務められるよう訓練を行っていってもらう。この話は明日にでも全体に話を通す予定だがお前達には先に言っておこうと思っていたな。やることが多く大変だと思うがなんとか頼むぞ。」

 

 

 そういうとありがとうございます。と引き下がった。やはり旗艦というのは誉れ高いものなのか私の言葉に駆逐の子たちはすこし興奮した様子で食い気味に話を聞いていた。みな私の話を聞くために一切食事に手を付けずにいるのに申し訳なく思い、話は以上だと切り上げて立ち上がる。みな立ち上がり敬礼をしてくるが、いつも言ってる通り、業務が終われば気にしなくてよいと言って去ろうとすると、呼び止める声がする。

 

 

 「あの提督。よかったらこの後鳳翔さんのところで一杯どう?さっきの話含め色々と話したいこともあるしさ。」

 

 

 思わぬ川内のお誘いに私は驚くも、ああ大丈夫だと返事をする。じゃあ後で鳳翔さんのとこで合流で!と川内に言われると一旦別れて部屋に戻り、戻ってきたらすぐ寝れるように準備をした後に鳳翔の酒保へ向かう。那智達のおかげですっかり薄くされてしまったお財布は今日を耐えることができるのか。お財布の中身を確認しつつ、まぁあの子達はあまり飲むことはないみたいなのでなんとかなるだろうと楽観していると酒保の入口で人だかりができているのが見えた。よくみるとさきほどのメンバーとかわりない面子がそろっているではないか。

 

 

 「すみません提督。実はこの子達も自分達も差し支えなければ参加したいと申しておりまして・・・」

 

 

 先ほど食堂での話に思うところがあったのだろう。駆逐の子達は恐る恐るこちらを見ながら私の返事を待っている。まぁ駆逐達と交流を深めるためと思えば安い出費かもしれないなと私なりのやせ我慢を悟られぬよう、許可をだす。その瞬間駆逐の子達はやったやったとはしゃいでいた。帰るころにはぺったんこになってしまう財布を想像しながら鳳翔の出迎えの声を聞きつつ、酒保に入っていくのであった。




子供のころ外食するだけで特別なイベント感を感じていたのは私だけでしょうか。いくつになっても子供のようなどんなものも楽しめる感性を大事にしていきたいですね。


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第41話

誰か私に休みを・・


 「鳳翔さんのお店の料理初めて食べるなぁ~。私楽しみだよ!」

 

 

 吹雪達がわいわいと喋りながら次々と席についている。前々から興味あったみたいだが中々入りづらい雰囲気があったのかもしれない。確かにここに入っていくのは重巡や戦艦級のものが多いためだろう。確かにあいつらに絡まれたらたまったものではないだろうからな。英断だったかもしれんな。今日は私たち以外に入っている者はいない。鳳翔も珍しいお客さんをお連れしてきましたね。と笑顔でお絞りと小鉢を持ってきながら私に話しかける。この子達もどうやら君のお店に興味があったみたいでな。と返しお絞りで手をふきながら飲物を頼む。この子達にもお酒を飲ませてもいいのだろうか。見た目だけで判断すると完全に中学生、中には小学生クラスの者もいる。

 

 

 「私たち艦娘は見た目とは裏腹にかなり丈夫ですのでそこは心配ないですよ。もっともそれぞれの酒癖はわかりかねますが。」

 

 

 悩んでいた私の表情を読み取ったのか、私の心をまるで見透かしたように解決してくれた。周りを見渡すといつの間にか全員が私を見つめている。私の許可をまっていたようで、注文していいか悩んでいたようだ。私はお前たちの保護者じゃないぞ。だがたしかに見た目を考えるとなにかいけないような気もしなくもない。せっかくここまできたんだ。それに彼女たちも内心期待しているだろう。ええいままよ。

 

 

 「お前たちも好きなものを頼んでいいぞ。だが初めて飲む者がほとんどだろう。飲むペースはなるべくゆっくり飲むように。」

 

 

 またしても小さな歓声があがった。あいつらみたいにのんべぇになってしまわないかが心配だ。もしなってしまったら私がその道に陥れてしまった張本人になってしまう。あの三人衆だけでも大変というのにこれ以上増えたら大変だ。そんな私の気持ちの思いはどこ吹く風状態で何を飲もうかメニューをみながら楽しそうに相談している子達をみるとまぁいいかという気持ちになってくる。私の両隣に陣取った川内と神通も私と同じ生ビールを頼むみたいだ。この二人は何度かここにきているみたいだから大丈夫そうだ。

 

 生ビール。噂にはきいていたがいざ実際飲めるとなると戸惑ってしまう。というのもどんな味なのか隼鷹さんにきいたことがあったが、

 

 「酒なんてぐいってのんじゃえば後は一緒!ビールはのど越しだよのど越し!苦味ってのは飲みなれてくるとそれもまたいいもんでさ~。何?ブッキー飲みに行きたいの?一緒に行っちゃうか~?」

 

というわけのわからない答えをいっていたのを吹雪一同は思い出した。苦いのに頻繁に飲みに行く理由がわからない。だが病みつきになる理由がそこにはあるのだろう。いまだに何を頼むか決めきれないでいると、提督が瓶ビール数本とコップを人数分頼んでくれた。少し飲んでみて飲めそうだったら飲めばいいし、だめそうなら別の物をのめばいいさと言ってくれた。確かにそれならば気兼ねなくチャレンジして飲むことができる。司令官に感謝すると鳳翔さんがもってきてくれた馬のような生き物が描かれている茶色の瓶に入っている黄金色の液体と白く滑らかな泡がコップに注がれていく。やがてみなにいきわたると司令官の乾杯という掛け声とともに私たちは一斉にコップを口に近づけていく。

 

 

 「かぁ~!!思った以上に悪くないねこりゃあ!いける!いけるよ!」

 

 

 長波は飲み終えると瓶ビールを自ら手に取りコップに注いでお通しの小鉢の品を食べつつ再びビールを飲んでいた。少々危険な香りがしてきたがまぁまだ大丈夫だろう。ビールは口にあわなかったのか、うぇぇっといいながら舌を出している者もいる。私は笑いながらまぁ気にするな、酎ハイもあるからそっちでも飲めばいいと他のドリンクを頼むよう言っておいた。鳳翔がジュースみたいな感じですよ。とビールが苦手だった子たちに説明し、それぞれの注文をうけドリンクをもってきてくれた。さっきとは違う飲みやすさに感動したのか、これなら大丈夫と朝潮や睦月たちビール苦手勢はぐびぐびと飲み始めた。少し大人の階段をのぼった気持ちになっているのだろう。暁はなぜか隣の妹たちにマウントを取り始めていたが、その隣の響はなぜかウィスキーを飲んでいた。この子は一体・・?疑問に思っていると頼んだつまみが続々と届き始めた。酒と併せて食べるつまみは最高だ。各々好きなものを頼んだせいかもはや机の上はパーティー状態だ。鳳翔の腕のよさもあってか酒がどんどん進んでいく。それぞれ異なる酎ハイを頼んだ者たちはそれぞれグラスを交換し、少しずつ飲んで味の比べあいをしている。お気に入り探しをしているのだろう。微笑ましい光景をよそに目の前の長波はいつの間にかグラスの中身はウィスキーに代わっている。目覚めさせてはいけない者をおこしてしまったのかもしれない。そんな心配を吹き飛ばす笑顔で長波は私に提督もどんどんのもうぜ~と笑顔でグラスをカチンと乾杯させて飲んでいく。美女に酒と笑顔。これはこれで。そんな風に考えていると横から声が届く。

 

 

 「提督。今日はお疲れさまでした。それでお話の続きですが・・」

 

 

 「みな食事に夢中になっているようだな。これでは話の内容もはいってこないだろう。また後日改まってしよう。楽しく過ごしているときに水を差すのは忍びないのでな。無駄な時間をとらせてしまってすまないな。」

 

 

 「いえ。こうして提督とお酒を飲みながら食事をする機会なんてなかなかないのでとても貴重な時間です。今日はゆっくり飲みましょう。」

 

 

 「そうだよ提督!今日の夜は長いよ~!パーッといっちゃお~よ!」

 

 

神通と川内も久々の酒の席なのか、ぐいぐいと飲んでいく。神通が気を利かせてくれるので私のグラスがあくことはない。そういえば千歳も酒の席では必ずとなりに座って私のお酌をしてくれる。艦娘たちは気の利いた子が多い。だがその分私も飲んでしまうため次の日が大変なのだが美人に注いでもらう酒を断るわけにはいかない。今のとこ暴れたり、脱いだりしている子がいないので安心だ。時々ハラショーという謎のフレーズが聞こえてくるが気のせいだろう。周りの安全を確認しつつちびちびと飲んでいくと耳元からささやく声が聞こえてきた。

 

 

 「提督。私たちに実は内緒にしていることがあるのではないですか?」

 

 

 やはり感づかれているか。その言葉に少し酔いが醒めた私は神通のほうを振り向く。そこには酒のせいかほんのり顔を赤くした神通がこちらをみつめていた。破壊力抜群。気持ちを落ち着かせるために酒をグイっと飲み干すと、まぁいろいろと私もあるのでな。と答え、思考をめぐらす。もともと話すつもりだったのだ。後は私の口から伝えるだけ。神通と川内は私の顔の近くに耳を近づけてくる。そしてざっくりと私の身に起きたことを話した。

 

 

 「中身が入れ替わる・・やはり本人の口から直接きいたとはいえ信じられないねぇ。でも今の提督すごく優しくて私は好きだな。」

 

 

 「今の提督が私たちを信頼していただけるのであればそれに全力で答えるだけですので。それに今の提督のほうがずっと優しくて素敵ですよ。みなきっとそう思っているはずです。」

 

 

 二人にうれしい言葉をもらいうれしくなる。だがこの距離だとさすがに近くの子には聞こえないはずもなく。その話は本当なのですか?と朝潮に質問をうける。何の話だと会話に夢中になっていた他の子達も一斉に視線を私にむける。私としても話を切り込みやすいタイミングだ。そしてあるがままを話していく。話終えた瞬間の静寂な空気が再び騒がしくなるのには時間はあまりかからなかった。




当時海軍のビールは麒麟ビールが主だったみたいですね。麒麟ビールは三菱グループ関係に所属しているため、造船所や有名戦闘機 零戦を開発している同じ三菱グループの麒麟ビールが御用達となったみたいです。


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第42話

このイベントで手に入っていない艦娘をできるだけ掘りたい。


 「そんなことが・・・でも最近の司令官の行動を考えると・・・」

 

 

 「何が何だかわからないがつまり前の提督と今の提督は別人ってことなのか?」

 

 

 みなざわざわと話ながらも反応はそれぞれだ。古参組は信じられないとでも言いたそうな顔をしてこちらを見ているが、建造組はどういう状況なのかいまいちつかめていなさそうな雰囲気だ。建造組は私が着任してからの付き合いなので佐賀山時代は当然経験していない。ぴんとこないのも当然だろう。

 

 

 「つまりだな。建造組でこの鎮守府にやってきた者達には信じられないかもしれないが、佐賀山時代のこの鎮守府の管理や体勢はずさんなものだったということだ。勿論私も入れ替わりでやってきたので詳しくは知らないがな。わたしがやってきた時にちょうどいあわせたのが長門や赤城、大淀だったわけだ。」

 

 

 「つまり司令官はここ数カ月私達に隠し事をしていたということなのですか?」

 

 

 酒がはいっているためか、少し荒々しく朝潮がどうなんだと真剣な顔をしてたちあがり質問してくる。

 

 

 「結果的にはそうなるな。着任当時でさえ大淀や長門に信じてもらえるのに時間がかかったのだ。当時の鎮守府の話を聞き、さらに扱いの悪いお前達駆逐艦組に真実を打ち明けたところで信じてもらえないどころか暴動が起きるかもしれないと判断したのだ。嫌いなやつがいきなりコミュニケーションを取ろうとしてきても嫌だろう?それに毎日命を懸けて戦うのにあんな環境で過ごさなけれなばならないお前達が不憫で不憫で仕方ないと思ってな。なのでまずは説得よりも状況改善に努めることを最優先とした。」

 

 

 先ほどよりもざわつきが大きくなる。朝潮はそうだったのですか・・・と大人しくなって着席した。行き場のない感情が彼女の心の中をめぐっているのだろう。下を向きながら握り拳に力が入っているのが私にもわかるぐらいに。

 

 

 「さきほど提督もおっしゃってたように、ここの設備を整えてくださったのも提督のご指示のおかげなのですよ。私は後から提督の素性をお聞きした身ですが、こういった艦娘の憩いの場を設けたいとお願いしたときも提督は快諾していただきました。貴方たちもまだまだ話しかけづらいかもしれないけど、真船提督はここのみんなのことをしっかり考えてくれてますよ。現に装備だって一番最初に全員に支給さされたのはあなたたち水雷戦隊組だったでしょう?昔のことは忘れろとは言いません。ですが少しずつ前に進んでいくのも大事だと思いますよ。」

 

 

 鳳翔の優しい言葉に少しずつ感化されていったのか、ざわめきが収まっていく。何と頼りになる助け船だろうか。ここぞとばかりに私も勢いに乗ねば。そう思い思っていることを伝えていく。

 

 

 「正直私は君達を率いる器ではないと思う。だが上司となった以上、待遇の改善に努めようと思っている。食堂や入渠施設の改善がその一例だな。まぁ実際に働いているのは妖精たちなのだがね。君たちの要望があればどんどんあげてほしい。すべての意見を反映させることはできぬが、できる限りのことはさせてもらうつもりだ。見た目が見た目なのでトラウマを抱えて話しかけづらいかもしれないが、私自身君達とコミュニケーションをもっと取りたいと思っているのでな。」

 

 

 「・・・わかったわ。それにあんた業務外では普通に話してもいいって言ってたわね。自分でいうのもなんなんだけど私結構生意気よ。私はこんな風な口調だけどそれでもいいのかしら?」

 

 

 静寂が響くかと思ったらこちらを試してやると言わんばかりの目で霞が間髪入れずに質問してきた。朝潮が謝りなさい霞!と叱っているが、私はそれを制し返事をする。

 

 

 「やるべき時にさえしっかりしてくれれば私としてはかまわないよ。夕食の時にすこし話したが、いずれ護衛任務も増えてくるかもしれない。そうなった時に君たちの誰かが旗艦となる可能性は大いになる。そう言った時の作戦室での通信のやりとりや公の場でのやりとりなどはしっかり頼むぞ。」

 

 

 ゆっくりと目を閉じつつわかったわ。と落ち着きながら霞はグラスに手をかけ口につけた。

 

 

 「今までの行いを恨んでいないといえば嘘になるわ。でもあの日からこの鎮守府が変わったのも事実だしあんたが頑張ってるのもわかっている。だから私も私なりに頑張らせてもらうわ。」

 

 

 「確かに以前のクソ提督と比べると雲泥の差と言っても過言ではないわね。借りを作りっぱなしというのも性に合わないから私も力になってあげるわ!」

 

 

 曙も続くように話してくる。それにつられたのか古参組は私も私もと決意表明のような感じで私に話しかけてくれた。

 

 

 朝潮は戸惑いを隠せなかった。霞はどこか反抗的な部分があり、以前の司令官にも楯突いたことがある。あの時は解体されないか冷や冷やしたものだ。しかし今の霞は落ち着いた雰囲気で司令官と会話していた。どういった心境の変化があったのだろうか。

 

 

 「真船司令官は私達と向き合おうとしているわ。そんな人につまらない意地はってもそんなの私が惨めになるだけと思ったのよ。」

 

 

 私の知らないところで霞は大人になりつつある。私も負けてられない。みんなのために。司令官のためにできることを精一杯務めるだけだ。盛り上がる話を聞きながら朝潮は一人闘志を燃やすのであった。

 

 

 

 なんとかなったみたいだな。私は落ち着きを取り戻したこの場の空気を感じながらちびちびと酒を飲む。提督、と川内が私に声をかけてくる。なにか言いたいことでもあるのだろうか。どうかしたかと問いかけると諭すような口調で話しかけてきた。

 

 「さっきさ、私達を率いる器ではないって自分で言ってたじゃん?でも提督を信じてついていく私達の気持ちも考えてよね。提督はしっかり戦果もあげてるし今の提督に不満をいう子はこの鎮守府にはきっといないよ!謙遜もいいけどもっと自信をもってくれてもいいんだからね!」

 

 確かに川内の言う通りだ。自分自身を貶すと間接的に部下であるこの子達も貶すことになる。気を付けなければな。感謝の言葉を川内に返すと笑顔でグッと親指を立てている。本当に明るくていい子だ。私ももっと精進していかねば。いいモチベーションを保ったまま明日を迎えられそうだと思っていたが、鳳翔が申し訳なさそうに差し出してきた会計伝票で全てをもっていかれた。・・・まぁ仕方ないか・・・




やる気になっている朝潮を想像すると和みます。


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第43話

光陰矢の如し。


 「提督・・・あなたっていう人は・・全く・・」

 

 

 頭痛と戦いながら起床したこの日、昨日の出来事を話すと、さらに頭の痛くなるような説教を大淀からうけてしまった。まぁ確かに先に大淀に今後方針を相談しておくべきだったか。今度からは先に相談してくださいと呆れながら業務に戻る大淀にすまんと小声で謝りながら私も業務につく。まるで尻に敷かれる夫のようではないか。しかしここで余計な火種をばらまく必要はない。思っていることを口にしないようにせこせこと働く。明石に朝一番で今日の昼から建造を行うと伝えているのでそれまでになんとか書類関係を掃除してしまいたいところだ。まもなくコンコンとドアをノックする音が聞こえ、入室許可をだすと失礼しますと川内と神通が入ってきた。

 

 

 「提督、おはようございます。昨日のお約束通りお伺いしました。」

 

 

 二人に椅子に座るよう促し話を進めていく。今日は昨日の飲みのこともあり、訓練はお休みにすると言っていた。昨日の帰りに訓練は休みと伝えられた駆逐艦達があれだけ喜んでいたのをみるとよっぽど嬉しかったのだろう。こちらとしても今日のうちに水雷戦隊の今後の方針をしっかり決めておきたい。大淀を隣に座らせ話が始まった。

 

 

 「昨日二人には話した通りだ。今後船団護衛の任務などもこなしていかねばならない。そうなると君達軽巡級の数を考えると手が回らなくなる可能性が高い。今日の午後から建造を行う予定でな。今後、駆逐級の数は増えることだろう。勿論軽巡級の数も少しは増えるだろうが、前の建造結果を見る限りだとどうしても・・な。私としてはそろそろ駆逐の子達も旗艦を任せてもよいのではないかと思っているのだがどうだろうか?」

 

 

 「あの子達の練度を見る限り護衛任務などは任せてもいいと思います。直接的な戦闘が起きる可能性が少ないことや、船団を襲う敵は主に潜水艦です。対潜、機動力に優れる駆逐艦であれば護衛にうってつけです。新しく建造されて練度が低い軽巡に旗艦を任せるよりも経験豊富な駆逐に任せた方が上手くいくと思います。」

 

 

 「旗艦を任せるならここの鎮守府の古参組に任せるのがベストだと思うよ。私達の訓練を長く受けているし神通が言う通り経験も豊富だからね。色々・・・と。」

 

 

 前の出来事を色々と思い出したのだろう。川内に謝ると気にしてないと元気な返事をもらいつつ話をつめていく。協議の結果、演習などで旗艦を数回ずつ務めさせ、適正がありそうなものから順番に旗艦を任せていくことになった。もちろん対潜の訓練もこなしてからの話だが。こういったことはやはり慣れも部分も大きいだろう。焦らずしっかり自分の力にしてほしいものだ。

 

 

 「提督。ここで一つ提案があるんだけれどいいかな?ズバリ!夜戦の訓練もそろそろ導入してもいいとおもうんだよね!どうかな?」

 

 

 川内からの提案に首をかしげつつ大淀に助け船を求める。大淀は多少は必要なことだとおもいます。と無難な返事をしてきた。まぁ大淀が言うのであれば。私は許可をだすと川内はかなりはしゃいで夜戦夜戦と連呼していた。こいつは・・日向と同じ類の者かもしれない。今まさに熱く語り掛けようとしてきたところをすかさず建造の話題をだし流れを強引に変える。川内は少し不満げな顔をしていたがしったことではない。私は学んだのだ。隙を見せるとやられることを。身をもってな。二人としてはやはり訓練の面倒を見れる軽巡級の艦娘が来てくれるのが嬉しいそうだ。長良も最近力をつけてきて指導もうまくなってきてはいるが、どうしても数が多く対処できないようだ。かといって私自身がどのクラスが欲しいと願ったところで全ては妖精次第なのでどうしようもないのだが。

 

 話し合いを終えると二人は昼からの建造をせっかくだからみにくるねと言い残し去って行った。私も残りの書類関係の業務を終わらせようと大淀と協力して進めていく。谷上中将と頻繁に連絡をとるようになったためか、仕事量は増えた。だれかいい補佐はいないものか。そう考えながら業務を終わらせ時計をみると昼飯時なのに気づく。大淀を誘い執務室を後にして食堂に向かう。大淀にも定期的に休暇を与えてやらねばな。二人で歩きながら私は新たな補佐候補を頭の中で探すのであった。

 

 

 相変わらずけたたましい音が響いている。昼食をとりおえ工廠に向かうと夕張と明石が妖精達と業務に励んでいた。精が出るなと声をかけるとお疲れ様ですと二人はゴーグルをとりながら挨拶をしてきた。特に夕張が手掛けている艤装は大規模な改修を行っているのか、沢山の妖精が抜群なチームワークで作業をしていた。予定通り建造を行うと連絡していたおかげか、多数の妖精がキリのいいところで作業を終わらして待機してくれていたようだ。私はダメもとで軽巡級の建造を中心にできないか?とお願いしたところ、資材を多めに使えばある程度は確率があがるかもしれないと明石に言われたので任せることにした。

 

 

 「では建造をはじめてくれ。」

 

 

 私の言葉を合図に妖精達が作業にとりかかっていく。相変わらず見事な手際だ。感心してみていると後ろからぞろぞろと人がやってくる音が聞こえる。水雷戦隊組がやってきたのだ。訓練がないのをいいことに野次馬根性でみにきたのだろう。川内と神通はあらかじめ来るといっていたがまたしてもおまけを連れてきたのか。振り返り挨拶をするとみな挨拶を返してくれた。気のせいか以前よりも笑顔の子が多くフレンドリーな気がする。昨日の飲み会の効果があったのだろう。討死した私の財布も本望というものだ。妖精達は多くのギャラリーが増えても全く気にせず艦を組み立てていく。やがて小さい艦から順に完成していくと台にのせて窯に運ばれていった。

 

 完成した艦の模型をみて反応している者がいた。不知火だ。おそらく自分と同じ型のものだとわかったのだろう。窯に運ばれていったその模型をひたすら眺めていた。長良も握りこぶしで渾身のガッツポーズをしていた。この二人の姉妹艦が出てくるのは間違いないだろう。次々と模型が出来上がっていく。中には少し形が異なる艦もある。これは・・潜水艦だろうか?それらしき模型も次々と窯にはいっていく。第一陣すべてが窯に入り終えると興奮したようにあとどれぐらいでできるのかと不知火と長良が詰め寄ってきた。待ち遠しいのだろう。二人に焦らぬよう落ち着かせると二人は恥ずかしくなったのか、顔を赤くしながらしおらしくなった。妖精達も集中して疲れたのか一旦休憩をとっている。やがて先に投入した扉の灯が緑に変わり、窯からぷしゅーと煙があがる。さて。どういった子がくるのか。私ははやる気持ちを抑えながら窯の中から聞こえてくる足音がこちらに向かって来るのを待った。




どの艦娘も個性があっていいですよね。おかげでだれを作品にだそうか迷ってしまいます。


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第44話

イベントも後半に入りますね。堀りが終わってない方は今のうちに。ちなみに私は掘り終えていません。


 コツコツコツと足音が少しずつ近づいてくる。そして私の前に立つと綺麗な敬礼をして自己紹介をしてきた。

 

 

 「陽炎型一番艦、陽炎です!よろしくお願いします!」

 

 

 「陽炎型九番艦、天津風。着任です。」

 

 

 とても元気な子だ。挨拶を終え握手して私も自己紹介をする。互いの紹介が終わった後陽炎はあたりを見回した時に発見した不知火に手を軽く振っていた。普段あまり感情を表にださない不知火が喜んでいるのをみると相当嬉しかったのだろう。それに続く天津風は陽炎型というが制服が陽炎や不知火と違う。それに足元には島風がいつもつれている連装砲ちゃん?らしき謎の生命体がいる。なにか関係があるのだろうか?続いて五十鈴、阿武隈、球磨、木曾と軽巡ラッシュだ。これはうれしい結果となった。そして第一陣組最後の窯が建造終了の合図をだす。窯の中からゆっくりとあるいてきたのはまさかの水着の艦娘だった。

 

 

 「はじめまして。伊号第百六十八潜水艦です!よろしくおねがいします!」

 

 

 「よろしく頼む。ところでその名前だと少し呼びづらいのでなにか別の呼び方はないかな?例えばゴーヤみたいな。」

 

 

 「ゴーヤもこの鎮守府にいるんですか?そうですね・・。ではイムヤって呼んでください。私も自身のことをイムヤと呼びますので。」

 

 

 なんとも長い呼び名にならなくてよかった。握手を終え後ろを振り返ると妖精達が再び建造に励んでいる。まだまだ艦娘の寮には余裕がある。この調子で少しずつ艦隊を増やしていかねばな。そう考えているうちにあっという間に模型が出来上がったのか、台に乗せられた模型が窯に入れられていく。もはや艦の形をみて想像するよりも後ろのギャラリーの反応を見たほうが何となくやってくる艦娘の種類がわかるまである気がする。その証拠に長波が反応していた。つまりこの中に長波の姉妹艦がいるわけか。気長に待つとしよう。建造はまだ行う予定だ。前回と同じ妖精達に謝礼のお菓子を配ると待ってましたと言わんばかりに群がってきた。仲良くわけろよと声をかけるとおいしそうに食べてくつろいでいる。後ろでいいなぁ~という声が駆逐艦の群れの中から聞こえてくるがそれを無視する。お前達は昨日嫌というほど私の財布を痛めつけてくれた罰だ。せいぜいそこで羨ましがっていろ。そうこうしているうちに建造が終了したようだ。コツコツと歩行音が聞こえ私の前に立つ艦娘。先頭は綺麗な緑色の髪をしている子だ。

 

 

 「夕雲型一番艦、夕雲、着任しました。提督。よろしくおねがいします。」

 

 

 「同じく夕雲型十六番艦の朝霜!よろしくお願いします!」

 

 

 「夕雲型十九番艦、清霜です!よろしくお願いです!」

 

 

 何やら夕雲型?のオンパレードだ。夕雲は長女?なだけあってしっかりしてそうな雰囲気だ。反対に朝霜と清霜は元気いっぱいだ。むしろ元気が余っている感じがある。そして遅れて秋月と照月がでてきた。この二人はまた別で秋月型の類らしい。ネームシップ艦が今日は沢山出てくる。何とも不思議な日だ。そしてさらに遅れて足柄がでてきた。妙高の姉妹艦だな。なかなかガッツありそうな話し方をしていた。だが一番恐ろしいのは彼女が那智の妹ということだ。姉妹が似てないことを祈るのみ。そして最後の窯からやってきたのは、これまでみたことない制服を着た眼鏡をかけた女性だった。

 

 

 「練習巡洋艦、香取です。提督、よろしくお願いしますね。」

 

 

 ・・・なんともささる人にはささりそうな属性を持っていそうな艦娘だ。あいにく私はそういう趣味は持ち合わせていないので間に合っている。それにしても練習巡洋艦?聞いたことない区分だ。香取に聞いてみると、元々は海軍兵学校を卒業した新兵をのせて遠洋航海用の艦としてつくられたそうだ。

 

 

 「つまり今の君は新兵、つまり新人の艦娘の指導役としてうってつけなのではないか?」

 

 

 「はい。至らないところはあるとは思いますが、そういった面ではお役に立てるかと。」

 

 

 これは思わぬ収穫だ。新人の艦娘は香取に任せてある程度練度が高まってきた子達は川内、神通にまかせればいい。分業することにより訓練も捗るだろう。後ろを振り返るとニッコリとほほ笑む神通と顔が青ざめている駆逐組。しっかり働いてもらうからな。そんな中、朝霜と清霜は頭に?マークが浮かんでいるかのような不思議がっている顔をしている。きっと神通の訓練を味わえば二人もきっとあんな風にげっそりした顔になると思うと涙が出てきそうになる。純粋な心をいつまでも忘れないでほしい。

 

 今回も沢山の仲間が艦隊に加わった。野次馬たちに第二次建造組を鎮守府案内するようにお願いすると嬉しそうに話しながら歩いて行った。部屋割りも色々と考えなければならないな。まぁそこは大淀に任せれば大丈夫だろう。明石と夕張に感謝すると、執務室に向かう。新たに加わった艦娘達が大淀と話しており、大淀の書いている名簿に記帳されていた。その流れに便乗し部屋割りも新しく考えてやってくれとお願いすると了解しました、と頼もしい返事が返ってくる。大淀が頑張ってくれているうちに残りの業務を終わらせよう。私はデスクワークに戻ると黙々とこなしていく。

 

 

 いつもまにかもうすぐ日が沈むようだ。今日もあっという間だった。大淀も早いうちに部屋割りを終えたようで書類を終わらせていた。今日もお疲れ様。と声をかけ執務室を二人ででる。私はそのまま自分の部屋に戻ると風呂に入り食堂にむかう。食堂では今日着任した子達もいるようで賑わっていた。

 

 

 「提督も一緒に食べるっぽい!」

 

 

 夕立がそう言いながら順番待ちでまだ空になっているお盆でげしげしとつついてくる。何故攻撃してくるのかはわからないがわかったわかったと了承し一緒にご飯を食べる。時雨や睦月なども自然と集まってきて大所帯になる。あれこれ質問を受けながら楽しい食事をとることができた。確かににぎやかだが、こうなると抜け出すのも至難の業だな。ようやく解放された私は部屋に戻る。あれこれやりたいことはあるが、装備が整わない限り次のステップに進めない。しばらくは工廠組に苦労をかけるな。今度漁船護衛についての打ち合わせを外でやる際に、彼女達が行きたがっていた〇ークマンについでにつれていってやるか。布団をかぶりながら明日もいい日になるようにと思いながら私は眠りにおちていった。




新しい艦娘が続々着任。作品で特別ひいきするわけではないですが、個人的に清霜はお気に入り艦娘の中の一人だったりします。


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第45話

また最近読者の方がさらに増えてきているような気がします。


「全く。五航戦は相変わらずなってないわね。」

 

 

 午前の訓練から引きあげてきた空母達の会話はやはり加賀と瑞鶴が話の中心になっていた。以前の力を取り戻した加賀はこれ幸いと後輩たちへの指導に日々、精をだしている。その後ろにはぐったりとした翔鶴と瑞鶴が続いていた。とはいえ前回の海戦で五航戦の航空部隊は戦果とひきかえに被害も出している。補充パイロットの育成には少し時間がかかりそうだ。パイロットの育成はそう簡単にできるものではない。模擬戦など、とうの先のお話となってしまった。

 

 瑞鶴は本来の力の加賀に模擬戦を挑みたかったが、今は焦らず力をつける時。口うるさいけどしっかり教えてくれるべきところは教えてくれるこの憎たらしい先輩を超えるまで訓練あるのみだと今日のしごきの憂さ晴らしに食堂に向かうのであった。

 

 

 「そういえば夕張さんが新しい艦載機を開発したから是非試してほしいといってましたよ。今日のお昼から試してみますか?」

 

 

 「提督から依頼を受けていた機体が完成したのね。でも紫電改二もなかなかの機体です。これ以上の物ができたのでしょうか。」

 

 

 あいかわらずおかしい量のご飯を食べながら二人は夕張の完成報告を思い出していた。現在空母に配備されている戦闘機は紫電改二。この戦闘機はかなり優秀な機体でパイロット達からも好評だ。しかし夕張が自信満々に報告してきた以上それなりの物が出来上がったのだろう。楽しみですね。と赤城が阿賀に微笑むと加賀は食べ終えたらすぐに行きましょう。と顔の表情に似合わず乗り気になっている。おかわり控えめで今日の昼食を終えると、工廠に向かっていく。工廠では新しい戦闘機のお披露目会なのか、すでに戦闘機の周りをパイロット妖精達が囲んでわいわいと話し合っていた。

 

 

 「あ!赤城さん、加賀さん、新型の戦闘機の開発に成功しました!妖精達も頑張ってくれたんですよ。是非パイロット達に試し乗りしてもらって後で感想聞かせてね!」

 

 

 夕張が嬉しそうに報告してくる。赤城と加賀は早速矢と形を変えた戦闘機を備えて演習海域にでる。自分に収まっている妖精達に出撃準備可能かと問いかけるといつでもいけるという元気な返事を確認した後、矢をとり弓を力いっぱいしならせ空にめがけて放つ。矢から戦闘機へと姿を変えたその機体の名は烈風。大空を切り裂くように駆けていく姿はとても様になる。

 

 

 『これは・・・完全に零の上位互換だな。こいつは量産できたら是非赤城航空隊に優先配備してほしいもんだ。』

 

 

 『今は前よりも艦娘が増えて艦載機だけの整備や製造だけに手をかけられるわけではないからな。作れるうちにつくってほしいもんだ。』

 

 

 試乗を終えたパイロット達とともに工廠へ戻る。どうでした?と夕張が興味津々でパイロットや赤城、加賀に聞いてくるその姿に少しだけ二人はふふっ笑ってしまった。

 

 

 『正直いうと悪くはない。だが機体によって性能にブレがあるみたいだが何故だ?上昇性能がまるでなっちゃいねぇやつもある。』

 

 

 『翼面荷重も紫電で感覚も慣れているから問題ない。格闘性能については文句なしだ。ただ機銃については三十ミリも必要かと言われれば少し疑問だな。装甲の固い敵爆撃機を襲撃するならともかく、戦闘機同士の格闘戦に重点を置くのであれば、弾数問題や安定性を考え二十ミリでいいじゃないかと俺は思うね。』

 

 

 夕張はメモを取りながらふむふむとうなずいている。機体性能のぶれについては数種類のエンジンをためして載せており、相性のいいものを採用するためテストをしていたとのこと。最初から言ってくれればよかったのに。と誰もが思ったことだろう。武装については協議した結果、二十ミリを採用することに決まった。

 

 

 「みなさんありがとうございます。この意見を参考にさらに烈風を改良していい機体にしあげますよ~!」

 

 

 夕張と妖精達はテンション高く張り切っていた。若干マッドエンジニアっぽい気がするが自分の仕事に情熱を注げるのはいいことだ。また完成したら報告しますね。と言い残し改良作業にもどっていった。反対側では明石が水雷戦隊の装備の開発やメンテナンスを行っていた。またきてくださいね~と笑顔で手を振り赤城と加賀を見送る。二人は工廠を後にし報告がてら執務室に向かった。

 

 

 「なるほど。思いのほか開発が早かったな。興味深いデータがとれてあいつらも今頃満足しているだろう。」

 

 

 「ええ。とても喜んでいました。」

 

 

 私は赤城と加賀の報告を受けながら考える。以前の海戦で現れた赤いオーラに包まれた深海棲艦とその敵艦載機。こっちもいい機体をそろえておかねばな。赤城や加賀のパイロット達の腕を存分に引き出せる機体ができるのであればさらに戦力向上になる。現状の強さに慢心しているとあっという間に足元をすくわれかねん。私もできることをやっていかねばな。報告が終わってもなお居座る二人と雑談をしながら業務を終わらせる。明日は待ちに待った給料日だ。艦娘達は例のごとく手渡しになるため、今日のうちに整理しておいたのだ。まぁ主に大淀がやってくれたのだが。その話に食らいついた二人は明日は酒保で提督にごちそうになりますね。と笑顔で問いかけてくる。なぜ艦娘という存在はたかってくるのであろうか。そして三人衆とは別の意味でやばいこの一航戦。以前の水雷戦隊に奢ってしまったので、ここでお前達はだめだと差別するわけにはいかない。こんなに待ち遠しくない給料日などかつてあっただろうか。間宮に明日は二人の好みの料理をつくってもらい、いつもより多めにおかわりしてもらうよう祈るのみだ。




烈風・・誉エンジン・・ウッ頭が・・・


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第46話

キーボッドもついに壊れ始めました。そして時間もない。


「こんなきついとは正直おもわなかったわ・・・」

 

 

 はぁはぁと息切れしながらなおも訓練を続ける陽炎。本来ならば香取が訓練を受け持つのだが、香取自身もまだ練度が足りず指導を行える立場ではないので、第二建造組はしばらく長良や妙高といった面子が訓練を行うことになった。初めは水上移動訓練と簡単な物から始まったが、日を追うごとに徐々に訓練内容が増えてきたのだ。不知火達は簡単に移動しながら砲撃や魚雷を行っていたが、実際自分がやってみるとそう簡単にうまくいかない。よくできるわねと心の中で感心していると長良達指導員から次の訓練内容を告げられた。一定以上のスピードで隊列を組みながら目標物に砲撃を当てるという訓練だ。勿論訓練用の弾を使うため威力はないが、移動している相手に当てるという訓練は難しそうだ。私の組は阿武隈さんを先頭に単縦陣となり訓練が始まった。

 

 

 「再装填はまだなの?少し時間がかかりすぎだわ!」

 

 

 『すみません!急いではいるのですがなにぶん不慣れなもので・・』

 

 

 「ちょっと!弾着修正がずれてるわよ!見張り員はしっかりお願い!」

 

 

 一緒に隊列を組んでいる天津風も苦戦しているようだ。配属されたばかりの妖精達も新人なため不慣れなのだろう。母艦となるそれぞれの艦娘達とのやり取りの中で連携がとれてないのがまるわかりだ。こんなんじゃ不知火に追いつけないわ。陽炎型ネームシップとしての意地が私にもある。すぐ追いついてみせるわと寝室で見栄を切った以上ここで躓いているわけにはいかない。焦る気持ちを抑えながら黙々と砲撃を続けていく。

 

 

 「あいつら焦ってんなぁ。動きで丸わかりだぜ。」

 

 

 標的目標となっていた摩耶や長良は遠くから撃ってくる新人達の方を見ながら華麗に砲撃を躱していく。勿論ある程度手加減はしているとはいえさっきから至近弾でさえない。実際の戦闘ではいかに敵の距離を正確に測り、そこから修正していくのが大事だ。しかも一方的に撃てることなどそうそうありえない展開だ。敵を野放しにし続けると当然味方に被害が出る確率もあがってくる。なるべく速やかに敵を倒すのが一番だが、今の彼女達には酷な話だろう。長良はどうしようかと考えていると摩耶とは少しにやっとした顔で長良に話を持ち掛けてきた。

 

 

 「あいつらこっちが撃ってこないと思って胡坐かいてるんじゃねぇか?こっちも抜き打ちで砲撃してやろうぜ!かつて神通たちにやられたようにさ!」

 

 

 後ろに続く北上や長波もいいねぇと摩耶の考えに賛同しているようだ。大井に至っては北上さんがそうしたいのなら・・と決定権を北上に委ねている。判断するのは私なんだけどなぁ・・と長良は思いながら考える。確かに自分達も同じような訓練をしたときに川内、神通たちに同じようなことをされたあの日々を思い出す。今思えば地獄の日々だった。少しだけ身震いしながらもこれはこの鎮守府で配属された以上通られなければならない道なのだ。と思い直しそれぞれに砲撃準備を指示をだす。待ってましたとすでに砲撃用意していた長波はいつでもいけると砲を構えている。念のためこちらも訓練弾を用意しておいたかいがあったというものだ。

 

 

 「私の合図で一斉射撃します。最初は警告の意味をこめて必ず外してください。徐々に当てていく感じで行きましょう!」

 

 

 了解!と統一された返事をもとにカウントしていく。そして轟音とともに新人達にむかって山なりに多くの訓練弾がとんでいく。自分達の近くに着水し、次々と水柱が上がっていく様子に新人たちはあっけにとられていた。

 

 

 「ちょ・・ちょっとそんなこときいてないんですけど!?」

 

 

 旗艦の阿武隈さんがあわあわと慌て始めてた。訓練はこちらが砲撃をあてるという内容だったはず。あっちも砲撃してくるなんてきいてないわよと陽炎も焦っていた。飛んでくる砲弾の恐怖と戦いながらこちらも応戦するが、一方的に殴る展開と実際に打ち合ったのではやはり違う。これが実戦だとしたら私達はとんだお荷物ね。

 

 

 「突然ですが、訓練内容を少し変更します。これから私達も反撃を行いますのでこちらの攻撃をさけつつ、私達に砲撃を当ててください。ちなみにふがいない結果で終った場合、追加で訓練しますのでしっかり当てるように。」

 

 

 とんでもない内容にかわってしまったようだ。えぇっ!?と慌てる阿武隈さんの表情は困惑していた。勿論私だって同じ気持ちだ。だがそんなことはお構いなしにどんどんと砲撃がとんでくる。こちらも応戦するも、あちらの方が手数が圧倒的に多い。重巡クラスともなれば装填にも時間がかかるはずだがそんなのお構いなしだ。長波にいたっては、ぼんぼんと絶え間なくうってくる。やがて清霜や照月といった後続が次々と相手からの砲弾に命中していく。そして私も相手にあてることができず、集中砲火をあびてしまった。訓練用なので威力はかなり抑えられていると言っていたがそれでも痛い。実際の砲弾はもっと痛いのだろう。これが実弾だと思うとぞっとする。結果的にこちらの艦隊は数発当てることが精いっぱいだった。

 

 

 訓練が終わり、各々艤装を外して長良が総評を行う。実際の戦場では新兵など関係なく敵は狙ってくる。特に動きの悪い艦は真っ先にやられてしまう。少しでも上に近づけるように日々努力してほしいと言われ、解散した。日々の訓練なんか楽勝と思っていた自分に情けなさを感じつつもなんとか今日の訓練を乗り切った自分を褒めたいとクタクタになりながらひとまず自分の部屋に戻ろうとする面々。しかしその願いはかなわない。がしっと後ろから肩を何者かにつかまれ振り返ると、長良が笑顔で話しかけてきた。

 

 

 「お疲れ様~!じゃあ追加訓練で走り込みやろっか!」

 

 

 満面の笑みの長良。【ちなみにふがいない結果で終った場合、追加で訓練しますのでしっかり当てるように。】昼のことを思い出した陽炎と他の面々。追加訓練て今からなのか・・・断れるはずもない。しばらくして鎮守府に長良の元気な掛け声とともに生気を感じられない顔をした新人達が長良の後に続く。みんな元気ないよ~!ファイト!と一緒に走り込みをする仲間?を手に入れた長良はいつもより楽しそうに走っていた。

 

 

 ときおり聞こえる長良の声を聞きながら大淀と共に執務する私は新人達の気持ちを考えると可哀そうで仕方ないが、これもまた必要なことなのだ。そう思うだろう?と自分の机にいる妖精達に問いかけるとうんうんとうなずきながらお茶をすすっている。

 

 

 「一体どういうポジションなんですか・・」

 

 

 呆れながら大淀がツッコミを入れるとははっと私は長良達が新人の時を思い出す。まさに伝統というべきものだろう。そしてコンコンと執務室のドアを叩く音が聞こえ入室を促すと、走り込みを終えたのか、長良が今日の訓練終了しましたと報告してきた。少し雑談をした後、長良はうれしそうに私に話しかけてきた。

 

 

 「そうだ!提督も今度から一緒に走り込みどうです?」

 

 

 「悪いが遠慮させてもらう。色々とやることがあるのでな。」

 

 

 えぇ~そんなぁ。と長良は残念がっている。お前の走り込みに付き合っていたら私はマラソンの代表選手になってしまうくらい絞れてしまう。冗談じゃない。せめて仕事終わりぐらいゆっくりさせてくれ。




更新速度がぁ・・・


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第47話

職業柄どうしても年末は忙しいので更新途絶えがちになります。


 「ついにこの時がきたか・・・これこそ私が追い求めていた理想なのかもしれない・・・!」

 

 

 何を言ってるのかよくわかんない。伊勢はボルテージが最高潮になっている日向を横に冷たい目線を向ける。が、本人は気づいていないのか、きらきらとした目で完成した艤装をを見つめている。

 

 元々はそのまま修理するはずだった艤装。しかし運命の出会いが伊勢と日向の運命を変えてしまった。あの日瑞雲にであってからというものの、日向の性格ががらりと変わってしまったような気がする。クールな感じだと思っていた日向がここまで熱い心をもっていたとは思いもしなかった。談判にいったあの日、日向から改装の提案をうけていた提督も後半は若干ひいていたような気がする。こうして私と日向の艤装は航空戦艦として生まれ変わった。もっとも私は巻き込まれる形となったのだが。だが夕張の説明を受けていると私も何だが乗り気になってきてしまった。だってなんだか面白そうだもの。ちょっとだけ日向の気持ちがわかった気がするが、ああなってしまったら取り返しがつかなくなりそうなのでほどほどにしなければ。

 

 

 「もはや我慢ならん。早速試してみようではないか伊勢よ。」

 

 

 そう言いながらすでに艤装の装着にとりかかろうとしている日向に続くように伊勢も準備を始める。テスト用に少数の瑞雲とともに演習海域に繰り出す。主砲の数は減ったが、その分航空機を積めるようになったため制空権の争いでは期待できそうだ。

 

 

 「ふむ。やはり瑞雲はいいものだ。」

 

 

 瑞雲を空に放ち、それを眺めている日向。瑞雲は確かにいいものだが、そこまで執着するものかと言われたらそうでもない気がする。少なくとも私にはそれほどの愛着はない。せっかくなのだがら私は彗星とか積んでみたいと思うのだが日向はどうやら瑞雲一筋のようだ。そのほかにも修理された艤装を確かめながら試し運転していく。一通りのチェックは終え、問題がないことを確かめると私達は帰投し、艤装を外し工廠に戻った。工廠には提督がいつのまにかきており、明石や夕張と何やら話をしていた。装備開発の打ち合わせでもしているのだろう。私達に気が付くと、話しかけてきてくれた。

 

 

 「二人とも聞いたぞ。艤装の改装が終わって航空機もつめるようになったんだな。あの時の話が現実になるとはな。」

 

 

 「私にかかれば改装ぐらいおちゃのこさいさいですよ!」

 

 

 どや顔で自慢している夕張を提督がお前の力はたいしたもんだ。と褒めていた。褒められた夕張はうれしかったらしく、嬉しそうに褒美をねだっていた。何やら提督が今度外出をするときに一緒に連れて行ってもらって夕張が希望していた場所につれていってもらえるようだ。喜んでいる夕張を羨ましく思う。私達もなにか機会があったら外の世界をみてみたいものだ。

 

 

 

 

 「ところで航空戦艦として本格的に運用する際に問題点があるのだが・・・」

 

 

 私は伊勢と日向に現状の問題を訴えかけた。二人はその問題がわからないようで首をかしげている。明石や夕張もなにかありましたっけ?みたいな顔をしている。伊勢。日向はまだしもこいつら二人後先考えずつくりやがったな。まぁ最終許可をだしたのは私なのだが、ここまで早く完成するとはおもわなかったのだ。

 

 

 「というのも、瑞雲を搭載するにあたって機体はあってもパイロットがいない。予備兵や補充兵は優先的に空母部隊に配属していくので現状パイロットが足りないのだ。」

 

 

 夕張と明石は衝撃をうけたような顔をしていた。伊勢、特に日向に至っては、かなりショックを受けている。艤装が直って出撃できるとおもっていたらまたお預けになるのだ。それは確かにショックだろう。だがいきなりぶっつけ本番で出撃させるわけにもいかない。

 

 

 「そんな・・瑞雲がここにあるというのに・・私はなにもできないのか・・」

 

 

 日向が力なく膝から崩れ落ちた。そんなにショックだったのか・・伊勢が焦りながらフォローするも元気を取り戻す様子がない。提督、何とかしてくださいと小声で明石が耳打ちしてくる。そんなこと言われても足りないものはしょうがないのだ。

 

 

 「日向よ。であればお前自身もパイロットの育成もできるよう訓練してやればどうだ?訓練のノウハウは空母組や鳳翔、瑞雲にいたっては千歳や千代田にも私から要請してやることもできるぞ。よその部隊で訓練され転属されてきたパイロットよりも一から訓練されたパイロット達の方が瑞雲に愛着をもってくれるのではないか?」

 

 

 「確かに・・その方がパイロット達にも瑞雲の良さを分かってもらえる可能性が高くなる。流石提督だな。」

 

 

 私の苦し紛れの説得で再び力を取り戻した日向。こいつもしかしておもしろいやつなのではないか?一つの疑問が思い浮かぶも、それを口に出さずまた正式に連絡をするよう言うと、満足した様子で日向は寮に帰って行った。

 

 

 「なんだかすみません提督。日向あんな感じになっちゃって。」

 

 

 伊勢も謝りながら工廠を去って行った。私としては面白かったので問題ない。だが酒が入った時の日向の爆発力は計り知れない瑞雲パワーがあるのでそこだけは遠慮願いたい。忘れないうちに空母部隊や千歳達に指示を出していかなければ。負担は増えるだろうがこちらとしても伊勢達を遊ばせているわけにはいかない。千歳にいたっては飲みに誘ったところでお願いすればなんとかなるはずだ。勿論対価となるのは私の財布だが。

 




師匠関係は文章を書いていて本当に楽しい。


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第48話

年末ですね。私は相変わらず仕事です。掘りも最終海域もクリアしてないので時間がとれない・・・


 「では行ってくる。何かあったら私に連絡をしてくれ。」 

 

 

 私は大淀に鎮守府のことを頼むと車に乗り込み、夕張と明石を連れてこの〇〇鎮守府がある〇〇市の市長と会談に向かった。かねてから上層部と市側と書類や電話などで細かい日程調整を重ね、今日ついに会談となった。そこで誰が私の補佐としてついていくかという話になり、揉めに揉めた。外に出る機会などめったにないから気持ちはわかる。結局以前、二人を外に連れていく約束をしていた明石と夕張になった。しかし片方ずつ連れていく暇はあいにくない。かといって二人連れていくとなると工廠の作業に支障が出る可能性があったが、簡単な作業ならできるとピンチヒッター北上の申し出により外出が可能となった。マイペースな性格とは裏腹にメカに詳しい意外な一面だ。はしゃぐ二人を連れて車を走らせる。見る物すべてが新鮮なのか、二人はあれはなんだのよってみたいだの車内は黄色い声が途絶えることはなかった。事故ってしまったらどうするんだ。危ない。

 

 

 「ね~提督ぅ~。パパっと会談終わらせてさっさといろんなとこまわってみましょうよ~。」

 

 

 「そうですよ提督!ちゃちゃっと終わらせて工具見に行きましょ!この日のためにお金をこつこつためてきたんだから!」

 

 

 「馬鹿野郎。本来の目的は市長や漁協関係者との打ち合わせだ。仕事で行くんだよ仕事で。そのあとは業務に必要ということで〇-クマンに連れていくんだ。必要な工具は経費で落とすから金も持ってこなくていい!」

 

 

 二人の目がきらりと光ったような気がした。あくまで業務に必要なものだけだからな。絶対へりくつこねてあれもこれもという未来がみえる。だがここで折れると怒られるのは私だ。大淀というボスがいる以上私も逆らえないのだ。上官は私なのだが・・・とにかくこういう関係のことは逆らえない。悲しいことに。

 

 

 「ようやくつきましたね。しかしスーツって普段着ないからなんか違和感あるな~。」

 

 

 夕張が自分の姿を確認しながら私についてくる。確かにいつもはみなセーラー服みたいな感じの物を着ているので違和感はあるかもしれない。というより私が慣れすぎてしまったせいか、逆にスーツ姿の二人に違和感を感じる。馴れとは恐ろしいものだ。市役所に入り、案内係に要件を伝えると少々お待ちください。と言われ少し待つと再び戻ってきた方に市長室に案内された。二人に失礼のないようにな。と小声で確認するとさすがに二人も少し緊張しているのか、顔をコクコクと小さく頷いてくるだけだった。いつもの明るさはどこに行ったのやら。扉をコンコンとノックし、どうぞ。と声が返ってきたので入っていく。

 

 

 失礼します。と入室すると、お待ちしておりました。と眼鏡をかけた優しそうな方が出迎えてくれた。その隣には肌が黒くやけた数名の方がスーツをきてこちらをみながら同じく頭を下げてきた。おそらく漁協関係の代表者だろう。テーブル席に案内され簡単な自己紹介をしていく。

 

 

 「本来ならば私達が出向かなければならないところを、ご足労頂きありがとうございます。〇〇市の市長を務めさせていただいている飯田と申します。こちらは〇〇市の漁協組合の会長の富岡さんと漁師代表の宇野さんと野村です。」

 

 

 三人の挨拶をうけて私も自己紹介をする。明石と夕張の紹介をしているときは四人とも興味深々の様子だった。これが噂に聞く艦娘か。そう言いたげな表情だった。

 

 

 「まずは先の海戦の勝利、誠におめでとうございます。深海棲艦との戦いであれほどの大勝利は初めてだったのでみな湧き立っていました。」

 

 

 「佐賀山さんのおかげで海にも少し平和が戻った気がします。この調子でどんどん倒してほしいですな。」

 

 

 「いえ、私の力など微々たるものです。この子達艦娘が前線で頑張ってくれたからこその戦果なので。この子達のおかげです。」

 

 

 市長と組合長が笑顔で話しかけてくる。私はお礼を言いながら明石と夕張の様子をみると二人は照れていた。これが工廠内だったら絶対どや顔してくるというのに。外面モードなのか、あるいは慣れてないだけなのか。

 

 

 「では本題に入りましょうか。単刀直入で申し訳ないが今後のことについてなるべく多くお話したいと思っていますので。」

 

 

 私は談笑の流れを断ち切り、本題に入ろうと空気を換える。このことに漁師の二人はありがたいとしゃべりかけてきた。

 

 

 「俺達漁師は戦争が始まってから海で漁ができない状態が続いている。市や国の特別補助金で何とか食いつないでいるが、このままだと廃業も考えていたところだ。だが最近の海軍さんの活躍で再び漁ができるかもしれないと聞いてここにやってきたんだ。それは本当なんですかい?」

 

 

 「もちろん必ずできるというわけではありませんが、おそらく漁を再開できるかと思います。先の海戦の勝利後、制海権が格段に広がり、〇〇市の漁師の方が使われる漁場付近のところまで安全が確保されている状態です。場所と時間は限らさせていただきますが、我々の戦隊が複数護衛任務として派遣をすることが可能です。」

 

 

 私は目の前に広げられた地図で場所を説明しながら四人に話しかける。野村さんと宇都さんは食い入るように海図を見ている。

 

 

 「場所はおそらく問題ねぇ。ここに住んでる漁師達はおそらくこの圏内の中で十分漁は行える。」 

 

 それから話を詰めていき、内容や方針が固まっていく。多少危険はあるが今は戦時中だ。漁師達は危険を冒してでも漁に出たいという。根っからの海の男たちみたいだ。市長も漁業再開のめどが立ったことに嬉しそうな顔で成り行きを見守っていた。市としても補助金による財源の流失や魚が上がらないことによる経済的損失を食い止めたいという気持ちもわかる。経済と安全の両立は厳しいものがあるが、この市には○○鎮守府というアドバンテージがあるのだ。それを生かさない手はない。私自身としてもなんとか市民に還元できないかと思っていたのでまずはその一歩が踏み出せたことに嬉しく思った。

 

 「漁が再開できるのは非常に嬉しい話だ。待ち望んでいたといってもいいんですが・・・どうもな・・」

 

 宇野さんはそう言いながらちらちらと明石と夕張を見ながら申し訳なさそうにしゃべる。なるほど。もし不測の事態で戦闘になった場合艦娘達に守ってもらえるのか心配なのだろう。私だって実際にこの目でみてなければ普通の見た目の女性をしたこの子達があんな風に戦っているとは思いもしなかっただろう。

 

 「いやぁ、疑っているわけじゃねぇんだ。ただどうしてもこの目でみなきゃ信じられねぇというか・・申し訳ない。守ってもらう立場なのに。」

 

 「宇野さんのお考えはごもっともです。私だって配属されて実際に目の当たりにするまでは信じられませんでしたから。お互いの信頼関係をより強固にするために一度鎮守府で訓練の様子を見学されますか?そのうえで最終判断をしていただいても構いません。艦娘達もいきなり知らない人たちや船を護衛するよりも顔見知りになっていた方がやりやすいでしょうし。」

 

 まさかこのような返事が返ってくるとは思わなかったのだろう。複数の漁師達と後日見学に来る予定をとりきめ、この日の会談は終了となった。挨拶を終えて市役所をあとにする。思った以上に疲れた。早く帰って色々と準備をしなければ。

 

 「提督。約束・・忘れてませんよね?」

 

 「このまま帰る流れみたいな感じになってますけど行くべきところがあるじゃない提督!」

 

 私の雰囲気で察したのか、二人が圧をかけてくる。すっかり忘れていた。私は約束通りお望みの場所に連れて行こうと進路を変える。満足そうな二人は終始ご機嫌だった。他の子達にずるいずるい言われるのが容易に想像できて帰った後が大変そうだ。

 

 

 

 




実際戦時中の漁は大変そうですよね。制海権とれてないと潜水艦などに怯えながら漁をしないといけないでしょうし。平和な世の中が続くことに越したことはないですね。

北上もコンバートで工作艦になったりしたら面白そうですね。艦隊これくしょんというタイトルである以上そういった北上の一面も見てみたいです。


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第49話

2021年もよろしくお願いします。


 漁師や市長の会談を終えて私と工廠組は鎮守府に戻ってきたのだが、その時に案の定皆からのお土産の催促があって笑ってしまった。予想通りというべきか。といってもお菓子ぐらいしか思いつくものがなかったのでみんなで分けて食べるように渡した。非番の吹雪達は箱を受け取りお礼を言い終えるとわいわいとはしゃぎながら食堂に向かっていった。普段間宮のお菓子を食べなれている彼女達を満足させる品物ではないとは思うが、お土産という新鮮なイベントも相まってきっと美味しく食べてくれるだろう。明石と夕張と別れ、私は執務室に向かう。部屋では大淀が手を止めて私を迎えてくれた。

 

 

 「お帰りなさい。出迎えに行けなくて申し訳ありません。」

 

 

 「かまわない。いちいち出迎えをしていてはキリがないからな。業務最優先でいい。それに大勢に出迎えしてもらったからな。まるでスーパースターかというぐらいに。」

 

 

 「提督が返ってくるとわかったらみんなそわそわしてましたよ。人気者はつらいですね。」

 

 

 「まぁ本当の目的は私じゃなく別だっただろうからな。」

 

 

 私はおそらくあの子達の出迎え目的のお土産本体を大淀にわたすとありがとうございます。と笑顔で嬉しそうに受け取ってくれた。いつのまにか集まっていた妖精達も揉み手をしながら笑顔でそわそわしている。商人かお前達は。お土産を渡すと興奮しているのかきゃいきゃい言いながら中身を物色している。いいリアクションをしてくれるのでついつい物をあたえてあげたくなってしまう。癒し生物?だ。

 

 

 「会談の結果、当鎮守府に漁師の方々が視察に来ることになった。やはり実際に艦娘の戦闘の様子をみないと不安だそうだ。無理もない。普通の見た目をしている女性が海の上で戦うなんて想像もできんだろうからな。視察エリアは機密事項もあるので、ある程度限定しつつ、艦娘達の模擬戦を見てもらうつもりで行きたいがどうか。」

 

 

 「それで問題ないかと。あとは日程の調整と艤装の調整ですね。演習に参加する者については護衛船団を務める者達で行いますか?」

 

 

 「それがいいだろうな。川内、神通を呼んで選抜メンバーを相談して決めよう。演習とはいえ、旗艦を務めるのだ。そしてそこからそのまま船団護衛の旗艦にという流れだからな。視察の日程が決まるまでそういう訓練も取り入れてもらおうか。」

 

 

 大淀と軽い打ち合わせをした後に工廠に向かう。工廠では夕張と明石、そして代理の北上が談笑していた。私は挨拶をすると三人は敬礼をして出迎えてくれた。

 

 

 「遅くなってすまないな。今日は代理を務めてもらってありがとう。ささやかだがこれはお礼だ。後で食べてくれ。」

 

 

 「えぇ~もらっていいの?いやぁ~悪いね~提督。役得ってやつだねこれは。」

 

 

 笑顔で受け取る北上。北上はところどころ油で汚れていたが、それが妙に様になっている。つなぎも似合っていて工廠組に混ざっていても違和感がなさすぎる。こいつもしかして適正でもあるのか?そして工廠の妖精達にもお土産を渡すと喜んでいた。明石と夕張にももらっていたようで、これでしばらく休憩時間の茶菓子が豪華になることだろう。

 

 

 「いやぁ提督!北上さんも配属かえて工廠で働いてもらいましょうよ!私達の手直しが必要ないぐらい完璧ですよ!いてくれたらたすかるなぁ~」

 

 

 ちらちらと北上と私を見ながらおねだりする明石。北上に聞くと、面倒くさいと却下された。まぁこいつの性格ならそういうだろうと思っていた。笑いながら、そういうことみたいだ。と明石に告げると非常に残念がっていた。こういう助っ人時にだけお願いするという形ならいいよという事だったので、これからお願いすることもあるだろう。

 

 

 「あっ。そうだ提督。そういえば自分の艤装をいじってて思ったんだけどさぁ。この前伊勢さんと日向さんの艤装大幅に改装したじゃん?あれみてなんつうの?なんか私もびびってきちゃってさぁ。私自身の艤装の改装設計案をざっくり考えてみたんだけどどう?ぶっちゃけ軽巡としては火力も低いし一点特化型にしてみようと思って。」

 

 

 はいこれと設計図を渡されたのだが、あいにく私にはよくわからない。夕張に見てもらうと、ふんふんと言いながら明石と二人でなにやら話している。どうなんだと聞いてみると、夕張が代表して答えてくれた。

 

 

 「簡単にいうと浪漫ですね。」

 

 

 何を言ってるんだお前は。思わず唖然としてしまった。説明不足にもほどがある。しかし夕張は目を輝かせていたので、恐らくなにかとんでもないことになるのだろう。ロボットでいうと、ロケットパンチやドリルという男の浪漫をわかる数少ない艦娘なのだが、興奮すると止められない性格でもある。私は細かな説明をすると、落ち着きを取り戻したのか詳しく説明してくれた。要は主砲の数を減らして魚雷をてんこ盛りにしてしまおうとのこと。となると、運用方法が大きく変わってくる。これはよく考えて判断しないといけなさそうだ。どうしたものか。悩んでいる私に北上が話しかける。

 

 

 「ぶっちゃけ川内や神通みたいに旗艦を務めるのもなんかあれだし、そういうのは任せて私は好きにできたらなーって。あっ、もちろん旗艦の指示には従うよ?ただ私はそういうのは他の人に任せたいなって思ってさ。多分木曾もそんな感じだと思うよ。あの子水偵邪魔邪魔っていつも訓練の時言ってたし。」

 

 

 要は戦闘に集中したいということか。確かに性格的に面倒なことは避けたいというタイプだからな。木曾もそんなことを言っていたのか。今度話してみようか。

 

 

 「わかった。こちらの艦隊の調整もあるのでここで返事はできないが、前向きに検討して早めに決断しよう。早めの方がいいだろうからなこういうことは。」

 

 

 「さっすが提督。話が分かる男だねぇ。」

 

 

 北上はもう決まったも同然みたいな言い方で私も持ち上げてくる。まぁ恐らく改装はすることになるだろうが、確約はできないからな。言葉は濁しておかないと。

 

 

 その後視察の件や、今後について色々と話し合った後、私は工廠を後にした。執務室に戻り、大淀と供に執務を終わらせる。鎮守府に帰ってきたのが昼すぎだったので一日があっという間に終わってしまった。今日もお疲れ様と大淀と机を片付けて自分の部屋に戻る。椅子に座りながら、しばらくゆっくりとして時間を過ごす。川内と神通も訓練から終えて戻ってきているだろうから打ち合わせをしなければ。風呂に入りながら考えていると重大なことを忘れていた。今日の外出時に色々な店に寄ったことを口止めすることだ。あいつらのことだ。鼻高々にどや顔でまわりに自慢するに違いない。他の子達には他の場所にも寄るとは言ってはいるが、あの二人の語りを聞けば自分達も外にでて色々とみてみたいという憧れの気持ちを増幅させることは間違いない。あの二人の話は妙に聞き手に集中させる話術があるのがさらにまずい。ただし語彙力は小学生並だが。特に夕張。

 

 

 私は急いで風呂から上がると、寮に向かって明石や夕張を探す。どうやらいないようで、食堂に向かったのだろう。急ぎ足で食堂につくと、すでに席について食事をとっている姿を目撃した。明石の前の席には大淀いる。遠くにいるので会話は聞こえないが、明らかにドヤっている明石。遅かった。それを羨ましそうな顔でみている大淀。早めに他の秘書艦を探さなければ。




夕張と明石の性格は明るくて愛嬌があっていいですよね。


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第50話

50話到達しました。ひとえに皆様のおかげです。ありがとうございます。


 「私が業務に励んでいる間にずいぶんと楽しんでいたようで。」

 

 

 すました顔で大淀がご飯を食べている。明石は少し気まずいのか、こちらを見ながら両手を合わせて謝っている。こいつこうなると分かっていながら私を隠れ蓑に使おうと席に呼んだのか。なんて奴だ。それよりも今は大淀の機嫌をとらないと。街めぐりが〇ークマンだけで終っていれば。

 

 

 「本当は当初の予定通りのはずだったのだが、明石と夕張がどうしてもというので仕方なくな。明石と夕張とかねてから約束していたしちょうどいい機会だったのだ。」

 

 

 「では私がどうしてもとお願いすれば提督は街につれていってくれますか?」

 

 

 非常に困った。私と大淀が抜ければ業務が滞ること間違いなしだ。大淀の業務の捌く量は半端ない速度でなおかつ正確だ。もちろん毎週休暇があるとはいえ、現状どちらかが不測の事体に備えて鎮守府に待機しないといけないため、二人でとなると厳しい。せめてあと一人補佐がいれば。

 

 

 「結論から言うと現状では無理だ。君もわかっているとは思うが、今はデスクワーク係の人数が少なすぎて動くに動けん。なのでこれを機にもう一人くらい補佐官を探してみないか?適正がありそうな子がいたら、業務を覚えてもらえばそう遠くないうちに街に出かけることも可能だぞ。」

 

 

 「わかっています。無理を言って申し訳ありませんでした。補佐官については検討したほうがいいかもしれませんね。私自身も出撃する可能性も零ではありませんから。」

 

 

 どうやらわかってくれたようだ。しかしそれでも大淀の雰囲気はかわらない。近いうちにでも外出したいのだろうか?どうやら私は彼女を満足させる回答ができなかったようだ。何かちがうのか。

 

 

 「何言ってるんですか提督!大淀は提督と一緒に街に出かけたいんですよ!道も場所もわからないところにいきなり行っていいよと言われても困るでしょう?せめて最初は案内ぐらいしてあげるべきです!」

 

 

 思い悩み始めた瞬間、隣の明石が肘をくいくいとさせて小声で耳打ちしてくる。こういう事に関しては気づくのが早い。確かに私は現代人として一通りわかるが、彼女は艦娘。そういった知識は疎いだろう。いきなり知らないところへ放り出すというのも酷というものだ。配慮が足りなかった。改めて今度時間をつくり街へ一緒に行ってみようと誘うと、嬉しそうに笑顔で返事をしてくれた。なんとか正解がでたようだ。そのあとのご飯は食べ始めた時よりも数倍おいしく感じられた。

 

 

 

 

 次の日、執務室には川内と神通を呼びだし、昨日の会談の内容を話した。昨日の夕食の帰り際に二人を見かけたので事前に明日話があると伝えておいたのだ。話を一通り聞いた二人は椅子に座りながら悩んでいた。後ろの席で大淀は相変わらず業務を進めているようだ。

 

 

 「なるほどね。私達が旗艦を務めずに駆逐の子達に任せるって訳か。前もって言われてた件が実現するってことだね。」

 

 

 「旗艦となるとそれなりに経験を積んだ子達がよさそうですね。となると私達の戦隊の子達から選ぶのが妥当ということですね。」

 

 

 川内と神通は鳳翔のところで前もって話をしていたので、ある程度目星はつけているようだ。後は本人達に聞いて受けてくれるかどうからしい。候補の名を聞くと、吹雪、朝潮、霞、長波。この四人がよいかもしれないとのこと。船団護衛部隊を増設するにあたり、益々駆逐艦の数が必要になる。今度建造を行わなければ。しかし余りに大所帯となると、統率がとれるか心配だ。私のような若輩者にみんながついてきてくれるだろうか。ともかく今はその四人に話を聞いてみるとするか。

 

 

 ほどなくして呼ばれた四人が執務室にやってきた。挨拶もほどほどに着席させ話を持ち掛ける。

 

 

 「突然の呼び出しですまないな。話というのは他でもない。以前鳳翔のところで皆で飲んだだろう。その時に旗艦を務めてもらう可能性があるという話は覚えているか?というのも昨日の会談の結果、漁師と市からの要請がかねてからあり、漁船の護衛をすることが決まってな。その護衛船団の旗艦を君達の中からまずは二名、つまり二部隊手始めに作ろうと思っているのだ。誰がいいかと川内と神通に尋ねたところ、君達四人を推薦してくれた。我こそはと思うものはいないか?」

 

 

 四人は互いに顔を見合わせてきょとんとしている。まさか本当にこの話がこんなに早くくるとはおもっていなかったのだろう。

 

 

 「確かにいきなりすぎたかもしれんが、いずれはやってもらわなければならないことだ。それに漁師の方々が今度視察にくることになってな。君達の実際に戦う姿を見てみたいとのことだ。その時の模擬戦もそのまま旗艦を務めてもらう。」

 

 

 さらに四人は驚いていた。霞にいたっては何を言われてももう驚かないとでも言いたげな様子で落ち着いていた。相変わらず肝が太いというべきか何というか。そして霞が一番最初に話し出した。

 

 

 「ありがたい話だけど、私は今回辞退させてもらうわ。理由としては私が旗艦を務めてもいいけれどまずはネームシップの朝潮に努めてもらうのがスジな気がするわ。別に嫌で押し付けてるわけではないのよ?私自身もやれと言われたらやる覚悟はあるわ。」

 

 

「私も今回はパスでお願いしたいね。あたしも別に構いはしないけど練度という面で不安が残るというのと、あたしは後追いの建造でここにきたから最初は先輩にやってもらいたいってのがあるね。こういう名誉なことはやっぱり頑張ってきた者に与えられるというべきかなんというか。まぁそんな感じだ。ただこういった話がまたあった時は優先して回してくれよな!」

 

 

 霞と長波は立て続けに辞退する。となると残されたのは二人、吹雪と朝潮。二人ともネームシップ艦であるとともに、この鎮守府の古参組だ。回りからも文句がでないだろう。

 

 

 「吹雪、朝潮。お前達に努めてもらいたいと思うがやってくれるか?」

 

 

霞と長波の意見ももっともな理由があるし、無理やりやらせるわけにはいかない。しかし吹雪と朝潮には 半ば半強制的な感じになってしまう矛盾。はたして受けてくれるだろうか。

 

 

 「私でよかったら喜んで引き受けさせていただきます!一生懸命頑張ります!」

 

 

 「この朝潮、旗艦という名誉ある役目を頂き大変うれしく思います。最後まで全力でやりぬく覚悟です!」

 

 

 どうやら思った以上にやる気になってくれていたようだ。なんとか決まってよかった。

 

 

 「あとは漁師の方々と視察の日程を決めていくだけだ。それまではそれを想定した訓練をしてくれ。川内、神通。よろしく頼むぞ。」

 

 

 二人は立ち上がり敬礼をすると、後に四人も続いて立ち上がり敬礼をする。私も返すと、六人は執務室を後にし、この結果を水雷戦隊で共有するためにまずはミーティングをするといって集まるそうだ。吹雪と朝潮。二人にとってもいい経験となるだろう。程なくして漁師の宇野さんから連絡があり、視察の日程が決まった。あとは市にも連絡をしておかなければ。その後も業務をこなしつつ、お昼過ぎに訓練を終えた空母組の話を聞いてパイロット妖精達からなにか要望が上がってないかなどを確認する。漁師の方々が視察にくる件を伝えると、赤城はお魚が今後はもっと食べられるようになるのですねと嬉しがっていた。確かに魚が気軽に食べられるようになるのはうれしい。間宮をはじめとする食堂組もきっと喜ぶだろう。盛り上がりをしり目にぼさっと誰かが呟く。瑞鶴だ。

 

 

 「でもこれってさ。旗艦を吹雪と朝潮がつとめるんでしょ?その訓練をそれぞれ川内と神通が教えるんでしょ?代理戦争みたいにならないかな?」

 

 

 一瞬の静寂が執務室に漂う。確かに。これはひょっとしたら大変なことになるかもしれない。あの二人ならと思わせる何かがあるのがさらに怖い。

 

 

 「では旗艦朝潮に一週間分の間宮デザートを。」

 

 

 「赤城さんといえどここは譲れません。私は旗艦吹雪に賭けます。」

 

 

 鎮守府闇賭博が開催されようとしている。このままでは不健全なことになる。二人に急いでやめるように指示すると少し残念な顔をしていた。流石にそんなことにならないとは思うが・・

 

 




神通先生と朝潮。そして川内先生と吹雪。決戦の日は近い。


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第51話

仕事もひと段落ついたので更新も捗ります。


 『おい聞いたか?今度朝潮と吹雪がそれぞれ旗艦となって模擬戦やるらしいぞ。』

 

 

 『なんだそりゃ?川内や神通じゃなくて?いったどういう経緯でそうなったんだ?』

 

 

 『なんでも今度漁業関係者の方がここに視察にくるらしくてな。その時に護衛船団の旗艦となるのが朝潮と吹雪らしい。』

 

 

 『なるほどな。なんとなく流れがつかめたぜ。』

 

 

 妖精達はわいわいと集まって話に夢中になっていた。それぞれ魚雷磨きや戦闘機の整備はなかなかはかどっていない様子。鎮守府の話題は艦娘も妖精たちもこの話題でもちきりだった。数少ない娯楽が目の前に転がり込んできたのだ。上からは賭博は禁止されていたが、それでも陰で行われるのは間違いないだろう。仮にばれたとしても金をかけたりしていないので罰は下ったりしないだろうという思いが皆の中にはあった。真船は優しいのできっと許してくれるというのが皆の共通の認識だった。悪くいえば甘いともいう。

 

 

 『お前ら言っておくが、かけ事は禁止だからな。ばれたら俺まで怒られるから勘弁しろよ。』

 

 

 『とはいっても整備兵長もなんだかんだ言って山張ってるんでしょ?どっちにかけたんです?』

 

 

 『・・・朝潮に酒三日分をかけた。』

 

 

 『朝潮ですかい。私も朝潮に賭けましたよ!こいつは吹雪に賭けるって言ったんで演習の日が待ち遠しいですな!』

 

 

 それぞれがどっちが勝つだの言質をとっただのと盛り上がっている。もはや整備などそっちのけ状態になっていた。視線が気になり一人の整備妖精が気が付いて振り返ってみると腕を組みながら自分達の上官である特務少尉が腕を組みながら無言で様子を眺めていた。慌てて皆敬礼をするが時すでに遅し。お叱りの言葉を受けたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 「こんな・・訓練厳しかったっけ?・・」

 

 

 ぼそっと吹雪が呟く。旗艦を務めることになって数日間の訓練は普段の訓練に加え、旗艦としての行動や心構えについて教授してもらっているので厳しかったが、それでもなんとかこなせる量の訓練だった。ところが今日は違う。前にもまして厳しいような気がしてならなかった。

 

 

 「ちょっと・・きついかも・・です・・」

 

 

 吹雪の指揮下にはいる予定の綾波や皐月、文月もへばっている。

 

 

 「そんなんじゃあっという間に連携崩されちゃうけどそれでいいの?負けちゃうよ?やるからには勝つ!」

 

 

 いつにもまして気合い十分な川内。一体なにが彼女をここまで駆り立てたのか。今しごかれている駆逐艦達は食らいついていくのに必死だ。その様子はさながら初訓練の時を彷彿させる。息も絶え絶えなんとか訓練を終えると帰投し、艤装を外し妖精達とともに点検を終える。寮に戻ると着替えを手にして入渠施設に向かう。体を洗い流し終えて風呂に浸かるとそれぞれふぅ~と今日一日の訓練の疲れを癒していた。

 

 

 「ところでなんであんなに厳しい訓練になったのかな?明らかにハードルあがっていたよね?」

 

 

 「う~ん。ちょっとわからないかも。吹雪ちゃん今日ずっと怒られてたね。あんなに鬼気迫った川内さん戦場でしかみないのに今日はすごかったね。」

 

 

 吹雪と睦月は原因を探してみるが思い当たる節がない。他のメンバーもぞろぞろと湯舟の中を移動して集まって話し合うもやはり思い当たらない。そうこうしているうちに入口の扉が開いてぞろぞろと新手がやってきた。朝潮達だ。しかしその目にはいつもより生気が感じられない。こちらもこってりと絞られたのだろう。吹雪達と同じように体を洗って湯舟に浸かると生気を取り戻したような声をだした。

 

 

 「そっちもやっぱり結構厳しい感じ?」

 

 

 「はっきり言うとかなりきついわ。ルーキーにこんな訓練させるなんてたまったもんじゃないわ!途中で体ちぎれると思ったくらいよ。」

 

 

 「まぁ数こなしてきた私達でさえきついと思っていました。それについてこれた陽炎は大したものです。」

 

 

 皐月の問いかけに陽炎は自分の苦労をなみなみと語っていたが、不知火のほめ言葉に気をよくしたのか、ふふんと嬉しそうな顔をしていた。単純なやつ。まわりはそう思っただろうが、実際建造されたばかりの陽炎がこの訓練についてこれるのに皆は驚きを隠せなかったようだ。ドヤるだけの実力を確かにもっているのだ。さらにわいわいと盛り上がる艦娘達。いつもより長めに入渠しているが、そんなの関係ないといった様子だ。そして再び入口が戸が開くと話題の中心となっていた二人の人物が入ってきた。

 

 

 「なにやら盛り上がっている様子ですね。早めに上がってご飯を食べてしっかり体を休めないと明日も持ちませんよ?」

 

 

 神通の優しい笑顔と心遣いが今となっては怖い。普段は本当に気が利いて優しい神通だが今はその微笑みが怖い。先の艦隊決戦で敵を追い詰めていた笑顔と一緒だ。あの時一緒に戦った艦娘達は皆同じ思いをしていただろう。そんな中、恐れ知らずが皆が思っていた質問をぶつけた。

 

 

 「ところでなんで今日からこんな訓練が厳しくなったっぽ・・んですか?」

 

 

 夕立だ。ここでまさかの狂犬と比喩された彼女が特攻した。流石に途中でビビったのか口調が丁寧になっていたが、好奇心を抑えられなかったのだろう。湯舟につかってきた川内と神通は二人で顔を見合わせる。そしてなるほど。と神通は一人納得した様子で微笑みながら軽く頷いていた。

 

 

 「どうりでみんなのモチベーションがかわらないなぁとおもってたんだよね~。みんな聞いてないの?この演習で勝った方の戦隊は提督から豪華なご褒美がでるって話だよ。」

 

 

 「私達はてっきり皆はもう知っているのかと。もちろん普段通りの訓練を心がけていたのですが、なにか褒美が出るとなると・・少し訓練にも熱がはいってしまいました。」

 

 

 「えぇ~!!!ご褒美!?何かもらえるの?これは頑張らないとだね!!」

 

 

 「陽炎。勝ってご褒美をもらいましょう。足を引っ張ったらぶちますよ。」

 

 

 「えっ?不知火貴方性格かわりすぎじゃない?あなたそんな感じの子だったっけ?やだ恐い。」

 

 

 張り切っている皐月や、不知火からあふれ出るオーラにビビり気味な陽炎、両手を合わせてうっとりと妄想している綾波など反応は様々だ。

 

 

 「まぁそういうことだから私達も訓練がいつもより厳しくなってるっていうのもあるね。どうせならご褒美もらいたいしね。まぁあの提督だからきっと演習終わりにはきっとご褒美くれるよ。」

 

 

 確かに。あの人なら分け隔てなく接してくれそうな気がする。だがしかし勝つことに越したことはない。吹雪チームと朝潮チームはさらに一致団結して今後の訓練も頑張ろうと互いに切磋琢磨していくのであった。

 

 

 

 

 

 「提督。なにやら妙な噂が鎮守府内に流れているそうですよ。全く焚きつけるのもいいですけどほどほどにしてくださいね。」

 

 

 「ん?何の話だ。私にはそういう噂届いていないが。どういった内容だ?」

 

 

 「なんでも今度の演習で勝ったチームは外出許可がでるらしいじゃないですか。そんなことしたら防衛体勢に穴が開いてしまいますよ。」

 

 

 「まてまてまて。そんなことを話したことはないぞ?誰から聞いたんだ?」

 

 

 「え?私は明石とそういう話になって明石から聞きました。明石も風の噂で聞いたと言ってましたので。」

 

 

 真船は茫然としていた。一体だれがこのでたらめな噂を流したというのか。最近水雷戦隊の訓練がいつにもまして激しいとは聞いていたが、これが原因だったようだ。原因究明に努めるとともに急いで誤解を解かねばならない。しかしせっかくのやる気をそいでしまう形になるのも申し訳ない気持ちになっている。ふと見渡すといつもは近くにいる妖精達がいない。お菓子をテーブルの上に広げ、少しすると欲望を抑えきれなかったのか、ふらふらと現れた複数の妖精達。その一人を捕まえ、問いかけると汗をかきながら目をそらしている。どうやら間抜けは見つかったようだ。

 

 

 妖精があることないことを他の妖精が話す。そしてその妖精達がさらに間違った解釈をして盛り上がる。その話が艦娘達に伝わる。だいたいこんな感じだろう。まずいことになったと真船は焦りながら鎮守府をまわり川内や神通、あるいは吹雪や朝潮達に懇切丁寧に説明してまわった。非常に残念がっていた姿にいたたまれなくなった真船は妥協案として再び鳳翔の酒保で奢るはめになったのであった。  

 




 とばっちりを食らうのはやはり真船。部下のモチベーションを維持するのも上司の大事な役目ですね。


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第52話

イベントクリアが遠い。


 あれから数週間後、予定通り漁師の方々がこの鎮守府にやってくる日が来た。一般の方がここに訪れるのは初めてだそうだ。谷上中将以来の視察だ。私は大淀と供に抜かりないか色々とチェックをする。以前の会談と違ってそれなり人数がくるので大変だ。昼も間宮の食堂でとるように段取りしてあるので間宮達は少し大変だろうが今日は頑張ってほしい。

 

 

 予定時間の少し前になったので、出迎えをするために鎮守府の入口で待つことにした。大淀と長門、そして吹雪と朝潮、明石と夕張、川内神通といった面々だ。宇野さんと野村さんもくるみたいなので明石と夕張を出迎え要員としてよんでおいた。顔見知りがいたほうがあちらもなじみやすいだろう。

 

 

 「どうもお久しぶりです。こちらのわがままを受けてくださってありがとうございます。今日はよろしくお願いします。」

 

 

 「いえいえ。私達もこういった交流する機会がないので非常に楽しみにしておりました。よろしくおねがいします。」

 

 

 間もなくやってきた宇野さんと漁師の方々と挨拶をかわし、談笑しながら案内を始める。宇野さんと野村さんは以前明石、夕張の二人と会話をしたおかげか慣れているようで、お久しぶりだな嬢ちゃんたち。と早くも打ち解けていた。二人を連れてきて正解だったようだ。他の漁師の人達は全てが珍しいのか、鎮守府内を見回したり、あるいは長門や川内、神通といった艦娘達に見惚れていたりしているようだ。彼女達の容姿はかなりレベルが高いためそうなるのも無理はない。機密事項に触れないエリアの案内や説明をした後にいよいよ本題にはいる。この時はデレデレしていた男衆も真剣な眼差しに変わっていた。

 

 

 「では本題に入りたいと思います。今回みなさんの護衛船団の旗艦を務めるのは先ほど一緒に回っていた吹雪と朝潮です。只今装備装着のため、少しお時間を頂けると幸いです。それぞれが旗艦となってみなさんの漁場周辺を中心に巡回をするようにします。偵察機と艦娘の空と海から敵を早期発見し、敵を見つけた場合、信号弾を打ち上げますので信号弾を確認した場合は速やかに漁を中止して港に戻るようにしていただきます。」

 

 

 説明に入ると漁師の方々は近くにいる人と何やら相談をしている。信号弾については視察の日程が決まった日に市に連絡をしている。視察日の十二時ちょうどに信号弾を打ち上げるので市および周辺の住民のみなさんに周知してほしいとお願いしているのでその辺は大丈夫だろう。

 

 

 「提督さん説明ありがとうよ。んで今からおれ達の目の前で演習の様子をみてもらうってわけだな?」

 

 

 理解が早くて助かる。漁師の方々の今回の一番の目的は自分達の目で艦娘の実力を確かめること。自分達を守ってくれる艦娘という存在を確かめたいとの要望だからな。間もなく出撃所から水面を走ってくる集団がこちらに向かってくる。漁師の方々は驚きを隠せないようでざわついていた。そして私達の前までやってくると綺麗な隊列を組んで一斉に敬礼してきた。

 

 

 「第一護衛戦隊、旗艦吹雪。及び以下五名。準備完了しました!」

 

 

 「第二護衛戦隊、旗艦朝潮、及び以下五名。準備完了しました!」

 

 

 皆とてもいい顔をしている。自信に満ち溢れているようだ。漁師の方々も先ほどまで一緒にいた愛らしい少女達の真剣な眼差しに影響されてか、ざわつきが収まり、みな真面目な表情をしていた。

 

 

 「今日は演習ということで訓練用の弾を使いますが、実際の護衛の際には実弾装備で護衛につきます。そして今回模擬戦に参加しない艦娘にあちらの海上に設置している目標に砲撃を行いますので、実際の護衛時の火力はこれぐらいの威力だということをみてください。では頼んだ。」

 

 デモンストレーション用に呼んでおいた暁、響、雷、電の四人は凛々しい返事をすると、少し加速しながら照準を合わせ、暁の一斉射の掛け声とけたましい音と供に砲弾が放たれる。綺麗な放物線を描いた弾はそれぞれの目標に命中し、木端微塵に爆発した。遅れて発射した魚雷も別目標に命中し巨大な水柱を上げていた。想像以上の結果だったのだろう。皆ただただ茫然とながめているだけだった。初めて艦娘の訓練をみた私と全く同じリアクションだ。懐かしい。

 

 

 「ははっ・・・嬢ちゃんたちには喧嘩売ったらとんでもないことになるなこりゃ。」

 

 

 「・・・これは逆に言えば敵も同じようなサイズで同じぐらいの攻撃をしかけてくるってことですかい?」

 

 

 「おっしゃる通りです。敵も我々を沈めるために攻撃をしてきます。これでもし仮に信号弾が上がった後でも欲張って漁を続けていた場合。ああなる可能性があるということです。もちろんそうならないように護るのが我々の役目でもあります。」

 

 

 宇野さんと野村さんはそれぞれ感想や質問を口々にしていた。これで実際の火力はみてもらったので、言い方は悪いが見せしめにはなっただろう。こんなのをくらったらひとたまりもないということを漁師の方々はわかってくれたはずだ。緊急時に素直こちらの誘導に従ってくれそうだ。

 

 

 「そして今から護衛戦隊二組が演習を行いますので是非見ていただけたらと思います。安全のため、少々離れた場所で行いますので、こちらの双眼鏡をそれぞれお使いください。被弾判定はこちらの飛行機を飛ばして行いますので、戦闘中に空を飛んでいる小さな飛行機は気にしないでくださいね。では準備を頼む。」

 

 

 漁師の方々に説明した後、川内、神通がそれぞれ水偵を飛ばす。それについていくように二つのチームは移動し、互いに十分な距離をとった。

 

 

 「思った以上にはえぇぞありゃ。本当に軍艦なんだな。」

 

 

 「人間サイズの大きさであの威力の大砲と速度が海上ででりゃ敵が海を荒らしまわれるのも納得だ。」

 

 

 感想が飛び交う中、互いのチームから轟音が響く。一斉射で戦いの火ぶたが切られた。




演習開始。私は呉や佐世保に行ったことがないのでいつか見て回る機会があれば行ってみたいです。


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第53話

今週は沢山投稿できて大満足。


 「よし。突撃する!全艦朝潮に続け!」

 

 

 第二戦隊は朝潮を先頭に開幕一斉射の後、第一戦隊に突撃を開始した。訓練用魚雷も発射し、距離を一気に詰めて戦闘の早期終了を図るつもりだ。前日に作戦を皆で考えた結果、この作戦で行こうと決まったのだ。しかし朝潮の前に出がちな性格を読んでいたのか、第一戦隊は距離を取り、持久戦に持ち込もうという算段なのだろう。早々に作戦を見破られ、二つの戦隊の距離は詰まることはなかった。

 

 

 「やっぱり突撃してきたね。白雪ちゃんのいう通りになった!」

 

 

 「このまま距離をとって相手の得意分野に持ち込ませないようにしましょう。吹雪ちゃん指示をお願い!」

 

 

 第一戦隊の皆は自分達の読みがあっていることに心の中でほくそ笑んだ。恐らく朝潮達は突撃してインファイトに持ち込んでくるであろうと予測しておいたのだ。僚艦の白雪と顔を見合わせ頷く吹雪。相手の思惑通りにさせない展開を続ければ心の焦りからミスが多くなってくるはず。そこをつく。そういう作戦だ。第一戦隊は吹雪をはじめ、白雪、綾波、敷波、皐月。第二戦隊は朝潮、霞、陽炎、不知火、天津風の五名ずつだ。特に陽炎と天津風は建造されたばかり。砲雷撃の精度が他の艦娘に比べて甘い。接近を許せば当然敵も味方も射撃精度は上がる。しかし高速で移動しながらの砲雷撃となると、経験がものをいう。第二戦隊は痛いところをつかれた形となった。

 

 

 「流石に見破られていたわね。伊達に同じ釜の飯を食っている訳じゃないわ、ね!」

 

 

 「上手くいけばオッケーぐらいの感覚でしたからね。どうします?このまま追いかけますか?」

 

 

 「追いつこうにも追いつけない状況ね。このまま撃ち合いになると私達が不利。全艦!目標を敵旗艦の吹雪に一点集中を!旗艦を叩いて敵が混乱したところをそのまま勢いで破ります!」

 

 

 「了解よ!私だってやるときはやるんだから!」

 

 

 こちらの作戦を見破られたことに感心しながら砲撃する霞と冷静に落ち着いている不知火。朝潮はこのままだと不利だと考え、勝負にでることにした。短期決戦を挑んで決着をつけるという考え自体は変わっていないようだ。陽炎と天津風も自分達が足かせになっていることはわかっているだろう。しかしそれにのまれることなく、きびきびとした動きでくらいついていた。

 

 

 「わわっ、なんか集中砲火うけてない?私。」

 

 

 明らかに自分のまわりの至近弾の多さに慌てる吹雪。吹雪と必然的に距離が一番遠い最後尾の皐月は弾が飛んでくる気配がまるで感じられない。

 

 

 「僕をなめないでよね!!」

 

 

 怒りの声とともに放たれた皐月渾身の一撃は放物線を描き、敵最後尾の天津風に直撃した。両軍初めての直撃に歓声があがる。漁師達から大丈夫なのか。などの声もあがるが、ダメージを負いながらもこらえている天津風をみて、ギャラリーは思わず唾を呑み込む。水偵から中破判定が下された。まだまだ戦えるようだ。だが直撃したことによって明らかに動きの精彩を欠いている。そのわずかな変化を見逃すほど皐月は甘くなかった。

 

 

 『よし!当たったぞ!装填急げ急げ!このまま武勲はこの皐月が貰うぞ!新参に目にものみせてやれ!』

 

 

 『装填完了!発砲諸元はそのまま!いつでも撃てます!』

 

 

 「よぉーし!これでとどめだ!」

 

 

 皐月の掛け声ともに放たれた砲弾が再び天津風に襲い掛かる。先ほど受けた砲撃から態勢を整えられていない天津風は自分めがけて飛んでくる砲弾を見つめる。避け切れない。遠くから観戦している川内や神通もそれを感じていた。恐らくあれは当たるだろう。古参とルーキーの力の差を見せつける展開となった。そして皐月の放った砲弾は見事に命中した。ただし狙っていた目標とは違う相手に。

 

 

 『皐月の放った砲弾が不知火に命中!不知火小破判定!』

 

 

 「何をぼさっとしているんですか。早く体勢を整えてください。まだまだ負けていませんよ。」

 

 

 水偵が被弾状況を報告する。放たれた砲弾を予知し、いつでも前に出ることのできる状態をとっていた不知火がかばった形で天津風への直撃を防いだ。当たり所もよく、一撃で持って行かれることはなかった。驚いている天津風を叱咤し、態勢を整えさせる不知火。激を飛ばしたおかげか、天津風は調子を取り戻したようだ。

 

 

 「あら。かっこいいとこ見せてくれるじゃない。」

 

 

 「ここで一人欠けると圧倒的不利になるのは確実です。全体を考えて動いたまでです。」

 

 

 「さっすが!私の自慢の妹ね!」

 

 

 「やられっぱなしは気が済みません!倍返しで仕返ししましょう!」

 

 

 霞と不知火のやりとりを聞き終えた朝潮は士気が上がった今が攻め時と反撃を促す。旗艦としての使命。負けるわけにはいかない!朝潮の放った一撃は吹雪に見事命中する。あちらがざわついているのがわかる。

 

 

 「よし!突撃する!」

 

 

 速度を目一杯あげて突撃する第二戦隊。吹雪に中破判定がでた第一戦隊は慌ていた。上手くいっていた状況が突然ひっくり返りそうになる恐怖。吹雪は焦っていた。今までは指示通りに一生懸命戦うだけでよかった。しかし今は自分の被弾をきっかけに状況が変わろうとしている。しかも自分が的確な判断をくだし、持ちこたえなければならない。川内さんは何事もなくこなしていたというに自分はどうか。やはり自分は力不足だったのか。ネガティブな思考がよぎっている、このまま負けてしまうのか。

 

 

 「吹雪ちゃん!!私が時間を稼ぎます。その間に態勢を整えてください!一人で気負う必要なんてないからね!後はお願いします!綾波、突撃します!」

 

 

 「まぁここでいいとこみせてやらないとね!敷波も続きます!」

 

 

 そう言い残し、突撃を敢行する綾波と敷波。我に返った吹雪がそれを止めようとするが、綾波の突撃についていける態勢を整えていない。

 

 

 「吹雪ちゃん二人が頑張ってくれる間にこっちも態勢整えて反撃しよう。」

 

 

 悔しそうに頷くことしかできない吹雪。自分の力不足を恨みながらも今やれることをせねば。素早く態勢を整え、白雪と皐月に二人を援護するように指示し、自分も砲撃を開始する。勝負が一気に動き始めた。

 

 

 「相手も突撃してきたわよ。でも二人しかきてないわ。」

 

 

 「吹雪の態勢を整えるために時間稼ぎにきたのでしょう。ここは確実に仕留めておくべきですね。」

 

 

 「全艦魚雷発射用意!敵の動きを制限させて足が止まったところを叩く!」

 

 

 朝潮の号令とともに魚雷が第二戦隊の面々から放たれる。訓練用とはいえ、やはり怖いものはこわい。当たればもちろん大破判定必須だ。吹雪から狙いを変え、綾波と敷波を叩く準備をする第二戦隊。しかし綾波と敷波は速度を落とさずこっちに向かってくる。そして二人はお返しと魚雷を放つとさらに速度を上げてくる。予想外の行動に驚く第二戦隊。その隙を二人は見逃さなかった。

 

 

 「撃てるチャンスは少ないです。妖精さん踏ん張りどころです!」

 

 

 『突撃こそが駆逐艦の本懐!もっていけるだけもっていきましょう!』

 

 

 綾波の放った一撃が朝潮に命中する。後ろに続いた敷波が手負いの天津風に砲撃し、大破に追い込んだ。これにより天津風は脱落、たじろいだ朝潮は砲撃に参加できず一時的に人数差の不利を縮めることができた。そして向かってくる魚雷を綺麗にかわし、さらに前進する。訓練とは思えないほどの気迫に陽炎は気押されていた。

 

 

 「ありえないわ!あれだけの魚雷をかわすなんて!」

 

 

 「喋っている暇はないですよ!陽炎!機銃掃射を!」

 

 

 不知火と陽炎の会話が終わった直後、互いに激しい機銃による銃撃戦がはじまる。ドドドドドドという複数の轟音の中、互いの艦娘はダメージを受け続ける。これだけの距離を互いに避けるのは不可能だろう。あとは主砲の装填速度次第。そして霞と朝潮の砲撃が綾波、敷波に直撃し、大破判定がでる。

 

 

 『よぉぉーし!!日頃の訓練の成果がこんなとこで出るとはな!!古参組をなめてもらっちゃ困るぜ!』

 

 

 第二戦隊の朝潮や霞の妖精達から大きな歓声が上がる。神通や川内の厳しい訓練を最初期からともにしてきた朝潮や霞に搭乗している妖精達。主砲の発射回転率でベテラン妖精の力を見せつける結果となった。

 

 

第一戦隊は二人脱落することになった。朝潮、陽炎が小破、不知火は中破、天津風は大破脱落したが、二人を大破脱落に追い込んだことに満足した第二戦隊。しかしその満足を一つの砲弾が吹き飛ばす。不知火の大破判定が間もなく下されると、飛んできた砲弾の方を振り向く。少しの油断を見逃さない。態勢を整えていた吹雪達がこちらをたんたんと狙っていた。

 

 

 「忘れてましたか?敵は正面だけとは限りませんよ。」

 

 

 白雪は呟くと妖精に再装填を促す。戦いはまだ終わらない。

 

  




白雪にも早く改二がきてほしいですね。


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第54話

ここ最近久々に沢山投稿できました。大満足です。


 ぬかった。朝潮は焦りを隠せない。突撃してくる敵に加え、綾波からの一撃を貰った時に、敵本隊がいることを失念していた。あるまじき失態だ。だが後悔するよりもここから挽回する方法を考えねば。しかしすでに回り込まれ、有利な状況をとられている。第二艦隊は朝潮を含め、陽炎二人が小破、霞はまだまだ無事だ。一方の第一戦隊は吹雪のみが中破、後は大した傷を負っていない。ほぼ万全といっていいだろう。皐月と白雪、二人もこの鎮守府を初期から支え続けてきた手練れだ。朝潮は迷っていた。吹雪が中破している以上、追いつこうと思えば距離を詰めることができる。だが近づく前にやられてしまうだろう。どうすべきか?色々な選択肢が頭をよぎるが、どれも名案とは思えない。そうこうしている間にも砲撃戦は続いていく。捨て身覚悟で行くべきか。そう思った矢先、陽炎が口を開いた。

 

 

 「ここは私が先頭に立つから私を盾にして敵に突撃しましょ!突撃よ!突撃!先頭はなにも旗艦だけのものじゃないでしょ?」

 

 

 「しかしそれでは陽炎が・・・」

 

 

 「・・・それでいきましょ。行くべきよ。陽炎の心意気を汲んであげるべきよ。朝潮。」

 

 

 陽炎自身自分がこのままだと役に立てそうでないことはよくわかっていた。明らかな練度不足。装填速度も砲撃精度もこの戦場では甘々だ。ならばせめて役に立ちたい。朝潮は陽炎と目を合わせると大きく頷く。その自信に満ち溢れていた目を信じるしかないのだ。朝潮の号令がほどなくしてかかった。

 

 

 「第二戦隊は陽炎を先頭にし反転!単縦陣をとり突撃する!」

 

 

 二人の了解!という大きな返事とともに、大きく旋回し第一戦隊にむかって突撃していく。たった三人の単縦陣。もはや単縦陣と呼んでいいのかさえ分からない。しかし三人の意思はひとつに統一されている。この戦いに勝ちたい。その執念が三人を動かしていた。

 

 

 「いや~。先頭を走るって気持ちがいいものね!その分相手の歓迎もすごいけ・・どっ!」

 

 

 「あんた大物になるわきっと。普通この状況になったらビビるはずよ。私だったらビビっている自信があるわ。」

 

 

 減らず口を叩きながら砲撃を回避する陽炎と余裕を見せる霞。陽炎は直撃こそ避けているものの、確実に負傷してきている。機銃の射程範囲に入る前には恐らく脱落するだろう。朝潮は陽炎に感謝しながら狙いを澄ませて砲弾を放つ。必ずあてる。その思いが通じたのか、朝潮の放った砲弾は不知火を大破に追い込んだ白雪に命中した。

 

 

 「まだ・・まだやれます・・!被害報告を!」

 

 

 『二番砲塔がやられました!砲撃不可!』

 

 

 「第一機銃も被害のため発砲不可!」

 

 

 攻撃をうけ中破判定をうけたのにもかかわらず、白雪は落ち着いていた。こんなことは実戦と比べるものでもない。昔はろくな訓練すらできず、出撃命令が出るたびに悔しい思いをして帰ってきた。仲間を見送り、いくどとなく中破した状況で生き延びられたから今ここにいることができる。数か月前の艦隊決戦の時だって負傷しながらも帰ってこれたのだ。なにより友人の吹雪を勝ちに導きたい。その思いが体を突き動かしていた。もはやこれが演習ということすら忘れてしまうぐらいに夢中になっていた。

 

 

 「私だって・・まだやれるんだから!」

 

 

 白雪が中破に追い込まれたことに奮起したのか、吹雪は自分に落ち着くよう言い聞かせる。こちらは二人が負傷した以上、追撃は免れることはできないだろう。だったら迎え撃つのみ!と深呼吸をした後、放った砲弾がついに相手を捕らえることに成功する。これまで軽快な動きをみせていた陽炎が大破判定になり、戦線離脱となった。しかし陽炎のおかげで十分な距離を詰めることに成功した第二戦隊は勢いそのままに吹雪をねらう。中破に追い込まれている吹雪はいつも通りの回避運動ができず、一撃をもらってしまう。あと少しでもダメージを負えば大破判定がでるだろう。あと一押し。霞は狙いを定めて砲撃体勢をとった瞬間、被弾してしまう。発射さえできていれば。霞は舌打ちするも、砲撃を放ってきた相手は怒っているようだった。

 

 

 「みんな僕のこと無視ばっかりしちゃって。本当に怒っちゃうんだからね!」

 

 

 皐月は自分があまり狙われていない、脅威と思われていないことに腹を立てているのか、ぷんぷんと怒っていた。作戦の都合上狙われていなかっただけであり、皐月自体は別に悪くはない。だが結果として彼女を奮起させる材料になってしまったのは確かだった。

 

 

 「僕が前にでるよ!まだまだ元気だからね!吹雪は僕の後ろに隠れて!」

 

 

 「皐月ちゃん!」

 

 

 吹雪の前に躍り出た皐月はこれでもかというぐらいの速射で弾幕をはる。この怒涛の反撃に霞は小破判定になりながらも、朝潮と連携をとりながら落ち着いて反撃を行い皐月を中破に追い込む。互いの艦隊の距離は近づき、機銃の射程圏内になった。あとは激しい撃ち合いがまっている。

 

 

 『よぉーし!ようやく出番か!後で謝っても許してやらねぇからな!機銃掃射用意!』

 

 

 『皐月に乗ってる野郎どもをタコ殴りにしてやれ!第二戦隊の意地の見せ所だ!このまま押しつぶす!掃射用意!』

 

 

 しかし互いの機銃妖精の機銃を握る掌が発射の振動で揺れることはなかった。港の方で信号弾があがったのだ。ぴったり十二時。戦闘が終わった。結局決着がつかないまま終わったのだ。終了の合図を確認した二つの戦隊は気が緩んだのか、互いに傍により話し合っている。そして提督がまつ港へと舵をきり、走っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 「月並みのセリフしか言えませんが。艦娘とはすごいものなんですな。」

 

 

 「決して怖がらないでやってください。彼女達は国や市民の皆様を護るためにああやって日々訓練を重ね、努力を重ねています。きっと彼女達以上に海の平和を願っている人はいないでしょう。」

 

 

 「もちろんです。可愛くて強い嬢ちゃん達に護られて俺達は幸せもんだ。なぁみんな?」

 

 

 宇野さんの問いかけに漁師の方々が頷く。宇野さんのおかげで艦娘に対して恐怖、よりも心強い、のイメージを持ってくれたようだ。ちょっとしたインフルエンサーだ。感謝しなければならない。しかし正直ここまで戦闘が長引くとは思ってもいなかった。程なくしてもどってきた二つの艦隊。それぞれ負傷はしているが、顔は晴れやかだ。そろって敬礼をすると、大きな拍手が港に響き渡る。漁師の方々だ。いいものがみれた。など感想を言い合っている。少し恥ずかしいのか、朝潮は表情こそ崩さないが、顔は少し赤くなっている。

 

 

 「皆よくやってくれた。戦闘の総評については後で川内と神通が行うとする。艤装を外して食堂に集合してくれ。」

 

 

 解散を指示し、私は漁師の方々とともに食堂に移動する。移動中も興奮冷めやらぬのか、感想を言い合っている。その後間宮の食堂で食事をとった漁師と艦娘達。

 

 

 「漁師のおじちゃん達がとってきた魚ここで食べたいっぽい!」

 

 

 「はははっ。おっちゃん達に任せとけ。活きのいいやつとってくるからよ!その分しっかり守ってくれや!」

 

 

 交流も上手くいっているようだ。艦娘達もただただ戦うのではなく、こうして護るべき人々との交流で自分達は役にたっているんだという気持ちが訓練などのモチベーションになるだろう。中には鳳翔の酒保に通いたいと言い出す漁師も多数出てきた。流石にそれはと丁重にお断りさせてもらった。

 

 

 こうして視察は無事に終わった。満足げに帰っていった漁師達を見送り、私も執務室に戻る。なんとかなったなと一息つきながらコーヒーを飲む。お疲れ様でしたと大淀の入れてくれた一杯はやはり格別だ。

 

 

 「君もつかれただろう。今日は少し早いが、業務を終えてあがったらどうだ?後は私がやっておこうか。」

 

 

 「いえ。二人でやればもっと早いですよ。私も手伝います。」

 

 

 相変わらず律儀な子だ。大淀のおかげで手早く業務を終わらせ、工廠に向かう。一般の人がいなくなったので妖精達が艤装の修理などを行っている。私は挨拶をすると、明石と夕張が近づいてきて、今日の演習はすごかったと興奮しながら話しかけてきた。別に私が戦ったわけではないのだが。相槌をうちながら艤装の修理状況を確認する。早いものは今日中、遅いものでも明日には修理が終わるそうだ。あと少しで業務終了となるので、遅くならないように指示をだすと、自分の部屋に帰って風呂で汗を流す。きっと川内と神通の総評をそれぞれの戦隊は糧にしてさらに強くなってくれるだろう。食堂で夕ご飯をとっていると、近くに座ってもいいかと尋ねてくる者がいる。川内と神通だ。

 

 

 「今日の演習はすごかったな。以前見学したときよりもさらに動きが洗練されていたようにみえた。」

 

 

 「成長している部分も結構あるけどまだまだだね。そこはきっと経験を積んでいけばさらにいい動きができるようになるよ。ところで提督。」

 

 

 「以前お話していた勝った方にご褒美という話。覚えていますか?」

 

 

 嫌な予感がする。だが約束したのは事実。私はできるだけ平静を装い、もちろん。と返事をする。

 

 

 「色々考えたのですが・・・ここはひとつ二つの戦隊に御馳走していただけないでしょうか?引き分けというのもありますが、どちらもよく頑張っていたので。」

 

 

 「私からもお願い!足りない分は私達二人もだすからさ!ねっ?」

 

 

  二人のお願いに私は目を閉じて考える。やはりこうなった。引き分け判定をこちらが出した以上こうなりそうな予感はしていた。しかしどちらも頑張っていたのは事実。どうすべきか。いや。悩む要素などない。漢をみせる時だ真船。自分に言い聞かせ二つ返事で快諾する。

 

 

 嬉しそうに喜ぶ二人。急いで食事を終わらせた川内は皆を呼んでくると急いで食器を片付け、小走りで寮に戻って行った。

 

 

 「提督。お願いしたはいいものの、お財布の方は大丈夫でしょうか?難しいようなら断っていただいても。」

 

 

 「大丈夫だ。給料も入ったばかりだからな。気にせず飲み食いしてくれ。」

 

 

 ありがとうございますと神通からの返礼をもらい、まもなく戦隊を引き連れてやってきた川内。提督なら御馳走してくれると信じてたとうきうきな皐月。ここまでくるともう笑顔しかない。皆を引き連れて鳳翔の酒保へとはいる。まぁ今日は駆逐全員というわけではなさそうだしなんとかなりそうだ。しかし店の中には思わぬゲストが先に来ていた。

 

 

 「おや?提督達もお食事ですか?せっかくなのでご一緒しましょう!」

 

 

 「奇遇ですね。ですがこういった機会はなかなかありません。ご同伴に預かります。」

 

 

 いけしゃあしゃあと笑顔で悪魔の言葉を放ってきた赤城とすまし顔の加賀。その正面には少し困ったような顔で会釈をする翔鶴とバツの悪そうな顔をしている瑞鶴。確実に計画的な犯行である。赤城さんだ!とはしゃぐ吹雪。

 

 

 「ささっ。吹雪ちゃんも座って座って。ほらここ。」

 

 

 悪魔の誘いに簡単に乗ってしまった吹雪。引くに引けない状況が着々と作られていく。そしていつのまにやら大人数になってしまった鳳翔の酒保。

 

 

 「提督さん。提督って大変なんだね・・・」

 

 

 「瑞鶴。お前はいいやつだなぁ・・・」

 

 

 瑞鶴の気遣いが心に染みる一日となった。




ついに決着。しかし鳳翔の酒保には妖怪食う母が・・・真船のお財布は艦娘のためにあるというのか。


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第55話

加賀さんと瑞鶴。


 「にしても今回の演習は漁師さん達もすごいすごいと言っていた。大好評だったぞ。」

 

 

 目の前で映画撮影顔負けの戦闘シーンを目撃できたのだから興奮するのも無理はないかもしれない。実際の戦闘だと火薬の量が違うのでもっと炸裂したりするが、それでも十分だっただろう。わいわいと話し合う艦娘達。なんだかんだ空母達と駆逐艦の子達が一緒に食事をするのは初めて見たかもしれない。こういった交流の機会は定期的に設けてもいいかもしれない。そう思ったが、空母達の食事の勢いを確認すると素早く撤回した。とても美味しそうに食べるのがこれまた・・・しかしあれだけ美味しそうに食べるならこちらももはや笑顔になってしまう。美味しいかと赤城に尋ねると、満面の笑みで返事をしてくる。思ってた通り、つられて笑顔になってしまう。彼女にはそういった魅力があるようだ。

 

 

 「あの・・提督。本当にすみません。ですがこういった機会がなかなかないもので。」

 

 

 「そうなんだよね。提督さん水雷戦隊の子達や酒飲みの子達とはよく飲みに行くけど私達とはあまりこういったところこないじゃん?だから内心うれしいなーって思ってたり。」

 

 

 翔鶴と瑞鶴が困ったような笑みを浮かべながら話してくる。彼女達もこういった交流を心待ちにしていたそうだ。遠慮ない一航戦と比べて控えめな所が新鮮に映ってしまう。思えば赤城もであった頃はこんな感じだった。今は・・・本心をさらけ出してくれるとポジティブに考えよう。

 

 

 「お前達は変わらないでくれよ・・・」

 

 

 「な・・何よ急に・・私はあんな大喰らいにならなっ・・・」

 

 

 「いい度胸ね。是非その続きのセリフを聞いてみたいものだわ。」

 

 

 瑞鶴の肩にポンと手を置いて哀愁が漂っていたのだろうか。私に少し同情しながら返事をする瑞鶴。途中で気づいて慌てて口を閉じるが、向かい側からの返事にしまったという顔をしていた。そこからはおなじみの光景が繰り広げられることになった。加賀と瑞鶴が口論で揉め始めたのだ。あわあわする翔鶴。赤城はまた始まったと言わんばかりの様子で食事をしながらこっちを見ていた。しかし今回はお酒が入っているため、いつもよりヒートアップしているようだ。私は自分のグラスをもって立ち上がり、加賀の隣に席を移す。立ち上がったことにより一時的に空母達の視線を集めることに成功した。これで口論に夢中になっていた二人の争いが一旦止まったので目論見的には成功した形だ。そして加賀に優しく語り掛ける。

 

 

 「まぁなんだ。加賀も瑞鶴のことが憎くて怒っている訳じゃないだろうしな。この前執務室でお前たちの話になった時に褒めていたぞ?最近は実力をつけてきたから空母部隊の旗艦として任せていいぐらいに成長しているって。」

 

 

 「提督。そんなことは私は言っていませんが?」

 

 

 私の腕を軽くつかみながら私を軽くにらんでいる加賀。しかしその顔は酒のせいか、はたまた恥ずかしさからなのか、赤くなっていた。

 

 

 「そういえば加賀さんそんなこと言ってましたね。」

 

 

 「赤城さんまで!」

 

 

 笑顔で裏切る加賀の相方。きっと赤城自身に悪気はない。純粋にそんなこと言ってましたねぇという感覚なのだろう。

 

 

 「えっ?本当に?ほんと?あっ、なんか泣きそう。」

 

 

 「よかったわねぇ瑞鶴。加賀さんも瑞鶴のことちゃんとみてくれてたのよ。」

 

 

 少し涙ぐむ瑞鶴と励ます翔鶴。二人をみて笑顔になっている私をじとーとした目で見てくる加賀。

 

 

 「余計なことを言ってもらっては困ります。」

 

 

 「ははっ。だがあんまり厳しすぎるのもよくないぞ?川内神通も訓練は厳しいみたいだがこの前ここで食事をした時に駆逐艦の子達と話し込んでな。互いの気持ちをぶつけあってというか・・意見交換だな。こういう思いで指導しているというのを話した翌日からの駆逐艦達の訓練の動きがよくなったそうだ。もちろんそれまでの動きが悪いわけじゃない。ただ川内や神通のこういう風に育ってほしいという思いがモチベーションにつながったのだろうな。この訓練はこういった想定。これはこういった想定。しっかりと目標を示して導いてあげるようになったおかげだろう。特に新造艦の子達は古参の子達みたいに二度と悔しい思いをしたくないという経験をしていないだろうから。ただただきつい訓練をこなす毎日だとモチベーションを維持するのは難しいよな実際。」

 

 

 「・・・しかし誰か一人ぐらいは規律を守る者がいないといけません。誰かが手綱を握らなければ組織というのはあっという間に瓦解します。私は憎まれ役でも構いません。私は一時的とはいえ、沈んでしまった経験があります。暗くて、冷たい海で一人ぼっちでした。あのような思いを他の子達にしてほしくありません。なので私は自分にも他の子にも厳しくあるつもりです。」

 

 

 私と空母組四人。そしてその隣にいる川内と神通は神妙な面持ちになっていた。そのさらに奥で騒いでいる駆逐艦達の騒ぎ声が気にならないぐらいに。

 

 

 「確かにな。そういった気持ちで普段の訓練を取り組んでいたんだな。加賀のいう通りしっかりした子がいないと組織というのはグダグダになってしまうだろう。気持ち的には今のままでいいと思う。けど実際今のお前の気持ちを聞いた瑞鶴や翔鶴はきっとお前の本音を聞けて嬉しかったと思うぞ?なぁ二人とも。」

 

 

 私が問いかけると二人とも力強く頷く。

 

 

 「加賀さんが悪い人じゃないっていうのはわかっているけど。やっぱり自分でいい感じの動きができた時とかはやっぱり褒めてもらいたいかなって。もちろんだめだったらだめって言ってほしいけど!ダメ出しするときでもただだめっていうんじゃなくてこれはこういう理由だからこうしたほうがいいみたいな感じで・・オネガイシマス・・」

 

 

 何故か最後は片言になる瑞鶴。

 

 

 「瑞鶴もあんな風に言っているし、基本的には今まででいいんだ。だが試しに今までのやり方を少し変えてみたらどうだ?これで二人がさらにのびたら指導している加賀からしても嬉しいだろう?色んなやり方を模索してみたらどうだ?」

 

 

 「・・・わかりました。提督がどうしてもというのであれば。私はあなたに救われましたから。私もこういった形でしか恩を返すことしかできませんので。艦隊のお役に立てるのであれば。」

 

 

 「ふふっ。新生加賀さんの誕生ですね。ささっ。こういっためでたい時には美味しい物を食べてお祝いするのが一番です!一緒に食べましょう!」

 

 

 赤城の絶妙な合いの手により和やかな空気を取り戻した。赤城、私はお前ができる子だと信じていたぞ。翔鶴瑞鶴もいい目をしている。やる気に満ち溢れているのだろう。これでさらに艦隊に磨きがかかりそうだ。赤城達と久々にこみいった話ができてよかった。これで食事量が並になれば定期的にここに連れてきたいのだが。




わだかまり?が解消できてよかったです。軍である以上規律はとても大切だと思います。ですが艦娘達には基本のびのびとしていてほしいですね。瑞鶴もやる気をアップすることに成功したのでここから更なる飛躍が期待できそうです。


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第56話

ついに闇竹を倒しました。潜水艦ズに感謝。


 あれから色々と盛り上がって解散となった。しかし思った以上に被害は少なく、会計時に疑問に思っていると鳳翔が伝票で口を隠しながらふふっとほほ笑んでいる。

 

 

 「私からの気持ちですよ。いつも頑張ってくれている提督に感謝を込めてお安くしときますね。」

 

 

 鳳翔がこっそり耳打ちしてきた瞬間、感謝するとともに、内心ガッツポーズをしてしまった。我ながらこすい人間だと思うが、やはり人のご厚意には預かるべきだ。鳳翔には今度なにか違う形で返していければいい。酒保の前で解散し、自分の部屋に戻る。しかしそれなりの人数で飲み食いしたのでお財布は中破を免れることはできなかった。まぁ彼女達の数少ない娯楽だ。貢献できたのであればよしとしよう。そのまま寝る準備を終えて布団に入る。私は風邪をひかないようにと残っている理性を働かせて眠りについた。

 

 

 

 

 耳元が騒がしい。聞きなれてきた起床ラッパの音だ。何事かと起きると、いつもの妖精達が私のベッド近くの寝具の上でこちらに向けてラッパを吹いていた。いつもは時間になると頬をぺちぺちと叩いて起こしてくれる妖精達。しかし今回はなかなか起きない私に対して強硬手段をとったようだ。お前らが鳴らさんでもじきに鎮守府内にはラッパの音が響き渡るというのに。しかし気を使ってくれたのか、小さい音量のため、びっくりしておきることはなかった。私は朝の挨拶を妖精達と交わして身支度をする。全く器用なやつらだ。妖精達は私の肩によじ登ってくると、執務室の方向を指さしわめいている。艦長気分でも味わっているのだろうか。わかったわかったと返事をして執務室を目指す。

 

 

 「おはようございます。今日も一日宜しくお願いします。」

 

 

 「おはよう。少し遅れてしまってすまない。今日もよろしく頼む。」

 

 

 「いえ。いつも提督は早いのでこのぐらいの時間がちょうどいいと思いますよ。」

 

 

 大淀と挨拶を交わし、業務を始める。このところ大規模な戦闘の兆しがなく、平和といっていいぐらいの日常が続いている。しかし相手は深海棲艦。いつどこに現れるかわからない。週明けには第一戦隊と第二戦隊が漁船団の護衛任務に正式に就く。僚艦はメンバーのローテーションを多少行うものの、旗艦はしばらく吹雪と朝潮にお願いする予定だ。いずれは霞や長波にも務めてもらい、経験を積んでもらいたい。吹雪や朝潮達を休ませるという意味合いもある。いずれくるであろう戦線拡大に備えておかなければ。

 

 

 「提督。本部から建造の許可がおりました。工廠組と日程調整を行えばいつでも建造可能です。」

 

 

 かねてより申請していた建造の許可がでたようだ。やはり本部としてもまだまだ戦力を増やしたいという思惑があるようで、艦娘の部隊を主力にシーレーンの防衛強化、あるいは奪還作戦を考えていると谷上中将から以前連絡があった。今回はそのための建造だ。早めに建造を行い、できるだけ訓練を積んでもらう必要がある。善は急げだ。工廠の明石に建造を行いたい旨を伝えると、午後からばっちりいけますと返事があったので昼から行う事となった。相変わらず恐るべき仕事速度だ。とにかく午前中にやれることはやっておこう。かまってくれと訴えてくる妖精達の口に無理やりお菓子をねじ込んで黙らせると速やかに業務を終わらせていく。お菓子一つで機嫌がとれる妖精達。あいわからずちょろい。昼食をとったあとに工廠に向かう。艤装の点検整備を行っていた明石と夕張が挨拶をしてきた。

 

 

 「急な申し出ですまないな。予定を無理やり変えて建造を行うのではないのか?先に優先する業務があればそっちをやってもらいたいのだが。」

 

 

 「問題ありませんよ提督。艦娘の人数が増えたのに伴い、妖精達の数も最近増えてきたんです!おかげで業務が捗ります!」

 

 

 「ん?艦娘が増えれば妖精は増えるのか?」

 

 

 「いえ。そういうわけではありません。以前は艦娘の人数は多くてもここまで妖精の数はいませんでしたから。なにかやってくる条件みたいなのがあって、それが満たされているので増えてきているんじゃないですかね?私も妖精博士ではないので詳しいことはわかりませんが。」

 

 

 確かに最近やけに妖精の姿を見ると思っていたが、やはり増えていたのか。特にこの工廠はいたるところで妖精達がわいわいと騒ぎながら業務をこなしている。ああでもないこうでもないと言っているような感じだ。間宮も最近食堂に妖精達が現れたと言っていた。なんでも食事作りの手伝いをしてくれるらしい。どこからやってくるのかわからないが、助けてくれるというのならありがたいことだ。その分差し入れの数も増えていきそうだが。

 

 

 「まぁともかく、早速やっちゃいましょう!」

 

 

 夕張の掛け声を合図にいつも通り妖精達が取り掛かっていく。今回はギャラリーも少なく、静かに作業が進んでいく。後ろでそわそわし始める艦娘がいないので、〇〇型など詳しくない私は誰がやってくるのかわからないまま完成を待つことになる。

 

 

 「あぁ~!やっぱり!なんか建造してるとおもったんだよね!」

 

 

 後ろから声が聞こえる。振り向くと、入口付近に多数の艦娘がやってきていた。皐月がしゃべりながら一番に駆け寄ってくる。それに続く形で昨日の演習組がわいわいと駆け寄ってきた。艦娘には建造するタイミングがわかるとでもいうのか。艤装の点検と修理を兼ねて今日は非番になっていたのを思い出した。邪魔になるわけでもないので、私はこの子達と会話でもしながら気長に待つことにした。

 

 

 「ところで思ったのだが、建造は私がいなくても妖精達に指示さえすれば建造は行えるのではないか?」

 

 

 「いやぁ。それがどうもうまくいかないみたいで。普段の作業は問題ないのですが、建造となると、提督がいなくなったら妖精達がやる気を失うみたいで。なんか勝手な物作っちゃうんですよね。この前なんかいつのまにか内火艇つくってたりしてましたから。みんな提督に褒めてもらいたいんですよきっと。」

 

 

 ナイカテイがなにかはわからないが、とにかく私自身が立ち会ってないといけないことはわかった。まぁ何時間も立ち会うわけでもないので特に問題もない。

 

 

 「これは・・?霞これはきっと・・!」

 

 

 「・・・誰かがくるみたいね。」

 

 

 朝潮と霞が騒ぎ出した。この模型は朝潮の姉妹艦なのだろう。陽炎と不知火もざわついている。というとことはこの中に陽炎型もある、と。

 

 

 なにやら平べったい軍艦もある。これは恐らく空母だろうか?どちらも同じような形をしているのでこれは姉妹艦なのだろう。空母と聞くと誰とは言わないが、二人の美味しそうに食事をする眩しい笑顔がよぎってしまった私は思わず神頼みしてしまう。どうかなるべく燃費のいい子でありますように。その後も次々と完成していく模型。順に窯に入っていき、しばらく待つ。鳳翔のおかげで昨日の浮いたお金で買ってきたお菓子を妖精達と休憩がてらみんなで食べる。後ろの艦娘達にも配ると嬉しそうにわいわいと食べていた。しかし一体何故建造するタイミングがばれるのだろうか。不思議に思いながら待っていると、不知火が近づいてきてボソッと呟いた。

 

 

 「簡単ですよ。司令が建造するときは必ず間宮のお菓子を沢山買うでしょう。その様子を誰かが目撃すればそこからはあっという間です。」

 

 

 私の考えを読み取って代弁してくれた不知火。そういうことだったのか・・・不知火に感謝すると、いえ。と軽い返事をしてなお私の隣に佇む。私の行動パターンを読んでいたということか。まぁ非番の時であれば問題ないことだ。それに建造されて、でてきた艦娘達をすぐに案内してくれるので助かる。隣でなおも何か言いたげな不知火。何か近づいてきたのは訳があるのだろう。

 

 

 「何かあったか?」

 

 

 この一言だけで、私が何か察してくれたと感じたのか、不知火は私を見上げて少し間を置いたあと、話しかけてきた。

 

 

 「昨日の演習の後、川内さんと神通さんから総評がありました。陽炎は自ら囮役を買って出て弾避け役になりました。そのことで怒られてしまったみたいで。どうかここは司令から一声かけてもらえないでしょうか。」

 

 

 確かに昨日の酒保で時間がなかったので、駆逐の子達とはあまり話ができなかったが、川内と神通達が言っていた。

 

 

 「戦いは何が起きるかわかりません。敗戦となった時に殿を務めなければならないこともあると思います。ですが、ああいった役目をあの子達にやらせるわけにはいきません。そういう事は私達で十分です。」

 

 

 神通の台詞を思い出す。これは難しい問題だ。そう言った決断を下すのは勇気がいるだろう。私自身もその時になった場合、非情な決断を下すことができるだろうか。逆に言えばそうならないために日々訓練し、鍛えてもらうのだ。

 

 

 「わかった。建造が終わったら私から陽炎に話しておこう。」

 

 

 「ありがとうございます。」

 

 

 よくできた妹だ。建造されたばかりの姉のことが心配なのだろう。これで口まわりにお菓子の食べかすが残っていなければ完璧なのだが。

 

 

 「何でしょうか?不知火に落ち度でも?」

 

 

 真剣な眼差しで問いかけてくる不知火。私はそのギャップにふふっと笑ってしまいながら、自分の口まわりをつんつんと指さす。一瞬訳の分からない顔をした不知火だったが、やがて私の意図に気づくと、顔を赤らめて恥ずかしそうに口まわりをごしごしと拭いていた。

 




不知火は落ち度かわいい。しっかりとしていてもどこか抜けていそうなイメージが不知火にはあります。勿論凛々しい不知火も好きです。かっこいいですね。


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第57話

第三建造ラッシュです。


 そろそろか。建造終了ともに赤から緑に変わる灯。そして煙を吹きながら建造窯の扉が開く。扉が出てきたのは幼女と言ってもさし違いないぐらいの大きさの子だった。

 

 

 「択捉型海防艦一番艦、択捉です。頑張ります!」

 

 

 「同じく択捉型海防艦の松輪・・です。私も頑張り・・ます。」

 

 

 「対馬です。よろしくお願いします。」

 

 

 「択捉型海防艦!佐渡です!よろしくお願いします!」

 

 

 いやこれ。大丈夫なのか?いくら艦娘が見た目に比例しない力を持っているのを知っているとはいえ、流石に幼すぎる。小学生に上がりたてぐらいといっても過言ではない大きさだ。私はなるべく平静を装いながらそれぞれと握手を交わし、自己紹介する。そして海防艦達は見学していた駆逐艦達の方へと歩いていき、互いに自己紹介を始めた。

 

 

 「おい、これは大丈夫なのか?どう見ても・・・あれなのだが・・・」

 

 

 「?大丈夫とは?」

 

 

 どうやら意図が伝わってないらしい。私は疑問をぶつけると、明石はあぁ。と納得した様子で丁寧に説明してくれた。海防艦は主に護衛任務を中心に活動を想定して作られた艦であり、対潜任務などで活躍できるように対潜ソナーなどを搭載しているという。これは護衛任務にうってつけなのではないか?彼女達を鍛えれば漁船護衛の任務にもつけるかもしれない。速度や火力は駆逐艦と比べて劣るみたいだが、それでも十分だ。まさにぴったりな人材がちょうどいい時期に来てくれた。

 

 

 続いて窯から艦娘がでてくる。大潮、荒潮、満潮と朝潮型のラッシュだ。その時の朝潮の喜びようは大変だった。霞も相変わらずつんつんしていたが、それでも喜んでいるようだった。そして最終的に他の駆逐艦は如月、文月、卯月、白露、村雨、初風、谷風、浦風、浜風、磯風、岸波が加わることになった。多くの駆逐艦がやってきてくれた。かなり数が増えたので統率できるか心配だ。そして問題の空母らしき模型が入った窯。駆逐艦達よりも少し時間がかかったが、ようやく窯の扉が開いた。二人とも似たような恰好をしている。そして私に駆け寄ってくると、敬礼をし、自己紹介をしてくれた。

 

 

 「蒼龍型航空母艦の蒼龍です。よろしくお願いします!」

 

 

 「飛龍型航空母艦、飛龍です。空母戦はお任せください!」

 

 

 蒼龍と飛龍。名前からして姉妹艦っぽい名前だが、それぞれがネームシップ艦なのか?私は自己紹介の後に疑問をぶつけてみる。すると、飛龍が笑顔で答えてくれた。厳密に言うと違うらしいのだが、姉妹艦として思ってもらっていいとのこと。確かに模型は似てるとはいえ、言われてみれば、少し違いがあったような気がする。まぁいろいろとあるのだろう。彼女達二人の仲はとても良さそうなので問題なさそうだ。

 

 

 とりあえず建造が終わったので、いつも通り、先輩たちに鎮守府を案内してもらうか。見学組に案内を頼むと、みんなでわいわいと騒ぎながら工廠を出ていった。しかしその群れに混ざらず、ポツンと残っている人影が二人。陽炎と不知火だ。事前に不知火が留まるように話しておいたのだろう。

 

 

 「話は聞いたぞ。まぁなんだ。私自身が前線に出て戦っていないので何とも言えないが。神通達が言っていた通り、聞いてはいると思うが、ここの鎮守府では恥ずかしいことに、囮作戦や弾避けとして艦娘を消耗品につかっていた過去があってな。ここにいる不知火、あの時旗艦を務めた朝潮、そして川内や神通も仲間、そして姉妹艦をそのせいで失っている過去がある。だからそのことを思い出してしまったのだろう。勿論陽炎があの時、自分自身が最善の策をとって戦隊に貢献しようとしていたのはわかった。だがお前達が囮役なんてやらなくていいんだ。あの時は訓練だったからいいものの、実際の戦場では敵は情けをかけてくれない。お前達を本気でしずめようとしてくる。実戦と訓練は別物なんだ。」

 

 

 「でも私はあの演習できっとああでもしないと役に立たなかったわ!もちろん経験が足りないとわかってる!でもそれでも貢献したかった・・足手まといは嫌なの!砲撃も当たらない、装填も遅い、挙句の果てに突撃してきた相手を恐れて不知火達の叱咤がなかったら勢いにのまれていたわ。きっと。その中で精一杯考えた結果があの行動だったの。」

 

 

 「ああ。わかっているよ。川内や神通から毎日訓練の報告を受けているからわかる。お前は頑張っているって二人もいっていた。不知火だって急激に強くなった訳じゃないんだ。厳しい訓練を乗り越えたからあんな風な動きができるようになったんだ。月並みの言葉しかかけてやれないが、囮なんか出さなくていいぐらい強くなってくれ。陽炎自身の力で皆を守れるように。もちろん時には厳しい決断を下さなければならない時もある。だがそうならないよう私も努力していくつもりだ。」

 

 

 「私も目の前の敵に集中するあまり、不意を突かれて大破判定を貰ってしまいました。私もまだまだです。一緒に強くなりますよ。陽炎。」

 

 

 「・・・わかったわ。もっと強くなっていずれは司令に旗艦を任せてもらえるように私も頑張るわ!不知火!明日からも頑張るわよ!」

 

 

 ポンと二人の頭に手のひらをのせて軽くとんとんと叩く。上手く説明できたはどうかわからないが、どうやら力になれたようだ。工廠入口で話していたためか、夕張と明石にもちょっとだけ聞こえていたようで、夕張は片目をつむりながら親指でグッとグットポーズをしてきた。少し恥ずかしいからやめてほしい。

 

 

 工廠を後にして執務室に向かう。大淀はすでに新たに加わった艦娘達のリストを整えて、本部に報告できる状態にしてくれていた。非常に助かる。工廠を去る際、新しい艦娘達の装備も配備できるように明石と夕張に手配しておいたので、ほどなく訓練も始められるだろう。しかし艦載機は正規空母となると、それなりの数も必要だろう。配備がおくれそうなので、しばらくは旧型の零戦などで訓練をしてもらわなければ。おっとパイロットの養成も急がなければ。千歳や伊勢などにもパイロットを割いたので、現状はかつかつだ。しかし最近妖精が増えてきているみたいなので、人員としては問題なさそうだ。あとは訓練あるのみ。しかし艦娘が増えてくると、その人数に応じて当然事務処理も増えてくる。早急に秘書補佐を増やさなければ。大淀が出撃でいなくなる時もあるだろうからな。果たして誰がいいものか。

 

 

 「大淀。だれかいい秘書補佐はいないか?流石にこの人数だともう増やしたほうがいい気がする。お前もたまには休ませたいからな。だれかお前が推薦する人物はいないか?」

 

 

 「うーん。私はこのままでも大丈夫ですが。まだまだ余裕がありますし。でもだれか一人推薦するとなると・・・白雪ちゃんとかですかね?あっ。白雪ちゃんはもう鳳翔さんのところのお手伝いをたまにしているんでしたね。」

 

 

 そうなのだ。私も白雪は目を付けていたのだが、鳳翔のところの手伝いをすでにやっているため、遠慮していた。本人も楽しそうに手伝いをしているみたいなので、引き抜きみたいになるのは申し訳ない。誰か適任がいるとは思うのだが。

 

 

 「いっそのこと全体通知して募集かけてみるのはどうだ?いい人材があらわれるかもしれん。」

 

 

 「色々な子に聞いて名前が多く上がる適任そうな子に依頼するというのはどうですか?」

 

 

 「それもいいな。それでいこうか。」

 

 

 やることが再び色々と増えたが、暇よりかはいい。日が落ちて業務終了となったので。私は自分の部屋でお風呂に入った後、恐らく新人で賑わっているだろう食堂に歩を進めていった。




今回は駆逐艦がかなり多く建造されました。登場した艦娘をまとめる表を作ってもそろそろいいかもしれませんね。

 白雪は艦これの設定で海軍経理学校の修学経験があるみたいなのでこの作品の初期案として補佐官を予定してました。個人的には適任かなと思っていたので。しかし鳳翔のところでお手伝いをしているため、断念。


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第58話

今回は史実ネタ多めです。


 食堂は新しい艦娘達の存在もあってか、いつにもまして賑わっていた。訓練から帰ってきた艦娘達と建造された艦娘達の顔合わせも兼ねているみたいだ。私も列に並び食事の配膳を待つ。

 

 

 「お姉ちゃんがきたからには任せておきなさい!いっちばんになってやるんだから!」

 

 

 「ふふっ。期待しておくよ。でもまだまだ白露には抜かれない自信があるな。」

 

 

 「そーそー。まだまだあたし達にはかなわないっぽい。百回やっても百回勝つよ!」

 

 

 「夕立も時雨ちゃんもなんか強そうだもの。村雨もいいとこ見せれるように頑張ろっと。」

 

 

 白露型や睦月型など今回は多くの艦娘が増えた。姉妹同士でわいわいと食事をとっている姿は微笑ましい。

 

 

 「やぁ提督ではないか。今日新しく着任した海防艦達だが。あれはなかなかにみどころがある。何なら私が指導係としてついてもいいぞ。」

 

 

 後ろから伊勢と日向が声をかけてきた。何でも寮の見学に来た時にたまたま鉢合わせたらしく、その時に着任祝いとして瑞雲のぬいぐるみや模型をプレゼントしたそうだ。海防艦達はいたく気に入ったらしく、特に択捉と佐渡はものすごいはしゃぎっぷりだったようだ。一体どこから調達としたというのか。

 

 

 「いや。だめでしょ。そもそも主要任務が根本的に違うんだからさ。」

 

 

 冷静な伊勢。非常に助かる。むむむと唸る日向。何がむむむだ。

 

 

 「まぁ、いつでもこの日向に任せてもらっても構わない。いつでも門戸は開いているぞ。」

 

 

 謎の台詞を笑いながら自然に流し、お盆に今日の料理を受け取る。今日はカレーだ。そういえば今日は金曜日だった。そういえば間宮が娯楽として今度、艦娘達の料理コンテストをしてみたらどうかと提案してきたのを思い出した。カレーコンテストでもいいかもしれない。

 

 

 「提督こっちこっち!」

 

 

 誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。蒼龍と飛龍だ。せっかくなので一緒に食事をとることにした。それに偵察も兼ねなければならない。彼女達のお手並みを拝見させてもらわなければ。

 

 

 「建造されて少し不安だったけど。ここはいいとこみたいで安心した!昔はひどかったってさっき聞いたけど綺麗な内装でびっくりしちゃった!」

 

 

 「杞憂だったね!そして何よりご飯が美味しい!しかも間宮特製のお菓子も食べられるんでしょ?サイッコーだね!」

 

 

 嬉しそうでなによりだ。やはり空母というのは食事の量がどの子も多いみたいだ。これは艦娘としての特徴なのだろう。しかし赤城や加賀以上に食べるわけは流石にあるまい。この時そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 「おかわりし放題ってすごいね!お昼ももちろんおかわりできるんだよね?」

 

 

 これは・・・凄まじいの一言につきる。赤城以上の逸材が現れるとは思ってもいなかった。飛龍いわく、訓練で体を動かせば恐らくもっと食べるかもしれないとのこと。蒼龍も結構食べたが、飛龍の比ではない。食事を終え、飛龍たちとお盆を返しにいくと、間宮が嬉しそうにおいしかった?と飛龍に尋ねていた。自分の作った料理をあれだけ美味しそうに沢山食べてくれるというのは料理人冥利に尽きるというものだろう。美味しい物を食べて元気をつけてもらいたいと食費には多めに予算を割いているが、この調子だと予算を増やさなければならなさそうだ。

 

 

 食事を終え、自分の部屋に戻ろうと思ったが、酒保から声が聞こえることに気が付く。今日も誰かが一杯やっているのだろう。藪をつついて蛇を出す必要はない。しかしたまには自分自身のために甘いものが食べたい。いつもは配ってばかりなので、自分好みのお菓子を食べたいという衝動に駆られてしまった。さっさと甘味を買って部屋に戻ろう。酒保に入っていくと、そこには珍しい人物がいた。妙高と足柄だ。足柄は私に気が付いたのか、すごい勢いで手招きしている。そばには寄っていくが、絶対に私は席につかないぞ。絶対にな。

 

 

 「ちょっと提督!妙高姉さんを慰めてあげて!いつになく落ち込んでいるのよ!」

 

 

 「すみません提督。このような情けない姿をみせて。」

 

 

 いつも凛々しく、面倒見のいい妙高が落ち込むなんて何事だろうか。私は二十秒前に心の中で宣言した誓いがあっさり破られたことに気が付かず、席につく。

 

 

 「実は・・今日建造された艦娘の中に初風という子がいましたよね?あの子に妙にさけられてるみたいで。初めて挨拶してくれた時に目が合ったかと思うと、顔が青くなって首を抑えながらささっとどっかにいってしまったんです。他の子は普通に挨拶してくれたのに・・私じつは皆に嫌われているんでしょうか?」

 

 

 「そんなことないわ妙高姉さん!きっとなにか事情があったのよ!姉さんはいつも優しいじゃない!嫌われることなんて絶対にないわ!ね?提督?」

 

 

 「ああ。妙高はよくやってくれていると私も思う。悪いうわさも聞いたことがない。というより艦娘同士で口喧嘩しているところをみかけたことはないな。たまに瑞鶴が川内に怒っているところをみるぐらいだ。それでも本気で怒っているという感じではなかったな。足柄の言う通り何か事情があるのだろう。今度私からも聞いておくとする。だからそんなに気にすることはないぞ。せっかくだからたまにはパッと飲んで気分転換でもしてリフレッシュしよう。な?」

 

 

 「さっすが提督!話が分かるじゃない!ね?提督もこういってくれてるんだし今日は飲みましょ姉さん!」

 

 

 「提督、足柄。ありがとうございます。じゃあ今夜はちょっとだけ飲ませてもらいますね。 」

 

 

 二日続けて飲むことになったが、これは不可抗力だ。仕方がない。その後も三人でゆっくりと飲みながら会話を楽しんだ。なんて穏やかな飲み会だ。いつの日もこんな感じでお酒を楽しみたいものだ。財布の心配をすることがない幸せをかみしめながら私は会計を済ませる。二人が自分達も出すと言ってきたが、いつもに比べればなんてことはない金額だ。酒保を後にし、二人と別れて部屋に戻る。歯磨きなど寝る準備を整えて眠りにつく。なにか忘れているような気もするがまぁいいだろう。特に急ぐことでもないことだろうしな。

 

 

 

 

 

 

 

 




気持ちよく眠りにつく真船。今日の出費の少なさにたいそう喜んでいた彼自身は気づかない。、度重なる飲み会で自分の金銭感覚が破壊されつつあることに。 大出費の原因はひとつしかないのですが・・・そして忘れる秘書補佐募集。


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第59話

相変わらず情勢を絡めて物語にするのは難しいです。


 「このままではいずれ物資が枯渇するのは時間の問題だ!早急に艦隊を派遣して東南アジアのシーレーンの安全を確固たるものにすべきだ!」 

 

 

 「しかしそうすると日本近海の防衛はどうなる!?今でこそ沈黙を保っているが、日本が手薄になるとみるや、大陸の国がけしかけてくる可能性は否定できないぞ!仮に艦隊を東南アジアに派遣したとしよう。そこで勝利できたとしても、こちらの艦隊の損害は免れないはずだ。戦闘でぼろぼろになった状態を黙って見過ごすほどお人よしではないぞあの国は!」

 

 

 「それにかの国は東南アジア諸国からの防衛要請を断っているみたいではないか。表向きは自分の領土の海域防衛で手一杯と言っていたが、そのようなことはあるまい。強引な手法であわよくば領土拡大をもくろむやつらがこの絶好のチャンスをみすみす逃しているのだ。もちろん自分の手札を切りたくないというのもあるだろうが、真の狙いは別にあるだろうな。」

 

 

 「それこそ艦娘部隊の出番ではなかろうか?佐賀山中佐率いる部隊を派遣すれば既存の艦隊で本土防衛を視野に入れつつ、シーレーンの確保も可能だ。連戦になるが、ここは頼るべきではないかね?」

 

 

 「しかし現状、敵の占領下にあるグアム方面からの防衛は佐賀山中佐の率いる艦娘部隊によるところが大きい。ここに穴が開けば太平洋方面からの敵の対処はどうするというのだ?先の決戦で勝利できたとはいえ、敵の戦力は未知数だ!東南アジアに部隊を派遣中に前と同じぐらいの艦隊がやってきたらひとたまりもないぞ!マリアナを抑えれば米軍との連携も視野に入ってくるのではないか?」

 

 

 海軍本部で行われている会議は紛糾していた。先の艦隊決戦の大勝利に勢いづく日本はこの流れを生かして更なる制海権の確保を狙っているが、そうは問屋が卸さない状況だ。海洋国家である日本は船による物流に頼っている面が非常に大きい。東南アジア方面からやってくるタンカーは深海棲艦の影響で数が少なくなっており、護衛を用意しなければ安全に輸送できない状態だ。護衛を付けたとしても、潜水艦などの通商破壊により被害がでることも珍しくない。ユーラシア大陸からの空輸なども行われているが、このままでは暮らしは困窮していくだろう。生活レベルの質を下げれば耐えることもできるだろうが、一度豊かになった現代人に果たして耐えることができるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 「少なくとも資源が枯渇する前に戦わなければならない。世界が一丸となって戦わなければならないというのに、厄介なことだ。敵は深海棲艦だけじゃないというのが身に染みてわかったな。」

 

 

 「艦娘部隊を派遣するという案に前向きな方が多かったようですね。やはり先の決戦の結果が響いているのでしょうか。」

 

 

 「隣国との関係がよければ海軍を派遣しても問題なかっただろうが、そういう訳にもいかないのが悲しいところだな。本国をノーガードにするわけにもいかん。」

 

 

 結局会議で意見はまとまらず、次の会議に持ち越されることになった。政府の意向もくみ取らなければならないため、軍だけで方針を決めるのは流石に難しかったようだ。谷上は自分の部屋に戻ると、会議の結果を話しながらため息をつく。他の国には存在しない艦娘という存在。それだけに世界から日本に寄せられる期待も大きい。かといって艦娘は無限に存在するわけではない。それぞれの国は戦後のパワーバランスと、この大戦で勝利に貢献したときに手に入れるであろう発言力を天秤にかけているのだろう。政治はやはり難しい。谷上は自分には到底無理な話だ。と失笑しながら秘書に真船に連絡を入れるように命令する。彼も抜かりなく準備はしているだろうが、大規模作戦に備えて念入りに準備をしてもらおう。とにかく勝利しないことには始まらないのだ。

 

 

 

 

 

 

 「提督。海軍本部から入電です。」

 

 

 大淀から本部から連絡があったと報告を受けた。近いうちに大規模な反撃作戦が行われるらしい。その時に艦娘の部隊が前線に立つことになるだろうとのこと。昼食後、長門や赤城などの主要な面子を呼び、こちらでも話し合うことにした。

 

 

 「恐らく東南アジアかマリアナ、どちらかだろう。正式な通達は追ってくるらしいのでまだ詳細は分からないが、二つに一つだな。二方面作戦は流石に戦力が持つまい。」

 

 

 「北方領域の可能性はないのでしょうか?あそこを制圧すれば後方の憂いを完全に絶った状態で南に専念できます。」

 

 

 「南だと通商破壊にくる潜水艦の数も多くなってきそうですね。対潜装備の充実がさらに必要になりそうです。」 

 

 

 「北の可能性もなくはないが、現状の優先度を考えれば長門のいう通り恐らく南だろう。谷上中将も以前の視察の時にそのようなことを匂わせていたからな。あとは正式な日付と東南アジアか、マリアナか、そこだな。」

 

 

 「作戦規模にもよりますが、空母の数も必要になってくるはずです。パイロット養成も急がなければなりませんね。」

 

 

 「船団護衛の任務に当てるメンバーも多少の変更も必要になってくるんじゃないかしら?本格的な海戦になると、やっぱり手練れの数は多い方がいいわ。」

 

 

 長門や赤城、明石や加賀、陸奥などもそれぞれの意見を述べてくれる。用意は早いに越したことはないだろう。スクランブルのためにも戦力はある程度は残さなければならない。しっかりと考えておかなければ。

 

 

 その後話し合いが終わり解散となった。川内と神通も話し合いに参加させたかったが、訓練のため参加が難しかったので、夕食後に話すことにした。今回も彼女達水雷戦隊の力は必要になってくるのは間違いない。私も私のなすべきことをなすだけだ。

 




一筋縄とはいかない世界。平和な世の中になるのが一番ですが、現実でもこの作品同様になかなかうまくいかないのが悲しいですね。


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第60話

六十話まできました。そして最近気が付いたのですが、お気に入り登録をしてくださる方がいつの間にか千人を超えていました。ありがとうございます。


 大規模作戦が行われる。そのことに鎮守府の面々は張り切っていた。特に実戦経験のない艦娘達は活躍する時がきたと張り切っていた。しかしこちらが強くなっているように相手にも手強い敵が発見されたのも事実。赤いオーラをまとった敵は要注意だ。赤城と加賀も、空母組とともに訓練に励んでいく。特に翔鶴隊と瑞鶴隊のパイロット達の消耗が激しかったため、再編成を急いでいた。

 

 

 『何とか様になってきたようだな。だがまだまだと言わざるを得ない。実戦では敵は待ってはくれんぞ。それにこれぐらいでねをあげていたら、一航戦の先輩達と合同訓練なんかしたあかつきにはとんでもないことになるぞ。』

 

 

 『隊長達が厳しいというぐらいのレベルなんて想像ができません。今でさえ自分は訓練をこなすのに精いっぱいですよ・・・以前模擬戦をやった時には、コテンパンにやられたとお伺いしましたが、本当の話なのですか?』

 

 

 『ははっ。恥ずかしい話だが本当だ。しかもハンデ付きでぼろ負けだったからな。あそこの隊は精鋭ぞろいだ。故にあそこに入った新人はそれこそ血反吐を吐きながら訓練しているのではないか?お前ら優しい先輩がいるここに着任で良かったな!』

 

 

 これで優しい?冗談じゃないと笑っている隊長を見ながら翔鶴隊に配属された新兵達は思っていたが、口には出さない。触れぬ神に祟りなしの精神で休憩時間を全力で体力の回復に努める。先輩たちのように華麗に空を飛ぶようになるのだと意気込みながら再び訓練を再開する。

 翔鶴隊の隊長は訓練をしているであろう海域方向を見つめる。今頃新しくやってきた二航戦の訓練に一航戦の二人はついているはずだ。新参にぬかれてはたまらない。こちらも死線を潜り抜けてきたプライドがある。散ったいった仲間達のためにも、こいつらと生き抜いてみせるのだ。訓練に熱が入る五航戦のパイロット達。来たる日に備えて万全の準備。その顔触れには慢心のひとかけらもない。

 

 

 

 

 『流石というべきか。新人ながら所々光るものがある。これは俺らもうかうかしてられないぞ。』

 

 

 訓練の様子を眺める一航戦のパイロット達はやるもんだと感心しながら空を見上げていた。五航戦の訓練場から少し離れた別の場所で蒼龍と飛龍は赤城、加賀とともに合同訓練をしていた。慣れるまでは合同訓練で徹底的に基礎を鍛えていく。しかしそこは二航戦。おぼつかないところもあるが、持ち前の才能を活かしてどんどんとコツをつかんでいく。初めての海上にでたとは思えないほどの動きだ。パイロット達も全員が新兵ではまずいので、各空母からすこしずつベテランを回してもらっている。とはいえそれでも新人の割合は多いのは否めない。赤城は蒼龍を、加賀は飛龍を指導していく。

 

 

 「いいですか?蒼龍。空母は直接撃ち合う機会はほとんどありません。故に艦隊の指揮を任されることも多いです。私達の働きが前線で戦う水雷戦隊の戦いに与える影響は計り知れません。事前の索敵や航空隊による攻撃。数少ないチャンスで確実に敵を仕留められるように頑張っていきましょう。」

 

 

 「あなたには私の航空隊からもパイロットを回しているので心配ありません。みんな優秀な子達ですから。しかし戦力として計算されるようになるまでの期間。徹底的に鍛え上げます。ついてらっしゃい。」

 

 

 赤城と加賀は、それぞれ熱心に指導していく。戦線が広がって行けば、現状の空母の数だと足りなくなってくる可能性がある。龍驤や飛鷹などのベテランもいるが、軽空母なため、艦載機の数を考えると、どうしても主力にはなりえない。空を支える数は多ければ多いほどいいのだ。後々のことをしっかり考えていかなければならない。指導のかいがあってか、翔鶴と瑞鶴は前の海戦でも立派に戦力として働いてくれた。その経験を糧にさらに成長をしているので、そろそろ手が離れる時が来たのかもしれない。しかしエースの座を譲る気はない。指導するとともに、自分達も負けてられないと気合いをいれて訓練に励むのであった。

 

 

 

 

 

 

 「提督、失礼するぞ。哨戒任務についていた部隊がこのような写真を撮ることに成功したみたいだ。」

 

 

 私が業務をこなしていると、急ぎ足でやって来て、長門が複数の写真を私の前に広げた。中々の数だ。しかしよく撃墜されなかったものだ。彩雲の性能を活かしてぎりぎりまで活動をおこなったそうだ。私としては危険を感じたら速攻で帰ってきてほしいのだが。

 

 

 「硫黄島よりさらに南東に三百キロ程度のところで確認されたそうだ。敵の艦隊の再編成が思ったよりも早い。そして以前とはことなる姿の深海棲艦が多い。恐らく北太平洋方面から増援がやってきたのだろう。撮影はできなかったが、人型や、赤いオーラをまとった奴もちらほらといたみたいだ。気を引き締めなければならないな。」

 

 

 「こちらが勝利に油断していた所を叩くためか、はたまた防備のためによこした部隊なのか・・・判別はまだつかないが、敵も戦える戦力をまだまだ持っているのは確実なようだな。大淀、この件を本部に急いで通達してくれ。」

 

 

 大淀は了解しましたと返事をすると、業務を後回しにして急いで取りかかり始めた。じきに本部から返事があるだろう。きな臭くなってきたな。しかし仮にマリアナ諸島の攻略に乗り出せば上陸のために陸軍の協力も必要となってくる。それについては上の方達に任せるほかない。

 

 

 「前回のような相手による二手に分かれての奇襲作戦も考えて動かねばならないな。長門よ。まだマリアナとはきまったわけではないが、恐らくはここで決まりだろう。対マリアナを想定した部隊編成を一緒に考えてくれないか?」

 

 

 「勿論だ。陸奥も呼んでこよう。この長門の知恵と経験を存分に活かしてくれ。」

 

 

 頼もしい返事とともに長門が一旦執務室を去ってゆく。通達を終えた大淀も作戦参謀として役に立ってもらわなければ。以前は妖精のおかげで加賀が救われたが、今回は充電期間のため、妖精の力による復活の奇跡は起きないと思ってていい。一人も沈むことなく帰ってきてほしいという考えは甘いのだろうか。私はほろ苦いコーヒーを口に入れ思考をリセットすると、気合いを入れる。戦うのは彼女達だ。ならばせめてできることはしてやらねばならん。




物語を面白くするためにも一度ゆっくりと勉強する時間が欲しいと思う今日この頃。
当時の艦載機や艦に詳しい方に色々と教えてもらう機会があればうれしいですが、周りにそういった方がいないので残念です。


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第61話

久々の谷上中将。


 偵察情報を本部に送った翌日、私は潜水艦達を呼び出した。普段は索敵行動の都合上、そろって集まることがない潜水艦達だが、今回は少しでも情報がほしい。全員が集合したのを確認すると、作戦内容を伝える。

 

 

 「集まってもらったのは他でもない。前日に伝えた通り、マリアナ諸島付近に敵艦隊が再集結しつつある情報を得た。そこで君達にマリアナ付近への偵察及び、可能であれば、敵輸送船団への攻撃を行ってもらいたい。危険を伴う可能性が十分にあるので、情報を持ち帰ることを優先、攻撃に関してはチャンスがある場合のみでいい。必ず安全に帰れる状況以外では攻撃は行わないように。」

 

 

 「わかったでち。できる限りの情報を持って帰ってこれるよう頑張ります!」

 

 

 「イクのスナイパー魂が滾るのね~!」

 

 

 ゴーヤやイクもやる気に満ち溢れているようだ。

 

 

 「パラオとグアム間の連絡船などが恐らく襲撃限界ラインだと思うけどそれでもいいかな?それ以上は結構厳しくなりそう。」

 

 

 「それで構わない。戦果を欲張って奥まで入って逃げられないというのは本末転倒だからな。必ず無事に戻ってきてくれ。」

 

 

 シオンからの質問に答え解散となると、ゴーヤたちは工廠に向かっていった。装備などの最終確認が終わり次第出撃していくのだろう。次の仕事にとりかかろうとした時に、大淀から谷上中将から連絡が来ていると言われ、急いで応対する。作戦内容の速報でもはいったのだろうか。

 

 

 「真船君かね?久しいな。元気にしてるかね?君の送ってくれた情報をもとに作戦会議が後日行われるのだが、恐らくはマリアナに決まりだろう。そういう空気が漂っている。まだ正式に決まったわけではないが、そういうつもりで動いておいてほしい。」

 

 

 「お久しぶりです中将。抜かりなく対処できるように準備は整えております。潜水艦の部隊に、更なる情報を得られるよう先ほどマリアナに向けて派遣したところです。作戦に合わせて行動できるようにもしておりますので報告をお待ちください。」

 

 

 

 「話が早くて助かる。それともう一つ、知らせなければならないことがあってね。実は陸軍にも艦娘いるのは知っているかね?その艦娘を君の艦隊に預けたいという打診があった。ひいてはその娘を今回の作戦にも参加させてもらえないだろうか?大変だとは思うが受け入れてもらえるか。」

 

 

 陸軍に艦娘?一体どういうことだ?艦といえば海軍ではないのか?はぁ。と間抜けな返事をしてしまった後、受話器からわはははと愉快そうな声が聞こえてきた。どうやら私の返事がつぼにはいってしまったのだろう。

 

 

 「そうか。君はまだ知らないのだったな。実は先の大戦で陸軍も多少艦をつくっていてね。その艦の名をもった艦娘だ。」

 

 

 突然の提案に驚きを隠せない。この人の頼みを断れる状況に私はいないので受け容れるしかない。

 

 

 「わかりました。こちらとしても戦力は多ければ多いほど嬉しいですので。受け入れはいつになりますか?」

 

 

 「おお。ありがとう。君ならそう言ってくれると思っていたよ。それでだな・・。実は明日にそちらの鎮守府にやってくるのだ。急な話で申し訳ないが、対処してはくれまいか。」

 

 

 「あっ、明日ですか?どうしてまた急に!」

 

 

 これはどちらにせよ無理やり押し込まれた形になっていたな。しかしここまでして急ぐとは。

 

 

 「艦娘といえど、一人二人だけでは艦隊運用をすることも難しい。そこで最近活躍している君の部隊に白羽の矢が立ったわけだ。陸軍としても、海軍にいいところばかりをとられてばかりじゃ肩身も狭くなるからな。手柄が欲しいというのもあるのかもしれん。割合は少ないが、一緒に出撃して活躍すれば、共同戦果ということにもできる。ここで我々が戦果を欲張る必要もない。正体不明の相手に内輪もめしている場合ではないからね。」

 

 

 ごもっともだ。私は出世競争などには興味がないが、世間では艦娘の活躍が大いに報道されている今、陸軍は役に立ってないなどと言われ続ければ、当然良い思いはしないだろう。先の大戦でも陸軍と海軍の不仲は敗戦の原因の一つと言っても過言ではない。

 

 

 「陸軍将校の知り合いは陸軍の艦娘達を不憫に思っていてね。似たような存在の娘達は活躍しているのにこの子達には活躍の場を与えてやれない。そのノウハウもない。ならばせめてとおもって私にお願いしてきたようでな。さきほどいった通りだが、陸軍としても戦果を上げる口実にもなるし、陸軍艦娘にも良い環境を与えたいということだ。その子達は元々は揚陸艦という艦種に分類されている娘でな。今回の作戦内容的にもうってつけだとは思う。」

 

 

 揚陸艦か。これまた初めて聞いた。後で大淀に確認をとるとしよう。ここにきてまた知らないことがでてきた。艦というのはどうやら思った以上に難しいようだ。

 

 

 「わかりました。こちらで受け入れの用意をしておきますので、先方にお伝えください。」

 

 

 「ありがとう。ではよろしく頼むよ。今度じっくりと飲みにでもいこう。ではな。」

 

 

 通信が終わると私は先ほどの内容を大淀に伝えると、大淀は少し困った顔をしていたが、問題はなさそうです。と返事をした後にテキパキと調整をし始めた。やはりなくてはならない存在だ。それにしても明日やってくるなんて急な話でびっくりしてしまった。だが、これであらたにこちらの作戦内容のとれる選択肢が増えるのはいいことだ。後はうちの艦娘たちと折り合いをつけて上手くやっていけるかだ。陸軍と海軍。私としては仲の悪いイメージしかないので不安だが、いったいどうなるのだろうか。




ついに陸軍の艦娘も鎮守府にやってきます。誰か来るかはわかりませんが、とても楽しみであります。


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第62話

陸軍の艦娘も登場です。


 「急な申し出を受け入れてくれて感謝する。名は延岡と申す。陸軍所属で階級は少将だ。よろしく頼む」

 

 

 「陸軍所属、あきつ丸と申します。艦隊にお世話になります」

 

 

 「同じく陸軍所属、神州丸と申します。揚陸作戦はお任せください」

 

 

 翌日、早速鎮守府にやってきた陸軍の延岡少将と二名の艦娘と挨拶を交わした私は、そつなく対応をこなす。昨日はあの後、陸軍から艦娘がやってくるみたいだと、鎮守府ではちょっとした騒ぎとなった。昔は陸軍と海軍の仲が悪かった影響のせいか、その時妖精達はザワザワしていた。

 

 

 私も自己紹介をした後、鎮守府を案内していく。少将をはじめ、少将の付き人達やあきつ丸と神州丸も海軍の施設に入ることはあまりないのだろう。顔には出さないようにふるまっていたが、興味津々といった様子だった。体裁を気にしているのだろうか。私としてはもっとフレンドリーに振舞ってもらっても構わないのだが、そうはいかないのだろう。

 

 

 「噂には聞いていたが、これほどまでに設備が充実しているとは。艦娘達の教育も行き届いているようで安心した。心置きなく二人を任せることができるよ。よろしく頼む」

 

 

 「お任せください。陸と海、力を合わせて国の平和を守りましょう。しかし急な申し出で驚きました。差し支えなければ理由を聞いても?」

 

 

 「ああ。谷上中将からある程度は聞いているとは思うが、いくら相手が海を中心にした部隊とはいえ、島の占領や上陸作戦は我々の仕事だからな。君達だけにも苦労をかけさせるわけにもいかない。正直に言えば陸軍としてもここで戦果を上げていかねばならないからね。なによりあの娘達を何とかしてあげられないかと思っていた矢先に君のことを谷上中将が紹介してくれたのでそれなら是非という事でこうなった訳だ」

 

 

 谷上中将が言っていた内容と同じのようだ。もちろん無碍に扱うつもりはないが、所属が違うため、ゲスト扱いをしなければならない。いい方は悪いが、正直少し面倒ではある。

 

 

 「鎮守府に在籍する以上は君の指揮下に入るようにあの娘達にも言い聞かせてある。もちろん正式な命令なので安心してほしい。君のことだから大丈夫だとは思うが、もしもの時は・・・わかっているね?」

 

 

 延岡少将はいかつい顔で笑いながらも圧を絶やさない。素直に怖い。いかつい容姿もあいまって、着ている衣装が別の物なら完全にアウトな構図だ。私はもちろんですと月並みな返事しかできなかった。本当に怖い方だ。

 

 

 「佐賀山中佐。何度も言うようで申し訳ないが、あきつ丸と神州丸をよろしく頼む。二人とも郷に入れば郷に従え。だ。規律をしっかり守り、落ち度のないように」

 

 

 「お任せください。不肖あきつ丸、全力で艦隊のお力になれるよう努めていく所存であります!」

 

 

 あきつ丸が代表して返事をすると、私も挨拶を交わす。厳格な顔で満足そうにうなずくと、鎮守府を去って行った。お見送りが終わると、改めて二人が挨拶をしてきた。私も挨拶を返し、皆で執務室に歩を進める。

 

 

 「しかし延岡少将は中々に勇ましい顔立ちだな。正直少し驚いてしまったよ」

 

 

 「少将は怖い見た目とは裏腹に、とても優しい方なのであります。自分達のことを孫娘のごとく可愛がっていただきました」

 

 

 「自分も最初は驚きましたが、あきつ丸が言う通り延岡少将は人格者で我々も大変お世話になりました」

 

 

 延岡少将は慕われているようだ。まるで想像ができん。まぁ今はこの娘達がこの艦隊になじんでもらえるように努力しよう。延岡少将と面談をしている間に寮の案内を大淀にしてもらっていたので、ひとまず部屋の整理をしてもらってから執務室に再びくるよう指示をする。凛々しい返事で敬礼をした後に踵を返すと、足並みをそろえて寮へ歩いて行った。その厳格な姿を見ていると、いつぞや通路ですれ違う夕立がスキップしながらぽいぽい言っているあまりに対称的だと思い出して笑ってしまった。はたからみたらいきなり笑い出す気持ちの悪いただの人だ。周りに誰もいなくてよかったと胸をなでおろしながら、執務室に戻った。

 

 

 「すまない。今戻った」

 

 

 部屋に戻ると、大淀と会話をしながら自分の席につく。すると何やらいつもはのんべんだらりとしてテーブルの上にいる妖精達が私の方を見て騒ぎ出した。一体何なんだ。お菓子を我慢させているときでもここまで騒ぐとこはなかったぞ。不思議におもって周りを見回しても何も普段と違うところはない。よく見ると、妖精達は私の帽子付近を指さしてなにかわめいている。私は帽子をとってテーブルの上に置いてみると、そこには複数の妖精がいた。少し頭が重いと思っていたが、コイツらのせいだったのか。しかしよく見てみると、今まで見てきた妖精達とは服装が違う。それぞれ茶色のような制服や、あきつ丸が着ているような服をきている妖精だった。

 

 帽子から机に上陸した部隊は笛をピピーと鳴らしながら防衛部隊の目の前までいき、にらみ合いを始めた。お互いに何やら言い合っているが、何を言い合っているのかわからない。挙句の果てには拳銃らしき物を上にむけて放ち威嚇しはじめた。だがその拳銃は屋台の射的のよりも弱弱しい音でパンパンとなっていたので、思わず笑いそうになった。威力は期待できなさそうだ。

 

 

 『おい貴様ら! 提督殿がお見えになられたのに、なんだそのだらしない姿は! 海軍は規律がよほど緩んでいると見える! 我々陸軍が修正してやる!』

 

 

 『な、なにぃ! こちとら提督公認なんだ! 新参者のくせに偉そうにしやがって! 海の上での戦いをお前らに教えてやる!』

 

 

 何を勘違いしているのかここは海の上ではない。

 

 

 『貴様らの腑抜け具合に提督殿は呆れて物申さなくなったのだろうよ! 一にも二にも規則!我々が管理させてもらうぞ!』

 

 

 『大人しくしていれば調子に乗りやがって・・! もう我慢ならん! この精神注入棒でお前らを打ちのめしてやる!』

 

 

 『ふふっ、弱い犬ほど吠えたがるものよ。者どもかかれ! この地の安息を護るのだ!』

 

 

 『野郎ども負けるな! 歴戦の猛者の力って奴を見せつけてやれ! 突撃ィ!』

 

 

 ----ビリッ

 

 

あわや開戦。その直前、一つの乾いた封をきるような音とともに、ほのかに甘い香りが戦場に漂う。妖精達が私の手元に視線を集中させると、さっきまでの騒がしさはどこにいったのか、一点に視線がくぎ付けとなっていた。

 

 

 『なっ。ななっ・・・!』

 

 

 『どっ・・どら焼きだと・・!?』

 

 

 突然の甘味の出現に戸惑う妖精達。がやがや騒いでいるが、誰一人としてどら焼きから視線を外すものはいなかった。その様子を見ながら私はどら焼きをとりあえず半分にして語り掛ける。

 

 

 「お前達が仲良くするというのであれば、このどら焼きはお前達にあげようと思うのだが・・・」

 

 

 『・・・・・』

 

 

 机の上に静寂が訪れる。大淀はたまに独り言をいいながら相変わらず黙々と業務を進めている。

 

 

 『・・ここは提督殿に免じて休戦協定を結ぶとする。貴様ら提督殿に感謝するのだな』

 

 

 『海軍としては陸軍の提案に反対である』

 

 

 こいつらあくまで丸丸一つのどら焼きを手に入れるため戦おうというのか! なんとがめついやつらだ。私は目を細めて海の妖精達を見つめると

 

 

 『冗談です冗談!』

 

 

 都合のいいやつらめ。特にいつもテーブルにいる妖精達はどら焼きに焼き印されている間宮の文字を見逃さなかった。その味をしっているがゆえに一人じめ? しようとしたのだろう。騒ぎが収まったのをみて、両軍に半分ずつ分け与えた。陸軍妖精達は陣地がないので可哀そうと思い、ハンカチを敷いてあげたら喜んでいた。

 

 

 『これが音に聞こえし間宮の甘味・・!』

 

 

 厳格な様子の陸軍妖精達も甘味を食べるときは非常に幸せような顔をしていた。こうみるとどちらも根っこは一緒のようだ。茶番みたいな感じになったが、仲良くしてもらわなければ困るからな。大人しくなった妖精達を尻目に私も業務を進めていく。

 

 

 「ふむ・・あのいざこざを一瞬で沈めるあたり提督殿はやはり只者ではなさそうでありますな」

 

 

 「人心掌握もお手の物。これは期待ができそうであります」

 

 

 いつのまにか入室していたあきつ丸と神州丸はそう言いながら私のそばに寄ってきた。いるなら早く声かけてくれよ。

 

 




甘味は世界を救う。


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第63話

あきつ丸と神州丸が正式に着任。


 妖精達の騒ぎを治めた後、あきつ丸と神州丸の艤装のチェックもかねて工廠に向かう。二人を引き連れていくと、明石と夕張が笑顔で迎えてくれた。やはり整備妖精達の中にも見慣れない妖精がちらほらといる。あいつらと違ってここの妖精達は上手くやっているようだ。技術屋として色々見慣れない物に対する探究心が勝っているのだろう。

 

 

 「預かっていた艤装なんですが、実に興味深いですね! バラしてじっくり解析してみたいです!」

 

 

 ばらさないでくれ。あきつ丸が戸惑っているじゃないか。困り果てたあきつ丸をフォローしつつ、装備などの確認をする。すると倉庫の角に置いてあった戦車らしき物に目を付けた神州丸がほほぅと珍しそうに戦車に近寄っていく。

 

 

 「これは特二式内火艇と呼ばれる物でありますな。これと我らが八九式中戦車による上陸部隊でマリアナを奪還するわけですな」

 

 

 この戦車はどうやら内火艇というものらしい。そういえばこの前明石が内火艇を勝手に作ったとか言っていたな。これのことだったのか。なんで戦車みたいなのものがここにあるんだと思っていたが、ようやく謎が解けた。この内火艇というもの、簡単にいうと水陸両用戦車みたいなものらしい。

 

 

 「ではこれをある程度量産しなければならないということか。だが戦車の操縦の訓練が作戦までに十分に取れないとは思うが大丈夫だろうか?」

 

 

 「それについては我々陸軍の妖精にお任せください。今回は時間がないと思われますので、恐らく上手く扱うのは難しいでしょう。訓練時間が何分たりません。しかし我々陸軍に預けていただければ使いこなしてみせます」

 

 

 今後は恐らく島々に対する上陸作戦が増えてくるはず。妖精達にも陸戦隊なるものを編成してもらうべきだろうか。

 

 

 「厚かましいとは思いますが、我々も手柄がほしいであります。餅は餅屋精神でここはどうか一つお願いするのであります。」

 

 

 

 あきつ丸が私の思考を読み取って発言をしてくる。谷上中将や延岡少将からも言われているのでここは任せてみるとするか。

 

 

 「わかった。上陸部隊に関しては君達に一任しよう。しかし他の戦車はどこにあるのだ?見当たらないようだが」

 

 

 少将と面談中にすでに運び込まれていると思っていた戦車が見当たらない。あきつ丸に尋ねてみると、少し気まずそうにしている。これはもしや。

 

 

 「恥ずかしながら、戦車自体はないのです。というのも、陸軍には妖精達が使える工廠が存在していないのです。我々もここにきて妖精の多さに驚きました。陸では私達の身の回りにしか妖精は存在しておりませんでしたので」

 

 

 急な転属で用意できているのかとは思っていたがやはりそうなるか。少将が陸からも資材を回すと言っていたが、恐らくそういうことなのだろう。色を多めにつけると言ってたので、何かあるなと思っていたが・・・

 

 

 「わかった。幸いここの工廠は設備が充実しており、拡張の余地もまだある。余っているラインをつかって生産するといい。ただし資材管理はしっかりしてくれよ。あとねじなどの共通部品については規格を合わせるように。そこは妖精達に徹底させてくれ。」

 

 

 「感謝であります。では早速妖精達にお願いしてくるであります。」

 

 

 「戦車かぁ~。腕の見せ所ね! 張り切って作るわよ!」

 

 

 「お前はまず海の方の装備を作ることに専念しろ」

 

 

 張り切っていた夕張をいさめると、えぇ~、と悲しい顔をしながらうなだれていた。お前まだ新艦載機の開発とか残っているだろうが。後はネジなどの部品の規格の統一だ。先の大戦では陸海それぞれのネジの向きが逆だったというのは有名な話だ。そういう面倒くさいことはごめんだ。合わせて戦車を載せて上陸させる船も必要だ。大発動艇というらしい。これも量産しなければならない。作戦展開に応じて本部からも資材は送られてくるのでそれを上手くつかっていかねば。

 

 

 

 

 執務室に戻った私は大淀に先ほどの工廠のでき事を伝える。仕事がさらに増えてしまうことに申し訳なさを感じるが、大淀は嫌な顔一つせずこなしてくれる。ありがたいことだ。マリアナ奪還に合わせて船団護衛の任務もあるが、ここはメンバーの変更が必要だろう。練度の高い艦娘にできるだけ作戦に参加してもらいたいが、丸々新人という訳にもいかない。旗艦はそのまま吹雪と朝潮に任せて、残り半分ぐらいを入れ替えるとしよう。海防艦の子達に護衛任務に参加してもらう必要がありそうだ。

 

 

 その後もそつなく業務をこなし、一日が終わった。自室で風呂にはいった後に食堂に向かう。食堂では二人の新人が注目の的となっていた。

 

 

 「ねーねーあきつ丸さんはどんな食べ物が好きなの? カレー?」

 

 

 「神州丸さんなんか戦車開発してるって聞いたんですけど本当ですか!?」

 

 

 こういった雰囲気になれていないのか二人は駆逐艦にかこまれながらあわあわしている。そのうちなじんでくるだろう。私は一人席につくと、黙々とご飯を食べる。その後鳳翔の酒保に置いてある甘味を買うと、囲みからようやく解放されたあきつ丸と神州丸をみつけ、着任祝いとして渡す。二人は大層喜んでいたので、私も嬉しくなった。部屋でゆっくり食べるという。

 

 

 「しかしここの鎮守府の設備には改めて驚かされます。その恩恵に預かれて感無量であります。」

 

 

 「落ち着いたら鳳翔の酒保でゆっくりと飲みたいでありますな。その時は提督殿もご一緒に」

 

 

 二人と会話を楽しんだ後、作戦に備えて私も深酒はさけ、夜更かしはしないようにしなければ。食事後、通路でうっかり千歳と会おうものならお終いだ 彼女は口が上手く、ついつい飲みたくなってしまう。お酌も進んでしてくれるため、気持ちよく飲んでしまうのだ。誰にも会わないよう急いで部屋に戻る。今日は突然の来訪者に驚いたがなんとかなった。早く二人が艦隊になじんでくれるよう私も努力していこう。

 




内火艇は本来海軍所属の海軍陸戦隊が運用していたようですが、今回は陸軍に任せる形になりました。

そして戦車もマリアナ奪還作戦に参加。見事活躍してほしいものです。

史実で旧日本軍の戦車はというと・・まぁ・・そうねぇ・・。


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